~E・S~転生者は永遠を望む (ハーゼ)
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原作前
第零話 転生は突然に


初投稿で至らない点などあると思いますのでご了承ください。


気が付いたら一面真っ白い空間に立っていた。ちなみに目の前には超美人がいる。

うん・・・どうしてこうなった。

落ち着いて思い出すんだ俺。確か散歩に出て、ふら~っとコンビニに寄って帰っている途中で気が付いたら今の状況。うん・・・わからん。

 

「そろそろよろしいでしょうか。」

 

いろいろ考えていると声がかけられた。声の主は美人さんだ。

ここには俺と美人さんしかいないので俺に向かって言っているのだろう。

つか、きれいな声だな~。

 

「どうも。照れますねぇ~」

 

美人さんが照れくさそうにする。

 

「えっ!もしかして声にでてた!?」

 

俺の口ガバガバすぎるだろ・・・。

 

「いえいえ、声には出てませんよ。心を読んだだけですから。」

 

さらりとすごいこと言ったよこの人。電波系か?

 

「電波系じゃありませんよ。申し遅れましたがわたしは女神です。」

 

また読まれた・・って女神!?いやいやいや冗談でしょ・・・まじ?

 

「はい、まじです。」

 

そういいながら女神さま?は背中から翼を出して浮かぶ。神聖っぽいオーラまで出てる。

うん、本物だ。

普通は疑うかもしれないが何故か本物の女神様だって俺は確信した。なるほどだから心読むとかできんのか。

 

「信じてもらえてなによりです。やっと話を進められます。あっ、心を読む力はオフにしときますね。不快な思いをさせたのならすいませんでした。」

 

なにこの女神様。俺なんか気遣ってくれるとかまじ女神。

 

「いえいえ、気にしないでください。」

 

俺がそう返すとなら良かったといい、女神様は話を進める。

 

「まず最初にいうことがあります。あなたは死にました!」ドヤァ~

 

何このかわいいドヤ顔。萌え死ぬわ俺。ん?今なんつった?俺が死んだ?

顔から血の気が引いた気がする。今の俺はひどい顔をしているだろう。

そしておれがとった行動は

 

「すいませんでしたー!」

 

スライディング土下座である。

 

「えっ?」

 

女神様はきょとんとする。可愛いな~。じゃなくて、なぜ驚いてるんです?まぁいい。

 

「女神様と知らなかったとはいえ数々のご無礼、本当に申し訳ありませんでした。」

 

俺はさらに謝罪を続け、頭を地面にこすりつける。

 

「ど、どうしたんです!?急に」

 

どうしたもこうしたもない。

俺は死んで目の前には女神様。

つまり俺は今おそらく見定められているのだろう。天国にふさわしいかどうかを。

クッソまずった!まさか死んでいるとは思わなかった。そもそも女神様に土下座文化が通じるのか?

 

「わかりますよ、はい。」

 

良かった通じるようだ。あれ?心読まれた?

 

「すいませんが心を読ませていただきました。なるほど、そういうことでしたか。」

 

頭上から女神様が声をかけている。

俺は頭を地面にこすりつけているため表情はわからない。

オコッテナイトイイナー(泣)

 

「顔をあげてください。見定めとかじゃありませんから。」

 

「えっ!?」

 

俺は思わず顔をあげた。すると女神さまは何がおかしいのかお腹をかかえて笑っていた。

 

「あなたみたいな人は初めてですよ。まさか死んだといわれて、即座に謝るなんて。」

 

あーお腹痛いといいながら目元の涙を拭う女神様。俺?おれは( ゚д゚)ポカーンだよ。

しばらくすると落ち着いたのか話し始めた。

 

「いいですか。最初から説明しますよ。あなたはトラックにひかれ死んでしまいました。」

 

「そうだった・・・確か子供がひかれそうになっているのが見えて・・・」

 

「はい、あなたはその子を助けようとその子をかばってひかれました。」

 

「あの子は助かったんですか?」

 

「重症ですが命の危険はありません。」

 

よかったよかった。命落としたのに死にましたとかじゃなくてよかったよ。

 

「ずいぶん落ち着いていますね。死んだというのに。ここに来る人は皆それぞれ多少は反応するのですが。」

 

「えっ?いやいやいや、だってさっきも死んだって言われましたし、それに・・・」

 

「それに?なんです?」

 

「子供助けて死ぬなんてヒーローみたいでかっこいい死に方じゃないすか。俺はそれで満足ですよ。」

 

これは俺の本心だ。かっこよく死ねたんだから悔いはない。あるとしたら童貞のままということである。(泣)

女神様はというと一瞬驚いた後にクスリと笑った。

 

「そうですか。では、本題に入りますよ。あなたには転生してもらうことになりました。」

 

「転生っつーとあれですか。輪廻の輪がどうとかってやつですか?」

 

「ん~~正確に言うと違いますがまぁ、そんな感じです。ちなみに転生につきまして特典をつけさせていただきます。」

 

特典?なんだそりゃ?とりあえずなんかもらえんのか?

 

「特典ってなにがもらえるんです?」

 

「アニメや漫画などの能力や自分が欲しいものなどなんでもです。」

 

えっ!それってかなりすごくね?

 

「頭がよくなりたいとかでもいいんですか?」

 

「はい、もちろんです。」

 

まじか・・・うーん。

 

「決まったらおs「決めました」はやいですね!」

 

「では要望をどうぞ」

 

女神様がメモ帳を取り出す。神様でもメモってとるんだなぁ。

 

「じゃあ、顔をそこそこのイケメンにして頭をよくしてください」

 

「はいはい、一つ目は了解しました。次どうぞ。」

 

えっ!顔と頭よくとか贅沢いったのにまだもらえるの?

 

「まだもらっていいんですか?」

 

「はい、この程度でしたら特典にすら入らないレベルなので」

 

まじか・・・女神様すげぇ。驚いてばっかだな俺。

 

「え~と、じゃあ基本的に何でも平均以上にできて、丈夫で健康的な体が欲しいです」

 

欲張りすぎか?でもこれが通れば家事一般全部できるんだよなぁ~。チラッチラッ

 

「はい、了解しました。」

 

通っちゃったよ。ここまで来たらえーいままよ。

 

「お金もほしいです(ボソッ」

 

「はい、了解しました。」

 

ヒャッハアアアアアアアアアアア完璧に勝った。

 

「これだけでいいんですか?もっとアニメの能力とかでもいいんですよ?」

 

これだけ?いやいや十分でしょ。能力?日常生活に必要ないでしょ。アニメとかの世界に行くわけでもあるまい。

 

「大丈夫だ。問題ない。」

 

女神さまがすっごい微妙な表情している。なんかしただろうか?もしかして今のテンションが上がって敬語使い忘れたの怒ってる?まずいまずい特典なくされたらどうしよう。ガクガクブルブル

そうだ、気が変わらないうちに転生させてもらおう。そうしよう。ならば善は急げだ。

 

「すぐに転生させてもらうことは可能ですか?」

 

「可能ですけど・・・」「お願いします!」

 

「本当によろしいので?」「はい!」

 

よし。食い気味になってしまったが何とかなりそうだ。

 

「では転生する世界にあなたを送ります。」

 

そういって女神様が俺に手をかざす。すると俺の体は光に包まれ・・・床が開いて落ちた。

 

「ギョエエエエエエエエエエエエェェェェェェ」遠ざかっていく声

 

「ふぅ、成功ですね。能力は私が多少強化しましたが大丈夫でしょうか。彼が行く世界は・・・」

 

心配そうに女神は手元の資料に目を落とす。

 

 クレミ  ユウジ

【暮見 雄二】 16歳 男

転生先 『IS 〈インフィニット・ストラトス〉』

 




光に包まれたのはきっと能力付与です。
おそらく意味はあると思います。
週1ぐらいでこうしんできたらいいな(願望)
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第一話 日常

お気に入り登録されててビックリ。ありがとうございます。



オッスオッス。俺の名前は暮見 雄二。転生者やってます。

 

転生して今はなんと小学3年生をやってます。そう、若返ってた・・・。

しかも赤ちゃんからのやり直しだった(絶望)。赤ちゃんからとか聞いてねぇよ!

 

いやまぁ、話を最後まで聞かなかった俺も悪いとは思うよ、うん。

でも!でもだよ!スタートぐらいは教えてほしかったです、はい。俺はてっきり16のまま特典ありで転生すんのかと思っていたんだよ。

えっ!なに?転生の意味調べてこいって?う、うるせいやい!

 

まぁ、ともかく目が覚めたと思ったら手足うまく動かんわ、人の顔が目の前にあるわ、赤ちゃんになっていることに気づいて

 

『ヴェッ(なにこれ!?)』( ゚д゚ )←うまく喋れない

 

とか変な声出すわでまじでパニック起こした。しばらくはどうしようかと悩んだが俺は流れに身を任せることにした(現実逃避)。

一番やばかったのが母乳をもらうときで次はオムツ。母乳もらうことの何が大変かって?母乳は吸わないといけないんだ。パイオツから。おっぱいから。大事なことなので2(ry

 

そう、見た目は赤ん坊だが中身は16の俺がいまさら母乳を吸わないといけないんだ。

まったく、新しい扉を開きかけたぜ。(´﹃`)ジュルリ

あっ、まって!通報しないで!これには深~いわけがあるんだ。

 

俺の今の母親は美人で俺はまだあの頃は母親って実感があんまなかったわけよ。で、そんなひとの母乳をいただけるわけよ?これはしょうがないよね。よね?

わかってもらえただろうか。

 

まぁ、それからなんやかんやあって今に至るんだが、俺の体というか特典?についてわかったことがある。なぜはてなが付いてるのかは後で説明する。

 

「雄く~ん、ちょっと手伝って~。」

 

おっと母さんに呼ばれてしまった。

 

「今行くよ母さん。」

 

ちょうどいいし、先に家族の紹介をしよう。

 

 

 

 

 

 

キッチンに行くと20代半ばほどのエプロン姿の女性が俺を待っていた。そう、この人が俺の母さんである(迫真)。美人でありながらふんわりとした雰囲気が可愛さもひきだしている。見た目は完璧20代半ばもしくは前半と言われても疑わないレベルだが年齢は30は超えている。俺は母さんを見て美魔女という言葉を信じた。

 

「どうしたの?ボーっとして。具合悪いの?」

 

「いや、大丈夫。母さんはきれいだなって思ってただけだから。」

 

どうやら心配をかけてしまったようだ。大丈夫なことを伝えながらエプロンを受け取る。

 

「もぉ~この子ったら~。ほめても何も出ないわよ。今日の晩御飯はサンマにしようかしら~。」

 

そういいながら母さんは嬉しそうに準備を始める。ちなみにサンマは俺の好物である。

俺もエプロンを巻き母さんの横にある台座に立つ。これは俺専用の台座だ。これがないとキッチンとの高さが合わないのだ。

 

「雄くん宿題は終わった?」

 

俺にそう聞きながら母さんはサンマに砂糖をかけようとしている。そう、『砂糖』をだ。

 

「母さん、それは砂糖。塩はこっちの瓶だよ。ちなみに宿題は終わったよ。」

 

「あらほんと?またやっちゃった。ありがと雄くん。」

 

もうお分かりかと思うが母さんは料理が苦手なのだ。しかし下手というわけではない。むしろうまいのだ。ただ2回に一回は調味料などを間違えるだけなのだ。2品中一品がうまいというロシアンルーレットなだけだ(感覚麻痺)。

 

まぁ、そんなときのために俺が手伝っているのだ。手伝いは俺が提案した。はじめは単なるミスだと思ったがそれが2回、3回と続けば誰だってそーする俺もそーする。

 

「サラダは作り終えたよ。そっち手伝うね。」

 

「雄くん料理うまくなったわね~。」

 

将来はコックさんかしら?フフッと笑いながら母さんがほめてくれる。

そう、俺は母さんの料理を手伝いメキメキと腕をあげているのだ。そこいらの店にも負けていない腕前だと思う。これは特典の効果があるとしても前世で料理したことない俺が異常な上達だと思う。やっぱ、母さんが料理うまいからなのかな?

 

「ただいまー」

 

考え事をしていると後ろから抱きかかえられた。

 

「父さん、急に持ち上げないでよ。」

 

俺を抱きかかえたのは父さんだった。父さんは大手会社のいわゆるエリート社員だ。本人はそんな風には言わないがたまに来る仕事仲間さんの話を聞く限りそうとしか思えない。

ちなみにイケメンである。恵まれスギィ。

 

「いいじゃないか~父さん仕事頑張ってきたんだから~。」

 

そういいながらあごひげで攻撃してくる。ジョリジョリしてうざい。

 

「雄くんばっかりずる~い。え~い。」

 

とか言って母さんも抱き着いてくるもんだから、俺はサンドされる。

新婚カップルか!と言いたくなるぐらいこの両親ラブラブである。

解放されたのは5分後だった。

 

晩御飯の支度が終わったところでリビングの扉が開き

 

「あっ!お父さんお帰り~」

 

という声とともに一発の砲弾が父さんにヒットする。

砲弾の正体は妹である。勢いよくいったなぁ~。グフっとか聞こえたし。

 

「た、ただいま。」

 

あっ、父さん苦しそう。娘に好かれてよかったね(ゲス顔)。

ちなみに妹も両親DNAを継いでおり可愛い。年齢は1つ下。

 

「ほらほらご飯にしますから椅子に座りなさい。」

 

母さんがそう言うと妹は父さんから離れて椅子に座る。父さんは名残惜しそうにしてる。

おい!はやく座れ。息子と娘がもう座ってんのにのんきに感傷にひたるな。

 

「「「「いただきます。」」」」

 

我が家は晩御飯は全員で食べるようにしている。

家族の絆を深めるためだとか父さんが言っていた。

 

「はいあ~ん」「あ~ん」

 

「これ、お兄ちゃんが作ったの?」

 

「そうだよ。おいしい?」

 

「うん!おいしいよ。お兄ちゃんにも食べさせてあげるね。あ~ん」「あ~ん」

 

この両親は絶対あ~んがやりたいから一緒に食べるようにしてるんだと思う(呆れ)。

妹?天使だけど何か?

 

 

 

 

 

 

「( ´ー`)フゥー...」

 

「ふぅ~」バシャバシャ

 

飯を食い終わって俺は妹と風呂に入っている。妹は俺の真似をして息を吐いているがめっちゃバシャバシャしている。カワ(・∀・)イイ!!

じゃなくて

 

「こーら、風呂で暴れんな。」

 

マナーはちゃんとしないとな。俺はマナーにうるさいんだ。

 

「だってお兄ちゃんと一緒に入っていると楽しいんだもん。」ニコッ

 

何この天使。もうマナーとかどうでもいいな、可愛いは正義(確信)。

おっと、でもそろそろのぼせそうだから上がらないとな。

 

「ほら、あがるぞ。」

 

妹を連れあがり、鏡をみるとイケメンがいる。

そう、イケメンだ。特典どうり俺もイケメンです。まだ幼さは残るが将来かっこよくなるとわかる顔立ちである。女神様ありがとうございます!

 

とまぁ、俺の一日はあとは寝て終わる。特典の説明?眠いからまた今度で。

家族の詳しい紹介もふくめてまた今度にしよう。

 

ってここまでなんとなく喋らないといけないと思って話していたが俺は誰に話しているんだ?もしかしなくても俺って頭やばいやつなんじゃね?

頭良くなったんじゃないのかよ…orz




家族構成
・母 『父、妹、主人公にラブラブアタック』
・父 『母、妹、主人公にラブ&ジョリジョリアタック』 
・妹 『母、父、主人公に突撃ラブハート』
・主人公 『総受け』
いいバランスですね(白目)


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第二話 そうだキャンプに行こう

とりあえず原作キャラとの出会いまで連日投稿予定


現在俺は小学校にいる。今は授業中だ。

まじでつまらん。小学生レベルの問題なんて前世高校生の俺には簡単すぎて苦痛だ。

 

最初は学校さぼろうかとも思ってたけど、ボッチになるのは嫌だし、母さんが泣く。割とマジで。

あとはなんだかんだ言って全力で遊ぶのは楽しいから普通に通っている。

 

ちなみにクラスではなかなかの人気ものだ。理由は単純で頭いい、運動できるという条件を満たしているから。どこの世界も変わらんな。

 

世界といえばこの世界は俺の住んでいた世界とは違うことが最近わかった。

この世界はとんでもない世界だったんだ!

 

『ドラゴンボール』がなかったのだ。というよりもジャンプやサンデーといったビッグネームの週刊誌がないのだ。いやね、変だと思ってたんだ。俺が有名なネタをぶっこんでも反応ないから。

最初はジェネレーションギャップかと思ったんだけど誰に言っても通じないから調べたらまさかだよ。

 

てな感じで違う世界だと判明したわけだが、大した問題でもなかった。当たり前だがこちらはこちらでビッグネームの週刊誌などがちゃんとあるからだ。

 

『キーンコーンカーンコーン』

 

考え事をしているうちに授業が終わった。今日の授業はこれが最後のため帰れる。

 

「暮見くんちょっと来てくれる?」

 

と思っていた時期が私にもありました。

先生からのお呼び出しだ。

なんかしたっけ?

 

「俺、なにかしました?」

 

先生に近寄り質問する。

 

「そういうわけじゃないから安心して。ちょっと仕事を頼みたいの。」

 

なんだそういうことか。ちなみに俺は副委員長である。退屈で寝てたら任命された。

寝てるやつが副委員長でいいんですか?ダメでしょ・・・・

 

「いやそうな顔してないでついてきて副委員長くん」

 

どうやら顔にでていたようだ。渋々俺はついていく。

 

「何すればいいんですか?」

 

「明日配る夏休みに関するプリントの整理を手伝って欲しいの」

 

「それって副委員長の仕事じゃないような気が・・・」

 

「とかいってるけど、なんだかんだ手伝ってくれるところが暮見くんのいいとこよ。」

 

つまり俺は雑用係の才能があるってことですか。つらい。

 

「それって時間かかります?」

 

「量が結構あるから2時間ぐらいかしら。」

 

長ッ!?生徒にやらせるもんじゃないだろそれ。

 

「はぁ~、親に連絡してもらっていいですか。手伝いで遅くなるって。」

 

「それは大丈夫。暮見くんに声かける前に連絡しといたから。」

 

ファッ!?準備早すぎだろ!大人って汚い!

 

「はぁ~、じゃあ早く始めましょう。」

 

「ありがとう。」ナデナデ

 

先生は笑顔で俺の頭をなでる。まったく、美人じゃなければボイコットしてるぞ。

ていうか、この世界美形が多い気がする。

 

 

 

 

 

 

『キーンコーンカーンコーン』

 

手伝いを終えて俺は今帰えるところだだ。時刻は4時半過ぎ。

 

「ごめんね。こんな時間まで手伝ってもらって。送ってあげるといいたいところなんだけど、先生もまだ仕事残っているからこれで許して。」

 

先生は俺に飴玉を数個くれた。報酬しょぼいな。

いやまぁ、お礼目当てでやっているわけじゃないけどさ。

 

ナデナデ

 

そして時間差で来るナデポ。この人のなでってほんと落ち着くんだよなぁ。

これのために手伝っているといっても過言ではない。

えっ!さっきと言っていることが違う?

ナデポには勝てなかったよ・・・

 

「じゃあ、気を付けて帰るんだよ。」

 

先生の手が頭から離れる。名残惜しいが帰って晩御飯の手伝いをしなければいけない。

 

 

 

 

 

 

晩御飯も食べ終えリビングで妹相手にナデポ(練習)をしていると

 

「明日キャンプに行きます!」

 

父さんが高らかに宣言した。母さんと妹はおぉ~とか言ってパチパチと手をたたく。

 

「急すぎない!?」

 

なんで俺しか当たり前のことをいってないんだよ!

おかしいじゃん。明日急にキャンプとか。そんな雰囲気なかったじゃん。

テントの張り方とかBBQでのおいしい焼き方とか調べないとじゃん!

 

「息子よ、心配するな。テントの張り方はもちろんのことBBQも父さんはマスターしている。」

 

「あっ、そうなの。」

 

ならいいか。←だいぶ毒されている

ていうか心読まれたよ。たまーに心読んでくるんだよな。

仕事で読心術を使うとかなんとか。エリート社員恐るべし!

 

「で、どこに行くの?あなた。」

 

「県境のところに新しくキャンプ場ができたらしいからそこに行こうと思う。仕事は休暇取ってきたから大丈夫!」

 

うちの家は県境から2時間程度の場所にある。

 

「でも、俺たち夏休み明後日からだよ?」

 

「な~に、明日は終業式だけだろ?つまりお昼前には終わる。そしてお前たちを校門で拾ってそのまま出発だ。」

 

なるほど。ちなみに妹はキャンプをよくわかっていないが

 

「キャンプ~キャンプ~」ルンルン

 

さっきからこんな感じだ。まじ天使だな。

 

「久しぶりのお出かけね。何着ていこうかしら?」

 

「君は何を着ても美しいよ」

 

「あなた・・・・」

 

はぁ~、さっそく二人だけの世界に入っているし。

 

「お出かけだ~!!」ボスン

 

妹はソファーにダイブしている。

 

「まったく、楽しみにしすぎでしょ。」

 

俺はバッグに明日の持ち物をパンパンに詰めながらつぶやいた。




ついにこの世界がとんでもない世界だと気づいた主人公!
そして突然のキャンプ。
キャンプいいよね。いったことないけど。
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第三話 帰ってくるまでがキャンプ

もうちょいで原作キャラが出てくると思います。


『キーンコーンカーンコーン』

 

チャイムとともに俺は妹のクラスへ合流するためダッシュする。

妹がこちらに来るのが見える。どうやら同じ考えらしい。

俺は走りながら妹を回収(お姫様抱っこ)し下駄箱へ走る。

 

1つしか変わらない妹を抱えて走れるのは特典の丈夫な体のおかげだろう。

この特典の影響で運動神経がよくなっていたり、力が増していたり、病気にかからなかったりする。さすがに今回はかなりきついが。

 

そして俺が颯爽と下駄箱まで走っていると、

 

「はーい、廊下は走らなーい。」

 

先生に捕まった。逃げようとしたが頭に手を置かれてはナデポの前に屈するしかない。

くっ……殺せ!ってそんなことしてる場合じゃない。

俺は!今日こそ!ナデポに!勝つんだー‼

 

シュンッ

 

「なっ!?速ッ!」

 

「悪いね先生。急いでるんだ。」

 

「ま、待ちなさーい!」

 

「今日の俺をとめられるやつはいねぇ!」

 

フハハハハハハハハハハ‼

 

 

 

 

 

 

「で、なんで妹ちゃん抱っこして走ってたの?」

 

俺の前には先生。そして頭には手がのせられている。

さっき逃走したんじゃないのかって?結論からいうと理想(さっきの)と現実(今)ってこと。

俺はナデポを振り払えず、状況を聞かれている。

フンッ!悔しいが認めてやる。先生お前がナンバーワンだ。

 

「キャンプに行くの!」

 

俺が屈している間に妹が元気よく答えた。可愛い。

 

「あら、そうだったのね。でも廊下は走っちゃダメよ。」

 

「はーい」

 

「じゃあ、行ってよし。楽しんでおいで。」

 

ええぇ!いつもだったらコンボで手伝わせる先生がこんなあっさりと・・・

妹・・・恐ろしい子ッ!

 

「あっ!暮見くんには今度また何か手伝ってもらうわね。」

 

さいですか、はい。

 

 

 

 

 

 

「ついたー」

 

車で約2時間半。キャンプ場についた。そこは緑であふれ、きれいな川が近くに流れているTHEキャンプ場だった。

 

「いいところねぇ~」

 

「私川行きたい!」

 

「じゃあ、父さんはテントはっとくから遊んでおいで」

 

俺も川に行くことにした。バラバラに動くと母さんが心配するからという理由もあるが。

俺もこんなきれいな川を見たのははじめてで気になっているからだ。

都会から2,3時間とは思えない。

 

「きゃははは!」バシャバシャ

 

「おーい、あんまりバシャバシャするな~。風邪ひくぞ~。」

 

妹を見ながら俺と母さんは足だけ川に入れる。

 

「雄く~ん。こっち向いて。」

 

「ん?なに、かあs『バシャンッ』」

 

向いた瞬間顔に水をかけられた。母さんはすでに水しぶきをあげながら笑って逃げている。

 

「やったなぁ~!」

 

「いや~ん、雄くんが怒ったぁ~」

 

それから妹も含めて3人で水をかけあった。

ずぶ濡れの俺たちから事情をきいて『どうして呼んでくれなかったの』と父さんが落ち込んでいた。

 

夕飯はもちろんBBQだ。焼きの担当は父さんだ。実は父さんもそこそこ料理がうまい。

しかし、『妻の料理に勝るものなし!』とか言って普段は食べる専門なのだ。

母さんも母さんで喜んで作るもんだからダメなのだ(呆れ)。

そんな父さんがなぜ調理するかといえば、

 

「輝け!俺のパパ力!」

 

「キャー!あなたかっこいいー!」

 

「お父さんかっこいい!」

 

そう、パパ力を上げるためとかなんとか。

まぁ、楽しそうだしいっか。

 

「父さーん!輝いてるよー!」

 

その日の食事はいつもよりにぎやかでおいしく感じた。

 

時刻は22時を過ぎ、もう寝ようかというとき、

 

「そういえば、なんで急に水かけたの?」

 

ふと気になって母さんに聞いてみた。

いくらテンションが高くても急に水をかけたりしてくるような人ではない。

こちらから仕掛けたりすれば別だが。今回は違う。

 

「ん~とねぇ、ほら雄くんって落ち着いてるじゃない?」

 

「そうかな?」

 

自分では結構自由にしているつもりなのだが、同年代の子と比べるとそうかもしれない。

 

「そうなの。それが悪いってわけじゃないのよ。ただね、時々我慢しているように見えたの。我慢できる子はえらいと思うわ。でもね、せっかくの家族でのお出かけだからその時ぐらいこどもらしく楽しんでほしいなぁーって。嫌だった?」

 

「ううん、そんなことない。ありがと母さん。」

 

「それならよかった。あら、もうこんな時間。そろそろ寝なさい。」

 

いつの間にか時計は23時になろうとしていた。

 

「うん、おやすみ母さん。」

 

「おやすみ雄くん。」

 

俺はとてもあたたかい気持ちで眠りについた。

 

 

 

 

 

 

二日目。

今はキャンプ場でロケットペンダントづくりをしている。

これはこのキャンプ場を管理している会社の体験コーナーで利用客は無料でできるのだそうだ。

自然の中でこういったものをつくるのも悪くない。

 

「次は写真撮るのでこちらに移動してください。」

 

俺たちはカメラマンさんの指示に従い位置につく。

 

「1+1はぁ~?」

 

「「「「ニィー‼」」」」 カシャ

 

もちろん全員最高の笑顔だ。撮った写真は印刷してペンダントに入れてくれるとのこと。

もらえるのは夕方だそうだ。時間まで俺は父さんと釣りで勝負した。

結果?俺の勝ちだったよ。これも特典の効果なのか途中からコツがわかった。

まったく特典さまさまですなぁ。

 

そのあとはペンダントを受け取って、釣った魚をみんなで食べて寝た。

自分で釣った魚はやけにうまく感じた。

 

 

 

 

 

 

三日目。

今日でキャンプはおしまいだ。今は片付けをしている。

 

「ええぇ!もうおうち帰るの?」

 

「そうだよ。父さんも明日から仕事だからね」

 

俺がそう言うと、

 

「やだよー、もっといたいよ~。」

 

「わがまま言うなって。」

 

「やだやだやだ~。」

 

駄々こねて泣き始めた。どどど、どうしよう。

と、とりあえず、もちつけ‼じゃなくて落ち着け俺!

 

「ほ~ら泣かないの。帰ったらハンバーグい~っぱい作ってあげるから。ね?おかあさんといっしょに帰りましょ?」

 

「グスッほん…と?」

 

「うん、ほんと。食べきれないぐらい作ってあげる。それに、帰るまでがキャンプよ。」

 

「グスッじゃあ…グスッかえ…る。」

 

あたふたしてたら解決した。やっぱり母は強しだな。それにしてもチョロすぎだろ。

ちなみに母さんはハンバーグだけは絶対失敗しない。家族全員の大好物だからだろうか?

 

「準備できたぞー」

 

いつの間にか父さんは車に乗っていて片付けも全部終わっていた。

父さんがエリートと呼ばれる一端を俺は知った。

 

出発してから30分ほどたち、今は山道を走っている。父さんと母さんは鼻歌でデュエットしていて、妹はペンダントを開けてはニヤついて閉じてを繰り返している。

 

「なんでそんなニヤニヤしてるんだ」

 

気になって聞いてみた。

 

「だってこれがあればいつでもお兄ちゃんやお母さんやお父さんと一緒でしょ。」

 

ニコリとわらいながらペンダントの写真を見せてきた。て、天使がおる。

 

「そうだな!離れていてもずっと一緒にいれるな!一緒にいれば写真もあわせて2倍一緒だな!」グスン

 

「えぇ、そうね…」グスン

 

「そうだね」グスン

 

やばい妹に泣かされる時がくるとは思わなかった。父さんも母さんも泣いてるし。

車内には今、超幸せオーラが満ちている。

 

しかし何事にもおわりがあるということなのかそこに突然大きな揺れが来た。

 

「地震ッ!?」

 

「それもかなりでかいぞ。」

 

父さんは車を止める。地震のときに走行するのは危険だからだ。

 

「こわいよ、お兄ちゃん…」

 

「大丈夫すぐにおさまるから。」

 

俺は妹を抱き寄せ安心させるため声をかける。

しばらくすると揺れはおさまった。

 

「大きかったわね、今の揺れ。」

 

「すごかったね。」

 

「じゃあ、動くからちゃんと座れよ。」

 

「これ何の音?」

 

妹が聞いてくる

 

「音?」

 

耳を澄ますとバキッとかそういった音が聞こえ、どんどん大きくなっている。

その音はまるで…『木を折るかのような音』だった。

 

「父さん‼早くだs『       』

 

俺の言葉は最後まで続かず、何か大きな音とともに俺の意識は落ちた。

 




上げて落とす‼
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第四話 決定的な楔

お気に入り登録数が増えてました。
ありがとうございます。
原作キャラはもう少し先。
今は絡ませる準備段階です。


「知らない…天井だ。」

 

目を開けたら見覚えのない真っ白い天井だった。

周りを確認しようと動こうとするが体が痛み、うまく動けない。

 

『何が…あったんだっけ?』

 

天井を見つめながらぼんやりと考える。

しかしモヤがかかったように思い出せない。

 

「ッ!?せ、先生、患者の目が覚めました!来てください!」

 

近くから声が聞こえる…。かんじゃ?

ここは病院か?なんでそんなところにいる?

…ダメだ…うまく頭が働かない。

 

「目が覚めたようだね。体の調子はどうだい雄二君?」

 

いつの間にか俺の顔を覗き込むように一人の男性が立っていた。

顔はぼやけてよく見えない。

 

「…だれ?」

 

「私はこの病院の医者で君の担当医さ。」

 

「どう…して?」

 

どうして俺は病院にいる?そう聞こうと思ったが喋るのも辛い。

 

「う~む、どうやらまだ辛そうだし、意識もはっきりしてないようだね。雄二君、もう少し寝て落ち着いたらまたお話しよう。」

 

そういうと男は俺の布団をかけなおし、どこかに行った。

頭はふわふわしてるし、起きてるのはつらかったから言われた通り眠ることにした。

 

 

 

 

 

 

目が覚める。さっきと同じ真っ白い天井がまず視界に入る。

動こうとするとやはり体が痛んだ。夢ではなかったようだ。

しかし首はかろうじて動かせる。

 

白い天井、ベッドに横たわる俺、点滴、花瓶の手入れをする看護師、広い部屋、窓からのぞく青空。軽く確認できたことだ。どうやら俺は個室らしい。

 

「目が覚めたのね。待っててね。今、先生呼んでくるから。」

 

看護師は俺の視線に気が付いたのか、俺の方に振り返って笑顔で対応した。

しばらくすると看護師がだれか連れて来た。

 

「おはよう、雄二君。調子はどうだい?」

 

この声には聞き覚えがある。さっきの医者の先生だ。今は顔がはっきりと見える。

30代後半といったところの真面目で優しそうな印象をうける。

 

「おはようございます。」

 

「うん!意識ははっきりしているようだね。じゃあ、早速で悪いんだが体の調子を見させてもらうよ。」

 

先生の言葉とともに看護師によってあれよあれよという間に服を脱がされた。

まず見えたのは上半身に巻かれた包帯だ。なんだよ…これ…。

 

「ふんふん。特に悪化など異常なことは起きてないね。このままいけば順当に回復するよ。」

 

いつの間にか診察?は終わっていた。ずいぶん呆然としていたようだ。

この医者ならば何か知っているだろうか?

 

「聞きたいことがあるって顔だね。」

 

顔に出ていたようだ。しかし察したということは何かしら知っているのだろう。

 

「質問には全部答えよう。でもその前にこちらからいくつか質問をするから答えてほしい。まずは君の確認をしなければいけない。」

 

確認?よくわからないが医者としてやらねばいけないことなのだろう。

それに自分にかかわることなら答えたほうがいいだろう。

 

「わかってくれたようだね。それじゃあ」

 

Q,君の名前は?    A,暮見雄二

 

Q,年齢は?      A,9歳

 

Q,家族は誰がいる?  A,母親と父親、そして妹が一人

 

Q,今は何月?     A,7月

 

Q,なぜ君が病院にいるのかは?  A,わからない

 

「なるほど…」

 

先生は手を顎にあてて、うなずいている。

おそらくは記憶の確認とかそういうのだろうと予測する。

 

「よし大体わかった。君の質問に答えよう。」

 

「俺は何でここにいるんですか?」

 

まず一番気になることを聞いた。

ここがモヤがかかったようにどうしても思い出せない。

丈夫な体を持つ俺はそうそう大怪我なんてしない。

その事実が俺に焦燥感を与える。

 

「そうだな・・・最初から説明しようか。」

 

先生は少し考えてから話しはじめた。

 

「まず、君たち家族はキャンプに行っていたと思われるそうだ」

 

「キャン…プ?」

 

キャンプ……そうだ!俺達はキャンプに行ったんだ。

それで…それで…それでどうしたんだっけ?

まただ思い出せない。頭が痛くなってきた。

 

「雄二君大丈夫かい!?」

 

頭を抱える俺に先生が心配をして声をかける。

 

「頭が痛い…。キャンプに行ったことは思い出せるのにそのあとがどうしても思い出せない。思い出そうとすると頭が痛くなる…。」

 

「それはきっと君自身が思い出すことを拒否しているんだ。」

 

俺が思い出そうとしてるのに俺が拒否?

 

「何故です…か…?」

 

何故か分からないが掠れて震えた声しか出ない。

 

「いいかい、落ち着いて聞いてくれ。薄々気がついていると思うが君達は事故にあったんだ。」

 

先生は優しくさとすように言う。

しかし対照的に俺の頭ん中はぐちゃぐちゃだった。

事故という言葉を聞いた瞬間、視界は一面黒い何かに覆われて体をズタズタにされる感覚に襲われた。

 

「ああ、ああ、うあぁぁぁぁぁァァァ!!!」

 

手を、足を、全身を使ってもがいた。

 

「体を抑えるんだ!!」

 

暗闇のなか何かに触れられる。手足が動かなくなる。

怖い怖い怖い怖い

 

「いやだいやだいやだ!!出して!!助けて!!!」

 

動かない…動けない…でられない…

 

「雄二くん!大丈夫だ!!もう大丈夫!!ここには危険はないから!!」

 

怖い怖い怖い怖い嫌だ嫌だ嫌だいや……だ

 

 

 

 

 

 

「気を失ったようです…」

 

看護師が彼から手を離しながら報告してくる。

私もそれを聞き彼の足から手を離す。

 

「まだ伝えるのは早かったか…」

 

これは私のミスだ。彼の心に刻まれたキズの深さは想像よりも遥かに深かった。

恐らく事故の記憶がフラッシュバックしたのだろう。

それによって彼はまだ動いてはいけない体で暴れ始めてしまった。

自分の早計さを悔やんでも悔やみきれない…

 

彼は地震によって起きた土砂災害に巻きこまれた。

自然災害で誰が悪いというわけではないが何もしてやれなかった自分に怒りが沸いてくる。

 

「先生、お手が…」

 

看護師の言葉を聞き、自分の手を見るといつの間にか血が出るほど握り締めていた。

 

「…目が覚めたら教えてくれ。」

 

そう看護師に伝え、私は部屋を出た。

私は命を救っても心までは救えていないことを実感した。




トラウマを抱えた主人公。
これからどうなってしまうのか。
そしていつになったら原作キャラはでてくるのか…

コメント・感想を頂けると気力になります。
誤字脱字がありましたら指摘して頂くとありがたいです。


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第五話 涙の意味

お気に入り登録ありがとうございます。
原作キャラは本当にもう少しなんです。
詐欺じゃないんです、信じてください。


とおくから黒い、黒い何かが迫ってくる。逃げなきゃ。

走っても、走っても、走ってもちっとも逃げられない。

どんどん近づいてくる。来るな来るな来るなぁー!!

 

『事故にあったんだ。』

 

耳元で何かが囁やかれたと思ったら黒は目の前だった。

 

「あああぁぁぁ!!」

 

『バサリッ』と何かが落ちる音がした。

目の前には黒なんてなく、白い壁が見えた。下には落ちている布団。そして上半身だけ起き上がっている自分。

 

「はぁ、はぁ、夢…か。」

 

額の汗を拭いながら安堵の息をもらす。

気持ちを落ち着けるとまだ深夜であることに気づいた。

しかし、今は再び寝たいとは思えなかった。

 

「といっても、まだ動けないんだった。」

 

今は上半身だけ起こしているがそれも辛いため体を倒して横になる。

思い出すは医者の言った言葉。

 

『君達は事故にあったんだ。』

 

「そっか、俺は事故にあったからここにいたんだ…」

 

実感はないがそれならば体のキズも納得である。

しかし、疑問が解決すると新たに気づいた。

 

いや、()()()()()()()()()していたことに目が向いてしまった。

 

「きみ…()()…?」

 

あの医者は確かにそう言った。じゃあ、他のやつって誰だよ…

 

「まさか…」

 

『お前は誰と一緒にいた?』

 

「そんなはずはない…」

 

『何故一人部屋なんだ?』

 

「やめてくれ…」

 

『医者はなんで何も言わない?』

 

「違う…」

 

『じゃあ、何故()()()()()?』

 

「やめろッ!!」

 

耳を塞いで目をつぶる。俺は今何を考えてた?

最悪の事態が頭をよぎる。

 

「違う…そんなはずない…」

 

そうだ、そんなことはありえない。

きっと俺の聞き間違えに決まってる。

 

『神様にもらったその体が?あの状況で?』

 

黙れッ!!

俺は重症だから簡単に会えないだけなんだ。

そうだよ、そうに決まってる!

 

起きていると変なことばかり考えてしまう。

悪夢を見るのは怖いけど早く寝よう。

俺はもう目が覚めたんだ。朝になれば皆とも会えるさ。

だから…寝よう。

 

 

結局、俺は朝まで眠ることができなかった。

悪夢が怖かったからなのか…それとも……

 

 

 

 

 

 

ガラガラッ

 

朝になり、病室の扉が開かれる。

入ってきたのは医者の先生と看護師だ。俺は上半身を起こす。

 

「・・・おはよう雄二くん」

 

先生は少し驚いたがすぐに表情を戻し挨拶してきた。

 

「おはようございます。」

 

俺は挨拶を返し、

 

「先生、聞きたいことがあるんです。」

 

「なんだい?」

 

先生は優しい声で返してくれるが、顔が少し強ばったような気がした。

 

「事故にあったのって俺だけ…ですよね?」

 

「・・・・・・違う。事故にあったのは君を含めた4人。他の3人は君のご家族だ…」

 

は?ナンテイッタ?4にん?かぞ…く?

 

車の運転をする父さん。笑顔で鼻歌を歌う母さん。

ペンダントを嬉しそうに持つ妹。そして、俺。

そんな幸せをぶち壊す揺れ。

そしてそのあとにきた『    』

 

「あぁ、思い出した…俺は…俺達は…」

 

体が勝手に震え始める。今にも倒れてしまいたい。

だが、聞かないと…聞かないといけない…

 

「せ、先生…」

 

ダメだ!!言うな!!聞くんじゃない!!口を開くな!!

頭の中でうるさいほど声が響く。

 

「助かったん…ですよ…ね?」

 

声が震える。何を怯えてるんだ?

俺は助かったんだ。だから…

 

「・・・・・3人とも亡くなられた。即死だったそうだ。」

 

パキンッ

 

なにか俺の中で音がなった気がする。

 

「あぁ、あぁ、ああぁ…」

 

ナンデ?ドウシテ?シンダ?

 

「ああぁぁぁぁぁぁ… 」

 

ミンナ、シンジャッタ。

 

 

 

 

 

 

俺の目の前には泣き崩れた少年がいる。

俺は彼にとって死刑宣告にも等しいことを言ってしまった。たとえ仕事といえど俺は最低なやつだ。

 

しかしそんな俺でも一緒にいてあげるぐらい許して欲しい。それが今この子に唯一してやれる事だから。

 

そうして俺と看護師は少年が泣き止むまでそばについた。

 

 

 

 

 

 

泣いた。

そして、気が付いたら夕方だった。

先生と看護師のお姉さんはずっとついててくれた。

正直ありがたかった。ひとりは寂しいから。

 

「すいません。ご迷惑をお掛けして。」

 

「気にしないで欲しい。私が一緒にいたかっただけさ。」

 

「えぇ、気にしなくていいわ。」

 

少ししか話してないがこの人達は本当に優しいのだとわかる。

 

「雄二くん。君に聞いてもらいたいことがある。聞いて貰えるかい?」

 

先生は隠すこと無く真実を教えてくれた。

その場しのぎの嘘ではなく真実をだ。

そんな先生が聞いて欲しいというのだから俺は聴くべきだと思った。それが辛いことでも。

俺はうなづいて、続きを待つ。

 

「実は君が助かったのは奇跡に近かった。」

 

奇跡か…助かったけど後遺症でも残っているのかもなと予測をつけていく。

 

「しかし、その奇跡を起こしたのは私ではない。それを起こしたのは君のご両親だ。」

 

「えっ?」

 

予想外の言葉に思わず間抜けな声がでる。

 

「本来、生存者なんていないほどの惨状だったらしい。しかし、奇跡的に1人だけ生存者がいた。何故か分かるかい?」

 

「・・・運が良かったから?」

 

これは恐らく違う。運がいいだけなら言う必要がないし、両親という言葉は使わない。

 

「違う。君が助かったのはご両親が子どもを庇うようにしていたからだ。妹さんは助からなかったがご両親のその行動が君の命を繋ぎとめ、救ったのは間違いない。」

 

あの一瞬でとっさに俺達を…。

 

「これだけは伝えときたかった。」

 

先生の言葉が終わると俺の瞳からは自然と涙が溢れた。

 

「父さんッ…母さんッ…」

 

ありがとう。

 

涙はとっくに枯れたとおもっていたのに俺は再び泣きわめいた。先生たちはまた俺が泣き終わるまでついててくれた。




救いはあった。

コメント・感想をいただけると嬉しいです。
誤字脱字の指摘などもよろしくお願いします。


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第六話 想いと迷い

う~ん今回の話は書くのが難しかった。


目が覚めてから数日が経った。

今日はクラスの皆と先生がお見舞いに来てくれた。

夏休みだというのにわざわざ来てくれたのだ。

 

「雄二〜早く元気になるといいな!」

 

「元気になったらサッカーやろうぜ!サッカー!」

 

「は?雄二は俺達と野球するんだよ。」

 

「違うわよ!雄二くんは私たちとお菓子作りするんだから。」

 

ワイワイガヤガヤ

 

「はーい、皆病院では静かにね。暮見くんは怪我してるんだからなおさらね。」

 

先生の一言でみんなが静かになる。

久しぶりに見るこの光景に心が穏やかになる。

 

「ごめんね。暮見くん。騒がしくしちゃって。」

 

「いえいえ、俺も静か過ぎて退屈してましたから。」

 

先生が気遣ってくれたが俺としては大歓迎だった。

 

「ヨッシャー!じゃあ、怪我なおったらサッカーも野球もお菓子作りも全部やろう。」

 

俺の言葉に皆は大喜びだ。

それからは他愛のない話をしたり、お見舞い品として果物を貰った。そして気がつくと皆が帰る時間になっていた。

 

「じゃあな〜雄二〜。」

 

皆が帰り、一気に病室が静かになる。病室にいるのは俺と先生だけだ。

 

「あれ?先生は帰らないんですか?」

 

「うん、ちょっとね。暮見くんと話したくて。いいかな?」

 

考えてみれば今日はクラスの皆と喋っていて、先生は見守りっぱなしだった。

 

「もちろん。俺も先生と話したかったんで。」

 

そして俺と先生はしばらく話をした。久しぶりの先生との会話は楽しかった。

 

「それで、えーっと・・・・」

 

急に先生が喋りにくそうにしはじめた。めずらしい。

先生は基本言いたい事はハッキリ言う人だ。

 

「どうしたんですか?」

 

「えっ!いや・・・・大丈夫なの暮見くん?その・・・ご家族が・・・」

 

先生が心配して聞いてくる。なるほど、言いづらそうにしていた理由がわかった。

 

「大丈夫。ってわけじゃないですよもちろん。皆が死んじゃって、すっごい悲しいです。」

 

「暮見くん…」

 

先生が悲しそうな顔をする。そんな顔しないでくださいよ。まだ全部話してないんですから。

 

「でも、クヨクヨはしません!」

 

「えっ!」

 

あっ、先生の驚き顔初めて見たかも。ラッキー。

 

「俺が今生きてんのは父さんと母さんのおかげですし、生きられなかった妹のためにもクヨクヨせずに頑張ろうって思います!」

 

俺が宣言仕切ると先生が急に抱きしめてきた。

 

「せ、先生!?」

 

先生のたわわなあれがあ、あたってますって!?

具体的にいうとおのつくあれが。

 

「よく言った!がんばったね。」

 

先生が俺をやさしく褒める。先生の声は震えていた。

 

「先生泣いてるんですか…」

 

「そりゃ、泣くでしょ。教え子がこんなに立派なこと言うんだから。」

 

そして抱きしめながら頭をなでられる。

 

「先生、恥ずかしいです。」

 

嬉しいがさすがに恥ずかしい。

 

「泣かせたんだからもう少し我慢しなさい。」

 

それからしばらくして先生は俺のことを離した。

ふぅー、やばかった。なにがとは言わんが。

 

「じゃあ、私も帰るわね。・・・暮見くん、その心を忘れちゃだめよ。大事なものだから。」

 

そう言い残すとまた来るわねぇといいながら先生は何も無かったかのようにケロりとして帰って行った。

 

 

 

 

 

 

抱きしめ事件の次の日。

俺の元に一人の女性が訪れてきた。

栗色の長いポニーテールがとても似合っているナイスバディーなクール美女だ。

 

「君が雄二くんね。」

 

「はい、そうですけど。」

 

はて?俺はこんなクールビューティーなお姉さんと知り合いではない。お知り合いには是非ともなりたいが。

 

「お父さんに似てるわね。」

 

「父をご存知なんですか?」

 

話を聞くとこの女性は父さんの知人で弁護士さんなのだという。

 

「なるほど、父さんの知り合いだったんですね。でも、知ってるかも知れませんが父さんは・・・」

 

「もちろん知っているわ。知ったからこそ私は雄二くん、あなたに会いに来たのよ。」

 

ますます意味がわからん??

 

「わからないのも無理はないわ。それを今から説明するのだから。」

 

俺の様子を察して、弁護士さんは説明を続けていく。

弁護士さんいわく、

 

父さんは弁護士さんにある依頼をしていたそうだ。

その依頼とは父さんに何かあったときに遺産などの金銭面を確実に家族に相続させること。

 

何故そんなことを頼まれたかというと父さんと母さんは親戚の反対を押し切って結婚したらしく、親戚からの印象が悪いからだそうだ。因みに父さんと母さんはどちらも両親が亡くなっており味方がいないとのこと。

初耳なんですけど…そういえば親戚とかにあったことねぇ…

 

で、話は戻って本来それは母さんが相続するはずだったのが今回の事故で受け取ることができるのが俺だけになってしまった。よって俺に会いに来たんだと。

 

「わざわざこんなガキのために申し訳ないです。」

 

「そんなことは気にしなくていいわ。それより君、ほんとに小学生?」

 

ドキッ!?

 

「あ、当たり前じゃないですかー。どうしてそんな変なこと聞くんです?」

 

あはは…と笑いながらきり返す。

嘘は言ってない。俺は今小学生なのだから。しかし、心臓バッキバキである。

 

「いえ、なんていうか君の態度がとても小学生に見えないほど落ち着いていたもんだから。それに今の話を理解できていたし。普通、君ぐらいの子じゃあ、わからないわよ?利巧なのね。」

 

ドキドキッ!?

 

「り、利巧だなんて、そんなことありませんよ。知っていたのだってテレビでやっていたのをみたことあったからで。」

 

常識的に考えて俺の精神が子どもじゃないと考える人なんていないと分かっているのに今、心臓の鼓動はめちゃくちゃに速い。なんともいえない緊張感がある。

コナン君ってこんな気持ちなのかもな。

 

「謙遜なんてしなくていいのよ?私としてもスムーズに話が進むから。」

 

はい、っと言って一つの封筒を渡してくる。

良かった気にしてなさそうだ。

 

「その封筒の中には君の父親の直筆で書かれた遺書に近いものと暫定的な相続額をだした紙が入ってるわ。確認して。」

 

そういわれ、封筒を開けると二枚の折りたたまれた紙が入っていた。

一枚目を見てみるとびっしりと書かれた手紙だった。

内容は簡単にいうと自分になにかあった場合、遺産は全て、妻または子どもに渡すことを約束する文とその相続の正当性などを書いたものだった。手紙の最後に父さんの名前と実印が押してある。

 

二枚目はいろいろと数字が書かれた紙だ。視線を一番下にずらしていくと暫定での相続額が乗っていた。

え~っと、頭の数字が2でゼロが1,2,3,4,5,6,7…8つ。・・・1,2,3,4,5,6,7,8つ…

 

「に、に、二億ぅ!?」

 

思わずベッドから転がり落ちかけた。

詳細を見ると資産や保険、土地や建物代もろもろ含めて二億円もあるのだ。

やはり数え間違えではない。

 

「通常の相続と比べると3~4倍以上あるわ。で、今のところ他に聞きたいことはあるかしら?」

 

聞きたいことは何個かあったが

 

「あるんですけど、それよりも少し一人にしてもらえませんか?」

 

今は一人になりたかった…

 

「もちろんいいわ。一人で整理する時間も必要でしょうから。そうね30分ほど席を外すわ。足りるかしら?」

 

「えぇ、十分です。」

 

俺がそう言うと弁護士さんは病室から出ていき病室には俺だけになった。

 

 

 

 

 

 

今、おれには考えなくてはいけないことがある。

 

それは俺の()()についてだ。

 

俺がもらった特典は三つ。

 

一つ目は、【顔と頭を良くする】

これは確認できている。今の顔は父さん似のイケメンだ。頭の方は物覚えがすごくよくなったりしている。

 

二つ目は、【基本なんでも平均以上こなせる丈夫で健康的な体】

これについても確認できている。恐らくこの特典による影響で俺は身体能力が上がっていたり、病気にもかからない。あとはコツなどをすぐにつかめる。

 

三つ目は、【お金が欲しい】

これはいままでなに不自由なく暮らせていたのとよく財布やお金を拾う(ちゃんと交番に持って行く)のが特典の効果のあらわれだろう。

 

以上三つが俺の特典だ。

 

しかし、一度聞いたことで理解できなかったことはなく、身体能力については俺は現時点で中学3年レベルほどの能力を発揮できるし、料理はそこそこの店で出せるほどのものを作れる。

これらのことで俺は鍛えたりといったことはしてない。ただ普通に過ごし、普通に調理してただけだ。

 

なにを伝えたいのかというと俺の特典は()()だということだ。

 

そして三つ目の特典だけ異常性を確認できていない。いままでは三つ目には異常性がないと思ってきていたが、

今手元には俺に二億円が相続される内容の紙がある・・・

 

二億円という()()なまでの相続金。偶然と片付けられるだろうか?

もし、偶然ではなかったら?それの意味するものとは?

 

「俺の…せい…なの…か…?」

 

一気に吐き気がせりあがってくる。俺はベッド横にあるタライをとって、

 

「オエェ‼ウエェ‼」

 

吐き出した。吐いて。吐いて。吐き出し続けた。

胃の中身はとっくに空っぽのはずなのに壊れた蛇口のようにとまらない。

そして胃が飛び出るんじゃないかと思うほど吐いたところでようやく止まった。

病室には酸っぱいにおいが充満している。

 

「ォエ…ゲホッ…ゲホッ・・・」

 

口元を拭い、視線を上げるとフルーツバスケットに入っている果物ナイフが見えた。

それをのどにに突き刺せば人など簡単に死ぬだろう。

 

「ハァ・・・ハァ・・・」

 

気が付くと果物ナイフを両手で握り、自分ののどに向けていた。

 

『そうだ、やれっ‼』

 

勢いをつけるためナイフをゆっくり引く。

 

『俺はいちゃいけない存在だ。』

 

ナイフをゆっくりとさらに引いてく。

 

『生まれてくるんじゃなかった…』

 

ナイフをピタッと止め、標準をあわせる。

 

『転生なんかせず、あのまま死んだままにするんだった。』

 

そして、思いっきりナイフをのどに突き立t『暮見くん、その心を忘れちゃだめよ。大事なものだから。』

 

「ッ!?」

 

ピタッとナイフは首の目の前で止まる。

 

『何している?はやく死ねよ‼』

 

心ではそう思っても、体はピクリとも動かなかった。

 

「でぎない・・・」(できない)

 

吐き続けたせいか、干からびた声しか出ず、うまく喋れない。

それと同時に涙と鼻水があふれ、ぐちゃぐちゃになる。

 

「こごで…じんだら…うらぎるごとに…なる…がら…」(ここで…死んだら…裏切ることに…なる…から)

 

ここで死んだら気にかけてくれてる先生やクラスの皆、治療してくれた医者の先生や看護師のお姉さん、最後まで元気をくれた妹、そしてなにより俺を守ってくれた父さんと母さんへの裏切りになる。

 

「だがら・・・じねないッ‼」(だから・・・死ねないッ‼)

 

しかし、自分は許せないため、いまだにナイフは首元にかざしてある。

いまかいまかとナイフを持つ手が待っているようにみえる。

すると、

 

「何?・・このにおい?」

 

「ここから?・・暮見さん、入りますよ。」ガラガラ

 

二人の看護師が入ってきて異臭に顔をゆがめた後ギョッとした。

 

「暮見さん!?何してるんですか!?やめなさい!」

 

「ッ!?私、人呼んできます‼」

 

やめなさいと言われてもそんな簡単にこのナイフはおろさない。

自分への怒りからおろせそうにない。

このまま突き刺せたらどんなに楽なんだろう?

ボーっとナイフを見つめながら考える。

 

『臆病者!死にたくないだけだろう!』

 

そうかもしれない。いや、きっとそうなのだろう。想いを語っておきながら情けない。

 

『なら死ね。今すぐナイフを突き立てろ。』

 

それはとても魅力的な提案だが、それだけはできない。

 

『じゃあ、死んだ三人にどう詫びる?』

 

わからない。どう償えばいいんだろうな…

 

『わからないんだろ?じゃあ、死んで詫びろ。きっと喜んでくれる。』

 

喜んでくれるかもな?でも死ぬのはただ自分が楽になれる方法だ…

 

『はぁ~、いいから・・・早く!死ねよぉ‼」

 

気が付くと俺はナイフを振りかぶっていた。

そして自分を刺そうとして、いつの間にか来ていた大人たちに取り押さえられた。

俺はそれに抵抗せず、ただ、ただ、考えていた。

 

(おれはどうすればいいんだ・・・・)

 




やっぱり救いなんてなかったんや・・・・
あっ!そうだ!(唐突)
次回ついに原作キャラが出ると思います。
お楽しみに~

コメント・感想・誤字脱字の指摘・文章のアドバイスを頂けるとありがたいです。


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第七話 出会い

ちょっと遅れましたが投稿。


「どうしてあんなことをしたんだい?」

 

今は雄二君を囲むように他の先生方や看護師たちがたっている。

そのなかで担当医である私は代表して彼に質問を投げかける。雄二君はさっきまで自殺しようとしていた。

なんとか取り押さえるのが間に合ったがあと一瞬でも遅かったならば間に合わなかっただろう。

 

「・・・別に…死んでみようと思っただけです…」

 

彼はこちらに目を向けることもなく、うつむいたまま答える。

換気をしてしばらく経つがいまだに病室には酸っぱいにおいが微かにする。

それほどの量彼は嘔吐し、自殺しようとした。

死んでみようと思った。それだけで事態はここまで深刻にはならないはずだ。

確実になにかあった。それもとてつもない何かが…

 

「理由はそれだけかい?」

 

再度、私は質問する。今の彼は今朝見た元気な姿ではなく、別人のように気力をなくしてしまっている。一体何が彼をここまで変えたのか見当もつかない。

 

「そうですよ・・・まぁ、意味なんてありませんでしたけどね。」

 

意味なんてなかった。彼はそういった。つまり、もう自殺する気はないのだろう。

それを聞き私は安心した。しかし、その言葉にそれ以上の意味が込められている気がした。

それがきっと彼が言おうとしない理由なんだと思う。

 

「皆さん。少し彼と二人で話させてくれないでしょうか?」

 

周りはざわつく。それはそうだろう。もしまた自殺しようとしたら一人では止めることが間に合わない可能性がある。それはわかっている。しかし、私は彼の今の言葉を信じたい。

そしてなによりもこんな状況では絶対に教えてもらうことはできないからだ。

 

「皆さんのいいたいことはわかります。ですが私を、そして彼を信じてはいただけないでしょうか。」

 

私がそう言うと、渋々といった感じだがみな部屋を後にしてくれる。

一分もしないうちに私と雄二君の二人になった。

 

「何かあったんじゃないかい?」

 

「・・・・・」

 

「話してもらえないかい?」

 

「・・・・・」

 

彼は何もしゃべらない。それでも私はしゃべり続ける。

 

「さっきまでの君の行動は明らかに異常なものだった。一体何があったんだい?」

 

『異常』。その言葉を言ったとき彼の体がビクりッ、と反応した。

 

「別になにもありませんでした。」

 

彼は顔を上げてそう言った。しかしその声は震えており、顔は悲痛なものだった。

 

「そんな辛そうな顔でいわれても説得力ないよ。」

 

えっ?といって彼はテーブルの鏡を見つめる。

 

「教えてもらえないかい?君の辛そうな顔は見たくないんだ。」

 

「・・・・言っても先生にはわかりませんよ。」

 

「なぜそう思うんだい?」

 

「思うもなにもそうだからですよ。理解できる人なんてこの世にはいない。」

 

理解できるものはこの世にはいないと彼はいった。なぜそんなことが言い切れる?

 

「言ってみないとわからないじゃないか。」

 

「無理です。言っても無駄です。」

 

「理解も何も、言わないとだれだってわからないよ?」

 

そういった私を彼はにらみつけた。感じる視線は怒り。

 

「・・・・わかりました。いいですよ。無駄だってことを教えてあげます。」

 

にらみつけながら彼は言う。

 

「俺のせいで三人は死んだんです。」

 

何を思ったのか彼はそんなことを言った。彼の家族は自然による事故であって、誰が悪いというわけではない。

 

「そんなはずないだろう。あれは「事故だっていうんですよね?」・・・そうだ。」

 

「だから悪くない?その事故の原因が俺にあるとしたらどうです?」

 

そんなことはありえない。

 

「事故の原因は地震だ。君のせいじゃない。」

 

地震によって土砂崩れが起きたのだから雄二君どうこうの問題じゃない。

 

「だから、その地震が起こったのが俺のせいだって言ってるんですよ。」

 

今度こそ彼が何を言っているのかわからない。彼が地震の原因?

 

「ね?だから言ったでしょ。聞けて満足ですか?でしたらどっか行ってください。」

 

わたしが考えていると彼はそういい、布団に入って横になった。

どうやらもう話す気はないらしい。

こうなってしまってはこれ以上は無理だろう。

 

「君を一人にはできないから代わりの先生が来るまではいるね…」

 

しばらくするとほかの先生がやってきたため代わりを頼み、私は部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

(何してるんだ…俺は…)

 

横になって思う。先生は心配して言ってくれてるのに俺は…

自己嫌悪におそわれる。

 

「君を一人にはできないから代わりの先生が来るまではいるね…」

 

先生はそう言うとそれから何も言わなかった。

 

(先生…すいません。)

 

俺は心の中で届くはずのない謝罪をした。

 

 

 

 

 

 

数日後、俺は病室で弁護士さんの話を聞いていた。

 

「駄目ね。あなたの親戚に片っ端から連絡をつけてるけど引き取りに関しては頑なに拒否。まったく、とんだ親戚ね。」

 

内容は俺の引き取り先についてだ。

誰も俺を引き取りたがらないらしい。大方、俺のとこに来た誰かが親戚中に言いふらしたんだろう。実はここ数日、金目的と思われる親戚が何人か来たが全員無視してにらみつけたし、病院内では急に自殺しようとした頭のおかしいガキという事実も出回っていてここに来た親戚の耳にも入っただろう。

そんなガキを誰が引き取りたいと思う?

 

「ご迷惑おかけしてすいません。俺のことはもう気にしなくていいですよ。」

 

「雄二君・・・」

 

弁護士さんは悲しそうにこちらを見てくる。同情とか憐れみといった感情ではない。

本気で心配してくれているのだろう。ほんとにいい人だ。こりゃあ、父さんが信頼を置くのも納得だ。

だからこそこれ以上迷惑はかけたくない。

 

「俺は大丈夫ですよ。それに父さんや母さんを嫌っているやつのところ行くよりも施設に行った方がましですから。」

 

俺は精一杯笑って言う。

 

「雄二君もしよかったら、わt『ガラガラ』

 

弁護士さんの言葉を遮るように扉が開かれた。

そこに立っていたのは見るからに厳しそうな男性だった。

恐らく連絡のいってない親戚なのだろう。

 

「私は邪魔になりそうね。」

 

気を遣って弁護士さんは退室していく。それと入れ替わるように男性が俺の近くに来る。

改めて近くで見ると威圧感を感じる。

 

(めんどそうな人だな。どうやって帰らせるか。)

 

そんなことを考えていると男性が口を開いた。

 

「こんにちわ。私の名は篠ノ之 柳韻(しののの りゅういん)。君の遠い親戚にあたるものだ。」

 

それがこれから俺の人生を大きく変えることになる男との出会いだった。

 




やったね!原作キャラだよ!(震え声)


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第八話 真実?

無理やり感出てると思います。
う~ん柳韻さんのキャラがよくわからん。


「私の名は篠ノ之 柳韻。遠い親戚にあたるものだ。」

 

篠ノ之…柳韻… ゴクリッ

名を名乗っただけなのに凄みを感じ、思わず唾をのんだ。

 

「どうした。声帯は無事だと医師に聞いているが。」

 

俺が黙っていると柳韻が喋らないのが気になったのか聞いてくる。

名乗られたからには名乗るべきだろう。

 

「申し遅れました。ご存知かもしれませんが暮見 雄二です。」

 

「うむ、知っておるぞ。これは見舞いの品だ。」

 

そういうと柳韻は手に持った小包を渡してくる。どうやら和菓子のようだ。

 

「これはどうも。」

 

礼をしながら、棚に置く。

 

「一つ確認したいことがあるのだがよいか?」

 

和菓子を置き、俺が顔を柳韻の方に向きなおすとそう言った。

 

「確認したいこと?いいですよ別に。」

 

一体何が聞きたいのだろうか?

 

「君が両親が自分のせいで死んだと思っていると医師が看護師となやんでいたのを聞いてしまった。それは事実か?」

 

そのことか・・・

 

「事実ですけど何か?」

 

そういうとともに吐き気が湧き上がってくる。

 

「土砂崩れに巻き込まれたことは知っているな?」

 

「もちろんです。そのうえで言ってるんです。」

 

事故だからお前のせいじゃないとでもいうつもりか?何もわかってないくせに・・・

 

柳韻はスゥーっと息を吸い、

 

「思い上がるな!!!」

 

その怒声に俺は固まった。

想像していたことと全く違うことを言われ、思考が停止する。

 

「思い違いも甚だしい!」

 

思い違いだと・・・!勝ってなこと言いやがって!なにも・・・

 

「何もわかっていないくせに勝手なこと言うな‼」

 

気が付いたら俺は勝手にしゃべっていた。

 

「俺が・・・俺が三人を殺してしまったんだ!地震も土砂崩れも俺のせいだ!俺が願ってしまったから・・・女神さまに願ってしまったから‼」

 

激情にまかせ、女神さまのことまで口にしてしまう。

 

「ほ~ぅ、つまりお前は女神とやらに願ったわけか?家族が死んでほしいと。」

 

「そんなわけないだろ‼」

 

俺は柳韻をにらみつけ、怒鳴り声をぶつける。

しかし柳韻は意にも介さずに続ける。

 

「では言うてみろ!何を願いこうなった?」

 

「いいぜ・・・教えてやるよ。」

 

言っても何も変わらない無駄なことなのに俺はやけになったのか全てを話した。

 

女神にあったこと、特典をもらったこと、この特典には異常性があること。

一つ一つ懇切丁寧に教えってやった。

 

「だからこうなることは出来レースだったんだよ‼俺には丈夫な体があって事故からは助かり、大金を手に入れる…。全部俺のせいでなるべくしてなったんだよ‼これで満足か・・・?」

 

俺は自嘲気味に笑いながら言う。

 

「つまりお前の願いによってお前はあの夫婦のもと生まれ、お前の願いによって命をなくし、お前の願いによって金を残したということか。」

 

「その通りだ。」

 

そうだ…その通りだ…何も違わない。

 

「いいんだな?認めて」

 

柳韻の顔は怒りで染まっていく。すさまじいほどの威圧感を感じる。

思い違いとかほざいてやがったのにキレやがった。そうだよなぁ俺が正しいんだから。

 

「いいもなにも・・・そうだろうがよ‼」

 

俺はなにも間違ってない。そうだ、もっとだ。もっとキレろよ柳韻!

同情も憐れみも心配もいらない。罵声でもなんでも来い!俺を罰しろ!

 

「それで・・・いいんだな?お前の家族はお前のために女神が用意した()()だったということで本当にいいんだな?暮見雄二!!!」

 

「ッ!?」

 

どう・・・ぐ?頭が真っ白に染まる。

 

「な、なにをいっt「そういうことだろう?」

 

「お前に今まで家族が話していたこと、優しくしてくれたこと、怒ったこと、泣いたことも全部お前の願いをかなえるために仕組まれていたことで、お前の両親がお前をかばって死んだことさえも道具としての機能だったというわけか。そしてそれをかなえたのは女神といったな。そんなものは断じて女神などではない。悪魔だ。」

 

「違う…違う違う違う違う違う違う違う違うッ‼」

 

俺は柳韻を殴ろうとしたが殴った拳をつかまれ、そのまま宙に持ち上げられた。

 

「なにが違うッ‼」

 

柳韻は俺の顔が自分の顔の高さと合うところまで俺を持ち上げて問う。

 

「そんなこと決まっているだろう‼三人は道具なんかじゃねぇ!ちゃんと自分の意志で生きていたし、女神様は俺を気遣ってくれるほどやさしい!そんなことしねぇ‼」

 

「ではこの状況をどう説明する?なぜ地震は起きた?」

 

「そ、それは特典をもらった俺がいたk『ドンッ』かはぁ!?」

 

俺が言い終わる前に柳韻は俺を壁に投げつけやがった。

 

「お前がいたから?ふっ、笑わせるな。お前がいたからといって、どうして地震が起こる?どうして人の死を操れよう?お前は力をもらって神にでもなったつもりか?」

 

「ッ!?」

 

「所詮神に力をもらおうが人間は人間だ。たかがしれているわ‼今お前がなにも出来ずに這いつくばっているのがいい証拠だ。」

 

「・・・・」

 

「わかったか?自分の無力さやちっぽけさが?」

 

そういわれ、俺は自分の無力さを知った。いや、知ってしまった。

なんだかんだいって力がある自分が特別だって思って調子に乗っていたんだ。

三人の死も俺が特別って感じたいから自分のせいにして悲劇ぶっていたのかもしれない。

ごめんなさい。ほんとにごめんなさい。

 

「くうっ、ううっ、うっうっ」

 

ごめんなさい、ごめんなさい。俺には泣く資格なんてないのに…

必死にこらえようとするが涙はとまらない。

 

「我慢するな。思いっきり泣いてやれ。それは家族のための涙だ。」

 

柳韻さんは俺を抱きしめながら言う。

それを聞いた俺は、

 

「ッ!?う、う、わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」

 

ダムが壊れたように涙が止まらなかった。

 

 

 

 

 

 

「スンッ、スンスンッ・・ありがとうございました。」

 

ようやく涙の止まった俺は柳韻さんにお礼をいった。

 

「気にするな。私がただ言いたくなったから勝手に言っただけだ。」

 

柳韻さんはこんな風にいっているが俺の家族のことを思って言ってくれたのだろう。

 

「ありがとうございます。家族を守ってくれて。」

 

「別に守ってなどおらぬし、礼は不要といっただろう。」

 

「俺が勝手に言いたかったんです。」

 

柳韻さんが言ったように返すと

 

「「・・・・・プッ、フハハハハハハハ」」

 

二人して笑った。

 

「なかなか、言うではないか雄二。気に入ったぞ。」

 

「いえいえ、大した奴じゃありませんよ俺は。」

 

しばらくそのように話していると、

 

「そうだった!ここに来た理由を忘れっておった。」

 

「ここに来た理由?お見舞いに来てくれたのでは?」

 

お見舞いならばすでにかなり元気をもらったので目標達成だと思うが?

 

「それもあるのだが、こっちの方が大事なのだ。」

 

大事な用とはいったい何なのだろう?

 

「雄二、突然だが家に来ないか?」

 

「えっ?」

 

この人今なんて言った?家に来ないかといったのか?

それってつまり・・・引き取ってくれるってことだよな。

 

「いやか?嫌なら無理強いはせんが。」

 

「えっ!嫌とかそういうんじゃないんですけど、ただ・・・」

 

自分が本当に一緒にいてもいいのだろうか?

吹っ切れたものの今回だって俺の特典が影響してないとも言い切れないし…

 

「阿保か。」

 

デコピンされた…超痛い…

 

「雄二、お前は一生引きずったまま生きるのか?」

 

そうだった…俺は前を向いて生きないといけないんだ。死んだ三人のためにも目一杯生きて謝罪じゃなく感謝の気持ちを送るんだ!

 

「で、どうする?」

 

柳韻さんは俺に手を差し出してくる。それを俺は、

 

「よろしくお願いします!」

 

手に取った。




やっと一区切りです。書くのってやってみると分かるんですが大変ですね。
ちなみにタイトルに?をつけたのは今回の事故、作者のこれが正解だと押し付けるのではなく想像してほしいからです。
どこまでが運命のイタズラなのか?
皆様はどうおもったでしょうか?


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第九話 篠ノ之

篠ノ之母って原作で名前って出てるんですかね?
調べても全然出てこない(´・ω・`)
なので勝手に名付けてしまいました。
もしも名前を知っている方は教えてくれるとありがたいです。


柳韻さんが引き取ってくれることになってから一週間が経ち、やっと俺は退院できた。

これでも相当治りがはやいようだ。まぁ、そんなことは置いといて俺は黒い服で全身を包んでいる。今日は三人の葬式だ。柳韻さんに頼んで用意してもらった。

遅くなったけどこれはちゃんとやらないといけない。

 

この一週間で呼べる人には声をかけた。

父さんの仕事仲間、母さんのママ友、妹の友達、弁護士さんetc…

そして300人もの人が来てくれた。俺はその光景に涙が出そうになったがこらえて、

 

「お集りの皆さんにまずは感謝いたします。そしてお願いがあります。事故から時間も経ち、皆様ももう十分に悲しまれてくれたと思います。ですから今日は笑顔で三人を見送って欲しいのです。それが三人にとって一番だと俺は思うからです。」

 

ニカッ、っと俺は笑う。葬式なのにおかしいことを言っているのはよくわかっている。

でも、悲しみはもう十分だ。騒がしい三人はもう飽き飽きしていることだろう。

もしかしたら『笑え!』と怒っているかもしれない。だから俺は笑う。今日は泣かない。

 

すると、みんなも三人のことを思い浮かべたのか、

 

「そうだな、あいつ笑顔が一番とか言ってたしな。」

 

「えっ?私は妻が一番って聞いたけど。」

 

「ははは、あいつらしいな。」

 

などという会話が聞こえ始め、続々と笑顔が伝染していく。よかった。

 

それから皆、思い思い笑顔で別れの言葉を告げていく。棺桶には体はない。

時間が経ちすぎており、もう骨を入れた箱とそれぞれの写真や私物品を入れてある。

だが、体がなくても、告げた思いはきっと届いていると俺は思う。

そして最後の一人が告げ終わり俺は棺桶に近づいてく。

 

「おそくなってごめんよ。その代わり今日は泣かないからさ、許してくれ。」

 

棺桶の中には手紙や白い花で埋め尽くされていた。

そこに俺はそれぞれの棺桶に一つずつあるものを入れてく。

それは少し歪んでしまった小さなもの。歪んでいるがまだ開くことができた。

 

「ずっと…一緒だからね。」

 

開くと中に入っているのは家族全員でとった写真。みんな最高の笑顔をしている。

キャンプに行ったときみんなで作ったペンダントだ。

 

「俺・・・頑張るからさ・・・・」

 

泣かないと決めていたのに涙がでそうになる。

 

「だから・・・見守っていてね…」

 

涙をこらえて俺は笑う。写真の俺に負けないぐらい笑う。

そうして葬式は終わった。

 

 

 

 

 

 

「どうして俺を引き取ることにしたんですか?」

 

柳韻さんの家にタクシーで向かっている途中聞いてみた。

そういえば最初から引き取るつもりみたいなこと言ってたし。

 

「お前の父親にはたった一度だけあったことがあってな。その時そいつから本当の誠実さを感じたのだ。それが印象的で私はえらく気に入り、覚えておった。あいつは覚えてはないだろうがな。何せ十何年も前だ。そして、その男が亡くなり息子が一人残されたことを知った。そしたら自分でも不思議なくらい居ても立っても居られなくなってな。」

 

本当に父さんには驚かされる。只者じゃないであろう柳韻さんにここまで言わせるとは。

そして本当に感謝が尽きない。愛してくれて本当にありがとう。

 

「ついたぞ。」

 

俺が感傷に浸っていると声をかけられる。どうやらついたようだ。

時刻は夕方の五時といったところ。

大きいな…ていうか神社じゃないですかー‼

なに、お前はこの神社に預けて修行させる的なかんじですか!?

寺じゃなく神社でもそういうのできるんですか!?

 

「何をしておる?いくぞ。」

 

柳韻さんはさっさっと進んでいく。もう決定してるんですね…俺には選択肢はないんですね…

俺はあきらめて後を追った。

 

神社の本殿?を通り過ぎ奥へと歩いていくと立派な建造物がある。

なるほどいわゆる管理人室的なとこにいくのか。

 

「今帰った。」

 

柳韻さんが扉を開け入っていく。

すると奥から美人な人が出てくる。

 

「おかえりなさい。それでそちらの子が?」

 

「あぁ、こいつが話していた雄二だ。」

 

背中をポンと押され前に出される。

 

「く、暮見 雄二です。よろしくお願いします。しゅ、修行の方も頑張りますので!」

 

恐らくこの大和なでしこな女性が神社の管理人、つまり俺のビッグボスだ。

 

「えぇ、よろしくね雄二くん。ん?修行?」

 

女性が首をかしげる。

 

「こいつはたまに変なことを言う。気にするな、こちらで何とかする。」

 

「あら、面白い子ですね。」

 

まて、柳韻さんがこちらで何とかするって言ったってことは修行の相手は柳韻さんですか?

いやいやいや、ダメでしょ!?この人只者じゃないでしょ絶対!イヤダーシニタクナーイ

 

「さあ、上がって雄二くん。案内するわ。あっ!ごめんなさいまだ名乗っていなかったわね。私は篠ノ之 千春(ちはる)。よろしくね。」

 

篠ノ之?はて?最近どっかで聞いたような?まぁ、いいか。

そうして俺は千春さんについていった。

 

「ごめんなさいね。あの人の相手疲れたでしょう?仏頂面ですから。でもね、不器用なだけで悪い人じゃないのよ。」

 

そう語る千春さんはどこか楽しげだ。

 

「それに引き取った人の家が神社やっているなんて驚いたでしょう?」

 

えっ?引き取った人?つまりここは柳韻さんの家ってこと?

俺、預けられたんじゃないってこと?

そういえば!篠ノ之って柳韻さんの苗字じゃん!?

てことは千春さんは奥さん!?

 

「その驚き用、あの人やっぱり伝えてなかったのね。」

 

はぁ~、とため息を吐く千春さん。

 

「えっ?じゃあ、修行は?」

 

「修行?そんなものありませんよ。そういうの期待してたならごめんなさいね。」

 

いえいえ、むしろ修行がないと知ってうれしい限りですよ。

なんだ~ここが自宅かよ。柳韻さんそういうのちゃんと言ってよね。

聞かなかった俺もあれだけどさぁ~

 

「はい、ここが雄二くんの部屋ね。」

 

畳張りの一室が俺の部屋だった。居候の俺がこんないい部屋もらっちゃっていいんですか!?

 

「いいんですか・・・こんな立派な部屋…」

 

「いいんですよ、部屋は余っていますから。」

 

まじか・・・

 

「ありがとうございます。千春さん。」

 

「いえいえ、では夕食になったら呼びますから自由にしていてください。」

 

そういって千春さんはもどっていった。

さて、荷物整理でもしますか。

 

 

 

 

 

 

「トイレどこだよ・・・・」

 

俺、絶賛迷子中です…

荷物整理が終わって暇だから探検していたら、腹が痛くなった。

なめてた、思ったよりこの家広い…

 

「とりあえず部屋戻るか?」

 

俺が通ってきた道は頭にあるから戻れるが・・・・

俺の腹はもつのか?ギュルゥ

 

「ぐっ!やばい。トイレまじでどこ?」

 

「トイレはあちらですよ。奥を曲がってすぐの扉です。」

 

誰!?後ろから声をかけられた。振り向くときれいな女性がいたがそれどころではない。

 

「ど、どうも」

 

俺は全力で駆け込んだ。

( ´Д`)=3 フゥ

間に合った。あの女性のおかげである。

というか誰だったのだろう?きれいな人だったが。

 

「ハッ!?まさか・・・・」

 

柳韻さんの浮気相手なのでは・・・・

なんてことだ…しょっぱなからなんつう爆弾を見つけてしまったんだ。

 

悩みながら部屋に戻るとちょうど千春さんが来た。

 

「雄二くん、ごはんよ。」

 

「アッ、ハイ」

 

例のことを思うと片言になってしまった。

 

「ち、千春さん…」

 

「ん?なに、雄二くん?」

 

笑顔でこちらに向く千春さん。

とてもじゃないが伝えられない。

 

「あっ、いえ、やっぱなんでもないです…」

 

「そう?」

 

千春さんは一瞬顔を不思議そうにして、すぐに歩き始める。

どうすればいいんだ・・・・

 

そんなことを思っていると食卓についた。

そして目に入ったのが、

 

「あっ!柳韻さんの浮気相手の人!」

 

そうあの女性だったのだ。食事を一緒にとるほど仲のいい人と浮気なんて余計修羅場になってしまう…

 

「なにを莫迦な事言ってるんだ。」

 

頭に何かが落ちた。それは後ろに来ていた柳韻さんのげんこつだった。

頭割れそう…

 

「そいつは私の妹だ。」

 

呆れたように柳韻さんは言う。千春さんも女性も苦笑いである。

 

「えっ?そうだったんですか。俺はてっきり美人だから浮気相手かと思いました。」

 

「阿保。」

 

もう一発げんこつが落ちた。

イタタタタ・・・

 

「大丈夫?」

 

女性が俺を心配する。大丈夫じゃないです。

 

「大丈夫です。」

 

しかしこれ以上失態をさらすわけにはいかない。

 

「申し遅れました。暮見 雄二です。先ほどはどうも。」

 

「どういたしまして。私は篠ノ之 雪子(ゆきこ)です。よろしくね雄二君。」

 

雪子さんか・・・確かに柳韻さんと雰囲気が似ているな。

 

そう思っていると新たに食卓に着くものが一人。

紫がかった色をした長い髪の毛にとてもきれいな白い肌をした俺と同じぐらいの可愛い少女だった。目の下には隈があって眠たげである。

 

「あっ、俺は暮見 雄二。今日からここに世話になることになったんだ。よろしく。」

 

「・・・・・」

 

その瞳はこちらをちらりとも見ようとしない。

む、無視か・・・・ちょっとこたえるな。

 

「こら、束。挨拶ぐらいしろ。」

 

柳韻さんがそう言うと、

 

「・・束・・・。」

 

という一言自己紹介をされた。ちなみにこちらを見てない。

 

「ごめんなさいね、雄二くん。この子、大の人見知りなの。同い年だから仲良くしてあげて。」

 

「アッ、ハイ」

 

そ、そうか人見知りか。ならしょうがないな。いきなり自宅で知らない男に話しかけられたらそりゃあ、無視するしな。うん。

それにこの年頃の子だから親を取られないか心配なのだろう。まったく、可愛い奴じゃないか。

 

「あう、あうぅ」

 

(。´・ω・)ん?千春さんが抱えているその子は誰です?

 

「この子は箒ちゃん。今は一歳になったばかりなんですよ。」

 

か、かわええなぁ。まるで天使やな。

思わず手を伸ばすと俺の手を箒ちゃんがつかんで笑った。

ブ、ブヒィィィィィィ!なんだこの天使、可愛すぎる!

 

ゾクリッ!? ファッ!?

 

俺の背筋に嫌な汗が流れる…

原因は束ちゃんからによる人でも殺せるんじゃないかというほどの視線だった。

 

『触るなッ‼』

 

目でそう言っている。こ、こええぇぇぇ!

俺はすぐさま手を引き、

 

「さ、食べましょ食べましょ。俺、腹ペコペコだったんですよね。わぁ!おいしそうだな~」

 

話題をそらすことにした。皆、急に食べようと言い出したおれを不思議そうに見るがもともと食事の時間だったので手を合わせていく。

 

「「「「いただきます」」」」

 

束ちゃんと箒ちゃん以外は挨拶をしてから食べ始めた。やっと視線を感じなくなった。

死ぬかと思った・・・(´;ω;`)

 

そうして俺の篠ノ之家初日は終えた。

心配なことはいろいろあるが、

 

(束ちゃんに殺されないように箒ちゃんへの接触はほどほどにしよう)

 

それが一番重要であった




続々と原作キャラ登場!
ここまで長かった…

タグに『篠ノ之家』 『独自解釈』を追加しときます。


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第十話 新たな日常

お気に入り登録ありがとうございます。
気が付けばもう10話超えて11話目になんですよね。
原作に行くまでにあと何話かかるのやら・・・
そして何となく投稿時間555(ファイズ)


篠ノ之家に来た翌日。今日は月曜日だ。退院した今、学校に行かなければならない。

六時頃に起きて居間に向かうとすでに皆さん起きていらっしゃった。

居候で一番起きるの遅いとか・・・なんか情けねぇ・・・

 

「おはようございます。」

 

挨拶をして、食卓に座る。

 

「おはよう雄二君。」

 

「みなさんお早いんですね。」

 

柳韻さんは新聞を読み、千春さんは料理中、雪子さんは空の食器を見るに食べ終わったところか。

束ちゃんは箒ちゃんを膝に置いて座っている。うらやましい・・・

 

「まぁ、この家の人間は神社のことなどで一般家庭よりは起きるのが早いですから。」

 

なるほど神社の掃除やらなんやらの準備のためで、他の人も千春さんがこの時間にご飯を作るから早く起きているのか。あれ?

 

「雪子さんしか、巫女服着てないんですね?」

 

「基本的には私一人で神社の仕事はこなしますからね。千春さんはこの家の家事をしてくれていて、兄さんは道場で師範をしているから。」

 

驚いた。俺はてっきり千春さんが管理人だと思っていたが雪子さんが管理人だった。

そしてなにより一人で管理していることに驚いた。

 

「一人でですか・・・大変では?」

 

「まぁ、そこは慣れですよ。それに忙しいときは二人とも手伝ってくれますしね。」

 

それでも大変なんだろうな。今度何か手伝えないだろうか?

 

「はい、できましたよ。」

 

千春さんが食事を運んでくる。昨日もそうであったがうまそうである。

 

「それでは私はそろそろ神社のほうにいきますね。」

 

雪子さんを見送りながら食事をとり始める。束ちゃんは挨拶しなかった・・・・

食事のあいさつぐらいしようよ・・・

 

 

 

 

 

 

「いってきます。」

 

時刻は七時過ぎ。通常ならば出るには早すぎるが俺の通っている学校はここから歩いて一時間近くかかる。転校は来週なため今週はこの道のりを行かなければならない。

 

「ほんとに送っていかないで大丈夫?」

 

千春さんが心配そうにする。当初は送ってもらう予定だったのだが、皆忙しそうだから無理言って一人で行かせてもらうことにしたのだ。ちなみに柳韻さんが許可をしてくれた。

 

「大丈夫ですよ。それにいいリハビリになりますから。」

 

そうして千春さんに見送られて学校に向かった。

 

 

「おはよう暮見くん。ずいぶん早いわね。」

 

時刻は八時前。いつもならもう三十分ほど遅れてくるため気になったのか先生が聞いてくる。

 

「遅れないように早く出たんですよ。明日はもっと遅く来ますから安心してください。」

 

「いやいや、明日もこのぐらいに来なさいよ。」

 

呆れながら言われた。こんな会話もあと数日しかできないのか・・・寂しくなるな。

 

 

「ほらほら、きびきび運ぶ。HR始まっちゃうよ?」

 

前言撤回。全然寂しくないわ。はやく転校したいね。

俺は今、授業で使う教材を運んでいる。

 

「暮見くんがもう少しでいなくなっちゃうのはさびしいわねぇ。」

 

「そんな俺に雑用させんで欲しいです。」

 

「いなくなるから尚更手伝ってもらうんじゃない。」

 

はぁ~、まったくいい性格してるよこの人。

 

 

 

 

 

 

「ただいまー。」

 

・・・・・・・

 

学校から帰ってきたが反応がない。出かけているのか?

 

自室に荷物を置き、居間に行く。

居間に行くと束ちゃんがいた。その近くには箒ちゃんもいる。

 

「束ちゃん・・・返事くらいしてよ・・・」(´・ω・`)

 

「・・・・」

 

束ちゃんはノートパソコンを使っていてこちらにすら向いてくれない。

PCゲームでもやっているのだろう。ゲームに負けるとか悲しいなぁ・・・

 

「あう、あう」

 

いつの間にか箒ちゃんが俺の足元まで来ており靴下を引っ張りながらこちらを見ていた。

俺にはそれがおかえりと言っているように思えた。

 

「箒ちゃんは優しいなぁ」ホロリ

 

思わず箒ちゃんを両手で持ち上げて目線を合わせる。

・・・・しまった・・・・やってしまった(汗)

 

「束ちゃんこれはちがうん・・・だ?」

 

束ちゃんに弁解しようと振り返ったが束ちゃんは端末を操作しており、こちらを見向きもしない。

よっぽど集中してるらしい。これはちゃんすなのではないか?(ゲス顔)

今なら箒ちゃんと遊び放題じゃないか。ゲーム万歳‼(手のひらクルー)

 

「よしよ~し、箒ちゃん。あっちで俺と遊ぼうね~」

 

箒ちゃんを連れ、俺は別の部屋に行った。

このあと無茶苦茶箒ちゃんとたわむれた。

 

 

 

 

 

 

篠ノ之家に来てから五日ほど経ち、今日で今通っている学校に行くのが最後になる。

ちなみにこの数日間俺はクラスの皆と野球やサッカー、お菓子作りといった様々なことをしていた。

あと束ちゃんはノーパソいじっているときは周りが見えないほど夢中であり、箒ちゃんと遊び放題だということも判明。やったね!

えっ?束ちゃんと和解すればそんな方法とらなくても済むだろって?

それは俺も努力しているがここ数日どんなふうに話しかけても無視された。\(^o^)/オワタ

 

「行ってきます。」

 

そんな悲しさを胸に俺は今日も学校に向かう。今日は最後だし、早めに行きますか。

珍しく俺は学校へ走っていった。

 

 

「やっぱいつもどうり来るべきだった・・・」

 

俺は今教室に立っている。現在時刻は7時半過ぎ。そんな時間ではまだ誰もクラスメイトはいない。

そして見てしまったのだ。飾り付けられた教室、教卓の上にある花束、そして、

 

『暮見くんを送る会‼』

 

とでかでか書かれている黒板を…

これは完璧にあれだ・・・サプライズだ・・・うん…

いつもだったら成功していただろう。いつもなら・・・

 

「なんで今日に限って早く来ちまったんだ~!」

 

ど、どうしよう。とりあえず見なかったことにして教室を出て、いい感じの時間にもう一度来るのは確定だが、

 

(うまく反応できるか?)

 

問題はそこだった。できるにはできるだろうがだますというのは気が引ける。

 

悩んでいると時刻は8時前ほどになっていた。来るのが早い生徒なら来始めてもおかしくない時間だ。

 

「と、とりあえず出よう。」

 

まずは出なければ。扉を開けて下駄箱に行こうとすると、

 

「「あっ・・・・」」

 

先生と出たところで鉢合わせてしまった。

 

「・・・見たの?」

 

「ナ、ナニヲデスカ?ナニモミテマセンヨー」

 

「見ちゃったのね。」

 

「・・・・はい。」

 

先生が俺の両肩に手を置く。

 

「いい、暮見くん。暮見くんは何も見なかった。」

 

「えっ?でも・・・」

 

()()()()()()()。いいわね?」

 

「アッ、ハイ」

 

先生の威圧に負けてしまった。ナタク………弱いオレを叱ってくれ!

 

 

ガラガラ

 

「みんなおは・・・なにこれ!?」

 

俺は手はず通りの反応をする。皆は大成功だといわんばかりの笑顔だ。

心が痛い。先生もこれには顔がひきつっている。

 

「雄二のために会を開くことにしたんだ。」

 

「びっくりしたでしょう?昨日の放課後、皆で一生懸命飾り付けたんだから。」

 

純粋な笑顔が向けられる。痛い!痛いよー!

 

「みんな・・・ありがとう。感動したよ。」

 

驚いたふりをするのは心が痛いが感動したというのは本当のことだ。

 

「ほらほら、席について。これからいろいろするから。」

 

俺が座らせられた席は教室の一番前の真ん中。まさに主役といった席でみんなは教室の後ろに並ぶ。

 

「これから暮見くんを送る会を始めます。」

 

 

皆は歌や演劇に漫才などとても練習したであろうものを披露してくれた。

一番驚いたのはクラス皆から一言ずつメッセージの入ったビデオレターだった。

まじで感動した。俺が転校するってのは最近決まったことなのに皆はこれだけのことをしてくれた。

 

「みんなに伝えたいことがあります。」

 

ならば俺も感謝の気持ちを伝えなければなるまい。

 

「まずは今日は本当にありがとう!正直こんな風に送ってもらえるって思ってなかったのですごくうれしかった。練習する時間なんてほとんどなかったはずなのにここまでのことをしてくれて、本当に感動した。俺からも何か送れるとよかったんだけど、何もなくてごめん。だから、みんなとの思い出について語りたいと思う。」

 

野球やサッカーなどをしたこと、お菓子作りをしたこと、遠足にいったこと、運動会を一緒に頑張ったこと、etc…

様々のことを話した。

 

「最後に、みんなと出会えて本当によかったと思う。いままで本当にありがとう。」

 

以上です。というと皆、目に涙をうかべてはいるものの笑顔で拍手をしてくれた。

俺もそれにこたえるように笑った。

 

こうして、俺の送迎会は終わった。

 

 

 

 

 

 

送迎会の翌日の休日。

俺はというとただいま道場で倒れております。なぜかって?

 

「雄二!次の特訓をするぞ。立て!」

 

このひと、柳韻さんによってしごかれているからだ。

もうマジでなんなんだきつすぎだろ…小学生がやるレベルじゃない…

すでにランニング10キロ、腕立て,腹筋,スクワットそれぞれ200回、素振り1000回をしており、いくら丈夫でも限界である。

 

「もう…げんか・・・い・・・です…」

 

「ふむ、そうか。今はこれで限界か。まぁ、初日はこんなものか。」

 

朝から始めており、すでに日が沈もうとしていた・・・

 

(なぜこんな目に俺が…)

 

 

時間は遡り今日の朝。

 

「雄二。ついてこい。」

 

そういわれ柳韻さんについていくと道場についた。

なぜに道場?と考えていると、

 

「これに着替えて中で待っていろ。」

 

柳韻さんに着替えを渡される。

 

「えっ?はい。」

 

俺はよくわからないが着替えて中で待った。着替えは下が黒で上が白の道着だった。

しばらくすると柳韻さんが戻ってきた。柳韻さんも道着を着ている。よく似合っている。

 

「準備はできたようだな。では修行を始める。今日は道場は休みなため自由に使えるから安心しろ。」

 

へっ?しゅぎょう?しゅぎょうってこの【修行】?

なんで俺が!?

 

「ちょ、ちょっと待ってください‼」

 

「なんだ?」

 

「なんで俺が修行することになっているんですか!?」

 

「何を言っている?お前自身が言ったではないか。修行に励むと。」

 

えっ?俺がいつそんなこといった?

そんなこというはずが・・・・あっ…。そうだった!ここに来た初日そんなこと言っていた…。

それに柳韻さんも何とかするとか言ってた気が…。

 

「ち、違うんです!あれは勘違いで俺は修行する気なんてないんです!」

 

「なにぃ?修行する気がない?」

 

「は、はい。その通りです。」

 

よかったこれでわかってもらえる。

 

「一度いったことを簡単に覆すとは・・・男だったらいったことを貫き通せッ‼その根性叩き直してやるわ」

 

「えっ、ちょ、ちょっt「問答無用だ‼」ぎゃぁぁ!」

 

 

そうだった…俺のせいだった…。それで柳韻さんはやる気満々になっちゃったんだ…。

でも・・・でも・・・

 

(修行頑張るってそういう意味じゃねぇ~‼)

 

こうしておれの道場入りが決まった。

 




フラグ回収をしてしまった主人公。
彼はこれからどうなるのか・・・


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第十一話 一目で尋常じゃない天才だって見抜いたよ

あぁ^~心がぴょんぴょんするんじゃぁ^~


オッス、オラ雄二。これから修行すんだ。オラ、ワクワクすっぞ(震え声)

そんなわけで二日目修行開始です…

 

「昨日でお前の体力や筋力といった大体は把握した。それを踏まえ、しばらくは昨日のメニュー行い、徐々に上げていく形となるな。」

 

マジすか・・・柳韻さん…。あれをずっと続けないといけないんですか…

 

「いきなりハード過ぎやしませんか?」

 

「お前ならこれをこなせると判断した。昨日と同じことをすればいい。」

 

昨日と同じようにやれって言われても体中筋肉痛でバキバキなんですけど…

 

「ではまずはランニング10キロからだ。行くぞ。」

 

柳韻さんは道場の外に行く。俺は仕方なくついていく。

はぁ~、わかりました。やればいいんでしょう?やってやるよ‼(やけくそ)

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ・・・」

 

ランニングを終えて道場に戻ってきたがかなり疲れた。

筋肉痛に加えてなんで走りにくい道着を着たまま走らなけりゃならんのだ…

しかも、柳韻さん超速いからね…ランニングのスピードじゃないと思う。

そしてなんで柳韻さんは息切れ一つ起こさない?化け物じみてる・・・

 

「5分休憩して次のメニューだ。」

 

「は・・はい・・」

 

 

俺が腕立てをしていると外が騒がしくなってきた。

 

「む、教え子たちがきたようだ。そのまま続けていてくれ。」

 

俺に付き合うように腕立てをしていた柳韻さんはピタリとその動きを止め、入り口の方に歩いて行った。

俺はそれを眺めるなんてことはせず、腕立てを続ける。人にかまっている余裕はない。

 

・・151・・・・152・・・153・・・

 

 

 

 

 

 

道場に行くと変わったやつを見つけた。見たとこ年が私と同じぐらいの整った顔立ちの男だった。

そいつは端の方で黙々と素振りをしていた。しばらくそいつを見ていると、

 

「どうした千冬?」

 

師範代に声をかけられた。

 

「いえ、あそこにいるやつ。見ない顔だと思いまして。」

 

「あぁ、雄二のことか。あいつは最近私の家で引き取った子でな、なかなか見どころがあるやつよ。」

 

師範代が人をほめることは少ないため、私は少し驚く。

 

「お前もあの姿を見て何か思わんか?」

 

師範代に問われる。確かにあいつを見ていると無性に体がうずく。

その男、雄二は周りの喧騒などまるで耳に入ってないといわんばかりに竹刀を振る。

視線も誰を見るというわけでもなくまっすぐと見据えている。

実力は大したことはないだろう。しかしその姿は純粋に強さを求めるものの姿だった。

その姿を見ていると、

 

「そうですね。見どころはあります。素人に毛が生えた程度のやつですが。」

 

負けてはいられない‼と思わずにはいられなかった。

私は竹刀を取り出し、素振りを始める。

 

「そうかそうか。お前もそう思うか。」

 

師範代は私と雄二を交互に見てニヤリと笑うと他の門下生のところに行った。

 

その日の鍛錬はいつもより力のこもったものとなった。

 

 

 

 

 

 

999・・・・・・・・・・・・・・1000・・!

 

ふぅーやっと終わったー。一回一回振り終わったら構えをしないといけないから時間かかるな。

今日は早めに始めたから日が沈む前に終わった。疲れたし、汗でびっしょりだから早く風呂入りたいわ~。柳韻さんはどこかな~っと・・・・いたいた。

 

「柳韻さん終わりました。」

 

「うむ、こちらでも確認していた。上がってよい。」

 

あっやっぱり見てくれていたのね。よかった~楽して適当にやらなくて。

やっていたらやばかったな…

 

「では、失礼します。」

 

頭を下げて道場を後にしようとすると視線を感じる。

その方向を向くと肩ほどまで黒髪を伸ばした可愛い子がこちら鋭い目線で見つめていた。

年は同じくらいだろう。・・・ふっ、なるほどな。

 

(許せ美少女よ。俺は先に地獄を抜ける‼)

 

美少女は地獄から先に上がる俺がねたましいのだろう。しかし、柳韻さんがいるから目線での攻撃しかできない。俺はそんな少女に頑張れと目線でエールを送ると少女は笑った気がした。

和解できたことを確認して俺は道場を後にした。

 

 

 

 

 

 

あいつは今日の分は終わったのか、師範代に話しかけて道場を後にしようとする。

私がそれを見ていると視線に気づいたのか出口近くで振り返ってこちらを見てきた。

しばらくやつはこちらを見て、ニヤッと笑い力のこもった目を向けてきた。

 

『お前には負けない』

 

整った顔立ちからのぞかせる強い瞳。その瞳はそう語っていた。

 

(面白い‼いいだろう、私もお前には負けん‼)

 

私も視線に力をこめ、視線を返した。興奮して口角が上がっているのがわかる。

それが伝わったのか雄二は満足そうに道場を後にしていった。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ~いいお湯だった。」

 

風呂上りの俺は居間にいた。居間にいるのは束ちゃんと箒だ。

最近俺は箒ちゃんのことを箒と呼び始めた。一度こっちで呼んだとき喜んでくれたからだ。

やっぱそういうのわかるって箒は頭いいかも。

なお束ちゃんの前ではちゃん付けで呼ばないとにらみ殺される。

 

「束ちゃんお茶置いとくよ。」

 

ノーパソをいじっている束ちゃんの前に麦茶を置く。

 

「・・・・・」

 

無視ッ!圧倒的無視!

うん、もう慣れてきた。こうやって話しかけているものの効果は出ない。

俺が束ちゃんの声を聞いたのは初日の一回だけだ。

どうしたものか。何か束ちゃんが楽しめる話題があればいいのだが・・・・

唯一の箒についての話題は俺が殺されちゃうからダメだろ。

ていうか仲良くなろうとして死ぬってなんだよ…

 

「何かないかな~」

 

突破口を探し、束ちゃんを見ていると束ちゃんがいじっているノーパソを見てひらめいた。

そうだ!ゲームだ!束ちゃんはPCゲームに周りが見えなくなるほど夢中なんだからゲームの話なら食いついてくれるかもしれない。

そこに気づくとは天才か・・・俺。

そうと決まれば束ちゃんがやっているゲームを知らなければと思い、束ちゃんの後ろに回り込むと

 

「ま、まじか・・・」

 

天才は俺ではなく束ちゃんだった。

後ろから画面を見ているとアルファベットやら数字やらが画面にびっしりと書かれている。

おそらくプログラミングをしているのだろう。すごいがそれだけでは天才と呼ばない。

こうしている間にも束ちゃんはこの年で参考書もなしにプログラムを打ち込み続けている。

その姿はまさに天才としか言いようがないだろう。

 

(困った。話題を探しにきたのにつぶされた。プログラミングなんかわかんねえーぞ俺…)

 

しばらく呆然として見続けていると、

 

(・・・・・・ん?)

 

「姿勢制御のプログラム?」ボソッ

 

なんか束ちゃんが何をプログラミングしてんのかわかる。頭が勝手に理解している感じ。

 

「・・・・・は?」

 

誰かの呆けた声が聞こえた。誰の声だ?俺か?

と考えていると束ちゃんが作業を止めてこちらに振り返っていた。

 

「ご、ごめん束t「わかるのっ!?」

 

邪魔だったかと思い謝ろうとしたら、いきなり胸倉つかまれた。誰に?束ちゃんに。

 

「わかるの!?これが何かわかるの!?」

 

目は血走っており、隈がよりそれを引き立てる。胸倉をしめる力もどんどん増していく。

ちょ、これ小学生が出していいレベルの力じゃない!?

 

「ねぇ、これが何かわかるのかって聞いてるんだよ!どうなの!?」

 

こ、こえぇぇ!?この子こんなに活発的だったの!?(デス方面の意味で)

と、とにかく答えなきゃこのまま絞殺されてしまう。

 

「わかるってそのプログラミングのこと?それならわかるけど…」

 

おそらくプログラムについて聞いているのだろう。それならなぜかわかる。

君の謎パワーについてはまったくもって、わからないがね。

ていうかこの話題効果ありすぎだろ‼どんな話題でも結局死にかけているじゃん‼

 

「ほ、ほんとに?」

 

束ちゃんは顔をキョトンとして聞いてくる。俺の胸元からも手が離れる。

良かったよ…記念すべき一回目の会話が胸倉つかまれて絞殺されて終わりじゃなくて。

 

「うん、わかるけど。」

 

「じゃあこれは?」

 

束ちゃんはパソコンをいじって別のプログラミングを見せてくる。

え~っとなになに、

 

「センサー類のプログラム・・かな。それもすごいやつ。」

 

「うそっ!?ほんとにわかってる…」

 

あってたようだ。しかし、まさかプログラミングまで理解できるとは思わなかった。

ほんとに異常なほど頭良くなったんだな。これが今の時代じゃ異常なほどのプログラミングってのもわかるし。束ちゃんまじパネェな。

 

 

 

 

 

 

「姿勢制御のプログラム?」

 

私がプログラミングしていると小さいが確かに聞こえた。

 

「・・・・・は?」

 

それは今まさに私がプログラミングしているものだ。

理解できたというの?いったい誰が?

声の聞こえた方に向くとそこにはつい最近家に来たやつがいた。

こいつは箒ちゃんに手を出そうとしてるやつだ。まさかこいつが?

 

「ご、ごめん束t「わかるのっ!?」

 

何か言おうとしていたが無視して話す。逃げられないように胸倉をつかんで拘束する。

 

「わかるの!?これが何かわかるの!?」

 

問い詰める。万が一にも逃げられえないよう腕に入れる力を上げる。

絞める力を強めたっていうのに余裕なのかこいつは何も言わない。

思わず声を荒げて言う。

 

「ねぇ、これが何かわかるのかって聞いてるんだよ!どうなの!?」

 

さらに腕に力をこめるとようやく話し始めた。

 

「わかるってそのプログラミングのこと?それならわかるけど…」

 

わかるって言った!今確かにわかるって言った!

 

「ほ、ほんとに?」

 

思わず聞き返す。胸元もいつの間にか離してしまっていた。

しかしそんなことはどうでもいい!重要なのは、

 

「うん、わかるけど。」

 

「じゃあこれは?」

 

ほんとかどうかだ。

私はハイパーセンサーについてのプログラミングを見せた。

 

「センサー類のプログラム・・かな。それもすごいやつ。」

 

「うそっ!?ほんとにわかってる…」

 

当然のように答えが返ってきた…

自分以外にわかる人がいるなんて…

 

「凄い!すごいすごい‼束さん以外にこれがわかるなんて‼」

 

自分でも驚くほど興奮してしまっている。

 

「そ、そうか…?」

 

「そうだよ‼すごいんだよ!なんたってこの束さんのプログラミングを理解できるんだから!ねぇ、君名前は?」

 

確か言っていたと思うけど興味なくて聞いてなかったんだよね。

あぁ~もう!ちゃんと聞いておくんだったよ!

 

「えっ?雄二・・・暮見 雄二だけど…」

 

暮見 雄二。うん!覚えた!

 

「じゃあ、雄くんだね!」

 

「ゆ、雄くん!?」

 

「そう、雄二だから雄くん。よろしくね!」

 

「あ、うん。よろしく束ちゃん。」

 

ちょっと興奮していてグイグイいってしまって雄くんを困惑させちゃった。テヘペロ

あっ!

 

「束ちゃんなんてよそよそしく呼ばないで束って呼んでね!雄くん。」

 

「いいの?」

 

「いいも何もそう呼んでっていってるの!」

 

「・・わかったよ。え~っと、束。」

 

うん、よろしい。

 

「じゃあ、改めてよろしくね!雄くん!」

 

「あぁ!よろしく束。」

 

 

 

 

 

 

(今日はいろいろあったな…)

 

特に束ちゃん・・・じゃなかった束の変化がすさまじかった。

危うく死にかけたしね。でも話せるようになって良かった。

話してみるとものすごいグイグイくる子でビックリした。名前すら覚えてくれてなかったことにも驚いた…というより悲しかったです。はい。

 

(夕食のときなんかすごかったなぁ)

 

俺の隣に座って終始喋っていたもんな。皆はいつの間に!ってすごく驚いていたが嬉しそうだった。箒の件についても和解したから問題ないし、今日の俺ってほとんどいいこと尽くしじゃん‼

 

上機嫌で俺は眠りについた。

 

 




千冬と束を興奮させる(意味深)主人公。

ちなみにサイドチェンジするとき〈~~side〉みたいに、だれだれサイドみたいなの合った方がいいんでしょうか?

ご意見などありましたら遠慮なく言っていただけるとうれしいです。


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第十二話 転校生にトラブルはつきもの

昨日ルーキー日間のランキングに入っていてビックリしました。

ちなみにTo LOVEるではありません。


♪新しい~朝が来た~希望のあっさ~♪

 

あっ!どうも、雄二です。今はキッチンで朝ご飯を作る手伝いをしています。

 

「雄二くん、料理うまいのねぇ。助かるわ~。」

 

「少しでも役に立てたなら良かったです。よろしければ毎朝手伝わせてください。」

 

ほめられるのは気分がいいし、料理は好きだからなるべくなら手伝いたい。

 

「ほんとに?じゃあ、お願いしようかしら。」

 

千春さんは快く承諾してくれた。それからは二人で話をしながら料理を作っていく。

 

「あっ、そうだ。雄二くん、もう少しでできるから束を起こしてきてもらえるかしら?」

 

「わかりました。」

 

俺は束を起こしに行く。

 

 

「束ー入るぞー」

 

声をかけてから部屋に入る。

部屋は何かの部品やらなんやらですごい状態だった。

その部屋の中心に束は寝ていた。

 

「束、朝だぞ。起きろ。」

 

「ん~、あと一時間・・・」

 

小さくゆすってみるも効果はうすい。

今度は大きくゆすった。

 

「うぅ~頭がグワングワンなる~。」

 

「学校まで案内してくれるんじゃなかったのか?」

 

意識が多少はっきりしてきたとこに声をかけた。

ちなみに今日は俺の転校初日なため束に道案内を頼んだ。

 

「しょうがないなぁ~」

 

まだ眠そうに目をこすりながら束が起き上がる。

 

「じゃあ、俺は先に居間にいっているからな。顔洗ってからくるんだぞ。」

 

束を洗面所の方向に送ってから居間に戻る。

 

 

しばらくして全員が食卓につき、食事が開始される。

 

《いただきます。》

 

皆でそろって食事のあいさつをするが束は無言で食べようとする。

ここに来てから一週間ほど経つが束が食事のあいさつをしているのを聞いたことがない。

 

「まて、束。食事の挨拶ぐらいしろ。」

 

「えぇ~、いいじゃん別に…」

 

束は眠いのか不機嫌だ。しかしそんなことは関係ない。

 

「よくない。ちゃんと言わないと食わせないからな。」

 

束のところの皿を取り上げる。

 

「ちなみにこの朝食は俺も手伝ったから俺には言う権利がある。」

 

「これ雄くんがつくったの!?」

 

驚きながら聞いてくる。そんなに以外かね、俺が料理できることが。

 

「そうだ。だから言うまで絶対に食わせない。」

 

「はぁ~わかったよ。言えばいいんでしょ?いただきます。」

 

「はいどうぞ。召し上がれ。」

 

束は渋々挨拶をするがまぁ、最初だし大目に見る。束が言うこと聞いてくれたことに皆驚いている。そんな聞き分けなかったのか…これからもちゃんといってくれるだろうか?

一抹の不安を抱えながら朝食を取り終えた。

 

 

「「いってきます。」」

 

二人で家を出た。

 

「行ってきますは言うんだな?」

 

「自分がどこかに行く主張を簡単に伝えられるものだからね。いただきますみたいな別に言わなくてもいいものは言ってないだけ。」

 

束はどうやら必要ではないと思うことはやらないの体現者のようだ。

 

「いただきますもちゃんと言ってくれよ。あれだって作ってくれた人に感謝を伝えるものなんだから。」

 

本来は食材への感謝のためにするのだが束にはこういった方がいいと思った。

 

「えぇ~、めんどくさい。」

 

「頼む!束が言ってくれたら俺はすごくうれしんだ。」

 

これは本当だ。束がちゃんと挨拶すると皆嬉しそうにする。特に千春さんが嬉しそうだ。

皆の雰囲気よくなるのと俺も手伝っているからうれしい。

 

「えっ?・・・・考えとく…」

 

束は一瞬キョトンとするが伝わったのか考えてくれている。

 

「うん、考えといてくれ。」

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、俺は職員室行かないとだから。」

 

「うん、またあとでね雄くん。」

 

学校につき、束と別れ職員室に向かう。

 

トントントン

 

「失礼します。今日転校してきた暮見 雄二です。」

 

しっかりと三回ノックして入る。

 

「あっ、こっちに来てくれるか暮見。」

 

俺を呼ぶ若い男性教師がひとり。恐らく担任だろう。

俺はそちらに近づく。

 

「おはようございます。改めまして暮見 雄二です。よろしくお願いします。」

 

「おう、おはよう。俺は暮見が入る3組の担任の鈴木 彰(あきら)だ。よろしくな!」

 

ニカッと笑う先生はまさに体育会系の先生といった感じだ。

こういう人は嫌いじゃない。前の先生もどっちかというとそうだったし。

クラスは3組らしい束は2組って言っていたな。違うクラスか。

 

「自己紹介も終わったし、まず今日のことを説明するぞ。」

 

俺は先生から説明を受けた。内容としてはこうだった。

 

朝のHRで自己紹介するため内容を考えといて欲しいこと。

教科書は放課後にまとめて渡すため、今日の授業は誰かに見せてもらうこと。

クラス内での目標やルールがあるから早めに覚えてほしいこと。

 

うん、余裕だな。クラス内のルールはすでに先生の説明で覚えたし、教科書を見せてもらうことぐらいできるだろうし、自己紹介も趣味の料理についてでいいだろう。

 

 

「じゃあ、入ってきてくれ。」

 

俺は扉を開けて教室内に入り、教卓の横に立つ。

皆、俺に興味深々と言った感じだ。

 

「暮見 雄二です。趣味は料理でよく家で手伝っています。得意なことはスポーツ全般です。遊ぶときに誘ってくれるとうれしいです。よろしくお願いします。」

 

パチパチパチパチ

 

「自己紹介ありがとう暮見。皆も新しい仲間を大切にするよーに。じゃあ、暮見の席はあそこだな。」

 

先生が言った方向を見ると窓際一番後ろの席がポツンと空いていた。いい席だ。

俺はその席に向かいながら皆の反応を確認する。どうやら自己紹介は成功のようだ。

俺が席に着くと先生が話をはじめ、しばらくして朝のホームルームが終わった。

すると皆こちらを見て近づこうとしてくる。

 

(来たッ‼転校生恒例行事の質問攻めだ。)

 

まさかこの日が俺にこようとはな。しかし、ぬかりはない。

俺は前日からされるであろう質問を予想し、その全てに答えられるようにしているのだから‼

さあ、来い!ここで一気に仲良くなってやる!

 

「雄く~ん。来ちゃった。」

 

俺がそう意気込んでいると教室の扉が開き、聞き覚えのある声がする。束だ。

いいタイミングで来てくれた。これで俺が束に声をかければ、この学校で俺とすでに友達になっているやつがいる(家族なんだけどね)と分かり、皆俺に話しかけやすくなるだろう。

それに束は隣のクラスだし、かなり可愛い。知っているやつも多いはずだ。

 

「おっ、束。来るのが早いな。」

 

束は俺のとこまで小走りで来て、抱き着いてきた。ほんとフレンドリーだなこの子。

しかし抱きしめられるのはどうなんだ?仲がいいってのはわかるだろうけど。

そう思い周りを見るとやはり皆少し引いて距離をとっている。まずいなぁ。

 

「束、うれしいけどいきなり抱き着くな。」

 

「束さんにとってはこれは挨拶も同義なんだよ。」

 

お前は外国人か。束をはがしつつ心の中で突っ込みを入れる。

皆は話しかけてきてはくれない。やはり今ので話しかけづらくなったようだ。

ならば、

 

「そこの君。ちょっといいかな?」

 

「は、はいぃ!?わ、私ですか?」

 

近くの眼鏡女子に話しかけた。俺が声をかけるととても驚いたようで若干涙目だ。

確かにこの話しづらい状況で話しかけられたらプレッシャーだとは思うけど涙目になるほどか?

おそらくシャイガールなのだろう。ここはやさしくいかねば。

 

「そうそう眼鏡が似合っている君だよ。ちょっとお話しない?俺来たばっかりで話す人全然いなくてさ。」

 

まずはほめて警戒心を解きつつ、自分の不利さをいかして儚く笑う。

うん、なんか悪いことするやつの常とう手段みたいだなこれ…

 

「ご、ごめんなさぁーい‼」

 

怪しすぎたのか走ってどこかに行ってしまった。なんか告白して、振られたみたいで悲しい。

しかし、これを俺は笑いに変えて見せる。

 

「ありゃりゃ、渾身の告白を振られちゃったってね!ハハハハハッ!」

 

ネタにして笑いを誘う。・・・・・ダメか…

皆さらに一歩ずつ引いていく。ん~どうしたものか。

 

「雄くん‼束さんとお話しようよ。こいつらなんかと話すより絶対そうした方いいよ!」

 

「こいつらなんかとか言うな。」

 

テイッと束の頭ににチョップする。

束は恨めしそうにこちらを見ている。今のはお前が悪いと目線で伝たえる。

それが伝わったのか、

 

「フンッ!いいもん束さんはちーちゃんのとこにいくもんね‼」

 

いじけてどこかに行ってしまった。まったく、可愛いものである。

ちーちゃんというのはだれかわからないが恐らく友達だろう。

しかし、束のいうことにも一理あった。

 

(今これ以上話しかけるのは逆効果か…)

 

完璧に俺は奇異の目で見られている。まぁ、これからどうにかしていけばいいか。

大丈夫。時間はあるし、話しかけるチャンスもいっぱいあるさ。

 

 

あのあと俺はおとなしくして授業が始まるのを待っていた。

 

『キーンコーンカーンコーン』

 

来たッ‼授業はいつものおれなら退屈すぎて拷問に近いが今日の俺には砂漠に降る恵みの雨だ。

授業が始まり皆が教科書を開いていく。ここだ‼

 

「あのさぁ。」

 

「な、なに?」

 

俺は水を得た魚のように隣の女子に話しかける。

 

「教科書一緒に見せてくれない?」

 

そう、こと今日に限っては教科書を見してもらうという名目のもと話しかけられるのだ‼

話せば友達になれるはずだ。そして一人でも友達になれれば皆の警戒もとける。

 

「えっ!?」

 

「ダメ・・・かな?」

 

イケメンフェイスをフル活用して儚く笑いかける。卑怯だが仕方あるまい。

 

「ひっ!?い、いいわよ使って‼」

 

そういうと少女は俺に教科書を押し付けて隣の子(俺と逆)と席をくっつけ、一緒に教科書を見始める。

どうやら俺が一人で使っていいらしい。恐らくあの子もシャイガールなのだろう。

声が上擦っていたし、きっと男子と机をくっつけて一緒に見るのが恥ずかしかったのだろう。

 

「ありがとう。」

 

俺はお礼を言って授業をうける。少しは話せたからまぁまぁな結果といえる。

 

(それにしてもシャイな子が多いな。束ほどとはいわないがフレンドリーに接してほしい。あっ、変化すごすぎて忘れていたが束もシャイじゃん。それもかなりの。)

 

思わず、フッと笑ってしまう。どうやら俺はシャイな子と縁があるらしい。

これからがんばらないとな。

 

 

その日は結局誰とも喋れなかった…orz

 

「どうだ、仲良くできそうか?」

 

教科書を受け取りに来たら先生に聞かれる。

 

「ぼちぼちですね。皆結構シャイみたいで。」

 

「そうか?まぁ、お前ならすぐに人気者だろう。話した先生にはわかるぞ。心配するな!」

 

「はい、頑張って人気者目指します。」

 

俺は決意を新たにまだ拗ねている束と帰宅した。

また、束の機嫌を直すことに苦労したことはいうまでもないだろう…




転校生デビューに失敗してしまった主人公。
頑張れ主人公‼
次回「転校生死す」 ISスタンバイ!


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第十三話 主人公死す

別サイドから謎を解いていこうではないか。ワトソン君。


「今日転校生が来るらしいよー」

 

「どんな子かな?」

 

「女の子かな?」 「いや、噂だと男の子らしいよ。」

 

クラス内では朝から今日来る転校生の話題で持ちきりだ。

かくいう私も楽しみにしている。なんたって転校生の席は私の隣なのだ。

 

(男の子か。かっこいい子だといいな~)

 

隣の昨日までなかった机をみつめながら転校生を想像する。

なるべくならかっこよくて大人っぽい子がいい。

クラスの男子は皆騒がしい連中ばかりだからなぁ…

 

(ん~何をはなそっかな~)

 

『キーンコーンカーンコーン』

 

「はいみんな席につけ~HR始めるぞ。」

 

転校生と何を話すか考えているとチャイムがなり、先生が教室に入ってくる。

 

「まずはみんな、おはよう!」

 

《おはようございます。》

 

「うん、いい挨拶だ。」

 

先生が毎朝恒例のあいさつ褒めをしながら続ける。

 

「皆もう知っているかもしれないが今日、転校生が来ています。」

 

「知ってる知ってる!それで先生、女の子?男の子?」

 

「男の子だ。」

 

噂通り男の子らしい。そしてクラスの女子はそこへ食いつく。

 

「先生ー。そのこかっこいいですか~?」

 

「おう、先生が見た限り結構かっこいいと思うぞ。」

 

《キャーッ‼》

 

クラスで女子の喜びの声があがる。私ももちろんその一人だ。

 

「とまぁ、待たせすぎるのはよくないから質問はそれぐらいにして・・・」

 

先生が少しためる。皆の期待が高まるのがわかる。

 

「じゃあ、入ってきてくれ。」

 

扉を開き入ってくる転校生。見た目は先生のいっていた通りかっこよかった。

髪は黒く目に届きそうなぐらい長いがその合間から見える優しく強い瞳によって暗い印象は全くもって感じない。それにまとっている落ち着いた雰囲気。

 

(か、かんぺき・・・想像以上だわ…)

 

まさに私の求めていた王子様がそこにいた。

それも私の隣に来るのだ。興奮しないわけがない。

 

「暮見 雄二です。趣味は料理でよく家で手伝っています。得意なことはスポーツ全般です。遊ぶときに誘ってくれるとうれしいです。よろしくお願いします。」

 

自己紹介のあとに彼は笑った。最高の笑顔をした王子の誕生だった。

 

(くれみ…ゆうじくん。)

 

「自己紹介ありがとう暮見。皆も新しい仲間を大切にするよーに。じゃあ、暮見の席はあそこだな。」

 

先生が指さす席はもちろん私のとなりである。

あぁ~もう最高だわ‼絶対一番最初に仲良くなってやるわ!

 

よろしく、と言いゆうじくんが隣に座る。あぁ、気遣いまでできるなんて…素敵。

私は話しかけようと思ったがゆうじくんの横顔に思わず見とれてしまう。

 

「じゃあ、朝のHRはこれで終わりだ。自由にしてよし。」

 

しまった…いつの間にかHRが終わってしまった。これでは質問したい人たちの雪崩がおきる。早く話しかけなければと思うのだが、

 

(わ、私ちゃんとしてるかしら!?髪は大丈夫よね!?あぁ、もう少し可愛い服着てくればよかった…)

 

自分のチェックと緊張で話しかけづらい。皆が少しづつ近づいてくる。

 

(は、早く話かけなきゃ‼)

 

そう思い話しかけようとした次の瞬間、

 

「雄く~ん。来ちゃった。」

 

扉を開けて誰かが入ってきたようだ。間が悪いわね…

 

「おっ、束。来るのが早いな。」

 

ゆうじくんがそう返すとその誰かはあろうことかゆうじくんに抱き着いたのだ。

うそっ!?もうだれかと友達になっていたの!?それも抱き着かれるほど…

私はすでに出遅れていたことと目の前の光景に戦慄していたが、

 

「ッ!?」

 

ゆうじくんに誰が抱き着いたのか気づき、さらに戦慄する。

 

(篠ノ之・・・束・・!?なんであいつがここに!?それになんでゆうじくんに抱き着いてるの!?)

 

そう抱き着いていたのは篠ノ之 束だったのである。

この学校で知らないものはいない()()()()がそこにいた。

 

先生の話は聞かないはもちろんのこと誰が話しかけても無視する。

突っかかってきた上級生複数人を無傷でボロボロにした。

学校のものを勝手に改造しているなんて噂もある。

 

これでもごく一部である。そんな誰もが知っていて、誰もが恐怖する篠ノ之 束が今目の前にいる。

 

「束、うれしいけどいきなり抱き着くな。」

 

「束さんにとってはこれは挨拶も同義なんだよ。」

 

彼女の言っていることには外国人かっ‼と突っ込みたいが、それよりもそれと平然と話し、あまつさえ抱き着かれてうれしいなどと彼は口にしたのだ。

もしかして彼もかなりやばい人なんじゃないだろうか…

教室には不穏な空気が渦巻いていた。

 

「そこの君。ちょっといいかな?」

 

「は、はいぃ!?わ、私ですか?」

 

委員長が彼に話しかけられる。

ただでさえ委員長は気が弱い子なのにこの状況で声をかけられ涙目になっている。

 

「そうそう眼鏡が似合っている君だよ。ちょっとお話しない?俺来たばっかりで話す人全然いなくてさ。」

 

彼の横には篠ノ之 束がまだいる。それなのに彼は委員長を近くによぼうとする。

彼は笑ってはいるがそれは先ほど見た笑顔とは違うものだった。

いわれている委員長からすればそれは恐怖しか感じないだろう。

私だってこの状況では近づきたくないため、二歩ほど下がっている。

 

「ご、ごめんなさぁーい‼」

 

委員長は泣きながら逃げてしまった。

これはしょうがない…誰だって逃げるだろう。

 

「ありゃりゃ、渾身の告白を振られちゃったってね!ハハハハハッ!」

 

しかし、逃げていくのも想定内だったとでもいうのか、彼は笑う。

その隣ではごみを見るかのような目線で私たちを見る悪魔がいる。

私は怖くなり、さらに一歩足を引いてしまう。

 

(も、もしかしたらあの悪魔に操られているのかもしれない・・・)

 

さっきまで自己紹介していた彼とあまりにも違うためそんなことを考える。

しかし次の瞬間にはその期待を裏切られる。

 

「雄くん‼束さんとお話しようよ。こいつらなんかと話すより絶対そうした方いいよ!」

 

「こいつらなんかとか言うな。」

 

彼があの悪魔の頭にチョップ・・・つまり攻撃したのだ…

信じられない・・・・あの篠ノ之 束に攻撃するなんて…

私を含め皆が唖然としていると問題の二人はにらみつけあっていた。

 

「フンッ!いいもん束さんはちーちゃんのとこにいくもんね‼」

 

そして驚くことに篠ノ之 束を帰らせたのだ。

その光景を見て彼、くれみ ゆうじは篠ノ之 束以上の者であり、操られてなんかいなかったことが分かった。

 

それから彼は何もしてこなかったがそれが不気味で皆彼に近づこうとはしなかった。

 

 

「あのさぁ。」

 

「な、なに?」

 

授業が始まり彼が話しかけてきた。私は何を言われるの不安で体が震える。

 

「教科書一緒に見せてくれない?」

 

「えっ!?」

 

てっきりひどいことをされると思っていた私は間抜けな声を出していた。

それに今の彼からは怖いとかそういった雰囲気を感じられない。

 

(もしかして・・・勘違いだった・・・?)

 

さっきまでのは何かの勘違いで本当は普通なんじゃないか?

そう思うほど彼は普通だった。

それならばと思い、教科書を見せるぐらいかまわないと見せようとした瞬間、

 

「ダメ・・・かな?」

 

まるでタイミングを計ったかのように聞いてくる。いや、脅迫してくる…

あの笑顔だ…委員長に向けたあの笑顔で私を見てくる。私は背筋に悪寒が走った。

こいつは渡せといっているのだ。渡さなければ・・・・

 

「ひっ!?い、いいわよ使って‼」

 

私は怖くなり教科書を押し付けて隣の友達の席に机を急いでくっつけた。

隣の子も状況を分かってくれたようで何も言ってこない。

 

「ありがとう。」

 

やつは白々しくお礼を言ってきた。自分がそうさせたクセに!

やつは前を向くと何を考えているのか笑っていた。

私はやつが何を考えているのか怖くて怖くて授業なんて頭に入ってこなかった。

 

 

その日やつは皆に話しかけてきたがもちろん皆逃げる。

それを何が目的なのか逃がしていた。

不気味だと皆口をそろえて言っていた。

 

「どうだ、仲良くできそうか?」

 

「ぼちぼちですね。皆結構シャイみたいで。」

 

帰ろうと思い、廊下を歩いていると先生とやつが話している声が聞こえてきた。

ぼちぼち・・・計画は進んでいるということだろうか?シャイというのも皮肉だろう。

 

「そうか?まぁ、お前ならすぐに人気者だろう。話した先生にはわかるぞ。心配するな!」

 

「はい、頑張って人気者目指します。」

 

(先生ッ‼気づいて‼そいつは悪魔なの‼)

 

先生はやつの正体には気が付いていなかった…

やつは狡猾だった。すでに先生は掌握されていたのだ…

 

私は先生という最後の希望がなくなったことを知り、絶望しながら家に帰った。

 

 

次の日学校に行くと篠ノ之以上のやばい転校生が来たという噂がもう学校中に広まっていた。




ゆうじくん→彼→やつ
おめでとう!主人公は進化した。(白目)

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第十四話 だから俺は友達が少ない

お気に入り登録50件超えました!
ありがとうございます。
今後も楽しんでもらえればと思います。


転校してからはや1ヶ月がたち、新しい学校生活にも慣れてきた。そう・・・ボッチ生活にね…

 

(何故こうなった…)

 

現在俺の周りのクラスメイトは机を離せるだけ離しており、休み時間になると速攻でどこかに行ってしまう。なんとか話しかけてもすぐに逃げられる。

俺が何かしたならまだいい、しかし2日目からずっとこれだ。いい加減嫌になってくる…

 

(なにかしたっけ?)

 

・・・・・全く身に覚えがない。

嫌われるなら分かるんだが、恐れられているって感じだ。ますます意味が分からん。

 

この学校に来てから喋ったのは先生達と束だけだ。

 

「雄く~ん。」

 

噂をすればなんとやら。束が来た。

束は休み時間2回に1回は来てくれる。

ありがたい。しかし、束も束で問題があるのだ。

 

「もぉ〜、まだ悩んでるの?こんな奴らと話したっていいことないよ?」

 

これだ…。前に友達出来ないのを相談したのだがその時の答えが

 

『えっ?あんな奴らに雄くんは理解できないんだから気にする必要ないよ。』

 

だった。どうやら束は人によって全然態度が違うようなのだ。

人に対する態度にとやかく言うつもりはあまりないのだが束の場合極端だ。

知り合い→激甘

その他→ゴミ

こんな感じだ。

 

そんなんで学校生活大丈夫かよ…と思っていたが束にはちーちゃんという親友がいるらしい。

つまり俺より学校での友達が多い…

 

(俺の方こそ大丈夫かよ…原因すら分かってないんだぞ…)

 

まったく、頭が痛くなってくる。

 

「どうしたの頭抑えて?束さん特製頭痛薬いる?」

 

「大丈夫…別に問題ない。心配してくれてありがとな。」

 

「雄くんと私の仲じゃない。気にしない気にしな〜い。」

 

まったく、本当にいい子だな。だからこそあまり俺のとこに来させるのは申し訳ない…

俺は何故だか恐れられていて、そんな俺と一緒にいたら束も何を言われるか分かったもんじゃない。この態度で既に何か言われてそうだけど…

 

「ほら、授業始まるぞ。自分のクラスに戻らないとちーちゃんに怒られるぞ。」

 

ちーちゃんには未だに会ったことないがちーちゃんに怒られた話を束からよく聞く。

 

「げっ!?それは勘弁だよ〜」

 

脱兎の如くクラスに戻って行った。

ウサミミか…なんか似合いそうだな束に。

 

 

 

 

 

 

その日の授業も終わり、放課後だ。

今日は修行を朝の内に半分終わらせてきたため帰るまでに猶予がある。そしてやることが、

 

「諜報活動だ。」

 

「えぇ〜めんどくさいよ。はやく帰ってアイス食べたーい。」

 

束隊員がいきなりごねりはじめる。

 

「束隊員。帰ったら坂上の店のプリンを贈呈しよう。」

 

「ホントにッ!?」

 

坂上のプリンは1時間はならばないと手に入らない高級プリンだ。ランニング中そこを通るのだが

 

『雄二くん。いつも頑張ってるねぇ〜。これ今日売れ残ったやつなんだ、持ってきな。』

 

と気前よく売れ残りを2つほど頂いたのだ。

毎日通った時に挨拶していた効果が出た。

 

「嘘は言わん。」

 

「良し!すぐ終わらせて帰ろう。で、具体的になにするの?」

 

束隊員もやる気が出たようだ。

 

「学校内の会話を聴きたい。」

 

「じゃあ、これだね。」

 

束隊員がレシーバー的なサムシングをだす。

 

「束隊員それは?」

 

「まぁまぁ、聴いててよ。」

 

束隊員がそれをいじると

 

カチッ『今日、国語の時間でさ〜』

 

カチッ『でねでね、それでどうなったと』

 

カチッ『じゃあね〜』

 

なんという事だろうか。見知らぬ誰かの声が聞こえて来る。それもつまみを回す事に違う場所の音を拾っているらしい。

 

「おい、束!?これ盗聴器じゃねぇか!」

 

「そうだけど?」

 

さも当然みたいな顔するな!

 

「ダメだろう!」

 

「でも雄くんも誰かの会話盗み聞きしようとしてたんでしょ?」

 

「ぐっ!そ、それは…」

 

「結果はそれとなにも変わらないよ。いや、それ以上にこっちの方が楽だし、確実だよ。」

 

「ぐぐっ!」

 

た、確かにそうだ。それに今回はうってつけの方法だ…

 

「いつもそれで盗聴してるのか?」

 

「聴くわけないじゃん。つまんないし。ちーちゃんを撒くために設置したんだけどあんま効果なくてそのままなだけ。」

 

そっかーいつも使ってないのかー。ならいいかなー(棒)

というかちーちゃん何者だよ…そっちの方が気になってきたよ。

 

「束隊員。その案でいこう。」

 

「アイアイサ〜」

 

 

『暮見雄二っているじゃん?』

 

『あぁ、悪魔ってうわさの?』

 

これだ。悲しいけどこの会話を聴かなければ。

 

『そうそう。』

 

『それでそいつがどうしたの?なんかやらかしたの?』

 

『実はね、そいつがこの学校の支配を企んでるって噂があるの。先生たちはすでに半分ほど洗脳されてるとかいないとか。』

 

『それまじ?』

 

『うん、かなり信憑性高いらしいよ。』

 

なぁにこれぇ…もちろん俺はこんなことしようとなんて微塵も思っちゃいないし、できない。

 

『えぇ!でもそんなことできんの?』

 

『あんたはあいつの噂よく知らないからそんなこと言えんのよ。』

 

『じゃあ、教えてよ。』

 

じゃあ、俺にも教えてくれよ・・・(涙)

 

彼女たちの会話を聞くといわく、

 

転校初日ですでに担任を洗脳した。

女子に恐怖を植え付けて楽しんでいた。

悪魔とやりあえるほどの実力がある。

普段はおとなしく見せといて近づいてきたやつを殺す。

実は大人だけど薬で縮んで学校にきている。

今までに二桁は人を殺している。

前の学校はすでに洗脳済み。 etc…

 

「な、なんじゃこりゃー‼」

 

なんでこんな変な噂が流れているんだよ!しかもなんか近いのがあったし!

 

「ほらね。あんな奴らは雄くんのことな~にも理解できてないでしょ?もう帰ろ?」

 

「いや待て、どうしてそんなうわさが流れているのかが聞けてない。」

 

そうなのだ。俺が怖がられているのは噂のせいだとわかったがなぜそんなうわさがたっているのかわかっていないのだ。

 

『う~ん、なんか信じられないような噂じゃない?なんでそれで皆怖がるわけ?』

 

『それはね、あの篠ノ之束と一緒に行動してるからよ。』

 

ん?今変なこと言ってなかったか?束を見てもなにも反応していない。聞き間違いか?

 

『えっ!?あの篠ノ之束と!?』

 

うん、聞き間違えじゃなかった。確実に束のこと言っている。

 

『そう、あの上級生を無傷でボロボロにしたり、学校の設備を勝手に改造してるとされてたり、その他諸々しでかしている篠ノ之束。』

 

酷いいいがかりだ…ちょっとこれは許せそうにない。

 

『噂ではこの前の旧校舎倒壊も老朽化じゃなくてあいつが変な実験してたとかなんとか。』

 

またあることないこと言いやがって!これは一回ガツンと言ってやらないとダメそうだな。

束にこれはどこから音が来ているのか聞く。

 

「束、これはどこかr「失礼しちゃうな‼この前のは実験じゃなくて研究なんだから一緒にしないで欲しいね!これだからゴミは・・・」・・・」

 

うん、確かにわかっていることをするのが実験で新しい何かを求めるのが研究だから一緒にしてほしくないよね~。

しかし、そんなことより

 

「束、この前の旧校舎の件お前がやったのか?」

 

俺は優し~い笑顔で束に聞く。

 

「うん!そうだよ。」

 

褒めてくれんの~と言わんばかりにこちらを見てくる。

そんな束の両のほほに手を添えて顔を動かせないようにする。

そして少し顔を近づける。

 

「えっ!?ちょっ、雄くん!?」

 

束は顔を少し赤くして焦っているが俺から目線が外れないように手で顔を固定する。

 

「噂も本当か?」

 

「へっ?そ、そうだけど・・?」

 

「そうか・・・」

 

俺は手にさらに力を加えて逃げられないようにする。

 

「俺に友達ができないのは・・・・・」

 

息を吸い込み、

 

「お前のせいじゃねぇか‼束ー‼」

 

叫びながら束の頭をシェイクする。もうそれはグワッグワンにシェイクする。

 

「くぁwせdrftgyふじこlp;」

 

束が何かいっているが無視してシェイク。というよりなんて言っているかわからない。

そうしてしばらくシェイクした後に解放した。

 

「ひ、ひどいよ!?なにすんのさ‼」

 

束はぼさぼさになった髪を抑えながら抗議してきた。

 

「何するんだもなにもないだろ。俺に友達ができなかったのお前のせいじゃん。」

 

「そうだけど、雄くんにはあんな奴ら必要ないじゃん!?」

 

またそれか・・・・

 

「勝手に決めるなよ!俺のこと全部知っているみたいに言うなッ‼」

 

「ッ!?」

 

俺がそういうと束は悲痛な表情を浮かべて走りさってしまった。

俺は追おうとしたが束の初めて見た悲痛な顔を見て、しばらく動けなかった。

 

 

しばらくしてようやく頭が回り始めた。

 

(クソッ‼何やってんだよ俺は‼)

 

あの束の悲しそうな顔をみてようやく気が付いた。

俺の方こそ束の気持ちなんて考えずにあたってただけだった…

全部束のせいにして強く当たってしまった。結局俺は何も変わっちゃいなかった…

 

(謝らないと・・・見つけて謝らないと)

 

それから俺は日が落ちるまで束を探したが見つからなかった。

 

 

 

 

 

 

「勝手に決めるなよ!俺のこと全部知っているみたいに言うなッ‼」

 

「ッ!?」

 

私は雄くんのその言葉を聞き、その場から逃げてしまった。逃げるのなんて初めてだった。

走っている途中後ろを見るが後ろには誰も来ていなかった…

 

(そう・・・だよね・・・)

 

私は雄くんがあんなに怒っているのをはじめてみた。

いつもみたいな諭すような怒り方じゃなく、本気で怒っていた…

きっと私は嫌われてしまった…。そんなやつを追いかけて来るわけない…。

そんなことは分かっているのに後ろを見て誰もいないことに寂しくなる私はさぞ滑稽なことだろう。

頬に何かがつたるような感覚がする。雨かと思い、上を見るが雨は降っていない。

本当に滑稽だ…

 

 

家に帰って私はすぐに部屋にこもった。いつもならパソコンを開いてプログラミングするが今日はそんな気になれなかった…

 

 

気が付くと日はすでに落ちており、外は土砂降りだった。

 

(結局・・来なかったな・・・)

 

まだそんなことを考えるあたり、本当に惨めに思えた。

私の研究を理解できたからと私と同じだと思い込んでいた。

周りのことなんかに興味なんてなく、自分が良ければいい。

彼もそうだと思っていた…

 

『勝手に決めるなよ!俺のこと全部知っているみたいに言うなッ‼』

 

しかし、彼はそうではなかった。

私は彼と仲良くなりたいと思っていたが、私は彼の邪魔ばかりしていたのだ…

それは嫌われて当然である。

 

でも・・・

 

(嫌われるのがこんなに痛いものだなんて知らなかったなぁ~…)

 

そんなことを思いながら横になって寝ようとしたとき、扉の前に誰かが立つような気配がした。

 

まさか・・・

 

「束、言いたいことがあるんだ…」

 

彼だった。どうしようもなく私の胸は昂る。しかし期待なんてするべきではないのだ。

 

「なに…」

 

きっと彼は逃げた私を罰しに来たのだ。素っ気ない返事をし、私は彼の言葉を待つ。

しかし次の瞬間思いもよらない言葉が聞こえてきた。

 

「ごめんなさい。」

 

えっ?今彼は謝ったのか?しかし彼がなぜ?

私は困惑するが彼の言葉は続く。

 

「俺は君に知っているようなことを言うなといったが俺の方こそ束の気持ちを考えずに当たり散らしていた。束のせいでもないのにな…。本当に悪かったのは俺の方だったってことに気づくのが遅かった…。本当にごめん。」

 

彼は何を言っているのだろうか?明らかに非は私にあるというのに…

自分にわからないことはないと思っていたが今日は分からないことだらけだ。

 

「雄くんは私のことが嫌いになったんじゃないの?」

 

困惑してしまったからなのかそんな資格ないのに私は名前を呼んでしまった。

それと同時に思わずきいてしまった。

自分のことが嫌いではないのかと。そんな分かりきっている答えを・・・

 

「そんなわけない‼」

 

彼・・いや、雄くんは否定してくれた。

 

「俺は束のことを嫌いになんか絶対にならない‼」

 

「じゃあ・・・・仲良くしていいの?」

 

「もちろんだ。むしろこっちからお願いしたいぐらいさ。」

 

あぁ、なんでそんなことを言ってくれるのだろう。

どうしようもなく・・・どうしようもなく・・・・

 

(うれしいっ‼)

 

「でも、私がいると友達できないよ?」

 

「そんなことない。俺の頑張りが足りないだけだったんだ。それに・・・」

 

「それに?」

 

「そんなことで束と喧嘩してしまうぐらいなら俺は今のままでもいいさ。」

 

雄くん・・・・・

 

「さ、出てきて一緒にプリン食べよ?」

 

「・・・・うん!」

 

扉を開けて出るとそこにはずぶ濡れになっている雄くんがいた。

きっと私を必死に探してくれていたんだろう。

雄くんはそういう人だ。()()()()()()()()ことだ。

 

「ありがとう、ごめんね。」

 

私は雄くんに抱き着いて謝る。

濡れることなんて今はどうでもいい。抱きしめたかったのだ。

 

「俺の方こそごめん。」

 

雄くんも抱きしめ返してくれた。

 

その日食べたプリンは少ししょっぱい味だったが、とてもあたたかい味だった。

私は生涯この日のことを忘れないだろう。




年相応の束を書いてみたかった。後悔はしていない。


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第十五話 ライバル



今回はちーちゃん回です。
お楽しみください。


はいどうも。皆さんおなじみ雄二です。

 

 

束との喧嘩から早一週間が経ち現在道場にて修行中です。

もうね・・・開き直って全力でやった方が早く慣れるから楽ってことに気づきました…

 

最近は束も一緒に道場に来ている。というよりこの一週間、束とずっと一緒な気がする。

学校ではもちろんのこと家の手伝いに部屋にいるとき等々。

手伝いの時はちょっとは手伝ってくれるようになり、千春さんたちもうれしそうだ。

しかし、今日目が覚めた時に布団に入りこんできていたのには驚いた。

 

「まぁ、可愛いから別にいいんだけどね。」

 

「ん?何か言った雄くん?」

 

「いや、独り言。」

 

 

束は基本ノーパソいじっているがたまーに俺の修行に付き合ってくれる。

その時はいい感じにはかどる。束の教え方がうまいってのと束の動きも参考になる。

柳韻さん?あれはすごすぎて参考にならん。

 

その甲斐あってか最近では修行中に喋れるぐらいにはなってきた。

ちなみに現在は素振り中なのだが・・・・視線を感じる…

最近余裕が出てきて気が付いたのだが、どうやら前に和解した黒髪美少女からの視線なのだ。

彼女も結構ハードなトレーニングをしているため、同じ境遇の俺がサボってないか気になっているのかもしれない。

 

(許してくれ。柳韻さんがいるのに手を抜けるわけがないだろう?)

 

俺がサボれば美少女の方も手を抜く理由にはなるかもしれない…

しかしそんなことは死んでもできない。

確かにつらいかもだが手を抜いたほうが酷い目にあうのは目に見えている。

美少女もそれが分かっているのか手を抜く様子はない。

 

(お互いがんばろうぜ。名も知らぬ美少女よ。)

 

エールを目で送りながら素振りを続ける俺であった…

 

 

 

 

 

 

最近私はまたあいつのことをよく見ていた。

視線の先には素振りをしているあいつ・・・暮見雄二がいた。

 

あいつの噂は学校でよく耳にする。随分と悪名だかいと噂だがあいつを見ている理由はそれではない。日ごろからあいつの鍛錬を見ていればその噂が欠片もあっていないことなど明らかであるからだ。奴には誠実さがある。

ではなぜ見ているのかというと、

 

(まさか、束を道場に連れて来るとは…)

 

そう、あいつの隣にいる束が理由であった。

束から暮見雄二とは仲良くしているとは聞いていたが(初めて聞いたときは驚いたが)道場に一緒に来るほどとは思っていなかったのだ。

現に最近まで束は道場に影すら見せなかった。それがここ一週間毎日来ているのだ。

 

(暮見雄二・・・思っている以上に侮れんな。)

 

最近では私の視線に気づき、こちらに目線をやる余裕まであるらしい。

私は暮見雄二への評価をさらに上げ、鍛錬に励んだ。

 

 

 

 

 

 

1999・・・・・・・2000・・・‼

 

だぁ~・・・終わった~。きっつい!

 

この一か月で俺の修行内容は少しづつレベルアップしており、現在は素振りが2000回にまでなった。他はたいして変わっていないのだが素振りに関しては最初の二倍ある。

なんでも振れば振るほど馴染むのだそうだ。しかし、それにもちょうどいいラインはあり、この2000回という数字が今の俺にとってベストだとかなんとか。

 

 

「お疲れ様雄くん。昨日よりも腰回りの動きが良くなっていたよ。」

 

 

束がタオルと束特性ドリンクを渡してくれる。

パソコンいじっていてもちゃんと見ていてくれているんだよな。

柳韻さんもそうだったし、やっぱ親子だなそういうとこ。

 

 

「サンキュー。」

 

 

礼を言ってドリンクを飲む。このドリンクは俺用に束が作ってくれたものらしい。

コーチもしてくれているし、感謝が尽きない。

 

 

「そういえば、友達はできたの雄くん?」

 

 

最近一緒にいるんだから分かっているくせに・・・

 

 

「ぼちぼちかな…」

 

「ゼロってことね。」

 

 

そんなはっきり言わんで欲しい…

俺と皆には思ったよりも溝が・・いや、谷があり大変なのだ。

こればっかりは時間をかけてゆっくりとやるしかない。

 

 

「べつにそんな頑張らなくてもいいんだよ?束さんが付いててあげるからさ。」

 

 

束がない胸を張りながらいってくる。いやまぁ、この年である方がおかしいんだけどね。

 

 

「まぁ、ゆっくりやっていくさ。束もいるしな。」

 

 

なんとなく束の頭をなでる。

きっと束が最近決めつけるような口調でものを言わないことを褒めてやりたいのだ俺は。

束も拒否しないってことはなでてもいいということだろう。

ナデポは偉大だった・・・先生、あなたの教えは忘れません。

 

(といっても何か突破口が欲しいな。)

 

束の頭から手を放し、考える。しばらく考えた結果、

 

 

「織斑千冬…」

 

 

学校で束と同じくらいよく噂で耳にする人物だ。いわく、

 

勇者の血筋を引いている。

唯一悪魔たち(俺ら)と戦える力を持っている。

学校の守護者。

彼女の前ではいかなる悪事も行えない。

実は男であって欲しい。

 

等々、俺らとは正反対の噂を耳にする。最後のはなんかおかしいが…

そんな彼女と和解できればと思うのだが…

 

 

「どうしたものか…」

 

「ちーちゃんがどうかしたの?」

 

 

俺のつぶやきに束が反応してきたが今はちーちゃんの話はしてない。

 

 

「いや、ちーちゃんじゃなくて織斑千冬。」

 

「だからちーちゃんの話でしょ?」

 

 

ん?なんか話が噛み合わないな…。ただの子供だったらおかしくないが束だしな…

 

(待てよ・・・()()ちゃん?)

 

俺の中である考えが浮かぶ。

 

 

「束、もしかしてだがちーちゃんって織斑千冬のことか?」

 

「うん、もしかしなくてもそうだよ。で、ちーちゃんがどうかしたの?」

 

 

やっぱりか・・・いやしかし、これはチャンスなのではないか?

束からちーちゃんを紹介してもらえれば一件落着なのでは?

 

 

「いや、友達になりたいと思ってさ。よく学校でも噂を耳にするから。それにその子がちーちゃんならちょうどいい。束がお世話になっているから挨拶したいとは思っていたしな。その子紹介してくれないか?」

 

「うん、いいよ。」

 

 

よし!ちーちゃんは束と親友だから紹介してもらえればほぼ確実に友達になれるだろう。

 

 

「ありがと束。じゃあ、明日学校で紹介頼むわ。」

 

 

しかし、ちーちゃんなる人物はどんな子なのだろう?

明日が楽しみである。

 

 

「いやいや、今すぐいこうよ。近いし。」

 

「休日に家まで押し掛けるのは迷惑だろ。」

 

「家?行く必要ないでしょ。そこにいるんだから。」

 

 

束が俺の後ろを指さす。

 

 

「えっ!?」

 

 

後ろを見ると少し離れたところで剣を振るう黒髪美少女がいた。

 

 

「もしかしてあの子がちーちゃん?」

 

「そうだけど、知らなかったの?ちーちゃんこの道場で有名なのに。」

 

 

そ、そうだったのか・・・今まで邪魔しちゃ悪いかと思って誰にも話しかけなかったから知らなかった。

しかし黒髪美少女がちーちゃんだとわかった今、俺には怖いものなしだった。

この道場に来てからちーちゃんとは一番目が合っているのだ。

そのたびにエールを送りあっており、ちーちゃんとはすでにわりかし仲がいいと思う。

 

 

「なるほど、あの子がちーちゃんだったとは奇妙な縁を感じるな。」

 

「あれ?知り合いだったの?」

 

「そういうわけじゃないが仲はいい方だ。」

 

 

説明をしながらちーちゃんに近づいていく。

あちらも近づいてきていることに気が付き素振りを止める。

 

 

「ちーちゃん、ちーちゃん。雄くんのこと紹介させて~。」

 

「いや、その必要はない。暮見雄二のことならしっている。」

 

 

げっ!?知っているってもしかして例の噂のことか・・・・

 

 

「なに、心配しなくていい。噂のことなど欠片も信じていない。師範代から聞いていただけだ。」

 

 

顔に出ていたのかちーちゃんはそう言ってくれた。それならよかった。

 

 

「そして私に会いに来た理由もわかっている。」

 

 

な、なんて話の早い子なんだ!?さすが俺たち目と目で通じ合っているだけのことはある。

 

 

「試合しに来たのだろう?」

 

 

あっ、ダメなパターンだわこれ…なぜかちーちゃん微妙に怒っているし…

しかし、否定はしなければ。

 

 

「ちg「なるほど‼そういう友情なんだね‼いいね~青春だね~。」

 

 

いや、ちょ、違う!?

 

 

「だから、ちg「ほーう、お前たち試合をするのか。」・・・」

 

 

柳韻さんまでいつの間にかいるし…

そしていつの間にか隣には二人分の防具が用意されていた。

これはもうだめなやつだ・・・世界の悪意が、見えるようだよ……!

 

 

 

 

 

 

2997・・・・・2998・・・・2999・・・・3000・・・

 

3000回ほど素振りをしたところで束とあいつがこちらに来るのに気が付いた。

 

(馬鹿なッ!?もう挑んでくるというのか?)

 

確かにあいつの成長速度は異常なほど早く、ここ一か月間でそうとう腕を上げている。

試合などをしているところは見てないが恐らくこの道場であいつに勝てるのは5人もいないだろう。

しかし、私に挑むのはまだ早い。自慢ではないが私はかなりの実力を持っている。

あいつだってそれぐらいわかっているはず…

 

(何か策があるのか?)

 

考えるが一向にわからない。まぁいい。

 

 

「ちーちゃん、ちーちゃん。雄くんのこと紹介させて~。」

 

「いや、その必要はない。暮見雄二のことならしっている。」

 

 

声をかけてきた束に返事を返す。

そう、自己紹介など不要だ。私は暮見雄二を知っている。

私の言葉であいつは不安そうな表情をする。私が名前を知っている理由が例の噂だと思ったのだろう。

 

 

「なに、心配しなくていい。噂のことなど欠片も信じていない。師範代から聞いていただけだ。」

 

 

続けて、

 

 

「そして私に会いに来た理由もわかっている。」

 

 

そう、なぜ来たかもわかっている。前置きなど不要だろう?

 

 

「試合しに来たのだろう?」

 

 

単刀直入に告げるとあいつは驚いたような顔をする。まったく、白々しい。

そのつもりで来たことなど姿を見ればわかる。右手には竹刀を握ったままであり、審判をできる束を連れてきている。

 

 

「ちg「なるほど‼そういう友情なんだね‼いいね~青春だね~。」

 

 

束も珍しく乗り気である。

 

 

「だから、ちg「ほーう、お前たち試合をするのか。」・・・」

 

 

いつの間にか師範代も来ていた。師範代が持ってきたであろう防具もある。

 

 

「では10分後に開始とする。二人とも準備を開始しろ。」

 

 

その言葉を聞き、私は準備を開始した。

 

 

準備が終わり、お互い構えをとる。いつの間にか他の門下生が集まっていた。

 

 

「時間は5分。一本先取とする。」

 

 

一本先取。実力差があるとはいえ一瞬の隙が勝敗を分ける。

 

 

「では・・・・・・」

 

 

空気が張り詰めていく…

足に力を加えていき、

 

 

「始めッ‼」

 

 

開始とともに一気に前に出る。あいつは一切動かず、待ちの構えだ。

私は一太刀目を繰り出す。あいつはそれを剣で受け止め、距離を取ろうとするが逃がさない。

二太刀、三太刀と続けざまに上段に放つ。受け止められるが想定内である。

 

(待ちの姿勢をとったのは正解だったが私には通じんっ‼)

 

刈り取るように下段へ四太刀目を振るう。

 

 

「ッ!?」

 

 

ギリギリのところであいつは防ぎ、距離をとる。

今の攻撃から深追いするのは危険なため距離をとらせた。

 

(今のを防ぐとはかなりの反射神経だな。)

 

正直、今の攻撃で終わると思っていた。もちろん油断などしていなかったし、全力だった。

しかし、あいつは思っていた以上に素早いようだ。

 

 

(フッ、面白い‼この程度で終わりなど興ざめだからな。)

 

あいつは変わらず待ちの構えだ。いいだろう、その守り砕いてやろう。

私は一息置き、再び接近する。今度は連続性ではなく、一撃に重みを置いて振るう。

さっきと同じように受け止めようとするがそうはいかない。

竹刀がぶつかった瞬間あいつが体制を崩しかける。そこに続けてもう一太刀加える。

 

 

「ッ‼」

 

 

竹刀が横なぎに入り、あいつの体が二メートルほど動く。

 

 

「決まったっ!?」

 

 

ギャラリーからそんな声が聞こえるがまだだ。

あいつは竹刀をギリギリではさみ、自ら飛んで距離をとったのだ。

 

(私の攻撃を利用するとは…)

 

普通ならばそんなことはできない。

しかし、あいつは持ち前の反射神経と機転によって窮地を脱したのだ。

次こそ決めてやろうと私は再び接近した。

 

 

試合開始から4分が経過し、いまだに勝負はつかない。

決まりそうな場面はいくつもあったのだがそれをあいつはおよそ剣道に程遠い動きで紙一重で躱していったのだ。

 

(まったく、本当にたいした反射神経だ。)

 

あいつは依然待ちの構え。ここまで一本も攻撃してきていない。

 

(いったい何を考えている?)

 

防げてはいるものの攻撃しなければそれも意味をなさない。

まさか勝気がないのか?そんな考えが頭をよぎるが

 

(いや、それはない。)

 

即座に自分で否定する。あいつは策を練ってきたはずだ。

それらしいものは今だ出していない。つまり、チャンスを伺っている。

それがどんな策かはわからないが、

 

(それすらもやぶり捨てるまでだッ‼)

 

もう何度目になるかもわからない接近をする。

一太刀、二太刀、三太刀、四太刀と連続で攻撃し、相手になにかさせる暇を持たせない。

そして五太刀目・・・ついに完璧な隙が生まれた。

 

(終わりだッ‼)

 

わたしはそこへ六太刀目を加える。今回ばかりはこいつの反射神経でも間に合わないだろう。

その一太刀は必ずあたり仕留めるであろうまさに必至の一撃だった。

 

 

「ッ!?」

 

(何ッ!?)

 

 

それをこいつは・・・・避けた。

私の一撃はこいつのすぐ隣を紙一重ですり抜けていく。

そしてこいつはすでに攻撃の構えを取り始めている。

 

(やられたッ‼これがこいつの策か‼)

 

こいつは今までの速さが全力だと思わせるためにあえてこの時間までギリギリで避けていたのだ。

速さはそこまで変わらないが、この決定的に思われる場面での解放。効果は絶大である。

 

 

(くっ‼間に合うか・・・?)

 

敵はすでに攻撃をする直前。防御は間に合わないためこちらも続けざまに攻撃を仕掛けようとする。

そして・・・・

 

 

『バシンッ‼』

 

 

互いの竹刀が同時に相手をとらえる。

 

(どっちだ!?)

 

師範代の方をみる。

観客の視線も師範代の方に向いている。

 

 

「勝者・・・・・・・」

 

 

場の緊張が高まっていく・・・どっちだ?

 

 

 

「織斑千冬‼」

 

 

私の勝利だった…

 

 

あいつの方を見るとわかっていたのか特に落ち込んでいる様子はない。

この試合で私のこいつへの評価はさらに高まった。

 

結果的には私の勝ちだったが最後の場面は完璧な五分五分だった…

実力差のある私相手にこいつはそこまでもっていったのだ。

 

(まったく、大した奴だよ。ほんとに。)

 

私はこいつの成長が楽しみで仕方がなかった。




しゅ、主人公TUEEE!!
ついに力を発揮した主人公。
彼はどこまで強くなれるのか…

戦闘描写ムズイ・・・(´・ω・`)


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第十六話 ライバル(裏)

主人公サイド~


「時間は5分。一本先取とする。」

 

 

気が付いたら試合直前。

あれよあれよという間に準備をさせられた。

そして他の生徒さんも集まってきていた。もうやだ・・・・

 

 

『いい?雄くんじゃちーちゃんに普通に勝つのはまず無理だから防御に専念だよ。』

 

 

そして思い出されるは準備中の束のアドバイス。

勝てないとわかる相手とやるというのがさらに辛い状況だ。

 

 

「では・・・・・・」

 

 

『狙うは攻撃後の一瞬の隙。自分から攻撃なんてしたら終わりだからね。』

 

 

しかし束がアドバイスをくれたのだから簡単に負けてやるつもりはない。

 

 

「始めッ‼」

 

 

(よっしゃ、来い‼)

 

俺は防御の構えをとり、同時にちーちゃんが仕掛けてくる。

 

(ッ!?速っ!?)

 

あわてて動こうと思ったら既にちーちゃんは目の前まで来ている。竹刀が振るわれる。

 

(ぐっ!)

 

ギリギリ防御は間に合ったが安心はできない。距離を取らなければ…

 

しかし、相手がそんなことを許してくれる訳がなかった。二撃、三撃、と上段を狙った追撃が来た。なんとか防いでいるが反撃をする余裕などない。

 

(おいおい!攻撃後の隙なんてどこにあるんだ!?)

 

 

四撃目、下段に刈り取るような一撃がくる。

 

 

「ッ!?」(そこで下かよ!!)

 

 

上段に気をやっているとこに下段。

 

間に合え・・・・‼

 

 

(ギリチョンセーフ‼)

 

 

ギリギリ防ぐことに成功。そのまま距離をとる。

ちーちゃんも今の攻撃ばかりは追撃の余裕がないらしい。

 

(あっぶねぇ…)

 

しかし今のは体が勝手に反応したという感じだ。偶然に過ぎない。

 

(反撃なんて考えている暇ねぇ…)

 

俺は反撃という考えを捨て、100%防御に専念することにする。

勝つ可能性を捨てているかもしれないが、そうでもしなければ次はない…

 

 

そして再びちーちゃんが接近してくる。凄まじい速度だがもう驚きはしない。

そして先ほどと同じような一撃目。こちらも先ほどと同じように受けようとし・・・

 

(おっもっ!?なんつう火力とパワーだよ‼)

 

先ほどと違い俺は全力で防御に専念していたのに体勢が崩れかける。

そして当然のごとく二撃目が来ている。

竹刀は間に合うがそれだけでは次が持たない。

 

 

「ッ‼」(容赦ねぇな、おい!)

 

 

とっさに竹刀で防ぎ、地面を蹴って自ら飛ぶ。衝撃は俺を加速させる。

自らの力とちーちゃんの力によって俺は二メートルほどとび、離脱に成功する。

 

 

「決まったっ!?」

 

 

ギャラリーからみたら決まっているように見えたののだろう。そんな声が聞こえた。

しかし、俺はまだやられてない。

 

(マンガ見ていて助かった…)

 

今のは自らとんで衝撃を殺すというどっかのマンガで見たやつだ。

成功したのはこの体の適応力とちーちゃんの圧倒的な力が加わったからだ。

 

(なんとかなったがもう使えないな…)

 

この技はちーちゃんのパワーを前提とするため、一度見せると力の調整を行われて使い物にならなくなるだろう。

 

 

そんなことお構いなしにちーちゃんは接近してくる。

 

(弱音吐いてる場合じゃないな。)

 

しかし、俺にできることは再び防御に100%専念してつなぎとめることだけだった。

 

 

(何分・・・たった・・・?)

 

 

俺は防ぐことで手一杯で時間の経過もわからなかった。

 

 

(少なくとも3分は経っているよな・・・)

 

 

もう何度目になるかわからないピンチを紙一重で切り抜けつつ、考える。

 

 

(なのになんで・・・・疲労のかけらも見えねぇ・・!)

 

 

こちらは満身創痍。疲労で限界が近く、全身汗でびっちょりだ。

 

たいしてちーちゃんは試合開始直後と変わっているように見えない…

試合開始直後からずっと攻めてきているのに攻撃の切れは変わらないし、隙も見せやしない。

 

 

(疲れって言葉を知らねぇのか!?)

 

 

ちーちゃんの猛攻をなんとか防ぎながら思う。

 

 

(どうやって勝てっていうんだよ‼こんなの勝てるわk『パシッ!』しまった!?)

 

 

俺は竹刀をはじかれ体制が完璧に崩れた。余計な思考と疲労により防御が甘くなってしまった。

 

そこに迫るはとどめの一撃。その一撃は確実にこの試合を終わりにするだろう。

 

 

(クソッ!?動けっ‼)

 

 

無理とわかっていても避けようとする。

 

 

(間に合わな・・・・)「ッ!?」

 

 

攻撃が当たると思われたその直前俺は掻いていた汗によって足を掬われた。

疲労によって踏ん張る力が残ってなかった俺は一切の抵抗なく体がガクンと崩れ・・・・

 

 

 

攻撃が今立っていた場所を通過していく。

奇跡が起きた。さすがのちーちゃんもこれには動揺している。

 

 

(今しかない‼)

 

 

俺はその攻撃するチャンスを逃さないべくすぐさま攻撃の構えをとる。

ちーちゃんもすぐさま次の攻撃をしようとする。タイミングは五分五分といったところ。

 

 

(さすがだな…)

 

 

いくら俺が無理な体勢から打つとしてもこの状況で五分五分までもっていくちーちゃんには賞賛しかない。

 

そして・・・

 

 

『バシンッ‼』

 

 

互いの竹刀が同時に相手をとらえた。

 

 

(やっと一撃・・・)

 

 

勝敗は分からないが俺は何より一撃入れられたことがうれしかった。

これでアドバイスをくれた束に顔を合わせられる。

 

 

「勝者・・・・・・・」

 

 

(よかったよかった。一回も攻撃できずに負けなんてならなくて。)

 

 

「織斑千冬‼」

 

 

勝負はやはりちーちゃんの勝ちだった。

打つタイミングが五分五分だったが振る速度がちーちゃんにかなわなかったのだろう。

まぁ、なかなか頑張ったんじゃないかな?

 

それから終わりの礼をお互いして下がった。

 

 

 

 

 

 

「いや~勝てなかったわ。情けないことにやっとこさ一撃だった。面目ない。」

 

 

雄くんが戻ってきてまず言ったことがそれだった。

申し訳なさそうに私に謝ってきたが、

 

 

(自分がどれだけすごいことしたかわかってないんだろーなぁ…)

 

 

今の勝負は誇ってもいい内容だった。

あのちーちゃんの猛攻を耐え抜き、一撃入れたのだ。

 

 

(しょうがない自分がなにしたか教えてあげようかな)

 

「せっかく束がアドバイスくれたのに・・・・」

 

 

と思ったがショボンとしている雄くんが可愛いので黙っておく。

そして、

 

 

「ほんとだよ。せっかく束さんがアドバイスしてあげたのに負けるなんて、プンプン。」

 

「ぐっ!面目ない・・・」

 

 

ちょっと追い打ちをかけてみる。

キャーッ‼シュンとする雄くんか~わ~いい。

じゃあ、これはどうかな?

 

 

「束さん雄くんを信じてたのに・・・」シュン

 

 

悲しんだフリをしてみる。

 

 

「ご、ごめん・・・次はもっと頑張るからさ・・えぇと・・あれだ・・」

 

 

ふっふっふ。焦っておる焦っておる。(ゲス顔)

 

 

「そんなことでは束さんの心は癒やせません・・・」

 

「えっ!?じゃ、じゃあ、どうすれば元気出してくれる?俺にできることならやるからさ。」

 

「束さんのお願い事を一つ聞くのです。そうすれば情けなかった雄くんを許しましょう。」

 

 

計画通り。このままいけば雄くんは私のいうことをきいてくれるだろう。

クックック。何をお願いしようかな?

 

 

「その辺にしておけ。」

 

 

ゴツッという音が私の頭からした。痛い・・・

 

 

「もぉ~、何するのちーちゃん!いいとこなのに。」

 

「お前がこいつを騙そうとしているからだろう。お前も気をつけろ。今のは演技だ。」

 

「えっ!?」

 

 

ぐっ!邪魔が入った。雄くんも不審がっている。

 

 

「そんなことないもん。束さんは本当に雄くんが情けなくてなさけ・・・」

 

ちーちゃんが拳を握って少し振り上げる。

 

「うっそピョーン‼雄くんはとてもよくやっていたよ。もうね束さんが誇りたいぐらいに、うん。」

 

 

ちーちゃんの拳骨をもう一発なんてゴメンだよ。すっごい痛いんだから。

 

 

「えっ!?でも俺は終始押されっぱなしだったし・・・」

 

「いやいや、ちーちゃんの攻撃をずっと防ぎ続けたことがすごいんだよ。この道場ではそんなことできるのは3人いないんじゃないかな?」

 

 

ちーちゃんの攻撃はそれほど激しいのだ。近づけさせないなどの戦法ではなく耐え続けるなんてのはそうそうできるものではない。

 

 

「まじで?」

 

「事実だ。自分で言うのもなんだが私とお前では実力差がある。それをあそこまでもっていったのだ。誇ってもらわねばこちらが困る。」

 

「そうそう、実は束さんは最初の連撃でやられると思っていたからね。それを覆したんだから誇っていいんだよ。」

 

 

私は本当に最初で終わりだと思っていたし、練習を見る限りそれが雄くんの実力だった。

しかし、雄くんは耐えた。それも何回も耐えたのだ。これは偶然ではない。

これが意味することは試合中に成長していたということだ。

実際雄くんの動きは時間が経つごとによくなっていた。

 

(まったく、ほんとに面白いよ雄くんは)

 

 

 

 

 

 

試合が終わって束とちーちゃんと話すと俺はどうやら結構すごいことをしていたらしい。

これも修行の成果なのだろうか?

 

 

「そういえば、雄くんはちーちゃんにはなしがあるんじゃないの?」

 

「あっ!?・・・」

 

「む?はなしとはなんだ?」

 

 

そうだった。ちーちゃんと友達になるために来たんだった。

それがなんで試合をしてんだ…

 

 

「織斑千冬さん。俺と友達になってください‼」

 

 

俺は頭を下げて手を前に突き出す。

なんか告白みたいだな…ドキドキしてきた…

 

 

そうしてドキドキしてると誰かが俺の手を取る。

顔を上げるとちーちゃんだった。

ちーちゃんの手はとても柔らかく、暖かかった。

 

 

「もちろんだ。しかし今さら言われるとは思っていなかったぞ。」

 

 

そういってちーちゃんはふふっと笑う。

確かに試合してさっきまで自然に喋っていたのだから今さらかもしれない。

俺も少し笑ってしまう。

 

 

「そうかもな。でもこういうのって大事だろ?だから改めて、俺は暮見雄二。よろしく。」

 

「私は織斑千冬だ。よろしくな雄二。」

 

 

俺たちは握手しながら自己紹介する。それにしても・・・

 

 

「ちーちゃんの手はすごく柔らかいな。」

 

「なぁっ!?」

 

 

あれだけ剣を振っているのにとても柔らかい。それに

 

 

「それに笑うとすごくかわいいしな。」

 

 

さっきの笑顔はよかった。真面目そうなちーちゃんの顔が柔らかい表情になるギャップだろうか?

 

 

「・・・・・・・」

 

 

ちーちゃんがうつむいてプルプル震えている。

 

 

「ちーちゃん?どったの?」

 

 

どうしたのか聞くと・・・

 

 

「ち、ちーちゃん言うなぁ‼」

 

「へぶしっ!?」

 

 

顔を真っ赤にしながら殴られた。なぜかそのあと束に追撃された。




ちーちゃんが仲間になりました。
今回それだけ。


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第十七話 無限の夢

第零話と第一話のUA数が1000を突破しました。
皆様ありがとうございます。


篠ノ之家に来てから半年ほど経った。

 

あの試合以降ちーちゃん(本人から呼ぶ許可を得た)とも仲良くなれ、友達づくりは順調だ。

ちーちゃんの影響力は格が違った。

なにせ、俺はクラスの皆と挨拶はできるぐらいまで関係が進んだのだ。

挨拶をしたら挨拶が帰ってくる…初めて返してくれたときの感動は忘れない。

 

 

えっ?友達になれてないじゃないかって?

いやいや、記念すべき第一歩だよこれは。

俺の見積もりだとこのままいけばあと2年ほどでみんなの誤解も解けると思う。

 

 

(あれ?友達ってつくるのに数年かけるものだっけ?)

 

 

いや、考えるな…むなしくなる…

 

べ、別にいいし!束とちーちゃんいるから寂しくねぇし‼

それに箒は天使だし、千春さんや雪子さん、柳韻さんもいるから‼

うん、問題ないな。

 

 

あっ!そうだった。(話題替え)

修行をちーちゃんとするようになったんだよ。

いや~誰かと修行するっていいね。気分がいいよ。

しかもちーちゃんは美少女だから尚更うれしい。

 

しかし、これをちーちゃんに言うと殴られた…

ちーちゃんは恥ずかしがりやみたいでこういうこと言うと殴られる。

まぁ、顔を真っ赤にしながらってのがさらにかわいいんだけどさ。

 

とまぁ、ちーちゃんに殴られながらも日々修行しているわけです。

そんな俺が今やっていることは

 

 

「束~こっち終わったからあとでチェック頼むわ。」

 

「りょうか~い。」

 

 

ひたすらパソコンに向き合ってプログラミングしている。

なぜかといわれれば俺が手伝わせてもらっているからだ。

 

 

この【インフィニット・ストラトス】通称【IS】の作成を。

 

 

そしてなぜ俺が手伝い始めたかというとことの発端は数ヶ月前に遡る。

 

 

数ヶ月前・・・

 

 

「束。」

 

「ん?なに?」

 

 

パソコンをいじりながらも束は反応してくれる。

作業の手は一切止めてない。

 

 

「聞きたいことがあるんだけどさ。」

 

「んー、なに?」

 

「いつもパソコンいじって何のプログラミングしてんの?」

 

 

そう、前々から気になってはいたのだ。

暇さえあればパソコンをいじっている束が何を作ろうとしているのか。

前にチラッと見たときは姿勢制御とセンサーのプログラミングをしていた。

ロボットでも作ろうとしているのかな?

 

 

「ん~とね~。・・・聞きたい?」

 

 

束が作業の手をパタリと止め、聞いてくる。その顔はどこか楽しそうで今にも言いたいって顔だ。

 

 

「うん、聞きたい。」

 

 

束がそんな顔するもんだからよっぽどの物なんだろう。余計聞きたくなった。

 

 

「えぇ~どうしようかなぁ~?」

 

「もったいぶらずに教えてくれよ。」

 

「ん~、でもなぁ~?」

 

 

束がもったいぶるため少し卑怯な手を使う。

 

 

「そっか、そんなに教えたくないならもう無理に聞かないよ。邪魔してゴメン。」

 

 

そう言って俺は部屋を去ろうとする。

押してダメなら引いてみろってやつだ。束の顔からしてものすごい自慢したそうなのはわかる。

それを逆手に取った作戦だ。

 

 

「えっ!?ちょ、ちょっと待ってよ!ごめんごめん、教えてあげるからさ!?待ってよぉ~。」

 

 

束が俺の腰に抱き着いて止めに来た。計画どうり。(デスノート並み感)

 

 

「で、どんなものなんだ?」

 

 

椅子に座りながら束に改めて尋ねる。

 

 

「私が作っているもの、それは【IS】だよ!」

 

「IS?」

 

 

アイエス?なんだそれ?聞いたことないな…

 

 

「聞いたことないって顔してるね。それはそうだよ!通称【IS】、正式名称【インフィニット・ストラトス】は私が生み出す全くもって新しいパワードスーツなんだから!」

 

 

インフィニット・ストラトス・・・・直訳で無限の成層圏か。

 

 

「そのISというのはどういったパワード・スーツなんだ?」

 

「それはね・・・・」

 

 

束が腕を掲げて天を指さす。

 

 

(宇宙)だよ!ISは宇宙での活動及び開発を想定し作っているんだよ!」

 

「宇宙か。それはまたスケールのでかい話だな。でもどうして宇宙なんだ?」

 

 

宇宙での活動を想定したパワード・スーツ、それはとても難しいものだろう。

パワード・スーツを作るだけなら地上での活動を想定したものの方がはるかに楽なはず。

 

 

「だって、宇宙は未知のことでいっぱいなんだよ‼自分でもわからないことがそこら中にあると思うとさ・・・・・すっごくワクワクしない?」

 

 

そう語る束はとても興奮しているのがわかる。

 

 

「私はね、すっごいワクワクする。私でもわからないことがまだあるんだって。それはどんなものなんだろうって。」

 

 

両手を広げ、踊るように束はそういう。

 

あぁ、そうか。束は生まれ持っての天才だ。それもわからないことがないようなとびきりの天才だ。しかし、それはとてもつまらないのだろう。

 

だからこそ宇宙。そこは未知であふれた楽園。

 

 

「だからね、IS・・・インフィニット・ストラトスは無限に広がる(宇宙)を飛ぶための翼で、それを完成させてそこに行くのが私の夢‼」

 

 

そう言い切った束の顔はいままでにないほど輝いていた。

 

なるほど、だからインフィニット・ストラトスか。

それは無限に広がる(宇宙)を飛ぶための翼であり、束の夢。

 

 

「いいな、それ。最高にロマンがある!」

 

「でしょでしょ。」

 

「そして何よりも・・・・」

 

 

そう、何よりも・・・・

 

 

「その夢を追う束。お前が綺麗だ。」

 

「ふぇっ!?」

 

 

この美しい夢をかなえようとするこの子の力になりたい。そう純粋に思った。

だから・・・・

 

 

「だから束。俺にその夢の手伝いをさせてくれないか。」

 

 

そう願った。

 

 

とまぁ、そのあと束が快く了承してくれて今に至るわけだ。

 

いや~、それにしてもこのISはかなり難儀なものだった。

今の俺でも理解するのに苦労する。これは頭を良くしてもらって正解だった。

 

そんなことを考えながら二人でカタカタとパソコンを叩いていると、

 

 

「邪魔するぞ。」

 

 

ちーちゃんが部屋に入ってきた。はて?ちーちゃんがなんで家に?

 

 

「お前たちが今日家に来たい来たいとうるさかったからしょうがなく許可したのに来ないから心配になってきてみれば。はぁ~、またそれか・・・・」

 

 

あっ!?完全に忘れてた…

隣を見ると束も同じような顔している。ちーちゃんは完璧に呆れている。

 

 

「ご、ごめんちーちゃん。一度始めるとなかなかやめられなくてさ…アハハ・・・」

 

 

とりあえずすっぽかしてしまったので謝る。

 

 

「そうかそうか。私との約束よりそんなパソコンをいじる方がさぞ楽しいと?」

 

 

超怒ってる…そりゃそうか、無理言って約束とりつけたのにすっぽかされてるんだもんな…

もっとちゃんと謝らないと・・・

 

 

「そ、そんなことないよ。信じてもらえないかもしれないけどちーちゃんとの約束の方が大事さ。」

 

「どうだかな…」

 

「本当さ、信じてくれ。」

 

「ちょっと雄くん・・・・?」

 

 

束に声をかけられ振り返るとなぜだか束も怒っている。

 

 

「IS作るのよりもちーちゃん家行く方が大事なの?つまり私よりちーちゃんの方が大事なの?」

 

 

そ、そういうことかーー‼でもなんか論点変わってね!?

 

 

「い、いやそれは言葉の綾というものであってだな・・・」

 

「ほーう、つまり束の方が大事ということか。さっきのは嘘だったわけか?」

 

 

後ろからちーちゃんの追求。

 

 

「いや、嘘とかそういうのではない。ほんとにちーちゃんが大事だよ・・・」

 

「雄くーん?」

 

 

ちーちゃんに弁明するため振り返ったところで束が言葉で背中を刺す。

しかし、束に弁解しようとするとこんどはちーちゃんに・・・・

 

 

(な、なぜこうなった・・・!?)

 

 

必至に打開策を考えたが・・・・・・無駄…

全く思いつかない。

そんな俺に見かねたのか・・・

 

 

「束。あまり怒るな。」

 

 

ちーちゃんが助け舟を出す。ちーちゃんも相当怒ってたのは気のせいだろう・・・

いいぞーちーちゃん頑張れー!

 

 

「雄二は私の方が大事だと事実をのべてるにすぎん。そうやって脅すのは良くない。雄二が困っているではないか。」

 

 

とんでもない爆弾を投下していきやがった・・・・

 

 

「ふ~ん。そういうちーちゃんこそ威圧かけるのやめてよ。雄くんが私の方が大事って言いづらいでしょ?」

 

 

やめてっ!なんでそこでそうなっちゃうの!?

 

 

「雄二は常日頃から恥ずかしげもなく私に可愛いと言っているぞ。お前は言われてるか?」

 

 

いや、ちーちゃん反応が面白いし可愛いから言ってるけどさ…

 

 

「私は何よりも綺麗だって言ってもらえたよ。何よりもってね。」

 

 

いや、それも言ったけどさ…

 

 

「「・・・・・・」」

 

 

やばいやばいやばい!?今にもやりあいそうな雰囲気だ!?

そうなったら間にいる俺は助からない…

な、なんとかせねば…

 

 

「け、喧嘩はよくないぞ~」(震え声)

 

『ギロリッ』

 

(ひっ!?)

 

 

そんな効果音が聞こえてきそうなほど鋭い二つの視線に思わずビビる。

 

 

(に、逃げるんだぁ、勝てるわけがないYO)

 

 

俺は和解をあきらめてこっそり部屋から出ようとする。

 

 

「何処へ行くんだぁ?」

 

 

が、伝説の超地球人に捕まった。

すでに前方には束が回り込んでおり、後ろにはちーちゃん。

 

 

「で?結局どっちなの雄くん?」

 

 

束が満面の笑みで俺に聞く。顔は笑っているが笑ってない…

 

 

「で?どっちなんだ雄二?」

 

 

後ろからも声をかけられる。それはまさに死刑宣告…弁解は不可能…

 

 

「ふ、二人とも大事だよ。比べるなんてとんでもない。」

 

 

最後の希望にすがる。二人ならきっとわかってくれる。

 

 

「そうか・・・」

 

「そうなんだ・・・」

 

 

二人がそれぞれ俺の右手と左手をとる。

そして・・・

 

 

「わかってくr『ゴキリッ‼』

 

 

同時に腕を決められた。

 

 

「_________!?」←声にならない叫び

 

「「・・・・・・」」

 

 

その後は二人にぼこぼこにされてその日は動けなかった。

 

 

今日の教訓〈約束は絶対に守ろう〉




安心してください、折れてはいません。
主人公はせいぜい関節外されて骨にひびが入るぐらい圧迫されただけです。


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第十八話 ズボラ?だがそこがいい

今回の内容・・・わかるな?


雄二虐殺から数日が経った。

 

今日改めて二人は家に来るらしい。

 

 

(今度こそちゃんと来るんだろうな?一応、昨日念は押しておいたが・・・)

 

前はあいつらから約束を取り付けてきてあれだったから心配になる。

 

(しかし誰かを家に招くなど初めてだな…)

 

改めて部屋を見渡し散らかってないかを確認する。

大丈夫だろう。うん、大丈夫・・・ほんとに大丈夫だろうか?

自分では大丈夫に見えるが人からみたらどうかはわからない。

 

(もう一度くらい掃除しておくか?)

 

ちなみに今日すでに2度ほど掃除している。

そして掃除をしようとしたところで

 

 

「ちーねぇ、ちーねぇ。」

 

 

弟の一夏が足元に来ていた。

一夏は一歳と少しの弟で私の唯一の家族である。

 

 

「どうした一夏?」

 

「ん、ん。」

 

 

一夏は絵本を手に持ってこちらに見せている。

 

 

「読んで欲しいのか?」

 

「ん。」

 

「いいぞ。よし、こっちにおいで。」

 

 

私はソファーに座り膝をポンポンと叩く。すると一夏はふらつきながらも歩いてくる。

そう、歩いてくるのだ。なんと一夏はもう歩けるのだ。

私は歩いてきた一夏を抱き上げて膝の上に座らせる。

膝に座った一夏は絵本が楽しみなのか足をパタパタさせている。

 

(ふっ、可愛いやつめ。)

 

私は一夏の頭を軽くなでてから絵本を読み始めた。

 

 

「悪さをする鬼め退治してやる!覚悟!」

 

「桃太郎に続き犬、サル、キジも鬼に攻撃します。犬は噛みつき、サルはひっかき、キジはつつきます。そして桃太郎が最後に攻撃すると鬼はないて許しをこいました。」

 

「も、桃太郎さんごめんなさい。もう悪さはしないからどうか許してください。皆から奪ったお宝もすべてお返しします。」

 

「優しい桃太郎はその鬼を許してあげました。そして桃太郎達はお宝をもって鬼ヶ島を後にし、皆にお宝を返してあげました。」

 

「あぁ、桃太郎さんどうもありがとうございます。」

 

「みんなは桃太郎に感謝し、それから鬼も悪さをしなくなり平和に暮らしましたとさ・・・おしまい。」

 

 

私が読み終えると一夏がパチパチと手を叩く。

 

 

「もーかい、もーかい。」

 

「今読んだばかりだろう?また寝るときに読んでやる。な?」

 

 

もう一回という一夏の頭をなでて言い聞かせる。

不満そうだがわかってくれたようだ。

それにしても・・・・

 

(遅いな・・・)

 

まだあいつらは来ない。約束の時間はもう三十分は過ぎている。

またパソコンをいじって時間を忘れているのだろう。

 

(しょうがない・・・迎えに行ってやるか。)

 

一夏を一人にするのは心配だが少しの時間だし一夏はしっかりとしているから大丈夫だろう。

 

 

「一夏。少し留守番を頼む。」

 

 

そういって玄関に向かおうとしてリビングの扉を開けると

 

 

「「あっ!?」」

 

 

二人がいて固まった。二人は見つかってしまった!?という感じだった。

・・・・・玄関にはカギをかけておいたはずだ。

 

 

「ちーちゃん!俺はやめようと言ったんだ。でも束がちーちゃんを驚かせようってピッキングし始めて・・・」

 

「雄くんだって結局止めなかったんじゃん。共犯だよ、きょーはん。」

 

 

そうかピッキングして入ってきたのか…

しかし、今はそんなことはどうでもいい・・・・

 

 

「聞いてたのか・・・?」(震え声)

 

「キ、キイテタ!?ナンノコトカナ?ナァ、タバネ?」

 

「ぷふっ!そうだね~なんのことかわからないよ。」プルプル

 

 

聞かれた・・・・・聞かれてた・・・・・

 

 

「あ、あぁ・・・・」

 

 

顔が熱くなっていき、体もプルプル震える。

 

(は、恥ずかしいッ‼)

 

こいつらに聞かれた…死にたい…

 

 

「いや・・ほら・・・よかったよ。特に『覚悟!』っていうとこなんか迫力あったなぁ…」

 

 

さらに雄二からいらないフォローをされ、より死にたくなった…

 

 

「束さんは『も、桃太郎さんごめんなさい。』ってとこかな。ちーちゃんのあんな声初めて聞いたから面白くて・・・・ぷふっ!」プルプル

 

「こ、こら束!?」

 

 

そして笑いをこらえた(全然こらえられていない)束のその言葉を聞いた瞬間私の中の何かが限界を迎えた。

 

 

「おま__ら_____さん…」

 

「「えっ?」」

 

「お前ら、生きて返さん‼」

 

「ちょ!?待って!?」

 

「首を置いてけー‼」

 

 

それからはよく覚えていないが気が付くと半殺しになった雄二を片手に私は持っており、廊下の端で傷だらけの震える束の姿が見えた。もちろん私も傷だらけだし、廊下もひどいありさまだった。

 

 

 

 

 

 

し、死ぬかと思ったんだよ・・・

 

ちーちゃんが急に暴れだして逃げ遅れた雄くんがまずやられた。

私だって交戦しようとしたけど今日のちーちゃんは化け物だった…

初めてだよ・・・恐怖を感じたのは・・・・

 

 

そして現在はちーちゃんが正気を取り戻したためみんな治療中である。

雄くんはしばらく起きそうにないためソファーに治療をして放置してある。

 

 

「その・・・・なんだ・・・よく覚えてないがすまなかった。少々やりすぎた…」

 

 

ちーちゃんがバツの悪そうな顔して謝ってきた。

 

 

「いや、今回ばかりは束さんが悪かったよ…」

 

「!?」

 

 

今回ばかりは自分の行動に後悔した。そして再発しないように謝る。

そんな私にちーちゃんは驚きを隠せないようだ。

 

 

「お、鬼ーー!?桃太郎さん助けてー‼・・・・夢か・・・」

 

 

とその時ガバッ!と雄くんが起きた。

 

 

「おn・・じゃなくてちーちゃん。ほんとにゴメン。」

 

 

そしてきれいなDO☆GE☆ZAをする雄くん。いま本音でかけてたよ・・・

 

 

「いや、気にするな・・・私の方こそやりすぎた…。が、今のは許さん!誰が鬼だ!」

 

「ブヘッ!」

 

 

殴られてソファーから雄くんが落ちた。

 

 

私は今日の教訓〈ちーちゃんをいじりすぎるな〉を胸に刻み込むのだった・・・

 

 

 

 

 

 

ちーちゃんからの制裁から少し時間が経ち落ち着いたので

 

 

「で、ちーちゃん。この子が弟の一夏君?」

 

 

俺はちーちゃんに質問する。俺の目の前にはどことなくちーちゃんに似ている子がいる。

聞いていた特徴と一致するので間違いないだろうけど一応確認だ。

 

 

「そうだ。」

 

「やっぱりそうか。いや~似てるね。」

 

「そう?ちーちゃんより可愛げあると思うけど?」

 

 

そういって束は一夏君の頬をぷにぷにしている。

どうして君は戦いの火種を作り出すんだい?

俺は恐る恐るちーちゃんの方を見ると

 

 

「そうかもしれないな。」

 

 

一夏君を愛おしく見つめるちーちゃんは笑っていた。

ちーちゃんにとっては一夏君は唯一の家族らしい。

ちーちゃん達の親は二人を捨てて出て行ってしまったという…

そして今は二人で暮らしているらしい。ちーちゃんは親代わりなのだ。

 

これは俺がなぜ篠ノ之家にお世話になっているのか聞かれたとき俺の家族について話したら、なら自分もということでちーちゃんが教えてくれた。

 

(一夏君のために本当に頑張ってんだな。まだ甘えたい年頃だろうに。)

 

俺は気が付いたらちーちゃんの頭をなでていた。

 

 

「なっ!?なにs「急にゴメン。ちーちゃんが頑張ってんのわかったらなでたくなった。」・・・」

 

 

ちーちゃんはうつむいて黙ってしまった。耳が赤いから恥ずかしがっているのだろう。

でも嫌がらないところをみるに、やっぱり甘えたい年頃なのだ。

子どもってのはこうあるべきだと思う。

 

 

「ちーちゃん。頑張っているのはいいけど頑張りすぎちゃだめだからな。なんかあったら相談してくれ。俺ならいくらでも力貸すからさ。」

 

「・・・・」

 

 

多分このままいくとこの子は一人でため込んでしまうだろうからお節介だがそんなことを言ってしまう。ちーちゃんは小さくうなずいてくれている。

 

 

「ジィーー・・・・・・」

 

 

後ろから視線というか声を感じる。後ろを向くと束が言葉通りジィーっとこちらを見ていた。

 

 

「な、なんだよ?」

 

「べっつに~?いつまで束さんといっくんほっといてそうしてんのかな~って。」

 

 

確かに。ちーちゃんの髪はさらさらでずっとなでていたいがそういうわけにもいかない。

俺はちーちゃんの頭から手を引く。というかいつの間にか一夏君と仲良くなっているし。

うらやましい・・・

 

 

「ゴメン、ちーちゃん。いきなりなでちゃって。」

 

「・・・気にするな。私は少し顔を洗ってくるから一夏を頼む…」

 

 

ちーちゃんはうつむいたままそういうとリビングを出ていく。

 

先生・・・俺もナデポが少しは使えるようになりました。

 

 

「けっ!」

 

 

感傷に浸っていたら束に後ろから軽く蹴られた。

なんか不機嫌そうだ。

 

 

「どうした?私不機嫌です~って顔して。」

 

「別に・・・ちーちゃんをずいぶんなでてたなぁ~っと思っただけ。」

 

 

不機嫌そうに束は言う。もしかして・・・

 

 

「嫉妬してんのか?」

 

「べ、別に違うしっ!?」

 

 

やっぱりそうか。仲間はずれにされて寂しかったんだろう。

やっぱ、頭はよくても子供は子供なんだなぁ。

 

 

「素直じゃないなぁ~。」

 

 

俺は束をなでる。ついでに束が抱っこしている一夏君もなでる。

一夏君は嬉しそうにし、束もなんだかんだ言って何も文句はいわない。

 

しばらくしてるとちーちゃんが戻ってきたのでナデポをやめて、みんなで遊んだ。

 

 

「おっと、もうこんな時間か・・・」

 

 

気が付くと時刻は18時過ぎ。もう帰らないといけない時間だ。

 

 

「そうか・・・もうそんな時間か…」

 

 

ちーちゃんはどこか寂しそうにいう。

 

 

「そうだ!今日は夕飯を家で食べていかないか?迷惑でなければだが・・・」

 

 

そして、良いことを思いついたといわんばかりにちーちゃんは言うが、迷惑なんじゃないかと段々声が小さくなっていく。

そんなちーちゃんを見て、俺がもちろんと言おうと思ったら、

 

 

「食べる食べる‼私ちーちゃんの料理一度食べてみたかったんだよね。」

 

 

束に先を越されてしまった。束の言葉を聞いたあとこちらを少し心配そうにちーちゃんがこちらを見てくる。そんな心配そうな顔をしないで欲しい。

 

 

「もちろん俺もいただくよ。」

 

「そ、そうか!今準備するから待って居ろ!」

 

 

パァーっと表情が明るくなり、エプロンをつけ始めた。

こうも素直なちーちゃんは珍しい。今日はラッキーだな。

 

 

俺は手伝おうかとも思ったがちーちゃんに『ゆっくりしてろ。お前はけが人なのだから。』と言われてしまい、今は束とソファーで待っている。ちなみに一夏君は俺の膝上。

すると束が近くのクローゼットに近づいていく。

 

 

「何する気だ?」

 

「ちょっとね~」

 

 

そういうと束はいきなりクローゼットを勢いよく開けた。

そして俺は次の瞬間絶句した。

なぜなら・・・・

 

 

束が()()()()しまったからだ。

正確に言うとクローゼットの中にあった物が雪崩を起こし束を飲み込んだ。

 

どこにそんな量が入っていたのだといわんばかりの量だ。

いやまぁ、クローゼットのなかだが・・・許容量をはるかに超えていた。

 

 

「だ、大丈夫か束!?」

 

 

一夏君を膝からおろし、束のもとに行く。

 

 

「プッはッ!?」

 

 

束が顔を出した。よかった、無事なようだ。

 

 

「どうかしたのか!?」

 

 

ちーちゃんも音を聞いたのか慌ててこちらに来た。

 

 

「どうしたもこうもないよ‼ちーちゃん‼なにこれ!?なんでこんな物がいっぱいはいっているのさ!?開けたら飲まれたんだけど‼」

 

 

束が興奮気味に抗議する。確かになぜこんなにものをいれたのか気になる。

 

 

「なぜも何もお前たちが来るから掃除しただけだが?」

 

 

ちーちゃんはさも当然のようにそういったが、掃除?

 

 

「え~っと、片づけたってこと?」

 

「そうだ。」

 

「・・・・」

 

 

ちーちゃん・・・これは片付けとも掃除とも言わない…

これはごり押しだよ…

 

 

「まぁ、無事だからいいだろう?私は料理に戻るぞ。」

 

 

そういってちーちゃんは戻っていく。

えっ!?この物の山は放置ですか?

 

それから束は一夏君と遊び始めたため、俺は一人で片付けをするのだった…

 

 

「できたぞ。」

 

 

ちょうど片付けが終わったところでちーちゃんの料理も出来たようだ。

そちらに向かうと三人ともすでに食べる準備が整っていた。

 

 

「遅いよ雄くん。」

 

「そうだぞ。一夏だってもう座っているのだから早くしろ。」

 

(いや、誰かさんたちのせいでしょ…)

 

 

二人が怖いので文句は心の中にしまい、席に着く。

うむ、野菜炒めか。ちょっと焦げてるけどこれも茶目っ気だな。

 

 

《いただきます。》

 

 

一夏君はまだいただきますを言えないため三人で挨拶して食べ始める。最近では何も言わなくても束はちゃんと挨拶してくれるようになった。

 

 

(ん?この野菜・・・)

 

食べていると気になることがあった。

それは野菜の切り方がバラバラなのと生焼けの物があることだ。

 

 

「ちーちゃん、これちゃんと焼けてないよー。」

 

 

束のとったほうにもあるらしい。

 

 

「む?そうか?すまない、いつもは冷凍食品ばかりであまり手作りはしないのでな。やはり手料理は難しいな…」

 

 

なん・・・だと・・・!?

 

ちーちゃんの家はあまりお金がないのに冷凍食品ばかりだって!?自分で作った方が安上がりになるのに!?それがわかっていないちーちゃんではあるまい…

そしてさっきの件といい今の野菜炒めが難しい発言といい、まさか・・・

 

 

「もしかしてちーちゃんって家事苦手?」

 

 

この疑惑が思い浮かんだ。

 

 

「む、そんなことないと思うが・・・」

 

「じゃあ、改めて聞くけど普段する料理は?」

 

「インスタント麺と冷凍食品だ。」

 

「やっぱりか・・・」

 

 

さっきのを掃除というし、今のラインナップが料理というあたりやっぱりそうだ。

ちーちゃんは家事が苦手だ。それも典型的なタイプ。

 

 

「ちーちゃん、落ち着いて聞いてほしい。ちーちゃんが言っているカップ麺とか冷凍食品は料理とはいわないし、クローゼットに物を突っ込むだけでは掃除といわないんだ。」

 

「なん・・・だと・・・!?」

 

 

頼むからそこで驚いてほしくなかった…

さすがの束も呆れている。

 

 

「このままではちーちゃんたちが心配だ。だから俺は定期的にここにきて家事を手伝う。具体的に二日に一回ぐらい。いいよね?」

 

「お、お前がか!?し、しかしだな・・・」

 

()()()()?」

 

「わ、わかった…。よろしく頼む。」

 

「じゃあ、明日から早速来るから。」

 

「あ、明日からか!?」

 

 

これは絶対に通さなければちーちゃんと一夏君の健康に関わる。

そのため多少強引だが仕方あるまい。

 

 

それから俺達は野菜炒めを食べ終わり(皆にはちゃんと焼けてたとこあげた)、今は帰ろうというところで

 

 

「あれ?あれがない。」

 

 

俺はポケットにしまっていたものがないことに気づいた。

 

 

「どうした?忘れ物か?」

 

「うん、たぶんリビングに落としたから探していい?」

 

「もちろんだ。私も手伝おう。」

 

「じゃあ、束さんはここで待っているから早く見つけてきて~。」

 

 

束を玄関に残し、二人でリビングに戻る。

 

 

「どんなものだ?」

 

「え~っと、少し大きめのUSBメモリみたいなものなんだけど・・・」

 

 

どこかなー?多分ここら辺に落ちてると思うんだけど・・・

 

 

「これじゃないか?」

 

 

ちーちゃんが見つけたようで声をかけてくる。

ちーちゃんの手には外装が白いUSBメモリみたいなものが握られている。

 

 

「あっ!それそれ。ありがとう。」

 

「いや、見つかってよかったな。それよりみたいなものといったがこれはUSBメモリではないのか?」

 

「あぁ、これはねUSBメモリじゃないんだ。趣味で作ってるものなんだけど今は音が出るかな。」

 

「音?」

 

 

ちーちゃんが気になっているようなので音を出してあげることにした。

 

 

「こんな音。」

 

Eternal(エターナル)

 

 

ボタンを押すとメモリから音声が流れた。

 

 

「それだけか?」

 

「残念ながらこれだけ。おっと、束を待たせすぎかな?」

 

「そうだな、はやく行ってやれ。・・・・また明日な。」

 

「うん、また明日。」

 

 

その後、俺は急いで玄関に戻り束に文句を言われながら帰った。




ちーちゃん可愛いよ、ちーちゃん。
今回はちーちゃんの魅力を出したかった。
そしてさらりとタイトル回収していくスタイル。


タグに『仮面ライダーエターナル』を追加します。


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第十九話 家政夫になったった

ついに評価バーに色が付きました。
ありがとうございます。

そして気が付けば20話目なんですよねこれ…
原作はいつ来るのやら…


そんなこんなで翌日。今日は休日である。

 

俺は今、ちーちゃん家の前にいる。

ここに来る前に束とひと悶着あった(一方的)ため、すでに体はボロボロである。

とまぁ、過ぎたことを思ってもしょうがないので前向きにインターホンを鳴らす。

 

ピンポーン

 

しばらくするとちーちゃんが出てきた。

 

 

「ほ、本当に来たんだな…。それとその傷はどうした?」

 

「おはようちーちゃん。あぁ、この傷?来る前に束とひと悶着あってさ。」

 

「おはよう雄二。珍しいな束と喧嘩するなんて。」

 

「朝からちーちゃん家に行くって言ったら『やっぱりちーちゃんの方が大事なんだぁ~』とか言ってボコられた。」

 

 

今は時間が惜しいため、午前中の手伝いをキャンセルしてこっちに来たのだ。

 

 

「まぁでも、ちーちゃん達が心配だからなんとか説得してきたから問題ないよ。」

 

「そ、そうか・・・・。まぁ、上がってくれ。」

 

 

そういうちーちゃんはなぜか少し嬉しそうだった。

ちーちゃんは修行が好きみたいだから家事の修行が楽しみなのだろうか?

というか花嫁修業になるのかこれ?

 

そんなくだらないことを考えながらお邪魔する。

リビングに行くと一夏君がいた。

 

 

「おはよう一夏君。」

 

「おーあよう。」

 

 

驚いた!もう挨拶ができるのか。うちの箒はまだだというのに…

ちーちゃんの方を見ると誇らしげだ。負けた気がしてなんか悔しいので腹いせに早速初めていこう。

 

 

「じゃあ、始めようかちーちゃん。」

 

「もう始めるのか?今来たばかりだろう、少し休んだらどうだ?」

 

 

ちーちゃんのやさしさが辛い。逆恨みして始めようとした自分の小ささがわかって辛い…

しかし、ここで引いたら本当に負けなので引き下がらない。

 

 

「いや、大丈夫。早く始めよう、時間は有限だ。」

 

「そうか、悪いな私たちの為に。よろしく頼む。」

 

 

ちーちゃんの誠実さが俺に大ダメージを与えていく。

やめて!俺のライフはもうゼロよ‼

 

俺は心に傷を負いながら(体も傷だらけ)も家事について教えていくのであった。

 

 

時刻は正午に差し掛かろうといったところ。

 

 

「そろそろ昼食にしようか。」

 

「もうそんな時間か。」

 

 

午前中は掃除について教えていたがなかなか筋はいい。

雑巾がけは道場でやっているから教えることはないし、掃除機などが使えない機械音痴というわけでもなく、付け替えパーツのそれぞれの特性もちゃんと理解できたようだ。

 

しかし、問題点があるとするならワイルドすぎるといったところか…

掃除機をかける場合、ちーちゃんの動きが機敏すぎて掃除機があっちに行ったりこっちに来たりでガンガン壁に当たる。

洗濯の場合、洗剤を目分量で計らずに入れようとしていた。キャップを使うことをお勧めした。

 

とまぁ、午前中はそんなところで昼食時の今は料理について学んでもらおうと思う。

 

 

「今日は俺が料理するところをちーちゃんに見ててもらいます。」

 

「手伝いはしなくていいのか?」

 

「そう、今回は一度目だから見ててもらいます。そうして料理の流れを知ってもらいます。」

 

「なるほど。」

 

 

ちーちゃんが分かってくれたところであらかじめ買ってきておいた食材を袋から取り出す。

ちなみに冷蔵庫も確認したがやはり自炊しないためほとんど空だった。

 

 

「今日作るのは野菜炒めです。」

 

「昨日私が作ったものと同じ具材だな。」

 

 

食材をみながらちーちゃんが言う。

 

 

「そう!だからこそ違いが分かるんだ。」

 

 

昨日ちーちゃんが作ったからこそ俺は野菜炒めを選択した。

 

 

「じゃあ、早速作っていくよー。」

 

 

俺はまず野菜を切っていく。

 

 

「野菜は食感をのこすために少し大きめに切りたいところだけど一夏君も食べるため今回は少し小さめにカットしていく」

 

「おぉ~」

 

 

トントントントントンっとササっと切っていくとちーちゃんから感嘆の声が上がる。

ちーちゃんのこういった反応は珍しいため上機嫌で俺は残りの野菜を切っていく。

そしてまだ温めていないフライパンにニンジンなど火の通りにくい野菜を入れる。

 

 

「まだフライパンを温めてないぞ?それにせっかく切ったのにニンジンしか入れないのか?」

 

「食材はそれぞれ火の通りやすさが違うからいっぺんに入れてはダメなんだ。今のちーちゃんの反応からみて、昨日の生焼けはそれが原因だね。」

 

 

さらにフライパンにサラダ油を入れてニンジンとフライパンに馴染ませる。

 

 

「それに野菜は急に加熱すると細胞が壊れて水分が出てしまうからべちゃっとした仕上がりになってしまう。」

 

「そういうことか」

 

 

そういいながら俺は弱火で炒め始める。

 

(ていうか普通、細胞とか言ってもわからないんじゃないかな?それが分かるってちーちゃんも頭がいい方なんだなぁ。)

 

少し炒めたところで他の野菜も入れていく。火力はいまだに弱火。

 

 

「強火にしないのか?」

 

 

ちーちゃんが気になったのか聞いてくる。

 

 

「うん、今回は弱火でじっくり作っていく。そうすることでさっきも言った通り野菜の水分をあまり出さずにできるんだ。だからお肉も後で入れられる。あとは何と言っても火力調節が簡単だからね。」

 

「ふむふむ。」

 

 

ちーちゃんはうなずきながらメモを取っている。

もちろん強火でやる方法もあるが今回この調理方法を選んだのは簡単だからというのが大きい。

これなら初心者のちーちゃんでも生焼けといった心配もなく作れる。

 

そこへ肉を入れ弱火で炒めていく。

 

 

「ちなみにかき混ぜすぎちゃダメだよ。熱が逃げてしまうからね。かき混ぜるのは2分に一回ぐらいでいいよ。」

 

 

補足の説明をしながら仕上げに入っていく。

ニンジンに火が通ったことを確認し塩を振り2分ほど味を馴染ませてから、最後にしょうゆ、ごま油、コショウをくわえて強火で20秒間ほど炒めて香りを立たせつつ、わずかに出た水分を飛ばしていく。そして皿に盛りつけて、

 

 

「はい、完成」

 

「こ、これは・・・すごいな…」

 

 

ちーちゃんは俺の作った野菜炒めが同じ材料なのに昨日自分が作った物とは全然違っていて驚いているようだ。

同じ材料でも順番や炒め方によって大きく変わる。今回はそれを知ってもらいたかったのだがどうやら成功のようだ。

 

 

「じゃあ、一夏君呼んで食べようか。」

 

 

それから三人で昼食をとった。

俺の野菜炒めは二人から好評をいただいた。

 

 

時刻は17時前。

 

 

「うん、とりあえず今日はこんなもんかな。」

 

「ふぅ、家事というのはここまでしなくてはいけないのだな…」

 

「まぁ、慣れだよ慣れ。基本的なことは教えたから気長にやっていこう。」

 

 

午後では個人的に気になったところ教え、今日一日で基本的なことは教えられたと思う。

あとは少しずつ教えてちーちゃんの成長を見守ろうと思う。

 

 

「でも料理は早めに手を付けておきたいから夕飯を一緒に食べていっても構わないかな?」

 

「もちろんだ。一夏のためにも早く覚えなければいけないからな。」

 

 

よし、ちーちゃんの了承も得たし買い物に行くか。

 

 

「じゃあ、買い物行こうか。冷蔵庫空だしね。」

 

「そうだな。」

 

(買い物術もおしえないとなぁ~)

 

 

そんなことを思いながら買い物をして、夕飯を一緒に作って食べてその日は帰った。

 

 

 

 

 

 

なんやかんやでちーちゃん家に通い始めて1か月が経ち、現在はというと

 

 

「雄二ー、夕飯はまだか?一夏が期待しているからはやく頼むぞ。」

 

「ほいほーい。」

 

 

俺が料理当番に組み込まれました。というより俺が行く日は料理は俺の担当になった。

なぜこうなったかというと

 

 

『雄二の料理はうまいのだから雄二が来た日は作ってくれ。』

 

 

といわれ、俺が練習にならないよといったら

 

 

『私は日ごろこの家のことを全部しているんだぞ。たまに休みたいというのもダメなのか?自分を頼れといったのは嘘だったのか?』

 

 

と悲しそうに言われたらどうしようもない。(後に悲しそうなのは演技だったことが判明)

そういうわけで俺が一人で作っている。

 

 

「はいお待たせ。今日は一夏の希望通りハンバーグだ。」

 

 

今日は俺の得意料理【暮見ハンバーグ】だ。これは俺が母さんから教わった自信作だ。

一夏はハンバーグを前に目を輝かせている。ちーちゃんもハンバーグが好きなためうずうずしている。こりゃ、はやくあいさつしたほうがいいな。

そういえば、一夏のことは呼び捨てで呼ぶようになった。弟ができたみたいで俺もうれしい。

 

 

「それじゃあ、食おうか。」

 

《いただきます》

 

 

 

飯を食い終わって今はちーちゃんと二人で皿洗いをしている。

 

 

「ありがとうな、雄二。」

 

「ん?」

 

 

唐突にちーちゃんにお礼を言われた。なんかしたっけ?

 

 

「お前が教えに来てくれて本当に良かったよ。一夏も前よりも笑うようになった。」

 

 

なんだ、そのことか。

 

 

「お礼なんて必要ないよ。俺がしたくてしているお節介だしね。それに一夏がうれしそうなのもちーちゃんの頑張りが全てさ。俺はその方法を教えただけ。」

 

「いや、感謝させてくれ。私はお前がいなければここまでできなかっただろう。」

 

 

まったく、気にしなくていいのにそんなこと。

 

 

「本当にありがとう雄二。」

 

 

ちーちゃんが笑顔でこちらにお礼を言ってくる。

その瞬間俺は固まった。その最高の笑顔に見とれてしまった。

 

 

「どうした雄二?顔が少し赤いが・・・熱でもあるのか?」

 

 

そういって俺の額にちーちゃんが手を当てようとしたところで

 

 

「だだだ大丈夫!?全然元気だから!」

 

 

俺はあわてて動き、一歩下がる。

 

 

「そうか?でも無理はするなよ。お前が倒れたら大変だからな。」

 

「うん、大丈夫。だけどちょっと休むね…」

 

 

ちーちゃんと話すのが恥ずかしくなりリビングに逃げるように向かう。

 

(ふぅ~、束といい、ちーちゃんといい、たまーにすごいドキッ!とさせることするからな~)

 

そういう時は平静を保てないので逃げている。

 

(まったく情けねぇーな…。家族みたいなもんだろ二人は…。何恥ずかしがってんだか。)

 

 

それから落ち着くまで一夏と遊んでから帰ったが眠れなかったので趣味の開発を進めた。

 

 




主人公だって男の子。
今回束の出番がなかった・・・

次回から数年飛んだり、時間の進みはやくなります。


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第二十話 ある日の日常

お気に入り登録数がついに100を超えました。
皆様本当にありがとうございます。


(やばいやばいやばい‼間に合うかッ!?)

 

 

俺の名前は暮見雄二。どこにでもいる中学三年生だ。

そんな俺は今・・・

 

 

民家の屋根の上を走りながらあるところに急いでいる。

 

(クッソ!?何がすぐに終わる手伝いだ‼騙されたッ!)

 

俺はちらりと腕時計を見る。時刻は10時前。

なぜ俺がこんなに急いでいるかというと今日は箒の入学式なのだ。

 

そのため俺は学校を抜け出し、入学式を見に行こうとしている。

本来もっと余裕をもっていくつもりだったのだが先生に頼まれごとをされて時間はギリギリ。

 

(式の開始は10時からだったな。あと五分しかねぇ‼)

 

民家の屋根をギリギリ壊さない程度の力で飛び、俺は最速で小学校に向かった。

 

 

学校につき、急いで体育館に入り席に着いた。

 

現在時刻9時59分。ギリギリ間に合った。

 

 

「遅かったじゃないか雄二。」

 

 

俺の席を取っといてくれたちーちゃんが声をかけてくる。

 

 

「先生から頼まれていたことしていたら、思っていたより時間がかかって遅くなった。俺も最初から学校休んどきゃよかった…」

 

 

ちーちゃんは一夏の親代わりなので今日は学校を休んでいる。束も今日はサボっていたはずだが姿が見えない・・・・

 

 

「束は?」

 

「あそこだ。」

 

 

ちーちゃんが指を刺した方を見ると最前席近くにうさ耳が見えた。その横に千春さん達もいるので間違いないだろう。

うさ耳は俺が昔誕生日プレゼントで似合いそうだからと送ったもので、今なお着けてくれている。

俺はそれを見て毎日心の中でニヤニヤしている。

 

 

「あいつはいつもあれをつけているから一目でわかるな。」

 

「そうだねー」

 

 

ちーちゃんは呆れたように言うが・・・・

 

 

「でも、そういうちーちゃんも俺が昔上げた髪留めリボンをまだ大切に使ってくれてるよね。」

 

 

実はちーちゃんも後ろ髪をまとめるのに俺がプレゼントしたリボンを今なお使ってくれているのだ。

 

 

「・・・・・・買い替えるとお金がかかるからな…」

 

 

恥ずかしいのか、少し顔を赤くしながらそういうちーちゃん。

ちーちゃんのこういうところは本当に可愛いと思う。

 

 

『皆様、大変お待たせしました。これより新入学生の入場です。拍手でお迎えください。』

 

「おっ!始まった。」

 

 

そうこうしているうちに入場が始まった。

千春さんから来たメールによると箒は一組だからすぐ来るな。

 

 

「ちーちゃん、一夏は何組だった?箒は一組だったんだけど。」

 

「一夏は二組だったから違うクラスだな。」

 

 

なるほど。つまり一組の時は箒に全力をそそげるな。

そんなことを考えていると箒の姿が見えた。少し緊張しているようで表情がかたい。

 

 

「箒~!かわいいぞ~!こっち向いてくれ~!」パシャパシャ

 

 

俺は懐からデジカメ(改造済みを取り出して)連写する。

そんな俺の声に気づいたのか箒がこちらを向く。

俺をみると安心したのかニコッと笑った。

 

 

「うおぉー‼箒まじ天使ー‼」カシャカシャカシャカシャ

 

「おい、うるさいぞ!・・・浮いてるではないか。」

 

 

ちーちゃんにそういわれ周りを見ると俺はいつの間にか立っていて注目されており、クスクスと笑い声が聞こえた。

ちなみに俺と同じような状態のパパさんたちが数人いた。

あと前を見たら束が発狂していた気がする・・・。うん、俺は何も見ていない…

 

 

「す、すいません…」

 

 

ぺこりと頭を下げ席に座る。

 

 

「まったく、限度というものがあるだろう…恥ずかしい…」

 

「申し訳ない限りです…」

 

 

俺は謝りながら次に来る二組の一夏に備え、ちーちゃんにカメラを貸す。

 

 

「すまないな、借りるぞ。」

 

「遠慮なく連写してくれ。」

 

 

その後一夏が見えた瞬間、二人で一夏を呼んだ。

俺はさっきより控えていたがちーちゃんはさっきの俺並みに発狂していた。

 

 

「オ、オホンッ」

 

 

一夏が檀上まで行ってようやく落ち着いたちーちゃんが咳払いしながら急いで座る。

状況に気が付いて恥ずかしくなったのだろう。

 

 

「恥ずかしいわ~、知人が隣で発狂するの恥ずかしいわ~。」

 

「・・・・すまない。」

 

 

ちーちゃんは顔を赤くしながら謝る。

可愛いので一枚撮っておく。

 

 

「なぁっ!?おまえ!?カメラをy「はい騒がない。また注目されちゃうよ?」くっ‼」

 

 

俺はこの状況を生かしてちーちゃんをたしなめる。

そしてすでにデータをこっそり携帯にコピーしてある。おぉ、ゲスイゲスイ。

 

(これは今月のちーちゃん写真勝負は俺の勝ちだな、束。クックック。)

 

ちなみに俺と束は毎月ちーちゃんの写真を撮って勝負しているのだ。

これはここ数ヶ月続いている遊びで今は一勝一敗一分けという結果だ。

 

俺はその勝負の勝ちを確信しながら入学式を見るのだった。

 

 

「兄さん!」

 

 

入学式も終わり後は帰るだけとなったので束達や箒と合流した。

そしたら箒が俺に抱き着いてきた。やっべ、可愛すぎて意識飛びかけたわ。

 

 

「入学式お疲れ様箒。疲れなかったか?」

 

「うん、だいじょうぶ。」

 

 

そういいながら箒の頭をなでる。なでると嬉しそうである。

箒はすでに俺のナデポの支配下にあった。

 

 

「雄くんばっかり箒ちゃんに抱き着かれてずるい!箒ちゃん‼こっちおいで‼」

 

 

ふっ、無駄だ束。箒は俺の支配下にあるんだ。

そちらに行くはずがn「うん!」な、なにぃ!?箒が束のほうに・・・・

 

 

「箒ちゃんはほんとに可愛いな~。」

 

「姉さんのなでなですき~。」

 

「なん・・・だと・・・!?」

 

 

俺は絶望して膝をつく。そしてそんな俺に束は勝ち誇った顔をしてくる。

馬鹿な・・・負けた・・・だと・・・!?

だが、まだだ!ナデポが負けただけで俺自身が負けたわけじゃない。

 

 

「箒は一番誰が好きなんだ?」

 

 

俺がその質問をした瞬間束がピクリと反応する。

 

(どうしたぁ?動揺しているのかぁ?)

 

俺は目線でそう伝える。

 

(雄くんのほうこそよくそんな分かり切ったこと言えるね。哀れでしょうがないよ)

 

束からもそんな目線が帰ってくる。

 

 

「ん~とね・・・」

 

(俺だよな!)(私でしょ!)

 

 

緊張のひと時・・・・そして勝ったのは・・・・

 

 

 

「お母さーん‼」

 

 

そう言って箒は千春さんに抱き着いた。

 

 

「「カハッ・・・・」」

 

 

俺達は吐血してその場で倒れた…

 

 

 

 

 

 

「何やっているんだ…お前たちは…」

 

 

私は思わずため息をつく。私の前には口からケチャップを吐き出し倒れている天才馬鹿が二人。

 

 

「ちーちゃん!そこは私たちに駆け寄って名前を叫んで心配するところでしょ!」

 

 

うさ耳の方の馬鹿が体を起こしながら馬鹿なことを言ってくる。

 

 

「そうそう、ちーちゃんはそういうとこ冷たいよね。」

 

 

もう一人の馬鹿も同調してやはり馬鹿なことを言う。

 

 

「おはようございます皆さん。」

 

「うむ。」「おはよう千冬ちゃん。」「おはようございます。」「おはよう千冬さん。」

 

 

馬鹿は無視して篠ノ之家の方々に挨拶をする。

無視はひどいよとかなんとか言っているが無視。

 

 

「ほら、一夏。挨拶しろ。」

 

「う、うん」

 

 

私の後ろに隠れていた一夏に挨拶するように言う。

 

 

「おはようございます。」

 

 

一夏も挨拶したところで自己紹介をさせる。

 

 

「一夏。自己紹介するんだ。この人たちがお前が今度から行く道場でお世話になる人たちだ。」

 

「うん!わかった。織斑一夏です。よろしくお願いします。」

 

「よろしくね一夏くん。私は篠ノ之千春っていうのよ。そっちのおじさんが夫で師範代をしている柳韻でこっちのお姉さんが雪子さん。それでこの子が娘の箒ちゃんよ。同い年だから仲良くしてあげてね。」

 

 

千春さんが皆の自己紹介を行ってくれ、箒のことを少し押し出す。

 

 

「篠ノ之箒・・です。よ、よろしく。」

 

「うん、よろしく。」

 

 

これで全員の自己紹介も終わった。

 

 

「では全員自己紹介も終わりましたし、写真でも撮りましょう。」

 

「「ちょっと待て~い‼」」

 

「誰か」「忘れちゃ」「「いませんかねぇ~?」」

 

 

馬鹿二人がうざいコンビネーションを見せてくる。

 

 

「お前らのことは一夏も知っているから必要ないだろ?だからそのうざい顔とポーズをやめろ。」

 

「俺は暮見雄二。改めてよろしくな、一夏。」

 

「私は天才、篠ノ之束。気軽に束さんってよんでね☆」

 

 

私の発言を無視してさらにウザイ決めポーズをかまして自己紹介する馬鹿ども。

そしてこちらを見てドヤ顔。なるほどなぁ~

 

 

「お前たちは私に喧嘩を売っているのだな?いいだろうその喧嘩かってやるっ‼」

 

 

私は馬鹿二人にとびかかった。

 

 

 

 

 

 

いや~思わずテンション上がって、ちーちゃんをからかいすぎた。

殴られた頬がひりひりと痛む。

ちなみに今は全員で集合写真を撮るところだ。

 

 

「じゃあ、タイマー押しますよー。」

 

 

タイマーを押して俺は自分の位置に戻る。

 

カシャッ

 

うまく撮れたようだ。

 

 

「じゃあ、俺は学校戻るんで。」

 

 

学校を抜け出してきたので俺が学校に戻ろうとすると

 

 

「え!?雄二兄ちゃんもう行っちゃうのかよ。」

 

 

一夏に引き留められた。ちなみに兄ちゃん呼ばわりはいつの間にかされてた。

まぁ、弟みたいなもんだし別にいいかなって思っている。

 

 

「まぁ、今度遊んでやるから許せ。」

 

「絶対?」

 

「おう、絶対絶対。」

 

 

一夏の頭を少しワシャワシャっとなでて俺は学校に向かった。

 

 

「おっ!暮見。先生がカンカンだったぞ。」

 

「あっ!暮見くん、どこいってたの~?」

 

 

学校に戻り教室に入るとクラスメイトから話しかけられる。

5,6年前では考えられない光景だったが今ではこれが普通だ。

 

 

「ちょっと妹の入学式にね。」

 

 

俺がそう言うと皆が笑いだす。

 

 

「この前の卒園式の時も学校休んでたよね~」

 

「ほんと暮見くんって妹バカだよね。私もそんな優しくしてくれる兄ちゃん欲しいわ~」

 

 

笑いながらそんなことを言われる。

妹バカ?う~んそうかな?妹大切にすんのは当たり前だと思うけど。

 

 

「あっそうだ!暮見くん、一緒に弁当食べようよ。お昼まだでしょ?」

 

 

そんなことを考えているとお昼のお誘いをうける。

 

 

「オッケー。ちょうど食べようと思ってたんだ。」

 

 

俺はバックから弁当箱を取り出して答える。

そして俺が机をくっつけて弁当箱を開けると軽い拍手が起こる。

 

 

「おぉ~、相変わらずすごいね。あっ!この唐揚げ私のミニハンバーグと交換しよ?」

 

「これ全部手作りなんだよね?いいな~私の弁当なんて冷凍食品のオンパレードだよ。ということで卵焼き頂戴。」

 

「じゃあ私はこれもらうね。代わりにプチトマトあげるから安心して?」

 

 

「はぁ~、最初からそれが目的だったでしょ君たち…いいよ。というか最後は建前すらなかったね!?欲望の塊だったよね!?もうちょい隠そうよ!」

 

そしてあっという間に俺の弁当はキメラ弁当へと変化を遂げた。

唯一原型が残っているのが三段目の白米のみ。

二日に一回ぐらいの頻度で俺の弁当がキメラってる気がする・・・

 

 

「この唐揚げおいしー。やっぱ昼飯は暮見くんのおかずに限るわ。」

 

「手作りっていいよね~。うん!おいしい。」

 

「おいしい。」

 

(ま、いっか。皆喜んでくれているし。)

 

 

そう思いながら俺はキメラ弁当を食べるのだった。

 

 

「キビキビ働け~少年。」

 

「いや、先生も運んでくださいよ…」

 

「私ってさ~チョークよりも重いもの持ったことないのよね。」

 

 

今は放課後で俺は先生にこき使われている。どうやら恩師の先生が遠回しに言っていた雑用の才能が俺には本当にあるらしく、俺はよく先生に頼まれごとをされる。

 

 

「よいしょっと!これで終わりですか?」

 

「うん!ご苦労様、ありがとね少年。」

 

「じゃあ俺は帰りますから。」

 

「気を付けて帰るんだぞ少年。君は特にな。」

 

「??わかりました。それじゃあ先生また明日。」

 

 

先生に別れを告げて、帰宅するため下駄箱に向かう。

君は特に気をつけろとはどういうことだ?

 

(まぁ、あの先生よく謎のこと言っているし気にしなくていいか。)

 

俺がそう思い下駄箱に向かっていると

 

 

「暮見せんぱ~い。助けてくださ~い。」

 

 

一学年下の後輩の女の子に止められた。この子は確か生徒会の子だ。

 

 

「どうしたんだ?泣きべそかいて?」

 

「生徒会のパソコンがウイルスに感染したみたいで先生でもどうにもできないんです。」

 

(嫌な予感がしてきた・・・)

 

「でも暮見先輩ならどうにかできると思って、それで・・・」

 

「わかった。何とかしてみるよ。」

 

(先生の言っていた気をつけろってこういうことか・・・)

 

 

俺は先生の言葉の意味に気づきながら生徒会に足を運んだ。

 

 

「ただいま~。」

 

 

結局色々手伝って帰ってきたのは19時頃。

部活を何もしていないのにこの遅さはやばいと思う。

 

 

「おかえり兄さん。」

 

 

バフッ!っと俺の懐に箒が飛び込んで出迎えてくれた。

 

 

「ただいま、箒。」

 

 

箒を抱っこしながら居間に向かう。居間には皆そろっておりもうすぐ夕飯といったところだ。

 

 

「おかえり雄くん。また手伝っていたの?物好きだよね雄くんってさ。」

 

「うるせー。俺だって手伝いたくて手伝っているんじゃねぇーの。ただ「『俺に頼らざる得ない相談が良く来るだけだ。』でしょ?」

 

 

束が俺の言葉の続きを言う。その通りなのだ。今日の場合ウイルスの件とかそうだな。

 

 

「でも、そのあとのついでみたいな頼みもてつだっているよね?それが原因じゃないの?」

 

「そうかもな。でもほっとくのもかわいそうだろ?」

 

「ここに今日ほっとかれていた束さんがいるのですがそれはどうなのさ?」

 

「悪かったよ。飯食った後で手伝うよ。」

 

 

本来だったら飯を食ったあとは趣味の方を進めるのだが今日はISを手伝うことにした。

 

 

「よろしい、それでこそ私の雄くんだよ。」

 

 

束は上機嫌になりながらそんなことを言っている。

いつものことだし気にしない。まぁ、元気なのはいいことだと思う。

 

それから飯食って、箒と風呂入って、束を手伝って寝た。

 

こんな一日が今の俺の日常である。




普通の日常でしたね。
ちなみに今作では箒と一夏を違うクラスにしました。

タグに『独自設定』を追加します。

う~ん最後の方がキレがなかった気がする・・・


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第二十一話 悩める乙女

日常パートがもうちょっとだけ続くんじゃ。
主要キャラ一人一話ぐらいはやるかもです。


ある日の昼食、事件は起こった・・・・

 

 

私は今友人の忍野(おしの)あずさと一緒に昼食をとっている。

 

 

「千冬ってさ・・・・・・暮見くんのこと好きなの?」

 

「ブフッ!?な、何を急に!?」

 

 

あずさの余りにも唐突な言葉に飲んでいたお茶を吹き出してしまった。

そしてそれは友人の顔に直撃した…

 

 

「す、すまない!しかし、お前がそんなこと言うからだぞ。」

 

「いえいえ、御馳走様です。で、どうなのさ?」

 

 

そう言って口周りについているお茶をなめとりハンカチで顔を拭きながら先ほどの続きを催促してくる。いや、ごちそうさまはおかしいと思う・・・私の周りには変態ばかりいる気がする…

 

 

「ンッンッ!質問を質問で返して悪いがなぜそう思った?」

 

 

気持ちを落ち着けるため咳払いをしながらなぜそんな風に思ったのか聞いてみる。

 

 

「ん~とね、だって千冬って暮見くんとすごく仲いいじゃん?それに千冬があんなに仲良さそうに話す男子って暮見くんぐらいじゃん。だからそうなのかなって。」

 

 

なるほど・・・・そういうことか…

確かにその話だけ聞くとそう思うのも不思議ではない。

 

 

「別に雄二はそういうのではない。ただ小さいときからの腐れ縁というやつだ。」

 

「そうなの?暮見くんかっこいいのに何とも思わないの?」

 

「確かにあいつは容姿も頭もよく、おまけに気は利くし、料理もうまい奴だが昔から一緒だからな。」

 

「えぇ~!それが普通なら贅沢な話だな~」

 

 

確かにと私は思う。言っていてなんだが、こんないい男他にはいないのではというほどの条件だな。しかしまぁ、そういうのではないと思う。いい奴だが。

 

 

「でもそっか~、千冬は暮見くんのことLOVEじゃなくてLIKEなのか~。そっかそっか。」

 

「そんなにうなずいてどうした?」

 

 

うんうん、とうなずくのが気になり聞いてみた。

 

 

「いやそれってさ、私が暮見くんのこと狙ってもいいってことじゃん?」

 

「ゴホッゴホッ!」

 

 

今度はお茶が変なところに入ってせき込む。

 

 

「あ、あいつのことが好きなのか?」

 

 

あずさは女の私から見ても魅力的だと思う。髪はふわっとしていて、顔はとても可愛らく、控えめな身長がそれをさらに引き立てている。しかし、出るとこは出ている。

そんな男子の理想が実現したかのようなこの友人があいつに気があるというのに驚いた。

 

 

「そんな以外?暮見くんって魅力的じゃん。千冬は知らないかもしれないけど暮見くんを狙っている女子ってこの学校中にいるよ。中にはわざわざ近くの中学選ばずにここに来た子もいるとか。」

 

「・・・・」

 

 

し、知らなかった。雄二はそんなにモテていたのか。そんな素振りまったく見せていないが…

しかも学校外にもファンがいるのか…しかし、そこで私は疑問に思った。

 

 

「あいつは学校外では悪い噂ばかり流れていたと思うがなぜ学校外でも人気がある?」

 

 

そう、あいつは昔からよく勘違いされて変な噂ばかり流れている。

最近聞いた噂は他校の不良と喧嘩しまくって無傷で全戦全勝する化け物とか聞いたな。

実際はカツアゲにあっている生徒を助けただけらしいが。

 

 

「あ~、確かに怖い噂はよく聞くけど暮見くんと話せば誤解だってすぐわかるし、その噂の強さや悪さに惹かれてくる人もよくいるとか。」

 

「そ、それでは本当のあいつを知った時がっかりするのではないか?」

 

 

そういったものに惹かれているのなら十分あり得る話だ。

 

 

「それがね、優しい暮見くんを知ったら知ったで惚れちゃうんだって。まぁ、確かにわからなくもない。あの顔で優しく語りかけてくるんだもん、キュンと来ちゃうよね。」

 

「・・・・」

 

 

そうくるのか…

 

 

「ではお前もあいつの笑顔に惹かれたのか?」

 

 

しかし、あずさは人を見た目だけで判断する子ではないことは知っている。

その子がなぜと思い、聞いてみる。

 

 

「まぁ、かっこいいってのは確かにあるけど・・・・その、あることがきっかけで好きになっちゃって・・・」

 

 

恥ずかしそうに頬を赤らめるあずさ。完璧に恋する乙女だった。

 

 

「あることとは?」

 

「それはね、去年の体育祭の時の準備の時にね・・・」

 

 

私が聞くとあずさがぽつりぽつりと語り始めた。

 

 

去年・・・

 

 

「これ重いな…」

 

 

体育際の実行委員だけで準備しているときがあったんだけど、準備中私は重い荷物を運べなかったの。そんな時だったな彼が来たのは

 

 

「おいしょっと!」

 

 

私が持てなかった荷物を彼は片手で悠々と持ち上げたの。

 

 

「あっ、ありがとう。」

 

「気にしないでいいよ。え~っと、忍野さん?だったよね。俺は同じクラスの暮見雄二。」

 

 

その時に初めて話したけど私は彼のことは知っていた。悪い意味でなんだけどね。

当時は確か学校外で暴れまわっている鬼とか言われてたっけ?

 

 

「なんで暮見くんはここにいるの?」

 

 

そんな不良が実行委員でもないのになんで準備を手伝っているのかなと思って聞いたの。

まぁ、どうせバカやっているのがばれたからバツとしてやらされてるんだと思った。

 

 

「手伝って欲しいって頼まれたんだよ先生と実行委員長さんに。」

 

「頼まれた?なんで?」

 

 

その時私は白々しいと思ったの。あくまでも自分の意志で参加したと言い張る彼がかっこつけたいんだなってあきれた。

 

 

「う~ん、なんか知らんけど昔からよく頼まれごとされるんだよね俺って。恩師の先生には遠回しに君には雑用の才能があるよって言われたし、それのせいかも。」

 

「なにそれ。意味わかんない。」

 

「だよね、俺にもよくわかないんだこれが。」

 

 

そういう彼の顔は苦笑いでちょっと面白かったのを覚えている。

 

 

「おーい暮見ー。ちょっとこっち手伝ってくれー。」

 

「はーい、今行きまーす。じゃ、そういうことだから行ってくるわ。またあとでね忍野さん。」

 

 

そういって彼は他の手伝いにいったわ。それから彼をたまーに見るとさっきとは全然違うところで作業してたり、あっちこっち行ってよく頑張っている姿を見たの。

 

(本当に不良なのかな?)

 

私はそう思ってた。

それでしばらくすると彼が私の方の手伝いに来たから聞いてみたの。

 

 

「暮見くんってさ不良っぽくないよね。やらされているのにそんなにがんばちゃってさ。」

 

「あぁ、その話ね。俺が言っても信憑性ないけどそれはただの噂で俺は別に不良じゃないよ。」

 

 

私はその時少し見直してたのに軽蔑した。それが嘘だと思ったから。

 

 

それからしばらくして私が壁に寄り掛かって休んでいる時だった。

 

ビュオンッ‼

 

「危ない‼落ちるぞ‼」

 

「え!?」

 

 

強風が吹き、誰かの声が聞こえて上を見ると鉄パイプが私の上に何本も落ちてきていたの。

どうやらつるして運んでいた鉄パイプが強風によってバランスが崩れ、落ちてしまったみたい。

 

 

「!?」

 

 

とっさのことで私は避けることができなくて思わず怖くて目をつぶった。

しかし一秒、二秒、三秒と時間が経っても衝撃も痛みも襲ってこなかった。

 

(助かった・・・の?)

 

奇跡的に全部外れたのかもしれない。そう思って私が恐る恐る目を開けると

 

 

「大丈夫?怪我ない?」

 

 

頭から血を流した暮見くんが目の前にいたの。

 

 

「ッ!?キャーッ‼」

 

 

突然のことで急いでその場から逃げたわ。

それで少し離れて暮見くんの周りに落ちている鉄パイプを見てわかったの。

彼が庇ってくれたんだって。私は急いでお礼と謝罪をしようとしたんだけど先生たちが事故にあった暮見くんと私のところに集まっちゃって話せなかったの。

暮見くんはケロッとしていたんだけど先生に連れてかれちゃったしね。

 

 

(私なんてことを・・・・暮見くんのこと酷い人だと勘違いしていた・・・)

 

 

もうその時の罪悪感はすごかった。命の恩人に失礼なことしてしまったしね。

 

それから暮見くんと話せたのは一時間後だった。

保健室で私は二人きりで話した。

 

 

「その・・・けがの方は大丈夫・・・?」

 

「あぁ、大丈夫大丈夫。何本かはじき損ねたのが当たっただけだから。ほんとだったらもう帰りたいとこなんだけど迎えが来るまでダメなんだってさ。大丈夫って言っているのにね?」

 

 

暮見くんの言っていることはちょっとおかしかったがとにかく元気そうでよかったと安心したが、同時にはやく謝らなければとも思った。

 

 

「く、暮見くんごめんなさい‼暮見くんが助けてくれたのに私・・・悲鳴なんてあげて・・・」

 

 

暮見くんはそれを聞き、少しキョトンとするが納得したのか

 

 

「いやいや、気にしなくていいよ。誰だって頭から血をダラダラ流しているやつがいたらそうなるしね。女の子ならなおさらだよ。それよりほんとにケガしてない?さっきは聞けなかったから心配でさ。」

 

 

この人何言っているんだろうって思ったね。馬鹿なのかとも思った。

だって頭に包帯巻いてる人が絆創膏すらつけてない私の心配をするのだから。

 

 

「え?・・・・うん、おかげさまで無事です。あっ!?ごめんなさい。まだお礼言ってなかった!?本当にありがとうございました。」

 

「いいのいいの、別にお礼とか。俺がやりたくてやっただけだからさ。それより怪我がなくて何よりだよ。勝手に突っ込んだのに守れてませんでしたとか、かっこ悪いことにならなくて良かった。」

 

 

わけがわからなかった。助けたことを誇るのでもなく

 

 

「忍野さんわざわざありがとね様子見に来てくれて。この通りピンピンしているから気にしないで帰っても大丈夫だよ。」

 

 

助けた私に何か見返りを求めているわけでもない。

混乱したねもうそれは。

で、なにを思って口走ったのか私の言ったことは

 

 

「私ってそんなに魅力ない?」

 

 

だった。今思うとほんとに何言ってんだって思う。

でもその時の私は何も見返りを求めない暮見くんに腹が立ったんだと思う。

 

自分で言うのもなんだけど私は結構可愛い部類に入ると思う。

男子たちも私のことをよく見ているし、可愛いとよく言われ、自信があった。

だからそんな私に一切見返りを求めないのにきっと腹が立った。

 

そんな彼がいった言葉は・・・

 

 

「魅力がない?君は鏡を見ない人なのかい?俺からしたら君はすごく可愛らしくて魅力的だと思うけどね。特に教室でたまに見る君の笑顔はとても楽しそうで周りも明るくなるしね。自信をもっと持ちなよ。って言っても俺からじゃ説得力ないか…」

 

 

べた褒めだった。笑顔で平然とそんなことを言ってくる。

しかも、

 

(見た目だけじゃなくていつもの私のこともちゃんと評価してくれている。)

 

よく見てないと分からないであろうことまでさらりと言ってくる。

そんなの・・・・・

 

 

(反則だよ・・・・不意打ちすぎる・・・・)

 

 

私は自分の顔が熱くなっていくのがわかり、恥ずかしくなってそのあとすぐに帰った。

 

 

「その次の日からね、暮見くんのこと無意識のうちに目線で追うようになったのは。それでしばらくして私、暮見くんのこと好きなんだなーって気づいたの。」

 

 

ベタかなといいながらあずさは恥ずかしがる。

そして私は思い出した。

 

(そうだった・・・あいつは天然ジゴロだった・・・)

 

あいつは日ごろから可愛いとか平気で言うようなやつなのだ。

そして整った容姿。なんでもそつなくこなす器用さ。

 

(なるほど・・・考えれば考えるほど雄二がモテるのは必然だな・・・)

 

最初は半信半疑だったが今では納得している自分がいる。

そしてなぜか焦燥感にかられている。

 

(私は何を焦っているんだ?)

 

頭をぶんぶん振って気を落ち着けさせる。

 

 

「千冬?どうしたの急にヘッドバッドして。バンドでも始めんの?」

 

 

あずさが気になったのか聞いてきた。

 

 

「別に何でもない…。それよりもあずさ。がんばれよ。」

 

 

あずさの肩に手を置きがんばるよう伝える。

 

 

「う、うん!私頑張るよ!そうときまれば善は急げだね。私、きょ、今日告白する‼」

 

 

その言葉を聞いた瞬間胸を締め付けられたような気分になる。

 

 

「・・・・そうか。成功するといいな。」

 

 

その中で絞り出せた言葉はそれだけだった…

 

 

 

 

 

 

「ダメだった…」

 

 

次の日の朝にあずさにそういわれ、私は頭が真っ白になる。

まさかと思い聞いてみる。

 

 

「断られたのか?」

 

「・・・・うん…」

 

 

あずさほどの女子がなぜ?

私の頭は疑問でいっぱいだったが何故だか安堵している自分がいた。

そんな自分に腹が立つ。なぜそんなことを思う…

 

 

「好きな子がいるみたい…」

 

 

その言葉を聞いた瞬間再び私の胸は締め付けられる。

昨日の時よりもはるかに強い締め付け…

 

(あぁ、そうか・・・)

 

そしてなぜ締め付けられるのか、なぜ安堵していたのかがわかった。

 

 

(私はあいつのことが・・・・雄二のことが好きなのか…)

 

 

いつからかはわからない。

もしかしたら初めて喋った日かもしれないしそれより前の初めて見たときかもしれない。

それか、一緒にいるうちにいつの間にか…

 

それは分からなかったが自分が暮見雄二に好意を抱いているというのはわかった。

 

 

「そうか・・・」

 

 

それを理解した私にはそれしかいうことができなかった…

 

 

その日の帰り。今日は束がサボっているため、私と雄二は二人っきりで帰っていた。

 

私はボーっと隣を歩く雄二を見つめていた。

 

(私はこいつのことが好きなのか…)

 

そんなことをふと考えてしまう。

 

 

「ッ!?」

 

 

そんな時だった。私が躓いて転びそうになったのは。

いつもだったらあり得ないことだ。

 

 

「うおっと‼」

 

 

あともう少しで転ぶというところで雄二の手が私の体を抱いて止める。

 

 

「大丈夫ちーちゃん?めずらしいね転びかけるなんて。それに今日はずっとボーっとしてるし。なにかあった?」

 

「すまない・・・まぁ少し考え事をな…」(何をやっているんだ私はっ‼)

 

 

自分の不注意さに腹が立つ。そんな心境なのに雄二の手が私に触れていると思うとどうしようもなく鼓動が早くなる。単純すぎて恥ずかしくなる。

 

 

「そうなの?まぁ、気を付けてね。」

 

 

そういって雄二が私から手を放そうとした瞬間、

 

 

『好きな子がいるみたい…』

 

 

その言葉が脳裏に走り、思わず雄二の服の袖をつかんでいた。

 

 

「ちーちゃん?」

 

「お、お前はその・・・・す、好きなやつとかは・・・いるのか・・?」

 

 

誰が好きなのか聞いとくべきだと思った。というよりも聞かなければこの胸の締め付けがなくならないと思った。聞いて楽になりたかった。

 

 

「好きな人?恋愛相談かなにか受けたの?」

 

「いいからはやく答えろ!私はお前に聞いているんだ。」

 

 

思わず声が大きくなり、せかしてしまう。

はやく・・・・・はやく・・・・

 

 

「わ、わかったよ。え~っと、LOVEの方でしょ?それだったらいないけど。」

 

「はっ?」

 

 

久しぶりに私はこんな間抜けな声を出したと思う。

 

 

「し、しかしお前は好きな奴がいるからあずさの告白を断ったんじゃないのか!?」

 

「え!?なんで俺が告白されたの知ってるの?」

 

 

しまった・・・思わず言ってしまった…

 

 

「え~っと・・・それはだな・・・・」

 

「あっ!なるほど。そういえばちーちゃんは忍野さんと仲いいもんね。相談していてもおかしくないってことか。でもおかしいなぁ。俺は好きな子いるからなんて言って断ってないんだけど?」

 

 

ちょっと待て。それじゃあ辻褄が合わないではないか。

いやまてよ・・・まさか・・・・

 

 

「雄二。ちなみにお前はなんて言ったんだ?」

 

「えっ?確か『ゴメン。忍野さんはとても魅力的だけど今はそういう風に見れないんだ。今は他のことで頭がいっぱいだから。』だけど。」

 

「他のこととは?」

 

「そりゃあ、もちろんIS作成に修行に家事でしょ、あとは一夏と箒にも構ってやる時間だろ。あとはよく頼まれごとされるから時間がいくらあっても足りないんだ。」

 

「お前はそれをあずさにちゃんと言ったか?」

 

「・・・・・あっ!?そういうことか!」

 

 

はぁ~、結局いつもの勘違いだった。

 

 

「なんか迷惑かけちゃったみたいだね。ごめんちーちゃん。忍野さんには明日俺からちゃんと伝えようと思う。」

 

 

元凶のこいつは納得がいったのかすっきりした顔で謝ってきた。

 

 

「あぁ、本当に迷惑だった・・・ぞ‼」

 

「グヘァッ!?」

 

 

とりあえず雄二を殴り飛ばしておいた。その後は放置してさっさと帰宅する。

その足取りは軽やかで胸の締め付けもいつの間にか消えていた。




主人公がいつの間にか主人公していた件について。
そしてついにちーちゃんを開花。
おかしい・・・プロットにはこんな展開なかったはずだ・・・・
どうしてこうなった・・・・

そしてさらりと重要キャラでもないのに名前をもらった忍野あずさちゃん。
これでネームドは鈴木に続き二人目ですか…


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第二十二話 天才と天災

皆さん、久しぶりに束のターンですよ。

束「束さんのターン!」


「起きろ束。朝だぞ。」

 

「んぅ~?」

 

 

体を揺さぶられる感覚で目が覚めた。ねむい・・・・・

 

 

「やっと起きた・・・ほら、はやくどいてくれ。お前が上に乗ってちゃ動けん。」

 

「ふわぁ~。はいは~い。」

 

 

私はゴロンと寝返りをうち雄くんの上からどく。

 

 

「まったく、いつも言っているだろう?人の布団に入ってくるなって。」

 

 

そう、ここは私の部屋ではない。雄くんの部屋で雄くんの布団で寝ていた。

 

 

「うにゅぅ~、だって雄くんあったかくておちつくんだも~ん。」

 

 

私は再び布団にくるまり二度寝の体勢をとる。

 

 

「だも~ん、じゃねぇ・・・よっ!」

 

「ぶるわぁ!」

 

 

雄くんに勢いよく布団を取られて私はコマの要領で地面を転がされる。

そこで完全に目が覚めた。

 

 

「いったいなぁ~!レディーはもっと丁重に扱ってよ!」

 

「一人前のレディーならな?」

 

「束さんは一人前なのに。ブ~ブ~!」

 

「人の布団に入り込むような年頃の娘は一人前のレディーとして扱わん!」

 

 

それでもさっきのはひどいと思う。

 

 

「でも、さっきのはひどいと思うんだよ。」

 

「それは・・・悪かった。」

 

「うん、よろしい。」

 

 

素直に謝る雄くん。そういうとこが雄くんのいいとこの一つだと思う。

 

 

「でも、元はと言えば束が俺の部屋で寝てるのが原因だろ?」

 

「そうだけど、なんでそんなに嫌なのさ。こんな美少女と一緒に寝られるんだよ。」

 

「いや、それが問題なんだよ。束はすっごく可愛いから嬉しいんだけど、家族とはいえ俺も男だ。いつ無意識のうちに襲ってもおかしくないんだぞ。」

 

 

雄くんは私のことを大切にしてくれていることが改めてわかり、私はうれしくなった。

なのでもうちょいからかってみることにした。

 

 

「束さんは~雄くんにだったら襲われてもい・い・よ。」

 

「ッ!?」

 

 

雄くんの背中に抱き着いて耳元で囁く。

ビクッ!ってなる雄くんはとてもかわいい。

 

(どんな反応みせるのかな?)

 

私は雄くんの反応を楽しみに待つが

 

 

「・・・・」

 

 

雄くんはまるで石像のように何も言わないし、動かない。

 

 

「雄くん?」

 

「・・・・」

 

 

声をかけても反応が返ってこない。

 

(さすがにふざけすぎたのかな?)

 

そう思い、離れようとした瞬間

 

 

「キャッ!?」

 

「・・・・」

 

 

雄くんが急に動き出して私は両腕をつかまれ、そのまま布団の上に押し倒された。

 

 

「ゆ、雄くん?」

 

 

「・・・・」

 

 

いきなりのことで混乱する。

さらに雄くんに声をかけても反応はない。

 

 

「ど、どうしたの?」

 

 

「・・・・」

 

 

雄くんは何も答えてくれず、前髪がかかっていることで瞳は確認できずどんな表情をしているのかわからない。

 

(え!?なになに!?雄くんどうしちゃったの?何も答えてくれn痛ッ‼)

 

何が起こったのか考えていると両腕に痛みが走る。

雄くんが力を込めたのだろう。この体勢では何も抵抗できない。

 

 

「雄くん・・・・腕、痛いよ…」

 

 

「・・・・」

 

 

腕の痛さを訴えるが腕にかかっている力は依然変わらない。

いつもの雄くんならすぐに心配して謝ってくれるのに・・・

 

 

「ど、どうしちゃったのさ?怒ってるの?」

 

 

「・・・・」

 

 

やはり雄くんは何も答えてくれない。

 

 

「やっぱり怒ってるんでしょう?束さんが悪かったよ。謝るからさ、だから離して?ね?」

 

 

「・・・・」

 

 

雄くんはその言葉に反応せずゆっくりと顔を近づけてくる。

 

 

『襲ってもおかしくないんだぞ。』

 

 

思い出すのは先ほど雄くんが言っていた言葉。

ま、まさか・・・

 

 

「まさか束さんを襲うの?・・・・冗談でしょ?・・・・」

 

 

「・・・・」

 

 

返事など帰ってこない。

ただゆっくりと顔を近づけてくる。

 

 

「ゆ、雄くん!今回は束さんもおふざけがすぎたよ。ごめんね?」

 

 

「・・・・」

 

 

しかし雄くんはとまらない。

 

 

「雄くん!・・・・・雄くん!・・・・」

 

 

「・・・・」

 

 

「答えてよッ‼・・・・何とか言ってよッ‼」

 

 

私は大きな声で雄くんに呼びかけるが雄くんは何も言ってくれない。

 

そして顔はもうすぐ目の前まで迫ってきている。

 

 

「いや・・・・だよ・・・雄くん・・・」

 

 

「・・・・・」

 

 

自然と瞳に涙が浮かぶ。

 

 

お互いの唇が触れるまであと数センチ…

 

 

私は後悔していた。慢心していた自分を…

何をしても雄くんなら襲ったりなんかしないと思っていた。

しかし、現実はどうだ?今の雄くんは?

 

 

(私はまた・・・・・)

 

 

思い出されるは過去の記憶。

 

 

(勝手に決めつけてしまったんだね・・・・・)

 

 

自分の勝手な発言で怒り、傷ついた少年。

もうそんなこと繰り返さないと決めていたのに・・・・

 

彼はもう目の前だ。私はギュッと目をつぶってみないようにする。

そして・・・・

 

 

(ごめんね・・・雄くん…)

 

 

心の中で彼に謝る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な~んてな。」

 

 

そんな声とともに腕へかかっていた力はきえる。

もちろん唇にはなにも触れてない。

 

 

「ふぇ・・・?」

 

 

目を開けるといつもの雄くんがいた。

 

 

「これでわかっただろ。泣くほど怖いことされるんだって。」

 

 

雄くんにデコピンされる。額が少し痛い。

 

 

「これに懲りたらあんなこと男に二度とするなよ。」

 

 

雄くんが何か言っているが私はよく聞いていなかった。

 

(演技・・・だったの?つまりいつも通りの雄くんってこと?)

 

私は安心していた。自分が襲われなかったことではなく、彼が傷ついていないことに。

もしあれが本当だったなら雄くんはあとで後悔するだろうから。

 

(良かった・・・・よかったよ。)

 

それが分かった途端に涙がどんどん溢れてくる。

 

(あれ?とまらないや・・・)

 

ぽろぽろと涙がこぼれ落ちていく。

 

 

「ど、どうした!?そんな涙止まらないほど怖かったか!?ス、スマン!わかって欲しいからってやりすぎた。」

 

 

私の様子がおかしいと思ったのか雄くんが焦って近づいてくる。

 

(自分でやっておいてそんな謝るなんて、ほんとバカみたいに優しいんだから。)

 

私は近づいてきた雄くんに抱き着いて、ギュッと抱きしめる。

彼のあたたかさを確かめるように・・・これが夢じゃないかを確かめるために・・・

 

 

「束?」

 

 

抱き着かれていることが不思議なのか心配そうに私の名前を呼ぶ。

 

 

「大丈夫、だけどもう少しこのままでいさせて?」

 

 

雄くんは何も言わずに抱きしめていてくれた。

この無言は心地よかった。

 

 

 

 

 

 

時間は二時間ほど経ち9時頃。

 

私たちは少し遅めの朝食を食べていた。

今日は休日のはずだが他には誰も居間にはいない。

 

 

「みんなは?」

 

 

ごはんを口に運びながら雄くんに聞く。

 

 

「口に物入れて話すな。ていうか昨日聞いてなかったのか?」

 

 

はて?なんか言っていた気もする。

 

 

「はぁ~、聞いてなかったんだな…千春さんと柳韻さんは高校の時の人たちと同窓会。箒は雪子さんと動物園。で、俺達は留守番。ちなみに俺は今日は神社を任されているからISの方は手伝えない。すまんな。」

 

 

ごちそうさまでした。と、いつの間にか食べ終わって玄関に向かう雄くん。

 

 

「もう行くの~?」

 

「もう9時だしな。そろそろ始めないとやばいんだ。」

 

 

行ってきます。と、本殿のほうに雄くんは行ってしまった。

 

私も食べ終わり食器を片付ける。

 

 

「ごちそうさまでした。」

 

 

それから自室に戻りIS作成をする。

 

カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカt・・・・

 

 

「ねぇ雄くん。ここなんだけどさぁ~・・・・っていないんだった…」

 

 

忘れてた・・・今日は雄くんいないんだった・・・

いや~束さんったらうっかり~・・・・

 

 

「よし、気を取り直してやるぞ~。」

 

 

カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタk・・・・・カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカt・・・・・・

 

 

「う~ん、ダメだ~‼」

 

 

今朝のことがあったからか、なんかソワソワして集中できない…

雄くんがいないからだろうか…

 

 

「私、雄くんと一緒にやる前はどうやって一人で進めてたんだっけ・・・?」

 

 

雄くんと一緒にやるのが当たり前になりすぎて思い出せない。

しかし、このままやっても進まない・・・・

 

 

「よし!決めた‼」

 

 

引き出しを開けてうさ耳を装着する。

これは雄くんが小学四年生の時にくれたものでお気に入りのアイテムだ。

私は鏡でうさ耳の位置調節をしたら玄関に向かった。

 

 

「雄くーん!」

 

 

私は神社の掃除をしている雄くんに後ろから声をかける。

 

 

「ん?束か。どうしt・・・・!?」

 

 

ふっふっふ、驚いておる驚いておる。

雄くんは振り向いた状態で固まっている。

なぜなら私はいま・・・・

 

 

()()()(うさ耳)なのだー!

 

 

「どう?雄くん?似合っている?」

 

「あぁ、うん・・・・すっごい綺麗だ…」

 

 

はい!雄くんの見惚れ顔頂きました!

この顔が出たときは雄くんが見惚れている証拠です。

それが出たってことは

 

(に、似合ってるってことだよね?ね!)

 

やったぁ~!わざわざ巫女服に着替えただけのことはあったよ。

でもちょっと照れる。

 

 

「あっ!すまんすまん、ボーっとしてた。で、なにか用か?」

 

 

少しすると雄くんが正気を取り戻して聞いてくる。

 

 

「いやね、雄くんを手伝ってあげようと思ってさ。」

 

「いいのか?IS作成の方はどうすんだ?」

 

 

私が手伝うと言うと雄くんが少し驚いて聞いてくる。

 

 

「あ~、いいのいいの。今日はなんか気が乗らなくてさ。それに、巫女服着ちゃったしねぇ~。そ・れ・に~、雄くんも束さんの巫女服姿見ていたいでしょ?」

 

「・・・・・否定はしない。」

 

 

雄くんは恥ずかしいのかそっぽ向いて言う。

 

 

「えっ?今なんて言ったの?よく聞こえなかったなぁ。もう一回言ってよ。」(ゲス顔)

 

「・・・・別に何も言ってない…」

 

 

私がからかったのが気に入らないのか、雄くんは意地をはる。

ならば束さんもそれ相応の返しをしようではないか。

 

 

「そっか、雄くんは巫女服気に入らなかったかぁ~。じゃあ、着替えて来るね。」

 

「待て待て待て待て‼悪かった、俺が悪かった。似合ってるから。見ていたいから。だからそのまま一緒に仕事しようじゃないか。」

 

 

計画通り。雄くんは簡単に引っかかった。

それにしても食いつきが良かった。

 

(巫女服か・・・使えるッ!)

 

そんなことを思いながらその日は神社の仕事を二人でこなした。

 

 

その日の夜、ちーちゃん写真対決で私は敗北を喫するのだった…




待望の束のヒロイン回でした。
お楽しみいただけたでしょうか?
作者は束のヒロイン回かけて満足です。


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第二十三話 最強決定戦

今回は主人公が全枠つかっての登場です。


おいっす、俺の名前は暮見雄二。よかったら覚えていってくれ。

 

そんな俺は今修行中です。

 

 

「なぁ~雄二兄ちゃんまだ終わんないのかよー。早く教えてくれよ。」

 

「まぁ、待ってろ。すぐ終わらせるから。」

 

 

ただいま素振り中でこれが終わったら一夏と箒の練習をみてやる約束をしている。

 

 

「おい一夏‼兄さんを困らせるんじゃない。それに終わったら先に見てもらうのは私だぞ。」

 

「はぁ?俺は兄ちゃんが困るようなこと言ってないし、先に見てもらうのは俺だ!」

 

 

はぁ~、また始まった…

箒と一夏はあまり仲が良くなく、練習するといつもこれだ。

二人の姉は仲いいのにこいつらが仲悪いのは意外だった。

 

 

「こら!お前ら喧嘩すんな。二人とも同時に見てやるから・・・」

 

「「ほんとに?」」

 

 

二人が同時にこちらを見る。なんでこういう時は息ぴったりなんだか…

実は仲が良いのでは?・・・・ないな。

 

 

「ほんとほんと。俺が嘘ついたことあるか?」

 

「たくさんある。」「いっぱいある。」

 

 

やっぱ仲良しだろこいつら…

というかいつもふざけてる弊害がこんなとこにでてくるのか…

 

 

「あーじゃあ、あれだあれ。今日は嘘つかないDayだからほんとだ。」

 

「「やったー!」」

 

 

なんで俺に見てもらうだけでこんなに喜ぶのかね?

柳韻さんよりはぬるい教え方だけどさ、お前らは地獄メニューじゃないだろ。

まぁ、前向きに好かれているって思っとこ。

 

9999・10000・‼

 

よし、終わり。

 

 

「じゃ、はじめっか。」

 

 

オー!と威勢の良い返事をしながら俺についてくる。

まったく、可愛い奴らめ。

 

 

「「ハァ~ハァ~ハァ~・・・・」」

 

「ま、こんなもんだな。二人とも休憩してこい。5分後再開な。」

 

 

二人を休憩させたところでちーちゃんが来た。

 

 

「どうだ、調子は。」

 

「二人ともなかなかいい調子だよ。特に一夏は始めたばっかなのに箒に食らいついていっているよ。もしかしたら箒を超すかも。」

 

 

箒には同年代でライバルになる子がいなかったのでありがたい。

 

 

「そうか、お前がそういうなら安心だ。」

 

「信頼してくれてるのは嬉しいんだけどさ、俺よりちーちゃんの方が強いんだからちーちゃんが直接教えてやれば?」

 

 

ふと思ったことを聞いてみる。

ちーちゃんは真面目だし、人を動かすカリスマ性のようなものを持っている。

先生はぴったりだと思うんだけどな。

 

 

「基本は教えてやれるんだが・・・・それ以上となるとな…。お前も知っているだろう?」

 

「あっ!?そうだった…ちーちゃんの教え方って・・・・」

 

 

忘れていた・・・・ちーちゃんは天才型だから教え方が独特だった。

どんな教え方かといったら『シュバッとやってズドンだ。』的な感じ。

 

 

「いや~俺的には理解できてたから忘れてたわ~。ていうか一夏をだいぶ鍛えるつもりなんだね。」

 

「少なくとも軟弱にするつもりはない。」

 

 

うわぁ、一夏の修行で苦しむ姿が容易に想像できる…

今はまだ練習だから優しくしてやろうと思った。

 

 

「兄さん。再開しましょう。」

 

 

箒と一夏が来て催促してくる。もう五分か。ちーちゃんと話してるとすぐ時間がたつな。

 

 

「そういえば、雄二兄ちゃん。」

 

「ん?なんだ一夏。」

 

「雄二兄ちゃんと千冬姉はどっちが強いんだ?やっぱり千冬姉?」

 

 

一夏が俺たち二人を見て聞いてくる。

そういえば一夏が来てからちーちゃんと一回も試合してなかったな。

知らないのも当然か。

 

 

「そりゃあ、もちろんt「に、兄さんに決まっているだろう!」・・・」

 

 

箒・・・何を言っているんだ…

お前も知っているだろう?

 

 

「ほんとかよ?千冬姉はちょー強いんだぞ!」

 

「ほんとだ!兄さんはちょーーー強くて私の自慢の兄さんだ。そんな兄さんが負けるはずないんだ。ね?兄さん。」

 

 

箒が期待を込めた目線で見てくる。

箒・・・お前はそんなに俺のことを思っていてくれたのか。

 

 

「もちろんだ。強いのは俺だ。」

 

 

それに答えずして何が兄か‼

ちーちゃんもここは俺の顔を立ててくれることだろう。

ちーちゃんも『貸し一だぞ?』と目線で伝えてくる。キャーちーちゃんイケメーン!

 

 

「そう、強いのはy「嘘だよな、千冬姉!」当たり前だろう。雄二が最強?違う!私が最強だ!」

 

 

一夏が泣きそうな顔でちーちゃんを見つめるもんだからちーちゃんもスイッチが入ってしまった。

これはまずい。しかし箒のためにも引くわけにはいかない。

 

 

「おいおいちーちゃん、冗談もその大きい胸だけにしてくれ。」

 

 

やっべ、焦って変な挑発してしまった…。し、しょうがないんだ。ちーちゃんのおっぱい大きいんだもん!

 

 

「ほーう、面白いこと言うではないか。最強の称号を持つ物は二人もいらない。死合いしようではないか。」

 

 

ちょー怒ってる…。しかも今なんか試合の文字がおかしかったような・・・

もう引き下がれない・・・・下がったら死ぬっ!

 

 

「受けてたとうじゃないか。もし俺が負けたら言うこと一つ聞いてあげるよ。その代わり俺が勝ったら一日メイド姿で俺に奉仕してもらおう‼」

 

「ッ!?・・・いいだろう。その条件飲んでやる。後悔するなよ?」

 

 

ここまで来たらやけだった。絶対に負けられないプレッシャーと勝った時のご褒美を同時に用意することによって限界以上のパワーを引き出す作戦だ。

 

こんぐらい必至になんないとちーちゃんには勝てない。ちーちゃんも負けられないのは同じだが俺は欲望駄々洩れの願いによって次元の違う強さを得て見せる‼

 

 

準備を終え、俺たちは向かい合う。

 

ちーちゃんが持つのは一本の木刀。それ一本のみだ。

対する俺が持つのは木刀を短くした短刀だ。それを両手に二本持つ。

 

 

「さぁ、始めようか。箒、開始の合図を頼む。」

 

「は、はい!・・・それでは・・・」

 

 

お互いに構えをとり、その時に備える。

 

 

「始め!」

 

ドンッ‼ 

 

 

開始早々床が壊れるんじゃないかと思うほど大きな音を立てながらお互い接近する。

そして一秒立たないうちにお互いの得物が激突する。

ちーちゃんの木刀を右の短刀で防ぎ左の短刀で攻撃する。

しかしそれを通すほど甘い相手ではなく木刀をうまく使い防がれる。

 

短刀では木刀の攻撃を殺しきることは難しいためいったん距離をとる。

ちーちゃんもまた下手に距離を詰めてこない。短刀の連続攻撃を警戒しているのだろう。

 

 

(まったく、一本で二本防ぐとかどういう技術だよ…)

 

 

ちーちゃんの技術に舌を巻く。俺だってできないわけじゃないが自分クラスの奴のは捌く自信はない。

彼女はそれを行える。こと剣の扱いにおいて彼女の右に出る者はいない。(柳韻さんは除く)

 

 

(さてとどうするか。)

 

 

短刀を手首でくるくる回しながら考える。

一撃の理は相手、手数の理は自分。しかし、自分の間合いにするには相手の間合いを潜り抜けなければならない。

 

 

(防御重点をおいた速攻。これしかないな。)

 

 

回していた短刀を逆手で持つ。それをみて仕掛けることがわかったのかちーちゃんからのプレッシャーが増す。

しかし、その程度で尻込みしているようじゃ勝てない。構わず突っ込む。

 

 

相手の間合いに入った。その瞬間目の前に迫っている攻撃。短刀を使ってうまく流す。

しかし予測されていたのか流れるような二撃目が来る。しかしこちらもそれは織り込み済み。

問題なくいなす。しかし・・・・

 

 

(そう簡単に間合いを詰められねぇ…)

 

 

こちらの足を止めさせるように繰り出される攻撃。防ぐのは難しくないが攻めるのが難しい。

一度距離を離して仕切り直す。

 

 

(こいつは攻略に時間がかかるな。)

 

 

10分が経過したがまだ戦局は変わっていない依然俺は間合いに入れずに防御している。

 

 

(こうも防御ばかりの試合ってのは最初の時を思い出すな。)

 

 

牽制の攻撃をし、距離をとりながらそんなことを思う。

思い出される自身の初めての試合。

防御メインの試合というのは共通しているがあの時と違い、自分は攻めた防御をしている。

矛盾しているが実際そうなのだからそうとしか言いようがない

 

 

(さて、いろいろ試してみたがいまいち効果が出ない。)

 

 

緩急をつけた接近、短刀の持ち替えによる軌道の変化、足技を入れた攻撃 etc…

様々なことをしたが間合いを詰めるに至ってない。

 

 

(一番惜しかったのが蹴りを出したときだったな…)

 

 

蹴りには一瞬反応が遅れたがうまくカバーされてしまった。

 

 

(やっぱあの時みたいに意表を突くしかないな。)

 

 

彼女から意表を突く・・・・それは並大抵のことじゃできない。

しかし、できないわけじゃなかった。一つだけ作戦がある。

これによって勝敗が決まるだろう。そのため、タイミングが重要だ。

俺はその時を待った。

 

 

ちーちゃんの猛攻を防ぎ続けているとついにそれを行えるチャンスが来た。

 

 

(今だッ‼)

 

 

距離を離す瞬間、上の道着を脱ぎ去り間に投げる。これによって数瞬俺の動きを見れない。

同時に距離をとっていた俺はそこから下がって警戒するであろう相手に向けて己の得物を投擲する。

俺の放った二本の短刀は道着を突き破り相手に襲い掛かる。相手からは道着で見えなかったため対処は難しいだろう。

 

カンカンッ!

 

はじかれた音が俺の耳もとに届くがそれも想定内。すでに俺は横合いから接近している。

それにちーちゃんも気づくがもう遅い。道着によって遮られた相手からの二本の短刀の不意打ちですら防ぐちーちゃんだが更なる不意打ちは防げまい。

 

 

(終わりだッ!)

 

 

俺は掌底を打ち込みに入る。すでに俺の間合いであり、防御も回避も不可能。

 

 

ズドンッ!

 

 

鈍い音が鳴る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしそれは俺の掌底による音ではなく、最速の一撃が俺の腹に入った音だった…

 

 

あのタイミングでは攻撃は決して間に合わない。ではなぜ間に合ったのか?

答えは、線ではなく点だったからだ。点の攻撃、すなわち突きである。

彼女の最速の一撃が俺の掌底の速度を上回った。

それだけのことだった…

 

 

俺の体は前方に倒れていく・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドンッ‼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時さらに鈍い音が鳴る。

 

 

「な・・・にぃ・・・!?」

 

 

驚愕と苦痛の声をあげながらちーちゃんが崩れ落ち、気を失う。

なぜちーちゃんが崩れ落ちるのか?その答えは簡単だ。

 

 

()()掌底を打ち込んだからだ。

 

 

あの突きを食らって反撃するのは不可能だ。それは俺だって例外じゃない。

しかし俺はそれを食らって反撃し、今この場に立っている。

 

 

「俺の・・・勝ちだな・・・・」

 

 

それだけ言うと俺はその場に倒れて気絶した。

 

 

 

 

 

 

「いっつ!?」

 

 

腹部の痛みで目が覚める。

どうやら道場の端の方で寝かされていたらしい。

外を見るとすでに夕方だった。上着も新しいのが着せられている

 

 

「起きたか。」

 

 

声のした方を見るとちーちゃんがいた。

 

 

「まったく、勝ったお前の方が起きるのが遅いとはおかしな話だな。」

 

 

そういってちーちゃんは笑う。聞けばちーちゃんは数分したら目を覚ましたが俺は一時間近く気を失っていたらしい。まったくもってちーちゃんの言う通りだった。

 

 

「で、あれはどういうことだ?」

 

 

しばらくしてちーちゃんが真剣な顔で聞いてくる。

あれというのはおそらく最後についてだろう。

 

 

「どうして攻撃できたかってこと?」

 

「そうだ。あの突きは私の全力だった。いくらお前が頑丈だといっても反撃は不可能だったはず。」

 

 

ごもっともな疑問だと思う。俺がちーちゃんの立場でも一番に疑問に思う。

 

 

「そう、不可能だった。だからそこに俺はかけたんだ。ちーちゃんに勝つためには俺の実力じゃあ意表を突くぐらいでしか勝てない。道着も短刀も間合いに入れたことさえもすべては囮でちーちゃんのその一撃を出させることが目的だった。」

 

「あえて打たせたと言うのか!?いや、待て!どうやってあれを耐えた!?」

 

 

ちーちゃんに攻撃させるのが俺の作戦だった。それを聞いたちーちゃんはとても驚いている。

それはそうだろう、耐えるのが不可能な攻撃に耐えることが前提なのだから。

 

 

「それはねこういうことだよ。」

 

 

俺はちーちゃんの手を取って俺の腹部に触らせる。セ、セクハラじゃないよ!?

 

 

「これは・・・・異常な硬さだ・・・!?」

 

 

ちーちゃんは俺の腹部に触れて驚く。もちろん何か詰め物をしているわけじゃない。

 

 

「そうこれが俺が耐えられた答え。俺は筋肉を収縮させることによって防御力を上げた。」

 

 

これはどこかのマンガで見た技で研究していたのだ。不完全なため本来なら実践に使えるような技ではないのだがあらかじめ来ると分かっていればギリギリ使える。

今回俺はこれを使ってちーちゃんの突きをギリギリ耐えきった。

 

 

「お前は本当に馬鹿げたことばかりするな…そんなこと普通出来ないし、やろうとも思わんぞ。」

 

 

ちーちゃんが普通とか言うの!?しかも呆れられてるし。

やってみたらできたんだからしょうがないじゃん。

 

 

「まぁ、今回はだいぶ無茶したけどね。」

 

 

今回は箒の為にも絶対に勝ちたかった。だから普段やらないような危険なこともしたし、不完全な技も使った。

一歩間違えれば大けがしていたかもしれない。

 

 

「そうだ、お前は無茶なことを平気でやりすぎる。今のも聞けば聞くほど危ないではないか…」

 

 

ちーちゃんに叱られる。

 

 

「まぁ、でも今回はちーちゃんの技量信じてたし、得物も木刀だったかr「そういう問題ではない‼」ッ!?」

 

 

余りに大きな声でビックリした。ちーちゃんがここまで叫ぶのは珍しい。

 

 

「そういう問題ではないんだ・・・・私はお前になにかあったら・・・・・」

 

 

しかし今度は消えてしまいそうなんじゃないかと思うほど小さい声だった…

そして、話しているちーちゃんの顔はとても悲痛なもので体も震えていた。

本気で心配してくれてるのだ…

 

 

「ごめん・・・」

 

 

自分のせいで目の前の女の子が悲しい顔をしている。

そう思うと自分がいかに馬鹿なことしたのかがわかり、許せなくなる。

 

 

「二度と今みたいな馬鹿はしないでくれ…」

 

 

ちーちゃんは震える声で俺に言う。

 

 

「わかった・・・もう二度としない。」

 

 

俺はちーちゃんの手を取って誓う。

 

 

「俺は君や心配してくれる人が悲しむような無茶は絶対にしない。だけど・・・・俺は気が付かないうちに無茶するかもしれない。そんなときは君が俺の無茶を止めてくれないか?」

 

 

俺一人では気が付かないうちに無茶をして皆を悲しませるかもしれない。

だけどこの子ならばそれに気づいて止めてくれる。

ずるくて情けないけどそれで皆が悲しまないならそれが一番だと思う。

 

 

「ダメ・・・かな・・・?」

 

「___ろう・・・」

 

「えっ?」

 

「いいだろうと言ったんだ。その代わり私に頼んだからには覚悟しろ。どんなことをしてでも止めてやる‼骨の一本や二本は覚悟しろ。」

 

 

快く俺のお願いを聞いてくれた。

その顔はとても晴れ晴れしく、いつものちーちゃんの笑顔だった。

 

 

「ハハハ・・・お手柔らかに頼むよ。」

 

 

俺はこの笑顔を守れるように頑張ろうと思った。




今回は戦闘回でした。皆さんも実力が気になっていたのでは?
我らが主人公も結構強くなっていますのでご安心ください。


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第二十四話 崩れさる日常

お気に入り登録150件突破しました。
皆様ありがとうございます。


「ついにここまで来たんだね・・・」

 

「あぁ、ついにここまで来たんだ・・・」

 

「やっとか・・・・まさかお前たち二人でもこんなにかかるとはな・・・」

 

 

束、俺、ちーちゃんはあるものを目の前に話していた。

薄々気が付いていると思うが

 

 

「【インフィニット・ストラトス】、通称【IS】。ついに完成だよ。」

 

 

束が最後のパーツをつけながら言う。

 

そう、ついにISが完成したのだ。

 

 

「ここまで来るのにずいぶん時間をかけたな。俺達もう17になるぞ。」

 

「何度もプログラム書き換え直したからねぇ~。」

 

 

何度も試行錯誤し、ISはやっと完成した。

俺達はもう17歳になり高校二年だ。

 

 

「まったくだ。お前たちが納得いくまでデータを取らされたこちらの身にもなれ。」

 

「いや~その節は迷惑かけたね~。」

 

 

ちーちゃんはそういいながらもどこか嬉しそうだ。

ISはちーちゃんに協力してもらった運動データなどをもとに設計されているため、理論上ちーちゃんほどの人類最高峰の人が全力で扱ってもいいようになっている。

 

 

「まぁまぁ、苦労話はあとにしてさっそく動かしていこうよ。」

 

 

束の言うことはもっともである。動かなければまたやり直さないといけない。

 

 

「それもそうだな。じゃあ、ちーちゃん。頼むわ。」

 

 

ちーちゃんはいわゆるテストパイロットだ。

俺と束はデータのチェックなどの関係でモニタリングである。

 

 

「では、いくぞ・・・・」

 

 

ちーちゃんがゆっくりとISに手を伸ばす。

緊張のひと時だ…

 

(頼む!動いてくれ!)

 

俺と束は祈るように見つめる。

そしてちーちゃんが触れた瞬間・・・

 

 

『インフィニット・ストラトス起動開始します。』

 

 

機械音声が流れ、起動の成功を告げる。

しかしまだ喜ぶことはできない。

 

 

「ちーちゃん、そのまま装着してくれ。」

 

 

次は装着による不具合がないかだ。

ちーちゃんは俺の指示どうりISを装着を開始する。ISが自動でちーちゃんに装着される。

そしてISは装着者に合わせて自動フィッティングされるためサイズの問題もない。

 

 

「装着完了。バイタルオールグリーン。束、そっちはどうだ。」

 

「こっちも問題なし。ちーちゃん、数値上安定してるけどどう?」

 

「こちらも問題ない。」

 

 

手を閉じたり開いたりしてそういうちーちゃん。

よし、第二段階クリア。

 

次の段階に進む。

 

 

「次の飛行テストでラストだ。頼むよ、ちーちゃん。」

 

「任せておけ。」

 

 

ここまでは全て問題なかったがこの最後の飛行テストが一番重要だといっても過言ではない。

これが成功しなければISは翼へとなりえないからだ。

 

(ここまで問題なくやれた。大丈夫、大丈夫だ。)

 

言い聞かせるように心の中で大丈夫と繰り返す。

束を見ると不安なんかないといった表情だ。

 

そしてそんな束が正しいと言わんばかりにちーちゃんは悠々と飛び上がる。

空中で一旦静止し、再び空を飛び始める。

数値も何も問題はなく、俺の杞憂に終わった。

 

 

「やったね・・・雄くん」

 

「あぁ、俺達やったんだ・・・・束」

 

 

二人で空を飛ぶちーちゃんとISを見てしみじみと話す。

空を飛ぶちーちゃんの姿はまるで妖精が踊っているようだった。

 

 

 

 

 

 

「ちーちゃん、そろそろ降りてきて。」

 

『わかった。』

 

 

そういうとちーちゃんが下りてきた。

これですべての動作確認を終え、ISが完成した。

 

 

「どうだった!?ちーちゃん、ISの乗り心地は?」

 

 

私は気になっていることを聞いてみた。

 

 

「とてもよかったよ。まるで本当に翼があるんじゃないかと思った。」

 

 

ちーちゃんの顔はとても晴れやかで満足そうな顔をしていた。

これは私も早く乗りたい!テストも終わったから私も乗ることができる。

 

 

「雄くん、雄くん!」

 

「わかってる。乗りたいんだろう?俺がモニタリングしとくから思う存分乗れ。」

 

 

さすが雄くん。みなまで言わずともわかってくれる。

 

 

「やったー!愛してるぜ~雄くん。」

 

「はいはい、いいからはよ乗れ。」

 

 

私はISを装着し、すぐさま飛ぶ。

視界に広がる街並みや自然。いつもの目線では絶対に見られない風景。

それをカメラなどそういったものを通してでなく、私の肉眼で見ている。

そのことが何よりうれしかった。

 

 

「♪~~~~」

 

 

鼻歌を歌いながら空を飛ぶ。頬にあたる風が心地よく、私の髪がなびく。

全身を使って喜びを表現する。それはまるでこのISと踊っているような感覚だった。

 

 

『束、そろそろ降りてこい。』

 

「ん~、わかった~。」

 

 

雄くんから通信が来る。

名残惜しいが下に降りる。

 

 

「おかえり、束。」

 

「ただいま、雄くん。」

 

 

優しく出迎えてくれる雄くん。わたしもそれに答えるよう返事をする。

 

 

「私の時はそんなこと言わなかったな・・・・」

 

 

ちーちゃんが少し不機嫌そうに言う。

ちょっと不機嫌なちーちゃんも可愛い。

 

 

「あ、いや、その・・・・さっきは成功に舞い上がっちゃって・・・・申し訳ない。」

 

 

雄くんが申し訳そうに言うが、ちーちゃんの機嫌は直らない。

 

 

「つまり私の心配など二の次でISのことが一番なのだな。」

 

「そ、そんなことないさ。」

 

 

フンッっといじけるちーちゃんに弁解しようと近づいてく雄くん。

いじけるちーちゃんも可愛い。

 

 

「俺はちーちゃんのことすっごく大事に思っているし、テストパイロット引き受けてくれたちーちゃんには感謝でいっぱいだ。ほんとなんだ!信じてくれちーちゃん!」

 

「!?」

 

 

ちーちゃんの手をとってぐっと近づいて力説する雄くん。

あ~、近い近い。顔が近すぎだよ雄くん。

ちーちゃん顔を真っ赤にしてるし…

 

 

「わわわ、わかったから離れろ・・・その・・・・顔が近い…」

 

「えっ?・・・あっ!ごめん。嫌だったよねごめん。」

 

「別にそういうわけでは・・・」

 

「えっ?何?」

 

「なんでもないわこのたわけ!?早く離れろ‼」

 

「グヘッ!?」

 

 

そして殴られる雄くん。うん、いつもの流れだ。

そして申し訳なさと恥ずかしさからちーちゃんは走って帰ってしまった。

 

(しっかし、いつになったらちーちゃんは素直になるのかねぇ?)

 

まぁ、そんなちーちゃんも可愛いので問題ない。

 

 

「お~い、雄く~ん。生きてる~?」

 

「な、なんとか・・・」

 

 

雄くんをつんつんしながら生存確認。いつか当たり所悪くて死ぬんじゃないかな?

 

 

「イタタタタ・・・・」

 

 

頬を抑えながら立ち上がる雄くん。

うん、やっぱり頑丈だな雄くんは。心配いらないや。

あっ!それはそうと

 

 

「雄くんはIS乗らないの?」

 

「そうだった!乗ろうと思ってたんだ。なのになんで殴られるかな・・・」

 

 

私が質問すると思い出したかのように言う。どうやら殴られて忘れていたようだ。

 

 

「じゃあ、束。モニタリング頼む。」

 

「オッケー。」

 

「いや~俺もついに乗れんのか。空飛ぶの楽しみだな~。」

 

 

そんなこと言いながらISにぺたりと触る雄くん。

 

 

『・・・・・・・』

 

 

しかしISは何も反応しない。

 

 

「あれ?反応しない。触るとこが悪かったのか?」

 

ペタ

 

『・・・・・・・』

 

ペタ

 

『・・・・・・・』

 

 

何度か触っても反応しない。

不具合だろうか?しかしモニターを見る限り正常だ。

 

「束、エネルギー切れてる?」

 

「いや、ちゃんと十分な量が残ってるよ。」

 

 

こちらのモニターではなにも不具合は起きてないし、エネルギーもまだある。

 

(どういうこと?)

 

私は何が起こっているのかISに触れて確認しようとする。

 

 

『________』

 

 

私が触れた瞬間ISは起動した。

 

 

「あれ?起動したな。さっきは調子悪かったのか?」

 

ペタ

 

『・・・・・・・』

 

 

雄くんが再び触れるが無反応。

 

私が触れる   反応

雄くんが触れる 無反応

私が触れる   反応

雄くんが触れる 無反応

私が触れる   反応

雄くんが触れる 無反応

    ・

    ・

    ・

 

 

「「・・・・・」」

 

「なぁ、まさか・・・」

 

「そのまさかかも・・・」

 

「俺にはISを起動できない?」

 

「たぶん・・・」

 

 

さっきの結果を見る限りそうだ。

しかしなぜ雄くんには起動できないのだ?

そんなプログラミングした覚えはない。

 

 

「な、なんでだ‼なんで三人の中で俺だけ反応しない!?」

 

 

雄くんがパニくるのも仕方がない。私も混乱する。

ん?・・・・()()()()()

 

雄くんの言葉は正しいこの三人中で雄くんだけが動かせない。

つまり私たちと雄くんで何か決定的に違うものがある。

私とちーちゃんと雄くん。動かせた者と動かせない者の違いはなんだ?

 

・・・・・・・・・・・・!?

 

 

「まさか・・・!?」

 

 

雄くんから驚きの声が上がる。どうやら雄くんも思い当たったらしい決定的な違いに。

 

 

「「女性にしか起動できない・・・・」」

 

 

それが私たちの出した答えだった。

 

 

「お前もそう思ったか束。しかしなぜそう思った?お前の意見が聞きたい」

 

 

雄くんに言われ、私は自分の考えをはなす。

 

 

「まず私はIS側の不調によるものだと考えていたけど私が起動できるからそれは違う。その次に考えたのが装着者の方に問題があるのではないかだった。起動できなかったのは試した中で雄くんのみ。」

 

「つまり、俺とお前らでは何かが違う。それも決定的な何かがな。」

 

「そう、そしてそれを考えた。戦闘力、身長、体重、IQ、その他いろいろ考えたがしっくりこなかったし、何よりそれは個人的差で決定的とは言えない。そこで私たちの能力で比べるのでなく私たちの人間としての違いを考え、出た答えが・・・」

 

「男性と女性という最も分かりやすい違い・・・だな。俺も同じ考えだ。」

 

 

どうやら雄くんも全く同じ考えらしい。

 

 

「じゃあ、とりあえずその線で調査していこう。」

 

「そうだね。」

 

 

その後、調査した結果私たちの考えは正しかった。

しかし、なぜ女性にしか動かせないのかは調べたが私たちにも原因不明だった。

 

 

 

 

 

 

「で、何とかなりそうなのか?」

 

「ん~、無理っぽいからこのまま発表することになった。」

 

 

家事の手伝いをしながらちーちゃんの質問に答える。

結局ISがなぜ女性だけにしか起動できないのかはわからなかった。

 

 

「いいのか?」

 

 

ちーちゃんは心配そうに聞いてくる。まぁ、もっともな疑問だ。

 

 

「まぁ、調べた結果それ以外はすべて正常でむしろいい数値が出ているから問題はないと思うよ。それにISは女性だけにしか使えない点を考慮しても素晴らしいものだよ。これが採用されれば宇宙開発は大きく進むし、女性の宇宙職進出の後押しにもなっていいと思うんだ。今のところ宇宙に行ける女性は少ないしね。」

 

「なるほど。」

 

 

だから俺はあまり心配していない。

それに・・・

 

 

「それに今は原因不明だけど少しずつ調べていけばきっと改善できると思うから。まぁ、気長にやっていくよ。」

 

「それもそうか。」

 

 

ちーちゃんも納得してくれたようでよかった。

これであとは発表するだけである。

 

 

 

 

 

 

「う~ん、いまいち食いつきが悪いな…」

 

「・・・・・」

 

 

俺達はISの発表会を行ったのだがいまいち反応が良くなかった。

一番の原因はやはり女性にしか動かせないというところだった。

 

 

「やっぱり女性だけってのがネックか…。それを差し引いても十分使えると思うんだけどな?配布資料が分かりにくかったのかな?どう思う、束。」

 

「・・・・・・」

 

 

束が反応しない。いつもは元気よく返事を返してくれるのに今は嘘みたいに静かだ。

 

 

「束?」

 

「・・・・」

 

 

心配になって名前を呼んだが反応がない。具合でも悪いのだろうか?

 

 

「おい、束!大丈夫か!」

 

「・・・・えっ?何?雄くん。」

 

 

揺さぶってようやく返事をした。

 

 

「大丈夫か?ボーっとしてたけど、具合でも悪いのか?」

 

「いや、ちょっと考え事してただけだから大丈夫。全然元気だよ。」

 

 

そういう束はいつも通りだった。なんだ、考え事か。

 

 

「で?何の話だっけ?」

 

「資料とかの見直しするかって話。もっとわかりやすく作んないと伝わんないっぽい。」

 

 

束も反応したので話を戻す。

 

 

「それだったらさ、束さんにすっごくいい考えがあるんだけど!」

 

「どんなだ?」

 

 

束のあまりのハイテンションさに期待が膨らむ。

 

 

「あいつらにいくら口で言ってもわかんないから、実際にISのすごさを見してやるんだよ!」

 

 

束の言うことはもっともだ。しかし・・・

 

 

「実績がない以上、大規模なデモンストレーションは国から許可が下りないと思うぞ。小規模なのをやっても逆効果になる可能性もでかい。それにISは宇宙で使うものだから地上ではたいしたパフォーマンスできないと思うぞ?」

 

 

いろいろと問題があるのだ。ISの性能を見せるのならそれ相応の場が必要だ。

 

 

「その点に関しては任せて!束さんがいいこと考えたから。次の発表は束さんに任せてよ。」

 

 

束が珍しくすごいやる気だ。きっといいアイデアが浮かんでいるのだろう。

任せても大丈夫そうだ。

 

 

「じゃあ、任せる。ちなみにどんなアイデアだ?」

 

「それはねぇ~、ひ・み・つ。見てからのお楽しみ。雄くんも絶対驚くよ!」

 

 

むむ、秘密ときたか。こういうとき束は絶対教えてくれないため、待つしかない。

 

 

「まぁ、ISはあくまで束の発明であるし、作成者にも束の名前しか載せていないから俺が口を出すことではないか。楽しみに待っているよ。」

 

 

発表会でも作成者は束だけと発表した。これは俺が望んだことだ。

ISは束の夢であり、翼だ。俺はあくまで手伝いで、これを作り上げたのは束自身だからだ。

 

 

「ふっふっふ、期待してていいよ。」

 

 

俺はその言葉通り期待して待つことにした。

しかしその選択は間違いであったことを俺はあとで知ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

前回の発表会から一か月ほど経った。

まだ束は発表会をしていない。ISの性能をみせるための大掛かりなものでも用意しているのだろう。昨日聞いた時には近々見れると言っていた。

 

それを楽しみにしつつ、今は買い物帰りだ。

そんなとき・・・・

 

 

 

 

 

 

『緊急ニュースです‼日本を射程距離内とするミサイルの配備されたすべての軍事基地のコンピュータが一斉にハッキングされ、2341発以上のミサイルが日本へ向けて発射されました‼繰り返します。日本を射程距離内とするミサイルの配備されたすべての軍事基地のコンピュータが一斉にハッキングされ、2341発以上のミサイルが日本へ向けて発射されました‼』

 

 

 

 

とんでもないニュースが流れた。

 

(軍事基地を同時にハック!?そんなことできんのは・・・・)

 

昨日言っていた近々見れるという発言。

ISの性能を見せつけるといった発言。

そしてミサイルの脅威にさらされている日本。

 

(まさか・・・!?)

 

俺は急いで家へと向かう。しかし、普通の道は皆がパニックになっているため使えない。

そのため民家の屋根を走りながら思考をめぐらす。

 

(確かにISはデブリ処理などもできるように設計されているし、性能的に理論上ミサイルも容易に破壊可能だ。)

 

しかし・・・・

 

(なぜこんなことをしたっ!?そんなことをすればISは・・・・)

 

最悪の想像が頭をよぎり、俺はさらに飛ばした。

 

 

遅かった・・・・

俺が家に着くころにはフルフェイス型のISをまとったちーちゃんが出撃していた。

止めようかとも思ったがすでにミサイルは発射されており、IS以外ではどうすることもできない状況だった。

 

俺はISがミサイルをすべて破壊していくのを見ているしかできなかった…

 

(クソッ‼あれさえ完成していればッ‼)

 

俺が作っているガイアメモリ。それさえあれば今からでもなんとかできたかもしれない。

しかし、あれはまだ未完成なのである。

 

しかし、ないものねだりをしても状況は変わらない。

 

少しでも状況を良くするために俺は束のもとに急いだ。

 

 

「束‼」

 

「あっ!雄くんおかえり~。見てた?驚いたでしょ~?」

 

俺が急いで部屋に入ると束はいつもと変わらない様子で俺に聞いてくる。

その顔はほめてほしい無邪気な子供の顔だった。

 

 

「どうして・・・どうしてこんなことしたんだ・・・・?」

 

「どうしてって、ISの力を見せるためだけど?もしかして気に入らなかった?」

 

 

束はなんてことないって顔で告げる。

違う、俺が聞きたいのは・・・

 

 

「どうしてこんな方法をとったんだ‼」

 

 

なぜこんな方法にしたのかが聞きたかった。

 

 

「ど、どうしたの雄くん。急に大きな声上げて…」

 

「いいから答えろ!」

 

 

思わず怒鳴ってしまう。束はそんな俺に困惑しながらも話し始める。

 

 

「だってこうすれば手っ取り早いでしょ?ISの性能を多くの奴に見せつけられるんだから。絶対皆認めるよ。私たちのISはすごいんだって!」

 

 

束は本気でそう思っているようだった。

しかし今回のは本来の使い方じゃない。

皆は宇宙開発用のマルチフォーム・スーツなんて面は見てくれない。

今回で兵器としての利用価値にしか目がいかなくなるだろう…

 

(束はそれに気づいてない…。いや、気づけないんだ。ISは束にとっては翼以外のなにものでもない。だから気づけない。他の人が違う見方をするのに…)

 

何としてでもあれがISであることをしられてはいけない。

まだニュースでは謎の機体としかされてないいまなら何とかできる。

 

 

「束!あれがISだと公表はしたのか!?」

 

 

頼む。まだだといってくれ。

俺は最後の希望に縋りつくように祈った。

 

 

「それなら安心して。さっき全世界の政府とマスコミにISってことがわかるようにデータを送っといたから。」

 

 

しかし、現実は非常だった。

 

 

『ただいま速報が入りました!?ミサイルを撃墜した謎の騎士のような機体、あれはISというパワード・スーツのようです!』

 

 

おわった・・・・

これで完璧にISは翼をもがれた…

 

俺はその場に膝をついて崩れた。

 

 

「どうしたの雄くん?」

 

 

今だ状況に気が付いていない束が俺の心配をして寄ってくる。

その顔は俺のことを本気で心配してくれている顔だった。

 

俺は束を抱き寄せる。

 

 

「ゆ、雄くん!?」

 

「ごめんよ・・・・本当にごめんよ・・・・・俺に力がないばっかりに・・・・お前の夢を守ってやれなくて・・・・・ごめんよ束・・・・」

 

 

この子は悪くない。ただこの子は伝え方を知らなかっただけだ。

本当に悪いのは気づけなかった俺だ。一番一緒にいたのにきづけなかった…

 

 

「気づいてやれなくてごめん・・・・・」

 

「雄くん?どうしたの?」

 

 

俺は守ってやれなかったッ!止めてやれなかったッ!一番近くにいたのにッ!

俺だけがとめられたのに・・・・

 

 

「本当にごめんなさい・・・・・・」

 

 

弱い俺は抱きしめて泣きながら謝ることしかできなかった。

そして俺は自分の力のなさを嘆いた。

 

 

その後今日の事件は【白騎士事件】といわれるようになり、全世界にISを兵器として認知させる結果になった。




ついにIS起動。
そして起こってしまった白騎士事件。


今さらタグに『シリアス』追加しました。


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第二十五話 動き出す運命

今回はポンポン時間が飛びますのでわかりにくい部分があるかもしれません。



白騎士事件から二年の月日が経った。

 

あれから世界中でISは引っ張りだこという状況だ。

 

 

『兵器』としてだが。

 

 

そして篠ノ之家は政府の『重要人物保護プログラム』という保護という名の実質監視をされている。

 

政府の監視下にあることで束はISコアを作っている。いや、作らされている。

束はISコアの作成方法だけは発表しなかった。発表すれば世界はISを兵器としてでしか作らないだろうから。そのためコアを作れる束はひたすらコアを作らされているわけだ。

 

 

俺もコアをつくれるがISコアの作成はさせられていない。

というより俺が作れることは束とちーちゃん以外誰も知らない。

 

 

そんな俺は監視から逃れられる僅かな時間でISの女性しか扱えないという謎を研究していた。

あれから研究しているものの謎は解けない。設備もあり合わせというのも原因だろう。

 

(俺もISコアが作れることをばらして研究施設もらうか?)

 

いや、ダメだ。そんな実現できるかわからない研究よりも目先のISコアだ。

そして何よりも束が俺に負担をかけないために俺のことをばらしていないんだからそれをやると裏切りになるし、だれがこの研究をするんだ。

 

(あの時に力があれば・・・・)

 

机の引き出しを開ける。その中には一つのドライバーと数個のメモリが入っている。

これがあの時に完成できていれば・・・・

 

(はぁ~、ダメだな。こんな終わったことをうじうじ考えるなんて。)

 

疲れがたまっているのかもしれない。

そう思いその日は寝た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたたちにはそれぞれ別の場所で住んでもらいます。」

 

 

ある日政府の奴らが来て突然告げた。

奴らが言うには、家族と離れるのは心苦しいでしょうけどこれは皆さんの安全のためにも必要なことだそうだ。ただ自分たちの管理下により置きたいだけだろうに。反吐が出る。

 

しかし俺らに拒否権はなく、明日には皆バラバラだ。雪子さんはこのままここで神社の管理をさせてもらえるようだがそれ以外の皆はお互いどこにいるのかもわからず、連絡も取れないとかぬかしやがる。

 

(箒はまだ小学四年生だぞ!?こいつらふざけた真似を---)

 

怒りがわいてきたがきれているだけじゃ何も変わらない。

俺はその日急いであるものを作った。

 

 

翌朝

 

政府の奴らが来る前に箒にあるものを渡した。

 

 

「兄さん、これは?」

 

 

箒の手にはブレスレットが乗っている。

それが俺が昨日作り上げたものだ。

 

 

「それはブレスレット型の通信機だ。それで離れていても話ができる。もちろんこれは政府の人たちには内緒だ。」

 

「つまりこれで皆と離れていても話せるの!?さすが兄さん!」

 

 

箒はとても喜んでくれた。だが、まだ言ってないことがある。

そしてそれは箒には辛いことだ。

 

 

「でも一日じゃ一組しか作ることができなかった。」

 

「えっ!?それじゃあ・・・・」

 

「そうだ。一人としか話せない。」

 

 

悔しいが政府の通信網を潜り抜けるほどの通信機は一日では一組しかできなかった。

 

 

「そしてこれはもう皆で相談して決めたことだがその会話の相手は一夏にした。」

 

「!?」

 

 

箒は顔を赤らめて驚く。

意外なことに箒と一夏は仲良くなり、箒は一夏のことが好きになっていた。

それを知っていた皆は箒のためを想い、通信機を一夏に預けることにしたのだ。

それが箒と二度と話すことができないかもしれないと分かっていて決めたことだ。

 

 

「お前もそれでいいな、箒?」

 

「でも・・・それじゃあ、皆は誰とも話せないということに・・・・」

 

「箒。さっきも言ったが皆で決めたことなんだ。お前の幸せを一番にって。だから、辛いだろうけど受け止めてくれ。」

 

「・・・・・・・・うん。」

 

 

箒も納得してくれたので安心だ。もう一つはすでにちーちゃんに預けているから問題ない。

あとは注意事項を伝えるだけだな。

 

 

「箒、その通信機の使い方だが相手の名前を呼んでコールと言うだけでつながる。しかし、使っていいのはもちろん誰もいない時だけだ。あとは一夏からくるコールは基本OFFにしておいて自分からかけられるときにかけること。その際は一夏の都合も考えること。これは約束だ、いいな?」

 

「わかりました。絶対に守ります。」

 

「いい子だ。」

 

 

箒の頭をいつも以上になでる。これが箒との最後になるかもしれないから。

しばらくすると政府の奴らが来て俺達は別々の車に乗せられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家族を散り散りにされてから二年が経った。

 

相変わらず世の中はISのことを宇宙開発のマルチフォーム・スーツという目では見ていない。

人々にとってISは最も強力な兵器であり、ブランドなのだ。

 

今年は『モンド・グロッソ』というISの世界大会が開かれた。

この大会は格闘・射撃・近接・飛行といったISの操縦技術を競うものだ。

そして、優勝者には最強の称号「ブリュンヒルデ」が与えられる。

今その称号を持つものはちーちゃんだ。

 

彼女はあの事件以降、国が行ったIS適正で一番高いSランクを出し、ISのパイロットとしてメキメキと頭角を表した。まぁ、ちーちゃんならば大会の優勝は当然だったといえる。

 

 

そしてここ数年でこの世界は男女平等主義から女尊男卑主義の世の中に変わった。

どれぐらい酷いかというとそこらに歩いている男性が小間使いにされるほどには酷い。

これもISが女性にしか動かせないというのが原因だ。

 

そしてその原因を作り出した俺はというと、今は大学で男性のIS起動の研究を続けていた。

女性にしかIS起動ができない謎は全世界ですでに研究されたがどこも原因不明と投げ出している。

そんな世間一般では捨てられた研究に参加しようとする物好きなどいないため、研究は一人でしている。まぁ、邪魔になる可能性が高いためそんな物好きはいらない。

 

(大学の設備を改造しているがやはりこの方法にも限界があるな。)

 

確かにISの研究をするにはそこそこ使えるのだが・・・

 

(やはり肝心のISコアがなければ難しいか・・・)

 

そう、俺の手元にはISコアはない。

それが一番の問題だった。俺が新たに作るわけにもいかないし、かといってISコアを貸してもらえるほど研究は進んでない。

現在でもISコアは450ほどしかないため、俺の研究にISコアがまわってくることはまずない。

 

(それでもやるしかない・・・・これは俺にしかできないことだから・・・)

 

ISを宇宙(そら)に返すために俺は研究を続けた。

 

 

 

その年、束は467機目のコアを作りだし行方をくらませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

束が行方をくらませてから数ヶ月が経った。

 

この数ヶ月間は政府からの八つ当たりを受けていた。

今までよりも執拗な監視をされ、聴取をされる毎日だ。正直うんざりする。

 

 

(もともとお前らが俺らを散り散りにさせたのに束に関しての聴取など無意味に近いこともわからないのか?)

 

 

いや、こいつらはわかっている。こいつらはただ憂さ晴らしがしたいだけなのだ。

篠ノ之束という世界で一番の才能が逃げ出したことへの怒りをこちらに向けているのだ。

それだけの為にこういうことをしている。

 

 

(まぁ、おれに聴取するのは無意味というわけじゃないが。)

 

 

しかし、こと俺に関しては聴取をもっと真剣に行うべきだった。

実は俺は束が失踪する際に会っている。いや、束が会いに来たのだ。

 

 

数ヶ月前・・・

 

 

「雄くん・・・」

 

 

俺が現在の自宅までの帰り道、後ろから声がかけられた。

それは見知った声だ。顔を見ずともわかる。

 

 

「束か。久しぶりだな。」

 

 

俺は振り返りながら俺に声をかけてきた人物、篠ノ之束に返事を返す。

 

 

「うん、久しぶり。」

 

「それでなんの用だ?ただ会いに来ただけじゃないんだろう?」

 

 

俺達はお互い政府の監視下にあり、会えるような状態じゃない。

 

 

「会いたくて来たっていったら?」

 

「それだったらとても嬉しい。今すぐにも抱きしめてやりたい気分だ。」

 

 

しかし、俺はそうしない。そうではないと分かっているから。

 

 

「やっぱり雄くんにはわかっちゃうか~。さすが私の理解者だね。」

 

 

そんな俺を見て束は嬉しそうに言うがその顔はどこか寂しそうだった。

 

 

「結局、何の用だ?はやく教えてくれ。おそらく時間もないんだろう?」

 

 

俺達は会っていてはいけないのだ。つまり悠長に話しているとそれが気づかれる。

 

 

「そうだね、じゃあ結論から言うけど、私と一緒に来ない?私はISコアの製作をやめて、行方をくらませる。その時に雄くんに一緒に来て欲しい。」

 

 

束は真剣なまなざしでこちらを見る。どうやら本気で言っているようだ。

 

 

「あきらめるのか?」

 

 

束はISコアを作り続け、ISの存在を皆により知ってもらうことでIS本来の姿、宇宙開発に目を向けてもらえるようにと必死でコアを作り続けていた。

先ほどの束の発言はこれをあきらめるということだ。

 

 

「もうね・・・うんざりしたよ・・・」

 

 

束は疲れた顔で語る。

 

 

「いくらISコアをつくってISの存在を大きくしてもあいつらはISを見ようとはしない、知ろうとしない。逆にどんどん調子に乗っていくだけ・・・・」

 

 

そう語る束の表情からは怒りや悲しみを感じる。

 

 

「だから、私はもう好きにやっていくことにした。あいつらの言うことなんか聞かない。私は私で好きに生きる。そしてそこに私は雄くんがいて欲しい。」

 

 

束はそういうと俺の方に手を差し出してくる。

束と自由気ままに生きる。それはとても魅力的だ。

 

 

「一緒には行けない。」

 

 

しかし俺はその手はとれない。

 

 

「どうして!?」

 

 

束は断られると思っていなかったのだろう。驚いている。

 

 

「俺にはやることがある。」

 

 

俺にはやらなければいけないことがある。だからついていけない。

 

 

「私と来るよりも大切なことなの・・・?」

 

「・・・・うん。とっても大切なことなんだ。」

 

 

それは絶対に俺がやらなければならないことだ。誰にも変わりは務まらない。

そして俺自身がやりたいことだ。これだけは譲れない。

 

 

「・・・・・・・・そっか・・・」

 

 

束は俺が絶対に曲げないことがわかったようだ。

 

 

「ごめんな、わがまま言って…」

 

「謝らないで。雄くんがそう決めたならしょうがないよ…」

 

 

それじゃあね・・・・

そういって束は俺の前から去っていった。その顔は泣いていたような気がした。

 

 

もちろんこのことは俺と束以外誰も知らない。

 

そして数ヶ月経った今、俺は計画を始めようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、あんな奴一人運ぶだけで旅客機をつかうなんて馬鹿みたいな話だぜ。」

 

 

俺は思わず悪態をついてしまう。

 

 

「まぁまぁ、こんな楽な仕事他にないぜ?タバコ吸っているだけでいいんだ。それだけでお仕事完了だぜ。」

 

「そうそう、それだけでボーナス出るってんだからまったく重要人物保護プログラム様様だよ。」

 

 

そんな俺に同僚たちが話しかけてくる。確かにこんな楽な仕事は他にはない。

 

 

「はっはっはっ、確かに違ぇねぇ。」

 

 

俺が同意しながら笑う。

俺達は現在、ある人物を護衛している。護衛なのに楽というのはおかしいがこれほど楽な仕事はない。

なぜなら俺達は現在そいつを運ぶためだけに旅客機に乗っているからだ。

空にいるため外から襲われる心配はねぇし、カモフラージュとして使っているこの旅客機には俺達とそいつ以外客はいねぇから内側から襲われる心配もない。

 

もちろん爆弾や薬品とかそういったものもチェックしたが心配はない。

つまり何の危険性のない護衛お仕事ということだ。

しかも空にいるため護衛対象が逃げる心配もないため俺達はそいつから離れて好きにしててもいい。

 

 

(これで金がもらえるんだから笑っちまうぜ。)

 

 

そんなことを思う俺達を乗せた旅客機は空を飛び続ける。

飛び立ってから数時間そろそろ目的地に着く。いたって安全な旅路だった。

このまま何も起こらないと思われたその瞬間、

 

 

 

 

 

 

ドーン‼

 

 

 

 

 

 

どこからか爆発音がし、機内が揺れた。

 

 

「爆発!?どこから!?」

 

「馬鹿なっ!?爆発物などの危険性はなかったはず・・・」

 

「馬鹿野郎!それよりもあいつのとこに向かうぞ!あいつに何かあったらボーナスはパーだ。」

 

 

俺達はあるはずのなかった爆発に驚愕しながら護衛対象のもとに向かう。

扉をあけ、そいつのいる区画に入った瞬間俺達が見たのは

 

 

「これは・・・・」

 

 

旅客機の壁にでかい穴が空いておりその周辺がひしゃげている光景だった。

 

そしてそのひしゃげている場所は護衛対象である()()()()が座っていた場所だった。




主人公が死んだ!この人でなし!


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第二十六話 一方そのころ

お気に入り登録もう少しで200いくな~ |д゚)チラッ


報告書

 

〇月✕日、重要人物保護プログラム対象者が旅客機での移動中、旅客機の一部が爆破された。

爆破された箇所は客室部分であり、護衛対象の暮見雄二が巻きこまれた。

爆発の際に出来た穴から気圧変化による風圧で落ちたと思われる。

捜索は続けているが生存は絶望的と思われる。

三日間ほど捜索をして見つからない場合、捜索を打ち切り死亡扱いとする。

なお今回の爆破は反IS集団による犯行だと思われる。

護衛三名については降格処分とする。

 

(日本政府重要人物保護対象資料より)

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は・・・・なにもしらない・・・・です・・・」

 

「なんでもいいんだ。君のお姉さんが君に何か言ってたりとかしてないかい?」

 

 

これでこの質問は何回目になるのだろう…

言い方こそ違えど意味は同じだ。

 

 

「知りません・・・姉さんとはここ数年一度もあっていないので・・」

 

「それはわかっているんだよ。私が聞きたいのは何か篠ノ之束博士が意味のあることを日頃から言ってなかったかなんだよ。」

 

 

そんなことわかる訳がない…

いくら妹とだとしても姉さんのことがすべてわかるわけないし、数年前の会話なんてほとんど記憶にない。それに姉さんとISについて話したことはない。

これはこの数ヶ月何度も言ったことだ。

 

(いつまでこんな日々が続くのだろう・・・)

 

道場で精神も鍛えてはいたがこれはさすがにこたえた。

一夏との会話がなければとっくに私はまいっていただろう。

 

 

「で?なにか思い出せないのk「失礼します。」・・・なんだ?」

 

 

聴取が続くと思われた矢先、もう一人部屋にやってきた。

 

(こんなことは初めてだが・・・なにかあったのだろうか?)

 

聴取のときに誰かが部屋に入ってくるなんて初めてだったのとその人が何か急いでいる感じだったためそう思った。

 

 

「じつは…___が_____です。______」

 

 

入ってきた人物が私に質問をしていた者へ何かを耳打ちしている。

内容は良く聞こえないが焦っていることはわかった。

 

 

「それで_____________まだ____ないそうで___」

 

「何!?暮見雄二がか!?」

 

 

聴取をしていた人物が何かの報告を聞いて驚いていた。

思わず大きな声が出てしまったという感じだ。

しかしそれよりも気になるのは

 

(なぜ兄さんの名前が出てきたんだ?)

 

兄の名前が出てきたのが気がかりだった。

何かあったのではないだろうか。そう思うと心配になる。

 

 

「篠ノ之箒さん。今日はもう部屋に戻ってもらっていいですよ。」

 

「えっ?」

 

 

聴取がこんなにあっさり終わるのは初めてだった。

いつもはこれ以上ないというぐらいにしつこいのにだ。

 

 

「どうしました?戻られて構いませんよ。」

 

「あっ、はい。」

 

 

言われるがまま私は部屋に戻っていく。考えてしまうことは兄のこと。

気がかりなのは聴取が急に終わったこと、兄の名前が出てきたこと。

もしかしたら聴取なんてしてる場合ではないことが起こり、兄が巻き込まれたのでは?

 

(そんなはずはない。私はなにを考えているんだ…。兄さんはすごい人なんだ。)

 

大丈夫、大丈夫と自信に言い聞かせながら廊下を歩く。

 

 

「聞いたか?例の件について。」

 

「例の件?」

 

 

そんな会話が廊下の曲がり角の向こうから聞こえてきた。

私はなぜかその会話が気になり足を止めて聞き耳を立てた。

 

 

「なんだ聞いてないのか?重要保護対象の移動のときに起こったことだよ。」

 

「あぁ、それか。かるく耳にはしたが詳しくは知らないな。何があったんだ?」

 

 

重要保護対象・・・・兄さんのことか?

一言一句も聞き逃さないようにさらに聞き耳を立てる。

 

 

「それがな、移動に使った旅客機が一部爆破されたんだってよ。」

 

「爆発って・・・その時の護衛は何をしていたんだか・・・・」

 

 

爆破。危険なワードが聞こえてくる。

 

 

「それで護衛対象は無事だったのか?爆破は一部だったんだろ。巻き込まれたのか?」

 

 

その質問に思わずゴクリと唾をのむ。

 

(無事と言ってくれ・・・・頼む‼)

 

「それがな、一部だったんだが運が悪く、ちょうどその護衛対象が座っていた近くだったんだってよ。」

 

 

そんな・・・・・

 

 

「そいつは運がないな。それで護衛対象は助かったのか?」

 

「わからん。爆破でできた穴から気圧で放り出されてしまったらしくて安否確認はできていないらしい。しかし、生きてはいないだろうな。」

 

 

生きてはいない・・・・つまり死んだということだ。

護衛対象といわれ名前こそ出てないが・・・・・

 

(違う!兄さんな訳がない…。絶対に違う…)

 

きっと他の重要保護対象の話だ。そうに違いない。

 

 

「そうか、それはかわいそうだなそいつ。えーっと・・・なんていったけか、そいつ。」

 

(大丈夫、大丈夫。兄さんな訳がない)

 

 

心臓の鼓動が破裂しそうなほどはやくなる。

 

 

「名前か?確か・・・・暮見雄二だったな。」

 

 

今・・・何と言ったのだろう?暮見雄二と私には聞こえた・・・・

 

 

(いや・・・・・聞き間違えだ・・・)

 

「あぁ、そうだった暮見雄二だ。あの養子のガキだろ?」

 

「そうそう、そいつ。」

 

 

まただ・・・・また兄さんの名前が聞こえた・・・・・・

 

(そんなわけない・・・・・違う違う違う違う違うっ‼私は兄さんの名前なんか聞いてない‼)

 

私は耳を手で塞いで部屋に走った。

 

 

それからしばらくして部屋に政府の人が来て、兄さんが亡くなったことを伝えられた・・・

 

 

ブー、ブー、ブー、ブー

 

ベッドに座り込んでうつむいていた私は手元のブレスレットが震えたことで顔を上げる。

 

(そうか・・・・もうそんな時間か・・・・)

 

部屋に戻ったのは17時頃だったのに時刻はすでに21時近くだった。

この時間帯はいつも一夏と通信する時間だ。私がかけないから心配してかけてきてしまったのだろう。

 

(あまりそちらからかけるなと言っていただろうに・・・)

 

そうは思うが、今は正直ありがたかった。心配してくれる人がいることを実感できるのと今はとにかく誰かと話したかった。こんな時に一人は寂しかったから…

 

私はブレスレットの通話機能をオンにする。

 

 

『おっ!やっとつながった!箒、どうしたんだ?出るまでずいぶんかかったけど。』

 

「一夏・・・・」

 

『あっ!これはだな、心配になってかけてしまったというかなんというか・・・・すまん。』

 

 

一夏は私がダメと言っていたのにかけてきたことを怒っていると思ったのだろう、謝ってきた。

 

 

「気にするな・・・心配してくれてありがと、一夏・・・・」

 

『・・・なにかあったのか?声に少し元気がないけど。』

 

 

自分ではいつも通り喋っているつもりだったがうまくできてなかったようだ。

 

 

「・・・・・」

 

『なにかあったんだな。一体何があったんだ箒?怪我とかしてないか?』

 

 

一夏は私になにかあったと思い心配してくれる。

心配させるのも悪いので怪我はないことを伝えなければ。

 

 

「怪我とかそういうのはしていないから大丈夫だ。」

 

『そっか、箒に怪我がなくてよかった。』

 

 

安堵の息が聞こえてくる。心配性なやつだな。会話できるのだから怪我をしていても大した怪我ではないことぐらいわかっているだろうに。

 

 

「なぁ、一夏・・・・」

 

『ん?なんだ?』

 

「聞いてもらいたいことがあるのだが・・・」

 

『俺でいいならいくらでも聞くぜ。』

 

 

兄さんのことは一夏にも知る権利があるだろう。一夏も兄さんと仲が良かったから。

それに・・・・

 

(千冬さんにも・・・知らせないといけないと思うしな・・・)

 

辛いだろうが知らずにすごす方が本当に辛いことだと思うから…

 

 

「実はな・・・・・」

 

 

それから私は兄さんのことについて話した。

 

 

「_____ということがあったんだ。」

 

『そんな・・・・雄二兄ちゃんが・・・・』

 

 

一夏は信じられないといった反応だ。

私だっていまだに信じられない・・・あの強くて優しい兄さんが・・・

 

 

「兄さん・・・・」

 

『雄二兄ちゃん・・・・』

 

 

それからはふたりして完璧に黙ってしまった。

それだけ兄さんは私たちの中で大きな存在だった。

兄であり、剣の師匠でもあった兄さんからはいろいろなことを教わった。

 

そのなかでも何より口にしていたことは

 

゙辛い時こそ笑え。後ろだけ見ていてもなにも変わらない。だから笑って前を見ろ゛

 

この言葉だった。私たちが失敗して落ち込むたびに言っていた。

この言葉に何度も救われてきた。

しかし・・・・

 

 

(今回ばかりは笑うことができません…どうしたらいいのですか?兄さん・・・)

 

 

どうやって乗り越えればいいのかが今の私たちにはわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ボスンッ

 

帰ってきて飯も食べずに私はベッドに倒れこむ。

 

 

「雄二・・・・・・」

 

 

その理由は雄二だった。帰ってきて一夏の様子がおかしいので話を聞くと、その内容は雄二が死んだというものだった。箒から聞いたらしい。

 

 

「本当に死んでしまったのか・・・・?」

 

 

信じられない。あの雄二が死ぬなんて。

 

 

「お前は丈夫で殺しても死なないような奴だろ・・・・?」

 

 

本当はピンピンしていてひょっこり顔を出したりするんじゃ・・・・・

そうは思うが一夏から聞いた限りでも状況は絶望的だった。

 

 

「私は・・・・私は結局お前に・・・・・」

 

 

本当の気持ちすら伝えられていない・・・・

 

 

「雄二・・・・・・会いたいよ・・・・・」

 

 

もう一度だけでいい・・・・あの笑顔が見たかった・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

バチンッ‼

 

「次ッ‼」

 

「も、もうみんな疲れ切っているから無理だって!」

 

 

今は剣道の練習中。私は男子に混ざって練習していたがもう試合をできる者がいなくなったらしい。

これでは練習にならない。

 

 

「そうか、ならば私は帰る。」

 

 

そういって荷物をまとめて帰る。

帰り際、窓に映った顔はとてもひどい顔だった。

 

 

兄さんが死んでから数ヶ月が経ったが今も私は立ち直れてはいない。

少しでも気を紛らわすために剣道により力を入れているが先ほどのように練習にならない。

 

(楽しくない・・・・)

 

あんなに好きだった剣道が今は全く楽しいと感じない。

同格の奴がいないからだろうか?

 

(あの頃が一番楽しかった・・・・)

 

思い出すのはまだ小学生低学年だったころ。家に帰ってはほぼ毎日道場の方に顔を出した。

道場には父さんや千冬さん、時々姉さんもおり、あの頃私より強かった一夏もいた。

そして何より・・・

 

(兄さんが笑っておかえりと言ってくれていたな…)

 

兄さんもそこにいた。いつも笑って迎えてくれて、私に剣の指導をしてくれた。

厳しい練習もあったけど辛いと思う練習はなかった。そして練習が終わるといつも

 

 

゛お疲れ箒。今日もよく頑張っていたな。゛

 

 

そういって優しく頭をなでてくれた。

私はそれがうれしくてより頑張れた。

 

(本当に楽しかったな・・・・)

 

楽しかった。それはつまり過去にしか過ぎない。

今が変わるわけでもない。どちらかというと兄さんのことを思うと辛い…

それでも縋りたくなる。後ろばかり見てしまう。

 

 

「酷い・・・・顔だな・・・」

 

 

ふと、店の窓に映る自分の顔をみてしまう。

その顔はひどいものだった。

肌は死んでるんじゃないかと思うほど白く、やつれて少しやせていて、生気を感じない瞳。

 

(はっ、死んでいるのは私の方なんじゃないか?)

 

窓に映った私が自嘲気味に笑う。

それは笑みはどこまでも空っぽだった…

 

(・・・はやく帰ろう…)

 

そんな顔を見ているのが嫌になり再び歩き始める。

 

 

人通りのない河原を歩いている時だった。

 

 

「箒。」

 

 

自分の名前を呼ばれた。その声はよく知っている。今一番聞きたかった声だ。

後ろからその声で名前を呼ばれた。

 

(この声は・・・・・本当に私は死んでしまったのか?)

 

私は急いで後ろに振り向く。

そこに立つのは私がよく知る一人の男性。

 

(これは・・・・夢か・・・?)

 

その男性を見て私は思わず自分の頬をつまむ。

 

痛い・・・・

 

(夢じゃない・・・)

 

頬をなにかがつたる感覚がする。

 

 

「久しぶりだな、箒」

 

 

固まっていた私に声がかけられる。

 

 

「兄さん・・・・・」

 

 

そこにいたのは()()()()、つまり兄さんだった。




廃れていく箒の心。
そしてその前に現れた暮見雄二。
彼の目的は一体なんなのか。

今回は箒がメインでした。
ちなみに狙われる可能性があり危険ということで葬式すら開かれてません。
日本政府まじ鬼畜ですね。


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第二十七話 決別

お気に入り登録200人突破しました。
皆様ありがとうございます。




「兄さん!」

 

ボスンッ‼

 

 

勢いよく抱き着かれた。嬉しいんだけどちょっと痛い…

まぁ、俺がしたこと考えればこのぐらいはしょうがない。

 

(なにせ箒からしたら死人が会いに来たんだもんな…)

 

俺は死んだことになっている。というよりそうした。

あの爆発は俺が持ち込んだ爆弾によって起こしたものだ。

つまり自作自演だったということだ。

 

 

「兄さん・・・生きていてよかった・・・・」

 

 

泣きながら抱き着く箒。俺はその頭をなでる。

 

(ほんとは会うつもりはなかったんだけどな…)

 

俺は動きやすくなるために死んだのだ。なのに箒に会うという自分の首を絞めることをしてしまっている。

本当だったら遠くから少し見るだけのつもりだった。

しかし・・・・

 

(今の箒をほっとけるわけがない・・・・)

 

今の箒の状況はまずい。ただでさえ細身だったのにやつれてしまって顔色も悪く、目も虚ろ。

これはほっておいたら取り返しのつかないことになる。

 

 

「ごめんな箒。辛かったな。」

 

 

家族の死に執拗な聴取と監視が続き、箒の心は廃れてしまったようだった。

本来なら時間が解決してくれるだろうが、まだ中学生の箒ではその前に耐えられなくなって壊れてしまうだろう。今はその一歩手前の自暴自棄だ。

俺はその姿を見て、過去の自分を見ているような気分だった。

 

 

「辛かった・・・本当につらかったよ兄さん・・・・」

 

 

箒は泣きじゃくる。それでいい、思う存分泣け。

箒は凛々しくあろうとしすぎてるところがある。

それがいいところでもあるが悪いところでもある。

今回のように自分を抑え込む枷となり、ため込んでしまう。

 

 

「大丈夫だ。俺はここにいる。」

 

 

それからしばらくは箒を落ち着けさせるためにこのままでいた。

 

 

「落ち着いたか?」

 

「・・・・・うん。」

 

 

落ち着いた箒の顔はすっきりしていた。

 

(少しはましになったな。これだったら最悪の事態はないだろう。)

 

しかし、まだやることが残っている。

 

 

「どうだ箒、久しぶりに手合わせしないか?」

 

 

箒に提案する。箒ならば快く受けてくれるだろう。

 

 

(はぁ~、あまりこういうのは良くないんだよな…)

 

これからすることを思うと、俺は憂鬱になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだ箒、久しぶりに手合わせしないか?」

 

 

兄さんから剣の誘いを受けた。

 

 

「えぇ!もちろんやらせていただきます、兄さん。」

 

 

願ってもないことだった。もう二度と手合わせできないと思っていた兄さんと手合わせするチャンスなのだ。

今の私の実力を見てもらい、どれだけ成長したのかを知ってもらいたい。

 

(そしてまた褒めてもらうんだ。よく頑張ったなって。)

 

「じゃあ、早速始めるか。」

 

 

そういうと兄さんの手にはいつの間にか竹刀がある。

まぁ、兄さんだからそのぐらい気にしない。

私も背負っている袋から竹刀を取り出す。

そしてスペース確保の為、土手に降りた。

 

 

今、目の前には私のあこがれの一人である人が立っている。

 

(心が・・・・踊る‼)

 

この人と今から手合わせする。そう思うだけでワクワクする。

 

 

「じゃあ、開始な。まずは打たせてやるから全力で来い。」

 

「はい‼」

 

 

兄さんが開始の宣言をすると同時に飛び出していく。

 

 

「はあぁっ!」

 

バシッ

 

 

一太刀目、上段に放つものの簡単に止められてしまう。しかし、想定内なので続けて中段、下段へと放っていく。

 

バシッ バシッ

 

それも簡単に止められてしまう。

 

 

(さすがは兄さんだ。しかし、私も成長したことを証明する!)

 

 

さらに激しく打ち込んでいく。息をつかせぬ連撃。

上段、下段、中段とすべてを狙って一本取りに行く。

 

 

「ハァ、ハァ・・・・」

 

 

一度距離をとり、息を整える。数分間攻撃したもののすべて防がれた。

 

 

(まるで水だな・・・・)

 

 

竹刀にあたりはしているがまるで手ごたえを感じない。

 

 

(しかし、攻めあるのみだ!)

 

 

再び接近して攻撃。

 

バシッ

 

やはり防がれる。

 

 

「はぁ~・・・・」

 

 

そして落胆するようなため息が聞こえた。

 

 

(えっ?誰から・・・?)

 

 

この場にいるのは私と兄さんの二人だけだ。もちろん私ではない。

つまり・・・・

 

 

(兄さん・・・・?)

 

 

私はいったん離れ、兄さんを見る。

その表情は呆れや落胆といったものだった。

こんな顔の兄さんは見たことがなかった…

そしてそれは私に向けられている。

 

 

(兄さん・・・・?どうしてそんな顔で私を見るのですか・・・?)

 

 

理由なんてわかっている。しかし、そう思わずにはいられない。

 

 

(私の実力が足らないからですか・・・?)

 

 

私の攻撃はすべて防がれた。それが意味することは期待外れだったということ。

そして向けられる冷たい目線。まるでいらないものを見るかのような目線。

 

 

このままでは見捨てられる・・・・

 

 

そんな考えが頭をよぎる。

 

 

「いやだ・・・・・」

 

(嫌だ・・・・見捨てないで・・・私をおいてかないで・・・・)

 

 

血の気が引き、体が震える。このままでは本当に・・・・

 

 

(実力を・・・・実力を認めてもらうんだ!)

 

「ああぁぁ‼」

 

 

私は接近して全力で竹刀を振る。

 

 

バシンッ!

 

「もういい…」

 

 

攻撃が防がれたと同時にそんな声が聞こえた。

そして次の瞬間、私に竹刀が迫っていた。

 

 

「ッ!?」

 

バシンッ‼

 

 

とっさに防いだものの私とは比べ物にならないほど強い攻撃だった。

手首がしびれる…

 

しかし、そんなことは関係ないといわんばかりに次々と攻撃がくる。

 

 

(くぅっ!)

 

 

なんとか防げるが殺しきれない強い衝撃が体を襲う。

まるで暴風のような荒々しい攻撃だった。

 

 

(こんなの・・・兄さんの剣じゃない・・・!?)

 

 

いつも優しかった兄の剣とはかけ離れていた。

今、目の前に迫っている剣は相手のことなど一切考えない剣だった。

上段、下段、中段すべてに攻撃はくる。

防ぐごとに体は悲鳴を上げる。

 

 

(怖い・・・・)

 

 

このままでは確実に壊される…

しかし、防ぐので手一杯で逃げるなんてできない。

 

 

(怖い・・・・逃げなきゃ・・・・)

 

 

できないと分かっているが思考はそのことでいっぱいだった。

そしてついに・・・・

 

バシンッ‼

 

手首に力が入らなくなり、竹刀が弾き飛ばされる。

すでに次の攻撃は迫っているが私には防ぐ手段などない。

このまま壊される・・・・

 

 

(嫌だ!助けて!)

 

 

私はとっさに腕で頭を押さえて縮こまった。

 

ピタッ

 

しかし私に当たる直前、竹刀はピタリとその動きを止めた。

 

 

「箒、今の俺の剣をどう思った?」

 

 

そして唐突にそんなことを聞かれる。

その顔はいつもの優しい兄さんだった。

しかし、何を思ったか?そんなの・・・・

 

 

(恐怖・・・・)

 

 

それだけだった。あれはまさに暴力そのものだった。

 

 

「恐怖を感じたな。怖かっただろう?」

 

 

私はコクンと頷く。あんなのは試合ではない。

なぜあんなことを・・・・

 

 

「今俺がしたことはお前がやっていたことだ。」

 

「えっ?」

 

 

意味が分からなかった。私が同じことをしていた?

 

 

「わからないといった顔だな。じゃあ、お前がさっきまでいた道場でやっていたことはなんだ?」

 

 

道場でやっていたこと?

そんなのは試合に決まって・・・・・

 

(あれが試合といえるのか・・・?)

 

さっきまで私がやっていたことは今私がやられたことと何が違う?

相手のことなど関係なしに竹刀を振り、相手を傷つける…

それをやられた相手にはなにが残る?

当然・・・・

 

(傷と恐怖だけ・・・・)

 

なにも違わなかった…

私は試合という建前で暴力をふるっていただけだった。

 

 

「あぁ・・・・私はなんてことを・・・」

 

「どうやら分かったようだな。いいか箒、力というのは制御できなければただの暴力だ。さっきまでの箒はまさにそれだった。」

 

 

兄さんの言う通りだ…

私は自身を制御できていなかった。

 

 

「しかし、さっきまでといった通り今は違う。」

 

「えっ?」

 

 

どういうことかわからない。私は何も変わっていない。

 

 

「私は・・・何も違いありません。その言葉を聞いただけで強くはなっていません…」

 

「本当にそうか?今の俺の言葉を聞き、お前は自身を恥じただろ?それができたのならさっきまでとは違う。力を振るう危険を理解できている。」

 

「しかし!私は弱く、また・・・・・」

 

 

またこうなってしまったら・・・・そう思うだけで怖い…

 

 

「怖いと感じるのなら大丈夫だ。これから強くなって自身の力と向き合えばいい。なに、大丈夫だ。箒は強い子だ。俺が保証する。」

 

 

そういって兄さんは私の頭に手を置く。

 

 

「兄さん・・・・・わかりました。私は強くなります‼」

 

「おう、頑張れ!」

 

 

私は二度とこの過ちを繰り返さないように決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄さん・・・・・わかりました。私は強くなります‼」

 

「おう、頑張れ!」

 

 

箒の瞳には強い意志がこもっていた。

これならば大丈夫だろう。

しかし・・・・

 

 

「ごめんな、箒。こんな風にしか教えられなくて…」

 

 

こうするのが一番はやく、理解できるからやったが妹を打ち付けるのは精神的につらかったし、箒にも辛い思いをさせただろう。

 

 

「いえ、兄さんには感謝しています。自分の過ちに気づけたから。」

 

 

そういって笑顔を見せてくれる。

もう、まじで相変わらずの天使っぷりだった。

思わずなでてしまう。

 

 

「兄さん、それでこれからどうするので?一緒にいられるですか?」

 

 

なでられながら箒が聞いてくる。

そうだった・・・あまり時間がないんだった。

名残惜しいがなではここまでだ。

 

 

「これから俺はやることがある。だから一緒にはいられない。」

 

「そうですか…」

 

 

箒がシュンとするがこれからが重要なのだ。

 

 

「それで箒。頼みがあるんだが、俺に会ったことは誰にも言わないで欲しい。もちろん一夏やちーちゃんにもだ。」

 

「なっ!?なぜですか!?皆、兄さんが生きてるとわかれば喜びます‼」

 

 

こうなるよなぁ~。だから会うつもりはなかったんだが…

 

 

「俺はギリギリ助かったが死んだ扱いになっている。そんな俺が生きてると知られたら、また襲われる危険性がある。そしてその俺が生きてると知っている人物に危害を加えて情報を聞き出そうとするかもしれない。だから危険にさらさないためにも黙っていて欲しい。箒が黙っていれば知られる心配はない。」

 

「し、しかし・・・・千冬さんなら…」

 

「確かにちーちゃんなら大丈夫かもしれない。でも、絶対とは言い切れない。関係ない人だって巻き込まれるかもしれない。だから頼む。これは俺と箒だけの秘密だ。いいな?」

 

 

もちろん襲われたとかは全部嘘であるため心苦しい。

しかし、箒が話せばどこからか嗅ぎつけた政府が箒に更なる聴取などをする可能性もある。

それは避けなければいけない。

 

 

「・・・・・・わかりました…」

 

 

渋々といった感じだが了承してくれた。

 

 

「ありがと、箒。・・・・それじゃあ俺は行く。」

 

 

箒に礼を言ってこの場から去ろうとする。

 

 

「兄さん‼また会えますよね?やることが終わったら一緒に暮らせますよね?」

 

 

箒が泣きそうな顔で聞いてくる。

 

 

「あぁ、もちろんだ。だから笑え、箒。・・・・()()()。」

 

 

そういって俺は箒の前から立ち去る。箒は笑ってくれた。

 

(また嘘をついちまった…。嘘つきな兄でごめんな、箒…)

 

 

それから箒はすぐに道場に戻り、皆に謝罪していた。

俺はそれを遠くから見て、安心してその場を離れた。

 

 

これが暮見雄二として、兄として箒に会える最後の時だった。




爆破は彼の自作自演だった模様。
心配を返して欲しいですね、まったく。

そしてどうやら箒の前に現れたのは寄り道だった様子。
彼の計画とはいったい・・・・


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第二十八話 永遠の夢

いや~、エグゼイド面白かったですね。
ビルドにも期待です。

この作品のエターナルにも頑張ってもらいましょう。


カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ

 

俺は現在研究室にて例の研究をしている。

 

 

「ダメか・・・・」

 

 

モニターの電源を落とし、伸びをする。

 

バキボキバキッ!

 

骨が軽快な音を立てる。十数時間座りっぱなしだったのが原因だろう。

 

 

「今回の案もダメだったか…」

 

 

コーヒーを淹れ、研究について考える。

例の研究はあまり順調とはいえない。

いくつも案は試しているが手ごたえがない。

 

 

「設備は最高の物をそろえてるんだがな…。宝の持ち腐れという奴だろうか?」

 

 

今いる研究室は俺が死亡扱いになってから数ヶ月かけて作った物だ。

設備も最新の物をそろえ、魔改造を施している。

俺が作ったのだから俺に使いこなせない道理はないはずだが・・・・

 

(ISのことを考えると俺はこれらを使いこなせていないのかもな。)

 

コーヒーを飲みながらそんなことを考える。

空っぽの腹にコーヒーがドプドプと入ってくる。

それはまるで自分を支配されていくような感覚…

 

(っと、いけないな。弱気になっている場合じゃない。)

 

頭をブンブン振って弱気な思考をとばす。

箒と会ったからだろうか、妙に弱きになっている…

 

 

「覚悟は・・・・決めたろ?」

 

 

自分に問いかける。

束が失踪すると聞いた瞬間に覚悟は決めたはずだ。

今更揺らぐな。怯えるな。悲しむな。

どれかひとつでもそれは命取りになる。

 

 

「俺は絶対に成功させなきゃいけないんだ…」

 

 

この計画は俺にしかできないし、やらせない。

 

 

「時間か…」

 

 

計画の第一段階をこれから始める。

 

机にあるブレスレットを手に取り、俺は研究室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

とある戦地

 

 

「こちらブルースカイ、異常なし。」

 

『了解。ブルースカイ、帰投せよ。』

 

「了解。」

 

 

今日の分の哨戒任務を終え、基地に戻る。

この戦場は静かなものだ。膠着状態であり、お互い少しちょっかいを出し合う程度のものだ。

 

(それもどれだけ続くか分からないが…)

 

正直、再び戦いが激しくなる前に転属したい。

この戦地は法律を無視してISを投入してるようなやばいところだ。

つまり何かあったとしても表に出ることはなく、秘密裏に処理される。

そんな所に長居したい奴はいない。

 

(しかし、私みたいなIS乗りは手放せないのだろうな…)

 

はぁ〜、と溜息をつく。

憂鬱な気分になったのではやく帰って休みたくなった。

 

(とばすか…)

 

そう思い、ブースターを溜めたところで

 

 

ビービービー

 

(攻撃反応だと!?)

 

 

警報がなり、間一髪の所で回避できた。

続けざまに狙撃されるが体勢を立て直し回避する。

偶然ブースターを溜めていなければ初撃を避けられず、他の攻撃にも当たっていただろう。

 

(一体何者だ!?ISの反応などないぞ!?)

 

戦闘機やISの反応はない。

しかし、狙撃は続いている。

 

(どこだ?一体誰が?)

 

回避しながらハイパーセンサーで敵を探す。

 

(見つけた!)

 

ハイパーセンサーが敵の姿を捉えた。

 

(なんだこいつは?フルスキン型のISだと…)

 

その姿は全身が白く、黄色い複眼に英語のEを模したかの角。

そして何よりも特徴的なのが両足のアンクルガードと腕の赤い炎の意匠。

全身装甲(フルスキン)のISなんて滅多に無い、というより作らない。

ISには絶対防御があるため装甲は重要ではないからだ。

 

 

「こちらブルースカイ。緊急事態発生。敵の攻撃を受けている。応答されたし。」

 

『・・・・・』

 

「こちらブルースカイ!応答されたし!」

 

『・・・・・』

 

(通信がつながらない・・・・通信妨害か!?)

 

 

どうやら応援に期待はできなさそうだ。

一人でこの状況を何とかするしかない。

 

(くっ!まずは距離を詰めなければ…)

 

狙撃がかすり始めている。かなりの距離があるはずなのに正確に撃ち込んでくるだけでなく、修正してきている。

かなりの腕前だ。遠距離武装は積んではいるが撃ち合いをしても勝ち目はないだろう。

ブースターの出力を上げ、接近していく。多少被弾してしまうが問題ない。

 

 

「捉えたぞ‼」

 

 

近接ブレードで謎のISに切りかかる。

 

カキンッ!

 

甲高い音がなり、私の攻撃がはじかれた。

 

(こいつ、いつの間に…)

 

敵の手には先ほどまで持っていた銃はなく、ナイフ型の武器が握られていた。

私の攻撃はそのナイフによって防がれた。しかし、武器を取り出すような仕草は直前までなかった。

しかし、現にこいつ手にはナイフが握られている。一体どうゆうことだ…

 

 

「敵の前で呆けるとは・・・な‼」

 

「!?」

 

 

その一瞬の隙をつかれて、蹴りを腹に入れられ、ひるんだところをナイフで切られた。

しかし、驚いたのは・・・

 

 

「ぐッ!・・・男だと・・・!?」

 

 

聞こえた声は低く、男の声だった。

 

 

「そんなに驚くなよ。大したことじゃないだろ?」

 

 

今度は若い女性の声。

 

 

「声なんてどうとでもできるんだ。動揺しすぎだぜ?」

 

 

今度は先ほどとは違う男の声。

 

(クソッ!まんまとのせられたわけか…)

 

相手はフルスキンのIS。顔が見えないため声に惑わされた。

声を変えることなど容易なことなのに。

 

 

「下手な小細工を‼」

 

 

再び切りかかるがナイフに止められる。

気にせず攻撃を続ける。

 

 

「ひどいな~、立派な策だろ?さ~て、俺は誰でしょう?」

 

 

コロコロと声を変えながらおどけた口調で返してくる。

 

(こいつ・・・!ふざけた口調のくせにすべて攻撃を防いでいる・・・!)

 

こいつは力負けするであろうナイフで私の攻撃をことごとく防いでいる。

まるで遊ばれているかのような感覚。それが私をいらだたせる。

 

 

「コイツッ!」

 

ヒュンッ

 

「大振りすぎだ。」

 

 

僅かに大降りになったところを回避され、ナイフで素早く三度切りつけられる。

 

 

「ぐッ!?」(あの一瞬で三度だと!?)

 

 

コイツは近距離もかなりの腕だ。小回りの利かないブレードでは不利。

 

 

「これならばどうだ‼」

 

 

マシンガンを撃ちながら距離を離す。

しかし、すべて回避される。

 

(馬鹿な!?機動性は高くないはずだ!)

 

先ほどからの動きを見るに相手は標準クラスの機動性しかないことがわかっている。

圧倒されているが腐っても私もIS乗りだ。それぐらいわかる。

つまり奴は・・・・・

 

(テクニックで避けているだと!?)

 

全ての弾を回避するなんて異常だ。

もう少し機動性の高いISをつかっても多少被弾する。

それを奴は標準的な機動性で縦横無尽に飛び回り回避する。

 

(化け物め・・・・!)

 

カチッカチッ

 

マシンガンの弾が切れた。結局一発も奴には当たっていない。

マガジンを交換しようとするが奴はそれを許さない。

すでに接近してきている。

 

(クソッ!)

 

距離をとりつつマガジンを交換しようとするが・・・

 

 

「遅い!」

 

 

間に合わずナイフでマシンガンを真っ二つに切られてしまう。

 

 

「どうした?腰が引けてるぞ?」

 

 

ナイフによる連撃。慌ててブレードを出して防ごうとするがすり抜けるように防御の隙をついてくる。

このままではシールドエネルギーが尽きる・・・

 

 

「このっ!」

 

 

被弾覚悟でブレードを振る。

しかしブレードは避けられ、カウンターで蹴りを入れられた。

 

 

「ガハッ!」

 

 

蹴り飛ばされて私は空中から地面にたたきつけられた。

 

 

「そろそろ終わりだ。」

 

 

地面に降り立った奴は腰のベルト部分から何かを抜き、ナイフに差し込んだ。

 

 

Eternal(エターナル)!  マキシマムドライブ!/

 

 

突然私の体がしびれて動かなくなる。

そこへ奴が走ってくる。奴の足には急激にエネルギーが溜まっていっている。

 

(動け動け動け!)

 

しかし体は言う事を聞かない。

そして奴の飛び回し蹴りが私に直撃し、私は地面を転がる。

今の一撃でシールドエネルギーが0になり、ISは強制解除されて待機状態になった。

かろうじて意識はあるが体は痛みでしばらく動けそうにない。

 

 

「こんなものか…」

 

 

悪魔がこちらに近づいてくる。

まるでカウントダウンだといわんばかりにゆっくりと近づいてくる。

 

(ころ・・・・される・・・・)

 

奴が私の腕をつかんで持ち上げる。

そして腕にある待機状態のISをとられる。

 

(あぁ、こんな簡単に死ぬんだ・・・)

 

これから殺されると分かっているのになぜだかとても落ち着いている。

あきらめの境地という奴だろうか?

そんなことを考えていると私の体は地面に倒れる。

 

(えっ?・・・なんで?)

 

答えは簡単で奴が私の手を離したため、持ち上げていた力が失ったからだ。

もちろん私は生きている。意味が分からない。

私の頭は疑問でいっぱいだったがそんなことお構いなしに奴は立ち去ろうとしている。

 

 

「ま・・・・て・・・!」

 

 

私は絞り出すように声を出す。折角助かったのに私は呼び止めてしまう。

その言葉に反応したのか奴はピタリと足を止める。

 

 

「なんだ?」

 

 

奴が振り返る。

 

 

「貴様は・・・いったい・・・何者だ・・?そして・・・そのISはいったい・・・なんだ・・?」

 

 

私はこれがどうしても知りたかった。こんなやつの情報は耳にしたことがないし、IS反応のしないISなんて聞いたことがない。

 

 

「うっ・・・・」

 

 

髪をつかまれ、顔を上げさせられる。

 

 

「これはISじゃない。これはE・Sだ。」

 

 

奴の声には底知れない憎悪を感じた。

 

 

「イー・・エス・・?」

 

 

震える声で私は更なる疑問を口にした。そんな名前の物は聞いたことがない。

ましてISと戦って勝つなど・・・・

 

 

「そう、通称【E・S】。正式名称【エターナル・ストラトス】。すべてのISを空に返すものだ。」

 

 

そういって私の髪を離す。力の入らない私は再び地面に顔をつけることになる。

そして奴はこれ以上喋ることはないというのか立ち去っていった。

 

(E・S・・・・ISと戦えるほどの兵器…)

 

そして・・・・

 

(ISを空に返すもの…)

 

奴の言っていたことを考えるがよく意味がわからない。

もう少し考えようかと思ったがそろそろ意識を保っているのも限界だ。

少し休めば動けるようになり、助けも呼べる。幸いここは中立地点だ。

 

(たすかった…)

 

そう思うと安心して私の意識は落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「少し喋りすぎたか…」

 

 

先ほどのIS乗りとの会話を思い出し、反省する。

喋らなくてもいいことをぺらぺらと喋ってしまった。

しかし後悔はしていない。

 

(ISは宇宙開発用のスーツだ。E・Sのような兵器ではない。)

 

このE・Sは正真正銘、戦闘が目的で作った兵器だ。だから一緒にしたらISがかわいそうだ。

そしてこのE・Sことエターナル・ストラトスは先ほどのIS乗りに言った通り、ISを空に返すものだ。

 

 

「一つ目。あと466個。」

 

 

ISコアをすべて回収し、俺がISを(宇宙)に返す。

それが俺の無謀で夢物語のような計画。

 

 

「エターナル・ストラトス・・・それは永遠の空を意味する。」

 

 

永遠の空。IS達が飛ぶための空に自らがなり、永遠に穢されないようにする。そんな思いを込めた名前。

この作戦にふさわしい名前だ。

 

 

「待っていろ。俺が空に返してやる。それまで少し眠っていてくれ。」

 

Eternal(エターナル)! マキシマムドライブ!』

 

 

俺はエターナルメモリのマキシマムドライブでISを完全なスリープモードにした。

エターナルメモリにはガイアメモリの効果を無効化するほかにISの機能を無効化させる機能をつけた。

といっても今やったような待機状態のISを完全にスリープさせて、感知できないようにするぐらいだ。

ISの謎によってここまでのものが限界だった。しかし、これで束であろうとこのコアは探せない。

 

 

「すまない…」

 

 

聞こえているはずのないのにISコアに謝る。

ISコアには独自の意識がある。それを思うと俺のやっていることはISを一時的にでも殺しているようなものだ。

ISの為だとか言っているが結局は俺のエゴにすぎない。

 

 

「それでも・・・俺はやる。覚悟はもうした。」

 

 

自分に言い聞かせるように宣言する。

 

 

「俺はISを絶対に空に返す‼」

 

 

空に向かい手を掲げる。

 

 

「絶対だ。」

 

 

その日、俺の計画は開始され迷いは消えた。




はい、どうでしたでしょうか?
本当にお待たせしました。
今回でようやくエターナルがでました。
そして主人公の計画も明らかになり、本当のタイトル回収。(遅すぎ)

ちなみにタイトルは第十七話の『無限の夢』を少し意識して『永遠の夢』にしました。


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第二十九話 地獄と希望

今回もエターナルのターンです。


戦場を歩く。

 

右を見れば兵器の残骸と死体。

 

左を見れば崩れた建物と死体。

 

どこをみてもそこは地獄だった。

そのなかを歩いていく。

目指すはこの地獄の中心地。

 

 

地獄の中心…

 

そこには先ほどのがましに思えるほどの地獄が広がっていた。

そしてそれを引き起こしたであろう者たちがいた。ISを纏った三人組だ。

 

 

「誰だ貴様!」

 

 

そいつらの一人が声をあげる。

ここには奴ら以外俺しかいなかった。いや、いなくなっていた。

つまり俺に言っているのだろう。

 

 

「そんなこと聞く必要があるのか?ここでは知らない奴は敵だろ?」

 

 

まともに答えてやる必要はない。

 

 

「これはお前たちがやったってことでいいんだな?」

 

 

今度は俺が質問する。

 

 

「そんなこと聞く必要あるの?ここに私たちがいるってことはそういうことでしょ?」

 

 

分かりきっていた答えが返ってくる。

 

 

「ていうか~、そんなこと知ってどうすんの?」

 

「そうそう、これからお前もこいつらの仲間になるんだからべつに知る必要なくね?」

 

 

取り巻きの二人がゲラゲラと笑う。

 

 

「下品な女たちだ。」

 

「「あぁ‼」」

 

 

二人が銃口をこちらに向けてくる。

 

 

「やめなさい。」

 

 

リーダーらしき女の一言で二人は渋々銃口を下げる。

 

 

「あなたいい度胸してるわね。生身でIS乗りに喧嘩売るなんて。気に入ったわ。」

 

「お前に気に入られる必要はない。」

 

「いいの?そんなこと言って?私が許可出したらあなたはハチの巣よ。」

 

 

こいつは俺の命を戦う前から握っているつもりらしい。

 

 

「やってみろ。殺されるのはお前らの方だ。」

 

「コイツゥ‼」

 

 

取り巻きの一人が銃口を向けて撃つ体制にはいる。

 

 

Eternal(エターナル)

 

 

それと同時に俺はメモリを取り出す。

 

 

「殺す‼」

 

「変身。」

 

Eternal(エターナル)

 

 

音声と同時に俺の体を一瞬でアーマーが包み込む。

無数の銃弾が迫っていたが変身の余波によってすべて弾き飛ばす。

そして手を振りかざすと俺を包んでいた赤い炎が消え去り相手にも俺の姿が視認できる。

『E』をあしらった角と、『∞』マークを模した複眼、燃えるような赤い腕。

俺はエターナルレッドフレアに変身した。

 

 

「なっ!?」

 

「なんだそりゃ!?」

 

 

取り巻きは事態が呑み込めず混乱している。

 

 

「へぇ~、あなたが噂のエターナルってやつ?」

 

 

どうやらリーダーの女は知っているらしい。

 

 

「なるほど、俺も有名になってきたらしい。」

 

「裏であなたの名前を知らない奴はただの馬鹿よ。IS狩りのエターナル。」

 

 

ものすごく不本意な通り名をつけられていた。

 

 

「しかし、正体不明のエターナルが男だったとはね。噂は本当だったわけね。」

 

「冥途の土産にはちょうどいいだろう?」

 

 

手招きして誘う。さすがのリーダー女も青筋を立てている。

 

 

「てめぇ!あねさんを馬鹿にしてんじゃねぇぞ‼」

 

「あねさんの手を煩わせることねぇ。あたいたちだけでぶち殺してやるよ。」

 

 

どうやらまずは取り巻き二人が相手らしい。

見たとこ一人が近接、もう一人が中距離といったところか。

 

 

「死ねヤァ!」

 

 

近接型が突っ込んでくる。獲物は大型近接ブレード。

それと同時にもう一人も退路をなくすように弾幕をはってくる。

 

(なるほど、それなりに連携はできるのか。)

 

近接型を迎え撃つため、エターナルエッジをブレスレットから呼び出す。

俺の持ち物はブレスレットタイプの粒子変換倉庫で持ち歩いており、即座に出すことが可能だ。

 

ガキンッ!

 

エターナルエッジで攻撃を受け止める。

 

 

「あぁ?んだそりゃ。いつの間に展開しやがった?」

 

「さぁ?お前の攻撃がのろすぎていつ展開したのか忘れちまったよ。」

 

「てめぇ‼」

 

 

簡単な挑発をしたらすぐにかかった。馬鹿はやりやすくていい。

そして大降りになったところを・・・・

 

 

「っと、危ない危ない。」

 

「チッ!」

 

 

回り込んでいた中距離型の射撃をバク転して避ける。

 

 

「余裕こいてんじゃねぇ!」

 

 

すかさず近接型が斬りかかってくる。

それを防ぐがもう一人の射撃によって攻撃に転じられない。

 

 

「あらあら、噂のエターナルはその程度なのかしら?」

 

 

リーダー女が高みの見物と言わんばかりに見下ろしてくる。

参加するつもりはないようだ。

 

(さてと、そろそろ反撃しますかね。)

 

こいつらの動きは大体わかった。

 

 

「オラオラどうしたぁ!」

 

「最初の威勢はどこいっちゃったのかな~?」

 

 

こいつらは反撃をしない俺を見て完璧に優位だと思っている。

 

 

「ギャハハハハ!はやく死n「黙れ」グヘッ!」

 

「!?」

 

 

まずは近くでうるさい近接型を黙らせるために軽く2,3回斬ってから蹴り飛ばす。

そして動揺しているもう一人にエッジを投擲。

 

 

「なっ!?」

 

「カハッ!カハッ!カハッ!」

 

 

エッジは見事に命中し、足止めに成功。

その間に呼吸が乱れている近接型に接近する。

俺の手にはすでに大型ブレードであるエンジンブレードが握られている。

 

 

「クソがぁ‼」

 

 

敵が咄嗟にブレードで攻撃してくるがそれを避けて使い方を教えてやる。

 

 

「こう使うんだよ!」

 

「ガッ!?」

 

 

エンジンブレードを振り切って近くの廃墟に吹き飛ばす。

 

 

「アナ!?」

 

「人の心配してる暇はないぞ。」

 

 

戦場で相方の心配とは、狙ってくれと言っているようなものだ。

すでに俺の手にブレードはなく銃であるトリガーマグナムが握られており、相手に銃口が向いている。

相方の心配をする中距離型に連続で射撃する。

 

 

「グッ!・・・調子に乗るなー!」

 

 

一瞬ひるむもののすぐにマシンガンで反撃してくる。

 

(その一瞬が命取りだがな。)

 

俺の手には棒術武器であるメタルシャフトが握られている。

そしてメタルシャフトを前方で高速回転させることですべての弾を弾く。

 

 

「なに!?」

 

 

動揺してる間に接近し、メタルシャフトで殴りつける。

 

 

「ガハッ!・・・この!」

 

 

近接武器を展開して反撃しようとするが展開した瞬間手からはじき落とす。

この距離に入ってしまえばあとは一方的だ。

 

メタルシャフトによる連撃でみるみるうちに相手のシールドエネルギーが削れていく。

そして残りわずかというところで

 

 

「マリナから離れろやぁ‼」

 

 

復帰してきた近接型が襲い掛かってくる。

 

(たいした耐久力だな。)

 

絶対防御は衝撃までは殺しきれない。さっきの一撃で気絶していてもおかしくないのだがまだピンピンとしている。

 

 

「うおりゃ!」

 

 

それに先ほどよりキレが良くなっている。

仲間の危機に強くなる感動展開だろうか?

とりあえず少し距離を離して様子見をする。

 

(そろそろあちらさんも動きそうだな。)

 

ちらりとみると隙を伺っているリーダー女。

 

 

「マリナ!大丈夫か?」

 

「アナ・・・・ありがと。だいじょう・・・ぶ・・!?」

 

 

中距離型の方の動きが鈍い。

 

 

「装甲がつぶれて他のパーツを阻害している!?」

 

 

驚きの声があがっているとこを見ると俺の作戦は成功らしい。

先ほどのメタルシャフトでの連撃は装甲をつぶすようにして行った。

狙い通りつぶれた装甲が動きを阻害している。

 

 

「いや~、疲れるんだぜそれ。うまくやんないと失敗するんだ。」

 

 

俺の言葉に信じられないといった顔の二人。

 

 

「狙ってやったってのかよ・・・・」

 

「化け物ね・・・・」

 

 

酷い言われようだ。ただ普通皆がやらないことをやっただけだというのに。

まぁ、それは置いといて

 

 

「そろそろ大将の出番だろ?部下の仇を取りにこいよ。」

 

 

リーダー女の方に振り向き手招きをする。

 

 

「そうね、その二人じゃ荷が重かったようね。」

 

 

リーダー女がゆっくりと降りてくる。

 

 

「二人は手を出さずに見ていなさい。」

 

「あねさん!?でもそいつはb「マリナを守りなさい!」・・・・了解…」

 

「すみません、あねさん…」

 

 

どうやら一騎打ちらしい。

 

 

「部下を守るために一騎打ちとはすばらしい。感動的だな。だが無意味だ。お前の後にどうせ死ぬ。」

 

「それはあなたが私に勝てればの話でしょ?」

 

 

トリガーマグナムに持ち替えて射撃をする。

しかし、それにあたってくれるほどやさしい相手じゃないらしい。

避けながら接近してくる。

 

 

「そんなもの当たらないわよ。」

 

 

相手の近接ブレードをトリガーマグナムで受け止める。

 

(ぐっ!なかなかやる。)

 

コイツかなりの腕前だ。トリガーマグナムでは攻撃を受け止めきれなくなりそうだ。

 

 

「武器の展開はさせないわよ!」

 

 

武器を変えようにも鋭い連撃によってその暇がない。

今のところ防げてはいるがトリガーマグナムでは限界がある。

 

 

「はぁ!」

 

 

相手の攻撃によってついにトリガーマグナムが手から弾かれた。

 

 

「とった!これでもう武器はない!」

 

 

相手がすかさず攻撃してくる。

しかしそれは大きなミスだ。

 

 

「武器に気をとられすぎだ。」

 

Unicorn(ユニコーン)! マキシマムドライブ!/

 

 

俺はカウンターで拳を叩きこむ。

ユニコーンメモリによって俺の拳はドリル状のエネルギーを纏っている。

 

 

「ガハッ!?」

 

 

そのまま振り切り瓦礫の山に吹き飛ばす。

あいつは武器を警戒しすぎて俺がメモリを取り出したことに気づけなかったようだ。

 

 

「集中力が足りてないぜ。」

 

 

瓦礫の山にゆっくりと降りていくと気絶しているのか倒れた状態から動かない。

シールドエネルギーはまだ残っているのでISは展開されたままだ。

 

 

「起きられても面倒だ。先につぶすか。」

 

 

メタルシャフトを出し、振り下ろした瞬間。

 

 

「集中力足りてねぇのはてめぇだよ‼」

 

 

いきなり起き上がりブレードで突き刺そうとしてくる。

その顔と口調は先ほどまでの面影はない。どうやらこれが本性らしい。

 

 

「いや、お前の方だ」

 

 

俺はその攻撃を避け、メタルシャフトを()()()()()()()()

 

 

「ゴフッ!・・・なんでだよ・・?」

 

 

俺の放った攻撃は後ろに迫っていた近接型の腹にめり込んでいる。

動揺する近接型とその光景に唖然とするリーダー女。

 

 

「おいおい、酷いな~。さっきまでの部下を守る宣言は嘘だったのか?最初からこうして部下を使うつもりだっただろ。」

 

 

こいつらは一騎打ちすると思わせといて不意打ちを狙っていた。

 

 

「な、なぜだ!なぜわかった!?」

 

 

なぜわかったか?そんなもの

 

 

「殺気が出すぎてバレバレなんだよこいつ・・・は!」

 

「ガッ!?」

 

 

説明しながらメタルシャフトで近接型を吹き飛ばす。

 

 

「で、あんたは芝居へたくそすぎ。体がわずかに反応していた。小学生の学芸会の方がましだ。」

 

 

自信でもあったのだろう、開いた口がふさがらないといった表情だ。

しかし、すぐに表情は怒りに染まる。

 

 

「ふざけるな!この化け物が!」

 

 

ブレードで攻撃してくるが怒りにとらわれた大振りだ。

メタルシャフトで攻撃を弾き、カウンターで横なぎの一撃をかまして吹き飛ばす。

 

 

「そろそろ終わらせるか。」

 

 

吹き飛ばした方向に歩いていきながら一つのメモリを出し、右腰のスロットに挿す。

 

 

Zone(ゾーン)! マキシマムドライブ!/

 

 

音声とともに最初に投げたエターナルエッジがゾーンメモリの力によって手元に転送されてくる。

同様にメモリの力で残りの二人もリーダー女のそばに転送させる。

近接型と中距離型は痛みや動作不良で動けない。リーダー女もさっきの衝撃でひるんでいる。

 

 

「お前らは地獄が好きなんだろ?」

 

 

ベルトからエターナルメモリを抜き、エッジに挿し込む。

 

 

「あじ合わせてやるよ。」

 

Eternal(エターナル)! マキシマムドライブ!/

 

 

一番動けそうなリーダー女の動きをメモリの力で封じ、奴らのもとに走っていく。

近づくにつれて俺の足にエネルギーが溜まる。

 

 

「や、やめろ!来るなぁ!」

 

「たすけて!」

 

「なんで動けないの!?」

 

 

奴らの反応はそれぞれだ。しかし、その全てを無視して三人を飛び回し蹴りで吹き飛ばす。

あいつらが吹き飛んでいく先にはまだ奇跡的に残っている巨大な()()()()()がある。

そして今の一撃で三人ともシールドエネルギーはゼロに近い。

 

 

「さあ・・・地獄を楽しみな!!」

 

「た、たすk『ドゴーン‼』

 

 

凄まじい爆発音がなり、あたりは炎に包まれる。

 

そしてそこに立つのは俺一人。

 

俺は爆風で飛んできた三つのコアをキャッチする。

 

 

「これで56個目…」

 

 

エターナルメモリの効果でスリープさせてからその場を去った。

そして俺の正体を知るものもいなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、なかなかの相手だったな。まさか他のメモリを使うとは。」

 

 

研究室に戻りISコアを保管しながら呟く。

 

 

「一筋縄じゃいかない奴も増えてきたな…」

 

 

計画を始めてから一年近くが経ち、現在コアは一割近い56個回収済み。

これは順調に回収できているが・・・・

 

 

「そろそろ本格的に取りやすいコアがなくなってきたな…」

 

 

今までのコアは戦場で違法に使われているものや今回のような傭兵もどきのようなテロリストどもから回収して、なるべく痕跡は残さないようにしてきた。しかし、そのやり方でもISコアの回収は目立つため警戒されている。

今回のやつが俺を知っていたのがいい証拠だろう。

 

 

「はぁ~、出会ったやつ今回みたいに全員殺せばもうちょいやりやすいんだろうなぁ。やらんけど。」

 

 

今回のようなゴミのような奴じゃない限り操縦者は殺していない。

大量殺人がしたいわけじゃない。

 

 

「まぁ、俺が屑な殺人鬼なのには変わりないけど…」

 

 

それでもそれぐらいの意地はある。自分が不利になるとしても皆殺しはしない。

 

 

「覚悟はしてたけどきっついなぁ~。」

 

 

憂鬱になりながらも回収したISで研究することにした。

 

 

「やはりこのコアもそうか。」

 

 

今回回収したコアを調べた結果は俺の予想道理のものだった。

 

 

「やっとだ、やっと見つけた。これならなんとかなるかもしれないぞ。」

 

 

最近ようやく手掛かりを得て、なぜISは女性にしか動かせないのか一つの仮説を立てた。

その仮説とは

 

 

【女性が最初にISを動かしたためISは女性にしか反応しない。】

 

 

という仮説だ。

 

そもそもこのISは作成する過程で織斑千冬のデータを取り、組み込んでいる。

そのデータはISを構成するデータのなかでもとても重要なものでそれがあるから人はISに乗れるといっていい。

 

それだけならば問題はなかったかもしれないがISが完成してから最初に乗ったのは織斑千冬だ。

そしてISには意識があるとされている。そのISが乗り手とは織斑千冬・・・つまり女性だと勘違いしていたら?

 

雛鳥が生まれて初めて見たものを親だと思うようにISも初めて乗った女性だけが乗り手と勘違いしたのでは?

だから男性が触れても女性だけが乗り手と思っているISは反応しない。

これはそういう仮説だ。

 

 

この仮説が正しければIS内に残っている女性の遺伝子情報を調べることによってISがどのように判断しているのかわかり、男性でも乗れるように改善できるかもしれない。

 

 

(試してみる価値は十分にある。)

 

俺はこの仮説で研究していくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

仮説の研究をすること一年。

あるニュースが耳に入ってくる。

 

 

『た、大変です!?世界で初めて男性がISを起動したとのことです。』

 

 

俺は目を見開いてテレビにかじりつく。

 

(なんだと!?ISを動かしただと!?)

 

いったいどこの誰が

 

 

『その男性の名前は()()()()さんです。繰り返します、織斑一夏さんです。』

 

 

織斑・・・一夏・・・・

 

俺はその名前を聞き、口角がつりあがった。

 

(一夏・・・・最高のタイミングだ。)

 

そして思わず笑ってしまう。その日は笑いが止まらなかった。




おまけ

(ピロロロロロ…アイガッタビリィー)

作者
織斑一夏ァ!何故君がISを動かせるのか
何故君のISの武装が雪片だったのか(アロワナノー)
何故零落白夜が発現したのくわァ! 雄(それ以上言うな!)
ワイワイワーイ その答えはただ一つ… 千(やめろー!)
アハァー…♡
織斑一夏ァ! (束無言ダッシュ)
君の姉である千冬が世界で初めてISを動かした…白騎士というテロリストだからだぁぁぁぁ!!
(ターニッォン)アーハハハハハハハハハアーハハハハ(ソウトウエキサーイエキサーイ)ハハハハハ!!!

一夏「千冬姉が・・・白騎士・・・・?」 ッヘーイ(煽り)


エグゼイド終わった記念で例の場面をこの作品に当てはめてみた。
後悔はしていない。
気になる人は「宝生永夢ゥ」で検索してね。
ていうか今回主人公悪い奴みたいですね。主人公なのに…


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設定

今回はエターナルの設定についての説明です。




E・S:エターナル レッドフレア

 

変身者:暮見雄二 

年齢:24歳

性別:男

 

基本性能:

 

基本性能は公式のブルーフレアよりもちょい弱めといったところ。

 

ISと戦うことを考慮したスラスターが背中についており飛行が可能。

スラスターは小さく見た目には全く変わらない。

それでも標準のスラスターより少し高い機動力。

 

E・Sにはシールドエネルギーや絶対防御は搭載されていない。

それを使ってしまえばISと何ら変わんなくなってしまうのとドライバーの容量的な問題もある。

そのかわりにメモリのパワーとアーマーによって多少のシールド効果がある。

 

武器にはダブルやアクセルといった他のライダーの武器も使用する。

その武器やメモリはブレスレット型の粒子変換倉庫に入れており、即座に出すことが可能。

 

 

使用メモリ:

 

エクストリームを抜いたA~ZまでのT1ガイアメモリを使用。

劇場版にて使ったT2ガイアメモリを試作段階でT1として作った。

 

 

Accel アクセル  身体能力を強化し、加速能力を与えて高速移動を可能にする。

 

Bird バード  飛翔能力を与える。今作の場合、機動力や操縦性などの飛行性アップ。

 

Cyclone   サイクロン 疾風を引き起こしてスピードを高め、風を自由自在に操る能力を与える

 

Dummy  ダミー  他人・物体に擬態する能力を与える

 

Eternal    エターナル   マキシマムドライブ「エターナルレクイエム」発動時はT2以前の全ガイアメモリの能力を永続的に無力化させる

 

Fang   ファング   闘争本能を増幅させ、全身に鋭利な刃を発生させる

 

Gene   ジーン  遺伝子操作能力を与える

 

Heat   ヒート  闘争本能を高め、高熱・炎を自在に操る能力を与える

 

Iceage   アイスエイジ   あらゆる物体を氷結させる能力を与える

 

Joker   ジョーカー   身体能力・運動能力を高め、格闘戦の技術を強化する。マキシマムドライブ発動で「ライダーキック」及び「ライダーパンチ」を発動する

 

Key  キー   解除能力・目標の対象物を探し当てる索敵能力を与える

 

Luna  ルナ   分身・人体の伸縮といった幻想的な能力を与える

 

Metal  メタル   鋼鉄の肉体・怪力を持つ闘士に変化させる

 

Nasca  ナスカ   ナスカ文明の剣士に変化させ、飛翔能力・超高速戦闘能力を与える

 

Ocean  オーシャン   水弾の発砲・体を液体化させる能力を与える

 

Queen   クイーン   鉄壁のバリアーを発生させ、敵の攻撃を防ぐ

 

Rocket   ロケット    攻撃対象にミサイルを発射する

 

Puppeteer   パペティアー   対象物を人形の様に意のまま操る能力を与える

 

Skull   スカル   骨格を中心に人間の肉体を強化し、身体能力を極限まで引き出す

 

Trigger    トリガー   銃撃能力を与え、射撃力を強化させる

 

Unicorn    ユニコーン   パンチ等の打突攻撃の破壊力を高める。マキシマムドライブ発動で螺旋状オーラを纏ったコークスクリューパンチを放つ

 

Violence    ヴァイオレンス    全身の筋力を強化し、特に腕力を最も強化させる

 

Weather    ウェザー   雨・竜巻・雷・雪といった全ての気象現象を自由自在に操る

 

Yesterday  イエスタデイ  発動された対象の記憶を操作し、昨日と同じ行動を繰り返させる

 

Zone   ゾーン    任意の対象物を自由に他の場所へ転送する

 

 

※Wikipedia参照です。

 

 

使用武器:

 

・エターナルエッジ

・エンジンブレード(エンジンメモリ付き)

・トリガーマグナム

・メタルシャフト

 

 

使用ガジェット:

 

これらは一部武器と合体することができる。

 

・スタッグフォン(スマホバージョン)

・スパイダーショック

・バットショット

・デンデンセンサー



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原作スタート
第三十話 始まった物語


第三十話でやっと原作入ります。
おまたせしました。

お気に入り登録250人突破しました。
皆様ありがとうございます。


(きつすぎる…)

 

 

俺こと織斑一夏は現在、教室にいる。

別に学校初日で友達ゼロとかそういうのじゃない。

今はまだ朝のHRすら終わってない状況だ。

 

ではなぜ俺が悩んでいるのかというと・・・

 

俺の席を囲むように女子の席が配置されているからだ。

まわりに女子いて悩んでる?お前馬鹿か?などと言われそうだがここばっかりは例外だ。

 

 

(なにせここは・・・・)

 

 

そう、ここは・・・・

 

 

(I()S()()()だからな…)

 

 

 

IS学園。それは全世界からISを学びに来る生徒たちが集まる学園であり、ここはどこの国にも属していない特殊な学園なのだ。

ISは女性にしか動かせないのは一般常識だ。しかし、俺は男なのに起動させてしまった。

つまり・・・・比率がやばい…

 

(男女比率が普通なら喜べたがここまでくるとさすがにキツイ…)

 

女子だらけの空間に放り込まれて皆から見られる。

 

(俺はパンダじゃないっての…)

 

思わずため息をついてしまう。

 

 

「おり____か_ん_」

 

 

しかし救いなのが箒がいることだ。

 

 

「__むらい__く_。」

 

 

箒の方を見ると

 

 

『前を見ろ!』

 

 

と仕草と目線で伝えてきた。

 

(前?)

 

教えられた通り前を見ると・・・

 

 

「織斑・・・一夏・・・くん…」

 

 

何故か半泣き状態の先生が俺の名前を呼んでいた。

 

 

「えっ!?あっ、はい。なんですか先生?」

 

「あの・・・自己紹介・・・・織斑君の番なんだけど・・・やってもらっていいかな?あっ!私なんかの言う事聞いてくれないよね…」

 

 

ズーンと効果音が見えるぐらい落ち込む先生。

 

 

「いえいえ!そんなことないです。自己紹介やらせていただきます!」

 

「ほんとですか?」

 

「もちろんです!」

 

 

パァーっと顔が明るくなる先生。表情豊かだなこの人。

 

 

「じゃあ、お願いします。」

 

「はい。織斑一夏です。よろしくお願いします。」

 

 

とりあえず挨拶をして座ろうと思ったが女子からの期待の目線が突き刺さる。

これは趣味とか言わないといけないやつだ。

 

(雄二兄ちゃんが『自己紹介はまじで大切だから!まじで!』とかいっていたな…)

 

その時に困ったときの自己紹介を教わったが今がその使う場面のようだ。

 

 

「趣味は体を動かすことで得意なことは家事全般です。ISについては右も左もわからない状態なので助けてもらえると嬉しいです。皆さんのことも知りたいので話かけてもらえるとさらに嬉しいです。以上です。」

 

 

言い切った瞬間、ストンっと席に着く。そして遅れて拍手の音が聞こえる。

 

(どうやら成功したみたいだ。雄二兄ちゃん、ありがとう。)

 

やはり俺の兄は偉大だと思い、しみじみとする。

 

 

「なにをしみじみと天を見上げている、織斑。」

 

「えっ?」

 

 

ものすごく聞き覚えのある声が聞こえ、前を見ると

 

 

「千冬姉!?」

 

 

俺の姉である織斑千冬が立っていた。

何故ここに?と思っていると

 

 

「学校では織斑先生と呼べ!」

 

 

出席簿で頭を殴られ、スカン!といい音が俺の頭から鳴った。

 

 

「いっつ!何すんだよ千冬n・・・・織斑先生…」

 

 

千冬姉と言いかけたら出席簿を構えたので慌てて言いなおす。

そして千冬姉は無視して教卓の前に立つ。

 

 

「織斑先生、会議は終わられたんですか?」

 

「あぁ。山田君、クラスへの挨拶を押し付けて悪かったな。」

 

 

千冬姉はさっきまで話していた先生(山田先生というらしい)と軽く話してからこちらを向く。

 

 

「私がこのクラスの担任となった織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物にするのが仕事だ。」

 

 

そう千冬姉が言った瞬間・・・

 

 

『キャーーーーー!!』

 

「千冬様、本物の千冬様よ!」

 

「私、千冬様に会うために入学したんです!」

 

 

教室中から黄色い声援がうるさいほどにとびまくる。

 

 

「毎年よくもこれだけの馬鹿者が集まるものだ。私のクラスにだけ集中させているのか?」

 

 

呆れ気味に言う千冬姉。俺もこれは異常だと思う…

 

 

「お姉さまー!もっと叱ってののしって!」

 

「でも時には優しくして!」

 

「そしてつけあがらないように調教してー!」

 

 

うん、この学園ダメかもしれんね…

ていうか千冬姉が担任か。

 

 

「教師やってたんだ、千冬姉。」

 

「織斑先生だ!」

 

 

出席簿が俺の頭にクリーンヒットする。めっちゃ痛い…

そして周りでは俺と千冬姉が姉弟だということに驚き、ざわめいている。

 

 

「静かに!諸君らにはISの基礎知識を半年で覚えてもらう。いいな?いいなら返事をしろ!よくなくても返事をしろ!」

 

『はい!』

 

 

さすが千冬姉、圧倒的カリスマだな。

 

 

「それと自己紹介についてだが時間がないためあと三人だけやって終了とする。他のものは休み時間にでも自己紹介しあってくれ。」

 

 

三人か。誰が自己紹介するのかはもうクラス中の皆わかっている。

 

(どんな奴らなんだろう?)

 

俺は期待を膨らます。

 

 

俺以外の三人の()()()()()の存在に。

 

 

 

 

 

 

 

 

「天馬 零士(てんま れいじ)だ。最初に言っておくお前ら全員俺様の嫁にしてやる。モブのやつも安心しろ、俺は寛大だ。」

 

 

高らかに言い放ち、最後にニコッと笑う。

そのしぐさにクラスの大半の生徒がうっとりする。

それをみて満足そうに彼・・・天馬零士は席に着く。

 

(なんかすごい俺様系の奴だな・・・見た目もすげぇし。)

 

彼の見た目は銀髪にオッドアイでおまけにそれが完璧に似合う美形の顔。

完璧な容姿と言っても過言ではない。

 

 

「・・・・次は衛宮だ。」

 

 

千冬姉が呆れて頭を押さえながら次の奴に自己紹介を促す。

衛宮と呼ばれた男は席から立つ。

その容姿は赤みがかった髪が特徴的だった。

そしてこいつも天馬同様イケメンだ。

 

 

「衛宮 隼人(えみや はやと)です。よろしくお願いします。特技は物を直したり機械いじりです。簡単なものならすぐ直せます。以上です。」

 

 

最後にぺこりと礼をして席に着く。

イケメンなのでやはり女子がざわつく。

 

(普通だな・・・・いや、さっきのがおかしいのか。)

 

真面目そうだけど表情は柔らかく話しやすそうなやつという印象だ。

 

 

「よし、最後は鳴海だな。」

 

 

今の衛宮の自己紹介で千冬姉は気を持ち直したようだ。

正直、俺もほっとした。

そして最後の一人が立つ。

 

 

「鳴海 優(なるみ ゆう)です。人に自慢できる特技とかそういうのはないです。趣味は料理です。よろしくお願いします。」

 

 

最後の奴はほんとに普通って感じだ。黒髪に衛宮達と比べたら平凡な顔。

どこのクラスにも一人はいそうなやつだった。

 

 

(どこにでもいそうだからかな?なんか会ったことあるような気がする。)

 

「これで自己紹介は終わりだ。各自休み時間にしていいぞ。」

 

 

そんなこと考えているうちに休み時間になった。

しかし・・・・

 

(動こうにも動けない…)

 

俺が動こうとすると皆、挙動一つ一つに反応するため目立ってしまう。

 

(これ以上注目されたら俺の胃が死ぬ!)

 

だから動けない。他の奴も同じなのか席から動かない。

いや、天馬の奴は違うな…。机に足を乗っけて偉そうに座っている…

 

 

「一夏。ちょっといいか?」

 

 

そんなとき俺に救世主が現れた。箒である。

 

 

「あぁ!もちろんだとも。どこか移動するか。」

 

 

他の男子には悪いがこれ以上ここにいてもいいことはないので箒とともに教室を後にする。

 

 

「ここまでくれば大丈夫だろう。」

 

 

俺達は屋上までやって来た。ここならば視線などもなく、ゆっくりと話すことができる。

 

 

「久しぶり・・・というのはおかしいか。連絡は取っていたしな。」

 

「いやでも、直接会うのは6年ぶりだから久しぶりでいいんじゃないか?」

 

「それもそうだな。では、久しぶりだな一夏。」

 

「久しぶり、箒。でっかくなったなぁ。」

 

 

6年ぶりに再会した箒は当然だが成長していた。

雰囲気も落ち着いており、身長も伸びていた。

そして・・・・

 

(胸も・・・・成長したな。)

 

胸には重装甲がついていた。

 

 

「ふふっ、何を当たり前のことを言っているんだ。」

 

 

箒はおかしそうに笑う。あの頃と何も変わらない柔らかな笑み。

それをみて俺は安心した。

 

 

「あっ!そうだ!」

 

「ん?どうした一夏。」

 

 

そうだった言おうと思っていたことがあったのを思い出す。

 

 

「箒、去年の剣道大会優勝おめでとう。」

 

 

去年箒は剣道で全国大会優勝したのだ。

 

 

「どうしたんだ急に?優勝した日にも聞いたぞ?」

 

 

箒が首をコクンとかしげている。

箒の言う通りなのだが

 

 

「面と向かって言いたくなってさ。今まで会えなかったから。」

 

「一夏…」

 

 

箒は嬉しそうにこちらを見てくる。

 

 

「ありがとう。」

 

 

ドクンッ!っと心臓が跳ねる感じがした。

不意打ちだった。まさかここまで喜んでもらえるとは思わなかった。

 

 

「き、気にするなよ。俺が言いたかっただけだから。」

 

 

少しきょどってしまう。

 

 

「どうした?顔が赤いぞ、一夏。」

 

 

箒がニヤニヤしながら聞いてくる。

 

 

「う、うるさいなー。べつに赤くない。」

 

 

この後箒にからかわれつつも休み時間が終わるまで箒との会話を楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

織斑一夏がISを動かしたことによって俺の考えていた仮説はあっていると確信した。

初めてISに乗った織斑千冬の弟、つまり遺伝子は近い。

恐らくはそれがISを動かせた原因であると俺は考えていた。

 

他の男性操縦者が現れるまでは・・・・

 

そいつらが現れたことによって俺の仮説は信憑性が格段に下がった。

もちろん素性を調べ上げたがISを動かせるような変わった点などなかった。

 

いったいなぜISが起動したのかは予想もつかない。

 

(この謎は俺には解けないのか?)

 

しかし、納得がいかない。

 

 

「ちょっといいか?」

 

 

思考に没頭していたら話しかけられた。

 

 

「いいけど、なんだい?」

 

 

声をかけてきた少年に返事を返す。

 

 

「いやさ、話がしたいと思ってさ。どんな奴なのかな~って。あっ!俺はさっき聞いてたと思うけど衛宮隼人っていう。確か()()()であってたよな?」

 

 

今、俺の目の前にいるのは衛宮隼人。男性操縦者の一人だ。

そして俺は・・・

 

 

「あっているよ。ありがたいね、もう名前を憶えてくれてるなんて。それに僕も衛宮君と話がしたいと思っていたんだ。」

 

 

鳴海優と名乗ってIS学園に()()()()()として入学している。

もちろんIS適正はある。最低値のCだがな。それに顔も別人だ。

どうやって俺がIS適正を得たのかは・・・っと今はそれよりも目の前の少年の相手をしないとな。

 

 

「衛宮君だなんてやめてくれ。呼び捨てで構わないし、好きに呼んでくれ。」

 

「そうですか、では衛宮と。それで衛宮は僕に何が聞きたいんですか?」

 

「何をってわけじゃなくて、ただ話してみたかっただけだから世間話でもなんでもって感じだ。」

 

「そうですか。では________」

 

 

それから他愛のない話をして休み時間をつぶした。

 

 

今は授業中なのだが暇すぎてあくびが出る。

 

(IS学園っていっても所詮はこんなものか…)

 

授業がつまらないのはどこも一緒だな。

つまらないので寝ることにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、ではここまででわからない人いますか?」

 

 

山田先生が黒板から振り返りクラスを見渡す。

今はISの基礎の基礎といったところらしい。

 

 

「山田先生…」

 

「はい、なんですか織斑君。」

 

 

俺が手を上げると山田先生がやさしく声をかけてくれる。

 

 

「ここがよくわからないんですけど…」

 

 

少しわからないことがあったので聞いてみた。

まだ基礎の基礎なのに恥ずかしい限りである。

 

 

「それだったら、ここがこうでね。こっちがこうですよ。」

 

「あぁ!なるほど。ありがとうございました。山田先生。」

 

 

山田先生の説明はとてもわかりやすく、すぐにわかった。

 

 

「では、続けますよ。」

 

 

(これはしっかりしないとすぐにわからなくなるぞ…)

 

 

「ふぅー、終わった。」

 

 

授業も終わり、中休みに入った。

 

 

「なぁ、ちょっと時間いいか?」

 

 

赤い髪の・・・・確か衛宮に話しかけられた。

 

 

「あぁ、いいぜ。衛宮だっけ?俺は織斑一夏。一夏でいい。」

 

「俺は衛宮隼人だ。好きに呼んでくれ。よろしくな一夏。」

 

「じゃあ、隼人って呼ぶわ。」

 

 

それから隼人と少し話したところで

 

 

「そういえば一夏、お前授業ついていけてるのか?」

 

 

そんな質問をされた。まぁ、さっき質問してたの俺だけだしなそう思うのが普通か。

 

 

「まぁ、ギリギリって感じかな。参考書が分厚すぎてうろ覚えでさ。」

 

「読んだのか!?」

 

「いや、そりゃあ読むだろ。必読って書いてあったし。」

 

 

おかしなこと聞く奴だ。

 

 

「あっ!いや・・・その・・・それはそうなんだが、ほら!あれって分厚くて電話帳みたいじゃないか。なんか話してる感じ一夏だったら間違えて捨てちゃってそうだと思ってさ…」

 

「げっ!?なんで捨てそうになったことがわかるんだ。エスパーか?」

 

「いや、なんとなく一夏ってそうゆう奴かなって…」

 

 

すげぇ失礼なこと言われたが捨てそうになったのは本当なので言い返せない。

 

 

「で、結局なんでそこで重要な物って気が付いたんだ?」

 

「それはだな、俺には兄貴分みたいな人がいるんだけどな。その人が『物は大切にしろ。捨てるときも本当に捨てても問題ないか確認しろ』ってよく言ってたの思い出したんだ。」

 

「兄貴分?」

 

「あぁ、それh「ちょっとよろしくて?」」

 

 

説明しようとしたところで俺の声を遮るように声をかけられる。

そちらを向くと金髪縦ロールの女子がいた。




今回はここまでです。

主人公はどうやってISを動かしたのか?
他の男性操縦者は何者なのか?
一夏達の前に現れた金髪縦ロールは一体何リアなのか?

次回から更新が多分遅れます。(二日か三日に一回ぐらい)

一時、日間ランキングに入っていました。
皆様本当にありがとうございます。


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第三十一話 謎

とりあえず初日終了までです。




俺の名前は衛宮隼人。

いわゆる転生者ってやつだ。

 

そんな俺は今、金髪縦ロールチョロインことセシリア・オルコットを前にしている。

 

 

「え~っと、何か用か?」

 

 

俺の隣にいる一夏が話しかけてきたオルコットに返事を返す。

 

 

「話かけたのだから当たり前でしょう?そんなこともわからないのですか?」

 

 

一夏がムッとする。俺もいまのは少しイラッときた。

 

 

「それだったらはやく話せよ。」

 

 

一夏が催促する。

 

 

「なんですのその態度は。私が話かけるだけでも光栄なんですのよ。」

 

「光栄って・・・・俺は君のこと知らないし…」

 

「俺も知らないな。」

 

 

俺は知っているが知らないふりをする。

 

 

「私のことを知らない!?このセシリア・オルコットを!イギリス代表候補生であり、入試主席のこの私を!?」

 

「代表候補生なのか。それはすごいな。でも、自己紹介も全員やらなかったんだから名前知らなくても不思議じゃないだろ?」

 

 

まただ…

 

(俺の記憶だと一夏はIS知識ゼロのはず。)

 

なのに一夏は授業についていけ、代表候補生という単語を分かっている。

 

 

「自己紹介などしなくてもイギリス代表候補生の私のことは知っておくべきですわ!」

 

「そんな無茶な…」

 

 

一夏の言う通りだと思う。俺達は急遽IS学園に入ることになり、参考書を覚えるだけで手いっぱいだったのだから。

 

 

「無茶でもなんでもありませんわ!現にあちらの男性は私のことを知っていましたわ。」

 

「「えっ?」」

 

 

俺達はオルコットのみている方向を見る。

視線の先には鳴海がいた。

こちらの会話が聞こえていたのか手を振ってくる。

 

 

「それに比べあなたたちは常識が足りてないのでは?私はエリートですのよ!私と同じクr「ここわかんないんだけどさ。」ここはですね、こうですわ。「なるほど、ありがとな。」いえいえ・・・・・って何やらせてるんですの!」

 

 

鳴海から視線をこちらに戻すと漫才みたいなことやっている。

クラスの人たちもクスッと笑っている。

それに気づいたのか顔を少し赤くするオルコット。

 

 

「え~っと、結局オルコットは何しに来たんだ?」

 

 

話が終わりそうにないので俺は結論を求める。

 

 

「はっ!?そうでしたわ。私、男性操縦者がどのような人か確認しに来たのですわ。まぁ、結果は予想通りでしたけど。」

 

 

どうやら俺達はオルコットのお眼鏡に叶わなかったようだ。

まぁ、性格からいって俺達には最初から何も期待していなかっただろうが。

 

 

「ですが、私は優秀ですからあなた達にも優しくしてあげますわよ。わからないことがあれば、まぁ、泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ?何せ私、入試で唯一教官を倒した、エリート中のエリートですから。」

 

「あっ、それ俺も倒したぞ。」

 

「俺も倒したな…。水を差すようで悪いが。」

 

 

俺も試験では教官を倒した。まぁ、試験だから手加減していたというのもあるだろうが。

 

 

「ほ、本当ですの!?」

 

「いやまぁ、倒したっていうかいきなり突っ込んできたのをかわしたら壁にぶつかって自爆したんだけど。」

 

「な、なんですかそれは・・・・そちらのあなたは?」

 

 

オルコットがこちらに向く。

 

 

「俺の場合は相性が良かっただけさ。射撃タイプの機体を教官が使っていたから接近してギリギリ勝った。試験だから手加減していたんだろなきっと。じゃなきゃ近づけずに終わってた。」

 

「教官を倒したのは、わ、私だけと聞きましたが…」

 

「女子ではって落ちじゃないのか?」

 

 

それを聞いたオルコットは呆然とする。

 

 

「おーい、オルコット?」

 

「ハッ!?それじゃあ!本当にあなた達も教官を倒したって言うの!」

 

 

声をかけたら意識が戻ってきたらしく、こちらに詰め寄ってくる。

 

 

「お、落ち着けよ…」

 

「こ、これが落ち着いていらr『キーンコーンカーンコーン』話の続きはまた改めて。よろしいですわね!」

 

 

チャイムが鳴ったことによりオルコットは席に戻っていった。

 

 

「嵐のような子だったな…」

 

「あぁ…」

 

 

その後は特に何も起こらず放課後を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は織斑一夏。よろしくな。」

 

「えぇ、よろしく織斑君。僕のことは好きに呼んでくれ。」

 

「じゃあ、優って呼ぶな。優も俺のことは一夏でいいぜ。」

 

「さすがに名前を呼ぶのははやいと思うから織斑、っと呼び捨てで呼ばせてもらうよ。」

 

「そうか?俺は全然かまわないけどな。」

 

 

相変わらず一夏はフレンドリーなやつだった。

 

(変わらないものだな…)

 

一夏は鳴海優を知らないし、鳴海優も一夏のことは知らないことになっている。

ぼろが出ないように気をつけなければいけない。

 

 

「それにしても先生遅いな。」

 

 

衛宮が扉の方を見ながら呟く。

俺達男性操縦者は今、先生に教室に残るよう言われて残っている。

 

 

「先生も大変なんだろ。それよりも・・・・・天馬!こっち来て一緒に話さないか?」

 

 

一夏が窓際にいる天馬に話しかける。

 

 

「なぜ俺様がお前らなんかと話さなければいけない?」

 

 

ギラリと射抜くような眼光でこちらを見てくる。

 

 

(う~ん、まだ全然迫力がないな・・・・・25点かな。)

 

「そ、そんなこと言うなよ。俺達同じ境遇の仲間だろ?」

 

「仲間?フッ!愚民にしては面白いこと言うじゃないか。」

 

 

一夏が説得を試みるもダメなようだ。

 

 

「おいおい、さすがに言いすぎだぞそれは。」

 

「言い過ぎも何もあるか。事実なのだから。そして教えといてやる。俺は貴様らとなれ合うつもりはない。せいぜい三人でお友達ごっこでもしてろ。」

 

 

衛宮が会話に参加するが状況はさらに悪化していく。

一夏と衛宮は頭にきているのか拳を少し握っている。

対して天馬は余裕綽々といった感じでこちらを見下している。

このままでは一触即発といった空気だ。

 

 

「み、皆さんお待たせしました!」

 

 

そこに扉を開けて教室に入ってくる人物が二人。

山田先生とちーちゃんである。

その二人が入ってきたことで一夏と衛宮は拳から力を抜く。

 

 

「遅かったですね、先生方。」

 

「悪いな、職員会議が長引いてしまってな。お前たちに残ってもらったのは渡すものがあるからだ。」

 

「はい、こちらですね。」

 

 

そういって山田先生が一人ずつにカギを渡していく。

 

 

「それはお前たちの部屋のカギだ。再発行は手間がかかるため、なくすんじゃないぞ。」

 

「部屋?しばらくは自宅から通うんじゃなかったっけ?」

 

 

一夏が疑問の声をあげる。一夏の言う通りしばらくは自宅から通うことになっていたはずだ。

 

 

「急遽変更されてな、お前たちには今日から寮で生活してもらう。」

 

「えっ!?荷物とかはどうすんだ!?」

 

 

一夏が再び質問する。なるほど、自宅からではいつ襲われてもおかしくないからか。

しかし・・・・

 

(この二人・・・・妙に落ち着いているな。まるで知っているかのようだ。)

 

衛宮隼人と天馬零士。この二人は落ち着いた態度には違和感を感じる。

 

(まぁ、たいしたことじゃないか…)

 

最近の子は落ち着いているんだろうきっと。

そう結論づけた俺はちーちゃんの話の続きに耳を傾ける。

 

 

「荷物ならば心配するな。私が用意しておいたし、お前らの家にも連絡済みだ。」

 

 

そういうちーちゃんの後ろには人数分のダンボール箱がある。

 

 

「着替えに歯ブラシ、充電器が入っている。これだけあれば大丈夫だろう?」

 

「えっ!?それだけ!?」

 

「必要なものがあるなら休みの日に家に取りに行け。以上だ、異論は認めん。」

 

 

まじかよ・・・と落ち込む一夏。衛宮もこれにはさすがに苦笑いだ。

天馬は特になにも反応していない。

 

(本当に必要最低限なところがちーちゃんらしいな。)

 

俺にはブレスレット型の倉庫があるので何も問題ないので呑気にそんなことを思う。

 

 

「皆さんは大浴場は使えないので部屋のシャワーを使ってくださいね。」

 

「えっ?なんで使えないんですか?」

 

 

一夏の頭には疑問符がうかんでいる。

分かってないのは一夏だけのようなので助け船をだす。

 

 

「織斑。ここはIS学園でそのほとんどの生徒は?」

 

「そりゃもちろん女子だr・・・・あっ!なるほど、そういうことか!」

 

「馬鹿は頭の回転が悪いな。」

 

 

一夏がわかったところで天馬がクツクツと馬鹿にするように笑う。

 

 

「なんだと!お前さっきから!」

 

「事実だろ?いや、事実だからキレているのか。」

 

 

挑発する天馬と今にもとびかかりそうな一夏。

またもや一触即発という空気になったが

 

 

「おいおい、二人ともよせって。話が進まないだろう?」

 

「隼人・・・でもあいつが・・・」

 

「確かに天馬の言い方は悪いがあの程度の挑発に乗るな。乗ったっていいことないぞ?天馬の方も話が進まないからあまり口出しするなよ?」

 

 

衛宮の一言で一夏は落ち着き、天馬はフッと鼻をならし腕を組み、話を聞く体勢になる。

もう少し遅ければちーちゃんが仲裁(物理)をしていただろう。

 

 

「は、話はこれだけなので皆さん道草をくわないで寮まで帰ってくださいね?」

 

 

そういって先生方は教室から出ていく。

そして俺達も教室をでて、寮に向かった。

 

 

部屋に到着し、段ボール箱を床に置く。

どうやら俺は一人部屋のようだ。

 

 

「さてと・・・・」

 

 

スマホを取り出し、腕時計であるスパイダーショックを使って部屋の状態を調べる。

するとスマホであるスタッグフォンにいくつかの反応が示される。

 

(やはり、盗聴器が仕掛けられているな。)

 

その反応の正体は盗聴器である。スパイダーショックの発信機としての電波受信機としての機能を応用して発見した。

そして手元のスタッグフォンを操作してそれらの盗聴器をハッキングしていく。

 

 

「はい、完了っと。」

 

 

ダミーの音声を送るようにハッキングした。これで盗聴器は使い物にならなくなった。

壊すと俺への警戒度が増すため、このような回りくどい手を採用した。

 

 

「これで好き勝手できるな。」

 

 

ブレスレットからノートパソコンを取り出す。これは研究所のコンピューターとリンクしている。

その他にもいろいろ私物を取り出していき、部屋に配置していく。

 

 

「よし、完成。」

 

 

五分もしないうちに俺の部屋の内装は完成した。

大体の物が研究の資料だったりする。

 

 

「これでひと段落したな。」

 

 

ベッドに座り込み、体内から一つのメモリを取り出す。

 

 

Dummy(ダミー)

 

 

そしてメモリを発動させると俺の姿は鳴海優から暮見雄二へと戻る。

俺はこのダミーメモリの擬態能力を使い、姿を変えていた。

 

 

「肩がこるな。」

 

 

肩をまわすとバキボキと音をたてる。

やはり体格の違う体にしていたため、疲れが少し溜まっている。

 

 

「戻ったことだし、研究すっか。」

 

 

ノートパソコンの電源を入れ、研究をする。

今日考えることは・・・・

 

 

(なぜ衛宮隼人と天馬零士がISを動かせたのか…)

 

 

二人の男性操縦者についてだった。

俺の仮説からするとこいつらはバグそのものだった。

 

 

(なぜだ・・・・・)

 

 

単純に俺の仮説が間違っていたというならそれで解決してしまうが・・・・

 

 

「納得がいかない…」

 

 

納得がいかなかった…

なぜって?それは・・・・

 

 

俺がその仮説通りにIS適正を得ることができているからだ。

 

 

それだけ聞けばそんなやつらほっといて研究成果を発表すればいいのだが・・・・

 

 

(これは俺の体だからできただけだ…)

 

 

仮説の研究をしてきた一年間、俺はひたすら自分の体を作り変えてきた。

ISを調べて動かす要因だと思われるものを見つけては遺伝子操作能力があるジーンメモリと自分の技術をフル活用して自分の体を作り変えてきた。

そして俺はIS適正を得た。しかし・・・・

 

 

(そんなものに耐えられる人などいるはずがない…)

 

 

この女神様にもらった体だからこそできたのだ。この体じゃなければ度重なる人体改造に耐えられない。普通の人ではたどり着けない。確実に死ぬ。それほどまでに過酷なものだった。その結果俺の髪は色素が抜け、白くなってしまった。

 

 

(それに正直、どうして俺がISを動かせているのか詳細がわからない。)

 

 

度重なる改造でいったい何が作用してISが反応したのか俺でもわからなくなっていた。

しかし、少なくとも仮説をもとにした改造によって動かしているのは事実だ。

だからこそあの二人は俺からしたらバグなのだ。

 

 

(いったいどうやって・・・・)

 

 

二人について考えるが全くわからない。

 

 

「はぁ~、もうひとつの研究をすすめるか…」

 

 

俺にはもう一つ考えなければいけないことがある。

それは、俺がどうやってISを動かしているかの原因解明だ。

それがわかれば、安全なIS適正手術の発見やIS自体を改善できるかもしれない。

そうすればゴールにググッと近づける。

 

 

「絶対に解明してやる!」

 

 

俺は気合を入れて研究に没頭した。

 

結局、夜明けまで研究したが何一つとしてわかったことはなかった。




因みに一夏は箒と同室で他二人は一人部屋です。


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第三十二話 決闘ですわ(震え声)

今回は決闘を申し付けるまでです。
戦闘はありません。


「・・・・・おはよう・・・織斑・・・」

 

「おはよう優・・・・って、すげぇ眠そうだな。」

 

 

食堂で箒と朝食を取っていると目の下に隈のある優がやって来た。

箒も少し驚いている。

 

 

「枕が変わるとあまり寝つけないんだ僕は。で、そちらの子は?彼女さん?」

 

「か、彼女?!」

 

 

突然の優の男同士ならではの軽いジャブに箒は動揺してしまう。

 

 

「いやいや違うから、同室の篠ノ之箒っていうんだ。それで俺と箒は幼馴染みなんだ。」

 

「なんだ、友達か。」

 

「そうそう。箒が驚くからあまりそういうジョークはよしてくれよ?」

 

「りょうか~い。・・・あながち冗談じゃなく聞いたんだけどな。」

 

 

わかってくれたようで何よりだ。最後に何かつぶやいていた気がするがよく聞こえなかった。

まぁ、優も特に何も言ってきてないし大したことじゃないだろう。

それよりも箒がジト目で見てきていることの方が気になる。

 

 

「すみません、篠ノ之さん。僕は鳴海優といいます。以後よろしく。」

 

「こちらこそよろしく頼む。先ほどのことは気にしなくてもいいからな。」

 

 

二人も自己紹介を終えたようなので

 

 

「優も一緒に食わないか?」

 

「いや、悪いけど遠慮させてもらうよ。僕は朝弱くって、朝はゆっくりと食べたいんだ。」

 

 

俺達の皿はすでに半分ほど空になっている。

これでは急かしてしまうかたちになる。

 

 

「そうか、ならしょうがないな。」

 

「誘ってもらったのにごめんよ。それじゃあ僕は行くね。」

 

 

そういって優は食券を買いに行った。

 

 

朝食も食べ終わり箒と早めに教室に行くことにした。

 

 

「おはよう一夏。結構早いんだな。」

 

「おはよう隼人。お前の方こそずいぶん早いじゃないか。」

 

 

中に入るとすでに隼人がいた。まだ授業までは30分以上ある。

 

 

「まぁ、少しな。で、そっちの子は?」

 

 

隼人の視線は箒に向いていた。

 

 

「あぁ、幼馴染みで同室の箒って言うんだ。で、箒。こいつは隼人だ。」

 

「篠ノ之箒だ。よろしく頼む。」

 

「こちらこそよろしく篠ノ之。俺は衛宮隼人だ。好きに呼んでくれ。」

 

 

自己紹介も終わり、三人で話し始める。

 

 

「一夏、そういえば昨日兄貴がいるとか言ってたよな。どんな人なんだ?」

 

 

隼人の質問にピクリと箒が反応した。

やはり思い出すと寂しくなるのだろう。

 

 

「あ~、え~っとだな…」

 

「私は別に構わないぞ一夏。」

 

「いいのか?」

 

 

俺が言おうか迷っていると箒がいいという。

ならばと思い、俺は話し始める。

 

本当の兄じゃないんだけど兄のように慕っていること。箒の兄であること。

一時期俺達の剣の師匠だったこと。優しく時に厳しかったこと。

他にもいろいろな思い出を喋った。

 

 

「へぇー、なんかいろいろすごい人だな。一度会って話してみたいな。」

 

「そ、それは・・・『キーンコーンカーンコーン』あっ!チャイム鳴っちまったな。はやく準備しないとな。」

 

 

チャイムが鳴ったのを理由に話を切り上げる。

隼人に少し不思議そうに見られたがしょうがない。

 

(もういないだなんていったら、せっかくの空気が壊れちまうしな…)

 

きっと雄二兄ちゃんもそういった同情はいらないと言うと思うから。

 

 

 

 

 

 

 

 

頭に痛みが走り目を覚ます。

 

 

「ん?ここは?」

 

「やっと起きたか、授業前に食堂で居眠りとはいい度胸だな鳴海。」

 

 

隣からはどすのきいた声が聞こえてきた。ちーちゃんである。

なるほど、思っていたよりも疲れが溜まっていたらしく朝食の途中で寝てしまったようだ。

その証拠に右手に箸、左手に茶碗を掴んだままの状態だった。

我ながら器用な寝かたである。

 

 

「おはようございます、織斑先生。」

 

 

そう言いながらご飯を口に運ぶ。すっかり冷えてしまっている。

もったいないことをしてしまった。

 

 

「呑気に食べているんじゃない!あと1分で授業開始だ馬鹿者。」

 

「もうそんなに経ってたんですね。じゃあ、これ食べたら僕は行きますので織斑先生は教室に戻られていて結構ですよ?もう寝落ちはしないので安心してください。」

 

 

俺は手を止めない。残すのは失礼だからだ。

 

 

「ほーう、目の前で遅刻宣言か。」

 

「その点については本当に申し訳ないです。ですが、残すのだけは自分で許せないのでお願いします。5分もすれば行きますので。」

 

 

席を立ち、直角に腰を曲げる。

 

 

「はぁ~、いいだろう。しかし後で罰はしっかりと受けてもらうからな。」

 

「ありがとうございます。」

 

 

ちーちゃんはこういうところ甘いんだよなぁ。

それがいいとこでもあるけど。

 

 

「遅れました。」

 

 

授業に5分ほど遅れ教室に入る。

 

 

「はやく席につけ。」

 

 

言われた通り席に着く。

 

 

「全員そろったのでこれからクラス代表を決める。一度決まると一年間は変わらないのでそのつもりで。」

 

 

ちーちゃんの言葉に教室がざわめく。

クラス代表。それは文字通りクラスの代表、つまりクラス委員長的なものだ。

一つ違う点はクラス対抗戦というものにでることだろうか。

 

 

「自薦、推薦は問わない。誰かいるか。」

 

「はい!織斑君がいいと思います。」

 

「えっ!?俺?」

 

 

予想通り一夏を推薦する声が上がる。男だからというのが大きいだろう。

つまりこのままいけば・・・・

 

 

「はい!私は天馬様がいいと思います。」

 

「私は衛宮くん。」

 

「じゃあ、私は鳴海君。」

 

 

予想通り男子は全員推薦された。

それにクラス全体も賛成という雰囲気だ。

それだと困るので

 

 

「納得いきませんわ!」

 

 

俺が手を上げようとしたらセシリア嬢が机をたたき、席を立つ。

周りも静かになってちょうどいいので俺は発言する。

 

 

「そのような選しゅt「織斑先生。」ちょっと!今わたくs「なんだ、鳴海。」・・・・」

 

「言葉を遮るようですみません、オルコットさん。」

 

「わかっているなら!」

 

「でも僕が発言権をいただけたので先に話しますね。」

 

「その通りだ。鳴海はオルコットと違い、挙手をした。先に発言する権利がある。」

 

 

許可も得たし、セシリア嬢に詫びもいれたので遠慮なく意見を言う。

 

 

「僕はセシリア・オルコットさんを推薦します。」

 

 

突然の推薦にクラスがポカンとする。推薦されたセシリア嬢までポカンとする。

普通なのは天馬と一夏とちーちゃんぐらいか。なぜだ?

セシリア嬢はこのクラスで恐らく一番操縦技術が高いと思われる。

それを推薦してなぜこの反応なんだ?

 

 

「そ、そうですわ。あなたは見る目がありますわね、この私を推薦するなんて。」

 

 

いち早く正気に戻ったセシリア嬢が俺の意見を肯定する。

良かった。本人が嫌ならどうしようかと思った。

俺は言う事はいったので席に座る。

 

 

「えぇ!でもせっかく男の子がいるんだからそっちの方がよくない?」

 

「そうそう。」

 

「私もそう思う。」

 

 

クラスから俺に視線が集まる。いや、だからなんでだよ。

 

 

「だって、オルコットさんはイギリスの代表候補生でしょう。実力的には十分適任だと思いますし、珍しいって理由で客寄せパンダ扱いされちゃ困りますよ。せめて一回実力見てからでしょう?そういうのって。」

 

 

俺が理由を述べると先ほどまでが嘘のように静かになった。

わかってくれたようで何よりだ。これでセシリア嬢に決まりだろう。

 

 

「よ~くお分かりで!そう、代表にふさわしいのはこの私でしてよ。男が代表なんていい恥さらしですわ。それに珍しいという理由でこんな島国の猿に任せるなんてありえませんわ。」

 

(ん?別にそこまでは言ってないんだけどな。)

 

「私はわざわざこんな島国までISの技術を学びに来てるんですわ。お遊びでやっているんじゃなくってよ!だいたい、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体私にとっては耐えがたい苦痛で___」

 

「イギリスだって大したお国自慢ないだろ。同じ島国だし、世界一まずい料理で何年覇者だよ。」

 

「そうだぞ。オルコットは言いすぎだ。日本の文化レベルはイギリスに負けちゃいない。日本製品は偉大だ!」

 

 

一夏と衛宮が抗議し始めた。空気は完全に喧嘩ムードだ。

天馬は何が楽しいのかニヤニヤしてみているだけだし。

このままいくと全員ちーちゃんに制裁されてしまう…

 

(その時は俺も巻き添いくらいそうだな…)

 

何とかしなければ。(使命感)

 

 

「お、おいしい料理はいっぱいありますし、文化レベルもこちらの方が上ですわ!あなた達、私のそこk「はい、ストップ。」あなたまた!「いいから、ちょ~っと黙ってもらえるかな?」ッ!?」

 

 

ヒートアップしそうなので仲裁に入る。セシリア嬢も俺の言葉で冷静になったようで口を開かない。

 

 

「君たちさぁ、なんの話をしてるわけ?」

 

「そんなのクラス代表に決まっているだろう。」

 

「そうだぞ優。お前もセシリアを推薦したんだからわかるだろ。」

 

 

セシリア嬢はおとなしくなったがまだ二人は落ち着かず、当たり前のことを口にする。

 

 

「なんだ、二人ともわかっているじゃないか。そう、今は代表決めであってお国のけなしあいじゃない。」

 

「でもあっちが先に言ってきたのが悪いだろ。」

 

 

衛宮は何となくわかってくれたが一夏はまだ何か言っている。

 

 

「納得いかないならただ止めるだけでよかったのに君は彼女の国をけなした。織斑、いわれたら言い返していいなんてことはないんだよ。」

 

「うっ!それは…」

 

「それに料理のことを馬鹿にするのはいただけない。もともと国によって好まれる味付けも違うのだから口に合わない人もいる。そして君は本場イギリスの料理を食べつくしたことでもあるのかい?そうでなければただの偏見だよ。」

 

 

そう言うと一夏は黙り込んでしまった。ようやく落ち着いたようでなによりだ。

 

 

「あなた、私をかばって・・・・」

 

 

セシリア嬢が俺の方に期待の目線を送ってきている。

大方、仲間か何かと勘違いしてるのだろう。一夏と衛宮も少し非難するような目でこちらを見ている。

 

 

「はぁ~、別にオルコットさんをかばったわけじゃない。さっきの話は君にも言える。先ほども言ったけど今はクラスの代表を決めるんだからお国の自慢をしたってしょうがない。料理や文化レベルは何の関係もない。それにオルコットさんは代表候補生でしょ?」

 

「何をいまさら・・・・ハッ!」

 

 

今の言葉でセシリア嬢も気が付いたようだ。

 

 

「そう、いわば国の名前を背負っている。そんな人が他の国をけなすような発言を不用意にするべきではない。プライベートなら好きにすればいいがここでは君は代表候補生だ。下手したら国際問題だよ?」

 

 

セシリア嬢の顔から血の気が引いていく。

しかし、これよりもまずい発言があった。

 

 

「それに君の言葉からすればこのクラスには世界最強の猿がいることになる。ね?織斑先生。」

 

 

ちーちゃんの方を向き、笑顔でちーちゃんを呼ぶ。

彼女は日本人のことを猿と呼んだ。つまりブリュンヒルデに猿といったのだ。

本人は自覚なく言っていたが…

 

(悪いねセシリア嬢。こんな話を盛り返しちゃってさ。でもこれも君のためだ。)

 

今後このような発言がないようにするにはきつ~いお灸をすえとくべきだ。

それに・・・・

 

(あの発言はさすがに少し頭に来ちゃったからね、しょうがないね。)

 

私情もたっぷりはいっている。

ちーちゃんからはものすごいプレッシャーのプレゼントがセシリア嬢に贈られる。

セシリア嬢は顔面蒼白で地面にへたり込んでしまった。

巻き添えでクラス全員冷や汗をかいている。

 

(うわぁ…えげつねぇ。)

 

セシリア嬢も頑張っている。普通こんなことされたら常人ならチビってもおかしくない。

それをへたり込むだけとはさすが代表候補生といったところか。

 

 

「まぁでも、オルコットさんが納得いかないのもわかります。だから織斑先生、なにかいいアイデアありませんか?」

 

 

このままだと授業が終わってしまうのでちーちゃんに任せる。

 

 

「そうだな、実力がわからんから衝突が起きた。ならば一度戦うのが一番だろう。」

 

「つまり、決闘ですわね。問題ありませんわ。」

 

「いいぜ、やってやる。」

 

「確かにそれが一番だな。」

 

 

セシリア嬢、一夏、衛宮が肯定する。うん、全員いいならそれでいいだろう。

なんとかなりそうでよかった。

 

 

「話は決まったな。試合は一週間後とする。参加者は推薦された者たち全員だ。」

 

「えっ?」

 

 

思わず声が出た。参加者は推薦された者、つまり俺も含まれる。

それは天馬も同じだが面白そうにクツクツと笑っているだけだ。

 

 

「何か問題があるのか、鳴海。」

 

「・・・いえ、なにも。」

 

 

ちーちゃんは言い出したら聞かない性格なのであきらめることにした。

まぁ、ちーちゃんらしい決め方だと思う。

そんなところでチャイムが鳴り、授業終了。

教室から出ようとしたら衛宮がこちらに来て

 

 

「鳴海って案外平然と毒はくタイプなんだな。ちょっと意外だった。」

 

 

とか言われた。聞こえていたのか周りのクラスメイトもうんうんと頷いていた。

 

 

解せぬ・・・・




セシリアが実力的にクラス代表だろ!いい加減にしろ!
そう思ってのセシリア推薦でした。
そしてやはりクラスメイト達に何かしら思われる主人公。


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第三十三話 代表決定戦(前編)

いよいよ始まる代表戦。
誰が勝つんでしょうね?

~お知らせ~
結城紅の名前を鳴海 優(なるみ ゆう)に変更しました。
結城のときから読んでいただいている皆様にはご迷惑おかけしてすいません。


「優、一緒に特訓しないか?」

 

 

放課後になり帰ろうとしたら一夏に呼び止められた。

一夏の隣には衛宮と箒もいる。

 

 

「どうして僕を?」

 

 

誘う意味がわからない。

同じ男性操縦者だから誘っているのかもしれないがISを上手く使えない俺を誘っても非効率的だ。

 

 

「どうしてって、人数がいた方が色々できるだろ?」

 

「そうかもしれないけど、あまり人数が多いと逆効果だと思うよ。」

 

 

メンバーを見る限り恐らく三人の中じゃ箒が一番ISに詳しい。つまり箒に教わるのだろう。

 

(あまり箒に負担はかけたくないな。)

 

そういう訳で断ろうと思ったが

 

 

「それに優って只者じゃない気がするから何か教えて貰えないかなって。」

 

 

一夏のおかしな言葉に思考が止まる。

こいつなに言ってるんだ。正体はバレてないはずだが…

 

 

「なんでそう思ったんだい?」

 

 

とりあえず探りをいれる。

 

 

「なんでってそりゃあ、優だけだったからな。あの状況で笑ってたの。」

 

 

一夏の言葉に他の二人も頷く。

あの状況?

 

 

「ほらあれだよ、今日のクラス代表決めで織斑先生がすごいオーラ出してた時。鳴海だけ笑ってただろう?」

 

 

笑ってた?俺、笑ってたっけ?

 

 

「僕、笑ってたのか…」

 

「無意識だったのか?最高だといわんばかりに口角が上がっていたぞ。」

 

 

まじか…気づかなかった。

確かにあのプレッシャーの中平然と笑っていたらそりゃ、変なやつって思われるわ。

 

 

「で、どうだ?一緒に特訓してくれないか。」

 

「それだと篠ノ之さんの負担が大きくなるんじゃないかい。見たとこ篠ノ之さんに教わるんだろう?」

 

「それならば気にしなくてもいい。私は部活もあってずっと教えられるというわけでもないし、教えるのは精々ISの基礎についてなどぐらいだ。一人増えたところでたいして変わらん。」

 

 

箒がそういうなら大丈夫なのだろう。それにここで俺は普通だと思わせないと後々面倒なことになりそうだ。

 

 

「うん、迷惑じゃないなら僕も一緒にやらせてもらうよ。」

 

 

本当だったら俺はこの学園にISを奪いに潜入したので学園内を調べたりしておきたいのだが今回はしょうがない。

 

(まぁ、学園生活は三年間ある。じっくりとやっていくか。)

 

その間もコア回収は続けるが、よもやIS学園内にその犯人がいるとは思わないだろう。

つまり三年間は身の安全が保障されていると言っても過言じゃない。

とまぁ、時間はあるので一緒に特訓することになったが

 

 

「そういえば、天馬君は誘わないのかい?」

 

 

気になったので聞いてみる。

さすがに仲間外れはかわいそうだ。ボッチの辛さはよく知っている。

 

 

「いや、誘うには誘ってみたんだけど…」

 

「『俺様に特訓など不要だ。貴様らは精々無駄な努力でもしてろ。どうせ勝つのは俺だからな』とか言われたんだ。」

 

 

あぁ、天馬はそういうタイプか…

一匹狼的なやつだね。ちなみに一匹でいる狼って群れから追い出されたボッチらしい。

 

 

「ならしょうがないね。彼と一緒にやったらなかなかに面白そうだから残念だな。」

 

 

そう言うと三人からそれはないと言われた。

解せぬ・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで一週間特訓をし、今日は試合当日。

今はピットにて待機中。なぜかって?それは

 

 

『織斑君。来ましたよ、織斑君の専用機。』

 

 

山田先生の言葉を聞き、搬入口をみるとそこから一機のISを運び込まれてきた。

そう、一夏の専用機を待っていたのだった。専用機とは本来企業や国家に所属するものにしか与えられないが一夏の場合、データをとるために与えられた。

 

 

「これが俺のIS。」

 

「名前は白式だそうです。」

 

「白式…。悪いななんか俺だけ専用機があって…」

 

 

一夏は申し訳なさそうに俺達の方を見る。

一夏の言う通り専用機はコアの数の都合上一番最初にISを起動させた一夏のみに与えられた。

そのはずなのだが・・・・

 

 

「いや、実は俺も専用機持っているんだ…」

 

「えっ?」

 

 

衛宮は剣の形をしたネックレスを見せながらそんなことを言う。

一夏は気づいていなかったようで間抜けな声を出している。

 

 

「えっ、なんでだ!?なんで隼人が専用機持ってるんだ?」

 

「実は俺の両親が経営している会社がISの会社なんだ。だからデータの収集として渡された。」

 

 

そう、衛宮の両親が経営している会社は大手のISを扱う会社でその大きさは倉持技研と同等のものだ。

そんなとこの息子に会社から専用機を与えられないわけがないということだ。

 

 

「へぇ~、隼人の家って金持ちだったんだな。」

 

「まぁな。でもあまり金持ちって言われるのは好きじゃないからそこは頼む。」

 

 

二人が話しているうちに試合の時間だ。

 

 

「織斑、当たって砕けてきな。」

 

「優・・・・お前なぁ、こんな時に言うセリフじゃないぞそれ。」

 

 

呆れてプッと笑う一夏。いまので表情も柔らかくなった。

 

 

「ごめんごめん。じゃあ改めて、全力でぶつかってきな。」

 

「あぁ!」

 

 

気合の入った返事とともに一夏は試合に行った。

 

 

結果からいうと一夏の負けだった。

あと一歩というところでエネルギーが切れてしまい負けた。

そして一番気になったのがそのエネルギーが切れた原因だ。

 

(あれは零落白夜か?なぜあの単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)が?)

 

零落白夜・・・それはちーちゃんが使っていた暮桜の単一仕様能力だ。

その攻撃は絶対防御すら切り裂くほどの威力を秘めている。しかし、その攻撃に自身のシールドエネルギーを消耗するという欠点がある。今回一夏のエネルギーが切れたのもこの能力の効果で間違いない。

 

(どういうことだ?)

 

本来他の機体の単一仕様能力を他の機体が発現することはないはずなのだ。

なのに白式は零落白夜を発現した。

 

(また開発者でもわからないことが増えたな…)

 

頭が痛くなってくる。ISは反抗期の子供かなにかだろうか?

 

 

「くそ~、負けちまった。折角皆アドバイスしてくれていたのにすまん。」

 

「気にするなよ。ナイスファイトだったぞ一夏。」

 

「そうだぞ一夏。あと一歩だったではないか。」

 

 

俺が考えている間にいつの間にか一夏が帰ってきていた。

 

 

「おつかれ織斑。惜しかったけど調子にのらないようにね。」

 

「お、おう。結構厳しいよなお前って…」

 

 

こんぐらいは普通だと思うのだが厳しいらしい。

まぁ、言葉を変える気は全くないが。

 

 

「それよりも次は優の番か。がんばれよ!」

 

 

一夏のあとは俺と天馬による試合だ。今回は勝ち抜き戦らしく勝った者同士でやるらしい。

しかし、一夏に勝ったセシリア嬢も主武装が破損したためこれ以上の試合は無理なので棄権。

なのでこの試合に勝った方が残っている衛宮と戦い、勝った方がクラス代表になるようだ。

 

 

「ようやく俺様の番か。待たせすぎだ貴様ら。」

 

 

ピットの奥の方から天馬が歩いてくる。

そしてすでに天馬はISを展開させている。

金色に輝くその機体は訓練機などではなく、()()()だった。

 

 

《なっ!?》

 

 

その姿にこの場の全員が驚愕する。もちろん俺も例外ではない。

 

(馬鹿な!あいつの家はISの会社でもなく、あいつに専用機が与えられるなんて情報はなかった。)

 

これは確実だ。コアの動きを把握するためにもそういった情報はすべて押さえている。

 

 

「何を間抜けな面をさらしている。貴様らのような奴らが専用機を持っていて、俺様が持っていないなんてことあるはずないだろうが。」

 

 

当然のように言っているがそれはありえない。

ISが渡った情報がなく、今装着しているということは元から持っていたことになる。

しかし、この学園内にあるコア反応は全て確認済みだ。その中にこいつの近くから反応は出ていない。

 

 

『天馬!どういうことだ。その専用機はどうやって手に入れた!』

 

 

ちーちゃんの声がスピーカーから聞こえてくる。

この反応からして学園側も認知していなかったようだ。

 

 

「あるやつからもらってな。」

 

『あるやつとは誰だ。』

 

「さあな。名前なんて知らんし、考える必要はない。それよりも早く始めろ。」

 

 

そういって天馬はアリーナに向かって行ってしまった。

 

 

「どうするんですか織斑先生。」

 

 

訓練用ISの打鉄を装着しながらちーちゃんに試合をするかどうか聞く。

俺としてはあのISの情報が欲しいため中止と言われても勝手にいくつもりだ。

 

 

『あいつはもうアリーナに出て専用機を皆に見せてしまった。やむえん、あいつのISも政府からの専用機として処理する。』

 

 

つまり試合はするということだ。

 

 

「ちょっ!?織斑先生、それじゃあ鳴海は訓練機で専用機とやらないといけないんですか。それって不公平じゃないですか。俺が出ますよ!」

 

「勝手に決めないでくれ。僕の試合だ。」

 

 

衛宮が交代をかって出たが俺は拒否する。

 

 

「でも相手は専用機持ちだぞ。勝てるのか?」

 

「負けるだろうね。」

 

「なら____」

 

「それでもやる。僕がやりたいんだ。」

 

 

衛宮に皆まで言わせず宣言する。これは俺のやるべきことでもある。

それに・・・

 

 

「それに、僕は衛宮のことが結構気に入ってるんだ。だからこれは次に戦う君へのプレゼントでもある。」

 

 

俺が先に戦うことで天馬のISの武器や戦闘方法が多少わかる。

それは次に天馬と戦う衛宮にとっては少しは役立つだろう。

 

 

「鳴海…」

 

「だからしっかり見ておけ。」

 

 

アリーナに向かうためカタパルトに乗る。

 

 

「鳴海優、打鉄、出る!」

 

 

カタパルトが動き出し俺は射出された。

 

 

「来たか。」

 

 

アリーナに出ると待ちわびたといった感じの天馬がいた。

 

 

「すまないな待たせて。」

 

「最初はお前か。訓練機ごときで敵うと思っているのか。」

 

 

奴は見下し、笑う。相当自身があると見える。

 

 

「やれるだけやるさ。」

 

「三分耐えたら褒めてやる。」

 

 

天馬がそう言い終わったところで試合開始の合図が鳴る。

 

 

「少しは耐えろよ。」

 

 

天馬が腕を上げると空中に槍、剣、斧といった様々な武器が展開され浮いている。その総数は10。

 

(なんだあの展開方は。それになぜ浮いてる?)

 

俺が疑問に思い見ていると天馬が手を振り下ろす。

それと同時に浮いていた武器が一斉にこちらに向かって高速で飛んでくる。

 

(何ッ!?)

 

咄嗟に回避行動をとるが数本被弾する。

たった数本だというのにシールドエネルギーが2割ほど削られた。

 

(なんつう威力だよ…)

 

こんなもの聞いたことがないし見たこともない。

天馬の方をみるとすでに次の武器が浮いており、こちらを狙っている。

アサルトライフルの焔備を打ち込むが武器が弾を弾きながらこちらに射出される。

今度はうまく回避できたがこの打鉄の機動力では回避を専念しなければ避けられない。

 

 

「きっついなぁ~もう。」

 

 

すでに武器が浮いているのを横目に捉える。

そして射出されてくる武器。二回連続回避は無理だ。

しかし、これに全部当たればシールドエネルギーがやばい。

 

(あまり目立ちたくないんだけどな。)

 

これだけじゃ情報不足だ。

 

近接用ブレードの葵で直撃しそうな数本の軌道を少しずらす。

その他の武器も打鉄の防御の要である両肩の盾で防ぐことによって絶対防御を発動させない。

一見すべて着弾しているように見えて、こうすれば被弾しても装甲に当たっているため絶対防御が発動せずにエネルギーを温存できる。欠点をあげるとするなら

 

(絶対防御が発動しない分痛いんだよねこれ。)

 

装甲に当てているものの如何せん威力が馬鹿高いためすごく痛いのだ。

なんとかエネルギーの減りをを一割ほどに抑えたがこのままではジリ貧である。

どうにかしなければいけないのだが・・・

 

 

「どうすっかなぁ~。」

 

 

視線の先には空中に浮かぶ武器と余裕そうな天馬の姿。

再び展開されている浮いている武器は先ほどのとは違うものだ。

 

(あの機体、やはり拡張領域(バススロット)に制限がないな。)

 

拡張領域とは武器を収納しておく俺のブレスレットのようなものだ。

ふつうなら容量制限があるのだが天馬のISにはそれがない。

今の技術でそんなことはありえないが自分の目で見て確信した。

あの機体は無茶苦茶だ。

 

 

「ほう、なかなか耐えているじゃないか。運よく外れているのが多いようだな。」

 

「ずいぶん出鱈目な機体を使っているね。」

 

「俺にふさわしい機体だからな、このぐらい当然だ。」

 

 

再び腕を振り下ろされ、武器が射出される。

俺は回避ではなく先ほどと同じ防御をする。

一つ違う点はスラスターを限界まで溜めていること。

武器の射出によって土煙が上がり俺の姿が見えなくなったところで一気にスラスターを開放して接近を試みる。

 

 

「何!?今のでなぜ落ちない!」

 

 

慌てて右手を上げようとするが遅い。

葵による斬撃を一発入れる。

 

 

「グッ!貴様ァ!」

 

 

攻撃をくらい少し後ろに飛ばされた奴を見て確信した。

 

(やはりあの射出攻撃は腕を振り下ろさないと使えないらしい。)

 

仕様なのか未熟なのかは分からないが近づけてしまえばそれは大きな隙だ。

この距離からなら天馬が腕を振り下ろす前に接近できる。

追撃を仕掛けたところで自分のうかつさに気が付いた。

 

(まずったな…)

 

俺のブレードはこのままいけば天馬が腕を下すより先に届く。

しかし、天馬のもう片方の手が別の行動をしている。

そしてブレードが直撃する直前・・・

 

 

「二度もくらうわけねぇだろ!」

 

 

天馬とブレードの空間に盾が展開され、ブレードが防がれた。

空中展開できるものは武器だけではなかった。

盾といった防御もこなせる機体だったのだこのISは。

 

 

「死ね。」

 

 

腕が振り下ろされ十本の剣が打鉄に直撃する。

この距離ではどうすることもできないためシールドエネルギーが尽きた。

 

 

『試合終了。勝者は天馬零士。』

 

 

アナウンスが試合終了を告げた。

 

 

『両者ピットに戻ってください。次の試合は15分後とします。』

 

 

アナウンスの指示に従いピットに戻っていく。

 

(ISの操縦は苦手だな…)

 

戻る途中そんな言い訳を考えながら戻っていった。




ついに零士君の強さが明らかになりました。

主人公は苦手とか言っときながら今回もさらりとすごいことしてましたね…
これでIS適正最低値のCなんだぜ。

セシリア戦?全カットです。
次回は衛宮VS天馬です。


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第三十四話 代表決定戦(後半)

後半です。
遅くなってすいません。


『もうすぐ時間です。二人とも準備をしてください。』

 

 

山田先生からアナウンスが入り、俺は専用機である【アイアス】を展開する。

全体的に赤を基調とした外套服のような装甲が身を包む。ISとしては小さめのサイズだがこのぐらいの方が動きやすい。そして俺の周りに七枚花弁の形をした二枚の盾が浮いている。

この盾は機体と同じくアイアスの名を冠している。

 

 

「それが隼人のISか。」

 

「あぁ、名前はアイアスだ。」

 

「展開と言うよりも本当に装着しているみたいだな。機動力重視か。」

 

 

篠ノ之の言う通り装甲は最低限のため着ているという方が近いかもしれない。

そのため篠ノ之は機動力を重視した機体と見たようだ。

 

 

「いや、恐らくこの機体は防御型の機体だと思う。」

 

「えっ!装甲こんなに少ないのに?」

 

「一夏の言う通り防御型にしては装甲が少なすぎないか?あるのはあの不思議な形の盾二枚ぐらいだ。」

 

 

驚いた…

鳴海はこの機体の本質を見抜いているようだ。

 

 

「その盾こそが防御型であると思う理由だよ。」

 

「どういうことだ?」

 

「機体名はアイアス。その由来は恐らくギリシャ神話に登場するアイアスだろう。そして周りにある盾は花弁が七枚というところからアイアスの盾ってところかな。アイアスの盾はヘクトールという英雄の放った槍を革七枚目で防いだという。」

 

 

そう、鳴海の言う通りこの機体はアイアスの盾をモチーフにして作られている。

 

 

「その通りだ。驚いたな、初見でそこまでわかるなんて。」

 

「当たっていてよかったよ。ここまで言っといて違うといわれたら恥ずかしいからね。」

 

 

鳴海はそんな風に言うが確信があったのだろう、予想通りって感じがひしひしと伝わってくる。

 

 

「ということは、この機体は本当は機動力ではなく防御重視ということか。」

 

「篠ノ之言っていた機動力というのもあっているが本質は防御にあるって感じだな。」

 

「へぇー、この盾ってそんなにすごいのか?」

 

 

一夏がアイアスをつんつんとする。

 

 

「全部説明しちゃつまらないだろう?試合でのお楽しみってとこだ。」

 

 

そういってカタパルトに向かう。

俺の背なかに向けられる三人からのエールに俺は腕を突き上げることで答える。

 

 

「衛宮、アイアス、出ます!」

 

 

カタパルトから射出され俺はアリーナに飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「逃げずに来たか。」

 

 

ピットから赤いISを纏った男が出てくる。

 

 

「まず、逃げずに来たことは褒めてやる。」

 

「そいつはどうも。」

 

 

一試合前で俺の実力をみたはずだがこいつは平然としており、その瞳には気力が溢れている。

 

(悪くないが・・・・気に食わんな。)

 

俺に対して勝つ気でいる。

それがどこまでも癪に障る。

 

 

「貴様がどれだけの力を持っているか知らんが俺様には勝てん。」

 

「俺の限界を決めるのはお前じゃないんだ。だから、やってみなくちゃわからないだろ?」

 

 

臆することなく真っ直ぐにこちらを見据えた視線。

敗北ではなく、勝利を見続ける愚かさ。

 

 

「ククッ、ハッハハハハハ!」

 

 

こいつは面白い。どこまでも真っ直ぐであきらめの悪い愚か者。

簡単なようで普通の者にはほとんどできないことをこいつは当たり前のようにしている。

それでいてこいつは俺に勝てないとわかっている。

その歪さに久しぶりに大声で笑った。

 

 

「気に入った!俺様は貴様が気に入ったぞ。そのどこまでも愚かな真っ直ぐさは面白い。貴様、名は何という?」

 

 

「衛宮…隼人。」

 

 

衛宮隼人。この俺が名を覚えてやる。

感謝するがいい。

 

 

「では衛宮。」

 

 

右手を上げて空中に武器を展開する。

 

 

「俺を楽しませろ!」

 

 

腕を振り下ろすとともに武器が襲い掛かっていく。

 

 

「グッ!?」

 

「どうした、こんなものか?」

 

 

衛宮は回避を試みるが一本の剣が奴を捉える。

 

 

「俺を落胆させるなよ。」

 

 

再び武器を展開し射出する。

衛宮は先ほどの衝撃によって怯んでいる。

さぁ、どうする?

 

 

「アイアス!」

 

 

何か叫んだ直後に奴のもとに武器が到達し土煙が上がった。

 

(期待外れだったか…)

 

あそこまでの直撃を受けては終わりだろう。

あっけない結果に落胆する。

 

 

「おい、試合は終わりだ。はやくコールしr____!?」

 

 

その時俺の頬を掠めるように二本の剣が通り過ぎて行った。

絶対防御が発動するため斬れてはいないがエネルギーが少量減った。

剣が来た方向は土煙の中からだった。

 

 

「悪いがまだくたばっちゃいない。」

 

 

土煙が晴れるとそこには傷のない衛宮が立っていた。

そしてその前には二枚の盾が浮いている。

 

 

「耐えたか。いいぞ、そうでなくてはつまらんからな。」

 

 

あの二枚の盾で攻撃を防いでいたようだ。

その事実に再び興が乗る。

 

 

「その盾、ただの盾ではないな。この攻撃に使っているものは全てが超一級品。それを防げる盾とは驚いたぞ。」

 

 

どれほどの盾なのか試すように射出を続ける。

そして盾はその全てから主を守るかのように武器を弾いていく。

しかし攻撃を防ぐごとにその盾にヒビが入っていくのが確認できる。

 

 

「クハハハハハ!いいぞ、どこまで耐えられる?」

 

 

そして次の武器を射出しようとしたところで衛宮が動き始める。

アリーナ内を飛び回り始めた。

確かに速いが捉えきれない速度ではない。

 

 

「羽虫になった程度で避けきれると思うな。」

 

 

飛び回る衛宮に武器が襲い掛かっていく。

 

 

「ハァ!」

 

 

盾で8、剣で2本、合計10本全て防ぎきられた。

しかし、その瞬間に既にこちらは次の武器の射出を開始する。

今の弾き方では間に合わない。

武器が敵を蹂躙する直前、

 

衛宮の姿が視界から消えた。

 

 

「なに!?」

 

 

いや、消えた訳ではない。加速しただけだ。

センサーが後方に回り込まれていることを告げる。

 

 

「そこか!」

 

 

後ろに射出するが奴はもういない。

そして俺の体に衝撃が走る。

 

(攻撃されたのか?!)

 

攻撃されたと理解した瞬間、後方から攻撃された。

今度は微かに見えたがこれでは射出では当たらない。

 

 

 

「ちっ!俺様に移動させたこと光栄に思え!」

 

 

スラスターに出力を回す。

 

(射出だけの機体ではないことを思い知らせてやろう。)

 

こちらも高速機動を開始する。

そして二秒程で衛宮の速度に追いつく。

 

 

「なっ!?」

 

 

追いついたことにより衛宮の驚く顔が良く見える。

そこへ右手に展開済みの剣で切りつける。

 

 

「くっ!」

 

「ほう、斬られてもこの速度を維持するか。」

 

 

体勢を崩しかけながらも速度を維持しょうとする衛宮。

こいつのポンコツ機体ではこの速度に至るまでに時間がかかるようだ。

 

 

「ほらほら、防がんと速度が落ちるぞ?」

 

 

続けざまに剣で攻撃していく。

衛宮も防げてはいるが速度は落ちてきている。

そこへ追撃を仕掛けるが

 

 

「ハァ!」

 

 

衛宮の反撃がこちらを捉えた。

鋭い一撃に速度が落ち、引き離されてしまう。

しかし、こちらはすぐに追いつける。

 

 

「どうやら近接では貴様に分があるようだな。」

 

「そうみたいだな。だから、ここは俺の距離だ!」

 

 

衛宮は剣を振ってくるが俺は盾を手元で展開し防ぐ。

空中展開でなければこの距離でも盾を出すぐらい容易だ。

 

 

「空中展開じゃない!?」

 

 

しかし、衛宮の奴は空中展開を気にしすぎた。

 

 

「何を驚いている。展開とは本来こういうものだろう?」

 

 

一瞬動きを止まった衛宮の腹部に蹴りを入れ、下がらせる。

そして衛宮が下がったポイントの上空には既に武器が展開されている。

 

 

「しまっ____」

 

 

衛宮は武器の嵐に呑まれ、落下していく。

地面に叩きつけられた衛宮は羽を失った鳥といったところか。

 

(あとは終わりを待つことしかできない。)

 

あの盾も後、耐えられて数回だろう。

 

 

「これで終わりか。なかなか楽しめたぞ。」

 

 

腕を振り下ろし、武器の雨を降らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで終わりか。なかなか楽しめたぞ。」

 

 

天馬はそういって手を振り下ろす。

それと同時に武器の雨が降ってくる。

 

 

「アイアス!」

 

 

アイアスで防ぐが既に限界が近い。

恐らくあと耐えられて射出二回分。

 

(仕掛けるチャンスは次で最後か…)

 

そのチャンスをものにするため次の射出で布石を打つ。

 

(来た、第二射!頼むから持ってくれよ。)

 

盾がここで砕ければ布石も何もなくなる。

 

 

「よし、準備完了。」

 

 

幸い盾は持ってくれ、布石を打つことには成功した。

そして来たる第三射目が来た。

 

 

「うおぉぉ‼」

 

 

アイアスを前にまわし、一直線に突っ込んでいく。

近づくほどにアイアスは砕けていく。

一枚目が砕け、二枚目も続いて砕ける。残った体に剣が容赦なく突き刺さってくる。

衝撃に意識が飛びかけるが決して止まらない。

 

(負けられねぇ!)

 

先に戦うことで情報をくれた鳴海、一週間特訓してくれた篠ノ之、応援してくれている一夏。

俺は小さいけど負けられない理由を背負っている。それに報いるためにも負けられない。

そしてエネルギーがギリギリのところで武器の嵐を抜ける。剣の届く距離に天馬がいる。

 

 

「ハァッ!」

 

「届くかそんな攻撃!」

 

 

盾が空中展開され、俺の攻撃は防がれた。

しかし、これも()()()()

 

(追い詰められたなら必ず確実なこの方法を取ると思っていた。)

 

そして天馬が腕を上げようとしたところで

 

 

「ガッ!?」

 

 

天馬の死角から二本の剣が飛んで来た。

直撃により天馬は怯む。これが打った布石。

先ほど煙に紛れ込ませて二本の剣を大きな弧を描くように投擲していたのだ。

そしてこの剣はそれぞれが惹かれあうようになっているため、中心にいる天馬に直撃した。

 

 

「もらったぁ‼」

 

 

動きの止まった天馬を斬りつける。

二撃、三撃と続けて斬りつけていくことで反撃の隙を与えない。

 

 

「これで・・・終わりだ!」

 

 

そして最後の一撃というところで

 

 

「残念だったな…」

 

 

俺の動きが止まってしまう。否、止められた。

俺の手足には鎖が巻き付けられており動かすことができない。

そしてその鎖は空中から出てきていた。

 

 

「鎖の・・・空中展開…」

 

 

俺は戦慄した。

鎖・・・・そんなものまで展開できるのか…

 

 

「俺様にこの鎖まで使わせるとはな、誇るがいい。だがこの鎖を出させた以上これで終わりだ。」

 

 

体を動かそうとするがピクリとも動けない。

 

 

「なかなかに楽しめたぞ。じゃあな。」

 

 

天馬が腕を振り下ろした瞬間、俺の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「試合終了。勝者は天馬零士。」

 

 

試合終了のアナウンスをいれ、コーヒーで一服する。

目の前のモニターには気絶した衛宮が救護班に運ばれて行く姿が映っている。

 

 

「大丈夫ですかね、衛宮くん…」

 

 

山田君が心配そうにしているが心配は必要ない。

 

 

「なに、ただ気を失っただけで大したことではないよ。」

 

 

そういってコーヒーを口に含む。

それを聞き、山田君も安心してコーヒーを淹れ始める。

 

 

「それにしてもみんなすごかったですね。」

 

 

山田君がコーヒーをチビチビと飲みながら感想を言う。

 

 

「まぁ、なかなか筋はいいとは思う。」

 

 

これは本音だ。

 

 

「しかし、それ以上に問題があるような奴らばかりだ。」

 

「確かに衛宮君と天馬君は注意しないとですね。天馬君は提供元不明のISに周りに亀裂をいれかねない態度。衛宮君はいくら絶対防御があるからといって今回のは無茶しすぎです。」

 

 

山田君の言う通りその二人は注意が必要だろう。

 

 

「山田君は他の者はどう思った?」

 

「他の子ですか?そうですね、織斑君はあの中でもセンスというか才能を感じましたね。オルコットさんは代表候補生として問題なく実力をつけていけると思いました。鳴海君は運とガッツがありましたかね。」

 

 

概ね私の考えと同じことを山田君は言う。冷静な分析だ。

あがり症がなければ完璧な教師なのだがとも思うが同時にそういうところが魅力でもあるのだと思った。

 

 

「私も概ね同じ意見だ。時に山田君。」

 

「はい、なんですか織斑先生。」

 

「例えばなんだが君は全身に被弾するとわかっていて絶対防御が発動しにくい装甲で受けようと思うか?」

 

 

他の者の意見が欲しいため少し聞いてみる。

 

 

「えっ…そうですね、答えとしてはNOですね。そんな発想は思い浮かびませんし、そもそもそんな芸当できないですね私には。そして何より怖くてできません。」

 

「そうか。悪いなこんな例え話に答えてもらって。」

 

 

山田君の回答はいたって普通の正しい回答だった。

 

 

「もしかして衛宮君がするかもしれないと考えているんですか織斑先生は。今回無茶したからってそんなことしないと思いますよ。」

 

「まぁ、そうだな。最近は悪いことばっかり考えてしまっていけないな。」

 

「いえいえ、最悪を想定する織斑先生は立派だと思います。ですが考えすぎですよ、みんな死ぬのは怖いでしょうから。あっ!もうこんな時間。織斑先生、私はお先に戻らしてもらいますね。」

 

 

そういってコーヒーを飲み干すと残っている仕事を片付けに山田君は部屋を後にする。

部屋に残っているのは私のみ。

そして私はある一人の生徒の資料を手に持っている。

 

 

「鳴海・・・優。」

 

 

山田君は衛宮と天馬を気にしていたが私が一番注意が必要だと思ったのはこいつだ。

鳴海は先ほど私が言っていたことを今日の試合で実行した。

狙って行い、すべてを成功させていた。

 

 

「死を恐れていないかのような戦い方だな。」

 

 

私もやろうと思えばできるが実行できるかと言われたら躊躇する。

普通そうならないようにどう立ち回るかを考えるものだ。

しかし鳴海は最短の道であるあの選択を平然と取った。

 

(気にかけておくべきか…)

 

垣間見せた技術力といい、異常な行動。技術力に気づいたものならば数人はいるだろうが異常性に気づいたのは恐らくこの場で見ていた私だけだろう。

 

(自分だけ気が付いたことを周りに話しても無駄に困らせるだけか…)

 

まだ誰かに言うようなものではない。それに道を正してやるのも教師の役目だ。

 

 

「はぁ~、やることが山積みだな。」

 

 

それぞれの問題を考えると頭が痛くなってくる。

まぁ、とりあえずは

 

(運ばれた馬鹿と傷を隠そうとする愚か者の様子を見に行くか。)

 

コーヒーを一気に飲み干し、上着を取り保健室に足を運ぶのだった。




結果は零士の勝利で終わった代表決定戦。
皆それぞれ抱える問題点が浮き上がった戦いでもありましたね。
そしてちーちゃんはなんだかんだ言って心配で様子を見に行くのであった。


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設定その二

今回は衛宮&天馬のメイン設定とおまけで鳴海の設定をまとめました。


名前:衛宮 隼人

 

IS:アイアス

適正:A

年齢:15歳(入学時)

性別:男

 

特典:

・無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)

・お金で困らない生活

・高いIS適正(後付け)

 

 

プロフィール:

今作に登場する転生者の一人。

IS業界の大企業ブレードファクトリー(以降BF)社長の息子。所謂御曹司である。

 

BFは本来の原作世界では存在しない会社だが特典によって生まれたこの世界限定の大企業。

本人はここまでのものを望んでいなかったためボンボン扱いされるのは落ち着かない。

 

小さいころから自身の能力を制御するために一人で鍛錬はしている。

本来なら原作にかかわるつもりなどなかったのだが転生させた彼の担当神によってISに乗れる体質にされてしまった。本人はそれを知らなかったためISについての勉強はしていない。

 

唯一役立ったのが能力鍛錬によって鍛えた体である。イケメンなのは能力のおまけ。

しかしこの能力も神に押し付けられたようなものだったため、鍛錬はあくまでもこの世界で身を守れるぐらいにとどめていた。

 

IS戦では能力は使用せずに戦っている。

使用ISはBF製の第三世代ISである【アイアス】。待機状態は剣の形をしたネックレス。

見た目は赤い外套服のような装甲少なめであり、BF製の専用の黒いISスーツを着用している。(つまり某アーチャー)

 

主武装は近接に夫婦剣の干将・莫邪が三セット、中距離にアサルトライフルが搭載されている。

第三世代兵器として周りに盾であるアイアスが二枚浮いている。

機動力が高めに作られており、盾で攻撃を防ぎながら近接に持ち込む戦いを得意とする。

 

 

使用武装:

・干将・莫邪

古代中国・呉の刀匠干将と妻の莫耶、及び二人が作った夫婦剣をモチーフにBFがつくったアイアス専用の武装。

陰陽二振りの短剣であり、黒い方が陽剣・干将、白い方が陰剣・莫耶。互いに引き合う性質を持つ夫婦剣である。

二つ揃いで装備すると、この機体でのみ防御力と攻撃力が上昇する仕組みになっている。

 

・アサルトライフル

BF製のアサルトライフル。しかし、隼人には射撃経験がないためあまり使われない不遇な武装。

主に牽制として使う形になる。

 

・アイアス

この機体に搭載されている第三世代兵器の盾。見た目は七枚の花弁のある盾であり、期待の周りに浮遊している。

ギリシャ神話のアイアスの盾をモチーフにしており、投擲武器や使い手から離れた武器に対して絶大な防御力を誇る一方、近接攻撃では通常の盾よりも脆いという特殊な武装。

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:天馬 零士

 

IS:ギルガメシュ

適正:A

年齢:15歳(入学時)

性別:男

 

特典:

・高性能な専用IS(IS適正も含まれる)

・優れた容姿と身体能力

・ニコポ・ナデポ

・財力と自由な暮らし

 

 

プロフィール:

今作に登場する転生者の一人。

親は大富豪であり、海外出張しているため一人暮らし。(メイドや執事はいる)

容姿は銀髪にオッドアイで完成された美形。

そのため自信過剰な部分がある。

 

専用機である【ギルガメシュ】は幼い時に神から送られてきた特別なISで零士にしか展開できない。待機状態は黄金の指輪。

ギルガメシュは特別製でISネットワークには接続されていないため束や雄二でも見つけられない。

見た目は全身まばゆい金色の鎧。展開法によっては半裸になることも可能。

 

破格の性能を有しており、その基本スペックは空想段階である第四世代をも凌駕する。

世代の外にあるが敢えて世代に当てはめるのなら第五世代または新第一世代。

拡張領域はなく、その役割を果たしているのが通称王の財宝(ゲートオブバビロン)という倉庫。

簡単に言えば高性能ISに王の財宝をシステムとして盛り込んでいるやばい機体。

 

 

使用武装:

・王の財宝(ゲートオブバビロン)

専用ISに搭載されている某英雄王の能力。

その中には星の数ほどの財宝を貯蔵しており、他のISでいう拡張領域がこれになっている。

本来の王の財宝は所有者の財によって貯蔵量が決まるが特典のため中身は某英雄王並みである。

しかし、零士が把握ができていない財宝と一部の財宝は使えない。

貯蔵している財宝によって戦略は幅広い。

現在一度に最大十本までしか零士は射出できず、右腕を上げる動作もしなくてはならない。

腕の部分展開をすれば使用可能になる。

 

・天の鎖(エルキドゥ)

王の財宝に貯蔵されている鎖。

零士の意志で相手をホーミングすることも可能。

耐久性はISでもそうそう破壊できないほどである。

そのため拘束に使われることが多い。

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:鳴海優(暮見雄二)

 

IS:専用機なし

適正:C

年齢:15歳(実際は24歳)

性別:男

 

特典:

・顔と頭を良くする

・基本的に平均以上にこなせて丈夫な体

・お金

 

 

プロフィール:

今作の主人公で転生者。

特典は女神に気に入られたことで強化され、異常な性能を発揮する。

篠ノ之束とともにISを完成させた人物であり、現在は死亡扱いとなっている。

しかし本当は生きておりE・Sを駆使してISコアを回収している。

現在は改造によって得たIS適正により、IS学園に鳴海優として入学している。

目的は安全の確保とIS学園が所有する35個のISコアの回収。

鳴海優の経歴はどこもおかしくないいたって普通の経歴を偽造している。



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第三十五話 代表決定

三十五話・・・・ここまで書いててまだクラス代表のとこって…


決定戦の翌日の朝のHR

 

 

「クラス代表は織斑くんに決定しましたー。」

 

 

拍手ーと言って手を叩いてる山田先生。

それに釣られてクラスの皆も拍手している。

 

 

「ちょっ、ちょっと待った!」

 

 

慌てて流れに逆らうように声を上げた。

 

 

「なんで俺なんだ?!天馬じゃないのか?」

 

 

決定戦で勝ったのは天馬だったのだからクラス代表は天馬のはずだ。

 

 

「俺様がクラス代表などという雑用などやる訳がないだろう。そんなのは貴様らの仕事だ。」

 

「理由はどうあれ天馬は辞退した。それだけの事だ。」

 

 

なるほど、だから天馬がクラス代表じゃないのか。

ていうか辞退が可能なら俺も辞退したい。

 

 

「織斑、因みにお前に辞退する権利はない。」

 

「えっ!なんでだよ千冬姉。」

 

「織斑先生と呼べ。」

 

 

千冬姉の手元から放たれたチョークが俺の額にクリーンヒットし、粉々になる。

割れてるんじゃないかと思うほど額が痛む。

 

 

「いってぇ〜。・・・・どうしてですか織斑先生…」

 

「天馬以外の連中も辞退したからだ。」

 

「えっ?」

 

 

俺以外辞退しているってことか?

なんで俺だけ辞退出来ないんだよ…

 

 

「だったら俺も____」

 

「負けたものにそんな権利はない。そしてお前以上の戦績をだした衛宮とオルコットがお前を推薦したというのも大きい。」

 

 

それを聞き、俺は二人の方を見る。

 

 

「すまん一夏。俺はそういうの向いてないし、部活もあって忙しんだ。それに一夏には一番成長性があると思う。」

 

 

隼人の奴は確か料理研究部に入っていたな。

それにそこまで言われたら何も言えない。

しかし、気になるのはセシリアの方だ。

 

(なんであいつが?)

 

俺はセシリアの方を向く。

 

 

「織斑さん、いえ、一夏さんと呼ばせて下さい。」

 

「い、一夏さん!?」

 

 

すると俺に興味なんて無さそうだったセシリアが俺の名前を呼んでもいいかと聴いてくる。

そしてその態度は昨日とはまるで別人のようだった。

 

 

「よろしいでしょうか?」

 

「お、おう。」

 

 

動揺して変な返事になってしまった。

 

 

「ありがとうございます。そして皆さん、申し訳ございませんでした。」

 

 

礼を言ったかと思ったらこんどは頭を下げるセシリア。

突然の行動にクラス中が呆気をとられる。

もちろん俺もその一人だ。

 

 

「皆さんが不快に感じる発言をしてしまい本当に申し訳ございませんでした。許して頂けるとは思いませんがどうか謝罪だけでも受け取って頂けないでしょうか。」

 

 

クラス全体を見渡してそう言うとセシリアは再び頭を下げる。

 

 

「あ、頭を上げてくれ。そんなこと言ったら俺だってお前の国を侮辱しちまった。本当にすまなかった。」

 

「それだったら俺だって悪い。すまなかった。」

 

 

俺に続いて隼人も頭を下げる。

 

 

「そ、そんな、お二人共頭をお上げになって下さい。その原因は私にあるのですから頭を下げるのは私の方ですわ!」

 

 

セシリアが頭を下げる。

 

 

「いや、それでも俺が悪い。」

 

 

隼人が頭を下げる。

 

 

「いやいや、俺が全部悪い。」

 

 

俺が頭を下げる。

 

 

「いえ、私が全て悪いのですから。」

 

「いや、俺だ。」

 

「だから俺だって!」

 

「私ですわ!」

 

「違う、全部俺のせいだ!」

 

「「「(私)(俺)が悪い!」」」

 

 

なんて頑固なヤツらだ。俺が悪いって言ってるのに…

 

 

「だから___」

 

「いつまでその漫才を続けるつもりだ?」

 

「「「漫才じゃ(ありませんわ)(ねぇ)(ない)!」」」

 

「皆を笑わせておいて何が漫才ではないだ。」

 

 

千冬姉にそう言われクラスを見渡すと皆笑っていた。

なんで笑っているのかわからない。

隼人とセシリアもそんな表情だ。

 

 

「お互いに自ら謝れると言うことは許し合っているということだろう、この馬鹿者ども。何を変な意地の張合いをしている。」

 

「「「あっ…」」」

 

 

千冬姉の言葉でようやく気がつく。

そんな俺らに千冬姉は呆れている。

 

 

「で、ですが私は…」

 

「なんだオルコット。お前は許してもらうのが嫌なのか?」

 

「そ、そんな事ありません!許していただけるのならそれはとても嬉しいです。ですが…」

 

「はぁ~、周りをしっかり見てから言え。」

 

 

そう言われセシリアがクラスの皆を見ると

 

 

「全然気にしなくてオッケーだからね。」

 

「そもそも怒ってないよ。」

 

「オルコットさん顔上げてー!」

 

 

誰一人としてセシリアを責めるものはなく、皆セシリアを元気を出してもらう為に声をかける。

 

 

「皆さん…ありがとうございます。そしてよろしければ私の事はセシリアとお呼びください。」

 

 

どうやら一件落着のようだ。

 

 

「よっ、セシリア。可愛いよー。」

 

「うん、素直なセシリアさん素敵だよ。」

 

〈セッシリアー!セッシリアー!〉

 

 

そして何故だか教室ではセシリアコールが響き渡っている。セシリアも恥ずかしがってはいるが満更でもなさそうな感じだ。

 

 

「静かにしろ!」

 

〈はい!〉

 

 

千冬姉の一言で皆静かになり、HRが続けられる。

 

(なんか忘れてるような気がする。)

 

部屋に教科書でも置いて来たのだろうか?

それとも戸締まり?電気の消し忘れ?

どれもしっくりこない。

 

(まぁ、大したことじゃないだろ。)

 

そう思い千冬姉の話に集中しようとしたところで

 

 

「織斑せんせ〜い。結局なんでセッシーはおりむーを推薦したんですか〜?」

 

(大したことだったー!!)

 

 

ダボダボの制服をきた子が質問した。本名は知らないため俺はのほほんさんと呼んでいる。のほほんさんは人に変わった愛称をつけている。俺の場合おりむーだ。

 

(って、そんなことよりも。)

 

「そうだった!なんで俺を推薦したんだセシリアは?」

 

 

先ほど聞きそびれたことをセシリアに聴く。

 

 

「それはですね、私は一夏さんをライバルとして認めたからですわ!ですが一夏さんの実力不足は否めません。だからこそのクラス代表ですわ。」

 

 

大きな胸を張り自慢げ言うセシリア。

 

 

「実力不足とクラス代表に何の関係があるんだ?」

 

「わかりやすい説明をお願いしますわ鳴海さん。」

 

「えっ、僕?」

 

 

セシリアから優へとバトンタッチされる。

優の説明はわかりやすいから助かる。

 

 

「優が説明してくれるなら俺でも理解できる自信があるぜ。」

 

「なんで僕が説明するのが決定しているのだろう?」

 

「鳴海、時間がもったいないから早くしろ。」

 

 

千冬姉がそういうと優がため息をつきながらも話し始める。

 

 

「まずクラス代表はその名のとおりクラスの代表でクラス委員長みたいなものなのはわかっているだろう?」

 

「おう。」

 

「でも普通の委員長とは少し違う点がある。それはこの学園ならではのことなんだけど、この学園の最大の特徴はなんだい?」

 

「そりゃあ、ISだろ。」

 

 

ここはIS学園なのだからISで間違いないだろう。

 

 

「正解。その学園でクラスの代表ってことはそのクラスのIS乗りとしての代表ということだ。つまり必然的にISに乗る機会が増えるため経験を積めるってこと。ISは起動時間が実力につながるからね。」

 

「なるほどな。」

 

「ちなみにもうすぐクラス代表同士のクラス対抗戦というのがあるからね織斑は。これは学年の委員長を決めるみたいなものかな。」

 

 

なんだかんだ言って説明してくれるしこちらにも考えさせるようにするから優の説明はわかりやすい。

しかし、クラス対抗戦・・・そういうのもあるのか。

 

 

「わかっていただけたようですね。ありがとうございます鳴海さん。」

 

「いえいえ、大したことじゃないです。」

 

 

経験を積めるってことは強くなれるってことだよな。

俺は専用機持ちの中じゃ一番弱い。これじゃあ誰も守れない。

 

(今の俺にうってつけってことか。)

 

俺は強くなって守られる側から守る側になるんだ。

 

 

「俺、クラス代表になるよ千冬姉。」

 

「なるもならないも元からクラス代表はお前だ馬鹿者。そして・・・織斑先生だと何回言ったらわかる。」

 

 

ズドンッと音を立てて俺の頭に出席簿がおち、クラスに笑いが広がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「衛宮、俺様が食事を振舞ってやろう。」

 

 

昼時、天馬が俺の席に来てこんなことを言ってきた。

今までこんなことがなかったので少し驚いた。

 

 

「あ~、悪い。俺は弁当持ちなんだ。」

 

「弁当?そんなものそこいらの犬にでも食わせておけ。」

 

 

むっ、折角作った弁当をそんなものと言われるのはちょっと腹が立つ。

 

 

「食ってもいないのにそんなものとか言うなよ。」

 

「食わずとも俺様の用意するものには届かんことはわかる。」

 

 

何を言っても通じない気がしてきた…

しかしそこまで言われて黙っているわけにはいかない。

 

 

「そこまで言うならご馳走になる。その代わり俺の弁当も一口食べろ。」

 

「まぁ、いいだろう。では行くぞ。」

 

 

そういって歩いていく天馬についていった。

 

 

「ここ、食堂じゃないか。」

 

 

着いたのは食堂だった。まさかおごるというだけなのか?

 

 

「まぁ、待って居ろ。」

 

 

そういって天馬はカウンターに行き、少ししたら手ぶらで帰ってきた。

 

 

「ついてこい衛宮。」

 

 

そして何も持たないまま座席のほうに歩いていく。

 

 

「なぁ、これなんだ…」

 

 

今俺の目の前には黄金に輝く座席が一テーブルある。

 

 

「俺様専用の席だ。特別に同席を許可する。」

 

 

そういって席に座る天馬。

 

 

「座らないとダメか?」

 

「お前は立ったまま食事をするのか?マナーを知らんのか。」

 

 

天馬に言われると腹が立ったがこういわれたら座るしかない。

やけになって座ったが落ち着かない。

 

 

「普通の席じゃダメなのか?」

 

「衛宮、食事というのはただ食すだけの行為ではない。食べるものによってそれ相応の場を用意するものだ。」

 

 

言っていることは分かるがこれは派手すぎると思う。

そう言おうと思ったところで俺達の前にワゴンを押した女性のシェフが現れた。

 

 

「お待たせしました零士様、衛宮様。」

 

「俺様専属のシェフだ。」

 

「零士様の専属シェフをやらせていただいているローゼ=キルヒナーと申します。ローゼとお呼びください。」

 

「ローゼは俺が有名店から引き抜いた一流だ。味は俺が保証してやる。」

 

「ありがたきお言葉です。」

 

 

突然のことに唖然とする。専属シェフ?

ここは仮にも世界最高峰のIS学園だぞ。

 

 

「え~っと、学園内にはそういった人も入れないんじゃなかったか?」

 

「その程度の些細な事は気にするな。この程度造作もない。」

 

「一応、学園側のために言いますとはいれたのは私一人だけでございます。」

 

 

良かった・・・・一人だけか。

なら問題ないな。・・・たぶん。

 

 

「はいれなかったのではない、いれなかったんだ。お前ひとりで十分だったからな。」

 

「身に余る光栄です。」

 

 

そういうローゼさんはとてもうれしそうだ。

それだけで天馬に尽くしていることがわかる。

 

 

「それよりも早く準備しろ。」

 

「はい、今すぐに。」

 

 

ローゼさんがワゴンに乗っている皿をテーブルに並べていく。

どれもとてもおいしそうだ。

 

 

「こ、これは…」

 

「どうだ、俺様の言った通りだろう?」

 

 

悔しいが俺の腕じゃ到底かなわないだろうことが見ただけでわかる。

そして一口入れた瞬間俺は敗北した。

 

 

「俺の負けだな…」

 

「ハッハッハ!そうだろうそうだろう。」

 

 

完敗だった。弁当を食べさせる気も失せていた。

 

 

「負けとはいったいどういう事でしょうか?」

 

「衛宮の奴が自分の弁当も負けてないといっていたからな、自分の実力を教えてやっただけのことだ。」

 

 

料理に関しては俺だって自信があったのだ。

しかし、ここまでのものが出てくると誰が予想できようか。

 

 

「お弁当ですか。衛宮様、よろしければ少し頂いてもよろしいでしょうか。多少なりともお役に立てるかと。」

 

「はい…どうぞ…」

 

 

折角凄腕の人に食べてもらえるというのにうれしさよりも恥ずかしさがある。

どんなことを言われるのか不安で胸がいっぱいだ。

ローゼさんが唐揚げを口に運び、しばらくして飲み込み、

 

 

「悪くはないかと。むしろ予想を上回る出来でした。」

 

「えっ!」

 

「何?」

 

 

予想外の言葉に俺と天馬が疑問の声を上げる。

 

 

「本当かローゼ。」

 

「はい、正直な感想です。味付けは濃すぎず薄すぎずといったことはなく丁度良いものであり、丁寧な下ごしらえを感じるものでした。サイズも大きすぎず肉に切り込みをいれていることによってとても食べやすくなっているかと。」

 

 

ま、まじか。唐揚げ一つでそこまでわかってくれるなんて感動だ。

生きてきてよかった~。

 

 

「まぁ、一口は食べるといったからな。」

 

 

天馬も一つ唐揚げを口に運ぶ。

 

 

「まぁまぁだな。食えないこともないがローゼには大きく劣る。」

 

「ローゼさんと比べられて勝てるわけないだろう。」

 

「いえいえ、衛宮様の腕ならこれからもっと上達しますからもしかするとがあるかもしれません。」

 

 

ローゼさんにそういわれるとすごい自信がでてくる。

 

 

「差し支えなければ私からお教えしますよ。」

 

「ほんとですか!」

 

「はい。そういうわけなのでよろしいでしょうか零士様。」

 

「好きにしろ。ただし仕事に支障が出た場合やめさせる。」

 

 

天馬からの許可も下りた。なぜだか天馬も楽しそうだ。

 

 

「ありがとな天馬。」

 

「ありがとうございます零士様。」

 

「下の者の願いを叶えるのも俺様の役目、気にするな。」

 

 

天馬は少しだが楽しそうに笑う。

ローゼさんがいるからだろうか、今日は天馬の新しい一面が見れた。

 

(こいつってこんな風に笑うんだな。)

 

ローゼさんと会話する天馬はいつものような見下す笑い方ではなく、純粋に楽しむ笑い方だった。

 

 

昼食も食べ終わり俺はローゼさんと早速キッチンに立っていた。

少しでもはやく教わりたかったのだ。

 

 

「ローゼさん、忙しいのにありがとうございます。」

 

「いえいえ、気にしないでください。私も誰かに教えるのは好きですから。それにお礼を言うのはこちらです。」

 

 

礼を言われるようなことなんかした覚えがない。

 

 

「零士様が誰かと一緒にお食事をされるなんて数年ぶりなんです。」

 

「えっ!親とか兄弟と一緒に食べないんですか?」

 

「はい、旦那様と奥様は海外の方で働いておりましてなかなか日本には帰ってこられず、零士様にご兄弟はいらっしゃらないので。」

 

 

こうして聞いてみると俺は天馬のこと名前しか知らないのにちょっと嫌な奴だと思っていたのがよくわかる。

 

 

「じゃあ、あいつがあんな口調なのも寂しさを紛らわせるためとかなのか…」

 

「いえ、そこは元からです。特に寂しがっている様子もございませんし。」

 

 

俺のしんみりした気持ちを返して欲しい。

そしてそこで疑問に思った。

 

 

「ローゼさんは一緒に食べないんですか?」

 

「専属シェフといっても私は使用人の一人にすぎませんから、一緒に食事をすることはありません。」

 

 

そうなのか、俺は使用人さんとかとも一緒に食べたりするけどな。

 

 

「それに零士様が男性と一緒に食べるなんて旦那様以外に初めてのことでしたから驚きました。」

 

「それほんとなんですか?」

 

 

さすがにそれは言いすぎなんじゃなかろうか。

 

 

「えぇ、事実です。ですから衛宮様は零士様の大切なご友人です。零士様は性格上ご友人をおつくりにならないのです。ですからこれからも零士様をよろしくお願いします。」

 

 

ぺこりとローゼさんがこちらに頭を下げてくる。

 

 

「いや、こちらこそお願いしますって感じです。話してみて結構いいやつだってわかりましたし。」

 

「ありがとうございます衛宮様。」

 

 

俺の言葉を聞き笑顔を見せるローゼさん。

こんな美人に尽くされている天馬がうらやましく思える。

 

 

「あっ!あと様付けで呼ぶのやめましょうよ。教わってるの俺だし、むず痒いんですよね。」

 

「そうですか、では衛宮君と呼びましょう。しかし、零士様のご友人をそのように呼ぶのは失礼なため他の方がいる前では様付けで呼ばせてもらいます。」

 

 

それぐらいだったら全然平気だ。

ローゼさんはとても話の分かる人だ。

 

 

「そうでした。衛宮君、ここだけの話先ほどの零士様の評価を覚えてます?」

 

「食えなくはないとかなんとかってやつですか?」

 

「それです。実は零士様の食えなくないはそこそこいけるという意味なので気にしないでください。まずいと思ったら吐き出して容赦なく言う人なので。」

 

 

ローゼさんといるとどんどん天馬の新しい一面が見れる。

 

 

「衛宮君は筋がいいので教え甲斐がありますし、どんどん成長しますよ。」

 

「ほんとですか!ローゼさんにそういってもらえると嬉しいな。」

 

 

ローゼさんは本当にいい人だ。

 

 

(いるんだなぁ~こういう欠点のない人って。)

 

「ただし・・・・」

 

(ん?)

 

「零士様へ餌付けなどをして私の場所を奪ったら・・・・・ね?」

 

 

俺の首筋には料理に使うであろう切れ味抜群の包丁が突き付けられている。

ここには二人しかいないため誰が持っているのかは言うまでもない。

 

 

「・・・・へっ?」

 

 

どうなってるんだ。意味が分からない。

ローゼさんの目からなんか光が消えてる気がするし…

 

 

「返事は?」

 

 

包丁が首に少し食い込み薄く血が出る。

 

 

「は、はいぃ‼もちろんそのようなことは致しません。神に誓って!」

 

「そう・・・・」

 

 

ローゼさんがうつむいたためその表情は読み取れない。

 

 

「なら良かったです。」

 

 

目に光が戻り満面の笑みでローゼさんは顔を上げた。包丁もすでに首筋から離れているため一安心。

 

 

「それじゃあ、衛宮君。改めて零士様をよろしくお願いします。」

 

「はい…」

 

 

俺はこの時思ったんだ。

 

完璧な人なんていないんだなって…




代表は原作通り一夏になりました。
そしてうちの金髪はチョロインじゃありません!
衛宮はちーちゃんからダメだといわれました(無茶するから)。
鳴海?訓練機のザコが選ばれるわけありません(白目)。
因みにローゼ=キルヒナーさんは三人目のネームドとなるキャラですね。


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第三十六話 セカンド襲来

主人公のイメージを描いてみました。
目次に載っていますので是非よろしければみてください。


「なあ箒、他のクラスの代表ってどんなヤツか知ってるか?」

 

「すまないが私は知らないな。」

 

 

一夏に質問されるが生憎と知らない。

 

 

「しかし、相手が誰であろうと全力を出すことには変わらんのだからさしたる問題ではなかろう。」

 

「うーん、それもそうか?」

 

 

どんな相手でも敬意を払い、全力で相手をするのが礼儀と言うものだ。

 

 

「それに相手を知っているからといって油断されても困る。」

 

「油断なんてしねぇーよ。」

 

 

一夏は否定するが昔から単純なミスをやらかすから心配だ。

 

 

「そんな疑うような顔すんなって。もうちょい信頼してくれよ。」

 

 

思っていたことが顔に出ていたのかそんな事を言われる。

 

 

「そうそう、そんな心配いらないって篠ノ之さん。」

 

「織斑君なら楽勝だって。」

 

 

周りの皆も話に入ってきた。

 

 

「他のクラスを侮りすぎではないか?」

 

 

「それがそうでもないんだよ。聞いた話だと一年生は専用機持ちがうちのクラスと4組だけなんだって。」

 

 

つまり4組の代表以外は全員訓練機ということか。

 

(なるほど、だから楽勝か。)

 

理由はわかったが侮っていることには変わりないと思う。

 

 

「訓練機じゃ専用機持ちには絶対敵わないって、この前の代表決めだってそうだったし。」

 

「あ〜、わかる〜。鳴海君負けちゃったしね。」

 

「そうそう、だから専用機持ちのいる4組以外楽勝____」

 

 

「その情報、古いよ。」

 

 

突如教室の扉が音を立てながら開かれ、そちらから声がした。扉の開く音に反応し、教室にいる者の視線が注がれる。

 

 

「2組も専用機持ちが代表になったから。」

 

 

そこに居たのはツインテールに低身長という可愛らしい女生徒だった。

自身がある口調からいって2組の生徒であることが伺える。

 

 

「鈴?もしかしてお前、鈴か!?」

 

「久しぶりね一夏。今日は宣戦布告に来たわ。」

 

 

どうやら二人は知り合いらしい。

鈴といえば一夏から聞いたことがある。

確か私と入れ違いで出会った友達だったな。

 

 

「鈴…」

 

「なに?」

 

「お前カッコつけてるけど全然似合ってないぞ。」

 

「なっ!?そんなことないわよ!」

 

 

今の一夏の発言でクラスの大半がクスリと笑う。

指摘されてしまった鈴は顔を真っ赤にして今にも一夏に飛びかかりそうだ。

 

 

「邪魔だ。」

 

 

ストンッ!といい音が鈴の頭からした。

鈴の後ろに立つ人物が出席簿を振り下ろしたのだ。

 

 

「いった!なにすんのよ!邪魔しないd・・・・ち、千冬さん・・・」

 

「織斑先生と呼べ。」

 

 

もう一発出席簿が鈴の頭に落ちる。

 

 

「そして邪魔なのはお前のほうだ凰。チャイムはすでに鳴っているのになぜお前は隣のクラスの扉の前に立っている。」

 

 

みるみるうちに鈴の顔からは血の気が引いていく。

 

 

「す、すいませんでしたー!」

 

 

そしてすさまじい速度で走り去っって行った。

 

 

「あの鈴という奴はセシリアに次ぐコント枠なのか?」

 

「私はコメディアンではありません!」

 

 

それからは寝坊してきた鳴海が出席簿で叩かれたぐらいで、問題なくHRが終わった。

 

 

「待ってたわよ一夏!」

 

 

昼時、一夏と鳴海、セシリアとともに食堂に行くと鈴が仁王立ちをしていた。

背が低いため迫力はなく、可愛らしいだけだが。

 

 

「君、食券期の前に立っていたら邪魔になるよ。」

 

「えっ?・・・わ、わかってるわよそんなこと!」

 

 

恥ずかしそうに道を譲る鈴。

 

 

「そうだ、鈴も一緒に食おうぜ。」

 

「別にいいけど・・・その・・・」

 

 

鈴は私たちをちらちら見ながら言いにくそうな顔をしている。

 

 

「一夏、私たちは別の席で食事を取る。久しぶりの再会なのだろう?積もる話もあるというものだ。」

 

「それもそうか。悪いな俺が誘ったのに…」

 

「気にするな。二人もそれで構わないか?」

 

「えぇ、もちろん。」「構わないよ。」

 

 

特に反対意見もないので別々に食事を取ることにする。

一緒に食べられないのは少し寂しいが、久しぶりの再会は二人で話したいという鈴の気持ちはわかるので我慢する。

 

(なに、心配はいらない。一夏から聞いた限りだとただの仲の良い友達だ。)

 

 

そう思っていた時期が私にもあった。

 

(あ、あれは完璧に恋しているではないか!)

 

視線の先には一夏と鈴の座っているテーブルがある。

そして先ほどから見ている限り、鈴は間違いなく一夏に好意を抱いている。

 

(あの唐変木め・・・何がただの友達だ。)

 

これはまずい…

今までは一夏との年月で他の女子よりリードしているため余裕だったが・・・

 

(鈴も幼馴染みとしての年月がある…)

 

思わず席を立って近づいて行こうとするが

 

 

「箒さん、ナンセンスですわ。いくら一夏さんをとられるかもしれないといっても自分の発言ぐらい守らなければ。」

 

「むっ・・・・確かにそうだ…」

 

 

セシリアに手を掴まれ止められた。

確かに二人きりにしたのは私だ。しかしこのまま見ているというのも・・・

 

『行ってしまえ!一夏がとられてしまうぞ。』

 

『ダメだ!自分の行ったことは貫き通せ!』

 

『黙っていろ。』

 

『お前こそ黙っていろ。』

 

脳内会議で二人の私が戦い始める。

私はいったいどうすればいいのだ…

 

 

「篠ノ之さん、心配いらないよ。」

 

「なにを根拠に言っているんだ。」

 

 

鳴海はいつもと変わらない調子でそんなことを言う。

心配するなと言われても無理な話だ。

 

 

「だって、織斑は唐変木だから」

 

『『「あっ、なるほど。」』』

 

 

これには脳内の二人の私も納得だった。

一夏の唐変木加減は異常なほどだ。

 

 

「それで納得してしまえるのが一夏さんですわね…」

 

「でしょ?だから大丈夫だって。」

 

「そうだな、一夏は唐変木だからな。」

 

 

席に腰を下ろす。

私がそれとなくアピールしても全く気が付かないのだ。

そんな一夏なら大丈夫だ、うん。

 

(唐変木が役に立つとは・・・虚しくなってくるな・・・)

 

その後私は微妙な心境で食事を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや~驚いた、まさか鈴が中国の代表候補生になっていたなんて。しかも2組の代表だし。」

 

 

話を聞いたら久しぶりに会った幼馴染みが代表候補生になっていた。

これは誰だって驚くだろう。

 

 

「こっちだって驚いたわよ。ニュースを見たらあんたがIS動かしたって有名になってるんだから。どうしてISに触れる機会があったのよ?」

 

 

確かにその方が驚くだろうな。

俺自身もIS動かしたときは相当驚いたし、ISをよく使う代表候補生なら尚更だろう。

 

 

「それが試験会場が迷路みたいに広くてさ、迷ってたどり着いたとこがIS学園がIS置くのに使っていた部屋だったんだ。それでISがあったからなんとなく触れたら起動出来ちまったんだよ。」

 

「会場間違えるって相変わらずの馬鹿なのね一夏は。」

 

 

それを言われると否定できないのが悔しい。

しかし、鈴だって相変わらず変わっていないところがあった。

 

 

「そういう鈴だってまだ千冬姉のことが苦手なんだろ?」

 

「そ、それは…」

 

 

鈴は昔から千冬姉のことが苦手だ。

 

 

「大体なんで苦手なんだよ。」

 

「なんていうか超人過ぎてどう接すればいいのかわからないし、それに・・・」

 

「それに?」

 

「あの頃の千冬さんの印象が強くて…」

 

 

なるほど…

鈴の言うあの頃とは恐らく俺らが中学一年の時の事だろう。

あの頃の千冬姉は酷く荒れていた。食事は余り取らないし、部屋は家具が倒れており物が散乱としていた。

目も虚ろになることが多く、無気力そのものだった。それでもISで負けない千冬姉が不気味だった。

 

 

「まぁ、あの頃はな…」

 

「立ち直っているのはわかってるんだけどどうもね…」

 

 

気が付くと場がすごい重苦しい空気になってしまった。

何とかするべく話を切り出す。

 

 

「そ、そうだ鈴、さっき一緒にいたやつらにお前を紹介したいんだけどいいか?」

 

「そ、そうね。私も気になっていたし。」

 

 

お互い挙動不審だがさっきよりはましだろう。

席を立ち、箒たちのテーブルに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたんだい織斑。」

 

 

一夏が凰 鈴音を連れてこちらのテーブルに来た。

顔合わせでもするのだろう。

 

 

「鈴のことを紹介しようと思ったのとお前らのことも紹介したかったから来ちまったけどいいか?」

 

「全然気にしなくていいよ。ちょうど僕たちもどんな人なのか気になって話していたところだったから。」

 

「それなら丁度良かったわね。私は中国代表候補生の凰 鈴音(ファン リンイン)よ。長いから鈴でいいわ、よろしく。」

 

 

凰 鈴音。中国の代表候補生でここ一年で急に現れた代表候補生で二組に転入。

IS適性は「A」、専用ISは第三世代の【甲龍(シェンロン)】。近接格闘タイプの機体。

これは俺が昨日軽く調べたこの子のプロフィールだ。

 

 

「ご存知だと思いますが私はイギリス代表候補生のセシリア・オルコットです。」

 

「ゴメン、知らなかったわ。」

 

 

ドヤ顔で自己紹介したセシリア嬢が一瞬で撃沈された。

ほんとセシリア嬢は面白いな~。

 

 

「私は篠ノ之箒という。一夏の()()()()だ、よろしく頼む。」

 

「幼馴染み?」

 

「ほら、前に話しただろ。お前と入れ違いに転校しちゃったって話。言うなれば箒がファースト幼馴染みで鈴がセカンド幼馴染みだな。」

 

 

いや~、箒が攻めていってるね~。幼馴染みをすごい強調して言ったよ。

宣戦布告だねこれは。

 

 

「へぇ~、あんたが話に聞く箒って人ね。よろしく。」

 

「あぁ、よろしく。私もお前のことは少し聞いていたぞ。」

 

 

二人が握手するが、二人とも握る力が握手のそれではない。

ギチギチと音がたちそうなほど握り合っているし、目線で火花を散らしている。

 

 

「二人とも仲良くできそうで良かったよ。」

 

 

一夏はそれに気がつかず能天気なことを言っている。

恋愛絡むと本当に一夏はポンコツだなぁ(呆れ)。

一夏も気が付かずセシリア嬢も傷ついているため、このままだと止める奴がいないので話しかけることにする。

 

 

「お二人さん、仲の良いことはいいことだと思うけど握手長すぎだよ。」

 

「「そう(ね)(だな)。」」

 

 

案外二人とも素直に手を離した。

もちろんどっちも手が真っ赤だ。

やめるタイミングがわからなかったんだろうな。

 

 

「ていうかあんた名乗りなさいよ。」

 

「ごめんごめん。僕は鳴海優っていうんだ。よろしくね凰さん。」

 

「鈴でいいってば。」

 

「いや、初対面の人を名前で呼ぶのは抵抗があるんだ。だから凰さんって呼ぶよ。」

 

「ならしょうがないわね。」

 

 

納得してくれたようで何よりだ。

因みに名前で呼ばないのは必要以上に仲良くならないためでもある。

 

 

「初対面でもなくとも鳴海は苗字でしか呼ばないだろう?」

 

「まぁ、そうなんだけどね。苗字呼びの方が落ち着くんだよ。」

 

 

俺の言う事に皆はピンとこないようだ。

本当に最近の子はフレンドリーだと思った。

 

 

「良し、自己紹介も終わったことだしゆっくり話そうぜ。」

 

 

そのあとは昼休みが終わるまでクラスでの出来事を話したり、一夏と鈴ちゃんの思い出を聞いたりした。

 

 

そしてその日の夜、一夏と鈴ちゃんが喧嘩して、クラス対抗戦で勝った方が相手の言う事を一つ聞くことになったらしい。青春だなぁ~。

 




久しぶりの箒視点を入れてみました。
全然話が進まなくてすみません(汗)

次回はクラス対抗戦だと思います。


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第三十七話 クラス対抗戦

クラス対抗戦当日。

 

俺は今、ピットで準備をしている。

 

 

「まさか一回戦目から鈴とあたるとはな。」

 

 

運がいいのか、悪いのか。

どちらにせよこの勝負は絶対に勝ってやるつもりだ。

今回は勝った方が一つ命令権を得る。

それを使って鈴の怒った理由を聴かないと納得いかない。

 

 

『織斑、時間だ。行け。』

 

 

丁度準備が終わったところで千冬姉から連絡が入る。

 

 

「わかった。勝ってくる。」

 

『あぁ、勝ってこい。』

 

 

千冬姉からエールを受け取り、アリーナに勢いよく飛び出していく。

 

 

「逃げずに来たわね一夏。」

 

「誰が逃げるかっての。」

 

 

アリーナに出ると既に鈴が待っていた。

鈴が纏うISは赤みがかった黒色をしており、両肩上部に浮いている球体状のなにかが特徴的だ。

武器は大型の青龍刀。当たったらすごく痛そうだ。

 

 

「じゃあ、最後のチャンスをあげる。今謝るなら痛めつけるレベルを下げてあげるわ。」

 

「そんなのはいらねーし、チャンスとも言わねぇ。全力でこい。」

 

「そう、なら・・・・しょうがないわね!」

 

 

その言葉を皮切りに鈴が仕掛けてくる。

 

 

「でえぃ!」

 

「グゥ…」

 

 

凄まじく重い攻撃で受け止めるだけで精一杯。

 

 

「初撃を防ぐなんてやるじゃない。けど・・・」

 

 

もう片方の手にも青龍刀が展開される。

 

 

「ハアァー!」

 

 

再び接近してくる鈴の攻撃を防ぐが一本だけでも苦労するのが二本ときた。

反撃する隙が無い。

 

(さすがは代表候補生ってところか…)

 

なんとか防げているもののこのままでは消耗戦になる。

そうなったら切り札である零落白夜が使えなくなり、勝ち目がなくなる。

 

(一旦距離を取って立て直す。)

 

白式の速度なら距離を取れるはずだ。

スラスターにエネルギーをまわし、距離を取ることに成功する。

 

 

「おかしい・・・あっさりしすぎてる…」

 

 

簡単に距離を取れたところに違和感を感じた。

鈴の機体も恐らく近距離タイプのはずだ。

簡単に距離を取らせるはずが・・・

 

 

「甘いっ!」

 

 

甲龍の球体の周りの空間が歪んでいる?

 

(まずいっ!)

 

本能的にやばいと感じ取った俺は全力で回避行動をとる。そして次の瞬間。

その空間が一瞬ぶれたと思ったら、俺がいたであろう付近の地面にクレーターができていた。

 

 

「なんだ・・・今のは・・・」

 

「初見で避けるなんて感がいいわね。だけど今のはジャブだからね。」

 

 

鈴の言葉とともに再び球体の周りの空間が僅かに歪み始めている。

 

 

「グガッ!?」

 

 

そして気が付くと俺は何かの直撃を受け、吹き飛ばされていた。

一瞬も目を離さなかったが何も飛んできていなかった。

いったい何に俺は吹き飛ばされたのかわからない。

 

(とにかくあれはやばい。)

 

訳が分からないがとりあえずスラスター全開で動きまわる。

さっきは避けられたのだから避けられない攻撃ではないはずだ。

そうして動き続ける俺を何かが紙一重で掠めていくのがわかる。

 

 

「よく避けるじゃない。この龍咆(りゅうほう)は砲弾も砲身も見えないのが特徴なのに。」

 

(見えない攻撃か・・・反則もいいところだ。)

 

 

恐らくセシリアのブルーティアーズと同じ第三世代兵器ってやつだろう。

白式にはこの雪片弐型しかないため、俺もあんな遠距離武器が欲しい。

 

(どこかで先手を打たないとこのままじゃやられる…)

 

攻撃を避けながら隙を探すがこの紙一重の回避がいつまで続くかはわからない。

 

 

「これならどう?」

 

 

鈴が二本の青龍刀の柄を連結させ、こちらに投擲してきた。

 

 

「そんなことも出来んのかよ!?」

 

 

武器を投げたことに驚くがなんとか回避する。

そして青龍刀は鈴の下にブーメランのように戻っていき、手元におさまる。

 

 

「安心してる暇はないよ。」

 

 

避けたところに追撃の龍咆が発射され吹き飛ばされる。

残りのシールドエネルギーは僅かだ。

 

(だけど、勝機は見つけた。)

 

それが成功すれば俺の勝ちだ。

しかし、それには次にそのチャンスが来るまで龍咆を避け続けこの僅かなエネルギーをもたせなければいけない。

相手は代表候補生で弾は見えない。

 

(俺に・・できるか・・?)

 

後ろ向きの考えが一瞬頭によぎるがすぐに切り替える。

 

(できるかじゃなくてやるんだ!しっかりしろ、俺は千冬姉の弟だ。)

 

弟が不甲斐なくては姉が可哀想だ。

それに勝ってくると言い切った。

 

 

「かっこ悪いところは見せられないな。」

 

 

雪片弐型を強く握り直し、その時を待つ。

 

 

待ち続けて三分が経った。

 

 

「ちょこまかして鬱陶しいわね!これでおしまいよ!」

 

 

来た!青龍刀を投げてきた。

 

 

「この瞬間を待っていたんだ!」

 

 

青龍刀を紙一重で避け、一瞬で鈴に接近する。

 

 

「なっ!?」

 

 

鈴の驚く顔がよく見える。

まさか俺が瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使えるとは思っていなかったのだろう。

瞬時加速とは一瞬でトップスピードを出し、敵に接近する奇襲攻撃の技術だ。

これは千冬姉が教えてくれた俺が唯一使える技だ。

 

 

「もらったー!_____!?」

 

 

鈴に攻撃が当たる直前、アリーナの中心で爆発が起きた。

試合どころではなさそうなため剣を止めて爆発した中心を見る。

 

 

「なにが起こったの!?」

 

「わかんねぇけど・・・・やばそうだ。」

 

『試合は中止だ!二人とも直ちにピットに戻れ!』

 

 

千冬姉から通信が入り、客席が防御システムによって遮断された。

かなりのトラブルなのだろう。

ピットに戻ろうとした瞬間・・・

 

 

ビビビビビビビビ!

 

「攻撃反応!?」

 

 

咄嗟に体を動かした瞬間ビームが目の前を通り過ぎていく。

そしてそれを放った爆心地の中心にはISが一機いた。

 

 

「一夏、あんたはピットに戻りなさい。」

 

「お前はどうすんだよ!」

 

「私は先生たちが来るまでの時間を稼ぐ。」

 

「お前を置いていけるか!俺も一緒に戦う。」

 

 

鈴を置いて逃げるなんてできない。

 

 

「バカッ!あんたの方が弱いんだからしょうがないでしょ!」

 

「グッ…」

 

「大丈夫よ、先生たちがすぐに来てしゅうしゅ_____」

 

 

謎のISから高エネルギー反応。

 

 

「危ない、鈴!」

 

 

急いで鈴を抱きかかえその場から離れる。

そして離れた直後にビームが通り過ぎる。

 

 

『織斑君、凰さん、今すぐ脱出してください!すぐに先生たちがISで制圧に行きます。』

 

 

山田先生から逃げろと言う通信がきた。

しかし、

 

 

「いや、皆が逃げるまでの時間を稼がないと。あいつは危険だ。」

 

『それはそうですけど、しかし!』

 

「悪い、先生。」

 

プツッ

 

 

通信を切り、鈴を降ろす。

 

 

「そういうわけで、やれるか鈴?」

 

「誰に言ってんのよ。」

 

 

やる気は十分なようだ。

 

 

「じゃあ、行くぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

~管制室~

 

 

「先生、俺に出撃する許可をください!」

 

「私にも!」

 

 

セシリアと衛宮が千冬さんに迫る。

ここにはセシリア、衛宮、天馬の三人の専用機持ちがいる。

それが加われば確実に勝てるだろう。

 

 

「そうしたいところだが・・・これを見ろ。」

 

 

千冬さんがモニターに目線を移す。

 

 

「遮断シールドをレベル4に設定・・・!?」

 

「しかも客席の扉もすべてロックされてますわ…」

 

「あのISの仕業だろうな。まったく、無粋な輩だ。この俺様が観戦してるというのに。」

 

 

こんな状況だというのに天馬は椅子に腰かけ悠々としている。

しかし、あのISは気に入らないようだ。

 

 

「これでは避難することも助けにいくこともできない。現在も学園の先鋭達でシステムクラックを実行中だが時間がかかる。」

 

「待っていることしかできないのか…」

 

 

千冬さんの言葉に皆悔しそうにする。(天馬は除く)

 

 

「一夏・・・・」

 

 

こうしている今も一夏は危険な目にあっている。

何もできない自分が恨めしい。

 

 

「あ~あ、あのままだとあいつ墜とされて()()()。」

 

 

天馬が私の耳元で囁く。

 

 

「ククク、なにか気を引けるようなことがあればいいんだがな~。」

 

 

なにか・・・気を引く・・・・

気が付くと私はアリーナに走り出していた。

他の者はモニターに夢中で走っていく私に気が付かない。

 

(一夏・・・一夏・・・・一夏!)

 

ピットからアリーナの入り口まで行く。

もちろんシールドによって中には入れない。

 

(ダメか…)

 

他の方法を探そうとした瞬間、

 

 

「グアァ!」

 

 

一夏が攻撃を受け吹き飛ばされた。

そして敵はビームを撃とうとしている。

あの体制では避けられない。

 

『堕とされて死ぬな。』

 

先ほどの言葉が頭をよぎる。

 

(一夏ッ!)

 

そんなのはダメだ、許さない。

 

 

「こっちだ!ここにいるぞ!」

 

 

あらん限りの声を出し、こちらに注意を引き付ける。

狙い通り敵はこちらを向き、その銃身をこちらに向ける。

 

 

「まずいッ!箒、逃げろ!」

 

 

逃げろと言われても生身でISの攻撃は避けられない。

そして奴の攻撃は易々とシールドを貫いてくるだろう。

 

(一夏・・・・生きろ・・・)

 

銃身にエネルギーが溜まり、次の瞬間私は消し炭になるだろう。

いや、灰すら残らないかもしれない。

 

(さよなら・・・)

 

私が死を覚悟し、目をつむろうとした瞬間、

 

 

『________』

 

 

凄まじい音とともに何かが敵のISにぶつかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何があったんだ!?」

 

 

敵のISに篠ノ之が撃たれる直前、遮断シールドを貫いて何かが上空から降って来た。

そしてそれは敵に当たり、今は砂煙で隠れて見えない。

 

 

「シールドを貫くなんて・・・」

 

「山田君、呆けている場合ではない。今の奴について調べるんだ。」

 

 

奴?織斑先生のその言い方だとまるで・・・・

 

 

「まだ敵は動いてますわ!」

 

 

砂煙の中からビームが飛び出す。

しかしそれは一夏や凰、篠ノ之の方向ではない。

 

(いったいどこへ撃ってるんだ?)

 

その疑問はすぐに解消された。

ビームによって晴れた砂煙の中から一人の姿が現れた。

ビームはそいつに向けて撃ったものだ。

 

 

「なんですの、あれは?」

 

「山田君、奴の所属は?」

 

「今すぐ調べます。・・・・・そんな!?」

 

 

調べていた山田先生が戦慄する。

 

 

「どうした。」

 

「反応がないんです・・・・・新たに侵入した方からはIS反応がしないんです!」

 

 

その言葉に織斑先生とセシリアは驚く。

IS反応がない?それはそうだ。なぜならあれは・・・・

 

 

「仮面・・・ライダー・・・」

 

 

白い姿に黄色い複眼、アルファベットのEを模した角。

そして特徴的な両足のアンクルガードと腕の青い炎の意匠と黒いマント。

あれには前世で見覚えがある。確か名前は・・・

 

 

「エターナル…」

 

「えっ!」

 

 

エターナル。合っているがなぜ織斑先生からその名前が出てくる…

この世界には仮面ライダーは存在しないはずなのに。

 

 

「織斑、凰!今すぐそいつから距離を取れ!」

 

 

そして織斑先生が焦ったように一夏達に通信を入れる。

一夏達はおとなしく指示に従う。

ここまで焦っている先生は初めて見た。

でもなんでそんな焦って指示をだすんだ?

 

 

「大丈夫です織斑先生。なんとなくですけどあれは味方だと思います。」

 

 

理由は仮面ライダーだからという単純な理由だが言っても通じないためなんとなくとか言っておく。

 

 

「衛宮、あれは味方などではない。あれは国際指名手配犯だ。」

 

「国際指名手配犯!?」

 

 

仮面ライダーが犯罪者だって!?信じられない。

 

 

「なぜそんな人がここへ来たのですか?」

 

 

セシリアから質問が投げかけられる。

 

 

「見ておけばわかる。」

 

 

そういわれモニターを見るとエターナルとISが戦っていた。

いや、戦いじゃない・・・・蹂躙だ・・・

 

エターナルがしていることは至極シンプルだった。

攻撃を躱してISを殴りつける。それだけだ。

しかし、その反撃の一発一発ごとにISがひしゃげていく。

その攻撃からは相手を潰すことしか感じられない。

 

 

「酷い…」

 

「このままでは操縦者が…」

 

 

山田先生とセシリアの顔が青ざめていく。

そして・・・

 

エターナルがISの両腕を肘の部分から断ち切った。

 

 

「キャアッ!?」

 

 

セシリアが目を背けるがその必要はない。

なぜならあれは

 

 

「安心しろ、無人機だ。信じられんことにな。」

 

 

あれは無人機だ。だからあちらの心配をする必要がない。

だが、それにしたって・・・

 

 

「容赦がなさすぎる…」

 

 

無人機とわかっていても普通、人型をしているんだからもう少し躊躇するものだ。

それなのにエターナルは少したりとも躊躇しない。

本当に同じ人間なのだろうか…

 

 

「ずいぶんと派手にやっているなあの白いのは。あれでは日曜の朝に出れないではないか。」

 

 

天馬は面白そうにそんなこと言うが全く笑えない。

 

 

「そろそろ終わらせるつもりだ、よく見ておけ。」

 

 

織斑先生の言う通りどうやら決めるつもりらしく、メモリを武器に突き刺している。

 

 

Eternal(エターナル)! マキシマムドライブ!/

 

 

そんな電子音とともにエターナルの足にエネルギーが溜まっていく。

なぜか敵のISはその間動かない。そしてISにエターナルの蹴りが炸裂し、ISが完全に停止した。

 

 

「圧倒的すぎますわね…」

 

 

セシリアの言ったことはこの場にいる全員が思ったことだろう。

そして同時に俺は奴に恐怖を覚えた。

 

エターナルは動かなくなったISに近づき、胸の部分を拳で貫く。

貫通した手には何かが握られている。

 

 

「いったい何を…」

 

「ISコアだ。奴の目的はそれしかない。山田君、追跡する準備を。」

 

「は、はい。」

 

 

ISコアが目的・・・・

 

 

「つまり、一夏達が危ない!」

 

 

未だシールドは解除できていないため一夏達はアリーナから出られてない。

奴の目的が本当にISコアなら一夏達のコアも狙ってくるはずだ。

 

 

「先生!」

 

「わかっている。安心しろ。あと十秒ほどでシールドを解除でき、突入できる。さすがの奴も先鋭数人とは戦いたくはないだろうさ。」

 

 

よかった。それなら一夏達は大丈夫そうだ。

 

 

「じゃあ、俺もいき_____」

 

 

俺が言いきる前にエターナルはすさまじい音をたて、再び天井のシールドに穴をあけて脱出していく。

突入する直前の出来事だった。まるで突入してくることが分かっているかのようなタイミングでの離脱。

 

 

「山田君!」

 

「はい!」

 

 

先生たちはすぐにセンサーなどをつかいエターナルを追跡しはじめる。

 

 

「・・・・ダメです、見失いました…」

 

 

しかし、しばらくして追跡を撒かれてしまったようだ。

 

 

「あれは一体何だったのですか、織斑先生。」

 

「そうだな、奴が現れた以上お前たちも他人ごとでは済まなくなってきたからな。いいだろう。」

 

 

それから俺達は織斑先生が知るエターナルのことを聞いた。

それはとても衝撃的なものだった。




次回は主人公視点でのゴーレム戦です。


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第三十八話 VSゴーレム

お待たせしました。
遅くなって本当にすいません。


アリーナからはるか上空で現在俺は試合を観ている。

レーダー類は全てハックしており、エターナルはIS反応が無いため見つかる心配はない。

 

 

「なかなか善戦してるじゃないか。」

 

 

代表候補生相手に一夏はなかなか耐えている。

しかし、このままだと時間の問題だろう。

データが欲しいためもう少し耐えてくれるとうれしい。

 

 

「鈴ちゃんの実力はセシリア嬢と同じぐらいか。」

 

 

今回欲しいデータは鈴ちゃんの甲龍と白式のより詳しいデータだ。

甲龍に関しては情報は粗方調べたためおまけのような感じだ。

俺が見たいのは主に白式の方だった。

 

 

「零落白夜か…」

 

 

白式の単一仕様能力は暮桜という別の機体と同じだ。

しかし、全く同じ単一仕様能力が発現することはないため白式はイレギュラーといってもいい。

今回のデータ収集はこの謎を解くためのデータ集めだ。

 

(このために怪しまれるかもしれない行動をとったんだから何か見つかってくれると助かるんだけどな~)

 

エターナルに変身して試合の記録を取っているのだからもちろん鳴海優は下にはいない。

カメラには細工して映るがそこにいる人の目には映らない。

できる限りのことはしたつもりだがこれが危険であることには変わらない。

 

 

「さて、どうする一夏。」

 

 

しかし過ぎてしまったことより今に集中するべきだ。

動きから見るにどうやら一夏は何かしようとしているようだ。

零落白夜を使うとみて間違いないだろう。

しっかりと記録しなければ。

 

ピピッ!

 

 

「どうやらそう言ってられる場合でもないらしい。」

 

 

センサーの反応した方向から所属不明のISが近づいてきている。

こちらには気づいていないようでアリーナに一直線に向かっている。

 

 

「反応は一機か。一体どこの差し金だ?馬鹿にも程がある。」

 

 

奴が狙っているのは天下のIS学園だ。セキュリティーは万全で腕がたつ者もいる。

攻め込んできたということはアリーナのシールドぐらいは突き破れる力はあるのだろうがすぐに制圧されるのがオチだ。

 

(まぁ、学園側の対応も見ておきたいから放っておくか。)

 

白式のデータはまたいずれとれるが侵入者への対応はそうそうとれるデータではない。

悪いが馬鹿の侵入者には尊い犠牲になってもらうことにした。

そんなわけで傍観を決め込もうとしたのだが・・・

 

 

「・・・・・馬鹿じゃなく、馬鹿の天才だったか…」

 

 

謎のIS(以後Xと呼称する)は一撃でアリーナのシールドを易々と突き破りド派手に侵入していった。

ここまでならたいしたことはないのだが、Xは侵入後にアリーナのセキュリティーを一瞬で掌握し遮断シールドを最高のレベル4に設定しやがった。

この学園のセキュリティーは超のつくほどの一級品であり、こんなこと普通出来ない。

こんなことができて、馬鹿みたいな行動するやつは一人しか心当たりがない。

 

 

「束の仕業か…」

 

 

なぜこんなことするのかはわからないが十中八九束の仕業とみていいだろう。

もしかしたらちーちゃんに喜んでもらうためとかかもしれない。

昔から束はそんな感じだ。ちーちゃんが喜ぶのは稀だったが…

 

 

「さてと、どうしますかね~。」

 

 

現在目下では一夏と鈴ちゃんがXと交戦中。学園側は全力でシステムクラック中。

しばらく見ていて分かったことは三つほどだ。

 

1つ、Xは無人機のようだ。そんな馬鹿げた技術があるのは束ぐらいなので犯人は束で確定。

 

2つ、このままいけば一夏と鈴ちゃんが勝てる可能性は五分五分。

 

3つ、学園のシステムクラックはまだ時間が掛かること。ギリギリ間に合うかどうかってところだ。

 

(クラックが間に合えば犠牲なくXを制圧できるだろう。)

 

逆に言えば間に合わなければ犠牲が出るかもしれない。

だが、ここは傍観に徹する。ここで行くのはリスクが高すぎる。

ただでさえコア回収によって束には目をつけられているはずなのだ。

今までは何とか撒いてきたがそれは束の意識が向けられてないであろう場所を狙ってきたからだ。

今回は違う…

 

(すまないが助けてはやれない…)

 

俺は自分が最低な奴だと改めて実感した。自身の保身のために助けられるのに一夏達を危険にさらしている。

してやれることはクラックを怪しまれない程度にサポートしてやるくらいだ。

これで恐らくは間に合うかだろうがもしもはある…

 

 

「ごめんな…」

 

 

聞こえるはずのない謝罪は風の音に消されていった。

 

 

Xに一夏が吹き飛ばされた。壁にたたきつけられた一夏は体勢が完璧に崩れてしまっている。

次の攻撃は確実に当たってしまうだろう…

それでも俺は動かない。頭では今すぐ駆け付けたいが体がそれを許さない。

 

 

「ISには絶対防御がある。高確率で生存できる。」

 

 

絶対防御は完璧ではないことぐらいわかっているのに言い訳のように言葉が出る。

 

 

「大丈夫・・・・だいじょう_____!?」

 

 

その時箒がピットの出口から出てきて何か叫んだ。

それによってXの銃口は・・・・・

 

 

「箒ッ‼」

 

 

我慢の限界だった。箒はシールドの外側にいるがXの攻撃ならシールドを貫通させることぐらい可能だ。

このままでは確実に箒が死ぬ。

 

(クソッ!このままじゃ・・・)

 

フルスピードを出しているがこれでは間に合わない。

ならばどうするか・・・・決まっている。

 

 

「間に合う速度が出せるものになればいい。」

 

Eternal(エターナル)

 

 

瞬時にもう一つのエターナルメモリを取り出す。そのメモリの端子の色は青。

 

(頼むから成功してくれ!)

 

ベルトからエターナルメモリを抜き、新たなものを挿し込む。

このメモリの力はまだ完全にコントロールできていない。

失敗すれば箒も助けられないし、圧倒的エネルギーで俺も死ぬことになるだろう。

 

 

「うおぉぉぉ!」

 

Eternal(エターナル)

 

 

炎で視界が一瞬で赤く染まり体内から引き裂かれるような痛みにおそわれる。

そして炎の間から僅かに見えるのは必至に恐怖と戦っている箒の姿。

 

(箒ッ‼)

 

それを見た瞬間体の痛みなどどうでもよくなった。

 

 

「全部持っていきやがれー‼」

 

 

炎に抵抗するのではなく、炎をすべて受け入れる。その瞬間体全体が炎に侵食された。

壊れてもいい・・・だけど・・・・・

 

(お前だけは助ける‼)

 

次の瞬間、俺の目の前にシールドが出現した。いや、そうではなかった。

急加速によって一瞬でアリーナのシールドの前まで来ていたのだ。

勢いをそのままにシールドを突き破りXに蹴りをいれる。

凄まじい音とともにあたりは土煙に覆われた。

 

(間に合った…)

 

今、纏っている炎の色は赤から青に変わっているのが成功の何よりの証だった。

姿も両足のアンクルガードと腕の炎の意匠が青に変わっており、背には黒いマントがたなびいている。

エターナルブルーフレア。それがこの姿の名前だ。

 

 

前方からビームのエネルギー発光が見え、ビームが土煙の中を突き破ってくる。

半歩動くことでそれを回避する。

 

今の攻撃で砂煙は吹き飛ばされお互い姿が見える状態になった。Xは先ほどの蹴りを受けた箇所が見事にひしゃげていた。

 

 

『・・・・』

 

 

Xが接近してその拳を振るってくる。

どうやら俺を一番の脅威として認識したようだ。

 

(さて、一夏たちはどうしている?)

 

攻撃を避けつつ一夏たちの様子を確認する。

一夏と鈴ちゃんは俺の乱入によってどうするか迷っている。箒は既に物陰に退避しており安全といえるだろう。

 

 

「じゃあ、イレギュラー同士殺りあうとするか。」

 

 

確認も完了したため反撃を開始する。

まずは振るってきている拳にこちらの拳をぶつけてXの拳を潰す。

 

 

「まずは一本。」

 

 

Xは拳の事など気にせずに攻撃を続けてくる。

 

(無人機の弱点だなこれは。)

 

全ての攻撃を紙一重で避けていく。

全てを機械に任せるということは機械らしい合理性のある動きにどうしてもなりやすい。

それはとても優秀な動きだが

 

(だからこそ、動きが手に取るようにわかる。)

 

俺だってIS研究者の端くれだ。

これぐらい予測出来る。

そしてそこまで出来るのならある程度の介入も可能だ。

 

攻撃を避け、こちらの拳を叩き込む。

叩き込んだ箇所は装甲がひしゃげる。

そして再びXが攻撃を仕掛てくる。

それを避け、拳を叩き込む。

殴った箇所はひしゃげる。

それの繰り返し。

 

(ただの作業だな。)

 

何故こんなにも簡単に圧倒出来るかといえば、俺が攻撃をさせているからだ。

正確に言うとXにその攻撃が正しいと誤認させている。

 

Xは敵の動作を予測、計算をして動いていると思われる。つまり、こちらの動作である程度Xの行動を制限出来るのだ。そのため一方的に殴りつけることが可能になっている。

 

 

「なかなか頑丈だな。」

 

 

既にひしゃげてないところがない程に殴りつけたが未だにXは動いている。

正直これは予想外だった。さすがは束が作っているだけのことはある。

 

(あと1分39秒ってところか。)

 

そろそろ決めなければ学園側も相手にしないといけない。

負けはしないだろうが今回の目的は学園との戦闘ではない。

手元にエターナルエッジを呼び出す。

そしてXがビームを発射する構えをとる。

 

 

「出直してこい。」

 

 

すばやく懐に潜り込み、全力でエッジを二回振るう。

ゴトリッ、と何かが落ちる音がした。その音を出したのは奴の両腕だ。

切断面からはオイルやらなんやらが流れ出している。

 

構わず攻撃しようとしてくるXに蹴りをかまし距離を取らせる。

そしてドライバーからエターナルメモリを取り出し、エターナルエッジに挿し込む。

 

 

Eternal(エターナル)! マキシマムドライブ!/

 

 

エッジからエネルギー波を発し、Xの動きを拘束する。

 

 

「じゃあな。」

 

 

そこへ膨大なエネルギーの溜まった足で空中回し蹴りを放った。

攻撃を受けたXは完全に停止した。

その後、俺はXに近づきISコアを引き抜く。

すでに先ほどの一撃で完全なスリープモードに入っている。

 

(残り18秒か。)

 

目的は達成したため、突入される前に離脱する。

ブルーフレアのパワーで天井のシールドを突き破り逃走する。

あとは追跡を振り切るだけだが問題が一つある。

 

(束の追跡をどう撒くかだな…)

 

学園側の追跡なんて問題ではないのだが束の追跡から逃れるのは骨がおれる。

今までとは違って今回は直接喧嘩を売ってしまったから全力で追跡されるだろう。

こちらも全力で撒かなければいけない。

 

 

Weather(ウェザー)! マキシマムドライブ!/

 

 

ウェザーメモリの能力を使い、空を雲で覆う。

恐らく束の目は衛星だ。こうすればIS反応のないこちらの動きは把握できないはず。

しかし相手は束なので念には念を入れ、さらに海に入りこちらを捉えられないようにする。

 

 

Zone(ゾーン) マキシマムドライブ!/

 

 

そしてゾーンメモリの能力で自身を転送する。

 

 

「グッ…」

 

 

転送によって視界がぐちゃぐちゃになる。

さすがに自身を転送するのはかなりのリスクと反動が来る。

海中でおこなったのはその弱点を知られたくないのとデータを取られたくないからだ。

見られたら対策を打たれる可能性が高い。その点海中なら見られることはない。

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

 

転送が完了し、鳴海優の自室に帰って来た。

変身を解き、ベッドに倒れ込む。

無事成功したが反動が大きすぎるためしばらくは動けそうにない。

 

ボタッ、ボタッ、と白いシーツに赤い模様ができていく。

鼻からは何かがこぼれ落ちていくような感覚。

 

(鼻血か…)

 

これも恐らくはゾーンメモリの反動だろう。

この程度の出血ですんで幸運だ。

 

 

「シーツ洗わないとな…」

 

 

だけど・・今は体力を・・回復させ・・・・ない・・・・と・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~、問題が山積みね…」

 

 

目の前の資料の山を見て、思わず口に出てしまった。

資料の内容はアリーナでの侵入者事件についてのものだ。

 

アリーナのシールドを易々と突き破り侵入、そしてシステムをハッキングしてきた謎のIS。

コイツによってアリーナのシステム等を一から再検討しなくてはならなくなった。

しかもそのISは無人機だったのだ。

しかし、それよりも問題なのが・・・

 

 

「ついにここまで来たのね…」

 

 

一枚の資料を手に取り、載っている写真を見る。

そこに写っているのは後からアリーナに侵入してきた奴だ。

 

 

「IS狩りのエターナル。」

 

 

前に目撃された時と色が違う部分はあるが間違いないだろう。

世界各地でISコアの強奪をしている危険人物だ。

使っている機体からはIS反応がないため、ISではないと思われる。

奴と戦った生存者による情報だと【E・S】と言うらしい。

もちろん表にはそんな情報出せないので裏で国際指名手配されている。

いずれは来るであろうと予想していたがこんなにも早く現れるとは思っていなかった。

 

この学園には訓練機と教員用のISが55機あり、専用機持ちを含めるとコア数は60を超えてくる。

つまりエターナルからしたらここは最大の目標と言っても過言ではないだろう。

 

 

「でも、今回の行動には何か違和感が…」

 

 

エターナルの今までの情報をまとめると一番油断している時やわずかなスキをついてことごとくISコアを強奪してきている。しかし今回はどうだ?

確かに無人機の侵入によって隙は生まれていた。だが奴は無人機がいるアリーナに来た。

無人機が暴れている間ならば他の個所を狙った方が効率的だ。

 

 

「それをせずに敢えてアリーナに来た理由は?」

 

 

考える限り、無人機ISという未知の技術のコアを手に入れたかったからとしか考えられない。

しかし・・・・

 

 

「本当にそうなのかしら…」

 

 

どうしてもしっくりこなかった。

他に何か思いついているわけではないのだがそうではない気がする。

女の感というのでもなく、なんとなくそう感じた。

 

(じゃあ、どうして・・・・)

 

気のせいかもしれないこの引っ掛かりがどうしても気になる。

思考の海に糸を垂らすが何もいないかのようにあたりは来ない。

 

 

「___う_ま_」

 

 

なのになぜかここには必ず何かがいる。

そう思えて仕方ない。

 

 

「お__うさ__」

 

 

何かいる・・・とてつもない何かが…

 

 

「お嬢様‼」

 

「ヒョッ!?」

 

 

急に耳元で大きな声を出され、驚いて椅子から落ちてしまった。

 

 

「いたたたぁ、何するのよ虚。」

 

 

声の主はいつの間にか隣まで来ていた幼馴染みの虚であった。

 

 

「何度もお呼びしたのにお嬢様がご反応なさらなかったので。」

 

「えっ、呼んでいたかしら?」

 

 

どうやら考えることに夢中になりすぎていたようだ。

 

 

「また簪様のことでも考えていたのですか?」

 

「ん、まぁそんなところよ。」

 

 

言っても困らせてしまいそうだからそういうことにしておく。

 

 

「大変でしょうけど今はこちらのことを考えてください。」

 

 

目の前の資料の山を見ながら虚は言う。

虚の言う通り今は気のせいかもしれないことよりも資料に目を通すべきだ。

 

 

「ついに来てしまいましたね…」

 

 

一緒に資料に目を通す虚が心配そうな顔をする。

虚は基本的に顔には出さないようにしているのだが今回ばかりは余裕がないようだ。

それも仕方ない。相手は一切尻尾を掴ませない奴なのだから。

しかし、弱気になっていては勝てない。

 

 

「だいじょぶよ、虚。私がこの学園を絶対に守るわ。」

 

「お嬢様…」

 

 

そう、私がこの学園を絶対に守って見せる。

私はこの学園の生徒会長なのだから。




戦闘より逃走の方がメモリを使っているって…
そしてあの人が登場しましたね。

もしかしたら更新ペースが次もこのぐらいになるかもしれません。
すいません。



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設定その三

E・S:エターナルブルーフレア

 

変身者:暮見雄二

 

概要:

箒を助けたいという強い思いによって覚醒したエターナルの強化フォーム。

その名の通り赤かった部分は青色へと変化している。

基本性能はレッドフレアを遥かに超す。

 

使用メモリは全てがT2ガイアメモリへとグレードアップしており、以前よりも強力になっている。

エターナルメモリを使ったマキシマムドライブ【エターナルレクイエム 】も効果範囲が単一から範囲に進化している。しかし、その分コントロールが難しくなっている。

 

纏っている黒いマント『エターナルローブ』はあらゆる攻撃を防ぐ事が可能。

しかし、欠点としてメモリの効果を妨げてしまうこともある。

右腕、左足、胸にはマキシマムスロットが24、右腰に1つ、そしてナイフ型の専用武器『エターナルエッジ』にも1つ備わっているため、同時に26本全てのT2ガイアメモリをマキシマムドライブが可能。

 

 

補足:

レッドフレアによる戦闘データの収集から生み出されたT2ガイアメモリのエターナルメモリを使って変身する。

その力は強大だが同時に大きなリスクを伴い、力の制御ができなければその身を滅ぼすことになる。

力の制御に必要なものは強い肉体と精神、そして何よりもメモリとの高い適合性が重要。

肉体と精神がどれほど強靭であろうとメモリとの適合性が高くなければ喰い殺されてしまう。

雄二の適合率では本来ブルーフレアに至るまでに耐えられないはずだったが、箒への強い思いにメモリが反応し適合率が上昇したと思われる。

現在26本すべてのT2メモリが完成しており、全てを同時にマキシマムドライブすることによって絶大な力を得ることができる。

その状態では、全身から超高濃度エネルギーである緑色のオーラ『エターナルウェーブ』が発せられる。

 

 

必殺:

・エターナルブレイク

エターナルメモリをエターナルエッジのマキシマムスロットでマキシマムドライブさせることによって発動。

エターナルメモリの効果で敵の動きを封じた後にエネルギーを足先に集中させ跳び回し蹴りを放つ技。

 

・ブラッディヘルブレイド

エターナルエッジを使用した攻撃。

T2ガイアメモリ全26本のマキシマムドライブを同時に発動させる事により、永遠の刃に相応しく長大な緑色の刃が伸びる。

その射程距離、威力は敵に絶望を与えるだろう。

 

・ネバーエンディングヘル

T2ガイアメモリ全26本のマキシマムドライブを同時に発動させる事により放たれる、緑色の巨大な光弾。全力で放てば街一つは吹き飛ばす威力がある。



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第三十九話 後悔先に立たず

今回ちょっと長めです。


クラス対抗戦から数日が経ち、体の方もよくなってきた。

そして教室はいつも通りにぎやかだ。

誰もエターナルや無人機に関する話題なんか話さない。

 

(学園側から説明があったにしても不用心すぎないか、この子たち…)

 

生徒にはエターナルのことは政府が派遣したISとして伝えられている。

つまりIS学園を守りに来た正義の味方ということだ。

 

(皮肉にも程がある…)

 

さすがに説明を受けた時には顔が引き攣ってしまった。

今思い出すだけでもため息をつきたくなる。

 

 

「鳴海、一緒に食べないか?お前も弁当だろ?」

 

 

頭を抱えていると衛宮が俺の席までやって来た。

 

 

「別に構わないよ。一人で食べるのは寂しいからね。」

 

「それならよかった。机借りるな。」

 

 

一つの机を半分ずつ使い、それぞれの弁当を展開する。

最近俺は弁当を作るようにしている。

学食も悪くないがいかんせん人が多く、考え事には向かないからだ。

 

 

「おっ!鳴海の弁当すごいな。」

 

 

俺の弁当を見て衛宮が声を上げる。

そんなにめずらしいようなものは作っていないはずだが?

 

 

「なにがすごいんだい?珍しいものなんてないと思うけど。」

 

「いや、それがすごいって。誰の弁当にも入っていそうなおかずばかりなのに自然と視線を集められるんだから。」

 

 

参考程度に衛宮に聞いてみたがいまいちよくわからない。

視線が集まる?

 

 

「わぁ~鳴海君のお弁当おいしそうだね~。」

 

「ほんとだ!すっごい綺麗にまとまってる!」

 

「なるみん、卵焼きもらってもいい?」

 

 

気が付けば俺達の周りには人が集まっており、皆俺の弁当を見ていた。

なるほど、理解した。

というより思い出した。随分と懐かしい気分だ。

 

 

「交換なら別に構わないよ。」

 

「ありがと~。」

 

「あっ!本音ずるい。」

 

「私ハンバーグがいいな。唐揚げあげるから。」

 

 

あれよあれよという間に俺の弁当は懐かしのキメラ弁当へと変化していく。

その光景に衛宮も苦笑いだ。

 

 

「私は衛宮君の方の唐揚げがほしいな。」

 

「私もー。」

 

「衛宮君もくれるの?」

 

「えっ!俺のもか!?」

 

 

おいしいものに目がない女子たちは俺の弁当をキメラ化させると次なる標的を求めた。

俺から見ても衛宮の弁当はおいしそうだ。それに目をつけないわけがない。

 

 

「ダメかな?」

 

「ダメってわけじゃないが・・・」

 

 

チラッと俺のキメラ弁当を見る衛宮。

さすがに目の前でこれの出来上がりを見たため躊躇している。

 

 

「はやはや~お願い。」

 

「・・・わかった、交換な。」

 

 

しかし、頼まれると断れない性格なようで結局OKしてしまう。

そしてその言葉を聞いた女子たちの行動は速かった。

迷いなくそれぞれが狙っていたおかずを交換していく。

そして30秒も経たないうちに二つ目のキメラ弁当が出来上がった。

 

 

「ようこそ、こっちの世界に。」

 

「慣れすぎだろお前…」

 

 

衛宮を歓迎しながら昼食を取り始めた。

気が付くと先ほどの女子たちもこちらに机をくっつけており、結構な人数になっている。

 

 

「うそ、おいしすぎでしょ…」

 

「そこらのお店よりおいしいよ、これ!」

 

「二人ともプロになっちゃえば?」

 

 

どうやら喜んでもらえたようだ。

一部自信を喪失している子もいるが少しすれば開き直って食べ始めるので問題ない。

 

 

「言い過ぎだよ。皆のおかずも食べたけどちょっと練習すればこのぐらい作れるよ。」

 

「ほんとに!?」「うっそだ~。」「またまた~。」

 

「ほんとほんと。」

 

 

そんな感じで今日の昼食は賑やかだった。

結局弁当にしても考え事をするのには向かないようだ。

でもこういうのも悪くない。

 

 

「やっぱり動くなら夜だな。」

 

 

時刻はすでに消灯時間間近。

俺は今整備室に足を運んでいる。

時間も時間なため廊下には人っ子一人いない。

 

 

「やっと整備室をじっくり見れるな。」

 

 

今までは代表戦やら対抗戦やらでこの時間でも整備室は人で溢れていたため調べることができなかったのだ。しかしそのイベントも終わり、次のイベントまでは少し猶予がある。

 

 

「ここか…」

 

 

整備室と書かれたプレートがある扉の前までやって来た。

しかし・・・

 

 

「誰かいるな・・・」

 

 

中から人の気配がする。気配からして恐らく一人。動く気はなさそうだ。

どうするか悩むところだ。整備室は早めに調べておきたい。

しかし、目撃もされたくない。

 

(別の日にするか?)

 

いや、それは駄目だ。恐らくこの時間まで残っているのは今日だけじゃない。

わざわざこんな時間まで残っているのがいい証拠だ。

簡単なことなら明日にまわせばいい。そうしてないということはそうしなければならないほどのことをしているってことだ。

 

つまり何日待とうが変わらない。

これを逃せばまたイベントで忙しくなる。

 

(背に腹は代えられないか)

 

腹を括って整備室に入っていく。

中に入ると奥の方で一人が作業している姿が確認できる。

制服ということは生徒のようだ。

余程集中しているのか俺が入ってきたことにすら気が付いていないようだ。

 

 

「何しているんだい?こんな時間に。」

 

「ッ!?」

 

 

面倒だが扉の所から声をかけることにした。後々気が付かれて騒がれるよりはマシだ。

声をかけるとその子はビクッ、と体をはねさせながらこちらに振り向く。

そしてこちらを見ると一瞬安心したかと思うと、次は不審な目で見てきた。

 

 

「誰・・・?」

 

 

まぁ、そうなるだろうなとは思っていた。

だから声をかけるのは嫌だったんだ。

 

 

「僕は鳴海優。よかったね先生じゃなくて。」

 

「・・・・何の用。」

 

「ちょっと夜の探検って奴かな。この学園は面白いし。」

 

 

俺の回答にその子はポカンとした顔をした。

そしてその後呆れたような顔をする。

 

 

「心配しなくても君のことを報告したり、邪魔したりはしない。僕はこの部屋を見に来ただけさ。」

 

「そう、ならいい。でも本当に邪魔だけはしないで。」

 

 

そう言うとモニターに視線を移し、黙々と作業を再開した。

どうやらこちらに興味は一切ないようで助かる。

 

(こっちもぼちぼち始めますか。)

 

こちらもこちらで整備室を調べ始めた。

 

 

整備室を調べ始めてから数日が経ち、今日も今日とて俺は整備室に来ていた。

 

(しかし、どうしたものか…)

 

実は整備室はすでに調べ終わっているので手持無沙汰だ。

ではなぜ来ているのかと言われたら・・・

 

(だいじょぶかこの子・・・)

 

例の子のことが心配になってきてしまったのだ。

ここ数日整備室に来ていたがこの子はいつもいた。

それもかなり遅くまでいるのだから心配にもなる。

 

(全く何をやっているんだか俺は…)

 

時間は惜しいというのに今している行動は余分でしかない。

自分の行動に呆れるがそれもまた時間の無駄なので声をかけることにする。

 

 

「お疲れ様、調子はどうだい?」

 

 

缶コーヒー片手に話しかける。

 

 

「・・・・まぁまぁ。」

 

 

しばらく見ていたが、缶コーヒーを受け取り返答してくれた。

ここ数日話したことはないが一緒にいた効果が多少出ているとみた。

これはチャンスだ。

 

 

「それにしても毎日ずいぶんと遅くまでやっているね。」

 

「そうでもしないと完成しないから…」

 

「いったい何をつくっているんだい?」

 

 

気になった質問をしてみる。

リボンの色から見て一年生とわかる。なぜ一年生の子が?

三年生でもそこまでしないといけない課題はないはずだ。

 

 

「・・・・専用機。」

 

 

なるほど、専用機か。それは時間がいるな。

しかし、一人で残っても効率悪いだろうに。

 

 

「それはすごいね。けど、他の人は残ってないんだから君も休んだ方がいいと思うな。」

 

「他の人も何も一人で作っているから。」

 

 

ん?今この子すごいこと言ったぞ。

一人で作っているとかなんとか。

 

 

「ごめん、聞き間違いじゃなければ一人で専用機作っているって聞こえたんだけど…」

 

「そうだけど。」

 

「誰も手伝ってくれないのかい?」

 

「必要ないし、それじゃ意味がないから。」

 

 

えぇ~と、つまりこの子は手伝ってくれる人がいるのに誰からの力も借りずに一人で専用機をつくっているってことか?

 

 

「君は馬鹿だね。」

 

 

思わず本音が出てしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「君は馬鹿だね。」

 

 

目の前の男子、鳴海優は平然とその言葉を口にした。

 

 

「一人で作るより皆で作った方が効率的だろうし、負担が減る。それぐらいの事小学生でもわかると思うんだけど。」

 

「・・・・・」

 

 

わかっているそんなこと。

でもそれじゃ意味がないんだ。

 

 

「それに毎日こんな遅くまでやるのは逆効果だ。自分でも気が付かないうちに作業効率が落ちてくる。」

 

「・・・・・」

 

 

そんなことだってわかっている!

しかし、一分一秒でも早く完成させたいのだ。

 

 

「言っちゃ悪いけどそんなんじゃ作れっこないよ。」

 

「そんなことない‼」

 

 

さっきまでの言い分には何も反論はない。悔しいけどその通りだ。

だが、今の言葉だけは否定しなければいけない。

 

 

「一人で私は専用機を完成させて見せる!」

 

「なぜ一人にこだわるんだい?」

 

「そ、それは・・・・」

 

「それは?」

 

 

一人にこだわる理由…

それは・・・・

 

 

「あ、あなたには関係ないでしょ!」

 

「そうかもしれない。しかし、君が俺の言葉を否定したのだから無関係というわけでもないと思うが?」

 

「うっ、それは・・・・」

 

「言いたくないなら別に構わない。勝手にくだらない理由だと解釈するよ。」

 

 

くだらないって・・・・

この人は礼儀ってものを知らないのだろうか。

さすがに頭にきた。

 

 

「勝手に決めつけないで。」

 

「じゃあ、理由を聞かせてもらえるかな。」

 

 

この人を追い払うには話すのが一番はやいようだ。

 

 

「私が一人にこだわる理由は私の姉が一人で専用機を組み立てたから。」

 

 

私の言葉を聞き彼は首をかしげる。

まだ全て話していないので当たり前だが。

 

 

「私の姉はいわゆる完璧超人なの。何をやっても一番で、できないことの方が珍しいぐらいのね。」

 

 

なにをやらせてもお姉ちゃんは当然のようにこなしていた。

そんなお姉ちゃんがかっこよかったし、大好きで尊敬していた。

しかし、完璧すぎたのだ。

 

 

「私はずっと完璧な姉と比べられてきた。でも完璧じゃない私では姉に勝れるところなんかなかった。」

 

 

私にできないことがお姉ちゃんにはできた。

私にできることはお姉ちゃんの方がうまくできた。

どんなに頑張っても追いつくことができなかった。

 

 

「いつしか私にとって姉は重い足枷になっていった。」

 

 

それはとても重く、冷たい足枷。

進むたびにお姉ちゃんの凄さがわかり、重くなっていく。

 

 

「でも、その足枷を外せるチャンスがきた。」

 

 

それがこの専用機【打鉄弐式】を一人で完成させることだった。

 

 

「私が一人で専用機を完成させて見返してやるんだ。そして言ってやるの。私は出来損ないじゃないんだって!姉と同じなんだって!」

 

 

そうすればお姉ちゃんだってきっと…

 

 

「どう、わかった?わかったなら集中したいからどっかいって。」

 

「なるほどね、よくわかったよ。」

 

「それならはやく____」

 

「くだらないってことがね。」

 

 

心底つまらなそうに彼はそう言った。

 

 

「どういう意味・・・」

 

 

あらん限りの怒りを込めて彼をにらみつける。

しかしそれをものともせず彼は続ける。

 

 

「どういう意味もなにも、そのままの意味だよ。」

 

 

呆れたように言う彼の目からは憐れみしか感じられない。

 

 

「どこがくだらないって言うの!」

 

「う~ん、控えめに言って十割かな。」

 

 

今度は笑いながら言ってくる。

控えめに言って十割って・・・・

 

 

「馬鹿にしないで!」

 

「馬鹿にしてないよ。真実を述べてるだけだよ。」

 

 

また馬鹿にして・・・・・

 

 

「まぁまぁ、そんなカッカしないでまずは僕の話を聞いてよ。それで気に入らなければ煮るなり焼くなり好きにすればいい。」

 

「・・・・・わかった。」

 

 

こちらをここまで馬鹿にしてきたのだ、これでふざけたことを言われたら私は自分を抑える自信がない。

 

 

「まずさっきも言った通り僕はくだらないと思った。」

 

 

拳に自然と力が入ってしまうがなんとか抑える。

 

 

「それでなにが一番くだらないかって言うと一人で専用機を完成させて見返すってとこかな。」

 

「見返すのがくだらない?あなたには私の気持ちなんてわからない!」

 

 

やっぱり聞くだけ無駄だ。

 

 

「はぁ~、話は最後まで聞こうね。それに見返すのがくだらないじゃなくて、()()()専用機を完成させて見返すのがくだらないって言ったんだ。見返したいんなら勝手に見返せばいい。それは強い意志の表れなんだから馬鹿になんかしない。」

 

 

・・・・・意味がわからない。

専用機で見返すのがくだらなくて、見返すという行為自体はしろと言う。

 

 

「わからないって顔だね。いいかい?まず前提が間違っているんだよ。一人で専用機を完成させれば見返せるっていう前提がね。」

 

「そんなことない。一人で完成させれば私を見る目は変わる。」

 

「あのさぁ、答え合わせの前に聞きたいんだけど君はお姉さんに勝ちたいの?それとも比べるのをやめて欲しいの?」

 

 

急に何を言っているんだこの人は。

そんなこと決まっている。

 

 

「私は私として見て欲しい。」

 

「じゃあ、なんでお姉さんと同じことしている?」

 

「そうすれば____」

 

「そうすればお姉さんと並んだことになるから比べられなくなる、かい?」

 

 

その言葉にうなずく。

そうだ。そうすれば私を私として見るはずだ。

 

 

「君は矛盾している。同じことをすれば比べられるのは必然だ。なのに比べられたくないという。」

 

「あっ…」

 

 

言われてみればそうだ…

 

 

「加えて言えば同じには見られない。」

 

「ど、どうして・・・?」

 

 

訳がわからない。同じことをしたのだから同じように見るはずだ。

 

 

「君は専用機を完成させればそこで終わりだと思っているが周りはそこでは終わらない。同じことができるなら次に見るものは結果、つまり専用機の出来だ。それが劣っていれば結局君は下に見られるし、勝っていれば上に見られる。結局は比べられるわけだ。」

 

「そんな・・・・」

 

 

考えてみれば当たり前のことだった。

完成すれば結果は求められる。

でも私じゃお姉ちゃんには・・・

 

 

「じゃあ、私はどうすれば…」

 

 

どうすればこの足枷は外せるのだろう…

もしかしたら外す方法なんてないのかもしれない…

 

 

「落ち込んでいるとこ悪いけどまだ話は終わってないよ。」

 

 

まだ何かあるというのだろうか。

私にはすでに反論する気力なんて残っていない。

 

 

「そもそも何が言いたいのかと言うと、一人で専用機作るのがそんなに偉いことなの?」

 

「えっ?今・・・なんて・・・」

 

「だから、一人で作るのがそんなに偉いことなのかなって。」

 

「そ、それはそうでしょ。一人で全部できちゃうんだから。」

 

 

専用機は本来チームで作るようなものだ。

それを一人で作るんだからすごいに決まっている。

 

 

「それってただ時間を無駄にしているだけでしょ。誰かと協力すれば絶対早く終わらせられるんだから。」

 

「それはそうだろうけど・・・そうじゃなくて一人でやることに意味があるんだよ。」

 

「じゃあ、君は早くおいしい料理を出すお店と遅く味の劣る料理を出すお店のどっちがいい?」

 

「そんなのもちろん・・・・・あっ…」

 

 

もちろん早い方がいいと思った。これって今回のことも同じなんじゃ…

いや、それとこれとは違う。

 

 

「話をすり替えないで!私は一人で作らなきゃいけないの。誰かの手を借りるなんて、そんなの甘えだから。」

 

 

誰かの力を借りるのは甘えだ。

私一人の力で達成しないと私のことを見てもらえない。

 

 

「あまり調子に乗るなよ。お前、IS舐めすぎだ。」

 

 

ゾクリッ、と背筋に嫌なものが走り、冷汗が噴き出す。

目の前にいるのは誰だ?先ほどまでとまるで違う…

その目は冷え切っており、纏う雰囲気も先ほどとは違い恐ろしい。

余りの重圧に喋ることも動くこともできない。

 

 

「なんてね。ちょっと言い過ぎだったかな。」

 

 

気が付くと重圧が消え、彼ももとの彼だった。

今の彼からは恐ろしさなどかけらも感じない。

 

(今のはいったい・・・)

 

気のせいだったのではないか?

そう思わずにはいられない。

 

 

「どうしたの?顔色悪いけど。」

 

「な、なんでもないから。」

 

 

彼だって何事もないではないか。

あれはきっと気のせいだったのだ。

 

 

「そうかい?なら続けるけど。えぇ~っとどこまで話したっけ・・・・そうだ、人の力を借りるのが甘えとか言っていたね。」

 

「う、うん。」

 

「正直僕からしてみれば力を借りないことの方が甘えだと思うけどね。自分しか出来ないならしょうがないけど、できる誰かの力をかしてもらえるのなら借りるべきだ。」

 

「でもそれじゃあ…」

 

「皆でやった方がいいものができるのにそれをしないのは妥協以外のなにものでもないんじゃないのかい?」

 

「ッ!?」

 

 

一人ですることが妥協…

 

 

「一人でできる?そんなこと皆でやればもっと早く終わる。一人でやったからすごい?皆の意志をそろえてやったことの方がすごいだろ。一人ですごい完成度?皆でやればもっといいものになる。どうだい、これでもまだ一人の方がすごいって思うかい?」

 

「でもそれだとお姉ちゃんとは…」

 

「違くたっていいじゃないか、まったく同じ人なんていないんだから。皆の力を借りてお姉さんよりいいもの作って、どうだ!参ったか!って飛び切りの笑顔で言えばいい。私にはこんなに素晴らしい仲間がいるんだって自慢してやればいい。」

 

 

違くたっていい・・・・

そんなこと初めて思った。

 

 

「でも・・・一人じゃないからって言われない?」

 

「言われるかもしれない。でもそれは恥ずかしいことじゃない。誇っていいことだ。だってそれは皆で作り上げた最高のものなんだからさ。」

 

「最高の・・・・もの・・・?」

 

「そう、皆が全力をそそいで一つのものを作り上げる。それって最高じゃない?」

 

「・・・いい、それってすごくロマンがある。」

 

 

どうしてこんな簡単なことに今まで気が付かなかったんだろう。

 

 

「それで君はどうしたいんだい?」

 

 

どうしたいか、それはもちろん・・・

 

 

「皆で一緒に作りたい!」

 

 

私は皆と一緒にやりたい。

 

 

「でも・・・・今さら協力してくれる人なんて・・・」

 

 

今まで差し伸べてくれた手を何度も私は弾いてきた。

そんな私に今さら・・・

 

 

「手を伸ばすのは確かに勇気がいることだ。でも、手を伸ばせば届くかもしれないのに伸ばさなければ一生後悔するよ。」

 

「手を・・・伸ばす・・・」

 

「そう、君はまだ手を伸ばせるんだから。」

 

「握ってもらえるかな?」

 

「君ならきっと大丈夫。少なくとも君はすでに一人の手を掴んでいる。」

 

「えっ?」

 

 

私がもう掴んでいる?

いったい誰の?

そんな人なんて・・・・

 

 

「僕に君の手伝いをさせてもらえないか?」

 

 

いた・・・・でもなんで・・・

私は彼に何かしたわけでもないのに。

 

 

「どうして・・・?」

 

「どうしてって言われても手伝いたくなったからかな。しいて言うなら僕にも妹がいてね、君となぜか重なってしまったからかな。全然似てないんだけどね。」

 

「なにそれ。」

 

 

思わずクスリと笑ってしまう。

ほんとおかしな人だと思う。

 

 

「それで、答えは?」

 

 

わかっているだろうにそんなことを聞いてくる。

答えはもちろん・・・

 

 

「お願いします。」

 

 

その時、バキンッ!と足枷が壊れる音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばまだ名前聞いてなかった。なんていうの?」

 

「そういえばそうだね。私は更識 簪(さらしき かんざし)。一応日本代表候補生。よろしくね。」

 

「・・・・・」

 

 

ちょっと待て…

この子は今、更識と言ったぞ。

IS絡みで更識と言うと俺には一つしか思い当たる節がない。

 

(対暗部用暗部「更識家」)

 

その名の通り裏工作をする暗部を潰すための組織で裏の腕のたつ奴でこの名前を知らない奴はいない。

現在当主は更識 楯無(たてなし)、本名は刀奈(かたな)といい、この学園の生徒会長をやっている。

そして簪ちゃんには姉がいるとのこと。

 

 

「どうかしたの固まって。」

 

「何でもないよ。」(やっちまったー‼)

 

 

まさか妹がいたとは・・・・調べが足りなかった。

しかも代表候補生。代表候補生は調べていたはず・・・・

ん?日本・・・・・あっ…

 

(日本の代表候補生の機体は白式が急に作られることになって製造が止まっていたんだった…)

 

そこまでわかったから調べる必要はないと思って名前とか調べてなかった…

 

(俺の馬鹿ー!)

 

そもそも専用機作るってことはコアがあるってことじゃないか。

なぜそこに気が付かなかった…

 

 

「それで・・・・その・・・なんて呼べばいい?」

 

「好きに呼んでくれて構わないよ・・・うん・・・」

 

「じゃあ、優って呼ぶね。えぇ~っとなんで落ち込んでるの?」

 

「気にしないでくれ。」

 

 

過ぎてしまったことはしょうがない。

これから挽回していこう。

 

 

「それじゃあ、今日はもう遅いし作業は明日からにしよう。」

 

「うん。おやすみ優。」

 

 

整備室を出ていく簪ちゃんを見送り、一人になる。

 

 

「何やってんだろうな俺は…」

 

 

専用機の作成を手伝うってことは専用機持ちが増えるってことだ。

それは俺の目的からしたら障害以外のなにものでもない。

そんなことしていていいのか?

 

 

「いや・・・・これも作戦だ。」

 

 

簪ちゃんの姉は更識家の当主だ。簪ちゃんに近づけば情報が集めやすいし、手伝えば簪ちゃんのISの性能は筒抜けで回収しやすい、それだけだ。

別に善意で手伝うわけじゃない。

 

 

「俺は人類の敵だ…」

 

 

整備室を出ながら言い聞かせるように呟いた




簪ちゃん登場回でした。
口調がちょっと迷子だったかも・・・

そして主人公らしい説教?タイムでした。


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第四十話 貴公子爆誕

いつも更新が遅くてすいません(汗)


「部屋の都合がついたのでお引っ越しでーす。」

 

「「はい?」」

 

 

部屋に来た山田先生から突然の引っ越し発言。

何も聞かされていないため二人して疑問の声を上げた。

 

 

「ですから、部屋の調整ができたので篠ノ之さんは別の部屋に移動です。」

 

「ま、待ってください!それは今すぐにですか!?」

 

 

と、突然すぎる…

しかも折角一夏と同じ部屋だというのにあんまりだ。

 

 

「それはまぁ、そうですけど。いつまでも年頃の男女が同室で生活するというのもあれですし、篠ノ之さんも男の子と同じ部屋では十分にくつろげないでしょう?」

 

「いや・・・・私は・・・」

 

 

先生が善意の気持ちで言ってくれている分、強く言い返せない。

希望を込めて一夏の方を見るが

 

 

「俺のことは気にするなよ。箒がいなくてもちゃんとするからさ。」

 

 

駄目だ、役に立たん。しかも腹立たしい。

その言い方だと私がいなくても何も変わらないといっているようなものではないか。

 

 

「先生!今すぐ部屋を移動します!」

 

「は、はい。」

 

 

すぐさま荷物をまとめ、勢いよく部屋の扉を閉め部屋を後にした。

 

 

「ああぁぁ!何をやってるんだ私はぁぁ!」

 

 

現在、私は枕に顔を突っ伏して悶えている。

なにか部屋を移動しないで済む方法があったのではないだろうか。

いや、それよりも

 

(カッとなってそのまま出てきてしまった…)

 

あれでは次に会ったとき気まずくなるのではないだろうか…

もしかしたらその間に鈴と一夏が…

 

 

「ああぁぁ!私の馬鹿者ぉぉ!」

 

 

バタバタとベッドの上で悶えることしかできない。

 

 

「あの~、篠ノ之さん?」

 

「!?」

 

 

声のした方向を向くと部屋の入り口側に立っている者を確認できた。

恐らくは新しいルームメイトが帰って来たのだろう。

 

 

「見たのか・・・・?」

 

「な、なにをかな・・・・?」

 

 

そう言って私から目をそらす。

 

(見られた・・・・)

 

スッと立ち上がりベランダの方へ足を運ぶ。

 

 

「し、篠ノ之さん・・?」

 

「醜態を見られてしまった・・・・恥ずかしすぎる・・・死のう・・・・」

 

 

窓を開けてベランダに出る。

そして・・・・

 

 

「ちょちょちょっ!?篠ノ之さん、ストップ!?ストーップ‼」

 

 

飛び降りようかというところで体をがっしり捕まれ止められてしまう。

 

 

「離してくれ・・・もういいのだ・・・」

 

「よ、よくないからね!?」

 

「お前も嫌だろう?部屋で悶えている奴がルームメイトなどというのは・・・」

 

「いやいやいや、そんなことないって!」

 

「やっぱり見たのだな・・・・」

 

「あっ、いや、何もみてない!私何もみてないなー!」

 

 

やはりバッチリみられていたようだ。

もうおしまいだ…

 

 

「落ち着いて篠ノ之さん!確かに枕に顔を突っ伏しているの見ちゃったけど!」

 

「うっ!」

 

「悶えているところもバッチリ見ちゃったけど!」

 

「ぐふっ!」2COMB!

 

「馬鹿者ぉぉとか言って足をばたつかせていたのも全部見ちゃったけど!」

 

「ガハッ!」3COMB!

 

「悶えている篠ノ之さんもいいと思う‼」

 

「グホオッ」KO‼

 

 

彼女のコンボ攻撃によって私は膝から崩れ落ちてしまった。

 

死因:恥ずか死

 

 

「その、さっきは済まなかった…。気が動転して…」

 

「ほんとにびっくりしたよ。急に飛び降りようとするんだもん、心臓に悪い。」

 

「本当に申し訳ない…」

 

 

時間がたったことで落ち着きを取り戻し絶賛謝罪中である。

 

 

「まぁ、反省してるならもうしないでね。・・・・とりあえず自己紹介しましょ。私の名前は鷹月 静寐(たかつき しずね)。同じクラスだから知ってるかもだけど。」

 

「篠ノ之 箒だ。よろしく頼む、鷹月。」

 

「静寐でいいよ。その代わり私も箒って呼ぶから。いいでしょ?」

 

「構わない。では改めてよろしく静寐。」

 

 

自己紹介も終わり、それからしばらく静寐と話した。

 

 

「そういえば箒はなんで悶えてたの?」

 

「うっ!そ、それはだな・・・・」

 

 

どうせ見られてしまったのだからこの際全て話すことにした。

 

 

「_____ということがあってだな。」

 

「なるほどね~。でもそれってちょっとまずいんじゃない?」

 

「やはりそう思うか・・?」

 

「時間が経つとより気まずくなるやつだよ、それって。」

 

 

それだけは避けたいがどうすれば…

 

 

「だから、今会いに行って来よう!」

 

「えっ!?」

 

 

静寐の突然の意見に驚く。

早めなのはいいが・・・

 

 

「今からか?」

 

「そう、今から。善は急げ、レッツゴー!」

 

 

そうして押されるがままに一夏の部屋の近くまで来てしまった。

 

 

「じゃあ、私たちは見守っているから。」

 

「ごめん、嗅ぎつけられちゃった。」

 

 

気が付くと静寐のほかに三人ほど増えている…

確か名前は布仏と相川、谷本だったか…

人数も増え、後に引けなくなってきた。

 

 

「い、行ってくる。」

 

 

腹を括り、扉をノックする。

 

(あぁ、こんな時間に部屋を訪ねるなんてはしたない女と思われないだろうか…)

 

緊張からマイナスの考えがうかんでしまう。

 

 

「ん?箒か。どうした、忘れ物か?」

 

「えっ・・・ちょ、ちょっと待て。」(話すこと何も考えてなかった…)

 

 

どうするどうするどうする…

何か話題はないものか・・・

 

 

「どうしたんだ?」

 

「つ、ついてこい!話がある。」

 

 

とりあえず、移動で時間を稼ぐことにした。

 

 

場所を移し、屋上まで来た。

来るまでに何を話すかも決めたので抜かりはない。

 

 

「で、話ってなんだ?」

 

 

一夏は平然としている。

女子に呼ばれて屋上というベタな展開なのだからもう少しないのだろうか…

 

 

「来月の学年別トーナメントなんだが・・・」

 

「それがどうしたんだ?」

 

 

このままでは一夏とこれ以上発展は望めない。

ここで勝負を仕掛ける!

 

 

「私が優勝したら、大事な話を聞いてもらうからな!」

 

「お、おう。でも話ぐらいならいつでも聞くぞ?」

 

「大事な話だ。いいか?だ・い・じ・な・話。」

 

「わ、わかったよ…」

 

 

こうでもしないと一夏の意識は変えられないだろう。

ここまで大事なというところを強調したのだから緊張感を持ってくれるだろう。

その時に告白をすれば唐変木の一夏でもきっと・・・・・大丈夫だと信じたい…

それに一夏は強さに惹かれているところがある。

 

(この作戦は完璧なのではないか?)

 

即興で考えたにしてはいい出来だと思った。

 

 

「話は以上だ。」

 

 

一夏とも普通に話せ、約束も取り付けられたので気分よく部屋に戻った。

 

 

翌日、なぜかトーナメント優勝者には好きな男子と付き合えるという噂が流れていた。

 

 

「どうしてこうなった…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はなんと、転校生の紹介をします。」

 

 

山田先生の言葉に教室がざわつく。

 

(この時期での転校生ってことは俺の記憶が正しければあの子だよな。)

 

教室の扉が開き、一人の生徒が入ってくる。

その人物は俺の予想通りの人物だった。

 

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。皆さん、よろしくお願いします。」

 

「お、男・・?」

 

 

その姿を見た女子生徒の一人が質問する。

そう、そいつは男子の制服を着ていたのだ。

 

(さて、耳を塞いでおくか…)

 

これから起こるであろうことを予測して耳を塞ぐ。

ちらりと周りを見ると一夏と篠ノ之、セシリアも同様に耳を塞いでいる。

鳴海は寝ていて、天馬はローゼさんが耳を塞いでいる。いつの間に教室に・・・

 

 

「はい、こちらに僕と同じ境遇の人たちがいると聞いて本国より転入を____」

 

『キャーーーーー!!』

 

「えぇッ!?」

 

 

耳を塞いでいても聞こえてくる歓声にデュノアは驚いている。

 

 

「男子!5人目の男子よ!」

 

「しかも美形!」

 

「守ってあげたくなる系の!」

 

 

教室内はすごい賑わいだ。

毎度よくここまで興奮するものだと感心する。

 

 

「騒ぐな、静かにしろ!」

 

 

そして織斑先生の一言でピタッと誰もしゃべらなくなり、静寂が生まれる。

ここまでテンプレだ。

 

 

「えっ?ええぇ…」

 

 

その高低差にデュノアは困惑している。

初めてだからしょうがない。

俺としてはローゼさんはすでに消えてて、鳴海も寝たままって方が驚きだ。

 

 

「今日は二組との合同でIS実習を行う。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。それから衛宮。」

 

「はい?」

 

「デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子同士でお前が一番まともだ。以上、解散。」

 

 

まさか俺にその配役がまわってくるとは思わなかった。

しかも理由が一番まともだからって…

他の奴らだってそこまでひどいわけじゃ・・・・・うん、俺が頑張らないと。

 

 

「えーっと、君が衛宮君?初めまして、僕は___」

 

「あーっと、すまないが自己紹介は後だ。女子たちが着替え始めるから移動が先だ。」

 

 

そう言って移動しようとしたが、俺の言葉にデュノアは少し不思議そうにしている。

 

(おいおい、そんなんで大丈夫か?)

 

前世の知識でデュノアの事情を知っているので心配になってくる。

しょうがない、多少強引だが・・・

 

 

「ほら、はやく行くぞ。」

 

「えっ!」

 

 

デュノアの手を取り、教室を出る。

 

(うわっ、手がすっげぇ柔らかい・・・・じゃなくて!急がないとやばい・・・)

 

急がなければ・・・・

 

 

「衛宮君?なんでこんなに急いでいるの?それに・・・その・・・」

 

 

つながれている手をちらちら見ながらデュノアに質問される。

状況の分かってないデュノアは手を離せば歩き始めてしまいそうなので手は握ったままだ。

べ、別に下心があるわけじゃない。

 

 

「俺達男子はアリーナの更衣室で着替えなくちゃいけないから急がないといけないってのと今回は____」

 

「あっ、噂の転校生発見!」

 

「衛宮君と一緒よ!」

 

「者ども出会え出会え~!」

 

「しまった!まさかこんなに早いとは…」

 

 

学園のハンター(女生徒)に見つかってしまった。

今回の目的は十中八九デュノアだろう。すでに前後が人でふさがれている。

全く、仕事がほんとにはやい。

 

 

「二人とも手をつないでる~。」

 

「グヘへ、はかどるはかどる。」

 

「えっ?えっ?なにこれ・・?」

 

「行くぞ!」

 

 

突然のことにデュノアは混乱しているがそれは相手の思うつぼなので手を引いて横の通路に走り出す。

 

 

「あっ、逃げた!」

 

「待って!せめて写真を一枚___」

 

 

何か言っているが全て無視して全力疾走する。

しばらくすると追手も撒けたので手を離し、別々に走る。

 

 

「なんで皆あんなに騒いでいるの?」

 

 

走りながらデュノアが質問してくる。

 

 

「ISを動かせる男性は俺ら5人しかいないからな、当然といえば当然だろ。」

 

「えっ?・・・あぁ!そうだね。アハハ…」

 

 

本当に大丈夫なのだろうか…

もう少ししっかりしてもらいたいものである。

 

 

「お疲れ隼人。」

 

「お疲れ様。」

 

「ご苦労なことだな、放っておけば面白いものを。」

 

 

更衣室に着くと三人ともすでに着替えが終わっている。

 

 

「お前らなぁ、助けてくれてもよかったんじゃないのか?」

 

「じゃ、俺先行くな。」

 

「自己紹介は後でね。」

 

「なぜ俺様がそんなことをしなければいけない。」

 

 

恨めしそうに三人に言うが一夏と鳴海には逃げられ、天馬は相変わらずだ。

 

 

「まったくあいつらめ・・・。あっ、まだ名前教えてなかったな。俺は衛宮隼人。よろしくな。隼人でいい。」

 

「うん、よろしく隼人。僕のこともシャルルでいいよ。それで・・・・」

 

 

シャルルが天馬の方をちらちら見る。

天馬は偉そうに座っているだけで何も言わない。

 

 

「こっち偉そうなのは天馬零士。不愛想だけど許してやってくれ。」

 

「衛宮、偉そうではなく事実俺様は偉いのだ。そこは間違えるな。」

 

「こういうやつだ。」

 

「あ、うん・・・よろしく零士。」

 

 

さわやかな笑顔で挨拶をするシャルル。

今の態度を見て、よくそこまでさわやかにできるもんだと感心する。

天馬の方も立ち上がり自己紹介すると思いきや・・・・

 

 

「貴様・・・誰の許しを得て俺様の名前を呼んでいる。」

 

 

そういってISを部分展開し、空中に武器を展開する天馬。

シャルルも突然のことに固まってしまう。

相変わらずこいつの沸点はよくわからないな!

 

 

「落ち着けって!シャルルはお前と初めましてなんだからしょうがないだろ?」

 

「・・・・・」

 

「天馬、頼む!」

 

「・・・チッ!今回は不問とする。衛宮、しっかり躾けておけ。いずれは俺のものになるものだからな。」

 

 

そう言って天馬はグラウンドに向かって行った。

何とか武器を収めてくれたが天馬の行動には本当に肝が冷える。

もう少しフレンドリーになれないのだろうか。

 

 

「ご、ごめんよ。僕何か悪いことしちゃったみたいで…。日本では駄目なことしちゃったかな・・・?」

 

「そういうのじゃないから気にするな。天馬は名前で呼ばれるのが気に食わなかっただけだから。それよりもそろそろ着替えないとまずいな。」

 

 

時刻は授業が始まる3分前だ。

遅刻したら織斑先生にしばかれてしまう。

 

 

「あっ!そうだこの辺のロッカーたてつけが悪くて開けるのにコツがいるんだよな~。だからシャルルはそっちの方で着替えたらどうだ?」

 

 

適当なこと言ってシャルルを遠ざけるようにする。

 

 

「そ、そうだね。そうするよ。アハハ…」

 

「そうしてくれ。ハハハ…」

 

 

なんとも不自然な会話だがこれがおれにできる限界だった。

 

 

「今日の実習はここまでとする。解散!」

 

 

午前の実習が終わり、昼休みになった。

 

 

「シャルル、自己紹介も兼ねて皆で一緒に昼食でもどうだ?」

 

「もちろんいかせてもらうよ。」

 

 

そうと決まれば二人で屋上に移動していく。

屋上に着くとすでに皆集まっていた。

少し離れたところにダメもとで誘った天馬もいるではないか!

 

 

「ほんとに来てくれたんだな、天馬。ローゼさんもきてくれたんですね。」

 

「今回だけだ。それにローゼがどうしても弁当を作ってみたいというのでな。」

 

「お邪魔いたします。一度ぐらいあいさいベントー?なるものを作ってみたかったので。」

 

 

多分ローゼさん愛妻弁当の意味わかっていないんだろうな…

でも、関係的には案外的を得ているのか?

 

 

「人数多いし円陣でも組むか。」

 

 

一夏の一声で皆で円をつくる。

 

順番は俺、シャルル、セシリア、箒、一夏、鈴、鳴海、ローゼさん、天馬、そして最初に戻って俺。

 

とりあえず円陣の順番決めの時に皆自己紹介は終えたようなので食べ始めることにする。

 

 

《いただきます。》

 

 

それぞれの弁当が展開されているこの空間はとても華やかだ。

そしてその中でも一際輝いているのはやはりローゼさんの弁当だ。

 

 

「天馬の弁当はすごい豪華だね。そちらのメイドさんの手作り?」

 

「うわっ!これ弁当ってクオリティーじゃないでしょ。」

 

 

近くの鳴海と鈴の反応で皆の視線がローゼさんの弁当に集まる。

 

 

「初めてのベントーということで少々張り切ってしまいました。多く作ってしまったのでよければ皆さんもお食べになってください。」

 

「まじで!いただきまーす!」

 

 

一夏が一番に貰いにいき、一口食べる。

 

 

「うっまぁー!こんな美味いもん食べたことないかもしれねぇ。」

 

「確かに美味しそうだけど、あんた大袈裟すぎよ。」

 

「そんなことねぇって!食えばわかる。」

 

「あんたが大袈裟なだけよ。いただきます。」

 

 

そう言い鈴も一口食べる。

 

 

「うまぁ!うそ!?何これ、美味しすぎでしょ!」

 

「だろ?」

 

 

鈴の反応に他の皆もローゼさんの弁当を口に運ぶ。

そして皆あまりの美味しさに驚いている。

 

 

「お口にあって良かったです。」

 

「ほんと、めっちゃ美味かったです。美味すぎて逆に腹が減りましたもん俺。」

 

 

一夏の感想は変だが、本当に美味しいというのは伝わってきた。

 

 

「それならば一夏、私の唐揚げをやる。」

 

「いやいや、私の酢豚をあげる。一夏は酢豚の方がいいでしょ?」

 

「唐揚げに決まっているだろう!」

 

「酢豚よ!」

 

 

そしてあっという間に一夏の胃袋を掴む対決が勃発。

 

 

「「一夏はどっちがいいの(よ)(だ)!」」

 

「えぇーっと…どっちもじゃ駄目なのか?」

 

「「駄目!」」

 

「えぇ…」

 

 

このままだと血で血を洗う戦いになりそうだ。

しょうがない、助け舟を・・・

 

 

「まぁまぁ、折角こんな大人数で食べてるんだから皆でひとつずつ交換しない?そうすれば問題ないよね?」

 

 

出そうと思ったらシャルルが先に助け舟を出した。

いいアイデアだと思うので賛同することにする。

 

 

「そうだな、これだけの人数が居れば色々食べられるしな。」

 

「いいアイデアですわね。キルヒナーさんから貰ったままというのも失礼ですし。」

 

 

セシリアの言葉で完全に交換する流れができた。

ナイスセシリア!

 

 

「ではどうぞ皆さん。勘違いされがちですがイギリス料理にも美味しい物は多くありますのよ。」

 

 

そう言い、セシリアはバスケットからサンドイッチを取り出す。見た目は美しく美味しそうだ。

そしてそれは近くのシャルルと俺にまず渡される。

 

(さて、どうするか…)

 

正直、俺はこのサンドイッチを食べたくないのだ。

俺の知識によるとセシリアの料理は・・・・

 

「ありがとうオルコットさん。いただきます。」

 

「い、いただきます…」

 

 

しかし、男にはやらねばいけない時がある。それが今かもしれない。

覚悟を決め、一口でサンドイッチを食べる。

そしてサンドイッチを口に入れた瞬間、いろいろな味がぐちゃぐちゃになって俺の舌を襲う。

 

(おえぇ・・・・・マズ過ぎる・・・)

 

辛いかと思いきや甘くなり、急にしょっぱくもなる。

味覚を破壊する爆弾と言っても過言ではないだろう。

しかし、口には絶対出してはいけない。なぜなら・・・・

 

(セシリアの期待してる感が半端ない…)

 

これでまずいなんて言ってしまえば落ち込むことだろう。

シャルルもそれが分かっているのか必死に堪えている。

 

 

「お味の方はどうですか?」

 

「ど、独特な味がしていいんじゃないかな…」

 

「あぁ、なかなかいけるよ・・・俺はこういう味付け好きだな~・・・」

 

「そうですかそうですか。さすが私といったところですわね。初めて作ったのに会心の出来とは。」

 

 

良かったばれてない。

嘘をつくのはあまりしたくないが嘘も方便というやつで許して欲しい。

 

 

「いや、まずいよこれ。味もめちゃくちゃで無理したら身体壊すよ。」

 

(な、鳴海ぃー!?)

 

 

いつの間にか鳴海がサンドイッチを食べており、平気で爆弾発言をした。

ていうか顔色一つ変えてない…

 

 

「そ、そんなはずありませんわ!それに衛宮さん達は美味しいと言ってくれましたわ。」

 

「それね、100%お世辞だよ。」

 

「・・・ご冗談・・・・ですよね・・?」

 

 

セシリア、そんな悲しそうな目でこちらを見ないでくれ…

 

 

「すまない・・・・嘘をついた…」

 

「ぼ、僕も…」

 

 

既に隠し切れないため素直に謝ることにする。

これ以上は罪悪感に耐えれなそうだし…

 

 

「どうして・・・・・」

 

 

セシリアはうつむいている。

恐らく騙したことを怒っているのだろう。

 

 

「セシリア・・・・すま____」

 

「どうして無理して食べてしまったんです!」

 

「・・・へっ?」

 

「まずいと言われるのは悲しいですが、無理して食べた皆さんの具合が悪くなってしまうよりはマシですわ!」

 

 

予想と違う言葉に困惑した。

どうやらセシリアは俺達が無理したことを怒っているらしい。

 

 

「ですから、お二人とも次からは絶対に無理はしないように!いいですわね!」

 

「お、おう。」

 

「う、うん。」

 

 

今日のセシリアはなんかグイグイ来るな。

ちょっと怖いぐらいだ…

一夏達は巻き込まれないようにこちらを見守ってるだけだ。

 

 

「わかってもらえたのならよろしくてよ。それじゃあ、これは捨てて・・・・・あら?」

 

 

セシリアの視線はバスケットへ向いている。

そちらを見るとセシリアが困惑した理由が分かった。

サンドイッチが一つもないのだ。

 

 

「あっ!隼人、オルコットさん、そっち!」

 

 

シャルルが驚きながらある方向を指さす。

その方向には鳴海がおり、セシリアのサンドイッチを食べていた…

 

 

「な、鳴海さん!?」

 

「ん、なに?」

 

 

最後の一口を放り込み、こちらを向く鳴海。

その様子はいつも通りだった。

それを見たシャルルは信じられないという顔をしている。

恐らく俺もあんな顔をしているのだろう。

 

 

「なに?ではありません!?なぜ食べているのですか。」

 

「何故って、出されたものは残さないってのがポリシーだからかな。」

 

「は、吐き出してください!?身体を壊すと仰ってたじゃないですか。無理をしないでください!」

 

「あぁ、大丈夫だから気にしなくていいよ。俺は絶対に身体壊さないから。」

 

 

その言葉は強がりにしか思えないが、何故か否定ができない。

周りの皆も同じなのか困惑している。

 

 

「まぁ、もう食べちゃったからガミガミ言わないでさ、楽しい昼食を再開しようよ。」

 

「ですが…」

 

「そんなに気にするなら今度は美味しく作って、それを食べさせてよ。ということで参考にね。」

 

「はむっ!?」

 

 

そう言いながら鳴海は自分のハンバーグをセシリアの口に放り込んだ。

 

 

「・・・・・美味しい。キルヒナーさんのものに劣らないかもしれませんわ!?」

 

「なら良かった。こんなことしてまずいと言われたらかっこ悪いからね。」

 

「えっ!まじでそんなにうまいのか!?俺ももらっていいか?」

 

 

セシリアの反応で皆が鳴海に集まって行く。

その光景は先ほどのローゼさんの場合と重なって見える。

つまり、鳴海は行動一つで先ほどの空気を取り戻したのだ。

 

(やっぱ、すごい奴だよお前。)

 

いつも気が付くと鳴海がいい方向に話を持っていっているような気がする。

意識してるのか、無意識なのかはわからないがすごい奴だと思う。

隣のシャルルも鳴海の行動に関心しているのか、コクコクと頷いている。

 

 

「ねえ、隼人。」

 

「なんだ?鳴海のことか?」

 

「えっ!どうしてわかったの!?」

 

 

やはりシャルルも鳴海の行動について考えていたようだ。

 

 

「まぁ、なんとなくだ。それでなんだ?」

 

「え~っとね・・・・」

 

 

シャルルは鳴海をどんな風に感じたのだろうか?

やはりすごいと思ったのだろうか?

 

 

「彼の今の行動ってさ・・・」

 

 

シャルルが少し興奮しているのがわかる。

 

 

「はい、あーんってやつだよね!日本で仲のいい人がするっていう。」

 

「・・・・・・・そうだな…」

 

 

どうやら俺の勘違いだったようだ。

自信満々にシャルルの考えを予測していた分恥ずかしい…

 

(そうだよな、外国から来たんだから日本文化が気になるよな…)

 

はい、あーんが日本文化というのか怪しいし、今回のは違うんじゃないかとかいろいろ思うが気にしない。

なぜなら・・・・

 

 

「どうしたの、隼人?顔に手を当ててうつむいて。」

 

「何でもない。ちょっと目にゴミが入っただけだ…」

 

 

恥ずかしさをごまかすので手一杯だから…

 

 

 

 

 

 

 

 

「ははは、大人気だね。」

 

 

目の前では俺の弁当のおかずから何をもらうか選んでいる一夏達がいる。

どうやら今日もキメラ化してしまうようだ。

 

 

「やっぱ、ハンバーグもらうことにした。うん、王道だな。」

 

「私もハンバーグにするとしよう。」

 

「あっ、じゃあ私も~。」

 

 

一夏、箒、鈴ちゃんはハンバーグにしたようで三等分する。

他の皆も決めたようで俺の弁当がどんどんキメラってく。

 

 

《いただだきまーす》

 

 

そして一斉に食べ始めた。

俺も原型のない弁当を食べ始める。

うん、おいしい。

 

 

「うっめぇー!ローゼさんのとはまた違ったうまさだな!」

 

「うむ、そうだな。実においしい。」

 

「うそっ・・・まじで美味しいじゃん!?」

 

 

好評をいただけたので満足である。

 

(さて、他の人たちは・・・)

 

周りを見ると他の人たちも美味しいと言ってくれている。

その中にはローゼさんもいるので結構鼻が高い。

 

 

「ちょ、ちょっとあんたたち!?」

 

 

鈴ちゃんの驚いた声に反応し、振り返ると予想外の光景が見えた。

 

 

「美味しいからって、なにも泣くことないでしょう…」

 

「「えっ?」」

 

 

一夏と箒が涙を流していたのだ。

二人は自分の顔に触れて初めて泣いてることに気が付いている。

二人とも無意識なようだ。

 

 

「だ、だいじょぶか!?」(なにか調理で間違えたかっ!?)

 

 

そうだとしたら二人の身体が心配である。

そうでなくても急に涙が出てくるなど異常なため心配である…

 

 

「あぁ、大丈夫、大丈夫。こんなの大したことないないって。」

 

「一夏の言う通りだ。多分ちょっと感動しただけ・・・・・あれ?・・・おかしいな…」

 

 

心配ないと言い張る二人だが一向に涙が止まる気配がない。

逆にどんどんと溢れてきている。

その光景に周りも心配しだすが一夏達は心配ないと言う。

 

 

「なんかわかんねぇけど大丈夫。なんかすっげぇ暖かいっていうか、心地いいっていうか、なんていうか落ち着くんだ。」

 

 

完璧にやばい発言だ…

周りもそう思ったのだろう、急いで一夏達を保健室に連れていくことにした。

 

その後、弁当を隅々まで調べたが特にウイルスのようなものはなかったし、一夏達の検査も正常そのものだった。




皆で弁当タイム。
久しぶりに高校生らしいことしましたね。
主人公の弁当がキメラ化するのは運命です。


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第四十一話 ラビット転入生

遅くなりました、すいません。

今回はタイトルでだいたい誰が出てくるかわかるかな?


「そうか…この子は…」

 

 

キーボードをいじる手を止め、画面に映っている資料を見る。

その資料は新たに転入してくる少女の資料。

その少女は長い銀の髪に左目には不釣り合いな眼帯をしている。

 

 

「背負わないといけない罪がまた一つ増えたな…」

 

 

その少女の名前はラウラ・ボーデヴィッヒ。

ドイツの代表候補生であり、

 

 

「試験管ベイビー…」

 

 

試験管ベイビー。

それは遺伝子強化試験体とも言われ、生体兵器に近い存在として生み出された人工的な命だ。

もちろんそのような行為は許されているわけがなく、ドイツが秘密裏に行っていることだ。

俺としてはドイツが何をしようと関係ないのだがこの子に関しては別だ。

何故ならこの子もISの被害者の一人だからだ。

 

調べている過程で眼帯の付けていない写真が見つかり、眼帯で隠れていた瞳を確認できた。

その瞳の色は金色であり、右目の赤色と違う色であるオッドアイ。

しかし、それよりも以前に取られた写真も見つけたがその写真では瞳はどちらも同じ赤色をしていた。

 

原因は越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)といわれる処置でISの登場によって生まれたものだ。

これはIS適合正向上のために行われる処置である。

疑似ハイパーセンサーとも呼ぶべきそれは、脳への伝達能力と高速戦闘状況下における動体反射の強化を目的とした、肉眼へのナノマシン移植処理のことを指す。

そしてその処置をされた目は「越界の瞳」と呼び、使用すれば視覚能力を数倍に跳ね上げることができる。

 

しかし、この子は越界の瞳の適合に失敗してしまったために左目が変色してしまった。

制御できない力ほど恐ろしいものはない。

この瞳のせいでこの子はどれほど傷ついてきたのか…

 

 

「まったく、最悪の気分だ…」

 

 

画面に映る金色の瞳が俺を咎めるように見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

朝のホームルーム中、クラス中がざわついていた。

それもそのはず、シャルルに続いて二日連続で転入生がやって来たのだから。

そして転入生が無言で立っているというのがさらに教室をざわつかせている要因だ。

 

 

「皆さんお静かに!まだ自己紹介が終わってないんですから。」

 

「挨拶をしろラウラ。」

 

「はい、教官。ラウラ・ボーデヴィッヒだ。」

 

 

名前を言い、再び黙る転入生。

これには皆、「えっ?もう終わり?」といった顔をしている。

知ってはいたけど思っていた以上にさばさばしてるな。

 

 

「あの…以上ですか?」

 

「以上だ。」

 

 

山田先生は本当に終わるとは思ってなかったようで少し固まっている。

そんなことはお構いなしといった感じでボーデヴィッヒが一夏の方を見る。

確かこの後は・・・

 

 

「貴様が織斑一夏か…」

 

 

ボーデヴィッヒが一夏に近づいたのでこの後起こるであろう展開に備えて、割り込む準備をする。

知ってるのに見ておくだけというのは居心地が悪い。

 

 

「そうだけど、何か用か?」

 

 

一夏が座ったまま答えるのと同時にボーデヴィッヒが手を振る動作を確認できた。

しかし、思っていた以上に動きに無駄がない。

一発はたくのにどんだけ本気出してんだ!

 

(間に合え!)

 

全力でボーデヴィッヒの手を掴みに行くが間に合いそうにない。

そして一夏にビンタが決まろうかという瞬間、

 

 

「いきなり人をひっぱたくのはどうかと思うよ、ボーデヴィッヒさん。」

 

 

パシッとボーデヴィッヒの手を鳴海が止めた。

 

(はっ?鳴海って列の最後尾だよな…)

 

鳴海の席を見るともちろん鳴海はおらず、座っていたであろう椅子が倒れているのが見える。

瞬間移動した。そうとしか思えない。

 

 

「ッ!?」

 

 

そんな鳴海にボーデヴィッヒは手を振り払い、距離を取る。

一瞬遅れて教室がざわめきだす。

 

 

「えっ!?何今の!」

 

「瞬間移動!?」

 

「いや、忍者でしょ!」

 

「アイエエエエ! ニンジャ!? ニンジャナンデ!?」

 

 

皆は突然のことに軽くパニくっている。

俺も状況が全然理解できない。

 

 

「貴様…何者だ。」

 

「あっ、まだ名乗ってなかったね。僕の名前は鳴海優。よろしくね、ボーデヴィッヒさん。」

 

「そんなことを聞いているのではないッ!」

 

 

ボーデヴィッヒが構えを取るのに対し、鳴海はただクラスメイトと喋るかのような態度をとる。

はっきり言って異様な光景だと思う。

 

 

「あれ?違った?じゃあ、なにが聞きたいんだい?」

 

「貴様、おちょくっているのか!」

 

 

鳴海の態度が気にくわなかったのだろう、ボーデヴィッヒが鳴海に殴りかかる。

 

 

「危ない、なる___」

 

「そこらへんにしておけ。」

 

 

鳴海に当たる直前で織斑先生がボーデヴィッヒの拳を止めた。

危なかった、先生が止めていなければ鳴海は殴られていただろう。

現に鳴海は反応できず一歩も動けていない。

 

 

「きょ、教官…」

 

「聞こえなかったか、やめろと言ったんだ。」

 

「・・・・わかりました。」

 

 

織斑先生の言葉でようやくボーデヴィッヒが拳を降ろす。

正直、頭が追い付いていない…

 

 

「助かりました織斑先生。ありがとうございます。」

 

「お前もお前でわかっていてやっているだろう?」

 

「はて?なんのことでしょう?」

 

「はぁ~、もういい。全員席に着け!衛宮、お前も突っ立ってないで座れ。」

 

「あっ、はい。」

 

 

急いで席に着き、状況を整理する。

 

(え~っと・・・まず鳴海は忍者で・・・って違う違う!)

 

まずい、余計混乱してきた…

 

 

「では朝のホームルームはこれで終わりとする。」

 

「えっ!?ちょっと待ってくれよ千冬ね____織斑先生…」

 

 

先生の睨みによって一夏が縮こまりながら声を上げる。

 

 

「何か聞きたいことでもあるのか、織斑。」

 

「そりゃあそうだろ、なんで俺ははたかれそうになったのかわかってないし、鳴海は忍者だし!」

 

 

一夏はクラスの全員が思っていたことを代弁する。

一夏が言わなければ織斑先生に流されて、さらりとHRが終わっていたことだろう。

 

 

「ボーデヴィッヒの件は直接本人に聞け。鳴海については忍者ではない。これ以上騒がれるのも面倒だ、説明してやれ鳴海。」

 

「めんどくさいんですけど______わかりましたよ。」

 

 

言いたくなさそうな鳴海も織斑先生に睨まれ、喋り始める。

 

 

「えぇ~っと、聞きたいことって多分ボーデヴィッヒさんを止めた時の事だね?」

 

「そうそう、瞬間移動のことだよ。」

 

 

クラス中から同意の声が上がり、それを聞いた鳴海は苦笑いする。

 

 

「瞬間移動って…。あれはそんな大層なものじゃなくて、縮地という技術だよ。」

 

「その縮地ってなんだ?」

 

「あっ、聞いたことあるぞ。確か武術とかの移動法の一つだよな。」

 

「よく知ってるね、衛宮。そう、衛宮の言う通り瞬時に相手との間合いを詰めたりする特殊な体捌きのことだよ。」

 

 

いや、それができるとか相当すごいことだろ…

 

 

「あれ?ということは優は何かの武術をやっているってことか?」

 

 

確かにそうだ。何かしらの武術をやっていなければ縮地などという仰天技はできないだろう。

 

 

「武術の技術ではあるけど、別段何かしているわけじゃないよ。移動として便利だから覚えただけさ。」

 

 

他のことはからっきしと言いながら鳴海は肩をすくめる。

先ほども反応できていなかったから本当にそうなのだろう。

しかし、便利だからそれだけ覚えたって…

 

(やっぱ、変な奴だな…)

 

雰囲気からしてクラス中がそう思ったに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ついて来い鳴海、話がある。」

 

「わかりました。」

 

 

HRを終え、鳴海を呼びつける。

 

 

「僕何かしましたっけ?」

 

「先ほどのことをすでに忘れているのかお前は。まぁいい、少し移動するぞ。」

 

 

白々しいまでの言葉に少し呆れるが時間もないため移動する。

 

 

「この辺でいいだろう。」

 

 

しばらく歩き、人通りの少ない廊下で止まる。

ここなら誰かに聞かれる心配もない。

 

 

「それで、用件は何ですか先生。さっきのことは皆に説明したじゃないですか。」

 

「縮地に関してはな。私が聞きたいのはお前がなぜ()()()()()()()()()()かだ。」

 

「避けようとしなかったって、まるで僕なら避けれたみたいに聞こえますね。」

 

「私はそういう意味で言ったんだ。お前なら十分に可能だった。」

 

 

鳴海の技量ならばラウラの拳を避けることは造作もなかったはずだ。

それなのに防御も回避の挙動を一切取らなかった。

つまりこいつは避けられなかったのではなく、避けようとしなかった。

 

 

「買いかぶりすぎですよ。僕にはそんなことできません。言ったでしょ、縮地以外はからっきしだって。それに縮地だって万能じゃありませんからね。」

 

「そうか、私の思い違いだったか。」

 

「はい、残念ながら。」

 

「私には殴られたがっているように見えたのだがな。」

 

 

避けられるのに避けないということはそういうことなのではないだろうか。

何故殴られたいかなどは分からないが私はそう考えた。

 

 

「・・・・・違いますよ、僕は殴られて喜ぶ変態じゃないんですから。話も終わりのようですし、失礼します。」

 

「悪かったな、時間を取らせて。」

 

 

鳴海を見送り、私も職員室に戻る。

 

(一瞬だったが確かに反応したな。)

 

僅かだったが鳴海が見せた本当の反応。

恐らく私の考えは当たっているのだろう。

 

 

「まったく、世話の焼ける生徒が多いな。」

 

 

何かは知らないが一人で何かを抱え込んでいる、そんな感じだ。

こういう奴は大体無茶なことをする。目的の為に平気で自分を削るのだ。

 

(似ているな、あいつに…)

 

ずっとそういう奴を傍で見てきた。

鳴海はそいつと全く似ていないのに何処か似ている。

とても危うい感じがする。

だからしっかりと気にかけてやらねばいけない。

 

(教師というのは気苦労が絶えない職だな。しかし・・・)

 

嫌いではない。

 

 

「教官。お話したいことがあります。」

 

 

放課後、廊下を歩いているところで後ろから声をかけられた。

このような呼び方をする奴はこの学園には一人しかいない。

 

 

「学園では織斑先生と呼べ、ボーデヴィッヒ。それとここではなんだ、場所を移すぞ。」

 

 

振り向くとやはりそこにはラウラがいた。

転入初日ということで朝のHRでは見逃していたがこれ以上は良くない。

そして話の内容も大体察しがついている。

移動し、場所を中庭に移す。

 

 

「それで、話とは?」

 

「単刀直入に申し上げると我がドイツで再びご指導をしてもらいたいのです。」

 

 

一応聞いてみたが予想通りのものだった。

ラウラは私がドイツ軍で技術指導をしていた隊員の一人だ。

当時のラウラは成績が最下位だったが指導期間中に隊の最高成績を叩き出すまでに至った。

そのためか、私はラウラに大分懐かれている。私も妹ができたような感じで悪くはないのだが、

 

 

「それはできない。私には私の役目がある。」

 

 

私は教師をやめる気はない。

 

 

「こんな極東の地でいったい何の役目があるというのですか!ここではあなたの能力は半分も生かされません!大体、この学園の生徒など教官が教えるに足る生徒ではありません。この学園の生徒は危機感に疎く、ISをファッションかなにかと勘違いしている!そのような者たちに教官が時間をさかれr_____」

 

「そこまでにしておけよ、小娘。」

 

 

ラウラの言う事は間違ってはいないが合ってもいない。

 

 

「少し見ない間に偉くなったものだな。15歳でもう選ばれた人間気取りとは恐れ入る。」

 

「ッ…」

 

「大体、何のために教師がいると思っている。生徒を正しく導くためだ。お前の言う事も間違ってはいないが最初からすべてを分かっている者などいないのだから私たち教師がいるんだ。」

 

「し、しかし教官___」

 

「織斑先生だ。話は終わりだボーデヴィッヒ、寮に戻れ。私は忙しい。」

 

「・・・・・」

 

 

私の言葉を聞き、ラウラはとぼとぼと寮の方へ歩いて行った。

少し厳しいことを言ってしまったが今のあいつは天狗になっている、これぐらいがちょうどいい。

さて、次にやるべきことは・・・

 

 

「そこで盗み聞いている男子。異常性癖とは感心しないな。」

 

「ち、ちがっ!なんでそうなるんだよ千冬ね____」

 

「学校では織斑先生と呼べ、馬鹿者。」

 

 

はぁ~、何度言ったらこの弟は理解するのだろうか…

 

 

「そんなくだらないことをしている暇があるなら自主訓練でもしろ。このままだと月末のトーナメントで初戦敗退だぞ?」

 

「わかってるよそのくらい。それよりも聞きたいことがあるんだ。」

 

 

まぁ、そうだろうとは思っていた。盗み聞きするような男には育てたつもりはないからな。

 

 

「あの後、ラウラの奴に言われたんだ。『お前をあの人の弟とは認めない!』って。それってやっぱり俺のせいで千冬姉が二度目の優勝を逃したことを…」

 

「終わったことだ、お前が気に病む必要はない。」

 

 

どうやら一夏はまだ第二回モンド・グロッソのことに責任を感じているようだ。

忘れろと言っているのにな・・・・まぁ、無理な話か…

 

第二回モンド・グロッソ決勝当日に一夏は何者かによって誘拐された。

私はその時決勝を放り捨て一夏の捜索をし、無事救出することができた。

試合の方は言うまでもなく私は不戦敗。このことは優勝間違いなしといわれていただけにブリュンヒルデにとって唯一の汚点であると言われている。

 

一夏は私の顔に泥を塗ったとでも思っているのだろう。

しかし、私からしたらこれは汚点でも何でもない。

 

 

「周りから何と言われようと気にするな。弟を救ったということのどこにも間違いなんてないのだから。名誉なぞよりよっぽど大切だ。」

 

「千冬姉…」

 

 

私はあの時から一瞬たりとも後悔などしたことはない。

大切な弟を救えたことの一体何が汚点だと言えるのだろうか。

それに、一夏まで失っていたら私は…

 

 

「大事なのは周りの目ではない。本当に大事なのは自分が正しいと思えることをできるかどうかだ。お前ならばできると信じているぞ一夏。」

 

 

一夏の頭に手を置き、少し雑になでる。学校内だがこんな時ぐらい姉として接しても罰は当たらないと思いたい。

いつの間にか私よりも背は大きくなっている。時間というのはあっという間だ。

 

 

「さて、私はそろそろ仕事に戻る。」

 

 

頭から手を離し、職員室の方へ向かおうとすると

 

 

「千冬姉!俺、精一杯頑張るよ。そして千冬姉を、皆を守れるようになってみせる。」

 

 

一夏に引き留められた。

しかし、時の流れはやはり早い。

あの小さかった弟がこんなことまで言うようになった。

 

 

「そうか…」

 

 

弟の成長は微笑ましいが・・・・

 

 

「織斑先生だ。」

 

「いてっ。」

 

 

今は教師としての織斑千冬に戻っているため軽くデコピンして職員室に戻った。

 

 

「何かいいことでもあったんですか?」

 

「ん?何故そんなことを聞く。」

 

 

職員室に戻ると山田君が私にそんなことを言ってきた。

 

 

「だって、織斑先生とっても嬉しそうなので。」

 

「むっ、そうか?」

 

 

どうやら顔に出てしまっていたようだ。

 

 

「はい、それはもう。それで何かあったんですか?」

 

「まぁ、少しな。」

 

「教えてくれないんですか~?」

 

「秘密だ。悪いな、山田君。」

 

 

それから少し拗ねた山田君をいじりつつ仕事を進めた。




ドイツ娘来ましたね。
個人的に千冬と束の次に好きなキャラです。
因みに作者のハーゼというのはドイツ語で野ウサギだったりします。
特に関係はありませんが(笑)

久しぶりにちーちゃん視点を長くしてみましたがどうでしょう?
ちーちゃんの成長具合がでてるといいんですけどね。


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第四十二話 カリスマ?会長

投稿が遅くてほんとにすみません。
エグゼイドのファイナルステージ見に行ったり、ヘブンズフィール見たりして忙しかったんです。(サボり)
許してください。


「優、そこの部品取って。」

 

「はいよ。」

 

「鳴海くーん、ちょっとこっち手伝ってー。」

 

「はいはーい。」

 

「あっ、こっちもお願い。」

 

「順番に行きますからちょっと待ってて下さーい。」

 

 

絶賛整備室にて作業中。

簪ちゃんと話してから一週間程が経った。

最初の数日は手伝いを断られ二人だけの作業だったが日が経つごとに一人、二人、三人と手伝ってくれる人が増え、今では十人を超えていた。

これもひとえに簪ちゃんの懸命さによるものだろう。

 

(それにしても不思議だ…)

 

何故自分が一番忙しいのだろうか…

暮見雄二の知識をだすと鳴海優では不自然そのものなため、俺はISに関してはからっきしということにしてるのだが…

 

 

「鳴海、こっちも手伝ってくれるー?」

 

「今、行きますよ。」

 

「その次こっちねー。」

 

「了解です。」

 

 

なのに整備室をあっちこっち行ききしている。

何故だ…

 

 

「じゃあ、今日はこれでお終いです。ありがとうございました。」

 

《おつかれー》

 

 

今日の分の作業が終わり、皆は整備室から出ていく。

俺も戻って研究を進めたいので部屋に戻ろうとすると

 

 

「おつかれ〜なるみん。」

 

 

ドサッ、と誰かが俺の背中に張り付いた。

まぁ、俺のことをなるみんと呼ぶ子は一人しかいないのだが。

 

 

「おつかれ、布仏さん。」

 

「いや~疲れたね~。」

 

 

布仏 本音(のほとけ ほんね)、俺と同じ一組で簪ちゃんのメイドやっている子だ。

姉に三年の布仏虚がおり、姉妹そろって生徒会に所属している。

そして布仏は代々更識に仕えている家系であるためこの子も更識家の一員だ。

最近、何故か懐かれた。

 

 

「本音はほとんどおかし食べてただけでしょ。」

 

「あれ?そうだっけ?」

 

「そうでしょ。あと、いつも言ってるけど優に抱き着かないの。迷惑でしょ。」

 

 

一応、もう一度言っておくと本音ちゃんがメイドだ。

 

(どっちが世話してるんだか…)

 

最近よく見るこの光景に俺はいつもこんなことを思ってしまう。

 

 

「えぇ~、なるみんは一言もそんなこと言ってないよ~。ね?なるみん。」

 

「ん?まぁ、迷惑って程じゃないかな。」

 

 

重くもないし、妹みたいなものだし。

 

 

「・・・・優も本音を甘やかさないで!ほら、離れなさい。」

 

「あぁぁ!」

 

 

簪ちゃんが本音ちゃんを俺の背なかから引き剥がす。

本音ちゃんがこちらに助けを求める目線を送ってくるが簪ちゃんの目線が怖いので見捨てる。

 

 

「ぶー!かんちゃんの意地悪~。なるみんも見捨てるし。」

 

 

引き剥がされた本音ちゃんがぶかぶかの袖を振り回す。

ご機嫌斜めのようだ。

 

 

「ごめんごめん、お詫びにこれあげるから。」

 

「えっ!?いいの!やたー、なるみん大好きー!」

 

 

ポケットからいくつかのお菓子を出し、本音ちゃんにあげるとすぐに機嫌が直った。

糖分補給のために持っていたのだが別のところで役立った。

 

 

「また甘やかして…」

 

「まぁまぁ、更識さんの分もあるから。」

 

「そういう問題じゃ____」

 

「かんちゃんがいらないならもらうね~。」

 

「あっ、本音!それは私の分!」

 

 

なんだかんだ言って簪ちゃんも甘いものが好きらしい。

今度はもう少し多めに作っておこう。

 

 

「優、これ凄く美味しいけど高いところのなんじゃ・・・もらってよかったの?」

 

「あぁ、気にしないでいいよ、手作りだから。」

 

「えっ?」

 

 

何かおかしいことを言っただろうか?

簪ちゃんが固まってしまった。

 

 

「おーい、更識さーん。」

 

「・・・・はっ!手作り!?これ、優が作ったってこと!?」

 

「あぁ~、かんちゃんのその気持ちわかるよ。私も初めて聞いたときは驚いたもん。」

 

「そんなに驚くことかな?」

 

「「驚くでしょ!」」

 

 

二人が声をそろえて即答してきた。

俺ってそんなに料理できないようにみえるのか…

 

 

「少し前からレモンのはちみつ漬けとか用意してたり、差し入れ持ってきたりしてたから料理するんだろうなーぐらいには考えてたけど、レベル高すぎない!?」

 

「私は美味しければいいよ~。」

 

 

そういうことか。

最近は憂さ晴らしに菓子作りばかりしていたからレベルが上がっていたようだ。

毎日食べていたから気が付かなかった。

 

 

「まぁ、慣れってやつだよ。ずっと料理はしてきたから。」

 

「慣れでここまでってすごいね…」

 

「なるみんは高校入る前から自炊してるの?」

 

「うん、ずっと前からね。」

 

 

本当に料理は長いことやっていると思う。

色々なものをつくって、色んな人と食べてきた。

 

 

「優は料理が好きなんだね、話していてとっても嬉しそう。」

 

「まぁ、好きだね。というか一番安心する時間かな。」

 

 

変わり切ってしまった今となっては、数少ない変わらないものの一つだ。

 

 

「へぇー、そうなんだ。なんかやっと安心した。」

 

「あっ、それ私も~。」

 

「??」

 

 

二人とも嬉しそうなのはいいことだと思うが、何が安心したのだろうか。

 

 

「どうしたの、二人とも嬉しそうだけど。」

 

「えっ、だって・・・・ね、本音。」

 

「そうだね~、わかるよかんちゃん。」

 

 

もったいぶってなかなか話してくれない。

時間がもったいない気がするが気になるので聞かずに行くというのもできない。

 

 

「もったいぶらずに教えてよ。」

 

「えぇ~っとね~・・・・かんちゃんパス。」

 

「えぇ、私!?・・・・えぇ~っとね・・・嬉しい理由はね・・・」

 

 

嬉しい理由は?

聞き逃さないために集中して聞く。

今の集中力は箒の話を聞いている時並みに高まっている。

 

 

「優の好きなものをしれたから・・・・かな?」

 

「??」

 

 

俺の好きなことを知れた、それだけで嬉しいものだろうか。

まぁ、それよりも年頃の子がそんな風に言うのはちょっと心配だな。

今の感じだとまるで・・・

 

 

「かんちゃん、それだと告白みたいだよ?」

 

 

そう、告白っていうか好意を伝えているみたいだ。

普通の男子高校生だったら勘違いするレベルである。

 

 

「えっ!?ちがっ!今のは別にそんなんじゃなくて、優は別にそういうのじゃないし、あっ!優のことが嫌いとかそういうのでもないから!えぇ~っと、なんて言えば・・・・」

 

 

顔を真っ赤にしながらあたふたとする簪ちゃんはとても可愛らしく面白い。

こっちを傷つけないように言葉を選ぼうとしているが混乱していてうまく頭が働かないようだ。

なんとも純粋な子だろうか。今の俺には眩しすぎる。

 

 

「更識さん、落ち着いて。言いたいことはわかってるよ。」

 

「ほ、ほんと・・・?」

 

「アハハ!かんちゃん慌てすぎ~。」

 

「ほ、本音っ!」

 

「うわっ、かんちゃんが怒った。助けてなるみん。」

 

 

本音ちゃんが俺を簪ちゃんとの間の壁にするように立ち、簪ちゃんは回り込んで本音ちゃんを追いかける。

ぐるぐるぐるぐると俺の周りを二人がまわり続ける。

本当にこの子たちは仲が良い。

見ていて微笑ましいが話を聞きたいので本音ちゃんの腕をつかんで止め、簪ちゃんも止まる。

 

 

「はい、ストップ。とりあえず話の続きが聞きたいな。」

 

「は~い。」

 

「・・・・」

 

 

簪ちゃんは渋々といった感じで止まってくれた。

本音ちゃんは相変わらずの元気さだ、元凶なのにね。

もう少し反省してもらいたいものである。

 

 

「私はさっき喋ったから次は本音ね。」

 

 

どうやら簪ちゃんは先ほどのことが結構恥ずかしかったようだ。

 

 

「じゃあ布仏さん、教えてもらえる?」

 

「あっ、うん・・・・・それはいいんだけどね・・・その・・・」

 

 

少し顔を赤らめながらちらちらと本音ちゃんの視線が泳ぐ。

どうしたのだろうか。

 

 

「そろそろ・・・・手を・・・・ね・・・?」

 

「手?」

 

 

そう言われ視線を手に向けると、本音ちゃんの手をしっかりと握っている自分の手が見えた。

さっき止めた時からそのままだった。

 

 

「あぁ、ごめんね。嫌な思いさせちゃったね。」

 

「いや、別にそう言う事じゃなくて・・・・・その、男の人にあまり慣れてないだけだから・・・」

 

 

いつもとはまるで別人のようにもじもじとする本音ちゃん。

 

(この子たちピュアすぎる。)

 

なんかもうこんな純粋な子達と俺なんかが話していていいのだろうかと思うぐらい純粋だ。

眩しすぎてちょっと細目になっている気がする。

 

 

「えぇ~っとそれでね、なんでなるみんの好きなことがわかって安心したのかって言うと、なるみんって自分のこと全然話さないからなんだよね。いつも話していて楽しいんだけど時々思うの、私たちなるみんのこと何も知らないなって。だから今回なるみんが好きなこと言ってくれて安心したんだ~。」

 

「・・・・・」

 

 

鳴海優という存在の本質を突くような言葉だった。

鳴海優とは嘘という泥で塗り固められた存在だ。

思っている以上にこの子達は鋭い。

 

 

「確かに僕のことをあまり話したことがなかったかもね。変な心配かけてごめんよ。」

 

「うんうん、よかったよかった。これでかんちゃんもぐっすり眠れるね。」

 

「ちょっ、本音!?それは言わない約束!」

 

「ん?どういうこと?」

 

「それはね~、かんちゃんったら本当は友達と思われてないんじゃないかってちょー心配してたんだよ~。ね、かんちゃん。」

 

「そうなの?」

 

「・・・・////」

 

 

簪ちゃんがコクンと頷く。

何処か恥ずかしげだ。

 

 

「僕なんかのことでそんな悩まなくていいのに。」

 

「悩むよ・・・・・だって・・・・大切な友達だから。」

 

 

あ~もう、この子達は対俺用の秘密兵器かなんかなのか…

汚れ切った俺にはちょっと、いや、かなり辛い。

 

 

「そっか、ありがとね更識さん。僕にとっても二人はとても大切な友達だよ。」

 

 

また一つ新たな嘘をついた。

 

 

「待っていたわよ、鳴海優君。」

 

 

簪ちゃんたちと別れ自室に戻る途中、廊下の中央に仁王立ちしている人物に声をかけられた。

 

 

「・・・・・・」

 

 

俺は足を止めず、その横を通り自室に向かう。

 

 

「えっ!?ちょ、ちょっと待って!?」

 

「・・・・・・」

 

 

何か聞こえる気がするが気のせいだろう。

一切振り向くことなく歩き続ける。

 

 

「私、鳴海優君ってあなたの名前呼んだわよね!?というか今ここにあなたと私しかいないわよね!?話しかけられてるのわかっているでしょ鳴海君!?」

 

「人違いです。」

 

 

俺の横を誰か歩いて何か言っているような気がする。

まぁ、気のせいだろう。

 

 

「人違いって、この学園であなた含めて男子4人しかいないのよ。間違えるわけないでしょ!?」

 

「いえ、人違いです。」

 

「えっ!?なんでこっちを向いてもくれないの鳴海君!?」

 

「いや、まじで人違いなんで。自分、衛宮です。」

 

「・・・・・・」

 

 

横の気配がピタリと止まった。

やっとあきらめてくれたようだ。

 

 

「そういう態度をとるんなら・・・・」

 

「??」

 

「こっちもそれ相応のことをさせてもらうわ!」

 

 

背後から攻撃の気配!

危なげなくその攻撃を避け、後ろを振り向く。

背後からの攻撃を避けられて驚いた顔をしているがその顔も一瞬したらすぐに戻った。

 

 

「いきなり何するんですか、危ないですよ。」

 

「やっと顔を見て話してくれたわね。」

 

 

相手は俺が顔を見て話したことにご満悦なご様子で話が噛み合わない。

今の俺はすこぶる気分が悪いのではやく話を終わらせて帰りたい。

それに相手が相手だしな。

 

 

「はぁ~、それで用件はなんですか、生徒会長。」

 

「あら、知ってたの?」

 

「まぁ、自分の学校の生徒会長の顔ぐらい覚えますよ。」

 

「いい心掛けね。まぁ、一応改めまして生徒会長の更識 楯無よ。よろしく鳴海君。」

 

 

更識楯無。

更識家の現当主であり、この学園の生徒会長。

つまり余り関わりたくない人物だ。

 

 

「それで結局用件は何ですか?」

 

「私があなたに会いに来た理由はあなたと少しお話がしたかったからよ。」

 

「僕とですか?」

 

 

何故俺のところへ来た?

正体がばれてるとは思えない。

自分で言うのもなんだが証拠隠滅は完璧に行っているつもりだ。

 

「えぇ。他の誰でもないあなたとよ、鳴海君。ここではなんだし、生徒会室にでも行きましょうか・・・って、すごい嫌そうな顔するわねあなた!?」

 

 

そりゃそうだ。

気分が最悪で今すぐベッドにダイブしたい気持ちなのにどうしてそんなことをしないといけない。

それに生徒会室なんて相手のホームだ。そんなとこにわざわざ行きたいとは思わない。

 

 

「えっ、なんでそんなに嫌なの?別に成績にかかわる話とかじゃないわよ?」

 

「めんどくさいからです。ここじゃダメなんですか?」

 

「ここだと誰かに聞かれるかもしれないじゃない。」

 

 

この子はどうしても俺を生徒会室に連れていきたいようだ。

それに話を聞かないとおとなしく返してくれそうにない。

 

 

「はぁ~、わかりましたよ。生徒会室に行きましょうか。」

 

 

正直行きたくないのだが実際に話すことも情報収集としては重要だ。

相手が更識家なら尚更性格を知っておいて損はない。

行きたくはないが。

 

 

 

 

「それで、僕と何を話したいんですか?」

 

 

悟られないように周りを探りながら質問をする。

今のところ特に罠などはなさそうだ。

気になるところは隣の部屋に一人分の気配を感じるぐらいだろうか。

恐らくは楯無のメイドの布仏虚だろう。

 

 

「まぁまぁ、急ぐ話でもないからまずはお茶でもね。虚、お願い。」

 

「はい、ただいま。」

 

 

隣の部屋から人数分の紅茶を持った布仏虚が入ってくる。

なるほど、隣は給湯室として使っているようだ。

 

 

「どうぞ。」

 

 

彼女はそう言って紅茶を置くと楯無の後ろで仕えるように立つ。

目の前の紅茶の出来といい、姿勢や雰囲気、なかなかにできた従者だ。

 

 

「彼女は布仏虚。生徒会会計よ。」

 

「いつも妹がお世話になっています。」

 

「鳴海優です。こちらこそ本音さんには良くしてもらっています。」

 

「挨拶もほどほどにして紅茶が冷める前にいただきましょう?虚の淹れる紅茶は世界一美味しいから期待しとくといいわ。」

 

「世界一ですか、それは期待してしまいますね。では、いただきます。」

 

 

む、美味しい…

悔しいが今まで飲んできた紅茶の中で一番だろう。

この歳でここまでの腕とは恐れ入った。

 

 

「すごく美味しいです。本当に世界一かもしれませんね。」

 

「でしょでしょ!私も鼻が高いわ。」

 

 

そう言いながら扇子を勢いよく開く楯無。

扇子には「喜!」と書かれている。

ちょっと面白いと思ってしまった。

 

 

「会長、そろそろ本題に入るべきかと。彼にも何か用事があるかもしれません。」

 

「それもそうね。それじゃあ鳴海君、私の質問に答えてもらってもいいかしら?」

 

「いいですよ。もちろん答えられるものであればですけど。」

 

 

まさか俺は疑われているのか?

そうだとしたらここは慎重にいかなければ…

 

 

「じゃあ、いきなりだけど・・・・・簪ちゃんのことをどう思っているの?」

 

「はい?」

 

「だから、簪ちゃんのことをどう思っているかってきいてるのよ。」

 

 

いきなり何を言っているんだこの子は…

真面目な顔するからこっちも警戒していたってのに…

 

 

「鳴海君、申し訳ないですが答えてもらってもいいですか?呆れているのは表情でわかりますが。」

 

 

虚ちゃんが耳打ちをしてくる。

その表情と声には疲れが見える。

苦労しているのだろう。

 

 

「それで、どうなの?好きなの!?愛してるの!?どうなの!」

 

「落ち着け生徒会長。あんた飛躍しすぎだ。」

 

 

今にも発狂するんじゃないかと思うほど目が泳いでいる楯無ちゃんに思わず口調が雑になってしまった。

いやでも、これは仕方ないと思う。なんかこう、怖かったし。

 

 

「別に妹さんとは恋人関係とかではなくただの友達ですし、Ioveの方の感情も持っていません。」

 

「ほんとに?」

 

「ほんとです。・・・・あと顔近いです。」

 

 

楯無ちゃんは無表情で顔をグイっと近づけて俺の瞳を覗いてくる。

というか、顔を目の前までもってくんのやめようよ年頃の女の子なんだから。

 

 

「嘘は・・・・ついてなさそうね。」

 

「嘘つく理由がないですから。」

 

 

数秒してようやく顔を引いてくれた。

 

 

「とりあえず一安心ね。」

 

「因みに嘘をついていた場合はどうなってたんですか?」

 

「それはもちろん、こうね。」

 

 

満面の笑みで首を切るような仕草を取りやがったよこの子。

こういうタイプは冗談抜きでやるから笑えない。

 

 

「正直に好きというのなら判定かしらね。」

 

「すみません、会長は簪様のことになるとこうなんです。いつもはちゃんとしてるのですが…」

 

「あ~、大体わかりました。」

 

 

つまり、シスコンってことか。

まぁ、妹が大事っていうのはわかる。

 

 

「妹を大切に思うのはいいですけどもう少し穏便に見守ったらどうですか?」

 

「穏便?」

 

「はい、穏便にです。妹にはすべてを与えてあげたいですけどたまには手を出さず見守ってあげないと。例えば恋愛事情とか。」

 

 

全てをやってあげることが愛ではない。

むしろ恋愛に関することには頼られるまでは手を出さないでおくべきだと俺は思う。

恋する妹もまた可愛いしな!

 

 

「それで簪ちゃんに悪い虫がついたらどうするの!」

 

「悪いかどうかなんて簡単には分かりませんよ。そしてそれを決めるのは僕達ではなく本人達です!過保護な愛はただの枷でしかない。あなたのはまさしくそれだ!」

 

「ッ!?・・私は・・・間違っていたの・・・!?」

 

「間違いではありません。妹を思う気持ちが少し強すぎただけです。僕にもそういう時期がありました。」

 

 

一時期、箒に告白したい奴は俺と戦って勝たないと告白させないとかやっていたなー。

今思えばただのお節介だった…

 

 

「あなたは・・・・あなたはどうやって変わったの?」

 

「自分のあふれ出る気持ちをコントロールするんです。」

 

「この膨大な愛を!?押さえられないわ!?」

 

「それを成すのもまた愛の力です。会長ならばきっと変われます。さぁ、これからは今まで以上に妹を想って妹を愛でましょう!」

 

「鳴海君・・・・私、変わって見せるわ!簪ちゃんの為に!」

 

「はい、頑張りましょう!」

 

 

楯無ちゃんと俺は固い握手を交わす。

この子には俺が箒ちゃんを愛でれない分頑張って欲しいものだ。

 

 

「えっ、なんなんですかこれ…」

 

 

この後、無茶苦茶妹について語り合った。




はい、カリスマ生徒会長の登場でしたね。
あと最後の方は全力でネタに走りました。
反省はしている、後悔はしていない


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第四十三話 少年の一日

今日も投稿がんばるぞいっ


まず一言言わせてほしい。

 

 

「きつすぎるだろ…」

 

 

何がきついって?

まぁ、すぐにわかる。

 

 

「どうしたの隼人、疲れた顔して。」

 

「いや、ちょっと寝不足なだけ…」

 

 

現在朝の7時で場所は自室だ。

そしてここには俺とシャルルがいる。

そう、俺とシャルルはルームメイト、つまり同室だ。

本来は一夏がシャルルと同室のはずなのにだ。

 

(なんで俺が同室なんだ?)

 

この疑問は何度目だろうか。

30回超えたところから数えるのはやめた。

同室になって早1週間、すでに結構限界に近い。

 

(舐めてた…)

 

同室だと聞いた最初の方は気をつかっていれば余裕だと思っていたが・・・

 

 

「隼人、食堂に行こ。」

 

「お、おう。」

 

 

なんというか、距離が近いのだ。

今だって顔と顔の距離が鼻先がつくんじゃないかというほど近かった。

顔をグイっと近づけ、笑顔でこんなことを言われたら動じない奴なんていないんじゃないだろうか。

 

 

「そういえば最近隼人って僕から妙に距離取ってない?」

 

「そ、そうか?」

 

 

距離が近いことを意識し始めると次から次へと情報が入ってきてしまうのだ。

そして一番の問題は匂いだ。シャルルからはすごくいい香りがするため、ドキドキして落ち着かない。それに俺は鼻がいい方なので余計に気になってしまうのだ。

 

 

「そうだよ・・・・もしかして僕のこと嫌いになった・・・?」

 

 

凄く心配そうな瞳でこちらを見上げてくるシャルル。

 

(それは反則だろ…)

 

シャルルは目的の為、俺に嫌われると近づけなくなることを心配しているのは分かっている。別に深い友情とかじゃないのはわかっているのだ。

しかし、そんな顔して言われてしまってはこちらが折れるしかない。

 

 

「そんなわけあるか。シャルルは俺にとって大事な友人なんだから。」

 

「ほんとに?」

 

「嘘なんかついてどうするんだよ。」

 

 

会話をしながらシャルルとの距離を少しづつ縮める。

近づくごとに甘い匂いが鼻をくすぐる。

鼓動が速くなっていくのが手に取るようにわかる。

そして自分の単純さに少し呆れてくる…

 

 

「隼人は何にする?」

 

「えっ?ごめん、少しボーっとしていた。」

 

「最近多いね。あんまり無理しちゃ駄目だよ。」

 

「あぁ、気を付ける。それでなんの話だっけ?」

 

「朝食は何にするかって話。」

 

 

朝食の話か…

食堂に来てるんだから考えてみれば当たり前だな。

 

 

「そうだな~、今日は魚の気分だな。」

 

「僕も魚にしようかな。箸の練習もしたいしね。」

 

 

最近シャルルは箸の練習をしている。

新しいことに触れるのが楽しいんだそうだ。

 

 

「今日も放課後に練習するよね?」

 

「そうだな、大会も近いしな。また教えてもらってもいいか?」

 

「うん、全然いいよ。皆と練習するのすごく楽しいから。」

 

「はいよ、おまちどうさん。」

 

 

おっ、そうこうしているうちに定食が出てきた。

さてと開いている席はっと・・・・

 

 

「あっ…」

 

「どうしたのはやt・・・・あっ…」

 

 

シャルルも気が付いたようだ。

開いている席を探していたらある奴と目があった。

その目線は『こちらに来い』と言っていた。

席も開けていてくれているのでそちらに向かう。

 

 

「一緒に食っていいか?」

 

「僕もいいかな?」

 

「ふむ、同席を許可する。」

 

 

朝から天馬は絶好調のようだ。

今日も今日とて偉そうだ。

 

 

「いつも思うけど天馬は朝早いよね。」

 

 

そうなのだ、シャルルの言う通り天馬は意外と朝が早い。

 

 

「習慣というやつだ。ローゼが健康健康とうるさくてな。」

 

「なるほど、納得だな。」

 

「そういう貴様らもなかなかに早いがな。」

 

「ハハハ…僕も習慣って感じかな…」

 

「俺もそんなところだな…」

 

 

実際俺は眠りが最近浅いだけなのだが…

シャルルに至っては俺が起きた時にはいつも着替え終わってるので着替えの為ではないだろうか…

 

 

「フッ、滑稽だな。」

 

「滑稽ってなにがだよ。」

 

「いや、ただの独り言だ、気にするな。それよりも貴様だ、デュノア!」

 

「な、なに!?・・・・あっ…」

 

 

急に天馬に呼ばれたことに箸に集中していたシャルルは驚き、頑張って掴んでいた魚の切り身がポロっと皿に落ちてしまった。

ドンマイ。

 

 

「なんだその持ち方は?箸はこう持つのだ。」

 

「こ、こう?」

 

「違う!こうするんだ。」

 

 

さっきからシャルルの方を見てるとは思っていたが箸の持ち方が気になっていたのか。

そういえば天馬って食事に関して結構こだわっていたな。

シャルルに言うだけあって天馬の箸の持ち方はとても綺麗なものだ。

 

(コイツってやっぱり甘いとこあるよな。)

 

天馬はツンツンしているがなんか時々甘いところがある。

所謂ツンデレって奴かもしれない。

いや、デレではないか。

 

 

「今日も飯は美味いな。」

 

 

今日も一日頑張るとしますか。

 

 

「これでどうだ!」

 

 

威勢よく引き金を引くが発射される弾はどれも的の中心には当たらない。

 

 

「駄目か…」

 

「今のはちょっと姿勢が崩れていたのが原因だね。姿勢をしっかり保てれば・・・」

 

 

ダンッ!ダンッ!ダダンッ!

シャルルの放った弾丸は見事に的の中心に風穴を開けていた。

 

 

「やっぱシャルルはすごいな。」

 

「隼人も練習すればこれぐらいできるようになるよ。その証拠にほら、あっち。」

 

 

シャルルの指さす方向を見ると少し離れたところで一夏が射撃訓練をしていた。

 

 

「くっ、やっぱむずいな。」

 

 

そう言いつつも何発かは中心に当たっていた。

因みに俺は一発も当たっていない…

俺と一夏は同じタイミングで射撃訓練を開始したにも関わらずだ。

 

 

「俺は全然うまいと思うぞ。俺なんて一発も中心に当てられなかったし。」

 

「う~ん、まぐれ当たりだからなぁ。」

 

「運も実力のうちって言うだろ?素直に喜んどけよ。」

 

「それもそうか。そうだ隼人、勝負しないか?どっちが多く的に当てられるか。」

 

 

一夏から勝負を持ちかけられたが正直射撃勝負で勝てる気がしない。

 

 

「いいぞ。負けた方がジュース一本おごりでどうだ?」

 

 

しかし、何事もチャレンジが大切だ。

負けっぱなしってのも悔しいしな。

 

 

「いいぜ。」

 

「じゃあ、僕はここで見てるね。」

 

「それじゃあ、悪いけど終わったら気になったところ教えてくれ。」

 

 

シャルルにそう言い、俺と一夏は位置に着く。

 

 

ブーーー!

 

ブザー音とともに激しい銃声が響き渡った。

 

 

「0対10…」

 

「よっしゃ、俺の勝ちだな。」

 

 

結果は完敗だった…

勝てないとは分かっていたがここまで酷いと流石に堪える。

 

 

「シャルル!今のは何が駄目だったんだ?」

 

 

何か、何かあるはずだ。

俺が下手くそな理由が。

 

 

「うーん…思ったことはあるんだけど…これを言うのは…」

 

「構わず言ってくれ。何とかしてみせる。」

 

「えぇーっとね…」

 

 

聞いてみるがシャルルは口を開いては閉じるのみだ。

俺はそんなにどうしようもない状態なのだろうか。

 

(でも、さっきまでの練習ではそういうことはいわれてないし、シャルルも世辞を言っている感じではなかった。)

 

つまり、どうしようもない状態とか姿勢がどうこうではないってことだ。

じゃあ、何が駄目で言いにくいことなのか。

 

(・・・・・・・わからん。)

 

少し考えてみるが全くもってわからない。

ここはやはりシャルルから聞くしかないだろう。

依然シャルルは迷っているようで困った様に頬をかいている。

一夏?何奢らせるのか迷っているが、なにか?

 

 

「シャルル、頼む!」

 

「えっ?!は、隼人!?」

 

「教えてくれるまでどかないからな。」

 

 

目を逸らせないように両肩を掴み、シャルルを真っ直ぐに見つめる。

問い詰めているようで申し訳ないが教えて貰えなければ俺は前に進めないため、今回は引けない。

 

 

「わ、わかったから~。その…少し離れて…?」

 

「わ、悪い!?」

 

 

顔を赤くしながら答えるシャルルを見て、自分が何をしているのか気が付いた。

デリカシーのかけらもない行動だった…

 

 

「二人とも何赤くなってんだ?」

 

「べ、別になんでもないよ。」

 

「あ、赤い?気のせいだろ。」

 

 

うん、こいつよりはマシだからまだ気をつければ大丈夫だ。

 

 

「そうか?赤い気がするけどな。まぁ、そんなことより隼人の何がダメなんだシャルル?」

 

「あ、えぇ~っと、それはね…」

 

 

俺のダメなところ・・・・いったい何なんだ…?

 

 

「隼人には銃が向いてないんじゃないかってことを思ったんだけど…」

 

「銃が向いていない?」

 

 

そりゃあ人には向き不向きがあるだろうし、不向きだとしてもそれは努力で補えばいい話だ。

じゃあ何故シャルルはこんなに言いにくそうにしているのだろう?

 

 

「あっ、俺もそれ思ったかも!」

 

 

一夏でもわかるほど俺は銃に向いてないらしい。

 

 

「俺が銃に向いてないってのは分かったけど訓練すれば解決するんじゃないか?別にそんな言いにくいことでもないだろ。」

 

「いや、正確には違くて…その…」

 

「その?」

 

「隼人には銃が絶対に馴染まないって感じたんだ。」

 

 

馴染まない?それも絶対に?

どういうことかわからない。

 

 

「僕自身うまく説明できないんだけど、そうだな・・・・真夏なのに真冬の格好をしているって感じかな。」

 

「あ~、なんとなくわかるわそれ。なんつうか、とろっとろのカレーを箸で食っているみたいな?」

 

「一夏の例えはよくわからないが異質だってことはわかった。」

 

 

つまり根本的に俺と銃の相性が良くないってことだろう。

そう言われてみれば銃を持った感触はあまりよくなかった。

それも相性の悪さだろうか?

 

 

「別に動きに間違いとかがあるわけじゃないんだけど、決定的な何かが欠けてるように見えるんだよね。だからこそ隼人には銃は向いてないんじゃないかなって・・・・思ったんだけど…」

 

 

凄い申し訳なさそうな顔でこちらを見てくるシャルル。

その瞳は若干うるんでいるように見える。

 

 

「その…やっぱり怒ってるよね…?何が原因かもわかってなくて、言えることが銃が向いてないとか頑張ってる隼人に失礼なことしか言えないし…」

 

「別に怒ってなんかないぞ。ちょっとどうしたもんかなって対策を考えていただけだから。それにシャルルには感謝することはあっても怒るなんてことなんて何もない。」

 

「えっ?どうして…?」

 

「だってシャルルがいなければそんなことに気がつけなかったと思うし、それをちゃんと伝えてくれただろう?ほら、怒る要素なんてどこにもない。あっ!まだ礼を言っていなかったな、ありがとなシャルル。」

 

 

礼を言うとシャルルはポカーンとし、しばらくしたら何がおかしいのか笑い始めた。

なにか面白いことでも言っただろうか?

一夏も俺と同じように首をかしげている。

 

 

「フフッ、隼人って本当にお人好しだよね。」

 

「??」

 

 

急にどうしたんだシャルルは。

しかも俺がお人好しってどういうことだ。

 

 

「別にそんなことないだろ。自分では割と厳しいと思うけどな。」

 

「「いや、それはない。」」

 

「即答!?」

 

 

いやいや俺だって厳しいところあるからな。

例えば料理とか訓練で妥協はしたくなかったりするし。

 

 

「それはそうだよ。隼人は超のつくほどのお人好しなんだから。厳しいってのも自分にだけでしょ?」

 

「そ、そんなことは…」

 

「あるよ。だって隼人は誰か困っていたら絶対に見捨てないでしょ?今だって僕の事怒ってないし、本当にお人好しだよ。絶対、人生損するタイプの人だと思うなー。」

 

 

損するか…

今までも色々な人に言われてきた言葉だ。

言われ慣れてるけどやっぱり自分を否定されてるようで少し虚しい。

 

 

「けど・・・そんな隼人が僕は素敵だとも思うよ。」

 

「ッ!?////」

 

 

カーッと顔が熱くなっていくのがわかる。

今の俺の顔はリンゴのように赤いことだろう。

でもこれはしょうがないだろう?

 

(不意打ちはずるいだろ…)

 

遅いかもしれないが片手を顔にあて俯く。

隠しきれるとは思えないがやらないよりはマシだ。

 

 

「どうしたの隼人?具合悪いの?」

 

 

俯く俺にシャルルは心配してこちらの顔を覗き込んでこようとする。

俺は慌てて体の向きを変え、背中をむける。

 

 

「大丈夫だ、問題ない。」

 

「ほんとに大丈夫?最近ぼーっとしてる事多いからやっぱり無理してるんじゃ…」

 

「隼人、お前照れてるんだろ?」

 

「!?」

 

 

なんでこういう時だけこいつは鋭いんだよ!

いつもボケーっとしてる癖に。

 

 

「照れてる?どうして?」

 

「それはシャルルが______」

 

「あー!あー!腹減ったー!」

 

「おい、隼人うる____」

 

「ということで、今日の訓練はここまで!ほら、一夏飲み物奢ってやるから行こうぜ!何がいいんだ?」

 

「えっ、そうだな・・・・・・コーラかな。」

 

「よし!コーラだな。すぐ行こう今行こう!ほらほらほらほら。」

 

「えっ!?ちょっ!?」

 

 

一夏の背中を押し、無理矢理連れていく。

シャルルは状況についてこれず、目をパチくりしている。

今の内に一気に離脱するべく、一夏を一気にアリーナの出口近くまで押し、最後に振り返る。

 

 

「シャルル…その…サンキューな。」

 

「えっ、うん?」

 

 

言う事を言ったら急いでその場を去った。

 

 

「一夏の奴、腹壊さないといいけど。」

 

 

俺は先ほど別れた友人のことが心配だった。

結構無理やり連れ出したのでお詫びとして更に数本奢ったのだが

 

 

「全部炭酸で、しかも一気飲みだもんな…」

 

 

特技とか何とか言っていたがこちらからしたら心配になる特技である。

まぁ、それは自己責任なのだが。

それよりもシャルルのことである。

あれから少しランニングして気を落ち着けたがまともに顔を見て話せるだろうか?

 

 

「ダメだな…弱気になってちゃ。覚悟決めろ俺。」

 

 

言い聞かせながら部屋の前まで来た。

ドアノブに手を置く。

 

 

「ふー、ふー、行くぞ。」

 

 

いつも通りドアを開ける。

 

 

「シャルルは・・・・・いないみたいだな。ふぅー。」

 

 

シャルルは飯にでも行っているのか、部屋にいない。

思わずほっと一息ついてしまう。

覚悟とは何だったのだろうか…

 

 

「情けないな、俺。はぁ~…」

 

 

いかんいかん。頭を振ってダメな思考は捨てる。

こんな時は何かして気を紛らわせた方がいい。

 

 

「そういえば、シャンプー切れてたな。」

 

 

そのままシャワーを浴びるのもいいかもしれない。

そうと決まれば新しいシャンプーボトルを持ち、洗面所に向かう。

そして洗面所のドアを開けると・・・

 

 

「えっ?」

 

「あっ?」

 

 

浴室からちょうど出てきた金髪の女の子と鉢合わせてしまった。

首からかけられたタオルによって胸は見えないが膨らみはしっかりと確認できた。

そしてその顔は良く見知った顔である。

 

 

「シャルル…」

 

「み、見ないで…」

 

 

顔を真っ赤に染めしゃがみこんで体を隠すシャルル。

その体は微かに震えており、頬には一筋の涙が見えた。

 

 

「す、すまん!?」

 

 

急いで洗面所から出て扉を閉めた。

そして扉を背にして腰を下ろす。

 

 

「何やってんだ俺は…」

 

 

気が抜けていたのもあるが最悪のミスをしてしまった…




全然話し進まねぇな…


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第四十四話 敵対

久しぶりのギリ一週間以内達成。


「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 

沈黙。

向かい合うように座ってからすでに数分が経っているがいまだその沈黙は破られない。

どうしてこんなことになってしまったのだろう、こんなはずじゃなかった、もっとうまくやれたはず。

心を埋め尽くすのはそんな後悔の感情ばかり。

 

 

「隼人…聞いてもらえるかな…?」

 

 

先に沈黙を破ったのはシャルルだった。

 

 

「男のふりをしていたことについてか?」

 

「うん…もう隠す必要もないから。」

 

「・・・・わかった、聞かせてくれ。」

 

 

俺の答えを聞き、シャルルがぽつりぽつりと話し始めた。

 

 

「僕はね、__________」

 

 

「これで全部だよ。聞いてくれてありがとね隼人。今まで騙していてごめん。」

 

 

シャルルからすべて聞いた。

彼女の母親の事、今の両親の事、デュノア社の経営危機の事、そして男子のふりをして俺達男性操縦者とその機体のデータを狙っていたこと。

 

 

「・・・・・」

 

 

知っていた。

いや、知っている()()()()()()

確かに俺の知っている原作知識とほぼ同じ内容ではあった。

しかし、話している時の彼女の表情、声、動き、そのどれもが重くのしかかってくる。

彼女は生きている、作り物なんかではない。そんな当たり前のことを実感した。

 

俺は心のどこかでこの世界は物語だと思っていたんだ。

だからシャルルの事を知った気になっていた。

 

(俺って最低な奴だ…)

 

何もしてやれてなかった。

俺がうまくやればシャルルが男子だとばれないと思っていたし、それがシャルルにとってもベストだと思ってた。

しかし、本当は女だということはいつまでも隠し通せるようなことじゃないし、続ければ続けるほど彼女は苦しんでいたはずだ。俺はそれをどうするつもりだった?

 

(俺は・・・・・・)

 

何も考えちゃいなかった。

考えていたのは自分のことばかりだった。

物語だから何とかなる。主人公の一夏が何とかする。

そう楽観視していたんだ。

結局俺はシャルルを気遣うふりをして自己満足していただけだった。

 

 

「ごめん、シャルル。」

 

 

気がつけばそんなことを口に出していた。

 

 

「えっ?なんで隼人が謝るの?僕は君たちを利用していたんだよ!?」

 

「そのお前を俺は利用していたんだ。」

 

「どういう・・こと・・?」

 

「俺はお前が女だって知っていたんだ。」

 

「!?」

 

 

驚きの余りシャルルは固まってしまう。

しかし、俺は気にせず続ける。

 

 

「事情があるのだと思っていた。だからシャルルの助けになろうと黙ってた。でもそれはただの自己満足だった。」

 

「・・・・・」

 

「解決法を考えようともしていなかった!気遣うふりでシャルルのことをこれっぽちも考えてやれてなかった!俺がやっていたことはただシャルルを苦しめるだけだった!」

 

「・・・・・」

 

「本当にすまなかった…」

 

 

シャルルは難しい顔をしている。当たり前だ。

俺も少しは言葉を選んでいるが聞く方からしたら意味不明なことを言っているのだから。

 

 

「意味が分からないよ…」

 

 

当然の反応だ。

わかる訳がないのだから。

 

 

「でも・・・・気持ちは伝わったよ。だからこそ言わなくちゃいけないことがある。」

 

 

シャルルが俺の手を取り、俺の顔をしっかりと見る。

 

 

「隼人は僕を苦しめるようなことなんかしてないよ。」

 

 

予想外の一言に思わず頭が真っ白になる。

そんな俺に構わずシャルルは続ける。

 

 

「隼人の優しさがうれしかったし、元気をもらえた。その優しさは嘘じゃなく隼人の本当の優しさだよ。」

 

 

やめてくれ…

俺はただの偽善者だ、そんな言葉はもらえない。

 

 

「ち、違う…俺はただシャルルを利用していただけで…」

 

「違くないよ。だって、隼人はすごく自分のこと怒ってる。それって僕の事ちゃんと考えてくれてるって証拠だよ。」

 

「ッ・・・・」

 

「それに今までの隼人が嘘だなんて言われたら僕・・・・さびしいよ。だから自分のこと攻めないで?」

 

 

まただ…そんな顔でそんな風に言われちゃこちらが折れるしかないじゃないか。

全く、女子というのはずるいと思う。

 

 

「ありがとうシャルル。こんな俺に元気をくれて。」

 

「こちらこそありがとう。騙していた僕に優しくしてくれて。最後に全部話せてよかった。」

 

 

そう言って笑うシャルルの頬を一筋の涙が伝った。

最後?そんなことには絶対させない!

 

 

「最後じゃない、俺が黙っていればいい。」

 

「えっ?」

 

「それにIS学園特記事項第21項によって在学中においてその生徒はありとあらゆる国家・組織・団体に帰属してない扱いになる。つまりこの学園にいれば国だろうと手を出せない。」

 

「じゃあ、ここにいられるってこと?」

 

「そうだ。」

 

 

しかし、これでは問題の先送りをしているだけに過ぎない。

だからここでもう一つ手を打つ必要がある。

 

 

「そしてシャルルの所属を変える。」

 

「所属を?でもどこに…?僕の事情を知って受け入れてくれるところなんか・・・・」

 

「ある!・・・・・かもしれない。一つだけ候補がある。」

 

「ほんとに!?」

 

「あぁ。」

 

 

これが俺の思いつく限界。

シャルルをデュノア社から引き抜く、そうすればシャルルは自由だ。

 

 

「でも一体どこが?経営危機といってもデュノアの名前は伊達じゃないよ?並大抵のところじゃ…」

 

「ブレードファクトリー。」

 

「ッ!?ブレードファクトリーってあの大企業の!?」

 

 

ブレードファクトリー。

IS業界の大企業の一つで倉持技研と並ぶ日本を代表する企業だ。

さすがに量産機ISのシェアが世界第3位のデュノア社ほどではないが経営危機のデュノア社ならば話は別だ。

 

 

「それなら確かに所属権をデュノア社からとれるかもしれないけど、そもそもブレードファクトリーが僕を招き入れてくれるとは思えない。」

 

「そこは何とかして見せる。俺の両親が経営している会社だからな…」

 

「えぇ!?隼人ってブレードファクトリーの御曹司だったの!?」

 

「そういうことになるけど御曹司っていうのはやめてくれ。むず痒い。」

 

 

御曹司とかボンボン扱いされるのは嫌いなため隠しているのだが今回はしょうがない。

親の力を頼るというのはどうかと思うがシャルルを自由にできるならなんだってやってやる。

 

 

「そのためにも今から連絡して話をつける。成功するよう祈っててくれ。」

 

「・・・・・」コクンッ

 

 

携帯を取り出しアドレス帳を開く。

その中から父さんの連絡先を押し、スピーカーモードにして机に置く。

 

 

ReReReReReReReRe♪

 

 

コール音が部屋に響き、二人して緊張する。

 

 

ReReReReReReReReReR ピッ!

 

『何だ隼人、珍しいなお前からかけてくるなんて。父さん嬉しくて泣いちゃいそう。』

 

 

相変わらずの子煩悩のようだ。

こんな時ぐらい真面目に出て欲しかった、恥ずかしい…

 

 

「ンッンッ!父さん、すごく大事な話があるんだ。聞いてくれないか?」

 

「む、どうやらただ事ではないようだな。聞こうじゃないか。」

 

 

一瞬にして声のトーンが下がり、仕事モードになった。

話が早くて助かる。

 

 

「実は・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってことなんだけど、どうにかできないかな?」

 

『ふーむ・・・・・・・』

 

「俺にできることなら何でもする。一生のお願いだ父さん!」

 

『・・・・・・』

 

 

やはり厳しいのだろう。

社長さんの声はとても重苦しいものを感じさせる。

 

 

『・・・・・シャルルさんといったかな、そこにいるんだろう?』

 

「は、はい。」

 

『君はどうしたいんだい?』

 

「ぼ、僕は・・・・・・」

 

 

デュノア社から離れたいという気持ちはある。

しかし、これが失敗してしまえば・・・・

 

 

『迷っている、いや、怖がっているのかな?』

 

「ッ!」

 

 

声だけのやり取りだというのになぜそこまでわかるのだろうか。

 

 

『当たりのようだ。では何を怖がっているのかな?私はそれが知りたい。』

 

「僕が怖がっていること・・・・・」

 

 

何が怖いかなんて決まっている。

 

 

「それはブレードファクトリーや隼人を不幸にすることです。」

 

『ほぉ~。』

 

「シャルル!俺は『隼人、少し黙っていなさい。彼女の話はまだ終わってない。』・・・・わかった…」

 

『息子が水を差してすまない。それで何故我々の心配を?自分の身を心配しなくてもいいのかい?それとも私への媚び売りかな?』

 

「父さん!」

 

『黙っていろと言ったはずだ。それにさっきお前は了承したはずだ。お前も知っているだろう?私は嘘つきが嫌いなんだ。』

 

「ッ・・・・・」

 

 

面と向かっているわけでもないというのに凄いプレッシャーを感じる。

でも、社長さんの言う通り今は僕が喋っている。

隼人に助けてもらうだけじゃなくて僕自身がやらないといけないんだ。

 

 

「確かに自分がどうなってしまうのか考えるのは怖いです。ですが!こんな僕を気遣ってくれる隼人や社長さんのような優しい人達を不幸にしてしまう可能性の方がよほど怖いです!」

 

 

もし、失敗すればブレードファクトリーはどうなるかわからない。

そうなれば隼人やこの社長さんはどうなってしまう?

それを考えるのが一番怖い。

 

 

『なるほど。しかし、隼人は分かるが何故私のことを優しいと断言する?嫌な奴かもしれないよ?』

 

「いえ、社長さんはいい人ですよ。だって、僕の話をちゃんと聞いてくれています。普通だったらデュノア社から所有権をとって欲しいなんて言われても相手にもされません。」

 

『でも、デュノア社は今経営危機だしね~。資料を調べたらその傾向が僅かに見られたからこれは確実だ。だから潰すなら今ってだけだよ?』

 

「嘘ですね。この短時間で調べられるほどデュノア社の隠蔽技術は低くないですし、仮に調べられていたとしてもほっとけば潰れる可能性が大きい会社です。今すぐ潰すメリットがありません。」

 

『確かにそうかもね。でも、それだけの理由で君は私を信じてしまうのかい?』

 

「いえいえ、一番の理由はちゃんとありますよ。」

 

『それはいったい?』

 

「それはですね・・・・・・あなたが隼人のお父様だからです。親が優しくなければこんなに優しい子にはならないでしょう?」

 

 

隼人が信頼して話した、そして僕自身も話した。

これだけで十分なほど分かった。

 

 

『・・・・・・・プッ!アハハハハハハ!いや~参ったね~そういわれたら否定できないよ。』

 

「父さん…」

 

 

部屋に社長さんの笑い声が響き、恥ずかしかったのか顔が少し赤くなる隼人。

 

 

『あ~笑った。あぁ、ごめんねシャルルさん。』

 

「いえいえ。」

 

『君の気持はわかった。そして私もどうするか決めた。私は君を迎え入れたい。』

 

「ほんとか!?父さん!」

 

『ほんともほんと。ブレードファクトリーは優秀な人材を募集しているからね。まぁ、本人の意思次第だがね。先ほどの質問の答えを聞かせてもらえるかなシャルルさん?』

 

 

先ほどの質問。それは僕がどうしたいか。

 

 

「僕は・・・・・・」

 

 

話をすればするほど優しさが分かった。

こんなリスクの高いことには巻込みたくない。

その考えは無くならないけど・・・

 

 

「僕は、デュノア社と決着を付けたいです。」

 

 

何もしないで逃げ続ける弱い自分を変えたい!

 

 

「力を貸してください!」

 

 

これは僕のわがままだ。

きっと迷惑をかけてしまう。

 

 

『勿論だ、ブレードファクトリーは君を歓迎するよ。』

 

「俺も出来る限り協力する。」

 

 

でも、この人達の手を取りたい。

初めて頼っていいと言ってくれたから、信じられると思ったから。

 

 

「ありがとうございます。」

 

『なに、こちらもいい人材を確保出来るんだ悪い話じゃない。準備はこちらでやっておくけど、あとで君にも証言を貰うことになる。悪いが少し時間がかかるからもう暫くその姿で我慢してくれ。』

 

「いえ、何から何までありがとうございます。」

 

「父さん、俺にも何か出来ることはないか?」

 

『あっ、忘れる所だった。隼人、さっき何でもするって言っていたな?』

 

「あぁ、言った。」

 

「は、隼人はもう充分なほど僕を助けてくれたよ!だからもう無理をしなくていいよ!」

 

 

ここまでこれたのは隼人のお陰だ。

だからもう無茶なことはして欲しくない。

 

 

「シャルル、俺は無理なんかしていない。それにシャルルはまだ助かってないんだ、助かる可能性を少しでも上げることが出来るなら俺はそれを見てるだけなんて出来ない。」

 

「・・・・///」

 

 

なんでそんなことをサラリといえるの?

そう言われたら何も言えなくなるじゃん。

隼人はずるい。

 

 

「それで、俺にできることってなんなんだ父さん?どんとこいって感じだ。」

 

 

もうこうなったら社長さんが簡単な仕事を言ってくれるのにかけるしか・・・

 

 

「そうか・・・・・なら隼人、最後まで彼女の味方でいてあげなさい。たとえそれがどんなに苦しい道だとしても。」

 

 

めちゃくちゃ難しいの来ちゃったァー!?

 

 

「当たり前だ。俺はシャルルの味方であり続ける、約束するよ。」

 

 

しかも即答ー!?///

 

 

『ならいい。聞きたいことは聞けた。また連絡する。』

 

「ありがとな、父さん。連絡待ってる。」プツンッ

 

 

そして流れるように通話が終わった。

今みたいな会話が隼人の家では当たり前なの!?

 

 

「とりあえず一安心だな。」

 

「う、うん。」

 

「どうした?顔が少し赤いけど。」

 

「べべべ別に何でもないよ!?ちょっと緊張してただけだから!」

 

「そうか?ならいいんだけど。じゃあ、俺はシャワー浴びてくるから。シャルルも今日は疲れただろ?早く寝とけよ。」

 

 

隼人は着替えを持ち洗面所に向かう。

言わなきゃ、今言わなきゃ。

 

 

「隼人!」

 

「ん?どうした?」

 

「その・・・・あ、ありがとう味方でいてくれて。」

 

「当たり前だろ?気にするな。」

 

 

振り返って当然だと言う隼人。

またケロリとそういうこと言っちゃうし…

 

 

「う、うん。言いたかったのはそれだけだから!おやすみ!///」

 

 

急いでベッドに入り、毛布をかぶる。

 

 

「おやすみ、シャルル。また明日な。」

 

(また明日か。まさかまだ聞けるなんて思ってもいなかったな。)

 

 

お母さん、()、幸せだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、聞いた?代表候補生同士が模擬戦やってるらしいよ。」

 

「ほんとに?見に行こうよ。」

 

 

整備室の外が騒がしかったため耳を澄ましてみたら気になる話を聞いた。

代表候補生同士が模擬戦をやっているらしいが、セシリア嬢たちは今日はそんなことをするなんて言っていなかった。

 

(胸騒ぎがするな…)

 

嫌な予感がする。

少し様子を見に行くか。

 

 

「更識さーん!ごめん、ちょっと抜ける。」

 

「えっ?うん。いってらっしゃい?」

 

「行ってくる。」

 

 

了承も取れたので急いで模擬戦をやっているであろうアリーナに向かう。

幸い生徒の流れから迷うということはなさそうだ。

そして走ること数分、アリーナに到着する。

 

 

「あれか…」

 

 

戦っているのはセシリア嬢と鈴ちゃん、そして・・・

 

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ…」

 

 

模擬戦をやっていると聞いた時から予測はしていたが大当たりのようだ。

大当たりといっても全然うれしくない当たりだが。

あの子軍人だから心配だな~。

 

動きを見るにラウラちゃんVSセシリア嬢&鈴ちゃんになっているようだ。

これだけ聞けばセシリア嬢達の優勢に思えるだろうが、実際は逆だ。

ラウラちゃんが二人相手に押している。

 

 

「二人とも動きが最低だな。」

 

 

原因は二人の動きだった。

組んでいるというのにお互いが邪魔になっている時がある。

そしてラウラちゃんはそんな動きで勝てるほど甘い相手ではない。

 

 

「優!」「鳴海!どうなってる!?」

 

「やっと来た。遅いよ四人とも。」

 

 

試合を見ていると一夏と衛宮、箒、そしてデュノアがやって来た。

 

 

「なんでかは知らないけど模擬戦中。因みに状況はオルコットさん達の劣勢。」

 

「馬鹿な、代表候補生二人だぞ!?」

 

「マジかよ…ラウラの奴そんなに強いのか?」

 

「どれくらい強いかはまだわからないけど、見てる限り僕も優の言った通りになると思う。」

 

 

デュノアも二人の動きを見て察したようだ。

しかし、ここからでは二人の動きが改善されることを祈ることしかできないのだが・・・

 

 

「衛宮、許可なくISを使用するのは禁止行為だよ。」

 

「・・・・わかってる…」

 

 

今にも飛び出しそうな奴に耳打ちする。

来た時からそうだが、衛宮は妙に焦っている。

友人が不利だからといって模擬戦に乱入するような奴ではないのだがどうしたのだろうか?

 

 

「鈴の奴、龍咆を使うつもりだ。初見であれを避けんのはきついぜ。」

 

 

一夏がそう言い終わるや否や鈴ちゃんが龍咆を撃つ。

しかし、その龍咆はラウラちゃんが手をかざすことによって目の前で止まってしまう。

 

 

「AICか。」

 

「AIC?なんだそれ?」

 

「アクティブ・イナーシャル・キャンセラーの略で簡単に言えば好きな対象を停止させることができる機能。」

 

「なんだよそれ!?反則じゃねぇか!」

 

 

AICを積んでいるとなると鈴ちゃんとは相性最悪だな。

これは本格的に負けるな。

頼りのセシリア嬢の方もワイヤーブレードでうまく牽制されてしまっている。

 

(うねるワイヤーブレードってなんか卑猥だな~。)

 

おっ、セシリア嬢が近距離からミサイル当てた。

 

 

「やったか!?」

 

「篠ノ之さん、それフラグ。」

 

 

爆炎の中からいまだピンピンしているラウラちゃんの姿が現れる。

AICをうまく使われたかな?

これはラウラちゃん方が一枚上手だったな。

なんだ何事もなく終わりそう・・・・

 

 

「じゃないなぁ…」

 

 

ワイヤーブレードで二人の首を絞め始めた。

しかもそこから近接での追い打ちとはえげつないことをする。

このままだと命にかかわってくる、やりすぎだな。

 

 

「やめろぉー!」

 

 

衛宮がISを展開し、シールドを破って突入する。

それに続いて一夏達も続く。

俺と箒は待機だ。

 

 

「はあぁ!」

 

「チッ、雑魚が。」

 

 

衛宮が斬りかかることでラウラちゃんはそちらに対応し、二人が解放された。

解放されると同時にISも役目を終え解除された。

よく持ってくれた。ありがとう。

一夏が二人を担ぎ移動し始める。

 

 

「邪魔を・・・するな!」

 

 

ラウラちゃんのレールガンが一夏に向けて放たれる。

不意をつかれた一夏は回避ができる状態じゃない。

そして爆炎が一夏達を包み込んだ。

 

 

「一夏!?」

 

 

箒の悲痛な叫びがアリーナに響き渡る。

 

 

「大丈夫。無事だよ。」

 

 

爆炎を一夏が突き破って出てきた。

そして爆炎の着弾地点には赤い盾がそびえたっていた。

衛宮がギリギリのところでアイアスを滑りこませていたのだ。

 

 

「狙う相手が違うんじゃないのか、ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

 

「貴様、目障りだな織斑一夏の前に貴様から潰してやる。」

 

「僕のことも忘れないでね。」

 

 

衛宮、デュノア、ラウラが同時に構える。

一番最初に仕掛けたのはデュノア。

マシンガンを放つがAICによってすべて止められる。

そしてその隙をついて衛宮が斬りかかりに行く。

 

 

「もらったぁ!」

 

「その程度で!」

 

 

二人の武器がぶつかろうかという瞬間、

 

 

「いい加減にしろ。」

 

 

間に一人の女性が入り、二人の武器を止めた。

こんなこと出来るのはもちろんちーちゃんである。

ずいぶんおそかったなぁ。

 

 

「模擬戦をやるのは構わないがシールドまで壊す事態とはな。この決着は月末のトーナメントで付けろ、いいな?」

 

あまりの威圧感に皆、頷くことしか出来ない。

今回のは温厚なちーちゃんでもかなり頭にきてるらしい。

結局その後はセシリア嬢と鈴ちゃんを保健室に送り届け、解散となった。

セシリア嬢達は傷が酷く、トーナメントには出られないとの事だった。




はい、話がまったく進みませんね。
反省してます。


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第四十五話 月末トーナメント

こういったイベントはサブタイ考えなくていいから楽ですw


今回の月末トーナメントは二人一組のツーマンセルで行われる。

ペアは自分達で申請するのだがこの場合だとペアができない生徒が出てしまう場合がある。

そういった生徒は当日抽選でペアが決まる。

そして大会当日、トーナメント表を見た誰もが戦慄した。

 

 

「これはまた面白い組み合わせだな。」

 

 

注目されているペアはただ一つ。

 

 

❝ラウラ・ボーデヴィッヒ&天馬零士❞

 

 

実質一学年最強ペアができてしまったのだ。

公平な抽選でこうなったのだから面白い。

そして個人的にさらに面白いのがそのペアの初戦の相手だ。

 

 

❝シャルル・デュノア&衛宮隼人❞

 

 

いきなりの直接対決だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よもや貴様がペアだとはな。私の邪魔だけはするな。」

 

 

試合前、目の前の男へ忠告をしておく。

私はこいつが好かん。銀色の髪に左右で色の違う瞳、私と同じような特徴しているというだけでなく、雌豚をはべらせるだけが能。そして何よりもその(オッドアイ)でこちらを見下してくることが癇に障る。

 

 

「それはこちらのセリフだ雑種。俺様はお前みたいな幼児体系に興味はない。まして、人形遊びの趣味も持ち合わせていない。」

 

「ッ!?」

 

 

こいつまさか・・・

いや、そんなはずはない。

 

 

「どういう意味だ・・・・?」

 

「そのままの意味だ。理解ができないのか?やはり出来損ないという事か。」

 

 

出来損ない…?

この私が・・・・出来損ないだとッ!

 

 

「貴様ァー‼」

 

 

プラズマ手刀で奴の首を狙いに行く。

こいつは言ってはいけないことを口にした。

今ここで潰す!

 

 

「吠えるなよ人形風情が。」

 

 

奴の目の前に盾が空中展開され攻撃を防がれる。

それと同時に周りに数本の武器が空中展開された。

これが情報にあった奴の機体の単一仕様能力か。

情報通り厄介だ。

 

 

「この程度でッ!」

 

 

向かってくる武器を回避し、回り込む。

そしてレールカノンを構えるのと同時に新たに数本の武器が私に向けて展開される。

 

(この距離ならばこちらが先だ!)

 

レールカノンを発射しようというところで・・・

 

 

『そこまでだ、馬鹿者ども!』

 

 

アナウンスから教官の声が聞こえてくる。

そうか、カメラでこちらを見ていたのか…

 

 

『双方今すぐに武器を収めろ。すぐに試合の時間だ。暴れるならそこで暴れろ。』

 

「了解しました…」

 

 

渋々奴に向けていたレールカノンを戻す。

あと数秒あれば仕留められたというのに。

 

 

『天馬、貴様も早くしろ。』

 

「俺様に命令とはな。まぁ、聞いといてやる。こいつに使うには勿体ないものだからな。」

 

 

奴が手を振ることで展開されていたものがすべて光となって消える。

 

 

『お前らはもうアリーナに出ていろ。これ以上ピットで暴れられても困るからな。』

 

「了解しました。おい貴様、私は衛宮隼人を潰す。貴様はもう一人の相手でもしておけ。」

 

「俺様に指図するなと言いたいところだがいいだろう。衛宮は俺様の得物だが先にやらせてやる。お前ではどうせ倒せないからな。」

 

 

ほんとにこいつは気に入らない。

私があんな奴に負ける?ありえない。

あいつはあくまで織斑一夏を潰す前の前菜に過ぎん。

 

 

「ほぉ、ならばさっさと負かして貴様の吠え面を見るとしよう。」

 

「フッ、吠えておけ。」

 

 

コイツの余裕ぶった表情を崩すのが楽しみだ。

 

 

アリーナに出てから数十秒後、向かいのピットから二機のISが出てくる。

これで全員揃った。

 

 

「貴様もつくづく運がないな。私と初戦から当たるとは。」

 

「ボーデヴィッヒ、御託はいい。さっさとかかって来い。」

 

 

生意気な男だ。

かかって来いとは、まさか勝つつもりでいるのか?

愚かな、実力の違いもわからないとはな。

 

 

「貴様、私に勝つつもりか?」

 

「当たり前だ、勝つのは俺たちだ。」

 

 

試合開始を告げるブザーが鳴り響く。

 

 

「ならば、その理想を抱いたまま溺死するがいい!」

 

 

開始と同時に私のレールカノンが戦いの火蓋を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

レールカノンがこちらに狙いをつけ、発射される。

それに対し俺は慌てることなくアイアスで対処する。

盾には傷の一つも出来ていない。

 

 

「シャルル、作戦通りいこう。天馬は強いが押さえてくれ。俺もアイアスを一枚貸す。」

 

 

投擲武器及び飛び道具に無類の強さを持つこの盾ならば天馬の攻撃にも多少は耐えられる。

こちらとしては厳しくなるが天馬と言うジョーカーが来てしまったのだから仕方がない。

それに盾はもう一枚ある。

 

 

「うん、まかせて。でもその盾は隼人が使って。ラウラさんは今の隼人じゃ一枚で倒せるような相手じゃないからね。」

 

 

大型レールカノンを主体としているボーデヴィッヒの専用機『シュヴァルツェア・レーゲン』に対して飛び道具には滅法強いアイアスは相性がすこぶるいい。

しかし、シャルルは盾が一枚では勝てないと言う。

 

 

「わかった、気をつけろよ。」

 

「うん、隼人もね。」

 

 

シャルルがそういうのであれば俺はその言葉を信じる。

悔しいがボーデヴィッヒは俺より強い。

万全の状態でいかなければ負ける。

 

 

「話し合いは済んだか衛宮?」

 

「待っててくれてありがとよ。でも、今の数秒で攻撃しとけばよかったって後悔するぞ?」

 

「そうかもしれんな~?だが、するとしてもこちらの雑種だけよ。これがお前の相手をするのだから。しかし、よく待っていたものだ、連続して噛みつくとばかり思っていたぞ?」

 

「うるさい、黙れ。先ほどのは戦う前の小手調べに過ぎん。あれをいなせなければ私と戦う価値すらない。それに、貴様ら雑魚がどのような作戦を立てようが私には敵わないことをこの学園に見せつけるいい機会だ。」

 

「なるほどね、僕たち随分となめられてるみたいだね。」

 

「そうみたいだな。それじゃあ、お言葉に甘えてこちらから行かせてもらおうじゃないか!」

 

 

一直線にボーデヴィッヒに突っ込み、剣を振るう。

それに対しボーデヴィッヒはこちらに手をかざし、AICを発動する。

 

 

「莫迦が。」

 

 

AICに捕らわれた俺にレールカノンが向けられる。

AIC内ではアイアスも動きが封じられるため防ぐ手立てはない。

 

 

「どうかな?今は一人で戦っているわけじゃないんだから。」

 

「ラウラさん、動きが止まっているよ。」

 

 

レールカノンを撃とうというところで俺の背後から接近していたシャルルがアサルトライフルでボーデヴィッヒを攻撃する。

 

 

「チッ、こざかしい。」

 

 

AICの対象をライフルの弾に変えることで攻撃を防いだが、AICの対象から外れた俺は自由になる。

ライフルを防いでいだ僅かな隙を突きボーデヴィッヒに攻撃するが、プラズマ手刀で受け止められた。

 

 

「そう簡単に当てさせちゃくれないよな!」

 

 

俺は鍔迫り合いの状態でスラスターを全開にすることによってボーデヴィッヒを押していき、シャルルたちから離れる。俺の目的は攻撃ではなく、最初から距離を取ることだった。

あの距離では天馬の攻撃が来た場合防ぐのは難しいためだ。

 

 

「まさか自分から仲間から距離を取るとはな、やはり貴様は莫迦だな。」

 

 

しかし、ボーデヴィッヒの言う通りシャルルからの援護は期待できない。

俺が一人でボーデヴィッヒを相手にする、これが作戦の一番の鬼門だ。

 

 

「そう評価するのはまだ早いんじゃないか?」

 

 

剣の切っ先で手招きするようにする。

 

 

「俺の実力を見せてやる。」

 

 

俺とボーデヴィッヒの戦いの幕が開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「君の相手は僕だよ、天馬。」

 

 

目の前には黄金のISを纏った天馬。

 

(今の一連の動きに対して何にも対応しなかったってことはさっきの言葉も嘘じゃないかもね・・・)

 

隼人の相手はラウラさんがするという話、あながち嘘ではないらしい。

こちらと同じ考え、まさに以心伝心というやつだろう。

 

 

「役不足もいいところだが、衛宮があやつを倒すまでの暇つぶしぐらいにはなれよ?」

 

 

そう言って天馬が手を上げると彼の背後から数本の武器が空中に展開される。

あれがあの機体の単一仕様能力…

 

 

王の財宝(ゲートオブバビロン)。」

 

 

能力の名前であろうそれを口にし、手を振り下げる。

それと同時に武器がこちらに向かってきた。

 

 

「ほんとに飛んでくるなんてねッ!」

 

 

映像で見たことはあったが実際見てみるとやはり驚く。

遠隔無線を使っているというわけでもなさそうなのに動作一つで飛ばすことが可能。

全くもって謎の武器だった。

しかし、今はまだ数本のため避けることは難しくない。

 

 

「余裕があるようだな。どれ、一本増やしてみるか。」

 

 

しばらく避けていると数が一本増える。

情報通りであればこれ一本でかなり威力があるらしい。

一本増えるだけでも緊張感が大きく増してくる。

 

(今はまだ五本、映像では最大で十本までは使っていた…)

 

今射出されている数の倍、もしくはそれ以上の武器が飛んでくることも想定して動かなければいけない。

厄介なことこの上ない。

 

 

「どうした?逃げているだけではつまらんぞ。」

 

 

好き勝手言ってくれるな〜、もう。

だけど天馬の言う通り、避けてるだけじゃいずれ追い込まれる。

 

 

「じゃあ、そろそろこっちからも仕掛けていこうかな!」

 

 

飛んで来る武器を避けながらアサルトライフルを放つ。

しかし、盾を展開されることで簡単に防がれてしまう。

 

(ズルすぎでしょあれ…)

 

際限なく放たれる高火力の武器によって近付くことは困難、かと言って遠くから攻撃しても武器を避けながらの攻撃では盾で簡単に防がれてしまう。

何とかして接近したとしても・・・

 

(鎖があるんだよね…)

 

鎖に拘束されてお終い。

ほんとインチキもいい所だよ。

 

 

「でもやるしかないんだよね。」

 

 

隼人は格上であるラウラさんに食らいついていってる。

それは僕を信じてくれているからだ。

 

 

「泣き言言っている場合じゃない。」

 

 

隼人が信じてくれているならば、僕も隼人を信じて全力を出し切る。

天馬が手を上げ、次の射出の体制に入った。

 

(ここ!)

 

武器の引き金を引き、攻撃する。

その攻撃は盾に防がれることなく天馬に当たる。

 

 

「何ッ!?貴様、いつの間に!」

 

 

こちらの武器は先ほどのアサルトライフルではない。

握られているのはスナイパーライフル。

 

 

「流石にこの速度の武器切り替えには上手く対応出来ないみたいだね。」

 

高速切替(ラピッドスイッチ)か…!」

 

「そう、正解。」

 

 

高速切替(ラピッドスイッチ)、その名の通り武器を高速で切り替える技術のことであり、今の攻撃が通った理由でもある。

 

 

「君がこっちの武器に対応する盾を出すなら、こっちはその対応速度を超えればいい。」

 

「ククッ、ハハハハッ!」

 

 

防御が破られたと言うのに何がおかしいのか天馬が笑いだした。

 

 

「なるほど、確かにお前の言う通りだ。そう速く武器を切り替えられては対応が間に合わん。」

 

 

こちらの優勢を認めているがその顔には余裕の笑みが張り付いたままだ。

それが不気味でしょうがない。

 

 

「まぁ、今のままならという条件付きだかな。」

 

「ッ!?」

 

 

天馬が手を上げ、武器が展開される。

その武器の本数は8。先程よりも増えている。

 

 

「どうした、顔色が悪いぞ?たったの三本増えただけだ、問題無かろう。」

 

 

たった三本だって?三本もだ!

一回の射出ならば三本増えるだけだが、絶え間無く射出されるなら話は別だ。

 

 

「どこまで耐えられるか見物だな。」

 

 

手を振り下ろすとともに武器が射出される。

それを回避するが既に次の武器が展開されている。

 

 

「動きを止めたら串刺しだぞ?そら、動け動け。」

 

 

武器の嵐が襲って来る。

まだ避けることは出来るがそれで手一杯。

これでは先程のように攻撃するのは難しい。

 

 

「俺様をもっと楽しませろ!」

 

 

更にもう一本武器を増やそうとする天馬。

これ以上は不味いため、こちらも高速切替をして攻撃する。

 

(クッ、やっぱりこの状況じゃ厳しい…!)

 

弾は盾に防がれたり、体を軽く逸らすだけで対応されてしまう。

 

 

「撃ち合いとは楽しいものだなー!」

 

「全ッ然!」

 

 

こちらは精精、牽制程度の射撃で武器の射出を多少阻害できる程度だ。

それに比べ相手の攻撃はこちらにいつ命中してもおかしくない。

 

(隼人・・・はやく・・・・!)

 

私が耐えているうちに…

 

 

 

 

 

 

 

 

「グッ!」

 

「やはりこの程度か。」

 

 

やっぱり強え…

相性がいい筈なのに後手後手になってしまう。

 

戦い始めてから数分、俺はまだ一撃も攻撃を当てれていない。

その代わりこちらもダメージは減らしている。

 

(このままじゃ時間の問題か…)

 

何かしら手を打たなければやられてしまう。

 

 

「やはり貴様など相手ではないという事だ。」

 

 

ボーデヴィッヒがレールカノンを撃ってくる。

しかし、その程度の攻撃は通じない。

 

 

「アイアス!」

 

「甘いな。」

 

 

アイアスで防ぎ、反撃に出ようとしたところで横から声が聞こえてくる。

今のレールカノンは囮か!

 

 

「なっ!?」

 

「そして遅い!」

 

 

プラズマ手刀で切りつけられる。

こちらも剣を振るうが回避され、距離を取られてしまう。

 

 

「デカイ盾に頼りきったわかりやすい戦い方、愚かだな。」

 

 

巧い…

近接はAICによる牽制とワイヤーブレード、離れた距離ならこちらの長所を利用してくる。

 

 

「そしてその盾、近接攻撃は防げない。」

 

「・・・」ゴクリ

 

 

まさかそこまで気づいているとは…

不味いな…

 

 

「タネが割れればどうということはない。」

 

 

ワイヤーブレードがこちらに向かってくる。

さっきまでは盾を警戒してあまり出してこなかったが、ここからは多用してくることだろう。

 

 

「チッ、厄介だな。」

 

 

アサルトライフルでワイヤーブレードを牽制しながらボーデヴィッヒの動きに注意する。

気を抜けばAICの餌食になって一瞬で勝負が決まる。

 

カチッ、カチッ

 

アサルトライフルの弾幕が止んでしまう。

 

 

「クソッ、もう弾切れか。」

 

 

ライフルを投げ捨て、剣に持ち替えワイヤーブレードを払う。

 

 

「これで貴様には私に届く武器はない。」

 

 

レールカノンがこちらに放たれる。

迫るワイヤーブレードを剣で払い、レールカノンを急いでアイアスで防ぐ。

 

(何処から来る…?)

 

さっきはレールカノンを防いだ爆煙に紛れて横に回り込まれた。

だが、今度はそうはいかない。

神経を研ぎ澄まし、備える。

 

右方向の煙が不自然に揺らめく。

 

(そこだ!)

 

剣を振るうが空を切った。

そして煙の先から現れたのは・・・

 

(ワイヤーブレード…!)

 

剣を振り切った状態で避けられるものではなく直撃してしまう。

やられた、また読まれていた。

 

 

「貴様は私の掌で転がされるだけだ。」

 

 

ボーデヴィッヒの言う通り俺はここまで全部読み負けている。悔しいが完敗だ。

だが、俺だってただやられていた訳じゃない。

布石は充分に打ってきた。

 

(次だ、次で読み勝つ!)

 

再び、ボーデヴィッヒがレールカノンを放ってくる。

 

 

「アイアス!」

 

「学ばん奴だ。」

 

 

アイアスがレールカノンを防ぎ、爆煙に包まれた。

先程までと全く同じ展開。

どちらが有利かは言うまでもない。

 

 

「何ッ!?グゥ…!」

 

 

しかし、ダメージを負ったのはボーデヴィッヒだ。

何故なら俺が秘密兵器を使ったからだ。

予想外のダメージに怯んだボーデヴィッヒに更に二発、三発と攻撃が当たる。

そして俺の攻撃によって煙が晴れると俺の方を怒りと驚きを含んだ表情で見ているボーデヴィッヒが見えた。

 

 

「弓型のビーム兵器だと…!?そんな武器を使うといった情報はなかった…!」

 

「驚くのも無理はない、今初めて使ったんだからな。」

 

 

そう、俺の秘密兵器はこの弓。

これはブレードファクトリーに急遽作って貰ったビームを矢にした遠距離武装だ。

 

 

「お前なら必ずこっちの情報を頭に叩き込んでくると思っていた。」

 

 

ボーデヴィッヒは軍人だ。

ならば驕って情報収集を疎かにするなんてことはあるはずない。

 

 

「だからさっき俺がライフルを捨てた時にお前は確信したんだ、こいつにはもう離れて攻撃する手段がないってな。」

 

 

もちろん他の武装については警戒はしていただろう。

しかし、ここまで追い詰められるまでに俺が使わなかったこととIS学園の生徒を下に見ていたことがその警戒を捨てさせた。

 

 

「まさか、これを狙ってやられていたというのか…!?」

 

「まぁな、でも正直賭けだった。お前がワイヤーブレードで攻撃せずに近接に回り込んでいたら俺の矢は当たらなかった。」

 

 

外れていればすべてが台無しだった。

 

 

「賭けだっただと…!なんて愚かな…」

 

「そうかもな、だけど俺の攻撃はお前に届いた。つまり、今回は俺の読み勝ちだ。」

 

 

俺の言葉を聞き、ボーデヴィッヒの表情は怒りに染まっていく。

そしてレールカノンをこちらに向けて撃つ体制に入った。

 

 

「遅い。」

 

 

レールカノンを打つ直前で俺の矢が砲身に当たり、角度がずれた弾は俺の横を抜けていく。

そして俺の放った矢は三本。残りの矢がボーデヴィッヒにダメージを与えていく。

 

 

「クッ、図に乗るな!」

 

 

ワイヤーブレードがこちらに迫ってくるが矢ですべて射抜いて弾いていく。

 

(いける。)

 

何事にも流れは存在し、この戦いの流れは今俺にある。

ボーデヴィッヒは先ほどのことから動揺している。

攻めるなら今しかない。

 

(一夏には感謝しないとだな。一夏の一言がなければこの弓はなかっただろうしな。)

 

攻めながら心の中で一夏に感謝する。

実はこの弓は一夏のある言葉から閃いて作ってもらったものだ。

その言葉は俺がボーデヴィッヒ戦で必要になるであろうライフルを使えなくて悩んでいた時に言われた。

 

゛別に銃が使えなくてもいいんじゃないか?隼人は剣を握っているのがすげぇ似合ってるし、自分に合うものが一番だって。゛

 

その言葉を聞いて俺はライフルから離れて考えることができた。

何も遠距離は銃だけじゃない。そんなことに気づけたんだ。

そしてたどり着いたのがこの弓だった。

 

(右から一つ、左から二つか。)

 

すでに相手の攻撃を打ち落とすイメージはできている。

矢を三本放つ、そしてイメージ通り攻撃を打ち落とす。

昔からそうだった。弓を握ると思考が研ぎ澄まされて、イメージが自然と頭に浮かぶ。

後はその通りに射ればその通りになる。

これはきっと俺には弓が合っていると言う事なのだろう。

 

 

「今度はこっちから行かせてもらうぞ。」

 

 

矢を放ち動きを阻害し剣で斬りかかる。

矢を使うことでAICを牽制しているからできる戦法だ。

先ほどまでとは違い、あちらにもダメージを少しづつ与えられている。

しかし、それもしばらくすると押し返され始める。

 

(立て直しが思っていたよりも早いな。)

 

弓の攻撃にも慣れてきたのか徐々に打ち落とされる矢が増えてきている。

そしてこちらの隙をついてボーデヴィッヒが急接近してきた。

ここでそれを許せば俺の負けだ。

 

(仕掛ける!)

 

弓に残っているビームエネルギーを全て使った一矢を放つ構えを取る。

既にイメージは頭の中にある。

 

 

「ハッ!」

 

 

矢は光の柱となってボーデヴィッヒに放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ!」

 

 

急接近する私に向けて奴が放ったものは光の柱と呼べるほどの太さの攻撃だった。

これに当たればひとたまりもない。

そしてそれは既に鼻先まで迫っていた。

 

 

「ハアァァァぁぁ‼」

 

 

無理やり身体を捻ることで私はその攻撃を紙一重で躱した。

掠ったレールカノンは破壊されてしまったが今の反動で奴の弓も砕け散った。

そして私は止まることなく敵の目の前までたどり着き、AICを発動する。

 

(捕らえたッ!)

 

AICによって奴はもう動けない。

弓という慣れない攻撃方法に多少戸惑ったがその弓も既に壊れた。

 

 

「停止結界に捕らわれた貴様はもうお終いだ。」

 

 

プラズマ手刀を構え、振り下ろす直前、

 

 

「___ろ_」

 

 

奴が何かを呟いたがよく聞こえない。

まぁ、命乞いか何かだろう。

 

 

「命乞いか?情けない男だ。さっさと潰れてしm「避けろと言ったんだよ。」ッ!?」

 

 

手刀を振り下ろす直前、背中に衝撃が走った。

 

(なに・・・がっ・・!?)

 

衝撃の原因は二本の剣だった。

この剣が背後から飛んで来たのだ。

 

 

「もらった!」

 

「しまっt・・・!」

 

 

今の衝撃でAICが解けてしまい、自由になった奴に斬りつけられる。

しかし、痛みよりも混乱の方が酷い。

 

(一体、いつの間に・・・)

 

奴が剣を投げた瞬間など目撃していない。

それに奴は停止結界で動けなかったはず、その前だって・・・・

 

(・・・・・あの時かッ!)

 

あの柱のように太い攻撃を避ける時、私の注意は攻撃にいっており、僅かだが奴から目を離してしまっていた。

その瞬間に奴は剣を投げたのだ。弓までも布石だったとはやられた…!

 

 

(しかし私のシールドエネルギーは半分ほど残っている。距離をとって体勢を立て直せば・・・)

 

「シャルル!」

 

「待ってたよ!」

 

「なんだと!?」

 

 

先ほどまで離れていたもう一人がすでに迫ってきていた。

 

(瞬時加速(イグニッション・ブースト)だとッ!?)

 

コイツがつかえるなんてデータもなかった。

 

 

「停止けっk「もう遅いよ!」なっ!盾殺し(シールド・ピアース)!?」

 

 

まずいそんなものをくらってしまったら・・・・

 

 

「ハァ!」

 

「ガハッ‼」

 

 

壁に叩きつけられ、連続で盾殺しを打ち込まれていく。

みるみるうちにシールドエネルギーが削れていく。

 

 

「貴様の番はもう終わりだ雑種。」

 

 

さらに上から強烈な衝撃が襲ってくる。

それは武器の雨であった。

フランス代表にも攻撃は当たっており、その衝撃で拘束からは外れられた。

 

 

「まだだ・・・・まだエネルギーは残って・・・いる・・・!」

 

 

僅かだがまだエネルギーは残っている。

私は負けていない。

 

 

「見るに堪えん負け犬は引っ込んでいろ。」

 

「グフッ…」

 

 

突然周りから伸びてきた鎖に拘束され、壁際に叩きつけられた。

 

 

(負け犬・・・・?私が・・・・?)

 

「出来損ないの人形風情が。」

 

(私は負けたのか・・・?)

 

 

許されない…

そんなことはあってはならない…

私は・・・・・

 

負けたくない負けたくない負けたくない負けたくない負けたくない負けたくない負けたくない負けたくない負けたくない負けたくない負けたくない負けたくない負けたくない負けたくない負けたくない負けたくない負けたくないいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ・・・・・出来損ないは・・・・嫌だ・・・・・

 

 

『チカラガホシイカ?』

 

 

声・・・?

 

 

『ナンジ、チカラヲホッスルカ?』

 

 

誰だ・・・?

 

 

『サイキョウノチカラヲ。』

 

 

最強の・・・力・・・

 

 

「__せ__」

 

 

それはまさかあの人のような・・・

 

 

「よ___!」

 

 

奴らに勝てる力・・・・

 

 

「よこせ!!」

 

 

なんだろうと構わない。

力を・・・・寄越せ‼

 

 

『______起動。』

 

「あっ、あっ、ああああああああああああああぁぁぁ‼」

 

 

私が・・・最強・・・だ・・




謎の声に導かれるように力を求めたラウラ。
しかし、その様子はおかしい。
ラウラは一体どうなってしまうのか。

次回「投影(トレース)


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第四十六話 投影(トレース)

ほんと遅くなってすいません。
リアルが忙しくなかなか手をつけられませんでした。
次話からは週一を達成できるように頑張ります。


「ああああぁぁぁぁ!!」

 

「なんだ!?」

 

 

ボーデヴィッヒの様子がおかしい。

一体どうしたんだ。

 

 

「ほぅ、VTシステムが起動したか。」

 

「!?」

 

 

VTシステムだって!?

確かそれって…

 

 

「何あれ…」

 

 

ボーデヴィッヒのISの形状が変化し、黒い泥のようなものになる。

そして泥はボーデヴィッヒを呑み込んでいき、新たな姿を形作っていく。

その姿はブリュンヒルデを模しているように見える。

 

 

「最悪だ…」

 

 

完全に頭から抜けていた。

色々あって忙しかったがなんでこんな大事なことを忘れてるんだ俺!

 

(とにかく何とかしないと。状況は最悪だが落ち着け、まずは相手の観察だ。)

 

 

奴の方を視る。その手には雪片が握られており、奴の周りを何か大きなものが一つ浮遊している。

あれはなんだ?あいつの武器は雪片だけのはずだ。

 

 

『試合は即刻中止!選手はすぐにピットまで下がれ。教師部隊が対応する。』

 

 

奴の姿が完全に定まると同時に織斑先生からアナウンスが入る。

 

(このまま何もしないで下がった方がいいのか…?)

 

そんな考えが頭に浮かぶ。

下手に動くよりその方が良いのは明らかだ。

 

 

「思っていたよりもつまらんな。ただの醜悪な泥人形ではないか。」

 

 

俺が迷っている間にも天馬が行動を始めた。

十本もの武器が奴に射出される。

それを奴はたった一本の剣で全て弾いた。

 

 

「ッ!?」

 

「嘘だろ…」

 

 

なんて奴だ、あの数を全部弾くなんて…

これには天馬も動揺を隠せないでいる。

そして奴が天馬の方を向く。

 

 

「ッ!天馬、逃げろ!」

 

「ふざけr___」

 

 

一瞬だった。

確かに天馬と奴の距離は離れていたはずだった。

しかし、気がつけば天馬がアリーナの壁まで吹き飛ばされており、天馬がいた場所に奴がいる。

そこから奴は様子を伺っているのか動きを止める。

 

 

「天馬!」

 

「グッ、人形ごときが…!」

 

 

壁まで吹き飛ばされた天馬だが、幸いエネルギーには余裕があるらしく、大丈夫そうだ。

 

 

「よかった、でも一体何が…」

 

「・・・・恐らく瞬時加速だと思う。それもほとんど見えない程の…」

 

 

奴と俺らとじゃそれほどまでにレベルが違うってことか…

 

(そのレベルの動きはどれぐらいの負担になる?そもそも取り込まれているだけで相当な負担がかかってるんじゃ…)

 

わからないがあれがノーリスクなんてことは絶対にないだろう。

それがわかったならやるべきことは決まった。

 

 

「シャルルは先に下がっていてくれ。」

 

「隼人と天馬はどうするの…?」

 

「天馬の奴はどうせ下がれって言っても聞かないだろうし、俺も加勢する。ボーデヴィッヒを助けないと。」

 

 

ここは物語の世界じゃない、俺達が生きている現実だ。

ボーデヴィッヒの命の保証はどこにもない。

だから一刻も早くボーデヴィッヒをあのシステムから解放する。

それが今俺がやるべきことだ。

 

 

「なら僕も一緒に戦うよ。あれを相手にするなら少しでも戦力が必要でしょ?まぁ、隼人が僕を弱いと思っているなら別だけど。」

 

「まさか、そんな訳あるか。これ以上ないくらい頼もしい。でも、いいのか?これは俺の我が儘だ。何もせずに先生達を待った方がいいかもしれないし、危険なことだ。」

 

「うん、確かに僕達が戦う必要はないのかもしれないし、勝てるかもわからない。でも、それでも隼人はラウラさんを助けたいって思ったんだよね?」

 

「ああ。」

 

「それだけ聞ければ充分。隼人がラウラさんを助けるなら僕はその背中を守る。それが僕のやりたいことだよ。さぁ、一緒にラウラさんを助けよう。」

 

 

俺の前に立ち、手を差し伸べてくるシャルル。

 

 

「・・・ありがとう、シャルル。俺の背中は任せた!」

 

 

背中を誰かに預ける、そんなこと考えたこともなかった。

 

(馬鹿だな、俺って…)

 

これほどの仲間に頼らなかったなんてほんとに馬鹿だ。

剣を握る手に自然と力が入る。

 

(こりゃあ負けられないな。)

 

奴に向かって一直線に向かう。

それに対し奴もこちらに反応し始める。

 

 

「シャルル、天馬、援護頼む!」

 

「任せて!」

 

「俺様に指図するな!」

 

 

剣と銃弾の嵐が奴に殺到していく。

それすらも奴は弾き、躱す。

しかしこれで動きを制限でき、瞬時加速は使えないはずだ。

 

 

「ハァッ!」

 

 

二本の剣を振り下ろすが止められてしまう。

実際に剣を交えると奴のレベルの高さを改めて実感させられる。

そして気がついた時には反撃をされていた。

 

(速いし…重い…!)

 

シャルル達の援護で追撃は免れたが今のは精神的にくるものがある。

渾身の攻撃を容易く受け止められ、反撃された。

しかもその一撃がこっちよりも優れてるってんだから嫌になる。

 

 

「衛宮、引っ込まないならせめて俺様の盾にぐらいなって見せろ役立たずが!」

 

「お前だってもう少しこっちのこと考えて射出しろよ。すれすれのとこ飛んで来たぞ!」

 

「二人ともそっち行ったよ!」

 

「「グッ…!」」

 

 

いつの間にか接近してきていた奴から攻撃を受ける。

天馬は盾で俺は剣で防ぐが威力を殺しきれない。

 

 

「言い争ってる場合じゃないらしいぞ、天馬。力を合わせないと負けるぞ。」

 

「チッ!共闘など癪だが今回は特別に俺様の力を貸してやる!感謝しろ。」

 

 

天馬が武器を射出し、俺が奴の攻撃を受け止める。

そこにシャルルがライフルで攻撃していくことで着実にダメージを与えていく。

しかし同じ作戦が何度も通じる相手ではなく、シャルルが狙われ始めた。

 

 

「グゥッ…!おい、このままだと先にこっちがやられちまう。なにか策はないか!」

 

 

シャルルに斬りかかった奴の攻撃を滑り込みで受け止めることに成功する。

しかし、その分こちらも負担が大きい。確実にこっちがやられる。

根本的にレベルが違うのだ、なにか策がないと勝てない。

 

 

「俺様は天才だ、とっくに策など思いついている。」

 

「ホントに!?内容は?」

 

「貴様たちが知る必要はない。貴様らはさっきと同じように攻撃を続けろ、タイミングは俺様が計る。」

 

 

教える気はないってか。

まぁ、どっちみちその策に頼るしかない。

 

 

「信じるからな天馬!任せた!」

 

「口ではなく手を動かせ。」

 

 

そう言って先ほどと同じように天馬は武器を射出する。

それに合わせこちらも攻撃する。

そして反撃を受け止める。

射出、合わせる、受け止める、射出、合わせる、受け止める、射出、合わせる、受け止める…

 

(ほんとに策があるんだよな…?)

 

少し心配になって来た…

 

 

数十秒後、その時がやって来た。

 

 

「今だ、全力で剣を振るえ、衛宮!」

 

 

天馬から指示が来た。

恐らく今振るっても攻撃は当たらない。

しかし、俺がすべきことは天馬を信じて全力の一撃を出すことだ。

 

 

「ハッ‼」

 

 

俺の剣と奴の剣がぶつかり合う。

 

(もっと、もっと振り切るんだ!)

 

骨が軋むほどの力で剣を握り、押し入れる。

 

(グッ…あと一歩、死んでも押し勝つ!)

 

あと一歩足りないところに横からライフルの弾が奴を襲う。そのお陰で奴が少しだけ体勢を崩す。

 

 

「うおぉぉ!」

 

 

均衡は崩れ、俺が剣を振り切る。

その攻撃によって奴を十メートルほど吹き飛ばした。

そしてその先には

 

 

「よくやった、上出来だ。」

 

 

天馬が既に武器を展開して待っている。

武器は奴を包囲するように展開されている。

今まで見せたことがない展開の仕方だった。

 

(これを天馬は狙っていたのか…)

 

全方向からの一斉掃射、それが天馬の隠し玉だった。

 

 

「消えるがいい。」

 

 

武器が奴に殺到し、時には爆裂し、奴がいた辺りは煙に包まれた。

 

 

「勝った…よね!」

 

「これならいくらあいつでも捌ききれないだろ。」

 

「ク、ククッ、ハハハハハハ!所詮人形!俺様に勝てるはずもなk_____?!」

 

 

天馬が、いや、ここにいた全員が固まった。

その理由は簡単なことだ。

 

 

「嘘…」

 

 

煙が晴れるとそこには奴が佇んでいた。

その正面には先程まで一度も使おうとしていなかった謎の浮遊物。その浮遊物には複数の剣や斧が突き刺さっている。

 

 

「あれでカバーできない所を防いだってこと…? 」

 

「チッ、死に損ないが!」

 

 

天馬が新たな武器を展開する。

今あれに攻撃するのはまずい気がする。

 

 

「待て天馬!迂闊に「黙れ!」」

 

 

制止の声も天馬には届かず、武器が射出される。

その攻撃は先ほどのような包囲射出ではなく、一方向からの単調な射出。

もちろんそんな攻撃は奴には効かない。

浮遊物がすべての武器を防ぎ切った。

 

 

「今のってまるで…」

 

()()()()だ…間違いない…」

 

 

あの浮遊物は盾だ。

それもアイアスと同じ性能を有した…

しかし、本来そんな装備を奴はしていないはずだ。

 

 

「学習したのか…?」

 

「まさか…いや、そんなことって…」

 

 

恐らくボーデヴィッヒが俺と戦っている間に奴はアイアスを学習し、作り出したのだろう。

つまり奴は…

 

 

「まだまだ強くなるかもしれないってことか…?」

 

「そんな…」

 

 

戦うほどあいつは学習して強くなっていくかもしれない。

ここで絶対に止めなければいけない。

 

(でも・・・どうやってだ・・・?)

 

俺達のコンビネーション攻撃も防がれた。

二度目は通用しないだろう。

 

 

「___るな…」

 

「天馬?」

 

「ふざけるな!貴様はやられるべき敵なんだ!おとなしく俺様にやr___」

 

 

空中に武器が展開されたと思ったら天馬が壁まで吹き飛ばされており、ぐったりと動かない。

そして既に奴は目の前まで来ている。

 

(瞬間加速ッ!?)

 

目の前に全力で剣を振るうが、奴は既にいない。

同時に後方から大きな音が鳴る。

 

 

「シャルル!?」

 

 

後ろを向けば離れた壁に叩きつけられ、動かないシャルルが見えた。

気がつけば黒い死神は横にいた。

 

(あ、やられる…)

 

振り上げられる剣がゆっくり動いている。

しかし体は全く反応してくれない。

 

 

『右に避けろ。』

 

「ッ!?」

 

 

咄嗟に身体を右側に捻る。

振るわれた剣は身体すれすれのところを通過していく。

振るった直後の隙ともいえない僅かな時間で全力で距離を取り、防御態勢を整える。

 

 

「誰だあんた…」

 

 

突然個人通信(プライベートチャンネル)をつなげてきた謎の人物。

声からして男。

 

 

『おしゃべりしている暇があるのか?敵から目を離すな。』

 

「ッ…」

 

 

正体不明な奴から正論を言われるとなんかイラっとくる。

しかし、男の言う通りだ。

少しでも気を抜けば瞬間加速の餌食だ。

 

 

『勝ちたいのならよく聞いておけ。いいか、奴が瞬間加速を使うときには僅かに右に傾く。』

 

 

右に傾く…

信じてもいいのか?こいつは正体もわからないような相手だ。

 

(しかし、さっきはこいつの声がなければやられていた…)

 

罠かもしれないがこのままではどっちみちやられる。

ここは一か八か賭けるしかない。

 

奴の身体が右に傾く。

そして気がつけば目の前まで来ている。

 

(左から来るッ!)

 

右手の剣をギリギリ挟み込むことで衝撃を和らげ、左手の剣で奴を斬りつける。

斬りつけられた奴は少し距離をとり、様子を伺っている。

 

(事実だった!)

 

男の言っていたことに偽りはなかった。

少なくとも敵ではないらしい、ひとまずは味方と考えていいだろう。

 

 

『さて、多少信じられるようになったところでレッスン2だ。』

 

 

ここまで計算通りか。

まぁ、情けないがこの男が頼りだ。

 

 

『考えて動きすぎだ。もっと感じ取れ。』

 

「は?ちょ、どういうk『そら、来たぞ。』あぁクソッ!」

 

 

接近してきた奴の攻撃を防ぎながら男の言葉の意味を考える。

 

(感じ取れって何をだよ!)

 

奴の攻撃がかすり、じりじりとエネルギーが削られていく。

 

(クソッ、速すぎて次の軌道がわからなくなって・・・・・そうか!)

 

考えすぎってのは相手の動きを全部予測しようとしていたことか。

今回みたいな考えている暇のない奴が相手の場合これじゃあ対処が間に合わない。

じゃあどうするのか?それもすでに言われていることだ。

 

(相手の動きを感じ取るんだ。神経を研ぎ澄ませ。)

 

予測できない部分の相手の動きに神経を研ぎ澄ます。

先ほどに比べると被弾が減ってきている、しかしそれでも反撃する余裕まではない。

 

(まだ駄目だ。感じ取るだけじゃ駄目だ。)

 

反応速度で負けているから反撃できない。

ならば相手が動く前に行動を感じ取って対処していけばいい。

 

 

「――――同調(トレース)開始(オン)。」

 

 

感じ取れ、相手がどう動くのか、何をするのか。

同調しろ、相手の動きに、速さに。

 

身体に熱いものが流れている。

身体は火照り、いつも以上の働きをしてくれている。

 

(いける、奴がどう動くのかがわかる。)

 

次々と斬りかかってくる攻撃をいなしていく。

そして隙ができたところを斬りつける。

 

 

「今のままじゃやっぱり駄目か。」

 

 

しっかりと剣で衝撃を和らげられている。

あくまで防御ができるようになっただけで俺の攻撃の技術は上がっているわけではない。

 

 

『動きが鈍い、自身のイメージを明確にしろ。常にイメージするのは最強の自分だ。』

 

 

最強の自分…

イメージしろ。あいつと正面から戦っても一歩も引かず、押し勝つ俺を。

そのために必要なものをそろえろ。

 

 

「――――投影(トレース)開始(オン)。」

 

 

相手の動きを投影しろ。

自身を塗り替えろ、あいつと戦える自分に。

技術を読み取り、取り込め。

 

 

「――――投影(トレース)完了(オフ)。」

 

 

――――技術投影、全工程完了

 

 

「ハッ!」

 

 

鋭く重い攻撃を奴に繰り出す。

先ほどまでとは違い、剣の力が拮抗している。

いや、技術とイメージが一体化しているこちらの方が上をいっている!

斬りつけた手ごたえがしっかりと感じられる。

 

 

「やっと、まともに一撃入れることができた。」

 

 

それから何度か斬りあい、着実に奴を押し始めた。

 

(いける!このまま押し切る。)

 

身体は軋み、焼けているのかと思うほど熱い。

もう少しでいいから持ってくれ、そう祈り続けながら剣を振るう。

そして最後の一撃。

 

 

「ハアアアア!____!?」

 

 

確実に直撃するタイミングであった攻撃が防がれ、身体からは熱が抜けていく感覚がする。

 

(グッ…!あと一撃なんだ!堪えろ…!)

 

抜けていく熱を押しとどめる。

恐らくあと一撃しか放つ力が残っていない。

 

しかし、奴の返しの一撃がこちらに迫ってきている。

避ける余力はない。よければ攻撃する力がなくなる。

 

(クソッ…!駄目か…!)

 

剣が俺を捉える直前、発砲音とともに剣の軌道がずれ、頬を掠める程度に終わった。

 

 

「はやと・・・・いまだよ・・・」

 

 

ボロボロであるシャルルがチャンスを作ってくれた。

 

 

「うおぉぉぉ!!」

 

 

持てる力をすべて使い剣を振るうが奴は既に体勢を立て直している。

 

(間に合え‼)

 

奴の剣がこちらの剣を阻む寸前でその剣は空中から伸びている鎖によって静止させられた。

視界の隅で腕だけ動かしている天馬の姿が見えた。

 

 

「俺達の勝ちだ。」

 

 

俺達の刃が奴を切り裂き、中からボーデヴィッヒが崩れ落ちてくる。

 

 

「おおっと…」

 

 

落とさないようにしっかりとボーデヴィッヒを受け止め、地上に降ろす。

意識を失っているだけで息はちゃんとある。

 

 

「よかった・・・・ぶじ・・で・・・」

 

 

そこで俺の意識は途切れた。



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第四十七話 激戦を終えて

とりあえず今回で衛宮回は区切りです。


暗く、淀んだ場所にいた。

いや、浮かんでいるのだろうか?

自身が上下左右どこを向いているかすら分からない。

自身の周り以外は見渡す限り闇が広がっている。

 

(ここは…?)

 

身体を動かすとまるで水の中で動いているようで動きにくい。

自分は海中にでも居るのだろうか?

しかし、不思議と息苦しくはなく、むしろとても心地よい。

 

(ここがどこかなど、どうでもいいか。)

 

ただ、この心地よさを感じていたい。

それ以外の事などどうでもいい。

まるで身体が空間に溶けていくような感覚。

 

(いや、ほんとに溶けているのか。)

 

足先が揺らめき、徐々に溶けて消えていっている。

痛みはなく、頭の中がフワフワとしてくる。

それがまた心地よく、身を委ねる。

足先から足首へ、足首から膝へ、膝から腰へとどんどん身体が消えていく。

 

(眠くなってきたな…)

 

身体が半分ほど消えてくると急に眠気がしてきた。

そのまま眠気に身を委ねようと瞼を閉じた所で瞼に僅かに光を感じる。

何事かと思い、瞼を開けると目の前にスクリーンのようなものがあった。

そこには剣を振るう赤髪の男とその剣を弾く黒い剣が映っていた。

 

(あれは、だれだったか…?)

 

私はこの男を知っている。

しかし、もう名前すら分からない。

 

(まあ、いいか…)

 

男が誰であったかなどどうでもいい事だ。

そう思い、瞼を閉じようとするが何故か目の前のスクリーンから目が離せない。

映っているのは男が何度も向かって来ては黒い剣に斬りつけられる姿だ。

 

(なにをしてるんだこいつは…?)

 

男の技量では黒い剣の持ち主には敵わないのは明らかだ。

それなのに男は諦めていないのか何度も向かってくる。

見る価値などない、そう思っても目を離せない。

 

(あきらめるところでもみてやるか。)

 

今は胸元まで身体が消えている。

完全に溶けて消えるまでもう少し掛かりそうだ。

それまでの暇つぶし、そう思い見ることにした。

 

 

(なぜだ…なぜたちあがれるんだ…?)

 

何度も危ない場面があった。

もう終わったと何度も思った。

しかし、男は未だ倒れていない。

むしろどんどん動きが良くなってきている。

ただの暇つぶし、どうでもいい、そう思っていたはずなのにいつの間にか私はスクリーンに釘付けだった。

 

(あっ…)

 

信じられなかった。

先ほどまで防御すらままならなかった男が完璧に黒い剣を受け止めた。

 

(いったいどこから…)

 

男の剣が黒い剣を押し返す。

その勢いのまま男は剣を振るう。

 

(そんなちからがでる…)

 

男が剣を振りかぶる。

恐らくこれが最後の一撃。

 

(なぜそこまでつよくなれる…)

 

男が剣を振るうと同時に空間がガラスのように割れた。

周りが光に包まれ、首まで消えていた身体が元に戻っていき、誰かに手を引かれる感覚がする。

誰かと思い見ると衛宮隼人だった。

私の手を引き、光が差し込んでくる空間の割れ目へと向かって行く。

手を振り払おうとは思わなかった。

 

 

「衛宮隼人・・・お前はどうしてそんなに強い?」

 

 

割れ目へと向かいながら私は聞く。

どうして倒れなかったのか、どうして勝てたのか。

衛宮隼人の強さの源はいったい何なのか。

 

 

「俺が強い?、そんなことない。」

 

 

振り返ることなく衛宮隼人は答える。

 

 

「だがお前は勝った。」

 

「俺はただ守りたかっただけさ。」

 

「守りたかった?なにをだ?」

 

「観客席にいた生徒や一緒に戦ってくれた天馬、シャルル、そしてボーデヴィッヒ、お前のこともな。」

 

 

私も?

一体なぜ?

 

 

「私を守る?なぜお前が私を守る必要がある。放っておけばいいだろう。」

 

「飲み込まれる直前の苦しそうなお前をみたら放っておけなかった。」

 

 

私が苦しそうだった…

 

 

「そんなことでか…?」

 

「重要なことさ。誰かが困っていたり苦しんでいたら助ける。それが俺の目指す正義の味方だからな。」

 

「正義の味方…」

 

「まだまだちっぽけだけど、この両手が届く範囲の人は絶対に守りたいんだ。」

 

 

まだまだちっぽけか…

こいつの見ている物はどれほど大きいのだろうか。

 

そうこうしているうちに光の割れ目の前まで来ていた。

そして手を引かれるままに私は割れ目へ飛び込む。

 

 

「その中にはお前もいるからな、ボーデヴィッヒ。」

 

 

光の割れ目に飛び込んだ瞬間、そんな言葉が聞こえた。

 

 

「はっ…」

 

 

視界に飛び込んできたのは知らない天井だった。

 

 

「ここは…」

 

「やっと目を覚ましたか。」

 

 

隣に顔を向けるとそこには椅子に座り、リンゴを剥いている教官がいた。

 

 

「教官…ここは…?」

 

「ここは保健室だ。それと織斑先生と呼べ、馬鹿者。」

 

 

そう言いながら切ったリンゴを一つフォークで刺し、こちらに向けてくる。

そのリンゴの切り方はウサギ切りだった。

 

 

(細かい…)

 

「食えるなら食っておけ。」

 

「あ、ありがとうございます。あっ…」

 

 

教官からフォークを受け取ろうとするが、手が震えうまくつかめない。

 

 

「食べさせてやる。ほら、口を開けろ。」

 

「申し訳ありません…」

 

 

教官に手間をかけさせてしまうとはなんという失態…

 

 

「食べながらでいい、聞いておけ。」

 

 

教官にリンゴを食べさせていただいている間に私の身に起こったことを聞いた。

 

VTシステムが私のISに積まれていたこと。

発動の条件が蓄積ダメージ、精神状態、そして何より使用者の願望であるということ

 

 

「私が望んでしまったからですね…」

 

 

私が教官のようになりたいと望んでしまったから暴走してしまった。

そのせいで・・・・

 

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ、お前はいったい何者だ?」

 

 

教官は私に問う、何者であるかを。

自分を保てず暴走し、私は黒い何かへと姿を変えた。

それはきっと私が誰でもないからだ。

 

 

「私は・・・・・」

 

 

誰でもない…

 

 

「誰でもないならちょうどいい。お前はこれからラウラ・ボーデヴィッヒだ。」

 

「えっ…?」

 

「それから、お前は私になれないぞ。」

 

 

そう言って教官は部屋を後にする。

 

 

「・・・・・プッ、ふふふ、あははは!」

 

 

その通りだ。

 

(私は、ラウラ・ボーデヴィッヒだ。)

 

今日がラウラ・ボーデヴィッヒの一歩目だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いたたたた…」

 

 

湯船につかると少し傷にしみる。

 

 

「それにしてもほんと広いな大浴場。」

 

 

現在俺はようやっと男子にも開放された大浴場に入っている。

俺が起きた時にはすでに他の奴らは全員入っていたため一人だ。

 

 

「お邪魔しまーす。」

 

「ふぇっ?」

 

 

大浴場の扉が開き、シャルルがバスタオルを巻いた状態で入ってくる。

 

 

「なっ!?ちょ、シャ、シャルルさん!?」

 

「あ、あんまり見ないで。隼人のエッチ。」

 

「えっ、す、すまん!?」

 

(いやいや、不可抗力っていうか、その・・・・見ちゃうだろ男なら…)

 

 

そう思いつつもしっかり両眼を閉じる。

もちろん理性を制して決して開けない。

 

 

「ど、どうしたんだ?急に入ってきて。」

 

「やっぱりお風呂に入ってみようかなって思ったんだけど、僕がいたら迷惑かな?それなら出るけど。」

 

 

迷惑な訳ないが理性が持ちそうにない。

 

 

「いやいや、俺の方こそ出るよ。もう堪能したから。」

 

 

タオルに手を伸ばし、湯船を出る準備をする。

 

 

「あっ、待って。大事な話があるんだ。隼人には今すぐ聞いてほしい。」

 

「わ、わかった。」

 

 

背中合わせで湯船につかる。

 

 

「今さっき社長さんから連絡があったんだ。」

 

「父さんから!?ってことはつまり!」

 

「うん、準備が整ったんだって。」

 

 

驚いたまさかこんなに早く準備が整うとは…

 

 

「じゃあ、もうシャルルが男のふりをする必要はなくなって、自由になったってことだな。」

 

 

それはつまりこの学園を出てもいいと言う事だ。

脅かされることなくやりたいことをできる。

ようやっと普通の女の子の生活に戻れる。

 

 

「これからシャルルは何をしたいんだ?学園を出て、普通の学校に行くのか?趣味に打ち込むとかもいいかもな。それから__「ここに残ろうと思うんだ。」__えっ?」

 

 

ここに残ると言ったのか?

 

 

「どうしてだ?もう自由なんだ、この学園に隠れてなくてもいいんだ。テストパイロットになるかもしれないけどこの学園じゃなきゃいけないわけじゃない。」

 

「違うよ、隼人。僕は隠れたりとかテストの為とかでこの学園に残るわけじゃない。隼人がいるから残るんだよ?」

 

「!?」

 

 

背中に柔らかいものが当たる。

恐らく今俺は後ろから抱き着かれている。

つまりこの柔らかさは・・・・・

 

 

「シャ、シャルルさん…?」

 

「シャルロット。」

 

「えっ・・・」

 

「僕の名前、お母さんがくれた本当の名前。急だけどその・・・一番最初に伝えるのは隼人って決めてたから。」

 

 

えへへ、と恥ずかしそうな笑い声が後ろから聞こえてくる。

 

 

「シャルロット・・・・いい名前だな。」

 

「うん!僕はもう自分を偽らないよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん改めてよろしくお願いします。」

 

「えぇーっと・・・デュノア君はデュノアさんでしたー…」

 

『・・・・・・・・えぇぇ!?』

 

 

トーナメントから一日たった朝のホームルームで教室がどよめく。

シャル(シャルロットの新しいあだ名)が女の子の制服で現れたからだ。

 

(ていうかほんとに気が付いていなかったんだな皆。)

 

何人かは感づいているのかと思ったがそんなこともなかったようだ。

頑張った甲斐があった。

 

 

「同室は衛宮君だったよね?同室で知らないなんてことはなかったんじゃない?」

 

「それに男子の大浴場が昨日解放されたよね?」

 

「それってつまり・・・」

 

 

あっ、なんかまずい気がする…

 

 

『キャー‼』

 

 

興奮した女子たちの声が教室に響く。

 

 

「つまりつまりそう言う事よね!?」

 

「どこまでいったの!?」

 

「嘘でしょ衛宮君!」

 

「ホントはどうなの!?」

 

 

あっという間にクラスの女子、いや他クラスの女子まで押し寄せてきていた。

反応が遅れた俺はその波に呑まれ、押しつぶされる。

もちろんあいつら(鳴海、天馬、一夏)は既に退避してやがった!

 

(や、やばい・・・・息が・・・死ぬッ・・・・)

 

今日に限って織斑先生はいないらしい。

このままでは本当に窒息死する。

 

 

「だ・・だれ・・・・か・・・」

 

 

力を振り絞り声を出し、腕を伸ばす。

するとその腕を誰かがつかみ、引っ張り上げられる。

俺を引っ張り上げてくれたのはISを纏ったボーデヴィッヒだった。

 

 

「ケホッ、ケホッ。助かったよボーデヴィッヒ、ありが____」

 

チュッ

 

 

俺の言葉を遮るように唇がボーデヴィッヒの唇でふさがれた。

 

 

「お、お前は私の嫁にする!異論は認めん!」

 

 

少し顔を赤らめるボーデヴィッヒを目の前に思考が停止する。

 

 

「・・・・・・・・えぇ!?」

 

「は~や~と~?」

 

 

殺気を感じ、恐る恐る後ろを振り向くと笑顔のシャルがいた。

しかしその目は笑ってないし、ISを展開してるのもおかしい…

 

 

「シャ、シャル…?」

 

「これはどういう事かな?お仕置きが必要?うん、必要だよね!!」

 

「な、なんでさぁーーー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

~とある研究所~

 

「ほんと最悪なとこだね。早く消しちゃお。」

 

 

ポケットからスイッチを取り出し、それを押す。

すると研究所の半分ほどが爆発する。

 

 

「無駄に広いなぁ。」

 

 

この研究所はVTシステムとかいう不細工なシロモノを研究していたところだった。

研究するだけなら見逃しといてやったのにここの屑どもはやってはいけないことをした。

 

(こんなものを私のISに積み、あまつさえちーちゃんを穢すに等しいことをした。)

 

つまり、万死に値する。

 

 

「まぁ、もうここにいたやつら全員破滅させたけどさ。」

 

 

ここにいた研究者もどきどもは何かしらの爆弾を抱えている。

それをばらすだけでそいつらは終わりだ。

恐らく今頃は命を狙ってくる連中との鬼ごっこ中といったところか。

 

 

「ざまあみろってやつかな。さて、残り半分m____」

 

 

爆音があたりに鳴り響く。

爆発が起きたであろう場所は残りの半分が残っているところだ。

 

 

『束様!』

 

「クーちゃん、どったの?」

 

『何者かが残りの施設を爆破しました。理由は不明です。』

 

「ふ~ん。」

 

 

誰だか知らないけど束さんの獲物を横取りするとはちょっとだけむかつく。

 

 

『映像をそちらに送信します。』

 

 

クーちゃんから映像が送られてくる。

その映像には全身黒づくめでフルフェイスヘルメットを被った奴が映っている。

今は爆破後の跡地を見て周って、生きてる物がないか確認中といったところだろう。

 

 

「私がちょっとお話に行くからクーちゃんはそのまま待機ね。」

 

 

正直暴れたりないので、このヘルメットで憂さ晴らしをしに行く。

 

(束さんの邪魔するほうがいけないんだよ。)

 

ニンジン型ロケットに乗り、奴がいるところまで飛んでいく。

数秒もすれば奴の姿を確認できた。

 

 

「まずは挨拶ってね。挨拶は大事だからね!」

 

 

ニンジンロケットでそのまま突っ込んでいく。

もちろん特別製なのでこちらが壊れる心配はない。

壊れるのは相手だけというのが売りなのだが避けられてしまった。

 

 

「やぁやぁこんにちは、天才篠ノ之束さんだよ。」

 

「いきなりロケットで頭上からとは随分なご挨拶だな、天災。」

 

 

その声は機械音声であり、男か女か判別はできない。

まぁ、体格と今の動きからして男で間違いないけど。

 

 

「ん~、ちょっと美しさには欠けてたかな?束さんうっかり〜」

 

「それで、天災が何の用かな。私は大したものではないと思うのだが?」

 

「う~ん、あんたが誰であろうと、とりあえず束さんから横取りしたことを後悔させようかなって。」

 

「横取り?勘違いしないで欲しいがここを狙っていたのは私も同じだ。寧ろお互いに感謝するべきだ。半壊させてくれてありがとう、手間が省けたってな。」

 

「つまんない冗談だね。」

 

 

お互いに感謝?わかりやすすぎる程の嘘だ。

手間を省きたいならあのまま束さんが破壊するのを待てばいいはずなのに、わざわざ自分で爆破した。こっちの爆発音が聞こえてないはずないのにね。

 

 

「バレバレか。」

 

「うん、だからもうお終い。じゃあね。」

 

 

瞬時に距離を詰め、頭部を破壊する勢いで拳を放つ。

 

 

「危ない危ない。対応が遅れていたら死んでいたな。」

 

 

拳をいなしそう言う奴には余裕がありそうだ。

こちらも全力ではないとはいえ少し、ほんの少しだけ驚いた。

 

 

「へぇー、ただの雑魚ってわけじゃないんだ。」

 

「鍛えてるからな。」

 

 

軽口を叩く奴に連撃を放つ。

一撃放つ事たび徐々にギアを上げていく。

 

 

「究極の知を持ちながらこれ程までの武も持っているとは恐れ入る。」

 

「あっそ。」

 

 

顎への蹴り上げを放ちヘルメットを砕きにいくが防がれる。頭部に関しては群を抜いて反応がいい。

 

 

「白とは意外だな。」

 

「束さんは純白そのものだからね。」

 

「面白い冗談だ。」

 

 

ヘルメットから反撃をされる。

しかし、その攻撃は妙だ。

 

(薄っぺらい。)

 

その攻撃は確かに鋭く、重い。

しかしその拳には厚みがなく、蹴りには歴史がない。

積み重ねてきたものが何も感じられないのだ。

それはつまり、磨き上げてきた拳を使っていないということ。

 

(ここまでコケにされたのは初めてかも。)

 

ちょこっとだけ頭にきた。

だからもう終わらせにかかる。

 

奴の攻撃を弾き、そのまま頭部へ蹴りを放つ。

その蹴りは腕でガードされた。

 

 

「ちょっと束さんのこと舐めすぎだよ。」

 

 

しかし、蹴りは止まることなく腕ごと頭部を蹴り抜く。

奴は数メートル吹き飛び、瓦礫の山に激突する。

さすがに首を飛ばすまではいかなかったがヘルメットを半壊させる程度は出来たはず。

 

 

「舐めてはいない、これは仕方の無いことだ。」

 

 

瓦礫の山から顔を手で半面隠した奴が出てくる。

今ので機能が壊れ掛けているのかその声にはノイズが混じっている。

 

 

「しかし攻撃は最大の防御とはよく言ったものだ。全くもって痛感させられた。」

 

 

奴の防御は私の攻撃を防げるほどのものだった。

しかし薄っぺらい攻撃の隙がそれを駄目にしてしまい、今の状況という訳だ。

 

 

「さてさて、手で顔を隠したままでこの束さんの攻撃を防げるのかな?」

 

「無理だな。」

 

 

そう言って奴は赤い何かを腰に当てる。

腰に当てた瞬間それは腰に巻き付きベルトになる。

そのベルトには見覚えがある。

何度も映像で見たものだ。

 

 

「だから帰らせてもらう。」

 

Eternal(エターナル)

 

 

ベルトにメモリを差し込むとやつは白き姿へと変わる。

 

 

「まさかこんな所で出会えるなんてね、エターナル。」

 

「こっちは会いたくなかったよ、篠ノ之束。」

 

 

今にも飛び立とうとする奴に私は一つだけ質問する。

 

 

「あんた、名前は?」

 

「名前?先程お前がエターナルと言ったではないか。」

 

「それはその姿を表す名前でしょ。あんた自身の名前は何?」

 

「・・・・・NEVER(ネバー)だ。」

 

 

NEVER(ネバー)、その名前覚えた。

 

 

「次会ったら逃さないよ。」

 

「なら会わないようにするさ。」

 

 

そう言ってネバーは飛び去った。

準備のない今奴を追跡するのは不可能だ。

 

 

『束様、申し訳ございません。目標をロストしました。』

 

「クーちゃんは気にしなくていいよ。これはしょうがない。だってあれは・・・・」

 

『束様?どうしました?』

 

「ううん、何でもない。帰ってご飯にしよっか。」

 

 

だってあれは雄くんの物なのだから。




おまけ

一夏「そういえば、大事な話って結局なんだったんだ?」

箒「そ、それはだな…」

一夏「大事な話なんだろ?聞かせてくれよ。」

箒「い、いやそれはちょっと…」

一夏「俺を信頼しろって箒。」

箒「・・・わかった。本当に大事な話だからな?わかっているな?」

一夏「おう!」

箒「そ、それじゃあ言うぞ。・・・・つ、付き合ってくれ。」

一夏「・・・・・・」

箒(ダメか…?)

一夏「いいぞ。」

箒「ホントか!?」

一夏「当たり前だろ、雄二兄ちゃんの墓参りだろ?」

箒「えっ…」

一夏「俺たち二人にとって大事といえば雄二兄ちゃんの事だろ?」

箒「だ・・・・・」

一夏「だ?」

箒「大事だけどそうじゃない!」渾身の右ストレート

一夏「ぶべぇ!?」

このあと優にジャイアントスイングされることを一夏はまだ知らない。


雄二「因みに俺の墓は建ってないよ。」テヘペロ


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第四十七・五話

頬の痛みでキーボードを打つ手が一瞬止まる。

 

 

「いっつ…束のやつ結構マジで蹴りやがって…」

 

 

おかげでヘルメットは七割ほど破損して修理しなければいけない。

 

(どうせいじるなら今度はもっと頑丈に作るか。)

 

ヘルメットの改造案を思い浮かべながら作業のスピードを上げていく。

 

 

「だ〜れだ?」

 

 

突然視界が塞がれ何も見えなくなる。

まぁ、作業は目を瞑っても出来るぐらいのものだから支障はない。

 

 

「無視?ねぇ、無視なの?手ぐらい止めようよ…」

 

 

ちょっとすると後ろがいじけ始めたので手は止めないが反応することにした。

 

 

「またサボりですか?会長。」

 

 

初めて話して以来ちょくちょくこの子は俺の部屋に来るようになった。

主にサボりの穴場として活用しているようだ。

 

 

「まぁ、そんなとこよ。ていうか手は絶対止めないのね…」

 

 

何を作っているの?とこちらの肩に手を乗せ、後ろからグイッと乗り出して来る。

 

 

「んー、ちょっとしたものですよ。」

 

「へぇー、プログラミングとか出来たのね・・って、打つの早ッ!」

 

 

俺の打ち込みの早さに驚ながらジーッと画面を見つめる楯無ちゃん。

 

 

「これは・・・ゲーム?内容までは分からないけど。」

 

「さすが会長、当たりですよ。」

 

 

完璧超人と言われるだけのことはあるようで俺が何を作っているか分かるようだ。

 

 

「好きなの?」

 

「まぁまぁですかね。これも気晴らしでやっているだけですし。」

 

「気晴らしって何の?」

 

「秘密です。」

 

「えぇー、いいじゃない。教えて・・・・って、貴方怪我してるじゃない。ちゃんと手当てしないとダメよ?」

 

「別にこのぐらいどうってことないです。」

 

「はいはい、今手当てしてあげるから待ってて。どうして男の子って強がるのかしら?」

 

 

いいと言っているのに楯無ちゃんは部屋に備え付けの救急箱を取り出し、手当てする気満々だ。

 

 

「ほら、こっち向いて。」

 

「このぐらい自分でやりますから。」

 

「顔の傷なんだから自分でやるより人にやってもらった方がいいのよ。ほら、作業止めて。」

 

「・・・・はぁ〜、わかりました。お願いしますよ。」

 

 

この子は結構頑固なようで、任せないと引き下がりそうにないため、任せることにした。

 

 

「はい、終わり。」

 

 

腕は確かなようで手当は数分もしない内に終わり、仕上がりは完璧だ。

 

 

「ありがとうございました、会長。」

 

 

手当てが終わり、俺は作業を再開させる。

 

 

「どういたしまして。それにしてもどうしたのその傷は、ケンカでもした?」

 

「ケンカなんてしてませんよ。ちょっとふらついてぶつけただけです。」

 

「えぇー、ほんとにぃ?実は女の子怒らせてぶたれたとかだったりしてー。」

 

 

ニヤニヤとしながらこちらを見てくる楯無ちゃん。

全く何を期待してるんだか。

まぁ、あながち間違ってないのがなんともいえないが…

 

 

「そんな事より会長は妹さんと少しは進展したんですか?」

 

「グッ、それは…その…」

 

「はぁー、やっぱりな。」

 

「しょ、しょうがないじゃない!?焦って変な事言っちゃうかもだし…簪ちゃん忙しそうだし…」

 

 

他では肝が据わってるのにこの子は妹に関しては臆病になる所がある。

 

 

「まずは何でもいいんですよ。昨日は何食べたとか些細な事でも会話する事が重要なんですから話し掛けましょう。」

 

「は、話し掛ける!?それはちょっと勇気が…」

 

「妹に話し掛けるより男の部屋に来る方がよっぽど勇気がいると思いますけどね。」

 

「うっ…それは鳴海君のことを信頼してるからであって…」

 

「じゃあ、妹さんのことも信頼してあげてください。」

 

「・・・・・・してるわよ…」

 

 

そう言って楯無ちゃんは膝を抱えて座り込んでしまう。

なにやら訳ありのようである。

キーボードを打つ手を止め、楯無ちゃんの正面に座る。

 

 

「よければ今の状態になった理由を伺っても?」

 

 

簪ちゃんにとって楯無ちゃんはコンプレックスというのは聞いたが楯無ちゃんがここまでなるというのは腑に落ちない。

それだけのことなら楯無ちゃんが話し掛けられない訳が無いし、あの時話した感じ簪ちゃんもコンプレックスを感じているものの楯無ちゃんをそこまで嫌っているようには思えなかった。

 

 

「ん~、どうしてこうなったか、か…」

 

 

楯無ちゃんのその顔はいつも通りに見えるが膝を抱えている腕の力が強まった。

 

 

「すみません、失礼なこと聞きました。会長の気持ちも考えずに…」

 

「えっ?もしかして顔に出てた…?」

 

 

どうやら無意識だったようで珍しく心配そうな顔をしている。思っていたよりも根深いなこれは…

 

 

「裾、掴みすぎてパンツ見えてますよ。」

 

「へっ?・・・・キャア!///」

 

 

スカートを押さえる楯無ちゃんを尻目にイスに座り直し、作業を再開する。

 

 

「無理は良くないですからね。自分から言ってもいいなって思えたら聞かせてください。」

 

「・・・うん、ありがとね鳴海君。」

 

 

少し表情が明るくなった。

うん、可愛い子はやっぱり笑顔じゃないとな。

 

 

「そんな会長にプレゼントです。」

 

 

パソコンからディスクを取り出しケースに入れ、楯無ちゃんに渡す。

 

 

「これ作っていたゲームよね?」

 

「はい、シミュレーションゲームです。」

 

「シミュレーションってなんの?」

 

「妹さんとの関係修復のですよ。」

 

「えっ!?」

 

「名付けて『トキメキ簪ハート(プラス)』。会長の妹話や実際に俺が話した妹さんの性格を参考に再現できる限りで作ってみました。」

 

 

出てくる人物の絵や背景は全て俺が描いたものを使い、声も合成音声によって作ったためフルボイスの力作だ。

 

 

「なるべくリアルさを大事にしましたけど、これの通りやれば上手くいくなんてことはないですからゲームと割り切って思い切り楽しんでもらえれば嬉しいです。まぁ、少しは切っ掛けになって欲しいですけどね。」

 

「・・・・・」

 

 

あれ?ケースを見つめたまま黙り込んでしまった。

少しお節介が過ぎたか?

 

 

「・・・・これ、私のために作ってくれていたの?」

 

「そうですけど、迷惑でしたか?それならすぐにでも処分しますけど。」

 

「いやいや、迷惑じゃないわよ。ただ驚いていたってことと、どうしてここまでしてくれるのかなって思っていたの。」

 

 

どうして?

そんなことは決まってる。

 

 

「どうしてって、僕はただ家族は一緒に居られる方がいい、そう思ってるからです。」

 

 

家族と一緒に居られる。

それは一般的に見れば当たり前のことかもしれない。

しかし、俺から見ればその些細なことが何よりも尊い。

 

 

「・・・それだけ?」

 

「えぇ、それだけです。」

 

 

目をパチくりさせている楯無ちゃんを見て安心する。

 

(あぁ、よかった。この子は失っていない。)

 

気付かなくていい、それが当たり前だと思えているのはきっと幸せなことだから。

 

 

「ほ、ほんとのほんとに!?ちょっとくらい何かないの?例えばほら、生徒会長に恩を売っておこうとか・・・・って、君は思って無さそうね…」

 

 

何も対価を求められないと心配になるのは分かるが、ちょっと取り乱しすぎじゃないか?

裏の世界で活動しているのが原因で少し機敏になりすぎてるのかもしれない。

このままというのも精神的によくないな。

 

 

「そうですね〜、強いていえば貴方達姉妹のことが好きだからですかね。」

 

「えっ…」

 

 

嘘はついてない。

俺的にこの姉妹は好きな部類だ。

二人共優しくいい子だしな。

あっ、でも今の言い方だと誤解があるな。

 

 

「もちろんライクの方ですから殺しにかかって来るようなことはしないで下さいね?」

 

 

危ない危ない、楯無ちゃんは妹が絡むとポンコツになるからな。先手を打ててよかった。

無駄な争いは避けるべし。

 

 

「──そ、そうよね!?ライクよね!?まあ、そうだとは思ってたわよ?ほんとよ?」

 

 

うん、本当に危なかったかも知れない…

 

 

「あっ、もうこんな時間!私は生徒会室にもどるわね!それじゃあ!」

 

 

そして楯無ちゃんは慌ただしく部屋から出ていった。

早とちりした事が恥ずかしかったのだろう。

こちらが誤解させるようなことを言ってしまったのが原因なので少し申し訳ない。

 

──ガチャり

 

「ん?」

 

 

扉が開いた音に反応し、扉の方を見ると楯無ちゃんが扉から顔だけ部屋に入れている。

何か忘れ物だろうか?

 

 

「鳴海君、その…今後も頼らせてもらえると助かるのだけれどいいかしら…?」

 

「もちろん、いつでも相談に乗りますよ。」

 

「あ、ありがと。それだけ聞きたかったの、またね。」

 

 

そう言うと今度こそ生徒会室に戻っていった。

まったく、律儀な子である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「嫁よ、早く支度をしないと遅れてしまうぞ?」

 

 

朝のランニングを終え、部屋に戻るとラウラがいた。

 

 

「はぁ~、いつも言っているだろ?勝手に部屋に入るなって。」

 

 

しかし、この光景は最近ほぼ毎日見ているのでさすがに慣れてきた。

というよりはレベルが下がってきて感覚がマヒしてきているのかもしれない。

なにせ最初は全裸でベッドに入り込んできていたのだ、そりゃあもうパニくった…

 

 

「私がいては嫁は不服か?」

 

「不服とかそういうんじゃなくて、女の子がそういうことするもんじゃないだろ。」

 

「しかし日本ではそうすると聞いた。」

 

「・・・・・」

 

 

最近分かったがラウラは純粋なところがある。

その純粋さと間違った知識が見事にマッチしてしまいこんなことをしているのだろう。

マジでラウラに間違った知識を与えている人に言ってやりたい。

「勘弁してくれ」と…

 

 

「とにかく、早く自分の部屋に戻るんだ。」

 

 

ラウラの背中を押し、ドアの前まで連れていく。

以前は抵抗されていたがここ最近の説得の賜物かおとなしく、されるがままだ。

そのまま扉を開ける。

 

 

「えっ…」

 

「あっ…」

 

 

すると、インターホンを押そうとしているシャルと鉢合わせしてしまった。

 

 

「な、なんでラウラが隼人の部屋から出てくるの…?もしかして…」

 

「あっ、いや、違う!これはだな…」

 

「夫婦が同じ部屋にいるのは当たり前だろう。」

 

「ちょっ!ラウラ!」

 

 

何言ってるんだラウラは…

この構図でそんな事言われてしまうと完璧に俺が連れ込んだってことになってしまう。

 

 

「ふ〜ん、そういうことなんだ〜。なるほどね〜。」

 

「シャル、誤解なんだ!」

 

「うんうん、分かってるよ。」

 

 

分かってるというシャルは笑っているがその笑顔を見てると背筋に寒いものがはしる。

 

 

「ラウラが勝手に入り込んでいるんだよね?」

 

「そ、そうなんだ、さすがシャルは話が分かる。」

 

 

おかしい、誤解は解けているはずなのに悪寒が止まらない。むしろ強くなってる気が…

 

 

「それで隼人はそれを楽しんでたんだよね?」

 

「はい…?」

 

 

な、何を言っているんだ…?

 

 

「最近起きたらラウラがいないと思ってたらこういう事だったんだね…」

 

「いや…別に楽しんでは…」

 

「じゃあなんで黙ってたの?」

 

 

シャルの顔から笑みが消え、無表情になる。

加えて瞳からは光が消えていっている。

 

 

「そ、それは…言えるわけないだろ…」

 

 

ラウラが勝手に侵入してきます(全裸で)なんて相談できないし、それによってラウラが悪く思われるのは違う気がした。ただ知識が間違っているだけの純粋な女の子だから。

 

 

「へぇー、やっぱり言えないようなことしてたんだ…」

 

「だから違うって!」

 

「落ち着けシャルロット。そのような事はない。」

 

 

頼もしいことにラウラがこちらにアイコンタクトで「まかせろ」と送ってくる。

 

 

「そもそも、我々夫婦には言えないようなことなどという後ろめたいものはない!」

 

「・・・・・」

 

 

あれ?何かおかしい…

 

 

「じゃあ何してたの?」

 

「当然同じベッドで共に夜を越したりなどだが?」

 

 

プツンッ、と何かが切れたような音が目の前のシャルから聞こえた気がした。

 

 

「フッ・・・・フフッ・・・フハハッ!」

 

「シャ、シャル…?」

 

 

なんでISを展開してらっしゃるのでしょうか…?

そして何故シールドピアスをこちらに向けようとしているのでしょうか…?

 

 

「ハハッ!風紀を乱す悪ーい生徒には罰を与えないとね?」

 

「ご、誤解だーーーー!」

 

 

結局、この騒ぎは織斑先生が来るまで続いた。

誤解もその時まで解けなかった…




すいません、これから一ヶ月ほど更新出来ないかもしれません。
できたら更新しますができなかったらすいません。


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第四十八話 海ってはしゃいじゃうよね

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

そしておひさしぶりです。


「海だ~!」

 

海を目の前にし、隣から元気な叫びが響き渡る。

 

「いつにも増して元気だね布仏さん」

 

「だって臨海学校だよ!?海だよ!?ビーチだよ!?」

 

「本音・・・うるさい」

 

現在俺達一年生は臨海学校で海に来ている。

簪ちゃんは最初休むつもりだったらしいが本音ちゃんと先輩に押し切られて結局参加した。

まぁ、折角の高校生活こういった思い出になることには積極的にならないともったいないからね、うん。

 

「よ~し、なるみん、かんちゃん一緒にビーチバレーをしよう!」

 

「ん~、僕は釣りしたいかな」

 

「私はここのパラソルにいるから」

 

「えぇ!?」

 

ボールを持つ本音ちゃん、釣り竿を持つ俺、タブレットを持つ簪ちゃん。

三者三様である。

 

「じゃあ、しばらくしたらここに集合でいいかな?」

 

「わかった」

 

「・・・・・」

 

なんだか本音ちゃんがすごく不満げな表情をしている。

 

「い~や~だ~!折角海に来たのに皆別々とか楽しくないじゃん」

 

「別にいいじゃない」

 

「だめ!IS作成禁止!」

 

「あっ、ちょっと!」

 

本音ちゃんがタブレットを強奪し、俺を壁にするように簪ちゃんから逃げ回る。

この子達は俺の周りで追いかけっこするの好きなのか?

 

「はい、ストップね」

 

二人の手を取り、動きを止める。

その際に本音ちゃんからタブレットも回収し簪ちゃんに返す。

 

「うぅ、なるみんの裏切り者~」

 

「何言ってるの、優はもともと私の味方でしょうに…」

 

目をウルウルとさせ本音ちゃんがこちらを見てくる。

 

「う~ん、残念ながら更識さんの味方ってわけじゃないかな」

 

「えっ?」

 

「今回は布仏さんの言う事にも一理あるからね」

 

「ほぇ?・・・ってことは」

 

「一緒にビーチバレーやろうか」

 

俺の言葉を聞き、本音ちゃんは飛び跳ねて喜ぶ。

そしてなぜか簪ちゃんは不服そうだ。

 

「更識さんも一緒にどう?」

 

「・・・私はいろいろしておきたいことあるし、海って別に面白いものがあるわけでもないし」

 

「そっか、ならしょうがないか。布仏さん、さっきあっちでバスタオルお化け見かけたんだけど見に行かない?」

 

「面白そ~いくいく~」

 

「えっ、なにそれ!?ちょっと見たいかも…」

 

簪ちゃんが少し動く気になってくれたところでさらに追い打ちをかけていこうと思う。

あっ、因みにバスタオルお化けは本当に見かけた。たぶん体格的にラウラちゃんかな?

 

「でも更識さんはやることあるんじゃないっけ?」

 

「ぐっ、そ、それは…」

 

「無理して一緒に来なくてもいいんだよ?ISは大事だしね」

 

「で、でもちょっとぐらい息抜きは必要だし…」

 

「でもかんちゃんまだ作業していないよね?」

 

「・・・・いじわる…」

 

少しからかいすぎて拗ねてしまった。

拗ねてる姿はさすが姉妹と言うべきか楯無ちゃんと似ている。

 

「アハハ、ごめんごめん。ちょっと意地悪だったね、ほら、一緒に行こう」

 

手を出すと簪ちゃんは不機嫌そうにこちらの手を取る。

 

「後で何か奢りだからね…」

 

「はいはい、なんでもいいですよお嬢様」

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして・・・・こう・・なった・・・」

 

所々穴の開きへこんだコート、そのコートに倒れ伏す俺達、ヒートアップしている観客。

コートに立っているのは二人のみ。

しかし、ネットには穴が開き、ボールも既に限界を迎え破裂してしまった。

どうしてこんな地獄が出来上がってしまったんだっけか・・・?

 

(俺らってなにしてたんだっけ・・・?確か・・・・)

 

 

「ビーチバレー?」

 

「うん、はやはやも一緒にやろうよ~」

 

ビーチバレーか、うん、体を動かすのも悪くないな。

人数も丁度よさげだしな。

 

「あぁ、いいぞ。」

 

「やったぁ!じゃあ、三対三ね~」

 

「こっちは俺とラウラとシャルでそっちは鳴海と布仏と・・・」

 

「更識簪」

 

他のクラスの子か。

鳴海の奴いつの間にそんな交友を広げていたんだ?

 

「更識さんっていうのか、俺は衛宮隼人だ。よろしく」

 

「呼び捨てで構わない、私も衛宮って呼ぶから」

 

それぞれ自己紹介も終わりコートに入り、試合を開始する。

こちらからのサーブでゲームスタートだ。

 

「いくぞー」

 

ビーチバレーなんて初めてだからうまくサーブできるかどうか・・・・・よし、なかなかうまくサーブできた。

 

「あわわわわ、えいっ!」

 

布仏はかなり慌てているようでレシーブを空ぶり、こちらが先制。

これもしかして試合にならないんじゃ…

 

「い、いくぞ~」

 

今度はアンダーサーブにすることにした。

これならさすがに…

 

「やぁ!」

 

スカッ――

 

見事な空振りだった。

 

「ホイっとな」

 

地面すれすれのところで鳴海がボールをすくいあげる。

 

「ていっ」

 

それを更識がトスし鳴海が見事なアタックをしてくる。

ていうか素人の動きじゃないだろそれ!?

ボールが向かう先にはラウラ。

 

「ラウラ!」

 

ラウラなら大丈夫だ、取ってくれる。

よし、今度はこっちg「ぶへっ!」―――えっ?

ボールがラウラの顔面を捉えた…

 

「ラ、ラウラ!?大丈夫!?」

 

シャルがラウラのもとにかけていくのを見て遅れて駆け付ける。

 

「お、おい。大丈夫か?」

 

「どうしちゃったのさラウラ」

 

「__わ__いいと_」

 

「「えっ?」」

 

「かわいいといわれた・・・私が・・エヘヘ///」

 

今の衝撃でラウラがおかしくなった!?

 

「まだ照れてたの!?」

 

「照れる?」

 

「さっき隼人に水着が似合っていて可愛いと言われたこと」

 

「えっ、それって試合が始まる前のことだよな!?」

 

「うん、よっぽど嬉しかったんだろうね…」

 

さ、さすがにこちらも少し照れる。

 

「この分だとラウラは続行無理だね」

 

「だな…」

 

とりあえず観戦している皆にラウラを任せる。

 

「あ~、ごめん。まさかボーデヴィッヒさんが取れないとは思わなくて」

 

「いや、気にするな。俺のせいでもあるから…」

 

「でもどうする?人数が足りないけど」

 

確かにラウラができない以上人数が合わない。

かといって先ほどの鳴海達のコンビネーション攻撃をみて参加したがる人もいない。

俺だって観戦できるならそっちの方が楽しいかもしれない。

 

「織斑先生、ビーチバレーやってますよ。どうですかご一緒に?」

 

「ふむ、少し相手をしてやるか」

 

あっ、勝ったな。

悪いがこちらの勝利は確定した。

 

「おっ、ビーチバレーやってんのか。俺らもいいか?」

 

織斑先生をこちらに引き込もうと思ったとき、一夏、篠ノ之、鈴の三人も来た。

 

「全然いいとは思うがチームはどうするか」

 

「トーナメントにでもしないかい?二対二の」

 

そう言う鳴海の手には既に人数分の棒が握られている。

手際がいいというか良すぎるぐらいだな。

 

「じゃあ、そうするか」

 

 

「これで決まりだね」

 

鳴海優&衛宮隼人

 

「よろしく衛宮」

 

「おう、よろしくな鳴海。頼りにしてる」

 

「こっちこそ」

 

篠ノ之箒&凰鈴音

 

「なんであんたとなのよ!」

 

「こちらのセリフだ。私は一夏と組みたかった」

 

「私だってそうだったけどあれじゃどうしようもないわよ!」

 

織斑千冬&織斑一夏

 

「くじ運のない奴らだ」

 

「おっ、千冬姉とチームか。こりゃあ優勝もらったな」

 

「油断するな馬鹿者、それと織斑先生だ」

 

「いてっ!」

 

更識簪&布仏本音

 

「かんちゃん目指すは優勝だよ!」

 

「はいはい、まずはレシーブできるようになってからね」

 

「・・・・目指せ一勝だね!」

 

山田真耶&シャルロット・デュノア

 

「よろしくお願いしますねデュノアさん」

 

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 

「衛宮君にいいところ見せなきゃですね」ボソッ

 

「は、はい…///」

 

抽選の結果第一試合は俺らと更識のチーム、第二試合が一夏のチームと篠ノ之のチーム、それでシャルのチームがシードで第一試合で勝ったチームと戦う。

そして残った二チームで決勝戦という感じだ。

 

「でもなんか物足りないよな」

 

一夏がそんなことを言う。

確かに景品などがあればもっともりあがるかもしれない。

 

「でも急に景品とかは準備できないし、しょうがないんじゃないか?」

 

「あっ、それならこの前ショッピングモールの福引でレジャーランドのペアチケットが二枚当たったんだけど、景品はそれでどうだい?確か遊園地の名前は『ワクワクザブーン』だったかな?」

 

そう言って鳴海が口にした名前は超大手の人気遊園地のものだった。

しかも鳴海の言っているチケットは恐らく入手困難なプレミアチケットのことだろう。

評価は格安で整備も完璧。常に新しいものを導入する姿勢はまさに理想のレジャー施設とのこと。

 

「えっ!ほんとか優!でもいいのか自分で使わなくて?」

 

「まぁ僕にはそういう人もいないし、チケットも無駄にしなくて済むからね」

 

「・・・・確かそのチケットってネットで一枚4万ぐらいで取引されてるやつよね…?」

 

鈴の発言に皆驚きを隠せない。

一枚4万って、ペアチケットだから一人あたり2万円!?

格安ってなんだっけ?

 

「そのプレミアチケットは施設内の別料金の高級エステやマッサージなどの施設を全て無料で利用できるためその値段でも通常よりはるかに安いらしい。しかも待ち時間はなしで施設内の飲食代も無料らしい」

 

な、なるほどそういうことか。

しかしさすがは女性陣は情報量が違うな。

 

「へぇーそうなんだ、じゃあ思ったより景品になってよかったよ」

 

平然とそう言う鳴海。

ちょっとあっさりしすぎじゃないか…?

しかし、その効果は絶大のようで一部は獲物を狩るハンターのようなオーラを纏っている。

 

「というわけで始めていこうか」

 

これが地獄の始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

第一試合 衛宮チームVS更識チーム

 

挨拶を交わし、それぞれ配置につく4人。

サーブは優からである。

 

「なるみん、優しくお願~い!」

 

「布仏さん、これ一応試合だからね?」

 

そう言いながらも試合はアンダーサーブからはじまる。

 

「とぅえい!」

 

掛け声とともに本音の腕がボールを舞い上げた。

 

「あっ!やったぁ!」

 

「本音、ナイスレシーブ」

 

本音ではアタックは難しいと考えたのか簪は本音が上げた球をそのまま打ち込む。

 

「よっと」

 

しかし、少し無理な体勢だったため隼人が簡単にレシーブをする。

それを優の的確なトスで繋ぎ、隼人がアタックをする。

ボールはとられることなく地面に着く。

 

「ナイスアタック衛宮」

 

「お前のおかげさ。更識もナイスアタックだったぞ、二発目から来るとは思わなかった」

 

「う、うん・・・ありがと。そっちもナイスアタック」

 

「ねぇねぇ、なるみんどうだった?」

 

「いいレシーブだったよ、さっきより良くなってる」

 

「イエーイ!ブイブイ!」

 

この感じが試合終了まで続き、結局衛宮チームの勝利となった。

 

「なるみん、優勝したらつれてってよ~。あそこのお菓子すっごく美味しいんだって」

 

「ん、いいよ。まぁ、優勝したらね」

 

「やったーなるみんだいすき~」

 

「・・・・いいなぁ…」ボソッ

 

「更識さんも行く?」

 

「えっ!いや、別に私は…」

 

「遠慮しなくていいって」

 

「・・・・行きたい、かな」

 

「じゃあ、僕が優勝したら僕の分のチケット二人にあげるから楽しんでおいでよ」

 

「えっ?ちょっ―――」

 

「楽しみに待っててね~」

 

そう言うと優は第二試合の審判役に行ってしまう。

 

「そういうことじゃないんだけどな…」

 

「皆でいきたいってことだったのにね?」

 

「う、うん…」

 

 

 

第二試合 篠ノ之チームVS織斑チーム

 

「この勝負!」

 

「負けないわよ!」

 

「な、なんか随分気合入ってんな、二人とも」

 

「フッ、面白くなってきたな」

 

試合開始は鈴からのサーブ。

 

「鈴!」

 

「わかってるって!」

 

強烈なジャンプサーブが炸裂し、それは一直線に一夏に向かって行く。

 

「うおっ!?」

 

慌ててレシーブの構えを取るが一夏の腕をボールが弾く。

 

「「よし!」」

 

「す、すっげぇ…」

 

「なるほど、そういう作戦か」

 

鈴と箒の考えた作戦はいたってシンプル。

千冬怖いから一夏集中狙い作戦である。

この二人、景品獲得という共通目的の為に異常なチームワークを見せ始めている。

 

「どんどん行くわよー!」

 

再び鈴のジャンプサーブが一夏のもとに向かう。

 

「もう少し頭を捻らんとな、小娘ども」

 

「ゲッ!千冬さん!?」

 

一夏を狙う速いサーブになんなく割り込み、レシーブをする千冬。

すかさず一夏もトスで繋げる。

 

「織斑先生だ」

 

ドスンッ、と重たい音が鳴る。

その正体は千冬の打った球が砂浜に埋まる音だった。

 

「どうした?それでは優勝なぞ夢のまた夢だぞ?」

 

((お、大人げない…))

 

「ナイスアタック!千冬姉」

 

「織斑先生だ」

 

「いたっ」

 

 

試合終盤、再び一夏に強烈なサーブが飛んでいく。

タイミングがベストだったのか千冬はカバーしていない。

 

「俺だって―――」

 

一夏は既にレシーブの体勢に入っている。

そして完璧にボールを捉え、見事なレシーブをする。

 

「嘘っ!?」

 

ボールは千冬のトスによって再び一夏のもとへ。

 

「―――負けてらんねぇ‼」

 

「くっ!」

 

一夏の打ったボールは箒の腕を弾いた。

 

「よっしゃー!」

 

ピーッピーッ!

 

「「そんなぁ…」」

 

二人の無念とともに第二試合は終わりをつげた。

 

 

第三試合 衛宮チームVSシャルロットチーム

 

「手加減しないよ隼人!」

 

「望むところだ」

 

「よろしくお願いします先生」

 

「はい、こちらこそ。お手柔らかにお願いしますね」

 

摩耶からのサーブでスタートする。

摩耶がジャンピングサーブしたことに観客たちは驚く。

いつもの雰囲気からは想像もできないほどの切れのある動きだったからであろう。

球は隼人のもとに向かっている。

 

(驚いたが、これならとれ―――)

 

「でかいな…」ボソッ

 

「ブッ‼」

 

優のつぶやきに思わず隼人は噴き出して、ボールを顔面から受けてしまう。

 

「だ、大丈夫ですか!?衛宮君」

 

「だ、大丈夫です…」

 

摩耶が隼人に駈け寄っていき、心配をする。

隼人は先ほどのつぶやきのせいか、思わず摩耶のものをちらちらと見てしまう。

 

「は~や~と~!」

 

「っ!?」

 

そんな隼人にコートを挟んだシャルロットが声をかける。

心なしかその目から光が失われつつある。

 

「大丈夫なら早く死合い再開させよ?」

 

「・・・・・はい…」ガクブル

 

 

「勝者衛宮チーム!」

 

試合の結果は辛くも衛宮チームの勝利となった。

 

「つ、疲れた…」

 

「いや~お疲れ衛宮」

 

隼人は傷だらけになっていた。

 

 

決勝戦 衛宮チームVS織斑チーム

 

「よっしゃ、負けねぇからな!」

 

「おう!織斑先生が相手だからってこっちも負けるつもりはないからな」

 

「ほぅ、それは楽しみだな」

 

(楽しんでるなぁちーちゃん。こりゃあ楽しくなりそうだ)

 

試合が開始し、先に仕掛けたのは織斑チーム。

 

「ハッ!」

 

千冬の打った球はやはりコートにめり込む。

 

「あれレシーブしても大丈夫な球なのか…?」

 

「何弱気になってんのさ、ここまできたら優勝でしょ?」

 

「・・・・あぁ、そうだな」

 

次に仕掛けたのは衛宮チーム。

 

「よっと」

 

僅かに甘い球が来たところを見逃さず、優のアタックが決まる。

 

「優の奴うまいな…」

 

「あぁ、結構やる」

 

そこからはお互い点取り合戦となった。

どちらかが点をとればもう片方が取り返す。

その接戦に観客もいつの間にか増えており、声援も白熱している。

 

「キャァーーー千冬様ー!!」

 

「鳴海君も頑張ってー!」

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

しかし、二人にはその声援は聞こえてないのか相手を見据え続けるだけだ。

その二人の雰囲気に隼人と一夏は飲まれかけていた。

そしてそこからはまさに地獄だった。

 

サーブの威力は段違いに跳ね上がり、アタックもギリギリでしか見えない速度にあがった。

ボールがネットを超えるたびに風圧でネットは揺れ、地面に着けばすさまじい音をたてながら砂が舞い上がる。

そんな中にいる隼人と一夏はもちろん被害にあった。

凄まじい速度のボールに当たったり、近くに落ちたボールの衝撃で地面を転がったり、ボールが頬を掠め薄く血も出た。

 

そして時間は冒頭の地獄に追いつく。

 

(そうだ…思い出した。俺達ビーチバレーしてたんだった…)

 

隼人は首を動かし一夏を確認するが既に一夏は気絶していた。

 

「・・・・ビーチバレーってなんだっけ…?」

 

バチンッ!ガタンッ!

 

その時ボールの破裂し、ネットも崩れた。

 

「・・・・ん?ボールが破裂したか」

 

「・・・・そうみたいですね。えぇーっと点数は――――」

 

「ただいまの勝負!引き分けです!」

 

わあぁぁ!!

 

審判が試合終了の声をかけると観客たちも沸き立った。

そして激戦を終えたものたちへの賞賛の拍手が送られる。

 

「ていうかいつの間にこんなにいっぱい人が来たんですかね?」

 

「ふむ、思いのほか熱中しすぎたようだな」

 

「たす・・・かった…」ガクンッ

 

「あれ?衛宮はなんでそんなところに転がってるんだい?・・・・気絶してるし」

 

「まったくだらしない、体力切れといったところか」

 

「でも景品どうします?引き分けですし」

 

「ハハハハハハハ‼それなら心配することはない!」

 

突如高笑いが響き渡り、皆がそちらの方を向く。

視線の先に立つのは零士。

その水着は黄金の輝きを放っており、神々しい。

 

「なかなかに面白い見世物だった!その褒美としてここにいるもの全てを招待してやる」

 

「そういえばあのレジャーランドは天馬財閥の所有するとこだったっけ」

 

「そう、この俺様が保有している物だ。ここの全員分のチケットを用意することなど造作もない!」

 

わあぁぁ‼天馬様ァ~‼

 

夕暮れまでビーチには天馬コールが響き渡ったという。




隼人と一夏の犠牲は無駄ではなかった。
・・・・・たぶん。


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第四十九話 赤は高性能の証

更新遅れて本当に申し訳ないです。
どんなに遅くても失踪だけはしないので今後もよろしくお願いします。


「なぁ箒、これって…」

 

「みなまで言うな、分かっている」

 

臨海学校二日目の朝。

一夏と箒の二人の視線は庭、正確には庭に埋まっているうさ耳にむいていた。

その傍らには立て札が添えられている。

 

『抜いてね♡』

 

「やっぱ、抜いた方がいいのか?だってこれ絶対あの人だろ」

 

「わざわざ付き合う事も無い。どうせ後で姿を現す」

 

「・・・・・まぁ、それもそうか」

 

そう言って箒と一夏はその場をあとにする。

心なしかうさ耳が垂れ下がった気がしなくもない。

 

「あー、まだ身体が痛む…」

 

「何かあったのか嫁」

 

「昨日は凄かったもんね…」

 

「なんだなんだ、私だけ知らないぞ」

 

暫くすると三人組がうさ耳の前を通る。

 

「昨日…、身体が痛む…、凄かった…、ハッ!まさかシャルロット、抜けがけか?」

 

「えっ?どういう事?」

 

「だから、私を除け者にして昨日は二人でおたの――――むぐっ!」

 

「そそそそういう事じゃないから!?///」

 

シャルロットが真っ赤になりながらラウラの口を押さえる。

 

「は、隼人もラウラに言ってあげてよ」

 

「・・・・」

 

「隼人?」

 

「えっ?あぁ、悪い聞いてなかった」

 

そう言う隼人の視線の先にはうさ耳が埋まっている。

 

「・・・プハッ、うさ耳だな。地面に埋まっているが」

 

「なんでこんなところにうさ耳?」

 

「ちょっと気になるな」

 

隼人はうさ耳に近づいて行く。

目に入るのは立札の文字。

 

「抜いてねって書いてある。庭の景観も損ねるし抜いとくか」

 

「待て、嫁よ」

 

「どうかしたのか?」

 

「トラップかもしれん」

 

「う~ん、それは考えすぎじゃない?」

 

「そうそう、誰かのいたずらだって」

 

よいしょ、声掛けとともに勢いよくうさ耳が抜かれる。

出てきたものはうさ耳カチューシャ。

それ以外は特に何もない。

 

「ほらな?何も起きない。ただのいたずr『_________』―――ん?」

 

「なんの音だろ?」

 

「―――!?隼人!伏せろ!」

 

「うおっ!?」

 

ラウラが隼人に飛びつきその場から退いた次の瞬間。

 

『_______!!』

 

轟音とともに先ほどまで隼人の立っていた場所に巨大なニンジンが刺さっていた。

いや、正確に言うと着陸していた。

 

「だ、大丈夫!?ラウラ、隼人!」

 

「こちらは大丈夫だ」

 

「すまん、助かった」

 

「私の忠告を無視するからだぞ」

 

「返す言葉もございません…」

 

「しかしこれは一体「ナハハハハハハハ‼」———ッ!」

 

突如響き渡る笑い声。

その笑い声はニンジンの中から聞こえてくる。

 

「よくぞうさ耳を抜いたね!選ばれし勇者よ」

 

ニンジンの真ん中がガポッ、と開く。

中から出てくるのは一人の女性。

紫色の髪に機械のうさ耳、服装はエプロンドレスを着ている。

 

「いや~、いっくんが抜いてくれると思ってたのにどっか行っちゃったからどうしよかな~って思っていたんだけど君が抜いてくれたから一件落着ってね!頑張ったで賞でそのうさ耳はプレゼントだよ!」

 

「えっ、あぁ、どうも…」

 

「さ~て箒ちゃんはどこかな~?箒ちゃん探知機~(某青狸)」

 

女性はエプロンドレスのポケットからこれまたうさ耳の形をしたものを取り出した。

その耳を両手で一つずつ持ち、ダウジングのような仕草をする。

うさ耳はすぐさまある方向を示す。

 

「おっ!あっちか。にゃはははは!今行くよ~!」

 

そう言って女性はすさまじい速度でその場から去って行った。

 

「・・・・何だったんだ…?」

 

「わからん…」

 

「これどうしよっか…?」

 

三人は巨大ニンジンを目の前にしばらく呆然としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぼやぼやするな!時間は限られている」

 

砂浜に千冬の声が響き渡る。

それはISパーツを運ぶ生徒たちへと向けられたものである。

 

臨海学校二日目。この日は午前中から夜まで丸一日ISの各種装備の試験運用とデータ取りに追われるのだ。

特に専用機持ちは大量の装備データ取りに追われる。

 

「それでは各班ごとに試験運用を開始するように。専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員、迅速に行え」

 

千冬のその言葉に一学年全員が返事を返す。

その光景は軍隊を彷彿させるものがある。

砂浜であるためISスーツが水着にしか見えないことを覗いてだが。

 

「それと篠ノ之、お前はちょっとこっちにこい」

 

「?はい、わかりました」

 

打鉄用の装備を運ぶ箒を千冬が呼び止める。

なぜ呼ばれたのかわからないようで箒は首をかしげ、千冬のもとに向かう。

 

「なんでしょうか織斑先生」

 

「まさか聞かされてないのか?お前には今日から専用―――」

 

「ちーちゃ~~~~~~ん!!」

 

千冬の言葉を遮るように叫びながら走ってくる人物が一人。

誰かなど言うまでもない。

 

「…束」

 

そう、天災・篠ノ之束である。

 

「会いたかったよ、マイハニー!さぁ、ハグハグしよう!愛を確かめ―――ぶへっ」

 

抱き着こうとした束の顔面を千冬は片手で掴む。

指が食い込んでいることからかなりの力が込められていることは誰から見ても明らかである。

 

「騒ぐな、束」

 

「ぐっは!・・・相変わらず容赦のないアイアンクローだねっ」

 

しかし、そんなアイアンクローを受けても天災の笑顔は崩れることはなく、なんなく拘束を抜ける。

その表情はむしろより一層笑みが増しているように見える。

 

「さて、久しぶりのちーちゃん成分も摂取したことだし・・・・」

 

束が箒の方へ向く。

 

「やぁ!箒ちゃん」

 

「・・・どうも」

 

「いやはや、久しぶりだね。こうして会うのは数年ぶりかなぁ。おっきくなったね、特におっぱいが」

 

がんっ!

 

「殴りますよ姉さん」

 

「な、殴ってから言ったぁ・・・。しかも日本刀の鞘で叩いた!ひどい!数年ぶりにあったお姉ちゃんへのハグハグを期待してたのにぃ・・・」

 

頭を押さえながら涙目になって訴える束。

あまりの突然の出来事に、一同ポカンとなって作業の手が止まる。

 

「そんなものはありません。・・・それで何しに来たんですか?」

 

そう言う箒の瞳には悲しみと僅かな怒りが籠もっている。

 

「姉さんが何かしようが姉さんの自由ですけど、どうして今さら・・・」

 

「ごめんね、箒ちゃん」

 

《!?》

 

束が素直に謝ったことに束を知るもの達は驚愕する。

例え家族であろうと彼女の好き放題やる性格は変わらないからだ。

そんな光景に箒は目に見えて動揺する。

 

「確かに今さらだよねぇ。雄くんがああなっちゃったのは私のせいだしね…」

 

天災の表情から完璧に笑みが消えた。

 

「っ・・・・」

 

箒は何かを言いかけるが、胸元を握りしめ俯いてしまう。

 

「束さん!なにも箒はそこまで…」

 

「そうかもね、箒ちゃんは優しいから。でもこれは事実――」

 

「その辺にしておけ。それをどうこう言うことこそ今さらというものだろう。それよりも自己紹介でもして見せろ。うちの生徒が困っている」

 

束の肩に手を置き、千冬は話を中断させる。

千冬の言う通り、周りは訳が分からず困っているようだ。

 

「・・・・しょうがないなぁ!はいはーい!皆のアイドル~!束さんだよ、ハロ~、おわり」

 

生徒たちの方へ向いた時には既に笑顔の束がいた。

そしてポカンとしていた一同もようやく目の前の人物が誰であるのか理解し、ざわめきだす。

 

「はぁ・・・もう少しまともにできんのかお前は。そら、お前たちも手を動かせ。こいつのことは無視してテストを続けろ」

 

「うわっ・・・私の扱い、酷すぎ・・・?」

 

「どこぞの広告みたいに言うな」

 

そんな二人のやり取りに入って行ったのは箒だった。

 

「その・・・姉さん・・・先ほどは言い過ぎました…。別に姉さんが会いに来たことが嫌だったわけではなく…」

 

何て言えばいいのかわからない、そんな表情をして箒の口は閉じてしまう。

 

「えへへ、そんなお姉ちゃん大好きだなんて箒ちゃんたら、だ・い・た・ん♡」

 

「い、言ってませんそんなこと!」

 

「いやいや、箒ちゃんの心の声すら束さんは聞こえるから安心していいよ」

 

「心の底からそんなこと思ってません!」

 

「うわ~ん!箒ちゃんがいじめてくるよ~、ちーちゃん―――ぐへっ」

 

再び千冬に抱き着こうとするがガードが固く、再びアイアンクローの餌食になる。

さらにそこから砂浜に頭から投げ飛ばす。

 

「ひっどーい!あんまりだよ~」

 

空中で一回転し、しっかりと着地しながら千冬に避難の目を向ける束。

 

「うるさい、黙れ。もうおふざけは終わりだ。さっさと本題に入れ」

 

「ちぇっ、しょうがにゃいなぁ。では、大空をご覧あれ!」

 

束が指を鳴らし、びしっと直上を指さす。

言葉に従い一同空を見上げる。

視界に広がるは青空。

 

「束さん、なんもないんですけど…」

 

「よく見ろ、何かこちらに向かってきている」

 

「えっ?」

 

千冬の言葉に一同目を凝らす。

すると空には黒い点のようなものが見える。

それはどんどん大きくなってゆき

 

ズドーンッ!!

 

激しい衝撃とともに砂浜に落下した。

落下に伴い大量の砂が舞い上がる。

 

「ケホッ、ケホッ・・・・・コンテナ?」

 

それは金属製のコンテナだった。

銀色をしたそれは、次の瞬間正面らしき壁がバタリと倒れてその中身を露出させる。

そこにあったものは―――

 

「じゃじゃ~ん!これぞ箒ちゃんの専用機こと【紅椿】!なんと全スペックが現行ISを上回る束さんお手製ISだよ!」

 

真紅の装甲に身を包んだ一機のISだった。

太陽の光を反射するその赤い装甲はまぶしく輝いているように見えた。

 

「私の・・・・専用機・・?」

 

「そうだよ!いや~束さん、仕事しましたな。えっへん!」

 

腰に手を当て胸を張る束。

すでに妹の喜ぶ顔を想像しているのか、その顔はにやけている。

 

しかし、次の瞬間そんな表情が凍り付く。

 

「受け取れません」

 

「・・・・・・・・・・へっ?」

 

衝撃的な一言に場は固まった。




次回は福音戦突入します。


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第五十話 死を呼ぶ福音《前編》

「受け取れないってどういう事かな?箒ちゃん。この紅椿は間違いなく最強の機体だよ?」

 

「姉さんがそう言うのならその機体が最強の機体であることは紛れもない事実なんでしょう」

 

「な~んだ!ちゃんとしんじてくr「尚更受け取れません」―――えッ!?なんでなんで?」

 

ISの開発者である篠ノ之束が作った専用機、それはすなわち世界中が喉から手が出るほど欲しがるものである。

それを前にして受け取らないという箒。

必然的に周りからは疑問の視線が集まる。

 

「力というのは制御できなければただの暴力です。私はまだまだ未熟故に受け取る資格はありません」

 

「資格?そんなもの必要ないし、箒ちゃんは前よりもしっかりと力をつけているじゃん。それに紅椿は私が箒ちゃんの為に作ったんだから好きに使っていいんだよ?」

 

「私の為に作った?そもそもそんなこと頼んでませんし、私は自分の力で自身の道を切り開きます!もう兄さんと姉さんに頼ってばかりの私のままじゃ嫌なんです!」

 

自然と箒の声は大きくなり、離れた者にも聞こえるほどの大きさになっていた。

ざわついていた者達も息を呑み、ビーチを静寂が支配した。

それほどまでに今の言葉には力が籠っていた。

 

「・・・・あっちゃ~、そこまで拒否られちゃうとお姉ちゃん寂しい」

 

その沈黙をやぶったのはやはり束だった。

場の雰囲気に流されるようなら天災とは言われない。

 

「でもまぁ、箒ちゃんの成長もまじかで見れたことですし良しとしよう!ということで束さんは帰るのであった」

 

そう言うと束の横にニンジン型のロケットが展開され、紅椿も待機状態となり束の手に収まる。

ロケットに乗り込み扉を閉める直前、扉の動きが止まり、束が顔を出す。

 

「あっ、そうだ。束さん予想的には箒ちゃんは紅椿を絶対に受け取ると思うよ」

 

それだけ言い残しロケットは飛び立っていった。

その光景にやはり生徒たちは呆然とする。

 

「手を止めるな!さっさと自分のすべきことをなせ!」

 

しかし、千冬の言葉が一言入るだけで誰もが手を動かし始める。

一人を除いて。

 

「篠ノ之、お前もさっさと作業に戻れ」

 

「私が受け取る…?ありえない…」

 

まるで千冬の声が届いていないのか、箒は一人呟いている。

その表情は困惑に満ちている。

いくら声をかけても無駄だと察した千冬は箒に近づき肩に手を置く。

そうすることで箒はやっと千冬に気が付く。

 

「篠ノ之、束の奴が言っていたことは気にするなとは言わないがそれで平静を失うな」

 

「はい…」

 

「それと―――」

 

千冬の声が箒以外には聞こえないであろうほど小さくなる。

 

「さっきの言葉、雄二も喜ぶだろうよ」

 

「!千冬さん」

 

僅かに残っていた迷いも消えたのか、箒の顔に笑みが浮かぶ。

 

「織斑先生だ、馬鹿者」

 

「いたっ!す、すみません」

 

強烈なデコピンが箒の額を襲う。

赤くなった額を両手で抑え、少し涙目になる箒。

 

「わかったのならさっさと作業にm「織斑先生っ‼」―――どうした?」

 

ただ事ではない、摩耶の様子からそれを瞬時に感じ取る千冬。

 

「こ、これを」

 

「・・・・・・これは」

 

摩耶から渡された端末に目を通した千冬の表情が険しくなる。

 

「あの、織斑先生。何かあったのでしょうか?」

 

近くにいた箒はその変化にいち早く気がついた。

 

「機密事項だ。―――全員、注目!」

 

一言返事を返すと千冬はパンパンと両手を叩き生徒全員を振り向かせる。

 

「現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へと移る。今日のテスト稼働は中止。各班ISを片付けて旅館に戻れ。連絡があるまで各自室内待機すること。以上だ!」

 

「え…?」

 

「ちゅ、中止?えっ?特殊任務…?」

 

「どういう状況!?ねぇ!だれかわかりやすく!」

 

不測の事態に一同はざわざわと騒がしくなる。

しかしそれを、千冬の声が一喝した。

 

「とっとと戻れ!以後、許可なく室外に出たものは我々で身柄を拘束する!いいな!」

 

『は、はいっ!』

 

全員が慌ただしく動き始める。

その表情には不安の色がみえる。

 

「専用機持ちは全員集合しろ!織斑、衛宮、天馬、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰!―――更識はサポートだ!」

 

『はい!』

 

「・・・・・ッ」

 

ISパーツを運ぶ中、箒は一人唇をかみしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは現状を説明する」

 

旅館の宴会用の大座敷に専用機持ち及び教師陣が集まったことを確認し、切りだす。

現在の状況はこうだ。

 

1、アメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型の軍用IS【銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)】が制御下を離れ、暴走

 

2、衛星による追跡の結果、福音はここから二キロ先の空域を通過することが判明。時間にして五十分後

 

3、学園上層部からの通達により我々が対処することが決定

 

4、教員は訓練機を使用して海域を封鎖、よって作戦の要は専用機持ちが担当

 

「――――――以上が我々の現状だ。」

 

現状説明を終え、専用機持ちを確認する。

代表候補生はこういった事態における訓練はしてるため覚悟ある顔つきをしている。

衛宮は多少の戸惑いはあるが覚悟は決まっているといった顔。

天馬は動じず、軽く笑みまで浮かべている。これは少し危険だ。

そして一夏は――

 

(明らかに動揺しているな。無理もないか)

 

だが、事態は深刻だ。

あまり構ってやることもできない。

 

「それでは作戦会議を始める」

 

 

会議を初めて数分後、出た答えが

 

『一撃必殺の攻撃力を持った機体でのアプローチ』

 

福音は超音速飛行を続けているためアプローチは一度きりなためこれしかない。

全員の視線は一夏へと注がれる。

 

「あんたの零落白夜しかないってわけね、一夏」

 

「それしかありませんわね。ただし、問題は―――」

 

「どうやって一夏をそこまで運ぶか、だね」

 

「エネルギーは全部攻撃に使わないと難しいと思う」

 

「尚且つ目標に追いつける速度のISでなければいけないな」

 

「ってことは、超高感度ハイパーセンサーが必要っぽいな。アイアスじゃ無理そうだ…」

 

「お、俺が行くのか!?」

 

『当然』

 

まぁ、こうなるだろうな。

一夏はこのような事態想定したこともないため取り乱す。

まだ覚悟も決まっていないうちに話が進められたのだから当然だった。

しかし、この作戦に零落白夜は不可欠。

 

「織斑、これは訓練ではなく実戦だ。覚悟がないなら、無理強いはしない」

 

あぁ、きたない…

私は本当にきたない大人だ…

 

(こう言えばこいつはやる気になる…)

 

それをわかってて私はこの言葉を口にした。

逃げ道を無くした。

 

「――――やります。俺がやってみせます」

 

ほらみたことか…

一夏の中からは既に迷いは消え、確かな覚悟が宿っている。

そしてその一夏を見て心のどこかで嬉しがっている自分に苛立つ。

私は姉として―――

 

(いや、今の私は姉ではなく教師だ。しっかりしろ、私が迷えば生徒たちを危険にさらすことになる)

 

「よし、それでは作戦の具体的な内容に入る。現在、専用機持ちの中で最高速度が出せる機体はどれだ?」

 

「それなら私のブルー・ティアーズが。ちょうどイギリスから強襲用高機動パッケージが送られてきていますし、超高感度ハイパーセンサーも搭載しています。超音速下での戦闘訓練も二十時間あります」

 

「ふむ・・・・それならば適任―――」

 

だな、と言いかけたところで馬鹿みたいに明るい声が遮る。

 

「待った待ーった!その作戦ちょっとストップなんだよ~!」

 

そいつは天井から逆さに頭を生やしていた。

妙にあっさりと引いたため怪しいと思っていたが。

このタイミングで現れたということはまさか――――

 

「・・・山田先生、室外への強制退室を」

 

「えっ!?は、はい。篠ノ之博士、とりあえず降りてきてください…」

 

「とうっ!」

 

軽やかな身のこなしで着地する束。

その束を山田君は連れ出そうとしてくれるがするりとかわされてしまっている。

 

「ちーちゃん、もっといい作戦が私の頭の中でお披露目を待ってるよ~!」

 

「・・・・出ていけ」

 

思わず頭を押さえるほど嫌な予感がする。

場をかき乱すことに関してこいつの右に出るものはいない。

 

「ちっちっち、ここは断・然!紅椿の出番なんだよ!」

 

「なに?」

 

紅椿だと?

こいつはまた何を企んでいる?

 

「紅椿のスペックデータを見てみて!パッケージなんてなくても超高速機動ができるんだよ!」

 

束がそう言うとモニターは全て紅椿のスペックデータを映す。

どうやらここの機材は乗っ取られたようだ。

 

「展開装甲をこう、ちょちょいっていじれば完璧ってね!」

 

「なるほどこいつは全身展開装甲でできているのか」

 

「そうそう、さらに発展させたタイプでねこれは、攻撃・防御・機動といった用途に応じて切り替えが可能なのだ~!あっ、これが第四世代型の目標なんだっけ?いや~束さんがさっそく作っちゃった、てへっ」

 

『・・・・・・』

 

代表候補生たちは静まり返って言葉も出ない。

 

「なになにこの雰囲気?通夜か何か?」

 

通夜のようになるのも当然。

各国が莫大な資金をつぎ込んでいる第三世代競争は全くもって無意味ということになるのだから。

 

「言ったはずだ束。やりすぎるなと」

 

「えっ?そうだったけ~?夢中で忘れてたよ~」

 

はぁー、また随分とやらかしてくれたものだ。

 

「で、どうどう?紅椿を使うってのは?」

 

「確かにそれがベストだ」

 

『!?』

 

私の言葉にオルコットだけでなく、この場にいる全員が驚く。

 

「その紅椿の操縦者がいないという点を除けばな」

 

そしてほっ、と息をはく。

全く、皆何を早とちりしているのか。

 

「何言ってんのさ。紅椿は箒ちゃんの専用機なんだから誰が乗るかなんて決まってるじゃん!」

 

「お前は数十分前の会話も覚えていないほど馬鹿ではないだろう。篠ノ之は紅椿には乗らないし、望まない者を乗せることはしない。協力する気があるのならその機体を私にでも貸せ」

 

「ん~それはできないかな。紅椿はすでに箒ちゃんしか動かせないように生体認証の設定しちゃってるし、それに――――」

 

「ごちゃごちゃと御託はもういい!さっきから聞いていればやれ白式だの、やれ紅椿だの、全く笑わせる。こんなやつ片付けるの俺様一人で十分だ!」

 

天馬が束の言葉を遮った。

 

「零落白夜?第四世代?そんなもの俺の機体の前ではブリキのおもちゃに過ぎん」

 

「・・・・・・・」

 

まずい、束の奴に大口を叩きすぎだっ!

他のことなら聞く耳すら持たないだろうがISについては別だ。

 

「ふ~ん、そんなにすごいんだね!君の機体は。束さん気になる~」

 

なんだ…?

いつもの束なら既に骨の一本や二本は折っているはずだ。

させるわけないが。

 

『Prrrr....Prrrr....』

 

チっ、間の悪い…

 

「でないの?ちーちゃん」

 

まただ…

いつもなら「私がちーちゃんと喋っている時に邪魔するなんてめちゃ許せんよなぁ~」とか言って発信相手にハッキングの一つでもするはずだ。

 

「・・・・はい、こちら対策本部、織斑千冬です。何か状況に変化が?」

 

『___________』

 

「はい」

 

『_________________』

 

「はい?今なんと?」

 

『___________________』

 

「っ!しかし、それは!」

 

『___________________』

 

「・・・・・わかりました」

 

なんてことだっ!

 

「あの、織斑先生一体上層部はなんと…?」

 

「・・・・作戦行動の指示だ。具体的な内容とそのメンバーを言い渡された」

 

「それで一体、なんと?」

 

「作戦は我々の考えていたものと同じだが我々の考えていたメンバーとは違う」

 

通達されたメンバーの名前を発表していく。

 

「白式――織斑一夏、ギルガメシュ――天馬零士、そして―――」

 

最後の一人は――――

 

「紅椿――篠ノ之箒」

 

ありえない名前がでてきたのだった…




福音戦に入れなくて正直すまんかった…


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第五十一話 死を呼ぶ福音《中編》

思ったより長くなったので三分割。


「現時刻をもって篠ノ之箒を日本代表候補生に任命、及び作戦行動への参加が決定された。専用機は紅椿だ」

 

「・・・・」

 

千冬の言葉に箒は何も反論せず、ただ拳を固く握りしめる。

彼女は耐えていた。湧き出てくる怒りに。

平然を装っているが千冬だって本心じゃないとわかっているからだ。

これは政府からの指示であることは箒にも事前に連絡があり知っていた。

 

(姉さん……あなたという人は本当にッ!)

 

箒の鋭い視線の先には束がいる。

しかし、睨みつけられているというのに束は箒に軽く手を振っていた。

その行動がさらに箒の怒りを溜めさせていく。

 

「はいはーい!それじゃ待ちに待った紅椿の授与だよ~」

 

場のピリついた雰囲気など知らんと言わんばかりに笑顔の束が紅椿を手に持ち、箒に近付く。

 

(一発…全力で一発殴ろう)

 

そう決めた箒は静かに拳に力を入れていく。

チャンスは最も近付く時――紅椿が手渡される瞬間だろう。

 

「はい、どうぞ~」

 

束が紅椿を箒に差し出し、それを受け取る瞬間——

 

「——ッ⁉︎」

 

紅椿を受け取った体制のまま箒が動かなくなる。

その顔はとても困惑しており、先ほどまでの怒りは薄れている。

 

「そんなにお姉ちゃんの手を離したくないなんて照れちゃうな〜グヘヘ〜」

 

「そ、そんなんじゃありません⁉︎」

 

束の言葉によって箒は素早く束から距離を取る。

 

「恥ずかしがり屋なんだから、もう〜」

 

「違います!絶対に!」

 

「またまた〜ほんとはだいすk「いい加減にしろ束」痛い痛い痛い!」

 

あまりの束のウザさに千冬がアイアンクローで割って入る。

 

「篠ノ之、乗りたくなければ乗らなくても構わん。無理強いはしない。上が何を言おうと作戦の最終決定権は現場を任されているこちらで決める」

 

「そうだよ箒、無理に乗ることねぇーって!」

 

耐えきれなくなった一夏が身を乗り出す。

 

「……乗ります」

 

「なっ⁉︎」

 

「篠ノ之、本当にそれでいいんだな?」

 

「はい、紅椿を使うのが最善だというのならそれは私にしかできないことです。多くの人が危険に晒される可能性がある今、私情を気にしている場合ではありません」

 

「箒…」

 

「いいんだ、一夏」

 

箒に優しく微笑まれた一夏は何も言えなくなる。

否、何を言ったらいいのか分からなかった。

その微笑みが嬉しそうにも悲しそうにも見えたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどな~こりゃ大変だ」

 

旅館のとある一室。

そこでノートパソコンに向き合う人影が一つ。

 

「【銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)】か…厄介だな」

 

最重要軍事機密と呼ばれるものを見ながら鳴海優、つまりは暮見雄二は愚痴をこぼす。

 

「敵は広範囲殲滅を前提に作られている軍事用ISでそれを子供に全て押し付けるとはねぇ~」

 

状況と戦力を見ればこれは最善の選択である。

この指示をすぐに現場に出したものはとても優秀だ。

 

「そんでもって紅椿をつかった電撃的な作戦か。理にかなっているな」

 

紅椿のスペックなら十分、いや、十二分にやれる。

まさにこれ以上ないと言ってもいい理想の作戦——

 

「——っざけんじゃねぇ!」

 

雄二の拳が画面を貫く。

もちろんパソコンは機能を失い動かなくなった。

 

「…あっ、またやっちまった」

 

今のパソコンは今日二台目だったのだ。

 

「束のやつ、何考えてんだ…」

 

天才をもってしても天災の考えは読めなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「——終わったのか?まだ10分程度だが」

 

部屋から箒とともに出てきた束に千冬は問いかける。

 

「あったりまえじゃん!束さんにかかればフィッティングからの調整なんて10分あれば余裕余裕!」

 

――ブイブイ!

両手でピースする束を無視して千冬は箒に指示を出す。

 

「作戦開始まで20分を切った。篠ノ之、お前はこれから時間一杯までオルコットたちから高速戦闘についてのレクチャーを受けろ」

 

「はい」

 

返事とともに箒は会議室の方へ小走りで走っていった。

箒が廊下の角を曲がり、見えなくなったところで千冬は束の方を向く。

 

「どったのちーちゃんムスッとして。可愛い顔が台無しだぞっ☆」

 

「……どういうつもりだ」

 

「どういうつもりってなにが?」

 

「とぼけるな、今回の作戦のことだ。上層部に紅椿のデータを送り、紅椿を作戦に組み込むように誘導できるのはお前しかいない」

 

「あー、そのことね。誤解だよ誤解。私はただちょーっと紅椿のことを自慢したかっただけだったんだけど――」

 

ドンッ‼︎

千冬が束の胸ぐらを掴み、壁に叩きつける。

 

「いった~い。急に何すんのさ」

 

「——いい加減にしろよ、束。私は今だいぶ頭にきてるんだ」

 

そこには教師としてではない織斑千冬がいた。

 

「ふーん、それでちーちゃんは何が気に食わないのかな?今回の作戦?箒ちゃんが紅椿に乗ること?私がデータを見せたこと?いっくんが作戦に参加すること?もしくは…」

 

――それを止めない自分自身のこと?

 

「――全部だ。全部気に食わんッ!だが一番頭にきていることはお前がその手で箒を危険な目に合わせようとしていることだ!」

 

「・・・・」

 

「忘れたなんて言わせないぞ。私たちがあの事件を起こして、奪ってしまったんだ!」

 

千冬の怒りは束だけでなく自身にも向いていた。

 

「家族との暮らしも好きなことをやる自由も……そして…」

 

束を掴む腕が震え、表情は悲痛なものへと変わる。

 

「慕っている兄をも奪ってしまった」

 

「・・・・」

 

「——束、これ以上箒から何を奪うというんだ。私たちが守ってやらないといけないんじゃないのか?お前は唯一箒に接してやれる家族なんだぞ」

 

「・・・・」

 

「なんとか言え!」

 

千冬の手にさらに力が入り、ついには殴ろうかという瞬間——

 

「信じて」

 

一言。たった一言だけ束の口から千冬へ向けての言葉が紡がれた。

その言葉で振り上げていた拳が止まる。

 

「箒の為だというのか?」

 

「・・・・」コクリッ

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

わずかな沈黙の後、束の胸元から千冬の手が離れる。

 

「——信じてやる」

 

「ありがと。やっぱりちーちゃんは優しいや」

 

「うるさい…」

 

「ん?照れてるの~?」

 

「うるさいと言ったのが聞こえなかったか?」

 

「痛い痛い!」

 

教師として、天災として二人は会議室に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほんとに良かったのか?」

 

作戦開始直前、一夏がポツリとつぶやいた。

誰に向けてのものは言わずともわかる。

 

「正直、多くの人が危険に晒されているからと言ってもあのようなやり方は納得出来るものではなかったのは事実だ」

 

()()()?」

 

「あぁ、今はもう違う」

 

一夏には一体何が影響を与えたのか見当もつかない。

そんな一夏に箒は答え合わせをするように続ける。

 

「紅椿を受け取る瞬間の事だ。私は家族として、姉さんの事を思いっ切り殴ってやろうと思っていたんだが……殴れなかった」

 

箒は自身の手を見つめながら、その手を開いては閉じる。

 

「僅か…ほんの僅かだったが、確かに姉さんの手は震えていた」

 

「束さんが!?」

 

「——そう、あの姉さんがだ。今まで一度だって姉さんが震えているところなんて見たことがなかった。そんな人が震えていたんだ…」

 

その衝撃は箒の怒りをも超えたのだ。

そして気が付いた。

 

「この紅椿を渡してきたのには必ず理由がある――それはきっと、とても大事な理由なんだ。だから私は姉さんを信じてこの紅椿に乗る」

 

「そっか……ありがとな、そんな大事なこと話してくれて」

 

気恥ずかしくなったのか箒は顔を赤らめてそっぽを向く。

 

「お、お前があまりにもくどかったからだ!別にお前だから話したわけではない!」

 

「わかってるって」

 

「あっ、いや…別に誰にでも話すというわけでは…」

 

「ん、なんか言ったか?」

 

「——なんでもない!」

 

(なんでそこで怒るんだ…?)

 

不機嫌になった箒に一夏は困惑する。

 

「貴様ら、いつまで喋っているつもりだ?」

 

そんなところへ割って入ってくるものが一人。

参加者の一人である零士だ。

 

「あっ、すまん天馬」

 

「ふん、貴様らは俺様の足を引っ張らないようにすることだけ考えておけ」

 

「相変わらず口悪いな天馬は。そんな言い方ないだろ」

 

天馬の高圧的な態度に一夏の眉間にシワがよる。

 

「まぁ、落ち着け一夏。天馬の奴は目の前のことに集中しなければ危ういと心配してくれているのだ」

 

「——は?貴様、今のがどうなったらそうなる」

 

箒の言葉に天馬の眉間にもシワがよる。

一夏の方は逆にシワがなくなり、呆気にとられている。

 

「そんなものわざわざ声をかけてきたのがいい証拠だ。言い方はどうあれそれは私たちを心配してくれたという事に変わりない」

 

「・・・・」

 

「箒、それはちょっと無理がないか…?」

 

さすがの一夏も箒の言葉を認められない。

 

「無理も何もない。事実だ」

 

「——付き合ってられんな」

 

数秒したのち天馬は離れていく。

その顔は呆れており完璧に毒気を抜かれてしまっている。

 

「味方同士でいがみ合う必要なし」

 

そう言ってにこりと笑う箒。

そんな箒を見て一夏も笑う。

 

「ハハハ、なんかまるで…」

 

――雄二兄ちゃんみたいだ

一夏は懐かしい姿を箒に見た。

 

 

『これより作戦を開始する。準備はいいな!』

 

「はい!」「おう!」「ふん」

 

掛け声とともに紅椿に掴まり、出発する。

後ろを見ればすでに海岸は小さくなっている。

 

(なんつうスピードだ…)

 

紅椿のスピードに驚愕するがもう一つ俺は驚愕する。

 

(このスピードと同じ…?いや、それ以上か…?)

 

俺を乗せた紅椿の斜め前方には黄金に輝くISを纏った天馬がいる。

束さんの作った紅椿と同等以上の速さがあるなんて驚かないわけない。

改めて出鱈目な機体だということを実感させられる。

 

「一夏、もうすぐだ。目標も既に視覚出来るはずだ」

 

作戦開始から数分。

アプローチ地点は既に直前だ。

 

「あれが福音か」

 

白式のハイパーセンサーが目標を捉える。

機体名にふさわしい全身銀色のボディに頭部から生えた一対の巨大な翼。

その異質な翼は資料によるとスラスターと武器を融合させたいシステムらしい。

 

「加速するぞ!目標との接触まで10秒だ。集中しろ!」

 

「おう!まかせろ」

 

雪片を握りしめると同時に紅椿が加速をする。

その速度は凄まじく、高速で飛翔しているはずの福音との距離をあっという間に縮めていく。

 

五、四、三、二…一!

 

「はああああっ!」

 

零落白夜を発動とともに瞬間加速で一気に間合いを詰める。

 

(とった――!)

 

雪片の刃が福音に触れる、その瞬間。

 

『La……♪』

 

「なにっ!?」

 

奴は最高速度のまま体を一回転することでこちらの攻撃を回避した。

それも僅か数ミリの精度で避けられた。

これほどまでに精密で急加速の可能な多方向推進装置(マルチスラスター)は見たことがない。

 

(——これが重要軍事機密って奴の実力…!)

 

『敵機確認。迎撃モードに移行。〈銀の鐘(シルバーベル)〉、稼働開始』

 

オープンチャンネルから流れてくるのは抑揚のない機械音声だが、俺はそこに明らかな敵意を感じ取った。

反撃をくらって零落白夜を保てなくなるのはまずい。

福音はまだギリギリ射程距離内…いける!

俺は再び斬りかかる。

 

「——馬鹿!罠だ!」

 

箒の声が聞こえてきたがすでに振り始めている雪片を止められない。

 

『La……♪』

 

「くっ…!」

 

そんな俺の攻撃を福音はいともたやすく回避する。

そして装甲の一部がまるで翼を広げるかのようにこちらに向けられる。

 

(まずい!この翼は――)

 

――砲口だ。

一斉に開かれた砲口はすでに僅かに光を帯びている。

 

(撃たれるっ!)

 

そう思った瞬間。

福音が翼を翻し離れた。

直後、福音のいた場所を無数の武器が過ぎ去っていく。

 

「予想通りしくじりおって」

 

「すまん、助かったぜ天馬」

 

「奴に攻撃し、奴が勝手に逃げただけだ。助けたわけじゃない、図に乗るな。」

 

そう言って武器を展開し、追撃を仕掛ける天馬。

口は悪いけど頼りになるぜ。

 

「箒!」

 

「あぁ!私たちも行くぞ!」

 

天馬の攻撃をかわす福音の隙を二人で取りに行く。

今度こそいける!そう思った直後。

 

『Laaa……♪』

 

「そこから撃てるのかよ!?」

 

翼がぐりんっ、と回転しこちらに無数の光弾を放ってくる。

こちらもダメージの少ないところで光弾を――

 

「ぐぅっ!」

 

「クッ!」

 

触れた瞬間光弾が爆ぜた。

爆風の衝撃で福音との距離がうまく詰められない。

爆発するエネルギー弾。それが奴の主武装のようだ。

そして問題は――

 

(なんて連射速度だ…!)

 

福音の圧倒的連射速度だ。

この連射速度で触れれば爆発。

俺も箒も容易に近づくことができない。

 

「左右から同時に攻めるぞ。右を頼む!」

 

「了解した!」

 

ならばと思い、今度は多面攻撃を仕掛ける。

さすがの福音もこれには接近を許さざる負えない。

しかし――

 

(当たらねえ!)

 

俺達の攻撃がかすりもしない。

天馬と俺達の攻撃タイミングが歪なのだ。

その隙を突き、福音は紙一重で回避していく。

あのスラスター、見た目の奇抜さ以上に実用性がある。

 

「貴様ら邪魔だ!そこを――ぐっ…」

 

ついに天馬の方にも光弾が飛び始める。

なんとか息を合わせられれば…

 

「一夏!私が奴の動きを止める!天馬は援護を!」

 

そう言い放ち箒は光弾の嵐をかいくぐっていく。

こっちの機体も化け物だな。

 

「——俺に指図するな!」

 

そこへ天馬の武器が降り注ぐ。

しかしそのどれもが箒の動きと的確に噛み合った。

 

(そうか!その手があったか!)

 

箒の奴、天馬の攻撃タイミングを言葉でうまく誘導しやがったな。

後は間合いに入れれば箒なら――

 

「はあああっ!」

 

思った通り、福音が回避ではなく防御を使い始めた。

 

『La……♪』

 

福音の全砲門が全方位への一斉射撃を行う。

その数、三六。

 

「その…程度!押し切る!」

 

箒が光弾を紙一重でかわし、追撃をする。――隙ができた!

 

「!」

 

しかし、俺は福音とは真逆の方向である直下海面へと全速力で向かう。

 

「一夏!?」

 

「チッ」

 

「間に合えぇぇぇっ‼」

 

全力の瞬間加速で一発の光弾に追いついた俺はその光弾を零落白夜を使い、切り裂いた。

 

「何をしている!?折角のチャンスを――」

 

「船がいるんだ!海上は封鎖したはずなのに――くそっ、密漁船か!」

 

つまりは犯罪者。

けれど、見殺しなんてできるわけない。

 

シュウゥゥゥン……

 

俺の手の中で雪片が光の刃を失い、展開装甲が閉じる。

エネルギー切れだ。

最大のチャンスも作戦の要も同時に失ってしまった。

 

「一夏、下がれ!ここは私が何とかする!」

 

そう言って箒は密漁船に攻撃がいかないように動き、避難勧告を出す。

 

「そこの船!聞こえているのなら今すぐ避難しろ!ここは危——」

 

その時、猛攻を仕掛けていた箒の手の中から、武器が光の粒子となって消えた。

 

具現維持限界(リミット・ダウン)…!まずい――!」

 

具現維持限界(リミット・ダウン)——すなわちエネルギー切れだ。

白式をここまで運ぶのに加え先ほどまでの凄まじい動きによってエネルギーが底をついたのだ。

 

「箒ぃぃぃっ‼」

 

雪片を捨て、残っているすべてのエネルギーをスラスターに回すことでの瞬間加速。

 

(間に合え!間に合えっ‼)

 

福音は先ほどの一斉射撃モードに再び入っていた。

しかも今度の照準はすべて箒に絞っている。

あの至近距離じゃ天馬の攻撃では援護できない。

エネルギー切れのISは恐ろしく脆い。

 

「頼む!白式ぃ!!」

 

瞬間加速中のスローモーションの世界で俺は光弾が放たれたのを視界でとらえ、必至に手を伸ばした。

手を伸ばし――箒をかばうように抱きしめた。

 

「がぁあああっ‼」

 

その瞬間、光弾によって俺の背中全体が焼かれた。

さらにアーマーだけでは殺しきれない衝撃が何十発もアーマーを、肉を、骨を叩いた。

気がどうにかなるほどの激痛が永遠に感じられるなかで一度だけ箒を見た。

 

(無事だな……よかった……)

 

その顔は今にも泣き出しそうな顔をしているがけがはなさそうだ。

唯一被害を受けたのはリボンだろうか?

焼き切れてしまっている。

 

(下ろした髪型も悪くねぇな……)

 

「一夏っ!しっかりしろ!一夏ぁっ‼」

 

「ゕ……ぁ……」

 

世界が反転し、海が空に空が地面になった。

――いや、俺が落ちているのか。

このままじゃ海に真っ逆さまだ。

残るすべての力を使い、箒の頭を守るように抱きしめる。

大きな水音と全身を襲う衝撃に俺は意識を手放した。




一夏が死んだ! ←この人でなし!


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第五十二話 死を呼ぶ福音《中編Ⅱ》

三分割といったな、あれは嘘だ。


白を撃墜。

紅及び金、稼働可能。

 

『La……♪』

 

海面に紅の反応をキャッチ。

銀の鐘(シルバーベル)にて殲滅する。

エネルギーチャージ開始。

 

「おい!」

 

レッドアラート。

脅威を確認。

側面から高エネルギー反応。

 

「俺様を前にしてよそ見とはいい度胸だ。」

 

攻撃を確認。

数は10。攻撃脅威Aランク。

迎撃優先順位を最優先に変更。

銀の鐘(シルバーベル)にて迎撃。

 

・・・成功

 

「何ッ!?」

 

紅の反応をロスト。

目標変更、金の排除を開始。

 

『La……♪』

 

「ぐっ…!」

 

攻撃の着弾を確認。

攻撃を続行する。

 

「いい気になるな!」

 

シールドの展開を確認。

・・・・・攻撃を一時停止。

回避行動を優先。

 

「ハハハ!そらそら、止まれば自慢の羽が消し飛ぶぞ?・・・・チッ、うるさい奴らだ。撤退しろ?そんなもの俺様が決める」

 

被弾箇所確認

・・・・損傷レベルC、戦闘続行可能。

 

「・・・・しかし、もう少し楽しめると思ったが期待外れだ。期待通り終わらせてやる」

 

武器の展開を確認。

・・・・行動パターン解析完了

迎撃に移る。

銀の鐘(シルバーベル)をフル稼働。

 

「なっ!?押し返しているだと!」

 

敵射出武器の相殺に成功。

このまま殲滅に移行する。

 

「くそっ!俺様の力はこんなものじゃない!」

 

更なる武器の展開を確認。

脅威レベルC、問題なし。

殲滅を続行する。

 

「馬鹿な…物量で負ける…?そんなことがあってたまるかっ!」

 

目標への直撃まであと10秒。

10、9、8、7、6、5、4、3———

 

Trigger(トリガー)! マキシマムドライブ!/

 

緊急回避

・・・・失敗、損傷レベルB

 

「誰だッ!」

 

新たな対象を確認。

・・・照合完了

 

『最優先目標エターナルを発見。殲滅する』

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ、面倒なのが来たな」

 

エターナルとやらが来た。

まだ距離はあるが奴の武器は遠距離武器のようだ。

そして福音は奴の方へ飛んで行き、奴も真っ直ぐに福音に突っ込んでいく。

あいつらめ…俺を無視とはな…!

 

『天馬!何度も言わせるな!即刻その場から離脱しろ。作戦は失敗だ』

 

しかし、武器を展開しようとしたところで通信が入る。

 

「鬱陶しい…」

 

通信からは先ほどから織斑千冬の声が響いてきている。

奴が現れてからより声がでかい…

今回はあちら側からしか切れない仕様の為、鬱陶しいことこの上ない。

 

「俺様が二機とも落として『いいから撤退しろ!お前の手に負える奴ではない!』…!」

 

こいつ…!

 

『お前自身も気が付いているはずだ。福音はお前の動きに対応し始めている。』

 

「それがどうした。あれが俺様のすべてだとでも?」

 

『本気でなかろうとエネルギーを消耗しているその機体でどこまでやれる?動きに対応し始めている福音に加え、エターナルを相手にする。それはただの無謀だ』

 

「・・・・俺様に背を向けろと?」

 

おめおめと逃げ帰れというのかッ!

この俺に…!

 

『撤退は恥ずべきことではない。お前が賢いのならどうすればいいかわかるな?』

 

「・・・・この借りは高くつくぞ福音ッ!」

 

この屈辱は必ず晴らす。

スラスターを全開でまわし、旅館の方向へ向かう。

その途中俺のハイパーセンサーが最後に捉えたのはエターナルが爆発の光に包まる姿だった。

 

(そうだ、この俺以外に落とされることは許さん)

 

待っていろ、福音。

 

 

「まぁ、こんなものか」

 

福音の攻撃によってエターナルが爆発に包まれる姿を確認しながらそのものは呟く。

戦闘区域から5キロほど離れた上空、そこには誰の姿もないが声はそこから発生している。

 

「所詮分身だな」

 

空間が一瞬僅かに揺らぎ、それ以降声はしなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・」

 

私の目の前には横たわる一夏。

その身体にはいたるところに包帯が巻かれ、生命維持のために様々な装置が繋がれている。

私をかばった一夏は現在ISの搭乗者の生命維持機能によって昏睡状態にある。

これが発動するということは死の一歩手前であり、尚且つISが完全にエネルギーを取り戻すまで決して目を覚まさない。

 

「私の…」

 

私のせいだ…

私の注意力が足りなかったからだ…

 

「もう三時間ね…」

 

襖が開く音がし、後ろから声が聞こえる。

声の主は私の横に来る。

 

「ほら、あんたの食事持ってきたわよ」

 

鈴は私の食事を持ってきてくれたようだ。

目の前に食事の乗ったトレーが置かれる。

しかしとてもじゃないが何も喉を通る気がしない。

 

「いらない…今は何も食べたくない」

 

一夏がこんな状態なのに食事なんてとる気が起きないのだ。

 

「食べないと身体が持たないわよ」

 

「構わない…いや、いっそ……」

 

私のせいで一夏はこうなってしまったんだ…ならばいっそ―――

 

「———っざっけんじゃないわよ!」

 

鈴は私の胸倉をつかみ強制的に立たせる。

その時ようやっとみた鈴の顔は鬼を思わせるほど怒りに満ちていた。

 

「いつまでぐちぐちしてんのよ!そんなことするよりやることがあるでしょうが!今戦わなくてどうすんのよ!」

 

「わ、私は…もうISには…乗らない…」

 

「はっ?今なんつったの?」

 

「もうISに乗らないと言ったんだ。元はといえば私が未熟なのに紅椿に乗ったから・・・・私にもっと力があったなら――――」

 

バチンッ!

凄まじい音とともに私の頬を激しい痛みが襲った。

 

「いい加減にしなさいよ!力がもっとあれば成功していた?そう思うんだったら止まってんじゃないわよ!」

 

「・・・私は弱いんだ…私が乗ればまた…」

 

また誰かがきっと傷つく。

私は誰も守れない…

 

「誰かが傷つくのが怖い?そんなの誰だってそうよ!それでも弱い自分と向き合って必死に前を目指してもがいてんのよ!」

 

「…っ!」

 

悲しみを押し殺したその表情を見てようやく気が付けた。

 

(皆、同じなんだ…)

 

現場の私と違って、指令室では見ていることしかできない。

それはいったいどれほどの悔しさや悲しみを彼女たちに与えたのだろうか。

少なくとも並大抵の感情ではないのは確かだ。

 

「甘ったれてんじゃないわよ。専用機持ちってのはそんなわがまま許されるような立場じゃないの。あんただって覚悟して乗ったんでしょ?だったら立ちなさい。それができなきゃ―――」

 

闘志が宿った瞳が私を真っ直ぐにとらえる。

 

「戦うべきときに戦えない、臆病者よ」

 

その言葉を聞いた瞬間、私の中で何かが動き出した。

 

「私は弱い。だが―――」

 

確かな闘志を込めた瞳を鈴に向ける。

 

「臆病者ではないっ」

 

もう立ち止まるのはやめだ。

私は強くなると兄さんに誓ったではないか。

失敗を恐れるだけの臆病者では約束は果たせない。

これから私はもっと強くなる。

 

「やっとやる気になったみたいね。———皆、もういいわよ」

 

鈴が入り口に向かって声をかけると襖が開き、そこには専用機持ちの面々がいた。

 

「遅いぞ鈴、こちらはとっくに目標の居所は掴んでいる」

 

「私のせいじゃないでしょ!」

 

黒い軍服を着たラウラが端末をいじると地図が表示された。

 

「これはまさか…」

 

「福音の居場所を示した地図だ」

 

「さっすがドイツ軍特殊部隊。やっるぅー」

 

驚いた、既に福音の居場所を掴んでいるとは思わなかった。

 

「私たちも追加パッケージのインストール完了していますわ」

 

「準備オッケー。いつでもいけるよ」

 

「俺もいつでもいける。防御は任せろ」

 

「私は戦えないけど全力でサポートする」

 

「みんな…」

 

どうやら準備できてないのは私だけのようだ。

全くもって恥ずかしい。

だが私がまずやるべきことはわかった。

目の前のトレーから茶碗と箸を掴む。

 

「いただきますっ!」

 

ご飯をかきこみ、魚を頬張る。

そして最後に味噌汁を流し込んだら―――

 

「———ごちそうさまでしたっ!」

 

両手を合わして一礼。

これで戦うための腹ごしらえは済んだ。

 

「待たせた、準備完了だ」

 

「———ふっ、それじゃあ作戦会議開始よ。今度こそ確実に落とすわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

ざぁー……ざぁぁん……

 

(ここはどこだ……?)

 

気がつけば俺は砂浜に立っていた。

しかし昼間の砂浜ではない。

 

(とりあえず歩くか)

 

歩くたびにさく、さく、と気持ちの良い音がたつ。

なんだか心が落ち着く。

 

「_______」

 

しばらく歩いていると波の音ではない何かが聞こえた。

その音に吸い込まれるように俺は歩いた。

 

さくさく。

 

「———♪~~♪」

 

(声……?)

 

その音の正体は声・・・いや、歌だった。

とてもきれいで、とても元気な歌声。

俺はさらに声のする方へ足を進める。

 

さくさく。

さくさくと。

 

「ラ、ラ~♪ララ~♪」

 

(見つけた)

 

そこにいたのは少女だった。

波打ち際、つま先を濡らしながらその子は踊るように歌っている。

動くたびに白い髪が揺れる。日差しを反射し、眩いほどの白色。

それと同じワンピースが風に揺られてはふわりと膨んで舞う。

 

(ふむ……)

 

気がつけば俺は声もかけずに近くの流木に腰を下ろしていた。

大分時間が経っているのかこの流木も白かった。

 

(ここはとても白いな)

 

そんなことをボーっと思いながら俺は少女を見つめた。

時折吹く風がとても心地いい。

 

・・・・・

 

「あ~あ、派手にやられたなこりゃ」

 

突然どこからか男の声がした。

周りを見て見るが俺と少女以外は誰もいない。

空耳ではないようで少女は動きを止め、空を見上げている。

何かあるのだろうか?

 

(あれはなんだ…?)

 

上空から黒い何かが下りてくる。

ゆっくり、まるで重力などないかのようにふわりと少女の前に着地したそれは人型だった。

影をそのまま人型にしたような奴だ。

しかし、どこか懐かしい感じがする。

 

「まぁ、丁度いい。データを取っておくか」

 

先ほどの声だ。

やはりこの影が声の主らしい。

 

(俺はこの声を知っている気がする……)

 

・・・・ダメだ。

頭がボーっとして思い出せない。

 

(そういえばあの子は?)

 

視線を戻すと少女は影に抱き着いていた。

表情は見えないがとても嬉しそうなのはわかる。

しかし影は特に何をするわけでもなく立っているだけだ。

まるで少女の存在を認識していないようにも思える。

 

「・・・・・これは!?」

 

驚きの声が聞こえてくる。

一体どうしたのだろう?

 

「間違_ない。これは__再生して_る」

 

影が揺らぎ、言葉も途切れ途切れ聞こえない。

しかしその声色からは楽し気なことはわかる。

 

「ハ_ハハ!ま_かこんな_ころにいた_はな。こ_も運命か。コ_No.__1」

 

やはりうまく聞き取ることができない。

少女は聞き取れているのか、嬉しそうにぴょんぴょんと跳んでいる。

 

「なら、あと足り_いのはエ_ルギーか。まぁ、_ネ_ギーだけなら簡_だ」

 

Joker(ジョーカー)

 

はっきりとした音が聞こえた瞬間、紫色の光が世界を包み込む。

身体からは力が抜けていき、意識が遠のいていく。

 

「お前にピッタリのメモリだ、一夏」

 

薄れていく意識の中、最後に聞こえたのはそんな言葉だった。




投稿遅くてほんとにすいません。
リアルの用事は済んだのでたぶん週一に戻せると思います・・・・たぶん。


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第五十三話 死を呼ぶ福音《後編》

次は日曜投稿目指します。


「ちょっとぉ!ほんとに来るんでしょうね?私は今すぐにでも福音をぶん殴りに行きたいんだけどっ!」

 

鈴がこちらを向き、大きな声でそう言ってくる。

先ほどから貧乏ゆすりが激しくなってきていることから限界の近さが伺える。

他の面々も「どうなんだ?」という目線をこちらに送ってくる。

 

「落ち着けって、絶対来るさ」

 

俺らは今、砂浜で一人の男を待っていた。

 

「来るって言うけどあいつ返事すらせずに部屋に戻ったじゃない。大体ねぇ、あんな協調性のかけらもない奴が協力なんてないでしょ」

 

「確かに返事はしなかったが話は聞いていた。だから来るさ」

 

あいつは絶対来る。

そんな確信めいた予感が俺の中にはある。

 

「しかし嫁よ。今はいつ福音が動き始めてもおかしくない状況だ。いつまでも悠長に待ってはいられないぞ」

 

「待つとしてもあと5分が限度ですわ」

 

「5分あれば充分だ。そろそろ来るはずだからな」

 

「なんでそんな自信満々なのよ」

 

「なんでって、そんなの―――」

 

「来てやったぞ、愚民ども」

 

俺の言葉を遮るようにそいつは現れた。

フッ、やっと来たな。

 

「遅いぞ、天馬」

 

「貴様らが先に来て俺様を待つのは義務であろう?」

 

「あはは…天馬はほんとに天馬だね」

 

「ほ、ほんとに来た……って、なんで私達が待つのが当たり前みたいなこと言ってんのよ!悪いのアンタでしょ!」

 

「ピーピーとうるさいガキだな。俺様が来てやっただけで光栄だと言うのに」

 

「なんですってー!」

 

天馬が来たのはいいが鈴と口論になってしまった。

まぁ、少し言い合えば落ち着くだろうから俺は少し離れて見ておくことにする。

巻き込まれたくないしな。

 

「結局なんで隼人は天馬が来ることわかったの?」

 

同じく避難してきたシャルが先ほどの続きを聞いてくる。

 

「簡単なことだ。意地があるんだよ男の子には」

 

「意地?」

 

「そう、単純だろ?」

 

男ってのは単純な生き物だ。

やられっぱなしは納得いかない。

お前もそうだろ?天馬。

 

「うん、男の子ってほんっと単純だね。でもまぁ、そのぐらい単純なぐらいが、か、かっこいいと思うけどね…」

 

「お、おう」

 

頬を赤らめながらそんなことを言われると照れる。

 

「何呑気に喋ってんのよ。行くわよ」

 

「うおっ!?」

 

突然聞こえた鈴の声に心臓が跳ねた。

い、いつの間に目の前まで来てたんだ…?

というか言い合いはどうなった?

 

「埒が明かないから帰ってきてから決着つけることにしたわ」

 

よ、読まれた…!?

 

「わかりやすいからね、隼人は」

 

ま、また読まれた…!?

 

「ほら、驚いていないで行くわよ」

 

鈴の言葉で全員ISを展開する。

飛び立つ直前、俺はオープンチャンネルを繋げ一言だけ告げた。

 

「勝とうぜ、みんな」

 

 

 

 

 

 

 

 

海上200メートル。

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)は胎児のようにうずくまり静止していた。

 

『――――?』

 

福音が不意に顔を上げる。

次の瞬間、超音速で飛来した砲弾が直撃、大爆発を起こした。

 

「初弾命中。続けて砲撃を行う」

 

それは5キロ程離れた場所に浮かんでいる【シュバルツァー・レーゲン】による砲撃だった。

しかし、ラウラの操るその機体の姿は通常とは異なっている。

レールカノンを二門左右それぞれの肩に装備しており、さらに砲撃・射撃に対する備えとして四枚の物理シールドが彼女を守っている。

これがシュバルツァー・レーゲンの砲戦パッケージ『パンツァー・カノニーア』装備状態だった。

 

ラウラによる砲撃が続くがその中を掻い潜り、福音は接近する。

5キロもあったはずの距離はあっという間に縮まり、福音の魔の手がラウラに迫る。

砲戦仕様は反動相殺のため機動との両立は難しいため回避は間に合わない。

それだというのにラウラはニヤリと口元を歪めた。

 

「―――セシリア!」

 

ラウラに迫っていた腕が垂直に降りてきた【ブルー・ティアーズ】の強襲によって弾かれた。

攻撃に用いる六機のビットはその全てが腰部に接続されており、今はスラスターの役目を果たしている。

しかし、その火力を補って余りあるほどの武器、大型BTレーザーライフルがその手には持たれている。

強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』を装備したブルー・ティアーズがそこにいた。

頭部には時速500キロを超える速度下での反応を補うバイザー状の超高感度ハイパーセンサーを装備している。

 

「捉えましてよ!」

 

セシリアはバイザー越しに福音を捉えると高速反転し、狙い撃つ。

攻撃の衝撃によって福音は数メートル後ろに後退させられる。

 

『敵機Bを認識。排除行動へと移る』

 

「遅いよ」

 

福音の真後ろから新たな機体が襲い掛かる。

それは先ほどの突撃時にセシリアの背にステルスモードで乗っていたシャルロットの攻撃だった。

ショットガン二丁によるゼロ距離射撃によって福音は体勢を崩す。

しかしさすがは軍用ISというべきか、一瞬にして体勢を立て直し三機目の敵に対して銀の鐘(シルバーベル)で反撃を開始する。

 

「残念だけど効かないよ」

 

リヴァイヴ専用防御パッケージ『ガーデン・カーテン』を装備した【ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ】は実体シールドとエネルギーシールドそれぞれ二枚、計四枚のシールドで光弾の雨を防いでいく。

前面を遮り、(光弾)を通さない様は名前の通りカーテンを彷彿とさせる。

 

攻撃を防ぎつつ、シャルロットは隙を見て高速切替(ラピッド・スイッチ)を用いた反撃を開始する。

さらにラウラの砲撃にセシリアの射撃も加わり、三方向からの攻撃によって福音をじわじわと消耗させていく。

その激しい攻撃に福音は翼で身を守るように包み、丸くなる。

 

「―――まずいっ」

 

しかし、それは守るための行動ではなかった。

いつの間にか翼にはエネルギーがチャージされており、それの意味することは強烈な全方位射撃。

まともにくらえばリヴァイヴ以外は落ちてしまうことだろう。

 

『La……♪』

 

福音が翼を開き、エネルギーを解き放とうかという瞬間―――

―――翼を何かが貫いた。

それによって大破とまではいかないがエネルギーが霧散する。

 

「今のはさすがに肝が冷えたぞ」

 

福音たちから200メートル下、岩礁の上で弓を構えた隼人はほっ、と息を吐く。

翼を貫いたのは隼人の射った矢だったのだ。

その手に持つ黒い弓は通常の2倍はある弩弓であり、盾はいつもの物より3倍ほどの厚さをしている。

それは彼のことを守るように浮遊し、ゆっくりと前面を移動している。

【アイアス】は狙撃パッケージ『魔弾の射手』によって狙撃に特化していた。

 

続けて二射目を放つ隼人。

福音はそれを軽く体を捻ることで避ける。

しかし、福音の横を通り過ぎるその瞬間・・・・矢が爆ぜた。

真横からの爆風をもろに受け、福音がよろめく。

その隙に既に三射目が射られている。

その矢は複数に別れ、散弾のごとく福音を襲った。

 

しかし、福音もただやられている訳がない。

翼を広げ、光弾の雨を降らしてくる。

それでも隼人は弓を引く。

 

「更式、頼んだ!」

 

声に呼応するかのように二枚の盾が動き、光弾から隼人を守る。

 

『ふぅー、防御成功』

 

「サンキュー」

 

防御中も引き絞り続けた矢が解き放たれる。

それは真っ直ぐと福音の頭部へと吸い込まれ、爆裂する。

 

『それにしても無茶なこと考えすぎ…防御の要の盾を遠隔操作するとか』

 

隼人はより狙撃に集中するため、盾の操作権を簪に渡し遠隔操作してもらっていた。

一見名案とも思えるこの作戦、しかしこれは実際はかなり難しい。

カメラの映像だけで瞬時に判断し、操作。

なおかつ空間把握能力にも優れてなければ成立しない。

 

「そうかもな。でも、上手くいっただろ」

 

ブルーティアーズほどの複雑な動きは出来ないが重装甲で動かしにくい盾を簪は見事に操って隼人を守った。

ISに乗ることだけが代表候補生ではないのだ。

 

『・・・優先順位を変更。現空域からの離脱を最優先』

 

絶えず続く強烈な四方向からの射撃、さしもの福音もこれには音を上げた。

福音は全方向にエネルギー弾を撒き、次の瞬間スラスターを全開にした強行突破を図る。

 

「させるかぁっ!」

 

海面が膨れ上がり、爆ぜる。

飛び出してきたのは【紅椿】と、その背に乗る【甲龍】の二機。

 

「叩き落とす!」「ブッ潰す!」

 

福音に紅椿は突撃していく。

その背から飛び降りた鈴は、機能増幅パッケージ『崩山』を戦闘状態に移行させる。

両肩の衝撃砲に加え、増設された二つの砲口が姿を現す。

計四門の衝撃砲が一斉に火を噴く。

 

『‼』

 

肉薄し、足止めをしていた紅椿は瞬時に離脱、次の瞬間には衝撃砲による弾丸が降り注ぐ。

それは通常の不可視の弾丸ではなく、赤い炎を纏っている。

それも福音に勝るとも劣らない弾雨だ。

 

「やったか!?」

 

「―――まだだ!」

 

衝撃砲の直撃を受けてなお、福音はその機能を停止していない。

 

銀の鐘(シルバーベル)最大稼働―――開始』

 

両腕を目一杯広げ、翼も自身から見て外側に向ける。

―――刹那、眩いほどの光が爆ぜ、一斉射撃が開始された。

近くにいた箒はシャルロットの後ろに回り込むことで難をしのぐ。

 

「作戦は順調だけど・・・・これはちょっと、きついね」

 

しかし、防御パッケージといえど福音の異常な連射を立て続けに受けてはたまらない。

そうこうしているうちに物理シールドが一枚、完全に破壊される。

それでも福音の射撃は止まらない。

 

「くっ…」

 

二枚目が壊れようかというとき、それは突如現れた。

それは鎖―――黄金の鎖。

全方位から伸びてきた黄金の鎖はまるで意思を持っているかのように弾幕を掻い潜り、福音に絡みつき、その動きを止める。

ギチギチと締め上げられた翼は潰れ、その機能を失う。

 

「とどめは俺様が刺す」

 

上空から黄金に輝くIS【ギルガメシュ】がゆっくりと降下してくる。

その周りにはいくつもの武器が展開されている。

 

「貴様はここで息の根を止めてやる。もちろん第二形態移行(コンティニュー)はなしだ」

 

武器の嵐が動けない福音に降り注ぐ。

その攻撃は翼をもぎ、装甲を砕いても止まない。

このままいけば確実に操縦者の命はない。

 

「天馬、やりすぎだ!操縦者が死ぬぞ!」

 

「構うものか!」

 

隼人の静止の声もむなしく、とどめの一撃が射出される。

その剣は福音の頭部に迫り、串刺しにしようかという瞬間―――

 

Fang(ファング)

 

『Gyaaaaa・・・‼』

 

「なんだっ!?」

 

獣の咆哮のような声とともに発生した衝撃波によって鎖と剣が吹き飛ぶ。

砕けた装甲はみるみるうちに修復され、刃のように鋭いものに変わっていく。

その全身を鋭利なフォルムへと変化させ終えた福音は再び砲口する。

 

『Gyaaaaaa・・・‼』

 

「まずい!?これは―――第二形態移行(セカンドシフト)だ!」

 

ラウラの言葉で全員が我に返る……が、遅かった。

既に福音は恐ろしい速度でラウラの前まで迫っていた。

 

「ぐっ…カハッ…!」

 

片手で喉を掴まれ、身動きが封じられる。

この距離では砲撃できず、周りも下手に手を出せない。

 

「ラウラを放せぇ !」

 

「よ…せ…」

 

小回りのきくブレードでシャルロットが助けに入るが空いてる手で止められてしまう。

 

「にげ…ろ…」

 

福音の頭部の翼がもがれた部分からエネルギーの翼が生える。

その翼はラウラを包み込むと、ゼロ距離で弾雨を浴びせる。

翼を開くと同時にボロボロになったラウラが海に落下していく。

 

「―――よくもラウラをっ!」

 

掴まれたブレードを放し、高速切替でショットガンを呼び出し(コール)するシャルロット。

銃口を向け引き金を引こうとし、シャルロットは戦慄した。

 

「―――ッ!?」

 

福音に銃口を握りつぶされ、無効化されたのだ

これは高速切替に完璧な反応をされたという事だ。

そして次の瞬間にはシャルロットは防御する間もなく光弾を浴び、落下していく。

 

「な、なんですの!?この性能・・・軍用だとしてもあまりにも―――!?」

 

次に狙われたのは再び高速機動射撃に移ろうとしていたセシリア。

目の前には両手両足、計四ケ所同時着火による爆発的瞬時加速(イグニッション・ブースト)を用いた福音が迫っていた。

 

「このっ!」

 

距離を置いて銃口を上げようとするが、その砲身を真横に蹴られてしまう。

この距離では長大な銃は役に立たない。

 

『アームセイバー』

 

腕の装甲が鋭く伸び、刃となる。

そして胸元を一文字に一閃。

砕け散った装甲と共にセシリアは蒼海へと沈んだ。

 

「―――てめえ!」

 

渾身の一矢が頭部を狙って放たれる。

当たる!、そう思われた矢の動きが止まる。

いや・・・止められた。

 

「嘘だろ!?」

 

福音は飛んで来た矢を掴んで止めた。

それも弩弓の弓から放たれた重い最速の一撃をだ。

 

「やっと止まったわね!」

 

矢を受け止めたことによって生じた僅かな時間を鈴は見逃さない。

後方から衝撃砲による弾雨が迫っていく。

 

『ショルダーセイバー』

 

肩から生えた刃を福音は投げる。

その刃は衝撃砲の弾雨を切り裂き、爆破させていく。

 

「なによ・・それ・・!?」

 

役目を終えた刃は弧を描き、福音の手元に帰ってくる。

そして再びその刃を投げる。

向かう方向は下―――つまり隼人に向かっている。

 

「くっ!」

 

直前でなんとかその場から離れる。

隼人のいた岩礁は切り刻まれ、バラバラと崩れていく。

 

「―――ッ!?」

 

一瞬だが岩礁に気を取られていた隼人の目の前には福音の手があった。

 

「グァァァッ!?」

 

凄まじい力で顔を鷲掴みにされ、ギシギシと骨が悲鳴をあげる。

絶対防御が無ければ既にペチャンコに潰れているであろうその痛みが反撃など許さない。

 

『衛宮!』

 

盾の表面が開き、隠し武器であるミサイルが発射され、福音に直撃する。

 

『そんなっ!?』

 

煙が晴れ、そこには先ほどと変わらず隼人を掴んだままの福音がいた。

そのまま福音は高速機動で隼人を振り回し、海面に投げつけた。

驚異的な速さは水をも凶器に変える。

 

「仲間をよくもっ!」

 

「調子乗ってんじゃないわよ!」

 

凛と箒が左右から同時に斬りかかる。

 

『アームセイバー』

 

それは両腕から伸びた刃によって止められる。

 

「こっちだって―――」

 

「一本じゃないのよ!」

 

二人は二刀流、つまりもう一撃残っている。

二本の刃が福音の身体を捉える。

 

「どうだっ!」「よしっ!」

 

確かな手応えを感じる二人。

斬られた衝撃から福音は大きくよろめいている。

ようやく作れたチャンス、二人は追撃を仕掛ける。

 

「「もらったー!」」

 

回避は不可能。

しかし、勝ちを確信した二人を突然痛みが襲う。

背中を斬られたかのような感覚。

攻撃は浅く入るのみで仕留めるまでには至らず、福音に距離をとられる。

距離をとった福音の手元に二本の刃が弧を描いて収まりに行く。

先ほどの痛みはショルダーセイバーによるものだった。

 

「くっ、いつの間に…!そんな隙など・・・まさか!?」

 

「私たちに斬られて飛ばされる瞬間に投げたってわけ…?・・・化け物ね…」

 

動作の後には隙が生まれるとされている。

二人の攻撃後には隙とは言えぬほどの僅かな時間が存在していた。

福音はその瞬間にショルダーセイバーを投擲し、二人を死角から襲ったのだ。

完璧に二人は流れを絶たれた。

 

『Gyaaaaa・・・・‼』

 

流れは再び福音の手に・・・

 

『Gya―――!?』

 

戻らなかった。

黄金の鎖が福音を縛り上げる。

 

「なんだ、その姿は…?なんだ、その力は…?一体何なんだ!そんなもの俺様は知らない…!」

 

しかし、縛り上げた零士が酷く混乱している。

その顔には明らかな焦りと僅かな怒りが見て取れる。

 

「俺様の知らない物は存在するなっ!消えろ…消えろ…消えろー‼」

 

武器の嵐が福音を襲う。

装甲が砕け、散っていく。

先ほどと全く同じ状況。

 

「ハハ・・・ハハハハハ!所詮姿が変わっても貴様は負けるために生み出されたキャラだ!ここで死―――」

 

『Gyaaaaa!!!!!!』『マキシマムセイバー』

 

足元から伸びた刃が内側から鎖を引き裂き、ギリギリのところで離脱に成功する福音。

そこから勢いそのままに零士に迫る。

 

「この死にぞこないが!」

 

大量の武器が突進してくる福音に向けて押し寄せていく。

すでに回避をとれる距離ではない。

 

『Gyaaaaa!!!!!!』

 

それを福音はきりもみ回転することで翼のエネルギーを身にまとわせ、武器の嵐を弾き、突き破っていく。

 

「なっ!?」

 

そしてその牙が零士に喰らいついた。

箒たちには福音が恐竜の頭部に見えたことだろう。

福音が離れた瞬間、零士は力なく落下していく。

 

『Gyaaaaa・・・・‼』

 

敵を倒し、雄たけびを上げる。

その姿はまさに獣そのものだった。

そして二人の持つ武器がカタカタと音をたてる。

 

「くっ…!乱れるな…!引くな…!」

 

「クソッ!止まれ…!止まれ…!止まれって言ってんのよ…‼」

 

必至に腕に力を籠めるが、震えは止まらない。

逆に手から腕へ、腕から肩へと、どんどん体を支配されていく。

 

グリンッ

 

そのような音が聞こえてきそうな動きで福音はその首を二人に向けた。

それが意味することは敵の完全排除だった。




圧倒的な強さを見せる福音。
絶体絶命の箒と鈴。
二人は恐怖に打ち勝つことができるのか。


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第五十四話 切り札は手の中に

日曜更新できなくてすまない。


どうすればいい…?

心を埋め尽くすのはそんな言葉。

 

(くっ…なさけない…)

 

震えを必死に抑えようとするが震えは増すばかりで武器を持っていることさえ難しくなってきた。

仲間は私と鈴を除いて全員落とされ、残った私たちも消耗が激しい。

 

(一体どうすれば奴を…)

 

視線の先では敵を倒したことで獣のように吠える福音。

あれを私が倒せるのか…?

皆やられたというのに…?

そんなの勝てるわけ―――

 

(―――ハッ、私は今なにを…)

 

やるしかない…

やるしかないのだ!

私がやらねば誰がやるというのか。

やられた仲間たちの為にも福音を絶対に落とす!

 

「__わよ、箒…」

 

隣から声が聞こえてくる。

最初は小さく聞こえなかったがそれは段々と大きなものへと変わっていく。

 

「やるわよ、箒!」

 

「応!」

 

私は一人じゃないことを改めて実感し、剣を握る手に力がはいる。

幾分か震えがマシになってきた。

これなら・・・・戦える!

 

「来るぞ!」

 

「わかってるっての!」

 

福音がグリンッ、とその顔をこちらに向けてくる。

こちらを標的にした証拠だ。

そう認識した次の瞬間には福音はこちらに迫ってきている。

速いが、この紅椿ならッ!

 

ガキンッ

 

大きな音とともに奴の刃を私の剣が受け止める。

しかし、それも一瞬のことでじりじりと押され始める。

なんて馬鹿みたいな力をしているのだ、こいつは…!

 

「鈴・・・はやく・・・!」

 

「あと一秒耐えて!」

 

福音の真上からスラスターを全開にした鈴が突っ込んでくる。

そしてその両手に持った剣を振りかぶる。

 

「ぐっ」

 

しかし、鈴の攻撃の直前に福音は私を蹴ることで自由になり、即座に頭部を守った。

 

「はあぁぁぁぁ!」

 

剣が振り下ろされ、刀が受け止めるが鈴の勢いを止めることはできず、福音を真下に押していく。

その勢いはあと少しで海面といったところまで福音を押し、止まった。

 

「嘘でしょ…」

 

しかし鈴の剣は刀に食い込み、止まっている。

福音にダメージを与えるまでには至らなかった。

福音の翼が鈴を包み込むように動く。

 

「逃げろ!鈴!」

 

「えっ…」

 

遅かった…

鈴は光に包まれ、落ちていく。

残ったのは私一人だけ…

 

「はぁ…はぁ…」

 

動悸が激しくなり、息苦しい。

意識を今すぐにでも手放したいぐらいだ。

 

(・・・勝てない)

 

圧倒的力の差。

それが私の心を折りにくる。

それに加え頭の中では、逃げろ逃げろと頭が割れそうなほど声が響いている。

 

「逃げろ、か・・・・ふっ、そんなのできたらとっくにやっている…」

 

だが、私の心はまだ折れていない。

だからそれは許さない。

仲間がやられたというのに自分一人だけおめおめと逃げ出すことなどできるはずもない。

それに逃がしてくれるほど甘い相手ではないしな。

呼吸を整え、剣を構える。

皆の戦いを無駄にはしないために―――

 

「―――行くぞっ!」

 

奴を倒して、皆揃って帰るのだ。

 

「セイヤァァァ!」

 

全ての思いを剣に乗せ、福音の頭部に向けて振り下ろす。

福音は先ほどと同じように刃で受け止めてくる。

しかし、先ほどのようにはいかない。

 

「負けるかぁー!」

 

こちらの剣が刃を砕き、福音の頭部をもろに捉える。

ひびが入っていたから競り勝つことができた。

 

(ありがとう、鈴)

 

このチャンスを見逃せば終わりだ。

全力で攻め続ける。

 

「はあぁぁぁぁ!」

 

福音は防御の姿勢をとるものの動きのキレが明らかに落ちている。

効いていたのだ、皆の攻撃は着実に福音の中で蓄積していた。

 

(・・・やれるか…?・・・いや、やってみせる!)

 

激しい攻防が続く中、福音の反撃が徐々にこちらを捉え始めていた。

ダメージが蓄積しているのはこちらも同じということか…

 

「・・・・もってくれ紅椿!」

 

あと少し、もう少―――!?

ガクンッ、と突然速度が落ちる。

身体が重くなり、剣が手の中から消えていく。

 

「またエネルギー切れ…!?―――があっ!」

 

福音が簡単に私の首を掴み、締め上げる。

もう反撃する力は残っていない。

息ができない苦しみから意識がどんどんと薄れていくのがわかる。

 

(皆、すまない…)

 

結局、私では敵わなかった。

 

(死ぬのか…?私は…)

 

福音が私を持った手を振りかぶっている。

エネルギーが切れたこの状態で海に叩きつけられたら・・・・

 

(あぁ…一夏に会いたい)

 

頭に思い浮かぶのは一夏、そして―――

 

(兄さん…最後にもう一度、あなたと話したかった…)

 

薄れゆく意識の中覚悟を決め、瞳を閉じようとしたその時―――

一瞬の突風が吹いたかと思えば福音は吹き飛ばされており、私は誰かに抱えられていた。

ぼやける瞳が捉えているのは白。

 

「・・・いちか…?」

 

「・・・・・」

 

「?・・・・!?」

 

視界がハッキリし、私は驚愕した。

 

「エ、エターナル!?」

 

私を抱えていたのはエターナルだったのだ。

急いで私はエターナルを突き飛ばし、距離をとる。

 

「なぜ貴様がここにいる!」

 

「・・・・・」

 

一体どこから現れた?

ここら一帯の空域にこいつの姿はなかった。

いや、それよりもなぜこいつは私を・・・

 

Cyclone(サイクロン)! マキシマムドライブ!/

 

奴がメモリのようなものをベルトに挿し込むと風がエターナルを中心に吹き始める。

それが徐々にエターナルに集まって行き・・・

 

「き、消えた!?」

 

エターナルの姿が消えた。

恐らくは風を使った光学迷彩だろう。

先ほどの突然現れたのもこれを使っていたのか…!

しかし、姿が見えないのでは対処は難しい。

どうする…?

 

「・・・・・?」

 

しかし私の考えは外れ、特に攻撃はこない。

まさか逃げたのか…?

 

『Gyaaaaaa・・・‼』

 

「ッ!考える暇はないようだ」

 

福音がこちらに向かってきているのが見える。

こちらはエネルギー切れのため戦える状態ではない。

 

「万事休すか…」

 

目の前に迫っている福音の手が振り上げられた瞬間―――

またしても福音が吹き飛んだ。

しかし、今度のは射撃によるものだ。

 

「大丈夫か、箒!」

 

福音が吹き飛んだ方向の逆から声が聞こえてくる。

その声は私が会いたい者の声だった。

目元が熱くなるのがわかる。

 

「・・・本当に・・・一夏なのか…?」

 

「それ以外に誰に見えるんだよ?」

 

私の隣まで来た男は正真正銘、織斑一夏だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪い、待たせたな」

 

「一夏っ、大丈夫なのか!?体は、傷はっ・・・ごほっごほっ!」

 

「俺は大丈夫だ。箒の方こそ無理すんな」

 

箒の姿はボロボロだった。

喋るだけでも負担がかかっている。

それほどまでに戦ったんだな…

 

「よかっ・・・よかった・・・本当に・・・」

 

「なんだよ、泣いてるのか?」

 

「あぁ、泣いてるよ。お前に泣かされている」

 

「・・・心配かけたな」

 

「・・・もう会えないと思った…」

 

ボロボロと涙をこぼし、下を向く箒。

箒のことだ、どうせずっと我慢していたんだろう。

 

「よく頑張ったな、お疲れ」

 

「!?////」

 

箒の頭に手を置き、優しくなでる。

確かこんな感じだったよな?雄二兄ちゃんのなで方。

 

「それと―――」

 

箒の髪を軽くまとめ、

 

「———箒はやっぱこの髪型が似合ってるぜ?」

 

新しいリボンで髪を結ぶ。

よかった、今日が終わる前に渡せた。

 

「遅くなったけど誕生日おめでとう、箒」

 

こんな時に、って思われるかもしれない。

でも、今伝えないといけないと思った。

 

「・・・・・下手くそだな、結ぶの」

 

「わ、悪い…」

 

痛いところを突いてくる。

しかし、こういうのは雰囲気が大事だと思う。

 

「だが―――」

 

箒はぐしぐしと目元を拭い、顔を上げる。

 

「———とても嬉しいぞ。ありがとう、一夏」

 

ドクンッ、と心臓が跳ねた。

こ、これは破壊力が凄まじい。

どれくらいかって言うと、零落白夜なみかもしれない。

 

「そ、そうか、なら良かった。じゃ、じゃあ、あとは俺に任せて休んでろよ」

 

そう言って俺は急いで反転し、福音へと接近していく。

べ、別に逃げたわけじゃない・・・もう福音がそこまで来てるのわかってたから!

 

「って、まじで近いな!?」

 

気がつけば目の前には福音。

こいつ、姿が随分と変わってやがる。

 

「でも、近づけるなら好都合だ!」

 

俺の剣と福音の持つブーメラン?がぶつかり合う。

鍔迫り合いの最中、奴の腕に中折れしている刃物がついていることに気が付いた。

なるほどな、今持っている武器は満足なものじゃないってことか。

だったら―――

 

「負ける気がしねぇ!」

 

『Gya!?』

 

零落白夜を発動!

そのままブーメランごと斬る!

 

「うおりゃぁ!」

 

『!?』

 

ブーメランは斬れたが本体の方には反応されてしまい、掠るだけに終わる。

 

(なんつう反応だ!?まるで野生の動物みてぇだ・・・あっ!)

 

驚いている間に距離をとられちまった。

スピードも上がってやがるな。

だけどよぉ・・・

 

「変わったのはお前だけじゃないんだぜ?」

 

こちらも一気に加速し、福音に追いつく。

これが進化した白式第二形態・雪羅(せつら)が可能にした二段階瞬時加速(ダブル・イグニッション)の速さだ!

お前だって最高速で回避できるわけじゃないんだから、十分に追いつけるぞ!

 

「こいつも見せてやる!」

 

左腕の新武装『雪羅』で攻撃する。

エネルギー刃のクローが確実に福音の装甲を削る。

一気に接近してからの新武器は雪片を警戒していた福音には効果抜群だった。

しかし、さすがは福音。

今の攻撃の衝撃を利用して距離をうまく離してくる。

 

『ショルダーセイバー』

 

右肩から先ほどと同じブーメランを出し、こちらに投げつけてくる。

やっぱりブーメランだったか。

 

「だったらこれだ」

 

雪羅を荷電粒子砲へと変化させる。

なんと雪羅は状況に応じていくつかのタイプへと切り替えられる便利武器なのだ。

 

ドンッ!ドンッ!

 

荷電粒子砲でブーメランを狙い撃つ。

シャルロットとの訓練のおかげか見事打ち落とすことに成功。

そのまま接近していく。

 

『Gyaaaaa・・・‼』

 

福音が翼を広げる。

今度はお得意の殲滅射撃か。

そう思った瞬間、福音の掃射反撃が始まった。

 

「そう何度も食らってたまるか!」

 

俺は避けるなんてことはしない。

ただ左手を前に構えて突っ込む。

―――雪羅を防御モードに切り替え。相殺防御、開始!

 

キンッ!と甲高い音を鳴らし、左腕の雪羅が変形する。

そして雪羅から光の膜が広がり、福音の弾雨を打ち消していく。

そう、これはエネルギーを無効化する()()()()()()()()()()()だ。

当然エネルギーの消耗は激しいが攻撃を完全に無効化できる以上、こちらが圧倒的有利。

 

(サンキュー、皆)

 

ここまで俺が福音と戦えるのは他の皆が命懸けで消耗させてくれたおかげだ。

もしもこいつが万全の状態だったらと思うとゾッとする。

そんな相手に立ち向かって、ここまで追い詰めた事実。

 

(ほんと、スゲーよ皆。尊敬するぜ)

 

俺は一人で戦ってるんじゃない。

皆の想いを乗せて戦ってんだ!

 

「はあぁぁぁ‼」

 

弾幕を抜け、一閃。

もろに入った!

福音の装甲が砕け散る。

 

『・・G・・・Gyaaaaa・・・‼』

 

「!?こいつまだ動け―――ぐあぁ!」

 

斬られた!?どうやって!?あいつに武器はないはず。

混乱したところを距離を大きく離される。

そこでようやっと俺が何に斬られたのかわかった。

 

「足からも出せるのか…!」

 

奴の両脚から伸びる二本の鋭利な刃。

間違いない、あれが福音の最後の武器であり、奥の手だ。

 

「まだやれるな、白式」

 

今ので大分エネルギーを失ったがあっちだってそれは同じだ。

雪片を強く握り直し、俺は再度福音のもとへ飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏と福音の激しい攻防が繰り広げられている。

相性的に一夏が押しているが福音の方も食らいついて行っている。

 

「一夏…」

 

一夏のあの戦い方はどう見てもエネルギーが長続きしない。

このままでは・・・・

 

(私は守りたい…)

 

守られるだけでなく・・・私は・・・・

 

「共に戦いたい。あの背中を守りたい!」

 

気がつけば強い思いが声に出ていた。

その瞬間、紅椿の展開装甲から黄金の粒子が溢れ出してきた。

それは全身を優しく包み込む。

 

「これは・・・!?」

 

急激にシールドエネルギーが回復していき、一つのウィンドウが出現する。

 

絢爛舞踏(けんらんぶとう)

 

そう書かれている上には単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)の文字。

 

(まだ戦えるのだな?ならば―――)

 

武器を呼び出し、握りしめる。

 

「行くぞ、紅椿!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜらあぁぁぁ!」

 

零落白夜による斬撃が福音のエネルギー翼を断つ。

しかし、一度の接近で斬れるのは片翼のみ。

二撃目はうまくかわされてしまう。

 

「クソッ…」

 

そうしている間に失った翼は再度構築されてしまっている。

どうにかして一発で仕留めねぇとな。

 

(だけど、正直どうすればいいかわかんねぇ…)

 

無理に狙いに行けば脚の刃の餌食になる。

かといって、翼への攻撃をおろそかにすれば防御の間もなく光弾をくらっちまう。

 

(何かないか!?考えろ考え―――)「くっ…」

 

福音の射撃による反撃がくる。

考える余裕がない。

だが、何か考えないとエネルギーが尽きちまう。

 

「一夏!」

 

「箒!?」

 

焦る俺のもとに来たのは箒だった。

しかし、その姿は黄金の光を纏っている。

 

「お前、ダメージは―――」

 

「大丈夫だ!それよりもこれを受け取れ!」

 

箒の―――紅椿の手が白式に触れる。

その瞬間、全身に電流のような衝撃と炎のような熱さが走った。

しかし、不思議と痛みはない。

 

「な、なんだ…?今のは・・・・って、エネルギーが回復!?箒、これは―――」

 

「説明は後だ!来るぞ、一夏!」

 

「お、おう!」

 

再びきた福音の弾幕をシールドで防ぐがエネルギーが使ったそばから回復していく。

よくわかんないがこれなら何かいい策を考える時間が・・・・・

 

「なんだこれ…?」

 

突如ウィンドウが表示された。

 

Joker(ジョーカー) Mode(モード)』起動準備完了。起動しますか?

 

な、なんだこれ…?

これも新機能か…?

 

「一か八かだ!何か突破口になってくれよ―――『Joker(ジョーカー) Mode(モード)』起動!」

 

\Joker/

 

突如白式が紫色の輝きを放つ。

膨大なエネルギーを持ったそれは前方に衝撃波を放ち、福音の弾幕をかき消した。

そして輝きが収まると白式の姿が変わっていた。

白いボディーに黒に近い紫のラインが入っており、雪片には大きなJの文字が浮かび上がっている。

 

「こ、これはなんだ!?一夏」

 

「わかんねぇ・・・けど、力が溢れてくる!」

 

身体の底から力が湧いてくる。

信じられないぐらい身体が軽い。

 

「箒、しっかりつかまってろよ」

 

「!?」

 

二段階瞬時加速によって一気に距離を詰める。

速い‼先ほどより段違いに。

箒は・・・よし、振り落とされてないな。

 

「はぁっ!」

 

まずは片翼を断つ。

雪片を振るう速度も上がっている。

これなら―――

 

「でやぁっ!」

 

『!?』

 

続けてもう片方の翼も断つ。

福音の足が振るわれる。

剣は間に合わない。

 

「オラァ!」

 

ならば殴りつける。

空いている左手で福音を殴りつけ、刃の軌道を逸らした。

そこから回し蹴りをお見舞いする。

 

『Gya……!?』

 

見事に決まり、福音は吹き飛んでいく。

 

(こいつはすげぇ。純粋な格闘まで強化されているのか)

 

福音もこの姿の脅威を感じ取り、動きが変わる。

どうやら決めに来るようだ。

 

『マキシマムセイバー』

 

姿勢を低くし、こちらに狙いを定めている。

 

「あれは!?一夏———」

 

「わかってる。一番すげぇのが来るんだろ?———迎え撃つぞ!」

 

「しょ、正気か!?」

 

「あぁ、マジだ。ここで決める。箒、俺を信じてくれ」

 

俺の白式と箒の紅椿が力を合わせてるんだ、負けるはずがない。

 

「・・・・・わかった、絶対に勝つぞ」

 

「おう!」

 

こちらも両手で雪片を握り絞め、零落白夜を全開にする。

 

『Gyaaaaa!!!!!!』

 

来た!

きりもみ状に回転し、エネルギー翼を纏いながら突っ込んでくる。

凄まじい勢いだが・・・・・負ける気がしない!

 

「「うおぉぉぉぉ‼」」\マキシマムドライブ!/

 

すれ違いざまにお互い全力の一閃。

お互い背を向け、止まっている。

 

ピキッ

 

白式の装甲にひびが入り、砕ける。

 

「———俺達の勝ちだ、福音」

 

バキンッ!

 

福音の刃が砕け散り、力なく落下していく。

その途中で福音の展開が解除され、落ちていく。

 

「しまっ―――浮いてる!?」

 

しかし、その操縦者は空中で停止した。

ちょ、超能力!?

 

「いや、違う。あれは―――」

 

箒がそう言うとそれは徐々に姿を現し始める。

足元から頭部に向かいゆっくりと視認できるようになっていき・・・・

ついに姿を確認できた。

 

「エターナル!?」

 

それは指名手配されている(らしい)エターナルだった。

なんであいつがここに…?

いや、そんなことより―――

 

「その人を放せ!エターナル」

 

操縦者の安全を確保しないと。

 

「放していいのか?この女が死ぬぞ」

 

機械音声が事実をつげてくる。

 

「あっ、それもそうか…じゃ、じゃあ放すな!」

 

「人質取らせてどうするんだ!バカ!」

 

どうしろって言うんだよ!

いったいどうすれば・・・・

 

「言っておくが俺の目的はこのコアだけで操縦者に興味はない」

 

そう言ってエターナルは操縦者を放り出した。

 

「ッ!?」

 

二段階瞬時加速を使い、手を伸ばす。

クソッ!間に合わな―――

 

「あんたはツメがあまいのよ、ツメが」

 

「鈴!」

 

ギリギリのところで海から出てきた鈴が操縦者をキャッチした。

あと少し遅れていたら命はなかっただろう。

 

「エターナル!お前!」

 

剣を構え、エターナルを睨みつける。

今のこの状態なら負ける気がしない。

 

「やめておけ。お前では俺には勝てん。それに―――」

 

―――時間切れだ。

その瞬間、視界がぐらりと揺れた。

 

(なんだ・・・・力が抜けていく・・・)

 

「メモリの力はそう簡単に扱えるものではない」\Cyclone(サイクロン)! マキシマムドライブ!/

 

「ま・・・て・・・」

 

消えゆくエターナルに対しなにも出来ずに俺の意識は闇に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「~~♪~~~♪♪」

 

とある海辺の崖上。

鼻歌を奏でながら篠ノ之束は空中に展開したディスプレイを操作していく。

 

「紅椿の稼働率は50%かぁ。まぁ、最初だしこんなとこかな?」

 

そう言うと、別のディスプレイを呼び出す。

そこには白式第二形態の戦闘映像が流れていた。

 

「それにしても白式には驚くなぁ。まさか操縦者の生体再生まで可能だなんて、まるで―――」

 

「———まるで【白騎士】のようだな、コアNo.001にして初の実戦投入機。お前とあいつが心血注いだ一番目の機体」

 

背後の森から音もなく現れたのは織斑千冬。

 

「やぁ、ちーちゃん。お説教はもういいの?」

 

「あぁ、嫌というほどしてきてやった。お前にもしてやろうか?」

 

「うへぇ~それは勘弁」

 

二人ともお互いの方を向かない。束は海を見ながらディスプレイを、千冬はその身を木に預ける。

見なくてもわかる―――そんな二人の信頼がそこにはあった。

 

「ねぇ、ちーちゃん。一つたとえ話をしようか」

 

「どんなだ?」

 

「何でもできちゃう天才がいるとする。その天才はある時死んでしまうんだけど、死すら偽装できるほどの天才だった場合、その死は本物なのかな?偽物なのかな?」

 

「束…」

 

僅かに千冬の眉が動く。

 

「たとえ話だよ、たとえ話。それでどっちだと思う?」

 

「・・・・・生きてる方がいいんじゃないか?」

 

「そっか・・・私にはどちらも――――」

 

―――地獄に思えるよ

 

「っ!束」

 

千冬が振り返るとそこにはすでに束の姿はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~あ、やられてしまいましたねぇ~」

 

暗い部屋、パソコンの明かりだけが部屋を照らしている。

そのパソコンの前で男は楽しそうにしている。

 

「しかし!今回の実験は成功しました」

 

その男以外その部屋には誰もいない。

だというのに男はしゃべり続ける。

 

「ISとメモリの融・合!んん~!やはり予測通りいくと実に楽しい!福音の主人を守る意思と混ざり合うようにファングメモリに主人を危険から守るようにプログラミングしたのは正解でしたねぇ」

 

楽しそうに喋りながらもその手は一切止まらない。

 

「まぁ、そのせいでさらに暴走してしまったんですけどねっ!アヒャヒャヒャヒャ!まだまだ改善の余地ありですねぇ!」

 

パソコンのモニターに映るのは二枚の写真。

エターナルと新しい姿の白式。

 

「だが、そんなことはどうでもいいのです!重要なのはこいつら!どうやって白式はメモリの力を手に入れ、取り込んだのでしょう?NEVER(ネバー)が仲間なのでしょうか?ククク、全くわかりませんねぇ!あぁ、面白い」

 

ガチャガチャガチャッ!

興奮してるのかキーボードをたたく力が強くなっていく男。

 

「あぁ、次はもっと楽しくなりそうだ!ヒヒヒヒヒ!」

 

男の狂ったような笑い声が部屋に響き続けた。



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第五十五話 夏休み開始

八月。

ようやっと暑さにも慣れてきた頃、IS学園の生徒にも遅めの

夏休みが訪れていた。

そのため世界中から集まってくる生徒の大半が帰省中であり、

学園はがらんとしている。

 

「はぁー…書類多すぎ…」

 

「休んでいる暇はありませんよ」

 

しかし、そんな中でも残っている者達は当然いる。

 

「わかってる…」

 

冷房が効いた部屋で資料とにらめっこしているのは更識楯無。

その横で同じく資料と向き合っている布仏虚。

相も変わらず彼女達は仕事に追われている。

・・・いや、いつも以上に追われていた。

 

「それにしても最近多いですね…」

 

「えぇ、かなり多いわね…」

 

楯無が手に持っている資料にはある工場のことが書かれている。

その工場は正規ではない兵器が作られている場所であり、所謂―――闇工場というものだ。

更識家が以前からマークしていた工場の内の一つなのだが・・・

 

「工場は大破。死人は0人で作業員は全員捕縛されている状態で発見、か・・・・

この手のやつ今月入ってから何件目だっけ?」

 

「これで23件目です」

 

今は八月中旬、明らかに異常な件数だ。

 

「悪党同士で勝手に潰し合ってくれるのは助かるけど・・・」

 

「まぁ、そのせいでこの状況ですがね」

 

そのマークしていた工場などの施設が次々と破滅に追いやられているのだ。

もちろん、更識家以外によってだ。

でなければ資料の前でこのように悩まない。

 

「でもこれはチャンスよ。これまでは痕跡を追うので手一杯で

後手に回っていたけど、ようやっと追いつけそうね」

 

「はい、絶好の機会です」

 

楯無が資料をめくるとそこに載っていたのは工場を破壊した人物。

黄色い複眼にアルファベットのEを模した角、

白を基調とした姿にアクセントを加える

両足のアンクルガードと腕の青い炎の意匠。

そして身に纏う闇のようなマント。

すなわち、その人物はエターナルである。

 

「しかし、いったい何が目的なのでしょうか?私にはさっぱりです…」

 

虚がそういうのも無理はなかった。

なぜなら調べの限りその施設から物品やデータが持ち出された痕跡がないのだ。

これは捕らえた施設のもの達から(色々して)得た情報と

照合しているので間違いないだろう。

 

「他勢力の戦力を削る、とかでしょうか?」

 

「・・・それはないわね。それだったらいつもみたいに

もっと重要な所を狙うはずよ」

 

重要な施設はそれだけ警備が厳しいため効率的とは言えないが、

ことエターナルに限ってはそれだけのことを成す力と技術力を持っている。

小さいことを積み重ねるより多少リスクの伴う大きいことをした方が

エターナルにとっては効率的と楯無は考える。

 

「恐らく、探しているんじゃないかしら」

 

エターナルは探し物をしている。

数多くの資料の情報が楯無にそう思わせていた。

 

「探している、と言いますと?」

 

「・・・・・さぁ?それはさっぱりわからないわ」

 

でもね、と付け加え楯無は続ける。

 

「―――焦っているのは間違いないわ」

 

そう言い放った楯無の自信に満ちた表情は虚の心から不安を消していく。

それと同時に「どこまでも付いて行こう」と改めて想わせた。

 

「―――では、そのチャンスをしっかりものにするためにも

この資料の山をどうにかしないといけないですね」

 

「・・・・ちょっと休憩しない?」

 

「駄目です」

 

「もぉ~!こんな大変な時に本音ちゃんは何してるのよ~!」

 

「本音は整備室です。それにその・・・・」

 

珍しく虚が歯切れが悪そうに言葉を詰まらせる。

その表情は申し訳なさで一杯だった。

 

「あの子がいると作業が逆に増えますから…」

 

「・・・・そうね」

 

「申し訳ございません…」

 

「いやいやいや!気にしなくていいわ、二人で頑張りましょ?」

 

虚の姿を見て、自分の発言に少々後悔した楯無は空元気を出して資料と戦うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハックチっ!」

 

「風邪?気をつけなよ?」

 

「いやいや、きっと誰かが噂してるんだよ~」

 

(悪い意味でかな…?)

 

場所は整備室。

ここにも夏休みだというのに残っている生徒がいる。

といっても簪と本音の二人だけだが。

いつも手伝っている生徒も帰省中だ。

 

「それにしても最近全然なるみん来ないねぇ…帰省はしてないんだよね?」

 

本音の言葉にピクリと肩を震わせる簪。

 

「そ、そうね…でも、忙しいらしいから仕方ないわよ…」

 

仕方ない、そういうわりには簪の表情は暗い。

それに伴って作業のスピードも落ちている。

 

「寂しいの?」

 

「べ、別に寂しい訳では…」

 

「・・・・かんちゃん、呼んでみたら?きっと来てくれるよ?」

 

「だ、だから寂しくないってば!?・・・・・それに優には迷惑かけたくないし、いつも手伝ってもらってばかりで私は何も借りを返せてないから…その・・・」

 

「その?」

 

「ず、図々しい子だって思われない…?」

 

ついには作業する手がピタリと止まり、本音の方を向く。

その顔は心配で仕方ないといった顔。

 

「・・・・ぷっ、ぷははははは!」

 

「急になに!?」

 

「ははは、だって、かんちゃんってばそんなことで

悩んでるもんだからおかしくなっちゃって」

 

「そんなこと、ってどういうこと…?」

 

笑う本音に対し、ムスッと脹れる簪。

 

「まぁまぁ~怒らないでよ~」

 

「怒ってない」

 

「えぇ~ほんとに?ムスッとしてる気がするけどなぁ。

・・・まぁいっか。それで何が言いたいかというとね、

自分から手伝いたいって言ってきたなるみんを

こっちから誘うのは駄目なの?ってこと」

 

「それは…」

 

珍しく筋の通ったことを言っている本音に簪は言葉を詰まらせる。

 

「それにそのぐらいで邪険に扱うほどなるみんは

器小さくないでしょ?

それともかんちゃんはなるみんのこと信用できない?」

 

「そ、そんなことないっ!」

 

「でしょ?だったら掛けてみればいいじゃん。少しのわがままぐらい大丈夫だよ~」

 

「うっ・・でも忙しいのにこっちで作業させるってのは・・・」

 

置いてある携帯をちらちらと見ながらも、まだ踏ん切りがつかない様子の簪。

 

「あっ!じゃあ、普通に遊ぼう。息抜きってことで」

 

「息抜き…」

 

「そう、息抜き。なるみんも息抜きは重要って言ってたじゃん」

 

頑張りすぎる簪は常日頃から優に息抜きするように言われていた。

それは他愛のない会話だったり、食事だったりと様々だがその重要性は理解している。

 

「息抜き・・・息抜きならいいよね…?うん、優が大事って言ってたもん!」

 

自分に言い聞かせながら携帯に手を伸ばす。

 

「そうそう、息抜き息抜き。ちょうど明日お祭りがあったな~」

 

「お祭り・・・息抜きにはいいかも。メ、メールしてみよ」

 

(わ~い、屋台で美味しいものいっぱい食べれる~)

 

いつの間にか本音の計画通りに動いていると簪が気づくのはもう少し後の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここも違った…」

 

壁に貼り付けた地図にバツ印をつける。

すでに23個目だが一向に手がかりすら掴めていない。

 

「どこだ…どこにある…?」

 

焦りばかリが募っていく。

焦りは失敗を生む、そんなことは分かっているが焦らない方がどうかしている。

 

「いったいどこで作られた…?」

 

俺は机の上に視線を向ける。

砕けたファングメモリが置かれている。

それは福音のコアを回収したときに一緒に持ち帰った物だ。

しかし、これは俺のファングメモリではない。

俺のファングメモリはT1、T2の二本ともしっかりと手元にある。

 

(わかっていることは俺以外の転生者がいるってことだ)

 

俺はファングメモリを実戦で使用したことがない。

つまりファングメモリの力を解析して作るのは不可能。

作ることが出来るのは以前から知っている者だけ。

 

「クソッ…俺自身がそうなのだから他にいたって不思議じゃないってことか…」

 

ガイアメモリをつくることができるものが他にもいるという事実。

それは危険度がグッとあがったことを意味する。

奴に近づこうとすればするほどそれは高くなっていくだろう。

 

「絶対に見つけ出してやる…!」

 

しかしそんなことは些細なことだ。

奴はISを弄んだ敵だ。

危険だろうが何だろうが絶対に見つけ出さなきゃいけない。

 

(見つけ出して絶対に殺―――)

 

机の僅かな振動によって思考は遮られた。

当然目線は自然とその揺れの原因にいく。

 

「メールか」

 

画面に映るのは『簪ちゃん』の文字。

俺は内容を確認するためそのまま携帯に手を伸ばす。

 

『明日のお祭りに一緒にいきませんか?』

 

そこには何故か敬語で明日の祭りに誘う文章が書かれていた。

そういえば今日は何時だったか…?

携帯を操作しカレンダーを呼び出す。

 

(・・・・そうか、もうそんな時期か)

 

 

 

 

 

 

 

 

私はいまとある神社、というか・・・・篠ノ之神社に来ていた。

境内に入れば綺麗な女性が掃き掃除をしている。

ゆっくりと近づき、声をかける。

 

「お久しぶりです、雪子叔母さん」

 

「・・・箒ちゃん…?」

 

その女性―――雪子叔母さんはこちらを向いて、目を真ん丸にしている。

事前に来ることは連絡しておいたが、何しろ最後にあったのは

何年も前のことなのでしょうがない。

 

「はい、叔母「箒ちゃーん!」―――!?」

 

突然抱き着かれてしまった。

数メートルはあった距離が一瞬…

こういう時にやはり父の兄妹であると実感する。

 

「それにしても大きくなったわね~って、もう16歳なんだから当たり前よね。

年をとるとどうもこういうことが言いたくなるのよね」

 

「いえいえ、雪子叔母さんは相変わらずお綺麗ですよ。

とても四十代後半とは思えません」

 

「もう~箒ちゃんたら、お世辞なんていいのよ?」

 

そう言って雪子叔母さんは笑う。

どうやら謙遜するところも変わってないらしい。

 

「箒ちゃん」

 

ギュッと私は抱きしめられる。

 

「叔母さん…?」

 

「おかえりなさい」

 

雪子叔母さんは優しく、穏やかに私を包み込む。

あぁ、あたたかいな。

 

「・・・・ただいま」

 

 

どれほど時間が経っただろうか。

ゆっくりと雪子叔母さんが離れる。

少し…名残惜しい。

 

「突然ごめんなさいね。学校から少し遠いから疲れてるわよね?

中に入って少し休みましょうか」

 

確かに立ち話というのもあれだ。

雪子叔母さんの後に続いて神社の裏にまわっていく。

そこには昔のまんまの家がある。

 

「変わらないでしょう?」

 

嬉しそうに笑いながら雪子叔母さんはこちらに振り向く。

 

「えぇ、本当に」

 

嬉しいなつかしさを胸に家に上がる。

当然、玄関の靴の数は少ない。

少し寂しいな…

 

「はい、麦茶」

 

居間について腰を降ろせば雪子叔母さんが麦茶を持ってきてくれた。

私と雪子叔母さんの分で・・・・三つ?

玄関に靴は雪子叔母さんの物しかなかったはず?

 

「箒ちゃんが来てくれましたよ」

 

机に二つ置き、最後の一つを棚に置いた。

その棚にあるのは一つの写真立て。

 

「驚いたでしょ?雄二くん」

 

雪子叔母さんは写真に一言だけ笑いかけ、こちらに戻ってくる。

 

「葬式もお墓も建ててあげられないけどこのぐらいはしてあげなきゃね。

気休めだってのは分かっているのだけれどね…」

 

「叔母さん…」

 

やっぱり…

兄さんは本当に私以外に会っていない。

 

(こんな辛そうな表情は初めて見た…)

 

今の雪子叔母さんは笑っているのがとても辛そうだ。

兄さん…どこにいるのですか…?

こうまでしてなにをしているのですか…?

 

「あの…雪子叔母さん…」

 

「ん?どうしたの箒ちゃん」

 

兄さんが生きてると知れば雪子叔母さんは喜んでくれる。

辛い表情もしないで済む。

 

「に、兄さんは―――」

 

『これは俺と箒だけの秘密だ』

 

「ッ…!」

 

私は今何を口に出そうとしていた?

兄さんは私を信頼してくれているというのにその信頼を裏切るのか?

私は兄さんを信頼しているのではないのか?

 

「箒ちゃん?」

 

「―――兄さんはきっと見守ってくれていますよ。

だから雪子叔母さんは胸を張っていいと思います」

 

きっと見守ってくれている。

どんなところにいようとも私たちは家族なのだから。

 

(そうですよね?兄さん)

 

「ふふふ、そうね。クヨクヨしてたら雄二くんに怒られちゃうわね、

『前を見ろー!顔を上げろー!』って」

 

良かった、笑ってくれた。

やっぱり雪子叔母さんは笑っていないと。

 

「ってもうこんな時間!?急いで準備しなきゃ!」

 

雪子叔母さんはバッと立ち上がる。

時計を見れば確かに時間が迫っていた。

私も準備し始めなければ。

 

「では私は身を清めてきます」

 

といっても風呂に入るだけなのだが。

 

 

「よし、と。準備完了ね」

 

風呂から上がり、今の私は純白の衣と袴の舞装束に身を包んでいる。

 

「やっぱり親子ね~。千春さんと瓜二つだわ」

 

「ど、どうも///」

 

憧れである母と瓜二つと言われると誇らしく思える。

私も少しは成長できていると言う事だろうか。

 

「そうだ!少し扇を振って見せてよ。久しぶりに見て見たいわ。」

 

雪子叔母さんは奥の祭壇から宝刀と扇を持ってくる。

これは神楽舞で舞う巫女が持つものだ。

そう、実は私は神楽舞の巫女としてこの神社に戻って来たのだ。

 

「はい、練習がてら舞ってみましょうか」

 

 

「・・・以上です」

 

舞を踊り終え、ホッと一息つく。

練習とはいえ本番のような気持ちでやったがどうだっただろうか?

 

「まあ!まあまあまあ!素晴らしかったわ箒ちゃん!離れてもちゃんと舞の練習してくれていたのね」

 

「私も一応・・・巫女ですから」

 

上々のようで何より。

練習を怠らなくて本当に良かった。

しかしこうも褒められると照れる。

 

「これなら『剣の巫女』を安心して任せられるわ」

 

「はい、任せて下さい!」

 

 

「よっ!お疲れ」

 

「い、一夏!?」

 

本番の神楽舞を舞い終わり、お守り販売の手伝いを

しているところに一夏が現れた。

 

(な、なんで一夏がここに!?家でゴロゴロしているものとばかり…

いや、そんなことよりも・・・)

 

変だと思われなかっただろうか…?

昔から男女などと言われているような私がこんな女性らしい

恰好をしているところを見られた…

 

『女らしいことは似合ってない』

 

などと一夏に言われれば立ち直る自信はない…

 

「凄い様になってて驚いた。それになんていうか・・・綺麗だった」

 

「っ―――!?」

 

顔が急激に熱くなっていくのが感じられる。

夢か?これは夢なのか!?

頬を思いっきり引っ張ってみれば・・・

 

「いたい…」

 

「お、おい。急に頬をつねってどうしたんだ?」

 

「___ない」

 

「えっ?」

 

「夢じゃない!」

 

なんということだ。

こんなにうれしいサプライズがあるなんて!

夢じゃなくていいのだろうか?

 

「箒ちゃん、急に大きな声を出してどうしたの?・・・あら?一夏君」

 

「あっ!雪子さん、お久しぶりです」

 

「おととし以来かしら?また背が伸びたわね~」

 

「へへっ、成長期なんで」

 

あぁ、なんてすばらしい一日なんだ今日は。

一夏にき、綺麗だと言われた。

 

「えへへ~」

 

「そうだ一夏君ちょっと待っててくれる?」

 

「別にいいですけど・・・箒の奴大丈夫ですか?」

 

「大丈夫大丈夫。じゃあ、ちょっと支度しに連れてくわね」

 

「えへへ~」

 

「はーい、こっちに来てね箒ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ~、これで良しと」

 

箒を浴衣に着替えさせ、無事一夏に預けた雪子は一息ついていた。

お守り販売を一人でというのは少し大変だがかわいい姪の為なら苦でもないようだ。

 

「しかし、大丈夫かしら箒ちゃん。着付けの時も上の空だったし」

 

結局送り出すときまで上の空だった箒が少し心配になる雪子。

 

「まぁ、そういうところも千春さん似なのでしょうね」

 

―――なら大丈夫か

そう思い雪子が売店に戻ろうとした時。

 

「―――!?」

 

あるものを見てしまった。

それは一瞬で人ごみの中に紛れてしまう。

 

「雄二くん…!?」

 

気がつけば走り出していた。

 

(ありえない・・・そんなことありえないわ!?)

 

亡くなった人物が祭りに来ている。

そんなことあるわけないと分かっているのに雪子の足は止まらない。

人ごみを掻き分けその人物を探す。

 

(どこ?どこに行ってしまったの?)

 

周りを見渡す。

祭りということで当然多くの人がいる。

 

「―――いた!」

 

だというのに雪子は目当ての人物を見つけた。

人ごみの奥に先ほど見た浴衣が僅かに見える。

見失う前に急いで人ごみを抜け、その裾を掴む。

 

「雄二くん!」

 

裾を掴まれた人物は振り返る。

息を整えながら雪子は顔を上げる。

 

「あのー、人違いでは?」

 

「え…?」

 

雪子が見上げた顔は彼女の知っている人物とは

似ても似つかないものだった。

 

「す、すみません!知り合いと間違えてしまいました」

 

どうして見間違えたのだろうか…?

体格も顔も似ていないのに…

雪子の頭は疑問と申し訳なさでいっぱいになる。

 

「この人ごみですから気にしないでください」

 

見たところ学生だろう男性は特に怒っているといった様子はない。

 

「では、人を待たせてるので行きますね」

 

「あっ、引き留めてしまってすみませんでした」

 

「いえいえ、雪子さんもお仕事頑張ってください」

 

―――それじゃあ

そう言うと男性は人ごみの中に消えていった。

それを見届けた雪子も売店へと戻っていく。

 

(はぁ~、疲れてるのかしら私・・・・・あら?)

 

ふと立ち止まり、男性の消えていった人ごみへと振り返る。

 

「私あの子に名前言ったかしら…?」

 

 

「雪子さんはやっぱすっごいな~。どうしてわかるんだ?」

 

人ごみを抜けながら鳴海優はつぶやく。

その口角は少し上がっている。

 

(来て正解だったな)

 

箒の神楽舞を見れて、懐かしい顔も近くで見れた。

すでに優は満足していた。

 

「お~い、なるみ~ん!」

 

前方から陽気な声が優にかけられる。

その声の元を見れば二人の女の子がいる。

 

「やぁ、二人とも誘ってくれてありがとう。おかげで―――」

 

―――冷静になれたよ



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第五十五・五話 祭りにて

今回は閑話的なやつで短いです


集合場所に着くと既に簪ちゃんと本音ちゃんの二人が待っていた。

懐かしさから少し寄り道がすぎたようだ。

 

「待たせてごめん」

 

「ううん、私たちも今着いたところだから」

 

そこまで待たせてないようで一安心、と言いたいところだが・・・

 

「・・・布仏さん?どうしたのジーっと見て」

 

先ほどから本音ちゃんがこちらを凝視しているのが気になる。

ゴミでもついているのだろうか?

 

「浴衣着てくるなんて気合入ってるな~って思って」

 

「あっ、確かに浴衣は意外だったかも」

 

なるほど、浴衣が気になってたのか。

神社育ちの俺にとっては当たり前だが普通は珍しいのかもな。

言われてみれば二人は私服だし、気になるのも頷ける。

 

「何も考えずに着てきたけど不自然だったかな?」

 

しかし、意外ってことはこの体格だと似合わないのだろうか?

久し振りに着たとはいえ、ちょっと自信無くす…

 

「全然変じゃないよ~」

 

「むしろ浴衣着てるのが自然に思えてくるかな」

 

「ならよかった」

 

着こなしとかは問題ないようで今度こそ一安心。

 

「私たちも浴衣着てくれば良かったね~」

 

本音ちゃんの一言で二人の浴衣姿を想像してみる。

パッと想像するだけでも似合うことが伺える。

きっと可愛らしい雰囲気になるだろう。

 

「うん、二人ともすごく似合うだろうね」

 

「そ、そうかな!?」

 

「えへへ、ありがと」

 

二人とも顔を少し赤くして照れている。

若さを感じるなぁ~。

 

「今からでも浴衣着ようかな…?レンタルとかあるだろうし」

 

「あ~・・・それは厳しいね。ここら辺のレンタル店は今日が稼ぎ時で忙しいから、今からじゃ打ち上げ花火に間に合わないんだ」

 

「そ、そっか…」

 

「なるみん妙に詳しいね?」

 

「えっ?・・・あぁ!ほら、これもレンタルしてきたからその時聞いたんだよ」

 

「なるほど~」

 

危ない危ない。

ついペラペラと喋ってしまった。

今日は少し緩みすぎか…?

 

「さて、揃ったことですしレッツゴー!私もうお腹ペコペコ~」

 

「来る途中で焼きそば食べてたでしょ…」

 

「ハハハ、そうだっけ?」

 

「もう、太っても知らないからね」

 

「太らないも~ん。それよりもはやくきて一緒に食べよ?」

 

「はぁ~、優からも何か言ってあげてよ」

 

でもまぁ・・・

 

「いいんじゃない?せっかくの祭りなんだから」

 

今日ぐらいいいよな?

 

 

見回ること一時間。

 

「それにしても・・・」

 

俺の視線は本音ちゃんへと向いていた。

 

「ん?どうしたのなるみん」

 

「いや・・・よく食べるな~って」

 

右手に牛串、左手に唐揚げを持ち交互に食していく。

持ちきれない分は俺が持っている。

次はお好み焼きらしい・・・腹壊さないのか…?

因みにこの前にホルモン焼きとタコ焼きも完食している…

 

「うっ…見てるだけでお腹いっぱい…

だからとめようって言ったのに…」

 

「ハハハ…ごめん…まさかこんなに食べるなんて思わなくてさ…」

 

正直俺も見てるだけで胸焼けしてきた。

 

「あっ!次はあれ食べたいな~」

 

「えっ!?ま、まだ食べるのかい…?」

 

「だいじょ~ぶ!今日はお昼抜いてきたから~」

 

うん、そういう問題じゃないと思う…

ちらりと隣の簪ちゃんを見る。

 

『どうにかして!』

 

目を見るだけで何が言いたいのか伝わって来た。

確かにここらで何とかしないといけないな。

俺達の心の健康と本音ちゃんの胃袋のためにも。

 

(といってもどうするか・・・)

 

「そこのあんちゃんたち、どうだい?射的やってかない?」

 

横から急に声をかけられた。

そちらを向くと女性の店主が俺らを手招きしている。

射的か・・・まぁ、時間稼ぎにはなるか。

 

「射的だって、やってみる?」

 

「やりたい!私今すっごく射的がやりたかったの!本音もやるでしょ!?ね?」

 

「う、うん」

 

簪ちゃんも必死である。

少し強引だがナイスだ。

すかさず料金を払い、本音ちゃんを射的屋で食い止める

 

「お姉さん、三人でお願いします」

 

「おっ、彼女さん達の分まで出すとは気前いいねー!そこの子もすっごいやる気あるみたいだしさ」

 

「・・・・あっ、私か…すっごく楽しみー(棒)」

 

「さっきまでのやる気は!?」

 

簪ちゃん…もう少し頑張ろうよ…

本音ちゃんの進撃がとまって一安心なのはわかるけどさ…

 

「ま、まぁいいや・・・ほい、三人分。頑張れよ」

 

「どうも」

 

といったもののこれと言って欲しいものがない。

取りやすそうなのはお菓子か・・・

他の狙おう、そうしよう。

 

(・・・あれにするか)

 

何となく当たり札を狙ってみる。

その上には大当たり札なんてのもあるがまずは肩慣らしだ。

 

「おっ、あんちゃん当たり札狙うの?落とすの難しいよ~」

 

パンッ  コトンッ

 

「!おぉ~やるね~」

 

「まぁ、小さい時にやりこんでたんで」

 

パンッ  コトンッ

 

懐かしい思い出である。

皆で一緒に周ってたっけ。

 

パンッ  コトンッ

 

(射的は束とよく勝負したんだよな)

 

パンッ  コトンッ

 

二人そろって落ちにくそうなものばかり狙っていたのをよく覚えている。

でもどっちもミスしないから終いには必ず・・・

 

パンッ  コトンッ

 

(大当たり同時撃ちで引き分け)

 

「す、すごい…」

 

「当たり札も大当たり札も全部落としちゃった…」

 

「\(^o^)/」

 

「あっ」

 

気がつけば店主は遠い目をしており、射的棚からは当たり札がすべて消えていた。

・・・・つい夢中になってやりすぎてしまった…

 

「あぁ・・・ええーっと…」

 

どうしようか…?

このままだとこの射的屋大赤字待ったなしだ。

さすがに罪悪感しかない。

 

(ん、あれは・・・)

 

景品棚の一つの商品に目がいく。

それは一メートルはあるであろう巨大なウサギのぬいぐるみだった。

他の物よりは安いかな?

 

「お姉さん、景品はあのウサギだけでいいですか?」

 

「・・・・へっ?」

 

「あのウサギだけで僕は満足なので景品を減らしてもらっていいですか?」

 

「・・・・いいの?」

 

大の大人が泣きそうな顔で見ないでほしい。

それも希望をみつけたかのように…

まぁ、悪いの俺だけど。

 

「もちろん。十分楽しませてもらいましたから」

 

「あ、ありがとう~!」

 

店主は両手で俺の手を取ってブンブンと振る。

う~ん、自分で破滅させかけた人から感謝されるとは微妙な気持ちだ。

 

「あっ!でもそれだけじゃ悪いから・・・」

 

カウンターの下でゴソゴソし始めた。

おまけでもくれるのだろう。

 

「あったあった、はいお菓子の袋詰め」

 

「わーい!」

 

「「・・・・」」

 

どうしてこうなった…




※二週間ほど更新できないと思います
 申し訳ないです


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第五十六話 休みの過ごし方

祭りに行った翌日。

今日は久し振りに簪ちゃんのとこのお手伝い。

 

「といってもやれることなんてほぼないんだけどね」

 

「誰に喋ってるのなるみん?」

 

「ええーっと、独り言・・・かな?」

 

夏休みだからみんなは帰省中で俺達3人しかいない。

そんでもって俺はIS弄るわけにもいかないから普段は

皆の補助係だが、人数がいない分その仕事は少ない。

だから今は簪ちゃんから少し離れたところで本音ちゃんと待機中。

 

グゥ~

 

隣からお昼を告げる音が鳴る。

 

「・・・えへへ、聞こえた…?」

 

「・・・何がだい?」

 

「き、聞こえてないならいいんだよ~///」

 

顔を赤らめる本音ちゃん。

まぁ、乙女の恥じらいってやつだろう。

 

「その・・・なるみん?そろそろ~・・・ね?」

 

「フフッ、そうだね。お昼ご飯にしよっか」

 

「わーい!」

 

恥じらいも束の間、一瞬にしてパァーっと効果音が

見えそうなほど眩しい笑顔に変わる。

単純というか純粋というか・・・

 

「可愛いなぁ…」

 

小さい頃の箒を見てるみたいだ。

今も当然可愛いけどな!

 

「か、かわいい!?///」

 

声に出てた…

でもまぁ、嘘は言ってないからセーフ?

うん、セーフだな。

でも誤解のないように伝えないとな。

 

「うん、無邪気な顔が可愛らしいなって」

 

「・・・・」

 

「布仏さん?」

 

直後に本音ちゃんが固まってしまった。

気に触ったのかも知れない。

よくよく考えれば無邪気というのは子供っぽいともとれる。

女子高生からしたら子供っぽいはあまりいい印象ではないだろう。

 

「・・・・」

 

ええーっと、ほんとに固まったまま動かないんだが…

これ大丈夫な感じじゃないよな?

少し揺すってみるか。

 

「あの~、布仏さん?」

 

「ぴゃ、ぴゃい!?」

 

良かった、反応ありだ。

『ぴゃい』ってのは少し面白かった。

女子高生特有のJK語の一つかね?

 

「大丈夫?固まってたけど」

 

「はへ…?・・・・だだだ、だいじょうぶい!元気も元気でいつも通りだよ!」

 

「ほんとに?顔が赤いけど熱とかない?・・・・ちょっとごめんね」

 

「!?」

 

額に手を置いてみるとやはり少し熱い。

 

「やっぱり熱がある」

 

「へっ…あの…その…///」

 

目も少し虚ろで泳いでいるし、休ませた方がいいな。

あれ?でもおれらって何もしてない気が…

うん、気にしたら負けだな!

 

「これは部屋で休んだ方がいいね。一人で歩くのが辛いようなら送っていくよ?」

 

「ひ、ひとりでいけるからー!」

 

そう叫びながら本音ちゃんはダッシュで部屋を出ていった。

しっかり走れているし大丈夫そうだな。

 

「お大事にー!」

 

さて、一応虚ちゃんにメールで伝えとくか。

確かこの時間帯なら生徒会室にいたはず。

 

「・・・送信っと」

 

これで良し。

後のことは虚ちゃんが何とかしてくれるだろう。

 

「飯にしますかね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?本音は?」

 

「熱があるみたいだから部屋に戻ったよ」

 

驚いた。

あの元気が人の形してるみたいな子が熱をだすなんて

珍しいこともあるものだ。

 

「そっか、後で様子見てあげなくちゃ」

 

「そうだね、でもまずは・・・」

 

優が傍らに置いてある風呂敷を広げる。

そこから姿を現したのは黒塗りの大きな箱。

それも一つではなくいくつも重なっている。

 

「このお弁当をどうにかしないとね…」

 

「・・・・」

 

本音…カムバック…

広げられた弁当が私たちを囲んでいる。

 

「7:3でいける?」

 

三割…

ちょっと厳しい…

最近二の腕周りが気になるし…

 

「2だったらなんとか…」

 

「よし、それでいこう」

 

因みにいつもは私、優、本音で1:4:5だ。

それだけ日頃本音は食べているに太らないのはずるいと思う。

全部胸にいってるのだろうか…?

・・・ずるい。

 

(優も結構食べてるはずなのに全然変わらないよね…

やっぱり男の子はこういう悩みとは無縁なのかな?)

 

優の方を見ればあれよあれよという間にお弁当がなくなっていっている。

これ絶対標準より食べてるよね…?普通太るよね…?

 

「更識さん、はい、あーん」

 

「えっ!?」

 

突然優が箸をこちらに向けてきた。

因みに掴んでいる物は卵焼き。

おいしそう・・・・じゃなくて!どういうこと!?

こここ、これって間接キ、キス…!///

 

「どうかした?はい、あーん」

 

こちらがおかしいのではと疑うほど優の表情はいたって普通で混乱してきた。

あぁ、混乱してる間に箸はもう目の前まで来てるし!

今さら断るのも悪いよね…?

 

「あ、あーん///」

 

し、仕方ないよね!?

それに優がここまで当然のようにやってきてるんだから

きっと普通のことなんだよね!?

 

「どう?」

 

味は予想を裏切らないおいしさ。

甘めなのだが甘すぎず何個でも食べられる気がしてくる。

 

「お、おいしい…です…///」

 

「よかった」

 

「ッ!?///」

 

本当に…本当に安心したように優は微笑む。

私たちが「おいしい」って言うと決まってこの表情をする。

見慣れた表情…いつも通りの表情…

だというのに・・・

 

(なんで私今日はこんなにドキドキしてるんだろ…?)

 

私だけいつも通りじゃない…

疲れてるのかな…?

 

(でも・・・悪い気はしないかも)

 

何ていうか胸の奥がポカポカと暖まるような感じ。

動悸は速いのに妙に落ち着く。

 

「次は何食べたい?」

 

「えっ?うーんと、唐揚げ・・・かな?」

 

「唐揚げね。ほいっと、はい、あーん」

 

ま、また!?

わけがわからないよ!?

・・・でも、私が食べたいって言っちゃったわけだし…

ええーい!もう考えるのやめ!

 

「あーん///」

 

 

ううっ…結局二割以上食べてしまった…

あの後もあれが続き、気がつけば時すでに遅し…

 

(でもほんとにどうしてこうなったの…?)

 

聞いてみようかな?・・・いや、やっぱりダメ。

パクパク食べてしまった手前、今さら理由を聞くのは恥ずかしい…

 

「更識さん」

 

「な、なに…?」

 

「次は遠慮せずに言ってくれていいからね?」

 

そ、それは次も同じことをするってことですか!?

しかも遠慮せずにあれを頼むって・・・・無理無理無理!

恥ずかしすぎて顔から火が出る!

 

「おかず足りなかったんでしょ?」

 

「・・・えっ?何言ってるの?」

 

「あれ?」

 

優は何を言っているんだろう?

むしろおかずはありすぎたぐらいだ。

 

「ええーっと、どういうこと?」

 

「更識さんこっちのことジーっと見てたからおかず欲しいのかなって」

 

「・・・・」

 

つまり・・・・

 

「優はわたしがおかずが欲しいと思っておかずをくれたってこと?」

 

「そうだけど?」

 

「でもなんでその・・・あーんって方法だったの…?///」

 

「弁当箱があって動きづらいし、これが一番速くて楽かなって」

 

「・・・・」

 

なるほどね

そこには特別な感情はなかったと…

あくまで効率的だったからと…

 

「ええーっと、なんか怒ってる…?」

 

「怒ってる?私が?」

 

別にそんなことはないと思う。

怒る理由もないし。

 

「気のせいじゃない?優は良くしてくれてるんだから」

 

「・・・そっか、ごめんね変なこと言って」

 

「ううん、気にしないで」

 

そう、別に怒ってなんかいない。

なのに・・・

 

「じゃあ、私作業に戻るから…」

 

「うん、頑張って」

 

この胸のざわつきはなに…?

 

 

 

 

 

 

 

 

『昇竜拳‼』

 

K・O!

 

「だぁー!また負けたー」

 

「鈴は相変わらずテレビゲーム弱いな」

 

「うっさいわね!もう一回よもう一回!今度こそけちょんけちょんにしてやるんだから」

 

「鈴さん?いい加減諦めては?」

 

「何言ってんのよセシリア。あんた達も負けたままでいいわけ?」

 

夏休みも終盤。

織斑家には鈴の声が響いていた。

 

「いや、だって一夏めちゃくちゃ強いし…」

 

「誰一人として勝てていませんものね…」

 

その声に苦笑いで返すのは隼人とセシリア。

二人の手にはトランプが握られている。

 

「悔しいが並みの腕前では勝てんな」

 

机を挟んでラウラがセシリアのカードを引く。

 

「すっごいやりこんでるよねー」

 

ラウラからシャルロットがカード引く。

 

「まぁ、なんというか仕込まれたからな」カチャカチャッ

 

「仕込まれたって誰に?・・・・げっ!ポーカーフェイスうますぎだろ…」

 

隼人がシャルロットから引いたカードはジョーカー。

いわゆるババだ。

 

「あんた師匠的なのいたの?ずるくない?」ガチャッ

 

「ずるくない・・・隙あり」カチャカチャカチャッ

 

『波動拳‼』

 

K・O!

 

「・・・・」

 

「プレイ中に喋るからだぜ?」

 

「・・・ちょっとは手加減しなさいよ!あんたには優しさってもんがないの!」

 

「だってお前、手ぇ抜いたら怒るじゃん?」

 

「そりゃそうよ」

 

「どうしろってんだよ…」

 

ピンポーン

 

鈴が20連敗目を喫したところでインターフォンがなる。

 

「おっ、箒が来たかな」

 

「部活終えてから来るなんてご苦労なことよねー」

 

テレビの前から立ち、そそくさと玄関に向かう一夏。

いくら勝っているとはいえこうも連続で勝負したら疲れるものである。

一夏は箒にちょっぴり感謝していた。

 

「やっぱり箒か。ほら、あがれよ」

 

「邪魔するぞ。そうだ、これを千冬さんに。昔の記憶で選んでみた」

 

紙袋が手渡され、中にはコーヒーゼリーが入っている。

 

「今も好きかはわからないが嫌いになっているということはないだろう?」

 

「おう、今も変わらず好物だよ。わざわざ悪いな」

 

「これぐらい当然だ」

 

「千冬姉は今出かけてるから後で渡しとく」

 

そんなことを話しながら二人はリビングに向かう。

箒が扉を開け部屋に入るとコマンド練習している鈴の姿が目に入った。

というよりもゲームの方が目に入った。

 

「ストⅡとはまた懐かしいものを…」

 

「あら?箒あんたストⅡ知ってたんだ。あんまこういうの詳しくないと思ってた」

 

「まぁ、そのゲームは昔少しやっていたからな。それ以外はよく知らん」

 

「へぇーやってたんだ。ちょっと勝負しない?」

 

「別に構わないが」

 

その言葉を聞き鈴がニヤっと笑う。

その顔はまさに悪戯を楽しむ子供そのもの。

 

(よしっ!標的から外れた)

 

((((腹いせか…))))

 

トランプ組は鈴の考えが読めたが黙っておく。

さすがに20連敗している姿を見ているので同情したのだ。

 

「私はケンでいく」

 

「私はもちろん春麗よ」(ケンとリュウはほぼ同じ動きだから対策済みよ)

 

ファイト!

 

 

『竜巻旋風脚‼』

 

K・O!

 

「・・・・私の春麗が…」

 

「久しぶりにしてはなかなか動けたな」

 

「ええーっと、鈴。言う暇がなかったんだが箒は当時俺より強かったんだ…」

 

「なんであんた達こんなに強いのよ!」ウガー!

 

負けたストレスによって鈴は怪獣のように暴れだす。

 

「だから仕込まれたんだって!?」

 

「そんなこと知るかー!こうなったらリアルストⅡよ!」

 

「えっ!ちょっ、おま____」

 

その後一夏の悲鳴が外まで聞こえたとか聞こえないとか…

 

 

「はっくしょん!」

 

研究室で白髪の男―――暮見雄二は盛大なくしゃみをした。

 

「どっかで噂されたか…?」




因みにあの人たちの持ちキャラは
雄二:ガイル
千冬:リュウ
束:バルログ


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第五十七話 蜘蛛と死神の戦場

今回短めですが久しぶりに物語が進んだかな?って感じです。


―某国―

 

研究所最奥。

厳重にロックされているはずのその扉が開く。

 

「ちゃちなシステムだ」

 

「!?だれ―――」

 

主任であろう女が叫ぼうとするが、言葉は最後まで続かない。

その前に力なく床に倒れてしまう。

彼女の首筋には小さな針が刺さっている。

 

「主任!?」

 

「お前たちも少し眠っていてもらう」

 

侵入者が手を振るうと研究者に次々と同じ針が放たれる。

数秒の内に部屋にいた研究者たち全てが眠りについた。

 

「さて、いただくとするか」

 

侵入者がゆっくりと歩を進める。

その先にはガラスケースに覆われた台座。

中には研究対象であるISコア。

 

パチンっ

 

侵入者が指を鳴らすとガラスが収納され、コアがさらされる。

侵入者はゆっくりと近づき、両手で大事そうに抱え上げた。

 

「これで100個目…」

 

Eternal(エターナル)! マキシマムドライブ!/

 

抱えられているコアからは徐々に光が失われていき、やがて完全に光が失われる。

 

「・・・すまない」

 

侵入者はコアを粒子化させ、その部屋を後にする。

通路には重装備で固めた警備の者が所狭しと倒れている。

その通路を抜け、研究所の出口を出た瞬間―――

 

鉄の雨が侵入者に降り注いだ。

容赦ないその攻撃により侵入者の姿は舞い上がった煙に消えた。

 

「あっ?まさか終わったのか?んだよ!拍子抜けだぜ」

 

上空には二機のISが静止している。

一機は全体的に赤黒いカラーリングをしたまるで蜘蛛のような脚を備えた機体。

もう一機は全身金色のカラーリングの巨大なテールを備えた機体。

共通点はどちらの操縦者も仮面で顔を隠しているということ。

 

「いいえ、どうやらそうではないみたいよ?」

 

金色の操縦者が見つめる先では徐々に煙が晴れていく。

その中から黒いローブに包まれた侵入者が姿を現す。

 

「へっ、そうこなくっちゃ面白くない」

 

「目的忘れてないわよね?」

 

「わかってるって」

 

侵入者は腕を振るいローブをたなびかせる。

その身体には傷一つ付いていない。

 

「何者だ?」

 

侵入者は襲撃者に顔を向ける。

その手には既に武器が握られておりいつでも攻撃できる体勢。

 

「答えると思う?」

 

「思っちゃいない。ただ―――」

 

ゆっくりと浮上し、その目線が同じになる。

 

「ただ、何?」

 

「倒す奴の名前ぐらい憶えてやろうと思っただけだ」

 

「・・・・ぷっ、ふふふ」

 

「何がおかしい?」

 

金色の操縦者は口元に手を当てクスクスと笑い、蜘蛛の操縦者は頭に片手を置き呆れている。

 

「おいおいまじか…てめぇ本気で言ってんのか?」

 

「なんだ?俺が勝てると言ったのがそんなにおかしいか?」

 

「そうじゃないわ。ただお優しいと思って」

 

「優しい?」

 

「だってそうでしょう?()()()()殺す相手の名前を憶えとくなんてお優しいことこの上ないもの。しかも貴方からそんなこと聞けるとは思っていなかったわけだしねぇ?NEVER(ネバー)

 

「・・・」

 

侵入者―――NEVER(ネバー)はその言葉に沈黙する。

その理由は二つ。

一つ、相手がどんなことをしてる連中か予測がついたこと。

 

「何者だ?」

 

一つ、エターナルではなくNEVER(ネバー)と呼んだこと。

その名前にたどり着けるものは少ない。

 

「私たちに少しは興味持った?」

 

「答えさせる気が出るぐらいにはな」

 

「それは光栄ね。教えてあげてもいいわよ。ふふっ、ただし──」

 

クスリッ、と笑うと黄金の操縦者は指を鳴らす。

それと同時に蜘蛛の操縦者が急接近し、斬り掛かる。

読めていたのかNEVER(ネバー)はエターナルエッジで難なく受け止める。

 

「───彼女に勝てたらね?」

 

「やっと許可が下りたんだ。楽しませてくれよぉ!」

 

「一人で楽しんどけ」

 

エッジで押し返し離れさせたところにすかさず左手に展開したトリガーマグナムによる射撃が蜘蛛を襲う。

それを蜘蛛は八つの装甲脚を用いて全てかき消しながら最接近する。

だが、NEVER(ネバー)は先ほどと同じようにエッジで受け止める。

 

「五秒前に押し負けたのをもう忘れたのか?」

 

「さっきと同じなのはてめぇの方さ」

 

装甲脚の脚先が開き、中から砲身が顔を出す。

ほぼゼロ距離からの砲撃、喰らえばひとたまりもないだろう。

 

「死にな!」

 

砲身が火を噴く。

そして直後に爆裂音と爆風が辺りを包む。

 

「やっぱ、大した奴じゃなかったな」

 

爆煙の中から出てきたのは蜘蛛のISのみ。

しかしゼロ距離で砲撃したため、砲撃に使った装甲脚はひしゃげ、仮面も割れてしまっている。

容姿は茶髪に整った顔立ちをしており、二十代といったところ。

 

Metal(メタル)! マキシマムドライブ!/

 

「ッ!?」

 

突如、爆煙から腕が飛び出しひしゃげていた装甲脚を掴んだ。

握られた装甲脚がギチギチと鈍い音をたて、徐々に蜘蛛を引きずり込もうとする。

 

「クソッ、放せ!」

 

自由な装甲脚による砲撃。もちろん直撃。

しかし・・・・

 

(どうなってやがる!?)

 

状況は悪化する。

直撃を喰らったというのに掴む手は微動だにせず、あまつさえ二本目の装甲脚も掴まれた。

爆煙の中では黄色い複眼が揺らめいている。

 

「ッ…!」

 

それを見た瞬間、蜘蛛は全身の毛が逆立つ感覚を覚えた。

蜘蛛は引きずり込まれる前に掴まれている装甲脚を分離(パージ)し、後方へと距離をとる。

 

(なんだ・・今のは感覚は・・?)

 

蜘蛛は今までいくつもの戦場を駆け抜け、殺し合いをしてきた。

当然その中には危ない場面もいくつかあったがそれすらも楽しんできていた。

そのため戸惑う、感じたことのない何かに。

 

「恐怖したな?」

 

爆煙が晴れると多少の傷を負ったNEVER(ネバー)が姿を現す。

しかし、ダメージを受けているとはいえとても二発の砲撃をほぼゼロ距離で受けたとは思えないほど傷は浅い。

 

「恐怖…?私がお前に…?」

 

だが蜘蛛にとってはNEVER(ネバー)の言葉の方が重要だった。

蜘蛛にとって恐怖とは与えるものであり、与えられるものではないからだ。

 

「そうだ。その機体は装甲脚による格闘戦に特化した機体。だと言うのに自ら距離を取ったのがその証」

 

「黙れ…」

 

「お前は唯一の勝機を逃した。今まで散々与えてきた恐怖でな」

 

「黙れ黙れ黙れ!」

 

認めることが出来ない。

自分が感じたものの正体が恐怖だということが。

残る装甲脚全てによる一斉砲撃が行われる。

 

「無駄だ。もうお前の攻撃は俺に届かない」

 

発言通りNEVER(ネバー)はその全てを僅かに身体を逸らすことで避ける。

すれすれを通っているのにそこには危なげなど微塵もない。

 

「クソがっ!」

 

それでも蜘蛛は構わず撃ち続ける。

しかし撃つごとに焦りが増していく弾が当たるほど甘い戦いなどない。

 

「こうしてる今も近づこうとしてこない。いや、近づけないのか」

 

「ッ…!」

 

(これは勝負あったわね)

 

金色からみても蜘蛛に勝機がないことは明らかだった。

しかし大した驚きはない。

蜘蛛では敵わないことを予測していたのだ。

 

(それにしても…ちょっと厄介ね…)

 

そんな金色にも予想外のことはNEVER(ネバー)の強さだった。

蜘蛛と戦うNEVER(ネバー)からは底知れぬ強さを感じ取れる。

 

「オータム、もういいわ」

 

「!?待てよ!俺はまだ―――ッ…!?」

 

蜘蛛の操縦者―――オータムはまだ戦おうとするが遂には弾が切れてしまう。

 

「認めなさい。あなたの負けよ」

 

「まだだ!弾がなけりゃ接近すれば―――」

 

「オータム。私はもういいといったのよ?」

 

優しく諭すように語り掛けているがその声には言葉にしがたい凄みを帯びている。

 

「・・・・わかった…スコールがそう言うのなら」

 

「そう、なら下がっていてくれる?」

 

金色の操縦者———スコールの言葉に従いオータムは後方へ下がるがその視線はNEVER(ネバー)を睨みつけている。

それに対しNEVER(ネバー)は余裕な態度を貫く。

それがさらにオータムの火に油を注ぐ。

 

「オータム?」

 

「・・・わかってる…」

 

しかしその怒りもスコールの一言でなりを潜める。

これにはさしものNEVER(ネバー)も少し驚く。

 

「それで?お前たちは何者だ?」

 

「大体予想はついてるんじゃない?」

 

「いいから答えろ」

 

スコールの言う通りNEVER(ネバー)にはスコール達が何者なのか予測はついていた。

そのため答え合わせの感覚に近いかもしれない。

 

「そう慌てないで。約束は守るわ。貴方を怒らせたくはないもの」

 

「なら、俺の機嫌を損ねないうちに言った方がいい」

 

「ふふっ、せっかちなんだから。いいわ、教えましょう」

 

そう言ってスコールは自らの仮面をとる。

美しい金髪に赤い瞳、纏う雰囲気はセレブ然としている。

そんな彼女からとんでもない事実が告げられた。

 

「私たちは亡国機業(ファントム・タスク)()()()()()()を知る組織」



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第五十八話 宿敵

お待たせしました


「私達は亡国機業(ファントム・タスク)。ガイアメモリを知る組織」

 

(・・・・ハッ?こいつ今なんつった?)

 

スコールと呼ばれた女の言葉によって俺の頭は一瞬で真っ白になる。

メモリと言ったのか…?()()()メモリと…

それはつまり・・・

 

「流石ね。この程度では動揺もしないってわけね」

 

いやいやいや、驚き過ぎて声もでないだけだわ!

きっと仮面(マスク)の下はアホ面になっているに違いない。

 

「・・・・ある程度は予測がつくからな」

 

「これぐらいお見通しだったわけね」

 

やばい、なんかすごい恥ずかしいぞこれ。

でもこれもアドバンテージだ。

ありがたく貰っておこう。

 

「情報通りの大物で良かったわ」

 

「御託はいい、目的はなんだ?戦うことじゃあるまい」

 

「やっぱり貴方せっかちね。もう少し会話を楽しんだら?」

 

俺はせっかちじゃなく、忙しいんだ。

むしろ本来はもっとマイペースで・・ってそんなことどうでもいい!

くそ、こういう相手は調子が狂うから苦手だ…

 

「そんな奴と喋ったって面白いわけないに決まってる」

 

「それはわからないわよ?案外気が合うかも知れないじゃない」

 

「チッ…」

 

オータム、だったか?

逆にこいつは可愛いもんだ。

敵意MAXって感じだが、敵意が明らかだからやりやすい。

それにこいつの敵意は悔しさ半分、嫉妬半分ってところだろう。

 

(今の時代そういった奴も珍しくないからな)

 

こういう状況じゃなきゃ、美人同士で目の保養にもなったかもしれないな。

 

・・・・・・

 

(さて、もう充分に冷静になるための時間はとれた。もういいだろ?)

 

探してもみつからなかった物があちらから来てくれた。

考えもしなかったチャンスだ。

だが興奮するな、感情を抑えろ。

失敗は許されない。

 

「まぁ、こんな所で話すのもなんだし、続きは食事しながらでもどう?良い店を用意してるのだけれど」

 

この誘いは罠だ。

こいつ、隠す気ってもんがなさすぎる。

こんな誘いに乗る奴はまずいない。

 

「・・・いいだろう。案内しろ」

 

「ふふっ、ついてきて」

 

普通ならな?

生憎と今回限りはバックギアは外している。

それに相手の目的は恐らくは俺をためすことだ。

実力、警戒心、度胸、そしてメモリへの執着心…

なら、なるべく近くで観察したいことだろう。

 

(乗ってやる。それが俺の目的にも最も近い)

 

喰うか喰われるかは未知数。

分かっていることはひとつ。

俺が探すその者は宿()()となるであろうことだけだ。

 

 

「あそこよ」

 

高層ビルが建ち並ぶ一角をスコールが指差し、降下していく。

それに続き俺も屋上に降り立つ。

 

(・・・4...いや、5か)

 

「解除しないの?」

 

「まさかそのまま食おうってわけじゃねーよな?」

 

二人はISを解除し、コートを羽織る。

 

「もちろん解除するさ。ただその前に一つ言っておく」

 

「なにかしら?」

 

「スナイパー程度で俺は殺せない」

 

「まるでスナイパーでもいるかのような言い草ね」

 

伏兵の存在を気づかれたというのにスコールの表情に陰りはない。

これも俺が気づけるかの小手調べなのだろう。

 

「とぼけなくていい。数は5人、距離は500前後。その中で腕がいい奴一人だけ700はあるな」

 

「ヒュー…とんだバケモンだ」

 

オータムは茶化すように言うが表情は驚愕の色が隠せないって感じだ。

スコールの方はこれでもまだ崩れないか。

 

「なるほど、気づかれているなら意味がないわね。今、引かせるわ」

 

「その必要はない」

 

「「!?」」

 

(やっとその顔が見れた)

 

ようやっとスコールの顔が驚きを示した。

俺がしたことはいたって簡単なことだ。

ただ先ほどの言葉通り()()()()()()だけ。

まぁ、相手からしたら正気の沙汰とは思えないだろうが。

 

「・・・どういうつもりかしら…?」

 

「どういう意味も何も配置させたままでいいと言っただけだが?」

 

「撃たないと高を括っているのなら残念なお知らせよ。こちらとしては今すぐにでもあなたに五つの穴をあけても構わないのよ?消せるに越したことはないもの」

 

スコールの腕がゆっくりと動き始める。

それは徐々に上がっていき―――

 

「その選択はあまりオススメはしない」

 

俺は手のひらに握っている物を二人に見せてやる。

そして空いている手で自身の胸元を指で指す。

相手に自分のそこをみろと言うようにだ。

 

「「・・・!?」」

 

「そういう顔が見たかった」

 

二人の顔からは余裕など消え、わかりやすいほど警戒している。

それはそうだろう。

俺の手のひらにあるものは二人の衣服のボタンなのだから。

 

「もう一度言うがあまりオススメはしない。このボタンの意味が分かるならな?」

 

気づかないうちにボタンが取れるなら命も取れると言う事。

さすがに難易度は上がるがただボタンより少し上の細い首を狙うだけだ。

決してできないことじゃない。

 

「・・・・」

 

スコールは上げかけていた腕をゆっくりと下ろす。

それと同時に向けられていた視線も感じなくなる。

撤退命令がでたようだ。

 

「賢い選択だ。おっと、これは返そう」

 

指でボタンを弾く。

 

「それはどうも…」

 

「チッ…」

 

「随分怖い顔をするじゃないか。お気に入りのコートだったか?」

 

「てめっ―――!」

 

「―――やめときなさい。さっ、早く中に入りましょ」

 

オータムを鎮め、スコールはスタスタと入り口に向かって行く。

それに続き俺、舌打ちをしながらもオータムも後に続いていく。

 

「大体なんで仮面の下に仮面被ってんだよお前。変態かよ、気持ちわりぃ」

 

階段を下りる途中オータムからそんな暴言を浴びせられる。

ほんとこいつ俺のこと嫌いなんだな。

 

「隠すために決まっているだろう。お前は何のために仮面をつけていたんだマヌケ」

 

「顔を隠すためなんてわかってんだよバカ!二重にするほどのことなのかって聞いてんだ!」

 

「俺からすればお前たちの方が用心が足りてない馬鹿な連中だがな」

 

「あぁ?」

 

「それと―――死神に顔はない。隠しているのは骸だ」

 

「・・・頭沸いてんじゃねぇか?」

 

「言ってろ」

 

誰もこの言葉は理解出来ない。

いや、理解できてたまるものか。

 

「でもそれでどうやって食べるのかしら?」

 

店に入り、席につくとスコールからもっともな意見が出る。

実際このヘルメット、口の部分だけ外せる機能は付けていない。

 

「言ったはずだ。これは顔を隠すものではないと」

 

Dummy(ダミー)!/

 

ダミーメモリを取り込むことで身体の骨格が変わっていく。

痛みはないがとてつもない嫌悪感が伴う。

やはりあらかじめ設定してある姿以外は不便だ。

 

「なんだ…?こいつ体格が変わったぞ…!?」

 

「なるほど、それがメモリの力ってわけね…」

 

ヘルメットを取り、軽く首を鳴らす。

うん、悪くない。

今の姿の方がよっぽどエターナルが似合うに違いない。

 

「素晴らしい!」

 

後方から声が上がった。

そして―――

 

「ッ…!」

 

突然、得体のしれない黒い何かが俺を包み込むような感覚に襲われる。

それはべったりと、陰湿に纏わりついてくる。

原因はまず間違いなく背後から迫ってくるなにかだ。

 

(来たのか…!?)

 

焦りを悟らせないために自然を装いゆっくり振り向く。

振り向いた先にいたのは二十代後半の男。

髪色は紫でどこぞの天才を彷彿とさせる。

そして何よりも放っている存在感が異質だった…

 

(こいつだ…!間違いない)

 

直感がそう告げていた。

こいつこそ俺が探し回っていた転生者。

 

「とても完成度の高いガイアメモリだ。それに加えダミーメモリの擬態能力も使いこなしているときた!」

 

歩き方は素人のそれであり、武術やスポーツをしている者の動きではない。

そう見せているだけという可能性も捨てきれないがその可能性は限りなく0だ。

今まで数多の武芸者を見て養った観察力は並ではない。

 

(()れる…!)

 

近づいてきたところに心臓を一突きで貫く。

それで即死だ。痛みも感じず意識は闇に落ちる。

苦しい想いはさせない…

 

「いやはや、モニターで見るのとは断・然!大違いですねぇ!」

 

10m・・・

 

「私、興奮してしまいましたよ!」

 

7m・・・

 

「おや?シーンとしてどうしました?」

 

5m・・・

 

「そういえば自己紹介がまだでした!?あっちゃ~私としたことがうっかりです」

 

3m・・・今ッ!

 

「…!?」

 

「私、園崎(そのざき) 龍蔵(りゅうぞう)と言います。以後お見知りおきを」

 

(身体が…動かない…!)

 

園崎はニコリと無防備に笑っている。

その距離僅か1m。

だというのに俺の身体は僅かに指を動かす程度しか動かない。

いや、動かないのではなく動かせないのだ・・・纏わりつく何かによって…!

 

「それにしてもほんとに驚きましたねぇ。立っていられるだけでなく、指先だけとはいえ動かせるのですから」

 

「くっ、俺に・・何をした!黒く・・・纏わりついてくるものは・・・なんだ!」

 

「しかもよくそこまで喋れるものです。しかし黒く纏わりつくもの、ですか?なるほどなるほど貴方にはそう感じるのですか」

 

貴方には?

つまり個人で感じるものは違うのか?

・・・そういえばこの感覚どこかで…

 

「・・・プロ・・ッサー・・・!」

 

隣から掠れた声が聞こえてくる。

眼球を動かし、様子を見る。

そこには苦しそうに膝をつくスコールと胸元を押さえ倒れているオータムの姿。

 

「おっと、抑えないと他が死んでしまいますねこれは」

 

園崎が指を鳴らした瞬間、纏わりついていた感覚が弱まる。

これなら動けるが今動くのは得策じゃない。

 

「・・・カハッ!ゲホッゲホッ…!」

 

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

 

(隣の二人はなんとか無事って感じか…)

 

この能力には大分個人差がある。

俺とスコールは差はあるものの身体の自由が利かない位だったがオータムに関しては呼吸すらままならないほどだった。

 

「危ないところでしたねぇ。もう少しで貴方冷たくなってましたよ?」

 

「ゴホッゴホッ…プロフェッサー、てめぇ…!」

 

「お~怖い怖い」

 

プロフェッサー、か。

こいつらの上司かそれに近い立場という事か。

 

「・・・プロフェッサー、今のはほんとに危なかったわ。どういうつもり…?」

 

「こちらも生命の危機でしたので仕方がなくですよ。えぇ、ほんとに仕方がないことでした。なにせ心臓を一突きされそうになったのですから!」

 

「・・・」

 

読まれていた…?

いや、あの距離じゃ見えた時にはもう遅いはず。

 

「納得したところで・・・えっ?納得していない?まぁ、納得していなくとも食事にしましょう」

 

ひとまずは様子見をするしかないか…

 

 

「さぁ、遠慮なくどうぞ」

 

料理が運び終えると同時に園崎はニコニコしながら食べ始める。

それに続いて俺達も食べ始める。

まずは一通りの料理を一口ずつ食べてみる。

 

(む、うまいな…)

 

どうやらかなりの腕前のシェフが作っているようでかなりうまい。

隠し味は何を使っているんだろうか?

 

「お口に合うかしら?」

 

「あぁ、とても腕のいいシェフだ。このスープ()()は大満足だ」

 

とてもいい料理なのに勿体ないことをする。

いくら無味無臭の毒物だからっていれても何も変わらないなんてことはない。

 

「ほらね?私は無駄だからやめておいた方がいいと言ったじゃないですか~」

 

「・・・一応それ一口分でも十分な致死量なのだけれど?」

 

「悪いが毒物の類は効かない身体なもんでな」

 

ただでさえ高い毒物耐性をジーンメモリで引き上げているためこの身体には並大抵の毒物は効かない。

 

「こいつほんとに人間かよ…骨格まで変えられるしよ・・・ん?姿を変えられるんだから仮面いらねえだろ?」

 

「アヒッ!いい質問ですねぇオータム君。それについては私がお答えしましょう。いいですか、NEVER(ネバー)?」

 

「わかるのならな」

 

どこまでメモリの力を把握しているかお手並み拝見だ。

 

「では初めに前にも説明した記憶がありますがメモリへの適合性は個人差があるのですよ」

 

「確かその適合性が高ければ高いほど、より力が引き出せるのよね?」

 

「はい、正解です」

 

「じゃあ、NEVER(ネバー)の奴は姿を変えるメモリとの適合率が低いってことか」

 

「ぶっぶ―!それは不正解です。NEVER(ネバー)は常人に比べて大変高い適合率を有しています。しかしこれはその分メモリの力を引き出してしまっていることを意味します」

 

「まるで駄目みたいな言い方ね。貴方、適合率は高ければ高いほど良いと言っていたけれど?」

 

「はいそれは勿論高いに越したことはありません。メモリが()()()()ですけどね?」

 

なるほど、どうやら俺は相手を甘く見すぎてたようだ…

完全に見抜かれている…

 

「適合性の高さは例えるなら台風の大きさです。謂わば彼はその身体に巨大な台風を宿しているのと同じなのですよ。そこにエターナルメモリというさらに巨大な台風が来ればどうなると思います?」

 

「それは―――」

 

「はいそうです!身体には多大なる負荷がかかるでしょう。え?答えさせろって?嫌です。おおっと、落ち着いてください。まだ話は半分です」

 

「まだ何かあるの?」

 

「はい、というよりはこちらの理由の方が重要ですから。これも説明したかもですがメモリ同士にも相性が存在するんですねぇ」

 

「初耳なのだけれど…」

 

「おりょ?そうでしたっけ?まぁ、火に風を送ればより強くなったり、水をかければ消えてしまうのと一緒ですよ。お分かり?・・・どうやら分かってもらえたので続けますよ~。結論から言ってしまえばダミーメモリとエターナルメモリは相性が悪いのですよ」

 

永遠―――つまりは不変といってもいいエターナルメモリ。

それに対し、

擬態―――つまりはころころと変わるダミーメモリでは相性が良くないのだ。

 

「相性が良ければより巨大な台風になり強い風を吹かすでしょう。しかし!逆に悪ければお互いを阻害するだけの邪魔な存在!つまりメモリの力が弱まるのですよ。まぁ、エターナルメモリの方が適正が高いのであながちダミーがエターナルの足を引っ張るってとこですかね。合ってますか?」

 

チッ、聞くまでもないって顔してる癖に・・・ムカつく。

それにしても厄介なのが出てきたもんだ。

こちらも少し試してみるか。

 

「さぁな?なんならここで試すか?」

 

「いえいえ、やめときましょう。貴方とはあまり争いたくない。どちらもただでは済まないでしょうから」

 

「・・・・」

 

「・・・・」ニコッ

 

乗ってこないか。

やはりこいつはかなり厄介だ。

ここで乗ってくるようなやつならばどうとでもできると期待したんだがな…

 

「食事を再開しましょう。冷めてしまいますからねぇ。あっ、もちろんスープは換えさせますので」

 

「つまらないものは入れるなよ?」

 

「えぇ、勿論」

 

こうして食事が再開される。

まぁ、とてもじゃないが味わって食べれるほど余裕はないが。

 

「あっ、そうでした!」

 

食事再開から五分ほど経った時、園崎が何かを思い出したのだろう。

勢い良く席を立った。

 

「プロフェッサー・・・まさかとは思っていたけどほんとに忘れていたのね…」

 

「自分が言うからって私らに口止めさせてたのに呆れるぜ」

 

「いやはや申し訳ない。あまりに興奮してしまってすっかり頭から抜け落ちてました」

 

「はぁ、ようやっと本題か?」

 

連れてきたわりに何も話さないと思っていたら、とんだ間抜けな理由だった。

こいつが一番の壁なのかと疑いたくなる。

 

「はい、お待たせしましたね。貴方が待ち望んでいた本題です」

 

園崎は両手を広げ俺を見下ろし、続ける。

 

NEVER(ネバー)、私たちと手を組みましょう」



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第五十九話 壊れゆく死神

~前回のあらすじ~

ガイアメモリの存在を知る組織『亡国機業』の構成員スコールの話に乗った雄二。
案内された先で待っていたのは園崎と名乗る異常な雰囲気を放つ男であった。
謎の力を使う園崎を最大の敵として認識した雄二であったが・・・

NEVER(ネバー)、私たちと手を組みましょう」

園崎の口から思いもよらぬ言葉が放たれたのだった…

どうなる、五十九話!?


「断る」

 

即答であった。

園崎が言い終わってから数秒も経たぬうちの返答である。

そのあまりの速さに園崎も目を丸くしている。

対する雄二はポーカーフェイスを捨て、明らかな嫌悪の表情を示す。

 

「理由を伺っても?」

 

「単純にお前達のような奴らが嫌いなんでな」

 

ISを兵器としか思わない人殺し連中。

それが雄二が最も嫌うもの達だ。

 

「反吐が出るって顔してやがるけどよぉ、てめぇはこっち側だろ」

 

「・・・俺とお前たちが同じだとでも?」

 

「あぁそうさ。自分でも心当たりがあるんじゃないのか?お優しいNEVER(ネバー)さんよぉ」

 

「・・・・死にたいようだな」

 

雄二から放たれる気が一瞬にして場を包み込む。

しかしオータムは全く動じない。

むしろ笑っている。

 

「ハハッ!やっぱりお優しいねぇ。殺気に全然力がはいってねぇ。そんなんじゃ脅しになんねぇーよ。出すんだったら腹の底のどす黒いものを出せよつまんねぇな。そいつで何人も()ってきてんだろ?」

 

「黙れ…」

 

「お前の戦闘・・・いや、蹂躙はいくつか映像で見たがあれは良かったぜ?なんせ容赦なく敵を壊すことだけを考えた攻撃でよぉ、肉を裂き、骨を砕く。コアより相手を壊すことの方が重要って感じだった」

 

「黙れッ!」

 

雄二がオータムの胸倉を掴み、壁に叩きつける。

苦痛に一瞬顔が歪むがそれでもオータムは笑っている。

 

「それだ!その目だよ!アタシ達と(おんな)じ人殺しの目だ!それも人を人とも思わず殺せちまうやつのだ。メモリの力使っていくら容姿を変えてもそこだけは隠せも、変わりもしねぇーのさ」

 

胸倉を掴んでいる腕に力がこもる。

当然襟は締まり、呼吸がしづらくなっていく。

 

「カッ…!コホッ!ふふっ…殺れよ…」

 

(こいつ殺されるのが怖くないのか…!?)

 

襟に手を置かれているこの状態からなら細首を折るなんて容易い。

抵抗なんてする暇もないだろう。

そんなことやられているオータムが一番分かっていることだ。

それだというのに笑っていられることに雄二は戦慄した。

 

(こいつは狂ってる……ここで消しとくべきだ…)

 

呼吸も途切れ途切れであと少し力を入れればその命は消える。

その最後の後押しを雄二が行おうとした矢先、

 

「そこまでにしてもらえませんか?」

 

その声で踏みとどまった。

 

「自業自得な部分もあるとはいえ可愛い部下が殺されるのはいい気分ではないのですよ。あぁ、もしそれでも続けるというのなら、ここで()()貴方を殺さないといけなくなる」

 

園崎は平然と言い切る。

殺そうと思えば殺せるのだと。

殺気も何も感じさせない言葉はハッタリなのか本心なのかわからない。

だが、雄二は腕から徐々に力を抜き、オータムを解放する。

 

「ゴホッゴホッゴホッ!?・・・チッ、余計なことしやがって」

 

「命の恩人に酷いいいようですねぇ。給料減らしますよ?」

 

得体のしれない園崎を警戒してというのもあったが、解放の理由はそこではなかった。

雄二は恐怖を感じていたのだ。

しかし、それは園崎でもオータムでもましてやスコールにではない。

 

(俺は……今、確実に殺そうとしていた…それも躊躇なく…ッ!?)

 

()()()()に対してだった。

確かに雄二はISを悪用する奴が許せないし、憎んですらいる。

しかし、その命が軽いと思ったことなんて一度もなかった。

命を失う悲しさも辛さもよく知っている。

はずだった…

 

手に残る感触に震え、いままで立っていた価値観が音を立てて崩れていく。

深い闇に落ちていくなか必死に手を伸ばす雄二は自身の真っ赤に染まった手に気づく。

手だけではない、腕も足も赤い何かで染まっていた。

赤くない個所の方が少ないほどに。

 

(そうか・・・俺はもう・・・)

 

―――壊れてしまってるんだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

NEVER(ネバー)?どうかしましたか?」

 

動かない俺に対し園崎は声をかけてくる。

 

「別に…」

 

そう、大したことじゃない。

ただ気づいてしまっただけのことに過ぎない。

いや、目を背けきれなくなったという方が正しいか。

 

(結局オータムの奴の言う通りだったってわけだ)

 

俺は人間として壊れた人殺しだ。

前から分かってたはずなのに気づかないふりなんかして・・・とんだ道化だな…

 

「様子が変ですがもしかして気が変わったりしました?」

 

「ありえない。天地がひっくり返るほどのことでもない限りな」

 

だが、目的が壊れたわけじゃない。

そこが壊れなければ、俺自身がいくら壊れようと進み続けられる。

その歩みにとってこいつは障害そのもの、近づき過ぎればこちらが呑み込まれる。

 

「これは手厳しいですねぇ。流石に天地をひっくり返すのは無理ですから」

 

「だろうな」

 

「ですから!貴方自身をひっくり返しましょう!ほら、そうすれば貴方からは天地がひっくり返って見えるでしょう?」

 

俺をひっくり返す、か。

そんなことできるはずがない。

そう思いつつもこいつならやりかねない、そう思わされてならない。

なにしろ得体が知れないくせに異常性だけはひしひしと伝わってくる奴だ。

ここは退くべきだな…

 

「やってみろ。付き合ってやる義理はないがな」

 

そう言って出口に向かい歩く。

急げば焦りを感じ取られ付け込まれる。

だから余裕も見せつけられるこの速度がベスト。

 

「ではお言葉に甘えて」

 

後方から指を鳴らす音が聞こえる。

しかし特に変わった様子は―――

 

―――!

 

その場から瞬時に横っ飛びする。

瞬間、銃声が響いた。

俺のいた場所に数発撃ち込まれたのだ。

 

(なかなかの手練れがいるな。力づくというわけか)

 

物陰に身を潜めながら考える。

敵は直前まで気配を感じさせない潜伏力に正確な射撃の腕。

確かに脅威になりえる存在なのだろう。

・・・だが、それだけだ。

 

物陰から飛び出し、最短で敵のもとに走る。

頬を、肩を、わき腹を、脚を、銃弾が掠る。

しかし、直撃はない。

 

(ギアを何段階か上げた俺に掠らせることができるだけ驚きだ)

 

驚きながらこちらもトリガーマグナムを抜き、反撃を開始する。

牽制しながらも距離を詰める速度は落とさない。

 

距離が詰まり、残り数メートル。

相手はバイザーをしており顔は確認できないが女。

一手速く女はこちらの顔面に銃を向けた。

回避は不可能。

 

「・・・」ニヤッ

 

「ッ…!」

 

・・・が、問題ない。

避けれないなら当てさせなければいい。

一歩踏み込み、銃身を手で弾くことで弾は顔の横を通り過ぎていく。

そのまま回し蹴りを喰らわせる。

 

・・・が浅い。

直前で自ら跳んで威力を殺された。

この女、常人離れした反応速度をしている。

 

「お次はナイフか」

 

「シッ!」

 

女は銃からナイフに持ち替え、仕掛けてくる。

素早く突き出されるナイフを身体を逸らすことでかわしていく。

攻撃は急所ばかり狙っていると見せかけて他のガードが甘くなる瞬間を狙う抜け目なさ。

 

(この速さで瞬時に選択して攻撃できるとは大した戦闘センスだよ)

 

ハッキリ言ってかなり強い。

この状態で女のナイフを弾くことはおそらく不可能だろう。

それほどまでに鋭い攻撃だ。

 

ガキンッ!

 

かたい金属同士がぶつかる音が鳴り、ナイフが止まる。

 

「俺にエッジを出させるとはな」

 

正直驚いた。

生身でここまでやれる奴がいたなんてな。

だが、同じ土俵になった以上もう終わりだ。

力を込め女を数歩押し返す。

 

「来い、遊んでやる」

 

空いている左手でクイクイ、と手招きする。

目もとは見えないが頭に来ているってのは丸わかりだ。

 

「死ねっ!」

 

先ほどよりもキレが増しているな。

怒りによるものか、はたまた実力を隠していたか。

まぁ、どちらでもいいか。

 

「どうした、この程度か?」

 

「ッ…!?」

 

エッジを使い攻撃を弾いていなしていく。

その間、一歩も動く必要はない。

それほどまでに地力の差があると言う事だ。

しかし・・・

 

(なんだ…?この感覚は…?)

 

先ほどから妙な胸騒ぎがする。

しかし、嫌な感じなどではなくむしろ・・・

 

(懐かしい…?)

 

そんな気がしてくるのだ。

もしかすると俺はこいつに会ったことが―――

 

「チッ!」(ゆっくり考える暇もないな!)

 

「どうだ?足を使わせてやったぞ!」

 

(こいつ、またスピードが上がった…)

 

この女は戦いの中で成長している。

それも異常なほどだ。

さきほどから恐ろしい速度でこちらとの力量を埋めてきている。

 

「フハハッ!わかる…わかるぞ!私はもっと強くなれる!これなら!これなら!」

 

底知れない強さへの渇望をこいつの攻撃からは感じ取れる。

まるでそれこそが存在意義だと言っているかのようだ…

 

「お前は何故そこまで強さを求める?」

 

攻撃を捌きながら女に問う。

返答によってはここで打ち取らなければならない。

それがこいつの蓋を開けてしまった俺の責任。

 

「ククッ、教える義理はない・・・が、今は機嫌がいい。冥途の土産に教えてやろう。織斑千冬を殺すためだ。私はそのために生きてきた」

 

織斑千冬を殺す…?

 

「誰が、誰を殺すって?」

 

「私が織斑千冬を殺———!?」

 

一閃。

女の頬から鮮血が飛び散る。

突然のことに大きく距離をとり、頬を触って驚く女。

 

「まだ上があったのか…!?」

 

「斬られたことが信じられないって顔だな。言っておくが織斑千冬はこんなものではないぞ?」

 

「ッ…!」

 

「織斑千冬を殺すと言ったんだから持っているんだろう?出してみろ、お前の専用機を」

 

「・・・いいだろう、貴様の余裕もここまでだ」

 

一瞬の発光後、女はISを纏う。

蝶の羽のような巨大スラスターユニットがついたIS。

そのISには見覚えがあった。

実際見たことはないが資料で見たことがある。

 

「やはり【サイレント・ゼフィルス】は亡国機業(お前たち)の手に渡っていたか」

 

イギリスが開発した第三世代ISサイレント・ゼフィルス。

セシリア嬢の使うブルーティアーズの試作二号機で同じくBTシステム型の機体。

強奪されたと聞いてまさかとは思っていたが予想は当たっていた。

 

「さすがはハイエナ、機密情報であるというのにISの情報を把握している。まぁ、その情報がどこまで役に立つか見物だな」

 

「それはこっちのセリフなんだがな」

 

Eternal(エターナル)

 

メモリを取り出し、ロストドライバーを装着する。

変装状態でのエターナルメモリの使用は不本意だが仕方あるまい。

 

「変身」

 

Eternal(エターナル)

 

赤き炎が吹きあがり、アーマーが身を包んでいく。

腕と脚のアンクルガードには燃える赤い炎の意匠。

 

(やはりレッドが限界か)

 

腕を薙ぐと炎は吹き飛び、視界が鮮明になる。

この姿に園崎は満足気のご様子だ。

癪に障る…

 

「青ではなく赤か。頭のおかしい男(プロフェッサー)の言う通りだったわけか」

 

「勘違いするな。無駄な力は使わないだけだ。わかりやすく言うとお前にはこれで充分と言うことだ」

 

「減らず口を!」

 

ライフルのエネルギー弾が飛んでくる。

性能が下がってるとはいえこれぐらいの回避はどうってことない。

 

「かかった」ニヤッ

 

気が付くと俺の周りを既にビットが囲んでいた。

展開時から死角に潜り込ませていたのか。

抜け目ないが・・・

 

「想定内だ」

 

Queen(クイーン)!マキシマムドライブ!/

 

俺の周りにバリアーが展開され攻撃を全て防ぐ。

ビットが最大の特徴であるサイレント・ゼフィルス。

そのビットを使う素振りがなかったのが不自然だったため防御策は用意しておいた。

 

(くっ…!予想以上の負荷だ…)

 

しかし、この状態でのメモリ使用は通常時の数倍の負荷がある。

出来れば使いたくはなかった。

 

「フフッ、情報に助けられたか」

 

女は攻撃を防がれたというのに随分と上機嫌だ。

何かしらあるのだろう。

 

「だがお前はその情報によって死ぬことになる」

 

どこでも聞くようなハッタリやでまかせと何ら変わりない。

そうわかりきっているのに俺はその言葉に少し嫌な感じがした。




更新が遅れて大変申し訳ございません。
重ねて申し訳ありませんがしばらくは忙しく8月が終わるまで更新できないと思います。
もしかしたらこの戦闘が一区切りのところまではできたら更新するかもしれません。


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第六十話 EとM

お久しぶりです。
投稿再開です。


「 プロフェッサー、Мは勝てるかしら?」

 

目の前で行われている戦闘に目を向けたままスコールはこの戦いを仕組んだ人物に問う。

 

「さぁ?それはわかりません」

 

「わからないって…勝算もないのにぶつけたの?」

 

「そんなことありませんよ」

 

「じゃあ、Мの奴が勝つってことじゃねぇーか」

 

「ですからそれは分かりません。勘違いしてるようですが勝算があるのと彼女が勝つかは別の話ですよ?」

 

園崎の言葉にオータムとスコールは怪訝な表情をする。

しかし、それも園崎の次の言葉を聞くまでである。

 

「私の言う勝算はどう転んでも私が勝つという意味です」

 

先程までと何も変わらないニコニコした表情で園崎は言い切る。

それを聞いた二人は若干の呆れ顔だ。

 

「はいはい、()()()()()

 

「ほんっと、大した自信だよな」

 

「だって私は勝つんですから」

 

園崎は自分のことを疑わないタイプの人間。

そのためこういったことを平然と言い切れる。

 

(その態度には呆れるけど・・・)

 

(こいつがこう言う時はあながち間違ってねぇーんだよな…)

 

はたから見たらただの自信過剰。

しかし、普段から園崎という人間を見ている二人は知っている。

この言葉が見栄やハッタリではないことを。

だから呆れはするものの馬鹿にはしない。

 

「だけど今の状態で互角ってのはちとまずいんじゃねーの?赤より青の方が強いってのはマジっぽいしな」

 

「そう?対して変わっているようには見えないのだけれど」

 

一見すれば実力が落ちているとは思えないエターナル。

しかし、直に戦ったオータムは変化を感じ取っていた。

 

「確かに変わってるようには見えないが赤いあいつからはギラギラしたもんを感じねぇ。青い時のあいつはもっとギラついてやがって、全身がざわつくんだ」

 

戦った者にしかわからない感覚。

理屈ではないその感覚が本質を見抜いていた。

 

(チッ!レッドの出力ですら全開で出せないか…)

 

一方、雄二本人も自身の現状出せるパワーの低さに驚いていた。

彼の予想以上にダミーメモリとの相性は悪かった。

 

「どうした?動きが消極的だぞ?クククッ」

 

その影響が出始めたのか拮抗していた戦況がMに傾き始める。

徐々にビットがエターナルの動きを捉えつつあった。

 

「戦いの最中だと言うのによく喋る奴だ」

 

「余裕のない者にはできないだけだろうに」

 

「ホントにそうかな?」

 

Mの頬をエネルギー弾が掠める。

 

「ッ…!」

 

「どうした?余裕じゃなかったのか?」

 

「黙れ!」

 

Mの猛攻は続くものの徐々にエターナルも押し返し始める。

僅かな会話と絶妙な攻撃タイミングによって相手のペースを乱す雄二の作戦は成功していた。

 

(くっ…私が押され始めている…!?・・・いや、私にはまだあの手がある。問題ない)

 

(押せてここまでか…これ以上はメモリが必要だな…)

 

しかし、その状況に焦りを感じているのは意外にも雄二だった。

逆にMは笑ってすらいる。

 

「そろそろ決めるか」(使えてあと二本…)

 

Accel(アクセル)! マキシマムドライブ!/

 

「ここに来てまだ速度が!?」

 

アクセルメモリによる超加速を駆使し、ビットの間をすり抜けていく。

その手には既にエターナルエッジとメモリが一本握られている。

 

Heat(ヒート)! マキシマムドライブ!/

 

炎がエッジを包み込み、炎の剣が出来上がる。

 

「燃え尽きろ」

 

「そんなもの!」

 

振り下ろされる炎に対し、Mはとっさに呼び出した剣で迎え撃つ。

剣と剣がぶつかり合った瞬間・・・

 

『________』

 

一瞬の閃光が走るとともに大爆発。

 

「なんつう火力だ。余波がここまで来やがった」

 

「二人とも死んだんじゃない?あれ」

 

「いい花火ですね~」

 

空を包む黒煙の中から二人がそれぞれ飛び出してくる。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…」

 

Mの手には焼き切られた剣の残骸が握られており、下部装甲もボロボロだ。

咄嗟に応戦した結果から辛うじて上部装甲は原型を保っている。

 

「・・・」

 

かたやエターナルは爆風によるダメージは大してない。

自身のメモリによるものだから当然と言えるだろう。

しかし、その全身にはドライバーを中心にバチバチと電流が走っている。

 

(防がれたか…)

 

本来のメモリの力を引き出せなかったとはいえ、ISを解除するには十分な威力だった。

しかし、一本の剣によってその結果が変えられてしまったのだ。

 

「フフッ、これで私の勝ちだ…!」

 

ライフルと残ったビットがエターナルに向けられる。

そして一斉に発射された。

強烈なエネルギー弾が迫る。

 

(まだ動ける…!)

 

幸いメモリによる負荷があるものの動けないことはなかったエターナル。

それに加えMのダメージが大きいこともあり、危なげなく回避行動をとれた。

 

「終わりだ」ニヤッ

 

その行動を見たMが笑みを浮かべると同時にそれは起こった。

 

「なっ!?」

 

エネルギー弾が()()()()

メモリ負荷に加え、突然の偏光射撃に反応できるわけもなくエターナルは直撃を喰らい、力なく落下する。

地上に倒れ伏すエターナルをみてMは笑う。

 

「ハハハハハ!言ったじゃないか。お前は情報によって死ぬと!」

 

偏光射撃、それはBTシステムで理論上できると言われているものでその名の通りエネルギー弾を操縦者の意志で曲げられるのだ。

当然雄二もその存在は知っていた。

しかし、現在確認されているBT適正の最高適性を持つセシリアですらそれは実現できていない。

 

「情報を知りすぎるが故に虚をつかれ、貴様は負けた!」

 

誰がそんな机上の空論による攻撃を予想できただろうか。

技術の枠を超えた才能がなければできない代物を。

ISを知りすぎている雄二にこれほど有効な手は他にはないだろう。

 

「誰が・・・・負け・・たって・・・?」

 

「!」

 

「ほおー、あれでまだ立てるんですか。いやはや恐ろしい」

 

ゆっくりとだが確実にエターナルは立ち始める。

全身に電流が流れながらもしっかりと力強く大地を踏みしめる。

メモリ負荷に重度のダメージ、通常なら既に変身が解けていてもおかしくはない。

 

(負けられない・・・どんな状態だろうと敗北は許されない・・・!)

 

今の雄二はその意志だけで立っていた。

身体はとっくに限界、これ以上やれば壊れる可能性も高い。

 

「もう壊れてるんだ…だったら…」

 

「ブツブツと何を言っている!今度こそ終わりだ!」

 

エネルギー弾が真っ直ぐにエターナルのもとに向かう。

避ける気力などあるわけがない。

 

「気にする必要はない」

 

Queen(クイーン)! マキシマムドライブ!/

 

鉄壁のシールドがすべての脅威を遮る。

エターナルの手にはトリガーマグナム。

そしてトリガーマグナムにメモリを挿す。

 

Luna(ルナ)! マキシマムドライブ!/

 

シールドがエネルギー弾を防ぐ中、ゆっくりとその銃口をMに向ける。

徐々にエネルギーが溜まっていき・・・そのトリガーを引いた。

強力なエネルギーがシールドを内側から突き破り、エネルギー弾をかき消しながらMに迫る。

 

「そんな単調な射撃があたるものか」

 

残っているスラスターにエネルギーを回し、旋回することで回避する。

しかし次の瞬間、エネルギー弾がMを追うように曲がった。

 

「なに!?」

 

強力な攻撃をMはもろに受け、落下していく。

残っていた上部装甲で受けたことでISはまだギリギリ解除を免れている。

 

「偏光射撃ができるのはお前だけじゃないってことだ」

 

鈍い音を立てながら地上に激突するM。

そしてゆっくりと近づいて行くエターナル。

目の前に立つと、Mに銃口を向ける。

 

「さて、終わりだ」

 

「うっ……うがぁ!」

 

武器も何も残っていないMは拳を振るう。

正真正銘最後の力を振り絞った攻撃。

しかし、それは受け止められた。

 

(終わり・・・か)

 

最後の攻撃を止められ、銃で打ち殺されることがわかっているというのにMの心はひどく落ち着いていた。

諦めの境地といったところだろうか。

 

(なにものこせなかったな…)

 

死の直前、人は走馬灯と呼ばれるものを見るらしい。

しかし、彼女には見るべき思い出なんてなかった。

あるのはそんな自分への虚しさのみ。

 

「私では届かなかったか…?」

 

「・・・」

 

そんな言葉と共にMは静かに瞼を閉じた。

あとは死を待つのみ。

エターナルの指がゆっくりと引き金を引き・・・

 

パンッ!パンッ!パンッ!

 

乾いた音が響き渡った。

 

「・・・気が変わった」

 

しかしそれはシールドエネルギーを削り切るだけで、Mの命までは届いていなかった。

雄二が手を離すとMはその場に力なく倒れた。

シールドエネルギーが切れたと同時に気を失ったのだ。

 

「園崎」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「組んでやる」

 

「「!?」」

 

「おやおや、よろしいので?」

 

突然の雄二の言葉にスコールとオータムは驚き、園崎は笑みを浮かべる。

 

「いったいどうゆう風の吹き回しだ?さっきまでとはまるで言い分が違うじゃねぇか」

 

オータムが食って掛かるのも無理はなかった。

一体何がどうなってそうなったのか理解できないからだ。

 

「焦るな、条件がある」

 

「条件?」

 

「それを呑めるなら組んでやる」

 

「てめぇ、偉そうにしてn「いいですよ」はぁ!?」

 

「まぁまぁ、落ち着いてください。これぐらい予想通りですよ。で、その条件とは?」

 

「こいつだ」

 

雄二は横に転がっているMを指す。

 

「こいつを俺に鍛えさせろ。もちろん所属は亡国機業(ファントムタスク)のままで構わんし、俺に預けろと言うわけでもない。定期的に俺が鍛える。それが条件だ」

 

「・・・それだけでいいんですか?」

 

流石の園崎も予想外なのか素で少し驚く。

他二人も呆然としている。

 

「それで、呑むのか?」

 

「え、えぇ!もちろんいいですよそのぐらい。こちらとしても戦力を育ててもらえるならありがたいですしね」

 

「そうか、なら連絡にはこれを使え」

 

雄二は園崎に黒い物体を投げるとそのまま飛び去って行く。

園崎が受け取った物は小型の通信機だった。

 

「どうする?追うか?」

 

「今なら仕留められそうだけど?」

 

「いや、やめときましょう。彼の逆鱗に触れたくはないですから」

 

結果を見れば園崎の勝利でこの会合は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ん…」

 

ここは…?

気が付けば白い天井が私を出迎えた。

視線を横に向ければ医療器具に周りを遮るカーテン。

 

「医務室…?」

 

何故私は医務室にいるんだ?

確か・・・・

 

()っ!」

 

身体を起こそうとした途端全身に痛みが走った。

!そうだ!私はあいつと戦って・・・

 

「あら、起きたのね」

 

突然カーテンがサアーッと開かれた。

そこにはスコールが立っている。

 

「調子はどう?」

 

「見ての通り最悪だ…!」

 

くそっ、思い出した…

私は負けたんだ…!

・・・・ん?

 

「待て、何で私は生きている…?」

 

「生かされたからよ。NEVER(ネバー)にね」

 

「・・・・!」ギリッ

 

屈辱だ…!

あの状況で生かされただと!?

奴にとって私は命を取るに足らない存在だとでもいうのか…!

 

「ほらほら、そんなに怒ってると持たないわよ。用件はそのことに関係してるんだから」

 

用件・・・確かにそうでもなければこいつが来るわけもないな。

にしても、奴絡みの話か…気に食わんっ!

 

「あなた、NEVER(ネバー)の弟子になったから」

 

「・・・・は?」

 

弟子…?私が…?誰の…?

よ、良く聞こえなかった・・・と信じたい…

 

「な、なんて言った…?」

 

「だ・か・ら、あなたが弟子になるの。NEVER(ネバー)のね」クスクス

 

「・・・何故だ…?何故そうなった!?殺し合いしてたんだぞ!?その相手の弟子なんて意味が分からん!」

 

どうせまたあの狂人(プロフェッサー)が関わっているのは明らかだ。

本当にどうかしてるんじゃないかあいつ!?

 

「だってしょうがないでしょう?本人が貴方を弟子に取りたいって言ってきたんだから」

 

「・・・・」

 

もうついていけない…

奴自身が私を弟子に取りたがっている…?

意味わからん!

 

「しかもそれが組む条件ってことでプロフェッサーも二つ返事でOK出しちゃったもんだから既に決定事項よ」

 

「・・・フフッ」

 

「急にどうしたの?」

 

どいつもこいつも勝手に訳の分からない話を進めて…

私の意見や意志はガン無視か…

 

「傷が治ったら殴り倒してやる」

 

「あぁ~、プロフェッサーったら怒らせちゃった。あっ、その時は私も混ぜなさいね?」

 

とりあえずプロフェッサーと奴への報復を私は胸に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園の自室。

そこでようやくベルトからメモリを抜き、変身を解除する。

その途端喉をせりあがる何かを感じた。

それを止めることが出来ずに床に吐き出す。

 

「ゴホッカハッカハッ!・・・・ハァ…ハァ…」

 

ゴポリ、と音を立てて床を汚す赤黒い液体。

ははっ・・・・掃除しとかないとな…

 

「カハッカハッ、口から吐き出すなんて何時ぶりだ…?柳韻さんのスパルタ修行以来か…?」

 

口を押えて真っ赤に染まった手を見ながらそんなことを考える。

今、大分思考力がぶっ飛んでるんだろうな~。

 

「とりあえずこれ以上は本当に死ぬかもな」

 

Dummy(ダミー)

 

「ガッ!ググッ!・・・ガァッ!」

 

身体から引き抜く際ダミーメモリがバチバチと音を立て、激痛が走る。

俺だけでなくメモリの方にもかなりの負荷がかかっていたらしい。

 

(まったく、エターナルメモリの出力の高さを改めて実感するよ)

 

T1だからダミーメモリが耐えれたがT2タイプの方を使っていたなら壊れてたな。

危ない危ない…

体内でダミーメモリが壊れたら骨格制御やらなんやらが滅茶苦茶になって死は免れない。

 

「ふぅー…」

 

血だらけだがベッドに倒れ込む。

どうせ後でカーペットも変えないといけないんだ。

シーツぐらい汚しても構わない。

 

(自然再生は・・・始まってるな)

 

ジーンメモリによる肉体改造。

それはなにもIS適正やメモリ適正を上げるだけじゃない。

それによって俺の身体はただでさえ常人離れしたものからさらにかけ離れた自然治癒速度を得ている。

今は処置する気力もないから思う存分それに頼ろうと思う。

 

「それにしてもあの顔・・・」

 

思い出すのは今さっきまで戦っていた彼女の顔。

最後の落下した時にバイザーが砕けたのだろう。

銃口を向けた時に見たその素顔は・・・・

 

「激似・・・というか瓜二つだったな」

 

昔の織斑千冬そのものだった。

はぁ~・・・そういうことだよな・・・これって…

 

「【超越者計画】・・・通称【ブリュンヒルデ計画】…」

 

また懐かしいものが今になって出てきたもんだ…

ほんと・・・厄介だ・・・



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第六十一話 夏の終わり

夏休み編はこれで終了となります。
次回から文化祭ですね。


ピロリンッ♪

 

ん、メールだ。

 

『少し体調が悪いから今日は手伝いに行けそうにない。ごめんね』

 

届いたメールを確認すると優からの連絡だった。

大丈夫かな…?

 

「どうしたの?かんちゃん」

 

「優が具合悪くて来れないって…」

 

「あちゃー、確かにそれは心配だね…」

 

夏バテだろうか?

それとも風邪?

 

(でも料理上手な優が栄養バランス考えないなんて思えないし…)

 

やっぱり疲労が原因なのかも…

優には連日手伝ってもらってばっかだし…

 

「・・・・・よし!」

 

「かんちゃん?」

 

「今日は休みにして、優のお見舞いに行く」

 

日頃からお世話になってるんだから少しでも恩返ししなくちゃね。

 

「かんちゃん最近はなるみんいないと作業遅いからね~。お見舞いはグッドアイデアだよ~」

 

「そ、そんなことないってば!?」

 

た、確かに優がいないときはほんのちょっと遅れてるかもしれないけど・・・

でもそれはただ集中力が足りてないだけであって・・・

 

(・・・・あれ?なんで優がいないと集中できないんだろ…?)

 

優のサポートが的確だからかな?

最近はいつの間にかパソコン側の作業もしてくれてるし、もってきてくれる差し入れはすごく美味しいし。

・・・・・だめだ…

考えれば考えるほど優に頼り切ってる。

 

「もっとしっかりしなきゃ。行くよ、本音!」

 

「おー!」

 

 

「というわけでお粥を作っていただけませんか?お願いします!」

 

「お願いしまーす!」

 

具合が悪いんじゃなにも作る気しなくて食べられていないんじゃないかという本音の一言で私達は食堂に寄った。

事情は話したがメニューにないものだから最悪私が作ることになる。

お姉ちゃんほどうまくはないけど私だって頑張れば作れないことはないはず…

 

「わかった。お粥だね?まかせとき」

 

「えっ、いいんですか?ありがとうございます!」

 

「ありがとおばちゃん!」

 

「いいのいいの。夏休みで生徒の子達はほとんどいなくて暇だし、そんな真剣な目で見つめられちゃ断る理由がないってね。まぁ、優ちゃんが具合悪いってんじゃ忙しくても絶対に引き受けるけどね」

 

「優ちゃん?」

 

「なるみんと知り合いなの?」

 

「あぁ、優ちゃんにはたまに厨房を手伝ってもらってるのさ。学生なのに大した腕だよほんと。こっちが教わることの方が多いぐらいさ」

 

「さっすがなるみんだね~」

 

「・・・・」

 

いやいや、流石どころの話じゃないよねその話!?

IS学園の厨房って学園の特性上、世界中の料理を出すからかなりの腕じゃないと駄目だったはず…

その人達が認めるって普通にお店開けるってことだよね!?

美味しいとは思ってたけどそんなすごかったなんて…

 

「はいよ、お待ち」

 

「えっ?早くないですか!?」

 

「おばちゃん一歩も動いてないのに料理が出てきた!」

 

「優ちゃんの名前が聞こえたときから既にキッチン内の他の人が作り始めていたんだよ。ほら、はやく持ってってやんな。会心の出来だそうだよ」

 

優の交友関係の広さには驚かされる。

まさか食堂にまで及んでいるとは・・・

 

「はい、ありがとうございます」

 

「ありがとね~」

 

落とさないように慎重に歩いていく。

幸い、夏休みでほとんど生徒がいないからぶつかる心配はなさそう。

でも少し重いから気をつけないと。

 

「それにしてもなるみんはすごいね~」

 

「うん、ほんとにね」

 

「もしかしてなるみんが作った定食食べてたかもね?」

 

「うん、そうだね」

 

「お家が料理屋とかだったりして。かんちゃんは聞いたことある?」

 

「・・・本音。今集中してるからちょっと黙ってて」

 

「えへへ、ごめんごめん」

 

喋りかけられると気がそれて落とすかも。

本音には悪いけど今はお粥を優先だから。

 

ピロリンッ♪

 

「あっ、メールだ。・・・なになに…」

 

ポップな音が本音のポケットから聞こえてくる。

内容を確認する本音の顔が申し訳なさそうなものにかわっていく。

 

「かんちゃん、ごめん!急用でいけなくなっちゃった…なるみんにはよろしく伝えといて」

 

「・・・そっか、わかった。いってらっしゃい」

 

「ほんとごめんね…」

 

そう言うと本音は走っていく。

生徒会かな…

 

(間が悪い…)

 

そう思うと同時にお姉ちゃんの顔が頭をちらついた。

・・・こんなのただの逆恨みだ…

情けないな、わたし…

 

「って、こんな暗い顔してたら優も暗くなっちゃうよね。しっかりしなきゃ!」

 

よし、いくぞ。

気を取り直して優の部屋に向かう。

確かそこの曲がり角を曲がれば・・・

 

「ついた」

 

扉の横にあるプレートを見れば鳴海優の文字。

うん、間違いない。

じゃあインターホンを・・・

 

(き、緊張してきた…)

 

思えば、優のっていうか男の人の部屋を訪ねるのなんて初めてなんだよね…

お手伝いさんとかも女の人だけだったし。

 

「お、押す…!」

 

ピンポーン!

 

押した瞬間ビクンッと心臓が跳ねた。

すごい鼓動がはやくなってきた…

 

「・・・・」ゴクンッ

 

・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・・・・

 

あれ?出てこない?

もしかして歩くのも辛いのかも…

 

「優!大丈夫?」

 

・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・・・・

 

返事が帰ってこない…

 

(部屋にはいるんだよね?)

 

様子が気になりドアノブをまわしてみる。

カギは・・・開いてる。

 

「優、入るよ?」

 

・・・・・・

 

ドアを開け、お粥をもって中に入る。

奥に行くと優はベッドに横たわっていた。

 

(良かった、寝てただけ…)

 

特に苦しそうな感じでもないし大丈夫そう。

とりあえずお粥はキッチンに置いておこうかな?

 

「やっぱりなにも食べれてないんだ…」

 

キッチンを見たが食器を使った跡はない。

かといってインスタント系の容器があるわけでもない。

お粥は作ってもらってよかった。

 

「もう、誰も来なかったらどうするつもりだったの?」

 

ベッド横の椅子に座りながら起こさない程度に語り掛けてみる。

って、私どうしたらいいんだろう?

優は寝ちゃってるし…

 

(それにしてもきれいな顔してるなー)

 

やることもないためボーっと優の寝顔を観察してみる。

こうしてまじまじと優の顔を見るのは初めてだ。

寝てると普段の大人びてる感じがしないな。

どっちかっていうと可愛い?

 

「・・・って何考えてるんだろう私は!?」

 

頭をブンブン振って頭を空っぽにする。

最近はなんだかおかしなことを考えてる気がする。

というか今少し声が大きかったかも…

 

「良かった、起こしてない」

 

先ほどと変わらず優は眠っている。

よっぽど疲れてるのかな…

申し訳ない気持ちから視線を逸らすとベッド横の棚に見慣れないものを発見した。

 

「ロケットペンダント?」

 

随分年季の入ったペンダントがそこにはあった。

なんだか形も少し歪んでいる、長い間使われてきたことが一目でわかるペンダント。

 

(でも優がペンダントとかつけてるの見たことない気が?)

 

何故か初めてきたこの部屋にこのペンダントがあるのに異質さを感じる。

なんていうか、まるで別の誰かの持ち物のような、そんな感じ。

思わずペンダントを手に取ろうとした瞬間

 

「さわるな」

 

「!」

 

声が聞こえ、私の手首は掴まれていた。

 

「ご、ごめ――――ッ!?」

 

急いで優の方へ振り向いた私が見たのは冷え切った瞳だった。

その瞳を見ただけでゾクリッと背筋に寒いものが走り、一瞬身体が固まった。

 

「・・・・・あれ、更識さん?」

 

「・・・優…なの…?」

 

「えっ、見ての通りだけど。変なこと聞くね」

 

気が付けば身体から重圧は消えており、いつも通りの優がいる。

さっきの冷たい瞳をしていた優のことが幻のように思えてくる。

 

(さっきの感じどこかで…)

 

・・・・・あっ。

優と初めて話した時も確かこんなことがあったような…

あの時は気のせいだと思ったけど違うってこと…?

でもあれが優だなんて信じられない。

感じた雰囲気はまるで別人みたいだったし…

 

「どうしたの?ボーっとして」

 

「えっ?・・・ちょっと考え事…」

 

「またISのことでしょ?ほどほどにね」

 

「うん、ありがとう」

 

冷たさなど微塵も感じないその瞳。

話しているだけで落ち着いてくる。

やっぱり私の見間違いだったのかな…?

 

「それで更識さんはなんで僕の部屋に?」

 

「具合悪いって聞いてお見舞いに来たんだけど返事がなかったから心配で、鍵も開いてて・・・って、勝手に入って迷惑だよね…」

 

今にして思えば鍵が開いてるからって勝手に入るなんてどうかしてる。

具合が悪いなら寝てる可能性が高いのにね…

 

「いや、そんなことないよ。更識さんの顔みたら元気出てきた」

 

「なっ!?///」

 

ど、どうしてそんな恥ずかしいことを平気で言えるの!?

恥ずかしくて優の顔を直視できない。

 

「それに何か持ってきてくれたんでしょ?キッチンの方からいい匂いがするし」

 

「そ、そうなの!食堂でお粥作ってもらってきたの!」

 

サッと立ち上がり、素早くキッチンの方へ向かう。

危なかった・・・もう少しいたら恥ずかしさでパンクしてたかも…

とりあえず深呼吸してから持っていこう。

 

スーハー、スーハー

 

よし!

 

「はい、どうぞ」

 

「さすが、美味しそうだ」

 

そう言って優は食べ始める。

良かった、食欲はあるみたい。

でも、一口食べるごとに少し首をかしげてるような?

 

「どうしたの?」

 

「いや、なんていうか少し塩気が足りないなって」

 

「そうなの?でも会心の出来だって言ってたけどお塩足す?」

 

「・・・・いや、やっぱりこんぐらいの方がいいかも。やっぱいい腕してるよおばちゃん達は」

 

パクパクと食べ、あっという間にお粥を食べきってしまった。

もう少し作ってもらえばよかったかな?

 

「ありがとね、食事まで持ってきてもらっちゃってさ。今度何かお礼させてよ」

 

「いや、そんなのいいって!?お粥を作ったのはおばちゃん達だし、作ってもらうのを提案したのも私じゃなくて本音だし」

 

「そうだとしても、大事な専用機作りより優先してくれたってことでしょ?」

 

「そんなのは当たり前のことなんだから気にしなくても…」

 

「そう思ってくれてるだけで僕は嬉しいから。だからさ、ありがとう」

 

「・・・ど、どういたしまして///」

 

なんか今日は特に優の顔を直視できない。

さっきから動悸も激しくなっているし…

 

「じゃ、じゃあ私はそろそろ行くね。お大事に」

 

「うん、更識さんも体調に気を付けてね。顔が少し赤いから」

 

「わ、私は大丈夫だから」

 

少し早歩き気味で部屋を出る。

 

(なんか最近調子狂うなぁ・・・)

 

私も少し体調が悪いのかも。

優も顔が赤いって言ってたし。

体調には気を配ってるんだけど…

 

「まぁ、思っていたよりも元気そうだったから一安心かな」

 

結局、私はペンダントについては何も聞けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「鳴海くーん、入るわよー」

 

いつも通りガチャリと扉を開け、入っていく。

最初はノックして開けてもらっていたが結構来るためかいつの間にやら鍵をしめなくなっていたのだ。

これって結構信頼されてるってことよね♪

 

「楯無さんが看病に来たわよ~・・・って寝てたか」

 

綺麗な表情で寝てるわね。

本音ちゃんから具合悪いって聞いて仕事を急いで終わらせてきたけど案外大丈夫そうで安心した。

鳴海君が寝てるならやることもないし、とりあえず寝顔でも観察しよっと。

丁度ベッド横に椅子があるしね。

 

「私ってもしかして今すっごくレアな物見てるんじゃないかしら」

 

鳴海君の寝顔なんてそうそう見れないだろうし、寝顔可愛いし。

 

「せっかく看病しに来たのに寝てるなんてもったいわよ~」ツンツン

 

頬をぷにぷにしてみたりして~・・・・って全然起きそうにないわね。

眠りが結構深いのかしら。

 

「ほらほら~起きないと悪戯しちゃうわよ~」ツンツン

 

「ん…」

 

おっと、危ない危ない。

ほんとに起こしちゃうところだったわ。

さすがに起こすのは気が引けるしね。

具合悪いなら寝てるのが一番なわけだし。

 

「・・・・かいちょう…」

 

「ん?私の夢でも見てるのかしら?」

 

どんな夢をみてるのかしら?

夢にみられるなんてちょっと期待しちゃうな~、なんて。

 

「・・・さぼっちゃだめでしょ…」

 

「って、夢の中でもいつも通りなわけね…」

 

ちょっとがっかり。

もっとロマンチックなのを期待して――――

 

「・・・たてなしちゃん…」

 

「ッ!?///」

 

えっ?えっ?えっ?

い、いま名前で呼ばれた!?

確かに楯無ちゃんって言ったわ!

 

「・・・・」ツンツン

 

「ん…」

 

「もう一回言ってくれてもいいのよー?」録音スタート

 

「んん…」

 

「鳴海くんお願ーい」ツンツン

 

「・・・・」

 

くっ!

なかなか上手くいかないわね…

 

「襲っちゃうわよ~」ツンツン

 

「・・・・」

 

「ねぇ~鳴海くーん」ツンツン

 

「・・・・」

 

「楯無ちゃんって呼んでみて」ツンツン

 

「何やってんですか楯無ちゃん」

 

「ふぇっ!?」

 

な、な、なんで起きてるの!?

ぐっすり眠ってたじゃない!?

 

「で、満足したならツンツンすんのやめてもらえますか?」

 

「あっ、うん」

 

つつき過ぎたー!

私としたことがなんて間抜けな失敗を…

 

「いつから起きてたの…?」

 

「お願いされてるあたりですね」

 

「ど、どうして寝たふりなんか…」

 

「少し悪戯すればやめると思ってたんです。けど、思っていた以上に長くてつい声をかけちゃいました」

 

け、結構聞かれてたってことね…

これじゃあ私の先輩としての威厳とか魅力の危機…

 

「な、鳴海君。さっきのはなんていうかちょっとした出来心で悪気はなかったの。起こしてごめんなさいね」

 

「いえいえ、気にしなくていいですよ。会長も仕事で疲れているから少しぐらい悪戯したくなってもしょうがないですよ」

 

「そう言ってもらえると助かるわ」

 

「あっ、でもなんで名前呼びだったんですか?」

 

「えっ?そ、それは・・・」

 

言えない…言えるわけない…!

寝言でも名前で呼んでもらって嬉しかっただなんて。

恥ずかしすぎるし…

 

「ええっと・・・・そう!ふと思ったのよ。私と鳴海君の仲だというのに苗字でしか呼ばないのはおかしいと」

 

「・・・おかしいですかね?」

 

うん、自分でもちょっと強引かなって思ったところよ。

でもこれ押し通せば名前で呼んでもらえるんじゃないかしら!

 

「というか、僕は基本苗字で呼ぶ方が落ち着くんですけど」

 

「そうはいっても最近虚のことは名前で呼んでいたような気がするけど?」

 

「あぁ、それは虚さんに『布仏では妹と紛らわしいでしょうから』って言われたので」

 

「じゃあ私も更識じゃ、簪ちゃんと紛らわしいでしょう?」

 

「いや、会長は『会長』って呼べるじゃないですか」

 

「なら今日から会長を辞めるわ!」

 

「いやいやいや、ダメでしょ!?」

 

このまま引き下がったら私ただの変な女になるじゃない。

それだけは回避しなければ…!

 

「名前で呼ぶってそんなに重要ですかね?僕は会長と話せれば楽しくて気になりませんけど」

 

「じゅ、重要よ!///」

 

と、突然ドキッとさせること言わないでほしい。

ちょっと揺らいでしまったわ。

 

「そんなに言うならまずは会長が僕を名前で呼んでみて重要性を教えてください」

 

「いいわよ」

 

名前で呼ぶなんて、呼ばせることに比べれば楽勝よ。

ええっと、ここは思い切って『優』・・・ってのはちょっと…

『優ちゃん』?これもなんか違う…

やっぱり今まで通り『優君』?うん、これね。

 

「い、いくわね?」

 

「はい、どうぞ」

 

名前呼ぶだけなのにどうしてこんなにドキドキしてくるのかしら。

ただ名前を呼ぶだけ、呼ぶだけ…

 

「ゆ、ゆう・・君・・・///」カァァ…

 

今、絶対顔真っ赤だ…

顔がすっごく熱いもの…

 

「こ、これでいいでしょ!?じゃあ、私は仕事に戻るから!お大事に!」

 

すぐに背を向け扉へと急ぐ。

見られてないわよね!?

大丈夫よ、大丈夫。

はい、もうドアノブに手をかけたから開けて帰るだけ!

なにも問題ないわ。

 

「お見舞いありがとうございました、()()さん」

 

「___!///」

 

ゆっくりと廊下に出て、静かに扉を閉めた。

顔がどうなってるかなんて鏡で確認しなくても明らか。

 

「・・・反則よ…」

 

しばらく誰にも会えないわね…

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ますと既に夜中になっていた。

時間は・・・・3時ってところか。

大分寝てたな。

 

「・・・・寝ただけあって十分だ」

 

簪ちゃんと楯無ちゃんと話しをした以外寝て回復に集中したのは正解だった。

一日でかなり動ける程度までは回復した。

そのかわり少し危なかったが…

 

「これをしまい忘れるなんてな…」

 

ペンダントのスイッチを押して、中の写真を見る。

そこに写っているのは暮見雄二であって鳴海優ではない。

 

「また開きづらくなってるな。直しとくか」

 

ここ数ヶ月は身に着けないから、いじってなかったしな。

じっくり手入れしとこう。

 

「こんなことやってるって知ったら怒るんだろうなぁ」

 

写真を見ているとそんなことを思う。

みんなやさしいから。

 

「・・・これが終わる前には絶対に一度は墓参り行くからさ、その時は話聞いてくれよな」

 

手入れを終え、ペンダントを一番奥にしまった。



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第六十二話 二学期開始

久し振りに他のメンツも出さないと(使命感)


「でやあああっ‼」

 

ガギィンッ!

 

派手な金属音を鳴らし、一夏と鈴は刃を交える。

夏休みも終わり、二学期最初の実践訓練は一組二組合同で行われていた。

 

「くそっ・・・」

 

「逃がさないわよ!」

 

勝負は終盤、最初こそ一夏が押していたものの徐々に鈴に巻き返されていた。

理由は単純。セカンドシフトした白式の燃費がさらに悪くなったためだ。

 

(エネルギーは残り僅か・・・一か八かあれで行く!)

 

(あの顔、何か仕掛けてくるわね)

 

「行くぜ!『Joker(ジョーカー) Mode(モード)』起動!」

 

(あれが来る…!)

 

・・・・

 

剣を掲げ、起動宣言を行う一夏。

しかし、白式の姿は一向に変わらない。

 

「よくわかんないけどもらい!」

 

「!?」

 

そんな隙だらけな相手を見逃す鈴ではない。

龍咆(りゅうほう)による連射を一夏に浴びせた。

数秒後アラームが鳴り、試合終了となった。

結果は言うまでもない。

 

 

「はぁ・・・なんでパワーアップしたのに勝てないんだ…?」

 

「そんなの燃費の悪さに決まってるじゃない。シールドエネルギー使う装備が二個よ、二個。そりゃすぐにエネルギーが底をつくわよ」

 

そう言うと鈴はチャーハンを頬張る。

時刻は昼休み。先ほどの敗戦によって一夏は鈴に奢らされていた。

そんな一夏へ追い打ちの如く、横から箒の意見が飛ぶ。

 

「第一形態でも持て余していたのだ。それが第二形態になれば尚更持て余すのは目に見えていたこと。つまり鍛錬不足だ」

 

「ぐっ!箒は厳しいな・・・」

 

「間違っているか?」

 

「・・・いえ、仰る通りです」

 

何も間違っていないため一夏には返す言葉もなかった。

 

「ていうかさ、さっきの試合なんで()()発動しなかったのよ?故障?」

 

「『Joker(ジョーカー) Mode(モード)』のことか?」

 

「そう、それそれ。あの黒いラインが入るやつ。録画でしか見たことないけど」

 

「いや、故障とかじゃなくて・・・なんていうか、実は福音戦の時以来一度も起動しないんだよ」

 

「「はぁ!?」」

 

一夏の言葉に二人は驚きを隠せない。

 

「あれから倉持技研とかで色々調べてもらったけど原因不明で起動法も不明。俺の夏休み大半持ってかれたってのに収穫なくてさ。それで今はいろいろ試してるって訳だ」

 

「だから似合いもせず剣を掲げてたのね」

 

「うるせー…」

 

「あはは!拗ねちゃってかわいい~!」

 

「ツンツンすんな…」

 

流石の一夏もここまで言われると少し拗ねる。

 

「そう拗ねるな。一度はできたのだから諦めなければ絶対に出来る。『辛い時こそ前を向け』だ」

 

その言葉は一夏にとっては昔からよく聞いていたセリフだ。

それを言うのは箒も少し意地が悪いと一夏は思った。

 

「・・・・あぁもう考えんのやめた!よし!放課後特訓だ!ここまで言ったんだから勿論二人とも付き合ってくれんだよな?」

 

「勿論だ、私も鍛錬不足だからな」

 

「しょ~がないわね~!」

 

当然、特訓は時間いっぱいまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「嫁、食堂に行くぞ」

 

「衛宮、食事に付き合え」

 

「「む?」」

 

昼休み、隼人の席に銀髪オッドアイ×2が同時に襲来した。

 

「なんだ、兄も嫁と食事が目的か?共にとるか?」

 

「「・・・・」」

 

「どうした?」

 

突然の爆弾発言に二人は固まった。

あまりに自然で聞き間違いでは?と思うほどにさらりとしていた。

 

「いや、どうしたじゃなくてだな。ラウラ、今なんて言った?」

 

「? 『一緒に食べるか』と聞いた」

 

「その前だ、前」

 

「『兄も嫁と食事がしたいのか』」

 

「それだ!兄ってもしかしなくても天馬のことか!?」

 

「そうだが?」

 

隼人は再びフリーズ。

零士は先ほどからピクリとも動いていない。

 

「三人で何やってるの?食堂いかないの?」

 

そんな混沌漂う場に新たに一人やって来た。

シャルロットだ。

 

「それがだなシャルロット。嫁も兄もピクリとも動かんのだ。そういった遊びが流行っているのか?私はイマイチそういうのに疎いからわからん」

 

「そんな遊び聞いたことないけど・・・・って、兄?天馬が?」

 

「何かおかしいか?」

 

「・・・・」

 

「おい、シャルロット?」

 

「・・・・」

 

「やはり流行っているのか。ふむ、こうか?・・・・・」

 

 

「皆さま何をしていらっしゃるのですか?」

 

「「「ハッ!」」」

 

「む、終わりか。これはなかなか精神力を試されるな」

 

零士が来ないため心配になったローゼが様子を見に来るまでの5分間、四人はずっと固まっていた。

若干一人ずれているが・・・

 

「き、貴様!この俺様を誰と心得ている!」

 

「妙なことを聞く。兄は兄だろう?」

 

「貴様ァ・・・!」

 

「・・・・」

 

(あっ、終わった・・・)

 

ローゼのヤバさを経験済みの隼人は死を悟った。

 

「・・・・か」

 

「か…?」

 

「可愛いじゃないですか~‼」

 

「なっ!?は、離せ!?なんだお前、抱き着いてくるな!」

 

「えっ!?」

 

予想外の行動に周りは驚く。

その中で零士だけは呆れた顔をしている。

 

「この子とても綺麗な銀髪をしていますよ!零士様ほどではないですが!」

 

「な、なでなでするな!?くぅっ!離れろ!」

 

「・・・はぁ、興醒めだな」

 

「ど、どうなってるんだ?」

 

「あいつは気に入ったものにはとことん目がない。ああなっては放置するのが一番だ」

 

「ははは…ラウラが引き剥がせないって相当だよね…」

 

軍人であるラウラが為すすべもなく掴まっている。

その光景がさらにローゼの超人感を増していた。

 

「でもね」

 

「ッ!?」ゾクッ

 

「兄っていうのはどういうことですか~?」

 

「は、離せ!?離してくれ!?」

 

「ダ~メ♡この子少し借りますね?」

 

「よ、嫁!シャルロット!たすけ___」

 

「零士様、お食事は既にテーブルにご用意してありますので」

 

そう言ってラウラを抱えたままローゼは窓から飛び降りた。※ここは3階

 

「「ラ、ラウラー!?」」

 

「放って置け。そのうち帰って来る」

 

そう言う零士は遠い目をしていた。

流石に少し同情せざるおえなかったのだ。

 

 

時刻は昼休み終わり。

 

「・・・・」

 

ガラガラっと教室の扉を開けたのはラウラだった。

その目は心なしか虚ろである。

 

「「ラウラ!」」

 

「生きていたとは驚きだ…」

 

駈け寄る隼人とシャルロットに反応することなくラウラは零士のもとに歩いていく。

 

「ラウラ…?」

 

「どうしちゃったの…?」

 

「何か用か?」

 

「・・・・申し訳ありませんでした()()

 

ペコリと頭を下げるラウラ。

それを見る零士の顔は引きつっている。

 

「ローゼ!これは一体どういうことだ?」

 

「『兄』という呼び方では零士様への敬意が足りないと思いましたので」

 

「問題そこ!?ていうかいつの間に教室に…」

 

「よくできましたねラウラ」ナデナデ

 

「はい、姉上」※洗脳済み

 

これには零士も頭を抱えた。

その横で隼人とシャルロットは恐怖に震えている。

 

「問題はそこではなかろう。そもそもこいつに兄と呼ばれる筋合いはない!」

 

「そうでしょうか?きれいな銀髪に先ほど確認したところオッドアイという共通点もありました」

 

「確かに並んでると兄妹っぽいかも…?」

 

「それに可愛いです!この可愛さなら零士様の妹でも十分やっていけます!零士様もそうは思いませんか!」グイグイ

 

「み、見た目に関しては出来がいいのは認めてやる…」

 

「あの天馬が押されている…」

 

「そして最も重要なのが零士様が兄で私が姉と言う事は・・・キャー♡これ以上は恥ずかしいです♡」

 

「ねぇ隼人、これ実質全部言ってない…?」

 

「気にしたら負けだ…」

 

暴走するローゼに為すすべのない隼人とシャルロット。

零士も終始押されっぱなしだ。

 

「ですから何卒よろしくお願い申し上げます!」

 

「わ、わかった。好きにしろ」

 

「よろしいのですか!?」

 

「天馬ってそういうとこ甘いよね」

 

「なっ!?か、勘違いするな!これはローゼの働きに応じた報酬であって押しに弱いわけではない!」

 

(天馬ってローゼさんに弱いよなぁ)

 

「はい!ありがとうございます!」

 

零士の言葉にローゼは満面の笑みをこぼす。

しかしそれも一瞬後には寒気が走るような笑みに変わった。

 

「まぁ、それはそうとして半端な知識を吹き込んだ子にはお仕置きですけどね」

 

 

~ドイツ~

 

「ひっ!?今何かとてつもない寒気が・・・」

 

クラリッサ・ハルフォーフは未だかつて経験したことのない悪寒を感じていた。

 




セシリア「・・・・」


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第六十三話 鳴海杯開催

『各部対抗!織斑一夏&鳴海優争奪戦!』

 

朝のHRと一時間目を利用した全校集会。

全生徒がそろったことが確認された瞬間壇上のスクリーンにでかでかとそんな文字が出現した。

 

「今年の文化祭は例年通りはつまらないので見ての通りの企画を行うわ」

 

「え・・・・」

 

「えぇ~~~~~!?」

 

割れんばかりの叫び声にホールが揺れた。

まぁ、いきなり聞いたら大混乱するだろう内容だ。

楯無ちゃんってサプライズ好きなとこあるよな。

 

「静かに!一位を取った部活にはこの二人を強制入部させます。つまり総取りってことね」

 

「えっ?えっ?そんなの聞いてないんだけど!?ていうかあの人誰!?」

 

隣では一夏が慌てふためいている。

災難だな一夏も。

 

「ど、どういうことだ!?ていうか優は落ち着きすぎだろ!?」

 

「いや~、今何かしても無駄かなって。それにいつかは何か起こると思ってたし」

 

大方俺達が部活に入らないからクレーム来たんだろうな。

まぁ、貴重な男子だからしょうがない。

 

「ということで織斑一夏君と鳴海優君は放課後生徒会室に来るように。以上、解散」

 

さてと、どうするかな~。

 

 

時刻は放課後になり、俺と一夏は生徒会室に向かっていた。

 

「はぁ、なんで俺達だけなんだ?天馬だって部活やってないだろ」

 

「いや、天馬は部活に入っているよ」

 

「えぇっ!あの天馬が!?いったいどんな部活なんだ…?」

 

驚くのも無理はない。

俺も知った時少し驚いた。

 

「料理研究部」

 

「料理研究部ゥ!?それって隼人やシャルロットと同じとこだよな?あいつがまともに料理作ってる姿が思い浮かばねぇ…」

 

「ローゼさんが特別講師やってていつの間にかそこの在籍扱いにされてたらしいから料理はしてないけどね。でも、味見して厳しい意見をくれるんだってさ」

 

「なるほど。しかし、ローゼさんが特別講師とか強制的に入れられるんだったらそこがいいな俺」

 

「男子がもう二人もいるからたぶん無理だろうね」

 

「まじかよ…」

 

そんなことを話していたら生徒会室の前まで来ていた。

この時間だと全員いるかな?

 

「そういえば、生徒会長ってなんて名前なんだ?」

 

「更識楯無さんだよ。生徒会長の名前ぐらい覚えたほうがいいよ?」

 

「いや、忙しくてさ・・・って『更識』?それって優が仲いい四組の子と同じ苗字だな」

 

「あぁ、彼女のお姉さんだよ」

 

「へぇーそう思うと知らない人じゃないって気がしてくるな」

 

「そうそう、気楽にいこう」

 

ドアをノックすると返事が返って来たので扉を開ける。

中には楯無ちゃん、虚ちゃん、本音ちゃんの三人がいた。

あっ、めずらしく本音ちゃんが起きてる。

 

「あれ?なんでのほほんさんが?」

 

「あっ、おりむーになるみんだ~。さっきぶり~」

 

「えっ、あぁ、さっきぶり」

 

本音ちゃんがいることに一夏は困惑してるようだ。

こいつ今日はめっちゃ困ったりしてるな・・・・っていつも通りか。

 

「布仏さんは生徒会役員だからね」

 

「そうなので~す」

 

「・・・意外だ」

 

「皆そう言うよ~」

 

「んっんっ!そろそろいいかしら?」

 

おっと、そういえば楯無ちゃんと話に来てたんだった。

 

「あっ、すいません生徒会長」

 

「まぁ、そこまでかしこまらなくてもいいわよ?ほら、遠慮せず二人とも座って」

 

「どうも」

 

なんかいつもと違ってカリスマな雰囲気だしてるな。

いや、いつもがポンコツ気味なだけか?

 

「二人に来てもらったのは今回の企画についての説明のためよ。実はあなた達二人が部活動に入らないから色々と苦情を寄せられていてね。生徒会はあなた達をどこかに入部させないとまずいことになっちゃったのよ」

 

「それで今回の争奪戦ってわけか」

 

「まぁ、理由は予想通りって感じですね」

 

「話がはやくて助かるわ。でね、その交換条件としてこれから学園祭までの間、私が特別に鍛えてあげましょう。ね、悪い条件じゃないでしょう?」

 

それって一夏に対する条件だよな?

俺になんの得もないな。

いや、楯無ちゃん。ウインクしてもダメだからね。

 

「遠慮します」

 

一夏は一夏でこれがどういうことかわかってないな。

せっかく学園最強(ちーちゃんは除く)に鍛えてもらえるのにもったいない。

大方もうコーチはいっぱいいるからってとこだろうな。

 

「そう言わずに。はい、お茶どうぞ」

 

「どうも。・・・・おいしいですね」

 

「でしょ?はい、ケーキもどうぞ」

 

「いただきます」

 

「そして私の指導もどうぞ」

 

「いただk・・・って!それはいらないですって。というかどうして鍛えてくれるんですか?」

 

「ん?単純に君が弱いからよ」

 

一夏は一瞬何を言われたかわからないという顔をし、次の瞬間にはムッとした。

昔から単純でわかりやすい奴だなほんと。

まぁ、そこがいいんだが。

 

「それなりに弱くはないつもりですけど」

 

「ううん、全然弱いよ。だから、少しはマシになるように私が鍛えてあげようというお話」

 

「・・・・だったら勝負しましょう!俺が負けたら煮るなり焼くなりご自由に!」

 

(完璧に俺空気だな~)

 

まぁいっか。

 

 

結果から言うと一夏の完敗。

わかりきっていたことだけどな。

にしても楯無ちゃんも大人げないというか、なんというか…

 

「織斑生きてるー?」

 

駄目だこりゃ。完璧に伸びてるわ。

なんか最近一夏は負け癖ついてる気がする。

 

「最強の座に優くんも挑んでみる?」

 

「やりませんよ」

 

「そう、それは残念。いい勝負になると思ったのに」

 

「面白い冗談ですね」

 

「やっぱり本気のとこは見せてくれないのね」

 

「そんなものありませんよ」

 

「つれないわね」

 

ちーちゃんといい、楯無ちゃんといい、やっぱり実力者には結構見抜かれるな。

まぁ、色々やっちゃったのが原因だろうけど…

 

「そういえば楯無さん。僕への交換条件は?」

 

「・・・おねがい♡」

 

「可愛くいってもダメです」

 

「私と優くんの仲じゃない」

 

「それとこれとは別です」

 

いくら楯無ちゃんの頼みでも動きが拘束されるのは困る。

しかし、だからといって入らなければこのまま強制入部だ。

だから一つ部活をやらなくてもいい案を思いついた。

 

「その代わりと言ってはなんですが、一つ提案なんですけどいいですか?」

 

「提案?内容によるわね」

 

「それは_____」

 

 

 

 

 

 

 

 

「号外!ごうがーい!文化祭前にとびっきりのイベントだよー!」

 

「なんだ?今日はやけに騒がしいな」

 

「なにかあったのかな?」

 

「はい号外」

 

「あっ、どうも」

 

優と一夏が生徒室を訪れてから二日。

その日の朝、学園中に衝撃が走った。

 

「えーなになに、『第一回(今後はない)鳴海杯 開催!』だって」

 

「鳴海杯?鳴海となんか関係してんのか?」

 

「えーっと待ってね。下に詳細が書いてあるから。『鳴海優VS各部活で勝負し、勝ったところに鳴海優を入部させる』・・・・って、えぇ!?」

 

予想外の記事にシャルロットは驚きの声を上げてしまう。

というよりこの記事を読んだものはだいたいそういう反応をしている。

 

「ふーん、前回の集会といい生徒会はすごいことするな」

 

「落ち着きすぎじゃない!?」

 

「そうか?」

 

「だってこれ優が圧倒的不利だよ!」

 

「まぁ、確かにそうだけど・・・・鳴海だしなんとかするかなって」

 

「・・・・確かに…」

 

遠い目をして話す隼人を見て、シャルロットも納得した。

その遠い目から思い出されるは臨海学校初日の地獄絵図。

二人を微妙な空気が包み込む。

 

「・・・・とりあえず教室行こっか…」

 

「あぁ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

いやー、さすが楯無ちゃんは準備がはやい。

頼んでからまだ二日だよ?

 

「鳴海、貴様この企画事実か?」

 

「うん、本当だよ」

 

天馬から話しかけてくるなんて珍しい。

なんか険しい顔してるけどなんかあったのかね?

 

「チッ!こんな面白そうな企画を俺様に黙って進めおって・・・・・何故俺様に一声かけなかった。もっとおもしろくしてやったものを…」

 

・・・・祭り好きか?

いや、家柄上エンターテインメントにこだわっているのか?

 

「あー、次は声かけるよ」

 

「ふん、まぁいい。二日後なら今からでも十分に用意はできる」

 

「用意ってなんの?」

 

「それを言っては面白くなかろう?まぁ、楽しみにしておけ」

 

うーん、やな予感がする…

こういう時ってだいたい当たるんだよな…

 

「それと、俺様が用意するメインイベントまで負けるなよ?興醒めだからな」

 

──ハハハハハッ!

高笑いだけでやな予感が増幅するな。

面倒事が起こりませんように。

 

 

「はい!始まりました第一回(今後はない)鳴海杯!実況は新聞部の黛 薫子がお送りします!解説には生徒会長である更識楯無さんにきてもらっています。」

 

「どうも〜」

 

時間は経ち、鳴海杯(楯無ちゃん案)当日。

依然としてやな予感がなくならない。

こりゃ、気を引き締めていかないと足元すくわれるかもな。

 

「では、競技に移る前に改めてルール説明の方をさせてもらいます。更識会長、おねがいします」

 

「はい、知ってるとは思うけど念の為ルール確認よ。次のルールが守られていない部活は即刻失格だから注意よ?」

 

1.各部活は代表候補性又は全国大会に出場した実績のある生徒を競技に出すことはできない

 

2.競技は各々の部活に沿った内容のものでなければならない

 

3.競技で鳴海優に勝った場合、鳴海優を入部させることが出来る。なお、勝利した部活が出た時点で鳴海杯は終了とする

 

4.ドーピング、妨害はダメ♡

 

5.鳴海優が全勝した場合、鳴海優は部活に在籍しなくても良く、各部活は今後一切の鳴海優の部活案件についての苦情を生徒会に寄せないこと

 

「注意事項はこんなところね」

 

「ありがとうございます。因みに順番に関しましては運動部のあとに文化部となっており、その中でもくじ引きによって決まっています。更識会長、これはなぜ運動部優先なのですか?」

 

「まぁ、文化祭の織斑一夏君の方は文化部向けでこの鳴海杯は運動部向けってこと。だから文化祭で勝負するなら参加せずに準備した方が有利にもなるわ」

 

そう、そこがこの企画の通った理由。

ぶっちゃけ運動部は文化祭の展示では不利なため強行手段で楯無ちゃんを襲って生徒会長の座を奪おうとするのは明白。

 

それに負ける楯無ちゃんではないが彼女には他にいくつもの仕事があって忙しいため、その時間すら惜しい。

そこでこの圧倒的運動部有利の鳴海杯を開催することでその不満を解消することが楯無ちゃんの目的だ。

 

「なるほど、確かに文化部の参加率は3割以下となっております。そして運動部からの不参加はバレー部のみとなっております」

 

あれ?運動部は全部参加だと思ったんだけど意外だな。

文化祭に力を入れるのか、はたまた不調なのかな?

まぁ、手間が省けていいが。

 

「しかし更識会長、これはくじ運が勝負といっても過言ではないでしょうか?いわば早い者勝ちのルールですし」

 

「そうかしら?私はそうは思わないけど、まぁ、始まれば分かることでわざわざ話す必要もないわね。進めてちょうだい」

 

「はい!ではこれから順次開始しますので各部活は準備の方をお願いします。各勝負については学園内のモニターでもお伝えしていきます」

 

「それじゃあ、鳴海杯開始!」

 

よし、目指せ無所属だ!




次回は鳴海杯をお届けします


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第六十四話 鳴海杯《前編》

大変お待たせしました、復活です。
関係ないですが超英雄祭行ってきました。
エターナルかっこよすぎません?
ちなみにクウガ出た時泣いた。


「はい!どうやら準備が整ったようです」

 

最初は確かサッカー部だったな。

実力は県大会止まりの中の上。

 

「先陣をきるのはサッカー部。種目は『PK対決』!おおっと、これはいきなり厳しい種目だ~!鳴海杯早くも終了なのかぁ!?」

 

予想通りPK対決できたか。

よかったよかった。

 

「ふふふ、鳴海君。歓迎会の準備ももう出来てるわよ?」

 

「気が早くないですか?勝ったわけでもないでしょう?」

 

「結果なんてやらなくても明白でしょ。サッカー部がサッカーで勝負するんだから」

 

「そうですかね?やってみないとわかりませんよ?」

 

キーパー用のグローブをはめ、ゴールの中心に立つ。

両手を広げれば思ったよりゴールが狭く思える。

 

「この枠にボールを入れさせなければいいだけですよ?」

 

「甘い考えね。それがどれだけ難しいことかわかっていないのかしら?」ニタァ

 

最初に蹴るのは主将。

身長156cm、体重40㎏、血液型はB型。利き手、利き脚はどちらも右。

チームの点取り頭でありポジションはFW。

サッカーにかける情熱は人一倍で人望も厚い。

しかし、流れがあるとみるとすぐに調子にのる。

その際、笑う癖がある。

そして決めにかかるときは決まって・・・・

 

「私が教えてあげるっ!」

 

「自身から見て右に蹴る」ボソッ

 

左方向へ横っ飛びすると予測通りボールはそこに来た。

それを伸ばした両の手がしっかりと捕らえる。

 

「と、止めた~!?鳴海君が初っ端からのスーパーセーブ!これにはサッカー部の皆様も驚きを隠せない」

 

「と、止められた…ゴール端ギリギリの完璧なシュートだったのに…」

 

「まずは一本」

 

今回は五本勝負。

あと二本止めて、三本決めれば勝ちだな。

 

「さぁ、次は僕が蹴る番ですね」

 

「キャプテンのシュートを止めたのは驚きだが私がゴールを守り切ればいいだけだ!」

 

キーパーの彼女は身長173cm、体重52㎏、血液型はA。

その高身長を生かしたセーブでチームの窮地を救ってきたという。

性格は責任感が強く、熱血。

美形の顔立ちとその性格から周りから熱のこもった瞳で見られることもしばしば。

そして素直さ故、搦め手に弱い。

 

「僕、右側に蹴りますからね」

 

「どういうつもりだ…?」

 

「ジャンケンでもこういう心理戦とかであるでしょう?あっ、因みに僕から見て右側です」

 

「信じると思っているのか?」

 

「信じたほうがいいと思いますよ?」

 

「・・・・」

 

考えてる考えてる。

そのまま考え続けるといい。

 

「いきますよー」

 

「・・・・!」

 

そして蹴る直前、最後にチラッとゴール左側をみる。

こうするだけで・・・

 

「ゴール!宣言通りゴール右側へと決めました!」

 

ゴールはいただきだ。

 

「彼が蹴る直前にゴール左側を見たのがポイントね。キーパーの彼女はそれを見て咄嗟にそっちに飛んでしまったのよ。優秀が故に視線に気づいてしまった結果ね」

 

「ボールを蹴るまでにそんな駆け引きがあったとは驚きです!」

 

「くっ、騙したな!」

 

「騙したなんて人聞きが悪い、宣言通りだったでしょう?」

 

流れは完璧に俺に傾いた。

このままいけばこの勝負勝てる。

まったく、手加減しながら勝つってのも楽じゃないな。

 

 

「勝者、鳴海優!」

 

今日十何度目かの勝利のアナウンスが響き渡る。

 

(ええっと、確かこれで折り返しだったな)

 

鳴海杯開始から3時間。

ようやく半分の部活との勝負が終わった。

さすがIS学園と言ったところで生徒も多いため、とにかく部活が多い。

珍しいことに「カバディ部」まであった。

正直、今回の件で初めてルール知ったからあそこが一番きつかった。

 

「続いての勝負は剣道部となります。勝負内容は『一本勝負』とのことです」

 

おっと、いつの間にか次の準備が整ったようだ。

剣道部ってことは箒も観戦してるかな~って噂をすれば箒発見!

なんとこっちに来るではないか。

 

「鳴海、これがお前の防具と竹刀だ。つけ方は分かるか?」

 

「うん、大丈夫。ありがとう篠ノ之さん」

 

「そうか、何か問題があったら遠慮なく言ってくれ」

 

あぁ、やっぱ箒は天使だわ。

優しさが心に染みわたるわ~。

 

「ここまで勝ち進んだのはなんとなく予想通りだったが・・・」

 

ん?なんか珍しく歯切れが悪いな。

ていうか箒よ、ここまでの勝利も周りからしたから予想外だと思うんだけど。

 

「恐らくここで終わりだ。今は敵だが公平を期すため言っておく。今から戦う相手はこの剣道部で誰よりも強い人だ」

 

「誰よりもって・・・それだと篠ノ之さんより強いみたいに聞こえるけど?」

 

「そのままの意味だ。・・・忠告はした」

 

そう言い残し、箒は観客席に戻った。

 

(このルールで箒以上の実力者?)

 

ハハハッ!うちの妹以上に強い子なんているわけないだろ~。

 

 

前言撤回…

いやおかしい!このルールであそこまでの子がいるとか予想外だよ!

ていうか箒出れないから剣道部完璧に情報集めてなかった…

 

(まぁ、おかげでかなり楽しめたんだが)

 

「沖田」っていったな。

彼女、才能だけならちーちゃんに迫るものを持っていたな。

このまま成長すればもしかするかもしれない。

まったく、嫌な予感がやっぱ的中したよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沖田(オキタ) 小夜(サヨ)

それが私の名前。

IS学園に通う二年生で剣道部に所属。

日本人らしい黒髪のショートに黒い目。

身長もテストの点数も平均近く。

そんなごくごく普通の女子高生である私には普通ではない所がある。

 

「コホッコホッ…」

 

「大丈夫?沖田さん」

 

「うん、大丈夫。いつもの事だから」

 

身体だ。

私は生まれつき身体が弱かった。

すぐに体調を崩すし、怪我もする。

ここ最近では体調を崩すして入院していたことが記憶に新しい。

そんなことばかりで私は大会に出場したことがほとんどない。

出たとしても体調を崩すして途中敗退。

 

「そっか、無理はしないで頑張って!」

 

「うん」

 

そんな私は今、重役を担っている。

 

「間もなく鳴海選手VS沖田選手の試合が開始されます。席にお着きになってお待ちください」

 

(プ、プレッシャー…)

 

なんでも試合に勝つと対戦相手の鳴海優君を入部させられるとの事でどの部活も相当気合が十分。

もちろんうちの部も例に漏れず気合が凄い。

なんといったって部長に泣きつかれたほどだもん。

とんでもない時に退院しちゃったよ…

 

(ていうか鳴海優(あの子)よくここまで勝ち上がってこれたよね…)

 

順番を聞いて悪いけど正直出番はないと思ってたんだけどなぁ…

まぁ、あの生徒会長がやるイベントだし一筋縄じゃいかないのは当たり前か。

退院したばっかりだからあまり激しく動きたくはないんだけど・・・

 

(請け負ったからには全力出さないとね)

 

袋から竹刀を取り出し、瞳を閉じ大きく息を吸う。

こうすると余計な考えがスーッとなくなって五感全てが鋭くなる。

それはまるで自分が一振りの刀になったような感覚。

 

(・・・よし)

 

「…!」

 

瞳を開ければ彼が驚いた顔をしてこちらを見ている。

鳩が豆鉄砲を食ったようとはまさにこのことではないだろうか。

 

「私の顔に何か?」

 

「いや、先輩いつからそこにいました?」

 

「?さきほどからいましたが」

 

おかしな質問をしてくる。

試合開始が近いのだからお互い先ほどからいたというのに。

目も何度かあったはずだが?

 

「まるで別人じゃないか」ボソッ

 

「何を笑っているのですか?」

 

「えっ?・・・あぁ、悪い癖ですね。直そうとは思ってるんですけど先輩みたいな人を見るとつい面白くなりそうだから」

 

「変わってますね」

 

「よく言われます。でも先輩ならきっとわかる時が来ると思いますよ?」

 

「何を言って―――」

 

「時間になりました!両選手は既定の位置についてください」

 

・・・時間か。

私にもわかる?どういうことだ?

 

(・・・・いや、今考えることではないな)

 

恐らく心理戦の類だろう。

迷いは太刀筋を鈍らせる。

余計な思考はいらない。

 

「よろしくお願いします」

 

「こちらこそ」

 

お互い構え、その時を待つ。

 

「それでは更識会長、合図をお願いします」

 

「両者準備は整ってるわね?・・・よろしい。それでは勝負・・・開始!」

 

開始とともに一気に前に出る。

床から腕までの力の移動。

その全てを乗せ、極限まで加速させた一振り。

 

バシンッ!

 

「・・・!?」

 

それを彼は止めた。

確認した瞬間全力で後退する。

一瞬後に私のいた場所に剣が振られた。

 

「恐ろしく速いですね」

 

(止められた…!)

 

初めてだった。

ここまで完璧な初撃を止められた。

しかも反撃までされるとは。

 

(ここは少し出方を伺うべき)

 

「ええっと・・・今何が起きたのでしょうか…?恥ずかしながら私の目には沖田選手が一瞬で消えて、現れたようにしか見えませんでした」

 

「お互い一撃ずつ放ってどちらもそれをいなしたわ」

 

「今の一瞬でお互いに一撃ずつですか…?あっ、ただいまスロー映像が送られてきましたのでスローリプレイです。・・・こ、これはぁ!流石学園最強!その目はこの激戦をしっかりと捕らえていました!」

 

彼もまた動こうとしない。

今までにない緊張感。

一瞬でも気を抜けばのまれてしまう。

そんな確信にも似た予感がする。

 

「両者動いていないというのに会場に漂うこの緊張感はなんなのでしょうか!」

 

お互い動きを伺い始めて一分。

ついに彼が動き出す。

 

「いつまでもこうしてる訳にはいかないんでね」

 

ジリジリとゆっくりとだが確実に間合いを詰めてくる。

その動きに隙はなく、無理に飛び込めば間違いなく取られる。

かといって何もしなければ間合いを潰され機動力を失う。

 

(ならばこちらの間合いに入る瞬間が勝負)

 

私が出せる最大間合いで流れをものにし、一気に畳み掛ける。

長期戦になればなるほどこちらの不利だ。

 

ジリ…ジリ…ジリ───

 

(今っ!)

 

バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!

 

「沖田選手凄まじい連撃だぁー!一体あの小柄な体のどこにそんなパワーがあるのでしょうか!?そしてこれには鳴海選手防戦一方です!というかこれは剣道なのでしょうか!?」

 

(なんという防御…!)

 

息もつかせぬ連撃をも止めるとは…

まるで手ごたえを感じられない。

 

「ッ…!」ゾクッ

 

悪寒が走る。

瞬間、上段を半歩横にズレることで逃れ、その勢いのまま距離をとる。

まさに紙一重というやつだった。

 

「お、押し返しました~!?鳴海選手あの状況で沖田選手を下がらせることに成功!どちらもすごすぎる~!」

 

(妙だ…)

 

何故私は避けることが出来た?

あれほどの技量を持つ彼ならばあの完璧なタイミングで逃すというのは考えにくい。

何故距離を詰めてこない?

この違和感・・・

 

(試してみる価値はある)

 

もう一度、踏み込む!

そして先ほどと同じように連撃。

当然それは完璧に防がれる。

 

「…!」(来たっ!)

 

先ほどの再現と言わんばかりに半歩横に身を逸らす。

唯一違う点は私が引かず、そのまま竹刀を振りぬこうとしていること。

 

「っ…」

 

「これは・・・!この試合初めて鳴海選手が後退しました!」

 

「やはり彼女は天才ね。普通あんなことできないわよ?」

 

「と、いいますと?」

 

「攻撃時のほんの僅かな隙をついたってところかしらね。隙というにはあまりにも微妙だけれど」

 

やはり攻撃の瞬間、そこが違和感の正体。

防御の時に比べ攻撃の時には僅かに動きが鈍る。

そしてその瞬間だけ防御は完璧ではなくなる。

だが・・・

 

「ハァ…ハァ…ハァ…」(出来てあと数回…?)

 

並の集中力では絶対に出来ない。

ましてや私のような貧弱なものにはかなりの負担がかかる。

 

「病み上がりでやることでは無いな…」

 

「なるほど、このままじゃ勝てなさそうですね」

 

「降参しては?」

 

「降参はしたくないです。ですから」

 

───構え変えさせてもらいますね

なんだあの構えは…

脚を大きく開き、腕は力なくダラりと下がっている。

そして最も特徴的なのがあの超前傾姿勢。

頭の高さが腰よりも低い位置にある。

 

(・・・まるで獣が獲物を目の前にした時のそれ)

 

基本とはあまりにかけ離れているというのにあまりにも自然体。

そして構えが完全に変わって一息後、全身が感じ取った。

 

(危険だ…!)

 

しかし、それでは遅かった。

構えの危険性に気づくまでのほんの一瞬、その間に既に彼の姿は私の視界から消えていた。

 

(ッ!?)ゾクッ

 

考える前に身体は後ろに動いていた。

鼻先を僅かに竹刀が掠る。

微かに見えた竹刀は下から振り上げられていた。

 

(下!?)

 

瞬時に足元を薙ぐように一線。

手応えはないが右に動いた気配は感じ取れた。

同時に反対の左へ動き、構えを立て直す。

そこで再び彼の姿を視認できた。

 

「初見で躱すだけじゃなく、反撃までするなんて恐ろしい人だ」

 

全く、恐ろしのは彼の方だ。

目の前にいたというのに視界から消える相手なんて初めてだ。

 

「ハァ…ハァ…完全には避けれてないよ」

 

「先程とは逆!今度は鳴海選手が消えたように見えました!会長、一体今の一瞬で何が起きたのですか?」

 

「まず鳴海くんは意識が薄いであろう床付近を高速移動することで沖田さんの視界から瞬間的に消えたわ」

 

「ハイレベル同士でも視界から消えられるんですね。あっ、こちらにもスロー映像が届きました。鳴海選手、確かに床すれすれを移動しています!」

 

「驚いたのはその後、沖田さんが直感だけで避けてみせただけでなく反撃したところね。まぁ、その反撃を対処する鳴海くんも鳴海くんだけれど」

 

「はい、私としてはもうスロー映像を後で会長の解説付きで流せばいいんじゃないかと思いはじめて来ました!それほどまでにこの試合はレベルが高すぎます!」

 

「因みに今はお互いさっきの攻防を踏まえて隙を伺っている状態よ。でももう少しで決着かしらね」

 

・・・さすが最強と言われる会長。

全部お見通しらしい。

残り私は動けて攻防一回だ。

 

(しかし、あの構えは厄介だ。隙だらけに見えてそうではない)

 

弛緩しきった構えは瞬時にトップスピードを引き出し、そこから体勢を立て直せるバランス力と反応できる驚異的反射神経が隙をなくす。

人間というよりまさに獣を相手にしている気分だ。

 

(私に出来ることはなんだ…?)

 

この状況でどうすれば勝てる?

動けるのは攻防一回が限度の私に何が出来る?

 

(・・・攻防?・・・そうか!)

 

なんて簡単な事だったんだ。

 

「雰囲気が変わったわね彼女、仕掛ける気ね」

 

彼もこちらの気を感じ取ったのだろう、雰囲気が変わった。

だが、私が成すべきことは変わらない。

 

「沖田小夜、参る!」

 

簡単な事だった。

攻防一回しか持たないとは防がれたら敗北を意味する。

この瞬間に置いては攻撃の後の守るための余力はいらない。

ただ全てを一突きに込めれば良いだけだった。

 

ダンッ!

 

その踏み込みは聞いた事のないほどの音だった。

 

シュッ!

 

その突きは流れるように最速に至った。

 

バチンッ!

 

その感触は今まで味わったことの無いものだった。

 

(なんだ・・?)

 

強烈な衝撃が手に伝わってきた。

竹刀は勝手に手から離れ、落ちていく。

 

(えっ、どうして勝手に落ちていくの?)

 

彼の元に最短で向かっていた竹刀がなぜ落ちていくのか分からない。

 

「勝負あり!勝者、鳴海優!」

 

(・・・・そっか…)

 

アナウンスが聞こえ、私の目の前には突きつけられた竹刀。

ようやく状況を理解した。

最高の一撃は弾かれ、私は負けたのだ。

 

(楽しかった…)

 

しかし、負けたというのに最初に感じたのは悔しさではなく、楽しさだった。

ついで、罪悪感。うぅ、部長ごめんなさい…負けちゃいました…

 

「身体は大丈夫ですか?」

 

そんなことを考えたまま座り込んでいたら心配させてしまった。

竹刀が引かれ、代わりに目の前には手が差し伸べられる。

 

「大丈夫、ちょっと疲れちゃっただけだから」

 

私はその手をとって立ち上がる。

ほんとに不思議なことに身体の調子はよい。

いつもならこれだけ動けば倒れると思うんだけど。

でも今はそれより気になることがある。

 

「ねぇ、一つだけ聞いてもいい?」

 

「いいですけど、なんです?」

 

「最後、どうして反応できたの?」

 

間違いなく私の最速だったし、初見で弾ける突きではなかったと思う。

それをどうやって的確に弾いたのかが気になった。

 

「確かに最後の先輩の動きはとても速かったです。でも──」

 

「でも?」

 

「僕はもっと速い突きを知っています」

 

今、私の顔は鳩が豆鉄砲くらったような顔をしてるだろうな。

面があってよかった。

 

「ふふっ、そっか。あの突きよりもっと凄い突きがあったか〜」

 

まったく、世の中広いなー。

まだまだ上があると分かると急に悔しさが込み上げてくる。

 

「嬉しそうですね」

 

「嬉しそう?」

 

「えぇ、すごく」

 

「・・・そうかも。悔しい以上にきっと楽しみなんだと思う。世の中まだまだ上がいるってことが」

 

その人達とも是非試合をしたい。

 

「だから私、もっと腕を磨くわ。次は君にも勝ってみせるから」

 

「僕も負けるつもりはありません」

 

「鳴海くーん、次の準備できたみたいなので移動お願いしまーす!」

 

「じゃあ、僕はこれで」

 

「うん、頑張って」

 

鳴海くんを見送ったし、私も帰ろっと。

剣道部の皆の元に。

 

「皆、ごめん!期待してもらってたのに負けちゃった」

 

「なーに謝ってんのよ。小夜は全力尽くしてくれたんだから」

 

「部長…」

 

「本当に凄かったです先輩!ぜひ私とも試合をしてください!」

 

「篠ノ之さん…」

 

「あっ、私も教えてほしいことが」「私も私も」「ずるーい、私もー」

 

「皆…」

 

「ね?誰も落ち込んじゃいないでしょ。むしろ活気があるぐらいよ。本当にありがとね、小夜」

 

「こちらこそありがとうございます。私をこの試合に出させてくれて」

 

私はこの日のことを忘れることはないと思う。

最高の試合をし、最高の仲間に出迎えて貰えた。

そして、ここでなら私はもっと強くなれると確信した。

 

「皆、これからもよろしく!」

 

今日この日、私たちは新しい一歩を踏み出した。



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第六十五話 鳴海杯《後編》

なんか思ったより長くなってしまった…


剣道部との勝負から2時間が経過し、残す勝負も片手で数えられる程度になった。

結局、剣道部以降の勝負は予測通り危なげなく突破できたのだが・・・

 

(嫌な感じだ)

 

俄然として嫌な予感は払拭されない。

むしろ強くなっている。

空き時間で出場メンバーを調べ直した結果、沖田ちゃんみたいな子が他には居ないことは確実だ。

 

(・・・今日、天馬をまだ見てない)

 

あのお調子者がこのイベントに顔を出さないのはおかしい。

というより何かやらかすみたいなこと言ってた気がする…

 

「鳴海選手、準備が整ったのでどうぞー」

 

「・・・」

 

恐らく嫌な予感の正体は天馬がやらかす何かだ。

だが、性格上イベントを潰すのは好まないはず。

 

「鳴海選手ー?」

 

「・・・」

 

しかし、このイベントの内容でそんなに追い詰められる状況があるか?

はっきり言って、沖田ちゃん相手でも余力はあった。

あれ以上の何かイレギュラーがあるのか?

 

「おい、何をしている」ガンッ

 

頭に衝撃。

この威力はちーちゃんだな?

 

「いたた、何するんですか織斑先生」

 

「呼ばれているというのにボケっとしてるからだ。お前が考えたイベントなのだからしっかりやりきれ」

 

どうやら、考えに夢中になってる間に呼ばれていたようだ。

うーん、昔からの悪い癖だ。

 

「ありがとうございます、考え事してる間に棄権になるところでした」

 

ちーちゃんに礼を言ってグラウンドに足を運ぼうとした時。

 

「鳴海」

 

ちーちゃんに呼び止められる。

 

「なんですか?」

 

「・・・後で話がある。このイベントが終わったら私のところに来い」

 

「話ですか?いったい───」

 

「鳴海選手ー!お願いしまーす!・・・全く、どこいったんですかね?皆様、もう暫くお待ちください」

 

おっと、これ以上待たせるのは悪い。

ちーちゃんの話も気になるが今は鳴海杯を取らなくちゃな。

 

「はやく行ってやれ」

 

「じゃあ、またあとで」

 

今度こそ俺はグラウンドに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中庭のベンチ、缶コーヒー片手にドサッと腰掛ける。

今は例のイベントで中庭には誰も居ないため、肩肘張らずにいられる。

カシュッ、という軽快な音と共に蓋を開け、一気に飲み干す。

 

「苦い…」

 

今日のコーヒーはやけに苦く感じた。

先程から考え事をしてるから脳が糖分を欲してるのかもしれない。

 

『勝者、鳴海〜優〜!』

 

「─────!!」

 

アナウンスと共に歓声が聞こえてくる。

全く、よく騒ぐ奴らだ。

 

「鳴海優…」

 

まぁ、その騒動の原因のことを私は考えてるんだが。

 

「お前の忘れ形見か?」

 

空を見上げ、そんなことを呟いてみる。

もちろん答えなんて帰ってこない。

だが、尋ねずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝者、鳴海〜優〜!」

 

《わあぁーーー!》

 

勝利アナウンスと同時に歓声が響いた

今、最後の部活との勝負に決着が着いた。

 

(終わった)

 

これで厄介事である部活問題はなんとかなった。

 

「ふははははははは!」

 

と思ったがまだらしい…

 

「喜べ!まだこの大会は終わっていない!」

 

「いやいや、何を喜べばいいんだい?」

 

「貴様に最高の勝負をさせてやる」

 

「勝負?もう僕は全部活と勝負をしたんだ。それなのに勝負を挑むなんてルール違反じゃないかい?」

 

楯無ちゃんの方をチラッと確認。

手を合わせてウインクしてきた。

なるほど、グルか。

 

「挑む?この俺様が?はははは!何を勘違いしてる。挑むのはお前だ」

 

パチンッ!

 

天馬が指を鳴らすと同時にスクリーンが変わる。

 

《最終戦 料理研究部》

 

「料理研究部はもう男子が二人在籍してるはず」

 

ほかの部活がエントリーを許すか?

 

「エントリー条件は順番を最後にすることで各部の長を全員納得させた。因みにつまらんから名前は隠しておいた。いいサプライズだっただろう?」

 

こちらとしてはいい迷惑でしかないんだが…

まぁ、今更一戦増えたところで結果は変わらない。

 

「なるほど、つまり料理研究部に勝てば本当に僕の勝ちってことだね」

 

「くくっ、勝てればな?もちろん勝負内容は料理対決だ」

 

天馬の事だ。

この勝負、勝敗より盛り上がりを気にする。

つまり対戦相手は衛宮で間違いないだろう。

男同士の対決とはトリにもってこいだ。

確かに彼の料理は美味いが俺が年季ってものを見せてやろう。

 

「開始は30分後、それまでにその汗と埃臭い姿をなんとかしておけ」

 

「わかった。でも場所はどうするんだい?食堂?それとも調理室?」

 

「場所はこのグラウンドだ!」

 

ブロロロロ!

 

グラウンドに二台のトレーラーが入ってくる。

二台は側面を向かい合わせるように停車し、荷台のコンテナが開かれた。

コンテナの中から現れたのはキッチン、それも設備は並ではない。

 

「今回の勝負用に作らせた特別製のトレーラー型キッチンだ。設備は全て一級品。加えて、使用者に合わせて道具もカスタマイズ出来るようにしてある。つまり自分専用のキッチンが作れるという訳だ!どうだ?最後を飾るに相応しいステージであろう?」

 

そう言って高笑いする天馬。

この勝負だけの為にこんなものまで用意するとはさすがに驚いたが確かに魅力的なキッチンではある。

 

「さすがの準備力だね」

 

「わかったのならさっさと準備してこい。時間が惜しい」

 

まぁ、確かに時間は惜しい。

俺も早く終わらせてちーちゃんの話を聞きたい。

さくっと着替えてくるか。

 

 

シャワーを浴びて戻ってきたのだが今の俺の服装はシェフって感じ。

シャワー浴びてる時に着替えが用意されたのだが間違いなく天馬の差し金だろうな。

何をするにも形は大切って感じなのか?

 

「来たか。アナウンサー、開始を宣言しろ!」

 

「これより最終戦、鳴海選手対料理研究部の勝負を開始します!」

 

ゴォーン!

 

銅鑼までグラウンドに用意したのか…

馬鹿と言えばいいのか、手が込んでると褒めればいいのかわからん。

 

「それで、衛宮はどこにいるんだい?」

 

対戦相手であろう衛宮の姿が見当たらない。

遅刻するやつでは無いのだが。

 

「誰がいつ衛宮が対戦相手だと言った?」

 

「じゃあ、誰が相手なのさ?」

 

「言っただろう、お前が()()のだと」

 

「・・・まさか!?勝負相手は───」

 

天馬の背後に控えていた女性が前に出てくる。

その姿は食堂で見かけるときのそれだ。

 

「私でございます、鳴海様」

 

ここに来て最強の敵が出てきてしまった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、これはー!まさかの人選、プロ参戦です!というかアリなんですかこれ!?」

 

グラウンドの特設モニターに私の顔が映ると会場全体がざわつき始めた。

普通そうですよね。私も零士様に言われた時はビックリしましたし。

 

「何処にも生徒を出さないといけないとは書いてない!ふはははは!」

 

「いいんですか会長!?」

 

「超グレーゾーンね…規定は所属団体から選出しなければならないだし、ローゼさんの扱いは料理研究部特別講師として所属を受理しちゃってるのよね…」

 

「まさかのOKです!?」

 

ほかの部活の方には申し訳ないです…

受理というのもつい先日零士様がだしたばかりですし、天馬財閥がこの学園の大型スポンサーというのも大きく関係してます。

でも、零士様が楽しむためなので仕方ないんです!

 

「でも、プロならコンクールなどでの受賞などは?実績があれば違反になるのでは?」

 

「それが彼女、受賞はおろか、コンクールには出場すらしてないのよ。数ある大きな大会すら蹴ってるし」

 

そういえば、そんなこともありました。

零士様への新作料理を考える時間が減るので即蹴りましたね。

 

「ふん、俺様の料理人というだけで肩書きは充分。それ以外の肩書きなど必要あるまい」

 

あぁ、なんと自信に満ち溢れたお姿。

あまりのかっこよさに危うく気絶しかけました。

これも日頃からの零士様イメージトレーニングの賜物。

 

「キルヒナー講師の選出が許可された問題は解決ですが、これは流石にここまで勝ってきた鳴海選手でも勝ち目がないのでは?」

 

「もちろんハンデをくれてやる。審査員は俺様、そこの生徒会長に加え、ランダムに選ばれた教師と生徒各一名の合わせて四人。そのうち一人でもやつに票が入れば勝ちだ」

 

「四分の一・・・いや、それでも勝ち目がない気がするのですが…」

 

「慌てるな、更にお題は奴に決めさせてやるおまけ付きだ。洋食だろうと和食だろうとなんでも構わん」

 

「和食もですか?これはキルヒナー講師には厳しいのでは?コメント頂けますでしょうか?」

 

「私の分野でなくても零士様が望むなら私はそれを達成するだけです」

 

「なんという自信でしょうか。しかし、裏付ける実力を備えているに違いありません。コメントありがとうございました!」

 

と言ったものの自信はあまりない。

彼は先程から私に目もくれず、機材の調整をしてますし。

それに以前頂いたときの味を考えるに・・・

 

(一票取られてもおかしくないです)

 

それほどまでに彼は腕がたつ。

零士様も当然わかっててこういうルールにしてるのでしょうね。

 

(だというのに微塵も私が負けるとは考えていないんでしょうね)

 

零士様はそういうお人。

負けてもおかしくはないルールを設けながら私の、いえ、ご自身の勝利を確信していらっしゃる。

ならば私の為すことは一つ。

 

《完全勝利を零士様に捧げる》

 

ただ、それだけの事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「抽選の結果、残り二枠の審査員が決定しました!まずは教師枠、ブリュンヒルデこと織斑先生!」

 

「きゃー!千冬様ー!」「私の事も食べてー!」

 

「はぁ…」(面倒なことに巻き込まれた)

 

審査員席にて頭を抑えてため息をつく千冬。

 

「そして生徒枠は一年生から選ばれました、胃袋ブラックホール布仏本音さん!」

 

「いえ〜い、かんちゃん見てる〜?本音ちゃん大勝利〜」

 

千冬とはうってかわってノリノリな本音はカメラに向かってピースまでしている。

 

「はい、紹介も終わりましたので間もなく料理対決開始です。選手はステージ中央によろしくお願いします」

 

ステージ中央、優とローゼの二人が向かい合う。

そしてお互いが感じ取る。

 

(纏う雰囲気が明らかに違う)

 

一方は圧倒的覇気を。

 

(おかしいですね、闘争心を感じない?)

 

一方は違和感を。

 

「鳴海選手、お題は決まってますね?」

 

しかし、それも一瞬。

アナウンスの声ですぐにお互い思考を切り替える。

 

「もちろん」

 

「では、お題発表をお願いします」

 

(まず間違いなく和食でくるはず。問題は和食のなにを選んでくるかですね)

 

ローゼがあらゆる和食を想定しているように、会場もまた同じようなことを考えていた。

 

「お題はハンバーグ」

 

「えっ?」

 

しかし、答えは洋食。

 

ザワザワ・・・

 

その予想外の答えに会場がどよめく。

 

「ほ、ほんとにハンバーグでよろしいですか?鳴海選手」

 

「はい、いいです」(というより今の俺にはこれしかない)

 

答える優の表情はどことなくあきらめてるように見える。

 

「さぁ、始めましょうか」

 

しかし、ローゼを見据える瞳には確かな意志がこもっていた。

 

「不思議な人」

 

「?」

 

「気にしないでください、独り言です」

 

ローゼは踵を返し、自身の調理場へと戻る。

それに続き、優も首を傾げながら戻る。

 

「両者、配置に着きました。では、改めて開始のアナウンスをさせていただきます。お題はハンバーグ、制限時間は1時間。調理開始です!」

 

ゴオーン!

 

銅鑼の音と共にどちらも動き始める。

 

「さて、ついに始まりましたがこの勝負どう見ますか会長」

 

「そうねぇ、食材選びに手際の良さは鳴海君も負けてないわ。スタートダッシュに関しては互角かしらね」

 

楯無の言う通り、優は慣れない高級食材がある中で良い物を選び、ローゼに引けを取らない速度で下準備をしていっている。

 

「でも、洋食のプロであるローゼさん相手にこのままでは鳴海君に勝ち目はないと思うわ。この勝負、鳴海君がどのような工夫を施すかが見所かしら」(まぁ、いざとなったら私が優君に票を入れればいいのだけれど。こんな裏技みたいな抜け穴で彼の頑張りを台無しにしたくないし)

 

「なるほど、鳴海選手の動きに注目ですね」

 

コメントとは裏腹に優を勝たせる算段を考えている。

許可せざる得なかっただけで彼女自身は納得していないようだった。

 

「フッ」

 

そしてその横、審査員席中央にいる元凶が鼻で笑う。

 

「あら?なにかおかしかったかしら天馬君」

 

「あぁ、おかしい。奴の工夫が見所?面白い冗談だ」

 

「では、天馬君は鳴海選手の工夫が見所ではないと?」

 

「当然だ。大体この勝負の勝敗に奴の実力は直結していない」

 

ピクリと楯無の眉が上がる。

 

「と、いいますと?」

 

「一票入れば奴の勝ち。つまり奴を贔屓する者が一人でもいればいいんだからな。例えば、この企画を良く思ってない奴とか・・・な?」

 

(この子、そこまでわかっていながら私を審査員に入れたの?一体何を考えているの?)

 

表情には出さないものの疑問の眼差しを向けてしまう。

 

「ええっと、それですと企画が破綻してるのでは?」

 

「破綻?勘違いするな、それすら企画通りだ。贔屓目を超えた圧倒的勝利のためのな。その点、今回は運がいい。選ばれたのは担任に奴の仲間。ククッ、私情など至高の皿の前では無力と知るがいい!」

 

「・・・つまり、天馬君はローゼさんの品こそ見所と言いたいわけですね。なるほどすばらしい信頼関係です!」

 

「ぶーぶー、なるみんだって負けないぐらい美味しい料理つくってくれるもん」

 

言いたい放題な零士に対し本音が割り込んでいく。

割り込む時点でいつもの零士ならば激昂するのだが・・・

 

「確かに奴の腕はいい。望むならそれ相応の役職を与え、俺様が雇ってやってもいいぐらいにはな」

 

かえってきたのは意外な答えだった。

 

「えっ!?それってすごくない?お店持てるの?」

 

「与えてやってもいいが、そもそも望んでくるたまでもあるまい」

 

フンっ、と鼻を鳴らし優を見定める。

 

「あれだけローゼさんを推してたのに結構鳴海君のこと評価してるのね」

 

「俺様は事実しか言わん。奴の評価も、この勝負の結果もな」

 

「なるほどね。認めはするけどあくまでもさっきの言葉は覆らないってわけね」

 

「当然だ、ローゼは世界一になる料理人だからな」

 

楯無に向かい零士はふんぞり返るわけでも誇張するわけでもなく、ただ当然のように言い放った。

それはまるで息を吸うように自然な姿。

その瞬間だけはプライドや自尊心といったものが消え去っていた。

 

「───」

 

流石の楯無もこれには驚きが表情にでた。

 

(なによ、憎たらしくない顔もできるじゃない)

 

少し、ほんの少しだけ楯無の中で零士の評価が変わった。

 

「・・・素晴らしい。ほんとに素晴らしい信頼関係ここにあり!といった所でしょうか。私、俄然ローゼさんの皿が気になってまいりました。織斑先生はいかがでしょう?」

 

司会からまだコメントしてない千冬へ会話が流れる。

 

「・・・」

 

しかし、千冬は特設キッチンを見つめており、反応が返ってこない。

 

「織斑先生?」

 

「ん?あぁ、すまない。聞いてなかった」

 

二回目でようやく反応を返す千冬。

 

「ええっと、織斑先生はどのようにこの勝負見ておられるか聞きたいのですが...」

 

「どう見ているか・・・そうだな、私は専門的な知識は持ち合わせていないから正確なことは言えん。それでもただ一つ言えるとすれば、料理は心ということぐらいか」

 

「心ですか?」

 

「あぁ、如何に食べる側のことを考え寄り添えるか。それが料理だと私は教わった。この二人、味はもちろん申し分ないものをだすだろう。だから勝敗を分けるのは心だと私は考える」

 

「つまり、愛情ということでしょうか」

 

「まぁ、そんなところだ。・・・こんなコメントで大丈夫か?」

 

「はい、ありがとうございました!では、料理対決の実況に戻りたいと思います!」

 

カメラが審査員席から離れ、キッチンを映しに向かう。

そのタイミングで楯無が千冬に話しかける。

 

「珍しいですね。織斑先生がそこまで夢中になられるなんて」

 

「夢中?・・・まぁ、そうかもしれんな」

 

そう言う千冬の目はどこか懐かしむようで優しかった。

 

(なんか今日は人の意外な一面を見ることが多いわね...)

 

またもや意外な表情を見て少々驚く楯無。

 

「更識、そんなに私がおかしいか?」

 

「あっ、いえいえ!少し意外だっただけです」(顔に出てた...)

 

さすがの楯無も千冬相手にはたじろいでしまう。

 

「えっと、決して悪い意味ではなくてですね・・・なんといいますか織斑先生ではなく、織斑千冬さんとしての一面が見れた、と言えばいいでしょうか?ともかくあまり見ない表情でしたので…」

 

「ふふっ、少々意地が悪かった。更識、そう硬くなるな。私は別に怒ってなどいないよ。ただ、ちょっと年相応の小娘の反応が見たくてな?」

 

「・・・意外です」

 

今度は少し脹れながら呟く。

 

「ははっ、そうだろうな。私自身でさえ、少し驚いているんだ。自分ではそんなつもり無かったのに、自然と顔に出ていたらしいからな」

 

笑いながらもどこか自分に呆れる千冬の姿はまたもや珍しいものだ。

こうなってくるとその原因が詳しく知りたくなったりする。

 

「なにがそんなに気になっていらっしゃるんですか?」

 

「知りたいか?」

 

「知りたいです」

 

「秘密だ」

 

フッ、と意地の悪い微笑みを楯無にすると千冬はキ再びッチンに顔を向けた。

 

(さすがに言えんよ…)

 

千冬の目には瓜二つの動きをする者の背に懐かしき姿が重なっていた。

それが嬉しいのか悲しいのか、千冬自身にも分かってはおらず、只只、懐かしさが込み上げるだけだった。

 

 

「調理終了ー!」

 

開始から一時間。

調理時間を終えるアナウンスが入り、実食に移っていく。

 

「先に審査を受けるのは鳴海選手のハンバーグです!どのようなハンバーグなのでしょうか?」

 

「至ってシンプルなハンバーグさ。名前を付けるとしたら鳴海ハンバーグってとこかな。召し上がれ」

 

優の一言で審査員の手が進み始める。

 

「ナイフがすーっと入っていくし、焼き加減は完璧ね」

 

「うっひゃ〜、すっごい肉汁が出てきた!おいしそ〜」

 

「中にゼラチンで固めたコンソメスープを入れておいたんだ。ゼラチンは肉汁を閉じ込める働きをしてくれるし、コンソメスープが熱で溶けてさらにうまみが増すって寸法さ」

 

「へぇ~、ゼラチンってハンバーグに使えるんだ~」パクッ

 

ハンバーグを一口食べた瞬間、本音の瞳が輝く。

 

「おいっしい~!なにこれなにこれ!?ご飯が進むね~」

 

続いて他の者たちもハンバーグを口に運んでいく。

 

「ほぅ・・・」

 

「ぱっと見ただの庶民派ハンバーグなのだけれど、口に含むと一変。味の深みは専門店に匹敵するわ。どうやってここまでの深みを?」

 

「コンソメスープだ」

 

「コンソメスープですか?先ほど鳴海選手が入れたとは言ってましたが・・・」

 

「ただのコンソメスープではなく、このハンバーグ用に作った特製のものだ。それがこの味の深さを出しているんだ」

 

「ご明察」

 

「織斑先生すっご~い」

 

「なに、ただこれと同じ作り方をする奴を知っていただけだ」

 

そう言うと千冬は優に目配せをする。

それに対し、優の眉がピクリと動くのを千冬は見逃さなかった。

 

「天馬君、さすがにこれは予想外だったんじゃない?」(この分なら私が票を入れなくても一票入りそうね)

 

「確かに評価を改めるべきかもしれん。正直、洋食を選んだ時点で期待してなかったんだが、このレベルを出してくるとは驚きだ」

 

話を振られると、嬉しそうに零士は喋りだした。

 

「だが、それでこそ前菜になるというもの!つまらん料理に勝っても意味がないからな」

 

優の皿を食してもなお零士の自信は揺るがない。

 

「またしても堂々勝利宣言!対する鳴海選手の反応は?」

 

「ははは…相変わらずの自信だね。まぁ、僕の腕前がどれくらい通用するか楽しみにしておくよ。勝てると思っちゃいないけどね」(ボソッ

 

「紳士的対応!あくまでチャレンジャー精神を崩さない!私、実況ながら応援したくなってきました」

 

呟きは誰の耳にも届くことはなく、審査はローゼの皿へと移っていく。

 

「鳴海選手の庶民派ハンバーグとはうってかわり、ローゼ選手の皿は華やかに仕上がっています!」

 

「今回は一品だけでしたので盛り付けにもこだわってみました」

 

ローゼの出した皿は煮込みハンバーグ。

特製デミグラスソースの上にミルクで描かれたハートが白く映えている。

そして続いて目を引くのは添えられているパンだ。

 

「こちら〈パンで食べるハンバーグ~愛情を込めて~〉です」

 

「ハンバーグをパンで食べるの?」

 

「はい、こちらパンで食べる品となっています。日本の方にはこういった食べ方は新鮮で面白いと思いましたので」

 

「なるほど、確かに私達日本人は米で食べるのが当たり前になっている」

 

「さすがはプロです。広い視点を持っています!」

 

「パンで食べるハンバーグなんて初めてだけどどうなのかしら?」パクッ

 

まず口にしたのは楯無。

一口含んだ瞬間、その動きが止まる。

 

「会長が固まってしましました。一体どうしたのでしょう?」

 

「たっちゃん?お~い、お~い!」

 

「はっ!?こ、これは…!」

 

本音の呼びかけでようやく戻ってくる楯無。

その顔には冷や汗が浮かんでいる。

 

「気に入って頂けたようで良かったです」

 

「・・・」

 

「フッ、声も出んか」

 

「そ、そんなに美味しいの!?いただきま~す!」

 

本音達も料理を口に運ぶ。

そして一瞬固まり、頬が緩む。

 

「う、うっま~~~~!」

 

「・・・これは米パンか!?」

 

「新鮮と言っても皆さんに受け入れてもらえなければ意味はありませんので、馴染みやすい米パンも入れさせていただきました」

 

「も?ということは・・・・・こっちは野菜を練り込んでいるのね!」

 

「はい、複数の味のパンを用意しましたのでどうぞお楽しみください」

 

ローゼの用意したパンはどれも恐ろしいほどハンバーグにマッチしていた。

 

(一つの料理なのにまるでコース料理のようだわ…)

 

尚且つ、まるで違う料理を食べているような感覚をもたらした。

 

「ハハハハハ!さすがは俺様の料理人と褒めてやりたいところだ。期待通り、いや、それ以上だ」

 

「そんな!?私には勿体なきお言葉です…!」(あぁ…もう死んでもいい…!)

 

気絶しそうなローゼを尻目についに審査結果へと進む。

 

「それでは審査員の皆さん、お手元のボタンで投票をお願いします」

 

「フッ、結果は決まっている」

 

ごめん優君

 

「うう~ん…こっち!」

 

「・・・」

 

各々が投票を終えていく。

 

「投票が完了しました。結果は中央モニターに表示されます。さぁ、どちらが勝利するのか!結果は・・・こちら!」

 

ローゼ:3

鳴海 :1

 

「なにぃ?」

 

「こ、これはー!勝ったのは鳴海選手!鳴海選手です!」

 

うっそーん…」(勝っちゃたよ)

 

表情に出さないが結果に一番驚いているのは優だった。

 

「ええっと、鳴海選手に票を入れたのは・・・」

 

「私だ」

 

モニターの映像が千冬を映すものに変わる。

 

「なぜ奴に票を入れた?圧倒的にレベルが違ったはずだ」

 

零士の言葉の中に僅かな怒りが籠もる。

 

「ふっ、何故入れたか?簡単なことだ。私の口にはこちらの皿の方が合っただけだ」

 

しかし、そんな怒りなどものともせず千冬はさらりと言いのける。

 

「確かに美味さで言えば差は明らかだった。だが、この料理勝負は美味さを競うものとは一言も聞いていない。だから私は心が惹かれたこちらの皿に票を入れた。文句あるまい?」

 

その言葉に衝撃を受けているのは楯無と本音だ。

二人とも優を勝たせてやりたいという気持ちはあった。

しかし、ローゼの皿は本当にその私情を挟み込めないほどのものだったのだ。

 

(織斑先生にとってこの皿は一体なんだというの!?)

 

票を入れられなかった者と入れられた者の差に楯無はほんの少し嫉妬してしまう。

 

「クッ、クハハハハハ!」

 

何がおかしいのか零士は高笑いをする。

その表情には先ほどまでの疑問と僅かな怒りはない。

 

「なるほどな、好みか。ローゼ、恐らく無意識だろうがちと俺様の好みに寄せすぎたようだな。その味はどうやら庶民には理解できなかったらしい」

 

そして楽しそうにローゼに喋りかける。

 

「申し訳ございません!零士様の名に泥を塗ってしまい…!どのような罰でもお与え下さい」

 

対してローゼは膝を着き、(こうべ)を深く垂れている。

これには会場のほとんどが引く。

 

「罰?何を言っている。俺様は上機嫌だ。なにせ、お前の料理にはまだまだ先があることがわかったのだからな」

 

「しかし、勝負には負けてしまいました…」

 

「なんだそんなこと気にしているのか?そんなもの大した問題ではない。もとよりお前が勝っても奴を引き入れる気などなかった」

 

《ええぇぇ!?》

 

まさかの発言に会場がどよめいた。

 

「俺様は無理ゲーが一番嫌いだからな。所詮エキシビションだ。どうだ、楽しめたであろう?フハハハハハ!」

 

「・・・」(この勝負、時間の無駄じゃん…)

 

会場は呆気にとられ、優は死んだ顔で呆れた。

 

「そんなことよりローゼよ。これからも俺様の舌を唸らせる料理を期待しているぞ」

 

「れ、零士様…!ありがたきお言葉です!」

 

そして二人だけの世界に入っていく。

 

「・・・あのー、進めてもよろしいでしょうか?」

 

「許す!」

 

「はい、許可も出ましたので表彰式に移りたいと思います」

 

その後の表彰式で優は無所属を認められ、零士から金一封を受け取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

表彰式を終え、新聞部の取材を撒き、ようやっとちーちゃんと話せる。

まぁ、さっきの料理対決の時にちーちゃんが言いたいことは大体わかった・・・と思う。

 

「お待たせしました、織斑先生」

 

「いや、呼び出したのはこちらだから気にするな」

 

「それで話というのはなんですか?」

 

「ふっ、わかっているだろう?お前の師匠についてだ」

 

(あぁ、やっぱそうなっちゃうか…)

 

料理対決で俺は(雄二)の動きをせざるおえなかった。

小さかった一夏や箒は正確に覚えていなくても、ちーちゃんはわかっちゃうよな…

 

「以前から薄々思うときはあったが剣道部との試合と先ほどの料理対決で確信した。鳴海、お前の師匠は暮見雄二だな?」

 

うん、どうやら以前からへまをしてたみたいだ…

なんかしたっけ俺…?

 

「・・・もう隠せませんね。確かに僕はあの人の技を使えます」

 

嘘はついてない。

俺は俺の技を使えるからね!

 

「やはりそうか…」

 

「織斑先生、このことは―――」

 

「わかっている、他の者には黙っておく。あいつは特殊な立場だったからな。大方あいつに口止めされているんだろう」

 

政府のくそみたいな対応が役立つ日が来るとは皮肉だな…

とりあえず今はうなずいておくのがいいだろう。

 

コクリ

 

「私はあいつの弟子であるお前に伝えないといけないことがある。あいつは・・・雄二は、亡くなっている」

 

「———」

 

・・・あっ、そっか!

鳴海優じゃ暮見雄二が死んだかなんて知るはずもない。

そんなこと考えたことなかったから一瞬固まってしまった…

あー、やばいな。どう反応しよう?

 

「突然のことで驚く気持ちもわかる。辛いことを言ってしまってすまん…攻めてくれてもかまわない」

 

どうやら反応できなかったのがいい感じに作用しているようだ。

うん、なんかこうもすれ違うのって久しぶりだ。

まぁ、流れを生かすか。

 

「いえ、攻めるなんてとんでもないです。突然のことで驚きましたが知れてよかったと思ってます。知らないまま過ごすよりよっぽどマシです。僕もうすうすそんな気はしてましたしね…」

 

・・・ひどい茶番だな…

 

「ですからそんな顔しないでください」

 

覚悟はしていたはずだ…

 

「そうか…そう言ってもらえると助かる」

 

俺がやることは彼女を悲しませると分かっていたはず…

 

「だから・・・いつものシャキッとした顔してくださいよ・・・」

 

だというのにどうしてこんなにも胸が締め付けられるんだ…!

 

(この甘さは命取りになる…)

 

捨てろ…捨てるんだ…!

こんな甘さ―――

 

「ッ‼」

 

「いいんだ、心を殺さなくてもいいんだ…」

 

やめてくれ…

抱きしめながらそんなこと言わないでくれ…

俺なんかより君の方がよっぽど殺してるじゃないか…

 

「・・・・ちきしょうちきしょう‼…」

 

泣かないと決めていたのに…

泣く資格なんて俺にはないのに…

どうして・・・どうして俺はこんなにも弱いんだ…!

 

 

「・・・もう、大丈夫です」

 

「そうか」

 

俺を包んでいた温もりが離れていく。

どれくらい時間が経っただろう?

ひどく長い時間こうしていたような気がするし、ほんの数分だったかもしれない。

 

「ありがとうございました…」

 

「気にするな、私がそうしてやりたかった。それだけだ」

 

はぁ・・・敵わないな、ちーちゃんには。

 

「それに礼を言いたいのは私の方だ」

 

「えっ?」

 

「あの味をもう一度味わえるとは思ってなかった。私にとっては夢のような時間をもらった。本当に感謝している」

 

「———!」

 

・・・そうか、一夏と箒が泣いた理由がようやっとわかった。

俺の料理はそれほどお前たちの深いところに届いていたんだな…

 

「できれば一夏や箒達にも食べさせてやってくれ」

 

「・・・機会があれば喜んで」

 

「すまないな、迷惑をかける」

 

「いえ…」

 

「・・・っと、もうこんな時間か。仕事に戻らなければいけないな。鳴海、疲れているのに時間を取らせてしまったな。今日はもう帰って休むといい」

 

そういってちーちゃんは校舎へと向かって行った。

俺はその背中を見えなくなるまで見つめ続けた。

 

(あぁ…こんなにも痛むなら心なんてなくなればいいのに…)

 

俺はいつか君を倒さなくてはいけないんだ…

 

 

ちーちゃんとの会話から少しして部屋に戻ろうと寮に帰って来たのだが・・・

 

(なんだってあの人がここにいるんだ?)

 

俺の部屋の前に珍しい人物が立っている。

あっ、こっちに気づいた。

 

「鳴海様、探しておりました。といっても見つからなかったので失礼ながら部屋の前で待たせてもらったのですが」

 

「珍しいですね、キルヒナーさんが天馬のそばを離れるなんて」

 

というかローゼさんが訪ねてくる理由がわからない。

 

「はい、少し込み入った話なので。お部屋に上がっても?」

 

「まぁ、別にいいですけど」

 

・・・まじでわからん。

けど、なんか重要そうだし断れんな…

 

部屋に上がるとローゼさんがとんでもないことを言い出した。

 

「単刀直入にお聞きします。鳴海様、味覚になんらかの異常が起きてますね?」




※料理パートは割とノリと勢いだけで書いてるので鵜呑みにせんでくだしぃ
 (ゼラチンはほんとに肉汁増すし、コンソメおすすめ)


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第六十六話 師弟

気が向いたので投稿
楽しみにしてた人がいたら大変お待たせです


某所にある地下施設。

情報が表には出ないであろうその場所は亡国機業の施設のひとつだ。

そこに俺は来ているのだが・・・

 

「とんだ出迎えだなM」

 

「黙って殴られろ。あと気安く呼ぶな」グググ…

 

弟子(予定)の拳を受け止めている。

施設に入った直後でどうしてこうなった。

 

「まぁいい、それだけ元気があるなら傷も癒えてるな。早速始めるとするか」

 

さてと、初日だし何から始めていくか。

この前闘ったとはいえ正確に把握してるとは言えない。

とりあえず基礎体力とか知っておきたいな。

あっ、でも───

 

「おい」

 

「なんだ?」

 

「私はお前の弟子になることを認めてない!」

 

「上に話は通している。つまりお前の意思は尊重されない」

 

「OK、なら勝ち取らせて貰う」カチャッ

 

ふむ、なかなかいい構えをするじゃないか。

銃の扱いについてはそこまで言うことは無さそうだ。

 

「やめておけ、この距離じゃ引き金を引くより俺の蹴りの方が速い」

 

「ふっ、確かにお前には1度負けたがそこまでの実力差があるとでも?」

 

実力差…

なるほど、まずやるべき事がわかった。

 

「試してみるといい」

 

「──!」

 

奴が引き金を引く刹那、俺は既に行動を終えている。

蹴りあげた銃は手元を離れてカラカラと地面を滑り、その細い首にはMの懐から抜き取ったナイフを突きつけた。

 

「ッ!?」

 

「ほら、俺の方が速い」

 

ははっ、信じられないって顔してるな。

まぁ、そりゃそうか。ダミーメモリを使っていた前回と違って、今は本来の力を出せるのだから。

 

「さて、挨拶はここまでにして最初のレッスンを始めていくか」

 

ナイフを適当に放り投げ、Mから離れていく。

距離は・・・このぐらいでいいか。

ざっと5メートル、ちょうどいい距離だ。

 

「・・・何を始める気だ?」

 

先程の攻防が効いたのだろう、Mは不服そうだが俺の教えを受ける気になったようだ。

 

「少し特別な組手だ」

 

「特別?」

 

俺がまず最初にするべきこと、それは───

 

「お前に織斑千冬を見せてやる」

 

目標の高さを教えてやる事だ。

 

 

 

 

 

 

 

「お前に織斑千冬を見せてやる」

 

織斑千冬を見せる?

今からするのは組手じゃなかったのか?

 

「何を言って・・・ッ!?」

 

これは一体どうゆう事だ…

 

ゴクンッ

 

目の前に織斑千冬(姉さん)が立っている。

 

「さぁ、構えろ」

 

「えっ?あぁ…」

 

だが聞こえてきたのは男の声。

 

(落ち着けマドカ、目の前にいるのは姉さんじゃない)

 

深呼吸をし、目を軽くこする。

そうしてもう一度よく見る。

そこには姉さんがダブっているように見えるNever(ネバー)がいた。

 

「その反応、見えているようだな。どうやら目標にしてるだけのことはあるようだ」

 

なるほど、奴の言動と構えでようやく理解した。

奴は気配や気当たりに加えて挙動一つに至るまで姉さんを模倣している。

その結果、私は奴を姉さんだと認識してあの幻影を見たというわけだ。

ようは試されたのだ。私に姉さんの動きが理解できるかを。

だが、試されたことへの不満なぞ持つ暇はない。

 

「化け物め…!」

 

あるのは圧倒的敗北感と驚きだ。

先程の動きといい、さすがの私もプライドが傷ついた。

 

「化け物とは失礼な奴だ。そら、中々上手いものだろう?」

 

・・・上手いとかそんな次元の話じゃない。

確かにこの手の技で模倣元の姿が重なるのは相当なものだが、不思議なことではない。

しかし、こいつが行ったものは最高、いや、究極の模倣といっても差し支えないものだ。

 

「ハンデでお前はISじゃなければどんな武器を使ったって構わない。因みにこっちは素手のままだから安心していいぞ?」

 

そう、こいつは剣ではなく拳を構えている。

私は姉さんの徒手格闘は知らない。

だというのに、動き一つ一つからこの構えは間違いなく姉さんの構えだと伝わってくる。

 

(そんなことが出来るやつが化け物じゃなくてなんだと言うんだ…)

 

「どうした、来ないのか?」

 

「うるさい、言われなくてもお望み通りやってやる」

 

・・・もう、破れかぶれだ。

やるだけやってやる!

 

 

ドサッ!

 

「10分か。まぁ、及第点だな」

 

たったの10分しか立てていなかったのか…?

長いこと組手をしてたかのような疲労感だというのに。

 

「ハァ…ハァ…」

 

しかし、こっちは倒れて動けないっていうのにNEVERは息のひとつもきらさない。

 

(・・・理由はわかっている)

 

色々と理由はあるが一番の理由は、奴の動きには無駄がないこと。

悔しいが、私には攻守の切り替えのタイミングが全く読めなかった

 

(攻守一体とはこういうことをいうのだろうな)

 

人間というのはあまりの差を感じるとこうも素直に認められるものらしい。

不思議とNEVERに対しての怒りなどどうでもよくなっている。

 

(私はもっと強くなれる)

 

それどころか今はただ、胸の鼓動が昂るばかりだ。

 

「すぐに…超えてやる…!」

 

「ほぅ、随分と余裕そうだな。2分後に再開だ」

 

 

・・・嫌な奴

 

 

 

 

 

 

日が傾いてきたな。

今日の所はここまでにしておくか。

 

「今日は終わりに『ドサッ』・・・もう聞こえてないか」

 

ちーちゃんを目指した地獄の特訓初日。

Mは終了と分かった途端に崩れ落ちた。

しかし、逆に言えば終了とわかるまで立っていたってことだ。

 

「世話の焼ける弟子だ」

 

Mを抱きかかえトレーニングルームを後にする。

倒れることは想定済みだったためMの部屋はあらかじめ園崎に聞いといたが…

 

(最後まで立っていたのは想定外だった)

 

想定ではもう少し早く音を上げると思っていたからこんなにボロボロになるとは思わなかった。

さすがにこの状態のMを部屋に放置するのは如何なものか。

 

「うわっ、それ生きてんの?」

 

突如通路の角から声が聞こえてきた。スコールだ…

はぁ…こいつに出会うとは今日はついてないな。

 

「生きてはいる」

 

「へぇー、それで生きてるのね。その子のそんな姿見たことないから死んでるかと」

 

「用件はなんだ?ただ喋りに来たわけじゃないだろ」

 

「ただ喋りに来たって言ったら?」

 

「気味の悪い冗談だ」

 

ここはトレーニングルームに続く通路だ。

この女が鍛えに来てるとは思わないし、何か用件があるのだろう。

 

「つれないわね。まぁ、そんな気はしてたけど。はいこれプロフェッサーから」

 

スコールが差し出してきたのはカードキー。

 

「あなた専用の部屋よ。使っても使わなくてもご自由に」

 

「・・・」

 

「じゃっ、確かに渡したから」

 

そういってスコールは来た道を戻っていく。

 

(なんだこのドンピシャなタイミング…)

 

しかも部屋番号からみて、トレーニングルームから一番近い部屋。

 

「気味の悪い奴だ…」

 

まぁ、ありがたく使わせてもらうか。

俺専用の部屋なら多少汚れてもいいしな。

 

「ここか」

 

ほんとにトレーニングルームからすぐだな。

これから頻繁に使うかもしれないな。

 

「カメラやセンサーの類いはなしか」

 

無駄なことはしない主義?

それとも俺に余計な不信感を与えないためか?

いや、どちらもか。

 

「そんなこと考えても無駄だな」

 

園崎を量るより今はこの弟子を何とかしてやるのが先だ。

まずはベットに寝かせて、軽く身体を拭いて、傷の手当をして・・・

 

 

「こんなものか」

 

傷自体は擦り傷や軽い打撲だけで大したことはない。

しっかりと受け身は取れているようだからしばらくすればこういった傷は減っていくだろう。

それほどMの成長には目を見張るものがあった。

 

「細い手足だ…」

 

しかしその細い手足、いや、身体の至る所に今日できたものではない傷がちらほらと見える。

本来、この年頃の女の子にはあるはずのない傷。

ましてや、強さだけが支えとなるなんてありえない。

他の子がファッションや恋など楽しい事を経験してきたのに対してMはどれだけ血なまぐさい経験をしてきたのだろうか?

 

(優しさに触れたことは、安心できるときはあるのだろうか?)

 

自然とMの頭をなでていた。

師匠として強くしてやれる以外に俺がしてやれることはこれぐらいだ。

せめて寝ている時ぐらいはいい夢でも見てほしい。

 

「今までよく頑張ったな。だから、今はもう少し休め」

 

どうかこの少女に安心できる時が訪れますように。

女神にそっと祈った。

 

 

 

 

 

 

その者は心地の良い感触で意識を取り戻した。

 

(なんだ…?撫でられている…?)

 

普段の彼女ならばすぐにでも振り払うであろう手。

だが、その手が振り払われることはなかった。

 

(暖かくて気持ちいい…)

 

極度の疲労、意識も朦朧、加えてその手の心地良さがそうさせていた。

どうやって撫でれば心地良いのかを知り尽くしている手さばき。

それは疲れきった彼女の心に染み入っていく暖かさだった。

 

(・・・・)

 

何も考えず、その身を預けられる安心感に彼女は自然と意識を手放そうとしたときだった。

 

「今までよく頑張ったな。だから、今はもう少し休め」

 

(⁉⁉)

 

耳元で囁かれた言葉で意識が一気に浮上する。

そして一瞬で状況を理解してしまう。

 

(な…な…なんだこれはー⁉/////)

 

彼女を一斉に襲う驚きと羞恥心。

しかし、瞼は閉じたままだった。

彼女の防衛本能がかろうじて働いたのだ。

 

(この状況で起きていたと知られたら死ねる…!)

 

今まさに彼女は生まれて初めて恥ずか死と直面していた。

しかし、慣れていない状況では狸寝入りなど時間の問題である。

 

(ど、どうする私?今起きたフリでもするか?・・・いや、さっきまでの醜態を思うと今は奴を直視出来そうにない///)

 

いい案も思い浮かばない彼女をしりめに男はメモ書きを残し席を立つ。

そしてそのまま部屋を出ていった。

どうやら狸寝入りには気づかなかったようである。

 

「ふぅー…行ったか」

 

これにはほっと一息。

目を開け起き上がる。

 

「む、予想以上に動ける…」

 

彼女の予想外なことに身体を動かしても痛みがなかった。

それもそのはず。身体中には綺麗に巻かれた包帯や湿布。

見ただけで丁寧な治療を施されたことがわかるのだから。

 

(汚れもないし、不快感が少しもない。拭き取りもしっかりされているしょう・・こ・・・!?/////)ボフッ

 

彼女は突如顔を真っ赤にして衣服の一部をめくる。

ちらりと見えた胸部にも包帯は丁寧に巻かれていた。

それを確認した彼女は更に蒸気でも出るのではないかと言うほど赤くなる。

そして、自分を抱くように小さく丸まった。

 

「な、なんでこんなに恥ずかしい…!こんなの、た、ただ治療に過ぎんというのに…///」

 

彼女は困惑していた。何故こんなにも自分は羞恥しているのかを。

彼女にはいままでにこういった治療行為がなかった訳ではないし、その時も治療行為として何も感じてなかったのだ。

 

「うぅ…おかしい…。こんなことで動揺するはずがないんだ・・・はっ、もしやアイツになにか薬でも盛られた…?」

 

初めてのことに動揺し、彼女はなにかされたのではないかと疑い始めた。

 

『今までよく頑張ったな。だから、今はもう少し休め』

 

「っ!?/////」

 

そして、されたことを思い出して自爆した。

 

「ああもう!なんで私がこんな目に遭わないといけないんだ!全部あいつのせいだ!クソっ!クソっ!」

 

ついには枕でベットを叩きは始めた。

頭が感情に追いつかない八つ当たりだった。

しかし、それも数回で終わる。

 

「っ!」

 

強く叩こうと一番大きく振りかぶったところで痛みが走る。

枕は手から抜け、ボスンと音を立てて床に落ちた。

流石に激しく動きすぎだった。

 

「・・・はぁ…何をやってるんだ私は」

 

しかし、その痛みが彼女を冷静にさせた。

 

「大体考えてみれば頭を撫でたり、耳元で囁いたり、恥ずかしいことをしてるのはアイツの方だ。私が恥ずかしがることなどないんだ、うん」

 

そう言うと再び横になる。

そして自然と気がついたことを口にする。

 

「アイツ、あんな声も出すんだな…」

 

彼女に囁いた声はとても優しい声色をしていた。

その声色を思い出しながら彼女は自然と頭に手を置いていた。

まるで名残惜しさを感じるように。

 

「・・・!////」

 

それに気づいてしまい、結局彼女はしばらく悶々としていたのだった。




ちなみに書き置きは栄養バランスを考えられた食事メニューです。
特に伏線とかではない。

気が向いたら続きを書くので期待せずに待っててもらえれば幸いです


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