超次元ゲイムネプテューヌ-DIMENSION TRIGGER- (ブリガンディ)
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蒼の男、新しい世界へ
1話 蒼の男とゲイムギョウ界


「それで『お前さん』はこれからどうするんだい?」

 

「みんなの『願望(ゆめ)』を蒼へと還す」

 

男は目の前にいるこの世界の新しい傍観者となった女形にどうするかと聞かれ答える。

男はこの女形と話す直前に、自分を含めるこの世界の『悪夢』全てを消しさっており、その影響で『悪夢』が宿っていた右眼辺りが黒く染まっていた。

この女形が男に『お前さん』というのは、名前を呼ぶのが面倒だからではなく、『悪夢』を消したときに、この男の情報も消えたため、『誰も名前を知らない』状態になったのだ。

 

「そこから生まれる世界は誰の・・・アマテラスにもタカマガハラにも干渉を受けない・・・あいつらの世界だ」

 

この世界は常に干渉を受けていた。今まではこの男が死ぬ度に必ず世界がやり直しになっていた。だが、この男は多くの人の手助けもあり、足搔き続け、遂にこの世界の繰り返されてきた歴史に終わらせ、『悪夢』が存在しない新しい世界を皆に与えることができた。

 

「過去、現在、未来に、あまねく広がる『可能性』と言う名の希望・・・これ程大規模な世界の構築は見たことが無いよ・・・。

これが真なる蒼『蒼炎の書(ブレイブルー)』の力かい・・・」

 

女形もこの男がやろうとしている恐らく最後となるこの世界の再構築の規模の大きさに感嘆し、彼の右腕に宿ってる魔導書の力に改めて感心する。

 

「違うよ。俺の力でも蒼の力でもない・・・。」

 

だが男は自分と蒼炎の書の力ではないと否定する。その代わりに・・・

 

「あいつらの『可能性(ちから)』だ」

 

男は穏やかな顔でこう答える。

そして二人の横にあった門が開き、二人は門の光に包まれる。

「(そういやもうこれは使わないな。じゃあな、相棒・・・)」

 

男は自分の腰にあった可変型の片刃型の大剣を地面に突き立て、そのまま門の中へと消えて行った。

 

 

 

門が閉まった後、そこにあるのは男が残して行った剣だけだった。

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

「・・・・・・・・・」

 

俺は・・・どうなった?確か、あの剣を置いて門の中に入って・・・『悪夢』の俺はそのまま消えたはずじゃ・・・。疑問に感じた俺は目を覚ます。だが、左目しか開かなかった。見えてる景色は青空に満ちていた。

 

「この世界・・・魔素がないのか・・・?窯も・・・」

 

俺は真っ先に自身にある違和感に気づく。

魔素というのは俺のいた世界では人工的に作られた量子型プログラムで、俺のいた世界の全てを構築している物質だった。

俺たちはその魔素を使って『術式』と呼ばれる魔術と化学が合わさった力を使っていた。その魔素が必要なのは俺の『蒼炎の書』も例外じゃない。

また、魔素は『境界』に繋がる門としても機能している窯から溢れている。

俺の蒼炎の書は『境界の力を行使する』ため疑似的な窯としても機能するが、魔素がないんじゃどうにもならない。

俺がなんで消えてないかは解らないがこの右上半身が言うこと聞かないのは納得できる。俺は体をどうにかして起こして、周りと自分の状態を確認する。

 

「ど・・・どこだ・・・?ここ?」

 

辺りは森に囲まれていて周囲が上手く確認できない。

 

「それと・・・なんでこれが俺の腰に下がってんだ?」

 

俺の腰には何故か置いてきたはずの大剣が下がっていた。柄は右側にしていたが、この状況では振りにくいし取りにくいので一度柄を左側にして下げ直す。

暫く辺りを見渡すと、高層ビルがいくつもの並んでいる場所が見えた。

 

「ひとまずあそこに行ってみるか・・・」

 

そう決めて、俺は街であろう方に歩を進めた。

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

「ゲイムギョウ界に遍く生を受けし皆さん」

 

ここは女神と呼ばれる人と似た姿をした超人とも言える存在によって統治されている世界、ゲイムギョウ界。

そこに存在する四つの国の内の一つ、女神パープルハートが納める国プラネテューヌ。

そのプラネテューヌの中枢であるプラネタワーの前庭にて、ゲイムギョウ界至上最大

とも言える式が行われていた。

晴れ渡る青空と、優しく吹いている風・・・。それはこの世界の新しい歩みを歓迎するかのようだった。

 

「新しき時代に、その第一歩を記すこの日を、皆さんとともに迎えられることを喜びたいと思います」

 

紫色の長い髪を二つの三つ編みにしておろし、黒いドレスに身に纏った美女がこの言葉をつげる。

この女性こそが、プラネテューヌの女神、パープルハートである。

 

「ご承知の通り、近年、世界から争いの絶えることはありませんでした」

 

パープルハートは更に言葉を繋げながら歩き出す。

ゲイムギョウ界の女神たちはシェアと呼ばれる人々からの信仰心を力にしており、その力を奪い合うために女神同士が争うことが絶えなかった。

そして今日、その歴史に終止符が打たれることになる。

 

「女神ブラックハートの治める、ラステイション」

 

黒いドレスを身に纏い、銀色の髪をおろした勝気な雰囲気を感じさせる女性。

女神ブラックハートが歩き出し、後ろのラステイションから参加している人たちが一斉に起立する。

 

「女神ホワイトハートの治める、ルウィー」

 

白いドレスを身に纏い、水色の髪をしたどこかあどけなさを残している少女。

女神ホワイトハートが歩き出し、その後ろにいたルウィーから参加している人たちが一斉に起立する。

 

「女神グリーンハートの治める、リーンボックス」

 

白いドレスを身に纏い、緑色の髪を一つに結んだ穏やか雰囲気をした美女。

女神グリーンハートが歩き出し、後ろにいたリーンボックスから参加している人たちが一斉に起立する。

 

「そして私、女神パープルハートの治める、プラネテューヌ」

 

そして、パープルハートが光る足場まで辿り着くと歩みを止める。

それとほぼ同時に、パープルハートの後ろにいたプラネテューヌから参加している人たちが一斉に起立する。

四人の女神たちは皆、人並外れた美貌をしてると言っていい。

 

「四つの国が、国力の源であるシェアエナジーを競い、

時には女神同士が戦って奪い合うことさえしてきた歴史は、過去のものとなります」

 

そして、女神たちが光る足場に着くと、それぞれの女神たちを持ち上げていく。

足場の上昇が止まると、女神たちは中央に集まるように歩き出す。

 

「本日結ばれる友好条約で、武力によるシェアの奪い合いは禁じられます。

これからは、国をより良くすることでシェアエナジーを増加させ、世界全体の発展に繋げていくのです」

 

そして、女神たちが中央に集まると、それぞれの手を合わせて円を作る。

 

『私たちは、過去を乗り越え、希望溢れる世界を創ることをここに誓います』

 

女神たちの誓いの言葉が告げられる。この日遂にゲイムギョウ界は女神同士の争いの歴史を終え、新しい時代の始まりを迎えた。

彼女たちは互いに微笑みあい、空はいくつもの花火が埋め尽くし、周囲からは無数の拍手と歓声が聞こえた。

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

「・・・なんとかここまでこれたな・・・」

 

やはりと言うか、右上半身が動かない状態ではまともに動くことすらやっとだ。

こんな状態で歩くのはセリカにあって暫くの間と、俺が何のためにこの蒼炎の書・・・当時は蒼の魔導書の力を使うか決めるために行った先で当時のセリカと一緒にいた時以来か・・・。

そんな状態でどうにかこの・・・国っていうのか?にどうにか入ることができた。

ひとまずここに詳しい人を探そうと歩き出した瞬間、拍手の音と、歓声が聞こえてくる。

何かの式でも行われていたのだろうか?行って邪魔するのは得策じゃないかもしれないが、他に行く当てもない。俺はそのまま音のする方に歩を進めた。

 

「(ヤべエ・・・もう体が持たねえ・・・)」

 

ようやく音のする方に辿り着き、多くの人が見えたのはいいが、俺は蒼炎の書の力が使えないのが原因か、もう疲労が限界を迎えていた。

 

「ん?誰だろうあの人・・・」

 

「なんか・・・倒れそうじゃないか?」

 

俺に気づいた人たちが反応し、ざわつき出す。邪魔をするつもりじゃなかったが、結果的に邪魔をしちまったようだ。

 

「どうかしたの?」

 

「あ、パープルハート様。あそこに人が・・・」

 

この集まりの主催者だろうか?パープルハートと呼ばれる紫色の髪をした女性が俺のところに歩み寄ってくる。

 

「あなた大丈夫?どこかケガは?」

 

「いや、ケガは特に無いんだが・・・こっち来るまでの疲労を溜めすぎたみたいだ・・・」

 

俺は人に気づいてもらったことに安堵してしまったのか、その場で気を失いそうになる。

気を失いそうになったせいか、そのまま倒れかけたところを、パープルハートに支えられる。

 

「・・・!大丈夫?あなた、名前は?」

 

「俺は・・・」

 

その場の勢いで言おうとして、一度止める。「ブラッドエッジ」は通り名も同然だったからな。でも名乗らないで倒れんのはマズイからな・・・だから俺は・・・。

 

「俺は・・・ラグナだ・・・」

 

と、それだけ名乗った。その直後、体の限界を超えてパープルハートに抱えられたまま気を失った。




ネプテューヌVⅡRを買ったらネプテューヌと何かを合わせた小説が書きたくて勢いで書いてみました(笑)。
ブレイブルー選んだのはそういえばブレイブルー使ってみたいなという気持ちからです。
ブレイブルー関係の説明が下手くそだと感じた方はごめんなさい・・・。
初投稿で自信が無いのもあって、感想や応援を貰えたら泣いて喜ぶかもです・・・(笑)。

拙い文章ですが、お付き合いできたら幸いです。

追記:アニメ版の方を選んだのはアニメ版を見返しててこっちにしたいと思ったからです。



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2話 新たな出会い

「あの素晴らしい祭典から早くも一ヶ月」・・・ってわけにも行かないので少しの間オリ回が続くと思います。


あの後プラネテューヌの教会の一室にラグナは運ばれ、ベッドで寝かされている。

各国の女神たちと教祖たちは彼の目覚めを待ちながら、彼の出自の確認と彼の処遇を話していた。

ラグナは黒い服装に赤いジャケットを着ていて、白い髪をしている。

右目が閉じられていたため、左目しか解らないが左目はエメラルドグリーンだった。

片刃の大剣があると寝かせている内に体が痛むだろうから、外してベッドの近くに立て掛けた。

 

「うーん・・・中々起きないなぁ・・・あれだけボロボロだから仕方ないけど・・・」

 

ジャージのようなワンピースを着ている紫髪の明るい少女は寝ているラグナを見ながら呟く。

 

「ねえネプテューヌ。その人は何か言ってた?」

 

「自分の名前しか言って無いよ。『俺はラグナだ』って言ってそのまま気を失ったよ」

 

黒髪をツインテールにした少女は呟いた少女、ネプテューヌに聞くが、大したことは聞けなかったようだ。

 

「右目が閉じてたままだったのが気がかりね・・・。呪いとかにかかってなければいいけど」

 

「それも気がかりですけど・・・それ以上にこの殿方がどこから来たのかが気になりますわ」

 

茶髪の帽子を被っているあどけなさを残している少女はラグナの右目を気にし、金髪を綺麗におろしている美女は彼の出身を気にした。

ラグナの詳細を各国の教祖たちが調べているが、ラグナについての詳細は何一つ判明していなかった。

 

「まあ、彼が起きたらその時聞こうよ。今はネプギアが彼を見てるから、何かあったら教えてくれるはずだよ」

 

自身の妹、ネプギアを信じたネプテューヌのその前向きな言葉に、周囲にいた皆は頷いた。

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

「・・・兄さま」

 

「ん?サヤじゃねえか。どうした?具合は良さそうだし、ジンにいじめられたってわけでもなさそうだな・・・」

 

俺が大きな木の下で一人寝転がっていたところを、実の妹であるサヤが顔を覗かせた。

普段は病弱なサヤだが、今回は体の具合は良く、俺の弟であり、サヤの兄である間っ子のジンに悪口などを言われた訳でも無いようであり、普段あまり見られない笑顔のサヤを見ることができた。

 

「兄さま、私待ってるよ。いつか兄さまが私たちのところに帰ってくるの・・・」

 

「サヤ・・・」

 

サヤが立ち上がるのにつられて、俺も体を起こす。どうやら暫しのお別れ挨拶らしい。

 

「じゃあね。兄さま。また会おうね」

 

そう言ってサヤは俺たちの育ての親であるシスターと、ジンが待つ教会に帰っていく。

俺はそれを見送り、後ろを振り返る。その先には、いつもとは違う景色、ゲイムギョウ界が見えていた。

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

「うっ・・・」

 

溜まっていた疲労が痛みに変わってしまったのか、俺は一瞬だけうめき声に近い

声を上げて目を覚ます。やはり左目しか開かなかった。

俺の目の前には紫色の髪をおろし、十字型の髪飾りを一つ付けている、セーラー服のようなワンピースを着ている少女がいた。

 

「あっ。気が付きましたね。どこか痛んだりするところはありますか?」

 

俺はその少女を自分の妹と重ねてしまい・・・。

 

「・・・サヤ?」

 

「・・・えっ?」

 

思わずここにはいない自分の妹の名をを言ってしまった。

聞いたことのない名前を聞いて、少女は驚いてしまう。

 

「あっ、いや、悪ぃな。ビックリさせちまって・・・ただ・・・お前が・・・」

 

「私が・・・どうかしましたか?」

 

俺は自分でもどうしてこの少女をサヤだと言ったのかが分からず焦り、右上半身が動かない体をどうにか起こして驚かせたことを軽く謝る。

そして、別に隠す事でもなさそうだと感じた俺は言葉を続けることにした。

 

「俺の妹に・・・似ている気がしたんだ・・・」

 

俺がどうしてこの少女にサヤの面影を感じたのかはわからないが、もし、サヤが病弱でもなく、普通の暮らしができたならこんな感じに育ったのではないかと考えちまったみてえだな。

 

「私が・・・ですか?」

 

「すまねえな・・・ホントに唐突で」

 

やはり突然過ぎたのがいけなかったのだろうか。少女は困惑している。

少女の困惑のしようを見て、俺は申し訳ない気持ちになる。

 

「(やべえ・・・なんか妙に気まずい。何か話題を変えよう。何がいいんだ?)」

 

自分の出自?それともこの世界のこと?凄い頻度ですれ違いが起きそうだと感じて俺は考え込む。

 

「あっ、起きたら知らせるの忘れてた。すみません。ちょっとみんなを呼んできますね」

 

「あ、ああ・・・」

 

そう言って少女は部屋を後にした。部屋には俺一人になる。

 

「(みんなって言うなら2、3人・・・多くて4、5人くらいか?)」

 

それなら名前も覚えきれるし、纏めて説明もできるしなんとかなるだろ。俺は気楽に構えることにした。

 

「入りますよ。大丈夫ですか?」

 

「ああ。大丈夫だ」

 

ノックの後に、さっきの少女の声が聞こえる。俺は入るように促す。

 

「じゃあ、入ります」

 

ドアが開けられる音がする。さて・・・多くて5、6人程度なら何とかなるだろ。

どこから話すか?それともどこから聞くか・・・そんなふうに考える。

だが・・・俺の予測は甘かった。

 

「・・・・・・」

 

最初に少女と4人入ってきたが、その後ろからぞろぞろと入ってきた。

年端も行かない幼い双子の少女たちがいれば、育ちのいいとこであろう女性もいれば、しまいには本の上に乗った少女までいた。様々な人が全員で14人も入ってきたのだ。

しかも男は一人もいない。何かの拷問か?俺は一瞬錯覚した。つか、本に乗ってるってどういうことだよ・・・。

 

「・・・もう増えないよな?」

 

「はい。これで全員ですよ。」

 

俺は不安になって少女に確認するが、少女はもういないと答えたのに対して少し安堵する。

 

「えっと、ラグナさんでしたね?初めまして。私はこのプラネテューヌの教祖、イストワールと言います。あなたには色々とお伺いしたいところがあるのですが、よろしいでしょうか?」

 

「まあ、俺も話さなきゃなんねえって思ってたからそこは平気だ。その前に礼を言いたい相手がいるんだが・・・パープルハートって人・・・どこにいるか知らないか?」

 

本に乗っている少女、イストワールが俺に問いかける。答えること自体に抵抗はなかった。

つか。イカルガでカグラにとっ捕まえられる前からは考えられないくらいにあっさり話す気になってんだな俺。我ながらにビックリだ。

 

「あぁ、そういうことでしたか。ネプテューヌさん。ラグナさんはお礼を言いたい見たいですよ」

 

イストワールはそう言って後ろを振り返り、紫色の髪をした。少女・・・さっき俺が起きた時にいた少女じゃなく、ショートヘアーに少女と同じ髪飾りを二つ付けている少女に言う。

 

「なぁイストワール・・・。疑ってる訳じゃあ無いんだが、どういうことだ?」

 

どう考えてもパープルハートに見えないんだが・・・。でもイストワールは明らかにネプテューヌのことを見て言ってるよな・・・。俺は困惑する。

 

「ああ・・・そういうことか。ちょっと待っててね」

 

俺の問いに対して、イストワールの代わりにネプテューヌが答え、ネプテューヌの体が光に包まれる。

そして、その光が消えると、目の前にはさっきと服装こそ違い、黒いレオタードになってはいるものの、パープルハートその人がいた。

 

「!?あんた、『ムラクモ』か!?いや、そんなはずはないよな・・・」

 

光に包まれ、その後は戦闘に適した恰好や装備になる点で俺はムラクモかと疑ったが、この世界に魔素がないことを思い出して、その可能性を否定した。

ムラクモ含む『事象兵器(アークエネミー)』は境界の内部で作るからな・・・。

ムラクモは全身凶器かと思うくらいに剣の数が多いのに対して、パープルハートの姿は全くもって武器が見当たらない。あるとしても飛行能力を与える役割がありそうなウイングくらいだ。

 

「あなたのいうムラクモがどんなものかはわからないけど、これが『女神化』した私の姿よ。改めて、私はプラネテューヌの女神、パープルハート。またの名をネプテューヌよ。身体の方は大丈夫かしら?」

 

「女神って言うのか・・・新しいことだらけで覚えきれるか自信無くして来るなぁ・・・。あん時はありがとうな。ネプテューヌ。まだ少し痛むが、問題ない」

 

良かった。ようやく恩人に礼を言えた。他にも色々とやることはあるんだろうが、最低限のやることを果たせたので一安心する。

 

「そう。それなら良かったわ。ところで、ここにはどんな用事で来たのかしら?」

 

「ああ。そのことなんだが・・・」

 

「ちょっと待って・・・あなた今、女神のことを知らないって言ったわよね?ならあなた、どこから来たの?」

 

「・・・まあそうなるか・・・」

 

俺は働ける場所を探しに来たと言うつもり満々だったが、黒髪のツインテールをした少女に待ったを掛けられた。さて、こうなったら俺のことを全部話さなきゃならんのだが・・・。

どれくらいで終わるだろ?正直幼い双子がついていけるかが一番不安だ。

 

「俺のことを話すととんでもなく長くなるかもしれないが・・・それでも大丈夫か?」

 

俺は目の前にいる皆に確認をとる。皆は黙って頷いた。双子すら頷いていた。

 

「わかった。それなら話そう。まず最初に、俺はこの世界の人じゃないんだ・・・」

 

それから俺は自分の出自。シスターたちと過ごした小さいけど幸だった時間。

『あの日』の惨劇で育ての親であるシスターが死に、妹のサヤが連れ去られ、自分は右腕を失ったこと。

自身が『蒼の魔導書(ブレイブルー)』を手に入れたこと。(蒼の魔導書が右腕になり、命が繋がった。)その後はサヤを取り戻すために修行を積んだこと。

サヤが連れ去られた理由を知り、『世界虚空情報統制機構(図書館)』を憎み、サヤのクローンである『素体』を破壊して周り、いつしか自分が『死神』と呼ばれるようになったこと。

素体の一人である自分の妹によく似た少女に窮地を救われたこと。

仇敵を追いかけたが、恩人の少女を正気に戻すために一度とどめを先送りして、その恩人を助けたことで今度は左腕を失ったこと。(左腕は義手をもらった)

その後多くの『戦う理由を持った人たち』と出会い、『奪う力』だった蒼の魔導書を一時的に使うことをやめたが、「何のために」、「誰のために」振るうかを考えた結果、『大切なものを護るため』に振るうように決めたこと。

全ての『可能性』が閉ざされてしまった世界の中で、皆に可能性を与えるために自ら『悪』となり、その可能性を世界に与えることを目的にして奔走したこと。

そして、最後は『蒼炎の書』の力で仇敵を打ち、サヤを助け出し、自分含む世界全て『悪夢』を消し去って、皆に可能性ある世界を与えて自分も消えていったこと全てを話した。

 

「んで、その後はなんでか知らねえがこの世界にいたから、近くに町らしいのが見えたら

このプラネテューヌだったんだ。後はみんなが知ってる通りだ・・・」

 

俺が一通り話し終えると、色々な反応を示した。

泣いている人、開いた口が塞がらない人、驚きのあまり体が固まってる人などだ。

 

「お、おい・・・どうした?」

 

「す、すみません・・・余りにもスケールが大きすぎたのでつい・・・。」

 

俺は焦って聞くと、立ち直りの早かったイストワールが反応してくれた。うーん・・・確かに他のやつらの方が圧倒的に普通な生活してたろうな。

俺なんて『あの日』以後は修行とか、反逆の旅とか、まともな生活してたら絶対にしない

ことばっかりだったからなあ・・・。我ながら自分の人生に心の中で驚いた。

 

「さて、気を取り直しまして。そう言えば右目の方は何かありましたか?」

 

「ああ・・・この世界、俺の蒼炎の書を使うために必要な魔素がないみたいでな。それが原因で右上半身は動かねえんだ」

 

魔素がないのは割と致命的だ。蒼炎の書は使えない、右上半身が動かねえから戦闘どころか日常生活にまで支障をきたしやがる。

 

「そうでしたか。治すためには研究が必要みたいですね・・・。

そのことは今は置いておきましょう。それから、ラグナさんはこれからどうしますか?」

 

「ん?ああ。そういや全く決めてなかったな・・・」

 

ここに詳しい人を探すことしか頭になかったので無計画だった。まあ働ける場所を探すつもりではいるが、泊まる場所がねえ。

今までとんでもない生活が続いてたから真っ当な生活をしたいもんだ。

 

「とりあえず働ける場所がありゃいいんだが・・・何かあるか?・・・ってん?待てよ・・・」

 

「どうかしましたか?」

 

こう聞いてみたところで一つ大事なことを思い出した。それは・・・

 

「俺・・・この世界の戸籍とかが一切ない」

 

俺にこの世界の戸籍とかがないことだ。学歴なし。職歴なし。住所不明。

経歴話すためとは言え、自身が犯罪やってましたと普通に暴露している始末。

オイオイ、自分から言っておいてこれって大分ひでえぞ!つか、真っ先に牢獄いきじゃね!?

・・・じゃあな。俺の真っ当な生活。せっかく自分を改めようと思ったのにこれだ。

 

「あっ。そのことは私も完全に失念してました。でしたら、戸籍のほうはこちらで用意しましょう。他にも、ギルドという誰でもお仕事ができるところがありますので、そちらでお仕事をするのも良いかと」

 

「そんなところがあるのか・・・確かにそれなら俺でもできそうだな」

 

戸籍を用意してくれるのはありがたいし、働ける場所もある意味確保できた。

イストワールのことだから俺の今までの経歴は当たり障りのないように変わるはずだ。

後は泊まる場所さえ確保すればいいんだが・・・。

 

「ところで、ラグナはどこか泊まる場所はあるの?」

 

「泊まる場所は・・・ねえな」

 

どうやらいつの間にかみんなが立ち直ってたようで、ネプテューヌが俺に訊いてきた。

この世界に来たばっかりだから、当たり前の如く俺は住まいを持たない。

 

「どうすっかなぁ・・・」

 

「なら、ラステイションに来るかい?今なら無条件で戦闘要員として雇う枠を開けてあげるよ。ついでに左腕だけでも戦えるようにする時間も作ろう」

 

俺が悩んでいると、銀髪のショートヘアーをした少女がそういう。

まあ俺の経歴を考えたらその役割は間違ってない。だが・・・蒼炎の書が使えねえ今はやめて置きたいな・・・。なんせ力の大半が封じられてるせいで、実質剣の扱いに長けた隻眼・隻腕の一般人になる。この状態じゃ一般人って言っていいかわかんねえがな。

左腕だけで戦えるように配慮する気持ちはありがたいが。

 

「ルウィーはどうでしょうか。書物が多いので、この世界のことも学べますよ」

 

水色の髪をおろし、眼鏡をかけた女性が提案してくる。

まともに本を読んだことねえ俺がいきなりそんな歴史書とか読めるか自身ねえな・・・。

でもゆっくり調べられるなら、その辺はなんとかなるだろ。流石に字が読めないって訳

じゃないしな。

 

「それならリーンボックスはどうかしら?娯楽の方も充分に揃ってますわよ?」

 

緑色の髪に派手な格好をした美女が負けじと提案する・・・。

確かに娯楽はまともに触れてないから悪くないな。ああ、マジで悩ましいものばっかりじゃねえか!

 

「悩むなあ・・・」

 

悩ましい。本当に悩ましい。一つは俺が現状のまま最大限動けるように配慮してくれる。

一つは資料の充実。最後の一つは俺の生活からして圧倒的に足りなかった時間の提供だ。

 

「あの・・・私からいいですか?」

 

俺が余りにも悩んでいたからか俺が起きた時一緒に部屋にいたあの少女が手を上げる。

俺含め皆がその少女のほうを振り向く。

 

「今日はもう遅いですし、暫くはここに泊まってゆっくり考えるっていうのはどうでしょう?」

 

「もうそんな時間なのか?」

 

俺は少女のセリフを聞いて窓を見る。外はすっかり電気の明りが多く見えていた。

それと同時に、俺の腹の虫が盛大に鳴る。

 

「あっ・・・そういやさっきまでなんも食って無かったの忘れてた・・・」

 

「でしたら、ラグナさんが皆さんのことを知ることも兼ねて、ここにいる全員でお食事を

取りましょう」

 

イストワールのその提案に、皆が満足そうに頷く。

俺はこの後全員と飯を食って、互いに改めて自己紹介をした。ちなみにさっきの少女をサヤとダブった理由を追及された時はどう返せばいいか分からず精神的に死にかけた。

さて、明日からどうするかな?俺は結構いい場所にこれたのかも知れない。俺は久しぶりにまだ見ぬ明日を楽しみにしていた。




相変わらずブレイブルーの説明はこれでいいのか悩みますね・・・。
ホントは文章でちゃんと全キャラやりたかったんですけど、一度出来上がった文章に突っ込む間がなかったんですよ・・・(泣)

他の方々の文章って平均何文字くらいなんだろうか?前回3500くらいだったのが今回一気に6500くらいまで増えたんですよね・・・(笑)

追記:改行チェックは投稿前にちゃんとやってるんですけど、また細かいとこでミスってましたorz・・・


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3話 ラグナの初仕事

今回も少し早めに書きあげられました。
更新は大体1週間前後になると思います。



「へぇ。ここがギルドってところか」

 

「ええ。ここではいろんな仕事が舞い込んで来るから、ラグナにあったものを選ぶといいわ」

 

「なるほどねぇ・・・」

 

俺がゲイムギョウ界にやって来て数日後、俺はアイエフからギルドのことで簡単な説明を受けていた。

アイエフは黒い格好に青いコートを着ている。茶髪の髪をおろしていて、双葉の髪飾りを付けている少女だ。

ちなみに、蒼炎の書がこの世界でどんな影響が起こるかは、現在イストワールを中心に各国の教祖が力を合わせて調査している。

さて、そんなことは今は置いといて、目の前の事だ。俺にギルドのことを説明してくれているアイエフなんだが・・・。

 

「・・・あいつと声が似てるからまだ錯覚が起きるな・・・」

 

「もう、またそれ?失礼しちゃうわね」

 

まあ、格好はともかくとしてやっぱり声がどうしてもな。レイチェルに似てるからついつい気難しくなっちまう。

本当に悪いな。アイエフ・・・。俺もこんなに慣れないものだとは思わなかった。

 

「まあそんなことはさて置き、受付はこっちよ」

 

俺はアイエフに案内されてクエストを受けるために受付の所までいく。

そして、俺はここにくるのが初めてだと伝えると、登録するためにカードに必要事項を書かされることになった。

 

「(えーっと・・・ここでもこれだけでいいだろ)」

 

俺は名前の記入欄のところに『ラグナ』とだけ書いておいた。

この世界では皆名前が短い為、別に怪しまれることはなかった。

そして、登録が完了した俺は早速クエストを受けることにした。

採取系はこの世界に慣れてない以上無理だと判断して、簡単なモンスター討伐クエストを受けることにした。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「ああ。大丈夫だ。こいつはそんなに攻撃的じゃないんだろ?」

 

受付の人は俺が片目がずっと閉じられていることもあって心配してきた。

今回受けたクエストはスライヌを複数討伐する内容で、スライヌ自体そんなに強くない(モンスター内で最弱クラスだという)ことはクエストの依頼文に乗っていた。

 

「それはそうですが・・・念の為誰かとご一緒に行ってくださいね?」

 

「あ、あぁ・・・わかったよ・・・」

 

流石に片目しか見えない奴が大人しい奴とは言え、いきなりモンスターと戦うのが不安なんだろう。俺は降参のポーズを取りながらそれに従うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「あっ!戻ってきた!どうどう?クエストは受けられた?」

 

「あぁ。受けてきたぞ・・・一応誰かと一緒に行けとか釘を刺されたが」

 

俺たちがギルドから出るとネプテューヌが訊いてくる。俺は簡単に答える。

 

「それなら、私たちがいるから心配はないですね」

 

「はいです!何かあったら私たちが助けるですよ!」

 

まるで自分たちに任せろと言わんばかりにネプギアとコンパが答える。

コンパは薄いオレンジっぽい色をした髪が癖っ毛っぽくおろし、『C』らしき字が書かれているカチューシャを付けている。

そして、ミニスカートにセーターを着こんでいる少女だ。

ネプギアは女神候補生。コンパはナース。アイエフは諜報員。そしてネプテューヌはプラネテューヌの女神・・・俺と行くメンバー過剰戦力が過ぎねえか?特に女神。

 

「よーし!それじゃあ早速行こーう!」

 

「おおー!です!」

 

ネプテューヌの行こうと言う声に、コンパはノリノリで答え、二人は歩き出していった。

 

「お姉ちゃん・・・今回はラグナさんの腕試しが主なのに・・・」

 

「まぁネプ子のことだから仕方ないわよ。ラグナも早く馴れてね?」

 

「ああ。努力するよ」

 

俺たちは苦笑しながら二人の後に続くのだった。

こうして俺のゲイムギョウ界での、ひいては人生初のまともな仕事が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

「あれがスライヌか・・・」

 

プラネテューヌから少し離れた木々が道を作ってるかのような場所に来た。

今俺たちの目の前には通行を邪魔するかのように、水色をした肉まんに顔と犬の耳が付いたどこか愛嬌のあるモンスター、『スライヌ』が10匹程いた。

タオが見たら「美味しそうな肉まんニャス!」とかって言って食いに行きそうな気がしてきたぞ・・・。

 

「とりあえず私たちはここで見てるわ。ヤバそうだったらすぐに行くから」

 

「お手当の準備は済ませておくです」

 

「おう。すまねえが頼むぜ」

 

俺は二人に礼をいい、少しだけ左肩を回しながら前に出る。さて、右側が見えねえから右側から倒して行くか。反時計回りに動けばスライヌを視野に入れ続けやすいはずだ。

左肩を充分に回したら左手で剣の柄を握る。

 

「あの、ラグナさん」

 

「ん?」

 

俺がいざ飛び込もうかと思ったその時、ネプギアに声をかけられて俺は柄を握ったままネプギアがいる方を振り向く。

 

「えっと・・・その、頑張ってください」

 

「おう、任せな!」

 

ネプギアが見せるその笑顔に、俺はニッとした笑みを見せて答えた。

よし。んじゃあ行くか。俺はスライヌの方に向き直り逆手持ちになる形で剣の柄を握り、抜刀はしない状態で構える。

そして姿勢を低くして、足に力を入れ、力強く踏み込んで一番右側にいるスライヌに向かって走り出した。

 

「うぉりゃっ!」

 

充分に近づいた俺は遠心力を上げるために右に一回転しながらスライヌ目がけて、剣を抜刀しながら右から斜めに振ってぶった斬る。

俺が斬ったスライヌは一撃で光となって霧散した。

 

「これならやれるな・・・」

 

案外脆いもんだな。好戦的じゃないスライヌは反応も悪いらしく、危害を加えられてようやく反応するらしい。これくらいの相手なら図書館相手にするより何倍も楽だな。

俺がそんな風に考察をしてたらスライヌが反応しだし、群れに襲いかかった俺を撃退・排除せんと近くの奴から俺に近づき始めた。この様子だと近くにいる奴から倒した方がいいな。

さて、ここからが本番だ。俺は剣を構え直して、一番近くにいるスライヌに向かっていき、手に持ってる剣を振った。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ・・・結構やるじゃない」

 

右上半身がまともに動かない状態で複数のスライヌ相手にかなり余裕を持って戦えているラグナを見てアイエフは感心する。

ラグナは近づいてくるスライヌを斬り、刺し、時には蹴りを入れてから斬り、確実に数を減らしていた。

 

「まさか片腕であれだけ戦えるなんて・・・私たちが聞いてた話より厳しい生活してたのかなぁ?」

 

「ラグナさん・・・すごい・・・」

 

以前、図書館こと『統制機構』にラグナが反逆をしていたことを聞かせてもらっているが、どれほどの規模だったかを想像するだけで恐ろしくなる。

ネプテューヌはラグナの反逆した規模が気になり、ネプギアはラグナの戦い方を呆然としつつも見ている。

 

「これなら、ラグナさんが怪我をすることはなさそうですね」

 

コンパはラグナの戦いを見て安心した様子で言う。他の三人も笑みを浮かべて頷いた。

 

「だりゃっ!」

 

ラグナが最後の一匹に剣を上から振り下ろしてスライヌを二枚におろすと、そのスライヌは光となって霧散した。

周囲には何もいないため、この世界におけるラグナの初戦闘は勝利に終わった。

 

「よし。終わったな」

 

ラグナは剣を納刀し、皆の所へ戻る。

 

「お疲れ様。どうだった?戦ってみて」

 

「ああ。右側が見えねえのは厄介だが・・・アレだと弱すぎて問題にならなかったよ」

 

ラグナは苦笑交じりにそういう。どうやら右目が見えないにも関わらず、手ごたえが無さ過ぎたようだ。

 

「何がともあれ、怪我がなくて良かったですぅ」

 

「そうだねー。安全第一って言うしね」

 

「この手合いの仕事に安全も何もねえと思うが?」

 

ネプテューヌの言葉にラグナはツッコミを入れる。周りが特徴的な人たちばかりだったラグナはどうもツッコミに回りがちである。

 

「あっ。そうだった。モンスター退治は安全じゃないや・・・そしてそのツッコミありがとう!」

 

「何がありがとうだ!」

 

そして、自分たちのやりとりがおかしくて、皆して笑った。

 

「さて、じゃあそろそろ戻りましょうか。報告するまでがクエストだからね」

 

アイエフの言葉に促されて、皆はプラネテューヌに帰りだした。

 

「あの、ラグナさん」

 

「ん?」

 

俺はネプギアに話しかけられ、そっちを振り向く。

 

「クエスト、成功して良かったですね」

 

「ああ。そうだな・・・」

 

ネプギアが笑顔を見せてくれる。ラグナはそれに対して穏やかな笑顔で返した。

俺がネプギアをサヤとダブらせたのはなんだろうか?ラグナは考えたが、今は置いておくことにした。

だが、ネプギア含め、俺を受け入れてくれた大切な人たちを、ラグナはこの手で『護りたい』と思う。それだけは確かだ。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「終わったぞ」

 

「・・・本当に討伐できたんですね・・・」

 

俺はギルドに戻ってクエストが完了したことを報告する。担当の人は信じられないかのような顔をしていた。

 

「まあ、今回は相手が相手だったからな。案外大したこと無かったよ」

 

「私も目の前で見てたけど、助けなんて必要なかったわよ」

 

俺の言葉にアイエフが続けて信憑性を高めてくれる。

 

「そうでしたか・・・ともかく、これでクエストは完了です。また受けようと思ったらこちらでお伺いします。それでは、お疲れ様でした」

 

「さて、行きましょうか。みんな待ってるだろうし」

 

「ああ。そうしよう」

 

俺たちはこの場を後にして外に出る。これで俺の人生初のまともな仕事は終わった。

 

「あっ!戻ってきた!アイちゃん、ラグナ、今日この後みんなでラグナの初クエスト成功祝いしようと思うんだけどどう?」

 

「私は構わないけど、ラグナはどうするの?」

 

「初クエスト成功祝いねぇ・・・」

 

俺たちが外に出るや否、ネプテューヌから提案が出る。俺の初クエスト成功祝いって・・・子供じゃああるまいし・・・。

だが、断ろうとは思えなかった。寧ろ俺は初めてまともに働いたしいいかと言う思いが強かった。

 

「そうだな。せっかくだし、やろうか」

 

だから俺は提案を呑むことにした。

これからは『死神』としてじゃなくて、『ラグナ』という一人の人間として生きるんだもんな。これくらいはいいだろう。

 

「じゃあ、早速食材を買いに行くですよ!」

 

「わーい!やった~!」

 

俺が賛成すると、コンパとはネプテューヌは歩調を少し早め、先に進んでいく。

オイオイ・・・いくらネプギアとアイエフがいるからってさっさと行くなよ・・・。俺はまだ場所を把握しきってねえのに・・・。

 

「お姉ちゃん・・・またクエスト出発の時みたいになってる・・・」

 

「やれやれ。これじゃあ誰のお祝いだかわかったもんじゃないわね」

 

「全くだな・・・」

 

俺たちは苦笑しながらゆっくりと歩き出した。

どうやら俺は早くもこの状況に慣れてきたみたいだ。

 

「なあ、ネプギア」

 

「はい、何ですか?」

 

クエスト帰りとは違い、今度は俺から話しかけてみる。

あっ、やべえ・・・話しかけてみたのはいいけど言葉を考えてなかった。我ながら情けない。

俺は言葉を探して、一つはっきりと伝えられることがあったので言うことにした。

 

「真面目に働くって、こんなに気持ちがいいもんなんだな・・・」

 

「ラグナさん・・・本当に良かったですね」

 

今まで無賃乗車だの食い逃げだの、窯を『殺して』町一つの環境を破壊するだの散々なことをやってきたが、それがどれだけの悪行かを。

また、真面目に働くのがどれだけいいことかを、俺は今日理解した。

 

「おーい、何してるのー?おいてっちゃうよー?」

 

「急がないと日が暮れちゃうですよー?」

 

ネプテューヌとコンパの声が聞こえ、俺たちは声の方を見る。いつの間にか結構離れていた。

 

「アンタ達が速すぎるのよ!

・・・早く行きましょ。本当にあの二人だと本当に置いて行きかねないわ」

 

「そうですね。少し急ぎましょう」

 

俺たちは急いで二人の後を追った。仕事終わったってのにドタバタしてるが、これも悪くないな。

 

「(シスター・・・俺はこっちで今度こそ真っ当に生きてみるよ。今まで心配させて悪かったな)」

 

俺は一人心の中で、育ての親であるシスターに謝罪と生き方の宣言をした。

そして、俺たちの夜は俺の初クエスト成功祝いによって騒がしく、あっという間に過ぎていった。




そう言えばラグナが右上半身使えない状態で戦うのってCPのシナリオで2回しかないんですよね・・・(ジンとアズラエル)。
戦闘描写はもう少し細かい方がいいのか、それとも大雑把の方がいいのか迷いますね。

オリ回はもう少し続くと思います。
ラグナが蒼炎の書を使えるようになるまで後何話くらい使うだろ?(笑)


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4話 ラグナ、ラステイションへ

何とか一週間以内のノルマ達成。


「お待たせしました。こちらが地図になります」

 

「サンキュー、イストワール。これでようやく他の国にも行けるぜ」

 

俺はイストワールから頼んでいた地図を受け取る。

その地図にはプラネテューヌからラステイションへの道が記されている。

地図を頼んでいた理由として、他の国を自分で見てみたいと思ったからだ。

それ以外にも、俺がゲイムギョウ界にやって来た日にどこに住むかが保留の形でプラネテューヌにいるため、早く決めるためというのもある。

 

「まさか三日もかかるなんてな・・・思ってもみなかったぜ」

 

「すみません・・・善処はしたのですが・・・」

 

実はイストワール、先代のプラネテューヌの女神が記録のために創り出した存在らしい。

だが、その処理能力は信じられないくらいに低かった。こんなんでよく大丈夫だったなプラネテューヌ・・・。

ちなみに地図を頼んだ時のやり取りはこうだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば、プラネテューヌ以外にも国はあるんだったな・・・」

 

「あるよー。もしかして・・・ラグナは他の国に行ってみたいの?」

 

「ああ。自分の足で他の国に行って色々と見てみたいからな」

 

「それなら、いーすんに地図を頼むといいよー。ちなみに、ノワールとユニちゃんがいるラステイションが一番近いよ」

 

「そうなのか。それなら早速頼んでみるか」

 

今より三日前、俺が初クエストを終えた翌日のことだ。俺は他の国にいくために地図が欲しかった。

ネプテューヌに訊いてみると、一番近いのはラステイションで、地図はイストワールに頼むと用意してもらえるそうだ。

俺は早速頼んでみることにした。

 

「なあ、イストワール。頼みたいことがあるんだが・・・」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「プラネテューヌからラステイションまでの道がのってる地図が欲しいんだが・・・」

 

そう、ここまでは問題なかった。問題はこの次だ。

 

「わかりました。三日ほどお時間をいただきますね」

 

「ああ、わかった・・・って、ちょっと待て。今、三日って言ったか?」

 

「あっ、ごめん・・・いーすんの処理能力が低いの言ってなかったね・・・」

 

俺はビックリした。地図用意すんのにそんなに時間かかるか?

カグラんとこにいるヒビキならすぐに用意してくれそうだが・・・。そんなに甘くはないのか・・・?

 

「しょうがねえ。今日はクエスト受けに行くかぁ・・・」

 

俺はため息と同時に項垂れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

とまあ、そんなことがあったから俺はこの三日間でプラネテューヌを案内してもらいながらクエストをこなしていた訳だ。

この事情を聞いたアイエフが地図を貸そうかとまで言ってくれたが、せっかく頼んだのだから待つことを選んだ。

昔だったら何の躊躇いもなく借りてたんだろうな・・・。

 

「まあ、これでようやく他の国に行けるんだし、その辺は良しとするさ」

 

「それは構いませんが・・・お一人で行くのですか?」

 

「ん?ああ・・・確かに考えて無かったな・・・」

 

俺はイストワールに言われて気がつく。確かにその辺は何も考えて無かった。

イストワールは多分、片目の状態じゃモンスターの襲撃に対応しきれないかもと心配してるんだろう。

実際その危惧は間違ってない。ただ、それ以上に俺は誰かと一緒に行くと楽しいだろうという考えが勝っていた。

 

「そうだな・・・行くとしたら誰がいいか・・・?」

 

アイエフは多忙だから望み薄だな・・・。

ネプテューヌは・・・仕事サボる口実にしそうだからやめとく。ネプギアも仕事あるだろうし、ネプテューヌの世話焼きしそうだな。

コンパも忙しそうだな・・・アレ?誰も呼べなくねぇか?俺の人脈多忙な人多すぎだろ・・・。

俺はその事実に頭を抱えた。

 

「ラグナさん、どうかしたんですか?」

 

「ん?ネプギアか・・・実はラステイションへ今から行くんだが・・・誰か他に行くやついないかと思っててな」

 

俺が悩んでたところにネプギアから声をかけられる。俺はラステイションにいくことを話した。

 

「あっ、それならちょうど良かったです。実は私、今日、ユニちゃんとラステイションで買い物しに行くんです」

 

マジか!これはツイてる。悩んでたところに一緒に行けるやつが来てくれるなんて。

 

「それなら一緒に行くか?正直なところ、初めてだからラステイションのことを教えてもらいたいのもあるが・・・」

 

「いいですよ。それなら、ちょっと準備を済ませて来ますね」

 

俺がせっかくだからとネプギアを誘ってみたら、ネプギアは快諾してくれた。

そしてそのまま準備をしにこの場から一度離れる。どうなるかと思ったけど、これで一安心だな。

 

「思いがけないところでラッキーが起きたな・・・」

 

「大分いいタイミングでしたね・・・」

 

俺たちは苦笑交じりに言う。行くのはいいとして、ガールズショッピングに付き合えるか自信がないな・・・。

 

「お待たせしました。いつでも行けますよ」

 

「おう。それじゃあ行くか」

 

「ではお二人とも、気をつけて行ってくださいね?」

 

「はーい。いーすんさん、行って来ますねー」

 

「ああ。それじゃあまたな」

 

俺たちはイストワールに送られながらラステイションに向けて出発した。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ラステイションってどんな感じの国なんだ?」

 

「ラステイションは工業を中心に、色んな産業をやってる国ですよ。他の国に囲まれてるから、貿易の中心にもなっているんです」

 

俺は行き道途中にラステイションのことを簡単に教えてもらっている。

プラネテューヌと比べると『現代的』ってイメージが強い気がするな。プラネテューヌが『近未来』的なんだろうか?

聞いた話だとラステイションの方が俺たちがいた世界に近い気がするな。

後、ラステイションの女神、ノワールはネプテューヌと違って真面目に働いてるんだそうだ。

ネプテューヌ・・・お前一度ノワールから学んで来いよ・・・イストワールが大変そうにしてるぞ?

 

「ふふっ。まさかこんなにも早くユニちゃんに会いに行けるなんて思わなかったなぁ・・・」

 

「仲がいいみたいだな。俺はまともに友人なんてできる機会無かったな・・・」

 

だが実際仲が良いに越したことはない。ノエルとその周りの友人たちを見ればそうだろう。

そう言えば、マコトが戦う理由は『友達のため』だったな・・・。よくあの世界であんなまっすぐに育ったもんだ。

 

「そうだったんですか?でもきっと、ラグナさんにも仲のいい友達、できると思います」

 

「ああ・・・そうだな」

 

確かにプラネテューヌであいつらとつるんでれば自然とそういう関係になるだろう。確信ってわけじゃないが、自信はあった。

 

「あっ、見えて来ましたよ!」

 

「へぇ・・・あれがラステイションか」

 

俺たちが話しているうちに、目の前にはラステイションが見えてきていた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「こんな感じだったのか・・・」

 

俺たちは無事にラステイションに到着した。

高層ビルが多く並んでるプラネテューヌと比べると、ラステイションは一般的な建物と、工場等が多く並んでいた。

なるほど。確かに『現代的』だ流石に和平結んだ後だから物騒差さは減ってるけどな。

 

 

「最初はどうする?」

 

「ひとまず教会に行きましょう。教会で集合するようにしてたので」

 

「わかった。じゃあ案内頼むぜ」

 

「わかりました。教会はこっちですよ」

 

俺はネプギアに案内されてラステイションの教会に向かっていった。

ラステイションは現代的な建物の中に一つだけ神聖さがある建物が混ざっていたため、案外わかりやすかった。

俺は初めての他の国の教会に入るのもあって、少し緊張しながらドアを開けた。

 

「ん?誰かと思えば君たちか。今回はどんな用件で来たんだい?」

 

ドアを開けて待っていたのはこの国の教祖、神宮寺ケイだった。

ケイの見た目は銀髪のショートヘアーに黒の服装をしている。

ちなみにネクタイやら半ズボンやら、服装とヘアスタイル、顔つきも相まって男と思われることがあるんだそうな。

 

「ああ。せっかくこっちに来たから挨拶にと思ってな」

 

「私は、ユニちゃんと教会で待ち合わせすることにしてたので来ました」

 

俺たちは簡単に用件を話す。俺の方は完全に未定だったのが分かる。

 

「なるほど。そういうことだったんだね。じゃあ、ユニとノワールを呼んでくるから待ってて欲しい」

 

「ん?ノワールも呼ぶのか?」

 

「僕は仕事が溜まるに溜まってるから、もし道案内を頼むならノワールの方がいいと思ってね。

それに・・・ユニとネプギアの買い物は長くなるよ・・・?」

 

「・・・そんなにか?」

 

ネプギアの方を見てみるとネプギアは苦笑していた。マジで・・・?そんなにかかるもんなの?

 

「ああ。そんなにだ。そういうわけでノワールも一緒に呼ぶけど、構わないね?」

 

「わかった。頼む」

 

俺はなぜノワールを呼ぶ理由がわかったのと同時に、ガールズショッピングって時間がかかるんだなと思った。

俺の場合ほとんど飯を食うくらいしか無かったから、のんびり買い物したことが無かった。追われてる身だったからな・・・。

少し考えながら待っていたらノワールとユニを連れてケイが戻ってきた。

ノワールは黒髪をツインテールにし、ゴシック風のドレスを着ている少女だ。

ユニは肩から少し先までの黒髪に、ありゃ髪飾り用のリボンだろうか?をつけて、黒いワンピースを着ている少女だ。

俺がゲイムギョウ界にやって来た日に話した時に感じたことは、二人とも案の定性格が似ていると感じた。ユニは幾分かマイルドだが。

何というか、カグラがあっさりと手玉に取れそうな感じがするタイプだな。

 

「待たせたね。二人を連れて来たよ」

 

「あら、ラグナじゃない。久しぶりね。今回はどんな用で来たのかしら?」

 

「ネプギア、お待たせ!」

 

「大丈夫だよユニちゃん。今来たところだから」

 

「久しぶりだな。初めてラステイションに来たもんだから、挨拶ついでに色々見て回るつもりだから案内してもらおうかと思ってな」

 

ネプギアとユニはお互いに笑顔で話し、俺はノワールに要件を伝える。

あの時飯をみんなで食った時もそうだが、ネプギアとユニは本当に仲良しだな。ノエルが友人たちと話をするときもこんな感じだったんだろうな。

 

「なるほど。ケイが呼んだのはそういうことね・・・。まあ、今日は予定開いてるし、それくらいなら平気よ」

 

「わりいな。助かるぜ。」

 

「それならせっかくですし、みんなで行きませんか?」

 

「あっ!それいいかも!」

 

「俺も賛成だ。せっかくなら大人数で回るのに馴れておきたいのもある」

 

ネプギアの提案に、ユニが真っ先に乗る。

俺も大勢で回るのに馴れておきたかったのもそうだが、それ以上に大勢で回った時は楽しいだろうと思ったからだ。

今までは基本一人で、尚且つ物騒な目的だったからな・・・。真逆の大人数で純粋に見て回る旅はどのようなもんだか気になる。

 

「それならみんなで行きましょうか。ところで、二人の買い物は先にする?それとも後にする?」

 

「うーん・・・時間が掛かり過ぎちゃうかもしれないし、先がいいかな」

 

「了解よ。じゃあ行きましょうか。この二人の買い物先に行きながら案内して、その後は回りながら案内するわね」

 

「おう。わかった」

 

「それじゃあケイ。私たちは行ってくるわね」

 

「ああ。いってらっしゃい。また後で」

 

ケイに見送られ、俺たちは教会を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ここは主に車関係の部品を取り扱っているお店よ。『今乗ってる車のここが足りない』って感じる人が度々入るお店ね・・・。

こっちは武器を取り扱っているお店。まあ・・・あなたの場合メンテナンスくらいしか来る機会なさそうな気もするけど」

 

「なるほど・・・」

 

俺は歩きながらノワールに説明を受けていた。

ノワールの説明は簡潔でわかりやすいため、聞くのがさほど苦にならない。むしろ他のもの聞きたくなったりする。

一応話を聞いて解ったこととして、俺のいたあの世界と比べると、バイクやら車やら、魔素を使わないで動いてた乗り物が多い。

あの世界は魔操船が主流になってるし、一般の人はほとんど徒歩で基本的にそんなに遠くないところまでしか行かないからな・・・。

そんな風に説明を受けながら歩いていると、どうやらネプギアたちが買い物しに来た店まで辿り着き、俺たちは入っていく。

この機にガールズショッピングってものを見てみるか。そう思ってた俺は全く予想だにしなかったものを見るのだった・・・。

 

「うわぁ・・・これいいなぁ♪」

 

「ネプギア、これはどう?」

 

「あっ、それもいいね」

 

「・・・・・・」

 

俺は目の前の光景に目を疑った。

確かに今この二人のから発せられた言葉は女子そのものだ・・・。だが、見ている物が明らかに女子らしさがない。

 

「あっ、この部品足りなくなってきてるんだった・・・。買っとこっと♪」

 

「これあるんだ!これを使えば完成しそう♪」

 

全っ然女子らしい買い物してねえぇ!

俺は思わず心の中で叫んだ。何なのこの二人?何で機械系の買い物してんの!?しかもジャンク品まで混じってんじゃねーか!明らかに機械好きの男どもの買い物だよこれ!

タオに見せられた俺の全っ然似てねえあの手配書の方がマシに思えるくらいに・・・それほどまでにインパクトがでかかった。

しかもノワール方を見てみたけど、全く同様する気配を見せない。微笑交じりに二人の様子を見てるくらいだ。

・・・ビックリしてんの俺だけか!?なんつうのこれ?カルチャーショックっつうの?訳がわからなかった。

 

「あの二人、時々ここに来てああいう使える部品を買うのよ。私も初めて買い物袋の中身を見たときは驚いたけどね」

 

「そ、そうなのか・・・」

 

俺は同意してるぞくらいにしか反応が出来なかった。

年頃の見た目した女の子二人が楽しそうに談笑しながら機械の部品を探すという光景があまりにも衝撃的すぎた。

そして、二人は買い物を終えて、満足そうな笑顔を見せながら戻ってきた。

 

「すみません。お待たせしました」

 

「今日は結構早く終わったわね」

 

「・・・」

 

二人が戻ってきても俺は固まってしまっていた。しょうがない。あんなの初見でビックリしないわけがない。

 

「あ、あれ?ラグナさん、どうかしましたか?」

 

「ああ、いや。ちょっとビックリしちまってな・・・」

 

「しょうがないわよ。アレは色々と光景にインパクトがあり過ぎるもの・・・。

さて、買い物が終わったなら次に行きましょうか」

 

「うん。そうしよっ」

 

俺の言葉にノワールは同意してくれ、更には次行こうと促した。それにユニが同意した。

なんだか助かった気がした。正直何か言われたら答えられる気がしない。

そして、俺たちはこの店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

その後、途中で一休みしてから色々なところを俺たちは回っていた。

ちなみに街中でノワールを見かけた一般の人が時々ノワールのことを称えるような目をしていたので、やはり信頼されているんだろう。真面目だからだろうな。

そして、回っている途中に俺は一つの建物を見て、引っかかる物があって立ち止まる。

 

「学校か・・・」

 

俺はシスターと共に教会で暮らしていて、あの日の後はサヤを取り戻すための旅をしていたのもあって、まともに勉学をしたことがなかった。

だからこそ、学校を見て引っかかるんだろうな。

 

「ここは工業系の就職を視野に入れてる人達がよく入ってくる学校よ。

・・・学校がどうかしたの?」

 

「俺・・・妹を取り戻すための旅をしてたから、学校に行ったことがないんだ・・・

だから、教会で育ってたとしても、普通に過ごしてりゃ学校に来てたのかもしれないんじゃないかと思ったんだ・・・今さらだけどな」

 

俺が今言ったように、確かに今更なことだ。だがそれでも考えてしまった。

校内で皆と学び、話し、笑いあう。そんな些細な幸福な時間がもう一つ得られたのかもしれないと。

 

「ラグナさん・・・」

 

「いや、いいんだ。ただそう思っただけだからな。だったら今の俺があそこに通うやつらのためにできることをするさ。

あいつらが今後も安心して勉学に励めるように、俺がモンスターを倒して『護る』。

俺が蒼炎の書の力を求めた時だって、『大事なものを護りたい』だったからな・・・。

ならそれを俺は、『可能な限り多くの人を護り、助けるため』に使えばいいんだ・・・。今はまだ使えないけどな」

 

俺は右腕の肘から先を前に出し、拳を握りしめた。

 

「・・・あれ?ラグナさん、右腕が・・・」

 

「右腕?あっ・・・動いてる・・・?」

 

俺はネプギアに言われて気がついた。そこで気になって右肩を回してみる。そしたらやっぱり動いた。

右目はまだ開いていないか・・・どうなってんだ?後で調べて貰おう。

 

「右腕が・・・動くな・・・。だが右目はまだか・・・」

 

「何かきっかけになるワードでもあったのかなぁ・・・?なにがともあれ、一歩前進ですね!」

 

「ああ。これで少しは動きやすくなるし、不便さも少なくなる・・・まずは一歩だ」

 

ユニが笑顔でいい、俺はそれにニッとした顔で答える。

まだ蒼炎の書は使えないが、日常生活での不便さや戦いでの動きづらさは大分改善されるな。

ラステイションのことも知れたし、右腕は動くようになった。今回俺が得ることのできたものは多かった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「わざわざありがとうな。俺たちはそろそろ帰るよ」

 

「ええ。また何か用ができたら言ってちょうだい。いつでも待ってるわよ」

 

時刻は既に夕方。俺たちは一通りラステイションを回り終えて教会に戻ってきていた。

そして、今はそろそろ帰るから別れの挨拶を済ませているところだ。

 

「じゃあねネプギア、また会いましょ」

 

「うん。ユニちゃんも元気でね」

 

「じゃあな。また来るよ」

 

「ええ。またね」

 

俺とネプギアは挨拶を済ませ、ラステイションを後にしてプラネテューヌに帰り始める。

 

「しかし・・・なんで右腕が動くようになったんだ?」

 

「どうして動いたかはわかりませんけど、右腕が動くところをみたら、みんなビックリすると思いますよ」

 

「確かにそうだな・・・」

 

俺の右腕が動くのをみたら、みんなはどんな反応をするだろうか?

ネプテューヌは真っ先に驚くだろうな・・・あいつのリアクションが楽しみだ。

歩きながら話していたら、俺たちの腹の虫がなる。いつの間にかそんなに時間が経ってたらしい。

 

「・・・ちょっと急ぎましょうか。」

 

「ああ。そうしようか」

 

俺たちは少しだけ歩調を早くしてプラネテューヌに帰る。

そして、右腕が動いたことを証明すると早々に、ネプテューヌの絶叫がプラネテューヌに響いた。




ラグナの右腕は少しづつ動かそうと思ったのですが、こっちの方が書きやすいと感じたので一気に動くようにしました。

今回は一気に7400字近くに・・・字数が安定しないですね私(笑)。

後2話分程こんな感じの展開が続きます。

そう言えば、ブレイブルーで魔操船以外の乗り物に乗るキャラなんてカグラがバイク乗るくらいだと思うんですが気のせいですかね・・・?


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5話 ラグナ、ルウィーへ

何とか早めに書き終えることができた・・・。

確認してみたけど字数今回すげえ増えてました(笑)。
1万字超えてる・・・。


ルウィーに向かう途中、俺はアイエフとコンパに様子を見てもらいながら、少し攻撃的なモンスターと戦っていた。

様子を見てもらう理由として、両腕が動くようになったからとは言え、まだ右目は見えないから万が一の時があったらフォローしてもらうためだ。

ちなみに、アイエフとコンパはルウィーに出掛ける予定だったので、俺もついていく形で共に行動している。

今回のモンスター討伐はちょっとばかし寄り道がてら付き合ってもらってる。返事二つで了承してくれたもんだから正直ありがたかった。

 

「おぉりゃっ!」

 

俺は最後の一匹に対して両腕を使って剣を上から真っ直ぐに振り下ろして叩っ斬る。

モンスターは光となって霧散した。

 

「ここで打ち止めか・・・」

 

俺は一通りモンスターを倒し切ったので周囲を見回して、モンスターがいないことを確認できたので、剣を腰に下げ直す。

この時柄は右側に出るようにした。また右腕で触れるようになったんでな。

 

「わりいな。ルウィーが遠いっつうのに付き合ってもらって」

 

「大丈夫よこれくらい。にしても見違えるくらいに動きがよくなったわね・・・。

右腕が動くようになったからかしらね」

 

「ははっ。違いねえな」

 

実際のところ、右腕が動くようになったのは大きかった。

右腕が動くようになったおかげで重心のバランスは非常に取りやすくなり、剣を振った時のフォロースルーも簡単になった。

皆に負担をかけることは減るから一緒に戦う際に動きやすくもなるだろうな。それと・・・

 

「これなら、ケガをしないで済みそうですね♪」

 

そう。安全第一って思考を持ってたわけではないが、傷を負って心配させる確率だって下がる。

この回復具合なら、もうじき右目も見えるようになって、誰も心配させることなく単独行動ができるようにもなるな。

 

「さて、さっきも言ったけど、ルウィーまで結構遠いし、そろそろ行きましょうか」

 

「はいです」

 

アイエフに促され、俺たちはルウィーへの道を進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「すげえな・・・道が一気に白くなってやがる・・・」

 

「ルウィーを行き来するときは毎回見ることになるから、早めに馴れるといいわ」

 

ラステイションを経由してルウィーへと続く道を進んで行くと、途中から道が一気に白くなっていた。

ブランたちは他の国へ行くときに毎回この光景を見るのか・・・。俺としてはちょっと面倒である。

そういや、俺が窯を破壊した後の場所は環境崩壊の影響で雪が降り止まなくなっていたな・・・。ルウィーは毎回雪が降ってるわけじゃないが。

あの時は窯とサヤのクローンである素体を破壊するのが正しいと思って行動してたが、今は結構酷いことをしたなと思ってる。

なんたって、一般の人に被害を被らせるからな・・・。あの時の俺は間違いなく力の使い方を間違えていたな・・・。

過ぎちまったことは仕方ないが、これからは使い方を間違えないようにしよう。俺の蒼炎の書は『護るため』の力だからな。

さて、湿っぽい話は一度切るとして・・・ルウィーへ近づくたびに段々と空気が冷えていくのが分かる。

俺は夜とかも一人で行動してたりするから意外と平気だったりするが、アイエフやコンパの格好を見ると少し不安になって聞いてみたくなった。

 

「ところでお前ら、その格好で平気なのか?」

 

アイエフはコートを着てるとは言え、脚のほとんどが出ているし、コンパも上着の確かにセーターなのだが、肩が出ている。俺だけ首から上くらいしか出してないので、俺が異常に感じてしまった。

 

「ええ。全然平気よ。」

 

「ルウィーは思ったより寒くないですから、普段の格好でも平気ですぅ」

 

「ま、マジかよ・・・」

 

そういやブランも肩思いっきり出してたな・・・。

お前らなんでそんなに寒さの耐性高いの?俺が低いのか?ゲイムギョウ界に来てからまだ日が浅いせいでこういう状況になると時折混乱する。あと何回こういうことが起こるんだろうな・・・。

 

「ルウィーに着いたら上着を買うかどうするか聞こうと思ったけど、その様子なら平気そうね」

 

「ああ。俺は平気だ。そういや、最初はやっぱり教会に行くのか?」

 

「はいです。ラグナさんが来るなら案内してほしいって頼まれてるですぅ」

 

俺は別に寒いとは感じなかったので、上着の増加は避けることにした。多分買っても着ないだろうしな・・・。

俺はそのままルウィーに付いたときどうするかを訊いてみる。そうすると今回はコンパが答えてくれた。

 

「おお・・・律儀なこった」

 

ルウィーの教祖、西沢ミナは礼儀正しいな。俺は感心した。

 

「おっ、見えて来たわね・・・ラグナ、あれがルウィーよ」

 

「あれがブランの治める国、ルウィーか・・・」

 

アイエフが指さす方を見ると、そこにはルウィーの街並みが見え始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

俺たちはルウィーに来て真っ先に教会に向かい、今は教会のドアの前に来ていた。

 

「あっ、ラグナさん。教会に入ったら上に気を付けるですよ?」

 

「・・・上に気を付ける?」

 

上に危ないもんでもあるのか?それだとしたら一旦直した方がいいんじゃねえか?俺はコンパが言った言葉の意味が分からず不安になる。

 

「すぐにわかるわ。とにかく入りましょう」

 

「お、おう・・・」

 

アイエフに促され、俺はとりあえずドアノブに手をかけてドアを開けた。

教会の中に入って、まずは人がいるかもしれないから前を確認。まだ人はいなかった。

人がいないことを確認して、俺は一度上を見る。何かが少しずつ近づいてくるのが分かる。

そして、それがはっきりと見えてくると俺は近づいてきているものを見て焦る。

 

「うおぉっ!?」

 

俺の眼前に迫ってきているものは分厚い本だった。俺は慌ててそれを両腕を使って白刃取りのようにキャッチした。

危ねえ・・・もう少しで意識が飛ぶところだった・・・。

 

「ね?言ったでしょ?上に気をつけろって」

 

「だ・・・誰がこんな質の悪いことをやるんだ・・・?」

 

「大体予想はつく・・・というより、そんなことをやる子がルウィーには一人しかいないですぅ」

 

コンパ・・・それ笑顔で言うことじゃねえよ。つか、笑顔で言われて余計に怖えよ・・・。

俺は本の分厚さに啞然としてたため、即座に声を出してツッコむことはできなかった。

 

「あれぇ?ミナちゃんかと思ったら違う人だったぁ・・・」

 

「違う人だった・・・」

 

上から声が聞こえ、ぱたぱたとした足音が二つ聞こえてくる。

そして、少しすると目の前にあった階段から一人の幼い女の子が降りてきて、それに遅れる形でもう一人の女の子が降りてきた。

 

「あっ、誰かと思ったらラグナさんたちだー・・・って、ラグナさん右腕動くようになったの!?すごーい!」

 

「っ・・・ホントだ・・・右腕が動いてる・・・(おろおろ)」

 

俺の右腕が動いてるところを見るや、ピンクと白を基調にした防寒着に、帽子を被っている薄茶色の髪を伸ばしてる幼い女の子、ラムがはしゃぐように反応をする。

それに対して、薄茶色のショートヘアーをして、ラムと同じ格好をしているが、ピンク色の部分を水色に変えた格好をしているロムは、ラムと対照的に一歩後ろに下がって少し怯えてる。

 

「そっか・・・ロムはまだ馴れねえか・・・」

 

「大丈夫だよロムちゃん。ラグナさん、『いい人』だから」

 

どうやら俺が『死神』と呼ばれていたことを話した時から少し怯え気味らしい。俺は右手を使って頭を掻いた。

あの時は正直に話すしか無かったとは言え、少し申し訳ないことをしたなと思う。

その分、今は関係ないと言わんばかりに普通に接するラムを見ると少し安心する。ラムはすんなり俺を『一人の人間』として受け入れてくれたみたいだ。

しかし・・・『いい人』って聞くとタオのことを思い出すな・・・。

あいつ、新しい世界じゃ何やってんだろ?また腹すかせて倒れたりはしてねえよな・・・?もう肉まんは奢ってやれないからな。自分で何とかしろよ?

 

「ん?ラグナ、どうかしたの?」

 

「別に。ちょっと向こうにいたやつのことを思い出してな・・・」

 

「どうやら無事に到着したみたいね」

 

アイエフに聞かれて俺は思考を現実に戻す。

そこに俺たちが話してたのが聞こえたのか、奥の部屋からブランが出て来ていた。

ブランは薄茶色のショートヘアーに白い帽子、それに白いワンピースみたいな格好をしている少女だ。

だが・・・ルウィーがそんなに寒くないとは言え、何で雪国でそんなに格好してられんだ?肩は出てるし、脚に至ってはほとんど出てるし・・・。マジで平気なのか?ブラン?

 

「おう。ちょうど今だがな」

 

「皆さんいらっしゃいませ。それとすみません・・・

本当は案内だけで済むはずでしたが、この二人がついていくと言って聞かないので・・・」

 

「大丈夫ですよ。そのために私たちが来たんですから」

 

ミナもブランの後からやって来て、挨拶と謝罪をする。なんでも、本当はブランと俺だけでルウィーを回らせるつもりが、ロムとラムがついていくと言って聞かないんだそうな。

ちびっ子の面倒見る教祖って大変だな・・・俺らも最初はこんな感じでシスターに迷惑かけてたのだろうか?いや、よそう。シスターは俺たちを安心させてやりたかったんだから・・・。

 

「すみません。本当にありがとうございます」

 

ミナはそう言って頭を下げる。こんなに普通な雰囲気纏ってる教祖は初めてみたぞ・・・。

イストワールはなんか性格に見た目が追いついてないし、ケイは仕事命みたいな印象を受けるし、チカはもう格好が危ない店の人みたいな感じだし・・・。

 

「それでは皆さん、私はこれで」

 

そう言ってミナは一つお辞儀をしてから奥の部屋に戻って言った。ミナは仕事に戻るようだ。

 

「ええ。また後でね・・・さて、ここで話しているのももったいないし、スケジュールの確認をするわ。

まず、ロムとラムの面倒を見ながらまずは周りを見て回る。その後は図書館へ言くわよ」

 

「わかったですぅ♪」

 

ブランが今日の俺たちの行動を教えてくれる。ちなみにここで言う図書館は『世界虚空情報統制機構(図書館)』ではない。

これは統制機構があの世界にある魔導『書』の殆どを独占管理してることが気に食わない、もしくは統制機構に反発してるやつらの呼び方だ。

もちろん、サヤを利用して実験をされてた以上、俺も反発していた人間に入る。関係ない一般兵士のやつらには悪いがな。

 

「・・・?ラグナ、あなたどうかしたの?」

 

「え・・・?ああ、悪いな。ちょっと『図書館』って単語にいい思い出がなくてな・・・」

 

ブランに聞かれ、俺は慌てて思考を現実に戻す。よせよせ。もうサヤは助けたし、こっちに統制機構はいねえからな。

全く、せっかく新しい生活したんだから、つまんねえ考えはよそう。

 

「そうだったのね・・・。さて、時間がもったいないからそろそろ行きましょうか」

 

「はーい!」

 

ブランの促しにラムが真っ先に反応する。俺たちは教会を後にする・・・かと思えばそうは行かなかった。

 

「っと・・・その前にラム。あなたはその本を戻して来なさい」

 

「はーい。あ、ラグナさん。持たせっぱなしでごめんね」

 

「そうだったな・・・。ほら、ちゃんと戻して来いよ?」

 

ブランに言われ、ラムは俺から本を受け取る。

 

「うん!・・・ってあれ?ロムちゃん。この本どこに置いてあったっけ?」

 

「こっちだよラムちゃん。ついてきて(きりっ)」

 

「うん!」

 

ラムはロムと階段をさっき降りてきた階段を登って本を戻しに行った。つか、俺もついさっきまで本のことを忘れてた・・・。

そして、俺たちが教会から出たのは5分後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

俺はルウィーの色んな場所を案内してもらいながらみんなとルウィーの街並みを歩いていた。

その歩いてる途中、俺たちの視界に建設中の施設が入った。

 

「あれはなんだ・・・?」

 

「あれは近いうちに新しく出来上がる遊園地みたいなものよ」

 

「なるほどねぇ・・・」

 

建設中って聞くとカグツチを思い出すな・・・。あそこはまだ『未完成都市』だったからな・・・。

 

「早く行きたいね、ロムちゃん!」

 

「うん。わたしも楽しみ♪」

 

ロムとラムは顔を見合わせて笑顔になる。よっぽど楽しみにしているんだろうな。

本当に仲のいい双子だと思うと同時に、ジンとサヤが双子だったら俺らの教会での生活はどうなってたんだろうかと考える。

『あの日』の惨劇は俺が『サヤの方が小さいから我慢しろ』と言わんばかりにサヤに構うあまり、ジンの不満に気づけなかったからなんだろうか?

そうだったとしたら、あいつらが双子の場合、俺は同じくらいにあの二人に構ってやれたろうか?

確かに俺はサヤの方を優先してたが、それはサヤが病弱だったのが大きいし、仮に双子だったとしてもサヤの方が病弱なら結局変わらないんじゃねえか?

 

「ラグナ・・・アンタ本当に大丈夫?なんか難しい顔が増えてるわよ?」

 

俺の表情に気づいたアイエフが不安になって訊いてくる。どうやら顔に出てたみたいだ。

ああ・・・なんかダメだな今日。ルウィー(こっち)に来てから昔のことばっかり思い出しちまう。

 

「何か悩んでることがあったら話してほしいです。話すだけでも変わるですよ?」

 

「わりい・・・ちょっと、弟と妹のことを思い出してな・・・。

シスターに会うまで・・・親がいなかった俺たちの中で一番上だったのは俺だったから、それまであいつらが頼れるのは俺しかいなかったんだ・・・。

しかも妹の方が病弱だったのもあって、妹の方ばっかり相手してたら、弟の方が疎かになってたんだ・・・。

あいつらがケンカしたら妹の方・・・。そのせいで弟の方は俺と妹に不満を溜めこんじまった・・・。

だから・・・あの二人が仲良くしてんのを見てたら・・・俺は兄貴としての役割を全うし切れて無かったんじゃないかって思うんだ。」

 

こうまで心配されたら話した方が楽だろう。コンパにも促され、俺は話して見ることにした。

思い返して見ると、ジンに兄貴らしいことしてやれて無かったんだな・・・俺。我ながらに情けねえ・・・。

 

「ラグナ・・・貴方・・・」

 

俺の話を聞いたブランは何って声をかければいいかわからない顔をしていた。

ああ・・・ちょっと不安にさせちまったかな?

 

「ブラン・・・お前は妹二人を大切にな・・・。俺みたいにはならないでくれ・・・。

これは・・・ちょっとしたことって後回しにしたら、取り返しのつかないことになっちまった・・・三人兄妹のバカな兄貴の願いだ」

 

俺はブランの左肩に右手を置いてそういう。

多分、この世界に来て、俺の事情を話してから久しぶりにこんな真剣な顔をしただろう。

 

「うん・・・わかった。あの二人はちゃんと護るし、面倒もみるわ」

 

ブランはそう言って穏やかな顔を見せた。俺はそれを見てこいつなら大丈夫だと安心できた。

 

「あれぇ?ラグナさん、どうしたのー?まさか、お姉ちゃんに告白したのー!?」

 

「したの・・・??」

 

「えっ?いや、そんなことじゃないよ・・・」

 

ロムとラムに聞かれて、俺はブランから手を離し、二人の元まで歩み寄って、二人の頭に帽子越しで手を置いた。

 

「ひぅっ・・・(びくっ)」

 

ロムは一瞬怯えた反応をする。まだ警戒は解かれてねえか・・・。ブランは「早く馴れるように」とは言ってるらしいが・・・。

何というか、この辺は「月が落ちてくる」だとか言って泣いてたガキの頃のジンみたいだな。俺は懐かしく感じた。

 

「大丈夫だとは思うけど・・・お前らはちゃんと仲良くしろよ」

 

「「・・・・・・」」

 

俺が優しめな顔で頭を軽く撫でると二人は一瞬固まる。そして・・・。

 

「うん!わたし、ロムちゃんと仲良くする!」

 

「うん・・・♪わたしもラムちゃんと仲良くする♪」

 

二人は笑顔になってそれぞれの反応をした。

それを見て俺は安心できた。ブランにはああ頼んだけど、俺もできることをしていこう。悩んでたら手伝おう。

ブランがこの二人を『護る』のであれば、俺はそれを手伝おう。そう思うのだった。

 

「さて・・・ラグナ、もう気は済んだかしら?」

 

「ああ。心配かけて悪かったな。なんか話せてすっきりしたよ」

 

「・・・それは良かったわ。じゃあ、そろそろ次に行きましょうか」

 

「はーい!」

 

「はーい・・・♪」

 

ブランに促され、俺たちは次の場所に向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

俺たちは一通り回り終わり、今は図書館にいる。俺がこの世界の歴史や文化を学びたいと言ったからだ。

ルウィーの図書館は他の国以上に規模が大きく、大体の本が揃っていると言う。

ブランは「自分の読書好きが出たのかも」と言っていた。

 

「すげえ規模だな・・・」

 

「ここがゲイムギョウ界数ある図書館の中でも・・・一番多いわね」

 

俺はその施設の大きさに感嘆する。ブランが一番でかいと言うなら間違いないんだろうな・・・。

 

「ロム、ラム。借りたい絵本が見つかったら持ってきてね」

 

「はーい!ロムちゃん、行こ!」

 

「うん・・・♪」

 

「あっ、私は二人の様子を見て来るです」

 

ブランがそう言うと、二人は足早に絵本のある方へ向かっていく。

コンパも一言って、二人の後を追った。確かに図書館で大人数移動は良くないのは分かるが・・・。

コンパ、あの二人に追いつけるのか?あの二人妙にすばしっこいぞ?

 

「さて・・・歴史系の書物はこっちよ」

 

残った俺たちはブランに案内されてついていく。

 

「大体、この中からになるわね」

 

「な・・・なんだこの数・・・」

 

「図書館がでかいとこうなるのよね・・・」

 

歴史系の本棚を見てみると厚い本だらけだった。酷いとこれ何ページあるんだと言いたくなるような本もあった。

しかも届かないだろうからと言わんばかりに専用の階段っぽいのもあるし・・・。

その大きさを見てアイエフは頭を抑え、俺は呆然しながらも本を探し始める。

 

「ん・・・?これは・・・?」

 

探している内に、俺は一つ気になる本を見つけた。

タイトルは『ゲイムギョウ界とゲームの発展』と書かれていた。

歴史系の書物の中でも比較的薄かったので、とりあえず手に取ってみた。

 

「どう?見つかった?」

 

「ああ。とりあえず一冊だが・・・」

 

「そう。これは私からのお勧めよ」

 

そう言ってブランは俺に三冊程本を渡してくれた。

タイトルはそれぞれ、『ゲイムギョウ界各国の発展歴史』、『ゲイムギョウ界と女神』、『女神達の道』とあった。

 

「おお。助かる」

 

「貴方がそれを手にしていたのは意外だったわ・・・。それも勧めようと思ってたから・・・」

 

「取ったのが偶然これだったってわけか・・・」

 

実際のところ、俺は殆どの娯楽に振れたことが無い。それに対して、ゲイムギョウ界は娯楽が多い世界だ。

それなら尚更学ぶべきだと思って取ったのだが、ブランが勧めようとしてたんだし、良いのを選んだんだろうな。

俺たちは一度、図書館の真ん中にあるテーブルの、絵本が置かれてる場所に最も近い場所にある椅子に座ることにした。

 

「さて・・・読んでみるか・・・」

 

俺はまず初めに女神のことを知ろうと『ゲイムギョウ界と女神』を読み始める。

距離的に借りられないし、ロムとラムを待たせるわけにもいかないから、最も大事なところに絞って読み進めることにした。

その本には『女神は人々の信仰に寄って獲得できるシェアを、土地に還元する形で発展させる。

信仰によって手に入れた力を振るい、人々を護る存在である』と書かれていた。

また、『女神のシェアは人々から得ている信頼の証』とも記述されていた。

 

「(なるほど・・・超常的な能力はあるけど、信頼関係があってこそなんだな・・・)」

 

裏を返せば信頼関係がなきゃただの女の子になっちまうってことだな。

だから女神にシェアは大事なんだな。それで、俺が来るまでは互いに争うこともあったと・・・。

こりゃ一歩間違えたら俺のいた世界どころか、それ以上に荒れた世界になってたんだろうか・・・。

まあとにかく争いがなくなってなによりだ。そう思いながら俺は本を読み終え、次は『ゲイムギョウ界各国の発展歴史』を読むことにした。

 

「あっ、おねえちゃん。借りたい絵本決まったよ」

 

「決まった・・・(にっこり)」

 

「決まったのね。じゃあ出しに行きましょう。二人とも、ちょっと行ってくるわね」

 

「おう」

 

ブランの言葉に対して、適当な返事をしてそのまま読み進める。

コンパとアイエフが話しているが、集中してて全く耳に入って来なかった。

本題だが、読み進めると各国の状況が分かってきた。ザックリまとめるとこんな感じか。

 

プラネテューヌは全体的に高度な技術力を誇り、他国と比べ各施設の進化が早い。

浮遊する足場はプラネテューヌのみが完成させている。

ただし、国の規模の広さか、女神と技術者の思考が斜め上に行ってるのか、新しい物が増える割に、防衛系に関しては進歩が遅い。

しかし、それが理由で大人しいモンスターがプラネテューヌ内でのんびり過ごす姿を目撃できることがある。

後述になるが、この高い技術力が他国の助けになったこともある。

 

ラステイションは各国の平均とも呼べるような進化具合だった。

工業に関しては非常に早い段階で生産ラインを確立していたり、改良に余念がないなど、一日の長がある。

ただし、排気が多く、環境は各国の中でも非常に悪かったが、プラネテューヌから来た技術者のおかげで改善されている。

環境が改善された今は工業を筆頭に多方面かつ、安定した技術力を持つ。

 

ルウィーは魔法とかなり密接的な国で、伝統を守ると言う影響もあるのか、他国と比べて進化は少なめだった。

魔法のおかげで殆ど補い切れてるとも言える状態だった。

技術に関してはルウィーが他国より比較的寒い環境であるため、それに対応した物が多い。

 

リーンボックスは主に娯楽と軍事力が中心に伸びている。他国と離れているためか、他国の技術を使う機会が少なめ。

和平が結ばれたため、これからは軍事関係の伸びは減り、これからは娯楽を中心にすると推測される。

国内の自然が非常に多いのが特徴で、環境は非常に良い状態が保たれている。

他国の民が中々これないため、その対策にアイドルを用意している。

 

各国ごとに色んな特徴があるのがよくわかった。

これはまとめた感じ、『未来的』なプラネテューヌ。『現代的』なラステイション。『伝統的』なルウィー。『独自的』なリーンボックスと言ったところか。

今度自分でゆっくりと各国を回ろう。そう思いながら読み終え、次は『ゲイムギョウ界とゲームの発展』を読む。

 

「(そういやゲームに触れたことは無かったな・・・)」

 

そんなことを思いながら読み始める。家庭用、アーケード、携帯用と様々だ。

家庭用は現代のゲームはゲーム機ことハードと、そのハードで使うディスクのソフトがあればできるらしいな・・・。後はちゃんとケーブル繋ぐ場所。

アーケードはゲームセンターに置いてある、お金を入れてプレイするタイプ。

んで、携帯用は家庭用と似てるけど外に持ち運んで遊べる、バッテリー式だから、充電をする必要があるか・・・。

なんでそんな所から学ぶのかって?しょうがねえだろ・・・俺、こういうの見ないで生活してたんだし・・・。

今は当たり前のようにできるが、最初期の頃はソフトの入れ替えすら出来なかったんだそうな。

んで、その後は各国でそれぞれの発展を見せたらしい。ゲームの制作もシェアに関わるってんだから大変だ。

ハードの傾向を見るとラステイションが一番現実的なのは気のせいだろうか・・・?

プラネテューヌは突発的に特徴的なのが出てきたりするし、ルウィーはソフトがコストのかかるタイプを使うからそこで勿体無い経費が増えやすかったり・・・。

リーンボックスは大型な物が多くて収納が大変だとか・・・。どの国もどの国だな・・・。

 

「(・・・今度何か買ってやってみるか)」

 

住むところが決まったらその国のハードを買おう。読み終えると同時にそう決め、最後の『女神達の道』を読み始める。

 

「(そういや、こないだまで和平を結んで無かったんだよな・・・)」

 

大丈夫だったのだろうかと不安になりながらも俺は読み始める。

最初は女神は一人きりだったんだそうだが、途中から女神が四人体制になったみたいだ。

最初こそ仲が良かったものの途中から仲が悪くなって、時々争いが起きてたみたいだ。

んで、最後は今いる四人がこのままではダメだと思って和平を結んだってことか。

気づいたのはネプテューヌだろうか?なんとなくだがそんな気がした。

和平が結ばれる前から候補生のみんなは仲が良かったのが分かって安心もした。

せっかくできた平和なんだ俺もあいつらと一緒に護りたい。そう思うのだった。

 

「あのー・・・お客様」

 

「・・・ん?」

 

本を読むのに夢中になっていたら、一人の女性に声をかけられた。

ここの役員とかだろうか。

 

「俺・・・だよな?」

 

「はい。大変申し訳ございません。本日、閉館のお時間になったのですが・・・。

何かお借りして行くものはございますか?今の内でしたら受け付けますが・・・」

 

俺が確認のために聞くと俺に用があるのは本当だった。内容は閉館のお知らせだった。

まあ、また来れるかわかんねえから借りるのはよそう。

そこで俺は一つ気がついた。

 

「・・・マジで?もうそんな時間!?」

 

「本当よ・・・貴方、私たちが声をかけても気づかなかったもの・・・」

 

「凄く集中してたから、ちょっと声をかけづらかったですぅ・・・」

 

俺がビックリして聞くと、ブランとコンパが苦笑交じりに答えた。

なんかすげえ申し訳なく感じた。

 

「ああ・・・今回はいいや。またいつ来れるかわかんないし」

 

「わかりました。あっ、本の整理はこちらでやっておきますのでお構いなく」

 

「悪ぃな。助かる」

 

俺は役員の人に本を渡す。

 

「さて・・・じゃあ帰りましょうか」

 

ブランに促され、俺たちはこの場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「なんか悪ぃな・・・今日は色々手間をかけさせて・・・」

 

「それなら大丈夫よ。二人も楽しんでたから」

 

ルウィーの教会前で、俺たちは別れの挨拶を済ませていた。

 

「次にあう時は、ラグナさんの右目が治ってるといいね!」

 

「治るかな・・・?(じろじろ)」

 

「あ、あんまり期待しないでくれ・・・期待に応えられるかわかんねえ・・・」

 

ちびっ子二人に見つめられ、俺は降参のポーズを取った。

 

「まだどうして右目が動かないかはわからないものね・・・」

 

「プラネテューヌの方でもまだわからないから、いつになるかわからないですね・・・」

 

実のところ、俺の右目が動かない理由が全く分からない状態だった。

右腕があっさり動いたから右目もってわけにはいかないらしい。ちなみに右腕が動くようになった理由も不明だ。

 

「まあ、なるべく善処はするさ。治ったらいいなくらいに思っててくれ」

 

「そうするわ・・・さて、そろそろ日が暮れるしこの辺にしましょうか」

 

「そうするか・・・じゃあなお前ら、また来るからな」

 

「はーい!またねー!」

 

「またね・・・♪」

 

俺たちはルウィーの姉妹に見送られてこの場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

俺たちはラステイションを抜けてプラネテューヌへ続く道を歩いている。時刻はもうすっかり夜だった。

 

「ラグナ、もう大丈夫?」

 

やはりと言うか、あれだけ顔に出てたのでアイエフが心配してくる。

 

「ああ、もう大丈夫だ。話してみてスッキリしたよ。心配かけて悪かったな」

 

「そう・・・それなら良かったわ」

 

「何かあったら、今度は早めに相談するですよ?私たちで良ければ、お話し聞くですから」

 

「悪いな。二人とも・・・」

 

今回は何かと申し訳ないことが多かった。次はこんなことにならんようにしないとな・・・。

ジンは何してんだろ?大勢の人を上手く導けてるのか?まあ、カグラたちがいるなら平気だろう。そう思うとまた気が楽になった。

 

「・・・アンタが向こうでどんな風に生きてたかは大雑把にしかわかんないけどさ。

こっちでは『リハビリ中の旅人』も同然なんだから、抱えすぎないで少しは気楽に生きてみなさいよ。

あの時、自分を改めたいって言ったでしょ?」

 

「ああ・・・そうだったな・・・」

 

俺はなんだか許された気分になった。

今までサヤを助けるために散々悪事を働いた俺も、異世界に来れば変わるんだな・・・。

少しだけ憑き物が落ちたかのような感覚がした。

 

「俺は殆ど頼れるやつがいなかったから、今日改めて思知ったよ・・・。

頼れる人の大切さとそのありがたさをさ・・・」

 

頼れるのはシスターや師匠くらい。

そのシスターは死んじまって、師匠とは基本的に離れて行動してたから、碌に他人に頼る機会なんてものが無かったのが原因なんだろうな・・・。

 

「はい。よく言えましたっと・・・。そういうわけでこれからはもう少し頼ることを覚えなさいよね?」

 

「お、おう・・・」

 

アイエフがさりげなくウインクしてきたので俺はビックリした。

なんか絵面的に違和感ねえか?150センチくらいの女の子から180超えの野郎が振り回されるって・・・。

普通身長差20センチ以内とかじゃないの?こう言う絵面って・・・。

 

「なんだか、アイちゃんがお姉さんみたいですぅ」

 

コンパはいつものマイペースな口調で言う。

・・・姉っているとどんな感じなんだろう?セリカに聞いてみるか・・・って何を考えてるんだ俺は!?

自分の思考にビックリして心の中で首を左右に振った。

 

「弟かぁ・・・それにしすぎてはちょっと大きすぎるけどね・・・」

 

「えっ?ちょっと待て。何でそんなノリノリなの?」

 

「でも、たまにアニメやゲームでも、上の身内よりも背の高い下の子とかいるから、そんなに問題なさそうですね」

 

「あぁ・・・それが姉と弟だと低身長をからかわれる姉か、低身長に見合わぬ振り回しを食らう弟かになるわね・・・。ちょっと面白そうかも」

 

「いやいや待てって!一体何の話だそれ!?」

 

コンパの言葉に乗るアイエフと、二人の会話についていけなくなる俺。なんつーかすげえシュールな感じだ・・・。

 

「えぇ?ラグナ、もしかして今までテレビ見てなかったの?」

 

「向こうでの俺のこと話しただろうがぁぁぁっ!!」

 

たまらず絶叫を上げるようにツッコむ。こんな感じで、俺は少しずつゲイムギョウ界に馴染み始めていた。




ちびっ子二人。一年中雪。『いい人』という言い方。『図書館』・・・。
と今回はラグナが自分のことを振り返る要素多かったですね。

蒼炎の書が再起動できたら本編に入るので、ギャグ系の展開を増やせそうです。

本の内容は上手く書けなかったよ・・・orz

今現在ブレイブルー側から誰かキャラを出そうか?ラグナは誰かとカップリングさせるかどうかを悩んでたりします。


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6話 ラグナ、リーンボックスへ

ラグナの各国ツアーはこれで一区切りです。

追記:ブレイブルー側からテルミを出して欲しいとのご意見がありましたので、この場を借りて感謝の意を述べさせていただきます。

ご指摘受けたので一部改稿。なるべく早く直そうと思うので、もしここおかしいというところがありましたら、遠慮なく言ってください。
最後に、ご指摘ありがとうございます。


「船旅なんて久しぶりだな・・・」

 

俺はネプテューヌと共にラステイションから出ている船でリーンボックスに移動していた。

しばらくは船の上なので、景色を眺めるくらいしかすることがなかった。

だけど、純粋な船旅ができるので俺は満喫することにした。

 

「やっぱり船旅っていいよね~。こう、風を感じるっていうかさー」

 

「それは違いねえな」

 

船旅を楽しみながらネプテューヌの言葉に同意する。

一面に広がる海と青空。優しく吹き付ける風・・・。

前は蒼の魔導書の使い方を考えるための旅だったのもあってそんなに楽しめなかったけど、今回は新しい場所に行って文化に触れるためだから普通に楽しむことができた。

ちなみに、ネプテューヌが同行してるのはこんな理由があった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ああー・・・そう言えばやったことないみたいなこと言ってたね・・・。

なら、今回ラグナも連れてくる?リーンボックスに行くついでって言えば来てもらえるかも」

 

「何の話しをしてたんだ?」

 

「おおっ、丁度いいところに!実は今からベールに会いにリーンボックスに行くんだけど、ラグナも来る?

リーンボックスの景色とか見るついでに、私たちでゲームのことを教えたいと思うんだけど・・・」

 

今朝、ネプテューヌの楽しそうな話し声が聞こえたのと、そのネプテューヌから俺の名前が聞こえたので訊いてみたのが事の始まりだった。

リーンボックスに来るから俺もどうかと訊かれた。ついでにゲームのことも教えたいときた。

確かにゲームに触れたことはないからいい機会だし、リーンボックスだけまだ行ったことがなかったな。

 

「そうだな。せっかくだし、同行させてもらうわ」

 

「おっけー!そういうことだからベール、また後でね!」

 

「はい。二人とも、お待ちしておりますわ」

 

俺は何も断る理由がなく、自分もいきたいと思っていたから共に行くことにした。

そうするとモニター越しで話していた金髪を綺麗におろし、緑と白を基調としたドレスを着ている美女、ベールが笑顔で歓迎を伝える。

そうしてネプテューヌとベールは通信を終える。

見た目だけで言えば最も女神らしいだろう。俺も四人で誰が女神というイメージ像に近いかと言われたらベールだ。

 

「じゃあ、準備ができたらプラネタワー前に再集合しよう!」

 

「わかった。んじゃあまた後でな」

 

俺たちはお互いの準備に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

そして今、船旅が始まってからいくらか時間が経った位のところだ。

俺は船の手すりに背中を預けた状態、ネプテューヌは手すりから少し乗り出した状態で風に吹かれていた。

船旅と言えば、暗黒大戦時代に飛ばされた時に一緒にいたセリカのことを思い出す。

親父さんを探しに行くってのにすげえ方向音痴で、途中で当時の師匠がいなかったら間違いなく遭難してたレベルに酷かったからな・・・。アレには相当振り回された。

だけど、姉のナインの「あいつはクズ」って切り捨てるような発言にも「どんなことがあっても大切な家族であることは変わらない」って返せるくらいに芯の強いやつだった。

他にも、傷ついてる人がいると放って置けないくらいなお人よしだった。それは野生の生き物だって変わらなかった。自分を襲った野犬相手にも、正気に戻ったと見るやすぐに治療してやるくらいだったからな・・・。

そういや、俺の蒼炎の書を『護るため』に使うことを提案してくれたのは・・・『居ない筈の者(クロノファンタズマ)』として俺のいた時代で、第二の人生を歩んでいたあいつだったな・・・。

あいつは俺に大切なものをくれた。これからも大切にしていこう。

 

「おーい、ラグナーっ!」

 

「うおっ!?なんだよ耳元でいきなり・・・」

 

俺はネプテューヌのデカい声で現実に引き戻された。

チクショウ・・・珍しく良かったと思えるモン思い出してたってのに・・・。

 

「いやぁ・・・また難しい考え事してるんじゃないかと思ってつい・・・。

って、違う!もうーっ、一対一で話してるのに考え事に走るなんて酷いよ!ラグナが主人公だったら鈍感キャラ確定だよ!」

 

「わ・・・悪かったな・・・。つか、鈍感キャラってなんだよ・・・」

 

割とひでえことをしてたので俺は素直に謝る。

・・・鈍感キャラってなんだ?後、俺一応向こうでは主人公だったみてえだぞ?

そういや、前に『名ばかり主人公』とか言われたっけ?こんな時にどっかの記憶に眠る『強敵(とも)島』に恨みを抱いた。

 

「あぁ・・・そうだよね。そういうのわかんないんだったよね・・・。

でもいきなりギャルゲーじゃあゲームの認識がずれるかな・・・」

 

「・・・その辺は任せるわ・・・」

 

「まぁ、その辺はベールと合流できてからだねー」

 

俺はネプテューヌの話してることがわかんなくなって降参の体制に入る。

正直なところネプテューヌのテンションの高さに馴れきってないことと、この世界の知識が足りないことを補えば、ネプテューヌとの会話はもう少し弾むだろう。

ネプテューヌ自身が明るい空気を作りやすい存在なんだろうな。話してて皆に明るい時間を届けられる才能が羨ましく思えた。

それは紛れもない、あいつの特権とも言えるものだった。

 

「あっ!リーンボックスが見えてきたよ!」

 

「あれがリーンボックスか・・・」

 

ネプテューヌが指さした方を見ると、リーンボックスが近づいていた。

俺は新しい国を見て、心を躍らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ・・・教会に行かなくていいのか?」

 

「ああ・・・そのことか。実は今日、リーンボックスで新作ゲームが出てるから、ベールが買いに行ってるんだよ」

 

「(・・・イメージと全然違うな・・・)」

 

俺はリーンボックスに着くや否、早くもベールが俺のイメージと全然違うことを思い知った。

うーん・・・何というか、ベールはもっと違った趣味してると思ったんだけどなぁ・・・。

花を愛でるとかそんなことなく重度のゲーマーだったとはな・・・。

正直今回一番驚いていると思う。ブランが読書だったのはすんなり呑み込めた。ノワールはまだ解ってねえけど何の趣味してんだろ?

上手く聞けなかったし、今度チャンス見つけて聞こうか。

 

「着いた着いた~。ここだよ、ベールが普段来てるゲーム屋さん!」

 

「ここか・・・」

 

俺はネプテューヌに案内されながらゲームショップに着いた。

店の入り口の近くでは近頃発売されるゲームのPVと呼ばれるものがいくつか流れていた。

ネプテューヌ曰く、リーンボックスのゲームショップ内で最大の大きさを誇るらしく、リーンボックス系のゲームの大体は揃ってるそうだ。

流石に中古は専門店だろう・・・とか思ったらここはある程度あるらしい。すげえなこの店。

俺はどれから始めりゃいいんだろ?多分今日は参考に色々と教えてもらえるだろう。

 

「今度プラネテューヌの方も寄ってみるか」

 

「そう言ってくれると嬉しいよ。

さて、とりあえず入ろうか。この様子だとベールはまだ並んでるかもだし」

 

俺はネプテューヌについていく形で店の中に入って行った。

 

「おお・・・」

 

入ってすぐ目に映ったのは、ゲームのパッケージがずらりと並んでる複数の棚だった。

あんなにあるのかよ・・・。俺は呆然としながら見ていた。ちなみに店内にも発売したばかりのゲームのためにPVが流れていた。

どんだけ売り込むんだろ?それくらいしないとダメなもんなのか?少し考え込んでしまった。

 

「ああ・・・その気持ちわかるよー。私も最初入った時凄いビックリしたんだよ」

 

「へえ・・・お前もだったのか」

 

なんとなく、入って早々に「おおーっ、すげーっ!」とかって興奮するネプテューヌが簡単に想像できてしまった。

それだけネプテューヌは分かりやすい人物だった。

 

「さて・・・今日は確か・・・。うん!このゲームならこっちだね。ついてきて!」

 

ネプテューヌが店内にあるチラシと、各階に置かれているジャンルを確認して歩き出す。

俺もそれについていく。階段を2、3階分登ったところで・・・。

 

「お・・・」

 

「あら・・・」

 

「あっ・・・」

 

声を発した順番は俺、ベール、ネプテューヌの順番だ。

何があったかって言うと、俺たちがベールに合流するために階段登ってたら、ベールがゲームを買い終えて俺たちに合流しようとしてたらバッタリ出くわしたわけだ。

 

「あら。お二人ともいらしてたんですね」

 

「うん。丁度来たところだけどね。その様子だとゲームは買い終わった感じかな?」

 

一瞬固まってから、一番最初に開口したのはベールだった。それに対して、返事をしたのはネプテューヌだった。

俺もその間に硬直からは立て直した。

 

「はい。丁度買い終わったところですし、早速参りましょうか」

 

「ああ。そうしよう」

 

俺たちは階段を降り始める。俺とネプテューヌに至っては、登ったばっかりだってのにすぐに降りることになるのだった・・・。

 

「(馴れてはいるが・・・めんどくせえなぁ・・・)」

 

俺は降りてる最中にそう思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ん?ありゃなんだ?」

 

俺は教会に向かう途中一つのデカい会場に目が行った。

 

「そちらは国でイベント会場用に用意されてる施設ですわ。

リーンボックスを中心に活動してる5pb.ちゃんも、よくここでライブを開催してくれてますわ」

 

「なるほどねぇ・・・」

 

5pb.・・・。一応話は聞いてたが、ゲイムギョウ界では大人気のアイドルらしい。

リーンボックスを中心に活動してて、この国では結構な頻度でライブを行うそうだ。

そういや、俺の世界はとことん娯楽が不足していたな・・・。もしカグラに会った時は話してみるか。

時代劇以外にも大勢で楽しめるものが増えるはずだ。

 

「(どんな感じなんだろうな・・・)」

 

時代劇は見に行ったことないからどんな感じかはわかんねえけど、きっとみんなが楽しめる。そんな確信はあった。

俺はライブを見るのが楽しみになっていた。

 

「今度ライブある日は教えてもらえるか?行けそうなら行くわ」

 

「はい。そういうことでしたら後ほど連絡させていただきますわね」

 

そんなこともあってか、俺はベールに訊いてみた。そしたら連絡をするという形で応じてもらえた。

ダメ元でも訊いてみるって意外とアリなんだな。

 

「ライブ行くならサイリウムとうちわを忘れずにね!」

 

「・・・サイリウム?うちわ?」

 

何のこと言ってんだこいつは?まずサイリウムなんて聞いたことねえよ・・・。後うちわも。

異世界であることを忘れた訳じゃねえが、この二つはマジでわかんなかった。

 

「・・・もしかしてだけど・・・ラグナの世界には二つとも無かったの?」

 

「ああ・・・いらなくなったから廃れた可能性もあるが・・・」

 

「まぁ・・・ゲームどころか、娯楽が不足しすぎてますわ・・・。

私、そんな世界ではやっていける気がしませんわ・・・」

 

ネプテューヌの問いに答えると、ベールが嘆く。

ああ・・・うん。多分ベールはあの世界じゃやってけないだろうな。多分ネプテューヌも。

そう思ってネプテューヌの方を見やると、ネプテューヌも沈み込んでだ。流石にこれはヤバい。

俺が何か酷いこと言ったんじゃないかと勘違いされかねない!

 

「ま、まあ。なんかあったとしても俺のいた世界に行くことはないだろうから、その心配はないと思うが・・・」

 

俺は慌ててフォローをする。だが、実際に異世界生活をしている俺が言っても大した説得力はないよな・・・。

何気ない一言で、相手がショックを受けるかもしれないから気をつけろってのはあるけど、こう言うことなんだな・・・。身をもって知ったよ。

 

「ま・・・マジで大丈夫?つか、そろそろ教会に戻ろう?な?な?」

 

俺はこの二人の沈み具合が心配になってひきつった顔になり始める。

そして、この二人が立ち直るのには結構時間がかかった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

俺たちは一通りリーンボックスを回り終わり、リーンボックスの教会前に来ていた。

ベールがドアを開けて入っていくので、俺たちもそれについていく形で中に入る。

 

「ベールお姉さま!お帰りなさい。そしてお二人も、いらしましたわ」

 

入ると早速、リーンボックスの教祖の箱崎チカが俺たちが来たことを歓迎してくれる。

チカは薄緑色の紙にかなり派手な格好のドレスをしている女性だ。

まあ、俺自身、向こうの世界では派手な・・・っつうより肌を多く出す格好してるやつらをよく見てたから馴れてる。

だがまあ・・・普通の人だとそれなりに目をそらしがちになるんじゃねえか?

 

「チカさん、こんにちは!いやー。やっと堂々とみんなのところに遊びにいけるよ」

 

「確かに、和平を結んだのでこれからは気楽になりますわね」

 

ああ・・・俺が和平を結んだ日に来たのもあって、今まで対立があったのを忘れてた。

ジンと一緒にいたツバキ=ヤヨイはこの和平を結んだ世界をみたら一安心するんだろうか?

まあなにがともあれ、平和は大事だよな。

そして俺は、この和平が確かなものになるために『護って』行こう。この世界で迎え入れてくれたみんなの為にも・・・。

 

「・・・っ!?」

 

そう考えた瞬間、ほんの一瞬ではあるが、俺の右目が開いた。一瞬すぎて俺以外は気づけなかったが。

 

「(右目が・・・一瞬だけ開いた・・・)」

 

ベールが「部屋にいるから紅茶を用意してほしい」とチカに頼んでいたので、チカも気づいていないだろう。

そう言えば、ラステイションで右腕が動くようになった時も『護る』に関することを思ってたな・・・。

ということは、『護る』って決意や意思が蒼炎の書再起動のカギか?今度イストワールと話してみるか。

 

「ラグナーっ!そんなところで何ボーっとしてるのー?こっちだってさ」

 

「分かった。すぐ行く」

 

俺はネプテューヌの声で思考を現実に呼び戻され、ベールが普段私事をするときの部屋に向かった。

結局、俺の右目が動いたことは誰も気づかなかったので、後回しにするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「さてと・・・まずはどちらから始めましょうか?」

 

「んー・・・ゲーム初心者なら難しい操作が多くない方がいいよね・・・」

 

「ん?買ったばかりのやつはやんなくていいのか?」

 

ベールの部屋に入ってから、ベールは早速今まで買ってあったゲームのパッケージと睨めっこしていた。

ネプテューヌもそれを手伝っている。そこで俺が疑問に思ったのは、ベールが今日買ったばかりのゲームを見てないことだった。

 

「ええ。今回買ったのは集まってやるのには向かないタイプですから・・・。

多人数対戦とは言え、オンライン専用ですから」

 

「そうなのか・・・」

 

「ああ・・・えっとね・・・」

 

オンラインとか何だとかって言われてもあんましわかんねえな・・・。

俺のゲームに関する知識がほぼゼロなことに気がついたネプテューヌが俺に簡単な説明をしてくれた。

しかもジャンルごとの簡単な説明もおまけ付きで。マジでありがたい。俺の知識はからっきしだったからな・・・。

 

「それでは、まずはこちらにしましょうか」

 

「えーっと・・・『ギョウ界電鉄』?」

 

「なるほど・・・パーティーゲームなら、右目が見えなくてもそこまで不利にはならないね!

さすがベール!」

 

どうやらこのゲームはサイコロ振ってマスを進んで目的地に向かいながら各国を回って物件を買って収益を上げる。

んで、それらの総資産で勝敗が決まるみたいだ。

操作はサイコロを振る。マスを移動する。物件買う。ルーレット止める。アイテム使う。

そんなくらいらしい。後はそこにハプニング要素も混ざってくるみたいだ。

なるほど。確かにこれなら俺も遊べるな。

俺が「これでいい」と言ったので早速三人でプレイ開始。

ベールが手慣れた操作でルールと人数を決めてる間に、俺はゲームの取り扱い取扱説明書を読み始める。めんどくせえし次から取説にしよう。

取説を読んでいる途中に、プレイ年数とやらと人数等を決め終えて、残りは名前の入力となった。

 

「あっ、そう言えばこのゲーム。名前入力は4文字までだったね・・・。

なんてこった!『ネプテューヌ』って打とうとしても『ネプテュ』までしか入らない!」

 

「まあ・・・。久しぶりなので忘れてましたわ・・・」

 

「うーん・・・だったらこうしよう!」

 

ネプテューヌは自分が女神になった時の名、パープルハートにちなんでか『パープル』と名前を打った。

それに合わせて、ベールも自分の名前まんまから『グリーン』に名前を変える。

俺は『ラグナ』と打とうとはしていたが、この流れでは無理だろう。

 

「皆さん。紅茶が入りましたわよ」

 

「ありがとう。チカ。いただきますわね」

 

ならどうする?そんなタイミングでチカが用意していた紅茶を持ってきてくれた。チカは仕事があるのか、一度お辞儀をしてから部屋を後にした。

俺は置かれた紅茶を早速飲んでみる。

 

「(美味いな・・・。何らかのこだわりでもあるのか・・・?)」

 

紅茶を飲んで、俺はアルカード家でご馳走になった紅茶を思い出す。ヴァルケンハインのじーさんに教えてやりたいもんだが、それはもうかなわねえよな・・・。

気を取り直してゲームの方に思考を戻す。俺は悩んだ末、自分の使っている剣とコートが師匠の盟友である『ブラッドエッジ』のものである言われたことにちなんで、『ブラッド』と打つことにした。

 

「ラグナはどうして『ブラッド』にしたの?」

 

「俺のこの剣とコートが元々『ブラッドエッジ』って人のものだったから、そこから名前を取らせてもらった」

 

ネプテューヌにこのネームにした理由を聞かれたので簡単に答える。

一応聞いた話では俺とほとんど体格とかが同じなんだそうだ。実際のところ俺も使ってて違和感は一切なかった。

それもそのはずだ。『ブラッドエッジ』は暗黒大戦時代に行ってた俺なんだからな・・・。

・・・アレ?変だな。俺『ブラッドエッジ』なんて名乗った覚えねえぞ?何をどうしたらそう伝わったんだ?

 

「へぇ・・・。なんでそんな危なっかしそうな名前してるんだろ?」

 

「俺に聞くなよ・・・」

 

正直そんなこと聞かれても困る。答えようがない。

あの時俺は『ラグナ』ってしか名乗って無かったはずなんだが・・・。

・・・そうか。思い出した・・・師匠に「改めて名前を聞かせてくれって言われた」ときに「『ブラッドエッジ』・・・『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』」って名乗ってたわ・・・。何でこれ忘れてたんだろ?

そんなことはお構いなしと言わんばかりにベールがゲーム開始を決定した。

最初に目的地のためのルーレットが回り、目的地が決定する。とりあえずはそこを目指せってことらしい。

ちなみにプレイヤーの順番はネプテューヌ、ベール、俺の順番だ。この順番になったのは俺が初心者なので手本を見せながらとのことだ。

 

「・・・ん?最初から1000万クレジットもあんのか?」

 

ネプテューヌの手番ではあるが、俺は画面に映ったそのバカみたいな所持金の額を疑問に思った。

確かに名前の後ろに『社長』とかついてるけど・・・。

 

「最初はたくさんあると思うでしょうけど、実は物件の金額も万単位以上ですから、すぐに心もとなくなりますわよ?」

 

「・・・・マジかよ」

 

俺はそれを聞いて啞然とする。そんなにかかるモンなのか・・・。

その後に高いと億は超えると言われた時はもう何も言えなかった。物件購入って大変だな。

 

「あー、大丈夫かな?とりあえずサイコロ振るよー!」

 

そう言って早速ネプテューヌがサイコロを振る。出目は5だ。

 

「おおっ!最初からいい感じ!」

 

そう言って喜びつつもネプテューヌは馴れた手付きでマスを進めていく。

 

「マスを進むごとに出てくるあの矢印はなんだ?」

 

「あれはその方向に進めば目的地に進めると言うガイドですわ」

 

「なるほど・・・」

 

俺はベールに聞いて取説を見てと、二重で確認していく。

 

「うん。まずはプラスマスだねっ」

 

俺が二重の確認を終えると、いつの間にかネプテューヌがマスの移動を終えていた。

俺はまた取説で確認を始める。青色のプラスマスはルーレットで止まった時の分、所持金が増えるみたいだ。

最後に所持金が今これってのが出て、ネプテューヌの手番が終わり、次はベールの手番になる。

 

「さて・・・最初のダイスロールですわ」

 

ベールは普段より少し張り切ってサイコロを振る。出目は6だ。最初からいい数値が出ていた。

・・・ダイスっつったのは気分なんだろうか?

まあそんなことはさて置き、ベールはまるで把握済みとでも言わんばかりにマス移動を進める。

最後の一マスの時だけ一瞬止まり、ガイドの方から逸れた。

 

「ん?そっちでいいのか?」

 

「ええ。あのままガイド通りに進みますと、マイナスマスに入ってしまいますので」

 

俺はそれを聞いて再び取説で確認をする。赤いマスのマイナスマスは、止まった時にルーレットで止まった時の分、所持金から引かれるマスだった。

なるほど。これは確かに、総資産で勝敗が決まるこのゲームじゃ迂闊に止まれないわな。

で、そんなベールが止まったマスは黄色いマスしたアイテムマスだった。

このマスはルーレットで止まった時のアイテムがもらえるマスだ。

 

「ふふっ・・・いいものをもらいましたわ」

 

ベールが手に入れたのは『特急』と言うアイテムだった。

俺は取説に載ってるかを確認してみたら、そのアイテムは乗っていた。

効果は『使ったら一度だけサイコロを三つ振る』だった。その時だけ出目が最低は3、最高で18になるのか・・・確かにいいものだな。

これでベールの手番は終わる。

 

「さあ、ラグナさんの番ですわよ」

 

「よし。やってみるか」

 

俺も二人に倣ってサイコロを振る。出目は3だった。俺だけショボくねえか?

とりあえずマスを進める。後一マスだけ移動できる時に、周りのマスがマイナスマスと物件マスだったので、一先ず物件マスに入る。

 

「物件か・・・」

 

「あら・・・このマスは高かったみたいですわね」

 

物件マスにある物件を買うと勝ちに繋がるのは把握済みなので物件を買おうとするが、初期の所持金じゃ足りないので断念せざるを得なかった。

 

「な、なんて運が無い・・・」

 

「ま、まあ・・・初心者が悲しい目に会うのはお約束だよね・・・」

 

「何のお約束だよそれ?」

 

そのお約束とやらを俺は知らんぞ?そんな感じで俺の手番も終わり、手番が二週目に入る。

 

その後、目的地にはベールが真っ先について、一番目的地から遠かった俺に『貧乏神』とやらが憑りつく。

この貧乏神はなすりつけもできるらしいが、俺の信じられない程のダイス運の無さがそれを何度か拒絶した。クソがっ!何でだ!?

しかもなすりつけに失敗してうっかり5000万捨てられたりもした。この損失は実際に起きたらと思うと想像したくもねえ・・・。

また、途中で貧乏神が変身して『キングビンボー』とやらになり、その時なすりつけが終わってたのでネプテューヌが甚大な被害を受けた。もちろんネプテューヌの絶叫付き。

マジで分かりやすい絵面だ・・・。ゲイムギョウ界で見たゲームのCMでリアクションする人並みに。

他にも、ベールが努力して溜めていた所持金の内の半分を『スリの金次』とやらが盗んだ時は、ベールの目が殺意に満ちた。でも笑顔の表情。見てるこっちが怖いんだが・・・。

 

そして、あっという間に設定していたプレイ年数に到達して、最終決算。

恐ろしい程に運の無さが発揮された俺が最下位。ベールは当たり前と言わんばかりにダントツの一位だった。ネプテューヌは二位に収まる。

 

「ああー!やっぱりベールとやると一方的になりがちだな~・・・」

 

「・・・もの凄い運の無さを見た・・・」

 

「まあまあ。あれは運が悪かっただけですから・・・」

 

実は今回、ハプニング系の被害の内6割方は俺に飛んできている。初心者を優先して殺しにかかるのかよ・・・。

 

「それで?ラグナはどうだった?初めてゲームやってみて」

 

「俺は・・・」

 

ネプテューヌが今回一番大事なことを訊いてくる。確かにみんなで遊ぶのは楽しいだろうが、肝心なのは俺がゲームをやってどう思ったかだ。

俺は少し考える。そして・・・

 

「俺は楽しかったよ。初めてだから疲れたのもあったけど、それでも楽しかったことには変わりない。

やってみて良かったと思うよ。今度自分で何か買ってみようと思うよ」

 

俺はこう答えた。こうやって何人かで集まってワイワイやれたことがなかったから、尚更だ。

今回得られた時間はかけがえのないものだ。それはハッキリとしている。

 

「そう思っていただけると、私も嬉しいですわ」

 

「うんうん!私も誘ってみて良かったよ~」

 

俺の回答に二人も満足してくれた。新しい文化に触れるっていいもんなんだな。

俺はそれを確信した。

 

「そういや、他にはどんなのがあるんだ?俺が今の状態じゃキツイのでもいいぜ」

 

「そうですわね・・・見るだけでしたらかなりありますわよ」

 

せっかくだから他のゲームも見てみようと思い切って訊いてみた。

ああ・・・やっぱり目もちゃんと見えると違って来るんだな。ベールの言葉で俺は確信した。

 

「ネプテューヌ、もう少し付き合ってくださいな?」

 

「もちろん!私はまだまだ行けるよー!」

 

二人の了承もあって、俺は各種ジャンルごとに見せてもらうことになった。

格闘ゲーム。RPG。落ちものパズル。FPS。シューティング・・・と、多数のゲームを簡単に紹介してもらった。

もちろん二人のプレイ付きで。ネプテューヌのテンションの高さと、ベールの説明もあり、楽しさがよくわかった。

この楽しい時間を、一般の人も過ごしてるんだ・・・。『護って』やりたいもんだ。

そう思ったらまた一瞬だけ右目が開いた。二人がプレイに夢中だったので、やはり誰も気がつかなかった。

 

「(・・・『護る』って単語がカギなのか?)」

 

少し考えて見るが、ここで考えてもダメな気がしたので、今は置いておいた。

そうして、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「いや~。今日は楽しかったよ~」

 

「ええ。私も楽しかったですわ」

 

「二人とも、本当にありがとうな。すげえ楽しかったよ」

 

あっという間に日が沈みそうな時間になり、俺たちは別れの挨拶を始めていた。

もちろん例のごとくリーンボックスの教会前。チカもいる。

 

「ところでラグナさん。住む場所の方はお決まりになられまして?」

 

「うーん・・・まだちょっと決めきれないな・・・。もう少し考えるわ」

 

チカに聞かれて俺はそう答えた。他の国回る最大の理由は住まい決めだからな。

どこにもそれぞれの良さがあって決めきれないのが現状だ。正直もの凄く迷ってる。

 

「ふふっ。リーンボックスに住むのでしたら、いつでも待っていますわよ?」

 

「ああ。善処させてもらうよ」

 

俺はベールの言葉に穏やかな笑みを見せて答えた。自分でもビックリするくらい自然だ。

 

「そろそろ船が来ちゃうから、私たち行くね」

 

「はい。お二人とも、またお会いしましょう」

 

「ああ。またな」

 

俺とネプテューヌは教会を後にし、船の方に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

船に乗った俺たちはまた風に打たれながら外の景色を見ていた。

夕焼けの空と、その色に同化した海を見ると、昼の時とは違う場所を見てるかのように思えた。

 

「そういやネプテューヌ。俺の右目が一瞬だけ動いたのって気づいたか?」

 

「ううん。全然・・・。っていうか動いてたの!?」

 

「ああ。本当に一瞬だが・・・」

 

「そんなぁっ!?ああー、もうっ!私のバカ!なんで見逃しちゃったのさーっ!」

 

俺が右目の話をしてみると、ネプテューヌは結構なリアクションで反応してくれた。やっぱり気づいて無かったらしいが。

やっぱり今度話してみるのがいいだろうな。

 

「まあ、右目のことは今度イストワールに話すとして・・・今日やったゲームは楽しかったよ」

 

「でしょ?みんなでやると普段以上に楽しめるよ!ああ~。楽しかったな~・・・」

 

ゲームの方に話題を変えて見ると、ネプテューヌが余韻に浸る。

やっぱり楽しい時間はいいものなんだろうな。ネプテューヌを見ると簡単にそう思える。

 

「ベール、すげえ強かったな・・・」

 

「しょうがないよ。ベールと一対一でゲームしたら勝てる要素ほぼないもん」

 

あの後ネプテューヌはベールにボコボコにされてた。見た感じ、ベールが異様に強かった。

ネプテューヌでアレなら俺は全部で完封負けだろうな。

 

「なんでかなぁ・・・私、主人公なんだよ?いくらゲームだからってボロ負けってどうかと思うよ」

 

「・・・敗北イベントとやらじゃないのか?数は多いが・・・」

 

と言うか、俺に言われても困る・・・。つか、主人公とかそういうこと言うって大丈夫なのか・・・?

 

「あっ、そうだ。ラグナの右目が治り始めてるなら、その内みんなでゲームやる時にも見るだけじゃなくて済むね!」

 

「そうだな・・・まあ、右目が治った記念で宴会とかの流れもアリな感じもするけどな」

 

「おおっ!それもそれでいいね!だったらみんなの分のプリン用意しなきゃ!」

 

「お前が食いたいだけなんじゃないのか?」

 

みんなで飯食った時も、ネプテューヌがプリンをコッソリ持ってきて食ってたのを見てたので、こいつのプリン好きの度合いはわかる。

そんな風に俺たちは話を弾ませて夕方の船旅をするのだった。




うーん・・・やっぱりゲームとかの中身は細かく書かない方がいいんでしょうかね・・・?
右目はまだ動かない予定だったんですけど、どうせ蒼炎の書再起動で動くし、その前触れ見せた方がいいと思ってこうしました。

BBCPのシナリオ、私的には『ラグナが主人公ならヒロインはセリカ』、『ノエルがヒロインなら主人公はカグラ』なんじゃないかと思う時あるんですよね。
そう言った意味では『強敵(とも)島』の『名ばかり主人公・ヒロイン組』、『真の主人公・ヒロイン組』ってあながち間違ってない気が・・・(笑)。

ギョウ界電鉄は桃鉄のパロとして使わせてもらいました。
私がゲーム自体始めてやったのが桃鉄だったので・・・(笑)。

そう言えばスリの銀次ってどんな時でもジャスト所持金の半額パクるんですよね・・・。
どんな技術してんだろ?億単位の金を浴衣の中にしまうって想像しただけでも大分シュールな光景ですよね・・・(桃鉄Vでの光景)。

次回かその次で蒼炎の書再起動に持って行けそうです。


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7話 護る為の力

今回も無事に間に合った・・・。
バイト週6はちと入りすぎですよね・・・(泣)。


俺がゲイムギョウ界にやって来てから早くも半月。

プラネテューヌの教会にて、俺はイストワールに頼んで右上半身の状態のチェックをしてもらっている。

イストワールが「三時間で終わる」と言ってたので、待っていることにした。

まあ、そのせいで朝っぱら苦手な俺がかなり早い時間に起きる羽目になったが・・・。

そして今、丁度そのチェックが終わり、結果がデカいモニターに出された。

 

「お待たせしました。こちらが結果になります。

今映されている結果は、この三時間の結果になります」

 

その画面には俺の右腕と、右目の動作の状態が出されていた。

右腕は動いている証としてグラフが波打っていて、右目の方は動いてないため平行線だ。

リーンボックスでは一瞬だけ動いたのだが、今日は一切動いていない。

あん時一瞬動いたんだから、なんか兆しはあると思うんだけどな・・・。

 

「まあこの三時間はそうなるわな」

 

俺もそれに関しては納得している。この三時間の間に右目は一切動いていない。

 

「そして、次にこちら。ここ一週間の結果がこちらになります」

 

イストワールが操作をしてモニターにあったグラフが縮小され、見れる範囲が増える。

右腕はラステイションの時から動いているため問題無し。

右目の方だが、ギリギリリーンボックスのところが見えており、僅かに波打ってる部分が見えた。

 

「あっ・・・右目、動いてたんですか?」

 

「ああ・・・本当に一瞬だけどな・・・。

右腕の時もそうなんだが、俺が『護る』とか『護りたい』って思った時に反応したよ」

 

反応したタイミングとして、俺が『護る』、『護りたい』と考えると反応するらしい。

だが、右腕がすんなりと動いたのに対して、右目が全く動かねえのはなんでだろうか?

 

「『護る』という意思に反応するなら、そう思える場所に行けば・・・

とは思いましたが、ラグナさん。既に全部の国に訪れてしまっているんですよね・・・」

 

「ああ・・・全部行っちまった」

 

プラネテューヌ、ラステイション、ルウィー、リーンボックスの四国は既に訪れているので、新しいものを見つけても望みは薄い。

・・・あれ?これ結構ヤバくねえか?俺下手すっとこの先ずっとこのまんまじゃね!?

割とシャレにならねえな。このままだと『武器が使える隻眼の一般人』も同然だ。何とかしねえと・・・。

 

「仕方ないですね・・・。引き続き調査をしますので、何かあったらまた連絡しますね」

 

「すまねえ。頼むわ・・・」

 

先はまだ長そうだな。少し沈みながらも俺はイストワールに感謝する。

俺も自分で少しでもよくするため、教会を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁあぁあ・・・・」

 

「大分眠そうですね?」

 

「ああ・・・こんなに寝不足感あるのは久しぶりだ・・・」

 

プラネテューヌのギルド前で俺、コンパ、アイエフの三人はネプテューヌとネプギア・・・ネプが被ってるからネプ姉妹でいいか。がクエストを受けに行ったので戻って来るのを待っていた。

普段はより遅く起きる俺は、右上半身のチェックを受けるべく、どうにかして早めに起きたのでさっきから欠伸が止まらねえ。

 

「ちょっと昼寝でもすれば?二人が戻って来たら起こすから」

 

「悪ぃな。そうさせてもらうわ・・・」

 

俺はまたデカい欠伸をしながら近くの丁度いい木に腰掛けて、目を閉じる。目を閉じたらいともあっさり眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

眠りこけた俺は今、自分が『蒼の魔導書(ブレイブルー)』を手にしてからどんな使い方をしてたか。振り返るような感覚に入っていた。

 

―いいかラグナ。蒼の魔導書を己の力だと思うな。決して、だ・・・。

 

それは俺が修行をしている時に師匠に言われたことだった。

頭の中では分かってるつもりだったが、いつの間にか頼り切りになってたのには気づけなかった。

そして、俺が力を求めた理由が、『大事なものをもう失いたくない、護りたい』から『敵、テルミをぶっ潰す』というのに置き換わっていくのにも気づけてなかった。

 

―俺は・・・テメェを『破壊』しに来たんだ。

 

カグツチでニューと会った時、俺は『壊す』ことを選択していた。この時は他に方法が一切ないと思ってた。

よくよく考えると、この段階から『敵を倒す』為に力を使っていたんだ・・・。ノエルに助けられなかったら間違いなく世界のループは終わんなかったし、俺は死んでいた。

 

―テルミと戦っては駄目。今の貴方では絶対に勝てないわ。貴方の『蒼』では、勝てない理由(わけ)があるの。

 

この時も、『大事なものを護る』ではなく、『テルミを一刻も早く潰したい』と思ってた。

だから・・・レイチェルの警告も聞き入れず、無謀にもテルミに挑んだんだろう。

 

―いいかよく聞け。『蒼の魔導書(ブレイブルー)』を創ったのは・・・この俺様なんだよ!

 

そんで死にかけた。何があったかって言うと、俺の『蒼の魔導書』は、サヤをさらい、俺の右腕を斬った張本人・・・ユウキ=テルミの『碧の魔導書(ブレイブルー)』の前では無効化されちまった。

創った本人が、他人に使われた時の対抗策を持ってると考えれば、今なら充分に納得できる話してだ。

俺がレイチェルの話をちゃんと聞いてりゃこんなことにはならなかったろう。

サヤを元に作られた素体の一人、ラムダがココノエの命令を無視してまで俺を助けくれなかったら間違いなく死んでいた。

その直後、俺のせいで死んじまったラムダから『イデア機関』っつう、模倣事象兵器を取り込んだ。

今の俺は一種のノイズキャンセラーみたいなものとして使っている。このイデア機関のおかげで俺はテルミの『碧の魔導書』に無効化される心配は無くなったが、素直に喜べるものではなかった。

 

―いつもいつも・・・偉そうにふんぞり返ってる連中が・・・ノエルの馬鹿一人助けられないのかよ!?

 

ノエルが精錬されてしまい、クサナギとしてテルミの傀儡も同然になっちまった時、俺は一度始めて『誰かを助ける』ために戦った。

テルミの好きにさせるのが気に入らねえのもあったが、あん時助けてくれたノエルに恩返しをしたいのもあった。

この時もまだ頼り切りなのに気づけてなかったし、こん時出てきた『冥王イザナミ』がサヤの体を使っていたため、『もう助けられない。イザナミを倒す』って考えになっちまってた。

 

俺のこの考えに転機が訪れたのは、クシナダの楔を求めてイカルガに行った途中でセリカに出会ったこと。それとカグラにとっ捕まえられたことだ。

 

―少女は『結末へ至る道』を『何度も何度も』書き直したわ・・・。その本が擦り切れるくらいに。

でも何度書いても、何度書き直しても、『英雄』は『怪物』を倒すだけ・・・決して『少女』を救いはしなかったわ。

 

カグラが謀反を起こすために確保する目的があったとは言え、俺がとうとう牢屋にぶち込まれた時に、レイチェルから聞いた話。

これは恐らくセリカとノエルに話すように見せて、俺への問いかけだったんだろう。

今思い返すと、あの話は『ただ使うだけではダメ。ちゃんとした理由を持てって』ことだったんだろう。

俺は最初、『蒼の魔導書』が動かなくなったからカグラに負けたと思ってたが、それは違った。

『蒼の魔導書』をいつの間にか『自分の力も同然』のように使っていたせいなんだろうな・・・。

いつの間にか『もう奪われたくないから、失いたくないから』と欲した力を『奪われた仕返しに、奪う』ように使ってしまっていた。

レイチェルの話を聞いて、俺が何のために戦っているかに疑問を持ち始めた。

 

―おめぇからは、何の『意思(ちから)』も感じねぇ・・・。ただ力を『ぶん回してる』だけだ。

そんなんじゃアズラエルと変わらねえ・・・。それじゃあ奴には勝てねぇよ。

 

―お前はまだ若い。もう少し自分って奴を冷静に見ろ。自分が、『何の為に闘い、その力を何の為に振るうのか』を・・・。

それを考えるのが、『力』を『求めた』者の義務だ。

 

―その答えを見つけた時・・・。お前は『蒼の魔導書(そんなもの)』に頼らなくても強くなれる・・・。多分、俺以上にな。

 

牢屋を出てからすぐに、『蒼の魔導書』使用禁止と一緒にカグラにこう言われた。言われた直後こそ俺は納得できなかったが、テルミにバレないようにすると言うんだから仕方ない。確かに俺はこの時まで、『力があるから使う』も同然だった。

セリカが無意識に周囲の魔素を無力化する都合上、セリカの近くにいる限り俺は『蒼の魔導書』を使うことができないため、考える時間に回すことができる。

それと同時にこの時、俺は自分の力の使い方により強い疑問を持ち、どう使えば良かったか、どう使えばいいかを早速考え始めた。

 

―そうだ!ねえラグナ、提案。これからは、私を『護る』ために戦う・・・ってどう?ラグナの言う『理由』にならない?

 

カグラに言われた同日の夜。そん時のジンやノエルが『ハッキリと力を使う理由』を持ってるのに対して、『ただ倒すためだけで大した理由を持ってない』ことに悩んでた俺に、セリカがくれた提案だった。

この時はセリカの目に勝てずとりあえずは了承した。まだ何からどう『護る』かは決まってなかったが、一つ使い方を決めるのなら充分な提案だった。

こん時は範囲こそ違えど、最終的に『護るために力を使う』ことには変わりはなかった。

 

―・・・どうした死神?なぜ『ソレ』を使わない!?俺はソレを楽しみにして来たのだぞ?

 

翌日。右上半身が動かねえ状態でアズラエルと戦った際の、奴の煽りだ。

打つ手がなく、諦めかけた時にセリカの声が聞こえてどうにかトドメを躱すことができた。

だが、セリカに気づいたアズラエルは・・・

 

―絶望は諦めを生むが、時として人に『力』を与える・・・。あの女を殺した時、貴様はどちらに傾くか・・・。

 

こんなことを抜かしてセリカに攻撃を加えた。あの時レイチェルが自分と一緒にいる使い魔の片割れ、ギィを投げ込んでまでして手助けしなかったらどうなってたかは考えたくもない。

セリカは無事だったが、俺はそんなふざけたことをしやがったアズラエルを許せるわけがなく、完全にブチ切れた俺はダメだっつわれてんのに、『蒼の魔導書』を使おうとした。

そしてその時、自分のじゃない、他人の力である『蒼の魔導書』を使おうとした時に様々な疑問が走る。

 

―またかよ・・・またこれに頼るのかよ・・・

 

―いいじゃん?俺も手ぇ抜いてるし。いいよ?いつもの使おうぜ。

 

一瞬、また自分の力だと勘違いしている節が出てきた。せっかく考える時間もできたってのに・・・。

 

―いいのか・・・?本当にいいのか?またこれに逃げるのか・・・?また『この力』に頼るのか?

 

すぐに否定する。これは『俺の力』じゃない。『他人の力』なんだ。

なら、これは何の力なんだ?俺の中に更に疑問が走る。

 

―『自分の力』と思うなってんなら、『誰のため』の力なんだよ!師匠!

 

―これは俺の力だ!どう使おうと俺の勝手だろ!?

 

片方の俺はその場にいない師匠に問いかけ、片方の俺はその傲慢な考えをやめない。

どうすればいい?混乱した俺は、この力を渡した奴のことを思い出す。

 

―それを手にするかどうか・・・貴方が『決め』なさい。

 

この力を渡したレイチェルはこう言っていた。そして、この力を求めたのは俺であることを再認識する。

そして、ここで自分の力を求めた理由がいつの間にか置き換わっていたことに気がついた。

『敵を倒す』だなんてんなカッコつけたもんじゃなかった。

そんなのはただの後付で、本当は『あの日』の惨劇を経験して、『あんな想いはしたくない』。『大事なものを護りたい』って思ったから力を求めたことを思い出した。だから・・・。

 

―止めろ!起動するな!これは『奪う力』だ!

 

俺は『蒼の魔導書』の起動を無理矢理抑え込んだ。

この直後、力を使えない苦しみがどうだのとかアズラエルがほざいてたが、俺は違った。

俺が欲しかったのは『奪う』力じゃなかったからだ。

 

―求めていた『蒼の魔導書(ちから)』と違うから使わない。それは逃げていることとどう違うというの?

目を背けるだけでは、前と何も変わらないのではなくて?

 

俺が『蒼の魔導書』を使わないと言ったらこう言われた。それもまた『逃げ』だと。

それでも、『奪う』力を使いたくないと俺は反論したが・・・。

 

―『奪う』?馬鹿ね・・・一体誰から何を奪うというの?それにね・・・『蒼の魔導書(ブレイブルー)』はそんなに単純なものでは無いわ。

 

レイチェルはこう返した。俺はテルミの『碧の魔導書』の『模造品』なのにどうすんだ?ってなった。

セリカは俺の『蒼の魔導書』のことを聞いて、「ラグナのが模造品なら本物は?」と訊いてきた。

最初はテルミの『碧の魔導書』だと思ったが、それは『模造品』とレイチェルに言われた。

じゃあ『蒼の魔導書』の本物はどこで、そもそも『蒼の魔導書』は一体何なのかに突き当たった。

 

―ラグナ、『覚悟』を決めなさい。『知る』ことへの覚悟よ。知れば貴方の未来は『決まって』しまう。

 

そこに突き当たって、レイチェルが問いかける。俺はもちろん知る方を選んだ。『奪う』力だとわかった上で、『何の為に』『誰の為に』振るうかが大事だったみたいだ。

また失うかもしれないと言われたが、そんなことはさせないと既に決めていたから関係なかった。

 

―貴方が本当に自分の求める『力』の意味を知りたいのなら、この私が『導いて』あげる。始まりの『0(ゼロ)』へと・・・。

 

こうして俺は次の日、レイチェルに言われた通りにセリカとノエルを連れて、イブキド跡地の窯に行き、俺は暗黒大戦時代に飛び立つのだった。

ちなみに、イブキド跡地に行く前に、クシナダの楔の起動キーがセリカであることはココノエから聞いていた。

 

そして、記憶を一時的に無くした状態で、当時のセリカに出会った。ちなみに、この時はまだ自分が2200年にいたと思ってた。

それと、魔素が無いからか。またはセリカの能力の影響か『蒼の魔導書』は使用不能だった。

記憶を無くしてたので、助けてもらった礼にセリカの親父さんを探すのを手伝うことにした。

師匠に会う前に一回、狂暴化した野犬に襲われた時は、右上半身が動かない状態だったが、どうにかしてセリカを『護る』ことができた。結果として、こっちに来る前に受けた提案を守る形になった。

 

その後、『獣兵衛(じゅうべえ)』では無く『ミツヨシ』と名乗っていた当時の師匠と会ったり、当時の幼いレイチェルにアルカード家に招かれた時にクラヴィス・アルカードと壮年のヴァルケンハインに出会い、クラヴィスから2104年に来たことを知らされる。

他にもナインに殺されかけたりして、どうにかセリカが行こうとしていた場所にたどり着いた。

 

そうして俺たちが向かった先には、クシナダの楔があった・・・。クシナダの楔は人間で、尚且つ生命力のコントロールに長けたもの・・・。

つまりはセリカが必要だった。クシナダの楔は魔素の流れを止めることができるが、一時的なものだった。

『セリカを利用することは誰であろうと許さない』ナインと、ここで合流した『手段があるなら迷いは捨てる』師匠が衝突した。

俺は一度セリカが言いやすくなるように席を外した。セリカはやっぱり使うって言った。

だが、セリカを失わせまいと、セリカを『護りたい』思った俺はやめさせ、自分が黒き獣と接触して停止時間を作った。

 

―持っとけ・・・。取りに来るから。

 

停止時間を作る直前に、俺はセリカに自分の剣とコートを渡した。

ナインに転移魔法でみんなの脱出を頼んだのだが、セリカが飛び出して来ちまった。

俺はセリカに納得してもらうために渡した。

その間、俺は停止時間の間、『黒き獣』の心臓にいるニューと戦い続けた。

俺が『黒き獣』の心臓を潰した後は、お面野郎ことハクメンら六英雄が中心となって『黒き獣』を打倒したことで、暗黒大戦は終わりを迎えた。

その間に俺はセリカと短い再会を済ませて、元の時代に帰った。

 

―セリカ!今がその『何でも、いっぱい』の時だ!約束通りお前を護ってやる!護るために戦う!いいな!

 

過去から戻った後、俺はカグラたちの手助けもあって、セリカを使ってクシナダの楔を起動しようとしたココノエをどうにかしてその考えを保留させた。

俺はこの時、『失わないため、大事なものを護るため』に力を振るうことを決めた。当然、セリカは俺にとって『大事なもの』だった。なら護るだけだった。

別の方法として、『事象兵器(アークエネミー)』の一つ、『鳳翼・列天上』を使う方法があったため、俺たちはカグラに教えられ、それを持っているシシガミ=バングの所へ行くことになる。

『鳳翼・列天上』を使わせてもらうために、決闘してる際にシシガミが俺の戦う理由を聞いた時、『欺瞞』と言ってきたが、俺は『覚悟している』と答えた。

 

―なぜ・・・『蒼の魔導書』を使わないでござるか?

 

シシガミと決闘してる際に聞かれたもう一つのことだ。

この時俺は、この闘いは『自分の力』で勝たないと駄目だから、『他人の力』である蒼の魔導書は自分が死んでも使わないと言った。

そうして、『鳳翼・列天上』を使うことを了承してくれた。

この時、『イザナミ』が企てていた『滅日』の図式は完成してしまっていて、世界の終焉のカウントダウンが始まっていた。

 

―俺の助け方は・・・少々荒っぽいぞ?

 

その直後、暗黒大戦時代最悪の兵器、『巨人(ハイランダー)・タケミカヅチ』を召喚され、その中に同化していたニューに対する俺の言葉だ。

あいつはノエルと同化した時に、ノエルの記憶を知って、それを俺に話した。そん時、『家族を奪って、心をメチャクチャにした相手』で、サヤが助けを求めてると何となく推察できた。

ニューもノエルも、サヤのクローン・・・サヤを元に造られた素体だ。だからこそ、『サヤそのもの』のような部分が垣間見える。テルミを拒絶したのも恐らくそういうことだろう。

ここで大事なのは、俺がニューを『殺す、壊す』ではなく、『助ける』ために戦った事だ。これは俺の大きな変化だった。

タケミカヅチを止めた後、イザナミに暴走させられて、記憶をまた一時的に失って、『エンブリオ』の中でカグツチの記憶を辿ることになる。

この時の誤りの一つとして、『サヤを助ける』ために、『イザナミごと終わらせる』ことを選んでいたことだ。

 

―俺は・・・お前を『助けに』来たんだ・・・。

 

エンブリオで彷徨っていた時に、またカグツチと同じ形でニューと会った時、俺の中には『殺す、破壊する』という選択肢は無かった。

あるのは『可哀想な奴を助ける』というものだった。記憶を失っても、『護る』ために使うとは変わり無かった。

ニューを止めた直後、ナインに『資格者じゃないのに何故エンブリオにいるのか』と聞かれた。その理由はこの時は全くわからなかった。ナインと戦っている間に俺は記憶を取り戻す。

それと、『願望(ゆめ)を叶えるなら冥王イザナミを倒せ』とか言ってきた。ちなみに、俺のこの時持っていた『願望(ゆめ)』は『教会での暮らし』だった。

蒼の魔導書(ブレイブルー)』なんかいらねえ・・・。ただ、あの時の生活を寿命の限り続けたかった。それと、サヤばっかりだったからな・・・ジンにもちゃんと接してやりたい。

その後イザナミと対面し、エンブリオがどうなっているのかが、全ての事の始まりが何か、マスターユニットに『一人の女の子』がいるを知った俺は、あえて『悪』となり、資格者達の『願望(ゆめ)』を喰い殺すことを選んだ。

それをあの世界の新しい『傍観者』・・・あん時蒼の門で俺を見送った女形、『アマネ=ニシキ』と対面した時に俺の選んだ選択だ。

 

―だったら俺が・・・その『可能性』になればいい。

 

ただ『願望』を無かったことにする訳じゃない。俺のドライブ、『ソウルイーター』を使ってみんなの『願望』を集める。

俺が『可能性』を与えればいいと考えたからだ。アマネに『失敗した時はお前さんがお前さんでいられなくなる』と言われたが、それでも構わなかった。

俺の『願望』は『神の見る夢(セントラルフィクション)を終わらせる』ことになった。

 

しばらくは一人で奔走していたが、事象干渉で妨害を受けてしまう。

これはナインによる十一番目の事象兵器(アークエネミー)『骸葬・レクイエム』を使った干渉ではあったが、この時の俺は『ノエル』と思っていた。そして何度目かの妨害を受けた時・・・

 

―覚えておけ・・・。俺は必ずお前を・・・この悪夢みたいな世界から『救って』やる!

 

俺はマスターユニットにいた少女に向かって宣言した。

そして俺は、『神の見る夢(セントラルフィクション)』を終わらせるために、『少女を救う』闘いを始めた・・・。

俺はその為にも諦めることなんかしなかった。

 

その直後、ココノエやカグラたちと合流することになる。そしてレイチェルの提案もあり、俺はココノエたちに手伝ってもらうことになった。

また、俺は『イザナミ』による『滅日』も止めて『世界を護る』ことも必要だった。これについてはカグラたちも同じだから協力した。

そして、それを行うためにも『レクイエム』を止めなければならないので、ナインを止め、『レクイエム』を封じることが必要だった。

『レクイエム』を止めるためにナインの場所に向かった時、ナインから世界がどうなっているかを知らされ、ナインの目的を知る。

そして・・・

 

―上等だ!おら、かかって来いよ『泣き虫姉ちゃん』。俺が・・・『助けて』やる。

 

俺はあのナインが相手だろうとこの選択を取る。ナインがもう苦労する必要はない。

だから俺は、『英雄』とか呼ばれてるが、本質はかなり脆い『泣き虫姉ちゃん』を『助ける』んだ。

俺がナインに打ち勝った直後、『イザナミ(サヤ)』が現れ、ナインに手をかけようとした。

だが、ナインは『レクイエム』を暴走させて、少しの間サヤが動けなくなる時間、『時間硬化』を行った。自分の命を賭してだ。

 

―『約束』しなさい・・・。私が・・・イザナミを・・・『滅日』を止めている間に・・・貴方の『妹』を倒す・・・。

いえ・・・『助ける』方法を見つけると・・・!

 

そして・・・ナインは暗黒大戦時代の時とは逆に、俺に『助ける』方法を見つけることを言ってきた。

そして俺は、その約束を果たした。まずは一人で苦しんでいる『イザナミ(サヤ)』を助ける。

これで確かに助けることはできたが、『本当の意味で』サヤを助けるのはまだだった。

 

―俺は『死神』ラグナ=ザ=ブラッドエッジ・・・。今からお前を『消し去る』ただの可能性だ。

テルミ・・・それが俺にできる唯一の『救い』だ。

 

そして戦いの果てに、蒼の門を開いた場所でのテルミとの戦いの直前に俺はこう言った。

もう殺すことはしない。だが、テルミ相手にはこれしかなかった。

そして俺は・・・テルミに打ち勝った。奴が最後に言い放った『永遠に苦しめ』という言葉はまだわからないが・・・。

俺はその後マスターユニットのところに行き・・・

 

―やっと会えたな・・・サヤ・・・。

 

―『悪夢(ゆめ)』もここで終わりだ。俺は・・・お前を『助け』に来た。

 

ようやく本当の意味で、『サヤを助ける』ことができた。

あの世界から『悪夢』を全て消し去り、俺はその後『蒼の門』でアマネと話をして、今に至る。

 

―これが真なる『蒼』・・・『蒼炎の書(ブレイブルー)』の力かい・・・。

 

これがアマネから聞いた称賛の言葉だった。俺はそんなことないと思っていたけどな・・・。

ここで俺はあの剣を置いて行ったはずなんだが、何故か剣があった状態でこのゲイムギョウ界にいた。

俺のあの世界での戦いと、力の使い方の変化はここで終わった。だから振り返るならここで終わりだ。

 

―さて・・・『蒼の男』。お前さんの新しい『舞』・・・どんなものか楽しみだよ。

 

アマネとよく似た声が聞こえ、振り返り終わった俺の視界が白く染まり始める。

この世界で新しくできた、俺の大事なものを『護る』。これからもそれは変わらないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・っ!?」

 

「わっ!・・・ラグナさん、大丈夫ですか?」

 

「ネプギア・・・それにみんなも・・・」

 

俺はハッとして一気に目を開ける。

俺が目を開けると、目の前にはネプギアがいた。俺の起き方もあって、驚いちまったみてえだ。

奥には俺の様子を覗き込むようにネプテューヌたちがいた。何をしたっけ?俺は一度自分のことを整理する。

 

「ふぅ・・・いきなり何か見たかのような起き方するから、ビックリしちゃいました・・・」

 

「あ・・・悪ィ・・・確かにいきなりすぎたな・・・」

 

ネプギアの言葉を聞いて即座に謝る。あまりの寝不足で寝かせてもらってたの忘れてた・・・。ということはクエストの受注も終わってるか。

しかし・・・なんだってこのタイミングであれを見たんだ?何かの兆しでもあるのか?

考えてもすぐに答えは出ないだろう。さて、ネプギア以外はというと、割と気楽に構えてたみたいだ。

 

「どうです?ぐっすり眠れたですか?」

 

「ああ。寝不足分はどうにかなったと思うよ」

 

「それにしても、意外と深く寝てたんじゃない?私なんて起きるまで待とうかと思ったもの」

 

「・・・マジかよ」

 

やっぱり朝は苦手だ。教会で暮らしてた時もそうだが、毎回俺が一番遅く起きるのだ。

寝坊助だとかって、あいつらやシスターにからかわれたっけ・・・。懐かしいな。

そんなことを思いながら俺は自分の右腕を見やる。何故か右腕が少し重く、ざわついていたような感じがした。

 

「(なんか違和感があるな・・・。あの夢は俺に何を伝えようとしたんだ・・・?それと、新しい『舞』?)」

 

アマネは確か、人が戦う姿を『舞』って言ってたな・・・。

ということは、奴がこの世界を見ているのか?だがどうやってだ?『マスターユニット』もなけりゃ、『蒼』もねえんだぞ?何をさせようってんだ・・・?

 

「おーい!何してるのー?置いてっちゃうよー?」

 

「悪い。今行く」

 

ネプテューヌに声をかけられ、俺の思考は現実に戻される。

あの夢が何だったかはその内わかるはずだ・・・。なら今は目の前のことをこなそう。

俺は立ち上がってみんなのところに歩み寄った。右腕の違和感は、移動中に治りきらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

せっかくだから複数のクエストを一辺にやってみようということで、俺たちは二つのクエストをこなしていた。

どちらもモンスター討伐だが、生息地の距離が結構離れていた。

今現在こなしてるのは二つ目のクエスト。俺がルウィーに行く途中で倒したモンスターが20体程沸いて出て来てしまったので、討伐してくれとの内容だった。

 

「てりゃぁっ!」

 

「ええいっ!」

 

「うぉりゃっ!」

 

「せぇいっ!」

 

「行くですよ?」

 

ネプテューヌが太刀で、ネプギアがビームソードで、俺が大剣で、アイエフが暗器でモンスターを切り裂いていく。

コンパはというと・・・ニッコリ顔で注射器ブッ刺してモンスター倒してるぅぅっ!?

何アレ!?どういう絵面なの!?いやいやちょっと待て!?美少女が笑顔でモンスターに注射器ブッ刺すって何事だ!?

ゲイムギョウ界に来てから間違いなく一番ビックリした。なんだよアレ・・・。

そんなこともお構いなしと言わんばかりにモンスターの数は次々と減っていき、残りは俺の近くにいる一匹だけだった。

ヤケになったのか、そのモンスターは助走をつけてからジャンプして俺に一気に近づく。

 

「(甘えよ・・・)」

 

だが、俺は何の迷いもなく剣を下から振り上げてそのモンスターを斬り伏せた。

 

「よーし、終わったー!」

 

「後は、報告だけですね」

 

散らばってた皆が集まって話している中、俺は離れた場所から動かず、右腕を見る。

どうにかクエストを終わらせることはできたが、右腕の状態は更に悪化していた。

 

「(ヤバい・・・さっきよりも重くなってやがる・・・)」

 

今日はもう帰って休んだ方がいいかもしれねえ・・・。「帰るわ」と言って早急に帰ろうとしたが、その瞬間、右腕に重りが乗ったような感覚に襲われる。

しかも蒼い炎みたいなのまで見えてやがる・・・。一体身に何が起きてるのかが分からず、俺は自分の状態もあって思わずしゃがみ込んだ。

 

「・・・っ!?」

 

「ラグナ!?」

 

「ラグナさん!?大丈夫です!?」

 

俺がしゃがみ込んだのに気づいたアイエフとコンパが慌てて俺のところに駆け寄り、その声を聞いたネプテューヌとネプギアも駆け寄って来る。

俺の右腕を見たみんなが愕然とする。今まで何事もなかったのに、いきなりこうなってしまえば仕方ない。

 

「その右腕、どうしちゃったのさ?今まで何とも無かったよね?」

 

「解んねえ・・・ただ、このままだとヤべえのだけは確実だ・・・」

 

俺はもう、そこから皆の声に答えられる程の余裕が無くなった。

しかも非常に運の悪いことに、デカい足音が聞こえてくる。まだ見てないが、恐らく大型のモンスターだろう。

 

「エンシェントドラゴン・・・」

 

ネプギアの声でエンシェントドラゴンが来たというのは解ったが、俺は右腕の状態の影響もあって、碌に顔を上げる余裕すら無かった。

更に後からもデカい足音・・・どうやら二体目のエンシェントドラゴンらしい。

 

「二体も来ちゃったか・・・仕方ない!」

 

ネプテューヌはそう言って迷わずに変身する。大型のモンスターの相手は一般の人では相当厳しいらしい。

ここにいるメンバーでも四人じゃ無理がある。

 

「私が前のエンシェントドラゴンをすぐに片付けるから、みんなは後ろの方をお願い!

最悪足止めだけでも構わないわ!」

 

「わかったわ!こっちは任せて!」

 

だからこそネプテューヌは変身して片方を片付け、皆の救援をしようと考えたのだろう。

ネプテューヌが正面のエンシェントドラゴンに向かって飛んでいくのが見え、残りのみんなが後ろのエンシェントドラゴンの方に走っていく足音が聞こえる。

 

「(クソがッ・・・こんな時に限って動けねえのかよ)」

 

打つ手が無い。どうすりゃいいんだ?俺が後ろの方をどうにかして向いて見ると、状況はよくなかった。

みんなで飯食った時に話を聞いたが、女神候補生はまだ変身ができない。つまり、戦闘能力に関しては『シェアの恩恵で多少は変化する一般人』だ。

そんなことを振り返っていたら、ネプギアがエンシェントドラゴンの攻撃によって吹っ飛ばされ、近くの木に叩きつけられてるのが見えた。

 

―兄さま・・・

 

「っ!?サヤ!?」

 

俺はその瞬間、『あの日』の光景がフラッシュバックした。シスターが殺され、サヤが連れ去られた・・・忘れもしない光景だ。

またダメなのか?また奪われるのかよ?

 

「(いや違う!まだ『失った』訳じゃねえ!まだ『護れる』!なら諦めねえ!)」

 

俺は首を横に振って無理矢理立ち上がり、エンシェントドラゴンとネプギアの間目掛けて全力で走る。

走っている内に右腕の状態は回復していた。

 

「うおぉぉぉおおおっ!!」

 

エンシェントドラゴンの爪が迫っている最中、どうにか間に合った俺はネプギアを抱きかかえ、半ば押し倒すような形で必死に避ける。

その結果、俺の背中が斬られるが、ネプギアは無事だった。

 

「グァッ・・・!」

 

流石に痛みまでは耐えきれなかったから呻き声はでた。でも、『護る』ことはできた。

 

「ハァ・・・ハァ・・・ネプギア、大丈夫か?」

 

「ラグナさん!?どうしてそんな無茶をしたんですか!?」

 

ネプギアは軽く涙目になって俺の無茶を避難した。無理したのは分かってるが、それでも護れたのは大きい。

 

「ははっ・・・無事なら良かった・・・。

こんな時に言うのもちょっと変だと思うけどさ・・・俺が『蒼の魔導書』を手にしたのは、自分が無力さで『あの日』の時みたいな思いをしたくなかったからなんだ。

『もうあんな思いをしたくない』。『大事なものを護りたい』。そんな思いでいっぱいだったよ」

 

俺は傷ついた体に鞭を打って立ち上がる。

 

「でも、このゲイムギョウ界にある俺の大事なものは、まだ何も失っちゃいない・・・。

それに、力はともかく今の俺には戦う術があるから完全に無力って訳でもねえんだ。」

 

俺は話しながら目を閉じる。そんな間にもエンシェントドラゴンはトドメを刺すべく俺の方にゆっくりと近づいている。

アイエフたちも頑張ってはいるが、それでも有効打には遠かった。

こんな状況下だってのに、右腕の状態はどんどん良くなってくる。俺に打ち勝てと語りかけてるみたいだ。

 

「ラグナさん!私のことはいいですから、早く逃げて・・・」

 

「俺は諦めねえぞ・・・。もう『失わせねえ』。俺が『護る』!」

 

ネプギアの声を遮るように俺は言う。

俺が目を思い切って開けると両目とも開いた。感じる・・・今なら『蒼炎の書』が使える!

俺はエンシェントドラゴンの方を振り向く。爪が届くまで後2、3歩ってところだろう。

それでも問題ない。今なら勝てる確信があった。

 

「ラグナ!待ってて、今そっちに!」

 

エンシェントドラゴンを倒し終わったネプテューヌが大急ぎでこっちに向かいだす。

恐らくは間に合わないだろうから、俺がやる。

 

「俺は今度こそ、失う前に大事なもの全部『護って』・・・俺なりに幸福を掴むんだ!」

 

俺は右腕に黒い炎のようなものを纏わせ、声を挙げながらエンシェントドラゴンに向かって近づいていく。

 

「でぇりゃぁっ!」

 

そして、右腕でエンシェントドラゴンの腹辺りを殴りつける。するとエンシェントドラゴンは少しだけ飛ばされる。

 

「ラグナさん・・・?」

 

ネプギアだけじゃない、俺以外が全員俺のやったことに啞然としていた。

 

「(おし・・・今なら行ける!)」

 

右腕を見て確信した俺は、右腕を自分の腕の高さまで持ってくる。

 

「第666拘束機関開放・・・次元干渉虚数方陣展開!」

 

俺は『蒼炎の書』を起動するためにロックを外していく。俺の右腕から、蒼い螺旋が出始める。

 

「うおぉぉぉ・・・!『蒼炎の書(ブレイブルー)』・・・起動!」

 

その螺旋が激しくなって、俺の眼前に方陣が映し出される。その螺旋と方陣が消え、『蒼炎の書』は起動を完了した。

 

「行くぞ!この竜野郎がっ!」

 

そして、俺の反撃が始まるのだった。




まず始めに、ネプギアファンの方はごめんなさい・・・。アンチって訳じゃないんですけど、ラグナとの絡み的にこうした方が思った次第です。

とりあえず『蒼炎の書』再起動までは持って行けました・・・。一先ず私の第一目標は達成しました。

回送シーン見返すと、CPとCFが大分多くなってしまいました・・・。
でも、力の使い方の大きな変化としてCPは大事だし、CFでも影響大きいからうーん・・・って感じですね・・・(汗)。


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8話 蘇る蒼炎の書

今回にて序章は終了になります。
字数超えないかどうか書いてて不安だったぜ・・・(笑)。
明らかに独自の設定が出てきたのでタグに『独自設定』を追加しておきました。



エンシェントドラゴンは自分が飛ばされたことが許せないのか、周りを一切見ること無く俺に向けて火を放つ。

 

「デッドスパイク!」

 

俺は一歩前に出てから、腰にある剣を振り上げるように抜いて、黒い炎のようなものを地面から走らせる。

それらは衝突して、相殺した。

 

「嘘っ!?アレを相殺したって言うの!?」

 

「何をやったらああなるですかぁ!?」

 

「・・・」

 

その光景を見た二人が驚愕したというような声を上げた。ネプギアはさっきの一悶着もあるのか、固まっていた。

そんな三人をよそに剣を持ったまま右腕の状態を気にして見ると、何も問題ないどころか、もっと良くなってる気がした。

 

「(大丈夫だ・・・これなら皆を『護れる』!)」

 

俺は動揺してるエンシェントドラゴンに向かって一気に走りだす。

奴は迎撃するために右腕を引く。だが俺は構わず前進し、十分に近づいたところで左足を強く踏み込み・・・

 

「インフェルノディバイダー!」

 

俺は体を左側へ捻るようにジャンプしながら、黒い炎のようなものを纏わせた剣を右下から振り上げる。

その斬撃はエンシェントドラゴンが爪を振るう前に当てることができ、10メートルあろう巨体のエンシェントドラゴンを地面から少し持ち上げる。

その時、奴に付いた傷口から紅い球が三つ程現れ、それが俺の右手の甲に吸収される。これは俺のドライブ、『ソウルイーター』が機能しているようだ。

しかもこのドライブ、本来は『蒼の魔導書』の影響で周りの奴全ての生命力を吸ってしまう代物だったが、二回程使ってみた感じ、その影響は全く感じられない。

傷の治り具合がこの攻撃で得られる紅い球の吸収分だけだったからだ。それでも攻撃を続ければ治るだけマシだ。

 

「う・・・打ち上げた?あのエンシェントドラゴンを?」

 

近くまで飛んで来ていたネプテューヌが啞然とする。そんなにヤバいことをしたとは俺は知らなかった。女神じゃなくて普通の人間だからか?

どうやら切り裂くというよりも、打ち上げるに近くなったようだが、それでも平気だ。

俺は自分の体が背を向け始めたら一度剣をしまう。魔素はないが、術式と同じ感覚で行けると確信した俺は、術式でやった時と同じように空中制御をし、左腕でアッパーをしてエンシェントドラゴンの顎辺りを殴りつける。

 

「砕けろっ!」

 

更にそこから右足に黒い炎のようなものを纏わせ、前に一回転しながら踵落としを食らわせる。

それはエンシェントドラゴンの頭に当たり、威力が十分に出ていたその一撃でエンシェントドラゴンは地面に叩きつけられる。

インフェルノディバイダーの時と同じで、俺が蹴りつけた位置から紅い球が三つ現れ、俺の右手の甲に吸収される。インフェルノディバイダーの時と同じ大きさだ。

俺は落下しながらエンシェントドラゴンの様子を見てみる。煙から晴れて見えてきた奴の様子は、四つあった角の内、外側の二本が折れ欠けていた。

 

「どうだよ?角を折られた気分は?」

 

「凄い・・・エンシェントドラゴンをこうも簡単に・・・」

 

「ど、どんな威力をしてんのよアレ・・・」

 

俺が見せた攻撃にはネプテューヌすらも驚いていた。アイエフはもうわけがわからんとでも言いたそうだった。

つまり・・・俺の攻撃は、一般人のそれを大分上回ってることになる。それが解っただけでもいい。

それは、俺の手で護れる範囲が結果的に広いことを証明していたからだ。

攻撃力が高い=タフな敵も倒せる=護れる人が増える。こう考えると俄然と頑張れる。これからも多くの人を『護る』つもりだが、まずは皆への恩返しからだな。

そんな思考を終えた時、エンシェントドラゴンは怒りの雄叫びを挙げながら起き上がる。

 

「へぇ・・・まだやんのか・・・」

 

全く自業自得なモンだぜ。さっきまで舐め切ってたのに、やられだしたらこれだもんな・・・。

じゃあ次は・・・。考えを決めた俺は左腕に黒い炎のようなものを纏わせ腕を引く。

 

「ヘルズッ!」

 

俺は左腕を前に突き出しながら、エンシェントドラゴンに向かって飛び込んでいく。

ちなみにこの時、術式と同じ要領で、地面を蹴ったときの勢いをそのままに、足が地面スレスレで飛んでいる。

そして、拳をぶつけると、エンシェントドラゴンはよろめいて一歩後ろに下がる。

 

「ファングッ!」

 

俺はその隙を逃さず、今度は右腕に黒い炎のようなものを纏わせて、下側から殴り上げる。

すると、エンシェントドラゴンは最初に殴り飛ばした時と同じように吹っ飛ぶ。

ヘルズファングの二撃目の時に紅い球が出て、これも例外なく俺の右手の甲に吸収される。大きさは踵落としの時より大きい。

エンシェントドラゴンはこれ以上は耐えられないと感じたのか、慌てて逃げの体制を作り出す。

翼があるから飛べば良かったのだが、このエンシェントドラゴンは飛ぶ前に背を向けるべく、その巨体をゆっくりと旋回させ始める。それが、俺の次の攻撃のチャンスになった。

 

「逃がさねえぞ!ブラッドサイズ!」

 

俺は奴の方へ向かうようにジャンプしながら剣を引き抜き直し、通常の持ち方にしてすぐに剣を変形させ始める。

剣の刃の部分と腹の部分をスライドさせ、刃の付け根に最も近い部分が腹の先に来たところで付け根部を中心に手前側に90度程回転させる。

これによって剣が死神の鎌を想像させる形になる。俺は更に、付け根部の先端から、これまた術式と同じ要領で鎌状の形で血のような色をしたエネルギーを発生させる。

そして、そのでき上がったエネルギー状の刀身をエンシェントドラゴンの左翼側にぶつけ、そのまま鎌になってた剣を元に戻しながら奴の上を通り過ぎ、少ししたところで着地する。エネルギーの発生は奴の翼を斬ってすぐに終了させてる。

その一撃によって、エンシェントドラゴンの左翼が斬り落とされる。エンシェントドラゴンはたまらずに絶叫に似た声を挙げる。

ヘルズファングのように、この一撃も『ソウルイーター』の能力が影響してるため、奴の翼の切れ目から紅い球が三つ出現する。大きさはインフェルノディバイダーの時と、ヘルズファングの時の中間だ。

紅い球の吸収が終わったところで、俺は右手に持っている剣を軽く振って、エンシェントドラゴンの方に向き直る。

 

「つ、翼を斬っちゃったですぅ!?」

 

「さっきまでの苦しい戦いが嘘みたいね・・・」

 

コンパはまだまだ驚きの反応をするみたいだが、アイエフはもう飽きれ半分だった。まあこんだけ一気に優勢になっちまうとな・・・。

ネプギアはエンシェントドラゴンの向こう側にいるから、どんな表情をしてるかは今はまだ解んねえ。後でお礼と謝罪はしようとは思う。

一方で、エンシェントドラゴンは完全にヤケになって俺の方へ歩いてくる。火を吐きゃまだ迎撃とかできたかも知れねえのに、気づけなかったんだろうな。

 

「そうだな・・・そろそろ終わらせようぜ」

 

俺は剣を自分の目の前に持ってきてから、逆手に持ち直して構える。

エンシェントドラゴンはそんなことお構いなしに近づいてくる。そして、エンシェントドラゴンが右腕を引いたところで俺は動きだす。

 

「見せてやるよ・・・『蒼炎(あお)』の力を!」

 

奴の腕を、俺は剣を振り上げることで、弾き返す。目の前で起きたことに、エンシェントドラゴンは動揺する。

 

「恐怖を教えてやる・・・」

 

俺は剣を再び鎌に変形させ、鎌状のエネルギーを発生させる。この時、右手の甲から蒼い螺旋が発生していた。

俺はその場でわけが分からず混乱しているエンシェントドラゴンに対し、右から斜めに振り下ろし、右から斜めに振り上げ、上から縦に振り下ろしの順番で斬撃を叩き込んでいく。

一撃目と二撃目でエンシェントドラゴンの左足を機能不全に陥らせ、エンシェントドラゴンは逃げるための術を完全に失う。

三撃目は腹部に深く当たる。これらの攻撃全ては『ソウルイーター』の能力付きであるため、紅い球がどんどん出てくる。

その球が吸収され、俺の傷はみるみる治っていく。エンシェントドラゴンはというと、最初の二撃が影響したのかしゃがみ込んでしまっている。

完全に形勢が逆転した。

 

「地獄はねえよ・・・」

 

俺はそのまま同じ順番でもう一度斬撃を行う。さっきと当たる部位は若干変わり、一撃目と三撃目が腹部に当たる。

もちろん『ソウルイーター』の効果もある。俺の傷は更に回復する。

 

「あるのは無だけだ・・・」

 

俺は剣を元に戻しながら右腕を引く。そのまま『ソウルイーター』の力でエンシェントドラゴンの生命力を吸い上げる。

この時の俺の姿が、『獲物を殺す体制に入った獣』に見えるのか、エンシェントドラゴンは動けぬまま戦慄してるかのように見える。

すると奴の傷口から無数の紅い球が現れ、全て俺の右手の甲に吸収される。これによって俺の傷は完全に回復した。

そして、最後に剣を奴の腹部に深く刺す。これは俺の持つ最大の大技、『ブラックオンスロート』だ。

この一撃は完全な決定打になり、エンシェントドラゴンは絶叫を挙げながら光となり、柱状の爆発を起こして消えていった。

その強烈な光に、周りのみんなは思わず顔を覆い、俺は少し顔をしかめる。

 

「これが、『蒼炎(あお)』の力だ・・・」

 

今はもういないエンシェントドラゴンに対し、俺はこの言葉を残して剣をしまう。そしてまた右腕を見やる。

この力は『護る』ための力だ。他人が何と言おうと、俺はそう使うんだ。俺は晴れやかな表情を浮かべた。達成感ってやつだろうか?

まあ、力も取り戻したし、大事なものは護れたし、少しくらいはいいだろ。

 

『ラグナ!(ラグナさん!)』

 

そんなことを考えていたら、皆が駆け寄ってきた。

 

「あの、ラグナさんっ!私っ・・・私・・・!」

 

ネプギアが震えながら何かを伝えようとしている。その気持ちは解らなくも無かった。

 

「気にすんな・・・元はと言えば、動けなくなった俺が悪いんだからよ・・・悪かったな。心配かけて」

 

俺としてはあまり抱え込んで欲しくない。元は俺が原因なのだから。だから俺はネプギアの言葉を遮って先に謝る。

 

「でもっ・・・でもっ・・・」

 

うーん・・・どうも効果が薄いな・・・この辺はノエルに近いな・・・。

 

「それと、ありがとうな。ネプギア・・・お前がいなかったら、俺は間違いなくあのまま死んでたからな」

 

「で、でも・・・ラグナさんの背中は・・・」

 

ならばと俺は逆に礼を言って穏やかな笑みに変える。そしたら今度は俺の背中の傷を気にしだした。

これなら流れを止められそうだと確信した俺は・・・

 

「なら、さっき傷ができた部分触ってみな?」

 

「・・・えっ?でもそんなことしたら・・・」

 

「いいからいいから。ほら早く」

 

俺はネプギアの言葉を無理矢理遮って触ることを促す。ネプギアは「じゃあ、失礼します」と心配しながら俺の傷ができてた部分に触れる。

 

「・・・あれ?」

 

ネプギアは異変に気づいて傷口だったところの周りを撫でる。ちとくすぐったかった。

ネプギアは俺の身に起きたことに気づいて背中から手を離した。

 

「傷が治ってる・・・」

 

「もしかして・・・さっきのあの紅い球かしら?」

 

「ああ。あれは俺が『蒼炎の書』を使う時に使える『ソウルイーター』って能力でな・・・攻撃を当てた時に、一部を生命力として吸収できるんだ。

まあ、詳しいことはまた今度話そう」

 

ネプギアが啞然としてるところで、アイエフが俺に訊いてくる。俺はそれを簡単に説明した。

まあどうせみんなに話さなきゃならないことだし、覚悟は決めないとな・・・。

 

「あぁ、そうだ。ネプギア。もし、お前が恩返ししたいって思うなら、自分の大事なものを護れるように強くなってくれ。

焦らなくてもいい。自分のペースでやるんだ。それでいいか?」

 

「・・・はい。私、頑張ります!」

 

俺が提案したら、ネプギアは頬をちょっと朱色にしながらも笑顔で返してくれた。やっぱり、女の子は笑ってる顔のほうがいい。俺はそう感じた。

 

「それにしても凄かったわね・・・あれが『蒼炎の書(ブレイブルー)』の力なのね」

 

「ああ。久々に使えるとわかるが、やっぱりとんでもねえわ・・・」

 

ネプテューヌの称賛を聞いて、俺は改めて『蒼炎の書』の強大な力を再認識する。

間違ってもただ『奪う』ために使ってはいけないからだ。『護る』ために使うんだ。

 

「ところで、その右目はどうしたですか?何かの病気でもかかってるですか?」

 

「ん?ああ、これか・・・実は、『蒼の魔導書』を手にした時からずっとなんだよ・・・。

一応、普通に見えるし、病気でも何でもないから気にしないでくれ」

 

そう。俺の左目はエメラルドグリーンをしているが、右目は深紅に染まっている。

これはレイチェルから『蒼の魔導書(ブレイブルー)』をもらった時からずっとそうだった。この時から侵食は始まってたみたいだ。

だが、今回はあれだけ一気に『蒼炎の書』の力を使ったってのに、全く浸食が進行していない。なんでだろうか?またイストワールに調査を頼むことになるな・・・。

 

「そうだったですか・・・それなら変に触らないようにするですね」

 

「悪いな・・・助かるよ」

 

他の国の人たちは差が激しいが、プラネテューヌの人々は案外色んな事をあっさり受け入れてくれるから、正直気が楽でいい。

本当にいい場所に来た。ここは俺がもう得られないと思ってたものを得ることができる。どこの誰がここに送ってくれたかは知らねえが、あった場合は感謝しねえとな。

 

「まぁ・・・そんなことはさて置きとして・・・」

 

ネプテューヌは話の流れを変えるべくか、声をかけながら変身を解いた。

 

「せっかくラグナの右目も戻って万全な状態になったんだし、みんなを呼んでお祝いしようよ!」

 

「はいですぅ!私は大賛成ですよ!」

 

「あら、ネプ子にしては気が利いてるじゃない。いいわよ。やりましょう」

 

「お前ら・・・すげえ切り替えの早さだな・・・」

 

俺はその切り替えの早さに驚いた。ゲイムギョウ界の人々って訳でもないかこれは・・・。

そんなことを考えながらネプギアの方を見ると・・・

 

「私も、いいんじゃないかと思いますよ」

 

とまあ、笑顔でこんなことを言われた。ああ、これはもうやるって言うしか残されてないやつだ・・・。

半月でこの世界に順応できたのは伊達じゃないぜ・・・。回答がわかる。俺もやりたいとは思ってたので、賛成だが。

 

「ラグナはどうするー?ラグナさえ良ければ、満場一致ですぐに準備を始められるよーっ!」

 

「おし!なら賛成だ!せっかくだからやろうぜ!」

 

ネプテューヌに扇動され、俺はノリノリで賛成する。

 

「よーしっ!それなら野郎ども!早速取り掛かるぞーっ!」

 

『おおーっ!』

 

ネプテューヌの掛け声に皆が乗る。ゲイムギョウ界に来てから半月、俺はすっかりとゲイムギョウ界に馴染んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

同日夜のプラネタワー。祝いの準備が終わり、後は開始の宣言をするだけとなった。

一応ネプテューヌからは「なんか一言言うように振るかも」とは言われているので、少し考えている。

集まったメンバーは女神四人。女神候補生四人。教祖四人。アイエフとコンパ。そして俺。要するに俺がゲイムギョウ界に来た時に事情聴取で集まったメンバー全員だ。

主催は言い出しっぺのネプテューヌ。皆はまだかまだかと話をしながら待っていた。

 

「あー、あー。テステス・・・よし、はいはーい!みんなーっ!注目ーっ!」

 

ネプテューヌはマイクで皆に呼びかける。元の声の大きさもあり、ハッキリと聞こえる。

 

「今日は突然決まったこのお祝いに集まってくれて、本当にありがとう!

じゃあ早速、このお祝いが決まった理由として・・・ラグナ、説明と何か一言よろしくっ!」

 

そう言われて俺はネプテューヌの方に進んで行き、マイクを変わってもらう。

俺が振り返ると、皆が様々な反応を示して驚いてくれる。

 

「あー、この度は集まってくれてありがとう。もう気づいてると思うけど、この度俺の体が完全に動くようになった。

ああ、右目は病気でも何でもないから気にしないでくれ。

ちなみに、『蒼炎の書』が使えるようになったのと同時に、俺が持っているドライブの『ソウルイーター』も使えるようになった。

そんで、俺はまた使えるようになった『蒼炎の書』は、大事なものを『護る』ために使うって決めてる。皆への恩返しも含めてな。

ああ・・・口下手ですまねえな。とりあえず、これからも仲良くやってこうと思うから、よろしくな。俺からは以上だ」

 

俺が言い終わると、みんなが拍手をしてくれた。不安だったが、とりあえずは良かったってことか。俺は少し安心した。

 

「はいっ!ラグナの一言ももらったし、早速始めようっ!」

 

ネプテューヌは事前に用意してあった飲み物が入ったコップを手に取る。

他の皆も近くに置いてあったコップを手に取る。俺は移動することを前提に用意されていたであろうコップを見つけて手に取った。

 

「それじゃあ!ラグナの体が復活したことを祝して、乾杯っ!」

 

『乾杯っ!』

 

ネプテューヌが言い切ると、一泊遅れて皆が返す。こうして祝いは始まった。

 

「あっ、ラグナさん。今のうちにいいですか?」

 

「ん?どうした?」

 

「先ほど使われていた『蒼炎の書(ブレイブルー)』の件についてなのですが・・・」

 

どこかに移動しようかと思ったらイストワールに呼ばれ、イストワールの少し前に小さめなモニターが表示される。

そこには『蒼炎の書』に関する稼働データであろうものが表示されていた。

 

「どうやら、ラグナさんの持つ『蒼炎の書』はシェアエナジーと親和性が高かったのですが、この世界に適合するまでに時間が掛かったみたいなんです・・・。

ちなみに、ラグナさんの『大切なものを護る』という強い意志が出ている時は、適合までの時間が急激に短縮されていますよ」

 

そのモニターに映っているのは『蒼炎の書』の適合率だったみたいで、来た直後は当たり前のようにゼロで、少しづつの上昇だったが、途中から急激に上がっていた。

各国に観光しに行った時が特に上がっている。・・・ルウィーの時は影響が出るまで上がりきらなかったみたいだが・・・。

 

「そうだったのか・・・。じゃあ、俺が術式と同じ要領で戦えたのはそれが理由なのか・・・?」

 

「それについてはまだ分かりませんが、今のところシェアエナジーとその術式というものの性質が似ていると考えた方がいいでしょう」

 

「性質が似てるか・・・」

 

シェアエナジーを使って戦う女神。魔素を使って発動する術式って考えりゃ似てるのか?あまり考えたくもねえが。

 

「こちらの方はまた調査を続けますので、何かあったらまた伝えますね」

 

「解った。頼むよ」

 

「いえいえ、こちらこそ呼び止めてしまってすみません。今は楽しみましょう」

 

「ああ。そうさせてもらうよ」

 

俺たちは会話を切り上げて移動を始める。俺がこんな風に楽しむ機会なんて果たしてあっただろうか?

カグラんとこで飯を食う?いや、でもあれ俺自身はそんなに楽しめてねえな。純粋に楽しんだのは飯食うだけのタオくらいだろ。

 

「あっ!ラグナさん!」

 

俺が移動してる途中で、ユニから声をかけられた。

 

「そのっ、ネプギアを助けてくれて・・・本当にありがとうございます!」

 

「そのことか・・・いや、俺も悪かったな。途中で動けなくなっちまったし・・・」

 

あんまりにも綺麗に頭を下げられたので、俺は焦って自分の悪かった部分を引き合いに出す。

 

「いえっ、それでも助けてくれたことには変わりないので!本当に!本っ当にありがとうございます!」

 

だぁーっ!更に頭を下げられた!でも・・・。俺はここで再認識できた。こいつら、本当に仲良しだと。

 

「・・・ははっ。お前みたいな友達持って、ネプギアは幸せ者だろうな」

 

「ふぇっ!?ア、アタシみたいなのがですかっ!?」

 

俺がそう言うと、ユニが顔を赤くして動揺する。

あれ・・・?俺は弄るつもりで言ったわけじゃないんだけどな・・・。まあいいや。言葉を続けるか。

 

「だってそうだろ?趣味は合うし、楽しく会話できるし、自分の身に何かがあったら心配してくれる・・・。

当たり前のようだけど、すげえ大変なことを全部こなせる・・・。お前はネプギアにとって最高の友達だよ。もっと自信持てって」

 

「アタシが最高ってそんな・・・あうぅ・・・」

 

ユニがもう俺の顔を見てられないと言わんばかりに顔が更に赤くなり、煙まで出てやがった。

そしてそのまま顔をそらした。ああ・・・これ言い過ぎたかもな・・・。

でも実際、ツバキ=ヤヨイはその性格もあって友人よりも命令を優先し、更に追い込まれ、その精神状態を付け込まれる羽目になったからな・・・。そうなるよりはずっといいさ。

そんなことを考えていたら左肩を誰かにがっしりと掴まれた。しかもなんか妙に力入ってるんだけど・・・。

 

「ちょっとラグナ・・・?何の目的で私の妹を口説いてるのかしら・・・?」

 

「えっ?口説く・・・?ンな目的一切ねえぞ?」

 

恐る恐る振り向いて見ると、俺の方を掴んだ主はノワールだった。

しかもだんだん掴む力が強くなってる。普通に怖えよ・・・。つか、何でそうなったんだ?

俺は反論するが、簡潔過ぎたのが行けなかったみたいで・・・。

 

「じゃあ、何でユニが顔を真っ赤にしてるのよ!?」

 

そこを突かれてしまった。ああ・・・うん。これ見たらそうなるか・・・。

 

「い、いや!ホントに口説くつもりなんて無かったんだよ!今日の件で礼言われたから、ネプギアはお前みたいな友達いて良かったなって・・・」

 

「・・・えっ?ホントにそれだけ・・・?」

 

俺が大慌てで弁明すると、ノワールの勢いが弱まる。

 

「ああ・・・それだけだが・・・」

 

「え・・・えーっと・・・その・・・」

 

俺が肯定すると、途端にノワールは目を泳がせ始める。さっきまでの妙に怨念混じりっぽいのが嘘みたいだ。

 

「ごっ、ごめんなさい!私、早とちりしちゃって・・・」

 

「お、おう・・・分かればいいんだよ・・・分かれば」

 

ノワールが結構な勢いで頭を下げるモンだから、俺もちょっと焦った。まぁ、取りあえず分かってもらえたから良しとする。

 

「そう言えば・・・」

 

「ど、どうしたの?」

 

「俺のいた世界に、お前とよく似た声してる奴がいたんだよ・・・」

 

「そ・・・そうなの?」

 

「ああ。そいつが俺の弟のことを慕ってくれてたのをちょっと思い出してな・・・」

 

向こうではどうしてるんだろうな・・・。相変わらずジンの補佐だろうか?

十六夜持ってたから覚えてる部分を頼りに動いてるかも知れねえが・・・。

 

「ふーん・・・ちょっとラグナの弟が気になって来たかも・・・」

 

「そうか?会えればだが、今のあいつならあっても大丈夫だろうな」

 

そう。今のジンなら当たり障りのない対応をするだろうが平気だ。

前なんか「さあ、殺し合おうか・・・兄さんッ!」なーんて言うレベルにヤバいからな・・・。でもアレって俺だけなのか?

『兄島』の様子を見ると大分ヤべえんだけど・・・。だってあいつ俺を見た瞬間「兄さーーんッ!!」とかって叫ぶんだぜ?兄島の補正か何かは知らねえが。

 

「ラグナ。ちょっといいかしら?」

 

「ん?どうした?」

 

話している途中に声をかけられたので、そっちを振り向くとルウィーの三姉妹がいた。

 

「ラグナさんが治ったお祝いとして・・・」

 

「私たちからプレゼント・・・♪」

 

「悪いなお前ら・・・ありがとうな」

 

ロムとラムが一つずつ小袋を渡してきた。俺は二人の頭を帽子越しに撫でてからその小袋を受け取った。

 

「えへへー・・・褒められちゃった♪」

 

「褒められた・・・♪(ニッコリ)」

 

二人は凄い満足そうなの笑みを見せた。ロムもすっかり俺を受け入れてくれてるから助かった。

ちびっ子の笑顔を目の前で見る・・・確かに俺がいた場所では足りないものだな。

 

「どう?ラグナはゲイムギョウ界(こっちの世界)に来てから楽しめてる?」

 

「ああ。自分でも信じられねえくらいに楽しめてるよ。何でゲイムギョウ界(こっち)に来れたかは解んねえけど、すげえ充実してる」

 

「そう。それなら良かったわ」

 

事実、俺はゲイムギョウ界に来てから毎日がとても楽しく感じる。復讐とかそんなことを一切考える必要のない、純粋な生活や旅だからだ。

俺の回答を聞いて、ブランは微笑む。

 

「ところで、どこに住むかは決まったかしら?ロムとラムが来てほしいって言うものだから、ちょっと訊きたいのだけれど・・・」

 

「ああ。なるほどな・・・」

 

俺が二人の方を見てみると・・・。

 

「ラグナさん、こっちに来るの?」

 

「来るの・・・?(どきどき)」

 

めっちゃ興味深々な目をしてやがった。ちょっと待って欲しい。これでご期待に添えない回答したらどうなるんだ?

こいつらがしょぼくれる?ブランがそこから連鎖で殺しに掛かる??ヤバい。これは慎重にならなければ。

 

「悪い。まだ決めきってなくてな・・・もう一度一人でゆっくりと回って決めるよ」

 

「わかったわ・・・もしルウィーに住むなら連絡を頂戴」

 

「私たち、いつでも待ってるよ!」

 

「待ってる・・・♪(ニコニコ)」

 

よ、良かった・・・今回の回答は正解だったみたいだ。取りあえず回ったは良いが、決定打が足りない。今はそんな感じなんだ。

 

「ラグナさーん。ちょっとよろしいでしょうか?」

 

「おう。今行く。じゃあ、俺は向こうに行くぞ」

 

「はーい!ラグナさんまたねー!」

 

「またね・・・♪」

 

俺はベールに呼ばれたので、そっちに向かう。

 

「ラグナさん。ネプギアちゃんを助けて下さって、本当にありがとうございますわ」

 

「おお・・・お前までもか・・・。ネプギアは皆に大切に思われてるんだな・・・それが分かって良かったよ」

 

またこのくだりかとは思うが、これだけネプギアが大切に思われてるのが分かって良かったかも。

ネプギア・・・お前はもっと自信もっていいと思うぞ?

 

「ふふっ・・・当然ですわ。だって、ネプギアちゃんは私の最高の妹なのですから」

 

「そうだよな。最高の妹・・・ってちょっと待て!?ネプギアはネプテューヌの妹だろ!?

何でお前がネプギアを妹っつったんだ!?」

 

俺は途中でベールの発言に気づいてツッコむ。ベールって妹いなかったよな?

 

「何を言いますか!私にとってネプギアちゃんは妹のようなもの・・・すなわち、私の妹なのですわ!」

 

「何をどうしたらそうなった!?『妹のようなもの』じゃあ『妹』にはならねえだろ!」

 

俺はゲイムギョウ界に来てから、恐らく最も盛大にツッコんだ。余りにも理論が吹っ飛んでやがる。

ベールの場合はそれ『義理の妹』で止まるだろ・・・。いや、その辺詳しくは知らねえけどさ。

 

「ああ・・・それはもういいや。ところで、こないだそっち行ったときに出してもらった紅茶なんだけど、あれどう作ってるんだ?

できることなら作り方知りたいんだけど・・・」

 

この話題は身が持たん。俺は話題を変えるべく、俺はこないだご馳走になった紅茶のことを訊いてみることにした。

 

「まあ!気に入ってくれたのですね。そうでしたら、後日作り方のほうを送らせていただきますわ」

 

「いいのか?そりゃ助かるぜ」

 

作り方を訊いたら後ほどくれると言ってもらえた。何事も聞いてみるって大事だな。

 

「ラグナ、すまないがちょっといいかい?」

 

「分かった。今行く」

 

ああ・・・今日はすげえな。誰かに呼ばれて話してたらまた誰かに呼ばれる。

ちなみに今の声の主はケイだ。

 

「悪いな。そういうことだから俺は行くよ」

 

「はい。また時間がある時にお話しましょう」

 

俺は今度は教祖たちがいる方に移動するのだった。

 

「悪いね。わざわざ呼んでしまって」

 

「ああ。それは構わねえんだが・・・一体何があったんだ?」

 

俺はチカの様子を見て思わず訊いてみた。何が起きてるかと言うと、チカがショックを受けたように突っ伏していて、ミナがそれを慰めてる形だった。

 

「だって・・・お姉さまが・・・お姉さまがぁ・・・」

 

「ああ・・・そういうことか」

 

チカの泣き言で全てを理解した。うん。そりゃショックを受けるわな・・・。だって普段妹のように大切に思われてんのに、いきなり他のやつを妹だって言われりゃな・・・。

 

「まあまあ。言葉の綾ですよ」

 

「うぅ・・・それならいいけど・・・」

 

「災難だな・・・そりゃ」

 

俺は今日ベールの暴走っぷり?を見てかなり驚いた。あれは多分、自分の妹にしたいと思った子に対しては誰でもああなるな・・・。

ピンポイントのジンやイザナミでも大分ヤべえってのに・・・。ジンは改善できた感じはあるけど・・・。

 

「ああ・・・さて、いきなり脱線してしまったね・・・。

君が言ってた『ソウルイーター』のことを先に訊けば良かったんだけど、流石にお祝いの空気を崩す訳には行かないから呼んだんだけど・・・。話してもらってもいいかい?」

 

「すみません・・・私が気づいていればこんなことをしなくても良かったのですが・・・」

 

ケイが『ソウルイーター』のことを訊こうとする。イストワールは配慮不足を謝罪してきた。まあ、端折り過ぎた俺も悪いな・・・。

 

「ああ。それなら今のうちに話しちまおう。

俺のドライブである『ソウルイーター』は、能力を使って攻撃した時に相手の生命力の一部を吸う能力なんだ。

周囲の生命力を吸うとかそんなことはないから安心してくれ」

 

「ということは、さっきノワールが君の肩を掴んだけど、それは平気なんだね?」

 

「ああ。それは平気だ」

 

「じゃあ、二人に触れたけど、能力を使ってないから効果は働いてないんですね?」

 

「ああ。能力を使ってないし、攻撃もしてないから影響はない・・・

悪いな。俺の説明不足で無駄な心配かけちまって」

 

俺がケイとミナの問いに答えると、二人は安堵した。

 

「そうでしたか・・・でしたら、私たちで皆さんにお伝えしますね」

 

「・・・いいのか?」

 

俺は思わず訊いてしまった。人の温情を無下にするのは良くないのは分かってるが、やっぱりこういうことに慣れてないから抵抗感がある。

 

「はい。今回は私たちにお任せください。ここにいる皆さんがこうやって笑っていられるのは、ラグナさんがあの状況を諦めずに覆したおかげなんですから」

 

「ええ。そうでなければ、今頃お姉さまがショックで倒れ込んでるかもしれませんもの」

 

いつの間にかチカがいつもの調子を取り戻していた。これ、よくよく考えたら、間に合わなかった場合葬儀だもんな・・・間に合って良かった。

それにしても不思議なモンだな。カグラに取っ捕まるまでは暴れたら皆に恐れられる『死神』だったのが、今はゲイムギョウ界に生きる『旅人』で、女神候補生の一人を助けた『勇者』だからな。

 

「ああ、引き止めて悪かったね。この話はここでお開きにしようか」

 

「分かった。また聞きたいことがあったら言ってくれ」

 

俺はそう言い残してまた移動を始める。

 

「うーん・・・。お礼は別に気にしてなさそうな気はするけどなぁ」

 

「それに、もうあの時こうしてくれなことは言ってたしね」

 

誰のところへ移動しようかと悩んでいたら、ネプテューヌたちがいつものメンバーで話しているのが見え、そこに移動することにした。

 

「どうしてもなら、お料理とかはどうですか?それくらいなら断らないと思うです」

 

「なんか楽しそうな話してるな。混ざっていいか?」

 

『ひゃあっ!?』

 

俺が声をかけたら、全員が揃って素っとん狂な声を出した。タイミング悪かったのか?

 

「ど、どうした?」

 

「い、いや~ごめん!余りにもいきなりだったからつい・・・」

 

「ああ。せっかくだから私から一つ質問いいかしら?ラグナは誰かの手料理食べたことある?」

 

「ん?手料理か・・・一応、あるにはあるぞ。それがどうかしたか?」

 

教会でシスターとサヤの飯を食ったことは確かにある。・・・モテメガネ?そんなもん知るか。

シスターは普通に美味かったが、サヤのは死んでたな・・・。どうやったらあんなの作るんだろ?

 

「実はですね・・・今度ギアちゃんにお料理してみたらどうかって話してたんですぅ」

 

「へえ・・・ネプギアの料理か・・・」

 

俺はそれを聞いて、サヤのデスディナーではなく、シスターの手料理が脳裏に浮かんだ。

そうしたら普通に食いたくなってきた。

 

「なら、今度食わせてもらおうかな」

 

「っ!いいんですか?」

 

俺が答えると、ネプギアが目を丸くする。そんなにビックリするモンだろうか?

 

「ああ。俺はいつでもいいぞ」

 

「わかりました。それなら今度作らせてもらいますね」

 

ネプギアが笑顔になる。俺の予想が正しければ何も心配する必要はないからな。楽しみになって来たぞ。

 

「良かったね!ネプギア!」

 

「うん!」

 

俺の回答を聞いて嬉しかったのか、ネプテューヌも笑顔になる。応援してたのかな?それなら納得だ。

 

「(まさか俺が、こんなに楽しい時間を過ごせるようになるなんてな・・・)」

 

俺はその後もみんなとこの祝いを楽しんだ。

ゲイムギョウ界に来てから半月。俺の周りは以前とは比べ物にならない程明るく、活気に満ちていた。

そして俺は、すっかりとゲイムギョウ界に馴染んでいた。




何とか序章を無事に終わらせることができました。

エンシェントドラゴン相手のフィニッシュは『闇に喰われろ』にするか『ブラックオンスロート』にするかでけっこう悩みましたね・・・。でもやっぱりASTRALFINISHした方が気持ちいいだろうってことで(笑)。

ちなみに、紅い球の大きさはCFでの回復量を元に決めた感じです。


次回から本編に入ります。


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新たな生活、新たに紡がれる蒼の物語
9話 紅の旅人とグーダラ女神


今回から本編に突入します。

ネプテューヌの口数が少ないとのご指摘があったので気をつけてみたのですが、これで大丈夫なのか心配です・・・。

後、ブレイブルー側からナオト、レリウス、アズラエルを出して欲しいとのご意見を頂きました。ご意見の方ありがとうございます。調整して出せるようにしたいと思います。
・・・アズラエルは後半どっかしらで出して、早々に退場する可能性が極めて高くなりそうですが・・・(笑)。


俺が万全に動ける状態になってから既に半月・・・。

つまり、ゲイムギョウ界で和平が結ばれてから、引いては俺がゲイムギョウ界に来てから早くも一ヶ月が経った。

ゲイムギョウ界の空気にはもう慣れたのだが、未だにわからない場所とかがあるので、それを解消しておくために今日はプラネテューヌを散策していた。今はプラネタワーに向かう途中だ。

もちろんクエストもちゃんと挟んでいる。クエストついでに他国に行くことだってあった。そんなこともあってか、俺は時々『(くれない)の旅人』と呼ばれるようになった。

他には・・・人助けを何度かやった。道が解んなきゃ地図みりゃいいから、道案内も最低限はできた。

道案内する時、セリカみたいな方向音痴じゃなくて良かったと何度思ったことか・・・。

 

「あっ!でっけえモンスターを一人で倒した兄ちゃんだ!」

 

「ねえねえ、『紅の旅人』がいるよ!」

 

後、俺がエンシェントドラゴンをブッ倒して以来、こうやって少年達や年頃の女の子達中心に注目を集めやすくなった。

年頃の女の子の方は前からある程度は注目集めてたっぽいが・・・。少年たちは将来の目標なんだろうか?無理しねえといいがな。

まあ『死神』だの何だの言われるよりは圧倒的にマシだから良しとする。

そんなことを考えながら、俺はプラネタワーへと歩を進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「いい加減に・・・してくださぁぁいっ!」

 

「ねぷぅっ!?それダメって説明書に書いてあるのに!」

 

プラネタワーに戻り、いつもみんなで集まる部屋に入ろうとしたら、何かとデカい声が聞こえた。

イストワールが何らかにキレたのだろうが、概ね予想は付いていた。

 

「(あいつ全っ然仕事してねえからな・・・)」

 

あろうことか、モンスター討伐は大体俺がクエストでこなしている始末。

このままではいる限りぐーだらしてそうな状態だった。そろそろ何か言ってやる必要があるな。

そう思って俺はドアを開ける。

 

「何だか騒がしいけど、どうかしたか?」

 

「あっ!ラグナ避けてーっ!」

 

俺がドアを開けて部屋に入り、状況を訊こうとしたらいきなりネプテューヌが避けろという。

どういう事だろうかと思って周りを確認しようとしたら、ゲーム機の電源アダプターが俺の眼前に迫っていた。

 

「うおおっ!?」

 

俺は慌てて左手でキャッチする。だが、この直後に俺の確認不足を痛感させられる。

 

「ああぁぁぁっ!?」

 

そう。今度は遠心力に振り回されていたイストワールが勢い余って放り出され、部屋の壁に激突してしまった。

 

「うわぁっ!?いーすん、大丈夫!?」

 

「きゅー・・・」

 

イストワールは目を回していた。俺とネプテューヌは慌ててイストワールのところに駆け寄った。

シェアに関する話を聞く前に何でこうなったかを訊いたら、こんなことがあったらしい・・・

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ネプテューヌさん!全然お仕事してないじゃないですかっ!」

 

ラグナが部屋に入る数分前のことである。

ラグナの『蒼炎の書』が再び使えるようになって以来、ネプテューヌは全く仕事をせずに遊び惚けていた。

その様子を見かねたイストワールが怒ったことが事の発端である。

 

「高速ジャンプ!ああっ!ムキーッ!!」

 

だが、ネプテューヌはそんなこともお構いなしに今日もゲームで遊んでいた。

 

「聞いてるんですか!?」

 

「んー・・・いわゆる一つ平和ボケ?これからは戦争とかする必要もないし」

 

イストワールは更に怒るが、ネプテューヌは意に介さない。

 

「ネプテューヌさんっ!平和だからこそ、女神にはいろいろお仕事が・・・」

 

「お姉ちゃーん。お茶入ったよー」

 

イストワールが説得しようとすると、そこにネプテューヌを甘やかす声が遮るように入る。

ネプテューヌの妹、ネプギアがネプテューヌのためにお茶を入れて入って来たのだ。

質の悪いことに、ネプギアはネプテューヌを咎めるのではなく、ネプテューヌのだらけを助長してしまった。

 

「サンキュー、ネプギア!対戦プレイやろっか?」

 

「うん!」

 

「ネプギアさんまで・・・・・・」

 

しかもそれだけでは止まらず、これ見よがしにネプテューヌがネプギアをゲームに巻き込むように言うと、ネプギアはあっさりと乗ってしまった。

そして、イストワールは我慢の限界に到達する。

 

「いい加減に・・・してくださぁぁいっ!」

 

「ねぷぅっ!?それダメって説明書に書いてあるのに!」

 

イストワールはネプテューヌが使っていたゲーム機のコンセントを引っこ抜いた。

ネプテューヌがそのことについて咎めるが、イストワールはそれどころでは無くなっており、電源アダプターの遠心力に振り回されていた。

 

「何だか騒がしいけど、どうかしたか?」

 

そこへ散策を切り上げたラグナが帰って来た。ラグナはそのまま前に進みだす。

 

「あっ!ラグナ避けてーっ!」

 

ラグナはイストワールに気づいておらず、このままではラグナの顔にクリーンヒットすると、危惧したネプテューヌが叫ぶ。

 

「うおぉっ!?」

 

気づいたラグナは咄嗟に左手で電源アダプターをキャッチした。これで一安心だと思ったネプテューヌが安堵しようと思ったその時・・・

 

「ああぁぁぁっ!?」

 

今度は勢いが余った状態のイストワールが放り出され、壁に激突してしまった。

 

「うわぁっ!?いーすん、大丈夫!?」

 

「きゅー・・・」

 

そして、イストワールがその場で目を回す状態になった。

ラグナとネプテューヌは慌ててイストワールの安否を確認するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「見てください!これを!」

 

普段みんなであれやこれやと集まって楽しむ部屋の隣にある、シェアクリスタルが安置されている部屋にいる。

こんな重要な場所俺が入って平気なのかと聞いたときは、『蒼炎の書』に関わる可能性があるからむしろ入ってくれと言われた。

んで、見てくださいってのはシェアクリスタルだろうから、俺はシェアクリスタルを見る。

何というか、ゲーム機の電源ボタンのマークが真ん中にあるのはわかるが、残りは透明で、この暗い部屋じゃあよく見えない。

一応、その周りにサークルっぽいのが見えるから、それが目印か?

ん?・・・イストワールの容姿が解んない?ああ・・・そういや本に乗っかった少女くらいしか言ってない気がするな。

イストワールは金髪のツインテールを真横から少し後ろ側にまとめ、白と青紫色のワンピースを着ている。背は俺の三分の二を下回っているくらいに低い。

話を戻そう。俺は確かにシェアクリスタルを見ていた。じゃあ、ネプテューヌたちはというと・・・イストワールを注視していた。いや、見る方間違えてるよ・・・。

 

「シェアクリスタルを見てください!」

 

イストワールはたまらず声を上げ、場所を少しだけ移動する。その間に二人は姿勢を正す。ちなみに俺は立っている。

 

「シェアクリスタルが、どうかしたんですか?」

 

「クリスタルに集まる我が国のシェアエナジーが、最近下降傾向にあるんです」

 

ネプギアに訊かれたイストワールは、どっからともなくメガネを取り出して掛け、折れ線グラフを見せてくれる。

一つだけ上昇しているところがあったが、残りは全部下降だった。その先の点線は今後の予想だろうか?途中から下降速度が上がっていて、ヤバいのは確かだ。

グラフとか全く見たことが無かった俺でもなんとなくその危機感は伝わってくるが、ネプテューヌはというと・・・。

 

「まだ沢山あるんでしょー?心配することなくなーい?」

 

この有様だった。何でこいつこんなに前向きなんだ・・・?サボりたいだけな気がするのは俺だけだろうか?

 

「なくないです!シェアの源が何か、ご存知でしょう!?」

 

「国民が女神を信じる心、ですよね」

 

「そう! この下降傾向は、国民の心が、ネプテューヌさんから少しずつ離れていると言うことなんです!」

 

イストワールの問いにはネプギアが答えた。そして、イストワールが危機感を伝えるように言う。

 

「で、人が離れると更に離れやすくなるし、回復も後々大変だから早めに対処したいってことか」

 

「その通りなんです!このままだと、近いうちにネプテューヌさんへの信仰が、無くなってしまうかもしれないんです!」

 

「確かにそれは問題だな・・・」

 

恩人が危機に陥るのはよくないので、俺も何とかしてやりたいのだが、俺の場合クエストを受ける場所がバラバラ過ぎてイマイチ助けになってないのだ。

どうしたものか・・・。俺も難しい顔になる。

 

「ええ~?私、嫌われるようなことした覚えないよー?」

 

「でも・・・好かれるようなこともしてないかも。しかもラグナさんがプラネテューヌにいる時はすぐラグナさんに頼るし・・・」

 

ネプテューヌの抗議の声はネプギアによって潰される。

俺自身、皆に恩返しがしたいのもあって、クエストは結構な頻度で受けていた。その合間に旅をしながら人助けしたり、色んな人と話したりしてた。

話してる時に何をしてるかって聞かれた時に、「この世界をよく知るために旅をしている」と答えたのが、『紅の旅人』と言われるようになった由縁だろうな・・・。

 

「そう!それが問題なんです!」

 

イストワールが段々とヒートアップし始めて来た。女神がサボるってのは、俺たちの世界で言うところの『帝』が仕事をサボるようなモンか・・・。そりゃ確かにヤバいな。

 

「確かに、ラグナさんが恩返しをしたいと言う気持ちも解りますし、自分にできることで積極的に手伝っていただけるのは非常にありがたいものです!しかし!しかしですよ!?」

 

イストワールはその小さな拳をプルプルと震わせ、一度顔が下に向く。一体その小さな体にどれだけの苦労を溜めていたのだろうか?

 

「ネプテューヌさんと来たら、ラグナさんが万全に動けるようになった途端に仕事を、しないで遊んでばっかり!

他の国はラグナさんに負けないように頑張っているというのに、ネプテューヌさんが頑張らなかったのもあって、ここの国民の信頼はラグナさんに向き始めているんです!」

 

「あちゃ~・・・まぁでも、ラグナが受け入れられたんだから、それは良かったんじゃないかなー?」

 

「良いわけありません!ネプテューヌさんは危機感が足らなすぎます!」

 

「確かに・・・このままじゃ危ないかな・・・」

 

頭を掻きながら気楽そうに言うネプテューヌだが、二人の言葉にたじろぐ。

これ・・・まさかだとは思うがやり過ぎたか?俺は一種の不安を覚えた。

 

「二人の言うとおりでしょ?」

 

俺がそんなことを考えていたら、後から声が聞こえたので振り向く。

そこにはアイエフとコンパがいた。ネプテューヌの様子を見に来たんだろうな。二人はそのまま部屋の中に入ってくる。

 

「すいません、イストワール様。話が聞こえたものですから」

 

「アイエフさんとコンパさんなら別に・・・」

 

本当はこの部屋に女神以外を入れること自体、非常にマズイ事なのだが、信頼できる者である俺たちは特例だ。

だからこそ、アイエフとコンパも普通に入れる。

 

「お前らも今戻ったのか。なんか、これだけ見ると機密もあったもんじゃねえな・・・」

 

俺は女神、女神候補生、教祖の三人以外に、本来ならば一般人である俺ら三人が普通に入ってこの状況を見て呟いた。

ハッキリ言って、こんな状況が起きるのなんてどの国を見てもプラネテューヌだけだろう。

 

「まあ、それは『プラネテューヌだから』で片付いちゃうから仕方ないわよ」

 

改めてプラネテューヌの内情が極端なのがわかるな・・・。なんでプラネテューヌだけこうなんだ?

 

「それにしても聞いたわよ?『紅の旅人』だなんて・・・ラグナ、この頃大活躍じゃない。ギルドの方では仕事がなくなるなんて危機に陥る人がいたけど」

 

「プラネテューヌを中心に、ゲイムギョウ界にいる人たちが安心できるって喜んでたです。これでケガをする人が減るですぅ♪」

 

「おいおい・・・俺は仕事をぶんどったつもりはねえぞ?まあ、出かけるついでにちょくちょくこなしてはいたが・・・。」

 

マジか・・・そんなことが起きてたのか・・・いやでも、出かけるついでにクエスト2、3個程受けて行くだけだぞ?仕事の増える量より減る速度が上回ったってことか?

 

「新しく仕事が来るから完全に無くなりはしないけど・・・。ほら、ラグナは体が万全になってから結構な頻度でクエストを受けてたでしょ?

クエストの消化されていく速度が急激に速くなったから、減っていく速度に増える速度が追いつかなくなってるのよ」

 

「ああ・・・そう言うことか。そりゃ確かにそうなるわな」

 

要するに「お前、クエストやり過ぎ」ってことか。確かに金も溜まって来たし、そろそろ休暇と称して何か買ったりするかな。

 

「ラグナさんがゲイムギョウ界を見て回りながら、多くの人を護りたい、助けたいと言う気持ちもわかるですけど、ちゃんと休むことも大事ですよ?

体が元気じゃないと、それもできなくなっちゃうですからね?」

 

「それもそうだな・・・。ご忠告ありがとうございます。コンパ先生」

 

コンパのおかげで少し気が楽になった気がする。俺はそんなに計画性がねえからな・・・。こういう話はちゃんと聞こう。そして気を付けよう。

 

「そうそう。こういう努力したり頑張ったりしている人にこそ、休日はあるものよ・・・。

それに対してネプ子は遊んでばっかりなんだから・・・少しはラグナを見習いなさい?イストワール様に苦労をかけ過ぎよ」

 

「え~?あいちゃんまでー、いーすんの味方するの~?」

 

アイエフは完全にイストワール側についた。ネプテューヌだらけすぎてんもんな・・・。

 

「こんぱは違うよねぇ?」

 

ネプテューヌの味方がどんどん減っていく。ネプテューヌはアイエフがダメならとコンパに訊いてみる。

 

「ねぷねぷ、これ見るです」

 

そう言ってコンパはもらったであろうチラシをネプテューヌに見せる。

 

「えっ?女神、いらない」

 

「なっ・・・!?」

 

そのチラシを簡単に読み上げたネプテューヌの言葉を聞いて、イストワールは本から滑り落ちそうになる。

俺もそれを聞いて思わずチラシを凝視した。こういうのが出るのは結構危険な傾向だと思うな・・・。俺のいた世界ではカグラが主導で反乱計画とかあったしな。俺も成り行きに近い形で参加したけど。

 

「こういう人たちにねぷねぷのこと分かってもらうためには・・・お仕事をもっとがんばらないとです」

 

「うお・・・!?」

 

コンパの口調はいつもと変わらないが、その顔には妙な恐ろしさがあり、俺は思わず一歩後ろに下がる。何だろう?女の子の裏の姿っていうのか?その一例を見た気がする。

 

「ああぅ・・・!これぞ四面楚歌!?私大ピンチ!?」

 

その言葉にマジで腹を立てたのか、イストワールの口元がひくついた。うわぁ・・・これヤバいやつだ。あいつの自業自得だが。

 

「ピンチなのはこの国の方ですっ!」

 

まあ、うん。こうなるわな。さて、俺はどうするか・・・?俺は少し考える。

 

「なあ、イストワール。これ・・・俺がやり過ぎたのか?」

 

俺は取りあえず訊いてみる。これでネプテューヌの言葉次第で決めよう。

 

「いえいえ!そんなことはありませんよ!ネプテューヌさんが働かないだけで・・・」

 

「うんうん、やり過ぎなんかじゃないよ!ラグナのおかげで私はこうして今日も元気に遊べるわけで・・・」

 

「テメェッ!馬鹿かぁっ!」

 

流石にダメだった。思わず久しく使っていなかったこの言葉を発した。それだけでは止まらない。

 

「テメェ、今日も元気にって言うが、仕事ほっぽり投げて遊んでるだけじゃねえかっ!

そんなんだから国民から信頼離れて、俺の方に信頼寄るとかいうよくわかんねえ事態が起こるんだろうがこの馬鹿がッ!」

 

「ねぷぅっ!?バカって二回も言われたぁっ!?」

 

そのままの勢いでダメ出しした。俺が最後の頼みだったんだろうが、あんなだらけた態度見てそれはできなかった。

 

「それに、今後のことを考えたらちゃんと仕事しねえとダメだろ。俺の『蒼炎の書』だって、この世界じゃ何か起きるか解んねえんだし・・・」

 

「全くです!ネプテューヌさん、もし、ラグナさんの『蒼炎の書』が国を移動するたびに、その国のシェア量に力が比例するようなモノだったらどうするつもりですか?

プラネテューヌにいる時だけ極端に弱い・・・なんて事態に陥ってからじゃ遅いんですよ!?」

 

俺が言うとそこにイストワールが追加攻撃と言わんばかりに続けて言う。

事実、この世界における『蒼炎の書』の稼働データはまだまだ足りない。俺が必要最低限の使用回数に抑えてるのもあるが、それでも進捗はよくなかった。

 

「確かに、それは困るな・・・実際のところそんな感じはしなかったけど、もしそうだったらまたあのエンシェントドラゴンの時みたいなのは無理だぞ?」

 

「うぅ・・・それは・・・」

 

ネプテューヌが顔を下に向け始めたが、情け無用。今回はこいつに仕事をさせる必要があるから心を鬼にするぞ。

 

「そうですよね・・・。ラグナさん頑張りすぎるせいでお姉ちゃんがだらけた・・・なんて噂が広まったら、ラグナさんの努力も台無しになっちゃいますし・・・」

 

「そんなことが起きたら、ラグナの真っ当に生きたいって願いも叶わなくなっちゃうしね・・・。

それがネプ子のせいで起きたなんてことがあったら、ネプ子も嫌でしょ?」

 

「ねぷねぷ・・・ラグナさんの為にも頑張るですよ!」

 

「あ、あの・・・。ちょっとみんな?一旦落ち着こう?」

 

俺が次は何を言おうか悩んでいたら、ネプギア、アイエフ、コンパの順で追い打ちにも見える言葉が飛ぶ。その様子にネプテューヌは焦り、慌てて言葉を探し出す。

俺がどうするか考えてるうちに、マジの四面楚歌は完成してた。

 

「ネプテューヌさん。女神は常に国民のために努力しなければならないんです。貴女はもっと女神がもつその大きな力の使い方を考えるべきだと思います。ラグナさんを見習ったらどうですか?

ラグナさんが女神なら、自分には不利益しかなかろうと『ゲイムギョウ界に生きる全ての人を、一人でも多く護るため』に振るうはずですよ?それでもゲイムギョウ界の人を多く護る姿勢は・・・」

 

その言葉を聞いて、ネプテューヌの顔が更に沈んでいく。確かに、俺が女神であればそう使うだろうな・・・。

しかし、この様子だと長くなるな・・・。俺は頃合いを見て止めようと思ったが、ネプテューヌが何か思いついたかのようにポンと手のひらを叩き、勢い良く立ち上がる。

 

「そうだ!私、女神の心得を教わってくるよ!」

 

ネプテューヌは唐突にそう言った。一瞬やる気を出したか?と思ったが、さっきの動きを見ていた俺は猜疑心が残った。

 

「(こいつ・・・本当にやる気になったのか?それとも・・・)」

 

サボる口実を見つけたか・・・。そうならあいつのふざけた根性に喝を入れねえと・・・。

 

 

「教わるって・・・誰にですか?」

 

「ノワール!」

 

『・・・えぇ!?(・・・はぁ!?)』

 

イストワールが聞いたらノワールと答えた。そのせいで、俺たちは思わず聞き返してしまう。

 

「ラステイションの、ノワール!」

 

ネプテューヌがウインク付きでそんなことを言う。

そして、イストワールの頼みもあって、俺たちは俺の『蒼炎の書』の稼働データ集めも含めて、ネプテューヌを監視するためにラステイションに行くことになった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、よくわからないんだけど・・・」

 

ラステイションの教会の最上階にて、ノワールは眉をひそめる。

 

「どうしてお隣の国の女神がうちのところで寝てるのかしら!?」

 

「・・・・・・」

 

結局はこうなった。ネプテューヌが女神の心得を教わるっつってラステイションに移動したのだが、今ネプテューヌはラステイションの教会で寝ていた。

ちなみに監視は俺、ネプギア、アイエフ、コンパの四人だ。その監視がいるっ通のにこいつは普通に寝ていた。流石にここまでくるとすげえ根性してるとしか言えなかった。その様子を見た俺は早速ネプテューヌをたたき起こすための手段を考える。

 

「あー。構わずにお仕事してー・・・私、気にしないからー」

 

「私が気にするわよっ!」

 

「ごめんなさいノワールさん・・・お姉ちゃん、起きてよぉ・・・」

 

「いいじゃーん・・・」

 

「・・・ネプギア、ちょっと下がってな」

 

「えっ?あ、はい・・・」

 

ネプテューヌは振り返りながらそう言ってまた眠りにつく。ノワールに謝ったプギアの咎めすら無視。ああ・・・こいつ完全にサボる気満々だったか。

俺は無理矢理起こすべくネプテューヌの所まで行き・・・。

 

「テメェ、馬鹿かぁっ!」

 

「あいたぁぁあっ!?」

 

俺は左手で頭に拳骨をぶつけてやった。武器を使わなかっただけまだマシだろう。それによってネプテューヌは完全に起き、両手で拳骨食らった部分を押さえ込んだ。

 

「もーっ!人が気持ちよく寝てるところに何すんのさー!」

 

「テメェ、やっぱり馬鹿か!?お前自分から女神の心得を教わるっつったよな?それなのに呑気に昼寝して、俺にたたき起こされたら文句が出るってテメェ、馬鹿か!?

そんなんだからシェアがあんな状況になるんだろこの馬鹿がッ!」

 

「一気に三回もバカって言うなあっ!」

 

ネプテューヌは流石にたまらなかったのか、涙目になりながらも馬鹿と言ったところに反論する。

女神としてちゃんと働いてるとかは問題だが、ネプギアとの姉妹仲はなんだかんだ言って他国の女神たちより良好だから、その辺でのご説教は必要無いな。そこは安心だ。プラネテューヌの姉妹なら、俺とジンみたいなことにはならないだろう。

まあ、今回はこのだらけっぷりを何とかしないといけないから、それはそれだ。

 

「悪いけどお断りよ。私、敵に塩を送る気はないから」

 

「ああ~。敵は違うでしょー?友好条約結んだんだしー、仲間で・・・」

 

「シェアを奪い合うことには変わりないんだから、敵よ」

 

ノワールの『敵』と言う言葉に反応したネプテューヌが反論するが、ノワールは言い切る前に遮るようにバッサリと言う。

この辺の融通が利かないところは確かに問題だ。下手をすればツバキ=ヤヨイみたいに、知らぬ間に孤立しちまうんじゃねえか?俺はその可能性を危惧した。

 

「まあ・・・お前が『敵』だって言うか『仲間』だって言うかは自由だけどよ・・・。そんなにきつく言う必要は無いんじゃねえか?

それに・・・もし、女神全員で力を合わせなきゃいけないって時が来た時、お前は一人で戦うつもりか?ハッキリ言うが、俺はそんなの絶対に勧めねえぞ?」

 

ノワールを咎める意味もあるし、ネプテューヌの気持ちも解るので、俺はネプテューヌに助け舟を出すことにした。遠回しにノワールにも出しているが、どう出てくるかな・・・。それによって次の言い方を変えないと。

 

「まあ・・・言いたいことはわかるけど、それでも今までの散々敵対してきたのよ?そんな簡単に変われるわけないでしょ?」

 

「いや。それがそうでもないんだ・・・。ちょっと素直になるだけでいい・・・。

聞くだけなら簡単って思えるけどな、俺はこれで大分マシになったぞ。あんな物騒な世界で俺は変われたんだ。お前ならもっとすんなりと変われるだろ。こんな俺でも1年あれば変われたんだぜ?」

 

力の使い方を考えるために、俺は暗黒大戦時代に停止時間も含めて1年間いた。その時間のおかげで俺は『蒼炎の書』を護るために使うという答えを得ることができたからな・・・。暗黒大戦時代に行く前にセリカと会って話せたからってのもあるんだろうけどな・・・。

でも、ココノエやカグラたちの目線で考えると、俺はたった二日で力の使い方の答えを得て、クシナダの楔に関することの態度とか、考え方とかが急に変わったんだよな・・・。考えてみたら割と滅茶苦茶な速度だな。

 

「なら・・・私も変われるのかしら・・・?」

 

「ああ。変われるさ。焦らなくていい・・・。」

 

ノワールは少し思いつめたように言う。俺はそれを肯定した。

 

「ああ、そうだ。ネプテューヌに女神の心得を教えるのが納得できないなら、俺の『蒼炎の書』の稼働データを取るついでに見立てりゃいいんじゃねえか?」

 

「・・・確かに、それなら問題ないわね・・・」

 

ついでに俺は『蒼炎の書』の稼働データ収取のついでに心得を教えることを提案したら、ノワールは一瞬考えてからだが受け入れてくれた。

 

「おぉっ!と言うことはノワール、私に女神の心得教えてくれるの!?」

 

「ま、まあね・・・。でも、あくまでついでだからね?」

 

その回答にネプテューヌがベッドから身を乗り出して食いつく。ノワールはそれに対してついでを強調しつつも肯定した。

それを聞いたネプテューヌは「やったぁっ!」と喜ぶ。

 

「ああ、そうだった・・・。それとさぁ、『シェアを奪い合うから敵だ』とか、そんなに可愛げないこと言うから、『友達いない』なんて言われちゃうんじゃないの?」

 

「な・・・!?と、友達ならいるわよっ!」

 

それだけなら良かったんだが、ネプテューヌがただ喜んだだけかと思えば、さりげなくノワールの精神に効くような一撃を与える。

それに対して、ノワールは顔を赤くしながら声を荒げる。ああ・・・俺の言葉台無しだよ・・・。俺は頭を抱えた。

 

「ラグナ・・・貴方災難ね・・・」

 

「せっかくいいこと言えたですけどね・・・」

 

「うわあ・・・これは中々に辛い」

 

アイエフたちがフォローしてくれるが、せっかく上手く纏められそうだったのに台無しにされたのが予想以上にデカい。

 

「まあでも、どうにか引き受けてくれたから、今は良しとするか・・・」

 

俺は少しくらいは見逃してやることにした。

 

「えー?いるの?どこの何さん?」

 

「え、ええっと・・・それは・・・」

 

そんなに俺たちをよそに、向こうはネプテューヌの問いに回答ができず、口ごもらせるノワールの姿があった。

今度はノワールがヤべえのか。見逃そうと思ったけど、流石にこれは止めよう。俺は二人の話をぶった切ってノワールがネプテューヌに心得を教えるように促すべく、二人の元に歩いていく。

 

「お姉ちゃん。この書類終わったよ」

 

俺が何か言おうとした直前に、ユニが結構な量の書類を持ってやってきた。それを見たネプギアは笑顔でユニに向けて手を振った。

結果的にこれが一時的に話の流れを止めてくれた。

 

「あっ、ユニ・・・。お疲れ様。そこに置いといて」

 

ノワールはそれだけ言ってすぐにネプテューヌの対応に戻ろうとする。

 

「あ、あのね・・・お姉ちゃん」

 

何かを言おうとしたら、ユニがノワールを呼び、再び顔をそっちに向ける。

 

「今回、早かったでしょ?アタシ結構頑張って・・・」

 

「そうね・・・。普通くらいにはなったんじゃないかしら」

 

「っ・・・」

 

ユニは恐らノワールに自分の努力を認めてもらいたかったのだろうが、ノワールから返って来たのは冷たい言葉だった。

それを聞いたユニは一瞬目を点にし、すぐに悲しげな顔になり、書類を置き、少しゆっくりとしたペースでエレベーターに乗ってこの場を後にしてしまった。

 

「(この姉妹・・・俺とジンみたいになる確率が一番高いかもな・・・)」

 

このままだとマズイ。後でノワールへの注意とユニの励ましを済ませよう。特にユニの方はすぐに何とかしてあげた方がいいだろうな・・・。

 

「あぁーっ!もしかして友達ってユニちゃんのことぉ?妹は友達って言わないんじゃないかなー?」

 

「違うわよ!ちゃんと他に・・・」

 

こうやって話に夢中になってる二人をよそに、考えを固めた俺はすぐに行動に移そうと思ったが、そこで何か迷っている様子のネプギアがいることに気がついた。

多分ユニのことを気にしてるな・・・。それなら俺はその背中を押してやることにした。俺はネプギアの右肩に左手を置く。

 

「・・・ラグナさん?」

 

「行ってきな。やること決まったら連絡するよう頼んどくから」

 

なるべくネプテューヌとノワールには気づかれないように話す。特にネプテューヌに気づかれて迂闊な発言はさせないようにしたい。

気づかれないように意識しながら、俺は穏やかな顔でネプギアに言う。

するとキョトンとしていたネプギアは笑顔で頷き、ユニの後を追うべくエレベーターに乗るのだった。

 

「(ネプギア。お前なら上手くやれるはずだ・・・)」

 

俺はネプギアを乗せて扉を閉じたエレベーターを見ながらネプギアの成功を祈った。

とは言え、一応確認しには行こう。そう決めた俺はエレベーターに乗るべく移動する・・・その前に連絡を頼むべくアイエフとコンパのところに移動した。

 

「ちょっと行ってくる。やること決まったら言ってくれ」

 

「なるほど・・・了解よ。それなら早いところ行ってきちゃいなさい」

 

「悪い。頼むわ」

 

こういう時、理解が早いのは助かる。俺は携帯とかまだ買えてないからな・・・。早いところ買っておこう。

そう考えながら、俺はネプテューヌたちが友達がどうのこうので盛り上がってるのをよそに、エレベーターに乗ってユニたちのところへ向かった。




取りあえず本編の出だしに入れました。ネプテューヌへの罵倒数が多いと感じた方はごめんなさい・・・。馬鹿って言ってる回数が予想よりも多かった・・・(汗)。

次回はユニへのフォローからになると思います。ネプテューヌ側キャラの出番を奪いすぎないようにして、なんだかんだ先生を上手く書けるといいなぁ・・・(願望)。


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10話 望むこと、できること

今回、序盤の三人称視点が割と長いかもです。


「・・・・・・」

 

ラステイションの教会付近にある庭園で、ユニは湖を見ながら落ち込んでいた。

湖の水は綺麗な状態であるため、その落ち込んでいる表情がハッキリと写されていた。

 

「(どうすればお姉ちゃんに認めてもらえるのかな・・・?)」

 

ユニはノワールのことを尊敬していて、ノワールの力になりたいと思い、努力をしていた。

しかし、その努力の結果は余り良い方向には向いてるとは言えなかった。

今回のように、ユニはノワールのためになろうと仕事を手伝っている。仕事を手伝い、自分の努力を認めて貰いたいと言う願望も混ざってはいるが、自分が尊敬する姉の為に力になりたいという気持ちは本物だった。

そして、今回の努力の結果は、ノワールの冷たい言葉によって、ユニの中で虚しいものとなってしまったのだ。

ノワール自身は「今の結果で満足せず、もっと精進して欲しい」という期待があるが、ユニの「自分の努力を認めてもらいたい」と言う考えとはすれ違う結果となってしまっている。

後どのくらい努力すればいいのか?どのような結果を出せば姉は満足するのか?考えても答えは出てこなかった。

ユニが考えている間に何者かが来たのか、水面で休んでいた鳥たちは音を立てながら一斉に飛び去っていった。

 

「・・・?」

 

特に脅かすようなことなどをしてないのに鳥が飛んで行った音が聞こえたので、ユニはそちら側を見やる。

 

「ネプギア・・・」

 

自分のことを追って来たのだろうか?湖の向こう側にネプギアがいた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんね。お姉ちゃんがお話の邪魔しちゃって・・・」

 

「いいの・・・。お姉ちゃんはいつもアタシにはあんな感じだし・・・お姉ちゃんより上手くやれないと、褒めてくれないみたい・・・」

 

ネプギアを自分の隣に招き入れ、ほとりに座るところがあったので隣合って座る。そして、ユニはネプギアに自分の悩みを話してみることにした。

どうやっても姉が納得のできる成果を出せない。それが、姉の期待に応えたい。自分の努力を認めてもらいたいユニにとっての悩みの種となっていた。

 

「そんなの・・・無理に決まってるのに・・・」

 

「ユニちゃん・・・」

 

ユニは自嘲した顔になる。その表情をみたネプギアは言葉を失う。

 

「アタシ・・・変身だってまだできないのに・・・」

 

「それは私やロムちゃん、ラムちゃんだって同じだよ・・・。私なんて、それが原因でラグナさんにかばわれちゃったし・・・。

ラグナさんの『蒼炎の書』が動かなかったら、私は今頃・・・」

 

「あっ・・・ごめん。アタシ・・・」

 

つい言ってしまった。そう感じたユニはネプギアに謝る。

ラグナがネプギアをかばったことは、『ネプギアが『蒼炎の書』の再起動をさせた最大功労者』として扱われたため問題なかったものの、本来であれば、『女神が一般人に助けられる』というのはあってはならないことである。

ゲイムギョウ界での女神にかかる影響は大きく、もし、一般人が女神をかばったなど言う事実が伝わった場合、『女神の助けになれる凄い一般人がいる』では無く、『一般人に助けられる弱い女神がいる』という認識をされてしまい、シェアの急激な下降に繋がってしまう。

ラグナからすれば『ネプギアのおかげで『蒼炎の書』を使えた』のだが、ネプギアからすれば『自分の未熟さがラグナに傷を負わせてしまった』になる。

それが理由で、ネプギアは話しながらも段々と落ち込んでいったのだ。だが、ネプギアはただ落ち込むだけではなかった。

 

「でも・・・私、決めたんだ。私を護ってくれたラグナさんに恩返しするためにも・・・大事なものを護れるように強くなるって・・・」

 

「ネプギア・・・」

 

言葉を続けるネプギアの表情から暗さは無くなり、明るさと意思の強さが現れてきていた。

自分の大事なものを護る・・・。それは、ラグナの方針であり、ネプギアにもそうなってほしいという願いでもある。そして、ネプギアは『蒼炎の書』が再起動して以来、ラグナのような『護るため』の強さをほしいと思っていた。

そんなネプギアの姿を見たユニは呆然とする。

 

「(自分なりのやり方か・・・今のアタシには、何ができるかな・・・?)」

 

姉に隠れて特訓ならできそうか?ネプギアの言葉を受けて、ユニも考え出した。

 

「でも・・・やっぱり、変身はできるようにはしたいな・・・。女神候補生だし」

 

ネプギアは最後はこうなってしまい、締まらないような言い方をしてしまって照れるような笑みになった。

ネプギアが照れたのを見たユニは微笑する。

 

「確かに変身はできるようにはしたいわね・・・。まぁ、その中でも最初に変身できるようになるのはきっとアタシだけどね」

 

「うん!私だって負けないんだから!」

 

ユニは完全に調子を取り戻し、最後は自信ある表情で言うことができた。ネプギアはそれに笑顔で答える。

 

「大丈夫かどうか心配で追ってみたけど・・・その様子なら大丈夫そうだな」

 

二人が話していた途中、後から声が聞こえたので振り返る。そこにはラグナがいた。

 

「えっ!?ら、ラグナさん、いつからいたんですか!?」

 

「ほぼ最初からだが・・・どうした?」

 

「「な・・・・・・・」」

 

ラグナをみて焦りながら訊くネプギアに対して、ラグナはいつもと変わらない様子で答える。

それを聞いた二人は自分たちの会話を思い出し、恥ずかしくて顔を赤くする。何故か?それは自分たちが話題に上げた人物が目の前にいるからだ。

 

「ど、どどど、どうしようユニちゃん!?ラグナさんに思いっきり聞かれちゃったよぉ!?」

 

「ア、アタシに言われても困るわよ!というか、何で盗み聞くようなことしてるんですかっ!?」

 

「あー・・・。なんかその・・・悪かったな。驚かせちまって・・・」

 

ネプギアは涙目になりながらユニに訊く。それに対してユニはいい回答が出せず、顔がまた少し赤くなる。

ラグナはその二人の様子を見て謝罪の言葉を述べた。

 

「でも、ネプギアが自分で考えてその考えに至ったなら俺はそれでいいさ・・・。

強くなろうって思うのはいいけど、大事なのは強くなった後その力をどう使うかなんだ。

俺はちゃんとした理由がなかったから、ただ力を振り回す羽目になったよ・・・」

 

ラグナはただ闇雲に『蒼の魔導書』を使っていた頃の自分を思い返す。

自分がセリカに出会うまで、ラグナは自身の得た力の使い方を考えておらず、『他者からただ奪う』ように使っていた。

『統制機構への復讐』、『サヤを取り返す』、『ユウキ=テルミを打つ』。といった『目的』こそはあれど、『力の使い方』はまだハッキリとしていなかった。

今では『護る、助ける』というハッキリとした理由を持って力を行使しているが、それでもその前に自分が犯した罪が消えるわけではない。だが、ラグナはその罪から逃げずに、向き合った上で護るために力を使う。それは今後も変わらないだろう。

 

「ラグナさん・・・」

 

「だからネプギア・・・。お前はその気持ちを忘れないでくれ。その気持ちのまま強くなろうとすれば、きっと今より強くなれるから・・・」

 

「・・・はい!ありがとうございます。ラグナさん」

 

ラグナは自分の右手をネプギアの左肩において頼むように言う。ネプギアは笑顔で受け入れて、礼まで言う。

絵に書くような優等生ってこいつのようなことを言うんだろうな・・・。ラグナは微笑ましく思った。

ただ、今回ラグナが二人を追った最大の理由は、『蒼炎の書』を起動してからネプギアがどうなったかというよりは、ユニを励ますためにあった。

だがそれも、自分が様子見している間にほとんど大丈夫な状態になってしまっていた。それなら自分にできることはこれだろうか?そう思ったラグナはユニを見据える。

 

「ここだけの話なんだけどよ・・・。俺は今では大分マシな戦いができるようになってるけど、正直言って、俺はすげえ筋が悪かったから、今みたいになるのにかなり時間を使っちまったんだ・・・」

 

ラグナは自分の過去を話すことにした。ラグナは元々武術に関して才能があるかと言えば、あるとは言い切れなかった。

数年の修行を終え、いっぱしの実力が身についた後は統制機構の支部を回って窯を幾つか破壊し、『死神』と呼ばれるようになったが、『蒼の魔導書』の制御はかなり不安定だった。

イカルガで『蒼の魔導書』無しに自分より強い相手に出会い、力の使い方を考える時間を与えられてようやく制御ができるようになった。

 

「それでも俺が諦めなかったのは、妹を助けたかったからなんだ・・・」

 

「・・・・・・」

 

『あの日』の惨劇で連れ去られてしまった妹のサヤを助け出す。その一心でラグナは師である獣兵衛の修行を最後までやりきった。

その後も、『蒼の魔導書』の使い方を考え、護るため、助けるために使うことを決めた。

ラグナの強さはそう言った努力を重ねてできたものだった。『蒼炎の書』が使えない、尚且つ隻眼の状態でモンスターを倒した話を聞いた時、ユニは才能かと思っていたが、それは違ったことを知って呆然とする。

 

「諦めなければいつかはその努力が報われる日が来る・・・。そう思うから諦めないで続けるんだ・・・。

今は届かなくても、いつかは届く・・・。俺みたいな奴でも、無理だと思ってた妹を助けることができたんだ。

才能が何だのって言うけど、最後はその目標や目的のためにどれだけ努力できるかなんだと俺は思う。結論を言えば、『努力は才能に勝てる』んだ」

 

これがラグナがサヤを助けるために奔走し続けた結果としてたどり着いた境地だった。

 

才能(ノワール)に認めてもらいたいって思うなら、モンスター討伐とか、できることから始めて行けばいいさ。

それは焦らなくていい・・・自分のペースでやるんだ。無理なペースでやって自分を見失ったりしたら大変だからな」

 

ラグナは話しながら、実際にそうなってしまったジンの従妹であり、ノエルの友達であったツバキ=ヤヨイのことを思い出す。

彼女の場合、命令違反によって指名手配を受けたジンとノエルを連れ戻そうとしたが、今の自分では届かないと判断して『封印兵装・十六夜』を使ったが、それでも二人には届かず、十六夜の代償により自身の目が見えなくなる。

さらにそんな状況で『帝』によって視界の光を取り戻され、「自分が新たな光になろう」と言われたことで統制機構の信仰を強めた。これにより結果的に帝たちの体のいい駒にされてしまったのだ。

ユニにはそんな風になって欲しくない。ラグナはそう願うのだった。

 

「ラグナさん・・・。なら、見ていてくださいね!アタシが自分なりのやり方で、お姉ちゃんに認められるところを!」

 

ユニはそれに対して、ウインクしながら自信を持って言う。どうやら完全に調子を取り戻せたようだ。

 

「わかった。もし、どうすりゃいいかわかんなくなったら話しに来な。口下手なりに相談には乗るからよ」

 

「・・・はい!」

 

ラグナが最後に出した助け舟がありがたく感じたのかユニは笑顔で返事をした。

そして、この直後にネプギアが持っていた多機能型携帯端末、『Nギア』に着信が入り、三人はラステイションの教会に戻ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「今回のモンスター退治は二ヶ所。ナスーネ高原と近くのトゥルーネ洞窟。どっちも難易度はそう高くはない・・・」

 

俺たちはラステイションからプラネテューヌへ行く方面の森の中を歩いている。

ノワールが言うには、女神の心得として書類からやらせてみたのだが、それなりに整理してた状態を散らかしてしまったそうだ。

そんなところにアイエフが「モンスター退治をしながら心得を教えるのはどうか」という提案が出た。

ノワールは『蒼炎の書』の稼働データも取れるから一石二鳥と判断して、国民から寄せられている依頼の内、プラネテューヌとラステイションの国境付近の依頼を二つ選んだ。

まあ、依頼を終えたら帰ってもらうつもりだろうな。最初みた時、ネプテューヌは「その足で帰れってことぉ?」と不満をこぼしたらしいが、行くとなれば結局いつもの調子に戻った。

そして今、ノワールが歩きながら依頼を説明してるのだが・・・。

 

「お姉ちゃん・・・」

 

「どうしたの?」

 

ユニがおずおずとした口調でノワールを呼ぶ。ノワールは振り向かずにそのまま聞く。

 

「誰も話を聞いてない・・・」

 

「・・・なぁっ!?」

 

ユニの言葉に驚いたノワールは慌てて後ろを振り向いた。

 

俺たちは今、先頭を歩くラステイションの姉妹。近くにあった木に腰をかけて休憩しているコンパと、気遣うアイエフ。そして、看板の周りにいるプラネテューヌの姉妹。合計三つのグループができ上がっていた。

・・・俺か?俺はラステイションの姉妹とプラネテューヌの姉妹の間らへんにいる。ああ・・・これじゃあ四つか。俺は自分の勉学不足や何やらを痛感した。

 

「ふぅ・・・疲れたです・・・」

 

「コンパ、大丈夫?」

 

コンパは看護師という都合上、平時は徒歩で長い距離を移動することは少ない。この休憩は長距離移動の不慣れさから来るものだった。

俺たちがルウィーに行った時は適度に休んでいたことと、疲労しにくい道を選んでいたこともあって、そこまで問題にはならなかったが、今回は足場が少し悪いため、疲れがくるのが早かったみたいだ。

ちなみに俺の場合、統制機構に捕まらないように移動する必要があったため、体力に関しては余程のことが無ければ平気だった。

 

「おおっ!これは有名な裏から見ると読めない看板っ!」

 

「お姉ちゃん。看板って基本そうだよ・・・」

 

ネプテューヌがわざとらしく驚くと、ネプギアは少し飽きれ気味に突っ込む。

 

「そうかな?ラグナの世界なら意外と珍しいんじゃないかなー?」

 

「俺の世界か・・・地面に突き刺さってるタイプの看板はほとんどなかったし、看板で裏が無いやつはそもそも見えないようにしてんのが殆どだったな・・・。

そう考えりゃこのタイプは珍しいな」

 

「おおっ!まさかの当てずっぽうが当たったやつ!?」

 

「え・・・!?珍しいどころかほぼ存在しないんですか!?」

 

俺の返答にネプテューヌは驚く。ネプギアも俺いたの世界の情勢を知って驚いた。俺いたの世界、地面に刺すタイプの看板は廃れたんだろうな・・・。

 

「ちょっとぉっ!」

 

「わ、わりぃ・・・」

 

俺たちのだらけっぷりをみたノワールはたまらずに大声を出す。みんなが「ん?」みたいな感じでノワールの方を見る中、俺は何で移動してたかを思い出してすぐに謝った。

今回ばっかりは俺にも非はある。誰も止める人がいないとこうなるのか・・・気を付けよう。俺は一人意識するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「いぃっ!?」

 

「歩くペースが落ちてる」

 

その後、ユニを先頭。俺、ノワール、ネプテューヌの三人を一番後ろにして歩くのを再開した。

ちなみにネプテューヌはノワールに木の枝でつつかれながら歩く羽目になっている。

 

「もう・・・ノワールってば真面目なんだからー・・・」

 

「悪い?」

 

ネプテューヌは茶化し気味に言うが、ノワールは真面目な態度で返す。

 

「でも・・・いつもそれだと疲れちゃわない?」

 

「このくらいならなんてことないわ。私はもっともっといい国をつくりたいの。私を信じてくれる人たちのためにもね・・・」

 

俺はノワールの言葉を聞いて、ノワールが持つ理念を聞いて、カグラのことを思い出した。

ノワールは自分を信じる人のために国を良くする。民たちが笑っていられる世界を作るという、自分の理想を叶えるために謀反を起こしたカグラとは、やり方こそ違えど、民たちのために奮闘する姿は同じだ。

俺の場合、エンブリオでは自分のことを投げ捨ててまで妹を助け出し、閉ざされた世界に可能性を与えるために戦った。

俺たちの考えは、範囲こそ違えど、人々のためになっていたことは変わらないだろう。

 

「そりゃあ、私もいい国を作りたいけど・・・楽しいほうがいいかな?」

 

「あなたは楽しみ過ぎなのっ!」

 

ネプテューヌの気楽そうな言葉に、ノワールはこれまた真面目に突っ込む。

・・・真面目なのはいいけど、真面目過ぎんのも困りものかもな・・・。その辺はよくわかんねえが、真面目さを言えば俺はネプテューヌ寄りだろう。シスターの畑仕事手伝うっつったのに昼寝してたりとかな・・・。

 

「あっ、そうだ!ラグナならどんな国がいいかな?」

 

「俺か?俺は・・・そうだな・・・」

 

ネプテューヌがいきなり俺に話を振ってくる。俺は少し考える。

話の流れ的に、今ある四つの国の中でって訳じゃないだろうな。もしそうだったら回答できない。どの国もそこにしかない魅力があるからな・・・。

 

「程よく楽しめて、治安がしっかりしてりゃいいかな」

 

『・・・』

 

カグラの理想の世界を俺なりに想像して出した答えがこれだ。

あいつの理想通りの世界ができたなら、民はみんな笑っているし、あいつの周りは多くの仲間や、信頼できる人に囲まれているだろう。

新しい世界であいつはどうしてんのかな?少し気になった。

僅かな時間での考え事を終えると、ネプテューヌたちが困惑していた。

 

「ん?俺・・・なんか変なこといったか?」

 

「い、いや!そんなことないよ!」

 

「ただ、予想以上に意識の高い回答が来たからちょっと驚いただけよ!」

 

回答の仕方が悪かったのか?そう思った俺は訊いてみたが、二人は慌てて否定する。

意識の高いか・・・。良かったなカグラ。お前の理想を良いと思ってるやつが俺の目の前にいるぞ。

 

「ただまあ。真面目に仕事しない奴が主導者なのは嫌かな・・・」

 

この2人の内どっち寄りかと聞かれれば、正直なところノワール寄りだ。

楽しみが欠けている生活をしてた分、ネプテューヌのように楽しい方がいいという気持ちもわかる。だが、上がまともに働かないならあっさり反逆されたりするだろうから、それは簡便だ。

 

「うっ・・・」

 

「ほら。ラグナもこういうんだし、あなたも頑張りなさい?」

 

俺の回答を聞いたネプテューヌは苦い顔をして、ノワールは自信を持った態度でネプテューヌを促すように言う。

俺たちがそんなことを話しているうちに、森が途切れ、その先から歓声が聞こえてくる。

ノワールはその声を聞いて先頭に進み出る。森の外には集落が広がっており、そこに住む人たちが手を振っている姿が見える。

 

「キャーッ!女神様よー!」

 

「ブラックハート様だわー!」

 

ここの村人たちはノワールへの信仰心が強いらしいな。確かに女神二人に手は振られているのだが、多くはノワールに向けてのものが多い。

 

「ああーっ!『紅の旅人』もいるー!」

 

「ホントだ!カッコいいーっ!」

 

と、俺を見た少年やお年頃の女の子とかが嬉しそうな反応を示す。

まあ、こうやって皆に認められるのは悪くないが・・・。お年頃の女の子たちに直接訊いてみたいことは一つあった。

・・・俺のどこがいいんだ?どこがカッコいいんだ?ぶっきらぼうで計画性なし、おまけに口悪いし・・・。誰か説明してくれ・・・。

ちなみに、ノワールは手を振ってくれている皆に向けて手を振っていた。だが、そこでハッとするノワール。

 

「いけない!アクセス!」

 

何をするのかと思えば、ノワールの体が光に包まれる。つまりは変身だ。

 

「ええ~!?変身今やっちゃう~!?」

 

ネプテューヌはノワールのその行動に驚きの声を出す。俺も驚いていた。俺からすれば『蒼炎の書』を乱用してるようなもんだ。

そしてノワールは、少し癖のついた銀髪の髪をおろし、黒いレオタードの格好に変わる。これはノワールが変身し、ブラックハートハートになった姿だ。

 

「女神の心得その二・・・。国民には威厳を感じさせることよ」

 

ノワールは後ろを見ながらそう言うと、そのまま集落の方に飛んで行った。

 

「皆さん。モンスターについて聞かせてくれるかしら?」

 

「目の前で変身しても・・・威厳とか無くね?」

 

そんなノワールの様子を見て、ネプテューヌは飽きれ気味に突っ込んだ。

俺自身は、威厳ってそんなに大事だろうか?と、カグラの人物像を思い出しながら疑問に思った。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ここがナスーネ高原ね」

 

「ええ。スライヌが大量発生して困っているのですわ」

 

俺たちはナスーネ高原に案内され、今はノワールが村人たちから起きている問題の説明を受けていた。

ナスーネ高原はのどかな高原地帯だ。何も無ければ見渡す景色はいいものなんだろうが、あちこちにスライヌがいるんじゃ台無しだ。

俺たちは今回、ナスーネ高原にて大量発生して、村人たちの通行の邪魔になったりして何かと悩ませているスライヌを掃討することになる。

 

「わかりました。お隣の国のネプテューヌさんとネプギアさん、ラグナさんの三人がが対処してくれるそうです」

 

「ねぷぅっ!?この流れでいきなり振るっ!?」

 

「私たちがやるんですか?」

 

「心得その三、活躍をアピールすべし」

 

ノワールの言葉を聞いて二人は驚く。それに対してノワールはニッとした笑みを見せて心得の一つを言う。

ちなみに、俺はそこまで驚きはしなかった。

 

「(ノワールのやつ・・・まさかな・・・)」

 

プラネテューヌのシェアを回復させるなら、ラステイションよりもプラネテューヌに近い、またはプラネテューヌとラステイションの間辺りを選んで、ネプテューヌたちの活躍を渡りやすくしたんじゃねえか?

そう俺は考えていた。もしそれが本当なら、ノワールは気を利かせてくれているな。そうであることを俺は祈った。

 

「広報用に撮影しといたげるね」

 

ユニはそう言いながら、ネプギアの右脚につけられていたケースから『Nギア』を取り出す。

 

「ありがとうユニちゃん。ああ、そうそう。撮影しながら『蒼炎の書』の稼働データも取るから、そっちも頼めるかな?」

 

「分かった。そっちもバッチリこなすから、アンタも頑張りなさい」

 

「うん!」

 

お礼を言いながら今回のやることに、『蒼炎の書』のデータ収取があることを思い出したネプギアがそれを頼むと、ユニは承諾してくれた。

ネプギアの方も、ユニの応援に笑顔で答える。やっぱり、この二人は仲がいい。こんな友人関係、俺にもできるだろうか?一ヶ月経ったとはいえ、生活環境がとてつもなく変わっているからいまいち自信を持てない。

 

「俺は途中から『蒼炎の書(ブレイブルー)』を起動するから、お前ら皆そのつもりでいてくれ」

 

「ええ。了解よ」

 

俺が最初は起動しないことを伝えると、皆の代表としてノワールが返事をする。

 

「ええ~?兄ちゃん、『蒼炎の書』は使わないのー?」

 

納得してもらえたからぼちぼち始めようと思ったが、少年を筆頭に若い世代が納得いかない様子だった。

こっちの世界のちびっ子たちは予想以上に好奇心旺盛だな・・・。

 

「最初は使わないだけだよ。・・・ほら、アニメやゲームで物語の主人公が敵を楽々倒してったら面白くないだろ?」

 

俺はやれやれと思いながら口下手なりに言う。すると、俺に訊いた少年は「それもそうか」と納得してくれた。

アニメやゲームという言葉を咄嗟に出せたのは、ネプテューヌが俺を時々アニメ鑑賞やゲームに誘っていて、俺が付き合っていたからだ。

 

「話は済んだ?それなら、そろそろ始めて頂戴」

 

「あー、めんどくさいなぁ・・・。まぁ、スライヌくらいヒノキの棒でも倒せるもんね!」

 

ネプテューヌは愚痴をこぼしながらもすぐに軽めの準備運動を済ませ、二回のハンドスプリングから次の跳ねで数回の前宙をしながらスライヌの群れの前に立つ。

それを見た俺はすげえ運動神経してるなと思った。体が軽いと成功率高いんだろうか?

 

「それじゃあっ!二人とも、行こっか!」

 

ネプテューヌはそう言いながら両腕を前に出す。すると、光の素子が形を形成するように集まり、ネプテューヌが使っている太刀が鞘ごと形を作る。太刀を手に取ったネプテューヌは刀を鞘から引き抜く。

最初見た時はどうやってんだと思ったが、このゲイムギョウ界ではアイテムパックという、そのパックの容量の許す限り、あらゆるアイテムを量子化してしまっておけるものがあり、ネプテューヌはそのアイテムパックから太刀を呼び出していた。

ちなみに俺もアイテムパックを持ってはいるが、武器は相変わらず自分の腰に下げている。ノエルならベルヴェルクを召喚していた時期もあったし、意外とすんなり行くのか?

少なくとも俺はまだ無理だ。戦うこと前提なら、いつでも手元にないと不安すぎる。

 

「うんっ!お姉ちゃん!」

 

話を戻そう。今はスライヌの掃討開始直前。ネプテューヌの言葉に頷いたネプギアはネプテューヌと同じくアイテムパックからビームソードを呼び出しながら飛び出す。

ネプテューヌの左斜め後ろの所まで来たネプギアは、光の素子が形成したビームソードの柄を両手で持ち、柄からビームの刃を形成させる。

 

「おう!」

 

俺も走ってネプテューヌたちの所に行きなながら、腰に下げてある剣を右手で引き抜き、逆手持ちで構える。

準備ができた俺たちはスライヌの群れに向かって一斉に走り出す。

その中で一番最初に動いたのはネプテューヌだ。ネプテューヌは一番手前にいたスライヌの元へ低空ジャンプをして飛び込む。

 

「てええいっ!」

 

ネプテューヌはスライヌの眼前に着地しながらも、刀を上から縦に振り下ろす。

その一撃によってスライヌは倒され、光となって霧散する。

 

「はああっ!」

 

ネプテューヌの左側で、ネプギアはビームソードを右から水平に振る。

それによってスライヌの一匹が倒される。

 

「おぉりゃっ!」

 

俺はネプテューヌの右側で剣を右から斜めに振る。

他の二人と同じで、俺もこの一撃でスライヌの一匹を倒した。

スライヌは元々とても弱いモンスターであるため、ちゃんと戦える人であれば基本、負けることはない。その証明としてっちゃぁ難だが、俺も右上半身が動かねえまんまスライヌ十匹相手にしても全然平気だった。

今回の問題は別にそう言う実力同行が問題なわけでは無く、その数の多さが問題になっていた。

 

「よーしっ!二人とも、一気に片づけちゃおう!」

 

ネプテューヌは活躍を見せるとなればやる気を出していた。

一度踏み込みの準備をすべく、ネプテューヌ牙突の構えを取る。

俺たちもそれに無言で同意し、ネプギアは右手に持ったビームソードを前に出して構え、俺も剣を持った右腕を引いて構え直す。

俺たちはそれぞれ三方向に分かれてスライヌたちに向かっていく。

 

「チェストォォッ!」

 

「本気で行きますっ!」

 

「叩っ斬る!」

 

近づききったところで、ネプテューヌは刀を左から水平に振り払い、ネプギアはビームソードを右から斜めに振り下ろし、俺は剣を右から斜めに振り上げてスライヌを斬る。

こうして俺たちは一気にスライヌを倒していく。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

 

「(よし・・・これだけ取れば・・・)」

 

プラネテューヌの姉妹二人の動きをカメラに納めてたユニはこれで大丈夫だろうかと思い、ノワールの方を見やる。

ノワールはまだ納得していないのか、厳しい表情を続けていた。姉の満足行く基準はどのくらいなのだろうか?そう考えながら、ユニは撮影を再開する。

ユニたちの目の前では、スライヌの群れを次々と倒していく三人の姿が見えるが、それでもまだ数は多く残っていた。

 

「数が多いわね・・・」

 

「あいちゃん、私たちもお手伝いするです!」

 

「ええ。そうしましょう」

 

このままではキリがない。そう考えたアイエフとコンパは三人を手伝うべくスライヌの群れに向かって走り出す。

 

「あっ、ちょっと・・・」

 

その行動が見えたノワールは止めようとするが、そうするには既に遅く、二人はそのまま群れの所にたどり着いていた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「でぇりゃぁっ!」

 

もう何匹斬っただろうか?計算とか得意じゃないから二十匹から先は数えてはねえが、かなりの数のスライヌを俺たちは倒していた。

幸いにも体力は余り消耗していない。スライヌが弱いから一匹に対して割く体力がとても少ないのが影響していた。

そろそろ二人に合流すべきか、それとも『蒼炎の書(ブレイブルー)』で一気に倒すかどうかを考えていたとき、俺のどこかから、プラネテューヌの姉妹(あの二人)以外の誰かが何らかの武器でスライヌを斬った音が聞こえる。

俺がそっちを見てみると、アイエフが暗器を使ってスライヌを数体切り裂いていた。

 

「大丈夫?手伝いに来たわよ」

 

「あいちゃん!こんぱ!よーし、これなら何が来ても百人引きだぜっ!」

 

アイエフの言葉を聞いて安心する。キリがないと思っていたから手伝いが来るのは非常にありがたい。

ネプテューヌは勝ちを確信したようなことを言う。

他にもアイエフの近くでは、ニッコリ笑顔でデカい注射器をスライヌに刺し、そのスライヌの一匹を倒しているコンパの姿があった。

いやいや、普通に怖えよその絵面・・・。美少女がデカい注射器でモンスター倒すってホラー過ぎるわ・・・。

ちなみに他の皆はそれが当たり前と思っているのか、何も反応を示さない。しいて言うなら「あの姉ちゃん戦えるんだ~」くらいだった。

・・・俺がおかしいのか!?クソッ誰か説明してくれるやつはいねえのか!?

まあいないだろうと諦め、俺はスライヌを倒しにさらに剣を振るう。

二人の加勢によって、俺たちのスライヌ掃討の速度は上がった。そして、数分する頃には辺りにスライヌが殆ど見えなくなった。

 

「きゃっ・・・!?」

 

完全にいなくなったかと思ったが、残っていたスライヌの一匹がネプギアの右耳を舐める。どうやらじゃれたいようだったらしいので、ネプギアはスライヌの気が済むまで、頭を撫でてやることにした。

周りにいるスライヌはかなり距離があるため、後は俺が『蒼炎の書』使って戦えば大丈夫だろう。そうすりゃネプギアにも危害はないはずだ。

そう思って俺が前に踏み出ようとした瞬間、大量のスライヌが斜面になっていた所の奥から、まるで待っていたかのように一気に湧いて出てきた。

 

「・・・え?(・・・は?)」

 

俺たちはそのスライヌの数を見て啞然とする。どうしてこんなに残ってんだ?そんな疑問が出たと同時に、スライヌの群れは一斉に俺たちに飛び込んできた。

・・・ヤべエ!そう感じた俺は咄嗟に右へとダイブするように回避する。それだけでは顔から地面に行く形になるので、それを避けるべく受け身を取る。

 

「危ねぇ・・・お前ら、大丈夫・・・っ!?」

 

俺はスライヌが降ってきた方を向いて皆がどうなったかを確認したが、俺はその光景に目を疑った。

目の前にはスライヌにとってはじゃれるの一環であろうこと。しかし、俺たちにとっては不健全なことが起きていた。

何が不健全かって言うと、それはネプテューヌたちが何匹ものスライヌに囲まれ、体のあちこちを舐められている・・・という、光景が俺の目の前に広がっていた。

 

「ひぁっ!?変なとこ触るなぁっ!」

 

「気持ち悪いですぅ・・・」

 

「そんなとこっ・・・入って来ちゃダメぇ・・・っ」

 

「あははっ!笑い死ぬっ!助けて・・・!」

 

「んなぁっ!?お前ら!?」

 

俺はあまりにも衝撃的な光景だったので固まってしまった。

アイエフは纏わりつかれる度にスライヌを投げ飛ばして抵抗しているが、コンパとネプギアは動けないでいた。

ネプテューヌに至っては、笑いの反動で寝返りを打ったりしていた。

どうする・・・?どう助けに行けばいいんだ?そう考えていると、ネプギアと目が合った。

 

「もう・・・っ・・・ダメぇ・・・」

 

早く何とかしねえと・・・。急がねばならないので、スライヌどものいる位置を確認していく。

今ネプギアたちを囲んでいる以外にも、さらに斜面の方に向かってスライヌの群れがいた。

こいつらがこれ以上ぞろぞろと来るようだと、助けることが困難になってくるな・・・。んで、その集まったスライヌたちがネプギアたちを・・・。そこまで考えて、俺は考えごとを放棄した。

 

「だぁぁ、しゃらくせぇ!とにかく全員助ける!」

 

そう決めて、奥にいるスライヌの群れの方に俺はデッドスパイクを放つ。

剣を下から振り上げることによってできた、黒い炎のようなものは地面を走り、進路上にいたスライヌたちを飲み込む。

進路上のスライヌが消えると同時に、俺の右手の甲に、倒したスライヌ一匹ごとに『ソウルイーター』の効果で三つの紅い球が吸収された。ちなみに、デッドスパイクによる紅い球はブラッドサイズと同じ大きさだ。

 

「だあー!お前らの魂、冥界へ送り返してやんよ!」

 

アイエフもブチキレて、自分に纏わり付いていたスライヌを放り投げるように引き剥がし、眼前に降って来たスライヌを暗器で斬りながら叫ぶ。

俺自身、結構目の前に意識が向いていたから気にしないで済んだが、もし普段の状況なら絶対ビビってたと思う。アイエフはこのセリフを悪そうな笑みを見せながら言ったからだ。

 

「ラグナ!とっとと叩き潰すわよ!」

 

「分かった!ユニ!『蒼炎の書』を使うぞ!」

 

「は、はいっ!」

 

アイエフの言葉に俺は同意し、ユニに『蒼炎の書』を使うことを宣言する。

それを聞いたユニが慌ててNギアを操作する。それを見た俺は、あの時のように右腕を自分の腕の高さまで持ってくる。

 

「第666拘束機関開放・・・次元干渉虚数方陣展開・・・!『蒼炎の書(ブレイブルー)』・・・起動!」

 

『蒼炎の書』のロックが外され、手の甲から蒼い螺旋が出て来て、少しずつ激しくなる。そして、俺の眼前に方陣が展開されると、螺旋と方陣が消え、起動が完了する。

 

「行くぞっ!スライヌなんぞ纏めて叩き斬ってやる!」

 

この後、アイエフは暗器で自分たちの近くにいるスライヌを、俺は剣を鎌に変形させ、付け根部の先端から鎌状のエネルギーを発生させた状態で斜面の方にいるスライヌを一気に倒していく。

俺たちはスライヌを掃討してる際、村人たちが啞然としていることになど、気づく余地もなかった。

 

「ネプテューヌ・・・もっと頑張りなさいよね・・・」

 

ノワールが飽きれ気味に言った言葉も気が付いてなかった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ・・・はぁっ・・・」

 

「はぁ・・・全くやれやれだ・・・」

 

スライヌの掃討がようやく終わった。アイエフは無茶をし過ぎて肩で息をしていた。

俺の場合、無茶と呼べる範囲のものではなかったので、肩で息をしたりはしていない。・・・アイエフが普段以上の動きをしたからだろうな。

ネプギアは大丈夫だろうか?そう思った俺は剣をしまいながらネプギアの元へ向かう。

 

「ネプギア、大丈夫か?」

 

「はい・・・何とか大丈夫です。すみません・・・また助けてもらって・・・」

 

「いや、アレはしょうがねえよ・・・。次頑張ろうぜ。な?」

 

「はい。そうします」

 

取りあえず安否の確認をする。ネプギアはまた助けてもらったことを苦笑交じりに言うが、流石にアレを一人でどうにかしろって無理があるよな・・・。

そういうこともあって、俺はなだめるように言う。俺の言葉でネプギアは納得してくれた。ひとまず無事でよかった。俺はそう思った。

 

「うう・・・しばらくゼリーとか肉まんは見たくない・・・」

 

ネプテューヌがへばっている所に、納得できない顔をしたノワールがやって来る。

それを見たネプテューヌは上半身を起こした。

 

「どうして女神化しないの!変身すればスライヌくらい・・・」

 

ノワールの言っていることを聞いて、不機嫌な理由はすぐに分かった。

女神たちは変身することで強大な力を使える。それを使えばスライヌ相手なぞ大したことが無いのはよくわかる。

俺が『蒼炎の書』を使わないどころか、右上半身動かない状態でも倒せるのだから、女神が変身してしまえば瞬く間に倒せただろう。

 

「まあほら。なんとかなったし・・・」

 

「他の人になんとかしてもらったんでしょう!自分でできることは自分でする!そんなんだからシェアが……」

 

ネプテューヌの気楽そうに言う言葉に対して、ノワールはさらに不機嫌になって言う。

流石にネプテューヌも居心地が悪く感じたのか、視線をそらす。

 

「精々休んどきなさい!後は私たちでやるから!

トゥルーネ洞窟に案内して!ラグナ、あなたも来れるわね?」

 

「ああ、平気だ」

 

これ以上は言わない方がいいかもしれないと判断したのか、ノワールは村人に案内を頼むことにした。

ノワールに来れるか聞かれた俺は、行けるのでノワールに大丈夫と伝える。

 

「分かったわ。ユニはネプギアたちを介抱してあげて」

 

「う、うん」

 

ノワールに言われたユニはすぐに行動に移った。

 

「よし・・・。じゃあ行ってくる」

 

「はい。ラグナさんも気をつけてくださいね」

 

「分かった。また後でな」

 

俺はネプギアと短い会話を済ませ、ノワールと共にトゥルーネ洞窟に向かった。




予想以上に三人称視点で時間を食った感あります・・・(汗)。
アニメ1話の内容は次回で終了になると思います。

なんだかんだ先生を書くのは楽しいけど、同時にすげえ文を書くのが難しいです・・・(笑)。

遅れましたが、ブレイブルーの新作の方でブレイブルー側から遂にノエルが来ましたね。
これでメイン三人が揃って一安心ですね。

また、私はルビーとペルソナの知識がゼロ、UNIもアーケードモードで得た知識しかないので、早めにつけなきゃなと思っている次第です。
バイトの量、少し減らさないとなぁ・・・(泣)。


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11話 変わりゆく繋がり、潜む影

今回でアニメ1話部分が完結します。


「はぁっ!」

 

「とぅっ!」

 

村人に案内されたトゥルーネ洞窟に入った俺たちは、モンスターを倒しながら奥へと進んでいく。

進んでいくと近くからモンスターが二体程現れたので、奥にいたモンスターをノワールが剣を右から水平に振り、手前のモンスターを俺が剣を左から水平に振ることで斬る。

このモンスターたちは小型であるため大して強くない。そのため、女神化しているノワールの一撃は当然、俺の一撃でもあっさりとモンスターを倒せた。

周りにモンスターがいなくなったのを確認し、俺たちは洞窟の奥へと進んでいく。

スライヌの時は数が多すぎたから『蒼炎の書』を使ったが、今回のように弱いモンスター数体程度なら使うことはないなと俺は思った。

 

「なあノワール。ちょっと聞きてえんだが・・・」

 

「?どうかしたの?」

 

さっきの二体からモンスターが一向に出てこないため、俺は歩きながらも今のうちにラステイションでのユニに向けた言葉を指摘することにした。

ここならネプテューヌやユニに気を遣うことはないからな。モンスターも大して強くないから片手間で行けるという判断から来た。

 

「ラステイションで女神の心得どうこう言ってた後に、ユニが書類置きに来ただろ?お前が一言言った後のユニの表情、どうなってたか知ってるか?」

 

先ずは聞いてみる。これで知ってると知ってないだと大きく違う。言うこと自体はあまり変わらないのだが、言う強さは変わってくる。

気づいてないなら、今すぐ気づかせなきゃいけない。それはノワールがその人を解ってるつもりで解ってないという、致命的なミスを犯している証拠だからだ。

 

「全く気にかけてはいなかったけど・・・何か問題があるの?」

 

どうやら気づいていないようだ。であればその状況を伝えなくてはならない。それと、ユニから聞いた情報が正しいかの確認もだ。

とは言え、それで変に慎重になられても困るっちゃあ困る。だからこの時最も慎重であるべきなのは俺だ。俺は一度気を落ち着かせてから口を開く。

 

「あいつ・・・結構落ち込んでたぞ?んで、その後お前らが友達がどうのこうの話している時にユニから話を聞いたが・・・いつもあん時みたいな態度なのか?」

 

「・・・・・・」

 

まずはノワールがかけた言葉によるユニの反応を伝える。それと同時に、真意の確認もだ。

ここでノワールが違うと言えば態度のことに関しては少し言いにくくなるが、今回の件は紛れもない事実なため、どの道そこの指摘はするつもりだ。

ノワールは俺の問いに思わず足を止める。それに合わせて俺も足を止める。

 

「そうね・・・。確かにそうかもしれないわ・・・」

 

ノワールから来た言葉は肯定だった。その声は震えていた。少し踏み込み過ぎたか?俺は思わず緊張が走る。

 

「余計なお世話かもしれねえけどよ・・・早めに改めた方がいいぞ?少なくとも、今のまんまを続けたらユニがいずれ持たなくなる」

 

「ユニが?分かった・・・そうするわ。でも、そんな簡単に改められるかしら?」

 

「教会にいた時も言ったろ?ちょっと素直になるだけでいいって・・・。大丈夫だ。俺じゃないんだから、そんなに時間は掛かんねえよ」

 

ノワールは納得しつつも疑問が残っていたようだ。不安とも言えるかもしれない。

だから俺はなるべく励ますように言う。もうやり直せない俺とは違って、ノワールにはやり直すための時間は十分にあるからな。俺は結果として1年掛かっちまったけど、本当はそんなに掛かんないだろ。

 

「まあ、どうすりゃいいかわかんなくなったら話しに来てくれても構わねえよ。答えられる範囲で答えるからよ」

 

「あ、ありがとう・・・随分と気遣いが上手いのね」

 

「こう見えて、わがままな妹と、泣き虫な弟の兄貴をやってたからな・・・面倒見るのには慣れてる」

 

俺の一言に、ノワールは俺の方を振り向き、恥ずかしがりながらも礼を言う。

それと同時に言ってきた一言に俺はこう答えた。サヤは病弱で甘えん坊。ジンは「月が落ちてくる」だの何だの言ってしょっちゅう泣いてたからな・・・。

あいつらの面倒を見るのは結構大変だった。本当は『蒼炎の書(こんな力)』よりも教会での暮らしを続けたかったが、ゲイムギョウ界(この世界)での生活も悪くないから良しとする。

 

「なら・・・今度参考に聞かせてもらおうかしら?」

 

それを聞いてノワールは笑みを見せた。

こういうところを見ると、女神とは言っても、普通の女の子とあんま変わんねえな・・・。俺はそう感じた。

 

「・・・さて、まだクエストは終わってないし、そろそろ進みましょうか」

 

「おう。早いとこ終わらせよう」

 

ノワールが前へ向き直り歩き始める。俺はそれについていく形で歩みを再開した。

奥まで進んでいったが、モンスターは特に現れず、行き止まりであろうところまで来てしまった。

 

「ん?先がねえな・・・」

 

「なら、今回はここまでね。引き揚げましょうか。・・・!?」

 

俺たちが来た道を戻るべく歩き出そうとした瞬間に、デカい足音が聞こえて来る。

嫌な予感がして俺たちはそっちの方を振り向きながらそれぞれの武器を構え、いつでも戦えるように準備する。

デカい足音の主の姿が少しずつ見えてきて、ハッキリ見える距離まで近づいてきた。

 

「エンシェントドラゴン・・・!」

 

「ちっ・・・またテメェかよ・・・。たく・・・あん時といい、しつけえモンスターだなぁ・・・」

 

その足音の主は、奇しくもゲイムギョウ界で『蒼炎の書』を使った最初の相手。エンシェントドラゴンだった。

今後も何かあるとエンシェントドラゴンと戦う羽目になるんだろうか?少しだるく思いながらも、俺は気を引き締める。

 

「でも、幸いに一体だけ・・・ラグナ、早いとこ畳み掛け・・・」

 

ノワールが俺に方針を提案している最中にまたデカい足音が聞こえてくる。

足音は俺たちからして左側から聞こえてくる。俺たちがそっちを見やると・・・何の冗談だ?エンシェントドラゴンがもう一体来やがった。

 

「・・・もう一体だあ?めんどくせぇな・・・っ!」

 

俺が愚痴をこぼすと、先に来ていたエンシェントドラゴンが俺たち目掛けて右腕で殴りかかってきた。

それに気づいた俺たちは後ろに飛びのいてどうにか避ける。殴るべき相手を見失ったエンシェントドラゴンの拳は地面に当たり、砕けた地面を構成していた岩の破片が飛び散る。

 

「ラグナ!私が奥の方をやるから、あなたは左の方をお願い!」

 

「分かった!

第666拘束機関開放・・・次元干渉虚数方陣展開!『蒼炎の書(ブレイブルー)』・・・起動!」

 

短くやることを話し、ノワールは早速奥にいるエンシェントドラゴンへと飛んでいく。

俺は一度剣を地面に突き立て、右腕を自分の腕の高さまで持って行き、『蒼炎の書』の起動を完了させる。

 

「こんなところで暴れられても面倒だ!最初から全力で行かせてもらうぜ!」

 

俺は地面に突き立てた剣を右手で引き抜き、右腕を伸ばした状態で後ろに引く。

 

「カーネージッ!」

 

その状態で地面を強く蹴ってエンシェントドラゴンへと向かっていく。

この時、ヘルズファングと同じく術式と同じ要領で地面スレスレを飛んでいる。

近づききった俺は剣を右から斜めに振り下ろす。ヘルズファングの時より速い速度で懐に飛び込んだことが幸いし、エンシェントドラゴンは今の一撃でようやく俺に気がついた。

だが、エンシェントドラゴンが俺に気づいた時には、既に本命の一撃の準備ができていた。

 

「シザーッ!」

 

俺はそのまま左に一回転しながら、術式と同じ要領で剣の刃部に血のような色をしたエネルギーを溜めておいた俺は、剣を右から斜めに振り上げながらそのエネルギーを前に炸裂させる。

炸裂したエネルギーの中から、巨大な鋏のような形をしたエネルギーが現れ、エンシェントドラゴンの腹を縦に切る。

その一撃はエンシェントドラゴンに浅からぬ傷を与え、エンシェントドラゴンは驚きの声を上げてよろめいた。

また、カーネージシザーも『ソウルイーター』の効果が付いているため、紅い球が三つほど出てきて、俺の右手の甲に吸収される。大きさはヘルズファングより大きい。

 

「思った以上に効果があるみてえだな・・・」

 

モンスターも生き物であるため、倒し過ぎたら耐性がついてしまうのではないかと思っていたが、そんな心配は要らなかったようだ。

なら一気に畳み掛けるだけだ。俺は一度剣を逆手持ちから通常の持ち方に変えて構え直す。

俺が構え直してすぐに、エンシェントドラゴンは左腕で殴りかかってくる。俺はエンシェントドラゴンの頭上に行くようにジャンプして避ける。

 

「ナイトメアエッジ!」

 

頭上にたどり着いた俺は剣を左側に振りかぶる。

そこからすかさず黒い炎のようなものを纏わせて振り下ろしながら、術式と同じ要領で地面に向かって急降下する。

その一撃は、エンシェントドラゴンの胴から腹にかけて傷跡を作っていく。

地面に着地したと同時に、俺は振り下ろしていた剣を振り抜く。

 

「沈めッ!」

 

振り抜いてからすぐに、俺は剣を左手で逆手持ちに持ち替え、黒い炎のようなものを纏わせて上から縦に振った。

この一撃はナイトメアエッジで与えた傷の部分に当たり、エンシェントドラゴンは絶叫しながら数歩下がる。

このまま行けばこっちはもうすぐ片付きそうだな。そう考えた俺はノワールの方を顔だけ向けて見やる。

 

「もらった!・・・?」

 

ノワールはエンシェントドラゴンの攻撃を避け、そのまま剣を右から斜めに振り上げようとする。

しかし、そこで何かに気づいたのか動きが一瞬止まる。それが仇となり、ノワールは地面に叩きつけられる。

ちなみに、この時エンシェントドラゴンは動いていなかった。エンシェントドラゴンの頭に乗っていた小型モンスターがノワールにタックルをかましたことで、ノワールははたき落された。

 

「かは・・・っ!?」

 

地面に背をぶつけたノワールが思わず声を上げる。

ノワールはすぐに起き上がろうとするが、その時ノワールの変身が強制的に解除された。

 

「え・・・?噓っ!?」

 

「なっ!?」

 

ノワールは自身の姿を確認して動揺し、変身が解除される所をみた俺は驚く。

ノワールと対峙していた方のエンシェントドラゴンはゆっくりとノワールに近づいていく。

 

 

「あっ・・・ああ・・・」

 

「ノワール!・・・っ!」

 

ノワールは地面に座ったまま竦んでしまっていた。変身が突然解けたんだ。頭から疑問が離れないはずがない。確かにそれは無理のないことだが、今回はモンスターがトドメを刺さんとしているため、かなりヤバい。

すぐに助けねえと!危機を感じた俺はノワールの元へ走ろうとしたが、俺と対峙していたエンシェントドラゴンが右腕を突き出してきたため、俺は剣を左から水平に振って受け止める。

最初からエンシェントドラゴンを押しのけてノワールの元へ行くつもりなら、黒い炎のようなものを纏わせた威力のある攻撃で弾き返せただろうが、今回は何も準備ができなかったが故に普通の状態で受け止める羽目になった。

 

「この野郎っ!邪魔すんな!」

俺は右腕に黒い炎のようなものを纏わせ、エンシェントドラゴンの右腕を殴りつける。

それはエンシェントドラゴンの右腕を無理矢理左側に押しのける。

 

「あぁ・・・!?」

 

それを確認したらすぐにノワールの元へ走り出そうとする。しかし、振り向いてみればもうエンシェントドラゴンがノワールを殴りかかれる距離まで近づいていた。

 

「(間に合うか・・・?いや、ここはやるしかねえ・・・!)」

 

「どっせえええいっ!」

 

そう決めた俺が走り出そうとした時、俺たちが進んできていた方から声が聞こえ、その声の主がエンシェントドラゴンを蹴り飛ばした。

声の主はネプテューヌだった。

 

「ネプテューヌ!助かったぜ・・・」

 

「やっほーい!」

 

「ネプテューヌ・・・あなた・・・」

 

俺は突如来た頼もしい援軍に感謝する。ネプテューヌはこんな土壇場でもいつものお気楽な調子でそう言う。

それに対して、ノワールはネプテューヌが来たことに驚いていた。

 

「・・・って、あれ?ノワール、何で変身解けてんのー?」

 

「分かんないけど、突然・・・。っ!ネプテューヌ!」

 

ネプテューヌもノワールが仕事で外に出てるのに変身してないことに違和感を感じて訊いたが、エンシェントドラゴンの動きに気がついたノワールの声で中断されてしまう。

エンシェントドラゴンは新たに現れたネプテューヌを排除すべく左腕を突き出した。ノワールの声に反応したネプテューヌは太刀を上から斜めに振って受け止める。

俺は自分と対峙していたエンシェントドラゴンが動いたであろう気配を察知して振り向く。

エンシェントドラゴンは再び右腕を突き出そうとしていた。それを見た俺は一度剣をしまって右腕を引く。

 

「ガントレット・・・」

 

俺は黒い炎のようなものを右腕に纏わせ、軽くジャンプしながらエンシェントドラゴンの胴を殴る。

俺が無防備だと思っていたエンシェントドラゴンは、俺の突然の一撃に驚き、一歩後ろに下がる。この時、エンシェントドラゴンは攻撃体制を解いてしまった。

 

「ハーデス!」

 

一撃目の時に体が左に半回転していたので、俺はその勢いを使いながら左足で蹴り上げるタイミングに合わせて、術式と同じ要領で左足から血のような色をしたエネルギーの刃を三つ飛ばす。

この一撃でエンシェントドラゴンは数歩分後ろに飛ばされる。また、エンシェントドラゴンは蹴り上げられたのに斬られた痛みを感じたのか、訳が分からないとでも言いたそうだった。

 

 

「ノワール!変身ってのはさ・・・こういう時に使うんだよっ!」

 

一方で、ネプテューヌはそのまま太刀を無理矢理振り切ってエンシェントドラゴンの右腕を押しのけ、更に左脚でエンシェントドラゴンの胴部に蹴りを入れる。

そして、今なら変身できると確信したネプテューヌが変身をする。

 

「女神の力、見せてあげるわ!」

 

ネプテューヌは凛々しい声で宣言し、エンシェントドラゴンの頭の高さまで空中に浮きながらながら太刀で牙突の構えを取る。しかし、後から来ていた小型のモンスターに気が付いていなかった。

それに気づいたノワールはすぐに起き上がり、アイテムパックからガード付きの片手剣を呼び出しながら小型のモンスターに向かっていく。

 

「カッコ付けてんじゃないわよ・・・!」

 

ノワールはネプテューヌのことしか見ていなかった小型のモンスターに剣を右から斜めに振り上げることで一太刀に斬り捨てた。

小型のモンスターは光なって霧散した。

 

「ありがとう。後は私に任せて」

 

ネプテューヌは顔だけ向けて礼を言い、すぐにエンシェントドラゴンの方を見る。

そして、少しだけシェアの力を溜め、ものすごい勢いでエンシェントドラゴンに向かっていった。

さて・・・こっちもそろそろ終わらせるか。頭に血の登った俺と対峙している方のエンシェントドラゴンはゆっくりと歩いて俺に近づいてくる。

それを見た俺は敢えて自分の方からエンシェントドラゴンの懐に走っていく。十分に近づききったところで俺は右腕を引き、術式と同じ要領で右手に血のような色をしたエネルギーで巨大な手を作る。

 

「クロスコンビネーション!」

 

「闇に喰われろ!」

 

ネプテューヌは太刀を右から斜めに振り下ろし、左から斜めに振り下ろし二回、右から斜めに振り下ろし、左から斜めに振り上げ、上から縦に振り下ろしの六連撃を食らわせる。

俺は出来上がった巨大な右手でエンシェントドラゴンの腹辺りを掴む。そして、そのままエンシェントドラゴンに手から無数の血の斬撃を走らせる。

 

「砕け散れ!」

 

十分に斬撃を食らわせた後、俺は手を形成していたエネルギーを爆発させた。無数の斬撃を受けただけじゃなく、至近距離で爆発を受けたエンシェントドラゴンは絶叫を挙げながら光となり、柱状の爆発を起こして消えていった。

この時、紅い球が出てきたが、普段は三つなのに対して、闇に喰われろは十ほど紅い球を出していた。それでいて大きさもデッドスパイクと大して変わらなかった。そのため、右手の甲に吸収された時、普段より回復してる実感が湧きやすかった。

ネプテューヌのと対峙していたエンシェントドラゴンも、ほぼ同じタイミングで同じように消えていった。あまりの光の強さに、ノワールは思わず顔を覆う。

周囲にモンスターがいないことを確認できたため、ネプテューヌとノワールは武器をアイテムパックの中へとしまう。

ネプテューヌがノワールの元へ移動するのが見えたので、途中で武器をしまっていた俺はそのまま歩いてノワールの元へ移動する。

 

「・・・やるじゃない。あなたたち・・・」

 

合流して一番最初に口を開いたのはノワールだった。助けられたことが自分の中で納得行かないのか、ふてくされた表情をしていた。

 

「あら?珍しく素直ね?」

 

「な・・・何よ?別に、助けてもらわなくたって・・・」

 

「テメェ、馬鹿か。こんなときまで強がりはよせよ・・・正直なところみっともねえ」

 

ネプテューヌが少しからかい気味に言うと、ノワールが感情的に言い返し出したので、俺は少し怒気の籠った声で無理矢理遮る。

 

「ラグナ・・・?」

 

「俺はゲイムギョウ界(こっちの世界)に来たばかりの時みたいに、向こうの世界で突然右腕が動かなくなって取っ捕まったことがある・・・。

そん時俺は「右腕が動かねえから負けただけで本当ならこんなもんじゃない」って言ったんだ・・・。どうだ?負け惜しみにも程があるだろ?」

 

あの時はマジでみっともねえし、情けなかった。あの時の俺は『蒼の魔導書(ブレイブルー)』無しでもカグラに負けていただろう。

民のために力をつけたカグラと、ただ復讐のために力を振るっていた当時の俺では話にならねえくらいに力量に差があった。

 

「・・・確かにただの負け惜しみね・・・でも、私は・・・」

 

「いや、同じだよ・・・。あんまり言いたくねえけど、お前・・・変身解けた時の自分がどんな状況だったかわかるか?」

 

「うっ・・・それは・・・」

 

俺に言われたノワールは思い出して顔を下に向ける。よっぽどショックだったみたいだな・・・。俺は少し言い過ぎたと反省する。

 

「それに・・・お前らはもう敵じゃない。仲間なんだろ?だったらもう少し頼ることを覚えてもいいんじゃねえか?

一人でやるのもいいけどよ・・・一人じゃどうにもならない時なんていくらでもあるんだ・・・。俺はあの世界で・・・嫌ってくらいにそれを知った」

 

『あの日』の惨劇。ニューに負けて『黒き獣』になっちまいそうになった時。無謀にもテルミ挑んだ時。カグラに取っ捕まった時。自分の持っている力の使い方を決めた時。『神の見る夢(セントラルフィクション)』を止めようとして、ナインに何度も妨害を受けた時。そして、スサノオユニットからテルミを引き剥がした時・・・。

それらは全て俺一人で解決できなかったことだ。特にテルミとニューの時はノエルとラムダ(あいつら)の助けがなければ死んでいたし、力の使い方はセリカがいなければ決まらなかっただろう。

最後にサヤのところへ行ったのは俺一人だが、それまでの道は多くの奴らが助けてくれたからこそ成り立った。それは紛れもない真実だった。

 

「そうは言われても・・・私には・・・」

 

「仲間ならもういるだろ?ほら、すぐそこに・・・」

 

「え・・・?」

 

俺はネプテューヌの方を見ながらそう言う。俺の見てる方に気がついたノワールはまだ変身したままであるネプテューヌの方を見る。

 

「ネプテューヌ・・・?」

 

「ノワール、私はもう仲間だと思っているわよ?」

 

「ちょ・・・いきなり堂々と言う?」

 

困惑の残るノワールにネプテューヌは余裕がある笑みを見せながら言う。ノワールは顔を少し赤くしながら顔をそらす。

まだこういうのには慣れてねえみたいだが・・・まあ、その内慣れるだろう。俺は珍しく気楽な思考をした。

 

「それならノワール。今回はどうしてこの辺りでのクエストを選んだのかしら?」

 

「そ、それは・・・あなたたちに早く帰って欲しく・・・」

 

「私が活躍すれば、国境越しにプラネテューヌに届く・・・そうすれば私はシェアを回復できる。でしょ?」

 

ノワールがいつものように恥ずかしさ故に素直に言えないところをネプテューヌが遮って言う。

それを言われてノワールはハッとした顔になる。どうやら当たっていたみたいだ。言い過ぎたかとは思ったが、そこまで引きずることはなさそうだな。俺は少し安心する。

 

「ありがとう。ノワール」

 

「ネプテューヌ・・・」

 

最後に礼を言って、ネプテューヌは変身を解き、いつもの活発な少女の姿に戻る。

 

「まあ、そんな訳だ。これからは仲間意識持って行こうぜ?何、慣れるのにそこまで時間は掛からないさ」

 

「それに、みんなで一緒にいると楽しいしねっ!」

 

「・・・あなたたちの言い分は十分に解ったわよ・・・。でも、今すぐには無理よ?」

 

俺たちが協力したり、友好関係を築くのはいいことだと言うとノワールは参ったと言わんばかりの顔で頷き、同時に少し自信のなさそうな回答をする。

 

「分かってる。だから俺たちはその時まで待つ。もし悩んだりしたら話してみるのもいいさ。

さっきの時も言ったが、俺ならいつでも話し相手になるぜ」

 

「ラグナ・・・。あなたは優しいのね・・・」

 

「ん?そうか?俺は普通だとは思うが・・・」

 

ノワールが少し嬉しそうな顔でそう言うが、俺は自分のどの辺が優しいのかが分からないので困惑した。

 

「あら・・・意外と無意識なのかしら?まあいっか。今はまだね・・・」

 

「?何のことだ?」

 

「何でもない。さて、そろそろ帰るわよ」

 

「うん!そうしよう!」

 

俺が何のことか分からず困惑している間に、ノワールはいつもの調子を取り戻し、さっきの時みたいに仕切り出した。

ネプテューヌもその言葉に賛同する。・・・だけなら良かったんだが・・・。

 

「ノワールがやられかけてたところも、ちゃんとみんなに伝えないいけないしね♪」

 

「なぁっ!?ちょっとぉっ!お願いだからそれだけは止めて!」

 

ネプテューヌがノワールの方を向きながらウインクしてとんでもないことを言い出した。

それを聞いた俺は驚き、ノワールは必死に止めるよう懇願する。

 

「おぉ~い、みんなぁ~っ!ノワールがぁ~・・・」

 

「ちょっと待って!待ちなさいってばぁっ!」

 

ネプテューヌがそんなことをお構いなしにわざとらしく言いながら走るのを見て、ノワールは慌てて追いかける。

 

「やれやれ・・・。なんか締まんねえなぁ・・・」

 

せっかく上手く纏めたのになぁ・・・。何でこう台無しになるんだろ?俺は少し悲しくなる。

まぁ、あれでノワールが素直になってくれんならいいかな?俺はそんなことを思いながら歩いて戻った。

 

 

 

だが、この時俺たちはノワールの変身が解けた原因となったものが落ちていたことに気がつかなかった。

そして、奴の影にも・・・。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ブラックハート様とパープルハート様が!」

 

「ハイパー合体魔法で、モンスターを倒してくださったわ!」

 

『ばんざーいっ!ばんざーいっ!』

 

「なんか・・・話作られてね?」

 

俺が二人に遅れて洞窟から戻ってくると、いつの間にか『ネプテューヌとノワールの二人で放ったハイパー合体魔法』とやらでモンスターを倒されたことになっていた。

その子供たちの喜びぶりをみたネプテューヌは少し困惑しながら頭を掻いた。

 

「まあ、いいんじゃねえの?少なくともお前の部分が俺じゃなくてさ・・・」

 

「ねぷぅっ!?ちょっと、ラグナ!そういう冗談はやめてよっ!心臓に悪いよぉ!」

 

俺が茶化すように言うと、ネプテューヌは焦り、抗議の声を上げる。割と効いてたのか、かなり狼狽していた。

 

「最近サボってたお前が悪い。自業自得だ」

 

「もぉーっ、ラグナの鬼ぃ!ていうか、最近遠慮しなくなってない!?」

 

俺がさらにネプテューヌに効くようなことを言うと、ネプテューヌが鬼呼ばわりして来た。

最近遠慮なく言えるようになってきたのは、ネプテューヌのだらけっぷりを見てきたのもあるが、この世界に慣れたからだろう。

こんだけ時間あれば、色んな事をやらかしてきた俺でも変われるんだな・・・。それを改めて実感した。

 

「・・・・・・」

 

しかし、俺はネプテューヌと談笑していたため、ノワールが考え事をしていたことに気づけなかった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「奴らがモンスターを仕留めてくれたおかげで楽になったな・・・」

 

「モンスターと会ったらオイラは逃げなきゃ行けないっちゅからね・・・」

 

ラグナたちがトゥルーネ洞窟を去った後、魔女のような格好をした白い肌の女性と、まるでマスコットのように胴よりも頭の方が幅の大きい、二足歩行のできるネズミが入っていった。

彼女たちはある目的のために、必要なものを探していた。

 

「あとどれくらいっちゅかね?」

 

「もうすぐ最奥部だ。見つからなければまた別のところになるが・・・ん?」

 

二人・・・正確には一人と一匹はトゥルーネ洞窟の最奥部までたどり着く。

ここまで来て何も無ければ徒労に終わってしまうのだが、その目当てのものは運よく見つかり、女性はそれを拾い上げる。

 

「あったぞ。これだ」

 

「これが、オバハンの言ってたアンチクリスタルっちゅか?」

 

「ああ。これだ・・・情報が正しければ他にも三つあるみたいだが・・・。後、オバハンはよせ。

まあ・・・何がともあれ、これで女神どもを打倒するために一歩前進だ。できればあの『紅の旅人』も倒せればいいが・・・」

 

女性はネズミの質問に応えながらも、ツッコミを忘れない。

―アンチクリスタル・・・。赤い微弱な光を放つこれは、先ほどノワールの変身を強制的に無効化してしまった元凶であり、シェアエナジーを無効化できる成分が結晶になったものである。

彼女たちの目的は女神の排除であり、そのため女神を無力化できるアンチクリスタルを集めていた。また、ラグナのことに関しては彼女自身、特に恨みは無いが、女神に協力しているため、障害となっている。

 

「さて、ここでの目的は果たしたし・・・次へ向かうとしようか・・・」

 

「へぇ・・・面白そうなこと考えてんじゃねえか・・・俺も混ぜてくれねえか?」

 

「ぢゅぢゅっ!?お、オバハン!何か声が聞こえて来たっちゅよっ!?」

 

目的を果たした一同はこの場を去ろうとするが、どこからともなく声が聞こえたので、一同は足を止める。男の声だった。

ネズミは焦りながら辺りを見渡し、女性は警戒しながら辺りを見渡す。

 

「あぁ・・・ここだよここ。そのテメェが持ってるアンチクリスタルとやらの中」

 

「・・・アンチクリスタルの中だと?」

 

声が再び聞こえ、その声の主の回答に女性は思わずアンチクリスタルを凝視する。

赤い色をしたアンチクリスタルの中に、碧黒い人型のような影が混ざっていた。

 

「やっと気づいてくれたか・・・」

 

「妙な奴だな・・・ところで、混ぜろとは言ったがどういう意味だ?」

 

影は少し楽しくなってきたような声を出す。その影は笑っているようにも見える。

女性はこの影が最初に言った言葉の意味を問う。

 

「ここじゃあ『紅の旅人』っつったか・・・。そいつにちっとばかし礼をしに行きたくてな・・・。

こっから出て元に戻る必要もあるが、もし戻してくれんなら、俺も女神とやらの打倒に付き合うぜ・・・ケヒヒ」

 

影は気味の悪い笑いをする。ネズミはその影から言い知れぬ恐怖感を感じ、震えていた。

 

「・・・フッ。いいだろう。貴様がそういうなら方法を探してやろうじゃないか」

 

「オバハン!?正気っちゅか!?」

 

女性の判断にネズミは正気を疑った。アレはただ者ではない。間違いなく危険なことを考えている。ネズミはただクリスタルの中にいるはずだけの影に恐怖する。

 

「いいねぇ。交渉成立だ・・・。待ってろよ・・・『死神』、『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』・・・。今度こそ俺様がブッ殺してやるぜ・・・!」

 

「『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』?それが奴の名前なのか?」

 

「あぁ・・・俺のいた世界ではな・・・。こっちじゃあただ『ラグナ』って呼ばれてるだけだがな」

 

女性の疑問に影は自分の知りえる範囲で答える。

ラグナ=ザ=ブラッドエッジ。それは向こうの世界でラグナが呼ばれていた名である。統制機構に反逆し、いつしか『死神』と呼ばれるようになっていたのだ。

この影はそのラグナに因縁があったのだ。

 

「『俺のいた世界』か・・・面白い。そうそう。名乗っていなかったな・・・私の名はマジェコンヌ。女神打倒を目指すものだ。貴様は何という?」

 

女性・・・マジェコンヌは影の目的。そして、彼の持っている情報に興味を持ち、協力関係を作ることを決め、名を名乗った。

 

「俺か・・・?ヒヒ、俺の名はユウキ=テルミ・・・ラグナ=ザ=ブラッドエッジを葬り、この世界に恐怖を振りまく存在だ・・・ケヒヒヒヒ!」

 

ユウキ=テルミと名乗った影は再び気味の悪い笑いをした。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「凄い!シェアクリスタルがこんなに輝きを放つだなんて・・・!」

 

「ふふーん♪」

 

プラネタワーのシェアクリスタルがある部屋で、俺とネプテューヌ、そしてイストワールの三人で輝きを放っているシェアクリスタルを見ていた。

少し寂しいのは、シェアクリスタルの周りはサークルだけであったことだが、それでも虹色に輝くシェアクリスタルは見ていて綺麗だと感じる。

その輝きを見て、イストワールは感嘆の声を上げ、ネプテューヌは両手を腰にあててドヤ顔をする。

 

「さすがノワールさんとラグナさん!」

 

「ねぷぅっ!?」

 

だが、イストワールの予想外な感想にネプテューヌは思わず足を滑らせて尻餅をつく。

 

「もぉー・・・そこは流石私でしょー?」

 

「ネプテューヌさんの功績かどうか、私、正直疑っています」

 

「うわー、いーすん酷ぉい・・・」

 

「なら、そこは俺が保証するぜ。実際、ネプテューヌがいなかったらやばかった場面あったからな・・・。

たまには認めてやってもいいんじゃねえの?今回は大分働いてたしな」

 

ネプテューヌはイストワールの対応に唇を尖らせる。

イストワールは普通の国では考えられないようなことを言う。まあ、ここが『プラネテューヌだから』で解決しちまうくらいな国だからもうツッコまねえが。

とは言え、流石に否定的な言われようは今回だと割に合わないので俺はネプテューヌに助け舟を出す。

 

「・・・ラグナさんがそういうのなら・・・」

 

「おおっ!ラグナ、私に味方してくれるの!?」

 

俺の一言でイストワールは悩みながらも納得し、ネプテューヌは目を輝かせてこっちをみる。

イストワール。やっぱり半月何もしてねえネプテューヌに頭抱えてたんだな・・・。俺はイストワールの態度を見て納得した。

 

「頑張ってたやつを酷く言う必要はないからな。これからもこの調子で頑張ろうぜ。

・・・まあ、適度に休みを入れながらな」

 

実際のところ、俺は一度ノエルを酷く突っぱねてしまったことがある。

流石にあの時は俺もどうかしてたな。サヤに似すぎてて、「何で目の前にいんのがサヤじゃなくてノエル(こいつ)なんだ」って言わんばかりの態度はまずったなホントに・・・。

 

「わーいっ!ありがとーラグナーっ!」

 

「おわぁっ!いきなり抱きついてくんじゃねえっ!」

 

ネプテューヌが嬉しさのあまりか抱きついてくる。俺はその勢いに負け、二歩ほど後ろに下がってしまう。

 

「・・・ラグナさん。よっぽどネプテューヌさんに頼られてるみたいですね」

 

「・・・そうなのか?頼られんのはちと面倒だが、それならそれでいいか・・・」

 

そういや、頼られんのは久しぶりな気がする。教会でシスターと一緒にジンとサヤ(あの二人)の面倒見てた以来か・・・。

あの時はずっとこんな時間が続くと思ったが、今はゲイムギョウ界という、全くの別世界で生活してる・・・。人生何が起こるか解ったもんじゃねえな。

 

「お、おいネプテューヌ。そろそろ・・・」

 

「きゃあああっ!」

 

流石にずっと抱きつかれたままは無理があるので、俺はネプテューヌに離れてもらおうとするが、ネプギアの悲鳴が聞こえたため、俺たちは普段みんなで集まる部屋に移動する。

 

「ネプギアー。どうしたのー?」

 

「お姉ちゃん・・・私のヘンな写真がネットに・・・」

 

俺たちはネプギアの元まで行く。ネプギアが使っていたパソコンの画面を見ると、スライヌと戦ってた時にヤバい絵面してた時のネプギアの写真がネットに上がっていた。

広報用以外の写真は使わないから削除したはずなのだが、何でだ・・・?

 

「おお!私のメアド宛に送った写真!ネプギア可愛いよネプギア!」

 

「恥ずかしいよぉ・・・っ」

 

「・・・」

 

ネプテューヌはパソコンの画面をスクロールさせながらそんなことを言う。それに対してネプギアは顔を赤くする。

他の国はパソコンの画面を指で操作するようにはできてないのに対して、唯一パソコンを指でも操作できるプラネテューヌの技術は頭一つ抜けてると呆然としながら俺は改めて感心した。

 

「ネプ子・・・あんた送り先間違えたんじゃない?」

 

「まさかそんなぁ・・・。あっ・・・国民向けのメルマガアドレスに・・・」

 

「やっぱり・・・」

 

アイエフに言われたネプテューヌが自身の持っているNギアを操作する。

結果は案の定間違いだったそれを聞いたアイエフは頭を片手で抑えた。

 

「でもコメント、なんだか好評みたいです♪」

 

『えっ?(ん?)』

 

コンパの何気ない一言に、俺たちはパソコンの画面に注目し、そのコメントを確認する。

 

「『ビジュアルショック』・・・」

 

「『脳天直撃』・・・」

 

「『まだまだ行けるぜ!プラネテューヌ!』・・・支持されてるわね・・・」

 

「えっ?ええっ!?」

 

「オイオイ・・・嫌な支持のされ方だなぁ、こりゃ・・・」

 

コンパ、ネプテューヌ、アイエフの順で読み上げ、何故か支持されていることにネプギアは動揺し、俺は飽きれながら感想を述べる。

これが他の国だったらと思うと考えたくもない・・・。俺は少し不安になった。

 

「もしかして・・・シェアが急に伸びたのは・・・」

 

「この写真が原因か・・・?」

 

「すごいじゃん!ネプギア!」

 

「そ、そうかな・・・?」

 

だとしたら俺たちの努力は一体何のためにあったんだ・・・?俺は頭を抱えた。

ネプテューヌの方はそんなことはどこ吹く風と言わんばかりにネプギアを褒める。ネプギアは少し困りながら言う。

 

「てことは・・・こんな写真をばら撒けば・・・!」

 

「えっ!?」

 

「ネプギア、シェアの為だよネプギア!」

 

「ちょっと、お姉ちゃん!?」

 

ネプテューヌのとんでもない発言にネプギアは動揺する。

ネプテューヌはそんなこともお構いなしにNギアで操作を始めだしたので、ネプギアは慌ててネプテューヌを止めようとする。

 

「はぁ・・・この国の行く先が早くも不安です・・・」

 

イストワールのため息混じりの言葉に、俺は同情するしかなかった。

 

「流出は任せろバリバリーっ!」

 

「やめてーっ!」

 

ネプテューヌはネプギアの制止を無視してNギアを操作しようとする。それをネプギアが阻止する。

俺は最初こそその様子を眺めていたが、流石にネプギアが可哀想になったので止めに行くことにした。

 

「おいネプテューヌ・・・そろそろその辺に・・・」

 

「何を言うのさっ!シェアの為なんだよ!?」

 

「妹をダシにすんなこのお調子者がぁッ!」

 

ネプテューヌの迷いなき言葉に俺は一喝する。その後はシェアの為にとネプギアの写真を撒こうとするネプテューヌとそうはさせまいとする俺の論争が少し続いた。




これにてアニメの1話分は終了です。

とりあえずはテルミを出せました。これからも出せるタイミングでブレイブルー側からキャラを出していこうかと思います。

ラグナが出せてない技はベリアルエッジとシードオブタルタロスくらいですね。CF基準だからベリアルエッジは大分悩みどころです。

次回はオリ回を少し挟みたいと思います。

追記・・・またエンシェントドラゴンかよと思った方はすいません・・・。アニメ1話でエンシェントドラゴンと戦うシーンあったので。その時は一体ですが。

また、ノワールが不遇感ありますが、私はノワールのアンチではありませんので、もしそう感じた方は本当にすみません・・・。


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12話 尊き平穏

遅くなってすみません!
ここからまた少しオリ回挟みます。

キャラのリクエストで士官学校五人組、ハクメン、セリカ、スサノオ、カグラのリクエストをいただきました。出せるように努力したいと思います。

お気に入りが50超えました。登録ありがとうございます!これからも頑張って行こうと思います。


「とりあえずは買えたな・・・。パソコン」

 

「帰ったら初期設定とその他諸々やりますよ♪」

 

女神の心得の一件からものの2日。せっかくだから何か物を買おうってことで、プラネテューヌの電気屋で、俺はネプギアに手伝ってもらいながらどうにかパソコンを買い終え、プラネタワーへの帰路へ付いた。

この後は初期設定等をやるらしいので、勿論ネプギアに手伝ってもらうことになっている。CD-Rも一緒に買わされたのは少し気になるが・・・。

 

「是非ともよろしくお願いします。ネプギア先生」

 

「せ、先生だなんてそんな・・・。でも、頼まれたからには頑張りますよ!」

 

俺がネプギアの後ろに先生を付けて頼んでみると、顔を少し赤くしながらあたふたし、その後は張り切るような笑みを見せる。

何故ネプギアに手伝ってもらっているかと言えば、「私だとお金のこととか度外視しちゃう」とネプテューヌの自己申告からだ。

ただ、初期設定の方は参加してくれるみたいだ。こっちも手伝ってくれればいいのにと言おうとしたが、ネプテューヌの性格を理解していた俺はあっさりとその言葉を呑んだ。

俺自身、資金はクエストでそれなりに稼いではいるが、限度はある。この辺は体力と相談したりする必要があるから仕方ない。場合によっちゃあ移動だけでも相当時間が掛かる。

 

「おい、アレ見ろよ・・・」

 

「おお!『紅の旅人』じゃん!初めて生で見たわ・・・」

 

「その旅人を万全な状態にした女神候補生もいる・・・」

 

「なんか悪いな・・・。やり過ぎたみたいだ・・・」

 

帰る際もやっぱりというか、色んな人たちから注目の的になってしまっている。女神じゃないのにエンシェントドラゴンとかそんな辺のバケモン呼ばわりされやすいモンスターを倒せる俺のせいだ。

後、度々女神たちと行動を共にしていることから、「女神様のボディーガードも兼ねてんじゃね?」とかって言う噂も立つことがある。やめてくれ。俺はそんなんじゃないから・・・。

こんだけ見られてたら色々と気にし過ぎるんじゃないかと感じた俺は一度ネプギアに謝る。

 

「これくらい平気です。でも・・・良かったですね、ラグナさん・・・。みんなに受け入れてもらえて・・・」

 

「確かに、それは言えてるな」

 

ネプギアは平気どころか俺に賛辞をくれた。

実際、俺が前に自分のことを話した際に、『死神』と呼ばれていたことを話して以来、何かと心配してくれていたのだ。

本当に、こういう時に気を遣ってくれるネプギアはありがたい。正直心の支えにもなっているので、感謝してもしきれないくらいだ。

俺たちが話しながら歩いていると、人が段々と集まってきた。大体は俺のせいだ。ネプギアの話題はそれに釣られてのものに近い。

 

「人が集まって来ちゃいましたし、ちょっと急ぎましょう・・・」

 

「ああ。そうしよう」

 

ネプギアの案に俺は反対することなく、足早にプラネタワーへと帰って行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「戻ったぜ」

 

「お帰り~っ!じゃあ早速始めようかっ!」

 

プラネタワーに帰って来て、ネプテューヌに迎えられた俺たちは早速俺が使っている部屋に移動する。

今俺の部屋にあるのは、元からあったベッド、机、着替えを入れる為にある縦長のクローゼットと非常に殺風景極まりない状況だった。

そしてこの殺風景な部屋に、今日からパソコンという名の模様が入ることになる。ちなみに、パソコンはプラネタワーへの持ち込みが大変すぎることからノートパソコンにしている。

早速机の上にパソコンを置き、パソコンを買ったときに付いてきた充電ケーブルと、一緒に買ったマウスをそれぞれの端子に繋ぐ。そして、早速電源を入れてみる。

電源のボタンを押してから少し間をおいて、俺の眼前に電子画面のモニターが現れた。

プラネテューヌのノートパソコンの多くは、モニターに当る部分が実体では無くなっている。そのため、何もしてない時はキーボード部分しかないという、極めて特殊な作りになっている。

しかし、そのおかげで持ち運びは楽だし、スペースは食わなくなるという利点も生み出してる。しかし・・・実体じゃない電子画面どころか、それをマウスじゃなくて指でも操作できるようにしてるって・・・プラネテューヌの技術力は頭一つ抜けてるな・・・。俺はそんな技術者たちの努力に感心した。

 

「おおっ!?びっくりした・・・」

 

「ああそっか・・・。ラグナは画面が付くとこ見るの初めてだったよね。

いやぁ~、わかるわかる・・・。私も初めて画面つけた時は驚いたよ・・・。プラネテューヌの技術者は世界一ィィィッ!って思わず言っちゃったよぉ・・・」

 

「・・・これを過大評価のし過ぎだって言えねえのがまたすげえんだよな・・・」

 

「プラネテューヌの人たち、他の国と比べて向上心とか凄いですからね・・・セキュリティだけはあまり進み具合良くないですけど」

 

初めてその画面の出方を見た俺は驚いた。ネプテューヌは同調し、当時の感想まで述べてくれる。俺のはネプギアたちのパソコンと比べ、幾分か新しいタイプだが、ネプテューヌの興奮具合は容易に想像できる。

ネプテューヌの言葉で過大評価し過ぎかと思う人もいるかもしれないが、前途の通り、ゲイムギョウ界でプラネテューヌの技術力は頭一つ抜けてる為、他国が吸収しようと必死だったりする。

ただし、そんなプラネテューヌにも、ネプギアの言う通りにセキュリティが弱いという割と致命的な短所があったりするので、今回はラステイションで買ってきたセキュリティソフトでカバーする。

セキュリティの強化は今後の課題として、それでもここまでの技術力を獲得したのは、紛れもない技術者たちの努力だ。恐らくは『スペースを取ってしまう問題を解決したい』とか、『実体がないけどタッチできたら凄いよな』とか言った好奇心から来る努力だったのだろう。

俺の努力は『サヤを取り戻す』、『大事なものを護る』、『苦しんでいるやつを助ける』と言った、目の前で何が起きてるかを見てどうするかの努力だが、それでも努力している・・・あるいはしていたことは変わらない。俺は改めて努力することの良さを再確認した。

 

「やること忘れてた・・・そろそろ初期設定に入ろっか」

 

「おう。えーっと・・・」

 

ネプテューヌに促され、俺は説明書を開いて睨めっこを始める。正直なところ、電子機器は全く触ったことねえから解らねえことだらけだ。だからこそ今回はこの二人から手伝ってもらうことになった。

 

「・・・パーソナルネーム?どういうことだ?」

 

「起動時に出てくる名前のことですね・・・えっと・・・ここなんですけど」

 

・・・早速解らないところ一つ目出現。ネームっつうからには名前なんだろうけど、何をすればいいのか解らなかった。

そんな俺に気づいたネプギアは予め写真に納めておいたパソコン起動時の画面を見せてくれる。パスワード入力画面ではあるが、確かに名前らしく『Purple Sister』と真ん中に表示されていた。

 

「・・・なるほど。その部分を自分で決めればいいのか・・・。サンキュー、ネプギア。

・・・そうだな・・・。それならこうするか」

 

俺はネプギアに軽くお礼をいい、少し悩んでから『Ragna』と打ち込んだ。

ゲイムギョウ界では『死神』、『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』ではなく、『紅の旅人』と呼ばれることはあれど『一人の人間』、『ラグナ』として生きるからこれでいい。

無論、これで向こうの世界での罪が消えるわけでもないから、そこをはき違えるつもりはない。

パーソナルネームを決めた俺は次に出身国を決める。これは現状プラネテューヌなので、プラネテューヌで確定させる。

 

「メールアドレスは確かこれだったな・・・」

 

俺は登録を済ませた時に付いてきた登録通知書に書かれているメールアドレスを確認する。一応後でも設定できるそうだが、どうせならここでやってしまおう。

 

「そう。それをメールアドレスの欄に打ち込めばいいから」

 

「よぉし・・・やってみるかぁ・・・」

 

俺はキーボードで書かれていたメールアドレスを打ち始める。

ただし、普段みんながやっているように、ブラインドタッチだとか、指十本全部を使うといった器用なことは全く出来ず、紙とキーボード、そして、画面の三つを順番に見ながら片手で、尚且つ指一つで打つという非常に情けない絵面になっていた。

 

「ああ・・・なんだろう・・・本人がやるべきなのは分かってるのに、無性に交代したくなるこの感じ」

 

「・・・ヤバい・・・。自分のこの無様な打ち方が凄く情けねぇ・・・」

 

「さ、最初は仕方ないですよ・・・。まだまだこれからですから、頑張りましょうね?」

 

パソコンを使い馴れてる人にとって、ドがつく初心者を見るのはあまり良くないらしい。手際が悪すぎて自分と変われって言いたくなるそうだ。

事実、俺が下手くそであることは変わりないのだが、悲しくはなる。それと、ネプギアが励ましたつもりの言葉が追い打ちに感じてしまったのは間違いなく無様さを味わった直後だからだ。

その後も不慣れ故に手間取ることはあったが、どうにか初期設定を終えることができた。

 

「よし・・・。とりあえずここまでできたな・・・」

 

俺は一安心した。全く持って初めてかつ、向こうの世界で電子機械等は一切学んでないので、正直なところ不安だったからだ。

俺の場合、教会で暮らしていた時は畑仕事の手伝いとか、木製の椅子の直し方だとかを覚えて、『あの日』の後は戦い方と統制機構が何をやってたかとかを学んでいた。

その後はサヤを助ける為の度に出たが、その際に書物なんざ何も触れなかったため、その後は新しい知識は入らなかった。勿論電子機器も例外じゃない。

生活の色んな所に術式が関わるあの世界じゃ進化も止まっちまったんだろうな・・・。俺は目の前の超進化したとも言えるパソコンを見て少し悲しく思った。

 

「さてさて・・・。じゃあ、設定が終わったところでソフトのインストール・・・の前に、リカバリーディスク作りますか」

 

「・・・リカバリーディスク?」

 

「パソコンに何かあった時、初期の状態に戻すときに必要になるディスクのことですよ。

今回、CD-Rも一緒に買ったのは、リカバリーディスクを作る為なんです。パソコンを買ったときに付属しているならいいんですけど、付属してない場合は自分で作ることになるんです。

ラグナさんが買ったパソコンには付属して無かったので、これから作りますよ」

 

「そうだったのか・・・」

 

またわからない単語が出てきたので、思わず訊いたタイミングでネプギアが説明してくれる。どうやらリカバリーディスクは付属してるとは限らないようだ。つまりは、あると思い込んで無かったらそれの為だけに戻んなきゃなんねえってことになる。

さっきCD-Rを買わせたのはそれが理由か・・・俺はようやくCD-Rを買わされた理由を理解できた。

 

「まあ、とりあえず一枚目からやってみよっか」

 

「一枚目・・・?」

 

「画面を見てごらん?」

 

俺はネプテューヌの言葉に疑問を持って訊いてみる。するとネプテューヌに言われたので画面を見てみる。

そこで俺は気がついた。真ん中に出てきた作成するからディスクがどうのこうのと言ってる文の一番後ろに(1/4)と書かれていることに。

 

「これ・・・要するに四枚やるってことか?」

 

「おおっ!よく気づいたっ!まあ、四枚やるとは言っても・・・ディスクを入れてでき上がるまで待って、終わったら新しいのを入れるだけだから心配することはないよ」

 

「そうだったのか・・・安心したぜ・・・」

 

俺はてっきり何か必要な操作を四回もやんなきゃいけないのかと思ってたので、一瞬絶望したが、ネプテューヌの言葉を聞いて安心した。

そうと分かればやるだけだ。俺は早速ディスクの一枚目を入れ、リカバリーディスク一枚目の作成を始める。とは言っても、後は待つだけだが・・・。

 

「ああ、そうだった・・・。ネプギア、こっからしばらくすること無くなっちゃうし、今のうちに準備してきちゃいなよ」

 

「あっ、もうこんな時間・・・。二人とも、また後で」

 

ネプテューヌに言われたネプギアは自分のNギア一度時間を確認する。結構な時間になってたらしく、ネプギアは一度部屋を後にした。

 

「何の準備するんだ?」

 

「まあまあ、それは後でのお楽しみだよ」

 

「それならいいが・・・。とりあえず、前みたいにゲームやってたら知らねえうちに凄い時間が経ってた・・・みたいなのは簡便してくれよ?」

 

「あー・・・流石に今回ばっかりはそんなことしないよ・・・」

 

俺が訊くとネプテューヌがはぐらかしたので、最悪な事態は避ける為に釘を刺しておく。

するとネプテューヌが冷や汗を掻きながら否定するので、そんなことは無いみたいだ。

前に『蒼炎の書』が再び起動できるようになった直後から女神の心得の一件の間に、一度このようなことがあったのだが、その時は午後一から晩になるまでゲームに付き合う羽目になった。正直アレは疲れる。ゲーム等に慣れがない俺は尚更だ。

 

「それにしても、ラグナがこっちに来てからもう一ヶ月かぁ・・・。いやー、意外と早いもんだよねぇ・・・。」

 

「ああ・・・。そういや、もうそんなに時間が経ってたんだな・・・」

 

俺が初めて皆に会ってからもう既に一ヶ月。その間に過ごした時間は不思議なくらいあっという間に過ぎていった。

向こうの世界の時より時間が圧倒的に短く感じるのは、この世界での生活を楽しいと思っているからなんだろうな・・・。そう俺は感じた。

楽しいと感じる時間が殆ど無く、取り戻すために必死だったあっちの世界の生活と、この先の未来を考えることもでき、大切な人たちと楽しい時間を過ごしているゲイムギョウ界での生活・・・。向こうの世界のことを知っているから、なおのことゲイムギョウ界をいい世界だと感じられるのだろうか?それはまだわからない。これから見つけて行くでいいだろう。

 

「あの時は皆がざわつくから、何があったんだと思って結構焦ったんだ・・・」

 

「・・・知らなかったとは言え、マジで悪かった・・・」

 

「アハハ・・・。気にしないで大丈夫だよ。それに・・・ラグナと会ってからは今まで以上に毎日が楽しいし、寧ろお礼が言いたい気分だよ」

 

「そうだったのか・・・」

 

俺は改めて謝罪する。ネプテューヌは責めることはせず、寧ろお礼を言ってきた。

うーん・・・。騒ぎになりかけたってのにお礼を言われるってどういう事なんだろうか・・・?俺は少し困惑した。

そう言えば、俺がゲイムギョウ界に来たのは、和平を結んだ日だったんだよな・・・。ネプテューヌと話して俺は思い出した。ルウィーで読んだ資料には争いの歴史も載っていたことに。

気がつけば一枚目が終わっていたので、二枚目と入れ替え、二枚目の作成を始める。

 

「そういや、俺が来た時はゲイムギョウ界で和平を結んだ日だったけどさ・・・。何で和平を結ぼうってなったんだ?」

 

俺はせっかくだから今のうちに訊いておこうと思った。楽しいことを覚えようとは思っているが、こういう大事な話を聞くのを忘れちゃいけないとも思っていた。

 

「ああ・・・そのことか・・・。結構長くなるけど、大丈夫?」

 

「その辺は大丈夫だ。特に問題はないさ」

 

「・・・分かった。じゃあ話すよ。それまでどうしていたかを・・・」

 

それから俺はネプテューヌから、ネプテューヌの目の前で起きたゲイムギョウ界での出来事を聞いた。

初めて四女神が対面した時は、自分たちのつまらねえプライドで敵対宣言をすぐにしたこと。この時はネプテューヌも例外では無かったらしい。

その後は各国の女神がそれぞれの手段でシェアの奪い合いが始まったこと。他国に出向くことも度々あったらしく、出向いた先で女神同士が鉢合わせてその場で戦う羽目になったこともあったみたいだ。

 

「マジか・・・そんなに仲悪かったのか・・・」

 

「やっぱり仲悪そうに思えない?まあ、しょうがないか・・・。ラグナが知ってるのは和平結んだ後だからね」

 

正直なところ、今のあいつらを見たら信じられなかった。今は皆して仲がいいからだ。

 

「そういや、ネプギアたちはどうなんだ?和平結んですぐに仲良くなんのは難しいだろうし・・・。最初から仲良かったのか?」

 

俺は疑問に思ったので聞いてみた。四女神の仲が悪くても、候補生たちはそうでもないかもしれないという期待と、候補生も例外じゃないかもしれないと言う不安に駆られたから、ここで解決させておきたかった。

 

「うん。ネプギアたちはすぐに仲良くなってたよ。最初は敵対するかもしれないから縁を切るべきって言おうとしたけど・・・。結局言えなかったんだ・・・。なんか、この子はヘンだから一緒に遊んじゃダメ!とかって言う、幼稚園児のお母さんみたいに偏見まみれのことを言いたく無かったからかな?」

 

「そうか・・・。でも、それを言わなかったおかげで、あいつらはあんなに仲がいいんだし、それで良かったんじゃねえの?俺は少なくともそう思う」

 

話を訊いた感じ、この四人がアレよこれよとやってる合間に仲良くなってたんだろうな。

恐らくは妹までを巻き込みたくは無かったんだろう。俺はそれを十分に理解できた。それは、俺が女神だとしたら、ジンとサヤに俺の方針を強要するようなもんだ。絶対にやりたくねえ。だからこそ、俺はネプテューヌの判断を肯定した。

 

「ラグナがそう言ってくれるなら良かったよ・・・。えっと・・・その後なんだけど・・・」

 

その後、そんな敵対宣言から始まった、武力混じりのシェアの取り合いっつう、くだらねえことを続けている内に、自分の国にいる国民が暗い空気を纏ってると感じたネプテューヌは、イストワールの提案で、女神にどうして欲しいか、国民にこっそりと聞いてみることにした。

これができたのは、当時、仕事をする際は基本変身をしていたことが起因する。そのため、ネプテューヌは変身する前の姿で国民に聞いて回った。コンパとはアイエフに出会ったのはこの時らしい。

意外にもすんなり二人と仲良くなれたネプテューヌは、二人に今やっていることを話してみる。その結果、二人が手伝うといったので、途中から三人で聞いて回ることになった。更に、その後ネプギアも手伝うと言ってくれたので、最終的には四人で回ることになった。

そして、三人で回っている際に、ネプテューヌが争うのをやめようと思うきっかけになった出来事が起こる。とある男性に聞いた時のことで、その男性は闘病中の息子さんを一人持っていた。しかし、病に負け始めてるとのことで、その時ネプテューヌたちの前で泣きそうになりながら男性がいった言葉がこれだ。

 

―あんなくだらないことに力を入れるくらいなら、私の息子を助けて欲しいものです・・・。それが叶わないなら、せめて争いをやめてもらいたい・・・。女神様は、国民を護る存在なのに、何故国民を傷つけることをするのか・・・私には理解できません・・・。

 

それはその男性の切実な願いと、的を得た疑問だった。

ルウィーで本を読んだ直後は気がつかなかったが、今話を聞いてみると女神の概念とその女神たちがやってきたことの矛盾がよくわかる。

国民のためと思ってやったことは、国民のためになっていない。それを聞いた時の絶望や喪失感はただ事ではないだろう。

 

「あの時は何で気づけなかったんだろうって思ったよ・・・。解ってるつもりで解ってなかったんだね・・・」

 

ネプテューヌは自嘲するような表情で言った。その表情から相当ショックを受けたことが伺える。

 

「あの直後、いーすんのところに二人を連れてって、私が女神だってことを話したよ。その証拠に変身を見せたら二人とも凄い驚いてたよ」

 

「それは無理もないだろうな・・・。俺も結構驚いたしな」

 

正直なところ、『ムラクモ』じゃないことが分かって安心した方がデカいけどな。またニューとの時のようなやり取りをすんのは疲れる。まあ、必ずしもそうって訳じゃあないんだけどな・・・。

そして、そこからネプテューヌはどうにかして和平を結ぶために奔走した。

自分の足でラステイションへ行き、ルウィーへ行き、リーンボックスへ行きと・・・。とにかく残った三人に納得してもらうために自分の考えを話した。

話をした結果、どうにかして和平を結ぶことをこぎ着けることができ、今に至るとのことだった・・・。

 

「ああ、そうだ・・・。ラグナにはまだ話して無かったよね?私たちが条約結んだ時のスピーチなんだけど、誰が言うのかをどうやって決めたか」

 

「確かに聞いて無かったな・・・。結局どうやって決めたんだ?」

 

暗い空気を変えようとしたネプテューヌは明るい顔を作って話を持ち出した。この時の作り方はすげえ自然だった。

和平を結んだことは確かに知っているが、どうやって決めたかなどは一切聞いて無かった。せっかくだから聞いてみることにした。

 

「実はあれ・・・じゃんけんで決めたんだ。で、私が勝ったから、私がいうことになったの!ぶいっ!」

 

「・・・はぁっ!?じゃんけん!?」

 

ネプテューヌが笑顔でピースするのに対し、余りにもしょうもない決め方に、俺は思わず素っ頓狂な声を上げた。

 

「何で、そんな決め方にしたんだ・・・?」

 

「えっと・・・。

また戦いで決めるって言った時は、長くなって終わらないのと、せっかく和平前まで持ってきたのに台無しになるから却下で・・・。胸の大きさで決めようなんて言った時は、ブランが暴走したから没になって・・・」

 

「そりゃあ没になるだろうな・・・」

 

一つ目の提案が却下されたのはわかる。和平前だってのに人に不安を煽るし、女神たちはシェアに左右されなければ力は対等なため、ほぼ勝負がつかない。

二つ目は・・・ベールが完全に自分有利どころか、勝ち確定みたいなもんだから選んだだろそれとしか思えなかった。俺が変身した姿を見たのはネプテューヌとノワールだが、大方ベールが勝つのは変わらなかったんだろうな。

 

「そうやってあーでもないこーでもないって言ってた時に、じゃんけんならみんな平等だし、すぐに終わるからってことで採用されたんだ」

 

「・・・ああ、うん・・・。確かにそれならじゃんけんが一番まともだな・・・」

 

ゲームはベールが圧倒的有利かつ、大事なことをそんなので決めるなって話だが・・・。じゃんけんアリならそれもアリだったんじゃねえか?まあ平等にやりたいなら無しか・・・。

さっきも言った通り戦いは和平前だから却下で、胸がどうこうも論外。だからじゃんけんでと・・・。何故か納得できてしまう俺がいた。来たばっかりの俺だったら絶対に納得できなかっただろう。

 

「で、遂に条約を締結させたんだけど・・・言うこと言い終わったらみんながざわついてるもんだから、何があったのかと思ったら、ボロボロのラグナがいたわけさ・・・。

あの時は流石に焦ったよ・・・。ラグナが名乗った時表情が死にかけの人みたいに見えたからさぁ・・・」

 

「・・・マジで?」

 

「マジで。あくまで表情からだけどね」

 

ネプテューヌがサラッととんでもないことを言ったので思わず聞き返した。そして、その回答は肯定だった。

俺はなんだかすげえ申し訳ない気持ちになった。

 

「ホントに済まねえ・・・あん時は騒がせたな・・・」

 

だからこそ俺は謝る。

あの後、ネプテューヌたちの対応のおかげで俺はこうして真っ当に生きていられる訳だが、一歩タイミングが早かったり遅かったりでもした場合、俺は誰かに気づいてもらえるまでぶっ倒れているか、和平妨害を図った犯罪者の疑惑で捕まった可能性すらある。

前者だろうと後者だろうと、今ほどいい待遇は絶対に得られなかったし、ましてや『蒼炎の書』が再起動して、また万全な状態で動くことすら叶わなかっただろう。今の状態は正に奇跡の連続によるものだった。

 

「どうなるかとは思ったけど・・・今は元気にやってるし、私は大丈夫だよ。むしろお礼を言いたいくらいだもん」

 

「お礼・・・?俺にか?」

 

ネプテューヌの返答に疑問を持った俺は聞き返した。

 

「うん。だって、みんなでこうして仲良くできたの、ラグナに会えたおかげだから!ラグナがいなかったら、こんなにも上手く行かなかったと思うんだ。

妹たちはともかく、私たちは敵対してたからさ・・・。ラグナが来てくれたから、私たちあの時みんなで仲良く話せたと思うんだよ・・・。

だから・・・ありがとう、ラグナ。ゲイムギョウ界(この世界)に来てくれて・・・」

 

「ネプテューヌ・・・」

 

ネプテューヌから告げられたのは、心からの感謝の言葉だった。

俺がゲイムギョウ界に来た日、恐らく皆は、少しでも早く俺の体を万全に戻す。少しでも早く俺がゲイムギョウ界に馴れるようにと始めて同じ目標で動いたのだろう。

その結果、ライバル意識や対抗心は残ってたとしても、俺を中心に皆で輪を広げることができたんだろう・・・。であれば、俺は皆の助けになれたと言えるだろう。

だが、ここで忘れていけないのは助けられたのはゲイムギョウ界(ここ)にいる皆だけじゃない。

 

「俺が皆の為になれたんならちょっと嬉しいな・・・。

でもよ、ネプテューヌ。助けてもらったのは俺もなんだよ。お前らに会えたからこそ、『蒼炎の書(ブレイブルー)』をまた使えるようになったし、新しい生き方も見つけられたんだ。

ありがとうな。ネプテューヌ・・・。お前があの時気づいてくれたから、今の俺があるんだ・・・」

 

「ラグナ・・・」

 

ネプテューヌが心からの感謝を告げるなら、俺も同じく心からの感謝を告げる。

これは紛れもない俺の本音だ。これがもし、ネプテューヌたちではなく、他の人だったらどうなってたんだろうか?今ほど充実した生活は送れてないだろう。

 

「それと・・・和平結んだ後しかこの世界を実際に見てねえけど・・・。いや、だからこそなのかもしれないな・・・。

俺はこの平和な時間がとても大事な物なんだと思う・・・。そんで俺は・・・この大事な時間をこれからも護っていきたいんだ・・・」

 

「うん・・・私も護っていきたい・・・。だって、せっかくみんなで作った和平なんだもん」

 

俺は今ある世界を見て感想と、今後の決意を告げる。ネプテューヌも同じ気持ちだった。

 

「なら、同じ思いを持つ者同士、これからも頑張って行こうぜ。ネプテューヌ」

 

「・・・うん!これからもよろしくねっ!ラグナっ!」

 

俺が右手を差し出すと、ネプテューヌは右手で取った。

俺たちはこれからも共に歩み、共に戦うだろう。俺たちはその第一歩を改めて踏み込んだ。

 

「お姉ちゃーん。準備終わったよー」

 

ネプテューヌと手を取り合って数秒後、ネプギアから声が掛かる。いつもみんなで集まってる部屋の方だった。

 

「はーいっ!じゃあラグナ、お昼にしよっか!」

 

「ん?昼・・・?」

 

俺が詳しく訊こうとしたら、腹の虫がなった。そこで俺は昼の意味を理解した。

 

「そういうことか・・・あの時言ってたのをもうやったのか・・・早いもんだな」

 

「うん!そういうことだから、行こっ!」

 

俺が『蒼炎の書』を再起動できた夜に言ってた飯の案件はもう実現できるなんて頑張ったな・・・。少し楽しみになった。

俺たちはいつもみんなで集まる部屋に移動した。

 

「そう言えば全然作業進まなかったね・・・」

 

「確かに、すっかり忘れて話し込んでたな・・・」

 

移動する途中、俺たちは作業の途中だったことを思い出して二人して笑った。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしましたー♪」

 

俺たちが部屋に入ると、ネプギアが笑顔で迎えてくれた。

 

「初めてだから自信ないですけど・・・」

 

「おおーっ!美味しそうにできてるーっ!」

 

テーブルに並べられてる料理を見てネプテューヌが興奮気味な声を上げる。こいつのテンション高いのはいつものことだが、今回はいつも以上に高いと感じた。

白いご飯と目玉焼き、それに合わせて適量のコロッケとレタスが人数分置かれていた。ネプギアは初めてだから自信がないとはいうが、サヤの殺人料理を食ったことのある俺ならなんてことはない。普通によくできてると思っている。

 

「・・・・・・」

 

「え、えっと・・・ラグナさん?」

 

俺は料理の方は確かに見たのだが、どうしてもネプギアの方に目が行ってしまう。

その理由はネプギアの格好にあった。実は今、ネプギアは普段の格好の上にエプロンをつけた状態だった。

俺は予想よりも凝視してたらしく、ネプギアが困惑した笑みを見せる。

 

「いや、その・・・似合ってると思ってな・・・」

 

「えっ?似合ってるって・・・ああ、そんな・・・」

 

俺が率直な感想を述べると、ネプギアは顔を赤くしながら照れた笑みを見せる。

真面目な女の子が頑張ったところを褒めてもらったら照れるか・・・。すげえ似合ってるなと俺は感じた。

 

「ああ、なるほど・・・。ノワールが口説いてると勘違いしたのはそういうことなんだね・・・。うん、私も今分かったよ」

 

「えっ?何のこと?」

 

「ほら、ラグナが『蒼炎の書』を使えるようになったからパーティー開いたときあったでしょ?

その時ユニちゃんとどう話したかを思い出してごらん?」

 

「えーっと・・・あっ・・・そういうことか・・・」

 

ネプテューヌの言ったことが解らずに聞き返すと、思い出せと言われたので思い返す。

すると、俺は確かにユニに率直な感想を述べたらユニの顔が真っ赤になり、ノワールが勘違いしていたのを思い出した。

無自覚って色々と怖えんだな・・・。俺は新しいことをまた一つ学んだ。

 

「あの・・・そろそろ食べてはどうでしょうか?せっかくの料理が冷めてしまいますよ?」

 

「ああ、そうだったね・・・じゃあ食べようか!」

 

イストワールの提案に従い、俺たちはそれぞれの席に座ってネプギアの作った飯を食うことにした。

 

「いただきまーすっ!」

 

「いただきますっと」

 

ネプテューヌは元気よく食べ始め、俺は普通に食いはじめる。

 

「びゃあああっ、うまいいいっ!美味しいよネプギアっ!」

 

「ホント?良かったぁ・・・」

 

「(そんなにか・・・)」

 

ネプテューヌが過剰表現する。それを聞いたネプギアはホッと胸をなでおろす。

コロッケを取って止まっていた腕を動かして、俺は食ってみた。普通に美味かった。

 

「ラグナさん・・・どうですか?」

 

「ああ。美味いよ。初めてこれならよくできてるよ・・・」

 

「良かったね!ネプギア!」

 

「うんっ!」

 

ネプギアが訊いてきたため、俺は率直な感想を述べる。ネプテューヌの言葉に、ネプギアは笑顔で頷いた。

ここまでなら確かに何の問題もない、普通の会話だったのだが・・・。

 

「良かった・・・兄さまに褒めてもらえて・・・」

 

『・・・っ!?』

 

ネプギアの次の発言に俺たちは固まった。そして、俺たちは思わず顔を見合わせる。

 

「二人共・・・今、聞いた?」

 

「はい・・・ですが、ネプギアさんにお兄さんは・・・」

 

「ラグナ・・・ネプギアと何か話した?」

 

「いや、俺は何も話して無いが・・・どういうことだ?」

 

そう、ネプギアにはネプテューヌという姉はいても、兄は存在しない。

ネプテューヌが俺にこう訊いたのは、消去法で導き出されたことによるものだろう。生憎俺はそういったことは話して無いので外れだ。

 

「・・・?私が、何か言いましたか?」

 

「・・・えっ?ネプギアさん・・・覚えてらっしゃらないのですか?」

 

「・・・?特に何も言ってないとは思うんですけど・・・」

 

『・・・・・・』

 

更に、ネプギアが覚えてないことが疑問を拍車にかけた。

 

「ほ、ほら・・・アレじゃない?たまにはラグナのことをこう呼びたかったんじゃない?

だってラグナ、候補生のみんなと話してる時、義理の兄に見える時あるし・・・」

 

「えっ?あ、うん!そうなのっ!・・・ごめんなさいラグナさん・・・。余りにも唐突過ぎて・・・」

 

「ああ・・・そうだったのか・・・。まあ、たまにならいいか」

 

ネプテューヌが咄嗟に思いついたであろう発言に、ネプギアはすがるように乗っかる。

 

「すみません・・・ありがとうございます」

 

「いいけどよ・・・あまりそう呼びすぎないようにな?私事とかは別に問題ないけどよ・・・」

 

一昔前の俺なら斬りかかっていただろうが、今はそう呼びたいならそう呼んでも良いと思っている。

とは言え、ネプギアは女神候補生なので、流石に私事以外の時は控えてほしいが・・・。

 

「はいっ!そうしますね、兄さま!」

 

ネプギアは満面の笑みを見せた。まあ、納得してくれたなら良しとするかな。俺は一先ずこれでいいことにした。

 

「あ~あ~。兄さまだってさぁ・・・。もぉ~、私の妹まで取るのは簡便だよぉ~」

 

「なら、ネプテューヌさんがお姉さんらしく頑張る他ありませんね?」

 

「うわ~・・・いーすんずる~い。こんなの私が頑張るしか無いじゃんかぁ~・・・」

 

「あはは・・・お姉ちゃん、頑張ってね?」

 

ネプテューヌが俺に絡んで来るが、イストワールの言葉に参った様子を見せる。ネプギアもいつもの様子に戻った。

その後、俺たちの昼は特に何も問題なく進んだ。俺も表面上はいつも通りだったが、内面は気が気じゃなかった。

 

「(気のせいか?あの時・・・ネプギアから感じたのは・・・)」

 

それは、俺はネプギアが『兄さま』と俺のことを呼んだ時、俺はサヤの気配をネプギアから感じていたからだ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「よぉし・・・どうにか終わったね・・・」

 

時刻は夕方。ソフトウェアのインストールも終わり、これで俺のパソコンは全ての設定が完了した。

 

「あの時間でリカバリーディスクの作成、終わってると思ったんだけどなあ・・・」

 

「ご、ごめんねネプギア・・・私たち思った以上に話しこんじゃってて・・・」

 

本当はもう少し早く終わってたのだが、俺たちが二枚目が終わっていることに気がつかなかったが故に長引いてしまった。

ネプテューヌがいながら遅かったことで、ネプギアはネプテューヌにジト目を送っていた。

 

「ああ・・・今回はあの話を聞き出した俺が悪い・・・」

 

「いやぁ・・・私もついつい話し込んじゃったし、お互い様じゃない?」

 

そして、俺たちはお互いに謝り合う。俺たちは話に夢中になっていた。

というか、アレ待機時間に話す話じゃなかったな・・・聞こうとする話を完全に間違えてたわ。俺は反省した。

 

「ああ、そうだ。一応私たちオススメのサイトとかまとめた紙を渡しとくね」

 

「おお、悪いな・・・助かる」

 

俺はネプテューヌからメモが書かれている紙を受け取る。正直なところ何を調べればいいかわからないから、こういうのはありがたい。

 

「後・・・今日はこれでちょっとみんなで通話するから、インストールしてもらっていい?」

 

「ん?これでか?」

 

俺はネプテューヌが俺に渡したメモ書きの紙に書かれている一つの文に指を指す。

その文には「Nコード」と書いてあった。どうやらチャットと通話がいっぺんにできるアプリらしい。

 

「ん?これ初期のやつには無かったよな?」

 

「ああ、それインターネットからアプリをインストールするんだよ」

 

ネプテューヌから説明を受け、インターネットとやらで検索をかけて、インストールする。

そして、試しに起動してみる。そしたらメールアドレスとパスワードの設定をしろと出てきた。

 

「パスワードはこのアプリ用のか?」

 

「うん。何でも大丈夫だよ」

 

「なるほど・・・。じゃあ、こうだな」

 

俺はメールアドレスとパスワードを決めて次の設定に入る。名前を決めてくれとのことだった。

俺はとりあえずラグナと打っておいた。設定完了の画面が出てきたので、これで設定は完了だった。

 

「設定完了だね。じゃあ、私の連絡先打っちゃうね」

 

「分かった。頼む」

 

俺と席を変わり、ネプテューヌがキーボードで操作する。俺のあのクソしょぼい左右一本ずつではなく、しっかりとした指十本使ったブラインドタッチだった。

そして、少しして操作が完了したネプテューヌが席を立つ。

 

「よし、できた・・・。じゃあ、私は部屋に戻ってNコード開いて来るよ。

ラグナ、私から招待が来たら全部参加を押してね!」

 

「おう。分かった」

 

ネプテューヌはそう言って俺の部屋を後にして自分の部屋に向かっていった。

 

「私は参加の確認ができてから戻りますね」

 

「悪いな・・・助かるよ」

 

あの後、特にネプギアは俺のことを『兄さま』とは呼んでいない。あの場で堂々と言ったのが恥ずかしかったのだろうか?それにしては嬉しそうだったが。今のところはその瞬間に立ち会った俺。ネプテューヌ。イストワールの三人だけの秘密事項としている。他の人目の前でボロが出たら、時々そう呼ぶようになったで済ませることになった。

まあ、今はよそう。ネプギアが手伝ってくれるんだし、どうにかして操作を終わらせよう。

そう考えていたら、すぐに通知が来た。グループ名は『女神たちのお話場』と書かれていた。俺は言われていた通り参加をする。

そして、その直後に通話に参加するかどうかを聞かれたので、俺は参加を押した。

すると、新しく出てきた画面に、ネプテューヌの顔が移された。

 

「やっほーっ!聞こえるー?」

 

「おおっ!?おう。聞こえるぞ」

 

ネプテューヌの声が聞こえたので、俺は驚いてしまった。音量設定を忘れてたせいでかなりデカい声になってしまっていた。俺は慌てて音量を調整する。

 

「へえ・・・こうやって通話できるのか・・・便利だなこれ」

 

「でしょでしょー?しかもこれでチャットもできるから、声出して話に参加できない人は通話に参加だけしといて、自分の意見はチャットで打つっていうのもできるんだ」

 

「なるほど・・・」

 

俺はこのNコードの便利さを改めて教えられた。これは凄いな・・・。これからの連絡が咄嗟にできるかもしれないのは大きい。

こっちでの生活には馴れてきたのだが、いかんせん連絡手段を十分に持ってない俺にとって、連絡手段の確保はありがたいものだった。

 

「ラグナさん、大丈夫そうですか?」

 

「おう。これなら大丈夫そうだ。ありがとうな、ネプギア」

 

「ラグナさんのお手伝いになれたなら何よりです。それじゃあ、失礼しますね」

 

俺がネプギアに礼を言うと、ネプギアは嬉しそうに返し、この部屋を後にした。

 

「そういや、このグループの名前見て思ったんだけど、このグループにいるのって俺らだけじゃないんだろ?」

 

「ああ、それならそろそろ来ると思うよ」

 

俺の率直な疑問にネプテューヌが答えた直後、さっきと同じ画面が新しく三つ現れ、それぞれにノワール、ブラン、ベールの三人の顔が移された。

すげえ。三人同時なんてことあるんだな・・・。

 

「どうしたの?こんなに早い時間から通話なんて・・・」

 

入ってきた三人の内、最初に口を開いたのはノワールだった。この言い分からして、普段はもっと遅い時間なんだろうなと俺は推測してみた。

 

「みんなは気が付いてる?新しくメンバーが追加されてたの?」

 

「なるほどね・・・一人新しく見覚えある顔が増えてると思えば・・・ラグナだったのね」

 

ネプテューヌの問いに真っ先に反応したのはブランだった。少し嬉しいような顔をしてるので、俺を歓迎してくれてるのだろう。他の皆も似たような表情だった。

 

「まあ・・・ラグナさん、パソコンをご購入なさいましたのね♪いつ頃、ご購入なされましたの?」

 

「今日の午前だ。設定とかはついさっき終わったばかり」

 

俺はベールの質問に対し、正直に答える。とりあえずこのアプリのこともそうだが、色々と慣れないとな・・・。俺はそう思った。

 

「まあそんなわけで、パソコン初心者のラグナに私たちで話しながら、オススメのアプリとかサイトを教えようってわけで開かせてもらったんだ」

 

「なるほど。そういうことね・・・」

 

ネプテューヌの説明を聞いてノワールが納得する。他の二人も首を縦に振って頷いていた。そして、四人は考え始める。

 

「そうね・・・ここはやっぱり、ニュース系や女神のブログとか・・・」

 

「ラグナ。せっかくだから、私はこのルメハンと言うSS投稿サイトをオススメするわ」

 

「ラグナさん!これを気にネトゲをやりませんか!?私のオススメは四女神オンラインですわ!」

 

ノワールが一般的なものを教えようとしてるのを遮り、ブランとベールが「絶対コレ!」と言わんばかりにオススメしてくる。

 

「ちょっと二人とも!ラグナはまだ初心者なんだから、ここは多くの人が利用するものを・・・」

 

「何を言いますのノワール!四女神オンラインは、今ゲイムギョウ界で一番多くの人が遊んでいるオンラインゲームでしてよ!?」

 

「ルメハンも、SS投稿サイトでは比較的入りやすい部類に入るわよ?」

 

「うーん・・・ベールのはともかく、ブランのは流石に今のラグナには早い気がするなぁ・・・」

 

ノワールが余りにも初心者度外視のオススメした二人を咎めようとしたが、二人はヒートアップした。

それを見ていたネプテューヌは気が遠くなりそうな声で感想を述べる。

 

「あっ、そうだ。もし、昔のアニメとかゲームに興味があったらマニアアーカイブを利用してみるといいよ。

ラグナが知るべき娯楽の多くは、大体そこで何とかなるからさ」

 

「な、なるほど・・・」

 

ネプテューヌはサラッと俺にオススメを紹介してくれた。

うん。ブランとベール(二人)よりは圧倒的にマシだ・・・俺を差し置いてみんなで白熱してるのを見て呆然しながら俺はどうにか返答した。

 

「ほら、白状しなよノワール~♪ノワールにだってピンポイントでオススメしたいのあるでしょ~♪」

 

「ば・・・バカじゃないの!?そんなのあるわけないでしょ!?」

 

「いいえ・・・!ある!絶対にあるはずよ・・・!」

 

「さあノワール・・・。自分に正直になりましょう・・・?」

 

「お、おい・・・お前ら?本来の目的忘れてね?」

 

気がつけば三人によるノワール弄りが始まっており、本来の目的が忘れ去られてそうに感じたので、俺は訊いてみた。

 

「あっ、気にしないでー。ノワールが弄られるのは、いつものことだから」

 

「・・・気にしないわけないだろ!つか、弄ってないでオススメ教えて欲しいんだけどぉっ!?」

 

ネプテューヌの意を返さないかのような回答に俺は思わず突っ込んだ。

仕方ないので、俺はネプテューヌにオススメされたマニアアーカイブを開いて様子を見て止めることにした。

俺の一日は女神たちと通話しながらあっという間に過ぎていった・・・。




ただの日常回で終わるかと思ったら途中ですげえ大事な話が入る形になりました。
少し無理矢理感あるかもしれません・・・。

今回は少し遅くなってしまったので、次はもう少し早く出せるように努力したいと思います。


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13話 思いがけぬ再会

早く出したいとは言ったけどそんなに早く出せませんでしたね・・・。

最近平均字数が1万超えたことに気がつきました。
もしかしたら無理そうなら二分割するのも一つの手かも知れませんね・・・。

ラグナの相手役は決まっているかとの質問がありましたが、現在未定です。
多分、この流れだとネプ姉妹のどちらかが有力になるかと思います。

お気に入り登録が60を上回りました。この場を借りて感謝を申し上げます。
また、これからもどうぞよろしくお願いします。


「イストワール。ちょっと行ってくるぜ」

 

「はい。お願いしますね」

 

パソコン案件から二日後。俺はクエストを受けに行くため、プラネタワーにあるエレベーターを使うべく移動を始める。

 

「あっ!ラグナ。行く前にちょっと聞いておきたいんだけどさ・・・」

 

「ん?どうした?」

 

エレベーターの降りる方のボタンを押そうとしたところで、ネプテューヌに声をかけられたので、俺はそっちを振り向く。

 

「ロムちゃんとラムちゃんがみんなと遊びたいって言ってるんだけど・・・。ブランが他の国に行かせないようにしてて遊びにいけないみたいなんだ・・・」

 

「そうか・・・あいつらをルウィー以外で見かけないと思ったらそういう理由だったんだな・・・」

 

気持ちは分かるが過保護すぎやしないだろうか?俺でも、一人でキイチゴ狩り行ってた途中にサヤが付いて来た時は同行させてやったんだが、アレはシスターが優しいからなんだろうか?

流石に二人で他の国に出かけるのはまだ危険かもしれねえが、ブランが付いていけば大丈夫じゃないのか?初めてルウィーに訪れた時に俺のようにはなるなとは言ったが、何もそう過保護をする必要はないんだが・・・。今度話に行くべきだろうか?俺はそう考える。

 

「だから、ネプギアと話した結果、私たちからルウィーに行こうって話が出たんだけど・・・ラグナも来てくれるかな?きっとあの二人も、ラグナが来てくれると喜ぶと思うんだ」

 

「確かにそうだな・・・あいつら退屈してるだろうし、俺も行くか」

 

ロムとラムが納得してくれるならそれでいいと思ったのもあるが、俺の本音としてはブランの助けになればいいと思っている。

俺はロムとラムの遊び相手になるついでに、ブランの姉妹仲の状況を確認して、助け舟を出すつもりでいた。

 

「そう言ってくれると助かるよ・・・。じゃあ、一人追加ってノワールに連絡するね!」

 

「・・・ん?もしかしてだが、プラネテューヌとラステイションのメンバーで行くのか?」

 

ネプテューヌからノワールの名前が出てきたので、俺はもしやと思って聞いてみた。

 

「うん。ロムちゃんとラムちゃんの為にルウィーへ行こうって言い出したのが、ネプギアとユニちゃんなんだ。

で、私はネプギアからどうするかの話を聞いて、ノワールにみんなでルウィーに行こうって電話をしたの。

そしたらノワールが自分たちだけで行けって言うから、ユニちゃんもルウィーへ行くっていうことと、教祖とラグナを省いたプラネテューヌとラステイションのメンバーはノワール以外全員行くから、ノワールが一人だけ残るし、教祖は仕事だから仕方ないし、ベールも来て、ラグナがルウィーへ向かったらその日完全にぼっちだよね~って煽ってみたんだ・・・」

 

「おい・・・それちょっとピンポイント過ぎねえか?」

 

教祖は仕事で忙しいから仕方ないとしても、俺とベールの条件が厳しすぎる。なんでそんな条件で煽ったんだ?マジで疑問に思った。

 

「大丈夫大丈夫。ノワールみたいな性格にはすごい効くから・・・しかも実際に声荒げるだけから途中で懇願に変わったから」

 

「うわぁ・・・なんかノワールが可哀想になってきた・・・」

 

俺がノワールだったら古傷抉られる気分なんだろうか?

重犯罪やってた。それに合わせて周り敵だらけの状態・・・。勿論、友人なんているわけもなく・・・。うん・・・よそうか。思い返して情けなくなる。

 

「あっ・・・ごめん。なんか古傷抉った?」

 

「いや、大丈夫だ・・・俺の行いによる自業自得だから・・・」

 

ネプテューヌが不安そうに訪ねてきたので、俺は右手を止まれと言わんばかりに前に出しながら言う。

 

「そっか・・・じゃあ。私は連絡入れるから、ラグナもクエスト頑張ってねー!」

 

「おう。また後でな」

 

みんなが集まる部屋に戻るネプテューヌを見送り、俺は今度こそエレベーターに乗り込んだ。

 

「(さて・・・今日はどんなクエストが届いてんのかな・・・・・・っ!?)」

 

俺がクエストのことを考えていると、右腕に妙な重みを感じ、思わず右腕を見やる。

またあの時・・・『蒼炎の書』が再起動した時と同じように、右腕から蒼い炎のようなものが見えていた。

しかし、それは以前のように重みが酷くなるわけでは無く、まるで誰かがいることを示すように右腕が引っ張られるような感覚に変わっていった。ちなみに、蒼い炎のようなものは消えていた。

 

「(誰かこの世界に来たのか・・・?クエストをやるついでに探してみるか)」

 

そう決めた後は何の因果か解らねえが、エレベーターから降りても、クエストを受けて移動を始めても、その感覚が消えることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ん・・・んん・・・ん?」

 

少女はゆっくりと目を覚まし、体を起こす。

その少女は茶色の髪をポニーテールに纏め、白を基調としたブラウスと黒を基調としたミニスカートを身につけ、ブラウスの上には黒を基調としたマントを羽織っていた。その服装の全てに、黄色のラインが入っていた。

 

「・・・あれぇ?ここどこだろう・・・?」

 

少女は目の前の見慣れぬ景色に戸惑い、辺りを見回す。

自分の座っている場所はどこかの草むらで、前と後は森に挟まれ、横は何もない道が広がっている。

またいつものように迷子になったのだろうか?・・・と考えたが、少女は自分が最後にどうなったかを思い出して否定した。

 

「ううん・・・違うよね。だってあの時私は・・・」

 

―前を向いて、歩きなさい。

 

―頑張って・・・負けないで・・・。

 

―行ってらっしゃい。

 

少女は自分の体が消えゆく中、自分の大切な人たちを応援しながら笑顔で見送り、第二の人生を終えていたのだ。

辛いことも悲しいこともあった・・・。だがそれ以上に、大切な人と再会でき、楽しい一時を送ることのできた二度目の人生を、彼女は素敵な人生だったと感じていた。

 

「でも・・・そうだとしたら、私は何でこんなところで寝ちゃってたんだろう?」

 

だからこそ、少女は自分が再び地に足を付けたりすることができる状態になっているのが解らなかった。

自分がここで昼寝をしていたでは余りにも不自然過ぎるからだ。しかし、考えても答えは出てこなかった。

 

「うーん・・・解んないことを考えてもしょうがないか・・・。・・・?」

 

少女が考えるのを諦めたところで、何者かに左肩を小突かれたので、そちらを振り向く。

振り向いた先には、白を基調としている、女性のような見た目をしたロボットのようなものがいた。

 

「・・・ミネルヴァ!あなたもここに来てたの!?ああ・・・でも良かったぁ・・・私一人で迷子とかになったわけじゃないんだね・・・」

 

少女はそのロボット・・・ミネルヴァを見て驚いた。しかし、それと同時に知らぬ場所で自分一人というわけじゃないことに安堵した。

 

「ねえミネルヴァ、ここがどこだか分かる?」

 

「・・・・・・」

 

少女はミネルヴァに訊いてみる。ミネルヴァは言葉こそ発しないが、少女に自分はこう思う、こうするべきといったことを伝えられる。

正確には、ミネルヴァの言いたいことなどを、少女が感じ取り、理解できるのだ。

そして、ミネルヴァが今回少女に伝えたことは「分からない」だった。

 

「ミネルヴァも分かんないかぁ・・・。うーん・・・どうしたらいいんだろう?」

 

「・・・・・・」

 

ミネルヴァから良い回答がもらえず、少女が再び考え出そうとした時に、ミネルヴァは少女から見て左前へと指を指す。

 

「ミネルヴァ?あっちに何かあるの?」

 

少女がミネルヴァの指さす方を見ると、森の隙間からいくつかのビルが見えた。

 

「もしかして街なのかな?ミネルヴァ、行ってみよう!」

 

「・・・・・・」

 

希望を見出した少女は早速移動することを提案し、ミネルヴァも「そうしよう」と少女に伝え、同意する。

そして、少女たちはビルのある方を目指して歩き始めた。

 

「ラグナ・・・また会えるよね?」

 

歩いている際、少女は大切な人との再会を望むように、心から祈った。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「うーん・・・中々たどり着けないなぁ・・・」

 

歩き始めてから数十分・・・。少女は道に迷っていた。道に迷ったというよりは、自分から迷いに言ったというのが正解なのかもしれない。

最初の十数歩こそ道に沿って歩いていたのだが、途中から「こっちの方が近いかも」と言って道から外れていってしまい、それを繰り返した結果、目的の場所までたどり着けないでいた。

 

「・・・・・・」

 

「どうしたのミネルヴァ?えっ?戻ってきてる・・・」

 

後ろからミネルヴァに「戻ってきている」と伝えられた少女は周りを確認してみる。

すると、少女は自分が目を覚ました場所まで戻ってきてしまったことに気づいた。

 

「おかしいなぁ・・・近い方を通ったはずなのになぁ・・・。・・・あれ?」

 

「・・・・・・」

 

少女にとっては近道であったつもりだが、それをやり過ぎた結果戻ってきてしまっていたのだ。

最も、始めての道で「近道」と言い出すのもどうかというのはあるが、少女はそのことに気が付いていなかった。

少女がどうしたものかと考え出すと、偶然少女の目の前に、水色の生物がやってきた。よく見るとその生物は怪我をしており、元気を無くしていた。

 

「あの子怪我してる・・・!助けてあげないと!」

 

「・・・・・・」

 

少女はその傷ついた生物の元へ駆け寄っていく。

少女が元いた世界でのことを参考にすれば、野生の生物なので、襲いかかってくることを警戒するのだが、少女はそのようなことには構わず、ただ助けたいという一心で駆け寄っていくのだった。

この時、ミネルヴァが「待って、襲ってくるかもしれない」と伝えていたが、少女は全く気がつかなかった。仕方がないので、ミネルヴァは少女の後を付いていった。

 

「大丈夫?どこが痛いの?」

 

少女は生物に声をかける。その生物は少女の方へ振り向きながら、力なく体を上下させた。

正面から見ると肉まんに犬の耳がついたような生物は人の言葉が発せないので、回答ができなかった。

 

「うーん・・・ダメかぁ・・・。ちょっと待っててね。今治してあげるから・・・」

 

少女は上手く伝わらなかったことに少し落ち込むが、すぐに意を決し、生物の眼前に右手を出しながら目を閉じる。

少女が意識を集中させると、少女の右手から蒼白い温かな光が現れ、少女はその右手で生物を撫でる。これは少女の使う治癒魔法だ。

光が宿った右手に撫でられた所から、まるで汚れを落とすように生物の傷は消えていき、生物も活力を取り戻していく。そして、一通り生物の体を撫で終えた少女の右手から光が消える。

 

「よし・・・もうこれで大丈夫だよ。良かったぁ・・・元気になったみたいで」

 

少女の右手から光が消えると、完全に元気を取り戻した生物が嬉しそうに体を上下させる。その様子を見て少女は安心した。

そして、生物はその場で二回ほど小さくジャンプしてから、森の中へと去っていった。

 

「もう行くの?気をつけてねー!」

 

あの二回のジャンプはお礼の意味だった。去っていく生物を見て、少女は右手を振りながら笑顔で見送った。

 

「さて・・・私たちもそろそろ行こっか」

 

「・・・・・・」

 

少女は再びビルの見える方へ向かうべく歩き出した。ミネルヴァは「分かった」と少女に伝え、付いていった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「(ったく・・・一体何をどうしたらあんなに反応が移動するんだ?)」

 

クエストを受けてから移動してる最中にぶつかるかと思ったら道から外れてて、クエストをやってる際に反応が出始めた場所に戻ってきてて、クエストが終わるころにはプラネテューヌ内を彷徨ってるってどうなってんだ?

俺は疑問に思いながらもプラネテューヌ内を探していた。

驚くことに、プラネテューヌ内で探してるのにその反応はすぐに他の場所へ移動しやがるせいで全く合流できないでいた。

 

「(プラネテューヌに戻ってきてから感覚が消えだしてる・・・。この先は人に聞きながらの方がいいか?)」

 

更に良くないことに、プラネテューヌに戻った途端、あの引っ張るような感覚が常時じゃなくなってしまっていた。時間制限でもあるんだろうか?次こういうことがあったら真っ先に人を探そう。俺は心に決めた。

 

「(女の子と女性みたいなロボットって組み合わせ・・・どっかで覚えがあるような・・・)」

 

国内にいる人たちから話を聞いて見れば、見たことない制服を着た女の子と女性みたいなロボットがプラネテューヌ内を歩き回ってるそうだ。

その組み合わせを聞いて、俺はちょっとした恐怖感に襲われた。別に殺されるとかそういう命の危機に陥ったわけじゃない。もっと別の理由だった・・・。

 

「(俺の予想が正しければ・・・間違いねえ)」

 

俺が襲われた恐怖感は、女の子の方が絶望的なまでに方向音痴なことだ。

そして更にマズイのは、そのロボットが何も言わねえ・・・寧ろ女の子が勝手に進んでっちまうから止められないでいることだ。

 

「ヤべえ・・・!急いで探さねえと・・・!」

 

あのまんま放っておくとその内また国外に出ていくかも知れねえ!俺は焦燥感に駆られて辺りを見回す。

それだけでは見つからないので走り出そうとしたら、引っ張るような感覚が奇跡的に復活する。

 

「!?後ろ・・・?」

 

その感覚が真後ろ、しかも結構近かったので俺は思わず振り向いた。

その振り向いた先には、さっき色んな人から話に出ていた女の子とロボットがいた。

皆が見たことのない制服っつってた理由は、俺がいた世界に昔あった魔道学校「イシャナ」のものだったからだ。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

俺たちはその場で固まってしまった。

異世界に来たってのに同じ世界の人と再会したからだろう。少なくとも俺はそうだ。

 

「お、お前・・・セリカか・・・?」

 

「・・・・・・!」

 

先に口を開いたのは俺だった。恐らくは、先にゲイムギョウ界に来ていたから予想外の事態に慣れがあったのだろう。

俺の声を聞いた少女・・・セリカ=A=マーキュリーは俺を見て、俺の声を聞いて、そして自分の名前を呼ばれたことに驚いて目を丸くする。

 

「ラグナ・・・?本当に、ラグナなの?」

 

「ああ、そうだ・・・俺はラグナだ・・・!」

 

セリカの問いに俺は力強く答える。

 

「ラグナ・・・!ラグナーっ!」

 

「うおおおっ!?」

 

俺の回答に安心したのか、居ても立っても居られなくなったのか、俺の名を呼びながら駆け寄って、思いっきり抱きついて来た。

その勢いに耐えきれず、俺は背中から思いっきり倒れ込んでしまう。

 

「いっててて・・・。お前・・・ホントに・・・セリカなんだよな?」

 

「うんっ!私はセリカ!セリカ=A=マーキュリーだよっ!」

 

「・・・・・・」

 

俺が痛みにこらえながら訊くと、セリカは満面の笑みで答えた。

そして、セリカの後ろからミネルヴァがこっちに来て俺の顔を覗き込んだ。

 

「ミネルヴァ・・・?ミネルヴァも一緒だったのか・・・」

 

「ミネルヴァも会えて良かっただって!」

 

「・・・そうか・・・」

 

セリカは純粋に喜び、俺は驚きながらもどうにか返答する。

何故なら、セリカはナインと約束した後、ココノエと合流しようって時に仮初の肉体で存在できなくなり、俺たちの目の前で消え、ミネルヴァは『事象兵器(アークエネミー)・骸装・レクイエム』による爆発を抑える為に自らを犠牲にしたからだ。

だからこそ、俺はどうしてセリカとミネルヴァがゲイムギョウ界に来ているのかが解らなかった。

 

「ところでセリカ・・・お前はいつからこのゲイムギョウ界に来たんだ?」

 

「えっ?ここゲイムギョウ界って言うの?今さっき来たばかりだけど・・・どうかしたの?」

 

「・・・今さっきなのか?」

 

俺はセリカの回答に思わず聞き返してしまった。

仮にあの世界での存在が無くなることがこの世界に来る条件だとした場合、セリカやミネルヴァよりも後から世界を去った俺が、一ヶ月以上も早くゲイムギョウ界にいるため、順番が合わないからだ。

 

「・・・どうかしたの?」

 

「いや、何でもねえ・・・悪いな。変に気を使わせて」

 

「ふーん・・・」

 

セリカが少し困ったような表情になったので、俺が話をさっさと切り上げると、セリカが俺をのぞくように見てくる。

 

「ん?どうした?」

 

「ラグナ・・・ちょっと変わった?なんだか、ラグナが今を楽しんでる感じがするの」

 

「・・・そうだな・・・そうかもしれねえな・・・」

 

セリカに微笑んだ表情で言われて、俺も自然と穏やかな表情になる。

最初はキツく当たってしまったが、頭が冷えた後からはセリカと話すと毒気が抜かれていく感じがある。それはここでも変わらなかった。

俺が変わったと言えば、前までは『これのためにこうしなきゃいけない』というのが、今は「こうしたいからこれをしよう」になり始めているからなのかもしれない。

 

「ああ・・・セリカ。いきなり悪いが、場所変えるぞ」

 

「えっ?どうして?」

 

「お前に会わせておきたい人たちがいるんだ・・・」

 

俺と関わりの深いイストワールたちにはセリカとミネルヴァのことは絶対に話しておきたい。

皆と仲良くなれるし、俺のように戸籍を用意してもらえば普通に生活もできるはずだ。

 

「わかった!じゃあ行こっか!」

 

「セリカ!ちょっと待って!」

 

セリカが笑顔で歩き出そうとするので、俺は慌てて止める。

 

「えっ?どうして?」

 

「どうしてって・・・お前、俺が行く場所分かんないのに先に進んでどうすんだよ?今回は大人しく俺についてこい」

 

「はーい。じゃあ、案内よろしくね!」

 

困惑したセリカに俺が説明すると、納得してくれたセリカは笑顔で案内を頼む。

 

「よし、それじゃあ行くか・・・。

いいなセリカ・・・?俺の後ろをついて来いよ?俺より前には出るなよ?俺の横にも並ぶなよ?それから、近道とか言って勝手に曲がるなよ?絶っ対に俺の後ろをついて来いよ?

ここまで大丈夫だな?言っとくがフリじゃねえからな?分かったな?」

 

「もう・・・大丈夫だよ・・・今回は流石にそんなことしないって・・・」

 

俺がセリカに念を押しまくると、セリカは苦笑交じりに答える。だが、セリカはそう言っても言ったそばから近道云々言い出すから正直不安でしょうがない。

しかし、このくだりをやるのも随分と久しぶりな気がするな・・・。まだ二か月も経ってないはずなんだけどな。

 

「ミネルヴァ、お前も何かあったらすぐにセリカを止めてくれ。俺もできるだけ気をつけるから」

 

「・・・・・・」

 

「えーっ!?ミネルヴァまでラグナの味方するのー?」

 

ミネルヴァは恐らく「分かった」とか「任せろ」とか言ったんだろう。ミネルヴァの伝えたことを理解したセリカが唇を尖らせる。

セリカの言い方で思い出したが、つい最近にプラネテューヌのシェアがどうのとかってあった時、ネプテューヌが似たような言い方をしていたのを思い出した。

一応今はどうにかなってるが、またすぐにあんな風になんなきゃいいな・・・。少し不安を覚えた。

 

「さて・・・そろそろ行くぞ。話してえことは色々あるが、それは向こうに着いてからにしよう。

セリカ、さっきも言ったがちゃんとついて来いよ?」

 

「うんっ!分かった!」

 

話が纏まり、俺たちは移動を開始する。このまま何も無ければいいが・・・。

 

「あっ・・・ねえミネルヴァ、こっちの方が近道じゃないかな?」

 

「うおぉぉい!?俺の後ろついてこいって言ったばっかりだろこのおてんば娘がぁっ!」

 

そんなことは無く、セリカが曲がりだしそうになったので俺が絶叫気味に慌てて止める羽目になった。

面倒だからその後はセリカの手を引いてプラネテューヌの教会に向かったが、その間多くの人に注目されることになってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「この人たちみんなラグナの知り合いなの?」

 

「ああ。この世界で知り合ったやつらだよ。悪いな皆・・・わざわざ来てくれて」

 

プラネテューヌの教会で、俺とセリカ、そして各国の女神や教祖たちが顔を合わせた。

セリカは集まって来てくれた皆を見回し、集まってくれた皆はセリカのことを見たり、ミネルヴァを見て凝視したり、セリカとミネルヴァを交互に見たりと様々な反応を示した。

皆は俺が自分が異世界出身であることを話した時のように完全に固まることはなかったが、どう切り出せばいいかわからない感じだった。まあ、いきなり女の子とロボット連れてくりゃそうなるよな・・・。

 

「凄い・・・!女性型のロボットかな?リアルで見れるなんて思ってもみなかったなぁ・・・」

 

と思ったらネプギアという一名の例外がいた・・・。そっか・・・こいつ機械系が趣味だからこういうのも当てはまるよな・・・。ラステイションでの時と似たようなことを言わせてくれ・・・。

全っ然女子らしい趣味してねえぇぇっ!お前の趣味明らかに年頃の少年だろ!?

俺はあと何回驚かされるんだろうか?身が持つか不安になった。

 

「・・・・・・」

 

「あっ・・・ごめんね。いきなりビックリしちゃったよね?」

 

「あれ?あなたもミネルヴァが何を言ってるか分かるの!?」

 

「はい。なぜだか言いたいことが感じられるんです」

 

ネプギアがミネルヴァの反応を理解していることに、セリカが驚いた。俺も驚いているが、流石に本人たちにしか分からない領域だからと割り切っているからセリカほどじゃない。

 

「どんな回路とか組まれてるんだろう・・・?ちょっとだけなら分解してもいいかなぁ?」

 

「・・・・・・」

 

「お、おい・・・ミネルヴァ?どうして俺の後ろに来る?」

 

「ミネルヴァが怯えてる・・・」

 

ネプギアの発言を聞いたミネルヴァが一瞬で俺の後ろにくっついて来た。

一応ミネルヴァもセリカを護る為に開発されたが故に、武装はあるのだが、まさかの抵抗を放棄して俺の後ろに来たのだ。

ミネルヴァがこんな反応すんの始めて見たぞ・・・。その反応を見たセリカも呆気に取られていた。

 

「あれ?何かダメなことでも言ったかなぁ?」

 

「いや、分解って単語がアウトだろ・・・」

 

困惑するようなネプギアに対し、俺は飽きれ半分に返す。

しかし、内心はすげえ焦っていた。だってココノエが造ったやつだぞ?あいつ以外が弄ったら何が起きるか分かったもんじゃない・・・。調整済みだから大丈夫だろうけど。

 

「ああ・・・話が進まねえから一旦ここまでにしよう。

・・・紹介するよ。こいつはセリカ=A=マーキュリー。こっちがミネルヴァ・・・俺と同じ世界にいたやつだ。」

 

「初めまして!セリカ=A=マーキュリーです!こっちはミネルヴァ!よろしくお願いしますっ!」

 

「・・・・・・」

 

「ミネルヴァもよろしくだって!」

 

キリがないので話を一度切って本題に移し、まずはセリカとミネルヴァを紹介する。

セリカは笑顔で名乗り、言葉を発せないミネルヴァの分も肩代わりする。

 

「は、はい・・・私はイストワール。プラネテューヌの教祖をしています。こちらこそよろしくお願いします。

・・・早速お伺いしますけど、ラグナさんと同じ世界の出身でお間違い無いですね?」

 

「はい・・・とは言っても、私はラグナより過去の時代の人間で、相当複雑な生き方をしてたけど・・・」

 

それからセリカは自分が知りえる範囲で今までの出来事を話した。

 

まず初めに、自分の出自は俺と違い、いたって普通の人間だが、生まれながら治癒魔法を使いこなせたこと。

それから自分の持つ力が、無意識に自身の周囲にある魔素を中和してしまうこと。

暫くの年月が経ち、『黒き獣』によって壊滅した場所に生き残りがいるというニュースを見て、自分の親父さんが生きてるかもしれないから探しに行こうとした際に、行き倒れの俺と出会ったこと。

親父さんの研究を知り、それがセリカをキーとして動くものであったことを知った際、自分を投げうってまで『黒き獣』を止めようとしたが、俺がそれを止め、今持ってる剣とコートを受け取って『黒き獣』へ立ち向かう俺の帰りを待つことにしたこと。

その後、十聖の二人、『セブン』と『エイト』に『タケミカヅチの制御装置』にもなれることから、自身を狙われるが、ナインと、ナインが造った『事象兵器(アークエネミー)・機神・ニルヴァーナ』に護られながらも暗黒大戦に関わっていったこと。

そして、暗黒大戦が終わった後は『黒き獣』の封印を護りつつ、教会のシスターとして暮らしながら俺との再会を待ったこと。

そうして教会で暮らしている最中、幼少の俺たちと会い、短いながらも幸せな時間を過ごしたこと。

そして、『あの日』の惨劇で自分は命を落とし、第一の人生を終えた・・・。

ここで訊きたいことは確かにあるのだが、今はよそう。ネプテューヌも真剣に聞いてるので、ここで水を差すような真似はできなかった。

 

その後時は経って俺がイカルガに向かう直前。セリカはココノエの手によって『刻の幻影(クロノファンタズマ)』として今の姿で呼ばれたこと。

その時に自分を呼んだ目的と、今の俺がセリカのことを知らないことを教えられたこと。

確かに知らなかったせいなのもあるが、流石に酷いことをしたと俺は反省している。

そして、俺がセリカのよく知る俺になりココノエの目的に反対したため、ミネルヴァと共に違う形で俺たちの戦いを手伝ったこと。

『エンブリオ』では最初のうちは偶然出会ったあのクソガキ・・・黒鉄ナオトと共に、人探しという共通の目的を持って行動していたこと。

ただし、ナインの声を聞き、とんでもないことを考えてると理解したらそのままいつもの勢いで行動してナオトを置き去りにしてしまったらしい。こればっかりはあいつに同情するものがある。

その後は俺たちと共にナインを止めたが、最後の決戦を前に、自分の仮初の肉体が限界を迎えたため、俺たちに言葉を送り、消えゆく形で第二の人生を終えた・・・。

 

「私が知ってるのはここまで・・・。ミネルヴァはその後どうなったかはわからないの・・・」

 

「ああ・・・ミネルヴァのことは代わりに俺が話そう。

その後、俺たちが最後の戦いに行くんだが、その戦いの途中で、こいつの姉ちゃんが作ったやつの一つが自爆までのリミットに到達しちまってな・・・。ミネルヴァは自分の体にある動力を使ってその自爆を抑え込んだんだ。

・・・自分の体を犠牲にしてな・・・」

 

俺は話してて最後は暗い顔になった。あの時、ノエル(サヤ)の言葉が正しければ、ミネルヴァは「任せろ」という言葉を残していった。

だが、ミネルヴァを犠牲にするしかないという選択肢を前に、他に何かできることはなかったのかと思ってしまう。ちょっとわがままかも知れないな・・・。俺は自嘲した。

 

「そうだったんだ・・・ミネルヴァはそれで良かったの?」

 

「・・・・・・」

 

「ラグナがやってくれるから大丈夫、か・・・。うん。そうだよね・・・ラグナならやってくれるよね」

 

「ミネルヴァ・・・お前・・・」

 

俺は何とも言えない気分になった。確かに世界を救ったっちゃあ救ったが、ミネルヴァがすげえ信頼してくれてるなんて思っても見なかった。

 

「ああ・・・わりい、話が逸れたな。その後は皆に話してる通りで、セリカはついさっきこの世界に来たみたいなんだ・・・」

 

『・・・・・・』

 

やっぱりというか、俺の時と同じく、それぞれの反応を示した。泣いてるメンバーに女神候補生が密集してるが、多分ネプギアはミネルヴァの散った瞬間を想像してのことだろう。

ちなみに、ロムとラムは今ここにいるセリカを幽霊と誤認してしまってのことで、幽霊じゃないことを話したら安心した。

 

「えっと・・・一つ質問いいかな?」

 

今回最も早く口を開いたのはケイだった。

 

「セリカが若い時代にやってきたラグナと、今そこにいるラグナは同一人物であってるかな?

若い時代に会ったラグナは今とそう変わらないのに、シスターとして暮らしていた時に会ったのが幼少のラグナだというのに、今一辻褄を合わせられなくてね・・・」

 

「同一人物で合ってるよ・・・。俺が幼少の頃から時を経て、力の使い方に回答を求めて過去に行った時、行き倒れの状態でそん時のセリカに会ったんだ・・・」

 

ケイの質問に俺が答える。もうこの時点で頭が混乱しているやつが出てきているが、事実なので仕方ない。

 

「ああ・・・セリカ。俺からも一つ訊きてえんだけどよ・・・」

 

「ん?どうしたのラグナ?」

 

「話を聞いた限りだと・・・お前が・・・俺たちの育ての親になってくれたシスターなのか?」

 

俺も思い切って訊いてみることにした。ここまで来たらハッキリとさせておきたかった。

ちなみに、皆も気になったのか、揃って縦に二回程首を振っている。

 

「あっ・・・。そっか・・・ラグナにはまだ話して無かったんだね・・・。うん。そうだよ。私があの教会のシスターさんだよ」

 

「・・・そうだったのか・・・。えっと・・・。別に疑ってる訳じゃねえんだけどよ、俺が教会でどう暮らしてたとか、俺たちがシスターどんなことをしたかとか・・・訊いてもいいか?」

 

セリカが穏やかな顔で自分がシスターだと答えたので、俺は確信を持つために教会でのことを訊いてみることにした。

これでセリカがあっさり答えるのであれば俺は育ての親にお礼を言いたい。

 

「うんっ。いいよ。

懐かしいなぁ・・・ラグナとジン、サヤと私の四人でキイチゴ取りに行った時なんだけど・・・。あれだけ長い時間過ごしてたのに道に迷うからラグナが怒ったんだよね・・・。」

 

「・・・そういやシスターは方向音痴だったな・・・いやでも、まさかな・・・」

 

俺はここで暗黒大戦時代の時のセリカのことを思い出した。

その時は日本行きの船に乗るために移動をするが、一周して戻ってきていたし、俺たちが四人でキイチゴを取りに行った時も一周して戻ってきていたのだ。俺はその信じられない程見事に一致した光景に衝撃を受けた。

 

「うーん・・・やっぱりそんな簡単には信じてもらえないか・・・。

あっそうそう。その後キイチゴのところについて、取り終わった後、ジンとサヤはすぐにキイチゴを食べたけど、ラグナだけいらないって言ってさ・・・。

だから私が無理矢理食べさせたら、ラグナが・・・」

 

「だあぁーっ!分かった!信じる!うん!間違い無い!お前がシスターだ!」

 

訊いた話が余りにも恥かしい内容だったし、間違いなくシスターだということが分かったので俺は無理矢理話をブチ切った。

周りの皆は呆然としたまま聞いていたが、正直なところそれはそれでありがたかった。後でゆっくり話した方がいいのもあるし、ここで昔の話をしてたらキリがないからな。

 

「もう・・・そんなに慌てなくてもいいのに・・・。でも、信じてくれて良かった・・・」

 

セリカはもう少し話したかったみたいだが、俺が信じてくれたことに安堵する。

 

「ああ・・・そうだ。俺も今のうちに言っておかないとな・・・」

 

「ん?どうしたの?」

 

俺は意を決して、セリカ(シスター)に自分の言おうと思ったことを言うことにした。

 

「シスター・・・あの時、俺たちを迎え入れてくれてありがとう・・・。短い時間だったけど、俺たちは幸せに過ごせてたよ・・・。

それと・・・ごめん。サヤを助けるためにとは言え、結局あんなことしちまって・・・」

 

俺が告げたのは、感謝と謝罪だった。あんなことというのはもちろん、反逆の旅だ。

 

「ラグナ・・・それは仕方ないよ・・・だって、サヤを助ける為だったんでしょ?お姉ちゃんが私を護る為に必死になるのと一緒だし、私がラグナだったら絶対そうしてるもん。

それよりも、皆で幸せに過ごせたなら私はそれで十分だよ」

 

「「シスター・・・」」

 

セリカ(シスター)の言葉に俺は感謝しか無かった。ホントにこの人に会えて良かったと、心から思った。

ネプギアが微かに声を上げたが、話に集中するあまり、俺たちは誰も気づけなかった。

 

「ラグナ、セリカ()からも一つ聞くけど・・・お姉ちゃんとの約束は大丈夫?世界は助けられたんだよね・・・?」

 

「ああ・・・ちゃんと助けた。任せろって言っただろ?」

 

セリカが不安そうに訊いてきた。やっぱり自分がその結末を知らないから不安なんだろう。

だからこそ、実際に助けて来た俺は自信を持った笑みを見せた。

 

「良かった・・・流石は私の勇者様だねっ!」

 

「お、おう・・・なんか、面と向かって言われると照れるな・・・。まあ、これからも大事なものを護ることは変わんねえ。それは信じてくれていい・・・」

 

「・・・うん。これからも信じてる・・・」

 

俺とセリカはお互いに穏やかな顔で見つめあい、暫くの沈黙が続く。

そして、その沈黙は誰かの腹の虫がデカくなったことで止まる。

 

「あはは・・・私、さっきから何も食べてなくて・・・」

 

セリカは照れた笑みを見せた。

 

「そうでしたか・・・それなら・・・」

 

「前と同じくみんなでご飯だねっ!」

 

イストワールの言葉を読んだようにネプテューヌが続けて言う。その意見に反対するものは誰もおらず、みんなでそれぞれの行動を始めるのだった。

 

「あっ。ねえあなた。ちょっといい?」

 

「私ですか?」

 

セリカがネプギアに声をかけ、ネプギアの顔を覗き込むようにして見る。

 

「・・・・・・」

 

「・・・ミネルヴァ・・・またか・・・」

 

その間、ミネルヴァは俺の後ろに隠れた。さっきの分解と言う単語が残ってるみてえだな。

 

「そっか・・・誰かに似てる気がすると思ったら、サヤの雰囲気を感じたからだったんだね・・・」

 

「えっと・・・ラグナさん。このパターン、これからも続くんでしょうか・・・?」

 

「さあな・・・それはこれから次第だろう」

 

どうやらセリカも俺と同じで、ネプギアから同じようなものを感じ取ったみたいだ。

 

「(そう言えば・・・イデア機関って大丈夫なのか?一応セリカが近くにいても何も影響ないけど・・・)」

 

俺はようやくここで、本当なら『蒼炎の書』はセリカが近くにいると魔素が無くなるせいで動けないことを思い出した。それと同時に、あの戦いで一度テルミに左手を潰されたのに治っていたことも思い出した。

本来ならば、『イデア機関』によって、魔素を封じるというノイズを無効化するのだが、こっちではイデア機関がちゃんと動いているかが解らない。

一応、セリカが近くにいても問題ないのと、女神たちに悪影響がないため魔素とは判断されていないのだろう。

そうなると俺の『蒼炎の書』がなぜ普通に動いてるかは解らねえが・・・。後で確認を頼むか。

 

そして、みんなでまたあの時と同じように自己紹介をしながら飯を食うことになった。

その時、俺とセリカの関係を問い詰められたり、ネプギアからミネルヴァの構造を知りたいと懇願されたりと、とにかく大変な目に遭った。

そんな風に一日もあっという間に過ぎていき、セリカはこの一日ですっかり皆の輪に馴染んで行った。




というわけで今回はセリカとミネルヴァの登場となります。
セリカがゲイムギョウ界に来た理由は追々明かすという形を取らせていただきます。なんか無理矢理感ある感じになっちゃったけど大丈夫だろうか?

調整平均がついたので確認して見ました。

調整平均=9.20

(; ・`д・´)<・・・・・・!?

(-_-;)<いやいやちょっと待て・・・コレ事象干渉でこれダメですってパターンじゃねえの?

調整平均=9.20

( ゚Д゚)<・・・マジで言ってる!?

始めて見た時マジでこんな感じになりました(笑)。正直こんなに高い評価をいただけるとは思っても見ませんでした。こんなに高い評価を頂けた以上、これからも頑張りたいと思いますので、よろしくお願いします。

次回から本編2話に入りたいと思います。


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14話 少女の影と白の侍、そして迫る危機

今回からアニメの2話部分が始まります。

今回変に行数が多くなっているのでちょっと読みずらいかも知れないです・・・。

お気に入り登録が100超えと、通算UAが7000を超えました!ありがとうございます。
これからも頑張りたいと思います。


追記。
申し遅れましたが、ニューとレイチェルを出して欲しいとのリクエストを頂きました。
上手く出せるようにしたいです………出せるかな?


「兄さま・・・」

 

俺がプラネテューヌの国内を歩いていると、よく知る声に呼ばれたのでそっちを振り向く。

 

「ん?サヤ・・・!?どうした?また、待てなくて来ちまったのか・・・?」

 

その声の主はサヤだった。どうしてサヤがここにいるかは解らねえが、できるだけ平静を装って訊いてみる。

前の夢の続きであるならば、確かに教会からゲイムギョウ界に行ったことになるから追ってきてもおかしくはないが、それでも俺が考え込むには十分な状況だった。

 

「うん・・・ただ、あまり時間が無いから要件だけ伝えるね」

 

「・・・要件?どんな要件だ?」

 

俺はサヤの要件という言葉を不思議に思い、思わず聞き返した。

俺が聞き返すと、サヤは薄く微笑み・・・。

 

「私を見つけて・・・兄さま・・・」

 

一瞬で姿と声がネプギアのものに変わってそういう。予兆とかそういうものは一切無く、突然変わったのだ。

そして、サヤであろう人物はネプギアと同じ姿のままうっすらと消えていった。

 

「・・・っ!?サヤっ!」

 

俺は慌てて手を伸ばしたが、サヤであろう人物の姿は完全に消えてしまい、その手が届くことは無かった。

 

「・・・どういうことだ?私を見つけて・・・?」

 

俺は届かなかった右手を見つめながら、その場で考え込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

俺は一気に目が覚めて慌てて飛び起き、コートを着ながらドアの所まで走り、思いっきりドアをあけ放つ。

ドアを開けて周囲を見回すが、誰もいなかった。

 

「夢・・・か・・・?いや、アレは夢って言うよりも・・・」

 

予知夢だとか、夢という名のメッセージというか、そう言った類に近い。

 

「(さっきの夢に出てきた女の子・・・アレはサヤでいいのか?それともネプギアなのか?

それに・・・私を見つけてって、どういうことだ?)」

 

さっきの女の子は、最初こそサヤの姿をしていたが、最後はネプギアの姿に変わっていた。

これはサヤの魂の一部がネプギアに宿ってるのか、ネプギアとサヤの魂が混ざっているのか。それとも別の何かか・・・。

何がどうであれ、アレをただの夢で片づけてはいけない。それだけは確かだと感じていた。

 

「(探すにしても・・・どこを探せばいいかわかんねえな・・・。

まさかだが、どっかヤバそうなところなんてことはねえよな?)」

 

もしもサヤの頼みであるならば探してやりたいのだが、ゲイムギョウ界のあらゆるところを探し回ると考えたらちょっと不安になる。

一応、四女神が治める国と、その周辺・・・主にクエストで向かった先は大体分かるのだが、それ以外はまだ立ち入ってない場所もあるので、慎重にならざるを得ない。

 

「どうしたもんかな・・・?」

 

「あっ、ラグナー!」

 

俺が考え出すと、セリカの声が聞こえたので、俺はそっちを振り向く。

セリカは笑顔で右手を振りながら俺の所まで駆け寄ってきた。

 

「ラグナ、今日は早かったね・・・いつも起きるの遅いから、心配しちゃったよ」

 

「・・・朝は苦手なんだ・・・。つか、こんな朝早くからどうしたよ?」

 

シスターのような口ぶりで言うので、俺は頭を掻きながらぼやき、ついでに俺の所に来た理由を訊いた。

 

「ああーっ、忘れちゃってたのぉ?今日はみんなでルウィーって所に行くんでしょ?

もう・・・約束を忘れるだなんて、女の子に嫌われちゃうよ?」

 

「わ、悪かった!俺が悪かったよ・・・」

 

今日がみんなでルウィーに行く日であることを思い出した俺は両手を前に出しながら謝る。

 

「・・・朝っぱらからシスター(ばあさん)みたいに言われるとは思ってもみなかったぜ・・・」

 

「だってラグナたちを育てたシスターさんだもん♪・・・でも、この見た目なのに『ばあさん』って言われるのはちょっとなぁ・・・」

 

「ああ・・・確かにそうだよな・・・」

 

セリカの言う通り、記憶こそ両方ともあるが、姿見た目は暗黒大戦時代の頃だ。

確かにそう考えると『ばあさん』って呼び方はあんまりしないほうがいいかもな。現にセリカは途中から困った笑顔に変わっていたからな・・・。気を付けよう。

 

「さて・・・行くってんなら早く準備を済ませちまおう」

 

「うんっ!ああ・・・楽しみだなぁ・・・♪」

 

俺が穏やかな顔で促すと、セリカは満面な笑みで頷く。

俺たちは準備を終え、ノワールが用意してくれた馬車に乗ってルウィーへ向かうのだった。

なお、乗る前にセリカが迷子になったので、俺はネプテューヌに手伝ってもらい、全力でプラネテューヌ内を探す羽目になった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ・・・綺麗な街・・・」

 

「そうだね・・・綺麗な街だよね、ルウィー・・・」

 

馬車の窓から身を乗り出し、ルウィーの街並みを眺めながらネプギアが感嘆の声を上げ、セリカがそれに便乗する。

ルウィーは雪が降っているとは言っても、全部の場所に雪が積もってるわけでは無いので、雪が積もってない場所をこうして馬車で移動することができている。

俺はネプギアたちとは反対の窓から景色を眺めていた。過ぎ行く街並みをゆっくりとした気持ちで見ると、中々にいいものだというのに気づけた。これはいい発見だった。

暗黒大戦時代の船旅も、バレねえようにこっそりと電車に乗った時とかも、『次はここに襲撃をかける』とか考えながらだからあまり楽しめて無かったのが大きい。

ちなみに、座ってる順だが馬車に近い方を前として、右が俺、ユニ、ノワール。左がセリカ、ネプギア、ネプテューヌの順になっている。アイエフとコンパは今回仕事で来れないんだそうだ。

 

「ルウィー・・・ずっと来たかったんだぁ・・・」

 

「ネプギアがそう思ってる気がしてさ・・・。丁度良かったね」

 

「うん。ロムちゃんとラムちゃんにも遊びに来てほしいって言われてたからね」

 

ネプギアが窓から身を乗り出すのを止めながら言う。

ルウィーへ来た最大の理由は、ロムとラムが遊びに来て欲しいと言っていたので、付き合ってあげることだ。ネプテューヌはタイミングが良かったことに安心したような笑みを浮かべる。

前にも言ったが、ブランはあの二人を他の国に行かせてあげてないみたいだ。

 

「一応話は聞いてたんだけどよ・・・ブラン、そんなに厳しくしてたのか?」

 

「みたいだよ。ブランってお堅いところあるからねぇ・・・」

 

景色を眺めるのを中断し、俺は一応ブランがそうしてるという話を聞いていたので、再確認の意味も兼ねて訊いてみる。

すると、回答は案の定厳しくしてると返ってきた。

 

「うーん・・・。そんなに厳しいと、なんかロムちゃんとラムちゃんが可哀想だな・・・。

だって、ラグナはサヤと二人でキイチゴ取りに行ったもん・・・。ラグナはあの二人より大きかったけど、サヤはそんなに大差ないよ・・・?」

 

「まあ、アレは本当なら俺一人だったけどな・・・。まあ、そのまま追い返すのも可哀想だし、サヤがついていくってわがままだったのもあるけど、連れて行ったのは確かだ。

アレくらいの頃なら、誰だってわがままの一つや二つはしたいだろう・・・。ちょっとは許してやってもいいんじゃねえかな・・・?」

 

ジンとサヤは頼れるやつが俺とシスターしかいなかったのと、シスターのところに来るまでは自由もなく辛い時間だったからなおのことしたかっただろう。俺はその気持ちがよく分かってたから特に反論をしたりはしなかった。

ロムとラムだって、頼れる身内こそ多いが、本当の意味で頼りたいのはブランとミナのはずだ。心配するのは分かるが、少しは甘くしてもいいんじゃねえか?俺はそう思った。

 

「そうだよねぇー。そういうことしてると、ノワールみたいになっちゃうのにねー♪」

 

「・・・目の前にいるわよ・・・。って言うか、誰がぼっちよっ!?」

 

ネプテューヌが俺の意見に同意しながらサラッとノワールに煽りを入れる。するとノワールは案の定突っかかった。

俺たちは皆してノワールの方を反射的に注視する。

 

「いやー・・・ごめんごめん・・・。

でもー、面と向かって言われると、自分を変えるきっかけになるよーっ?」

 

「グータラ女神に言われたくないわよっ!」

 

ネプテューヌが悪びれた様子なく続けると、ノワールはまた更にツッコミを入れる。

まあ・・・何というかこの辺はいわゆるお約束ってやつだな。

以前、ネプテューヌにオススメされたマニアアーカイブでアニメを視聴してたら、いつの間にかお約束というものを理解できた。慣れって凄いな・・・。

 

「・・・誘いに乗ったの、間違ったかしら・・・?」

 

「そうかなぁ?私は、ノワールちゃんが間違ってると思って無い風に見えるけどなぁ・・・」

 

「なぁっ!?な、何でそんな風に見えるのよ!?」

 

ため息交じりに呟いたノワールの言葉に反応したセリカの言った言葉がピンポイントに刺さったのか、ノワールは顔を赤くしながら声を荒げる。

ネプテューヌに教えてもらったことが間違ってなけりゃ、これは怒ってないらしいんだが・・・大丈夫だよな?少し不安になる。

 

「だって・・・ところどころで楽しそうにしてる顔が見えたんだもん」

 

「う、噓っ!?」

 

「あれぇ~?おかしいなぁ~?ノワールは別に大丈夫だったんじゃないのぉ~??」

 

セリカが毒気の無い笑顔で言うと、ノワールが動揺し、その様子を見たネプテューヌが煽りに掛かる。

ああ・・・セリカが来たからボケが一人増えて大変だと思ってたが・・・こんなに大変なことになるとは・・・。

 

「そういえばですけど・・・」

 

『ん?』

 

俺がすぐに止めなきゃと思って動こうとしたら、ユニが手を上げながら声を出したので、俺たちはユニを注視する。

 

「ミネルヴァ・・・乗れて良かったですよね・・・・・・」

 

『確かに・・・』

 

俺たちはミネルヴァが真ん中の一番後ろの方にいるのを見て思い出した。

ミネルヴァは今、ど真ん中かつ一番後ろで立っていたのだ。一応荷物として扱うことで無理矢理乗せることができたのだ。

動く荷物とか無理があるだろうとは思ったが、まさかの『プラネテューヌだから』で済んでしまったのだ。それでいいのかプラネテューヌの備品管理・・・?

 

「・・・・・・」

 

「・・・やっぱり、荷物扱いは嫌だよね・・・。ごめんねミネルヴァ・・・」

 

ミネルヴァの抗議の念を感じ取ったセリカがミネルヴァに謝罪をする。

そして、俺たちを乗せた馬車はそのまま駆けていき、あっという間にルウィーの教会前まで運んでくれた。

 

 

 

「(サヤ・・・。のんびり景色眺めたり、皆と話すって楽しいよな・・・)」

 

「(兄さま・・・。旅って楽しいね・・・♪)」

 

ラグナはその道の途中、ネプギアを見ながら心の中で問いかけをした。

しかし、この時の問いかけが明らかにネプギアに向けたものなのにサヤと認識していたことに、ラグナは気がつかなかった。

また、ネプギアも自分ではない別の少女の意思でラグナを見つめながら心の中で喜んでいたが、そのことには誰も気がつかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「きゃああああっ!」

 

ルウィーの教会にて、女性職員の悲鳴が聞こえる。

その理由として、地面に落とされていたバナナの皮に引っかかって足を滑らせ、足が滑った人の頭上に丁度来るように設置されていたバケツに入っていた水を頭から被ってしまったのだ。

 

「引っかかったーっ!ははっ!」

 

「大成功・・・♪」

 

「ロム様!ラム様!何をするんですかっ!」

 

その様子を見たラムはジャンプしながらはしゃぎ、曲がり角から見ていたロムも喜ぶ。

その二人に気がついた女性は起こりながら立ち上がり、ロムとラムの方へ走る。

 

「逃げろーっ!」

 

「お待ちなさーい!」

 

走ってくるのを見てラムの言葉を皮切りに二人は逃げ出す。女性は必死に追いかける。

 

「よろしいですのね?この計画が実行されれば、世界に革命的な変化がもたらされますわよ?」

 

「承知しているわ・・・。その為にも、計画実行までは絶対にばれないようにしないと・・・」

 

教会にある執務室で、ベールとブランは話し込んでいた。

これはルウィーとリーンボックスの共同で進めている計画であり、実行された時の影響が大きいため、二人は真剣に話し合っていた。

 

「ロム様ーっ!ラム様ーっ!」

 

「「逃げろーっ!」」

 

「・・・・・・」

 

しかし、その会議をしている部屋の隣で、ロムたちが騒いでいるため、「仕事中は静かにするように」と言っているのに守らない二人の状態に耐えられなくなったブランはドアを思いっきりあけ放つ。

 

「お前らぁ・・・仕事中は静かにしろって言ってんだろっ!」

 

「も、申し訳ありませんっ!」

 

そして、ブランは思いっきり怒鳴る。それに気づいた女性はすぐに頭を下げる。

 

「お姉ちゃん・・・♪」

 

「見て見てーっ♪」

 

「・・・っ!こ、これは・・・っ!」

 

しかし、ロムとラムは謝る様子もなく、ブランのところに駆け寄って本に描いた絵を見せる。

ブランはその使われていた本に気がついて体を震わせる。それは自分の大事にしている本だったからだ。

 

「お姉ちゃんだよーっ♪」

 

「ラムちゃんと描いたの♪」

 

「私の大事な本に・・・!お前らぁぁっ!」

 

二人は自分たちが頑張って描いたので、幼い子供らしい無邪気な笑みを見せるが、ブランは大事な本人落書きをされたことに激怒した。

 

「同じ顔になった!」

 

「や~ん♪」

 

「待ちやがれぇっ!」

 

「わーっ!逃げろーっ♪」

 

ブランが怒ったのを見たロムとラムは笑顔で逃げ、ブランは激怒したまま追いかける。

ベールは執務室で一人、涼しい顔で紅茶を嗜んでいた。

 

「っ!?」

 

ブランは怒りのまま二人を追いかけていたが、曲がり角を曲がったところで見えた人たちにハッとする。

 

「ネプギア!ユニちゃん!」

 

そこにはプラネテューヌとラステイション女神、女神候補生・・・。

そして、『紅の旅人』ことラグナと、先日ゲイムギョウ界に来たばかりのセリカとミネルヴァがいた。

特に、遊びに来て欲しいとお願いしたネプギアとユニが来てくれたことにラムは喜んだ。

 

「ラグナさんたちもいる・・・。本当に来てくれたの・・・?」

 

「うん。遊びに来たよ♪」

 

「やっほー、ブランーっ!・・・来ちゃった・・・てへっ♪」

 

ロムの質問に笑顔で答え、ネプテューヌはわざとらしく挨拶をした。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「まあー、そんなわけでさー・・・ルウィーに新しいテーマパークが出来たから、みんなで遊びに来たのー♪」

 

「イストワールからは、女神の心得を教えてほしいって連絡を受けてるけど・・・?」

 

ルウィーの中庭で、ネプテューヌがいつものようにお気楽な感じで言う。

それに対して、連絡を受けていたブランが少し眉をひそめて訊く。

・・・女神の心得ってイストワールの中ではまだ続いてんのか・・・。もういいんじゃねえか?結局人それぞれだしさ・・・。

逆に言えば、女神の心得と言う免罪符を使えばネプテューヌはいつでも出かけられるので、それもそれで良くない気がする。

 

「ああー・・・それはもういいよ。前回あんまり役に立たなかったし・・・」

 

「・・・悪かったわね・・・」

 

ネプテューヌが悪びれも無い笑顔で言うと、ノワールが少し落ち込み気味に言う。

 

「まあ・・・結局やり方なんてひとそれぞれだし、自分にあったやり方でやりゃあいいんじゃねえの?」

 

「そうだよねー。やっぱり自分のやり方って大事だよねー♪」

 

俺がノワールのフォローのつもりで投げかけた言葉に、ネプテューヌが乗っかってきた。確かにこいつも時々試行錯誤するから仕方ないのもあるけどな・・・。

 

「・・・お前は俺に頼り過ぎないようにな?後、今後セリカが迷子になったらお前も探すの手伝ってもらうぞ」

 

「勘弁してよぉ・・・。今日の朝だって大変だったじゃーん・・・」

 

女神の心得の一件の後、少しはマシになったが、それでもネプテューヌは俺に頼ることが多い。

今後俺に頼ろうと頼るまいと、セリカが迷子になったら探すのを手伝ってもらうのは確実なので、今のうちに話しておく。

するとネプテューヌは頭を抱えながら嘆いた。ネプテューヌは初めてだから無理もないかもしれない。まさかプラネテューヌ中を探す羽目になるとは思わなかっただろう。

 

「ええーっ?迷子になんかなってないよー。時間が余ってたからちょっと周りを見てみただけだよ?」

 

「「アレは周りを見るって規模になってないよっ!(アレは周りを見るって規模になってねえよっ!)」」

 

ロムたちの遊びに付き合いながら反応したセリカが講義をするが、俺とネプテューヌは全力で否定した。

セリカお前・・・俺とネプテューヌがどんだけ必死に探したと思ってんだ・・・。

 

「ねえ、ラグナ・・・セリカの方向音痴ってどんな感じなの?」

 

「セリカのアレはシャレになんねえぞ?「あっちが近道かも」・・・とか、「こっちにいいところがある」・・・とか言って知らねえ場所なのにガンガン進んでくんだぜ?

俺はあのパターンに何回付き合わされたか・・・目を離したら最後。あいつを見つけるのに相当時間食うぞ・・・」

 

「ラグナ、もうよそうよ・・・。ごめんノワール・・・。これ以上掘り返したくない・・・」

 

「な、なんかごめんなさい・・・?私、そんなに酷いとは知らずに・・・」

 

ノワールに訊かれたので、俺はその質問に答えるが、途中から思い出すのが辛くなって頭を抱える。

聞いていたネプテューヌも、今朝の苦労が思い返されたせいで頭を抱えながらストップを掛けたので、ノワールが顔を青ざめ気味に謝る。

 

「・・・あれ?ネプギアはあの時先にきてて良かったの?」

 

「私は、万が一に集合場所に戻ってきたらそのまま連れていってって頼まれてたから残ってたの・・・。

お姉ちゃん・・・大丈夫だった?」

 

「うん・・・大丈夫・・・アレは知らない方がいいもんね、ラグナ・・・?」

 

「ああ・・・あの方向音痴っぷりの犠牲者は少ない方がいいに決まってる・・・」

 

ユニの疑問にネプギアは答える。

正直言うが、俺も本当は集合場所で待っていたかった。だが、やっぱりああなったセリカを唯一知ってる身が他人に任せるわけにもいかないので、結局はいくしかなかった・・・。

心配するネプギアに回答しながら、ネプテューヌは俺に話を振ってきたので、俺は迷わずに同意した。

 

「方向音痴の話はさておき・・・テーマパークの噂は私も聞いていますわ。みんなで遊びに行くのも、楽しいのではないかしら?」

 

「スーパー二テールランド!?行きたい行きたーいっ!」

 

「連れてって・・・(わくわく)♪」

 

ベールの提案を聞いた二人は真っ先にその提案に乗っかり、行きたいことを出張する。

 

「スーパー二テールランドって・・・前に建設中だったあそこか?」

 

「ええ。そうよ・・・お願いだけど、妹たちを連れていってもらるかしら?」

 

俺の質問にブランが答えると同時に、皆にロムとラムのことを頼んだ。

 

「えっ?ブランは?」

 

「お姉ちゃん・・・いかないの・・・?」

 

「私は・・・行けない・・・」

 

その言葉を聞いたネプテューヌとロムが聞き返すが、ブランは申し訳なさそうに言う。

 

「えーっ?仕事ー?止めなよー・・・」

 

「どうせなら全員で行った方がいいだろ・・・。そんなにマズイ状態なのか?」

 

「ごめんなさい・・・。ちょっとね・・・」

 

ネプテューヌがジト目になりながら咎めるところに、俺も乗っかりながら問う。すると、ブランの顔は更に沈んだ表情になった。

 

「そうか・・・とりあえず、体壊さねえようにな?」

 

「うん。そうする・・・」

 

「体は大事にしないとね・・・。ああ、それと昔の偉い人も言ってたよ?『働いたら負けかなと思ってる』って!」

 

「それ、偉い人じゃないから・・・」

 

俺の言葉に何か引っかかるものがあるのか、ブランは少し硬い表情で頷く。

ネプテューヌが俺の言葉に乗っかりながらボケると、そのボケにノワールが突っ込んだ。

 

「それじゃあ・・・悪いけど後はよろしく」

 

ブランは席を立ちながら俺たちにロムとラムのことを頼み、この場を離れた。その様子を見たロムとラムはお互いの顔を見合わせる。

言いたいことは確かにあるのだが、今言いに行ってもまともに請け合ってはもらえないだろう。ここで立ち止まっていても仕方ないので、俺たちはスーパー二テールランドへ行くことにした。

 

「(ブラン・・・お前はそれでいいのか・・・?)」

 

移動の途中、俺はブランのことを心配していた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「わぁー・・・♪」

 

「待ってラムちゃん♪」

 

「二人共、ちゃんとコート着てーっ!」

 

「ネプギアーっ!入場券忘れてるーっ!」

 

スーパー二テールランドにたどり着き、入場口が見えるや否、女神候補生の四人が慌ただしく前を走っていく。

俺たちはそれを見ながら後ろを歩いて入っていく。今日が平日ということが幸いし、人は少ないため楽に進むことができる。

そして、ブランの釘刺しもあり、暫く外に出れず退屈していたルウィーの双子はすぐにはしゃぎながら遊具で遊びだした。

その後、土管が無数にあるアトラクションにて、ネプギアとユニも二人に付き合う形で遊びだす。

先にネプギアとユニが一つの土管の中に入り、少ししてからロムとラムが土管に入る。

 

「ネプギアーっ!ユニちゃーんっ!」

 

「どこー?」

 

「はーい!」

 

「こっちよーっ!」

 

先に出てきたのはロムとラムの方で、まだ出てこない二人を探して辺りを見回す。

すると、ネプギアはラムの後ろ、ユニはロムの後ろにある土管から姿を表して手を振った。

 

「あっ♪スライヌ模様のコイン・・・♪」

 

「こっちはアエル―だぁ♪」

 

ネプギアとユニはそれぞれ、愛嬌あるモンスターの絵が描かれたコインを手に入れ、笑顔になる。

このスーパー二テールランド、所々にモンスターの絵が描かれたコインが置かれてあり、それらは持ち帰ることができるみたいだ。

ロムとラムも負けじとコインの所へ走り、それを手に取る。

 

「・・・テリトス・・・」

 

「こっちはテスリト・・・つまんなーいっ」

 

しかし、自分たちが思ってたものより良くなかったためか、二人は不服そうだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「下さいなー♪」

 

一方、俺たちは近くにあったベンチに腰を掛けて休んでいた。

ネプテューヌはベンチの隣にある売店で販売されている桃を買っていた。

 

「みんな元気だね・・・私、流石についていけないや・・・」

 

「ああ・・・俺もちょっとアレは無理だな・・・」

 

「・・・・・・」

 

「ミネルヴァも体が持たないか・・・。確かにあれは大変だよねぇ・・・」

 

セリカは女神候補生が遊んでるところを笑いながら見ている。セリカの言葉には俺も同意する。

多分、セリカ(シスター)に会ったばかりの頃の体ならついていけたんだろうけどな・・・。過去に戻るのは時だけが限界らしい。

つか、ミネルヴァも無理なのかよ・・・。ああ・・・でも、セリカの能力の補助が本来の役割だから、無理もない所はあるな。俺は一人納得した。

 

「ねえラグナ・・・。私たちが会ったばかりの時にこういう所に来てたらどうなってたかな?」

 

「そうだな・・・俺たちがああでもないこうでもないとかって言って喧嘩するかもしれねえけど、楽しめると思うよ・・・」

 

教会での暮らしを始めた俺たちなら、今まで楽しめなかった分も相まって、あっち行きたいこっち行きたいの主張で喧嘩する可能性は十分に高い。

その中で俺は一人、「シスターを困らせんな」って言うんだろうか?でも多分、最後はみんなで楽しんでるだろう。なんとなくだが、俺は最後に全員が笑っている光景が思い浮かんだ。

 

「・・・ラグナがそう言う、ならきっと間違いないねっ!」

 

「お、おい・・・いくらなんでも買いかぶり過ぎじゃねえか・・・?」

 

セリカが何の疑いもないような笑顔を見せるので、俺は少し後ずさる。

セリカが俺に全面的な信頼見せたり、俺だから平気だって言う発言は今に始まった訳じゃないが、やっぱり面と向かって言われるとこうなってしまう。

 

「うーん・・・他国の女神が来てるんだから、ブランも付き合うべきじゃない?ホント、何考えてるんだかわかんないわ・・・」

 

ノワールは今回のブランの行動に疑問を持っていた。確かに俺もその疑問は分からなくもない。

というか、自分の妹たちのことをあんな簡単に頼んでしまっていいのだろうか?俺の場合は今までの境遇も兼ねてそんなことはできないだろう。

何からブランに言うべきだろうか?簡単に妹たちを任せちゃいけないことか?それともこういう時こそ妹たちと一緒にいてやるべきってことか?

やっぱり柄でもないことは難しいな・・・。だが、俺のような過ちを犯させないようにするためにも、できることをすべきだとは思っていた。

 

「まあ確かに・・・彼女はもう少し大人になるべきですわね・・・。この私のように・・・」

 

ベールはノワールに同意しながら、自信を持った笑みを見せながら胸を強調するような動作を見せる。

それを見た俺とノワールはどう返せばいいかわからず、苦笑するしかなかった。

 

「むー・・・確かにベールさんの大きい・・・でも、大事なのはバランスだよね?ラグナ?」

 

「ちょっと待てセリカ・・・なんでそれを俺に振ったんだ!?」

 

セリカが振った話題が、何でか知らねえが答えたらヤバいやつだという勘に従い、俺は即座にセリカに突っ込んだ。

そういや、前にもこんなやり取りしたことあったなぁ・・・。暗黒大戦時代に行った時、アルカード家に泊まらせて貰った時のことか・・・。でもアレ、俺が『普通』って言った単語に寝ぼけたセリカが間違えた反応しただけな気もするが・・・。

 

「ふむふむ。大事なのはバランス・・・。確かにそれはわかるわ」

 

「・・・オイオイちょっと待て?何でノワールは納得したかのように言ってんのっ!?」

 

何故か少し嬉しそうに頷いているノワールがいたので俺は焦る。ノワールがツッコミを入れなかったので内心焦ったのもある。

胸の話題ってのは・・・女性の永遠の宿命らしいな。俺は女性って難しいと改めて感じた。

 

「バランス・・・。確かにそれも大事ですが、最終的にはやはり・・・」

 

「お前は火に油を注ぐようなことを言うなぁぁっ!」

 

俺はベールの挑発的な発言に即座に反応し、絶叫気味に突っ込む。

今日が人のいない平日で良かったが、これが人の多い休日だったら目線を集めてしまうことだろう。考えるだけでも冷や汗が走る。

 

「ねぇ、そう言えばどうしてベールはルウィーに・・・」

 

「ねぷぅっ!?」

 

ノワールは話題を変えるべく、ベールがルウィーにいた理由を訊こうとするが、ネプテューヌの悲鳴が聞こえたことにより、俺たちは全員がそっちを振り向く。

よく見ると、ネプテューヌが買い上げた桃の入っている袋を狙った亀がネプテューヌに尻餅をつかせ、そのまま袋にある桃を奪おうとしていた。

 

「この亀・・・私のピーチを狙ってるよぉっ!?・・・いやーっ!助けてーっ!」

 

ネプテューヌが叫ぶのを無理やりにでも意識から外し、周囲を見ると、桃を狙う亀がいるから気をつけてということを示す看板が一つあった。

 

「(なるほど・・・それに気づかなかったわけか・・・)」

 

しかし、脅して追い返すのも後々悪影響出そうで困るな・・・。どうしたものかと考えると、一つのことを思いつき、俺は売店に足を運ぶ。

 

「ネプテューヌ、それをそいつに渡しちまえ」

 

「えっ?でも・・・」

 

「いいからいいから」

 

俺が急かすと、ネプテューヌは半信半疑に袋を亀の目の前に置く形で手放す。

俺の思いついたことは、もう一個ネプテューヌが食うために買って、ネプテューヌが買った桃はそのまま亀に渡してしまおうという考えだった。

俺は購入した桃の入っている袋をそのままネプテューヌに渡す。

 

「・・・いいの?」

 

「今まで住ませてもらってる分の礼ってやつだ。今度は盗られないようにな?」

 

「うんっ!ありがとうラグナっ!う~ん♪美味し~♪」

 

最初は戸惑ったものの、俺の言葉を聞いたネプテューヌは笑顔でお礼を言って桃を頬張る。

そして、食ったらすぐに幸せそうな顔になった。金銭的に考えたら俺は何にも特は無いが、この笑顔を見れただけいいだろう。

 

「ラグナ・・・あなたよくもまああんな簡単にお金はたいたわね・・・」

 

「ちょっと平和的解決ってのに慣れておきたくてな・・・」

 

ノワールの呟きに俺はこう答えた。今まで物騒な方法ばっかりだったのもあって、なるべく穏便な解決方法に慣れておきたかった。

 

「今の解決法はちょっとずれてるわよ・・・?」

 

「そうか・・・?まあ、これから慣れていくさ・・・。・・・?」

 

やっぱりずれていたか・・・。暫くの間は試行錯誤するしかないな・・・。そう感じたところで、右腕にまた妙な重みを感じたので、右腕を見やる。

その右腕からはまた蒼い炎のようなものが見えていた。また、心なしか右腕が震えているような感じがした。

 

「ねぷぅっ!?ラグナの右腕がまた蒼くなってない!?」

 

「ラグナ・・・!?あなた・・・大丈夫なの・・・?」

 

「ああ・・・一応平気だ・・・」

 

それを見たネプテューヌは驚き、ノワールは焦りながら訊いてきたので、俺はなるべくいつも通りの様子で答える。

とは言え、セリカが来たってのに余りにもすぐなので、流石に俺も内心焦ってはいる。

そして、俺が返答をした直後、蒼い炎のようなものはすぐに消えてしまった。ただし、セリカの時と同じように、消えたかわりに引っ張るような感じは微弱ながらあった。

 

「・・・消えたのか・・・?」

 

「ラグナさん・・・お体の方は平気ですの?」

 

「ああ。特には問題ない」

 

「なら・・・いいのですが・・・」

 

炎のようなものがすぐに消えたので、俺は首をかしげる。今までのことを考えると、右腕が震えている感じがするだけなのが違和感を感じさせた。

ベールには大丈夫だと答えたが、ベールの方も疑問は消えないようだ。

 

「大丈夫?一応、治療するね」

 

「悪い。頼むわ」

 

今まではこのようなことが起きても何とも無かったのだが、もしものことを考えて俺はセリカの治療を受けることにした。

 

「(セリカが来た時とは違って右腕が震えてる感じがある・・・今度は何が起きるんだ?)」

 

俺がセリカの治療を受けながら考えるが、何が起きるかは全く予想が立てられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

白き躰をした者は見知らぬ地に立っていた。

白き躰をした者は、頭の後ろから伸びている長く白い髪と、右の背に掛けられている非常に長い野太刀は、まるで侍のような風貌を醸し出している。

そして、白き侍の周りは、右側が雪の影響で道が白くなっており、左側はが無く、通常の道となっていた。

 

「此処は・・・『境界』と謂う訳では無い様だな・・・」

 

白き侍が発す声は低い男のもので、自分のいた場所とは違うことを認識する。

 

「(此れがトリニティ=グラスフィールの計らいとは思えぬ・・・。恐らくは何者かに召喚()ばれたか・・・)」

 

白き侍が知る限りの最後は、役目を終えた為に盟友の一人・・・トリニティ=グラスフィールの計らいにより、自身の体として機能している『スサノオユニット』を窯の奥深く・・・人が手をつないで出せないように封を掛けてもらった。

であれば自身はその窯の中、『境界』にて身動きをすることなく沈んでいるはずなのだが、何故かこの見知らぬ地にいた。

白き侍はその現状を鑑みて、自分をこの世界に召喚()んだ者がいると踏んだ。

それと同時に、侍は己に課せられた使命を確認する。

 

「(我が使命は、この一振りの剣にて、全ての『罪』を刈り取り、『悪』を滅すること・・・。

であれば・・・。この世界に私が滅するべき『悪』が居ると謂う事か・・・)」

 

白き侍は自身の右の背に掛けられている野太刀を抜刀する。

鞘から刀を抜く際、その刀の刃は風となり一瞬消え、鞘から抜き切ると同時に刃は再び現れる。

引き抜いた刀をやや上段に構えるようにし、その刀の刃を見つめる。

その際に、白き侍はいくつかの『悪』の気配を感じ取った。そして、その内二つは自分のよく知る気配であった。

 

「成程・・・貴様が此の世界にいるのなら・・・私が成すことは決まっている・・・」

 

白き侍は二つの気配の内、一つに狙いを決め、野太刀を鞘に収める。

 

「『黒き者』よ・・・永きにわたる因縁・・・今度こそ、決着を付けよう・・・」

 

白き侍は、『悪』の気配の内一つである『黒き者』のいる・・・白き道の方へ自分の体を向ける。

 

「『黒き者』・・・(いや)、『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』よ・・・。貴様は、此の『ハクメン』が滅する・・・!」

 

白き侍・・・ハクメンは『悪』の気配の一人、ラグナの元を目指して歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ああーっ!デッテリュー模様だーっ!レアアイテムだよー♪」

 

ロムとラムはコイン探しをしている最中、レアなコインであるデッテリュー模様のコインを見つけた。

それを見たラムは嬉しそうに何度かジャンプする。

 

「あっちもデッテリュー・・・♪」

 

「あっ、あれも・・・全部デッテリュー・・・!・・・でも、もういいかな・・・?」

 

ロムが指さす方には大量のデッテリュー模様のコインが並んでいた。

一度に貴重ななものが多く手に入るのは確かに嬉しいが、それは大体、2、3個程度のことで余りにも大量に並んでいると流石に飽きてしまう。それをラムはわかりやすく表現してくれた。

 

「お姉ちゃんにも持って行ってあげる・・・♪」

 

「ええー?お姉ちゃん、一緒に来てくんなかったんだよ?」

 

「・・・そうだけど・・・」

 

ロムは姉のことを思って、多めに持って帰ろうと考えたが、ラムは不服そうな態度を示す。ここの所皆に会いたいのに会わせてもらえなかった分、不満が溜まっていたのだ。

それを見たロムはしょんぼりとした顔になる。

 

「・・・・・・。分かった。お姉ちゃんの分も取って帰ろう」

 

「・・・うん!」

 

ラムは一度考え、ロムと一緒にブランの分も持って帰ることを選択した。

そうと決まれば早く、二人はコインの回収を始めた。・・・それを何者かが仕掛けた罠だと気づけずに・・・。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・?あれ?」

 

「どうしたの?ネプギア」

 

時を同じくして、ネプギアはロムとラムを探していた。さっきまでは一緒にいたのだが、いつの間にかどこかへ言ってしまったのだ。

 

「ロムちゃんとラムちゃん・・・どこに行っちゃったのかな・・・?」

 

「さっき、あっちの方に行ってたけど・・・」

 

ユニはさっきロムたちが走っていった方を指さす。二人はそちらへと歩き出す。

余りにも不自然なコインの並び方をしているが、それに気づく余地は無かった。

 

「ロムちゃーん。ラムちゃーん・・・。・・・っ!」

 

「アックックック・・・」

 

ネプギアたちが曲がり角を曲がった所には、黄色い体をした巨大で、カメレオンのような下をしたモンスターと、緑色の髪に少し白すぎるくらいの肌をした、ガラの悪い女性がいた。

その巨大なモンスターの両手にはロムとラムが握られており、ご丁寧に口元をモンスターの親指で押さえられていた。

 

「ロムちゃん!ラムちゃん!」

 

「アンタっ!何やってんのよ!?」

 

ネプギアとユニの責める声に対して、モンスターは長い舌による殴打で答えた。

 

「「きゃああああっ!」」

 

突然の攻撃に反応できなかった二人は軽くふっ飛ばされてしまった。

 

「幼女以外に興味はないっ!」

 

「上手く行きましたね。トリック様」

 

「アックック・・・」

 

ガラの悪い女性にトリックと呼ばれたモンスターは、舌を遊ばせながら「お楽しみはこれからだ・・・!」と言い残す。

そして、トリックは高笑いをしながら、ロムとラムを抱えて去っていく。ガラの悪い女性はそれに付いていった。

 

「ロムちゃん・・・!ラムちゃん・・・!」

 

ネプギアは去りゆくトリックたちの方へと手を伸ばすが、その手は力なく地面に落ちた。

 

「(ラグナさん・・・私・・・)」

 

それと同時に、ネプギアは自分がまだ無力であることを痛感するのだった・・・。




チラッとだけハクメンを登場させました。
ラグナたちとの絡みはまだこれからですね・・・。

後、前回の話を投稿した後にランキングを確認したんですけど、まさかの日間8位の載っていました。
一体何があった!?お気に入り登録が倍近くまで増えてるし・・・何があったの!?と狼狽しましたが、とても嬉しく思います。

さてさて・・・次回はまたなんだかんだ先生を書く場面があるはずです。


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15話 変えられる未来、変えられない過去

書いててどんどん文字数が増えていく・・・。
区切った方がいいかもとか言ってたのに区切らずやろうと思ったところまでやっている私って一体・・・(汗)。


「そう言われましても・・・誰も通すなと・・・ブラン様に申しつけられているんです・・・」

 

「ええーっ?私たち女神仲間なんだからいいいでしょー?」

 

「いえ・・・女神様と言えど・・・」

 

あの後、俺たちはルウィーの教会に急いで戻り、ブランに直接話をしようとしたのだが、執務室の前で女性職員から通せないと言われたので、こうして言い合いが始まっていた。

また、ミナにも一応連絡は入れてあるのだが、まだ戻って来れそうにないようだった。

 

「せめて、謝らせて下さいっ!」

 

「ロムとラムが誘拐されたのは、アタシたちのせいなのっ!」

 

「既に・・・警備兵を総動員して、捜索させていますので・・・」

 

ネプギアとユニは目の前で事を見ていた身であるため、尚更責任を感じていることは想像に難くない。

しかし、女性職員はおどおどしながらも、対応ははこっちでやってると言わんばかりに言い返す。

 

「(甘いな・・・そんじょそこらの寄せ集めじゃ、攫ったやつには勝てねえよ・・・)」

 

だが、人数だけではどうにもならない。変身できないとは言え、そもそも女神候補生が勝てないのに、一般人で対応しようというのが筋違いだし、国外から出たんならそれこそ立場という足枷が付いて回る。

だったらせめて、並みの一般人よりも全然マシに戦える俺らが手分けして探し回った方が圧倒的にいい。

それを言えたら楽なのだが、この状況では、俺が発言しても、すぐに潰されてしまうのが目に見えていているから歯がゆい。

 

「それは知ってるけど・・・!」

 

「・・・・・・帰って。貴方達はいつも迷惑よ・・・」

 

ノワールも俺と同じことを考えていたのか、女性職員の回答に反論しようとしたが、ブランの声が割り込むように入る。

その言葉は俺たちを追い返す為の言葉だった。筋違いと思うかもしれないが、俺も妹を連れて行かれた経験がある為、今のブランの気持ちはよく分かる。

だが・・・決定的に違うこととして、俺が何の力も無く、唯一頼れる人であったセリカ(シスター)が目の前で殺されたが故に助けも呼べなかったのに対して、ブランは女神化という強大な力もあれば、今の俺たちのように助けになれる人たちもいることだ。

 

「お・・・おい、ブランッ!」

 

「ごめんなさい。ラグナ・・・。私は・・・約束を守れなかった・・・ダメな姉の一人みたいだわ・・・」

 

だからこそ、それを伝えたかったのだが、ブランは自責の念に潰されているのか、自嘲の言葉で俺の言いたかったことを遮る。こうなるともう言葉を引っ込めるしか無かった。

 

「・・・・・・また来る」

 

「ら、ラグナっ!ロムちゃんとラムちゃんはどうするのさぁっ!?」

 

ならば次の行動に出るだけだ。そう決めた俺は回れ右をし、一人先にこの場を離れようとしたところに、ネプテューヌが制止の声をかける。

ネプテューヌだけではなく、本当ならセリカ以外全員が俺を止めようとしていたのは大体理解できている。

『あの日』のことは俺とセリカで合計二回も話しているのだから、話だけでとは言え、理解していないやつは一人もいない。

 

「それは分かってる。けどよ・・・ここでブランにどうのこうの言おうとしたところで、遮られるんじゃどうしようもねえ・・・。

なら、俺たちにできることからやる。今はそれが大事だ」

 

「ラグナ・・・。

・・・そうだよね。ラグナが助けに行かないわけないよね・・・」

 

だからこそ、俺は一度足を止め、体を半分皆のいる方に向けながら話す。それを真っ先に理解示してくれたのはセリカだった。

唯一『あの日』を自身で経験したこと、そして、俺との関わりが今ここにいる人たちより長いことがそれを助長していた。

 

「ああ・・・俺は諦めねえ・・・ロムとラム(あいつら)は絶対に助ける・・・お前らだってそうだろ?」

 

「はい・・・!ロムちゃんとラムちゃんは、絶対に助けます!」

 

「アタシも、絶対に諦めませんっ!」

 

俺は確固たる意思を皆の前に示す。それに真っ先に賛同したのはネプギアとユニだった。

張りつめすぎるなとは言わない。それはこの二人の決意に水を差すことになるため、今回は絶対にやってはいけないことだ。

 

「・・・よし・・・。一先ず場所を変えよう。話はそれからだ」

 

俺はそう言って今度こそ歩き出す。この場にいた女性職員と、ドアの向こうにいるブラン以外の全員も俺に付いてくる形で歩き出した。

俺は歩いてる最中に、炎の中に消えゆくロムとラムに手を伸ばすブランの姿が思い起こされた。

それは奇しくも、テルミがサヤを連れて去っていく瞬間と、サヤに向けて手を伸ばす俺と似ていた。

 

「(繰り返させねえぞ・・・。あんな思いをすんのは俺一人で十分だ・・・!)」

 

俺は心の中でその光景を振り払う。そんな俺は、知らずして自分の右手をきつく握りしめていた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

皆が去っていく音を聞いたブランは、身を翻して執務室の中を歩き出す。

 

「ロム・・・ラム・・・。

私のせい・・・私が姉として・・・もっと・・・ちゃんとしていれば・・・」

 

ブランは自責の念に駆られながら、ふらついた足取りで執務室の中を進んでいく。

今回、その場にいなかったブランに非があるわけではないのだが、自分がいればロムとラムが誘拐されないで済んだかも知れないと考えると、自分を責めずにはいられなかった。

そして、彼女を責め立てることとして、以前、ルウィーでラグナと約束したことが絡んでいた。

 

―ブラン・・・お前は妹二人を大切にな・・・。俺みたいにはならないでくれ・・・。

 

その言葉を思い返したブランは立ち止まる。

 

「ごめんなさい・・・。私は・・・」

 

―貴方のようになってしまったわね・・・。

 

二人の面倒を見て、護ると約束したのにも関わらず、このような行動を取ってしまった自分を許せないことと、妹にもう会えないかもしれないという恐怖から、ブランの目尻には涙が浮かんでおり、その声も震えだしている。

 

「でも・・・どうすれば・・・?」

 

助けられるなら今すぐにでも助け出したい。だが、ロムとラムを見つけられないでいる。

・・・否、正確にはその二人をすぐに見つける手段はあるのだが、ラグナとの約束。妹を失った悲しみ。近くにいてやらなかった自責の念・・・。

これらが頭の中で巡るあまり、その手段に頭を回らせることを妨げてしまっていたのだ。

 

「何とかしなくちゃ・・・何とか・・・」

 

ブランは一度自分を落ち着かせるために涙を拭う。そして、探す手段にたどり着いてハッとする。

 

「そうだ・・・!あれを・・・!」

 

本当はサプライズする形で使いたかったのだが、妹のために使おう。

そう決めたブランが早速行動しようとした時に・・・

 

「ガラッ!」

 

何者かの手によって執務室のドアがあけ放たれる。

誰が来たのかと思ったブランが振り向くと、そこにはいくつかの赤いリボンの内、ドクロ付きのリボンが一つ付いているピンク色のドレスを見に纏った金髪の少女がいた。

 

「見~つけたっ!」

 

「・・・えっ?っ!?」

 

その少女はブランを見るや指を指す。ブランはどういうことか訊こうと思ったが、その少女と共にいた黒ずくめの格好をした二人の内、一人が付けた照明の眩しさに言葉を遮られ、顔を覆う。

そして、少女たちはブランの元に駆け寄ってくる。

 

「・・・誰?」

 

「ワタシはアブネス!幼年幼女の味方よ!」

 

「・・・えっ?」

 

「大人気番組、『アブネスちゃんねる』の看板レポーターじゃーん・・・知らないの?」

 

ブランの問いに、少女・・・アブネスは名乗る。

しかし、ブランが思わず聞き返したことに、アブネスは不満をこぼす。

 

「さあ、今日も中継スタートよぉ!」

 

「・・・中継?」

 

ブランの疑問に答えるかのように、照明を持っていない、もう一人の黒ずくめが持っているカメラに『REC』の文字が浮かび上がり、ブランの肢体を舐めるかのように映し出す。

 

「全世界のみんな~♪幼年幼女のアイドル、アブネスちゃんで~す♪

今日はルウィーの幼女女神、ブランちゃんのところに来てるぞっ♪」

 

そして、アブネスは媚びるような声を出して中継を始めた。

 

「おい・・・テメェいい加減に・・・」

 

「ところでっ!妹のロムちゃんとラムちゃんが誘拐されたって言うのはホントなのかな?ブランちゃんっ!?」

 

「なっ・・・どうしてそれを・・・?」

 

ただでさえロムとラムが誘拐されている今、気が気でないのに突然目の前で報道が始まったことで不快感が大きくなる。

ブランはさっさとアブネスを追い出そうとしたが、ロムとラムのことを訊かれて動揺する。

このことは伏せていたはずなのだが、アブネスが知っていたという事態に、ブランは頭が真っ白になっていく。

 

「ホントだったんだ・・・!?アブネス、心配・・・」

 

アブネスはその事実を知って、目を潤わせ、泣きそうな顔をする。

 

「・・・で、カワイイ妹を誘拐された気分はどうですか?ブランちゃん??」

 

「っ・・・・・・」

 

しかし、それは一瞬の演技であり、すぐに表情を変えてブランへの質問攻めを始めた。

何故アブネスは二人が誘拐されたことを知っていたのかという疑問。そして、隠していたことを暴かれてしまったこと。この二つのが重なり、ブランの頭は完全に真っ白になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「お、おい・・・今すぐに逃げるぞ・・・」

 

「・・・えっ?」

 

執務室のドアの前にて女性職員はどこかから声をかられた。その声の主を知っていた女性職員は、ポケットの中からアンチクリスタルを取り出す。

その中には碧黒い影・・・ユウキ=テルミの姿があった。いつもより口元が緩んでおらず、その声音は焦燥感に駆られているものがあった。

 

「いいから話を聞け・・・。このまんまだと、お前の変装がバレて、抵抗できないまんま殺されちまうぞ・・・。

こっちに新しく来てる奴は俺を知っている・・・。俺と手を組んでるだなんてバレたら真っ先にこっちが狙われる・・・!

幸いなことに、そいつのターゲットには『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』も入ってる・・・今すぐに逃げだせば、そっちに集中してくれるって算段よ・・・」

 

テルミは自分の知る情報をなるべく手短に女性職員へ話す。

それを聞いた女性職員は表情が険しくなっていく。テルミの言っていることが事実で、このままでは計画が台無しになると予想できたからだ。

 

「それに・・・アンチクリスタルを探しに行くなら、今が絶好の機会だろ・・・?

新しいやつの気をそらすこともできて一石二鳥じゃねえか・・・。だから今のうちに早く行こうぜ?」

 

テルミの言葉を聞いた女性職員は頷き、裏口から出るべくすぐに移動を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「さてと・・・先に来ておこう。この中で、ロムとラムを探す有効な手段を持ってるやつはいるか?」

 

『・・・・・・』

 

ルウィーの中庭で俺は早速訊いてみることにした。こういうことを知ってる人がいるならそれに頼るのが一番楽でやりやすい。

自分の足でどうのこうの・・・とかってのもあるかもしんねえが、そんなんで見つけらんねえくらいなら効果的な手段は使うべきだろう。自分の足でいくしかなかった俺はまたそんなことをやるのはもうごめんだ。

 

「それなら・・・私に一つ、ロムちゃんとラムちゃんの居場所を突き止める方法ががありますわ」

 

そして、少しの沈黙の後、ベールが手を挙げた。その表情はいつになく真剣だった。

普段は穏やかな、掴みどころのない表情や態度が多いのだが、今回は自体が事態だ。そういう事態なら真剣になる。

 

「・・・本当か!?それなら話が早い・・・。それってどんな方法なんだ?」

 

「実は・・・ブランとはある計画を進めていましたの・・・」

 

俺が聞くと、ベールは隠していたことを明かすように口を開く。

 

「ラグナさんとセリカさんは知っていますでしょうか?ルウィーで、人工衛星を使ったサービスを行なわれていたことを・・・」

 

「・・・人工衛星?ラグナ、ミネルヴァ。何か知ってる?」

 

「いや・・・俺は知らねえな・・・。」

 

「・・・・・・」

 

「そっか・・・ミネルヴァも知らないか・・・」

 

まず初めに、ベールは俺たちに問いかける。俺たちの回答は全員知らないだった。

セリカとミネルヴァはこっちに来てから間も無いこと、俺は今まで自分の足で回っていたことが理由だろう。パソコンもあるっちゃあるが、まだ調べ足りねえみたいだな。

 

「えーっと・・・確か、『お寺ビュー』・・・だったよね?」

 

「確か、10年くらい前に終わったやつよね?」

 

「ええ」

 

「10年も前だったんだ・・・」

 

ネプテューヌとノワールが確認すると、ベールは肯定する。それを聞いたセリカは驚いたと分かりやすい顔で呟いた。

なるほど・・・10年程前に終わってりゃあ聞かないわな・・・。俺は心の中で納得する。

 

「実はあの人口衛生はまだ稼働していて、地上写真のデータを送ることができるのですわ。ただし、低解像度のですが・・・。

それを解析して、高解像度にするソフトウェアを、リーンボックスの技術者達が開発しましたの」

 

「さすがー♪ベールの所は進んでるねー」

 

ベールが『お寺ビュー』のことについて説明してくれる。

どうやら宇宙の方から地上を見て、そこで取った写真を送ることで、皆がその写真を見ることができたらしい。

問題なのは低解像度だから、細かいところがわからない。んで、それを解決するためにリーンボックスの技術者が高解像度にするソフトを造ったってことか。

ネプテューヌがそれに対して感心する。これは数少ない、リーンボックスがプラネテューヌに技術力で勝っている分野らしい。

 

「そこでブランに持ちかけたですわ・・・。

ルウィーが写真のデータを提供してくれれば、我が国はこのソフトを提供すると・・・」

 

「・・・えっ?それって・・・あなたたちだけがこの世界の情報を得られる・・・ってことじゃない・・・」

 

「ええー?私たち、見られすぎちゃって困るじゃーん・・・」

 

「・・・?ねえ、ラグナ。どうしてノワールちゃんとネプテューヌちゃんは困ってるの?」

 

「ルウィーとリーンボックスは見たいときに色んな位置情報を確認できるけど、プラネテューヌとラステイションはそれができないからな・・・。

情報面で大きく水を開けられちまうから、この二人は経済とか、その他諸々で困るんだよ」

 

「あっ・・・そっか・・・」

 

状況が飲み込め切れていないセリカに俺が自分で説明できる限りで説明すると、セリカはハッとする。

極端な話、この二人だけで独占すれば、残った二国の女神が何をしているかを見て、「この女神はこんなことしてます」とあっさり公に出すことも可能になる。

俺はこれを見て一瞬、ルウィーとリーンボックスだけが使える『マスターユニット』みたいだと思った。流石に事象干渉はできないが、観測できるという点がそれを連想させた。

 

「いいえ。私たち・・・そのデータをみんなで共有しようと思っていたのですわ」

 

「「・・・えっ?」」

 

しかし、その危惧はベールが否定したことで無くなった。ベールの言葉を聞いて、ネプテューヌとノワールは思わず聞き返した。

 

「ブランが言い出したのですわよ?『友好条約を結んだのだから、四つの国で等しく利用するべき』だと・・・」

 

「そうなの・・・?」

 

「だから、公開するタイミングを伺っていたのですわ・・・。

本当はサプライズプレゼントとして使いたかったのですが、この際は仕方ありませんわね・・・」

 

「そうだな・・・俺も本当はそう使って欲しかったよ・・・」

 

ベールは最初こそいつもの穏やかな笑みを見せたが、今回の事態のこともあって、最後は少し悲しげな笑みに変わった。

俺もそれに同意する。今までそういったものが公開される瞬間を目の当たりにして無い俺は是非とも見てみたかったのだが、それはまた今度に取っておくしか無いみたいだ。

 

「けど、これ以上うだうだしてても仕方ねえな・・・それで、今からあいつらを探すととどれくらい・・・」

 

「『悪』の気配を辿れば此処にいたか・・・久しいな。『黒き者』よ・・・」

 

「っ!?」

 

俺がベールに訊こうとした時に何者かの声が聞こえ、俺たちはそっちを振り向く。

すると、そこには白き躰をし、どこか侍を思わせる風貌をしていた者・・・『お面野郎』ことハクメンが立っていた。

 

「・・・なっ!?テメェ、お面野郎かッ!」

 

「・・・えっ?ハクメンさん!?ハクメンさんもゲイムギョウ界に来てたの!?」

 

「セリカ=A=マーキュリーか・・・久しいな。

成程、ゲイムギョウ界・・・此の世界はその様な名で呼ばれて居るのか・・・」

 

お面野郎を見たセリカが驚きながら訊く。お面野郎はセリカに軽く挨拶をしながら、この世界の呼び名を口にした。お面野郎がこっちに来ていたことに、俺は驚きを隠せなかった。

 

「ラグナさん・・・どういうことですか?ラグナさんが・・・その・・・『悪』だとか、『黒き者』だって言うのは・・・」

 

「・・・アレは俺個人に言っているって訳じゃないらしいが・・・。俺が『悪』だの『黒き者』だのって言われる理由は・・・『蒼炎の書(こいつ)』だろうな・・・」

 

『・・・『蒼炎の書(ブレイブルー)』が・・・!?』

 

「其の通りだ・・・『蒼の魔導書(それ)』は、『黒き獣』の力を行使する最悪の魔導書・・・。

その力を酷使すれば・・・いずれは『黒き獣』となる・・・。他にも、此の世界には居ないが・・・『片割れ』と融合することがあれば、その時は完全な状態の『黒き獣』となる・・・」

 

『・・・!?』

 

ネプギアの問いに、俺が右腕を見ながら答えると、皆は驚いた。更にお面野郎の補足により、皆は絶句した。

『黒き獣』・・・それは暗黒大戦時代に数多の命を奪い、斃れてもなお、魔素という形であの世界に影響を与え続けている。

これを過剰に使おうものなら、俺は『黒き獣』となり、見境なく暴れるただの化け物になっちまう。

この世界に来てから『ソウルイーター』の効力に変化が現れているが、その危険性が変わることなんて無いかも知れねえ。

それに、もしここで俺がそんな心配はないと言ったところで、あの世界の『蒼の魔導書』と何度も対峙してるお面野郎が話を飲み込むとは思えない。だから、フォローは効かない。

 

「ま・・・待ってハクメンさん!この世界に魔素はないんだよ・・・!?」

 

「セリカ=A=マーキュリーよ・・・『黒き獣』が現れた時、あの世界に魔素があったか・・・思い出して見るがいい」

 

セリカは俺を庇おうとしたが、お面野郎の言った意味を理解し、そこから先を言えなくなってしまう。

当然、ここで俺が言い訳しようとしたところで、お面野郎に全てを潰される。最悪の状況だ。

だが・・・そうだとしても、俺にはやらなきゃなんねえことがある。ここでこいつに消されるつもりなんぞねえ。

例えこの一件で居場所を失おうと構わねえ・・・。お面野郎が『黒き獣』による災厄を繰り返させないようにするように、俺もブランに俺と同じ悲しみを味わわせないようにする・・・。

その後は咎を受けようが何だろうと構わねえ。もう真っ当な生活は無理かも知れねえが、せめてあの二人だけは元の居場所に帰す。それだけは何が何でもやりきる。

 

「私は・・・あの世界での災厄を、此の世界で繰り返させる心算(つもり)は無い・・・。

私が此の世界に召喚()ばれた理由が悪を滅することであるならば・・・私は其れを成そう・・・」

 

そう言いながらお面野郎は自身の右の背にある事象兵器(アークエネミー)斬魔・鳴神(ざんま・おおかみ)』に右手を掛ける。

・・・つまりは、ここで俺を殺す気満々ってことだ。確かに、『エンブリオ』にいた時は滅日まで時間が無かったから決着をつけることができなかったのもあって、お面野郎がケリを付けたいのは分かる・・・。

けど、ここで俺が死んじまった場合、ロムとラム(あいつら)は助けられないし、勿論二人も悲しむのが目に見えている。ブランだって何があったか分からないまま俺が死んだら、更に自分を責めるかも知れねえ・・・。

 

「永きに渡る因縁・・・。ここで・・・決着としよう・・・」

 

「・・・お面野郎・・・。テメェが俺とケリを付けたいのは分かる。後でちゃんと受けてやるから・・・今は一旦待て」

 

「・・・どういう心算だ?ここに来て臆したか、『黒き者』よ・・・」

 

お面野郎は『斬魔・鳴神』を抜き放ち、牙突の構えを取る。

俺がお面野郎の考えてることを理解した上で、一度拒否すると、流石に前回と状況が違うのもあって、お面野郎が疑問を持たない筈はなかった。その為、お面野郎は一度構えを解いて俺に訊いてきた。

 

「別にビビってる訳じゃねえよ・・・。ただ、助けなきゃなんねえやつが二人いるから、そいつ等を助けてからって話だ・・・」

 

「笑わせる・・・貴様とあろう者がその様な事に走ろうとはな・・・」

 

俺が理由を話すと、お面野郎は驚きと嘲笑を混ぜたような言い方をしてきた。

 

「・・・俺がどうしようと勝手だろ・・・。

それにな・・・あいつらの姉ちゃんが、俺と同じ思いをしそうになってんだ・・・。それの苦しさや辛さを知ってる俺が見過ごす訳ねえだろ・・・」

 

そのお面野郎の言葉に俺はイラつきながら返答する。勿論、俺の言葉には怒気が籠っている。

俺のやることを否定されんのは慣れてるからまだしも、いきなり現れるや事情も知らねで人助けを嗤うのは許せねえものがあった。

 

「お面野郎・・・。テメェは『自分の正義』に突っ走るあまり、周囲の人が感じる悲しみや苦しみ・・・そう言った大事なモンを忘れてんじゃねえのか?テメェにもあるはずだろ・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・ハクメンさん?」

 

俺が咎めるように言うと、お面野郎は黙り込んだ。その様に俺とセリカは疑問を持った。

 

「(普段のお面野郎なら、こんな言葉くらい『私の知ることではない』だのなんだの言って振り払えるはずだ・・・。

俺の思い違いか?それとも・・・)」

 

本当に、お面野郎に何か引っかかるものがあったのではないかと推測してしまう。

・・・そう言えばお面野郎(あいつ)が今使っているスサノオユニットは誰が入って(・・・・・)いるんだ・・・?少なくとも俺はあり得ない。

『黒き獣』を敵視して、俺を『悪』だと言うやつ・・・。ダメだ。肝心な一手が欠けてやがる・・・。何か、決定的な何かがあればいいんだが・・・。今は答えが無かった。

 

「・・・良いだろう。業腹だが・・・決着を付けるのであれば事が終わる迄は手を貸そう・・・」

 

「・・・お面野郎?」

 

お面野郎は『斬魔・鳴神』を鞘に収めながら協力を宣言する。そのあっさりとした身の引き方に俺は驚きを隠せなかった。

エンブリオを何とかしようとした時なんか、ノエルが待ってくれって言ってんのに『第一接触体(ジ・オリジン)』その物だからと待ったなしにぶった斬ろうとしていたお面野郎からは考えられないことだった。

 

「・・・まあいいや。協力してくれんなら、今はそれでいいさ」

 

「事が終わったら、解っていような?」

 

「ああ・・・それは分かってる・・・」

 

今は深く考えず、申し出を受け入れることにする。手伝ってもらうならこれ以上の戦力はないし、これ以上時間を掛けたくも無かった。

後はブランに発破を掛けて行くだけだ。ロムとラムを助けられるんなら、使える手は使う。ブランに俺と同じ悲しみを味わわせてなるものか。

 

「隠してて悪かったな・・・。今は確かに人としての姿を保ってるが・・・お面野郎の言う通り、いつ『黒き獣』になるかはわかんねえ・・・。

もし、お前らが『黒き獣』の危険性を信じて処罰を下すってんならそれでもいい・・・。ただ・・・あいつらを助けることだけは手伝わせて欲しい・・・。

多分、俺の最後になるかも知れねえわがままだ・・・」

 

『・・・・・・』

 

俺は皆の方を振り向きながら話し、最後は頭を下げる。場合によっちゃ殺す選択をされるかも知れねえが、そん時は抵抗をしないつもりだ。あいつらにケガさせたりとかする力じゃねえからな。

今までの話を聞き、俺の頼みを聞いた皆はどうすればいいかわからず呆然としていた。

 

「すぐにとは言わねえ・・・ただ、いつ『黒き獣(バケモン)』になってもおかしくない俺がいたら気を使わせちまうだろ?だから・・・」

 

「・・・・・だ・・・」

 

―どうするかはお前らで決めてくれ・・・。そう言おうとした俺の言葉は、消えそうな声によって止められた。

 

「・・・ん?」

 

「嫌だ・・・っ・・・私は嫌だよ・・・」

 

「「「・・・ネプギア?(・・・サヤ?)」」」

 

俺たちがそっちを振り向くと、目尻から涙を浮かべている『ネプギア』の姿があった。

ネプテューヌとユニはそれを見てネプギアと認識しているが、俺は知らずしてサヤ(・・)と認識していた。

お面野郎が『ネプギア』を見てどう思っているかは解んねえが、何事も無かった場合、俺だけ認識が違うことになる。

 

「嫌だ・・・っ・・・嫌だ嫌だっ・・・!私は嫌だよっ・・・!」

 

「ね・・・ネプギア・・・!?どうしちゃったのさ急に・・・」

 

『ネプギア』が押さえられなくなった涙を流し、俺に抱きつきながら拒否を始める。

何かを失うことに対して怯えるかのように嗚咽の声を漏らす『ネプギア』を見たネプテューヌは動揺した声を上げる。

 

「どうして・・・?どうしてなのっ・・・!?

やっと会えた(・・・・・・)のにっ・・・!また(・・)・・・一緒にいられると思った(・・・・・・・・・・・)のにっ・・・!それなのに・・・っ!」

 

『ネプギア』はこれまでに見たことのないくらいに声を荒げていた。

・・・いや、俺は目の前にいるこの少女をネプギアと呼んでいいのか?『サヤ』って呼んだ方がいいんじゃねえか?それにこの話し方・・・。

俺の頭の中で様々な疑問が駆け巡る。どう呼べばいい?何で『サヤを助けた時(あのとき)』と同じことを話してるんだ?

 

「また・・・あんな『黒い化け物』になって私を殺そうとするの(・・・・・・・・・)!?また・・・っ!私を捨てるの(・・・・・・)・・・っ!?」

 

『・・・・・・』

 

『ネプギア』の俺を責め立てるような声は更に強くなっていく。その様子に、皆が啞然とする。

 

「・・・・・・『また(・・)』?ちょっと待て・・・そりゃ一体、どういう・・・」

 

「『兄さま(・・・)』のバカっ!噓つきっ!

だってあの時・・・兄さまは言ったのにっ・・・!『これからはずっと一緒(・・・・・・・・・・)』だって言ってくれたのにっ・・・!」

 

俺が訊こうとした瞬間、耐えきれなくなった『ネプギア』の涙は更に大粒なものへと変わり、約束を破りかけてる俺を更に責めながら、力なく右手の拳で何度か俺の胴を叩く。

 

「もう『黒い化け物(あんなの)』にはならないで・・・っ!私を置いていかないでっ・・・!

もう一人ぼっちは嫌だ・・・っ!また誰にも・・・っ!『兄さま』にすら気づいてもらえないなんてやだ・・・っ!やだよぉ・・・っ!」

 

「・・・サヤ(・・)・・・」

 

『ネプギア』は右腕の動きを止め、声を上げながら大泣きしだした。

俺は今までの『サヤ』の助け方を間違えていたことや、ずっと待たせていたこと。そして、今また去ろうとしていたことに罪悪感を抱く。

それと同時に、『ネプギア』を安心させてやりたくて俺は優しく抱きしめてやる。

 

「心配するな・・・俺はもうどこにも行かねえ。置いていかないし、『黒き獣(あんなもの)』になって殺したりはしねえ・・・。

大丈夫・・・お前は絶対に俺が護る。例え・・・この世界でも否定されようとな」

 

「っ・・・兄さまぁ・・・っ!うわあぁぁぁ・・・!」

 

俺の今の気持ちと、これからの決意を『ネプギア』に伝える。

『ネプギア』はただただ声を上げながら泣き続ける。

 

「此の気配・・・まさか『あの少女』のものか・・・?」

 

「・・・なんか言ったか?」

 

(いや)、気のせいだ・・・」

 

お面野郎から小さい呟きを聞き取れなかったので俺は訊き返したが、気のせいで片づけられてしまった。

 

「其れよりもだ・・・『黒き者』よ。助けに行くのは構わんが、其の前にあれをどうにかする必要があろう」

 

「・・・アレ?」

 

お面野郎が首を向けた方を見てみると、執務室でブランが怪しい三人組から何かしら訊かれている様子がガラス越しから見えた。

ロムとラムの件で問い詰められてるのかも知れない。隠してるはずの情報をどこで知ったのかは知らないが、もしそうなのであれば今すぐ止めに行かなきゃならねえ。俺たちはすぐに行動を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

お面野郎がブランの事を言ったため、俺の対応はロムとラムを助けるまでは保留となった。

こっちでの『蒼炎の書』の稼働データが少なすぎて判断材料にかけること、お面野郎という、俺と同じ世界にいて、尚且つ『蒼の魔導書(ブレイブルー)』に詳しいやつの発言。そして、俺の今までの行動によって起こった出来事を照らし合わせた結果だった。

仮に俺が今まで通りでいいという結果が出たならそれでいいが、その前にお面野郎との対決で生き残らなくちゃなんねえ。

まあ、今はそんな難しいことは後回しにして、とにかくあの二人を助けるために力を尽くそう。そう決めて、この思考は一時中断する。

 

「つまり、妹が誘拐されたのはあなたの責任ってことですね?ブランちゃん!?」

 

「・・・そ、それは・・・」

 

今は執務室へ移動してるところだ。その最中に、知らない少女のの声が聞こえてくる。さっきの三人組の一人であるのは推測できた。

内容はやっぱりというか何というか、ロムとラムが連れ去られたことだったみてえだな。

 

「見てくださいっ!幼女女神はなぁんにも釈明できませんっ!やっぱり・・・幼女に女神は無理なんですっ!」

 

「全くもう・・・好き放題行ってくれちゃって・・・!」

 

断片的な内容しかわからないが、一方的な物言いだなと感じる。

確かにブランの見た目が幼いのは分かる。だがこれは・・・相手が対策しようのないタイミングで乗り込んで、自分の言い分を押し通すために準備していたとしか思えなかった。

その言い分に、ネプテューヌは不満を隠さないで愚痴をこぼす。俺も自分がネプテューヌならこうしているかもしれねえから納得できた。

そして、俺たちは執務室のドアの前に着いた。さっきの女性職員が見当たらないが、この際は気にしていられない。

 

「よし・・・開けるよ?」

 

そして、執務室のドアの前に付いたので、ネプテューヌは一度俺に確認を取る。俺は迷わずそれに頷いた。

 

「せーのっ・・・!」

 

ネプテューヌの声を合図に、ネプテューヌは左側のドアを思いっきり押し開け、俺は右側のドアを思いっきり蹴って押し開ける。

 

「そこまでだよっ!」

 

ネプテューヌは一声出したと同時に見知らぬ少女の元へと歩いていく。それに続いて、ノワールとベールが黒ずくめの二人組の元へ走り、黒ずくめを押すように部屋の外へと追い出す。

その後に残った俺たちが少し間を置いて部屋の中に入り、少女の元へと歩いていく。

 

「な・・・何よアナタ達は?」

 

「私はネプテューヌっ!プラネテューヌの女神だよっ!」

 

いきなりの乱入者である俺たちに少女が訊いてきたので、ネプテューヌが代表するかのように自分の名を名乗る。

 

「アナタも女神ぃ?」

 

女神という単語を聞いた少女は疑いを持ってネプテューヌの体をじっくりと舐めまわすように見る。

 

「う~ん・・・。見た目的に少女に見えなくもないけど・・・体が未発達じゃないっ。

アナタは幼女、幼女認定よっ!」

 

その少女は何を持ってか知らねえが、ネプテューヌを幼女と認定しだした。

・・・幼女言ってる奴の方が小さいって言うのはどういうことだろうか・・・?かなり違和感のある光景だった。

 

「ええーっ!?自分より小さい幼女に幼女認定されたぁっ!」

 

「なっ・・・ワタシのどこが幼女なのよっ!?幼女って言う方が幼女なんだからね!」

 

「じゃあやっぱり幼女だよね!?先に幼女って言ったのそっちだし」

 

「また幼女って言ったぁっ!キーッ!!」

 

「そこまでだお前ら。ガキのケンカじゃねえんだからよ・・・」

 

ネプテューヌが納得いかないから言い返すと、その言葉を根に持った少女が言い返し、更にネプテューヌが言い返す。

勝手にそうやって勝手にヒートアップしていくネプテューヌと少女(馬鹿二人)の間に入って俺は言い合いを遮る。

するとネプテューヌは頭を掻きながらバツが悪そうに後ろに下がってくれた。

 

「ガキですって・・・!?何なのよアンタ!?ロリコンみたいな見た目してる癖に生意気よっ!このロリコンっ!」

 

「誰がロリコンだゴラァァッ!」

 

しかし、少女の方は全く引く様子が無く、しかもひでえ当てつけをしてきたモンだから流石にブチ切れた。

 

「ラグナ・・・何も子供相手にそこまで起こる必要ないんじゃないかな・・・?」

 

「確かにな・・・前に似たようなパターンがあったからついキレちまったよ・・・」

 

セリカが困った笑みを見せながら言ったことを聞いて、俺は冷静さを取り戻した。

危ねえ危ねえ・・・。ルナ(クソガキ)が初対面の時にいきなりロリコン言ってきた時を思い出しちまったよ・・・。

 

「ごめんね・・・このお兄さん、不器用なの・・・。ところで、あなたお名前は?いくつ?小さいのに偉いね♪」

 

「ふふん♪そうでしょ?偉いでしょ♪ワタシはアブネスっ!幼年幼女の味方・・・って誰が小さいのよっ!後、年齢聞くのはタブーってものよ!?」

 

セリカが俺のことを不器用だとか言いながら少女に名を聞いた。

すると、少女は自信満々にアブネスと名乗ってから、根に持った単語に対して不満を隠さずに言う。

 

「あはは・・・ムキになるのは良くないよ?せっかくの可愛い顔が台無しだもん・・・」

 

「か・・・可愛い・・・?うんっ!そうよね!?ワタシ可愛いもんね♪」

 

「うわー・・・ちょろいわー・・・」

 

「ちょっ・・・ちょろくなんてないわよっ!」

 

セリカがアブネスを褒めるとアブネスは調子付き、ネプテューヌがアブネスをからかうとアブネスはムキになる。

俺はアブネスのことを『すげえめんどせえやつ』だと思った。勝手に人のことをロリコン認定するわ幼女認定するわ・・・。何様だあいつ?

 

「ええい、今日はこの辺にしといてあげるわっ!覚えておきなさい!幼女女神とロリコンみたいなやつ!」

 

アブネスは耐えられなくなったのか、捨て台詞を吐いて執務室を去っていった。

 

「やっと面倒なのがどっかに行ったな・・・」

 

「何だと幼女!いつでも来やがれ幼女っ!幼女でどうじょ~」

 

「全く・・・何なの?今の・・・」

 

「どうやって入り込んだのかしら?」

 

俺はため息混じりに安堵し、ネプテューヌは去っていくアブネスの方に大人げなく幼女と連呼していた。

ノワールとベールも、面倒なやつが増えたなと言いたいかのように飽きれ気味に言う。

 

「みんな・・・どうして・・・?」

 

「どうしたもこうしたも・・・あの二人を助けに行くのに、お前がいなきゃ始まんねえだろ?だから迎えに来たんだ」

 

自分が突き放すように言ったことを自覚しているのか、俺たちが戻ってきて、自分を助けてくれたことにブランは戸惑う。

俺はブランのすぐ側まで歩み寄りながら説明する。

 

「でも・・・私はもう・・・」

 

「・・・・・・ブラン」

 

だがブランの表情からは諦めが見えていた。

ああ・・・あんまりやりたかねえし、柄でもねえから本当は嫌だが、やるしかねえか・・・。そう思った俺は怒気の籠った声でブランの名を呼ぶ。

 

「・・・え?っ・・・・・・」

 

『・・・っ!』

 

俺の声音に気づいたブランが聞き返すが、俺は何も言わず、右手でブランの左頬をひっぱたいた。

それをみたお面野郎以外の全員が驚きの表情をしたり、思わず口元を押さえたりと、とにかく動揺していた。お面野郎は何も言わず、そのまま立っている。

 

「テメェ、馬鹿かッ!」

 

「・・・ラグナ?」

 

「何でそんな簡単に諦めてんだ・・・ざけんじゃねえッ!テメェの大事な妹だろうがッ!

『あの日』の俺と違って、テメェは無力じゃねえだろッ!?何で諦めてんだ!?」

 

俺はまたしてもこの言葉を使った。このキレ方はセリカが『クシナダの楔』を使うって言って聞かねえ時に、「ナインが諦めなかったのはお前がいたからだ」ってブチ切れた時に近い。

これを使ったのはブランで三人目か・・・後何人にこれを言うんだろうな?できればあまり言いたくない。それだけは確かだ。

 

「・・・無力じゃない・・・?どうして・・・?だって私は・・・」

 

「『あの日』の俺は・・・何の力も無くて・・・頼れる人は誰もいなくて・・・探す手段も・・・何も無かった・・・。

でもテメエは違うッ!探す手段なんぞいくらでもあるし、女神の力もあるッ!そしれ・・・頼れるやつらはこんなに大勢いるんだッ!

俺よりこんなに恵まれた状況で・・・!自分に誰かを『護れる』・・・『助けられる』力があるってのに・・・諦めんじゃねえよッ!」

 

ブランが左頬を抑えながら戸惑っているが、俺は構わず言葉を続ける。

確かに『あの日』のような思いを、ブランにはしてほしくないと思ってる。だからこそ、こんなにも恵まれてる状態のブランが諦めることを、俺は許せなかった。

 

「わ、私は・・・」

 

ロムとラム(あいつら)は今でもテメェが助けに来るのを待ってるんだッ!なのにテメェが行かねえでどうすんだよッ!

確かに俺たちだって手伝うさ!けどなぁ・・・!テメェが行かなきゃ話になんねえんだよッ!」

 

ここまで俺がブチ切れながら人に物事を話すのは、この世界では初めてだったが故に皆が困惑するし、呆然とする。

だけど、そんな状態でも俺は全然気にしてない。正確にはそっちまで気が回らず、ブランに発破をかけることしか考えて無かった。

 

「確かに俺みたいにはなるなって言ったよ・・・!二人を連れてかれてお前が俺みたいになっちまったって思う気持ちも分かるよ・・・!

けど、そうじゃねえんだよ・・・!ここで諦めたら本当にそれこそ俺と同じ道を辿る!それで後悔するくらいなら・・・あいつら助けて、自分のダメだったところを謝ってやり直した方がいいだろッ!

お前にはまだその先があるんだッ!どうにもならねえくらい溝のあった俺とは違うッ!こんなところで落ち込んでる暇があんならあらゆる手段を使って助けるべきだろうがッ!」

 

「・・・何を知った風に言ってんだよ・・・!」

 

俺がブチ切れたまま話していたら、沈黙していたブランが体を震わせる。

そして、ブランは呟いた後、一瞬置いて俺の顔を見据える。その表情は涙ぐんでいながらも、険しい表情をしていた。

 

「何を知った風に言ってんだよテメェはッ!

・・・ああそうだよッ!女神の力はあるよッ!テメェらを頼ろうと思えば頼れるよッ!

でも何が無力じゃねえんだよ!?見つけられるんならすぐにでも行くよッ!テメェらの力だって惜しみなく借りるよッ!

でも・・・あいつらを見つけられねえ私の・・・!何が無力じゃねえんだよ!?見つけられなきゃどうしようもねえだろ!?」

 

ようやくブランが自分の気持ちを言ってくれた。途中から今にも泣きそうになっていたが、意地があったのだろう。最後まで言い切った。

やっぱり、条件さえそろっていればすぐに行くつもりだったみてえだな。それなら安心だ。ベールをダシにする感じで悪いと思うが・・・この際は仕方ねえ。

 

「探す手段なら・・・アレが使えるだろ?」

 

「・・・えっ?」

 

「悪いな・・・ベールから、こっちに来る前に教えてもらったんだよ・・・」

 

俺が指さした方を見てブランは戸惑った。俺が指さしたのは、執務室にあるパソコンだった。

移動途中に聞いたことだが、あの『お寺ビュー』の改良版のデータはブランのパソコンに入ってるからそれを使えば出来るとベールから聞いていた。

 

「ベール・・・貴方・・・」

 

「ごめんなさい。ブラン・・・内緒だという約束だったのですが・・・」

 

ベールはブランに頭を下げる。折角二人で打ち合わせも綿密に行っていたのに、最後までその通りに行かなかったのを悪く思ってるんだろう。

 

「別に気にすることじゃないわよ。それに、今の私たちはいがみ合う『敵』じゃなくて、『仲間』だからね・・・」

 

「うんっ!仲間同士、困った時はお互いに助け合うものだもんねっ!」

 

「ネプテューヌ・・・みんな・・・」

 

ノワールがベールをフォローし、ネプテューヌがそれに続く。

正直なところ、ノワールから『仲間』という単語を聞けて嬉しかった。俺はあの時ノワールに話して良かったと思った。

 

「場所さえ分かっちまえばすぐに行くだろうから、お前はそれまで休んどけ。トリはお前なんだからな」

 

「・・・わかった・・・。そう・・・させてもら・・・うわ・・・」

 

ブランは疲れきっていたのか、俺に寄りかかるように気を失ってしまった。俺はそれを抱きとめる。

 

「ブランさん!?まさか・・・さっきの放送でシェアが下がって・・・」

 

「いえ・・・いくらシェアが下がったとしても、影響が早すぎるわ」

 

ブランが気を失ったところを見て、ネプギアは心配するが、その可能性をノワールが否定した。

女神ってシェアの下がりようでそこまで悪影響出るのか・・・あん時ネプテューヌのだらけを止められて良かったよ。俺は心の中で安心する。

 

「じゃあ・・・ブランは倒れ込むくらい疲れを溜めこんでたってこと?」

 

「・・・みたいだな・・・」

 

ネプテューヌの疑問に、ブランを抱きとめてる俺が肯定する。

今ブランは疲れ切ったような顔をして寝込んでいた。

 

「・・・今はゆっくり休めよ。んで、絶対にあいつらを助けるぞ」

 

寝ているブランの頭を撫でながら俺は優しめに語りかけた。




ラグナとハクメンを絡ませたら普段以上に重さが増した感じがします・・・。
なんだかんだ先生はこれで大丈夫だったかな・・・?毎回自信ないです。

ラグナの『誰がロリコンだゴラァァッ!』ってありますが、アブネスとルナの中の人が違うので中の人ネタまんまって訳ではないです。
確かにルナと同じ中の人のキャラがネプテューヌ側にいますが、キャラの性格を考えるとアブネスとこのネタをやった方がいいと感じたのでこうしました。

恐らく次回でアニメ2話が終了します。ハクメンのテンプレセリフは早いと次になります。

話は変わりますが、ブレイブルーの最新作で、ブレイブルー側の6人目はアズラエルでしたね。
ニコニコ動画で見た時あいつだけ赤字ラッシュあったのは流石に笑いました(笑)。


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16話 諦めなかった先に

遅くなり申し訳ございません!
書く時間があまりできなかったのと、知らないうちに凄い量の文を打っていたせいになります。

今回でアニメ2話分が終わります。


ブランを個室で寝かせた後、残っている俺たちは再び中庭に戻ってきていた。

執務室でロムとラムの居場所を突き止めたので、今はブランが戻ってきたらすぐに行けるように待っている。

ちなみに場所はスーパー二テールランドだった。去ったと見せかけて立て籠もっていたみてえだ。

 

「ねぇラグナ・・・今回、『蒼炎の書』は使わない方がいいんじゃない?」

 

「気持ちは有り難いが・・・そうも行かねえよ。

蒼炎の書(こいつ)』は大事なものを護るための力なんだ・・・それを腐らせて、後悔をしたくはない」

 

ネプテューヌに心配されたが、俺はそれを断った。相手が相手なのもあって、今回は封印するわけにもいかなかった。

ここで『蒼炎の書』を使わないなら、それは俺が「あんな思いをしたくない」。「大事なものを護りたい」。その想いで『蒼炎の書(これ)』を手に取ったことに反する。

『黒き獣』への進行具合がどうなのか解んねえのが懸念材料だが、今は気にしていられない。『黒き獣』になる寸前まで来ていたら流石に使うわけには行かないが、そんな様子は感じられないので平気だ。例え寸前だろうと無理矢理抑え込む・・・『イデア機関』がどうなってるか解んねえのは辛いが、やるしかねえ。

 

「『蒼の魔導書』では無く、『蒼炎の書』か・・・。

『黒き者』よ。『蒼の魔導書(それ)』が真なる『蒼』へと至ったのはいつ頃だ?」

 

「・・・『蒼の境界線』でテルミと『蒼炎の書』を賭けて戦って・・・それに勝った時だ・・・」

 

あの時、『蒼』の中でテルミは俺に「『お前』か『俺』のどちらかが真なる『蒼』・・・『蒼炎の書(ブレイブルー)』を手に入れる」と言っていた。

そして、その戦いで勝ったは俺なので、『蒼の魔導書』が『蒼炎の書』になったのもそのタイミングだろう。いや、そうとしか考えられなかった。

 

『・・・・・・』

 

「ああ・・・そうだった。悪いな。話せてないことが多くて。後でしっかり話すから、今は待っててくれ」

 

皆が呆然としていることに気が付き、俺は一言謝罪を入れる。正直なところ申し訳なかった。本当なら、もっとゆっくりと話したかったが、今回はそうもいかなかった。

『蒼』・・・。『境界』の最奥にあって、創造と破壊を司る根源の力・・・。

俺たちの世界における、あらゆるものの根源であり、『全ての可能性を可能にする力』だ。

境界の力が回帰する根源・・・。人の意識、『記憶』の回帰する場所でもある。

また、使いこなせれば全ての事象干渉を退ける『外周因子』にもなるし、世界全部を変えられる程大規模な事象干渉も行える。

俺はその『蒼炎の書(真なる蒼)』の力を使って、『悪夢』もなければ、誰にも邪魔をさせることない『可能性』に満ち溢れた世界を、事象干渉であの世界に生きる人たちに与えた。

 

「・・・貴様がテルミに打ち勝ったか・・・。貴様の目的がどうであれ、テルミを打ったことには礼を言おう」

 

「・・・まさかテメェに礼を言われるなんて思っても見なかったぜ・・・」

 

「同感だ・・・よもや、貴様に礼を言う日が来るとはな・・・」

 

お面野郎が俺へ礼を言ったことに、俺とお面野郎はお互いに率直な感想を述べる。

俺とお面野郎は敵対してはいたが、『滅日』を止める、『テルミを倒す』と言った共通の目的があったため、『エンブリオ』の中では途中から共闘していた。

・・・正確には、一応暗黒大戦時代でも共闘はしている。ただし、その時は実際に対面しなかったため、ある意味ノーカンに等しい。

というか、初めて暗黒大戦時代でお面野郎を見た時はマジで死ぬかとすら思った。あの時のお面野郎の力は尋常じゃなかった。

セリカやお面野郎は暗黒大戦時代から俺の生きる現代だから「ビックリするくらい弱くなってしまった」なのだが、俺の場合、経緯がその真逆のため「いつもと比べてあり得ないくらいの・・・またはいつも以上威圧感などを感じる」に変わる。

現代のお面野郎の力量ならやり方次第でまだ勝てる望みはあるのだが、暗黒大戦時代は何をやっても勝てないだろう・・・。それだけは分かる。

後、今気づいたことだが、ここにいるお面野郎は現代よりも僅かに威圧感が強い。恐らくは何分か力が戻っているんだろう。

 

「・・・テルミ?それって一体誰なの?」

 

「あいつのことを詳しく話すと長くなるから、今は後回しにするけど・・・。一言で言えば、俺たちの共通する敵だった奴だ・・・。そして、『あの日』にシスターやサヤを・・・」

 

「あっ・・・ごめんなさい。私・・・それを知らずに・・・」

 

「いや・・・気にする必要はねえ。元々、細かく話して無かった訳だしな・・・」

 

俺が簡単に答えると、気をまずくしたノワールが謝る。そこまで細かく話してないのもそうだが、あいつはもういない訳だし、責める理由にはならない。

ユウキ=テルミ・・・。またの名を『建速須佐之男(タケハヤスサノオ)』。暗黒大戦時代に『黒き獣』を倒した『六英雄』の一人であり、俺の教会での暮らしを壊した元凶であり、俺たちの世界の裏側で様々な暗躍をし、己の自由を手に入れるためにマスターユニット『アマテラス』を破壊しようとした男だ。

他にも、『蒼の継承者(カラミティトリガー)』になったノエルを『クサナギ』を精錬したり、それの前準備としてノエルに付け入りやすくしたり、邪魔になるジンを排除するためにツバキ=ヤヨイを利用したりと・・・自分の目的のためには様々な手段を駆使したド外道だ。

更に、奴は自分に向けられる『憎しみ』の数が多い、もしくは強いとその分だけ自分が強くなる能力を有していた。実際にテルミを倒す時は、『スサノオ()』としてのテルミに向ける目を、憎しみから英雄を見る目に変えなくてはならない。そのため、俺という名の『悪』を、『スサノオユニット』で一時的に『スサノオ』になったジンに俺事斬ってもらった。

そうすると、『スサノオ(テルミ)』は俺という『黒き獣』を打ち、『『黒き獣』から世界を救った英雄』になるため、奴の能力での強化は得られない。そして、『エンブリオ』の影響で、『資格者』であるテルミのドライブ能力は弱体化。『資格者』じゃない俺は特に弱体化していないため、様々な有利になる条件が揃い、勝利することができたのだった。

あの世界の悪夢を消し去ったのだから、奴は向こうの世界で姿を表すことはないとは思うが・・・。どうしてもテルミの死に間際に言い放った『永遠に苦しめ』と言う言葉が引っかかる・・・。あの言葉の意味も、いずれ確かめる必要があるだろう。

 

「・・・・・・」

 

「・・・あれ?ハクメンさん、どうかしたの?なんだか、いつもと様子が違う感じがするけど・・・」

 

「・・・然したる事は無い・・・テルミは私が滅すべきと考えていただけだ」

 

セリカがお面野郎に訊くが、回答は割とそっけないものだった。

確かに、世界を救った『六英雄』の一人が「自分の自由のために世界を壊す」って言って暴れたら、自分たちの不始末として止めるのは当然だ。

 

「ところで・・・さっき、ネプギアちゃんがあそこまで取り乱したのは、一体何だったのかしら・・・?」

 

「・・・わかんない。何がきっかけだったのかなぁ・・・?」

 

ベールはどこか不安そうに訊いてくる。しかし、ネプテューヌはそれに答えられない。

無理もないことだった。『黒き獣』に関しては俺とお面野郎。セリカの三人しか知らない上、俺しか聞けなかった・・・もしくは俺すら聞いたことのない言葉まであったからだ。

 

「さっきの流れからしたら、その『黒き獣』ってやつが理由だと思うんですけど・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・ネプギア?どうしたの?」

 

ユニが一つの推測を立てていると、さっきから黙り込んでしまっているネプギアに気づいた。

まるで俺たちが何を話しているのかわからないと言ったような顔をしていたので、ユニはネプギアに訊いてみることにした。

 

「ううん・・・何でもない。ただ・・・」

 

「ただ・・・何?」

 

「・・・ごめんね。私も、なんて言えばいいかがわからないの・・・」

 

ユニに訊かれて答えるネプギアの表情は、戸惑いと悲しげな笑みが合わさって見える感じがした。

その二人の様子を見た俺とネプテューヌは、同じタイミングでお互いの方に顔を向けた。

 

「ラグナ・・・もしかしてこれ・・・」

 

「ああ・・・あん時と同じだな・・・」

 

この中で唯一、ネプギアが俺を『兄さま』と呼んだ瞬間に立ち会っている俺とネプテューヌは、ネプギアの状況を理解できた。

ネプギアが飯を作ってくれた時と同じで、ネプギアは一部の記憶がきれいさっぱり・・・まるでその部分だけ抜き取られているかのように記憶がないのだ。

 

「ネプギア・・・お前、どの辺りから記憶がないんだ?」

 

「・・・『黒き獣』って単語を聞いてから、あの三人組を止めるのを決めたところまで・・・何も覚えていないんです・・・。

ううん・・・記憶がないと言うよりはまるで・・・一時的に交代させられた(・・・・・・・)ような・・・そんな感じがするんです」

 

『交代させられた・・・!?』

 

俺が訊いてみると、ネプギアは沈んだ表情で答える。その回答に、俺たちは驚きを隠せなかった。

いや、例外として、お面野郎は疑問に思う程度で、言葉に出すほどではなかった。むしろ何か考えているような感じに近い。

 

「二人とも・・・ネプギアがあんなに取り乱した事って前にもあった?」

 

「いや・・・あんな風になったのは初めてだ・・・ただ・・・」

 

俺はノワールに訊かれて答えながら妙な感じになっていた。

『黒いバケモノ』と言う言い方。俺のことを『兄さま』と呼ぶ。自分を捨てるのかと言う責め苦。それはまるで、『第一接触体(サヤ)』のようだった。

 

「じゃあ・・・ラグナさんを『兄さま』と呼ぶようになったのはいつ頃ですか?」

 

「毎回ってわけじゃないけど・・・初めてそう呼んだのは、大体一週間前だね。

正直・・・私も不安だよ。なんだか、ネプギアが違う誰かになっちゃう感じがして・・・」

 

ユニの質問に答えるネプテューヌは段々と表情が暗くなっていく。

ネプギアが初めて俺を『兄さま』と呼んだ日、最初は安堵したようなものだったが、俺がそう呼ぶことを許したとき、とても良い笑顔を見せたことはよく覚えてる。

ただし、それはサヤの感じがしていて、ネプギアが本心からそう言ったとは思えなかった。

 

「ネプギア・・・ネプギアは大丈夫だよね・・・?ちゃんとネプギアのままでいてくれるよね・・・!?」

 

「うん・・・大丈夫だよお姉ちゃん・・・。私は私だもん」

 

ネプテューヌは不安のあまりにネプギアに訊く。ネプギアは優しめな笑顔で答えるが、その目は不安を宿していた。

俺はネプギアの感じた感覚というものが何かはわからないが、それが不安にさせるには十分すぎる理由だった。

 

「みんな・・・待たせたわね」

 

「お・・・お二人は・・・見つかりましたか・・・!?」

 

そして、ネプギアが答えてから少しして、ようやくブランがこっちに戻ってきた。

そこには戻ってきたばかりなのもあって、方で息をしているミナの姿もあった。多分、ブランがこっちに来る途中で合流したんだろう。

 

「大丈夫だ・・・。場所は分かってるし、今から助けに行ってくる」

 

二人が言ってた『変態紳士』って言葉がよくわかんなかったが、どうやら怪我させるとかいうタイプではなく、精神的にキツイことをするタイプらしい。

それなら尚更、早いとこ助けて安心させてやらねえとな。そう思いながら俺は席を立った。俺と同時に、皆も席を立つ。

 

「ラグナ・・・帰ってくるよね・・・?」

 

俺たちは助けに行くメンバーを考える時、お面野郎と俺がセリカを無理させたくないと言ったことが通り、セリカは今回待機することになっている。

俺が『黒き獣』になる危険性を知ったが故に不安になっていたのが良く分かる。多分、無理にでも付いていきたいんだろうな。だが、やっぱり行かせることはできない。

 

「ああ・・・ちゃんと帰ってくるさ・・・。ただ、どうしても心配なら・・・」

 

俺は自身が着ていた赤いコートを脱ぎ、そして・・・

 

「これ、持っといてくれ・・・。取りに戻るから。大丈夫・・・今度はすぐに戻ってくる」

 

「ラグナ・・・」

 

それをセリカに差し出した。俺は暗黒大戦時代で停止時間を作ったときと同じく、セリカを納得させるためにコートを渡した。

あの時は結局取りに行けなかったが、今回はあの時と違って時間軸のずれとかによる心配は一切ない。俺が『黒き獣』にならずにロムとラムを助けて帰ってくるだけ・・・。あの時と比べりゃ圧倒的に簡単だ。

もちろん、セリカが戸惑わないことは無かった。再開こそできたものの、結局受け取りには行けなかったからだ。

 

「・・・分かった。信じる・・・。今度こそちゃんと取りに来てよね?」

 

「ああ。約束する」

 

セリカは少し間を置いて納得し、俺からコートを受け取る。そして、俺とセリカは短く約束を済ませた。

 

「悪い。待たせたな・・・そろそろ行こう」

 

「ええ。・・・ところで、貴方は?」

 

「我が名は『ハクメン』・・・『悪』を滅する者なり。我が使命に従い、手を貸そう」

 

俺の促しに同意したブランは、お面野郎の存在に気づいて訊く。それに対してお面野郎は体を動かさずに答えた。

 

「・・・ハクメンね。私はブラン。協力に感謝するわ。時間も惜しいし、すぐに行きましょう」

 

ブランはお面野郎に名乗りながら礼を言った。そして、ブランに従って俺たちは移動を始める。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

移動を始める際、『ハクメン』の脳裏にはラグナの言う『あの日』の光景が思い起こされ、その後に、自身の大切な人を死なせてしまった時の光景が思い起こされた。

ハクメンが見る二つの光景による共通点は、今自身が持ってる『斬魔・鳴神』とは違い、事象兵器(アークエネミー)氷剣(ひょうけん)・ユキアネサ』を手にしていることだ。

『あの日』の光景は自身はまだ幼く整った金髪をした少年の姿で、『ユキアネサ』に支配された状態でそれをを振るい、ラグナに危害を加えたり、教会にある結界を壊してサヤが連れ去られ、シスターが死に、ラグナはブレイブルーを手にする・・・自身は十二宗家の一つ、キサラギ家に入るきっかけを作り、あの幸せな生活が壊れた日だった。

もう一つの光景は、『あの日』から幾分か年月が経ち、自身は青少年と呼べる時期になった年が開ける少し前のことだった。自身の妹であるサヤと同じ気配を漂わせる存在と戦い、窮地に陥ったところに、キサラギ家に来てから、自身のことを兄と慕ってくれていた少女が割って入り、自信を庇う形で死んでしまったのだ。

その直後、ラグナとサヤと似た存在は融合をしながら『窯』に落ちていく。自身はそれを追って『窯』を渡るが、身体は右腕以外動かなくなる。

そして、『動かぬ体で余命を過ごすか。人であることをやめ、戦う道を選ぶか』を訊かれ、戦う道を選んだ。その時に自身の身体は自身の魂を宿したこの『スサノオユニット』となり、本来の名を捨てて『ハクメン』として生きることを決めた。

 

そこまでの思考を終えたハクメンは、再び自身の大切な人を失った日のことを思い出した。

ラグナの言う、『苦しみ』や『悲しみ』の大半は、ハクメンにとってはここにあった。それは、自身がこの姿となる『原罪』であり、最大の過ちだったからだ。

 

「(ツバキ=ヤヨイ・・・御前のような者を、増やしはせぬ・・・!)」

 

ハクメンは無意識のうちに両手をきつく握りしめて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「んっ・・・んん・・・」

 

「レ~ロレロ~・・・」

 

うす暗い部屋でロムは目を覚ました。自身の身体はロープで縛られていた。隣にいるラムも例外ではなかった。

目を覚ますと、ロムの視界には長い舌をなめずりしている、黄色い体をした巨大なモンスター・・・トリックが入った。

 

「ひぅ・・・いや・・・!」

 

「ロムちゃん・・・どうしたの?・・・あっ・・・!」

 

ロムはそれを見て怯える。ラムはその怯えた声を聞いて目を覚ますと、視界にトリックの姿が入り、ハッとした顔になる。

 

「アックックック・・・寝起きの幼女キターッ!舐めまわしちゃってもいいかな?」

 

トリックは興奮を押さえきれず、ロムに向けて舌を伸ばし、その体を舐め回し始めた。

突然であることもそうだが、トリックにされた行為自体にロムは悲鳴を上げずにはいられなかった。

 

「ちょっと・・・!ロムちゃんに何するのよっ!離れなさいっ!」

 

ラムは勇気を出してトリックを避難するが、トリックはならばお前だと言わんばかりに、にやけた笑みをラムに向ける。

そして、ロムを一度自分の左手に抱えてから今度はラムに向けて舌を伸ばし、舐め回し始めた。

 

「やっ・・・いや・・・!やめてーっ!」

 

トリックにとって、ロムとラムの悲鳴はご馳走でしかなく、興奮に従って二人を舐めまわすペースを上げた。

部屋の中にロムとラム、二人の悲鳴が響き渡る。

 

「トリック様ー。身代金の電話してきましたー・・・って、何やってるんすか!?」

 

その部屋に入ってきたガラの悪い女性は目の前で起きている光景を見て驚いた。

ただ身動きさせないようにするでは収まらなかったようである。

 

「癒しているのだッ!俺様のぺろぺろには治癒効果があるからなっ!」

 

「そ・・・そうっすか・・・」

 

トリックは自信満々で言うが、ガラの悪い女性はそれを見ても呆然としながら返事をするだけで精一杯だった。

 

「ああ・・・そうそう。『仕込み』の準備も終わりましたよ。

しっかし・・・信じて良かったんですか?あの魔女みたいな奴・・・」

 

「女神を打倒するための準備がしたいというのと、俺様が幼女をぺろぺろしたい。そしてお前のお金が欲しいの三つが見事に一致した結果だ。

それ以上も以下も無かろうよ」

 

トリックたちはとある人物と一時的な協力を結んでいた。内容としては「協力の証として『仕込み』を渡すので、女神たちのシェアを落とすような行動をして欲しい」だった。シェアを落とすこととして、今回はロムとラムを連れ去り、身代金を獲得することを選んだ。

そして、ロムとラムは女神候補生の中でも特に幼く、一般人の感性なら遊び盛りの時期なので、開いたばかりのスーパー二テールランドに来ない筈がないと踏んで網を張ったら案の定捕まえることができたのである。

協力した人物に渡されていた『仕込み』の準備も済んだため、後は盤石な体制で身代金が来るのを待つだけである。

『仕込み』以外何もないのが少々不明瞭ではあったが、数少ないチャンスだと踏んだトリックたちはこの協力を呑んだのだった。

 

「じゃあ・・・俺様はもう少しぺろぺろしてるから、先に脱出の準備でもしたらどうだ?」

 

「そうします。それじゃあまた後で・・・」

 

トリックは二人を舐めまわすのを再開する。その光景ををこれ以上見ないようにしようとガラの悪い女性は足早に部屋を出た。

部屋を出てある程度以上離れないと二人の悲鳴は消えなかったため、ガラの悪い女性は移動しながら頭を抱えていた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「建設中のアトラクションの中に隠れてるだなんてね・・・」

 

二人を連れ去った奴らの隠れている場所を見てノワールは呟いた。

ロムとラムは、建設中のアトラクションの中にいることが分かっていた俺たちは、その建物の前にいた。

まだ新しいこともあり、一つだけ間に合わなかったみたいだ。建設中のアトラクションの中なら盲点になりやすい。

俺は術式の『迷彩』を使ってバレねえように移動していたから、こういうことに失念しかけていた。

 

「ラグナさん、大丈夫ですか?」

 

「ああ。これくらいはなんてことねえよ」

 

さっきセリカにコートを預けてきたので、俺は中に着ていた黒い格好のみでここまで来ていた。

少し寒さを感じるが、問題になるほどの寒さじゃなかった。ユニに心配されたが、動きの支障はなかった。

分担としてはノワールとユニ、ブランとお面野郎のペアが分かれて二つある抜け道に先回り。残った俺たちが正面から行くことになる。

こうなったのは、逃げられたら正面から行く俺たちは絶対に追いつけないと踏んだからだ。また、抜け道の一つは距離が遠いため、ブランとお面野郎は既に別行動を始めている。

ブラン達が正面じゃないのはなぜかと言うと、最後まで諦めて欲しくなかったからだ。正面から入って逃げられて諦めるよりは、行った先にこいつが来るから絶対に助けるという気兼ねで行く方がプラスだろうと言う意見が出たからだ。

 

「よーし・・・早速殴り込みに行こうっ!」

 

「待ってください。こういう場合は人質の救出が最優先ですわ。そこで・・・」

 

「・・・行くなら早く行った方がいいぞ・・・」

 

ネプテューヌが連れ去った奴を倒す気満々だったので、ベールが一度止める。

ベールが自分の提案を説明しようとしたが、後ろから不穏な気配を感じ取った俺がそっちに振り向きながら遮る。

そこには、体が大きな狼の姿をしたモンスター・・・フェンリルがいた。それも二体だ。

 

「フェンリル・・・!?なんでこんなところに!?」

 

真っ先に驚いた反応を示したのはユニだった。確かにこの状況は異常だった。

通常、モンスターは国の中に入ってきたとしても小型のモンスターで、プラネテューヌ以外は確実に処理される。

それなのに、目の前の状況はどうだ?現に大型の危険種が二体も国内にいるという緊急事態だった。

 

「考えるのは後だ・・・!俺がどうにかするから、お前らは行ってくれ!」

 

ただし、例え危険種が目の前にいようとも、俺たちの目的はロムとラムを助けることに変わりない。

俺だけ残れば他の全員でロムとラムを助けに行けるし、俺は時間をかければこの二体を倒すことができる。

不安な点を上げれば、俺が時間を掛け過ぎてしまい、『黒き獣』になる可能性だ。『イデア機関』がわからない以上、押さえつけることは期待できない。

セリカの近くにいても右上半身が平気な以上、大丈夫だとは思うが・・・。

一度考えることをやめて、俺は腰に下げてある剣を右手に取った。

 

「そんな・・・!一人でなんて無茶ですよっ!」

 

「無茶でもやるしかねえ・・・!最悪は時間稼ぎに徹するから、早く行くんだ!」

 

「ううん、そうは行かないよ!万が一ラグナに何かがあった時のために私も残るっ!

みんなは予定通りでお願いっ!ベール・・・悪いけどネプギアを頼んだよ!」

 

ネプギアからの声を振り切るが、今度はネプテューヌに俺の無茶を咎められた。

なんだかんだいって、皆俺のことが心配みたいだ。

 

「・・・分かりました。時間もありません。皆さん、行きましょう!」

 

「ええ・・・そうしましょう。ユニ、行くわよ!」

 

「うんっ!」

 

「お姉ちゃん、ラグナさん・・・気をつけて!」

 

ネプテューヌの意を理解した皆はすぐに行動を始める。皆が建物の中に入っていき、足音が消えていった。

 

「悪いな・・・。わざわざ俺の為に残ってくれて・・・」

 

「気にしないでいいよ・・・今までのお礼みたいなものだから」

 

「だが・・・ネプギアを任せてちまって良かったのか?お前の妹だろ?」

 

正直なところ、ネプテューヌが残ってくれたのは嬉しい。これなら俺が変に気を使う必要が減るからだ。

それはそうとして、ネプギアをベールに託してしまって良かったのかが気がかりだったので、俺は訊いてみた。

 

「・・・大丈夫。ベールならネプギアを悪いようにはしないよ。

それに・・・ラグナが戻って来なかったらみんなが悲しむし、私は一人で行かせたことを後悔すると思う・・・」

 

「お前・・・」

 

ネプテューヌの口から紡がれる言葉に、俺は返す言葉を無くす。その言葉には強い意志が現れていた。

 

「ラグナ、これだけは覚えておいて・・・。本来いた世界で、ラグナがみんなからなんて言われようとも・・・。

ゲイムギョウ界(ここ)でラグナと出会ったみんながいるから、ラグナは一人じゃない・・・。

ノワールにいつでも話し相手になるって言ったように、私たちだってそうだよ。だらか・・・何か辛いことがあるなら、いつでも話してみて。聞いてあげるくらいなら、私にもできるから・・・」

 

「・・・ありがとう。ネプテューヌ・・・」

 

ネプテューヌの表情はどこか慈愛に満ちたものになっていた。それを見て、ネプテューヌの話を聞いて、俺は感謝しかなかった。

本当はこんな当たり前に近い言葉だけなのが申し訳なくなるが、今は何か言わないと気が済まなかった。

とは言え、今はそんな風にお話をしている場合じゃないので、俺たちはフェンリルの方に向き直る。

俺たちの逃げ道を防ぐためにいるのか、さっきから変に動いたりせず。その場で待機をしていた。

 

「さて・・・色々と話したいことは残ってるけど、先ずは目の前のこいつらをどうにかしなきゃね!」

 

「ああ・・・さっさと終わらせちまおう・・・!」

 

俺たちは短く会話を済ませると、ネプテューヌは変身を始め、俺は剣を左手に持ち替え、右腕を自分の腕の高さまで持ってくる。

 

「第666拘束機関開放・・・次元干渉虚数方陣展開・・・!」

 

ネプテューヌの身体は光に包まれ、『蒼炎の書』のロックを外した俺の右腕からは蒼い螺旋が出始める。

ただし、いつもと違う点として、足元から黒い炎のようなものが僅かに出ていた。

それは、忘れていた『黒き獣』の魔の手が迫っているかのようだった。心なしか、妙に右腕が重く感じる。

 

「俺は・・・俺は『黒き獣(バケモン)』になったりはしねえ・・・!約束は果たすし、『あいつ』を置いていく事もしねえッ!」

 

俺は自身が人でない何かになる可能性を全力で振り払うように吼える。すると、足元から出ていた黒い炎のようなものは治まった。

 

「『蒼炎の書(ブレイブルー)』・・・起動!」

 

「変身完了よ・・・!」

 

そして、目の前に方陣が現れることで、俺は『蒼炎の書』の起動を終える。それとほぼ同じタイミングで、ネプテューヌも変身を終えていた。

 

「行きましょう、ラグナ!」

 

「ああ・・・!さっさと終わりにしてやるッ!」

 

俺たちはそれぞれの武器を構えて一泊置いて、同時に二体のフェンリルに向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでですわ!」

 

「・・・ん?また幼女かぁ・・・?」

 

ロムとラムがいる部屋を勢い良く開け放ちながらベールは声を張り上げる。

ネプギアはロムとラムを連れて帰るために、部屋の外で待っていた。

トリックは自分好みの存在が来たかと期待したてそっちを見やった。

 

「お姉ちゃん・・・!」

 

「・・・ベールお姉ちゃん・・・っ!」

 

ロムとラムにとって、助けが来たことは非常に嬉しいことであり、思わず姉呼びをした。

 

「その子達を開放なさい・・・私が身代わりになりますわ!」

 

「・・・・・・は?」

 

ベールの考えた案として、優れていると誇っている自身の体を使って身代りになり、二人を助けることだった。

だが、この案は、今回の相手には致命的な問題点があった。その証拠としてか、トリックはベールの言葉が意味わからんと言いたげな声を発した。

 

「俺、紳士だし。守備範囲幼女だけだし。デカい胸とか興味ないし・・・」

 

「な・・・大きな胸の何がいけないと言うんですの!?」

 

そう。トリックの好みの体格と、ベールの体格は真逆にあった。

通常の相手であれば効いたかも知れないが、案の定トリックには逆効果となってしまい、更には自分の体格を否定されたベールが思わず訊き返すことになってしまった。

 

「垂れる未来しか見えない」

 

「・・・・・・っ!」

 

トリックは完全否定をベールに告げる。トリックの言葉はベールの琴線に振れており、カチンときたベールが体を震わせる。

 

「あなた・・・私を怒らせてしまったようですわね・・・!」

 

ベールは怒りに満ちた顔で変身を始める。光が消えると、ベールの姿は緑色の髪を一つに纏め、白いレオタードを身につけた女性・・・グリーンハートに変身を完了していた。

 

「何・・・!?貴様、女神だったのか!?」

 

「グリーンハート、変身完了・・・」

 

目の前の光景を見て、トリックは驚きを隠せなかった。目の前にいたのが女神だったというのは、流石に想定できなかったようだ。

 

「ぬぅ・・・女神が相手なら逃げるが勝ちだな!というわけで頼むぞ『仕込み』よ!」

 

「・・・!?これは・・・!?」

 

トリックの言葉に呼応するかのように、ベールの背後に突如小型のモンスターが20体ほど現れた。

それも非常に近い距離に現れており、ベールがすぐにトリックの元へ行こうとすればモンスターはベールに攻撃を加えられる準備が整っていた。

 

「よし・・・それじゃあ、俺は早速・・・」

 

逃げよう。そう決めたトリックが身を翻そうとした時、モンスターの内、二体が何者かに切り裂かれ、光となって霧散した。

それを見たトリックは思わず足を止めてしまう。

 

「ベールさん!ここは私に任せて下さいっ!」

 

モンスターを切り裂いた正体は、さっきまで部屋の外で待機していたネプギアだった。異変を感じて真っ先に駆け付けたのである。

ネプギアは強気な言葉を言いながら、右手に持っていたビームソードを右から水平に振り、モンスターを斬りつける。斬りつけられたモンスターは光となって霧散する。

 

「ネプギアちゃん!?大丈夫なのですか!?」

 

「はい・・・!これくらいならなんてことありませんっ!」

 

ベールはネプギアを気遣うが、ネプギアは一体のモンスターが突き出してきた爪をビームソードで受け止めながら強気に出て、言い切ると同時にモンスターを押し返した。

 

「それに・・・私も大事なもののためにできることをしたいんです・・・!」

 

ネプギアの表情は強い意思で満ち溢れていた。ラグナの戦いの方針を見て、ネプギアも自分なりに前に進もうとしていたのだ。

 

「・・・分かりました。なら、そちらは任せましたわ!」

 

「はい・・・!」

 

ネプギアの意志を汲み取ったベールはネプギアにモンスターの群れの相手を託し、トリックに向き直る。

 

「行きます・・・!」

 

ベールは一瞬溜めてから、一気にトリックへと肉薄する。

 

「はぁっ!」

 

十分に近づいたところで、右手に持っている槍をトリックの顔へ向けて突き出す。

その一撃はトリックに届く寸前で見えない障壁に当たり、それを割るに留まった。

 

「・・・?」

 

ベールは一瞬、自分の攻撃の仕方が悪かったのかと考えるが、すぐにその考えをやめ、反撃を受けないように距離を取った。

 

「はっ!たあぁっ!」

 

ネプギアはビームソードを左から水平に振り、モンスターの一体を斬り伏せる。

斬られたモンスターが光となって霧散するが、それには目をくれず、後ろから迫ってきていたモンスターに反応し、振り向きざまにビームソードを上から縦に振り下ろして、爪を付きつけようとしていたモンスターを斬る。

モンスターは光となって霧散した。僅かに肩で息をしている最中、ネプギアは確かな手ごたえを感じていた。

 

「(本当はロムちゃんとラムちゃんのところに行きたいけど・・・今は私にできることをして、二人を助けるためにバトンを繋ぐんだ・・・!)」

 

ネプギアは自分に言い聞かせるように心で呟き、ビームソードを構え直す。

今の自分でトリックに勝てる保証はない・・・。それは確かに悔しい事ではあるが、今は確実に勝てるであろうベールがトリックの相手をしてくれていて、ベールを邪魔しようとしていたモンスターは自分が相手することでベールがトリックに集中できる。幸いにもこの程度の数であれば対応はできる。

変身はまだできない・・・。だがそれでも、自分にできることはある。それがネプギアの活力になっていた。

 

「(ロムちゃん、ラムちゃん・・・絶対助けるから待っててね!)」

 

ネプギアは意を決して再びモンスターの群れへと向かっていった。

 

「俺にその程度の攻撃は効かんっ!」

 

「・・・どうかしら?」

 

トリックは自信満々に言うが、ベールは不敵な笑みを見せてから、もう一度トリックに急接近する。

 

「狂瀾怒涛の一撃・・・受けてみなさいっ!レイニーナトラピュラッ!」

 

一撃でダメならばと、ベールは高速で何度も槍で突きを入れていく。

トリックの盾となる見えない障壁が張り直される速度を上回る速度で突きを入れていくため、トリックは徐々にダメージを蓄積させていく。

 

「あぁ・・・!?」

 

目の前で起きている事態にトリックは混乱する。鉄壁を誇っていた自身の守りは、今対峙している女神があっさりと破っているからだ。

 

「もらいましたわっ!」

 

「いやぁ~ッ!」

 

そして、何度目かの障壁が割れたところを逃さなかったベールによる渾身の突きがトリックの腹に当たる。

その威力に耐えられなかったトリックは、情けない声を上げながら吹っ飛ばされていった。

 

「楽勝でしたわね・・・さて、ネプギアちゃんは・・・」

 

「せぇいっ!」

 

ネプギアのことが気になったベールがそちらを見やると、ネプギアはビームソードを右から斜めに振り上げ、最後の一体を切り裂いた。

そのモンスターが光となって霧散したことで、周囲にモンスターはいなくなった。

 

「ベールさん、こっちは終わりましたよ」

 

「ご苦労様。私も丁度終わったところですわ」

 

ネプギアとベールはお互いの状況を伝える。トリックは追い払い、『仕込み』と言っていたモンスターも倒したので、自分たちにできることは・・・

 

「後はロムちゃんとラムちゃんを・・・アレ?」

 

ネプギアの言う通り、ロムとラムを助けることができることなのだが、ここでネプギアは今置かれている状況にハッとした。

 

「・・・どうかしましたの?」

 

「ベールさん・・・ロムちゃんとラムちゃんがここにいないです・・・!」

 

「まぁ・・・!」

 

ネプギアに言われて、ベールはハッとした。トリックに自分の誇りを全否定された怒りのあまりに、本来の目的を忘れてしまったのである。

トリックが吹っ飛んだことでできた壁の大きな穴を見て、ベールは「私としたことが・・・」とその場で顔に手を当て、頭を抱えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

二体のフェンリルと戦っていて少し時間が経った所、俺とネプテューヌは勝負に出ることにした。

右側にいるフェンリルが右前脚の爪を右から水平に振ってきたので、俺は上に飛んで避けながら、剣を普通の持ち方に替え、牙突に近い構えを取る。

 

「ベリアルエッジッ!」

 

そのまま剣に黒い炎のようなものを纏わせながらフェンリル目掛けて突っこんでいく。

その一撃は俺の動きを追って顔を上に向けていたフェンリルの無防備になっていた胴に当たり、フェンリルが絶叫する。

俺の一撃を受けて怒り狂った方のフェンリルは俺以外が視界に入らなくなり、怒りのままに自身の持つ鋭い牙で俺を噛み砕こうとする。

 

「悪ぃなァッ!」

 

「これで決めるわッ!」

 

俺はフェンリルの動きを見るや、持っていた剣を全力で上から振り下ろす。

その攻撃がフェンリルの鼻先に当たり、そのまま剣でフェンリルを地面に叩きつける形になった。フェンリルは自分が叩きつけられたことに困惑した。

一方、ネプテューヌは左腕を天高くへと掲げる。すると、俺と対峙していない、もう一体のフェンリルの頭上に巨大な剣が現れた。それは俺の持っている片刃の剣とは違い、両刃で騎士の剣を思わせる形をしていた。

 

「32式、エクスブレイドッ!」

 

「容赦しねぇぞッ!シードオブタルタロスッ!」

 

ネプテューヌが左腕を前へ振り下ろすと、その巨大な剣はまっすぐにフェンリルへと向かって行き、奴の背中から思いっきり突き刺さった。

その一撃であっさりと致命傷に陥ったフェンリルの一体が光となって爆発を起こす。

周囲が大丈夫かと不安になるが、エンシェントドラゴンの時と同じで、周囲には何も爆発の被害は無かった。あくまで普通のモンスターと消え方が少し違うのだろう。

その一方で、俺は体を右に一回転させながら剣を鎌に変形させ、赤いエネルギー状の刃を発生させる。この時、いつもより出力を上げている。

そして、一回転しきるところで、俺は鎌になった剣を左から水平に思いっきり振るう。

この時、フェンリルには鎌に発生していたエネルギー状の刃と、そこから出てきた、血のような色をした、複数の三日月状の刃に胴を切り裂かれる。

この一撃が決定打となり、フェンリルは絶叫を上げながら光となって爆発を起こした。

 

「・・・終わったか・・・」

 

俺は剣を元に戻し、地面に剣を突き立てながら一息着いた。

どうやら『黒き獣』になるほど侵食は進まなかったらしい。ちゃんと帰れること、セリカに預けたコートを受け取りに行けること。それからこうして人の姿を保てたことに俺は安堵していた。

 

「ラグナ、大丈夫?」

 

「ああ・・・どうにかな」

 

ネプテューヌの問いに俺は脱力気味に返答する。正直なところ、『黒き獣』にならず戻って来れただけでも上出来だと思ってる。

皆は上手くやってるだろうか?そんな考えが出た矢先に俺は体がふらつき、ネプテューヌに支えられる。

 

「だ・・・大丈夫!?まさか・・・『黒き獣』に・・・」

 

「いや、それは平気だ・・・多分、ちょっと疲れただけだ」

 

ネプテューヌの危惧を俺は否定する。思えば、十分に休息できたりする場所に長居した影響なのかもしれない。

だが、今更復讐の旅のような生活に戻るつもりもない。今の生活は気に入ってるし、何よりも皆と過ごせるのが楽しかった。

 

「悪い・・・ブランが大丈夫か見てくるわ・・・。無理はしねえから」

 

「待って。それなら私も行くわ・・・。さっきみたいなことがあったら一人だとどうしようも無いでしょ?」

 

ロムとラムを助けられたかが不安で、ブランの方を見に行くためにネプテューヌの支えを終えてもらって移動しようとしたが、今度はネプテューヌに提案を受けた。

 

「・・・分かった。悪いけど頼むわ」

 

「気にしないで。それなら早いところ行きましょう」

 

自分の身勝手に近い行動なので、俺は一瞬躊躇ったが、自分の体の事も考えてその提案を受け入れることにした。

そして、俺とネプテューヌはブランのいる方へ歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「やっべ・・・女神が来るとか、身代金どころじゃねえ・・・!」

 

ベールが変身したタイミングで、部屋に入る寸前で女神が来ていたことで、このままではすぐにやられると感じたガラの悪い女性はすぐに脱出を始めた。

 

「あぁ・・・!?」

 

しかし、脱出する道の先には、変身を済ませているノワールとユニが待ち構えていた。

つまりは、回り込まれていたのである。ノワールたちがこれを可能にしたのは、『お寺ビュー』で周囲の状況を把握済みだったからだ。

 

「お姉ちゃん、こいつも一味よっ!」

 

「オッケー・・・随分と舐めた真似してくれるじゃない・・・」

 

ユニはびしっと言わんばかりの勢いで目の前にいる女性を指さす。ノワールはそれを聞いてにじり寄っていく。

 

「い、いや・・・。舐めてたのトリック様だけだし・・・今回の誘拐も利害の一致とは言え、オバサン(・・・・)にそそのかされただけだし・・・」

 

「ふーん・・・いかにも下っ端(・・・)が言いそうなセリフね」

 

ガラの悪い女性・・・もとい、下っ端は必死に言い訳をするが、ノワールは煽り混じりに一蹴する。

 

「そ、そうなんす・・・。自分、ただの下っ端なんです・・・」

 

もしも一般人であれば食ってかかったが、この下っ端・・・一応はリンダと言う名はあるが、ここは下っ端と記させて頂く。

女神が相手では流石に勝ち目がない。更には『仕込み』の残量は無いからモンスターによる時間稼ぎもできないので、下っ端はひきつった笑みをどうにか維持しながら答える。

 

「じゃあ、自分はこれで・・・」

 

「ええ・・・次はもうしないように・・・。って、帰すわけないでしょッ!レイシーズダンスッ!」

 

下っ端はそう言ってダメもとでもそそくさと逃げようとしたが、ノワールがノリツッコミをしながらすぐに追いつく。

ノワールはそこからオーバーヘッドキック、回し蹴りを二回、最後に体を右に一回転させながら剣を左から水平に振るう。

 

「やっぱダメか~ッ!」

 

その猛攻を受けた下っ端はあっさりと吹っ飛ばされて行った。彼女の逃げようとした行動は、無情にも打ち砕かれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

ベールに吹き飛ばされた先・・・幸か不幸か、事前に用意していた抜け道の出口の近くにトリックはいた。

 

「幼女だけは命に代えても守るッ!それが紳士の正義(ジャスティス)ッ!・・・アレ?幼女はいずこ・・・?」

 

その頑丈さが幸いしてトリックにケガは少なく、ロムとラムを守ろうとしてもさほどケガは大きくならなかった。

そうして自信満々に豪語するが、それぞれの手に抱えていたロムとラムがいないため、トリックは慌てて二人を探し出す。

そして、フェンスを登って逃げようとする二人を見つけた。

 

「あの活きの良さ・・・全く幼女は最高だぜ!」

 

トリックは逃げようとする二人の姿を見て、両手の指を高速で動かしてながら興奮を露わにする発言をする。

我慢ができなくなったトリックは再び長い舌を伸ばし、ロムとラムを捕まえようとするが、それは何者かが投げたハンマーによって遮られ、ハンマーの重みによって舌を地面とハンマーに挟まれてしまう。

 

「・・・いてててて・・・」

 

トリックが痛がっていると、大小二つの白い影が迫ってきていた。

その内小の影を見て、ロムとラムは喜びの顔を見せる。

 

「私の大切な妹に何してくれてんだ・・・この変態野郎・・・!」

 

「変態・・・?それは誉め言葉だッ!」

 

小の影・・・ブランは怒りを露わにしてトリックを罵倒する。自分の妹たちに行った行為が許せない故に当然である。

しかし、トリックにはあまり効果の無い言葉だったらしく、トリックは寧ろ喜んだ。

 

「そうかよ・・・。なら、褒め殺しにしてやるぜ・・・!」

 

ブランは怒気の籠った声で宣言してから、自身の身体を光に包む。

そして、光が消えると水色の髪に、白いレオタードを身につけた少女。ホワイトハートへと変身を完了させる。

 

「ぬぅ・・・!女神が何人も集まっているとは・・・!仕方ない!最後の『仕込み』だぁッ!」

 

そう言って、トリックはどこからともなく取り出したディスクを天高くに掲げる。

すると、ディスクが激しく光り、光が消えると、トリックの右隣にエンシェントドラゴンが一体現れていた。

これは緊急時の最後の保険であり、これ以上はもう残りが無かった。

 

「エンシェントドラゴン・・・!?面倒になるな・・・」

 

「・・・ブランよ。向こうの竜は私に任せて貰おうか」

 

突如として現れた厄介な存在にブランは歯嚙みするが、そこに先程まで沈黙を保っていた大の影・・・ハクメンが提案を出した。

 

「・・・いいのか?」

 

「任せろと言った・・・。御前はその間に妹を苦しめた元凶を叩くがいい・・・」

 

ブランの問いに、ハクメンは自身の背に掛けている野太刀・・・『斬魔・鳴神』を鞘から抜き放ちながら答える。

 

「・・・ああ。ならそうさせてもらうぜ・・・」

 

ブランは素直に感謝の言葉を述べながら前を見る。エンシェントドラゴンは視界に入れないようにし、トリックを倒すことを決めた。

 

「・・・んん?何だお前は?俺の紳士的な正義(ジャスティス)を邪魔しに来たのか?」

 

「・・・貴様のような輩が正義を語るなど・・・見苦しいにも程があるぞ・・・」

 

トリックの言葉を聞いたハクメンは怒気が混ざりながら吐き捨てる。ハクメンにとって、トリックは幼き少女二人を苦しめた紛れもない『悪』だったからだ。

 

「あのお侍さん・・・お姉ちゃんの知り合いかな?」

 

「お侍さん・・・名前はなんて言うの・・・?」

 

「名前か・・・良いだろう。その胸に刻むがいい・・・」

 

ロムとラムに訊かれたハクメンは、『斬魔・鳴神』を右手に持って、腰の高さまで持ってくる。左手は添えるようにしている。

 

「我は『空』・・・」

 

ずしんと、ハクメンを中心に大地が小さく揺れる。それに気づいたブランはハクメンの方を思わず見やった。

 

「我は『鋼』・・・」

 

再びハクメンを中心に大地が揺れる。先ほどよりも少し揺れが大きかった。

 

「我は『刃』!」

 

再三に渡り、ハクメンを中心に大地が揺れた。更に大きい揺れだった。

その揺れを感じ取ったブランは頼もしい味方が来てくれたと思わず笑みをこぼし、トリックとエンシェントドラゴンは焦り出す。

 

「我は一振りの剣にて、全ての『罪』を刈り取り・・・」

 

ハクメンを中心に揺れる間隔が急激に短くなっていき、地震かと錯覚する速度で大地が揺れている。

その様子を、ロムとラムは呆然と、エンシェントドラゴンとトリックは動揺しながら見ていた。ブランは自分もすぐに動けるように、体制を整えた。

 

「『悪』を滅する!」

 

揺れが止み、ハクメンの後頭部から伸びている髪が、一瞬だけ扇状に広がる。

 

「我が名は『ハクメン』・・・推して参るッ!」

 

そして、ハクメンは『斬魔・鳴神』を自身の右側に腰を引きながら構え、一気にエンシェントドラゴンへと肉薄する。

ブランもそれについていく形でトリックへと向かって行く。

 

「紅蓮!」

 

ハクメンはエンシェントドラゴンに近づきながら、『斬魔・鳴神』の柄を勢い良くぶつける。

それによってエンシェントドラゴンは思わず後ろに一歩後退してしまう。

 

「斬鉄!」

 

ハクメンはその隙を逃さず、『斬魔・鳴神』を上から縦に振り下ろし、右から水平に低く振るうの二連撃を行う。

一撃目はエンシェントドラゴンの腹部、二撃目はエンシェントドラゴンの足首辺りを斬り、エンシェントドラゴンは絶叫を上げる。

エンシェントドラゴンは怒りのままに炎を吐き出した。ハクメンはそれを見るや、『斬魔・鳴神』を左から水平に振るい、炎を切った。

すると、ハクメンの目の前には、「封」と言う字が書かれている方陣が現れており、それが炎の行く手を阻んでいた。

これはハクメンの持つ『斬魔・鳴神』は刻を殺す能力が備わっており、それによって炎の刻を殺し、その先にいけないようにしていたのだ。

 

「それで終わりか?」

 

ハクメンが挑発してみると、エンシェントドラゴンは怒り狂ってハクメンの元に近づいていった。

一方、ブランはトリックが迎撃として出してくる舌をかいくぐっていた。

 

「この超絶変態ッ!」

 

そして、ついにトリックに近づき切ったブランは斧を上から縦に振り下ろす。

その一撃はトリックの障壁を破って、トリックの頭に届く。

 

「激甚変態ッ!」

 

ブランは更にもう一度斧を上から縦に振り下ろす。同じ位置に当たり、トリックは思わずよろめく。

 

「テンツェリントロンペッ!」

 

そして、ブランは最後のダメ出しに、斧をハンマースイングの如く回転しながら振り回し、最後に斧を上から縦に勢い良く振り下ろす。

 

「幼女バンザ~イッ!」

 

その攻撃に耐えられなくなったトリックは、最後まで己の欲望に素直な断末魔を上げて夜空の向こうに消えていった。

 

「虚空陣奥義・・・」

 

エンシェントドラゴンが自分を目掛けて右腕で殴りかかって来るのを読んでいたハクメンは、『斬魔・鳴神』を寝かせるようにして、両腕を前に突き出す。

すると、ハクメンの目の前には紅い方陣が現れていた。そんなもの知るかと言わんばかりにエンシェントドラゴンは殴るが、それは方陣を前にして止まる。

エンシェントドラゴンが困惑しているところで、ハクメンは動き出した。

 

「『悪滅』!」

 

ハクメンは一瞬の溜めの後、エンシェントドラゴンの腹部に『斬魔・鳴神』を突き立てる。

暫しの制止が続くが、その間にエンシェントドラゴンは筆で強く一書きされていくように連続で斬られている感覚に陥る。

否、ハクメンの一突きは、その後の連撃も仕込まれていたもので、それが今筆で強く一書きするようにエンシェントドラゴンを切り裂いていた。

そして、ハクメンが『斬魔・鳴神』を引き抜いて後ろを向くと、エンシェントドラゴンは絶叫を上げながら光となって大爆発を起こした。

爆発が止んだのが解ったハクメンはもう終わりだと言わんばかりに『斬魔・鳴神』を鞘に収め、ブランもそれを見て変身を解いた。

 

「ロム・・・ラム・・・ごめんなさい。こんなに怖い思いをさせて・・・傍にいてあげられなくて・・・」

 

戦いの様子を呆然と見ていた二人の方を見て、ブランは謝罪する。その言葉を聞いて、二人はようやく自分たちが助かったと理解する。

 

「姉失格ね・・・」

 

―ラグナと約束したのに情けない・・・。口には出さなかったが、その罪悪感からブランは顔をそらした。

 

「お姉ちゃん・・・」

 

「・・・?」

 

ロムの呼ぶ声を聞いて、ブランはすぐに振り向いた。ロムとラムの両手には、同じ柄のコインが握られていた。

 

「お土産・・・♪」

 

「デッテリュー♪」

 

「二人とも・・・ありがとう。それとお帰り・・・」

 

ロムとラムはあの状況下に置かれて置きながらも、ブランのためにとデッテリュー模様のコインを大切に持っていたのだ。

―こんな自分のために、なんていい妹を持ったのだろうと思ったブランは嬉しくなり、二人を優しく抱きしめた。

その様子を見たハクメンは静かに去ろうとした。

 

「あっ、待ってハクメンさん!」

 

ラムの声を聞き、ハクメンは一度足を止めてそっちを振り向いた。

 

「その・・・お姉ちゃんと一緒に来てくれてありがとうっ!」

 

「ありがとう・・・♪」

 

ラムが笑顔でお礼を言うと、ロムも笑顔でお礼を言った。

 

「・・・礼には及ばん・・・。家族を大切にするといい・・・」

 

ハクメンはそれだけ告げて、その場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・良かった・・・助けられたみてえだな・・・」

 

「ええ・・・本当に良かった・・・」

 

ブランの様子を見に来たが、俺たちが来る頃には既に二人を抱きしめるブランの姿があった。

 

「どうにか・・・俺の二の舞は防げたか・・・」

 

俺は結局ほとんど何もできなかったが、それでも二人が無事なだけでも儲けものだった。

これでブランは俺のような道を歩まないで済む・・・俺と同じ苦しみを味わう必要がなくなったと、俺は安堵した。

 

「不安になって此処まで来ていたか・・・『黒き者』よ・・・」

 

「・・・お面野郎か・・・。悪いな・・・わざわざ付き合ってもらってよ」

 

「ブランにも言ったが、礼には及ばん・・・」

 

こっちに来ていた俺は礼を言うが、お面野郎は相変わらずな口調で答えた。

 

「『黒き者』よ・・・決着の件だが、今から三度日が登った刻、貴様の元に行く・・・それまでは預けるぞ」

 

お面野郎は用件だけを一方的に告げて去っていった。

 

「『三度日が登った刻』・・・大体二日と半分ね・・・。ラグナ、大丈夫なの?」

 

「ああ・・・少なくとも今すぐ戦うよりは全然いい・・・」

 

「・・・ラグナ?」

 

後二日ある・・・。それだけでも準備する時間があるのは有り難い。

そう思った俺は気を許したのか、そのまま眠りについてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

時を同じくして、ルウィーにいた女性職員はルウィーのはずれで変装を解いた。

その正体はマジェコンヌだった。

 

「危ねえ危ねえ・・・危うく『ハクメン』ちゃんにぶっ殺される所だったぜ・・・」

 

「そんなに危険な奴なのか・・・?その『ハクメン』というのは」

 

「ああ・・・とんでもなくヤバいやつだよ・・・」

 

マジェコンヌが持ち歩いていたアンチクリスタルからテルミは率直な感想を述べた。

マジェコンヌの質問にも簡単に答えるが、今はあまり考えたく無かった。まともに戦えない今の状態では間違いなくマジェコンヌの計画に支障が出てしまうからだ。

 

「んで?後なん個いるんだ?それ?」

 

「後二つだ・・・」

 

マジェコンヌの右手には新たなアンチクリスタルが握られていた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

翌日、俺はあの後セリカからコートを受け取っていつもの格好に戻った。

お面野郎との決闘まで後二日。やれることは残さずやっておきたい。

ちなみに、俺のことを聞いた教祖たちは急遽ルウィーの教会に集まった。もちろん俺の扱いについてだ。

そして、話した結果、ルウィーはロムとラムを助けてくれた恩義もあって、普段通りに接する。ラステイションは監視付きであれば普段通りでも構わない。リーンボックスもラステイションと同じで監視付きなら普段通りでいい。

そして、プラネテューヌは今までの善行、各国への貢献を踏まえていつも通りにすると言う意見が出た。

また、各国の女神は全員いつも通りに接する。監視がいるなら自分たちでやるとまで言い出した。

その結果、いつも通り6、監視付き2で、俺はいつも通りで構わないが、何かあったときは、すぐに対応するとの結果になった。

 

「あんまり酷くなんなくて良かったね・・・」

 

「ああ・・・これもお前らのおかげだ・・・本当にありがとう」

 

俺は素直に頭を下げた。正直なところ、もっと酷くなるんじゃないかと思ってたので、かなり良い結果になってよかった。

 

「いいのよ・・・私たち仲間なんだから、助け合わないとね」

 

「お礼を言わなきゃいけないのは私の方よ・・・ロムとラムを助けてくれて・・・あの時、私に喝してくれて・・・本当にありがとう」

 

「お前ら・・・」

 

ノワールからはフォローが、ブランからはお礼が来た。俺はそれが嬉しかった。

一人でいることを別に悪いとは思ったりしない俺だが、やっぱり皆とこうしていた時間もあって、一人だと寂しいだろうと感じるようになった。

 

「さて、私たちはこれでいいとしても、後はハクメンさんですわね・・・」

 

「ああ・・・何としても生き残んねえとな・・・」

 

正直なところ、お面野郎は強い。『エンブリオ』の中じゃない以上、あいつの弱体化は望めないのが更に拍車をかけている。

 

「ねえラグナ、ハクメンさんと戦わなくてもいいんじゃないの?暗黒大戦の時は顔を合わせなかったとは言っても、一応手を取り合ったじゃない」

 

「その気持ちは分かる・・・。だけど、あいつは引かないだろうから・・・やるしかねえな・・・」

 

セリカとしては、一緒に戦った人が敵対することはないって言いたいのが良く分かる。その言い分も分かるが、お面野郎にとって俺は『盟友・ブラッドエッジ』ではなく、『滅すべき悪の黒き者』だから今回はどうしようもない。

それでも俺は諦めるわけには行かねえ・・・。昨日夢の中にいたあの女の子を見つけてやんないといけないし、『ネプギア』を置いていくわけにも行かねえからな・・・。

今現在、ネプギアはいつも通りで、俺のことは『ラグナさん』と呼んでいる。サヤのようになるきっかけは何なのかはまだわからないので、こっちもイストワールに頼むべきだろうか?俺は少し考え込む。

 

「見て・・・お姉ちゃん・・・♪」

 

そこへ、ロムが本を持って来て自分の描いた絵を見せる。それはブランの笑顔を描いたものだった。

 

「よく描けてる・・・。・・・!」

 

ブランは最初こそ笑顔で褒めたが、その本の表紙を注視してハッとし、慌てて席を立ち上がってそっちへ行く。

その向かう先には『特急便』と書かれているダンボールが大量にあった。

 

「ラム・・・!落書き止めて!」

 

「こんなに同じ本一杯あるんだし、いいでしょー?」

 

ブランはラムに一言言うが、ラムは別に良いだろうと落書きを続ける。ちなみに、ユニとネプギアはダンボールに背を預けてその本を読んでいた。

そういや、なんでか知らねえがダンボール見た時から『ダンボールは温かい』だの、『ダンボールは困った時に役に立つ』だの囁かれてる感じがするのは気のせいか?

 

「だ、ダメッ!」

 

「どうして?」

 

「そ、それは・・・・・・」

 

ラムがいつもと変わらない調子で訊くが、ブランは段々と顔を赤くしていく。

 

「・・・私が徹夜で書いた小説だからだッ!」

 

『・・・えっ?』

 

ブランが声を荒げながら言った言葉を聞いた俺たちは思わず聞き返した。

 

「ええっと・・・じゃあ、あの時倒れたのはシェアの低下じゃなくて・・・」

 

「寝不足なの・・・?」

 

「・・・うん。安心したのもあったけど、やっぱりそっちのほうが大きくて・・・」

 

ネプテューヌ、ノワールの順に聞かれ、ブランは力なく頷いた。

俺は思わずブランに拳骨をかましていた。

 

「・・・痛ッ!」

 

「テメェ、馬鹿かッ!

趣味に走るのはいいけど、妹のことを疎かにしていい訳ねぇだろッ!」

 

「ご・・・ごめんなさい・・・」

 

俺が怒鳴ると、ブランは涙目になって謝る。

 

「(・・・まあ、素直に謝る分、ネプテューヌよりはマシか・・・)」

 

これを実際に言うと、ネプテューヌが後で色々と言ってくるので、俺は心の中で呟いた。

 

「ところでユニ・・・その小説ってどんな話なの?」

 

「空から降ってきた少女と、生まれつき特殊能力を持った主人公が世界を救うお話・・・」

 

「ほうほう・・・『蒼い右腕』と書いて、『ブレイブルー』と読む・・・!」

 

ノワールに訊かれたユニが内容を簡単に答え、気になったネプテューヌがその本を手にとって文章の一部を音読した。

・・・ん?ちょっと待て・・・『ブレイブルー』ってさ・・・。

 

「ええっと・・・ブラン?」

 

「やめて・・・聞かないで・・・!」

 

「ああ・・・やっぱりそういうことでしたのね」

 

「凄い・・・!主人公が新しい力に目覚めた!」

 

俺が聞こうとしたら、ブランは顔を赤くしながら耳を塞いだ。

それをみたベールはお察ししたかのような笑みを見せた。また、夢中になって読んでいたネプギアは思わず感想を声に出した。

 

「お前ら・・・読むなぁぁッ!」

 

そして、恥ずかしさが限界に達したブランの絶叫がルウィーの教会に響くのだった。




アニメ2話分終了と、ハクメンのテンプレ発言が完了しました。

今回、ネプテューヌ側のキャラ(今回の話では特にブラン)の活躍を食わないように戦闘シーンを考えていたらこんなに長くなってしまいました。
「文長すぎる。分けて」という方ございましたら、一言言ってくだされば以後気をつけたいと思います。

また、最後のシーンにあるブランの同人誌ですが、アニメ版そのままの場合、「『蒼い右腕』と書いて、『ブレイブルー』と読む」の部分は「『邪気眼』と書いて、『デスティニー』と読む」になっています。

次回からは2、3話程使ってラグナとハクメンの決着を書く予定です。


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17話 Black&White

もう少し早く投稿したかったのですが、教習所行ってたらそこまで早くできませんでした・・・(泣)。

ここからラグナとハクメンの決着を書いていきます。


ロムとラムの騒動が終わって二日・・・。お面野郎の言っていた三度目の朝がついにきちまった。

あの二日間でやったことは、『蒼炎の書』による侵食具合の確認。『イデア機関』の状態チェック。自身の体調管理。やり残しがないように回り損ねた場所を回ったりなどをした。

そして、朝起きて見たが、体調は悪くなかった。体を起こした俺は皆で普段集まる部屋に行って、ネプギアが作ってくれていた飯を食った。

ちなみに、俺だけ朝起きるのが遅く、皆はもう先に貸切にしておいたプラネテューヌにあるアリーナで待っているようなので、ここにいるのは俺とネプギアだけだ。

 

「ごちそうさん。美味かったよ」

 

「・・・・・・ラグナさん」

 

「・・・ん?どうした?」

 

俺はいつもと変わらない口調声音で礼を言う。それを聞いて、少し間を置いてからネプギアが俺の名を呼んだ。

その声音から不安そうにしてるのが良く分かる。

 

「大丈夫ですよね・・・?ちゃんと帰ってきますよね・・・?」

 

「・・・やっぱり、不安なのか?」

 

「はい・・・あの時からずっとそうで・・・」

 

ネプギアはお面野郎から『黒き獣』のことを聞いて、プラネテューヌに帰って来てからずっと俺がいなくなる可能性に不安を抱いていた。

何でも、「自分は大丈夫だと信じているが、自分じゃない誰かがずっと怖がっている」んだそうだ。

現状、その正体が何なのかはよく分からないでいた。イストワールに訊いてみても、大した成果は得られなかった。

お面野郎が何か知ってそうな気もするが、前にはぐらかされたから訊くのは難しいだろう。

 

「(ネプギアじゃない、俺のことを『兄さま』って呼ぶ誰かか・・・)」

 

向こうの世界の事も考えるならサヤと『第一接触体(サヤ)』のどちらかになるのだが、ゲイムギョウ界だけに絞った場合、全くと言っていいほど候補が見つからない。

そのため、皆に「サヤがいるかもしれない」だなんて簡単に話すこともできないし、仮に話したとしても信じてもらえないだろう。八方塞がりだな・・・。俺は目の前の状況に頭を抱える。

 

「・・・ラグナさん?どうかしましたか?」

 

「いや・・・ちょっと考え事だ」

 

「今日のことですか?」

 

「それもあるが・・・今は違う方を考えてた」

 

正直なところ、ネプギアには上手く説明のしようがない。話し方が明らかにサヤのものになるのだが、本人は自覚がない・・・というかその時だけ乗っ取られているような状態である以上、そのことを無理に話せない。

もう一つのお面野郎の方だが、それもそれで勝てる見込みが薄い。『エンブリオ』の中では楽に勝てたが、ここはその『エンブリオ』じゃないし、『蒼の魔導書』が『蒼炎の書』になってはいるものの、お面野郎がこっちに来て少しばかり力を取り戻している。

だからといって、諦めるつもりはさらさら無いのも事実だ。俺は夢の中に出てきた、見つけてくれと頼んできたあの女の子を見つけてやらないといけないし、真っ当な生活も続けてえし、何よりも生きて帰って皆を安心させてやらなきゃいけねえ。

そう考えがまとまった以上、今はやれることをやるべきだと考えた。俺自身、そこまでに頭が回る方じゃないから変に行き詰るくらいなら後回しにした方がいい。すぐに答えてくれそうな奴はお面野郎くらいだが、あの状況じゃ答えて貰えそうにないから今は誰もいないしな。

 

「・・・ごめんなさい。そのことは私もよく解ってなくて・・・」

 

「ああ・・・悪かった。無理に考える必要はないさ・・・俺が気になっただけだから」

 

ネプギアの沈んでいく表情を見て、俺は手振りをしながら答える。

ここでこれ以上、この話題は出さない方が良いだろうな。俺はそう思って何か話題を探す。

話すとすれば、後は今日のことになるんだろうか?少なくとも、俺から『黒き獣』のことは話さない方が良いだろう。それだけは確かだ。

 

「(・・・セリカと似たようなパターンをやるか・・・?)」

 

俺は暗黒大戦で停止時間を作ったときのことを思い出す。

その時俺は、セリカに俺が帰ってくることを納得させるためにコートを渡した。実際は取りに戻れなかったが、それは『あの日』の惨劇を受けた俺が師匠から譲り受けるという形で受け取ってる・・・よくない流れなのは変わりないが。

・・・あっ、そういやアレは残ってたか・・・?アイテムパックに入れるのもったいぶってそのままにしてたから、無くしてねえといいんだが・・・。そう思って俺は着ている服にあるポケットを探ってみる。

 

「どうしたんですか?」

 

「お前に預けておきたいものがあってな・・・。えーっと・・・あっ、あった」

 

俺はいくつかポケットに突っ込んだ結果、何かが左手に引っかかったのでそれを取り出す。

 

「これ・・・持っててくれないか?シスターから貰って以来、大事にしてたものなんだ・・・」

 

「い・・・いいんですか?こんな大事なものを・・・」

 

それは昔、シスターからもらった銀の腕輪だ。サヤを助けるために修行をしてたらいつの間にかサイズが合わなくなってしまっていたが、それでもせっかくもらったものだからと俺は大事にとっておいたのだ。

俺はそれをネプギアに渡すことを決意する。それを両手で受け取り、その両手を胸元に持っていきながら、ネプギアは困ったような。少し悲しいような表情になる。

 

「大事なものだからこそ・・・なのかもな・・・。無くしたら大変だし、それを取りにいくためっていう・・・帰る理由も増えるしな」

 

「・・・ずるいですよ。そうやって渡されちゃったら・・・納得するしかないですよ・・・」

 

俺はなるべく穏やかな顔を維持したが、ネプギアは泣きそうな顔になってしまった。

・・・こういう時、女の子を泣かせねえようにするにはどうしたらいいんだろう?分かってる事とすれば、シスターが言う「約束を破らない」くらいだからな・・・。あまり今回は保証できないかもしれない。

だが・・・俺が諦めないためにも、やれることはやっておいた方がいいのかもしれないな。

 

「ネプギア」

 

「・・・え?」

 

俺は自分の右手を、ネプギアの左肩に優しく乗せながらネプギアの名を呼ぶ。一泊遅れてネプギアは顔を上げる。

 

「俺を信じろ・・・いや、俺を信じて待っていてくれ・・・。大丈夫。絶対に帰ってくるから」

 

例え相手がお面野郎で勝てる保証がなくとも、俺がいなくなることを不安がってる女の子の前で言わずにはいられなかった。

多分・・・最悪な言い聞かせ方をしてるかもしれない。ただ、そうでもしないとネプギアも納得してくれないだろうし、俺も前に進めない気がしたのは確かだ。

 

「・・・わかりました・・・絶対に・・・絶対に帰って来てくださいね」

 

「・・・ありがとう。ネプギア・・・」

 

ネプギアはしばらく考えてから、納得してくれた。正直なところ、頷いてくれたことには感謝しかなかった。

 

「・・・そろそろ行こうか・・・皆が待ってる」

 

「はい・・・ラグナさん」

 

時刻を見ると、そろそろお面野郎がプラネテューヌ(この国)に来そうなので、俺たちは移動を始めることにした。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「待たせたな。今来たぞ」

 

「ラグナ・・・!・・・よかったぁ・・・行き道では何もなかったんだね?」

 

「ああ・・・一応何ともなかった。ネプテューヌも悪いな・・・セリカのことを任せちまって」

 

「いいっていいって・・・。ラグナには体調を整えて欲しかったから」

 

俺がネプギアと一緒にアリーナの中に入ると、入ってすぐのところでネプテューヌとセリカ、イストワールが待ってくれていた。

セリカは真っ先に俺のことを心配した声を出す。まあ、お面野郎と俺一人で出くわしてたらヤバかったのは確かだ。周りの人云々言っても止められる自信がない。

昨日、寝る前にネプテューヌから「セリカちゃんはこっちで道案内しておくから任せて」と言われたので、今回はお言葉に甘えさせてもらった。

セリカと一緒に動くと気分転換になる可能性は十分考えられたが、お面野郎との対決を前に決心が鈍りそうだから遠慮したいのもあった。

 

「ネプギア、今日はまだ大丈夫なの?」

 

「大丈夫と言えば・・・大丈夫かな」

 

ネプテューヌはネプギアのことを心配していた。ネプギアは曖昧に答えるが、いつまたサヤのようになってもおかしくないため、それは仕方ないのかもしれない。

ちなみに、アイエフとコンパ。更に教祖を含めて全員いる。特にコンパとアイエフに至ってはわざわざ休日貰って来てくれたらしい。それでも、心配してくれたことはやっぱり嬉しいもんだ。

 

「すみませんラグナさん・・・『イデア機関』のチェックは終わったんですけど、破損が酷くて動かせそうにありません・・・」

 

「・・・そうだったか・・・悪いな。俺の確認不足だってのに・・・」

 

テルミを『スサノオユニット』から引き剝がすときに左手を潰されていたので、やっぱりかと思えば納得できてしまう。あの時左腕は治ってはいたものの、内部の『イデア機関』は無理だったみてえだ。

セリカと一緒にいても平気だった時まで気がつかなかったから慌てて訊いたが、本当なら『蒼炎の書』と一緒に確認できたはずだ。

俺としてはこの無計画さと頭の回らなさをどうにかしたいと思っているが、まだ治ってないようだ。

イストワールは「いえ、何かあったらまた来てください」と言うが、戻ってこれるか不安なのもある。

そして、これを助長したのが、イストワールから告げられた『イデア機関』が動かないという点だった。

正直言ってこれはかなりヤバい事態だ。俺は『イデア機関』を主にノイズキャンセラーとして使ってはいるが、同時に『オーバードライブ』として自身の瞬間強化にも・・・『蒼炎の書』の侵食を抑えるためにも使っていた。

それが使えないということは、何らかの要素で『蒼炎の書』を封じられたらそれを払いのけることができず、瞬間的な強化も期待できず、『黒き獣』への侵食を抑え込むことも難しい。

・・・絶望的状況だ。いくら『蒼の魔導書』が『蒼炎の書』になったからと言っても、こっち来て強くなってるお面野郎が相手だと相当に厳しい。

 

「そういや、『蒼炎の書(ブレイブルー)』の侵食はどうなってる?」

 

「それが・・・非常に言いずらいのですが・・・」

 

俺が気になって訊いてみると、イストワールは伝えるのが怖いかと言わんばかりに暗い顔をして、侵食具合のグラフを見せた。

それをみると、ここ最近で侵食具合が一気に進んできているのが分かる。いや・・・一気に進んだというよりはぶり返しと言った方が合ってるかもしれない。

どうやら初めて起動したときに「侵食の気配が全くない」と思ったのは大きな勘違いだったみてえだな。自分の判断の甘さが招いた最悪の結果だった。

 

「このままですと・・・良くて数回。最悪は一回が起動の限界です・・・それ以上起動してしまうと・・・」

 

その先を言うのが辛いのか、イストワールは黙り込んでしまう。ここまで話してもらえれば俺としては十分だった。

 

「そうなるとあと一回か・・・」

 

相手はお面野郎だから多く使えるとは思えない。お面野郎が相手だし負ければ死ぬ・・・となれば短い時間で全部を出し切る短期決戦しか残されていない。

そして、短期決戦になれば余力を考慮しない・・・つまりは『蒼炎の書』による侵食具合も考えられないので、俺はあと一回という判断を下した。

 

「あと一回って・・ラグナ・・・それ本当なの?」

 

「ああ・・・お面野郎が相手じゃ加減できねえ・・・」

 

ネプテューヌの質問には肯定したくなかったが、肯定するしかなかった。

自分でも情けないと思う。あの時ネプテューヌに気づいてもらえなけりゃ今の俺はいないって言うのに、恩人のネプテューヌに恩を返せてない・・・。これからどうなるか解んねえのに、何とも恩知らずな奴かと自虐してしまう。

 

「ねえ、ラグナ・・・。ハクメンさんとの戦い・・・本当に止められないのかな?」

 

「・・・無理だろうな・・・俺はともかく、お面野郎は聞かないだろうな・・・」

 

セリカの疑問に、俺は否定で返した。

お面野郎の頭の固さはよく理解している。自分が『悪』だと断じれば余程のことが無い限り倒しにいくのをやめない・・・これは『エンブリオ』でノエルと『第一接触体(ジ・オリジン)』の関係を知った時と、ツバキ=ヤヨイを攻撃したニュー相手が顕著だろう。

例外はノエルの精錬を反転させた直後の俺と、強制拘束(マインドイーター)を受けていたツバキ=ヤヨイがある。

・・・ん?ツバキ=ヤヨイを気に掛ける?俺はそこでお面野郎の正体の推測に入る。ツバキ=ヤヨイのことを気にするなら、割と絞り込みは効く。

士官学校で交流があったノエル。マコト。あのデカチチとその仲間たち。カグラ。ヒビキ・・・。

そして・・・俺の弟でもあるジン・・・。俺が知る限りではこんなところだろう。更にそこから一刀の剣であるならば、ジンかカグラの二人にまで絞り込める。

それならどっちなんだろうな・・・カグラにしては真面目過ぎるし、かと言ってジンにしては大人びてる気もするが・・・。

 

「ここにいたか・・・『黒き者』よ」

 

「っ・・・お面野郎か」

 

俺が考え事をしていると、いつの間にか後ろにお面野郎が来ていた。

お面野郎がここに来たということは、後は中に入って決闘をすることになる。

 

「・・・ハクメンさん・・・やっぱりやめない?私、ラグナとハクメンさんが戦うの・・・間違ってると思うの。

だって・・・顔を会わせなかったけど、一緒に『黒き獣』と戦ったでしょ?」

 

「・・・御前の頼みでも引くわけには行かぬ・・・。此れは私に課せられた使命なのだからな」

 

「・・・でも」

 

「そこまでだセリカ・・・。こいつの頭の固さ、それはよく解ってるだろ?」

 

「・・・うん」

 

セリカの頼みはお面野郎に拒否される。それでもと食いつくセリカは俺が止めたことで、渋々引き下がった。

・・・セリカが納得いかないのは分かる。何故って、セリカにとっては俺もお面野郎も『黒き獣』から世界を救った『正義の味方』。或いは、『黒き獣』に立ち向かい、怯えてるみんなに希望を与えた『勇者』だからだ。

だが、お面野郎にとって俺は『黒き獣』になる可能性を持つ、絶対的な『悪』。俺にとってのお面野郎は『自身の命を狙う脅威』になってしまう。

俺にとっての初対面の時から、俺たちはその認識のままずっと戦っていたからこそこうなってしまっている。

俺がもしお面野郎と同じ時代に生きていて、『悪』という認識をされていない場合はこんなことにはならなかっただろう・・・。

とは言え、これ以上ネプギアやセリカ・・・皆に不安がらせるわけにはいかないのも事実だった。

 

「・・・お面野郎。この戦いは確かに受けるが、俺たちがゲイムギョウ界(この世界)で戦うのはこれが最初で最後だ・・・。それを条件にさせてもらうぜ」

 

「・・・どう謂う心算だ?」

 

「今のままだと『蒼炎の書(こいつ)』があと一回しか使えない・・・。そうなれば、もう俺がテメェに勝てる可能性が消えて、勝負にすらなんねえからな・・・」

 

俺は右腕を腕の高さまで持ってきながら答える。それを見たイストワールはお面野郎を見ながら頷く。

本当に今まで無茶をしすぎて、準備や相談を怠ったせいでこうなっている。以前アイエフに「頼ることを覚えろ」と言われたのにこれだ。本当に情けなかった。

それを聞いて、その場で沈んだ表情になる俺以外を見たお面野郎は一度その場で黙り込む。

 

「・・・良いだろう。此の戦いで・・・我が宿命を終わらせよう」

 

「待て待て・・・ここで『鳴神(それ)』を抜くな。あの中使っていいみたいだから、やるならそっちだ」

 

お面野郎は納得してくれが、その場で『斬魔・鳴神(ざんま・おおかみ)』に手を掛けたから慌ててアリーナの中を指さした。

 

「・・・ならば、決着はそこで付けるとしよう」

 

それを確認したお面野郎は『鳴神(おおかみ)』に手を掛けるのをやめ、さっさと中に入っていった。

 

「・・・行ってくる。わざわざ待っててくれてありがとうな」

 

「ラグナ、無理しないでね・・・」

 

「・・・善処はするよ」

 

ネプテューヌの頼みに、俺は自信なく答えた。お面野郎が相手な以上、無理しないといけないのは明らかだった。

さて・・・これ以上待たせるわけにもいかないし、そろそろ行こう。そう思って俺は歩き出す。

 

「ラグナさん・・・」

 

「・・・ん?」

 

「ちゃんと・・・帰って来ますよね?」

 

2、3歩歩いたところで、ネプギアに声をかけられ、俺はそっちを振り向く。

その表情は『サヤのような少女』もそうだが、ネプギア自信も不安にしていることが分かる。

 

「ああ・・・絶対に『それ』を取りに戻る。だから待っててくれ」

 

無責任な気もするが、俺が少しでも戻ってこれるようにするにはこう言っておいた方がいい。

だから俺は、ネプギアへ指さしながら穏やかな顔でそう言った。

 

「・・・わかりました。ちゃんと取りに来て下さいね?」

 

「ああ・・・任せろ」

 

今まで以上にない程絶望的な状況だが、やるしかねえ・・・。だけど諦めるつもりもさらさらねえ。

そう心で呟きながら、俺はお面野郎が入って言ったアリーナの中へと体を向ける。

 

「(絶対に見つけてやるから、待ってろよ・・・)」

 

名を知らぬ少女に向けて心の中で宣言しながら、俺は中へと入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

アリーナの中はドーム状となっていた。中央が戦う者達の場で、その場のみ平面となっている。

平面が終わると、そこから先は階段状に観客席が連なっていて、中央を囲む形になっている。

ちなみに、中央の足場は草など何も無い。ただの硬い砂地であるため、その実態は闘技場と言った方が良いだろう。

今現在、中央広場の真ん中でラグナとハクメンが対峙していて、その他のメンバーは観客席の内一か所に纏まっていた。

 

「あいつがそのハクメンなのね・・・」

 

「なんだか、仮面をつけたお侍さんって感じですぅ・・・」

 

アイエフとコンパはハクメンを初めてみた率直な感想を述べる。

しかし、事情を知っているので、表情はいつものように気楽さを出してはおらず。真剣なものだった。

事実、ハクメンから発せられる圧は並では収まらず、アイエフたちにまで届いていた。

 

「(アレが本来の力を出せてないって言うなら、全盛期はどんなバケモンなのよ・・・?)」

 

ラグナから聞いた話を思い出し、アイエフは手に冷や汗を握った。

自分がラグナだとしてハクメン相手にシミュレートしてみるが、全くもって勝てる要素が見当たらなかった。

それ程、彼女たちにとってハクメンという存在は脅威に見えるのだ。幸いなことがあるとすれば、ハクメンの狙う対象にアイエフやネプテューヌが入っていないことである。

 

「・・・・・・」

 

「ネプギア・・・大丈夫?無理しなくていいんだよ?」

 

ネプテューヌはネプギアのことを気にかけていた。ハクメンと対面して以来、ネプギアの心境が不安定なっていたからである。

ここ二日間でもラグナのことを『兄さま』と呼ぶことがあり、その時のネプギアは『ラグナという兄に縋る一人の少女』のようだとネプテューヌは認識している。

今も周りの皆は話し込んでいるが、ネプギアはただ一人、中央にいるラグナに視線を向けて、自分の信じる人が目の前から消えないかどうかで不安な目をしていた。

 

「お姉ちゃん・・・うん。まだ大丈夫・・・まだ・・・」

 

「・・・そっか。大丈夫ならいいんだ」

 

そして、ネプギアの返事はどこか曖昧なものだった。ネプテューヌもそれ以上は踏み込まないほうがいいと判断して、この話を切り上げることにした。

 

「(うぅ~・・・最近暗い話や予定ばっかりだし、これが終わったらいい知らせが欲しいなぁ・・・。ネプギアのことも不安だし・・・)」

 

ネプテューヌは元々、普段の姿で暗い空気。重い空気などが苦手で、自身を『シリアスブレイカー』と称してその展開を破っていくことが多い。

だが、今回の場合はラグナの身が危険なこと。ハクメンの言い知れぬ威圧感。時折まるで別人のようになるネプギアの三つを前にそれを発揮できなかった。

 

「(ラグナさんのことだから、ちゃんと取りに来てくれると思うけど・・・)」

 

ネプギアはラグナのことを全面的に信頼しているが、ハクメンの強さを聞いた時から不安が残っているのは事実だった。

ネプギアは中に入ってからというものの、ラグナから預かった銀の腕輪を両手で持っていた。

 

「・・・あれ?ネプギアちゃん、どうしてそれを持ってるの?」

 

「持ってて欲しいって、ラグナさんに頼まれたんです・・・」

 

セリカがネプギアの持っている腕輪に気がついて声をかける。

ネプギアの回答を聞いたときに、やっぱりラグナはラグナのままだとセリカは安心した。それは自分が帰ってくるという約束で、ラグナは必ずそれを守る。

コートは残していってしまったが、それも違った形で受け取り、少し違った形で自分と再開する。自分の姉と約束した『ラグナ自身の妹を助ける』方法を見つけて助け出す。滅びそうな世界を助ける。

それら全ての約束を果たしていた。そのラグナであるからこそ、今回も大丈夫だとセリカは信じていた。

 

「なら大丈夫。ラグナを信じて待っててあげて」

 

「・・・はい。信じて待ちますね」

 

セリカの言葉にネプギアは頷いた。まるで兄のような頼れる人を信じて・・・。

 

「悠久の旅路・・・今度こそ終焉としてくれよう・・・」

 

そして、ハクメンの低くくぐもった声が響く。その声を聞いて、全員が中央に注目する。

ハクメンはラグナに向けてそう告げながら『斬魔・鳴神(ざんま・おおかみ)』を引き抜き、自身の体を右側に引く。

 

「テメェの言う悠久の旅路がなんだか知らねえが・・・。俺もそう簡単にくたばるつもりはねえよ」

 

対するラグナも右手で剣を逆手持ちに取り、右腕を引いた状態で構えた。

それを見るや、ハクメンは『斬魔・鳴神』を右手に持って、腰の高さまで持ってくる。

 

「・・・始まるのね」

 

その構えをみたブランが顔を強張らせる。そして、ハクメンの名乗りが始まる。

 

「我は『空』・・・我は『鋼』・・・我は『刃』!」

 

ハクメンを中心に起きる揺れは、ブランが初めて目の当たりにした時よりも大きいものだった。

それ程、ハクメンがラグナを打つことに執着していることが伺えた。

 

「えっ?揺れ・・・?」

 

「どこから起きてるの・・・?」

 

「・・・これは・・・あの殿方の気迫・・・ですのね」

 

その揺れを感じたノワールとユニが辺りを見回し始め、ベールは揺れの原因に気づいてハクメンを見据える。

 

「我は一振りの剣にて、全ての『罪』を刈り取り・・・」

 

揺れの間隔が短くなって地震のようになる。

そのことに気付き、一度その場に居合わせていたブラン、ロム、ラムの三人。全盛期のハクメンを知るセリカ。元の世界で何度もハクメンと対峙しているラグナ以外は全員が戦慄する。

 

「『悪』を滅する!」

 

そして、僅かな時間だけハクメンの髪が扇状に広がり、それと同時に揺れは終わる。

 

「我が名は『ハクメン』・・・!推して参るッ!」

 

「できるもんならやってみろ!このお面野郎がッ!」

 

ラグナの言葉を皮切りに、二人は同時に飛びかかるように相手へと向かって行った。

 

「(・・・兄さま。どうか帰ってきて・・・!)」

 

ネプギアの体を借りる少女は、ラグナの帰りを願わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

お互いが同時に飛び、お互いに自身の持っている武器を右から水平に、足元を狙うように体を回しながら振る。

互いの武器がぶつかり、すれ違うようにそのまま進み、俺たちも遠心力に身を任せながらすれ違う。

そして、同時に地面に足をつけた俺たちはすぐさま相手の方を振り向く。距離が離れていたため、俺たちは走って距離を詰める。

距離を詰めると俺は剣を下から上に振り上げ、右から斜めに振り下ろしの順で振り、お面野郎は『斬魔・鳴神』を上から下に振り下ろし、左から水平に振り払いの順で振るう。

一回目の攻撃はお互いの武器がすれ違うようにぶつかり、二回目の攻撃は俺の剣をお面野郎が受け流す形になった。

 

「「・・・・・・」」

 

二回の攻撃が終わり、俺は剣を持った右腕を引き、お面野郎は『斬魔・鳴神』の剣先を向けて、手に持っている右腕を引く。

その瞬間、俺たちを中心に地震のような揺れが起こる。その揺れが終わる瞬間に、俺は剣に黒い炎のようなものを纏わせて上から下に振り下ろし、お面野郎は『斬魔・鳴神』で突きを放つ。

今回の攻撃もすれ違うようにお互いの武器がぶつかり、お面野郎の攻撃は俺の後髪を掠め、俺の攻撃はお面野郎の顔あたりを掠めた。

後少しずれていれば、お面野郎の攻撃が俺の顔面に当たっていたことを考えたら冷や汗が出た。そして、あの時に感じた威圧感の強さが間違いじゃなかったことを確信する。

 

「お面野郎・・・向こうより強くなってやがるじゃねえか・・・。一体何があったんだ?」

 

「其れは私にも解らんな・・・『蒼の少女』が居るならば、話は変わってくるが・・・」

 

俺が率直に訊いてみると、お面野郎は意外なことに解らないらしい。

なら・・・奴の『観測者』は誰だ・・・?そんなことを考えていたら、お面野郎の左腕が飛んできて、俺は反射的に剣の腹で受け止めた。

 

「うおっ!?」

 

「余所見をしている暇があるのか?」

 

「・・・チィッ!」

 

俺は舌打ちしながら飛びのいて距離を取って体制を立て直す。

それを見て、お面野郎は俺を追わず、『斬魔・鳴神』を構え直した。

一泊を置いて、俺の方からお面野郎に向かって走っていく。

 

鵺柳(やなぎ)!」

 

それを見たお面野郎は蒼い方陣を左腕に展開し、その左腕を前に出しながら肉薄する。

お面野郎に当たるタイミングに合わせて、俺は剣を右から斜めに振り下ろす。しかし、それはお面野郎の方陣に当たってそこで止ってしまう。

これはお面野郎のドライブ『斬神』による防御だった。

 

「な・・・!?しまっ・・・」

 

「うおぉぉぉッ!」

 

慌てて体制を整えようとするが、もう遅い。俺はお面野郎の左手に首根っこを掴まれた。

そしてそのまま、お面野郎は俺を地面に投げつける。

 

「グァッ・・・!」

 

背中から思いっきり地面に叩きつけられ、俺は思わず呻き声を上げる。

勢いが強かったのもあって、俺の体は僅かに跳ね、もう一度背中から地面に落ちた。

 

「ってぇな・・・ッ!?」

 

俺が体を起こそうとした時、お面野郎の左足の裏が目の前に見えたので、俺は慌てて体を左に転がしながら避けて起き上がる。

間一髪のところで間に合い、お面野郎が自身の左足で踏んづけた所は軽く地面が抉れる。それを見て、俺はまた冷や汗をかいた。

 

「この野郎ッ!」

 

俺は起き上がってすぐに剣に黒い炎のようなものを纏わせ、それを下から上に振り上げることでデッドスパイクを放つ。

 

「無駄だぞ」

 

「・・・やっぱりダメか・・・」

 

しかし、それはお面野郎が『斬魔・鳴神』を左から水平に地面スレスレで振って斬りはらうことでできる封魔陣に無効化されてしまった。

 

「どうした?貴様らしく無いぞ・・・?」

 

「・・・クソがッ!」

 

流石に本来のように戦えないことは知られている。だが、こういう時に煽られるとヤケになりかけ、俺はどうにか毒づくことで頭が真っ白になるのを防ぐ。

頭を横に振った俺は一度剣をしまい、左腕に黒い炎のようなものを纏わせてお面野郎に突っこんでいく。

それに対して、お面野郎は『斬魔・鳴神』の柄を前に出して突っこんでくる。つまりは紅蓮での対応を選んだ。

それらの攻撃は激しくぶつかり、俺たちは僅かに押し戻される。

 

「ブッ飛ばすッ!」

 

連華(れんか)!」

 

俺は右腕に黒い炎のようなものを纏わせてお面野郎に殴りつける。

対するお面野郎はこの攻撃をドライブによって気を乗せた右足で蹴ることで相殺する。

ここで問題なのは、俺の攻撃はここで終わるのだが、お面野郎にはもう一撃残されていて、今度は気を乗せた左足で俺の胴を蹴り飛ばした。

 

「ぐおぉッ!」

 

「貴様の力は・・・意志は・・・この程度ではあるまい・・・」

 

俺は背中から引きずられるような形で地面に倒れ込む。今の二回だけでも相当苦しいことになっている。

それを知ってか知らずか。または俺を焚き付けるつもりなのか。お面野郎は俺に煽るような形で語りかけてくる。

 

「お面野郎・・・ッ!」

 

お面野郎の狙いが分からない俺は軽く唇を噛みながら起き上がり、右手に剣を逆手の状態で取って構え直す。

 

「だったら・・・!」

 

俺はそのまま猛スピードでお面野郎に肉薄し、剣を上から下に振り下ろす。

お面野郎はその攻撃に対し、『斬魔・鳴神』を上から下に振り下ろすことで受け流して一度後ろに飛びのき、そのままでは俺の剣が届かない位の距離まで離れる。

 

「これでどうだッ!」

 

俺はすかさず左に一回転しながら剣を右から斜めに振り上げ、剣から血のような色をした鋏状の刃を飛ばす。俺がやったのはカーネージシザーだ。

その鋏がお面野郎を縦に切り裂こうとする瞬間に、お面野郎は左腕に紅い方陣を展開して防いだ。

 

「虚空陣・・・」

 

そこからすぐに、お面野郎はまるで居合をするかのように『斬魔・鳴神』を右側に引き、同じ方に腰を回す。

 

「・・・ッ!?」

 

俺はその構えを見て、一つのことを思い出した。

それは、俺がテルミを『スサノオユニット』から引き剝がし、誰もいなくなった『スサノオユニット』に入ったジンが『刻殺しの刀(ヒヒイロカネ)』で俺とテルミを斬る瞬間だ。

 

―全ての者よ、目に焼き付けろ・・・。我が名は・・・

 

「雪風!」

 

―スサノオッ!

 

お面野郎が放つ雪風の動きは、その時のジンの攻撃する動作と完全に一致していた。

ということは、お面野郎の中身(・・・・・・・)は・・・。そこまで考えていたら、お面野郎の構えが終わっていて、もうこっちを斬るために動き出していた。

 

「っ!?うおおぉぉぉッ!?」

 

反応が遅れた俺は慌てて剣で防ぐが、お面野郎の一閃した威力が大きすぎる余りに威力を発揮する殺し切れず、大きく吹っ飛ばされてしまう。

 

「ガァ・・・ッ!ぐぅぅぅ・・・ッ!」

 

鬼蹴(きしゅう)!」

 

俺は剣を地面に突き立て、無理矢理勢いを殺ながらどうにか体制を立て直す。

俺が前を見ると、いつの間にかお面野郎が物凄い速度でこっちに肉薄してきていた。

 

閻魔(えんま)!」

 

「グァ・・・ッ!」

 

お面野郎の左腕が俺の顎に打ち付けられ、俺は軽く宙に浮く。

 

火蛍(ほたる)ッ!」

 

「ぐおぉ・・・ッ!」

 

そこから素早く後ろに回り込んだお面野郎が俺の背に蹴りを当てる。

俺は呻き声を上げながら更に空高くに打ち上げられる。

そして、お面野郎は術式を応用した空中での跳躍をして俺の目の前に回り込んでくる。

 

椿祈(つばき)!」

 

「うおおぉぉぉ・・・ッ!?」

 

お面野郎は一瞬の溜めののち、術式の要領で左に一回転しながら気を乗せた『斬魔・鳴神』を上から下に全力で振り下ろす。

俺は辛うじて剣で受け止めるが、あっさりと弾き飛ばされ、地面に勢い良く叩きつけられてしまった。

 

「グゥッ!・・・っ!?」

 

俺がどうにかして起き上がると、そこには『斬魔・鳴神』を上段に構えているお面野郎がいた。

 

「斬鉄!」

 

「やべぇ・・・ッ!」

 

お面野郎が気を乗せた『斬魔・鳴神』を上から振り下ろし、そこから間髪入れずに俺の足元を狙って左から水平に振るう。

俺はその二つを連続で飛びのくことでどうにかして避ける。しかし、避けきったところでさっきまでのダメージが重なり、俺は思わず右膝をついた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「クソがァ・・・ッ!」

 

「どうした・・・!?何故(なぜ)本気を出さん!?何故(なにゆえ)蒼炎の書(それ)』を使わんッ!?」

 

観客席で見ている他のメンバーから見ても、状況はハクメンが圧倒していた。

そして、ハクメンは一つのことに気が付いて、ラグナが膝を付いているのにも関わらず、攻撃をしていなかった。

 

「これは・・・一方的ですわね・・・」

 

「ああ・・・ラグナは本来の状態を取り戻せてないのに、向こうは以前よりも強くなっている・・・。これでは見方次第では蹂躙とも取れるね・・・」

 

チカの呟きにケイが同意する。

片やラグナは『蒼炎の書』の使用制限、『イデア機関』使用不可能などの厳しい状態。

片やハクメンは特に悪い状況によるなるものはなく、元の世界よりも強くなっている状態。一方的になるのは必然だったのかもしれない。

 

「お姉ちゃん・・・。これ、本当にただの勝負なの・・・?どう見ても本気の戦いだよね・・・?」

 

「お姉ちゃん・・・怖いよ・・・」

 

「ロム・・・ラム・・・」

 

ブランは今回、この二人には「ラグナとハクメンが真剣勝負をする」と言い伝えていたが、戦いの空気に気づいてラムは不安になり、ロムは恐怖を感じていた。

その二人を見て、ブランは言葉を詰まらせるしかなかった。

 

「ハクメンさんは・・・一体何を待っているのでしょうか・・・?」

 

「恐らくは『蒼炎の書(ブレイブルー)』の発動・・・ですね・・・」

 

ミナの質問に、ハクメンが何を指しているかを理解していたイストワールが答えた。

イストワールの推測は、ハクメンは不利だというのにも関わらず、『蒼炎の書』を使わないことに苛立っているのだと考えていた。

だが、その答えは違っていた。

 

「あの世界で、『あの少女(・・・・)』を救うためにその『蒼の魔導書(呪われし力)』を抱えて足掻いた貴様が・・・!

私を退くために『蒼炎の書(その力)』を使わず斃れるなどと・・・!『あの少女』を置いて去ることが貴様の足掻きかッ!?『あの少女』はそれを許しはせんぞッ!」

 

「・・・・・・お面野郎?」

 

ラグナはそこでハクメンの意図を理解し、ミナとイストワールもハクメンの問いかけを理解した。

つまりハクメンは、『黒き獣』になる可能性が足枷となり、本来の世界によるラグナの奮闘がこの世界で見られずに怒りを見せていた。

更にラグナは、今ゲイムギョウ界(この世界)にいない人物に言われたことも思い出した。

 

―絶対にあきらめないで・・・。最後の最後まで『人』として・・・ただの人間(・・・・・)として足掻きなさい。

 

それは、ラグナに『蒼の魔導書(ブレイブルー)』を与えた人物の言葉だった。

ラグナはその言葉通り、最後まで『人』として足掻き続け、ついには自身の妹を救ったのだ。

そして、それは今でも変わらない。ラグナはこれからも『人』として足掻き、『夢に出てきた少女』を見つけるという『約束』を果たす。

 

「そうだ・・・そうだったな・・・何を迷ってたんだろうな俺は・・・」

 

それを思い出したラグナは体に鞭を打って立ち上がる。

立ち上がったラグナの目は先ほどまでの諦めかけていたものから、新たに足掻き、生き残り続けるために戦う強い意思を宿すものになっていた。

 

「俺は最後まで足掻く・・・!そしてッ!皆のところに生きて戻って・・・『あいつ』を見つけ出してやるッ!」

 

「あっ・・・!ダメ・・・!兄さま、止めて・・・!」

 

「ネプギア・・・!?」

 

そしてラグナは剣を地面に突き立ててから、右腕を自分の腕の高さまで持ってきた。それは・・・『蒼炎の書』を起動するための合図だった。

それを見たネプギアの中に宿る少女の魂は表に出て、ラグナに使用を止めてもらいたかったが、その声は届かず、ラグナは起動を始める。

ネプギアの変化に気づいたネプテューヌはそっちを振り向きながら名を呼ぶが、ネプギアはラグナの方へ完全に意識が向いていた。

 

「第666拘束機関開放・・・次元干渉虚数方陣展開!」

 

ラグナは『蒼炎の書』のロックを外し、右腕から蒼い螺旋が出始める。

しかし、その直後にラグナの足元から黒い炎のようなものも出てきていた。それは『イデア機関』無しでの『蒼炎の書』では限界が来ていることを表していた。

 

「ぐ・・・ッ!うおおぉぉぉ・・・ッ!」

 

―あと一回だけでいい!今は足掻くんだッ!ラグナは自分に言い聞かせて無理矢理な制御をする。

それを見ている全員は、ただラグナの無事を祈りながら見守る。

しかし、少女だけは違っていた。

 

「(いや・・・兄さまと離れたくない・・・ッ!でも、私は何ができるの・・・?)」

 

少女は自分のことを必死に助けてくれたラグナを、今度は自分が助けたかった。そのため、今ラグナのためにできることを必死に考える。

助けを待っていた頃の自分。今『ネプギア』として生きている自分。この二つの中にできることことを考える。

そして・・・少女は一つのことを思いついた。

 

「(自分でやる私はいいけど、これをやれば『お姉ちゃん』を巻き込んじゃう・・・)」

 

それはプラネテューヌのシェアを使った荒治療とも呼べるものだった。

しかし、それをやれば自分の姉であるネプテューヌを巻き込んでしまうため、『ネプギア』としての自分に躊躇いが走る。

 

「うおおぉぉぉおおおッ!」

 

「ラグナっ!」

 

「前まであんな事無かったのに・・・一体どうしちゃったわけよ・・・?」

 

「な、何かお手当の手段は無いですかぁ・・・!?」

 

ラグナの必死にこらえてる声が大きくなり、セリカが思わずラグナの名を呼ぶ。

アイエフは嫌な汗をかき、コンパは持参している救急箱で、効果的なものを探し始める。

 

「(そうだね・・・。『お姉ちゃん』には悪いかもしれないけど、迷っていられない・・・!私はもう一度兄さまと心から向き合いたい!)」

 

そして、少女は迷いを捨てることを選んだ。『ネプギア』とネプテューヌには済まないことをしてしまうのは分かる。

しかしそれ以上に、今まで自分を助けてくれたラグナが苦しんでいるところを、見て見ぬふりをしたくなかった。

 

「・・・兄さまっ!」

 

そして、少女はラグナへ自分の考えていた荒治療を決行した。

決行した瞬間、ネプギアの体から紫色の光を放つ玉が現れ、それは一直線にラグナへと飛んで行った。

 

「え・・・っ!?」

 

「兄さま・・・負けないで・・・」

 

「ネプ子!?」

 

「ギアちゃんっ!?大丈夫ですか!?」

 

ラグナの元へと玉が飛んでいくと、ネプテューヌと『ネプギア』の体はすぐに影響が現れる。

二人は突然と力が抜けて倒れそうになり、アイエフとコンパが慌ててそれぞれを支えた。

そして、光の玉がラグナの右腕に吸収され、ラグナに変化が起こる。

まず初めに、ラグナの足元から出ていた黒い炎のようなものは、霧散するように消えていき、その代わりに新しく、ラグナの足元には蒼い螺旋がもう一つ現れていた。

 

『・・・!?』

 

「(・・・此れは・・・莫迦なッ!?そのようなことが有りえるのか・・・!?)」

 

皆はラグナの変化に驚きを隠せないでいる。普段は多少のことで動じないハクメンも驚いているが、皆とは理由が違っていた。

ハクメンは元の世界で、均衡を求める世界が、そのバランスを崩す力に対抗するために生み出した抗体としての力・・・『秩序の力』を持っており、ハクメンの場合は『悪』の気配が分かり、ラグナからは強い『悪』の気配を感じていた。

しかし、その紛れもない『悪』の気配を漂わせていたラグナは、先ほどラグナの元に飛んできた光の玉によって大きく変化した。

 

「(『黒き者』の中に・・・『正義』が融合しただと・・・!?まさか此れは・・・この世界に於いての・・・)」

 

ハクメンが見ていたラグナに宿る『悪』の中に、この世界にある『正義』が入り込み、ラグナの中にある『悪』と相殺を始め、新しい気配を生み出そうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

・・・体が軽い。喰われていくような感じもない・・・何があった?

俺は自身に起きたことへの整理が追いつかないでいた。今体感で分かることとしては、『黒き獣』への進行が逆行したことと、それに伴ってもう少し『蒼炎の書』を使うことができることだ。

何が起きたかはよく解んねえが、もし俺を助けてくれた奴がいるならば、そいつにお礼が言いたい。

さて、いつまでも解んねえことを気にするのは俺らしくもないし、そろそろ行こう。それとお面野郎(あいつ)の中身へご挨拶だ。

 

「『蒼炎の書(ブレイブルー)』・・・起動!」

 

俺が宣言すると、俺の目の前にはいつもより大きな方陣が現れ、足元の螺旋が天に昇っていくような勢いになっていた。

その一瞬が終わり、螺旋と方陣が消えることで『蒼炎の書』は起動を完了し、地面に突き立てていた剣を引き抜き構え直した。

よし・・・。今度こそお面野郎()の本当の名を呼ぼう。

ツバキ=ヤヨイを気に掛け、士官学校のやつらと交流があり、刀を使う男で、落ち着いている時と荒げている時の声音の差が激しく、秩序を大切にするやつ・・・。それは・・・。

 

「オラ、ジンッ!掛かって来いよッ!!」

 

俺は『変わり果てた姿の弟(お面野郎)』に再度宣戦布告をするのだった。




あまり早く投稿出来てないのに凄い強引な感じになってしまったのは否定できません・・・。

CPの相殺演出、CTのラグナ編ストーリーの改造動画を参考にしてみましたが、改造動画を参考にしたら案の定、ハクメンがボコっていく感じになってしまいました・・・。
もう少しラグナの良いところが見たかったと思う方には申し訳ございません。

ちなみに、相殺演出っぽいのは、最初の三人称視点からラグナの視点に戻ってすぐの所になります。

ラグナはJC、6C、5C、ナイトメアエッジ2段目の順で。
ハクメンはJ2C、5C、6C、4Cの順で攻撃をしています。

本来の場合、ラグナのナイトメアエッジ2段目はヘルズファング1段目、ハクメンのJ2Cは2Cになっています。

意外と進行が早いので、ラグナとハクメンの決着は次の話で付いて、その後はこの二人が話し合う機会を作るかもしれません。



さて、2週間位前からブレイブルーの10周年記念サイトが出ていますね。
人気キャラの投票は皆様どうでしょうか?私はラグナにガンガン票を突っ込んでいる次第です(笑)。


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18話 足掻き続ける意志

今回でラグナとハクメンの戦いが終わります。

追記

通算UAが10,000突破。お気に入り登録が140を超えました。この場で感謝の言葉を述べさせていただきます。これから頑張って行こうと思います。


「『黒き者』よ・・・貴様・・・!何故(なぜ)だッ!?」

 

俺に正体を見抜かれたのに動揺しているのか、怒りを見せているのか。その声音はハクメン(お面野郎)とは思えないくらいに荒げていた。

あいつに向かって『ジン』って呼んだ後も、声の出し方とかを聞くとやっぱりジンで合ってたと再認識できる。カグラの場合、平時はいくらか遊びある声音になるのに対して、ジンは遊び等がほとんど無いからだ。

 

「・・・俺が確信を持ったのは、お前が雪風を使った時だ・・・。

あの時の動きは・・・『スサノオユニット』を使ったジンが、『刻殺しの刀(ヒヒイロカネ)』で俺ごとテルミを斬る時と全く持って同じだったからだ・・・。

・・・もしかしたらカグラかもしれねえって考えはあったが・・・ツバキ=ヤヨイを気にかけて、普段から真面目で秩序を大切にするってんなら・・・ジンしかいねえからな」

 

「・・・・・・」

 

俺の答えを聞いて、『お面野郎(ジン=キサラギ)』は体が固まった。

どうやらそこまでハッキリと見抜かれるとは思ってもみなかったらしい。

 

「さて・・・答えんのはもうこの辺でいいだろ・・・。そろそろ第二ラウンドの時間だぜ・・・」

 

俺は剣を握り直し、『お面野郎』を見据える。

ったく・・・。別の事象のジン(あいつ)お面野郎(こんな姿)になってまで『黒き獣(俺とニュー)』を斃して、更に俺を斃そうとしてたのか・・・。

こういうところだけは変に頑固な奴だぜ・・・全く・・・。俺は思わず口元が緩んだ。

 

「オラ、どうした?俺をぶっ殺すんじゃねえのかよ?そのためにわざわざ『スサノオユニット(それ)』を使ってまで戦うのを選んだんだろ?

・・・それとも何か?俺を目の前に躊躇いでも生じたか?『月が落ちる』だの言って泣くか?そんなんだからいつまでも『泣き虫小僧』なんだよテメェは・・・」

 

「ッ・・・!『黒き者』よ・・・!貴様ァァ・・・ッ!」

 

俺が試しに煽って見ると、『お面野郎』は怒りが限界に達し、姿勢を低くして姿を消す。つまりは鬼蹴(きしゅう)だ。

冷静さを欠いたやつの動きは信じられないくらい単調になるか、それとも滅茶苦茶故に読みづらくなるのどちらかだが、技をまともに使えなくなるお面野郎に限って後者はあり得ない。

だからこそ、前者でくると読んだ俺は剣に黒い炎のようなものを纏わせ、左足を強く踏み込んだ。

 

「・・・ゼアッ!」

 

「甘いぜッ!」

 

『お面野郎』は姿を現すと同時に『斬魔・鳴神』を上から下に振り下ろす。間違いなく普通の奴だったら対応できない速度だ。

ただし、俺の読み通り『お面野郎』らしく無い、相当に単調な動きだったので、既に返しの準備は終わっていたのでそれをするだけだった。

俺は体を左へ捻るようにジャンプしながら、黒い炎のようなものを纏わせた剣を右下から振り上げた。やったことはインフェルノディバイダーだ。

 

「何ッ!?」

 

インフェルノディバイダーは『お面野郎』が振っていた『斬魔・鳴神』を弾き、お面野郎ごと上に打ち上げる。

その状況にお面野郎は面食らったような声を上げる。俺はそれを気に止めないようにして、自分の体が回りきるより前に剣をしまい、そこから術式と同じ要領で空中制御をしてお面野郎の顎先を左手で殴る。

 

「吹っ飛べっ!」

 

「グ・・・ッ!」

 

俺は今回、踵落としはせず、右腕によるストレートを『お面野郎』にかましてやった。

流石にお面野郎の反応は早く、左腕を使ってガードをしていた。ただそれでも、空中にいる以上咄嗟に術式の要領で力を入れることは無理だったみたいで、お面野郎はそのまま奥の方へと落ちていく。

俺は無理に追うことはせず、そのまま地面に着地することを選んだ。俺が着地する頃にはお面野郎も体制を立て直し切っていた。

 

「(前よりもずっと動きやすい感じがする・・・マジで何があった?)」

 

俺は急激に良くなった体の動きに疑問を持つ。もし足掻く意思を取り戻したことによる褒美であるならありがたく使わせてもらおう。

・・・俺は諦めねえ。絶対に生きて戻って・・・『あいつ』を見つけ出してやる・・・!決意を固めた俺は剣を引き抜き、再び体を右側に引く。

 

「行くぞおッ!」

 

「良いだろう・・・来い、『黒き者』よ!」

 

俺たちは同時に距離を詰めるべく走り出す。

片方だけだったらそれなりに時間のかかる距離だが、二人共走ってるから距離はすぐに詰まっていく。

 

「うぉりゃあッ!」

 

「ズェアッ!」

 

俺は剣を右から斜めに振り下ろす。それに対して『お面野郎』は『斬魔・鳴神』を左から水平に振ることで受け流す。

そこからすかさず、『お面野郎』は『斬魔・鳴神』を上段に構え直す。それは斬鉄の構えだった。

 

「貰ったぞ・・・!」

 

『お面野郎』は勢い良く『斬魔・鳴神』を振り下ろす。

対する俺は、流された時の勢いを利用して体を左に一度回し、少しだけ距離を取るように体制を立て直す。距離は二歩程度だが、それだけあれば十分だ。

 

「上等だぁ・・・」

 

そして、剣を持ったままだが右腕に黒い炎のようなものを纏わせ、左に一回転するようにジャンプしながら『斬魔・鳴神』を受け流すように右腕で殴りつける。

 

クソガキ(・・・・)がぁッ!」

 

「何・・・!ぐおぉ・・・ッ!」

 

『お面野郎』の二撃目は本来、俺の足元を狙うものだったために修正が効かず、いつも通りの振りになる。

そのおかげで足が地面から離れていた俺には当たらず、その代わりに黒い炎のようなものを纏わせた俺の左足による蹴り上げが『お面野郎』の胴に当たる。

左足の蹴りを食らった『お面野郎』は宙に浮く。そして、『お面野郎』の蹴り付けられた所から紅い球が三つ程出てきて、それが俺の右手の甲に吸収された。

俺は一度着地を済ませてすぐに『お面野郎』の頭上にくるようにジャンプする。

 

「落ちろッ!」

 

「うおぉ・・・!」

 

そして、そこから黒い炎のようなものを纏わせた剣を、左手に普通の持ち方に持ち替えながら振りかぶって一気に振り下ろす。

対する『お面野郎』は咄嗟に体制を立て直し、『斬魔・鳴神』で受け止めるが、俺は構わずに術式の要領で急降下していく。当然のことだが、空中で『鳴神』に剣を押し付けられてる以上お面野郎を逃がすことはなく、地に足がついたと同時に俺は剣を振り抜く。

『お面野郎』の背を地面にぶつけることはできなかったが、それでも『お面野郎』から攻勢をもぎ取ることには成功していた。

 

「貰ったァッ!」

 

「当たらぬぞ・・・!」

 

俺は黒い炎のようなものを纏わせた剣を、右手で逆手に持ち替えながら上から下に振り下ろす。

それを『お面野郎』は後ろへ飛びのいて避けることを選択した。その結果、攻撃は外れて距離が開いたため、俺たちはもう一度距離を詰める。

 

「・・・どうだ!」

 

「・・・チィッ!」

 

この時、俺は剣を振ろうとしたが、『お面野郎』が左手で俺の腹辺りに掌底打ちをしようとしているのが見えた。

 

「食らうかよっ!」

 

「・・・!」

 

反応が間に合った俺は剣を振ることから、咄嗟に左足による回し蹴りに変えた。

『お面野郎』は掌底をしようとしてた左腕でそのまま防ぐことで攻撃をやり過ごす。

 

「マジかよ・・・!?」

 

「油断はいかんぞ・・・」

 

「うおぉ・・・ッ!」

 

俺が回し蹴りから姿勢を戻すと、『お面野郎』は既に右足でミドルキックをし始めていた。

俺は両腕で防ぐが、『スサノオユニット』による蹴りの威力はバカになんねえのもあって、俺は足を引きずるように数歩分後ろに下がる。

 

「・・・やるな・・・『黒き者』よ・・・」

 

「・・・全盛期じゃなくてもやっぱり(つえ)え・・・向こうで全盛期のテメェと戦わなくて良かったわ・・・」

 

暗黒大戦時代に行った時に一瞬だけ見た・・・全盛期のお面野郎は本当にヤバかった。

もし隠れていなかったら瞬殺される未来しかなく、運よく生き残っても瀕死だったはずだ。今と全盛期の二つを知ってるからこそ、敵対してる俺は今の方で良かったと安堵していた。

暗黒大戦時代(あのとき)の俺であった場合は何のために力を使うかが決まりきってない故に、『お面野郎』にあっさり殺されてもおかしくはない。

そもそも今の状態だとしても、全盛期のお面野郎に勝てる気はしない。

だが今は違う。『お面野郎』は全盛期じゃないし、何のために力を使うかが決まっている。

そうであれば後は抗う・・・。絶望を目の前に足掻き続けてそれを払いのけるだけだった。

 

「だが、此の戦いもここまでだ・・・。『黒き者』よ。この(えにし)に幕を引くとしよう」

 

「ああ・・・いい加減これで終わりにしようぜ・・・お面野郎ッ!」

 

俺たちはお互いに数歩ずつ前に出る。それによってお互いの武器が届く距離まで近づいた。今はお面野郎相手に生き残る・・・!

そして、お面野郎は体を右に向けて『斬魔・鳴神』を頭上に掲げる。対する俺は剣を下側に構えた。

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「あっ!二人共気がついたっ!・・・よかったぁ・・・急に倒れるから何かあったかと思ったよ・・・」

 

ラグナが『蒼炎の書(ブレイブルー)』を起動してからしばらくして二人は目を覚ました。

それに気がついたセリカの声を聞いて、アイエフとコンパがそちらを振り向いた。

 

「二人とも大丈夫ですか?どこか痛むところとかは無いですか?」

 

「何か欲しいものとかはある?あるならすぐに取りに行くけど」

 

「えっと・・・私は大丈夫です。心配かけてすみません」

 

「私も今はいいかな・・・それよりも、ラグナはどうなってるの?」

 

振り向くやすぐにアイエフとコンパは二人を気遣う。

二人の回答は遠慮だった。それと同時にネプギアは謝罪をし、ネプテューヌはラグナのことを訊く。

 

「あの様子なら・・・そろそろ決着になるわね」

 

アイエフが答えながらラグナたちの方を見やるのにつられるように、四人もそちらを見やる。

 

「我が宿命に従い・・・貴様を滅する!」

 

「ブラックオンスロートッ!」

 

ハクメンの『斬魔・鳴神』には今まで以上の気が乗っていて、その影響で蒼い風が刃に集まっていた。

それを真っ直ぐに振り下ろすハクメンに対し、ラグナは『蒼炎の書』で自らの身体を瞬間強化した状態で剣を振り上げた。

二つの攻撃が衝突した瞬間、お互いの武器の軌道が僅かに横側へそれ、ハクメンの『斬魔・鳴神』の刃から走った風はラグナの左側を通り過ぎていった。

いよいよこの戦いに決着が付く。それを肌で感じたこの場にいる全員は硬い表情で見守る。

 

「(兄さま・・・私、信じてる。兄さまがもう一度、私を見つけてくれることを・・・)」

 

ただ一人、少女だけは違い、自分の胸の辺りに両手を当て、ラグナがもう一度自分に会いに来ることを信じて目を閉じ、穏やかな顔で祈った。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ブラックザガムッ!」

 

「虚空陣奥義・夢幻(むげん)!」

 

俺は剣を持ち替えながら鎌に変形させ、刃の根元辺りから鎌状の刃を作る。

この時手の甲から蒼い螺旋が出ているが、この螺旋は前回よりも大きくなっていて、更には足元からも蒼い螺旋が発生していた。

対するお面野郎はあの前口上と同じ構えをして、体から溢れ出る気を発した。それと同時に、奴の髪が一瞬扇状に広がる。

これによって、お面野郎の攻撃はしばらくの間、普通の攻撃にも気を乗せられて、本来の気を使う攻撃には気をすぐに乗せられるようになる。更には気の乗る量が増える状態となった。

 

「俺は諦めねえッ!」

 

「消えよ悪夢よッ!」

 

俺は以前と同じように鎌になった剣を右から斜めに振り下ろし、右から斜めに振り上げと最初の二撃を行う。

対するお面野郎は気を乗せて『斬魔・鳴神』を右から水平に、上から下に振り下ろしと二撃を行う。

互いの攻撃がぶつかり合うと、非常に重々しくて大きな音が鳴り、周囲の空気を震えさせる。

 

「絶対に生きて帰るッ!」

 

「終わりにする・・・!」

 

俺は鎌を上から下に振り下ろし、右から斜めに振り下ろしの二撃を行い、お面野郎は『斬魔・鳴神』を下から上に振り上げ、左から水平にと二撃する。

再び同じように攻撃がぶつかった瞬間に重々しく大きな音が鳴り、空気が震える。

 

「『あいつ』を見つける為にもッ!」

 

「我が宿命をッ!」

 

―絶対に諦めねえ・・・!最後まで足掻き続けてやるッ!

更に俺は鎌を右から斜めに振り上げ、上から下に振り下ろしの順で振るう。一方でお面野郎はいつもより威力のある斬鉄を放った。

この時、斬鉄の二撃目は修正を効かせていて、普段通り足元に振るってはおらず、鎌の攻撃を逸らす為に俺の頭近くを狙っていた。

今回も例外なく重々しく大きな音が鳴り、空気が震える。今回だけの相違点としては、俺たちの足元に軽く亀裂が走ったことだ。

 

「ナイトメアレイジ・・・ッ!」

 

「来るか・・・『黒き者』よ・・・!」

 

俺は右腕を引きながら剣を元に戻し、『ソウルイーター』で力を削ごうとしてみる。

お面野郎は紅い方陣を展開した左腕を前に出してタイミングを図りながら、剣を引いたときに使う『ソウルイーター』の力で生命力を吸われないように防御する。

 

「デストラクションッ!」

 

「これで終いにする・・・」

 

お面野郎は『斬魔・鳴神』を寝かせるようにして、両腕を前に突き出す。

それと同時に大型の紅い方陣が目の前に出され、俺の剣による攻撃は方陣に阻まれた。

それは、ブラックオンスロートが結果として無力化されたことを物語っていた。

 

「虚空陣奥義・・・」

 

「・・・まだ終わりじゃねえぞ・・・」

 

お面野郎が動き出す前に、俺は剣を素早く持ち替えながら上から下に振り下ろす。

お面野郎の展開していた方陣をもう一度叩く形になったが、これでも技を知らなきゃ絶対にできなかった。

本来ならば止められたことに困惑しているうちに悪滅を受けて終わっていたからだ。

 

「何・・・!?」

 

「・・・喰われろッ!」

 

咄嗟に動けたことが功を奏し、今度はお面野郎の動きが固まる。

ここまで来れば、後は奴の展開している方陣を打ち破るだけだった。

俺は体を左に一回転させながら剣を右から斜めに振り上げ、普段より巨大な鋏状の刃を飛ばす。

その一撃がお面野郎が展開していた方陣の耐久を削りきり、お面野郎の方陣はバラバラになって崩れ落ちた。

 

「方陣が・・・!?」

 

「貰ったぜッ!」

 

お面野郎は方陣が崩壊したことによって、反動で体制を崩す。

俺はその隙を逃さず、インフェルノディバイダーをお面野郎の胴体に叩き込む。

 

「ぐおぉ・・・ッ!」

 

それによってお面野郎の体は宙へと浮かび上がる。俺は自分の体が正面に向くより早く剣をしまう。

 

「お面野郎・・・これで・・・!」

 

「・・・ッ!」

 

俺は左手でアッパー。右足で踵落としの順で素早く二撃を行う。今回の踵落としに『ソウルイーター』の効果は付けてないため、紅い球は出てこない。

ただそれでも、反応が遅れたお面野郎は二撃ともまともにくらい、踵落としによって地面に急降下していく。

俺は踵落としの後、素早く剣を普通の持ち方で引き抜き、それを両手で持って頭上で振りかぶる。

地面に落ちていくお面野郎は咄嗟の判断で受け身を取って、どうにか頭からの直撃をやり過ごしていた。

しかし、お面野郎はまだ俺の方に目が来ていない。その隙を逃さず、俺は勝負に出るべく急降下する。

 

「俺の勝ちだァッ!」

 

「しまった・・・!うおおおぉぉ・・・ッ!」

 

俺はその急降下している勢いを重ね、お面野郎に向けて剣を上から下に全力で振り下ろす。

気がついたお面野郎は咄嗟に『斬魔・鳴神』で防ぐが、剣の威力に耐えきれず、そのまま一気に吹っ飛ばされていく。

そして、お面野郎は結構な距離を吹っ飛んでから、地面に背を滑らせるもひっくり返り、最終的に前のめりになる形で倒れ込んだ。

俺はそれを見てからお面野郎の方へと歩み寄っていき、起き上がっている途中のお面野郎の眼前に剣を突きつける。

 

「・・・見事だ。『黒き者』よ・・・此度の戦いは貴様の勝ちだ・・・」

 

「・・・・・・」

 

お面野郎は片膝をついた状態で俺に敗北を宣言してきた。俺は何も答えず、そこから少しの間沈黙が走る。

 

「どうした?止めを刺さぬのか・・・?『黒き者』よ、情けは要らぬぞ」

 

「情けも何も・・・俺は『蒼炎の書(この力)』を殺すためには使わねえ。そう決めてるんだ・・・。それに・・・」

 

お面野郎の問いかけに答えながら剣を突きつけるのをやめて、剣をしまいながらみんながいる方を見る。

 

「向こうにいるあいつらはこれ以上・・・俺たちが戦うことを望んでねえ」

 

「・・・・・・」

 

俺の見る方には、お面野郎がいなくなると思ってか、今にも泣き出しそうなロムとラム。俺の言葉を聞いて安心するネプテューヌとセリカ。

死者が出ないことと俺が『黒き獣』にならなかったことが分かって脱力する皆。そして、俺が帰ってきたことに安堵して涙を流すネプギアがいた。

それを見たお面野郎は言葉を失った。

 

「お前ら。もう終わったぞ」

 

『・・・・・・っ!』

 

俺が答えると、ロムとラム。セリカとネプギアがはじかれるようにその場から移動を始めた。

それを見た皆が遅れて移動を始める。後数分せずこっちに来るだろう。

 

「俺とお前が向こうで敵対してたとしても・・・こっちではそんなこと関係ねえ。

俺たちは共にロムとラムをあの時助けるために戦った・・・それだけでも十分なんだよ・・・。特にブランとロムとラム(あの三人)はな・・・」

 

「・・・そうだったか・・・」

 

俺たちはお互いを見据え直す。それに合わせてお面野郎も立ち上がる。

お面野郎は自分が助けた二人を・・・その二人を助けたことによって心を救われた一人を思い出した。

俺が次は何を言おうか迷っていると、いくつかの足音が聞こえたので俺たちはそっちを振り向いた。

そこには皆より一足先早くこっちに来ていたロムとラム。ネプギアとセリカがいた。まだ幼いのもあってか、ロムとラムが幾分か遅れていた。

 

「兄さまぁ・・・っ!」

 

『ネプギア』は俺の胸に飛び込むように抱きついた。俺はそれを優しく抱きしめてやる。

 

「良かった・・・兄さまが帰ってきてくれて・・・良かったよぉ・・・っ」

 

「・・・悪い。心配かけたな・・・。大丈夫。これからもちゃんと帰ってくる。約束だ」

 

「っ・・・兄さま・・・!」

 

俺は『ネプギア』の前で確かに約束をした。どういうことか解んねえが、俺は約束をするとそれを結果的に果たしてるみたいだ。

それがセリカとの約束であれ。ナインとの約束であれ。変わることは無かった。俺のその宣言を聞いた『ネプギア』は俺の胸ですすり泣く。

 

「ラグナが戻ってきて良かった・・・。えっと・・・もうハクメンさんとは戦わないよね・・・?」

 

「ああ・・・もうそんなことはない・・・済まねえなセリカ。心配掛けちまって」

 

「ううん・・・大丈夫。二人がちゃんと帰ってきたから・・・私はそれで十分」

 

セリカにとって、俺とお面野郎はお互いに『黒き獣』から世界を護った存在であり、セリカが大切だと思う人たちだ。

だからこそ、セリカは俺たちがお互いに生きて戦いを終えたことに安堵した。

 

「・・・ハクメンさぁーん・・・っ!」

 

「・・・ハクメンさん・・・っ!」

 

お面野郎の方にはロムとラムが左右からお面野郎に抱きついていた。

二人が小柄だったことと、『スサノオユニット』がかなり重いことが幸いし、お面野郎がボロボロであっても倒れ込むことは無かった。

 

「嫌だよぉ・・・っ!もう戦わないで・・・っ!どっちかしかいられないなんて嫌だぁ・・・っ!」

 

「うん・・・っ!私も嫌だ・・・っ!」

 

「・・・御前たち・・・。私は失念していたようだな・・・。

此の戦いは終わった・・・。私と『黒き者』が死合うことはもう無い」

 

お面野郎は二人の頭を撫でながら俺と戦わないことを誓った。

それを聞いて安心した二人は大粒の涙を流して大泣きする。お面野郎は二人の頭を撫でてやる。

 

「ところでラグナ。あの腕輪・・・いつネプギアちゃんに預けてたの?」

 

「こっちに来る前に、「取りに行くから持っててくれ」って頼んだんだ・・・。なんか、そうでもやらないと帰ってこれない気がしてな・・・」

 

セリカの質問に、俺は自嘲気味に答える。

俺は多分、これから何が起きるか解んねえのに、やり残したことがあると不安になるタイプなんだろうな。

 

「でも・・・例えどんなことがあってもラグナは約束を守る・・・。そうでしょ?」

 

「・・・違いねえな。なんでか知らねえけど、いつの間にか約束を守ってる」

 

多分、セリカ(シスター)に「約束を守らないと女の子に嫌われる」っていうのが効いてるんだろうな。

そのおかげで約束をちゃんと守れるなら、それでいい・・・。それだけはハッキリとそう思えた。

 

「ああ、そうだ・・・。ネプギア、もしよかったらもう少し預かっていてくれないか?」

 

「・・・えっ?ら・・・ラグナさん、大丈夫なんですか!?こんな大事なものを預けっぱなしにして・・・」

 

俺が提案すると案の定ネプギアが慌てながら俺に訊いてきた。ちなみにセリカも目を丸くしていた。

 

「ああ・・・大丈夫。その代わりこれからもちゃんと帰ってくる・・・それでいいか?」

 

「・・・わかりました。でも、その代わりちゃんと帰って来てくださいね?」

 

「ああ・・・約束するよ」

 

「なら・・・ラグナさんを信じて、もう少し預かってますね」

 

俺の提示した条件を聞いてネプギアが訊き返して来たので、俺はそれを肯定した。

すると、ネプギアは笑顔で受け入れてくれた。俺のわがままだってのに、信じるって言ってくれたことは正直に嬉しかった。

 

「お疲れ様。大変だったわね・・・」

 

「ああ・・・。これでどうにかひと段落だ・・・。全く、もうお面野郎とやるのはこりごりだぜ・・・」

 

いつの間にかこっちに来ていたアイエフに労いの言葉をもらい、俺はそれに一言返しながら正直な気持ちを吐露する。どうやら、全員がこっちに降りてきたみてえだ。

こっちの世界に来てまでお面野郎と戦うのはもう勘弁だ・・・。皆に迷惑掛けちまうし、俺たちの事情をこっちまで持ってくんのはどうかと思うしな・・・。

もしテルミとかが来たりしたら止めなきゃいけない。俺が打ったとはいえど、死んだはずのセリカがこっちにいるんだから、いつ来たっておかしくはねえ。

 

「『黒き者』よ・・・其の者は『道化』か?」

 

「・・・『道化』?誰それ?」

 

「ああ・・・前に言ってたお前と声が似てるやつのことだよ・・・。

お面野郎。こいつはアイエフっつって、レイチェルじゃねえよ」

 

「そうか・・・。どうやら、私は勘違いをしていたようだな・・・」

 

お面野郎の言葉にアイエフはもちろん反応した。俺が否定すると、お面野郎は自分の間違いを認めた。

一応、セリカも皆で飯を食ってる時にアイエフをレイチェルだと一瞬間違えたので、今後もこうなる確率は高いだろうな。

 

「・・・ラグナ。もしかしてだけど・・・私もかしら?」

 

「その可能性は否定できねえ・・・むしろ肯定しかない」

 

「・・・!?」

 

ノワールの問いにはマジで肯定しかできなかった。

お面野郎はツバキ=ヤヨイを大分気にかけていたからな。あいつと同じ声をしているノワールに反応しないはずがない。

現にお面野郎は今、ノワールの声を聞いてすぐにそっちを振り向いて硬直している。まあ・・・そうなるよな。俺が『お面野郎(ジン)』なら絶対そうなる。

 

「御前は・・・ツバキ=ヤヨイ・・・なのか・・・?」

 

「いいえ。私はノワール・・・。残念だけど、ツバキ=ヤヨイじゃないわ。

というか・・・そんなにその人と私は似てるの?」

 

お面野郎の途切れ途切れで発する言葉を、ノワールは罪悪感を抱きながら否定する。

ただ、流石に否定するだけにはいかないと思ったノワールはお面野郎に質問をしてみた。

 

「・・・御前の声が・・・彼女と同じだった・・・。故に私は誤解をした」

 

「そうだったのね・・・。なら仕方ないか・・・」

 

お面野郎の言葉が沈み気味だった。恐らくは苦い思い出があったのだろう。

それを察したノワールは深いことを訊こうとはせず、ここで切り上げることにした。

 

「ところでだけど、ラグナ・・・。さっき、ハクメンさんのこと・・・『ジン』って呼んだよね?それって・・・」

 

「ハクメンさん・・・もしかして違う名前なの・・・?」

 

「・・・違うの?」

 

「・・・・・・」

 

セリカの問いを聞いて、皆は『お面野郎』の方を見る。

特にロムとラムは不安そうに訊く。それを見てお面野郎は即座に言葉を詰まらせ、答えることができなかった。

 

「待て待て・・・ここで急かしてもしょうがねえだろ・・・。

それは『お面野郎(そいつ)』が決めることだ。俺たちがとやかく言うことじゃない・・・」

 

その空気に耐えかねた俺は一度空気を変えるべく言葉を発する。

お面野郎は今、『ハクメン』として己の道を貫き続けるか、『ジン=キサラギ』として一度立ち止まるか選べる機会を、俺のあの一言で結果的に得られていた。

だが・・・あいつはこんなことで止まりはしないだろう・・・何となくだが、そう感じた。

 

「私はあの時から、『ジン=キサラギ』の名はとうに捨てている・・・。それを今更拾い直そうとする心算は無い」

 

『お面野郎』の回答はとっくのとうに出ていた。お面野郎はその回答を告げていく。

 

「我が名は『ハクメン』・・・一振りの剣にて、全ての『罪』を刈り取り、『悪』を滅する者なり・・・」

 

『お面野郎』の回答は『ハクメン』として戦い続ける道だった。

恐らくは『ジン=キサラギ』から『ハクメン』へなる時に選んだ道なんだろう・・・。そうであれば、俺たちが変えることはできない。

 

「・・・とは謂うものの、『悪』の一つが『正義の代行者』へと変わったが故に、滅する必要が無くなった者が早くも現れたが・・・」

 

お面野郎はそう言いながら俺を見る。皆はそれにつられるように俺を見た。

 

「・・・俺か?」

 

「その通りだ。『黒き者』・・・いや、『蒼の男(・・・)』、『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』よ」

 

「『蒼の男』か・・・そういやナインも最後はそんな風に俺を呼んでたな・・・」

 

『・・・・・・『蒼の男』?『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』?』

 

ここで、俺へのお面野郎の呼び方が遂に変わった。

その呼ばれ方で、ナインをはじめとする何人かが俺をそう呼んでいることを思い出した。案の定、皆が混乱しているので、後ほど話すとしよう。

 

「ああ・・・それはまた後で話す・・・。

何でもいいけど・・・『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』って呼び方、やっぱり長すぎねえか?こっちの世界じゃ俺は『死神』じゃねえしな・・・なんか別の呼び方はあるか?」

 

「そうだな・・・。ならば、私も『ラグナ』と呼ばせてもらおう。御前のことだ・・・堅苦しい呼び名は苦手であろう?」

 

なるほど・・・それなら納得だ。

確かに、『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』だなんていうあんな長ったらしい呼ばれ方するよりは、その方がいいな。

 

「ああ・・・それで構わねえ。なら、俺も『お面野郎』だなんてめんどい呼び方やめて、普通に『ハクメン』って呼ばせてもらうわ」

 

「そうか・・・ならば、これからは共に志を同じく歩む身だ・・・よろしく頼むぞ。『ラグナ』よ・・・」

 

「おう。こっちこそよろしく頼むぜ、『ハクメン』」

 

俺とお面野郎改めてハクメンは互いに右手で握手を交わした。これは永き戦いの終わりと共に、新しい道の始まりを告げていた。

俺たちの行動を見て、それが分かった皆は穏やかな表情で、俺たちのことを暖かく迎え入れてくれた。

 

「じゃあ・・・二人の戦いも終わったし・・・ハクメンの歓迎会と行きますか」

 

ネプテューヌの言葉に皆は頷いた。やっぱりというか何というか・・・。みんな集まって何かするのが好きなのかもしれない。

・・・アレ?そういやハクメンって飲食できなくねえか?まあ、話すだけでもいいとは思うが・・・こいつらのことだから飯とか大量に用意するんだろうな・・・。

 

「・・・良いのか?仮にも私はラグナと敵対していた身だぞ?」

 

「大丈夫大丈夫。前までのいざこざなんて、食べて飲んで・・・みんなと話せば万事解決だよっ!」

 

(いや)・・・私は飲食出来ぬ身であってだな・・・」

 

ハクメンの問いにネプテューヌはいつもの明るい笑顔を見せながら答える。

「飲んで食べて」の下りを聞いてハクメンは自身のことを説明すべく言葉を発するが・・・。

 

「ハクメンさん行こうよっ!みんなハクメンさんのために用意してくれるからっ!」

 

「・・・行こ♪」

 

「・・・分かった。ならば私も行くとしよう」

 

ロムとラムがハクメンを引っ張りながら誘うもんだから、ハクメンは説明を諦めて頷くしかなかった。

 

「ハクメン・・・貴方、すっかり妹たちに懐かれたわね・・・」

 

「私はただ『悪』を滅しただけなのだがな・・・」

 

ブランが微笑んで話しかけた内容に、ハクメンは呆れ半分で返した。

ハクメン自身、自分の使命に従って行動しただけだから、何とも言えない気分になるのは無理もないよな・・・。

ロムとラムに引っ張られ、流れに任せてついていくハクメンを見て、俺は新しい時間がまた始まったなと感じた。

 

「ラグナ・・・」

 

「ん?どうした?」

 

俺はネプテューヌに声をかけられてそっちを見る。そこには左からネプギア、ネプテューヌ、セリカの順番で三人が並んでいた。

三人の方を振り返ったのを見るや、ネプテューヌが二人の顔を見合わせる。

 

『お帰りなさい。ラグナ(お帰りなさい。ラグナさん)』

 

「ああ・・・ただいま。皆・・・」

 

俺も俺で、生きた心地のしなかった時間がようやく終わり、いつも通りの時間に帰ってこれたのだった。




というわけで、ラグナとハクメンの決着がつきました。

またしても改造動画を参考にした動きが大量に発生しました・・・(汗)。

ハクメンからラグナを呼ぶときは、六英雄の手助けをした『ブラッドエッジ』でも良かったかもしれませんが、『ブラッドエッジ』呼びだと混乱する恐れがあったのでこうさせていただきました。

次回はラグナとハクメンによる一対一の会話が入るかと思います。


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19話 共に前へ

またもや異様に長くなってしまった・・・。

今回、ラグナとハクメンの一対一による会話とは言いましたが、そのための前置きがすげえ長いことになってしまいました・・・(汗)。

今回、あまり語られない部分等に触れるので、独自解釈のタグを追加させていただきます。
この時タグの文字数限界が来たので、CENTRAL FICTIONのタグは外しておきました・・・。
これが物凄い文字数圧迫になっていましたよ・・・(泣)。

追記

この度ライチとアラクネのリクエストを頂きました。
出せるよう努力したいと思います


「じゃあ早速・・・乾杯っ!」

 

『乾杯っ!』

 

時刻はすっかり夜。やると言ったら皆の行動は早く、プラネテューヌの教会でもうハクメンの歓迎会が始まった。

ハクメンが特に反対しなかったのもあって、問題なく開けた。まあ、ロムとラムに悪いと思ったのが大半だろうけど・・・。

 

「しかし・・・こうしてお前とまともにこんな時間を過ごせるとは思っても見なかったよ・・・」

 

「其れは私も同感だ・・・。何せ、今まで戦い続けて来ていたのだからな・・・」

 

俺とハクメンはお互いに率直な感想を述べる。

今まで敵対してたはずの俺たちが、今はこうして団欒できる日が来ていた。

それはこの世界での俺の生き方が影響したのだろうか?それともこいつらが俺に与えてくれたものだろうか?それはわからないが、この新しくできた時間は嬉しいものだと思う。

 

「お二人とも・・・少しお伺いしたいのですがよろしいでしょうか?

先ほどハクメンさんが話していた『蒼の男』と『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』の二つについてなのですが・・・」

 

「ああ・・・そういや後で話すっつってたな・・・」

 

イストワールに聞かれて俺たちは自分たちが出した単語のことを思い出した。

じゃあ早速・・・と行こうと思ったが、ロムとラムがハクメンと話したそうにこっちを見ていた。

 

「・・・ハクメン・・・。俺が話しとくから、お前はあいつらに付き合ってやったらどうだ?」

 

「・・・御前の言いたいことは分かるが、此れは重要なことだ。少し待ってもらうしかあるまい」

 

二人の心境を感じ取って、ハクメンに促して見たが、今回は譲らなかった。

まあ・・・あいつらが二日間ずっと我慢していたのも分かるが、『蒼の男』に関しては大分大事になるからな・・・。

 

「御前たち・・・話が終わったらそちらに行く・・・。暫し待たれよ」

 

「「はーい!」」

 

ハクメンの一言に、二人は元気よく返事をする。その間はブランが二人の相手をするようだ。

ちなみに、この話に参加するのは俺とハクメン、そして教祖たちだ・・・。セリカはこう言った深いところまでは知らない身である為、後々皆に教祖を介して伝えて行く形になる。

肝心な主役が話し込んでしまうのはいかがなものかと思うかもしれないが、先にこっちは済ませておかないといけないことだった。後、こういう時に教祖の皆には手間掛けてすまん。俺は心の中で謝罪した。

 

「さてと・・・まずは簡単な『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』の方から話すか・・・。

俺の着ているコートと、この剣が『ブラッドエッジ』・・・まあ、暗黒大戦の時にいた俺のものだな。

それを使って反逆をしていたら、俺の名である『ラグナ』と『ブラッドエッジ』のコートと剣を使っていたことからついた名なんだ」

 

「そうか・・・過去での君の行動が今の君に繋がった・・・そういうことだね?」

 

「ああ・・・俺の暗黒大戦時代での行動は『ブラッドエッジ』として師匠に伝えられたよ」

 

「そうか・・・『ブラッドエッジ』としての御前の名を最初に知ったのは猫だったのだな」

 

俺の話で『ブラッドエッジ』の由来をハクメンは再確認した。

あの時の俺は、停止時間を作るための答えを見つけた・・・。それが正解なんだろう。それのおかげでセリカが無事なんだ・・・それならそれでいいさ。

レイチェルの提案に乗った俺が暗黒大戦時代に行き、その後師匠に『ブラッドエッジ』として伝えられた。

このコートと剣を受け取った時、俺は「重い」と感じた。師匠にはそれを感じたなら合格とは言われたが、まだ未熟だったな・・・。

そして、その時に渡したコートと剣は今の俺に受け継がれた・・・。それでいいだろ。因果とかそういう話は解んねえ・・・。

 

「ラグナよ・・・もう既に他の者から名を聞いてるかも知れぬが、セリカ=A=マーキュリーに御前の本当の名を、御前自身で伝えておくのだな。

彼女は御前の名を知りたがっていたからな・・・。既に知っていたとしても、御前から伝えると良いだろう」

 

「・・・そうだな。今度、ちゃんと伝えるよ」

 

ハクメンに促され、俺は頷いた。

エンブリオ(あの中)』にいた時も、結局重犯罪者されてるってしか言えてなかったからな・・・。今度こそちゃんと伝えないとな。

 

「さて・・・もう一つは『蒼の男』・・・でしたわね。これはもう一つのアナタの呼び名ですの?」

 

「確かにもう一つの呼び名だ・・・。何でその呼ばれ方してんのかは推測でしか話せねえが・・・『蒼炎の書(ブレイブルー)』が『蒼の魔導書』だった時からごく一部の奴に言われてたから・・・多分、『蒼の魔導書』の所有者ってことだと思う」

 

(いや)・・・それは違うぞ。ラグナ、御前は『蒼の門』を覚えているな?」

 

チカの質問に俺は非常に曖昧な答え方をすると、それをハクメンが否定し、俺に門のことを訊いてきた。

 

「ああ・・・それは覚えているけど・・・それと何か関係あるのか?」

 

「『蒼の男』というのは・・・『蒼の守護者』としての御前を知っている者の呼び名だ・・・」

 

「『蒼の守護者』・・・それと『蒼の門』・・・。なるほど・・・そういうことか・・・」

 

確か前に、『エス』って女の子に『蒼の男』が何だの、真の『蒼の守護者』が何だのって言われてたな・・・。

それが理由だったんだな・・・俺が『完全なる可能性』に至ったからこそ、『蒼の門』を託された・・・そういうことか。

それに・・・俺のことを『蒼の男』だなんて呼ぶのは大抵、ナインやレリウスと言った『理』の外にいる奴らだけだしな・・・。それなら納得だ。

 

「・・・『門』・・・ですか?後、『守護者』というのは・・・」

 

「ん・・・ああ・・・。『蒼』のことからしっかり話すべきだったな・・・」

 

イストワールが混乱してる様子を見て、俺は頭を抱えた。

俺たちの世界による『蒼』のことをしっかり話しておかないと、その『蒼』に関する話はまるで分らないからな・・・。俺は反省した。

 

「そのようだな・・・。ならば『蒼』の事から話そう・・・。『蒼』というのは・・・」

 

ハクメンは教祖たちに『蒼』のことを話す。実のところ、ハクメンとの対決が決まったがのと、『黒き獣』の危険性を考慮した緊急会議もあって、『蒼』のことは今日まで話せていなかった。

確認するが、『蒼』は創造と破壊を司る根源の力・・・俺たちの世界における、あらゆるものの根源であり、『全ての可能性を可能にする力』だ。

それは境界の力が回帰する根源・・・。人の意識、『記憶』の回帰する場所でもある。

また、使いこなせれば全ての事象干渉を退ける『外周因子』にもなるし、世界全部を変えられる程大規模な事象干渉も行える。

そして、『蒼炎の書』を使って、俺はあの世界を去る際に『悪夢』を消し去って、『可能性』という名の希望ある世界を与えた・・・。

 

「『蒼』については以上だ・・・」

 

「・・・『可能性を可能』にか・・・『不可能を可能』にではなく・・・」

 

「ああ・・・例えば、誰かの『病弱を治せる可能性』があったら、それを可能にできるって言った形だ・・・。

逆に、『何の補助も無しに宇宙空間で呼吸できる可能性』がないのであれば、その時はそれを可能にはできない・・・そんな感じだ」

 

ケイの呟きを聞いて俺が答える。上手く説明できた解らねえが、皆が頷いたので、大丈夫なのだろう。

とは言え、これだけでは終わらないのが問題だ。残りは『蒼の門』、『蒼の守護者』だ。

 

「じゃあ、次は『蒼の門』と『蒼の守護者』だな・・・結構面倒なことになるけど、大丈夫か?」

 

俺が訊くと、四人は同時に頷いた。つまりは大丈夫ということだった。

 

「よし・・・じゃあ、話すか・・・『蒼の門』のことだが・・・」

 

俺は『蒼の門』のことについて話し始める。

『蒼の門』・・・それは『蒼』へと至る『境界線』であり、理の外へと至る場所だ。

その門を開けるのは『眼』の力を持つノエルだけ・・・。いや、今は『蒼の門』を託された『蒼の守護者』である俺も開くことができるんだったな・・・。

ただし、そこは認められた者しか入ることができず、『蒼の境界線』に至ったのは俺とテルミだけ。そして、真なる『蒼』を手にしたのは俺一人だった。

 

「一応・・・『蒼の門』についてはこんなところだな・・・。んで、『蒼の守護者』はその『蒼の門』を守るための存在なんだ・・・」

 

「なるほど・・・そうなりますと、ラグナさんが『蒼の守護者』になったのはいつ頃ですか?」

 

「えっと・・・俺が『完全なる可能性』に至った時だから・・・どの辺だ?」

 

ミナの質問には俺ですらタイミングが解らずに混乱してしまう。

少なくともアマネ=ニシキに宣言した後であることは解るんだが・・・。

 

「御前が『あの少女』の片割れを救った時・・・恐らくはそこで認められたのだろうな・・・。

奴を『殺す』ことはできず、さりとて奴を止めるならば『倒す』しかない・・・。誰もがそう思っていたところを御前は『助ける』という方法で止めて見せた・・・。

御前の中にある『可能性』を認めるのであれば、其の行為は十分すぎるからな」

 

「なるほど・・・確かに、それなら納得だ」

 

ハクメンでも推測にしか過ぎないが、俺もそれで納得できた。

確かに、『冥王イザナミ(サヤ)』は『死そのもの』であるから『殺せない』・・・。そして、今までは俺含む全員が止めるためには『殺す・倒す』と言った方法しか思いつかなかった。

だが、『エンブリオ』でナインと約束をした俺は『助けて』止めることを選択し、実際に『冥王イザナミ(サヤ)』を救って見せた。

それならば俺が『可能性を提示した』と判定してもおかしくはない。

 

「・・・ん?ちょっと待てよ・・・」

 

俺は話している最中に一つのことに気がついた。それは『蒼の門』のことだ。

 

「・・・どうかしましたか?」

 

「これは憶測だけど、俺が『蒼の守護者』としてこの世界にいるのなら・・・『蒼の門』があるかもしれねえ・・・」

 

『・・・!?』

 

イストワールの質問に答えた瞬間、四人の教祖は絶句する。

・・・無理もない。もし『蒼の門』があったのなら、この世界にも『蒼』はあるし、ゲイムギョウ界の根源も『蒼』になる・・・。

そうなれば、ゲイムギョウ界で信じられていたモノが実は別物だったって言う緊急事態に陥る。できることならそれは避けたいことだが・・・。

 

「『蒼の守護者』たる御前でも解らないのか?」

 

「憶測でしかねえからな・・・。誰かが誤って辿り着いちまったりしたなら、行けるかもしれねえが・・・」

 

仮にあったとしても、その実例を知らないから何とも言えないが、そいつを追い出す為に呼ばれるだろうことは推測できる。

ただ・・・行き方解んねえのに戻り方解るかと言われたらそんなことは無い・・・。

 

「まあ、とは言ってもあくまでも憶測だからな・・・あったらあったでその時だ。今は考えなくても良いだろ」

 

「ええ。アタクシとしてもその方がいいと思いますわ・・・。今ここで考えたところで、答えは出そうにないもの」

 

俺の言葉にチカが同意する。俺自身、こういう細かかったり、複雑だったりするのを考えるのは苦手だ。

だからあったらあったでその時・・・。俺はそれでいいと思う。

 

「そうですね・・・なら、『門』の方は時間がある時探すとして、無理はしないようにしましょう」

 

「その方がいいね・・・。元々、女神たちには本来の仕事があるんだ・・・それを放棄してまでやることじゃない」

 

「こちらも誘拐騒動から日が浅いので、暫くは無理ができませんからね・・・」

 

「リーンボックスの方も、人手が足りないから他に割くことはできませんものね・・・」

 

イストワールの提案に各国の教祖たちは賛成する。

急なことなのに、探そうと思ってくれただけでもありがたいと思う。

 

「さて・・・話が纏まったところで、今回はここで切り上げましょう。

皆さん、お二人のことを待ち遠しくしていますからね」

 

イストワールが話しながら皆の方を見るので、俺とハクメンもそっちを見る。

すると、ロムとラムを筆頭に何人かが手招きをしているのが見えた。

 

「確かに、俺たちもそろそろ行くべきか・・・。

ああ、最後に一つ確認だが、『蒼炎の書』の侵食ってどうなった?なんか、さっき体が軽くなったんだが・・・」

 

「はい。実はですね・・・」

 

俺が『蒼炎の書』のことを訊くと、イストワールは小さいモニターを二つ出してくれる。

 

「私もプラネテューヌのシェアが使われた痕跡があったので調べて見たんですけど・・・。どうやら、シェアエナジーによって侵食が浄化されたみたいなんです。

他にも、ラグナさんの中に宿ったシェアエナジーは、プラネテューヌでのシェアを基準に、『蒼炎の書』を強化する役割も持っています。

以後の『蒼炎の書』はシェアエナジーで強化できて、侵食に関してはシェアエナジーが相殺するので、外的要因が無い限りは『蒼炎の書』によって『黒き獣』になることは無くなりました。」

 

イストワールが出したモニターの内一つは『蒼炎の書』の侵食率で、今日まで相当ヤバかったはずなのに、今はすっかりゼロになっている。

もう片方のモニターは『蒼炎の書』とシェアエナジーの照らし合わせのものだった。こっちもこっちで、シェアエナジーを貰った分能力の上昇値が増えていた。

 

「なるほど・・・じゃあ、俺は知らねえうちに『ソウルイーター』でシェアエナジーを貰ってたって訳か・・・。

そうなると、ハクメンが俺を『正義の代行者』って呼んだのも・・・」

 

「その通りだ・・・女神たちは此の世界に於いて『正義』を成す・・・。

それならば、女神たちの力の源であるシェアエナジーを授かり・・・女神たちに協力する御前は、正しく『代行者』であろう」

 

「ハハッ・・・それなら確かに俺は協力者であって、『代行者』でもある存在だな」

 

俺が言いかけたところをハクメンが答え、俺はその答えに納得する。

これ以外にも、『ソウルイーター』で何らかのモノを取り込んだって言えば・・・ラムダの『イデア機関』と、『エンブリオ』で『資格者』の『願望(ゆめ)』を喰らってた時だな・・・。

それと同じようなことを、まさかゲイムギョウ界(こっちの世界)に来てまでやるとは・・・。本当に何があるか解ったもんじゃねえな。

 

「ただ、外的要因が気がかりだな・・・。その外的要因って、やっぱり・・・」

 

「『片割れ』だろうな・・・」

 

俺とハクメンの持っていた意見は一致していた。

俺たちの言う『片割れ』の名は『ν-13(ニュー・サーティーン)』・・・。『次元境界接触用素体』の一人であり、サヤを元にして造られたクローン三人の内の一人でもある少女だ。

ニューの目的は俺と融合し、『黒き獣』となって世界を壊すこと。俺の『蒼炎の書』は『黒き獣の躰』であるのに対し、ニューは『黒き獣の心臓』だ。

また、ニュー俺以外に無関心で、俺と殺し合うことも望んでいる・・・。正確には俺と殺し合いをした上で『黒き獣』になることだろうか・・・?

とまあ・・・あの世界でニューと出会った大体の人にとって、共通の認識がこんなところだ。

俺もそうなのかと聞かれたらそれは違う。俺にとってはいろんな奴に利用されるだけ利用されて、自分に残されたのがそれしかないと思ってる・・・。

俺の事だけが全てで、残りは全てが憎いだとか、邪魔だとか・・・そういう風にしか捉えられなくなっちまった・・・とても可哀想な奴だ。

助けることができたかと思えば、最後にテルミに利用されちまったからな・・・。本当に、最後まで救われない奴だった。

 

「・・・『片割れ』?確か、以前にそんなことを言ってたね・・・」

 

「ああ・・・今は気にしなくていい。そいつはゲイムギョウ界(こっち)に来てねえからな・・・」

 

四人が心配したので、ニューがいないことを話すと教祖たちはホッと胸をなでおろす。

ただでさえハクメンと『黒き獣』で騒動があったんだから、これ以上面倒ごとを増やしたくねえよな・・・。

 

「さて・・・じゃあ今度こそ行こうか。何かあったらまたその時に話そう」

 

「はい。それではまたの機会に」

 

短く会話を済ませ、俺とハクメンは今度こそ皆の下に移動する。

 

「遅ーいっ!何を話してたって言うのさぁ?」

 

「悪いな・・・『蒼炎の書(こいつ)』のことと、ハクメンがさっき言ってたことで話し込んでたんだ・・・」

 

「『蒼炎の書(それ)』の侵食は・・・もう大丈夫なの?」

 

ネプテューヌに咎められ、俺は右腕を軽く上げながら詫びる。

そこから立て続けにブランに聞かれて、俺はそれを待っていたのが自分でも自覚せざるを得ないくらいに口元を緩めた。

 

「・・・朗報だ。『蒼炎の書(こいつ)』の侵食はきれいさっぱり無くなってた。

イストワールが言うには、シェアエナジーを貰ったおかげらしい。ついでにそのおかげで強化もできるらしい。おまけに侵食の相殺付きだ」

 

俺がどうなったかを簡単に説明すると、皆の顔が明るくなる。なんだか、随分と待たせてしまった感じがあるのは俺だけだろうか?

 

「ということは・・・『黒き獣』になる可能性も・・・」

 

「ああ・・・。外的要因ってのさえなければもう平気だ・・・」

 

『ラグナっ!(兄さまっ!)』

 

「って、うおぉっ!?」

 

ネプテューヌの問いに俺が「平気」ってところまで言い切った瞬間、『ネプギア』とセリカ。そしてネプテューヌの三人が抱きついてくる。

その勢いに押し負けた俺は頭から思いっきり倒れ込んでしまった。

 

「よかったぁ・・・。兄さまがもう、『黒き獣(あんなもの)』にならないのが分かって・・・本当に・・・」

 

「うんっ!私も、ラグナが勝手にどこか行かないって分かって良かったよ・・・」

 

「こないだの言葉が台無しになった気がしなくも無いけど、ラグナがもう大丈夫と分かれば無問題だよ~っ!」

 

「っててて・・・お前ら、何だって藪から棒に・・・。けど、心配掛けたな・・・もう大丈夫だ」

 

三人がそれぞれ満面の笑みで言うのを見て、俺は頬を緩ませる。

こいつらの笑ってる顔を見ると、最近は帰ってきた感じが増している気がする。

 

「・・・・・・」

 

「あはは・・・ミネルヴァに言われちゃった・・・」

 

「ミネルヴァ・・・今日だけは許して?今度メンテナンスのこと訊いてあげるから」

 

「・・・・・!」

 

ミネルヴァは「落ち着け」みたいなことを言ったのだろうが、ネプギアの「メンテナンス」という言葉に勝てず、高速で頷く。

・・・でも大丈夫か?前にも言ったがココノエ製だぞ?反応兵器が何だのとか言ってたよな?プラネテューヌの技術者頑張れよ・・・。

 

「・・・此の者たちはいつもこうなのか?」

 

「流石にこうまでは行かないわね・・・」

 

「でも・・・いつも仲良し・・・♪」

 

「確かにあの四人の仲もいいけど・・・私たちの方が仲良しだもん!

ね?ロムちゃん、お姉ちゃんっ!」

 

「うん・・・♪仲良し♪」

 

「二人とも・・・」

 

ハクメンの問いにブランが苦笑交じりに答えると、ロムがついでの答えを出す。

すると、今度はラムが対抗馬に出て、ラムの言葉を聞いたロムが笑顔で同意して、ブランは恥ずかしさ交じりに嬉しくなり、二人の頭を撫でる。

 

「御前たち三人も・・・家族と過ごすその時間を大切にすると良い・・・。

その時間は、ラグナと私がもう二度と得ることの出来ぬ・・・幸福な時間だからな・・・」

 

「・・・ええ。失いそうだったものを、みんなが取り返してくれた・・・。だからこそ、私はこの時間を手放さないわ」

 

ブランの表情が優しい笑みに変わり、それにつられる形でロムとラムも満面の笑みになる。

ハクメンの言葉を聞いて俺は一瞬硬直してしまったが、どうにか立て直す。

俺はその大切な時間を一度・・・ハクメンに至っては二度も失ってしまっている・・・。

だからこそ、ブランにはその時間を失ってほしくない・・・。今まで敵対していた俺たちにの中にある・・・確かな同じ想いだった。

 

「あの・・・そっちがいいなら、せっかくだから訊きたいんだけど・・・。ハクメンが言ってたツバキ=ヤヨイって・・・どんな人だったの?」

 

「あっお前らちょっと悪い・・・どうする?これは俺が決めていいものじゃねえし・・・」

 

ノワールは手を上げて恐る恐る訊いてきた。普段な面のあるノワールでも、ハクメンのことを考えたらそこまでがっつりと踏み込むことはできなかった。

俺は一旦押し倒されたまんまだったので三人に降りてもらい、起き上がってハクメンに顔を向ける。

表向きしか知らない俺なんかよりは、長く接していたハクメンが決めた方が良いだろう。

 

「・・・そうだな・・・。ならば、少し話すとしよう。ラグナよ・・・お前も、自分の知る限りのツバキ=ヤヨイを話すと良い」

 

「解った・・・。ならそうさせてもらうよ」

 

ハクメンは少し悩んだのち、話すことを決めた。そして、俺とハクメンでツバキ=ヤヨイのことを話し始める。

俺たちの初対面の印象として、『ハクメン(ジン)』はドのついた箱入り娘。俺にとっては真面目な奴だが融通の効かない奴だった。

俺の場合、既にテルミの策略にハマってたせいなのもあるんだろうけど、とにかく頭が硬かい奴だと感じた。

ただ、幼少の頃に出会った『ハクメン(ジン)』にとっては近い歳の奴と話す機会がなく、どこか寂しそうにしていた少女だったようだ。

俺を始めて見たツバキ=ヤヨイは「俺の存在がジンやノエルを狂わせた」と思い、逆恨みって言うのか八つ当たりって言うのか・・・そんな感情を持っていた。

正直疎ましいと思っていたが、ジンを慕っている気持ちは本当だったから、そこまで言わなくても良いだろうとは思っていた。

また、ハクメンが話して分かったこととして、ハクメンが『ジン=キサラギ』として生きていた時、あいつの秘書はノエルじゃなくてツバキ=ヤヨイだったらしい。

 

「お前の時はノエルじゃなくてあいつだったのか・・・」

 

「・・・奴は優秀で良き者だった・・・」

 

俺の知らないことだったので、素直に驚いた。

同時に、俺と違う事象ではノエルがいない。ニューとの予定調和も避けられない・・・。そんな事象であることを再確認した。

素直に驚く俺とは違い、ハクメンの声音が暗いものに変わっていく。それが何を示唆するか、今の俺達には十分すぎることだった。

その後、俺がカグツチに行くという知らせは、俺と同じ事象にいたジンはノエルから直接情報を受け取ったが、『別のジン(ハクメン)』は別ルートで知ってしまったらしく、結局俺を追ってカグツチへ行くことは変わらなかったらしい。

そして、ハクメンのいた事象では、ツバキ=ヤヨイはニューの攻撃からジンを庇って死んでしまった・・・。

更に追い打ちをかけた事実として、『ハクメン(ジン)』の目の前で俺とニューは窯に落ちる。それを追った『ハクメン(ジン)』は俺たちが『黒き獣』になる瞬間を目撃したことだ。

窯を渡って暗黒大戦時代に飛んだ時、体が動かなくなっていて、『スサノオユニット』にその身を投げてまで戦う道を選んだことで、今に至るのだった。

 

「あっ・・・ごめんなさい。こういう時に訊く話しじゃなかったわね・・・」

 

「否、良い・・・。此れは私の身勝手さが招いた事だ・・・」

 

気を悪くしたノワールは謝り、ハクメンはそれに対して左手を出して平気だと主張する。

その為、ハクメンは『黒き獣』の元の存在である俺とニューを滅することに躍起になっていたのだ。

そして、ハクメンはツバキ=ヤヨイを護れず、教会暮らしの時唯一頼れる存在であった俺を奪われた無力感に苛まれることになった。

 

「じゃあ、それからハクメンさんは今の姿になったんですね・・・」

 

「その通りだ・・・。私がこの姿になり、力を求めたのは己の弱さを認められなかったからだ・・・。

力を求めた理由であれば、確かにラグナに近いものだ」

 

ユニの言葉にハクメンは答え、そこに「最も、力の使い方は大きく違うものになったがな」と付け足す。

確かに俺も、教会で頼れるシスターが殺され、ジンは利用され、サヤを連れていかれた『あの日』ほど無力感を感じたことは無かった。あんな想いをしたくない・・・それはハクメンが『スサノオユニット(このトンでも)』を身に着けてまで戦おうとするのに近い。

使い方が違うというのは、俺の場合が『大事なものを護る』、『助けられる奴を助ける』為にと前を向いて使うのに対し、ハクメンは『己の罪を雪ぎ続ける』、『過去の惨劇を繰り返さない』と何かと後ろを振り返るものだからだろう。

それを聞いた皆は言葉を失った。無理もない・・・ハクメン個人かと思えばジンのもう一つの姿だったのだけでも衝撃は十分だし、更にはその悲惨な過去にも驚きしか無いだろう。

 

「・・・ラグナ。私があの世界で、ラグナと最後の晩に話したこと・・・覚えてる?」

 

「ああ・・・。覚えてる。俺たちの世界を助けて欲しいって言う前に、セリカは自分たちのいた世界が好きだって・・・言ってたな」

 

俺はその話のことを思い返す。

セリカはあの時、ナインにとっては何度も自分を苦しめた世界であっても、セリカにとっては俺たちの時代が来た数だけナインたちが必死に護った世界だった。

だからこそ、セリカは自分の大切な人たちが懸命に生きているあの世界が好きだったんだろう。

多分、セリカは自分の発言とハクメンの過去・・・この二つを照らし合わせたことで、自分の結論が揺らいでしまったんだろう。

 

「でもな・・・セリカ。ハクメンの過去を知ったからって、お前の意見が変わるかって言われたら違うぜ。

あの時、セリカはナインやハクメンが何度も守った世界は自分にとっては誇りだって言ったろ?」

 

「ラグナ・・・でも」

 

「その男の言う通りだ・・・セリカ=A=マーキュリーよ。

御前の持っていた世界に対しての見識を・・・他人の過去一つで変わるものではあるまい」

 

大方推測ができた俺はセリカに言葉を投げる。セリカはまだ食い下がるが、セリカの見識を揺らがせてしまった本人のハクメンが俺の言葉に続きを入れる。

 

「・・・ハクメンさん・・・」

 

「あの世界は、ナインにとっては何度も御前を苦しめる最悪の世界・・・。

私にとってはツバキ=ヤヨイを護れぬ後悔が続く世界で、ラグナにとっては何度も『あの少女』を奪われ、其れを取り戻すために足掻く試練の世界だったとしても・・・。

御前にとっては、大切な人たちが何度も奮闘し、其の者たちの努力の証が確かに存在する誇らしい世界であることは変わりない筈だ・・・」

 

「・・・!」

 

ハクメンの言葉を聞き、セリカは目を丸くする。

確かに、色んな人にとって辛い世界だったかもしれない。だがそれでも、セリカからすれば何度も大切な人たちが皆のために戦い、勝ち続ける世界だった。

 

「ナインや私を含め、暗黒大戦の頃から御前を知る者達に、御前にそう思って欲しいと思う者など居ない・・・。

其れだけは覚えておくのだな・・・」

 

「ハクメンの言う通りだな・・・。

セリカは自分で『辛いことや悲しいこともあったけど、それを無かったことにしたくない』って言ってたの・・・忘れちまったか?」

 

「二人とも・・・。うん。そうだね・・・私が間違ってたみたい」

 

俺たちがセリカに伝えたことが幸いし、セリカは考えが固まる。その表情は晴れやかなものだった。

 

「やっぱり、私はあの世界のことが好き・・・それはこれからも変わらない・・・。

心配させちゃってごめんね。それと、気づかせてくれてありがとう」

 

セリカは俺たちに謝罪とお礼を述べる。

セリカが出した結論は今までと変わらない、自分の大切な人たちが頑張った世界が好きだというものだった。

 

「気にする必要はない・・・。御前に暗い顔は合わぬからな・・・」

 

「そうだな・・・。セリカに何かあって、ナインにぶちのめされたらたまんねえからな・・・」

 

「アハハ・・・確かに、お姉ちゃんならやりそうだよね・・・」

 

ナインのネタを振ったことで、俺たちは三人で笑う。そのネタを知らない皆は啞然とするだけだった。

 

「さて・・・ラグナよ。我らが共に歩むことが決まった以上・・・一対一で話しがしたいだが、構わぬか?」

 

「いいぜ。俺もそうしたいと思ってたところだ・・・。悪いな皆・・・ちょっと席外すわ」

 

「いいけど、早めに帰って来てよ?」

 

ハクメンの提案を呑んで、俺は皆に一言声をかける。するとネプテューヌから一言ご注文が入った。

 

「分かった・・・早めに戻るよ。じゃあ、行くか」

 

俺は二つ返事でそれを受け入れ、ハクメンと共に一度この場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「さて・・・ここならいいだろ。戻るつってもすぐ近くだし」

 

「そうだな・・・。確かに此処なら良いだろう」

 

俺たちが移動した場所は、プラネテューヌの教会の裏庭だった。

裏庭に立ってるデカい木の所まで歩いて、俺はその木に腰をかける。ハクメンも同意して、俺が腰をかけた所の丁度反対側に背中を預ける。

 

「ところで・・・話すっつっても何を話すんだ?」

 

「・・・・・・」

 

俺が早速本題に入ろうとしたが、ハクメンは黙り込んでいた。

 

「・・・どうした?」

 

「・・・兄さん(・・・)。僕は『ジン=キサラギ(・・・・・・・)』として、最後に一度だけゆっくりと話がしたかったんだ・・・」

 

「・・・!?」

 

ハクメンから聞こえる声は普段の低くくぐもった声ではなく、それなりに高く透き通るような声・・・。俺の弟であるジンの声だった。

流石にいきなりだったので、俺は思わず息を飲んでしまう。

 

「最後の一時って奴か・・・」

 

「・・・構わないかい?」

 

「ああ。いいぜ・・・。俺も今だけは、お前の兄貴として話をしよう」

 

「・・・ありがとう。兄さん」

 

『ジン』の頼みを俺は了承した。

今夜で完全に『ハクメン』として生きるための最後の決心をするなら、それに付き合おう・・・。姿が変わっても、俺の弟であることは変わらないからな・・・。

俺の返答を聞いて、『ジン』は俺に一言礼を入れる。

 

「まさか・・・この姿で再び兄さんと呼ぶ日が来るなんて、思いもしなかったよ・・・」

 

「俺もだ・・・まさかその姿からジンの声聞くとは思ってもみなかったな・・・」

 

正直なところ、お互いにすげえ驚いていることだった。

『ジン』はもうそう呼ぶことができないと思っていた事から、俺はまさか『ジン』である頃の声が出るとは思ってなかったからだ。

 

「えっと・・・お前のがその声で話すのってカグツチ以来・・・なんだよな?」

 

「ああ・・・。僕が『ジン=キサラギ』として最後にいたのはカグツチだからね・・・。

・・・正確には、暗黒大戦時代でアルカード家にいた時が最後だけど、あの時はもう体はボロボロだったからね・・・」

 

ということは、『ハクメン』が『ジン=キサラギ』として人と話すのは、実に90ぶりということになる。

それだけの時間、こいつは自分を殺し続けていたんだ・・・。どれだけ辛い道を選んだんだろうか?それは想像するだけでも苦しいものがある。

 

「ノエルがいない時の俺たちって、カグツチで何をしていたか・・・詳しく聞いてもいいか?」

 

「・・・ああ・・・。多分、この事は兄さんには話して置くべきだと・・・僕は思っていたからね」

 

さっき話していたのにも関わらず、再び訊くのは悪いこと承知で俺が聞くと、『ジン』は承諾してくれた。

 

「そうだね・・・カグツチでのことなら・・・ツバキのことを中心に話そう」

 

『ジン』は敢えて自分の首を締める話を選んだ。それだけ大切な人であったことは想像に難くない。

 

「僕がカグツチに行く前は、ツバキが僕の秘書官として傍にいたんだ・・・。十二宗家の者が秘書官にいるのは相当例外的な事だけどね」

 

「そうだったのか・・・」

 

俺の知る限りでの十二宗家なんて、カグラ、ジン、ツバキ=ヤヨイの三人しかいないが、それでも俺の知る頃だと、カグラは衛士の最高司令官。ジンは脱走したとは言え英雄として称えられいる。

・・・ツバキ=ヤヨイは既に強制拘束(マインドイーター)喰らった後だったけど、それでも秘書官ということは無かった。

それを踏まえると、ノエルがいない世界におけるツバキ=ヤヨイは相当特殊な立場なんだろう。

 

「俺の方のジンは、ノエルから直接俺がカグツチに向かっていることを知ったみたいだが・・・お前は違うんだよな?」

 

「ああ・・・。僕の方はツバキから『ラグナ=ザ=ブラッドエッジの捜索』の命令は来ていない。

だけど、さっきも言った通りで結局、別の所で兄さんのことを知ってしまったよ・・・」

 

結局のところ、ジンが俺を追うのは予定調和なのかも知れねえな・・・。ナインがクソッタレって言いたくなるのもよくわかるよ・・・。

何回『ジン』は目の前で大切な人たちを失えばいいんだろうな・・・俺がサヤを連れていかれた時の無力感もそうだ。もう終わったとは言え、やっぱりきついものはある。

 

「その後・・・僕は兄さんに追いついて、カグツチで戦った・・・。僕はその時兄さんに負けたんだけど・・・。

負けた時に、ツバキが僕のところまでたどり着いたんだ・・・。それで、その場には兄さんと兄さんにやられた僕がいたわけなんだけど・・・」

 

ジンは一度ここで前置きを作った。多分、俺の予想を上回る答えが出てくると思う。

 

「ツバキは・・・武器を持っていない非戦闘員であるにも関わらず、兄さんに立ち向かって行ったんだよ・・・。僕を護ろうとしてね」

 

「・・・はぁ!?武器も無しに挑んだ!?」

 

『ジン』から出てきた言葉に俺は焦りしか出てこなかった。仮にも『蒼の魔導書』を使って窯を壊してる奴相手に素手で挑むって・・・。

『ジンを護る』ためと聞いてある種尊敬はするが、馬鹿だとしか言えない。

 

「あいつ・・・大丈夫だったんだよな?」

 

「ああ・・・。兄さんは一度もツバキに攻撃を加えなかったからね・・・。

ツバキに剣を抜けと言われても、兄さんは非武装を理由に剣を抜くどころか、攻撃をせず避けるだけに留めたんだ・・・」

 

「確かに・・・俺も武装してない奴斬ったりすんの嫌だからな・・・」

 

『ジン』の回答に俺は納得する。何でわざわざ非武装の奴を気づ付ける必要があるんだ?テルミじゃねえんだぞ俺は・・・。

 

「武器を持ってないことを理由に兄さんは攻撃をしなかった・・・。

あの時はただツバキに逃げて欲しいと思っていたけど、今ならわかる・・・。兄さんは最初からツバキを見逃すつもりでいたんだ・・・。

気づける人は殆どいないけど・・・それは兄さんの中にある優しさの一つだった・・・。僕はそう思うよ」

 

「・・・そんなもんか?」

 

「そういうものさ」

 

『ジン』にそう言われるものの、俺にはイマイチ実感が湧かなかった。

どの事象にしろ、ジンをぶっ殺すつもりでいたことは変わりねえだろうからな・・・。

だが、実際には俺もジンを見逃した。理由はニューを精錬が終わらねえ内に破壊するためだった。

 

「・・・兄さんに負けた後、そのまま統制機構に戻っていれば良かったのに、僕は兄さんをまた追いかけた・・・。

そこで・・・あの『片割れ』と対面する兄さんを見た・・・」

 

「俺の時は先にノエルがいたが・・・そうか・・・。」

 

ノエルは俺を追っての行動だったが、先にニューと遭遇していて、しかも殺されそうになっていた。

あと一歩遅けりゃ死んでいたと考えると、間に合って良かったと改めて思えた。あいつが死んじまってたら、俺は他の事象と同じく『黒き獣』になっていた。

 

「僕はその中に割って入る形であいつに挑んだけど、簡単にあしらわれたよ・・・。

そして・・・大した障害が無くなったと見るや、奴は兄さんを封じて融合を始めた・・・」

 

『ジン』の声音が落ち着きを無くしだす。この後の結末は聞いたが、『ジン』にとっては辛いことだろう。

 

「ついでと言わんばかりあいつが僕に止めを刺そうとした時・・・ツバキは僕を庇って・・・ッ!

血だらけになったツバキを見て・・・あいつは・・・ッ!」

 

「そうか・・・お前がニューを憎む理由はそこにあったんだな・・・」

 

『ジン』が一気に声を荒げた。その先を言おうとして言葉を詰まらせるその姿は、他の誰にも見せなかった弱さだ。

『ジン』として話している『ハクメン』の背から感じ取るものが・・・俺は異常な威圧感から酷く悲しいものを抱えている感じになる。

こんな話・・・ロムやラムには聞かせいわけないよな・・・。俺も『ハクメン』ならこうしているだろう。

『ジン』や向こうのツバキ=ヤヨイがこうなってしまったのは何故だろう?考えても答えは出ないかも知れないが、俺も一つ・・・謝って置くべきことはあるな。

 

「悪いな・・・ジン。教会で暮らしてた時・・・サヤの相手ばっかりで、お前をほったらかし気味にしちまって・・・。

俺がもう少しお前の相手をしてやれれば・・・『あの日』あんなことにはならなかったのかも知れねえのに・・・」

 

俺が謝るべきことはこれにある。

ルウィーでブランに話した時もそうだが、俺はどこかでジンに教会で構ってやれなかったことを・・・ずっと謝りたかったんだ。

 

「いや・・・兄さんは悪くないよ・・・。

僕が我慢できないのが悪かったんだ・・・。サヤの方が下だし・・・僕は大して病弱でも無かったのに・・・。

そのせいで・・・僕は『ユキアネサ』に飲まれたんだ・・・」

 

「何言ってんだよ・・・。サヤの方が小さいからって言うけど、それでお前が甘えちゃいけない理由も。俺がお前をほったらかしにしていい理由も・・・。

そんなものはどこにもねえんだよ・・・。大体、あの歳でそんなことを頼む方が無茶ぶりなんだからよ・・・。

『ユキアネサ』に飲まれたのだって・・・俺がしっかりしてやれなかったせいだよ・・・」

 

俺の謝罪を聞いた『ジン』は自分の悪いところを挙げるが、俺は更にそれを遮る。

本当に・・・ちゃんと兄貴らしいことをしてやれなかったダメな兄貴だ・・・。俺は自分の情けなさを痛感すると同時に、妹を持つあいつらには俺のようになって欲しくないと願わずにはいられなかった。

『ユキアネサ』のことはこう言うが、そもそも精神の育ち切ってないガキに持たせようと企てた奴に非がある。

 

「本当に悪かったな・・・。兄貴らしいことをしてやれなくて・・・」

 

俺の表情は、ただただ暗くなる。

もう少し上手くやれなかっただろうか?サヤとジン・・・。この二人の喧嘩の時も、俺が仲直りを促したりできなかっただろうか?そんな後悔だけが拡がっていく。

 

「兄さん・・・。兄さんが本当にそう思ってても、僕は兄らしいことをしてもらった覚えはあるよ」

 

「・・・えっ?」

 

俺は『ジン』の言葉を聞いて、思わずそっち側に顔を向けた。

 

「覚えているかな?僕が風邪を引いていたにも関わらず外に出ていた時・・・。僕の熱に気づいて、真っ先に看病してくれたのは兄さんだったよ・・・」

 

「・・・!」

 

―ジンッ!馬鹿!お前、熱があんじゃねーかッ!何で今まで黙ってたんだよ!?

 

俺はその日のことを思い出した。無理してついてきたジンに気づいて大慌てで教会に戻り、ジンの看病に回ったことを・・・。

その日はサヤの相手をシスターに任せて、俺がジンの看病に回った覚えがある。

 

「あの時、僕はちゃんと気にかけて貰えてるって安心できたんだ・・・。

例えそのひと時だったとしても・・・普段サヤのことを気に掛ける兄さんが僕のことを見てくれていた・・・。それだけでも嬉しかったんだ・・・」

 

「ジン・・・」

 

それが『ジン』の紛れもない本心だとわかって、俺は少し安心した。

確かに、サヤと比べたらジンをほったらかしにしていたかもしれない・・・。だがそれでも、本当に僅かな時間でも、兄貴らしいことをしてやれたことはあったんだな・・・。

 

「そういえば兄さん・・・」

 

「どうした?」

 

「ここから見える夜空はいい景色だね・・・」

 

「ああ・・・。そうだな。そういえば、夜の楽しみの一つに・・・夜空を眺めるのがあったな・・・」

 

『ジン』と俺は話をしながら夜空を見上げる。

教会での夜はあまりできることが少なく、シスターと一緒に本を読むこと。皆で教会の近くの外で夜空を見る。

それくらいだったが、俺たちは楽しく過ごして、俺はそんな時間を些細なことではあっても幸福なものだと思っていた。

 

「僕とサヤにはもう一つ・・・兄さんの葉笛が楽しみだったんだ」

 

「・・・アレか・・・」

 

俺は教会で過ごしていた時に、セリカ(シスター)に教わりながらやっていたのが葉笛だった。

最初は全然うまく吹けなかったが、吹けるようになってからはジンとサヤに頼まれて時々吹いていたことを覚えている。

 

「できれば・・・兄さんの葉笛を最後に聴きたい・・・。それが『ジン()』の・・・最後のわがままだ」

 

「・・・いいのか?」

 

俺は『ジン』も頼みを聞いて思わず訊き返した。

しかも最後とまで言ってきやがった・・・本当にそれで良いんだろうか?俺は他に何かないのかと訊こうか迷う。

 

「ああ・・・。それで僕は、『ジン=キサラギ』しての自分に・・・今度こそお別れをするよ・・・。

これからは『ジン=キサラギ(この一時)』の記憶を胸に、『ハクメン』として生きていくよ・・・」

 

「・・・分かった」

 

しかし、『ジン』の決意が本物だったのがわかり、俺は辺りを見回して葉笛に最適そうな葉を探す。

葉笛に最適そうな葉を見つけた俺は葉の一部を切り取って、葉笛の形を作り上げる。

準備はできた・・・後は吹くだけだった。

 

「じゃあ、吹くぞ・・・」

 

俺は呼びかけ一度『ジン』に呼びかける。そして、『ジン』が頷いたのを感じたので、俺は葉笛を吹き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「一対一とは言ったけど・・・何を話すんだろうね?」

 

「恐らくは、今までことを水に流そうとしているのでしょけど・・・セリカちゃんは何かわかりますか?」

 

「うーん・・・。私もそうだと思うけど、何だか違う感じがするの・・・」

 

ラグナたちが一度席を外してから数十分。

ネプテューヌの振った話にベールが推測を立てながらセリカに訊くが、セリカの回答は確証を持てないものだった。

 

「でも・・・本当にそれだけならここまでかかるかしら?」

 

「あの二人は色々と事情が複雑だから・・・長くなってもおかしくはないわね・・・」

 

ノワールの疑問に、ブランは肯定で返した。

ラグナとハクメンの因縁は別の事象からやってきたハクメンが、事情を知らないラグナに戦いを挑んだ事から始まった。

初対面の時、ハクメンにとっては90年以上の因縁の相手ではあるが、ラグナにとってはいきなり現れた自分の命を狙うものにしか過ぎなかった。

その後はテルミ相手や、強制拘束(マインドイーター)を受けていたツバキを前に、意見の食い違いから戦った・・・。

『エンブリオ』では一度決着は後回しとして共に戦うことになったが、自分達とラグナの実力差の変動がおかしいことに気づいて一度対決。

原因が解ったため再び後回しにしていたが、ラグナが元の世界から去った為、決着はこのゲイムギョウ界まで引きずることになったのだ。

そして、決着はついてようやく和解を済ませたため、二人は初めてじっくりと話をする機会を得たのである。

 

「遅いなぁー・・・ねぇねぇユニ。ちょっとだけ見に行ってもいいかな?」

 

「気持ちは分かるけど、流石に今回はダメよ・・・。わざわざここから離れた以上、私たちの前じゃ話しづらいことだし・・・」

 

待つのが億劫に感じたラムはユニに訊いてみるが、ユニは大丈夫とは言わなかった。

 

「でも・・・気になる・・・」

 

「ロムちゃん。後で聞くこともできるから、今は・・・。・・・?」

 

「あっ・・・この吹き方・・・」

 

―今は待とう。そうネプギアが言いかけたところで、笛のような音がそれを遮る。

それは葉を使って吹かれている・・・優し気ある音色だった。

セリカはその笛を吹いているのが誰だかすぐに分かった。

 

「セリカちゃん。何か知ってるの?」

 

「うん・・・これは、私がラグナに教えたものなの・・・」

 

「セリカちゃんが教えたんだ・・・!」

 

ネプテューヌの質問にセリカは答え、ネプテューヌはその答えに驚きながらも納得した。

ここにいる皆はセリカがラグナのシスターであることを知っているため、特別違和感を感じたりはしなかった。

 

「・・・いい曲ね」

 

ユニの呟きに同意するかのように、皆はラグナの葉笛を夢中で聴く。

 

「(また・・・兄さまの葉笛を聴けるなんて思わなかった・・・。

兄さま・・・。今度は、私の前でも吹いてくれるよね・・・?)」

 

葉笛を聴きながら少女は一人、その笛を吹いている兄へと心の中で問いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・こんなんで大丈夫だったか?」

 

「大丈夫だよ・・・。寧ろ、今まで中で一番良かったくらいさ」

 

吹き終わった俺が『ジン』に訊くと、『ジン』は称賛してくれた。『ここにいるジン』を送ってやれたのなら、それで大丈夫だろう。

 

「・・・これで思い残すことはもう無い・・・。

過去の僕(ジン=キサラギ)』としての『記憶』や『思い出』を胸に・・・これからは『ハクメン』として己の『罪』と向き合って、自分の『正義』を貫くよ・・・。

ありがとう兄さん・・・。そして、さようなら・・・」

 

「ああ・・・。さようなら、ジン・・・」

 

『ジン』は最後に別れの挨拶を済ませる。その声音は憑き物が落ちたような声だった。

それに対する俺は、別れを惜しむのが丸わかりになるかもしれないくらい、消え入りそうな声になった。

その挨拶を終えた『ジン』は一度深呼吸をする。

 

「さて・・・ここからは『ハクメン(・・・・)』として話をしよう・・・」

 

そして、『ジン』は『ハクメン』に戻った。いや・・・これは『ジン』という殻を破って新しい道を改めて踏み出したと言うべきかもしれない。

 

ラグナ(・・・)よ・・・。此れはルウィーで話し損ねた事だが・・・。御前の探している少女のことで、私が知っている僅かな情報を伝えよう」

 

「・・・『あいつ』のことか・・・。何を知ってるんだ?」

 

ハクメンが切り出して来た話題に、俺は思わず食いついた。

俺に見つけてくれと頼んできた少女・・・。その情報は是が非でも知りたいものであり、それを知っているならば相手が誰でも、どんなに些細な事でも良かった。

 

「其の少女自身が何処に居るか迄は解らぬが・・・。『少女の魂』の一部を宿している者は、御前の身近に居るぞ・・・。

御前は其の事について・・・心当たりは有るか?」

 

「俺の身近に・・・?・・・!まさか・・・いや、でも・・・」

 

俺はハクメンの回答に面食らった。そして、ハクメンに問いかけられた俺は身近にいる人たちのことを思い出していく。

そこで、一人の候補は絞り出せた。だが、まだ確証を持っていいのかどうかで揺れていた。

 

「まだ確証は持てぬか・・・。だが、まだ焦る必要は無い・・・。御前が確証を持ったのなら、其の者に問いかけると良い」

 

「そうだな・・・。確かに、まだ焦ることじゃねえな・・・」

 

ハクメンに諭されて、俺は一度落ち着くことができた。正直な話、ハクメンが協力的になってくれただけでも相当ありがたいことだ。

 

「ああ・・・それなら、俺からも一つ確認するが・・・。

ハクメンはセリカの体のことで何か知っているか?今の俺は『イデア機関』が死んでるにも関わらず、『蒼炎の書』が機能を失わねえんだ・・・」

 

俺は左手を上げながらハクメンに訊いてみた。

これはゲイムギョウ界でセリカにあってからずっと続いてる俺の疑問だった・・・。セリカと再開してからはこうしたドタバタが続いてたのもあって、俺はイストワールにそのことを話せていなかった。

 

「セリカ=A=マーキュリーの持つ『秩序の力』に変化が訪れたのだろうな・・・。

我らの使っている術式が別の形で使えているのと同じだろう・・・」

 

「そうか・・・確かに、俺の場合はシェアエナジーを応用してるな・・・」

 

この世界に来てから俺は、魔素の代わりに、親和性の高いシェアエナジーを使わせてもらっていた。

だが、俺は『蒼炎の書』が適合しなかった影響で、暫くの間術式が使えなかったことを思い出して、一つのことを思い出した。

 

「そういやハクメン。お前は最初から術式が使えたのか?」

 

「その通りだが・・・どうかしたのか?」

 

ハクメンに訊いてみると、案の定な回答が帰ってきた。

となるとここから先、俺たちの世界から誰かが来ても俺のようになることはないかもしれねえな。俺はそう結論づけた。

 

「俺の場合『蒼炎の書(こいつ)』が適合しなかったから暫く使えなかったんだが・・・。

ひょっとすると、魔素とシェアエナジーって親和性が高いどころ話じゃねえのかも知れねえ・・・」

 

俺は右腕を上げながら俺の身に起きていたことを話し、俺がイストワールに出してもらった結論と、ハクメンが普通に術式を使えた事から俺なりの答えを出した。

 

「・・・成程。御前はそう結論を付けたか。

此処からは私の推測だが・・・。シェアエナジーは、此の世界に於ける魔素なのだと私は憶測している」

 

「この世界での魔素か・・・」

 

俺の『蒼炎の書』についてはイマイチ納得できない物もあるが、ハクメンのことを考えれば確かに納得できることだった。

セリカは例外的に魔法である為、魔素には左右されないから関係なかった。

 

「だが、此の事も確証がある訳ではない・・・。近いうちに、あの司書から話を訊いて置くべきだろう・・・」

 

「ああ・・・そうだな」

 

俺たちの話はあくまで推測の域を出ないため、正確な情報はイストワールに調べてもらう必要がある。それまでこの話の結論は保留にせざるを得ない。

 

「・・・『あいつ』も『蒼の門』もそうだけど・・・この世界で探さなきゃなんねえもんはいくらでもあるみてえだな・・・」

 

「其の通りだな・・・。そして、我らはこれから共に同じ道を進み、同じものを探すことになる・・・」

 

俺は結論を出しながら木に腰を掛けてたのをやめて立ち上がり、ハクメンの居る方へ歩み寄る。

ハクメンも俺に同意しながら木に背を預けるのをやめ、俺の方に向き直る。

 

「改めて・・・これからよろしく頼むぞ。ラグナよ・・・」

 

「ああ・・・。こっちこそよろしく頼むぜ・・・ハクメン」

 

俺たちは改めて短く握手を交わした。さっきも握手はしたのだが、俺たちの間で改めてやっておきたかった。

 

「さて・・・そろそろ戻るか。皆待ってるだろうし」

 

「そうだな・・・。では戻るとしよう」

 

俺たちは来た道を戻り始めた。こうして隣同士で歩くのは今までになかったため、新鮮な気分になる。

 

「そういや、ハクメンはどの国を生活の基点にするか決めたか?」

 

「私はルウィーを基点にしようと思う。

・・・ノワールのことを気にしていないと言えば嘘になるが、其れ以上にあの三人の支えになれれば良いと思ってな・・・。

ブランであれば、話相手にはなれて、あの二人であれば、遊び相手にはなれるだろう・・・」

 

試しに訊いてみたが、ハクメンの心はもう決まっていたみたいだ。

・・・下手すると三人と一緒にいるハクメンが、一風変わった保護者みたいな感じになると思うのは俺だけだろうか?

 

「ルウィーか・・・。あの二人もそうだけど・・・ブランが俺みたいにならないように見てやってくれると、俺的には助かる」

 

「教会での暮らしをしていた頃の御前を参考にさせてもらうが・・・構わんな?」

 

「ああ・・・マジか。まあ・・・それで支えられんならそれでいいか・・・」

 

ハクメンの含みがあるような訊き方に押し負け、俺は諦め気味に受け入れる。

 

「けど、参考にするからにはしっかりと支えてやれよ?」

 

「無論そのつもりだ・・・。『悪』を滅する以外にも、あの三人を支えることに私は全力を尽くそう」

 

俺の脅し半分の問いかけにもハクメンは動じず、自分の決意を述べた。

その決意が本物だとわかり、俺は目の前にいる男がとても頼もしく思えた。

 

「私の事を気にするのは構わんが、御前もあの少女を必ず見つけてやるのだぞ?『蒼の男』よ」

 

「ああ・・・。もちろんだ」

 

ハクメンの言葉に、俺は二つ返事で返した。

そうして、教会の扉が見えたため、俺たちは話を終えて皆の下に戻った。

その後は何を話してたかとかを訊かれながらも、楽しく夜を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・まさか、御前と共に戦うのが此処まで早く来るとはな・・・」

 

「ああ・・・。俺もこんなに早いとは思っても見なかったぜ・・・」

 

あれから三日過ぎた。あれからセリカの体のことを訊いてみたが、解析結果はまだ出ていなかった。

一応、セリカに俺から『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』と言う名を伝えた時、セリカは「やっと本人からその名前を聞けた」と涙目になりながら喜んでいた。

一方で、女神たちからは「自分たちゲイムギョウ界の人々にとっては、『ラグナ』と言う一人の人間だ」と言ってもらえた。そこで俺は呼ばれたら呼ばれたでその時。何事もなければ『一人の人間・ラグナ』として生きることを改めて決めた。

また、プラネテューヌの技術者達の協力により、ミネルヴァのメンテナンス環境が遂に確率された。

このことにはセリカとネプギアを中心に皆で喜んだ。更に二人が言うにはミネルヴァが「体調管理ができるって素晴らしい」とかって言ってたみてえだ。

教祖たちから『蒼』や『蒼の門』のことが皆に伝えられ、最初こそ皆は驚いたが、結局仲間の為だと言ってなるべく探す時間を作ってくれるそうだ。

そして、今日はその昼過ぎ・・・ラステイションに出向いていた俺はハクメンと合流した。

そこからギルドでクエストを受けて、プラネテューヌとラステイションの間にある草原地帯にて二体のエンシェントドラゴンと対峙していた。

 

「『白き守護神』か・・・絵面的にはピッタリだな」

 

「私はあの者たちを支えながら『悪』を滅していただけなのだがな・・・」

 

ハクメンはこの短期間で、ルウィーの女神を支える『白き守護神』として称えられていた。

このことをハクメンは飽きれ気味に返すが、それでもゲイムギョウ界にとっては頼もしい女神の協力者が一人増えたと言う、とても喜ばしい出来事だった。

 

「さて・・・私はこの後あの三人とルウィーを回る約束をしているのでな・・・。早いところ始めるぞ」

 

「分かった。俺もプラネテューヌのメンバーと飯食いに行く予定あるし・・・さっさと終わらせるか」

 

ハクメンはルウィーの地理を完全に覚える為だろう。それと同時に四人で出掛ければ万事解決ってことか。

俺も俺で、皆にせっかくだから食べに行こうと誘われていた。そこで俺がとある中華飯店の名前を上げたら皆がそこにすると言ったので、今夜の飯はそこに決まった。

とまあ、そうやって楽しい話を上げても遅れてしまったら世話ないので、ハクメンの早く終わらせることには俺も同意する。

そして、ハクメンは『斬魔・鳴神』を抜き放って腰の高さまで持ってくる。

俺は剣はまだ抜かず、右腕を腕の高さまで持ってきた。

 

「我は『空』・・・我は『鋼』・・・我は『刃』!」

 

「第666拘束機関開放・・・次元干渉虚数方陣展開!」

 

ハクメンはいつもの前口上をしながら気を溜め、俺は右腕のロックを外していく。

ハクメンが言葉を紡ぐ度に大地は揺れ、俺の右腕と足元からは蒼い螺旋が現れる。

それを前に、二体のエンシェントドラゴンが硬直して俺たちを覗き込む。

 

「我は一振りの剣にて、全ての『罪』を刈り取り・・・『悪』を滅する!」

 

「『蒼炎の書(ブレイブルー)』・・・起動!」

 

ハクメンを中心とした大地の揺れが終わると同時に、ハクメンから気が溢れ、ハクメンの髪が扇状に広がる。

俺の右腕から蒼い方陣が現れ、足元の螺旋は天に昇っていく。

ただでさえ硬直していたエンシェントドラゴンどもは、この光景を目の当たりに動揺をしていた。

そして、前口上が終わったハクメンは『斬魔・鳴神』を牙突で構え、俺は右手で剣を引き抜き、逆手持ちの状態で右腕を引いた。

 

「我が名は『ハクメン』・・・推して参るッ!」

 

「覚悟しろよ・・・このトカゲ野郎がッ!」

 

俺たちは同時にエンシェントドラゴンへと向かって行った。

その後、二体のエンシェントドラゴンをものの10分もせずに倒したことがギルドに伝わり、俺たちがギルドに戻るや否、それを知っている人たちが呆然と俺たちを見たりしていた。




エンシェントドラゴンは投げ捨てるもの(暴論)。もう何かある度にエンシェントドラゴンをボン投げよう・・・。そんな思考が付き始めています(笑)。

前回あそこで切ったら今回のようなことになってしまいました・・・。
一対一の会話って言ったのに半分近くは歓迎会で使ってしまっています・・・。
更には一対一の会話とは言ってもハクメンとして話す部分が少なすぎるせいで、タイトル詐欺ならぬ予告詐欺で本当に申し訳ございません(泣)。
そして『蒼の門』とかになると何度も設定確認する羽目になる・・・(泣)。

ちなみに、言いそびれた事ですが、ラグナの銀の腕輪に関しては、ラグナのプロフィールにて大切な物に銀の腕輪と書かれていたので、そちらを拾いました。
葉笛に関してはアニメ版8話を見て使おうと思いました。どっちも特に経緯が書かれて無かったので、独自設定となりますね。

なお、風邪のことに関するネタはリミックスハート三巻目にて、ツバキに看病を受けているジンの回想です。

ハクメンの滞在先は迷った結果ルウィーを選びました。
ラステイションの方も中の人的にどうだろうかという提案もありましたが、ルウィーのメンバーとの方が関わりが良かったことと、「ロムやラムと一緒にいればハクメンもシュールな絵面でギャグパート参加できるんじゃねえか?」と言う極めてアホ臭い思考にて決定しました。
ラステイションを提案してくれた方には申し訳ございません。

さてさて、ブレイブルーのタッグバトルの方にて新キャラが発表されましたね。
今回は全員ブレイブルー枠。テイガー、マコト、ニュー、Esの四人でした。
マコトも出たことですし、ツバキにも参戦してほしいと思う次第です。
使うキャラはラグナで一人確定なんですけど、もう一人は悩みどころです・・・。

さて、次回から3話・・・と行きたいのですが、その前に一度マジェコンヌたちに焦点を当てた話を書こうと思います。


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20話 狂気の人形師、蘇る悪夢の欠片

マキオン貸切やって、帰ってきてから急いで書いてたらいつの間にか日が回っていました。
今日がノエルの誕生日なので、日を合わせたと考えればまあ・・・。って感じなのでしょうか?

今回は予告通りマジェコンヌ達の回ですが、最初に少しだけラグナが出ます。


ハクメンとの対決の騒動から実に一週間。一応は普段通りの生活に戻れていた。

今現在、俺はパソコンを使って最近のニュースを見ているのだが、ハクメンが一太刀でフェンリルを切り捨てる姿が目撃されている記事や、ネプテューヌが最新ゲーム買って喜んでいる記事などがあった。

前者はハクメンの実力に驚嘆しているようで、見出しに『ルウィーの白き守護神、フェンリルを一太刀で断つ』と書かれていた。

ブランはこのことについて「ハクメンにシェアを盗られそうで不安だ」と言ってはいたものの、妹たちに時間を割けるようになったのはありがたいとも言っていた。

・・・ネプテューヌと違ってそれなりにしっかりと仕事をしてるから巻き返しが大変そうである。一応、ハクメンも「私ではなく女神に礼を言うと良い」とは言ってるらしい。

一方、後者についてはネプテューヌがカメラを見るや、サラッと買ったゲームの宣伝をしていた。女神に宣伝されるって結構すげえ事だな・・・俺はそんな風に思っていた。

ちなみに、こっちの記事は『ネプテューヌ様、最新ゲームを買うためゲーム店へ突撃』であった。

 

「(おいおい・・・女神のプライベートってこんなあっさりと公開されていいのか?)」

 

俺は後者の記事を見ながら苦笑する。

女神のプライベートが公開される時というのは、本人がどうしてもという時だったり、これなら別段問題ないと言った時に時々出てくるくらいなのだが、ネプテューヌは特別多かった。

しかも本人が気にしてないため、その記事の残る期間が他国より長かったりするのはザラだった。・・・それでいいのかプラネテューヌ・・・?こんな感じではあるが、常に一定数の信仰者が確保できてる辺り、一部の人たちには根強い人気があるみてえだ。それが分かって少しホッとする。

そして、その後は天気予報と何か面白そうな番組があるかをチェックして、ニュースを見るのを終えてパソコンの電源を切った。この後はアイエフに勧められて以来、度々行っているバイクの教習所に授業を受けに出かけるつもりだ。大分ハイペースでやっていたので、もう少しで終わる。・・・試験に落ちなければだが。

俺がコートに袖を通したところで、右腕から蒼い炎みたいなのが出てきた。

 

「・・・またこれか・・・」

 

これが出てきたときは、右腕に重みを感じるだけで、誰かがいるならそっちに向けて引っ張るような感覚で示してくれる。

セリカが治療しても、結局自然経過で治る以上、治療は効果がないと見ていいだろう。

そして、いつものように蒼い炎のようなものは消える。その後は何かしらの影響が暫くの間あるのだが、今回は不思議なことに何も無かった。

 

「(何も無い・・・?妙だな・・・後で近くを回ってみるか・・・)」

 

俺は普段と違うことで首を傾げたが、直ぐに割り切って教習所に移動を始めることにした。

しかし、その後誰かを見つけたりすることはできなかった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

世界を渡った先にて、一人の男が立っていた。薄紫のマントと、目元を覆う金色の仮面が特徴的な男だった。

男はまず初めに周りを確認した。自分の居る場所がどこかの街で、その裏通りだということが分かった。

ちなみに、その街は工業的な雰囲気を醸し出していた。

 

「・・・『境界』を渡る際に興味を惹かれて此処へと来たが・・・成程。此れは面白い場所へ来たな・・・」

 

男は自分の行った行動によってたどり着いた場所を見てほくそ笑む。男から発せられる声は低く、落ち着きのあるものだった。

この男は、自身の目に映るあらゆるものを『情報』として捉えるようになっており、来たばかりであるこの世界にある『情報』を僅かに知る。

―ゲイムギョウ界。そのゲイムギョウ界で各国を治める女神達。何故か此の世界に居る『蒼の男』。そして、その『蒼の男』を導いたであろう存在・・・。

それらの情報は、男の中にある尽きぬ知識欲へと刺激を与えた。

 

「ふむ・・・あの世界で情報は十分集めたかと思ってはいたが・・・此れは興味深いな・・・」

 

男は仮面のズレを直しながら口元を緩めた。来てみた価値はある・・・そう男は判断した。

早速情報収集・・・と行きたいところだったが、この世界が他の世界と比べて大分勝手が違うことに気がついた男は、大丈夫だろうとは思うが念のため一度左手を肩の高さまで上げる。

 

「イグニス」

 

そして、男は何らかの名を呟きながら左指でぱちんと音を鳴らす。

その音に呼応するように、男の背後に円状の空間が現れ、そこから一体の女性的なシルエットをした自動人形が現れた。

この自動人形の名が『波動兵機(デトネイター)・イグニス』である。彼が行う、イグニスが問題なく動くかどうかの確認である。

そのため、男は早速、この世界でのイグニスを『観察』する。

 

「・・・ふむ。動きや仕掛けに異常は見られない・・・。そうであるならば好都合だ」

 

観察によって得られた結果に満足した男はイグニスに背を向けてから、もう一度左手を方の高さまで上げ、指で音を鳴らした。

すると、その場にいたイグニスは空間の中へと帰っていき、円状の空間が消えるとそこには何も残っていなかった。

 

「さて・・・此の世界での新たな『検証』と『研究』を始めるとしよう。此の世界には・・・面白いものが山ほど有る」

 

仮面の裏に狂気的な欲を宿した男は自身の知識欲を満たすべく行動を始める。

街の中心に出ると、最初の数分こそ周りに注目されたが、彼は気にすることもなく、知識欲の赴くままに足を運んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「さて・・・大分集まっては来たが・・・。貴様の体を戻すことに関して・・・そろそろ方法を確立させんとな・・・」

 

プラネテューヌの森林地帯にて、マジェコンヌたちは3つ目のアンチクリスタルを回収し終え、最後の一つを探す準備すべく移動を始めていた。

アンチクリスタルを回収する事は確かに順調なのだが、テルミの体に関しては一切進んでいない状態でいた。

マジェコンヌは自分の知っている方法を試してみたが、それらはことごとく失敗に終わっていた。そのため、マジェコンヌの悩みの種となっていた。

 

「無理にやらなくてもいいんじゃないっちゅかね?元々、オイラたちだけでやる予定だったっちゅし」

 

「ネズミお前・・・ラグナちゃんとハクメンちゃんいるのによくそんなこと言えたなぁ・・・」

 

「うぅ・・・」

 

ネズミの発言を聞いてテルミが釘を刺すと、ネズミは言葉を詰まらせた。

テルミは実際に両者と対峙したことがあるため、言葉の説得力は十分にあった。

 

「テルミの言う通りだな・・・。

女神だけであれば問題は無かったのだが、奴らが混ざると策を破られるやもしれんからな・・・。テルミの体は戻しておきたい」

 

マジェコンヌが考案している策というのは、アンチクリスタルで作った空間に女神たちを封じ込めるものだ。

女神たちだけが相手ならば何も問題は無く、ラグナ一人が増えてても自分で対応すれば問題ないと考えていたが、ハクメンまで増えるとそうも行かないので、安全のためにもテルミの体は戻しておきたかった。

 

「そうは言うっちゅけどね・・・オバハンの思いついた方法は全部失敗してるっちゅよ?」

 

「それを言うな・・・考えればまだいくらでも案は出せる。それと、オバハンは止めろと何度も言ってるだろ」

 

ネズミの言葉が刺さり、マジェコンヌは一瞬だけ弱った言葉を吐いた。

だが、諦めているという訳ではなく、その意を伝えながらネズミの発言に突っ込む余裕はあった。

それと同時に、マジェコンヌは一つのことに気がつく。本来ならばこの辺りで、「なんだ?テメェが弱音吐くなんて珍しいじゃねえか」などと言いそうなテルミが特に何も言わなかったことだ。

 

「テルミ、どうかしたか?」

 

「ああ・・・。ちょっと待っててくれや。この『観測()』られているような感じ・・・。もしかするとな・・・」

 

マジェコンヌが訊いてみると、テルミは何者かの気配を感じているようだった。

 

「・・・マジェコンヌ。俺が今から言う方に寄り道してもらってもいいか?」

 

「構わんが・・・何を思いついたんだ?」

 

「俺の感じている気配が知り合いの奴かも知れねえ・・・だからそこに行って確認してえんだ」

 

「なるほど・・・知り合いか・・・」

 

テルミの回答を訊いたマジェコンヌは一度考え込んだ。

知り合いだとしても味方だとは限らない。だが、テルミから行こうと言う以上、完全に敵だと決めるのは早すぎるのではないか?

 

「分かった。ならば行くとしよう」

 

「悪いねえ・・・助かるわ」

 

もし、敵だったのであれば最悪逃げに徹すれば問題は無い。そう考えたマジェコンヌはテルミの案に乗ることにした。

テルミ自身も、自分の予想が合っていれば体のことを協力してもらえるかも知れないと踏んでいた。対価として、その人物の目的を手伝うことになるが。

 

「・・・大丈夫っちゅか?またヤバそうな奴の予感しかしないっちゅが・・・」

 

「ああ・・・良く分かったなぁネズミ。

俺の予想通りだと、真っ先にテメェがそいつの実験体にされるかもな・・・。喋れるネズミとかあいつの格好の餌だろうからなぁ・・・ケヒヒ」

 

「じ、実験体!?餌!?お・・・オバハン。やっぱり止めるっちゅよ・・・!」

 

テルミはその人物像を頭で描きながら、ジョークでも言うかのように嫌らしい嗤い方をする。

それを訊いたネズミは急激に体が震え上がる。

 

「よせ、テルミ。話が進まなくなる・・・」

 

「・・・へへっ。ワリいワリい」

 

マジェコンヌに咎められ、テルミは大分雑に謝る。それを聞いたマジェコンヌは軽くため息をついた。

 

「だが・・・実際に体のことで行き詰ってるのも事実だ。会いに行く価値はあるだろう?」

 

「・・・解ったっちゅよ」

 

マジェコンヌに再度問われて、ネズミは遂に折れた。

元々マジェコンヌの雇われとしているネズミはあまり意見を押し通すことが出来ず、結局は最後に諦めるというパターンが定着し始めている。

更に、この二人の間に同志として入ってきたテルミも押しが強く、このパターンを確立させてきていた。

 

「それで?どこへ向かえばいいんだ?」

 

「おう。それじゃあ言うぜ・・・。今から行ってほしい場所は・・・」

 

マジェコンヌの問いにテルミは答え、一行はその場へ向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

男は情報を集めるべく様々な場所へ向かおうと判断し、別の場所国へと向かうことにした。

先程の工業的な雰囲気をしていた場所がラステイションと言う名の国と解ったことと、残った三カ国にいくためにはこの国を確実に渡る必要があることも判明した。

三つの国の内、船を使う以上、今の金銭が使えないであろうリーンボックスは真っ先に除外。異世界でいきなり悪環境に片足を突っ込むのは時期早々だと考えルウィーは後回し。

ラステイションは比較的『普通な情報』が多かったために、大まかな情報は得られていた。そのため、彼は残った一つの国、プラネテューヌへと向かおうとしていた。

これには肝心な女神の情報や、女神の持つ『魂の形』などを調べたかったが、ラステイションの女神は情報の管理も滞りなく行っていたため、付け入る為にはわざわざ出向かなければならない状況を作る必要がある以上、あまりにも非効率だった。

そのため、男は早々に情報収集を切り上げて他国に向かい始めたのだった。現在はプラネテューヌとラステイションの間にある森林地帯を歩いている。

 

「さて・・・次はどのようなモノが『観測』れるか・・・」

 

男は歩きながらも、今目の前に『観測』える情報を集める。

それと同時に、次の国で得られるであろう情報に期待せずにはいられずほくそ笑む。

男の口元が緩んでから数瞬、男には知らないようで知っているという奇妙な情報が現れた。

 

「ほう・・・此れは興味深いな」

 

それに気づいた男は口元を緩める。男の呟きが消えると同時に、物陰から魔女のような女性と巨大なネズミが現れた。

彼自身、この二者に興味はある。だがそれ以上に興味深い状態にいる者がいたのだ。

 

「おお!レリウスじゃねえか!やっぱり俺様の予想は当たってたぜ!」

 

「・・・ほう。そこにテルミが居るのか・・・。中々面白い状態になっているな・・・」

 

赤い光を放つ小さな石の中にいる碧黒い精神体、ユウキ=テルミは男・・・レリウス=クローバーを確認して喜びの声を上げる。

レリウス自身も、最も興味深い状態のテルミを見てほくそ笑む。

 

「うわぁ・・・ヤバそうな奴の予感しかしないっちゅよ・・・」

 

「ほう?貴様は中々に面白い存在だな・・・今度じっくりとデータを取りたいところだ・・・」

 

「ぢゅぢゅーっ!?ね、狙われたっちゅよーっ!?」

 

「自業自得だな・・・。ああでも、テメェが弄り回される光景も中々見ものじゃねえの?ケヒヒ」

 

「見てないで助けて欲しいっちゅよ!」

 

「俺様はアンチクリスタルの中だから動けねえぜ?あ~あ。残念でしたー」

 

ネズミが喋ったことに反応してレリウスが顔を覗き込ませると、ネズミは体を震え上がらせる。

テルミが軽口を叩くとネズミは咎めるが、テルミはネズミの揚げ足を取り、棒読み気味に煽る。

 

「・・・一度そこまでだ。話が進まん・・・。

レリウスと言ったか・・・早速で済まないが、こいつの体を戻す方法が解ったりするか?」

 

「ふむ。では少々見せてもらおうか」

 

女性がテルミたちを咎め、こちらに詫びを入れながら申し出てきたので、レリウスは渡された赤い石を手に取って、そこから集められる『情報の解析』を始めた。

 

「成程・・・。だが、今の状態では不足しているな」

 

「どうだ?なんか解ったか?」

 

「確かにお前の体を用意する手立てはある・・・が、今の私では情報が不足している」

 

テルミの問いにレリウスは結論を出した。

確かに、レリウスはテルミが行動するための肉体を用意する技術を持っている。

だがしかし、この世界での情報は殆ど何もないため、その方法を実行できない状態でいた。

それもその筈。レリウスはゲイムギョウ界に来たばかりである以上、この世界での知識などが殆どない状態でいた。

 

「ならば、その情報は私が補おう」

 

「・・・構わんのか?」

 

「ああ。条件として、女神どもの打倒に協力してもらうが」

 

「良いだろう。私としても、女神のデータは欲しいところでな」

 

マジェコンヌの出した条件が、自分に取って非常に好都合なレリウスは迷わず承諾した。

ここに、マジェコンヌ一行に新たに一人加わるのだった。

 

「ならば早速、場所を変えようか。詳しい話はそこでしよう」

 

「了解した」

 

マジェコンヌが先導する形で、一行はこの場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わってラステイションから少し離れた所にある廃工場。

この工場は武力によるシェアの取り合いが禁止になる前は頻繫に使われていた兵器開発所で、和平を結んだ後は軍縮やそれらの開発抑制に従い、使われなくなってしまった場所である。

マジェコンヌたちはここを都合よく根城にしていたのだ。

 

「・・・成程。女神と此の世界の繋がりはそのようになっているのか・・・」

 

マジェコンヌの話を聞いたレリウスは顎に手を当てながら頷く。

レリウスがマジェコンヌから知ることの出来た情報は、女神と女神の持つシェアエナジーの仕組み。それに伴って、この世界での一般人の状態も大まかに把握できた。

 

「どうだ?それだけあればできそうか?」

 

「確かに、情報はこれで十分だ。人のことに関しては特にな・・・。だが、何かしらのサンプルは欲しいな・・・人でなくとも構わん」

 

マジェコンヌの問いに対してレリウスは肯定はするものの、確実を求める声を示した。

本来の世界であるならばマジェコンヌからの情報も無しに始めることはできたが、この世界は勝手が違うために、迂闊な真似は慎みたかった。

レリウスが「テルミも動きに支障があると困るだろう?」と問いかけると、テルミは即座に肯定した。

 

「ならば決まりだ。私は早速サンプルを取りに行く」

 

「それはいいが・・・手伝いも無しに平気なのか?」

 

「ああ。その必要はない」

 

レリウスは身を翻して歩き出したところをマジェコンヌに声をかけられたので、一度足を止めて左手を肩の高さまで上げ、指で音を鳴らす。

すると、レリウスの背後に円状の空間が現れ、そこからイグニスが現れた。

 

「私にはイグニス(これ)がある」

 

そう言ってレリウスはそのまま歩き去っていく。妙に説得力を感じたマジェコンヌはそれを止めたりはしなかった。

 

「ああ・・・ここに広いスペースある場所ってどっかあるか?」

 

「どうだったか・・・ネズミ、覚えてるか?」

 

「いくつかデカい部屋はあるっちゅよ。それもエンシェントドラゴンが数体入っても平気なくらいの」

 

「それが聞けて良かったぜ・・・。・・・さてと。確か術式はシェアエナジーを代用することで使えるが、今の状態だとこっちだな・・・」

 

レリウスの意図を察したテルミが2人に訊くと、ネズミから知らせのいい回答が帰ってきた。

それを聞いたテルミはレリウスに伝えるべく、元の世界でも使えた方法で通信を試みる。

 

「何をするつもりだ?」

 

「まあまあ見てなって。今からレリウスにこの事を伝えんのよ」

 

マジェコンヌの問いに答えながら、テルミはレリウスと通信を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「さて・・・サンプルに使えそうなモノは・・・」

 

先程の廃工場から少し離れた草原地帯で、レリウスはマジェコンヌに聞いたモンスター(研究のサンプル)を探していた。

目の前に数多くいえうモンスターの内、自分の実験に長く耐えられそうなモンスターを探すべく、レリウスは目の前を見渡した。

中々見当たらず探し続けているところで、術式と同じ方法で通信が送られてきた。この世界ではシェアエナジーを代用して術式が使えることを聞いていたレリウスは普通に応じることにした。

 

「・・・私だ」

 

「いきなりワリいなレリウス・・・。

あいつらにテメェが研究で十分に使える大きさの部屋確保してもらったから、その連絡をさせてもらったぜ」

 

連絡の主はテルミであった。

本来、アンチクリスタルはシェアエナジーの能力を封じてしまうのだが、テルミはアンチクリスタルを一時的に自身の力に変換することによって、それを強引に解決していた。

ただし、これはアンチクリスタルの中にいる間の緊急的な措置である為、体が戻ればこの手段を使うことはなくなり、この方法での通信可能時間は極めて短いという短所がある。

そして、レリウスの方へとやって来る足音が聞こえ、レリウスはそちらを見やる。そこにはエンシェントドラゴンが一体やってきていた。

 

「そうか・・・。ならば、早速回収にかかるとしよう。あの二名には騒音に気を付けろと伝えてくれ」

 

「了解だ。じゃあまたな」

 

短く交信を済ませた二人は同じタイミングで通話を終了する。そして、エンシェントドラゴンが雄叫びを上げるのに対して、レリウスは動じる様子もなく、右手を前に出す。

 

「バル・テュース」

 

レリウスの言葉を聞いたイグニスが背後から現れ、自身の両手を鎌状の刃に変形させてエンシェントドラゴンに迫り、踊るように三度斬る。

突然現れた存在と、その存在にいきなり斬られたことにより、エンシェントドラゴンは少なからず動揺する。これには、イグニスの攻撃が予想以上にダメージが入ったことも起因する。

 

「成程。モンスターとは言えど、本能的な部分は動物に近いのだな」

 

レリウスが考察をしている内に、イグニスは両手を元の状態に戻してレリウスの背後に戻ってくる。

この反応だけでも十分かと言えば、レリウスにとってはそうでもない。

 

「だが・・・まだ足りないな。耐久や体の構造・・・これらを把握しておく必要がある」

 

―もっと検証結果が欲しい。元よりモンスターを一体捕獲するつもりでいたレリウスは、エンシェントドラゴン(実験体候補)を確実に回収することを選んだ。

仮面の影響で目元の表情はわからないが、口元を緩め、狂気的な笑みを感じさせていた。

レリウスの状態に本能的な恐怖を感じたエンシェントドラゴンは、排除せねばという焦燥感に駆られて右腕をレリウスに突き出す。

 

「成程。付き合ってくれるか・・・ならば」

 

レリウスは素早く左手でマントをつまみ、自身の左側を隠す。その足元には円状の特殊な空間が表れていた。

 

「イド・ロイガー!」

 

そして、レリウスの背後に体を回せば手が届く所にレバーのついた歯車が現れる。

レリウスが右側に体を回し、右手でレバーを引くと、レリウスの眼前から巨大な機械でできた腕がエンシェントドラゴンへ向けて飛び出す。

その攻撃はエンシェントドラゴンの右腕を見事に押し返し、エンシェントドラゴンは一歩後ろに下がりながら動揺する。

訳が分からないと怒りを露わにしたエンシェントドラゴンはレリウスを踏みつけようと前に歩き出す。

 

「・・・モンスターと言えど、所詮は動物と言うことか。もう少し付き合えるものだと思っていたが・・・下らない」

 

―戦いによる『観察』は終わりだ。そう決めたレリウスは行動に移る。

 

「アルター・オブ・ジ・パペット!」

 

レリウスは一度左手を前に出してから右腕を左から斜めに振ってイグニスに指示を出す。

その合図を確認したイグニスはエンシェントドラゴンの腹を左手で鷲掴みにする。

この時、イグニスの左手からは相手の動きを封じる為の特殊な波動が発せられており、それによってエンシェントドラゴンは脱出ができないでいた。

 

「では、行くとしようか・・・」

 

レリウスは笑みを浮かべたまま転移魔法を使い、エンシェントドラゴン(研究サンプル)を持ったイグニスと共に廃工場へ戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「戻ったぞ」

 

「戻ったか・・・。しかし、何を使って戻って来たんだ?」

 

「転移魔法だ。私たちの世界では廃れてしまったものだが・・・幸い、私は使えるのでな」

 

レリウスは戻って来るや早々、マジェコンヌに問われたので答える。

テルミやレリウスがいた世界では、魔法と科学を融合させて生まれた力である術式が普及しており、科学は残っているものの、魔法は殆ど廃れてしまっていた。

ただし、レリウスは魔法が使われていた時代からラグナ達のいた時代へと、境界を渡ってきたため、魔法に適性があり、魔法を取得していたレリウスは現在も魔法を使える。

 

「それで?用意してある部屋は?」

 

「すぐそっちっちゅよ」

 

「・・・感謝する。さて、先程も言った通りだが、騒音には耐えてもらうぞ」

 

レリウスの問いにネズミが答えたので、レリウスはネズミに礼を言って、もう一度注意を促した。

 

「なあレリウス。俺の体・・・後どんくらいで用意できそうなんだ?」

 

「・・・実験がどれくらいで終わるかだが・・・。実験が終わってからなら、二日もあれば終わるだろう」

 

「二日か・・・意外と早えな」

 

レリウスはエンシェントドラゴンを掴んでいるままのイグニスを見ながら答える。その答えを聞けたテルミは顔を緩める。

 

「そう言えばオバハン。計画の実行まで後一週間切ってた筈っちゅよね?」

 

「ああ。あと四日だったな・・・レリウス、済まんが三日以内で終わらせられるか?」

 

「可能だが・・・その理由は?」

 

ネズミが確認すると、マジェコンヌは日程を詰め詰めで入れていたことを再認識し、レリウスに詫びながら問うと、レリウスは理由を訪ねてきた。

 

「女神どもがその四日後に、リーンボックスに集まってパーティーを行うという情報を手に入れてな・・・。

そこで私たちは女神打倒の計画を実行に移すつもりでいる。釣り餌で使うモンスターたちは用意してあるから、女神どもと共に居る『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』とハクメンの妨害を想定すると、テルミの力は必要でな・・・。

また、リーンボックスは海を渡る都合上、遅くともその日の昼には着いていたいのでな」

 

「成程・・・その件は了解した。では、早速取り掛かるとしよう」

 

マジェコンヌは理由を説明した。

現在、アンチクリスタルは三つあり、残りはリーンボックスにある一つで全てのアンチクリスタルが集まる。

現状はテルミの体をどうにかするために後回しにしていたところで、最悪を想定してリーンボックスのアンチクリスタルは当日の昼に取る予定だったのだ。

それを聞いたレリウスは転移魔法で用意された部屋に入る。

 

「さて・・・実験の時間だ」

 

「あ~あ・・・ご愁傷様だなぁアイツ・・・。ケヒヒ」

 

レリウスが狂気的な笑みこぼしながら実験を始めると、エンシェントドラゴンの絶叫が響き渡った。部屋のドアを閉めているにも関わらずである。

その絶叫を聞いたテルミは思わず笑ってしまう。マジェコンヌとネズミは思わず耳を一瞬だけ塞いだ。

 

「そういえばよ・・・女神たちがパーティーやるってんだから、なんかイベントとかあんのか?」

 

「ああ。午前中に着けば、ゲイムギョウ界のトップアイドルのライブを見れるぞ。

まあ・・・私としてはどうでもいいがな」

 

「へぇ・・・ライブなんて良い趣味してんじゃねえか。バレねえようにコッソリ聴きに行くかね」

 

テルミの質問にマジェコンヌは呆れ半分に答えるが、聞いたテルミ自身は楽しそうな反応を示す。テルミはライブが好きだという意外な一面であった。

 

「・・・本当にバレるなよ?」

 

「大丈夫だって。俺様がそんなヘマするかよ」

 

マジェコンヌが釘を刺すように言うと、テルミは軽く答えた。

マジェコンヌ自身、テルミをそこまで疑っているわけではないのだが、念には念を入れておきたかったのである。

 

「ああ・・・流石にここにずっといるのは応えるっちゅ・・・。オイラ、今のうちに仮眠を取ってくるっちゅよ」

 

「確かに応えてもおかしくはないな・・・良いだろう。今のうちに休んでおけ」

 

「すまんっちゅね・・・」

 

こうして会話している間にもエンシェントドラゴンの絶叫は弱まりつつも響いており、頭を痛めてしまったネズミは計画当日に支障をきたさない為にも仮眠をしようと思った。

幸いにもマジェコンヌから許可を取れたネズミは、一言詫びを入れてからそそくさとこの場を後にした。

 

「さて・・・計画の最終調整をする。テルミ、お前にも確認してもらうぞ」

 

「はいはい。体をもらえるまでの辛抱だからな・・・付き合うぜ」

 

以外にもマジェコンヌの計画には協力的で、特に反抗などをしていないテルミは今回もすんなりと従った。

これには体のこととラグナにリベンジを手伝ってもらう代わりに、マジェコンヌの女神打倒に協力することを自ら進んで言い出したことも起因していた。

そして、マジェコンヌ一行は計画のために準備を急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「出来上がったぞ」

 

レリウスが実験を始めてから三日後の夕方。

レリウスは黄色が基調のフード付きのコートが目深にかぶせられていて、コートの中から見える制服を着崩している男性の姿をしたモノを持ってきていた。

 

「おおっ!それあん時のまんまの見た目じゃねえかっ!気が利くなぁレリウスは」

 

それを見たテルミは気分が良くなり、思わず一人ではしゃぐように声を上げた。

それは、『エンブリオ』でテルミがハザマから離れて活動している時と同じ姿をしていたからだ。

 

「本当にこの短期間で完成させるとは・・・感謝するぞ」

 

「礼には及ばん・・・。私としても、新たな研究が出来たので対価は払えている」

 

マジェコンヌは素直に礼を言う。それに対して、レリウスは自身の条件に見合ったことを話した。

 

「さて・・・それではテルミを此の体に定着させるとしよう。

マジェコンヌ、テルミが入っているアンチクリスタルを貸してくれ」

 

「分かった」

 

「ここでやんのか?」

 

「ああ。イグニスを使って、お前の精神を此の体に移動させる」

 

「マジかよ・・・あんま痛くねえといいけどなぁ・・・」

 

レリウスに促されたマジェコンヌはレリウスにテルミがいるアンチクリスタルを渡した。

テルミの問いに、レリウスは肯定で返した。それを聞いたテルミは引きつったような声を出した。

 

「・・・安心しろ。痛みがあるとしても、長くはない」

 

「え?あ、おい・・・長くないってどれくらいだよ?」

 

「・・・時間が惜しい。始めるぞ」

 

レリウスの答えに嫌な予感がしたテルミはもう一度聞くが、レリウスはそれに答えず左手を高く上げる。

合図を確認したイグニスはアンチクリスタルに左手をかざす。すると、少しづつテルミの体がアンチクリスタルから引き出されていく。

 

「痛え痛えっ!マジ痛え・・・!ヒャーハハハハハッ!」

 

「わ、笑ってるっちゅ・・・」

 

テルミは痛みの余りに笑って必死に誤魔化す。その光景を見たネズミとマジェコンヌは啞然としてその光景を見ていた。

ある程度以上テルミの体がアンチクリスタルから出てきたので、イグニスは引き抜きを続けながら、新しい体にテルミを入れ始める。

 

「オイオイ冗談じゃねえってコレ・・・!ヒヒヒ・・・ケヒヒヒヒ・・・!」

 

テルミが新しい体に入りだして、今度は新しい体の方からテルミの笑い声が聞こえだす。

その時、新しい体の口が三日月状に開いている為、非常に不気味な光景を醸し出しており、ネズミは頭を抱えながら震えていた。

そして、そこから数分してテルミは新しい体の中に完全に入り込んだ。

 

「ふぅ・・・死ぬかと思ったわぁ・・・」

 

「ふむ。問題なく体には入り込めたようだな」

 

テルミは率直な感想を述べながら体を軽く動かす。

前と同じ感覚で動けることがわかり、テルミはレリウスの技術に改めて感心するのだった。

大丈夫だと解った為、テルミは自分に用意された武器を確認する。

以前と同じくバタフライナイフが二つ程用意されていたので、テルミはそれの内一つを左手に持って、軽く放り上げて取るを何度か繰り返す。

それが終わり、今度は自身が持っている事象兵器(アークエネミー)蛇双(じゃそう)・ウロボロスを確認する。

このウロボロスは蛇の頭がついた鎖の形をしていた。テルミはそれを手元に発生させた異空間から取り出すことで、問題なく使えることを確認した。

 

「・・・よし。問題ねえな。大分待たせちまったなぁマジェコンヌ。これで俺様も戦えるぜ」

 

「・・・フッ。それは頼もしい。では、時間も惜しいし、そろそろ行くとしようか」

 

テルミの宣告は計画が最終段階に移行したことを示していた。それを聞いたマジェコンヌはここにいる全員に移動を促した。

 

「おうよ。

・・・って、ああそうだ・・・レリウス。体のメンテはどんくらいにするんだ?」

 

「此の世界はまだわからないことが多いが・・・。元からある技術で作ったことも踏まえれば、一週間を目安で構わんだろう」

 

「意外と長えな・・・まあ、俺様としては都合がいいがな」

 

テルミがレリウスに問うと、予想より良い回答が帰ってきたため、テルミは思わず笑みを浮かべた。

テルミの体の目つきが悪いことと、口元が三日月状に開いていることから、どこか残虐的なものを思わせた。

 

「待ってろよ・・・ラグナちゃん・・・。俺様がもう一度絶望って奴を与えてやるぜ・・・!ヒヒッ」

 

そして、「ヒャァッハッハッハァッ!」とテルミの笑いが廃工場で響き渡るのだった。




予想通りかもしれませんが、レリウスの登場となります。
今回、術式通信はすげえ強引な感じになってしまいました・・・。
そしてまたもや犠牲になるエンシェントドラゴン・・・。私はあと何回エンシェントドラゴンを犠牲にすれば良いのでしょうか・・・?
後は段々と倒し方やら何やらが雑になってきているような・・・。

ちなみに、ラグナのバイク関連の下りは3話でアイエフがバイク使って現場に向かっていたのを見た時に、ハクメンが走ってバイクと並走するのは違和感ないけど、ラグナはちょっと無茶あるなぁ・・・と個人的に思ったからです。

次回からアニメ3話に入ります。また、次回が今年最後の投稿になります。


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21話 再会を望む魂

今回からアニメ3話分に入り、今年最後の投稿となります。

今回、アニメ本編に入るまでの前置きが長いかと思います。


どこかの大きな木の下で、金色の髪に、綺麗なエメラルドグリーンの瞳をした幼い少女は持ってきていた絵本を読んでいる。

少女は元々病弱で、何かと風邪をよく引いたりしていたが、今日は体の調子が良かったため、少女と血の繋がっている二人の兄と一緒に外へ出ることができていた。

少女の周りには草原。更にその奥には森が広がっており、その草原が作る坂道で、二人の兄は仲良く話をしていた。

その二人の兄の内、上の方はラグナとよく似ており、彼の両目を綺麗なエメラルドグリーンにして、白く染まっていた髪を金髪にし、ある程度幼い姿にすると丁度こうなるだろう。

下の方の兄と共々、物心ついたころから両親がいなかった。少女たちは、上の兄に頼ることしかできなかったため、二人は必然的に上の兄に絶対的な信頼を寄せていた。

 

―こっちにおいで。■■―。

 

そろそろシスターの待っている教会に帰る時間になったので、上の兄は左手を大きく振りながら少女を呼んだ。

 

―はい。兄さま・・・。

 

少女は返事をして絵本を読むのをやめ、二人の方へ向かう。

―今日は三人で外に出かけられて良かった・・・帰り道に少女はそれを嬉しく思いながら帰り道を歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・っ!?」

 

夢の中で見知らぬ光景を見たネプギアは目を覚ましながら慌ててベッドから起き上がる。

そのまま部屋に置かれてある鏡で自分の顔を見ると、紫色の髪に十字コントローラーを形どった髪飾りを付けている。いつもの自分の姿が見えたのでネプギアは安堵する。

 

「今の・・・何だったんだろう?」

 

『夢』というよりは、自分の中にある『もう一つの思い出』・・・そう捉えた方がいいのかもしれない。

そう考えたところで、ネプギアには幾つかの疑問が引っかかる。

 

「でも・・・どうしてお姉ちゃんがいないんだろ?それに・・・」

 

夢の中で、自分はラグナとよく似た少年を『兄さま』と呼んだ・・・。その事実がネプギアに混乱を招かせた。

ネプギアはゲイムギョウ界で、女神候補生としてこの世界での生を受けた時。目の前にいたのは自分の誕生を歓迎するイストワールと、自分の姉であるネプテューヌだった。

そして、その後様々な人と出会ったり、話したりはしたのだが、ネプギアの生きてきた道の中に、夢に出てきていた少年の姿は一度も見たことがない。

だが、ネプギアはその夢をただの夢だとは思えなかった。

まるでもう一人の自分(・・・・・・・)が持っている幸せな時間という記憶が映し出されたのだろう。

そこまでは概ね解ったのだが、夢の中に出てきたので少女のことはわからなかった。

ネプギアは特に病弱だと言うわけではなく、健康な方だった。

他にも、その少女の身内に姉はおらず、代わりに兄が二人のいると言う状態になっていた。

それはネプギア自身の記憶ではないが、ネプギアはこれを自分の見ていた夢であり、自分の中にある記憶の一つだと認識していた。

 

「・・・どういうことなの・・・?」

 

自分の知らない、自分の中にある記憶・・・そう認識したことで、ネプギアは一種の恐怖を感じた。

以前から、『自分の中にいる少女』に交代させられることが度々あった。

その時は記憶が一切無いのだが、今回は寝ている間だけ交代させられた感じはない。それでも今までは今回のように知らぬ夢を見るようなケースは無かった。

本来であれば夢は夢で片すことができたのだが、自身の中にいる少女を意識してしまっている以上、簡単に片づけられなかった。

―自分が同じ姿のまま違う誰かになってしまうかもしれない・・・。それがネプギアの中にある恐怖感だった。

その恐怖を感じた瞬間、再び意識を交代させられ、一時的に現実から自分の意識を引き離される・・・筈だったが、今回は意識がしっかりと残っている。しかし、自分の思うように体が動かせないのは同じだった。

 

「兄さま・・・。早く・・・早く私を見つけて・・・」

 

そして、ネプギアの中に宿る少女が表に現れ、ラグナに祈るように願うのだった。

ネプギアはこれがもう一人の少女の言葉であることは十分に分かっていることだった。

だが、それと同時に自分も願っていることだと認識していた。それがネプギアに更なる混乱を呼んだ。

 

「(わからない・・・。お姉ちゃん。ラグナさん・・・。私はどうすればいいの?)」

 

少女がラグナに願う中、ネプギアも心の中で2人に問いかけるが、自室にいる以上それに答える者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

リーンボックスへ向かうために俺たちは船に乗っている。ちなみに時間は大分早めだ。

和平を結んだ記念として、今日はリーンボックスでホームパーティーをするのだが、まず初めに5pb.のライブを見てからになるみたいだ。

 

「ふあぁ・・・。やっぱり朝はキツイぜ・・・」

 

「あはは・・・ラグナ、相変わらず朝に弱いね。教会の時もそうだったよね」

 

「毎回調子出ねえんだよなあ・・・朝って」

 

俺が欠伸をしながら愚痴をこぼすと、セリカが笑いながら俺のことを弄る。隣にはしっかりミネルヴァもいる。

今俺たちはベール以外フルメンバーで船に乗っている。その中で、比較的朝に弱い俺はこうして欠伸がまだ出ているのだった。

俺以外にも、無理に早起きしたせいで眠気の取れなかったロムとラムは船内にある食堂で寝ている。ブランは二人の面倒を見ているので、この三人は外で景色を見ながら・・・という訳ではない。

一応、この船は始発であるため、人は少ない。だからこそ、ロムとラムが食堂で寝ていてもスペースを占領している・・・だなんて言われる心配がない。・・・ハクメン?あいつはみんなと少し離れた場所で外を眺めてるよ。

ロムとラムが寝ているってことを考えたら、またデカい欠伸をした。どうやら朝への弱さは治ってないらしい。

 

「ラグナ。まだ時間もあるし、ラグナも休んで来たら?」

 

「そうしたいけど・・・ミネルヴァだけで大丈夫か?」

 

セリカが笑いながら俺に提案してくるが、俺はそれを即答で受け入れる訳には行かなかった。

理由は兎にも角にも、セリカの方向音痴が原因で、ミネルヴァがセリカの意思を抑え込めるかどうかという極めて博打に近いことをする羽目になるからだ。

 

「ええーっ?船の中だから、流石に大丈夫だと思うよ?」

 

「・・・お前は今までの自分の行動を振り返ってから言おうな?

暗黒大戦時代の時も、教会暮らしの時も、それから『刻の幻影(クロノファンタズマ)』として居た時もッ!そう言って全部迷子になってんだぞ!しかも俺は必ず一回その場面に立ち会ってるからなッ!?」

 

セリカの不満そうな声を俺は全力で振り払うようにツッコむ。

こいつ、「こっちのほうが近道かも」って言ったら全然違う所に着くし、目の前に一番近い道あるのにそんなこと言うし・・・。

誰かこの苦労を分かる人いるか・・・?ナインとナオトはいないしな・・・。

・・・誰もいねえじゃねえかクソがッ!俺は一人絶望をした。

 

「・・・・・・」

 

「え・・・?こうして一歩も動かなければ大丈夫?み、ミネルヴァ~っ!酷いよ~っ!」

 

そんなことを考えていたら、ミネルヴァが後ろから髪の毛のように付いていた両手でがしりとセリカの両肩を抑える。

そのミネルヴァの提案を聞いたセリカが抗議の声を上げた。

 

「ははっ・・・そいつは名案だ。ミネルヴァ、頼めるか?」

 

「・・・・・・!」

 

「ラグナまでそんなこと言うの!?って、ミネルヴァは何でサムズアップするの!?」

 

俺が頼んで見たらミネルヴァは人と殆ど変わらない方の左手でサムズアップして応じてくれた。

俺の言葉を聞いて、ミネルヴァのその動作を見たセリカが少し涙目になる。これ・・・ナインがいたら死んでるわ・・・。

 

「ミネルヴァ・・・!私は大丈夫!だから・・・」

 

「悪いなミネルヴァ。ちょっと頼むぜ」

 

「・・・・・・!」

 

セリカが何かを言う前に俺が遮るようにミネルヴァに頼む。するとミネルヴァは頷いてくれた。

なんとなくだが、「合点承知!」とミネルヴァが言ってくれた気がした。

 

「じゃ、頼んだぞ」

 

「ま・・・待って・・・!ラグナ~!」

 

「・・・・・・!」

 

ミネルヴァの返答を確認した俺は一言追加の釘刺しをしてから場所を移動する。

この時セリカが何かをいっているが、気にしないことにした。この後、ミネルヴァは俺が戻って来るまでがっちりとセリカを抑えててくれた。

喋ってたら何か飲み物が欲しくなったので、俺も食堂に行こうと思いそっちへ足を運ばせることにした。

 

「お・・・」

 

「あ・・・」

 

んで、曲がり角を曲がったところでネプギアとバッタリ出くわした。

 

「ネプギアか・・・。どうしたんだ?俺はのど渇いたからこっち来たけど」

 

「私も・・・ちょっとのどが渇いちゃったので・・・」

 

どうやら食堂に行こうってのは同じだったみてえだな。

・・・だが、今日の朝っぱらからそうだけど、何でネプギアは暗い表情してんだ?それが引っ掛かった。

 

「ネプギア・・・何かあったか?朝っぱらからずっと暗い顔してるが・・・」

 

「えっ?朝からずっと・・・ですか?」

 

俺の問いかけを聞いたネプギアは少し不安そうな顔になった。

・・・なんだろう?どうしてか解んねえけど、これはそのままにしないで話を聞いてやるべきかも知れねえ。俺はそう感じた。

 

「俺でよければ話を聞くけど・・・どうする?」

 

「・・・いいんですか?」

 

「ああ。俺がお前らのためにできることって・・・これくらいだろうしな」

 

試しに俺が訊いてみると、ネプギアは驚きながらも少し安心した表情になる。

それを見た俺は促すように言葉を繋げる。

 

「すみません・・・それじゃあ、お願いします」

 

「分かった。なら、話は中でしようか」

 

ネプギアの承諾を聞いた俺はネプギアと一緒に食堂に入ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

 

流石に朝早くである為、準備が終わってない本格的な飯を頼むことはできない。

元々、飲み物を欲していた俺たちはさほど気にすることはなく、メニューにあったのから自分が欲しいと思った飲み物を買って、円のテーブルの一つに、お互いが向かい合うように座った。

俺たちが入った出入口の一番遠くのテーブルの方にはブランたちがいるのだが、ロムとラムの睡眠の邪魔になること、ネプギアが姉のネプテューヌや友人のユニに頼らず真っ先に俺を頼ったのは他の人に言いづらいことだと予想したので離れた場所を選んだ。

 

「ありがとうございます。わざわざ付き合ってくれて・・・」

 

「気にしなくていいさ・・・。それで?話ってのは・・・」

 

「・・・はい。そのことなんですけど・・・」

 

ネプギアのお礼に、俺はいつものように返してから本題を促す。

一応言っておくがこれは返すのが面倒だからって訳じゃない。本来俺は困ってるやつを助けたい側の人間だからな。向こうの世界では立場上上手くやれなかったが、今回はそうじゃないからなるべく助けてやりたいと思う。

そして、俺の促しに応じてネプギアは自分の中にある悩みを話し始めてくれた。

話の内容は今朝ネプギアが見た夢の話と、自分の中に『もう一人の自分がいる』ということがハッキリと解ったことだった。

 

「もう一人の自分か・・・」

 

「はい・・・。前に意思を交代させられることがあるって話したと思うんですけど・・・。

今までそうなった時は『その間の記憶だけ抜け落ちて』いたんです・・・。でも、今回は今までと違って『交代させられても記憶がしっかりしていた』んです」

 

「・・・!」

 

まず初めに話してくれたのはもう一人の自分がいるということだった。正直なところ、俺はもう一人の自分がいるってだけではよく分からなかった。

だが、ネプギアが自分の置かれている現状を詳しく話してくれたことで、ネプギアが俺を『兄さま』と呼ぶときの記憶が今までと違ってハッキリしているから、その存在に気づけたってことが理解できた。

これを聞いた俺は以前にハクメンと話していたことの一つを思い出した。

 

―『少女の魂』の一部を宿している者は、御前の身近に居るぞ・・・。

 

「(『少女の魂』って『あいつ』のことだよな・・・。じゃあ、ネプギアの中に『あいつ』が・・・?)」

 

その言葉を思い出して、俺は一つの予想を立てた。

時々、サヤとよく似ているような状態になるネプギアのことには少なからず心当たりがあった。

『あいつ』の魂はネプギアの中にあるのかもしれない。俺が立てた予想はそれだった。

 

「・・・?ラグナさん、どうかしましたか?」

 

「ん?ああ、いや。何でもねえ・・・。そうだ。今日見た夢のことを聞いてもいいか?」

 

「・・・わかりました。私がみた光景なんですけど・・・」

 

ネプギアは今回見た夢の内容を話し始める。

まず初めに周りは草原と森に囲まれていたこと。その時自分が・・・正確にはもう一人の自分が大きな木に背を預けた状態で座って絵本を読んでいたことを話してくれた。

また、その夢は自分が絵本を読んでいる途中で二人の兄の内、上の方に呼ばれたから三人で帰るというところで、途切れているみたいだ。

 

「二人の兄ねえ・・・」

 

何故だか、俺はその夢に対して心当たりがあるような感じがした。

視点に関しては上の兄になるのだが、それでも他人事じゃないと思うのは気のせいだろうか?

 

「特に上の方の兄はその・・・ラグナさんとそっくりだったんです」

 

「・・・っ!?」

 

俺はネプギアの話を聞いた瞬間、驚いたあまりガタタッと音を立てながら席を立ち上がった。

ネプギアの夢の通りであれば、ネプギアはサヤの視点で俺たちの教会にいた時の一部を見たことになる。

 

「あっ・・・えっと・・・どうかしましたか?」

 

「・・・いや、悪いな。俺があいつらと教会で暮らしてた時とそっくりだったもんだからついな・・・」

 

ネプギアが不安になって訊いてきたので、俺は簡単に答える。あいつらというのはもちろんジンとサヤのことだ。

兄が二人、その内上の方が俺にそっくりともなれば、思い返すなという方が無茶ってもんだ。

そしてもう一つ、俺の中にある疑念の一つに、新しい推測が生まれる。

 

「(ネプギアの見た夢・・・気のせいじゃなけりゃ、『あいつ』の正体って・・・)」

 

サヤ・・・なのか?それが今出した俺の答えだった。

だが、仮にそうだったとしてもまだ早いんじゃないかって言う気持ちがある。

しかし、実際に訊いてみないとわからないことも事実ではあった。そのため、俺は少し迷った。

 

サヤ(・・)・・・。俺に似ていた奴は、お前のことをどう呼んでた?」

 

意を決して、俺は訊くことを決めた。これさえ訊ければ『あいつ』のことが少しは解るかもしれない。そんな期待があった。

 

「すみません。そこだけは上手く聞き取れませんでした・・・。

・・・?ラグナさん。もしかしてですけど、『サヤ』がその女の子の名前なんですか?」

 

「・・・ん?・・・あっ、悪い・・・。その・・・嫌だったよな・・・?」

 

ネプギアの回答と同時に呼び方を聞かれたことで、俺はハッとして謝る。

やっちまった・・・。確かにネプギアは初対面の頃から『サヤに似ている』と感じていたが、サヤではない。

時々サヤとよく似た状態になることと、今回の夢の話を聞いたことが重なって、俺はうっかり『サヤ』と呼んでしまった。

 

「いえ、私は大丈夫です。それどころか・・・そう呼ばれて『私も嬉しい』って思ったんです」

 

「・・・そりゃ本当か?」

 

ネプギアは俺を嫌うかもしれない・・・。そう思っていたが、それどころかあまりにも予想外すぎる回答が帰ってきたことで、俺は思わず聞き返してしまう。

 

「・・・本当ですよ。えっと・・・ラグナさん。もしよければなんですけど・・・時々でいいので、私のことを『サヤ』って呼んでくれませんか?」

 

「そりゃいいけど・・・大丈夫なのか?」

 

「大丈夫です。それに、『彼女(・・)』も喜ぶと思いますから・・・」

 

ネプギアの提案を聞いた俺は、確認の意味も込めて訊き返した。下手すりゃ自己の否定でもあるし、ネプテューヌの不安を煽る可能性が非常に高いからだ。

だが、ネプギアが『彼女』と言ったことで俺は考えを改める。もしそれが『あいつ』のためになるなら、そうするべきなのだろう。また悩ましい案件だった。

 

「・・・分かった。ただ、本当に時々だからな?」

 

「・・・ありがとうございます。ラグナさん」

 

俺が条件付きで受け入れると、ネプギアは笑顔でお礼を言う。

・・・時々そう呼ぶと決めたのはいいが、なるべく二人きりの時に抑えるが、特にネプテューヌとユニの前で言うのは避けよう。ネプテューヌは言わずもがな。ユニはまだその不安を話していないものの、ネプギアと一番仲が良い以上不安を煽るに違いない。

 

「さて・・・もう大丈夫か?今日はせっかくのホームパーティーなんだし、楽しもうぜ。『サヤ』」

 

「はい・・・。兄さま♪」

 

せっかくだからと早速そう呼んで頭を撫でてみると、『ネプギア』は安心したような笑みで俺を『兄さま』と呼んだ。

その後は少しした後、ネプギアと別れて一度セリカの所へ戻ってみたら、ミネルヴァが見事にがっちりしたまま同じ場所をキープしていたので、迷子探しはしないで済んだ。

その代償としてセリカ(シスター)にこっぴどく説教受けたけど、それはあんたの方向音痴が悪いで振り切った。そのせいでリーンボックスにつくまで漫才のような会話をしたことで変に疲れたが・・・。

それと、これは今回一番重要なことで、これは俺が『サヤ』と呼んでネプギアの頭を撫でていた時だが・・・。この時を堺に、ネプギアの中からサヤの気配を今までより強く感じるようになった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

リーンボックスのスタジアム会場内で、俺たちはリーンボックスを中心に活動している5pb.のライブを見ていた。

会場は今日の天気に合わせて天井のドームが開け放たれていて、青空が見えていた。

5pb.は水色の長い髪と頭にかけられているヘッドフォンが特徴的で、少し派手な黒い格好をした、腹辺りに音符マークのタトゥーが入っている少女だった。

今回、5pb.のライブで公演されているのは、彼女が人気を獲得するきっかけとなった曲の『きりひらけ!グレイシー☆スター』だ。

彼女の歌や振り付けに合わせて、用意されていた戦闘機が飛行機雲を使ってパフォーマンスを行う。

この戦闘機は元々戦争に備えて作られていた最新機らしいが、和平を結んだから平和的に利用しようと方針を変更した結果、武器を取っ外すだけ取っ外してこうして5pb.のライブで初使用をする形になった。

その戦闘機には、国の象徴であるベールの服装に合わせたカラーリングが施されていて、極め付きにはベールの姿がいくつかでかでかとプリントされていた。

そして、戦闘機たちはまず手始めに飛行機雲で5pb.の腹辺りにあるタトゥーを二機掛かりで作りあげていく。

 

「おおーっ!」

 

「うわぁ・・・ラグナっ!ライブってこんなに凄いことなんだねっ!」

 

「気持ちは分かるがちょっと落ち着け・・・。確かにすげえな・・・」

 

ライブによる盛り上がりは凄いもので、恐らくは何度も聴いたであろうネプテューヌも感嘆の声を上げた。

セリカと俺は初めてこういったことを体験するため、新鮮な気分を持っている。

そんなこともあって、セリカがはしゃぎながら俺に同意を求めてきたので、俺はセリカの肩に手を置いて抑えさせながら同意した。

ライブを聴きながら、俺にもこういったことを楽しめる日が来るものなんだなと、感慨深い気持ちになった。

他にも、5pb.の歌を聴いていると、この世界でセリカの近くにいる時と同じように、力がみなぎるような感じがした。

 

「でしょ?さっすがリーンボックスの歌姫、5pb.ちゃんよね」

 

「ですぅ~!」

 

俺の感想を聞いて満足げにアイエフが5pb.を称賛し、コンパもそれに同意する。

『蒼の門』とか、『あいつ』のこととか・・・やらなきゃいけないことはまだまだ多く残ってるけど、今は小休止として楽しんでも良いだろう。

ちなみに、ハクメンはどさくさに紛れた暗殺を防ぐ意味と、ルウィーの三人に心配を掛けぬようにという二つの意味で中にいることを選んだ。

現在は周囲の警戒をしながらも俺たちと一緒にライブを見ている。・・・すげえシュールな光景になっているのは振れないでやってくれ。

ただし、ミネルヴァはちゃっかりと俺たちに混ざってライブを見ている。これもこれですげえシュールな光景だった。

 

「(そういや・・・ネプギアは大丈夫だよな?)」

 

ネプギアの方を見ると、ネプギアはさっきまでの沈んだ表情は見せておらず、明るい表情をしていた。

どうやら、このライブを楽しんでいるらしい。さっき話を聞いてやって良かったと俺は安心する。

正直な気持ちを言うと、暗黒大戦で停止時間を作ったときセリカに言ったのと同じで、俺はネプギアに暗い顔をしてほしくないと思ってる。

悲しませたくない。笑っていて欲しい・・・。そう思ってる俺はわがままなんだろうか?その辺はまだ分からなかった。

まあ・・・今は考えても仕方ねえな。一先ずライブを楽しもう。

 

周りを見ればネプテューヌやネプギア。セリカやユニたち。そして、会場の皆がこのライブを楽しんでいる・・・。それなのに俺だけ考え事してるなんて無粋だろ。

そう決めて間もなく曲はサビっていう一番盛り上がる場所に入り、会場の熱が上がっていく。

それと同時にまだパフォーマンスをしていなかった三機の戦闘機の内二機が、飛行機雲でハートマークを作りあげていく。ここにいる皆が、一つのことで夢中になっている。

皆をそうやって惹きつけられる力がある5pb.の歌は凄い力がある・・・。俺のような誰かを傷つけるかもしれない危険な力じゃない。誰かの心を動かすための・・・とても綺麗な、素晴らしい力だと俺は感じた。

彼女がその力を正しく使ってくれると信じると同時に、俺も改めてこの力を護るために使うと決めた決意を再確認できた。

 

そして、出来上がったハートマークに、最後の一機が飛行機雲を出しながら近づき、潜り抜けようとしたところで一度飛行機雲を出すのを止め、潜り抜けて少ししたところで再び飛行機雲を出しながら急加速していく。

この時のタイミングがサビの一区切りになるところと重なり、更なる盛り上がりを呼んだ。このライブ会場の盛り上がりは最高潮に達した。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ライブだかなんだか知らないっちゅが、うるさいっちゅね~・・・。労働してる身にもなって欲しいっちゅ。

テルミはライブ見に行ってるっちゅけど・・・大丈夫なんちゅかね?」

 

ライブ会場のすぐ近くの海底で、ネズミはアンチクリスタルを探しながら愚痴をこぼしていた。

その愚痴に、「おまけにちょっとだけ力が抜けるような感じがして最悪っちゅよ」と追加の愚痴をこぼした。

これが5pb.の歌による相乗効果であることを、この時のネズミはまだ知らないでいた。

また、今回の海底で探すにあたって、ネズミは水中で活動できる格好をしたでいる。

テルミは今現在、ライブ会場で5pb.のライブを生で見に行ってる。女神たちにバレたらどうするんだと訊いたが、テルミは「ラグナちゃんとハクメンちゃんにバレなきゃ平気だ」と何のそのだった。テルミが言うなら大丈夫なのだろうが、ネズミはそれでも不安だった。

 

「大体、どうしてネズミが海に潜らないといけないっちゅか?海のネズミって、漢字で書いたら海鼠(ナマコ)っちゅよ・・・。っ!」

 

ネズミが更に愚痴を追加しながら海底を進んで行くと、目の前に赤い光を放つ鉱石・・・アンチクリスタルが一つあった。

 

「見つけたっちゅ・・・!」

 

それをみたネズミはこれで海から上がれることと、計画に間に合うことに安堵し、小さく喜んだ。

ネズミはアンチクリスタルを拾い、テルミが連絡に出れそうなタイミングを見計らいながら小休止を挟む。

そして、一曲が終わったタイミングでネズミはレリウスに用意してもらった疑似的な術式通信ができる小型端末で連絡を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「みんなー!ありがとーっ!」

 

「おうおう・・・これは中々いいライブじゃねえか」

 

曲が終わり、歓声が会場を包む中、5pb.が皆にお礼を言いながら手を振る。

そのライブ会場の隅っこでライブを見ていたテルミは満足そうにコメントを呟いた。

ドア付近の隅っこかつ、階段状の席の後ろである為、忍びながら見るには最適な場所であった。

 

「(ただ・・・何だったんだ?奴の歌を聴いてる時、妙に力が弱ってたような感じがするが・・・)」

 

テルミは曲やパフォーマンスはいいものだと認識しているが故に、自身の弱った瞬間が疑問だった。

セリカの近くにいるときのような吐き気は感じないが、彼女の歌が聴こえる状態で戦うことがあったらヤバいだろうと頭の隅に入れておくことにした。

テルミが5pb.の歌の能力に関する簡単な考察を終えると、術式通信と似たような通信が来たので、それに応じる。

 

「おう。俺だ」

 

「おいらっちゅ。アンチクリスタルを拾ったから合流ポイントへ移動を始めるっちゅよ」

 

「そうか拾えたか・・・。ヒヒッ・・・了解だ。俺も次の曲聴いたら移動始めるわ」

 

通信の主はネズミで、ネズミは朗報を持ってテルミに連絡を送ってきた。

その連絡を聞いたテルミは恐怖感のある笑みをこぼしながら、自分もそろそろ合流を始めることを伝えた。

 

「了解っちゅ。じゃあ、おいらはこれで切るっちゅよ」

 

「おうよ。また後でな」

 

「じゃあ、次は・・・」

 

ネズミと短く会話を済ませてテルミは通信を終わりにした。それとほぼ同時に、5pb.が自身の右腕を上に掲げるような動きを見せる。

 

Dimension Tripper(ディメンション・トリッパー)!」

 

「ラグナちゃん・・・今度こそぶっ殺してやるから、楽しみに待ってろよ・・・ケヒヒヒヒッ!」

 

5pb.が自身の新曲である『Dimension Tripper』を歌う宣言をするのと、テルミがこれから会う宿敵に予告しながら嗤うのはほぼ同時だった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ライブに招待してくれたのはいいけど、肝心のベールが来ないってどういうことよ?」

 

「そう言えば、チカさんも来てなかったよね?どうしたんだろ?」

 

「・・・・・・」

 

「あっ、ミネルヴァも気になるの?うーん・・・いくらベールさんでも、流石にゲームはやってないと思うけど・・・」

 

リーンボックスの教会に来て早々、ノワールは不満の声を上げた。

それに便乗するかのように、セリカも疑問に持っていたことを呟いた。

また、ミネルヴァがセリカに同意する念を出したらしく、ネプギアがその話を聞きながら一緒に考える。

 

「きっと、何か事情があるのよ」

 

「まあ、そう考えるのが妥当だよな・・・」

 

ブランの出した答えに俺は同意した。

・・・もし俺の『蒼炎の書』が関係しているのだとしたら謝罪も込めて準備を手伝ってやりたいところだ。

ちなみに、俺はみんなでホームパーティーが終った後、無事にバイクの免許を取れたからアイエフと夜中に軽くドライブをする約束がある。

今回俺はレンタルのバイクを使うので、今度はちゃんと自分のを用意したいところだ。

 

「ラグナさん、ラグナさん」

 

「ん?どうしたユニ?」

 

俺が謝罪の準備でもしておこうと考えていたら、ユニに声をかけられたので、俺はそっちを振り向いた。

 

「ネプギアのこと・・・ありがとうございます。あいつの友達として、お礼を言わせてください」

 

「そのことか・・・。俺はただ相談に乗ってやっただけなんだがな・・・」

 

「それでもです。アタシもネプテューヌさんも、ネプギアの悩みを聞いてやれませんでしたから・・・」

 

「そうだったのか・・・」

 

ユニからきた言葉はお礼だった。一応、当たり障り無いよう謙虚な言い方をしてみたのだが、今回のことは誤魔化し切れないみてえだな。それ故にユニは落ち込んでいる表情を見せた。

 

「大丈夫。お前にもできることはあるさ・・・。とりあえず、これからホームパーティーなんだから、楽しもうぜ。落ち込んでたら、それこそネプギアが不安におもっちまう」

 

「そうですよね・・・。アタシが落ち込んでちゃいけませんよね」

 

「ああ。そう言うことだ」

 

俺がユニを励ますように言葉を投げてやると、ユニは笑顔を取り戻した。とりあえずはこれでどうにかなっただろう。

 

「・・・励ましてるだけだって分かってるんだけど・・・。どうしてもそういう風に見えちゃうのよね・・・」

 

「・・・マジかよ。じゃあどうすりゃいいんだ?」

 

「・・・自然体でやってる以上、対策のしようがないわね」

 

「・・・嘘だろ?」

 

ノワールの悩むような呟きに反応してみると、ブランからどうしようもないと言う回答が帰って来てショックを受ける。

 

「はぁ・・・。まあいいわ。それで?どこなの?ベールの部屋は」

 

ノワールは話を切り替えるべくため息混じりに訊く。このため息は間違いなく俺のせいだろう。

今現在、ネプテューヌ。ロムとラムの三人が手当たり次第にドアノブにてをかけているが、開いてる部屋は見つかってない。

 

「おっ、この部屋開いてるよっ!」

 

何度か繰り返していると、ネプテューヌが開いてる部屋を見つけたので、俺たちはその部屋に入った。

その部屋の光景は一言で言えば魔境・・・って言っていいだろう。

積まれているゲームのケース、大量の雑誌。

極めつけにはちびっ子たちを対象にしてない、所謂『R-18』のゲームや、男同士で恋愛的な絡みをしてる絵が貼られていたりした。

 

「・・・何が、あったです?」

 

「荒らされた跡みたいね・・・」

 

「単に、掃除が行き届いて無いだけなんじゃ・・・」

 

それをみてコンパ、アイエフ、ノワールが順番に思ったことを呟いた。

コンパはその光景に動揺した様子で、アイエフは普段とあまり変わらない様子で、ノワールはため息混じりに苦笑してだった。

ネプテューヌはそのまま部屋の中にもう少し踏み入れる。

 

「おおーっ!これは18歳にならないと買えないゲームっ!」

 

「やめなさいよ。ちっちゃい子もいるんだから・・・」

 

ネプテューヌがそのヤバいであろうゲームを指差しながら声を大きくして言うもんだから、アイエフはネプテューヌを咎める。

四女神はともかく、女神候補生の・・・特にロムとラムの二人には教育によくないものであるのは確かだ。

俺とセリカは・・・大丈夫なのか?セリカは一応シスターの歳まで生きてるから大丈夫そう・・・って、そう言う問題じゃねえか。

 

「ラグナ、ラグナはこういうゲームに興味あるの?」

 

「あのなぁセリカ・・・そう言うのを堂々と答える馬鹿はいねえよ・・・」

 

セリカは今ネプテューヌが指差したゲームを手にとって訊いてきた。流アホ過ぎると思った俺は呆れながら否定で返したが、爆弾過ぎる質問が飛んできたから流石に焦った。

 

「えっ?そう言うものなの?」

 

「・・・なぁノワール。俺はどうすればいい?」

 

「ええっ!?私に聞かれても困るわよ!」

 

言ってることがわかんないと言わんばかりにセリカが首を小さく傾げたのを見て、これ以上は無理だとギブアップを決めた俺はノワールに訊いてみるが、訊くこと自体が間違いなようで、ノワールは両手を自分の眼前で振った。

 

「うぅ・・・ベールお姉さまぁ・・・」

 

「あれ?みんな、あそこにチカさんがいるよ?」

 

「あっ・・・皆さん・・・」

 

そんなしょうもない話をしてる内にチカのすすり泣く声が聞こえ、それに気づいたセリカがそっちを指差したので、俺たちはそっちを振り向く。

すると、俺たちに気づいたチカは慌てて涙を拭う。

チカは今回のホームパーティーを開くに当たって、リーンボックスで主導的に準備をしていた。

おまけに体調管理もしっかりした上でギリギリまでやっていたそうだ。それなのにあそこで膝落としてたのは一体何があったんだ?

 

「えっと・・・何があったんですか?」

 

「その・・・。出掛ける前に一時間だけって言ったきり、ベールお姉さまが部屋から出て来ないんですわ・・・」

 

「後方の部隊は何をしてますの!?」

 

ネプギアの質問に答えるや否、すぐにベールの怒声が聞こえた。余程ショックだったのかチカは再び泣き出してしまった。

 

「・・・ちょっといい?」

 

「えっ?あ、はい・・・」

 

その様子から、大方察しのついたネプテューヌがチカに頼み、ドアから離れてもらう。

ネプテューヌが一拍置いてからドアを開けると、そこにはゲームを夢中になってプレイしてるベールの姿があった。

 

「私が援護いたしますわ!」

 

ちらりと画面を見てみると、何やらイベントが起きていたらしく、そのためベールは参戦してそのまま今に至ったであろうことが容易に想像できた。

 

「ああ!?それは早すぎますわ・・・」

 

ベールは味方の動きが良くなかったのか、大袈裟なリアクションを取る。勿論、その様子を俺たちは全部間近で見ている。

部屋開けられてるのに気がつかないか・・・。この集中力すげえな・・・。俺はちょっと感心してしまった。

 

「何やってるのよベール・・・」

 

「どう見てもネトゲね・・・それも四女神オンライン」

 

「おーい、廃人さん」

 

その様子を見たノワールとブランは呆れ、ネプテューヌはベールに呼び掛けてみるが、ベールは何も反応を示さなかった。つか、前にベールがオススメしてきた四女神オンラインってこういう感じのゲームだったのか・・・始めて実際の画面を見たわ。今度やってみようかどうかで悩むが、今はそう言うこと言ってる場合じゃねえなと考えを中断した。

 

「おーい、ベールっ!」

 

「ひゃっ!?」

 

ダメそうだと分かって、声を少し大きくしてネプテューヌが呼ぶと、ベールは変な声を出しながらビクリと一瞬跳ねたように反応した。

 

「あっ、皆さん・・・来ていたんですのね。

出掛ける前に一時間だけで終わらせるつもりだったんですけど、攻城戦が始まってしまって・・・手が話せなくなってしまったんですわ・・・」

 

「ライブの後はホームパーティーで持て成してくれるんじゃなかったかしら?」

 

「もう少しで攻城戦が終わりますから、その後で・・・」

 

「あうぅ・・・お姉さまぁ・・・っ」

 

ベールが焦りながら挨拶と言い訳をしたところにブランが鋭く問いただすと、ベールは答えながら画面の方に目を戻していった。

その姿をみたチカがまた膝を落とし、地面に顔を落として泣くのだった。

 

「こういう人だったのね・・・」

 

「ま・・・まあ。趣味は色々だから・・・」

 

ブランが呆れて言うと、ノワールは焦ってるような。苦笑してるような声でフォローする。普段はもっと堂々としてる分その様子が少し気になったが、あまり引きずるのは良くないから置いておく。

 

「もぉー。ベールは駄女神だねー・・・。もしかしたら私よりダメかも?」

 

「「「それはない」」」

 

ネプテューヌが調子に乗りながら言ったところを、俺、ブラン、ノワールの三人が口を揃えて否定した。

 

「ねぷぅっ!?こんな時に限って気が合ってる!?と言うか、ラグナも混ざって言うのっ!?」

 

「そりゃ、お前・・・。俺の『蒼炎の書』が動くようになったら半月くらいなにもしてねえし・・・」

 

「うぐっ・・・何も言い返せないのが辛い・・・」

 

ネプテューヌが抗議の声を上げるが、俺がハッキリと理由を述べたら膝を落とした。

 

「お姉ちゃん・・・お仕事頑張ろ?」

 

「嫌だーっ!働きたく無いでござるーっ!」

 

ネプギアの促しを聞いて、ネプテューヌは腕を上に上げながら拒否の声を上げる。この時、一般の人じゃ殆ど使わない口調をわざとしている。

『ござる』って口癖ある奴なんて、俺はシシガミしか知らねえな・・・。そんなに何人いても困るっちゃ困るが・・・。

 

「御前たち・・・。あの者を真似しては駄目だぞ?」

 

「「はーいっ!」」

 

「ハクメンが私をダシにしてきた!?」

 

ハクメンがネプテューヌを指差しながらロムとラムを見て言うと、二人は元気よく返事をした。

ネプテューヌが驚愕の声を上げてるが、勿論俺とセリカもビックリしている。ハクメンが教育係って、何だかすげえシュールだな・・・。

 

「・・・どうします?もうしばらくかかりそうですけど」

 

アイエフに訊かれたノワールは考え出した。

 

 

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

 

 

そして、ノワールはどういうわけかメイド服に着替え、モップを片手に持っていた。

 

「さあ、みんなで準備するわよっ!」

 

「ええ~!?なんで私たちが準備ぃっ!?」

 

ノワールの選択はみんなで準備を手伝うだった。

当然ながら、その選択にネプテューヌは反対の声を出した。

 

「文句言わないっ!せっかくリーンボックスまで来たんだから、きっちりパーティーして帰るわっ!

まず、ネプギア、アイエフ、コンパ・・・そしてラグナの四人は食料の買い出しっ!」

 

『はっ、はい!(おっ、おう・・・)』

 

ネプテューヌの抗議もお構い無しにノワールは早速指示を出す。その勢いと剣幕に押された俺たちは、ただ返事をするしかなかった。

まあ、料理するんなら手伝ってもいいか?・・・いや、止めておこう。プロの中に素人を混ぜたら色々と失礼だ。俺は心のなかで諦めた。

 

「他の人たちは部屋の掃除よ。はい、今すぐ始めてっ!」

 

「で、でたー・・・。こういう時妙に張り切る奴~・・・」

 

「・・・変なスイッチ入ったわね・・・」

 

「・・・うるさい!」

 

ノワールの張り切りぶりをみたネプテューヌとブランが嫌そうにつぶやくと、ノワールは一括してモップでタイルを叩いてガンッ!と音を鳴らす。

 

「ちゃっちゃと働くっ!」

 

ノワールの言葉に妙な威圧感を感じた俺たちはクモの巣を散らすようにそれぞれの準備に取り掛かりだす。

唯一威圧を流せたハクメンは暫くの制止のうち、このままではいけないと感じ、一歩遅れて準備を手伝うのだった。

 

 

 

その後、買い出しのメンバーは着々と食料を買っていき、掃除のメンバーも途中で脱線したりするものの、掃除を進めていった。

また、この準備の途中に、ネプテューヌがゲームをやろうとしてノワールに阻止されたことと、ベールは皆が準備をしている間、攻城戦が終らず、結局ゲームをやっていただけなことを記しておく。

少しバタバタ感があるものの、準備は確実に進んでいったのだった・・・。




セリカの迷子防ぐならラグナがミネルヴァに頼めばいいんじゃね?という安直さ・・・(汗)。

という訳で今年最後の投稿となります。

今回サヤのくだりがこれで大丈夫かどうかで物凄い不安です・・・。「何やってんの?」と思った方はごめんなさい(泣)。
後、ハクメンはどうしても3話の前半に喋らせるとシュールになりやすいから口数が減りました・・・。

ラグナの「テメェ、馬鹿かぁっ!」という制裁は次回になるか、もしくは未遂のままスルーになるかですね。

今年も気がつけば後わずか。今日、コミケに行ってきたのですが、『ねぷねぷよりぬきアソートセットWithお片付け用軍手』を手に入れることができました。
ダブルネプ子とドラム缶風呂シーンのタペストリーで新年早々、コミケの疲れを癒して貰えたら良いなぁと思います(笑)。

長くなりましたが、今年もありがとうございました。
また来年も読んで頂けたら幸いです。
それでは、よいお年を!


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22話 妹を思う姉、悪夢の影

新年あけましておめでとうございます。今年一発目の投稿となります。

早速本編の方、どうぞ!


「ギアちゃんたちはまだみたいですね・・・。・・・?」

 

買い出し組になったコンパたちはリーンボックスにあるショッピングモールにて食材の買い出しにきていた。

その中で最も早く自分の担当が終わったコンパは、事前に決めておいた合流地点である見通しのいい場所で辺りを見回して呟いた。

ネプギアとラグナは最も多い担当を二人掛かりで回っていて、時々ラグナが一つの食材にかなり拘っていた一面が見えたので、少なくともあの二人はもう少し時間が掛かると予想できた。

そう判断した瞬間、右側から何か視線を感じたので振り向いてみるが、そこには誰もいなかった。

 

「気のせい・・・です?」

 

コンパは呟きながら首を傾げる。言い知れぬ威圧感があったので気のせいではないと信じたいが、その真相は結局分からなかった。

考えても仕方ないなら大人しくしてみんなを待とう。そう決めてコンパが正面に向き直ると、目の前でネズミにしては相当大きく、二足歩行をしているネズミが走っているのが見えた。

 

「あ~、急がないとオバハンにグチグチ言われるっちゅよ・・・」

 

ネズミは走りながらも切り詰めた計画を立てていた雇い主のことを想像して嘆いた。

同盟者の二人は「ラグナちゃんたちをブッ殺せるなら問題ない」と言う者と「女神達を研究する機会が無くならないのなら問題ない」と言う二名だからほんの少しの遅れなら気にしないでくれる。

ただし、雇い主の魔女だけはそうもいかなかった。雇い主の魔女は融通が中々効かず、その魔女が予定している時間が迫ってきていたのだ。

また、テルミよりも先に移動を始めているのだが、それでも自分の歩幅のせいでテルミよりも後に到着する可能性が高い。

 

「・・・おわっ!?」

 

更にその距離が遠いのもあって、ネズミは焦りの念に駆られて何もない場所で転んでしまう。

その余った勢いのせいで、鞄のボタンが外れてアンチクリスタルを落としてしまった。

それの光景を目の当たりにしたコンパは職業病・・・ではなく、純粋な善意を持ってネズミの方へ歩み寄ることを選んだ。

 

「うぅ・・・。い、痛かったっちゅ・・・。・・・?」

 

ネズミが痛みを堪えながら顔を上げると、目の前にはこちらを心配そうに見ているコンパの姿があった。

 

「はぁ・・・。・・・って、何っちゅか!?ネズミがこけるのがそんなに面白いっちゅかっ!?」

 

「大丈夫そうで良かったです♪」

 

ネズミはそのコンパの姿に思わず見とれていたが、すぐに気を取り直し語調を強くする。

しかし、コンパはそんなことは一切気にせず、ネズミが大丈夫だと分かって満面の笑みを見せる。

コンパにとって、今回一番心配だったのはネズミが元気を無くすことだったので、それが見られなかったことで心から喜んだのだ。

その瞬間、ネズミの全身に電流が走った。一応、肉体的な攻撃ではないことをここに記しておく。

 

「あっ、でも怪我してるですね・・・」

 

「は・・・ッ!?」

 

コンパはネズミの右手が擦り剝けているのに気がついてその右手を取り、自分の鞄から絆創膏を探し始める。

ネズミは右手を取られただけで体が跳ねるような感覚に襲われてしまう。

 

「これ・・・貼って上げるですね♪」

 

コンパは絆創膏を一つ取り出し、それを見せながら満面の笑みで宣言する。

―目の前にいるこの人は天使か?そう思いながら言葉が出せないネズミは目を泳がせる。

ネズミが全身を振るわせながら心臓が高鳴っている状態でいる間にも、コンパは絆創膏を張り終えて・・・。

 

「もう大丈夫ですよ♪」

 

再び満面の笑みで告げられ、ネズミの心は完全に堕ちる。

・・・恐らくは画面上に『ASTRAL FINISH』と表示が出ていることだろう。『DISTORTION FINISH』や『OVER DRIVE FINISH』どころではない。

恐らくネズミにとってコンパの笑顔は、99HEATの99999ダメージであるはずだ。

 

「気を付けてくださいね?ネズミさん♪」

 

「は・・・はいっちゅ・・・」

 

コンパの忠告を聞いたネズミはただただ、返事をするしかなかった。

ちなみにコンパはこの時も笑顔のままであった。

 

「じゃあ、私はこれで・・・」

 

「ま・・・待ってくださいっちゅっ!」

 

自分にできることは終わったので、友人たちを待つべく移動しよう。

そう決めたコンパがその場から立ち去ろうとしたのを見たネズミは勇気を振り絞って声をかけ、コンパを呼び止めた。

 

「・・・?何ですか?」

 

「あ、あの・・・。お名前は・・・何というっちゅか・・・?」

 

「コンパですっ!」

 

「こっ、コンパちゃん・・・可憐なお名前っちゅ・・・」

 

ネズミの勇気を持った質問は功を奏し、ネズミはコンパの名を聞くことができた。

このネズミはコンパに恋心を抱いたのだった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・大分買い込んだな」

 

「一応、メモ通りには買ったつもりなんですけどね・・・」

 

最後の店で買い物が終えて、店を後にした俺とネプギアは待ち合わせ場所に移動しながら、自分たちの買い込んだ食材の量とメモ書きされた量を見比べて苦笑した。

ハクメンが飲食できないから12人分であるとはいえ、デカい紙袋をそれぞれ一つずつ持っている辺り普通に多い。

俺は普段から鍛えた体を使ったりしている、分どうにか片手で持てるが、それも自分の体格が平均より大きめだからできることことであって、ネプギアくらいの体格だったら間違いなく不可能なものだった。現にネプギアは両手でその紙袋を抱えていた。

 

「それにしても、ビックリしちゃいました・・・。ラグナさんがあんなに食材に拘るなんて思っても見ませんでしたから・・・」

 

「趣味でちょくちょく料理する時があったから・・・それが影響してんのかもな。得意なのは丸焼きだがな」

 

実際のところ、これは本当の話だ。俺は教会で暮らしてた頃、シスターの負担を減らしたいと想い、時々シスターに教わりながら料理を学んで行った。

その過程で作るのが楽しくなった俺は時々シスターに変わって作るようにした。丸焼きが得意なのは確実にサバイバルに近い旅をしていたのが影響してる。

その後、サヤが俺の真似をして料理を作ったのだが・・・。もうそれは絶望的な味・・・いや、味がどうのこうのな問題じゃねえな。死人が出るであろう料理という名の毒物みてえなモノだった・・・。

 

「ラグナさん・・・。意外と女の子みたいな趣味してるんですね・・・?

しかも、得意なのがよりにもよって丸焼きって・・・」

 

「・・・しょうがねえだろ。ほぼ自給自足のサバイバルに近い旅をしてたんだからよ・・・。

・・・つか、機械系統の趣味持ってるお前に言われたかねえよッ!?お前のあの趣味だって明らかに年頃男子の趣味だよな!?」

 

ネプギアに痛いところを突かれて俺は肩を落としながら愚痴をこぼすように言うが、咄嗟にネプギアの趣味を思い出し、その痛い点を突き返した。

 

「むぅ・・・。確かに、そうかもしれませんけど・・・。

いいじゃないですか!最新の技術にだって触れますし、部品の機能を知って自分でオリジナル機械作るのだって楽しいし・・・何よりロマンがありますからっ!

ラグナさんの趣味程地味じゃないですよ!?」

 

「いやいやいや!地味とかそういう問題じゃねえだろ!?

大体・・・そんなこと言ったら、俺のが地味ならお前のはその手の人しか理解できない変なのになるぞ!?」

 

「変なのって・・・。うぅ・・・私、他のみんなより個性が薄いからこの趣味だけは決定的なものだって思ってたのに・・・変なのって言われちゃった・・・」

 

「ま・・・待て!俺が悪かった!お前の趣味は変なんかじゃないッ!

・・・そもそも俺らは話す方向を間違ってたんだ!趣味ってのは人それぞれでそれを(けな)すものじゃない!」

 

「・・・本当ですか?」

 

ネプギアが顔を少しだけ膨れさせながら反論してくるが、最後に論点が若干ずれたのでそれに合わせてまたツッコむ。

すると今度はネプギアが本気で落ち込んでしまったので、俺は慌てて弁明と同時にそもそもの間違いを話す。

そうしたらネプギアはこっちに問い返してきた。落ち込み具合が戻ったのはいいが、落ち込ませたのはマジでやっちまった感がある。

 

「ああ。趣味は人それぞれだし、その趣味ごとの良さがあるからな・・・。変って言って悪かったな」

 

「・・・!そうですよね!?それなら私の趣味だってそれらしい良さがありますよね!?」

 

「あ・・・ああ。その通りだな・・・。・・・?」

 

俺がそれを肯定した瞬間、ネプギアは一瞬の硬直の後すぐに目をキラキラさせながら俺に同意を求める。流石にそんなパァッと輝くような目を見せられたら同意するしかなかった。

話をしながら歩いていくと、目の前に赤い、微弱な光を放つ小さな石を見つけた。

 

「どうかしましたか?」

 

「ネプギア。アレはなんだと思う?」

 

「アレですか?」

 

俺が違う方を見てることに気が付いたネプギアに声をかけられて見ていたモノを指さす。

俺たちは一先ずその石まで近づき、ネプギアはそれを確かめて見るために腰を落とす。

 

「何かの石・・・でしょうか?でも、こんな・・・。・・・っ!?」

 

「・・・ネプギア!?おい、大丈夫か!?サヤッ!」

 

ネプギアが拾い上げて詳しく調べようとした瞬間、ネプギアは急に力が抜け落ちるように背から倒れそうになったため、俺は慌てて空いてる手で抱き留める。

一泊おいても反応しないのが不安になった俺はネプギアの肩をゆすりながらもう片方の呼び方もやってみる。

何度かゆするとネプギアの手にあった石が落ち、ネプギアが目をゆっくりと開けた。それを見た俺は心底胸をなでおろした。

 

「・・・ギアちゃん?」

 

「・・・!触るんじゃないっちゅっ!」

 

俺の声が大きかったのだろう。ネプギアのことに気が付いたコンパがこっちに駆け寄ってきた。

また、自分がそれを大切にしていたのか、デカい二足歩行をしているネズミが語調を強くしながらその石を取り、そのまま走り去っていくのだった。

 

「・・・兄さま・・・。コンパさん・・・」

 

「・・・大丈夫みてえだな」

 

「ギアちゃん、どうしたですか?」

 

「わかりません・・・急に、力が抜けて・・・」

 

ネプギアが一瞬だけ『あいつ』になったが、無事であることが分かって良かったことの方が大きい。

コンパが何があったかを訊いてみると、ネプギアは朧気ながらも質問に答えた。

 

「そうなると・・・貧血か?」

 

「それが一番近いですけど・・・女神さんが貧血だなんて聞いたことないですよ?」

 

サバイバルに近い経験を積んでいる俺と、医者の一員であるコンパは症状かどうかを考えるが、結局は立ち眩みに近いものだと判断するに留まった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

一方、ネズミはそのまま振り返ることはせずに走り去っていく。

 

「(・・・?あいつ・・・どこかで見かけたような・・・)」

 

また、この時アイエフとネズミがすれ違い、アイエフはそのネズミに心当たりがあったので、後で調べてみることにした。

そして、ネズミは人気のない裏通りまでどうにかやって来ることができ、肩で息をする。

 

「ぢゅぅ・・・ぢゅぅ・・・。危なかったっちゅ・・・まさか女神の妹があんなところにいたなんて・・・」

 

流石に計画破綻の危機に見舞われるかと思ったが、ネズミはどうにかそうならなかったことに安堵する。

 

「コンパちゃん・・・マジ天使・・・ちゅぅ・・・!」

 

「ああ。俺もビックリだぜ・・・。ラグナちゃんのあの呼び方・・・もしかしてだけどなァ・・・ケヒヒッ」

 

「ぢゅぢゅぅっ!?」

 

しかし、今日は素敵な出会いがあった・・・。ネズミは、輝く笑顔が魅力な少女を思い出して顔を赤くする。

そんなネズミの独り言に、意見は違えど同意する声が聞こえたネズミは驚きの余り跳ね上がってそっちを見る。

すると、そこには合流ポイントへ移動してる最中・・・またはもう辿り着いてるであろうテルミの姿があった。

 

「て、テルミっちゅかっ!?どうしてここにいるっちゅか!?」

 

「レリウスに頼まれてちょっと寄り道だ。ついでにリーンボックスの地形も覚えられて一石二鳥だから引き受けてた。

ヒヒッ・・・いやぁ・・・それにしても驚きだぜ・・・。俺様の予想があってれば一石二鳥どころか一石三鳥だぜぇ・・・ヒャハハ!」

 

「・・・?ひょっとして、あの女神の妹に何かあるっちゅか?」

 

テルミはネズミの質問に答えながら、思った以上の収穫であったが故に上機嫌になって笑い上げる。

その時、ネズミはテルミがネプギアを見ていたことに気が付いたので追加で質問をしてみると。

 

「ああそうだ・・・。ひょっとしたらあいつ・・・俺たちの世界で利用されるだけど利用されてた・・・。

自分はずっと助けて欲しかったってのに、そいつは途中まで気づけず自分を殺しに来るっつう・・・。そんな辛い目に遭った可哀想な奴の生まれ変わりかもしれなくてな・・・ヒヒッ」

 

ネズミの問いに答えるテルミは再び笑いがこみ上げて来る。あまりにも千載一遇な出来事すぎて抑えが効かなくなってきていた。

 

「もしそうだとしたら、またラグナちゃんに絶望を振りまく最高のスパイスになるなぁ・・・!

レリウスもレリウスでこの世界最高の実験素体になるだろうし・・・。あ~あ~、可哀想だなぁ・・・。せっかく兄ちゃん(・・・・)と会えたってのに、また(・・)俺たちに利用されちまうんだからなぁ・・・ケヒヒヒヒッ!」

 

「・・・な、何がなんだかサッパリっちゅよ・・・」

 

テルミが笑っている理由が解らず、ネズミはついていけなくなってしまった。

ネズミが解らなくても良い。ただテルミはおかしくて・・・面白くて・・・楽しくなって仕方がなかった。

この時テルミが思い出していたのは、レリウスに頼まれて自分がラグナの前から連れ去り、数十回『殺す』ことで精神が崩壊してしまった。

その後体は『冥王イザナミ』の器として利用され、本来切り離されてどこかへ行くはずだった精神の半分は同じく『イザナミ』に、残った半分は『3体の人形』の内の一つに宿り、そうなった状態にも関わらず兄であるラグナに助けを求めていた、一人の少女だった。

 

「オイオイオイ・・・。なんだよこれ最高過ぎるだろ・・・?

マジェコンヌは女神たちを打てるし・・・ネズミは依頼分を果たせるし・・・レリウスには最高の研究材料が・・・そして俺には自由の世界とラグナちゃんをブッ殺せるチャンスだ・・・!

ヒャハッ!ヒャァーッハッハッハッハッ!あ~、やっべえなぁ・・・最早一四鳥じゃねえか!」

 

「・・・・・・」

 

テルミは余りにも自分たちにとって素晴らしい状況が出来上がったことに笑いが収まらないでいた。

それをネズミは、テルミが笑っているところを呆然と見るしかできなかった。

 

「ハァ~・・・笑った笑った。こんなに笑ったの久しぶりだわ・・・。

ワリいなネズミ。そろそろ戻ろうぜ」

 

「わ、わかったっちゅ・・・」

 

いつも以上に上機嫌なテルミに促され、ネズミは呆然としながら共に合流ポイントへ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

食材を料理人たちに渡した後、時間が開いた俺はアイエフに案内してもらってバイクのレンタルをしに来ていた。

今回は時間が購入時の手続きとかそれなりにかかるから今回はレンタルだが、今度はちゃんと買ってきたいものだ。

 

「えっと・・・どのタイプを借りようか・・・」

 

そして早速、俺は借りるタイプで迷った。

一応、教習所でどんな種類があるかとかは学んでて、これがいいかもしれないとか考えてはいたんだが・・・実際に選べるとなるとこうなった。

 

「一応、リーンボックスを流しで軽く回るくらいだから・・・休憩を兼ねて乗るのは大体4時間弱かしらね」

 

「それくらいか・・・じゃあ、これだな」

 

「へぇ・・・中々良いチョイスじゃない」

 

アイエフに参考時間を聞いた俺が選んだのは、赤と黒のツートンカラーが今の俺の服装と統一感を出してくれるツアラータイプのバイク。

短時間ならスポーツ・・・昔はレーサーレプリカっつうらしいタイプでもいいんだが、ポジションの問題だったり、走れる場所が限定的だったりでやりづらいそうだ。

また、俺は鍛えてあるから多少重くても平気だし、短時間のツーリングならポジションもやりやすいこっちの方がいいっつう結論だ。

アイエフは俺が選んだのを見て良い方向でコメントしてくれた。んで、後は借りる時間を決めるのだが・・・。

 

「そうだな・・・じゃあ、この時間で頼む」

 

「そんなに長く借りて大丈夫なの?」

 

「まあ、余裕ができるくらいには稼いでるからな。それにほら・・・。俺朝に弱いから」

 

「ああ・・・そう言えばそうだったわね・・・」

 

俺が決めた時間は明日の正午までだった。アイエフに問われたところで理由を話すと、アイエフは苦笑交じりに納得してくれた。

こうした理由として、まず前途の通り俺は朝に弱い。そして今回はパーティーやった後に夜のツーリングに行くので、寝るのが遅くなる。

それに伴ってただでさえ朝に弱い俺は遅く起きることになる。そう考えたらギリギリこの時間なら間に合うという結論に至った。

こうして全ての手続きが終わり、俺はその間だけバイクを借りることになった。

 

「よし。これで完了か・・・」

 

「そろそろ準備終わってるでしょうし、帰りましょうか」

 

「ああ。ありがとう。おかげで助かったよ」

 

アイエフに促され、俺は担当の人に軽く礼を行ってから二人でリーンボックスまで軽くバイクで走っていくのだった。

また、時間指定の時、担当の人に凄い意外そうな顔をされてしまい、帰り道でアイエフにからかわれる羽目になった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせいたしましたわね♪我が家のホームパーティーへ、ようこそですわ!」

 

時刻はさらに進んで夕方。俺たちはリーンボックスの教会でようやくホームパーティーを始めることができる。

始めることができて、ベールが始まりを告げるように歓迎の言葉を告げる・・・。これは別に良かった。だが、問題はそこじゃなかった。

 

「・・・というかベール。貴方殆ど何もしてない・・・」

 

「やめましょう・・・。言っても虚しいだけよ・・・」

 

結局あの後ベールは大して準備をしていなかった。それだけに清掃組だった皆は疲労感と苦労感が増していた。

その中には当然チカも含まれているが、元々チカは主催側の人間であるためか、そこまででもないようだ。

 

「さっき、立ち眩みしたって聞いたけど・・・?」

 

「うん・・・。でももう大丈夫だよ。心配かけてごめんね?」

 

ネプテューヌに声をかけられて返事をするネプギアはいつも通りの元気な状態に戻っていた。

 

「さあ皆さん、今日は遠慮なく食べて、飲んで、騒ぎましょうっ!

今日のために・・・とびっきりのゲームも用意してありますわ♪」

 

「おおーっ!なになに~?」

 

さすがは女神随一の遊び人ネプテューヌ。こう言うときの食いつきは凄く早かった。

 

「説明するよりも・・・見てもらった方が早いかもしれないですわね」

 

「そうですわね・・・。それでは、ネプテューヌとノワール。少し後ろに立ってくださいな」

 

「ほいなーっ!」

 

「え・・・?何?」

 

チカの話に続くようにベールが指示を出し、ネプテューヌは勢い良く手を上げ、ノワールは少し戸惑う。

 

「では、華麗に戦ってくださいまし♪」

 

必要な機材の設置を終えて、ネプテューヌとノワールに所定の位置に立ってもらったのを確認して、ベールは持っているコントローラーで起動ボタンを押した。

すると、俺たちの部屋の風景が教会の一室から、木々に囲まれた場所に変わった。俺たちはその変わった景色に感嘆する。

 

「あっ!ねぷねぷが・・・」

 

「ねぷぅっ!?スライヌになってる!」

 

「こ、これ・・・私なの?」

 

コンパが指さす方には、スライヌに髪の毛が生えて色違いになっているネプテューヌとノワールの姿があった。

 

「二人の動きを特殊なカメラで撮影して、立体投影しているのですわ。中々の技術でしょう?」

 

「大成功ですわね。お姉さま!」

 

ベールの説明を聞くと、こういう技術はすげえなと改めて実感させられる。

また、上手く行ったことにチカとベールが笑顔になって喜んだ。

もしかしたらチカはこのゲームのチェックもしてたかもしれないと考えると、並大抵の努力じゃないと思う。

 

「じゃあ、この格好でノワールと戦えばいいんだねっ!?やーい、ノワスライヌ!ねっぷねぷにしてやんよ~っ!」

 

「えっ?何よノワスライヌって・・・きゃあっ!」

 

話が早いかネプテューヌはノワールに宣言した。

ノワールが聞き返しているがそんなこと知らず、スライヌとなっているネプテューヌが、同じくスライヌになっているノワールへ体当たりをする。

準備ができてなかったノワールはスライヌの横幅一体分だけ飛ばされてしまう。また、ノワールの頭上から『50P』と出ていたので、恐らくこれはポイントだろう。

 

「いえ~いっ!ポイント先取~っ!」

 

「私を怒らせたわね・・・!覚悟しなさいっ!ネプライヌ~ッ!」

 

やっぱりポイントだったらしく、ネプテューヌがそのスライヌの体で小さく、何度も跳ねながら喜びを表す。

それをみたノワールは反撃をするため、ネプテューヌと同じくスライヌの体で体当たりをする。

 

「・・・うわぁ!?」

 

「や~いっ!逆さノワイヌ~っ!」

 

しかし、ネプテューヌが器用にもジャンプして避けたので、ノワールはこけて逆さの状態になってしまう。

それを見たネプテューヌが煽ったことで、二人はヒートアップして対戦に夢中な状態になってしまった。

 

「ちなみに・・・もっと実戦的なシミュレーションモードも用意してますから、戦闘の訓練にも使えますのよ」

 

「凄い・・・!」

 

そんな二人をよそにベールがもう一つの機能を説明すると、ユニが関心を持った。

また、戦闘の訓練という単語にハクメンも反応した。

 

「・・・ラグナよ。一つ手合わせと行こう」

 

「おっ、いいぜ。馴らしには丁度いいだろ」

 

今日はクエストを一切受けてないので体が鈍るかもしれないと思った俺はハクメンの誘いに乗った。

毎回リーンボックスに行く羽目にはなるのだが、アリーナを借りないで済むのはいいことだろう。しかもタダだし。

 

「あはは・・・。二人とも、練習するのはいいけど、今日はパーティーなんだから楽しもうよ・・・ね?」

 

「セリカさんの言う通りだよっ!今日はみんなで遊ばないと!」

 

「みんなと遊びたい・・・♪」

 

俺たちが軽い手合わせの話をしてると、セリカの案にロムとラムが便乗してきた。

セリカ(シスター)。そして幼い女神候補生の頼み・・・。その純粋さに勝てるわけも無く・・・。

 

「・・・そうだな。では、また今度とするか」

 

「そうだな・・・。じゃあ、俺たちも入ってみるか」

 

「心得た」

 

俺たちは手合わせの話を取り消し、その代わりにネプテューヌたちと同じく特殊カメラに投影してもらうことにした。

 

「おっ・・・。こいつは・・・」

 

俺の場合、背が少し低くなって服装が若干変わり、黒ずくめの格好の上に師匠からの借りていた紅い胴着を着ていた。

 

「・・・あれ?もしかしてその格好・・・」

 

「ああ。セリカは初めて見るか・・・。これはサヤを助けるために、師匠ところで修行中に来てたやつだよ」

 

確かこの格好を知ってるのは師匠とレイチェルと・・・あのデカチチくらいだったな。そりゃ解んねえわけだ。

セリカの場合は暗黒大戦時代の俺、教会暮らしの時の俺、そして今の俺を知ってるから・・・これがセリカの唯一知らない姿になるな。

 

「そうだったんだ・・・。また新しいラグナを知っちゃった♪」

 

「ああ・・・そっちなのね・・・」

 

セリカが嬉しそうに笑顔を見せたのに対し、俺は苦笑交じりに返すしかなかった。

 

「・・・あれ?そう言えばハクメンさんはどこに行っちゃったの?」

 

「どこ・・・?」

 

「ん・・・?あいつどこ行ったんだ?」

 

ロムとラムの言う通り、ハクメンの姿が見当たらないので周りを見回してみる。

だがそれでもやっぱりいないので、俺は首を傾げる。

 

「あっ!ラグナさん、足元!」

 

「足元?」

 

ユニが気づいたように指さすので、俺は足元を見てみると、左側にチラッと何かが見えたのでそっちを注視する。

するとそこには、全身真っ白で、背中に刀を背負っている。腹辺りに『ZEA』という文字が書かれているどこか猫っぽい愛嬌ある奴がそこにいた。

 

「え、ええっと・・・」

 

「ハクメン・・・だよな?」

 

俺とセリカは見た目の変化が激しすぎて思わず疑った。といかける俺は冷や汗を掻きながらだった。

するとそのハクメンであろう奴はセリカたちの方に顔を向ける。

 

「・・・ZEA(ゼア)?」

 

『・・・ハクメンっ!?(・・・ハクメンさんっ!?)』

 

「「ええ~っ!」」

 

ハクメンは普段の低くくぐもった声ではなく、それなりに高めの声だった。

余りにも衝撃的な光景が目の前に広がり、さっきまで夢中になって勝負していたネプテューヌとノワールすらハクメンの姿を見て仰天していた。

・・・いや待てよ?なんか知らねえけど、俺はこいつの呼び方を知ってるぞ?良く分かんねえけど、俺はハクメンに確認してみることにした。

 

「つか・・・お前それ『パクメン』じゃねえか!何でゲイムギョウ界なのにそれ再現されてんの!?」

 

『・・・パクメン?』

 

俺はその名を呼んでツッコむべきところにツッコむ。もちろんパクメンの存在を知らないので皆は首を傾げる。

その中にはノワールとユニも含まれるので、ツッコめるのは今回俺しかいない。

パクメンはハクメンがアマネ=ニシキの大技、『若得命華・業破抱擁(じゃくとくめいか・ごうはほうよう)』を受けることによってなる姿だ。俺もその攻撃を受けた場合こうなるのだが、俺の方がその技本来の影響なのだろう。ジンやノエルは幼少期になるらしいからな。

・・・ハクメンは何をしたらそうなるんだ・・・?ん?ネタバレ防止?正体ばれてるこっちでもそれ続けるのか・・・。こっちくらいジンにしてもいいんじゃねえか?

 

あっ。これは作者に頼まれてちょっとした宣伝だが、パクメンは『ドラゴンコミックスエイジ』から出てる『BLAZBLUE(ブレイブルー) リミックスハート』の1巻と2巻にちょこっとだけ出てくるぞ。まだ読んでない奴はこれを機に読んでもらえたら幸いだ。

後、デカチチの学園生活がメインだから、デカチチを中心に取り巻くドタバタ学園生活ものを読みたい奴にも、オススメだ。俺も1巻と2巻でちょこっと出てるぞ!しかも修行中の格好で。以上、宣伝だ。

 

「・・・何故かは解らぬが・・・投影されたら此の姿となっていた・・・。其れだけの事だ」

 

「その姿とその声でいつも通りに行くのは、いくら何でも無理があるわっ!」

 

パクメンの姿のまま腕を組んでハクメンは答えるが、ノワールのツッコむ通り、いつもの威圧感とかそういうのは無い。

しかし、パクメンの姿のまま腕を組み、パクメンの声で無理にいつも通りをしようとした姿はどこか愛嬌があるようで・・・。

 

『・・・可愛い!』

 

「ええぇぇぇぇぇぇええええっ!?」

 

皆が目をキラキラさせながら手を胸の近くで合わせて言う。ネプテューヌとノワールも目をキラキラさせながらそう言ってた。

こういったことにまだ疎い俺は、ただ驚くしかできなかった。

 

「やだ~。パクメンさん柔らか~い!」

 

ZE()・・・ZEA(ゼア)っ・・・!」

 

「ジタバタするの可愛い~っ!」

 

パクメンの方に歩み寄って皆は指でツンツンしたり撫でたりする。もちろんチカもそのメンバーに含まれていた。

いきなりのことにビックリするハクメンがパクメンの姿で暴れて見せるが、その姿が仇となって皆に火をつけてしまった。

 

「悪いハクメン・・・。そうなったら止められねえわ」

 

「・・・ZEA(ゼア)ッ!?」

 

『きゃ~っ!』

 

俺が断念した瞬間、ハクメンはびくりと体を振るえさせて驚く。

しかし、その姿がまた堪らないのか、皆は黄色い声を上げながらパクメン弄りがヒートアップしていく。

本当に干渉不能なレベルになってしまったので、俺はその光景を見ながら右手で十字架を斬っておく。

すると、それが終わった瞬間に右腕から妙な重みを感じたので見てみる。投影状態であるため詳しくは見えないが、また蒼い炎のようなものが出ていることは間違いない重みだった。

 

「これも何回目だろうな・・・。・・・?」

 

蒼い炎が消え、引っ張る感覚がやってきたので一言入れてそっちへ行こうかと思ったのだが、その感覚がいきなり途絶えた。

まず始めに、こんなに早く消えることはあるのかと思ったが、すぐに違うことに気が付いた俺はそれを否定する。

 

「こりゃ・・・本人にカットされたな」

 

本当ならすぐに確かめに行きたいところだが、これでは探しようが無いので俺は探すのを諦めるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

風が肌に当たるのを感じ、女性は目を覚ました。

目の前には夕焼けの空が広がっていることと、体の背面に何かが当たっているから倒れていると解った女性は体を起こす。

 

「見たことない場所ね・・・」

 

女性は辺りを見渡してみると、自分が今まで見たことの無い場所であることに気付く。

世界にある情報の殆ど全てを知っている自分が見知らぬ場所となった以上、女性は一つの結論にたどり着く。

 

「死後の世界かしら?それにしては賑やかすぎるけど・・・」

 

女性は結論を出すが、まだ疑念が残る。

今までマスターユニットによって、毎回都合のいいように世界が作られ、気に入らなければ何度もやり直しをさせられていた。

その世界の状況が許せなかった彼女は、その世界を破壊するために行動に移った。全てはその世界によって何度も死に追いやられる・・・自身の最愛の妹を護るための行動だった。

しかし、最終的にそれは同じく自身の妹助ける為に奮闘する一人の男に止められてしまったが、彼女は自分の妹を助けるのならと思い、「自分自身の妹を倒すのではなく助ける」ことを条件にその男に賭けて消えていった。

皮肉だと思ったが、それでも『蒼の男』であるあの男なら唯一託すことができる。その確信があった彼女は自身の命を投げ出した。

そして自分の体が消えゆく中・・・自分にとっては絶望だらけの世界の中であったが、最後の最後で『獣人』と呼ばれる種族である自分の夫に護られるという夢の時間が帰ってきていた。

 

「(そうだったわね・・・。あんな世界でも、最後は希望を持っていたのね・・・)」

 

少しの間思考だらけであったが、小休止するように女性は穏やかな顔になる。

確かに自分は死んだ・・・。再び思考に戻り、自分が起こした最後の行動を思い出して、もう一つの答えを導き出した。

 

「まさか・・・信じたくはないけど、異世界だとでも言うの?」

 

『別の事象』ならまだしも、『別の世界』とはどういうことだろうか?自身は時間硬化際に命を落とした以上、死後の世界だと考えるのだが、その割には肉体等がしっかりしている気もした。

生前とあまり変わらないのだろうか?結論を出したとは言え、女性は今一信じられそうに無かった。

 

「アマテラスによる干渉の無い世界なら・・・いえ、それにしては世界の構造と根本が・・・。・・・?」

 

女性は更に考察を続ける。

アマテラスによる干渉が無く、誰もが『願望(ゆめ)』を叶えられる世界だとした場合は、自身が今の格好では説明がつかなかった。

恐らくは自分が託した『蒼の男』があの世界に決着をつけたのだろう。それならばその男が思い描いた世界が出来上がっている筈なのだが、どうしてもそれとは違うと感じた。

ならばこれは誰の望んだ世界なのか?新しく疑問を持ったところで、女性は何かの流れを感じて辺りを見回す。

 

「この流れ・・・魔素と似ているわね・・・。でもそれとは全く違うもの・・・」

 

詳しく調べないと解らないか・・・。女性は顎に手を当てながら判断を下す。

そう決めたら早速行動を・・・と行きたいが、一度その前に確かめておかなければならないことを思い出した女性は左手を肩の高さまで上げる。

そのままの状態で女性が左手に意識を集中させると、その左手の上に小さい火が現れ、浮かんでいた。

 

「魔法は使えるみたいね・・・」

 

女性は十聖に名を連ねる程魔法の扱いに長けていた。

しかし、その魔法が使えなければただの肩書きだけにとどまってしまうので、そうならなかったことに女性は安堵する。

一応、最低限の体術も使えるのだが、それでも自身の力の大半は魔法によるもののため、使えた方が圧倒的に良いことに変わりはない。

一度左手に出していた火を消して、今度は水。風。氷。電気と・・・順番に左手に出しては消していった。

簡単な魔法を一通り確かめた彼女は大方問題ないと判断を下した。

 

「さて・・・それじゃあそろそろ・・・。・・・!?」

 

―行きましょうか。そう言いかけたところで女性は何者かに感知されたことに気づき、咄嗟に魔法でその感知を遮断した。

その間に女性は感知してきた主の場所を掴み、僅かな時間だけその周囲を見られるよう、魔法をかけることに成功する。

 

「随分久しぶりに使うような感覚だったけど・・・上手くいって良かったわ・・・」

 

脱力気味に呟いた女性は気を取り直し、感知してきた者の周囲を『観測()』てみることにした。

女性の左手に蒼い球が現れ、その人物が見ているモノを映し出す。目の前に映った光景は予想とは大きく異なるものが映されていた。

 

「・・・?」

 

目の前に広がる光景は、何人もの少女たちが一つのぬいぐるみであろうモノに群がって愛でている状態で、楽しそうに話している声が聞こえる。これは恐らく、それを傍らから眺めている人物の視点だろう。

余りにも場違いな光景を目の当たりにして女性は首を傾げた。それと同時に、先程の感知は本人の意図せず強制的に発動してしまうものだと推測した。

 

「やれやれ・・・。これでは疑った私が悪者みたいじゃない・・・」

 

何者かの陰謀がまだ動いているのかと危惧したが、余りにも平和な空間を見た女性は苦笑交じりに呟いた。

推測の通り、強制的に発動してしまい、たまたま感知したのが自分なのだろう。ならば時間が切れると同時に解除してやろう。

そう考えて女性が術者に掛けた魔法を解こうとしたが、彼女にとっては最高の知らせがそれを止めることとなる。

 

『ラグナラグナっ!ラグナも触ってみたりしない?柔らかくてハマっちゃいそう♪』

 

『・・・俺はいいよ。俺まで混ざったら本当に止められる奴がいなくなるし、ハクメンの心的疲労が・・・』

 

少女に名を呼ばれたラグナはやや低めの声で遠慮する。普段であればハクメンは何をしているのだろうと疑問が出てきたのだが、それはラグナに声を掛けた少女が理由で出てこなかった。

茶髪の髪をポニーテールにしており、自分の良く知るイシャナの制服を着ていたその少女は、彼女が誰よりも大切にし、護りたい・助けたいと思っていたが、それは叶わずあの繰り返される歴史で何度も命を失わされる少女だった。

 

「っ・・・セリカが・・・セリカがいる・・・」

 

女性は目の前で笑顔を見せる少女・・・自分の妹であるセリカ=A=マーキュリーがいることが嬉しく、その嬉しさのあまり目尻から涙が零れていた。

できることなら自分の手で。自分の力で護り通したかったが、それは叶わず、結果的に最後は自分にとって世界を狂わせた元凶として見ていたラグナに託すことしかできなかった。

それでもセリカがこうして周りの人たちと幸せそうに生きている・・・。それが彼女にとっては最も願っていたことであり、最高の知らせだった。

自分は一度死んでしまっているため、せめてものの時間で見られている夢かもしれない。或いは、自分もセリカと同じで何らかの方法で蘇させられたのかもしれないが、彼女には奇跡とも思える時間だった。

何故か自分が目を離した時にセリカといることが多い2人が、セリカの傍にいることが自分の気に障るかもしれないと思ったが、以外にもそのようなことにはならなかった。

 

「『蒼の男』・・・『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』・・・あんたの持つ可能性は本物だったようね・・・」

 

一つ目の理由は、ラグナが自分の見込んだ通り『蒼の男』として可能性を世界に提示し、あの絶望だらけの世界を変えたこと。

よくよく思い返せば、暗黒大戦時代の時もラグナの機転があったおかげでセリカが犠牲にならずに済み、『黒き獣』を打倒する為の方法・・・『術式』を完成させることができた。

実際には遥か昔に行われた『素体戦争』が関わったことによることが大きいのだが、ラグナが停止時間を作らなければ『術式(それ)』を完成させることもできなかっただろう。

ラグナが世界を変えたかどうかを確かめる術は、本人に訊くほかないだろうが、少なくとも『悪夢』は消し去った・・・。その確信が女性にはあった。

その『悪夢』が消え去った以上、ラグナを憎む理由はもう無い・・・。ここまでが一つの理由だった。

 

「本当は今すぐ行きたいけど・・・セリカの為と言っておきながら、あの時セリカを悲しませた私が・・・。あの子の隣にいる資格はない・・・」

 

二つ目はセリカのことを想っておきながら、セリカの気持ちを汲み取れなかった情けなさからくるものだった。

本当ならば今すぐにセリカの所へ行きたい。また色んなことを話して、今度こそ護り通したい。

だが、それは『エンブリオ』で行った自分の行動を考えると、少なくとも今すぐ行こうとは思えなかった。

 

「でも・・・。私がいなくても、ハクメンとラグナ(あの男)ならセリカを護り抜く。

少なくとも、私がどうするべきかを考えて、戻ってくるだけの時間はあるでしょう・・・」

 

三つ目は暗黒大戦時代、無茶な行動をしたり、話を聞く様子が見られなかったが、自分が間に合わない時に体を張ってセリカを助けてくれたハクメン。

『黒き獣』や仮にも『六英雄』の一人である自分を前に臆せず立ち向かい、その行動がセリカを助け、自然とセリカの心の支えとなっていたラグナ・・・。この二人ならにセリカを任せてもいいかもしれないと言う信頼だった。

そう考えを纏めている間に、蒼い球の光は弱まっていき、最後はセリカが楽しそうにしているの横顔を映してゆっくりと消えていった。時間切れが来てしまったのだ。

 

「時間切れか・・・」

 

女性は名残惜しく思ったが、セリカがいると分かれば自分も頑張れると目尻に残っている涙を拭う。

その涙を拭った顔は穏やかな表情をしていたが、その瞳には一つの決意を宿していた。

 

「(セリカ・・・。私はどうするべきか少し考えてくるわ・・・。

考えが纏まったその時にまた会いましょう。ハクメン。そしてラグナ・・・少しの間セリカを頼むわね)」

 

女性の名は『ナイン』・・・。実のことを言うと、これは本名ではない。

彼女は自身の名を好ましくは思っておらず、『十聖』に名を連ねた時にこの名を貰った。

その名を貰って以来、彼女は基本的にその名で物事を通すことが殆どになったが、名を変えるのに都合が良かった彼女は寧ろ好都合だった。

ナインは己の答えを導き出すため、この新しい地・・・ゲイムギョウ界を歩き出した。

ハクメンとラグナを信じ、いつか再び妹の前に顔を出せる日を思い描きながら・・・。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

時刻は夕刻。場所はリーンボックスの離れ島にあるズーネ地区。

現在は夕陽によって赤く照らされてるこの場所に、マジェコンヌとレリウスがいた。

計画はもう間もなく最終段階に入る。残りは最後の一つを回収したネズミと、レリウスの依頼を聞いてリーンボックスの近くに向かったテルミを待つだけだった。

 

「しかしレリウスよ・・・お前は何を頼んだのだ?」

 

「女神の内誰かから、少々気になる気配を宿している者がいるようでな・・・。其れの確認を頼んだ」

 

「・・・大丈夫なのか?『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』かハクメンにバレたら終わりではないか・・・」

 

「テルミはその点でしくじりはしないさ・・・。奴の情報収集能力は当てにしている」

 

レリウスの頼みにマジェコンヌは危惧したが、レリウスのテルミに寄せる信頼を垣間見ることになった。

 

「ならば・・・それを信じて待つとしよう」

 

レリウスとテルミの能力は既に当てにできると理解しているマジェコンヌはそれ以上追求することはしなかった。

すると数分後、小さい体で必死に走るネズミと、姿勢が悪いものの、自分なりにリラックスした状態で歩いて戻ってくるテルミの姿があった。

 

「遅いっ!危うく計画が台無しになるではないか!」

 

「これでも精一杯急いだっちゅよっ!余裕ないスケジュール組んだオバハンもオバハンっちゅよ!」

 

「まあまあ・・・良いじゃねえかよ。結果的に間に合ったんだからよぉ・・・」

 

マジェコンヌがネズミに怒鳴り、こき使われているネズミは堪らずマジェコンヌのスケジュールに文句を言う。

それを見たテルミはからかい気味にたしなめる。そうするテルミは、どこか上機嫌だった。

 

「・・・そうだな。いちいち腹を立てては持たんな・・・。

しかしテルミ。そこまで上機嫌になるとは・・・何があったのだ?」

 

「ああそうだった・・・。

ヒヒッ・・・朗報だぜレリウス・・・。プラネテューヌの女神候補生なんだけどよぉ・・・どういうワケか、『あの嬢ちゃん』の魂が混ざってたぜ・・・。

こんなの面白過ぎんだろぉ・・・?ケヒヒヒヒッ!」

 

「なるほど・・・それはとても良い知らせだ。感謝するぞテルミ・・・」

 

マジェコンヌに問われたテルミは思い出すように、レリウスに笑いがこぼれながら伝える。

それを聞いたレリウスも満足そうに笑みを浮かべながら仮面のズレを直した。

 

「?ネズミ、お前には解るか?」

 

「いや・・・さっぱりっちゅよ・・・・」

 

珍しくついていけなかったマジェコンヌじゃネズミに訊いて見たが、ネズミは首を横に振る。

 

「ああ・・・まあこりゃ仕方ねえよ・・・また今度話せるときにな」

 

「そうか・・・。さて、ネズミよ・・・そろそろ例の物を貰うぞ」

 

「分かってるっちゅよ・・・コレっちゅ」

 

テルミの言葉を聞いたマジェコンヌは頭を切り替えてネズミからアンチクリスタルを受け取る。

それを見たマジェコンヌは勝利を確信したかのような、いかにも悪役らしい笑みを浮かべた。

 

「これで四つ揃った・・・。さて、テルミ。レリウス。考えていた策は今のうちに頼むぞ」

 

「了解した。理論はすでに完成しているのでな・・・一時間もあれば終わる」

 

「ああ。頼む」

 

マジェコンヌはアンチクリスタルを四つ全てテルミとレリウスに向けて投げ渡す。

テルミとレリウスはそれを片手で一つ、もう片方の手でもう一つとキャッチした。

受け取りながら告げられた回答に、マジェコンヌは満足そうに頷いた。

 

「さて・・・奴らの準備が終わり次第始めるとしよう」

 

マジェコンヌの言葉にネズミは頷き、テルミは作業をしながら軽く右手を振り、レリウスはイグニスを使って作業をしていたため、振り向いて頷いた。

 

「今夜・・・世界というゲイムのルールが、塗り替えられる・・・」

 

夕陽を見ながら呟いたマジェコンヌの表情はこれからの世界を楽しみにしているものだった。




以上で新年一発目の投稿のお話になります。今回はちょっとだけメタ分多いですかね。

今回はワンシーンだけナインの登場となります。
本格的にラグナ達と絡んで行くのはもう少し先となりますね。

ギャグシーンどうしようか迷ったときに『業破抱擁』でパクメンになるハクメンを思い出し、今回のネプテューヌとノワールがスライヌとして投影されるシーンに使ってみました。タロ先輩はパクメン弄りながら超クオリティ高いって言って興奮で顔を赤くしてるし、近くにいたエマ先生も触ってみたくてそわそわしてるシーンがある辺り、パクメンの威力すげえなと(笑)。
ラグナの場合はデッドスパイクさんも考えていたのですが、業破抱擁繋がりならこっちだなと思いました。

次回で3話が終わるか終わらないかくらいになると思います。


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23話 対峙する悪夢

成人式や何やらで一切執筆に手を付けられない時間が三日もできてしまって遅れてしまい申し訳ありません。
今回は3話の終盤辺りまで進みます。

また、キャラリクエストでラムダを出して欲しいと頂きました。
調整してうまく出したいと思います。


時間はすっかり夜となり、皆はベールが用意してくれていたゲームをまだやっていた。

俺とハクメンは投影を終了させたので、今は元通りである。セリカも途中までは参加していたが、体力が持たず途中で終了した。

そうして俺たちが楽しんでいる最中、ドアが開けられる音が聞こえた。

 

「何ですの?パーティーの最中に・・・」

 

「ベールお姉さま・・・それが・・・」

 

さっき一度席を外したチカが戻ってきて、ベールに持ってきた情報をひそひそと伝える。

その様子を見て一度ここまでだと判断したノワールは、手元にあったコントローラーの終了用のボタンを押した。

すると、さっきまでの森に囲まれた景色は元の教会の部屋に、モンスターの姿となっていた皆は元の姿になった。

 

「・・・あれ?もう終わり?」

 

さっきまでスライヌの姿で体を引っ張られていたネプテューヌは拍子抜けする感じがしているようだ。

ノワールは話の内容を確認するべくベールの方へ歩いていく。

 

「何かあったの?」

 

「それが・・・ズーネ地区にある廃棄物処理施設に、多数のモンスターが現れたと言う知らせがあったのですわ」

 

ノワールの問いにベールが返した答えは悪い知らせだった。

ベールは言うが早いか、仕事用のノートパソコンを開いて操作を始める。

 

「ズーネ地区・・・離れ小島ね。引き潮の時だけ地続きになるという・・・」

 

「モンスターくらいどこにでも出るっしょ?」

 

「国が管理している地区ですから、そんなことはあり得ませんわ・・・。

でも・・・事実のようですわね・・・」

 

ブランはベールが行った場所のことについて自分の知識の引き出しから情報を引っ張り出した。

引き潮だけ地続きか・・・。なんか嫌な予感がするのは気のせいか・・・?こう感じたのは、素体の隠し場所を見た時のようなことの経験からかもな。

また、ネプテューヌの言葉をベールは否定した。国が管理する際、基本的にその場にいるモンスターは一掃されてしまうそうだ。だからこそ、今回の事態がかなり異常だと言うのが良くわかる。

ベールが確認すると、パソコンの画面にはモンスターの存在を示すようにグラフで描かれていた。

どんな理由でも、国が管理する地域にモンスターがいることは事実で、それに対処せねばならない。パーティーの最中だったこともあります、ベールはため息混じりに呟いた。

 

「私・・・今から行ってきますわ」

 

「私も行くよーっ!」

 

ベールはもちろん一人で行くつもりだった。そんな中真っ先に同行を申し出たのはネプテューヌだった。

 

「ですが・・・これは私の国のことですから・・・」

 

「こうして私たちがいるのも何かの縁だしさ・・・手伝わせてよ」

 

「またお決まりの『友好条約を結んだから仲間』・・・ってやつ?」

 

「まぁねーっ!」

 

ネプテューヌのついていく理由に友好条約は最も理にかなったものだ。だがそれ以上にネプテューヌは善意を持って手伝うことを選んだのは想像に難くない。

そんなこともあって、ノワールに皮肉めいて言われてもあっさりと流している。

 

「私も手伝う・・・誘拐事件の時の恩を返すいい機会だから・・・」

 

ブランも善意で選んだことは間違いない。ロムとラムがこうして皆といられるからこそ、ブランが善意で手伝うことを選べる。

もしこの二人がいなかったら手伝わないどころか、このパーティーにすら参加しなかったかもしれないと思うと、あの時本当に助けられて良かったよ・・・。

そして本当に・・・俺のようにならないで良かった・・・。改めて俺は安堵した。

 

「よーし、じゃあ三人で・・・」

 

「私も行くわよっ!あなた達だけじゃどれだけ待たされるかわからないもの・・・」

 

ネプテューヌが言いかけたところにノワールが対抗するように参加を申し出る。

口ではこう言ってるけど、結局は善意なんだろう・・・。なんとなくだが俺はそう感じた。

 

「それなら俺も行くよ。あん時の恩・・・まだまだ返した足りねえからな」

 

「此の世界の秩序を乱す『悪』を滅するは我が使命・・・。故に私も行こう。

ラグナとの(くだん)で混乱を招いた詫びも有るのでな・・・」

 

「皆さん・・・」

 

俺とハクメンも参加を申し出た。

正直なところ、あん時俺を迎え入れてくれた恩はいくら返しても足りないくらいのものだ。

ハクメンは自分の行動方針の都合上もあるが、参加することに変わりなかった。

『黒き獣』の云々での詫びの分か・・・俺はもう気にしてねえからいいけど、やっぱりそれは皆次第か。

ベールは俺たちの手伝おうと言う気持ちが嬉しかったようで、表情が明るくなる。

 

「わかりました。では、6人で参りましょう」

 

「あ、あの・・・!」

 

ベールの言葉に頷いて早速向かおうとしたところで、ネプギアの声が聞こえたので俺たちはそっちを振り向く。

 

「私も・・・行きますっ!」

 

「えぇっ!?あ、アタシもッ!」

 

「私もっ!」

 

「・・・私も」

 

ネプギアは何と俺たちへの同行を申し出てきた。恐らくはただ見ているだけなのはもう嫌なのだろう。

ネプギアの一言が呼び水となったのか、ほかの三人も対抗するかのように参加の声を出す。

 

「ロム・・・ラム・・・。二人には悪いけど、今回は連れていけないわ・・・。遊びじゃないから今回は留守番よ」

 

「えーっ!?」

 

ブランはロムとラムの同行を拒否した。ロムが残念そうに俯くのに対し、ラムは不服そうに声を上げた。

ブランがこれから行く先は戦場になるし、何かがあったらロムとラムを守りながら戦うのは難しい。

だからこそ、二人には悪いが待ってもらうしかなかった。

 

「ごめんなさい・・・また今度、どこか出掛けましょう」

 

「・・・分かった。それなら今日はちゃんと待ってる」

 

「私もちゃんと待ってる・・・」

 

ブランの申し訳なさそうに出した提案を二人は一泊置いたものの呑んでくれた。

それを見たブランは安堵した。最悪は意地でも置いていくつもりだったのだろう。大人しく話を聞いてくれたことは、恐らくは誘拐事件の後ハクメンが加入したことが大きい。

 

「あなたも留守番よユニ。あなた、まだ変身できないんだから・・・」

 

「・・・・・・」

 

ノワールの言葉がかなり効いてしまったようで、ユニは俯いた。

これはノワールにとってはユニの身を案じてのことだったのだが、ユニにとっては力を認めて貰えないと言うすれ違いが起きているのが原因だろう。

 

「ネプギア、ここはお姉ちゃんを信じて待っててよ。たまにはいいとこ見せないとね・・・」

 

「・・・うん」

 

ネプテューヌは胸に手を当てながら得意げに言うものの、最後は苦笑交じりになってしまった。

だがそれでも、その言葉に安心したネプギアは一泊置いてから頷くのだった。

 

「それじゃあ・・・変身っ!」

 

「お前ら、また後でなッ!」

 

ネプテューヌの合図で四人が変身を始める。

それを確認した俺は猛ダッシュでこの部屋を後にする。ハクメンは『スサノオユニット』の恩恵でトンでもない身体能力があるから問題ないのだが、俺は違う。

このままだと俺だけ一人すげえ遅いという事態に陥るため、バイクを取りにいくのだった。

そして、バイクを取って中庭に戻れば、既に変身を終えた四人とハクメンが待っていた。

 

「大丈夫ね?」

 

「遅れて悪かった!もう大丈夫だ」

 

ノワールの問いに俺は詫びを入れながら答え、それを聞いたズーネ地区に出向くメンバーが顔を見合わせ頷く。

 

「それじゃあみんな、行くわよっ!」

 

「・・・承知ッ!」

 

ネプテューヌの合図にハクメンが代表するかのように力強く頷いた。

そして、女神は各自で空を飛び、ハクメンは地面を蹴って飛び降りて走り出す。

 

「あ・・・ラグナさんっ!」

 

「どうした?」

 

ハクメンも飛べない分、最大速度は幾らか女神たちに劣るのだが、それでも速い。

バイクである俺は小回りや加速が効かないから遅れると置いてかれる・・・。そのためすぐに走り出そうとしたところでネプギアに声をかけられてそっちを振り向いた。

 

「ちゃんと・・・帰ってきてくださいね・・・」

 

「・・・ああ。任せろ」

 

不安になっていたように見えるネプギアを安心させる為にも、俺がちゃんと帰ってくる為にも、俺は帰ってくることを誓った。

こうして答えている内に、かなり距離が開いてしまったので、俺は急いで皆の方へ走るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ゲイムギョウ界・・・女神・・・シェアエナジー・・・。

聞いたことない単語がこんなにあるなんて・・・どうやらここが異世界であることは間違いないようね・・・」

 

夜の街を歩きながら、ナインはリーンボックスの街中で聞き、図書館で知ることのできた情報を整理していく。

女神のことを訊いたときはこの世界にも『ムラクモ』が存在しているのかと驚いたが、違うと分かって安心する。

そして、この世界に来て驚いたことが彼女にもあった。

 

「『紅の旅人』と『白き守護神』ね・・・。元の世界とは大分違う見られ方をしているようね」

 

二人の通り名は元居た世界と大分変わっている。

ハクメンは『六英雄』と呼ばれる暗黒大戦時代に『黒き獣』を打つ際に筆頭すべき活躍をした者の一人で、その中でも彼の強さは飛びぬけていた。

現在は当時の半分も力を出せていないが、それでも並の相手なら手をつけられない程強いので、もしゲイムギョウ界の人たちのために戦っているのなら『白き守護神』と呼ばれてもおかしくは無い。

ハクメンに対して、ラグナの方には大分驚いた。

ラグナの場合、元の世界では統制機構に反逆をしていたことから『死神』と呼ばれ、事情を知らない者から恐れられた。

しかしどういう訳か、今のラグナは自分の大切なもののために戦いながら、時折気の向くままに各国をふらりと旅回っていた。

ゲイムギョウ界に住む多くの人から信頼を寄せられ、彼の着ているコートを中心に、服装が旅人らしく見えるのもあって『紅の旅人』という呼び名は似合っていると感じた。

 

「さて、次はどこへ行くべきかしらね・・・」

 

現状、ナインはまだ情報が足りなすぎると感じていた。

恐らくは『境界』で真実を知ったときなど、元の世界では世界の根底にある情報を引き出せたことが起因しているのだろう。

レリウスと比べて狂気的なものではないが、ナインもそれなりに知識欲が高い方だ。

書物で多くの情報を引き出すのならルウィーを勧められたが、運の悪いことにナインはこの世界の通貨であるクレジットを持っていなかった。

そのため、現状はこのリーンボックス内でできる範囲で行動するしかないのだが、一般的な情報収集は既に終えてしまっていた。

また、シェアエナジーの根源は何かと聞いてみたところ、一般市民には「何を言っているのかさっぱり。シェアエナジーは人々の信仰が力になるものではないのか」とご定番のような返答をされてしまった。

しかし、それはナインの聞きたい情報ではなかったため、結果として空振りになってしまった。

 

「・・・今のままだとたどり着きたい情報にはたどり着けそうに無いわね・・・。そろそろ外に出向いてみようかしら?」

 

外にはモンスターと呼ばれる存在もいるため、自分の力がどれくらいかもわかるし、ここにいるよりは良いだろう。

そう判断したナインは早速移動を始めようとしたところで、誰かにぶつかってしまった。

 

「ごめんなさい。怪我は無い?」

 

「は、はい・・・ボクは大丈夫です・・・」

 

身体能力がそれなりにあるナインはちょっとぶつかっただけくらいなら平気であるため、真っ先にぶつかった相手を気にした。

非常にたどたどしいものの、無事だということが分かったので、ナインは安心しながら声のする方を振り向いた。

すると、目の前には街中で情報収集を行っていた際に、建物にかけられていたモニターで度々映されていた、水色の長い髪と頭にかけられているヘッドフォンが特徴的な少女が目の前にいた。

 

「えっと・・・あなたは5pb.・・・で合ってたわね?」

 

「あっ、はい。ボクは5pb.です・・・」

 

ナインが訊いてみると、確かに5pb.と名乗ったので本人だろう。モニター越しで新曲の宣伝をしていた時と比べて少し声が上ずっているような感じはするが、こちらが本来の彼女なのだろうとナインは考えた。

 

「いきなりごめんなさいね・・・。私はナイン。少し訳があっていろんな人に聞き込みをしているのだけど・・・良かったら協力をお願いできるかしら?」

 

「・・・・・・」

 

ナインの頼みに5pb.は少し考え込む。いきなり頼んだことなのだから無理もないとナインは思っていたため、急かそうとは思わなかった。

断られる確率の方が高いと思っていたナインの思考とは裏腹に、5pb.の表情が笑みに変わった。

 

「わかりました。ただ、立ち話しも難だから場所を変えましょう。ついてきて下さい」

 

「ありがとう。助かるわ」

 

5pb.の承諾と案内にナインは感謝してついていくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「しかしまあ・・・よくこんなにモンスターを集められたっちゅね・・・」

 

「でなければ、女神どもを纏めておびき寄せられんからな・・・」

 

ズーネ地区にて、多数のモンスターが地面から出てきたのを見てネズミが呟く。

本来ならばリーンボックス国内で管理しているこの地区にモンスターは現れないが、これらはマジェコンヌたちが地面の中に隠していた機械型のモンスターたちが動き出したものである。

ただし、モンスターがほんの数体だと女神が一人で倒して帰ってしまい、折角用意した女神を倒す為の用意がある台無しになるため、こうして多数のモンスターを集める必要があった。

女神たちを罠に掛ける為に大量のモンスターでおびき寄せる・・・。これはマジェコンヌが当初から考えていた策であった。

 

「女神がどのような魂を持つか・・・見ものだな」

 

「まあ、テメェはそうなるよな・・・。ああでも、俺様も楽しみだなぁ・・・自信満々な女神ちゃんたちが足元掬われた時にどんな顔するかがよ・・・ケヒヒッ!」

 

また、レリウスとテルミはこれから女神たちと対面するにあたって、違う理由ではあるが楽しみに嗤った。

 

「早く来い・・・女神ども。この私が貴様らに終焉を与えてやろう・・・」

 

「来いよラグナちゃん・・・今度こそテメェが絶望する時だぜ・・・ヒ・・・ヒヒッ!」

 

これから起きることに胸を躍らせ、マジェコンヌは帽子を摘まみながらほくそ笑み、テルミも笑みをこぼすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「(兄さま・・・まだ見つけてくれないのかな・・・?お姉ちゃんたちも大丈夫だと思うけど・・・胸騒ぎがする・・・)」

 

『少女とネプギア』はベランダからネプテューヌたちの向かった先の方を見ながら不安になっていた。

一つは未だ本当の意味で兄と再開できぬことに少女が。もう一つは姉たちに何かが起きるかもしれないというネプギアの不安だった。

 

「ネプギアちゃん・・・大丈夫?」

 

「ロムちゃん・・・。心配させてごめんね。ちょっと・・・会いたい人に会えないのが寂しかったんだ・・・」

 

「・・・会いたい人?」

 

不安に駆られる中、声をかけられたのでネプギアはそちらを振り向く。

声の主はロムで、こちらを心配してくれていた。ネプギアは謝罪して理由を話した。ここで「ありがとう」と出なかったのは後ろ向きの考えをしていたことが大きい。

また、その答えを聞いたロムは首を傾げながらオウム返しに訊いてきた。

 

「うん・・・今までずっと遠くの方で戦ってて・・・最近になって帰ってきたんだけど、またすぐにどこか行っちゃうの・・・」

 

「・・・戦う?ネプギアちゃん、もう戦いはしないってお姉ちゃんたち言ってたけど・・・。

その人は勝手に戦いを起こしちゃうの・・・?」

 

少女は自分が会いたいと思っている人物が最近していたことを大まかに、ネプギアとして話していく。

『あの日』に自分諸共大切なものを奪われ、それ以降は自分を助ける為に戦い、自分を助けた後はこの世界で自分にできることをしていた。

そして今、その人物はネプテューヌたちと共に現場に赴いていった・・・。いつものように何事もなく帰ってくると信じているものの、それでも会えないというのは寂しいものだった。

しかし、戦いと言う単語がその人物は女神の決めたことを破ろうとする人と誤解を招いてしまったらしく、ロムが体を振るえさせながら訊いてきた。

 

「ううん。そうじゃないの・・・その人はみんなのためにモンスターと戦ってるの。危険種の討伐もできるから、度々いろんなところで倒しに行くの・・・。それでみんなを護れるならって言ってた」

 

「じゃあ・・・悪い人じゃないの?」

 

「うん。不器用だけどとても優しい、いい人なんだ・・・」

 

「ほっ・・・良かった・・・」

 

ロムが体を振るえさせていたことに気づいた少女は誤解を正すためにその人物の戦いを正確に話す。

するとロムが戸惑いながら再び訊いてきたので、少女は背中を押すように肯定するとロムは胸をなでおろした。

 

「ネプギアちゃんとその人・・・早く会えるようにお祈りするね」

 

「・・・ありがとう。ロムちゃん」

 

ロムが胸の前で両手を合わせて目を閉じて祈る動きを見せる。それが嬉しく思った少女はロムに笑顔でお礼を言うのだった。

 

「でも・・・何でだろう?大丈夫だと思うのに、今日だけは胸騒ぎがする・・・」

 

「・・・ネプギアちゃん?」

 

「あっ、ううん!何でもないの・・・。冷えちゃうからそろそろ戻ろっか」

 

『少女とネプギア』は体をベランダの先の方へ向けながら再び不安の表情を見せた。それを見たロムは再び首を傾げた。

それに気づいたネプギアは慌てて話を打ち切り、ロムと一緒に部屋に戻る。

ネプギアはこの時の会話の記憶が全てハッキリとしていた。

 

「そう。分かった・・・ありがとうオトメちゃん」

 

「どうかしたんですか?」

 

部屋に戻ると、アイエフが電話をしていた。思った以上に真剣な表情であったため、ネプギアはアイエフに訊いてみる。

 

「昼間買い物に行ったときに見たネズミ・・・見覚えある気がして諜報部の仲間に調べてもらったの・・・。

そしたら案の定、各国のブラックリストに載ってたわ。要注意人物・・・と言うか要注意ネズミとしてね」

 

「えっ!?あのネズミさん、悪い人だったですか?悲しいです・・・」

 

電話の内容はネズミのことだった。自分が善意を持って助けた相手が悪人だと知ったコンパは悲しげな表情に変わる。

 

「しかも、数時間前にズーネ地区に船で向かったのが目撃されているの・・・。

そこには黄色いフード付きのコートを身に着けていた、体がかなり細い男もいたそうだけど・・・」

 

「・・・えっ!?黄色いフード付きのコート・・・?」

 

「セリカ、何か知ってるの?」

 

「気のせいだと信じたいんだけど・・・私の予想通りなら、とても危険な人・・・。

私の一回目の死は、その人の手にかけられたからだもの・・・」

 

アイエフの話を聞いたセリカは驚愕の声を上げた。セリカの反応を見てアイエフは訊いて見たが、セリカは自分でも半信半疑だった。

その最大の理由として、ラグナとハクメンの会話からその人物はラグナが倒したことをセリカは既に聞いていることが最大の理由だった。

 

「そんな奴がこっちに来てるのは大分危険ね・・・。

ネズミのこともそうだけど、今回のモンスターの件はそいつらが関与している可能性が高いか・・・」

 

アイエフは自分の考えを纏めながら危険な知らせが自分の中を駆け巡っていた。

ネズミがその人物と共にネプテューヌたちをおびき寄せ、その場で倒す為の策を立てているのなら伝えなければ不味いと考えていた。

 

「今ならまだ引き潮に間に合う・・・私、ちょっと行ってくるわ!」

 

「あ、あのっ!」

 

アイエフは短く告げてすぐにズーネ地区に向かおうとしたが、それをネプギアが引き留める。

 

「私も、連れていってください!」

 

「えっ?ダメよ。ネプギアまで危険な目に遭わせるわけには・・・」

 

「どうしても気になるんですっ!お願い、アイエフさん!」

 

―あの人だとしたら兄さまが危ないっ!

アイエフの拒否を振り切ろうとするのは、兄に無事でいて欲しいという少女の願いだった。

ネプギアも自分の胸騒ぎを確かめたいと思っているが、少女の思いの方が勝っていた。

その必死な頼みにアイエフは仕方ないと軽くため息をついた。

 

「分かった・・・。でも絶対に無理をしないこと。少しでも危険を感じたらすぐに撤退だからね?」

 

「ありがとう・・・アイエフさん!」

 

こうして、アイエフの指示に従うことを条件に『ネプギアと少女』は同行を許された。

そのままアイエフが用意していたバイクに二人乗りする形で夜の道を疾走し、ズーネ地区に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「見えて来ましたわよ」

 

ズーネ地区の上空からモンスターの姿を確認したベールが三人の女神に一言知らせる。

変身を済ませている女神たちは視力にも恩恵を受けており、数十キロメートルも離れているにも関わらず、モンスターの姿を確認することができる状態になっていた。

 

「ゲッ!うじゃうじゃいやがる・・・」

 

今回確認したモンスターは球場の機械型で、非常に小型のモンスターが多数だった。その数の多さにブランは少々辟易した。

 

「でも数だけ・・・。来てもらった二人には悪いけど、これなら私たちだけで事足りるわね」

 

「そうね。無駄足にさせてしまうのは気が引けるけど、街にモンスターが行ってしまっては元も子もない・・・。

ここはすぐ倒しに行きましょう」

 

話している間に、女神たちのことを関知したモンスターたちが数体で集まって体を光に変えて融合を始める。

融合が終わり光が消えると、そこには四足歩行をする全身が緑色をしている機械型のモンスターがいた。

他のモンスターたちもそれぞれで集まっていき、最終的には四足歩行の機械型モンスターが四体になった。

四体のモンスターは四人に向けて、光弾による無数の砲撃を始める。

女神たちはその弾幕の間を縫うように避け、無理な攻撃は手に持っている武器で弾いてやり過ごす。

 

「この攻撃・・・私たちは平気だけど、ラグナたちは少し危ないわね・・・」

 

「確かにな・・・飛べる私たちはともかく、あいつらは限定的にしか空中にいられない以上、限度がある・・・」

 

モンスターの攻撃を避けながら、ネプテューヌたちは後から来る二人のことを危惧した。

 

「なら一人一体・・・。速攻で倒すべきね」

 

「それは良いけど・・・みんなで一体ずつの方が確実じゃないかしら?」

 

「ですが、一人一体請け負えばお二方へ攻撃が届く確率がかなり下がりますわ」

 

ノワールは分断を。ネプテューヌは集中攻撃を提案したところに、ベールが分断に賛成した。

ベール自身、何事も無ければネプテューヌの案に賛成したところだが、今回は女神で無ければ回避の難しい弾幕を張るモンスターが四体いる以上、後続の二人がこちらに来るまでは自分達で引き付けて安全を確保しておきたかった。

 

「ネプテューヌ。私も一人一体の方がいいと思う。

あれくらいの相手、私らならすぐに倒せるだろうからな」

 

ここでブランが集中攻撃を選んだ場合は平行線になってしまうところであったが、幸いにも分断を選んだことでそれは無くなった。

 

「・・・わかったわ。なら、すぐに終わらせましょう!」

 

最後にネプテューヌが分断を認めたことで話は成立し、ネプテューヌの掛け声に頷いて三人が先にモンスターの元へ向かっていき、ネプテューヌも一歩遅れてモンスターの元へ向かっていった。

モンスターが作り出している弾幕を掻い潜り、一番先にたどり着いたのはノワールだった。

 

「はぁっ!」

 

ノワールは一番近くにいたモンスターを右足で蹴り上げる。それによって蹴りあげられたモンスターは一瞬だけ宙に浮いて攻撃を止める。

また、他の三人へ砲撃を続けていたモンスターが一度攻撃を止めてノワールへ銃口を向けたが、ノワールは自分が攻撃を加えたモンスターの方を見続けていた。

モンスターがノワールへ一斉に攻撃をしようとしたところで、遅れてやって来た三人がブラン、ベール、ネプテューヌの順で最初の一体を省いて近い順に攻撃を加える。

それによってモンスターたちの攻撃が再び阻止される。

モンスターたちがそれぞれ自身を攻撃した相手に銃口を向けて攻撃をするが、四人の女神はそれを見抜き、上に飛んで避けながら背後に回り込む。

モンスターたちはそれぞれ背後に向き直るがすでに遅く、四人はそれぞれの技の構えを取り終えていた。

 

「レイシーズダンスッ!」

 

「テンツェリントロンペッ!」

 

「レイニーナトラピュラッ!」

 

「クロスコンビネーションッ!」

 

ネプテューヌの刀による連撃、ノワールの剣と足技による連携、ブランの斧を用いた全力の攻撃、ベールの槍による怒濤の突きを受けたそれぞれのモンスターは、四女神の攻撃に耐えられず光となって消滅するのだった。

 

「終ったな・・・」

 

「思った以上に早く終わりましたわね・・・」

 

「ね?言ったでしょ?速攻の方がいいって」

 

「そうね。あなたたちを信じて良かったわ」

 

辺りにモンスターがいないため、女神たちは反省会のような空気になっていた。

既に敵が仕掛けた罠の中にいることを知らぬまま・・・。

 

 

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

 

 

「変だな・・・。なあハクメン。いくらあいつらだからって、多数のモンスターをこんな短時間に葬れると思うか?」

 

「其れについては肯定したいところだが・・・私も回答は否だ」

 

ネプテューヌたちと違って地上からズーネ地区を渡っていた俺たちは今の状況を見て、お互いの意見を出していた。

あいつらが中枢だけを突破していったと言うのなら、道中のモンスターがおざなりになっていてもいいはずなのだが、そのモンスターが一体もいやしないので俺たちは疑問に思っていた。ちなみに、モンスターの光弾が見えてから消えるまで10分も満たなかった。

そして、暫く進んでいると坂道が終ったので俺たちはそのまま前に進んでみる。

本野少し進むと、バイクでそのまま降りると危険なくらいの急斜面が見えたので俺はバイクを止めて降り、斜面の先を見てみる。

そこにはモンスターの菅田など一切見当たらず、モンスターたちを既に倒し終えたであろうネプテューヌたちがそこにいた。

俺たちを見つけたネプテューヌがこっちを向いて手を振ってきたので、俺とハクメンは顔を見合せて頷いてから斜面を降りてネプテューヌたちの元へ向かった。

 

「わざわざ来てもらったのにごめんなさい。もう終わってしまったわ」

 

「あの弾の量見たらそっちに向いたときヤベエって感じてな・・・急いだ結果こうなったんだ」

 

「なるほど・・・そう言うことだったか」

 

ネプテューヌとブランの説明を聞いて俺は納得するように頷いた。カグツチでジンに会ったときと似たような状況なので、俺には油断できないからだ。

ハクメンもハクメンで、周囲になにか無いかを見回していた。

 

「・・・・・・!」

 

「どうしたハクメン?こっちに何かあるのか?」

 

「御前たち!今すぐその場から離れよッ!」

 

「・・・えっ?」

 

ハクメンがこっちを振り向きながら声を荒げて言う。

その様子からヤバイと思った俺はすぐに何度か飛び退いてその場から距離を取るが、四人はそのまま強行突破していたのが仇となり、困惑するだけに留まってしまう。

そして俺がある程度のところまで飛び退くと、地面が揺れる音がして、ネプテューヌたちのいるところの足元からいくつものコードのようなものが現れ、ネプテューヌたちに絡み付いて拘束する。

 

「何なの!?」

 

「・・・ザケンなよぉっ!」

 

「気持ち悪いわね・・・!」

 

「・・・こんなもの・・・っ!」

 

ネプテューヌたちは脱出するため飛ぶことによって高度を上げて、絡み付いてるコードを引きちぎろうとするものの、予想以上の強度があり、もう少しのところで地面に引き戻されてしまう。

 

「待ってろ!俺が今からそっちに行ってやるッ!」

 

俺は剣を引き抜いてネプテューヌたちの所へ駆け寄る。

何かあるかもしれないと思ってはいたが、まさかこんなもんを仕込まれてるとは思いもしなかった。

俺が皆の所へ走ってる間にも、皆は体力を奪われていき、飛ぶ頻度が落ちていく。それを見た俺は足を早めようとする。

 

「ラグナよ!止まれ!」

 

「っ!?今度は何だッ!?」

 

ハクメンの制止の声が聞こえた俺は、足を止めながらハクメンの方を見て問い返した。

 

「さて・・・。そろそろ幕だな」

 

「「・・・!」」

 

「あれが黒幕・・・?」

 

その問いに答えるが如く、女性の声が聞こえたので俺たちはそっちを振り向く。

するとそこにはまるで魔女のような奴がいた。

その姿を見たネプテューヌはそいつを見て疑問に思ったが、それに答えられるやつはここにいない。

また、その女性も今は答えないだろう。

 

「女神たちよ・・・我がサンクチュアリに堕ちるがいいっ!」

 

そう高らかに告げながら、目の前にいる女性は十字の形をした赤い光を放つクリスタルを楕円状の機械に嵌め込み、ネプテューヌたちの頭上へと投げる。

それがネプテューヌたちの頭上へ到着すると、地面から三つ同じものがコードで身動きを取れないでいる皆を囲むように現れる。

それからすぐに紫色の光線で三角錐に機械同士を結び、そこから紫色の光でその空間が満たされていく。

幸いにもハクメンの言葉を聞いて止まった俺は数歩手前の所で巻き込まれずに済んだ。

 

「な・・・!?」

 

「っ!?この光は・・・!」

 

俺は光が起きた瞬間だけ明るさが強かった為に思わず右腕で顔を覆った。

ブランはさっきの女性が投げた機械について何か知っているのか、驚愕の声を上げた。そして力が維持できなくなり、ブランは縛り上げられる形になる。

 

「くっ・・・!」

 

「力が・・・!?どうして・・・?」

 

さらにベール、ノワールも力が維持できなくなって縛り上げられる形になる。

 

「あの石・・・アレを破壊すればっ!」

 

ネプテューヌは身動きの取りづらい状態のなか、刀を機械に向けて放り投げるが、その切っ先が届く前に刀が消滅してしまった。

 

「!?うっ・・・ああっ!」

 

そして、ネプテューヌも力が維持できなくなり、縛り上げられる形となってしまった。

 

「シェアエナジーを力の源としているものはその石に近づけない・・・。

それが例え武器であろうと、女神自身であろうとな・・・。」

 

そして、ネプテューヌたちの努力を嘲笑うかのように女性が告げる。その話を聞きながら俺は一つ気がついた。

 

「シェアエナジーが効かねえなら・・・これでどうだっ!」

 

俺は自分の剣を、一番近くにあった機械に突き立てようとするが、左側から殺気を感じて飛び退く。

するとそこを赤紫色の影が通りすぎて行き、その影は突然ワープでもしたかのように消える。

 

「ラグナ、大丈夫!?」

 

「何ともねえ!大丈夫だ!」

 

ネプテューヌの問いに俺はなるべくいつものように返した。正直なところ、ネプテューヌたちを今すぐ助けたいところだが、今はさっきの影をどうにかしない限りできそうになかった。

俺たちが影を探すと、そいつは魔女のような女性の隣に佇むようにたっていた。そして、俺とハクメンはその姿に驚きを隠せなかった。

 

「・・・イグニス!?」

 

「まさかだが・・・奴も此の地にやって来ていたとでも謂うのか!?」

 

「ご明察だ。ハクメン。そして『蒼の男』よ」

 

俺たちの疑問に肯定しながら、その男は突然現れ、当然のようにイグニスの隣まで歩いてきた。

 

「あなた・・・何者?」

 

「お前たち女神は初見となるな・・・。

私はレリウス=クローバー。『波動兵器(デトネイター)・イグニス』の完成を目指すために、此の世界のあらゆる情報の収集と、思い付く限りの研究と検証を行いに来た・・・。差し当たっては、真なる『蒼』を手にした『蒼の男』が纏う魂の輝きと、お前たち女神が持つ魂を知ることからだな」

 

「私たちの魂・・・どういうことなの?」

 

仮面の男。レリウスは自分の連れであるイグニスを見せながら自分の目的を告げた。

ノワールのみならず、四人は困惑しているが、今はそれをゆっくり話すことはできなさそうだ。

 

「レリウス・・・テメェ。どうやってここに来た?」

 

「お前たちには『窯』を使ったと言えば・・・もう解るだろう?」

 

「貴様・・・『境界』を渡って来たという事か・・・!」

 

俺の問いにレリウスが答えただけで俺たちはすぐに解った。

俺とハクメンも『窯』を使って世界を渡ったことはあるが、どちらも現代から過去へ行ったものだった。

 

「さて・・・私の目的は話した。そろそろ此れの正体を話すといい」

 

「そうだな。

その石の名はアンチクリスタル・・・。シェアエナジーとお前たちのリンクを遮断し、力を失わせるものだ」

 

「・・・アンチクリスタル・・・?」

 

レリウスの促しに答えた女性がネプテューヌたちの力を奪ったものの正体を告げる。

ネプテューヌが繰り返すように疑問を呟いた瞬間、フラッシュ音が聞こえる。その音の方を見てみると、そこにはカメラで写真を取っているネズミがいた。

 

「ちゅ~・・・いい写真っちゅね・・・。これは世間に大旋風を起こすっちゅ・・・」

 

ネズミはそんなことをごちながら更に撮影を続ける。

 

「こん畜生が・・・」

 

「こんなこと・・・タダじゃ済まさないわよ・・・!すぐにブッ飛ばしてやるんだから・・・!」

 

四人はネズミに撮影をされて屈辱の表情をする。

動けないところを撮影して晒しの準備・・・間もなく晒し上げられることを考えたら、これ程恥辱感を煽るものは無かった。

 

「クソ・・・!さっきはダメだったが、今度こそ・・・!うおぉっ!?」

 

俺はもう一度剣をアンチクリスタルが入っている機械の一つに突き立てようとしたが、今度は剣が届く前に俺が弾き飛ばされてしまった。幸いにも大した威力はない為、俺はすぐに両足を滑らせてながら体制を立て直した。

 

「ラグナが弾かれた・・・!?何でだ!?ラグナは女神じゃねえだろッ!?」

 

「まさかですが・・・あの時、ラグナさんの右腕に宿ったシェアエナジーが妨げているんですの?」

 

「『蒼炎の書』が・・・!?オイオイマジかよ・・・」

 

俺はベールの出した結論に愕然とした。『黒き獣』の進行を完全抑制しているシェアエナジーがここに来て足を引っ張る形になるなんて思いもしなかったからだ。

幸いにも剣は届くだろうが、それをやったら今度はイグニスを使って俺を排除することは目に見えていた。その際剣もどこかへ弾かれる以上、俺にはどうすることもできない。

 

「ならば私が行こう・・・!」

 

「・・・イグニス」

 

俺がダメならとハクメンは『斬魔・鳴神』を抜き放ってアンチクリスタルの方へと走る。

しかし、レリウスの指示を受けたイグニスが鎌状の刃に変えた右手を右から斜めに振るってハクメンを妨害する。

ハクメンはそれに対して『斬魔・鳴神』を上から縦に振り、それを弾き飛ばすようにして返すしかできなかった。

そして、準備が出来たと言わんばかりに下側にある機械が地面に隠れてしまった。

 

「・・・隠されたか・・・!」

 

「悪いが、盟約の手伝いなのでな」

 

ハクメンの怒気の籠った声を前にしても、レリウスは相変わらず涼しく返した。

 

「フフフ・・・さてどうかな?アンチクリスタルの結界の中ではお前たち女神は少しづつ力を失っていく。

お前たちの勝ち目は刻一刻と薄れていくぞ?」

 

「こっちがダメな以上、向こうを取り押さえるしかねえか・・・!」

 

女性の煽るような言葉を聞き、俺は自分にできることが減ったことにイラつきながらも、今はできることをやるべく頭を切り替える。今の俺にはあの魔女とレリウスを止めることしかなかった。

 

「ならば・・・私がレリウス=クローバーを受け負おう。御前はあの魔女を頼む!あのネズミは現状後回しだ」

 

「ああ。任せろッ!絶対に助けてやる!」

 

「来るか・・・良いだろう。

『六英雄』ハクメン・・・此の世界ではどのようなモノとなったか見せてもらおう」

 

俺たちは手早く担当を決め、それぞれの相手に向かって行く。

ハクメンが来るのを見たレリウスは左指で音を鳴らしながらイグニスを呼び戻してほくそ笑む。

一方、女性の方は距離があるからなのかまだ動こうとはしない。

 

「さて・・・お前の出番だ。『死神』・『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』を葬るのだろう?」

 

「っ!テメェ・・・その名をどこで・・・。・・・!」

 

俺は走りながら聞こうとしたが、その女性の右側辺りから緑色のモノがこっちに飛んできたため、俺は剣を右から斜めに振り下ろして弾いた。そして、弾いた瞬間にハッキリと見えたモノに俺は驚愕した。

 

「『ウロボロス』だと・・・!?てことはまさか・・・!」

 

「ヒャハハハハッ!そうよ!そのまさかよッ!」

 

俺が弾いたモノの正体は事象兵器(アークエネミー)蛇双(じゃそう)・ウロボロス』だった。

そして、『ウロボロス』を飛ばしてきた主が高笑いをしながら肯定する。やや高い男の声だ。

その男は黄色いフード付きのコートが特徴的で、体はかなり細く、肌は生気が抜けているのではないかと思うくらい白かった。

その姿と声を俺は忘れる筈が無かった。そいつは、俺の目の前でシスターを殺し、ジンを利用してサヤを連れ去り俺の右腕を切り落とした男・・・。

 

「こん時を待ってたぜェッ!さあラグナちゃん・・・。俺にブッ殺される覚悟はできてるか?ヒャァーッハッハッハッハァッ!」

 

「テルミだと・・・!?テメェもこの世界に来たってのかッ!?」

 

俺は目の前の光景を信じられなかった。俺が『蒼の境界線』で全身全霊の力を使ってまで葬った男・・・ユウキ=テルミが再び、俺の目の前に立ちはだかったのだった。




今回はギリギリ3話の部分が終了していません。

ようやくラグナとテルミを対面させることができました。ここから上手く書けるように努力していきたいと思います。

マジェコンヌが用意していた策に今回はテルミたちが手を加えている訳ですが、その正体は次回に明かしたいと思います。

次回はラグナたちとテルミたちが対決する話になります。


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24話 Nightmare Fiction

予告通りラグナたちとテルミたちの対決となります。
ラグナ対テルミがかなり多いです。

感想のコメントでタイトル当てられた時は流石に焦りましたね・・・(笑)。
ラグナとハクメンの時もそうだしバレるかも知れないと感じてはいましたが・・・。

また今回でアニメ3話分が終わります。


「テルミ・・・よもや貴様までもが此の世界に居ようとはな・・・」

 

「おうおう・・・ハクメンちゃんも久しぶりだなぁ。正直俺も驚いたぜ。ラグナちゃんとハクメンちゃん(テメェら)が共闘してる事なんか特にな・・・」

 

ハクメンとテルミはお互いの心中を話す。この発言に皆が特に驚かなかったのは、俺とハクメンの敵対関係が消える瞬間を目の当たりにしているからだろう。

レリウスは研究をすることが最優先である以上なのだろうか、自分から無防備のハクメンを攻撃することなく女神の観察に入っていた。

 

「ユウキ=テルミ・・・?じゃあ、あいつが・・・」

 

「へえ・・・俺のことを知ってるってこたぁラグナちゃんから聞いたか。いやあ・・・それにしてもこいつと盟約組んで良かったぜェ・・・。

レリウスと合流できたのもあったし、こうして躰はまた用意してもらえたし、こうして俺様がラグナちゃんをブッ殺すチャンスを手にしたんだからなァ・・・ケヒヒヒヒッ!」

 

ノワールの呟いた言葉を拾ったテルミが気味悪い笑い声を上げる。その様子はまるでこれから起きることを楽しみにしているかのようだった。

 

「テルミ・・・一つ聞くが、テメェはいつからこの世界にいやがった?」

 

「・・・アレ?覚えてねえのか?オイオイ、連れねえじゃねえなぁ。ラグナちゃんよぉ・・・」

 

俺はテルミに問いただしながら歯を食いしばる。セリカのように死んでしまった人間もゲイムギョウ界に来ていた以上、おかしく無いのは確かだ。

ただそれでも、俺があれだけ苦労してようやく倒した男が、その努力を嘲笑うかのように俺の前に立っていることを信じたくなかった。

 

「・・・まあいいぜ。俺は今すげえ機嫌が良いから答えてやるよ・・・。

俺様がこの世界に来たのはなぁ・・・ラグナちゃん、テメェがこの世界で初めて『蒼炎の書(ブレイブルー)』を起動する直前だ・・・」

 

「この世界で初めて・・・?じゃああの時右腕に出たアレは、ただ『蒼炎の書』の制限が解けたことを知らせる奴じゃねえ・・・。

俺たちの世界から、誰かがこっちに来た時に知らせる役割でも持ってんのか?」

 

テルミの話を聞いた俺は疑問がまた一つ増えた。

『蒼炎の書』をゲイムギョウ界で起動して以来、蒼い炎のようなものが発生した後は必ず誰かが来ていた。一人は今日中に見つけられるとは思えず、レリウスとテルミはその日以内に見つけることはできなかったが、それでも発生する度に一人来ている。

だが、最初の一回だけは『蒼炎の書』をこっちで起動する前だったため、起動してからだと説明がつかなくなるため、俺の疑問は路頭に迷うこととなる。

 

「今まで通りだったら俺様が答えてやっても良かったんだが・・・生憎『蒼の魔導書(それ)』はもう真なる『蒼』になっちまったから俺の管轄外しなァ・・・。まあいいや」

 

テルミはわざとらしく言いながらその考えを放棄してアンチクリスタルとやらが作り出した結界の方を見やる。

 

「それはそうとしてだ・・・そろそろ時間じゃねえの?」

 

「ああ・・・その通りだな」

 

「・・・時間?何の話を・・・っ!?」

 

テルミは女性の方へ振り向きながら問いかけると女性はそれを肯定した。

その話を聞いたネプテューヌが時間という言葉の正体を聞こうとしたが、まるでそれに答えるかの如く、ネプテューヌたちの変身が解けて、元の姿に戻ってしまった。

 

「変身が解けた・・・!?」

 

思わず声を出したベールだけでなく、皆がその事実に動揺した。俺は目の前でノワールの変身が解かれる瞬間を一度見ていたが、二度目でもやはり信じられない光景だと俺は感じた。

 

「成程・・・いくら女神と言えど、アンチクリスタルに封じられればただの人という事か・・・」

 

レリウスはその様子を見ながら率直な感想を述べる。女神の性質やシェアエナジーはレリウスの知識欲を刺激するのには十分すぎるものだろう。

また、レリウスの言葉を聞いた四人は悔しさに歯嚙みをする。無理もない。特定の状況下と言えど、こういった手合いに女神ではなく人だと言われれば応えるものがあるだろう。

 

「あ~あ~、悔しそうにしちゃってよぉ・・・。何だ?こんなもん無けりゃすぐに倒せますってか?

やっべェ~超ウケるわぁ・・・それに引っかかっちまったからこそ、テメェらは身動きできねえ囚われの身なんだぜ?ケヒヒヒヒッ!」

 

テルミの嗤いながら放った言葉は彼女たちを更に煽り、同時に恥辱感も増すものだった。

現にテルミの言っていることは何も間違っていないため、何も言い返すことができなかったのが更にそれを煽るものとなっていた。

 

「まあ、こいつらになんか言うのはこの辺でいいだろ。

さて・・・早速やり合おうかと思ったが・・・先に名乗っておくならいいぜ。サクッと済ませちまいな」

 

「一応、その理由を聞かせてもらおうか?」

 

「俺が『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』を倒したらテメェの名を聞く人一人減っちゃうじゃん?それって勿体無くね?」

 

「確かに、言われてみればそうだな・・・」

 

女性は一度テルミに問うが、その意図が分かったところで納得して一歩前に出た。

 

「ではそろそろ名乗らせて貰おう・・・。

私はマジェコンヌ・・・。四人の小娘が支配する世界に、混沌という名の福音をもたらす者さ・・・。

ラステイションの洞窟。ルウィーの教会。プラネテューヌの森・・・そして今日、リーンボックスの海底で四つ目を手にしたことでこの結界を作り出す準備は整い、貴様らを潰す計画を実行に移せたのだ・・・。

ネズミ・・・少し手間取ったとはいえ、リーンボックスの海底の件は助かったぞ」

 

魔女のような女性・・・マジェコンヌは自身の目的を告げながらアンチクリスタルがあった場所を答える。その表情はもう勝ったも同然のような涼しい笑みだった。

 

「オバハンがやったルウィーの教会程大変なものはない気がするっちゅが・・・。本当に間に合って良かったっちゅよ・・・。

まあ、飛び火してきたからおいらも名乗るっちゅよ。おいらはワレチュー・・・ネズミ界ナンバー3のマスコットっちゅ」

 

マジェコンヌに感謝を伝えられたネズミは、世辞のように向こうを誉め返してから自分の名を名乗った。

 

「珍しく褒めたというのに謙遜とは勿体無い奴だ・・・。まあ、さすがにラステイションの洞窟でテルミと協力を結ぶ以上の成果はなかったかな?」

 

「ラステイションの洞窟・・・?じゃあ、あの時私の変身が解けたのも・・・」

 

「ピンポンピンポーンッ!大正解!あん時アンチクリスタルの中で見てたけどよぉ・・・。

面白かったぜェ・・・あんだけ自信満々にしてた奴が突然竦むように動けなくなるところはよぉ・・・!ヒ・・・ヒヒッ・・・!」

 

さっきのマジェコンヌが言ってたアンチクリスタルの場所で思い出したノワールが言いかけると、テルミはわざとらしく言いながらこみ上げてくる笑いを抑えてた。

テルミの答えを聞いたノワールは絶句しか起きなかった。また、ノワールだけでなく、ネプテューヌも信じられないという顔をしていた。

 

「んで・・・俺にこの体をもっかいくれたのがついこないだ来たばっかりのレリウスってわけよ・・・。

何でアンチクリスタルの中に居させられたかは知らねえが、こうして外に出れた以上良しとするかね。レリウスのは感謝しねえとな」

 

「大したことではない・・・。此の世界でも応用をすれば私の技術が使えるとわかっただけ良い収穫だったよ」

 

テルミは本当に機嫌がいいらしく、自分の持っている疑問をあっさりと水に流してしまった。

 

「ルウィーの教会・・・?まさか・・・」

 

「知っていますの?ブラン?」

 

「ええ・・・。誘拐事件の後、アレを置いてあった部屋を確認したら見事に無くなっていたわ・・・」

 

ハッとしたブランの様子に気づいたベールが訊いてみると、ブランは沈んだ表情になりながら答えた。

 

「・・・どうして相談をして下さらなかったんですの?せめて話だけでも聞ければ、まだ対策だって立てられましたのに・・・」

 

「ごめんなさい・・・それに気が付いたのはあの対決直前の時だったから・・・」

 

ブランの回答を聞いたベールはそこから先を問うことができなくなった。俺に余計な負担をかけたくないことから躊躇ったというなら、俺の元々の行動が問題だからあまり気にしすぎないでくれるといいんだが・・・。

 

「・・・私が摘み取る機会を潰してしまった・・・と言うことか・・・」

 

「いや・・・これは誰が悪いとかなんてねえ・・・。タイミングを逃すかのような因果が重なり過ぎちまったからな・・・不可抗力だ」

 

さすがに不可抗力も同然な出来事を連続で目の当たりにしたらそれを話す余裕なんて無くなる。

そんな状況で誰かを責め立てるなんて筋違いにも程があるだろう。そんなことをしたら、ノエルへキツイ言葉を投げちまった時の俺見てえなもんだ。

 

「ヒヒ・・・ドタバタ続きで残念だったなあ・・・。さて、そろそろ話しも飽きてきたところだし丁度いいや」

 

テルミが嗤いながら数歩前に進む。その表情は楽しみであるということを隠しきれてない笑みのようだった。

 

「来いよ・・・『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』・・・。今度こそ俺様がブッ殺してやるよ・・・」

 

「簡単に殺されるかよ・・・!テメェらブッ飛ばして、あいつらを助け出す!」

 

テルミは口元をニッと吊り上げながら俺に改めて宣戦布告をしてきた。

対する俺は自分のやるべきことを言いながら右腕を腕の高さまで持ってくる。

 

「第666拘束機関開放・・・次元干渉虚数方陣展開!『蒼炎の書(ブレイブルー)』・・・起動!」

 

そして、右手の甲と足元から蒼い螺旋が出始め、それが消えることで起動を完了した。

 

「『蒼炎の書(ブレイブルー)』か!そいつはいいねえ・・・だったら・・・。

レリウス。マジェコンヌ・・・お前らが準備してくれたアレ・・・早速使わせてもらうわ」

 

「ああ・・・存分に使うといいさ」

 

「私も構わん。お前の目的を果たすと良い」

 

二人に一声かけるとあっさりと承認が下りたので、テルミは「ありがとうよ」と例を言いながら両腕を頭上で交差させる。

 

「第666拘束機関開放・・・次元干渉虚数方陣展開・・・!」

 

『・・・っ!?』

 

「貴様・・・其の状態でも使えるとでも謂うのか!?」

 

「クソが・・・!冗談キツイぜ全く・・・」

 

テルミの紡いでいく言葉に俺たちは絶句する。

俺とハクメンは『ハザマ』の体じゃねえってのに使えることに。四人は俺の『蒼炎の書』と起動コードが全くもって同じことに。

 

「ヒ・・・ヒヒッ!マジェコンヌの持つこの世界の情報と技術を基に・・・俺が持っている向こうの世界でのあらゆる情報と、レリウスの培った技術を応用すりゃなんぼのものよ・・・!

見せてやるよ・・・『碧』の力をッ!コードS・O・L!『碧の魔導書(ブレイブルー)』起動ッ!」

 

テルミが両腕の交差を解くように両腕を自身の下側へ振るうと、奴の周りにいくつかの碧いサークルが現れ、少ししたら消える。

ただ・・・今回はそれだけでは終わらず、俺たちのいる場所を囲うように薄い碧色の弱い光が一瞬現れ、すぐに消えた。

 

「グァ・・・ッ!?何だ?急に体が重くなった・・・」

 

「ヒャアーッハハハハァッ!どうよ!?アンチクリスタルの技術を応用した特殊空間は?

アンチクリスタルの近くで発動するのが条件だが・・・起動してる間、この世界で『善』と判断された奴は身動きに弊害が出るシロモノだ・・・。

シェアエナジーもらってて・・・尚且つ女神たちと友好関係と協力関係持ってるラグナちゃんは動きづらくてしょうがねえんじゃねえの?ケヒヒヒヒッ!」

 

テルミの『碧の魔導書』が起動されたと同時に、俺は全身が急に重くなったような感覚に襲われた。

それはマジェコンヌと行動を共にしている内に思いついた策らしく、どうやらアンチクリスタルと連動しているものらしい。

シェアエナジーを遮断される以上、こっちの弱体化は避けられないので相当な痛手であることには変わらない為、正直言ってかなりヤバい状況だ。

 

「成程。あの世界では『悪』とされていた男が、此の世界では紛れもない『善』に変わるか・・・。

これは面白い・・・実際に持ち帰らずとも、観察するだけでも十分なデータは得られるだろう」

 

「予想以上に凄い効果っちゅね・・・さて、おいらは避難避難・・・」

 

レリウスは俺の状態を確認しながら仮面に手を当ててほくそ笑む。明らかに研究対象を見つけて楽しみにしている顔だった。

一方、ネズミはその効果に感心を見せながらも、自身の身の安全のためにその場から一度離れた。

 

「・・・ならば、私がさして変わらぬということは・・・」

 

「ああ・・・ハクメンちゃんは現状、『中立』じゃねえの?自分の行動を振り返ってみたらどうよ?

ったく、勘弁してくれよ・・・。『中立』じゃあ効果が無えからつまんねえじゃねえか・・・」

 

「そうか・・・あの対決が私を『中立』へ移したか・・・」

 

テルミの返答にハクメンは自分のことを思い返した。

ハクメンは俺と会ってからすぐにケリをつけようとしている。その時は後回しと言って引いてくたものの、結局はその『善』である俺と戦うのだから、この世界では『悪』になる可能性が出てくる。

しかし、その後は俺と戦うことはなく、共闘して時に女神を支えるようになったのでここで取り消しになって『中立』・・・と言うことなんだろう。

 

「さあ来いよラグナちゃん・・・今度こそ俺様が引導を渡してやるぜ・・・」

 

「・・・ざけんなっ!そう簡単にくたばってたまるかよッ!」

 

テルミに向かって吠えるように反論しながら俺は走っていく。俺が走り出すのが見えたテルミは崖の上から降りて直立の姿勢で待ち構える。

ハッキリ言ってすげえ絶望的な状況だが、皆を助けると決めた以上、引くわけには行かなかった。

 

「今のままでは不味い・・・!ラグナよ、私と代われ!」

 

ハクメンが俺の方へ走ろうとした瞬間、イグニスが遮るようにハクメンの前に立ちはだかり、右腕で殴りかかる。

ハクメンは『斬魔・鳴神』を横に構えることで受け止め、そのまま押し返す。そこまでは良かったのだが、依然としてイグニスはハクメンの前にいて、俺との合流を徹底的に妨害する構えだった。

 

「悪いが、『蒼の男』の持つ魂を見るためなのでな・・・邪魔をされては困る」

 

「レリウス=クローバー・・・味な真似をする・・・!」

 

俺との合流を諦めて、レリウスを倒すことを選択したハクメンは『斬魔・鳴神』を頭上に掲げながらレリウスに肉薄する。

 

「『六英雄』・ハクメン・・・お前の今持つ魂の耀きも、この目で見定めさせて貰うぞ」

 

レリウスはハクメンを見据えたまま仮面のずれを直してほくそ笑んだ。

 

「まずは試しだ・・・『ウロボロス』ッ!」

 

テルミが『ウロボロス』を自身の左肩の近くから呼び出し、それを俺に向けて飛ばしてくる。

対する俺は剣を右から水平に振ることで、先端の蛇の頭に相当する部分を弾き飛ばしてさらに近づいていく。

ある程度以上近づいたところで、俺は大地を強く蹴って跳躍してテルミに近づいていく。

 

「テルミィィィッ!」

 

「ヒヒッ!来な・・・!」

 

俺が剣を持つ右腕を引くと、テルミは自身の懐に隠してあったバタフライナイフを二本取り出す。

そして、俺が剣を右から斜めに振り下ろすのに合わせてテルミは体を右に捻りながら二本のバタフライナイフを下から上に振り上げ、俺の攻撃を受け流した。

その時投げられるように受け流されたため、俺は体が前に一回回ってしまうが、術式の応用で姿勢を立て直し、足を滑らせながらも着地には成功した。

突っ込んでから着地までの一巡の流れで解ったことがあるとすれば、力が入りづらくなっていることと、体の動きが妙に重く感じることだった。どうにか打開策を見つけねえとテルミにやられっぱなしになるのは間違いなかった。

 

「・・・アレ?そういやラグナちゃん・・・お前、『イデア機関』はどうしたんだ?」

 

「ッ・・・!」

 

テルミがバタフライナイフを一度しまい、振り向きながら嫌な笑みを向けてこっちに訊いてきた瞬間、俺は歯嚙みをしてしまった。

そして、その表情を見た瞬間テルミは勝ちを確信したようににやけた。

 

「あぁ・・・!もしかしてそう言うことかぁっ!?ヒャァーハッハッハァッ!ご機嫌だぜ俺様ちゃん!

ざまあねぇなラグナちゃん・・・あん時自分の左腕、守っときゃ良かったのによぉ・・・ケヒヒヒヒッ!」

 

「クソがぁ・・・!だがまだ終わりじゃねえ!」

 

「それか・・・じゃあこっちは・・・」

 

高笑いするテルミに、俺は毒づきながらも剣に黒い炎のようなものを纏わせ、それを下から振り上げることによってデッドスパイクを放つ。

テルミは自身に迫る黒い炎のようなものを見てから自身に碧い炎のようなものを纏う。

 

滅閃牙(めっせんが)ァッ!」

 

そして、その碧い炎のようなもので獣の顔を形どり、デッドスパイクを打ち消しながら俺に向けて体当たりをかましてくる。

 

「・・・何だとっ!?グアァ・・・ッ!」

 

「次行くぞぉ・・・」

 

予想以上にかけられている弱体化の酷さから反応できなかった俺はまともに受けて低く吹っ飛ばされてしまう。

その吹っ飛んでいく先には、そのまま滅閃牙で背後に回り込んでいたテルミが体を僅かに右へと捻って構えを取る。

 

蛇翼崩天刃(じゃよくほうてんじん)ッ!」

 

「うおぉっ!?」

 

「まだだぜ・・・!オラッ!」

 

テルミは少しの溜めの後、左に一回転しながら放った強力な回し蹴りで俺を空高くまで打ち上げる。

そこから追撃するためにテルミは一度後ろに数人分下がってから『ウロボロス』を俺の方に飛ばしてきた。

テルミが伸ばしてきた『ウロボロス』は受け身が取れないが故にあっさりと受けてしまい、背中を嚙みつかれたような感覚が走る。

 

「ぐっ・・・!?」

 

蛇咬(じゃこう)・・・っとなぁッ!」

 

テルミは俺を自分の背後にある方の崖に投げ飛ばす。それによって俺は背から壁にぶつかるように崖に打ち付けられる。

その時、崖が軽く抉れたことで俺は体が少しだけ埋まってしまう。

 

「グァ・・・!」

 

「ホラホラどうした?そんなんで終わりなのかよラグナちゃん?まあ、動きにくいんじゃしょうがねえだろうけどな・・・ケヒヒヒヒッ!」

 

「ぐっ・・・クソが・・・!」

 

崖にぶつかったときの勢いが強かったことで俺は思わず呻き声が出た。

俺は毒づきながらもどうにか崖に埋まった体を動かして埋まっている状態から脱して地面に着地する。正直この段階でもかなりダメージがデカいと絶望的だった。

 

「まだ戦える・・・!だったら諦めたりなんかしねえぞ・・・!」

 

「ヒャァーッハハハハァッ!いいねぇッ!楽しくなってきたぜェッ!」

 

俺は剣を逆手から通常の持ち方に直して両手で握り直し、もう一度テルミの方へ突っ走る。

それを見たテルミは高笑いをしながら全身から碧い炎のようなものを溢れ出させる。

 

「でぇりゃっ!」

 

「オラよッ!」

 

俺が剣を上から縦に振りおろすのに対し、テルミは軽めに素早く右足を上げながら、碧い炎のようなものを蛇の頭にして自身の脛の近くから上に飛ばす。

それぞれの攻撃がぶつかった瞬間、俺の攻撃はあっさりと弾かれ、その反動で俺は数歩後ろに下がってしまう。

 

「な・・・!?」

 

蛇顎(じゃがく)ッ!」

 

俺がテルミの用意した策にここまでやられていることに驚いてる隙を逃さず、テルミは滑るように俺の懐まで飛び込む。

そのままテルミは俺の腹辺りに『ウロボロス』を押し付けて俺ごと軽く宙に飛ばす。

 

「そらッ!」

 

さらにテルミはそこから『ウロボロス』に碧い炎のようなものを纏わせながら振り下ろし、俺を勢い良く地面に叩きつける。

 

「ガハ・・・ッ!」

 

「ケヒヒッ!ここまで圧倒的だとちょっとばかし同情しちまうぜ・・・」

 

「この・・・ッ・・・蛇野郎が・・・ッ!」

 

テルミに煽られ、それによって出てくる怒りをどうにかして抑えながらも立ち上がるが、これだけでも相当ヤバい。

アンチクリスタルと併用したテルミの『碧の魔導書』で作り出した空間は予想以上に厄介なもので、ここにいる味方側でハクメン以外まともに動けないのは確実。しかもハクメンがこうしている間に『善』と判断されたら終わりだ。

であればそうなる前にアンチクリスタルかテルミを潰す必要があるのだが、現状俺はアンチクリスタルに近寄れず、更にはテルミ相手に相当な不利をもらっていた。

一番望みのあるハクメンも、今はレリウスが全力で足止めをしているし、後ろにはマジェコンヌが控えているという三重苦だった。

諦めるつもりは毛頭もねえが、ここまでくるとさすがに応えるものがあった。

 

「嘘・・・いくらやりづらい状態だとは言っても、ラグナがこうも簡単にやられるなんて・・・」

 

「残念だったなぁ・・・不利を背負っちまったらラグナちゃんが俺様に勝てる要素なんてねえからなぁ・・・ヒ・・・ヒヒッ」

 

ネプテューヌの戦慄するような声にテルミは再びわざとらしく煽るように答える。

テルミの言っていることは事実で、始めてテルミと戦った時は『蒼の魔導書』を『碧の魔導書』に封じられ、殆ど何も手出しができずに大敗をしている。

この時はラムダが命を投げ出してまで俺を庇ったことと、その後ラムダから受け取った『イデア機関』があったからこそどうにかテルミを追い返している。

ノエルたちがツバキ=ヤヨイを助けた直後も、セリカが来なかったら俺は死んでいた可能性があった。

最終的に勝てたのは『蒼の境界線』の時のように、奴の強化の源である『憎しみ』や『恐怖』が完全に消えた状態で、『エンブリオ』の影響でテルミが弱体化。俺は資格者じゃないからそのままという状態でようやく勝ち目ができたものだった。

それだけ俺はテルミに不利を強いられていた。今はシェアエナジーでいくらか恩恵は貰っているが、それはアンチクリスタルで強化の部分が無効化。更にテルミの策は『イデア機関』が破損してるせいで抜けられないとほぼ八方塞がりだ。

 

「引けラグナッ!此の場は私が引き受ける!」

 

ハクメンが俺とテルミの状況を見て再び向かおうとする瞬間を待っていたかのように、イグニスが左手を鎌に変形させてハクメンに急襲する。

ハクメンは咄嗟に避け、その隙に紅蓮を放つが、イグニスは体を回転させながら舞うように避けてレリウスの隣に佇む。

 

「ほう・・・仲間へ意識を向けるか・・・お前の魂も随分と面白い変化が見られるな・・・」

 

「貴様・・・あくまでも足止めをすると謂う事か・・・!」

 

レリウスは戦いながらも『観察』の『眼』を向け続け、ハクメンのことも確認していた。

ハクメンが俺の方へ行こうとすればイグニスと共に足止めをし、レリウスを潰そうとすればイグニスとの連携でやり過ごす。

更にその間にもレリウスは『観察』を続けている。これは余裕があると言うよりは、レリウスは自然と『眼』がそうしてしまうようだ。

それが解っているからこそ、ハクメンは呻くような声で怒りを表していた。

 

「ほう・・・思ったよりいい効果が出てるな・・・」

 

「シェアエナジーどころか、『善』かどうかだけで判断されるって・・・冗談じゃないわね・・・」

 

「一体・・・何を基にそのような策を立てたんですの・・・?」

 

マジェコンヌはテルミの優勢と、俺が受けている影響を見て満足そうに呟く。

ブランは今回の策を目の当たりにして沈んだ表情で呟き、ベールは身動きが取れないせいで苦悶の表情になりながらもその策への疑問を口にした。

 

「あの状況じゃ俺がやるしかねえか・・・」

 

四人は身動きが取れない・・・ハクメンはレリウスに足止めされているからこっちに来れる保証は無い・・・。

ハクメンたちの状況を見た俺はこの場を離れるにしても現状じゃテルミを追い払うしかないと判断して、剣を逆手に持ち替えながら構え直した。

 

「おっ?まだ付き合ってくれんのか?いやぁ~ありがたいね。こんなに楽しい日は久しぶりだぜぇ・・・」

 

「付き合うとかどうとか関係ねえ。俺はあいつらを助け出す・・・それだけだ」

 

テルミの言葉に返しながら俺は足をほんの少しだけ動かす。

こんなところで諦めるつもりはねえ・・・ここで諦めたら、サヤを助けた時の俺の努力はそれまでだとなってしまいかねねえからな・・・。

そんな思いで俺は目の前にいる『俺の人生を変えた元凶(超がつくクソ野郎)』を見据える。

 

「ああ・・・そうだったわ・・・。テメェ、あんだけブッ殺すっつってたのに急に殺すじゃなくて『救う』だとかなんだとか言ってたっけか・・・」

 

「だったらなんだよ?俺は『蒼炎の書(こいつ)』を奪うためには使わねえ・・・『蒼炎の書(この力)』は俺の大事なものを護るための力だからな」

 

テルミに何と言われようと俺の方針と決意はもう変わらない。そのためには皆を助けて護りぬく。

もし『あいつ』が助けを求めて俺に話しかけて来ているんだとしたら、絶対に見つけて助け出してやる。

そのためには努力も惜しまねえし諦めねえ・・・。『蒼炎の書』が起動している場合、普段ならこういう時にシェアエナジーが連動してくれるのだが、阻害されているせいでそのようなことは起こらない。

そのため『蒼炎の書』と地の力でアンチクリスタルの能力込みのテルミと戦うのだが、強気に言った俺も内心はかなり焦っている。時間が経てばネプテューヌたちの身に何があるか解らないからだ。

 

「・・・ハッ!言うじゃねえか!だったらその決意・・・俺様が正面から踏みつぶしてやるよ・・・!」

 

「言ってろッ!『タケミカヅチ』が相手でも折れなかった俺の決意・・・テメェごときに折られるかよぉッ!」

 

俺とテルミは同時に地面を強く蹴って一気に距離を詰める。

―諦めの悪さ・・・。それはあの世界にいる間でも俺が数少なく堂々と誇れることだと思う。

それがあったからこそ、俺は力の使い方を自分で選び取ることができ、サヤを助けて結果的に何の罪の無い人と俺の大事なものを護ることができた。

そんな俺が・・・体が言う事聞きづらい(これっぽっちの足枷)くらいで諦めるわけにはいかねえッ!

 

蛇刃牙(じゃばき)ッ!」

 

「この野郎ッ!」

 

テルミは右手から碧い炎のようなものを蛇の頭形をさせて飛ばす。対する俺は黒い炎のようなものを纏わせた剣を下から上に、体を捻りながら振り上げることで弾き返した。

俺の足掻こうとする意志がまるで形となるかのように、俺はこんな不利な状況でもテルミの攻撃に押し切られなかった。たった一度でもそれは俺にとっては大きかった。

対するテルミはまだまだ余裕なようで、「やるじゃねえか」とにやけながら軽めにジャンプする。大体自分一人分だ。

 

「耐えてみなッ!裂閃牙(れっせんが)!」

 

「ガントレットハーデスッ!」

 

テルミは右手に碧い炎のようなものを纏わせ、それを蛇の頭を形どらせて飛ばす。

対する俺は左手に黒い炎のようなものを纏わせて、少しジャンプしながら殴ることでそれを打ち消す。

 

「おお・・・もうここまで順応するか・・・やるじゃねえかラグナちゃん。なら・・・これはどうよッ!?」

 

この攻撃が終わったとき、テルミは着地している。対する俺は宙にいるが、そのまま体を回しながら蹴り上げる体制はでき上がっていた。

対するテルミは被っていたフードをおろし、自身の頭に獣のような頭を形どった碧い炎のようなものを纏わせる。

 

「喰らえッ!」

 

墜衝牙(ついしょうが)ァッ!」

 

テルミはその碧い炎のようなものを上から下に向けるように首を振ることで頭突きをする。

一方で俺はそのまま右足による蹴り上げを繰り出した。それぞれの攻撃がぶつかり合って俺たちはお互いの立ち位置が入れ替わる。

立ち位置が入れ替わり、足を滑らせるように着地してテルミの方に向き直るまでは特に問題はなかった。だが、そのまま次の行動を起こそうかと思った瞬間、俺は右足の痛みを感じて行動を止めた。

当たり所が悪かったのだろうが、それでもすぐに動けなかった俺はしゃがみ込んでしまう。力が入りづらいことから、恐らくは軽く血が出てる。

 

「マジかよ・・・!」

 

「オイオイなんだよどうした?もう限界なのか?あんだけ啖呵切ってんのに情けねえなぁ・・・。

まあでも、こんな状況下で耐え続けてるんだ・・・頑張ったほうじゃねえの?」

 

「ま・・・まだだ・・・!グ・・・ッ!」

 

血が出るであろう状態にも関わらず俺は立ち上がる。ただし、その体は何度も受けたダメージのせいで傷だらけのボロボロで、かなりフラフラした状態だった。

 

「まだ立つか・・・奴の何が一体あそこまでさせるのだ?」

 

「一度決めたら諦めねえっつう根性から来てるなこれは・・・。

普通、ここまでやりゃあ大体折れるんだけどよ・・・ラグナちゃんの場合体がボロボロになるくらいじゃ折れねえからなぁ・・・」

 

マジェコンヌの問いに答えながら、テルミは「あ~、めんどくせえ」とぼやく。

一方で、ハクメンとレリウスの攻防は未だに続いており、ハクメンが攻めればレリウスはイグニス連携して防ぎ、レリウスがイグニスと攻めればハクメンは卓越した技量でその連携をいなしていく・・・と膠着状態になっていた。

 

「ハクメン・・・お前の魂は今までとは新しい形で輝きを増しているな・・・。何がそうさせたのだ?」

 

「答える義務など無かろう・・・」

 

「ふむ。それもそうだな・・・。お前がそうなった答えを私は殆ど持ち合わせている」

 

ハクメンが『斬魔・鳴神』を使い、低空で椿祈を繰り出す。

流石にそれを受けるわけにはいかないと判断したレリウスは飛びのくことで避け、次にきた『斬魔・鳴神』を左から水平に振ったハクメンの攻撃を、自身の背に隠してある機械の腕二本を使って受け止めた。

 

「成程・・・。強度を上げればもう少し楽になるな」

 

「此の狂人めが・・・ッ!」

 

「ハクメンの方は大方纏まって来たな・・・さて、『蒼の男』の方は・・・」

 

ハクメンの吐き捨てるような声もどこ吹く風のごとくレリウスは受け流し、俺を『観測』るために眼を回した。

 

「(これ以上はキツイな・・・どうにかして奴に一撃食らわせれるか・・・?)」

 

自分の体の状態を確認したら大分ヤバイ状態であることは目に見えている。

ただそれでも、できることがあるならやるべきだろう・・・。そう考えて俺は再び剣を持っている右腕を引く。

 

「おぉ、やるか?ヒヒッ・・・いいぜ。来な・・・!」

 

「行くぞぉ・・・!カーネージシザーッ!」

 

テルミは右手で『ウロボロス』の鎖をゆっくりと回しながらこっちに向かって歩いてくる。

俺はそれに構わず全速力で突っ込み、剣を上から縦に振り下ろした。テルミは無防備なままでいたため、そのまま剣がテルミを切り裂く・・・ことは無かった。

 

「バァカ・・・。まんまと乗ってくれたなァ・・・」

 

テルミは碧い炎のようなものとなって一時的に姿を消す。

少しだけした後に俺の背後にテルミはいるが、俺の周りは『ウロボロス』の鎖が囲んでいた。

その技を思い出した俺は即座にそれを破壊すべく二撃目の動作を始める。

 

皇蛇懺牢牙(おうじゃざんろうが)ァァッ!」

 

「喰われろッ!」

 

テルミが両腕を交差させて鎖で一気に俺を締めようと動かしたのと、俺が剣から鋏状のエネルギーを出してそれをぶった斬ろうとしたのは同時だった。

テルミがわざと手を抜いたのか、或いは俺の諦めねえ根性が勝ったのかはわからねえが、俺はその鎖を斬って破壊することに成功した。

そこまでは良かったのだが、テルミが用意した策のせいで限界が来ていた俺は剣を地面に突き立てながら膝をついた。

 

「ラグナっ!」

 

「クソ・・・ッ!こんな時に・・・」

 

「ザ~ンネンッ!テメェもここまでだな・・・」

 

ネプテューヌは俺の身を案じて叫び、俺はどうにかして立ち上がりながらテルミの方に向き直る。

テルミは親指を見せるようにしてポケットに手を突っ込んで直立し、にやけた顔でこっちを見ていた。

俺は一瞬だけその顔がまるで、絶望を与えに来た悪魔のように見えた。そして『その悪魔(テルミ)』は行動に移る。

 

大蛇(おろち)ッ!武錬殲(ぶれんせん)ッ!」

 

テルミは体を右に一回転させながら足払いをする。立っているのがやっとだった俺は動くことができず、簡単にすっ転ばされてしまう。

そして、前のめりに倒れた俺の頭をテルミは思いっきり踏んづける。

 

「ガァ・・・ッ!」

 

「ヒヒヒ・・・思い出したかよラグナちゃん?

本来テメェは無様な負け犬で、地べたを這いつくばるのがお似合いだってことをよぉ・・・!」

 

「クソ・・・!蛇野郎め・・・!」

 

テルミの勝ちを確信したような言い方を前に俺は吐き捨てるように毒づいた。

俺に勝ち目がほとんど無いのは解ってる・・・それでも言わずにはいられなかった。

 

「いくら『蒼の男』と言えど、あの状況では魂の輝きにも限度はあるか・・・正確に測れん以上、私がまだ未熟か・・・或いは・・・」

 

「・・・・・・遅かったか・・・!」

 

レリウスは仮面のずれを直しながら再び思慮に入り込み、ハクメンは悔しさのあまり左手をきつく握りしめる。

 

「そんな・・・いくら不利だからってラグナがこうも簡単にやられるなんて・・・」

 

「ラグナっ!返事してっ!・・・ラグナ!」

 

「私たちも動けませんし・・・。どうすれば・・・」

 

「あいつら・・・ここから出れたら絶対に締め上げてやる・・・!」

 

ノワールは目の前の状況に呆然とし、ネプテューヌは俺のことを呼び続け、ベールは全体の状況をみて唸り、ブランは今回の騒動を起こした奴らに敵意を向けた。

しかし、これらの負の感情はテルミにとってはいいスパイスになってしまう。更にはマジェコンヌの愉しみにもなってしまったようだ。

 

「おうおう・・・悔しいか?憎いか?

いいねえ・・・。もっとだ!もっと『恐怖』や『憎しみ』を見せろぉ・・・!俺様の糧になるからなぁ・・・ヒッ・・・ヒヒッ!」

 

「せいぜいそこで喚いているのだな・・・お前たちはどの道ここで終わるのだからな・・・。フッ・・・フフフ・・・」

 

そして、外道二人は夜空に顔を向けて高笑いをするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「静かね・・・」

 

「もう退治し終わっちゃったのかな・・・?」

 

ズーネ地区に入る直前、アイエフとネプギアは余りの静けさに疑問を持った。

モンスターが大量に表れているのなら、まだ戦闘が続いていてもおかしくないし、いくら女神四人とラグナ、ハクメンの六人でも早すぎるからだ。

そして、ズーネ地区の中に入った瞬間ネプギアの体に異変が起こった。

 

「っ・・・うぅ・・・っ!?」

 

「!?ネプギア!大丈夫!?」

 

ネプギアが自身の背に体重を掛けてきたことと、ネプギアが苦しそうな声を出したことに気がついたアイエフは目だけをそちらに送って気遣いの声を掛ける。

緊急事態で叫び気味になってしまったが、気にしている場合ではなかった。

 

「ごめんなさい・・・急に体が締め付けられるような感じに襲われて・・・」

 

「っ・・・こりゃ急いだ方が良いわね・・・ネプギア、しっかり掴まってて!」

 

ネプギアの身を案じながらも、長居するわけには行かないと判断したアイエフはバイクの速度を上げる。

ある程度進んでいると曲がっている先から突然球体状の機械型モンスターが目の前に現れた。

 

「「っ!」」

 

アイエフはとっさに左手の裾に隠してあったハンドガンでモンスターを撃ち抜くことでそれを撃破する。

 

「まだ残ってる・・・!?遅かったっていうの・・・?」

 

ネプテューヌたちが罠に掛かってしまったと思ったアイエフは歯噛みしながらも更に進んでいく。

 

「・・・!アイエフさん、アレ・・・!」

 

ネプギアに言われて前を注視してみると、奥の方で紫色の怪しい光が見えたので、アイエフはそちらに向けて進んでみる。

 

「ん・・・?アレは・・・」

 

その光の見えた方に進んで行くと、ラグナが夕べに借りていたバイクが見えたので、アイエフはその近くに止める。

そしてその先を見てみると、紫色の光で形成されている三角錐に女神たちは捕らわれていて、更にその隣では黄色いフードを被った男に頭を踏まれている傷だらけのラグナが・・・。更にその奥では仮面の男と戦っているハクメンの姿が見えた。

 

「間に合わなかったか・・・!」

 

その状況をみたアイエフは歯噛みした。後もう少し早く仲間に伝えればと思わずにはいられなかった。

 

「お姉ちゃん・・・兄さま・・・」

 

『ネプギアと少女』はバイクから降りて三歩前に進む。

ネプギアは姉が負けたと言うことが信じられず、少女は目の前の兄がまた自分を置いていくことを恐れて・・・。

 

「ネプギア・・・!?」

 

しかし、体が思うように動かず、ふらついて転びそうになったところを、アイエフは左手を伸ばしてネプギアの右腕を掴むことで、どうにか膝から座らせる形に留める。

 

「ヒヒッ・・・じゃあな」

 

「うおぉぁぁぁ・・・ッ!」

 

黄色いフードを被った男はそのまま足でラグナを持ち上げるように蹴りあげ、左足に碧い炎のようなものを纏わせてラグナの胴を蹴り飛ばす。

ラグナは成す術もなく吹っ飛ばされて地面を転がり、仰向けに倒れ込む。

それでもなお、ラグナは剣を地面に突き立て、それを杖代わりに立ち上がろうとする。

 

「っ!兄さまっ!ダメッ!」

 

「ちょっと、ネプギア!?」

 

ラグナの元へ走ろうとした少女をアイエフは掴んでいた右腕を引っ張ることでその先へ行かせないようにする。

それでも少女は先に進めない状態でも可能な限り体を前に出していた。

 

「ネプギア!すぐに逃げるって言ってたでしょ!?ネプギアっ!」

 

「兄さまっ!・・・兄さまぁっ!」

 

アイエフが叱りつけても少女はラグナのことを呼び続ける。

・・・目の前にいるのは本当にネプギアか?アイエフはまるで初めて会う人に怒っているような感覚に襲われる。

 

「っ!?サヤ・・・?」

 

そして、その声を聞いたラグナが、皆がこちらに目を向けた。

その時、フードを被った男と、仮面をつけている男はまるで狙いの人物が来たと喜ぶように、少女を見て嗤っていた。




今回でアニメ3話分が終了になります。
ラグナとテルミばっかり喋ってますね・・・(笑)。
今回出てきた中で喋ってない人物はいませんが、それでも二人の比率が凄いです・・・。

ちなみにテルミですが、レリウスが用意した躰=ハザマ分とテルミ本来の分を合わせたハイブリッド版となります。
ハザマが「僕にも使えそう」といって『碧の魔導書』を起動してるシーンがCFにあったので、テルミは普通に使ってもいいんじゃないかと思ってこの状態になりました。

次回からそのままアニメ4話分に入りたいと思います。


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25話 もう一人の『ブラッドエッジ』

今回からアニメの4話に入ります。
タイトルで誰が来るかは丸わかりかもです(笑)。
後、今回殆ど三人称です。


アイエフと一緒だったとはいえ、『ネプギア』がこっちに来ていたことに俺は驚きを隠せなかった。

もしかしたら今テルミたちと一緒にいるネズミとかの話かもしれない・・・。もしそうであれば、俺たちだけで向かったのは相当な悪手だった可能性が出てきた。

だが、そんな思慮をしている時間は許されねえようだった。

 

「・・・ほう?この魂の形は・・・。テルミ、あの少女がお前の言っていた存在だな?」

 

「おうよ!あいつがさっき俺の言ってた、『生まれ変わり』かも知れねえ存在だ・・・」

 

「ネプギア・・・?くっ!ネプギアに手出しさせて堪るもんか・・・!」

 

レリウスが『ネプギア』のことに気づき、テルミと共に悪趣味な会話をしながら狂気的な笑みを見せた。

それに反応したネプテューヌは無理にでも動こうとするが、コードにがっちりと縛り付けられているせいで全く身動きが取れないでいた。

 

「こんな時に動けないなんて・・・!アイちゃんお願いっ!ネプギアを連れて逃げて!早くっ!」

 

「分かってる!・・・ネプギアっ!早く逃げるわよっ!」

 

「いやぁっ!兄さま・・・お願い・・・!私を置いていかないでっ!一人にしないでぇ・・・っ!」

 

この状況でもネプテューヌは友人であるアイエフのことに気づいており、絶対に聞こえさせるために声の出る限り。叫ぶようにアイエフに頼む。

アイエフは『ネプギア』の腕を掴んだまま促し続けるが、もう片方の状態が出ている影響で、全く話を聞いちゃいなかった。

今の『ネプギア』はいつもの少し引っ込み思案な時もあるが、真面目で姉譲りの正義感のある聞き分けの良い少女ではなく、俺との別れを恐れる一人の少女だった。

 

「くっ・・・!サヤ・・・」

 

現に今、『ネプギア』は俺に対して泣きながら懇願している。

俺は殆どまともに動けない状態でもう一つの呼び方をしながら立ち上がろうとするが、まるで全身に重しが乗ったかのようにゆっくりとしたものになってしまっていた。

 

「おうおう・・・まだ立ち上がんのかぁ?あの嬢ちゃんの為にわざわざご苦労なこったなぁ・・・。

テメェもテメェで残念だったなァ・・・どうやら、今の(・・)テメェの妹はラグナちゃんしか目に映ってねぇんだもんなァ・・・ケヒヒヒヒッ!」

 

「っ・・・!あんたって人はぁ・・・!」

 

「ヒヒヒッ・・・!いいねぇその顔・・・俺への『憎しみ』を確かに感じるぜェ・・・!」

 

ネプテューヌがテルミへの殺気を向けて数瞬の後、テルミの体から微かに碧い炎のようなものが溢れる。

そして、それはテルミが満足したからもういいのか、すぐに消えた。

また、この時ネプテューヌの足元から何らかの黒い水が零れていたのだが、それに気づいていたのはマジェコンヌだけであろう。

 

「ああ・・・忘れるところだったわ。

レリウス!どうすんだ?あの嬢ちゃんとっ捕まえるんなら俺がハクメンちゃんの相手やろうか?」

 

「感謝するぞテルミ・・・。では、十秒で交代だ」

 

「レリウス=クローバー・・・貴様を逃がす訳には行かぬ・・・ッ!」

 

『斬魔・鳴神』とイグニスの腕がぶつかる状況下、ハクメンはそのまま力を入れてイグニスを押し飛ばそうとするが、イグニスは妙に強い力であまり動かないで踏みとどまっていた。

そして、暫く押し合いが続いていたが、そこに『ウロボロス』を割り込むように送り込むことで、テルミは二者に後退を強いる。

そこからそのまま『ウロボロス』で虚空を掴み、ワイヤーアクションのごとく『ウロボロス』で移動してテルミはレリウスとハクメンの間に立った。

 

「交代完了だ・・・後は俺様に任せな」

 

「感謝するぞ。では、私は対象の確保(・・)に向かうとしよう」

 

言うが早いか、レリウスは仮面の下から極めて危険な笑みを見せて『ネプギア』の方へと歩き出した。

 

「テルミ・・・『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』を始末しないで良いのか?」

 

「今は平気だ。レリウスがあいつ連れてくんのに、ハクメンちゃんがフリーだとおちおち移動できねえからな・・・。

まあ、これができんのもラグナちゃんがボロボロなおかげなんだけどな・・・」

 

「確かにな・・・さて、ネズミ。そろそろ隠れる必要も薄れただろう。アレの準備を始めてくれ」

 

「了解っちゅ。さて・・・回線はっと・・・」

 

マジェコンヌの問いにもテルミは余裕そうに返した。

それを聞いて満足したのか、今度はネズミを促し、それを受け入れたネズミは作業を始めた。

この際、テルミのことや、ネズミのこと以上に大事なことが一つできた。それは・・・・・・。

 

「さて・・・お前の魂・・・余すことなく私が調べつくしてやろう・・・」

 

「・・・!ああ・・・」

 

「サ・・・サヤ・・・!・・・ッ・・・逃げろ・・・ッ!ぐぅ・・・ッ!?」

 

『ネプギア』を逃がすことだった。レリウスに捕まったらそれこそ本当に終わりだ・・・。絶対に助けなきゃ行けなかった。

そのため、剣を杖代わりにしながらそっちを振り向いて呼びかけるが、体全体に走る痛みに負けて再び膝をついてしまった。

 

「に・・・兄さまっ!」

 

「何してんだ・・・ッ!?早く逃げろ・・・ッ!サヤ・・・ッ!」

 

「どうして・・・?やっと会えたのに・・・っ!どうしてまた・・・離れ離れにならないといけないのっ!?」

 

俺が促しても大した効果を見せなかった。こうなると残りはすぐに戻って安心させてから一緒に逃げることだが、俺の体がボロボロなことからそれを許さない。

そうしている間にもレリウスは更に歩を進めて『ネプギア』に近づいていく。ゆっくりと歩いてることが幸いなことだが、それでも後数分すればレリウスの手が届いてしまう。

 

「クソがァ・・・ッ!こんな時に動けねえのかよ・・・ッ!・・・!?」

 

俺が毒づきながらどうにか動こうとすると、右腕から妙な重みを感じ、蒼い炎のようなものが出ていることが分かった。質が悪いことに、普段より重みが増している。

同じ日にまさか二度も起きるとは思っていなかったため、俺は驚く。いや、俺以外にもネプテューヌたちも驚いてはいるが、それに気付く余裕は無かった。

 

「また誰か来るの・・・!?」

 

「どうやら・・・そうみてえだな・・・」

 

ネプテューヌの問いにも俺は擦れたような声で返すのが手一杯になっていた。その反応は一つと・・・微弱な一つだった。

その蒼い炎のようなものが消え、そのやってきた人物たちを位置を示す方向は上で、それもすごい速度で下へと変わり始めていた。

・・・・・・要するにそいつは絶賛落下中だった。恐らく落ちる先はこのズーネ地区だろう。

 

「(頼む・・・味方と思える奴であってくれ・・・!)」

 

動けない体でいる中、俺はただ願う事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「うおぉぉぉおおおっ!?」

 

視界がハッキリした瞬間落下していたので、少年は驚いた。

目の前に広がるのは夜空であるため、ここがどこであるか把握ができないでいた。

 

「えっと・・・確か俺は『あいつ』を助けてから魔素になって・・・」

 

黒い薄着を身につけた癖っ毛のある茶髪をした目つきの細い少年は自分が最後にしていたことを思い返す。

自分は『ご主人様』に「可能性を救え」と言われて行動し、その可能性を宿している・・・自分と信じられないくらいに似ている青年が暴走によって『全ての可能性』が消滅する寸前のところで助け出し、役目を終えた自分は魔素となってあの世界を去った。自身が元の世界に戻れる可能性をその青年に託して・・・。

そして視界がハッキリした瞬間・・・少年の体感としては消えて数秒もしないで落下している状態でいたのだった。

 

「い・・・一体何がどうなってんだ!?」

 

《ナオト!聞こえる!?》

 

混乱している少年・・・黒鉄ナオトを呼ぶ声が聞こえた。それは少女のものだった。

 

「・・・!?ラケルか!?つかお前、それ一体何があったっ!?」

 

ナオトは自身の『ご主人様』であるラケル=アルカードの状態を見て驚いた。

ラケルは本来、綺麗な金髪にどこか冷ややかさを感じる金色の瞳を持った小柄な少女なのだが、今現在は手のひらに収まるくらいな大きさの黄色い光の球となっていた。

―何が何だかさっぱりわかんねえッ!マジで何があった!?ナオトは混乱するばかりだった。

 

《これの状態のことも今から簡単に説明するわ。時間がないから、詳しいことは後で聞いてちょうだい》

 

「わ・・・分かった!」

 

ラケルの有無を言わさぬような物言いに、ナオトは頷くしかなかった。

とにかくまたあの世界のようにどこか走り回るんだろう。ナオトは既にその点の覚悟は出来上がっていた。

 

《まず、あの世界で役目を終えて、『あの男』が世界を救った以上、貴方は本来元の世界にはずだった・・・。

でもその際にトラブルが発生して、貴方は今この世界に来てしまったの・・・》

 

「そのトラブルって?」

 

時間がないと言った以上、ここで文句を垂れてもラケルは答えてくれないのが解っていることと、もうこんなドタバタのようなことに慣れていたナオトは大して動じることはせず、トラブルの原因を訊こうとした。

恐らく元の世界に居ない以上、何かやることはあるのは確実なので、ナオトは自分の状況の整理を優先することにした。

 

《貴方があの世界から消えた時・・・ほんの一瞬とは言え、ここで私と貴方の繋がりにずれが起きたの。

そこへ更に、この世界にいる『ある少女』が貴方を『あの男』と誤認して貴方をこの世界へ呼んでしまったのよ・・・。

その少女は力の扱いが不安定だから、これからも・・・貴方のようにうっかり呼ばれてしまう人たちがやって来る可能性も考えられるわ》

 

「・・・なるほど。俺と『ラグナ(あいつ)』は妙に似てるらしいからな・・・」

 

ラケルの説明を聞いたナオトは自分でもびっくりするくらいにあっさりと納得できた。

これには、自分がレイチェルをラケルと誤認したように、あの世界での多くの人が自分をラグナと誤認したのと同じだったからだ。

 

《どうやらそのようね・・・。

それと、前回は辛うじて声はそちらに届く状態だったのだけれど、今回は以前ほど繋がりが酷い状態ではないから・・・こうして貴方のそばで私の魂の一部を形にして送ることで貴方と共に行動できるようにできたわ》

 

「そりゃありがてえ・・・ああそうだ。こっちで俺は何をすればいいんだ?それを訊いて無かった」

 

ナオトがここで自分の役目を訊きに行ったのは、ラケルが最初に言った「詳しいことは後で」と言われたから今は聞いても意味がないと判断したのである。

この世界でのやるべきこと・・・それはナオトが本来自分のいた世界に帰るため最も重要なことだった。

この時、ラケルはナオトに一つだけ隠し事をしているが、これは落ち着ける場所でしっかり話そうと思っていた。

 

《『可能性の象徴(あの男)』は今、この世界で生きているわ・・・。だからナオト、貴方はこの世界で『あの男』を助け、この世界をより良い方向へ導く手伝いをするの。

幸い、前回と違って時間が無いから急げと言うことは無いわ・・・。悩んでも、立ち止まってもいい・・・最終的にこれでいいと思える方向に導けるようにするの・・・いいわね?》

 

「ああ・・・任せろッ!俺がぜってえ良い方へ変えてやる!それに・・・いつか本当のお前も見つけてやる!・・・約束だ!」

 

ラケルの話を聞いてナオトは迷うことなくそれを受け入れた。

始めてラケルと出会った時こそ無茶苦茶な奴だとナオトは感じていたが、今はそんなことは全く無かった。

慣れてきたと言えばそこまでかも知れないが、自身が死にかけた時に結んだ契約として「『蒼』を手に入れて私を見つけなさい」と言われ、ナオトは「見つけ出す」と約束をしていた。

それを裏切ることは自分の恩人と、何よりも自分自身を裏切ることになるため、ナオトは拒否をしなかった。もし拒否したのなら、ナオトは自分自身を許せないだろう。

 

《頼もしいわね・・・。流石、あの世界で私の与えた無茶な役割を果たしたことだけあるようね・・・》

 

「みんなを助ける為なんだ・・・何てことねえよ」

 

ラケルの安堵の声が混じった称賛を聞いて、ナオトは柔らかな笑みを見せて返した。

その目つきの悪さから、時折第一印象で他人に怖がられる可能性のあるナオトであったが、笑っている時は間違いなく少年らしい明るさを見せていた。

 

《っ!ナオト!『あの男』の居場所が特定できたわ。よく聞きなさい》

 

「マジかっ!?どこなんだ?」

 

ナオトはラケルから飛んできた朗報に食いつく。今回の目的の為に、ラグナの情報は最も重要なものだったので、ナオトは何としても聞きたかった。

 

《・・・・・・この真下よ》

 

「・・・・・・」

 

ラケルの予想外過ぎる回答にナオトは呆然とする。

―真下?何をどうしたらそんな回答が出てきたんだ?そう問おうとしたところでナオト周りが突如雲で覆われたことで、ナオトは自分の置かれている状況を思い出した。

 

「・・・はぁっ!?って、そっか!そりゃそうだよな!?いきなり落下してたもんなそう言えばっ!

ラケルっ、何か落下を抑える手段はあるか!?」

 

《・・・・・・》

 

自身は絶賛落下中であったことに―。素っ頓狂な声を上げながらもナオトはそこまでパニックに陥らずに済んだ。

前にもこうして落下を経験したことがあったので、慣れによってナオトはそこまで慌てないで済んだのである。・・・こんなことに慣れたくは無かったのだが、慣れてしまったものは仕方ない。ナオトは若干ながらこのことには諦めが付いていた。

ナオトは最後の望みとしてラケルに訊いてみる。すると、ラケルは何か申し訳なさそうに黙りこくってしまった。

 

「お・・・おい、ラケル?」

 

《ナオト・・・》

 

不安になって思わずもう一度聞いたナオト。するとラケルは彼の名を呼んで一泊置く。

 

《ごめんなさい。今すぐには用意できないわ・・・幸い私との契約のおかげで身体能力は上がっているのだから、それで何とかしなさい》

 

「な・・・・・・」

 

そして、ラケルから告げられた回答は無慈悲なものだった。それを聞いたナオトは一瞬呆然とし・・・。

 

「何でこんな時だけ不都合なんだよおおおぉぉぉぉぉおおおおッ!?」

 

ナオトは情けない声を上げながら、成す術もなく地面に向けて背から落ちていった。

それをラケルは置いていかれないようについていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

時間はラグナがテルミと対決している最中に遡る。

リーンボックスの端っこにあるアパートの一室で、ナインは5pb.にいくつか質問をしていた。

今回ナインが聞いていたことは、シェアエナジーについてだった。

5pb.にシェアエナジーと人々の関係性を聞くと、「人々の信仰する心がシェアとなり、それは女神にシェアエナジーとして力を与える。また、女神はその力を使って土地を良くしていき、人々を護る為に使う」・・・と大体の人達と似通った回答が帰ってきた。

ここまでくれば、シェアエナジーと人々の相互関係は間違いないと踏んでいいだろう。そうナインは判断を下した。

 

「なら質問を変えるわね。シェアエナジーの根源・・・それが何かは解るかしら?」

 

ナインは本来聞きたかったものを訊くために本題に踏み込むことを選んだ。

一般の人達は聞いても「それが当たり前」と言うかのように味気ない回答しか返ってこなかったため、あまり期待してない面と、5pb.のようにそれなりに立場が変われば別の回答が来るかもしれないという期待もあった。

 

「こ・・・根源?ごめんなさい。ボクもそれについては解りません・・・。せめて、教会の人達なら何か知ってると思うんですけど・・・」

 

「いえ・・・大丈夫よ。流石に無理があったみたいね・・・」

 

ナインは5pb.の回答を聞いて自分が相当無茶苦茶な質問をしていたことを反省する。

しかしながら、そんな中でも5pb.はヒントのようなものをくれただけありがたかった。

また、5pb.は本来極度の人見知りであったそうなのだが、意外と早めにナインのことは慣れていたらしく、今は殆ど普通に話している。

 

「(そうなると・・・教会に行くべきかしらね?)」

 

『エンブリオ』にいた頃であれば、間違いなく一言入れてすぐにこの場を立ち去っていただろう。

だが今回は時間もあることと、どうするべきかを考えている以上、急ぐ必要もないのがあった。

 

「あの・・・ボクからも一つ訊いてもいいですか?」

 

「構わないけど・・・何を聞きたいの?」

 

「え、えーっと・・・」

 

「・・・?」

 

5pb.に質問されて了承するナイン。しかし、そこで5pb.が迷うようなそぶりを見せるので、用意してもらっていたコーヒーの入っているカップを手に持ったままナインは首を傾げる。

ちなみに、ナインの手にするコーヒーは5pb.が用意できていたものに砂糖を入れているが、一袋5g(グラム)分の砂糖を大量に入れていたのを見た5pb.は一瞬だけドン引きしてしまったのだ。

最初の3袋までは甘党なのだろうと軽く流せたが、4袋目から怪しくなり、7袋も入れた時は顔に出てしまっていた。

そんな苦みではなく、甘味しか感じないコーヒーを一口飲んで、ナインがカップを置いたところで5pb.は決心を固めて聞くことを決意する。

 

「ナインさん・・・もしかしてあなたは、どこか違う世界から来た人なんですか?」

 

「・・・!」

 

5pb.の質問にナインは息を飲んで目を見開いた。この時、コーヒーを口に含んだままでなくて良かったとナインは心底安心した。

しかし、ナインは自身の出身が見抜かれているのを確かに感じ取っていた。

 

「確かにそうだけど・・・どこで気が付いたの?」

 

「シェアエナジーの根源っていう聞き方をしてきた時かな・・・。

仕事柄、色んな人と話すことはあるんですけど、シェアエナジーを・・・引いてはシェアのことをそこまで深く踏み込んで話す人なんて一人もいませんでしたから・・・」

 

「・・・なるほど。そういうことだったのね・・・」

 

一応理由を訊いてみたが、5pb.適格な回答を聞いてナインは納得する。

また、それと同時に女神たちにとってもシェアエナジーは元々そういうもので片付いてしまっていると言う結論を付けた。

 

「そうね・・・こうして一方的に訊いてばかりなのも釣り合わないでしょうし、私のことも話しましょうか・・・」

 

そして、ナインは5pb.に自身のいた世界と、そこで歩んだ自身の道を話すことにした。

まず初めに家族は両親と妹、そして自分の四人家族であったこと。母親は妹を生んだ直後に死んでしまったこと。

父親が妹のことを子として以外に、研究対象としても見てたことから父親には嫌悪感を抱き、妹はつけていた父親のミドルネームを、自分は付けなかった。

また、妹は絶対に自分が護るとこの時心に誓ったこと。

やがて月日が経ち、魔法の扱いに長けていたナインは、とある魔法学校で十聖と呼ばれる存在にまで登り詰め、以後はその時九番目に十聖になったから『ナイン』と言う名を授かり、以後はこの名で普段を過ごすようになったこと。

それからしばらくして、父が実験を行っていた国に核が撃ち込まれて数年後、その国で生存者がいると聞いた妹が行方不明になった父を探しに飛び出してしまったので、友人に手伝ってもらいながらも必死に探したこと。

その時に妹を見つけると同時に片目と片腕が動かない青年・・・『ブラッドエッジ』とであったこと。また、その後に自身の夫になる者とであったこと。

父親の実験の内容を知り、その過程で生まれた『黒き獣』を止めるために妹が我が身を犠牲にしようとしたところで、『ブラッドエッジ』が代役を買って出て、自身に一年で『黒き獣』を倒す手段を作り上げることを約束させたこと。

そこからは妹を狙う者達から、妹を必死に護りながらその手段を完成させ、『黒き獣』を倒したこと。

ただしその後すぐに、『黒き獣』に勝つために、拘束付きで解放した危険人物の手段に友人が引っかかってしまい、その危険人物の急襲を受けた自分は入ってしまえば帰ってこれない危険性の高い場所に放り込まれてしまったこと。

 

その場所に放り込まれて世界の真実を知った自分は神様として仕立て上げられていた少女に激怒した。

自分はその少女によって作られている予定調和の世界を破壊するために行動しようとしたが、出られないことにはどうしようもなく、逆に危険人物に拘束をかけられて暫くの間利用されてしまったこと。

そして潔くその拘束から解放された瞬間、予定調和で作られた世界の完全破壊の為に行動を開始し、その途中で再び現代を生きる『蒼の男』・・・『ブラッドエッジ』その人と顔を合わせたこと。

意見の違いから『蒼の男』らと敵対し、自分は敗北したこと。また、その直後に自分はその『蒼の男』が世界を変えることに賭け、自身の命を投げ出したので本当は死んでいるはずであること。

ただ、どの時も自分が護ると決めていた妹は結果的に他人が助けていたことが殆どで、自分が時々情けなく感じたことを話した。

 

「どうしてか解らないけどまたこうして動ける身になっていたわ・・・。この世界のことが全く分からないから、色んな人に聞いて回ってみていた途中であなたと会って今に至るわ」

 

「なるほど・・・そんなことがあったんですね・・・」

 

「意外と驚かないのね?」

 

「とんでもない!寧ろ驚きっぱなしですよ・・・」

 

5pb.が声を上げたりしなかったので、もしやと思ったナインが訊いてみると5pb.は普通に驚いていたようで、両手を前に出して首を横に振りながら主張した。

流石にこんな話をして驚かない筈はないだろう。この時、ナインは知らないことではあるが、ラグナも皆に似たような話をして既に驚かせている。

 

「そう言えば、『蒼の男』って人のことを聞いてみて思ったんですけど・・・あの紅の旅人にそっくりですよね?

もしかして・・・何か関係があるんですか?」

 

5pb.はナインの言う『蒼の男』が非常に気になっていた。5pb.はラグナのことをニュース等で時々彼の話を聞いたりするのだが、そのラグナの外見や性格等があまりにも似すぎていたのだ。

 

「ああ・・・『蒼の男』はね・・・紅の旅人その人なのよ」

 

「え・・・ええぇぇぇぇぇええええっ!?」

 

ナインから予想以上の回答が帰ってきて、5pb.は一瞬だけ飛び上がってしまう。

もしかしたら何か関係性があるかもしれないと思っていたが、まさか同一人物だったとは誰が信じられただろうか?恐らくは無理であろう。

 

「フフ・・・素直な反応ね」

 

そんな5pb.の様子を見ながら微笑みを浮かべたナインはラグナの動向が気になって現状を『観測』ることにした。

前回確認した時にこの魔法は解除しておこうと思ったのだが、暫く離れる以上、いざ合流するときに場所がわからないとどうしようもない為解除はしなかった。

左手を円型テーブルの上に置き、手のひらに蒼い光の球を出現させ、様子を見てみる。

 

「・・・!」

 

そこに映された光景にナインは絶句する。

周囲の状況が現れるや否、視点がゆっくりと持ち上がっていることからラグナが非常に危険な状態であることが容易に伺え、更に目の前には自身が最も憎む外道がいた。

 

「ユウキ=テルミですって・・・!?あいつまでこんな所に来てるの・・・!?

それに、その右側に映っているのは・・・」

 

自身の妹を死なせ、友人を利用した仇敵ユウキ=テルミがこの世界にいることを確認してナインは驚きを隠すことができなかった。

一瞬ラグナが何故負けているかが分からなかったが、ここが『エンブリオ』でないことを思い出したナインはこのままだとラグナが死ぬ可能性が出てきたことを理解した。

救援に行くべきだと考えながら、ナインは右側に映る三角錐の中にいる四人の少女女性が気になった。

 

「・・・どうかしたんですか?」

 

「これ・・・何か解るかしら?」

 

ナインは5pb.に自身が『観測』ていたものを見てもらうことにした。促された5pb.は蒼い注視する。

 

「え・・・?女神様が捕まってるの・・・?」

 

「何ですって?それはマズイわね・・・」

 

目を見開いて呟いた5pb.の言葉を聞いたナインは顔をしかめる。

5pb.の言っていることが正しければ、ゲイムギョウ界で築き上げられてきた秩序が崩壊することを意味するからだ。

 

「こうしちゃいられないわ・・・この映っている場所がどこだか聞いてもいいかしら?」

 

「はい・・・ここはズーネ地区の廃棄物処理場ですね・・・。でも、どうしてこんな所に人が・・・?」

 

どうやら5pb.でもその場所に人がいることは予想外のことらしく、首を傾げていた。

話を聞いてナインもそのことは疑問に思ったが、今すぐに行かないと取り返しがつかなくなる可能性を考えたナインは行くことを決め、蒼い球を消滅させる。

 

「都合よく釣り場にしたってところかしらね・・・。私は今からそのズーネ地区に行くわ。方向だけ教えてもらってもいい?」

 

「はい!こっちです!」

 

ナインの頼みを聞いて5pb.は立ち上がり急いで玄関から外に出て、それを見たナインも5pb.を追うように外へと出た。

 

「あの方角へ真っ直ぐ進んで下さいっ!そうすれば廃棄物処理場にたどり着けます!」

 

「ありがとう!私はこのまま行かせてもらうわっ!」

 

「あっ、待って下さい!」

 

ナインは一言入れてすぐにズーネ地区に向けて飛んでいこうとしたところで5pb.に呼び止められる。

 

「・・・また会いましょう!今度はボクのことも話させて下さいっ!」

 

「・・・ええ。また会いましょう」

 

5pb.が笑顔で頼んできたのを見たナインは一瞬硬直してから笑みこぼして返した。

そして、ナインは魔法を使って空を飛びんで行った。

 

「(予想より早くなってしまったけど・・・私も今一応、やるべきことは見えたわね)」

 

―ラグナを手助けし、セリカを今度こそ護り通す!ナインの瞳には強い闘志が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「うおぉぉぉああああっ!?」

 

上から少年の絶叫が聞こえ、その少年は殆ど間を置かず地面に激突して土煙を巻き起こした。

 

「何!?何があったのっ!?」

 

「えぇえっ!?落下は主人公の専売特許じゃないのぉっ!?」

 

ノワールとネプテューヌはそれぞれが驚きの言葉を口にする。

ネプテューヌに至っては少々ついていきづらい発言をしているが、それだけのインパクトはあった。

 

「ネズミ、機材は大丈夫そうか?」

 

「巻き込まれなかったから平気っちゅ・・・」

 

マジェコンヌはこれからやることに支障が出ていないかが気になってワレチューに訊くが、幸いその心配は無いようだ。

 

「此の気配・・・似てはいるが、ラグナでは無いようだな・・・」

 

「なあレリウス・・・今のってよぉ・・・」

 

「ああ・・・どうやらあの男も呼ばれたようだな・・・」

 

ハクメンはその気配に引っ掛かるものがあった。

訝しげに尋ねるテルミに対し、今回来た声の主に見当が付いていたレリウスは仮面のずれを直しながら答えた。

その少年は傷だらけの青年・・・ラグナとよく似た気配を持つ少年だった。

 

「いっててて・・・」

 

そして、煙が晴れると少年が姿を現した。

癖っ毛ある茶髪に黒を基調とした薄着を身につけている少年は、あの高さから落ちたにも関わらず大した怪我をしていなかった。

 

「身体強化の恩恵ってすげぇなチクショウッ!つかどこだよここ!?」

 

少年は自身の身に起こった事に応えたのか、怒声を飛ばす。

その少年の姿や雰囲気がラグナによく似ていることもあってその姿を見た四人の女神どころかこの場にいたラグナとレリウス以外の全員が息を吞んだ。

 

「・・・ラグナ?」

 

その中でもネプテューヌは更に思わずラグナの名を口にした。

 

「悪いけど俺はラグナじゃねえぞ?俺は・・・」

 

《ナオト、無事ね?》

 

「ラケル・・・一応確認だけど事故なんだよな?トラブルなんだよなこれ!?」

 

ネプテューヌの問いに答えかけたところで、黄色い光の球となっているラケルに声をかけられ、ナオトと呼ばれた少年は確認を求める。

 

《トラブルなのは事実よ。それにしてもナオト・・・貴方空中制御くらいできないの?》

 

「あんな状況下でできるか!俺らの世界で平時から使うもんじゃねえぞアレッ!」

 

「ありゃクソ吸血鬼か?にしちゃあこっちのことは全く気にしてねえが・・・」

 

テルミはラケルの声を聞いて自身が鬱陶しく思っている人物を思い起こしたが、その様子を見て猜疑心が沸いた。

自分の知っている人物であれば、こちらを見て真っ先に敵意を向けるか、ラグナを見て何かを言うはずだからである。

 

《それよりもナオト、やることは解っているわね?》

 

「ああ・・・前の時と同じなんだろ?」

 

ラケルに促され、ナオトは自分に必要なものを探す。

辺りを見回していくと、ナオトの視界に傷だらけのラグナが入り、ナオトはそちらへ駆け寄る。

 

「テメェ・・・ナオトっつったっけか?元の世界に・・・帰ったんじゃねえのか?」

 

―どうしてこっちへ来てるんだ?ラグナはボロボロの体の中、どうにか思考を働かせてナオトに問いかける。

あの時世界に『可能性』を与えたのだから、ナオトは無事に帰れたはずなのにここにいることがラグナには理解できなかった。

 

「うちの『ご主人様』曰く、どうやらトラブルらしくてな・・・それでこっちの世界に来ちまった。

・・・そんなことよりもだ。俺はあんたの手助けをするよう言われてるんだ・・・取りあえずはあの子たちを助けるでいいんだよな?」

 

「・・・ああ。できるなら・・・そうしてくれ」

 

ナオトは事情を説明しながらラグナに確認を取ると、ラグナはそれを肯定した。

それを聞いたナオトは三角錐の方へ向き直り、目を閉じて集中を高める。

するとナオトの茶髪だった髪は白くなり、彼が目を開くと、褐色であった目は鮮血で染まったかのように赤くなっていた。

 

「よし・・・ちょっと待ってろよ!今助けるからなっ!」

 

ナオトは彼女たちを見据えて右手を顔の高さまで持ってきて、自身の持つ能力を発動しようとしたが、それは掛けられた言葉によって遮られる。

 

「あっ!ちょっと待って!私たちならまだ大丈夫だから、先にラグナたちを避難させて上げてっ!」

 

「な・・・本当に大丈夫なのか?」

 

ナオトは後で知ることになるが、目の前で待ったをかけたネプテューヌに再確認を取った。

ラグナに頼まれたことは今捕まっている彼女たちを助け出すことだが、彼女は気丈に振る舞ってそれを断ったのだった。

また、この時ナオトが即座に彼女の言葉を呑むことができなかったのは、彼女たちの頭上に映る『数値』が非常に緩やかにではあるが、減っているのが原因だった。

ナオトの両目は『狩人の眼』と言う少々特殊な目になっており、それは人の持つ生命力を数値化して表すものだった。

それらは日によって僅かなながらも変化し、感情の起伏でも変化する。

下降させるのは悲しみ。恨み。自棄。辛さ。

上昇させるのは喜び。幸福感。怒り。焦り。好意。恥じらいである。

ただし、その増減幅はせいぜい1ケタで、大怪我もしていないのに数十単位で変動するのは異常である。

また、人間が死ぬと数値が『0』になり、体が端から黒く染まっていき数秒で全身が黒く染まっていく。

そのため『狩人の眼』を持つナオトには、死者は『その形から、ようやく人間だろうと推察できる程度』の黒い塊と映る。

ただし、ラケルの眷属となったナオトは、数値は『0』だが黒くは染まっていない・・・つまりは半死人である。

一般人であれば、その数値は平均『10000』前後なのだが、彼女たちの数値は現状おおよそ『150000』と平均より圧倒的に高かった。

だが、それでも放っておけばその内『0』になる危険性は否定できなかった。

 

「大丈夫だよ。それよりも、あっちを助けてあげて欲しいのっ!」

 

動けぬ体のままネプテューヌが顔を向けた方をナオトは見る。

するとそこには今にも球状の機械モノに襲われそうになっている二人の少女がいた。

映る数値として、青いコートを着た少女は『10678』であった。

また、球状の機械は『12082』で、先程確認した際にラグナは傷だらけの状態であるためか『8026』と低い数値になっていた。

そして、これは非常に例外的なことではあるが、制服のような格好をしている少女は『167439』と『8947』の二つの数値が、まるで最初からそうであるかのように入れ替わったりしていた。

 

「おいおい・・・あっちもあっちで大分ヤバいな・・・」

 

ナオトは思わずぼやいた。かと言って、自分のことを間違えて呼んでしまった少女とやらを恨むつもりもなかった。

彼女たちの友人だろうか?その内一人は自分の助けを拒否した少女と似ているから、もしかしたら肉親かもしれない。そう考えたら今は手出しされない彼女たちよりも、助からない可能性のある二人の方が危険だとナオトは判断する。

数値のことがどうなってるか非常に気になることではあるが、今はそうではないためこの疑問は胸にしまっておくことにした。

 

「(と言うか、あの子はサヤなのか?いや、違うな・・・少なくとも俺の知るサヤじゃない)」

 

ナオトは制服のような格好をした少女をみて思わず自身の妹かと疑ったが、それをすぐに振り払った。

 

《ナオト・・・私は一つ賭けに出ようと思うわ・・・》

 

「賭け?賭けって・・・何をする気だよ?」

 

《先程からこればかりで申し訳ないわね・・・それも一先ずの安全が確保できてから話すわ》

 

ラケルが言うのだから恐らくは相当な緊急事態だろう。それだけがナオトには分かった。

そんなことをこっちの人たちとやって大丈夫なのかと言う不安もあるが、助からなければ元も子もない。

色々と言うべきところはあるのだが、その前に乗り切らなければどうしようもない。そう結論づけている間にも、ラケルはその二人の少女の方へと飛んで行ってしまった。

 

「ほう・・・あのような状態になっているとはな・・・。此れはまた興味深い」

 

「っ!テメェ、レリウスか!?何だってテメェがここにいるんだ!?」

 

レリウスがこちらに近づいてきながら、ラケルを見ながら呟いたのが見えたナオトは弾かれるようにそちらを振り向いた。

レリウスは自分が知る頃と同じなのは、仮面を使ってではあるが素顔を隠していること。前と違うのはすぐそばに女性型の機械人形がいたことだった。

また、『狩人の眼』に映る数値は彼がそれなりに楽しんで過ごしていたのか、『9213』まで上がっていた。

 

「黒鉄ナオト・・・此の世界で再び相まみえるとは予想外だったな」

 

「そりゃ俺もだよ・・・『サヤ』の騒動以来だっけ?左手と右足は世話になったな」

 

ナオトはレリウスを見て確認しながらその日のことを思い返していた。

自身の妹・・・輝美(てるみ)サヤが音沙汰もなく帰ってきた日に纏めて起こった騒動は、非常に慌ただしいものだった。

ラケルが当時最も『蒼』に近いと言っていた男・・・。スピナー=スペリオルに宣戦布告を受けた三日後、溜めこんでいた洗濯物を本当は自分がやるつもりではあったのだが、その日は「ナオくんがやるとシワだらけになる」と言って、幼馴染で同い年である少女、早見ハルカが洗濯物を代わりにやっていた最中のことだった。

その最中にゲームパッドのボタンを連打するくらいの勢いでインターホンが押されたので、自分が行こうとしたところでハルカがそっちへ向かい、顔色を変えてナオトを呼んだことから始まった。

その時のサヤの目的は「輝美家再興の為にナオトを殺し、『狩人の眼』を手に入れる」ことだった。自分とサヤが部屋で2人になったところを狙われてしまい、ラケルの分の命がなければ間違いなく死んでいただろう。

サヤがその場を去った夕刻、ハルカに頼まれて夕飯の買い出しをラケルと共にしていたのだが、ラケルから「『蒼』の気配を強く感じる」と言われ、そこへ向かえば疲労困憊のサヤと、以前自身を『不死者』として襲いかかってきたヴァルケンハインと、その同僚であるレリウスがいた。

当時のレリウスは仮面と言うよりは、アイマスクに近いものを掛けていたとナオトは記憶している。

そして、それを目撃した直後に現れたスピナーにサヤは取り込まれてしまったが、「快いと思えない奴でも家族だ」とナオトはサヤを助ける為、スピナーに戦いを挑んだ。

その際、どうにか撃退はできたものの、自身はラケルとの繋がりが薄れている最中に左腕と右足をやられてしまい、レリウスが用意した義足と義手を貰って今に至っていた。

 

「あの世界の人々の日常に関わることだったのでな・・・気にすることはない」

 

「・・・まあ、向こうじゃそうなるか・・・」

 

話しこそ普通にするナオトではあるが、警戒は一切解かない。

ナオトがこうした形で話に応じるのは、レリウスがどういう人物かを知っているからこそできることだった。

 

「そんで?俺んとこにわざわざ来たんだ・・・なんか目的があんだろ?」

 

「ああ・・・確かに目的はあるが、然したることではない・・・ただ・・・」

 

レリウスの口調は淡々としているものの、仮面の下は笑っていたのが見え、ナオトは身構える。

そして、レリウスの隣にいた女性型の機械人形が動き出す。

 

「そこにいる『蒼の男』の中にある真なる『蒼』が気になってな・・・研究をしようと思ったまでだ」

 

「・・・っ!」

 

「・・・クソッ!」

 

その言葉を皮切りに、機械人形の右腕が振り上げられ、ラグナを鷲掴みせんと一気に振り下ろされた。

ラグナは現状傷だらけのせいで反応することができない。そのため、ナオトはラグナを助けんと咄嗟に行動へ移った。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「こいつら・・・まだこんなにいたって言うの!?」

 

背後から現れた機械型のモンスターたちを見てアイエフは顔を歪ませ、歯嚙みする。

すぐに逃げようと思ったが、今から走らせたところでモンスターの砲撃を受けてしまうのは確実だったからだ。

―ネプギアは大丈夫なの?不安に思ったアイエフがそちらを見やると、ネプギアは固まって動けないでいた。

 

「(くっ・・・どうすれば・・・)」

 

《そこの貴女、少しいいかしら?》

 

「えっ・・・?私?」

 

アイエフは声をかけて来た主を見て驚く。その声の主は黄色い光の球で、更に声が殆ど自分と同じだった。

 

《この状況を乗り切るために協力するのだけど・・・私が協力するにはちょっとした条件があるから、それを満たすのに力を貸して欲しいの》

 

「・・・何をすればいいの?」

 

声の主の話を聞いてアイエフは真剣な表情で尋ねる。その声の主から出された提案は思いもよらぬものだった。

 

《このひと時だけでいい・・・。私に・・・貴女の躰を貸してもらえないかしら?》

 

「・・・躰を?」

 

《ええ・・・私が持っている打開策は、この状態じゃできない・・・。人の躰が必要なの》

 

光の球から発せられる声は冗談を言っているようには感じられなかった。そのためアイエフはまた困惑する。

だが、実際のところ今のままでは対処しきれず、やられてしまう可能性が極めて高いのは目に見えていた。

 

「・・・他の人はダメなの?」

 

そこまで考えたアイエフは、受け入れる前に確認として訊いて見た。自分は動けるので、できるのなら今動けないでいるネプギアの体に入って彼女を護って欲しいと思ったからだ。

 

《残念だけど、誰でもいいという訳では無いわ・・・。今からやることは、私の魂と波長の良い人の躰でなければ成功しないの・・・》

 

「なるほど・・・それで波長が良かったのが私ってことね・・・」

 

《ええ・・・無茶も承知のこと・・・それでも頼めるかしら?》

 

ラケルの説明を聞いて、アイエフは「そうね・・・」と呟きながら顎に手を当てて考える。

 

「ならこうしましょう。まず一回!この後またこうするかもしれないから、その時は頼むわね!」

 

アイエフは声の主に指さしながら許可することを示した。一回だけでも使えれば自分としては良かったのだが、この後も借りられるのはとてもありがたかった。

声の主は自分の心に暖かさを感じることを自覚した。

 

《ありがとう・・・なら、早速使わせて貰うわ・・・。ところで、貴女名前は何と言うの?躰を借りるのに名前を知らないのは無礼だったわ・・・》

 

「私はアイエフ。ゲイムギョウ界に咲く一陣の風・・・と言ったところね」

 

《風・・・やはり私が相性が良いと感じた理由はそれのようね。

私の名はラケル=アルカード・・・このひと時かもしれないけどよろしくお願いするわ。アイエフ》

 

光の玉となっていたラケルはアイエフの胸辺りから吸い込まれるように、彼女の体に入っていく。

この際に目を閉じていたアイエフは、ラケルが中に入って少ししてから目をゆっくりと開く。

瞳の色はいつもと変わらない緑色をしていたが、纏う雰囲気は完全に別人のものとなっていた。

視界にはアイエフが見ていたものと変わらず、モンスターが複数でこちらを囲んでいたが、直前と違うのはモンスターに囲まれていてもさして恐怖感は無かった。それどころか余裕で倒せると感じていた。

 

「それでは、始めましょうか・・・」

 

アイエフの口から発せられた声は普段と変わらない。

しかし、その口調は普段より明らかに上品さを感じさせるものだった。

アイエフの躰は今、一時的にラケルへ預けており、口調にもその影響が現れていたのである。

そして、アイエフの躰を借りているラケルは両腕を外側へと広げる。

この時、アイエフの躰に変化が起きており、ラケルはそれによって発現したものを使うつもりでいた。

 

「風よ吹き荒れろ・・・」

 

ラケルはアイエフの両手に風を纏わせ、顔の前で交差するように両腕を振るう。

 

「舞い上がりなさい!」

 

そこから間を置かずに、モンスターたちの横から現れた竜巻がモンスターたちを巻き込み上へと昇っていく。

一時的とは言え、ラケルと躰を共有したことによってアイエフはドライブ能力に目覚めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

 

 

ナオトはイグニスを右足で思いっきり蹴ることによって、イグニスを押し返す形でラグナを護る。

その直後、アイエフたちがいたところで青い竜巻が二つ巻き起こり、巻き込まれたモンスターたちは彼方へ飛ばされながら光となって消えていった。

 

「っ!?」

 

「・・・レイチェル・・・なのか?」

 

その竜巻を見てナオトは驚き、ラグナは自信に『蒼の魔導書』を渡した人物を思い起こしていた。

 

「ほう・・・そのような強引な策を使うとは・・・。面白いモノが見れたな」

 

レリウスは仮面のずれを直しながら嗤った。

この三人の中で、レリウスだけは瞬時に何が起きたかを把握できていた。

すぐ近くにいたネプテューヌたちは何が起きたかを把握しきれていなかったが、それに答えるかの如く、ナオトに対して術式を応用した通信がやって来た。

 

『ナオト、聞こえる?』

 

「ラケル!?お前、その躰・・・」

 

「えっ!?アイちゃんこの人と知り合い!?」

 

ネプテューヌとナオトはそれぞれのことに驚いた。

アイエフとラケルの声は信じられない程同じであったため、ラケルの状態で話していても事情がわからないのネプテューヌはアイエフがナオトを知っていると誤認した。

また、ナオトは自分の事を呼んだのでラケルだとそのまま認識していた。

 

『賭けには成功したわ。後はその男を連れてここから離れるわよ!』

 

「賭けってそれだったのかよ!?つか、元々その躰使ってる人は大丈夫なのか?」

 

『その心配は要らないわ。私が離れればすぐに普段通りになるから。貴方もその数値が見えているでしょう?』

 

ラケルにそう言われ、ナオトは数値を確認してみる。

すると、先程の『10678』と言う平均的な数値はラケルの持つ八千万代に変わっていた。ラケルの言うことが正しいのなら、ラケルが離れた瞬間、元に戻るのだろう。

納得できないものもあるが理解できる。ナオトはそんな状態だった。

 

『それよりもナオト、今のうちに逃げて体制を立て直すわよ!』

 

「そりゃいいけど、場所は解るのか!?」

 

『ええ。幸いこの世界の情報も共有できてるから、場所は既に割り出しているわ!』

 

ラケルはアイエフに躰を借りる時、このゲイムギョウ界の情報を、アイエフの観点で知る限り知ることができていた。そのお陰で逃走経路は既に出来上がっていた。

 

「本当か!?けど・・・」

 

ナオトには一つ心残りがあった。それはネプテューヌたちのことである。

ラグナに助けるのを手伝って欲しいと言われたが、何もできていなかったことが、ナオトに踏み留まると言う選択肢をちらつかせていた。

 

「ナオトでいいんだよね?後で来てくれればいいから先にラグナを逃がして上げて!

後いきなりで悪いんだけど、あっちにいる私の妹・・・ネプギアのことも頼んでいい?」

 

「なっ・・・!?本当に・・・いいんだな?」

 

ネプテューヌの頼みを聞いたナオトから踏み留まる選択肢が少し薄れる。だが、完全に消えた訳では無いナオトは一度問い返した。

 

「大丈夫よ。これくらいで音を上げてなんていられないもの・・・私も妹のことを頼んでいいかしら?

何かあったとき、あの子のことを護って欲しいの・・・」

 

「私からもお願い・・・。私の妹は双子で幼いから迷惑をかけるかも知れないでしょうけどね・・・」

 

「私には妹はいませんが・・・貴方に頼みたいと言う気持ちは同じですわ。

休んでからでも構いませんわ・・・。万全の準備ができたらまた来て下さいな」

 

「・・・やっぱり、その目には逆らえそうにねえな」

 

ノワールが返事を代返するかのように答えて追加でナオトに頼み、更にそこからブランとベールが続く。

それを目の当たりにして、ナオトは自嘲するように呟く。

 

「分かった・・・それなら・・・」

 

「私が行かせると思うか?」

 

ナオトは覚悟を決め、一言言ってから行こうと思ったところでレリウスが問いかけ、彼の意を汲み取ったイグニスが腕を左腕を振り上げる。それは再びラグナを・・・またはナオトを捕まえんとする動きだった。

 

「っ!させぬぞ!」

 

「ぐおぉっ!?テメェ・・・!」

 

イグニスが腕を振り上げる瞬間を見たハクメンは、弾かれるように動きだし、話を聞いていたせいで準備の出来ていなかったテルミに左目で掌底をぶつけ、即座に地面を強く蹴り、レリウスの方へと飛んでいく。

テルミはハクメンの攻撃をまともに受けてしまい、数歩後ろに後退しながら硬直してしまう。

そして、ハクメンはイグニスが腕を振り下ろす直前にたどり着き、『斬魔・鳴神』を振り下ろしてイグニスへ斬りかかる。

その一撃でイグニスの体が横に動かされ、体制を崩したまま振り下ろされる腕は虚空を掴むに留まった。

 

「少年よ・・・ラグナを連れ、行くが良い。此の場は私が引き受けるッ!」

 

ハクメンはナオトたちとレリウスたちの間に割って入り、『斬魔・鳴神』を構え直す。

 

『ナオト!時間が無いわ!早くっ!』

 

「だあぁ、もうっ!分かったよチクショウッ!

お前ら!約束だからなッ!俺たちが来るまで絶対に死ぬんじゃねえぞ!いいな!?」

 

ラケルに急かされたナオトはせめて最後にと四人の女神に念入りで言うと、四人は頷いた。

 

「よし・・・ラケル!頼むッ!」

 

『・・・誰に物を言っているのかしら?それよりもその男をしっかりと支えてなさい!』

 

ラケルに言われた通り、ラグナを支えるように体制を整えると、すぐに青い風が二人をラケルの側まで運んで行った。

 

「悪いラケル!待たせたッ!」

 

「相変わらず世話の焼ける下僕ね・・・。それよりもここから離れるわ。ナオトはアレに乗って!」

 

「アレ・・・?」

 

ラケルが指差した方を見ると、そこには赤と黒のツートンが目を引くバイクがあった。

ただし、ここで一つ問題があった。

 

「マジかよ・・・俺、ぶっつけ本番だぞ?」

 

ナオトにはバイクの免許が無く、教習等も受けていないため、文字通り初乗りとなる。

ナオト自身、普段通る道が狭かったり、人が多かったりするのがあって、交通は基本的に徒歩で行っている。

それが今回仇となってしまっていた。

 

「仕方無いわね・・・それならこの躰で発現したドライブで運んで行くから、それ近くにはいてちょうだい」

 

「分かった!」

 

それならばと、ラケルはもう一つの方法を出す。それを受け入れたナオトはラグナを支えながら、可能な限り早くバイクの隣まで来た。

 

「おいアンタ、まだ大丈夫だよな!?」

 

「・・・どうにかな・・・。ちょっと待ってろ」

 

ラグナは残った力を振り絞って、邪魔をしまいと剣を自身の腰の後ろに納める。そこでラグナは力尽きてしまった。

 

「・・・っ!兄さまぁ・・・!」

 

「大丈夫だ!ラグナは生きてる!」

 

ナオトはラグナが力尽きた時に慌てて数値を確認したが、まだ『8021』と生存を表していた。

 

「でもここに居続けるのもマズイか・・・」

 

「そのようね・・・ナオト、行くわよ。貴女も乗って!」

 

ラケルは目の前の少女を急かして後ろに乗せ、ナオト達をドライブで運びながらバイクで疾走してこの場をすぐに離れた。

ラケルがこうしてバイクに乗れるのも、アイエフの持っている素の能力を使わせて貰っているからである。

 

「・・・クソッ!逃げられちまったか・・・」

 

「だが、追うこともあるまい。あの様子なら戻ってくるだろう」

 

「本当に戻って来るっちゅかね?万全のって言うから、下手するとその最中に時間が来るかも知れないっちゅよ?」

 

イラつくテルミをマジェコンヌは自分なりになだめる。

そんな中で、疑問を持っていたのはワレチューだった。

アンチクリスタルの力で女神達を倒すのにはまだ時間が掛かる。しかしそれでも、向こうの準備が遅れれば間に合わないだろう。それをワレチューは危惧していた。

 

「いいや、ラグナちゃんのことだ・・・。最悪一人でも戻って来る。あいつはそういう奴だからな・・・」

 

ワレチューの疑問をテルミは確信した言い方で否定した。ラグナのことに関しては、テルミの方が圧倒的に詳しい以上、ワレチューは特に否定せず納得した。

 

「さぁて・・・。俺様の楽しみを取り上げてくれたんだ・・・」

 

テルミは『ウロボロス』をハクメンの足元へ飛ばし、再びワイヤーを利用するかのように、『ウロボロス』を巻き取りながらハクメンに肉薄する。

 

「来るか・・・!ユウキ=テルミ・・・!」

 

「落とし前を着けて貰うぜェ、ハクメンちゃんよぉッ!」

 

近づいて来るテルミの方を向きながらハクメンは『斬魔・鳴神』を構え直す。

ここに、ハクメンにとっても非常に苦しい戦いを強いられることになる。




三人称ムズいですね・・・(汗)。

そんなこんなでナオトがラケルとセットで参戦しました。
参戦させたのと強化イベント挟んだのもあって全然話が進んでませんね・・・(汗)。

また、アイエフにドライブを持たせましたが、ドライブの設定に『何らかのきっかけで唐突に目覚める者もいる』と書かれてあったので、「これ使えるな」と思って持たせました。
ブラッドエッジエクスペリエンスだとまた違う設定が出てきますが、こちらには条件の一つに『自分から蒼に近づく』と言うものがあり、こちらは「境界のお陰で大量の知識を持つラケルの干渉なら行けるのでは?」と思い至った次第です。

また、ドライブ能力が風を操るものになった理由として・・・
・アイエフは自身を「ゲイムギョウ界に咲く一陣の風」と度々ゲームで名乗っている。
・レイチェルとラケルのドライブは風を使うもの。
・全員CVが一緒。
と言う最早こうするしか無いだろと言うくらいのものだったので風を使うものになりました。

後、情けないことにドライブ名が現在未定です(泣)。
『シルフィード』は風の妖精。
『テンペスト』は嵐と言う意味を持っていますが、どうするべきでしょうね・・・。
次の投稿までにはしっかりと考えておきますが、もし皆様が「こんなドライブ名どう?」と言うものがありましたら、是非ともお申し付け下さい。私は涙ながらに喜びます(笑)。

長くなってしまいましたね。
次回ですが、教会でのやり取りが中心になると思います。


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26話 皆の決意

大体予告通りの展開で行けたと思います。

前回、アイエフのドライブ名を提案してくれた方本当にありがとうございました。

前回触れ損ねたことですが、ブレイブルーの最新作が遂にプロモーションムービー出ましたね。残りはDLCって事ですが大丈夫か不安です・・・。
ブレイブルー側ですら10キャラしか出ていないというのに、ガンダムバーサスのDLC商法が記憶に新しい私としては不安でなりません。

また、10周年記念サイトの方で人気投票の中間発表が出ました。
ラグナが現状1位で、ハザマ、テルミの順で2位3位と来てましたね。4位はジンとここまではこいつら絶対来るなと思ってたので安心したのもありますね。
ラグナ1位なのは嬉しかったです。
個人的に意外なところでは5位のヒビキでしょうか。インパクト強い他のキャラを抑えてここまで上がったのはさすがだと思いました。
残りは6位から順にマイ、ノエル、セリカ、ニュー、Esの順で、よく見ると上は男性五人で下は女性五人と綺麗な形になってますね(笑)。



さて・・・長くなりましたが、本編の方、どうぞ。


「着いたわよ!」

 

「ここか・・・!もう少しだからな!踏ん張ってくれよっ!」

 

ナオトたちはリーンボックスの教会前にたどり着いた。

たどり着いたことでどうにかこの場を乗り切った為、ラケルはアイエフから離れ、再び黄色い光の球となってナオトの傍で浮かぶ。

するとアイエフの数値は焦りがあるのか、『10681』に上昇していた。

 

《急な頼みを呑んでくれて感謝するわ。貴方の躰、とても動きやすかったわ》

 

「それはどういたしまして・・・。それよりも急ぎましょう。こっちよ!」

 

「分かった!・・・悪い!緊急だから入れてくれッ!」

 

ラケルの礼にアイエフは世辞で返しながらナオトたちを促し、教会の中へ入る。

また、この時ホームパーティーのメンバーにナオトは入っていなかった為、ラグナの搬送を理由に無理矢理入れさせてもらった。

ドアの前で待機していた衛兵は困惑していたが、アイエフが協力を頼んだという形で事情を話したことでどうにか納得してもらえた。

そして、そのまま中を進んで行き、女神たちが飛び立った部屋にたどり着いたところでアイエフはドアを勢い良く開けた。

 

「アイちゃん・・・?どうしたですか?そんなに慌てて・・・」

 

「コンパ・・・いきなりで悪いんだけど、急いで応急手当の準備をお願い!」

 

「は、はいですっ!」

 

「私も手伝おっか?人は多い方がいいでしょ?」

 

「ええ。寧ろお願いしたいくらいよ・・・。こっちよ!急いで!」

 

アイエフは困惑するコンパと自ら申し出てきたセリカに頼むやすぐにドアの方へと声を掛ける。

その表情からはコンパの指摘通り焦りの色が見えていて、余程の緊急事態であることが伺える。

 

《ナオト、もう少しよ!頑張りなさい!》

 

「分かってるよ!もうちょっとだけ我慢してくれよ・・・!」

 

アイエフの声に答えるように二人の声が聞こえる。

一人はアイエフと殆ど同じ声。もう一人はセリカを省いて始めて聞く声だった。

 

「えっ・・・?二人目の声ってもしかして・・・」

 

セリカは少年の声を聞いて思い返す。『エンブリオ』の中で人探しと言う共通の目的を持って、短い間共に行動した少年のことを・・・。

そして間もなく入ってきた少年は、セリカが思い返していた少年その人だった。その少年は傷だらけのラグナを抱えていた。

 

「やっと着いたッ!この部屋でいいんだな!?」

 

「ええ!そこにソファがあるから寝かせてあげて!」

 

「ソファ・・・あれか!」

 

ナオトはアイエフに言われた通りの場所までラグナを運び、ソファで寝かせてやる。

この時、再び『狩人の眼』で数値を確認してきたが、ラグナの数値は『8005』へと下がっていた。

 

「え・・・?ラグナさんが、二人?」

 

「ん?ああ・・・またこのパターンか・・・俺はラグナじゃねえぞ?俺は・・・」

 

ユニの質問に答えようとしたナオトの言葉は、次に発したセリカの言葉に遮られる。

 

「・・・ナオト!?ナオトもこっちに来てたの!?」

 

「えっ・・・!?お前セリカか!?・・・って、そりゃこっちのセリフだ!自分の姉ちゃん探してこっちに来ちまったってわけでもねえんだろ?」

 

セリカのみではなく、ナオトも意外な再開に驚きを隠せなかった。

前の世界で人探しという共通の目的を持って共に行動していたが、その最中セリカの世話になっている人の家に行こうとしたところ、セリカとはぐれてそれっきりだったのだ。

 

「あっ・・・えっと・・・そうだね。私もナオトも、お互いに色々と話さないとね」

 

「・・・どうやらそうみてえだな・・・でも、その前にラグナを頼む。こいつがこのまんまじゃ皆気が気じゃねえだろ?」

 

セリカの言葉に頷きながらナオトが促すと、そこには何度も「兄さま」とラグナを呼び続ける『ネプギア』の姿があった。

 

「っ!わかった!ちょっと待っててねっ!ラグナ!すぐに手当てするから我慢してねっ!」

 

「ギアちゃん、今からちょっと失礼するですよ!」

 

「ネプギア、ちょっと我慢してなさい」

 

「っ・・・はい・・・」

 

アイエフに体を引き寄せられてネプギアは潔く諦め、セリカとコンパの二人がラグナの治療を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

ズーネ地区にて、ハクメンはテルミとレリウスを相手に一対二・・・否、イグニスも込みで一対三の苦しい戦いをしていた。

並みならない三人が相手ではハクメンも攻撃に回ることができず、防戦一方の戦いを強いられてしまう。

テルミがバタフライナイフを縦に振るえばハクメンは『斬魔・鳴神』を横に振るって弾き返し、レリウスが隠していた機械の腕が飛んでくればハクメンは左腕から蒼い方陣を展開させて防ぎ、イグニスの攻撃が来れば飛びのいて避け、どうにかやり過ごしていく。

 

「何・・・ッ!?」

 

「オラオラどうしたよ?あんだけ御大層なセリフ吐いといてそんなモンなのかよハクメンちゃん!?」

 

「否、まだだ・・・!」

 

しかし、それにも限度はあり、直後にテルミが飛ばしてきた碧い炎のようなものに反応が遅れたハクメンはそれをまともに受けて足を滑らせる。

そこに間髪入れずにテルミが碧い炎のようなものを連続で飛ばしてきたのを、ハクメンは『斬魔・鳴神』を何度か振るい、それによって発生する『封魔陣』でやり過ごす。

『封魔陣』によって碧い炎のようなものを防ぐのは良かったが、今度は目の前の視界が塞がってしまい、テルミはいとも簡単に背後を取ってしまう。

 

「・・・!?」

 

(あめ)ぇなァッ!牙穿衝(がせんしょう)ッ!」

 

ハクメンが振り返る頃には手遅れで、テルミは左手に準備していた『ウロボロス』の鎖をハクメンに巻きつける。

それによってハクメンは身動きを封じられ、『ウロボロス』と共に軽く宙に持ち上げられる。それと同時にテルミはハクメンに背を向ける。

 

「気持ちいいだろォッ!?」

 

「ぐおぉぉ・・・ッ!」

 

テルミが碧い炎のようなものを体から溢れさせながら腕を胸辺りで交差させると、『ウロボロス』がハクメンをきつく締め上げる。

最後にテルミが腕を外へ振るい、碧い炎のようなものを霧散させると同時に『ウロボロス』の鎖を爆発させ、身動きの取れないハクメンは直撃を受けてしまい、地面に足が着くと同時に二歩後ろに下がって膝をついてしまう。

 

「ハクメン!もう十分よっ!貴方もここから離れて・・・!」

 

「御前の言い分も分かるが、既に引き潮の時は過ぎている・・・。ならば、戦うしかあるまい・・・」

 

「ほう・・・ここまで魂の輝きが増すとはな・・・つくづく興味深いな」

 

ブランの言葉を受け入れて引き下がりたかったハクメンだが、ラグナたちがこの場から離れだす頃には引き潮の終わりが始まっており、今からでは間に合うものではなかった。

そのため、ハクメンには『斬魔・鳴神』を振るい、耐え忍ぶ事しか残されていなかった。

また、レリウスはハクメンの変化を改めて感じ取り、仮面の下で嗤うのだった。

 

「おうおう、苦し紛れの選択ってかぁ?楽しませてくれるじゃねえか・・・。

ああ・・・そうだ。なあハクメンちゃん・・・教えてくんねぇかな?」

 

その選択を見たテルミは嬉しそうに嗤ってからハクメンに向けて危険な笑みを見せる。

 

「そりゃテメェの『正義』に従っての行動なのか?もう一度聞くが、テメェのその『正義』で何人巻き込まれたぁ?」

 

「貴様・・・!」

 

テルミの問いが以前と全く変わらない流れであった為、ハクメンは自然と声に怒気が籠る。

ハクメンに取ってはその先を言ってほしくないことだが、テルミは構わず続ける。今回はその最後の一手に追加できるものを追加するつもりでいた。

 

「そして・・・その『正義』に従ってェッ!何回こいつと同じ声した『ツバキ=ヤヨイ』は死んだんだぁ!?『ジン=キサラギ』ィッ!」

 

「ッ!・・・テルミ・・・!貴様ァァッ!!」

 

「ハクメン・・・あなた・・・」

 

テルミはわざとらしくノワールを指さしながら煽り立てる。それによって堪忍袋の緒が切れたハクメンは、『斬魔・鳴神』を頭上に掲げてテルミに急接近する。

『斬魔・鳴神』を上から勢い良く振り下ろすハクメンに対し、テルミは咄嗟に取り出した二本のバタフライナイフを交差させることによって受け止める。

ハクメンの怒りを見たノワールは、ただ悲しげな表情と目で見守る事しかできなかった。

そして、この時にマジェコンヌとは正反対の崖の上に・・・つまりはアイエフたちが先程までいた場所に突如として紫色の炎が現れ、それが人の形を作ることでその場に一人の女性が現れた。

 

「(ラグナたちがいない・・・ハクメンが逃がしたと言う事かしら?

・・・本当なら今すぐテルミを殺してやりたいところだけど、この様子だとそうも行かないわね・・・)」

 

女性は現在の状況を見て推測を立てる。立てるとは言うが、現状だとこれ以外の推測はあり得なかった。

先程ラグナの様子を確認したところ、教会であろうところに運ばれていたため、ハクメンを連れて戻るならそこへ行けばいいと、退路の準備は出来上がっていた。

自身の持つテルミへ向ける憎悪と殺意に従いたいところではあるが、今はラグナやハクメンから事情を訊いてから対処するべきだろうと考えた女性はどうにかしてその殺意を抑えることに成功した。

 

「元はと言えば『貴様ら』のした事であろうッ!?『あの日』私に『ユキアネサ』を渡したのも・・・!」

 

「そうだな・・・確かに『ユキアネサ』を渡したのは(・・・・・)俺たちだなァ・・・。

けどよぉハクメンちゃん・・・。その後カグツチでラグナちゃんを追っかけに行ったのは・・・紛れもねぇテメェ自身(・・・・・)なんだぜ?ヒャハハハッ!」

 

「テルミ・・・!貴様だけは、今ここで滅するッ!」

 

ハクメンは自身の体重を『斬魔・鳴神』に限界までかけてそのまま押し切ろうとする。

それを不味いと感じたテルミは、慌てて飛びのきながらバタフライナイフを『斬魔・鳴神』から離すことでどうにかして避ける。

地面に叩きつけられた『斬魔・鳴神』はハクメンの怒りを表すかの如く地面を抉り、それを中心に縦長の小規模なクレーターを作り上げていた。

 

「オイオイ・・・そこまでやるかぁ?」

 

テルミが冷や汗をかきながら問うと、その問いにはハクメンではなく違う声が答える。

 

『当然よ。それだけの自覚、あんたにもあるんでしょう?』

 

「此の声は・・・」

 

その声は女性のものだった。その声を聞いたハクメンは周囲を見回す。

声が魔法を使って拡散させた声であるため、近くに必ずいることが解っていたからだ。

更に、その声の主は自身が放った言葉を形にするかの如く、テルミの頭上に魔法陣を現れさせ、巨大な拳をテルミに覗かせていた。

 

「オイオイオイオイ・・・マジかよ・・・」

 

『あんたにはこれだけでも足りないくらいよ・・・蹂躙する蒼碧の重圧(ネイビープレッシャー)ッ!』

 

女性の掛け声に合わせて巨大な腕は上から真っ直ぐにテルミへと落ちていく。

テルミは飛びのくことでそれを避け、レリウスも余波による二次被害を受けないためにイグニスと共に飛びのいて距離を取った。

 

「ええい、次から次へと・・・おいネズミ、巻き込まれてはいないな?」

 

「おいらは平気ちゅよ・・・。そろそろ身が持たなくなってくるっちゅが」

 

次から次へと起こる予想外の事態にマジェコンヌはイラつき、ワレチューは不安を煽られる。

そして、女性はハクメンの目の前に紫色の炎となって移動し、移動した先で元に戻りながらテルミの前に姿を現した。

 

「冗談はよしてくれや・・・何でナインちゃんまで来てんの?」

 

「さぁ?どうしてかなんて、あんたの方が詳しいんじゃないの?」

 

女性、ナインはテルミの問いに問いで返した。答えは持ち合わせていなかったし、持っていてもテルミに答えるつもりは無かった。

 

「また一人・・・今度も味方でいいのかな?」

 

「そうね・・・あなたたちがセリカと一緒にいるのなら、味方という事になるわ。セリカに手出しはしていないようだし・・・」

 

ネプテューヌの疑問に答えるナインの答えがハッキリしづらいものになってしまったのは、自身が『エンブリオ』で取っていた行動が起因している。

自身の目的が理由で、ラグナやハクメンは元より、その他多くの人と敵対関係を作っていた。

そして、ナインの行動理念はセリカを護ると言う事に殆ど集約されているため、セリカに危害が加わるのなら、女神でも敵対関係になる危険性があるため、迂闊に味方だという答えは出せなかった。

 

「何でセリカちゃんを知ってるの?」

 

「・・・此の者がセリカ=A=マーキュリーの姉であるからだ」

 

『えっ!?』

 

ネプテューヌの問いにハクメンが答えると、四人は思わず声を出して驚いた。

まさか目の前にいるのがセリカの姉だとは思うまい。ハクメンも彼女たちの反応は十分理解できていた。

一方で、その名を聞いた瞬間テルミは嫌な汗を浮かべた。

 

「・・・マジかよ。やっぱりルウィーで見た時のアレは見間違いじゃなかったのかよ・・・。

全く最悪だぜ・・・あん時は何とも無かったから平気だと思ったのによぉ・・・この状態じゃわかんねぇじゃねえか・・・」

 

テルミは狼狽とも言えるくらい慌てていた。彼にとってセリカの持つ能力はそれほどまでに驚異的だからである。

 

「さて・・・ここに長居するわけにもいかなそうね・・・ハクメン、ラグナたちはあんたが逃がしたってことで間違いない?」

 

「違いはない・・・。先程落ちてきた少年に彼らを託し、私は此の場に留まった」

 

「・・・『少年』?まさかだけど・・・」

 

ハクメンの回答にナインは一つだけ心当たりがあった。ラグナとよく似ていて、自分の知る限りではレイチェルと酷似している人物を探し回っていた少年のことを・・・。

 

「まあいいわ・・・それなら一度引くわよ。あなたたちもそれで大丈夫ね?」

 

ナインは念のために四人に問いかけるが、四人は迷うことなく首を縦に振って応じた。

 

「ごめんなさい。また後で来るわ・・・。ハクメン、転移魔法でここから離れるわ」

 

「・・・承知した」

 

ナインは一言詫びを入れてから準備を始める。今回は二人だけであるため、ナインほどの魔力があればすぐに可能だった。

ハクメンは煮え切らぬものがあるものの、どうにかそれを抑えながら『斬魔・鳴神』を鞘に納めてナインの隣に立つ。

 

「ッ!行かせるかよッ!」

 

「もう遅いわ・・・」

 

我に返ったテルミは慌てて左手から『ウロボロス』を飛ばしてナインを止めようとするが、もう遅い。

『ウロボロス』の頭がナインに届く前に、ナインとハクメンは黒い球に飲まれ、それが消えると同時に『ウロボロス』は虚空を掴む。

一足遅れたことによって、テルミはナインたちが転移魔法で移動することを許してしまったのである。

 

「あぁ、クソッ!また逃げられた・・・何であんなに都合がいいんだよ・・・」

 

「大魔導士ナインか・・・何やら憑き物が落ちたような魂をしていたな・・・」

 

テルミはイラつき、レリウスはナインが最後に立っていた場所を見ながら顎に手を当てた。

先程レリウスが感じ取っていた物として、テルミへの憎悪をナインは確かに残していたが、それ以上に大切なものがあると手を出すことを最小限に抑えていたのだ。

 

「ふむ・・・現状ではまだ把握しきれんな・・・私もまだ、向上の余地があると言う事か」

 

「・・・あんだけ覚えといてまだ伸びんのかよお前・・・ってそうか。別の世界だもんなここ」

 

レリウスの発言に驚きながらもゲイムギョウ界であることを思い出したテルミは「そりゃそうだ」と納得した。

この世界はレリウスに取っては新しい情報の塊だったからだ。

 

「仕方あるまい・・・テルミの言葉が正しければ戻ってくるのだ。こちらの今のうちに準備も進めてしまおう」

 

「そうっちゅね。でも、本当に逃がして良かったっちゅか?」

 

「あの逃げられ方では追えんだろう。それに・・・変身すらできない小娘一人くらい、逃がしても問題なかろう」

 

マジェコンヌの自信ある笑みを見たワレチューは確かにそうだと納得し、マジェコンヌに頼まれていた準備を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

俺は教会の外にある坂道で寝転がっていた。

この時の姿は教会で暮らしていた時と同じ格好で、まだ『蒼の魔導書』を手にする前のことだった。

 

「兄さまーっ」

 

「・・・ん?サヤ?」

 

俺を呼ぶ声がしたので、体を起こしてそっちを振り向くと、そこには手を振りながら小走りでこっちに来るサヤの姿があった。

今日のように笑顔で俺を呼びながら来る場合は大抵、ジンと喧嘩はしていないので、単純に俺といたいのだろう。全く世話の焼ける妹だ。

 

「こっちにおいで。サヤ」

 

サヤの甘えん坊がそんな簡単に治んないのは解っている以上、怒ると言う選択肢は捨て、俺も手を振って迎え入れることを選んだ。

段々とサヤが近づいてきて、そのまま勢い良く俺に抱きついて来る・・・筈だった。

 

「あっ・・・」

 

「・・・!?」

 

突然何者かに斬られると同時に姿と声がネプギアのものに変わり、背中から鮮血が舞う。この時、俺が今の姿に変わるのも同時だった。

そして、『サヤ』は力なく倒れそうになり、俺は急いで抱き止める。

 

「サヤ・・・!おい、しっかりしろッ!サヤッ!」

 

俺は必死に『サヤ』に呼びかけるが、サヤは返事をしない。

そんな間にも俺の着ているコートの袖から手袋にかけて『サヤ』の血が流れていく。

それから少しして、『サヤ』はゆっくりと俺の方へと顔を向ける。

 

「兄さま・・・」

 

「サヤ・・・?サヤッ!」

 

風前の灯火のような声と表情で俺を呼ぶと、『サヤ』は力尽きるように目を閉じた。

俺は何度か『サヤ』をゆすってみるが、返事をしない。俺のコート越しから『サヤ』の体温が急激に冷えていくことが伝わり、『サヤ』が死んでしまったことを示していた。

 

「ケヒヒヒヒッ!ザマァねえな・・・」

 

「サヤ・・・。くっ・・・!」

 

そんな俺を嘲笑うかのようにテルミの声が聞こえ、そいつはその場から去っていく。

そして、俺は悲しげな顔で眠る『サヤ』の亡骸を抱え、天に向けて絶叫を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「あああぁぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁぁああああああッ!!」

 

一気に目が覚めながら俺は絶叫を上げる。

ひとしきり叫んだところで目の前にあるのが天上だということに気付き、俺は慌てて体を起こして周りを見る。

すると周りにはリーンボックスの教会で待っていた皆とアイエフにネプギア、それからこっちに来たばかりであるナオトとレイチェルと声がよく似てる光の球がいた。

そのメンバーの構成から、ここがリーンボックスの教会であることが分かった。

 

「俺は・・・生きてる?サヤも?」

 

「あぁ・・・っ・・・兄さま・・・兄さまぁ・・・っ!」

 

俺が何があったか分からず戸惑っていると、左側から『ネプギア』が感極まって抱きついてきた。

痛む体ではあるが、そこは顔に出さないようにして安心させるために頭を撫でてやる。

 

「悪い・・・心配かけたな・・・」

 

「兄さまぁ・・・!うぅ・・・うわあぁぁ・・・!」

 

『ネプギア』の目尻から零れる涙が俺の服を伝う。

病み上がりだから本当は休むべきなんだろうけど、そうも行かないだろうな。ハッキリとそう思えたのはネプテューヌたちをあのままにできないからだ。

 

「ラグナ、大丈夫?」

 

「お手当は済ませたですけど、どこか痛むところはあるですか?」

 

「助かるよ・・・今のところは大丈夫だ。気がかりなのは『ソウルイーター』の回復がないくらいだ・・・」

 

前々からそうなのだが、この世界での『ソウルイーター』の能力は相当な制限がかかっていて、それを用いた攻撃以外は相手の生命力を吸って回復することはできない。

だがそれでも、二人が各自の手段で俺を治療してくれたのはありがたいことなので、礼を言うのは忘れない。

 

「まぁ・・・何とかなって良かったよ・・・ラケルがあの手に出なきゃどうしようもなかったしな・・・」

 

「・・・ラケル?レイチェルじゃねえのか?」

 

俺はナオトが口にした名前に戸惑いを隠せなかった。声といい、喋り方といい、完全にレイチェルと同じだったからだ。

 

《ナオト、これは貴方と同じような間違え方ではないかしら?》

 

「ああ・・・そっか。俺と逆のパターンか・・・」

 

「・・・逆?ってことはお前・・・」

 

「そうだよ。俺はレイチェルをラケルと間違えた」

 

ナオトに言われて俺は自然と納得した。お前がレイチェルをラケルと間違えたなら俺がラケルをレイチェルと間違えるのも道理だろうよ・・・。

 

「そうだったか・・・悪かったな。レイチェルと間違えて・・・」

 

《気にすることは無いわ・・・私たちの世界にいる人も、多くの人が貴方をナオトと間違えるでしょうから》

 

俺はラケルに詫びを入れるが、どうやらそこまで気にしていないようだ。

それが分かった俺疲労と安心が混ざったせいか、でかめのため息がでた。

 

「うなされていたようですが・・・問題はありませんこと?」

 

「ああ・・・どうにかな・・・」

 

チカにそのことを聞かれた俺は一瞬だけその光景を思い出して頭を抱えた。

だが、いつまでもそうしている訳にはいかないので、その一瞬で抑える。

 

「病み上がりのところ申し訳ないのですが、どうして貴方だけ無事に戻ってこれたのか・・・。

ベールお姉さまたちに何があったのか・・・聞かせてもらいますわよ?」

 

「ああ・・・分かった・・・」

 

チカに言われて俺はズーネ地区で何があったかを話し始めた。

まず初めに大量のモンスターは釣り餌で、それでおびき寄せた女神四人を捉えてアンチクリスタルで力を奪い、最終的にはそのまま打倒するのが目的なこと。

その首謀者の名はマジェコンヌで、更に同盟者が三人・・・。正確には二人一匹いて、その二人は俺がよく知る人物だったこと。

俺は四人を助けようとしたが、自身の体内にシェアエナジーを宿すようになった俺は、アンチクリスタルに弾かれて助けることができなかったこと。

そのまま同盟者の一人であるテルミと戦うが、テルミが用意した策のせいでこの世界で『善』と判断された俺は十分な力を発揮できずに惨敗したこと。

そんなギリギリな状況の中、ナオトとラケルがこの世界に降り立ち、ハクメンは来たばかりのナオトらを含め、アンチクリスタルに捕らわれていない俺たちを逃がすために殿を努めていることを全て話した。

 

「なるほど・・・それでベールお姉さまたちは力を発揮できなかったのですね・・・」

 

「やっぱり、それほどヤバい代物だったのね・・・アレ」

 

俺の話を聞いたチカとアイエフは頭を抱えた。それだけアンチクリスタルは厄介なものだった。

何が厄介かと言われれば、まずアンチクリスタルに近づけるのがアイエフ、コンパ、ナオト、ハクメン、セリカ、チカの六人だけであり、その内チカは教祖と言う立場上現場に向かえないのでここで五人に減らされる。

また、アンチクリスタルを破壊する等を考えると、十分な威力が必要なため、能力とかが戦いに向かないコンパとセリカは外されて三人にまで減ってしまう。

次に問題として、時間が今はまだ平気なものの時間を掛け過ぎると、ネプテューヌたちがただ事では済まなくなってしまうことだった。

そのため、そうなる前に準備を済ませて向かうしかない。『エンブリオ』と同じで再び時間との勝負になるようだ。

 

「そっか・・・あの黄色いフード付きのコートを着てた人・・・テルミさんだったんだね」

 

「ああ・・・。お前がこっちに来ている以上、その可能性はあったが・・・マジでこっちに来てるなんてな」

 

あの時はマジで信じたくなかった。あれだけの奮闘が無に帰るかのような感じだった。

テルミを見た時の俺はそれほどまでにでかいショックを受けていた。

 

「ねえラグナさん・・・ハクメンさんはまだ戻って来ないの?」

 

「まだなの・・・?」

 

ロムとラムの二人に訊かれて俺は言葉を詰まらせる。

あいつなら負けることは無いとは思いたいが、テルミが圧倒的に有利な状況で、レリウスも加入してるとなれば、あいつがやられてもおかしくは無い。

それに、今から向かうにも引き潮の時間は過ぎてしまっている・・・。真っ先に大丈夫と伝えたかったが、俺は一瞬躊躇うことになってしまった。

 

「・・・ハクメンのことだが、今はまだ・・・」

 

《お話し中、失礼するわ。そのハクメンを連れて来たわよ》

 

『・・・!』

 

「この声・・・!」

 

俺が答えようとしたところで、俺とセリカに取って聞き覚えのある声が、残りの皆には知らない声が響き、俺たちは周囲を見回す。

そして、その声の主はハクメンを連れて俺たちが全員見回せる位置に現れた。ハクメンと共に来た女性を俺とセリカが見間違えることは無かった。

まるで魔女のような格好をして、『十聖』の証である三角帽子を被っている、『六英雄』の一人であり、セリカの姉である人だった。

 

「礼を言うぞ、ナイン」

 

「「ナイン!?(お姉ちゃんっ!)」」

 

「久しぶりねセリカ・・・そして『蒼の男』、『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』」

 

ハクメンが礼を言った事を皮切りに俺とセリカは驚きの声を上げ、それに対するナインは不敵な笑みを見せて返した。

ナインの格好は魔女とはいうものの、『エンブリオ』でみたあの格好とは違う。今は暗黒大戦時代の時の格好だった。

 

「セリカさんの・・・お姉さん?」

 

「ええ、そうよ。・・・?あなた・・・まさかだけど・・・」

 

ネプギアの問いに答えながら、ネプギアの姿を見たナインは一瞬驚く。

俺もセリカも。そしてハクメンもネプギアを見た時にそう反応している以上、他の奴が来た時もそうなるだろう。

 

「やっぱり・・・ナインもか?」

 

「・・・ということはラグナも?

・・・ラグナ、あんたがこの世界で知っている限りの事を聞かせてちょうだい。できればさっき見てきたアレのことも、対策の為に訊きたいわ」

 

「・・・分かった」

 

ナインの頼みを聞いた俺は、ゲイムギョウ界で俺の身の回りに起きたこと、俺の知りうる情報を全て話すことになった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「一体、どういう事何ですか?アイエフさん・・・」

 

「話を聞いた限りでは、アンチクリスタルがどうとか・・・。多分、それがネプ子たちの力を奪ってるんです」

 

「アンチクリスタル・・・?」

 

俺がナインに話している間、アイエフは専用の携帯端末を使ってイストワールに俺から聞いたことを報告していた。

どうやら、イストワールはアンチクリスタルのことを知らないようだ。

 

「調べてもらえます?」

 

「勿論です。でも・・・三日かかりますよ?」

 

「・・・心持ち巻きでお願いします」

 

こんな緊急事態でもイストワールの処理性能は変わらないらしく、アイエフは苦笑いする。

 

「やってみます。では、ネプギアさんたちはプラネテューヌに戻って来てください。

ユニさんたちもお国に戻った方がいいかと・・・それでは」

 

イストワールは最後に変身できない候補生たちでは限界があると判断したのか、帰還を推奨してから連絡を切った。

 

「なるほど・・・あんたがすぐに救出に回れなかったのはそのせいだったのね・・・」

 

「ああ・・・。情けねえ話だがな・・・」

 

ナインの言葉に俺は肯定するしかなかった。こうして短時間で動けるくらいまで回復したのは良いが、やられちまうんじゃ意味がない。

体内にシェアエナジーが宿ったおかげで今までは動きやすかったりと便利だったが、それが今回は仇となって皆を助けに行けなかった。この事実は中々応えるものがあった。

 

「でも・・・どうしてお姉ちゃんたちが簡単に捕まっちゃったの?」

 

「お姉ちゃんたち、普段なら悪者なんて一発なのに・・・」

 

ユニとラムは率直な疑問を口にした。

それもそのはずだ。妹たちの前で、あいつらは一度も情けないところを見せたことなんてないからな。

そんな頼もしい姉ちゃんが、ある日突然捕まってしまいましたなんて聞いたら尚のこと信じられねえだろう。

 

「お姉ちゃん・・・死んじゃうのかな・・・?」

 

「さ・・・流石に負けちゃったとしても、死んじゃうことは無いですよ」

 

ロムの不安で仕方ない、消えそうな声を聞いたコンパは困った笑みを見せながら返した。

正直なところ、俺もそれには同意できなかった。また、何か引っかかるものがあるのかナオトは考え込むそぶりを見せていた。

 

「・・・ナオト?どうしたの?」

 

「ああ・・・悪い。さっき言われた意味を考えててな・・・。

・・・休んでからでもいい。万全の準備をして来てくれって言葉をさ・・・」

 

アイエフに対して答えるナオトの言葉に、俺たちは一瞬固まった。

 

「・・・その言葉。恐らくだけど、チャンスは一回しかない・・・と言う事でしょうね」

 

「・・・一回だけか・・・」

 

『エンブリオ』での俺なら「一回あれば十分」とか、「ナインが作ったんだから間違いない」とかって自信を持って言えたんだが、今回はそうも行かない。

ただでさえユニたちが不安になってるってのに、下手をすればその不安と言う火に油を注ぐ羽目になっちまう。

 

「ごめんなさい・・・」

 

自分がそのような状況に追い込んでしまった。そう思っているであろうネプギアが沈んだ顔で謝罪する。

それを聞いた俺たちはネプギアの方に一斉に顔を向けた。

 

「買い物の時に拾った石・・・。あれがきっと、アンチクリスタルだったんです・・・」

 

「ッ!そうか・・・確かにあん時、マジェコンヌの奴は・・・」

 

ネプギアに言われて俺は思い出した。確かにマジェコンヌがあん時楕円状の機械に突っ込んだものが、ネプギアが昼に拾って力が抜けた石と同じだった。

 

「やめましょう。今そんなこと考えたって・・・」

 

「どうしてあの時めまいがしたのか・・・ちゃんと考えてれば・・・。お姉ちゃんたちに知らせてれば・・・」

 

アイエフがその話を切って終わらせようとしても、自責の念に駆られているネプギアは止まらなかった。

 

「ねえネプギア・・・今のアンタは誰(・・・・・・・)?」

 

『・・・!?』

 

「・・・えっ?何を言ってるの?ユニちゃん・・・?」

 

ユニから突然の質問・・・。それも正気かどうかを疑いたくなるような内容に俺たちは驚く。

実際にその質問を受けたネプギアは震えた声で必死に声を出してユニに訊き返した。

 

「・・・聞こえなかった?もう一度訊くわよ・・・。アンタは誰?本当にネプギアなの(・・・・・・・・・)?」

 

「ゆ・・・ユニちゃん?」

 

ユニは両手の拳をきつく握りしめて、肩を振るえさせながら怒気が籠った声でネプギアにもう一度問いかける。

その漂わせる雰囲気にロムは怯み、ラムは思わず言葉を詰まらせた。周りの皆も、どうすればいいか分からないという状態だった。

この中で例外なのは、大方ネプギアの中にいる『もう一人のネプギア』を知る俺と、初めてネプギアを見てから何やら察しがついてるハクメンで、俺は言うべきか迷い、ハクメンは何も言わず直立を保っていた。

 

「どうして・・・?どうしてそんなことを訊くの?ユニちゃん・・・?」

 

ユニに問い返すネプギアは明らかに動揺していた。それも核心を突かれたと言ってもおかしくないくらいにだ・・・。

 

「こんな事・・・今訊くべきじゃない事くらい分かってる・・・。すごく強いお姉ちゃんが負けて不安なのもある・・・。

でもねネプギア・・・アタシはそれ以上にアンタの事が心配なのっ!」

 

声を荒げるユニは目尻から涙が浮かび上がっていて、今にも泣きそうだった。

ネプギアと仲が良かったからこそ、最近のことで応えてしまったのは容易に分かる。

 

「だって・・・!最近は記憶がすっぽり無くなってたり・・・自分じゃない誰かとか言い出すじゃないっ!

今までアタシたちといる時はそんなこと無かったのに・・・どうしてそんな風になっちゃったのよっ!?」

 

「っ・・・ユニちゃん・・・」

 

自分持っているの不満をネプギアにぶつけるユニは、とうとう涙を抑えられなくなり、溢れた涙が頬を伝う。

どうすればいいかわからないでいるネプギアは言葉を詰まらせ、感情の抑えが効かなくなってしまったユニはネプギアの胸倉を掴んだ。

 

「「・・・!」」

 

「今は止めてはならぬ・・・。最後まで言わせてやるべきだ」

 

「でも・・・!」

 

「心配せずとも、御前たちの思うことにはならん・・・。後で彼女を支えてやってくれ。良いな?」

 

すぐに止めに行こうとしたロムとラムを、ハクメンが二人の頭に手を置いて止める。

この後のことが大方読めていたハクメンは、食い下がろうとする二人に言い聞かせると、二人は一泊置いてから頷いた。

 

「お願いだからいつものアンタに戻ってよっ!ただでさえお姉ちゃんたちが帰って来れないかもしれないのに・・・っ!

アンタまでそんな風になってどうするのよっ!?アンタが今のまんまじゃアタシたちに・・・ううん、他の誰でもない!ネプテューヌさんにどれだけ心配かけてると思ってるのよっ!?」

 

「っ・・・!お姉ちゃん・・・っ・・・」

 

ユニの一言が相当効いたネプギアは目尻から涙を浮かばせる。今までは自身が故意でやったわけではないことが、罪悪感を更に煽る形となっていた。

ネプギアの泣きそうな表情に気が付いたユニは、やってしまったと言いそうな顔を見せて慌てて胸倉から手を離した。

 

「・・・ちょっと頭を冷やして来ます・・・。すぐに戻って来ますから・・・っ・・・!」

 

「あっ・・・おい、ユニ・・・」

 

そう言ってユニはこの部屋を走り去ってしまう。俺は慌てて制止の手を伸ばすが、それを伸ばすには遅すぎて、ただ虚空を掴むだけだった。

 

「っ・・・お姉ちゃん・・・みんな・・・っ・・・!私・・・っ」

 

「ネプギア・・・」

 

その場で崩れ落ちて膝をつき、顔を両手で隠して泣き出すネプギアの側に移動して、頭を撫でてやるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ああー・・・退屈だよぉ・・・。プリン食べたいし、ゲームもやりたいよ・・・。はぁ・・・ネプギア大丈夫かな?」

 

「ネプテューヌ・・・どうしてこんな状況でもそんなこと考えられるのよ・・・。でも、確かに私もユニが心配だわ・・・」

 

アンチクリスタルに捕らわれている間、身動きは一切できず、尚且つマジェコンヌたちが手出しをしてこない為何もすることがない時間ができてしまっていた。

それ故にネプテューヌも妹のことを案じながら、自身が今したいことを思わず呟いた。

 

「私もロムとラムが心配よ・・・。後、もう少し小説を書いておきたい」

 

「はぁ・・・皆さんは妹がいて羨ましいですわね・・・私も、四女神オンラインのチャットだけ済ませたかったですわ・・・。

今日は予定がありますのに・・・」

 

「貴様ら危機感というものが無いのか!?」

 

捕まっているのにあまりにも呑気な会話内容が飛び交っているので、それを見たマジェコンヌは思わず問い返した。

 

「ああー・・・確かに何もしねえのは俺様も退屈だなぁ・・・」

 

「ならばお前も、私の研究を手伝うか?」

 

「・・・やってもいいけど手軽に終わんねえじゃねえかよ・・・」

 

テルミの呟きを聞いたレリウスが一つ提案を出すが、テルミは断った。

レリウスの研究は時折、自身の安全を保障できないくらいのものであるため、迂闊に乗るわけには行かなかった。

 

「まあいい・・・。ネズミ機材の方はまだなのか?」

 

「すまんっちゅ・・・。ここにあるやつ、ジャンク品が多いから接続に時間が掛かるっちゅよ・・・」

 

「・・・急げよ?時間が来てしまえば元も子もないのだからな・・・」

 

ワレチューに進捗を訊いてみるが、あまり芳しくないのでマジェコンヌは急かした。

 

「レリウス、お前の言う研究とやらは本当に進んでいるのか?先程から観察しかしていないようだように見えるぞ?」

 

マジェコンヌはレリウスに向けて率直な問いかけをする。

レリウスは「此の場でもできる」とは言っていたが、傍らから見えると観察にしか見えない。そのためマジェコンヌはずっと疑問に持っていたのだ。

 

「其の事については問題ない。私の『眼』には、今もありとあらゆる情報が映っている・・・。

女神達の魂も例外ではない。確かに情報は集まってきているが・・・まだ足りない。やはり、戦闘する際になる姿のデータは欲しいところだな・・・」

 

レリウスはまだ知識欲を満たせていないようだが、本人が言うにはしっかりと情報が来ているようだ。

しかし、レリウスの欲求を完全に満たす為には最早想定外が来ることを祈るしかないので、マジェコンヌにはどうすることもできない。

 

「すまんが、それはあの小娘どもの妹たちにでも期待してくれ・・・。

・・・さて、女神どもよ。足元を見てみるがいい」

 

マジェコンヌはこの辺りが同盟の難しいところだなと思いながらレリウスに返す。

そこからは一度気持ちを切り替え、女神四人に促しをかける。

四人が足元を見てみると、彼女たちを捕らえている三角錐には少しではあるが、黒い水が溜まっていた。

 

「・・・何アレ?」

 

「それはやがて・・・お前たちを死に至らしめるだろう・・・。さっき空から降ってきた小僧が躊躇っていたのとは違うものだがな」

 

―お前たちの終焉ももうすぐだ・・・。心の中で呟いたマジェコンヌは小さく嗤うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「さて・・・大雑把に纏めると女神たちは捕まってる。そしてテルミはこの世界で『善』と判定されている人を不利にする仕掛けを持っている。

そして、予想通りであれば・・・私たちがあの四人を助け出せるチャンスはたった一度っきり・・・。これだけ聞くと絶望的状況だけど、あんたは諦めてなんかいないんでしょ?」

 

「当たり前だ・・・俺は絶対に諦めねえ。『エンブリオ』や『タケミカヅチ』を前に折れなかったんだ・・・そう簡単に折れるかよ。

それに・・・俺はこの世界であいつらに色々と世話になってるし・・・その恩返しもしてえんだ」

 

ナインに問いかけられたが、俺の決意は変わらない。あいつらを助け出す・・・誰が何と言おうとも、例え俺一人だろうとも、助けに行くつもりだ。

 

「フフ・・・。あんたが相変わらずのようで安心したわ。何事もなければセリカを任せようと思えるのは、あんたかハクメンくらいしかいないもの・・・」

 

「お姉ちゃん・・・」

 

それを聞いて安心したのか、ナインの顔には笑みが浮かんでいた。

セリカも『エンブリオ』の頃とは違って、多少なりとも人を信じることのできる本来のナインに戻っていることが分かって安心していた。

 

「そういうナインはどうなんだ?諦めねえとは言っても、流石に俺一人で行かせるわけじゃねえんだろ?」

 

「当然よ。後で来るってあの四人に伝えてるもの・・・。それに、テルミは事が終わったら間違いなくセリカを狙いに来る・・・。だったらそうなる前にブッ飛ばしてやるわ」

 

俺の問いに答えながら、ナインはテルミへ並ならぬ敵意を見せる。

ナインと会ってから間もない人は驚くかもしれないが、俺のように私的な面のナインを知る場合はナインらしいと思う。

ナインはセリカを誰よりも大切に思っていて、それは下手な奴がセリカと一緒にいようものなら殺しにかかってくるくらいだ。

俺も一度全力で殺しにかかられたので、その時の殺意は身を持って知っている。

 

「私は今度こそ・・・セリカを護る。他の誰でもない、私の手でね・・・。これはその為の第一歩。そう思ってるわ」

 

誓いを告げるナインの瞳は強い意志を持っていた。それこそ暗黒大戦の時に停止時間を作る直前に見せた瞳と同じだった。

だからこそ俺は、その言葉をいとも簡単に納得することができた。

 

「ハクメンは・・・変わらないわよね?」

 

「無論、テルミらと謂う『悪』を滅すると言う点では変わらない・・・。だが、今までと違い、それは私一人で成すことでは無い。

此れからは、此の場にいる皆と力を合わせ・・・共に秩序を護りつつ行く心算だ」

 

「・・・まさかあんたに協調性ができるとはね・・・。思ってもみなかったわ」

 

「・・・同感だ」

 

ハクメンの回答にナインは肩をすくめながら心中を口にして、ハクメンはそれを聞いて頷く。

このゲイムギョウ界での出来事は、俺たちに取っていい結果が多い。

俺は多くの信頼できる人や、未来に目を向けて生きること。ハクメンには共に歩いて行ける存在や自身の素性を受け入れてくれる人たちだ。

こんないいもんもらったら、恩返しの一つくらいしないとな・・・。

 

「ナオト・・・お前はどうすんだ?」

 

「どうするってそりゃ・・・助けるに決まってんだろ?あいつらは俺を・・・いや、俺たちを信じて待ってるんだ。だったら行かないわけないだろ?」

 

「・・・そうだったな・・・聞くだけ野暮ってもんだったな」

 

俺の問いに答えるナオトの表情や目は、決意を固めた時の俺とよく似ていた。

レイチェルがナオトの存在に恐怖感にも似たものを持ったのはこれが理由なんだろうな。

ナオトの答えを聞いた俺は安心した笑みを浮かべた。

 

「後はあの子たち次第だけど、一先ず私たちがあの四人を助けに行くことは決まったわね・・・。

そうであれば早速できることを始めたいのだけど、構わないわね?」

 

周囲を見回しながら問いかけるナインの言葉に、俺たちは迷うことなく頷いた。

 

「決まったみたいね。なら、私たちもできる範囲でサポートさせて貰うわ」

 

「はいです!私も皆さんを手伝うですぅ♪」

 

俺たちの話を聞いていたアイエフたちはそれぞれの笑みを見せてそう告げた。

それを聞いて、今までの付き合いが最も長い俺が代表して礼を告げた。

 

《アイエフ。話が決まったところで一つ伝えておきたいことがあるわ》

 

「伝えておきたいこと?」

 

《ええ。貴女の中に発現したドライブのことについてよ》

 

ラケルはアイエフにドライブのことを説明する。

まず初めに、ドライブがどのように発現するかを話し、そこから当然ではあるがドライブ能力は人によって様々な種類があることを話す。

また、魂が強いほど『蒼』に惹かれる程強力なものになることを説明した。

 

《後、ドライブの名前は人によって決まっていて、本来なら私がその名を知ってすぐに伝えられたのだけど・・・。

この世界では無理矢理行動する為にこの状態なっているから、解析の方に力を回せないの。だから、貴女のドライブの名前は貴女が決めなさい》

 

「私が・・・?そうね・・・」

 

ラケルに告げられてアイエフは顎に手を当てて考え出す。少しして「あっ、そうだ」とアイエフは声を出し、顎に手を当てるのを止めた。

 

「それなら・・・私のドライブ名は『ディベート』よ。意外といい名前でしょ?」

 

《ええ・・・『ディベート』・・・良い名だと思うわ》

 

アイエフの提案をラケルは肯定したことで、アイエフのドライブ名は決定された。

 

「あ・・・そうなると私もドライブの使い方は練習しないといけないわね・・・一度も使ってないわけだし」

 

《それなら私が手伝いましょう・・・。使い方を教えるくらいならこの状態でもできるわ》

 

「ありがとう。素直にお願いするわ」

 

アイエフは思い出したように頭を掻きながら呟く。その呟きにラケルが答え、その答えが嬉しく思ったアイエフは礼を述べた。

俺たちの話が纏まっていたところで、部屋のドアが開けられた。

 

「ネプギアちゃん・・・どこ・・・?」

 

「戻ったか。少女ならば向こうだ」

 

ドアから入ってきたのはロムとラム・・・そしてその二人に連れてこられたユニだった。

さっきユニが飛び出した後、教会から離れないことを条件にロムとラムはユニを探していた。

見つかったと言うことは、教会が見えるところにいたか、教会内にいたのだろう。

ロムに聞かれたので、ハクメンがベランダを指差して答える。

 

「ありがとうっ!ほら、行こう」

 

「う・・・うん・・・」

 

ラムが代表するかのようにハクメンに礼を言い、そのままユニを促しながらベランダに向かい、ロムはネプギアを呼ぶために先に走っていった。

ユニはまだ泣き止み切ってないまま、ラムに引っ張られて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「(私・・・一番大事なことを忘れてたんだね・・・)」

 

ネプギアはベランダで外を見ながら考え事にふけっていた。

その表情は後悔の念が強く出ており、自分の今までのことで多くの人を心配させてしまったことを引きずっていた。

ラグナへ対する情は少女としてなら仕方ないものがあるかもしれない。だが、ネプギアとしてではそうも行かない。

少女は基本的にラグナに身の危機が迫った時、頻繫に現れる。そして、その時の明らかに「ネプギアらしくない」行動が周囲を不安にさせてしまっていたのだ。

 

「(どうすればいいんだろ?兄さまには会いたい・・・でも、お姉ちゃんたちを心配させたくもない・・・)」

 

少女の願いとネプギアの思いがせめぎあって、更に悩みを加速させていた。

特に先程ユニに言われたことはかなり響いていた。彼女を中心に、身の回りの人にどれだけ心配をかけたのかを考えると心が痛んだ。

 

「ネプギアちゃん・・・!」

 

―それなら、いっそのこと話した方がいいのかな?

そこまで考えていたところで、自分を呼ぶ声が聞こえたので、思考を中断してそちらを振り向く。声の主はロムで、後ろにはラムとユニがいた。

 

「ロムちゃん?それにみんなも・・・」

 

「ほら二人とも、仲直りだよっ!」

 

ネプギアがどんな用だろうと考えだすと、その答えはすぐに帰ってきて、ラムがユニの体を押した。

 

「ごめんね・・・ネプギア・・・一番辛いのアンタだって分かってたのに・・・」

 

「ううん・・・大丈夫。私の方こそ、気づけなくてごめんね・・・」

 

ユニは目尻の涙を両腕で拭いながらネプギアに謝る。擦りすぎたのか、ユニの目元は少し赤くなっていた。

対するネプギアも、このことは自分に非があると考えて謝った。その瞳には自分のことを待ってくれてる人がいると分かった安心と、未だに本当のことを話せていない罪悪感が混ざっていた。

様々な思いが混ざった結果、ネプギアの目尻から涙が零れ落ち、それと同時に昇ってきた朝日がその涙に一瞬の輝きを与えた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「アタシ・・・お姉ちゃんより強い人がいるなんて思わなかった」

 

「私もそう思ってた・・・」

 

昇ってきた朝日をベランダで眺めながらユニとネプギアはお互いの胸の内を話した。

その結果、二人共共通で自身の姉より強い人はいないと考えていた。

 

「私だって・・・お姉ちゃんがいないとなんにもできない・・・。今だって・・・どうしたらいいのか全然分からなくて・・・」

 

「そんなの簡単じゃないっ!私たちが助ければいいのよっ!みんなと一緒に!」

 

「私も・・・お姉ちゃんたち・・・助けたい・・・!」

 

自身の不安を告げるネプギアに対して、ラムは元気よく答え、ロムも途切れ途切れながらそれに同意する。

幼い二人は冗談で言っている訳では無く、その瞳は強い決意を表していた。

 

「でも・・・私たち、変身できないし・・・」

 

ネプギアがすぐにうんと頷けなかったのはこの一点にあった。

女神への変身はいつかできなければいけないことだ。

そして、今回はただでさえ女神四人とラグナとハクメンの六人で挑んでも勝てなかった相手である以上、変身ができなければ話にならない。

 

「だったらできるようになればいいのよっ!」

 

「やり方・・・覚える」

 

できないならできるようにすればいい・・・。それは至極当たり前のことではあるが、今回は何よりも重要なことだった。

 

「そんなこと・・・できるのかな?」

 

「・・・お姉ちゃんが言ってた。アタシが変身できないのは、自分の心にリミッターをかけてるからだって・・・」

 

ネプギアが不安そうにつぶやく中、ユニは自身の姉に言われたことを思い出してそれを伝える。

 

「心の・・・リミッター・・・」

 

「例えば、何かを怖がっているとか・・・そういうことよ・・・」

 

「私・・・戦うの怖い・・・」

 

「そうだね・・・私もちょっと怖いかな・・・」

 

ネプギアが反復で呟いたところにユニが具体例を挙げると、ロムが怖いものを上げ、ネプギアが同意した。

特にネプギアは、ラグナの体を張った行動が無ければエンシェントドラゴンにやられていたかもしれない為、その恐怖感は残っていた。

 

「じゃあ・・・みんなで特訓して、怖く無くなればいいのよっ!」

 

「そっか・・・そうかも!」

 

「ええ!」

 

特訓・・・。ラムが出したその言葉にハッとし、希望を見いだせたネプギアとユニは笑顔に変わる。

 

「よーしっ!それなら今すぐ始めちゃいましょーっ!」

 

「ま、待ってっ!せめて残ることだけは伝えないと・・・!」

 

ラムの元気良い一言を皮切りに、四人は慌ただしく去っていく。

ネプギアはその中で一人、ベランダから中に戻る前に一度振り返り、もう一度朝日を見据える。

 

「(ラグナさん・・・私も諦めません。お姉ちゃんたちを助け出して、『あの子』と会えるその時まで・・・)」

 

ネプギアはもう一人の自分を意識しながらも心に決意を固め、ベランダから中に戻るのだった。




日に日に文字数が増えている・・・(笑)。分割しようと考えてもキリが悪いからと結局こうなるんですよね・・・(汗)。

アイエフのドライブ名ですが、『ディベート』を採用させてもらいました。
今回ドライブ名で残念ながら不採用になってしまったものは、技名の方で使わせて頂こうと思っています。
提案してくれた方々には重ね重ね感謝しています。

人気投票の件で続きですが、本日間もなく投票期間が終了します。投票のお忘れは無いでしょうか?私は迷うことなく全てラグナに票を回したので問題ありません(笑)。

また、ネプテューヌがアズールレーンとコラボしましたね。
何度かガチャを回しているのですが、今まで回した中でパープルハートが四回も当っています(笑)。
プラネテューヌ信仰者の私としては嬉しくもあるのですが、他のネプテューヌキャラがノワールとブランが一回ずつだけなので、どんな確率してんだと困惑もしています(汗)。

次回は特訓の話になります。


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27話 助け出す為に

今回は予定通り特訓の話になります。

・・・書くことが少ないので、早速本編の方どうぞ。


「それじゃあ、迎えは要らないということで間違いありませんのね?」

 

「ああ・・・あいつらも、ただ見ているだけで終わらせるつもりじゃねえみてえだ」

 

時間は朝日が昇ってから少しした後、飯を食い終えた俺はネプギアたちが決めたことをチカに話した。

俺が話している理由として、ネプギアたちに少しでも訓練に時間を割いて欲しかったからだ。

そんなこともあって、四人はベールが用意していたゲームをシミュレーションモードで起動して、戦闘訓練を始めていた。

 

「分かりました。そのことはアタクシから各国に伝えておきますわ。

その代わり・・・ベールお姉さまたちを・・・絶対に助けて下さいね?」

 

「・・・分かった」

 

「・・・それを聞いて安心しましたわ・・・。では、お願いしますわね」

 

チカの念押しに近い問いかけに対して俺は強く頷いて答える。

俺の回答、それとその意志を汲み取ってくれたチカは笑みを見せてこの場を離れた。このまま各国に連絡を入れることは間違いない。

さて・・・後はやれることをやっておかねえとな。そう思いながら、俺は昨日と同じく皆が集まっている部屋に入った。

 

「あっ、お帰りラグナ。お話しは終わったの?」

 

「ああ。後は向こうでやってくれるから、俺たちはやれることをやんねえとな・・・」

 

セリカの問いに答えながら、俺は部屋で訓練をしている候補生四人の様子を見る。

訓練の相手は疲労が少ないことと、体を動かしてこっちの世界での感覚を掴みたいと、自分から進んで出たこともあってナオトが担当している。

流石に四対一なのもあって、ナオトは防戦一方の戦いを強いられているが、それでも俺が話を付けている間にやっていることから、四人の攻撃を上手くやり過ごせているのだろう。

ラムの魔力を回した杖による突きを避け、右足による蹴りで反撃するところをロムが杖から赤い防御方陣を張った状態で二人の間に割って入る。

それによってナオトの攻撃は受け止められ、そこからロムとラムは無理せずにナオトから距離を取る。ロムとラムが離れたことによって見えるようになった後ろには、狙撃の準備が終わっているユニがいて、射線が開くと同時にユニはライフルでナオトを撃つ。

ナオトは咄嗟に体を右側へ寄せることでどうにか避ける。相手が一人だけならこれで良かったのだが、今回の相手は四人であり、ナオトが避けた隙をついてネプギアが近づいてきていた。

 

「な・・・!?」

 

「ええいっ!」

 

ナオトが体制を立て直した頃には、既にネプギアがビームソードを上から斜めに振り下ろしていた。

その為ナオトは身体強化の恩恵を受け、上昇している反射神経を活かしてすぐに飛びのくことでどうにか避けるが、その時にシミュレーションモードで使われているエリアの外に出てしまった。

つまりは場外負け扱いだ。そこで一度、シミュレーションモードで出来上がっていた草原の投影が終了し、風景が本来の物に戻った。

 

「・・・アレ?時間切れか?」

 

《いいえ。貴方が範囲外に出てしまったのよ》

 

「マジか・・・。いいようにやられちまったな」

 

戸惑うナオトにラケルが説明すると、ナオトは頭を掻きながら残念そうにした。

とは言え、俺が見た限りナオトはドライブ無しで四人を相手にしていたので、ドライブを使えばもう少しいい結果は出ただろう。

 

「ナオトさん。私たちに付き合ってくれてありがとうございます」

 

「なんてことねえよ・・・。俺もこっちでの感覚分かったし、寧ろ俺がお礼を言いたいよ」

 

ナオトとの手合わせが終わり、四人を代表するかのように武器をしまったネプギアが頭を下げる。

それに対して、得られる物が多かったナオトも小さい笑みを浮かべて答えた。

 

「お疲れ様。次は私が四人に付き合うから、ゆっくり休んで」

 

「おお、悪い。わざわざ助かるよ」

 

アイエフはナオトに一言入れてから、タオルをナオトへ放り投げ、ナオトはそれを受け取りながら礼を言う。

次は自分がやるというアイエフは、先程決めた通りドライブの習熟にある。

ドライブが発現したことによって戦いが有利になることは間違いないのだが、使い方を覚えて無ければ持ち腐れになってしまう。

その為、実践でちゃんと使えるように習熟する必要があった。

 

「さて・・・今言った通り、次は私が相手するんですけど・・・四人共大丈夫かしら?」

 

アイエフの問いに四人は頷く、体力が有り余ってるか、それとも一分一秒が惜しいと思ってるかのどっちかなのは良く分かる。

俺としてはできることなら前者であって欲しいが、後者であった場合もその気持ちはわかるからとやかく言うつもりは無い。

 

《アイエフ、自分でドライブを使うのは初めてだから、私が簡単に教えるわ。分からなくなったらすぐに聞いて構わないわ》

 

「ありがとう。ラケル・・・それじゃあ、早速・・・」

 

「ガラッ!見ぃ~つけたっ!」

 

始めましょうか。もしくは使い方を聞かせてもらうわ。

そのどちらかに続くはずの言葉は、何者かが俺の背後にある部屋のドアを思いっきり開け放った事で遮られた。

・・・アレ?変だな・・・ここスライド式のドアじゃねえんだが、何故かスライド式にドアが開いたぞ?

その妙なドアの開き方と、わざとらしくドアを開ける時の効果音を口にした奴のことを妙に感じた俺たちはそっちを振り向く。

するとそこにはピンク色を基調としたドレスを着ている、金髪の幼い少女・・・アブネスがいた。

ドアを開けるや否、真っ先に俺たちを指差してから勝手知ったる何とやら。そのまま部屋ン中に入ってきた。

この時、『またテメェか・・・』と心の中で嘆いた俺は悪くないはずだ。

 

「・・・えっ?」

 

「・・・女神たちがいない・・・?と言うことは何かあったわね・・・」

 

困惑する俺たちをよそに、アブネスは部屋を見回しながら考え込む。

何でだろう?こいつが来た瞬間から面倒なことが起きると思ってるのは・・・?

 

「・・・誰です?」

 

「迷子か?いやでも・・・セリカじゃあるまいし、迷子でこんな所まで来るか?普通・・・?」

 

その入ってきたアブネスを見たコンパとナオトはそれぞれ困惑の意を口にした。

コンパはその場に居合わせなかったから仕方ないから分かるし、ナオトの言い分は散々味わった俺とナインなら特に理解できるものだった。

 

「ええーっ?私そこまで酷くないよ?」

 

「「「どの口が言うんだッ!どの口がッ!(どの口が言うのよッ!どの口がッ!)」」」

 

セリカの反論は俺、ナオト、ナインの三人で容赦なくツッコミを入れる。

繰り返し言うが、セリカの方向音痴は半端なものではない。

ナインは暗黒大戦時代と、恐らくそれよりも前から散々付き合わされ、俺はイカルガと暗黒大戦時代、そして『エンブリオ』で付き合わされ、ナオトも『エンブリオ』で付き合わされ、最後は置いていかれているのだ。

・・・こうして見ると、場所を把握し切れてねえのに置いてかれたナオトが一番酷えな。

 

「うぅ・・・みんなして酷いよ・・・」

 

「そうは言うけど・・・あんた、行き慣れてるイシャナでだって時々迷うじゃない・・・。

流石に直さないとこの先大変よ?今はプラネテューヌ住まいでしょ?ちゃんと国内歩けるの?」

 

「「・・・はぁ!?そんなに酷いのかよ!?」」

 

『・・・ええっ!?』

 

ナインの口から告げられた衝撃の真実に、ハクメン以外の全員が驚いた。

俺とナオトに至っては最早勘弁してくれと言いたい顔になった。ネプテューヌがいたら俺たちと一緒にそんな顔になるんだろうな・・・。

 

「な・・・何をしたらそうなるんですか?」

 

「何でだろう?私、近道とかちゃんとしてるはずなんだけどなぁ・・・」

 

ネプギアの戸惑いながらの問いに、セリカは全く自覚がないまま答える。

そして、この時俺たちは悟ったような顔になった・・・気のせいじゃ無いと思う。

 

「・・・セリカ。お前、今日からその近道止めようか」

 

「な、何で~!?迷っちゃったらそれはそれでちょっとした冒険になるから楽しいのに・・・」

 

「お前のその冒険とやらでどんだけ苦労したと思ってんだよ!?

牢獄からカグラんとこまで来るようにって言われて、普通は十分の所をお前の近道で二時間も掛かったの忘れたか!?

大体なあ・・・」

 

「ちょっとぉっ!ワタシを無視して勝手に盛り上がんのやめなさいよぉっ!」

 

セリカに提案したら不満そうに反論され、更にそれを今までに起きた事を引き合いに出すことで俺は封殺を図る。

ただ、言葉を続けようとしたところで我慢の限界が来たアブネスが声を大きくして遮ってきた。俺含め、皆がそういえばと言いたげな顔をしながらそっちを振り向く。

 

「それで・・・この子は誰ですか?」

 

「ここでそれを訊くのね・・・。ほら、こないだの誘拐事件でネプ子とラグナを怒らせたっていう、幼年幼女好きの子よ」

 

実際にコンパとアイエフはルウィーの教会に居合わせていないので、実際にアブネスを見るのはこれが初めてになる。

俺としては一回会っただけでも面倒な奴だと思っていたので、正直もう顔を合わせたくねえなとは思ってたんだが、そういうやつに限ってよく見かけるんだよな・・・。そう俺は変に頭を抱えることになった。

 

「えっと・・・確かあなたは、アブネスさん・・・」

 

「アタシたちは忙しいんだから、邪魔しないでよっ!」

 

今回は事態が事態の為、アブネスはあまり歓迎されたものじゃない。

現にネプギアは戸惑っているし、ユニは苛立ち気味な声でアブネスを追い払うような言い方をする。

 

「アブネスちゃん・・・来たのはいいんだけど、みんなこの通り取り込み中だから・・・」

 

「シャラーップッ!中途半端に発達した非幼女なんて不幼女よっ!

女神がいない今こそ、ロムちゃんとラムちゃんを普通の幼女に戻してあげるチャンスなんだわ・・・っ!

我ながらナーイスアイデアっ!まるで草原の輝きねっ!」

 

セリカは本心でアブネスのことを心配したが、アブネスはそれを全く意に介さず自分の目的を告げる。

このアイデア、アブネスに取っては確かに素晴らしいものなんだろうが、俺たちからすればせっかく決意したのに水を差してくるありがた迷惑なものだった。

また、この時セリカが困惑した顔を見せたのに反応したナインが口元をひくつかせていたので、それを見たハクメンは思わず身構えた。

 

「さぁ、可愛い幼女たちっ!一緒にお手々繋いで遊びましょ~う」

 

アブネスは両手を前に出してロムとラムを歓迎する。

そのアブネスの様子を見たロムとラムは、何かを思いついたようにお互いの顔を見合わせて頷いた。

 

「そんなことよりも私たち、あれで遊びたいな~って・・・」

 

「・・・えっ?そんなのでいいの?」

 

ラムが投影用のカメラを指さしながら提案してきたので、アブネスは困惑した。

どうやらラムの選択はアブネスの予想とは少し違うことだったらしい。現にアブネスはそのままの姿勢で固まっていた。

 

「・・・お願い・・・」

 

「・・・・・・」

 

更にダメ出しと言わんばかりに、ロムが両手を重ねて上目使いの状態で目を潤わせながらアブネスに頼む。

それを見たアブネスはその場で硬直しながら思慮に入った。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ね、ねえ幼女・・・?本当にこれでいいの?もっとこう・・・幼女らしい遊びで・・・」

 

数分後、アブネスは悩んだ果てにロムの頼みを受け入れ、特殊カメラで自身の服装ほぼそのままに、体全体が骸骨のような見た目に投影していた。

専用の空間で自由にのびのび遊ぶものだと考えていたアブネスは、目の前で武装している四人・・・その内幼いロムとラムに問いかけた。

しかし、アブネスの問いに返ってきたのは、ユニがライフルのセーフティを解除する音だった。

 

「・・・え??」

 

「みんな・・・かかれ~っ!」

 

アブネスが何を「する気なの?」とでも言いたそうに困惑していることを知ってか知らずか、ラムの合図で四人の訓練が始まる。

始まってまず最初に四人はアブネスを囲んで畳み掛けられるようにした。

 

「え~い・・・!」

 

「えっ!?ちょ、ちょっと待って・・・!」

 

「容赦しないからねっ!」

 

ロムが魔力を込めた杖をアブネスに突き付け、それを危険だと思ったアブネスは反射的に後ろへ大股で数歩下がる。

その足が止まった所を、ユニがすかさずライフルで狙撃したが、アブネスは体を後ろに逸らしてどうにか避ける。

 

「あいたぁーっ!?」

 

「ご、ごめんなさいっ!」

 

アブネスが姿勢を直したところに、ネプギアの振り下ろしてきたビームソードにあたり、アブネスは思いっきり拳骨を受けたような痛みに襲われる。

これはあくまでも訓練である為、流石に死にはしないのだが、このままだと怪我は免れねえだろうな・・・。

ネプギアはアブネスに対して即座に誤ったが、実戦だとシャレにならないくらいの怪我をするのか、それともそれどころじゃないかもしれないしれないので、本当に訓練で良かったと思う。

候補生が四人でアブネスをボコしている中で、俺たちはその間に説明書を読んでいた。流石に連続でやったらアブネスも持たねえから、代わってやらねえと厳しいだろう。

 

「あっ、コンピューターとの対戦モードがあるですよ♪」

 

「やっぱりあるわよね・・・」

 

「・・・どうするです?止めてあげるです?」

 

読んでいた途中でコンパがそのモードの説明を見つけて、俺たちに見せてくる。

俺たちは一度全員でそちらに目をやって確認し、その中でもアイエフは苦笑交じりに呟いた。

また、これを見たコンパが一度止めてあげるべきかどうか迷い、俺たちに訊いてきた。

 

「え~いっ!」

 

「それ~っ!」

 

「そこっ!」

 

「ごめんなさいっ!」

 

「いっ、痛っ!待ってっ!ひぃっ!きゃあっ!」

 

ネプギアたちの様子を見ると、四人に囲まれてボコられているアブネスの・・・攻撃を喰らうペースが上がっていた。

それによって逃げる速度が上がって、更に殴られる速度が上がる・・・とまあ知らない人が見たらエスカレートしていた。

 

「んー・・・しばらくこのままでいいんじゃない?なんか楽しそうだし」

 

アイエフがそういうのも、アブネスが慌てながらも少し嬉しそうにしてるのがあった。

恐らくは幼い二人と一緒に遊べていることが大きいのだろう。俺たちもその光景を微笑みながら見守ることにした。

 

「くっ・・・。ネバーギブ・・・!幼女アーップッ!」

 

アブネスがタダでは終わらんとちょっと変わった掛け声をしながら突っ込んで行く。

そのアブネスが向かって来るのに合わせて、ロムとラムは杖を振りかぶってバットのようにスイングした。

 

「あぁうっ!?」

 

そして、その杖二つに直撃したアブネスは弧を描いて綺麗に飛んで行くのだった。

また、この直後セリカを困らせたことを思い出したナインがアブネスへ攻撃しようとしたので、ハクメンを筆頭に俺たちが全力で止めた。ことを記しておく。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「なあネズミ・・・まさかだが、それしか無かったのか?」

 

「マジでこれだけっちゅ・・・こんなことなら自分で回線持ってくるべきだったっちゅよ・・・」

 

ズーネ地区でマジェコンヌは女神の信仰を落とすために、先程撮った写真をばら撒こうとしていた。

その意を聞いたワレチューはすぐに行動を始めたのだが、現場調達で回線を作らねばならず、しかも調達した回線がアナログな電話回線であった。

そのような旧式の回線では、ズーネ地区だと基本的に圏外になってしまうので、繋がるまで更に時間がかかってしまうのだ。このままでは夕方になるかもしれないとワレチューは踏んでいて、退屈そうに寝そべっていた。

 

「はぁ・・・ここへ来て確認不足が響いたか・・・すまんなネズミ」

 

「まあ、おいらもおいらだから句言えないっちゅけどね・・・。ここはお互い様ってやつっちゅちゅよ」

 

マジェコンヌは溜め息をついてからワレチューに詫びた。

ワレチューはそこまで気にしていなかったので、特に表情が変わったりはしなかった。

 

「・・・まあいい。少なくとも今日の日が沈むまでにできるならいいだろう・・・。

それならば、この二人が目的を果たす時間も残せる」

 

マジェコンヌとワレチューの目的は時間の問題なので対して気にする必要はない。

問題なのはテルミとレリウスの目的で、この場を離れた女神候補生やラグナが戻って来なければ達成できないのだ。

特にレリウスの場合は女神候補生が変身でも出来ない限り果たせないため、非常に条件が厳しいものだった。

 

「ふむ・・・此の状況ではこれ以上を望めぬか・・・」

 

アンチクリスタルの結界に捕らわれている女神を見ながら、レリウスは落胆しているようなことを言う。

彼にはすまないが、マジェコンヌたちは我慢してもらうしかなかった。

 

「そうだなぁ・・・暇だしちょいと訊いておくか・・・レリウスも気になるだろ?」

 

「ああ。気にはなる」

 

テルミは忘れぬ内に訊いておきたいことがあり、それを訊く前にレリウスへ同意を求めて見ると、レリウスは同意した。

それを聞いて満足そうに頷いたテルミは、女神たちを捕らえている結界の方へ歩み寄った。

 

「なぁ。女神ってんだからこの世界に詳しいんだろ?そんなテメェらに一つ聞きてえことがあんだけどよぉ・・・」

 

「・・・何を聞きたいの?」

 

歩きながらテルミは彼女たちにはっきりと聞こえる声で話しかけ、それを不思議そうに思ったノワールが問い返した。

その問いに答えずにテルミは歩を進めて、結界の傍まできたところで足を止める。

 

「この世界の『蒼』の在り処・・・それを教えてくんねえかな?」

 

テルミは嗤いながら訊いてきたことに、四人は驚きのあまり言葉を失った。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えばラグナ、あなた『イデア機関』が破損してるって言ってたわよね?」

 

「ん?確かにそう言ってたが・・・どうした?」

 

時間は昼を回って少ししたくらい。体の調子は大分良くなって来たが、それでもまだ心許ない気がする。

そんな中で、俺に『イデア機関』のことをナインが訊いてきたので、不思議に思って訊き返した。

 

「私が状態を確認してもいいかしら?もしかしたら、一時的に使えるようにできるかもしれないわ」

 

「・・・本当か!?それなら頼む。一回でも使えるなら願ったりだ」

 

「ええ。それなら、早速だけど左手を出してちょうだい」

 

ココノエの母親で事象兵器(アークエネミー)を生み出したナインなら、できてもおかしくねえな。

ナインの知らせに喜んだ俺はすぐに左手を前に出し、それを手に取ったナインが魔法を使って左手のチェックを始める。

すると、まるでモニター代わりのように、蒼い縦長の画面が俺の左手の上に映し出された。

 

「・・・どうやら中核が破損してるようね・・・これが原因で動かなったと・・・」

 

「聞いた感じすげえ大事な場所が壊れちまってんだよな?」

 

「ええ。ただ・・・幸いなことに他の部分はどうにか生きているわ・・・」

 

ナインが出してくれたモニター代わりの画面を見てみると、手の甲辺りにある円がヒビだらけになって、軽く円の形がずれていた。

これを見れば流石にこういうことをよく知らない俺でも、ヤバいって言う事くらいわかってしまう。

ただ、ナインが言うには他の部分は生きているらしく、その円の部分以外は軽いヒビが入っていたりするが、形はずれたりしていなかった。

一通り確認を終えたナインは安心したかのような顔をしていた。

 

「でもこれなら、完全には無理だけどその場凌ぎの直しならできるわ・・・。あんたはその場凌ぎの修復でも大丈夫?」

 

「平気だ・・・。あいつらをちょっとでも助け易くなるなら、それに越したことはねえ」

 

俺はナインの問いに対して迷わず首を縦に振った。

完全じゃないなら直さないって言って、それでテルミに勝てず、あいつらを助けられねえなら意味がない。なら少しの可能性に賭ける・・・俺はそうしてきたんだ。『エンブリオ』の時も、そしてこれからも・・・。

 

「分かったわ・・・。なら今から魔法を使って強引な修復を行うから、少しの間じっとしてて」

 

ナインはモニター代わりの画面を消して、右手から白い光を発生させて俺の左手に当てる。

少しずつではあるが、左手の甲の中で何かがはめ込まれていくような感じがした。

 

「あんなのやってて楽しいのかしら・・・?」

 

一方で、ネプギアたちは四人でエンシェントドラゴンを相手に戦闘の訓練をしていた。

十分な打撃を与えづらい状況下、ユニがライフルで牽制し続け、注意が逸れたところでラムとネプギアが手に持っている武器で攻撃する。

また、この後来るエンシェントドラゴンの攻撃は基本的に避け、その攻撃によって生じる余波はロムが杖から発生させた防御方陣で皆を護る。

セリカとコンパに治療してもらいながら、アブネスはどうして四人が頑張っているかがわからないようだった。だが、俺には解る。いや、俺だけじゃない・・・ナインやセリカ、そしてハクメンも。どうしてあいつらが頑張るかが分かっている。

ただ、それを伝えるのに直球過ぎるは良くねえだろうから、少し間を置いた話し方をする必要があるだろう。

 

「・・・そうだな。例え話だが、お前がロムやラムと同じくらいの歳だったとする。

そんな歳で家族と解れなきゃいけないって言われたら・・・お前は普通に遊んでられると思うか?」

 

「あっ・・・そうね・・・。確かにそれは無理ね・・・」

 

俺に言われたアブネスはハッとしてから沈んだ表情になる。

幼年幼女の味方と名乗ってここに気づけなかった自分を情けなく思ってるんだろう。

 

「まあ、その辺は仕方ねえよ・・・。お前にとっちゃあの二人を死地に送り込むようなもんだからな・・・。

でも、あいつらは自分の姉ちゃんを助けたいからこの道を選んだ。だったら、それを応援するって形でも幼年幼女の味方とやらをできるんじゃねえの?」

 

「・・・!そっか・・・そうかも知れないっ!」

 

あの二人限定になっちまうけどなと俺は付け足して自分の意見を話してみる。俺と違ってあいつらは取り返せるからな・・・。諦めねえなら手伝ってやりたい。

そんな気持ちを話してみたら、アブネスは新しい道を見つけたと言わんばかりに顔を明るくさせた。

 

「よーしっ!そうならワタシも・・・ってあだだだだっ!?」

 

「きゅ、急に動いちゃダメですよっ!?包帯がアブネスちゃんを絞めちゃうですぅっ!」

 

アブネスは立ち上がって行動しようとしたが、包帯を巻いている途中であることを忘れていたらしく、左腕に巻かれていた包帯の一部がアブネスをきつく絞めてしまった。

それを見たコンパが慌てて包帯を緩めながら注意するのだった。コンパが現場慣れしてる人で良かった・・・。ノエルの場合夢中になって包帯巻きすぎたりしてたからな・・・。

 

「あはは・・・思い立ったが吉日って言う言葉もあるけど、怪我してるんだから治ってからにしよう?ね?」

 

「・・・そうする」

 

「す、すまねえ・・・完全に俺のせいだ・・・」

 

セリカが苦笑交じりに提案すると、アブネスは渋々受け入れながらゆっくりと座る。

・・・多分、さっきの包帯が応えてんだろうな・・・。俺はナインに制止を言い渡されてるので、顔を落として謝る。

そして、そのままセリカとコンパはアブネスの治療を再開する。

 

「例えお前の言う幼き存在の意思でなかろうと、我らが助けに行くのは変わらぬ・・・。

あの四人が共に行く以上、命に別条が起きぬよう保証はしよう・・・それなら構わぬだろう」

 

「・・・特に幼女二人は傷無しでお願いするわ」

 

ハクメンが出した案にアブネスはいかにもアブネスらしい注文を加え、それを聞いたハクメンは「努力はしよう」と答えた。

その一方で、エンシェントドラゴンと戦っていたネプギアたちだが、その戦いに決着の時が迫ってきていた。

 

「これで・・・終わりですっ!」

 

ユニの牽制によってできあがった隙をついて、エンシェントドラゴンに肉薄したネプギアがビームソードを右から斜めに振り上げる。

その攻撃は繰り返し攻撃して、傷が深くなっていたエンシェントドラゴンの腹に命中し、その攻撃が致命傷になったエンシェントドラゴンは光となって爆発を起こした。

四人はこの短時間で、協力込みでもエンシェントドラゴンを倒せるくらいに力をつけたのだった。

 

「凄い・・・もうこんなに強くなってる」

 

「いえ・・・まだです。まだ私たちは・・・」

 

セリカは純粋に称賛するが、ネプギアは・・・引いては四人共この結果に満足してないようだ。

とは言うのも、ネプギアたちの特訓の目的は変身を身につけるためであり、ただ強くなるだけではないからだ。

・・・変身だけを見た場合はどうも特訓の目的がずれている気がしなくもないが、この四人はしっかりと自分の姉ちゃんを助けたいから、成功率を上げる為に変身できるようにすると言う、しっかりとした理由があるから平気だ。

その副次効果で素の戦闘力も上がっているのだが、勿論この四人は満足しない。最大の目的が達成されてないからだ。

 

「おっと・・・!どんどん精度が上がってやがる・・・。相手に回したくねえな・・・」

 

「いや・・・こう見えてギリギリよ。そろそろ休憩を挟まないと・・・」

 

また、更に奥ではナオトとアイエフがドライブコントロールの練習をしていた。

最初は手元や足元のコントロールから始めていたのも、今は狙い通りの場所に風を飛ばす練習をしていた。

それが現在はナオトの体半分を捉えられるくらいにまでは精度が上がっていたが、慣れないと結構な疲労が起こるらしく、この世界で初めてドライブ能力を得たアイエフは予想以上の精神疲労に参っていた。

アイエフのドライブはレイチェルと似ていて、用途も広いし、使用できる距離を選ばないから覚えることも多い・・・。更にコントロールが難しいから集中力が多く必要になると・・・肉体よりも精神の方が大変になってしまうものだった。

 

《もう少し気を落ち着かせるといいわ。そうすれば、より精度が上がるはずよ》

 

「ありがとう。次はそうやってみるわ」

 

ラケルは精度の上昇で気持ちが高ぶっていると踏んで助言する。それは案の定当たっていたらしく、アイエフは素直に受け入れた。

そして、アイエフとナオトが休憩をはじめたところで、俺の左手から何故かガチャンと音が鳴り、ナインとハクメン以外の全員がビックリして俺の左手を注視する。

ナインは何が起きたかを教えるかのごとく、再び俺の左手の甲の上に縦長のモニター代わりの画面を映し出した。

すると、そこには先程とは違って、円の部分はヒビが残っていながらも円の形のずれは直っていた。

 

「よし・・・。待たせたわね。これで一時的な修復は完了よ」

 

「悪いな・・・助かる。ところで、何回くらい使えるんだ?」

 

ナインは修復が終わったことを告げて俺の左手から手を離し、それによって左手が自由になった俺は左手を開閉させながら訊いてみる。

俺としちゃあ、テルミを追い返す為に一回だけでも使えればいい方だが・・・。それでも、多く使えるに越したことはないと思ってもいた。

 

「そうね・・・最低でも一回。良くて三回は使えるでしょうね」

 

「そうか・・・。なら、三回(・・)だな」

 

「・・・ちょっと!?私は良くて三回(・・・・・)と言ったのよ!?何でそんなあっさりとそう言えるわけ?」

 

ナインの答えを聞いて確信した俺はそう言うが、やはりと言うか何というか。ナインが驚きながら訊いてきた。

まあ・・・普通はそうなるよな。それで二回までだったりしたら勝手に失望するクソ野郎とかってなったら最悪だもんな・・・。

現に俺の発言を聞いた全員が驚いている。『スサノオユニット』の影響で顔に出ないハクメンですら、僅かに首を動かしていた。

 

「何でってそりゃ・・・。お前がココノエの親ってのもあるが・・・それ以上に、暗黒大戦時代に俺との無茶な約束果たしたお前だぜ?そんなすげえ奴が・・・『大魔導士』って呼ばれるくらい魔法の扱いが得意な奴が直したんだ。信頼しねえはずねえだろ?」

 

これは紛れもない俺の本音だ。実際のところ、これがどうだったかは把握する余地はないが、ナインが作った『レクイエム』によって生み出された硬化時間の残りが三時間と言われた時も、間違いなく三時間だったと確信している。

把握する余地が無かった理由として、ナインはその時には『エンブリオ』から去っていて、ココノエも途中で魔素に還ってしまったからだ。

他にも、あの時はココノエが作った物や計算した結果の殆どに狂いが無かったことがあったが、今回は非常に魔法の扱いに長けたナインが魔法を使っての修復であったからというのがある。

そして、それを聞いたナインは一瞬キョトンとした顔を見せてから、思いっきり噴き出して大笑いした。

 

「なるほどね・・・。それなら信頼されてもおかしくないわね」

 

そう言って納得するナインの顔は、セリカが大好きだと言っていたナインの顔になっていた。

そのナインの顔を見たセリカも、本当の意味で大切な人の一人が戻ってきたと笑顔になった。

 

「あんた・・・いい意味で馬鹿だな」

 

「・・・あ?ちゃんと理由持ってんだから馬鹿じゃねえだろ?」

 

ナオトが褒めてんのかどうかはわかんねえが、『馬鹿』って単語にイラついた俺はついつい反応してしまった。しかも喧嘩腰で。

 

「おい?いい意味って言っただろ?ちったぁ人の話し聞けよ?」

 

「んだコラ・・・。どうであれテメェが馬鹿っつったのに変わりはねえだろうが・・・」

 

どうやら馬鹿にして言っていたようではないらしいのだが、やはり馬鹿っつわれたのは引っ掛かる。

それが原因で素直に受け入れられなかった俺は、更にそこを引き合いに出してしまった。

 

「んだよ?せっかく人が褒めたってのによぉ・・・」

 

「言い方ってもんがあんだよ・・・。それとも何だ?やんのかコラ?」

 

「・・・ああ?テメェこそやんのか?」

 

そして、俺たちは互いに近づいて頭をぶつけて睨み合いながらその頭を押し合う。

・・・前にジンとやった時もあったが、そっちとはどうも違う。似て非なるって奴だろうか?

とまあ、そんなことをやってたら、ネプギアたち候補生が止めるべきかどうかでオドオドしていた。

コンパは苦笑交じりに、ハクメンとアイエフ、ラケルは飽きれ半分に見ていた。

 

「ああっ!二人共喧嘩はダメだよっ!今はそれよりも大事なことがあるでしょ!?」

 

「あ、ああ・・・悪いなセリカ・・・」

 

「その・・・何だ・・・つい熱くなっちまった・・・悪いな・・・」

 

セリカが間に入って制止をかけ、俺とナオトは歯切れ悪く謝った。

ただ・・・ここまでは良かったのだが、その瞬間に物凄い殺気を感じて俺たちは恐る恐るそっちを振り向く。

するとそこには、自身に炎の魔法による熱気を纏わせているナインがいた。

 

「「・・・!?」」

 

「あんたたち・・・。セリカをよくも困らせたわね・・・!」

 

「ま、待て・・・!早まるなナイン・・・!」

 

「おいおい・・・確かに迷惑かけたのは悪いけどよ・・・そこまでやるか?」

 

俺とナオトは冷や汗で背中がびっしょりになりながら弁明と制止の声をかける。

ちなみにセリカは久しぶりにマジギレしたナインを見た反動か、青ざめて竦んでしまっている。

 

「問答無用・・・!セリカを困らせた罪を思い知らせてやるわ!」

 

「ナインよ、落ち着けッ!ここで火を放ってはならぬッ!」

 

ハクメンが腕を抑えて説得を試みたが、全く効果を成さないまま十秒以内にナインはその拘束を逃れた。

そして、それによって死の恐怖を感じた俺とナオトは、セリカを巻き込まないことも含めて全速力でダッシュして教会内を逃げ回り、ナインに教会内を追い回されることとなった。

 

「えっと・・・私たち、どうしましょうか?」

 

《十分に休めてるならドライブ練習の再開と行きましょう。さっき言ってたコンピューターとやらを使えば、最悪一人でもできるわ》

 

「確かにそうね・・・。それならやってみましょうか」

 

また、俺たちがそうして逃げ回っている間、ラケルとアイエフを筆頭に、残ったメンバーは時間を有効に使うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「マジか・・・知らねえのか・・・。空振りとは参ったなァ・・・」

 

テルミが『蒼』のことを訊いてから幾分か時間が過ぎ、四人から聞いたテルミは落胆の声を上げた。

彼女たちから聞き出せたものとして、前の世界での知識とほぼそのままをラグナから聞いた程度で、向こうも向こうで捜索中で、場所は一切解らないらしい。

・・・正確には『蒼の守護者』となっているラグナと共に『蒼の門』を彼女たちは探しているのだが、それを見つけた場合は自然と『蒼』に辿り着くので、テルミは彼女たちよりも先に見つける必要がある。

 

「最悪はラグナちゃんから奪うべきか?どっちにせよ、俺様が『門』を見つけちまったらラグナちゃんは強制的に俺様の所まで来るからな・・・」

 

『門』にたどり着けばそこでもラグナと戦う。確かにラグナを倒しはしたいが、欲しいものは楽に手に入れたいテルミとしては非常に面倒なものだった。

『蒼』を手に入れる為にラグナを倒すのは必須条件。自身の目的を二重で果たせるから一石二鳥というべきか、最大の目的の前に『最大の目的(最大の障害)』があるのは面倒だというべきか。今のテルミはそんな複雑な状況に置かれていた。

・・・何ならハクメンちゃんが来た時に躰取り返すか?そんなことを考えていたら、ワレチューの用意していた回線から鳴る音に変化が現れた。

 

「おっ、オバハン!繋がったっちゅよっ!」

 

「繋がったか。よし・・・ネズミ早速始めてくれ」

 

「了解っちゅ」

 

ワレチューの言葉を聞いたマジェコンヌはすぐに実行を頼み、ワレチューは即座に作業を始める。

―レリウスの研究の足しになれば二度美味しいな・・・。マジェコンヌはそう呟きながらほくそ笑む。

そのレリウスはと言えば、イグニスの状態を確認していた。一通りの観察が終わってしまったのだろう。そうなれば候補生たちが来るのを待つしかないため、暇をさせてすまないなとマジェコンヌは思っていた。

 

「おーいっ!・・・マザコングだっけ?何始めるのーっ?」

 

「・・・誰がマザコングかっ!」

 

ネプテューヌのふざけた聞き方にマジェコンヌは怒鳴り返す。

―何故こいつらはこうもぶれないのだ?マジェコンヌは疑問に思ったが、一度冷静になって考えればいくらか要素は考えられた。

まず初めに『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』。テルミ曰く、この男は異様なまでに諦めが悪いそうだ。奴らはギリギリでもその男が来ることを信じているのだろう。

もう一つはハクメンが健在であり、彼の仲間であるナインと呼ばれた女性が戻って来ると言っていたこと。この二人はテルミが用意していた策の中でも平然と動いていたため、非常に厄介だ。潰すならまずこの二人だろう。

最後の一つは・・・あのナオトと言う少年との約束だろう。自分が来るまで死ぬな。言葉だけでは簡単だが、いざ実行すると難しいそれを、この女神ども(四人の小娘)はやりきろうとしているのだ。

そこまで考えて、マジェコンヌは面倒だと思ったのと、こいつの言うことをこれ以上気にしたら負けだなと思って溜め息をついた。

 

「まあいい・・・それよりもお前たち、先程ネズミが写真を取っていたのを覚えているか?」

 

「・・・写真?っ!まさかだけど・・・!」

 

マジェコンヌの問いにブランは一泊置いてからハッとして慌てる。

実際に実行されたら、自分もそうだが、ここにいる四人全員・・・下手をすれば妹たちまで被害が及んでしまうからだ。

 

「ブランまさかですけど、あの方は・・・」

 

「フフフ・・・その通りだ。今からその時の写真を全世界にばら撒く・・・。そうすれば、お前たちのシェアが低下すると言う算段だ・・・」

 

ブランに確認を取ったベールにはマジェコンヌが代わりに答えた。

女神たちが捕らわれている・・・。つまりは敗北している姿だ。それを見たらどれだけの国民が失望するだろう・・・。

それを考えた彼女たちは体が震える。

 

「ほう・・・此れは固定観念に囚われている人と似た反応・・・中々面白い反応をする魂だな」

 

「ん?研究の再開か?」

 

いつの間にかイグニスの調整を終えたレリウスがこちらに歩み寄って来ながら呟いたのを聞き、マジェコンヌは問うた。

これでレリウスの研究が進むならこちらとしても一安心ではある。マジェコンヌにはそんな少しばかりの期待があった。

 

「ああ・・・。あれを撒くのであれば、時期に『蒼の男』たちも戻って来るだろう。

今のうちに其のシェアエナジーの変動によるデータを取っておかねばな」

 

「なるほどな・・・」

 

―それならば納得だ。マジェコンヌは涼しい笑みをしながらズーネ地区から沈み始めている夕日を眺める。

 

「さあ・・・。小娘の妹たち・・・そして、『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』の一行どもよ・・・止められるものなら止めて見せるがいい」

 

マジェコンヌは勝ちを確信したような笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

時刻はもう日が沈んでしまって夜になった。アブネスはあの後「絶対に幼女を死なせるな」と言い残して帰っていった。

俺の方は『イデア機関』の限定的な補修が終わったのでもう大丈夫だ。三回もあればテルミを追い払い、レリウスかマジェコンヌを止めて皆を助ける分の回数はある。

アイエフの方も、ドライブ練習が大分効果を出していて、基礎自体はほぼ完成していた。今日はもう遅いからやるなら明日と言う形で今は休憩をはさんでいる。

ナインはアイエフから覚えている限りのモンスターの情報を聞いている。恐らくは準備ができた時の動き方を考えるのだろう。

これだけやってはいるのだが、候補生四人の変身は未だに習得出来てはいなかった。今はこの中で比較的動けて最も素の能力が高いハクメンが相手を務めているが、それでもまだダメだった。

 

「・・・一度此処までとしよう。休息を挟みまた試そう」

 

「ま、待って下さいっ!アタシは・・・いいえ、アタシたちはまだやれますっ!」

 

ハクメンはそう言って『斬魔・鳴神』を鞘に納めようとするが、そこをユニが食い下がる。

ユニの言った言葉は嘘ではなく、皆が強い意志を持って頷いていた。それを見たハクメンはそのままの状態で数瞬悩んだ。

 

「・・・良いだろう。ならばもう一度・・・」

 

ハクメンが言い切る前にドアをノックする音が聞こえ、そのドアが開けられる。

開けてきたのはチカだった。

 

「ごめんなさい。

準備をしているところ申し訳ないのですが、緊急で連絡をしに参りましたわ。詳しくは・・・こちらをご覧になってくださいまし」

 

「・・・!おい、これって・・・」

 

チカが手に持っている携帯端末に写っているものを見て、俺は驚きを隠せなかった。

 

「ラグナ・・・この写真がどうかしたの?」

 

「ああ・・・昨日のズーネ地区であのネズミが撮ってた写真だ・・・まさかだが・・・」

 

「ええ。数時間前に、この様な写真がばら撒かれたのですわ。このままだと、準備をしている間にシェアが下降し続けてしまいますわ・・・」

 

その写真はネプテューヌたちがあのコードに捕まっていた時の写真だった。

これが撒かれてしまった以上、もう俺たちに準備をしている余裕などなかった。

 

「そうなれば行くしかないか・・・。それならすぐに行きましょう。向こうでの行動は移動しながら話すわ」

 

ナインの提案に皆は迷わず頷いた。それを見たナインはすぐに身を翻してチカに一言言おうとする。

 

「あっ、お姉ちゃん。一つだけいい?」

 

「?どうしたのセリカ?」

 

その時セリカがナインに声をかけたのでナインはそっちを振り向く。

俺とハクメンはセリカがどうしたいかはもう解っていたから互いがひそひそ話できるくらいまで近づいた。

 

「セリカが行きたいっつったらナインは止めるだろうけど・・・お前はどうする?」

 

『ナインが言ったところで、セリカ=A=マーキュリーが止まらんのは目に見えている・・・。ならば、我らで護るのみだ』

 

「・・・やっぱりそうなるか。・・・ただ、ナインのこともあるし、俺は一旦制止をかけて見るわ」

 

一応、周りの皆にこの話は聞こえていない。ハクメンは俺の頭の中に話しかけ、俺はハクメンにしか聞こえない声で話したからだ。最早セリカだから仕方ないと言う回答に、俺も苦笑交じりに同意するしつつも、試すことを選んだ。

話しているうちに、セリカは少し悩んでから決意を固めた表情に変わる。

 

「お姉ちゃん・・・私も連れていって」

 

「っ!?セリカ・・・!?あなた本気で言ってるの!?」

 

俺とハクメンに取ってここまでは予想通りだった。セリカがこう言えばナインが驚くのは目に見えていた。

セリカは自分にできることがあるなら絶対にやると言うし、ナインはセリカを巻き込まないで済むならそうするし、仮にセリカが自分から入りに行くなら止めようとする。それは暗黒大戦時代でも変わらないものだった。

もし目の前にいたのがナインの娘であるココノエだった場合、セリカの意見は基本的に通るだろう・・・。だが、目の前にいるのはナインだ。しかもようやく面と向かってセリカと再開できたばかりだ。反対しないはずがない。

 

「うん・・・だってお姉ちゃん。ネプギアちゃんたちが変身できること前提で考えてたでしょ?その前提が崩れちゃったなら、一人でも多くの人が必要じゃないの?」

 

「確かにその通りよ・・・確かにあんたがテルミ相手に有効策だって言いたい気持ちはわかる・・・。でもねセリカ。あんたの魔素を封じる力はラグナに届いて無い・・・。そうである以上、テルミ相手に有効かは解らないし、そのまま行けばテルミに殺される危険だってあるわ」

 

ナインの言うことは最もだった。あの世界のままであった場合、俺の『蒼炎の書』やテルミの『碧の魔導書』は、セリカの周囲にいた場合は魔素の塊である為、全く機能しなくなる。

特にテルミの場合は全身が『碧の魔導書』である為、セリカの近くにいるだけでも相当危険な状態になる。

これは体の右半分や全身が魔素を使う物になっている俺やテルミは致命的なレベルになるが、他の人は体自体に大した影響は起きない。ただ、それでも魔素が関わってくる術式やドライブの使用には弊害が出て来て、カグラはアズラエルと戦っている最中にかなり危ういことになっていた。

とまあ、向こうの世界では非常に影響の強いものだったが、今はどうだ?俺はセリカの近くにいても全く影響が出ていない。それどころか動きやすさすら感じてしまう有様だった。

ベールから5pb.によるライブ直前の時、『5pb.の歌は善き人に力を与え、悪しき人の力を抑える効果がある』とは聞いていた。セリカがその力を持っている保証があるならまだセリカは簡単に押し通せたんだが・・・生憎それを聞いた時は俺だけだった。

 

「でも・・・っ!やってみないと分からないよっ!お願いお姉ちゃん・・・私、何もしないで諦めるなんて嫌だよ・・・」

 

「馬鹿言わないでっ!セリカ・・・私はもう二度とあんたを死なせたく無いの・・・その私が、あんたをそんな危険な場所に行かせると思う?第一、あんたは戦う術を持ってないのよ?とても連れていけるものじゃないわ・・・」

 

セリカがああ言えばナインはこう言う・・・。その様子を見ていた皆が啞然として何も言えないでいる。

この空気の流れを変え、どちらかに傾かせるのであれば俺かハクメンしかいなかった。そして、俺たちは顔を見合わせて頷き、俺が前に出ることにした。

 

「落ち着けお前ら・・・時間がねえんだから・・・。

セリカ、お前の言い分も確かに分かるよ。お前の諦めの悪い所は俺と似たようなものがあるからな・・・。

けど、ナインのことも少しは考えてやれよ・・・。前にも言ったが、暗黒大戦時代の時だってお前がいなかったらナインは縋るもん・・・自分の中にある最大の目的行動理念が無くなって挫折してたんだからよ・・・。

それに・・・今回は暗黒大戦時代の時や、カグラたちとの謀反の時とも違って、お前が無理に何かしなきゃいけないなんてもんは何もねえんだ・・・。俺だってどっちかと言えばナイン寄りの考えだ。巻き込まれないで済む奴がいるならそいつは巻き込みたくねえ・・・」

 

今回割って入ったのは俺だった。ハクメンはもしセリカを連れていくことになった時の最後の押しをするからだ。

俺はもちろんセリカを巻き込まないようにすることを選んだ。ナインの言う通りで、『イデア機関』無しの俺がセリカの近くで普通に動けちまってるんじゃとてもじゃないが連れて行ける保証がなかった。

実際に行った先にテルミ相手に効かなかったら、もう手遅れだからな。そうならない為には連れてかないが一番だ。

 

「ラグナ・・・。ううん。やっぱりそれはできないよ・・・。確かにお姉ちゃんが私のことを大切だと思ってるのは分かる・・・。

でも、私も同じくらいにお姉ちゃんや皆が大切なの・・・。その人たちが頑張ってるのに、私だけ何もしないなんて・・・そんなの納得できないよ・・・。

それに、ネプギアちゃんたちは今回、ラグナと同じ思いをするかもしれないんだよ?それなのに手伝わないはずがないでしょ?」

 

「セリカ・・・お前・・・」

 

「あ・・・あの・・・一つ、よろしくて?」

 

『?』

 

セリカを助長させるものが何もないからセリカを止めることを選んだのだが、それが平行線になってしまってキリがない状態になるどころか、セリカに負けかける。

そんな時に、チカが恐る恐る手を挙げながら遮ったので皆がそっちを振り向く。

 

「実は、今朝から5pb.の歌と同じ力を常に出している反応が気になって探していましたの。そして、その反応の正体が・・・」

 

チカは説明をしながらゆっくりとその細い人差し指をセリカに向けた。

 

「セリカちゃんでしたの・・・」

 

『・・・ええ!?』

 

チカの回答にセリカはおろか、ハクメン以外全員が驚き、ハクメンも首が動いていた。

そして、同時に俺もセリカを止める理由がなくなってしまった。

 

「ベールから聞いたけど、確か・・・5pb.の歌って・・・」

 

「ええ。善き人には力を与え、悪しき人の力を抑え込む力がありますわ」

 

俺の言葉を繋げるようにチカが肯定した。こうなるといよいよセリカを止められる材料が無くなってきた。

 

「んで・・・ミネルヴァはセリカの能力を増幅するアンプの役割も持ってるって、ココノエは言ってたから・・・」

 

「・・・ラグナ、あんた!?」

 

「悪い・・・こうなると止められる可能性が殆ど残ってないわ・・・」

 

俺がこれを思い出してしまったことで、本当にセリカを止めることが無理になった。

ナインは驚きと怒りが混ざった目で俺を見る。それに、対して俺は苦い顔で謝罪するしかなかった。

 

「やっぱり私にもできることあるよっ!お願い、お姉ちゃんっ!」

 

「・・・・・・セリカ・・・」

 

「ならば、私たちでセリカ=A=マーキュリーを護れば良い・・・。暗黒大戦時代と同じ様にな」

 

「ハクメンまで・・・。はぁ・・・どうせこうなると思っていたわよ・・・」

 

セリカは完全に活路を見つけたと言わんばかりにナインに懇願し、ナインは苦虫を嚙み潰したような顔になっていた。

そこへ、ハクメンが前に出てきてセリカを補助したことで、ほぼ一人だけ反対であるナインは諦めるしかなかった。

 

「ただ・・・セリカは私が護る。皆には基本、予定通りに動いて貰うわ。

セリカ・・・付いてくるなら一つ約束しなさい。私の言ったことを絶対に守る。これができないならすぐに転移魔法でここまで送り返すから。いいわね?」

 

「・・・うんっ!ありがとう、お姉ちゃんっ!」

 

ナインはセリカに指さしながら聞くと、セリカは礼を言いながら頷いた。これでセリカも参加することが決まった。

 

「・・・・・・」

 

「うんっ!ミネルヴァ、一緒に頑張ろうねっ!」

 

ミネルヴァの念を感じ取ったセリカはまた笑顔でミネルヴァに返すのだった。

 

「長引いてしまったわね・・・。それじゃあ、そろそろ行きましょうか。さっきも言ったけど、やることは向こうで話すわね」

 

ナインの確認の言葉に反論する人は誰もいない。ああなった以上、最早一刻の猶予もないからだ。

 

「それじゃあ、行ってくるわね」

 

「ええ。お姉さまたちのこと、よろしくお願いしますわ」

 

ナインの一言を聞いたチカは女神たちのことを託して頭を下げる。

それにナインは頷いてから俺たちを促し、俺たちは部屋を後にして移動を始める。

 

「ラグナさん・・・」

 

「・・・ん?」

 

その途中でネプギアに声をかけられた俺は一度そっちを振り向く。

何やら不安そうな表情をしていた。

 

「私たち・・・お姉ちゃんたちを助けられるでしょうか?」

 

変身ができないことが引っかかっているのだろう。それで自信が持てないのが予想できた。

俺はそんなネプギアの頭に自分の右手を乗せてやる。

 

「心配すんな。絶対に助けられる・・・。それに、できるかどうかじゃなくてやるんだ。成功するかどうかがわかんなくて、始めから諦めてそこまでなんて・・・お前も嫌だろ?」

 

「そうですね・・・。すみません。考えすぎてました」

 

ネプギアの表情が少しずつだが明るさを戻していく。それがいいかどうかはよく解んねえが、少なくとも沈んだままよりはずっといいだろう。

 

「ならいいけどよ・・・。ほら、そろそろ行こうぜ」

 

「・・・はい。ラグナさん」

 

途中で立ち止まっていたので、俺たちは最後に部屋を出ることになった。

やることはやったから、後は助け出すだけだ・・・。

 

「(もう少しだけ待ってろよ・・・。絶対に助け出してやるから・・・)」

 

俺は外に出るまでの間、気づかず拳をきつく握りしめていた。




割とナインが会話で結構なウェイト持って行ってますね・・・。戦闘もできて頭も回るから仕方ないっちゃ仕方ない面はありますが・・・。

ぶっちゃけた話、『イデア機関』の破損は女神四人をあっさり助けることが起きないようにした予防措置に近いですね・・・(汗)。
後、ミネルヴァが久々に会話に入りました・・・。
忘れてたわけじゃないんですけど、どうしても入れる枠がなくなったり、ここ入れづらいなとなって入れるの断念してたりしたらいつの間にかこんなことになっていました(笑)。

次回ですが、恐らくアニメ4話分の最後まで行くかと思います。


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28話 共闘を決める魂

今回でアニメ4話が終了します。



「大分溜まって来たね・・・」

 

ネプテューヌたちを捕らえている結界の中で黒い水はかなりの高さまで溜まって来ており、後もう少しでネプテューヌたちの所まで届こうとしていた。

マジェコンヌが自分たちを倒す為のものだと言っていた為、時間が迫っているかもしれない。そう考えると呟いたネプテューヌですら参ったと言う表情になった。

 

「こうなるのなら、もう少し調べておくべきだったわ・・・。私は遠ざけることしかしなかった・・・」

 

ブランは自分の選んできた選択に後悔した。

自分たちが発見したアンチクリスタルを「得体の知れないものだからとりあえず保管しよう」ではなく、「一度調べて危険なら手の届かないところに封印し、対策をたてよう」と決めていたなら、少なくともこの様なことになってもまだやりようはあったはずだ・・・。

そんな選択をあの時してしまった自分を、ブランは責めずにいられなかった。

 

「仕方ないわよ・・・過ぎちゃったことだし。それよりもこれがこっちに届いた時が問題ね」

 

ノワールは割り切っていることをブランに伝え、溜まっている黒い水へと意識を向けた。

マジェコンヌの言葉通りであるならば、あの水は必ず自分たちに悪影響を及ぼす。

しかし、今自分たちはこの結界から抜け出す手段がなく、仮に抜け出せたとしても弱った状態でマジェコンヌやテルミを撃退しなければならない。

これが自分たちだけで脱出しなければならないのなら、間違いなく八方塞がりだっただろう。

ただ、今回は必ずしも自分たちがやる必要はない。彼女たちには今、頼ることのできる人たちがいたからだ。

 

「ええ。あの水が私たちに届くよりも早く、ラグナたちが間に合うと良いのだけれど・・・」

 

「ううん。絶対に間に合う・・・。だって、どんなに酷い状況だったとしても・・・どれだけ体がボロボロだったとしても全部乗り切ってきたラグナがいるんだよ?絶対何とかなるって」

 

「・・・そうね。そう考えたら少しは気が楽になるわね。私もそれに賭けることにするわ」

 

ブランの呟きに続くように、ネプテューヌが絶対の自信を持って言う。

ネプテューヌがこうしてハッキリと言うことができるのも、ラグナが立ち塞がる壁を越えていく瞬間を、最も多く目の前で見ているからであった。

この世界で初めて『蒼炎の書』が動いた時も。『黒き獣』になりそうだった時も。そして、ハクメンとの対決の時も・・・。何らかの要因があったとしても、ラグナは全てを乗り越え自分たちの元へと戻ってきていた。

そんな人がいるのなら今回も乗り越えてくれる。それは、ネプテューヌが持つ彼への信頼だった。

その自信を持ったネプテューヌの発言を聞き、ノワールも同意しながら表情が和らいだ。

 

「いいえ。逆転の手段なら他にもありますわ」

 

ここまで一言も話さなかったベールが唯一反論を見せたので、三人は思わずそちらを振り向いた。

ただし、ベールの表情は険しいものではなく、寧ろ穏やかであった。

 

「いるじゃありませんか。あなたがたの妹が」

 

ベールが出したのは彼女たちが大切に思っている妹だった。

ただし、こう言ってもすぐには理解されてはもらえないだろう。現に三人は驚いた表情をしていた。ベールは薄々と感じてはいたが、顔には出さない。

これは普段は自分に妹も、ラグナたちの世界から来た人も共に過ごすことがなく、基本的に教祖と自分で活動することが多い故に、物事を広く見る余裕のあるベールだから言えたことだった。

 

「・・・ユニ?確かに最近は少し頼れるようになってきたけど・・・。それでもあの子には荷が重いわ」

 

「ロムもラムも、まだ私たちで護ってあげなきゃいけない歳だわ」

 

「ネプギアもしっかりしてるようで甘えん坊だし・・・ラグナのことで最近はああだし、無理なんじゃないかな?」

 

「それはあなたがたのエゴではなくて?確かに、あの子たちはかわいらしい・・・わたくしだって、いつまでもそのままでいてほしいと思いますわ。

・・・でもそんな思いが、あの子たちを変身できないかわいい妹のままでいさせているのかもしれない・・・。特にネプギアちゃんはそんな状態だからこそできるかもしれない・・・そうは思いませんこと?」

 

やはりと言うか、三人はそれぞれにまだ早いと返してきた。

だからこそ、ベールはそれをハッキリと否定して自分の思っていたことを三人に投げかける。

ベールは三人と違い妹のような存在はいても、本当の妹はいない。それは常々寂しいものだと思ってはいたが、今回はそれの影響で一人だけ「妹はまだ未熟だから」と言った固定観念に捉われないで済んだのだ。

この時もネプギアに関して、ネプテューヌはラグナに何かあった場合、それこそ戦いどころじゃなくなるのではと心配していたのに対して、ベールはラグナが奮闘する姿に焚き付けられて女神の力が開花するかもしれないと考えていた。

ベールの言葉を聞いた三人はまだ疑問符の残る表情をしていた。特にネプテューヌは混乱しかけていた。

 

「・・・ほう?この魂の数は・・・」

 

「ああ・・・ようやく来やがったみてえだな」

 

レリウスが何やらに気づいてテルミがそれに同意した。ラグナたちが来たのだった。

 

「お前たちの読みは当たっていたようだな・・・ならば、迎えの準備をしようじゃないか」

 

「おうよ。そろそろ行きますかね・・・」

 

マジェコンヌに促され、テルミはマジェコンヌと共にラグナたちが来るであろう方向へゆっくりと歩き始めた。

 

「大丈夫・・・約束は守ってるからね・・・」

 

ナオトに「自分が来るまで死ぬな」と言う約束はどうにか守っている。

何も身動きができない自分たちにできるのはそれだけだったため、ネプテューヌは言い聞かせるように呟いた。

そして、そんな間にも黒い水は無情にも一滴、また一滴と・・・ゆっくりと溜まって行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ギアちゃんたち・・・まだ変身もできないのに・・・」

 

ズーネ地区に到着し、全員がすぐに動けるように戦う準備は済ませているものの、コンパは四人のことを心配していた。

あの四人が訓練をしようとした理由は変身のためにあり、地の力は上がってもそれは過程によって身についたものであって、本来の目的は達成できてなかったのだ。

 

「ばら撒かれた以上、仕方ないわよ。女神様が捕まったとしても、妹たちが頑張ればそこまでシェアが減らないと信じてやるしかないわ」

 

アイエフの言っていることは事実で、先程イストワールから各国のシェアエナジーが僅かとは言え減っていると言う連絡があった。

こうなると俺の『蒼炎の書』にも影響が出るかも知れねえな・・・。ともあれ、これ以上女神たちが晒し上げになっている状態なのを止めることと、これ以上待って肝心の候補生の四人が動けなくなると、それこそ取り返しのつかないことになるのもあって、救出を強行するしかなかった。

アイエフは諦めのついた表情でコンパに言うが、今回はそれだけでは終わらなかった。

 

「それにね・・・私も信じたいの。ネプギアや、ここにいる皆ならってね・・・私にだってできることはあるんだから、諦めるには早すぎるでしょ?」

 

アイエフは柔らかな笑みを浮かべて付け足した。

あの写真が撒かれたことによってシェアエナジーが低下し、候補生四人の力が減少する危険性があり、テルミの用意している策で『善』と判断された場合は、ラグナのように不利な状況下で戦わされる羽目になる。

普通であれば諦めたくなるような状況下でも、この中には姉を絶対に助けようと思って来ている候補生や、火事場の天才とも呼べるべき土壇場での強さを誇るラグナのように、その不利をひっくり返せる人材は少なくない。

だからこそ、アイエフは助けられるかもしれないと言う可能性を信じたくなったのだ。

 

「それじゃあ、確認だけど・・・。まず、ハクメンと候補生の四人は正面から進んでもらうわ。本当なら候補生の誰かに先陣を切って貰いたいところだけど、今回の相手の特徴からハクメンにお願いするわ」

 

ナインが確認を取るのは、まだモンスターたちがいない場所だからだ。居たらもう既にそのまま行動を始めている。

今回ナインが正面突破組の先陣をハクメンに頼んだ理由として、アイエフから機械型モンスターは遠距離による攻撃が基軸になっていて、それをハクメンなら正面から無効化できるからだった。

五人が特に反論することなく頷いたことで、正面突破組の編成は問題なく完了した。

 

「次に、私とセリカ以外の残った人たちは横から回り込みをお願い。途中で一つになる場所があるから、そこでみんなと合流よ」

 

「数が少ないとは言え、ラグナが一人やるってなってるけど・・・大丈夫なの?」

 

アイエフが危惧していたのは、恐らく俺が傷の残るまま覆い方を担当することになっているからだろう。

確かに正面から行くのに比べてモンスターの数は少ないし、後々合流する際もネプギアたちに注意が逸れている状態から始まるからそれなりに楽ではある。

ただそれでも、最も数が少ない所を担当するとは言え、アイエフたちが三人に対して俺は一人。しかも傷が治ってないのだから不安にもなる。

 

「そうね・・・。確かに普通の人だったら、私も絶対にこんな陣形にはしないでしょう。でもラグナには『ソウルイーター』がある。それを使って傷を回復しながら進んでもらうなら、一人でやった方が多く回復できるでしょう?」

 

ナインの狙いはこれにあった。一人で多くの敵を倒し、『ソウルイーター』の力で傷を治しながら進んでいく。幸い、モンスターが遠距離の攻撃をしてくるとは言え、そこまで威力がないから攻撃を受けても『ソウルイーター』でおつりがくる・・・。そんな強引な戦法だった。

こんな無茶苦茶な作戦も、俺のドライブが『ソウルイーター』であるからこそできることだった。他のドライブだったらできやしないことだ。今回ばかりはこのドライブに感謝しかなかった。

 

「ああ・・・問題ない。それに、ラケルのこともあるし、アイエフとナオトはあまり離れない方がいいし、『ソウルイーター』を使う以上巻き込む危険が増えるからな・・・。今回は一人の方が寧ろ良かったりするんだよ」

 

納得させるように俺はこういうが、ぶっちゃけた話、周りに味方がいない方がブラッドサイズで薙ぎ払えるから効率が良かったりする。

だからこそ、今回ナインが用意してくれた配置はありがたい。デッドスパイクといいブラッドサイズといい、一部の広範囲攻撃で皆を巻き込むことを考えたら、その攻撃を渋りそうだったからだ。

 

《ここはラグナの意見を組み入れるべきよ。アイエフのドライブであれば、ダメだと判断した時すぐに逃げることも逃がすこともできるわ》

 

「確かに・・・後は私のもラグナと同じ・・・いえ、それ以上に広範囲になりかねないものだったわね・・・。それなら納得よ」

 

ラケルはあっさりと受け入れ、アイエフも自分の能力を照らし合わせて纏めていく。

実際のところ、コンパがナオトたちと一緒に行動する理由として、俺やセリカは負傷した際に自力で回復できる。ハクメンやナインは負傷する前に片づけるか、負傷しないように動けるだけの余裕がある。

そうなると残りはこの世界来てから最も間もないナオトと、ドライブを発現してから間がなく、不慣れであるアイエフのところに行くのが最も良い。

ナオトに話を聞いてみたところ、ラケルとの繋がりがあればナオトも自然に傷の治療ができるらしい。ネプギアたちも大勢で動く以上フォローしあえるので、残った場所がここということになるのと同時に、最も身軽で逃げる判断が早めにでき、尚且つ逃げる手段が最も豊富になるのがナオトたちのところだった。

そこまで考えたアイエフは納得して頷いた。

 

「・・・ラケルもアイエフさんも言うんだし、それならそうする方がいいか。ただ、あんまり無理すんなよ?その前にバテちまったらどうにもなんないだろ?」

 

「ああ・・・そんなヘマはしねえようにするよ」

 

ナオトは納得しながら俺に言ってきたので、俺はそれに頷く。

確かに『ソウルイーター』によって回復を狙ってはいるのだが、それに失敗して倒れたら元も子もないのは事実だった。

一人である以上、大胆には動けるのが慎重さは忘れないようにしねえとな・・・。そこまで考えた俺は気を引き締める。

 

「そうしてちょうだい。最後に、私とセリカは一番後ろよ。セリカの力をあいつらに届かせる前に打たれたら元も子もない・・・。だから比較的安全になった所を通って行くわ。仮に打ち損ねがあってもそれは私が倒すから・・・」

 

「・・・分かった。信じてるよ、お姉ちゃん」

 

「ええ。任せなさい・・・何があっても、今度こそ護ってみせるから・・・」

 

ナインがセリカに伝えると、セリカは微笑みながらナインへ向ける信頼を伝えた。

それを聞いたナインはつられるように微笑みを返して決意を伝えるのだった。

 

「さて・・・ここまで決まってるのはいいけど、不安要素はいくつか残っているわね・・・」

 

「テルミとレリウス・・・其れに、あのマジェコンヌと言う輩だな」

 

「ええ。奴らがいつ、どのタイミングで来るかが分からないからみんなも気を付けて」

 

ナインの呟きに反応したハクメンの言葉にナインはすぐに頷いて皆に注意を促す。

当然のことながら、注意しておくに越したことはないが、それでも幾つか可能性に考慮しないで済む場所も幾らかある。

 

「とは言っても、幾らか大丈夫そうな可能性はありそうね・・・」

 

「ああ。まず、俺はマジェコンヌを除外して良いだろうな・・・あいつの目的は女神たちだし、テルミが俺を倒してえのを分かってんなら尚更来ないだろう」

 

俺が最も警戒しなきゃなんねえのはテルミで、その次は俺の持つ『蒼』に狙いがありそうなレリウスだ。

マジェコンヌは盟約だの女神打倒だので俺の方にはほぼ来ないだろうから除外できる。

 

「なるほど・・・そうなると、俺たちはレリウスだけでいいんかな・・・?多分、アイエフさんのドライブ関係と俺のことくらいだろうしな・・・」

 

「レリウスって、あの仮面つけてるのよね?何してくるか読めないから質悪いわね・・・」

 

アイエフはレリウスの特徴を思い出しながらぼやいた。

それも仕方ないだろうな。確かに警戒すべき相手が少ないのはいいが、警戒しなきゃなんねえのが最も分かりづらい奴ってだけでも気力は落ちるもんだ。

 

「最も危険なのは我らだろうな・・・」

 

「そうですね・・・。マジェコンヌはそうですし、ハクメンさんのことを考えればテルミが・・・ネプギアのことでレリウスも気を付けないといけませんからね・・・」

 

自分たちの狙ってくるであろう相手が全員くる危険性があり、それを纏めながらユニは苦い顔になった。

自分たちが変身できるのならまだしも、このままの状態で当たることを前提とした場合、そのままだと殆どハクメン頼みになってしまう為、避けたいところだった。

 

「確かにモンスターと戦いながらの可能性が高いから、ハクメンたちはかなり危険ね・・・。でも、本当に危険なのはこっちかもしれないわね・・・。向こうはセリカのことを知っている。そのマジェコンヌと言う奴も、テルミの身動きを保証するため・・・または障害を排除する為に、狙ってくる可能性が高いわ」

 

ナインのいうことも最もだ。もしそうなったらいくらナインでも限界がある。

仮に三人が全員ナインのところに来てしまった場合、間違いなくセリカが真っ先にやられるだろう・・・。そうなる前に何とかしなきゃなんねえ・・・。

 

「・・・これ以上はうだうだ言っててもキリがねえな・・・。やれることはやってきた。後はやるだけだろ」

 

俺は結論を出した。実際、俺がそこまで頭が回らないせいなのかも知れないが、それでもこれ以上は話が同じところを回る気しかしなかった。

もう一つは時間がないことだった。繰り返し言うことになるが、女神たちが捕まっている写真がばら撒かれてしまっているので、例え女神たちがまだ生きていようとも、時間が掛かり過ぎればシェアが無くなって変身どころじゃ無くなるからだ。

ともなればもう、割り切るしかなかった。何事もなければそれでよし、何かあったらその時だ。

 

「そうね・・・。ならこうしましょう。誰かが来てしまった場合、術式通信を行える人が伝えてちょうだい。それで誰かが救援に向かうか足止めを頼むかを決めるわ」

 

ナインも腹を括ると同時に提案を出す。勿論俺たちは迷うことなく頷いた。

元からゲイムギョウ界で住んでる人たちは術式通信を基本的に使うことができない為、自然と通信を担当する人は決まっていく。

 

「此方は私が受け負おう」

 

「こっちは俺一人だから当然俺になるな・・・」

 

「そうなるとこっちは・・・俺か?アイエフさんは使えるのか?」

 

俺とハクメンたちの所は何も問題なく担当が決まる。この場合ハクメンの負担がかなりのものになるが、それだけハクメンが宛にされている証拠でもあった。

ナオトたちの方は基本的にはナオトが担うべきなのだろうが、一つの疑問が残る。もしアイエフができるのであれば、

 

「うーん・・・今一解らないのよね・・・。ラケルがやってたからできると思うんだけど・・・」

 

《それなら、術式通信が必要な時は私がやるわ。大気中のシェアエナジーを応用すればできるから、今度はそっちも練習しておきましょう》

 

「そうするわ。それなら、こっちは二人できるし、手の空いた方にしましょう」

 

ナオトたちの方は二人臨機応変に行うすることで決まった。これで術式通信を行えるのは俺、ハクメン、ナオト、ラケルと交代してる時のアイエフ、ナインの五人になった。

これなら多少は気休めになるだろう。何も不安要素だらけでやるよりは絶対にこの方がマシだ。

 

「どうするかは決まったわね?最後に一つだけ言うけど、周りで何か見つけたり、異変があったらすぐに伝えてちょうだい。術式通信を使えない人は、使える人に向けてなるべく正確に伝えるの・・・いいわね?」

 

ナインの言ったことに俺たちは何も反論せず頷く。ただでさえモンスターが多い以上、俺たちは臨機応変に動くしかない。

ここまで決めたら、後はやるだけだな。皆はそれぞれの武器を手に取り、準備を整える。

 

「じゃあ・・・行くわよっ!」

 

ナインの号令に合わせて俺たちはそれぞれ決められた方へと走り出す。

俺は左、ナオトたちは右、ハクメンたちが正面。俺たちが走っていくのを見てからセリカとナインがミネルヴァと一緒にハクメンたちの後ろに距離を置いてついていく。

こうして、賭けに近い極めて危険な戦いが幕を開けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「おぉッ!」

 

モンスターから距離がさほど無かった俺はすぐに交戦距離に入り、正面からエネルギーの弾幕を張っているモンスターに近づいてから、剣に黒い炎のようなものを纏わせて上から縦に振り下ろし、その内一体を斬る。

このモンスターたち、弾幕の量自体は凄いんだが、如何せん威力が小さすぎた為、俺は剣を盾替わりにして強引に近づいて行くことができて、思ったより一体目まで剣を届かせるのに苦労はしなかった。

そして、そのモンスターは光となって消滅し、そのモンスターから現れた紅い球が現れて俺の右手の甲に吸収される。

 

「(これだとちと少ねえか・・・)」

 

この方法だと咄嗟に攻撃を出せるのはいいが、紅い球がその分小さくなってしまって吸収量が少なくなり、回復が後れてしまうのが難点だ。

だがそれでも一歩は一歩なので、そんなことでグチグチ言うことはない。足りないと感じるなら上手くデカい攻撃を当てるだけだ。

そう考え俺は、左右にいる今倒したモンスターと全く同じ奴二体を確認する。そいつらはゆっくりとこっちに体を向けて狙いをつける。その狙いをつけ切る直前に俺は動き出した。

 

「ブラッドサイズッ!」

 

俺は剣を鎌型に変形させ、それを左に一回転しながら右から水平に薙ぎ払った。

変形させた時に刃の付け根部に発生させた、血の色をしたエネルギー状の刃が二体のモンスターを斬り裂き、二体のモンスターは光となって消滅する。

その時現れた紅い球が俺の右手の甲に吸収されて再び傷が回復していく。『黒き獣』への進行は体内のシェアエナジーが抑えてくれるし、最悪はイデア機関で強引に抑えることも視野に入れることができる。何事もなければ割といい状態だった。

それでもまだ完全に回復するまでは程遠い。この調子だと十体近くは斬る必要があるだろうな・・・。

 

「治りきってねえから慎重に行きてえところだが・・・仕方ねえ」

 

モンスターたちが再び弾幕を張ってきたので、俺は飛びのきながら剣を鎌の状態にしたまま構え直す。短時間でモンスターを薙ぎ払って進むのなら、剣に戻すよりこのままの方がいい。

遠くに離れて入れば弾幕の精度が甘くなって当たらなくなる為、その距離まで飛びのき切った俺は弾幕が止むまで暫く待つ。

そして、弾幕が止むと同時に俺は腰を落として飛び出せる準備をしておく。

 

「テメェらに恨みなんて特にねえけどよ・・・。あいつら助ける為に、ここは通してもらうぞ」

 

俺は呟くようにモンスターの群れに告げて、弾幕が止んでいる間に再び飛び込んでいき、鎌にしている剣を横に振るってモンスターを数体斬るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「でぇやッ!」

 

「そこっ!」

 

「ご、ごめんなさいですっ!」

 

ラグナの次にモンスターとの距離が短かったナオトたちも、モンスターとの交戦を始めていた。

ナオトが右腕を上から下へと振るい、モンスターの一体を頭から殴りつける。

それに続いてアイエフが暗器を右から斜めに振り下ろし、コンパが注射器でモンスターの一体を刺した。

ナオトはモンスターの一体を倒した際にコンパたちの様子をちらりと見たのだが、アイエフはともかくコンパの攻撃を見て目が点になってしまった。

 

「・・・・・・」

 

「?どうかしたですか?」

 

「どうかしたですかってそりゃ・・・そんな光景見たら固まるわ」

 

思わず注視してしまっていたら、コンパは微笑みを見せてこちらに問いかけてきたので、ナオトは固まった表情のまま本音を語った。

実際にこんな光景を見たらハルカやシンノスケが見たら何て言うんだろう?こんな土壇場だというのにそんな考え事が出てしまっていた。

 

《ナオト・・・気にしたら負けよ。受け入れましょう》

 

「はぁ・・・仕方ねえ、そうするか・・・。・・・!?」

 

ラケルに言われてナオトも溜め息交じりに呟いた瞬間、自分たちに攻撃が来ると感じたナオトは即座にその場から横へ飛んで離れる。

ナオトが飛んだ瞬間、無数のエネルギーの弾幕がその場を通り過ぎていった。

 

「惚けすぎてんのはダメか・・・。ラケル、平気か?」

 

《ええ。速度が落ちたわけではないから平気よ》

 

「そっか。なら良かったよ」

 

ナオトは不安になってラケルに訊くが、案の定平気だったので安堵する。

どうやらラケルは今の状態になっても移動速度自体はさほど変わらないらしい。それどころか、地に足をつけると言う人としての制約が外れている今はドライブ無しなら普段より楽に動けるだろう。

それならあまり気にしすぎないで良さそうだ。ナオトは少しだけ気が楽になって周りを見てみる。

自分たちの攻撃で倒したのは三体。それでもまだ周りには多くのモンスターがいた。

 

「まだ結構いるみたいだな・・・」

 

「ええ。面倒だし、ここは一気に倒してしまいましょう」

 

ナオトのぼやきを訊いたアイエフは暗器をしまって右手に青い風を纏わせる。

つまりは今日散々練習してきたドライブ習熟の成果の確認も含まれていた。

 

「これで吹き飛びなさいっ!」

 

風を纏った右腕を右から斜めに振り上げると、一泊遅れてからアイエフの目の前を青い風が通り過ぎていき、そこにいたモンスターたちを巻き込んで飛ばしていく。

それによって巻き込まれたモンスターたちは光となって消滅した。どうやらモンスターたちは一体の耐久力とかは高くないんだな・・・。『狩人の眼』で数値を見た時はどうなのかと思ったが、思ったより楽なのでナオトは肩の力が抜けきっていた。

思えば、当時の数値が『2394211』のヴァルケンハインと『9152』のレリウスが同じく凄腕の不死者殺しだったから強さは関係ないんだろうな・・・ナオトそう結論付けた。

 

「よし・・・どうにか上手くできた・・・」

 

「アイちゃん・・・やったですね♪」

 

「ええ。どうにかね・・・」

 

肩で息をしながら拍子抜けしたような顔で自分の右手を見つめるアイエフにコンパが嬉しそうに声をかけ、アイエフも微笑みで返した。

どうやら練習の成果はしっかりと出ていた。それが解ってアイエフは一つの安心を覚えていた。

しかし、その安息も束の間の事。いくらアイエフが『ディベート』の力で敵を薙ぎ倒したとは言え、まだ少数残っており、そのモンスターたちはアイエフを優先警戒対象として認識したのか、一斉にこちらへ銃口を向けた。

 

「っ!」

 

「アイちゃんっ!」

 

今から対応しようにも時間と距離が足りず、アイエフには距離をとることしか残されていないのだが、それでもどれか一体が倒されないとまだ危険だった。

 

《・・・ナオトっ!》

 

「任せろッ!」

 

ラケルに促され、ナオトは即座に体を右に回して右手を肩の高さまで持ってくる。

そこから右手に意識を集中力させることによって右腕の前腕部から血が出てきて、それが右手に集まる。

それを見た瞬間アイエフとコンパは思わず息を吞んだ。アイエフは一瞬死ぬつもりかと疑ったが、それが自身と同じドライブによるものだと解って少しホッとした。

 

「おおぉぉぉおッ!」

 

ある程度以上右手に血が集まると、ナオトは右腕を前に突き出しながら血を結晶のように固めていき、不出来な剣のようなものを作り上げる。

それが真っ直ぐに並んでいたモンスターを三体ほど貫き、モンスターたちは光となって消滅する。

この時、アイエフは飛びのく準備はできていたのだが、モンスターたちが攻撃をせずにナオトへ狙いを変えたことによってその必要がなくなっていた。

ナオトはモンスターを倒したことを確認すると、次の行動へ移る為に結晶化されている武器の硬化を終了させる。

それによって結晶化されていた血は、まるで水風船が破裂するように砕け、小さい血しぶきが潮風に流されていく。

 

「ナオト・・・今のって・・・」

 

「ああ。俺のドライブ・・・『ブラッドエッジ』だ」

 

アイエフに問いかけられたナオトは答えながらモンスターの群れへと走っていく。

―やっぱりドライブだったのね・・・アイエフはそれが解って安堵すると同時に、自然とアレがドライブだと分かったことによって戸惑ってもいた。

しかし、その戸惑いはガサゴソと聞こえる音にかき消される。何かと思って見てみると、コンパが救急箱で何かを探していた。

 

「?コンパ、どうしたの?」

 

「血を使ってたですから、止血の準備をしておくです」

 

「あー・・・コンパ。多分、その準備はいらないわよ?」

 

コンパの答えを聞いたアイエフが苦笑交じりに答えると、コンパが「な、何でですかぁっ!?」と素っ頓狂な声を上げた。

ラケルと先程情報の共有をしたことで解っていたのだが、ナオトのドライブは自分の命を削るほど危険なものではないのだ。ただ、全開で暫く使用すると痛みが走るのが懸念材料である。

 

「まあ、とにかく大丈夫よ。それよりもコンパ、残りの敵が減ってきたから移動の準備をしましょう」

 

「は、はいです。それなら先に行くですよ?」

 

コンパは今回、大勢を連れてくるために車をわざわざレンタルしていた。しかもオープンの五人まで乗れるタイプである。

これによるレンタル費は馬鹿にならない値段をしているのだが、コンパはみんなの手助けになるならと出費を迷わなかったのである。

医学系の職に就いてるので確かに資金に余裕が出やすいコンパではあるが、それでも無茶をさせてしまったなとアイエフは感じずにはいられなかった。

 

「いえ。私も行くわ・・・。あっ!ラケル、通信入れるから代わって貰える?」

 

《もちろんよ。ナオト、少しの間頼むわ。終わったらすぐに戻って来るから》

 

「分かった!」

 

ナオトは既にモンスターにあと一歩で触れるくらいまで近づいてきており、強化されている身体能力で走るナオトに今一追いつけす、モンスターたちは狙いをつけるのに苦戦させられていた。

そして、モンスターがようやく狙いをつけられると思えば、既にナオトの攻撃が始まっていることを示すかのように、ナオトが動くと青い残像が幾つか見えていた。

その間にラケルがアイエフの中に入り込み、交代を完了する。

 

「待たせたわね・・・それじゃあ行きましょう。時間が惜しいわ」

 

ラケルの促しにコンパは頷き、二人は来た道を戻りだす。

 

「バニシングッ!」

 

ナオトは右足で強く踏み込みながら左脚で上から叩きつけるように蹴る。

身体能力が強化されたナオトは、走って勢いをつけることによって自身の中にある『エンハンサー』を作動させ、次の一撃を強化できるようになっている。

今回見えている青い残像はその『エンハンサー』によるもので、それによって今の一撃も勢いが増していた。

その強化された一撃を受けたモンスターは機械状の体の一部が破損しながら地面に激突し、跳ね返りながら光となって消滅する。

 

「ファングッ!」

 

消滅していく敵には目もくれず、そのまま体を右に回しながら左脚を強く踏み込み、左側にいた一番近いモンスターに向けて右腕を左から斜めに振り下ろす。

この時も『エンハンサー』が持続しており、青い残像が出ている強力な一撃になっていた。

その攻撃を受けたモンスターは耐えられず、そのまま光となって消滅する。

 

「バッシュッ!」

 

ナオトは更に奥にいた一体に目掛けて右、左の順で一歩ずつ踏み込んでから右足を前へと大きく突き出した。

この時の一撃も例外なく『エンハンサー』の恩恵で青い残像が出る強力な一撃を繰り出していた。

その一撃によってモンスターは正面から球状の体を貫かれ、光となって消滅する。

正面にモンスターがいないので、振り返ってみると奥にまだ三体のモンスターがいた。

それを面倒に思ったナオトは一気に片づけることを決める。

 

「ディヴァイン・・・スマッシャーァァッ!」

 

左手で地面に向けて垂らしている右の前腕を抑え、右手の拳に血を集めていく。

そして、十分に集めると同時に右腕を思いっきり右に引いてから、術式を応用した低空飛行をしながら右腕を突き出してモンスターの群れに突撃していく。

その時、集めていた僅かに硬化させた血が、自分の突き出した拳の前で螺旋状に回転していて、まるでドリルのようであった。

その勢いを殺すことなくモンスターたちにぶつけていき、残っていた三体のモンスターは光となって消滅する。

これによって、ナオトは二人が席を外した状態で全てのモンスターを倒したナオトは一息ついた。

 

「終わったし、向こうに合流してもいいけど・・・・。勝手にどっか行って焦らせるのも良くねえな・・・」

 

ナオトはすぐにネプギアたちの元へ行こうかと思ったが、アイエフに待ってくれと頼まれた以上、待つしかなかった。

 

「はぁ・・・・・・しょーがねぇ。皆来るまで待つしかねえや」

 

ナオトは半ば諦め半分納得半分くらいにため息を着いたナオトは三人をゆっくり待とうと思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

『聞こえるかしら?こちらはもうじき終わるから、移動手段を回収してから奥の人たちと合流するわ』

 

『こっちも今終わった。俺も移動手段を取りに一旦戻るが・・・大丈夫か?』

 

「ラグナは一旦そこで待っててくれる?一度ハクメンたちを確認したいわ。ラケルたちはそのまま行ってしまって構わないわ」

 

二人の知らせを聞いてナインは即座に指示を出しながらハクメンに向けて術式通信を飛ばす。

 

「ハクメン、聞こえる?答えられるなら応答して」

 

『聞こえるぞどうした?』

 

厳しいかも知れないと思っていたが、ハクメンはしっかりと反応してくれた。だが、戦闘音がかなりの頻度で聞こえてきているので、ハクメンは無理にでも応答したと考えると時間も使えない為、ナインはすぐに要件を伝えることにした。

 

「ラグナたちはもう終わったみたいだけど、そっちはどうなの?」

 

『此方はまだ掛かる・・・予想よりも敵が多い。殆どが行く手を阻むために回されたのだろうな』

 

ハクメンの答えを聞いた限りでは、ラグナたちがかなり早く終わった理由がそれだろうと伺えた。

こうなるとハクメンにあまり手を止めさせてはいけないだろう。

 

「どれくらい持ちこたえられそう?」

 

『全員がであれば最低でも5分は持つだろう・・・。だが、その先は保証できんぞ?』

 

「結構不味いみたいね・・・」

 

予想よりも悪い回答にナインは苦虫を嚙み潰したような顔になる。

せめてもの救いはラグナを待たせていることか。それでもテルミたちが来たらシャレにならないので早めに行動する必要がある。

 

『ナインよ。此れは私の『秩序の力』で辿っているものだが・・・テルミたちは此方に向かってきていない。この奥で待ち受けている』

 

「総力戦の構えってやつね・・・正直なところ各個撃破が一番怖かったから寧ろ安心したわ」

 

ハクメンが危険な中でわざわざ伝えてくれた情報にナインは安堵する。

これならば現在単独で行動しているラグナが袋にされる心配もなければ、セリカを安全に連れていくことがしやすくなる。

セリカの身の安全が保障されることは、ナインにとって何よりも嬉しい情報だった。

 

「ただ、どちらにせよ危険なのは変わりないわね・・・ラグナはそっちに向かわせるわ。誰かが来たらすぐに伝えて」

 

『承知した。では、切るぞ』

 

ナインの指示を受け入れハクメンは通信を終了する。この時ナインの一言を待たない辺り、かなり状況が良くないのだろうと伺えた。

候補生たちは今回の救出における最大の可能性を残している為、一人でも欠けると不味い。彼女たちの戦意が喪失してそのまま敗北が決まると言う危険まであった。

そこまで考えたナインは即座にラグナ通信を送る。

 

「ラグナ、待たせたわね。あんたは戻らないでそのままハクメンたちの所へ行って欲しいの。どうやらかなり不味いみたい」

 

『・・・そんなにか?』

 

「ええ。万が一のことがあったらそれこそ取り返しがつかないわ」

 

ラグナはナインからの知らせに一泊置いてから訊き返した。恐らくは向こうは五人でやってるからまだ平気だと思っていたのだろう。

またはハクメンへの信頼と、候補生たちへの期待が大きいはずだ。ラグナは自分が頼れたり、信じることができる人には基本的に信頼を置く人間であることを今日教えられたナインはそう推測を付けた。

 

「だから頼むわね・・・あんたの戦いは、大切なものを護る為でしょ?」

 

『ああ・・・そうだったな』

 

ナインが促すように焚きつけると、ラグナは思い返しながら呟いた。

勿論忘れた訳では無いだろう。後のことを考えて、即時移動できるよう準備をするつもりだったのは解る。ただ、今回はそれを状況が許さなかっただけだ。

 

『悪いなナイン。それなら俺は行ってくるぞ!』

 

「ええ。頼んだわよ」

 

『ああ。任せろ!』

 

ナインの念押しに対し、ラグナはいつものように強気で返しながら通信を切った。

あの様子のラグナなら間違いなくやり遂げるだろう。ナインは確信をしていた。

 

「セリカ、大丈夫?」

 

「大丈夫。足がちょっと疲れてきたかも知れないけど・・・」

 

「足場が悪いから無理は禁物よ。セリカが万全の力を発揮できなくなったら、それこそどうにもならないわ」

 

セリカに問いかけてみれば、いつもより疲れの色が増しているように見える。

そんなこともあってか、セリカの笑みもいつもより弱めに見えていたナインはセリカに気を遣いながら注意する。

 

「そうだね・・・。でもまだ大丈夫だよ」

 

「そう?ならいいけど、無理そうならすぐにミネルヴァに運んでもらいなさい。それならもう少し動けるでしょ?」

 

「うんっ!ミネルヴァもお願いね?」

 

「・・・・・・!」

 

ナインがセリカの身を案じて提案すると、セリカはいつものような笑顔を見せてからミネルヴァに頼む。

すると主人であるセリカの頼みを聞き入れたミネルヴァは、「任せろ」と言う念を送った。

 

「大丈夫ね?少しペースを上げるけど、無理そうならすぐにミネルヴァを頼るのよ?いいわね?」

 

「うん。分かった」

 

ナインの促しに、セリカは強く頷いた。

暗黒大戦時代に無茶をしたこともあり、恐怖を感じることはあってもそれくらいで竦んだりしないくらいにセリカは肝が座っている。

本当はそうなって欲しくは無かったのだが、ナインは今、セリカがここで動けなくなったりしないで良かったと心底安心していた。

 

「(ラグナが着くころには最低限の時間はとっくに過ぎる・・・。どうにか間に合ってちょうだい)」

 

「(ハクメンさんたちが結構危ないって言ってたけど、大丈夫だよね?ラグナならどうにかしてくれるよね?)」

 

ペースを上げて走る中、ナインは候補生たちの元へ向かうラグナへ祈り、セリカはラグナを信じながら心の中で問いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ズェアッ!」

 

「ええいっ!」

 

ハクメンが『斬魔・鳴神』を左から水平に振るい、ネプギアはビームソードを上から縦に振るってモンスターを斬る。

ハクメンの振るった刃によって二体、ネプギアの振るった剣によって一体のモンスターが切り裂かれ、そのモンスターは光となって消滅する。

 

「・・・そこっ!」

 

ハクメンたちを背後から撃とうとしていたモンスターの二体をユニがライフルで撃ち、それによって撃ち落とされたモンスターは地に落ちる。

そこから間もなくしてモンスターたちは光となって消滅する。

 

「っ・・・!」

 

「それっ!」

 

モンスター一体から放たれた弾幕を、杖で赤い防御方陣を張ったロムが防ぎ、ロムの横から飛び出して近づいたラムが、魔力を込めた杖でモンスターの横腹を殴りつける。

それによって攻撃を受けたモンスターが光となって消滅したが、その隙をついてラムの横を取っていたモンスターがエネルギーの弾幕を浴びせかけるが、間に合ったロムがそれを防御方陣で防ぎきる。

 

「ありがとう、ロムちゃんっ!」

 

「うん。ラムちゃんは私が護る・・・!」

 

ロムとラムが笑顔で受け答えをする。

ここまでは順調に進んでいたのだが、まだモンスターが非常に多く残っており、その数の差が顕著になる瞬間が現れた。

モンスターの攻撃を防いでいるロムの横から、ラムが再び攻撃しているモンスターを攻撃しようとした時、そのタイミングに合わせていたかのようにモンスターの一体が背後からラムに弾幕を浴びせてきた。

 

「きゃあっ!」

 

「・・・ラムちゃん?・・・きゃあっ!?」

 

ラムの悲鳴を聞いたロムは思わず防御方陣を解いてしまい、そこから防いでいた弾幕が襲いかかってきた。

それに耐えられなかったロムと、遠くからとは言え、弾幕をまともに受けてしまったラムは地面に手をついてしまう。

 

「・・・二人ともっ!」

 

二人の危険に気づいたユニがライフルで攻撃しているモンスターを撃とうとしたが、ライフルはガチャりと音を立てるだけだった。

 

「弾切れ・・・!?っ!?」

 

弾が出なかった原因について気が付いたユニはマガジンを新しいものに変えようとしたが、自身の眼前にモンスターが迫ってきており、それは叶わなかった。

更には近づききっていたモンスターがその球体を使って体当たりをしてきた為、ユニは多少強引なりとも弾の入っていないライフルを鈍器代わりとして殴りつけるように振るうことで応戦した。

 

「この・・・!寄るんじゃないわよ・・・っ!」

 

ユニは体当たりを続けるモンスターに拒否の言葉を投げながらライフルで繰り返し殴りつけるが、ライフル本来の威力もない為、大したダメージを出せておらず、モンスターの勢いを削ぎきれないでいた。

 

「っ!みんな・・・!」

 

「此方は私が引き受ける・・・!御前は向こうを頼むッ!」

 

「は、はいっ!」

 

ハクメンはユニの方を指さしながらロムとラムの方へ走り、指示を受けたネプギアも弾かれるようにユニの方へ走り出した。

 

「虚空陣禁義・・・!」

 

ハクメンはラムを撃っていたモンスターを右足で蹴り飛ばし、そのまま高く飛んでから、ロムを撃っていたモンスターを左足で踏み潰して更に高くジャンプする。

この時、攻撃を受けたモンスターたちはハクメンの放った威力に耐えられず、あっさりと光となって消滅した。

ハクメンは飛びあがり切ると、『斬魔・鳴神』に気を乗せながら頭上に大きく振りかぶり、自身の正面にいる一番近いモンスターの元へと急降下していく。

 

天骸(てんがい)ッ!」

 

ハクメンは地面に足がつくタイミングに合わせて『斬魔・鳴神』を全力で振り下ろす。

その時、周囲に叩きつけられた気がハクメンを中心に扇状へ広がっていき、モンスターたちを巻き込んだ。

それによってハクメンに叩きつけられたモンスターは当然のこと、気に巻き込まれたモンスターたちも光となって消滅する。

 

「これ程攻撃しても、まだ残っていると言うのか・・・!」

 

しかし、それだけやっても奥の方にモンスターが残っていことに、ハクメンは声を荒くする。

 

「は、ハクメンさん・・・ありがとう」

 

「っ・・・ありがとう」

 

「安心するにはまだ早い・・・動けるのなら止まってはならぬ・・・良いな?ズェアッ!」

 

二人に礼を言われたハクメンは促しながら、迫りくる弾幕に向けて『斬魔・鳴神』を振るい、『封魔陣』を作り上げて弾幕を防ぐ。

その間に二人はこくりと頷いて隠れられる場所を探すべく走り出した。

 

「はぁっ!」

 

ネプギアはどうにかユニの所まで辿り着き、再び体当たりをしようとしていたモンスターに、ビームソードを上から縦に振り下ろすことで切り裂き、そのモンスターは光となって消滅する。

 

「ネプギア・・・?」

 

「ユニちゃん、大丈夫・・・?・・・っ!?」

 

戸惑うユニにネプギアは安否を問いかけるが、モンスターが攻撃してくる気配を感じ、慌ててビームソードを横に傾けて防御態勢を取る。

しかし、ビームソードでは十分な防御範囲が確保できず、いくつかの弾がネプギアの体を掠めていた。

 

「っ!ネプギアっ!」

 

ユニは助けるべく、急いでライフルのマガジンを交換し、ネプギアを撃っているモンスターに向けて撃った。

寸分違わずモンスターに弾が当たり、モンスターは光となって消滅する。

 

「ごめんネプギアっ!大丈夫・・・?」

 

「どうにか・・・ありがとうユニちゃん」

 

「まだ安心できないわ・・・どうにかこの場を・・・」

 

―切り抜けないと・・・。そう繋がるはずの言葉は再び近くに現れたモンスターに遮られた。

 

「うぉりゃッ!」

 

既にモンスターはこちらに狙いをつけている為、迎撃が間に合うものではなかった。

せめて避ける努力をしよう。そう思ってユニはネプギアを押しながらでも避ける動作に入るが、何者かがそのモンスターを斬り捨てたことで杞憂に終わった。

 

「・・・え?」

 

「・・・間に合ったか。お前ら、大丈夫だな!?」

 

ユニが困惑していると知っている声が自分たちに気遣いの声をかけてきた。

 

「ラグナさんっ!?」

 

「ああ・・・ナインに頼まれて大急ぎでこっちまできた。このままじゃ埒が明かねえな・・・。一先ず、お前らは固まって動くんだ。それなら互いのフォローも早くできる」

 

「わかりましたっ!」

 

ネプギアは声の主がラグナだと解って驚く。

ラグナはどうしてきたかを話してから簡単に指示を出し、そのままハクメンの元へ走っていった。

走っていくラグナに向けてユニは強く返事を返したが、急いでる為、返事がないのは仕方ないとユニは割り切っているので、気にしてはいなかった。

 

「ネプギア、二人の所へ行くわよっ!」

 

「う、うん・・・」

 

ユニは促しながら先を走り、ネプギアはどこか迷いがあるように頷き、後を追うように慌てて走り出した。

 

「(・・・また誰かに頼らないといけないのかな?ラグナさんが『あんな想いを二度としたくない』って言ってたのは、こういう事なのかな?)」

 

ユニの後ろを走りながら、ネプギアは胸の中にある気持ちに困惑していた。そして、ネプギアの足取りは段々と遅くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

《ねえ・・・聞こえる?》

 

「・・・えっ?誰?どこにいるの・・・?」

 

どこだかわからない真っ暗な空間で、少女の声を聞いたネプギアは困惑しながら辺りを見渡す。

 

《ここだよ・・・》

 

「っ!?あなた・・・私?」

 

ネプギアが辺りを見渡していると、正面から金髪の髪を持った少女が現れた。

その少女を見たネプギアは思わず問いかけた。自分がみんなを不安にさせていた時の少女の感覚と同じだったからだ。

 

《そうとも言えるし・・・そうじゃないとも言えるかな・・・》

 

「・・・どういう事?」

 

少女が困ったような笑みを浮かべて返してきた理由が分からず、ネプギアは再び問い返した。

自分と交代していた人が目の前の少女だと言うことは、ネプギア自信の体に残る感覚が告げていた。自分じゃないと断言されるならまだしも、その曖昧とも見れる回答の意味が、ネプギアには理解できなかった。

 

《それは認識次第なの。あなたが私を自分だと思えば私はあなただし、あなたが私を違う人と思えば私は私自身なの》

 

「認識次第・・・」

 

なんとなくではあるが、ネプギアは少女の言いたいことが分かった。そして、昨日の深夜からあったことで知らず知らずのうちに少女を封じかけていたことも・・・。

ラグナたちも、恐らくはゲイムギョウ界に来てから面倒な事柄が減ったことでその辺りの警戒や意識がが薄れてしまったのか、話すのを躊躇っていたのだろう。

そうであれば、ハクメンが何かを言いたげにしながらも黙っていたことや、皆が混乱する中ラグナが極端に落ち着いて見えたのも納得がいった。

そして、そこまで考えたネプギアは自分の認識を決めるために数瞬目を閉じる。

 

「じゃあ、『あなた()』に聞きたいんだけど・・・どうして私に声をかけたの?」

 

《・・・!》

 

ネプギアは少女のことをもう一人の自分として受け入れることを決め、改めて問いかけた。

それを聞いた少女は一瞬驚いた。何度か勝手に体を使ってしまったことから拒絶される危険性を考えていたのだが、ネプギアは自分を拒絶したりはせず、あろうことか自分のことをそれも自分だと受け入れてくれた。

それが嬉しくなりながらもどうにか、平静さを保った少女は微笑みながらも決意を固める。

 

《私ね・・・兄さまと、兄さまの大切な人たちを護りたい・・・『あなた()はどう?』》

 

「私も、お姉ちゃんたちを助けたいし、ラグナさんたちを支えられるようになりたい・・・。でも、私一人だと限界みたい・・・」

 

少女は自分の気持ちを伝えながらネプギアに問いかけ、ネプギアは答えながらも沈んだ表情になった。

どれだけ練習しても変身を習得することはできず、今回もラグナに助けてもらってしまったことが大きかった。

それが悔しくてネプギアは一粒の涙を流すが、それを少女が右手の人差し指で拭った。

 

《諦めないで・・・。一人で無理なら『二人』で戦おう》

 

「・・・えっ?二人で(・・・)?」

 

少女から告げられた言葉にネプギアは驚きを隠せなかった。

少女が冗談を言っているわけでないのが解っているので、その驚きは倍近くに増えていた。

 

《うん・・・。この世界で眠っている『本来の私』は無理でも、『あなた()』と一緒に・・・『ここにいる私』ならできるよ。でも・・・一つだけ危険があるの》

 

「・・・その危険って?」

 

ネプギアは深いことは気にしないことにして、少女にその危険を訊くことにした。今は一刻も早く大切な人を助けに行きたいからだ。

 

《それは・・・『あなた()』にはこれまで以上に『私の魂』が混ざり込むようになるから、今まで通りの『あなた()』じゃいられなくなる危険性があるの・・・『あなた()』はそれでもいいの?》

 

「私は・・・」

 

少女の言葉を聞いたネプギアは回答に詰まる。何事もなければそれでいいが、人格が急変すると言う危険性は余りにも大きすぎるからだ。

 

「私は・・・大丈夫だよ」

 

《っ!?ほ・・・本当に言ってるの?》

 

「うん。だって、何もしないとお姉ちゃんたちを助けられないし、護れないんでしょ?それなのに何もしないなんて私は嫌だな・・・」

 

《・・・そっか。ありがとう。私を受け入れてくれて・・・》

 

ネプギアの迷いなき回答に少女は困惑しながら問い返した。

そして、ネプギアの受け入れることを選んだ理由を聞き、少女は一泊置いてから礼を述べ、左手を開いた状態で前に出した。

 

《一緒に戦おう・・・私たち(・・・)の大切な人を助ける為に》

 

「うん。一緒に戦おう・・・」

 

少女の呼びかけを受け入れたネプギアは少女の左手に向けて自分の右手を開いた状態で前に出した。

そして、互いの手を重ねた二人がそっと目を閉じると、重ねた所から眩い光が広がった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「うん・・・そうだよね」

 

「ネプギア?どうしたの?早く行かないと・・・」

 

ネプギアの走る足はいつの間にか止まっていて、それに気づいたユニが不安になって声を掛けた。

 

「ごめんね。今まで気づいてあげられなくて・・・目を逸らしてて・・・」

 

「ネプギア、聞いてるの?早くこっちに・・・死にたいのっ!?」

 

ネプギアは左手を自分の胸辺りに当てながら目を閉じて呟く。それはここにいない人物へのものであり、その意図を理解できないでいるユニは声を荒げながら怒鳴り半分でネプギアに問いかける。

そして、気がつけばまだ来ていなかったナオトたちが車やバイクと共にやってきていて、救援のために走り出していた。

 

「私も諦めない・・・!絶対にみんなを助けるっ!」

 

目をゆっくりと開きながら宣言するネプギアの目には、ゲイムギョウ界で始めて『蒼炎の書』を使った時のラグナと同じように強い意志が宿っていた。

そして、ネプギアが言い切った瞬間ネプギアを紫色をした光の柱が包んだ。

 

「っ!?」

 

「・・・この気配は・・・少女よ、事を成したか」

 

目の前でそれを見たユニは驚愕し、気配が変わったことに気が付いたハクメンは安堵の混じったような声があった。

そして、光の柱が消えると、そこには白いレオタードを身につけ、レオタードと同じようなカラーをしている独自の形をした銃剣・・・M.P.B.Lを手にした桜色の髪を持つ少女がいた。

つまりは変身したネプギア・・・パープルシスター誕生の瞬間だった。

変身したネプギアは空へ高く上昇し、上空からM.P.B.Lで狙いをつけ、ロムとラムに近づいているモンスターを撃つ。

その銃口から放たれたビームは寸分の狂いなく、球状のモンスターのど真ん中を貫き、モンスターは光となって消滅する。

ロムとラムは困惑しながら上を向いて見ると、ネプギアが変身できるようになったことがわかり、顔を合わせて喜んだ。

そこからネプギアは一体、また一体と次々にM.P.B.Lで狙いをつけては撃ち、周囲のモンスターを何ら苦も無く倒していく。

その勢いは、何も知らぬ身が今の光景を見たら、降り注ぐ暴力のように見えるかもしれない程だった。

 

「何だ!?何が起きたんだ!?」

 

《ナオト、アレが彼女たちの言っていた変身だと思うわ》

 

「ええそうよ。ネプギア、凄いじゃない・・・」

 

「ギアちゃん・・・変身できるようになって良かったですぅ♪」

 

その光景を見たナオトは驚き、ラケルは聞いていた話を思い出してナオトに告げる。

ラケルの言葉を聞いたアイエフはそれを肯定しながらネプギアを称賛し、コンパはネプギアが変身できたことをまるで自分のことのように喜ぶ。

反応こそ人それぞれではあるが、これで消えかけていた希望の灯が強くなったことは確かだった。

 

『誰か聞こえる!?何か物凄い光景が見えたんだけど・・・どうなっているのッ!?』

 

そして、ナオトたちが反応を見せてからすぐに、ナインから術式通信ができる全員に通信が送られてくる。

どうやら間近で見ていた自分たちはともかく、遠くから見たナインは何があったか解らないから焦りの色が伺えるくらいに声が荒げていた。

 

「大丈夫です。今のは私がモンスターを攻撃して起きたことですから・・・」

 

『ネプギアなの・・・?それに、自分でやったってことは・・・』

 

その通信にはまさかのネプギアが反応したことにナインは驚きを隠せず、同時にネプギアの言葉で大方察しをつけることもできていた。

状況が分かったナインは『ビックリしたじゃない・・・』と安堵の声が出ていた。それを聞いたネプギアは「お騒がせしました」と詫びを入れる。

 

『とりあえず、状況が分かって安心したわ。もうすぐでそっちに合流するから、移動の準備だけ済ませておいて』

 

「わかりました。それではまた」

 

ナインの言葉には地面に降りながらネプギアが答え、それを聞いたナインが通信を切ったことで全員の通信が終了する。

 

「ネプギア・・・その姿ってことは」

 

「はい。これが変身した私・・・パープルシスターの姿です」

 

ラグナが笑みを浮かべたところに、ネプギアも微笑みながら答えた。

ここまではみんなの知るネプギアであるが、ここからが違った。否、既に変身する前からネプギアは変わっていた。そして、それが今露わになる瞬間が来た。

 

「これで私も一緒に戦えますね・・・兄さま」

 

嬉しそうな笑顔で告げる『ネプギア』は今までにない程、少女の気配をラグナに感じ取らせていた。




これにてアニメ4話分まで終了しました。
どうにかネプギアを変身させられる所まで持って来れました。変身直前のシーンは完全にオリジナルの状態である為、これで大丈夫かどうかがかなり不安でもあります・・・(汗)。

さて、本日午前10時にアズールレーンとのコラボが終了しました。
ガチャの結果を報告させて頂きますと・・・残念ながらホワイトハートとブラックハートを引けなかった事からコンプリートならずでした・・・(泣)。
ピックアップで確率上がっている時に合わせて引いてもこの二人だけは出てきませんでした。何故かノワールはラストに4回回したらその内二人出てくるという・・・。
なんと言うか、確率の恐ろしさを思い知りました・・・(笑)。

さて、次回からそのままアニメ5話の方に入りたいと思います。
山場の一つである為、頑張っていきたいと思います。


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29話 反撃の手口

今回からアニメ5話分に入ります。
山場に入ったので上手く掛けてるかがますます不安になって来ました・・・。後、文字数もどんどん増えてきてます(笑)。


「・・・ほう?此の魂の輝きは・・・成程、興味深いな」

 

ネプギアが変身を成した時と同刻、レリウスは何らかの異変に気付いた。

それが自分にとってはとても都合のいいものであったのか、仮面のずれを直すレリウスの口元は愉しそうに嗤っていた。

 

「どうしたっちゅか?」

 

「奴らの内、一人の魂が面白い変化を見せたのでな。テルミらと合流して観察に行こうと思ったまでだ」

 

レリウスの呟きに反応したワレチューが訊いてみると、レリウスは淡々とした口調で答える。

しかし、仮面の下にある口元は狂気的な笑みを見せており、その笑みは仲間であるワレチューにすら冷や汗をかかせる。

ネズミとしては特殊すぎる為にレリウスの研究対象にされかけたワレチューだが、このズーネ地区・・・ひいてはリーンボックスへ来る前に、レントゲン投影等を受けるで留まっており、その先は一切受けてない為一先ずの安全は確保されていた。

 

「なら行ってくるっちゅか?一応、何事もなければここはフリーでも大丈夫にはなってるっちゅよ」

 

「そうだな・・・ならば行かせて貰おう。連絡は頼んだぞ?」

 

「了解っちゅ」

 

レリウスはワレチューに頼み、左指を鳴らしてイグニスを用意してある別空間に隠し、マジェコンヌたちの元へ移動を始めた。

ワレチューはそれを見送ってから、小型端末を使ってテルミへ術式通信を送った。

 

『んあ?どうした?』

 

「あっ、いきなりすまんっちゅ。レリウスが『一人の魂が面白い変化を見せた』から、そっちと合流して観察するって言って移動を始めたっちゅよ」

 

『へぇ。てことはアイツか・・・?分かった。マジェコンヌには俺が伝えておくから、何かあったらまた連絡頼むわ』

 

「了解っちゅ。それじゃあまたっちゅ」

 

テルミは特に不機嫌ではなく、むしろ上機嫌だったので話が予想以上に円滑に終わった。

実のところ、テルミ自身も焦ったりすることは幾らかあったものの、イラ立ち等の不機嫌になったことは意外にも片手で数えられる程だった。

マジェコンヌは咎める程度であったりするために、まだどうにかなるのだが、テルミの場合は底知れぬ恐怖感を感じさせるため、迂闊に怒らせるわけにはいかない。

何事もなく終わって良かった思いながらワレチューは術式通信を終了させた。

 

「さて・・・できることなら観察だけでなく、捕獲もしたいところだな」

 

テルミたちと合流すべく歩いているレリウスは、仮面の下で危険な笑みを見せていた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

変身したネプギアが放った攻撃によりモンスターの殆どが一層されたのが確認でき、俺たちはナインと合流してからすぐに移動を始めた。

ハクメンは『スサノオユニット』の力を使って全力疾走し、コンパはネプギア以外全員の候補生とナオトを乗せて車で走り、俺はアイエフにバイクの後部座席に乗せて貰い、ナインはセリカを抱えて魔法で飛び、ネプギアは飛べるようになったので一人で飛び、ミネルヴァは高速移動形態になってズーネ地区を奥へと突き進んでいく。

途中で現れるモンスターはネプギアが専用の銃剣で攻撃するか、アイエフが時々拳銃で撃つことによってあっさりと倒されていき、障害何ぞあって無いようなものだった。

 

 

「ねえ、ネプギア・・・ネプギアはどうして変身できたの?何がきっかけになったの?」

 

「・・・・・・」

 

移動している際、ユニはネプギアに訊いてみた。それを参考にすれば皆が変身できる近道かもしれないと思ったからだろう。

しかし、ネプギアは振り向いていた顔を正面に戻して下に向けるだけで、沈黙を返していた。何かを迷っているようで、その表情は悲しげなものになっていた。

 

「・・・ネプギア?」

 

「ごめんね。多分、この事を話したらユニちゃんだけじゃなくてみんなが心配すると思う・・・それでも大丈夫・・・?」

 

「な、何よ急に改まって・・・大丈夫だから話してみなさいって」

 

ネプギアから出てきた回答に困惑しながらユニは促す。

さっきの影響で大方察しができてるのは俺だけか?いや、こう言う気配には鋭いハクメンも気づいてるはずだ。残りはわからねえが・・・。

促されたネプギアは迷う素振りを見せるが、やがて決意した表情に変わる。

 

「私が変身できるようになったことを話すのに・・・『もう一人の私』って言えばいいのかな?私がいつもと違うようになる時に出てくるその子のことが関わってくるの」

 

『っ・・・!』

 

ネプギアの切り出した話から出てきた内容はユニたち女神候補生を中心に、その場に居合わせた大体の人が息を吞んだ。

例外なのは俺とハクメン・・・ナインとラケルの僅か四人だった。

こうなった理由として、俺はネプギアから事前に話を聞いている。ハクメンは初対面の頃から『あいつ』の気配を感じ取っている。ナインが驚かなかった理由もハクメンと同じで気づいているからだろう。そして、ラケルが驚かないでいたのはレイチェルのように境界で情報を得ているからだった。

ただ、顔には出なかったとは言え俺も少なからず驚いている。ネプギアと『あいつ』の関係は気兼ねなく話せる程穏やかな話じゃねえからだ。

 

「私たちが強くなろうって決める直前の時、ユニちゃんに強く言われた後、私はこれ以上みんなに心配をかけないようにって気づかない内に『あの子』が表に出てくるのを封じちゃってたみたい」

 

困った笑みを見せながら、ネプギアは自分が変身できるようになった過程を話し始める。

この出だしを聞いた限りだと、ネプギアは確かに『あいつ』の気配を引っさげている以上、表に出た時は皆を不安にさせることを自覚している。

確かに周りの皆は元に戻ったと安心するだろう。俺もあんまり面倒事は抱えたくないから、何も事情を知らないのであればそれがいいと思うだろう。

 

「・・・どういうこと?ネプギアは・・・いつものネプギアじゃダメなの?」

 

「・・・ダメなの?」

 

「ああ、それは違うよ!必ずしももう片方になるってことじゃないの。でも・・・封じてそのままを良しとしなかったのは本当だよ」

 

不安の余り涙目になって問いかけてくるロムとラムを見てネプギアは慌ててそれを否定する。

ネプギアがこの二人がいる時にもう一人の状態になったのは、ハクメンと俺が対決してる時と、テルミにやられて気を失ってから少しするまでの二つだ。

突然別人のように変わって不安に思わない筈はないし、深い事情を知らない四女神や候補生の皆、教祖らに友人たちとネプギアをよく知る人にとっては今すぐに戻って欲しいと思うだろう。

だが、ネプギアは知らない振りして今までの自分に戻ることを選ばなかった。それを決めたとしたならあの変身する直前だろうか?

 

「私が変身する直前なんだけど・・・その時、私の中にいるあの子と会って話したの」

 

『・・・!?』

 

「な・・・あいつと話した?そりゃ一体どこで・・・って、うおぉっ!?」

 

皆はネプギアから告げられる衝撃的な事実に再び絶句する。

対する俺はネプギアが『あいつ』と話したタイミングが全くわからなかったので、体をネプギアがいる右側へ乗り出し気味な姿勢で訊いて見ようとしたが、急に左側へ傾けられたため、俺は慌ててバランスをとることに専念する。

 

「急に乗り出さないっ!あんた体デカいんだから、バランス取れなくなるのよ!」

 

「わ・・・悪い!」

 

俺はアイエフに叱咤されたので素直に謝る。しまった・・・俺がアイエフと比べて背が高いだけじゃなく、体重も結構あるんだった・・・。

 

「それで?結局その『あの子』とやらとはどういう話をしたの?」

 

「実は、『あの子』から提案があったんです。一人でダメなら二人で一緒に戦おうって・・・。そして、私はそれを受け入れたんです・・・。お互いに、自分たちの大切な人を助ける為に」

 

心なしか、ナインの問いに答えるネプギアの目は今までとは別の誰かと一緒になっているように感じさせる。

その誰かって言われたら間違いなく『あいつ』なんだろう。俺がそこまで考えると、その瞬間まるで先を読んだかのようにネプギアの表情が沈む。

一瞬焦りはしたものの、それが『あいつ』と話した時にできてしまったものなんだろうと予想がつき、それはそれでどういえばいいか分からなくなる。

 

「・・・ただ、何もいいことばかりじゃないんです。一緒になったのはいいんですけど・・・その分『あの子の魂』が混ざり込むから、今まで以上に私が不安定になって、もしかしたら本来の私じゃいられなくなるかも知れないんです」

 

『・・・・・・!』

 

流石にネプギアが今回告げた内容はある程度把握していた俺や、察しがついてたから準備が早いハクメンでも無視できない内容で、ハクメンですら首をネプギアの方に向けていた。

確かに『あいつ』の手がかりが分りやすくなるかもしれないが、それ以上にデメリットが大きすぎる。ネプギアの存在が消滅する可能性があるのはいくら何でも無視できるものじゃない。

俺やセリカはどうやって声をかければいいかが分からなくなるし、ハクメンも『此れは私が口出しできるものではない』と言わんばかり顔を正面に戻した。

 

「ネプギアのバカっ!昨日アタシが戻ってって言ったばっかりじゃないっ!何でそんなことしてるのよ!?」

 

「ごめんね・・・私が危険なことをしてるのは、分かってるつもりだよ」

 

ユニが涙目になりながらネプギアを責め、ネプギアは謝りながら顔が下に傾いていく。

分かった上での選択だったからこそ、こうして改めて言われるのに応えるのは良くわかる。

 

「だったら何で・・・!分かってるのにどうしてよ・・・!?」

 

「分かっていても・・・そのまま見捨てたりするようなことができなかったの・・・。それに、危険だからそれをしないでお姉ちゃんたちを助けられないなんて・・・それこそ嫌だったから・・・」

 

「ネプギア・・・」

 

ユニに強く言われても、ネプギアは確固たる意思を持って自分の意思を貫く事を選んだ。

そのネプギアの決意を知ったユニは言葉が出なかった。そして、一度表情を見せて少ししてから何かを決めたような表情に変わる。

 

「そうまで言うならしょうがないか・・・。ただ、これだけ約束して。本来のアンタじゃなくなるかもしれないじゃなくて・・・絶対にアンタはアンタのままで戻って来るの。そのもう片方のアンタとやらが混ざってもいいから、絶対に戻って来て!」

 

「あっ!それ私とも約束してっ!せっかくお姉ちゃんたちを助けても、ネプギアが戻ってこないのは嫌だもん」

 

「私にも約束して・・・ネプギアちゃんともっと一緒にいたいから・・・」

 

「みんな・・・」

 

ユニがネプギアに頼むと、ロムとラムもそれに乗っかるようにネプギアに言う。

前にネプテューヌから話を聞いて、候補生の皆は条約を結ぶ前から仲が良かったのは知っているから、ネプギアに変化が訪れてもその仲の良さが変わらなかったのは本当に良かったと思う。

そして、皆が自分の帰りを望んでいることが分かって、ネプギアの目尻には嬉しさによって出てきた涙が見えていた。

 

「心配してくれてありがとう・・・約束するよ。絶対に戻って来るから・・・」

 

ネプギアは三人に向けて笑顔を見せて宣言した。

魂が不安定になっちまう以上、それを実行するのが簡単じゃないのは目に見えてわかる。だからこそ、俺たちもできる限りサポートしてやんねえとな・・・。

 

「!・・・話しているところに悪いが、もうじき待ち受けているテルミらとぶつかるぞ。何があるか分からん以上、セリカ=A=マーキュリーを下げた方が良いだろう」

 

「もうそんな距離まで来たのね・・・皆は準備を済ませて先に行って。私はセリカと後から来るわ」

 

「みんな!頑張ってねっ!」

 

「おう!任せろッ!」

 

「二人とも、また後でですっ!」

 

セリカを抱えたナインとミネルヴァは減速していき、俺とコンパは振り向く余裕がないので正面を向いたまま応える。

そして、車に乗せてもらっている皆は移動している内に武器などの準備を終えておく。

 

「あっ、そうだ。私、イストワール様とチカ様から伝言貰ってるからそっちに行かせてもらうけど大丈夫?」

 

「それならば問題ない。預かりし言葉を伝えに行くと良いだろう」

 

「アイちゃん、それなら私もついていくですよ」

 

《ナオト、私は万が一のことを考えてアイエフの方に行くけど、問題ないわね?》

 

「ああ、もしもの時は頼むぞ」

 

アイエフの問いに、ハクメンは迷わず肯定し、コンパは同行を申し出た。

また、ラケルもついていく事を選び、ナオトは一切反対する様子を見せずに頷いた。

 

「ええ・・・ありがとう。みんな」

 

そのまま暫く進んで行くとまたあの崖の所まで近づいてきて、その先にはさっきの結界が見えていた。

 

「ここで降ろすわ。時間がないから、また後でねッ!」

 

「分かった。そん時はまた頼む」

 

乗せてもらっていた俺たちは降ろしてもらい、そこからは走って近づいた。

 

『お姉ちゃんっ!』

 

崖の可能な限り奥まで進んで行き、候補生四人はその中にいる自分の姉ちゃんたちに声をかける。

奥にあるアンチクリスタルの結界を見てみると、まだネプテューヌたちは生きていた。

 

「ネプギア・・・?そっか・・・その格好、変身できたんだね・・・」

 

「ネプギアちゃん・・・頑張りましたわね」

 

ネプテューヌはネプギアの姿を見て喜びの笑みを見せた。

ネプギアを労うネプテューヌとベールを筆頭に、結界の中で捕らえられている四人は希望を見出したと笑みがこぼれた。

 

「良かった・・・あんたら全員生きてるな!?時間ねえからこのまんま来ちまったが、ちゃんと戻って来たぞ!」

 

「ちゃんと生きてるよーっ!死なないって約束したでしょー!?」

 

ナオトの問いかけに、ネプギアの変身した姿を見て少しだけ気が楽になったネプテューヌは、ナオトにしっかりと聞こえるように大きめの声で問い返す。

それを聞けたナオトは安心して溜め息交じりに笑った。

 

「待っててね・・・すぐに助けるから・・・」

 

「ようやく来たところ悪いが、ここは通行止めとさせてもらうぞ。どうやら一人変身できているようだが・・・貴様ならば寧ろ好都合だな」

 

「ああ、全くだ・・・。これならレリウスも大喜びだな・・・ケヒヒ」

 

「・・・・・・」

 

ネプギアはすぐに飛んでいこうとしたが、横から声をかけられたことでネプギアのみならず全員がそっちを振り向く。

そこにはマジェコンヌとテルミがいて、二人はネプギアの姿を見てほくそ笑む。

対するネプギアは、マジェコンヌの方はともかく、テルミを見て何やら複雑そうな表情をしていた。

 

「ネプギア、大丈夫か?」

 

「大丈夫です。ただ・・・テルミを見てると何か違和感があるんです」

 

心配になって俺は訊いて見たが、一応大丈夫らしい。ただ、見逃せない発言はあった。

 

「違和感?」

 

「はい・・・『ネプギア(私自身)』には、マジェコンヌたちと手を組んで私たちを倒そうとしている人なんですけど・・・。『あの子(もう一人の私)』にとっては、自分の幸せな時間を奪った許せない相手です。私が違和感を感じたのは・・・その二つが混ざっている状態で見ちゃってるからだと思います」

 

気になったことをネプギアに訊いてみると、ネプギアはそのことを説明してくれた。

違和感の理由を聞いた俺は自然と納得していた。もしかしたらしてしまったなのかもしれないが、少なくとも俺には納得しただった。

 

「おうおう・・・随分と馴染んでんじゃねえか。その内存在が『あいつ』そのまんまになっちまうんじゃねえの?それもそれで面白れぇから俺様はいいんだけどな」

 

「いいえ。誰が何と言おうと私はネプギアです・・・。例え『あの子』と一緒になったとしても、それは変わりません」

 

テルミがにやけ顔を見せながら煽るが、ネプギアはそれに動じることなく、自分の持つ考えを告げる。

それを聞いた候補生の皆は心底安心した表情をした。俺も話を聞いてテルミに呑まれないかどうかが不安だったが、そうならなくて良かったと思う。

 

「そうかい・・・なら、そいつがどこまで続くか見せてもらいてえな・・・」

 

テルミは一瞬拍子抜けしたような顔を見せてから、再びにやけながらそう言い放った。

結果的に、テルミの楽しみを一つ増やしちまったみてえだな。

 

「ふむ・・・それは私も同感だな。お前の魂の融合度合いがどのように変わるか・・・興味深いな」

 

「レリウス・・・テメェは相変わらずみてえだな」

 

レリウスはこっちにきながら個人の思っていることを呟き、対するナオトは頭を掻きながら溜め息交じりに呟いた。

 

「レリウスも来たか・・・。目的は聞くまでもなさそうだな」

 

「ああ。私がどうしようとしているかは、既に解っているだろう」

 

レリウスの答えを聞いたマジェコンヌは「それもそうだな」と言いながら笑う。

そして、顔を俺たちの方に向け直した時、マジェコンヌは余裕そうな笑みを見せていた。

 

「そういやまだ聞いてねえことがあったな・・・テルミは俺をぶっ飛ばす。レリウスは自分の研究だってのは解る・・・。ならマジェコンヌ。テメェの言う混沌という名の福音ってのは何だ?」

 

「マジェコンヌ?じゃあ、この人がお姉ちゃんたちを・・・」

 

俺がマジェコンヌに問いかけたところで、昨日の夜に話で出ていたことを思い出したユニがハッとして反応する。

 

「ほう?話しは聞いていたのか・・・ならば答えようじゃないか」

 

そのことを聞いたマジェコンヌは驚きながらも、すぐに上機嫌になった。

 

「私を始めて見るものもいるだろうから改めて名乗ろうじゃないか・・・。私の名はマジェコンヌ。四人の小娘が支配する世界に混沌という名の福音をもたらす者・・・。ここまでは聞いているだろう?ではその先を答えるが・・・私の目的は確かに女神打倒だ。それによって女神を必要としない新しい秩序・・・誰もが支配者になり得る世界を作ることを望んでいる」

 

「チィ・・・ッ!『混沌という名の福音』ってのはそういう事だったか・・・」

 

「それって・・・あなたが支配者になろうとしているだけなのと変わらないんじゃないですか!?」

 

マジェコンヌが告げてきた目的を聞いて、俺は剣を手に取って構えながら歯嚙みする。

勿論、そんなことを俺たち・・・特にネプギアたちは受け入れられるはずもなく、ネプギアが問い返すような形で糾弾する。

 

「そんなことは無いさ・・・私より強い者が現れればその時は潔く譲る。それこそ平等な世界だろう?」

 

「何、最もらしいこと言ってんのよ・・・!」

 

糾弾されてもマジェコンヌは余裕そうにおどけて見せるのを見て、ユニは嫌そうな表情を隠さず愚痴のように吐き捨てる。

あくまでそういう世界を作るだけであって、自分は女神を倒せればいいらしいな。それによってできあがる世界は過程ってことか・・・。考えたら少しこみ上げてくるものがあった。

 

「まあ、そういうことなら俺はハクメンちゃんに・・・もう一回躰返して貰おうかね?それと『蒼』さえありゃ、簡単に俺様の望む世界を創れるしな・・・ケヒヒヒヒッ!」

 

「テルミよ・・・私は二度も同じ轍は踏まんぞ・・・!」

 

テルミはハクメンに向けて煽るように言うと、ハクメンは怒気の籠った声を出しながら『斬魔・鳴神』を構えた。

 

「テメェ・・・やっぱり諦めてる訳じゃなかったんだな。テメェの魂胆だと・・・現状俺から『蒼』を奪い取ろうってか?」

 

「当たり前よッ!場所探しって言う振り出しに戻った以上、それが手っ取り早いだろうが。恐怖によって支配する世界・・・!それが俺様にとって真の自由だからなァッ!」

 

俺の問いに、テルミは声を高らかに答える。こいつはこっちに来ても全く変わらなかったみてえだな。

 

「ハクメンさんの躰・・・?どういうこと?」

 

「・・・奴のもう一つの名は『建速須佐之男』。私が使っている『スサノオユニット』本来の所有者だ」

 

「え・・・!?」

 

「あの人のなの・・・?」

 

「なんだよなんだよ・・・俺様のこと話すのに『スサノオユニット(それ)』は大事だろぉ?」

 

気になって聞いてきたラムに、ハクメンは迷いながらも答え、それを聞いたロムとラムが筆頭に、皆が驚く。

元々ジンとして生きていたから別のものだというのは皆が分かっている。ただ、テルミのものだというのは話していなかった為、そこで皆は驚いた。

テルミはその話を聞いて少し不満そうに投げかける。実際いるとは思わなかったので、不用意にそのことを話して不安を煽るわけにもいかない以上、ハクメンと俺はそのことを話さないでいた。

 

「まあいいや。なぁハクメンちゃんよぉ・・・こっちでの『スサノオユニット(そいつ)』の使い心地はどうよ?向こうだと『マスターユニット』に縛られる感じしてすげえ面倒だったからなぁ・・・訊いてみてぇんだよ。俺様の躰だとしても、こっちじゃテメェしか使ってねえからな・・・」

 

「縛られるか・・・成程。合点が行くとまでは行かないが、推測は立てられるな」

 

テルミに問いかけられたハクメンはそこでハッとし、少しばかり考え込んだ。

 

「ハクメン?お前が前より強くなってる理由が分かったりでもしたのか?」

 

「まだ推測の域に過ぎんがな・・・ともあれ、以前より此の躰による動きが軽いのは事実だ」

 

俺は気になって訊いてみたが、推測の域を過ぎないのであればどうしようもない。

ハクメンでも曖昧なことであるなら、流石にこれ以上追求するだけ無駄に近いからな。

 

「へえ・・・『軽い』か。それなら尚更頂きたくなったな・・・。仮に『マスターユニット』に縛られてませんなんて事だったら、それこそ俺様も大喜びだ」

 

「貴様に返す心算は無いぞ・・・」

 

テルミがヘラヘラした顔で嬉しそうに考えるのに対して、ハクメンは『斬魔・鳴神』を握り直して気を引き締める。

 

「ふむ。確かに『マスターユニット』の影響は盲点だったな・・・時間があれば調べてみよう」

 

「いいのか?それなら頼むわ」

 

「・・・あまり期待はしてほしくはないがな」

 

テルミに頼まれたレリウスは、呟きながら「凌ぎきるので手一杯になるかも知れないのでな」と付け足した。

正直、俺からすれば普段から戦わないのに凌ぐだけはできるってので十分ヤバいと思う。ただ、勝てると言わないのは研究者故に弁えてるのが伺えた。

 

「まあ、こう言うことだ。テルミが本来の力を取り戻し、それによって支配者になるならばそれでも私は一向に構わん」

 

「ふざけないでっ!単にアンタは女神の力が羨ましいんでしょう!?」

 

「そうだな・・・確かに、女神の力を欲した時期は私にもあったよ」

 

マジェコンヌが余裕そうに言ったところを、我慢の限界が来たユニが糾弾するも、マジェコンヌは全く動じることなくあっさりと肯定して見せた。

予想外の回答を聞いて俺たちは驚くが、それだけでマジェコンヌの言葉は終わらなかった。

 

「だが、今は違う・・・!なぜなら・・・」

 

マジェコンヌは強く言い放ちながら、自身の体を光に包んだ。

その光は赤く禍々しいもので、一目見ただけで危険だと感じさせるものだった。

そして、光が消えると、マジェコンヌの服装は魔女のような格好から黒を基調とした露出の多い格好に変わり、右手には槍のような特殊な武器を持ち、背中には悪魔のような翼が生えた姿になっていた。

 

『っ!?』

 

「私自身が・・・女神と同等の力を宿しているからだッ!」

 

「そんな・・・どうしてあの人が変身を・・・?」

 

「あいつは女神じゃないのに・・・」

 

その姿に俺たちは驚きを隠せなかった。特に、候補生たちの動揺は大きく、変身したという事実を吞み込みきれないでいた。

 

「姿を変えたってマジかよ・・・。正真正銘の魔女ってか?面倒ったらありゃしないぜ・・・」

 

ナオトは焦りが混じるものの、平常心はまだ残っており、眉を潜ませながらぼやくのに留まっていた。

どうやら『ムラクモユニット』だの『黒き獣』だのなんだのってヤバいもんがありまくる俺たちの世界とは違って、ナオトの世界はそういうのが少ないからなのか、目の前の事態の驚きが俺たちより心なしか大きい気がした。

 

「驚くのはまだ早いぞ・・・?真に驚くべきはこれからだ・・・!」

 

「え・・・!?」

 

マジェコンヌはニヤリとした顔でそう言いながら自分の持っている武器を赤い光で包み、その形を変えていく。

その光形を変え切ったところで消えると、マジェコンヌの手に持っている武器は変身したネプテューヌが使っている刀の色違いに変わっていた。

そして、マジェコンヌは危険な笑みを見せながら戸惑っているネプギアに狙いを定めて一気に近づく。

 

「クロスコンビネーションッ!」

 

「きゃあっ!」

 

そして、マジェコンヌは俺がトゥルーネ洞窟で見たネプテューヌの連撃と全く同じ動作でネプギアに連撃を浴びせる。

ネプギアは自分の姉の技を使われると思って無かったこともあり、反応が遅れてしまって最初の一撃で武器を弾かれて体制を崩され、残りの五撃を全て受けてしまった。

変身できた恩恵で防御力が跳ね上がっていたため、吹っ飛ばされることは無かったものの、ネプギアは尻餅をついてしまった。

 

「・・・ねぷっ!?それ私の技・・・!」

 

「ど、どうしてその技を・・・?」

 

マジェコンヌがその技を使ったことに最も驚いたのはネプテューヌで、動揺したのはネプギアだった。

前者は自分の技を見事にそのまま使われたこと。後者は自分が信頼する姉の技を他人にぶつけられたことにだった。

 

「フフフ・・・実は、私には他人をコピーする能力があってな・・・。遂には女神の技さえも我が物にしたと言うことさッ!」

 

「そんな・・・そんなことができるなんて・・・」

 

「動揺しているところ残念だが、事実なんだよ」

 

嘲笑しながら告げるマジェコンヌの言葉を聞いたネプギアは動揺を見せる。

マジェコンヌはその動揺に追い打ちをかけるが如く、再び武器を光に包んで形を変える。

形を変え終えると、今度はブランが持っている斧になっていた。

 

「テンツェリントロンぺッ!」

 

「きゃあああっ!」

 

マジェコンヌは斧に形を変えた武器で、ネプギアに連続で回転しながらの攻撃を加える。

ブランの攻撃が元々威力が大きいのもあったのか、ダメージが重なってしまったのか、ネプギアは赤い防御方陣を張ったもののすぐに破られてしまい、最後の一撃で吹っ飛ばされる。

 

「へえ・・・コピーのことは聞いてたが、そこまで行けるなんて面白れぇじゃねえか」

 

「後で血液サンプルをもらっても構わんか?研究が進みそうだ」

 

「構わんが取り過ぎるなよ?盟約だから協力は約束するがな」

 

テルミは口ぶりから一度見たことがあるんだろう。楽しそう率直な感想を述べ、レリウスは仮面のずれを直しながらニヤリとした口元を見せる。

マジェコンヌはやれやれと言うかのように首を振りながらも、それを受け入れることを告げた。

 

「ああ。そうだ・・・『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』よ。貴様は確か、シェアエナジーを体内に宿すようになっていたな?」

 

「・・・だとしたらなんだ?」

 

マジェコンヌはこっちに向き直りながら、ニヤリ顔で俺に問いかけてくる。

何か嫌な予感がした俺は武器を握り直し、マジェコンヌを睨み付けながら聞き返す。

 

「感謝するぞ・・・そのお陰で、貴様の技を習得するのが早まったのだからな・・・」

 

「・・・何?」

 

マジェコンヌは再び武器を変える。

すると、今度は俺の使っている剣に形を変えやがった。

 

「自らの技で果てるがいい・・・デッドスパイクッ!」

 

「ざっ・・・けんなぁッ!」

 

俺たちは全く同じタイミングで剣を下から振り上げ、黒い炎のようなものを地面に走らせる。

それらは正面からぶつかり、飛び散る形で消滅した。一先ず突破されるなんてことがなくて良かった。技だけで突破されちまったら、『蒼炎の書』の面目が立たねえ。

 

「ほう?まだ力を再現し切れていないか・・・この男の技を習得したのはいいが、些か私とは相性が悪いようだな」

 

「相性も何も、魔導書の力を簡単に再現されてたまるかよ・・・」

 

マジェコンヌが首を傾げる所に俺は吐き捨てながら否定する。

さっき二つのデッドスパイクぶつかった感じだと、マジェコンヌは『ソウルイーター』をコピーできていない。

こうして目の前で女神の技や俺の技をコピーしたことを披露しているので、油断はできるわけじゃないが、そう簡単に『蒼』の一部を使った『ソウルイーター』の力を完全再現できるとは思えない。

・・・こういうのは神頼みだからあまり期待するわけにもいかねえが、俺が『蒼炎の書』を封じられている状態のようなことがマジェコンヌにも起きれば或いは・・・と言ったところだろう。そこまで考えて、面倒になった俺は一度首を横に振りながらその思考を置いておくことにした。そんなことを考えてるならあいつらを助けねえとな。

 

「それもそうか・・・。だがいいのか?貴様らが何もせんのなら、私はこの小娘から抵抗する気力を奪うだけだぞ?」

 

マジェコンヌは俺の吐き捨てた言葉に納得を見せながらネプギアの方へ向き直り、再び武器をブランの使っている斧に変える。

抵抗する気力を奪うと言うのだから、先端が鋭く、殺傷力の高い他の人の武器よりも、ある程度加減して使えば痛めつけで済ませられるブランの武器が有効だと判断したんだろう。

そして、マジェコンヌはその斧をネプギアの眼前で振り上げて見せた。それはまだ戦いに不慣れなネプギアに、恐怖感を煽って動きを奪うなら十分な効果を発揮していた。

 

「ッ!テメェ・・・ふざけてんじゃねえぞ・・・。ッ!」

 

俺はすぐにネプギアの方へ走ろうとしたが、背後の殺気に気づいてそっちに向き直りながら剣を左からの水平に振って何かを弾き返す。

 

「おいおい・・・こっちにいるのも忘れてもらっちゃあ困るぜ?女神たちを倒すのはマジェコンヌ。んで、テメェはこの俺様が倒すんだからなァ」

 

「クソッ・・・邪魔すんじゃねえ・・・!」

 

弾いたものはテルミが飛ばしてきた『ウロボロス』で、テルミはさも楽しそうにこっちにニヤついた顔を見せてきた。

仕方がないので俺はテルミの方へ走り、剣を上から縦に振り下ろし、テルミはそれを左手に取り出したバタフライナイフを上から縦に振り下ろして受け流す。

受け流されても負けじと、俺はもう一度剣を振りかぶって上から縦に振り下ろす。それに対してテルミは右手にもバタフライナイフを取り出し、二つのバタフライナイフで交差させながら押し付けるようにそれを防いだ。

 

「ヒヒヒ・・・。なぁラグナちゃん・・・教えてくんねえかな。テメェにとってあの嬢ちゃんはどっちなんだ?」

 

「ああ?何があってもネプギアはネプギアだろ?・・・俺はお前はこうだなんて言うつもりはねえよ」

 

訊いてくるテルミに対して、俺は誤魔化そうとばかりにネプギアの言ったことをほぼまんまテルミに返した。

正直なところ、答えを出していいのかわからなかった。確かに『あいつ』が持つ気配は非常に強くなっているが、それでもネプギアはネプギアだ。

それに、あいつはネプギアとして皆のところに帰ると言った以上、俺がどんな見識を持っていてもネプギアの決意は変わらないだろうと思うが、ここでそれを妨げてしまう事を言う方が野暮ってもんだ。

テルミはそれを訊いて「どこまで続くかね?」と問いかけながら嗤った。それには何も答えず、俺は剣に体重をかけていく。

 

「此のままではいかんな・・・少年、少女の事を頼めるか?」

 

「分かった!そっちは頼んだぜッ!」

 

「悪いが、そう簡単に行かせることは出来ないな」

 

俺がすぐに行くことは無理だと判断した二人は、俺の代わりにネプギアの方へ走ろうとするが、レリウスは左指で音を鳴らしてから、自分の背に隠してある機械の腕二つでハクメンに殴りかかり、レリウスに呼ばれたイグニスは左手をドリルに変形させてナオトに突き立てる。

それに対してハクメンは『斬魔・鳴神』を斜めに二回振るうことで弾き返し、ナオトはイグニスの左側をくぐるようにして避けた。

 

「あっぶねえッ!やっぱ目的の為なら手加減なしかよチクショウッ!」

 

「貴様・・・あくまで此方の足を止めると言う事か・・・!」

 

「観察ならばこうしながらでもできるのでな」

 

ナオトは愚痴をこぼしながら体制を整え、ハクメンは怒気の籠った声で『斬魔・鳴神』を構え直す。

対するレリウスはあくまでもそこまでと言う旨を嘲笑するような、或いは自嘲しているかのような笑みを見せながら答えた。

元々研究者であるレリウスがここまで戦える方がトンでもねえ話だが、それでも納得してねえんだからヤバいったらありゃしない。

 

「レリウス、手早く終わらせるから少しの間頼むぞ」

 

「ああ。そちらも手際よくな」

 

そう言ってマジェコンヌは一度降ろしていた斧を振り上げ直し、レリウスはイグニスに構えを取らせて迎撃の準備を済ませる。

先程の影響で動けないでいたネプギアはその場から脱することができてなく、俺たちが足止めを受けたこと。奴らにとって変身してない候補生は大した障害にはならないという認識であるのか、三人を全く気にも止めていない。つまりはほぼ助けられる手段が無かった。

 

「やめて・・・!」

 

「・・・あ?」

 

マジェコンヌがその斧を振り下ろそうとした時、ロムが勇気を振り絞って制止の声を掛けたことでマジェコンヌはそっちを振り向いた。

ただし、斧を振り上げたままである為、どの道動こうとすればすぐに振り下ろされてしまう可能性が高い。

 

「ネプギアに酷いことしないで・・・!」

 

「・・・ハッ!ガキはおしゃぶりでも咥えてなッ!」

 

ラムも懇願するように、或いは注意を引く為にマジェコンヌに言うが、マジェコンヌは全く気にも留める事無く言葉を投げつけてからネプギアの方へ顔を戻した。

そして、その振り上げていた斧を、マジェコンヌは遂に振り下ろした。

 

「オラッ!どうだッ!」

 

「あぁっ!いやっ!兄さま・・・!」

 

一撃、また一撃と。マジェコンヌは斧を振り上げては振り下ろすを連続で行い、ネプギアを痛めつける。

 

「「っ・・・!」」

 

「ほう・・・此の乱れ具合は中々のものだな・・・」

 

レリウスはその様子に気付き、興味を持った眼でちらりとそれを見やる。

マジェコンヌが斧で叩きつける瞬間、恐怖感と、その光景を見ていられないという気持ちが重なったロムとラムは思わず目を瞑ってしまう。

 

「・・・ッ!サヤッ!」

 

「おいおい・・・俺様を前に余所見してる暇あんのか?」

 

『兄さま』呼びが聞こえた俺は思わずもう片方の呼び方をすると同時に、首をそっちに回してしまう。

その時に体重をかける量を緩めてしまい、俺はテルミに剣ごと押し返される。

 

「行くぞぉ・・・轟牙双天刃(ごうがそうてんじん)ッ!」

 

「グアァ・・・!」

 

テルミは両足に碧い炎のようなものを纏わせ、左右の順番で体を右に回しながら連続で俺を蹴り上げる。

俺は押し返されてから体制を立て直すのに遅れ、それをまともに受けてしまい、上に吹っ飛ばされる。

 

「ぐうぅ・・・!」

 

「ああ・・・やっぱり全力じゃねえとそんなもんだよな・・・」

 

俺が咄嗟に受け身を取って体制を立て直したのを見て、テルミは首を横に振りながら呟いた。

一先ず追撃が来なかったのはいいのだが、問題はそこではなく、俺が全員から距離を離されてしまったことにある。

これではネプギアを救援するにも遠く、誰かの元へ加勢しようにもテルミに割り込まれる・・・。つまるところ分断されたことになる。

 

「どうした?そろそろ弱って来たのか?」

 

「うぅっ・・・あぅ・・・っ!」

 

そんな間にも、マジェコンヌの攻撃は続いていて、ネプギアは攻撃を受け続けたせいで弱り始めていた。

助けにいこうとしたが、テルミは回り込むようにこっちに立ちはだかった。

これでは本当に間に合わなくなる・・・そう危惧した時、ロムとラムが何かを決めたような素振りを見せた。

 

「私・・・あの人嫌い・・・」

 

「うん・・・私も大っ嫌い!」

 

マジェコンヌへの敵意を確認しあった二人は手を重ねあう。

 

「やっつける・・・!」

 

「私たち二人で・・・!」

 

「・・・?」

 

そして、二人が互いにマジェコンヌを打つという決意を固めた瞬間、二人の体が光に包まれる。

ネプギアに攻撃を加えていたマジェコンヌのみならず、この場にいた俺たち全員は思わずそっちに目を向ける。

光が消えると、二人の格好は白を基調としたレオタードに変わっていた。

差異がある点として、ロムは右側が長い水色の髪、ラムは左側が長い桃色の髪になっていて、手に持っている杖はロムが右手、ラムは左手に持っていた。

 

「絶対許さない・・・」

 

「覚悟しなさい・・・!」

 

「ロム・・・ラム・・・できるようになったのね・・・」

 

二人は変身を成し遂げた。ネプギアがパープルシスターなので、この二人はそれぞれホワイトシスター・ロム。ホワイトシスター・ラムで合っているのだろう。

妹の晴れ姿と言ってもいいその姿を見たブランは安心した笑みを見せた。

 

「ん?また変身か・・・」

 

「どした?そろそろ使うか?」

 

「いや、それはまだいい。三人ならばいくらでも対処できる」

 

テルミがマジェコンヌに問うが、マジェコンヌは自信をもってそれを断った。

三人でも平気っていうそのセリフは俺たちを悩ませるには十分なものであった。

となれば、四人ならやりようは出てくるが、その際テルミの『碧の魔導書』をどう抑えるかが課題になる。

だが、そんな先のことはなるようにやるしかない。今は現状が大切だった。

 

「ネプギアーっ!そこから離れてーっ!」

 

「なっ・・・!貴様ッ!」

 

ロムと一緒に上空へと上ったラムがネプギアに呼びかけ、それを聞いたネプギアは素早く起き上がりながら頷き、即座に距離を離す。

マジェコンヌはネプギアが起き上がった辺りでそのことに気づき、慌てて斧を振り下ろすが、間に合わずに地面を叩きつける形となる。

 

「「アイスコフィンッ!」」

 

二人はマジェコンヌに向けながら互いの杖を重ね、それぞれが持つ杖の先端の間に大きめな氷の塊を作り上げ、それをマジェコンヌに向けて飛ばした。

 

「っ・・・ぐおぉッ!?」

 

「「やったー!」」

 

放たれた氷塊はマジェコンヌに直撃し、当たった場所を中心に土煙を起こす。

それを見て勝ったと思った二人は空いてる方の手を重ね合わせて喜んだ。

ただ、それでもテルミとレリウスが対して動じるような事がないため、この二人の近くにいた俺たちは一切油断ができなかった。

 

「・・・?」

 

「どうした?終わりならば、次はお返しをさせてもらおうか」

 

煙が晴れていくと、ロムとラムは違和感に気づき、見えてくるものを注視する。

そこには全く傷を負ってないマジェコンヌがいて、余裕を持って問いかけたマジェコンヌは二人を待たずに武器を変える。

今度はノワールが使っている剣に形を変えた。

 

「レイシーズダンスッ!」

 

「「きゃあああああっ!」」

 

マジェコンヌは二人に対して数回の蹴りによる連携をぶつけてから、剣を横一線に振り払う。

それによって二人は吹き飛ばされてしまうものの、二人で協力しあってどうにか体制を立て直す。

 

「そうだな・・・貴様ら妹たちに絶望を与えるのもいいが、逆にお前たちを苦しめ、あの四人に更なる苦痛を与えるのもまた良かろう・・・」

 

顎に手を当てながら呟いたマジェコンヌは、翼の近くに浮いている無数の黒いひし形の何かを、自分の周囲から変身している候補生の元へと送り飛ばした。

 

「覚悟はいいか?では・・・蹂躙の時間だ」

 

マジェコンヌはそのひし形のものの内、一つの先端から、ロムとラムに向けて赤いエネルギーの弾を放つ。

 

「・・・きゃあっ!?」

 

予想外の攻撃に反応が遅れたロムとラムは慌てて赤い防御方陣を張るが、十分な防御力を確保できず、方陣を貫通されて攻撃を受けてしまう。

 

「ロムちゃん・・・っ!ラムちゃん・・・っ!」

 

更に、残ったひし形のものは全て二人の危機に気を取られたネプギアへと回された。

それに気づいたネプギアは、自身の持つ銃剣からビームを撃ってひし形のものの迎撃を試みが、的が小さすぎて不規則に動くのものもあって、当てられないでいた。

そのことに焦っている間に、ひし形のものの一つがエネルギーの弾を撃ち、それがネプギアの左肩に当たる。

 

「あぅぅ・・・!」

 

「フフフ・・・どうだ?避けるので精一杯・・・下手に反撃したり、防ごうとすれば当たるだろう?」

 

マジェコンヌは更にひし形のものを半々に分けて、ランダムに候補生を撃たせて行く。

ネプギアたちはどうにかして打開しようとするものの、迂闊に手を打とうとすれば横からひし形のものの一つに妨害され、手出しができないでいた。

 

「おお・・・ありゃすげえな。正に弱いもの苛めって感じで可哀想だなぁ・・・ケヒヒッ!」

 

「クソ・・・こっからじゃアレを叩き落せねえッ!」

 

テルミはそれを愉しそうに眺め、俺は焦りの色を隠せないままそのひし形のものを目で追っていた。

低空であれば止められただろうものも、空に飛ばれてしまってはどうしようもない。術式操作で無理矢理飛ぼうものなら、そこから離れさせるのが目に見えていた。

 

「私の『鳴神』で斬れさえすれば・・・まだ望みはあるか・・・!」

 

ハクメンは自身の武器に活路を見出してひし形のものの一つを狙い、ある程度動きを予想して飛んだ。

斬ったものの刻を殺す『斬魔・鳴神』なら、確かに望みはあるはずだ。

 

「なら・・・俺がこっちを止めれば!」

 

「残念だが、こう言うこともできるのだよ・・・。ベル・ラフィーノ」

 

「・・・クソッ!んなのアリかよ・・・!」

 

レリウスは左指を鳴らしてイグニスに指示を与え、それを受けたイグニスは専用の空間で即座にハクメンの頭上を陣取った。

そのこともあって、ナオトが放った左足の蹴りは、イグニスがその瞬間に消えてしまったので空を切った。

それを目の当たりにしたナオトはイグニスを探しながら歯嚙みする。

 

「何・・・?ぬぅ・・・!?」

 

ハクメンは突如目の前に現れたイグニスに驚き、動きが一瞬止まる。

イグニスは現れるや否、即座に自身の足をドリルに変形させ、それを回転させながらハクメンへと降下していった。

対するハクメンは、『斬魔・鳴神』で防ぎながら押し合いに負けぬように踏ん張りを入れた。

 

「いいねえ。楽しくなってきたぜェ・・・!さあ、ラグナちゃん。この場をどうやって切り抜けるよ・・・ケヒヒヒヒッ!」

 

テルミは両腕を大きく広げながら問いかけてきた。ナインがまだこっちに来てないと言う状況下で、いい案が出ない俺は歯嚙みをするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・・」

 

この危機的な状況で、マジェコンヌに狙いを付けているユニは手元が震えていた。

一つはマジェコンヌの見せた圧倒的な力への恐怖感。二つ目は自身が殆ど何もできていないという無力感。

 

「(アタシだけ変身できないなんて・・・お姉ちゃんだって見てるのに・・・)」

 

三つ目は自分だけ変身がまだできていないという劣等感から来る焦りだった。

今まで、姉の仕事を手伝いながら自分のできるところを見てもらいたいと頑張っていたユニではあるが、最大の成果とも言える変身が一人だけ出来てないという事が、姉に認めて貰えないのではないかという不安になっていた。

そして、そこまで考えていたユニは、一つの間違いに気付く。

 

「(・・・何でアタシ、お姉ちゃんのことばっかり考えてるの?)」

 

今大事なのは姉からの評価ではなく、マジェコンヌたちを撃退してみんなを助けることにあった。

マジェコンヌはそんな間にも自身の周囲にひし形のものを集めながら移動を始め、ネプギアに猛攻を仕掛ける。

 

「くぅ・・・っ!」

 

ネプギアは距離を詰めながら放たれる攻撃を避けきれず、エネルギーの弾のいくつかをもらってしまう。

自身の異変もあって、誰よりも大変な思いをしているであろうネプギアは大切な人を助けたいという一心で頑張り、傷ついているというのに、自分は何を考えているのだろう。ユニはこんな時にも評価を気にした自分を殴りたくなった。

そして、ユニは変身ができない自分を、ゲイムギョウ界に来たばかりの『蒼炎の書』が封じられていたラグナに見立てることで、一つの結論を出した。

 

「(できないならできないなりに・・・できることをすればいい・・・!それなら!)」

 

効かなくても、弾を当てて注意を引き付けよう。そう考えたユニはマジェコンヌにもう一度狙いを付け直し、ライフルを連射する。

今回は実弾ではなく、専用の高威力が出るビームの弾をマジェコンヌに向けて撃ち込んでいく。

 

「当たれ・・・当たれ当たれーっ!」

 

「ユニ・・・」

 

マジェコンヌはひらりと次々に避けて行くが、それでも構わずユニはとにかく弾を撃ち続ける。

その姿を見たノワールは、変身ができずにやけになったのかと心配したが、それと同時にユニもできるはずという期待が残っていた。

そして、何発も撃ち続けている内に、ひし形のものの一つに弾が当たり、それは爆発を起こした。

 

「・・・何?」

 

「・・・よしっ!」

 

戦力外として見ていた自分の評価が甘かったか?女神でもない相手に被弾を許したマジェコンヌはイラ立ちを見せ、自分にもできることがあると分かったユニは僅かに喜び、それが自信に繋がった。

まずはひし形のものを撃ち落とす。そう決めたユニは落ち着いて狙いをつけ、一発撃っては正確にひし形のものに当てていった。

 

「あのガキ・・・思ったよりもやるじゃねえか。けどまぁ、変身できてねえなら俺様がサクッとやっちまえば・・・」

 

「テルミ・・・さっきの余所見がどうこうってのを、そのまんま返してやるぜ!」

 

「・・・何?」

 

テルミはユニに目をつけ、無防備となっているユニに『ウロボロス』を飛ばそうとしたが、一瞬だけラグナのことを思考から離してしまい、ラグナの攻撃に反応が遅れた。

 

「掻っ捌くッ!」

 

「ぬおぉッ!?」

 

ラグナは飛びあがりながら、黒い炎のようなものを纏わせた状態の剣を右から斜めに振り上げる。

テルミは青い防御方陣を展開して防ぐものの、時間が間に合わず、ラグナに打ち上げられる形でラグナと共に上空へと飛ぶ。

 

「ブチ撒けろぉッ!」

 

「ガアァ・・・ッ!」

 

ラグナは剣をしまいながら術式の応用で空中制御をし、右腕でテルミの腹辺りを殴りつける。

まともな防御態勢を取ることができなかったテルミは、地面へと叩きつけられてしまった。

 

「テメェ・・・やるじゃねえか・・・」

 

「とりあえず、一回には一回だ」

 

テルミは起き上がりながらラグナに言うが、ラグナはそこまで気にしてはいなかった。

それよりも、ユニが上手くやれるかどうかが気になって仕方ないでいた。

 

「(そうよユニ・・・。今は標的に集中するの。大丈夫、やれる・・・)」

 

ユニは一度深呼吸をしてからマジェコンヌに狙いをつけ直し、再びライフルによる射撃を敢行する。

それは次々とマジェコンヌに当たっていき、僅かながらにダメージを与えていった。

そして、できることをやると決めたユニにもその時は訪れ、彼女の身体も光に包まれる。

光が消えると、そこには白い髪を二つのロールで纏め、黒いレオタードの格好をしていて、先程よりも巨大な武器・・・ライフルというよりは最早ランチャーと言った方がいい武器を持った少女・・・変身を完了したユニがそこにいた。

 

「エクスマルチブラスターッ!」

 

「ぬあぁぁぁッ!?」

 

ユニはマジェコンヌに向け、先程とは比べ物にならない威力をしたビームを撃つ。

それはマジェコンヌの肩に当たり、予想以上の高威力にマジェコンヌは吹き飛ばされてしまった。

どうにか体制を立て直し、自分を撃ったものの正体を確認したマジェコンヌは流石に焦りを見せた。まさかこんな短時間で全員が変身をものにすると思わなかったからだ。

 

「もう迷いなんてない・・・あるのは覚悟だけよ・・・!」

 

「ユニちゃん・・・カッコイイ・・・!」

 

「・・・えっ?」

 

自分が切った啖呵をネプギアに称賛されたことで、ユニはようやく自分の異変に気づいた。

自分の武器と左手を見てみて、普段と違う姿であることから、ユニはここで自分が変身できたことを認識できたのだった。

 

「やったね、ユニちゃんっ!」

 

「すごーい・・・!」

 

「ま、まあ当然よね!それに、主役は遅れて登場するっていうし・・・」

 

ラムはユニが変身できたことに喜び、ロムは嬉しくて称賛をする。

友人が待ってくれていた嬉しさと、変身ができたことへの嬉しさの二つが重なり、どうにか抑えようと思ったユニは照れながら余裕そうな言葉をわざとらしくいう。

 

「うん。すごいよ、ユニちゃん」

 

ただ、それを真に受けて褒めてくるネプギアを見て、ユニはどうしたらいいのかと困惑しながら照れた笑みを見せるのだった。

 

「ユニ・・・よくやったわね」

 

「ええ・・・皆さん、凄いですわ・・・」

 

その姿を見たノワールは安心した笑みを見せ、それに同意したベールが候補生を称賛する。

望みは消えていない。それが分かった四人は、身動きができない中でも確かな希望を胸に持つことができた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ま、まさか全員が変身をできるようになるとはな・・・」

 

「全く、んな都合のいい展開は『化け猫』混ざりに抑えてくれよ・・・。しょうがねえからアレ使うぞ?」

 

マジェコンヌとテルミは目の前の事態に思わず愚痴をこぼした。確かに、俺もこいつらだったらそうなるだろうな。

 

「頼む・・・。レリウス、その二人なら抑えられるか?」

 

「ああ。可能だ」

 

「なら始めよう。テルミ、頼むぞ」

 

「おうよ!」

 

三人は短く話を済ませ、テルミは頭上で両腕を交差させる動きを見せた。

 

「第666拘束機関開放・・・次元干渉虚数方陣展開・・・!」

 

『・・・!』

 

俺たちはテルミの行動を見て反射的に目を向ける。アレが起動されたら俺はある程度何とかなるようになったが、候補生の四人は確実に動きが悪くなって非常に危険だ。

 

「この野郎・・・!そいつは使わせねえぞ!」

 

俺は剣を引き抜くと同時にテルミの方へ走るが目の前に突如槍のような武器が飛んできて、俺は反射的に飛びのいた。

 

「悪いが、この先は通行止めだ」

 

「・・・この魔女野郎が・・・!」

 

マジェコンヌは余裕そうな顔で宣言してきて、俺は苦虫を嚙み潰したような顔で吐き捨てた。

どうやらマジェコンヌは大立ち回りで俺たちを止めるつもりらしい。

 

「っ!みんな、今なら・・・」

 

「そうはさせんッ!」

 

自分たちがフリーになったことでハッとしたユニが候補生三人に呼びかけ、テルミを撃とうとしたが、マジェコンヌは槍のような武器を候補生の方に投げつけながらそっちへ飛んでいく。

飛んできた武器に当たればただ事じゃないとみた候補生たちは、慌ててそれを避ける。

そして、間を縫うように通り過ぎたマジェコンヌは投げた武器に追いついてそれを掴んだ。

 

「何よそれっ!?」

 

「残念だったな・・・もう時間だ」

 

焦るラムを尻目に、マジェコンヌはテルミを見やりながら無慈悲な宣告を告げた。

 

「コードS・O・L!」

 

「不味い・・・此れでは間に合わんッ!」

 

「クソがぁ・・・!まだ終わったわけじゃねえぞッ!」

 

イグニスと『斬魔・鳴神』で押し合いになっているハクメンが焦りの色を見せ、ナオトはレリウスにいなされながらも啖呵を切っていた。

そして、無情にもその時はやってきた。

 

「『碧の魔導書(ブレイブルー)』、起動ッ!」

 

「グァ・・・!」

 

『あぅ・・・っ!』

 

テルミが腕を下に振り下ろし、碧いサークルが奴の周囲に短時間で現れたことで起動を完了したと同時に、俺と候補生の四人は体に重みがかかったような感覚に襲われた。

これを見た限り、ハクメンとナオトはまだ平気らしい。それならばまだレリウスは止めてもらえる筈・・・。だったらテルミをどうにかしよう。そこまで考えた俺は体が重い中、右腕を腕の高さまで持ってくる。

 

「第666拘束機関開放・・・次元干渉虚数方陣展開!」

 

「おいおい何だ?『蒼炎の書(ソレ)』使って俺様に負けたことを忘れたか?まあいいや・・・とりあえず、無防備晒すんならそのまま死になッ!」

 

テルミは一瞬首を傾げたが、その思考を破棄して俺に『ウロボロス』を飛ばそうと構えた。

 

「そうはさせないわよ・・・果てなき真紅の襲撃(クリムゾンレイダー)ッ!」

 

「・・・うおぉっ!?」

 

だが、その瞬間にテルミの斜め上から迫ってくる爆炎が見え、テルミは前へくぐるように慌てて避けた。

その炎が周囲を巻き込まないように霧散すると、そこからナインが現れた。

 

「待たせたわね・・・。全員が変身できてるようで何よりよ」

 

ナインはネプギアたちを見て、簡単な言葉で褒めて微笑みを見せた。

また、捕らわれている四人はナインが来たことでちゃんと戻って来てくれたと安堵した。

 

「何だぁ?俺を殺すのは自分がやるってか?」

 

「今のは時間稼ぎのやり返しよ・・・。さあ、見せてみなさいラグナ。あんたの持つ、呆れるくらいにある諦めの悪さを!」

 

テルミは怪訝そうにナインを見据えるが、ナインはそれなりに余裕を持って答え、俺に呼び掛けてきた。

 

「おう!『イデア機関』接続!」

 

「・・・はぁッ!?」

 

テルミは俺の発言に素っ頓狂な声を上げる。ここまで『イデア機関』のことを黙っていた結果が功を奏した。

そして、右手の甲と足元からいつものように蒼い螺旋が出始めた。後はそれを解き放つだけだ。

 

「『蒼炎の書(ブレイブルー)』・・・起動ッ!」

 

俺の右手の甲から蒼い方陣が出ると同時に、今までにない勢いで蒼い螺旋が空へと昇って行った。

それが消えると同時に起動は完了し、俺から体の重みは消えていた。

 

「テルミ・・・こっからが本番だぜ・・・」

 

「上等だ・・・やれるもんならやってみなッ!」

 

変身ができるようになった四人に、限定的ながら『イデア機関』を再び使える俺。そして、奥に控えるセリカとミネルヴァ・・・。

これらを交えた総力戦が始まろうとしていた。




とりあえず全員の変身が完了しました。
前書きでも言った通り本当に字数がヤバいです・・・その数約21000文字(笑)。

ブレイブルーの最新作でまた新しいキャラが来ましたね。
ブレイブルー側はプラチナが決まりました。六英雄勢でハクメンを差し置いて参戦するとは・・・ロリは正義ってことなんでしょうか?


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30話 邂逅の時

遅くなって申し訳ありません!リアルで教習所の試験を受けていたため、ごたついていました。
余り長話するのも難ですから、早速本編をどうぞ。


「ベリアルエッジッ!」

 

「おっと!」

 

俺はテルミの頭上を陣取り、剣に黒い炎のようなものを纏わせながら、術式の応用による空中制御でそのままテルミに突っこんでいく。

対するテルミは特に迎撃をすることはせず、避けたところを攻めるつもりなのだろうか、後ろに飛びのいて攻撃を避けた。

攻撃を外した隙を突く為にテルミは一度距離を詰め直してから墜衝牙を放ち、俺は剣を下から上に振り上げ、テルミの攻撃にぶつけることで防いだ。

そこから即座にテルミは右足に碧い炎のようなものを纏わせた蹴りを放ち、俺も同じタイミングで黒い炎のようなものを纏わせた剣を上から縦に振り下ろす。

 

 

蛇烙(じゃらく)・・・閻獄穿(えんごくせん)ッ!」

 

「シードオブタルタロスッ!」

 

俺は剣を鎌に変形させて刃の付け根部の先端から血の色をしたエネルギーの刃を発生させ、それを左から水平に思いっきり振るう。

テルミはそれに合わせて、地面から、蛇の頭を形どった碧い炎のようなものを自分の眼前に入るように飛ばす。

俺が鎌を振るったことで出てきた三つの三日月状の刃と、テルミが放った蛇の頭が激突し、俺たちの間で小さい爆発を起こし、それによって発生した煙が俺とテルミの視界を覆った。

そして、煙が晴れるとお互いに無傷な相手を確認することができた。

 

「テメェ・・・『イデア機関』はぶっ壊れてたんじゃねえのかよ?」

 

「突貫工事で直したよ・・・テメェをブッ飛ばして、あいつらを助ける為にな」

 

イラつきながら訊いてくるテルミに、俺はニヤリ顔で答える。

何発か飛ばし気味に打ち合ってみたが、体の方は全く問題ない。寧ろもう少し飛ばしてくらいだった。

 

「・・・突貫工事だぁ?どういうことだテメェ・・・。こっちにココノエはいねぇだろうが・・・」

 

「あら?私を忘れたのかしら?『イデア機関(それ)』はココノエが作った模倣事象兵器。なら、その元になった事象兵器(アークエネミー)を作った私が直せてもおかしくは無いでしょう?」

 

「・・・あ~マジか。そういやそうだったわ・・・めんどくせえことしてくれやがったな・・・!」

 

テルミの持った疑問にはナインがニヤリとした笑みを浮かべて答え、それを聞いたテルミは舌打ちをしてイラつきを露わにする。

 

「・・・ん?貴様・・・魔女の見た目では私とキャラが被るではないか・・・」

 

「よく分からない言いがかりね・・・まあいいわ。ご指名されたのならお相手しましょうか」

 

ナインの見た目と、変身をする前のマジェコンヌの見た目はどちらも魔女のようなものであり、確かに外見だけだったら被るだろうな。

そして、当然ながらこの世界に来てから日が浅いナインがマジェコンヌのノリを理解できるわけはないが、挑まれたからには全力で追い返す事をナインは選択した。

 

「あなたたち、加勢するわよ」

 

「すみません、ありがとうございます!」

 

「五人でかかれば、流石に何とかなるでしょっ!」

 

ナインの加勢宣言に対し、ネプギアは例を言ってラムは希望を見出す。

 

「一人増えたか・・・まあいい。増えたところで捻り潰すまでだからなッ!」

 

マジェコンヌは武器を構え直してからネプギアたちの方へと向かって行く。

対するネプギアたちが武器を構えて迎撃の体制を整えたことで、向こうも戦いが始まった。

 

「さて・・・直った『イデア機関(こいつ)』の勝手も分かってきたし、そろそろ行くか・・・!ブラッドカインッ!」

 

俺は両腕を一度腰辺りで交差させ、そこから一気に両腕を外側へ振る。

この時、俺の体の中心辺りから黒い炎のようなものが小爆発したかのように飛び散った。

 

「さあテルミ・・・覚悟はできてんな?さっきまでの借りを倍にして返してやるぜッ!」

 

「冗談も体外にしやがれッ!『エンブリオ』の時とはワケが違う・・・今度こそ勝つのは俺様だァッ!」

 

俺とテルミはそれぞれの武器を構え、互いに相手へ距離を詰めていった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「予定通りっちゅかね。後はオバハンたちが上手くやれるといいっちゅが・・・」

 

ワレチューは手に持っていたデジタル時計で時間を確認してから一度懐にしまい、そのまま術式通信の端末を取り出そうとして止めた。

今までの不調が治った万全のラグナがテルミと一対一で対決、レリウスがハクメンとナオトという少年を相手に凌ぎきる戦い、極めつけにはマジェコンヌが候補生の四人とナインを相手に大立ち回りをしているのが見え、邪魔することになると判断したからだ。

そのため、ワレチューは通信を諦め、念のためにとレリウスが用意してくれた異常感知用の端末を取り出して確認する。

 

「反応は無し・・・ちゃんと動いてるか不安っちゅねえ・・・」

 

これはレリウスやテルミのように、別の世界から誰かが来たら反応するように作ってはいるが、如何せん情報不足で作った急造品だから期待するなよとは言われていた。

そのため、ワレチューは動いてるかどうかが分からず首を傾げることになっていた。

 

「まあ、動いたら動いたで良しとして・・・退散の準備を始めておくっちゅかね」

 

ワレチューは一度端末をしまい、荷物を纏め始める。彼らは元々、それぞれが目的を果たしたら。または万が一のことがあったら各々の判断で退散するように決めてあり、ワレチューは依頼分を果たすという目的を終えている為、前者の理由で退散を決めたのだ。

そうしてワレチューが荷物を纏めている最中に、アイエフたちはワレチューから一番近い物陰に隠れることができた。

しかも運のいいことに、ワレチューから見たらアイエフたちは背後を陣取ることができ、奇襲してワレチューを無力化するもよし、またはワレチューを無視して回り込むこともよしという状況を作れた。

 

「とりあえず後ろ向いててくれて良かったわね・・・」

 

ワレチューがこっちに気づいてないことにアイエフは心底安堵した。イストワールの伝言を伝えてる最中にテルミたちを呼ばれたりでもしたら堪ったものではないからだ。

 

「これからどうするですか?」

 

「そうね・・・」

 

コンパに訊かれてアイエフは顎に手を当てて考える。

一つは思いついたのだが、それは確証が得られないので実行しようか迷うものだった。

 

「一つ思いついたんだけど、どうしても決め手に欠けるの。あのネズミをそれで止められる保証がなくてね・・・」

 

「アイちゃん。それはどんな方法ですか?」

 

顎に手を当てながら自分の心境を伝えると、コンパは迷いなく訊いてきた。

どうやら悩むくらいなら教えて欲しいようだ。コンパの意を理解したアイエフは決意してコンパに話すことを選んだ。

 

「実は・・・コンパには、あのネズミに話しかけて注意を引いて欲しいの」

 

「えっ?そんなことだけで大丈夫ですか?」

 

真剣な表情なアイエフから予想以上に簡単な事を頼まれたので、コンパは拍子抜けしたような驚きをして訊き返した。

 

「それだけだけど、思った以上に重要なことよ?何せ私がみんなに伝え終わるまで持たせなきゃいけないんだから・・・」

 

戸惑っているコンパにアイエフは事の重要性を話すと、コンパはそこでハッとする。

確かに聞いただけであればとても簡単な事ではあるが、いざ実行しようとなれば非常に難しいものに変わる。

しかも失敗すればアイエフの身に危険が及んだり、ネプテューヌたちを本当に助けられなくなる危険性が出てくるので、失敗は許されない。

 

「わかったです。それなら、私も頑張るです・・・でも何を話せばいいです?」

 

「そうね・・・とにかく、あいつと長く話せる内容がいいわね。コンパが医療系の仕事してるんだから、それを使ってもいいし・・・」

 

《或いは、あのネズミからあの同盟結成の流れを訊いてみるのもいいかもしれないわね》

 

重要さがよく分かったコンパは柔らかい笑みを見せて承諾するが、具体案が無かった為アイエフに訊いてみた。

素で訊いて来ているのが分かったアイエフは一つ案を出し、そこにラケルがもう一つ案を出す。それを聞いたコンパは「なるほど」と呟きながら頷いた。とにかく話が続けられるように話題を見つければよさそうだ。

 

「それなら大丈夫そうです」

 

「なら良かった・・・それじゃあお願いね」

 

「はいです。ちょっと行ってくるです」

 

話が決まり、コンパは崖から身を出して前に出て、一度深呼吸をする。

 

「あ、あの・・・ネズミさん」

 

「んぢゅーっ!?」

 

―自分のことを呼ぶ天使は誰だ!?ワレチューが思わず声のする方を振り向くと、そこにはコンパがいた。

コンパ自身は何やら緊張している様子だが、声をかけられて舞い上がっているワレチューには一切関係がなかった。

 

「い、一緒に・・・いっぱい、お話ししないですか?・・・あっちで」

 

「おっぱ・・・!?おっぱいい話しっちゅかっ!?」

 

「はいですっ♪」

 

コンパはアイエフたちから引き離せる場所の方を指さす。

わざわざそんなことの為だけに来たのが信じられないワレチューは思わず空耳混じりで聞き返すものの、コンパはそんなことを気にも留めず満面の笑みで肯定した。

それからコンパは回れ右をし、「じゃあ、こっちです」と指さしながら歩いて行く。

 

「こっ・・・コンパちゅわぁ~んっ!」

 

コンパとお話ができると言う嬉しさのあまり、完全に舞い上がったワレチューは周りの警戒など一切せず、荷物を積めたリュックを背負ってコンパを追いかけた。

そのため、すぐそばにいたアイエフとラケルは、いともあっさりワレチューのマークをクリアしてしまったのだった。

 

「拍子抜けするけど・・・行きましょうか」

 

《ええ。急ぎましょう》

 

呆れ半分にワレチューを見送ったが、今はそれどころでは無いので、アイエフとラケルは急いで四人の元へと走った。

近づいてみると、結界の底から黒い水が溜まっているのがよく分かった。

 

「昨日はあんなの無かったわよね?」

 

《ええ。昨日は何もなかったわね・・・ということは、これが奴らの本命と見ていいわね》

 

アイエフの問いに肯定しながら、ラケルは自分の考えを示した。

もしラケルの予想通りであれば近いうちに手遅れになるのは目に見えていた。

であれば急ぐしかない・・・。アイエフはそのまま結界に密着して中の様子を確認すると、昨日と同じ姿勢のまま女神たちが拘束されているのが確認できた。

 

「ネプ子っ!」

 

「・・・アイちゃんっ!」

 

自分の声が聞こえるかどうかを確認するため、中にいるネプテューヌを呼んでみると、自分のことに気づいて喜びの声を上げた。

また、他の女神たちもアイエフの方を振り向いているため、全員に聞こえることが分かった。

 

「イストワール様から伝言を預かってるの・・・聞いてもらえる?」

 

アイエフの問いに、ネプテューヌが真剣な表情になって迷わず頷いた。

それによって問題ないと判断したアイエフは、携帯端末を操作してホログラフィックのイストワールを映し出した。

 

『皆さん。大変なことがわかりました・・・アンチクリスタルの力は、シェアクリスタルから皆さんのリンクを邪魔するだけではないようです』

 

『・・・!?』

 

イストワールの言葉に四人は衝撃を受ける。こちらの力を無力化するだけじゃなく、他にもあると言う事実が、彼女たちの不安を煽ったのだった。

 

『アンチクリスタルは、行き場の失ったシェアエナジーをアンチエナジーと言うものに変える働きもあるようで・・・密度の濃いアンチエナジーは、女神の命を奪うと言われています』

 

映し出されているイストワールが言葉を続けている最中に変化は起きた。

結界の底に溜まった黒い水が一定以上の量を溜めこんだのか、その水の中から黒い腕のようなものが幾つか現れ、彼女たちの体を掴んだ。

 

「えっ?ちょっと・・・何これ!?」

 

「わかりません・・・冷たい?」

 

その腕に掴まれたノワールとベールが困惑した声を上げる。

その腕の異様な冷たさに、彼女たちの体温は急激に奪われ始めていた。

 

「ね、ねえ・・・考えたくないんだけどさ、これがいーすんの言ってた女神を殺す・・・ってやつじゃないのかな?」

 

「・・・その可能性が高いわね。密度の高いアンチエナジーだなんて、これしか考えられない」

 

ひきつった笑みを見せながら訊くネプテューヌに、ブランは苦し紛れな顔で肯定する。

ブランの推察があっていれば、このままではいずれ死ぬ。しかし、身動きを取ろうにも一切取れない。そんな絶望的な状況が彼女たちに更なる恐怖感を与えてしまうことになった。

 

「ど・・・どうすればいいのいーす~んっ!?」

 

イストワールから聞いた話と、まるで狙っていたかのようなタイミングで現れた黒い腕。

更にそれらが次々に水の中から現れて彼女たちの体をを掴んで行くため、迫りくる死への恐怖感は更に増していく。

そんな最悪なタイミングでこうなってしまった為、ネプテューヌも涙目で叫び気味になっていた。

 

『わかりません・・・せめて、三日あれば・・・』

 

こんな時にまでいつも通りなイストワールの言葉は安心など一つもなく、「それじゃあ遅すぎるよぉっ!」とネプテューヌは思わず言いそうになるが、それをもう一つの声が遮った。

 

『お前ら気を付けろッ!こんな時に限ってまた誰か来やがるぞ!』

 

「噓でしょ・・・?ラグナ、場所はどこか分かる!?」

 

ラグナから予想外過ぎる言葉が術式通信で飛んできたので、応答だけは即時にできるアイエフがそのまま応答した。

 

「ネズミ、私がそちらに回した装置は動いているか?」

 

『動いてるっちゅよ。いきなりビービーデカい音がしたからビックリしたっちゅよ・・・』

 

念のために周りを見て見れば、レリウスやテルミも術式通信を行っており、異様な勢いの停滞に困惑したマジェコンヌですら攻撃の手を止めていた。

ネズミから動いていると言うことを聞けたレリウスは「それは良かったと」一言残した。

 

『ちょっと待ってろ・・・これさえ消えちまえばすぐに・・・!?オイオイ・・・そんなのアリかよ?』

 

「・・・?どうしたの?ハッキリ答えてっ!」

 

まるで信じられない。そんな声を発したラグナに対し、非常事態なので急いでいたアイエフ思わず強い言葉で急かした。

それを聞いたラグナは一度落ち着かせ、その位置を話すことにした。

 

『アイエフ・・・お前のほぼ真上だ』

 

『・・・!?』

 

「・・・何ですって?」

 

ラグナから告げられる緊急事態に、アイエフは耳を疑ってしまった。

―いくら何でも真上は無いだろう。今のアイエフはそんな気持ちでいっぱいだった。

ましてや昨日、ナオトが高空から落ちてきたばかりだと言うのに、これ以上誰が上から来るというのだろうか?正直なところ信じたくは無かった。

 

「ところで、凄い慌ててたけど、これから来る奴が誰だか分かってるってことなの?」

 

『ああ・・・前に外的要因が無い限りはもう平気だって、俺が言ってたのを覚えてるか?』

 

「確かに覚えているけど・・・。ちょっと待って?まさかだけど・・・!」

 

アイエフに問われたラグナが答えると、そこで気づいたアイエフは額から嫌な汗が垂れた。

ラグナの言葉で誰が来るかを予想できたナインとナオトは焦り、ハクメンは己の中からこみ上げてものをどうにか抑える。

レリウスとテルミは大方話の内容に察しを付けてニヤリとし、状況がわからないワレチューと、言いようのない何かを感じるネプギアは不安を抱えたまま警戒の体制に入った。

 

『今回来たのは・・・その外的要因だ』

 

ラグナは重々しい口を開いてアイエフの考えていたことを肯定した。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

ベッドに机、それから物入れ用の棚が置かれている簡素な部屋で、少女はそのベッドの上で横になっていた。

傷を負って見えなくなってしまったのか、包帯で右目を覆い、白い髪と左目から紅い瞳を覗かせている少女は、大切な何かを失ってしまったかのように虚ろな瞳で、ただただ目の前を見ていた。

自分がここに来る前まではあったと思うのだが、少女は何も思い出せない。思い出そうとすれば、途端に(もや)がかかって解らなくなる。

そんな風に何も得られないまま、無情にも時間が過ぎていった。その間、心に大きな穴が開いてしまった少女は、無為に時間を過ごしていった。

 

「うわ~、試食は・・・」

 

「・・・だからぁっ!」

 

窓の向こうからこの場所で自分を養ってくれている人と、その友人であろう人達の話し声が聞こえてくるが、少女は別段興味を持たなかった。

直後に開いている窓から自分の顔に風が吹き付けてくるが、まるでどうでもいいとでも言うかのように少女は動じない。

 

「(・・・何だったっけ?あんなに大切だったものは・・・)」

 

もう一度思い出そうとしたが、やはりすぐに靄がかかってしまい、今回も空振りで終わってしまった。

―また今日もこのままなのだろう。そう思っていた少女の眼前に、突如として蒼い球状の何かが現れた。

それを見たところで少女は特に驚いたりはしなかったが、蒼い球を見た瞬間に少女は大切なものを思い出し、瞳に光を取り戻す。

 

「(思い出せる・・・自分がどう思っているかも、どうしたいのかも・・・)」

 

少女は思い出した・・・いや、思い出してしまった。

自分があれだけ求めていた人のことを。そして、自分がその人とあってどうしたいかも。

狂った望みを取り戻し、ここにいるべきではないと思った少女は蒼い球に向けて、殆ど寝たきりだったせいで上手く動かない右腕を伸ばす。全ては自身の願いの為に・・・。

 

「さあラグナ・・・ニューと一つになろう・・・」

 

少女、『ν-13(ニュー・サーティーン)』はその蒼い球の先にいるであろうラグナに声をかける。

するとその言葉に呼応するかのように、蒼い球は光り始め、広がった蒼い光がニューの体を包んだ。

 

 

 

 

その光が消えた時、その部屋にニューの姿は無く、再び吹き付けた風に晒されるのは彼女が乗っていたベッドだけだった。

そしてこれは、一人の男が奮闘して創り上げた、『全ての悪夢』が消し去られた可能性に溢れる世界に起きた、確かなる異変だった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

アイエフのほぼ真上から、水色の一風変わったボディスーツの上に白が基調の薄い布を羽織っている白い髪をした少女が降りてきていた。

その少女が地面に降り立った時、アイエフとその近くにいた女神たちは少女の姿を見て息を吞んだ。

 

「っ!う、噓でしょ・・・?」

 

「・・・ネプギア・・・なの・・・?」

 

彼女たちは降りてきた少女を見てそう思わずにはいられなかった。

姿が完全に似ているわけではないのだが、纏っている雰囲気があまりにもネプギアと似すぎていたのだ。

特に、ネプギアと接する機会が多かったアイエフとネプテューヌは、その場にいた人たちの中でも大きく驚いており、思わず声に出してしまうほどだった。

少女はそんな彼女たちの声をよそに、ゆっくりと目を開ける。右目は眼帯のようなもので塞がれているので見えないが、左目はラグナによく似た紅い目をしていた。

 

「・・・・・・?」

 

自分の姿を確認した少女は戸惑いを見せた。

無理もない事だった。これは少女しか知らない事だが、彼女は先程まで白い簡素なワンピースを着ていて、右目を覆っていたのは今のように機械のものではなく、包帯だったからだ。

一通り自分の身なりの確認を終えた少女は、自分に望みを叶える力が戻ってきたことを再確認した。

そして、すぐに行動を移そうとしたが、流石に何も判らないまま動くのは良くないと判断し、周囲の状況の確認を始める。

 

「情報・・・検索・・・照合・・・ゲイムギョウ界・・・該当データ無し」

 

少女はまるで機械のように周囲の状況を探り始める。その場から一歩も動かず、首を回すこともなく、ゲイムギョウ界と自身の置かれた状況の理解に務めた。

 

「ねえ・・・なんかあの子の様子変じゃない?」

 

「そうね・・・まるで人形みたいな感じ・・・何なのかしら?」

 

ネプテューヌの持った疑問にノワールは肯定するものの、どうしてそう感じたかが分からず、考え込んだ。

 

「周辺人物確認・・・該当データと一致する存在有り。ユウキ=テルミ・・・創造主レリウス=クローバー・・・大魔導士ナイン・・・。・・・フフッそして・・・」

 

一人、また一人と機械のように無感情な声で彼女は人物の名を呟く。やがて、自分の求めていたものを口にする時が来た瞬間、少女の口元は緩み、声色は媚びるようなものに変わる。

 

「・・・ラグナ・・・。フフッ・・・」

 

「あの子もラグナが狙いなの?」

 

「一体・・・どれだけの因縁を・・・ラグナさんは抱えていらっしゃいますの?」

 

ハクメンといい、テルミといい・・・元の世界でラグナはどうしてそうなってしまったのか。予想よりも因縁を持つ相手が多すぎることにブランとベールはこれ以上考えたくないと言わんばかりに呟いた。

そして、考えている最中に、先程ノワールの持った疑問にヒントが舞い込むかのように、少女へ術式通信が入った。

 

『おい人形(・・)第十三素体(・・・・・)ッ!』

 

「・・・なに?」

 

テルミの呼びかけに、さっきまで嬉しそうにしていた少女は、一瞬で非常に不機嫌な表情になり、嫌悪感を剥き出しにして答えた。それもまるで大切なものの敵とでも言わんばかりにだった。

『人形』。そして『素体』。その呼び方の真意が分からず、ノワールたちは困惑した。

 

『テメェの愛しのラグナちゃんはこっちにいるぞぉッ!今から頼むことやってくれたら、テメェの思う存分ラグナちゃんと()り合わせてやるからよぉ・・・条件をきいてくんねえかな?』

 

「いいよ。どうすればいいの?」

 

先程まで嫌悪感が剥き出しだった声はどこへ行ったことやら。再び『第十三素体』と呼ばれた少女は嬉しそうな声を出してテルミに訊いた。

どうやらよっぽどラグナに執着しているらしい。この短時間の会話を聞いただけなのに、それが分ってしまう程少女が持つラグナへの執着心は凄まじいものであった。

 

『そりゃ話が早い・・・そんじゃあさ、その結界の中にいる四人は無視していい。すぐそばに一人いるだろ?そいつを潰しておいてくれや。終わったらそん時こそ交代だ・・・』

 

「・・・フフッ。了解」

 

テルミが出した条件を聞き、それならば容易いと判断した少女はすぐに嬉しそうな声で答えた。

そうして、やることをすぐに纏め終えた少女はアイエフの方に向き直る。

するとその直後、まるで少女に呼応するかのように彼女の背後に何かが急降下してきた。

 

「うぅ・・・っ!?」

 

その勢い良く、その何かが地面に激突したので、それによって発生する土煙に目をやられないようにアイエフは両腕で顔を覆った。

煙が晴れると、彼女の背後に降ってきたものの正体が露になっていく。

彼女の背後に降ってきたものは、白の巨大な剣のようなもの・・・だった。それを見た時、ラケルの息を吞む音が聞こえた。

 

《そんな・・・あの子も持っているの!?》

 

「何か知っているの?」

 

《ええ。以前あの子と同じものを使っている人がいたの・・・。そして、その子はナオトにご執心だったわ》

 

「・・・何の因果よそれ・・・頭が痛くなるわ・・・」

 

ラケルの話を聞いたアイエフは苦い顔をした。

確かにナオトがラグナと間違えるくらい似ているのはあったが、よもや違う世界から全く同じものが来るとは思わないだろう。

ラケルの驚き方から、それだけ想定外だったことが伺えた。

 

「・・・?アンタ、コレ知ってるの?まあいいや」

 

少女はラケルが自身の『ムラクモユニット』を知っていることに疑問を持ったが、興味が無いのでその考えをすぐに捨てた。

少女は敵を排除するために、自身の体と背後の剣のようなものを光に包んだ。

女神たちの変身とは違い、彼女を光に包んでいた時間は僅かに数瞬のみで、爆発するように光は消えた。

光が消えると、少女の背後にあった剣のようなものは姿を消していて、代わりに白い布ではなく、手足に刃物付きの鎧を纏い、目元をバイザーで覆って、自身の背後に浮遊する八枚の刃を携えてる姿の少女がそこにいた。

その姿を変えた少女が放つ、危険なものを感じたアイエフは思わず目を見開いた。

 

「アンタには悪いけど・・・ニューがラグナと一つになるのに邪魔だから、ここで死んでもらうね」

 

「っ!」

 

ニューと名乗った少女は八枚の刃の内一枚を自分の右肩辺りまで動かし、アイエフを指さすことでその刃をアイエフへと飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?お、おいッ!大丈夫だよな!?生きてるよなッ!?」

 

先程のラグナが言っていた方から何かが地面を抉った音と、そこから巻き起こる土煙が見え、不安になったナオトは真っ先に術式通信でアイエフを呼んだ。

ラグナたちとは別の世界から来ているナオトではあるが、『ムラクモユニット』の能力を知らないわけではなかった。

ナオトとラケルは自分たちのいた世界で、『御剣機関』と言う場所に所属している緋鏡(ひかがみ)キイロと言う女性が『ムラクモユニット』を使用している姿を目の前で見ていたからである。

また、不思議なことにナオトとキイロの心臓の鼓動は全く同じであり、彼女は『分かれた欠片同士』である自分とナオトの『二人で初めて一つになるため』にナオトを求めている。

テルミの通信から聞こえてきた少女の声は、ラグナのことになると病的なまでに執着しているように見えることから、ナオトは自分とキイロのようだと感じていた。

 

『だ、大丈夫!まだ生きてるわ・・・。けど、このままだとヤバいから、誰か一人こっちに・・・きゃあっ!?』

 

「・・・アイエフさん!?お、おいッ!」

 

幸いにも応答こそしてくれたものの、まともに話ができる状態では無かったようで、アイエフの短い悲鳴の直後に再び地面を抉る音が聞こえ、土煙がまた一つ発生した。

それによって通信も途切れてしまい、慌ててナオトはもう一度呼びかけるが、反応は無かった。

 

「これなら、向こうは気にする必要がなさそうだな」

 

「ヒヒッ。予想通りのご執心っぷりだなァ・・・。ホラ、早くしねえとあいつが死んじまうぞ?ケヒヒ・・・」

 

その様子を見てマジェコンヌは安心した笑みを、テルミはさも愉しそうな笑みを見せた。

向こうは邪魔を排除できるからそれでいいのだろうが、こちらからすれば早くしないとアイエフがやられる危険性が高いので急がねばならなかった。

 

「ニュー・・・あいつ・・・」

 

ラグナは今すぐにでも行きたかった。アイエフを見捨てるつもりなど元よりなく、元の世界で結局助けることのできなかった彼女を、今度こそ助け出してやりたかったからだ。

 

「・・・少年よ。レリウスを一人で相手することは可能か?」

 

「レリウスを?そうだな・・・倒さねえでいいんなら、まだやりようはあると思う」

 

ラグナの意図に気づいたハクメンはナオトに訊いてみた。ナオトは一瞬考えるが、拮抗まで持って行けばいいのなら十分やれると判断して肯定した。

いくらレリウスが並みの人より強いとは言え、元々普段から戦闘行動をしない研究者である為、限界はあるのだ。

 

「ならば決まりだ・・・。頼むぞ」

 

「・・・ああ!」

 

話を決めた二人は早速行動に移す。ハクメンは『斬魔・鳴神』を構えてからテルミの方へ駆け出し、ナオトは一度目を閉じて集中を高めた。

そして、ナオトは女神たちを助けようとした時と同じように、白い髪と鮮血のような目を持った状態に変わった。

 

「あの二人が大丈夫かどうかは気掛かりだが、今はあいつを信じて、ここを乗り切るだけだッ!」

 

「ほう・・・お前が来るか。丁度いい。『蒼の男』とお前の類似点も確認しておきたかったところだからな」

 

レリウスはハクメンを逃がしても対して気にしておらず、そのままナオトと対峙することを選択した。

その意図を何も言わずとも理解できるイグニスは、すぐにレリウスの隣まで移動し、まっすぐな姿勢でナオトを見据えていた。

イグニスは戦闘態勢の時と、平時の時の姿勢に殆ど変化がなく、パッと見ではわかりづらいものの、向こうの世界で一度だけナオトは見ていた為、もうイグニスが戦える状態なのを理解していた。

 

「頼んだぜラグナ・・・!絶対に助け出せよッ!」

 

「さあ。お前の魂の輝きを、改めて私に見せてみろ・・・」

 

ナオトがレリウスの方へ走り出し、レリウスがイグニスを自身の前に立たせたことによって、彼らの戦いが始まった。

また、ハクメンの方も、戦闘が一時的に中断していたことでニューの方を見ていて無防備も同然になっていたテルミへ肉薄する。

 

「ッ!?」

 

「ズェアッ!」

 

テルミはその殺気に気づき、急いで振り向くとそこには『斬魔・鳴神』を振りかぶっているハクメンの姿があった。

ハクメンは見たら最後だと言わんばかりに、『斬魔・鳴神』を上から縦に振り下ろす。テルミは反射的に横へ飛びのくことによってそれをどうにか避ける。

 

「あ、危ねえ・・・!いきなり何しやがんだテメェ・・・!」

 

「ラグナよ・・・行くならば早く行くが良い」

 

「ハクメン・・・本当にいいのか?」

 

恨みを持ったように怒気の籠った声で自分に問いかけるテルミをよそに、ハクメンはラグナへ促しをかけた。

この時、ラグナが戸惑った理由として、ハクメンもまたニューによって大切な人を多く失っていることにあった。

特に、ツバキ=ヤヨイを目の前で殺されてしまったことは、彼の揺るぎないニューへの憎悪だったこともあり、それを理解しているラグナはすぐに走って行くことができなかった。

 

「私も以前ならば他者の意見など省みることはしなかっただろう・・・。他に手段があるのならば、それを試しても良い・・・今はそう思えている私がいる。あの時から、御前の戦いはただ敵を倒す為のものから変わった・・・そうであろう?」

 

「ハクメン・・・お前・・・」

 

ハクメンから発せられた予想外の言葉にラグナは驚きを隠せなかった。

口にした通り、以前のハクメンであれば、他者の言葉に殆ど耳を貸さず、我が道を突き進み続けるところだった。

しかし、ハクメンはこの世界に来てから女神たちと触れ合い、ラグナとの腹を割っての話をして自分を見直す時間ができていた。

最終的に『正義』を貫く道こそ変わらなかったものの、知らず知らずのうちに、共に秩序を護る者たちが持つ正義に耳を傾けても良いと言う考えを持つようになっていた。

 

「御前のやり方で不可能だと判断したときは私に言え。私のやり方であの哀れな少女に幕を引くのは、其の時とする」

 

「ラグナが行くなら私も異論は無いわ。あんたが行けば、あいつも少しは動きを止めるはずよ」

 

ハクメンが『斬魔・鳴神』を構え直しながらテルミの方へ振り向いて言った言葉に、ナインが賛同を示した。

現状、ニューの介入によって一時的に戦闘が停止していたため、ナインはそのままラグナに話しかけていた。

 

「それに・・・せっかくのチャンスじゃない。その口ぶりからすると、まだ助けきれてないんでしょう?」

 

問いかけるナインの表情が笑みに変わった。どうやら、ナインもラグナがニューに救いを与えることは賛成のようだ。

恐らく、彼女も『エンブリオ』にいた頃であればこの事には・・・否、そもそもラグナの行動一つ一つを否定していただろう。

ナインが賛成するに至ったのは、セリカが今ある世界を好きだと言ったこと。そして、ラグナが揺るぎない意思を持ったまま行動し、事を成し遂げて見せたことにある。

 

「ほら、早く行ってきなさい。こっちは私たちでどうにでもして見せるから」

 

「大丈夫、体が重くても、何とかして見せるからっ!」

 

「ラグナさん・・・お願い・・・」

 

「アイエフさんのこと・・・お願いします!」

 

「できればお姉ちゃんたちも頼みますっ!」

 

ナインに続いて候補生の四人が次々に背中を押すように言葉をかけてくる。

彼女たちはアイエフを助ける為にラグナに行ってもらうことを選んだのだった。

 

「お前ら・・・」

 

ラグナはそれにありがたいものを感じて少しだけ目を閉じる。

そして、意識を固めたラグナはゆっくりと目を開けた。

 

「悪いな・・・それなら行ってくる!そっちは頼んだぞッ!」

 

「テメェ・・・行かせるかよッ!」

 

ラグナが自分に目もくれずに走り過ぎていったのを見たテルミは、ラグナの足を止める為に『ウロボロス』を伸ばすべく手を回した。

 

「そうはさせんぞッ!」

 

「ぐおぉッ!?」

 

しかし、それは自分の正面に回り込んできたハクメンが、左足で自身を蹴り飛ばしたことによって阻止され、テルミは『ウロボロス』を一度引っ込めることになった。

 

「ハクメンちゃん・・・二度も俺様の邪魔してくれやがったなァ・・・!この落とし前はたたじゃ済まさねえぞッ!つか、前々思ってたがテメェそんな奴じゃなかっただろ?なんだって急にあの第十三素体を真っ先に殺しに行こうとしなくなったんだ?」

 

怒りに震えながらも、テルミはハクメンに自分が持った疑問を投げかけることを忘れない。

彼らの事情を詳しくまでは分からないテルミからすれば、今のナインはともかく、ハクメンは明らかに異常だった。

ナインの方はセリカがいた以上、彼女を護る為の行動だと理解できる。

しかし、ハクメンの方はそうも行かなかった。あれ程『悪』の集約点のラグナとニューを前にすれば、何事も無い限りハクメンは問答無用で滅しにかかる。そういう男だった。

そうだと言うのに、彼の口ぶりからしてラグナとは今や無条件で共闘している状態で、極めつけにはニューを前にしたというのに彼は自分が倒しに行こうとせず、ラグナの意思を尊重し、彼を先に行かせた。

昔のハクメンを知って今のハクメンを知らぬテルミからすれば、疑うなという方が無理な話であった。

 

「そうか・・・貴様は知らぬのだったな・・・ラグナは此の世界における『正義』の力を得て、今や『正義の代行者』となった。故に私が斬る必要はない。そして、ラグナが奴に集まる『悪』を取り払えるのならば、その時も私が斬る必要は無くなる・・・。憎しみが無いと言えば嘘にはなるが、その根底にあるものが消えるのならば、抱え続ける必要もないからだ」

 

テルミの疑問に、ハクメンは一切の迷いなく答える。

その迷いなき姿勢こそ暗黒大戦時代に『黒き獣』を屠る為に剣を振るったハクメンと同じだったが、そこから感じさせるものは明らかに違い、ただ己の『正義』を貫くだけの修羅から、皆と共に歩み、それぞれの『正義』を理解し、『秩序』護ろうとする・・・ラグナとは違う意味で不器用ながらも真っ直ぐな男の姿があった。

 

「確かに、我が剣は全ての『罪』を刈り取り、『悪』を滅する為にある・・・。だが、仮に『悪』を消し去り、『善』を残せるならば、それもまた『悪』を滅する一つの道だ」

 

「・・・その調子なら、もう一人で勝手な事をするなんてなさそうね」

 

「あの時は非礼を働いたな・・・」

 

リーンボックスの教会で薄々と変化に気づいてはいたものの、この場で改めてハクメンの変化を実感できたナインは安堵の笑みを見せていた。

事実、ハクメンは暗黒大戦時代の時には殆ど自分本位で動いていた。この時間に集合だと言われても時間を守らず、調べたい場所があると言うから、着いていったら「着いて来いとは言っていない」の一言で一蹴しようとしたこともあった。

そのハクメンは今、ゲイムギョウ界で時を過ごしていく内に、まともに話は聞くようになり、他人がついてきても余程のことでなければ拒否したりはしなくなっていた。

これらはこの世界で心の余裕や、仲間意識といったものを取り戻したハクメンならではのものだった。現に今もナインに対して謝罪を返すことから、自分の非もしっかりと反省するくらいになっていた。

 

「いえ、いいわ。あんたが少しはまともになったのが分かっただけ十分。それなら早速テルミの撃退を頼むけど、構わないわね?」

 

「何も問題は無い。引き受けさせて貰おう・・・」

 

二人は短く会話を終えて、互いの敵の方へと向き直った。

一度は馬が合わないながらも共闘し、一度は世界の在り方を見て出した考えの違いから敵対したが、三度目に渡る今回は互いに信頼関係を持った共闘だった。それを嫌と思うはずも無かった。

 

「さて・・・待たせたなテルミよ。此処からは私が貴様の相手を務めよう」

 

「・・・ハッ。言ってくれるなハクメンちゃんよォ・・・。散々コケにしてくれた分、この借りは倍にして返してやるよ・・・」

 

「ならば、私は其れを打ち払うまでの事だ」

 

見るからに余裕そうな態度を見せるハクメンを前に、テルミは憤慨するものの、ハクメンは全く気にする様子が無かった。

ハクメンの中には今、ラグナたちと協力して四人の女神を助け、目の前の『悪』を滅することだけがあった。

 

「ハクメンさんっ!いつもの前口上、言っちゃおうよっ!」

 

「言っちゃおう・・・」

 

「・・・そうだな。ならば行くとしよう」

 

ロムとラムに促され、ハクメンは頷いてから『斬魔・鳴神』を腰辺りに持ってきた。

 

「我は『空』、我は『鋼』、我は『刃』!我は一振りの剣にて、全ての『罪』を刈り取り、『悪』を滅するッ!」

 

ハクメンが言葉を紡ぐたびに、揺れの感覚は短くなり、揺れが止むと同時に、ハクメンの後頭部から伸びている髪が一瞬だけ扇状に広がる。

 

「何だ!?地震・・・?」

 

その揺れを感じ取ったナオトは初めてみたものだったため、思わずそちらを振り向いてしまった。

幸いにもレリウスが戦闘を目的としていなかったことと、お互いに距離を離して体制を立て直す最中だった為、攻撃を受けることは無かった。

 

「我が名は『ハクメン』・・・推して参るッ!」

 

「俺様が持ってた躰を好き放題に使いやがって・・・こうなったら力づくで奪い返すまでだッ!」

 

ハクメンとテルミは同じタイミングで互いの方へ飛び込んでいく。

こうして二つ目の戦闘が始まり、残すはマジェコンヌと候補生の四人、ナインのいる六人となった。

 

「奴らも始めたか・・・。ならばこちらも始めるか?私はこのままでもいいが」

 

四人を見たマジェコンヌは自分から仕掛けようとはしなかった。

何しろ力の方は自分が有利で、状況も彼女たちが女神を助けられなければいいため、自分から仕掛けて返り討ちになるくらいなら待っていた方が目的を達成しやすいからだ。

勿論、ただ待っているだけでは性に合わないため、こうやって軽く煽ってみたりはしているが、来ないならそれでもいいとでもマジェコンヌは考えていた。

 

「いいわけ無いでしょっ!アンタの好きになんてさせないわよっ!」

 

「私たちはあなたを倒して、お姉ちゃんたちを助けます・・・絶対に!」

 

「・・・フフ。そうだ。やはりそうでないとな・・・。良いだろう。先程の攻撃を見ても立ち向かうのなら来るが良い。私は正面から踏み潰してやろう・・・」

 

真っ先にランチャーを向けながら反論するユニに、M.P.B.Lを構えながらネプギアが同意する。

マジェコンヌとしては、どちらかと言えばこうして立ち向かってくることを望んでいたため、両腕を広げて歓迎を示した。

 

「言われなくてもやってやるわよっ!」

 

「好きにはさせない・・・!」

 

ロムとラムも、マジェコンヌに言い返しながら杖を構えた。勿論、ナインもこのまま終わらせるつもりは無かった為、五人とも戦う選択肢を取ったことになる。

 

「無論、貴様も来るのだろう?そうでなければ、ここまで来た意味がなかろう?」

 

「ええ、当然よ。ついでに、再戦の火蓋を切ってやろうじゃない・・・激昂のルベライトッ!」

 

「・・・っ!?」

 

マジェコンヌの問いに答えながら、ナインは一度両腕を振りかぶってから下に振り下ろす。

するとその直後、嫌な予感がしたマジェコンヌは即座に右へ体一つ分移動した。

マジェコンヌが移動したとほぼ同時に、マジェコンヌの足の裏があった辺りであろう場所から、爆炎が一瞬だけ吹き上がった。

 

「・・・良いだろう。そうまで望むのなら、徹底的に叩きのめしてやろうじゃないかッ!」

 

マジェコンヌが五人の元へ飛び込むように距離を詰め始め、対する五人が迎撃の構えを取る。

こうして第二戦の幕が上がるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「シックルストーム・・・ルミナススレイブ」

 

「くっ・・・」

 

ニューは地面に回転する黒い刃を走らせ、その間に自分の頭上に黒い剣を呼び寄せ、それをアイエフに向けて放つ。

連続で襲いかかって来る二段構えの攻撃は流石に避けるしかなく、アイエフは必死に横に飛んで避ける。

アイエフが攻撃を避けたのを見て、ニューは少し鬱陶しく思った。早くラグナのところに行きたいのに何故こいつはしぶとい?それはニューにとって非常に目障りな事だった。

 

「・・・風よっ!」

 

「カラミティソード」

 

避けてからすぐにアイエフは右手に持つ暗器を軸にし、ニューに向けて風を放ったが、ニューは自身の頭上から巨大な黒い剣を呼び出し、それを振り下ろして風を切り裂くことで無効化してしまった。

一日の練習で制度が上がっているとは言えど、たった一日ではドライブの力自体はそれほど変わるものでは無く、結果としてニューに対して有効打をことごとく潰されてしまっていた。

ラケルの方も、凌ぐくらいならできるかもしれないと思っていたが、流石にナオトのドライブの上昇速度と与えた身体能力を持っていない以上そこまでの無理はできなかった。

しかし、そんな不十分な状況であっても、まだ被弾をしていないのは元々の運動神経が生み出した賜物だろうと言える。

ただ、ニューはまだ望んだ通りの結果を得られておらず、それでも足搔き続けるアイエフを前に、ニューはもう我慢の限界がきていた。

 

「鬱陶しいなぁ・・・グラビティシード」

 

「・・・えっ?あうっ!」

 

ニューはアイエフの足元に重力が強くなる足場を作り出す。

それを攻撃だと思って避けようとしたアイエフは自分の足元に現れたことに驚き、そのまま増加した重力に耐えられず、顎から地面にぶつかることとなった。

アイエフは次に備えないと不味いと判断し、どうにか起き上がって避けようとするが、増えた重力を前に上手く起き上がれないでいた。

 

《・・・!アイエフ、早く逃げるわよっ!》

 

「分かってる・・・!でもこんな状態でどうやって・・・!?」

 

まさか重力まで操るとは思ってもみなかったので、ラケルは一瞬動揺するものの、即座に切り替えてアイエフを促す。

本当ならばすぐに代わってあげたいところだが、重力で叩き落とされてやり直すため、余計に時間がかかってしまうから、それは不可能だった。

 

「やっと捕まえた・・・もう。どうしてニューの邪魔をするのかな?」

 

「あの子・・・正気なの?」

 

不機嫌そうに言うニューを見て、結界の中で動けないでいるネプテューヌが思わず呟いた。

ネプテューヌだけでなく、捕らわれている女神たちは全員がそう思っていた。彼女はあまりにも危険だと。

アイエフが上手く起き上がれない今であれば、楽にとどめを刺せる。それを分かっているニューの表情は笑みに変わった。

それは確かに、嬉しさを表すものだったが、極めて危険な笑みだった。

 

「まあいっか。これでニューはラグナのところに行ける・・・今度こそニューはラグナと一つになる・・・。フフッ」

 

ラグナと何かをできるのがよっぽど嬉しいのか、ニューは狂いかけた笑いをしながら、背にある刃の一つを再び自分の右肩辺りに持ってくる。

 

「じゃあ、そういうことだから・・・アンタとはお別れ」

 

「・・・!」

 

ニューは無慈悲にアイエフを指差して刃を彼女へ飛ばす。

それを見たとき、女神四人と、ラケルには何もできない無力感が襲いかかり、身動きが取れないアイエフは思わず目をつぶる。

しかし、その刃は何者かの手によって弾かれた。それと同時に重力が元に戻ったため、勢いが余ったアイエフは思わず尻餅をついてしまった。

 

「・・・アレ?私、生きてる・・・?」

 

「危ねえ・・・どうにか間に合ったな」

 

「・・・ラグナ!?」

 

目の前に現れていた人物にアイエフは驚きを隠せなかった。誰か一人と確かに頼みはしたが、まさかニューの執着しているラグナが来るとは思わなかったからだ。

 

《ラグナ、残りの人たちはどうなってるの?》

 

「今は向こうで戦ってる。ニューと皆のことを俺に任せてな・・・」

 

ラケルに訊かれたラグナは簡潔に答える。向こうを見てみれば、確かに戦いが繰り広げられていた。

しかし、ハクメンとナオト、ナインの三人はまだ平気なようだが、候補生の四人はテルミが起動している『碧の魔導書』の影響で幾分か弱体化されているため、五人がかりでも厳しい面があるようだ。

 

「あ~っ!ラグナ、来てくれたの~!?本当に久しぶりだねっ!えーっと・・・何回目だっけ?」

 

まるで恋する少女になったかのような声を出して楽しそうに話しかけるニューを見て、その場に居合わせたラグナ以外の六人が絶句する。

確かに時折感情らしいものを見せてはいたが、それも全てこれほどまでに明るいものは無かったからだ。

 

「そうだな・・・『エンブリオ』を入れていいなら五回目じゃねえのか?それにしちゃ今までと様子が違う気もするが・・・」

 

立ち直りきれてない彼女たちとは対照に、ラグナはそこまで動じる事無く答え、自身の持った疑問をニューに問いかける。

 

「やっぱり?それもしょうがないよ。だって・・・今までニューにとっては何にもない世界にいたんだから・・・」

 

「・・・何にもない?」

 

ニューの答えにラグナはその意図が分からず問い返した。それを聞いたニューの口元は少し悲しそうになる。

 

「だって・・・ラグナがいないんだよ?ニューはいつまでもラグナと一つになれない・・・。望みを失って無気力に過ごしてたら・・・ほら、何にも無いでしょ?」

 

「(・・・まさかだけどな・・・)」

 

ニューの答えを聞いて、ラグナは一つの可能性を思考に入れた。

ゲイムギョウ界へ来る前に、ラグナは自分のいた世界で『全ての悪夢』を消し去った為、その後にでき上がった世界からニューが来てしまったかもしれないと言う可能性だ。

 

「でも、もうそんなことはいいの・・・。ラグナと一つになって、溶け合えればそれでいいの・・・」

 

「・・・全く。どの世界でもそれかよ・・・」

 

その悲しき選択をしたニューを見ながら呟いたラグナは、「新しい生き方だって、いくらでもあっただろうに」と嘆いた。

ラグナとしては、ニューがこれ以上戦ったりしないで済む世界だった為、自由に生き方を探して欲しかったのだが、彼女はそれができなかったようだ。

 

「良いぜ。テメェのわがままに付き合ってやる・・・」

 

「っ!ホントッ!?いいよ!殺り合おうッ!」

 

ラグナが剣を引き抜きながら告げると、ニューは嬉しそうに宙で一瞬だけ舞い、戦闘が行える姿勢を作った。

 

「ただ、前にも言ったが俺はテメェを『殺し』はしねえ・・・『壊し』たりもだ」

 

「・・・何それ?何でそうなるの?だって、ラグナとニューは互いに殺し合うんじゃないの?」

 

ラグナの言ったことを理解できず、ニューは戦闘態勢を解きながらラグナに訊いた。

ラグナは『エンブリオ』を彷徨う直前から『奪う』戦いを止めていて、『タケミカヅチ』の中でもニューはラグナの『救う』戦いを目の当たりにしているのだが、意図は理解できていなかったのである。

 

「俺が暗黒大戦時代に行く前だったらな・・・。けど今は違う。もう一度言うぜ、ニュー・・・」

 

事実、ラグナも明確な答えを出せていなかったときはそうだったことを肯定した。

確かに暗黒大戦時代に行く前まで・・・正確にはカグラに捕まる前まで、ラグナは基本的に邪魔な奴は潰し、倒すべき敵は問答無用で倒すような方針だったからだ。

 

「俺はお前を『助け』に来た・・・『エンブリオ(あっち)』では助けきれなかったからな・・・今度こそ助け出してやるよ」

 

だが、今のラグナは違った。自身が力を求めた理由を再確認し、大切なものを『護る』為に使うことを決めたラグナは今までの『奪う』戦いをしない。

それを決めた時、当然ニューに対する認識も変わっており、今の彼には『助けるべき一人』と映っていた。

 

「ラグナ・・・どうしてそうなっちゃったの?どうしてニューを拒絶するの・・・?」

 

「完全に拒絶しているわけじゃねえよ・・・俺が否定してんのは、今のお前の在り方だ。せっかくなんだから別の生き方をしようぜ?俺だって少しは変えてるんだ」

 

ラグナの生き方は以前と大きく変わっていた。

ゲイムギョウ界に来てからというものの、ギルドでクエストを受けては真っ当に仕事をこなし、国内で人に声をかけられては応じると、以前の世界とはほぼ真逆の生き方をしていた。

だからこそ、ニューにも変わることが悪いわけではないと伝えたかったのだが、聞き入れてくれそうには無かった。

 

「アイエフ、ラケル、一先ずどっか物陰に隠れててくれねえか?あいつのことだ・・・俺との戦いを邪魔されたら即刻殺しに来るぞ・・・」

 

「ラグナ・・・本気で言ってるの?」

 

「ああ・・・本気だ」

 

ラグナは以前も同じことがあったからこそ、アイエフの疑問を迷わず肯定した。

ニューの様子を見ていたラケルはラグナが言っていることは強ち間違っていないということを、薄々と感じていた。

 

《私たちは隠れてた方が良さそうね・・・行きましょう》

 

「ラケルまで・・・。分かった。みんなのこと、頼んだわよっ!」

 

ラケルがあっさりと肯定したことから、アイエフは従ったことが良さそうだと判断を下し、足に青い風を集め、それを使って物陰の方へ飛んで退避した。

 

「わざわざ邪魔ものをどけてくれたんだ・・・優しいねラグナ。あいつら嫌いだから殺しちゃうとこだった」

 

ニューから何の躊躇いもなく発せられる言葉に四人は衝撃を受けた。余りにも平然と放たれる言葉に驚きを隠せなかったのだ。

 

「・・・やっぱりそうだったか。けどなニュー・・・俺らの『悪夢』はこれ以上持ってきちゃいけねえ・・・。ここで終わりにするぞ」

 

舌打ち混じりに愚痴をこぼすものの、決意を決めたラグナは剣を構え直した。

 

「いいよ・・・そこまで言うなら本気で殺して上げるッ!」

 

「上等だ・・・おら来いよ。この大バカ野郎が・・・今度こそ助けてやる」

 

ニューが殺意を全開にしてラグナへ向かって行き、ラグナもそれに合わせてニューへ走っていくことで戦いに幕が上がった。

それは、この二人の間にある因縁の再会とも呼べるものだった。




そんなことでニューも無事に登場させられました。
ニューをどうやって出すかに迷ったのも遅くなった原因となります・・・。私の頭の回転の悪さを呪いたい・・・(泣)。

今更ながらかもしれませんが、BBDWの方で事前登録が始まっていますね。
毎度思うことなのですが、ああいう事前登録の数によって貰える配布キャラのイラストは非常に気合いが入ってると感じるのは私だけでしょうか?

最後に今後の投稿ですが、翌年度から仕事に就く関係上リアルが忙しくなってきているので、これからは毎週日曜日に投稿できるようにしたいと思います。
僅かながらのペースダウンですが、早く読みたいと思っている方には申し訳ございません。
それでもお付き合いしていただけたら幸いです。


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31話 対面する者たち

前回の予告通り、今回から毎週日曜日の投稿でいこうと思います。


ニューが背中から飛ばしてくる八枚の刃を掻い潜って懐に飛び込み、俺は剣を上から縦に振るう。

対するニューは両腕を顔あたりで交差させることによって、腕の近くに付いている刃を使って攻撃を防いだ。

 

「ラグナ・・・『ムラクモユニット』の性質、忘れて無いでしょ?」

 

「チィ・・・ッ!」

 

ニューが口元を緩めながら投げかけてきた言葉で、大方次にやることを察した俺はそのままニューを押し飛ばして後ろを振り向く。

振り向いた瞬間に八枚の刃が連続で飛んできたので、俺は横に飛んで避け、避けきれなかった後続の二枚は剣を左右に振って弾き飛ばし、八枚の刃がニューの方へ戻っていくのを目で追いながら正面に向き直った。

 

「やっぱり当たらないよね・・・でも全然いいよ。だって、その方がいっぱい殺し合えるからッ!」

 

「付き合うって言った側から訊くのもアレだが・・・。本当にそれ以外の生き方を探す気はねえのか?」

 

一通りの攻防を終えてニューの声は確かに笑っているのだが、そのバイザーの奥に隠されている目が笑っているとは思えなかった。

そんなこともあってか、俺は望みをかけ、改めてニューに訊いてみることを選んだ。

 

「・・・何言ってるの?ある訳無いじゃん。ニューにとってはこれが全てなんだから・・・他に探す必要なんて無い」

 

「・・・ったく、この石頭が・・・」

 

ニューの回答を聞いた俺は残念な気持ちになり、剣を逆手に持ち直した。また、それを見たニューも八枚の刃を自分の側に浮かせる。

大事なものを奪われ、一時期は統制機構を叩き潰すことしか頭になく、カグラに取っ捕まって治ったものの、結局は真っ当な生き方をできなかった俺はゲイムギョウ界へきて変われた。

だからこそ、俺と殺し合うだの『黒き獣』になって世界を潰すだのしか考えられないニューも、こっちで生きていけば変われると思って問いかけたのだが、その声は届かなかったようだ。

 

「・・・で?もう話はお終い?だったらニューから行くよッ!」

 

「んの野郎ッ!」

 

ニューが弧を描くように八枚の刃を横へ滑らせて俺を斬ろうとしたので、俺は剣を右から斜めに振り下ろして防ぐ。

普通の武器同士での激突だったらこれだけで終わるものの、今回はそうも行かず、激突はすぐに終わってすぐに次の刃が当たるといった形で、剣と刃がぶつかる度に衝撃が伝わるので、俺がかなり不利であった。

そして拮抗していたのも束の間、最後の刃が剣にぶつかったところで俺は押し返されてしまう。

 

「・・・ッ!」

 

「じゃあ・・・次はいっぱい行くよ?レガシーエッジ!」

 

「・・・!?やべぇ!」

 

ニューが頭上辺りで腕を交差させるのを見た俺は自身が攻撃を受けないように、結界の中にいて身動きの取れないネプテューヌたちが巻き込まれないように、そこから離れるように横へと走る。

両腕を外側へ振り下ろしたニューから放たれた無数の黒い剣は俺のいた場所を、まるで追いかけてくるように飛んできていて、俺がその場を通り過ぎた瞬間とほぼ同時に地面に当たってそれを抉り、土煙を起こしていた。

 

「ラグナ、大丈夫っ!?」

 

「ああ平気だッ!戦った経験があって良かったわ・・・」

 

不安そうに問いかけてくるネプテューヌに、俺はデカい声で返してから息を吐くように呟いた。自分たちがヤバいって言うのに、俺の心配をしてくれるのは少し感慨深いものがあった。

だが正直なところ、もしここにいる俺がカグツチに行く前だったら今の攻撃で動けないくらいに傷つき、ニューと融合して『黒き獣』になっちまっていただろう。

そんなことになったら最悪だ。すぐ近くにいるネプテューヌたちを、助ける為に来たのに真っ先に殺すことになっちまう・・・それも見境無くだ。

そんなのは嫌に決まってる・・・。気を引き締めて俺は剣を構え直した。そんな時、ネプテューヌの声の方に気づいたニューがそっちに顔を向け、嫌悪感を露にした。

 

「・・・ねえラグナ。誰こいつら?」

 

『・・・っ!?』

 

その途端、急に冷ややかな声で俺に訊くニューを見て、四人は思わず息を吞んだ。

あいつらはまだどうしてそうなったか分からない。俺は知っているからか、またはその嫌悪感が俺に向けたものでは無いからか、対して動じることは無かった。寧ろ、お前はまだそんなことを言うのかと言う呆れが大きかった。

ニューは俺以外全てが嫌いであり、それはゲイムギョウ界のあらゆるものも例外では無かったようだ。

ハクメンから聞いた話では、あいつの事象でニューと出くわしたのは俺以外にジンとツバキ=ヤヨイがいたが、恐らくはツバキ=ヤヨイにも同じようなものを向けたのだろう。暗黒大戦時代でセリカに向けたのも全く同じだった。

そのことを考えるに、どうやらニューは自分以外の女性が俺とニューのことを邪魔するのが筆頭して嫌いなようだ。何故かノエルの時は例外だったが、アレは俺が後から来たってのが大きいんだろう。

 

「ラグナ・・・ニューあいつら嫌い・・・。早く殺して?じゃないとニューが殺しちゃう・・・」

 

「あ、あの子・・・正気なの・・・?」

 

「まるで殺気の塊だわ・・・」

 

俺にあいつらを殺すよう急かすニューを見て、ノワールは何か見てはいけないものを見てしまったのではないかという顔を見せた。それだけニューが異常だと感じているんだろう。

また、ブランもニューが持つ殺意を感じ取っていて、身動きできないからこそ目の焦点をニューに合わせながら驚いていた。

 

「ざけんな・・・誰が殺すかよこのタコ・・・『蒼炎の書(こいつ)』は護る為の力だ。そんなことの為に使うかよ」

 

当然のことながら俺はニューの頼みなんざ聞き入れるつもりは無い。その証拠として右足を僅かに外側へ動かす。

勿論ニューは俺と殺り合うのが目的な以上そっちを優先することは間違いない。結界を破るのは時間が掛かるし、四人はニューの邪魔をできない。

更に確定でニューの意識をこっちに向けるなら、殺し合うってことを否定してやればいいから、もう簡単だった。

 

「それに言っただろ?俺は殺しはしねえ・・・お前を助けに来たんだってな」

 

俺はニヤリ顔で言い切って見せる。すると、ニューの口元が震えているかのように悲しそうなものになった。

 

「ラグナ・・・どうしてそんなことを言うの?だって、ニューとラグナが殺し合って一緒になるのは『予定調和』なんだよ?」

 

「ニュー・・・。もうその『予定調和』は成立してねえよ。その証拠が、今ここにいる俺だ・・・。今の俺は、ノエルの助けがあったとは言えその『予定調和』を乗り越えてるし、その『予定調和』でできたものがある暗黒大戦時代へ行って、それから護れる奴らも護ったッ!」

 

「・・・ッ!」

 

戸惑うニューに、俺は一つ一つ、語調を強くして答えていく。

あまりにも予想外過ぎる回答と俺の語調が重なって、ニューの体がびくりと震える。女神たちがついていけない様子になっているが、このことは後で話すしかない。

 

「悪いなニュー・・・。俺からすれば、お前の言ってる『予定調和』なんて消えちまったようなもんなんだよ・・・」

 

「・・・ラグナ・・・ッ!ラグナァァッ!」

 

完全にニューの怒りのスイッチが入りきり、ニューは溢れる殺気をこっちに向けながら突っ込んできた。

薄々こうなるとは思っていたが、こうなると少し罪悪感が出てくる。

カグツチにいた頃の俺だったら「テメェが何でキレてんだ?」って言い放つところだが、今は違う。俺にとってはもうサヤと同じ顔、同じ声をした許せない奴じゃなくて、何をすればいいかわからないまま、殺すだのなんだのしなきゃいけないと言い張ること以外を奪われた可哀想な奴だった。

 

「(もう少し我慢してくれよ・・・そうしてくれれば、俺が絶対にお前をそんな『悲しい呪縛(予定調和)』から解放して、道を選ぶことのできる時間を用意してやるからな・・・!)」

 

俺は迎え撃つ為に、向かってくるニューを見据えながら剣を構え直す。

『イデア機関』の使用制限ありで、俺がしくじったら『黒き獣』になるという不安要素を抱えたままだが、やるしかない。元より俺はそのつもりでいた。

そして、十分に近づき切ったニューが八枚の刃を同時に振り下ろし、対する俺は、タイミングを合わせて剣を右から斜めに振り下ろして八枚の刃にぶつける。それによって、ぶつかった所から小さい火花が咲いた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ミラージュダンスッ!」

 

「レイニーナトラピュラッ!」

 

ネプギアのM.P.B.Lを使った踊るような連撃と、武器をベールが使っている槍に変えた、マジェコンヌの連続で放たれる高速の突きがぶつかり合う。

 

「そらッ!」

 

「・・・!」

 

ネプギアが最後に放った横一閃の斬撃を避けてすぐ、マジェコンヌは締めの一撃として全力で突きを放つ。

反応が間に合ったネプギアは、体を右に逸らしながら同方向へと動いてどうにか避ける。

 

「ま・・・間に合った・・・?」

 

「む・・・。時間を与えすぎたか?馴染んできたように感じる・・・。それだとしても今のを避けたのは見事と言っておこうか」

 

避けたネプギア自身も反応できたことに驚いている。体が動きづらくなっているとは言え、それでも女神化による身体強化の恩恵の方が大きいようだ。

また、マジェコンヌに言われて候補生四人気付いた事だが、心なしか動きづらさが少なく感じていた。マジェコンヌは変身に慣れてきたと推測していたが、実際に動きの阻害を受けている彼女たちは、その動きづらさに体が適応したが故に動けるようになったと体で感じていた。

避けきれたのはいい。体が追い付いてきたのが分かったのもいい・・・。ただ、ネプギアにはそれどころじゃない程気になってしまうものが一つだけあった。

 

「(どうしよう・・・。ラグナさんに任せたのはいいけど、あの子のことが気になってしょうがない・・・!)」

 

ネプギアはニューのことが気になって仕方なかった。遠目で少ししか見えなかった為に今一判断できなかったが、よくよく思い返してみれば、異様なまでに自分と似ている気配をしていた。

ラグナが言っていた『少女』・・・ひいては自分の中にいる『もう一人の自分』でないことは何となく判っている。ただ、それでも自分とあまりにも似すぎていた。そんなこともあってネプギアの意識は時々ニューの方へと向いていた。

 

「・・・?動きが止まったか?ならば死ねいッ!」

 

「つ・・・!?」

 

ネプギアの動きが止まっていることに気が付いたマジェコンヌが、自分の武器を元に戻してからネプギアへと投げつける。

マジェコンヌが槍を投げつけてからようやくネプギアの意識は元に戻ったが、それでも回避するには到底間に合わないものであった。

 

「させないっ!」

 

「ロムちゃんっ!」

 

「うん。私たちはあのおばさん・・・!」

 

「チィッ!反応の早い奴らだ・・・」

 

ネプギアの様子に気が付いたユニがランチャーでマジェコンヌの武器を撃って弾き飛ばし、ロムとラムはマジェコンヌに牽制をすべく、それぞれのペースで杖から氷の塊を作ってマジェコンヌに飛ばす。

いい結果を出せなかったマジェコンヌは、舌打ち混じりに歯嚙みしながら飛んでいく武器に追い付いてそれを掴み、距離を取って立て直した。

 

「ネプギア、もしかしてさっきの子が気になるの?」

 

「うん・・・。最初は何とも無かったんだけど・・・どうしても気になっちゃって・・・」

 

もしかしてと思ったユニがネプギアの傍まで寄って訊いてみると、案の定当たっていた。ネプギアも悩むよりは素直に吐いてしまった方がいいという判断で、あっさりと話したのだった。

それを聞いたナインはどうしたものかと考え込むが、ロムとラムはもう考えが決まっているようでお互いに顔を見合わせてから頷いた。

 

「じゃあ、いっそのこと行ってきちゃいなよ!」

 

「・・・えっ?」

 

ラムが言ったことにネプギアは思わず困惑してしまった。これからやることは、自分の疑問を確かめる為だけに戦線離脱するようなものであるため、ネプギアはみんなに負担をかける訳にはいかないという思いの方が強かったからだ。

だが、実際にラムが言ったことはどうだろうか?否定するどころかこちらの背中を押しているではないか。

 

「悩んでるよりはずっといいと思う・・・」

 

「確かにそうね・・・。それに、ラグナさんもあの子相手に手一杯そうだから、手伝うついでにいいんじゃないかしら?」

 

「ロムちゃん・・・ユニちゃんも・・・」

 

更にロムとユニが背中を押すようにラムと同意であることを伝える。

そのことに、ネプギアは戸惑いながらも嬉しく感じた。しかし、行っていいと言われたものの、本当に行っていいのかどうか・・・そこでまだ思い悩むのだった。

 

「悪いが、そう何度も会議を待つつもりは無いぞッ!」

 

「獄砕のクンツァイトッ!」

 

マジェコンヌは話している間に攻撃すべく近づこうとしたが、ナインが上空から岩石を呼び出し、マジェコンヌの眼前に来るように落下させたため、マジェコンヌは仕方なく接近を中止する。

 

「ナインさん・・・?」

 

「行くなら早く行きなさい。大丈夫・・・。後は私たちだけでどうにかなるわ」

 

最後にナインがネプギアに勧めることで、全員が賛成ですあることを示した。

仮に動きづらいメンバーが三人いたとしても、女神候補生であり、しかもその空間に長時間いたことで慣れ始め、動きが良くなって来ている。

さらに、ナインはクンツァイトを外した時にちらりと来た道の方を見ていたのだが、そちらから自分たちに残されている最後の手札が近づいてきていた。

そうであれば、自分たちが耐えるだけ耐えて、後はそれと一緒に逆転するだけだった。

 

「みんな・・・。ありがとうございます。私、行ってきますっ!」

 

ネプギアは四人に礼を言いながら身を翻し、ラグナとニューのいる方へ飛んで行った。

 

「(ネプギア・・・分かってるとは思うけど、無理しないでね)」

 

ネプギアを見送ってから、マジェコンヌの方に向き直ったユニはランチャーを構え直した。

 

「バル・ライア!」

 

「シフトスウェーッ!」

 

レリウスはイグニスに指示を出し、一瞬でナオトの背後に回り込ませる。

イグニスが回り込みを終える頃には両腕の肘から刃を出し終えており、それでナオトを挟み斬るように腕を振るう。

それに対し、背後に回り込まれた段階で危機感を感じていたナオトは、一瞬だけ助走をすることで『エンハンサー』、を発動させたナオトは青い残像を一つだけ残してその場から姿を消した。

それによって、イグニスの放った斬撃は空を斬ることに留まった。

 

「・・・ほう」

 

「ファントムペインッ!」

 

ナオトはレリウスの背後に回り込んでおり、これなら反応できまいと判断したナオトはそのまま左足、右足の順番で飛び上がりながら回し蹴りを浴びせる。

しかし、レリウスはどうにか反応を間に合わせており、最終的に弾かれながらも、機械の腕を二つ使うことで防ぎ切った。

 

「これは驚いた・・・まさかイグニスを出し抜くとはな・・・」

 

「いやいや、今のが間に合うテメェも大概だろ・・・まあ、今回は倒す必要ねえからいいけどよ・・・!」

 

レリウスはナオトの動きに称賛を送るが、ナオトはレリウスの反応速度を見て呆れかえっていた。

―何で普段戦わない奴がここまでやれるんだ?ナオトはそんな気持ちで頭がいっぱいになる。

実のところ、確かにレリウスの反応が追い付けなさそうなところまでは来ているのだが、あと一歩が足りない・・・今回はこれでもいいのだが、次戦う時の為にもっと早く動けるようにしておいた方が良いだろう。ナオトはそう感じた。

 

「まだこの程度では終わらんだろう?次はこちらからだ・・・。バル・ラント!」

 

「うぜぇんだよぉ!インフェルノクルセイダーッ!」

 

レリウスは再びイグニスへ指示を出し、その指示を受け取ったイグニスは、自身後頭部にある二つの刃を回転させながらナオトに突進する。

対するナオトは右腕から右の前腕部から必要な量だけ血を集め、それによって右前腕部の近くに鉤爪を作り上げて、下から掬い上げるように振りながら飛び上がる。

当たり所が良かったのか、先程突進してきていたイグニスを打ち上げることに成功した。

 

「・・・落ちろッ!」

 

ナオトはそのまま術式と同じ要領で空中制御をしながら、オーバーヘッドキックをイグニスの頭上にぶつける。

それによって勢い良く落下していくイグニスは、途中でどうにか姿勢を直すものの、勢いまでは殺し切ることができず、結局は地面に足を滑らせて強引に体制を整えることとなった。

驚くこととして、イグニスはそんな最中にもレリウスの近くに来るように、尚且つ巻き込まないように気を配っていたのだ。

 

「こんなのはどうだ?カド・レイス」

 

「・・・!させるかッ!」

 

降りてくるナオトを見て、タイミングと位置を合わせたレリウスは背中から、緑色の武器を取り出し、それから刃を回転させながら前に出す。

レリウスの動きに気づいたナオトは、空中制御をしながら右腕の前腕部から右手に血を集め、それを剣のようなものにして上から下に振り下ろす。

それによって互いの攻撃がぶつかり合い、奇襲に失敗したレリウスは武器をしまい、ナオトは血の硬化を終えさせる。

 

「成程。魂の性質・・・物事に対するぶつかり方・・・極めつけには『ブラッドエッジ』か・・・。確かにここまで類似点が多ければ、間違えられるのも不思議ではない」

 

「ああ・・・全く。お前は何をしたら満足するんだ?」

 

ナオトはレリウスの見せる反応にげんなりとする。

欲望というのは人の根底にあるものだが、レリウスのそれは異様なまでに深く、それを垣間見る羽目になったナオトがこう言いたくなるのも無理のない話だった。

レリウスはそんなこといざ知らず、愉しそうに呟き、自分が見つけたものとまだ足りないものを照らし合わせていた。

 

「オラ死ね・・・死ね、死ね、死ねッ!一辺死んでみろやァッ!」

 

テルミは左手のバタフライナイフを右から水平に振りながら前方宙返りをし、その途中で左足を前に出して蹴りを放ち、そのまま体制を直しながら右手に持ったバタフライナイフを上から縦に振り下ろす。

しかし、それだけでは終わらず、右足を高く振り上げて蹴り、右足に履いてる靴の踵から隠されているナイフを出し、返しの勢いを使って踵落としをする。さらにそのまま姿勢を低くして、体を右回りに回しながら右足で足払いをする。

対するハクメンは、その迫りくる連撃を『斬魔・鳴神』で、己の体で防ぎながら反撃のタイミングを待つ。

 

「・・・デヤァッ!」

 

「・・・チィッ!」

 

一通りテルミの攻撃が終わったのとほぼ同時に、ハクメンは『斬魔・鳴神』を右から水平に振って反撃に出る。

しかし、テルミは寸でのところで飛びのき、どうにか避けきって見せた。そこから再びテルミが近づいてくるので、ハクメンは『斬魔・鳴神』で迎え撃つ。

この二人の戦いは不毛な状態になっていた。テルミがハクメンが繰り出す技の威力を警戒して、それを出させないために連続攻撃をしているが決定打には程遠く、ハクメンの方は確かに決定打こそ受けてないものの、気を練る為の時間がもらえず、こちらも決定打にはなり得ない攻撃が多くなっていた。

 

残影牙(ざんえいが)ッ!牙昇脚(がしょうきゃく)ッ!」

 

「蓮華!」

 

全くダメージを与えられないテルミが、右のバタフライナイフに碧い炎のようなものを乗せ、右から左へ掬い上げるように振るい、そこからすぐ、右足に碧い炎のようなものを纏わせて勢い良く振り上げる。

対するハクメンは、両足に気を乗せた状態で、左足での足払い、右足による蹴り上げの順で受け流す。

決定打にはならず両者は再び膠着状態に戻ってしまった。

 

「チィッ!やっぱり埒が明かねぇ・・・!テメェ、横槍二回でよくもパァにしてくれやがって・・・!おまけにやたらタフなのが更にイラつくわ・・・!」

 

「フッ・・・一つのことに固執するとはな・・・。テルミ、貴様も随分と器量の小さい男になったな」

 

イラつきのあまり、嫌な顔を隠す気もなく、テルミがハクメンに吐き捨てるが、ハクメンから返って来たのは煽りに近い嘲笑だった。

その声音を聞いたテルミは怒りが限界を超え、カチンとなったテルミはハクメン以外視野に入らない状態に陥った。

 

「テンメェ・・・!二回も横槍入れるわコケにするわでふざけやがって・・・!そんなに殺されてぇならテメェからブッ殺してやろうかッ!」

 

「どう思われていようと関係ない・・・。我が使命に従い、私は貴様を滅するまでッ!虚空陣奥義・夢幻!」

 

怒り狂ったテルミは、全身から碧い炎のようなものを溢れ出させながらハクメンに向かって行く。

それを見たハクメンは慌てる事などせず、『斬魔・鳴神』を構え直して溢れ出る気を発した。

 

「(思いがけぬ形で注意を引くことができたな・・・後は我らの汚点を雪ぐのみ・・・!)」

 

迎え撃つ準備が整ったハクメンは技を、放つべく『斬魔・鳴神』を頭上へ振りかぶるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「悪夢は・・・!」

 

「スープラレイジ・・・!」

 

ラグナは黒い炎のようなものを纏わせた剣を左側に振りかぶり、それを縦に振り下ろしながら急降下していく。

対するニューはラグナを迎え撃つべく、体を横にしながら回し、その動作に合わせて八枚の刃を弧を描くようにラグナのいる方へ振るう。

黒い炎のようなものと、急降下している時の勢いで威力が増していたため、ラグナの一撃は弾き返されずに済み、互いの武器がぶつかり合ってから逸れるように通り過ぎた。

 

「終わらせてやるッ!」

 

「クレセントセイバー・・・!」

 

ラグナは体を左に一回転させながら剣を逆手に持ち直し、黒い炎のようなものを纏わせた状態で上から縦に振り下ろす。

ラグナが今の攻撃を用意しているところを突こうとしたニューは体半分程の高さへ飛び、体を右に一回させながら左腕を振り下ろし、黒い鎌状の刃を自身の前に呼び出して、弧を描くように振るう。

二人が放った攻撃がぶつかり合い、その場所から小さい火花を散らした。

 

「ラグナ・・・どうしてニューを否定するの・・・?どうして悪夢だなんて言うの・・・!?」

 

「・・・ある人物が死ぬと絶対に『やり直し』が起こる・・・。その人物は俺で、しかも毎回お前と融合した直後に消されたのが原因なんだ・・・。そりゃ、今まで懸命に生きてきた奴らからすれば『悪夢』以外何ものでもないだろうよ・・・」

 

自身の事を否定されて怯えているような様子のニューに、ラグナはやるせない気持ちになって答えた。

確かに世界を救う為、自分を含む全ての『悪夢』を消し去ると言うことはしたが、その『悪夢』の中心が自分であったことが分かった時は、流石に「今までの罪の結果だな」で片付けられなかった。

ラグナ自身、特別ニューを否定するというつもりは無い。ただ、その在り方だけが非常に気掛かりとしていたのだ。

 

「だったらどうして・・・?どうしてニューはあそこに残って、ラグナだけが消えるの!?そんなことだったらニューも消えたかったよ・・・!ラグナがいないなんて耐えられないよ・・・!」

 

「・・・・・・」

 

ニューの悲痛な叫びを聞いたラグナはすぐに答えを出せずにいた。否、答えられるのだが、答えていいかどうかで迷っていた。

ラグナにとって、ニューは『悪夢』の一部というよりは、その『悪夢』の内の一部に振り回された『初めから罪を擦り付けられた可哀想な存在』だった。

そう言ってしまえば楽なのだが、ニューはまだ自分が持つ不満などを吐き切れていない為、今言ってしまうのは良くないと思ったからだった。

現に彼女は泣きそうな声であった。一歩間違えればそれこそ取り返しのつかないくらいの脆さを見せていた。

その様子を、四人の女神たちはただ見ていることしかできなかった。入り込む余地が全く持ってないことと、ニューが先程見せた異様な殺気、そしてラグナがいた世界に関する知識がまだ不十分なことがそうさせていた。

 

「ラグナも分かってるでしょ?ニューの望みはただ一つだって・・・」

 

「ああ。それは分かってる・・・。だがそれでも、俺にはその望みを叶えさせる訳にはいかない理由がある・・・」

 

「・・・どうして?」

 

ニューが言う望みを理解している上で否定を示すラグナに、ニューは理解ができずに問い返した。

 

ゲイムギョウ界(この世界)には・・・俺が世話になっている人や大切な人・・・。護りたいものが沢山ある・・・それも数え切れないくらいにだ。そんな大事なものを、『黒き獣(バケモン)』になって見境なく壊そうだなんて思えねえよ・・・」

 

ラグナはニューの問いに対して真剣に答える。

これらは全て紛れもない本心だった。『黒き獣』になるつもりはさらさら無いし、大切なものを護りたいという思いも本当だった。

とは言え、ニューがそれで納得しないことはわかりきっていた。ニューにとっては言われた通りに自分と融合し、『黒き獣』になることが望みにして全てだからだ。

しかし、それもニューは初めから植え付けられているようなものであり、本当に自分でやりたいと思えることが何もなかった。

だからこそ、ニューに新しい道を探せる時間を与えてやりたいのだが、問題はニューがそれを望むようなきっかけを作れるかどうかだった。

 

「ふーん・・・そこまで言うなら、無理矢理にでもやっちゃおうかな・・・?」

 

「(クソ・・・ッ!ダメだったか・・・!ならタイミングを待つしかねえか・・・)」

 

ニューが背後に浮いてる八枚の刃を自身の側まで持ってきたところを見たラグナは、姿勢を低くして身構える。

その直後に八枚の刃が連続してラグナに襲いかかり、ラグナは右に左にと飛びながらもどうにか避けていく。

ネプギアが二人の所へ近づいて行くと、丁度その状況が目の前にあった。

 

「(やっぱり、私と物凄く似てる・・・。今の状態なら姿は全く持って違うんだけど・・・そう感じさせるのはどうして?それに・・・)」

 

ニューの姿を見たネプギアの中に、元々持っていた疑問が大きくなった。

どことなく、彼女の漂わせる雰囲気が自分と似ているように感じられていた。ただ、ネプギアにとってはもっと大きな疑問があった。

 

「(何でだろう・・・?私が・・・『あの子()』と同じものを感じたのは・・・)」

 

ネプギアの持つ最も大きな疑問はこれにあった。『少女』と同じものを感じさせる以上、気にするなと言う方が無茶なものだった。

しかし、その考え事は続かず、目の前で起きたことに中断させられる。

 

「・・・っ!いけない・・・!」

 

ラグナの周辺が殆ど土煙で覆われてしまい、視界が塞がれたところを、ニューが自身の側に残している、最後の一枚の刃を飛ばしてラグナを貫こうとしていた。

流石にアレは助けなければマズいと判断したネプギアは、全速力でそちらに飛んでいく。

そして、ニューがその刃を飛ばすと同時にラグナとニューの間に割って入ることができ、ネプギアはすぐさまM.P.B.Lを左から斜めに振り上げ、一枚の刃を弾き飛ばした。

 

「・・・何だ?何が起こって・・・。・・・ネプギア・・・!?」

 

「間に合って良かった・・・。ラグナさん、大丈夫ですか?」

 

「ああ。助かった・・・」

 

僅かな時間だけ肩で息をしながらラグナに問いかければ、すぐさま大丈夫な事を伝えてきてくれたのでネプギアは安堵した。

いくらスタミナが有り余る女神でも、焦ってしまえば体力に余裕があってもこうなるときはあるんだな・・・ネプギアはそう感じた。恐らくは自分の気持ちが反映した影響だろう。

 

「ネプギア・・・!?みんなは大丈夫なの?」

 

「うん。大丈夫だから、私はこっちに来たの・・・どうしてもこの子のことが気になってて・・・」

 

ネプテューヌの声が聞こえ、心配そうにしてる自身の姉に、ネプギアは大丈夫だと言う事を伝える。

自分が来た理由を告げながらネプギアが正面に向き直ると、そこには殺意が滲み出ているニューの姿があった。

 

「アンタ・・・よくもニューとラグナの邪魔を・・・!・・・?」

 

「・・・?」

 

怒りに震える声でこちらを糾弾して来たニューが、途端に何か気づいたように様子が変わったため、ネプギアは思わずその場で凝視してしまう。

 

「対象、照合・・・。同一体と認識を確認・・・」

 

「同一体・・・?何を言って・・・。・・・っ!?」

 

ニューが機械的に告げる言葉にネプギアは困惑し、ニューにその意味を問おうとするが、突如として強烈な頭痛に襲われ、ネプギアは思わず左手で頭を抱えた。

―知っている・・・?誰が?私が?それとも『あの子()』が・・・?ネプギアはわからずに混乱する。

 

「貴女は私・・・私は貴女・・・」

 

「わ、私・・・私は・・・っ・・・!あぁ・・・っ!」

 

「ね・・・ネプギア!?しっかりして・・・っ!ネプギア!」

 

畳み掛けるように、機械的な口調でニューは告げることを続け、ネプギアは頭を抱えたまましゃがみ込んでしまった。頭痛がより強くなって、立つのが難しくなってしまったのだ。

妹が苦しそうにしているのを見たネプテューヌは慌ててネプギアに声をかけるが、ネプギアは彼女の声を聞く余裕すら無くなっていた。

 

「(ちょっと待てよ・・・?ニューはサヤのクローンと言っていい奴だ・・・。じゃあ、ネプギアの中にいる『あいつ』は一体・・・)」

 

―サヤなのか?ラグナは頭の中にそんな疑問が走ったが、それをすぐに肯定することはできなかった。

確かに、ネプギアが最近になって急激にサヤの気配を強くしているのは解っている。だが、そうだとしてもサヤそのものと決めるのは早すぎるのではないか?だが、ニューのあの告げ方を見た感じ、サヤとの関連性があるのは最早否定のしようがないのもまた事実だった。

 

「ち、違う・・・あなたは・・・!私は・・・!」

 

「ら、ラグナ・・・!ネプギアをどうにかできないのっ!?」

 

「・・・やってみる・・・!」

 

ネプテューヌの懇願する声を聞いたラグナは、流石に今持っている思考を放棄するしかなかった。

武器を一度しまい、すぐにネプギアの傍まで駆けつけて背中に右手を乗せて呼びかける。

 

「ネプギア、しっかりしろ!・・・聞こえるか!?」

 

「うっ・・・!兄さま・・・私は・・・っ・・・!」

 

至近距離で話しかけることでようやくネプギアは反応を示すものの、余り良い結果は出なかった。

極めつけにはネプギアではなく、『少女』の方が表立ってしまっているので、かなり呑まれかけていることがラグナには判ってしまった。

 

「そうだよね・・・ラグナならそっちを気にするよね・・・。でもいいよ。ニューがそいつからラグナを取るって楽しみが増えるから・・・!」

 

「(クソがぁ・・・ッ!こんな時に手の打ちようがねえとは・・・!・・・ッ!?)」

 

一瞬沈んだ様子を見せたものの、ニューはすぐに明るい調子を取り戻し、執念深さが垣間見えることを言う。

ラグナが苦い顔をしている時に、再び右腕に重みを感じたので見てみると、蒼い炎のようなものが現れていた。

 

「オイオイ冗談だろ・・・?なんだってこんな頻度で・・・。それにこの感じ・・・」

 

その炎のようなものが消えた瞬間、ラグナは何かに見られているような感覚が右腕にあった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ニュー?どこにいるのー!?」

 

ニューが消えてから数時間後のことで、部屋に彼女がいないことを知った少女は教会中を探し回っていた。

黒いシスター用の服を着ているものの、綺麗に下ろしている金色の髪がよく見え、エメラルドグリーンの瞳をしている少女は、友人が帰ってからというものの、今日のやることをすぐに終え、こうしてニューのことを探していた。

 

「そっちにはいた?」

 

「・・・いなかった」

 

「どこに行っちゃったんだろう・・・?」

 

金髪の少女は、自分と一緒にニューのことを探してくれていた、金色の髪を三つ編みに纏めている、真紅の目を持った少女に訊いてみるが、その少女は首を振った。

エメラルドグリーンの瞳を持った少女は、ニューの面倒を見ていたので、元気になってくれたならそれでもいいのだが、出ていくならせめて何か一言言ってくれたり、置手紙の一つは欲しいと思った。

顎に手を当てながら彼女の行方を考えていた少女は、一つだけ思い当たったものがある。

 

「(もしかしてだけど、さっきニューのいた部屋で見たアレが原因・・・?)」

 

先程見かけた蒼い球・・・。それによってニューがどこかへ行ってしまったというなら、それが最も納得できると彼女は考えた。

しかし、何も考え無しにそれを実行するのは危険だった。そこで、彼女はニューを探すのを手伝ってくれた少女に目を向けた。

 

「・・・ノエル?」

 

「ラムダ、私は今からあの蒼い球のことを調べてみようと思う・・・。だけど、何が起こるか解らないから、ラムダには私に何かあったら、誰でもいいから、あの球のことで連絡を入れて欲しいの」

 

ノエルと呼ばれたエメラルドグリーンの瞳を持つ少女は、真紅の目をしているラムダに頼み込む。

何が起こるかわからない・・・。しかし、二人とも巻き込まれたらそれこそ取り返しのつかないことになる・・・。その為ノエルは一人でいくことを決めたのだった。

 

「・・・分かった。ノエルも気を付けて」

 

「ありがとうラムダ・・・。それじゃあ、ちょっと行ってくるね!」

 

ラムダが首を縦に振ってくれたことに、ノエルは礼を言ってからニューの部屋に入った。

部屋を見回しても先程の変化は一切なく、ベッドの上には蒼い球が同じように浮いていた。

 

「この中に・・・ニューがいるの?」

 

ノエルがその蒼い球を凝視した瞬間、自身の身に異変が起こった。

 

「・・・えっ?なに・・・?目が熱い・・・!」

 

目元が焼けるような感覚に襲われたノエルは、思わず目元を両手で塞いだ。

少しすると焼けるような感覚が終わり、塞いで両手をどけたノエルは、目元に熱さが残ったまま蒼い球を見た。

すると、今度はその蒼い球から、その先にある情報が送り込まれてきた。

―見たこともない町並み。『ムラクモユニット』のようなものを使う人たち・・・。どれも知らないことだらけだったが、その中に信じられないと言いたくなるような情報があった。

 

「・・・ラグナさん?そこにいるのはニューだから・・・。っ!じゃあ、ニューが向こうに行ったのは・・・!」

 

赤いコートを着ている青年、ラグナを見たノエルは、今まで忘れていたものを思い出しているような感覚が走った。

そして、それと同時にニューの目的も思い出して、彼女がそこへ向かった理由を悟った。

 

「元気になってくれたのはいいけど、それは止めないと・・・!」

 

本当なら誰かと一緒に行った方がいいのかもしれないが、待ち続けた結果ニューの目的が果たされ、何の罪も無い人が巻き込まれる・・・。そんな最悪の事態だけは、何としても避けなければならなかった。

 

「ニュー・・・そっちに行くから、待っててね・・・!」

 

覚悟を決めたノエルは、蒼い球に右手で触れた。

その瞬間、蒼い球の光が強まり出し、蒼い光が部屋ごとノエルの体を包んだ。

そして、光が消えるとそこにノエルの姿は無く、再び無人の部屋となった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ん・・・」

 

自分の体右側に固い感覚がしたノエルは、目を開けて体を起こした。

先程蒼い球で見たものとは違い、近くに建物などは無く、海が広がっているのが見えることから、ここがどこかの島だろうと推測できた。

 

「ここが、ラグナさんとニューがいた世界で合ってるのかな・・・?」

 

ノエルは辺りを見回してみるが、人影が全く見当たらないので、その答えを出せなかった。

確かに、自分の意志でここへ来たのはハッキリと覚えている。しかし、本当に辿り着いたかどうかの判断材料に欠けていた。

もう少し遠くを見れる場所にいけば何かわかるかもしれない。そう考えてノエルは立ち上がった瞬間、腰辺りに妙な重みがあることに気がついた。

その為、腰の後ろ辺りに探りをかけて見ると、何かが当たったので、それを手にとって眼前に持ってきた。

 

「っ・・・!?これ、『ベルヴェルク』・・・!?それに・・・」

 

ノエルは自身が手に持っている白い二つの二丁拳銃を見て、驚きを隠せなかった。

事象兵器(アークエネミー)魔銃(まじゅう)・ベルヴェルク』。それは普通の銃として使う以外にも、狙った空間を(・・・・・・)打ち抜いて、その場所に術式を発生させ、それを炸裂させることで攻撃も可能にしていた。

後者の方法で攻撃する場合、その場所を認識さえしていればいいので、障害物は無視可能である。

また、二つの銃を重ね合わせることによって、様々な形の銃を扱うことができるものだった。

そして、それ以外にも、ノエルが驚くことが自身に起きていた。

 

「この格好・・・イカルガでココノエさんから貰った・・・」

 

ノエルは『ベルヴェルク』を持った時、自分の目に映った手袋を見て、自身の身なりを確認して気が付いた。

自身の格好は今、先程まで着ていたシスターの格好でも、統制機構衛士の制服でもなく、イカルガに来た時、ココノエからもらった、衛士の制服と色合いが似ていて、「肌が出過ぎている」と自身が感じていた西部劇にありそうなガンマン風のものだった。

―どうしてこの格好に?そう呟くのも束の間、突如聞こえた轟音に、ノエルは思考を中断してそちらを振り向いた。

 

「今の・・・もしかして戦闘の音!?」

 

これは『先程までの(シスターとしての)』自分ではなく、『前の世界での(戦いに関わっていた)』自分の経験が告げていた。

 

「っ!そうだ!ニューっ!」

 

自分がここへ来た目的・・・ニューを連れて帰るため、ノエルは音の聞こえる方へと走った。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

戦闘の音を頼りに先を進んで行くと、崖であろう所にノエルは辿り着いた。

 

「やっと着いた・・・!ニューはきっとラグナさんの近くにいるはず・・・!」

 

ノエルは落ち着いて、しかし速やかに辺りを見回して行く。見知らぬ地でありながらここまで順応できたのは、前の世界での記憶や経験による賜物だった。

まずは自分と同じ高さの所に何かないかを見て行くと、ハクメンとテルミ・・・レリウスとラグナによく似た少年が戦っているのが見えた。

 

「あの人たちもここに来ているの・・・?ううん。気になるのは分かるけど、早とちりはダメ・・・」

 

何も無ければそのまま彼らの所まで走ればいい。そう割り切ってノエルは自分より高い場所を見渡す。

すると、そこにはナインと、先程みた『ムラクモユニット』のようなものを使う少女が三人が手を組んで、魔女のような女性と戦っているのが見えた。

 

「ナインさん・・・今はどっちなんだろう?」

 

ノエルは前に彼女の工房にて、存在そのものを嫌悪されているようなことを言われたため、味方と判断しきれなかった。

テルミのこともあるので、味方と見てもいいかもしれないが、まだ判断しきるのは早いため、迂闊によるわけにはいかないだろう。

 

「後は・・・」

 

最後に自身より下の場所を確認する。

すると、何らかの結界のようなものが確認でき、その近くにラグナとニューの姿を確認できた。

 

「・・・いた!」

 

見つけたが早いか、ノエルは何の躊躇いもなく崖を滑るように降りて、二人の元へと走っていく。

走って二人の方へ近づいて行くと、ラグナが自分と一緒にいる桜色の髪をした少女に呼びかけているのが見えた。

頭痛にやられているかのように苦しそうしている少女を見て、何かを感じ取ったノエルは思わず足を止めた。

 

「あの子・・・似てる・・・。まるで私みたい・・・」

 

不思議なくらいに自分に似たものを感じ、ノエルはその少女のことを眼の力で『観測』てみることにした。

彼女の眼の力は、繰り返される『予定調和』からラグナを助け、世界に可能性を示したことで得たもので、『マスターユニット』の眼の代わりとなって世界を観測できる力を持っている。

この眼の力の持ち主が、見たものを『事実』として観測すれば、それこそどのような事象でも『事実』になると言う代物だった。

ノエルは前の世界で、ツバキを助ける際に、ジンに頼まれて彼女を『観測』ることで、『封印兵装・十六夜』の真の姿を見たことがある。

その経験を生かして、ノエルは彼女の奥底に眠るものを『観測』ることを決意した。

 

「っ!?嘘・・・?いくら何でもそんなことって・・・」

 

ノエルは彼女から『観測』えたものが信じられなかった。

自分とよく似た少女・・・もとい、自分の元になった少女が、彼女の中から『観測』えたのだった。

そして、周りから見た個の存在は殆ど確率しているものの、何らかがきっかけで自身があやふやになってしまっていること、そのあやふやな状態をニューにつけ入れられてしまったという事がノエルには把握できた。

 

「(あの子は対処法を持っていないんだ・・・。なら、私が教えて上げないと・・・)」

 

―まずはあの子を助けよう!どうするかを決めたノエルは再び少女の元へ走り出した。

身体能力が前の世界の状態である為、距離が短めだったとはいえ、ノエルは全力で走っても大した息切れを見せなかった。

 

「落ち着いて・・・大丈夫。例え似ていたとしても、貴女は貴女だよ・・・」

 

「・・・・・・私は私・・・」

 

ノエルは彼女の右側から左手を背中に乗せて、少女が自己を保てるように促しの言葉をかける。

それは少なからず効果があり、少女は落ち着きを見せ始めていた。

 

「うん。怖がる必要は無いよ・・・例え他人に何と言われようと、自分はこういう人だっていう考えを持ち続けて、必要であればそれを伝えればいいの」

 

「・・・必要なら伝える・・・。っ!そっか・・・それでいいんだ・・・」

 

もう一押しとノエルが少女を肯定すると、少女の表情は、自己が確保できずに怯えているものでは無くなった。

 

「・・・確かにあなたと私は似ている・・・でも、それは似ているだけであって同じじゃない・・・!私は、プラネテューヌの女神候補生、ネプギアっ!」

 

「・・・・・・何をしたの?」

 

ネプギアと名乗った少女が急激な立ち直りを見せたことで、ニューは猜疑心を持った目を彼女に向けた。

だが、それでもネプギアは怯む様子などなく、ノエルの方に顔を向けた。

 

「あなたが教えてくれたおかげでどうにかなりました。えっと・・・」

 

「私はノエル・・・ノエル=ヴァーミリオン。ネプギアちゃん、もう大丈夫だね?」

 

ネプギアがお礼を言いたくても名前が分からないと言いたそうにしていたので、それを理解したノエルは彼女に名乗りながら気遣いの言葉をかけた。

 

「はい。もう大丈夫です・・・ありがとうございます、ノエルさん・・・」

 

名前を知ることができたネプギアは、ノエルへ嬉しそうに礼を述べた。

自分と妙に人としての波長が似ているため、この二人は平時に会えたのなら、すぐに仲良くなれそうだと感じていた。

 

「ノエル!?お前、本当にノエルなのか!?」

 

「はい。お久しぶりです、ラグナさん・・・」

 

彼女の名前を聞いて驚いたラグナは、思わずそちらを振り向いたので、ノエルは迷うことなく肯定した。

その姿を見て間違いないと分かったラグナは、すぐに味方の通信ができる全員へ術式通信を行う。この時、ノエルも同時通信に巻き込んでおいた。

 

「お前ら、ノエルだ!間違いなく味方な奴が来たぞッ!」

 

『ここへ来て『蒼の少女』が来たか。確かに、少女であれば御前と敵対することはあるまい』

 

「・・・えっ?あ、あの・・・何がどうなっているんですか?一応、ハクメンさんがテルミと戦っているのは見えたのですが・・・」

 

ノエルがハクメンたちの方を見て見れば、ノエルが来たことで再び戦場が混乱を呼んだのか、交戦が一時中断となっていた。

レリウスは交戦を目的としていないのか、ラグナとよく似た少年はそれに倣って戦闘を中止していた。

最後にナインたちだが、戦闘こそ止まっているものの、いつの間にかかなりこちらへ近づいてきていた。

 

『・・・ノエル。あなたが『エンブリオ(あの世界)』で私たちに受けた仕打ちには思うところがあるかもしれないし、どうして私たちがこうしているかが分るまでに時間がかかると思う・・・。でも、今は第十三素体(そいつ)と、その結界の中にいる人たちを助け出すのが先・・・。こんなこと身勝手過ぎるかもしれないけど、力を貸してくれるかしら?』

 

ナインの頼みに、ノエルはすぐに首を縦に振ることはできずに考え込んだ。

少しだけ考えて、考えが決まったノエルはナインに自分の意思を伝えることにした。

 

「・・・わかりました。私も協力します」

 

『・・・良いのだな?ラグナはまだ良きにせよ、私とナインは御前を狙った者だぞ?』

 

「構いません・・・それに、いつまでも抱えているわけにもいかないですから・・・。何しろ私、つい先ほどまで前の世界の記憶が無かったんです」

 

ハクメンに念押しで訊かれるが、ノエルは曲がる事など無かった。それどころか、彼女の回答を聞いたナインたちが逆に混乱することになってしまった。

 

「・・・そういやニューもそんなこと言ってたな・・・。てことは、ノエルも・・・」

 

「はい。ラグナさんが作った、新しい世界の方から私も来たんです・・・」

 

ラグナはノエルの回答を聞いても、そこまで大きく驚くことは無かった。

とは言え、何故そんなことをしてしまったかまでは理解しきれなかった。

 

「そうなると・・・ノエルは誰かに呼ばれたのか?それとも・・・」

 

「後者の方です。私は、ニューを追いかけて自分から来ました」

 

ラグナの質問に答えながら、ノエルはニューの方に向き直った。

 

「・・・どうしてニューを追いかけて来たの?」

 

「どうしてって・・・そんなの決まってるでしょ?ついさっきまでまともに身動きができなかった貴女が、急にどこかへ消えたなんてことがあったら心配するし、探しにいくよ・・・」

 

「何でそこまでするの?だって・・・そのままにしておけば、ニューのことを気にしないでいいからそっちも楽でしょ?」

 

ノエルの回答が理解できず、ニューは首を傾げながら再び問いかけた。

 

「それだけじゃない・・・私、元気になったニューを迎えに来たの。」

 

「・・・迎えに?」

 

「うん・・・せっかくニューも元気に動けるようになったんだし、今度、ラムダも連れて三人でどこかに出かけようよ・・・。そこにはニューが見れていないものだっていっぱいあるし、もしかしたら、ニューが本当に好きになれるものだって見つかるかもしれないよ?」

 

それでもなお困惑を見せるニューに対し、ノエルはその良さを伝えようとする。

ラグナにはその姿がまるで、自分たちと一緒に暮らすことを始めた『セリカ(シスター)』のように感じられた。

 

「で、でも・・・ニューは・・・」

 

「自分に正直になって、ニュー。貴女が本当にどうしたいのか、今まで生き方で本当にいいのかを・・・」

 

「今の生き方・・・?本当にやりたい事・・・?うぅ・・・っあうぅぅぅ・・・ッ!」

 

ノエルの言葉は核心を突いたのか、自身に残されたものと、欲しているものが分からなくなり始めたニューが、混乱しながら頭痛に呻き始めた。

そして、ハクメンたちがいる方にて、セリカはようやく、ハクメンに大声を出せば声が届くであろう所まで辿り着いた。

―一度落ち着いたらすぐに使おう。そう決めたセリカは一度深呼吸してから、大きく息を吸った。

 

「ハクメンさーんっ!」

 

「ナインよッ!到着したぞ!」

 

『ッ!いいわ、セリカッ!』

 

セリカの声が届き、ハクメンがそれを伝えると、ナインは迷うことなく使うことを許した。

 

「分かった・・・!ミネルヴァ、お願いっ!」

 

セリカはミネルヴァに寄りかかるに背中から身を預ける。

それを確認したミネルヴァは尻尾のように伸びているコンセントの先端を、セリカの胸元に持ってくる。

セリカはそれを優しく握ると、セリカの中にある『秩序の力』が増幅され、セリカは全身を縛られるような感覚に襲われる。

 

「ぐうぅ・・・ッ!?、これは・・・!?」

 

「ぐおぉぉぉッ!?な・・・何だ?何が起きやがったァッ!?」

 

セリカの力の影響を強く受けたマジェコンヌとテルミは、思わず呻き声を上げた。

特に、セリカとの距離が近かったテルミは強烈な痛みや吐き気が襲いかかってきて、まともに動ける状態では無くなってしまった。

混乱して、動きづらい状態のまま、テルミはハクメンがいる方に向き直る。するとそこには、近くにいればテルミに深刻な悪影響を与えかねない存在が、その能力を一時的に強化して使っている姿があった。

 

「せ・・・セリカ=A=マーキュリーだとォ・・・ッ!?なんでだ!?何でテメェがこんなところにいやがるッ!?」

 

「ナインがセリカ=A=マーキュリーを大切だと思っているのは間違いではない・・・。だが、貴様はセリカ=A=マーキュリーがどのような人間かを失念していた・・・。それが貴様が無様に地面に倒れ伏している今の結果だ・・・」

 

「・・・畜生ッ!冗談じゃねえぞ・・・!二度もこんなオチなんてシャレになんねぇだろうが・・・ッ!ぐおぉぉぉ・・・ッ!」

 

ハクメンの回答を聞いたテルミは吐き捨てるものの、襲いかかってきた痛みに耐え切れず、再び呻くのだった。

 

「テルミよ・・・己が慢心を呪うがいい・・・」

 

倒れ伏すテルミを見て、ハクメンは『斬魔・鳴神』をゆっくりと頭上に掲げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「は・・・はは。ネプギアがどうにかなってくれたから良かったかな・・・?」

 

「そうね・・・。少なくとも、今はもうああはならないでしょうね・・・」

 

ネプギアがどうにか戻ったことに、ネプテューヌと、彼女の呟きに同意したノワール、そしてブランとベールも安心していた。

しかし、周りの状況はそれで良かったのだが、彼女たちの状況は改善されてない。寧ろ悪化の一途をたどっていた。

 

「それはいいのですが、私・・・体の感覚がありませんわ・・・」

 

「・・・ええっ!?」

 

「わ、私も・・・体がいう事を聞いてるか分からなくなって来たわ・・・」

 

無数の黒い腕に、体の至る所を掴まれていた彼女たちの限界が、もうすぐそこまで近づいていた。




今回はノエルが参戦になります。
大分駆け足な形な形で新しいキャラを呼ぶ形となりましたが、そろそろ入れ時だったので、このような形を取りました。

人気投票の方で遂に最終結果が出ました。
一位はラグナで、主人公の面目躍如といった形になりましたね。全てラグナに票を入れていた私としては非常に嬉しい結果になりました。
個人的に凄いと感じたのは、三位のヒビキでしょうか?上位十名の中、彼は中間発表の後から唯一順位を上げています。

さて、今まで気がつかなかったのが物凄くお恥ずかしい限りですが、ネプテューヌのRe;Birth1+の公式サイトが出ていましたね。
しかも発売日は何の因果でしょうか?なんと、ブレイブルーの最新作と同じ5月31日となっています!
私自身、この小説を書き始めた頃は・・・
VⅡRを買ったし、ネプテューヌと何かを混ぜた小説を書こう!→そういやブレイブルーは本編完結してるし、最新作も出るじゃん!これで行こう!
と勢いで書いていました。決して狙っていたわけではないのですが、なんだか物凄い奇跡を見たような気がしました・・・。

最後に、次回はこの山場に決着が着くと思います。


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32話 蒼い空取り戻す

ちょっと遅くなっちゃいました。
今回で山場が終わります。


「な、なんだ・・・!?何をしたんだあの小娘はッ!?」

 

マジェコンヌはセリカを見ながら、自分の身に起きたことが解らず狼狽した。

セリカのことをよく見てみると、何やら身を預けている自動人形らしきものと共同で何かをしていて、しかも思った以上に体に負担のかかるものだというのは予想できる。

そうであればセリカを殺めてしまえばいいのだが、近づいて殺そうものならテルミと同じく殆ど身動きが取れない状況に追いやられ、成す術無くハクメンに斬られるのがオチだろう。

 

「おのれ・・・!何をしたかは知らんが、それ以上はさせんぞッ!」

 

断罪せし紫苑の咆哮(モーベットロア)ッ!」

 

近づいてダメならば遠くからやればいい。そう判断したマジェコンヌは自身の持っている槍をセリカの方へと勢い良く投げつける。

しかし、それがマジェコンヌとセリカの真ん中に辿り着くはおろか、候補生たちの横を通り過ぎるよりも前に、どこからか現れた巨大な足がそれを蹴り飛ばし、ズーネ地区の外まで飛んで行ってしまった。

―こんな時に横槍したのは誰だ!?焦るマジェコンヌが足の現れた方に目をやると、そこには自身の周囲に火の魔法によって熱気が走っているナインがいた。その表情は、この世界に来てから初めて見せる、冗談が一切通じなくなる本気の怒りだった。

セリカに危害を加えようとした瞬間から、マジェコンヌは絶対に踏んではいけない特大の地雷を踏み抜いてしまったのだ。

 

「・・・ラグナやハクメン、それから女神たちとその関係者のように、信頼できる人がセリカと一緒にいたというならまだいいわ・・・。でもね、あんたみたいな害にしかならない奴がセリカに関わる。あまつさえ殺そうとするだなんて良い度胸じゃない・・・!」

 

「な・・・に・・・!?」

 

ナインから発せられるとてつもない殺気や怒りに晒され、マジェコンヌは思わずたじろいでしまった。

マジェコンヌがやってしまったことは、ナインも言った通りセリカを手にかけようとした事だった。

そもそも、ナインは気の許せる相手以外が不用意にセリカに近づくことすら許すつもりがない為、マジェコンヌの行為は暗黒大戦時代のセブンとエイト以上に許せないものである。

決定的にダメだった理由として、セブンとエイトはまだ話し合いから始まったのに対し、マジェコンヌは最初から実力行使に走ったせいである。

状況が話し合いの余地など無かったにせよ、その行為に走った段階でマジェコンヌは完全にナインの敵として見なされることになった。

 

「セリカを手にかけようとしたこと・・・あんたの命で償わせてやるわッ!」

 

怒りに震えたまま、ナインは腰を落としてゆっくりと右腕を引きながら、右腕と左足に魔力をこめていく。

 

荒れ狂う灼熱の(フレイム)・・・消滅結尾(バニッシャー)ッ!」

 

十分に魔力を溜めこんだところで右腕をマジェコンヌの方へとその場で突き出し、突き出した腕の先からビームを飛ばす。

マジェコンヌは自身からみて右側へ避けるが、まだ攻撃は終わらない。右腕に溜めた魔力を出し切るや否、今度は左足をマジェコンヌの方に突き出し、ナインは左足の先から再びビームを飛ばす。

今度は左側へ避けることで、マジェコンヌはどうにかやり過ごすことができた。

 

「ええい・・・このままでは危険か・・・!」

 

しかし、何も良いことばかりでは無かった。前までは涼しい顔で避けることができたのだが、今回は半分慌てながら避けたのだった。

その為、マジェコンヌは声に出してしまうくらいに焦っていて、額にも冷や汗が数粒できていた。

セリカがミネルヴァによって増幅した能力は、それ程まで自分に悪影響を与えていた事を悟ったマジェコンヌは、この状況をどう打開するかを必死に考え始めた。

 

「(クソがぁ・・・!こうなったら、せめて置き土産だけでも残してやらぁ・・・)」

 

一方、体がまともに動かず、痛みと嘔吐感に襲われているテルミはニューを見やって悪足搔きを画策し、右手をニューの方へと向けた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

ノエルに言われてからというものの、ニューは頭を抱えながら考えていた。

―どうしてラグナと一つになろうとした?そうして世界を壊せと言われたからで、自分もラグナを省く世界の全てが嫌いだった。

だが、それは前の世界での話であって、この世界はどうだろうか?自分はそもそもこの世界には何も関わりが無い。世界を壊せと言った者はいないし、この世界に抱く感情はない。

極めつけに、自分が唯一好き、大切と言える存在であるラグナはこの世界にそれなり以上の愛着を持っているようだ。もしかしたらこの世界が好きなのかもしれない。

そうなると自分がラグナと一つになろうとした理由が、ここでは意味をなさなくなる。そこまで考えたニューは、強まってくる頭痛を感じ、頭を押さえ直す。

 

「うっ・・・」

 

その頭痛を振り切りながら、ニューは違うことを考える。

―それなら自分が今やりたいことは?何か出てくるだろうと思ったが、何も出てこなかった。

ラグナと一つになるというのは出てきたが、それはやるべきことと植え付け得られていたもので、本当にやりたいかと言えばそうとも言い切れなかった。

―なら、ニューが本当にやりたいことは何なの?その考えに至った瞬間、ニューは硬直してしまった。

 

「あ・・・ああ・・・っ」

 

頭の中が混乱し始める中、今の生き方でいいかどうかを思い返してみる。

やりたいことは何も無かったし、そんなすぐには思い浮かばない。ただそれだけと言わんばかりに、ラグナと一つになることしか頭に無かった。

世界を壊そうとしたのは世界の全部が嫌いだったから。前の世界であれば、ラグナも世界を嫌っていたし、上手く行けばラグナも乗ってくれるという期待は確かにあった。

しかし、この世界で再開してみたらどうだろうか?今までのラグナとは思えないほど別の考えを持っているではないか。

否、そもそもラグナはあの世界で戦っている内に、考えが変わったと考えた方がいいのだろう。恐らくは自分が気が付いてないだけだ。そうして、ラグナがやり直す前の世界のことを少し振り返ってみる。

最初にハッキリ違う言えるところは、『タケミカヅチ』の中でのことだった。イカルガに来た直後は今までと対して変わらず、思い通りにさせない為に自分を(たお)そうとするラグナだったが、『タケミカヅチ』の中で再び会った頃にはもう違っていた。

それからというものの、ラグナはナインの工房では非常事態だから断念していたが、それ以外では自身に手を差し伸べていたのだった。しかも『エンブリオ』の影響で記憶を失っていた時ですら例外では無かった。そこまで思い返して、ニューは一つのことに気が付いた・・・否、気が付いてしまった。

―ラグナと一緒にいたいなら、こんなことをする必要はない。それなら自分はどんな生き方をして、どうしたい?ニューは今まで自分のやってきたことが全て無意味に等しいことになっていた。

 

「ああああああ・・・ッ!嘘だ・・・そんな・・・!そんなのって・・・!」

 

その結論に辿り着いてしまったニューは、頭を抱えながら、半狂乱にそのことを信じられない、認めたくないというかのようにに首を横に振る。

今までそうしてきたことが当たり前だったニューにとっては、その根底を否定されてしまうようなことであり、実質的に自らの意志で行動したことがほとんど無いせいで想定外のことに弱くなってしまっていたことが重なり、このような結果を招いていた。

 

「私たちと一緒に行こう・・・やりたいも生き方も、これから見つければいいよ」

 

「これ・・・から・・・?」

 

「だって・・・時間はいくらでもあるじゃない。その時間を使って探していけば、絶対に見つかるよ」

 

自分の言葉を聞いて戸惑うニューを前に、ノエルは赦すように優しく告げていく。

ラグナもその言葉に反対はない。寧ろ、ニューの境遇を理解してるから賛成であった。

ニューはまだ、新しいことや、知らないことに触れて見たりするのへ臆病になっているだけだ。だったらそれは時間をかけて克服させてやればいい。ラグナたちには、それだけの時間を与える機会が残されている。

受け入れる準備はすでにできていて、この世界では特に大きな確執も無かった。後はハクメンの心の持ち方と、ニューの踏み出す勇気だけだった。

 

「・・・うん。ニューは、ラグナたちと一緒に・・・」

 

―一緒に行きたい。ニューがそう言いかけた時、結界の中で大きな動きが起きた。

 

「ベールっ!」

 

「ネプ・・・テューヌ・・・」

 

ネプテューヌの悲痛な声が聞こえ、ラグナたち四人はそちらを見やる。

結界の中にたまっていた黒い水は、四人の中で最も低い場所に動きを止められていたベールの下半身全体まで浸かっていて、ベールは寒さにやられて目を開いてるのが辛そうな表情で、ネプテューヌの方に手を伸ばしていた。

ベールが伸ばしている手を掴む為に、ネプテューヌは緩んできているとは言え、拘束がされている状態でどうにかベールの所まで行き、その手を掴む。

 

「っ・・・だめぇぇぇっ!」

 

その瞬間、自身の手が届いたことの安心と、意識の限界が来てしまったベールは、まるで力尽きるかのように気を失ってしまい、それを目の当たりにしたネプテューヌが張り裂けるかのような声で叫んだ。

 

「っ・・・ノワール・・・!」

 

「・・・っ・・・!」

 

また、ベールと殆ど同じ高度にいたブランも、体の殆どが黒い水に浸かってしまっていて、彼女は近くにいたノワールへと手を伸ばす。

ネプテューヌと同じように、ノワールも拘束されている中でどうにかブランの手を掴むが、ブランもまた、ベールのように気を失ってしまった。

 

「・・・えっ!?」

 

「お姉ちゃん・・・!?」

 

マジェコンヌと戦っている最中、候補生たちもその異変に気付き、その様子を見て事を悟ったマジェコンヌは勝ちを確信した笑みを浮かべた。

この時、結界の中から異常な収束を見せる『悪』を見たハクメンは、思わずそちらに目を見やった。

 

「(よし、今だな・・・!)」

 

ハクメンは思わず『斬魔・鳴神』の構えを解いてしまっており、それがテルミの悪足搔きをするだけの時間を与えてしまった。

その状況にチャンスを見出したテルミは、完全に動きを止めているニューに向けてウロボロスを飛ばした。

 

「ヴェントバレル・・・!」

 

流石に隠れているわけにもいかない状況になり、結界の前まで戻ってきたアイエフは何度かハンドガンの弾を結界に撃ち込み、それがダメだと判り次第、今度はドライブで風の勢いを乗せて弾を撃った。

しかし、結界の強度が固すぎるせいか、放たれた弾はぶつかった瞬間に勢いが止まってしまった。弾が弾き返されず、その場で潰れるように止まったことから、少なくとも威力が上がっていたのは間違いでは無かった。

 

「全然訊いてない・・・!?」

 

「私もやるです・・・っ!」

 

「コンパちゃん・・・悲しいけど、それ効き目ないっちゅのよね」

 

元の銃の威力が足りないのか、それとも自身のドライブの練度が甘いのか、結界を破れなかったアイエフはハンドガンの銃口を見ながら苦い顔をする。

また、結界の状況でどれ程の危機かが分かったコンパも駆けつけ、巨大な注射器で攻撃をしてみるが全く効き目が無かった。

ワレチューは立場の関係上、協力するわけにもいかなければ、仮に協力できたとしてもまともな攻撃手段を持たないため、こうして寝そべりながらその様子を見ていた。

 

「・・・ダメなんですか・・・?」

 

「・・・!お姉ちゃんっ!」

 

全く効き目が無かったことが分ったコンパは驚愕する。ドライブも持たず、女神のような超絶的な力も持たないからあまり効かないだろうと思ってはいたが、それでもここまで結果が悪いとは思わなかった。

大切な人を失うかもしれないという恐怖巻に駆られたネプギアは、真っ先に結界の方へ向き直り、周りを見る余裕すら無くしてそちらへ向かって行く。

 

「ラグナさん、アレは一体何が・・・!?」

 

「あの黒い水が、あそこに捕まってる四人に悪影響らしくてな・・・。時間がねえ、お前も手伝ってくれ!『イデア機関』接続ッ!」

 

「わかりましたっ!」

 

ノエルの問いに簡単な説明だけ入れたラグナは、弾き返されないですむように『イデア機関』を使用して結界の方へ走っていく。

ノエルもそれに倣うように、『ベルヴェルク』を手に取って走り出した。

 

「はあぁ・・・きゃあっ!?」

 

ネプギアはM.P.B.Lを上から縦に振って結界に攻撃しようとしたが、攻撃が当たる直前に自身が弾き返されてしまった。

 

「そ、そんな・・・」

 

シェアエナジーを力の源としているものはアンチクリスタルに近づけない・・・。女神候補生であるネプギアは見事にそれが当てはまってしまったのだ。

 

「おおッ!」

 

ラグナは手始めに剣を右から斜めに振り下ろして結界を斬りつけてみる。

その結果攻撃は弾かれてしまうものの、自身が弾き飛ばされはしなかった。つまるとこと『イデア機関』の恩恵はしっかりと効いていたのだった。

ノエルも『ベルヴェルク』で結界の壁になっているところを認識し、その空間を撃ち抜くが、結界が頑丈過ぎてダメージらしいものを与えられなかった。

 

「一応、弾かれねえ・・・なら!カーネージ・・・シザーッ!」

 

「このやり方じゃダメなら・・・フェンリル!うおぉぉぉぉっ!」

 

通常の一撃がダメなら大技で。そう決めた二人は次の攻撃に移る。

ラグナは剣を一度上から縦に振り下ろし、そこから体を左に回しながら剣を右から斜めに振り上げることで、鋏状のエネルギーで結界を攻撃し、ノエルは二つの『ベルヴェルク』を前後で繋ぎ合わせて砲身の短いガトリング砲を作り、結界にそれを押し付ける。

そしてそのまま、真正面から少しずつ上へ向けて掃射をかけていき、ある程度の高さになったと同時に掃射を止めて、体を右に回しながら『ベルヴェルク』を一瞬元の形にし、左手に持っている方を結界の方へ突きつけるようにしてから再び前後に繋げ、一風変わったボウガンの様な形にして構える。

 

「ネメシス・スタビライザーッ!」

 

そのボウガンのような形になった『ベルヴェルク』から強力な一撃を放ち、ノエルは『ベルヴェルク』の形を元に戻す。

しかし、ノエルの攻撃、ラグナの攻撃共に殆どダメージを与えることができなかった。

 

「っ!?効いてないの・・・?」

 

「何の冗談だよ・・・」

 

少しは効き目があるだろうと思って放った攻撃も、目立った効果を見せなかったことに二人は啞然とする。

更に、彼らにとっての嫌な知らせはこれだけでは終わらなかった。

 

「あ・・・ッ!?」

 

「・・・!?」

 

「ニュー!?」

 

ニューの小さい悲鳴が聞こえ、近くにいた三人が振り向いてみると、ニューの背中に何かが嚙みついていた。

 

「・・・!?それ以上はさせんぞッ!」

 

嚙みついていた先を見てみると、緑色の鎖が見えた。つまりはテルミが『ウロボロス』を使ってニューに危害を加えている最中だった。

しかし、それがニューを殺害するものではなく、精神に攻撃するものだと気が付いたハクメンは、『斬魔・鳴神』でニューへと伸びている『ウロボロス』の鎖を斬った。

 

「テルミ・・・貴様の足搔きも此処までだ」

 

「あ~、なんだよもう終わりかよ・・・。でもまあいいや。これであいつはまともな判断ができねえだろうよ」

 

「・・・何?」

 

『斬魔・鳴神』を鼻先に突き付けられてもなお、ヘラヘラとした笑いを見せながら話すテルミを見て、ハクメンは疑問に思った。

テルミの見ている方を確認すると、何やら非常に苦しんでいるニューの姿があった。

 

「あ・・・ッ・・・ダメ・・・ううぅぅッ!?」

 

テルミはニューに対し、『ウロボロス』を伝わせて強制拘束(マインドイーター)を掛けたのだった。

それによる命令内容は、奇しくも『エンブリオ』の時と同じで『殺せ』という内容だった。

しかし、それは効果を掛けきるのには時間が不十分で、ニューはその命令と、殺さないでいいならそれがいいという感情に激しく揺さぶられることとなり、ニューは頭を抱え、うめき声を上げたまま八枚の刃を自身の周囲へ滅茶苦茶に飛ばすのだった。

 

「なッ!?ニュー、どうした!?」

 

「ニュー、しっかりして!ニューっ!」

 

飛んでくる刃の中には自分たちに当たる動きをしているものもあり、ラグナとノエルは各々の武器で自身に当たりそうなものを迎撃しながらニューに呼びかける。

しかし、その声はニューには届かず、彼女は苦しむまま八枚刃を飛ばし続ける。

 

「ニュー・・・!お姉ちゃんっ!」

 

自身に当たらないように、迫りくる刃をM.P.B.Lからビームを撃って迎撃し、ネプギアは結界の方を見やる。

黒い水は更に増していて、既に他の二人より比較的高い位置にいたネプテューヌとノワールすらも、全身が浸かっていた。

 

「あ・・・アレは何なの?」

 

流石にマジェコンヌと戦う余裕すら無くなり、ユニたちも結界の近くまで降りてきていた。

結界から少し離れているだけにも関わらず、黒い水のせいで姉の姿が見えず、その状況にユニたち候補生は絶望を示すような表情を見せた。

そんな彼女たちの背後に、セリカの力によって体に悪影響が出ている中、余裕さを見せるマジェコンヌが降りてきた。

 

「アンチクリスタルはああやって女神を殺すのだ・・・あと一歩、届かなかったな」

 

―よく頑張った方だよ。マジェコンヌはせめてものの称賛を、勝ち誇った笑みと共に送った。

その顔には大粒の汗が一つ程浮かんでいるが、状況が状況であったため、気付く者はいなかった。

 

「・・・嘘だろ?数値が・・・」

 

「ふむ。時間が来たか・・・」

 

彼女たちが危険な状況だということは、ナオトには『眼』によって嫌でも解ってしまう。

結界の方を見てみると、昨日は『150000』近くあった彼女たちの数値が、おおよそ『11000』まで減っていた。

あの水に浸かったことが影響して、急激な数値の低下を起こしていたのだ。

レリウスはその結界から伝わってくる『情報』を把握し、彼女たちの魂の輝きが消えかかっていることを悟った。

 

「・・・ラグナちゃんをブッ飛ばせなかったのは痛ぇが・・・最低限できたからいいだろ・・・」

 

「届かなかった・・・と言う事なのか・・・」

 

テルミは吐き気に襲われながら呟き、ハクメンはその場で立ち尽くした。

 

「くっ・・・ネプテュー・・・ヌ・・・」

 

「の、ノワー・・・ル・・・っ」

 

ネプテューヌとノワールはせめて最後にと、互いに手を伸ばし、それを掴むと同時に気を失ってしまった。

そして、アンチクリスタルによって作られていた結界は、時が来たと言うかのように、紫色から真っ黒に染まった。

 

「お、おいお前ら・・・!生きてるかッ!?返事しろッ!」

 

ラグナは結界を右手で叩きながら彼女たちに呼びかけてみるが、返事は帰って来なかった。

最悪の事態を考えてしまい、ラグナは「嘘だろ・・・?」と呟きながら二歩後ろに下がった。

 

「そんな・・・っ・・・お姉ちゃん・・・」

 

ネプギアは呆然としながらその場に座り込んでしまい、その目尻には涙を浮かべていた。

―自分たちの力が足りなかったから?来るのが遅かったから?考えても答えは出てこない。しかし、それ以上に悲しみがネプギアの心を支配していた。

何がどうであれ、もう姉と話したりすることはおろか、会うことすらできないからだ。

 

「・・・嫌ああぁぁぁぁぁああああああっ!」

 

その悲しさに耐えられなくなったネプギアの悲鳴が、ズーネ地区に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

何も見えない真っ暗な空間で、ネプテューヌはゆっくりと目を開けた。

 

「(どこだろう?ここ・・・私、死んじゃったのかな・・・?)」

 

戸惑いながら辺りを見回してみるが、何も見えないし、答えてくれるものもいなかった。

しかし、自身から確かに聞こえて来る鼓動が、自分の死を否定していた。しかし、それともう一つ信じられないことが起きていた。

 

「(ううん、違う。でも・・・シェアエナジーはもう、届かないはずなのに・・・)」

 

アンチクリスタルの結界の中にいる自分たちにはもう、シェアエナジーは届かないはずだった。

だというのに、ネプテューヌはシェアエナジーが自身に届いているのが分かった。

―それならどうしてここまで届いているの?彼女が疑問を深めていると、両手に誰かと手を握り合っている感覚が伝わってきた。

自分たちが黒い水の中に沈みそうな直前、全員で手を繋げるだけ繋いでいたものの、一方通行のような形で精一杯だった。

そして彼女たちが沈んだ直後、気を失っているにも関わらず、彼女たちは打ち合わせていたかのように円になるように集まり、最後に繋げなかった手を繋いで輪を作っていた。

―あったかい・・・。黒い水の影響で体が冷え切っていたが、互いに繋いだ手は、ネプテューヌに温かさを感じさせていた。

 

「(そっか・・・そうなんだね・・・。私たち・・・)」

 

つい最近に、シェアの源は『国民が女神を信じる心』だと、イストワールやネプギアと確認していたネプテューヌは目を閉じたまま、自分の周りを感じる。

自身の左手と掴み合っているノワールの右手。自身の右手と掴み合っているベールの左手。そして、その二人の空いている手と掴み合っているブランの両手。互いの手から繋がるように、シェアエナジーの温かさで繋がっていた。

また、ネプテューヌは近くにあるものと大きな繋がりを感じた。

感じた繋がりの正体は、ラグナの持つ『蒼炎の書』で、それが取り込んだことでラグナに宿ったシェアエナジーと共に、ネプテューヌに一つの答えを伝えてきた。

 

「(どこにあるかまでは教えてくれないか・・・。でも、今はそれだけで大丈夫)」

 

―『蒼』は存在し、シェアエナジーは『蒼』を根源としているが故に、『蒼炎の書』を含む『魔素』を使った行動は問題なく行使できている。

それが、三人と共に共鳴していく中のネプテューヌに、『蒼炎の書』が伝えた一つの答えだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「そんな・・・っ・・・お姉ちゃん・・・っ!」

 

「・・・残念だったな。愛し姉はもういない・・・」

 

地面に手を付けたまま嗚咽しているネプギアと結界の間の所まで歩きながら、マジェコンヌは無情に告げた。

 

「だが、貴様らの起こした奇跡は無意味という訳ではない・・・。もしあと一歩ずつ早かったのなら、負けていたのは私たちかもしれんのだからな」

 

「・・・・・・」

 

マジェコンヌはせめてものの称賛を送ってみるが、ネプギアは反応を見せなかった。自身の大切な人を失ったショックが大きかったからである。

ネプギアのみならず、候補生の四人を筆頭に、ゲイムギョウ界出身組は呆然と立ち尽くしていた。

しかし、彼女たちが死亡したとは微塵も思っていない者もいた。

 

「・・・?この魂は・・・。どうやら素晴らしいものが見れそうだ」

 

「素晴らしいだ?何を言ってやがんだテメェは・・・」

 

「黒鉄ナオト・・・お前には見えている筈だ」

 

その内の一人はレリウスだった。黒く染まった結界をみたまま呟く彼にナオトが猜疑心を持った目を向けると、レリウスは顔だけ向けてナオトに告げた。

半信半疑でありながらも、結界の方を『狩人の眼』で見たナオトは、映し出された数値に驚くこととなった。

 

「・・・あいつら・・・。まだ倒れてねえんだな・・・?」

 

ナオトの『眼』に映る数値は『11000』を下回っておらず、減るどころかその数値を徐々に増やしていった。

その数値を見たナオトは、まだ希望はあると自身に言い聞かせた。彼女たちが必死に足掻いている以上、諦めるのには早すぎた。

 

「・・・さて、姉の死んだという事実に耐えるのも辛かろう?そこでだ・・・」

 

マジェコンヌは息を吐いてから提案するかのように話しながら、体を少しだけ宙に浮かせる。

 

「貴様らを奴らの所へ送ってやろう・・・向こうで仲良く暮らすのだなッ!」

 

「・・・っ!」

 

マジェコンヌが槍を振りかぶるのとほぼ同時に、ネプギアは顔を上げたその瞬間に、黒く染まっていた結界の中から四つの光が現れたのを見た。

紫、黒、白、緑。それらは姉たちの持つシェアエナジーが色となって現れたものであり、ネプギアに自分たちはまだ戦っていると伝えるには十分なものだった。

―お姉ちゃんが頑張ってるのに、私が諦めちゃったらダメ!自分に言い聞かせたネプギアは一瞬にして立ち上がり、マジェコンヌが突き立ててきた槍をM.P.B.Lで防いだ。

 

「・・・何?」

 

その事態にマジェコンヌは驚きを隠せなかった。

―さっきまで打ちひしがれていた小娘が、何故急に立ち上がったのだ?マジェコンヌは結界が自身の背後にあったせいで、その原因に気づけていないのである。

 

「お姉ちゃんは・・・お姉ちゃんたちは・・・!」

 

「お姉ちゃん・・・?」

 

ネプギアの自身への奮い立たせを聞いた三人の候補生も、結界の方を見てそれに気づいた。

あの中でも、自分の姉たちはまだ生きている。否、それどころか・・・。

 

「お姉ちゃんたちは・・・戦っているっ!」

 

「う・・・おぉおッ!?」

 

ネプギアはマジェコンヌと候補生の疑問に、まるで答えを告げるかのように言い切りながらマジェコンヌを押し返した。

マジェコンヌが思わず背後を見やると、四つの光が見えたので、今回は想定外のことが多かったとは言え、これで死んだと思っていた女神が生きている、ないしは死にかけの状態で彼女たちに力を与えているという事態はそう簡単に信じられるものでは無かった。

 

「お姉ちゃんたちは諦めてない・・・まだあの中で、私たちを信じて戦っている・・・!」

 

立ち上がるネプギアの体から、虹色の光が溢れ出し、それを見たレリウスは「待っていた」と言わんばかりに口元を緩める。

どうやら、レリウスの見たかったものの予兆が起きているようだ。

 

「それなら、アタシたちが倒れているわけにもはいかないわ・・・!」

 

「お姉ちゃんたちが待っているなら・・・!」

 

「私たちも諦めない・・・!」

 

ネプギアの行動が活気づけとなり、ユニたちも立ち上がる。

その時、彼女たちも例外なく体から虹色の光を溢れ出させていた。

―この期に及んで、まだ奇跡を起こすと言うのか!?それを見たマジェコンヌは狼狽に近い表情を見せた。

 

「・・・あなたを倒します。私たちの、全身全霊を賭けてっ!」

 

「これは・・・シェアエナジーの共鳴・・・!?ぐぅ・・・!?」

 

その瞬間、候補生四人の体から溢れ出ていた光が一瞬だけ強くなって、大気中に虹色の波となって広まっていった。

自身の周囲を通り過ぎていく光の波を見たマジェコンヌは、自分たちに取っては最悪の軌跡が起きてしまったことを悟った。

更に、セリカの力によって動きが悪くなっていたマジェコンヌに、より強くのしかかってくるかのようにセリカの力が影響してきた。

シェアエナジーの共鳴は、自分たちと協力的なものに良い影響を与える力もあるようで、セリカの力は見事にその条件が当てはまっていて、更に能力が強まっていた。

それが影響して、マジェコンヌは更に体に重みがかかり、額から大粒の汗が幾つか落ちる程だった。

 

「ぐおぉぉぉおおおぉぉおッ!?な・・・何が・・・起きてんだよォ・・・!?ぶオェ・・・」

 

「躰の重みが薄まった・・・気のせいでは無い様だな・・・」

 

「何だ・・・!?体から力が漲ってくるみたいだ・・・」

 

「ハクメン。そして黒鉄ナオト・・・。どうやらお前たちも、この世界で『善』とみなされたようだな」

 

セリカの力が元々天敵と呼べる程に相性の悪いテルミは、最早身動きが取れない程に悪影響を受け、僅かながらに胃液を吐いてしまった。

それとは逆に、ハクメンとナオトは体の動きが急に良くなったため、自身の体を見回しながら戸惑った。

そして、この中で唯一何も影響を受けていないレリウスは、彼らの変化を理解して呟いた。

しかし、レリウスに取って重要な内容はそこでは無かった。

 

「シェアエナジーの共鳴か・・・これは素晴らしい魂の輝きだ・・・。大変興味深いが、もうじきそれも終わるか・・・。」

 

―しかし、得られたものとしては十分すぎる。後はデータを纏め、不足している部分を洗い出すとしよう。結論を出したレリウスはそのまま立ち去ろうとして、テルミの方へと目をやった。

このままでは間違いなく消されるだろう。それは今まで関わりを持っていた身としては少し面白く無かった。

 

「イグニス。奴をどこかへ飛ばせ」

 

レリウスは目の前で起きている現象から目を離さないまま、テルミの方を指差してイグニスへ指示を出した。

イグニスは迷うことなくテルミの側まで低空を飛ぶようにして近づいていく。

 

「ボル・テード!」

 

「おおおッ!?」

 

「何・・・ッ!?」

 

イグニスは自身の左手をテルミに押しつけ、黒い球を発生させてテルミを呑み込んだ。

ハクメンが気づく頃にはもう遅く、イグニスの発生させた球が爆発寸前になっていたので、ハクメンは飛びのくしかなかった。

そして、その黒い球が爆発して消えると、そこにテルミの姿は無かった。

 

「消えた!?」

 

「一歩先を行かれたか・・・」

 

「これは私なりの、奴への恩を返す行為だ」

 

戸惑うナオトとテルミがいた場所に目を向けるハクメンをよそに、レリウスは淡々と回答した。

そして、この場でレリウスのやろうとしていたことは今終了したため、後は去るだけだった。

 

「さて、私はそろそろ退散するとしよう。また会うかもしれんな」

 

そう呟いて、レリウスはイグニスと共に転移魔法でこの場から消えていった。

 

「ああ・・・絶対にまた会うだろうな」

 

ナオトはレリウスがいた場所を見ながら、確信を持ってそう呟いた。

 

「あんなに・・・」

 

「輝いてるです・・・」

 

アイエフとコンパは、その光景にただ呆然としながら呟いた。

確かに彼女たちもシェアエナジーの共鳴によって、良い影響が出ているのだが、それ以上にその暴力的な光の奔流に目を奪われていたのだ。

 

《この輝き・・・まさかだけど・・・》

 

ラケルはシェアエナジーが見せる輝きを見て一人、この世界は非常に重要な見落としがあると感じていた。

見落としているものは、ラグナが所有していて、ナオトが人に戻る為に探し求めているものだとラケルは考えていた。

その理由は、ラグナの『蒼炎の書』にあった。

 

「・・・!?何が起きたんだ?」

 

「ッ!?アンチエナジーが・・・私の、奇跡が・・・打ち消されていく・・・!」

 

ラグナは右腕にを見ながら驚きを見せた。

シェアエナジーの共鳴と同じ虹色の光が、右手の甲から発せられていたからである。

この場にいる中で、女神候補生以外で最も多く影響を受けているのは、味方側はラグナ、敵側はマジェコンヌだった。

ラグナは体の疲労感が吹き飛んでいて、マジェコンヌは自身の現在の姿の背後にある、機械状の翼の一部が悪影響を受けて砕け散った。

 

「・・・くっ!」

 

―このままでは危険だ!そう感じたマジェコンヌはとにかく上空へと、彼女たちに背を向けて全力で飛び去ることを選んだ。

女神の打倒も、死んでしまっては元も子もない。逃げることは屈辱ではあるが、辛うじて冷静さが残っているマジェコンヌの頭は自らの命を無駄にする選択を選ばなかった。

 

「う・・・ッ!?ニューはどうすればいいの・・・?何をしたらいいの・・・?わかんない・・・ッ!わかんないよ・・・ッ!」

 

ニューはテルミに掛けられた強制拘束(マインドイーター)と、誰かに助けてほしい、もう戦いたくないという想い三つのがせめぎ合って混乱していた。

これは強制拘束(マインドイーター)が不十分だからこそ起きている状態であり、もし完全に強制拘束(マインドイーター)を受けていたのなら、ニューは今度こそ本当に救うことができない状態に陥っていた。

その状態を見て、ラグナはまだチャンスがあると確信していた。左腕にある『イデア機関』も、ナインがバッチリとは言えないものの、最大限修復してくれていたお陰でもう一度だけ使える。

その状況が、ラグナにこれ以上ない絶好の機会を与えていた。

 

「ニュー、お前は助けて欲しいか?」

 

まずは問いかけてみることにした。問答無用の状態で行っても上手くいかないかも知れないとラグナは考えたからだった。

幸いにもニューの周囲にあった八枚の刃はニューの背後に止まっていて、迎撃する必要が無くなっていた。

その為ノエルは、ラグナがやってくれると信じてその状況を見守ることにした。

 

「・・・助けて・・・くれるの?」

 

「ああ。お前がそう望むなら、俺は今すぐにでも助けてやるよ」

 

混乱する中、ラグナに問いかけてみると即答で返って来た。そして、この時ニューは一つのことに気が付いた。

―ラグナはあの時からずっと、自分に救いの手を差し伸べていた・・・。何度自分が拒否しても、ラグナはいつでも待っていると言うかのように辛抱強く、差し伸べるのを引っ込めないでいた。

その真実に気づいたニューは、その手を今度こそ掴もうと思った。

 

「ラグナ・・・ッ・・・!ニューを・・・ニューを助けて・・・!」

 

バイザーの影響で目元は判らないが、ニューの頬には涙が伝っていて、その口元も悲しさを表していた。

 

「ようやくだな。俺はずっと・・・お前からその言葉を聞きたかったんだ・・・」

 

「ラグナさん・・・」

 

ニューから言葉を聞くことのできたラグナは、この状況下でも思わず口元が緩んだ。否、緩んだのではなく、彼女を助けられることに一種の嬉しさを感じて口元を緩めたのだった。

その姿をを見たノエルも、ラグナに同意するように微笑みを見せていた。彼女もまた、ニューを助けることができると解って嬉しかったのだ。

―答えは聞けた・・・後はやるだけだ。ラグナは剣を握り直しながら腰を落とした。

 

「待ってろよニュー・・・。今助けてやるからなッ!」

 

「っ・・・ラグナぁ・・・ッ!」

 

ラグナが自分を助ける為に走ってくる姿を見たニューは、頭を抱えながら嗚咽する。

出会ってからずっとすれ違いあっていた二人に、ようやく向かい合う時が訪れようとしていた。

 

「・・・!?な・・・!?」

 

これならば追ってこれまい。そう考えていたマジェコンヌが後ろを振り向いてみると、候補生の四人は完全についてきていた。

彼女たちの周囲から発せられている虹色の光は、罪を償えと言うかのようにじりじりと近づいて来ていて、それはマジェコンヌに強迫観念に近いような恐怖を与えた。

 

「逃がさない・・・っ!」

 

「う・・・ッ!?ああ・・・!」

 

急いで逃げようとマジェコンヌは再び背を向けるが、ユニのランチャーから放たれたビームによる正確な狙撃が、マジェコンヌの背にある右側の翼を撃ち砕いた。

翼を破壊された時の衝撃よって、マジェコンヌはバランスを崩し、一回転半程左に回ってしまう。

 

「ああッ!?ラグナッ!」

 

八枚の刃がニューの意図せずラグナの方へ飛んでいき、不安に感じたニューは思わず叫んだ。

しかし、ラグナは全て剣を使って、弾き返しながら正面を進んで行く。待たせてしまった分、最短距離でニューを助けに行くつもりでいたのだ。

 

「俺は平気だから、そこで待ってろよ・・・!もうすぐだからなッ!」

 

自身が最初にいた場所と、ニューの今いる位置の丁度真ん中までラグナは来ており、ラグナは更に一歩の幅を大きくした。

 

「「ええーいっ!」」

 

「ぐああぁぁッ!?」

 

マジェコンヌが思わず閉じてしまっていた目を開けると、ロムとラムが二人で杖に魔力を込め、星形の巨大な氷塊を作っていて、それをマジェコンヌに飛ばしてきた。

今から避けようにも既に遅く、そうなれば防御するしかないとマジェコンヌは槍で防ごうとするが、圧倒的な質量差に負けてしまい、その氷塊を顎下に受けて吹き飛ばされる。

そして、マジェコンヌはその一撃の影響で高度が落ちていき、勢い良くアンチクリスタルの結界にぶつかってしまった。

 

「ぬああああああぁぁぁぁぁああぁぁぁああぁあッ!?」

 

アンチクリスタルは異様に強度があり、その頑丈さが仇となってマジェコンヌに更なるダメージを与えた。

その痛みにやられて、マジェコンヌは貼り付けられるように動きを止めてしまった。

その一方で、ラグナは十分に近づいたと判断し、最後の一歩は地面を強く蹴る。

そして、そのまま地面スレスレを滑空するように飛んでいき、左手をニューの額に押し当てた。

 

「あ・・・」

 

「大丈夫だ。すぐに終わるからな・・・」

 

戸惑うニューに対し、ラグナは安心させるように告げる。

ラグナは一度だけ深呼吸をしてから、左手に意識を向ける。以前ノエルにもやったことを、ラグナはニューにやろうとしていた。

 

「ああ・・・ッ!?」

 

「消えてっ!」

 

自身が動こうとする瞬間にはネプギアが迫ってきており、かなり近い距離でM.P.B.Lの銃口をこちらに向けた瞬間、マジェコンヌは完全に固まってしまった。

そして、ネプギアは迷うことなくマジェコンヌに向け、M.P.B.Lによる最大出力のビームをマジェコンヌに浴びせた。

 

「『イデア機関』接続・・・反転ッ!」

 

ラグナはニュー逆精錬させるべく、『イデア機関』を最大稼働させた。

その瞬間、ニューの背後にある八枚の刃と、腕と足に付いている鎧が光となって、風に流されるように消えていく。

更に、目元を覆うバイザーが砕け散って、彼女の涙で潤んでいた目元が露になる。

それと同時に、ネプギアのM.P.B.Lから放たれたビームの奔流が結界の表面を砕いてマジェコンヌごと地面に叩き付けた。

その瞬間、結界の底辺の中央から、虹色の巨大な爆発が発生した。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「いでででで・・・。マジで死ぬところだったわ・・・うおぉ・・・ッ!」

 

ズーネ地区の地下にて、レリウスの強制転移を貰ったテルミは受け身を取れず、地面に思いっきり叩きつけられてしまっていた。

セリカの力とシェアエナジーの共鳴という、最悪のダブルパンチを受けたせいで暫くはまともに動けない程弱っていたのだった。

 

「クソがァ・・・せっかく立てた計画がパァじゃねえか・・・あんなに都合のいい話があるかァ?あの様子じゃ第十三素体もこっちに引き込めねえだろうしよ・・・」

 

「・・・ん?テルミ、そこにいるっちゅか?」

 

自分の声を聞いて反応を示した声の方に、動けないなりに顔を向けてみると、そこにはマジェコンヌを抱えたワレチューがいた。

 

「何だ・・・ネズミじゃねえか・・・。どうした・・・?マジェコンヌを抱えてこっち来るなんてよ・・・」

 

「オバハンも今さっき、女神の妹たちにやられちゃったっちゅよ・・・。あの現象が全部決めちゃったっちゅよ」

 

「やっぱりアレかよ・・・全く。こりゃ前途多難だな・・・」

 

ワレチューから状況を聞いたテルミはげんなりとした。ただでさえ体の調子が悪いのに、悪い知らせが来ると余計に調子を悪くしたと感じてしまうのだった。

 

「何か話し声が聞こえるかと思えば・・・ここに転移されていたか」

 

「レリウスか・・・さっきは助かったわ・・・。マジで死ぬか捕縛されるかだったぜ・・・」

 

「礼には及ばん。向こうで研究を協力してくれた礼だと思ってくれ」

 

どうやら長いしすぎたようで、レリウスがワレチューが進もうとしていた道から顔を出した。

テルミの礼に対し、さほど気にしていない様子を見せるレリウスを見たテルミは「そうかよ」とだけ返した。正直なところ、それ以上言葉が出ないくらいに疲労感に襲われていた。

 

「ネズミだけでお前たちを運ぶのは無理があろう。故に私も手伝おう」

 

「た、助かるっちゅよ・・・オバハンが重いし、むっちりしてるせいで体がきついっちゅよ・・・」

 

レリウスはイグニスを呼び、テルミを運ぶことと、ワレチューのサポートを指示する。

命を受けたイグニスは素早く行動し、左腕でテルミを抱えて、右腕でワレチューの負担が軽くなるように右腕でマジェコンヌを軽く持ち上げる。

 

「・・・脱いだら私は凄いぞ?」

 

「そんな情報はいいっちゅよ・・・とにかく行くっちゅよ」

 

マジェコンヌは痛みが伴う中、笑みを作って見せるが、疲労が溜まっているワレチューは然程いい反応を見せずに歩き出した、レリウスとイグニスも歩き始めた。

 

「二人とも暫く休む必要があるっちゅよ・・・これ、まともに目的達成できたのはいるっちゅか?」

 

「私は大方出来上がったが、まだ足りないな」

 

「あ、アレでまだ足りんと言うのか・・・」

 

「しょうがねえ。レリウスは一度こうなると中々止まらねえからな・・・」

 

ワレチューの問いにレリウスが答えると、マジェコンヌは呆然とした反応を示す。

―アレだけ楽しそうに研究してたのにか?マジェコンヌは気が遠くなりそうだった。テルミも軽く呆れてる程だった。

 

「ところで、本来ならばここで解散だったが・・・お前たちはどうする?」

 

マジェコンヌは大事なことを思い出し、それを皆に訊いてみる。

自分たちの盟約は、本日の女神たちとラグナを倒すまでだったのだが、それは失敗して日にちが変わってしまったからだ。

 

「俺は残るかね・・・。ラグナちゃんブッ殺すのにこれ以上の協力者はいなかったしな」

 

「私も残ろう。お前たちと協力していれば、より良いデータが集められそうだ」

 

その問いにテルミとレリウスは即答だった。

彼らとしては女神たちと敵対した以上、行く当てが無くなる可能性が極めて高いのもあるが、それ以前にこの言葉に偽りは無かった。

 

「それならおいらも残るっちゅよ。せっかくの縁っちゅからね・・・オバハン休んでからでいいから契約更新するっちゅよ」

 

「・・・お前たち・・・。そうだな。では、休んでからまたやり直そうじゃないか・・・」

 

マジェコンヌは三人の回答に少し嬉しさを感じながら告げる。

そして、その言葉に反論する者はおらず、ここに同盟は再結成された。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

爆発が消えた後、そこにはネプギアの攻撃によって新しくできたクレーターがあった。

アイエフやコンパのように崖から降りていた者たちの中で、飛べないメンバーは候補生の四人とナイン、『クサナギ』を装備したノエルが運ぶことによって一時的な避難を成功させていた。

マジェコンヌたちは確かに追い払った。ニューも助け出した。しかし、肝心な目的を果たしていなかった。

 

「お姉ちゃん・・・」

 

自分たちが助けたかった姉たちの姿がそこには無かった。

ネプギアの呟きに答える声は無く、遅かったと思わせるには十分なものだった。

 

「お姉ちゃん・・・どこにいるの?」

 

ネプギアは数歩前に出ながら呼びかけてみるが、答える声は無かった。

力を手にしたのに助けられなかった。その事実はネプギアに十分すぎる打撃を与えた。

 

「っ・・・お姉ちゃん・・・っ」

 

「ここよ・・・ネプギア」

 

朝日が昇りだした瞬間、聞き覚えのある凛とした女性の声が聞こえ、ネプギアたちは顔を上げる。

するとそこには変身した姿の女神四人がいた。

 

「お姉ちゃん・・・!会いたかったよぉ・・・っ!うわぁぁぁ・・・!」

 

「会いたかった・・・っ!」

 

「子供みたいに泣きやがって・・・。でも、心配かけたな・・・」

 

ロムとラムは真っ先にブランの方へ飛んで勢い良く抱きつき、その思いを伝えながら涙を流した。

他の候補生と比べて幼いにも関わらず、良く耐えた方であり、再び姉と会えた嬉しさによる嬉し泣きであった。

ブランもその気持ちは理解しており、その二人優しく抱き返して迎え入れた。

 

「・・・えっと、ごめんね。お姉ちゃん・・・遅くなっちゃって・・・」

 

「何謝ってるのよ。大分成長したじゃない・・・」

 

ユニの謝罪に対し、ノワールはいつもとは違って、ユニの頑張りをハッキリと認めている発言をした。

 

「・・・よくやったわね」

 

「っ!・・・お姉ちゃん・・・!」

 

それは、いつかノワールに認めてもらえるように頑張っていたユニの努力が認められた瞬間だった。

大切な姉が生きていたこと、姉に認めてもらったこと。その二つの嬉しさから、ユニは目尻から涙をあふれさせながらノワールに抱きついた。

 

「あのねお姉ちゃん・・・私・・・」

 

ネプギアはネプテューヌに言っておかなければならないことがあった。

本当は全員に伝えておくべきだろうものだが、今は状況が状況である為、少なくとも自分の姉にだけは伝えようとしたが、言い出すのに言い知れぬ恐怖感があり、言い出せないでいた。

 

「ネプギア・・・頑張ったわね。これからはずっと一緒にいるわ・・・」

 

「・・・お姉ちゃん・・・。でも、私・・・!」

 

ネプテューヌはそれを知ってか知らずか、ネプギアが懸念していることには触れず、心配させたことを詫びる。

それでも納得できず、ネプギアは食い下がるものの、まるで詰まるかのように言葉が出せない。しかし、ネプテューヌはそれすらも理解していたかのように、穏やかな笑みを見せ、ネプギアを優しく抱きしめた。

 

「大丈夫よ・・・あなたに何があったとしても、私の目にはネプギア・・・。この世界でたった一人の、私の妹として映ってるから・・・」

 

「っ!お姉ちゃん・・・お姉ちゃんっ!」

 

ネプテューヌはまるで、全てに赦しを与えるようにネプギアに告げる。

それはネプギアが一番聞きたかった言葉で、それを聞けたネプギアは嬉しさから満面の笑みでネプテューヌに抱きついた。

その光景を少し離れたところで見ていたベールだが、やはり自分の所に来てくれる妹がいないのは寂しいものがあった。

 

「あっ・・・。お姉ちゃん、ちょっとごめんね」

 

「・・・?」

 

ベールのことに気づいたネプギアは一度ネプテューヌから離れ、そちらへ飛んでいく。

事態を呑み込めなかったネプテューヌは首を傾げながらネプギアを目で追う。

そして、ネプギアがベールに優しく抱きついたのを見て、ネプテューヌもその理由を理解した。

 

「お疲れ様です」

 

「・・・!ありがとう・・・」

 

「ベール、今回だけだからね?」

 

自分のことに気を遣ってくれたネプギアの行動が嬉しく思い、ベールはそのまま受け止めた。

今回ばかりは仕方ないなと思ったネプテューヌも、ベールに強く言うことはなく、少しの間だけそれを容認するのだった。

 

「今回は無くなるなんてことは無かったか・・・」

 

ニューをお姫様抱っこで抱えているラグナは、左腕にある確かな感覚を感じて呟いた。

以前ノエルに同じことをやった時は左腕が消えてしまったのだが、今回はそんなことにならないで済んだのだった。

 

「ラグナ・・・ニューはもう、戦ったりしなくていいの・・・?」

 

「ああ。最終的決めるのはお前だけど、少なくともこれで、誰かに命令されて戦うことはねえよ」

 

戸惑いながら訊いて来るニューに、ラグナは優しく答える。

ラグナの言った通り、何事も無ければ、ニューは誰かに強制されるような生き方はしなくていいのだ。

 

「ここにいるみんな・・・ニューを酷いことしないよね?」

 

「しないさ・・・それに、俺がさせねえ」

 

先程と同じ表情でニューは問い、ラグナは答える。

今まで利用されるだけされてしまったニューの恐怖を、ラグナは全て振り払うつもりでいた。

 

「随分と待たせちまったな・・・。でも、もう大丈夫だ。今日からお前は自分でどうしたいかを選べる。明日を見る自由だってあるんだ・・・」

 

「ニューはまだ・・・何もやりたいこと決まって無いよ?」

 

「それなら私も手伝うから、一緒に探そう。慌てる必要はないよ。時間はいっぱいあるから・・・」

 

ラグナの告げる言葉に、ニューは戸惑うばかりだった。

今までの生き方が全て変わったニューに取っては、ゼロからやり直すも同然である為、不安なことだらけだった。

そこに、ノエルも一緒になってニューに伝える。これはこちらに来る直前であるシスターとしての面が大きかった。

 

「・・・・・・」

 

「・・・どうした?」

 

「疲れちゃってるのかな?眠くなって来ちゃった・・・」

 

反応が無かったのでニューを注視してみると、ウトウトとしている姿があった。

 

「そうか・・・新しいことだらけで疲れてんだろ。今はゆっくりと休みな」

 

「そうする・・・ありがとうね。ラグナ、ノエル(ねえ)・・・」

 

「・・・えっ?」

 

ラグナは無理をさせず、ニューを休ませてあげることにした。

ニューはラグナの言ったことをすんなりと受け入れ、二人に礼を言いながら睡眠に入った。

その時、ノエルはニューの呼び方に思わず戸惑った。

 

「あの、ラグナさん。ニューが今・・・」

 

「ああ。ノエル姉・・・だってな。まあこっち妹の方が違和感ねえのは確かだな」

 

ノエルの言おうとした事を理解していたラグナは、ニューの寝顔を見ながら笑みを浮かべて率直な感想を告げた。

 

「ラグナーっ!」

 

そんな中、声が聞こえたのでそっちを見てみると、セリカやナオトたちが走ってこっちにやってきていた。

よく見れば、ナオトの近くにラケルもいた。

 

「っ!セリカちゃん!?」

 

「えっ!?ノエルちゃん!?いつ来てたの!?」

 

「ついさっきだよ・・・それにしても久しぶりだね」

 

二人は思わぬ再開に喜びを隠せなかった。『エンブリオ』で別れて以来の再開だったからだ。

 

「『蒼の少女』よ・・・先の世界での事を詫びさせて貰おう」

 

「私の方からも、改めて謝罪させてもらうわ・・・私の見ていたものが完全に間違っていたわ・・・」

 

「そ、そんな・・・!大丈夫ですから、顔を上げてください・・・」

 

この世界では関係なくとも、『六英雄』の二人に頭を下げられたノエルは両手を振りながら慌てる。

ノエル自身、もうその事は終わったのだから、深く気にしていなかったのが大きい。

 

「例え貴方たちがそう思っていても、私は『エンブリオ』の時の記憶を持っているだけで、そことはまた別の世界にいる身なんです。だから、そこまで気にしないでください・・・」

 

「ノエル、あなた・・・」

 

苦笑交じりに説明するノエルを見て、ナインは完全に面食らった。

『エンブリオ』では存在そのものを否定するくらいに糾弾していたから、少なからず恨んでいると踏んでいたナインの予想は、完全に外れていたのだった。

 

「ああ、それよりもなんだけどっ!その子・・・助けられたんでしょ?」

 

「ああ・・・ようやく助けられた。本当に助かった。お前らが居なけりゃ、絶対に無理だったよ」

 

セリカは無理矢理その湿っぽい空気を遮り、ラグナに問いかける。

ラグナはそれを肯定しながら皆を見て礼を言う。これは紛れもない本心で、ナオトが来なければテルミにやられていただろうし、ナインがいなければ『イデア機関』が使えずニューが助けられなかった。

更に、ハクメンがあの時テルミを受け負わなかったらずっとテルミと戦うことに時間を喰わされ、セリカがいなければ自分がニューを助けたとしてもその後はどうすることもできかっただろうし、ノエルがいなければネプギアが大変なことになっていたかも知れなかった。

今回ニューを助けることができたのはそれらの因果が重なった奇跡だった。そうラグナは確信していた。

 

「その子・・・俺を見て大変なことになったりしないといいけどな・・・」

 

《流石に大丈夫な筈よ。もう、ラグナだけが全ての悲しい時間は終わったのだから・・・》

 

ナオトが不安視していたのは、ニューが自分を見た時、発狂にも似たような叫びをした事だった。

ラケルは今回の事を踏まえてそれを否定した為、「そうだよな・・・考えすぎだよな」と呟きながらナオトも納得した。

 

「フフッ・・・んにゅ・・・」

 

『・・・・・・』

 

突然笑った声が聞こえたのでそっちを見てみると、ニューが幸せそうな顔で寝ていた。

きっといい夢を見ているのだろう。顔を見合わせていたラグナ達は一斉に噴き出して盛大に笑った。

 

「みんなーっ、そろそろ帰りましょーう!」

 

ネプテューヌの呼びかけを聞いた全員は、何も反対することなく頷き、帰る準備を始めた。

こうして、丸一日以上をかけた女神救出戦は終わりを告げるのだった。




という訳でどうにか山場を終えることができました。

テルミは迷った末にレリウスの手による逃走を選択しました。どの道ボロボロだし、暫く動けないのに拘束だったらオーバーキルスレスレじゃないかと考えた結果です。

ニューの『ノエル姉』呼びですが、CPのギャグシナリオで実際に言っていたことと、実際にも姉妹のような存在だし、12のノエルと13のニューだとノエルの方が先だし、これ行けるんじゃないかと思った次第です。

さて、一昨日にヴァリアブルハートの3巻目が出ましたが、ご購入はされましたでしょうか?マイママの能力がヤバいなと感じました。
また、メイファンもメイファンで最後のシーンは悲しいものを感じましたね。

最後に次回ですが、エピローグのようなものをやってこの章に区切りが付きます。


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33話 蒼を探しに

今回でこの章が終わりとなります。

キャラリクエストの方でヒビキ、バング殿、タオカカの三人を頂きました。頑張って出せるようにしたいと思います。


日差しが無いのに明るさ感じた俺はゆっくりと目を開ける。

普段と全く違う天井が見えたので、起き上がって周りを確認してみると、俺のいる場所はリーンボックスの教会にある部屋の一室だということが分かった。

 

「(そういやあの後寝ちまったんだったか・・・)」

 

教会に戻って来るや否、疲労困憊だった俺たちは全員寝ることで体を休めていた。流石に丸二日も徹夜すれば寝たくもなる。

まあそれでニューや女神たちを助けられたんならそれでいいんだ。この疲労が頑張った分だって言うなら甘んじて受けよう。

この後の事だが、ネプテューヌから疲れを取るのも兼ねて、ちゃんとできなかったパーティーの続きをやりたいとの提案が出ていた。

これ自体は誰も反論することなく、すぐにそれをやることは決定し、今はリーンボックスの役員たちが準備を進めている。各国の教祖達も来るので、日が沈んで少ししたら始めることにしたそうだ。

また、ベールからはそのパーティーの続きも兼ねて、今後の方針とノエルたちの事を訊いておきたいそうだ。まあ、ドタバタしていたからその辺は仕方ねえな。

もうじき時間になるから、そろそろ部屋から移動しようとしたところで一つのことに気が付いた。

 

「あっ・・・風呂に入ってねえや・・・」

 

戻って来てすぐの事だが、女の子が風呂に入らず過ごすのはマズいので、俺とナオトは皆に風呂を譲り部屋で休んでいた。

少し寝すぎていたようで、結果的にこんな時間になっていたのだ。

また、ハクメンはその時ロムとラムに風呂を誘われたが、狼狽しながら断った。その様が余りにも変だったので皆が爆笑したのは言うまでもない。例外はさっさと寝たいが故に移動した俺やナオトくらいだった。

ブランがいなかったらどうにもならなそうなものだったので、ハクメンには合掌しかない。

 

「だとしたらさっさと入るか・・・」

 

流石に風呂に入んないままパーティーに参加するのはマズいものがあるので、俺は風呂の準備を済ませて部屋を出た。

 

「・・・ん?ラグナは今から入るのか?」

 

「今から入る。そういうナオトは今上がったのか?」

 

「ああ・・・。何でも、人数が多すぎたから、メンバー二つに分けて入ったらしいぜ。そんなこともあって、ついさっき風呂が開いたんだ」

 

「・・・マジかよ」

 

移動している最中、ナオトと鉢合わせになった。

そんで軽く話を聞いたら流石にビックリする内容だった。確かに風呂の準備が終わったのは昼過ぎだけど、人数が多いとはいえここまでかかるのか・・・。

女の子って長風呂多いんだろうか?そう疑問に思ってしまった俺は悪くないと思う。

 

「そういや、ニューの方はどうだった?起きたら知らねえ場所だったし、オロオロしてたんだが・・・」

 

ニューがオロオロしてたのは本当だ。教会についてから目を覚ますや否、「ここどこ?実験とかそういうの無いよね?」と不安そうな顔で俺に訊いてきたからな・・・。

そんなこともあって、気がかりになっていた俺はナオトに訊いて見たのだった。

 

「俺が見た感じ大丈夫そうだったな。・・・ノエルさんだっけ?基本的にあの子が面倒見てあげてたよ」

 

「そっか・・・それなら大丈夫だな」

 

ナオトの話を聞いた俺は一安心できた。ノエルは向こうでシスターやってるっつってたからな・・・。その過程でニューの面倒見てたなら大丈夫なのも頷ける。

そういや、あいつ料理は大丈夫なのか?サヤのクローンってんだから殺人料理になってる予感がするんだが・・・。

・・・あ?『モテメガネF(ファイナル)』?んなバカな話はやめろッ!アレかけた本人に地獄を与えるだけの厄災だからッ!

 

「それより、時間大丈夫か?そろそろ入んないとマズいだろ」

 

「・・・ん?」

 

話していたらすっかりと忘れかけていたが、パーティーの時間まで後少しだった。

割と時間が押している為、ササッと入った方がいいだろう。

 

「おお、結構ヤべエな・・・。じゃあ俺は入って来るわ」

 

「おう。また後でな」

 

善は急げ。ならば早く入ってしまおう。

そう決めた俺は短く会話を切り上げ、風呂場に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

リーンボックスの教会の中で最も大きな部屋を使い、現在はこれからどうするかの会議をしている。

ナオトたちには簡単な紹介を頼んだのだが、ここで頭を抱えたくなるような素性が幾つも発覚した。

 

「本当は死んじまってるんだけど、ラケルとの契約もあって、今は半死人になってる」

 

「・・・へ?死んでる?」

 

まず初めに、ナオトは自分が生きた死人だと言ってきた。これに動じなかった者はラケルとアイエフで、その内アイエフは非常に難しい顔をしていた。

 

「アイちゃん?大丈夫です?」

 

「・・・えっ?ああ、何でもないわ。気にしないで」

 

その様子を見て、体調を崩したのかと思ったコンパが訊いてくるので、アイエフは慌てて笑みを作りながら答えた。コンパは「それなら良かったですぅ」と安心している様だった。

アイエフの心情に気づけた者はラケルただ一人で、他の人は気づく余地も無かった。互いに似てる部分のあるラグナも、自分とレイチェルのようなものかと考えるだけに留まった。

このことを聞いて間抜けた声を出してしまったネプテューヌは悪くないだろう。ナオト自身も仕方ないだろうなと割り切ったような表情をしている。

ロムとラムはセリカの時と同じように幽霊なのではないかと勘違いして泣いてしまった。それを見たナオトは「実体あるから落ち着いて」と慰めようとしたが、自分から言い出していたのが仇となって余計に泣かせてしまった。

極めつけに、ナオトは生きた人に戻る為『蒼』を探していると話してきた。ここで教祖達が頭を抱えたこととして、『蒼』がある可能性は示唆されているが、あると言う確証がない事だった。

更に言うと、ナオトとラケルはラグナ達とは更に違う世界から来た人間だと言う。

 

「じゃあ、ラグナさんたちを知っていた理由はどうしてでしょうか?」

 

「こっち来る前にラグナ達がいる世界に飛ばされててな・・・。そこで顔を合わせたんだよ」

 

イストワールの問いにナオトは正直に答える。

ナオトの回答を聞いて、女神たち四人はラグナがナオトに問いかけていた意味を悟った。

詰まる所、ナオトは少なくとも二度以上の異世界渡航をしてしまっている身だった。ラグナ達が比較的冷静だったのもあるが、ナオトがゲイムギョウ界に来てもそこまで慌てなかったのは比較的納得しやすかった。

ナオトがこれ程頭を抱える事情を持っているのだから、ラケルもまたなのではないかと考えたら案の定だった。

 

《今はこの姿で行動せざるを得ないけど、私はヴァンパイアよ》

 

「ヴァンパイアって・・・あの吸血鬼のよね?」

 

《そうよ・・・ナオトと違って理解が早いから助かるわ》

 

「あんな説明されたら固まるに決まってんだろッ!」

 

ブランの問いに肯定しながらコントのような流れでボケとツッコミを行う二人。

ゲイムギョウ界住まいの人たちはそんなコントにポカンとする間も無く、「何でこんな人たちばかりなの?」と頭を痛める。その一方で、ラグナ達は大して驚かなかった。

 

「あの・・・ラグナさんたちは平気なんですか?」

 

「平気かって言われれば平気だな・・・」

 

「あはは・・・私たち、実際にそんな人を知ってるからね」

 

ミナは気になって訊いてみたが、ラグナは「そんなに驚くもんか?」と聞きたいかのような表情をしながら、セリカは苦笑交じりに答えた。

ハクメンとナイン、更にはノエルとニューまでもが無言の肯定を示したので、ゲイムギョウ界組はラグナのいた世界は吸血鬼と共存が当たり前なのではないかと考えてしまった。

ラケルはもう少し自分の事を話そうとしたが、長くなるか相手を置いてけぼりにするか、どちらかになるのが予想出来ていたナオトはラケルの言葉を遮って次の人に譲った。

次にナインの紹介ではあるが、こちらは特に問題になることは無かった。

 

「ちなみに、あの世界で術式と事象兵器(アークエネミー)を作ったのは私よ」

 

「じゃあ、ハクメンさんが持ってる『斬魔・鳴神(それ)』は・・・!」

 

「ナインが作ったものだ・・・。『蒼の少女』が持つ『ベルヴェルク』もな」

 

特別重要なことはこれだろう。ナインはラグナたちの世界では殆どのことに使われている術式を開発し、『黒き獣』を倒す為に事象兵器(アークエネミー)も作っていた。言わばあの世界での天才だった。

話を振られたノエルは右手に『ベルヴェルク』の片方を掴んでそれを見せる。

これらは暗黒大戦で『黒き獣』を倒す為に作られた武器であったが、その後は殆どが人間同士の戦いに使われてしまっていた。

だが最終的に、悪意ある者が使い続けたのは『ウロボロス』だけだったのはせめてものの救いと言うべきか、それとも『ウロボロス』は悪人に使い続けられてしまったかと見るべきだろうか。それは判断の難しいところだった。

そして、ノエルとニューのことではあるが、記憶が二つ分と言うことで二人とも自身の説明にかなり戸惑っていた。

ノエルの場合、片方が統制機構の脱走兵。もう片方が教会のシスターで、ニューの場合は片方がラグナと融合して『黒き獣』になること以外頭に無い時代。もう片方は無気力に生きていたという二つの記憶があり、どちらも本当の自分の記憶であることは変わりないと言う。

ここまではいいのだが、気になったネプテューヌが次のことを聞いたことにより、二人の衝撃的な素性が発覚する。

 

「そう言えば、二人ともビックリするくらいネプギアと似たような感じがするけど、なんでか解ったりする?」

 

「「・・・・・・」」

 

ネプテューヌからすれば短なる好奇心だが、ノエルとニューに取っては自身の重たい出生を話すことになり、もしかすれば受け入れて貰えない可能性が示唆されてしまった。

その不安が故に、ノエルとニューは一度顔を見合わせる。特にニューは居場所を貰えると思ったらいきなり追い出されるかも知れないので、不安でしか無かった。

 

「ああ・・・そのことなんだが・・・」

 

「大丈夫です。私から話しますから・・・」

 

ラグナは気を遣って話そうと思ったのだが、それをノエルは制止した。

そんな自分のことを不安そうな顔で見つめてるニューを見て、安心させる為に「大丈夫だよ」と言ったノエルは顔を正面に戻した。

 

「それは・・・私とニューがラグナさんの妹・・・サヤさんのクローンだからです」

 

『・・・!?』

 

ノエルから告げられた衝撃の事実にゲイムギョウ界組とナオトたちが絶句した。

確かにラグナは以前、ネプギアが自分の妹に似ていると言っていた。それに対して彼女たちは最早ラグナの妹を元に作られた存在だった。

実際のところこれを話せば動揺するだろうなとはラグナたちも確信していた。ラグナは初対面の時、非常に動揺して殆どまともに話すことができなかった程だった。

 

「と言うことはだけど・・・ノエルさんにも、ニューと似たようなお名前が?」

 

「はい。私のもう一つ・・・本当の名は、『次元境界接触用素体』、No.12(ナンバートゥエルブ)・・・『μ-12(ミュー・トゥエルブ)』です・・・」

 

チカの問いにノエルは逃げること無く答え、それを聞いたゲイムギョウ界組が言葉を失う。

ラグナたちは解っていた為特に何もないが、一人例外だったのがナオトだ。

ナオトはこの時、彼女は他の素体の少女たちと比べ、非常に人間らしいと感じていた。

 

「確か・・・ノエルと言う名前は貰ったものだったね?」

 

「義理の両親に拾われた時・・・まだ素体として精錬されてなくて名前の無かった私が貰った・・・大事なものです」

 

「ごめん・・・聞かない方が良かったよね・・・?」

 

「大丈夫ですよ。話さなきゃいけない事だと思ってましたから。それに・・・」

 

ケイの確認をノエルは肯定する。それを聞いた事情を知らなかった人たちが申し訳なさそうな表情をする。特に聞いた本人であるネプテューヌは訊いたことを後悔していた。。

他人にどう思われようと、何と言われようと、自分が本物だと思えば本物・・・。左腕のことで話していた時にラグナはそう言っており、それを聞いたノエルもまた、自分が人だと言えば人だと言う考えを持つようになった。

 

「例え他の人にどうだとか言われても、その人が本物だと、思えばそれでいいんだと思います。偽物だからいけないとか、そんなことは無いんです・・・」

 

ノエルがそのことを伝えると、皆は大事なものを思い出したかのような表情をした。

女神たちも、他者を寄せ付けない程の圧倒的な力を持つが、根本的な面では人と変わらないからだ。

思い返せば納得でき点ばかりだったのがわかり、ケイは「済まない。聞くだけ野暮だったね」と詫びた。ノエルも大丈夫だと返したので、この件はそれ以上もつれること無く終わった。

 

「そういや、ノエルたちはこの後どうするんだ?ナオトは不良の事故みたいなもんで、ノエルはニューを追っかけて来たんだろ?」

 

「私はこっちでお世話になるつもりよ。名の知れている死人が戻ったら騒ぎになるでしょうし」

 

ラグナは気になったことをナオトたちに訊いてみる。

セリカと同じく一度死んでしまっているナインが残るのは予想ができていた為そこまで驚きはしなかった。

 

「そうだな・・・俺は帰れるならすぐに帰るけど・・・」

 

「私も帰れるなら・・・待たせちゃっている人もいますから・・・」

 

「帰れるなら帰った方がいいんだろうけど・・・どうしようかな?」

 

ナオトとノエルは言うまでも無く帰るつもりだったが、ニューは一人迷っていた。

何しろ自由を手に入れたばかりである為、こうした方がいいとこうしたいの狭間で彷徨ってしまうのだ。

 

「・・・申し訳ありませんが、実は元の世界に帰す手段が確立していないんです・・・」

 

「・・・マジ?」

 

「ああ~、うん。これはしょうがないね・・・」

 

「そうね・・・今まで来たのは全員がゲイムギョウ界(ここ)に残る人たちだし」

 

イストワールが申し訳なさそうに言い、ナオトは思わず目が点になってしまった。

そのナオトの反応を見たネプテューヌとノワールは苦笑する。

今までこの世界に残る人たちばかりだったのもあって、元の世界に帰る方法等は一切手をつけていなかった。

それを話すと、ナオトは「そんなんアリかよ・・・」と肩を落とした。

 

「俺に所有権があるし、『門』が見つかればそのまま送ってやれるんだけどな・・・」

 

「そりゃ有り難いけど・・・大丈夫なんかな?俺、前にあの世界の『門』に近づいちゃいけないとか言われたんだけど・・・」

 

「この世界の『門』なら関係無いんじゃないかしら?『調停者』はそう言ってたんでしょう?」

 

ナオトの最大の危惧・・・それは以前に『門』に近づいてはいけないと言われてしまった。

ナインの言う通り、それはあくまでその世界での話であり、この世界であるならば関係ない・・・。ナオトはそこでごくごく簡単な見落としをしていたことに気づいた。

 

「ああ・・・なるほど。確かにそれなら平気だわ」

 

《ナオト・・・どうやらあの子絡みは色々と参ってるようね》

 

「面倒ごとにならないならまだ良かったんだけどな・・・」

 

ナオトがその少女の事をあまり良いように見れないのは、主観の違いから来ていた。

ナオトからすれば人探しで訊いてみようとしたらいきなり攻撃された。その少女の場合は聖域に侵入して来たので排除をしようとした。

能力があるとはいえ、元々普通に暮らしていたナオトからすればそんなのはあんまりなことであり、イラついたりするのは仕方ないことであった。しかも、その時は時間が無い事も重なって尚更だ。

また、その少女は何がどうであれ、その聖域に踏み入ることを許されない人たちが踏み入った場合、今後の憂いを断つために排除せねばならなかった。それ故にナオトが怒ったりするであろうことは予想ができていた。

互いに落ち着いて話し合いに持ち込めれば衝突をしないで済んだかも知れないが、状況的に最初から詰みであったとナオトは考えていた。とは言え、終わった事をこれ以上考えても仕方ないのは確かだった。

 

「・・・『門』の方は見つけ次第連絡・・・と言う形にしておいて、問題はこれからになりますね・・・」

 

「ユウキ=テルミ・・・だったね。彼の口からも『蒼』と言う言葉が出たのは間違いないんだね?」

 

今回の最大の問題・・・それは『蒼』が本当にあるのかどうかである。

そもそも『蒼の男』であるラグナすらあるかどうかを判らない状況だと言うのに、テルミはあって当たり前かのように訊いてきた。

この事実が今回はかなりの大問題であり、仮にテルミが先に見つけてしまった場合、ゲイムギョウ界が本当に壊滅させられてしまう恐れすらあった。

そんな事実を知って不安になる皆をよそに、一人事実を知っていたネプテューヌは悩んだ末、話すことを決める。

 

「ああ・・・そのことなんだけどさ・・・『蒼』はこの世界のどこかにあるみたい」

 

『ええっ!?(はあッ!?)』

 

ネプテューヌから飛んできたまさかの発言に、全員が思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

この発言が、既に『蒼』を所有しているラグナや、ラグナたちの世界の細かい裏事情を知っているナインやハクメンであれば、まだ幾らか納得できた人がいるかもしれない。

しかし、今までそのようなことを一つも知らず、ゲイムギョウ界で過ごしてきたネプテューヌからであった為、驚きが増していた。

 

「どうしてネプテューヌから・・・。いえ、この際は関係ないわね・・・。いつ知ったの?」

 

「割と情けない話、私たちがみんなあの水に沈んでやばかった時あったでしょ?その時に・・・」

 

ノワールの問いに答えながら、ネプテューヌはラグナの右腕を指さす。

 

「ラグナの『蒼炎の書』が教えてくれたよ」

 

「・・・『蒼炎の書(こいつ)』が?」

 

ラグナは自分の右腕を見つめながら思わず聞き返した。

いつ教えたんだ?ラグナは考え出すものの、全く答えが出そうに無かった。

 

「でも、この世界に『蒼』があるなら、色々と説明がつく事もあるわね・・・」

 

「ああ・・・俺たちが術式を使う為に必要な『魔素』も、元を辿れば『蒼』から来るものだからな・・・」

 

「でも・・・この世界、『魔素』は無いんじゃないんですか?私たち普通に術式通信しちゃってましたけど・・・」

 

「其れは大気中にあるシェアエナジーが、この世界に於ける『魔素』の役割をしているから問題は無い」

 

「ハクメンの行ってる事は本当だよ。シェアエナジーも『蒼』が根源みたいだし・・・」

 

ラグナたちは今までの疑問に回答が来たことを喜んだ。ノエルの疑問も、ハクメンの一言で解決した為、問題は無かった。

ハクメンの一言にネプテューヌが肯定したことで、それは揺るぎないものとなった。

 

「その問題が解決したのはいいのですが・・・。ネプテューヌ、正確な場所は解りませんの?」

 

「いや~・・・悲しいことに何もわからないんだ・・・。ただ、あるって言うのは間違いないよ?」

 

ベールに聞かれ、ネプテューヌは頭をかきながら苦笑交じりに答えるしか無かった。

ネプテューヌが知る事のできたのは『蒼』があると言うことだけで、位置などは解らなかったのだ。

 

「そうなると、テルミが見つける前に何とかしなくちゃいけないんだけど・・・何か対策はある?」

 

曖昧な情報はあまり宛てにしたくはないが、本人の情報だけが頼りになるこの状況下、ケイはネプテューヌの事を信じ、『蒼』がこの世界にあること前提に話を持ち出した。

この対策というのを、ラグナたちに問いかけてみたのだが、ラグナたちの反応はあまり良いものが無かった。

 

「対策ったって・・・とにかくテルミより早く、最低でも同じタイミングでそこに辿り着くしかねえんだよな・・・」

 

《『蒼』は純粋な力だから、そこに『善』『悪』は全く関係無い・・・だから、テルミより先に『蒼』に選ばれる必要があるわ》

 

ラグナとラケルは『蒼』に関することを話すが、対策と言っていいのかどうか判らないものになっていた。

 

「・・・えっ?それ・・・対策って言うより・・・」

 

「早く動くってだけになりますね・・・」

 

ユニとネプギアは呆然としながら呟く。

ラケルですらこうなら諦めるしか無い。ラケルと関わりの深いナオトと、あの世界で詳しいことを知るハクメンとナイン、ノエルは割り切りが付いていた。その中には『蒼の境界線』で話を聞いていたラグナも含まれる。

ともあれ、絶対にこれと言った対象法が何も無い為、『蒼』に選ばれるようどうにかしなければならない。それだけは確かだった。

 

「探すのはいいけど、それを見つけた後はどうするの?」

 

「確かに、そこが一番の問題ですね・・・一歩使い方を間違えたら、信仰者を自分だけのものに変えることだって可能でしょうし」

 

ノワールの問いかけにイストワールは最も危険なことを示唆した。

信仰の独占はそこ以外の国の女神が消滅の危機に追いやられる程のものであり、うっかりその可能性を実現しようものなら、『蒼』を巡る争いが勃発してしまう。

それだけは何としても避けなければならない為、皆が真剣な表情になる。それに伴い、慎重に決める必要があることから暫くは沈黙が走ってしまう。

やがて、悩んだ末にネプテューヌが一つの提案を出す。

 

「これはできたらなんだけどさ、『蒼』を見つけたらナオトに使わせてあげるのはどうかな?」

 

「・・・!?お前本気かッ!?俺たち会ってから殆どしてねえんだぞ?まともに話せる時間だって無かったってのに・・・」

 

ネプテューヌの提案にナオトは思わずその考えに疑いを持った。

世界の根底を覆せる程の代物をあっさり他人に譲ると言うことは、異世界組の中で最も一般的な感性を持つナオトは正気の沙汰とは思えなかった。否、ナオトどころかこの場にいるほぼ全員がそう思っていた。

ただ一人、ラグナだけは例外だった。ラグナは自身を犠牲にする覚悟で自分たちの世界にいた人たちの殆どを救う為に『蒼』を使った事象干渉を行った為、ネプテューヌの考えは自分のやったことを個人に向けるものだと考えていた。

 

「俺はそれでいいと思う。後はナオト次第だがな」

 

「ちょ・・・ちょっと待ちなさいラグナ。まさかだとは思うけど、いつもの『救う』とか『助ける』とか、そっちで考えているんじゃないでしょうね?」

 

「いや、俺はあの世界を去る時に『蒼』を使って、大規模な事象干渉で皆の為に『悪夢』を取り払ったことあるからさ・・・一人くらいなら別にいいんじゃねえかと思ったんだよ」

 

ナインの釘を刺すような問いかけに対して、ラグナの回答は納得せざるを得ないものだった。

ラグナは『エンブリオ』の影響で記憶を失った状態であろうとも、我が身を犠牲にしようとも、大切な人たちを中心に、ただ多くの人を助ける為に独りで戦う覚悟すら持っていた。

個人的に強い欲も特に持たず、気づける人にしか気づけない優しさを持つラグナだからこそ、『蒼』はあのような使われ方をされた。故にラグナはネプテューヌの考えを支持した。

この時、それを理解したハクメンは「テルミに『蒼』が渡らずに済んで良かった」と、一人心底安心したのだった。

 

《どうするのナオト?貴方がいいと言えば、少なくともネプテューヌは譲ってくれるわよ?》

 

「そう言われてもなぁ・・・」

 

ラケルに促されるナオトは迷っていた。確かに人から貰えてしまうのなら貰ってしまった方がいいのだろう。しかし、それが世界のパワーバランスを崩壊させる恐れがある『蒼』である以上、そんな易々と受け取ってしまうのも気が引けた。

確かにすぐ人に戻れるならそれでも良いだろう。しかし、人に戻るということはドライブが消える可能性も否めない。

ましてやナオトはラケルとの契約のお陰で身体強化貰っているだけであり、それが無くなってしまえばドライブ能力があるだけで、身体能力が少し高いだけの普通の高校生にまで力が落ち込んでしまう。

元の世界に戻るまではどれくらいかかるか分からないが、いざ戦いという時に戦力にならないというのは、ナオトとしてはよろしくなかった。

―もしそれで身近な人を護れなかったら?ナオトはそのことに恐怖感を抱くようになっていた。初めの頃は力があるくらいなら普通の暮らしに戻りたいと言う願望の方が強かったが、今のナオトは力を持つ者の責務を理解している為、無責任に投げ出してはいけない事も分かっていた。

悩むに悩み、ナオトは一度訊いてみることにした。

 

「・・・一つ訊かせてくれ。どうして俺の為に使おうと思ったんだ?」

 

ナオトはその考えに至った理由だけは訊いておきたかった。

それが無ければ納得できないのが一つ、もう一つはとある人物に似通った部分を彼女から感じ取っており、それを確かめたかった。

 

「みんなが納得する言い方だったら、ゲイムギョウ界を滅茶苦茶にするよりも、困ってる人誰か一人を助けた方がずっといいと思ったから。私の個人的な理由だとしたら・・・」

 

確かに建前の方は大いに納得できるものだった。ナオトのみならず皆も特に反対は無かった。

しかし、本音はもう一つ方にあるらしく、ネプテューヌは一度言葉を途中で切ってしっかりと聞けるような状況を作る。

 

「ナオトなら『蒼』を持っても悪いように使わないと思うんだ・・・」

 

「・・・お前・・・」

 

自分で面と向かって言ったことが割と恥ずかしかったらしく、ネプテューヌは「みんなの前で堂々と言うのは結構恥ずかしいんだね・・・アハハ」と頭を掻いていた。

その様子を見てナオトは自身の疑念が晴れたものを感じた。

 

「(誰かに似ているなと思ったら、マコトさんだったか・・・あの人も真っ直ぐな人だったよな・・・)」

 

ナオトはあの世界で僅かな時間しか共に行動しなかったが、その少女のことは良く覚えている。

会って間もないと言うのにも関わらず、自分のことを信じてくれた人物だった。ナオトはその時、恩人によく似た目をされて逆らえなかった事も覚えている。

あの後会うことは叶わなかったが、もし会えたのならお礼を言いたいところだ。そう考えていたナオトは思わず笑みを見せた。

 

「・・・ナオト?」

 

「ああ、いや!何でもない・・・。せっかくの気持ちは有り難いんだけどさ・・・やっぱり、『蒼』は俺が自分で見つけて使うよ。そんな代物他人から貰えないよ」

 

今が会議中だったことが仇となり、ネプテューヌに心配させることになってしまった。

そのことに気が付いたナオトは慌ててその考えを置くことにし、自分の答えを出した。

これは、ラケルを見つけてやるなら自分の力で『蒼』を手にしたいと考えていたからもある。しょうもないプライドかもしれないが、ナオトは自分の走った道の意味が無くなりそうなのは嫌だと思っていた。

 

「んー・・・それじゃあ仕方ないか」

 

「悪いな・・・気遣ってもらったのに」

 

「いいよいいよ。私も無理に決めるべきじゃないのは分かってるし・・・」

 

ネプテューヌが残念そうにしたのを見たナオトは申し訳なさそうに謝るものの、ネプテューヌも流石に今回は状況を弁えているのでそこまで引きずることは無かった。

 

「そうなるとナオトさん以外が『蒼』を見つけた時を決めませんとね・・・」

 

チカの言う通り、今回の会議はこれを決めないことには終わらない。しかし、全員が納得できるような決め方をしておかねばならないことは確かだった。

 

「少なくとも信仰心等、シェアエナジーに関わる事に使用することは固く禁じよう。それだけは絶対条件だと思う」

 

「そうですね。それを良しとしてしまったら、せっかくの和平も崩壊同然になってしまいますからね」

 

ケイの提案には口に出したミナのみならず、全員が賛成した。

異世界組の人達は首を傾げていたが、ラグナは和平の当日にやって来た為、そのことを知っていた。

ラグナがゲイムギョウ界に来た日は、ゲイムギョウ界の歴史からすれば新し過ぎる方で、実のところまだ三ヶ月経つかどうかくらいであった。

戦争が起きてもおかしくない状況を止め、各国の国民たちを安心させたばかりだと言うのに、今までゲイムギョウ界で誰も知らなかった未知なる物の為だけに争いを起こしてしまったら本末転倒であろう。

だからこそ、それは避けなければならなかった。そして、全員が納得のいく答えを出す為再び暫しの沈黙が走るのだった。

 

「あの・・・」

 

やがて、ノエルが手を上げながら声を出したので、全員がそちらを振り向く。

 

「その事なんですけど、本当に必要な時が来るまで使わないでおいて・・・平時は厳重な管理の上で封印しておくというのはどうですか?」

 

誰がどう使うかで迷ったり、揉めたりするくらいならいっそのこと封印してしまえ。自身が『門』の存在を知ってしまった時に、『人としての自分(ノエル)』と『素体としての自分(ミュー)』の二つに切り離すという行動をした事のあるノエルが出した結論だった。

使えるものなら使っておきたいと思う者もいるかもしれないが、それによって道を踏み外すよりは良いだろうと。力を代償に憎しみに囚われてしまった事もある彼女は尚の事そう思っていた。

 

「其れには私も同感だ。役目無き力を不用意に持て余すのは危険だ」

 

真っ先に同意を示したのはハクメンだった。

彼は『エンブリオ』にて役目を終えた後は我が身を殆ど封印も同然のことをしてもらったが、その時ハクメンは『自身の持つ躰(スサノオユニット)』ごと、亡霊でもある自身も沈んでいった。

 

「そうですね。私もそれがいいと思います。皆さんはそれで大丈夫ですか?」

 

イストワールは賛成の意を示すと一緒に皆に問いかけると、誰も反論する様子無く首を縦に振ったので、これで『蒼』の取り扱いは決まった。

 

「何事も無いのでしたら、後は皆さんが元の世界に戻る方法が確立するまでの間、どこで過ごすかを決めて頂いてこの会議は終わりなのですが・・・」

 

イストワールの言葉を聞いて、ラグナとネプギアは自然と目があった。

それもそのはず。二人は帰り道の途中で『少女』の事をどうするか決めようとしたのだが、結局決まらなかったのだ。

 

「えっと・・・ラグナさんもですか?」

 

「・・・てことはお前もか・・・」

 

どうやら二人が考えていたことは同じだったようで、その事を即時に理解する。

しかし、それだけでは周りの人たちが完全に困惑するだけなので話すなら話す。それをこの場で決める必要があった。

また、殆どの人が置いてけぼりになっている中、薄々と感じ始めているハクメン、ネプギアの姿を一目見て僅かに感じ取っていたナインは特に動じる様子を見せていなかった。

 

「あの・・・お二人とも、何の話をしようとしているのですか?」

 

「ああ、悪い・・・。こうなったら話した方が良いか・・・?どうする?」

 

イストワールもそうだが、殆ど全員が頭の上に『?』のマークが入りそうな状態でいたのが見え、ラグナはネプギアに話を振った。

すぐに話してしまうのもいいが、この件はネプギアが他の誰よりも深く関わっているので、彼女の気持ちを尊重したいと考えていた。

 

「私は大丈夫です・・・。どちらにせよ、その内話さなきゃいけないと思ってましたから・・・」

 

「済まねえな・・・。じゃあ話そう」

 

ネプギアがそれを良しとしてくれたことにラグナは一言詫びを入れて、皆のことを見据える。

 

「俺たちが話そうとしていたのは、最近起き始めたネプギアの変調についてだ・・・」

 

『・・・!』

 

殆ど全員が息を吞む。それくらいにラグナが切り出した内容は巨大な爆弾ものだった。

下手をすればある保証の無い『蒼』よりも重要な内容になる。特にゲイムギョウ界で過ごしてきた人たちにはそれ程の価値があった。

 

「確認だが・・・ネプギアが俺のことを『兄さま』って呼ぶときがあったのはわかるな?」

 

ラグナが周りを見てみると、全員が頷いた。殆どこっちへ来てから間もないノエルたちが頷いているので、これで一から説明する必要は無くなった。

それが分り、ラグナはそのまま本題に入ることにした。

 

「実はな・・・時々そうやってネプギアから体を借りて出てくる奴が・・・多分、この世界のどっかにいるんだ」

 

「・・・人数は一人なんですよね?」

 

ラグナに対して真っ先に問いかけたのはユニだった。友人のことを案じての内容ではあるが、これは非常に重要な問いだった。

今までの傾向からして同じ人物がネプギアの借りているのは一人であると信じたいが、何せ人数が多ければ多いほど、ネプギアへの負担も大きくなるからだ。

 

「ああ。それは間違いなく一人だ」

 

しかし、その危惧はラグナの言葉によって否定される。それを訊いたユニは心底安心した。

ユニはネプギアがその少女と一緒に戦うことを選んだから女神化できたのを知っている為、それ以上追求しようとはしない。せめてその少女に出会えたら一言言ってやろうと思うくらいだった。

 

「ところで、その子の場所はわかるの?」

 

「いや、残念ながらまだなんだ・・・」

 

「そっか・・・じゃあ探さないといけないのかぁ・・・」

 

ラグナから良い回答が帰って来なかったネプテューヌは、「ちょっと大変になるな・・・」とぼやいた。

ネプテューヌからすれば本当の意味での家族は妹であるネプギアただ一人である為、早く何とかしてあげたい気持ちになるのは無理もない。

しかし、それがすぐに解らない以上、時間をかけてでも探すしか無かった。そのネプテューヌの様子をみたラグナは、持ち込むなら今だろうと確証した。

 

「そこで皆に頼みたいんだけど・・・『蒼』を探すついででも構わねえから、そいつのこと探すのを手伝って欲しいんだ」

 

わがままだと思っても、ラグナは頼まずにいられなかった。本当なら何度も呼び掛けられている自分と、少女と深く関わっているネプギアの二人だけで行くべきなのかもしれない。しかし、毎日そうやっていたりでもすれば怪しまれ、かえって負担をかけることになるだろう。

その為、少しでも早く見つけるならなるべく多くの人に協力を頼むべきであり、今回のように後々問題にならぬよう先に話しておくのが正解だろう。

しかし、前途の通りラグナたちは今までこの事をほぼ隠していたと言ってもいい状態であり、今まで全く手掛かりを掴めていないのだった。

複数の悪い状況が重なっていた為、ラグナはそこまで期待していなかった。ネプギアもただ祈るだけだった。

 

「分かった・・・それなら探そうよ。というか、『蒼』よりもそっちが先じゃない?」

 

「そうね・・・せっかく難を逃れたのに、ネプギアが取り返しのつかないことになったら大変だもの」

 

「今までの事を考えるに、その子はラグナを待っているんでしょうから、早く見つけてあげましょう」

 

「実態の解らない『蒼』よりも、大変な思いをしているネプギアちゃんの方が大事ですわ」

 

だが、そんな二人の予想はあっさりと四人にいい意味で裏切られた。

しかし、いい意味で裏切ってくれるのは四人だけでは無かった。

 

「アタシも探したいですっ!一言言ってやりたいのもあるけど・・・それ以上に会ってみたいんです」

 

「私もっ!その人のこと気になるーっ!」

 

「・・・私も気になる」

 

次に乗ってくれたのは候補生の三人だった。広い視野で見て判断した彼女たちと比べて好奇心の部分が強いものの、それでも賛成は賛成だった。

 

「私も、皆さんがそれでいいのなら構いません」

 

「僕も女神たちがいいと言うなら、彼女たちを尊重するつもりだよ」

 

「私も賛成です」

 

「勿論、アタクシもですわ」

 

更に教祖の四人は女神たちの意を尊重する方針を取った。これで教祖も賛成と同義になる。

 

「アイちゃん、私たちも・・・」

 

「ええ。今回も無茶振りに付き合おうじゃない」

 

和平を組む前からネプテューヌと関わりがあった二人は、まるでこうなることを予見していたかの如くあっさり受け入れる。

これによって、ゲイムギョウ界組は全員がラグナとネプギアの頼みを受け入れたことになる。

 

「ねえノエル姉。ニューにも手伝えるかな?」

 

「勿論、今のニューでも手伝えることだよ」

 

暫く沈黙を保っていたニューは、『ムラクモ』の力を失って少々不安になっていたのでノエルに訊いてみる。

それをノエルが優しい笑みで肯定してくれたことにより、ニューは安心することができ、同時に始めて自分にやりたいことができたのを自覚した。

 

「ニューも手伝いたい・・・それが、ニューの始めて自分からやりたいと思ったことなんだ・・・」

 

「・・・ニュー。分かった・・・それなら私も手伝います。似たような経験のある私なら、見つけるまでの対策の手伝いだってできますし」

 

《ナオト。貴方はもう決まったの?》

 

「決まったかってそんなの・・・手伝うに決まってんだろ?建前とか抜きで、こういうの放って置けない性分だからな」

 

「一人でも多い方がいいなら私もっ!ミネルヴァもいればもっと早くなると思うの」

 

「ああ・・・これはもう止まらないわね・・・。セリカが探しに行きたいって言ったら誰かに見てもらわないと・・・」

 

「私も手を貸そう・・・。此の躰の影響で、疲労との縁が遠くなっているのでな・・・」

 

「お前ら・・・」

 

「みんな・・・」

 

異世界組ですら、ニューの一言を皮切りに全員が賛成や肯定を示した。

一人でも手伝ってくれればいいと思っていたら、全員が手伝ってくれることにラグナは驚き、ネプギアは嬉しさのあまり目元が潤んだ。

 

「なら、改めて頼むよ。それと・・・本当にありがとう」

 

「いいって、いいって・・・こっちだって色々と助けられているからおあいこだよ。それじゃあみんなっ!『蒼』とその女の子を探しをこれから頑張ろーうっ!」

 

『おおーっ!』

 

ラグナの礼に対してネプテューヌは照れた様子を少しだけ見せた後、すぐにネプテューヌが拳を高く掲げて締めくくる。

ゲイムギョウ界組はそれに合わせて拳を高く掲げるのに対し、異世界組はいきなりのことに対応が間に合わず、「お、おー・・・」と言いながら小さく拳を上げるに留まった。例外は元々明るい性格をしているセリカだった。

そして、ここで全ての重要案件は終わったので、その後は居住する場所を決めてからパーティーで全員が楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

パーティーが終わって後は寝るだけだったのだが、眠れなかった俺は二度目の風呂にしゃれ込んだ。

リーンボックスの風呂場は大分デカく、小さい温泉と言ってもいいくらいに大規模だった。

俺は複数ある湯船の内、一番デカい湯船を選んで奥のど真ん中まで進み、そこに背中を預けるようにして入っていた。

睡眠はボロボロになっていた時も含めてそれなりに取れていたので、風呂の中で寝ちまって溺死とかいうシャレにならない自体は避けられる。

 

「(俺は・・・本当にいい奴らと会えたんだな)」

 

俺はさっきの話を振り返ってそう思った。見ず知らずの俺をあっさりと受け入れてくれただけに留まらず、俺が危険な時は気を遣ってくれるし、極めつけには隠していたことを責めずにあっさりと協力することを選んでくれた。

本当に頭が上がらない。ネプテューヌが言うには、俺のおかげで和平後の友好関係がより円滑になったと言うのだが、俺はそれ以上にあいつらから恩を貰っていると思う。

どっかで礼させてもらわねえとな・・・。そんなことを考えていたら、カラカラとドアが開け閉めされる音が聞こえた。

どうしたもんかとそっちに首を回していこうとしたが、明らかに女の子のだと分かって即座に顔を正面に戻した。

 

「(・・・ちょっと待てよ?コレ下手したら色々とヤバくねえか・・・?)」

 

風呂場に入っている以上、体洗うからいいとして、普通に嫌な汗が垂れているくらいに俺は焦っている。

俺が先に入っているのを気づいてないから今入って来た奴は間違いなく慌てる。

これはまあどうせそうなるだろうからいいとしてだ。問題は外の奴らが見た時だ。そういつが入って行くのを見なかった奴が見た場合・・・。

 

「(・・・俺が気づかずに入ったアホか、女の子が風呂入ってる所に堂々と入った変態扱いされるじゃねえかぁぁぁ!?)」

 

色々な意味でヤバい。何でだ!?テルミたち一行追い払って、あの四人とニューを助けたのに何でこうなんのッ!?

もう訳が分からねえ・・・。幸い、湯船は複数あるんだし、別の場所に入ってくれればまだ事故は回避できるだろ・・・。そう思ってた俺が甘かった。

そいつはあろうことか、俺と同じ湯船を選びやがったじゃねえかッ!どうすんだこれ?俺逃げ場無いんだけど・・・。焦る俺をよそに、入って来た奴はどんどん俺に近づいてくる。

そして、湯気で陰になっていた姿が露になる程近づいてきて、俺たちはお互いに硬直する。

 

「・・・ネプギア?」

 

「・・・えっ?ラグナ・・・さん?」

 

入って来たのはネプギアで、どうやら俺が入っていることに気づいていなかったらしく、何も身につけていなかった。

つまるところ、ネプギアは今自身の裸体を惜しげ無く晒している状態になっている。バスタオルも無い。流石に湯気で一部は隠れているが、そういう問題じゃない。後髪をシュシュ使って纏めてるけど、重要なのはそれじゃない。

ネプギアからすればうっかりとは言え、俺の前に裸で来てしまったのに気付き頬を朱色に染める。

 

「えっと・・・いつから入っていたんですか?」

 

「ついさっき入ったばっかりだ・・・。俺の服あったの、気がつかなかったか?」

 

「ラグナさんの・・・」

 

思い返していくネプギアの顔はみるみると赤くなっていく。どうやら大方把握したらしい。

 

「す、すみませんっ!私、すぐに上がりますから・・・!」

 

「ま、待て落ち着けッ!こうなったらいっそのこと追い出す方が良くないから・・・!」

 

両腕で胸を隠しながら頭を下げて謝り、慌ててこの場を離れようとするネプギアを俺は慌てて引き留める。

どの道ネプギアがこっちにきていた段階で詰みのようなものなので、追い出したら余計に誤解を深めることにもなるから結局はこう選ぶしかなかった。

 

「じ、じゃあ・・・失礼します・・・」

 

割り切ったか諦めたか、ネプギアはおずおずとした様子で一言入れてから俺の右隣まで移動し、湯船に肩まで浸かる。

そこまではいいのだが、気恥ずかしさから俺たちの間に沈黙が走ってしまう。俺は顔が赤くなるとかそういうのは無かった。そういう色沙汰を感じる余裕が無かったせいだろうな・・・。少し悲しくなる。と言っても心臓の鼓動が嫌でも分かるくらいなので、無反応ってわけでもない。

ネプギアはというと、自分のやったことのバカらしさのあまりか、顔を真っ赤にしたまま顔を下に向けていた。間違いは誰にでもあるにしろ、このやらかしは辛いだろうな・・・。

 

「なあ、ネプギア・・・」

 

「あの、ラグナさん・・・」

 

俺たちが話を振ろうとしたタイミングが奇しくも同時であった為お互いに言葉が詰まってしまった。

 

「ど、どうしましょう・・・?」

 

「そうだな・・・こういう時は俺から先に言うとするか」

 

レディーファーストと言う言葉はあるが、こういう場合は話が違ってくる。

その為、話を振られた俺は自分の方から言い出すことにした。

 

「とりあえず、皆に手伝って貰えるようで良かったな・・・『あいつ』を探すの」

 

「はい・・・私も安心しました」

 

振りだせる話と言ったらまずはこれ。

今回の件で原因を皆に話せたし、その原因に直面できる日だって来る可能性が上がってきた。

これでネプギアの身で『あいつ』と交代交代になる機会が少なくなると思うし、ネプギアも『あいつ』も満足の行く結果に終わることができるかもしれない。

 

「そういや、ノエルから対象法は聞けたか?」

 

「そっちも聞けました。『ネプギア()』としての記憶を優先して、『あの子()』の記憶は情報として捉えるようにって言ってくれたんですけど・・・やっぱり、少しだけ納得できなくて・・・」

 

ネプギアが苦い顔をしたことで大方察しが付いた。ネプギアはノエルの融合と似ているようで違い、共闘と言った方が正しい状態だった。

その為、ノエルのやっていた対象法があまり有効じゃなかった。今のネプギアからすれば、自身の半分を捨てるようなものだからだ。

その状況を理解した俺は少しだけ考え込み、一つの答えを出した。

 

「なら、これはどうだ?どっちも自分でいいとして、表・・・主だって行動する方を決めておく。それで必要な時だけもう片方が行動するってのは・・・」

 

「主だって動く方を決める・・・。っ!そっか!ラグナさんそれですよっ!」

 

「おおっ!?」

 

ネプギアがずずいと体を寄せてきたので、俺は思わずネプギアのいない方へ体を少しだけ傾けてしまった。

ちなみに本人は気づいて無いのか、胸の膨らみが俺の左肩に当たっていた。

幾ら色沙汰に疎い俺でも、こうされて何も思わない程そっち方面でタフネスではない。

ちなみに当のネプギアは、少ししてから「私が基本として動けばいいんだ・・・それなら『あの子()』を除け者にしないで済む」と俺から離れてそう言いながら喜んだ。

俺が少し安心していると、今度はネプギアが誰かと話しているように何か言っていた。

 

「どうした?」

 

「あっ・・・ラグナさん。今からちょっとの間ですけど、『あの子』と変わって来ますね」

 

そう言ってネプギアは目を閉じる。一瞬だけ水面が風に揺られる。

そして、目をゆっくりと開けたその瞬間、ネプギアの纏う雰囲気がサヤとほぼ同じものになっていた。

 

「あはは・・・いきなりでごめんね兄さま?」

 

「・・・いや、なんてことねえよ。今日はどんな用だ?」

 

一瞬、自在に行き来できるようになっていることに驚きはしたが、それ以上動じることはなく、俺は『ネプギア』との話を進めることにした。

すると、『ネプギア』は僅かな時間だけ目を閉じて、ゆっくりと目を開ける。

 

「今日はお礼が言いたかったの・・・。『お姉ちゃん』たちを・・・ニューを助けてくれて、本当にありがとう」

 

これは『ネプギア』の紛れもない本心だった。今まで俺は、この状態での『ネプギア』がネプテューヌのことを『お姉ちゃん』と呼んだところを見たことがないので、あの時ネプギアに受け入れてもらえたのが決定打だったんだろう。

 

「なんてことねえ・・・俺は助けたいから助けたんだ。・・・礼を言われんのは悪い気分じゃねえが」

 

「ふふっ・・・兄さまらしい」

 

本音で話してくれる『ネプギア』の姿勢に有難みを感じた俺は、その姿勢を尊重して本音で返していくことを決めると、『ネプギア』は楽しそう笑みを見せた。

やがて、『ネプギア』は少し寂しくなったのか、俺の左腕に両腕を組んできて、左肩に頭を乗せた。

 

「ねえ兄さま・・・私のこと、どれくらいで見つけられそう?」

 

「・・・どうなんだろうな・・・細かくはわかんねえけど、そんなに遠くないと思う。少なくとも年が回るなんてことはねえ」

 

少し不安そうになっている『ネプギア』に、俺はなるべく安心できるように答えてやる。

その答えに満足したのか、『ネプギア』は少しだけ安心したように「良かった・・・」と呟く。

 

「・・・もう少しでまたお別れしなくちゃいけないから、最後に一つだけ・・・。兄さま・・・私はいつでも待ってるから、早く迎えに来てね?」

 

「ああ・・・任せてくれ。サヤ・・・」

 

そこまで長い時間体を借りることができないのは、負担が影響なんだろうか?『ネプギア』最後に俺へ自分の意思表示をした。

だからこそ、俺はもう片方の呼び方をして大丈夫だと答えてやった。

 

「・・・ありがとう。兄さま」

 

それが嬉しかったのか、『ネプギア』は安心したように俺のことをそう呼ぶ。

そして、表側のネプギアが戻って来るまでの数分間、俺たちはこうしていた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「みんなー、忘れ物ないー?」

 

「大丈夫だ、すぐ出れる」

 

「こっちも大丈夫だぞ」

 

「私も大丈夫だよ。お姉ちゃん」

 

会議とパーティーの日から一週間後、プラネテューヌ居住組は朝早くから少女探しに出ることにした。

プラネテューヌに来たのはナオトとラケルで、アイエフとの連携、ラグナのサポートが役割として与えられているナオトの事を配慮した結果となった。

また、ナインは5pb.にいつでも気軽に会えるようリーンボックスを選び、ナインと久しぶりに共にいられるようになるし、今まで振り回したから少しは頼みを聞いてあげたいと思ったセリカも、これを機にリーンボックスへ引っ越した。

その際、ミネルヴァ整備の為にプラネテューヌにいた一部の整備士がリーンボックスへ転勤をした。ゆくゆくはリーンボックスの整備士だけでミネルヴァのメンテナンスを可能にするつもりのようだ。

また、ノエルとニューはラステイションに異世界組がいないことと、ニューがラステイションの雰囲気を気に入ったことからラステイションで過ごすことを決めた。

そして、準備を終えていざ行こうという時、ラグナの元に術式通信が飛んできたので、ラグナは術式通信に応じる。

 

「俺だ」

 

『ラグナ?私たちもメンテナンスを終えたミネルヴァと一緒に、試運転も兼ねてそっちへ向かってるわ。合流した時はよろしくね』

 

その相手はナインであり、その電話内容でラグナは大方把握した。

暫く会えてないのだから会いたいのだろう。今日は色々と盛大に疲れるだろうな・・・。ラグナは朝っぱらから一人落胆するのだった。

術式通信は現在異世界組と女神たち、そしてアイエフとコンパのみが使用可能な特殊通信法となっていた。

近いうちに一般の人も使えるようにしたいが、それでも最低限の術式適正は図る必要があるそうだ。

 

「こりゃもう少しかかるだろうな・・・」

 

「おぉーいっ!何してるのー?置いて行っちゃうよーっ!?」

 

「悪い、今いく!」

 

いつの間にかエレベーターが来ていたらしく、ネプテューヌに促されたラグナは急いでエレベーターに乗り込んだ。

 

「(待ってろよ・・・必ず、俺が見つけてやるからな・・・)」

 

エレベーターがどんどんと降りていく中、ラグナはあの時話した少女へ心の中でそう宣言した。




以上でこの章は完結となります。

『お風呂場で何してんの!?』と思った方はごめんなさい。

さて、次回からですが、新しい章に入る前に、一度アニメ版の次回予告にもあったNGシーンみたいなのを一度やってから新しい章に入りたいと思います。
これに関しては一話分で終わると思います。

追記・・・
ブレイブルーの最新作で新キャラが発表されましたね。
ブレイブルー側からは獣兵衛が参戦・・・ルナセナの願いが叶った形でしょうか?
ずっと参戦して欲しいと言ってくれていた人たちへの配慮だとしたら嬉しい限りです。


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NGシーン集的なもの+α

今回はNGシーンと+αになります。
色々とはっちゃけたので、今までと比べてキャラ崩壊とメタ発言が極めて多いのでご注意ください。

後『+α』の部分がすげえ長いです(笑)。



9話 紅の旅人とグーダラ女神(アニメ1話序盤)にてのNGシーン

 

 

 

俺が散策を終えてプラネタワーに戻れば、何やら騒がしくしているネプテューヌの声が聞こえた。

 

「何だか騒がしいけど、どうかしたか?」

 

「あっ!ラグナ避けてーっ!」

 

とりあえず状況を確認したいと思った俺はドアを開けて部屋に入り、状況を訊こうとしたらいきなりネプテューヌが避けろという。

どういう事だろうかと思って周りを確認しようとしたら、ゲーム機の電源アダプターが俺の眼前に迫っていた。

 

「うおおっ!?チィ・・・ッ!」

 

ビックリした俺は左手でキャッチしながら、そのまま叩きつけるように電源アダプターを地面に投げつけた。

しかし、それが一番やってはいけない事だというのを、次の瞬間に気づくこととなる。

 

「・・・えっ?ああぁぁぁうっ!?」

 

最大の問題。それはイストワールが電源アダプターのコードにしがみついたまま、遠心力で振り回されていた事だった。

俺はそれに気づかず投げてしまったわけで、当然急な進路転換と速度上昇に反応が遅れたイストワールは、そのまま地面に叩きつけられ、自身の乗っかっていた本の下敷きになってしまった。

 

「ラグナぁっ!間違えるにしても叩きつけちゃダメじゃーん!」

 

「わ、悪い・・・!お、おいイストワール・・・大丈夫か!?」

 

「ん・・・んん~っ!」

 

ネプテューヌに指摘された俺は謝りながら慌ててイストワールの安否を確かめるが、反応があるから大事に至ってない事が分かって安心した。

しかし、それでも早く出して欲しいと言う意図が分かったので急いで助けてやった。

そしてこの後、俺は「叩きつけられたから死ぬかもしれなかった」とイストワールに怒られて深く詫びるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

15話 変えられる未来、変えられない過去(アニメ2話中盤)にてのNGシーン

 

 

 

「それで、今からあいつらを探すととどれくらい・・・」

 

「『悪』の気配を辿れば此処にいたか・・・久しいな。『黒き者』よ・・・」

 

「っ!?」

 

俺がベールに訊こうとした時に何者かの声が聞こえ、俺たちはそっちを振り向く。

するとそこには、どこか侍を思わせる風貌をしていた者・・・『お面野郎』ことハクメンが立っていた。

 

「・・・なっ!?テメェ・・・」

 

・・・が、決定的におかしいところがあった。

 

「お面野郎・・・だよな?」

 

姿形を見れば間違いなくお面野郎で間違いない。

だが、その躰は全身が黄ばんでいた。そのせいで俺は言いたかった言葉を飲み込むことになってしまった。

この時、俺は周りを見る余裕が無かったが、セリカも驚きのあまり硬直していた。

 

「知れた事。それよりもだ・・・『黒き者』よ。何故固まっているのだ?」

 

「は、ハクメンさん・・・。言いづらいんだけど、躰の色が・・・」

 

「・・・色?」

 

どうやら全く気がついていなかったらしく、セリカに言われてようやくお面野郎は自分の躰を確認した。

 

「・・・・・・・・・」

 

「ハクメンさん・・・一度身だしなみ直そうよ。私、手伝おうか?」

 

どうやらお面野郎もその事には気がついていなかったらしく、思わず黙り込んでしまう。

いつの間にかそうなっていたら本人もビックリだろうよ。俺は仕方ないと思っていた。今仕切り直したいと言うなら、喜んで受け入れてやりたいところだ。

流石にセリカも困った笑みをしながらハクメンに気を遣うレベルだった。それ程にインパクトがデカいし、問題のある事だった。

 

「・・・否、何も問題は無い。『黒き者』よ・・・決着を付けよう」

 

「いやいやちょっと待てぇぇぇぇッ!いくら何でも問題あり過ぎるだろぉがぁぁぁぁッ!」

 

まさかの鞘に収められている『斬魔・鳴神』を右手で掴んだお面野郎を見て、俺は盛大にツッコミを入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

22話 妹を思う姉、悪夢の影(アニメ3話中盤)にてのNGシーン

 

 

 

「・・・アレ?投影が来ねえな・・・」

 

「・・・向きを違えたか?」

 

せっかくだから入ろうとしたラグナとハクメンであったが、待っていても投影が来ないため辺りを見回してみる。

 

「うえぇっ!?ネプギア、どうしたのその姿!?」

 

「・・・どうした?」

 

「・・・待て。少女よ・・・その姿は・・・!」

 

少しすると、ユニが何やら驚きの声を上げたので、ラグナとハクメンはそちらに目を回す。

ネプギアがカメラで投影されていたらしく、その姿は一時的に変わるのだが、その変化はラグナとハクメン、そしてセリカの三人にとって衝撃を受けるものだった。

 

「どうして解らないんですけど・・・投影されたら、こんな姿になってて・・・」

 

「あわわわ・・・その状態ちょっとヤバく無い?今すぐ止めた方がいいよねっ!?」

 

「ええ。まさかそんなトラブルが起きるだなんて・・・」

 

「考えるのは後ですわ。今は一度止めませんと・・・」

 

「時は一刻を争う・・・ならば・・・!」

 

答えるネプギアの声が違っていることに気が付いた、ネプテューヌは色々と不味いことになるのを気が付いて確認を取る。

チカとベールも結構焦っており、一度コントローラーを操作しようとしたのだが、それより一歩早くハクメンがカメラの方へ回り込むように走る。

 

「は、ハクメンさん!?」

 

「混乱を招きし根源・・・ここで滅させて貰う・・・!ズェイッ!」

 

ベールの声は届かず、ハクメンは迷うことなく右足で置かれていたカメラを強く踏み潰した。

そして、そのカメラは負担に耐えられず小さな爆発を起こし、それと同時に投影は強制的に終了させられた。

しかしながら、これで解決かと言えばそれもまた違った。

 

「ああ・・・そんなことって・・・」

 

「お・・・お姉さま!?しっかりしてくださいましっ!ベールお姉さまぁっ!」

 

せっかく作り上げたものが一瞬でパァになってしまったことで、ショックを受けたベールは顔を青くして崩れるように気を失った。

それを見たチカは慌てながらベールを抱き留め、涙目になりながら呼びかけるも、口から魂が抜けているかのような状態のベールは暫く反応を示さなかった。

 

「なあハクメン。これ以外に方法はあったんじゃねえの?」

 

「致し方あるまい・・・。全てはネタバレ防止の為だ・・・」

 

「・・・お前がそう言う発言すんのッ!?」

 

ハクメンの方に歩み寄りながら問うラグナに対し、ハクメンは腕を組んで仁王立ちの姿勢になりながら堂々と答える。

しかし、その発言が余りにも彼のイメージに合わな過ぎた為、ラグナは驚きながらツッコんだ。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

25話 もう一人の『ブラッドエッジ』(アニメ4話序盤)にてのNGシーン

 

 

 

「うおぉぉぉああああっ!?」

 

上から少年の絶叫が聞こえ、その少年は殆ど間を置かず地面に激突して土煙を巻き起こした。

 

「何!?何があったのっ!?」

 

「えぇえっ!?落下は主人公の専売特許じゃないのぉっ!?」

 

ノワールとネプテューヌはそれぞれが驚きの言葉を口にする。

ネプテューヌに至っては少々ついていきづらい発言をしているが、それだけのインパクトはあった。

 

「ネズミ、機材は大丈夫そうか?」

 

「巻き込まれなかったから平気っちゅ・・・」

 

マジェコンヌはこれからやることに支障が出ていないかが気になってワレチューに訊くが、幸いその心配は無いようだ。

 

「此の気配・・・似てはいるが、ラグナでは無いようだな・・・」

 

「なあレリウス・・・今のってよぉ・・・」

 

「ああ・・・どうやらあの男も呼ばれたようだな・・・」

 

ハクメンはその気配に引っ掛かるものがあった。

訝しげに尋ねるテルミに対し、今回来た声の主に見当が付いていたレリウスは仮面のずれを直しながら答えた。

その少年は傷だらけの青年・・・ラグナとよく似た気配を持つ少年だった。

 

「・・・えぇえーっ!?6話のNGシーン先取りぃ~!?」

 

しかし、煙が晴れるとそこに少年の姿は無く、代わりにその少年が地下へ突き抜けていった跡が見えたので、何やらネプテューヌが危ない発言をする。

 

「・・・何故そこだけ脆いのだ?」

 

「老朽化でもしてたんじゃねえの?まあいいや・・・引っ張り上げてやるから、俺様に感謝しろよ?・・・そらッ!」

 

マジェコンヌの疑問にテルミは適当に答えながら、穴のできた方に歩きながら『ウロボロス』を取り出してそれを伸ばしていく。

 

「よし・・・引っ掛かったな。オラッ!」

 

「ちょっとやり過ぎだあああああぁぁぁぁぁッ!」

 

少年を『ウロボロス』で捕まえたテルミは思いっきり引っ張り上げるが、勢いが強すぎたせいで少年は情けない声を上げながら放り投げられる。

そして、少しした後海面に落ちたのか、ざぷんと遠くで音が聞こえた。

 

「テルミ・・・やり過ぎには気を付けろ。リテイクに時間がかかる」

 

「・・・変な所で細けえなおいッ!?」

 

レリウスが仮面のずれを直しながらうんざりそうにしたのを見て、テルミは思わずびくりと反応しながらレリウスの方を注視した。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

右から画面の中央へ、左から画面の中央へ、上からから画面の中央へ、デカデカと「ネプらじ」と書かれているロゴが現れる。

右から出てきた時にノエルが「ネプらじ」と言い、左から出てきた時にネプテューヌが「ネプらじ」と言い、最後の上から来た時にこの場にいる四人全員で「ネプらじ」と言う。

 

「はいっ!ようこそ『ネプらじ』へ!司会というかパーソナリティは私、ネプテューヌと!」

 

「ネプギアと!」

 

「ラグナ=ザ=ブラッドエッジと!」

 

「ノエル=ヴァーミリオンでお送りします!」

 

各自が順番で自己紹介していく、並んでいる順番は左から順にノエル、ラグナ、ネプテューヌ、ネプギアである。

 

「さて、この『ネプらじ』どんな番組かと言いますと!本小説『超次元ゲイムネプテューヌ-DIMENSION TRIGGER-』の各章終わりに章ごとにピックアップした場面を簡単に振り返って行くのと同時に、今後の展開の方針などを話していく番組になります!」

 

「更に!今回もそうですが、ネプテューヌ側とBLAZBLUE側から一人ずつゲストが来ています!」

 

自己紹介が終わった後、ネプテューヌが明るさを全開にして説明を行い、ネプギアが補足説明を行う。

 

「それでは早速ゲストをご紹介しましょうっ!」

 

「まず、BLAZBLUE側より、原作と比べて最も心境の変化が大きかった人物・・・ハクメン!」

 

「宜しく頼む」

 

ノエルの前振りに続いてラグナがハクメンの事を呼ぶと、画面から見てノエル左隣にハクメンが現れ、簡単に挨拶をする。

 

「続いてネプテューヌ側です!」

 

「こちらからは変化していくネプギアに、唯一真っ向から言うを言い切ったユニちゃん!」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

ネプギアの前振りの後にネプテューヌがユニを呼び、ユニは緊張が残る様子で挨拶をする。

ハクメンもユニもそうなのだが、この二人には「ゲストで来てほしい」とだけ伝えてあった為、何が来るか解らない以上ユニは緊張していた。ハクメンは違う方面で場慣れしていたので然程動じていない。

 

「それじゃあ早速、章ごとにピックアップした話から見ていきましょうっ!」

 

ネプテューヌがそう言うと、彼女たちの背後にあるモニターには『11話 変わりゆく繋がり、潜む影』と出ていた。

 

「まず最初はここからか・・・まあ、俺の状況がこう変わって来ているのを伝えんのと、テルミたちが動きだしたのを考えれば妥当なところか」

 

「よもや、テルミがあの様な状態になっていようとはな・・・」

 

場面はマジェコンヌがテルミのいるアンチクリスタルを拾ってすぐのシーンが映されていた。

ラグナはまあ、そうだよなと納得し、ハクメンはテルミの状態にただ呆然とした。流石に宿敵がこんな状態では言葉を失うだろう。

 

「お姉ちゃんもお姉ちゃんで、意外と気がつかないところがあったんですね・・・」

 

「ああ・・・この辺『自分のことは自分では良く分からないものだ』って、どこかのエレガント閣下も言ってた気がするよ・・・」

 

「お姉ちゃん・・・最初からそんなに飛ばして大丈夫?」

 

「大丈夫っ!作者から許可もらってるから!」

 

ノワールとラグナが一対一で話しているシーンが映され、ユニが率直な感想を述べている中、ネプテューヌは分かりにくい発言をしていく。

その為ネプギアが一度確認を取るが、そんな心配はないと言わんばかりなネプテューヌだった。

 

「ちなみにこのエンシェントドラゴンが出てくるところだが、原作だと一体なんだが俺がいることで作者が二体に増やしたんだとよ」

 

「原作だとほぼ瞬殺だったから仕方ないですね・・・」

 

次にエンシェントドラゴンが登場したシーンが映し出されたので、それを確認しながらラグナが解説する。

ノエルは司会になる以上しっかりやると意気込んでおて、振り返るためのビデオを全て視聴してから来たので余裕でついていける状態だった。

流石に彼女もエンシェントドラゴンには同情を禁じ得なかったようで、苦笑交じりにラグナの解説に同意していた。

 

「もう大丈夫そうかな?続いてはこちらっ!」

 

ネプテューヌが合図を送ったことでモニターに新しい文字が映される。

次は『12話 尊き平穏』と出されていた。

 

「ここはネプギアの変化が見られたところだな」

 

「あの時はいきなりなもんだから結構ビックリしたよね・・・」

 

「すみません。私・・・何が起きたかさっぱりわからなくて・・・」

 

ラグナとネプテューヌはお互いの胸の内を話す。

この二人とイストワールが最初の目撃者であるかつ、何の前触れも無かった為、驚かない筈もない。

この時のネプギアは、完全に意識が『少女』に取られてしまっている為、どうすることも出来なかったのである。

 

「これ、本当はただの日常回になる予定だったそうですね」

 

「入れ時だと踏んだ結果が此れだ・・・。予定とは大きくかけ離れたものだ」

 

ラグナたちが昼食を取っているシーンが映し出され、ユニが本来のことを話しながら確認するようにコメントする。

ハクメンはそのシーンを見ながら飽きれ半分に呟く。此の様子ではセリカ=A=マーキュリーの方向音痴を笑えぬのではないか?そういった危惧がハクメンの中にはあった。

 

「あの時の安堵した言葉は、あの子の料理の腕前を知っている人ならすぐに気づけると思います」

 

「ノエル・・・お前も同じくらいに下手くそなんじゃなかったっけ?」

 

「ら、ラグナさ~ん!それはこの場で言わないで下さいよぉ~っ!」

 

ノエルが解説している所にラグナがサラッと痛い部分を突くと、ノエルは涙目になって抗議の声を上げる。

料理の知識等はしっかりと持っているノエルではあるが、何故かいつも出来上がるのは絵に描けないような何かであり、味も殺人的なものだった。

 

「どんどん行っちゃおう!次はこれだっ!」

 

そんなノエルの様子に構うこと無くネプテューヌが合図を送ったことでモニターに新しい文字が映される。

次は『13話 思いがけぬ再会』と出されていた。

 

「いや~、これだけは絶対に出してって言われたから仕方ないね。あの時は作者が嬉しさのあまり大笑いしてたしっ!」

 

タイトルが出て早々、ネプテューヌが危険な発言をするが、それを気にする彼らでは無い。寧ろ次にチャンスがあれば乗ろうと言う気兼ねでいた。

 

「何で出して欲しいのって言われたら、この回を出した次の日・・・この小説が日間ランキング8位まで登り詰めてたんだよ」

 

「8位か・・・中々に見事な成績だな」

 

ラグナの簡単な説明を聞き、ハクメンは称賛の言葉を出す。

 

「話の内容としては、セリカちゃんがこのゲイムギョウ界に来たことでしたね」

 

「後は、セリカさんがラグナさんたちを育ててくれたシスターさんだと解ったお話しですね・・・」

 

ハクメンの称賛の直後に教会で集まっているシーンが映し出され、ノエルとネプギアが振り返るようにコメントをする。

 

「そう言えば、ここに来るまでセリカさんがシスターだって言うのを、ラグナさんが知らなかったのは本当なんですか?」

 

「ああ・・・今まで全く知らなかったよ。確かにシスターに似たものを感じてはいたんだけどな・・・」

 

ユニの率直な質問に対し、ラグナは頭を抱えながら答える。

それもその筈、時代等が違ったとは言え、育ての親をきつく突き放すような言動をしてしまったことがあるからだ。

 

「というか、セリカちゃんの方向音痴っぷり凄まじいね・・・。これに付き合わされたラグナやナインたちって・・・」

 

「気にしたら負けと言うものだ。奴の方向音痴は、この先も治ることはあるまい・・・」

 

頭を抱えながら呟く。ネプテューヌに、ハクメンは首を少しだけ下に向けながら諦めの意を示す。

事実、セリカの方向音痴はラグナたちを育てている老後の時代でも治らなかった為、どうしようもないのだろう。

 

「さて、こっちも大丈夫そうかな?次は・・・これ行こうっ!」

 

機を見計らったネプテューヌが再び合図を出すと、モニターに新しく文字が映し出される。

そこには『15話 変えられる未来、変えられない過去』と出されていた。

 

「・・・この回は・・・色々と重かったね・・・・・・」

 

「そうですね・・・セリカさんとは違ってハクメンさんは明確に敵対関係を示していて、更にそのハクメンさんから告げられた『蒼炎の書』の危険性、そして何よりも・・・誰の目にも明らかなネプギアの急変ですね・・・」

 

モニターを見たネプテューヌとユニが一気に苦い表情へ変わる。ラグナが来てこれからのゲイムギョウ界は明るいと思った矢先、いきなりラグナはいずれ世界を滅茶苦茶にすると言われれば堪ったものではないだろう。

また、ハクメンが『蒼炎の書』の以前の姿、『蒼の魔導書』のことに詳しかったが故に判断に戸惑ったものであった。

 

「状況が状況だったとは言え、『エンブリオ』で一度協力したのに再び敵対するのはちょっと辛いものがありますね・・・」

 

「此の時の私は周りを考えなかったからな・・・。今の状態で会えたならば、こうはならなかっただろう」

 

ノエルがどこか寂しそうな表情で言うのを見て、ハクメンは今の自分と当時の自分を振り返る。

『エンブリオ』外である為ノエルは狙わないだろうが、決定的な『悪』を宿しているラグナはそう言うわけにもいかなかった。

ハクメンの使命はこの時も『悪』を滅することで変わりないので、対面した時点で避けられなかったのかもしれない。

 

「その対決は一度伸ばしてもらえたからいいとして・・・」

 

「問題はネプギアですね・・・」

 

ネプテューヌの言葉に呼応するように、画面が涙目になってラグナへ訴える『ネプギア』のシーンが映され、ユニが落ち込んだ表情で続ける。

この状況で僅かながらとは言え推測を立てていたのはハクメンただ一人であり、ラグナですら整理する為に時間が欲しいと思った程であった。

 

「見た感じ、12話だとそこまで大きな変化は無かったんですけどね・・・」

 

「多分、『黒き獣』って単語が引き金だったんだろうな・・・そうでもなきゃ、あそこまで急激な変化は起きないだろうよ」

 

その様子を見て、身に覚えの浅いネプギアが首を傾げながら呟くと、ラグナも首を傾げ、腕を組みながら考え込む。

ラグナの推測として、『第一接触体(ジ・オリジン)』は『黒き獣』を『黒い化け物』と呼んで恐怖心を持っていた。

また、それと同時にラグナと離れることへの寂しさや怖さも持っていた。その為、今回はラグナが『黒き獣』となったらもう二度と共にいられることが叶わない。その二重の恐怖が運悪く重なってしまったのだろう。

 

「他にも重要なシーンとしてはここだね」

 

ネプテューヌの言葉が合図となり、ラグナがブランを引っ叩いたシーンが映し出された。

 

「ここか・・・思い返して見ると、色々やり過ぎた感じあるな・・・」

 

(いや)・・・これで良かっただろう。寧ろ、お前が何も言わぬのであれば、あの時の私は修正しに掛かっていたぞ」

 

「・・・おい!?そりゃちょっとやり過ぎじゃねえか!?」

 

頭をかきながら呟くラグナに向けてハクメンがそう告げると、ラグナは青筋を立てて焦る。

―ハクメンの修正とかシャレになんねえ・・・!ラグナはそうならなくて良かったと安堵しつつも恐怖するのだった。

 

「でも・・・もし、自分がラグナさんだったらって考えると・・・この時の気持ちは分かります」

 

「そうですね・・・アタシも、自分がラグナさんだったらこうやってガツンと言ってやってたかも・・・」

 

ノエルとユニはラグナの行動には肯定の意を示す。

ノエルは何もない状態だった自分を拾ってくれた義理の両親がいたからこそ、ユニはつい最近ネプギアに面と向かって言い切ったからである。

 

「ブランも吐き出したいこと吐き出せたから、一応は良かったのかな・・・」

 

何もしていないで二人が連れてかれてしまったのはかなり応えていたようで、ブランがだいぶ参っていたのは事実だった。

ただそれでも、その辛さを吐き出せた分少しは楽だったのだろう。

 

「ラグナさんの件でどうなるかと思いましたが、16話で二人を助けられたから本当に良かった・・・。次は一辺に行きましょう、こちらです!」

 

一度ネプギアが安堵した様子で感想を述べた後、すぐに笑顔で合図を送る。

モニターには『17話 Black&White~19話 共に前へ』と映し出された。

 

「ラグナさんとハクメンさんの決着から和解を描いたお話しですね」

 

「いや~・・・18話の終わり頃からはまだ良かったんだけど・・・それより前は緊迫感がヤバいのなんので・・・」

 

ユニに続いてネプテューヌは頭をかきながら冷や汗を浮かべて言う。

事実、この時程荒れていた時期など無かっただろう。場合によってはこちらにもハクメンの刃が飛んでくる可能性を考えなければならなかったからだ。

 

「ラグナさん・・・何事も無ければ『蒼炎の書』があと一回だけって絶望的過ぎませんか?」

 

「・・・あの時は本当にヤバかった。いや、だからといって簡単に諦めるつもりもねえんだけどよ・・・流石に無条件でどうにでもなるとは言えなかったわ」

 

ラグナの状況を改めて知ったノエルが問いかけると、ラグナは頭を抱えてながら答えた。

ラグナに取ってはこの時が最も危険な状況であったと言えるだろう。女神たちが捕まった時はまだやりようがあると踏んでいたが、この時は本当にお手上げ寸前だった。

 

「しかし・・・条件が重なったとは言え、我が正体を見抜かれるとはな・・・」

 

「いきなりああ言われたら、流石に驚きますよね・・・」

 

17話の最後にラグナがハクメンの正体を見抜いた発言をしており、ハクメンの動揺している様子から18話が始まっている。

どうやら見抜かれることはハクメン自身想定外だったようで、ネプギアも苦笑交じりに同意するのだった。

 

「ぶっちゃけた話、それの直前に貰ったシェアエナジーが無かったら本当に危なかったわ・・・」

 

「でもあれってネプギア自身がやった感じじゃないよね?」

 

「うん。この時もまだ・・・いつの間にか『あの子』がやってたからね・・・。あんまり人のせいにしたくはないんだけど・・・」

 

シェアエナジーをラグナに送り込む直前のシーンを見ながらネプギアは罪悪感を抱く。

ラグナからすれば危機を脱する切っ掛けができたのでそれは良かったのだが、ネプギアのことに関しては全く解決の目処が立っていなかった。

 

「なんかこう・・・『ぶつかることで深く結びつく友情』的な感じの終わり方だったけど、お互いにどうにか和解できたし良かったよね!」

 

「お、お姉ちゃん!?この二人は各国代表とかそう言うのじゃないからねっ!?」

 

ネプテューヌが満足そうに頷いているところをネプギアが突っ込む。

確かにラグナとハクメンは、某巨大ロボットで代理戦争に参加するファイターではない。更にはシャッフルな同盟にも加入していないし、そもそも彼らの世界にもゲイムギョウ界にも存在していないのであしからず。

 

「あ・・・そう言えば私、ここではハクメンさんの正体を知っちゃってるんですけど・・・今後どうするんですか?」

 

「その事だが・・・この『ネプらじ』限りらしいぞ。だから、本編では普通に知らないことになる」

 

「あ・・・そうだったんですね・・・。安心したような悲しいような・・・」

 

ノエルが訊いてきたので、予定より早いタイミングでラグナが答える。

本編でハクメンの正体を知っているのはラグナとセリカ、そしてゲイムギョウ界の人たちのみである為、ここでの状況を本編に持ち込んでいいものでは無かった。

 

「葉笛もできるって・・・ラグナ、凄い器用じゃない?」

 

「そうか?息吹きかける具合を調整するくらいだぜ?」

 

「・・・えっ!?それ謙遜しちゃう!?」

 

傍らから見れば、ラグナのような技術を手にするまでは時間がかかるので、少しは誇ってもいいのかもしれない。

しかしながら、ラグナはあまり役立った場面が少なかったのもあってか、あまり自慢するものではないと認識していたことがかえってネプテューヌを驚かせることになった。

 

「ラグナさん。今度時間があったら、ニューにも聴かせてあげて下さい・・・きっと喜ぶと思うんです」

 

「そうだな・・・ついでにやり方も教えるか。ラムダも一度聴いたら真似しようとしてたしな」

 

ノエルの頼みをラグナは迷うことなく快諾する。

ココノエの手違いでカグツチに飛ばされてしまった事でラムダは一時的に迷子になり、アラクネの襲撃を受けている際にラグナが救出したことで一時的に行動を共にしており、ラムダにはその際に葉笛を披露している。

最初はニューもラムダみたいになるんだろうな・・・そんなことをラグナは考えていた。

 

「ええ・・・そして、毎度の如くこういう時に犠牲になるエンシェントドラゴンでした」

 

「・・・この小説だと今後もこうなるんでしょうね・・・」

 

ネプテューヌがご愁傷様と言わんばかりに十字架を切ったのに同意するが如く、ユニも苦い顔で二体のエンシェントドラゴンを哀れんだ。

事実、エンシェントドラゴンの犠牲になっている回数は現段階で相当増えており、アニメでは5話までの段階で二体しかやられていないのに対し、本小説では何と既に九体ものエンシェントドラゴンが犠牲になっている。

しかも内一体はレリウスの実験材料にされてしまっているので、彼?は最も苦痛な最期を迎えたのであろう。

 

「後は俺らでしか話せなかった事情かな」

 

「ああ・・・私はあの一件で少々気が楽になったように感じる・・・。ラグナよ、この場を借り改めて礼を言う」

 

「お前があの後、今の状態を全うできるようになったんなら何よりだ」

 

ラグナからすれば恨みとかそう言ったものをいつまでも引きずろうとは思っていなかったので、ハクメンさえ変わればすぐにこうなれた。

それがこの改まった一対一での会話と真の和解であり、今の状態に繋がったと言えるだろう。

 

「というか、あのお別れ話の後すぐ独自で動こうとしてたんだね・・・ありがたいと言うか、申し訳無いと言うか・・・」

 

「何の問題も無く術式が使えると言うのは、流石にそのまま流す訳には行かんのでな・・・」

 

「今は『蒼』があるというのが判ってるからいいですけど、この時は何も判っていませんからね・・・」

 

ネプテューヌは複雑な気持ちになりながら頬を掻くのだが、ハクメンは元々調べようとしていたことなので特にネプテューヌを責めたりはしない。

また、ノエルの言っていることは最もで、ラグナ一人の時や、セリカが来た時までは細かいことを気にせずとも良かったのだが、流石にハクメンも来た時以降は無視できなくなって来るし、何も判らないと不安にもなる。

ネプテューヌがゲイムギョウ界に『蒼』があると言う情報を得て、それが伝わったからこそハクメンも一段落が付いたのだ。

 

「この三話分だとここまでか?そろそろ次に・・・」

 

「ラグナさん。その前に一つ言っておきたいことがあります。この場面なんですけど・・・」

 

ラグナが次へ進めようとした時、ノエルが遮りながらネプギアに銀の腕輪を渡すラグナのシーンと、一度16話に戻って自身のコートをセリカに渡すシーンを順番に映し出させた。

 

「暗黒大戦時代の時もそうですけど、何でも物を渡せばいいものじゃないと思うんですっ!」

 

「えぇ!?そこかよ・・・。いやでも、ちゃんと戻って来てるし・・・」

 

「そう言う問題じゃありませんっ!今後はこうなる前に、どうにかする努力をなるべくしてくださいっ!いいですね!?」

 

「わ・・・分かった・・・・・・」

 

ノエルの言い分に対し、自分の功績を出して避けようとしたものの、そのまま言い切られてしまったラグナは諦めて受け入れるしか無かった。

 

「全く・・・向こうでも人に心配かけ過ぎです。・・・あっ、お待たせしました。次はこちらです」

 

ノエルの合図により、モニターには『20話 狂気の人形師、蘇る悪夢の欠片』と出された。

 

「此の回は我らの出番が無かった回だな」

 

「大雑把に纏めると、レリウス=クローバーがゲイムギョウ界に現れる。ユウキ=テルミの復活・・・この二つですね」

 

まず初めに、ハクメンとネプギアがこの話で起きた内容をまとめ上げる。今回はラグナ達の預かり知らぬところで陰謀が動いていると言うような内容であった。

 

「・・・エンシェントドラゴン、南無・・・」

 

「こ・・・今回ばっかりはアタシも同情です・・・」

 

ラグナが両手を合わせ、ユニも目を瞑った。彼らの預かり知らぬところで、エンシェントドラゴンは再び犠牲となっていたのだ。

この話の段階では3話が始まっていないので本編だと一体しか倒されていないのだが、本小説ではこの段階で既に合計八体・・・つまりは七体ものエンシェントドラゴンが追加で倒されていた。

ただし、レリウスの場合は実験に使った為、倒したというよりは実験によって絶命したが正しいだろう。

 

「で、今回一番重要なのはテルミの復活だね。そのシーンは・・・何このホラー映画みたいなの?」

 

「えぇ・・・?こんな強引に・・・?」

 

テルミが肉体に移されているシーンを見た瞬間、ネプテューヌとノエルはドン引きした。

それもそのはず、碧黒い影の状態のテルミと、新しい肉体としてあるテルミがどちらも半端なニヤリ顔になっているので、一般の精神を持っていたら間違いなく彼女たちのような反応を示すだろう。

現にラグナも一瞬頭を抱え、ユニもドン引きしていた。

 

「・・・気を取り直してっと・・・意外なのは、割とこいつらが仲いい事なんだよな・・・」

 

「確かに・・・後の話でも、仲間内では友好的でしたよね」

 

ラグナが見た所にユニは同意を示した。

事実、この四人はラグナ達の前に姿を現した後も、仲違いを見せたことは無かった。

 

「さて・・・あまり長いと作者の労力もあるからサクサク行こう。次はこれ!」

 

ネプテューヌが何やら労う言葉をかけながら合図を出し、モニターには『21話 再会を望む魂~22話 妹を思う姉、悪夢の影』と映し出された。

 

「21話はネプギアちゃんに、大きな変化が訪れる回でしたね」

 

「私、起きた時本当にビックリしました・・・」

 

ネプギアが驚くのは無理もない話。誰でもネプギアの立場になったらあの夢を見た直後はそうなるだろう。

見知らぬ場所、見覚えがあるものの良く分からない少年と見知らぬ少年、そして全く呼ばれたことのない呼ばれ方・・・。これらの状況で驚くなというのが無茶だろう。

 

「他にはここがデカいターニングポイントだったかな」

 

「さっきのシーンの段階でネプギアは例の『あの子』を自覚してるから・・・気遣ったんだね・・・」

 

ネプテューヌはできることなら自分にも言って欲しかったのだが、状況的に叶わなかったので、ラグナとネプギアも少し申し訳無くなる。

勿論、今のネプテューヌであればその時の状況もある程度予想が付くので、あまり気にしてはいなかった。

 

「ハクメン・・・テルミがライブ会場紛れてたの気づいたか?」

 

「否・・・全く気がつかなかったぞ・・・」

 

「・・・えっ?テルミってライブ趣味あったの?」

 

モニターに映し出されたシーンを見たラグナとハクメンは、冷や汗をかきながらお互いに確認し、二人共気がつかなかった事でその冷や汗を大きくする。

更に、ネプテューヌの問いにはノエルも加わった三人で無言の肯定をして返し、ゲイムギョウ界側の三人が仰天する。

映し出されていたシーンは勿論、ライブを会場の隅っこで見ているテルミだった。

 

「そんで次、22話で開幕即死攻撃!」

 

「コンパの笑顔・・・実にプライスレス・・・!」

 

先程のシーンとは打って変わり、コンパの笑顔に心が堕ちたワレチューのシーンが映し出された。

また、芸が細かいことに、編集で画面の中央には『ASTRAL FINISH』とデカい文字で映し出され、右側中央にも、少し大きな文字で『99HEAT』。そのすぐ下には小さい文字で『99999』と書かれていた。

 

「・・・えぇっ!?いつ、こんな編集していたんですか!?」

 

「スタッフの人たち遊び心凄っ!?」

 

極めつけにシステム音声も作り込んでいたようで、その事にネプギアとユニが素直に驚く。

作者に許可を貰った彼らは、それはもう生き生きと作り上げたものだった。

 

「そして、アニメと同じく直後にアンチクリスタルの案件がありますね」

 

「此処は余り語るべき点は無いだろう・・・」

 

アンチクリスタルのシーンは殆ど変わっていないため、さして話すべき点が無いのもまた事実だった。

 

「で、次は・・・」

 

「えっ?あれハクメンさんでしたよね!?」

 

ネプテューヌの合図でシーンが現れた瞬間、そこに映された『パクメン』を見たノエルが食いついて目を輝かせる。ノエルの言葉に肯定を示すように、ネプギアとユニは素早く二回頷く。その表情は奇しくも『パクメン』となったハクメンを弄っている時と同じ表情になっていた。

また、この時ハクメンは嫌なものを見た言わんばかりに頭を抱え、ラグナも同情するように苦笑した。

―アレは嫌な事件だったな。ラグナはそう言ってやることしかできなかった。

 

「んで、この最中ナインが出てくるんだが行く余裕がありませんでした・・・」

 

「おまけにマーキングまでされる・・・今回も含め、今まで全て突発的なものだから仕方ないかもしれませんけど、アタシとかがこれやったら致命傷ですね・・・」

 

「・・・勘弁してくれ。そんな事態創造したくもねえ」

 

頭を抱えていたラグナにユニの一言が更に刺さり、ラグナは顔を下に落とすのだった。

それもそのはず、ユニのような立場でこんなことをされた場合、暗殺等も容易に立てられるので非常に危険である。

ナインの人格上、セリカに危害が無いのであれば、余程のことが無い限りそこまではないが、一歩間違えれば自ら消し炭にする為やって来るので、彼女の存在を知っていたら嫌でも慎重になる人はいる。

 

「そろそろ次に行きましょうか。・・・続いてはこちらです!」

 

ノエルが合図を出すと、モニターには『23話 対峙する悪夢~26話 皆の決意』と出された。

 

「うわ・・・一辺に来たなあ・・・というか、ここら辺から私・・・もとい、私たち四女神は完全に何もできなかった覚えが・・・」

 

「いや、アレはしょうがねえだろ・・・原作でもお前らあんな感じだったじゃねえか」

 

ネプテューヌの愚痴にラグナが諦め気味に返すと、ネプテューヌは「作者~!そこはどうにかできなかったの~っ!?」と嘆いた。

すると、カンペで『ごめん、ここは流石に変えられないわ』と出されたので、それを見たネプテューヌがショックを受けた。

 

「しょうがないよお姉ちゃん・・・アニメ4話のラストでも、本小説26話のラストでもそうだけど・・・お姉ちゃんたちが捕まらなかったら、私たちこのシーンに繋がらないから・・・」

 

女神候補生の四人が昇って来る朝日を見て決意を固めるシーンが映し出され、それに合わせてネプギアが言うことによってネプテューヌは「ごもっとも・・・」と降参の意を示した。

実際の話、ネプギアが彼女たちの危機であるシーンを目撃しなかった場合、このシーンには繋がらないし、彼女たちの変身する機会が無くなってしまうので仕方ない面はある。

 

「私たちが捕まった直後にあの・・・三人と一匹でいいのかな?が現れて、何気に本小説初、ラグナに黒星ついちゃった戦いだね・・・」

 

「確かにそこも問題だけど・・・俺はせっかく貰ったシェアエナジーがあんな形で仇になったのは流石に焦ったぞ」

 

「現場を見てないから解らなかったけど・・・こんなに酷いことになっていたなんて・・・」

 

ネプテューヌたちが捕まった直後、救助を試みたラグナはあっさり弾き飛ばされ、その後テルミとの一対一でこれまでにない程圧倒的されて負けていた。

今回その状況を見たユニも、思わず口元を抑える程酷い状況であった。ハクメンですらラグナの救援に走ろうとして止められている程だった。

 

「その点、あの少年には感謝している。私一人では間に合わなかっただろうからな・・・」

 

「私もです。あの時来てくれなかったら、固まって動けないまま捕まってたでしょうから・・・」

 

「本当に助かったよぉ・・・捕まってたら間違いなくバッドエンド直行だもん・・・」

 

ハクメン、ネプギア、ネプテューヌの順で今この場にいないナオトへ感謝の意を告げる。

実際の話、彼が来なかった場合ネプギアを逃がすことは間違いなく不可能だっただろう。

 

「ラケルにも礼を言わなきゃいけねえことはあるな・・・アイエフがドライブ手に入れてあの状況から逃げきれたの、あいつのおかげだしな」

 

「ラケルさん・・・うーん。どうしてもレイチェルさんって言いそうになる・・・」

 

「こっちはアイエフさんって言いそうになったから、なんだか似ているんですね・・・」

 

どうやらノエルやユニも例外ではないようで、ラケルのことをそれぞれの人物と間違えそうになっていた。

ただそれでも感謝の意が無いわけではない。この二人が来なければ間に合わなかった可能性も十分に高いからだ。

 

「ハクメン・・・この直後は済まなかったな」

 

「気にすることは無い。あの場面ではあれが最善であった」

 

想定外の介入のおかげでラグナたちはどうにか離脱できたものの、この時ハクメンが一人残ってしまっていた。

その為ラグナは申し訳ない気持ちになるのだが、ハクメンは覚悟の上での選択だった為然程気にしてはいなかった。

 

「ちなみに、ナインが俺らの状況に気づくまではこんな感じだ」

 

ラグナが言い終わった直後にモニターでナインがどうしていたかが映し出された。

やってたことと言えば、シェアエナジーについての聞き出しと、5pb.の家に入れて貰ってちょっとした会話だった。

 

「此れは本人に訊いた事だが、後日もう一度会いに行くことを望んでいたな」

 

「お話の途中だったんですね・・・」

 

ハクメンの話を聞いたのもそうだが、今回の為に確認して来たノエルは大体把握ができていた。

実際のところ、ナインの事情しか話せておらず、5pb.の話は聞けず終いであった。

 

「ちょっと待って!?このシーン何があったのぉっ!?」

 

「私は何も・・・ラグナさんはどうですか?」

 

「俺の夢だってのはわかるけど・・・何でこれ見たんだろうな・・・?『あいつ』がヤバいからって思ったからか?」

 

ネプギアであろう少女が無惨にやられたシーンが来て白目になったネプテューヌが絶叫気味に驚き、ネプギアもラグナに問いかけるが、ラグナは曖昧な回答しかできなかった。

 

「後は俺が起きて少ししてからナインと合流する訳だが・・・」

 

「ここだね。ユニちゃんが思いっきり言った場面は・・・」

 

「ほ、本当にごめんなさい・・・。確かに言いたいこと言ったけど、胸倉はやり過ぎでした・・・」

 

ユニは涙目になって、胸倉を掴んだままネプギアに言うことを言っており、この時も言い過ぎたと反省していたのだが、その時の事をネプテューヌに謝罪する。

知らぬ間にこうなっていれば、ネプテューヌでも驚かないことは無い。実際、ユニもこのシーンが映った時は一瞬顔が青くなっていた。

 

「あ~でも・・・この体制でアニメと同じセリフだったら流石にお姉ちゃんおこかも・・・」

 

「す・・・すみません・・・」

 

「お、お姉ちゃん・・・あんまり言いすぎないであげて?」

 

ネプテューヌがふざけ半分で、しかしながら本気半分で言うとユニがしぼんだように再び謝った。

流石に可哀想に思ったネプギアが止めに入ったので、「まあ次やらなければいいのよ」とネプテューヌが言って事なきを得た。

 

「この次の話、この章最後のエンシェントドラゴンが犠牲になります」

 

「ここでようやく二度目の原作通りの犠牲・・・本編以上に犠牲を産んだエンシェントドラゴンに、ご冥福をお祈りします」

 

ラグナとノエルが黙祷し、それに続いてネプテューヌたちも黙祷する。

ハクメンは黙祷している意を告げるため、頭を軽く下げてその状態を少し維持する。

 

「ところで、此の先もこの竜の犠牲は増えるのか?」

 

「どうだろうな・・・作者の決め方次第だと思うぜ?次はこれだ」

 

ハクメンの問いに曖昧な答え方をしながらラグナは合図を送り、次は『28話 共闘を決める魂~29話 反撃の手口』と映された。

 

「この2話分で皆の変身が完了するねっ!」

 

「危なかったけど、どうにかなって良かったです」

 

ネプテューヌがピースサインを出しながら言うのに対し、ユニは安堵の表情で言う。

ネプテューヌたちからすれば逆転の兆しが見え、ユニたちからすれば危機的状況を切り抜けられたからだ。

 

「全員変身できたのは確かに良かったんですが、重要なのはここですね」

 

「はい。ここでようやく、『あの子』と話せました」

 

ネプギアの変身のきっかけは、少女と共に戦うことを選んだこと。

危険性があると言われているのは確かだが、今のところネプギアを見るにその危険性が如実となっている場面は極めて少ない。

 

「思いの外危険なのは、マジェコンヌがラグナの技までも使用したことだな」

 

「現状使って来たのはこれだけだが・・・ブラックオンスロートとかやられたらかなりヤバいな・・・」

 

マジェコンヌの事を再確認してハクメンは腕を組んで考えるのに対し、ラグナは冷や汗を浮かべていた。

現状、ラグナはブラックオンスロートを二回しか使用していない為、これで習得されていたことが判明した場合、本当に恐ろしい事態になる。

 

「ハクメンは後使ってない技なんかあったか?」

 

「後は咢刀(あぎと)くらいだが・・・御前は?」

 

「まだ終わりじゃねぇぞって言うゲームだとダウン追撃技・・・アレ使う機会あんのかな・・・?」

 

ハクメンが天骸を使ったシーンを映し出された状態で、ラグナとハクメンはお互いに使ってない技を確認する。

ハクメンはまだ使いどころのありそうな技ではあるが、ラグナはもうどこで使えばいいんだと言う技だった。

その悲しさにラグナは頭を抱えて項垂れるのだった。流石に倒れている相手を掴み上げてから殴り飛ばすと言うのはそうそうやれたものでは無かった。

 

「みんなが私たちのところに向かってる途中何事も無くて良かったね・・・」

 

「ああ・・・来てたらその時は大惨事だったかもしれないな・・・」

 

実際のところズーネ地区に向かう途中で誰か来たとしても、状況が状況なので無視をしなければならないし、リーンボックス以外だった場合はそもそもすぐに向かうことができない。

仮にここでゲイムギョウ界に被害を撒き散らす存在だったら、この間やりたい放題と言う最悪な事態を招いてしまう。しかも対処できないのでお手上げな状態と軽く詰みが出来上がってしまう。

 

「本当に何も無くて良かった・・・最後は纏めて行きましょう、こちらです!」

 

安堵したネプギアは一度気を取り直して合図を送る。

すると、モニターには『30話 邂逅の時~33話 蒼を探しに』と映し出された。

 

「さて、この章の纏めもこれでラスト!・・・いきなりだけど、これ一体何なんだろうね?」

 

「・・・私も解りません。後々判明すればいいのですが・・・」

 

ニューがゲイムギョウ界に入り込む直前の瞬間に現れた蒼い球は今のところ一切判明しておらず、調べる暇もない。

解るのはこの先何時になるかは分からない。最悪、かなり終盤になる可能性すらある。ノエルも得た情報だけ持って追いかけて来たので、本当に何も判らないのである。

 

「ナオトが分かり易く表してるけど、これは俺も焦ったわ」

 

「大丈夫だったから良かったけど、これは私も焦りました・・・」

 

その後アイエフがニューの攻撃を受けたシーンではあるが、土煙がいきなり見えたので、それは仕方ないだろう。

直後に同じことがすぐに起きるので、その焦りは加速しても仕方ない。

 

「みんなでネプギアを送ったけど・・・大丈夫だったかな・・・?その後こうなってたし・・・」

 

「後に救助が来たので、結果としては良かっただろう。どの道、彼女に大きな支障が出てしまう前に決めたのは正しかっただろう」

 

ラグナとニューの様子が気になったネプギアを送ったのは間違いでは無かっただろう。

もし、ネプギアの集中力が切れてしまえば、マジェコンヌに集中攻撃を受ける危険性すらあるからだ。

ノエルが間に合わなければ危険な状況ではあったが、この際は終わり良ければ総て良しであろう。

 

「セリカちゃんの能力、ここまで来るとテルミが可哀想になるよ・・・」

 

「ああ・・・こんなにひでえ状態のテルミ見たのは二回目か・・・。マジェコンヌも大分やられてんな・・・」

 

マジェコンヌとテルミはセリカの能力で相当弱体化を受けてしまい、それぞれまともに動けない、非常に動きが悪くなるの二者だった。

特にテルミは、もし悪足搔きをしなかったらそのままハクメンに倒されていた程だった。

 

「そして、やっぱり言いたいこととすれば・・・ラグナさん、ニューの救済お疲れ様です」

 

「ああ・・・どうにかなって良かったよ・・・」

 

「予想とは大きくかけ離れた形となったが、私の旅路も一段落は付いた感謝するぞ」

 

ニューの救済は、ハクメンの永き戦いにも幕を引くこととなった。

一通り戦いが終わった為、残りは平和の為に力を振るうのがハクメンの方針となっていた。

 

「住む場所はニューと一緒にラステイションになりましたね。ノエルさん、これから暫くの間よろしくお願いしますっ!」

 

「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

これから共に同じ屋根で過ごす身として、二人は改めてこの場で挨拶をするのだった。

 

「・・・よし。これで終わりだな・・・後は今後のことだが・・・」

 

「ラグナ、その前にだけど・・・後でこの件について話あるからよろしくね」

 

「「・・・・・・!?」」

 

ラグナの言葉を遮ってネプテューヌがモニターに出したシーンは、何とあのうっかり混浴のシーンであり、それを見たユニは思わずドン引きした。

そのシーンを出されるとは思わなかったラグナとネプギアは、思わず青筋を立てた。

 

「さて、今後の方針だね。まず、展開の方だけど・・・次の章はアニメ5話の残った部分から、アニメ10話分までの進行段階が予定されてるよっ!途中でオリ回も挟む可能性もあるよっ!」

 

ネプテューヌが簡単に展開の事を話す。ここからは原作通りにはいかない可能性が高いので、あくまで進行段階と言う話をしている。

 

「キャラリクエストとかどんどん来ていますが、ここで一つ残念なお知らせがあります・・・。戦力比だったり何だったりを考えた結果、出せるキャラが良くて後4、5キャラ程度という判断が作者から出ました」

 

「嘘~っ!?あれだけ調整したいって言ってたのにぃっ!?」

 

「何でも、味方側のセリフの取り合いだとか、活躍の場がいつの間にか消え去ったりする可能性が高いの何のでヤバいそうだ。今現在、出しやすいキャラを選定中だ。・・・後コレ、作者が出す予定だったキャラとかも無理そうなら断念かもよ?」

 

ネプテューヌの驚愕した声も届かないかのように、無情にもラグナから追撃の知らせが飛んできた。その話を聞いて皆が青筋を立てて、冷や汗を浮かべる。

 

「一体・・・何があったんですか?」

 

「作者がつい先日体調を崩したそうでな・・・何でも、無理のし過ぎは良くないと判断したそうだ」

 

「ええっ!?現に毎週日曜日投稿守ってますよねっ!?」

 

ユニの問いにはハクメンが答え、それを訊いたユニが驚いて今回の投稿日時を再確認する。

作者もカンペを出し、『こうなるとは思わなかった・・・』と情けない表情になっていた。

 

「それはそれ・・・これはこれなのかな?でも完結しないのは一番問題だからそこ気を付けないとね・・・」

 

「はい・・・無事に完結して欲しいですね」

 

作者自身モチベーションは十分にあるので、躓かないように気を付けたいと言っているそうだ。

本当にダメな状況にならなければ、今のところ大丈夫であろう。

 

「・・・よし。これで言うこと全部終わったかな?この『ネプらじ』、最初に言った通り章の終わりごとにまたやりますっ!なのでそのときまた、会いましょうっ!

お送りしたのはネプテューヌとっ!」

 

「ネプギアと!」

 

「ラグナ=ザ=ブラッドエッジとッ!」

 

「ノエル=ヴァーミリオンと!」

 

「ハクメンと」

 

「ユニでしたっ!」

 

六人で『また次回~』と言いながら手を振る姿がフェードアウトしていく形で、この番組は終了を告げる。

 

「ラグナ~・・・さっきのシーンを話して貰うぞ~っ!」

 

「あ、アレは事故だ事故ッ!」

 

その最中、ネプテューヌがラグナに突っかかり、ラグナが必死に弁明するのは今回の事故っぽいが機材等に被害がない為、大目に見られた。




と言うことで、次回から本格的に次章に入りたいと思います。
NGシーンこんな感じで良かったでしょうか?5話の方は次章の時に纏めてやりたいなと思います。

ちなみに体調を崩したのは本当です・・・。今は大分マシになって来ましたが、3日間程下痢に襲われていました。中々辛いです。

また、この章が終わってこの先確認したのですが、本当に新しくキャラを追加できるスペースが殆ど残っていないと言うのが分かり、こう言う形を取らせていただきました。
私の力不足で申し訳ありません・・・。

勇者ネプテューヌ(仮)のPVを見たのですが、『イッ●Qネタ使うんかいっ(笑)!』となりました(笑)。2Dゲームっぽいんで「これどうなるんだろうな?」って感じはありますが、今後どうなるか楽しみでもあります。

次章の最初は恐らく、オリ回から始まると思います。

長くなってしまいましたが、次の章でもよろしくお願いします。


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変わりゆく情勢、蒼が示す真実
34話 少女を探して


今回から新章の始まりです。


ゲイムギョウ界のどこか、暗闇に覆われた所に一つの白い棺が置かれてあった。

その棺が何故置かれてあるのかは誰にも分からず、中に誰がいるのかも、誰も知らない。

そんな状況下で、少女は一人その棺の中にいた。

 

―『兄さま』・・・早く私に会いに来て。『兄さま』・・・。

 

綺麗な金髪の髪を持った少女は、閉ざされた棺の中で、両手を組んで腹の前に置いたまま、目を開けること無くとある人物を待っていた。

自身が『兄』と呼ぶ存在を信じてただ、祈る様にいつまでも・・・。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ん?」

 

プラネテューヌの草原地帯でクエストをこなし、残りは報告だけになった途端誰かに呼ばれた気がしてそっちに振り向いて見たが、振り向いた先に見えるのは晴れ渡る青空と先に続いている草原だった。

何も無いと思いたいところだが、ネプギアが『あいつ』と代わって俺を呼んだわけではないし、誰に呼ばれた訳でも無いのに何もない方を見たのは何でだ?

 

「(変だな・・・今日は何ともねえと思ったんだけどな・・・)」

 

「ラグナ・・・?どうかしたの?」

 

「いや・・・誰かに呼ばれた気がしてな」

 

アイエフに声をかけられて俺は一時的に思考を中断する。

今回、午後にアイエフが調査で行こうとしていた場所に同行する代わりに、クエストの協力を受け入れて貰えた。

 

「・・・呼ばれた?変ね。だって、ここには私たちしかいないでしょ?」

 

「それもそうなんだけど・・・なんでかな・・・」

 

アイエフと俺は腕を組んで考え込む。どういう訳か、俺らは立って物事を考える時、たまに動作が一致することがある。

それが以前ギルドで一度起きた時に、周りの奴から「仲良しかよ」と弄られた経験がある為、そうならないよう気を付けたい。

問題としては、『あいつ』に呼ばれた気がするのだが、明らかにネプギアが今いないであろう方向で、しかもこの場には俺とアイエフしかいなかった。

 

「ダメね・・・全く答えが出ないわ」

 

「・・・俺もだ。・・・ったく、何が何やら」

 

お互いに答えが解らなかった為、何故そっちを振り向いたかは、考えても出てこないだろうから一旦置いておくことにする。

置いておくったって必ずしも何もしないわけじゃない。報告が終わった後はいつも通り『あいつ』の事を探しに行くので、ついでに気になった方も行けばいい。

 

「・・・しょうがねえ、一旦戻るか。後であっちに行って戻る時に行けばいいよ」

 

「それもそっか。じゃあそうしましょうか」

 

そう決めた俺たちは一旦報告に向かうべく、プラネテューヌのギルドへと足を運ぶことにした。今回は足場が悪くなる場所に行く予定が予めできているから二人共歩きだ。

ちなみに、こないだレンタルしていたバイクは延長費用が二日分かかっちまって、かなりの額となった。早いところ自分用のバイクを買ってしまいたいところだ。

 

「そういや、最近ドライブの方はどうだ?」

 

「大分良くなって来たわ。ただ、もうちょっと安定感の無さをどうにかしたいわね・・・。ほら、ラグナたちって威力も精度もどっちもあるけど・・・私の場合どっちかを取ったらどっちかを捨てる。或いは両方を中途半端に取るしかできないから・・・」

 

「まあ、使えるようになってから殆ど時間が経ってねえんだ。そこら辺は頑張って経験積んだりしていくしかねえよ」

 

アイエフのドライブは今、どちらかだけを取った状態なら、その取った部分が俺たちに追随できるまでになっているが、それではテルミたち相手にどうしようもない為、合間を縫っては練習を重ねていた。

ナオトも俺も、アイエフと同じで突発的にドライブを得た者だが、長い時間修行して実戦レベルに引き上げた俺と、ラケルの補佐ありとは言え碌に練習する間もないまま実戦でやっていくしかないナオトでは、また伸びが違ったりもする。

俺は威力自体は元々十分だったが精度は極めて酷い。ナオトは比較的安定していたが、体に結構なリスクがある等バラバラだ。もしかしたらナオトは『ソウルイーター』じゃない分、制御自体が楽な方なドライブなのかもしれない。俺のが極めつけに大変なのかもしれないが。

 

「それならラグナ、余裕ができたらまた手伝ってもらってもいいかしら?私の練習に」

 

「色々世話になってるからな・・・。俺で良けりゃ手伝わせてくれ」

 

「・・・頼もしいわね。じゃあその時はよろしくね」

 

人目の無い所にいる間、ドライブのことで話し合いながら俺たちは歩いていた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

毎度の如くギルドまで辿り着き、報告するため受付の方に移動する。

ここの移動にも随分と手慣れたもんで、ゲイムギョウ界に来てすぐだった頃は時々確認することがあったが、今は何も確認すること無しに移動することは余裕だった。

たまに俺がここに来たのを見た瞬間、俺のことで話している人たちも見かけるが、内容は大体「あいつ今日何倒したんだ?」とか「最近どれくらいのペースで受けてるっけ?」くらいだから大して気にする必要は無かった。

ちなみに今日倒して来たのは、またエンシェントドラゴンだった。『あいつ』を探すのを協力してもらい始めてからは暫く倒していなかったんだが、今日久々に倒した。

ペースとしては日に1~3だろうか?遠くの場所に行ったりするので、これ以上受けると終わる頃に日が沈んだりしている可能性が跳ね上がるから、余程のことがない限りは受けないようにしている。

アイエフと来ても全くその手に話が行かないのは、最初来た時に明らかただの友人と言う空気だったからなのと、俺がそう言ったことに疎いのがある。

 

「終わったぞ」

 

「はい。報告承りました。今日も早かったですね」

 

「色々と予定がゴタついちまってな・・・」

 

今回の受付の人は始めて俺がギルドに来た時と同じ人だった。あれ以来そこそこな頻度で顔を合わせるので、いつの間にか軽く話すくらいの仲にはなっていた。

ゴタついているとは言うが、実際は『あいつ』関係を知られないようにそれと無く理由を作ってるだけだ。今まで世話になってる分、その辺は申し訳ねえと思う。

また、この人はギルドの役員の人たちの中で唯一、俺が気軽に話しかけられる人なので、知らないとこの道先を訊いたりも比較的楽にできる。

ちなみにアイエフは俺がこの人と時々話す位の仲になっているのをつい最近知った為、俺が今日軽く話そうと思って話し込んでも特に驚きはしない。

 

 

「ああそうだ。ちょっと頼みたいんだが、この場所って何があるか調べられるか?」

 

俺は地図を広げてその場所を指さす。

その場所はプラネテューヌ、ラステイション、ルウィーの三ヵ国から見て丁度同距離くらいにある場所だった。

そんな場所を頼んだのも、俺が先程誰かに呼ばれた気がして向いた方向が大体そっち側だったからだ。

 

「ここですか・・・分かりました。少々、お時間頂きますが、よろしいですか?」

 

「どうする?俺は問題無いが・・・」

 

「私も大丈夫。事前情報が貰えるならそれに越したことはないわ」

 

余りにもかかり過ぎてしまうなら断ってそのまま進んでいくことにしたのだが、今回は幸いそんなことは無かった為、アイエフと相談することにした。

アイエフが賛成してくれたので、俺たちは改めて頼み込むことが決定する。

 

「それなら頼むよ」

 

「分かりました。それでは失礼します」

 

一度礼をしてから受付の人はこの場を離れて行く。

何やら奥の方でカチャカチャ音が鳴っているので、パソコンで捜査しているのだろうか?その辺は詳しく無いから分かったもんじゃない。

そしてここで、いつの間にか少しの間暇な時間ができてしまったことに、俺たちは気が付いた。

 

「そう言えば、今回私が調べに行こうとした所と、ラグナが気になった場所って偶然にも一致していたのよ」

 

「えっ?そうなのか?」

 

何から話すかと考えていたら、アイエフの方から話を振ってきてくれて、偶然の一致に俺は驚く。

調査自体には俺が協力を打診したから別段何も問題は無いのだが、この一致は何かの因果みたいなものを感じずにはいられない。

 

「そうみたい・・・。で、その場所なんだけど、調査する理由はこの場所だけここ数年誰も踏み入れなかったから。あのネプ子ですら一度も踏み入れて無いの」

 

「そんな未知の場所なのか・・・何か寄せ付けないものでもあんのか?」

 

あのネプテューヌですら踏み入れて無いと言うのが少しだけ不安を煽った。

俺にとってまだまだ未知の場所が多いゲイムギョウ界だが、誰も踏み入れて無い場所と言うのは無条件に好奇心だけを先立たせられなくなる。

ちなみにニューも精錬されている事は統制機構の一部の奴しか知らなかったようで、ノエルも始めてニューを見た時大きく動揺していた。

だからこそ俺は少し考えてみるのだが、如何せん事前情報が少なすぎてどうにもならないでいた。

 

「これはちょっとした憶測なんだけどよ・・・どっか、表向きじゃ公表できねえような組織が根城にしてるとかってあるか?」

 

「・・・えっ?ネプ子でもあるまいし、どうしてそんな考えに至ったの・・・?そんな組織いないと思うわ・・・だって、そんな組織がいたら私たち諜報部の誰かが調べに行くだろうし・・・」

 

「そっか・・・それもそうだよな」

 

せっかくだから思いついた事をアイエフに訊いてみたのだが、若干引かれ気味に否定されてしまった。

・・・嘘だろ?その『・・・えっ?』って言いたいの俺の方なんだけど・・・。経験から基づいた考えをあっさり否定されたんだぜ?

しかしまあ、和平が結ばれた以上、そんな考えを持つ人たちが少なくなる可能性が大きいのは否定できず、アイエフの職もあって納得するしかなかった。

 

「(なら、誰が呼んだんだ?・・・『あいつ』なのか?)」

 

現状、考えられる相手はそれしかいない。今回の場合は『呼ばれた』では無く、『呼ばれた気がする』と言う憶測にしか過ぎないのが問題だった。

だからこそ、偶然にもアイエフの調査場所と重なった今回はその原因を解明するチャンスなのだが、ただ危険なだけで何もなかったという時が一番問題だ。

そうなるとお互いに無駄足だからただ最悪なだけだ。・・・こんなことを考えるようになったのも、周りに気を許せる人が増えたからなんだと思う。

言い返せば、俺は誰かを失うことへの恐怖感が日に日に増しているとも言える。と言っても、こんな考え方をするよりも、大切なものが増えたと前向きに捉えた方があいつらの為なんだとは思う。

そう結論をつけることのできた俺は、一度その考えを隅に置いておくことにした。

 

「・・・もしもし?ええ・・・分かった。それじゃあまたそこで合流しましょう」

 

俺が考え事を終えると、何やらアイエフは電話をしていた。

その電話時間は極めて短いもので、ものの十秒もかからず終了していた。

 

「何かあったのか?」

 

「今日の事なんだけどね・・・ネプ子たちも予想より早くやることが終わったから手伝ってくれるみたいなの」

 

「本当か?そりゃ助かるな・・・」

 

どうやら、今日の調査は別行動をしていたネプテューヌたちも手伝ってくれるようだ。

ネプテューヌたちは今日の午前中、教会の方で溜まっていた書類の整理をしていたそうだ。ナオトもこれならできると手伝っていた為、午後はあいつらとも合流できることになった。

 

「今日は六人でいけるのね・・・少し楽になるのか、それともといったところね・・・」

 

「地図だけ見た感じ狭そうだから、手分けした方がいいのかもな・・・ぎゅうぎゅう詰めで動きにくいってのも嫌だろ」

 

俺たちは少しだけどうするかを考え込む。

未知の場所であるから人数が多ければ迅速に調査が進んだり、身の危険に誰かが気付き易くなったりという利点があるのに対し、狭かった場合はその人数のせいで動きづらくなったり、そもそも危険な場所に踏み入ってしまう可能性があがってしまうこともある。

それだけ何が起こるか解らないものである。それでこそ俺が始めて師匠についていって『窯』を破壊した時みてえな形になる危険性がある。

その状況になってモンスターの襲撃だの、元々仕掛けられていた罠が起動したりしたら大変だ。それに関しては、俺やアイエフのように場慣れしている奴らが最大限気を付ける必要があるだろう。

 

「とは言っても・・・何も情報が無いんだし、現地で決めればいいんじゃないかしら?」

 

「・・・まあ、それもそうか」

 

事実、こんな何もないところで考えても仕方ないんだし、今回はその場で決めればいいんだろうな。

俺たちが話し込んでいるとカチャカチャ聞こえていた音が止まり、代わりに受付の人が戻って来た。

 

「お待たせしました。調べた結果がこちらになります」

 

受付の人が調べた結果を、持ってきていた小型端末で表示してくれた。

上から見た感じの図なのだろうか?映された部分はわかるからいいのだが、問題点があった。

 

「途中まではわかるけど・・・その先が隠されてるみたいになってる・・・。ここから先は映らなかったの?」

 

「申し訳ありません。何度も確認したのですが・・・」

 

「なるほど・・・それはしょうがないわね」

 

問題点は途中からの地図情報が空っぽも同然なことだった。

現状、頭一つ抜けた技術を持つプラネテューヌでも解析ができなかったとなると、最早打つ手なしに近い。

以前『お寺ビュー』の話を聞いてはいたが、アレは現在、ゴタつきもあるせいで公表が先延ばしになってしまい、現在は運用ができない。

その為現状はプラネテューヌの解析が最も正確なのだが、今回はご覧の有様だった。

 

「そういや、詳しい立体のやつってどうだったんだ?」

 

「そちらの方は・・・」

 

俺が訊いて見ると、受付の人は端末の画面を切り替えてそれを見せてくれた。

その画面を見て俺たちは思わず息を吞んだ。

 

「どういう訳かわからないのですが、全てがノイズになってしまうんです・・・」

 

「・・・マジかよ」

 

流石にこう言うしか無かった。全部ノイズって何事だよ・・・。俺とアイエフはその画面を見て少しの間啞然していた。

しかし、流石にそのまま居続けるのもよくないので、早い段階で気を取り直したアイエフが表示できた部分の地図だけもらった事で、俺たちはこの場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

ラグナがギルドの方で報告と話し込みをしている最中、レリウスもまた独自に調査を行っていた。

とは言え、前回の戦いでテルミとマジェコンヌが重傷を負っており、その傷も治ってない以上外には行かず、中での調査に留めていた。

場所は以前と同じくラステイションから少し離れた場所にある廃工場で、レリウスはモニターとコンソールを使いながら、何の因果かラグナと同じ場所を調査していた。

 

「この場所だけ異様なまでのノイズか・・・直接調べるのはまたの機会となるが、興味深いのは確かだ」

 

レリウスの調査結果はアイエフたちと同じで、上面図は取れるのだが途中で霞がかったように消えていて、詳しく調べようとすれば画面がノイズで埋まってしまう。

通常では全く考えられない事態に、レリウスの知識欲が刺激されないはずが無かった。

 

「モンスターの調査にも飽きていた頃なのでな・・・あの二人が治ったら手伝ってもらうことにしよう」

 

現在は二人の手当てが優先である為、レリウスはその知識欲を抑え、ワレチューと共に交代制で二人の近くで待機する者と、外に出て簡単な用事を済ませる者の二手に分けてローテーションしていた。

レリウスが中で調べ物をしているのは、自身の用事を済ませようとすれば長くなりすぎる危険があるのと、今現在はワレチューが外にいる為、中を担当しているからである。

 

「そろそろあの二人の様子を確認するべきか・・・」

 

「レリウス、戻って来たっちゅよ」

 

レリウスが二人の状況を確認する為に部屋を移動しようとしたところ、丁度のタイミングでワレチューが帰ってきた。

 

「頼まれてきた物を持ってきたっちゅよ。・・・これくらいであってたっちゅか?」

 

「ああ。丁度いい量だ・・・。わざわざ済まないな」

 

レリウスはゲイムギョウ界で作れる薬に必要な材料の調達をワレチューに頼んでいた。

その薬自体はゲイムギョウ界で作れる薬の調合法をそのまま使う為、元の世界での応用は不可能だった。

本来であれば医療などに関しては専門外であるレリウスだが、マジェコンヌとテルミは動けず、ワレチューは体格の都合上調合するのに難儀してしまう為、消去法でレリウス以外適任者がいなかった。

 

「これくらいお安い御用っちゅよ。とりあえず調合ができたら言って欲しいっちゅ」

 

「了解した。では終わり次第通信を入れよう」

 

「了解っちゅ。そう言えば、終わった後はどうするっちゅか?」

 

「少々気になる場所があるのでな・・・様子見だけしてこようと思う」

 

周囲を調べることだけなら転移魔法で移動して、すぐに戻って来ればいいのでそれだけはできる。

今回問題なのは、余りにも不確定すぎる内部情報のせいで本格的な調査に乗り込めないことだった。

当面は抑えるつもりでいたのだが、そこの情報が気になって仕方ないレリウスは妥協案で下調べだけに留める事を選んだ。

 

「なるほど・・・じゃあ、おいらは仮眠取ってからオバハンたちのところに行くっちゅよ」

 

「分かった。ならば、出来上がった時はお前の部屋から連絡を入れよう」

 

「助かるっちゅ。じゃあ、また後でっちゅ」

 

ネズミも動きっぱなしだったのが影響でかなりの眠気が襲って来ていた。

その為一度仮眠を取らないと、薬を渡す時に事故を起こす可能性が出てきたので、万全な状態にしておきたかった。

そんなこともあって、最低限の会話を終えたワレチューは早めに部屋を後にするのだった。

 

「(あの場所には何があるか・・・治療が終わり次第、手伝って貰うとしようか)」

 

二人に協力をこじつける事を考えたレリウスは、知識欲に突き動かされるまま薬の調合を急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ここだな・・・」

 

「まさかこんなところに洞窟があっただなんて・・・思いもしなかったわね」

 

ラグナとアイエフは他の四人より一足先に、目的の場所の入り口に着いていた。

アイエフが言及した通り、入り口は洞窟のようになっており、その先は真っ暗で何も見えなかった。

また、ここに来るまでの間、この場所の情報を再検索してみたのだが、何も引っ掛からず、地図情報を得ようとすれば先程ギルドで見せて貰った時と同じ反応を示す・・・つまりは入って見ないと解らないのであった。

 

「しかしまあ・・・調査だとしても、何もないってなると少し不安にはなるな・・・」

 

「そうね・・・今回のやることは冒険だとか、探検だとかって言い方は合わないものね・・・おまけに明らかおかしい地図情報。そりゃ、不安の一つや二つ抱えちゃうわよ」

 

ラグナがやっていたことと言えば、ある程度の情報がある場所へ突入が合っているだろう。少なくとも『窯』を破壊する時はそうであった。

調査というのは実際に現地に赴いて調べるというもので合っているが、こうまで異常な情報だけが揃うといつものように行かない可能性が高く、いつも以上に慎重にいかなければならないと意識させられてしまう。

その為、二人はここへ来るまでの間、共に今回の調査にあたってのプランを考えあっていた。元々頭を回すのが得意ではないラグナでも、ここまで異常な事態が揃っている以上、経験に基づいてプランを立てていくしか無かった。

 

「後は行ってからどうなるかね・・・」

 

「おおーいっ!こっちも着いたよーっ!」

 

誰かが体調を崩したりしたら即時撤退、別れ道は危険度が高すぎた場合は全員で行くようにする・・・決めなければならないことを先に決めておいた為、後はネプテューヌたちを待つしかない。

そう考えていたら都合よくネプテューヌの声が聞こえ、そちら振り向いて見るとネプテューヌ、ネプギア、ナオト、ラケルの四人に、奇跡的に今日は予定が空いていたコンパも来ていた。

 

「待ちましたですか?」

 

「いいえ、特に待ってないわ」

 

待ったかと訊かれれば待ってないと返す。そんなやり取りを見て、ラグナはいつか自分もやってみたいと思うのだった。

然程待っていないのも確かであり、その間に今回の調査をどうするかを考えていたので、二人は待っていたと言うよりも、現地で互いに考えていたという感覚だった。

 

「ここが今日調べる場所なのか?何にも見えねえけど・・・」

 

「ああ・・・その事なんだけど、今回の調査で些か不確定要素が多すぎるから、ここで話しちゃうわね」

 

ナオトの言葉に反応したアイエフは自身の持つ形態端末に移して貰った地図情報を表示し、それを皆に見せる。

 

「まず、こっちに来る前に地図情報を貰ったんだけど・・・一番良かった情報がコレ。途中から何も判らない状態になってるの」

 

「えぇー?噓だぁ・・・。その情報どこで貰ったの?」

 

「プラネテューヌのギルドで貰ったわ・・・。あそこでもこれしか貰えなかったの」

 

その情報を見たネプテューヌは怪しすぎる余り訊いて見たが、よりにもよってプラネテューヌの技術でもこれだと分かった瞬間、彼女は絶句する。

ギルドの場面でも述べたことではあるが、プラネテューヌの技術力は他の国より優れているので、彼女は少なくともそのことを自負できる点だと思っている。

しかし、そのプラネテューヌの技術を持ってしてもその結果だと言うことが、彼女にとっては何よりも衝撃的だった。

 

「えっと・・・他には何かあるのか?」

 

「詳しい情報も貰おうとしたんだけど・・・」

 

ナオトに訊かれたアイエフは、苦い顔になりながら端末を操作し、表示された画面を見せる。

 

「な・・・んだ・・・?これ・・・」

 

「信じられないでしょ?まさかのコレだったのよ・・・」

 

「ね・・・ねぷねぷっ!?大丈夫ですか!?」

 

「う・・・噓だ・・・全部ノイズだなんて何かの間違いだよ・・・」

 

余りにも衝撃的な事態にナオトは目を点にした。これについては、アイエフも無理はないなと受け止めていた。

ただし、一人だけ大問題だったのはネプテューヌで、魂が抜けかけてしまっていた。

その為、コンパが呼び掛けたり体を揺すったりしてみるのだが、ネプテューヌは上の空のような反応しかしなかった。

 

《でも、何かあるだけまだいい方ね》

 

「だな・・・何も無かったら本当にキツイからな・・・」

 

何もないよりはある方が圧倒的に良い。ラグナとラケル、この二人は好意的に受け止めた。

特にラグナの場合、情報収集等が全て自力だったものから、他人に頼ってもいい環境に代わっている為尚更だった。

 

「・・・・・・」

 

「・・・ん?ネプギア、どうしたの?」

 

「・・・へ?ああ、ごめんねお姉ちゃん。あの中がずっと気になってて・・・」

 

ネプギアは先程から話に一切参加していなかった。それもネプテューヌに言われてようやくの参加である。

機械好きである彼女が端末情報の異常に一切首を出さないのはおかしいと感じ、皆で考え込む。

 

「もしかしてだけど、こないだ言っていた子かしら・・・?」

 

《ネプギアの反応からしてその可能性は高いと見て良いわね・・・。そうなると、情報の異常は何らかの意思が働いていると思うわ》

 

やはり推測として立てやすいのは『少女』のことだった。以前から起きていたネプギアの変化からして、この推測は有力になりやすいものがあった。

 

「・・・取りあえず進んで見るか?ダメそうなら早めに引き揚げりゃいいだろ」

 

「そうね・・・一先ずはそれで行きましょうか」

 

推測を立て続けても終わらなそうなので、一同は洞窟の中に入って調査することを決めた。

 

「(なんだろう・・・来て欲しいけど、呼んじゃいけないような・・・妙な感じ・・・)」

 

その洞窟に入っていく最中、ネプギアは今までにない程奇妙なものを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「出来上がったぞ。後はこれを渡してやってくれ」

 

「了解っちゅ。じゃあ、また三時間後っちゅね」

 

「ああ。それでは私は行かせてもらう」

 

ワレチューに薬を渡したレリウスは、転移魔法を使ってこの場から離れ、それを見送ったワレチューはマジェコンヌたちのいる部屋へと足を運んだ。

 

「うう・・・こういう時に脚立必須なのは面倒っちゅね・・・」

 

マジェコンヌたちが休んでいる部屋は唯一パスワードを設定している為、コンソールを打って開けなければならないのだが、ワレチューはその体格の小ささが災いして、そのままでは届かなかった。

それもそのはず、成人男性が楽に操作できる位置に取り付けられてある場所に、マジェコンヌの下半身よりも低いワレチューが届くはずも無かったのである。

これの対策として、ワレチューはボタン一つで引き出しや収納のできる脚立を用意していた。

この脚立自体はプラネテューヌで販売されているものであり、ワレチューは普通に手に入れていた。表向きでの入手はブラックリストに登録されているせいで中々困難なのだが、プラネテューヌはセキュリティ関連が甘い為、比較的すんなりと入手できてしまったのだ。

コンソールを操作してドアのロックを解除して、ワレチューは脚立をしまってから部屋に入る。

 

「オバハンたち、薬持ってきたっちゅよ」

 

「ネズミか・・・レリウスはどうした?」

 

「今から調べ物らしいっちゅ。とは言っても、長くなるから下見だけに抑えるって言ってたっちゅよ」

 

「・・・マジか・・・そりゃ、後々こき使われるの確定だな・・・」

 

部屋に入れば上体を起こすのは全く苦にならないものの、もう少しの安静とその後リハビリが必要なマジェコンヌがレリウスのことを訊いてきた。

その質問にワレチューが答えると、テルミはげんなりした。

マジェコンヌの方はかなり良くなって来ているのだが、テルミはまだ十分に回復しきっておらず、まだ上体を起こすのが少々辛い状態だった。

 

「なんか妙な反応があったらしいっちゅ・・・。まあ、詳しい話はこれ飲みながらにするっちゅよ」

 

「ああ。そうさせてもらう」

 

取りあえず脚立で渡しやすい位置に移動してからワレチューは薬を差し出し、マジェコンヌがそれを受け取る。

薬自体は小さいビンに入れられている為、ワレチューはでも十分に運ぶことができる。

マジェコンヌはワレチューから薬の入ったビンを二つ受け取り、片方をテルミに渡す。

マジェコンヌは上体を起こしていた為そのまま薬を飲み、テルミは痛みに苛まれながらも上体を起こして薬を吞んだ。

 

「痛てえ・・・後どんくらいで治るもんなのかねえ・・・」

 

「今は待つしかあるまい・・・。生きているだけまだマシだよ」

 

愚痴をこぼすテルミに、マジェコンヌはこの前の事を思い出しながらなだめる。

マジェコンヌは前回、奇跡的に当たり所が良かった為に生きていた。

元々、アンチエナジーのおかげでそれなりに頑丈な体になっていたが、あの時はシェアエナジーの共鳴を成功させた候補生たちによる大打撃を受けていた為、死亡する可能性すら示唆された。

それを考えたら、生きていて体がしっかり治るのが解っているだけ運が良かった。そう思いながらマジェコンヌはいつものようにかなり苦味の強い薬を飲み終えた。

 

「ところで、妙な反応とは何だ?」

 

「何でも、調べた場所の地図情報やら何やらが正確に取れないから自分で確認してくると言ってたっちゅ」

 

「・・・正確に取れない?機材の故障か?」

 

ワレチューの答えを聞いたマジェコンヌはまず最初に機材のことを疑った。

その理由として、ここは廃工場である為、整備等は全て自分でやるしかないのだ。

この廃工場は、テルミと会う前にマジェコンヌが一度改修してから暫く経っている為、そろそろ替え時かもしれなかった。

 

「いや、あれを見た感じまだちゃんと動いてるっちゅ。おいらもそこまで詳しく見てないっちゅけど、何かの仕掛けがあるのは間違いないっちゅね」

 

マジェコンヌが考えた可能性をワレチューは否定し、その代わり自分の考えを出した。

余りにも酷い検索結果からすれば、特定の者にだけ見れるようにパスワードをかけているかと思えばそうではない為、調べた場所に仕掛けがあるという考えに辿り着いたのだ。

 

「仕掛けねぇ・・・そう言われると確かに気になるな・・・」

 

「フッ・・・そう言うからレリウスに付き合わされるのだろう?」

 

「・・・違いねえな」

 

テルミの呟きに反応したマジェコンヌがからかい気味に問いかけると、テルミは口元を緩めながら肯定した。

しかし、それで気が緩んでしまったのか、テルミは一つのことを失念してちょっとした失敗をする。

 

「うおぉッ!?あだだだだ・・・!」

 

「気になる場所を調べる為にも、安静にして体を治すっちゅよ」

 

まだ痛む体が一番痛みを感じやすい姿勢になってしまい、テルミは反射的に体を逸らした。

それをみたワレチューは咎め気味にテルミへ促すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

洞窟の中に入ったラグナたちは地図で表示されている別れ道まで辿り着いた。

ここまでモンスターなどの気配は一切ない為、現状は別れ道で別行動を始めても問題無いと判断を下していた。

 

「どう分ける?」

 

「そうね・・・取りあえず、私たちゲイムギョウ界組とそっちの異世界組で別れましょう。気が知れている方がやりやすいでしょ?」

 

ラグナが振った内容には、アイエフが簡単に決めて答えた。

アイエフからして、ゲイムギョウ界組は友人たちで集まり、異世界組は互いに似ているからどうすればいいか分かりやすいと言う考えだった。

 

「・・・まあ、それならいいか」

 

ナオトは、ラグナと自分たちはそこまで気が知れていると言っていいのかどうかで引っかかり、言おうとしたが面倒になるのも難なので言葉を飲み込むことにした。

世話になってる人に迷惑をかけると言うのは、どうも気が引けるのだ。

 

《私も問題無いわ。ラグナは?》

 

「ああ・・・俺も平気だ」

 

ラケルとラグナは即時に賛成したため、異世界組は全く問題無かった。

 

「ネプ子たちも大丈夫?」

 

「うんっ!大丈夫!」

 

「はいですぅ!」

 

「私も大丈夫ですっ!」

 

アイエフが確認すると、ゲイムギョウ界組の三人も賛成してくれたので、これで分担は決定した。

 

《何かあった時の連絡は術式通信で行いましょう》

 

「そうね。それじゃあ、また後で」

 

「ああ。アイエフさんたちも気を付けてな」

 

連絡手段を決めて、皆は二手に分かれて別れ道を進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・何もねえな」

 

「ああ。何もねえ」

 

《何もないまま一本道が続いている・・・地図情報も得られないから、進んでいるかどうかすら解らないわね・・・》

 

ラグナたちは歩いてから十分以上も何も無い一本道を進んでいた。

危険が無いから安全に進めるのはいいのだが、こうも何も無い時間が続いていると退屈の一つや二つはある。

ラケルもラケルで、何も無いから近くの情報を調べてみたのだが、まるで遮断されるように何も得られなかった。

ちなみに、洞窟自体は入った瞬間周囲の灯りが点灯してくれたおかげで暗さは特に無かった。

しかし、それ故に何も変化が起きないと言う事態が起きていた。問題が無いのに越したことはないが、やはり退屈なものではある。

 

「おいおい嘘だろ・・・?あんだけヤバいモンだったから警戒してたんだけどな・・・」

 

《拍子抜けね・・・このままでは無駄足になり兼ねないわね・・・》

 

「手伝うって言ったのは良いが・・・このままだと時間だけが過ぎていきそうだな・・・」

 

流石に何も起きない余り、ラグナたちはただ疲労が溜まってきた。

肉体的なものでは無いのだが、何もなさ過ぎて精神的な疲れが増えてきていた。

心なしか、歩くペースも落ち始めていた。

 

「どうすんだこれ・・・マジで何も無いぜ」

 

《気持ちはわかるけどしっかりなさい。歩く速度が落ちてるわよ》

 

「ラケルはいいよなぁ・・・。こういうことで疲労しないから」

 

「ああ・・・こういう時だけその状態がマジで羨ましいよ・・・」

 

ナオトの呟きに反応したラケルが咎めると、ナオトはラケルをジト目で睨みながら愚痴をこぼす。

ラグナも流石に応えていたらしく、彼も思わず呟いた。

 

「・・・ん?なんか広いとこに出たぞ?」

 

そのまま暫く歩いていると、別れ道が終わって広い場所に出た。

その先は再び別れ道になっている為、この段階で三人はここで待つことを選んだ。

 

「はぁ~・・・何で何も無いのぉ~?これじゃあ退屈だよぉ・・・」

 

「でも、広い所に出てきたですよ?」

 

ラグナたちが来た方の反対側からネプテューヌたちもきたようで、全員はここで合流する形となった。

 

「あ、三人はもう来てたのね?」

 

「ああ・・・何も無いからすんなりとな・・・」

 

「なるほど・・・そっちも何も無かったのね・・・」

 

ラグナから聞いた結果にアイエフもげんなりとした。

二つのグループ揃って何も無い以上、流石にここでメンバーを変えるしかない判断となった。

しかし、人数と戦力のバランスを考えると中々決まらなかった。その為、ラケルがいっそのことこれはどうだと思いついた組み合わせを話すことにした。

 

《それなら、前に上がった『彼女』と関わりが深い二人とそれ以外・・・と言うのはどうかしら?何か変化があるかもしれないわ》

 

「ああ・・・なるほど。確かにそれもありかもな。こっちは戦力が揃って、向こうは身軽になる」

 

ラケルの案にナオトは賛成だった。その組み合わせなら何か変化があるかもしれないと言う、ラケルの考えを理解していたからだ。

 

「確かに、迷っているくらいならそれがいいわね。みんなは?」

 

アイエフも賛成しながら残りの皆に訊いて見ると、首を横に振ること無くアイエフを見据えていた。

しかし、その表情が明るいものだった為、それが賛成であることをアイエフは把握した。

 

「ありがとう。それじゃあ二人共、また会いましょう」

 

「ネプギア、ラグナ。気を付けてね」

 

「ああ。そっちもな」

 

「お姉ちゃん。また後で会おうね」

 

組み合わせが決まったので、それぞれのグループに別れて二つ目の別れ道の調査を始めた。




前後半に分ける形だったのと、月曜日に入社式が控えていることから今回はちょっと短めになりました。
次回はこの話の続きとなります。

追記

ブレイブルー最新作にて発売前のプロモーションビデオが出ましたね。
ますます発売までが楽しみになって来ました!個人的にはエピソードモードが楽しみなところです


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35話 確かなる異常

今回で一度この話には一区切りです。
入社したばかりの疲労もあってかなり短くなってしまいました・・・。次からはもう少し長く書けるかと思います。


「・・・・・・ねえ、思ったんだけどさ・・・」

 

ラグナ達と別れて、暫く歩いていたネプテューヌはあることに気がついて声を出した。

 

「・・・また同じパターンになってないっ!?この何も無い道を歩くパターンさっきもあったよね!?」

 

前回と殆ど同じような状況。これはネプテューヌでなくとも声を荒げるには十分すぎる内容だった。

 

「そういやそうだな・・・何でこんなんなんだ?道間違えてねえもんな?」

 

「ええ。特に間違えたりはしていないわ。変ね・・・そんなに広い場所じゃないはずなんだけど・・・」

 

ナオトは道を間違えたかを考えるが、殆ど一本道と言っていいこの道で、流石に間違えたりはしていないだろうと信じた。

アイエフはナオトに間違えてないことを伝えながら考え事を始める。

何も無い一本道が別れ道も無しに暫く続くならまだしも、二回とも別れ道で、しかも同じような道が続くと言うことを不思議に感じない筈は無かった。

そんなこともあって、アイエフは考え事を始めていた。

周りの皆は全員が任せっきりかと言えばそうでもなく、妙に引っかかるものを感じたラケルや、自身にとっては異世界故に、嫌でも少しは慎重になるナオトは率先して考え込んでいた。

 

「なあラケル・・・これって罠か?」

 

《罠だとしても、誰かが仕組んだ罠と言うよりは・・・元々置かれてある罠の方でしょうね・・・。だとしても、何も無いのが気掛かりね》

 

ナオトが問いかけて見ると、ラケルの回答はまだ曖昧なものだった。どうやら不確定要素が残っているらしい。

―ラケルが考え込む不確定要素ってなんだろう?そう思いながらナオトも考え直してみた。

洞窟に複数の別れ道がある。これ自体は特に何も問題ないだろう。通れそうで通れない場所が複数あったりするのはザラである。

灯りが完全に等間隔で配置されている。これ自体も別段と問題にはならないだろう。灯りが配置されているのであれば、等間隔に用意して周囲の明るさを保つのは不思議なことでは無かった。

ただし、ここ暫く誰も踏み入れて無い場所で、ここまでしっかりと灯りが保っているのだろうか?流石にそのことは疑問に思った。

メンテナンスすら満足にできていないとすれば、少なくとも灯りの幾つかが不完全な状態になっていたり、つかない状態になっていてもおかしくはない。

しかし、この洞窟の明かりは全て正常に灯っていた。それも、まるで新しくできたばかりのようにだ。

しかも、壁などの方も、削られた跡などのようなものが全く持って無かった。

数年間誰も踏み入れて無いとは言え、以前この場に踏み入れたことのある人たちはいる筈の為、流石にそれはおかしいと感じた。経年劣化のようなものも見受けられないのが、ナオトがおかしいと感じたことに拍車をかけていた。

 

「・・・何がどうなってんだ?綺麗に整備されてますって言っても、これは流石に無理があるぞ・・・」

 

「確かに、ここまで綺麗だと変ですね・・・」

 

ナオトの呟きで、コンパも流石に疑問に思った。それくらいこの洞窟が綺麗すぎるのである。

同じような道や別れ道があるのは多少目を瞑ってもいいとして、それでも数年間踏み入れられて無いというのに、経年劣化や灯りの消耗が見受けられないのは幾ら普段疑いを持たない人でも疑問を持ってしまう。

 

「うあぁ・・・今の安全なのはいいけど、これじゃあただ歩いてるだけだよ・・・何か起こんないかな?」

 

「ね、ネプ子・・・そんなこと言ったらろくでもないことが・・・」

 

―ろくでもないことが起こるからやめなさいよ・・・。

アイエフがそう言いかけた途端に、突如として地面から何かが現れた。

しかし、それはモンスターと呼べる存在では無かった。人のような形をした蒼い何かと言った方が正しいだろう。

 

「な、何か出てきたですよっ!?」

 

「・・・まさか今のが引き金になったとか言わないでしょうね・・・?」

 

「そ、それは無いでしょ!?仮にそうだったら私のせいだよっ!?」

 

コンパが驚き、アイエフの疑問を聞いたネプテューヌが大慌てする。

その一方で、ナオトとラケルは周囲に現れた蒼い存在に何かを感じ取った。

 

「何だこれ・・・?『ムラクモ』とは違う・・・もっと別の何かか・・・?」

 

《恐らく、役回りとしては門番に近い・・・。けど、どうしてこれらから『蒼』の波動を感じるの・・・?》

 

「・・・ちょっと待て!?そりゃマジか!?」

 

周囲にいる蒼い存在は全て同じ姿形をしており、それらは『ムラクモユニット』を装着した姿だった。

そして、その中でも特に類似しているのはミュー・・・つまりは『クサナギ』を装着している時のノエルと酷似していた。

ラケルの最後の発言が見過ごせなかったナオトは驚愕の声を上げる。ラケルが言うのであれば、この蒼い存在は『蒼』に関係する何かかもしれないと、嫌でも意識せざるを得なくなる。

 

「な、なんかギアちゃん・・・いえ、ノエルちゃんに似てないですか?」

 

「コンパも?確かに信じられないくらいに似てるわね・・・」

 

何をされるかが解らない為、コンパもアイエフも少しずつ後ろに下がっていき、アイエフがコンパに問いかける時には二人の背中が軽くぶつかった。

一応は何もしてきていない為問題無いのだが、この後一斉に攻撃して来たりなどされたら一溜まりもない。

その為、彼女たちはいつでも戦えるように準備だけはしておいた。

その一方で、蒼い『ムラクモユニット』たちは何も構えず、ただその場に直立していた。

ただし、それは本当に何もしないという訳では無く、『お前たちが攻撃したら私たちも攻撃するからな』という妙な威圧感を出していた。

 

「何もしなければ大丈夫・・・?だとしたら変に変身はしない方が良さそうだね・・・」

 

ムラクモユニット(彼女)』たちの意図をなんとなくながらも読めたネプテューヌはそこから迂闊な行動は出ないように身構える程度に留める。

変身は臨戦態勢と取られる可能性が極めて高く、おいそれと行うわけにはいかない。

ナオトも同様で、ドライブを全開にするわけには行かなかった。理由はネプテューヌとほぼ同じで、臨戦態勢と取られてしまうからだ。

 

《(ラグナとネプギアがいた時はそれぞれが何事も無く合流していた・・・。その二人と別行動をしてこうなったのなら、この洞窟は現状あの二人以外先に進むことを許されないことになる・・・?)》

 

ムラクモユニット(彼女)』たちが動かないことを利用して物事を考えたラケルは、その辿り着いた結論に嫌なものを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

ネプテューヌたちが緊急事態に陥っている最中、レリウスは洞窟の入り口まで辿り着いた。

 

「さて、どうなっているものか・・・。・・・?」

 

レリウスは軽く覗いて見ようと思った瞬間、何かに気がついて近づくのをやめ、代わりにイグニスを呼んだ。

呼ばれたイグニスは、自身の左腕を洞窟の入り口に近づけて見るが、ある程度以上近づいたところで何かに触れ、その先に腕を伸ばせなくなった。

イグニスの手元を注視してみると、何やら結界が張り巡らされていた。

 

「此れは結界か・・・しかし、どうやら一時的なもののようだな。恐らくは『蒼の男』・・・いや、違うな。例の『少女』、或いは両方か・・・」

 

レリウスは何故結界が張られたのか、その原因に大方察しをつけ、イグニスを結界から離れさせる。

 

「今現在、私がこの結界を突破する方法を持ち合わせていない・・・。ならば仕方あるまい・・・テルミたちの状態も状態だ。今回はここまでとしよう」

 

レリウスは指を鳴らしてイグニスを空間に退去させ、入り口に背を向けた。

 

「次来る時は、全員に手伝って貰おう」

 

レリウスは一言呟いてから、転移魔法でラステイション付近の廃工場に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・?」

 

「ニュー、どうしたの?」

 

「あっち側・・・何か感じるの・・・」

 

ラステイションの中を歩いている際、何かを感じ取ったニューが足を止めてそっちを見やる。

少し遅れてニューが足を止めたことに気づき、ノエルが声をかけると、ニューは目を向けている方を指さす。

 

「教会で何かあったの?」

 

「ううん。もっと奥の方・・・ノエル姉は何も感じないの?」

 

「・・・私?うーん・・・。・・・えっ?」

 

ニューに問いかけられたノエルも意識を集中させて見ると、ニューと全く同じ方角で何かを感じ取る。

しかも、感じ取ったものの正体に気づいたノエルは更に驚きを見せる。

 

「これって・・・私?違う、この感じは・・・」

 

―ラグナさんたちが探している『少女』ってまさか・・・!?ノエルはその予想外のものに頭を悩ませるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「何も変わらねえな・・・無駄足だったか?」

 

「このままだとそうなっちゃいますね・・・」

 

ラグナたちは引き続き奥へと進んで行くがまだ何も変化が起こっていない。

このまま進んで何も無かった場合、殆ど意味のない調査になってしまう。

しかし、手伝うと言った以上途中で逃げ出すつもりはない為、行けるところまでは行こうと決めていた。

そして、ある程度先へ進んで行くと、また広い場所に辿り着いた。

今までと違い、もう片方から来れる道はあるものの、進む方は一本道であった。

 

「ん・・・?一本道だ・・・」

 

「進んで見ますか?」

 

「あいつら待ちたいところだけど、どうするか・・・」

 

ラグナは目の前の状況を見て悩む。その理由を決定づけるものとして、奥の道から感じるものがあった。

 

「(何でだ?何で・・・この奥から・・・)」

 

―『あいつ』そっくりな気配を感じるんだ?ラグナはその事態にただただ困惑した。

一方で、ネプギアはもう片方の道を少しだけ覗いて見る。

ネプテューヌたちの姿が見えない為、暫くかかるだろう。そう判断したネプギアはラグナに伝えるためそちらに向かおうとする。

 

―待って!『私』と代わってっ!

 

「・・・えっ?どうしたの?」

 

焦りの色が隠れてない声が頭の中に伝えられ、ネプギアは問いかける。

いきなりのことだったので、流石にネプギアも戸惑い気味だった。

 

―伝えなきゃいけない事があるの・・・。このままじゃ『お姉ちゃん』たちが危ないっ!

 

「・・・!お姉ちゃんたちが・・・!?」

 

『少女』から告げられる言葉に、ネプギアは驚きを隠せなかった。

しかし、それが嘘だと感じないのも、また事実だった。

 

―お願いっ!力を貸して!『兄さま』と一緒に行けば、まだ止められるから!

 

そこまで必死に頼みこまれたネプギアは一度考え込む。

姉たちが危ないのが本当で、ラグナと一緒にいくことで止められるならば、ここは代わった方がいいのだろう。ネプギアの考えはすぐに纏まった。

 

「・・・分かった。じゃあ、一旦任せるね」

 

―ありがとう。すぐに終わらせるから・・・。

 

ネプギアは目を閉じていつでも代われるように準備を済ませる。

そして、一瞬してから目を開けると、交代は完了し、『ネプギア』はラグナの元へ走った。

 

「兄さまっ!私と一緒に来て欲しいのっ!」

 

「来て欲しいって・・・一体何があったんだ?」

 

いきなりのことだったので、ラグナは思わず聞き返してしまった。

それもその筈である。ネプギアは戻ってくるや『少女』の方になっていて、一緒に来て欲しいと言われればこうもなるだろう。

 

「お願い・・・!『お姉ちゃん』たちを助けたいの!」

 

「・・・俺たちで行けば可能なのか?」

 

ラグナは『ネプギア』の頼みを無下にはせず、可能かどうかを問いかける。

そして、『ネプギア』が何の迷いも無く頷いたことで、ラグナは判断を下した。

 

「分かった。それなら案内頼むわ」

 

「ありがとう兄さま・・・。こっちだよっ!」

 

『ネプギア』に案内され、ラグナはそれを追いかける形でついていく。通っていく道はラグナたちが通っていない方の別れ道だ。

先程と違う点は、灯っている灯りの色が蒼に変わっていることだった。

 

「(・・・どういう事だ?何かの知らせる合図なのか?)」

 

走りながらそれに気が付いたラグナは推測を立てるが、その答えは持ち合わせない。

仮に『ネプギア』に訊こうにも、今は時間が足りないので、止めておいた方がいい。

そう判断を下したラグナは、今は考える事をやめ、走ることに専念する。

 

「(・・・!?何だアレ・・・?ノエル?いや、こいつは・・・)」

 

―まるでサヤが何人もいるみたいじゃねえか・・・。進んでいる内に、蒼い『ムラクモユニット』たちを見たラグナは思わずそう感じた。

前を向いたら『ネプギア』が分かっているかのように足を止めていたので、ラグナも慌てて足を止めた。

ラグナが周りを確認すると、『ムラクモユニット(彼女)』たちは自分たちに気がついてこちらに体を向けた。

 

「・・・!」

 

「大丈夫。私に任せて・・・」

 

「あ、ああ・・・」

 

慌てて武器を手に取ろうとしたラグナだが、『ネプギア』に止められ、呆気にとられながらもそれに従った。

 

「道を開けて!その先にいる人達に用があるの!」

 

一歩前に出て言い放った『ネプギア』の命に従うように、『ムラクモユニット(彼女)』たちは両端に一列ずつで並んだ。

その姿は、まるで主人の為に道を開けるかのようだった。それをみたラグナは呆然と立ち尽くした。

 

「(なんだ・・・?何が起こったんだ?)」

 

「兄さま、急ごう」

 

「わ・・・分かった」

 

立ち尽くしているラグナをよそに、『ネプギア』に促されたラグナは流されるままついていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「何も起きないね・・・?」

 

「今のところわね・・・」

 

ムラクモユニット(彼女)』たちに囲まれてから数分。今のところ何も動きが無かった。

しかし、依然として油断はできないために、ネプテューヌたちは周囲を警戒するしかなかった。

 

「この人たち動かないですね・・・。まるで誰かを待ってるみたいです・・・」

 

「誰かを待ってる・・・?」

 

《待って・・・誰かをって・・・まさか・・・》

 

コンパの一言を聞いた瞬間、ナオトは戸惑ったものの、ラケルは即座に察しを付けた。

そして、そのラケルが察しを付けた人は間もなくしてやってきたのか、『ムラクモユニット(彼女)』たちは道を開けるように横にずれる。

 

「道を開けた・・・?一体何が・・・。・・・!ネプギア!?」

 

「・・・・・・」

 

アイエフが戸惑って開いた方の道に目を回すと、そこにはネプギアと、遅れてこっちにラグナがやってきていた。

しかし、ネプギアの纏っている雰囲気はいつもと違い、ラグナの言っていた少女のものだった。

 

「この人たちは大丈夫!『私』を狙った人たちじゃなくて、私と兄さまの身内なの」

 

『・・・・・・』

 

『ネプギア』が事情を伝えると、『ムラクモユニット(彼女)』たちはそれを理解したのか、ネプテューヌたちに一度礼をしてから、霧散するように消えていった。

 

「消えた・・・?」

 

「良かった・・・間に合ったんだ・・・」

 

「お、おい・・・サヤ・・・!」

 

ナオトたちが戸惑っているのをよそに、『ネプギア』が力尽きるように倒れ込んだので、ラグナが慌ててその体を支える。

 

「ネプギア、大丈夫?」

 

「お姉ちゃん・・・うん。大丈夫・・・。心配かけてごめんね」

 

「無事なら良かったよ・・・」

 

声をかけてみると、いつものネプギアに戻って返事をしてくれたので、ネプテューヌは一安心した。

 

「ところで、さっきのは何だったの?」

 

「・・・・・・わかんない・・・。ただ、何かを護ってるみたいなの」

 

ネプテューヌの問いに、ネプギアは戸惑いながらも当たり障りない部分だけを答えた。

実際のところ、その先には進んでいない為、これでも言い訳はつくのだ。

正確に言えば、『少女』からまだ明かさないで欲しいとも言われていたので、こう答えるしか無かった。

 

「危害を加えなかったから大丈夫・・・ってことか・・・」

 

―何が起きるか分かったもんじゃねえな・・・。呆然としながらもナオトは一先ず無事だからいいと受け入れた。皆もまだ良く分からない以上、それで納得するしかなかった。

ただ一人、ラケルだけは違い、考えこんでいた。

 

《(さっきの『ムラクモユニット』のような存在たちから『蒼』の波動を感じた・・・この奥に何かがあったようね・・・。けれど、私たちがもう一度踏み入れられるかは解らない・・・)》

 

問題は先ほどの『ムラクモユニット』のような存在たちだった。

彼女たちに毎回顔を出されるのであれば、今後、自分たちは調査に来ない方がいいだろう。

一応、『ネプギア』が彼女たちに自分の身内であることを告げてくれたので、後は受け入れられるかどうかではある。

 

「取り合えず、この事はイストワール様に話しましょう。これ以上は危険そうだし、今日は引き揚げましょう」

 

「ああ・・・これ以上は何があるか分かったもんじゃねえからな・・・」

 

アイエフの提案にラグナは真っ先に同意する。

他の皆も同じ意見だった為、反論などは一切無くそのまま全員で帰ることとなった。

全員で帰る最中は周囲を注意深く警戒していたが、特に何も問題は起こらず、先ほどの蒼い『ムラクモユニット』も現れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「戻ったぞ」

 

ラグナたちが戻っている最中、レリウスはラステイションの廃工場に戻ってきていた。

マジェコンヌたちの状態が気になった為、彼は研究室には戻らず、二人がいる部屋へと足を運んだ。

 

「来たか・・・ネズミから話は聞いていたが、どうだったんだ?」

 

「どうやら先客がいたようでな・・・それも最重要な人物が入ったせいか、障壁が張られていて中には入れなかったよ」

 

マジェコンヌが問いかけて見ると、レリウスは淡々と、しかしながら残念そうに答える。

 

「オイオイ、レリウスでもダメってマジかよ・・・」

 

「今回は機を改める必要があるか・・・。しかし、貴様でダメだと言うのは余程のことだな・・・」

 

その回答にはテルミですら驚きを隠せなかった。

マジェコンヌも意外に思っており、その旨を口に出して伝えた。

 

「ふぅ・・・少しは休めたっちゅよ・・・。アレ?レリウス、戻って来てたっちゅか?」

 

「ああ。今さっきな」

 

ワレチューが途中で入って来てレリウスの存在に気付く。

仮眠を取っていたので、レリウスが戻って来たことを知らなかったようだ。

 

「しかし、私では強引に入る手段は持ち合わせていないのでな・・・お前たちの体が治り次第手伝ってもらうが、それでもいいか?」

 

「おおうマジかよ・・・治ったらすぐ人使い荒いのが始まんのかよ・・・」

 

レリウスに問いかけられて、テルミはげんなりとしながら愚痴をこぼす。

 

「まあだが・・・俺が体の感覚を取り戻す意味でも丁度いい・・・手伝うぜ」

 

「おいらも大丈夫っちゅよ。報酬はオバハンから貰えばいいっちゅから・・・」

 

「がめついな貴様は・・・。無論私も手伝うが、また女神どもを倒す時に手伝ってもらうぞ?そういう盟約なんだからな・・・」

 

「ああ・・・それで構わん」

 

テルミはすぐに笑みを見せながら承諾した。ワレチューは嫌なことを言いながら承諾し、それを聞いたマジェコンヌは一言呟きながら承諾し、ついでに問いかける。

レリウスは断ること無くそれを了承する。元々この四人は女神を倒す。依頼をこなす。ラグナを倒す。ゲイムギョウ界を研究する。この四つが合わさった同盟である為、何ら問題は無かった。

 

「んじゃあ話も決まったことだし、俺は寝るとしますかね・・・」

 

「ああ・・・私も寝るとしよう。もう少し体を休めんといかんのでな・・・」

 

「了解した。では、私たちはこの場で失礼しよう」

 

「じゃあ、おいらもお暇するっちゅ」

 

テルミとマジェコンヌが眠りに就くことを選んだので、レリウスとワレチューは一度部屋を後にした。

 

「さて、私は今日の成果を纏めるが・・・お前はどうする?」

 

「おいらももう少し寝ようかと思ったんちゅが、起きたばっかりだから寝れないっちゅよ・・・」

 

「そうか・・・」

 

レリウスはワレチューの回答を聞き、それは災難だと思っていたが、一つの事を思いついて表情が笑みに変わる事を自覚する。

 

「ならばネズミ、私が資料を纏めるのを手伝って貰おう。報酬はマジェコンヌに臨時を頼んでおくと良いだろう」

 

「ま、マジっちゅか・・・オバハンには悪いっちゅが、やらせてもらうっちゅかね・・・」

 

レリウスの提案に呆然としながらも、ワレチューは手伝うことを選びマジェコンヌに合掌する。

この後、ワレチューは徹夜でレリウスの作業を手伝わされ、それを見かねたマジェコンヌは普段より大目に給与を払ってやるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど・・・そのような事があったんですね・・・」

 

調査に行った面々はプラネタワーに戻ってイストワールに今回起きた事を話した。

実際のところ、イストワールも今回の洞窟の件では大きく驚かされていた。

大きな理由としては、モンスターでは無い『クサナギ』を装着した時のノエルに似た姿をしている者たちが、洞窟を守護しているような素振りを見せたことだ。

この事は例えどんな理由があったとしても、そこに何かがあると伝えるには十分すぎる結果となった。

 

「一本道になった所はあったんだがな・・・その先はどうなってんだか・・・」

 

「一本道かぁ・・・なんか、別れ道が終わるとそこがゴールだと示してるように感じるのは私だけかな?」

 

ラグナの呟きを拾い、ネプテューヌは皆に問いかけて見る。

 

「・・・なんだろう?分かるような、分からないような・・・」

 

《有り得ない訳ではないわね・・・》

 

「まさか・・・アニメやゲームじゃあるまいし、そんな簡単に行くとは思えないかな・・・」

 

「そうだったら、少しは楽になるですけどね・・・」

 

「うーん・・・そんな簡単には纏まらないよね・・・」

 

ナオトは曖昧な、ラケルは肯定、アイエフは冗談だと思いたい意を、コンパは願望に近い回答を示した。

ネプテューヌもそこへ進めて無いから何とも言えず、答えてくれた四人に水を差すような言い方はしなかった。

 

「でも・・・あの奥には何があったんだろう?」

 

ネプギアは途中で『少女』と変わってしまったので詳しくは理解し切れていなかった。

その為、結果的に何かを感じ取ったりする余裕があったのは、ラグナただ一人となってしまう。

 

「・・・なんでかよく解んねえけどさ・・・。俺はあの奥に『あいつ』の気配を感じたんだ・・・」

 

『・・・えっ!?』

 

ラグナの回答には全員が驚いた。余りにも衝撃的過ぎたのだ。

ただし、ラケルは例外的に違う答えを持っていた。

 

《私はあの洞窟から『蒼』の気配を感じたわ・・・。ラグナ、その『少女』と『蒼』の関連性は何か考えられるかしら?》

 

「・・・『蒼』だって!?いや、流石に感じきれなかったが・・・」

 

《そう・・・貴方も『蒼』を持つから、何らかのものを掴めていると思ったのだけれど・・・》

 

残念ながら、ラグナはラケルの期待には応えられなかった。

しかし、これが非常に難しい問いかけでもある為、ラケルもダメならダメで仕方ないと思ってはいた。

ラケルの意図が理解できるラグナは、実際そこまで引きずりはしなかった。

 

「そういやさ・・・『蒼』を持つもの同士が一緒にいるとどうなるんだ?その辺、全く知らねえんだけど・・・」

 

「俺とノエルを見た感じ、何とも無いと思うぞ?・・・多分、『蒼の眼』と『真なる蒼』っていう違いがあるからなんだろうけどな・・・」

 

ノエルの持つ『蒼』は『認識』が影響するものであり、ラグナの持つ『蒼』程強い影響力は持たない。

彼女の持つ『蒼』でもかなりの影響力を誇るが、元々『蒼』の欠片とも言える『蒼の魔導書』を持っていたラグナの近くにいても問題無かった為、基本的に何もないのだろう。それが、今までの経験から導いたラグナの結論だった。

 

「現状は奥に何かがあり、それが『蒼』か例の『少女』・・・或いは両方に繋がる可能性がある・・・。今回の調査を纏めるとこの結果で間違いありませんね?」

 

イストワールの問いかけに全員が頷く。

そろそろ頭が追い付かなくなって来るのか、ネプテューヌとコンパが頭を痛そうにしていた。今回の会議はこの辺りで限界だろう。

 

「それでは、今回の結果は私から他の国にも送りますので、今後は複数の組み合わせで調査をしてみましょう」

 

今回の調査の解析は各国に送られ、それぞれの解析班の人たちが気になったところをピックアップしてくれる。

リーンボックスには今回の件にはかなり詳しいナインがいる為、最も多数のピックアップが送られて来るだろう。

疲労が溜まっていた為、ラグナたちは素早く解散し、明日に備えて休息に入った。




一先ずこの話はここまでです。
前章のラストと比べ半分近くの文字数しかありませんので、もっと長い文が良い方は言って頂ければと思います。無論、こちらも努力はするつもりです。

次回はちょっとした息抜きに近いオリ回をと、一度アニメ5話の終わってない部分をやっていこうと思います。


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36話 一時の休息

今回でアニメ5話の部分がようやく終了します。


今日もクエストを受けに行こうと思ったラグナの元に、ネプテューヌから意外な知らせが届けられた。

 

「・・・先行プレイテストの招待?」

 

「うんっ!各国が力を合わせて作った初のゲームなんだけど、女神とその側近の人たちだけで先行プレイできるんだって!」

 

「へえ・・・それって凄いのか?」

 

ネプテューヌが言うに、どうやら新作のアーケードゲームを自分たちだけが先行して遊べるようで、それで大喜びしていた。

そう言われるのは構わないのだが、こう言ったことに疎いラグナは今一凄いのかどうかが分からず、率直に訊いて見た。

 

「そりゃ凄いに決まってるでしょぉっ!?だってロケテストよりも前なんだよ!?私たちだけで時間の許す限り遊びたい放題なんだよっ!?こんなおいしい話他にないって!」

 

「お、おう・・・何だか悪かったな・・・」

 

ネプテューヌが余りにもダメ出しをしてくるので、ラグナは思わず身を引いてしまった。

まさかネプテューヌがここまで言って来るとは思わなかった。この喜び方を見たラグナは、自分もゲームしたりしてその楽しさを学ぼうと考えるのだった。

 

「しっかしゲームか・・・結構久しぶりにやる気がすんなぁ・・・」

 

《ナオト、福田に借りていた『教材』とやらはどうなの?》

 

「うおぉぉいっ!?何でお前がそれ知ってんだ!?つか、アレは今関係ねえだろうがぁぁぁッ!」

 

実のところ、ラグナ以外は全員が朝一でその話を聞いており、ナオトはゲームをやれる時間を懐かしそうに言う。

しかし、ラケルが痛いところをついてきたのか、ナオトは絶叫気味にラケルへ反論する。

―シンノスケの野郎、なんてことしてくれやがったんだ!?ナオトは頭の中が混乱しそうになった。

 

《落ち着きなさい。私はハルカからその話を聞いたの。それでその後福田から・・・》

 

「どっちにしろ対して変わんねえじゃねえかッ!つうかハルカは何言ってんだぁっ!?」

 

どんな経路であるにしろ、シンノスケから借りたゲームがラケルに知られていることにナオトは焦りを隠せず、更に声を荒げる。

ラケルに知られたと言う事態が中々に絶望的なものであり、またこれをネタに『下僕』扱いされるのかと考えたら、ナオトはかなり憂鬱な気分にさせられた。

 

「えぇ・・・?ナオト。アンタって・・・」

 

「お・・・俺から借りてる訳じゃねえからなっ!?あっちが無理矢理押しつけてきてんだよッ!」

 

「その慌てぶりがますます怪しいわね・・・」

 

「ち、ちょっと待て!?んなこと言ったら絶対俺から進んで借りた風になるじゃねえかッ!」

 

アイエフが蔑むような目で見てきたので慌てて弁解をしようとするも、それは罠だった。

ナオトの様子を見たアイエフがニヤリとしながら問い詰めて来るので、ナオトは狼狽するのだった。

 

「ナオトさん・・・もしかして、『ギャルゲー男』とか言われないですか?」

 

「・・・っ!?」

 

コンパからのまさかの問いかけにナオトは引きつった顔になる。

―・・・待て待て待て。何でこいつらこの渾名知ってんの!?ナオトはただただ狼狽し、混乱するのだった。

 

「あの・・・コンパさん。見た感じ、図星だったんじゃ・・・」

 

「・・・えっ?ホントですか?」

 

「アレ適当に言ったのかよッ!?」

 

ナオトの様子に気が付いたネプギアがコンパに告げると案の定だったようで、それを知ったナオトが絶叫する。

 

「・・・『ギャルゲー男』?なんだそりゃ?」

 

《あら?ラグナは知らなかったのね?それならナオトの周りの環境を簡単に説明しましょうか。皆も良かったら聞いて》

 

ラグナが率直に質問したことで、ラケルはナオトの有無を問わずに話を始める。

大まかに上げれば、家事全般・・・特に料理が得意で世話焼きな幼なじみの女の子。ちなみに幼なじみの女の子は毎日起こしにくるし朝と晩も作ってくれるそうだ。

また、その幼なじみの母親はナオトが住んでいるマンションのオーナーであり、その人は高校生持ちの親とは思えない程の美人である。

その他、ナオトには病弱な妹、先程言っていた『教材』を渡してきたりするナオトの悪友、ナオトたちの世界にある大企業の令嬢でもある生徒会副会長の女子生徒もいる。

 

「ああ・・・うん。これは確信犯だね」

 

「ナオトさん・・・いくら何でも狙ってる風にしか見えないですよ?」

 

「観念して自分がそうであることを認めなさい。この『ギャルゲー男』」

 

「・・・ごめんなさい。助け舟を出せそうにないので・・・」

 

「嘘だろおおおぉぉぉぉぉおおおぉぉおおおッ!?!?」

 

ネプテューヌ、コンパ、アイエフ、ネプギアの四人に言いたいように言われてしまい、ナオトは絶望の声を上げる。

どうやらこの世界ではシンノスケだけの言い方では無かったらしい。それを知ったナオトは気が重くなったように感じた。

 

「・・・何だろうな?理解できてないのがおかしい風に思うのは俺だけか?」

 

《気にしないで。私も詳しくは理解しきれて無いの》

 

「そ・・・そうだったのか・・・仲間がいて助かったぜ・・・」

 

ナオトが嫌なことを知って絶望するのとは対照的に、よくわからず困惑していた所に同意してくれる人がいたラグナは一つの安心感を覚えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

ラグナがネプテューヌからゲームの話を聞いてからおよそ二時間後、ラグナたちはゲームの先行プレイを行える会場に足を運んでいた。

場所はラステイションにあるラボの一室。今回は市民に口外をしない先行プレイである為、貸し切りにしてもらっている上に関係者以外立ち入り禁止の標識案内までしてくれている。非常に用意周到である。

今回会場となったラステイションのゲーム企業、『アークシステムファクトリー』は今回の件の事をあっさり・・・と言うよりもノリノリで承諾していた。

恐らくは初めてプレイしてくれるのが女神たち一行だからだろう。付け加えれば、自国の女神であるノワールが注目しているゲームであり、あの廃ゲーマーとして有名であるベールがプレイしてくれるのもあって尚更であった。

 

「こんにちは!今日の先行プレイに参加するプラネテューヌのメンバーですっ!」

 

「どうもお待ちしておりました。私、『アークシステムファクトリー』のミズノ=トシミチと申します。本日はよろしくお願いいたします」

 

『アークシステムファクトリー』・・・略して『アーク』の中に入ると、入り口で今回の先行プレイするゲームのプロデューサーを担当している男性、ミズノ=トシミチが出迎えてくれた。

彼はこのゲイムギョウ界では珍しく苗字持ちである人物で、少しふくよかな体格をしてサングラスをかけていた。

ラグナとナオト、ラケルの三人は自分たち以外にもこう言ったパターンの名前を持つ人物を見れたことで、少しの安心感を感じた。

 

「それでは早速ご案内します。こちらです」

 

トシミチに案内され、ラグナたちは『アーク』の中に入って先へと進んで行く。

そして、エレベーターで14階まで上り、今回の用意してくれている貸し切りの部屋まで連れていって貰った。

 

「こちらが本日使用する部屋になります」

 

簡単に説明したトシミチはノックをしてからドアを開ける。

 

「失礼します。プラネテューヌからの先行プレイ参加者を連れて来ました」

 

「やっほーっ!今着いたよーっ!」

 

「あっ、これで全員揃ったわね」

 

トシミチがドアを開けて中にいる人へ説明するや否、ネプテューヌが元気よく挨拶する。

それをトシミチは邪険に思うことは無く、メンバーにプレイしてもらえる事の嬉しさから寧ろ楽しみにしていた。

また、ノワールの言い分から、プラネテューヌの一行が揃ったことで今回参加するメンバーが全員揃ったようだ。

ちなみに、メンバーは教祖達以外全員である。教祖達は仕事が山積みだったが故に参加出来なかったのである。あのハクメンですら、ロムとラムの付き添いを手伝う面もあるだろうとは言え、参加しているのにである。

 

「さて、参加者も揃ったので始めさせて頂きます。本日はお忙しい中お時間を割いて頂きありがとうございます。本日皆様にプレイして頂くゲームはこちら・・・『DIMENSION BLUE』となります」

 

『おお・・・』

 

トシミチが今回の先行プレイで使う筐体を紹介してくれ、それをみた全員が感嘆の声を上げる。

今回のゲーム、『DIMENSION BLUE』は2D対戦型格闘ゲームであり、レバーと四つのボタンを使い分けて戦うゲームである。

弱、中、強と分かれている三つの攻撃に、女神たちはシェアエナジーを活用した攻撃である『シェアスキル』、その他のキャラクターは魂から生まれ出る能力である『ドライブ』を使用する。

・・・女神と『ドライブ』で察しが付く人もいるかもしれないが、今回のゲームが注目されている理由として、ラグナや女神たちが格闘ゲームで出るゲームだからというのが大きい。

 

「このゲームの世界観はこちらになります」

 

トシミチはそう言って、奥にあるモニターに世界観を紹介するための画面を映す。

世界観としては、女神たちが和平を結んでおらず、武力によるシェアエナジーの取り合いが禁止されていないという、女神たちを題材にする際、かなり頻繫に使われていた設定。

女神たち自身は無理に争おうとしてはいないが、女神同士で遭遇すると何故か豹変し、全力で殺し合いに掛かるような状態になってしまっている。ちなみにそのような状態になるのは四女神だけで、候補生の四人はそのようなことにはならないが、四女神に遭遇すると襲われてしまう為、現在は『ドライブ』能力者と共に対策を立てている最中。

そんな不安が高まっているこの世界に突如として現れた謎の青年であるラグナと、四女神の豹変には何者かが関与していると踏んで独自に調査に赴くところだったアイエフが出会うことから物語が始まる・・・という世界感だった。

 

「・・・こりゃまた随分とハードだな・・・」

 

「作り話とは言え、実際に起きたら怖いですね・・・」

 

世界観の説明を聞き、その部分を読みながらラグナは呟き、ノエルは少々割り切れていない面を見せる。

この辺りは異世界組ではナオトとラケル以外が似たような反応を示していた。ベールとネプテューヌは以前ラグナが自分のいた世界は娯楽に欠けているものがあると言っていたので、もしかしたらそのせいかもしれないと考えることができた。

 

「そう言えば、今回プレイ可能なモードは何があるの?」

 

「今回プレイ可能なモードはこちらになります」

 

一度気まずくなりかけた空気を変えるべくブランが問いかけると、トシミチはモニターにプレイ可能なモードを紹介した。

そこには『VS PLAYER』、『SPARRING』、『ARCADE』の三つが出されているが、注意深く画面に注視すると、『ARCADE』モードはラグナでのみプレイ可能な状態であった。

 

「申し訳ございません。『ARCADE』は正式に稼働するまでは、ラグナ以外完全非公開でと言い伝えられていますので・・・」

 

「なるほど・・・それは仕方ないわね」

 

トシミチが深く頭を下げながら説明するので、ブランのみならず、全員が潔く納得した。

 

「さて・・・説明としては以上になります。今回は対戦が可能な二台セットと、一人で練習がしやすい一台セットを用意させて頂きましたので、時間の許す限りお楽しみ下さい」

 

トシミチが言い終わるが早いか、全員がそれぞれの場所にぞろぞろと移動を始める。

二台セットは普段からゲームをプレイするゲイムギョウ界組、一台セットの方はゲーム経験を殆ど持たない異世界組と綺麗に別れた。

トシミチはその様子を見て、ラグナたちが大方初心者であることに早々と気が付いたので、質問等が来た時の為、そちらの近くにスタンバイしておいた。

彼の方針として、お客様は女神も一般人も皆平等であるという考えの持ち主である為、女神癇癪をするつもりもない。このような立ち回りをしたのは、彼女たちは余り質問をせず自分たちで楽しむことが予想できたからだった。

 

「えっと・・・誰からやる?」

 

「御前から良かろう。今後此の様な事に長く関わるのは御前だろうからな・・・」

 

「なるほど・・・んじゃあ俺からやるか」

 

ラグナは投げかけて見たものの、ハクメンに勧められたので結局は自分が最初にやることになった。

こちらは一人台である為、プレイ可能なのは『SPARRING』と『ARCADE』のみとなってしまうが、ラグナはどちらにすべきか迷った。

このゲームにいるラグナであれば『ARCADE』もプレイ可能である為、どうせなら自分を使って見ようと思っていたラグナは悩まされることになっていた。

 

「そうだな・・・じゃあ初めてだし・・・」

 

まずは自分が操作に慣れる為、ラグナは『SPARRING』を選びんだ。

画面が暗転した後、一瞬だけフラッシュしてからキャラクター選択画面に入る。

しかも奇遇なことに、1P(ワンプレイヤー)側はラグナに初期カーソルが重なっていた。

このゲームでのラグナは、キャラクターセレクト画面では剣を右手で逆手に持った状態で前を見据えている状態だった。

これは使えと言うことだろうと感じたラグナは迷わず自分をセレクトした。この際、カラー選択が出てきたが面倒なので初期設定のカラー1・・・つまりは今のラグナそのままを選択した。

そして、そのままトレーニング設定の画面に移行するのだが、面倒だと感じたラグナは初期設定のままで決定した。

その直後実際にバトル画面に入る直前、今回戦うキャラクターが二人、上下に1Pと2P(ツープレイヤー)のキャラクターが映し出されるが、この時ラグナは初期設定だった為、ナオトとラケル以外がちょっとしたことで驚いた。

 

「・・・俺が二人?」

 

「えっと・・・どういう事ですか?」

 

「向こうのラグナ・・・分身したの?」

 

「・・・そうとは思えんがな・・・」

 

まず初めにラグナが思ったことをそのまま呟き、ノエルが困惑を見せた。

ニューの疑問にはハクメンが曖昧ながらも否定した。ラグナや女神たちの能力の再現を大切にしている為、そんなことにはならないという考えだった。

 

「ああ・・・そのことですね。同じキャラになった場合でも対戦できるようにしてあるんですよ。このゲーム内の設定としては・・・」

 

トシミチが困惑している彼らに説明をしてくれた。

このゲーム内でのラグナは突如としてゲイムギョウ界に現れている為、それと似たような理由で偶然にも同一人物がであってしまった・・・と言う形になる。

それを聞いたことで異世界組はようやく納得が行った。自分達の疑問が解決できて一安心である。

ナオトは実際にゲームを作る時の練り込み具合の大切さを、肌で知ることができたと同時に、シンノスケもここに来たら喜ぶかなと考えていた。

そして、実際のプレイ画面・・・もとい、バトル画面になり、ここからラグナが実際に操作することとなる。

 

「えーっと・・・」

 

まず初めに、ラグナは移動からやってみることにした。

前進・・・後退・・・しゃがみ・・・ジャンプ・・・地上ダッシュ・・・バックステップ・・・・空中ダッシュ・・・空中バックステップ・・・ハイジャンプという順番で一通り移動をしてみた。

 

「おおっ!私の5C強いねっ!」

 

「私も5Cが強いんだ・・・。お姉ちゃんとお揃いでちょっと嬉しいかも」

 

「な、なんか向こうは向こうでヒートアップしてるわね・・・」

 

「えっと・・・あの二人が言ってる5Cってなんだろう?」

 

ラグナがぎこちなく操作をしている一方で、ネプテューヌたちはバリバリ対戦をしており、ラグナたちのようにゲームをあまりプレイしない人には分からない専門用語を用いた会話すら始まっていた。

ナインはその様子を見て焦りに近いものを感じ、セリカは彼女たちの間で飛んでいた専門用語に首を傾げた。

 

「彼女たちのいう『5C』というのは、レバーの位置とどのボタンを押したかによって変わるんです。まず、レバーに関しては電卓を思い起こしていただくと説明が楽になります」

 

トシミチはセリカ達の疑問に答えながら電卓を待機している全員に見せる。

ナオトは何となく理解しているので確認程度だが、ノエルやハクメン、セリカ達は全く持って知らない為、食いついていた。

 

「この電卓の1から9の数字を見て欲しいのですが、これらの数字で真ん中にあるのは5です。また、筐体のレバーはどこにも傾けていないなら真ん中で制止しています。彼女たちの言っていた『5C』の内『5』はレバーの位置が関係してきています。ちなみにこのゲームですと、何もしていない場合は立ち状態です。

そして、次に『C』の部分はどのボタンを押したかになります。彼女たちは『C攻撃』に使うボタンを押したので、そのまま『C』と言っています。

つまり、このゲームの『5C』と言うのは『立ち状態でのC攻撃』となるんです。この説明で大丈夫だったでしょうか?」

 

纏めて説明してしまったのでトシミチが念のため確認すると、皆が首を縦に振ってくれていた。

それを見てトシミチは「しっかりと教えられたな」と安心感を覚えた。

 

「・・・ん?これってどう出すんだ?」

 

「どうかしましたか?」

 

ラグナが疑問の声を出したのに反応し、トシミチはすぐにそちらへ移動する。

せっかくなので自分たちも一緒に説明を受けようと、異世界組の全員はトシミチについていく。

 

「ああ・・・この辺の技の出し方がわかんなくてな・・・」

 

「・・・なるほど。そういうことですね」

 

ラグナは筐体の近くに用意してあった、操作説明とキャラクターごとのコマンド技が乗っている資料に目を通しながら練習をしていた。

一通りゲーム内のラグナが持つ通常技を全て出した為、次はコマンド技を出して見たかったのだが、今一矢印の意味を理解できていなかったのである。

それを見たトシミチは自分もコレに引っかかったことを思い出しながら、しっかりと説明しようと決意した。

 

「このコマンドは、まず初めにレバーを回すように入力していきます。回しきったらそれよりも一瞬遅いから同時くらいのタイミングで指定されたボタンを押してください」

 

「それでいいのか・・・じゃあ、これから出してみるか」

 

トシミチの説明を受けたラグナは、このゲームでのデッドスパイクを出して見ようと思った。

ちなみにこのゲーム、ラグナだけゲイムギョウ界に突如現れたと言う設定からなのか、『地を這う死の顎(デッドスパイク)』だったり、『空を裂く闇夜の剣(ナイトメアエッジ)』と言った風に書かれていた。

また、『アークシステムファクトリー』が提供する格闘ゲームではお馴染みの一撃必殺技。このゲームでは『AH(アストラルヒート)』となっている技の名前は『奔流する黒き憤怒(ブラックオンスロート)』と書かれてあったりする。

これを見たラグナは読みづらい書き方してるなと思いながらも、『地を這う死の顎(デッドスパイク)』のコマンドを入れてみる。

 

《『地を這う死の顎(デッドスパイク)』ッ!》

 

ネプテューヌが言っていた専門用語風に表すなら、ラグナは『236D』とコマンドを入力した。

それがコマンド受付時間以内に入力できた為、ゲーム内のラグナは腰に下げてある剣を引き抜きながら振り上げ、目の前に黒い炎のようなものを飛ばした。

それは相手側のラグナに当たると同時に消え、相手のラグナは飛ばされ、当たった位置から現れた複数の紅い球が攻撃をしたラグナの右手に吸収された。つまりは『ソウルイーター』の再現である。

 

「おっ・・・」

 

「無事に出せたようで何よりです」

 

分からないことが分かると嬉しくなることは多い。今回ラグナはその例に漏れること無くそう感じていて、それが分かったトシミチも嬉しく思った。

ラグナはこの調子で『砕き散らす地獄の牙(ヘルズファング)』、『叩きつける冥府の鉄槌(ガントレットハーデス)』、『血を求める狂気の鎌(ブラッドサイズ)』、『飛翔する獄炎の翼(インフェルノディバイダー)』、『急襲せし悪魔の刃(ベリアルエッジ)』、『空を裂く闇夜の剣(ナイトメアエッジ)』、『終わらぬ攻勢(エンドレス・ターン)』と通常必殺技に分類されるコマンド技を出していく。

終わらぬ攻勢(エンドレス・ターン)』だけ名前がおかしいと感じた人の為に答えると、メタい話がこの世界でラグナは『まだ終わりじゃねぇぞ』を一度も使っていない為、その技の存在を知られていない。

その為、この技だけはトシミチによる捏造なのだが、何の偶然か動きは完全に『まだ終わりじゃねぇぞ』そのままだった。

 

「思ったよりも追撃コマンド多いな・・・」

 

先程からコマンド技を出していたラグナが率直に感じたことだった。

ラグナの技は『ソウルイーター』の兼ね合いがあるのか、専用の追撃コマンド持ちの技が四つもあったりする。

しかし、これでもラグナはかなりシンプルなキャラクターであるとトシミチが言っている為、その他のキャラクターがどれだけ複雑なのかをラグナは考えたく無かった。

 

「(・・・アレ?もうそんなに経ってんのか?)」

 

ラグナが画面の上側を見ると、残りのタイムが既に50に差し掛かっていた。最初は500もあったのに、いつの間にかこんなに時間が経っていた。

 

「後試して無いのは・・・」

 

ラグナがコマンド表を確認して見ると、残りの試していない技は『虐殺せし旋風の鋏(カーネージシザー)』、『喰らいつくす闇の嵐(ペインズダークネス)』、『駆け抜ける混沌の嵐(シードオブタルタロス)』、『奔流する黒き憤怒(ブラックオンスロート)』の四つだったため、ラグナは順番に試していく。

こちらでも『喰らいつくす闇の嵐(ペインズダークネス)』の名前がおかしい、『闇に喰われろ』はどこにいったという人の為に答えると、『闇に喰われろ』はその技を目撃した人物がネプテューヌとノワールしかいないという点もあるが、トシミチらスタッフがそのままだと今までつけてきた技名の中に、場違いすぎる名の付いた技が出来てしまうと危惧してこの様な形をとったのである。

ちなみに、この技も見事に『闇に喰われろ』と完全に同じ動きをしていた。これも素晴らしい偶然であった。

 

「・・・よし」

 

そしてタイムが残り10になった時、ラグナは一呼吸して自身を落ち着け、『2141236C』とコマンド入力をする。

 

《見せてやるよ・・・『蒼炎(あお)』の力を!》

 

そのコマンド入力は成功し、無事に『奔流する黒き憤怒(ブラックオンスロート)』の発動に成功した。

それによって振り上げられた剣が相手のラグナに当たった瞬間、周りの背景が黒に変わった。

 

《恐怖を教えてやる・・・》

 

そして、ここからは『虐殺せし旋風の鋏(カーネージシザー)』などと同じように自動でやってくれるので、後は見ているだけだった。

ゲーム内のラグナはこの世界で初めてエンシェントドラゴンに放った時のように、剣を鎌に変形させて連続攻撃を始める。

 

《地獄はねえよ・・・》

 

鎌で相手のラグナを攻撃する度に紅い球が現れ、ラグナの右手に吸収されるのも全く持って同じであった。

 

《あるのは無だけだ・・・》

 

そして、最後に攻撃している方のラグナが当時のように、『獲物を殺す体勢になった獣』を思い起こさせるかのような状態になり、そこから剣で相手を一閃する。

相手に剣が当たった瞬間、相手のキャラクターが一瞬で黒い羽根を散らしたような状態に変わり、そのまま消え入るような演出と同時に『ASTRAL FINISH』という文字がデカデカと画面上に映し出された。

 

《これが『蒼炎(あお)』の力だ・・・》

 

このセリフをゲーム内のラグナが言い切ったと同時にタイムが0になっていた為、ラグナのプレイは一度ここで終了となった。

―それにしても見事な再現性だな・・・。ラグナはプレイしてそう感じた。

このゲームを開発した人たちの凄い点として、ラグナたちの戦っている姿は、基本的にはネットなどの情報でしか手に入れられず、しかも運良くその一部始終を手にすることができる程度のものだ。

しかしこのゲームはどうにか教祖やラグナたちに協力を受け入れてもらっており、そのお陰でここまで再現できていたのだ。しかし、その予算も半端な額では無かったはずだ。

一体どれだけの人たちが努力をしたのだろうか?それを考えただけでも、このゲームを開発した人たちの思いが伝わってくるような気がした。

 

「(トシミチさんもそうだけど、このゲームを作ってる人たちは間違い無く他人に誇れることをやっている・・・。俺にもこんな風に誇れる事があるといいんだがな・・・)」

 

同時に、ラグナは少し羨ましくも思っていた。それは自分の経歴から来ることだとラグナは自覚していた。

彼女たちはもう既に周知の事だが、ラグナは元々妹を助ける為にかなりの悪事を働いていた為、ラグナの事情を知らない人たちからは基本的に目の敵にされていた。

それが故にラグナの行動は事情を知らない限り評価されたものではなく、事情を知ったとしても他にやりようがあったはずだという人すら出てくるだろう。

それに対して、トシミチらのゲームを作り上げるという行為は正当な手段で自身の力を証明するものであり、プレイする人たちに楽しんで貰える為という確固たる理由がある。無論、プレイする人たちはその意図が分かっている為、正当な評価が下されるのだ。

無論、彼ら作ったのゲームがプレイヤーの肌に合わないということがあるかもしれないが、ラグナからすれば自分よりも遥かにまともな自己主張だと感じるのだった。

 

「どうでしたか?プレイしてみた感想は?」

 

「難しいけど楽しかったよ。時間さえあればまたやりたいかな」

 

ラグナ自身がゲームをあまりやらないのもあるが、それでも格闘ゲームというジャンルは敷居が高いのは確かなことだった。

ゲーム自体が初心者である人が格闘ゲームから始めると挫折しやすいのもあるが、今回が自由に練習できるモードから始められたこと。そして演出等をしっかり楽しめたことが大きかった。

何がともあれ、そうしてライトユーザーの人が「またやりたい」と言ってくれたことはトシミチにとっても大きく、彼は心の底から嬉しそうな顔を見せるのだった。

そんなトシミチを見て、ラグナはこれからも頑張って欲しいと思ってると、コートの左側の袖口を引っ張られたのでそっちを振り向いて見ると、ニューがやりたそうな目でこっちを見ていた。

 

「そっか。んじゃあ変わるか」

 

「うんっ!」

 

色々と触れられるいい機会だからニューにやらせて上げようという皆の判断が分かったラグナは、交代することを言うと、ニューはとても嬉しそうな笑顔になった。

ラグナが筐体の席を開ければニューはすかさず空いた席に腰を下ろした。

ニューはラグナと違ってそもそもゲーム自体が始めてである為、迷うことなく『SPARRING』を選択する。『ARCADE』では敵が動くため、満足に練習できないからだ。

 

「あっ、ニューもいるんだ・・・」

 

ニューは自分がいることに気が付き、それを選択する。カラーのことは良く分からないので初期のままだ。

今回のゲームでの事象兵器(アークエネミー)は、『自身が条件を提示したらそれを守れる人』。『目的が果たせないかもしれないという事実を前に折れない人』という二つの条件を満たした人にのみ、ナインから渡されている。

『ムラクモユニット』は事象兵器(アークエネミー)の改良試作品という扱いで、これは精神支配の危険性はないが、その分兵器としての性能が低めになっているという設定になっていた。

 

ちなみに、ラグナは『DIMENSION BLUE』におけるゲイムギョウ界では伝説上の存在とされている『蒼炎の書(ブレイブルー)』を手にしていることから、それを知っている人物を混乱に落とし込んでしまうようだ。

この話を聞いたとき、ゲームでもそうなるのかと落胆したラグナは悪くないだろう。

他にも、このこのゲーム内の設定として、ノエルとニューはラステイションの一家に居候させてもらっている姉妹、ナオトは元々ゲイムギョウ界出身の身で、アイエフやコンパとは幼なじみ。コンパは事情を知らないが、ナオトは数年前の事故に巻き込まれたナオトを助ける為にもう一人の人格、ラケルがアイエフの中に宿っているのを知っている。

その際ナオトは極めて危険なドライブの『ブラッドエッジ』に目覚めてしまい、現在はコンパと手分けしてドライブを捨てる。または『ブラッドエッジ』のリスクをどうにかする方法を探している・・・。とこの辺りはナオトがラケルの眷属になった辺りの時とよく似ていた。

良い点とすれば協力者が一人増えたこと。良くない点としては自分以外にもアイエフが被害を被ってしまったことだろう。

ちなみに、コンパはドライブとして使えるものが回復系なものばかりであり、調整が追い付かず、ゲームセンターで稼働開始して暫くしたらタイムリリースで実装する予定だった。

 

「・・・?」

 

「ニューのドライブはDボタンを追加入力することで追加攻撃できる仕様になっていますよ」

 

「追加入力・・・」

 

ニューのドライブ名は『ソードサマナー』という剣を飛ばす遠距離攻撃なのだが、一発しか飛ばず、威力も低いからこれだけかとニューが困惑したのに気がついてトシミチが説明をする。

タイミングを合わせて押すのは面倒だと感じたニューがDボタンを連打してみると、最初に飛ばした剣が当たった後、ニューが体を動かして指示をするような動きをし、攻撃を受けたゲーム内のラグナの周りに複数の剣が現れて襲い掛かる。

 

「・・・!」

 

「他にもレバーとの組み合わせで剣を飛ばす向きが変わりますよ」

 

「そうなの?じゃあ・・・」

 

試しにレバーを下に入れながらDボタンを押せば、画面内のニューが斜め上に向けて剣を飛ばした。

今回は相手のラグナが地上にいたから当たらなかったものの、相手が空中にいる時に使えば当たるだろうと言うのは何となく分かった。

それからニューは色々と技を試してみて、かなり驚いてしまった技が一つあった。

 

「に、ニューの『5C』?ってボタン一つでこんなに攻撃するんだね・・・」

 

ニューの『5C』は背後にある『ムラクモユニット』の刃で連続攻撃を行うものであり、8HEATと通常攻撃としては破格のヒット数を誇っていた。

しかし、その割に与えたダメージは850前後と通常の強攻撃と大して変わらない。ある種の見た目マジックを感じたものだった。

 

「後は・・・」

 

ニューもいつの間にか残りタイムが僅かになっていたので、一撃必殺技を試してみることにした。

ニューのAHの名前は、こちらでは『解き放つ解放の剣』となっていた。しかし、動き自体は『滅びの剣』と殆ど変わりなかった。非常にセリフが長かったのか、担当の声優が頑張って早口で演技をしているのが伺える技でもあった。

そして、技が当たると同時に『ASTRAL FINISH』の表示が現れ、タイムが無くなったので終了となる。

 

「ふぅ・・・コレ結構疲れるんだね・・・」

 

新しく触れるものばかりであり、最近のニューは今回のように戸惑ったりすることが多い。

 

「でも、楽しかったんでしょ?」

 

「・・・うんっ!凄く楽しかった!」

 

しかし、最後には必ず満面の笑みを見せる。

新しい物事に触れられる時間を手に入れたニューは積極的に物事に触れるようになっている。そして、それは誰かに命令されたりしたものではなく、自分の意志で選択した行動である為、なおの事楽しさを感じるのだった。

そんな風に、希望を持ちながら生きることのできるようになったニューを見て、ノエルもそうだが、異世界組の皆は助けられて良かったと改めて思うのだった。

 

「え、ちょぉっ!?ベールのそのコンボ何!?」

 

「あら・・・ゲーム内の私はやり込み要素満点で飽きませんわね・・・♪」

 

「(・・・さ、流石はベール様・・・もうご自身で研究を始めていらっしゃる)」

 

ネプテューヌの驚愕した声と、ベールの楽しそうに呟いた言葉を聞き、トシミチは握りこぶしを震わせる。

このゲーム・・・間違えなければいける!トシミチはベールの様子を見て確信していた。

 

「よし・・・ちょっと混ざってみるか」

 

ラグナはネプテューヌたちの様子を見て、格闘ゲームの本領は対戦であることを察して二台セットの方へ移動した。

その様子を見ると、自分たちのやっていた『SPARRING』とは明らかに違うゲームに見えた。

まず初めに、キャラクターの動きが非常に機敏だった。ラグナたちがまだ慣れていないというのもあり、彼女たちの動きは全く無駄が少ない。

そして、攻撃に関してもコンボの数が違っていた。というか、自分たちは練習がやっとだというのに、彼女たちはもう地上攻撃から空中攻撃へ持っていくコンボなどを平然とやってのけていた。

 

「(・・・来てみたのはいいが、コレ勝てんのか?)」

 

正直なところ、ラグナには勝てるイメージが全く持って浮かび上がらなかった。

簡単に諦めるつもりはないものの、これは今日すぐ勝つとなったら無理があるだろう。

格闘ゲームが初心者お断りの雰囲気があるのは、経験者との差が余りにも酷過ぎる為、互いに楽しめないのがある。

極めつけには、初心者側がそこで挫折してしまう危険性も高い。その為、格闘ゲームは新規ユーザー獲得が課題となりやすいゲームだった。

 

「あっ、ラグナもこっちでやってみるの?」

 

「ああ。せっかくだからやってみようかと思ったんだが・・・アレを見ちまうとな・・・」

 

「ああ・・・なるほど・・・」

 

アイエフに問われたラグナが答えながら筐体の方を見たのに気が付き、アイエフは同情した。

初心者にいきなりこれをやれと言われても到底無理な話である。いくら何でも経験の差が激しすぎるのだ。

 

「まあ、ラグナが初心者なことはわかりきってるし、あんな動きはしてこないと思うわ」

 

「・・・ならいいんだけどな」

 

彼女たちも流石に理不尽にラグナを祭ろうというつもりはない。それを理解しているアイエフがそう言うと、ラグナも少しは安心できた。

 

「あっ、ハクメンさんってランタイプじゃないんだ・・・」

 

「・・・ステップタイプ・・・」

 

『DIMENSION BLUE』のダッシュには素早く走っていくランタイプと、一定の距離を素早く詰めるステップタイプの二つがある。

ラグナやニューはランタイプなので素早く動くことができる代わりに距離調整は融通が効きづらく、ハクメンやナインはステップタイプなので距離調整はやりやすいものの、大きく相手を吹っ飛ばした際、追いかけるのに手間取ってしまうと一長一短である。特にナインの場合はかなり癖が強く、慣れないと非常に難しいものとなっている。

今回ロムとラムはハクメンがステップタイプだったことに少ししょんぼりとした、しかし、ただでさえ『斬魔・鳴神』で圧倒的なリーチを誇り、飛び道具に対するメタまで備えるハクメンがランタイプだった場合、ニューのような遠距離攻撃を主体とするキャラクターが軒並み戦えなくなってしまうので、それは仕方ないのだろう。

 

「・・・えっ!?それ飛び道具も反応するの!?」

 

「やったーっ!雪風入ったーっ!」

 

「カッコいい・・・!」

 

また一つ対戦が終わる。どうやらハクメンを使っていたラムの勝利で、決め手は雪風となったらしい。

ハクメンのD攻撃は全てカウンターに割り振られており、基本は打撃攻撃を受けた時はそのまま反撃、飛び道具はダメージを受けないで済むというものである。

ただし、雪風のみは例外であり、雪風は飛び道具すらカウンター成立条件に入っていた。その為、飛び道具ならカウンターされないというユニの固定観念を完全に突くことができたのだった。

勿論、雪風を決めたラムは大喜びであり、ロムも目をキラキラさせながら見入っていた。

 

ちなみに、このゲーム内のハクメンは過去に大怪我を負ったのだが、それでも戦う意志を捨てていなかった為、その事情を聞いたナインに『スサノオユニット』と『斬魔・鳴神』を受け取り、今の姿に至る。

しかし、大怪我を負った場所とハクメンの正体が何者なのかは一切が不明という扱い。これはナインがハクメンとして生きることを決めた彼の意志を尊重したという設定になっている。

ハクメンの目的は四女神の豹変を止めることであり、その為に自身の協力者になれそうな者を探しているという設定になっている。

その為、ラグナとは因縁の相手というよりは、ハクメンからすればラグナは『荒削りな面があるものの、見込みのある存在』。ラグナから見たハクメンは『良く分からない部分はあるけど、強いし信頼できるやつ』になっている。

どうしてこうなっているかは『ARCADE』をやって欲しいと言われたので、最後に誰か一人やろうという話になった。

 

「・・・だって、ハクメンさん?」

 

「もうすっかり小さい子の『英雄(ヒーロー)』ね?あなたも・・・」

 

「私に其の心算は無いのだがな・・・」

 

その様子を見たセリカとナインに軽く弄られ、ハクメンは苦笑交じりに肩をすくめる。

しかし、それもそれで悪い気がしないのは確かだった。この世界で自分も周りも大きく認識が変わったのはラグナだけではないのだった。

 

「さて、次の相手はどなたかしら?」

 

「ああ・・・次は俺だ」

 

また少しの間彼女たちの対戦が続き、この大戦に勝利したベールが尋ねる。

そして、もう既に示し合わせたかのように勧められたラグナは、恐る恐る手を上げながら答えた。

全員が対戦で夢中になっている間に移動してきたのでベールは気づいていなかったらしく、ラグナが答えたことに「あら?」と驚き半分の声を出した。

 

「なるほど・・・。それなら、今回は接待プレイが良さそうですわね」

 

「・・・接待プレイ?」

 

「ベールさんは今回、手加減してプレイするんです。基本的に、初心者を一方的に倒さないように、挫折させて引退に追い込まないようにする行為ですね」

 

ベールの言った事が解らずに呟いたのを拾ったネプギアが答えてくれたので、どうにか接待プレイの意味を理解することができた。

 

「それなら大丈夫そうだな・・・」

 

なら当たって砕けろ。取りあえずやってみようと思ったラグナは席について対戦するためにキャラクターセレクトをする。

操作キャラは勿論ラグナ。ベールはグリーンハートを選択している。どうやら女神と女神候補生は変身後で作られているらしい。

一応、変身前は会話だったり、戦闘前会話で使われたりするそうだ。こうなった理由として、技が変身前も変身後もあまり変わらないのが理由でこうなったらしい。

そして、いざバトル・・・の前に戦闘前演出が出てきた。

 

《・・・!?あなた・・・その右腕は・・・》

 

《アイエフの応援は待てねえか・・・悪いけど少し手荒に話を訊かせてもらうぜ》

 

画面外から二人が現れ、すれ違うタイミングでラグナが剣を振るい、グリーンハートが槍を突き出す。

それらがぶつかり合い、二人はそのまますれ違いながら互いの初期位置に着地する。

その後セリフが入り、グリーンハートはラグナの『蒼炎の書』に気付いて驚き、ラグナはアイエフの事を待つ余裕がないことに歯嚙みしつつ、一人で女神に挑むことを決意した。

 

「おおー・・・こんな演出なんだね・・・」

 

「ラグナの場合、今は無視をするって感じだよね・・・多分落ち着いた状況なら答えてくれるんじゃないかな?」

 

「ああ・・・なるほど。俺もラグナだったらそうしようって思ったから、強ち間違ってないかもな?」

 

《私も同感よ。ラグナがナオトの境遇であった場合も、似たようなことが起きるでしょうね》

 

演出を見たセリカの感想に、ナオトも同意の意を示す。

ラケルもラケルで、自分と出会ったのがラグナだったら、きっと彼と同じ道を辿るだろうと感じていた。

しかも、思い起こして見て違和感がないのだから、これまた困る内容だった。

そんなことを考えていると、筐体の方からレフェリーであろうシステム音声が聞こえてきた。

 

《THE WHEEL OF FATE IS TURNING》

 

開始間近であることを示しており、全員が画面に注目する。

 

《REBEL 1》

 

ラグナはどう動けば良いか悩んでいるが、ベールはこの段階で既にこれで行こうと行動を決めていた。

 

《ACTION!》

 

そして、行動が可能になると同時に、ベールは一度空中バックステップで距離を取った。

 

「・・・?」

 

「流石に初手を攻撃には回しませんわ」

 

ベールは最初に攻撃したら焦りで全く動けなくなるだろうと踏んでいたので、攻撃はせずに距離を取って様子見を選んだ。

確かに、ベールの言う通り彼女の扱うキャラが距離を取ってくれたお陰で、ラグナは少し落ち着いて操作ができそうだった。

 

「・・・なんか悪いな・・・」

 

ありがたく思いながらラグナは早速攻撃に移る。初手はダッシュで近づいてからの5B。使っていて妙にこの技が強いと感じたからである。

しかし、ガードされてしまったので、その攻撃はガードの上から体力を僅かに削ることに留まってしまった。

そして、ダメだと思ったので攻撃を止めて少し待とうと思ったが束の間、グリーンハートから「手を止めてはダメだ」いうかのように反撃が飛んできた。

その攻撃が槍を使った足払いだったことから、3Cの攻撃ではあることを何となく感じ取っていた。

 

「・・・ありゃ?ってそりゃそうだよな・・・」

 

「ええ。この場合はガードを崩す、固めて動けなくさせる。攻撃を一度中断するふりをしてもう一度攻撃など・・・色々と崩し方が存在していますのよ?」

 

「覚えるのに時間が掛かりそうだな・・・」

 

思った以上に覚えることが多い。そう思ったラグナは頭を使うのが得意ではない自分を悲しむのだった。

その後もベールに色々と教えてもらいながら、どうにか対戦を進めていく。

 

《FINISH》

 

そして、残タイムが03というところで、ラグナどうにか接待プレイしてくれているベールから一ラウンドを取れたのだった。

 

「おお・・・取れた・・・」

 

「その調子ですわ。次のラウンドも、今のラウンドの事を思い出しながら頑張ってくださいな」

 

呆然気味なラグナに対し、ベールは応援の言葉を投げかける。

そして、すかさずラウンド終了のセリフが入った。

 

《そっちにその気が無いのはわかってんだけどな・・・》

 

ラウンドの勝利時、ラグナは罪悪感を持ったセリフを投げていた。

彼女たちは望まぬ戦いを強いられているという状況を知っているラグナは、女神たちにきつく当たろうとはしなかった。

そのセリフが終わってから間もなく第二ラウンド・・・要するに《REBEL 2》が始まったのである。

このゲームは3ラウンド製、2ラウンド先取となっているため、次のラウンドをラグナが取った場合、その段階でラグナの勝が決定する。

 

《DISTORTION FINISH》

 

しかし、次のラウンドはあまり上手く行かず、グリーンハートのシレットスピアーがラグナに直撃したことで試合終了となった。

 

《手加減はしたつもりなのですが・・・》

 

グリーンハートの方は話を聞く聞かない以前に、人命の方を案じていた。

女神同士が対面すると豹変してしまう彼女たちでも、ラグナのように一般の人を前ならば本来の人格を維持できるようだ。

 

「では、次が最後になりますので、気を抜かずに行きましょう」

 

「わ、分かった・・・」

 

そうして、最後のラウンド、《REBEL 3》が幕を開けた。

ちなみに、このラウンドで相打ちになった場合、一度仕切り直しが起こるらしい。

まあそんなことはないだろうと思いながら、ひとまず目の前のことに全力で当たるのだった。

 

《FINISH》

 

結果は最後の刺し合いでリーチに優れるグリーンハートが勝ったと言う形だった。

 

「ああ・・・マジか」

 

「惜しかったねぇ・・・最後の刺し合いが取れてたよ・・・」

 

「でも、慣れてないにしてもよく動けてたと思うです」

 

「ええ・・・相手が手加減してるのもあったけど、初めてでこれなら上出来よ」

 

「そっか・・・それなら良かったわ」

 

思ったよりもショボいやられ方をしてしまったラグナだが、ネプテューヌたちのフォローのお陰で少し安心できた。

あと一歩と言うところで負けてしまったラグナだが、これで折れてしまったかと言えばそれは違う。

 

「もう少し練習しねえとな・・・」

 

「解らないことがあったら、いつでも聞いてくださいね?」

 

「おう。その時は頼むわ」

 

《どうして・・・あなたが『蒼炎の書(それ)』を・・・?》

 

ラグナたちが話していると、グリーンハートがラグナの『蒼炎の書』を気にするような発言をしていた。

伝説上の存在が実在していると言うのは、誰でも混乱するはずである。

 

「これは・・・ストーリーが楽しみになってきますわね・・・。まあそれはさておき、次はどなたかしら?私はいつでもいいですわよっ!」

 

「なら、今度は私が行くわ!」

 

ストーリーの展開を楽しみにしながらも、ベールは次の対戦相手を募り、真っ先にノワールが名乗りを上げて席に着いた。

そこからはゲイムギョウ界組同士なら全力で、異世界組とゲイムギョウ界組だった場合は接待プレイ。異世界組同士は非常にぎこちない対戦・・・。といった形で暫く対戦は続いた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

《此の奥だ・・・。御前ならあの者を止めることができるやも知れん・・・》

 

《・・・?お前は行かねえのか?》

 

《問題が起きているのは此の国だけではない・・・私は他の国で調べを始める》

 

対戦に疲れたことと、終了間近の時間になっていたため、最後に全員で『ARCADE』のストーリーを楽しもうと言うことになった。

今回ラグナの最後の相手はハクメンで、彼の前に力を示すことのできたラグナは奥にいるであろうプラネテューヌの女神を止める事を託される。

ハクメンは設定上、ナインの頼みを訊かねばならないことが多く、何か事あるごとにナインの頼みをうけてしまうことが多い。

どうしてこうなったかは詳しく説明されていない為、ハクメンの『ARCADE』で近いうち出すのだろうと全員が予想した。

 

《また会うことがあるなら、其の時はよろしく頼む》

 

《ああ・・・そうさせてもらう。じゃあ、頑張ろうぜ》

 

ラグナの言葉を皮切りに互いの進むべき道を進む二人。

 

《(色々と解んねえことだらけだが、やるしかねえな・・・)》

 

ラグナがそう決意してドアを開いたところでこの『ARCADE』モードは終了した。

それと同時に、終了の時間が来てしまったので、今日のプレイはここで終了、次この筐体を出すときははロケテストによる初の正式公開だそうだ。

 

「皆さん。本日は本当にありがとうございました。よろしければ、こちらのアンケートにご協力ください」

 

部屋を出る前に、全員はアンケートを記入してから部屋を後にし、会社を後にして戻るべき場所へ歩き出す姿が見えなくなるまで、トシミチは感謝を込めて頭を下げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「何度やっても結果が得られないのよね・・・」

 

「設定とかの見直しも大丈夫です?」

 

「大丈夫よ。そうじゃないと、その段階でエラー出ちゃうから」

 

全員でゲームを思いっきり楽しんでから1ヵ月後。プラネテューヌのゲイムギョウ界組は国内から少し離れた場所で昼食を取っていた。

マジェコンヌたちの騒動で取られたシェアは以前プレイした『DIMENSION BLUE』が四ヶ国合作だったことから、シェアの回復に貢献していた。

そして、そこに加えてリーンボックスの方では、ホームパーティーで見せていたゲームが完成したのでリリースすると大成功。

ルウィーの方ではブラン饅頭という饅頭にブランの顔がある饅頭と、追加でパクメンの縫いぐるみを販売した結果大成功をしていた。ハクメンは縫いぐるみの件は非常に消極的だったが、今回結果を出したことでなおのこと弄られると分かったハクメン頭を抱えるしか無かった。

ラステイションの方は上記二国に負けないくらいの勢いでモンスター討伐を行った。ユニも変身出来るようになった為、より迅速な対応が可能となっていた。

 

「私たちだけいつも通りなのって・・・大丈夫なんでしょうか?」

 

「・・・まあ、今日くらいはいいんじゃない?色々と山積みだったわけだし」

 

「今日だけは、体をしっかりと休めてあげるですよ♪」

 

実のところ、プラネテューヌだけは公に出来る事柄に欠けていた為、少々出遅れた感じがあった。

ネプギアの件を表に出してしまえば、それこそ騒動レベルの問題だったため、そうすることができなかったのだ。

 

「はぁ~・・・外の空気って美味しい~・・・」

 

「ほら、ネプ子だってこうしてるわけだし・・・」

 

「・・・そうですね。今日はちょっとくらい休んでも良さそうですね・・・」

 

ネプテューヌが思いっきり寝そべっているのを見て、ネプギアもちょっと昼寝をしようと思い、体を横にしようとする。

 

「あああああああーっ!」

 

『・・・えっ?』

 

知らない声が聞こえたのでそう言うわけにもいかず、彼女たちは思わずそちらに目を回した。

するとそこには、黄色と黒のストラップの服装が特徴の、金色の髪と水色の瞳を持った少女がいた。

 

「こんぱっ!あいえふっ!」

 

その少女はコンパとアイエフの事を知っているらしく、二人を順番に指さした。

 

「・・・二人共、この子知り合い?」

 

「い、いえ・・・」

 

「知らない子ですぅ・・・」

 

「ど、どういうことなの・・・?」

 

ネプテューヌの問いにアイエフとコンパは否定し、ネプギアは少女の素性が解らず困惑した。

そして、少女はそんな彼女たちの困惑を知らぬとでもいうかのように、満面の笑みを見せていた。




そんなわけでゲーム回とアニメ5話のラストでした。ここでピーシェの登場となります。

今回出てきた『ミズノ=トシミチ』はネプテューヌシリーズのシリーズのプロデューサーである『水野尚子』さんと、ブレイブルーシリーズのプロデューサーである『森利通』さんのお二方から名前をお借りしています。
体格のベース等はブレイブルーに近いゲームの話であったことから森Pになりました。

・・・ラグナの技、私のネーミングセンスがないのかもしれません・・・。こんなのがいいよと言うのがあったら何なりとお申し付けください。

ブレイブルーの最新作、ネプテューヌのRe;Birth1+の発売が近づいてくるたび楽しみにで仕方ありません!ブレイブルー方の使用キャラの予定はお決まりでしょうか?
私の場合、ラグナは確定なのですが、相方のキャラが決まりません。
中の人的に嬉しくなるハザマやルビー。主人公&ヒロインとなるレイチェル、ノエル、ニューの誰か。W主人公チームという手段もあって、中々に迷うところです。

さて、次回ですが、ピーシェの両親を探す3週間が本編だと空白なので、再びオリ回を数話分挟んでいきたいと思います。


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37話 動き出す陰謀

今回から予告通り少しの間オリ回になります。
まずは敵側サイドからです。



「さて、そろそろ本題に入るとしようか」

 

ラステイションの廃工場で、マジェコンヌが三人に向けて話を振った。

ラグナたちが洞窟の調査をしていたり、突如として現れた子供を保護している間、四人は傷を治すのに割いた時間が多く、出遅れていたのだ。

その為、女神とラグナたちを打倒するのに新しい手立てを考え直したり、レリウスの言っていた洞窟を調査したりと、数ある事を急いでやらなければならなくなっていた。

 

「数ある案件の中で、特に気になったものはコレだ」

 

マジェコンヌが指したのはラグナたちが保護した子供だった。

 

「ああ・・・其の事については私も同感だ・・・其の少女は私たちも知らぬ存在。だが、あの一行の内二人を知っているそうだな」

 

「考えたくないっちゅけど・・・そいつは別ゲイムギョウ界から来たんじゃないっちゅか?」

 

「うわぁ・・・それだったらめんどくせえなぁ・・・。んで、仮にそうだったらどうすんだよ?」

 

当然の如くレリウスもその存在は気にかけており、その子供の分かっている情報を全て整理した。

それを聞いたワレチューが一つの可能性を示唆すると、テルミは面倒そうにぼやく。

しかし、テルミ自身もその存在は気になっているので、そうであることを仮定して問いかけた。今回ばかりは答えるのが誰であろうと、どうするかが訊ければそれで良かった。

 

「私としては、是非とも調査をしてみたいところだな・・・其の子供からは妙な反応が出ている」

 

「・・・お前は言うと思ったよ・・・相変わらずだな」

 

レリウスが仮面のずれを直しながらニヤリとするのが見えたテルミは若干呆れ気味だった。

―こいつはいつでもこうだもんな・・・。また面倒ごとが増えると思うだけで少し気が重くなる。

妙な反応と言うのは気になる事なので、特に反対したりはしない辺り、テルミも退屈が好きでは無かった。ここ暫くまともに動けてないから尚更だった。

 

「レリウス、お前は連れ帰るつもりか?」

 

「可能ならばな・・・その為にも前準備は必要だ」

 

マジェコンヌの問いにレリウスは肯定した。口調は何ら躊躇いがないのではないかと思えるくらい淡々とだった。

目の前にいる男は正気かとマジェコンヌは一瞬疑ったが、そうも言ってられないし、そんなことを考える必要はない。

何せ自分たちは目的のためならば手段を選ばない悪党だから。人道など考慮する同盟ではないのだから、躊躇う理由などない。そう考えたら気が楽になった。

 

「ちなみに、準備は何が必要っちゅか?現地での調べ物くらいなら融通が利かせられるっちゅよ」

 

「そうだな・・・おびき出せる釣り餌になれる人物。それと、あの子供を何の違和感なく連れていける人材だな・・・記憶の操作くらいなら私の手でも十分に可能だ」

 

ワレチューが自分にできる事を提示してみると、レリウスが予想以上に本気である回答をしてきたので、問いかけたワレチュー自身がビビッてしまう。

流石にそこまで本格的なものとは思っていなかったのである。認識の違いがどれ程恐ろしいのか、ワレチューは改めて理解したのだった。

 

「なるほど・・・釣り餌になれそうな人物と違和感なく連れていける人材っちゅか・・・。誰が言いっちゅかねぇ・・・」

 

しかし、自分から言い出した以上はやるつもりであり、ワレチューは己の知っている人材を頭の中でリストアップしていく。

―あの子供は多分単独で行動はしないから、そこが問題っちゅね・・・ワレチューは早速一つの問題点を潰すことにした。

 

「レリウス、存在が確認できれば良いっちゅよね?」

 

「ああ。其れで良い」

 

「了解っちゅ」

 

レリウスの回答が肯定だった為、ワレチューはすぐに選定をやり直す。

―ああ・・・そう言えば一人、ラステイションの女神にご執心な奴がいたっちゅよね・・・。テルミとは違って、純粋な追っかけみたいな感じっちゅけどね。

ワレチューの中で、今回の目的にこれ程最適な釣り餌候補は他に存在しなかった。

そうして、問題は違和感なく連れていけそうな人材だった。こっちに関しては中々存在していない。正直なところ、一人グレーな存在がいる程度だ。

 

「・・・オバハン。以前に女神の反対運動やってたリーダーの所在って知ってるっちゅか?」

 

「ん?そう言えば全く聞かんな・・・。そいつがどうかしたのか?」

 

女神に対する反対運動を行っていたリーダーはキセイジョウ・レイと言う。

その人物は以前までチラシ配りなどをして細々と活動を行っていたのだが、ある日を境にめっきり見なくなっていた。

大体、ラグナがゲイムギョウ界に来てから一か月経った位から活動が突然としてなくなっていた。そのせいで全く足取りを掴めないでいるのだ。

 

「釣り餌候補は絞り上げたからいいっちゅけど、違和感なく連れていける候補がそいつしか上がってこないっちゅよ・・・」

 

「・・・こう言うところが私たちの弱い点だな・・・」

 

この四人の中で、違和感なく人々の生活に紛れ込める人間はいない。

極論を出すならマジェコンヌが変身を活用して潜伏すれば良いのだが、それでも限度はあるのでずっとやっているわけにもいかない。

四人は平凡性が圧倒的に欠けている。無論、それが必ずしも悪い事では無いのだが、今回のようなケースではそれもまた問題となってしまっていた。

 

「そのリーダーとやらを検索すれば、案外出るやも知れんな・・・」

 

「ああ・・・そういやここなら調べも多少は効くんだったな」

 

レリウスがコンソールを操作し始めたのを見て、テルミは思い出したかのように呟いた。今までゆっくり休んでいたのもあり、完全に忘れていたのである。

そして、暫くすると規則的な速度で繰り返す電子音と同時に、地図上に赤い点が表示される。

 

「どうやら此処にいるようだな・・・」

 

「なるほど・・・じゃあそいつは俺が連れて来ようか?脅しが効くなら楽勝だし、体も動かしてえしな」

 

場所がわかるや否、テルミは早速自分から立候補する。暫く体を動かしていない為、道中でモンスターを殲滅していけば鉛も解消できると踏んでいた。

実際のところ、キセイジョウ・レイがかなり気が弱いと聞いたので、自分の得意分野でもあったからそのついでで行こうと考えていた。

 

「ああ。それはありがたいっちゅ。じゃあ、おいらは釣り餌の方に交渉を掛けに行くっちゅかね。オバハン、そいつへの報酬はどれくらい出せるっちゅか?」

 

「おいおい、いきなりそれか・・・。まあ、女神を釣ってくれるのだから、これくらいは出してやらねばな」

 

テルミが自ら名乗り出てくれたことはありがたいので、ワレチューは素直に礼を言う。

いきなり現金なことを言われたマジェコンヌは呆れ半分になりながら、出せそうな額を書いた紙をワレチューに渡し、それを受け取ったワレチューは早速確認して見る。

 

「おお・・・これなら受け入れてもらえるっちゅね。ちなみに、クライアントはおいらの方がいいっちゅかね?」

 

「いや、私の名義で構わん。連絡はこれを使うように頼む。お前に渡した物の改良型だ」

 

ワレチューの質問に対し、レリウスがワレチューへ小さな物体を投げ渡しながら答えた。

ワレチューが受け取った物を見てみると、それは術式通信用の装置だった。

 

「これは中々ありがたいっちゅ・・・じゃあ、そうさせてもらうっちゅよ」

 

レリウスが改良したのであれば性能が問題無いのは確実。そう確信したワレチューは素直に礼を言いながら受け取る。

 

「じゃあ、おいらは交渉に行くから一足先に失礼するっちゅよ?」

 

「ああ、待て待て。どうせなら途中まで一緒に行こうぜ?俺も行くんだしよ・・・。つぅ訳で俺も行かせてもらうわ」

 

「分かった。ではまた後でな」

 

交渉と連行へ向かう二人にマジェコンヌは頷き、それをみたワレチューとテルミは部屋を後にした。

 

「さて、私たちもやるべきことを始めるか」

 

「ああ・・・まずは情報の整理からだな」

 

マジェコンヌとレリウスは二人が去ってすぐに、今までに集めた情報の整理を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、おいらが行くのはこの奥っちゅね」

 

「おうおう。こりゃまた辛気臭え場所だなぁ・・・俺はプラネテューヌだからここで一旦お別れだな」

 

方針を決めた夜。ワレチューとテルミはラステイションの近くにある廃墟施設の前にやって来ていた。

自分たちが住処にしている廃工場とは予想以上に近く、廃工場を出てからすぐに辿り着けたのである。

しかし、テルミはこれからプラネテューヌに向かわねばならないので、案の定長旅となる。

 

「長旅お疲れ様っちゅよ。じゃあ、また後でっちゅ」

 

「おう。またな・・・。よっとッ!」

 

互いに一時的に別れを告げると、テルミは『ウロボロス』を使ってプラネテューヌに飛んでいき、ワレチューはその廃墟の扉を開けて奥に進んだ。

ある程度進んで行くと、一つだけ明かりの漏れている部屋があり、ワレチューはそこへ入ることにする。

幸いにも部屋のロックは掛かっておらず、ワレチューはあっさりと入ることができたのだった。

 

「あらあら?こんな時間にお客さんだなんて珍しいわね・・・どんなご用件かしら?」

 

その部屋の中にいたのはピンク色を基調とした機会の体をした・・・もとい、全身パワードスーツを身に纏った・・・男であろう声をしている存在がいた。

ワレチューは正直なところ、こいつに頼むのは少し抵抗があった。こいつの興味を引くのが難しいのが最大の原因だ。

実力こそ相当な物を持つのだが、何しろこいつは自分が面白いと思わないなら仕事を受け入れないのだ。

ワレチューは一度こいつの興味を引けずに断られた経験がある為、少しだけ自信がそがれていた。

 

「こんな時間に頼むのもどうかと思うっちゅが、依頼をしに来たっちゅよ」

 

「依頼ねぇ・・・どんな感じのものかしら?」

 

ワレチューの言葉に反応し、興味を向けてパワードスーツの者は促した。

 

「とある子供の居場所を探るための釣り餌になって欲しいっちゅ。そいつは女神たちと一緒にいるから、女神がお前のところに来るしかないような状況を作ってくれれば良いっちゅよ。方法は問わないっちゅ」

 

「・・・あら!?何をやってもいいのね!?ノワールちゃんを眺めながらお仕事してもいいのよね!?ね!?」

 

「お、おう・・・大丈夫っちゅよ・・・」

 

方法は問わない。その言葉に食いついたそいつは恐らくパワードスーツの中で目をキラキラと輝かせていることだろう。それくらいに興味を引けていた。

上手く行ったのは良いものの、その食いつきっぷりにワレチューは思わず引いていた。そして、この後嫌な被害に遭うであろうラステイションの女神に、少しだけ同情してしまったワレチューは悪くないだろう。

 

「あらら~・・・それは良かったわぁ~。それじゃあ、報酬とかいつやるかとか・・・その辺を教えて頂戴」

 

「わかったっちゅ。取りあえずこれが前金っちゅ。成功したらまた追加で払うっちゅよ。・・・それから、通信はこれで頼むっちゅ。コレで繋げば今回の依頼主が出てくるっちゅよ」

 

「なるほど。じゃあ、アナタはその代役ね」

 

投げ渡された通信機を受け取りながら、ワレチューの話を聞いたこいつは痛いところを突いてきた。

さっきまでワレチュー自身が依頼をしに来たと思っていたので、こいつ自身は少し拍子抜けした感じだった。

 

「・・・まあ、そうなるっちゅよ。取りあえずは一度でいいから実行前に繋いで欲しいっちゅ」

 

「了解よ。それじゃあ後で繋いで見るわね」

 

その突かれたところに嫌な思いをしながらも、意地で平静を保ちながらワレチューは必要なことを話していく。

こいつに通信機の使い方を一切説明しなかったのは、すぐに理解できる。もしくは構造をすぐに把握してしまうからだ。

 

「それで頼むっちゅ。ああそれと、実行は三週間後っちゅ。ゴタゴタが片付いてからの方がいいみたいっちゅよ」

 

「ふむふむ。それなら、アタシは暫くノワールちゃんのあんな姿やこんな姿を堪能しておかないと・・・」

 

「そ、そうっちゅか・・・」

 

ワレチューが必要なことを話していて、話しこそちゃんと聞いているものの、ノワールに関する時間が増えるのがわかる度にこんな調子なので、ワレチューは困惑していた。

―はて?こいつはいつからこうだったっちゅかね?ワレチューは首を捻って思い返して見るが、こいつと初対面するときからこうだった気がしてならないので、思い出すのを止めた。

 

「じゃあ、依頼内容も伝えたし、今日も遅いっちゅから、おいらはここいらで帰るっちゅよ」

 

「はいはーい。それじゃあまた今度ね」

 

ワレチューが去っていくのを、パワードスーツの者は手を振りながら見送る。

 

「さぁーてっ!依頼を受けたとあらば、アノネデスだけのノワールちゃんコレクションを増やさないとっ!」

 

パワードスーツを着込んだ存在・・・アノネデスはドアが閉まるや否、そう言って自分の私事に火をつけるのだった。

ゲイムギョウ界のスーパーハッカー・アノネデス・・・その性別こそ男なものの、心は誰よりも乙女であると思っている人物である。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「(あぁ・・・今日もダメでしたね・・・)」

 

黒を基調とした制服のような格好をし、メガネを掛けている薄い水色の髪をしている女性・・・キセイジョウ・レイは落ち込みながら夜の街を歩いていた。

幾らか前までは女神反対運動を行う集団のリーダーをやっていたが、専らビラ配りしかできなかった。この辺りは彼女の臆病にも見える気の弱さが災いしていた。

ラグナがゲイムギョウ界に来てから一か月した頃には突如として失踪。以後はその反対運動に参加していたメンバーもいつの間にか解散していた。

その為もう一度メンバーを集めようとしたのだが、一度失踪したのが影響で全く応じてもらえないでいた。

諦めずに今日も今日とてメンバーを集めようと動いたのだが、一人も集まってくれなかったのである。

 

「はぁ・・・私・・・何がいけないんでしょう?」

 

「何もかもなんじゃねえの?良く知らねえけど」

 

「・・・っ!?だ、誰?」

 

自分の呟きを拾った声に驚いたレイは怯えながら周囲を見回す。

彼女が少しの間見回していると、正面から黄色いフードを被った細身の男がこちらへ歩いて来るのが見えた。

 

「ようやく見つけたぜェ・・・。相も変わらずメンバー集めてんだってな?そんな弱っちぃ心持ちで良くやろうと思ったな?」

 

「ゆ、ユウキ=テルミ・・・!?どうしてこんなところに・・・?」

 

目の前にテルミがやってきていた事実にレイは動揺を隠せない。

テルミは女神を快く思ってない人たちの間で知名度が上がっており、反対運動を行ったレイの耳にもその名は届いていた。

レイと違い、テルミはマジェコンヌらと協力し、実力を持って女神を排除しようと行動していて、反対運動に参加していた人たちもできるのならああやりたかったと、一部の過激派も言っていたくらいだった。

そんな風に女神たちを倒そうとして、独自にでも行動を起こせる彼が、ビラ配りで精々であるひ弱な自分の所に来るとは思ってもいなかったのだ。

 

「どうしても何も、テメェに用があって来たんだよ。連れてくるように頼まれててな・・・とにかく俺と来てもらうぜ」

 

「え?私を・・・?何かの冗談ですよね?私なんて連れて行ったところで何の役にも・・・」

 

「だぁぁ・・・いちいちめんどくせえなテメェは。いいから行くぞ」

 

レイのどこまでも自分を卑下する姿勢にイラついたテルミは舌打ち混じりに吐き捨て、強引にレイの腕を掴んだ。

 

「えっ!?あ、あの・・・本当に、本当に何もありませんよ!?」

 

「キャンキャンうるせぇぞ・・・!あんまり耳元で騒ぐんじゃねぇよ時間考えろや」

 

「ぅ・・・はい・・・」

 

レイが喚きだそうとしたので、テルミは怒気の籠った声で黙らせる。

その気弱な性格もあって、レイには非常に脅しがききやすく、簡単に効果が出る分まだマシだった。

声だけの脅しが効かないなら、一度バタフライナイフを首筋に押し当ててやろうかとテルミは考えていたので、反応しただけレイはまだ幸運だっただろう。

 

「ったく。ようやく黙り込んだな・・・んじゃあ行くぞ。騒ぐんじゃねぇぞ?」

 

「・・・やれやれ、ようやく静かになったか」

 

もしかしたら殺されるかもしれない。そんな恐怖感がレイを無言でうなずかせる。

それを見たテルミはこれで一件落着だと感じた。

 

「よし、んじゃあ行くぞ。少なくともプラネテューヌから出るまでは静かにしてろよ?」

 

「あ、はい・・・ってひゃあっ!?」

 

レイが返事するや否、テルミは『ウロボロス』を使ってレイを連れてプラネテューヌから移動を始める。

その際、心の準備のできていなかったレイから小さな悲鳴が聞こえるが、テルミはそれ一回くらいならいいやと大して気にしていなかった。

 

「あ、あの~!どうしてこんな強引なんですかぁ~っ!?」

 

レイの悲鳴には構うことなく、テルミはそのまま『ウロボロス』を使って戻っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、テルミの言っていた本来の躰とやらはどうする?」

 

「其の事か。それについては女神の細かなデータさえあれば現実味を帯びて来る。詳しくはテルミたちが戻ってきたら話そう」

 

マジェコンヌたちは一通りの調べが終わったので、待機をしていた。

その際、余りにも暇だったのでマジェコンヌはレリウスにテルミの事を訊いてみたのだった。

その話は長いのか、ややこしいのか。レリウスは全員が戻ってきたら話すことに決めていた。もしかしたらかなり重要になるかもしれないので、マジェコンヌは素直に受け入れることにした。

 

「ゲイムギョウ界の人間は興味深い物を持つ存在が多いな・・・それぞれが独自の魂を形作っているから、一度に多くを研究できる」

 

「お前がそういうのなら、元の世界ではそれだけ平凡な存在が多かったのか?」

 

「そうだな・・・お前の観点で見ればその通りだろう。私の観点だった場合、此の世界は独自性に富んだ存在が余りにも多いのだ」

 

レリウスは自分の元居た世界と、ゲイムギョウ界にいる人たちを比較して改めてそう呟いた。

ゲイムギョウ界の人は特徴的な人が予想外に多かった。この世界であったからこそ、レリウスはこの格好で堂々と歩いても「そう言う人」で済ませることができてしまうのだった。

 

「後はあの子供を連れてくる日だが・・・いつ頃にする?」

 

「そうだな・・・手を打つにせよ準備はかなりかかるだろう。どれだけ早くとも一か月以上は掛かる・・・。早くできたとしても、お前たちの負担を考慮すれば少なくとも一ヶ月は待つ必要がある」

 

「ほう・・・お前にしては珍しいな」

 

正直なところ、レリウスがこちらのコンディションをここまでしっかりと把握しているとは思っていなかった。

テルミ曰く、レリウスは以前まで超が付くほどの他人を全く考慮しない人間で、セリカの所在を確認する時は詳しい理由を説明せずにテルミを向かわせたと言っていた。

それに対して今はどうだろうか?現在のレリウスは相変わらず自分の欲望に正直ではあるが、他人の考慮もしっかりとしている。

環境が変われば人も変わると言われることもあるが、今のレリウスは正にそれを体現しているだろう。

 

「私も人なのでな・・・最近になって頼みごとをする時は人のことを考えると学び直したものだ」

 

「・・・!フッハッハッハッハ・・・!まさかお前からそんな言葉を聞ける日が来るとはな・・・!」

 

余りにも予想外過ぎる回答に、マジェコンヌは思わず噴き出して爆笑してしまった。

それだけ今までのレリウスからは考えられない程の衝撃的な返答と言動であった。

 

「はぁ・・・すまんな。思わず笑ってしまった」

 

「構わん。私でも予想外だと自覚している・・・。それより、洞窟の事だが、アレは余裕のある時に改めて調査しよう。今はあの子供を連れてくるのと、本来の目的が優先だ」

 

「分かった。それは後で伝えよう」

 

しかし、そこまで長い時間嗤うことはなく、すぐに立ち直って新たに話を進める。

洞窟のことはレリウスの最大の研究対象と言う訳でもない為、無理に進める必要はない。本来の目的を優先することをレリウスは選んだのだった。

 

「さて・・・後はテルミの躰だったが、アレはどうする?」

 

「其のことか・・・其れについては私に考えがある。詳しいことは全員が戻って来たら話そう」

 

「分かった。それならば一度・・・」

 

「二人共、今戻ったっちゅよ」

 

―ここで小休止とするか。そう言いかけたところでワレチューが帰ってきた。

 

「戻ったか。首尾はどうだ?」

 

「成功っちゅ。・・・相変わらずラステイションの女神のことになると食いつき早かったっちゅ・・・」

 

「まあ、成功ならば良いじゃないか。・・・まあ、面倒であったろうがな」

 

マジェコンヌの問いに答えながらワレチューは脱力気味だった。

ワレチューがこうなった理由もしっかりと理解しているマジェコンヌは、簡単に労いと同情をかけた。

 

「おお。ネズミはもう戻ってきてたのか」

 

「今戻って来たっちゅよ。テルミの方はどうだったっちゅか?」

 

「おう。成功したぜ。その証拠にこいつだ」

 

「あ、ひゃあぁ!?」

 

ワレチューの問いに答えながら、テルミは部屋の中へレイを雑に放り込む。

いきなりだったこともあり、運動神経がそこまで良くないレイは勢い余って、顔から思いっきり地面のタイルにぶつかってしまった。

 

「あ痛たたた・・・うぅ・・・何で今日はこんな目に遭ってばかり・・・」

 

「感謝するぞ。さて・・・早速お前にやって貰いたいことを話そう。とある子供がいてな・・・そいつを私たちが後ほど伝える日に、その子供の親としてそいつの元へ向かい、ここへ連れてきて欲しい。悪く言えば誘拐だな・・・こちらで準備は進めておくから、お前は連れて来るだけで構わん」

 

「え・・・?誘拐ですか!?いやいやいやいやっ!どうして私なんですか!?他に適任な人がいるじゃないですかっ!」

 

レイは痛む鼻を抑えながらマジェコンヌの話を聞いて仰天する。

正直なところ、何故自分なのかと問いたくなる程だった。自分は頭も回らないし、運動神経だって良くない・・・こんな自分をどうして選ぶのだろう?そんな疑問しか出てこなかった。レイからすれば、『ウロボロス』を使いこなせるテルミの方が圧倒的に適任だと思っていたからだ。

 

「そうだな・・・ではその理由を話そう。お前のような立場なら既に知っているかもしれないが、私たちは既に女神どもと武力を持って敵対をしている。そんな私たちがその子供の親と名乗り出ても一切信用しないだろう?

特に『紅の旅人』と『白き守護神』が私たちの・・・特にテルミとレリウスの素性を知っているから尚の事迂闊に赴く訳にはいかんのだ・・・。更に言ってしまえば、各国に最低でも一人はテルミとレリウスの素性を知っている存在が住みついているのでな・・・。これで私たちでは実行できないのは分かってもらえたな?」

 

「あの二人が・・・。・・・理由はわかりました。でも、本当に私で大丈夫なんですか?」

 

ラグナとハクメンのことは二つ名であってもレイの耳には届いており、その事情を聞けば流石に無理だろうというのはよく分かった。

しかし、それでも自分を選んできた理由が解らず不安なのはまた事実だった。

 

「その心配は無い。手はこちらで打つと言っただろう?それに、小さい子供の親と堂々と名乗れるのが丁度お前のような人間なのだ・・・。もし罪悪感に駆られてできなさそうならその子供を決行日は外にいるようにして、鉢合わせたところを連れてくればいい。・・・これだけ用意すればできるか?」

 

「・・・わかりました。ただ、あまり期待しないでくださいね?」

 

レイは話を聞いて、自分でも驚くくらいあっさりと承諾した。

最初は逃げ出したかったのだが、女神をどうにかするならこの人たちに協力するのが一番ではないかと思っての行動であった。

協力したら後戻りはできないが、逆に協力すれば女神を撤廃するというチャンスがやって来る。そんな風に考えたら、意外にもあっさりと腹が括れてしまった。

 

「まあ、最悪は国の外まで連れて来るか、外で出くわした時に知らせてくれればいい。ちなみに今後の事だが、時が来るまではこの施設と今回の計画が私たち以外に伝わらないのであれば、何をしても構わん。外出も同じ条件で許可する」

 

「い、意外に緩いですね・・・」

 

マジェコンヌが出してきた条件はただ一つ。「機密を守ってくれ」・・・ただそれだけだった。

それ以外は余りにも寛大な条件に呆然としつつも、マジェコンヌが意外と優しい人だと思えたレイは少しだけホッとした。

 

「話は以上だ。何かわからないことがあったら後で聞いてくれ。部屋も話が終わったらすぐに用意してやる」

 

「は、はぁ・・・」

 

ただし、それでも色々と言われたので整理をする時間は必要だろう。レイはそう感じながらも、何かできることはないかと考え始めていた。

 

「んあ?話ってこれ以外にもあんのか?」

 

「ああ・・・お前の本来の躰である『スサノオユニット』のことでな・・・一つ策が出来上がった」

 

「おお?マジで!?『スサノオユニット(アレ)』を取り返す手段でも見つけちゃったのか?」

 

レリウスの策だから間違いないことが分かっているテルミは嬉しそうに食いついた。

本来の体を取り戻せるなら、チャンスを最大限に活かして取り戻したいと思い始めていた頃合いだった。

 

「いや、取り返す必要はない・・・女神の細かいデータさえあれば、その手段が実現可能になる・・・」

 

「・・・取り返す必要がねえだぁ?おいおい、お前何をやる気なんだ?」

 

レリウスの回答が今一理解できなかったテルミは思わず聞き返した。

―この期に及んでこいつは何言ってんだ?レリウスを普通の枠に収めてはいけないのを理解していても、流石に疑わざるを得なかった。

 

「私が『創造』するのだよ・・・此の世界での『スサノオユニット』をな・・・」

 

「・・・・・・」

 

レリウスはニヤリと口元を吊り上げながらそう言ってのけた。

それを聞いたテルミは暫しの間硬直し・・・。

 

「・・・はあぁぁあッ!?テメェ正気か!?いやいや、レリウスに限って正気とかそう言う枠に収めちゃいけねぇ・・・てことはお前それさえあればマジで実現可能ってか!?」

 

「ああ・・・回数制限は付くだろうが、あの世界と此のゲイムギョウ界での知識と技術を掛け合わせれば理論上可能だ・・・。此れは此の世界行う私の挑戦だよ」

 

仰天するテルミに対し、制限付きとは言えいとも簡単にできると言ってのけるレリウス。

今回ばかりはテルミも冷や汗ものだった。レリウスはそれだけ戦闘能力などではなく別の方面で規格外だった。

 

「ヒ・・・ヒヒ・・・ケヒヒヒヒッ!ハァ~、最高だぜお前って奴は!そんなの手伝いたくなるに決まってんじゃねえかッ!」

 

「おいらからすればテルミも楽しそうにしてるっちゅけどね・・・まあ、みんなの目的の為って言う建て前抜きでも手伝いたいっちゅね・・・。話を聞いた感じ、『スサノオユニット』はトンでもない物みたいっちゅからね」

 

「頭一つ抜けた発想ではあるが、それが実現すれば女神どもも倒しやすくなるな・・・それならば私も協力しようじゃないか」

 

「感謝する・・・。その為にもお前たちの力を貸してもらおう」

 

それぞれの反応を見せながら賛成を示してくれた三人。それに対してレリウスは素直に礼を言うのだった。

 

「(・・・この人たち、なんだかんだで仲いいんだなぁ・・・)」

 

無理矢理連れて来られたというのに協力したり、その連れて来た人が・・・結構危険な内容ではあるが、仲良く話している姿を見たりしたレイはどこか不思議な気持ちになっていた。

そんな気持ちを感じながら四人の大まかな役割を考えてみる。

 

「(あの魔女みたいな人がリーダー・・・テルミさんは諜報員?このメンバーだと切り込み役も兼ねてそう・・・。で、あのネズミさんがハッカーと交渉員かな?レリウスさんは言うまでもなく研究者・・・アレ?)」

 

そこまで自分のイメージを出して見て、レイはあることに気が付いた。

それは普段の生活をどうにかする人がいないことだった。料理等を行うサポーター的存在がいないものだから、この人たちの食生活が大変かもしれない。

 

「(あっ・・・なら私がやればいいじゃない・・・。私にもこれならできそうだね)」

 

相変わらず大きなことはできないが、縁の下で動くことなら十分にできそうだ。そう考えたレイは後でマジェコンヌに話してみようと心に決めた。

 

「(何がともあれ・・・この人たちについていって見よう。あわよくば、本当に女神たちをどうにかできるかもしれない・・・)」

 

「(此の者たちの協力は大きい・・・私の研究の成果として、此の世界でやるべきことは見えてきたな・・・)」

 

「(また暫く忙しい時間が続きそうっちゅけど、このメンツならつまらないことはないっちゅから、また張り切って仕事するっちゅよ)」

 

「(『スサノオユニット』さえあれば遅れは取らねえ・・・後は完成までどうするかだな・・・)」

 

「(さて・・・これでカードは揃った。後は使いどころをしっかりと抑えれば行ける。女神ども・・・首を洗って待っているのだな・・・)」

 

この五人は各自の目的こそ違うものの、互いの目的を果たすためにそれぞれの目論見を胸に秘め、再び行動を始めるのだった。




実はキセイジョウ・レイ。アニメでは1話から出ているのですが、この小説ではこの話にてようやく初登場となります。
どうしてこうなったんだと言われたら、本小説9話(アニメ1話序盤)でのビラ配りシーンを無しにしたのが響いてますね。
マジェコンヌたちの行う事前準備の為に連行と言う形になったのは、「そういやこのメンバー普通と呼べる人たちいねえな」と思ったのが理由ですね。

さて、ブレイブルーの新作の方ですが、ブレイブルー勢からはようやくハクメンの参戦が決まりましたね。封魔陣も残ってたので一安心です。
発売も近くなってきたので、早くプレイしたいところです。

次回からは少しの間味方側サイドでの話が続くと思います。


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38話 見え始める真実の欠片

今回は味方側の話になります。


ラグナはいつの間にか暗闇の中にいた。その暗さは自分の着ているコートが見えるかどうか怪しいくらいのものだった。

 

『兄さま・・・聞こえる?』

 

「・・・サヤ?」

 

そんな暗闇の中から、自分の呼ぶ声が聞こえた。

しかもラグナを呼ぶその声はサヤそのものだった。サヤと見た目と声が全くもって同じであるノエルかニューの可能性を考えたが、彼女たちは自分を兄さまと呼ぶことは無いので違うと断言できた。

だが、声が聞こえると言うのに姿が見えないことから、ラグナは焦りながら周囲を見回すが、辺りは真っ暗で何も見えやしなかった。

 

「(・・・どこにいやがるってんだ・・・)」

 

辺りが見えないことから、ラグナは焦燥感に駆られて今すぐにでも移動したいところだが、こんな状況で移動すれば間違いなく死ぬと感じ、その思考を捨てた。

とは言え何もしない訳にもいかない為、もどかしく思い始めていたところで、突如として周囲の灯りが付き、周囲の状況がはっきりする。場所はあの時の洞窟に近いものだった。

 

『こっちだよ・・・兄さま・・・』

 

「この奥・・・って事か?」

 

灯りが付いている方が一方行しかない為、嫌でもそちらに行けと言われているようなものだった。

 

「・・・だあぁ、ここで考えても仕方ねえ。今行くから待ってろよ!」

 

深く考えても答えが出ないならと思ったラグナはそのまま灯りが付いている方へ向けて走り出した。

まるで当然の如く、ラグナが走る先には何の障害もなく、いつの間にか前回よりも奥の一本道に入ったとしても気付く事無く走り続け、最終的に奥にある巨大な扉の前にまで辿り付いていた。

 

「・・・なんだ?こんな馬鹿でかい扉なんて見たこともねえぞ・・・」

 

前に来ることができなかった場所はここなんだろうか?ラグナはそう考えた。

というよりは、そう考えることしかできなかった。その理由として、ここが前に来た洞窟に似ていて、現在は少女の声に導かれ、その最奥部に来ているからだった。

今に至る状況を思い返せば、彼女はここにいるだろうということが伺えるものだった。

 

「・・・この中にいるのか?」

 

『うん・・・その扉を開けてこっちに来て・・・』

 

ラグナの問いかけに答えながら少女はラグナを呼ぶ。

その声を聞いて腹を括ったラグナは扉を開ける為に押して見るが、全くもって反応を示さなかった。

 

「・・・あ?どういうことだ?」

 

『兄さま。右腕の『蒼炎の書(それ)』を使って・・・そうすれば開けられる・・・』

 

「『蒼炎の書(こいつ)』を使えったって・・・こうか?」

 

ラグナは右腕を見て疑問に思いながらも、当てずっぽうに右手を扉に押し当てる。

しかし、それだけでは何も効果が無いのは目に見えていたので、扉を開けてみようと右手に意識を集中して見る。

すると右手から蒼い炎が出てきて、それが触れているものに伝うかのように、扉の外枠と扉に書かれている文字が蒼い光に染められていく。

蒼い光が繋がると、その光が一瞬激しくなり、ラグナは思わず顔を左腕で覆う。

少しすると光が弱まったのでラグナが顔を覆うのを止めて扉の方を見やると、その扉を染めていた蒼い光が弱まり、完全に消えると同時にその扉がゆっくりと開いて行く。

 

「・・・・・・この奥だな」

 

ラグナは開いた扉の中に入って行く。その奥に入ってすぐに、ラグナは思わず違う場所に来てしまったのではないかと錯覚した。

 

「な・・・どうなってんだ?こりゃ・・・」

 

今まで岩の壁で構成されていた道が続いていたというのに、周囲は先が全く見えないくらいの空間が広がっていた。

はっきりと分かる物として、自分の背後にある入ってきた扉と、奥に見える何かの白い棺。そして、棺より更に奥にはうっすらと何かが見えていた。

 

「お・・・おい!俺はここまで来たぞッ!どこにいるんだ!?」

 

しかし、肝心な自分を呼んでいた少女の姿が見当たらず、ラグナは辺りを見回しながら呼びかける。

少しの間見回しながら待ってみるが、それでも返事が返ってこなかった。

 

「まさか・・・場所を間違えたか?」

 

『ううん・・・大丈夫。私はここ(・・)にいるよ・・・』

 

「・・・!?」

 

思わず場所を疑ってしまったラグナの疑問を否定するように、少女の声が棺のある位置から(・・・・・・・・)聞こえた。

ラグナは焦りながら棺の方に視線が釘付けになり、恐る恐るそちらへ近づいて行く。

 

「お、おい・・・嘘だろ?」

 

『そう・・・私はここにいるよ・・・兄さま・・・』

 

肯定する少女の声を聞いたラグナがゆっくりと右手を棺に近づけると、視界が一気にホワイトアウトしていった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・!?」

 

ラグナは目が覚めると同時に慌てて飛び起きる。

辺りを見回して見ると、ゲイムギョウ界に来てから以来、自分のために用意して貰った部屋で寝ていたことが分かる。

 

「(今のは何だったんだ・・・?)」

 

ラグナは何かを自分に語りかけようとしていた夢に戸惑う。

夢で片付けられるものでないくらいにない程ハッキリと内容を覚えていることが、それをより強調していた。

時計を見て見れば普段よりも圧倒的に早い時間に起きてしまっており、今から洞窟に行っても帰ってくる頃には朝食の時間になるくらいだった。

ここまで早い時間で洞窟に向かうならば、置手紙を書いてから行くのが良いだろう。

自分の都合の良い方向に考えるのであれば、自分の試したいと思ったことが誰にも邪魔されずに試せるということだった。

 

「・・・こうしちゃいられねぇな」

 

思い立ったが吉日、居ても立っても居られなくなったラグナは手早く身支度を済ませ、普段皆で集まる部屋に向かい、「飯の時間には戻る」という置手紙を書いてプラネタワーを飛び出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

洞窟は最初の二つの分かれ道は完全に同じだった為、ラグナは何も迷うことなくそのまま突き進んでいく。

灯りの付いている間隔や明るさなどは、以前ここに入った時と何ら変わっていない為、一種の不安すら覚える程だった。

また、あの時『少女』と交代してくれたネプギアによってラグナはこの洞窟に立ち入る許可を貰っているのか、『ムラクモユニット』のような存在たちは一切現れる気配を見せなかった。

そうして進んで行く内に、ラグナは前回までに進めた場所まで辿り付いた。

 

「この奥が一本道だったな・・・」

 

ラグナは奥に見える一本道と、この奥から『少女』の気配を感じ取り、体が強張っていくのを感じる。

 

「・・・ここで迷っても仕方ねえな。取りあえず行くか」

 

一度深呼吸して心を落ち着けてから、ラグナは奥の道へと歩き出した。

辺りを見回しながら進んで行くが、相変わらず等間隔で灯りが置かれあり、そこから別れ道の無い極めて分かりやすい道が続いていた。

もし三回目も同じような別れ道であった場合は条件を満たせていないことを疑うが、今回は道が変わっている為、決めるのは時期尚早だった。

なるべく見落としがないようにと、辺りを目視で確認しながら進んでいると、術式通信が飛んできたのでラグナは歩きながらそれに応じる。

 

「・・・もしもし?」

 

『ラグナ、私よ・・・例の洞窟にいるのはアンタで間違いない?』

 

「ああ。今は俺一人で入ってる」

 

術式通信を送ってきた相手はナインで、彼女の問いにラグナは肯定する。

 

『前より奥に進めているのはこっちでも確認できてるわ。何か変わったものは見える?』

 

「いや、まだ何も見えねぇ」

 

ラグナが今いる洞窟の件では、洞窟を侵さないと約束できる者以外が入ると『ムラクモユニット』のような存在が周囲に現れ、侵入を阻止しようとする動きがあることは既に報告されていた。

その為、現在洞窟の出入りの安全を保証書できるのはプラネテューヌ居住組のみであり、他の場所にいるメンバーはタイミングを合わせる必要があった。現状、例外の可能性としてノエルとニューの二人が挙げられているが、ノエルはまだしも、ニューの方は戦闘能力を失っている為、迂闊に調査に乗り込めないでいた。

そんな条件も重なって必然とプラネテューヌ居住組の者に頼りがちになってしまっており、今回の状況もそれを見事に表していた。

現在の状況に思うところがありながらも、ナインはそれを隅に置いてラグナに問いかける。今回はどんな些細な情報でも有益になるからだ。

しかし、ラグナは新しい場所に進んでから間もない為、大した情報は得られていなかった。

 

『流石に進んだばかりじゃ無理もあるか・・・。何かあったら教えてちょうだい』

 

「分かった。・・・ああ。一つ聞いておきたいんだけどよ・・・」

 

ナインはラグナの状況を聞いて仕方ないと思う一方で、ラグナはナインが通信を送ってきた時に思ったことを聞いておこうと思った。

 

『・・・どうかしたの?』

 

「お前・・・まさかだとは思うが、徹夜・・・ってこたぁねえよな?」

 

ラグナは早く起き過ぎたが故にこうして調査に赴いたのだが、ナインの術式通信の時間は余りにも都合が良すぎた為、聞きたくなった。

プラネテューヌにいるメンバーでこの時間に起きているとしたら、早朝から仕事にいかなければならない時のアイエフとコンパくらいのもので、そのような状況の場合、二人は朝食を取りに来たりはしない。

また、女神たちが早い時間から仕事をする時は当然あるのだが、ラグナたち異世界組は行動時間にはそれなりに自由がある。

その為、一日中起きると言う選択肢もあることにはあるが、女神たちの仕事を手伝うことを考えた場合、そうは行かないことが殆どだった。

また、ナインは洞窟関係の資料纏めや、『蒼』の調査等、多忙になりやすい事をを中心に行動しているにもあって、ラグナは徹夜の可能性を示唆した。

 

『いいえ、徹夜はしていないわよ?丁度一時間前まで三時間の睡眠は取っているわ』

 

「・・・お前それ寝てるって言えんのか?」

 

その切り詰められている睡眠時間を聞いたラグナは思わず問いかけるような言い方になっていた。

余りにも短すぎるが、ナインは『エンブリオ』で行ったことの償いを兼ねているのかもしれないと考えたら、無理に責めようとも思えなかった。

ただ一つ、言っておかなければならない・・・というよりは言っておいた方がいいだろうと思ったことがある。

 

「まあ頑張るのはいいけど、寝ることも忘れんなよ?寝不足のお前みてセリカが何か言うかも知れねえから・・・」

 

『そうね・・・。それなら、今日は後で長めに睡眠を取るとするわ』

 

ナインの性格を理解し、セリカとそれなり以上に関わりを持つラグナだからこそ言えた忠告を兼ねた気遣いだった。

セリカが寝不足なナインの姿を見て、その理由を知ったら無理を言ってでも休ませようとしたり、大げさに何かされるかもしれないので、ナインもそれを素直に受け入れるのだった。

その後は特に会話の無いまま移動が続いていき、暫くして変化らしい変化と遭遇することになる。

 

「ナイン。ここから奥なんだが、道が少し狭くなってる」

 

『ちょっと待ってて。マーカーを掛けるわ』

 

ラグナは進みゆく道が狭くなる場所に当たった為、ナインに連絡を入れた。ちなみにここまでの道のりは別れ道すらない真っ直ぐな一本道であった。

知らせを受けたナインはコンソールを操作してラグナが立ち止まっている場所を記録した。

ナインが見ているモニターには記録が完了した証に、ラグナがいた場所に赤い点が付いた。

 

『完了したわ。そのまま奥に進んでいいわ』

 

「分かった」

 

ナインに促され、ラグナは更に奥へと進んで行く。

今度確認できる変化はすぐに見つかることとなった。今まではやたらと長かったのに、今回はものの五分もしなかった。

 

「・・・!こいつは・・・!」

 

『・・・ラグナ?どうしたの?』

 

「ああ。こいつを見てくれ・・・ちょっとした発見だ」

 

ラグナは実際に見てもらった方が早いと判断し、ナイン宛てに目の前に見えている物を術式で中継した。

 

『・・・扉?どうしてこんなところに・・・』

 

「なんでかわかんねえけど、こんなところにあった・・・」

 

ナインとラグナは純粋に驚きを示した。目の前には巨大な扉があったからだ。

 

『・・・?妙ね・・・少しずつ通信の調子が悪くなってきてる・・・』

 

「ってぇことは、ここが洞窟の最重要機密なんだろうな・・・」

 

ラグナに中継してもらっている画面は少しずつノイズが走り出している為、そろそろ限界であることを示していた。

呟き気味にナインへ返答するラグナだが、彼の心境はそれどころでは無かった。

 

「(・・・おいおい、どういうことだよ?何だってこうも夢の内容と被ってんだ?)」

 

扉を見た瞬間、ラグナは夢の内容と今回の洞窟の中を照らし合わせて動揺していた。

夢の中では走っていたから気付く余地も無かったが、今回歩いてきた道を思い返して見ると、信じられないくらいに一致していた。

あの時に見た夢はただの夢どころか、何らかのメッセージのようにすら思えてきた。

 

「・・・ナイン、通信の状況は?」

 

『残念だけど、もう限界ね・・・一度ここで通信を切るから、後で教えてちょうだい』

 

「分かった・・・じゃあ、また後でな」

 

どうやらこれ以上は通信が続けられないという、洞窟特有の異常事態が起きたので、ここで通信を切ることになった。

 

「(確か・・・夢のなかじゃ・・・)」

 

ラグナは右手を見つめながら思い返して、それを実行する。

右手を扉に触れて意識を集中させると、夢の時と同じように蒼い炎が現れ、扉を蒼い光が覆っていく。

しかし、いつまで経っても扉が開くことは無かった。

 

「・・・?半分だけだと?」

 

違和感を感じたラグナが扉を見てみると、夢の時と違い、扉の右半分しか染まっていなかった。

 

「どうなってやがんだ一体・・・」

 

『兄さま・・・』

 

「・・・!?」

 

その事態にラグナが疑問に思っていると、突如として現れた蒼い球体から少女の声が聞こえ、ラグナは思わず凝視する。

 

「お、お前は・・・?」

 

『ごめんなさい。時間が無いから用件だけ話すね・・・』

 

ラグナはその姿を見て思わず妹の名がよぎった。

しかし、蒼い球体となって話す少女の正体を知るには時間が足りないらしく、少女は用件を話すだけの時間しか残されていないようだ。

その為、ラグナは彼女の正体のことを諦めるしかなかった。

 

「・・・用件?」

 

『うん。この扉なんだけど、『蒼』を使うこと自体は間違ってないけど、兄さまだけじゃダメなの・・・』

 

「俺だけじゃ・・・?他には誰を呼んでくりゃいいんだ?」

 

時間が無いと言われていたので、ラグナは率直に聞くことを選んだ。

とは言え、『蒼』を使うという選択が間違っていないと言われただけ今回は相当マシな結果を出せている。

その事もあって、ラグナは幾分か落ち着いて話を聞く準備ができていた。

 

『兄さま以外にもう一人・・・『蒼を手にする人』、もしくは『蒼を手にする資格を持つ人』が必要なの・・・次来る時は、その人と一緒に来てね・・・』

 

「・・・『蒼を手にする』・・・?」

 

『蒼』が選ぶのは純粋なる力であり、『善』や『悪』は関係ない・・・これはテルミが言っていた事だった。

しかし、気掛かりなのはラグナのように『蒼』を持つ人ではなく、『蒼を手にする人』か『蒼を手にする資格を持つ人』と言ってきた事だ。

少し紛らわしい話を受けたラグナは疑問が残る状態だった。

 

『・・・残念だけど時間みたい。また会おうね、兄さま・・・』

 

「あ、おい・・・!」

 

ラグナは慌てて少女を呼び止めるが、すぐに蒼い球体が消え、同時に少女の声も聞こえなくなった。

 

「・・・取りあえず『蒼』絡みか・・・こりゃ、ゲイムギョウ界にもあることはほぼ確定だな・・・」

 

少なくともこの世界の根底がほぼ確実に覆るだろう。

僅かに見えてきた手がかりを頼りにするしかないが、それでも少女を見つけられる可能性が上がったのが分かり、ラグナは希望を見出して洞窟を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・えっ!?一番奥まで進んだ!?」

 

ラグナの提案によって、現在各国で通信をしながら朝食を取っている。今回は術式通信ではなく、通常の端末を使ってのものになる。

そして、早速飛んできたラグナの報告にネプテューヌが驚きの声を上げたのである。

驚きの声を上げたのはネプテューヌなだけであり、他の人たちも驚きのあまり言葉が出ていなかった。

ちなみに、ピーシェは昨日遊び過ぎたのか、まだ寝ていたので起こしていない。

 

『あの後中には入れたの?』

 

「いや、ダメだった・・・何でも、アレを開けるには俺以外に『蒼を手にする人』か、『蒼を手にする資格を持つ人』がいないとダメらしいんだ」

 

先に情報を知っていたナインだけは唯一例外で、ラグナに話を振ることができるくらいに落ち着いていた。

だが、ナインに問いかけられたラグナは、あまり良くない結果と頭を抱えたくなるヒントを話した。

 

『・・・あれ?『蒼を手にする』って人ならノエル姉がいるよ?』

 

『そっか・・・ノエルちゃんは持ってるんだったね・・・』

 

ニューが思い出したように言った一言で、セリカもそのことを思い出した。

セリカもラグナとノエルと共に、『クシナダの楔』の場所へ向かう際にその力を目の当たりにしている。

異世界組のメンバーだけで会話していたのであれば何も問題なかったのだが、ゲイムギョウ界組は事情を知らなかったのでそうも行かなかった。

 

「えっ・・・?あの、すみません。そのお話は初耳なのですが・・・」

 

「・・・アレ?そういや話して無いんだっけ?」

 

『・・・どうやら、此の事を話すのは忘れていたようだな・・・』

 

イストワールの発言を聞いたラグナとハクメンがハッとして呟いた。

短期間に何人も人が来たのもあったり、『少女』のこともあったりとで、今まで完全に失念していたのだった。

 

『なら、私の持っている『蒼』のことを話しておきますね』

 

知らなかったのならば今話してしまおう。そう考えたノエルが切り出して、自分の持つ『蒼』の力を話した。

ノエルの持っている『蒼』は、向こうの世界では『マスターユニット』の眼の代わりとなって世界を観測できる力を持っていて、見たものを『事実』として観測すれば、それこそどのような事象でも『事実』になると言う代物であることを最初に話した。

しかし、この世界では『マスターユニット』の存在が確認できないままだが、何故か観測が可能であると言う事態になっていた。

その為、考えられる理由としては、この世界にも『マスターユニット』と同等のものが存在すると言う考えだった。

ただし、ハクメンが『マスターユニット』の影響を殆ど受けてないも同然な状態である為、それは肯定し切れるものでもなかった。

ちなみに、ノエルが『眼』の力を入手できたのは、ラグナとニューが融合して『黒き獣』になると言う予定調和を変えたからであることを全員が改めて確認することになった。

 

『無い筈の物をある物に変えるって・・・。とんでもない力ね・・・』

 

「けど、ノエルが『眼』の力を手にするのに、あの行動はこれ以上無かったものだな・・・」

 

その話を聞いたノワールが啞然とし、ラグナは当時のことを思い返す。予定調和を覆すと言うのは、それだけでも相当な力を持つ証明になり得る事だった。

 

『ニュー・・・何だか謝らなきゃいけない気がする・・・』

 

『だ、大丈夫だよ・・・!そんな引きずろうしてるわけじゃないから・・・!』

 

罪悪感が湧いてきたことで落ち込み出したニューを、ユニが慌ててフォローしようとする。

異世界組の人たち・・・その中でも特にニューと密接な関係にあったラグナですら、ニューのことをもう責めようとは思っていなかった。その為、この件はニューの気持ちの問題であった。

 

『その能力がどんなものだったとしても、テルミのような人に渡らなくて良かったわ・・・』

 

《ええ・・・あんな男に渡るようなことがあれば、それこそ世界が終わってしまうわ・・・》

 

ブランの感想にはラケルのみならず、全員が首を縦に振って肯定の意を示す。

ノエルの持つ『蒼』は、ラグナ程強大なものではないにしろ、テルミが持った場合は狙い通りの事象を事実にされてしまうだろう。

そうなってしまえば、テルミの望む世界を作る速度が急激に早くなってしまうので、そんな事態にしたくはない。

 

『・・・こうしてまた一つ重大な話が出たわけだけど、当然テルミたちも知っていることだから、盗られないようにね?』

 

「ああ・・・盗られちまったら、本当に大変なことになるからな・・・」

 

『・・・・・・』

 

ケイの言ったことは紛れもない事実である為、ラグナとノエルは特に気を引き締める。

実際のところ、テルミが『スサノオユニット』を取り戻した直後にノエルは一時的にテルミの手中に収まってしまっていた為だ。

『エンブリオ』での戦いはラグナとジンがテルミを『スサノオユニット』から引きはがし、その後『蒼の境界線』での一騎打ちでラグナが打ち勝ったことで阻止しているが、次も上手くいくと言う保証は無かった。

 

『ところで、奥まで進むと術式通信すらまともに機能しなくなると聞きましたが・・・』

 

『ええ。洞窟の最奥部・・・そこにある扉の前まで来ると、その先は現場にいる人たちしか情報を知ることができないわ・・・』

 

ベールの問いにはナインが肯定する。

今日の早朝にラグナと共に確認した情報であった為、この情報は二人以外には最新の情報となっていた。

とは言え、洞窟の情報は何も良いものばかりではなく、侵入したものを迎え撃つ為に用意されたであろう『ムラクモユニット』に酷似した存在たち、徹底的な情報隠蔽が洞窟内で行われているなど、悪い知らせの方が多い。

特に前者はかなり悩ましいもので、洞窟に向かう際は、『ムラクモユニット』たちに敵でないことを伝えられる存在が必須となってしまっている。

 

『・・・それだけ、よっぽど見せたくない物があるんだね・・・』

 

「(・・・まるで『素体』を隠してる『統制機構』の黒い部分みてえだ・・・それに、奥にあるのは本当に棺なのか・・・?)」

 

セリカは洞窟に向かうことが、何か悪事を働いているのではないかと言う罪悪感を僅かに感じていた。

根っからの悪意がまるで無いセリカだからこそ、今回の話を聞いて洞窟への調査が、他人の住まいに不法侵入、或いは強制捜査をしているように感じてしまったのだ。

一方、『統制機構』の奥へ侵入することがあって、そう言ったことへの抵抗感が極めて薄れてしまっていたラグナは夢の内容を思い返しながら考え込んでいた。

余りにも鮮明に長時間覚えていることが不思議なくらいだが、今回の情報は覚えているだけ調査に役立つものだと考えていた。

とは言え、夢の内容を話しても信じてくれる人はいない為、こればかりはラグナのみの独自資料に留めるしか無かった。

 

『ところで、この後はどうしますか?条件に見合う可能性を持つ人がいるわけですし・・・』

 

「そうだな・・・ノエル、お前は今日の予定開いてるか?」

 

『はい。空いてますよ』

 

ミナに振られたので、ラグナは早速ノエルに確認を取って見る。

案の定ノエルの予定は開いていた為、ラグナは早速本題を切り出せることになった。

 

「なら、俺がこの後すぐにラステイションに行くから、洞窟に行こう・・・。確かめてみてえんだ」

 

『それはいいんですけど、ラグナさんは大丈夫なんですか?今朝も往復したばかりですし・・・』

 

「ああ・・・そうだったな・・・」

 

ラグナはノエルに言われて少し考え込む。

セリカ程ではないにしろ、ノエルも中々意志の固い面がある。その為、ラグナは強引に物事を進められそうに無かった。

 

「・・・じゃあ、洞窟に現地集合でいいか?出入口の位置情報は送っとく」

 

『はい。そうしましょう』

 

妥協案として出した結果・・・というよりはこれしか無かった案を出せば、ノエルは承諾してくれた。

これでこの後の予定は決まったので、後は実際に行動するだけだった。

 

「それでは、情報の共有もできましたし、一度ここまでにしましょう。何か重大なことが分かったらまたこの形を取りましょう」

 

『ええ。それではまた・・・』

 

イストワールの提示したことに返事をしながらチカが通信を切ったことを皮切りに、連続で残りの二国との通信も終了した。

 

「さて・・・じゃあ、俺は行ってくるよ・・・」

 

「ラグナさん・・・あまり無理はしないでくださいね?」

 

ラグナは席を立ち上がってすぐに移動しようとしたが、ネプギアに声をかけられて一度立ち止まる。

恐らくは、この世界で真っ当に生きるつもりなラグナだったが、やるべきことを見つけた今、異世界組の人たちが知る荒れていた頃に戻るのではないかと心配してのものだろう。

 

「ああ・・・そのつもりだ。取りあえず、終わったらすぐに帰ってくるよ」

 

ラグナ本人にそんなつもりは毛頭も無かったのだが、それだけでは足りなそうなので、すぐに戻ってくることを宣言し、部屋を後にした。

 

「(・・・代われるなら代わりたいところだけど、それができないのが悩ましいな・・・)」

 

この時ばかり、ラグナと見間違えられるのに決定的に違う時だけどうしようもない。そんな自分を改めて認識したナオトは歯がゆいものを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ここが・・・今日言っていた場所ですね?」

 

「ああ・・・。取りあえず一番奥まで進もう。話はそれからだ」

 

通信を終えてから少しして、ラグナとノエルは洞窟前で合流を果たし、中に入った。

ラグナが一歩前を進む形で洞窟の中へ進んで行き、二つ目の分かれ道を進んでいる最中に、『ムラクモユニット』のような存在が現れた。

 

「・・・!?」

 

驚いたノエルは反射的に『ベルヴェルク』を引き抜こうとするが、ラグナが左手を前に出して止まるように促す。

 

「こいつらは攻撃したら攻撃するタイプだ・・・。ここは俺がやるから任せろ・・・」

 

「・・・えっ?でも・・・」

 

「いいから。ちょっと待ってろ」

 

この場合は言うよりも見てもらった方が早いため、ラグナは無理矢理話を進める。

 

「悪かったな・・・。こいつは俺たちの身内だから、戻ってくれていいぜ」

 

ラグナの一言を聞いた『ムラクモユニット(彼女)』たちは、一度頭を下げてから霧散ように消えていった。

 

「消えた・・・?それに、今の姿は・・・」

 

「・・・何であの姿をしてるのかはわかんねえが、どうやら俺とネプギアは無条件で平気みたいだ。んで、俺たちがあいつらに身内だって伝えてやれば引いてくれる。

今解ってんのはそんなところだな・・・」

 

「・・・・・・」

 

やはりというか、一度落ち着いた状況になればノエルは彼女たちの姿に驚きを示した。

ラグナは無理もないためそのことを責めたりはせず、現在の段階で解っていることだけ話した。

しかし、ノエルに取っては無視できない要素が強く、今一つ納得出来てない状態だった。

 

「・・・そろそろ進むか。ここからは一本道だから迷うことはねえ」

 

ラグナはこれ以上悩んでも仕方ないと割り切ってノエルに先を進むと促す。

再び先程と同じように、ラグナがノエルの一歩前を先導する形で中を進んで行く。

 

「ここ・・・洞窟にしては設備が綺麗すぎませんか?」

 

「お前もそう思うか・・・何度見てもそう思うんだよな・・・コレ」

 

どうやらノエルも灯りなどをみてそう感じたらしく、ラグナも同意していることを伝えた。

誰も踏み入れたことが無かったと言う事前情報もあったので、尚更そう感じるのだった。

そして、暫く進んでいると、道が狭くなりだす所まで辿り着いた。

 

「あっ・・・道が狭くなってる・・・」

 

「扉はこの奥だ・・・行くぞ」

 

そのまま更に奥へ進んで行き、ものの数分歩くと扉の前に辿り着くことができた。

 

「着いたぞ。ここが最奥部だ」

 

「これが・・・さっき言ってた扉ですね・・・」

 

その扉をみて、ノエルは妙なものを感じていた。

それも、まるで鏡写しの存在が自分を呼んでいるかのような感じだった。

 

「取りあえず、さっきみたいにやってみるか・・・」

 

「さっき・・・?ラグナさん、何をやるんですか?」

 

「この扉を開けられるか試すんだ。『蒼』を使う必要があるけどな・・・」

 

ラグナはノエルの問いに答えながら右手で扉に触れ、意識を集中させる。

すると、先程のように右側半分が蒼い光に包まれた。

 

「・・・やっぱり半分か・・・。ノエル、お前もやってみてくれ」

 

「は、はい・・・でも、どうやって・・・?」

 

ノエルが戸惑う姿を見て、ラグナは自分以外やり方を知らないことを失念していた。

しかし、話さないことには進まないのがオチである為、正直に話すことにした。

 

「扉に触れて意識を集中させるんだ・・・そうすりゃできる」

 

「わかりました・・・では、いきます・・・!」

 

ラグナの簡単な説明を受けたノエルは左手で扉に触れ、意識を左手に集中させる。

ラグナと違って、扉に触れている方の手に蒼い炎は出ていないが、それでも扉を少しずつ蒼い光が包み始めていた。

 

「(・・・いけるか?)」

 

その状況を見て僅かに期待を感じたラグナだが、期待した通りの結果は返ってこなかった。

 

「半分の・・・更に半分?」

 

「・・・外れたか・・・そんな簡単にできるとは思っちゃいなかったが・・・」

 

左側の扉は全体が覆われる訳ではなく、下側の半分しか蒼い光が行き届いていなかった。

その事実にノエルは戸惑い、ラグナは落胆する。希望を一つ潰されたような気分だった。

 

「暫く使っていなかったからか・・・?」

 

「いえ、これは私の練度以前に、ラグナさん以外で既に『蒼』を所有している人は外されている可能性がありますね・・・」

 

「そっか・・・言われてみればそれもあり得るのか・・・」

 

ノエルが出した可能性に、ラグナは正直に肯定する。現状はその可能性が一番高かったからなのもそうだった。

 

「・・・しょうがねえ。戻ってイストワールに話すか・・・」

 

「そうですね。私もケイさんに伝えないと・・・」

 

これ以上は調査を継続できないので、二人は来た道を戻り始めるのだった。




この章は度々洞窟の話を挟むことになりそうです。

勇者ネプテューヌの方、サブタイトルが遂に決まりましたね。
『世界よ宇宙よ刮目せよ!! アルティメットRPG宣言!!』と言うサブタイトル・・・中々インパクトのデカいものでした。
こちらは発売日が9月の27日の予定になっていますね。5月31日だったら私のお財布が死んでいました・・・(汗)。

オリ回の方は後2、3回続くと思います。


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39話 姉妹の揃う時

タイトルで大方察しが付くと思います・・・(笑)。


「へぇ・・・向こうじゃ随分とシスターの行動が染みついてるみてえだな」

 

ラグナはネプギアに買い出しを頼まれてラステイションに来ていた。何でも、ダウジングマシンを自分なりに改良してみたいからパーツが必要なのだが、ネプテューヌと共に行く仕事が入ってしまっているから今日は行けないそうだ。

その為、代わりに必要な物を買って帰路に着いたところで、ノエルとニューの二人と合流したので、現在は話しながら町中を歩いている。

ノエルが向こうの世界でシスターをやっているという話を思い出したので、気になったラグナはノエルに訊いて見たところ、予想以上にしっかりとやれているようだったので一安心した。

 

「でも、まだまだですよ・・・。私一人でやってた訳じゃないので・・・・」

 

ただし、ノエル自身はそこまで嬉しそうにしていない。

その大きな理由としてはセリカが一人でラグナたち三人の世話をしながら、自分よりも多忙な一日を何の苦も無さそうにしていたからだろう。

とは言え、ノエルがセリカと比べて圧倒的に日が浅いので、その点は仕方ないと言える。ラグナからすれば、シスターの仕事を真っ当にこなしているだけでも十分に凄いことだった。

 

「そんなことねえよ・・・俺からすりゃ、どっちも十分立派にやってるさ。そこに上下なんてありゃしねえよ・・・」

 

だからこそ、ラグナは正直に伝えることにした。

サヤを連れ去られてしまい、統制機構の裏の事情を知ったラグナは大罪人になってしまっているので、シスターとして頑張っていた二人が眩しく見えるのだった。

周りにいるのが事情を知った人たちだからそこまで責められてはいないが、元大罪人と言う言葉だけを伝えたら普通は混乱すること間違いなし。最悪は警察沙汰だろう。

そんなこともあるので、この事は信頼できる人にしか伝えられないし、無理に伝える必要もない。一人で抱えて行くのが正解なのだろう。

 

「それによ・・・」

 

「・・・それに?」

 

どちらも立派にやっているという発言は紛れもなく本音だが、もう一つの本音を伝える為、ラグナは一度前置きを作る。

ノエルが首を傾げたところで、ゆっくりとニューに向けて指を指す。

 

「他人と協力したとは言え、お前にしかできなかったことはあるだろ?その証拠に、お前の隣で元気にしてる奴がいる・・・それで良いじゃねえか」

 

「・・・!」

 

ラグナの言った一言で、ノエルはハッとする。

ラグナはあの時、自分にも力があったらシスター(セリカ)と一緒にジンとテルミを止めることができなくとも、せめてサヤを守ってやれたかもしれないと今でも思うことがある。

それに対して、ノエルはニューのことを諦めず、自分たちと協力したことで最後は暖かく迎えることができている。

勿論、このことは家族と一緒に帰れるというノエルにとっても、暗黒大戦時代での経験から大切な人たちを護る。苦しんでいる人たちを助けると決めたラグナにとっても喜ばしい結果となった。

ラグナの言った通り、現にニューは平時でも明るい顔になることが多くなっており、ノエルと出かける時はあまりの元気の良さにノエルを振り回す光景がよく見受けられている。

ネットで調べた限りだと、その光景は最近になって見られるようになった、ラステイションにおける微笑ましい光景の一つとして度々取り上げられているそうだ。

 

「ラグナとノエル姉が諦めなかったから、ニューはこうしていられる・・・。だから、本当にありがとう・・・」

 

「ニュー・・・そうだよね。私にも・・・ううん。私だからできたこと、確かにあるんだね・・・」

 

ニューが笑顔で礼を言ったのを見て、ノエルはこみ上げてくる想いに任せてニューを優しく抱きしめる。

様々な因果が重なり、諦めない意思と実行できる力が兼ね備えられたからこそ、ニューを助け出すことに成功しているのだ。

だからこそ、ニューは感謝の意を言葉で伝え、それを受け取ったノエルは今のように抱きしめることで応えてやるのだった。

 

「(本当に良かった・・・。助けることができたから、ニューは新しい道を選べてる・・・。それだけでも儲けモンだ・・・『蒼炎の書(こいつ)』の力も捨てたもんじゃねえな)」

 

ラグナは目の前に映る微笑ましい光景を見た後、己の右腕を見つめる。

手に入れてから間もない頃はこんな力があったところで、己の自己満足の為に他人を傷つけるだけのどうしようもないものだと思っていたが、今はそうではなかった。

そんな危険な力でも、使い方さえ間違えなければ多くの人を助けられる力に変わる。

ラグナがそう言った認識ができるようになったのは、暗黒大戦時代でセリカたちと共に行動した部分が大きく、今回ニューを助け出したことで改めてそれを実感することができたのだった。

 

「そういうわけだから、今のうちに楽しもう!後で向こうに行こうよっ!」

 

「えぇっ!?い、いいけどまたお金の使い過ぎで怒られちゃうよ・・・?」

 

ラグナが考え事にふけっていると、いつの間にかニューがノエルを振り回すと言ういつもの光景になっていた。

どうやら今まで自由な行動ができなかったニューは新しいことを始めて見たり、ハマったものにのめり込んだりしているのだが、その都度金を使うことが多い余り、ノワールに注意されることがあるようだ。

しかし、ノエルはノエルでニューの事を考えて強く拒否できないが故に、ニューは更に振り回して・・・という悪循環が出来上がっていたのだった。

 

「(これからも、俺は『蒼炎の書(この力)』を護る為に使う・・・俺の大切な人たちと、多くの平和に暮らせる人たちの為に・・・)」

 

とは言え、ニューが問題なく日常に溶け込めているその光景を見ながら、ラグナは右手を握りしめて決意を固めるのだった。

全ては和平を結んでから、トラブルが起きながらも確実に平和になっていくゲイムギョウ界の為に・・・。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

ノエルが蒼い球の中に入ってから半日が経った早朝。ラムダは一人で帰りを待っていたが、彼女が帰ってくる気配は一向に無かった。

彼女に言われた通り、手始めにシスターとしての活動準備に支援してくれていたカグラの所へ連絡を入れれば、「一日もしないうちに調査に人がくるように手配する」と言ってくれた。ノエルが突如としていなくなったのはかなり驚いているようだった。

ノエルが居ない分、自分でできる事をやっていこうとしたのだが、料理以外の殆ど全てをノエルが担当していたのが仇となり、一日でものにできるようなものではなかった。

 

「・・・・・・成功・・・・・・」

 

床掃除を終えて上手く行ったことが分かったラムダは小さく微笑む。

今現在、床の掃除くらいならどうにか自分一人でもできるのだが、洗濯物はこれから干すのでまだ解らず、取り込む時は思いっきり外にある草むらに付けたまま持って行ってしまっていたので、全くできる気配がしなかった。

朝食は一人分であったが為にすぐに準備が終わり、一人であるが故に無言で食べた結界、ものの十分で食べ終わってしまった。その後の片付けも一人分だけだったこともあって大した時間を要さなかった。

そして、本来自分が担当している朝の分が終わったラムダは、そのままノエルがやっていた事を一つずつやっていこうとして今に至っている。とは言え、半日しか経っていないので殆ど何も解らず終いな状態ではあるが・・・。

どんなに遅くとも夕方には人が来るという話ではあったが、時間次第では食事を用意しておかねばならないと感じたラムダは早めに昼食の用意を始めようと考え、食材のしまわれている場所に向かおうとする。

 

「・・・・・・」

 

しかし、その途中でニューがいた部屋にまだ蒼い球が残っている状態であることが一瞬だけ目に入ってしまい、ラムダは足を止めてその部屋に入る。

半日しか経っていない為、部屋の状態は何も変わっていない。強いて言えば、夜間冷え込まないように窓を閉めたくらいだった。

そして、半日前と全く持って同じ場所にその蒼い球は浮いていた。

 

「この中に・・・二人が入っていった・・・」

 

ラムダはその蒼い球を暫しの間見つめる。

もしかしたら、これを見た事が原因で、ノエルは何かを思い出してしまったのではないかと考えたからだった。

ラムダはこの時知らないが、ニューとノエルの場合は効果がすぐに出ていた。その例に溺れずラムダにもすぐに効果が現れる。

 

「・・・!?」

 

この時の突拍子でラムダは幾つかの物事を思い出した。

まず初めに自分が本来は『次元境界接触用素体』の一体であることを思い出した。しかし、これ自体はラムダ自身がそこまで重く捉えていないため、重要ではあるが然程問題にはならなかった。

また、短い期間ではあるが、ココノエの下で活動をしていたこともあったが、こちらも恐らくは記憶程度に留めておく程度で構わないだろう。これはあくまで以前がそうであったということであり、今は違うからだ。

しかし、最後の一つ・・・これだけはどうしても忘れる訳にはいかない。否、忘れたくないと言った願望に近いのかもしれない。

 

「ラグ・・・ナ・・・」

 

元々は記憶等全てを抹消された所に『境界』に落ちたニューの魂を定着され、以後はココノエの駒として動いていたが、ラグナに対する想いが蘇ったことで命を投げ捨て、命令違反を犯してまで庇ったことがある。

ただし、これは以前のニューのように、「自分以外にラグナを取られるのは嫌だ」等の悪感情というよりは、「ただ助けたかった」という咄嗟の行動に近かった。

ただそれでも、当時のニューと比べれば非常に純粋な気持ちを持っていたと言え、『エンブリオ』で持っていた『願望(ゆめ)』もラグナに会いたいと言う、非常に些細で純粋なものだった。

そのことから、彼女は最も自力で叶えることのできる『願望』を持ったと言える。

 

「・・・うん。もう一度・・・会えるなら会いたい・・・ラグナに・・・」

 

その純粋な願いは記憶が戻ると同時に思い起こされ、ラムダはその気持ちに従って蒼い球へ手を伸ばす。

ラムダが蒼い球へ手を伸ばすと、その球は強い光を放ち始め、次第にラムダの視界を覆っていく。

そして、その光が消える頃には、ラムダの姿が見当たらなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

体に何かが当たっているのを感じ、ラムダは目を覚ました。

どうやらいつ間にか眠ってしまったようだ・・・と片付けたかったのだが、いきなり木々に囲まれている場所にいたのでそういうわけにもいかなかった。

 

「・・・現在位置の詳細情報・・・特定・・・ゲイムギョウ界・・・初めて聞く名前・・・」

 

情報をくみ取っただけではあるが、自分が異世界に来てしまったことが判明した。

そうであるならば普通は戻るべきなのだろうが、自分がそうしたくて来てしまったのを覚えている為に踏みとどまる。

また、ラムダの格好はシスターの格好ではなく、『ムラクモユニット』を起動する前の格好でいたが、ラムダ自身は特に気にしていなかった。

 

「・・・うん。どうせならラグナに会ってから・・・」

 

ラムダは帰るならそれからでも遅くないと考えていた。何せ自分がその人に会おうと思って飛んできてしまったのだから、目的は済ませておきたい。

そう思って早速ラグナの場所へ向かおうと思ったが、肝心な居場所が解らず終いだった為、辺りを見回すものの、木々に囲まれていて、殆ど効果を成さなかった。

このまま当てずっぽうに移動すればラグナに会える確率はかなり低いが、何もしないでこの場で待つ事を選んだ場合は限りなくゼロに近くなると判断したラムダは、木々に囲まれている状態から脱する為に移動を始めようとした。

 

「◎#=%×~・・・」

 

「・・・・・・?」

 

しかし、ラムダが歩き出そうとした瞬間に、彼女を呼び止めるように何かの声が聞こえた。

その為ラムダは一度足を止めて声が聞こえた方へ顔を向けると、その声の主に驚くことになった。

 

「・・・・・・ターター・・・?」

 

「◎#=%×~・・・♪」

 

ラムダが見つけた黒い体を持つ虫のような存在・・・ターターは見つけてもらったことを喜ぶような声を上げ、体を左右に揺らして喜びを表現した。

ターターは以前、ラムダがアラクネに襲撃されラグナに救出された時、そのアラクネの体内からはぐれ、取り残されてしまった存在だった。

ラグナがラムダのマスター・・・つまりはココノエを探すのを手伝う際、ターターに興味を引かれたラムダは、そのターターも連れていくことにしたのだった。

しかし、アラクネの体内にいなければ栄養などといった、活動に必要な成分をターターは確保することができず、その先は極めて短いものとなってしまったのだった。

そんなターターが目の前にいるのだが、宿主はいないのだろうか?そんな不安がラムダの心の中を支配した。

 

「あの宿主はいないの?」

 

「◎#=%×~・・・」

 

ラムダの問いかけに、ターターは首を振って否定の声を上げる。

ターターは自分の言葉が通じないのが分っているのか、自分の意志などを主張しようとする際、必ず身体も一緒に使うのだった。

その為、この世界にアラクネは存在していないことがラムダはすぐに分かった。しかし、それだけでは疑問が解決しない。

 

「・・・体は大丈夫なの?」

 

「◎#=%×~・・・」

 

アラクネがいないとターターは必要なエネルギーを確保できない。その為ラムダはターターに再び問いかけるのだった。

そして、その回答はどういう訳か、アラクネが全くいなくとも平気かのような返答を感じられた。

もしかしたら、ターターにとってはラムダと再開できたことの方が嬉しいのだろうか?そんな雰囲気を感じさせる声だった。

 

「そっか・・・それならよかった」

 

「◎#=%×~・・・♪」

 

どうしてそうなっているかは解らないが、ターターが縛りなく活動できるようになったのが分かって安心したラムダは笑みを浮かべた。

ターターもラムダが嬉しそうにしてくれて安心したのか、それとも自分も嬉しいのか、喜びの声を上げていた。

 

「ターター、近くに何かある?」

 

「◎#=%×~・・・」

 

ラムダは早速ターターに訊いてみることにした。ターターが自分よりもこの世界に詳しい可能性が十分に考えられたからだ。

ターター自身は町などであれば解らないが、落ち着くことのできる場所なら知っているとでも言いたげだった。

 

「じゃあ、案内を頼める?」

 

「◎#=%×~・・・♪」

 

ラムダに頼られたのが嬉しいのか、ターターはその小さな体を跳ねるように動かして先に進んで行く。

そんな姿を微笑ましく思ったラムダは、置いていかれないように、そして見失わないように、気を付けてターターについていく。

そして、ターターについていって辿り着くことができた場所は木々に囲まれている湖がある場所だった。

 

「ここ・・・?」

 

訊いてみれば、ターターは無言で肯定した。

ターターがいかにもリラックスしているような姿勢を見せたので、ラムダも湖を眺めてみると、自然と心が落ち着いて行くのが感じられた。

暫しの間その場で湖を眺めている内にそよ風が優しく吹き付けてきた。それと同時に、あるものがラムダの目に入った。

 

「・・・葉っぱ・・・?・・・!」

 

それは一つの長い雑草に付いていた葉っぱであり、ラムダはそれを見て以前ラグナが葉笛をやっていた事を思い出し、今度は自分で作ってみようと行動を起こした。

 

「・・・・・・上手くいかない・・・」

 

しかし、以前はラグナが既に自分で作り上げた物を渡してくれただけで、自分で作ってないが故にやり方が解らなかったラムダは上手く行かずに困り果ててしまった。

ターターが協力したそうにしていたので一緒に作ろうとしたが、お互いにやり方がわからないで作ろうとしていた為、結局は平行線を辿ってしまっていた。

 

「・・・原因がわからない・・・」

 

「◎#=%×~・・・」

 

ラムダが顎に手を当てながら考えるように、ターターも体を左右に傾けながら考え出した。

しかし、お互いに外に出て行動する時間・・・もとい、自分の意志で行動する機会が少なく、一般知識等も欠けていた為、上手く考えをまとめ上げられないでいた。

 

「何か分かった?」

 

「◎#=%×~・・・」

 

「そう・・・」

 

ラムダの問いにターターは期待に応えられなかったのか、残念そうな声で返答し、それを聞いたラムダもしぼんだような表情に変わる。

今度はしっかりと葉笛を吹けるようにしたかったのだが、肝心の葉笛を作れないのであればどうしようもなかった。

 

「えーっと・・・確かこっちに来ていたと思うんだけど・・・」

 

「・・・!」

 

どこかからか近づいてくる声に驚き、ラムダは辺りを見回す。

まだ見えないので確証はないが、知っている声であり、その足音は少しづつこちらに近づいてきていた。

 

「ああ。いたいた・・・って、お前ラムダか!?」

 

「っ!・・・ラグナ・・・!?」

 

背後から聞こえた声に振り向いてみれば、そこには自分が会いたいと願っていた青年・・・ラグナがいた。

ラムダは些細な願いが叶ったことに嬉しくなり、ラグナは予想外の再開に驚いている様子を見せる。

しかし、ラグナはラムダと違い、そこまで大きく驚いている訳ではなかった。

 

「・・・ラグナ・・・そこまで驚いてない?」

 

「・・・ん?ああ・・・ここへ来てから結構な奴と再開したからな・・・」

 

ラムダに問いかけられて、ラグナは自分の感覚が麻痺し始めていることに気付く。

人間慣れるとこうなるのだろうと思う反面、こう言った事態に対する感覚が麻痺するのはそれなりに不味いのでは無いかと感じてもいる。

あと一人、二人自分のいた世界から来てしまったら間違いなく麻痺するだろう。ラグナはそんな予想を立てていた。

 

「それについこないだだって・・・」

 

「・・・?」

 

ラグナが言葉を止めると、ラグナが来た方から足音が聞こえ、ラムダは首を傾げる。

その答えはラグナの背後の方からやって来た二人がその答えになっていた。

 

「ラグナさん・・・早いですよ・・・。・・・って、ええっ!?ラムダもこっちに来ちゃったの!?」

 

「ラムダ姉・・・?どうしてこっちに・・・?」

 

「こいつらと再開したからな・・・」

 

「ノエル・・・ニューも・・・?」

 

ノエルとニューはラムダを見て驚きを示し、ラグナは理由を伝えながら苦笑する。

ラムダもラムダで、二人がいることに困惑していた。

それとは別に、ラグナもラグナでラムダと一緒にいた存在に気が付いた。

 

「なあラムダ・・・そこにいるのは・・・」

 

「うん・・・。ターターもここにいた・・・」

 

「◎#=%×~・・・」

 

「なにこれ!?ラムダ姉のお友達?」

 

ラグナが指を指して問いかけると、ラムダは両手でターターを拾い上げて、肯定しながらその姿を見せる。

ターター自身もラグナを覚えているのか、少し嬉しそうに体を左右に揺らした。それをみたラグナも笑みがこぼれた。

また、ニューもその存在に興味を惹かれたのか、目をキラキラさせながら顔を近づけてターターを凝視する。

 

「ひ・・・っ!む・・・虫・・・!?」

 

ただ一人、ノエルだけは例外にその姿を見て顔を青くした。

始めて会った段階から平然と触れていたラグナとラムダは勿論のこと、あらゆることに興味を持つようになったニューもターターのことが変だとか、そういうことには全く気にしていない。

しかし、ノエルは虫が・・・特に足の多いものを大の苦手としている。

ターターは足こそ二本足であるものの、口の中から何かが出ていたりしているのもあり、生理的に受け付けられないのかもしれない。

 

「お前・・・もしかしてダメなタイプか?」

 

「な、なんでみんなは平気なの・・・?」

 

その反応を見たラグナは訊いてみると、逆に訊き返されてしまった。

どうやらノエルはそれだけ虫が苦手らしい。最も、ターターを虫と言っていいのかどうかは解らないが・・・。

 

「◎#=%×~・・・?」

 

「ご、ごめん!やっぱりすぐには無理っ!」

 

「おい、ノエル・・・何で俺の後ろに隠れる?」

 

ターターが首を傾げるような動きを見せた瞬間、耐えられなくなったノエルはラグナの背に隠れるようにしがみつく。

以前ネプギアがミネルヴァを見て解体だのなんだの言った時に、ミネルヴァが自分の後ろに隠れたのをラグナは思い出し、半ば疲れ気味に問い返した。

しかし、ノエルは答える様子がなく、ただ震えていた。

 

「・・・◎#=%×~・・・」

 

「ターター・・・落ち込んだ?」

 

「・・・・・・」

 

今まであっさり受け入れてくれる二人にしか出会ってなかったのが災いしたのか、実際に否定気味な反応をされたターターはショックを受けたのか項垂れる。

それをみたニューは色んな動きをするターターを興味津々に見つめるのだった。

 

「やれやれ・・・せっかくだから、アレをやるか・・・ノエル、悪いけどちょっと離れてもらうぞ」

 

「・・・えっ?」

 

ノエルに離れてもらったラグナは近くの葉っぱを手に取って葉笛を作り始める。

先程ラムダが作った時は全く上手く行かなかったのだが、ラグナは一分と掛からずにそれを完成させた。

 

「よし・・・」

 

「・・・!」

 

ラグナは一呼吸置いてから葉笛を吹き始める。葉笛を使って発せられる音を始めて聞いたニューは驚きながら葉笛を吹くラグナに注目する。

 

「◎#=%×~・・・♪」

 

「・・・喜んでるの?」

 

ターターが体を左右に動かしながら楽しそうにしている姿をみたノエルは思わず呟いた。ラムダはまた共にいられる時間が帰ってきたことに喜んだ。

思えば、ターターはラグナの葉笛を最後に聞いてから、衰弱死してしまっている。

最後に葉笛を聞いたターターは安堵していたのだろうか?それは解らないが、またその葉笛を聞けることに喜んでいることは確かだった。

 

「ふぅ・・・」

 

「◎#=%×~・・・♪◎#=%×~・・・♪」

 

「そうか・・・お前がそうなら吹いた甲斐があったもんだな」

 

やがて、ラグナが葉笛で一曲を吹き終え、皆の様子を見てみるとターターは飛び跳ねて喜びを示していた。

ラグナ自身、ここまで葉笛が役に立つものなのだとは思っても見なかった。

正直なところ、ジンとサヤを楽しませる物でしかないかもしれないと考えていたが、思ったよりも自分の葉笛に影響を受ける人はいるようだ。

ラムダもそうだったし、ニューも凄いやりたそうな目をしていた。前に『ハクメン(ジン)』に一時の安らぎを与えられたこともあり、この技術は捨てたものじゃないらしい。

―後でシスター(セリカ)に礼を言っておこう。ラグナはそう考えた。

 

「・・・で、お前らもやってみるか?」

 

ラグナがラムダとニューを見て訊いてみると、二人は首を縦に振って頷いた。

 

「じゃあ・・・作り方からだな・・・」

 

ラグナはそう言って二人に葉笛の作り方を教える。

ラムダはそのおかげで解らなかった部分が解決し、ニューもラグナの教えがあってサクサクと作ることができた。

 

「んで、吹き方なんだが優しく吹くんだ。強く吹くなよ?」

 

そう言われてラムダとニューは実際に吹いてみるのだが、二人共ラグナのように綺麗な音が出ない。

どうやらまた強く吹いてしまっているようだ。

 

「えっとな・・・もう少し吹きかける力を弱くするんだよ。そんなに思いっきりやったら音が出ない」

 

「・・・弱くする・・・」

 

「・・・思いっきりやらない・・・」

 

ラグナに指摘されてもう一度吹いてみると、一瞬ラグナのように綺麗な音が出たので二人は驚いて吹くのを止める。

 

「「・・・!」」

 

「そんな感じだ。後は微妙に吹く力を変えて音程を変えるんだ」

 

ラグナにアドバイスをもらうものの、今までこう言った経験の少ない二人は力加減に苦労することになった。

しかし、それでも少しすればすぐに音程を変えるコツを掴み、簡単に一曲吹けそうなくらいにはなっていた。二人共飲み込みが早いようだ。

そこまでの段階に至ったところで、ラグナは二人に提案を出すことにした。

 

「試しに俺と合わせで吹いてみるか」

 

「・・・!」

 

「いいの!?」

 

「ああ。せっかくだしな」

 

そのラグナの提案に、二人はさも嬉しそうに食いついた。

ラグナ自身、基本的に一曲しか吹くものが無いが、これが役に立つことが少し嬉しく思っていたりする。

それに、二人が楽しんでいるのだから、教えて上げてもいいだろうと考えていた。

 

「んじゃあ、行くぞ?」

 

二人に確認を取り、頷くことが確認できたので、三人で同時に同じ曲を吹くことにした。

もう少し違う曲を用意できたら良かったかも知れないが、何せ長い時間練習する期間を失われていたのだから仕方ない。

 

「◎#=%×~・・・♪◎#=%×~・・・♪」

 

ラムダとニューはまだ慣れてないこともあり、どうしても所々でムラが発生してしまうが、それでもよく吹けている。

再び葉笛が聞ける事を嬉しく感じているターターは、先程と同じように体を左右に揺らして喜んでいた。三人が吹いていて嬉しさも三倍なのだろうか?

また、ノエルはいつの間にかターターへの恐怖感などがなくなっていた。ターターは厳密には虫とは言い難いので、そのおかげで平気になったのかもしれない。

ラグナは吹きながら二人が大丈夫なのだろうかと心配に思っていたが、見事についてきている為、そのまま曲を完走する。

 

「お前ら・・・良くついて来れたな・・・」

 

「一度聴いてたから・・・」

 

「さっき聴いたからそれを思い出しながらだったけどね・・・」

 

ラグナは吹き終わって早々に、二人飲み込みの速さを関心した。それに対して、ラムダ、ニューの順番で照れながら答える。

それと同時に、元の世界に帰った時、この葉笛が二人の役に立ってくれる事をラグナは願わずにはいられなかった。

 

「ねえねえラグナ、他に何か曲はないの?」

 

「いや、実は俺もこれしか知らなくてな・・・」

 

新しいのをやろうと思えば、ジンとサヤが「いつものがいい」と答えるので、ラグナは全く新しい曲を覚えようとしなかったのである。

その為、ニューに聞かれても申し訳なさそうに答えるしか無かった。

 

「そっか・・・それなら自分で見つける!ニューにはその時間があるからね」

 

「お前・・・。そうだな。今のお前ならそうするべきなんだろうな・・・」

 

ニューのその姿勢を目の当たりにしたラグナは、ニューの変化を確かに感じ取った。

それは非常に良い変化であり、ノエルもこれならニューが元の世界で元気に走り回ったりすることも可能だろうと信じられた。

 

「あっ、ラグナさん。この事皆に伝えないと・・・」

 

「そうだったな・・・。けどその前に・・・」

 

ラグナが前置きを作ると同時に、誰かの腹の虫が鳴る。

 

「まずは飯にするか。金は俺が出すからよ」

 

その腹の虫はラグナが鳴らした物で、ラグナは腹に手を当てながらそう言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

流石に空腹のまま皆に合わせるのは酷だと言う判断を下し、ラグナは三人とターターを連れ、プラネテューヌの中華料理店で昼食をとることにした。

 

「ああ。俺たちは飯食ってからそっち行くから、そっちも飯済ませといてくれ」

 

『わかりました。みんなに連絡回しておきますね』

 

「頼むよ。そんじゃまたな」

 

『はい。それでは・・・』

 

『ちょ、ちょっと待ってぴーこ・・・!力強すぎるって・・・!ぐほぉっ・・・!』

 

その間、ラグナはネプギアにラムダを見つけた事を伝えておいた。

勿論今すぐ合わせるのは他の全員に空腹を強要するので、流石に気が引けるので、やらなかった。

そんな話をしている最中だが、何やらネプテューヌの女子が上げてはいけないような気が聞こえてきた。

 

「・・・またいつものか?」

 

『はい・・・そうみたいです・・・本当に元気ですよね、ピーシェちゃん・・・』

 

「いや、あれはいくらなんでも元気で納められないだろ・・・」

 

実際のところ、ピーシェの元気さはただ元気の一言では抑えられない。

力の方も幼児とは思えない程のものであり、現にネプテューヌはこの前アッパーカットを綺麗に入れられて倒れ伏してしまっている。恐らくは今回もそうなのだろう。

 

『やたーっ!ねぷてぬっ!もっかいやろっ!』

 

『うえぇ!?ちょっともう無理・・・!・・・わぁっ!ね、ネプギアーっ!ぴーこを止めてーっ!』

 

『ちょっとまずそうなのでお姉ちゃんを助けて来ますね。それじゃあまた』

 

「あ、ああ・・・頑張れよ」

 

自分があんな目に合わなくて良かった・・・。ラグナはそう思いながら連絡を終えた。

ちなみに、ラグナが自分で全負担すると宣言したのには三つほど理由がある。

一つはノエルやニューは自分で使える資金が少ないから無理をさせてはいけない。二つ目はラグナはゲイムギョウ界でクエストを数多くこなしている為、資金の蓄え自体かなり余裕があること。

 

「(タオじゃねえから、金はそこまで掛かんねえしな・・・)」

 

三つ目のこの理由は最大の理由であり、タオは食事の量が多すぎてただでさえ少ない資金が無くなってしまうのに対し、彼女たちは人並みの量だから被害が少ないのである。

 

「ありがとうございます。わざわざこうして貰って・・・」

 

「いいんだよ。俺はこっちで結構金に余裕ができてるからな・・・お前はそれで良かったか?」

 

「◎#=%×~・・・♪」

 

ターターの為にサイドメニューを一つ頼んだのだが、どうやら満足しているようだ。

 

「(つか、ターター入れて平気とかプラネテューヌのバイタリティすげえな・・・)」

 

他の国であれば間違いなく追い出されるか、アイテムパックの中にしまえと言われてしまうのだが、プラネテューヌではそんなことが起きない。

寧ろ入れたら入れたで「珍しいペットですね」と言われて終わってしまった。この回答を聞いた時、大丈夫かプラネテューヌと思ったラグナは悪くないだろう。

ノエルもノエルで、自分がターターだったらプラネテューヌ住まいを選びそうだとか言うあたり、プラネテューヌにいる人たちの心は極めて広い。

・・・否、広いというよりは色んな意味で斜め上を行っているというのが正しいだろう。それだけプラネテューヌの人たちは変わっている。

 

「他の奴らはそれなりに時間かかるし、俺たちはゆっくり食っても問題無いぞ」

 

「うん・・・分かった」

 

「う~ん・・・!これ美味しいっ!」

 

「◎#=%×~・・・♪」

 

「あはは・・・。全然気にしてなさそうですね・・・」

 

ラグナがそういう頃には三者三様に料理を楽しんでいた為、ノエルが苦笑交じりにそう言う。

 

「でも・・・誰かが来たって本当だったんですね・・・。最初は半信半疑でしたけど」

 

「まあ、最初はそうだろうよ・・・。俺だって信じられなかったんだしな」

 

事実、ラグナは最初『蒼炎の書』を使用することが許されたのかと思っていた。

しかし、それは違っており、まさかのテルミが来た合図になっていた辺り驚くしかなかった。

 

「そろそろイストワールやナインに話して対策立てねえとな・・・」

 

一人で常時警戒したり行動したりするのには限界がある。ラグナはそう感じていた。

レリウスは位置を特定出来なかったので例外だが、今までは自分のいる場所から然程離れていない場所に現れてくれている。

しかし、仮にラグナがリーンボックスにいないのにリーンボックスに来てしまったり、その逆が起きてしまったら最悪見つけられない可能性まで出てくる。

その為、ラグナの持つ『蒼炎の書』の状態に関して解析を頼んでおきたかった。

 

「今まで対策は立てて無かったんですか?」

 

「ああ・・・出た時は出たで対処するしか無かったからな・・・」

 

実質無対策と言っていい状態にも程があるだろう。

来たら来たらで急いで向かわねばならず、しかも情報位置を正確に特定できるのはラグナただ一人である為、レリウスのようなケースがあった場合見つけられない可能性が極めて高いのである。

毎日想定していたら気が気ではなくなるが、かと言って無対策のままでいいかと言えば違った。

 

「この後ラムダを皆に合わせるし、そん時伝えねえとな・・・」

 

「何かいい案が見つかるといいですね」

 

「ああ・・・そうだといいな・・・」

 

もし良案が見つかったのなら、ラグナの負担を大きく軽くすることができる。

その為、ラグナはそれが見つかる事を祈るしかなかった。

 

「・・・アレ?ラグナが食べないならニューが貰っちゃうよ?」

 

「いやいや、ちゃんと食うから・・・。・・・って、もしかしてまだ食い足りないか?」

 

「アハハ・・・美味しいから何か軽い物を追加で欲しくなっちゃって・・・」

 

どうやらニューは相当この店の料理が気にいったらしい。

これがタオであった場合、ラグナは真っ先に反対していた。彼女の適量は普通の人からすれば規格外過ぎるからだ。

しかし、ニューはというと人並みの量を食べ、それで少し足りなかったくらいである為、ここで追加で何か食べさせてやっても問題無かった。

 

「ならいいか・・・軽い物っつうんだし、この辺がいいぞ」

 

「分かった。じゃあ、どれにしようかなぁ・・・?」

 

ニューの珍しい姿を見ながら、ラグナは止まっていた箸を進め出す。

こうして、彼らはゆっくりと昼を取ってからプラネテューヌの教会に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「んで、今日来たのはこいつだ」

 

Λ-11(ラムダ・イレブン)・・・ラムダでいい・・・。よろしく」

 

プラネテューヌの教会に人が集まってすぐ、ラグナはラムダのことを指差して紹介する。

ラムダはというと、簡単に自己紹介をしてから頭を下げる。

 

「ま、まさか全員揃ってしまうなんてね・・・」

 

「・・・此れもまた、定めとでも謂うのか・・・?」

 

ナインとハクメンは軽く頭を抱えていた。

ノエルとニューが来たのでまさかとは思っていたが、そのまさかが起こってしまった。

勿論、サヤのクローンであることも、ノエルの口から伝えられ、ゲイムギョウ界組の全員が啞然としてしまうのだった。

異世界組の方は元々知っていたことが幸いして特に驚いたりしていない。ナオトとラケルはこの事実を知らなかったのだが、キイロのことで大方察しをつけていた為、何も問題は無かった。

 

「えっと・・・一番気になった事を聞いてもいいかしら?」

 

「・・・・・・?」

 

ノワールは余りにも気になってしょうがなかったので、ラムダに訊いてみることにした。

否・・・ラムダだけというより、この場にいる全員に訊いてみるというのが正しいだろう。

 

「ラムダの肩に乗ってるそいつ・・・新種の生き物?」

 

「◎#=%×~・・・?」

 

「わかんない・・・ターターはいつの間にかいた・・・」

 

ターターの存在は余りにも目を引いてしまう。話を聞きながらの最中もノワールはずっと気になっていた。

名前はラムダが付けたのかと思ったが、ラグナから正式名称がやたら長いけど、元々ターターが持っている名で、しかもオスであることが伝えられた。

 

「ど、どう扱えばいいのかしら?処分は無いとして・・・普通に育てればいいの?」

 

「お、お姉ちゃん・・・アタシに訊かれても困るよ・・・」

 

ノワールが真剣に悩みながらユニに意見を求めるが、ユニも答えを出せていなかった為、答えようが無かった。

 

「・・・飼うくらいの気持ちでいいんじゃねえの?危害を加えたところなんて一度も見てねえしな」

 

ラグナの発言に全員がなるほどと言いそうな顔になる。別に飼うこと自体は問題ないのだが、問題は別のところにあった。

 

「環境適応能力が大事ね・・・プラネテューヌの近くにいたのだから、ルウィーはターターの体に悪いかもしれないわ・・・」

 

「リーンボックスに来るにしても、場所次第では潮風と戦うことになってしまいますわね・・・」

 

ブランとベールは自分の国のことを上げ、ターターのことを配慮して他の国を進める。

ラムダとしても、また別れるのは嫌である為、ルウィーとリーンボックスは一度考えから除外する。

そうなると、残りはプラネテューヌかラステイションの二つになるのだが、ここでセリカが一つの案を出した。

 

「ラステイションなら、ノエルちゃんたちも三人でいられるし、いいんじゃないかな?」

 

セリカの出した案は確かに名案であり、全員が賛成し、ラムダもそれに頷いた。

ノワールはこの時、資金のやりくりでラグナに頼るべきか考えたが女神の矜持が勝り、どうにかしてやりくりしようと言う考えになった。腹を括ったとも言えるだろう。

 

「じゃあそういうわけだから、これからよろしくね。ラムダ、ターター」

 

「うん。よろしく・・・」

 

「◎#=%×~・・・♪」

 

ノワールに言われたので、ラムダはもう一度頭を下げ、ターターは嬉しそうに体を左右に揺らす。

どうやら自分も呼ばれた事が嬉しかったようだ。

ラムダがラステイションに住むことが決まったので、これで今回全員で話すことは終わった。

 

「・・・皆、驚かない?」

 

「まぁ・・・みんな慣れちゃったからねぇ・・・。ラグナの時はみんなビックリしてたけど・・・」

 

ラムダが皆の反応を見て呟いた言葉を、ネプテューヌが拾いながら過去を振り返ってみる。

慣れというものは恐ろしいものなのかもしれない。実際のところ、ナオトやノエルと出会った時も「この人と似ているのは何で?」という疑問の方が勝っていた。

まだ来たばかりであるノエルやニューは仕方ないのかも知れないが、異世界組の中では日が長いセリカやハクメンになるともう驚かないようになってしまっている。

ラグナもゲイムギョウ界組も、それだけラグナが来てから時間が経っていると言う事を改めて実感するのだった。

 

「そういえば、さっきの『ラムダ姉』と言うのは・・・?」

 

「ああ・・・あれは私たちの方が先にいるからだよ・・・。って、アレ?そうなるとラムダが一番上じゃない?」

 

ラムダの疑問に答えながら、ノエルはそのことに気がつく。

 

「ええ~っ!?どうしよう!?私もそうやって呼ぶべきなのかな!?」

 

「(・・・怪盗三姉妹・・・カード食らって居眠りする刑事・・・毎回略奪されるホットパンツ・・・。・・・何だこりゃ?)」

 

自分はどう呼ぶべきかと慌てるノエルに対し、ラグナは突然浮かんできたイメージに混乱するのだった。

これを口にしたら間違いなく「お前は何を言っている」と言われる案件である為、ラグナは口に出なくて良かったとただ安堵するのだった。

そして、それからしばらくして、ラムダとノエルは互いにそのままの呼び方で行くことにした。どうやらラムダが「自分よりノエルの方がしっかりしてるから、姉呼びされるのに抵抗感がある」と言って断ったそうだ。




そんなことでラムダ(ターターも込み)で参戦となります。
最後のラグナが思い起こしてしまったものはCPにあるギャグシナリオのものです。
個人的には結構好きな話でしたね。

さて、BBTAGのオープンβテストが近づいて来ましたね。
私はパッケージ版での購入を選んだため12日~14日までの三日間になりますが、全力で楽しみたいと思っています。

次回もう一回オリ回を挟んだらアニメ6話分に突入になります。


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40話 それぞれの現状

これでオリ回は一度終了です。


「ねぷてぬ~っ!遊んで~っ!」

 

「ちょっと待っててねー。セーブだけしちゃうから・・・」

 

ピーシェが来てから約一週間した日の事。朝早くからネプテューヌはピーシェに遊ぶ相手を頼まれていた。

普段ネプテューヌは自分のペースで遊ぶことが多いが、ピーシェに頼まれた時はなるべく合わせようとしていて、今回も途中でゲームを切り上げると言う形でピーシェの頼みに応じていた。

勿論セーブの確認をしたらゲーム機をしっかりとしまっておく事も忘れない。というより、ピーシェと遊ぶときにこれを忘れると怪我の元になるので忘れる訳にはいかない。

また、ピーシェはネプテューヌの事を正しく発言できていないので直そうかと考えたが、ネプテューヌ自身が呼びにくい名前であることを自覚していたため、今の呼び方を新しいあだ名と認識して許容することにした。

 

「さぁ~て遊びますか・・・ぴーこ、何して遊ぶ?」

 

「うーん・・・たたかいっ!」

 

「うえぇっ!?またそれ・・・?」

 

試しに聞いてみたら物騒な回答が飛んできてネプテューヌはたじろぐ。

体を動かすだけならまだ良いのだが、ピーシェの場合そこに素人であるにせよ格闘が飛んでくるので付き合うのが大変かつ、怪我の一つや二つ・・・最悪はそれ以上を覚悟する必要がある。

怪我以上も想定しなければならない理由として、何故かピーシェは素の力が強すぎる為で、並みの人間ではただ事で済まないのである。

そうなるといくら力があれど普通の人であるラグナやアイエフに頼むわけには行かず、ピーシェの勢いに振り回されずついていける人物を上げるとすれば、消去法でネプテューヌしか対応しきれないという始末だった。

言い返せば、ネプテューヌはそれだけ小さい子に合わせられる適性があると言う証拠になる。特に元気の良い子供であればそれが更に増す。

 

「またコンパに謝っとかないとね・・・。さぁ来いっ!」

 

「わーいっ!それそれそれ~っ!」

 

覚悟を決めたネプテューヌは腕を広げてピーシェを迎え入れる。

そして、それをみたピーシェは嬉々としてネプテューヌに連続で拳を飛ばすのだった。

 

「ねぷぅっ!?や、やっぱりやるんじゃなかったぁっ!?」

 

「あははははっ!もっともっと~っ!」

 

「またやってんなぁ・・・あの二人」

 

《ピーシェが子供だから仕方ないとは言え、普段付き合うネプテューヌは大変ね》

 

その拳の雨を避けながらネプテューヌが絶叫を上げるのは、最早恒例事項に近いものだった。

また、ピーシェが楽しそうに拳を飛ばすのも同様である。

そして、そんな二人の様子を見て、ナオトは呆れ半分になり、ラケルはネプテューヌに同情する。

 

「そういや、お前が俺にアレを変わってやれって言わないのは何かあるのか?」

 

《貴方が無駄に命を消耗する方が問題よ》

 

「ああ・・・そりゃそうだよな・・・」

 

ナオトが訊いてみると、至極当然の理由が帰ってきたのでナオトは頷くしかなかった。

普段は止めようかどうかで迷うそぶりを見せるラグナだが、今回は珍しく自身がゲイムギョウ界で作った手帳と部屋から持ってきたノートパソコンを使って睨めっこをしていた。

 

「(えっと・・・クエストで稼いで消費を抑えるならこれが買えるけど、いかんせん暫く回せる金が無くなるのはキツイな・・・。それだったらこっちなら普段通りの回し方でも十分やっていけるし良いな・・・)」

 

「うりゃりゃりゃりゃっ!」

 

「ちょ、まっ・・・あばばばばば・・・!」

 

ラグナが睨めっこしているのをよそに、とうとうピーシェの拳がネプテューヌを捉え、連続で叩きつけられる。

するとネプテューヌはいつものように、女子が上げていいのか怪しい声を上げるのだった。

 

「たりゃ~っ!」

 

「おうふ・・・!?」

 

「(・・・よし。これにするか)」

 

ピーシェがネプテューヌの顎に強烈なアッパーカットを叩き込む。

するとネプテューヌの体が軽く浮き上がり、背中からビタンと音を立てて倒れ込んだ。それとラグナが何かを決めたのは同時だった。

 

「やた~っ!きょうもかった~っ!」

 

「皆さーん。お茶が入りました・・・って、お姉ちゃん大丈夫っ!?」

 

「ああ・・・こりゃいつもの通りだな」

 

《幸いに大した怪我になっていないわね・・・部屋に運びましょうか。少しすれば回復するはずよ》

 

ピーシェが両腕を突き上げて喜んだ直後、トレイに全員分の茶を入れてきたネプギアがその現状を見てネプテューヌを心配する。

トレイをテーブルに置いてネプギア駆け寄ると同時にナオトとラケルも彼女の様態を見てみると、完全に伸びてしまっていた。

幸いにも目に見える怪我は無いので、今回は軽傷で済んだ方だった。これが並みの人間だった時を考えたくないのはまた別の話である。

 

「さて・・・俺はちょっと出かけてくるわ」

 

「?クエストですか?」

 

ラグナが腰を上げながら一言告げたので、ネプギアは訊いてみる。

 

「いや、ちょっと買い物だ」

 

そう言うラグナはどこか楽しみにしている表情を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「よし・・・買えた買えた」

 

それから少しして、ラグナは念願のバイクの購入を果たした。

購入したのはリーンボックスで一度レンタルしたタイプと同型、同色のバイクである。あれ以来すっかり気に入っていた。

そんなことで今回無事に購入したラグナはどうするべきかを悩んでいた。

 

「(どうするか・・・軽くラステイションまで慣らしで走るか?あいつら大変かも知れないし・・・いや・・・それかリーンボックスか?)」

 

「あっ、ラグナ。とうとう買えたのね?」

 

ラムダも来たので、ノエルが振り回されて大変なことになっているかもしれない・・・。しかし、ナインのところで対策を練るのに協力するのもいいかも知れない。

そう考えたラグナは車道に出て走り出そうとしたところで、アイエフに声をかけられたので振り向く。そこにはコンパも一緒にいた。

 

「おお、お前らか・・・ようやく貯まったからな・・・お前らはこれから仕事か?」

 

「ええ・・・私はこれからプラネテューヌで情勢の確認」

 

「私はいつも通り病院でお仕事ですぅ」

 

案の定二人は仕事が入っていたらしい。ラグナはそれを聞いて本職を探すべきかと迷ったが、それが厳しいことに気がつく。

何せイストワールに作ってもらった戸籍は学歴は偽装で職歴がなく、とても就職できそうにもない状態であった。

仮に履歴書を書けと言われて提出しても相手を唖然とさせるだけの威力はあるだろうし、面接などを行うにも、敬語等を全く使いこなすことができないラグナは今から覚えてかなければいけない為、恐ろしいまでの時間がかかってしまうのが現状だった。

そこまで現状を纏めて、ラグナの心の中は無性に悲しくなった。

 

「そう言うラグナはどうするの?」

 

「俺はこれから慣らし運転でどこか行くよ・・・折角の新車だしな」

 

「なるほど・・・後で感想を聞かせてね」

 

「怪我には気を付けるですよ?」

 

「おう。そんじゃまたな」

 

二人に見送られ、ラグナはバイクのエンジンをかけて車道に出て、プラネテューヌの外を目指して走らせた。

 

「さて・・・私たちも行きましょうか」

 

「はいです。今日もそれぞれの場所でお仕事ですぅ♪」

 

ラグナの姿が見えなくなったので、二人は仕事場へ向かう為に再び歩き出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ・・・殻だけならできるが、これでは修正に時間が掛かり過ぎるな・・・」

 

レリウスはエンシェントドラゴンの実験以来、用意してもらっていた部屋で『スサノオユニット』創造に挑んでいた。

外側から見た外見だけならばまんまハクメンの姿を形どれるが、それでもテルミの精神を憑鎧させるには程遠い状態だった。

女神のことを詳しく把握できていない以上、情報不足から満足いくものを作り上げられないでいた。

 

「邪魔するぜ・・・って、おおっ!?もうここまで行ったのか!?」

 

「いや、まだこれだけだ・・・形はできていても、中身は空っぽ・・・御前が憑鎧することすら叶わん」

 

試作した結果が余りにも酷いので、次の制作は女神のデータを取れるまで待機だと判断したところで、テルミが部屋に入ってきた。

テルミは形だけ見て激しく期待した表情になるが、レリウスから告げられた真実は虚しいものだった。

 

「あ~・・・やっぱり女神の情報が足りないってやつか?けど、それさえあればいいんだろ?」

 

「ああ・・・全ては明日の結果次第で我々の行動が変わる・・・」

 

レリウスの研究欲から始まった計画の実行は明日に控えられていた。

その為、また後で依頼を引き受けてくれた者から連絡が来ることになっている。

 

「まあ、そうなるわな・・・そういや、女神の情報得る為にガキ一人捕まえるわけだけどよ・・・。実際捕まえた後はどうすんだ?」

 

「データさえ取れれば後は好きにして構わん・・・レイやマジェコンヌが何かしたいと言うなら、そのまま譲ろうと思う」

 

テルミの問いに、レリウスは自分でも驚くくらい他人事配慮した回答を出した。

どうでもいいと言うだけだったらまだいつも通りだったが、譲ると言う単語が来ればいよいよ変わったなと感づけた。

 

「オイオイ・・・テメェにしちゃいくら何でも寛大過ぎねえか?向こうじゃそんなこと無かったろ?」

 

「ああ・・・私でも随分と周りを意識するようになったと思うよ。此れも何かの変化だろう・・・」

 

「だろうな・・・全くこの世界は飽きねえなぁ・・・。すぐさま恐怖で塗りつぶすのを一瞬躊躇っちまったわ」

 

「ほう・・・そう言う御前も、随分と毒されているようだな」

 

「・・・みたいだな」

 

話ながら、自分たちが随分と変化したことに気が付き、二人は笑う。

前の世界が退屈過ぎたのか?今の世界が楽しいのか?或いはその両方か?周りの人間の影響もあるのだろうが、それでもこの変化は良いものだと感じているのは二人共共通であった。

 

「まあ、何がともあれ俺らは目的を果たさねえとな・・・」

 

「そうだな。私も、データは余すことなく取らねばな・・・」

 

二人は互いの目的を再確認する。今の世界を楽しむのはそれでも構わないが、それでも目的を果たさないのは本末転倒である。

 

「んじゃ、俺はそろそろ行くわ」

 

「ああ。また会おう」

 

テルミが部屋のドアを開けるや否、レリウスはすぐに自分が作り上げた失敗作に目を向ける。

別段、テルミがどうでもいいわけではなく、これが二人の『いつも通りのスタンス』であった。

そして、丁度のタイミングで術式通信が来たのでレリウスはそれに応じる。

 

「私だ」

 

『ああ、もしもしクライアントさん?準備の方は終わったわよ』

 

通信をかけてきたのはアノネデスで、彼はハッキングの準備を終えたのでレリウスに連絡をかけてきた。

 

「了解した。開始はこちらで言うので、もう少し待っていてもらうぞ」

 

『はいは~い。それじゃあまたね』

 

短く通信を終え、レリウスは再び失敗作である『スサノオユニット』を見やる。

 

「さて・・・今回の賭けはどうなるか見ものだな・・・」

 

レリウスは一人、明日の結果を楽しみにしてほくそ笑むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

ラステイションの昼の街並みで、偶然ペットショップを通りかかったユニが一匹の動物に食いついて立ち止まった。

 

「・・・ユニ?どうかしたの」

 

「あっ、お姉ちゃん・・・この子なんだけど・・・」

 

「ああ・・・耳長バンディクートね。この子がどうかしたの?」

 

ユニが食いついたのは耳の長い小動物、バンディクートだった。

 

「ちょっと飼ってみたくて・・・」

 

「そうね・・・ちょっと考えさせて・・・。・・・ターターは食事の残り物とかも平気で食べちゃうから、食費はそんなにかからないし・・・」

 

ユニの希望を聞いたノワールは自国のお財布事情を整理する。

ターターは何かがあると大変なので、基本は安全な強化ケースに入れられた状態で飼われていて、外出する時は基本的にラムダが連れていくことにしている。

理由は言わずもがな。ラステイションのメンバーどころか、今の人員で最もターターが心を開いているのがラムダだった。次点でラグナであり、残りは興味を持ってくれるものの、そこまで心を開いているとは言い難い。

だが、もしかしたらターターとこのバンディクートが仲良くできたなら、ターターも周りにより心を開くのではないか?最近はユニが変身できるようになったので仕事の効率が大幅に良くなっているから、バンディクートを世話する余裕だってある。そう考えたノワールは飼って見てもいいかも知れないと考えた。

 

「・・・なら、世話はちゃんとユニがやる。これなら飼ってもいいわよ」

 

「・・・っ!ホント!?」

 

ノワールの決断を聞いたユニが嬉しそうな顔をして訊き返した。今までのノワールからすれば予想以上に前向きな回答であった。

 

「ええ、今言った通りちゃんと世話をすればね。えっと・・・その子でいいのよね?」

 

「・・・うん!ありがとうお姉ちゃん!」

 

満面の笑みを見せて礼を言うユニを見て、ノワールも微笑むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ここで良かったの?」

 

「うん・・・海を見せてあげたかった・・・」

 

一方、ノエルたちは三人でラステイションの端っこから海を眺めていた。

事の始まりはラムダがターターに、海を見せてあげたいと言う提案からだった。

 

「そう言えば、海って聞くと皆で泳いだりするんじゃないの?」

 

「確かに・・・ゲイムギョウ界で人が泳いでる姿はあまり見ないね」

 

ニューに訊かれてノエルも思い出したかのように言う。

海で泳ぐ人が少ない理由として、プラネテューヌとルウィーの近くには海が無く、ラステイションとリーンボックスで海面に接している場所はほぼ港である為泳ぐのに適さないのである。

その為、海は船で渡る物と言う認識が極めて強く、これが中々海で泳ぐ人を見ない理由にもなっていた。

 

「もしかしてニュー・・・泳いでみたいの?」

 

「できることならしてみたいかな・・・。無理にとは言わないけど」

 

元の世界でも、階層都市に戻るのであれば海を期待できる保証はない。

その為、海を満喫するならこの世界に留まっている間にするしかないのだ。

とは言うものの、ニューに取って海で泳ぐは数多くあるやってみたいの一つである為、どうしてもと言うものでは無かった。

 

「・・・来れて良かった?」

 

「◎#=%×~・・・♪」

 

「・・・それなら良かった・・・」

 

ラムダが問いかけてみると、ターターは嬉しそうに答えるので、それを見たラムダの表情が笑みに変わる。

今回ターターは潮風にやられると大変かも知れないと言う危惧から、強化ケースに入れられたまま連れ出されているのだが、それでも満足だったようだ。

 

「さて・・・そろそろ戻ろうか。ラムダもお昼作らないとだし」

 

ノエルに言われて二人は頷く。

ラムダは普通に料理ができることから、最近はラムダが料理を担当することが増えていた。

特にターターがラムダの料理を好んで食べる傾向があることを知ったので、一任することが多くなっていた。

 

「それなら帰りに食材を買わないと・・・」

 

「ラムダ姉、その前に食材の残り聞かないと・・・」

 

「じゃあ、連絡するからちょっと待っててね」

 

三人は少し慌ただしくしながら買い物をしに向かう。

ノエルはノワールと術式通信を行った事で食材の残りを知れたので、売り場にたどり着くよりも早くラムダに伝えた。

そして、この後教会に戻ってユニが飼うことにしたバンディクートを目の当たりにすることになり、ターターとバンディクートは互いに興味ありな形を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

ルウィーの昼下がり、ブランたち姉妹とその付き添い兼護衛のハクメンが街並みを歩いていた。

トリックの件があって以来、ブランはロムとラムのわがままに付き合う頻度が上がっているが、流石にこの元気な二人に毎日付き合わされるのはブランがインドア派な都合上限界がある為、『スサノオユニット』の恩恵で底知れぬ体力を誇るハクメンが協力するというのはルウィーでよく見られる光景だった。

また、走るロムとラムを追うブランと、それを後ろからゆっくりと歩いて、尚且つ見失わないで付いて行くハクメンという絵面はかなりの頻度で見受けられ、時折ハクメンが父親に見える人もいるらしい。全身が鎧のような格好をしている父親が余りにもシュールな姿であることは、この際触れない方がいいだろう。

 

「ふ、二人とも・・・ちょっと待って・・・」

 

そして、ブランが息切れしながら二人に制止を求める姿もいつも通りの光景だった。

 

「あれ~?お姉ちゃんもうバテたのぉ~?」

 

「疲れちゃった・・・?」

 

「くっ・・・普段インドアであることが辛いわ・・・」

 

「・・・あまり無理はするなよ?」

 

幼い二人に心配されて悔しい思いをしている所に、ハクメンからも心配されて一瞬だけブランの心が折れそうになる。

 

「あ、貴方の体力は規格外すぎるわ・・・」

 

「此の躰だからな・・・元の躰であれば、あの時ラグナのバイクに己の足で追いすがる事は叶わん事だろう・・・」

 

「そうなのね・・・。・・・って、貴方あの時走ってあそこまで来てたの!?まさか最初から最後まで全部!?」

 

「無論だ」

 

ハクメンに言われてしまっては元も子もないのでブランは言い返すが、それ以上にとんでもない事実を知ったブランが面食らう。

しかもハクメンはそれをあっさりと肯定した。しかも堂々とした姿勢のままだ。これにブランは呆然とするしか無かった。

 

「う・・・噓でしょ?余りにも飛んでいる話だわ・・・」

 

「あれ・・・?お姉ちゃん何があったの?」

 

「大丈夫・・・?」

 

「然したる事ではない。ただ、私の此の躰の規格外さに呆然としたようだ・・・」

 

ブランが両膝と両手を地面に付いて伏せてしまったので、流石に二人も心配になる。

流石にハクメンもこの話はするべきでは無いと感じ、以後は自重することを決めた。平和に馴染めない男の苦悩であった。

 

「・・・ブランがこの状態では持たんか。一度休憩を挟もう」

 

「「はーい」」

 

ただでさえ体力が疲労で減っているのに、カルチャーショックまで受けたブランを此のままにするのは不味いので、ハクメンは一度休憩を提案した。

そのことに二人は反対せず、右手を真っ直ぐに上げて受け入れる。今回は大丈夫だったが、これで二人が反対していたらブランが疲労で倒れていた可能性がある為、ハクメンは心底安心した。

ハクメンは近くのベンチにブランを運んで座らせてやった後、ロムとラムがブランの隣りに座る。二人で左右を挟む形だった。

疲れた時には甘い物だろうか?安直ではあるが、そう考えたハクメンは何か買ってきてやろうと思ったが、何も聞かずに行くのはよくないので、まずは二人に・・・できればブランにも訊いてみることにした。

 

「御前たち・・・何か食べるか?」

 

「はいはい!私アイス食べたーいっ!ストロベリーで!」

 

「私も!ブルーベリーで!」

 

試しに訊いてみれば二人はすぐさまに食いついて、味までご丁寧に話してくれた。

正直なところ、後々訊くのは面倒だったのでありがたい話だった。

 

「ブラン、御前はどうする?」

 

「私はチョコミントでお願いするわ・・・」

 

「承知した。少し待っていろ」

 

ハクメンは手間をかけずに素早く頼まれた味を購入して三人の元へ持っていく。普段はハクメン以外の三人で並んで何かを買うのだが、今回はブランがダウンしていて、ロムとラムの二人では些か不安なのでハクメンが代役をすることになった。

また、その後ハクメンがアイスクリーム店に並ぶという、余りにもシュール過ぎる光景は即座にネットにアップされ、事情を知らない人たちを爆笑の渦に包み込んだが、それはまた別の話。

 

「待たせたな。食べるといい」

 

「わーいっ!ハクメンさんありがとーっ!」

 

「ありがとう・・・♪」

 

「助かったわ・・・」

 

アイスクリームをもらった三人はそれぞれのペースで食べ始める。

ロムとラムは待ち遠しかった為か早目なペースで、ブランは体に気をつけてゆっくり目なペースだった。

 

「ハクメン・・・貴方どれくらい全力疾走していたの?」

 

「・・・確か、一時間弱であったか・・・。此の躰で無ければ間違いなく不可能だった行為だな・・・」

 

「い、一時間全力疾走って・・・」

 

「倒れちゃう・・・」

 

ブランの切り出しによって思い返されていくパーティー当日の夜。確かにハクメンはあの長い道を、ラグナのバイクと並走する形で走りきっていたのだ。

ロムとラムはハクメンが走って向かう姿は見えていたのだが、まさか止まらずに走り続けるとは思ってもみなかっただろう。

 

「あの時本当に危なかったよね・・・お姉ちゃんたちはああなるし、ネプギアも大変だったし」

 

「でも・・・私たちは変身できるようになった・・・」

 

「流石に二回もああなるのは勘弁だけどね・・・」

 

事実、あの時候補生たちが変身できていなければ四人を助ける事は不可能だっただろう。

セリカの能力がテルミとマジェコンヌの弱体化に成功していても、候補生がいなければマジェコンヌを抑えられなかった可能性が極めて高い。

また、ナインたちが合流する前にラグナとハクメンが倒れてしまう可能性も高かった為、本当に奇跡だったと言える。

 

「ほ、本当にどうにかなって良かったわ・・・。私はあの時助けられたから、今度は貴女たちを護らないと・・・」

 

何故だか今日は嫌なことを抉られたり、変なところで疲れたりと妙に災難なことが続くブランだが、それでも妹たちを守ろうとする意志は変わらなかった。

 

「私たちだって、護られるだけじゃないよっ!」

 

「私たちもお姉ちゃんを護る・・・♪」

 

「二人とも・・・」

 

ブランが二人を護ろうとする意志は本物であるが、ロムとラムの意志も本物であり、それが分かったブランは嬉しくなって笑みをこぼすのだった。

 

「さて・・・十分に休めたし、そろそろ他の場所に行きましょうか」

 

「はーい!じゃあ次はこっちっ!」

 

「わーい・・・♪」

 

「あっ・・・ちょっと二人とも・・・!走ったらまた私が・・・!」

 

ブランが言うなりすぐに二人が走りだしたため、ブランは慌てて追いかける。

ハクメンは数瞬その様子を眺めていたが、見失うといけないので自分も立ち上がった。

 

「(此の世界での我が使命・・・此度は静かに果たすとしよう)」

 

ハクメンはあまり大事にならないように注意し、三人の背中を追うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ナイン。一つ頼んでもよろしいかしら?」

 

「頼みごと?今回はどんな頼みなの?」

 

リーンボックスの教会にある、ナインにあてがわれた執務室にベールが頼みごとを持って入ってくる。

ナインはこうして話を聞く姿勢を持っているが、実のところナインは思った以上に多忙な状態だった。

洞窟の件は当然のこと。他にも先日ラグナに持ち掛けられた、自分たちの世界から人が来た時に反応する『蒼炎の書』の話。更にはミネルヴァのメンテナンスで不明瞭な点があった際の対応等々・・・期日が決まっているものでは無いにしろ、余りにもやることが多かった。

しかしそれでも、『エンブリオ』で行った事を考えれば当然だとナインは判断を下し、こうして多忙な一日に身を投じていたのだった。

 

「こちらの資料なんですが・・・印鑑だけ押して貰ってもよろしいでしょうか?私、これからメディアの方へ出る仕事が入ってしまいましたので・・・」

 

「なるほど・・・。そう言う事なら了解よ。こっちで引き受けるわね」

 

「ありがとうございます・・・。それでは、お願いしますわ」

 

頼みを了承してもらえたベールはナインにかなりの数の書類と自分の印鑑を渡してこの場を借りて去る。

どうやらメディアの仕事の時間が近いようだ。そんなベールの姿を見送ったナインは部屋のドアを閉めた。

 

「(・・・また面倒な物が増えたわね・・・)」

 

どれもこれも時間の要する仕事ばかりで、今回の頼みごともかなりの時間を要するのがわかり、ナインは溜め息をついた。

ただそれでも、引き受けた以上はやりきると自分に念を押し、デスクに付いて書類の作業に取り掛かるのだった。

 

「さて・・・これを一度どかしてと・・・」

 

ナインは散らばった書類やファイルをどけて、ベールからもらった書類を置くことのできるスペースを作る。

物の整理整頓がナインは非常に苦手であり、机の上は非常に散らばっていた。

本人にとってはこれが整理出来ている形なのでいいかも知れないが、他人が見たら辟易したり、指摘したりするのは間違いないだろう。

そんなことを一々気にしていてはキリがないので、ナインは書類の作業を始める。

書類の内容は戦闘機の生産数削減、娯楽系統への予算提供に対する増量など、和平を結んだことに合わせての方針が多かった。

特に、数か月前まで戦争が起きかねない状態であった為、その空気を引きずらない為にも軍縮は急務であり、ナインがゲイムギョウ界に来てからこれで二回目の案件だった。

しかしながら、どこかの反対勢力が戦乱に持ち込んだ時に対応できないのは不味いので、順を追ってと言うのだけは相変わらずだった。

 

「平和を維持するか・・・確かに、勝ち取るより遥かに難しい事よね」

 

暗黒大戦時代、『黒き獣』を倒して平和を勝ち取ったが、それでも維持は楽では無かった。

結局は自身が『黒き獣』を倒す為に作り上げた事象兵器(アークエネミー)は持ち去られてしまい、その後の戦いに利用されたりと散々だった。

事象兵器の悪用を阻止する為に、アンチ事象兵器(アークエネミー)となるものも作ったが、ナインはそれを正しく使われた瞬間を目の当たりにはしていない。

そんなことを、この書類を見て改めて感じ取っていたのだ。

 

「でも、今回は人も多いし、こうして力の悪用を阻止する動きも多い・・・前回ほど酷くは無いわ・・・」

 

ナインは現状を照らし合わせて少し気が楽になる。

今回は協力的な人が多いこと、力の悪用を考える者がテルミやマジェコンヌのみに限られていることで、かなりやりやすい状況ができあがっていた。

後は個人でやり過ぎないように気を付けるだけだった。一人で『ムラクモユニット』を作ったりした場合は間違いなく警戒されてしまうので、それは避けたいところだ。

 

「さて・・・後は・・・」

 

「お姉ちゃーん。今大丈夫?」

 

書類の数は残り半分ほどになった所で、セリカがノックをして訪ねてきた。恐らくはこちらに気を遣ってお茶でも持って来てくれたのだろう。

 

「ええ。大丈夫よ」

 

「はーい。それじゃあ、失礼しまーす」

 

一つ一つの期日が決まっていないとしても、極めて多忙な毎日を過ごすナインにとって適度な休憩を外す訳にはいかないので、何も反対する事なくセリカを通す。

そして、入ってきたセリカは案の定飲み物と大量の砂糖を乗せたトレイを持って入ってきた。

 

「あ・・・お姉ちゃんこっちでもこんなにしちゃって・・・」

 

そして、セリカが机の様子を見て苦笑するのも予想はできていた。

 

「どうしても整理は苦手でね・・・って、私が整理出来てるんだからいいのよ」

 

「ええ・・・借りてる部屋なんだから、ちょっとくらいは整理しようよ・・・書類無くしたら大変でしょ?」

 

ナイン自身は問題ないのだが、セリカが言うことも最もだった。

その為、ナインは少しの間考え込む。

 

「そうね・・・。流石にファイルくらいはどうにかしましょうか」

 

その言葉を聞いたセリカは、日常生活で今までで一番安堵しただろう。

意外にもナインがあっさりと受け入れてくれたこともそうだが、こんなことで喧嘩にならないで良かったと言う方が強い。

 

「あ、そう言えば今回は何を貰って来たの?」

 

「チカさんは紅茶を進めてきたんだけど、コーヒーを貰って来たよ。お姉ちゃん大変そうだったから」

 

セリカがやんわりと断った時、チカは少々落ち込んでいた。どうやらベールのお気に入りの品を勧めたのだが、断られてしまったようだ。

 

「なら、それは今度いただくとするわ」

 

何なら仕事を終えた後でも良いだろう。ナインはそう考えながら、トレイに乗っているコーヒーの入ったカップを手に取り、一緒に乗せられているガムシロップと砂糖を大量に入れながらかき混ぜていく。

そして、コーヒーと言っていいかどうかすら分からなくなったものを、ナインは飲み始めた。

予想以上に脳が疲れていたのか、ナインは普段より早いペースで飲み干した。

 

「ご馳走。チカにはごめんなさいと伝えておいてくれる?」

 

「うんっ!お姉ちゃんも頑張って!」

 

ナインの問いかけに、セリカは満面の笑みで答えてくれる。

セリカとまた一緒に暮らすことができる日が来るとは思ってもみなかったナインにとって、今こうしていられる時間は幸せと言えるものだった。

それを護るのももちろんナインのすべきことであるが、何も今回は一人でやる必要はない為、かなり心に余裕ができていた。

 

「それじゃまたね!」

 

「ええ。またね」

 

セリカがドアを閉めて部屋を後にしたのを確認したナインは、机の方へ向き直る。

 

「さて・・・やりましょうか」

 

この日のナインはいつも以上に活力が沸いていた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・アレ?もうこんなに減ってる。私が増えたからかな?」

 

レイは冷蔵庫の中を覗いて呟く。

どうやら元々は自分が増えることを想定していない量の買い溜めだったようで、予想以上に消費が早くなってしまったようだ。

 

「今ある材料だけじゃ足りないし、買ってこないとなぁ・・・。どこで買うべきだろう?」

 

候補に挙がるのはラステイションとルウィーだが、往復時間を考えたらラステイション一択だった。

ちなみに、リーンボックスは海を渡る必要がある為、プラネテューヌは以前反対活動を行っていた場所である為、行くわけには行かなかった。

 

「ああ。ここにいたか・・・ひょっとして、残りが足りないのか?」

 

「ええ。私がここに来てから消費量が多くなってしまったので・・・」

 

声が聞こえたので振り返ってみると、マジェコンヌとワレチューがいたので、レイは現状を伝える。

 

「ああ。なるほど・・・。一人分足りないから予想よりかかっちゃうんっちゅね・・・材料の必要数が」

 

「となると今から買い出しか・・・。分かった。金はこれを使うといい。まあ、ラステイションなら一般人らしくしていれば大丈夫だろう」

 

ワレチューは納得したように呟き、マジェコンヌは金の入った袋をレイに投げ渡した。

レイはいきなりのことだったので慌てて受け取るが、以前と比べれば圧倒的にマシな反応を見せていた。

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

「大した事ではない・・・ほら、急ぐといい。遅くなると買える場所が減ってしまうからな」

 

「はい。それでは、失礼します」

 

レイはマジェコンヌに一度頭を下げてから走ってラステイションへ向かうのだった。

 

「さて・・・食事が終わったら後は最終チェックっちゅね」

 

「ああ。レリウスの研究・・・それがどう転がるかが見ものだな」

 

レイはまだレリウスの研究の規模を理解しきれず困惑している段階だが、この施設で過ごしている全員は楽しみにしていた。

もしやすれば、レリウスの研究が女神たちと『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』らを一掃できるかもしれないとなれば、期待するしかなかった。

 

「ああ・・・そうなればおいらは雑務に備えて仮眠するっちゅよ」

 

「分かった。何かがあれば室内通信で起こす」

 

「頼むっちゅよ・・・」

 

そうしてワレチューはあくびをしながら部屋を後にし、マジェコンヌだけが部屋に残った。

 

「(備えは多ければ多い方がいい・・・。今後の為にもな)」

 

マジェコンヌはほくそ笑みながら、あるものの解析に回るのだった。




ようやく次回からアニメ6話分に入ります。長らくお待たせいたしました。

この話を書いてる途中で友人と一緒にブレイブルー最新作の体験版をプレイしていました。
その結果、現状はラグナとハイドの二人が私の中では安定してきました。
しかしながらラグナさん・・・あなた小パン系がないって割と辛くないですか?判定とリーチで勝っているのに発生で負けて大変な目に・・・(泣)。

掛け合い集やアストラルヒート集も早速上がっていましたし、オープニングムービーも上がっていました。オープニングの方は多くのキャラが入り乱れている感じが良かったと思います。
勝利画面でのセリフはラグナ&悠の組み合わせが非常に熱かったので、是非とも聞いて見てください!

もしかしたら、次回からアニメ本編の部分はなるべく2話以内で簡潔に纏める形をとるかも知れません。
流石に最終決戦の場合はそういう訳にはいきませんけどね・・・(笑)。


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41話 狙われたノワール

今回からアニメ6話部分に入ります。


「さぁて・・・今日のお仕事も終わりっと・・・」

 

夜のラステイションの教会にて、仕事を終えたノワールは執務室を後にして廊下にいる。

 

「ふ~ん♪ふっふふ~ん♪」

 

そして、今から自室に向かうノワールなのだが、その足取りはどこか弾んでいた。

ちなみに、ノワールがこんな風にさも楽しそうに自室に向かうようになったのは、ユニが変身できるようになって暫くしてからだった。

ユニもモンスター討伐に参加できるようになったので、仕事の効率が大幅に上がったのだ。ノワールとしては女神としても、姉としてもユニの成長を喜ばしく思っているのは確かだ。

そう考えている内に、ノワールは自室のドアの前までついたので、勢い良く部屋に入るや素早くドアを閉め、鍵をかける。

 

「さぁ!今日もやるわよ~っ!」

 

ノワールは張り切った様子であり、気合いを入れるように言うや早速服を脱ぎ始めた。

これはノワールが仕事に余裕ができた事で、最近始めた趣味なのだが、他人に見せるのは些か恥ずかしいものがあって、今はこうして一人で誰にもばれないように行っている。

・・・筈だった。

 

「(さぁて・・・今日はどんな姿のノワールちゃんが見られるかしら?シャッターのタイミングはしっかりしないと・・・)」

 

まさか隠しカメラでそんな事をしている姿を盗撮されている事など知らず、ノワールは今日も趣味に勤しむのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「そういやラケル、俺がまだ帰れない訳だけどさ・・・仮に元の世界に帰れたとして、戻った時は俺がラグナたちのいた世界に飛ばされてから、どれくらい時間が経ったことになるんだ?」

 

ナオトはプラネテューヌの街並みを歩きながらラケルに尋ねた。

異世界組の中でもナオトは唯一、二度も連続して異世界移動をしてしまっている為、ふと思い出してから気になって仕方が無かった。

 

《そうね・・・。私がどれだけ持ちこたえられるかにもよるけど、酷くても一週間以内に抑えられる筈よ》

 

「おお・・・そりゃ良かった・・・。けど、あんまりもたもたしてらんねえのに変わりはねえか」

 

《ええ。特にハルカが心配するでしょうし、元の世界へ戻るときに時間がずれ過ぎないよう気を付けておくわ》

 

実際、ハルカを待たせすぎると激しく心配されるので良くない。

あのスピナー=スペリオルとの時だって、左腕と右足を失って入院し、ハルカを泣かせた経験がある。そうそう何度もやりたいと思える経験では無かった。

 

「取りあえず、やれる事はやって早めに帰るに限るな・・・。なんか無性にあいつの飯を食いたくなってきた」

 

《あら?それならユキさんの言ってた通り、本当にお嫁に貰った方がいいのでは無くて?》

 

「な、何でそうなった?つか何でお前がそれ知ってんだよ!?」

 

ナオトはラケルの発言に焦って問いかける。

その話は自分とユキの二人の時だけで話したもので、ラケルは知らないはずだったからだ。

 

《あら?忘れた?貴方から何も聞かずにその『眼』の事を知ったように、今回もそれで知ったのよ?》

 

「なんでだよッ!俺にはどうしてその情報入って来ねぇんだよ畜生ッ!」

 

ラケルが勝ち誇ったような言い方で煽って来たので、ナオトは思わず眼を見開いて絶叫するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ねぷてぬ~っ!ぴぃとあそんでっ!」

 

「うぇ!?ちょ、ちょっとだけ待っててね~・・・くそぉ、RPGを選んだのが間違いだったかなぁ?」

 

今日も今日とてピーシェに遊び相手を頼まれるゲーム中のネプテューヌ。

しかし運の悪いことに今回遊んでいたのは、プレイの一つ一つに時間のかかるRPG。前回と違ってすぐにセーブができるものでは無かった。

そして時は無情な如く、何者かによってゲームが強制終了される。

 

「あ、ちょっとぉ!ケーブルは抜いちゃダメってあれ程・・・。アレ?」

 

真っ先にケーブルを引っこ抜かれたと思ったネプテューヌが確認してみると、先端部は確かに刺さりっぱなしだった。

しかし、そこから先が切断されて(・・・・・)いた。何があったのかと思って慌てて周囲を見てみると、ピーシェが引きちぎったことを証明するように千切れたコンセントを持ったまま白い歯を見せて笑っていた。

その千切れたコンセントとピーシェの笑顔を見たネプテューヌは乾いた笑みになってしまう。

コンセント買い直しのショックと、ピーシェの怪力に戦慄したものだった。

 

「ぴ・・・ぴーこ?ちょっと待って?私今からそのコンセント直さなきゃ・・・」

 

「まてなーいっ!ねぷてぬとあそぶ!」

 

「ねぷあぁぁぁぁっ!?ちょっと待って~!」

 

前回は覚悟を決めていたからいいものの、今回は突然の事態に準備ができていない。

その為ネプテューヌは何か言い訳を作って逃げようと試みたが、ピーシェが待つはずもなく、結局いつものように付き合わされることになった。

 

「結局いつも通りだな・・・」

 

「でも、ネプ子がいないとあの子に付き合いきれる人がいないから何とも言えないのよね・・・」

 

「ねぷねぷとピーシェちゃんが仲いいですし、大丈夫だと思うですぅ♪」

 

ラグナはもう見慣れてしまったので日に日にコメントできることが無くなっていく。ラグナからすれば自分が日常に溶け込めて、自分の身内に大事が起きないだけでも十分満足なことだった。

アイエフの言う事は確かな問題であり、万が一ネプテューヌが体調を崩したり、骨折等をしてしまった場合ピーシェの遊びに付き合える人がいなくなってしまう。

コンパの言う通りピーシェとネプテューヌの仲は良く、ピーシェと最も仲がいいのはネプテューヌだった。

ピーシェがここまでネプテューヌに甘えるのは、ネプテューヌが最も彼女に合わせて上げようとして、実際に土壇場ながらも合わせられるからだろう。・・・今回は合わせられそうに無さそうなのはこの際置いておく。

 

「ぐふぉおっ!?」

 

「いえーいっ!」

 

気が付けば、ネプテューヌがまた強烈なアッパーカットを受けて地面に伸びていた。ピーシェのガッツポーズもいつものように入っていた。

ラグナがネプテューヌを抱えてケガの具合等を確認してみると、幸いにも大したケガは無かった。

そう安心したところで、ドアが勢い良く開け放たれた。

 

「お、おい・・・!何かデカい音が聞こえたけど・・・。ってまたやられてるのかッ!?」

 

《ネプテューヌ・・・貴女のその体を張った付き合い方は真似できないわ・・・》

 

どうやらナオトとラケルが何かあったのかと慌てて飛び込んできたようだ。

しかし、その結果が案の定だったのでスムーズにネプテューヌを部屋に搬送する作業へ移行した。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ところでネプギアちゃん・・・最近は大丈夫なんですの?」

 

「はい。今のところは何も・・・お気遣いありがとうございます」

 

プラネタワーの屋上にあるベンチで、ベールとネプギアは話し込んでいた。

先程まではゲームや仕事などの他愛のない話だったが、ベールが気になってネプギアの現状を聞いたのである。

 

「いえ・・・なんてことはありません。何かあったら、お姉ちゃんに頼ってくれてもいいんですのよ?」

 

「・・・えっ?でも、私のお姉ちゃんは・・・」

 

ネプギアに礼を言われたのが嬉しいのか、ベールはネプギアの顔を自分の胸に押し当てる。

困惑しながらネプギアは抗議の声を上げるが、少しずつその意志が侵食されているような感じがした。

 

「大丈夫ですわ・・・。ほら、その身を委ねて・・・?」

 

「あ、私の・・・私のお姉ちゃんは・・・」

 

ベールの誘うような言葉を前に、ネプギアの意志がより侵食されていく。

このままではもうじき自分の意思を折られてしまうだろう。

 

「心配はいりませんわ・・・。さあ・・・」

 

「なんだかもう・・・」

 

「オイオイ・・・。こっちはこっちで違う問題が起きてるじゃねえか」

 

――ベールさんがお姉ちゃんでいいかも。ネプギアが言い切るよりも早くラグナが言葉を発してそれを遮った。

 

「・・・リリィランク爆上げ中です?」

 

「何だ?そのリリィランクってのは・・・?」

 

「簡単に言うと、二人の間にある友好度や絆と言ったものかしら」

 

ベールたちの光景を見たコンパが疑問に持ちながら発したリリィランクのことが分からず、ラグナが問いかけるとアイエフが答えてくれた。

アイエフは説明の最後に、人によっては理解しきれない意味合いもあるけどねと付け加えた。その意味が分からず、ラグナは頭の上にクエスチョンマークを浮かべる事になるのだった。

 

「ちょっとベール!ネプギアに何してんのさぁっ!」

 

「・・・お姉ちゃん!?」

 

ネプテューヌが傷を押し切ったまま無理矢理やってきて咎め、そのお陰でネプギアは正気に戻る。

 

「いいじゃありませんの。たまに親睦を深めるぐらい・・・」

 

「この三日間毎日じゃない!ネプギアは私の妹なんだからねっ!」

 

実際の話、ベールは最近プラネテューヌに来てネプギアに話しかけることが続いている。

しかも質の悪いことに、事前に仕事を終わらせているからナインは止めようとはせず、セリカに至っては友人と話す時間は大切だと寧ろ推奨している。

そのせいでチカが一人止めようとしても限度があり、結局プラネテューヌに出かけられてチカがショックを受けるのだった。

 

「ていうか・・・チカさんほったらかしなのもそれはそれでマズいんじゃねえの?」

 

《そうね・・・。大怪我してハルカに心配かけたナオトみたいになってしまうわ》

 

「・・・今その話を使うのかよ・・・」

 

ナオトに続いて発言したラケルの言葉がかなり刺さる物であり、ナオトは肩を落としてしまう。

そんな二人の様子を見て微笑みを見せたベールだが、大事な事を話すべく本題に入ることにした。

 

「あ、そうでしたわ・・・実は、ネプテューヌに確認しておきたいことがありまして・・・。ブランからメールが来ていませんこと?私たちが全員で取り組んでいる物事の整理をしたいから、ラステイションの教会に集合したいとのお話なのですが・・・」

 

「・・・?ちょっと待ってて。今確認するよ・・・」

 

ベールに言われた内容は恐らく自分が気を失っている間だと確信したネプテューヌは慌ててNギアでメールを確認した。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「どう?最近飼い始めた耳長バンディクートのクラたんよ!可愛いでしょ?」

 

「可愛い・・・!」

 

「抱っこしたーい!ねぇねぇ、いいでしょ!?」

 

ラステイションの教会の屋上にて、ユニに最近飼い始めたペットであるバンディクートを見せられたロムとラムは目を輝かせた。

飼った日の約束通り、ユニはしっかりと自分で世話をしている。条件でなくとも基本的に自分でやるつもりでいたので、そのことは何も問題なく、ユニはこのクラたんのお陰で生活の楽しみが一つ増えたのである。

 

「ターターとも仲良し・・・」

 

「◎#=%×~・・・♪」

 

意外なことにターターとはすんなりと仲良くなり、ターターも他人への関心が強くなったので良い傾向だった。

 

「ところでノワール、最近開発が決まった各国共通化に成功した金融機関のセキュリティはそっちが担当していたわよね?」

 

「ええそうよ。何せウチのセキュリティは世界一ですもの!」

 

ユニたちが平和に溢れる空間で楽しくしている中、ノワールたちは真剣な話をしていた。

ブランの問いかけにノワールは自信満々に肯定する。ラステイションのセキュリティ関係は各国の中でも非常に強く、ラグナがパソコンを買う時もネプギアがラステイションのセキュリティソフトを推奨するくらいだ。

そのノワールの自信に満ちた回答を聞いたブランは少し言いづらくなるが、ここはしっかり言うべきなので、その迷いを振り切った。

 

「実は、その金融データがついさっき何者かにハッキングされたとの話があったの」

 

「いやいや、あり得ないわよそんなの!こっちの技術者たちが必死に改良を重ねた最高作なのよ!?」

 

「だが、先程『蒼の少女』が対応に当たっていたのを我らは確とこの目で見たぞ?」

 

「・・・えっ?そんなの何かの間違いでしょ?」

 

ノワールはもう一度自信満々でそれを否定するが、ハクメンの発言を聞いたら流石に無視できなくなった。

しかし、ハクメンが無情にも首を横に振ったのを見たノワールは何かが崩れるような間隔に襲われた。

ノエルはパソコンを扱えるということから、時々デスクワークを手伝うことがあり、今回もその延長で問題の対応に協力していた。

今回の信じられない事態を詳しく聞こうとしたノワールだが、何か空を切るような音が聞こえてそちらに顔を向けた。

 

「ねぷぅあああ~!?どいてどいてどいてぇ~!」

 

「・・・えっ?」

 

どういう訳かネプテューヌが空から落下してきており、ノワールは思わず疑問の声を上げた。

しかも段々と近づいて来ていて、こちらに近づいてくると同時に落下が早くなるように感じたノワールは狼狽する。

 

「の・・・のわぁぁああああぁぁぁぁあああぁあっ!?」

 

そして勢い良く二人は激突し、激しく土煙が舞う。

余りの勢いにハクメンは対応に遅れたことで、ネプテューヌを止めることが出来なかった。

また、ブランも吹き飛ばされそうになったのをどうにか堪える。

 

「の、ノワール・・・大丈夫!?」

 

「・・・よもや、御前が落下して来ようとはな・・・プラネテューヌの女神よ」

 

ノワールの安否を気遣うブランとネプテューヌが落ちてきた事に驚くハクメン。

いくらハクメンでも、この事態に平然といることは不可能だった。

 

「いやぁ・・・ぴーこを空飛んで運んであげてたんだけど、うっかり変身解いちゃってさぁ・・・。ネプギアにパスが間に合って良かったよ・・・」

 

どうやらピーシェのわがままに付き合って上げていたのだが、途中で変身を解いてしまうといううっかりで非常に危険なミスをしてしまったらしい。

幸いネプギアとベールが一緒に移動していたので、今回ピーシェに別状がないので良かったものの、これがネプテューヌ一人だったらただ事では無かっただろう。

 

「ネプテューヌ・・・わがままに答えてあげるのは良いけど、いのちをだいじにね」

 

「うん・・・次は気を付けるよ・・・」

 

「ちょっと・・・こっちにも気をつけなさいよね・・・」

 

ブランは子供のわがままに応えられるなら応えると言うネプテューヌの精神を悪く思っていない為、注意程度に留めた。

ネプテューヌも今回は失敗したなと自覚している為、すんなりと受け入れることで一件落着・・・と言う訳でもなかった。

現にノワールがネプテューヌに乗られたまま咎める声を上げた。

 

「おおっ!?お尻からノワールが生えた!?ちょっとビックリ!」

 

「ちょっとビックリじゃないわよっ!というか空から落ちてくるなんて非常識にも程があるわよ!」

 

ネプテューヌが久しぶりに見るようなボケ方をすると、ノワールはまくし立てるようにツッコミを入れる。

流石にノワールもこんな事態など想定できないので、焦るわネプテューヌがボケるせいで怒り気味になるわで散々だった。

そんな風に思っている最中、何者からか術式通信がかかってきたので、ノワールはそれに応じる。

 

「もしもし?私だけど・・・」

 

『おお、繋がったか!ラグナだけど、そっちにネプテューヌが落ちてきてねえか?』

 

術式通信の主はラグナだった。ラグナは飛べないので地上から移動するのだが、その途中でネプギアからネプテューヌが落ちたと言う通信を受け、重なるようにこの光景が見えたので焦って通信を送ったのである。

 

「ええ・・・。まさか私に激突するなんて思わなかったわ・・・」

 

『・・・激突した!?オイオイ、ケガとかは平気なのか?』

 

「ええ大丈夫よ。・・・ところでラグナ、一つ質問いいかしら?」

 

状況を聞いたラグナが焦って問いかけるが、ノワールは別段平気だった。

また、通信をしている最中に一つ気が付いたことがあるので、ノワールはラグナに聞いてみる事にした。

ノワールが気づいたのは、何やらエンジンの音だった。

 

『どうした?』

 

「さっきから何か音が聞こえるんだけど・・・何を使って移動して来てるの?」

 

『バイクだ。ついこないだ買ったからな・・・』

 

「・・・バイク!?いつ免許取ったの?」

 

ラグナの回答に驚き、ノワールは思わず問いかける。

それもその筈、免許を取っていた事などアイエフくらいしか知らなかったのである。

 

『あのホームパーティーより前には取ってたぞ?』

 

「・・・ああ。そう言えば乗っていたわねあの時・・・」

 

ラグナに言われて、あの日現場に赴いたラグナがバイクに乗っていた事をノワールは思い出した。予想より早かったと言えるだろう。

 

『ああ・・・そろそろ付くから一旦切るぞ?』

 

「ええ。また後でね」

 

流石に術式通信しながら停車は難しい為、ラグナは通信を切った。

ノワールが通信を終えて周りを見てみると、ピーシェを抱えた状態でネプギアとベールが降りてきた。

ちなみに、残りのプラネテューヌ組は全員バイクで来ている。但し、免許のないナオトとコンパはそれぞれ免許持ちのバイクに乗せてもらっている。

ラケルは随伴するように飛んでいるので、何も問題にはならなかった。

 

「ふぅ・・・どうにかなった・・・」

 

「間一髪でしたわね・・・ネプテューヌ、流石にあれはうっかりしてはいけませんわよ?」

 

「それ・・・ブランにも言われたよ・・・」

 

ピーシェを無事に下ろせたことで安堵するネプギアとネプテューヌのうっかりを咎めるベール。

ネプテューヌはすぐに二度目を聞いてしまったので、少ししょんぼりとしてしまった。

この後、ラグナたちがようやく合流したことで、ピーシェの相手は候補生たちに任せ、残りのメンバーはハッキングの問題にあたるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ハッキング終了。痕跡は分かりにくくても残してるから、その内こっちに来てくれると思うわ」

 

『了解した。例の子供を見つけたら、そちらのタイミングで連絡を頼む』

 

「ええ、了解よ・・・それじゃあまた後でね」

 

アノネデスとレリウスは短く通信を終える。

通信を終えたアノネデスがカメラの様子に目を向けると、女神たち一行が集まってハッキングの問題に当たっている姿があった。

勿論、そこには当然ノワールの姿があるのだが、今回の映像の映り方には少々不満がある。

 

「(う~ん・・・これじゃあノワールちゃんの姿が見づらいわね・・・。皆して画面に入っているから仕方ないわね)」

 

彼の目当てはあくまでもノワールの姿であり、他の人たちは特に興味を向けていない。

その為、ノワールの姿が見づらいこの状況をアノネデスは好ましく思っていない。

 

「(はぁ・・・ノワールちゃんたちがこっちに来るまで期待するしかないわね・・・)」

 

アノネデスは退屈な思いをしながら彼女たちが来るのを待つしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「どうかしら?」

 

「すみません。予備の回線が何個も張られているみたいで、見つけるには早くても日が暮れてしまいます」

 

「うぅ・・・参ったわね・・・」

 

ノワールはノエルに問いかけてみるものの、どうも状況は芳しくなかった。

ノエルも流石にこの手の対応をあたる機会が少なかったので、迅速に行うには限度がある。

それでも日が暮れるまで待てば見つけられるのは凄い事ではある。しかし、それでは逃げられてしまうので今回のばかりは頭を抱える事態となった。

 

「全部電子データ管理なんだっけ?こりゃ大変だね・・・」

 

「何か紙に纏めておけば、そこまでのデータに戻すことはできたのだけど・・・」

 

「・・・返す言葉もないわ」

 

ネプテューヌに問いかけられ、ブランの案を聞いたノワールは顔を落とした。

今回の金融データは全て電子データで管理しており、それがハッキングされてしまった事でズタズタになっていたのだ。

しかもそのハッキングの主が見つけられないのは中々に辛いことだった。このままでは何もできぬまま終わると言う悲惨な結果になってしまうので、それだけは何としても避けたいところであった。

 

「ノワール。一つよろしくて?」

 

「・・・?どうしたの?」

 

「先程、リーンボックスから来てもらうように頼んでいた方が来たので、その方に任せてもよろしいかしら?」

 

「そうね・・・。この際何としても犯人を捕まえたいし、お願いするわ」

 

ベールの提案を聞いたノワールは一瞬迷ったが、様々な事情がある今は協力することが大切だと判断して素直に受け入れた。

 

「わかりましたわ。お入りになって」

 

ベールに促されて、綺麗に切りそろえられている黒髪を持ち、眼鏡をかけている女性が入ってきた。

 

「リーンボックスが誇る超天才プログラマー、ツイーゲちゃんですわ」

 

「初めまして、ツイーゲですビル。よろしくお願いしますビル」

 

ベールに紹介された女性・・・ツイーゲは一度頭を下げてから礼儀正しく自己紹介するが、その予想外すぎる語尾に全員が固まってしまう。

 

「・・・び、ビル?」

 

「今時あり得ない語尾でキャラ付けっ!?それ絶対に失敗してるよ!」

 

ブランが思わずその語尾を復唱し、ネプテューヌは狼狽しながらその無茶振りであろう語尾を指摘する。

 

《ナオト、私たちの周りにこんな語尾の人は・・・》

 

「いるわけねぇだろ?いたら俺、絶対回れ右して逃げる自信あるわ・・・」

 

ラケルが焦り気味の問いかけをしてきたので、ナオトは溜め息交じりに否定をする。

これはかなりグレーゾーンな感じがするが、同じ学校にいる先輩の女子生徒である霧島カナだけは映像で少々危険な一端を見ている為、否定し切れるかと言えば少し怪しいところであった。

 

「(まあ、あの人は普段は何とも無いからセーフだな。アレはあくまでも映像内の話だし)」

 

しかし、冷静に考えてみれば平時は普通だし、アレはあくまでも日常の裏側なので触れてはいけない。

自分もたまたま御剣機関に見せて貰っただけなので、知らない振りをすれば何も問題はない。そう考えればナオトの中で霧島は何も問題ない人と言う結論になった。

 

「ご安心くださいビル。このシーン限りの使い捨てキャラですビル・・・」

 

ツイーゲの回答を聞いたラグナは、カグラがもったいねえとか言いそうだなと考えていた。

 

「それでは、早速取り掛かりますビル」

 

そんな全員の反応はいざ知らず、ツイーゲはハッキング元の追跡を始める。

それから一時間弱で、ハッキング元の追跡は完了するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ノワールさんが部屋に籠りっきり?」

 

「うん・・・」

 

ノワールたちが原因を調査している時間から少しだけ遡る。

ピーシェ、ロム、ラムの三人がクラたんと一緒に遊び、ラムダとニューの二人がターターの様子を見ている間にユニはネプギアに自分の悩み事を話すことにした。

 

「しかも部屋の鍵までしっかりと掛けてるの・・・だから、何があったか気になってて・・・」

 

彼女の持つ悩みとして、ノワールが最近夜は部屋に鍵を掛けて籠りっぱなしらしい。

今までそんなことが無かったので、ユニは興味半分不安半分と言いたいが、今回は明らかに不安の方が大きかった。

 

「なるほど・・・。うーん・・・アレを使って言いなら調べられなくもないんだけど・・・」

 

ネプギアは一つ対応策を持っていたが、そんな本人の許可なく使っていいものか解らないものだった。

ユニもノワールと同じく真面目な性格である為、方法なだけあってかなり慎重にならざるを得なかった。

 

「何か方法があるの?」

 

「うん。だけど・・・ちょっと人道的とは言えないものだから・・・」

 

「体の方で被害は無いのよね?」

 

ユニの問いに躊躇いながら答えるネプギアだが、重ねて問われたので、その心配はないことを頷いて伝える。

 

「ネプギア、一度その方法を教えて。他に何も無かったらそれで行くわ」

 

「ユニちゃん・・・」

 

ユニの迷い無い意思を感じたネプギアは一度考え込むが、友人の悩みを解決するならいいだろうと判断して、話すことを決意した。

 

「分かった。その方法なんだけど・・・」

 

その直後、ネプギアの考えている方法を聞いたユニが絶句してしまったのは無理も無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ・・・本当にコレ(・・)以外有効な手段がないなんて・・・」

 

ノワールの部屋にこっそりと入り込んでネプギアが準備をしている中、ユニは同じくノワールの部屋で罪悪感に駆られていた。

まさかネプギアが持ってきた小型のカメラで盗撮紛い・・・。否、盗撮をすることになるとは思っても見なかっただろう。

当然ユニはネプギアから聞いた提案を真っ先に却下して他に方法が無いか探したのだが、それでも見つからず、ネプギアがもう一度問いかけた時に最も確実な方法である、カメラという悪魔の囁きに負けてしまったのだ。

 

「ごめんねお姉ちゃん・・・本当にごめんなさい・・・」

 

「ゆ、ユニちゃん・・・大丈夫?」

 

ユニが姉へ謝罪の言葉を呟いているところでネプギアが戻ってきて心配そうに問いかける。

ネプギアの判断で強引に行われた事なら怒りに任せて問いただしたところだが、今回は自分の判断である為、自分に責任があるので責める場面では無かった。

 

「だ、大丈夫・・・それで、準備は終わったの?」

 

「うん。ちょっと待っててね・・・」

 

ユニの問いに肯定しながらネプギアはNギアを使った遠隔操作でカメラの映像とリンクさせる。

すると、Nギアにはカメラの映像がハッキリと映し出されていた。

 

「良かった・・・うまくいったみたい」

 

映像には部屋の中を走り回るロムとラム、ピーシェの三人と、その奥で本棚に並べられている本を眺めているラムダとニューの姿があった。

また、プラネテューヌで作られた最新の解像度を誇るチップを入れており、それによって高画質化に成功していたことも分かってネプギアは安堵する。

 

「じゃあ、後はこれで確認すればいいのね?」

 

「うん。時間に合わせて起動するようにすれば問題ないよ」

 

今日早速使ってみる?そんな問いかけがネプギアから付け加えられたが、ユニは考え込む。

確かにできれば今日中に知りたいのだが、場所を間違えると誤解を招くので非常に悩ましいことだった。

 

「?混線してる・・・?」

 

「・・・どうしたの?」

 

自分の持っていたNギアの画面にノイズが走ったので、ネプギアは真っ先にその原因の可能性にたどり着く。自分のカメラが自作で新しく手を加えたものである為、動作不良以外はそれしかなかったからだ。

そして、混線するという事は自分以外にも遠隔操作のカメラを置いている人がいるという事なので、ネプギアは何があるかすらも把握できた。

そして、ユニが気になって問いかけて来たところでネプギアはその真実を伝えることを迷わなかった。

 

「この部屋・・・誰かに盗撮されてる!」

 

「・・・へ?」

 

ノワールが何をしているか以前に衝撃的な真実を知ることになったユニは一瞬固まってしまう。

 

「えぇぇぇぇぇぇええぇぇええぇえええええっ!?」

 

余りにも信じられない緊急事態に、ユニは思わず絶叫を上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「あら・・・?回線が混線しちゃったわね・・・という事はそろそろ来るかしら?」

 

ネプギアが隠しカメラで盗撮していることに気づいた一方で、アノネデスは極めて冷静だった。

その理由として、逃げる必要がまるでないことにある。普通なら捕まらない為に逃走をするのだが、アノネデスは今回寧ろ捕まってしまってもいいので(くだん)の子供を探す必要があり、来てくれるなら寧ろ好都合なのである。

それでも逃げるに越したことはないが、今回は子供を探す方が優先である為、自分が逃げ切ることを考える必要は無かった。

となれば残りは潔く待って、成敗されないようにだけ気を付けるだけであり、依頼分としてアノネデスがやることは殆ど残っていないのだが、個人としてはやることが一つ残っていた。

 

「さて・・・忘れない内にノワールちゃんの色んな姿をプリントして回収しておかないと・・・」

 

アノネデスは己の欲望に正直になり、急いで作業を始めるのだった。

しかしその作業自体は早く、ノワールたちがハッキング元を見つけ出す頃にはその作業が終わっていて、残りは来るのを待つだけとなった。




この調子だと早くて次回に6話部分が終わると思います。

ブレイブルーの最新作まで後少し・・・楽しみで仕方ないです。
ちなみに、前回ラグナに小パン系ないと言っていましたが、4Aで小パン打てることに気が付きませんでした・・・誤情報を出してしまったことをこの場で謝ります。本当にすみませんでした。


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42話 事故の連発する一日

どうにかアニメ6話を終わらせることができました。


「まさかあんな形で役に立つとは思わなかったよ・・・」

 

「頼んでみて正解だったわ・・・。ああ、もうっ!お姉ちゃんの事を隠し撮りしてるなんて許せない!絶対に捕まえてやるんだから・・・!」

 

隠しカメラがあることが判明したので、ネプギアたちは電波逆探知機を使いながら犯人を追っていた。

まさか持ってきた隠しカメラが犯人捜索の役に立つとは思ってもみなかったので、彼女たちに取ってはある意味大収穫であった。

 

「それで・・・どこだか分かった?」

 

「待ってて・・・後ちょっとだから・・・。あっ、この先みたい」

 

ネプギアが持っている電波逆探知機の反応からして、このまま進めば辿り着けるであろう廃墟施設だった。

 

「よし・・・それなら早速行くわよ」

 

場所が分かれば後は行って捕まえるだけ。そう考えたユニは全員に促す。

その場にいた女神候補生、ラムダとニューの二人は頷いてくれたものの、ピーシェは例外に一人だけ座り込んでしまった。

 

「・・・どうしたの?」

 

「ぴぃ、おなかすいた・・・」

 

問いかけるネプギアにピーシェは空腹を訴えた。彼女たちはラグナやセリカ等、事ある度に食事を抜くことがあったので然程でもないが、一般の人でしかも子供のピーシェは話が違ってくる。

 

「あっ、そう言えば食べてないね・・・」

 

「でも、ここじゃ作れない・・・」

 

「いやだーっ、おなかすいたのー!」

 

ニューも思い出したようにそれに気づいたが、あまり気にしていない。

ラムダは料理を作ろうと考えたものの、そうなると一度引き返す必要性が出てきた。

そうなると我慢できないピーシェが駄々をこねるので、全員は顔を見合わせることになった。

しかし、ロムとラムはこれができるかもしれないと感じて、二人でそれを実行することにした。

 

「私はもうお姉さんだから、お腹空いても我慢できるよ?」

 

「私もお姉さん・・・♪」

 

ロムとラムが考えたこと、それは自分たちが我慢できると言えばピーシェも対抗馬として我慢を宣言するのではないだろうか?と言う考えだった。

これは外見上の年齢が近い二人だからこそ、効果を見込めると踏めた物であり、仮に二人がネプギアやユニのような見た目なら効果は薄かっただろう。

 

「・・・ぴぃもおねえさん!」

 

その思惑は成功し、ピーシェはどうにか我慢を宣言して立ち上がってくれた。

 

「じゃあ、我慢できるね?」

 

ラムが確認を込めて問いかけるとピーシェは無言でうなずく。

これによって改めて一行は移動を再開することができるようになった。

 

「二人ともありがとう」

 

「同じ小さい子がいると意識できる・・・そう言うことなのかしら?」

 

素直に礼を言うネプギアと二人を見て考えるユニ。

ユニの考えていることは正解で、ロムとラムも自分たちだからできるかもしれないという行動だった。

改めて歩きだそうとした瞬間、ネプギアたちは何かを感じて空を見る。

すると、そこには同じく廃墟施設を目指しているであろうネプテューヌたちの姿があった。

ちなみに、ラグナは『クサナギ』を装着したノエルに、ハクメンはナインに、セリカはミネルヴァに運んでもらっている。

 

「お姉ちゃんたちもあっちに飛んでってる・・・どうしたんだろう?」

 

「仕事の方でお話ししてたけど・・・どうしてだろ?」

 

この時、目的は違えど同じ犯人を追っていることをネプギアたちは知る由も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「この奥か・・・」

 

廃墟施設にある一つの扉を見てラグナは呟いた。

 

「ええ。それじゃあみんな、行くわよ?」

 

肯定しながらノワールが全員に声を掛ける。

全員が頷いたのを確認してから、女神四人でその扉を壊して中に入った。

 

「動かないで!手を上げてゆっくりとこっちを向きなさい!」

 

その部屋にいた影は抵抗不可能と判断して、座ったまま椅子を回転させてこちらを向いた。

全身ピンク色をしたパワードスーツのような姿を見て、女神たちはともかく、ラグナたちは頭にクエスチョンマークが浮かんだ。

 

「あなたね?ハッキングを行った犯人は!?さっさと答えなさい!」

 

急かすように問い詰めるノワールの声を聞いてから、パワードスーツは溜め息をした直後立ち上がり、変な身体の動かし方をする。

 

「あは~ん!そんな他人行儀な喋りかたしないで~・・・アタシのことは、アノネデスちゃんって呼んで?」

 

『・・・はぁッ!?(ええっ!?)《・・・何!?》』

 

ラグナとナインとナオト、ノエルとセリカとラケル、ハクメンの順に同じセリフで驚きを示す。

面喰ってしまうのも仕方がない。こんな喋り方をしてるパワードスーツの声は紛れもなく男だったからだ。

 

「オカマさん!?その見た目なのにぃ!?」

 

「あ~ら失礼ね・・・心は誰よりも乙女なのよぉ?これでもれっきとした人間だもの」

 

ネプテューヌの驚いたセリフを心外そうに咎めながら、アノネデスは自分の持っている論を話す。

素顔を晒すのが嫌いなのかどうかは定かではないが、一先ず外見のことは触れないでおくことを決めた異世界組だった。

 

「お、お姉ちゃん!?この人を捕まえに来たんだから、倒しちゃダメだよっ!」

 

「いいから離しなさいッ!あいつはセリカに取って毒よッ!」

 

「早まるなナインよッ!ハッキングの修復が可能かも知れんぞ!?」

 

「ああ、クソッ!何かありゃすぐこれだ・・。ミネルヴァ、済まねえがナイン止めるの手伝ってくれッ!」

 

「・・・・・・!」

 

「ちょっと・・・ラグナも何を言って・・・ミネルヴァも実行しないで止まりなさいッ!何でラグナの命令アッサリ聞いてんのよ!?」

 

「ミネルヴァはセリカを護る為のものでもあるしな。それならセリカが信頼している俺の事を聞いても何にも違和感ないだろ?」

 

ブランが後ろを見て見ればやはりと言うべきか何というか、後ろでナインが暴走していた。

それをミネルヴァと言う最終手段を使い、ナインの両腕をガッチリと抑える事でどうにか話を進められる状況に持ち込めた。

実際にゲイムギョウ界でも早々、セリカが変な所へ行こうとしたのを止めたと言う前科もあるので、ミネルヴァはラグナの頼みなら別に問題ないと言う判断を下すようになっていた。

そう言われてしまえばナインも反論することができず、歯嚙みしながらうめき声を上げるだけだった。

 

「ナインっていつもああなの?」

 

「セリカちゃんに悪影響を与えるなら、誰にでもああなりますわよ?」

 

私も気を付けませんと・・・。ナインの過保護っぷりには流石のベールも警戒せざるを得なかった。

前に一度、セリカ絡みでナインを怒らせた時は自分が国のトップであることを改めて説明しないと止まらなかった。

しかし、それでも小一時間に渡ってナインからお怒りの言葉を受けていた為、彼女がどれだけセリカを大切にしているかは嫌でも伝わった。

 

「あらら。それはアタシも気を付けないと・・・黒焦げになっちゃいそうね?」

 

「あんたなんか今すぐ黒焦げどころか灰にしてやるわよッ!」

 

「ナイン、早まるなと言っているだろうッ!貴様も止まらんかッ!」

 

アノネデスの一言にすら反応するナインを見て、まさかのハクメンですらアノネデスに制止を求めるレベルになっていた。

それ程までにナインの荒れ具合が顕著になっていた。ラグナやナオトは飛び火しかねない状況に冷や汗を流していた。

 

「脱線しててやりづらいわね・・・。それで?犯行を認めるの?認めないの?どっちなの!?」

 

「ふふ・・・生で見るノワールちゃん・・・やっぱ可愛いわ。想像以上よ♪」

 

ノワールが無理矢理話を進めようとすると、アノネデスの呟いた発言に顔を少し赤くしながら、少しだけ体が震えるのを感じた。

 

「な・・・気を逸らそうったって・・・」

 

「嘘じゃないわよ?アタシは本気よ?ホ・ン・キ♪」

 

ノワールの反論に先回りする如く、アノネデスは答えながら右手の指を鳴らす。

すると、今まで何も無かった暗闇の部屋に、いくつもの電子画面が浮かび上がってきた。

ただのデータだけだったらまだ良かっただろう。しかし、問題は全てノワールが写っていることだった。

 

「なああぁぁああっ!?」

 

「こんな写真とか撮っちゃってごめんなさ~い♪」

 

「あっちもこっちも・・・全部ノワールだ!?」

 

ノワールは顔を赤くしながら動揺し、アノネデスは手を大に広げながら高らかに告げる。

それをみたネプテューヌもその写真の数に驚くのだった。

何せ仕事中の姿から食事中の姿。果てには着替え中や入浴中といったかなり際どい姿の物すらあった。

 

「アタシ、ノワールちゃんの大ファンなの!ノワールちゃんのこと何でも知りたくなって、つい出来心でやっちゃったのよ~!」

 

わざとらしく頭をポカポカ叩くその姿に一行が啞然とする。

ちなみに、ラグナとハクメンは二人係でナインの暴走を少しでも抑えるべく、セリカに断りを入れて目と耳を防がせてもらっている。

 

「ら、ラグナ?ハクメンさん?これじゃあ何が起きてるか分かんないよぉ~・・・」

 

「すまんセリカ・・・ナインの暴走を抑える為なんだ・・・」

 

「暫しの間、我慢を頼むぞ・・・セリカ=A=マーキュリー」

 

「ごめんねセリカちゃん・・・私も見ているしかできない・・・」

 

困っているセリカの声を聞いても、三人は詫びながら我慢してもらうしかなかった。

純粋な女の子にこの仕打ちをするのは、余りにも罪悪感に駆られる行為だった。

 

「し、写真はどうでもいいのよ!私が聞いてるのはハッキングのことで・・・」

 

「じゃあ、これは?」

 

「ああ!?ノワールがお裁縫してる!」

 

ノワールが言いたいことを遮り、再びアノネデスが指を鳴らす。

すると今度は何やら衣装を作っているノワールの姿があり、ネプテューヌが再び驚きの声を上げる。

 

「ああ・・・。俺、この世界の人間じゃなくて本当に良かった・・・」

 

《そうね・・・。間違いなく福田がこんな感じで晒上げるでしょうね》

 

ラケルに肯定されたナオトは「考えたくもねえぇぇぇええ!」と絶叫を上げた。

余りにも想定した事態が恐ろしすぎたのだ。

 

「え・・・ええそうよ!私って意外と家庭的でね・・・」

 

「あら?あの衣装、何処かで見覚えが・・・」

 

「無い無い!絶対に見覚えなんてないからっ!」

 

ネプテューヌの声に狼狽しながら答え、ベールの疑問にこれまた焦りながら否定するノワール。

何やら必死に隠そうとしているのは目に見えていたが、何を隠したいのかがラグナやノエルは解らなかった。

 

「って、そういうのじゃなくて!私は・・・」

 

「そういうのじゃないって言うなら・・・こう言うのかしら?」

 

「なああぁぁああぁぁああああぁぁあああっ!?」

 

ノワールがもう一度問いただそうとすれば、先程と同じように指を鳴らしてアノネデスが新しく写真を写しだし、ノワールが絶叫する。

その写真はアイドルの物だったり、格闘ゲームのキャラクターの物だったり、何処かで見覚えのある姿だったりと様々なだった。

しかも、新しく出された全ての写真で、ノワールは楽しそうにノリノリでポーズを取っているのだ。

 

「ああ・・・コスプレかぁ・・・。全部良く取れてるじゃん!」

 

「なるほど。こんな趣味があったのね・・・」

 

「あの衣装、見覚えがあると思えば四女神オンラインの・・・」

 

ネプテューヌは純粋にそのクオリティに関心を示し、ブランはノワールの趣味を知って満足そうにし、ベールは自分の中にある疑問が晴れて嬉しそうにした。

しかし、ノワールからすれば堪ったものではなく、頭を抱えながら顔を赤くして大慌てしていた。

一方、ただ啞然としていたラグナ達だったが、一つの写真を見て大慌てすることになるのだった。

 

「お、おい!ナイン、ハクメン!アレ『零式・イザヨイ』じゃねえか!?」

 

「・・・!?ちょっと噓でしょ!?何でアレが存在してるの!?」

 

ラグナが指さすとナインが驚愕する。

ノワールのコスプレであろう写真の内一枚は色違いであれど見事に『零式・イザヨイ』を纏ったツバキのものと酷似していた。

白の布地と金色をした金属品などが黒を基調としたものに、武器として使われる槍と腰部付近に浮いている武器の刃の色こそ赤に変わっているものの、根本的な姿形は見事にそっくりだった。更に普段はツインテールにしている髪までも、今回の衣装に合わせてポニーテールに変えているのだから尚更だ。

更に質の悪いこととして、ノワールとツバキの体格が殆ど変わらないので、この写真に写っているノワールを別人ですと言えばあっさりと信じることができそうなくらいだった。

 

「えっ!?な、何!?私何かマズい事でもしたの!?」

 

「黒の女神よ・・・『十六夜』を造った訳ではあるまいな?」

 

「あ、アレはコスプレの為のハリボテ衣装よ!?戦闘力とかそういうの一切無いからね!?」

 

ナインとラグナの慌てっぷりを見たノワールも焦り、ハクメンの問いには全力で否定する。しかもこの際ノワールは弁明に必死でコスプレを認めてしまっている。

それを聞いて三人はホッとする。今日この時ほど慌てた事は無かっただろう。

 

「ええっと、アノネデスさん・・・だよね?取りあえずその写真だけしまって貰えないかな?ラグナたちが収集つかなくなっちゃうから・・・」

 

「そうね・・・これだけは混乱招きそうだから、後で削除しないとね」

 

「お願い・・・その写真だけは今後の為に消しておいて・・・」

 

ラグナたちが慌てていた事で塞がれていた耳と目が自由になったセリカがアノネデスに問いかけてみる。

流石にアノネデスも何か訳アリだと感じたので、承諾してその写真だけ表示を終えさせた。

ついでに削除するのは名残惜しいが本気で考慮している。流石に命を投げ捨てるのは早いと感じているからだ。

また、ノワールはアノネデスにとんでもないことを公開させられているのにも関わらず、懇願するレベルにショックを受けていた。

 

「ああ・・・無情だなこれ・・・」

 

《ナオト・・・『よく刺さる包丁』には気を付けることね?》

 

「・・・アレは事故だろうがッ!マジで一瞬死ぬかと思ったからなッ!?てか今その話してる場合か!」

 

ナオトは過去の光景を思い返して冷や汗を掻く。

あの時はハルカに何でそれを持っているのかと訊く余裕すらなく、ラケルが止めなければ死んでいた危険性すらあった。

 

「・・・?コスプレ?ラグナ、コスプレってわかる?」

 

「いや、俺は知らねえな・・・。ノエルは何か知ってるか?」

 

「ええっ!?わ、私も知りませんよ!?」

 

セリカがラグナに振って、ラグナがそれを否定しながらノエルに振る。

するとどうして自分に振るんだと思いながらノエルはあたふたしながら否定する。異世界組はこう言うことに疎いので、ただ着替えて何かしているとしか思えないのである。

 

《あら?それならナオトが・・・》

 

「勝手に言うんじゃねえ!てかもういいだろその話!?今一番被害被ってんの俺じゃなくてノワールさんだからなッ!?」

 

「嫌あああああぁぁぁああっ!見ないでええええぇぇぇえええっ!そして今ぶり返さないでええええぇぇぇえええっ!」

 

ナオトはフォローする為にラケルの言葉を遮ったのだが、それによって思い出してしまったノワールが更に絶叫を上げる。

どうやら逆効果だったようだ。

 

「あらら~?取り乱すノワールちゃんも可愛いわね~♪」

 

「ああもう・・・こうなったら!」

 

アノネデスがおちょくったことが皮切りとなり、堪忍袋の緒が切れたノワールが変身する。

 

「こうなったらあんたの事を盗撮罪で牢屋に送り込んでやるわっ!」

 

「あら?それはいいんだけど、本当にいいの?アタシが離れると、この写真全部ばら撒かれることになるけど」

 

「はいぃっ!?」

 

変身を終えたノワールが斬りかかろうとした時、アノネデスの言葉を聞いて驚愕しながら制止する。

 

「いや~・・・本当は独り占めするつもりだったんだけど、ノワールちゃんで埋め尽くすのも楽しそうじゃない?」

 

「悩みどころですわね・・・こんな写真が公開されたら・・・」

 

「恥ずかしくて表を歩けないわね・・・」

 

「まあいいんじゃないー?このノワール超可愛いしー・・・」

 

アノネデスに問われて愕然するノワールに対して、他の女神は呑気に構える。

 

「・・・こいつら何で呑気なの!?」

 

「私も理解に苦しむ・・・」

 

一方、ラグナはその女神たちの反応に驚いてハクメンは頭を抱える。

完全に異世界組置いてけぼりの動きだった。そのせいでセリカやノエルはポカンとしてしまっている。

 

「いいわよ・・・やってみなさい・・・!その代わりあなたの命はないわよっ!」

 

「ノワールちゃん、そっちの子が混乱招きかねないって言ってた写真残ってるけどホントに大丈夫?」

 

「ぐっ・・・!」

 

ノワールは剣を突きつけ直すものの、アノネデスの一言で止まらざるを得ない。

アノネデスも確かに消すつもりでいたが、流石に時間を貰えなかったのは不味いので時間稼ぎにこうして手を打ってみたのだが、案の定大成功であった。

その為アノネデスはノワールが止まった一瞬の隙を付いて画像を削除した。後は自分の目的を果たす為に場所を移すだけである。

 

「さて・・・時間作ってくれてありがとうね。お礼にこれをプレゼントするわ!」

 

アノネデスは礼を言うと同時に無数のディスプレイをノワールたちに飛ばす。

ノワールたちは当然のようにディスプレイを次々と打ち払っていく。

しかし、全てのディスプレイが光となって消滅する頃には既にアノネデスは裏口であろう場所から出ようとしていた。

 

「そうそう。写真をばら撒くのはウソだから安心してね♪それじゃあバイバ~イ!」

 

「バイバ~イ♪またお話ししようね~♪」

 

「って、逃がす訳無いでしょう!?今後の為にも今すぐ消し炭にしてやるわッ!」

 

去っていくアノネデスに手を振って笑顔で見送るセリカに対し、ナインは憤怒で顔を歪ませながら転移魔法で追撃を試みる。

 

「あっ、ちょっと待て・・・!」

 

ラグナが制止しようとする頃にはもう遅く、ナインは転移魔法で移動をしてしまった。

 

「お、おい・・・アレヤバくね?死人も出るし、下手すっとここ火災事故起きるぞ?」

 

「す・・・すぐに止めないと・・・!ああでも、本気で怒ってるナインさんの相手って・・・」

 

怒り狂ったナインによる被害を想像したナオトが危機感を促し、そのナインを止めることが相当厳しいことが解っているノエルが動揺する。

また、ハクメンもハクメンでナインが相手にしたくない筆頭の状態になってしまい、頭を抱えることとなった。

そしてハクメンが頭を抱えた直後、近くで何らかの爆発に似た音が聞こえる。

 

「きゃああああぁぁぁああっ!?」

 

「そこで止まりなさいッ!今すぐ黒焦げにしてやるからッ!」

 

その直後、アノネデスの悲鳴とナインの怒号が聞こえる。

どうやらナインはあっさりと転移魔法で先回りに成功したらしく、アノネデスの姿を見るやすぐに火の魔法を放ったようだ。

 

「ちょ、ちょっと・・・アタシが一体何をしたって言うのよ・・・?アナタに被害は出してないと思うけど?」

 

「セリカに被害があんのよッ!」

 

「ひぃぃっ!?」

 

アノネデスの問いかけなど聞く耳を持たず、ナインは容赦なく二度目の魔法を放つ。

恐らく自身の近くを掠められたであろうアノネデスは再び悲鳴を上げる。

 

「全く、そんな意味の分からない喋り方をして・・・!セリカに悪影響を出さない為にも、どっちにしろ修正してやるから覚悟しなさいッ!」

 

「待って!ちょっと待ってってば!嫌ああああああああっ!」

 

ナインに取っては当然のことだが、アノネデスはどうしてナインが怒っているのかがわからぬまま次々と魔法を放たれ、必死に逃げ回る事になってしまった。

 

「あ・・・あのさ、私たち行かなくていいかな?物凄く行きたくないんだけど・・・」

 

「私も・・・できれば避けたいわ」

 

「ええ・・・彼は犠牲になりましたの・・・」

 

その剣幕を感じ取ったネプテューヌたちは行く気力を無くしていた。

しかもベールに至っては気が早い十字架を斬っていた。

 

「いやいや、行かなきゃマズいだろ!?情報得られなくなるし、俺らまで巻き込まれるぞッ!?」

 

「私が行けば止められるかも・・・!ミネルヴァ、お願い!」

 

「・・・・・・!」

 

しかし、このまま続けばこちらに被害が来るのが目に見えていたラグナは止めに行くことを選び、セリカは自分を賭けてミネルヴァに頼む。

ミネルヴァはセリカの無茶に付き合うこと自体慣れており、すぐにセリカを抱えて飛び出し、ラグナもそれについていく。

 

「な、ナインさん!?いくら何でもやり過ぎじゃ・・・」

 

「ユニ、そいつはノワールの事を盗撮してた犯人よ!」

 

「・・・!お姉ちゃんの事をですってぇ!?」

 

偶々見かけたユニが止めようとしたものの、ナインに言われた事実によって方針を変更。

変身を完了したユニと怒り狂ったナインの二人にアノネデスは追い回されることになる。

 

「ま、待ってこれ以上は死んじゃう・・・!本当に死んじゃうからっ!」

 

「・・・此れは不味いな」

 

「ま、マジでアイツが死んじまう・・・!急がねえとッ!」

 

「それに火災も事前に止めないと不味いもんねっ!?」

 

流石にアノネデスが大変なことになってきたので、ハクメンも音の聞こえる方へ走りだし、ナオトも遅れながら急いだ。

そして、残っていたノワール以外の女神たちは変身、ノエルも『クサナギ』の装着をして全員で音の聞こえる方へ急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「だ、大丈夫?どこか怪我とかしてない?」

 

「お嬢さんありがとうね。一応怪我はしてないから大丈夫よ」

 

夕刻、壁に寄りかかってくたびれているアノネデスが心配になってセリカは声を掛けた。

何せ怒り狂ったナインとユニに暫くの間追い回されてしまい、絶叫や悲鳴を上げたまま、普段運動をしない息切れが走り回って逃げた為、その疲労は尋常では無かった。

幸いどうにか軽傷だったので良かったものの、一歩間違えれば死んでいた。

現在ユニとナインはやり過ぎたことを咎められている。流石に説教とまではいかないが、あのまま続けばラグナたちを巻き込んでいたので、仕方ない面はある。

 

「ああ・・・時間みたいね。もし話したいなら、お姉さんには内緒でこっそりと来るのよ?」

 

「あはは・・・それはちょっと厳しいかも・・・」

 

セリカが重度な方向音痴であることと、ナインを心配させてしまうので迂闊にそんなことができないでいた。

前者に関して本人は自覚がないのだが、後者はナインが仕事どころでは無くなってしまうので、あまりやりたいと思えなかった。

アノネデスはナインの事を考えればそうだろうなと思い、そのまま連れていかれることとなった。

 

「何というか・・・あの人災難だったね」

 

「危なかった・・・」

 

ニューとラムダはアノネデスが全力で逃げている際、止めに行く事ができなかった。

ラムダはピーシェが巻き込まれ無いようにしたからで、ニューはそもそも戦えないので仕方がなかった。

 

「重要人物盗撮って・・・余計に罪が重くなんねえか?」

 

《まあ、彼の自業自得かしらね・・・。流石に最後は同情してしまったけど》

 

ナオトはアイツすげえ事してんなと感じ、ラケルは無茶をしたものだと感じていた。

どちらも良い意味ではない。いっそ清々しいあの姿はどこから来たのかと言う疑問が強かった。

ちなみに、ラケルの同情についてはナオトも同意している。

 

「結局ハッキング主は誰だったんだろうね?」

 

「訊く余裕すら無かったわね・・・」

 

ネプテューヌの問いかけには回答の術が無かった。

ブランの言う通り、途中から収集がつかなくなってしまい、それどころじゃない状況になったからだ。

 

「まあ・・・どうにかなったし、後で聞いてみりゃいいんじゃねえの?」

 

ラグナの言った事は間違いではなく、実際その真相は訊いてみないと解らないのだった。

これ以上はやることがないので、もう帰るだけなのだが、ネプテューヌは隅っこでしょぼくれているピーシェを見かけた。

ピーシェは空腹であることと、自分の相手になってくれる人がいなかったことが重なり、不満と寂しさが混ざっている状態だった。

他の人と違って空腹に対する耐性は間違いなく低いし、幸い自分には空腹を満たす手段があったので、ネプテューヌはそれを行うことにした。

 

「ぴーこ、お腹すいたでしょ?これ食べる?」

 

ネプテューヌはアイテムパックにしまっていたプリンを見せる。

アイテムパックは品質保存の効果もあるようで、ピーシェを発見した日もネプテューヌはこうしてプリンを持ってきていた。

また、そのプリンは自分が食べると言わんばかりに「ネプの」と蓋に書かれていた。

 

「・・・・・・」

 

ピーシェはそのプリンと、一緒に用意してあったスプーンを受け取り、蓋を明けてから一口食べる。

 

「・・・!」

 

「美味しい?」

 

「うんっ!おいしいっ!」

 

空腹を我慢してたこともあり、ピーシェはそのプリンが一層美味しく感じた。

その為ネプテューヌの問いには満面の笑みで肯定し、そのまま笑顔でプリンを頬張るのだった。

 

「良かった・・・。ぴーこが満足してくれて」

 

ネプテューヌはそんなピーシェの様子を見守る。

その時は普段のようにお気楽な雰囲気は薄れ、代わりに年の離れた妹を見守る優しい姉の雰囲気があった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「あ、もしもし?例の子見つかったわよ・・・普段はプラネテューヌにいるみたい・・・」

 

『そうか・・・ところで、何故そこまで脱力している?』

 

「・・・死にかけたわ。あの魔女みたいな人に追っかけられて・・・」

 

プラネテューヌの牢獄にいるアノネデスは、幸い回収されないで済んだ通信機でレリウスに連絡していた。

余りにも脱力している声が気になったレリウスが問いかけると、アノネデスの回答で全てを悟った。

 

『成程・・・現場にはセリカ=A=マーキュリーもいたか・・・災難だったな』

 

「ええ・・・もう二度と追われるのはゴメンだわ」

 

流石にレリウスもアノネデスに同情を示した。

初対面であそこまで敵意を持たれて、殺意をむき出しに追われたら生きた心地がしないだろう。

 

『ともかくご苦労だったな。お前がそこを出られた時は報酬を受け取りに来るといい』

 

「了解よ。それじゃあまたね」

 

レリウスから労いの言葉を聞いてから通信を切ったアノネデスは壁に寄りかかって腰を落とし、くたびれた様子を見せた。

 

「(ああ・・・ようやく地獄から帰ってこれた感じがするわね・・・)」

 

アノネデスは牢獄にいると言うのにどこか安堵している様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

時間も遅いので全員がラステイションの教会で止まることが決まった後、ラステイションの教会にあるベランダでユニとノワールは外を眺めていた。

今回の件もあって少し話し出すのが難しい状況だった。

ノワールは身内にバレたコスプレの話。ユニはアノネデス絡みで少々やり過ぎてしまったことだった。

アノネデスのことはノワールが代わりに鬱憤晴らしをやってもらえたと捉えているので、別に問題はないのだが、それでもユニは姉の迷惑になったかも知れないと考えると抱え込みかけな状態になっていた。

 

「ねえユニ・・・」

 

少しの間続いた沈黙を破ったのはノワールだった。その表情は寂しさを感じさせている。

 

「その・・・がっかりしたでしょ?あんな姿を見て・・・」

 

ノワールが皆に隠れてコスプレをやっていた理由として、見られたら幻滅される可能性が極めて高いからだった。

常日頃から真面目に業務をこなしているノワールは、当然ながら国民から何事も真面目にこなす努力家の女神と言う評価が根付いている。

そんな印象を持たれている彼女のコスプレ写真がある日突然出回ったとしたら、国民たちはどのような反応を示すだろうか?それが怖かったのだ。

幸い、四女神はコスプレやっているなくらいで済み、異世界組は殆どの人がコスプレの知識を持たなかったので何かやっているなくらいで終わったのだが、一般の国民であった場合はそうもいかなかったかも知れないと考えると、どうしても恐怖を感じてしまう。

その他にもユニがどう思ったのかが解らないのもある。彼女にも普段から真面目な面しか見せていなかったので、彼女がどんな感想を持ったかが解らないでいるのが影響していた。

 

「その・・・嫌なら言ってくれてもいいのよ?それだったら・・・」

 

「ううん。そんなことないよ・・・」

 

ユニにもやめて欲しいと言われるかも知れない。そう思っていたノワールの不安は他でもないユニによって否定された。

実はノワールのコスプレに関して、ユニは否定の意見を持っていなかった。寧ろ工程である。

 

「だって、ああいうことができるって事は・・・それだけ仕事が早く終わらせられてるってことでしょ?それに・・・」

 

「・・・それに?」

 

「アタシがお姉ちゃんの仕事を手伝えるようになったお陰で、お姉ちゃんがああやって楽しそうにできたんだったらそれは嬉しいから・・・」

 

今まで殆どの仕事をノワール一人でこなしていたところを、ホームパーティーの一件以来少しずつユニも担うようになった。

それによってノワールが私事に時間を回せると言う結果が帰ってくるなら、自分の努力が実った形の一つと思えてユニも嬉しいのであった。

 

「だからやめないで・・・それに、アタシはお姉ちゃんの色んな姿が見れてちょっと嬉しかったよ・・・」

 

「ユニ・・・」

 

ノワールはユニのお陰で心の底から安心できた。

今まで真面目にやって来た人。それもかなり重役の人がいきなりこういった趣味に走ればそれを知った際にどんな反応をされるか解らない。

今回は国民に知られていないものの、身内に知られていた為どうなるかと思ったが、最も身近にいたユニが肯定してくれたので、一部の人に弄られる以外は一安心だった。

 

「・・・ぁぁぁぁあああ・・・!」

 

「・・・・・・声?上から?」

 

突然、少女と思われる声が聞こえ、ノワールとユニは空を見上げる。

すると、空を斬るような音とともに、薄い青紫色の髪をした小柄な少女が落ちてきていた。

 

「・・・えっ?噓でしょ?まさかだけど・・・!?」

 

「どいてどいてどいてえぇぇ~っ!」

 

ノワールはこの状況を見てデジャヴを感じていたが、案の定同じ状況だった。

違いがあるのは、落ちてきているがネプテューヌではなく、見知らぬ少女であることだった。

そして、無情なことにその少女は真っ直ぐこちらに近づいてきていた。

 

「の・・・のわあああぁぁぁああぁぁああああぁぁぁあああああっ!?」

 

そして、少女とノワールは激突し、盛大な土煙を上げた。

 

「あいたたた・・・」

 

「な、何があったんですか!?・・・って、えっ!?」

 

全員がその騒音が聞こえて慌てて駆け寄って来て、ネプギアが問いかけてみた。

しかし、煙が晴れて状況が分かった瞬間、ネプギアのみならず全員が驚くことになる。

 

『だ・・・誰!?』

 

「ね、ねえ誰かあの子知らない!?」

 

「い、いや!俺は知らねえぞ!?」

 

全員が驚いて即座にネプテューヌが聞くものの、ラグナに続いて次々と知らないと答える。

そうして全員が混乱している中、青紫色の髪をした少女は全員に向けて笑顔を見せた。




アニメ6話分終了に合わせてプルルートが加入しました。

ちなみに、ラグナたちが大慌てしたコスプレですが、CFのイザヨイ、07カラーが元になっています。見事に髪の色と目の色がほぼそっくりだったので、これは使うしかないと思って取り入れました(笑)。

勇者ネプテューヌの方はゲーム画面の一部を見ることができました。
アレを見た時にクリプトラクトみたいだと感じたのは私だけでしょうか?

恐らくは次回からこのままアニメ7話分に入ると思います。


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43話 人の意外な一面、迫る罠

今回からアニメ7話部分です


「改めましてぇ~。プルルートでぇす♪よろしくねぇ~」

 

夕刻に落ちてきた少女、プルルートが別のゲイムギョウ界にあるプラネテューヌの女神だということが分かったので、プルルートは暫くの間プラネテューヌ住まいに決まった。

そして現在、プラネテューヌ居住組はプラネタワーに集まってディナーを取る時間になっていた。

 

「こっちこそよろしくな。お互い異世界生活だが、上手くやっていこうぜ」

 

「そうだな。時間の限界はあるかもしれないけど、これからよろしくな」

 

「うん~♪よろしくぅ~♪」

 

異世界生活には一日の長があるラグナが真っ先に歓迎してやり、ナオトもそれに同意する。

その意図が分かったプルルートは嬉しくなって、両手を合わせながら返事をする。

プルルートはかなりのんびりとした喋り方をしているが、この場にいる全員はそこまで気にしていない。

 

「(ジンがいたらイライラしてただろうな・・・)」

 

そんな中、ラグナはジンの性格を思い出して苦笑した。

流石に平時は耐えられるかもしれないが、大事な話の時にこんなのんびり口調だった場合は急かすかもしれない。

 

「プラネテューヌの新しい女神さん・・・じゃなくて、別世界の女神さんであるぷるちゃんとの出会いを祝して乾杯ですぅ♪」

 

コンパの言葉に合わせ、全員で乾杯してから食事が始まる。

今この場にいるのはネプテューヌ、ネプギア、ラグナ、ナオト、ラケル、コンパ、アイエフ、イストワール、ピーシェ、そしてプルルートの十人でかなりの大人数だった。

 

「・・・なんていうか、酒って苦いんだな・・・」

 

「まあ最初は仕方ないわよ。ちょっとずつ慣れていってね」

 

ラグナは今回初めて飲酒をしてみたのだが、真っ先にでた感想がそれであった。

酒を始めて飲んで美味い。と言う感想は中々難しい。アニメでも現実でも大人たちが美味そうに飲むので勘違いしがちな点である。

今回それを始めて感じたラグナを見て、アイエフは予想していたかのように答えた。始めて飲んだ時の記憶を辿ると自分もそうだったので良く分かるのだ。

 

「俺もいずれああなんのかな・・・?」

 

《煙草はともかく、お酒はそうでしょうね》

 

ナオトはまだ学生なので飲むわけにはいかない。しかし、ピーシェとは違ってジュースを出すとそれは空気に会わないので妥協案で紅茶を用意されていた。

これを見た時、ラケルが興味津々にしていたのは間近にいたナオトしか気がつかなかったが、ラグナも予想が付くくらいだった。

何せラケルとよく似たレイチェルと関わる機会が多かった為、知らず知らずのうちに頭の中で予想を立てることができてしまうのだ。

 

「ラグナ、取りあえず酔い過ぎないように気を付けてね?勢い任せで今までの苦労をぶちまけることになるかもしれないから・・・」

 

「・・・それには気を付ける」

 

ネプテューヌに言われてその姿を想像したラグナは一瞬苦い顔になりながら頷く。

正直言ってぶちまける量が収集つかなくなるレベルだろうとあっさり予想できたからである。

まず初めに親がいないから下の二人を庇う日々に始まり、セリカ(シスター)に保護された後もジンとサヤの喧嘩が度々起きたことや『あの日』の案件。

これだけでも十分に苦労の絶えない話なのに、そこからサヤを助ける為に修行へ明け暮れた日々、統制機構の支部を周り続けたことやカグツチでの案件。その後もイカルガや『エンブリオ』ととにかくハードモードな時間を過ごしていた。

下手をすると誰かをプツンとさせてしまうかもしれないので、そうなるわけにはいかないと思ったラグナは分量の意識を再確認する。

 

「あっ、女神って言うとぷるるんも変身できるんだよね?」

 

「うん~。できるよぉ~」

 

女神と言う単語で思い出したネプテューヌがプルルートに確認を取ると、彼女は肯定した。

やはり同じ女神と言うべきか、ネプテューヌはプルルートの変身した姿が気になっているのだ。

 

「でもぉ、あんまり変身しちゃダメだってぇ、みんなが言うの~・・・どうしてだろぉ?」

 

「もしかしてだが・・・性格の変化とかが問題じゃねえのか?ほら、癖が強すぎると大変だしさ」

 

プルルートの話を聞いたラグナは予想を立てた。

何しろ前の世界で事象兵器(アークエネミー)での弊害を受けた人たちを見ているラグナは、自然とそう言った推測を立てられた。

特に『ユキアネサ』に呑まれている頃の自分を見た時のジンみたいになるのなら、間違いなくそれは問題だろう。

ちなみに、本日始めて酒を飲んでいるラグナだが、自分が思った以上に酒への耐性が高いことが判明した。現にグラス一杯分飲み干したのだが、何も変化が無かった。

 

「う~ん・・・。解んないやぁ~」

 

「まあ・・・その内解るから今はいいだろ」

 

「そうですね・・・理由が解ったらその時にしましょう。ラグナさんの右上半身の時と同じです」

 

どうしても解らなかったプルルート相手に追求することはせず、ラグナとイストワールの言葉で待つ事が決まった。

この時はまだ、まさかラグナの予想が当たっていた事など、誰も予想だにしなかった。

話に参加せず黙々と食事を食べていたピーシェは、自分の分の肉が無くなってしまったので、すぐ近くにあるネプテューヌの分の肉にフォークをさして口の中に入れた。

 

「あっ、ちょっとぴーこ?横取りはよく無いよぉ?」

 

「ん・・・ん!」

 

それに気が付いたネプテューヌは恨みがましくすることは無く、ただ人の物に手を出したことに注意する。

ラグナがゲイムギョウ界に来訪して以来、予想外の事態が多かったこともあり、ネプテューヌも女神の自覚がしっかりしてきており、それと同時に子供みたいな態度が減り始めていた。

ピーシェも流石に自分が悪いことをしたと言う自覚を持ったのか、お詫びとばかりにネプテューヌにナスを譲るが、今回は譲ろうとしたものが悪く、ネプテューヌの顔が一気に青ざめる。

 

「な・・・ナス・・・?」

 

「あっ・・・そう言えばお姉ちゃん、ナスが凄く嫌いだったね・・・」

 

ネプテューヌはナスが大の苦手だった。本人曰く臭いだけでもうダメだと言う。

 

「・・・ん?つか、コレ苦手なやつ生で食えってのは少し無茶じゃねえか?」

 

ラグナは今回用意されているナスの状態に気が付いた。

ナス自身は調理さえすれば幾らでも食べようがあるので、生の状態であるナスがダメだと言うなら手を加えてしまえばいいのだ。

 

「ちょっと手、加えて見るか・・・。ネプギア、なんか使っちゃダメなやつはあるか?」

 

「特にダメというものはありませんよ」

 

「分かった。他にも手加えて欲しいやつはいるか?」

 

「は~い♪あたしのに加えてもらっていい~?」

 

―久々に台所に立つか。そう決めたラグナは立ち上がりながらネプギアに確認し、その後すぐ周りに確認する。

すると真っ先にプルルートがナスが乗ったままの皿を持って立ち上がったので、皿からナスだけ移させてもらう。

 

「ラグナって料理できたのか・・・」

 

「時々趣味でやってたからな。お前はどうする?」

 

「ん・・・せっかくだし頼むよ」

 

ナオトは意外に思った。正確にはナオトだけでは無く、話を聞いていたネプギアと異世界から来たプルルート、そしてまだ小さい子供であるピーシェを省いた全員だった。

ラグナは軽く答えながらナオトに聞くと、ナオトが皿を出して来たのでそこからナスをもらう。

 

「ええっ!?料理が趣味って女子か何か?」

 

「・・・何でそういう所に食いつくんだよお前は・・・つか、ネプギアにも似たようなこと言われたな・・・」

 

ラグナはホームパーティーの為に買い出しをしていた時の事を思い出した。

その時はネプギアに自分の食材への拘り具合の理由を答えたのだが、その時も女子みたいだと言われたのだった。

そう言われた時はラグナもネプギアの趣味に言い返したものだが、結局はどっちもどっちだったのだろう。

 

《ナオト・・・貴方はどうするの?今のうちに覚えればハルカへの負担も減らせるわよ?》

 

「そうだなぁ・・・っつっても、俺が覚えたら覚えたでアイツへこまないか心配だけどな・・・」

 

確かに覚えたら自分も立派に一人暮らしができるだろう。

しかしそれでも、一瞬とは言えナオトが料理できるようになったことで「ナオくんは自分の事を必要としなくなった」と悲しむハルカの顔がよぎってしまい、躊躇ってしまう。

 

「でもほら、料理を覚えればそのハルカって子が風邪引いちゃった時とか助けになれるわよ?」

 

「風邪を引いちゃった時、代わりにお料理してくれる人がいるととっても安心できるですぅ♪」

 

「そっか・・・確かにそれもそうだな。考えてみるよ」

 

しかしながら、アイエフやコンパの言うことは最もで、ハルカに何かあった時に自分が代わりに作れるなら、それはそれで彼女が喜ぶだろう。

そう考えるとナオトも前向きに検討することができた。とは言え今すぐに教わろうとしても時間が時間なので、また今度にしようと思った。

 

「よし・・・お前ら、出来上がったぞ」

 

ラグナが料理を始めてから十分近く。調理を終えたラグナが新しい皿にナスを乗せて戻って来た。

醬油とバターを使って炒めたらしく、その二つの焼けた匂いがナオトたちの鼻を刺激した。

 

「ちょいと炒めてみた。これなら食いやすいだろ」

 

「ありがと~。早速いただきまぁ~す♪」

 

ラグナがテーブルに調理したナスが乗っている皿を置くなり、プルルートが早速それにフォークを伸ばして内一切れを刺す。

そのまま勢い良く口の中に頬張り、すぐさまその味に驚きの顔を見せた。

 

「うわぁ~っ!?美味しい~♪」

 

「おっ、久しぶりだったからどうかと思ったが、これなら大丈夫だな」

 

プルルートが目を輝かせながら称賛するので、ラグナも一安心だった。

そのプルルートの様子を見たナオトも一切れ貰って食べて見る。

 

「・・・!マジか!?普通に美味ぇぞ!」

 

ナオトも驚愕した表情になった。

―お前本当に久しぶりに料理した人か!?ナオトは一瞬それを疑いたくなった。

流石に特性のソースやら調味料を作らない辺りはハルカ程とまではいかないが、それでも十分すぎる腕前を持っていた。

 

「そんなに?なら私ももらっていいかしら?」

 

「あっ、私もいいですか?」

 

「それならお前らの分もやっちまうか・・・。欲しいやつは皿出しな」

 

アイエフ、ネプギアと続いて来たのでラグナはいっそのこと手を加えて欲しいと思う人が何人いるか確認する。

もう既に食べてしまったピーシェは仕方ない・・・と言いたいところだったが、ネプテューヌがピーシェに譲ったので結局全員分手を加える事になった。

その後は簡単にラグナがどう手を加えたかを話したりしたのだが、ネプテューヌはあまり話が頭に入ってこなかった。

また、ネプテューヌも釣られて調理されたナスの一切れを食べてみたのだが、結局は一口でギブアップしてしまった。食感がダメだったようだ。

 

「(これ・・・行けそうっちゅか?)」

 

「(見た限り全員ではないな。一人だけなら、と言ったところか・・・)」

 

また、この時魔法を使って姿を隠した状態でワレチューとマジェコンヌがプラネタワーに潜り込んでいたのだが、これに気付くのは誰もいなかった。

彼女たちは実際に情報を得たことで、ピーシェがいるかどうかを確認しに来たのだが、今回は思わぬ収穫を得ることができたようだ。

本当ならすぐに高笑いしたいところなマジェコンヌだったが、この場を離れるまではそれをどうにか我慢した。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「さて・・・レリウス、何か必要なものは纏まったか?」

 

「そうだな・・・女神は当然なので省くとして、あのドライブに目覚めた少女・・・あの存在が何かの鍵になるやもしれん・・・」

 

「成程・・・そうなるといつ実行すればいい?」

 

ラステイションの廃工場に戻ってきてすぐ、マジェコンヌはレリウスに尋ねた。

レリウスはゲイムギョウ界で唯一ドライブに目覚めているアイエフの存在が気になっており、彼女の事を調べたいと思っていた。

マジェコンヌもそのことは理解できていたので、手早く本題に進んだ。

 

「明日の昼辺りが望ましいな・・・セキュリティが甘いプラネテューヌならば楽だろう」

 

「もう準備はできているのか?」

 

「ああ。座標の準備はできている。別の場所で行う以上少なくともここを慌てて出る必要はない」

 

―用意のいいやつだ。レリウスからあっさり帰ってくる返答を聞いてマジェコンヌはそう思った。

基本的に準備に時間がかかるのはレリウスが担当するので、その準備が終わっているなら後は楽である。

 

「なら、後は私たちが誘導すればいいな?」

 

「頼む。誘導さえできれば、後は私とイグニスの役目だ」

 

「一応聞くが、私の指定する座標に送り込むことは可能か?一人にしか効かんが、そいつが本気で嫌う場所に誘い込む餌にしたい」

 

「それも可能だ。三時間で調整を終わらせる」

 

「分かった。それならば決まりだな」

 

マジェコンヌとレリウスのみで話を行うといつも以上に円滑に進む気がする。

お互いに必要な事を優先して話す傾向があるので、その影響が大きいのだろう。

しかし、流石に今日は夜も遅いので、他人の時間を取らない意味でもこの方がいいと言うのは確かにある。

 

「洞窟のことは明日に決めよう。ひとまずは明日私たちでどうにかその小娘を誘い込む」

 

「ああ。そうなれば私が捕獲しよう」

 

薄暗い部屋の中で、マジェコンヌが小さく笑う声が響く。

現在はプルルートの歓迎と言うことで平穏にしているプラネテューヌのメンバーたちが預かり知らぬ場所で、マジェコンヌたちの陰謀は動いていた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「皆さーん。デザートのお時間ですぅ♪」

 

「おおっ!待ってましたぁ!」

 

夕食が終わってから少しした後、コンパがトレイに複数のプリンカップを乗せて持ってきた。

ネプテューヌはそれがプリンだと分かっていたので小走りでそちらに向かう。

そして、「ネプの」と書かれているプリンカップを手に取ろうとしたところで、いつの間にか先回りしていたピーシェがそのプリンカップを横取りするように取っていった。

 

「・・・ぴーこ?」

 

「ぴぃ、これがいいっ!」

 

ピーシェはまるで宝物を奪われたくないと言うかのような言い分だったので、その行動にネプテューヌは戸惑いを見せた。

普段自分が他の人に食べられないように「ネプの」と書いていたのだが、プリン自体はどれも同じだからである。

 

「そうなの?一応全部同じプリンなんだけど・・・。味も変わらないよ?」

 

「これがいいのぉっ!」

 

「う~ん、私何かしたっけなぁ・・・?」

 

一度そのことを投げかけてみるものの、ピーシェはそれでも自分が手に取ったプリンが良いようだ。

ネプテューヌはその様子を見て今までの事を振り返り始めた。答えは意外にもすぐに出てきて、それは今日中であった。

 

「あっ、夕方にプリンあげたんだっけ・・・確かにその時も名前書いてたの渡してたなぁ・・・」

 

―それだからかな?ネプテューヌの出した答えはこれだった。

もしかしたら、空腹にやられている時に食べたプリンが余程至福の味を出したのかもしれない。そう考えれば然程不思議なことではなかった。

 

「ねぷねぷはプリンを美味しそうに食べるから、特別に美味しく感じるのかもですね?」

 

「あり得る話だな・・・プリン食う時すげぇ幸せそうに食うからなぁ」

 

コンパの考えにナオトは同意する。

普段からネプテューヌがプリンを頬張る姿を見る機会が多いので分かることだが、ネプテューヌはプリンを食べると毎回頬が落ちるような表情をしているのだ。

しかもそれでいてプリンの魅力を口にしながら体をくねらせるので、それがより美味しいと思わせているのかもしれない。

 

「あ~そっかぁ・・・それは確かにそう思われちゃうか。我ながら結構罪なことをしたなぁ~」

 

それならば仕方ないとネプテューヌはその「ネプの」と書かれていたプリンをピーシェに譲ることにした。

するとピーシェが笑顔になったので、今回はこれにて一件落着。後は食べる人がプリンを食べるだけだった。

 

「・・・・・・?」

 

「ああ。ちょっと借りるね」

 

ピーシェがプリンカップを中々開けられないでいる所を見たネプテューヌは、ピーシェのプリンカップを代わりに開けてあげることにした。

ネプテューヌが代わってあげたことによってピーシェのプリンは形が崩れる事無く皿に乗った。それによって嬉しくなったピーシェはネプテューヌに笑顔を見せてからプリンを食べ始めるのだった。

 

「ネプテューヌ・・・少し変わったな?」

 

「ん?そうかな?ラグナ程短時間で変わってる人なんて私知らないよー?」

 

ラグナの疑問にネプテューヌはプリンを食べながら返す。

実際のところ、ラグナ程短時間で私生活等といった外側の面が変わった人間はいないだろう。

しかし、ラグナが言いたかったのは内面の方であり、ネプテューヌはピーシェという年下の子供がそばにいることによって変わってきたのは間違い無かった。

以前であれば人の事を気にせずゲームで遊び惚けたりすることが多かったのだが、今はピーシェが遊んで欲しいと言えば遊んであげたりする。

もっと早く言うのであれば、少女の事を知ってからだろう。ネプギアの事に関わるなら、流石に無視できないものである。

こちらの事に関しては表向き出すことができないので何とも言えない部分があるものの、それでも「小さい子供に付き合ってあげられる心の広い女神様」と言う評価は貰っており、それによってマイナス分はある程度緩和している。

 

《自分の変化は分かりづらいものだし、仕方ないわよ。それこそナオトやラグナのように異世界で生活するという事にでもならなければ簡単には気づけないわ・・・》

 

「異世界に来ちまったら変わるしかないよな・・・」

 

ラケルの説明を聞いたラグナは苦笑交じりに呟く。

まさか今まで反逆者だった身の自分がたった数日で正式な職業でなくとも真っ当に働く身になるとは思わなかっただろう。

その後たった一ヶ月であそこまで注目されるようになる・・・しかもいい意味で人の目を集めるとは思ってもおらず、本来ならばもっと静かに過ごすことになると思っていた程だ。

 

「何が起きるか解らないとは言え、流石に異世界生活をすることになるとは・・・」

 

―思いませんよね。そうイストワールが言いかけたところで、何らかの影響を受けて彼女の体が振動を起こした。

 

「あばばばば、あばばばばばば・・・」

 

「い、いーすんさん!?」

 

「大丈夫!?私の声聞こえる?」

 

「あばばばば・・・」

 

不安になったネプギアとネプテューヌが声を掛けるものの、イストワールは振動を起こしたまま「あばばばば」と声を上げるだけだった。

 

「ん?こりゃなんだ?」

 

イストワールの背後に何か光っている物を見つけたラグナは、それを摘まんでみた。

するとどうにかイストワールの振動が収まり、イストワールは振動が収まるやすぐ「極秘の通信が来てました」と言って即座にシェアクリスタルのある部屋へと飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

『何でも、大女神様が言うには間違ってそれに触れ、そちらの世界に飛んで行ってしまったそうで・・・(・.・;)』

 

シェアクリスタルのある部屋を使って、イストワールはプルルートのいるゲイムギョウ界にいるイストワールと通信をしていた。

プルルートと共にいたイストワール・・・向こう側のイストワールはこちら側のイストワールよりも更に小柄で、舌使いもどこかおぼつかないものになっている。

どうやらとある少女が間違って危険な物に振れてしまったらしく、それによってこちら側に来てしまったようだ。

 

『そんなこともあって、この度はその子をこちらの世界に連れ帰るべく、プルルートさんをそちらの世界に向かわせて貰いました。できることなら、プルルートさんと一緒にその子を探すのを手伝って欲しいのですが、大丈夫でしょうか?(・・?』

 

「わかりました。後ほど皆さんに情報を共有しておきますね。流石にいつでも・・・という訳にはいきませんが、皆さんのことなので協力自体はすんなりと得られるはずです」

 

どうやらプルルートは何もわからないままこちら側へ来たという訳ではないようだ。

向こう側のイストワールに頼まれたものの、こちら側の人たちの事を考えると然程心配には及ばなかった。

 

『洞窟だとかなんだとかって、すごく大変そうですね・・・(・.・;)そちらはプルルートさんにも手伝うようにすれば良さそうですね』

 

「ありがとうございます。では、お互いに協力するという形にしましょう」

 

その後、イストワールたちの会話は円滑に進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、何かありましたら連絡をお願いします。皆さんには私の方から伝えておきますので」

 

「分かった・・・洞窟と並行でいいならそうさせてもらうわ」

 

翌朝、朝食を終えた全員はイストワールからの話を聞かせてもらった。

ラグナは洞窟関係の話では中心になるので、並行でいいなら可能な限りそうさせて貰うつもりだったので願ったりだった。

他の人たちは何事も無ければあまり進展させることができないので、ひとまずはその子供を探すことにするという方針を選んだ。

 

「えっと・・・ネプテューヌさん?一応話の内容は大丈夫ですか?」

 

「な、何とか大丈夫ー!変わったことあったらでしょー?」

 

ラグナたちが真面目に聞いていた中、ネプテューヌは一人だけピーシェの遊びに付き合いながらだったので不安になって訊いてみたのだが、どうやら大丈夫だったようだ。

また、プルルートはプルルートで一応話はしっかり聞いているものの、何か裁縫しながらだった。

 

「よ~し♪で~きたぁ~♪」

 

「あれ?ぷるるんそれって・・・」

 

「ねぷてぬーっ!」

 

「あったり~♪」

 

プルルートが作っていたのはネプテューヌを模倣したぬいぐるみで、特徴をしっかりと捉えた状態でデフォルメされたデザインになっていた。

それを見たネプテューヌが嬉しそうな声を上げ、ピーシェも思わずはしゃいだ。

 

「・・・俺の料理よりも普通にこっちの方がすげえ気がする」

 

「何もない状態から作ったからじゃないですか?」

 

「ラグナのアレも十分凄かったけどね・・・」

 

ラグナの呟きにコンパは疑問符混じりで返し、アイエフは苦笑交じりで返した。

実際の話、ラグナの料理の腕前は一般の人で比べるとかなり高いレベルだった。

にも拘らず、ラグナが大して自信のあるような事を言わないのは元々シスターの負担を和らげる為のものと捉えていたからだ。

 

「ラグナさん、今度料理の事教えてもらってもいいですか?」

 

「良いぜ。時間を見つけてぼちぼちとやるか」

 

「・・・はい!ありがとうございます」

 

ネプギアがラグナに頼んでみると承諾してくれたので、笑顔で礼を述べた。

ラグナはゲイムギョウ界に来て以来、自分でも驚くくらい人の頼みを聞くようになっていた。まるで余計な鎖が外れたような気分になるからだろうか?ラグナは恐らくそうだと思っていた。

 

「ん?お二人さん時間大丈夫か?そろそろ仕事じゃないか?」

 

「・・・あっ!もうそんな時間だったか・・・」

 

ナオトは偶然時計が目に入ったので二人に確認すると、案の定結構な時間になっていたようで、アイエフがハッとした表情になる。

 

「コンパ、乗っていく?」

 

「はいです♪アイちゃん、ありがとうですぅ♪ラグナさんはどうするですか?」

 

「ん。俺もそろそろ行くか。そんじゃあまた後でな」

 

「また後でーっ!皆頑張ってね~!」

 

「いってらっしゃ~い」

 

ネプテューヌとプルルートが送る声を掛け、残った全員に見送られながらラグナたちはプラネタワーを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「んで?俺はそっちに行っちゃっていいんだな?」

 

「ああ。全員が来ないのであれば私一人でも十分に対処可能だ」

 

「了解だ。じゃあ、何かあったら言うからな」

 

テルミはマジェコンヌたちが女神を打倒する間に洞窟の調査を担当することになった。

事実マジェコンヌの戦闘力は非常に高く、シェアエナジーの共鳴とセリカの干渉さえなければ勝っていた確率の方が圧倒的に高い。

更に、他の女神たちが合流するよりも早くに叩いてしまえばテルミの加勢も不要になるので今回はこの判断を取った。

それならば問題ないと判断したテルミは早速洞窟に向かうべくこの場を後にした。

 

「ネズミ、準備は終わったか?」

 

「大丈夫っちゅよ。後はレリウスが連れてくるのを待つだけっちゅ」

 

ワレチューに確認すれば仕込みは完了したとのことで、それを聞いたマジェコンヌは満足そうに頷いた。

レイは今回無理に戦わせる訳にはいかないので、廃工場の施設点検を頼んだ。それ故にレイは今この場にはいない。

 

「(さて・・・後は私次第だな)」

 

マジェコンヌは表情こそ悪人らしい笑みをしているものの、リベンジに燃える彼女は拳をきつく握りしめていた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「うわ・・・ここも交通整理中・・・」

 

アイエフはコンパを乗せて互いの仕事場に行く際中だったのだが、どこもかしこも交通整理の標識を出されてしまってかなりの回り道をする羽目になっていた。

ラグナは一度クエストを受けに行くので、すでに途中で別れていた。

 

「ごめんねコンパ・・・遅くなっちゃって」

 

「私は大丈夫です。アイちゃんとなら楽しいから気にしないですぅ♪」

 

「・・・それなら良かった」

 

コンパが本当に心の広い人で良かったとアイエフは安堵しながら前に視線を戻す。

信号が青になっていたので進もうとしたが、目の前から何やら紫色の煙が迫ってきていた。

 

「・・・!不味いっ!コンパ、ちょっと我慢してて!」

 

「は、はいですっ!」

 

それが睡眠ガスだと言う事に気が付いたアイエフは、コンパに一言入れてからドライブを使って煙を前方に押し返す事を試みた。

周囲にに青い風の暴風圏を作り、そこから先に煙が来ないようにすることで自身とコンパの身を守る。

 

「す・・・凄い風ですぅ・・・」

 

「コンパ・・・このガスが消えるまで我慢しててね・・・!」

 

アイエフはコンパに投げかけるものの、この方法には大きな問題点があった。

それは煙の出る時間が終わるまで自分が持つかどうかであった。正直なところドライブを全開で発動しているので、そこまで長い時間は耐えられないのが目に見えていた。

 

「ほう・・・中々使いこなせて来ているようだな。良い傾向だ」

 

「!あ、アイちゃん後ろですぅ!」

 

「・・・レリウス=クローバー!?何だってこんな時に・・・!?」

 

また、目の前の状況に対処するので精一杯になってしまったので、レリウスの接近に気付く暇すら無かった。

実際にアイエフがレリウスを目視したのは、自分たちの傍まで歩み寄っていた頃だった。

また、この時アイエフとコンパは気付く余地が無かったのだが、レリウスは自分だけ暴風の影響を受けないように魔法を掛けていたので普通に歩み寄る事を可能としていた。

 

「私も頼まれている身なのでな。共に来てもらおう・・・イグニス」

 

「しまった・・・あぁっ!」

 

レリウスの合図によってアイエフの前に現れたイグニスが即座に左腕を振り下ろす。

ドライブの制御で精一杯だったアイエフは反応する余裕すらなくイグニスに掴まれ、ドライブも強制的に発動を解かれてしまった。

少しでも抵抗しようと試みたのだが、レリウスが間髪入れずに無動作で催眠魔法を掛けたので、何もすることができずに気を失ってしまう。

 

「では・・・私はこれにて失礼する」

 

コンパが啞然しているのをよそに、レリウスは転移魔法でアイエフを捕らえたままのレリウスと共にどこかへと消えた。

 

「ま・・・待って下さいです!あ・・・アイ・・・ちゃ・・・んを・・・」

 

コンパはバイクから降りてレリウスを追いかけようとしたが、アイエフの張っていた防衛線が消えていたことで催眠ガスがコンパの元まで来ていた事に気がつかなかった。

それによってコンパは催眠ガスを吸ってしまい、言葉を言い切るよりも早くその場に倒れ伏し、気を失ってしまった。




そんなことでアニメ7話部分のスタートです。

催眠ガスの部分はアイエフがドライブ使えるので多少は抵抗させた方がいいと思いこうなりました。
ラグナの料理ネタはもうここしかないと思ってこちらも取り入れました。

さて、少々遅れましたが、ぶるらじ復活とブレイブルー新作、そしてネプテューヌRe,Birth1+の発売おめでとうございます!
ネプテューヌは初回特典で公式裏設定集の復刻版をもらえました。私自身これは入手し損ねていたので嬉しい限りでした。
ブレイブルーの組み合わせは現在、ラグナとオリエの二人で安定してきました。二人共戦うレンジが近いのが影響してるかもしれません。
中の人ネタな面もありますが・・・(笑)。

次回かその次回でアニメ7話分が終わると思います。


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44話 迫る恐怖、近づく予兆

アニメ7話分の続きです。


『続いてのニュースです・・・』

 

プラネタワーにて、ピーシェが遊び疲れて。プルルートは新しくピーシェのぬいぐるみを作ろうとした瞬間に昼寝してしまったので、ネプテューヌは休憩も兼ねてテレビを視聴していた。

これは彼が一人でエンシェントドラゴンを倒して以来度々報道されることだが、ラグナが何かしら大きなことを成し遂げるとニュースで報道されるようになってきている。

ラグナが報道される大きな理由として、彼の存在が女神でなくともエンシェントドラゴン等大型のモンスター相手に何かできる。

つまり大型モンスターが多く国に入ってきてしまった場合でも国民への被害を減らしやすくなるという、力なき人達に希望を持たせる事と安心感を与えると言う目的があった。

こう言ったニュースを見るたびに、ラグナが「また任されんのか・・・ったく、めんどくせぇな」と言いながらも少しだけ嬉しそうにするのはプラネテューヌ居住組でよく見る光景だった。

 

「(ブランが言うにはハクメンもだったっけ・・・最初私たちが見た時は一触即発な感じだったのにねぇ。時間の流れって早いもんだよね・・・)」

 

実はハクメンもニュースで称えられてはロムとラムが称賛して来るので、反応に困っているとブランから聞かせてもらったことがある。

その時は場所に構わず爆笑してしまったのを今でも覚えている。当時ラグナが転げまわるのを抑えてくれなかったら間違いなく服が汚れていただろう。

ちなみに、ラグナとハクメンが決着を付けるべく命懸けの真剣勝負した時のことは、『孤高の武人であるハクメンが(おの)が武を高める為ラグナに挑んだ』と言う報道のされ方をしている。

これはハクメンの立場を悪くしない為に、女神たちと教祖達全員で集まって必死に考えた覚えがある。それを知ったハクメンが謝った時は全員して慌てたものだった。

 

「あっ、もうこんな時間か・・・お昼食べたらぴーこ次第で私も調べに行こっか!」

 

テレビに映る時間を見ればもう昼食を取って良いような時間になっていた。

もしピーシェの相手を代わってもらえるのなら代わってもらいたいが、出来なさそうなら自分がやるべきだとネプテューヌは割り切っていた。

というのも、ピーシェの遊びが危ないので、代わってもらうにしても女神でないと難しいし、更に四女神は基本的に多忙だった。

女神候補生に代わろうと思っても、ロムとラムに無理をさせる訳にはいかない。ユニはノワールの仕事を手伝う時間が多い。そしてネプギアは何かの突拍子で『少女』と入れ替わった時に何が起きるか解らないので、迂闊に代わる訳には行かなかった。

そうなると残りはプルルートなのだが、彼女がぬいぐるみを作ってくれているのに任せて良いのかと言われれば『?』がついてしまう。

 

「・・・まあ、私が頑張ろうか。その代わりみんなに仕事とか頼んじゃうけどさ」

 

「お、お姉ちゃーん!」

 

そこまで考えたネプテューヌは一種の覚悟を決めた。

他の人ができない・・・それは裏を返せば自分にしかできない立派な役割だと前向きに受け止めれば気が楽になった。

そうと決まれば次の遊び時間に備えて英気を養っておこうと思ったネプテューヌだが、ネプギアがNギアを持って慌てて駆け寄ってきたのでそれを中断することになった。

 

「ネプギア、どうしたの?」

 

「こ・・・これを見て!知らないアドレスと一緒に地図が添付されてきてたのっ!」

 

「・・・知らないアドレス?どれどれ・・・。って、これアイちゃん!?」

 

ネプギアが見せてくれた画面には十字架の姿勢で囚われているアイエフの姿があった。

―これはぴーこと遊んでる場合じゃないね・・・仕方ないっ!今までの出来事によってだらけ具合が直り始めているネプテューヌはすぐに立ち上がった。

 

「いーすーんっ!いるー!?」

 

「どうかしましたかネプテューヌさん?そんなに慌てて・・・」

 

ネプテューヌは事情を伝える為真っ先にイストワールを呼んだ。

するといきなりのことで驚きながらもイストワールはすぐにこっちに来てくれた。

 

「アイちゃんが捕まってるの・・・!罠かもしれないけど、私も前に助けられたし、友達も放って置けないから私今から行ってくる!ぴーこの事頼んでもいい?」

 

「分かりました。ピーシェさんはこちらにお任せください。ネプギアさんもお願いします。プルルートさんにも手伝ってもらいましょう」

 

「わかりました。お姉ちゃん、私はプルルートさんを起こして事情を伝えるね」

 

「うんっ!私はラグナたちに連絡するよ!」

 

話が決まれば早いか、二人はそれぞれの行動を始めた。

ネプギアが「まだ寝てたい」というプルルートに、事情を伝えて起こしているのを見る間もなく、ネプテューヌは大急ぎで術式通信を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「カーネージシザーッ!喰われろッ!」

 

ラグナはいつものようにクエストをこなす一環として、今回は広い平原に来てしまっていたエンシェントドラゴンの討伐を行っていた。

今までの定石通り、会敵早々に『蒼炎の書』を起動してから確実に弱らせていき、最後に大技で止めを刺すといういつもの流れであった。

ラグナが剣から放たれた、血の色をした鋏状のエネルギーがエンシェントドラゴンを縦に切り裂き、エンシェントドラゴンは絶叫を上げながら光となって爆発を起こすのだった。

 

「終わったな・・・」

 

エンシェントドラゴンがいなくなったことで、周囲から慌てて逃げ出すモンスターたちを見たラグナは剣を腰に収めた。

バイクによって移動が楽になっていたことが影響し、普段以上に早く予定分のクエストを完了させていた。

 

「(そういや、今日はやたらと交通整理が多かったな・・・あんな一斉に起きるモンなのか?)」

 

クエストが普段より早く終わったにしろ、ラグナが今回大回りしながら運転する羽目になってしまっていたのは事実で、交通整理の量には疑問を持っていた。

時間に余裕があるので少し考えてみていた所に、術式通信が飛んできたので、ラグナはそれに応じる。

 

「俺だ」

 

『あっ、ラグナ!?今どこにいるの!?』

 

「プラネテューヌから少し離れた平原だけど・・・どうした?」

 

ネプテューヌの様子が普段と比べてかなり焦っているのが分かったので、ラグナも思わず聞き返してしまった。

それ程少し前までのネプテューヌからは考えられない状況であった。

 

『実はちょっと・・・いや、かなり大変なことになってて・・・順を追って説明すると・・・』

 

ネプテューヌは今すぐに行きたい気持をどうにか抑えながら、大体の状況が伝わるようラグナに伝える。

ネプギアが持っているNギアに、知らないアドレスと一緒に添付された地図と画像があり、その画像はアイエフが囚われているものだった。

その為、現在自分たちはラグナたちに連絡を済ませてから助けに行くことにしていたと言うことを確かに伝えた。

 

「・・・んなっ!?それってマジかよ・・・!分かった。俺もすぐに戻る!」

 

『お願いっ!Nギアからそっちに地図を送っておくから!』

 

「ああ!それじゃあ切るぞ!」

 

ラグナは術式通信を終えるとすぐにバイクへまたがり、そのまま急いでプラネテューヌに戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「何だって!?分かった。俺たちもすぐに行くよ!」

 

『うんっ!私たちが途中で見つけたら拾って運ぶからっ!』

 

「助かる!それじゃあもう切るからな!」

 

ラグナが戻り始めた直後、ナオトもネプテューヌから通信を受けて状況を伝えて貰った。

 

《急ぎましょう!私が躰を借りれれば、多少は強引な脱出も見込めるわ・・・!》

 

「ああ、そん時は頼んだぜ!」

 

ラケルはアイエフの持つ躰との相性が非常に良く、彼女の躰を借りることでこちらの世界での行動を最低限可能にしていた。

当然平時は彼女の仕事を妨害することになってしまうから借りないが、今回のように緊急の事態が起きた場合は話が別である。

ラケルの言っていることを十分に理解しているナオトはそれに反対することなく、信頼していることを口にして走り出す。

それをみたラケルも、ナオトの速度に合わせてついていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・ん・・・・・・」

 

アイエフは意識を取り戻してゆっくりと目を開ける。

すると目の前には何故か畑が広がっており、街からはかなり離れてしまっていることが伺える。

また、何かに手足を縛られている感覚と体の背面が何かに当たっているのを感じた。

 

「・・・・・・!?」

 

「ほう?ようやく目が覚めたようだな?」

 

よく見て見れば自身が十字架の姿勢で縛られてしまっているのが分かり、自身の思わず息を吞んだ声が聞こえたマジェコンヌがこちらに振り向く。

 

「アンタ、こないだの・・・!私を捕まえてどうするつもり?」

 

私自身は(・・・・)特に何もせんよ・・・。私にとってはプラネテューヌの女神をおびき寄せる釣り餌だからな」

 

「・・・釣り餌?アンタ何を言って・・・」

 

「そうだな。ここはナスを作るために用意されている畑なのだが・・・ここまで言えば、誰に狙いを絞ったかは解るな?」

 

マジェコンヌの言っている意味が解らなかったアイエフが食いつくが、ナスの単語で全てを悟ってしまった。

つまり、マジェコンヌは今回ネプテューヌを確実に潰す為にこの畑に誘い込む事を目的としていたのだった。

臭いだけでナスがダメだと言っているネプテューヌにとって、これ程厳しい場所は他にないだろう。

 

「(こうしている場合じゃない・・・。コンパも見つけなきゃだけど、それ以前にネプ子を逃がさないと・・・!)」

 

「ああ、そうそう。確かに私自身は貴様に何もせんと言った。この意味は理解できたか?」

 

「・・・何もしない?さっきもそんなこと言っていたけど・・・えっ?まさかだけど・・・」

 

術式通信を行おうとしたところでマジェコンヌが言葉を投げかけたことで、アイエフは意識をそちらに向ける。

途中まで気がつかなかったが、自分を捕らえた人物を思い出したアイエフは背筋を凍らせた。

そして、アイエフが思い起こした人物は呼ばれるのを待っていたかのように、足音を立てながらやって来た。

 

「その通りだ。御前に用があるのは此の私だ」

 

「・・・!」

 

レリウスが口元を緩ませるのが見え、アイエフの恐怖感を煽った。

ズーネ地区の時はラケルに躰を譲って脱出したことと、戻って来た時はレリウスがこちらに研究意識をあまり向けて来なかった事から、然程そう言ったものを感じることは無かったのだが、今は違う。

今は誰の助けも借りることができない。そしてレリウスの研究意識は完全にアイエフへ向けられている。

それなりにドライブが使えるようになった程度のアイエフでは非常に厳しい状況ができ上がってしまっていた。

 

「・・・何をする気なの?」

 

「まだ観察を行うだけだ・・・今はな」

 

どうにか顔から恐怖の表情を押し殺しながら問いかけることのできたアイエフだが、レリウスの一言がそれを蘇らせる。

ズーネ地区でレリウスを前にして動けなくなった少女は、あの時このような感覚に襲われたのだろうか?身動きのできない現状もあってアイエフは体が震えていた。

その眼を向けられる対象が自分であった場合、ここまで恐ろしくなるとは思ってもみなかったのである。

 

「さて・・・私は観察に集中させて貰う」

 

「分かった。何かあったら伝えるぞ」

 

マジェコンヌに一言を伝えたレリウスはそのままアイエフの観察に入り、そうなることがわかりきっていたマジェコンヌはアイエフに背を向けて周囲を見回す。

これによって、アイエフの動きを確認するレリウスと、その他周囲を確認するマジェコンヌと言う、アイエフが何かする時間を与えない構図ができ上がってしまったのである。

 

「(不味い・・・このままだと・・・!)」

 

これから起こりうる状況を考えたアイエフは嫌な汗をかくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

プラネテューヌでマジェコンヌたちが動き出している中、テルミも洞窟の中を歩いていた。

一つ目の別れ道は、テルミも例に溺れず何事もなく突破していた。

 

「この洞窟・・・レリウスの言ってた場所にしちゃあちと退屈だなぁ・・・」

 

まだ進み始めたばかりとは言え、テルミはあくびをするレベルで退屈さを感じていた。

それ程今までレリウスに物事を頼まれた時に比べて変化が少ないのだ。

 

「・・・こりゃいるだけ無駄かぁ?それならさっさと奥まで進んで・・・。・・・?」

 

テルミが歩調を早めてさっさと切り上げてしまおうと考えたところで、『ムラクモユニット』のような何かがわらわらと周囲に現れた。

 

「何だぁ?『ムラクモユニット(人形)』の真似事してどうする気だ・・・?」

 

テルミは現れた『ムラクモユニット』たちの目的こそ瞬時に把握することはできなかったものの、彼女たちが臨戦態勢を取っていることは分かった。

それを見たテルミは「へぇ・・・」と呟き口元を緩める。

 

「面白ぇじゃねえか・・・そういうことなら掛かって来いやァッ!」

 

テルミは吐き捨てながら近くにいた『ムラクモユニット』一体へ『ウロボロス』を伸ばし、その胸元を貫く。

するとダメージが限界になったのか、『ムラクモユニット』の一体は霧が霧散するように消えていった。

テルミの一撃が引き金となり、彼を敵だと判断した『ムラクモユニット』たちが一斉に襲い掛かる。

流石にこんな狭い場所と相手の人数もあって、『ウロボロス』では無理だと判断したテルミは懐からバタフライナイフを二つ取り出す。

 

「オラオラどうしたァ?んなナリしといて、中身はポンコツってかぁ!?」

 

迫りくる『ムラクモユニット』たちの動きはかなり単調で、テルミは左右のバタフライナイフを縦に、横に振り、途中で足技も混ぜながら次々と捌いていく。

しかし、流石にずっとくる敵を順番に倒しているだけではキリが無く、『ムラクモユニット』たちは倒された仲間の場所を埋めるように次々とやってきていた。

 

「ったく、多過ぎんだろ・・・。どこかに抜け道作るか・・・」

 

ジリ貧になるのを避けるべく、テルミは自分が進もうとした方向にいる『ムラクモユニット』たちを集中して倒す方針に変更し、彼女らをなぎ倒しながら先へと突き進んでいく。

テルミが奥へと進み始めたことで、『ムラクモユニット』たちは慌てて止めるべく一斉に進みだすが、あまりにも自分たちの数が多すぎたせいで狭い道になった瞬間に引っかかり、彼女らは自ら行き止まりを作ってしまった。

 

「ハッ・・・!いくら数だけいようが、連携できねえんじゃ世話ねえなッ!」

 

―所詮は人形の真似事だなッ!テルミは捨てセリフを置いてそのまま奥へと走っていく。

そして、少しした後最奥部の扉まで辿り着いた。

 

「よしよし・・・どうにか目ぼしそうなものが見つかったなぁ・・・」

 

テルミは早速扉を押したり引いたりしてみるが、全く扉の開く様子が見られない。

 

「・・・はぁ?何がどうなってんだ?」

 

テルミが困惑しながら左手で扉に触れ、扉の構造の把握を試みた。

解析に集中していると、いつの間にか左側の扉の外枠と、書かれている文字がが蒼く染まっていた。

しかし、右側半分は何も変化が無く、左側の扉も、時間が経過したせいか少しずつ光が収まっていった。

 

「何かしら複数の条件付きみてえだな・・・。んで、俺様がその一つを満たしてるがもう一つは満たされていない・・・となると、必要なのは『蒼』か・・・」

 

テルミはこの扉の開く為に必要な条件を大方把握した。

『蒼』を手にするのに、最も近道なのはラグナから『蒼炎の書』を強奪することだろう。

 

「よしよし・・・やることは見えてきたし上出来だろ。今回はもう、用済ませちったから帰るかね」

 

テルミはほくそ笑みながら両腕を交差させるようにして頭上に掲げる。

レリウスであれば転移魔法を使って即座に退避できたのだが、自分はそれを持っていないので強行突破するしかないのだ。

 

「第666拘束機関開放・・・次元干渉虚数方陣展開・・・!コードS・O・L!『碧の魔導書(ブレイブルー)』起動ッ!」

 

テルミは両腕を振り下ろして起動を完了させ、体から碧い炎のようなものを溢れ出させながら来た道を戻り始める。

 

「さぁッ!死にたい奴から前に来やがれ人形どもォッ!」

 

そして、道が広くなる場所に溢れかえっている『ムラクモユニット』たちを見て、テルミは一気になぎ倒しながら突き進んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「どうだ?」

 

「ふむ。確かにドライブの発現自体は私たちの世界と変わらん・・・その人物個人となれば、非常に細かい部分で違っては来るが大方変わった部分はない・・・此れでは深い部分まで調べる必要は見受けられないな」

 

マジェコンヌに問われたレリウスは口調こそいつもと変わらないものの、内心は落胆していた。

ゲイムギョウ界でドライブに目覚めた身であれば何かが変わるかと思われたが、ラケルとの契約の影響が無い部分を省き、ナオトのようなパターンと然程変化が無かったのである。

 

「となると外れか・・・お前にしては珍しいな・・・」

 

「ああ。此の世界で初の外れを引き当ててしまったようだ・・・」

 

テルミの躰の案件といい、洞窟の事といい、レリウスはどのような事でも最低限収穫のある結果を得ていた。

その為、レリウスが今回何も成果を得られなかったことはマジェコンヌには意外に見えたのである。

 

「この後指定した座標に連れていくことは中断。このまま釣り餌を続行させるとしよう。あの施設は、必要な時が来たら調整を行う」

 

「了解だ」

 

「(・・・どうにか自分の心配をする必要はないのかしら・・・?それならコンパを見つけないと・・・)」

 

ひとまずレリウスがその先をしないという判断を下した以上、アイエフはコンパを探してみるが、自分の視界に映らなかったのでまた嫌な汗をかくことになった。

 

「そう言えば、コンパはどこにやったの?どうして私だけこうしているの?」

 

「もう一人はネズミに任せた。此処から離れた場所で対処させておけば、あの娘の性格上こちらにくることは無いだろう」

 

「戦闘力はほぼ皆無のネズミだが、あの小娘は戦う意思のないネズミとやり合うことはあるまい・・・」

 

―少なくとも、時間稼ぎだけなら今回程適任はないだろう。マジェコンヌは自信たっぷりに付け加えた。

コンパが無事であることが分かって一瞬安堵するが、それでもネプギアやラグナが来ない限り救援は期待できない。

ネプテューヌは確かに強いのだが、マジェコンヌの思惑次第では完封されてしまうので、できれば早々に伝えて逃がしてやりたいところだったが、時は無情か、変身した姿のネプテューヌとネプギア、そしてその二人に両手を持たれて牽引されているプルルートの姿があった。

 

「・・・!ネプ子、ネプギア・・・」

 

「ほう?レリウス、これは良い釣れ方みたいだな?」

 

「ああ。思わぬ遭遇だ」

 

アイエフの声を聞いてマジェコンヌとレリウスは顔を見合わせる。

本来ならネプテューヌを倒すためだけにナス畑に誘い込んだのだが、まさかのレリウスが是非とも研究したいと願っていたネプギアも一緒に来ていたからだ。

―成功した場合は施設を調整するか・・・。レリウスは仮面のずれを直しながらほくそ笑んだ。

 

「お相手して欲しいならしてあげるわ。だからアイちゃんを・・・。・・・っ!?」

 

「・・・お姉ちゃん?」

 

ネプテューヌがマジェコンヌたちに向けて言い切るよりも早く、匂いに耐えられなくなって鼻を抑え、制止したのでネプギアも止まって問いかける。

 

「ごめんなさい。ナスの臭いがこんなにも来てるとは思わなくて・・・」

 

ナスという言葉を聞いて下を確認してみれば、確かに下にはナスの畑が広がっていた。

臭いだけでもナスがダメだと言っているネプテューヌにとって、これ程天敵と呼べる場所は存在しないだろう。

更に、奥に控えるはマジェコンヌとレリウスの二人・・・こうなると最悪は自分一人でみんなを逃がす必要があるかも知れないとネプギアは考えた。

一方で、ネプテューヌの様子をみたマジェコンヌは自分の考えが合っていたことを確認できて笑みを浮かべた。

 

「やはり、貴様はこの場所が大の苦手だったようだな・・・。その様子ではまともに戦えまい?」

 

「ふざけないで・・・!幾らナスが嫌いだからって、私がそう簡単に・・・」

 

「ならば、これを見てもまだその口を叩けるかな?」

 

マジェコンヌの煽るような問いかけににネプテューヌは反論するが、マジェコンヌは最後まで聞かずに準備してあった無数のナスをネプテューヌたちに向けて放り投げる。

一見するとただのナス・・・。それだけでもネプテューヌには十分嫌気がするものだが、ネプギアはマジェコンヌの行為に違和感を感じてナスを注視してみる。

 

「・・・何アレ?」

 

ただのナスとは違う。ネプギアがそう感じたのと、投げられたナスがポンポンと変わった爆発音を出して煙をまき散らしたのは同時だった。

煙が出ていた時間と範囲はそこまでのものでは無かったが、その煙が晴れると羽の生えた馬と、それに乗っかっているナスのような何かが大量に現れた。

 

「・・・!?」

 

強さ自体はマジェコンヌが微量の魔力を分け与えて生み出した程度なので大して強くはないのだが、それでもネプテューヌの動揺を誘うには十分すぎる効果があった。

その動揺がキーとなってしまったのか、ネプテューヌは変身を維持できなくなって普段の姿に戻ってしまった。

変身が解けたと言うことは即ち飛べなくなったと言うことで、二人でプルルートを支えていたから良かったものの、ネプテューヌの重みが増したことで二人分の重みがネプギアの腕へ襲いかかった。

 

「っ・・・!」

 

慌てて両手でプルルートの腕を掴み直してどうにかして持ち上げようとするネプギアだが、その重さに耐えられず、プルルートの手が滑り落ちるように離れてしまった。

 

「「うわぁぁぁぁ~っ!?」」

 

「っ!?しまった・・・!」

 

二人が落下していくのを見たネプギアが一歩遅れて追いかけるが、落下の速度は早く、二人は地面に激突した。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

ネプテューヌたちがアイエフのいる場所に辿り着いた頃、ナオトらと合流したラグナは二人を乗せてバイクで疾走していた。

 

「しかし・・・二人乗りなんてして大丈夫なのか?まだ取ったばっかだろ?」

 

「事情を説明したら今回だけ特例もらってな・・・今度正式に追加試験受けることになってる」

 

実のところ、ラグナは本来ならバイクを二人乗りする資格を持っていないのだが、事態の対処に当たれるメンバーを連れていくという名目で許可を貰うことに成功していた。

また、現在は交通整理の最中であったが為に車などの交通は殆ど見受けられず、ラグナは多少の無茶を承知の上でドリフトなどをしながら進んでいた。これも、今回ばかりは特例で許されていた。

何度目かの曲がり角をドリフトで曲がり切った直後、大きな音がどこかから聞こえてきた。

 

《まさか・・・もう戦闘が始まっているというの!?》

 

「だとしたらヤバいな・・・。ラグナ、急ごう!」

 

「分かってる!しっかり捕まってろよ?」

 

音の方角からしてネプテューヌたちが先行して飛んでいった場所である為、ラケルは大方予想を立てた。

相手が何者か解らないので、自分たちも急ぐ為ラグナはバイクを更に飛ばし、ラケルもその速度に合わせてついていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ~!?ナスは嫌だよぉ~!?」

 

ラグナたちが急いで現場に向かっている頃、ネプテューヌはモンスターたちに背を向けて逃げ回っていた。

モンスターと言えど見た目はナス。その段階でネプテューヌは生理的に受け入れられなかったようである。

 

「・・・はっ!ええい!」

 

ネプギアは二人を救援する為、M.P.B.Lを振り回してモンスターを倒して行く。

しかし、すぐにマジェコンヌが新しくモンスターを放り込んでくるので、せっかく道ができてもすぐに囲まれてしまい、見事に足止めをされていた。

 

「ほぇ~?なぁにぃ~?」

 

一方、プルルートはモンスターたちに対して反撃せず、その攻撃を避けるような素振りも見せていなかった。

その理由として、このモンスターたちの持っている槍は極端なまでに威力が低く、何度刺されても傷はできないし、痛みも無いのだ。

その為プルルートには戯れに来た何かにしか見えていないのだ。

 

「ね、ネプ子!そいつら凄く弱いんだから、ちょっとくらい我慢して倒しちゃいなさいよ!」

 

「で、でもナスなんだよぉ!?どうしろって言うのさぁ~っ!?」

 

「ああ、そう言えばまだ口が使えたのか」

 

ネプテューヌの様子を見かねたアイエフが促すものの、ネプテューヌはナスの見た目をしたモンスターを前に良く分からない恐怖感に襲われ、お手上げな状態だった。

そして、アイエフが言葉を発したことでマジェコンヌが彼女の状態に気付き、近くに歩み寄ってきた。

 

「ここで台無しにされても困るのでな・・・。これで口を防がせてもらおうか!」

 

「・・・!?」

 

マジェコンヌはいきなりアイエフの口の中にナスを放り込んだ。

いきなりのことで驚いてしまい、アイエフは目を見開く。

 

「噛み切られたり、吐き捨てられたりして何かされても困るのでな・・・こうして防がせてもらおうか」

 

「んん!?んん・・・!」

 

アイエフはマジェコンヌの言った通り吐き捨てようとしたのだが、その行動が予想されていたマジェコンヌによって防がれる。

その結果、口内をナスで弄ばれるという、人生で最も意味の分からない状況に陥ってしまうのだった。

 

「・・・・・・」

 

「・・・?此れはもう少し観察すればわかりそうだな」

 

そのマジェコンヌに危害を加えられるアイエフの姿を見たプルルートは、自分の奥底に溜まっている不満がこみあげてくるのを感じた。

そして、そのプルルートの変化に気づいたレリウスは、彼女の変化を詳しく調べるため、集中して観察することにした。

それとほぼ同時に、ラグナたちはナス畑が見える場所までたどり着き、ナス畑に踏み入れる直前の位置でバイクを停止させて状況を確認する。

 

「・・・あれか!」

 

ラグナはアイエフのいる場所を即座に見つけることができた。

現在の状況を見て、すぐに助けなければ危険かも知れないと三人は判断した。

 

《あの二人を引き離せれば私が躰を借りて脱出できる・・・時間稼ぎをお願いするわ!》

 

「よし、分かった!」

 

ラケルの話を聞いてナオトが答え、ラグナとナオトはすぐにバイクから降りて戦闘の準備をする。

ラグナは剣を腰から引き抜き、ナオトはドライブを全開にすることで準備を終わらせた。

 

「細けぇ事までは気にしてられねえな・・・取りあえず行くぞッ!」

 

「ああ!」

 

ラグナとナオトはアイエフを助けるべく、ナスを真っ直ぐ突っ切るように進んで行き、ラケルもチャンスを逃さない為に彼らの後ろをついていくのだった。




今回はもしかしたらょっと短くなってしまったかもしれません。

二つゲームを同時に買ったのはいいのですが、一方を進めるともう片方が手つかずになる自分の性分が時々悲しくなってきます・・・(笑)。
どうやら私はマルチタスクが苦手な人のようです。

次回でアニメ7話分が終了します。


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45話 プルルートの逆襲

少し遅くなってしまいました。
今回でアニメ7話が終わります。


「来たか・・・だが、お前たちの相手は私たちでは無いぞッ!」

 

ラグナたちが走ってこちらに向かってくるのを感じたマジェコンヌは、振り向きながら魔力を込めたナスを投げつける。

それらは再び爆発音を出してからモンスターに変わり、そのモンスターたちがラグナとナオトを分断するように囲んだ。

 

「チィ・・・!面倒な真似してくれるぜ・・・」

 

「こうなったら仕方ねえ・・・こいつらをさっさと片付けてやる!」

 

囲まれてしまっては動けないので、二人は状況を打開するために周囲のモンスターを倒す方針へ切り替える。

しかし、その選択はマジェコンヌの思惑通りに動いてしまうことであり、策に嵌ってくれた事を確信したマジェコンヌはニヤリと口元を緩めた。

 

「レリウス、お前は隙を見て捉えに行くといい。私は暫くモンスターで足止めする」

 

「感謝する。では、私の研究を進めさせて貰うとしよう」

 

マジェコンヌが次々と魔力を込めたナスを投げ込んでいくのを尻目に、レリウスはプルルートへの観察を続けながらネプギアへの接近を試みた。

 

「とぉッ!おぉりゃぁッ!」

 

ラグナは左足で回し蹴りをして一体を蹴り飛ばし、右手で逆手に持った剣を右から斜めに振り下ろして線上にいたモンスターたちを纏めて薙ぎ払う。

自分の攻撃が当たったモンスターは全て光となって消滅するものの、すぐに新しいモンスターがラグナの周囲を囲んできたので、また倒さなければ行けなくなった。

 

「クソがぁ・・・!どれだけ増えるってんだぁ?」

 

「スラッシュカイドッ!」

 

ラグナが吐き捨てながら剣を構え直す時、ナオトは右腕の肘から先に血を集め、それを固めて弧を描く刃を作り上げてモンスターに斬りかかる。

モンスターたちが光となって消滅したので、ナオトは固めていた血の硬化を止めて霧散させるが、それと同時に先程と同じモンスターがナオトの周囲を囲んだ。

 

「オイオイマジかよ?シャレになんねぇぞそりゃ・・・」

 

ナオトは目の前の状況に動揺しながらも気を取り直して構え直した。

一方、ネプテューヌはモンスター相手に逃げ続けていたが、逃げ続けるのにも限度がある為、一度回れ右ならぬ回れ左をしながら、アイテムパックから取り出した太刀を右から左へ振ってモンスターたちを薙ぎ払う。

それによって、ネプテューヌを追いかけていたモンスターたちは光となって消滅したので、ネプテューヌはこれで一息できるかと思ったが、まだ甘かった。

 

「うぅ・・・ナスの臭いがキツイよぉ・・・」

 

ナスの臭いに耐えられず、ネプテューヌは嫌な顔をしながら鼻元を抑えた。

ネプテューヌがそうして臭いに耐えている間にもマジェコンヌによって再びモンスターたちが作られ、そのモンスターがネプテューヌに迫って来たことで彼女は顔を青くした。

 

「(な、何とかしなきゃ・・・このままじゃ、お姉ちゃんたちが・・・!)」

 

モンスターたちを倒し続けている中、ネプギアは焦りに駆られていた。自分が相手しているモンスターの数が無くならないのである。。

今回はマジェコンヌが次々とナスをモンスターに変えながら投げ込んで来るので、ズーネ地区の時と違って数に限りがないのだ。

次に苦しい事として、ズーネ地区の時と比べて強敵の数こそ少ないものの、味方はそれ以上に少ないのである。

前回はハクメンの大立ち回りや、女神候補生四人の奮闘、セリカの能力など様々な後押しがあったものの、今回はそれらの殆どを得られず、現在はマジェコンヌとレリウスがフリーになっていた。

 

「さて・・・そろそろ頃合いだな」

 

「っ・・・!?」

 

レリウスの声が先程よりも近くの場所で聞こえたので、焦ったネプギアは声のする方へ体を向ける。

するとレリウスはいつの間にか自分のほぼ真下まで来ており、イグニスもいつでも行けると言わんばかりにスタンバイを完了させていた。

 

「あ~・・・」

 

そんな時、プルルートは怒りが限界に達しており、自分が手に持っていたネプテューヌを模した人形を持った右手を上に真っ直ぐと持ち上げていた。

今もモンスターたちが自分を囲んでチクチクと攻撃してはいるが、威力が低すぎるのでプルルートは一切気にしていない・・・と言うよりは、思考が怒りに染まっているせいで眼中にない(・・・・・)

 

「この野郎・・・!」

 

「邪魔すんなぁ!」

 

ラグナが剣に黒い炎のようなものを纏わせてそれを上から縦に振り下ろし、ナオトは右手に血を集め、それを剣にして左から斜めに振り上げる。

それらの攻撃でモンスターを薙ぎ払ってようやく周りにモンスターがいなくなったところで、アイエフの救出に行こうと思ったが、今度はネプギアが危険な状況になっていた。

 

「ヤベぇ・・・急いで助けに・・・!」

 

ラグナが走り出そうとしたところで、プルルートは思いっきりぬいぐるみを地面に叩きつける。

叩付けられたぬいぐるみによってクレーターが出来上がったこともあって、全員が固まってそちらに意識を向ける。

クレーターを作り上げた張本人であるプルルートは、何やら物言わせぬ雰囲気を漂わせていた。

余りにも衝撃的な目の前の光景は、ラグナやマジェコンヌはおろか、モンスターすらその場で滞空しながら制止していた。

 

「ムカつく~・・・」

 

プルルートの口から発せられたのは不満を露にする言葉。それだけにはとどまらず、プルルートは叩きつけた人形を踏みつける。

踏みつけた時にズシンと、女の子が鳴らしては行けないような音が聞こえ、全員が戦慄する。

一人例外なのはレリウスで、何が起きるか分からず楽しみにしていた。

更にプルルートはそのぬいぐるみぐりぐりと足で踏みにじり出した。そのせいでぬいぐるみに詰め込んでいた綿が破けた部分の隙間から溢れ出していた。

 

「どうしてぇ~・・・アイエフちゃんにぃ~・・・酷いことするのぉ~・・・?」

 

「な、なんだ・・・!?この怖気(おぞけ)は・・・?」

 

「な・・・なんかアレヤバくない?」

 

プルルートが問いかけている相手はマジェコンヌであり、得体の知れない威圧感を全面に食らったマジェコンヌは思わず震え上がるのを感じた。

マジェコンヌがプルルートの威圧にやられている最中、ネプテューヌたちもぬいぐるみを踏みにじって嫌な音を鳴らしているプルルートを見て嫌な汗をかいていた。

ネプテューヌに至っては顔に青筋が入っていた。

 

「つうかアレ・・・普通に綿で作ったんだよな?どうやったらあんな風になるんだ?」

 

「いや、俺に聞かれても困るぞそれ・・・」

 

《術式などの痕跡は見受けられないわよ?それにしても強度が凄まじいことになっているけど・・・》

 

ラグナが率直な疑問を口に出すが、常識を逸脱した状況にナオトが回答できるはずもなく、ラケルもかなり見当違いな回答をしていた。

―さっきまであんなに頑丈な感じしてたっけ?最早訳が分からなくなり、全員が混乱する。

 

「(流石にこの現象は私にも理解不能だな・・・)」

 

レリウスは表面上こそ大したことは無いものの、内面では完全に匙を投げていた。

ぬいぐるみの情報にノイズが走り過ぎていて分からないのが原因だった。

 

「みんながダメだ~って言うけどぉ・・・も~我慢(・・)できないやぁ・・・」

 

「・・・我慢?ち、ちょっと待て貴様、まさかだが・・・」

 

プルルートの口から出た『我慢』と言う単語にマジェコンヌは最悪の事態を想定する。

そして、その想定は当たった・・・否、当たってしまった。

 

「相手は悪い人でぇ~・・・アイエフちゃんは酷いことされてるしぃ~・・・」

 

先程から同じ口調で、顔を下に向けながら呟いているプルルートが遂に顔を上げる。

その表情は普段ののんびりとした雰囲気からは想像できない程、極めて危険な笑みを見せていた。

 

「ちょっとくらいならいいよねぇ~・・・この人やっつけるまでくらいならぁ~・・・」

 

『・・・!?』

 

「ほう・・・始まったか」

 

プルルートの体が光に包まれた瞬間、全員が戦慄する。

当然の如く一人例外なのはレリウスで、彼はプルルートの持つ魂の耀き方の変化が分かり、それがもたらす結果を楽しみにしていた。

光が消えると、そこには先程ののんびりとした雰囲気をした少女はおらず、代わりに青紫色の長い髪を持ち、全体的に露出度の高い黒のボンテージのような格好をした、艶やかな笑みをしている女性がいた。

 

「さぁて・・・どう虐めてあげようかしら?」

 

「お、おい・・・!こちらには人質がいるのを忘れてはいないだろうな?」

 

「あら?それならどうして強気な態度に出られないのかしら?」

 

マジェコンヌの反抗を込めた言葉は女性の問いかけによって潰される。

彼女の言う通り、マジェコンヌは底知れぬ恐怖感と威圧感を前に負けてしまっているのだ。

 

「なるほど。御前も女神であったか・・・名を聞いても良いだろうか?」

 

「へぇ・・・?アタシを前に動じないなんて珍しいわね」

 

圧力に負けてしまっているマジェコンヌとは対照的に、レリウスは何も動じる事無く、己の好奇心に任せて彼女に問いかける。

すると女性は、レリウスが何も変化を見せないことから興味深そうに呟いた。変身した自分を前にすると誰もが動じるのだが、レリウスは表面上の変化を見せなかった。

 

「アタシの名前はアイリスハート・・・。普段はプルルートって呼ばれているけど、呼ぶならお好きな方をどうぞ?」

 

「アイリスハートか・・・いや、この際はプルルートで良かろう。実に面白い魂を見せてくれる・・・。失礼、私はレリウス=クローバーと言う。是非とも、その魂の輝きを間近で見せて貰いたいものだな」

 

「なるほど・・・その名前、覚えておくわ」

 

まるでこの場には自分たちしかいないかのように二人は挨拶を済ませていた。

敵同士であるのにあっさりと挨拶を済ませ、すぐさま互いに興味を持った二人を前に、全員は何とも言えないものを感じていた。

 

「あ、あのさ・・・お二人とも敵同士だよね?」

 

「ど・・・どうしてこうも簡単にお話を・・・?」

 

目の前の光景にネプテューヌとネプギアは啞然としていた。

レリウスの意識がプルルートに向いたことと、モンスターの増援が止まった事でこの状況が許されていた。

 

「・・・アレ?ちょっと待てよ?」

 

「・・・?あっ、そっか・・・!おいラケル、今のうちに・・・」

 

《ええ。行ってくるわ!》

 

全員が意識をプルルートに持って行かれている中、一人冷静さを素早く取り戻したラグナの一言で二人が気付く。

その為、小声で素早く話を決めてラケルがアイエフの元へ飛んでいく。

 

《アイエフ、躰を借りるわよ?》

 

「!ええ。頼むわね」

 

ラケルの一言でマジェコンヌが意識を向け切れていないのに気づけたアイエフは、一つ返事でラケルに躰を譲る。

そして、躰を借りたラケルは、風を使って彼女の隠し持っている暗器を器用に取り出し、それを使ってロープを切った。

身軽な体が幸いし、地面に降りても土のおかげで殆ど音が出なかったのでマジェコンヌに気づかれることは無かった。

その為、ラケルはその場で躰を返却し、躰を返してもらったアイエフはそのままラグナたちの元に合流する。

 

「ありがとう。おかげで助かったわ」

 

「よし、戻ってこれたか・・・おーい、プルルートぉ!こっちはもう大丈夫だぞー!」

 

「何!?・・・しまった!」

 

アイエフが戻って来たのを確認したナオトがプルルートに聞こえるように伝える。

その言葉を聞いて我を取り戻したマジェコンヌが確認してみると、先程まで縛り付けていた場所にアイエフの姿は無かった。

その慌てぶりを見たプルルートは、さも満足そうに笑う。

 

「残念ねぇ・・・せっかく準備したって言うのに。それじゃあ、彼に魂の輝きって言うのを見せてあげたいしぃ・・・アナタを思いっきり虐めさせてもらうわ!」

 

何も気にする必要が無くなったことで完全に形勢が逆転。

プルルートは非常に艶やかで危険な微笑みを見せながら自身の手元に召喚した蛇腹剣を左から水平に振るうことでマジェコンヌを打ち付ける。

 

「ぐあぁ・・・!」

 

竦んでいたせいで反応が遅れたマジェコンヌはもろに攻撃を喰らってしまい、軽く吹き飛ばされてしまう。

 

「ぐぅ・・・!っ!?」

 

「あらぁ?もうおしまい?もう少し楽しませてよ・・・ねっ!」

 

地面に打ち付けられたマジェコンヌは痛みを我慢しながら立ち上がろうとするが、プルルートがこちらに近づいて来ていたのが見えて息を吞む。

最初に感じた怖気こそもう引いているが、自分がこうもあっさりとあしらわれていることに驚いていた。

その様子に少しおどけながらも、プルルートは危険な笑みに表情を戻しながら蛇腹剣を振るい始めた。

 

「うおぉ・・・!ぐあぁぁッ!?」

 

「あ・・・アレホントにぷるるん?」

 

「お姉ちゃん以上の変化だね・・・」

 

マジェコンヌが打ち付けられている姿を見て、ネプテューヌは困惑し、ネプギアも困った笑みを見せる。

 

「あっ、そうだ!コンパ探さなきゃ!ラグナ、バイク借りていい?」

 

「分かった。ちゃんと見つけてやれよ?」

 

「ありがとう。二人もまた後でね!」

 

ラグナからバイクの鍵を受け取ったアイエフはドライブを使ってバイクの元まで一飛びで移動し、そのままエンジンをかけ、バイクにまたがって走り出した。

 

「ああ!ちゃんと見つけてやるんだぞ!」

 

走り去っていくアイエフにナオトは届くかどうか分からない声を送るのだった。

実際にバイクの速度は早く、ナオトが言い切る頃にはもう見える姿がかなり小さくなっていた。

 

「なるほど・・・此れは興味深いな・・・」

 

「あっちはああだし・・・このモンスターたちも大して強くない・・・」

 

「そうだな。だったら・・・」

 

マジェコンヌがプルルートにやられているが、レリウスは相変わらずプルルートの中にある魂の輝きを観察していた。

その状況をちらりと見たナオトが呟き、その意図を察したラグナが同意して二人は飛びのき、モンスターを挟むような位置取りをする。

 

「「纏めて叩き潰すッ!」」

 

二人は同時に自分の頭の中にあった方針を口にする。

モンスターたちの内それぞれに一番近いモンスターが二体ずつ向かってきたのが見えた瞬間、二人は動き出した。

 

「おぉッ!」

 

「ぜぇりゃぁッ!」

 

ラグナは一体目のモンスターに、振り上げた左足を真っ直ぐに振り下ろして叩き潰し、ナオトは右腕でストレートを放ってモンスターの中央を貫く。

それぞれの攻撃を受けたモンスターたちは光となって消滅したが、すぐに二体目のモンスターが来ていた。

 

「うぉらぁッ!」

 

「どけぇッ!」

 

二体目のモンスター相手に、二人は左腕でアッパーカットをぶつけ、モンスターを空に打ち上げる。

その間にラグナは右手に持っていた剣を逆手から通常の持ち方に変えながら、剣を変形させて先端部から鎌状のエネルギーを発生させ、ナオトは右手に血を集め巨大な鎌を作り上げる。

 

「行くぞナオト!準備はいいな!?」

 

「おう!いつでもいいぜッ!」

 

二人が先程打ち上げたモンスターたちが重力に負けて落ち始めたのと、ラグナたちが動き出したのは同時だった。

 

「「喰われろおぉッ!」」

 

ラグナが体を右に回しながら勢いをつけて鎌を左から水平に振るうのに対して、ナオトは鏡写しになるような動きで鎌を振るう。

二人が鎌を振り回した余波でできた、血の色をしたエネルギーの波がそれぞれモンスターたちを飲み込み、二つの波がぶつかる形でモンスターたちを押し潰す。

波に飲まれている間にモンスターたちは全て光となって消滅し、それぞれの波が消えとそこにモンスターの姿は存在しなかった。

そして、そのモンスターたちは元々マジェコンヌがナスに魔力を込めて生み出していたのだが、生みの親であるマジェコンヌがプルルートにやられている以上、これ以上増えることは無かった。

 

「よし・・・こっちはもう大丈夫だな」

 

《ええ。この様子なら、向こうもすぐに終わりそうね》

 

まだ戦闘が終わっていないので、全開状態を維持したままナオトは一息つく。

そのナオトに肯定するラケルの言う通り、プルルートとマジェコンヌの戦闘は非常に一方的なものとなっており、マジェコンヌは立て直したのも束の間、殆ど反撃を出来ない状態でいた。

 

「アッハハハッ!それ・・・それッ!」

 

「ぐぅ・・・!ぬあぁ・・・ッ!」

 

何度目かの蛇腹剣を用いたプルルートの攻撃を受けたマジェコンヌは、そのダメージに負けて大きく数歩後退してしまう。

ズーネ地区では変身などを持ち合わせて常時有利な状態を維持していたマジェコンヌだが、今回は変身したプルルートを相手に通常の姿のままであることが尾を引いてここまで劣勢に陥ってしまっていた。

 

「(・・・どこだ?どこで間違えた?)」

 

肩で息をしながらマジェコンヌはこの様な状況に陥った理由を推測する。

倒す相手を一人に絞って、その一人が嫌いなナスまみれの場所に誘導する。これは良いだろう。効果としてネプテューヌは変身を解除させられていた。

女神候補生や『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』を女神の救援に行かせない為モンスターで足止めする。これも悪くは無かっただろう。実際のところ完全に分断に成功していた。

人質の口を塞ぐ為にナスを食わせた。問題があるとすればここだろう。恐らくは連れ去ったことと縛ったこと、そこにナスを無理矢理食わせると言う要素が重なってプルルート(目の前の女神)を怒らせたのだろう。

また、プルルートが女神であると言うことに気が付けなかったのも、今回こうなってしまった原因だろう。

 

「想定外だった・・・では済まなそうだなこれは・・・」

 

実際にここまでの変貌を見てしまったので、マジェコンヌは軽率だった少し前の自分を殴りたくなっていた。

しかしながら、プルルートは本来別のゲイムギョウ界にいる女神なので、想定できないのも仕方ないと言えば仕方ないのである。

 

「さぁて・・・後はどうやって虐めようかしら?色々と思い浮かんで悩んじゃうわねぇ?」

 

「(・・・この様子なら逃げ道はあるか?目を離せばすぐに攻撃が飛んで来そうだが・・・)」

 

プルルートが本気で悩んでいる様子が見えたので、マジェコンヌは目だけを動かして必死に周りの状況を集めて考える。

受信側であれば無挙動で応じることができるマジェコンヌだが、送信側はまだ上手く行かないので、こうなればレリウスから通信を送ってもらえるのを待つしか無いだろう。

その思考が魂の形となって表れたのか、レリウスにも確かに伝わっており、状況を理解したレリウスは術式通信をマジェコンヌに送った。

そして、術式通信が飛んできたのが分かったマジェコンヌは無挙動でそれに応じる。

 

「どうした?」

 

『今からそちらにイグニスを送る。少しだけ耐えてくれ』

 

「分かった。ならば耐えて見せようじゃないか」

 

『頼む』

 

短い通信を終えたマジェコンヌは、腹を括ってプルルートを見据える。

プラネテューヌの女神を倒そうとしても、プルルートをどうにかできない今は撤退すべき。そう考えたマジェコンヌは行動に移った。

 

「悪いが、ただでは終わらんぞ?貴様もその方がいいだろう?」

 

「ええもちろん・・・。それで?何を見せてくれるの?」

 

「私の変身だ・・・見るが良いッ!」

 

プルルートが期待の眼差しを向けてくれたことで完全に隙ができたので、マジェコンヌは即座に変身を行う。

自身の体が紫色光に包まれ、その光が消えるとマジェコンヌはズーネ地区で見せた姿に変わっていた。

 

「さあ、第二ラウンドだッ!短くなるやもしれんが、付き合ってもらうぞ!」

 

「いいわね・・・それじゃあ、始めましょうか!」

 

ラグナと同じ形をした金色の剣を構えたマジェコンヌと、蛇腹剣を構え直したプルルートが同時に武器を振るう。

互いの武器がぶつかり合った時、プルルートはマジェコンヌの持っている武器に興味を惹かれた。

 

「・・・?ラグナと同じ武器じゃない?急にどうしちゃったのぉ?」

 

「この武器を見せれば興味を持つだろうと予想が当たっていたようだな・・・!」

 

マジェコンヌは狙い通りに事が運んで一安心する。

自分の使う槍や、女神たちの武器を見たところで、始めて見るプルルートではそこまで気を引くことはできない。

しかし、ラグナの武器は既に見ているので、これなら引けるだろうという予想は見事に的中した。

女神を退く為に女神の性格を逆手に取るのは尺ではあるが、そこをマジェコンヌはどうにかこらえる。

 

「実は、私には他人をコピーできる能力があってな・・・。これはその一環だよ」

 

「へぇ?と言うことは、もしかして技も使えるのかしら?」

 

「ああ使えるとも。見るが良い・・・インフェルノディバイダーッ!」

 

「ならこっちも、ファイティングヴァイパーッ!」

 

マジェコンヌが剣に紫色の炎を纏わせながら振り上げるのに対して、プルルートは蛇腹剣に雷を纏わせ、左から右へとV字に振るう。

プルルートが放った剣戟の一段目をマジェコンヌが強引に突破したので、二段目は空振りに終わる。

 

「さっきまでとは随分と違うじゃない?でも、そうじゃないと面白くないわね・・・」

 

「フッ・・・それなら結構。だが、今回はもう時間だな」

 

「・・・?それはどういうことかしら?」

 

マジェコンヌの強さの変貌に喜びの笑みを見せたのも束の間、マジェコンヌから告げられた言葉によってプルルートは困惑することになる。

プルルートに問いかけられたマジェコンヌが目線を下にやったのでそれをプルルートが追ってみると、その目線の先には準備を完了していたレリウスがいた。

 

「退避の準備は終わった。いつでも出られるぞ」

 

「すぐに行く」

 

レリウスに告げられたマジェコンヌは一言だけ返し、プルルートやネプテューヌには目もくれずレリウスの傍まで移動した。

 

「今回は潔く負けを認めよう・・・だが覚えておけ。私はまた貴様らを倒しに現れるとな」

 

「また会おう・・・。次会う時は、御前の魂を余すことなく見せてもらうとしよう」

 

二人は最後に一言告げ、転移魔法の為に作り上げた空間に飲み込まれる。

その空間が消えると、二人の姿はない為これで今回の戦いは終わりを告げた。

 

「ど・・・どうにか終わったねぇ。もうナスのモンスターはコリゴリだよ・・・」

 

「あはは・・・思ったよりモンスターが弱くて助かったかも・・・」

 

二人とも戦いが終わったので脱力気味になる。

ネプテューヌはモンスターがモンスターだった為、ネプギアは二人を助けに行こうとしてかなり焦っていたからである。

しかし、ネプテューヌは大切なことに気がついて起き上がる。

 

「行けないっ!コンパを探さなきゃ!」

 

まだコンパが見つかっていない。実際のところあの時写真に写っていたのは捕まっていたアイエフだけで、コンパは見つかっていなかったのである。

その為、ネプテューヌはすぐに変身をして体を軽く浮かび上がらせる。

―友達を助けたと言うなら、コンパの安全も確認して始めて完了ね。その考えがネプテューヌの行動力の源となっていた。

 

「私、ちょっと行ってくるわね!」

 

「あ、待ってお姉ちゃん!私も行くよ!」

 

「あら?何か面白そうだし、アタシもついていこっと・・・♪」

 

ネプテューヌが飛んで行くと、ネプギアは慌てながら、プルルートは興味本位でついていくのだった。

そして、彼女たちが小さくなるまで見送ったラグナたちは、今度こそ終わったとそれぞれの戦闘態勢を解いた。

 

「あいつら行っちまったな・・・」

 

「後はコンパさんだったな。確かに今どうなってるか解んねえし、俺らも探しに行かないとな」

 

《それは良いのだけど・・・貴方たち、本気で今から徒歩で(・・・)探すの?》

 

自分たちだけ休んでいるわけにもいかないので、ラグナたちは歩き出そうとすると、ラケルに問いかけられた。

今回は少し注意喚起に近い形に感じられた。

 

「ん?だってバイク使えば大丈夫・・・。・・・・・・あっ、そういやアイエフに貸してんじゃねえか・・・」

 

「ああ。そういや確かに貸してたな・・・」

 

《・・・だから言ったのよ》

 

ラグナは言い返している最中に気が付いた。先程コンパの捜索に向かうと言ったアイエフにバイクを貸していたのだ。

それによって気が付いたナオトはそのことを肯定するが、同時に額に汗が現れた。探すのはいいのだが、余りにも非効率すぎた。

その二人の様子を見たラケルは呆れ半分に呟いた。

 

「仕方ねえ、帰りながら探すか・・・」

 

「そうだな・・・。つか、誰かに戻って来てもらわね?」

 

《(・・・こんな時アイエフがいてくれれば、この二人を風で送り届けられたというのに・・・)》

 

二人は脱力気味になって話し合い、それを後ろで見ていたラケルはあの時アイエフに待ってもらえば良かったかもしれないと後悔した。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「そうっちゅか・・・それは残念っちゅ」

 

ネプテューヌたちがマジェコンヌらと戦っていた頃から、ナス畑から離れた場所でワレチューはコンパと話し込んでいた。

コンパと戦いたくないと思うワレチューと、争いごとを嫌うコンパはその点が一致していると分かったワレチューが自分たちの同盟に誘ってみたのだが、残念ながら拒否されてしまった。

それもそのはず、女神たちを倒そうとしているワレチューらの同盟に、女神が友人にいるコンパが一緒に行こうというはずも無かった。

 

「でも、戦いたくないのは本当です。本当なら、今すぐその目的も諦めて欲しいですけど・・・」

 

「悪いっちゅけど、そういうわけにはいかないっちゅよ・・・悪党にも悪党なりの義理や友情というものがあるっちゅ」

 

実際のところ、ワレチューはあの集団で過ごす時間を悪く思ってはいなかった。その為、コンパの願いは振り切ることを取った。

もしワレチューが普通に生きているだけなら、その願いを聞き入れて自分だけ諦めていたかもしれないが、自分の意志で続けている以上そんな選択肢を取ることは無かった。

その為、今回の話し合いは完全に決裂してしまったが、それでもこの場ですぐに戦うということは無い。

ワレチューは己の精神の関係上コンパを傷つけることが出来ず、コンパは不用意な争いを好まないのでそのような事を自分からするつもりは無い。

それがこのように暫く何もない時間を作っていた。

 

「あっ、ねぷねぷたちが来てくれたですぅ!おーい、私はこっちですよーっ!」

 

「ぢゅうッ!?女神が来たっちゅか!?」

 

先に沈黙を破ったのはコンパで、自分を探すために飛んでいる彼女たちを見つけて両手を大きく振る。

その仕草を見たワレチューはびくりとしながら弾かれるように後ろを見る。

するとこちらに気づいた三人がこちらに降りてきたので、慌てていたワレチューは三人の女神に囲まれると言う絶望的状況になっていた。

 

「コンパ、無事だったのね?」

 

「はいですぅ♪この通り、五体満足ですよ♪」

 

コンパが笑顔のまま返してくれるので、ネプテューヌは安堵の笑みを浮かべた。

しかし、ワレチューがまだいるので、無防備で喜び続けると言うことはせず、すぐにそちらへ意識を向ける。

三人に目を向けられたワレチューは、せめてものの足搔きと言うかのようにファイティングポーズを取る。

 

「な・・・何っちゅか!?オイラ何も手出ししてないっちゅよ?」

 

「そ、その姿勢をされると反応に困るかな・・・」

 

焦りながらチラチラと女神三人を警戒する姿勢を見たネプギアは困った笑みを見せる。

何故余計な事をしてしまうのだろうか?ネプギアはそんなワレチューを見て、そのポーズをやめたほうがと言ってあげたかった。

 

「なぁに?そんなに虐められたいのぉ?困った子ねぇ・・・♪」

 

「ぢゅぢゅぅッ!?」

 

「もぅ・・・脅かしちゃダメよぷるるん。この様子だと本当に何もしていないみたいだし・・・」

 

プルルートが危険な笑みを見せた事でワレチューは背筋が凍り着くが、ネプテューヌが止めてくれたことで心底安心した。

ネプテューヌに止められたプルルートも、本当に何もしていないのが分かったのでまあいいかと引き下がってくれた。

 

「何もしていないなら今回は見逃してあげるわ。今のうちにどこかへ去りなさい」

 

「・・・マジで言ってるっちゅか?」

 

「マジで言っているわよ?言っておくけど、今回だけだからね?」

 

ネプテューヌの慈悲深い勧告に困惑したワレチューが一泊置きながら問い返すと、ネプテューヌは間を殆ど開けずに肯定した。

ピーシェの無茶な遊びに付き合っていたこともあって、ネプテューヌは心のキャパシティが相当大きくなっていて、これもそのお陰である。

本気で言っていることが分かったワレチューは、自分のしたい事もできたのでそれを受け入れることにする。

 

「なら今回は有難く受け取るっちゅ。次は容赦しなくて良いっちゅよ?」

 

「また懲りずに来るならね」

 

ワレチューのせめてものの反抗と言える言葉にも、ネプテューヌは至って涼しく返した。

 

「言うことは言った・・・じゃあさらばっちゅ!」

 

もうこれ以上はとどまるべきではないと判断したワレチューはその小さな体を活かして、女神たちの間をくぐり抜けるように走り去っていった。

そして、それとすれ違うようにバイクに乗っていたアイエフがこっちにやってきた。

 

「良かった!コンパは無事だったのね・・・」

 

「あ、アイちゃんっ!アイちゃんも大丈夫だったですか?」

 

「みんなに助けられたからね・・・三人ともありがとう」

 

同じ場所で気を失ってから会っていなかったので、二人はお互いが無事なので安心した。

今度こそこれで終わったことと、その例への返答二つの意味を兼ねてネプテューヌは穏やかな笑みで頷いた。

 

「これで全部終わったし・・・そろそろ帰りま・・・術式通信?もしもし?」

 

『ラグナなんだが・・・コンパは見つかったか?』

 

「ええ。特に怪我とかも無いから、後は帰るだけよ」

 

術式通信の相手はラグナで、コンパのことを問いかけられたので、無事を伝えながら自分たちのことを伝える。

 

『それなら、一度俺らを迎えに来てくれねえか?』

 

「・・・?バイク使って移動していたわよね?それはどうしたの?」

 

『さっきアイエフに貸した・・・だから今、俺とナオトは素早く移動できる手段がない』

 

「アイちゃんに・・・?」

 

ラグナに事情を説明されたネプテューヌがアイエフの乗っているバイクを見てみると、赤と黒のツートンカラーをしている、最近ラグナが購入したバイクだった。

それと同時に、ネプテューヌは自分がそのまま後先考えずさっさと飛んで行ってしまったことに気がつき、顔を朱色に染める。

 

「ご、ごめんなさい・・・!すぐに戻るから待ってて!」

 

『悪い・・・頼んだ・・・』

 

「ええ。それじゃあ切るわね」

 

術式通信を切ったネプテューヌは自分のやってしまった事が恥ずかしくなった。

しかし、ここで悶えてもラグナたちが気の遠くなる思いをするので、そんなことをしている場合では無かった。

 

「み、みんな!一度ラグナたちを迎えに行くわよっ!」

 

「・・・あっ!そう言えば置いてきちゃってる!急いで行かなきゃっ!」

 

「あらあら、また慌てて行くなんて・・・。今日は慌ただしい一日ね・・・♪」

 

慌てて飛んでいくネプテューヌとネプギアに、プルルートは一歩遅れてから楽しそうについていく。

 

「やれやれ・・・じゃあ、私たちも行きましょうか」

 

「無事な姿をお見せするですぅ♪」

 

三人が見えなくなるよりも早く、バイクこそ違えど再び二人乗りになったアイエフたちはバイクを走らせて追いかけるのだった。




以上でアニメ7話が終わりとなります。

「マジェコンヌが今の状態でこのメンバー相手に原作通りの変身をしていいのか?」と思ったので、5話の時の姿に変更の形を取りました。

次回はアニメ8話に入ると思います。
現在の状況で行くと、プリンの取り合いによって起きた喧嘩の辺りが大幅に変わることになると思います。


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46話 変化し始める心境

予定通りアニメ8話分が始まります。


「うーん・・・どうしようかなぁ?」

 

冷蔵庫の中にある複数のプリンを見て、ネプテューヌは唸っていた。

その理由は『ネプの』と書いてあるプリンをいつものようにとって食べようと思ったのだが、食べている途中にピーシェが食べたいと言ってしまったらどうしようかと考えていたからだ。

 

「・・・何やってんだ?ネプテューヌ」

 

「あっ、ラグナ・・・実はなんだけどさ・・・」

 

いい案が思いつかないので誰かに相談しようと思っていたところで、丁度ラグナがやってきた。

その為、ネプテューヌは自分の現在の状況を伝えると、ラグナは少し考えて次の答えを出した。

 

「それなら、もう一個『ネプの』って書いたプリン準備して、一緒に食べようって言えばその心配は無くなるんじゃねえか?」

 

「あっ、それだ!その手段があったっ!目から鱗とは、正にこの事だよぉ!」

 

ラグナの提案を聞いたネプテューヌは、非常に満足そうな笑みを見せて彼の提案を使うことにした。

善は急げ。早速行動に移ることにしたネプテューヌは、何も書かれていないプリンを一つと、『ネプの』と書かれたプリンを一つ取り出してからテーブルの上に置く。

 

「ごめん、ちょっとだけ見てもらってて良い?」

 

「いいぜ。早いとこ行ってきな」

 

「ありがとーっ!」

 

ラグナに頼んでみたところ、あっさりと承認してくれたので、ネプテューヌは礼を言いながら走っていく。

そして、それとは丁度すれ違うタイミングでピーシェが入って来て、プリンが置かれてあることに気がつく。

 

「あーっ!ネプのプリン!」

 

「ん?ああ、ちょっと待ってな。ネプテューヌがちょっと準備してるから」

 

「・・・じゅんび?」

 

やはりと言うべきか、ピーシェはそのプリンを見て食べたくてしょうがない表情を見せる。

それを見たラグナが待つように言うと、準備の意味が分からずピーシェは首を傾げた。

困惑しているピーシェに「いいから待ってな」と声を掛けるものの、食べたくてうずうずしているピーシェがどこまで持つかが解らないので、早く戻って来て欲しいと願うばかりだった。

 

「ありがとうラグナっ!あっ、ぴーこもいたんだね?」

 

「ねぷてぬっ!じゅんびってどれくらいかかるの!?」

 

「すぐ終わるからちょっとだけ待っててね~?」

 

右手にペンを持ってネプテューヌが駆け足で戻って来て、我慢の限界が近いピーシェはネプテューヌに問いかける。

問われたネプテューヌは答えながら普段と同じように何も、書かれていないプリンの蓋に『ネプの』と文字を書いた。

 

「よし、できたっ!」

 

「・・・!」

 

書き終えたネプテューヌの声を聞いたピーシェが二つのプリンを覗いて、嬉しそうな表情を見せた。

 

「ネプのプリンが二つーっ!」

 

「その通り~!これで一緒にネプのプリンが食べれるね♪」

 

「やったーっ!」

 

「(これでどうにか解決したな・・・)」

 

同じ『ネプの』と書かれたプリンを楽しそうに、そして幸せそうに食べる二人を見てラグナは一安心する。

そして、二人がプリンを食べている様子をチラリと見てからそろそろクエストに行こうかと思ったところで、いつもの部屋に教祖を省く全員が入ってきた。

 

「あら。いつも通り仲良しみたいね?」

 

「あれ?みんな揃ってどうしたの?」

 

ノワールが二人の様子を見て率直な感想を述べたことでネプテューヌも皆が来たことに気がつき、振り向きながら問いかける。

 

「ネプテューヌ、R-18アイランド・・・と言う場所はご存知でしょうか?」

 

「R-18アイランド?ううん、聞き覚えないなぁ・・・何があったの?」

 

ベールの問いにネプテューヌは否定を返した。実際にR-18アイランドの存在は始めて知ったのである。

 

「実は、そこに何やら怪しい施設がある事をルウィーの持つ人口衛星で確認しましたの。それで、早速全員で調査に赴きたかったのですが・・・」

 

「ドレスコードは水着か全裸のどちらか、それに18歳以上でなければ入ることすら許されないから・・・今回は行けるメンバーだけで調査に向かうことになったの」

 

ベールがしている説明の続きをノワールが行う。

ドレスコードと18歳以上で無ければ入れないと言うことを聞いた瞬間、ネプテューヌの頭の中には一つの結論が浮かび上がった。

 

「・・・えっ?それって、今回から少しの間サービス回ってこと?」

 

『・・・・・・?』

 

「それがどうなるかはともかくとして、みんなが分らなそうにしてるから・・・」

 

「あっ、確かにこれは的外れだったね・・・」

 

ネプテューヌの斜め上を行く答えに異世界組が首を傾げる。

そうなることが予想できていたかのような様子のブランに言われたことで、ネプテューヌは頭をかきながら苦笑する。

 

「でも18歳以上でしょ?女神五人は確定で現場に行くとして・・・他に誰が行けるの?」

 

ネプテューヌの言っていることは最もで、運が悪いと女神五人だけになってしまう恐れがある。

女神候補生の四人は、正直言ってネプギア以外は体系的に引っかかってしまうだろう。

 

「俺は平気だろうな・・・」

 

「『スサノオユニット(此の躰)』をどう見られるかにもよるが・・・私も問題無いだろう」

 

「私も行けるけど・・・まだその他諸々の整理が終わらないのよね・・・」

 

「それなら整理の方をお願いしますわ。ナインが抜けて、色々回らなくなってしまうと大変ですので・・・」

 

体格的にも精神的にもラグナなら何も問題は無いと全員が頷く。

ハクメンも『スサノオユニット』が通過対象であれば問題無いので、こちらも同行が決まる。

ナインも完全に通過できるのだが、こちらは溜まり込んでいる仕事の量が甚大なこともあり、ベールの案で今回は見送りとなった。

 

「俺はダメだな・・・高校二年だし」

 

「私もダメです・・・」

 

「「ニュー(ラムダ)もダメ・・・」」

 

逆に絶対的に参加できないのはナオト、ノエル、ニュー、ラムダの四人とネプギア以外の女神候補生、ピーシェである。

ナオトたちは実年齢的な意味で通過不可能で、女神候補生とピーシェは体格で引っかかってしまう。

 

「ええっと・・・私はどうなんだろ?」

 

《私もグレーなところね・・・そもそも日常生活の段階で、ナオトと共に行動している精霊的な扱いを受けてるもの》

 

最後に、判断に困るのがセリカとラケルであった。

セリカは見た目が学生として見られてしまう可能性が十分見込まれるので難しく、ラケルはそもそも入場審査に参加できるかどうかが問題だった。

そんな風に判断できる材料が大方揃ったことで、皆で今回調査に参加するメンバーを決めた。

 

「・・・よし。これで行きましょう」

 

ブランが纏め終えた結果、今回調査に参加するメンバーは女神五人、ネプギア、ラグナ、ハクメンの八人となった。

その他のメンバーは残念ながら今回は待機となる。

 

「ええっと・・・海を渡るのか?」

 

「ええ。だから今回、ラグナとハクメンを私たちで運んでいくことになるわ」

 

ラグナの問いにブランが肯定する。

その回答を聞いた瞬間、ラグナとハクメンが互いに見合わせて唸ることになった。

その理由として、ノエルは『クサナギ』を装着したことによる体へ来る負荷の軽減、ナインは魔法で一時的にハクメンの重量を減らして運んでいた事で一人でも運べていたのだが、彼女たちはそれら無しに運ばねばならないからだ。

ラグナの体重は背丈の大きさもあって80近くあり、ハクメンに至っては『スサノオユニット』の影響で150を超えてしまっている。

それ故に運搬が非常に困難なことを物語っていた。

 

「まあ、全員で変身をして運べば何とかなるでしょう」

 

「そうね・・・全員で行けば問題無いはずよ」

 

「えっ!?ちょ、ちょっと待って!?ぷるるんを変身させちゃうの!?」

 

ノワールとブランがとんとん拍子に話を進めて行くところに、釘を刺すように話の流れを止めたのはネプテューヌだった。

彼女はプルルートの変身した姿を一度見てしまっているのもあり、そんな簡単に変身させていいものでは無いと本能が訴えていた。

 

「えぇ~?あたしは変身したいよぉ~・・・」

 

「ネプテューヌ、何か不味い理由でもありますの?」

 

プルルートは当然の如く不満を口にしたので、ベールは問いかけてみた。

ベールもそうだが、プラネテューヌ居住組以外、プルルートの変身した姿を知らないので、全員がネプテューヌの言い分を理解できないのだ。

 

「みんなは変身したぷるるんを見てないからそう言えるんだよ・・・!ね、ネプギアもあんまりさせない方がいいでしょ!?」

 

「えっ?う、う~ん・・・どうすればいいんだろう・・・?」

 

「ぷる~ん・・・」

 

ネプテューヌに話を振られたネプギアも否定できなかったのが災いし、プルルートが落ち込んだ様子を見せた。

 

「そうか?俺は別に問題ねぇと思うんだけどな・・・」

 

「・・・!」

 

「ねぷぅっ!?ラグナ本気で言ってるのぉ!?」

 

ラグナは本心で助け舟を出すように言ったので、それを聞いたプルルートは目を輝かせ、ネプテューヌは激しく動揺した。

 

「いやだってよ・・・たかだか性格が変わるだけだぜ?それに何の問題があるよ?」

 

「いやいやいやっ!ラグナは何でそんなに平気なのさ・・・!?」

 

「まあ・・・性格とかそういうのがガラリと変わる奴なんて見慣れたしな・・・」

 

実際ラグナは何も間違ったことは言っていない。

特に『氷剣・ユキアネサ』を支配下に置く前のジンが顕著であったため、ラグナは性格の一つや二つで驚きはしなかった。

 

「私は前科持ちなのでな・・・口出しはせぬ」

 

「ニューも前科持ちだからいいと思う」

 

「ニューが前科持ちなら、実質的にラムダも前科持ち」

 

「あぁ・・・私も一応前科持ちなので・・・」

 

まさかのラステイションに住まわせてもらっている三姉妹とハクメンが名乗り出たので、ネプテューヌどころかラグナとナイン、セリカの三人を省く全員が啞然とした。

ハクメンは『スサノオユニット』を身につけるまでは『ジン=キサラギ』として生きていたので、ニューは言うまでもなくズーネ地区で確認済みだった。

ちなみに、ゲイムギョウ界に来てからは触れられてないが、ラムダは当時『境界』に取り残されていたニューの魂を使っているので実質的に前科持ちとなる。

最後にノエルだが、こちらはテルミの策で『クサナギ』に精錬されてしまい、その時は世界に対する憎悪しか残っていなかった。

 

「う、噓だ・・・何かの間違いだよきっと・・・」

 

「悪いなネプテューヌ・・・全員分目の前で見たわ」

 

ネプテューヌの儚い希望は、ラグナの一言によって音を立てて崩れ去った。

―ぷるるんの味方多すぎない!?ネプテューヌは現在の状況が信じられないくらいだった。

 

「あっ!な、ナオトは・・・違うよね?」

 

「俺か?性格変わるだけなら良いんじゃねえか?周りに迷惑かけないようにすりゃいい話だし」

 

《私も問題無いわ。そもそもこの状態なら被害を被る心配が無いもの》

 

「ちょっと待ってぇ~!?ダメって思ってるのホントに私だけ!?」

 

最早頼めるのはナオトしかない。そう思って訊いてみたのだが、生憎とナオトは賛成派だった。

更にラケルも同意したので、今度こそネプテューヌの退路は完全に断たれた。

 

「まあ、変身したプルルートの姿には早めに慣れた方がいいだろ?性格の癖が強いから尚更な・・・」

 

「確かにそれもそうね・・・どの道変身した姿に慣れておかないと後々大変だものね」

 

「わ、分かったよ・・・ここで私だけ言い張ってもどうにもならないもんね・・・。よし、腹は括った!」

 

ラグナの一言にアイエフも賛成したので、ネプテューヌも腹を括るしかなかった。

 

「そういうことだ。プルルート、変身して大丈夫だ」

 

「わぁ~い♪あ~り~が~と~♪」

 

「さぁて・・・これで何人が驚くのかなぁ・・・?」

 

大丈夫の人声をもらったプルルートが花咲くような笑顔で礼を言いながら体を光に包んだので、ネプテューヌは冷や汗をかきながらその行く末を見守る。

 

「と言う訳でぇ、これが変身したアタシの姿よ。よ・ろ・し・く・ね♪」

 

「・・・アレ?いつもより上機嫌?」

 

プルルートが前回と比べて明らかに接しやすい雰囲気を醸し出しているので、ネプテューヌは思わず首を傾げた。

前回プルルートがあそこまで恐ろしい雰囲気を纏っていたのはマジェコンヌがアイエフを傷つけていた事が原因であり、今回は不満を持っていたりショックしていたところに大勢のフォローをもらえたこともあって弾んだ様子であった。

 

「はーい。よろしくね~♪」

 

「よろしく・・・♪」

 

格好こそ派手なものではあるが、それはノエルや変身した女神たちの姿で慣れていたので今更突っ込むことは無い。

そんなこともあって非常にスムーズに受け入れて貰うことができたのだ。

 

「さて・・・顔合わせも終わりましたし・・・いざ、R-18アイランドに参りますわよ!」

 

どこか上機嫌な、それでいてやる気満々なベールが仕切ったことでこの話に決着がつき、調査に参加するメンバーはR-18アイランドへ飛んで移動することになった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

話が決まってから30分後。調査に向かうメンバーは女神たちが変身した状態で、異世界組を飛びながら運んでいく形を取っていた。

ラグナの事はプルルートとネプギアの二人、ハクメンの事は四女神によって運ばれていた。

 

「今日は最高の一日ねぇ・・・♪まさかアタシの変身を受け入れてくれる人がこんなにいてくれるとは思わなかったわ♪」

 

「そんなにダメって言われてたのか?性格変わるだけなのに大袈裟だな・・・」

 

どうやらプルルートは本来いた世界でもネプテューヌのように変身するなと言われてしまってので、今回ラグナのサポートは非常に嬉しかったのだろう。

ラグナからすれば、「性格変わるだけなのにどうしてそこまで大袈裟なんだ?」と言う疑問にしかならないが、ネプテューヌは前回の事からピーシェに悪影響が出ないかを心配していた面もあった。

しかし、残念ながら異世界組の人たちは性格の変化を気にしない人たちだらけで、変身したプルルートの真の恐ろしさを知らないが故にこうなった。

もし知っていたのなら、こうまであっさりと押し切られる事は無かっただろう。

 

「そうなのよぉ・・・みんながみんなダメだ~って言うの・・・。だから、みんなが良いって言ってくれたのが嬉しくて・・・」

 

「人に迷惑かけねえならなんだっていいさ。少なくとも俺はそう思う」

 

「もぅ・・・おだてたって、なぁんにも出ないわよ?」

 

プルルートの話を聞きながら、ラグナはプルルートの姿を特に否定しない。寧ろ人に迷惑を被らないのであれば何も問題無いと考えている。

こういった思考を持っているのも、自分が教会で過ごしている時はサヤに構いすぎてしまって失敗していることが起因している。それ故に似たような事を繰り返したく無かったのである。

もしネプテューヌの考えを理解していたら変わっていたかも知れないが、不満を抱えたまま『ユキアネサ』を持ったジンがああなってしまったと考えたら、プルルートに変身するなと言うことはどの道無理であった。

幸いにもそんなラグナの境遇を知らないので、プルルートは純粋に喜んでいた。知っていたら今頃複雑な気持ちになっていただろう。

 

「ねぇネプテューヌ。何も問題無いんじゃない?」

 

「見てる感じ楽しそうに話しているだけだな・・・」

 

「本当に、何かダメだった所がありますの?」

 

「本当に今日は何も無い・・・前回は状況が状況だったのかしら?」

 

ノワール、ブラン、ベールの順に問いかけられ、ネプテューヌは困惑しながら考える。

前回はマジェコンヌのしていた行いが許せなくて変身。それ故にあの狂気であったが、今回はラグナたち自分の変身を肯定してくれる人たちの好意に甘えて変身。それは上機嫌な様子で会話をしていた。

ここまでくれば自分の早とちりだったかもしれないとすら思えてきたが、やはりあの危険な笑みだけは忘れられない。

 

「御前はあの者の変身する姿を見た時期が悪かった・・・。そう謂う事なのだろう?」

 

「ええ。その通りよ・・・今は大丈夫だけど、あまり機嫌を損なわせすぎないように気を付けて・・・私が危惧している状態になるから」

 

ハクメンは先ほどのネプテューヌの慌てぶりと、変身したプルルートが奥に秘めている物を感じ取って大方察しを付けていた。

自分が立てた推測を持って問いかけると案の定その通りだったらしく、ネプテューヌは肯定しながら警戒を促した。

 

「・・・よく解んねえけど、一応気を付ける」

 

「気になるけど、そこは我慢ね」

 

「何であれ、触らぬ神に祟りなし・・・ですわね」

 

ネプテューヌですら何度も念押ししてくるその姿はただ事では無いと感じ、三人も一応気を付ける事にした。

 

「あっ、そうだ♪ねぇねぇラグナ、今回はみんなが水着だって言うけど・・・誰の水着姿が一番気になるの?」

 

「えっ?俺?・・・全く意識して無かったな・・・」

 

「・・・・・・」

 

プルルートに訊かれて、ラグナは改めてそう言った色沙汰に興味を失ってしまっていた事に気づかされる。

しかし、何も答えないのも不味いかも知れないと考えたラグナは頑張って考えて見る事にした。

ちなみにネプギアが頬を少しだけ朱にしながらそわそわしていたが、それに気づくことは無かった。

また、四女神たちも気になっていたことである為、一瞬で聞き耳を鋭くするのを感じさせた。

 

「う~ん・・・当てて見てもいい?」

 

「?別にいいけど・・・」

 

「ホント?そうねぇ・・・」

 

ラグナは少し困惑しながら許可を出し、それを聞いたプルルート少しだけ悩む素振りを見せる。

ある程度考えて思いついたので、プルルートは「あっ、コレかも」と前置きを作ってラグナに答えを聞いてもらえるように準備する。

 

「ズバリ・・・ギアちゃんでしょ?アタシの予想だけど、ラグナは多分・・・ギアちゃんみたいな女の子が純粋な笑みを見せて寄って来る姿に弱いと思ってね・・・」

 

「ち、ちょっとプルルートさん!?買ってくれるのはありがたいんですけど・・・私近くにいるのに言うんですか!?」

 

「えぇ?だってぇ・・・元々近くで話してたのにギアちゃん止めなかったじゃない・・・?」

 

「(ネプギアの水着姿ねぇ・・・)」

 

ネプギアがプルルートに話術で翻弄され、そこに途中でネプテューヌが参加してああだこうだと話している中、ラグナは一人ネプギアの水着姿を誘導されるかのように想像した。

どの様な格好をするのかまではイメージが沸かないが、それでも自分が近づいた事に気が付き、花の咲くような笑顔で手を振って迎えてくれるネプギアの姿は想像しやすいものだった。

―アレ?俺って今までこんな考え方してたっけ?考えている内にラグナはそんな疑問に直面した。その答えは否で、ラグナはそのような事があっても精々似合うかどうかくらいしか無かったのだ。

 

「(・・・何で急に、そんな事考えるようになったんだろうな・・・?)」

 

ラグナは己の持つようになった考えに戸惑うことになったが、その答えが一切出ないままR-18アイランドに到着することになった。

また、皆が色々と水着のことで話し合いをしていたのだが、ラグナは話の内容が一切入って来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ほう。やはり御前が最も早いか」

 

「まあ、時間かからなかったしな」

 

R-18アイランドの入場審査がある部屋で待機していたハクメンは、戻ってきたラグナをみて予想通りと言いたげな呟きをした。

ラグナ自身も女の子は着替えに時間を使うから自分が早くなるのはおかしくないと考えていたので、然程気にしていない。

 

「その格好であれば『蒼炎の書(その腕)』も隠せるな・・・。良い選択をしたな」

 

「ああ。変に心配させる訳にはいかねえからな・・・」

 

ラグナはポケット付きの海パンに腕を隠せる長袖一枚と言う構成の水着姿をしていた。

ハクメンが気付いた通り、これは常人の右腕とはかけ離れた姿をしてしまっている『蒼炎の書(己の右腕)』を隠す処置である。

赤が基調であることはいつものラグナらしさが残るのだが、この二人はそんなことよりも『蒼炎の書』を人の目に晒して余計な不安を与えないようにしたいと言う念が強かった。

 

「隠せそうか?」

 

「可能な限り左腕を使えば・・・ってところだな。戦闘とかになっちまったら手首から先が見える」

 

「そうか・・・ならば、今回は基本的に私が戦いを引き受けよう。必要となった時にだけ頼むとしよう」

 

「悪いな・・・頼むわ」

 

願わくば戦いなど一切起きないことが最も望ましいのだが、万が一の事があったら今回は大人しくハクメンに頼もう。

しかしそれでも止められないなら自分も戦いに赴く・・・ラグナは自分の加勢を最終手段に留めたいと思った。

 

「お待たせいたしましたわ」

 

実際に海を楽しむなどといった言った思考が出てこないラグナたちが真面目な話をしていると、ベールの声が聞こえたのでそちらを振り向く。

するとそこには水着姿の女神たちがいた。普通の男性であれば思わず引き込まれてしまう光景であっただろうが、そこは使命と正義に生きるハクメンと、多くの人を護る事が最優先のラグナ。反応こそすれど彼女たちが予想していたものよりも明らかに反応が弱かった。

しかし、ラグナは先ほどからネプギアの事を意識するようになっていたので、そこだけは違っていた。

 

「どうですか?似合ってますか?」

 

偶然目が合ったので、ネプギアはラグナに問いかけてみる。

ネプギアの水着は白のビキニであり、その純白の水着が清楚感を、デザインのシンプルさが水着らしさを、そして機能美も兼ね備えている為に多くなった露出が健康感まで感じさせていた。

ネプテューヌの藍と白の二色で構成された目を引くようなビキニや、ノワールの赤と白の横縞模様の大胆な三角ビキニ。ブランの青と白の縦縞のチューブトップや、プルルートの黒と赤の二色で構成されたビキニ。極めつけにはベールが貝殻ビキニで腰にパレオを巻いていると言う格好でいるが、それが目に入って来ないくらい、ネプギアに目を持って行かれていた。

 

「ああ・・・似合ってるよ」

 

「・・・!良かったぁ・・・似合ってるって言ってもらえて安心しました」

 

ラグナは何も迷うことなくその水着姿を褒めて、それを聞いたネプギアが頬を赤くしながら笑みを浮かべた。

その笑顔を見た時、ラグナは何故か心臓が高鳴ったのを感じた。

 

「(・・・なんでだ?今までそんなこと無かったんだがなぁ・・・)」

 

ラグナが首を傾げながら困惑していると、その様子に気が付いたネプテューヌが歩み寄る。

 

「ラグナ、どうかしたの?」

 

「いや・・・大した事じゃねえんだ・・・ただ・・・」

 

「ただ・・・?」

 

「(何で急にネプギアの事が気になりだしたんだ?)」

 

ネプテューヌにラグナは歯切れ悪く答えている途中で口を噤んでしまう。

良く分からない感情に戸惑っているので、どう答えればいいのか全く解らないでいたのだ。

しかし、そんな悩みは体のあちこちを何者かにつつかれだした事で一時的に吹き飛んだ。

 

「あらぁ?もしかしてラグナ、ギアちゃんに見惚れちゃった?」

 

「・・・?いや、どうなのかは解んねぇな・・・。つか、何で俺の体をつついてんだ?」

 

体をつついていた主はプルルートで、その質問にラグナはハッキリとした回答ができなかった。

しかし、ラグナはそれ以上に何故自分の体をつついて遊んでいるのかが気になって仕方なかった。

 

「ラグナの体が凄い筋肉質だったから、つい気になっちゃって・・・♪」

 

「あっ・・・確かに凄い鍛え上げられているわね・・・」

 

プルルートがその理由を答えると、ノワールも目を点にしながらそれに同意する。

ラグナの体は非常に筋肉がついていて、自身のタフネスさを表すかのようだった。

露出が少ないとは言え、筋肉質の強い男性の体を直接見たことは殆ど無かったので、ハクメン以外が思わず食いついてしまっていた。

 

「まぁ・・・これも大事なもの護る為につけたもんだからな・・・誇っていいのやらどうなんだか・・・」

 

「動機は何であれ努力の形なんだし、私は誇っていいと思うぞ?」

 

「ええ。それだけ努力したからこそ今のラグナさんがいて、笑顔で暮らせる国民がいるんですわ」

 

「謙虚になり過ぎないで、たまには自慢してみてもいいんじゃない?」

 

「そうね・・・。みんなが言う通り、ちょっとくらいは自慢したって良いと思うわよ?」

 

ラグナが困ったような顔をしていると、ブラン、ベール、ノワール、ネプテューヌの順で言ってくるのでラグナは少しだけ面食らう。

 

「そっか・・・なら、少しはそうしてもいいのかもな」

 

ラグナが左手で頭を掻きながらそう言うので、女神たちは安心した笑みを見せる。

その後頃合いを見たハクメンが促したので、全員が入場審査を始める。

電子画面に「18歳以上ですか?」と問われたので、全員が「YES」で回答をする。

体格もあってハクメンとラグナは何も問題なく通り、外見で問題無いと判断されたブラン以外の女神とネプギアも通ることができる。

唯一審査に手間取っているブランだが、こちらは一人だけやたらと審査がしつこかった。

 

「だから18以上だって言ってんだろ・・・!」

 

イラつきを露わにしながらブランは「YES」のボタンを連打する。

質問が来た順番としては最初に「18歳以上ですか?」と言うもの。これ自体は何も問題は無い。

その後は「本当に18歳以上ですか?」と来て、更に次は「本当の本当に?」と煽るように問われた。これによってブランの電子画面を押す勢いが少しづつ強くなってきていた。

ここまではまだイラついているだけで済んでいたのだが、決定的にダメな質問が来てしまったことで、その拮抗は遂に崩される。

 

『その小さな胸で?』

 

「ッ・・・!だぁぁ畜生ッ!胸なんざ年齢に関係ねぇだろうがぁぁぁッ!」

 

ブランはとうとう堪忍袋の緒が切れ、電子画面を思いっきり叩きつけた。

それによって電子画面はノイズを出しながら消え、代わりに受付の所から暴動を抑える為に現れた人型のロボットがいたが、ブランは戦斧を放り投げて何か言われるよりも前にそれを黙らせた。

何事かと思って外で待機していたベールが覗いてみると、丁度ブランが戦斧を投げた直後であった。

 

「悪い。ちょっと時間かかったわ」

 

「ブラン・・・当たって砕けろどころか、当たって砕きましたわね・・・」

 

いくら何でもやり過ぎだろう。ベールはその光景を見て苦い顔をした。

取りあえず全員が通ることができたので、全員で奥へ進んで見る事にした。

何も宛はないが、歩いていけば辿り着くと言う客観的な思考から全員が談笑しながら歩いて進んでいく。

ここまでは別に問題なかったのだが、ネプギアは一つだけ気になっていた事があった。

 

「(そう言えばラグナさん・・・どうしてずっと右手を隠してるんだろう?)」

 

ラグナは水着に着替え終えてからというものの、右手はポケットに入れたままであった。

他の全員は気にしていないようだが、ネプギアは気になって仕方が無かった。

 

「(どうにかして聞けないかなぁ・・・?)」

 

歩き続けている間、ネプギアはその一点で悩み続けることになった。




今回は出だし部分になります。

ラグナの水着についてですが、CPのギャグシナリオにあった水着姿そのままになります。
前回から悩んでいたプリンに関する案件はVのシナリオにあったプリンイベントの内容を参考にしてみました。現在のネプテューヌの現状から取り合いに発展させるわけにもいかないので、本小説ではこのような形になりました。

ラグナの持つネプギアへ対する心境の変化は少し無理矢理感出てしまったかもしれませんので、もしそう感じてしまった人はごめんなさい・・・。

次回かその次回でアニメ8話の内容は終わりにする事ができると思います。


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47話 隠しきれなかったモノ

アニメ8話部分の続きです。


R-18アイランドの入場審査が終わり、一行は道なりに歩いていた。

一応審査さえ終わってしまえば問題無いので、女神たちは変身を解除していた。

 

「それにしてもさぁ・・・島に入ったのはいいけど、どこへ行けばいいんだろうね?」

 

しかしながら、まともに地図などが見当たらなかったので、どう進んで行けばいいかが解らないでいたので、ネプテューヌは尋ねるように呟いた。

残念なことにこの場に答えを持ち合わせている者はおらず、一先ず道なりに歩いて行くしか無かった。

 

「はいはいはぁ~い。道に困っているなら、案内担当をさせてもらっているこのリンダさんにお任せあれ~!」

 

その後も暫く歩いているものの、結局それらしい場所に辿り着かないので困っていたところ、緑色の髪をした女性・・・リンダがタイミング良く現れてくれた。

ラグナやハクメン、ネプテューヌは初対面であるから問題無いかと思われたが、実はネプギアとノワールがこの女性を知っていた為にそうは行かなくなる。

 

「あっ!あなた・・・!」

 

「この前ルウィーにいた、誘拐犯の一人っ!」

 

「んな・・・!?」

 

ノワールとネプギアによって自分が誰だか露呈してしまって、スムーズに案内ができなくなったこともあってリンダはたじろぐ。

また、誘拐犯だと判明したことにより、ネプギアと四女神が敵対心を持った目を向けた。

 

「テメェ、うちの妹たちを酷い目遭わせてよくもまあ戻って来れたなぁ・・・!」

 

「まっ・・・待って下さい!そのまま攻撃だけは勘弁してくださいよっ!?」

 

ブランの剣幕にやられたリンダは慌てて距離を話しながらジャンプし、そのまま綺麗な土下座をする。

流石にそんな姿勢まで見せられたら、妹に手を出されたブランですらさえ一度その姿勢を凝視してしまう。

 

「自分、もう心を入れ替えたんです・・・!今はもう真人間で、こっちで真面目に切り盛りしてるんです!だからどうか、命だけは・・・!」

 

『・・・・・・』

 

リンダは土下座の姿勢を崩さないまま必死に弁明する。

その姿勢と必死の弁明は確かに信じたくなるものであるのだが、ロムとラムを誘拐したという前科がプルルートを含む女神たちに信用を与えない。

しかし、そんな中唯一動き出したのはラグナだった。彼は何も言わないままリンダの傍まで歩み寄る。

誰か一人が近づいてくるのが分かったリンダはダメかと思って思わず目を瞑るが、彼女が予想していたものはいつまで経っても来なかった。

 

「・・・アレ?」

 

「お前が反省してんのは良く分かったよ。だから顔上げな」

 

おかしいと思ったリンダが顔を前に向けると、そこには左手を差し伸べるラグナの姿があった。

そのラグナの姿に殆どの者が首を傾げている中、彼の境遇を理解しているハクメンと『少女』の影響でラグナとの接点が一層深くなっていたネプギアは、ラグナを信じて事の行く末を見守ることを選んだ。

 

「だ、大丈夫なんですか?向こうの皆さんあんな感じですけど・・・」

 

「大丈夫だ。実際、俺も元々は大悪党(・・・)だったしな・・・」

 

『・・・・・・』

 

「・・・ほぇ?みんなぁ、ど~したのぉ~?」

 

リンダへの回答を聞いた瞬間、ラグナの取った行動の意味を理解した女神たちがそこでハッとして俯く。

唯一事情を知らないプルルートは全員に尋ねるも、真剣に聞いているハクメンとネプギア、そしてラグナの境遇を改めて知ることになって暗い顔になった女神たちの耳にその問いは届かなかった。

 

「そんな俺が、こうしてまともな道に戻れたんだ・・・。お前だって戻れるさ」

 

「・・・あ、アンタ・・・」

 

妹を助ける為とは言え、言い逃れできない程の悪行を重ねたラグナも、ゲイムギョウ界で時を重ねていく内に真っ当な道に戻れている。

であるならば、人攫い一回程度なら簡単に更生できるだろうとラグナは考えていた。そして、そんな救いの手が目の前に来たのに驚き、リンダはまじまじと彼の左手を凝視してしまう。

 

「絶対に戻れるさ。要は心の持ちようなんだからよ」

 

「あぁ・・・。あ、ありがたいです・・・!アタイ、頑張ります・・・!」

 

「おう。お前がちゃんと戻れることを祈るよ」

 

ラグナに許されたリンダは堪らずラグナが差し出していた左手を両手でがっちりと掴み、己の意思を伝える。

この時意識していた一人称を忘れて地が出てしまっているが、そんなことを気にする者は誰もいなかった。

自分の決めたことをラグナに応援され、リンダは思わず涙を流す。そして、この涙を忘れず頑張ろうと思うリンダなのであった。

流石にここまで様子を見せられれば、女神たちは誰もリンダのことを責めようとは思えなくなっていた。

 

「ブランよ。例の写真はあるか?」

 

「あるけど・・・どうするの?」

 

「事を円滑に運ぶ為だ」

 

頃合いだと判断してブランに問いかけると問い返されたので、ハクメンは迷うことなく理由を告げる。

 

「分かったわ・・・それならこれを使ってちょうだい」

 

「感謝する」

 

ブランはアイテムパックにしまっておいた写真をハクメンに渡し、それを受け取ったハクメンはそのまま二人の下まで歩いて行く。

 

「話が済んだ所で一つ聞きたいことがある。この島に、此のような施設は存在するか?」

 

「ん・・・?あぁ・・・!それはシャボン玉生成装置ですね・・・。これがどうかしましたか?」

 

ハクメンが出してくれた写真を確認したリンダは、それの正体を答えながら問い返す。

自分たちが予想していたものと大いに違っていたので、ハクメンは一瞬固まる。

 

「そうか・・・。我らはこれが大砲では無いかと思って調査に来ている。念の為確認させて貰っても構わんか?」

 

「分かりました。そう言う事ならご案内させていただきます。こっちですよ!」

 

ハクメンはすぐに事情を説明するとリンダは承諾して案内を始めてくれる。

それを見た一行は、彼女を信じてついていく事にした。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「こっちにはモンスターも特にいたりしねぇんだな?」

 

「何せ観光地域ですからね・・・。念の為にモンスター退治できる人を雇っているんですけど、その人たちが『暇すぎて腕が鈍る、これじゃ給料泥棒だ』と嘆くくらいですよ・・・」

 

シャボン玉生成装置の場所に向かう途中、ラグナはリンダにモンスターの事を聞いてみて、戦闘する可能性が極めて低い事が判明して一安心する。

それにはハクメンも同じで、ラグナの手を借りるようなことは無いと安堵できたのだ。

これで残りは着替えるまで耐えれば終わりだなとラグナとハクメンは気を和らげるが、実はまだ予断を許さない状況である。

 

「・・・・・・」

 

「ほぇ?ギアちゃん~。どぉしてラグナの事を見つめてるのぉ~?」

 

「実はなんですけどね・・・」

 

現にネプギアは、先ほどから全て左手でどうにかしようとするラグナの事が依然気になっていた。

そんな様子に気が付いたプルルートがネプギアに問いかけると、彼女は自分が見つめている理由をひっそりと話した。

 

「確かに~・・・。こっちに来てから、右手を全然使ってな~い」

 

「そうなんです。だから、訊いてみたいんですけど、あの様子だとはぐらかされそうで・・・」

 

ネプギアに言われたことでプルルートもそのことに気がつく。

そして、ネプギアがどうしたいかを告げて迷っていると、プルルートも少し考える。

 

「じゃあ~・・・どさくさに紛れて見ちゃえば良いんじゃないかなぁ~?運頼みになっちゃうけどぉ~・・・」

 

「何らかのアクシデントに期待するような形になっちゃいますけど・・・。それしかなさそうですね・・・」

 

しかしながら、方法があるだけ大分前向きに考えられるとネプギアは思っていた。

これで何も方法が思いつかない場合、後でこっそり聞こうとしても今のラグナなら簡単にあしらってしまうだろうから、本当に取り付く島もない可能性があった。

 

「着きましたよ。これがシャボン玉生成装置です」

 

「此れか・・・確かに大砲と謂う事では無さそうだな。見た目で勘違いされた以上、其の改善はいるやも知れんが・・・」

 

「なるほど・・・見た目の改善ですね。分かりました。自分からも伝えておきます」

 

ハクメンは問題になるものが一切ない事を把握してから改善点を告げる。

それを聞いたリンダは反論することなくメモを取り、その旨を伝える事を宣言する。

 

「さて・・・お騒がせした上で何も無かったことだけど・・・このまま帰る?」

 

「う~ん・・・せっかくだし、遊んでから帰らない?こんな場所滅多に来れないし、バチは当たらないでしょ?」

 

「さぁんせぇ~い♪あたしも遊びたい~♪」

 

「(プルルートさん・・・もしかして、気を遣ってくれたのかな?)」

 

ノワールの問いにネプテューヌが答えると、真っ先にプルルートが賛成した。

そのノリの良さにネプテューヌが喜ぶ一方、ネプギアはラグナの右腕を知るために時間を作ろうと考えてくれているのではないかと考えた。

 

「(それなら乗った方がいいのかな・・・?でも、他の人はどうなんだろ?)」

 

この三人だけしか賛成反対を出さないなら、自分が賛成することであっさりと勝負が決まる。

しかし、問題は他の人たちが案を出した場合だ。ラグナは間違いなく反対するはずなので、残りがどうなるかである。

 

「そうですわね・・・私も、せっかくですから楽しんでもいいと思いますの」

 

「そうね・・・今日くらいなら別に構わないと思うわ」

 

「「・・・・・・」」

 

ブランとベールが賛成したことで半数が賛成してしまった事に気が付き、ラグナとハクメンは顔を見合わせた。

ハクメンは『スサノオユニット』の影響で特に表情は解らないのだが、ラグナに至ってはかなりの冷や汗を流していた。

 

「こうなってしまったが・・・御前はどうする?」

 

「まぁ・・・ここは流れに任せるしかねえのかな」

 

ハクメンに問われてラグナはきっぱりと諦めることを選択した。最早何事も起こらないのを祈るばかりである。

 

「私が反対しても意味無さそうだし、そうしましょうか・・・ラグナたちはどうするの?」

 

「ああ。俺たちも同行させてもらうよ」

 

ノワールの問いにはラグナが口で答え、ハクメンは首を縦に振って答える。

 

「(あっ、これどの道行くことになるパターンだ・・・)」

 

ネプギアは流れが出来上がった事に安堵する。

そして、ネプテューヌに問われたところに賛成したので、これで話は決まった。

 

「よぉし話は決定!それじゃあ案内頼んでもいい?」

 

「はいはい~、楽しめる場所ですね?それではご案内させていただきま~す」

 

リンダが先導するように歩き出すので、女神たちはそれについていく。

 

「なるようにしかならねえか・・・」

 

「後は、何も起こらぬ事を祈るのみだ」

 

「(この島にいる内に、疑問が晴れればいいんだけど・・・)」

 

諦め半分に彼女たちの後ろをついていくラグナとハクメンの更に後ろを、ネプギアは考えながらついていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「さぁて、ここのロックは、と・・・」

 

女神たちが調査に、それ以外のメンバーがプラネタワーの屋上にいることですっかりと警備が薄くなってしまった事を好機に、アノネデスは電子ロックの解除を試みる。

プラネテューヌが元々セキュリティ関係にそこまで強くなかった事もそうだが、電子ロックの部屋を選んだのが運の尽き。スーパーハッカーとして名を馳せているアノネデスが相手では大した役割を果たせていなかった。

そして、解除に成功したアノネデスはあっさりと牢獄の外に出て、思いっきり伸びを一回する。

 

「出たのはいいけど・・・このままだとすぐにバレちゃうし仕方ないわね・・・」

 

アノネデスは自分が外に出る為だと言い聞かせて、自身が身につけているパワードスーツをアイテムパックにしまい込む形で解除する。

するとそこには特徴的な色をしたパワードスーツ姿の存在は無く、代わりに端正な容姿をした若い男性がいることになった。

本来はもう少し目を盗んだりしてから解除するのだが、プラネテューヌの監視カメラは電子ロックの解除と同時にウィルスを送って一時的にダウンしてもらっているので、その心配は無かった。

 

「さて・・・早いとこご退散しちゃいましょうか」

 

普通の人が見れば嫌でも意識せざるを得ない程の容姿ではあるのだが、アノネデス自身は己の姿を忌み嫌っているので少しの時間でもこちらの姿を晒す事はしたくない。

その為、安全圏で再びパワードスーツを纏った姿になるべく、アノネデスは素早く行動を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「さて、着きましたよ。ここがR-18アイランドで最も賑わっているスポット・・・その名もヒワイキキビーチですっ!」

 

「お・・・おおぉぉぉぉおおおっ!?」

 

リンダに紹介されたスポットであるヒワイキキビーチの風景を見た瞬間、ネプテューヌが驚いたのも無理は無いだろう。

ネプテューヌだけではなく、ほぼ全員が驚きを露わにしていた。

 

「な・・・何みんな・・・は、はだ・・・」

 

「ぜ、全員裸だぁ・・・!」

 

「なんて開放的なのでしょう・・・!」

 

ノワールが顔を赤くしながら口をパクパクとさせ、ネプギアとベールは少し興奮気味に己の感想を口にする。

一応、裸で行動している人たちの大切な部分は謎のヒカリソウと言うものが守ってくれているのだが、彼女たちはそこで気が付いた。

 

「ハクメン、貴方は大丈夫だと思うけど・・・。見過ぎて倒れるなんて勘弁して欲しいわ」

 

「ら、ラグナさん!あんまり見ちゃダメですよ!?」

 

「「・・・・・・?何の事だ?」」

 

『んな・・・!?』

 

ブランとネプギアがそれぞれに注意喚起をしたものの、こういったことへの欲が恐ろしい程なまでに薄い二人は何が言いたいのかがさっぱりわからずに首を傾げる。

その余りにもあんまりな反応を見せつけられた一行は、驚いて体を滑らせてしまう。もちろんそこにはリンダも混ざっていた。

 

「ど・・・どうしてこうも二人は無頓着なのぉ?」

 

「この二人・・・こういう事にはいつもあんな感じなんですか?」

 

「そう言えば・・・こう言った色沙汰に興味を向けただなんて話しは聞いた事がないわ・・・」

 

ネプテューヌの肩を落とした声を聞いたリンダが訊いてみると、代わりにブランが答えてくれる。

それを聞いたリンダは意外に思った。ハクメンは見た目通りだからまだ納得できるが、色んな人と会話している姿が散見されるラグナがそう言った事に無頓着だと言うのには特に驚かされた。

 

「流石にヒカリソウを使って・・・とかいうことを勧めたりはしませんけど、ここでラグナさんの気を惹くことが出来れば、チャンスはあるかもしれませんよ?」

 

『そうか・・・それだ!』

 

リンダの提案を名案だと感じた四女神が揃って口にする。

彼女たちが純粋にラグナにそう言った事に興味を向けられるならやる価値はあると意気込んでいる中、プルルートとネプギアは違うことを考えていた。

 

「チャンスできたみたいだしぃ~、頑張ろぉ~ねぇ~?」

 

「・・・!はい、頑張りましょう!」

 

プルルートの優しき呼びかけに嬉しくなったネプギアはガッツポーズを取る。

そして、彼女たちが何を意気込んでいるのかがさっぱり解らないラグナとハクメンの二人は、ただ首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

ネプテューヌたちがヒワイキキビーチで意気込んでいる時間帯とほぼ同刻、プラネタワーに居残りしているメンバーは屋上に水着姿で集まっていた。

彼女たちも彼女たちで、一時の休息ということで即席のプールを準備していたのである。

残念ながらナインだけは山積みの仕事を片付けなければならない都合上、リーンボックスに戻っているので、何か異常があったら誰かが代わりに向かうと言う事で話しは纏まっている。

 

「さぁ、準備できたわよ!」

 

「わーい、ぴぃ、いちばーんっ!」

 

ホースの口から出てくる冷水でプールの水を入れ終えたアイエフが告げるや、真っ先にピーシェがそこへ走って飛び込む。

 

「あっ、ちょっと・・・!」

 

アイエフが止めようとするも時は既に遅く、ピーシェはプールの中に飛び込み、その勢いで水柱を短時間作り上げる。

その勢いの良さも手伝って、アイエフは思わず顔を腕で覆った。

 

「もう・・・飛び込んだら危ないでしょうに・・・」

 

飛び込んですぐに何も無かったかのようにはしゃぐピーシェを見て、アイエフは苦笑交じりに言うのだった。

流石にああやって楽しそうに遊んでいる彼女の姿を見ると、咎める気力も起こらないのである。

 

「わーい!プールだーっ!」

 

「わーい♪」

 

ロムとラムもプールが待ち遠しいかったらしく、彼女たちも走ってプールに入る。

一応、二人は先程の光景を見ていたお陰で、落ち着いてプールに入った。

しかしながら、一度プールに入ってしまえば楽しさが勝り、二人もプールで楽しそうに遊びだすのだった。

 

「プールね・・・。向こうは海だって言うから、代わりになるものと言えばこれね・・・」

 

そう言うユニ自身も黒を基調とした水着姿の状態で、表情こそ苦笑交じりに近いものだったが、内心楽しそうに呟く。

僅かな時間思慮に浸っていたユニは、眼前に飛んできた水を見て思わず目をつぶって顔を覆う。

覆った腕と、顔の一部に冷たいものを感じたユニが目を開けると、そこにはこっちで遊ぼうと言うかのようにロムとラムが手を振っていた。

 

「・・・やったわねぇ!」

 

それによって自分は大人しくしていようかと考えていたユニはその考えを捨て、彼女たちと一緒に楽しむ事にした。

 

《ナオト。貴方はいいの?》

 

「俺はいいかな・・・。こうしてるだけでも休めるし」

 

そんな彼女たちの楽しそうにしている声を聞きながら、ナオトはパラソルによって出来た日陰に置かれてあるビーチチェアーに横たわりながらのんびりとしていた。

ナオトはこう言った安息できる時間が好きなので、ゆっくりと休んでおきたいのもあった。

ピーシェがきて以来暫くバタバタしていたのもあり、こうして何もしないでいい時間は久しぶりにできたのである。

 

「ノエル姉、ノエル姉!ニューたちも行こうよっ!」

 

「ふふっ。分かったから、ニューも慌てないの」

 

ニューも楽しみで仕方なかったらしく、ノエルの手をを引きながらプールへと向かって行く。

始めてのことだらけで度々そうなることは分かっていたので、ノエルも微笑みながらついていく。

ちなみにラムダはプールには入らず、少し離れた場所ですターターとみんなの様子を見ていた。セリカもその隣でみんなの様子を微笑ましく見守っていた。

 

「(海か・・・戻ったら誰かと行くかな・・・?)」

 

―その前に戻れれば良いんだけどな・・・。楽しそうにしている皆の姿を見ながら、ナオトは一人自分の故郷を思い返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

待機しているメンバーがプールで楽しんでいる最中、調査に向かっているメンバーもヒワイキキビーチで羽を伸ばしていた。

ネプテューヌとノワールはビーチバレーで一対一の対決をしていて、ノワールの放った強力なスパイクをネプテューヌがレシーブしようとしたが、あまりの威力を前に失敗してしまい、勢いに負けたネプテューヌが背中から倒れ込む。

ブランは砂浜で城を作っていたところ、プルルートが砂で作った巨大なデフォルメネプテューヌを見て啞然としていた。

ベールはネプギアに日焼け止めを塗って上げていたが、途中で大切な部分に触れだしたので、ネプギアからストップを掛けられてしまった。

 

「このまま行けば・・・大丈夫そうか?」

 

「何も問題無く事が終わればな・・・」

 

彼女たちが楽しそうにしている傍ら、ラグナとハクメンは日陰で休みながら話していた。

女神たちにとっては調査が終わった以上、もう今回やることは殆ど残っていないのだが、彼らはラグナの右腕・・・すなわち『蒼炎の書』である言う実態を隠し通すと言う最後の戦いがあった。

その為、可能な限り休んだり、片手で済むようなことしかしないようにどうにかやりくりしていた。

彼女たちがもう上がろうと言えば残りは歩くだけで済むので良いのだが、これで何かやろうと誘われた時が問題である。

 

「一先ず、何かに誘われたら断るように努めよ。今回ばかりは致し方あるまい・・・」

 

「ああ・・・今回はそうするしかねえな・・・」

 

今回ばかりはビーチバレーだのなんだのと誘われても断るしかないだろう。

ここにいるのがセリカであった場合は『蒼炎の書(ラグナの右腕)』を実際に見ているから良かったのだが、他の人はどうなるか分かったものでは無い。

異世界組はまだ大丈夫な人たちばかりだが、ゲイムギョウ界組はそうもいかないだろう。

 

「(取りあえず、このまま大人しく休んでいるか・・・)」

 

一応、自分の右腕は『蒼炎の書』によってどうにかなっていることは話しているが、その実態を見せたことは一度もない。

無理にそれを教えることも無いだろうと考えているラグナは、なるべく見せないように気を付けようと決める。

 

「皆さーん。冷たい飲み物をお持ちしましたよ~」

 

「おお!ごっつあんですっ!」

 

「あら、気が利くじゃない」

 

ラグナとハクメンが唸り、女神たちが遊んでいる最中、リンダは両手でトレイを持って人数分の飲み物を持ってきていた。

全員丁度喉が乾いていたようで、飲み物と聞いてそちらに集まる。

 

「・・・アレ?ハクメンさんは大丈夫なんですか?」

 

「私は飲食が出来ぬ身なのでな・・・」

 

全員が手にとって飲み始める中、ハクメンだけが一歩離れた場所で待機していたので訊いてみたが、それを聞いたリンダは少し気まずくなった。

すぐにハクメンが気にしなくていいと言ってくれたので良いのだが、これからは聞くときは相手の身をより考えようと思うのだった。

 

「ぷっは~っ!生き返るぅ・・・!」

 

「あっ、塩が入ってるなんて気が利くじゃない・・・」

 

「今日は結構暑いですからねぇ・・・塩分補給は大事ですよね」

 

一気飲みしたネプテューヌが少し大袈裟に言い、ノワールは飲んでからリンダの用意の良さを称賛する。

事実、今日のR-18アイランドは普段と比べて気温が高いので、熱中症対策として塩を入れたのは正解だった。

ちなみにリンダは飲食ができないと言ったハクメンが大丈夫か気になったが、その心配はいらなそうであった。

 

「・・・アレ?なんだろう・・・?」

 

飲み物を飲んだ直後、ネプギアは自身の体に何か異変が起きていることに気がつく。

何やら体が妙に熱くなったような感じと、言い知れぬものを感じて首元を抑えてうずくまる。

 

「ネプギア?どうしたの?」

 

「わ、わかんない・・・!けど、急に体が・・・」

 

「・・・?もしかしてですけど・・・」

 

ネプテューヌの問いに答えるネプギアの様子を見て、ベールは一つの可能性を考えた。

しかし、まだ確信に至れていないのは、この後何が起きるかが解らないからだ。

そして、ネプギアがうずくまるのが終わった瞬間、少々様子がおかしくなった。

 

「あ、あうぅ・・・何だか凄く恥ずかしい気分に・・・」

 

「・・・へっ?」

 

ネプギアがもじもじとしだしたので、ネプテューヌは思わず目を点にした。

その様子を見て、ベールは自分の考えが確信に至った事を悟った。

 

「この様子・・・R-18アイランドに伝わる禁断の薬である、羞恥心を増加させてしまう薬の効果ですわね・・・」

 

「な、なんでそんなに都合の良い薬なんて存在してるのかしら・・・?」

 

ベールの出した結論を聞いて、ブランは焦り半分にそう呟く。

また、その話を聞いたリンダはおかしいと思って自分の用意していた塩の入っているビンを確認してみる。

するとそこには、わずかながらにその薬が紛れこんでいたのだった。

 

「あっ・・・!すみません・・・どうやら自分の持ってきた塩のビン・・・その薬が僅かに紛れてたみたいです・・・」

 

「じゃあ、ネプギアは運悪くそれを引いちゃったってこと・・・?」

 

「自分の管理不足です・・・」

 

ネプテューヌが「それなんてロシアンルーレット?」と呟くのをみて、リンダはすぐに頭を下げるのだった。

今回ばかりは本当に素で気がつかなかったのである。これを見たプルルートに「人はみんな間違えるし、次気を付ければ良い」と言う旨を伝えられ、リンダはその慈悲に涙するのだった。

 

「お、おいネプギア・・・大丈夫か?」

 

「ち、ちょっと厳しそうなので『あの子』と交代してみます・・・」

 

「・・・『あの子』?」

 

ネプギアの発言によって全員が彼女に注目した。

そして、目を少しの間閉じてからゆっくりと目を開けてみれば、その雰囲気から『少女』に変わった事が分かった。

 

「ふぅ・・・。あっ、これでもまだちょっとダメかも・・・」

 

「サヤ、少し休むか?」

 

代わってみたのは良いものの、あまり効果が無かったのでラグナが問いかけるが、寧ろ逆効果であった。

その『少女』はラグナの事を強く意識しているのもあって、水着姿をラグナに見られていると言う事で羞恥心が上がってしまった。

 

「に、兄さまに見られてる・・・。あぅ・・・」

 

「・・・ラグナよ。暫くの間は控えるのが良いだろう」

 

「ああ・・・そうする」

 

『ネプギア』の様子を見てハクメンがラグナの肩に手を乗せながら言うので、ラグナも少しげんなりとしながら受け入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

それから少しの間、羽を伸ばしている間にようやくネプギアの飲んだ飲み物の中に入っていた薬の効果が切れたので、『少女』との交代を終えて休んでいた。

 

「大丈夫そうか?」

 

「はい。もう大丈夫です」

 

「そうか・・・それなら良かったよ」

 

あれから気がかりに思っていたラグナが訪ねてきたので、ネプギアが答えるとラグナは満足そうに頷く。

 

「ああ・・・隣いいか?」

 

「はい。どうぞ」

 

ネプギアに許しを貰えたので、ラグナは彼女の左隣にあるビーチチェアーに腰をかけさせて貰う。

ラグナの右腕がずっと気になっていたネプギアがラグナの様子を見た瞬間、彼女の求めていた回答が現れた。

ビーチチェアーに腰をかける時、ラグナはうっかり右手を出してしまっており、そこから人ならざる形と色をした右手が見えたのでネプギアは思わず顔を青くしてしまった。

 

「・・・?どうした?」

 

「ら、ラグナさん・・・その右手は一体・・・」

 

「右手・・・?・・・!」

 

そんなネプギアの視線が気になったラグナが問いかけたので、ネプギアが途切れ途切れに理由を答える。

己が右手を出してしまった事に気がついて、ラグナがやってしまったと言いたげな表情になった。

 

「参ったなぁ・・・どうしたモンか・・・」

 

ネプギアが大丈夫になり次第戻ろうと言う話で纏まっていたので、それを伝えるだけだと気を抜いていたのが完全に仇となった。

その為、これも全員に話すべきかどうかでラグナは頭をかきながら迷うのだった。

 

「あの・・・もし話しづらいのなら、私だけにでも大丈夫ですから・・・」

 

「ネプギア・・・」

 

間違いない。彼女は気遣ってくれたのだとラグナは察した。

しかしながら、ネプギア一人だけに抱え込ませるべきなのだろうか?ラグナは少しだけ考える。

 

「じゃあこうだ。後で一緒に話を聞いて欲しいやつと俺の部屋に来てくれ。詳しくはそこで話そう」

 

「分かりました。じゃあ、また後で伺いますね」

 

少し考えた結果、ラグナは妥協案を見つけてその旨を伝える。

もしかしたらダメかも知れないと考えていたが、そんなことは無くネプギアは承諾してくれた。

 

「悪いな・・・。ああ、そうだった。みんなもう戻るって言うし、そろそろ行くぞ」

 

「あ、もうそんな時間だったんですね・・・。すぐに行きます」

 

二人はビーチチェアーから腰を上げて皆の下へ戻るのだった。




薬の被害を受けたのがネプテューヌでは無くネプギアに変更。シャボン玉生成装置を見るのが先になっている等、今回は細部変更と言った形になっています。

アニメ8話分はギリギリ終わらなかったので、次回で終わります。


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48話 裏側の事情を知って

少し遅くなって申し訳ありません。
今回でアニメ8話分が終わります。


「ふぅ。ちょっと遅くなっちゃったなぁ・・・ただいまーっ!」

 

「あっ、ねぷてぬ帰って来たーっ!」

 

R-18アイランドでの調査を終えた夜、ネプテューヌはプリンの残りが減ってきていたので、一度プリンを纏め買いしてからプラネタワーに戻ってきた。

ネプテューヌが帰って来たことを告げると、真っ先にピーシェがこちらに向かってきた。

 

「おお、ぴーこ!遅くなってごめんね・・・待ったでしょ?」

 

「うん、待った!」

 

やはり普段最も構ってくれるネプテューヌがいなかったこともあって、ピーシェはどこか寂しさを感じていたのだろう。

聞いた話ではプールを用意したら普通に皆と聞いていたが、それでも終わった後は少し退屈だったと言うことになる。

ナオトも遊び相手を付き合ってみようと試みたが、余りのパワー差にすぐさまギブアップするというかなり情けない結果となってしまっていた。

 

「そっか・・・寂しくさせちゃってごめんね」

 

ネプテューヌが誤りながら頭を撫でてやると、ピーシェはニッとして白い歯を見せる。

その様子と今回の事を踏まえて、ネプテューヌは一つ伝えておこうと思った事を思い出した。

 

「あっ、ぴーこ。もしもだけど、ぴーこが今回の私みたいに寂しい思いをさせちゃった時は、ごめんなさいって言えるようにしようね?」

 

「うんっ!いえるようにするっ!」

 

ネプテューヌが自分を例にして話せば、ピーシェは素直に頷く。

 

「素直でよろしいっ!さて、外も寒くなって来たし、中に入ろっか?」

 

「うんっ!ぴぃ、お腹すいたっ!」

 

そうして二人は中に入っていき、この後プラネテューヌ居住組全員で食事を取るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「えっと・・・大体こんな感じかな?」

 

ラステイションの廃工場にて、レイは今までの動向を見た限りでピーシェの状況を纏め上げていた。

まず初めに、普段はプラネテューヌの預かりで、プラネタワーからあまり出てくることは無い。しかし、ネプテューヌと外出する時だけは例外的についていく事がある。

チャンスは非常に少ないものの、絶対にないと言う訳でもない。チャンスがあるだけ非常にマシな方だとレイは考えた。

また、これはネプテューヌの影響である為か、プリンが好きであるようだ。一応、食べ物は全般的に好きであるようだが、プリンは飛びぬけて好んでいるようだ。

であれば、ねらい目は食べ物で釣る。これが最も有効であると言える。そう結論付けたレイは一度体を椅子の背もたれに預けて体を楽にする。

 

「(これで上手く行けば良いんだけど・・・)」

 

「此処にいたか・・・」

 

「あっ、レリウスさん・・・」

 

レイが一度体を休めていると、部屋にレリウスが入ってきた。

今回、ピーシェをこちら側に連れてくるのに当たって、プラネテューヌ国内から外へ連れていくのはレイが担当。その後は合流してレリウスの転移魔法で素早く離脱を行うことになっている。

第一実行日も近づいていたので、この二人は最後の確認をする予定であった。

 

「連れてくる手立ては見つかったか?」

 

「あの子は食べ物が好きみたいなので、それを利用しようかと思います。準備する為に食費の一部を割いてしまいますが・・・」

 

レリウスの問いに肯定しながら、問題点も忘れずにレイは伝える。

それを聞いたレリウスは顎に手を当てて少し考え込む。

 

「まあ、あまり掛かり過ぎなければ良いだろう。連れてこれるのであれば必要経費だ」

 

「分かりました。それなら少しだけ使わせてもらいますね」

 

テルミとマジェコンヌ、そしてワレチューの三人は既にピーシェを連れて行く施設への移動を先にしてもらっているので、今ここにいるのは二人だけだ。

戻って来る可能性は十分に見込める為、保存食等一部の物はこちらに置いておくが、研究データなどは情報漏洩防止の為に全て新しい施設に移動させてある。

ただしそれでも、レイが加入して以来食費自体はレイに担当させているものの、それでもあまり余裕があるとは言えないことが理由で無理に割くことができないのが難点である。

今回は連れてくる為の必要経費だと考えれば、マジェコンヌたちには我慢してもらうしかないだろう。

承諾して貰えたので、レイは経費を使うことを視野に入れることが可能となった。

 

「そう言えば、当日あの子を連れて来た後の場所はどこになったんですか?」

 

「此処だ。プラネタワーから少し離れた森道・・・。此処で御前たちを回収する」

 

レイの質問には地図の情報を見せながら答える。

レリウスがこの場を選んだ理由は、人目が付きにくいとレイの足でもそこまで時間を掛けずに来れるの二点だった。

 

「なるほど・・・ここならそこまで時間は掛からないですね」

 

「ならば問題無いな・・・では、実行日私は時間の許す限りは此処にいる。後は頼むぞ」

 

「はい。やって見せます」

 

レイの返答を聞けたことにより、第一実行日に行動を起こす事は確定となった。

テルミによって連れて来られた形でこの同盟に参加したレイではあるが、今やもうすっかりと馴染んでいた。

彼女自身が女神を廃したいと思っていたことと、彼らが作り出していた空気が比較的馴染み易かったこともあって、当時の慌てやすい性格はいつの間にか何処かへ消えていた。

意気込みを聞けたレリウスは満足そうに頷いてから、身を翻して部屋を後にした。

 

「(そう言えば、私ってどうして女神が嫌いなのか解ってないんだよね・・・)」

 

―そっちも知っておかないとなぁ・・・。一人部屋に残ったレイは、自分の記憶の事も考え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「(とうとうこれを見せる日が来ちまったか・・・)」

 

夕食を取り終えたラグナは部屋で休みながら今日の思い返していた。

彼女たちが狙っていたと言う事はまず無いのは解るので、結局は自分のミスが問題だ。

調査するにあたって水着か裸でなければいけないと聞いた段階で可能な限りの対策はしたのだが、それでも限度はあったのだろう。

 

「(まあバレちまったのは仕方ねえし、話すことは話そう・・・)」

 

―悪いなハクメン。せっかくの協力が無駄になっちまったな・・・。ラグナは心の中で彼に詫びる。

しかしながら、話すことは多いことは変わりない。自身の『蒼炎の書(右腕)』に関することとして、教会での出来事は必須。そしてテルミの事も確実に話す事になるだろう。

後は何を話すべきか・・・?考えれば数が出てくる。しかしながら、全てを話そうとすると『蒼炎の書』とは関わりの無い部分も出てくるので、一部は省略がいるだろう。

そう考えていると、ドアをノックする音が聞こえた。

 

「いいぞ」

 

「はい。それじゃあ入りますね」

 

ラグナが許可を出せば一言を入れたネプギアがドアを開けて部屋に入り、それに一歩遅れるような形でプルルートも部屋に入った。

どうやら、ネプギアが一緒に話を聞こうと思えた相手はプルルートだったようだ。

ネプギアがプルルートを呼んだ理由としては、自分がラグナの右腕を気にしていた所で協力してくれた事が大きい。

 

「二人でいいのか?」

 

「はい。今回はプルルートさんが手伝ってくれたので・・・」

 

「あたしもぉ~・・・色々気になっててぇ~」

 

―そう言えば、プルルートは俺らが共有している情報の殆どを知らねぇんだったな。彼女が気になると言った事でラグナはそれを思い出した。

もしかしたら、また最初の頃のように話さなきゃいけないのかもしれない。ラグナは長い夜になるかもしれないことを覚悟した。

 

「取りあえず、『蒼炎の書(こいつ)』を見せるか・・・ちょっと待ってな」

 

「・・・ラグナ?」

 

立ち上がって上着を脱ぎだしたラグナを見てプルルートは困惑を示す。ネプギアも同様ではあったが、ある程度察しが付くのでプルルート程では無い。

最初こそ困惑していたものの、二人はラグナが上半身裸になった時には完全に絶句していた。

何故なら、ラグナの右腕は上腕の途中までが人ならざる別のモノになっていたからだ。

殆どの部分は黒いテーピングのようなもので頑丈に覆われているが、それでも隠しきれていない部分はまるで獣であるかのように刺々さを感じるような形になっていた。

 

「お前らが気になっていた右腕はこうなってる・・・。『蒼炎の書』はこんな形してるんだ・・・」

 

「「・・・・・・」」

 

二人の絶句したあまり何も言えない状況を見て、ラグナはあまり見せていいものではないと改めて感じる。

やはり『蒼炎の書(この腕)』は知る人ぞ知るに留めておくのが良いだろう。これを下手に知られれば大混乱間違い無しであることは想像に難くない。

 

「ラグナ・・・ゲイムギョウ界の人じゃない~って、言ってたけどぉ・・・今まで何があったのぉ~?」

 

「そうだな・・・まずは、俺が小さい頃どうしていたかから話すとするか。気になるところがあったらその度に聞いてくれ」

 

ラグナが言ったことに二人が頷いたことを確認し、ラグナは己の過去を話し始める。

ネプギア自身はラグナの大まかな過去の話を聞くのは二回目だが、当時は特に質問等をする余裕が無かったので、今回は訊いて見ようと思うのだった。

 

「俺の小さい頃なんだが・・・」

 

まず初めに、自分には弟と妹が一人ずついた。両親は物心着いた頃からいない。

最初の頃はどこだか解らない研究施設にいたが、ある日を境にシスターがいる教会に連れていかれ、以後は四人で小さいながらも幸福な時間を過ごしていた。

しかしながら、何も問題がないわけでは無かった。

 

「ほぇ?何がいけなかったのぉ~?」

 

「妹に構いすぎたせいで、弟をほったらかしにしすぎた・・・」

 

教会での暮らしでラグナの最大のミスはこれにあるだろう。

いくら妹のサヤよりもジンの方が上だとは言え、それでも小さい子供であって、シスターは育ての親であっても血の繋がった家族ではない為、どうしてもラグナに構って欲しいと思う面が出てくる。

しかし、ラグナは「サヤの方がジンより小さい」、「サヤは体が弱い」ということもあって、ジンの事をつい後回しにしてしまっていた。

それ故にジンは、「妹のサヤは兄のラグナを奪う存在」だという考えがどこかで根付いてしまったのだろう。ノエルにとてつもない敵意を見せたのも、それが起因するはずだ。

 

「お前の変身を良いって言ったのは確かに本音だが・・・。俺の中には、ジンのようにダメって言われ過ぎて後に影響を残して欲しく無いのもあったんだ・・・」

 

これはラグナの中にある紛れもない後悔だった。

確かにジンの方が一大事なので面倒を見たりしたこともあった。しかしそれでも、サヤに構ってあげた時間の方が圧倒的に多かったのだ。

それ故にラグナは、この世界に来た以上自分のように家族関係で後悔する人を増やしたくなかったのだ。

 

「そっかぁ~・・・。ごめんねぇ~・・・気を遣ってもらっちゃってぇ・・・」

 

「気にすることはねぇよ。どの道、変身しても良いって言おうとしてたことに変わりはねえんだし」

 

先程まではただ嬉しくて喜んでいたプルルートも、事情を知れば変わる。

ラグナ以外にも、ハクメンたちが己の後悔を繰り返さないように配慮してくれたのならと思うと、プルルートは申し訳ない気持ちになる。

しかし、ラグナたちが変身を肯定することに関してはどの道変わらない。

 

「それに・・・俺はこの経験が無くても、お前に変身して良いって言ってたと思う」

 

「・・・ホントにぃ~?」

 

「ああ。何しろ、甘えん坊な弟と妹(二人)がいたからな・・・。変身したいって頼みくらい何てことはねえ」

 

プルルートが不安げに聞けば、ラグナは何も迷う事無くそう言う。

それを聞いたプルルートは安心した笑みを見せる。何があろうとも、目の前の人(ラグナ)は優しい人のままなのだろう。そう思うことができた。

弟をほったらかしにしてしまったと言うが、大変な時は最優先で相手をしてあげたのだから、その時はきっとラグナの弟も安心できていただろう。つまるところ、大事なのは気持ちなのかも知れないとプルルートは考えた。

 

「って、ああ悪い・・・。変身を良いっつったのもそうだが、大事なのは『蒼炎の書(こっち)』だったな・・・。んで、その後暫くは教会で過ごしてたんだが・・・それもある日突然、崩されることになったんだ・・・」

 

ラグナの右腕がこうなった最大の原因は、『あの日』の惨劇である。

当日、ラグナはシスターの畑仕事をする約束をしていて、一度水を汲みに行ったのだが、突如として教会が焼けていた。

中にはジンとサヤがいたので、慌てて戻ったのは良いものの、そこには何故か『ユキアネサ』を持っていたジンとサヤ・・・そしてテルミがいた。

ラグナは未だにどうしてジンが『ユキアネサ』を持っていたかは解らないが、恐らくはテルミかレリウスの差し金だろう。だが、サヤを連れて行くとなれば、レリウスが計画したと考えれば自然だろうか?そうラグナは考えた。

 

「そんで、妹を助けようとしたシスターはテルミに殺されて、俺はあいつに右腕を切られた・・・。弟の方はこの時は正気を失ってたせいか、そのままテルミについていったんだ・・・」

 

「確か、『蒼炎の書(その腕)』はこの後手に入れたんですよね?」

 

「ああ・・・。それ以来、右腕は『蒼炎の書(コレ)』が肩代わりしてくれてる」

 

ネプギアの質問にラグナは肯定する。

『あの日』の悲劇によってジンは利用され、サヤを連れていかれ、シスターを殺され・・・そして右腕を切られた状態で生死を彷徨っていたラグナは、突然として目の前に現れたレイチェルの計らいによって『蒼の魔導書(ブレイブルー)』を手に入れることになる。

 

「ただ、『蒼の魔導書(それ)』は諸刃の剣とも呼べる存在でな・・・。俺たちの世界には『黒き獣』って言うバケモンがいるんだが、『蒼の魔導書』の正体は、その『黒き獣(バケモン)』の力を使う危険なものだ・・・。今はもう平気だが、誰彼構わず魂吸うわ、使い過ぎれば不完全とは言え『黒き獣』になっちまう・・・」

 

実際にゲイムギョウ界に来てからも暫くは危険な状態だった。

特にハクメンと対決する直前は、あと一歩でゲイムギョウ界に多大な迷惑と被害を与えてしまうところであった。

そして、その話を聞いたプルルートが体を振るえさせているのが見えた。

 

「どうして・・・ラグナにそんな『蒼の魔導書(危険なもの)』を渡したのぉ~?」

 

「多分・・・俺に必要だと思ったからだろうな・・・。実際、俺は師匠に修行を付けてもらって、制御のやり方も教えて貰った」

 

『蒼の魔導書』の力は強大だが、使い方を誤れば自身を喰い殺す極めて危険なもの・・・。だからこそ、それを扱えるように制御の仕方を身につけるのは当然のことだった。

当然、その強大な力を制御できるようにするのだから、生半可な事では済まないが、それでもラグナは諦めることをしなかった。

その理由は全て、連れていかれてしまった妹を助ける為であった。そして、暫くして師である獣兵衛と共に『窯』の中で精錬されていたものを知って愕然としたものだった。

その後暫くして、十分な実力を身につけたラグナは、妹を助ける為に『素体』たちを破壊しに向かうことになった。

 

「まあ、そん時『統制機構』の支部を何個か壊したのもあって、そいつらからは指名手配されちまったがな・・・」

 

それでもラグナには関係無かった。妹を助ける以上、ありとあらゆる手段を行使するつもりでいたので指名手配がどうこうで驚きはしないのだ。

また、『統制機構』の裏事情を知っているラグナは、彼らからすれば非常に厄介な存在であるが、ラグナ自身はそれを特に公表するつもりは無かった。

実際に指名手配を食らったのはカグツチの時ではあるが、それでも相当な額になっていたのは変わらなかった。

 

「裏事情を知ってんのはごく一部の人間だけで、知らない人は最高司令官でも知らなかった・・・。ただ『統制機構』憎しでそんなことをやる必要もないし、それを知った事で、関係ない奴らが危険な目に遭う必要はないしな・・・」

 

「「・・・・・・」」

 

ラグナの考えを知った二人は何も言えなくなる。

そして、関係ない人は例え敵であっても巻き込まないようにする。その分かる人にしか分らない優しさを知って少し悲しくなる。

 

「暫くしてそうして色んなとこ回ってから、俺どころか、世界が大きなターニングポイントに直面することになったんだ・・・」

 

「ターニングポイントぉ~?」

 

「ああ・・・俺たちの世界は、あることを条件に世界が必ず特定の場所まで巻き戻されてたんだ・・・。そして、その引き金は俺の死だ」

 

ラグナが語った衝撃の真実を前に、二人が絶句する。

裏側の事情を知っていたハクメンも、「ラグナとニューが融合し、『黒き獣』になる」ことが条件だと考えていたが、まさかラグナの死が理由だったとは思わなかったのだ。

あのナインも、ラグナが関わっているのは分かっていたが、まさかそちらが条件までは考えていなかった。

 

「じゃあ・・・どぉやってその巻き戻しを乗り越えたのぉ~?」

 

「俺一人じゃどうしようも無かった・・・。また『予定調和』が繰り返されそうになった時、それに干渉して変えたのがノエルだったんだ」

 

ノエルは『予定調和』が繰り返されそうになった時、『境界』に落ちそうになったラグナを引き留めて助け出したのである。

それによってその『予定調和』は崩され、あの世界に住む人たちはようやく次の場所へ進むことを許された。

とは言え、これで全てが解決したわけでも無かった。

 

「確かに『予定調和』は乗り越えたが・・・問題はまだ妹を助け出せてないのと、テルミが俺の前に現れたことだ・・・」

 

―他にも、ハクメンとはこの時敵対してたから普通に命狙われてたりしたし、とにかく一難去ってまた一難って感じだったな・・・。ラグナは思い返すだけでも頭が痛くなった。

と言うより、ラグナからすれば自身が妹を助ける度に出てから、こちらで少しするまでは極めて多忙な時間を送っていたと思う。

また、その多忙な時間の途中で『冥王・イザナミ』の依代とされてしまったサヤと対面することになった。

当然『イザナミ』は止めなくてはならないので、それまでは『素体』の破壊をして回っていたが、世界に等しく『死』を与えようとする『イザナミ』を止めることも追加された。

 

「ただ・・・ここで最大の間違いをしてるのは、妹を『殺す事で、苦しみから解放する形で』助けようとしてたことだな・・・」

 

「他に・・・方法は無かったんですか?」

 

「多分あったはずだ・・・だが、その時の俺はこの手段しか解らなかった・・・」

 

―後で妹に言われたよ・・・。助けて欲しいと待ち望んでいるのに、殺そうとして来ていたらそれは悲しくなるだろう。

最終的に助け出すことができたから良いものの、それまでの間どれだけの時間寂しく辛い思いをさせてきたか・・・そう考えると情けなくなる。

 

「助けて出した後は、最後にやることを済ませてから世界を去るだけだったんだが・・・どういう訳か、このゲイムギョウ界に来てた・・・」

 

―その後も元の世界のいざこざと対面することになるとは思わなかったけどな・・・。ラグナは自分でもそうなるとは微塵も思っていなかった。

ハクメンとの決着を付けたり、倒したはずのテルミが何故かゲイムギョウ界にいたりなど・・・。余りにも予想外すぎた。

 

「ほぇ?ハクメンさんとラグナ・・・仲悪かったのぉ~?」

 

「仲が悪いってよりは・・・因縁って言うのか?そんな感じだったな・・・ケリが付いたからもうそんなこと気にする必要は無いんだがな・・・。ニューも助け出せたし、これからはもう気にする必要もねえさ・・・」

 

プルルートが困惑するのも無理は無いだろう。何せプルルートがこちらに来る頃には、既にその因縁は終わっていたのだから。

ハクメンは『蒼炎の書』が『黒き獣』と深く関係してるのが理由で、ニューはラグナと融合して『黒き獣』となり、自身が嫌う世界を破壊する事が目的であった。

今は落ち着きつつあるが、かなり巨大なものを抱えていたのかとラグナは思った。それほど、自分はあの世界で大きな影響があったのである。

 

「そう言えば、ラグナさんは妹さんと一緒には来れなかったんですか?ようやくの思いで助け出したのに・・・」

 

「どうなんだろうな・・・。『これからはずっと一緒』って・・・言った手前これなんだが・・・」

 

もちろん、何も手がかりが無いわけではない。『少女』の正体がどうなのかで全ては変わるからだ。

ラグナ自身、ネプギアが『少女』と交代している時はサヤと呼んでいるので、その可能性がゼロでは無い。

 

「だから・・・『あいつ』が誰なのかで全てが決まる・・・。もし『あいつ』がサヤなら・・・その言葉はちゃんと形になるんだが・・・」

 

ラグナ自身、これは何とも言えない状態だった。言動等を考えても殆ど一致するのだが、ゲイムギョウ界に来た時は自分一人だったからだ。

それ故に、今は手掛かりとなるものが欲しかったのだ。以前に見た夢が事実なのかどうかを確かめることも手掛かりに繋がるだろうと考える事もできた。

 

「『あの子』って言ってたよねぇ・・・?それがラグナの言っている人なのぉ?」

 

「ああ・・・。それと、そいつの生まれ変わった姿がネプギアじゃないのかって話も出てる」

 

その話を聞いたプルルートは目が点になった。

実際のところ、まだ完全に言い切れる訳では無いのだが、非常に高い確率でそうだとは言われている。

 

「だから・・・俺たちは『あいつ』の正体を知る必要があるんだ・・・」

 

これはラグナのみならず、全員が気にしている事だった。

ゲイムギョウ界組を安心させる為にも、『少女』の正体を判明させるのはとても大切のことであった。

 

「・・・とまあ、やらなきゃいけない事はまだ残ってる・・・。取りあえずは、それを何とかしねえとな」

 

終わった後のことは、その時に考えれば良い。以前の世界から去る事が決まっていたラグナは、終わった後のことは余り考えないようにしていた。

本来は世界から消えるような形で去り、何もやれなくなるはずだったので、再びこうして生きていける事に直面して戸惑ったからだ。

これからは真っ当に生きるにしろ、自身のいた世界から続いている物は片付ける必要があるだろう。

ハクメンとの因縁、ニューの救援は終わったので残りはテルミとの決着とノエルたちを元の世界に返すこと。そして『少女』の居場所を突き止める事だが、難儀することは想像に難くなかった。

 

「今度こそぉ・・・ちゃんと終わると良いねぇ~?」

 

「ああ・・・。どうにか終わらせりゃ良いがな・・・」

 

テルミとの決着を付けるのは当然の事だが、少し不安な要素も残っていた。

まず初めに、以前は『刻殺しの刀(ヒヒイロカネ)』を使った方法でテルミを倒したのだが、今回はそれが無い。

更に言えば、前回は『蒼炎の書』を賭けて『蒼の境界線』で戦っていたのだが、ラグナが既に真なる『蒼』を手にしてしまっているので、それができるかも怪しい事になっていた。

しかし、それでも可能性があるならば諦めはしない。ラグナはそう言う方針を持った男である。

 

「・・・色々と頭が痛くなるようなことを話し込んだが、大丈夫か?」

 

「何とか大丈夫~・・・。でもぉ~、ちょっともう起きるのが辛いかもぉ・・・」

 

ラグナがこの短時間で知ったプルルートとネプギアの事を案じて問うが、プルルートがそろそろ限界に近づいていた。

確かに、時間を考えればもう日を回ってしまっているので、このままだと明日に響くのは確実であった。

 

「最後にだが、今回の事を無理に話す必要はねえ。もし話しちまったんなら、俺の『蒼炎の書(コレ)』を見ちまったって言ってくれ」

 

「分かりました」

 

「うん~。分かったぁ~・・・」

 

勿論、今回の事に関しては自分のミスによるものなのと、ゲイムギョウ界(こちら側)の人たちにあまり深く抱え込んで欲しく無いのがあった。

その為、ラグナがそう言えば、二人はすぐに受け入れてくれたので事はすぐに片付いた。

そして、もう時間が遅いので話しはここまでにして二人が部屋を後にするのを確認し、ラグナはベッドに体を預けた。

 

「(色々と厳しい問題が残ってるが・・・やるしかねえな)」

 

まだまだ問題になる事は残っている。厳しい面もあるが、それでも以前と違って全てを一人でどうにかしなければならないことではない。

その希望が大きな支えになったラグナは、明日に備えて今は眠って休む事にした。

また、今回の自身の抱えているモノを改めて話すことができたのか、ラグナの心持ちは知らぬ内に、少しだけ軽くなっていた。




少し短くなってしまったのと、強引な纏め方をしてしまった感じがあるので、その辺は申し訳ございません。

次回は恐らくこのままアニメ9話分の話に入ると思います。


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49話 過ちの選択、開かれる扉

今回からアニメ9話に入ります。


「それじゃあいーすん、ちょっと行ってくるね~」

 

「いってくるね~っ!」

 

「はい。お二人とも、気を付けてくださいね」

 

今日は珍しく、朝早くからネプテューヌはピーシェと一緒に出掛けに行く約束をしていたので、ラグナがクエストに行くよりも早く外に出ていった。

ピーシェに付き合うネプテューヌの姿勢を見て、「子供の面倒を見るのは解るが仕事は大丈夫なのか」と不安に思う人と、「変わらずに子供の面倒を見てあげる心の広さは凄い」と思う人で二分されている。

プラネテューヌ以外の国が前者、プラネテューヌは後者の意見が多いが、プラネテューヌ以外の国は精々半々な評価だった。

 

「・・・よっぽど楽しみにしていたんですね」

 

「みたいだな・・・」

 

そんな二人の様子を見ながら、ネプギアとラグナは朝食に使った食器の片付けを行っていた。

ネプテューヌもそうだが、最も楽しみにしていたのはピーシェである。彼女はその約束をしてからというものの、前日はずっとそわそわしていたからだ。

そんな様子を見ていたプラネテューヌ居住組は、その日を待ち遠しくするピーシェとそれに乗っかってあげるネプテューヌという、非常に微笑ましい光景を何度も見ることになった。

 

「あの・・・ラグナさん。クエストが終わった後なんですけど・・・。少しだけ、時間を貰えますか?」

 

「大丈夫だが・・・どうした?」

 

「少し気になる場所があるんで、一緒に来て欲しいんですが・・・大丈夫ですか?」

 

頼んでくるネプギアの表情が、真剣さと不安さが混ざっているものだったので、それがとても大切な話なのだろうとラグナは察することができた。

 

「分かった。終わったら連絡するよ」

 

ラグナは最近、ネプギアにそんな不安げな表情はして欲しく無いと、以前より強く思うようになっていた。

勿論、相談やそう言った事には元々自分でいいなら乗るつもりでいたラグナだが、これでネプギアの不安が払拭できるならより良いと思った。

 

「ありがとうございます。連絡待ってますね」

 

「(どうにか不安は取れたのか・・・?それなら良かったよ・・・)」

 

ネプギアが笑みを見せて礼を言ったので、ラグナは少し安心した。

それと同時に少しだけ心臓が高鳴るのを再び感じた。それを感じたラグナは「今度訊いてみよう」と考えるのであった。

 

「さて、片付けも終わったし、そろそろ行ってくるよ」

 

「はい。ラグナさんも気を付けて下さいね?」

 

「おう。そんじゃまたな」

 

食器の片付けも終わったので、ラグナもネプギアに見送られて外へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、私は行って来ますね」

 

「ああ。連絡は怪しまれるだろうから、見つけ次第此処まで連れてくると良い」

 

プラネタワーから少し離れた森道で、レリウスに見送られながらレイはプラネテューヌに向かった。

予定通り、レイは少し大きめなビニール袋の中に大量のお菓子があり、袋の口からは目に見えて解るように蓋に『ネプの』と書かれているプリンがあった。

ちなみにこのプリン、蓋にそうやって書いてあったものが偶然映像に映っていた事で実現が可能になったもので、ペンの種類はおろか、書き方まで完全に一致させると言う徹底ぶりだった。

それを実現させたのは、レリウスの指示を受けたイグニスによる、鉤爪のような手とは思えない器用さは機械故にできる超精密な作業だった。

暫く歩いていると、プラネテューヌの国内に入れたレイは、この時間帯はラグナがクエストを受けて国外へ出る時間と被っている事を頭に入れていたので、即座に人目の付かない場所へ移動する。

そして少しの間様子を伺っていると、バイクで国外へ走っていくラグナの姿が見えた。彼が何事もないように通り過ぎていくのが見えたレイは、ホッと胸を撫でおろすのだった。

 

「(危なかった・・・もう少し遅かったら、完全に出くわしてた・・・)」

 

第一の危機が去ったのを確認したレイは、そのままプラネテューヌの国内で最も人通りの多い場所へ向かって行ってみる。この時ビニール袋に入っているお菓子の品質を保つ為、アイテムパックにしまうのを忘れない。

何やら行列が出来ていたので確認してみると、その先にはアイスクリーム屋があった。恐らくは新規に開店した店なのだろう。

しかしながら、ここまで人の列ができてしまうと逆に見つけづらいかも知れないと思ったレイが場所を変えてみようと思ったところに、まさかの出来事が起こる。

 

「ねぷてぬ!アレ食べたいっ!」

 

「あぁ、今日新しくできたお店みたいだねぇ・・・。じゃあ並ばないといけないけど・・・ぴーこも一緒に並ぶ?」

 

「う~ん・・・」

 

何と、運よくその店を見つけて並ぶかどうか考えているネプテューヌたちの姿があった。

その為、レイは移動せずその場で一度足を止めた。

 

「(あわよくば、女神一人で並んでくれないかな・・・?)」

 

「なが~い・・・でも食べたい~・・・」

 

「今日ちょっと暑いもんねぇ・・・。それなら私が並ぶから、ぴーこはあそこで待ってる?」

 

「うん。そうするっ!」

 

元々体が丈夫だからそんなことはないと思うが、ピーシェが倒れてしまったら大変なのでネプテューヌが日陰の近くにある椅子を指して言えば、ピーシェは勢い良く頷いた。

つまりは、レイが望んでる展開が運良く展開されたのである。

 

「(・・・あっ、これって凄い偶然のチャンスだ・・・。取りあえず焦らずに様子を見よう)」

 

思い立ったが吉日か、レイはすぐにピーシェに接触することはせず、人目の付かない所に隠れてピーシェが待つのに飽きるまで待つ事にした。

物凄い行列をしているので、ネプテューヌが中間辺りにまでくれば嫌でも飽きるはずだ。レイはそう踏んで気を長く待つ事にした。

そして、予想通りピーシェはネプテューヌが行列中間に来て、殆どピーシェを視界に入れることが出来ない位置にいるようになると、案の定退屈そうにしていた。

 

「(あの女神も見ていない・・・チャンスは今しかない・・・!)」

 

覚悟を決めたレイはアイテムパックから先程のビニール袋を取り出し、そのままピーシェの傍まで歩いて行く。

こんなにもあっさりと行動を起こそうとしたレイは、自分でも驚く程に躊躇いが無くなっていたことを感じる余裕があったのは気のせいだと思いたかったが、そうでもないようだ。

ピーシェは子供であること、ネプテューヌが現在ピーシェを見る余裕がない事、この二点がレイの心境を楽にさせていた。

また、他にもこれに失敗してもバレさえしなければ次があること、もしバレてしまっても術式通信用の端末を使えばレリウスの救援がある等、フォローがもらえる事もそれに拍車をかけている。

 

「大丈夫?お腹空いてない?」

 

レイはまず初めに、ピーシェの様子を心配しているかのように話しかける。

普段なら目に付けられてしまうかもしれないが、今はネプテューヌがピーシェから僅かとは言え離れていること。前途のとおり行列があって気が付き難いこと。そしてピーシェが隅っこの日陰にいることの三点が、奇跡的に人目を逸らしていたのだ。

知らない人に話しかけられたので戸惑いはするものの、ピーシェは縦に頷いた。その様子を見たレイは「お昼の時間が近いからね」と愛想よく答える。時間が経過してレイの名前が表向きで全く話に上がらないこともあって、彼女はただ、偶然通りすがった人としか認識されていなかった。

 

「良かったら、一緒にこれを食べない?」

 

「・・・っ!」

 

レイが持つビニール袋の中身を見たピーシェが叫びそうになったので、レイは落ち着いて静かにするようにジェスチャーで伝える。

それは偶然間に合い、ピーシェは表情だけそのままに口から出そうになった言葉を飲み込んだ。その様子を見たレイは心底ホッとした。

 

「(これ・・・言っても通じるのかな?余りにも薄っぺらな内容だけど・・・)」

 

レイは一瞬悩んだが、上手く行けば御の字だと考えて言ってみる事にした。何しろ時間がないので、打てる手は打っておきたいからだ。

 

「プラネタワーから少し離れた所にいい場所があるんだけど・・・一緒に来る?」

 

「・・・!うん!一緒に行くっ!」

 

「(あっ、通じちゃった・・・)」

 

こんなに内容の少ない話が通じるのかと疑問に思っていたレイは、あっさりとピーシェが頷いた事に困惑する。

―いい場所と言えば何でもいいのだろうか?思わずレイはそんなことを考えてしまった。

しかしながら、思った以上に上手く行きすぎてしまったのはある意味助かった。そう前向きに考えてレイは微笑んだ。

 

「それじゃあ、こっちだからついてきて」

 

「わーいっ!」

 

レイが先導するように歩き出すと、ピーシェは喜んでついていった。否、正確にはついていってしまった(・・・・・・・・・・)のだ。

そして、ネプテューヌが丁度アイスを買い終える頃には二人の姿は無くなっていた。

 

「お待たせ~っ!いやぁ長かった・・・アレ?」

 

そして、二人分のアイスを持って戻ってきたネプテューヌは、真っ先に反応してくれるはずのピーシェの姿がない事に気が付いた。

レイの踏み出したタイミングの速さが勝負を決定付けた。それ故に、ネプテューヌは一切気づけないのであった。

 

「・・・ぴーこ?」

 

ネプテューヌは暫くの間ピーシェを探したが、既に彼女はプラネテューヌ国内から出た後であった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「(ふぅ・・・上手くいって良かった)」

 

プラネテューヌから離れて少しして、レイは何事もなく事を進められてホッとした。

後ではピーシェが相変わらず楽しそうについてきている。彼女が何の疑いも無くついてきていることで、もう後は歩くだけになっているのも、気を楽にさせていた。

そして、指定されていた場所に着いたので、レイはそこで足を止める。

 

「・・・どうしたの?」

 

「さっきいい場所って言ってたのはここなの・・・」

 

「ほう・・・思った以上に早く終わったか。見事な手際だ」

 

レイの回答に続いてレリウスが現れた事で、ピーシェは妙な怖気を感じた。本能的にこの人は危険だと感じていたのだ。

 

「・・・あ・・・」

 

「残念だが、逃がしはせんよ」

 

ピーシェは回れ右してすぐに逃げようとしたが、その努力虚しくイグニスに頭から掴まれ、レリウスがかけてきた睡眠魔法によって眠らされてしまった。

これにより、レリウスたちの目的である、ピーシェを連れて用意してある設備に向かうという目的はもう達成されたも同然となってしまった。

 

「さて、行こうか」

 

「はい」

 

短く言葉を交わした二人は、ピーシェを掴んで離さないイグニスを連れてすぐさま転移魔法でその場を離れた。

この極めて短時間で行われた犯行は、当日中に気づけた者は誰一人としていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「戻ったぞ」

 

「おおっ!?一発で成功とはやるじゃねぇか」

 

「思った以上にすんなりと行ってしまいました・・・」

 

新しく用意した施設に戻って来れば、テルミが驚いた様子で歓迎してくれた。実際、余りにも上手く行きすぎたのでレイは苦笑交じりに答える。

ちなみに現在レイたちが戻ってきた調整室は今、テルミしか残っていなかった。

 

「他の人たちはどうしたんですか?」

 

「外の警戒に回ってるぜ。こないだ女神たちが調査に来たから念の為にな・・・。そろそろ戻ってくるはずだ」

 

実はこの施設はシャボン玉発生装置に差し替えておいた施設であり、あの砲身の本来の目的は正しく大砲としてのものである。

ちなみに、リンダはこの事実を一切知らされておらず、ただR-18アイランドの役員として呼ばれただけである。

女神たちが中に入ってまで調べようとしなかった事が幸いして、今回はバレないで済んだのである。

それでもまた来るとは限らない為、マジェコンヌたちが外を回って念入りに確認していた。

 

「戻ったぞ・・・。ん?お前も戻ってきていたか・・・」

 

「おぉ・・・見事に一発っちゅね」

 

テルミが言ったタイミングに合わせるかのようにマジェコンヌたちが戻ってきて、彼女とワレチューはピーシェが連れてこられていることに関心を示す。

自分は簡単な事をしただけだと思っていたレイも、全員に褒められると悪い気はしなかった。

とは言え、後戻りがもうできないことを忘れてはいけないが、レイはそこまで気にしていなかった。

 

「(最初はどうなるかと思ってたけど・・・私、今のこの生活が結構好きなのかも知れない)」

 

レイはこの同盟での活動をいつの間にか楽しんでいる節が出ていた。

ビラ配りだけの日々では何も変わらないという無力感沸く日々と、今の同盟による一日の充実感が一層それを強くしていたのである。

その二つと今回の初めて自分が簡単に見えて最も重要な役割を果たしたと言う事が重なり、レイが反女神組(こちら側)の道を進むのを後押ししたのもそうだ。

 

「さて・・・睡眠魔法が効力を発揮している時間も限られていることなのでな・・・始めようか」

 

「ああ。そのことだが、追加報酬をもらえれば協力すると申し出てくれた奴がいるが・・・どうする?」

 

「私は構わんが・・・御前たちは問題ないか?」

 

マジェコンヌに問われたのでレリウスが肯定しながら確認を取ると、全員が首を縦に振った。

 

「そうか・・・ならば、そいつも協力させるとしよう。操作は私が説明するから、御前たちは休んでおくと良い」

 

イグニスに合図を出し、指示を受けたイグニスがピーシェを調整器にセットするのが確認できたので、レリウスとイグニスを残し、全員は一度部屋を後にした。

 

「(・・・さぁ、実験と研究の時間だ)」

 

人の手で『スサノオユニット(神の力)』を創造する・・・。この世界における、レリウスの最大の戦いの第一幕が開こうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ここで良かったのか?」

 

「はい・・・。私も、『あの子』に呼ばれていたので・・・」

 

レリウスたちが施設で合流してから少しした頃、クエストを素早く終わらせたラグナはネプギアと合流して洞窟に赴いた。

暫くの間全く来れなかったこともあってなのか、『少女』に来て欲しいと頼まれていたようだ。

ラグナとネプギアは始めて入った時から『敵』と認識されていない為、他の人たちより圧倒的に入る時に躊躇いが無い。

 

「確か、ラグナさんは前に一番奥まで入った事があるんですよね?」

 

「ああ。一番奥に扉があった」

 

ネプギアの問いにラグナは簡単に答える。

何故そこに扉があったのか?どうして『ムラクモユニット(彼女)』たちはここを護っているのか?それは解らないが、扉を開ければ答えは解る・・・。そうラグナは考えていた。

 

「さて、着いたぞ」

 

「ここが・・・一番奥の場所なんですね・・・」

 

目の前の扉を見たネプギアは何か懐かしいものを感じた。

―この扉の奥で、『あの子()』が待ってる・・・。ネプギアはそれを確信していた。

 

「えっと・・・どう開ければいいんですか?」

 

「扉に手を押し当てて、意識を集中させるんだ・・・。この時、俺と一緒にいるのが『蒼を手にする人』、もしくは『蒼を手にする資格を持つ人』なら扉が開くらしいんだ・・・」

 

しかしながら、条件は知っているものの扉を開ける方法を知らないネプギアは大人しくラグナに聞いた。

勿論教えなければ始まらないので、ラグナもやり方をしっかりと教える。

とは言え、そのやり方自体難しいものでは無いので、ネプギアもそこまで不安には感じなかった。

話しは済んだので、二人は左右の扉に手を当て、扉を開けることに意識を集中させる。

そして、今回は夢で見たように、扉の外側の枠と文字が全て蒼い光に包まれた後、ゆっくりと扉は開かれた。

 

「・・・!」

 

「あ・・・開いた・・・?」

 

扉が開いたときの状況が夢の時そのままであることにラグナは目を見開き、まさか自分が条件に当てはまるとは思わなかったネプギアが呆然とする。

 

「・・・どうする?」

 

「取りあえず入りましょう・・・。何があるかだけでも把握しませんと・・・」

 

ネプギアに言われ、それもそうかとラグナは腹を括った。

実際に扉の中へ入れば、そこには広い空間があった。ここも夢の中で見たものと全く同じだった。

 

「アレだな・・・」

 

「はい。あの中にいます・・・」

 

「(てことは、やっぱりあの夢は嘘じゃなかったってことか・・・)」

 

これもまた夢と同じく棺の存在を確認したラグナは、一度それを開けるのは後回しにして、先に奥へと進んだ。

それは、その時見ることが叶わなかったモノを確認する為である。

 

「あった・・・こいつだ・・・!」

 

ラグナが少しだけ奥に進んでみると、そこには何らかの紋章があって、一部が蒼い光を放っている巨大な門があった。

 

「こんなところにあったか・・・『蒼の門』・・・」

 

「これが・・・門ですか?」

 

ラグナが唯一見ることの出来なかったものが判明し、それはハクメンとの対決以来探し続けていた『蒼の門』だった。

しかしながら、前回は『窯』を通じて赴いたが、今回は全く持って趣旨が違っていた。恐らくは、扉を開けたらここに繋がっているのだろう。

 

「間違いねぇ・・・コレを使えば、あいつらを送り返せる」

 

ノエルたちの世界は自分で送り返してやれるから問題なし、ナオトもラケルが補助すれば帰ることができるので心配は無用。

プルルートの方も、向こう側のイストワールがサポートすると言う話になっていたので、こちらも大丈夫であった。

詰る所、これで元の世界に帰る為の手段は確保できたのである。

 

「さて、後はこれだが・・・『あいつ』はここの中であってんのか?」

 

「はい。間違いなくここに・・・。・・・緊急通信?」

 

棺の事を確認しておきたかったが、ネプギアのNギアに緊急通信が入ったので、一度それを確認する。

内容が分かった瞬間ネプギアが目を見開いた。

 

「・・・どうした?」

 

「ピーシェちゃんが、いなくなっちゃったみたいなんです・・・!」

 

「なんだって・・・!?」

 

その知らせにはラグナも驚いた。

流石にそんなことになってしまえば、この場所を調査している場合ではない。ラグナ達も急いでこの場を後にし、ピーシェの捜索に加わった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

ピーシェがいなくなってから三日後。ピーシェがいなくなってからと言うものの、ネプテューヌは朝早くから夜遅くまでピーシェの捜索を繰り返していた。

そして、この日の朝も例外無くピーシェの捜索に赴いていおり、普段はプルルートとネプギアに同行を頼んでいたのだが、今回はラグナにも参加を頼んでいた。

普段と違って飛べないラグナがいるので、彼はプルルートに運搬してもらう形で捜索に協力していた。

また、ナオトたちはプラネテューヌの国内に残り、聞き込みをしてピーシェの行方を探していた。

 

「何も変わっていない・・・?やっぱりぃ、三日じゃあまり変わらないのかしら?」

 

「いや、たった三日でも侮れねぇ・・・何か変わっていてもおかしくないはずだ・・・」

 

自分たちのいたゲイムギョウ界が比較的平和であったこともあり、プルルートはそう考えていたが、元の世界では追われている身であったラグナは逆の考えをしていた。

そして、今回はラグナの考えが正しかったことが証明されることになる。プラネタワーからある程度離れた山道に、複数の野犬が確認されたのだった。

 

「あら・・・?野犬がいるわねぇ?」

 

「あいつらは三日前にはいなかったが・・・人里に向かうことはねえし、迂回して探せば・・・」

 

「いいえ、万が一の事もあるから今すぐに倒すわっ!」

 

「ちょ、ちょっと待って!お姉ちゃんっ!」

 

しかしながら、人に被害を出すことは無い状況なので、無視して進めば良いと思ったラグナの考えをネプテューヌが一瞬で否定し、今までとは比べ物にならない速度で野犬に向かっていった。

余りにも余裕が無さすぎるその行動を見て、ネプギアも慌てて追いかける。

 

「アレ・・・大分荒れてるわねぇ・・・」

 

「ああ。大分参ってるみてぇだな・・・」

 

やはり自分が目を離している間にいなくなってしまっていることもあり、ネプテューヌの荒れ具合は誰の目にも明らかだった。

どうにかして落ち着かせる方法はないだろうか?そう考えていた時に術式通信が来たので、プルルートに一言入れてからラグナはそれに応じる。

 

「どうした?」

 

『ラグナ、今から全員をプラネテューヌに集めることはできる?』

 

「・・・何かあったのか?」

 

『ええ。ピーシェの件だけど・・・転移魔法が使われていた痕跡を見つけたわ・・・。大分薄かったから、恐らくは三日前に使ったもののはずよ』

 

「・・・本当か!?」

 

通信の主はナインによるもので、ピーシェの行方の洗い出しに有力なものを見つけたそうだ。

これなら一度ネプテューヌを止められるかも知れない。そう考えたラグナはもう少しだけ情報を聞いてみる事にした。

 

「・・・転移先とかはわかるか?ネプテューヌ引き留めてすぐに連れて行く!」

 

『もう少しで判明するわ。集合できる状態になる頃には特定できる』

 

「分かった。取りあえず、どうにかして落ち着かせるわ」

 

『ええ。お願いね』

 

すぐに場所がわかるなら問題ない。状況を把握できたラグナは短く返答して、互いに術式通信を終える。

 

「とは言ったものの、まずはどうやって落ち着かせるかだな・・・」

 

「そうねぇ・・・アタシが止めるからぁ、ラグナがネプちゃんに説得・・・でいいかしら?」

 

前の世界での後悔などをラグナが話せば、流石にネプテューヌも落ち着く・・・そうプルルートは踏んでいた。

ラグナは一瞬それで大丈夫かと思ったが、確かに自分が話せば効果は大きいだろうと受け入れた。

実際、前にもブランを焚きつけた事があり、その時も自分の後悔や戻せないモノを話したので、そうすれば流石のネプテューヌも止まるだろうか?そんな考えを持った。

 

「だが、アイツを話せる状況に持っていくのには俺も手伝うぞ。あの野犬状況にも、ちょっと覚えがあるからな・・・」

 

「ええ・・・分かったわ」

 

覚えがあるのは暗黒大戦時代で野犬に襲われた時の事だ。

セリカを護りながら右上半身が動かない状態で野犬と戦い、瀕死の野犬にトドメを刺そうとしたところを、その野犬に襲われたはずのセリカが助けた瞬間を見たことがある。

そして、セリカが治療し終えた後はそのまま仲間を気にしつつも去って行った。とは言え、治癒魔法の使えない自分の場合は少し違う止め方になるだろうなとラグナは考えた。

そう思い返しているうちにも、プルルートはあっさりと賛成してくれていた。

 

「さて・・・あのままだと大変だし、まずはネプちゃんを止めに行きましょう」

 

「ああ。済まねえが途中まで頼んだ」

 

「もちろんよ。じゃあ、しっかり掴まっててね?」

 

ラグナが自身の手を強く握ったのを感じたプルルートは、速度を上げてネプテューヌたちの方へ向かった。




少し短くなってしまった気もします・・・(汗)。

勇者ネプテューヌの発売日が決まりましたね。9月なので「結構先かな?」と思いましたが、最近積みゲーが溜まり始めているので、消化しきれずに勇者ネプテューヌが発売する未来が見え始めてしまっています(笑)。ちょっとヤバいです・・・。
そんなこと言っておきながら、この話が投稿される頃には、友人と徹夜カラオケに赴いているのですが・・・お前やること絞れよと(笑)。

次回はアニメ9話の続きになります。


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50話 その名はエディン

少し遅くなりました。
今回でアニメ9話分が終わります。


ネプテューヌが野犬の群れへ突撃していった事によって起きた戦いの場にラグナとプルルートが向かっている最中、ネプテューヌは物凄い勢いで野犬たちを倒していた。

彼女の焦りを誤魔化すように発している気迫に圧され、ネプギアは自分に向かって来る野犬をどうにか追い払うことに徹していた。

そして、ラグナとプルルートがその場にやって来た頃には、野犬は殆ど倒されてしまっていた。

 

「おいおい・・・これはやりすぎじゃねぇか?」

 

「この調子だとぉ・・・これから逃げ出す野犬にも手を出しちゃいそうねぇ・・・」

 

目の前の状況を見た二人は、ネプテューヌの様子を見て危惧した。

自分のせいだと自責の念が強すぎるあまり、彼女は周りを見る余裕を無くしてしまっていたのだ。

更に悪いことに、ラグナとプルルートの危惧が当たってしまうことになった。

 

「逃げ始めた・・・これならもう戦わないで・・・」

 

「いえ、被害の芽を摘み取る為にも逃がさないわっ!」

 

野犬が怯えて逃げ始める様子を見ても、ネプテューヌは追撃を選択する。

その判断にはネプギアすら絶句してしまった。普段ならそのまま見逃すはずのネプテューヌが容赦ない選択をしたからだ。

 

「待て待て。それ以上やる必要はねえだろ・・・」

 

「・・・!」

 

ネプテューヌが飛び込んで行くよりも早く、ラグナは彼女の左肩に手を置いて制止の言葉を掛ける。

ラグナに声をかけられたので、これで制止する・・・と言いたかったが、それでもネプテューヌは止まりそうになかった。

 

「離して!あのまま逃げた先に・・・」

 

「ピーシェちゃんがいたらぁ・・・って言いたいんでしょぉ?」

 

「っ!?」

 

ネプテューヌがラグナを振り払ってそのまま行こうとしたところに、彼女の言葉を遮りながら問いかけたプルルートが逃げ惑う野犬とネプテューヌの間に入る。

痛いところを突かれた上に、目の前には自分と同等の力を持った女神が立ち塞がるのだから、流石にネプテューヌも立ち止まらざるを得ない。

 

「流石にあんな状態じゃ、人を襲ったりなんてできる状態じゃないわよぉ?」

 

「た、確かにそうだけど・・・でも、あいつらがいつもの状態に戻ったら・・・!」

 

「いや、戻ってもそこは完全に人のいない場所だ・・・。それに、これ以上は撃退や退治じゃねえ・・・お前だって虐殺をしに来た訳じゃないだろ?」

 

ラグナに言われて野犬の様子を思い出したネプテューヌはそこで思いとどまる。

確かにあの野犬たちは完全に怯えていた。それをはっきりと思い出した事によって、ネプテューヌは冷や水を掛けられたように動きが止まった。

 

「ネプちゃん・・・。いくら自分が許せなくても、八つ当たりはダメよ?」

 

「そうね・・・。ごめんなさいぷるるん。私が間違ってたわ・・・」

 

プルルートに言われたネプテューヌが謝ったので、これなら止められたなと二人は判断することができた。

しかし、止めたにしろ訊いておかなければならないことはあるので、ラグナは問いかける事にした。

 

「ネプテューヌ・・・一応聞いておくが、ピーシェのこと、諦めた訳じゃねえんだろ?」

 

「・・・え?それはそうだけど・・・どうしてそんなことを?」

 

「ブランの時もそうなんだけどよ・・・。俺とは違って長い時間も経ってねぇし、お前には力もあって頼れる人だっているんだ・・・。だから、少しは手伝ってもらうように言っても良かったんじゃねえの?」

 

「・・・!」

 

実はこの三日間、ネプテューヌは国外の人に一度も協力を頼んでいなかった。自責の念が強すぎる余りそれすら忘れてしまっていたのである。

その為、ラグナたちはネプテューヌが一人先に飛び出していった後、代わりに協力を頼んでいたのだ。

その結果、女神三人は難しくとも、異世界組と候補生たちは時間を作って捜索に協力していた。これらも、『友好条約を結んだからもう敵では無く仲間』と言う精神を持っていたネプテューヌの功績によるものだった。

 

「『友好条約を結んだから敵じゃ無くて仲間』だって・・・お前から言い出したことだろ?何も反逆とかしてる訳じゃねえんだし、一人で抱え込む必要はねえんだ・・・」

 

「っ・・・。そっか・・・私から言い出したことだったわね・・・」

 

もしネプテューヌがラグナと同じ立場であるのなら、一人でピーシェの行方を探し続けると言うのは間違っていないし、それ以上を望めないから仕方ないことだ。

しかし、反逆者として追われながらサヤを助ける為の戦いをしたラグナとは違い、ネプテューヌは国民たちの象徴と呼べる女神であり、友好条約を結んだ以上他の国の女神と横の繋がりだって存在する。

それ故に、今回の一人で自棄になりながらピーシェを探すというネプテューヌの行為は非常に悪手だったのだ。

それに気づかされたネプテューヌは、手に持っていた刀を地面に落とし、膝を付いて崩れ落ちた。

更には変身を維持する余裕が無くなったのか、元の姿に戻った。

 

「でも、ずっと迷ってたんだ・・・私、他のみんなと違ってそんなに仕事やってないから・・・」

 

ネプテューヌは正直に吐露した。

確かに仲間だと言い出したのは自分ではあるが、他の女神たちがしっかり仕事をしている中、自分はピーシェの面倒を見ていたことが殆どであり、まともに仕事をしているとは言い難かった。

それ故にネプテューヌは他の女神たちには伝えるだけで、協力を頼みはしなかった。

 

「(性格とかは似ても付かねぇけど、そういう根本的な所は皆同じなんだな。全くよ・・・)」

 

ラグナはそんな彼女たちの似た部分を見つけて心の中で苦笑する。

困った身内は放っておけないが、いざ自分が大変な事に直面すると抱え込む。そんな彼女たちだからこそ、いざという時の団結力の付き方も早かったのだろう。

特にネプテューヌの場合、自分が前までおちゃらけてばかりだったせいもあり、なおの事抱え込んでしまっていたのだ。

 

「それでも、お前は他のやつが抱え込んでた時、真っ先に助けようとしてただろ?」

 

「そうだけど・・・でも、普段こんなにおちゃらけててる私だよ?みんなが女神の仕事やってるのに、一人だけ遊んでた私なんだよ・・・?そんな私が頼んだって・・・」

 

「いや、こう言った時は真っ先に手を差し伸べたお前だ・・・手伝わないはずがねぇ。それにな・・・」

 

ラグナは言い掛けながら連絡ように貰っていた端末の履歴を見せる。

その画面は、ここ三日間における各国の女神たちや、異世界組との連絡履歴がずらりと並んでいた。

 

「現にこうやって、皆手伝ってくれてるんだよ・・・お前が今まで助けてくれた礼だってのもあるけど、それ以上に『仲間』だから皆助けるんだ・・・だから、一人で抱え込むな。ブランなんて、前の時の自分と同じだからってすげぇ心配してたぞ?」

 

「・・・みんなぁ・・・」

 

ラグナが頼み込んだ時、今回最も協力的な姿勢を見せてくれたのがルウィーのメンバーだった。

ブランは特に、妹を連れていかれてしまった自分と重なったこともあり、ロムとラムが協力したいと言った時は即座に許しを出し、自分もネプテューヌの事を気にしながら捜索を手伝っていた。

また、その他のメンバーもネプテューヌの思想を取り込んだことも重なり、合間を縫って協力していた。

それを知ったネプテューヌは嗚咽した声を出しながら涙する。

 

「今まで何もしてなかったのに・・・っ!ずっとだらけてばっかりだったのに・・・っ!なのに・・・なのに・・・!」

 

「それだけお前に礼をしたいやつがいたんだよ・・・。俺だってその一人だ」

 

―あの時お前が気づいてくれなかったら、俺はこうしていることはできなかったからな。ラグナは面と向かってそういう。

ラグナは今でも覚えていた。自分が立っていることすらままならなかった時、他の誰よりも早く国民の不安に気づいて自分に手を差し伸べてくれていたことを・・・。

そして、そんな彼女が一人で潰れそうになっているからこそ、再び自分のような後悔を抱える人が現れそうだからこそ、ラグナは力を貸そうとするのだ。

ネプテューヌは全員の協力的な姿勢を知り、涙の勢いが増した。

 

「ごめんね・・・?普段は笑って協力しようとするのに、自分が協力してもらえたら笑えないや・・・」

 

「泣くなら今のうちに泣いておけ。その代わり、ピーシェを迎える時はちゃんと笑って迎えてやれよ?」

 

「・・・うん・・・そうする・・・!」

 

―ピーシェを迎える為に。これをせめてものの甘えとして、ネプテューヌは思いっきり声を上げながら泣きじゃくる。

そして、ネプテューヌが泣き止んだ後、事情を説明してプラネテューヌへと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「さて・・・後もう少しで終わるけど、その研究ってどんな感じなのかしら?」

 

「纏めた後にどれ程のデータが揃うかにもよるが、今までとは比べ物にならない成果が挙げられるだろう」

 

ピーシェの調整を行いながら、アノネデスとレリウスが簡潔に話し合う。

マジェコンヌが追加報酬で働くと言っていたのはアノネデスのことであり、彼はエディンの女神を紹介するまでこちら側の人間となった。

一応、自分たちの居場所の口外などをしなければ、後は好きにしていいと言う好待遇を敷いている為、アノネデスもノリノリで参加したのだ。

 

「しかし、まだ残されている課題は多い・・・今回の研究で、其処の洗い出しを済ませたい所だな」

 

「なるほどねぇ・・・」

 

―巻き添えになるのだけは勘弁ね。アノネデスは心の中でそう思った。

実際レリウスが完成を目指しているものの力は相当なものであり、最悪は単独で女神に打ち勝つ可能性すら持ちうるものである。

それ故に超えるべき課題は多く残されており、未だに完成へこぎつけることはできないでいた。

 

「研究の成果が気になるのか?」

 

「興味が無いって言えば嘘になるわね・・・。でもまぁ、実際に動くところとかを見れるならそれで十分かしらね?」

 

「そうか・・・ならば、今回の計画が失敗した時に期待すると良い。動くとしたらその時だ」

 

「あらやだ。後ろ向きな考えねぇ・・・」

 

レリウスの発言を聞いて、アノネデスは少しだけ驚いてしまう。

これから大きな戦いを仕掛けると言うのに、負けを前提で話すのは些か戦意が低いのでは無いだろうか?そう思ったのである。

 

「まあ、そう言うことだ。時間が惜しい・・・完成を急ぐとしよう」

 

「そうね・・・間に合わなかったら元も子もないからね・・・」

 

一度会話を切り上げて、二人は最後の仕上げを始める。

ここ数週間レリウスが女神に関する資料を集めて読み解いた結果が、功を奏しようとしていた。

 

「・・・ごめんなさい」

 

そして、レリウスたちが仕上げを行っている中、意識を失わされて記憶操作を受けているピーシェは、謝らなければならないと感じて無意識にそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

プラネテューヌに戻ってピーシェのことで話し合いをした翌日。ラグナたちは前に調査へ赴いた時と同じメンバーにナインを加えた九人でR-18アイランドに乗り込んでいた。

女神たちは今回、最初から全員が変身した状態でいる。ピーシェを連れ去った相手がここにいるのが分かっているからだ。

 

「なるほど・・・なら、そいつはただそうだとしか伝えられてなさそうね・・・」

 

「其れで間違いなかろう。騙しているのなら、余りにも浅はかな行動が目立ちすぎるからな・・・」

 

すぐに大砲と思わしき位置まで案内したり、その写真を見ても大した動揺を見せなかったり等・・・リンダの行動に疑いを持つ必要は無かったのだ。

その為、再度精密に確認した時に大砲だと解った時は流石に焦ったものだった。恐らくは、自分たちやリンダがここに居ない間にカモフラージュを解いたのだろう。

 

「さて・・・ここだな」

 

暫く歩くと、一行は再び大砲の前にたどり着いた。

以前と違ってシャボン玉が一切出ていないのは、その機能を捨てたからである。

恐らく何らかの地下施設があるだろう。ならばそこに乗り込むべきだと考えた全員がいざ乗り込もうとした時、その施設の中から人が現れた。

 

「あら?初めましてですね。今回は新国家エディンに、どんなご用件でいらしたんですか?」

 

「っ!?あなた、キセイジョウ・レイ!?どうしてこんなところに・・・?」

 

現れた女性を見てノワールが驚きを示す。

メガネを掛けている薄い水色の髪をした女性・・・キセイジョウ・レイは以前、女神反対運動を行って以来、今まで消息を掴めないでいたのだ。

その為、一時期出していた指名手配書も撤廃されており、彼女はもう何処かへ消えたものだと思われていたが、何とこのR-18アイランドにいたのである。

 

「・・・?アンタ、以前に何かしていたのか?」

 

「ラグナがそうだってことは・・・私たちは会ったこと無い人よね?」

 

「私も初対面だ」

 

ノワールがなぜ驚いたかを知らなかったラグナが首を傾げながら問いかけたことでナインが察しを付け、ハクメンもそれに同意する。

実は異世界組のメンバーで、レイと会った者は誰一人としていなかった。ゲイムギョウ界組から話題が上がらなかったこともあり、彼らはその名前を聞くことが無かったのである。

 

「あなた方とは初対面でしたね。エディンで執政官をさせて頂いている、キセイジョウ・レイと申します」

 

「あ、ああ・・・」

 

「以前は・・・こんなに芯の強い人じゃなかったはずだけど・・・」

 

彼女から挨拶をされたラグナは、思ったよりも気がしっかりしている人だと思った。また、以前の様子を知っているネプギアからはその様子にかなり戸惑う事になった。

ちなみに、こうなるまでにテルミらの関与があったと知った時、彼らはどう思うだろう?レイは少し気になっていたが、それで彼らの調子が狂ったり、今回のサプライズに失敗するのは良くないので抑えることにする。

 

「ところで、国を作ったのはいいけれど・・・女神はどうしたの?肝心な女神がいなければ、国は成立しないわ」

 

ネプテューヌは最も大切な事をレイに聞いた。

ゲイムギョウの場合、いくら国民や土地があったとしても、女神がいないのであれば国として成立させることができないのだ。

ゲイムギョウ界で過ごすことを前提に行動していたラグナたちは、資料でそのことを知っていたのでそこまで混乱することは無かった。

また、女神たちはそうだそうだと言わんばかりに頷き、レイを厳しい目で見据えるが、彼女は然程動じていなかった。

 

「ああ・・・。そのことですね。実は・・・」

 

「うわぁ~っ!?」

 

『・・・・・・?』

 

レイが説明している最中に、少女が驚いている声と風を切る音が聞こえたので、全員が困惑する。

そして、レイの背後から、黄色い髪をして白いレオタードを身につけている少女がこちらに突っ込んでくるような勢いでこっちに来ていた。

 

「・・・ちょっと!?」

 

そして、このままでは自分と激突することを悟ったが、同時に今から避けようにも間に合わない事に気がついてしまったノワールはその少女に制止を求めようとするも、少女ももう止まるには遅かった。

その為、勢い良く二人は激突して、激しい土煙を上げる事となった。

また、余りにも激突の勢いが凄かったので、ハクメン以外は思わず顔を腕で覆うことになった。

 

「いたたた・・・失敗しちゃったぁ・・・」

 

「な、なあ・・・もしかしてだが、こいつが・・・?」

 

「あはは。予定とは違う形になってしまいましたね・・・。あなたの予想通りです。彼女が、エディンの女神、イエローハート様です」

 

「イエローハートだよ!よろしくっ!」

 

ラグナはレオタードを身につけていることから大方察し、それに気づいたレイが肯定した。

そして、イエローハートは挨拶しながら笑顔でピースサインを作るが、異世界組の三人は共通の違和感を感じた。

 

「って・・・。挨拶するのはいいけど、取りあえず降りなさい」

 

「・・・あれ?お尻から人が生えた!?」

 

「あなたが私に乗っかったのよ!」

 

ノワールが促した事によってようやく彼女の存在に気が付いたイエローハートが素の反応を見せたので、ノワールは少しやりづらい空気を感じた。

しかしながら、素直に降りてくれたのでそこはそこでこれ以上気にしない事にした。あまり気にしていると精神衛生上よろしくないからだ。

 

「なあ、こいつなんだけどさ・・・」

 

「ええ。性格の変化とかそう言う問題じゃない・・・。根本的な意味で『幼い(・・)』わね・・・」

 

「何者かに強制させらた・・・そうとしか思えん程だな」

 

ナインの言う幼いとは、ネプテューヌやブランのように『体格的な意味』での幼さでは無く、『精神が未熟』と言う意味での幼いだった。

当のイエローハートは何を言っているかが分からないと言いたげに首を傾げるものの、それの理由がわからない以上は答えようが無かった。

 

「・・・女神がいるなら、国としては成立するわね」

 

「元犯罪者とは言え、これじゃあ無理矢理退去させるって手段は通じないわね・・・」

 

ネプテューヌは女神がいるならこれ以上は問い詰められないと判断し、ノワールは少しだけ苦い顔になる。

実際のところ、レイとレリウスがピーシェを連れて行ったのを知っているものの、ここはエディン国内でレイはエディンの一員。

そうなると国内の法が優先されるので、強引に連れて行くことは不可能となってしまった。

 

「・・・まあ、まだ焦るじかんじゃねぇし、中に入ってからでもいいんじゃねぇのか?」

 

「そうですわね・・・余りにも危険だと解った時は止めさせて頂くことにしましょう」

 

流石に問答無用で行ける空気では無くなっていたので、ブランとベールも一度落ち着いた選択肢を選んだ。

それでも、攻撃を仕掛けられたりしてしまえば、迎撃の為に刃を交える準備だけはいつでもしておいた。

 

「ああ・・・。こっちに来てたか・・・やれやれ、すげえ暴走っぷりじゃねえか」

 

「アハハ・・・失敗しちゃったよぉ・・・。でも、体は全然平気!」

 

「そりゃそうだ。元々頑丈だったからな・・・」

 

少しの硬直が終わったら後、レイが来た方と同じ方角からテルミがやって来た。

その呆れぶりからイエローハートを探していたらしく、その元気さを見て少しニヤリとしていた。

レイは何も驚かないが、ネプテューヌたちはそう言うわけにもいかない。

 

「・・・テルミ!?どうしてアンタがここにいるの!?」

 

「んぁ?実はあの後こいつも俺らの同盟に入ってな・・・国を作るって言ったの、こいつの提案なんだぜ?」

 

テルミはナインの問いに答えながらレイを指さす。

当のレイは柔らかく笑っているだけで、嫌々入っていると言うような空気は感じさせなかった。

 

「ねぇラグナ、テルミってこないだ言ってた人よね?」

 

「ああ・・・。ところで、女神倒そうとしてんのに女神と国を準備するって・・・何か矛盾してねえか?」

 

プルルートの問いに答えながら、ラグナはテルミにそう問いかけた。

彼らの目的は自分と女神の排除である為、自分たちで女神を増やしてしまったら本末転倒ではないか?そう思ったのだ。

 

「いやいや・・・レリウスの目的をよく考えてみろよ?あいつがこのゲイムギョウ界で欲しいデータっつったら何かをさ・・・」

 

「・・・!そう謂う事か・・・。其れならば貴様たちの選択も道理だな・・・」

 

「女神のデータ・・・確かにレリウスなら、喉から手が出る程に欲しがるでしょうね・・・」

 

テルミに投げかけられたことで気づいた。

レリウスが己の研究に女神のデータを欲するなど、言うまでもない上に、間近で女神に観察できるならば、その方が圧倒的に良いだろう。

しかし、ハクメンたちはまさかレリウスらが無理矢理女神に仕立て上げ、確実なデータ採取を行っているとまでは予想を立てられなかった。

 

「あらあら?何か騒がしいと思ったら、女神ちゃんたちが来ていたのね?」

 

「・・・!?な、何であなたがここにいるの!?プラネテューヌで投獄されていたはずでしょ!?」

 

更に背後からアノネデスが現れたので、ノワールが驚きながら問いただす。

その事にはノワールのみならず、ネプテューヌとラグナも驚いていた。彼らは数度顔を合わせに行っていたので、その驚きはより大きいものになる。

 

「ああ、あの牢屋ね・・・。セキュリティコード解ったから、ハッキングして解いちゃったわよ?プラネテューヌはそこが甘いから、抜け出すのも簡単だったし」

 

「ラステイションの金融機関のセキュリティを突破できるのだから、プラネテューヌのセキュリティでは限界があったわね・・・」

 

アノネデスに説明されて一瞬で理解できてしまったネプテューヌは、自国のセキュリティの悪さに何処か寂しいものを感じた。

しかし、彼女たちが真に驚く瞬間は、アノネデスを見たイエローハートが変身を解いた姿にあった。

 

『・・・・・・!?』

 

「ぱぱーっ!」

 

何と、イエローハートの正体はピーシェであった。

その事態を知った一行、特にネプテューヌは大きく動揺することになった。

更に彼女の動揺を加速させる要因として、アノネデスを父と呼びながら彼の元へ駆け寄り、思いっきり抱きついたのだ。

 

「このお方が、我らエディンの女神であるピーシェ様よ」

 

「そんな・・・ぴーこが女神・・・?」

 

「いや、そんなことは無かったはずだ。だがそれ以上に問題なのは・・・」

 

ネプテューヌは一瞬その可能性を疑ってしまったが、それはないとブランは否定する。

しかし、それ以上に重大な事態にも直面することとなった。

 

「ネプテューヌを見ても、殆ど何も反応を見せませんでしたわね・・・」

 

ベールの言う通り、ピーシェがネプテューヌを見ても無反応なのであった。あれほどネプテューヌと仲の良かったピーシェがである。

ネプテューヌの身の回りを知る人たちからすれば、これは明らかに異常なことであり、明らかに何かされた跡が感じ取れるものだった。

 

「魔法の痕跡は無い・・・別の手段で何かされたわね・・・」

 

ナインから魔法での影響は否定されたので、そちらは除外して考えることとなり、おのずと考えられるものは絞られていった。

 

「・・・てぇことは、まさかだが・・・」

 

「御前の予想通りだよ・・・。その子供を御前たちを打倒する女神に仕立て上げる以上、親しい頃の記憶は障害になるので撤廃させて貰った」

 

ラグナが察しを付けた瞬間、レリウスがやってきながら答える。

その余りにも躊躇いなく非人道的行為を行ったと答えられる精神に、女神たちは一瞬背筋が凍りつく。そこまでレリウスと言う男は狂っていたのだ。

彼と同じ世界からきている人たちはもう周知の事実だからそこまで動じることはないが、それでも何も感じないという訳でも無かった。

 

「ったく・・・よくもまあそんな躊躇いなく言えるもんだなテメェは・・・!」

 

流石にラグナは嫌気を感じた。今までの素体のことなども考えれば、ラグナがそう感じるのも無理は無いだろう。

 

「あなたたち・・・もうこの段階で人道を踏み外した事を明かしたわね」

 

「ええ。これならこちらが強制捜索する理由にもなるわ」

 

ネプテューヌとノワールは付け入る隙ができたので、少々安心するが、それを遮る声が出てきた。

 

「だが、問答無用で即座に強制捜索を行うなら、我々も自衛させてもらうぞ?」

 

「マジェコンヌ・・・?あなた、女神を排除したいってあれ程行っていたのに、どうして・・・!?」

 

「同盟者への協力・・・この一言で事足りるだろう?」

 

ネプテューヌの問いへ示したマジェコンヌの回答を聞けば、納得せざるを得ないものだった。

最も、エディンのメンバーはピーシェが敗北すればその時はまた然りと考えているので、開戦をしても別段と問題無かった。

 

「さて・・・お互いの主張的にも戦いの場を用意した方が良さそうな気もするが・・・どうする?」

 

「そうですね・・・なら、ここは互いの主張の内どちらが正しいか、戦いによって決めましょう・・・」

 

マジェコンヌに提案されたレイはあっさりとそれに頷く。

彼女たちからすれば、女神やラグナを打倒するチャンスが生まれ、更には女神同士の戦闘データを得ることも可能なので、戦いになっても願ったりなのである。

 

「この場を持ちまして、我々エディンは・・・四ヶ国に宣戦布告をさせていただきますっ!」

 

『な・・・!?』

 

しかし、ネプテューヌたちからすれば余りにも時期早々すぎるので、その宣言には絶句することになった。

友好条約を結んで以来、女神同士で争うことは一度も無かったのだが、その平穏と言う名の拮抗が再び崩されようとしていた。

 

「ちょ、ちょっと・・・!そっちはまだ新しくできたばかりの国なのよ?いくら何でも自殺行為としか言いようがないわ!」

 

「だが、私たちの目的としては、それくらいの苦難が無ければ釣り合わんのでな・・・」

 

流石にその無謀すぎる選択にノワールが危惧するように言ったものの、マジェコンヌの言葉の通りにテルミやレリウスは笑っていて、レイも柔らかな笑みを崩していなかった。

仕掛けた本人たちが引き返さないのなら仕方ないと判断を下すのだが、その前に一つ大きな問題があった。

 

「(これって・・・ピーシェちゃんと私たちで戦争をする・・・ってことだよね?)」

 

「(私がぴーこと戦う・・・?そんなこと・・・)」

 

―できるはずがない。ネプテューヌはこの後起こる事を受け入れ切れていなかった。




無事にアニメ9話分を終わらせることができました。
宣戦布告の流れが少し強引な気がするのは恐らく私の技量不足ですね・・・(泣)。
もう少しでこの章も終わりが近づいて来ているので、頑張りたいと思います。

次回からアニメ10話分に入ります。


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51話 戦いの幕開け

今回からアニメ10話分が始まります


エディンの宣戦布告を受けた翌日。開戦まで一週間の猶予を与えられたが故に、ラグナはナインの元を訪れていた。

その理由は『イデア機関』の強引な再修復にあり、ズーネ地区での戦いの時と同じく、魔法を使って直して貰っていたのだ。

 

「そういや、お前らの方は配置決まったのか?」

 

「セリカは治療の応援として、一時的にプラネテューヌへ向かう事は決まってる・・・。けど、他はまだ何とも言えないわね・・・リーンボックスは人手が足りないから、最悪全員が国の守りに当たるかも知れないわ」

 

ナインの言うことは最もで、リーンボックスは女神候補生が存在しないことと、滞在している異世界組で戦闘能力を持つのがナイン一人だけと、戦力が欠け気味であった。

ルウィーの異世界組はハクメン一人とは言え、候補生は二人。ラステイションにはノエルとラムダ・・・。そして、最も戦力の充実しているプラネテューヌは候補生含んで女神が三人にラグナとナオトの五人もいるので、二人しかいないリーンボックスは大分戦力に差が出てしまっているのだ。

 

「ところで、ネプテューヌの方は大丈夫だった?宣戦布告を受けてから浮かない顔をしていたけど・・・」

 

「まだ大丈夫じゃ無さそうだ。もしかしたら、考える前提条件を間違えてんのかもな・・・」

 

ナインの問いに対してラグナは予想を立てた。

ネプテューヌは記憶操作を受けたピーシェと戦う事を前提で考えていれば、当然ピーシェと仲の良かった彼女は行き詰るはずだ。

しかし、ラグナがニューにしてやったように、助ける事を前提として戦えばどうだろうか?そうなればネプテューヌも少しは前向きに考えられるだろうと思ったのである。

 

「なるほど・・・確かに、アンタの考え方で行けば戦い以外の道は見出せるわね・・・」

 

ナインもラグナの考えに一理あると同意を示す。

力とは必ずしも『誰かを殺す』為にあるものではない。使い方次第では『大切な人を護る』ものにも、『救いたい人を助け出す』ものにもなり得るのだ。

これは大切なものを護る為に力を使うと決めたラグナや、多くの人を『黒き獣』の脅威から救うと言う方針の元、事象兵器(アークエネミー)と言う強大な力を生み出したナインはそれの体現者とも言えるだろう。

 

「なら、そっちのことは任せて良さそうね?」

 

「ああ・・・あいつのことはこっちで何とかするさ」

 

現状、ネプテューヌを立ち直らせる為に最善策となるのはラグナであり、その後押しを含めるなら彼とプルルートの二人であるため、大人しく任せるのが一番だった。

もしかすればニューにも説得を頼むことになるかも知れないが、その時もラグナと一緒にいるのが望ましい。

そこまで状況を纏めたナインは、自分は無理にどうこうせずラグナに任せると言う判断を下すのだった。

 

「ところで、今回『イデア機関(コレ)』の修復を頼んだのは、ピーシェを助ける為かしら?」

 

「いや、アイツを助けるのはネプテューヌの役目だからそれは違うな」

 

「なら、どうして?」

 

ラグナの事だからこうだろうと思っていたが、それは違った。

しかし、それでは何の為に修復を頼んだかが解らないのでナインは問いかけた。

 

「テルミがまたあの時みたいな事をしてきたら対策が必須だってのと、今回はピーシェを助ける戦いだから、今後テルミたちの事を考えるとどうしても必要だと思ったんだ・・・」

 

「なるほど。それは確かに問題ね・・・」

 

ピーシェを助け出したとしても、テルミらとの戦いがある以上備えはしっかりしておかないといけない。それがラグナの判断だった。

もちろんナインもそれに同意して、『イデア機関』の修復を急ぐのだった。

そして、程なくしてズーネ地区での出来事があった時と同じように『ガチャン』と修復が完了した事を告げる音が左手から聞こえた。

 

「・・・待たせたわね。これで修復は完了よ」

 

「助かる。ちなみに、今回は何回まで使えるんだ?」

 

「今回は使えて二回が限界・・・流石に何度も修復できるって訳じゃないみたいね」

 

ナインはデータを確認しながら、以前より修復の結果が悪いことを伝える。

しかし、ラグナからすれば『イデア機関』を使えることの方が重要なため、そこまで気にしていない。

 

「二回使えるなら十分だ。わざわざ悪いな」

 

もしかしたら、今後は『イデア機関』の修復は望めないかも知れないから、ラグナは慎重に扱う必要が出てきたなと考える。

実際のところ、ナインもこれ以上自分の魔法で無理に『イデア機関』を修復することは叶わないと考えていた。

次また『イデア機関』が破損して修復することになろうものなら、一回使えるかどうかすら怪しい結果になってしまうだろう。

 

「さて・・・俺はそろそろ行くわ。さっきも言ったがあいつのことは任せろ」

 

「ええ。お願いするわね」

 

短いやり取りを済ませたラグナはプラネテューヌに戻るべく、ラステイション行きの船に乗るためにこの場を後にした。

 

「(さて・・・後はできるだけの事をしないとね)」

 

各国の市民に起きている突然のエディン信仰の原因解析など、自分に残されている作業はまだまだ沢山ある。

少しでもネプテューヌがピーシェを助ける為の手伝いができればと、ナインは再び己を多忙の中に放り込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

『実は、こちらのゲイムギョウ界では一部の地域が女神の不在によって荒廃に陥っている場所がありまして・・・』

 

時間は進んで開戦前日の夜。プラネテューヌのシェアクリスタルが置かれてある一室で、イストワールとプルルート、ネプギアとラグナの四人は向こう側のイストワールから重要な話を聞いていた。

ネプテューヌは余りにも調子が悪い状態だったので、ネプギアの配慮によって一度部屋で休ませる事になった。エディンとの戦いを明日に控えているからこそ思い悩んでいるネプテューヌに、今この情報を伝えるのは非常に悪手だと判断したからだ。

 

『その一部の地域の中心にある国を治めていたのが、ピーシェさんだったみたいなんです・・・(・.・;)』

 

「・・・・・・は?ちょっと待て・・・だったら、なんだって急にあいつが・・・」

 

「もしかして・・・今まで女神の姿になっていないのは、ピーシェちゃんの収めている国が無かったからですか?」

 

ラグナが困惑する中、ネプギアの問いに向こう側のイストワールが頷いて肯定したので、それによってラグナの中にあった疑問は氷解する。

シェアが一つもない状態であれば、変身などできる筈もない。それは今まで読み漁った資料の内容を思い返せば当たり前のことだった。

そうなると、レリウスたちは女神の事を資料などを通して解析し、ピーシェを傀儡として仕立て上げる方法を築き上げたのだと、容易に想像できた。

 

「ねぇいーすん~。大女神様は何か言ってた~?」

 

『プラネテューヌの維持はまだできていますが、そろそろ危ないから一度戻ってきて欲しいとのお話がありました。ただ、そちらの問題を片付けてから戻って来るようにと言っていましたよ?もし今すぐなんて言ったところでプルルートさんが止まらないでしょうからって・・・(*_*;』

 

どうやらプルルートのいたゲイムギョウ界の方でも、プラネテューヌがそろそろ危なくなってきているらしい。

いくら信仰心にブレが少ないプラネテューヌの女神でも、長期間不在にしていれば不信感は募ると言うものだった。

しかし、それでも今すぐ戻って来いと言わなかったのはプルルートを送り出した理由もそうだが、プルルートの事を考慮してのものだった。

 

「分かったぁ~。大女神様にぃ、ありがとうって伝えておいてぇ~♪」

 

これが幸いし、プルルートはその力を持った人物・・・すなわちピーシェを連れて帰ってくることが目的なので、戦力低下を避けることはできた。

これによって、戦力不足からすぐに押し切られると言う不安は減らされた。

 

「ただ・・・プルルートさんが戻るにしても、ピーシェちゃんを助けないとどうにもなりませんね・・・」

 

「なら、ネプテューヌにそろそろ覚悟を決めてもらわねえとな・・・」

 

ネプギアの一言にラグナが反応して言うと、この場にいた全員が頷く。

この戦いからピーシェを救い出す為には、彼女と最も親しかった人物であるネプテューヌの頑張りが必要不可欠である。

そして、その彼女がどうすればいいのか分からず路頭に迷っているなら、何か助言を与えて奮い立たせる。それがラグナの下した選択だった。

 

「一人で大丈夫~?」

 

「そうだな・・・俺一人だと難しいかもしれないし、手伝ってもらえるか?」

 

プルルートに問われて考えたラグナは、素直に協力を頼んだ。

最近になってだが、何故かプルルートには気軽に物事を頼めるようになったなとラグナは感じていた。

恐らくは、自分の『蒼炎の書』の姿を知っていて、上下のある会話になりがちなネプギアと違い、彼女とは平行の視点で話せるからだろう。

 

「は~い♪お任せあれぇ~♪」

 

また、プルルートも頼られるのが嬉しくて満面の笑みになる。

この二人は短時間で、本人たちでは気がつかない内に信頼関係を築いていたのだ。

 

「・・・・・・」

 

また、その一方でネプギアは少しだけ不安げにラグナを見つめていた。

テルミやレリウスに狙われていると言うこともそうだが、彼がいつしかまた遠くへ行ってしまうのではないか・・・そんなことを考えていた。

しかし、それが自分が持っている不安と、『少女』としての不安が混ざりあっているものではあるが、それでもラグナと離れ離れになるのは嫌だと思っているのは確かであった。

 

『それでは、今回はここまでにしましょう。プルルートさん、気をつけてくださいね(・・?』

 

「分かったぁ~。いーすんもぉ、みんなによろしくねぇ~♪」

 

そして、こちらのことを配慮した向こう側のイストワールが切り上げる事を伝えると、プルルートが頼み込みながら返した。

向こう側のイストワールは、それを聞いてしっかりと頷いてから通信を切ったのだった。

 

「さて、行くか」

 

「うん~」

 

ラグナとプルルートはそれを一瞥してから、ネプテューヌを説得すべく部屋に移動するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「さて・・・退避の準備はもう終わったな?」

 

「はい。万が一のことがあればすぐにここから離れられます」

 

ラグナ達に『自分たちはエディンにいる』と言う情報を与えることに成功したが故に、レリウスたちはこの戦いが終わった後も反抗できるように、各資料や食材等を再び元々使っていたラステイションの廃工場に移し終えていた。

無論、レリウスが制作途中の『スサノオユニット』も移動させており、最後に必要なデータはレリウスが回収することで全てが揃う手立てとなっている。

 

「さて・・・この戦いで何人の女神が倒れるかだが、あまり期待はできないか・・・」

 

マジェコンヌの言葉通り、女神が倒れるのは余り期待できない。

女神たちが戦い出すと基本的に恐ろしいまでの長期戦と化すので、この戦いの行方次第ではピーシェすら倒れず終わる可能性が高い。

何しろエディンは数で劣っており、それを無理矢理補う為のシェア収集装置を用意してあるのだが、それが破壊されてしまえば一瞬でこちらの敗北へ直結する諸刃の剣である。

しかし、そんな付け焼刃な準備でも戦闘データを取るだけの時間は稼げるものなので、使わない理由など無かった。

 

「まあ、最悪あのガキがダメになっても後埋めは俺がするから大丈夫だろ」

 

今現在、ピーシェの下に集まっているシェアは、テルミやレリウスが一部の人達に洗脳用の特殊弾を当てた人達がその影響でピーシェを信仰している状態である為、収集装置を破壊されればその効力も切れる。

そうなると、ピーシェは変身こそできなくなるが、それでも地の力が強いため、テルミが『強制拘束(マインドイーター)』で無理矢理戦わせるように仕向けるだけでも十分に効果は発揮するのである。

 

「なら、心配はいらなそうっちゅから、おいらはこっちに来た奴が見えたら知らせるだけで良さそうっちゅね」

 

ワレチューは体格と戦闘力からやれる事は少なく、今回できることと言えば身軽さを活かした連絡役になるくらいだった。

無論、ワレチューが戦ったところでどうすることもできないのは全員が招致しているので、特に文句を言うことはない。己らの役割を果たすだけである。

 

「ネズミの連絡を受け次第、私はレイとネズミを連れて離脱する。これで構わないな?」

 

「ああ、私は何処か一つの国に奇襲を図ってみる」

 

「なら、俺はこっちに近づいてきた奴の一部を足止めかね」

 

アノネデスはやることを終えたので今はもういない。その為、いつも通り五人で話し合ってトントン拍子で話が進んでいく。

そして、この場にはいないアノネデスが、自分たちの計画で被害を被らないように祈ることは忘れない。それが一時期協力して貰った身としての、足りないながらも恩義の形である。

 

「では、明日も早いのでここで解散としましょう」

 

珍しくレイが締める形となるが、別段誰も反論することなく頷き、今回は解散となった。

 

「(もし、女神を嫌う理由がわかったら何か変わるかな・・・?今度手伝ってもらおうかな?)」

 

敗北する可能性があるから次のことを考えてみたレイは、自分の記憶に関して手伝ってもらおうか一人悩むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

レリウスたちが会議している時とほぼ同刻、ネプテューヌは部屋で悩み込んでいた。

それは当然のこと、ピーシェと戦わなければならない時間が近い。そう考えているせいである。

ピーシェは何の迷いも無くこちらにこちらを攻撃できるが、ネプテューヌは彼女を傷つけたくない為、そうもいかない。

 

「(どうすればいいんだろう・・・?)」

 

ネプテューヌはピーシェと戦いたくない。しかしピーシェは容赦なくこちらを攻撃する。

そんな状況になるのが明らかなのもあって、ネプテューヌを更に悩ませる要因となっていた。

―なら、このまま戦うしか無いのかな・・・?そんな不安に駆られた瞬間にドアをノックする音が聞こえ、思考が現実に引き戻される。

 

「・・・誰?」

 

「俺だ。ちょっと入るぞ」

 

「う、うん・・・」

 

ノックした主はラグナであり、ネプテューヌは少し覚束ない口調で許すと、ラグナとプルルートの二人が入って来た。

 

「・・・アレ?ぷるるんもいたの?」

 

「あたしはちょっとしたお手伝いだよぉ~」

 

プルルートの言った『お手伝い』の意味を一瞬理解できず首をかしげるが、ラグナがいる以上はこの間と同じような形だろうかと予想することはできた。

そして、彼女に伝えるべきことがあるのは紛れもなくラグナだった。

 

「明日のことなんだけどな・・・ピーシェと遊んで(・・・)やれ」

 

「・・・えっ!?」

 

ラグナの切り出した言葉の意味が解らず、ネプテューヌは面喰ってしまった。

―戦いだと言うのにどうやって遊べばいいの?ネプテューヌの思考は固まってしまった。

 

「ち、ちょっと待って?それってどういう意味?」

 

「だってぇ~、ネプちゃんはぁ~、ピーシェちゃんを助けたいんでしょ~?」

 

確かに助けられるなら助けたいが、それが遊んでやるにどう繋がったんだろうか?彼らの意図を理解し切れていないネプテューヌの困惑は更に増してしまった。

何せこの間記憶操作を受けた状態のピーシェを目の当たりにしていたネプテューヌは、そんな彼女とどうやって遊んでやればいいのかがわからないのだ。

 

「向こうは戦う気満々なんだよ?その状況でどうやって遊べって言うのさ・・・?ぴーこを止めなきゃ・・・倒さなきゃ(・・・・・)

 

「つか、お前はどうして『倒す(・・)』こと前提で止めようとしてるんだ?」

 

「・・・!」

 

ラグナに投げかけられた言葉に、ネプテューヌは面食らった。

そもそもラグナにとってはネプテューヌの前提条件が間違えているので、彼はネプテューヌ考えを理解はしつつも否定的だった。

ラグナは大切な人が相手ならどんな手段を使ってでも『助ける』べきだと考えていたし、その方法も複数知っている。

 

「で、でもさ・・・どうやって変身した状態でくるだろうぴーこと遊ぶの?」

 

「そうだな・・・お前は今までピーシェと遊ぶ時はどうしてたよ?それと、ピーシェが好んでいる遊びはなんだ?それを照らし合わせれば答えは出てくるはずだ」

 

ラグナに投げかけられたネプテューヌがもう一度しっかり考えると、一つの答えが浮かび上がった。

 

「そっか・・・そうすれば私もぴーこと遊んであげられるね。でも・・・一番大事な時なのにコレって大丈夫なの?」

 

一番の問題は女神が戦線を常時離れてしまうことにある。その為ネプテューヌも直接ピーシェの元に向かって行くのに迷っていた。

 

「おいおい・・・『困った時は助け合い』なんだろ?心配せずとも、俺たちの誰かで止めておくから、お前は気にせず行って来い。俺がお前だったら、皆にそうしてもらうように頼むしな」

 

「あたしもそうすると思うなぁ~。ピーシェちゃんはぁ、大事な友達でしょぉ~?」

 

「そっか・・・。もう私ってばバカだなぁ~、どうして自分で言ってるのにこうなっちゃうんだろうね」

 

二人の後押しもあり、ネプテューヌは調子を取り戻してきたので、その様子を見たラグナとプルルートは安心する。

 

「大丈夫そうだな?」

 

「うん。それじゃあ明日はよろしくね?」

 

「は~い♪それじゃあ、明日は頑張ろうねぇ~♪」

 

一先ずやることは決まったので、後は実行するのみだ。

何も戦う必要は無いなら、自分のやり方でピーシェを取り返そう。そう決めたネプテューヌの心持ちは、荷が撮れた分先程よりも軽くなった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

そして遂に迎えた開戦当日。各国に住んでいた国民たちは二日前の夜から避難誘導を受けていて、有事の際に使うシェルターへ退避しているので巻き込まれる心配がないのは唯一の救いである。

エディンは日が登るや否やすぐに兵力を、モンスターと共に各国へと送り出した。

モンスターが共に送り出されている理由として、エディンは元々四ヶ国全てを相手にするつもりでいたので戦力不足は免れない。

その為、それを懸念したマジェコンヌがモンスターで補うことを思いつき、テルミとレリウスの共同作業の元、ワレチューが使えそうだと絞り込んだモンスターを捕獲していたのだ。

これによって、当初はエディンに乗り込んで速攻をかけようとした各国の作戦は、自国より少し離れた場所でエディンの軍勢を迎撃する形にシフトすることとなった。

また、それによって戦力的にも致命的な部分が出てくるようになった。

 

「ああ・・・こんな中どう寄れってんだぁ?」

 

まず、遠距離攻撃をできず、女神たちと違って長時間飛行のできないナオトが物陰に隠れて往生する羽目になってしまった。

当初の予定では異世界組を一度に全員でエディンに送り込む予定でいたのだが、作戦をシフトした事によって、最初からエディンに向かうのはラグナとプルルートの二人のみに変更となっていた。

その為、ナオトはエディン進行を阻止する側に参加が決まったのだが、いくらラケルとの契約による恩恵があったとしても、無数の銃火の中を掻い潜るまでに生命力を使い過ぎる危険があるので迂闊に飛び込もうにも飛び込めないでいた。

そんなこともあって、今ナオトにできることと言えばモンスターが兵士たちを超えて先に進んだら、それを食い止めることにあった。

 

「・・・!一体に抜けられた!済まないが頼む!」

 

「分かった!」

 

しかしながら、モンスターで確保した分の戦力差は思ったより大きいもので、ナオトの出番はかなり多い。

抜けていったモンスターの一体を右足で蹴りぬいて倒し、すぐに自分たちの後ろに控えている人達が無事か確認すれば、被害が及んでいないのでナオトは一安心する。

ただし、こうして安心できるのも束の間。振り返ってみれば、モンスターが兵士たちを邪魔だと感じて倒そうとしていた。

 

「っ!ヤベェ・・・!」

 

それに気づいたナオトは急いでそちらへ向けて走り出す。

しかし、先程倒したモンスターを追ったせいで兵士たちとは離れてしまっており、このままではモンスターがその腕を振り下ろすのが先なのは明らかだった。

 

「・・・させないわよっ!」

 

ナオトが焦りに焦っていた時、モンスターの横側から青い風が吹き付け、モンスターはそれに煽られて体制を崩した。

それによって兵士たちは体制を立て直す時間が、ナオトはモンスターに近づいて倒す為の時間が得られた。

 

「オラァッ!」

 

モンスターが体制を整えるよりも早く、右手に血を集めて剣を作ったナオトがそれを振るって切り裂く。

それによってモンスターは光となって消滅し、近くにいた兵士たちの安全が確保された。

 

「ナオト、大丈夫ね?」

 

「ああ、助かったよ」

 

アイエフはドライブの精度が更に跳ね上がっており、ラケルと代わらずとも安定した精度と威力を発揮できるようになっていた。

今回の大型モンスターを追い返せたのもその賜物であり、これによって国を守る大きな助けとなっていた。

しかし、そうして安心していられる時間も長くない。エディン側の兵士がこちらに銃口を向けて機関銃を撃つ準備ができていた。

 

《皆伏せてっ!》

 

ラケルに言われるが早いか、二人と近くにいた兵士たちは用意されている塀に隠れて銃弾の雨をやり過ごす。

 

「全く・・・マジで戦争に関わるなんて思っても無かったぜ畜生ッ!」

 

「慌てちゃダメ。兵士相手は無理に戦わなくていいから、とにかくモンスターを追い払いましょう」

 

「そうするしかねぇみてぇだな・・・」

 

やり過ごしている間にどうするべきかを纏めた二人は、銃弾が止んだ瞬間にモンスターの足止めとモンスターに兵士をやらせないように動き出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「(どこかなどこかな~?遊び相手どこかな~?)」

 

プラネテューヌの方へ向かいながら、ピーシェは全く戦場に似つかわしくない気分で遊び相手を探していた。

下では兵士たちとモンスターたちで戦っているが、ピーシェは全く気にしていない。

 

「(張り合いないと飽きちゃうもんね・・・長く付き合ってくれる人がいいなぁ~)」

 

長く付き合ってくれる相手とは当然女神であり、ピーシェは彼女らと戦い(遊び)たいので、下にいるものは完全に無視していた。

暫く辺りを見回していると、ラグナを牽引しているプルルートの姿があった。

 

「じゃあ、これから行くけど・・・大丈夫ね?」

 

「ああ、俺にやれることをやるだけだ」

 

R-18アイランドにある大砲を使われるのを避けることと、どうして信仰者がああまで集まったのかを調べる為に、ラグナとプルルートの二人は一足先に調査へ向かうところだった。

ちなみに、状況さえ落ち着けばノワールも合流することが決まっており、最終的に三人掛かりで捜査することになっていた。

 

「(うんっ!あの人たちがいいね!)」

 

しかし、出てきたタイミングが悪く、プルルートたちはその状況を知らないピーシェにマークされてしまった。

もちろんピーシェが待つはずもなく、彼女はそのまま凄い勢いでラグナたちの所へ飛んでいった。

 

「なっ・・・!?」

 

「このタイミングで・・・!?」

 

「遊んでもらうよっ!」

 

これは流石にプルルートも驚いて一瞬固まってしまう。

そして、ピーシェが両手に持ったクローで攻撃をしてくるが、それは彼らには当たらずに終わった。

 

「・・・アレ?」

 

「この二人は今遊んであげられないから、私が遊んであげるわっ!」

 

ピーシェの攻撃はネプテューヌによって遮られていて、ピーシェが戸惑っている内にネプテューヌは刀で軽く押し返した。

一緒に来ていたネプギアもネプテューヌの隣に立ち、ピーシェがラグナたちの元へ行けないようにした。

 

「二人共、私が引き受けるから先に進んでっ!」

 

「ネプちゃん・・・もう大丈夫ね?」

 

「ええ。私のやり方でぴーこを取り戻して見せるわ」

 

プルルートの問いに答えるネプテューヌの瞳に、もう迷いは無かった。

それを見た瞬間、プルルートのみならず、ラグナも安心して任せられると判断した。

 

「悪いな。それじゃあ頼むぞ」

 

「ええ。そっちも気をつけて」

 

「二人共、頑張って下さい!」

 

ラグナを連れたプルルートが去っていくのを見送り、二人はピーシェの方へ向き直る。

そしてすぐに戦う・・・と思えばそれは少し違った。

 

「ネプギア、モンスターとエディンの兵士たちの方を任せてもいい?」

 

「うん。お姉ちゃんも諦めないでね」

 

「・・・ありがとう。勿論最後までやりきってみせるわ」

 

ピーシェがこちらに来てくれたのは好都合なので、ネプテューヌはネプギアに頼んだ。

そして、あっさりと承認してくれたので二人のやることは決まり、ネプギアは兵士たちを助けるべく下に降りていった。

 

「さて・・・場所を変える為にも、こっちに来てもらうわよっ!」

 

「っ!追いかけっこなら負けないもんねっ!」

 

「(さて・・・ここからどうなるか、見物だな)」

 

他人を巻き込むまいと飛び去るネプテューヌをピーシェが追いかけた事によって女神同士の戦いが始まった。

そして、戦場から少し離れた場所にいたレリウスは、彼女たちの戦いをしっかりと見るために転移魔法で場所を移すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「もう少しで大砲の所に着くけどぉ、準備はいい?」

 

「問題無ぇ・・・いつも通りやるだけだ」

 

R-18アイランドの大砲がある施設まで近くなり、プルルートとラグナは自分たちが問題ないことを確認する。

自分たちに与えられた役割は大砲があった施設に潜入し、ピーシェがシェアを得ている源があったらそれをどうにかして止めると言うことになっている。

障害は色々予想されるかもしれないが、可能な限りは避けて通りたいところだ。何か抜け道があるならば、当然ながらそこを通りたいところだ。

 

「(えっと・・・誰かに伝えられればいいんだけどなぁ・・・)」

 

一方その頃、R-18アイランドの敷地内をリンダは歩いていた。

こんな戦時の最中、何故リンダがここを歩き回っているかと言えば、全ては大砲への施設まで行くためにある専用の抜け道を知っていたので、来るであろうラグナたちに伝えようとしていたのだ。

しかし、先程兵士に追われ始めていたので、あまり時間は残されていなかった。

 

「(せめて、空中に女神さん方がいてくれれば・・・)」

 

リンダが期待を込めて上を見上げれば、そこにはラグナを牽引しているプルルートの姿があった。

つまり、リンダが伝えるべき相手が来た証拠だった。

 

「(幸いこの先を進めば森の中に隠れられるし、行くっきゃない・・・!)」

 

ラグナたちの方角を読んで、その方向にある森をみたリンダは覚悟を決めてそこに飛び込んだ。

また、リンダが走り出した時を同じくして、R-18アイランドの敷地内でテルミとマジェコンヌは周囲を監視していた。

 

「誰が来ると思う?」

 

「まあ、俺らの世界にいた誰かが来るだろうな。まあ、突入とかその辺ならラグナちゃんかね」

 

マジェコンヌの問いに、テルミは自分の回答を示す。

ラグナが来ると考えた最大の理由は、反逆の旅をしていた際に『統制機構』の支部を破壊して回っていたことがあるからだ。

その経験を持っているラグナなら、今回のような突入ごとには最適だろう。

そして、案の定空を見てみれば案の定、ラグナとプルルートの二人がいた。

それをみたテルミとマジェコンヌはニヤリと唇を歪めた。

 

「・・・マジェコンヌ。ラグナちゃんを地上に降ろせるか?」

 

「フッ・・・良いだろう。少し待っていろ」

 

話が決まってすぐ、マジェコンヌは変身をし、槍を手に持ってプルルートに向かっていった。

 

「っ!ごめん、一度降ろすわね?」

 

「ああ、お前も気を付けろよ」

 

マジェコンヌに気づいた二人も即座にどうするかを決め、お互いに繋いでいた手を離してラグナは垂直落下をする。

もちろん、これは相手がそうしても大丈夫だからこそ行動であり、普通の人が相手であればこんなことはしない。

そのままプルルートは蛇腹剣を手にとって、マジェコンヌの迎撃に当たった。

マジェコンヌはプルルートがラグナを手放して武器を手に取るのを確認し、槍を振り下ろし、対するプルルートは蛇腹剣を左からの水平に振って受け止める。

 

「さて・・・何時ぞやの再戦と行こうじゃないか?」

 

「あぁ、あの時の・・・。フフ、良いわよぉ~?それじゃあ、一時の戦いに洒落込みましょうかっ!」

 

プルルートが蛇腹剣で押し返して仕切り直しした事によって、二人の戦いは始まった。

 

「ッ!テルミか・・・!」

 

「よう、ラグナちゃん・・・久しぶりだなぁ」

 

ラグナが落ちる先を確認してみると、そこにはテルミがニヤリとした顔で待っていた。

恐らくはこちらが攻撃しなければ攻撃しない。そう踏んだラグナは術式の要領で空中制御して安全に着地する。

そして、テルミは案の定攻撃して来なかったので、ラグナの読みは正しかった事になる。

 

「やっぱりテメェが来るよなぁ・・・」

 

「こういう事に慣れてるってのもあるが、俺らしか行けるのがいなくなったからな・・・」

 

しかし、それでもテルミにとっては再び戦えるチャンスであった。

更には最近は大きく反抗ができていなかったこともあり、普段以上に高ぶっていたのだ。

 

「それじゃあ始めようぜぇ?今度こそブッ殺してやるよ、『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』ッ!」

 

「悪いがこの後もやることはあるんだ・・・手短に終わらせてやるよ、テルミィッ!」

 

そして、ラグナとテルミも互いの武器を手にとって、同時に距離を詰めていくことで戦いの火蓋を切って落とした。

こうして、エディンと四ヶ国の戦いの幕が上がるのだった。




一先ず出だしの部分が終わりました。
このエディンと四ヶ国による戦いが終わった後、最後に少しだけオリ回を挟んでこの章は終わる形になると思います。

次回は再びアニメ10話の続きとなります。


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52話 加速する戦況

アニメ10話分の続きになります。


こうして始まった戦争だが、四ヶ国で最も状況が良いのはルウィーだった。

 

「ズェアッ!」

 

まず初めに、兵士たちが機関銃で放ってくる銃弾を、ハクメンは『斬魔・鳴神』とドライブの斬神を用いて無効化しながら近づき、兵士の武器だけを破壊して無力化していく。

更に、『斬魔・鳴神』によって出来上がる封魔陣と、斬神による方陣がハクメンの後ろにいる兵士たちを護る事に役立っていて、ルウィーの兵士たちは小型のモンスターを倒すことも視野に入れられるだけの余裕があった。

 

「アイスコフィン!」

 

「いっけぇっ!」

 

ロムとラムは氷の魔法を使い、兵士たちの銃を凍らせて使い物にならないようにする。

これによってエディン側の兵士たちの手数が少なくなり、ルウィーの兵士たちは小型のモンスターを倒すのに集中しやすくなる。

 

「ただでルウィーに入り込めると思うなよぉッ!」

 

更に一部の進行できたモンスターも、ブランが見つけ次第速攻で倒す事によってすぐに兵士たちが体制を立て直せている。

これによって、ルウィーへの進行は殆ど不可能なまでにルウィーへ来たエディンの戦力は無力化されていた。

元々魔法が盛んだった国なこともあって魔法を扱える人が多く、モンスターへの対抗手段が最も充実しており、ハクメンのドライブと武器が防衛にも優れていたこと、更にロムとラムが氷の魔法による高い足止め能力を誇っていたので、こちらの戦線はどの国よりも早く拮抗が崩れて決着までの流れができあがっていた。

 

「ハクメン、少しいいか?」

 

「どうした?」

 

そして、ブランの手によって大型のモンスターがエディン側の兵士たちの後方にしか残らなくなり、ロムとラム、ハクメンの三人のおかげで兵士たちの安全が確保できた状況で、ブランはハクメンに術式通信を送った。

無論、ハクメンが担当していた場所も自身が手を貸す必要が無くなっていたのですぐに応じた。

 

「状況が大丈夫になり次第R-18アイランドにノワールが行くっつってたから、ハクメンに応援を頼みたいんだが・・・大丈夫か?」

 

「御前たちが問題無いのなら」

 

ブランの問いにハクメンは迷わず答える。何なら後方に控えるモンスターを倒しながらラステイションに走り抜けると言う考えも持っていた。

ハクメンから迷いのない肯定をもらえたブランは、小さな笑みを浮かべる。

 

「なら問題ねぇな。それじゃあ悪いけど頼むぜ」

 

「あっ、ハクメンさん行ってくるの?頑張ってね~!」

 

「頑張って・・・♪」

 

「承知した」

 

ブランの言葉に便乗してロムとラムが笑みを見せて応援する。それに対して、ハクメンは首を振って深く頷き、モンスターたちを見据えて『斬魔・鳴神』を構え直した。

 

「では・・・推して参るッ!」

 

ハクメンは斬神による蒼い方陣を自身の前に突き出しながら、一気に駆け抜けていく。

その際、エディン側の兵士たちが放ってきた銃弾はすべてその方陣で無力化して突き進み、彼らが用意していた塀を飛び越えてモンスターへ向かって行く。

 

「椿祈ッ!」

 

飛んで進んでいく勢いに任せたままモンスターに肉薄して『斬魔・鳴神』を振り下ろし、そのままモンスターのことを気にせず通り過ぎていく。

ハクメンが地面に足をつけて『斬魔・鳴神』を鞘に収めると、そのモンスター光となって消滅したが、ハクメンはそれに目を向けないままラステイションに向けて走り出した。

それを見た兵士が慌てて足を止めようとしたが、それはロムとラムによって武器を氷つかされて阻止された。

 

「させないよ・・・!」

 

「アンタたちにこれ以上やらせるもんかっ!」

 

「もう諦めな・・・。そっちに戦う術は残ってねぇだろ」

 

ロムとラムに止められた兵士たちは、自分たちが最後までまともに武器を使える状態だったのがブランによって知らされ、兵士たちは大人しく武器を捨てて両手を上げた。

ルウィー付近での戦いはこうして、ルウィーが勝利する形で早期に決着が付いた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

ラステイションの場合はプラネテューヌと同じで殆ど拮抗を保っていた。

ピーシェがプラネテューヌに向かったことが幸いして、こちらは兵士たちとモンスターを食い止める事に専念できていた。

もしピーシェがラステイションに来ていた場合、プラネテューヌは早期に決着をつけてこちらの支援に回れたかもしれないが、その代わりにこちらの戦線が崩壊の危機を辿る恐れがあったので、一長一短である。

しかし、そんな状況ではあるが、一人納得できない状態の人物が一人いた。

 

「・・・・・・」

 

それは一般市民と一緒にシェルターの中に非難していたニューであった。

彼女は以前まで『ムラクモユニット』の力を持っていたが故にかなりの戦闘力を誇っていたが、ラグナに助けられると同時にそれを失って戦う術を持たない身になっていた。

ラグナに助けられるまでは『ラグナと融合し、『黒き獣』になるために必要なもの』と言う認識だったから捨てたいと思っていた節もあったが、今こうしていると『ムラクモユニット』さえあれば自分も皆の助けになれたと歯がゆくなる。

もちろん、ラグナはニューを助けたいから助け出したし、周りの人たちもそれを知っているからこそニューに戦いを強いることは無かった。

 

「(でも・・・こういう時に何もできないって、嫌になるかな・・・)」

 

以前であればラグナ以外全てがどうでもいいとすら思えていたニューだが、救われて以来多くの物事に興味を向けていたので認識が変わっていた。

そして、そうだからこそ、ニューは今戦っている人たちに何もしてやれないことがかなり堪えていた。

 

「(こんな時だけ『ムラクモユニット(あの力)』が欲しくなるのは、ちょっとわがままかもね・・・)」

 

シェルター内で不安の空気が広がる中、ニューは一人天井を見上げて虚しい気持ちを紛らわそうとした。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

『ノワール、そっちにハクメンを送ったからもう少しでつくはずだ』

 

「ありがとう。それなら、ハクメンが来たら行けそうね」

 

ラステイションの戦場で、兵士たちでは対処しきれない大型モンスターを相手している最中、ブランから通信が飛んできたのでノワールはそれに応じた。

しかもそれが朗報だったこともあってノワールは一安心できた。

現在戦況が拮抗しているのも、大型モンスターの数が少なく、各方角からそれぞれ進行しているが故に、ノワールとユニ、ノエルとラムダの四人がバラバラに行動してもどうにかできる状態だった。

もし、今よりも大型モンスターが多かったりピーシェが来ていた場合、そちらの対処に多くを回されて今頃R-18アイランドに飛んでいってるラグナとプルルートの二人に救援を依頼していた恐れすらあった。

 

「みんな、状況は?」

 

『大型モンスターは粗方倒せたけど、兵士たちがまだ残ってるからもう少しかかるわ』

 

『こっちはまだモンスターがかなり残ってます』

 

『モンスターが密集して来たから、ノエルと合流する』

 

他の人たちに状況を確認してみるとまちまちな状況だった。

まず、ユニの場合は遠距離から高い火力で一方的にモンスターを撃つことができるので、モンスターを倒すことに関しては他の誰よりも楽に対処できていた。

しかし、銃による攻撃であることが災いして攻撃が定点的なものになってしまい、兵士を傷つけずに無力化することにはかなり手間取っていた。

一方でラムダと『クサナギ』を装着したノエルは、攻撃範囲が広いことと女神たちと比べて一撃が重くないので、兵士たちを無力化すること自体は速かったものの、モンスターたちの対処は遅れ気味だった。

連絡を終えた後、ノワールは一度周りの状況を確認してみる。

ユニは時間こそ掛かれど兵士たちからの攻撃は殆どダメージを受けないので、少なからずダメージを受ける恐れのあるノエルたちを支えた方が良いだろうと考えに至る。

そう考えてすぐに飛んでいこうとした矢先、モンスターたちの背後から迫る白い影を見てそれを中断することになった。

 

「アレは・・・来てくれたのね・・・」

 

その影を見て、ノワールは安堵の表情を浮かべる。

正直なところ戦況がどっこいどっこいだったので、ここへ来て戦況を一気に覆せるハクメンの存在は何よりもありがたいものだった。

ハクメンがモンスターの一体を『斬魔・鳴神』で斬り伏せると、自身の後ろから襲撃された事によってモンスターたちが一度足を止めてしまう。

 

『待たせたな。これより助太刀に入るので、御前はあの二人の下へと急ぐが良い』

 

「ありがとう。そうさせてもらうわ」

 

その止まっている隙を使ってハクメンはノワールに通信を入れ、手短に用件を話す。

戦況的にも問題無いと判断したノワールはそれを承認してから、自分が請け負っていたモンスターの方へ向き直る。

確かにR-18アイランドへは近いので自分が応援に行くという形になっているが、それでもまず先に責務を果たしてからである。

 

「一先ず、モンスターたちにはご退場願うわ・・・!インフィニットスラッシュッ!」

 

ノワールは空中で横に周りながら剣を左から斜めに振って構え、そこから一気にモンスターの群れへと急接近する。

そのまま群れの中央にいたモンスターを一度剣で斬りつけてからすぐ横へと飛び去り、次はノワールから見て群れの左端にいたモンスターを斬りつけて飛び去る。

右へ左へ、何度も斬りつけては飛び回ってを繰り返してモンスターを翻弄しながら確実にダメージを与えていき、何度かそれを繰り返した後、上空へ飛びあがってモンスターたちの上を陣取る。

モンスターを見据えたノワールは、剣にエネルギーを集めることで剣を虹色に輝かせ、それを群れの中心へと投げつける。

 

「これで消えなさいっ!」

 

ノワールがモンスターに背を向けてから左手の指で音を鳴らすと、地面に刺さっていた剣を中心に光の柱が発生し、モンスターたちを飲み込んだ。

その光の柱が消えると、モンスターたちは全て跡形も無く消え去っており、背後を振り返ったエディン側の兵士たちが戦意を失う。

 

「これで大丈夫ね・・・。私はこれからR-18アイランドに向かうわ。暫くの間あなたたちに任せることになるけど、問題無いわね?」

 

ノワールが周りの全員に問いかければ、兵士たちは歓声と雄叫びで応えてくれた。

それはすなわち、ノワールがR-18アイランドに向かっても大丈夫。またはノワールが帰ってくるまで耐えきる、もしくは勝利で戦いを終わらせるという形気兼ねだった。

実際のところ、戦況はラステイション側が圧倒的に有利で、もう残りの一押しをするだけでも終わらせられる状況だった。

その声に嬉しく思ったノワールは満足そうに頷く。

 

「ありがとう。行ってくるわ!」

 

ノワールは兵士たちに礼を言い、そのまま身を翻してR-18アイランドに飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

プラネテューヌの上空から国から離れた崖の近くまで移動しながら、空中で激しい交差を繰り返していた。

 

「それ、それぇっ!」

 

「ふっ!てやぁっ!」

 

ピーシェが放つクローによる連撃を、ネプテューヌは刀で受け流し、受け止めることでやり過ごしていく。

何度かの攻防が続いた後、ネプテューヌによる刀の振り下ろしと、ピーシェが放った右手に持っているクローの突き出しが激突する。

 

「あはははっ!楽しい~♪戦いながら追いかけっこも良いねぇ~」

 

「あらそう?楽しそうで何よりね・・・」

 

ピーシェは心の奥底から楽しそうに言うのに対して、ネプテューヌは冷や汗が流れていた。

ネプテューヌがピーシェへ行う『遊び』をするにはまだ場所が悪い。その為現在はおびき寄せるように移動しつつ戦っているのだが、持つかどうかが怪しいところだった。

ピーシェは強引な方法で信仰者を増やしたとはいえ、信じられない程の力を発揮していることにある。

これが災いして、ネプテューヌは防戦一方を強いられている。

 

「(早くしないと、ぴーこの気を引くよりも先にこっちが倒れてしまうわね・・・)」

 

また、ピーシェの放つ一撃一撃がブランよりも遥かに重く、全て受け止めようとしているとあっという間にやられてしまうのが目に見えており、ネプテューヌはピーシェの攻撃を捌くのに物凄い集中力を要されていた。

受け流すべき攻撃と受け止めるべき攻撃を間違えるとただ事では済まない。しかし、こうしてピーシェの攻撃を捌くことに意識を割きすぎると誘導がおざなりになる。

つまるところ、ネプテューヌはある種の極限状態に追い込まれていた。

 

「(もうだいぶ離れたはずだけど・・・この危機感だけはいつまでも終わらなそうね)」

 

ピーシェの攻撃を再び受け止めたネプテューヌは、あえてピーシェに押し切られることを選択し、そのままの勢いを利用してピーシェの誘導に活用を考えた。

するとピーシェは案の定こちらを追いかけることを選択してくれたので、ネプテューヌは攻撃を裁くことだけはしっかりと行い、ピーシェの攻撃による勢いを利用して自身が誘導しようとしていた場所へ向かうことを選んだ。

いくら女神だとはいえ、思考が子供のままであるピーシェはネプテューヌと戦う(遊ぶ)ことしか考えてないので、あっさりと誘いに乗ってくれていた。

 

「・・・成程。成し遂げようとする者と純粋に其れをしようとする者の対比か・・・これは面白いデータだな」

 

一方、魔法の力を利用して彼女たちの戦闘する姿を追いかけているレリウスは、彼女たちから得られる情報を興味深く観察する。

ピーシェを取り戻す為に戦うネプテューヌと、特に目的は無く戦争を利用して遊ぶピーシェの二人から見えるものは大きく異なっている。

テルミが『スサノオユニット』を用いて行おうとしているのは、『ラグナ=ザ=ブラッドエッジへのリベンジ』と『恐怖によって支配し、自身が何者にも縛られず自由な世界を作る』ことである為、事を成そうとするネプテューヌと、自分の思うままに力を振るうピーシェの二人はテルミに合わせること前提では、これ以上はない程最適な組み合わせだった。

 

「後は、圧倒的な力の差というものが欲しいところだが・・・此れに関してはすぐに見られるだろう」

 

自身が仕向けなくとも、ネプテューヌが勝手にやってくれることが目に見えていたので、レリウスに取っては最高に都合が良かった。

後は己の望む展開を待つばかり・・・。己の目的を達成させる為に必要な情報が、これ程楽に手に入るとは思ってもみなかっただろう。

戦争自体は別に勝たなくても良い。最悪は一日で終わってしまっても良いので、とにかく女神同士で戦うデータが得られれば良く、それらの全てはこの二人のデータで揃う。

どの道、戦争の結果がどうなろうとも、レリウスらの同盟に取ってはデータが揃ってしまえば最早勝ってしまったも同然である。

 

「さて・・・そろそろか」

 

彼女たちの戦闘もいよいよ流れが変わることになる。

その理由として、ネプテューヌが誘導したい場所にピーシェを誘導しきったからである。

そして、ネプテューヌは一度武器をしまって無防備な状態を晒す。

それの効果は確かにあり、ピーシェは思わず動きを止めて滞空を選んだ。

 

「・・・?どうしたの?もう遊んでくれないの?」

 

「いいえ、違うわ。ちょっと遊び方を変えるだけよ」

 

ピーシェの問いに答えながらネプテューヌは変身を解除し、平時の幼い姿に変わる。

 

「・・・うん。ぴーこ相手なら、やっぱりこっちの方がやりやすいっ!」

 

ネプテューヌは確信していた。いくら相手が女神になったとはいえ、ピーシェであるならこの姿の方が記憶に影響を与えやすいと。

その理由として、ネプテューヌはピーシェの前では殆ど変身した姿を見せておらず、平時の姿でいた上に、その姿で遊び相手にもなっていたからだ。

 

「・・・どういうこと?」

 

「まあまあ、それは後で教えてあげるから・・・かかっておいでっ!私が思いっきり遊んであげる!」

 

「・・・!うんっ!じゃあ思いっきり・・・いっくよ~!」

 

ピーシェは一度困惑するものの、ネプテューヌが両手を広げて自信満々に言うものだから、それに甘えることにした。

ネプテューヌは確かに苦しいけどやるしかないと意気込んでいた。それは良かったものの、それでも実際にやることは簡単ではない。

 

「えいっ!」

 

「ねぷぅあっ!?」

 

事実、平時の姿に戻り能力が下がった状態ではピーシェの攻撃を目で追いきることができず、左頬にピーシェの攻撃をもろに受けて吹き飛ばされてしまった。

 

「さて、ここからどう動くか・・・楽しませてもらうぞ」

 

ピーシェが反応できないネプテューヌを一方的に攻撃していくのを見ながら、レリウスはこの二人の行く末を期待して観察を続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「インフェルノディバイダーッ!」

 

牙昇脚(がしょうきゃく)ッ!」

 

ラグナの黒い炎のようなものを纏わせた剣と、テルミの碧い炎のようなものを纏わせた足は同時に振り上げられ、ぶつかり合う。

二人は互いの攻撃が衝突した反動を活かして距離を取り、地に足を滑らせながら体制を立て直した後、即座に距離を詰める。

接触するであろうタイミングに合わせてラグナは剣を上から真っ直ぐに振り下ろし、テルミは両手に持ったバタフライナイフをX字に振り下ろす。

 

「・・・へッ!今度こそテメェをブッ殺してやるよ・・・『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』ッ!」

 

「言ってろ・・・。んなこと言ってるテメェを返り討ちにしてやるぜ・・・テルミッ!」

 

そして、互いに名を呼びながら吐き捨てるようにそう言う。

無理に決着をつける必要はないのだが、できることなら決着をつけたい。

相容れることのない二人が考えていることは、皮肉にも一致しているのだった。

 

「そぉらッ!」

 

「ええいっ!」

 

マジェコンヌが槍を左から水平に振り払うのに合わせて、プルルートは蛇腹剣を右から斜めに振り下ろす。

それらはぶつかり合って火花を散らし、二人はそのまま鍔競り合いにもつれ込む。

 

「前回は見苦しいものを見せてしまったが・・・今回はそうはいかんと知るが良いッ!」

 

「もちろん・・・そうじゃないと、張り合いが無いものねっ!」

 

お互いが再戦を望んでいたことを確認しながら、プルルートは手に持っていた蛇腹剣に力を入れてマジェコンヌを押し返す。

マジェコンヌは押し返される勢いをあえて利用して距離を取ると、武器をハクメンの使っていた『斬魔・鳴神』の形に変えて再びプルルートへと迫る。

 

「私が扱うとどうなるか試して見るか・・・」

 

「あらぁ?来ないならこっちから行くわよ?」

 

マジェコンヌ自身、ハクメンの能力をコピーできるようになったとはいえ、実際に使うのはこれが初めてである。

それ故に、ズーネ地区での敗走とプラネテューヌの撤退戦の経験から、マジェコンヌも少しは慎重になる。

マジェコンヌが動かなくなったことでプルルートも一度止まって、煽り半分に様子を見ることにした。

 

「ああ。遠慮せず来てくれて構わんぞ?」

 

「・・・へぇ?なら、遠慮せず行かせてもらうよっ!」

 

マジェコンヌの言葉が煽りだと感じたプルルートは、マジェコンヌに向けて一気に距離を詰めることを選んだ。

そして、プルルートが蛇腹剣を上から真っ直ぐに振り下ろした瞬間、マジェコンヌは口元をニヤリと吊り上がらせながら左腕を前に突き出し、紅い方陣を展開してそれを防いだ。

 

「・・・?」

 

「行くぞ。虚空陣・・・」

 

―こいつがこの技を知らないことが功を奏したな。

マジェコンヌは安堵しながら困惑するプルルートをよそに刀を引いて居合の構えを取る。

 

「雪風ッ!」

 

「・・・っ!?きゃあっ!?」

 

マジェコンヌの動きから、次の攻撃を受けるのは非常に危険だと判断したプルルートは蛇腹剣を咄嗟に構えて防御の体制を取る。

プルルートが防御の体制を取るのと、マジェコンヌが刀を振り抜くのはほぼ同時で、マジェコンヌは強く踏み込みながら刀を右から水平に振るい、プルルートの蛇腹剣に全力でぶつける。

そして、その威力が余りにも大きかったのでプルルートは受け止め切れず、そのまま後ろへ吹き飛ばされてしまった。

 

「ふむ・・・私が使うとこんなものか」

 

流石に本人程技への精通が無いから限度はあるなとマジェコンヌは判断した。

確かに地の力なら変身した姿であれば上回ることもできるが、技によって発揮できる威力はそう簡単に再現しきれるものでは無かった。

それ故に、『蒼炎の書』が無いせいでデッドスパイクがラグナと同等の威力になった時と似たような結果になってしまったが、それでも十分とした。

 

「なっ・・・!?プルルートッ!」

 

「おいおい・・・余所見してる暇なんてねぇだろ?」

 

プルルートの短い悲鳴を聞いたラグナは反射的にそちらに顔を向けてしまい、テルミに付け入る隙を与えてしまった。

ラグナがその声を聞いて振り向いた頃には、テルミは既に攻撃の準備を終えていた。

 

「前の時と同じだなぁ・・・蛇翼崩天刃ッ!」

 

「うおぉッ!?」

 

そして、テルミの強力な回し蹴りをまともに受けてしまい、ラグナも宙に浮かされることになる。

 

「オラ、もういっちょ行くぜッ!」

 

「何度も喰らうかよッ!」

 

テルミが『ウロボロス』を伸ばしてラグナを掴もうとするが、ラグナは術式制御で素早く体制を立て直して剣を牙突に近い形で構える。

 

「テメェにコイツをくれてやらぁ・・・!ベリアルエッジッ!」

 

「チィ・・・!」

 

ラグナが剣に黒い炎のようなものを纏わせながら突っ込んで来たのを見たテルミは、『ウロボロス』による追撃を断念して一度後退する。

テルミが避けた事によってラグナの攻撃は地面を僅かに削るのに留まったが、ラグナの攻撃はこれだけでは終わらない。

 

「まだ行くぞ・・・!ヘルズファングッ!」

 

「・・・来な!」

 

ラグナは黒い炎のようなものを纏わせた左腕を突き出しながら突進するが、テルミはそれがギリギリ届かない位置になるように後ろへ飛びのく。

 

「おおッ!」

 

残影牙(ざんえいが)ッ!」

 

ラグナはそのまま剣を持ったまま右腕に黒い炎のようなものを纏わせながら殴りつける。

それに対して、テルミは右手に持ったバタフライナイフに黒い炎のようなものを纏わせながら足元から掬い上げるように振るった。

互いに纏わせていた炎のようなものはぶつかり合い、飛び散りながら霧散した。

 

「さて・・・ようやくR-18アイランドまで来れたわね」

 

ラグナたちの戦いが繰り広げられている中、ノワールはようやくR-18アイランドの敷地内上空に辿り着くことができた。

何か異常がないかを探してみると、まず自分と同じくらいの高度でプルルートとマジェコンヌが戦っている姿を確認することができた。

 

「(は、早く知らせないと・・・もうこっちが持たない・・・。・・・っ!あ、あそこに・・・!)」

 

一方で、ノワールがその二人の姿を確認したのとほぼ同時にリンダも彼女の姿を目撃していた。

しかしながら、声を出せばすぐに気づかれてしまう恐れがあるので、リンダは祈りを込めて両手を振りながらノワールが気づいてくれることに賭けた。

 

「(互角そうに見えるけど、ちょっとだけ押されているわね・・・。ここは助けに行った方が・・・下に人の気配?)」

 

ノワールはそのままプルルートの救援に行こうとしたが、下に気配を感じてそちらを見やれば、何やらこちらへ手を振っているリンダの姿があった。

 

「何か訳アリみたいね・・・」

 

それを見たノワールは、プルルートがまだ耐えられると信じてリンダの下へ移動することを選んだ。

 

「何かあったの?」

 

「あっ!実は、エディンにあったあの施設なんですけど・・・あそこにバカ正直に行かないで済む行き方があるんです!」

 

「え・・・っ!?それ本当なの?」

 

ノワールはリンダから得られた情報に驚く。

しかしながら、何故彼女は焦っていたのだろうか?そもそもR-18アイランドでの勤務を終えた彼女は何故エディンに潜り込んでいたかも気になった。

 

「確かに情報は嬉しいけど・・・どうしてそんな無茶を・・・」

 

「自分も流石にあの見た目は変だなと思っていたもんですから・・・。それで調べてみて、専用の隠し通路は見つけたのは良かったんですけど・・・その後ちょっとヘマして駐留していた兵士にバレて追われていたんです・・・」

 

「なるほどね・・・」

 

ノワールはリンダのその勇気ある行動をありがたく思った。

そして、それほど有用な情報を持って来てくれた彼女の行動を無為にしたくない。そう思ったノワールは一つの提案を思いついた。

 

「なら、私が護りながらなら案内はできる?」

 

「・・・えっ!?」

 

一人で厳しいなら自分が相手から護り通せばいい。ノワールの出した答えはこれだった。

そして、まさか自分を護りながら進もうと選んでくれたノワールに、リンダは驚きを隠せなかった。

 

「い・・・いいんですか?こんな自分の為なんかに・・・」

 

「何言ってるのよ・・・。戦争をどうにかしようとしてくれた人の意思を、無碍にするはず無いでしょう?」

 

「・・・・・・」

 

ノワールから投げられた言葉が心に響き、リンダの目尻に小さく涙が滲み出るが、今は流すときじゃないと慌てて拭う。

そして、腹を括ったリンダは、自身の回答を告げることにした。

 

「それなら、自分に案内させて下さいっ!」

 

「ありがとう。それじゃあ行きましょう」

 

「はい。・・・こっちです!」

 

そして、話が決まるのが早いか、リンダが走り出すのを見たノワールは彼女の隣について移動を始めた。

また、この時の会話内容を、ワレチューは近くでしっかりと聞き取っていたのですぐさま同盟の全員に連絡を入れた。

 

「・・・聞こえるっちゅか?ラステイションの女神が例の場所の位置を知ってしまったっちゅ。一般人を護りながらだから少し遅くなるにしろ、後三十分もあれば到達されるっちゅ」

 

『・・・何だと?ここに来て潮時とは・・・』

 

『へッ。今回は前哨戦(・・・)なんだから構いやしねぇ・・・とっとと引き上げようや』

 

『そうだな。テルミ、十秒だけ持ちこたえろ。お前を捕まえて離脱するぞ』

 

『・・・おうよ!』

 

その連絡を聞いたマジェコンヌは一瞬だけ歯嚙みするものの、テルミの言葉で即座に冷静さを取り戻す。

そして、二人はやることを即時に決めて行動に走った。

 

「牙穿衝ッ!」

 

「ヤベェ・・・!」

 

テルミが急に『ウロボロス』を使って拘束しようとする動きに変わったので、ラグナも焦って距離を取った。

しかし、それが彼らの思う壺な行動になってしまった。

 

「良し・・・今だな!」

 

「えっ?ここでどうして・・・?」

 

マジェコンヌがいきなり身を翻して飛び去ったので、プルルートは完全に出遅れてしまった。

そして、テルミと彼の下に飛んでいくマジェコンヌはアイコンタクトで意思疎通を済ませ、テルミがラグナの攻撃をジャンプして避けたところをそのまま連れ去っていく形で回収する。

 

「悪いな・・・目的を達成した以上、私たちはここで退かせてもらうぞ・・・」

 

「じゃあなラグナちゃん・・・次会う時は必ずケリを付けてやるからな・・・ケヒヒヒヒッ!」

 

宣言すると同時に、マジェコンヌはテルミを抱えたまま飛び去った。

プルルートは一瞬だけ追いかけようかと思ったが、前回プラネテューヌで戦った時のことを考えると、今回はこれ以上は何もしないと判断してラグナと合流を選んだ。

 

「ラグナ、そっちは大丈夫ね?」

 

「ああ、問題ねぇ・・・。それよりも砲台の方へ急ごう。ピーシェがあそこまで強くなってる原因付き止めなきゃいけねえしな・・・」

 

「ええ。急ぎましょう」

 

お互いの状況を確認したので、再びこちらに来るときと同じくラグナを牽引する形でプルルートは再び移動を始めるのだった。




終わらせられるかなと思いましたが、そんなに進みませんでした・・・。
また、思ったよりも戦闘描写が単純になってしまった感じがするので、もしそう思わせてしまったならすみません・・・。

この段階でリンダの善人への更生コースが確定しました。
これによって、彼女はこの章が終わった後も少しだけ出番を貰える可能性が上がりました。

次回でエディンとの戦いに決着が付くかと思います。


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53話 戦いの結末

これでエディンとの戦いは終わりになります。


戦争の起きている国内で、リーンボックスは有利ではあるが妙な状況だった。

リーンボックスは元々の国土の関係でモンスターを送り込めないことから、エディン側は兵士たち以外戦力は無いので戦力自体は四ヶ国内最小だが、リーンボックス側にもいくつか問題があった。

 

「(くっ!こうも建物が多いと、魔法が碌に撃てやしない・・・!)」

 

まず、ナインの方ではその大魔法の火力が仇となり、彼女は一つ一つに細心の注意を払って戦う羽目になっていた。

ズーネ地区の時とは違って今回は市民が住んでいた建物等が多くある為、彼らの帰る場所を考えた結果迂闊に大魔法で一掃と言う戦い方ができなかった。

それ故にナインは標準クラスの魔法や、範囲の狭い魔法でどうにかやり繰りしているが、それでも兵士を巻き込まないようにする為の加減が難しく、相手を無力化するのに相当手間取ることになった。

 

「どうにか外に連れ出したいけど・・・。・・・!?」

 

ナインが思慮している間に兵士たちから銃撃を浴びせられたので、慌てて魔法で防御を行う。

女神と違って素の防御力は鍛えてある普通の人止まりであることと、魔法による火力も相まって、ナインは最優先で狙われてしまっている。

こんな時ほど、セリカを向こうに移させて良かったと思うことは無かった。

 

「はぁっ!」

 

また、ベールも迅速に敵を無力化するのに苦労していた。

槍を扱う以上薙ぎ払ってしまえば多くの犠牲を生んでしまうので、なるべくそれを避けて突きによる攻撃を中心としているからだ。

しかしながら、ベールの攻撃もまた、ナインと同じく兵士たち相手には過剰火力になってしまうので、通常の攻撃以外をするわけにも行かなかった。

 

「こんな時に気を回し続けるだなんて・・・。不器用なものですわね」

 

身体的な疲労こそ少ないものの、精神の方で妙な負担の掛かる戦いだとベールは感じていた。

しかしそれでも、戦況はもうじきで決着が付くことになる。モンスターがいないこともあり、戦力差が大きすぎたのである。

また、リーンボックス側の兵士たちも少数故に疲労が大きくなってきている為、できればここで終わらせてしまいたいと言う考えに至った。

 

「ナイン。多少なら構いませんので、一気に終わらせますわよ」

 

「ええ。それなら一度場所を変えて・・・!」

 

ナインは防御を続けながらベールの声に肯定して、一度魔法で姿を消すように瞬間移動を行う。

そして、慌てる兵士たちをよそにナインは彼らの背後を取り、両手を頭上に掲げて魔法の準備をする。

暗黒大戦時代の時とは違い、場所を何も気にしないで良いと言うことは無いが、小分けにして使えば兵士を無力化しても街の被害は甚大・・・と言うことは避けられる。

 

「これで終わりよッ!」

 

ナインの声が聞こえた兵士たちは焦ってそちらを振り向くが、その時にはもう遅く、ナインの放った冷気が兵士の持っていた銃だけを凍らせた。

これによって、兵士たちの持つ銃は機能しなくなり、一気に戦闘可能な兵士がいなくなった。

 

「さて・・・これでフィニッシュですわっ!」

 

ベールはナインが対処しきれず、戦闘可能な状態の兵士たちの周囲を飛び回り、槍で武器だけを弾き飛ばしてはまた周囲を回って攻撃を繰り返す。

そして、僅か三十秒もかからずにベールの囲んだ兵士たちは戦闘力を失った。

 

「よし・・・これで何とかなったわね・・・」

 

周囲を確認して、戦える兵士がいなくなったことが分かったナインが溜め息交じりに言う。

ただでさえ被害を気にしながら、更には相手と味方のことを考えながら戦ったのだから、疲労が普段よりも格段に大きいのだった。

しかし、それ以上に被害を殆ど出さずに護りきることができた事には、暗黒大戦時代のようにならずに良かったと安堵できたのだった。

 

「これで我が国における戦闘は終わり。残されているのは・・・」

 

戦闘が終わったとはいえ、まだエディンの信仰者となった市民たちの暴走が残っているので、そちらの対処をしなければならない。

しかしながら、R-18アイランドに向かった人たちからの報告も無しに迂闊なことはできないので、精々大きな被害が生まれないようにするだけである。

 

「(こちらはどうにかしておきますから、後は頼みましたわよ・・・?)」

 

それでも、二次被害を抑えることが自分たちにできるならそれをするだけ。

ベールは空を見上げながらR-18アイランドに向かったラグナたちに祈った後、すぐに市民を抑えるべく指揮を執るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「了解した。これより回収に向かう」

 

時間はワレチューが連絡を入れた時に遡る。

彼から連絡を受けたレリウスは、自身の行動を始めることを告げてから通信を切り、一度ネプテューヌとピーシェの戦いぶりを見る。

それは戦いと言うよりは、一方的な蹂躙と見ても良かっただろう。

 

「それっ、ええーい!」

 

「あうっ・・・!ねぷぁっ!?」

 

ピーシェが左手のクローで腹を殴ったことからその痛みに耐えかねたネプテューヌがうずくまり、そこをピーシェが容赦なく右手のクローで彼女の顎を打ち付ける。

余りの威力に成す術もなくネプテューヌ体を宙に浮かされてしまい、ピーシェは更にそこを追撃する。

そして、ネプテューヌは吹っ飛ばされている自身に追いつかれて踵落としを喰らい、思いっきり地面に叩きつけられてしまった。

 

「ふむ・・・ここから少しの間は変化が起こらなそうだ。速やかに向かうとしよう」

 

―最も観測()たい部分は戻る途中でも遅く無い。そう判断したレリウスは転移魔法を使ってR-18アイランドに向かった。

 

「戻った。準備は良いな?」

 

「はい。いつでも」

 

「了解した。では、ネズミ共々回収して撤退しよう」

 

まず初めに大砲施設に戻ったレリウスはレイを引き連れて、転移魔法でワレチューのいる場所に急いだ。

 

「待たせた。これより引き上げるぞ」

 

「了解っちゅ」

 

そして、ワレチューと短く会話を済ませた後、転移魔法を使って元いたラステイションの廃工場に帰るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「さて・・・戻った所悪いが、私は最後にあの戦いだけ見届けて来る」

 

「ん?最後の欠片が残っているのか?」

 

「ああ。その通りだよ」

 

ラステイションの廃工場に戻った直後、レリウスがいきなり戻ると言い出したので、マジェコンヌが聞いてみると案の定だった。

 

「ならば行くが良いさ。これは元々、お前の研究の布石なのだからな・・・」

 

「完成したら元も子もないっちゅからね。行くなら今の内っちゅ」

 

「俺も『スサノオユニット(アレ)』の完成は楽しみにしてるからな・・・。何なら付き添いしようか?」

 

「戻ったらすぐ、研究ができるように準備しておきますね」

 

そして、マジェコンヌが促せば全員がそれぞれの理由で促してくれた。

この戦いは元より、次の反逆の為の準備である為、ここで無理に戦う必要なんて無い。しかし、研究が捗らないなら話は別である。

何かと彼らはレリウスの研究が完成する瞬間を楽しみにしていたのである。

 

「そうか。ならば私は行かせてもらおう。テルミ、せっかくだ。御前にも来て貰うぞ」

 

「おうよ。んじゃ、ちょっくら行ってくるわ」

 

テルミはそう言ってレリウスの隣に立って振り向けば、三人が暖かく見送ると決めた顔を見せてくれた。

 

「では、行こうか」

 

そして、それを満足に確認した二人は、転移魔法で再びネプテューヌとピーシェ(二人)の戦場へ移動するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

テルミたちと予想以上に短すぎる攻防を終えたラグナとプルルートは、以前訪れたシャボン玉生成装置を装った大砲施設の上空までやってきていた。

 

「そろそろ着くけど・・・下に何かいる?」

 

「・・・いや、ここからじゃ全く見当たらねぇ・・・多分、中に紛れてんのか、先に誰かが入ったからそっちに回ったのかも知れねえな」

 

恐らくエディン側に取っては最も重要な施設であるはずだが、施設の周囲には兵士が誰もいないと言うもぬけの殻な状態だった。

―一体何があったのだろうか?ラグナたちは一瞬の間思慮の時間を作るが、そう簡単に答えが出るものでは無かった。

 

「・・・しょうがねぇ。取り敢えず中に入ろう。原因なんざすぐに解るだろうしな」

 

「それもそうねぇ・・・。じゃあ、行きましょうか」

 

ラグナは難しい事を考えるのが苦手だったので、そのまま入って確かめてしまえと考えた。

プルルートはそれを知ってか知らずかすぐに同意してくれたので、そのまま下に降りることにした。恐らくはラグナの動向で察してくれたのだろう。

 

「さて・・・入り口はどこかしら?」

 

「罠があるかも知れねえから、気を付けねぇとな・・・」

 

地上に降りた二人は、早速入口を探し始める。

この時ラグナは久しぶりに『統制機構』の支部に潜入する時と似たような状況になった。

 

「(まさか、またこんなことをすることになるなんてな・・・)」

 

ラグナとしては少しだけ奇妙な気持ちにさせられていた。

何せ前までは反逆でこの様なことをしていたが、今では実質的に反逆して来たエディンを止めるために潜入するからだ。

元反逆者が反乱国家を止めに行くという形になったのは、何の皮肉だろうか?ラグナが人並みの幸福を得て過ごしていたなら、運命の巡り合わせを感じていたかもしれない。

しかしながら、罠らしきものは一切見当たらず、ラグナたちはあっさりと施設内への入口を見つけてしまったのだった。

 

「おいおい・・・いくら何でも簡単に行き過ぎじゃねえか?」

 

「そうねぇ・・・取り敢えず、アタシが先に入って調べましょうか?」

 

「そうだな。俺は一歩後から行かせてもらうわ」

 

流石にここまであっさり事が運んでしまうと妙なものを感じるので、プルルートは自分が先に入ることを提案する。

これを提案したのも、ラグナは『蒼炎の書』を起動する場合は時間を要することと、変身したプルルートの方が敵が待ち構えても耐えきりやすいからだ。

もちろん、ラグナもそれを全て把握した上で承認する。正直言って、兵士が大量に待ち構えていたら自身は即時にやられてしまう可能性が高いからだ。

 

「じゃあ、行ってくるわね」

 

「ああ。頼む」

 

プルルートが一言入れてから堂々と入っていくのを確認した後、ラグナは兵士たちがプルルートが入って来て慌てているのを利用して中に入り、上から強襲できるように準備しておく。

 

「お、おい・・・アレって・・・!」

 

「・・・嘘だろ!?もう二人目の女神が来たってのか!?」

 

中に入って見れば、何やら兵士たちが非常に慌てている様子を見せていた。

二人目の女神。恐らくはノワールがすでに入っているのだろうか?プルルートはそう考えた。

 

「ど、どうすんだ!?戦力が足りなすぎるぞ・・・!」

 

「と、とにかく迎撃だ!ここを抜けられたら俺たちに勝ち目が無くなる!」

 

「あら、気が早いのね・・・」

 

兵士たちは動揺が残るまま、機関銃の掃射を始める。

プルルートは一瞬だけその早とちりな行動に驚きこそすれど、即座に蛇腹剣をその場で振り回し続けて弾を弾いて行く。

幾ら並みの人間より圧倒的に頑丈な女神でも、無防備のままその銃弾を浴び続けるわけにはいかないのである。

しかし、兵士たちの抵抗は長くは続かず、彼らの背後に降り立ったラグナが一人ずつ剣の峰を使って殴りつけることで気絶させていく。

兵士たちが次々と倒れ、最後の一人になったのを確認したラグナは彼の視界に剣を割り込ませる。

 

「な・・・!」

 

「そこまでだ。もう戦う必要はねえ」

 

一瞬だけ反抗を試みようとした兵士だが、どちらかに銃を向けた所でもう片方に弾き飛ばされると言う未来が予想できたので、大人しく銃を捨てて両手を上げた。

 

「うん。素直でいい子ねぇ♪ちょっと聞きたいことがあったんだけど・・・。アタシ以外にもう一人女神がいるって言ってたじゃない?それが誰だか解る?」

 

予想と正解が必ず同じとは解らないので、プルルートは一応確認を取ることにした。

できれば施設のことも教えてもらいたいが、最悪は強引に突破するだけなので余り気にしていなかった。

 

「あ、ああ・・・ラステイションの女神が来てるぞ・・・」

 

兵士が震え声で答えたので、ラグナとプルルートはやはりかと納得した。

彼女がこちらに来ているなら、そちらの対応で手一杯になってしまうのだろう。それ故に見張りすら減らす必要があったのである。

 

「後、イエローハートのシェアの源がどこにあるか知ってたりするか?」

 

「・・・確か、ここから奥に進み続けた先にあったはずだ。俺は一兵卒だからそこまで詳しいことは知らないが・・・」

 

「いや、それが聞ければ十分だ」

 

兵士は足りないかも知れないと思っていたが、ラグナからすれば大方の場所さえ教えてもらえれば十分なのである。

こうなれば残りは乗り込んでその場所に辿り着き、原因となるものをどうにかするだけだった。

 

「あんまり長引かせる訳にはいかねえし・・・急ぐか」

 

「ええ。早いところ終わらせてちゃいましょう」

 

ラグナたちは短い時間で話を決め、すぐに突入を始めた。

しかし、いざ入ってみたものの、兵士たちの姿が全くと言ってもいいほど見当たらないような状態だった。

 

「誰もいないわねぇ・・・?」

 

「ノワールが先に入ってたし、それのせいなんじゃねえのか?」

 

考えられることとすれば、ノワールが先に到着しているので、突入したノワールがこちらで戦闘を行ったことが挙げられる。

しかし、戦闘が起こっていたのなら、もう少しこのエリアが荒れていても良かっただろう。二人はそう感じていた。

その状況に怪しさを感じたラグナたちはより慎重に進んでみるが、結局兵士たちを見つける事無く先程兵士から聞いた場所に辿り着いてしまった。

 

「・・・マジかよ。誰もいないままここまで来ちまったぞ・・・」

 

「信じられないくらいに楽だったけど・・・何か算段でもあるのかしら?」

 

流石にここまで楽に来れてしまえば罠の一つや二つは疑いたくなる。

しかしながら、ここで待っていてもいずれは見つかる危険性がある上、少しでも早く戦いを終わらせるなら行くのが吉だろうと二人は考えた。

 

「取り敢えず、入って見なきゃ始まらねえな」

 

「ええ。それじゃあ・・・」

 

二人は短くやり取りを済ませて正面にあるドアを思い切って開け放つ。

その部屋には何やら巨大な電子画面とその下にコンソールだけがある部屋で、残りは何も無かった。

また、その部屋ではノワールとリンダが既に入っていて調査を行っていたらしく、ラグナたちが部屋に入った瞬間、二人はビクリと反応をしながら勢い良くこちらへ振り向いた。

 

「はぁ・・・。あなたたちだったのね・・・」

 

「良かった・・・また兵士たちが来たのかと・・・」

 

どうやらこれまで兵士たちを撒きながらここまで来ていたらしく、味方が来たと分かって安心したようだ。

 

「そういや、リンダはどうしてここに来たんだ?お前は戦いに干渉してなかったはずだろ?」

 

「あはは・・・流石に怪しかったから、調べれば助けになれると思ったもんで・・・」

 

ラグナが単純に気になって聞いてみると、リンダは頭を掻きながら苦笑交じりに言う。

自分でもどうしてここまで無茶をしたのだろうかと言いたくなったくらいである。

 

「でも、実際彼女には助けられたわ。お陰で私は別の入り口から入ることができたのだから」

 

「なるほどねぇ・・・」

 

―だからノワールちゃんと合流できなかったし、あそこまで施設が綺麗なままだったのね・・・。プルルートはそれで納得できた。

それならばあの施設の綺麗さにも説明が付いた。

 

「あっ、そうだ。恐らくこの部屋に無理矢理シェアを集めている装置があると思うんだけど、探すのを手伝って貰えないかしら?」

 

ノワールに頼まれたことで、ラグナとプルルートも部屋の調査を始める。

しかしながら、周りに何も無いので、どこにそれがあるかを探すのはかなり至難の業だった。

 

「見当たらないわねぇ・・・?」

 

「・・・いや、こういうのは一見したらわかりづらいところに隠してあるはずだ・・・」

 

プルルートが困ったように言うと、ラグナは答えながら壁辺りを探してみて、一つだけ脆い部分があることに気が付き、そこを蹴り飛ばして見る。

すると、底には巨大な黄色い球体が浮かんでいた。

 

「こいつが・・・さっき言っていたやつか?」

 

「ええ。恐らくはそれがシェアの収集装置よ」

 

「なるほど・・・それなら後は決まりだな」

 

ラグナが驚いているところをノワールが確認すると、間違いなくそれだと確信した。

その話を聞いたラグナが剣を引き抜いて構えるのを見て、ノワールとプルルートも戦闘ができる姿勢に移行した。

 

「じゃあ、同時に行くわよ?」

 

ノワールが二人に確認を取ると、二人は迷うことなく頷いた。

 

「よし・・・せーの・・・っ!ええいっ!」

 

「そぉれっ!」

 

「うぉりゃッ!」

 

三人が同時に武器を振るって球体に攻撃するも、ダメージらしきものを全く与えられず、球体にはなにも変化を見られなかった。

 

「あら?凄く元気そうねぇ・・・」

 

「嘘?効いてないの・・・?」

 

「ちょっと調べてみるか・・・」

 

全員が驚くものの、その中で最も驚きから復帰の早かったラグナは球体を調べ始める。

これが特殊な方法で強化をされているなら、『イデア機関』で無理矢理破壊する必要があった。

 

「ああ・・・これはめんどくせぇ構造してるな・・・」

 

そして、調べた結果は案の定術式を用いた特殊強化であった。

その為、ラグナは『イデア機関』を用いて破壊することを決めるのだった。

 

「ちょっと下がっててくれ・・・『イデア機関』を使って強引に破壊するわ」

 

「了解よ。さ、あなたもこっちに」

 

「あっ、はい!」

 

強引に破壊する以上何が起こるかわからない。その為ラグナは全員に一度距離を取るように頼む。

それを聞き入れたノワールはリンダを連れて距離を取り、プルルートも彼女を守れるよう、ノワールに付いていく形で距離を取った。

 

「よし、行くぞ・・・!第666拘束機関解放、次元干渉虚数方陣展開・・・!『イデア機関』接続ッ!『蒼炎の書(ブレイブルー)』・・・起動ッ!」

 

そして、全員が距離を取ったのを確認したラグナは、右手を腕の高さまで持っていき、『蒼炎の書』を起動する。

起動を完了させたラグナはそのまま右手を後ろに引きながら、血のような色をしたエネルギーで巨大な手を作り上げる。

「行くぞぉッ!闇に喰われろッ!」

 

ラグナはその右手を球体に押し当て、作り上げた腕から無数の斬擊を球体に送りつける。

『イデア機関』を併用したその攻撃によって、球体は少しずつ光が激しくなってきており、それが崩壊の始まりを教えていた。

 

「これで終わりだッ!」

 

最後にラグナが右手を引きながら作り上げた手を爆破すると、誘爆するように球体も光を広げる。その広がってくる光の勢いが非常に強く、全員が思わず顔を覆って視界を防ぐ。

そして、その光が消えるとそこに球体は残っておらず、球体は消滅したことを知らせていた。

また、巨大な電子画面が全て電池が切れたように真っ暗になっていたので、同時にこの施設の機能が死んだ事を表していた。

 

「消えた・・・のか?」

 

ラグナはハッキリとしないような感覚に困惑するも、今までの経緯からモンスターのように消えたのだと考える。

その理由として、今までも大型のモンスターは顔を覆いたくなるような光の爆発を起こし、消滅していったからなのと、テルミらが前哨戦と言っていたからこれ以上厄介なものは無いと踏んだのだ。

 

「どこかへ逃げられた・・・?」

 

「そんな事は無いわよ?少しずつだけど、力が湧いてくるような感じがするし・・・」

 

「あっ・・・言われてみればそうね。・・・それなら、後は時間が立てば洗脳じみたものを受けた国民も元通りね」

 

一瞬逃げられた事を考えたノワールだが、プルルートの言葉でその疑問は払拭された。

エディンは無理矢理シェアを集めていた以上、その装置が壊れれば集めていたものが無くなる。そうなれば、後は時間経過で全てが終わるのだった。

 

「そうなれば、後は戻って国民たちの確認ね・・・」

 

「後は、ネプテューヌが上手くやれてるかだな・・・」

 

国民たちの状態も確かに気になる物の、こちら側の最大の目的はピーシェを取り戻す事にあった。

その為、いくらこの戦いに勝てたと言えど、ピーシェを取り戻すことができなければ意味がないのである。

 

「じゃあ、アタシと行きましょうか。ネプちゃんのこと、丁度気になっていたし」

 

「悪い。頼むわ」

 

「じゃあ、あなたは私が安全な場所まで運ぶわ」

 

「すみません。ありがとうございます」

 

ネプテューヌのことが気がかりになったラグナとプルルートの二人が彼女たちの場所まで行くことになり、ノワールがリンダを連れて安全圏への牽引が決まった。

ちなみに、ノワールにはリンダへの感謝もあるので、安全圏に運ぶ以外のお礼を考えているのだが、それをするためにもまずは全員で生きて帰り、戦争をどうにか終わらせる必要があった。

 

「じゃあ、急ぎましょう」

 

ノワールの一声に全員が頷き、そのままこの施設を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

「あぐ・・・っ!」

 

 

崖の方まで移動していたネプテューヌとピーシェの戦いは、ネプテューヌの完敗一歩手前な状況に陥っていた。

ラグナたちが大砲施設にいる最中、あの後もネプテューヌはピーシェに殴られ続け、顔に幾つか青くなった跡が見えていた。

そして今、あれだけ耐え続けたネプテューヌも、女神化したピーシェの圧倒的な攻撃力には耐えきれず、とうとう地面へ仰向けに倒れてしまったのだ。

 

「・・・もう終わりなの?もう、もっと楽しくなると思ってたのになぁ~・・・」

 

ネプテューヌの近くに降り立つピーシェはがっかりそうに言う。

ピーシェとしては姿を変えて遊び方も変えてくれるからどんなものかと楽しみにしていたのだが、まさかの先程より詰まらなくなるとは思っていなかったのだ。

そして、その決着が付きそうな現場の少し離れた場所にレリウスとテルミは転移魔法でやってきた。

 

「どうやら間に合ったようだな・・・」

 

「オイオイ・・・アレ終わりそうだぜ?本当にいいのか?」

 

「此れで良い。後は、此処からの覆しだ・・・」

 

もう決着がついてしまいそうな状況を見たテルミが問いかけるも、レリウスは問題無いという以上テルミはそれを信じることにした。

実際の話、ピーシェはどの道この戦いが終われば斬り捨てるもそのまま使い倒すもどちらでも良かった。もし、彼女たちの下に帰るのなら、それでも一向に構わないのだ。

 

「もういいや。もうあきちゃったし、帰ろっか・・・。あ~あ~・・・もっといい遊び相手いないかなぁ~?」

 

ピーシェもそんなネプテューヌをボコボコにするという遊びに飽きてしまい、飛び去ろうと彼女に背中を向けた瞬間、何かに右肩を掴まれた。

 

「っ!?」

 

「まだ終わらないよ・・・。ほら、攻撃しておいで・・・!」

 

「もう・・・つまんない人はいやだよ!」

 

いきなり何者かと思って振り返ってみれば、そこにはフラフラしながらも立って挑発してくるネプテューヌがいたので、別の場所に行きたいというのに邪魔してきた彼女に嫌悪感を感じ、ピーシェが右手で殴りつけようとすると、ネプテューヌは体を潜り込ませることでそれを避けて見せた。

 

「それっ!」

 

「え・・・?」

 

そのままネプテューヌが右足による回し蹴りをピーシェに当てて見せた。

女神化したことによって身体能力が大幅に上がっている建て前上、平時の姿で行ったネプテューヌの攻撃では一切ダメージが入らなかったものの、これが契機でピーシェの脳裏には今の彼女と同じ姿をしている人との楽しい時間が思い起こされた。

その人物は正しく、今目の前にいるネプテューヌなのだが、それが誰なのかが今のピーシェには分からず、頭を痛めて呻くことになった。

 

「・・・嫌い!」

 

「っ・・・!」

 

どうして彼女が思い浮かんだかが解らないが故に、ピーシェはネプテューヌへ嫌悪感を剥き出しにして殴りつける。彼女を倒せば頭を痛めないで済むと考えたからだ。

当然武器が無くても女神化した恩恵はすさまじく、ネプテューヌは簡単に地面へ倒れ込んでしまった。

ネプテューヌが起き上がろうとした時も、起き上がるよりも前にもう一度殴りつけ、少しの間連続で殴るものの、頭の痛みは増していき、それどころか彼女への罪悪感すら湧いて来たのだ。

また、心なしか自身に湧いてくる力が急激に少なくなってきているような気がしていた。

 

「・・・ふむ。どうやら決着のようだな」

 

ピーシェの魂に変化が起きたので、レリウスは大方の流れに察しを付けることができた。

そして、レリウスの予想した通りピーシェは段々と殴りつけるペースと力が弱まっていき、遂に変身が維持できなくなって本来の姿に戻ってしまった。

 

「う・・・っ・・・うぅ・・・っ!」

 

「謝りたいの?」

 

すすり泣きの声が聞こえたのでネプテューヌが問いかけると、ピーシェは力なく頷いた。

 

「ぴーこは覚えてないかも知れないけど・・・そういう時は、ごめんなさいって言うんだよ」

 

ネプテューヌに言われたピーシェは、前にも同じことを言われた事があるのを、自分がこうなる前に彼女を大きく心配させてしまったことを思い出した。

しかしながら、そう教えてくれた人が目の前にいるのに名前を思い出せないでいた。

 

「ごめんなさい・・・っ!ごめんなさい・・・っ!うわあぁぁぁ・・・っ!」

 

「よく言えたね・・・。次はもうダメだからね?」

 

だからこそ、ピーシェは二重の意味を持って、泣き崩れながらネプテューヌに謝るのだった。

そして、ネプテューヌも言えたことが大事だと考え、彼女を優しく抱きしめながら背中をさすってやる。

その温かさが嬉しく、ピーシェは声を上げながら大泣きするのだった。

 

「成程。此の様な結末も、悪くはない」

 

結末を見送ったレリウスは満足そうにしながら仮面のずれを直してから、用は無くなったと言わんばかり体を後ろへ翻した。

 

「・・・?もう行くのか?」

 

「ああ。必要なモノは全て揃った・・・後は完成へ漕ぎ着けるとしよう」

 

「そうかい。じゃ、続きは次回へお預けだな」

 

レリウスの回答に納得したテルミはレリウスについていき、転移魔法でこの場を後にした。

少しした後、ピーシェは泣き疲れたことで眠ってしまった。

 

「どうにかなったぁ・・・」

 

それを見たネプテューヌも安心して脱力していた。ここに今誰かがいたなら、それすら許されなかっただろう。

ボコボコに殴られていた時はもうダメかも知れないと思っていたが、助けられたのだから諦めないことは大切だなとネプテューヌは感じていた。

そう考え事をしていた時に、ラグナを牽引しているプルルートがこちらにやってきていた。恐らくはこちらのことが気がかりになっていたのだろう。

 

「どうやら無事に終わったみたいだな・・・」

 

「うん。どうにかなったよ」

 

「ネプちゃん、顔の方大丈夫?」

 

「あはは・・・。後でコンパとセリカちゃんに頼んでおくよ・・・」

 

プルルートの言う通り、流石に女の子の顔が痣だらけなのはいただけないので、早急な手当てが必要だった。

しかし、何がともあれピーシェを取り戻すことはできたので一安心である。

 

「あっ、ネプちゃんも一緒に運んだ方がいいかしら?大分疲れてそうだし・・・」

 

「ああ・・・そうしたいのは山々だけど、ぴーこを運ばなきゃいけないから・・・」

 

プルルートの申し出を断りながら、ネプテューヌは再び変身する。

とは言え変身した時の美貌も、今回は顔に痣が浮かび上がっているので台無しに近い状態になっていた。先程受けていたダメージが大きすぎるのだろう。

 

「取り敢えず、戻るまでは頑張ってみるわ」

 

「分かったわ。じゃあ、アタシはネプちゃんが落ちないように見ててあげるわね」

 

「ええ。ありがとうぷるるん」

 

万が一ネプテューヌが力尽きてしまったら大変なので、プルルートは彼女の付き添いを選んだ。

 

「じゃあ、俺は誰かに運んで貰うから、お前らは先に行ってな」

 

「ええ。もし誰も来なかったらその時はアタシが迎えに行くわね」

 

「助かる。ならまた後でな」

 

「ええ。ラグナ、今回は本当にありがとうね」

 

「さ、ネプちゃん体痛めてるし、早く行きましょう」

 

そうなるとプルルートに運んで貰う訳にはいかないので、ラグナは一度誰かの迎えを待つ事になった。

そして、ピーシェを連れて帰っていく三人を見送ったラグナは術式通信で連絡を入れてみるのだった。

この後ラグナはリンダを運び終えていたノワールに回収してもらい、無事プラネテューヌに送り届けて貰うのだった。

こうして、四ヶ国とエディンとの戦いは僅か一日で終結することとなり、洗脳されていた国民も元に戻り、今回の騒動も怪我人は多かったものの、双方犠牲者が極めて少ない状態で終結となった。




どうにかエディンとの戦いに決着を付けることができました。

戦闘シーンはアニメ3~5話の部分をやっていた時と比べて非常に簡素なものとなっていますが、その部分を書いていた時の文字数が多すぎたせいで読み手が読むのに疲れたり、読みづらいと感じているかも知れないと考えた結果、この章の戦闘シーンは全体的に簡単目になっていました。
もし、前の章の方が良かったと思う人は言っていただければと思います。

次回にアニメ10話を完結させることで、この章も完結となります。


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54話 探し求めていた真実

これでアニメ10話分が終結します。


「大変だったね・・・他に痛む所はあるかな?」

 

「意外と他のところはそうでもないんだ・・・。取り敢えず、顔を優先して欲しいかな。結構痣が酷くて・・・」

 

「うん。それじゃあもうちょっとだけ我慢しててね?」

 

「分かった・・・」

 

戦争が終わった夜。プラネタワーに戻ったネプテューヌはセリカとコンパについてもらって治療を受けていた。

まず初めにセリカが可能な限り治癒魔法で痣や傷を減らしていき、その後コンパが治療用具で手当をすることになっている。

何しろ女の子の顔が傷や痣にまみれている姿は目によろしくないので、全員が『時間になるまで可能な限り直してもらえ』と口を揃えて彼女に言ったのだ。

久しぶりに治癒魔法を使う事になったセリカだが、その腕前が衰えている事など一切なく、ネプテューヌの顔にある傷は少しずつ、確実に治っていく。

しかし、セリカの治癒魔法を持ってしても、この短時間でネプテューヌの傷を全て治しきることは叶わなかったのである。

 

「ああ・・・これでもこんなに残っちゃうかぁ・・・。ごめんね?本当はもうちょっとだけ治療してあげたかったんだけど・・・」

 

「ううん。そんなことないよ・・・私が喰らい過ぎちゃったからさ・・・」

 

治癒魔法に使える魔力自体は暗黒大戦時代の時と同じくらいの量を使えるセリカだが、それでもネプテューヌの受けたダメージが大きすぎた。

それを見て申し訳ない気持ちになるセリカだが、そもそも自殺行為に近いことをしていたネプテューヌは彼女を責める事無く、治療してくれた事に感謝する。

 

「じゃあ、後はこっちでお手当するですから、セリカちゃんも今のうちに休んでおくです」

 

「うん。それじゃあ、準備が終わったら知らせにくるね」

 

セリカにできることはここまでなので、残りはコンパに任せてセリカは部屋を後にした。

それを見送ったコンパは救急箱を開き、傷に効く薬と痣を隠せる大きさをしている湿布を用意し、ネプテューヌへの手当を始める。

 

「ねぷねぷ・・・今日はお疲れ様ですぅ」

 

「ありがとうコンパ。そう言って貰えるだけで気分が楽になった気がするよ・・・」

 

実際ネプテューヌの返答は本音だった。

今回の戦いは相手の宣戦布告に乗じてピーシェを取り戻す為のものであり、それの主導となるネプテューヌにある役割の重要性と危険性の大きさは他人の比では無かった。

故に精神的な疲労と肉体的な疲労が共に大きく、他の誰よりも疲労をしていたのである。

ちなみに、今夜はプルルートが探していた人物がピーシェであることが判明したので、どうやって連れ帰るかを話すことになっている。

今回ばかりはネプテューヌは寝て休んでいても良いと言いたかったのだが、ラグナとネプギアの二人が戻る手立てに心当たりを持っており、しかも『少女』のことが関係しているかも知れないと言われたので、流石にそれはおちおち寝ている訳にはいかなかった。

それ以外にも、ネプテューヌには少しだけ悲しいことがあった。

 

「ピーシェちゃん・・・記憶戻らなかったですね・・・」

 

悲しいこととは、ピーシェの記憶が戻ってないことにある。

ピーシェが今持っている記憶は、レリウスらに操作を受けた後のものになっており、今の彼女に自分たちの記憶はないのである。

一応、望みある情報としては、ネプテューヌを見ると自身の頭を痛めるようで、恐らくは記憶の奥底にネプテューヌのことは残っているようだ。

 

「後は何かいいものがあればいいんだけどなぁ~・・・」

 

「ねぷねぷならきっと見つけられるはずですぅ♪」

 

そうなればピーシェの記憶に訴えられるものを探すだけであり、それならば何も心配ないだろうとコンパは満面の笑みを見せた。

信頼してくれるのはいいのだが、それはそれで大きなプレッシャーを与えられたとネプテューヌは一瞬だけ苦い顔になった。

 

「さて、これでお手当は終わりですぅ。後はお身体を大事にするですよ?」

 

「ありがとうコンパ。今日はゆっくり休むよ・・・って言いたいけど、まだ大事なお話があるんだったね・・・」

 

コンパの言ったことには応えたかったネプテューヌだが、今日は今後のことについて話さなければならないので、仕方ない面はある。

その為、疲労を回復するための安眠は暫しお預けとなった。そんな事を知って少しだけ悲しくなったところで、ドアのノック音が聞こえた。

 

「二人共~、準備終わったみたいだよ~」

 

「はーいっ!それじゃあ行こっか。手当てありがとね」

 

「怪我したときはいつでも言ってほしいですぅ♪」

 

声の主はセリカで、準備が終わったことを教えてくれた。

その為、二人は部屋を後にして移動することになったが、この時コンパの言葉を聞いたネプテューヌは、怪我のし過ぎは良くないが、気持ちはありがたいと感じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

『・・・『蒼の門』があった!?』

 

食事を取りながら今後のことを話すという手筈になったが故に、ラグナとネプギアから最初に来た重大告知を聞いた全員が驚くことになった。

何よりも重要な話として、この世界に『蒼の門』が存在するのが判明したのと同時に、プルルートとピーシェを元の世界に送り返す手段が確立されたことにある。

今回最も重要なこととしてはプルルートとピーシェを送り返す事にあったので、こちらが解決できたのは大きいが、もう一つ驚かされることがあった。

 

「良かったぁ~。こっちにも(・・・・・)『門』があったんだねぇ~♪」

 

『・・・えぇっ!?』

 

プルルートのまさかの発言にピーシェとネプギアを省くゲイムギョウ界組全員が声に出して驚いた。

異世界組の人たちも、実物を見ていないので驚く事には驚いているものの、声に出して驚く程でも無かった。

 

「実際、俺もこっちへ来るときは『門』を使って来た訳だし、そこまで不思議にはならねぇな・・・」

 

「そうですね・・・私も、あってもおかしくないと思える・・・いえ、あって当然(・・・・・)とすら思えてしまうんです」

 

ただし、ラグナとネプギアだけは全く持って驚く様子を見せず、それどころか納得している様子だった。

それもそのはずで、ラグナからすれば『蒼の門』を渡ってきた以上この世界にあってもおかしくないと考えるし、ネプギアは自身の中にいる『少女』との密接さがそう感じさせているのだ。

それ故に、この二人は他の人たち以上に、『蒼の門』については至極あっさりと受け入れることができたのだ。

 

「プルルートが『門』を使ってこっち来たってことは・・・こないだ話してた『大女神様』ってやつか?」

 

「あったり~♪特別に使わせて貰ったのぉ~♪」

 

ラグナの問いにプルルートは笑顔で答える。

この時、プルルートの様子を見たラグナは、向こう側のゲイムギョウ界で『蒼』を持っているのはその『大女神様』とやらで間違いない事を確信した。

自分も『蒼の守護者』としている建て前もあり、その人も同じ立場であることも自然と理解できていた。

 

「取り敢えず、これで帰る手段は見つかった・・・ってことで良いんだよな?」

 

「後は、皆が選ぶだけ・・・」

 

帰る手段が一先ず確率されたので、ナオトは一安心した。

更にはラムダが言った通り、今すぐに帰らなければならないと言うわけでもないので、心残りがあるなら忘れないようにすることもできるのだった。

 

「ま、まあこの際『門』のことは納得するしかないとして・・・残りはあの同盟が無事なのと、前々言っていた『女の子』の事よね・・・」

 

『門』のことに関しては不明瞭な事が多いので、ノワールもこれ以上の追及は避けるように他の内容を振ってみた。

実際、マジェコンヌらは無事である為、今後何かしてくる確率は非常に高いし、ネプギアの中にいる『少女』のことも、いい加減納得させたかった。

 

「あいつらがまたすぐに動くとは思えないけど・・・妙に怪しいのよね」

 

「確か、引き上げるのがらしくないくらいに早すぎたんだっけ?」

 

《彼らにしては潔すぎるのかしら・・・?前回は本当にダメになるまで戦っていたけれど・・・》

 

ブランが現状を言い出して、ナオトとラケルが同意に近い反応を示す。

前回のズーネ地区は途中まで自分たちが有利を取り続けていたので最後まで戦ったのかと思うが、果たして全員と協力しあえて、一人一人が冷静な判断を下せるあの同盟にそれはないだろうと思った。

ズーネ地区の場合はシェアエナジーの共鳴やセリカの力等、突然自分たちが恐ろしく不利になる状況に追いやられたが故に引けなかったのだろう。そうでなければ、彼らは危険になるよりも早く後退を済ませるはずだった。

 

「今回はレリウスが現れたと言う報告を一度も聞いてないから、もう既に準備を始めている可能性が高いわね・・・」

 

「私は二つの国を見たが、どちらにも奴の姿は無かった」

 

「そう言えば、プラネテューヌでも確認はできなかったわね・・・」

 

ナインの危惧は正しく、ハクメンとアイエフの報告を聞き、自分の見た情報と照らし合わせてもレリウスは姿を現していなかった。

 

「そうなると、どこかで『観察』していた可能性が極めて高いですね・・・」

 

「か、『観察』する場所ってまさか・・・」

 

ノエルの言葉にネプテューヌは心当たりがあって顔が青くなる。

レリウスが見たことがないものとして、女神同士の戦いが挙げられる。そうなれば、今回女神同士で戦っていたのは自分たちしかいない為、場所は自然と絞られたのだ。

 

「あぁ・・・見つけていれば止められたかも知れなかったのにぃ~・・・」

 

「ま、まあ・・・今回は状況が状況ですから・・・」

 

ネプテューヌは落ち込むものの、ピーシェの救出に手いっぱいだった彼女をイストワールも責めることはしない。

ここでネプテューヌを責めようものなら彼女は鬼か何かだろう。無論、イストワール自身にそんなつもりは一切無いのだが。

 

「取り敢えず、何か怪しいことがあったら調べる。それしか無さそうだね・・・」

 

ケイの言ったことは本当で、こればっかりは各自で調べる以外道は無さそうであった。

そして、これ以上は話すにもどうすることもできないので、残りは『少女』のことに回る。

 

「その事なんだが、『門』のあった場所に一個棺が置かれててな・・・間違いなくそこにいる」

 

「・・・一応聞いておくけど、その理由は?」

 

「そうだな。話すとちょっと長くなるが・・・」

 

ナインに理由を問われたので、ラグナは今までの洞窟やネプギアと『少女』の関連性などを話していった。

極めつけだったのが、ラグナが以前一人で洞窟に向かった時の出来事であり、それによって彼女がそこにいることを端的に示していたのである。

 

「そうなると、明日辺りにでも行ったほうが良さそうですね・・・」

 

「でも、人が多すぎると大変では無くて?」

 

ミナとチカが言うことも最もで、プルルートがこれ以上元の世界を離れていると、彼女の持つ国が危険なのでそろそろ戻らなければならない。

その為、なるべくすぐに行くのが望ましいのだが、全員で行くと元々の狭さもあってダメなのではないかと考えられていた。

 

「一応、一番奥の扉の中に入っちまえばその先は広いから平気だ。ただ、それまでの道中が面倒なことになるってのは覚えといてくれ」

 

ラグナの言葉にはネプギアも頷く。

こうして、実際に一番奥まで見てきた二人の証言のおかげで、全員の選択肢は決まったも同然になる。

 

「それなら、明日全員で行こう。やっぱり、こういうことは全員で知っておかないと・・・」

 

ネプテューヌがそう提案すると、全員が頷いて肯定の意を見せてくれた。

これによって、明日がどうするかはすぐに決まり、今後のことに関しては話すことが終わったので、残りは食事を取りながら談笑などをし、明日に備えてしっかりと休息を取るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「(とうとうこの時が来たか・・・)」

 

翌日、『ムラクモユニット(彼女)』たちに全員がこの場を荒らす存在でないことを告げて洞窟の最奥部まで進んできた。

この門の存在により、異世界組の人たちも帰るかどうするかを選ぶことができるようになったので、この発見は何よりも大きいものとなる。

 

「色々あったけど・・・これでネプギアのことにひと段落付きますね・・・」

 

「じゃあ、これからはずーっといつも通りでいるのかな?」

 

「・・・もう変わったりしない?」

 

「多分ね・・・」

 

候補生たちからすれば、友人の身に異変が起きてからずっと気がかりにしていたことなので、その安心感は多いだろう。

もちろん、姉であるネプテューヌも彼女たちと同じくらいに心配していたのに変わりないが、当時は変身ができないが故に姉の手伝いができない劣等感などもあり、精神的に未熟さの目立つ彼女らはそれが顕著だったのもあるだろう。

三人の声を聞いたネプギアもなるべく彼女たちに応えようと返したが、正直言って自信は無かった。

ズーネ地区での騒動が終わって以来、自由に交代できるようになってはいるのだが、『少女』と完全に魂が一体となった時、果たして自分の人格が残っているかどうかが分かったものでは無かったからだ。

 

「ラグナよ・・・悠久の旅路を終えた私に続き、御前の答えを求める旅路に決着を付ける時だな」

 

「ああ・・・。これで、俺の求めていた真実が全て分かる・・・」

 

ハクメンはこの世界で、本来とは全く違う形で己の宿命に決着を付けている。

今まで戦いの中でしか決着を付けられないと考えていたのに、『救済』と『和解』と言う真反対に等しい二つの方法で終わらせることになるとは誰が想像しただろうか?ラグナですら、ハクメンと和解で決着を付ける日が来るとは思って無かったのである。

そして、ネプギアの変化が大きくなってきた時からどうにかして知りたいと思っていた『少女』のことにも、これで決着が付くのだった。

 

「さて、入らなきゃ話になんねえから取り敢えず開けるとするか」

 

「はい。それじゃあ・・・」

 

ラグナとネプギアは二人して扉の前に立ち、以前と同じように扉を開けて見せた。

扉が開いた先には、以前と同じように広い空間が広がっており、中に入る度に多くの人が驚きの表情を見せた。

例外的に驚いていないのは、自分のいた世界で裏事情に詳しかったハクメン、ナイン、ラケルの三人と、始めて来たのに自然と納得できてしまうノエル、ラムダ、ニューの三人。そして、実際に門を目の当たりにしているラグナとネプギア、別のゲイムギョウ界で実物を見たプルルートの三人で、合計九人であった。

 

「アレが『門』だ・・・お前ら、帰るんだったら後で俺に言ってくれ。その時に俺が開けてやる」

 

「ああ。分かった」

 

ラグナに言われて真っ先に答えるナオトだが、正直なところ迷っていた。

何しろ、マジェコンヌやテルミらの同盟が残っているので、それをほったらかしにして良い気がしなかったのだ。

 

「あっ、繋がりました・・・。そちらは準備できていますか?」

 

『はい。後は皆さんのお話が済んだならこちらで移動のアシストを行います(^^♪』

 

イストワールが向こう側のイストワールに確認を取ると、もう既に準備はできているようだ。

こうなればいよいよ後は棺を開けて、その中の正体を知るだけである。

ラグナが一度振り返ってみれば、全員がもう覚悟を決めている様子なのが伺えたので、すぐに開けることを決めた。

 

「(今まで、『あいつ』のことは全く他人のような気がしなかったけど・・・これで全部が分かるんだな・・・)」

 

思ったよりも短かったような、長かったようなそんな時間に思い出しながら、ラグナは棺に右手を添えて一泊置いた。

この一泊は自身に決意を決める為の一泊で、これを入れた事によって、ラグナは嫌でも自分が迷っていたことを自覚する。

元の世界ではサヤを助ける為に必死だったからこそ、そのことに関しては迷わなかったので、尚更それを実感することになった。

 

「よし。開けるぞ・・・」

 

開け方自体は一度も聞いたことの無かったラグナだが、扉の時と同じ開け方をすれば良いと言うのを感じ、そのまま右手に意識を集中させた。

すると、棺の蓋になっている部分が蒼い光で覆われて、時間が経つに連れて光となりながら少しずつ霧散していき、中身が姿を現した。

そしてその中身の正体に、ラグナとセリカが他の誰よりも息を吞む結果となった。

 

「ら、ラグナ・・・これって・・・」

 

「ああ。間違いねぇ・・・サヤだ」

 

『・・・!?』

 

棺の中には金色の髪をしたノエルと瓜二つな少女が眠るような表情でそこにいた。

流石にこればっかりは、向こうの世界で裏事情を知っているナインやハクメンですら驚くこととなった。

 

「(あん時は悪いことしちまったな・・・)」

 

ナオトは一人、『エンブリオ』で互いに妹の名前が被っていることに気が付かず騒ぎを起こしてしまったことに申し訳なく感じた。

確かに、互いに事情を把握しないままであれば、たまたま互いの妹が同じ名前であるなど気がつかないだろう。

そして、そんなことを考えている内に、少女は棺が開けられたことで周りの変化を感じたのか、ゆっくりと目を開け、エメラルドグリーンをした綺麗な瞳を覗かせた。

 

「あっ、兄さま・・・やっと会えた・・・」

 

「・・・!本当に、サヤなんだな・・・?」

 

少女の声と言葉を聞き、ラグナは思わず問い返した。

本当に、自分の妹と全く変わらない声、変わらない姿形であるのだ。彼女の姿は、『あの日』の惨劇が起こる直前の容姿をしている。

 

「・・・はい。サヤはここにいますよ。兄さま・・・」

 

少女が満面の笑みで答えたのを見て、ラグナは目の前にいるのはサヤで間違いないと確信する。

また、サヤだと分かったのは良いが、一つだけ気掛かりなことはあった。

 

「(そういや、あの時『ずっと一緒だって』言ったけど・・・アレはどういう意味だったんだ?)」

 

ラグナはそれだけが非常に気がかりであった。

第一接触体(サヤ)』を助ける時にそう言ったのだが、ゲイムギョウ界に来てからは彼女と一緒にいた事など一度も無かったからだ。

しかし、それは今聞かなくとも落ち着ける場所で聞けば良いだろう。ずっとここで身体を動かさないでいたのだから、そもそもまともに動けるかどうかが心配ではあるが・・・。

 

「悪かったな。ずっと待たせちまって・・・動けるか?」

 

「・・・・・・」

 

ラグナがサヤに手を差し伸べるものの、彼女はその手を目で追うだけで、そこから先をしようとしなかった。

 

「・・・サヤ?」

 

「・・・ごめんなさい兄さま。私、この体だとここから出られないの・・・」

 

「え・・・?」

 

サヤから返ってきた言葉にラグナは思わず動揺してしまった。

理由はどうであれ、サヤは今の体のままでは自由に行き来ができないのだという。

 

「私は、どうすればいいかな?」

 

彼女の様子から大方察しが付いたネプギアがサヤのすぐ傍まで歩み寄って問いかける。

恐らくは、ズーネ地区で共に戦うことを選んでからと言うものの、自分の殆どを『ネプギア(もう一人の自身)』に回してしまったので、動くことすらままならないのだろう。

その為、自分が手助けをすれば解決できるための手段があるはず・・・ネプギアはそう踏んでいたのである。

 

「それなら・・・私の手を握ってくれる?」

 

「分かった。手を握れば良いんだね?」

 

「・・・ネプギアっ!」

 

サヤに頼まれて彼女の力なく伸ばされた右手を掴もうとしたネプギアだが、ネプテューヌが直前の所で呼び止めたので、ネプギアはそちらを振り向く。

振り返ってみれば、ネプテューヌのみならず多くの人が心配そうにこちらを見ていたのである。

特にネプテューヌと女神候補生の三人、そしてイストワールの五人は彼女の身近にいることが多かったので、尚更ネプギアの事が心配だった。

 

「その・・・大丈夫なんでしょ?今のネプギアが消えちゃったりするわけじゃ無いんだよね?」

 

「・・・うん。そんなことは無いと思う」

 

ネプテューヌに聞かれて答えるネプギアだが、正直なところどうなるか解らないので、自分が一番不安だった。

どちらの人格が表立つのか?ネプギアとしての人格は消えてしまうのか?それは実際にサヤの手を握らなければ解らないのである。

しかしながら、ネプテューヌのみならず、全員を少しでも安心させるならそういうほかなかったのである。

 

「じゃあ、手を握るね・・・」

 

「うん。その後は私を受け入れるように強く思うの・・・。自分が残るように意識すれば、消えることはないから・・・」

 

「(自分が、残るように・・・)」

 

ネプギアは彼女の右手を、自分の右手でしっかりと握りしめてから、彼女に促された通りに意識しながら目を閉じる。

今思い返されるのは、始めてゲイムギョウ界で生を受けた日のことや、ネプテューヌにアイエフとコンパを紹介されて一緒に手伝いをしたこと。そして、ラグナがゲイムギョウ界に来て以来の出来事・・・。これらが自分の中に次々と思い起こされていた。

そして、一通り思い出して覚悟を決めたと捉えられたのか、サヤも動き出した。

 

「・・・!?」

 

「さ、サヤ!?」

 

サヤの体と残っていた棺の部分が蒼い光に包まれたのを見て、ラグナは目を見開き、セリカは思わず声を出す。

その光は一つの球体として集まってネプギアの中に収まっていく。自分たちにとって最大の問題だった事に決着が付くのは良いが、ネプギアの行く末が不安の余り、全員が祈るようにその光景を見守る。

また、ネプギアは光が収まっていくと同時に、サヤの記憶が自分の中に詰め込まれていくような感覚がした。

そして、光の全てが収まりきると、『ネプギア』はゆっくりと目を開いた。

 

「ネプ・・・ギア・・・?」

 

「だ、大丈夫なの?」

 

ネプテューヌとユニの問いかけは届いているらしく、『ネプギア』はゆっくりとそちらに顔を向ける。

 

「うん。私は大丈夫だよ。ユニちゃん、お姉ちゃん」

 

他人行儀では無く、自分のことをしっかりと姉として認識してくれているように返って来たので、ネプテューヌは少し安心感を覚える。

一応返答が聞けたのはいいのだが、聞いておかなければならないことは色々と残っている。

 

「なあネプギア。一つ聞きたいことがあるんだが・・・」

 

「はい。ええっと・・・」

 

ラグナに問われてい返事をした『ネプギア』だが、何かに迷っている様子だった。

普段から呼び方の全く変わらない他の人たちであれば問題無かったのだが、ラグナだけは自身が交代する都度に呼び方が変わっていたので、戸惑いが生じてしまったのである。

 

「まあ、呼び方は後で決めれば良い。それよりも、俺があの時、『これからはずっと一緒だ』って言ったのは覚えてるな?俺は・・・それをちゃんと守れてたかちょっと不安で聞きたかったんだ」

 

ラグナからすれば、『第一接触体(サヤ)』とそう約束したにもかかわらず、長い時間彼女と離れていたからこそ、それが不安でならなかった。

それは約束したくせにそれを守れなかった情けなさと、彼女に寂しい思いをさせていないかという不安があった。

 

「大丈夫だよ。こっちに来た時の時間にズレがあったからそう思うだけで、『ネプギア()』と兄さまはちゃんと一緒にいたよ」

 

「そっか・・・それが聞けて良かった」

 

まだ色々と至らないと感じている部分はあるのだが、大丈夫というならそれでいいのだろう。ラグナはそれ以上は追及しないことにする。

大事なのは、サヤが大丈夫と思うかどうかである。彼女が大丈夫ならこれ以上言うことはないのだ。

 

「私からも一つ質問ですが、『ネプギアさん(その体)』の中にはいつ頃から入っていたんですか?」

 

ネプギア()がこの世界に生を受ける時があったんですけど、その時に魂の一部を送り込んだんです・・・これを使って」

 

『・・・!?』

 

イストワールの質問に答えながら、『ネプギア』が自身の右手に出したモノを見て、全員が驚愕する。

 

「それは・・・『蒼』!?でも、あなたがあの子であるなら、持っていてもおかしくはないわね・・・」

 

ナインは最初こそ驚きはしたものの、意外と納得できてしまった。そして、それはハクメンも同様だった。

 

「ところで、君は何時からここにいたんだい?」

 

「ここには何時から居たかは覚えてないけど、少なくとも『ネプギア()』やお姉ちゃんが生まれるよりは前にここにいたかな・・・」

 

ケイの問いへの回答に全員が呆然とする。

詰まるところ、彼女は相当長い時間ここで眠っていたことになる。これだけ長い時間眠っていれば、待ち遠しくなるだろう。

 

「ごめんね・・・『あの日』、私にもっと力が残ってればこんなことにはならないで良かったのに・・・!」

 

「そんなことないよ・・・シスターのお陰で、私たち楽しかったから・・・」

 

セリカが『あの日』の時に、力が及ばなかったことを思い出して彼女に謝る。

しかし、『ネプギア』はセリカを責めることはせず、寧ろ感謝を口にした。それに安心したセリカは声を上げて泣き、ナインが背中をさすって慰めに入った。

 

「そういや、今はどっちなんだ?」

 

「それが・・・どっちって言えばいいか解らないの。二つの記憶と人格を完全に共有した私は『ネプギア』でも、『サヤ』でもあるの・・・」

 

ラグナに問いかけられたものの、『ネプギア』は困った様子だった。

二つの記憶と人格を完全に共有した彼女は、どちらが表なのかが解らない状態であった。

 

「なら、お前はどっちとして生きたいか確かめて、それで決めれば良いと思う。・・・ああ、無理に気を遣う必要はねえぞ?大事なのは、お前がどうしたいかだ」

 

「私は・・・」

 

ラグナにそう言われ、『ネプギア』はしっかりと考える。

確かに、『サヤ』としてもう一度穏やかな日々を過ごすのもいいかも知れない。でも、多くの友人ができて、大切な家族もいて・・・何よりも助けて貰ってばかりだった自分が、誰かの助けになることもできる『ネプギア』の日々もとても大切なものだった。

考えが纏まらないので一度全員の方を見て見れば、ゲイムギョウ界組の全員と、多くの異世界組は不安そうに見ていた。

例外に、全てを受け入れる覚悟をして見守っているのはラグナだった。

 

「(この人たちを悲しませたくないのもある・・・。それでも、私はこの世界で生きている日々が好き。それなら・・・)」

 

一度目を閉じてから思考を纏めて、ネプギアは目を開いてラグナを見据える。

その瞳から全てを決めたと言うのが見て取れたのか、ラグナは改めて問いかけることを決めた。

 

「決まったか?」

 

「はい。ラグナさん(・・・・・)、お姉ちゃん・・・。皆さんも、大変心配を掛けました・・・」

 

『・・・!』

 

彼女の答えは、引き続き『ネプギア』として生きることだった。

やはりゲイムギョウ界で確率していた存在であるということもあり、混乱を招くのはいただけないと言う考えも確かにあった。

しかしそれでも、今の自分にとっては、『ネプギア(こちら側)』の記憶が、生きていた道が自分らしいと感じたのだ。

それによって、感極まったネプテューヌと候補生たちが勢い良く抱きついたので、ネプギアは思わず尻餅を付くことになる。その状況で奥を見てみると、ゲイムギョウ界組の全員が涙ぐんでいるのがよく見えた。

いきなりのことなので驚きはしたものの、それでも心配させたことには変わりないので、少しの間は甘んじて受けることにした。

 

「本当に良かったのぉ?」

 

「良いんだ。こればっかりは、俺がとやかく言う事じゃねえしな」

 

プルルートに問われたラグナは、迷うことなくそう答えた。

確かに少しだけ『サヤ』として生きてもらってもいいかと思いもしたが、こうやって答えなければ、その考えを振り払うのができなさそうな気がしたのだ。

彼女はこれからも『ネプギア』として生き続ける。そう決めたのだから受け入れよう。それは全員が同じ考えをしていた。

 

「さて・・・話も終わりましたし、そろそろ元の世界に送り返しましょう。ところで、ナオトさんたちはどうしますか?」

 

「・・・俺は残ろうかな。まだゴタゴタ残ってるんだし、それを放っておくのも性に合わねえんだ」

 

イストワールに聞かれてナオトは残ることを選択した。

もちろん、ラケルには苦労をかけさせてしまうために詫びを入れるが、当のラケルはナオトのことだからそうすることが読めていたのか、「残るからにはしっかりと一段落付けさせなさい」とだけ言われた。

 

「私も、助けてもらってそのままと言うのは気が引けるので、残らせてもらいます」

 

「ニューも、もう少しだけみんなといたい・・・」

 

「それならラムダも残る・・・。帰る時は、三人一緒に・・・」

 

ノエルたちも残ることを選択した。

また、元々帰るつもりは無いと明言していたハクメンやラグナ、元の世界では死んでしまった身なので、帰るわけにはいかないセリカやナインは当然の如く残ることを選択しているので、異世界組は全員が残ることになった。

 

「分かりました。それでは・・・聞こえますか?これからプルルートさんたちが移動するので、サポートをお願いします」

 

『わかりました。ただ、余り時間を使えないので、速やかな移動をお願いしますね(・・?』

 

「よし。開けるぞ・・・」

 

二人のイストワールの会話を聞いたラグナは、『門』に手を触れてそれを開ける。

そして、開けた先から蒼い光がこちらにやってきて、周囲を照らした。

 

「じゃあ、これでお別れだね・・・」

 

「うん~・・・ちょっと寂しいけどぉ~、また会えるといいねぇ~」

 

やはり別れというのは寂しいものである。それを理解しているからこそ、プルルートも少しだけ表情が暗くなる。

しかし、何も別れるからと言って、自分の記憶が全て消し去られると言うわけではない。

 

「そうだぁ。つい昨日作り終えたんだけどぉ~・・・。コレ、どうぞ~♪」

 

自分がいたことの証として、残せるものはある。

プルルートが今回残すのは、最初に作って見せたぬいぐるみであり、今回はネプギアをデフォルメしたものを贈った。

それを受け取ったネプテューヌは、「大事にしてねぇ~?」とプルルートに問われたので、強く頷いた。

 

「私からは、ぴーこに贈る物なんだけど・・・」

 

「・・・?」

 

縫いぐるみを持ちながら、ネプテューヌはアイテムパックからプリンを取り出し、ピーシェに渡した。

そのプリンの蓋には、ピンク色のマーカーペンで『ネプの』と書かれていた。

 

「覚えてないかも知れないけど、私たちで食べた世界で一番美味しいものだよ♪」

 

「なら、あとでたべる!」

 

美味しいと聞いて悪い気分になる人はおらず、ピーシェも嬉しそうになりながらそう宣言するのだった。

そうしている間にも、時間が来てしまったので、プルルートに手を引かれながら、ピーシェも『門』の中に入っていく。

 

「みんなぁ~、またねぇ~♪」

 

「ああ。またな・・・」

 

せめて『門』がしまって見えなくなるまではみんなの顔を見ていたい。そう思ったプルルートはピーシェと一緒に皆がいる方に身体を向けた。

手を振る振らないは個人差があるが、それでも全員はプルルートをしっかりと見送ろうとしてくれていた。

また、ピーシェはプリンに引っかかるものがあったのでそれを見つめていると、少しずつ自分の中にあった大切なものを思い出せるように感じた。

 

「・・・ねぷてぬ?」

 

「・・・・・・っ!」

 

そして、『門』が閉まり始めた時までプリンの蓋を見つめていたピーシェは確かに、この世界で最も親しかった人の名を思い出すことができた。

それを聞いたネプテューヌは一瞬だけ呼び戻そうかと考えたが、既に『門』が閉まった後だった。

 

「(ぴーこ。今度はそっちに行くから・・・その時は、また一緒に『ネプの』プリン食べようね)」

 

閉ざされた『門』を見ながら、ネプテューヌは心の中でピーシェに投げかけるのだった。

この後、全員でプラネタワーに戻り、結果的にネプギアが『蒼』を保有する形となったので、ズーネ地区で決めた当初の予定通り厳重管理を行う為の準備が始まることになった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

自分たちのゲイムギョウ界に戻ってから三日後、プルルートは自身のいたプラネテューヌの教会に戻って無事に日々を過ごしていた。

長い時間の遠出だったので、普段は仕事しろと言ってくるイストワールもそういうことは無く、戻ってきて早々ゆっくりと身体を休めてくれと言ってきたので、今回は甘んじて受け入れることにした。

その為、自分のいた世界に戻って来て早々、新しい縫いぐるみ作りをしていた。

 

「よぉ~し、できた~♪」

 

そして、しっかりと縫い合わせを終えたプルルートは、それを自分の眼前に持って来て笑みを浮かべる。

そうやって達成感に浸っていると、ノックとその直後にドアが開けられる音がした。

入ってきた主は自分の友人である為、変に気を使わなくていいとプルルートが言ったことから、その友人はノックだけはして後はそのまま入るようになっていた。

 

「お邪魔するわよ。って、また新しい縫いぐるみ?誰を元にしたの?」

 

「えへへ~♪向こうの世界でぇ、あたしに始めて変身しても良いって言ってくれた人だよぉ~♪」

 

友人の少女に聞かれたので、プルルートは満面の笑みでそう答える。心なしか、少々頬が朱色に染まっているような気もした。

 

「へえ・・・変身を良いって言ってくれる変った人が・・・。って、ええっ!?プルルートの変身を良いって言った!?それ本当なの!?」

 

「ホントだよ~。信じてよぉ~」

 

―プルルートの変身を良いって言うなんて・・・どんな変わり者なの!?プルルートの友人は驚きを隠せなかった。

当然の如く、その元とした人の人なりを理解していたプルルートは、彼のことをそう言われた事が不服で反論する。

何を隠そう、プルルートが今回作った縫いぐるみは、デフォルメされたラグナだったのだ。




少し遅くなって申し訳ありません。
これにて、この章も一段落になります。

前章から前々話していた『少女』のことは知ってたとなる人が多いかもしれませんが、その辺は私の安直な思考だったということでお一つ・・・(汗)。

先週の分を投稿した時に触れるのを忘れていましたが、BBTAGに新キャラが追加されましたね。40キャラ中、CV早見沙織さんが3人いるのは普通に凄いと思いました・・・(笑)。
そんなこともあって友人と対戦したところ、友人がまさかのメルカヴァにドハマりするという事態になりました(笑)。

次回は前章と同じように次回予告のNGシーンと+αをやってこの章を完結となります。


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NGシーン集的なもの+αその2

予告通りNGシーン+αをやって行きます。
前回に入れられなかったアニメ5話のNGシーンはこちらに入っています。


30話 邂逅の時(アニメ5話中盤)にてのNGシーン

 

 

 

「・・・フフッ。了解」

 

テルミが出した条件を聞き、それならば容易いと判断した少女はすぐに嬉しそうな声で答えた。

そうして、やることをすぐに纏め終えた少女はアイエフの方に向き直る。

するとその直後、まるで少女に呼応するかのように彼女の背後に何かが急降下してきた。

 

「うぅ・・・っ!?」

 

その勢い良く、その何かが地面に激突したので、それによって発生する土煙に目をやられないようにアイエフは両腕で顔を覆った。

煙が晴れると、彼女の背後に降ってきたものの正体が露になっていく。

 

「・・・・・・」

 

「え、ええっと・・・?」

 

しかし、降ってきたものを見たアイエフは困惑するしかなかった。

地面に激突するくらい勢い良く落ちてきたものは、ラグナの形をした巨大な縫いぐるみであったからだ。

もちろん、アイエフのみならず、周囲の人たち全員がポカンとしていた。

 

「ラ~グナ~ッ!」

 

そして、少女がそのぬいぐるみに勢い良く抱きつきながら頬を摺り合わせ、非常に幸せそうな表情を浮かべたので、周囲は誰もついていけなかった。

 

『・・・おいおい、あんなの誰が作ったよ?ラグナちゃん、何か知ってる?』

 

『いや、俺も知らねえぞ・・・お前らは?』

 

「(・・・これならそっとしてあげても良さそうね)」

 

その光景をみたテルミやラグナは全員で確認を取る中、アイエフはそんな様子の少女を温かい目で見守るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

41話 狙われたノワール(アニメ6話前半)にてのNGシーン

 

 

 

「ねぷあぁぁぁぁっ!?ちょっと待って~!」

 

前回は覚悟を決めていたからいいものの、今回は突然の事態に準備ができていない。

その為ネプテューヌは何か言い訳を作って逃げようと試みたが、ピーシェが待つはずもなく、結局いつものように付き合わされることになった。

 

「結局いつも通りだな・・・」

 

「でも、ネプ子がいないとあの子に付き合いきれる人がいないから何とも言えないのよね・・・」

 

「ねぷねぷとピーシェちゃんが仲いいですし、大丈夫だと思うですぅ♪」

 

ラグナはもう見慣れてしまったので日に日にコメントできることが無くなっていく。ラグナからすれば自分が日常に溶け込めて、自分の身内に大事が起きないだけでも十分満足なことだった。

アイエフの言う事は確かな問題であり、万が一ネプテューヌが体調を崩したり、骨折等をしてしまった場合ピーシェの遊びに付き合える人がいなくなってしまう。

コンパの言う通りピーシェとネプテューヌの仲は良く、ピーシェと最も仲がいいのはネプテューヌだった。

ピーシェがここまでネプテューヌに甘えるのは、ネプテューヌが最も彼女に合わせて上げようとして、実際に土壇場ながらも合わせられるからだろう。・・・今回は合わせられそうに無さそうなのはこの際置いておく。

 

「ねぷあぁぁぁっ!?」

 

「うおぉっ!?何だ!?」

 

「・・・あれ?てんじょうこわれた・・・?」

 

いつものように綺麗なアッパーカットを受けたネプテューヌは、勢い余ったのか天井を突き破ってそのまま上へ飛んでいった。

その時の音を聞いたラグナは思わずそちらを振り向き、ピーシェは首を傾げる。

 

「ええっ!?天上って普通壊れる!?」

 

「と、と言うかねぷねぷぅ!?大丈夫ですかぁ!?」

 

アイエフとコンパが慌てて走ってネプテューヌの元へと移動するのに合わせ、ナオトとラケル、ラグナの三人もそれによってついていく。

ピーシェは状況がよく分からなかったが、どことなく達成感を感じて白い歯を見せながら笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

43話 人の意外な一面、迫る罠(アニメ7話序盤)にてのNGシーン

 

 

 

 

「でもほら、料理を覚えればそのハルカって子が風邪引いちゃった時とか助けになれるわよ?」

 

「風邪を引いちゃった時、代わりにお料理してくれる人がいるととっても安心できるですぅ♪」

 

「そっか・・・確かにそれもそうだな。考えてみるよ」

 

しかしながら、アイエフやコンパの言うことは最もで、ハルカに何かあった時に自分が代わりに作れるなら、それはそれで彼女が喜ぶだろう。

そう考えるとナオトも前向きに検討することができた。とは言え今すぐに教わろうとしても時間が時間なので、また今度にしようと思った。

 

「よし・・・お前ら、出来上がったぞ」

 

ラグナが料理を始めてから十分近く。調理を終えたラグナが新しい皿にナスを乗せて戻って来た。

・・・と言いたかったが、皿の上に乗っていたのは絵に描くことすら難しそうな何かだった。

 

「・・・っておい!?何か失敗品掴まされたんだけどぉッ!?」

 

「うわぁ~・・・酷い臭い~・・・」

 

ラグナはその得体の知れない何かを見て目を見開き、プルルートは臭いを嗅いで思わず鼻を摘んだ。

それ程この物体の匂いが悲惨なことになっていたのである。

 

「ちょ、ちょっと待って・・・。うえぇ、コレならナスの方がちょっとはマシだよぉ・・・」

 

余りの臭いの酷さに、ネプテューヌすらナスの株を上げる始末だった。

そして、犯人は誰だのなんだのと、とにかく大慌てな食事となってしまうことになった。

 

「(わ・・・私たちはいつまでこうしていれば良いのだ?)」

 

「(か、カットして欲しいっちゅよ・・・)」

 

また、隠れているマジェコンヌたちにもその強烈な匂いは届いてしまっており、迂闊に声を出せない彼女たちはラグナたち以上に大変な目に遭うのだった。

暫くは耐えていたのだが、耐えられなくなったので結局彼らに聞こえるようリテイクを頼むのだった。

この他にも、リテイク準備中にノエルは犯人疑惑を立てられ、必死に弁明する姿を目撃された。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

47話 隠しきれなかったモノ(アニメ8話中盤)にてのNGシーン

 

 

 

「着きましたよ。これがシャボン玉生成装置で・・・アレ?」

 

『・・・・・・』

 

リンダは目的の場所に着くや、手振りを使って紹介しようとしたものの、目の前の光景に面食らった。

また、案内している人が面食らう以上、ラグナたちも面喰ってしまった。

 

「な、なあ・・・何で空に浮いてんのが無数のパクメンなんだ?」

 

「ああ・・・テストで使ってたものが無数のパクメンだったらしいんですけど、どうやらそのままにしちゃってたっぽいですね・・・」

 

シャボン玉が無数に浮いているのかと思えば、浮いていたのは無数のパクメン人形であり、それらが『ZEA(ゼア)・・・ZEA(ゼア)・・・』と声を出しながら宙を漂っているのである。

一応、これが以前はテストに使われていたものだと知っていたリンダは最低限説明することこそできたものの、正直なところ動揺しっぱなしである。

 

「何これ~!?可愛い~!」

 

「パクメンって言うんですよ。また見れるなんて、思ってもみなかった・・・!」

 

始めてそれを見たプルルートが興奮気味に反応し、ネプギアもプルルートにパクメンのことを説明しながら顔を紅潮させている。

また、四女神たちもパクメンを見てそちらへ走っていき、パクメンの一体を捕まえて弄り始めた。

 

「あ、アタイもやってみようかな・・・?」

 

「また・・・此れが繰り返されると謂うのか・・・」

 

「ハクメン・・・。今回は災難だったな」

 

しまいにはリンダすらパクメンの群れに近づいて行くので、ハクメンは頭を抱え、ラグナは同情しながら彼の肩を持つしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

49話 過ちの選択、開かれる扉(アニメ9話前半)にてのNGシーン

 

 

 

「大丈夫?お腹空いてない?」

 

レイはまず初めに、ピーシェの様子を心配しているかのように話しかける。

普段なら目に付けられてしまうかもしれないが、今はネプテューヌがピーシェから僅かとは言え離れていること。前途のとおり行列があって気が付き難いこと。そしてピーシェが隅っこの日陰にいることの三点が、奇跡的に人目を逸らしていたのだ。

知らない人に話しかけられたので戸惑いはするものの、ピーシェは縦に頷いた。その様子を見たレイは「お昼の時間が近いからね」と愛想よく答える。時間が経過してレイの名前が表向きで全く話に上がらないこともあって、彼女はただ、偶然通りすがった人としか認識されていなかった。

 

「良かったら、一緒にこれを食べない?」

 

「・・・っ!?」

 

レイの持っていたビニール袋の中身を見たピーシェはドン引きした。

何せ、入っていた食べ物等は賞味期限が相当すぎて腐っていたからだ。

 

「・・・うぅっ!?私・・・どうして・・・こん・・・な・・・」

 

「・・・!うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

そして、レイも賞味期限の切れた食べ物が放つ臭いに耐えられず倒れることとなった。

また、その時ビニール袋が落ちて、中身がピーシェに殺到していくような形になったので、彼女は恐怖の余りその場を逃げ出した。

 

「お待たせ~っ!いやぁ長かった・・・アレ?って・・・うぅっ!?」

 

そして、二人分のアイスを持って戻ってきたネプテューヌは、真っ先に反応してくれるはずのピーシェの姿がない事に気が付いた。

また、それと同時に漂ってくる臭いに嫌なものを感じ、そちらに目を向けてみるとレイが倒れている姿と、ビニール袋から吐き出された賞味期限切れの食べ物たちだった。

 

「ぴ、ぴーこ・・・!どこにいるのぉ!?」

 

流石にこれはピーシェも逃げ出すだろう。

それが分かったネプテューヌは急いで彼女を探しに行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

53話 探し求めていた真実(アニメ10話終盤)にてのNGシーン

 

 

 

「じゃあ、これでお別れだね・・・」

 

「うん~・・・ちょっと寂しいけどぉ~、また会えるといいねぇ~」

 

やはり別れというのは寂しいものである。それを理解しているからこそ、プルルートも少しだけ表情が暗くなる。

しかし、何も別れるからと言って、自分の記憶が全て消し去られると言うわけではない。

 

「そうだぁ。つい昨日作り終えたんだけどぉ~・・・。コレ、どうぞ~♪」

 

自分がいたことの証として、残せるものはある。

プルルートが今回残すのは、最初に作って見せたぬいぐるみであり、いつも通りデフォルメしたものを贈る・・・かと思えば、今回は『デッドスパイクさん』だった。

 

「こ、コレ・・・ですか?」

 

「うん~♪こないだ資料見た時に作りたくなって~♪」

 

ネプテューヌが困惑する中、プルルートは笑顔で「大事にしてねぇ~♪」と言ってくる。

しかし、ネプギアは少しだけ寂しい思いをすることになった。

 

「(私よりも・・・『デッドスパイクさん(そっち)』を選ぶんだ・・・)」

 

ネプギアはそれに悲しさを感じ、瞳から涙を見せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

右から画面の中央へ、左から画面の中央へ、上からから画面の中央へ、デカデカと「ネプらじ」と書かれているロゴが現れる。

右から出てきた時にノエルが「ネプらじ」と言い、左から出てきた時にネプテューヌが「ネプらじ」と言い、最後の上から来た時にこの場にいる四人全員で「ネプらじ」と言う。

 

「はいっ!ようこそ『ネプらじ』へ!司会というかパーソナリティは私、ネプテューヌと!」

 

「ネプギアと!」

 

「ラグナ=ザ=ブラッドエッジと!」

 

「ノエル=ヴァーミリオンでお送りします!」

 

各自が順番で自己紹介していく、並んでいる順番は左から順にノエル、ラグナ、ネプテューヌ、ネプギアである。

 

「さて、この『ネプらじ』どんな番組かと言いますと!本小説『超次元ゲイムネプテューヌ-DIMENSION TRIGGER-』の各章終わりに章ごとにピックアップした場面を簡単に振り返って行くのと同時に、今後の展開の方針などを話していく番組になります!」

 

「今回も、BLAZBLUE側とネプテューヌ側から一人ずつゲストが来ています!」

 

前回と同じように自己紹介が終わった後、ネプテューヌが明るさを全開にして説明を行い、ネプギアが補足説明を行う。

 

「それでは早速ゲストをご紹介しましょうっ!」

 

「まずBLAZBLUE側より、実際にそのシーンがなくとも描写で察せる過労具合・・・ナイン!」

 

「よろしくお願いするわね」

 

ノエルの前振りに続いてラグナがナインの事を呼ぶと、画面から見てノエル左隣にナインが現れ、簡単に挨拶をする。

 

「続いてネプテューヌ側です!」

 

「こちらからは別のゲイムギョウ界からやってきて、色んな事を知ったぷるるん!」

 

「はぁ~い♪よろしくねぇ~♪」

 

ネプギアの前振りの後にネプテューヌがプルルートを呼ぶと、プルルートはいつものようにのんびりとした様子で挨拶をする。

前回のように今回もこの二人には「ゲストで来てほしい」とだけ伝えてあったが、今回は二人とも対して動じていないようだ。

 

「それじゃあ早速、章ごとにピックアップした話から見ていきましょうっ!前回の反省も踏まえて、最初から纏めて行くよ~!」

 

ネプテューヌがそう言うと、彼女たちの背後にあるモニターには『34話 少女を探して~35話 確かなる異常』と映された。

 

「まずは洞窟関係の始まりだね・・・」

 

「本章は本編要素に加えて、この洞窟関係の話が混じっていたわね・・・」

 

ネプテューヌとナインが本章の要点の確認をする。

原作の内容に加えて洞窟関係の話が追加されたものが、本章の構成内容となる。

 

「ところでぇ~、この子たちはぁ、一体何だったのぉ~?」

 

「結局、こいつらのことは分らずしまいだったな・・・」

 

残念ながら、この章で彼女たちの正体を把握することは出来なかった。

その為、現状彼女たちの正体は不明なままである。

 

「彼女たちの正体、分かるといいですね・・・」

 

「作者の考えている構想の尺的に謎のまま終わりそうなのが不安ですが・・・次はこちらです!」

 

ノエルの期待を込めた言葉には、ネプギアが諦め半分に答えながら合図すると、次はモニターに『36話 一時の休息』と表示された。

 

「今回は劇中作品でもクロスしていくスタイルっ!」

 

「操作方法はそのまま『BLAZBLUE CENTRALFICTION』・・・以下『BBCF』そのままです」

 

ネプテューヌとネプギアが説明する通り、この話で取り扱われた『DIMENSION BLUE』の操作方法は『BBCF』そのままである。

ゲーム内のラグナが使う技のコマンドも、『BBCF』そのままである。

 

「少し気になることだけど・・・コレ、セリカがプレイアブル化したら操作が変わりそうな気がするけどどうなのかしら?」

 

「ああ・・・そういや、セリカは今回まともな戦闘描写ゼロだったな・・・」

 

「でも、ミネルヴァが時々ナインさん止めたり、セリカちゃんを運んでる描写があるので変わらなそうな気もしますね・・・」

 

ナインに問われたので、ラグナとノエルが考えてみた結果あまり変わらないだろうと言う結果になった。

それなら大丈夫そうかなと、ナインも少しだけ安心した。

 

「そ~言えばぁ~、ピーシェちゃんはぁ、この話の最後に登場だったねぇ~」

 

「ところで、この二人を知っていた理由って何でだ?」

 

「セリフ回し的には原作そのままですけど、この後話すプリン案件のように『ネプテューヌV』を参考にしてそうな気がします」

 

プルルートの言い回しに続いて、ピーシェが始めて登場したシーンが映される。

ラグナの問いに対しては、ネプギアが今までの経緯を考えながらそう答える。

もし『ネプテューヌV』をプレイしたことがない人は、一度プレイしてみて頂きたいところである。

 

「ここからまた原作本筋続き・・・では無く、一旦この辺の話が入ってくるよ!」

 

ネプテューヌの言葉に合わせ、モニターは『37話 動き出す陰謀~40話 それぞれの現状』と映された。

 

「この辺で想定していたオリジナル回を纏めて消化している感じだよねぇ~」

 

「本章最後のアレだけは流石に出来ないから例外だけど、確かにそうね」

 

ネプテューヌの率直な感想にナインも同意を示した。

この辺りは暫くオリジナル回の消化であり、本筋の話はほとんど進んでいないのである。

 

「何気にレイはここで初登場だな・・・」

 

「ああ・・・作者がアニメ1話のビラ配りのシーンを端折った弊害だねぇ・・・」

 

ネプテューヌの言った通りアニメ1話のビラ配りの案件が無くなったので、レイはここで初登場となった。

そのことに、ネプテューヌは同情を禁じえなかった。

 

「ここ、レリウスがさらりと恐ろしいこと言ってるから、気を付けないとね・・・」

 

「アニメ10話部分のあの様子だとぉ~、そろそろ完成しそうだよねぇ~・・・」

 

ナインとプルルートの言う通り、レリウスは自身の手で『スサノオユニット』の制作に挑んでおり、一切の油断ができない状況だった。

次章で完成されたそれが日の目を見るのは、ほぼ確実と言っていいだろう。

 

「ラムダが来たことで、私たちは姉妹全員が揃うことになりましたね」

 

「本章で追加された登場人物はラムダ一人だったな・・・」

 

ノエルの言う通り、ラムダが来たことで三姉妹が全員揃うと同時に、ラグナの言う通り本章ではこれ以降の追加は無かった。

 

「この後、誰か追加されるのかなぁ~?」

 

「どうなるか怪しいところですね・・・。次からは本筋の方を確認していきましょうっ!」

 

プルルートの問いには現状何とも言えない。

追加をするにしても非常に短時間になってしまうので、それでも良くて尚且つどの道こいつがいた方がやりやすいと言う状況でやっと成立だろうか?大分怪しい状況である。

これ以上追及しても仕方ないと判断したネプギアが合図を送ると、モニターには『41話 狙われたノワール~42話 事故の連発する一日』と出された。

 

「これは事故が多かったな・・・」

 

「ナインさんとユニちゃんに追いかけられたアノネデスさん、本当にお疲れ様でした・・・」

 

アノネデスがナインとユニの猛攻を全力疾走で逃げている姿が映し出され、ラグナとノエルは同情した。

ちらりと横を見て見れば、ナインが「わ、悪かったわね・・・」と少しだけ頬を赤くしながら顔を逸らしていた。

実際、アノネデスはあの後軽く疲労困憊の状態に陥ってしまっていたらしく、セリカが気にかけたのもそうであれば、自身の連行を担当した人には「もう少し乱暴にしてくれても良いから、とにかく引っ張って欲しい」と言うくらいまともに歩けなかったそうだ。

 

「しかしまあ、これが性能まで完全な再現をされなくて安心したわ・・・そうじゃなかったら、今頃ラステイションを強制捜索していたわ」

 

「おおう・・・また考えたくもない案件が・・・。ノワール、もうやらないでね?」

 

ナインの安堵に合わせて、ネプテューヌは今この場にはいないノワールにそう投げかける。

実際のところ、何故『零式・イザヨイ』の姿を再現されてしまったかが分らず、本当に大混乱だった。

特に制作者であるナインは、尚更焦りが強くなるのだ。

 

「他にも、ノワールさんは二回も空から落ちてきた人と激突すると言う事故がありましたが、ここからようやくプルルートさんが出てきましたね」

 

「短い間だったけどぉ~・・・楽しかったよぉ~♪」

 

ネプギアはノワールに同情しながらプルルートの事を話に出し、プルルートは楽しそうな笑みで答える。

 

「さて、ぷるるんの加入まで確認したところで、次はこっちだ!」

 

ネプテューヌが再び合図を出したことにより、モニターには『43話 人の意外な一面、迫る罠~45話 プルルートの逆襲』と表示された。

 

「アニメ7話の話だね」

 

「ここから原作と本小説によるネプテューヌ側の人物・・・主にお姉ちゃんの心境と行動に変化が現れてますね」

 

「そう言えば、ぴーこにお肉取られた時とかプリンの時とか、結構違ってたよね~」

 

ネプギアに言われてネプテューヌも気が付いた。

何せ原作では肉を取られれば怒るわ、プリンを取られたら大人げなく対応していたものだった。

それが本小説は咎める程度に抑えたり、プリンの時も再確認程度で済ませていた。

また、この他にもピーシェがプリンを上手く皿に乗せられないので手伝って上げると言う、原作では考えられない行動を取っていたのである。

 

「ただ~・・・ここだけは変わらなかったねぇ~?」

 

「ぷ、ぷるるんそれは待って!せっかく良い所を出してもらえたのにぃ~!」

 

ネプテューヌがナスを見て顔を青くするシーンを出すと同時にプルルートが笑顔で詰め寄ったので、これまた顔を青くしたネプテューヌが制止を願うのだった。

情けないことに、ナスが嫌いなことだけは変わらず、この部分だけは原作と同じく情けないものを見せてしまうことになった。

 

「ラグナが料理をできるというのは、本小説だとセリカから教わった・・・と言う扱いだったわね?」

 

「ああ。動機はシスター(セリカ)の負担を減らしたいからで、それが趣味に発展した形になる。この独自解釈な部分は22話に載ってるから、確認してみてくれ」

 

ナインの問いに答えながら、ラグナは簡単に宣伝する。

料理が趣味という公式設定は確かにあるのだが、実際に料理を趣味として持つまでにどういう経緯があったかは完全に作者の独自な考えになる。

こうして葉笛や料理をこなせる辺り、実のところラグナは技能面でかなり器用な人間なのかも知れない。

 

「アイちゃんのドライブは強くなってきてるけど、力及ばずだったね・・・」

 

「流石レリウス・・・と言うべきなのかしらね。こうして堂々と突破できるのは・・・」

 

ネプテューヌはアイエフが催眠ガスを吹き飛ばしているシーンを見て「惜しかったなぁ~」と呟き、ナインはレリウスの堂々さを称賛する。

魔法であっさりと通れる辺り、魔法も相当な技量を誇るのが伺える一幕となった。

 

「そういや、ネプテューヌは原作だと二人と共々昼寝してたんだよな?」

 

「ああ・・・そう言えば今回のお姉ちゃん、ニュース見て待機してましたね」

 

次に映されたのはネプテューヌが昼寝する二人を置いて、ニュースを見ながら一休みをしているシーンだった。

原作では仕事に関して面倒そうにしていたネプテューヌも、こっちではやれたらやろうの状態にまで改善されている。ピーシェの遊び相手がある分難しいと考えているのは仕方ない面だろう。

 

「やっぱり・・・ナスはダメだったんですね」

 

「うん・・・ちょっとはマシになると思ったんだけどねぇ・・・」

 

ノエルの指摘通り、結局ナスには耐えられなかったのである。臭いでダメなのも原作通りであった。

 

「そ~言えばぁ~・・・この人たちぃ~、ネプちゃんだけを狙っていたよねぇ~?」

 

「原作では全員に勝てると踏んでたけど、今回はネプテューヌにだけピンポイントで効くって把握しているのが大きな違いね」

 

マジェコンヌたちが隠れて弱点を探っているシーンに戻り、プルルートとナインはその違いを確認する。

一人でこれだと確信してニヤリとしていたマジェコンヌはどこへ行ったか、ワレチューと確認を取っているのが分かる。

 

「俺とナオトの連携攻撃は、『BLAZBLUE CROSS TAG BATTLE(以下BBTAG)』のクラッシュトリガーを参考にしたらしい」

 

ラグナとナオトがナスのモンスターたちを挟撃しているシーンを映されながら、ラグナが説明を入れる。

この攻撃は作者が『BBTAG』をやっている最中に思いついたものであり、連携相手をナオトにして即席で作ったものである。

ハクメンとやっても良かったのだが、今回はハクメンに出番が無かったことと、当時はギリギリハクメンが実装されていなかったので、やるなら実装後だなと考えた結果こうなったのだ。

 

「ぷるるんの変身は大体原作と同じだけど、あのマザコングが選んだ変身は大分変ってたね・・・これも最初に私以外効かないのが分ってたからなんだろうね?」

 

「それと、一人で挑みに来ていないからこそ冷静な判断を下せていましたね・・・」

 

原作では自身が巨大なナスのモンスターになったものの、それは逆効果で自身の力も弱くなると言う最大の悪循環をかましていたが、こちらではズーネ地区と同じ姿だったことから、アンチクリスタル分の強化が無いにしろ十分な力がある状態だった。

こうしてみると、原作でやってしまっていた致命的なミスは大分減らされたと言っていいだろう。

 

「マジェコンヌとの戦いの変化もそうだけど、意外な面はこの二つもあるわね」

 

ナインの前置きに続いてモニターの画面が変わり、ネプテューヌがあっさりとワレチューを見逃すシーンと、ラケルと代わってもらい簡単に拘束から抜け出すアイエフのシーンが映された。

これも原作と比べて変わっている場面である。

 

「ここまで見ていくとあのネズミ・・・大分待遇が改善されてるな」

 

「前章の部分だと、原作では怒られてばっかりだったり・・・本章の部分だとおかしいと思っても付き合わされたり・・・ちょっと可哀想になりますよね」

 

ラグナがワレチューが関わっていた各シーンを確認してみると、ネプギアも原作のワレチューが少しだけ可哀想に思えてきた。

 

「長すぎると作者の負担になるから少しだけ巻いて行っちゃうよ?次はこれ!」

 

ネプテューヌが一言掛けてから合図を出せば、モニターには『46話 変化し始める心境~48話 裏側の事情を知って』と出された。

 

「これは水着回と・・・」

 

「俺の『蒼炎の書』の姿がバレた回だな」

 

ネプテューヌに続いてラグナが言葉を発するタイミングで、『蒼炎の書』を映し出される形になったので、始めてそれを見たネプテューヌが顔を青くしながら少し引いた様子を見せる。

まさかほぼ獣の腕のように見える・・・ここまで異形だとは思ってもみなかったのだろう。

 

「プルルートの変身を始めて見たけど、私たちは色々と好条件が重なったのね」

 

「あはは~♪あの時は嬉しかったなぁ~♪」

 

ナインが前回の変身した時と、今回の変身した時を照らし合わせてそう評価する。

実際、マジェコンヌは嫌なものを感じさせられたらしく、ネプテューヌもアレはダメだというように拒否していたので、それが伺える。

プルルートもこの時は良いと言ってくれたことが相当に嬉しく、完全にストレスフリーな状態で変身することができた。

 

「あの・・・ラグナさん。これってもしかして・・・」

 

「うーん・・・答えたいのは山々なんだが、俺が一番把握できてないんだよな・・・」

 

ネプギアの事を思い浮かべて心臓が跳ねたので、それに困惑したラグナのシーンが映され、それと同時にノエルが問いかけてみるものの、肝心のラグナが答えを持ち合わせていなかった。

―こういうのってなんて言やいいんだろうな?ラグナはそれが分らず困惑する。

また、この時ラグナのそれがどうしてなのかが分かったナインは答えたい衝動を抑えるように、どうにか笑いをこらえていた。

 

「後はぁ~・・・施設や海でのお話しの順番が変えられたのとぉ~・・・」

 

「薬の入った飲み物を飲んじゃったのが私に変更・・・でしたね」

 

原作との大きな差異点の内二つはここにある。

本来は薬の影響を受けるのがネプテューヌで、施設へ行くのは海でのイベント後である。

 

「後、忘れちゃいけねぇのはこの辺だな」

 

「意図的にやっていたのがうっかりに変ったのと、ラグナさんの影響で真っ当な道へ進みだしているんですね・・・」

 

ラグナがリンダのことを映されたモニターに指さしながら言うのを聞き、ノエルが関心した様子を見せる。

今後もしかしたら、まともな仕事をして額に汗をしているリンダの姿を見る機会があるかもしれないと感じさせる一幕だった。

 

「ネプギア、プルルート。あんまり重く考えなくていいからな?」

 

「分かりました。でも、ラグナさんもあまり抱え込み過ぎないで下さいね?」

 

「あたしはもう手伝えないかもしれないけどぉ~・・・気をつけてねぇ~?」

 

「ああ。そうするよ」

 

ラグナは48話で話したことでネプギアとプルルートの二人に促すと二人にも似たようなことを言われたので、留意することにした。

 

「もうそろそろ本章終盤に入るかな?次はこちらです!」

 

今度はノエルが合図を出し、モニターには『49話 過ちの選択、開かれる扉~50話 その名はエディン』と出された。

 

「ここはアニメ9話の話ね」

 

「本小説は物語開始段階だと、ピーシェちゃんはまだプラネテューヌに滞在しているんですよね・・・」

 

ナインがアニメでの段階を確認し、ノエルはピーシェの状況を確認する。

ピーシェがまだプラネテューヌにいたので、ネプテューヌはまだいつも通りの様子だったのだ。

 

「信じられる?コレ・・・イグニス製らしいよ?」

 

「な、なんつー性能の無駄遣い・・・」

 

ネプテューヌの前振りにラグナは素直にそう言った。

まさかピーシェを連れてくる為に『ネプのプリン(アレ)』をイグニスに用意させるとは、誰が想像できただろうか?

 

「その後、お姉ちゃんと一緒に野犬を倒すシーンですけど、変身したプルルートさんとラグナさん、円滑に会話を進めてますね」

 

「ああ・・・これには作者もビックリだったそうだ」

 

「当初の予定だとぉ~・・・あたしはレリウスと因縁持たせるつもりだったらしいよぉ~?」

 

どうやら作者の中でも相当に予想外だったらしい。それ程ラグナとプルルートの二人は相性が良かったそうだ。

 

「忘れちゃ行けないのは、ここで一度扉を開いていることね」

 

「ごめんね・・・私がしっかりしてればこのまま棺も一緒に見れたよね・・・」

 

ナインが重要案件として扉のことを題材にした時、ネプテューヌはピーシェがいなくなったことで大慌てした連絡をしていたので、今回は棺を見ることができなかった。

そのことでネプテューヌは詫びを入れるが、これを責める人など一人もいなかった。

 

「そう言えば、原作と違ってこの段階ではまだ戦闘をしていないんだよね」

 

「後、もう既にキセイジョウ・レイが精神面で強くなったから、あの慌てぶりが見られなくなってますね・・・」

 

「他にも、マジェコンヌたちが協力しているのも見逃せない点ですね・・・」

 

エディンに来て宣戦布告の一幕のシーンだが、レイは味方に促されながらも最後は自分の意思で宣戦布告を宣言していた。

また、マジェコンヌは女神の打倒を掲げているので協力しないかと思われていたが、こちらでは同盟者として協力しているのだった。

 

「さて、そろそろこの章も終わりが見えてきたかな?次はコレ!」

 

ネプテューヌの合図によって、モニターには『51話 戦いの幕開け~53話 戦いの結末』と映された。

 

「ここはぁ~、エディンとの戦い・・・だったねぇ~」

 

「女神たちはともかく、他の人物の容姿等に問題があるから、本小説は何と一日で決着が付く超短期決戦になったわね・・・」

 

「ただ、前章の反動なのか、戦闘描写がかなり簡単なものになっていましたね・・・」

 

ナインの指摘通り、ノエルたちが何年も戦っていたら元の世界へ戻る時に多大な影響を及ぼしてしまうので、今回はこのような形に落ち着いた。

また、戦闘描写もノエルが追及した通りかなり簡素になっていた。恐らく、前章で文字数が多くなり過ぎた影響だろう。

 

「今回は本当に助けられたよ・・・私、原作より圧倒的に復帰早くなったし」

 

ネプテューヌは開戦当日になっても立ち直れなかったが、こちらでは助けがもらえたお陰で復帰が早まっていた。

確かに、規模の大きくなったピーシェの遊びに付き合うと考えれば、捉え方も変わってやりやすくなるだろう。

 

「とうとう『イデア機関』はあと一回になっちゃいましたね・・・」

 

「この一回・・・使いどころを間違えないようにしねえとな」

 

ノエルに言われた通り、『イデア機関』はあと一回しか使えず、次回の修復は望み薄し。こうなると嫌でも慎重に使うしか無くなる。

今後どこで使うのがベストか?ラグナは必死に考えなければならないことになった。

 

「前章は想定外の事態に対応しきれないでやられる同盟だったけど、今回は想定通りだったからあっさりと逃げ切る・・・今後どうなるかが怖いけど、今は気にしている場合じゃなそうだね・・・」

 

ネプテューヌは一度、前回の戦いと今回の戦いによる同盟たちの状況を確認する。

彼らは前回、圧倒的な有利から一瞬で窮地に立たされたことで対応しきれなかったが、今回はほぼ拮抗から崩れた段階で即時に対応して逃げた為、殆ど被害を被っていなかった。

 

「じゃあ、次でラストだな・・・残ってるのはコレだ」

 

最後はラグナが合図をだし、モニターには『54話 探し求めていた真実』と映された。

 

「コレで洞窟とサヤのことにケリをつけられたな・・・」

 

ラグナだけでなく、全員にとって重大な案件だったので、決着をつけられたことには一安心だった。

 

「そう言えば、私と一つになるようにしたのは悩んだ結果・・・でしたよね?」

 

「尺と作者のキャパシティ・・・その為諸々と相談した結果こうなったそうよ」

 

ここまで絡んでいたなら一つにした方が良いと言う考えも確かにある。

しかしながら、作者の技量不足というのはどうしようもないもので、苦肉の策とも言えてしまうものだった。

 

「ぷるるん一つ聞きたいんだけど、最後に出てきたぷるるんの友達って・・・?」

 

「ごめんねぇ~・・・それは作者からぁ、内緒にしてぇ~って頼まれちゃったのぉ~」

 

―でもぉ~・・・口調で予想できちゃうかもしれないよぉ~?プルルートは楽しそうにそう言った。

これは後々何かやるかも知れないな。ラグナたちはそれを確信した。

 

「後、俺のぬいぐるみを作ってたが、そのぬいぐるみのモチーフは・・・」

 

「顔つきはぁ~・・・『BBTAG』にあったぁ、ラグナのアバターキャラが元だよぉ~♪」

 

プルルートに答えを聞いたラグナはなるほどと納得した。

それを座らせたような形にしても、確かに違和感は少ないだろうとこの場にいた全員が頷いた。

 

「さて・・・残りは今後のことだね」

 

「次の章はアニメの11話~12話までを想定しています」

 

「その章が終わった後はアニメ13話の部分もやっていこうと思っています」

 

ネプテューヌの前振りに続いてネプギアが説明し、ノエルがそこへ補足説明を入れた。

 

「多分、最終決戦の部分である程度長くなるだろうな・・・」

 

「そうね・・・流石に、1~2話じゃ終わらせられないのは決まっているでしょうね・・・」

 

「うん~。レイさんの事もあるからぁ~そんなすぐには終わらせられなそうだよねぇ~・・・」

 

間違いなく最終決戦は長くなる。ラグナだけでなくナインもそう確信していた。

また、プルルートもレイのことを引き合いにし、警戒していることを示した。

 

「次の章は最終決戦が終わった辺りでこの『ネプらじ』を挟むつもりらしいよ?」

 

「まあ、最終話で綺麗に終わらせたいってのは確かに解るな・・・」

 

ネプテューヌの振ってきた話にラグナは納得した。

確かに、綺麗な終わり方をした方がスッキリした気分になるだろう。

 

「作者さん・・・無茶しすぎないと良いけどなぁ・・・」

 

「多分、前章書ききった直後のような目に遭わなければ大丈夫ですよ」

 

ノエルは不安に思ったが、ネプギアの答えで幾分かは安心できた。

しかしながら作者は前回三日に渡って腹を壊していたので、そこだけが本当に気がかりであった。

 

「さて・・・話すことは話したから終わりにしよっか。ここまでのお相手はネプテューヌとっ!」

 

「ネプギアと!」

 

「ラグナ=ザ=ブラッドエッジとッ!」

 

「ノエル=ヴァーミリオンと!」

 

「ナインと」

 

「プルルートでした~♪」

 

そして、最後は六人で『また次回~』と言いながら手を振る姿がフェードアウトしていく形で、この番組は終了を告げた。




ということで、これにて本章は完結となります。
残りはかなり少なくなってきましたが、残りの時間もお付き合いしていただけたら幸いです。

勇者ネプテューヌは序盤のストーリーが公開され、ぶるらじNEOも三回目が出されたりと、こちらも盛り上がってきたので、楽しんでいきたいと思っています。

次回はアニメ11話の前準備的な話になると思います。


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選ばれる未来、蒼の男が手にしたモノ
55話 決戦に備えて


新章の開始となります。
残りが短くなって来ましたが、最後まで楽しんでいただけると幸いです。


ラステイションの廃工場にて、レリウスは『スサノオユニット』を創り上げる作業に入っていた。

今までの中で全てのデータを入れ込んでいき、現段階での完成度を確認するのだが、データの量が思ったより多く、取り入れるのに時間がかかっていた。

データを入れている際、変化していくデータを目で確認しながら、なるべく当初の予定とずれが少なくなるように注意して作業を行うので、かなり苦労するものだった。

 

「(ほう?此れは、まだ入れ込みの余地が残っているか・・・)」

 

コレで負けてしまった場合、次は相当に長い時間準備する必要がある為、『スサノオユニット(己の傑作)』の完成度は少しでも高い方が良いのだ。

確かに女神同士の戦いという、最も重要なデータは手に入っている。しかしながら、あの時はネプテューヌが全力では無かったのもあってデータの密度がほんの僅かに浅いことが判明していた。

その為、現段階で入れ込めるデータを全て入れたところで一度作業を中止した。

 

「ならば、次はどこかの国に潜入して調査を行えば良いだろう」

 

レリウスは結論を出してから一度研究室を後にし、マジェコンヌたちが集まっている場所に足を運ぶ。

そして、ドアを開けてみれば案の定全員がその部屋にいた。

 

「お?終わったのか?」

 

「いや、途中でもう少しデータを入れられる余裕があることに気が付いてな・・・。それを得る準備として、どこかの国に潜ろうかと考えていた」

 

テルミに訊かれたので現状を答えると、「アレでまだ余裕あんのか?」と驚きの表情を返された。

もう十分だと思っていたテルミには嬉しい知らせだし、しかもそのデータを取り込めば調整自体はすぐに終わるので、もう完成は目の前だった。

 

「ならば、どこかで戦いを引き起こさせるような状況を作り出す必要があるか・・・」

 

「シェアエナジーをどこかに偏らせるって言うのはどうっちゅかね?それなら一番その状況を作りやすくなるっちゅ」

 

「それは確かに思いついたことだが・・・誰もその方法を持ち合わせていないのが問題だな・・・」

 

ワレチューの提案は確かにマジェコンヌも思いついたことだが、実はそうさせるような手段を持ち合わせていなかった。

その為、この提案はマジェコンヌの中では蔵入りとなってしまい、別の提案を考えていた最中だった。

 

「あ、あの・・・その提案なんですけど・・・」

 

『・・・・・・?』

 

こう言ったことにはあまり口出ししてこなかったレイが手を上げながら切り出したので、全員が物珍しそうにそっちを見やる。

 

「私の記憶が戻ればなんですけど・・・もしかしたら、その提案が実現できるかもしれません」

 

『・・・・・・』

 

レイからまさかの発言を聞いた一行は一瞬固まる。

その固まっている間に大急ぎで頭の中を整理すると、レイができるかもしれないと言う発言をしたという事実が残る。

 

『・・・・・・何ィッ!?(マジっちゅか!?)』

 

マジェコンヌとテルミ、ワレチューの三人は面食らい、レリウスですら「それは素晴らしいな」と満足そうな表情を見せているが、内心冷や汗ものだった。

それだけ、レイの発言が全員にとって予想外過ぎたのである。とは言え流石に大袈裟だったか、レイは「そ、そんなに驚かなくても・・・」と苦笑交じりに呟くのだった。

 

「・・・どうするっちゅか?今までで一番イチバチな提案っちゅけど・・・」

 

「私は構わん。とにかく、その記憶に引っ掛かりそうなものを全て洗い出そうじゃないか・・・。お前たちもそれで構わんか?」

 

「良いぜぇ。それが打開策になるなら持って来いだ」

 

「私も問題ない。新たなデータがもらえる可能性は、何処にでもあるのだからな」

 

「・・・なら、オイラも協力するっちゅ。コレで女神どもに一泡吹かせられるならもってこいっちゅよ」

 

ワレチューが振ってみると全員が記憶関係に協力するつもり満々であったので、ワレチューも乗り気になった。

 

「皆さん・・・ありがとうございます。絶対に記憶を戻して見せますね・・・!」

 

「ああ。そうなれば、私たちが聞くことを可能な限り答えてくれ。それを元に探していくぞ?」

 

全員が協力を約束してくれたことが嬉しく、レイが笑みを見せながら礼を言う。

そして、この後レイは各人からの質問を丁寧に答えていき、同盟の全員が少しでも調べやすくなるように尽力するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「さて・・・後頼まれてたのはっと・・・」

 

ラグナは久しぶりにプラネテューヌの街並みを歩き回っていた。

と言うのも、食材や香辛料。新しい予備の電池など、使っている内に足りなくなってきていた買い出しをネプギアに頼まれたのである。

最近ネプギアが絡むと落ち着きが僅かに薄れるラグナは快諾し、そのまま必要なものを用意してプラネタワーから出て今に至ったのである。

そうしてまたメモを確認するラグナだが、一つここで頼まれた以外のことで気づいた事がある。

 

「(俺、ネプギアのことを考える比率が跳ね上がったな・・・)」

 

最近になって、正確にはR-18アイランドに向かっている途中からだろうか?ラグナはネプギアを意識することが多くなっていた。

それがプルルートによって引き出されたものなのかどうなのかは分からないが、彼女のことを意識すれば心臓が跳ねるのは明らかだった。

 

「(・・・これは病気とかそういうのじゃねえのは確かなんだけどなぁ・・・)」

 

体に問題ないのは確かなのだが、心に残るこれを何と呼ぶべきなのかがラグナにはわからなかった。

そう言えばと・・・少し考えたラグナは、こういうことに詳しそうな人がいることに気が付いた。

 

「(ナインなら何か知ってんじゃねえのか?)」

 

ナインは暗黒大戦時代を切り抜けた後、自身の師匠である獣兵衛と結婚している。そうであるならば恋心も抱いているはずなので、何か聞き出せるだろうと思ったのだ。

こういう時に頼れる身内がいるというのはとても大きい。そう結論付けたラグナは、少しだけ肩の荷が下りたような気がした。

 

「(余裕があったら聞きに行こう。ついでにあの同盟(あいつら)の対策を練ることができればいいんだが・・・)」

 

重要な案件が混ざればナインも話を聞いてくれるだろう。彼女に更なる疲労を与えるという罪悪感も生まれるが・・・。

他にも、自分のネプギアに対する感情が分りさえすれば、少しは安心できるという期待感も混ざってはいるのだが、それはできたらの話である。

 

「そうなったら、コレもちゃっちゃと済ませちまうか」

 

考えを纏めたラグナは、一先ず頼まれている買い出しを済ませるべく足を早めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ?こんな所には初めて見たなぁ・・・」

 

「ああ。私もここには来たことが無かったな・・・」

 

レイの話を一通り聞き終えた同盟の全員は、その情報を基に古びている遺跡にたどり着いた。

場所としてはラステイションの廃工場よりも更に国から離れた場所にあった。人が寄り付かない証拠なのか、遺跡は所々にひびが入っていたり、カビが見えていたりした。

しかし、レイから聞いた話ではここに自分の記憶に関わる物があるらしいので、自分たちには確かに入る意味がある。

 

「何か仕掛けが残っていたりする可能性はあるか?最悪、ネズミが待機せねばならない可能性が生まれる」

 

「いえ、仕掛けがあったりはしません。私がいると特に何も起こらないので・・・」

 

レリウスは大事なことを聞いておく。もし仕掛けがある場合、戦闘で何もできないワレチューは置いていくしかなくなることがある。

無論、ワレチューもそれは把握しているので特に文句はないが、せっかく仲間のことをどうにかできるのだから全員で行った方が良いのは言うまでもない。

しかし幸いにもその可能性はレイから否定されたので、レリウスは一安心する。

どうやらレイはこちらに近づくたびに記憶が少しずつ戻って来ているらしく、このまま行けば奥にたどり着く頃には全ての記憶が戻るだろうと踏んでいた。

 

「取り敢えず中に入ってみようっちゅ。この感じなら何かあっても事前に避けれそうっちゅよ」

 

「道解んなくても道なりに行けば良さそうだが・・・どうよ?」

 

ワレチューの言うことは最もで、今ならレイのお陰で事前に回避が可能な確率は極めて高かった。

この先の遺跡の道が分らなくても、この同盟は適当に進んでも最後は辿り着けるものの、レイが道を分かっているならそれに従った方が良いのは明白である。

 

「道のことなら平気です。私が案内できますから」

 

「ならば話は早いな。是非とも案内を頼む。護衛はこちらがしっかりと行うから、安心しろ」

 

「私は研究も兼ねるから後ろにいよう。先導は任せたぞ」

 

「わかりました。それじゃあこっちなので、着いてきてください」

 

幸いにもレイは案内できるようなので、案内を頼む形を選ぶ。

順番は先導する影響からレイが先頭。彼女の隣にはマジェコンヌ。その一つ後ろにテルミとワレチュー。最後尾にレリウスが控える形となった。

 

「此れは何かの装置か?」

 

「はい。それは不法に入ってきた人たちを迎撃する為のものなんです。今回は私が皆さんを招いてる扱いなので、稼働するところは見せられませんが・・・」

 

「そうか・・・だが、動かなくとも構造を把握することはできそうだな」

 

レイの説明を受けたレリウスは、ダメならダメなりに調査を行う。

元々、ゲイムギョウ界自体が未知の世界であったレリウスからすれば、この世界で無駄になるものの方が珍しいのである。

 

「ところで、ここはいつからある場所なんだ?このボロ付き具合からして、昔は人が住んでいたと思うが・・・」

 

「そうですね・・・。そのことは私のことと纏めて話しますので、少し待っててくれますか?」

 

テルミの問いに、レイは一瞬迷いながらもちゃんと答えたいと思ったので、それに相応しい場所で答えることを選んだ。

その回答を聞いたテルミも一瞬考え込んだが、「応えてくれるならいいや」と納得してくれた。

レイが招き入れた扱いであることは本当らしく、装置の稼働している様子は見れるものの、非常時の動きを見ることは無かった。

 

「・・・別れ道が減ってきたな?」

 

「もう少しで一番奥まで付きますよ」

 

マジェコンヌが一本道のみになっていることに気が付き、それによって呟いた彼女の声を聞いたレイが進み具合を話す。

レイの話を聞いた全員は、もうそこまで進んだのかと思った。特に周りを気を付ける必要性がないのもあって、随分と気を楽にしていたようだ。

 

「ここが一番奥です。扉を開けるので、少し待っていて下さい」

 

一番奥までたどり着くや否、レイはすぐに扉の近くにある電子パネルを操作し始める。

悩む素振りが見られないことから、どうやらロックを外す為の番号は思い出しているらしく、一度のミスも無くロックの解除は完了して扉が開いた。

 

「こっちです」

 

自分がこれから話そうとしていることでマジェコンヌたちがどう思うかは分からないが、それでもレイに迷いは無かった。

ただ、記憶のことに協力してくれたのだから、話すべきだし話したいと考えているのは事実だった。

そして、自分が本当は何をしていても驚かなそうな彼らは、興味津々な態度を崩さないままレイの案内についていった。

扉をくぐれば少しの間階段が続き、階段続きの狭い通路から出ればその先にはあまりにも広い会議室のような部屋があった。

 

「何だ?ここ・・・」

 

「デカい部屋っちゅねぇ・・・」

 

テルミとワレチューから出たのは呆然とした感想だった。いきなりこれだけ広い場所に来た身としては戸惑いの一つや二つがある。

しかし、外は所々老朽化している様子があったのに、どうしてこの部屋は新しさが残っているのだろうか?その疑問がレリウスとレイを省く共通の疑問符であった。

 

「・・・ふむ。何やら古びた資料が残っているな」

 

「おい。いくら人がいなかったとは言え、それは無いだろう・・・」

 

「大丈夫ですよ。もうそれは使われない資料ですので」

 

レリウスが無断で引き出しを調べ出していたので、マジェコンヌは少しだけ咎めたものの、レイが大丈夫と言ったのでまあいいかとその思考を投げ捨てた。

ここを知っている本人からの許可を得たレリウスは、他にも資料が残っていないかの確認を行ってから、集め終わった資料を読み始めた。

こうしてレリウスが資料を読み漁るのも、全ては己の研究に使える物があるかもしれないからだ。

レイが許しを出したから資料の件はもう良いのだが、これによってもう一つの疑問が浮かび上がることとなった。

 

「この資料を知っているということは・・・お前はここで何かをしていたのか?」

 

「はい。今から相当昔に、国を持っていました・・・」

 

マジェコンヌの問いには全く迷う素振りを見せないままレイは答えた。

―国を持っていた。その言葉だけでも、この同盟はレイが何者かを大方察することはできた。

 

「・・・ということは、レイは女神(・・)だったわけっちゅね?」

 

「もう数えるのが馬鹿馬鹿しいくらい前に辞めちゃったので、信仰者は一人もいないと思ってたんですけどね・・・」

 

ワレチューの問いに答えながら、レイの体が光に包まれたので、全員がその光景を凝視する。

驚かないで済んだのはレイが自ら「私は女神ですよ」と答えてくれたからで、そうでなかった場合は間違いなく平静を保てなかっただろう。

そして、レイを包んだ光が消えると、体格や髪型などに変化は見られず、服装が女神らしいそれに変った程度であったので、テルミたちはそれがレイの変身した姿なのだと理解した。

 

「皆さんが信じてくれる気持ちが信仰心になったんでしょうね・・・。お陰で変身することができたみたいです」

 

自分が変身できた理由を説明するレイであるが、自分自身でも予想外なことが起きていた。

 

「(以前は性格が変わっちゃってたけど、それは力を得たからって驕り昂ったせいなんだろうなぁ・・・)」

 

この力を失うより前は平時からあからさまに暴走したかのような言動や性格になっていたが、今回はそんなことは無かった。

つまるところ、あの性格の豹変は己の心持ちのせいであると気付くことができたのであり、それだけでも大きな収穫だと感じることができた。

 

「成程・・・この資料から推察するに、御前の納めていた国は国民が御前に求めていたものと、御前が国民に与えようとしたものの違いから崩壊したと見えるが・・・どうだろうか?」

 

「その通りです。彼らは救済や自由に暮らせる場所を求めていたのに、私はただこうしろと押し付けるだけ。それで嫌気がさした国民たちが離れて行くのを見た私がしたのはただの八つ当たりも同然の事だったんです・・・」

 

―ちなみに、私が治めていた国はタリと言う名前です。とレイは付け加えた。

資料を読み終えたレリウスが確認すると、レイから肯定されたので間違い無かったことが分かった。

レリウスが読んでいた資料はレイが女神として国を持っていた時代の資料で、国民の声や入ってきた人と去る人の数の確認などができるものだった。

それによって気になった全員が資料による目を向けたので、レリウスはテルミに預けて残りの人たちに読んでもらうことを選んだ。

読み終えた全員は、「なるほど。これではダメだな」と理解することができた。

 

「今思えば、私が女神を嫌っていた理由も、自分はああだったのにこの人たちは普通に人が寄り付いているから許せないっていう、自分のせいなのに何を考えているんだっていうものでした・・・」

 

「まあ、確かにそりゃあ八つ当たりって言われてもしょうがねえな・・・」

 

自身が女神を嫌う理由を話して、レイは今までの自分が馬鹿馬鹿しくて仕方ないと思ってしまう。

ただ自滅して人から離れられたのにも関わらず、それで他の女神を恨むのはお門違いにも程があるものだった。

流石にテルミもそれには同意するしかなく、レイもそれは分かっていたので「そうですよね・・・」と納得するに終わった。

 

「だが、今は違うはずだ・・・今のお前はどうしたい?国を取り返したいとか、そういう訳でも無いのだろう?」

 

「そうですね・・・」

 

マジェコンヌに問われてレイは少し迷う。自身の記憶を求めていたので手一杯だったので、その先を考えていなかったのだ。

この同盟を抜けるつもりはないのは確かだが、女神を倒す・・・という表現は少し違う気もした。それでも女神に用ができたことには変わりないので、少し表現を考える。

そして、考えた結果次の答えが出た。

 

「私は・・・今の女神がどれだけやれているか、試したいんだと思います」

 

「詰まる所女神と戦うことを所望している・・・それでいいのか?」

 

レイの答えにレリウスが問いかければ、レイはそれに頷くことで肯定を示した。

また、頷いたレイは「私たちに負けるようなら彼女たちはそこまでだったんでしょうね」と付け加える。確かに、一人増えたくらいで負けるならそう思われても仕方ないことだろう。

 

「じゃあ、この同盟はまだ暫くは続くっちゅね」

 

「ただ、このままだとこちらが危ういのもまた事実か・・・」

 

同盟が解散ではないことに安堵こそすれど、次の戦いに負けた場合そのまた次も戦いを挑めるかと言えば怪しいだろう。

そう考えれば無論、死力を尽くして相手をしなければならない。その為には用意の忘れや万が一の備えなど、全て万全に済ませる必要がある。

 

「さて・・・どうにかする為にもまずはシェアエナジーを偏らせる方法だが・・・どう行うのだ?」

 

「コレを使ってシェアの操作を行います」

 

マジェコンヌに問われたレイが答えると、それに呼応するかのように彼女の足元の床がスライドし、その中から小さい光の球が現れ、全員がここにもシェア収集装置があったのかと驚いた。

 

「ところで、国はどこにしましょうか?」

 

レイが問いかけたのは、シェアエナジーを操作するとは言ってもどこの国に集めるかを決めていなかったからである。

 

「そうだな・・・一番怪しまれなそうなところって言ったらどこだ・・・?」

 

「逆にここは無いって言われてるところでも良さそうっちゅね。プラネテューヌなら毎度シェアが一番少ないし、色々女神たちで荒れるかも知れないっちゅよ?」

 

悩んでいるテルミにワレチューが自分の意見を出せば、全員がなるほどなと頷いた。

確かに、プラネテューヌならば多少なりとも影響は出るだろう。そうなれば後はこちらで準備がやりやすくなる。

 

「では、プラネテューヌで大丈夫ですか?」

 

「プラネテューヌにしよう。それまでに準備は済ませておきたいから、準備が終わってからそれを使おう」

 

「わかりました。準備が終わったら、またここに来ましょう。後、ここの中も説明しておきたいので、案内しますね」

 

シェアエナジーはプラネテューヌに集めることで決まり、準備の手助けができればと思ったレイは遺跡の中を案内することにした。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「成程・・・。確かに、現段階では対策が無いか・・・」

 

「ええ。だからこそ、どちらかに使ってもらえるのならそれで対策は成り立つのだけど・・・」

 

リーンボックスの教会でナインに用意されている部屋で、ハクメンとナインが今後のことで対策を話していた。

現状、対策として用意できるものは錬金術が必要なもので、魔法なら幾らでも使いこなせるナインと言えど、流石に今すぐ習得できるものではなかった。

 

「だが、使うのはあまり望ましくないだろう。本来、あの力は行き過ぎたものなのだからな・・・」

 

―できることなら、使わないのが一番望ましいわね・・・。ナインがハクメンの言葉に相づちを打った直後にドアをノックする音が聞こえた。

その音を聞いたナインが許可を出せば、ドアを開けてラグナが入ってきた。先程ラグナが今後のことを話したいと言ってきてくれたので、彼に頼めるかどうかを確認できるのでハクメンと意見が一致して呼んだのである。

 

「悪いな。お前も忙しかったろうに・・・」

 

「いえ。私たちも丁度、あなたに頼めないか考えていた事があったの」

 

「・・・俺に?」

 

ナインからの言葉を聞いたラグナは首を傾げる。ナインが自分に頼むことは非常に珍しいと感じていた。

 

「実はね・・・今ハクメンと一緒に、あの同盟を倒す方法について考えていたの」

 

「・・・!なるほどな。俺もちょうど、あいつらどうにかしたいと思ってたんだ」

 

確かに、同盟をどうにかするのは死活問題であった。その為ラグナはその対策の協力は乗り気であった。

 

「まず、見回り方は普段通りで大丈夫そうか確認しましょう」

 

「ルウィーは三人と外に出ることが多いのでな・・・その間に私が確認も兼ねて行っているから問題はない」

 

「リーンボックスは私が調べているから問題無くて・・・」

 

「プラネテューヌは特に出かける場所が無いやつが率先してやってて、時々女神と俺も混ざるから一番安全だろ」

 

「確か、ラステイションは女神二人がローテーションをしていたわね・・・。時々あの三人で一緒に監視を変わってもいる」

 

一通り確認してみたものの、全く変える必要が無かったのでどうしようも無かった。

次にテルミらの同盟があの後何か動いたかを確認するも、特に動きが無かったので引き続き警戒することに留まる。

こうして考えてみると、大分手詰まり感が強い状態であることが判明した。

 

「現状、テルミを止めるにはなんか方法はあるのか?俺は無理矢理捕まえることはできても、その先が残ってねぇからな・・・」

 

「ならば、私の持つ『鳴神』を使うとしよう。此れならば奴の刻を止め、動けぬ身にすることも可能だ」

 

「そうね・・・現状、それが一番良いわね」

 

テルミのことに関しては現状、ハクメンの『鳴神』に活路を見出すことになった。

やり方としては、『エンブリオ』で行ったことに近い方法で行うことが決まった。

もちろんこれは博打に近い方法である為、可能ならば『刻殺しの刀(ヒヒイロカネ)』が欲しい所であった。

 

「現状は此れで良いとして・・・後は祈るしかあるまい」

 

「そうね・・・。後はお互いにできることをやっていきましょう」

 

「分かった。それと・・・ネプギアに『蒼』のことは俺から話しておく」

 

この三人で話して見たのは良いものの、できることが限られているのが分り、ネプギアに『蒼』のことを改めて話すことに留まった。

そして、これによって同盟への対策の話はお開きとなるのだが、ラグナは忘れずに聞いておきたいことを聞くことにした。

 

「そうだった・・・。ナイン、これはさっきの話とは違うことになるんだけどよ・・・」

 

「・・・?どうかしたの?」

 

こんな問いかけ方をするのがラグナにしては珍しすぎたので、ナインは思い切ってその話しに乗ることにした。

一体何があったのだろうか?それが気になったのである。

 

「実はな・・・」

 

それからラグナは、最近ネプギアのことを意識する。またはネプギアの近くにいると落ち着きを失いやすくなっていることを話した。

また、その時心臓が跳ねるようなものを感じるのだが、何でそうなったかが良く分からないことも忘れずに話した。

 

「これって・・・何かの病だったりするのか?」

 

「・・・・・・」

 

ラグナが素で聞いてきたのが分かり、ナインは数秒の間硬直してしまう。

そして、ラグナがそれに気が付いていないことと、本当に分からない様子でいるのがおかしくなって吹き出し、腹を抱えて盛大に笑った。

 

「お、おい・・・どうした?」

 

「どうしたも何も・・・。まさかそこまで自分に鈍いとは思わなかったもの・・・」

 

困惑するラグナに答えながらも、ナインは再び爆笑する。それだけラグナの無自覚さが面白かったのである。

一方で、ハクメンは「御前にもその時が来たか」と、少し楽しそうな声を出した。

 

「ええ。それは確かに病よ・・・『恋』と言う名の心のね」

 

「・・・・・・マジかよ。けど、言われて見れば納得できるな・・・」

 

ナインに言われたラグナは、そこでようやく己に芽生えたものを自覚する。

どうやら知らない内にそうなっていたらしい。まさか自分がそんなものを抱くようになるとは思いもしなかったのである。

 

「その想いが成就することを・・・一人の友として願おう」

 

「そうね・・・私も、あんたが上手く行くことを願うわ。後、困った事があったらいつでも聞きなさい?少しだけでも、私の経験談が助けになるかもしれないから・・・」

 

「ああ。そうさせてもらうよ・・・」

 

この話しは今この場にいる三人の秘密となり、今度サプライズになれば良いなと願うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・さて、そろそろ頃合いだな」

 

遺跡の案内を受けてから数日後、そろそろ良いだろうと感じたマジェコンヌたちは再び遺跡に足を運んでいた。

そして、変身した姿のレイが自身の正体を話した場所で準備の出来ている収集装置を囲むように集まり、後は収集装置を使って行動を起こすだけだった。

 

「場所は当初の予定通りで大丈夫ですね?」

 

「ああ、予定通りプラネテューヌに集める・・・。それから行動を始めよう」

 

「了解した。起動した直後から私はプラネテューヌに潜り込もう」

 

「俺は周囲に邪魔するやつがいねえか確認しておくわ」

 

「おいらはここを使って周りの反応を確認するっちゅ」

 

全員が与えられた役割を確認して、開始の時を待つ。

そして、もう待つ必要はないと分かっているレイは、水晶を起動することにした。

 

「それでは、行きます・・・!」

 

レイは収集装置に横から両手を触れそうなくらいまで近づけ、意識を集中させる。

暫くすると収集装置が紫色の光を放つようになったため、これで起動を完了させることができたレイはその手を収集装置から離した。

 

「さて、これで準備完了です」

 

「感謝する。では、始めよう!」

 

マジェコンヌの合図で全員が動き出す。

レリウスとテルミはその場を飛び去って外に出ていき、残った三人は遺跡の中に残って最後に必要なものを準備していく。

 

「(三度目の正直というやつか?恐らく、これが最後になるやもしれんな・・・。だからこそ、出し惜しみはないようにせんとな)」

 

もしかしたら、これ以上はできないかも知れない。そんな危惧を持ったからこそマジェコンヌはいつものような高笑いをしようといった思考は出てこず、その代わりに手元は汗で濡れていた。

こうして、和平を結んで以来最大の危機がラグナたちの下にやって来ようとしていたのだった。




今週、インターンシップに備えた事前学習があった事で少しだけ文章を考える余裕が無くなってしまいました・・・(汗)。

ここ来てようやくラグナが初恋を自覚する形になりましたが、大丈夫かどうかが凄い不安になっています・・・。
レイの方は迷った末このような形を取らせて頂きました。原作と比べて明らかに違うものがあったりしますが、もしこの方が良いとあったら一声いただけたら幸いです。こちらも無理のない範囲で修正を効かせようと思います。


次回からアニメ11話本編に入りたいと思います。


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56話 変わらない団結

今回からアニメ11話に入ります。


朝早く、己の右腕に妙な違和感を感じたラグナは普段よりも早くに目を覚ました。

 

「・・・どうなってんだ?」

 

ベッドから起き上がって右腕を見つめて見れば、何やら抑えられていたモノを無理矢理引き出されているような感じがしていた。

明らかにおかしいと感じたラグナは、イストワールやネプテューヌに確認を取ろうと思って部屋を出て、普段皆で集まる部屋に移動する。

しかし、その部屋には誰もいなかったので、今度はシェアクリスタルが置かれている部屋に移動してみることにする。こんな判断ができるのもプラネテューヌならではであった。

部屋を開けてみれば案の定、ネプテューヌとネプギア、そしてイストワールの三人がシェアクリスタルの前で何やら話し合っていた。

 

「もういたのか・・・。何かあったのか?」

 

「あっ、ラグナ!丁度いい所に・・・。実はいーすんの持ってるコレとシェアクリスタルを見て欲しいんだけど・・・」

 

「実は、今まで最下位だったはずの我が国のシェアが、信じられない勢いで伸びてたんです」

 

「シェアが増えた証拠に、シェアクリスタルが虹色に輝いているんです」

 

ラグナが問いかけてみると、ネプテューヌが二人に続きを回し、イストワールは曲線を描いて急激に上昇したシェアエナジーの折れ線グラフを見せてくれ、ネプギアに催促されてシェアクリスタルを見て見れば、確かに虹色の輝きを放っていたのである。

 

「なるほどな・・・。そんな勢いで伸びていたから、『蒼炎の書(こいつ)』から無理矢理力を引き出されるようなモノを感じたのか・・・」

 

ラグナは三人から話を聞いて、己の中にあった違和感を解消することができた。

また、ラグナの証言を聞いた三人が、それなら確かにおかしいと顔を見合わせた。

 

「ネプテューヌさん、ネプギアさん。何かシェアを一気に集められるようなことをした覚えはありますか?」

 

「いや?最近は何もしてないよ?こんなに跳ね上がるなら、それこそエディンとの戦いが終わった直後とかの方が自然じゃないかな?」

 

「私のことは表向き出ていないから、それを解決してもあまり変わらないですね・・・」

 

イストワールに確認を取られた二人は、自分の思いつく限りでシェアが一番大きく変動しそうなことを上げてみるが、どちらも的違いだろうと結論が付いた。

これによって明らかに自分たちがやっていないことが判明し、この場にいた四人は嫌な予感を感じるのだった。

 

「となると・・・あいつらの可能性がありそうだな」

 

「シェアの収集装置はもう壊したはずだけど・・・もう一個持ってたとしたら納得だね」

 

ラグナがまず初めに考えたのは、テルミら同盟の仕業だった。

確かにシェア収集装置を使ったことのある彼らが、どこか別の場所でもう一度使うという可能性は十分にあり得る話であり、ネプテューヌも自然と納得できるものだった。

そこまで考えて、ネプテューヌ「あっ」と声を上げた。

 

「・・・どうしたの?」

 

「プラネテューヌのシェアがこんなに上がってるってことは、他の国はシェアがその分落ちちゃってるんだよね?他のみんなが大変な思いしてるかも・・・」

 

「あっ・・・!」

 

ネプギアに問われたネプテューヌが答えれば、イストワールもそれに気がついてはっとする。

元々シェアエナジーはどこかの国が上がればどこかの国、あるいは上がった国以外全ての国が下がるシーソー的なものになっている。

つまり、これだけプラネテューヌのシェアが上がった以上、他の国が急激にシェアの低下を起こしているのは想像に難くなかった。

 

「・・・結構ヤバそうか?」

 

「これで他の皆が狙われたら大変だし、助けに行かないと・・・」

 

ネプテューヌに答えてもらったラグナは確かにそれは大変だと理解する。

しかし、ここでネプテューヌたちが行った場合、この国の守りが一気に少なくなるのでそれも危険ではないかとラグナは考えた。

 

「いや、行くなら俺が行こう。普段から外で回ってる奴が行けば自然に見えるだろうし・・・。ついでに住んでる人たちの様子も見ておくよ」

 

「そうだね・・・それなら、私たちは国内を見ておくよ。女神のみんなに連絡して、こっちでも何か考えとくよ」

 

それ故に、ラグナは自分から行くことを選んだ。いくら団結力が上がったとは言え、流石にここまでのシェア変動が起きた今、ネプテューヌたちが直接行くのは少々危険だろう。

幸いにもその提案はネプテューヌが受け入れてくれたので、この話は長引かないで済んだ。

 

「そのほうが良さそうですね。では、ネプテューヌさんは他の女神の皆さんに連絡をお願いします。ラグナさんは早速調査をお願いできますか?」

 

「分かった。それじゃあちょっと行ってくるわ」

 

イストワールに頼まれて、それを承諾したラグナはすぐに移動を始めるべく部屋を後にして外へと移動した。

 

「じゃあ、私も連絡取りに行ってくるよ。ネプギアは後で対策考えるのを手伝ってもらえる?」

 

「うん。私にできることなら任せて。いーすんさん、また変化があったら教えてもらえますか?」

 

「はい。二人ともよろしくお願いしますね」

 

イストワールに見送られながら、二人も部屋を後にした。

それを見送ったイストワールも、もう一度国内の情勢を調べ直すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・と言う訳なんだけど、最近何かそうなるようなことあったかな?」

 

シェアクリスタルが置かれている部屋を出て早々、自室に戻ったネプテューヌはパソコンを起動して各国の女神たちと連絡を取っていた。

現段階で判明しているのは、プラネテューヌのシェアが急激に上昇すると同時に、各国のシェアが劇的に低下していたこと。ラグナは『蒼炎の書』から無理矢理力を引き出されるようなモノを感じたことの二点だった。

また、推測できる状況としてはマジェコンヌらの同盟が、何らかの方法でプラネテューヌにシェアを集めたいことであり、エディンとの戦いの結果が遅れて反映されたと言う説も確かにあったものの、それなら、苦労しているのは全員同じである為、ここまで差は付かないと判断を下された。

プラネテューヌで起きた出来事のみでは判断が難しい為、こうしてネプテューヌは他の女神たちに何かあったかを聞いてみることにしたのだ。

 

「こっちは特に無いわね・・・。ラステイションでも、その同盟の説が一番強くなりそうね」

 

「ルウィーもそうなりそうね・・・。この期に及んでプラネテューヌの策略なんて思えないから」

 

「リーンボックスも、同盟によるものと仮定すると思いますわ。ただ、一つ気になるのですが・・・」

 

ベールが言いかけたので全員が一度聞き耳を立てる。もしかしたら自分たちが見落としている所に気づいているかもしれないからだ。

 

「仮に同盟の仕業だとして、どうしてプラネテューヌにシェアを集めたのでしょう?それが気がかりですわ・・・」

 

『なるほど・・・』

 

ベールの話を聞いて確かに、と三人は頷いた。

どうして彼らがプラネテューヌにシェアを集める必要があったのかを皆で考えてみたところ、一つの回答にたどり着いた。

 

「もしかしてだけど・・・仲間割れを誘ってるんじゃないかしら?」

 

「・・・否定したいところだけど、確かにあり得そうね」

 

ノワールが出した回答を、ブランは肯定したくは無かったが、納得せざるを得なかった。

また、それはネプテューヌとベールも同じであり、プラネテューヌを選んだのは、仲間意識の強いネプテューヌの居ない場所にシェアを送ると失敗する可能性が高いからだろう。

しかしながら、ネプテューヌのみならず、全員が仲間意識を強く持っている今では殆ど効果を出さずに、彼女らに警戒体制を作ったり、対策を作り上げる準備の時間を与えてしまう結果になっていた。

とは言え、彼女たちの気づかぬところで最後の準備をするのも目的に入る為、そちらの点では成功と言えるだろう。

ここまで纏め終えて、彼らの思惑通りに行かせない為に対策を作り上げるべく考え込んだところ、ネプテューヌが一つ提案を思いついた。

 

「じゃあさ、私のところはシェアが一位になった記念で何かイベント開いてみるから、その間に調査をしてみようよ。みんなに手伝ってもらえば何か手がかり見つかるかもしれないし」

 

ネプテューヌの提案は、同盟たちがネプテューヌが持っている思考の変化に気が付かなければ時期もあって釣り餌にはとても効果的になると思える。

それは名案だし、戦争になってしまったので国民たちが久しぶりに楽しめるイベントとしては中々良いものである。

表向きにも良い案であった為、ここでノワールが同盟をおびき寄せる為にももう一つの提案を上げる。

 

「いっそのことだけど・・・私たちがシェアの影響で仲違いをするフリをするのはどうかしら?その、あえてあっちの思惑に乗るって言う意味で」

 

「それは問題ないけど、やるなら私たち四人だけがそうなっているようにする段取りにしましょう。他のみんなには伝えるだけで、フリをしている時だけ付き合ってもらうようにすれば問題ないはずよ」

 

「それが良さそうですわね。この通話が終わった後すぐ、身近な人たちからその旨を伝えていきましょう。遠出をしている方がいたら、見かけ次第伝えてもらう方針で良いでしょうか?」

 

「うんっ!それじゃあ、イベントの内容とか決まったらその時はまた連絡するね」

 

ノワールの提案は諸刃の剣に見えるかもしれないが、やるだけの意味があると判断されたことで採用されて、全員に伝達を行いイベントの内容が決まり次第また連絡に落ち着いた。

―二度あることは三度あるとも言うけど、三度目の正直で終わってくれると良いなぁ・・・。通話を終了した後部屋を後にしたネプテューヌはそんな希望を抱いていた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「(モンスターの数がいつもより少ないな・・・。シェアエナジーの量が影響してたりすんのか?)」

 

プラネテューヌを出てラステイションに向かう傍ら、道中のモンスターの数が明らかに少ないとラグナは感じていた。

人々から得る信仰によって、信仰してくれる人たちに守護を与えるという結果がモンスターの数(ここ)にも反映されていたのだろうか?バイクで走り抜けるラグナの中にはそんな疑問が浮かんでいた。

何やらモンスターもこちらを警戒して、見かけ次第すぐに距離を取ってしまうので一々迂回することも無く最短ルートでラステイションまでたどり着いてしまった。

 

「なんかモンスターの様子がおかしかったんだが、何かあったか?」

 

「さあ?詳しくは解りませんが、プラネテューヌのシェアが影響しているんでしょうね・・・」

 

ラステイションに着いたラグナは、早速交通管理を行っている男性に聞いてみたが、彼も詳しくは分からないものの推測は自分と近いものだった。

 

「そっか。ありがとうな」

 

答えてくれただけでもありがたいと感じたラグナは、礼を言って国内に入っていく。

ラグナが国内を見て回った見解としては、一応ネプテューヌらプラネテューヌの女神への批判等の声は聞こえなかった。

何でも、「最も大変な女神同士の戦いを請け負ったのだから、こうなっても仕方ないだろう」というのが、ラステイション国内にいる人々の声だった。こう言われればラグナも納得できた。

ラステイションにいる人たちは女神が結果を出すことを望んでいる人が多いので、今回大きな結果をだしたネプテューヌに向けて一時的に信仰が変わっていると考えれば案の定この国は自然と思えた。

 

「(自然にそうなるような信仰のしかたに変えられてんのか?もしそれだったら判断が付かねえが・・・)」

 

ラグナはそれがまさかとは思いたいが、もしそうだった場合はとてもではないが判別が付かない状況になるので、それだけは勘弁願いたかった。

見た限りではそう見えないのでまだ良いのだが、どこかにテルミらが隠れているかもしれないので油断はせずに近くを歩き回ってみる。

 

「あっ、ラグナさん。ここにいたんですね・・・」

 

「お?ノエルたちか・・・何かあったのか?」

 

ラグナが暫く歩いていると、ノエルら三姉妹に遭遇し、ノワールから伝言を預かっていたノエルが、女神たちの会議で決まった事をラグナに伝えた。

会議で決まった内容としては、四女神のみで仲違いをしているフリを演じることと、同盟たちをおびき出す為、国民たちが久しぶりに楽しめるように、プラネテューヌはシェアが一位になった記念としてイベントを開くことが決まったのが伝わった。

 

「なるほどな・・・。取り敢えず、それは候補生や俺らも全員共有する情報ってことか」

 

「はい。他にも、暫くの間外を回るのは私たちが中心になるみたいです」

 

「ああ。俺がネプテューヌに提案したのがそのまま通ったのか・・・」

 

一先ずネプギアたちがそんなことしなくて済むと分かって一安心するのと、自分たち異世界組が中心になって外回りをすることになるのは予想通りだなと感じた。

そうであるなら、バイクによって移動速度が速く、人手の多いプラネテューヌに居住している自分が主軸になった方が良いだろうなとラグナは考えた。

ナインは常日頃多忙な一日を過ごしていたり、セリカはミネルヴァ無しでは戦闘力が皆無である為、リーンボックス組は厳しい。

また、ハクメンは移動速度や体力的な意味では全く問題ないが、ハクメンが動き回るとルウィーには異世界組がいなくなるので無理にやらせる訳には行かない。

そして、最後にラステイションの三姉妹だが、こちらはニューの戦闘力が失われてしまっているので非推奨である。

この他にも、現状『蒼』を保有しているのはラグナとネプギア、こちらは『眼の力』ではあるがノエルの三人で、この中で唯一足が軽く、立場に縛られないのはラグナ一人だからである。

 

「教えてくれてありがとな。他にも何かあったら教えてくれ」

 

「わかりました。ラグナさんも気を付けて」

 

「おう。お前らも程々にな」

 

「分かった。程々にする」

 

「ラグナ、頑張ってね」

 

三人に見送られながら、ラグナはラステイションを後にしてルウィーの状況を確認するべく再び移動を始めた。

 

「(ラステイションはあまり怪しい感じしなかったが、ルウィーはどうだろうな・・・?)」

 

ラグナが移動しながら考えていると、久方ぶりに右腕が妙な重みを感じた。

何が起こったのかと思ったラグナが右腕をちらりと見やれば、己の右腕が蒼い炎のようなものに包まれていることに気が付いた。

それはすなわち、誰かがこの世界に来たという証拠だった。

 

「(幸いにも進行方向だし、ついでに確認してみるか)」

 

今回も例のごとく自身に近い場所で起きたことなので、ラグナは一度そちらに向けて進路を変更した。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・?」

 

自身の頬に冷たい何かが当たっているのを感じた女性はゆっくりと目を開けて起き上がる。

地面は雪で覆われており、冷たいと感じたのはそれが理由であることと、ここが見知らぬどこかであることは分かった。

 

「眼鏡は・・・大丈夫みたいですねぇ」

 

自身のかけている眼鏡に汚れ等はついてしまっていないかどうかを確認してみたところそれらは無かったので一安心する。

この他にも、事象兵器(アークエネミー)雷轟(らいごう)無兆鈴(むちょうりん)』が手元にあったことも大きい。

これがあれば戦闘が苦手な自分でも、ある程度までなら脅威を追い払えることができるし、自身が得意とする錬金術を組み合わせれば必要な物も作り出せる。

そこまでは良いのだが、肝心な疑問が解決できていない。

 

「ここ・・・どこでしょうかぁ?」

 

確か自分は最後、『窯』の中に沈む事を選んだ仲間を見送った後、あの世界から消え去ったはずである。

であればここは死後の世界なのかと考えたが、如何せん自身の体がハッキリしすぎていることと、大地を踏みしめている感覚が確かにあるので、そうだと断定できないのが悩みであった。

また、もし自分が生きているのであれば、周りが雪に覆われていてどこだかわからないのはかなり問題である。

 

「このままではいけませんね・・・。どこか人がいる場所に・・・。・・・?」

 

このまま過ごしているといずれ飢え死にが待っていると確信した女性は、すぐに移動を始めようとしたが、何かの音が聞こえてその判断を保留する。

暫く周りを見渡してみると、何やらうっすらと影が見える場所があったので、彼女はそちらを注視する。

少しずつ影の形がハッキリしてくると、その影の正体が見覚えのある人物であることが判明して驚くことになる。

 

「・・・ラグナさん!?」

 

まさかどこかもわからないところに、ラグナがいるとは思てもみなかった。更には自分の服装と同じ色をしたバイクに乗っていることもそれに拍車をかけていた。

誰かに行き道等を聞かなければ不味いと思っていたのだが、仮にラグナが知っているのなら最も気が楽だと感じた。

また、ラグナも自身を見て気が付いたのか、女性のすぐ近くでバイクを止めてくれた。

 

「トリニティか・・・」

 

「・・・!ラグナさんで間違いなさそうですね」

 

自身のことを知っていたので、女性・・・トリニティ=グラスフィールは安堵する。

ラグナもラグナで、トリニティがこちらのことを正しく認識してくれたことをありがたいと感じるが、確認しておきたいことと彼女を案内せねばならないことを思い出して気を引き締め直す。

 

「そういやトリニティ、こっちに来る前、自分に何があったかは覚えているか?」

 

「ここへ来る直前・・・ハクメンさんが『ユニット』ごと『窯』の奥深くに沈んでいくのを見送った後、静かに消えていったことですねぇ。ラグナさんにあの二人を任されて別れた後のことです」

 

「なるほどな・・・」

 

―それなら互いの持つ記憶に差は無いから安心だな。トリニティの答えを聞いたラグナは安堵する。

しかしながら、この時期に来たとなれば説明するのに中々苦労するだろうとラグナは感じた。何しろ自身とハクメンの接し方やネプギアのことなどでかなり驚かせ続けるのが目に見えていたからだ。

 

「取り敢えず話さなきゃいけないことは色々あるんだが、長くなるしここから人のいる場所まで移動するのは少し時間かかるから、取り敢えず移動しよう。後ろに乗ってくれ」

 

「わかりました。お願いします」

 

一先ずここで話し続けると互いの体に悪影響が出るのが目に見えているので、トリニティはラグナの提案を受け入れバイクの後部座席に乗せてもらう。

トリニティが乗ったのを確認したラグナは、安全と距離の短さでバランスの良い道を選んでルウィーまで進むことにした。

というのも、トリニティの体力がかなり低いことが影響していた。

 

「なるほど・・・ここはそういう場所なんですねぇ・・・」

 

ラグナはまず初めに、ゲイムギョウ界が現状どんな世界であるのかを話した。

事象干渉が存在しない。女神がいるのだが、それは人々と相互関係にある存在であること等々、話を聞いたトリニティは率直な感想を述べるのだった。

 

「他にも、こっちに来て変ったやつは色々いるんだ。俺はもう反逆なんかしてないし、ハクメンは俺への接し方が大分変ったな・・・。他にも、ニューは俺たちに救い出された後は自分がどう生きたいのかを考えながら楽しんで過ごしてたりな・・・」

 

「えっ?あ、あの・・・私たち以外にも来ている人がいるのですか?」

 

「ん?ああ、そういや言ってなかったな・・・今来てるのは、俺、セリカ、ハクメン、ナイン、ナオト、ラケル、ノエル、ニュー、ラムダ、テルミ、レリウス、そしてトリニティを入れた十二人だな」

 

「そ、そんなに来ているだなんて・・・」

 

トリニティが驚いたのは自分が言ってないせいでもあるし、そもそも自分ら以外来ているとは思えないので仕方ないことではある。

ラグナに教えてもらっている間は驚きながらも普通に聞いていたトリニティだが、少し落ち着くと複雑な表情になる。

 

「テルミさんも・・・こちらにいらしていたんですね・・・」

 

その名を聞いたトリニティは心持ち穏やかにはなれなかった。

自身がイシャナにいた頃、気にかけていた男子生徒が変わってしまったのにはテルミが一枚嚙んでいるせいである。

それ以外にも、『エンブリオ』にてようやくラグナが倒して終わったと思っていたら、この世界で普通に生きていると言う事実も大きい。

この他にも、ハザマがいないことは気がかりではあったが、厄介事を期待してはラグナたちが変身大変だろうと思い、その考えは捨て置くことにした。

 

「どうにも女神を倒したい奴らがいてな・・・。テルミとレリウスは、そいつらと手を組んでるから、女神たちのところで世話になってる俺らとは度々ぶつかってる」

 

こちらでは前の世界と比べて時間が短いのもあるが、未だに決着は付かず終いであった。

また、前回があまりにもあっさりとテルミたちが引いていったこともあり、何かデカい隠し玉を持っているとラグナは考えていた。

流石に何を持っているかまでは把握できていないものの、それが当たっていることはこの時知る由も無かった。

 

「私も手伝います。テルミさんを止めるなら、アレが使えるでしょうから・・・」

 

「そうだな・・・もうすぐで俺の向かってる場所に着くから、そこで詳しく話そう」

 

「わかりました」

 

話している内にルウィーの街並みが見えて来たので、一度話を打ち切って教会まで走り抜けることにした。

ルウィーは丁度除雪が終わった頃だったのか、特に足場を気にする必要が無かったので、普段よりも早くたどり着くことができた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、御前まで此の世界に来るとはな・・・」

 

「はい・・・全くの予想外でしたぁ」

 

そして、ルウィーの教会についてすぐ、電子画面越しで今いる異世界組の全員と、ゲイムギョウ界で暮らしている女神とその身近にいる人たちと、トリニティは顔合わせすることになった。

まず初めに呆れ気味に驚いたのはハクメンであり、トリニティもこうなると思っていなかったので同意を示した。

何しろハクメンは己の躰となっている『スサノオユニット』を、トリニティの計らいで『境界』の奥深くに封印してもらい、トリニティはそれを見送ったあと元いた世界を一人静かに去っていき、世界の情勢を考えれば互いに二度と合わない方が望ましいとすら言っていたにも関わらず、こうしてまた再会したせいである。

この事情を聞いた他の全員は流石に笑えないものがあった。また、全員は異世界組の状況は詳しく話さなければならないのかと思ったが、ラグナから簡単に聞いているから後で確認程度で大丈夫な旨をトリニティが伝えてくれので、随分と気が楽になった。

 

「後は・・・テルミさんがいるとは聞きましたので、私がやることと言えばやっぱり・・・」

 

『ええ。トリニティには『刻殺しの刀(ヒヒイロカネ)』を作って欲しいわ』

 

ナインの口からでた『刻殺しの刀(ヒヒイロカネ)』が何か分からず、ゲイムギョウ界組が首を傾げるのが見えたナインは「後で話すわ」と伝えて我慢してもらうことにした。

他にも、今現在のシェアの状況や、テルミたちが仲間割れを狙っているなら敢えてそれに乗っかるという意図を伝えた。

そして、大体の話が纏まったので、最後に住む場所を決めることになった。

 

『そう言えば、ルウィーは今までハクメンさんしかいませんでしたね・・・』

 

「確かにそうね・・・。それと、その『刻殺しの刀(ヒヒイロカネ)』を作るのに時間が掛かるなら、ルウィーから移動しないですぐに始めた方が良さそうね」

 

ノエルの思い出したように言った一言もそうだが、『刻殺しの刀(ヒヒイロカネ)』が間に合うならそれに越したことはないだろうとブランは考えた。

当然それに反対する人はいなかったのと、トリニティが別に構わないと言ったので、彼女はルウィーで過ごすことが決まった。

 

『あっ、そうそう。『刻殺しの刀(ヒヒイロカネ)』を作った後なら、トリニティに遊んでもらうのは大丈夫でしょうけど・・・眼鏡だけは汚さないようにね?』

 

『・・・あっ!そうだった!二人とも、眼鏡だけは汚しちゃダメだよ?』

 

「「・・・・・・?分かった・・・?」」

 

解散の直前、ナインが言ったことをセリカが全力で肯定する。

それを聞いたロムとラムは困惑したものの、返事をした後ハクメンが何やら神妙な様子で頷いたので、眼鏡を汚さないように気を付けようと心に決めた。

ネプテューヌがまたイベントの企画考案に戻らなけらばならないため、全員が一旦解散という形になった。

 

「さて・・・じゃあ、俺はそろそろ行くよ。ルウィーとリーンボックスの国民の様子も見ておきたいしな」

 

「わかったわ。何かあったら連絡お願いね」

 

「おう。それじゃあな」

 

そして、ラグナも教会を後にして、ルウィーの街へ再びバイクを走らせるのだった。




色々考えた結果、ヒヒイロカネは必須モノだと判断したためトリニティがこのタイミングで参戦することになりました。大分遅くなったなと思います。

次回はこのままアニメ11話の続きに行きたいと思います。


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57話 大切な準備

アニメ11話分の続きとなります。


『取り敢えず、ルウィーはこんな感じだったぞ』

 

「承知した。では、私からブランに伝えておこう」

 

『ああ。頼んだぜ』

 

教会を後にしてから約二時間程、一通り国の中にいる人々の様子を見た限りの情報をラグナはハクメンに伝えていた。

ルウィーにいる人たちは大多数は小さいものを好む傾向があるらしく、平時の姿になってしまったネプテューヌが無茶してまでエディンの女神を止めたことを称える様子を度々目撃していた。

ラステイションと並び、これは比較的自然なものではないかとラグナは解釈していた。

また、ラステイションもそうなのだが、ルウィーにテルミら同盟の姿は無かった。

これらを聞いたハクメンがブランに伝える旨を伝えると、ラグナは改めて頼んでから通信を切った。

話を聞き終えたハクメンはブランに伝えるべく執務室の扉を開け、中に入る。

 

「ラグナからルウィーの状況に報告があったぞ」

 

「早いわね・・・。どうだったの?」

 

「どうやらこの国は、プラネテューヌの女神が平時の姿であるにも関わらず、エディンの女神を止めた事が評価を上げているようだ」

 

「なるほど・・・確かにそれは自然さがあるわね」

 

これで変身した姿のネプテューヌがどうのこうのと話が出てきていたら少しは違ったのだが、今回の話であればそれなりにルウィーらしいという結論に至った。

 

「肝心な同盟がこちらでも見当たらないとなれば・・・やっぱりプラネテューヌかしら?」

 

「その可能性が高いだろう。意図的に信仰を引き上げたのなら、其処が狙い目になる」

 

ブランの推測をハクメンは肯定する。

現状、自分たちが考えていたのは、信仰の下がった女神を各個撃破していくのか、信仰の高くなった女神のシェアが急激に低下するようなことを仕向けて倒しやすくする、他にも仲間割れでつぶし合いが考えられていた。

この中で仲間割れはこちらが乗ると決めたので殆ど効果無しだと考えれば、残っていたのは各個撃破か倒しやすくすることだが、今のところラステイションとルウィーにはいないので、これでリーンボックスにもいないなら間違いなく各個撃破の推測は消えることになる。

 

「全ての国の状況が分るまで待ちましょう。私たちが動くのは、少なくともその後だから」

 

「其れが良いだろう。では、私はそろそろ行かせて貰おう」

 

「ええ。ご苦労様・・・それと、ロムとラムには今の内なら大丈夫と伝えておいて」

 

「承知した」

 

ブランからの頼みを承諾したハクメンが執務室の扉を開けると、そこにはロムとラムの二人が待っていた。

 

「御前たちか」

 

「ハクメンさん、お姉ちゃんってまだ仕事中?」

 

「忙しい・・・?」

 

―成程・・・。彼女がそう伝えるように言っていたのはそういうことか。ハクメンは二人に問われて納得した。

恐らく彼女も、先程執務室に入るより前に、ロムとラムが自信を元気づける為に何かやっていたのを見ていたのだろう。

 

「今の内なら大丈夫だと、ブランは言っていたぞ」

 

「「・・・・・・!」」

 

ならば止める理由はない。ハクメンはブランから預かっている伝言を伝えると、二人は笑顔になりながら顔を見合わせた。

 

「ありがとうハクメンさんっ!ロムちゃん、早く行こう!」

 

「うん・・・♪」

 

「「お姉ちゃーん!」」

 

二人はハクメンに礼を言ったが早いか、早速執務室の中へと入っていった。

そしてその直後、彼女たちは三人で仲良く話していた。どうやら彼女たちが用意していたものをブランが大変気にいったらしく、ブランはロムとラムの二人が執務室から離れた後、自身の個室に大切に飾ることにした。

 

「(今の私にある使命は、此の世界の者たちと共にゲイムギョウ界の平穏を護ることにある・・・)」

 

ハクメンは己の使命を再確認する。

かつては世界にあった『悪』の根源を断ち切って秩序を護る事にあったが、今は信じることのできる仲間と共にこの世界の平穏と秩序を護る事にある。

この使命は一人では相当厳しいものだが、それでも協力できる人がいると言うのは非常にありがたいものだった。

 

「(成し遂げて見せよう・・・。此の世界を、私たちがいたような世界にしてはならぬ)」

 

暗黒大戦時代の惨さを、ループする世界の理不尽さを、一部の欲望にまみれた人たちによる身勝手さを知っているからこそ、ハクメンはこのゲイムギョウ界はそのままの世界であって欲しいと望んでいる。それはラグナやナインも同じである。

そして、己にできることをこなすべく、ハクメンはゆっくりと歩を進め出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「(こっちも大体同じか・・・)」

 

リーンボックスの周囲を確認してみるラグナだが、国内にいる人々の反応は大体同じだった。

こちらもルウィーと似ていて、「エディンの女神を一人で請け負ったから」と言うのが大きい。

ルウィーとは真逆に大きいものを好む傾向にあるリーンボックスである為、こちらも判別が難しい結果となってしまった。

 

「(ったく・・・なんかわざとらしい反応を見せてくれりゃ良いんだけどな・・・)」

 

心の中でそう思っていても、ラグナは口には出さなかった。

ラグナ自身、勘違いから敵視されたり襲撃されたりするのは何度も経験している手前、ここにいる人たちにはそんな思いをして欲しくは無かったのである。

そして、これ以上調べても仕方がないのでラグナは一先ずリーンボックスへ電話をかけることにした。

この手段を取った理由として、リーンボックスで術式通信を使える人がナインとベールの二名と少ないことと、その使える二人が基本的に多忙だからである。

少し時間が経つと、誰かが受話器を手に取った音が聞こえた。

 

『はい、こちらリーンボックスの教会です』

 

「ああ、セリカか。国内の様子を見て回ったから、それを伝えようと思ってな・・・今大丈夫か?」

 

『大丈夫。メモの準備するから、ちょっとだけ待ってて』

 

電話を取った相手はセリカであり、ラグナが訪ねて見れば一度メモ用紙を準備すべく電話から離れた。

この時しっかりと電話の機能を使って音が聞こえないようにしたのは、流石に手馴れている証拠だった。

そのことで一瞬、ラグナは意外だなと思ったものの、彼女は一時期シスターをやっていたので、電話の応対は手馴れているだろうと考えればそれは消え去った。

 

『お待たせっ!それで、伝えたい事って?』

 

「ああ。国内の様子なんだが・・・」

 

それからラグナは、シェアがプラネテューヌに回っている影響で、ネプテューヌたちを称える声は大きくなっていることを初めに話した。

ちなみに、この国では変身した姿のネプテューヌを支持するような声が大きいと言うことを補足説明し、リーンボックスにいる国民の傾向からすれば意外と自然であることを付け加えた。

また、これ以外にも例の如くテルミら同盟の姿は見当たらなかったこともしっかりと伝えておいた。

 

『なるほど・・・分かった。それじゃあみんなに伝えておくね』

 

「ああ、頼んだ」

 

『はぁい。じゃあラグナも頑張ってね』

 

「おう。それじゃあまたな」

 

そして電話を切ったラグナは、再び次の場所へと向かうのだった。

 

 

 

「さてっと・・・後残っていたのが・・・」

 

電話を終えたセリカは今日やることを纏めてあるメモを見て、次にやるべきことを確認する。

そこには食材の買い出しとあったが、今回はいつも通り一人で行ってはいけないことを思い出した。

現在シェアエナジーの偏りが同盟の狙いであると推測されている以上、外へ出るならなるべく自分と行くようにして欲しいとナインに言われていたのである。

セリカは非戦闘員ではあるものの、自身の持っている能力が関係して、今の状況でテルミたちが狙っているかも知れないという考えが上がっており、それ故にセリカ一人で行った場合何かがあった時に対処ができない可能性があるのだ。

 

「じゃあ、一先ずお姉ちゃんに言わないと・・・」

 

「・・・?セリカちゃん、今からお出かけでしょうか?」

 

「あっ、ベールさん。これから買い出し行くのもそうなんですけど、今さっきラグナからこの国の様子を教えてもらいましたよ」

 

「なるほど・・・。ちなみに、その様子はどうなっていますの?」

 

忙しいのは間違いないはずだが、自身の頼みになるとすぐにそちらを優先しがちになるナインである為、言えば何かしら返しそうだと思っていたら、ベールがこちらを見かけて声をかけてきた。

セリカが先程までラグナと電話していて、リーンボックスの様子を伝えてもらったと言えばベールが訊いてきたので、セリカはラグナに伝えてもらったことをしっかりと答える。

 

「そうなると判断が難しいところですわね・・・」

 

「女神様でも難しいんだ・・・。そうなると、何か証拠になりそうなものが欲しいですね・・・」

 

実際どこの国もそう言った断定しづらい状況になっていた。

エディンと戦った時の事が影響しているのは間違いないのだが、それにしては時期が遅いのである。

証拠になりやすいのはエディンの時にも使われていたシェアエナジー収集装置だが、果たしてまた同じ手段をすぐに使ってくるのかと言われればそれは違う気がした。

 

「一先ずこちらでも調べてみますわ。セリカちゃんもこれから行くなら気を付けてくださいな」

 

「はぁい。ベールさんも頑張って」

 

ベールが手を振りながらその場を離れ始めるので、セリカも手を振りながらそれを見送る。

そして、ベールが執務室に入って扉を閉めるのを確認してから、セリカはメモを手に取った。

 

「(みんな大変だからこそ、こういう簡単なことは私が受け負わないとね・・・♪)」

 

とは言え無茶をしていいという話ではないので、セリカは一先ずナインの部屋へ足を運ぶのだった。

案の定というか、ナインは現在非常に多忙であった為、セリカはやはり一人で行こうかと問いかけるものの、それを聞いたナインは「こんな時だからこそそれだけは待って!」と言いながら大慌てで外に出る準備をした。

そして、二人が教会の外に出たのはナインが準備をして大体十分後の話であった。

 

「そう言えば、ハクメンは私がここに来るより前にラグナの呼び方を変えていたのよね?」

 

「うん。そうだけど、どうかしたの?」

 

外に出て買い物を済ませた後は帰路に着いたのだが、この時ナインからハクメンの呼び方が変った事の話題が出てきた。

ナインが来たのはホームパーティーを開いていた日であり、その時は既に呼び方が変わっていたのである。

その事に関して、セリカは二人が戦わないで済むことに安心した事が最も大きかったのでそれ以上は考えていなかったので、ナインに問われたのに首を傾げたのだった。

 

「その時はどうやって折り合いをつけたのか、少しだけ気になってね・・・」

 

「ああ、そういうことか・・・」

 

ナインは現場にいなかったので当時のことを知らない。それだから気になると話せばセリカも納得できた。

そして、ハクメンと再び会った時の状況から、ラグナとハクメンが和解した時までのことを順を追って話していく。

セリカの話をナインは非常に真剣に聞いてくれたので、セリカとしても非常に話しやすかったのである。

 

「一対一で戦って決着を着けるね・・・。ラグナがそれ一回で終わらせると言わなければ、面倒なことになっていたわね・・・」

 

何しろハクメンの性格である。そうするであろうことを容易に想像できたナインは頭を抱える。

―そういう頑固なところは難儀するわね・・・。ハクメンの持つ意志の強さなどを思い出してナインは改めてそう評価した。

今では変わってきているからこそ、その前は大変だったのだと実感させられる。

 

「まあ何があったにしろ、あんたを誰よりも近くで護った二人が手を取り合う日が来たんだからそれでいいとしましょう」

 

「・・・うん!私も、あの二人が仲良くなってもらえて良かった・・・」

 

セリカからすれば本当に安心したことである。寧ろ、今まで前にいた世界では敵対していた事が信じられないくらいだった。

それだけセリカから見て、ラグナとハクメンは暗黒大戦時代で『黒き獣』を打ち、多くの人を助けてくれた恩人とも言える人だったので、敵対を信じられないのは尚更だった。

二人が手を取り合って同じく平和の為に歩く。元いた世界の人たちの大半は気が気でない状況になるかもしれないが、それでもセリカにとっては何よりも嬉しいものなのだ。

 

「さて、暗くなってきたし少し急ぎましょうか・・・」

 

「うん・・・。お姉ちゃん、お願いね」

 

「ええ。任せなさい」

 

話しながら帰っていたらいつの間にか空が暗くなり始めていたので、ナインはセリカを促して少し足を早める。

 

「(何が起こるかわからないからこそ、この子だけは今度こそ護る・・・。そう決めたのよ・・・!)」

 

心の中で決意すると同時に、できることなら何事もなく終わって欲しいとナインは願うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「みんなお待たせ!ようやく企画が決まったよぉ・・・」

 

「そんなに待ってないから安心しなさい。それに、今までのあなたと比べたら信じられないくらいに早いじゃない」

 

トリニティが来てから数日後、再び女神たちで集まって通信による連絡を取っていた。

ネプテューヌは前もってイストワールに企画書を見せ、承認を受けていたのでその辺りの話で話が停滞する心配は無かった。

 

「それで、企画ってどんな内容なの?」

 

「うん。今回考えた企画なんだけどね・・・」

 

「あっ、企画を聞く前に一ついいかしら?」

 

今回は楽しむことには全力を尽くす傾向のあるネプテューヌが提案したものだからこそ、ノワールも期待していた。

彼女たちには先に伝えて置くことは決めてあったので、ネプテューヌはその企画を説明しようとしたが、その時にブランが一度待ったをかけた。

もしかしたら今後の事の話かも知れないので、集まっていた女神たちがブランの映るモニターを注視する。

 

「ここでその企画を聞いた後なんだけど、後日プラネテューヌに集まって話を聞くふりをする時間を作りましょう。そこで、仲違いしだしたアピールをすれば、向こうが何か反応を示すはずだから・・・」

 

ブランの提案を聞いた全員が「なるほど・・・」と声を出した。

確かに、仲違いしているアピールをするのだから、どこかで全員が集まる機会は必要になる。

この他にも、今回シェアが最も多いのはプラネテューヌで、以前までは何かある度に全員がプラネテューヌに集まっていたので、そこならばあまり怪しまれづらいのもまた良い点だった。

 

「となれば、後は誰を同伴させるか・・・ですわね」

 

「なるべく隠し通すのが得意な人や、表情に出にくい人がいいわよね・・・」

 

「後は・・・同盟(あっち)側の目線で考えることだよね・・・」

 

今準備で急いでいる人たちや、その人だけで行けるかどうかを考慮しながら四人は少しの間悩む。

候補に上がった人の名前を記入していき、本当に大丈夫ならその人を〇で囲って印を付けていく。

 

「・・・じゃあ、これで良いかな?」

 

そこで出来上がった候補の人たちとして、ラグナ、ナオト、ラケル、ノエル、ラムダの五人は殆ど確定で大丈夫だと挙げられた。時点で大丈夫そうなのがハクメン、ナインの二人だった。

他の人たちはどうなのかと言うと、トリニティはこちらに来てから日が浅く、意思疎通が難しいことと、『刻殺しの刀(ヒヒイロカネ)』を作ってもらっている建て前そんなに無茶はさせられないと言う意見が出た。

セリカの場合は、ナインが「そんな酷なことをセリカにさせられない」と自分から引き受けに来そうだと予想できたので除外に近い形になる。

ニューはこれまたセリカに近い理由で、今まで大変な思いをしていたのだから、辛いことはさせたくないと言う気遣いから除外した。

最後に、アイエフとコンパだが、彼女たちは普通に仕事があるので入れる訳には行かなかったのである。

上がった人たちの名前を確認した四人は大丈夫あることを示すように、全員を一度見渡してから頷いた。

 

「さて、大丈夫そうだってなった人たちには後で確認を取って情報を共有するとして・・・。そろそろ企画の話を聞きましょう?本来はその為に集まったんだし・・・」

 

「あっ、そう言えば企画決まったからみんな呼んだんじゃん・・・。言い出しっぺの私が忘れてたら世話ないよね・・・」

 

ノワールが促したことでネプテューヌは思い出し、頭を掻きながら笑う。

せっかく真面目に仕事するようになったかと思えば今度はこれかと思った三人は、この方がネプテューヌらしいなとも思った。

 

「まあそれはさておき、話を聞きましょう。これから面倒なことをやるのだから、気持ちを切り替えないと・・・」

 

「そうですわね・・・しばらく気難しい状況になりますから、楽しいものの話を聞いて落ち着かせましょう」

 

「・・・そうだね。じゃあ、私が思いついた企画なんだけど・・・」

 

この後、ネプテューヌは三人に自分が思いついた企画である『ダイナマイトデカい感謝祭』の企画の内容を話した。

その内容はこれから仲違いしたフリをするので、精神的に疲れるだろう彼女たちにとって英気を養うことができるくらい気分の良くなる話であった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

時間は更に進んで、彼女たちが会議を行った翌日。レリウスとテルミはプラネテューヌ国内に潜入して街並みを歩いていた。

但し、普段通り外をうろついていると絶対に通報などをされてしまう為、人気のない道を進んだり、迷彩の術式を使って人にばれないようにしておくなど、念入りに対策をして捜査を行っていた。

 

『どうだ?何か手掛かりはあったか?』

 

「うんや。今日もまだ何も見つかってねぇぞ・・・。そんなすぐには変化しねえとは思ってたけどな」

 

レリウスに通信で問いかけられたので、テルミも歩きながら答える。

確かに数日経ってはいるものの、調査に時間がかかっているのだろうとテルミは考えていた。

何しろ『統制機構』のようにシェアに関することを知っているのはごく一部の人間や女神のみで、更にはその知っている人が明らかに少なすぎるのだ。各国一人で無いにしろそれ相応に時間がかかってもおかしくは無かった。

 

「まあそんなすぐにできるもんじゃねぇのは分かってたことだし、のんびり探すとするかね」

 

『其れが良いだろう。また何かあったら連絡する』

 

「おう。そんじゃあまたな」

 

レリウスとの通信を終了し、テルミは再び国内の探索を再開する。

様子としては何やら楽しそうな話でごった返している国民たちが多く、何やら変化が起こりそうな様子であった。

また、国民たちの会話内容から、テルミは一つの引っかかるワードを引き当てる。

 

「(『感謝祭』ねぇ・・・こりゃあ決行日とかを決められそうな情報になりそうだな・・・)」

 

迷彩を使っているとは言え、接触してしまうと混乱を呼ぶのでテルミはそれに気を付けながら歩いていく。

やがて、人気の少ない開けた場所にやってきたので、テルミはそこで一息つく。

しかしながら、声だけで判別されて追われる訳には行かないので、溜め息すら許されないのが少々休めづらい所ではあった。

 

「(流石にこうも何も起こんねえのは退屈だなぁ・・・なんか面白ぇもんでも・・・。・・・?ありゃラグナちゃんとその周りにいる奴らか?)」

 

テルミが考えながら周囲を見回していると、ラグナとネプテューヌ、ナオトとラケルの四人がこちらへ来ているのが見えたので、テルミは一度隠れる。

迷彩を使っているからすぐにバレると言う可能性は確かに低いのだが、術式に関して詳しく、迷彩の使用機会の多かったラグナがいる以上は万が一を考えて引いた方が良いという判断だった。

そして、しばらくすると別の方角からノワール、ブラン、ベールの三人と、随伴でノエルが来ていた。

 

「(これは何やら変化が起こりそうな予感がするぜェ・・・)」

 

テルミは念の為術式による会話記録を試みる。最悪大したことのない話であれば即時破棄してしまえば問題ないからだ。

ちなみに、テルミは知らないことではあるが、今回ハクメンがいないのはルウィーでの警備強化の協力に出席、ナインがいないのは魔法の跡を逃さないようにリーンボックスで待機しているからである。

 

「いきなりごめんね?呼び出しちゃって・・・」

 

「いえ、大丈夫よ。それよりも話って?」

 

ネプテューヌのお約束のような詫びには流れるようにノワールが答えて先を促す。

もちろんそう来るのは分かっていたので、ネプテューヌも説明を始める。

ネプテューヌが説明を始めるまではいつも通りの様子だったのでテルミも気を抜いていたが、彼女たちが明らかに不審そうにしている目をネプテューヌに向けているのが見えたので、テルミは少しだけ近づいて注意深く話に耳を傾ける。

そして、そこから更に少しだけ時間が経った時、事態は動くことになる。

 

「それには参加できないわ・・・。正直に言ってしまうと悪いけど、私はプラネテューヌのシェアの上がり具合がいくら何でも怪しいと思っているの・・・。ネプテューヌ、本当に不正は無いの?」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ・・・流石にそれは言いがかりじゃない?」

 

ブランがネプテューヌに猜疑心を持っている事を明かしたのだ。

ネプテューヌ自身はそんなことをしていないので、なだめるように言うしかないのだが、これだけでは効果が薄いのが証明されることになる。

 

「そうね・・・最近しっかりと仕事をするようになって来たとは言え、ここまで一気にシェアが傾くとちょっとね・・・」

 

「じゃ、じゃあアレだよ・・・。ほら、前にエディンと戦った時の影響でさ・・・」

 

「確かに、考えられるのはそれが一番でしょうけど・・・。少し、時期が遅すぎませんこと?」

 

ノワールも流石に無視ができなかったようなので、ネプテューヌは一番それらしい理由を述べる。

どうやらベールもそれを一番強く考えていたようだが、彼女の言う通り時期もあってあまり有力では無いので、それを知ったネプテューヌは「そんなぁ・・・」と落ち込んだ様子を見せる。

困った時は助け合いの精神でやってきたネプテューヌだが、互いに困らせ合っているこの状況では流石にいつものように言い出すわけにもいかなかった。

 

「・・・待て待て。ここでんなこと言ったってしょうがないだろ?そもそもネプテューヌがそんな手段使う奴じゃないことだって分かってるだろ?」

 

「確かに今回今までにない程の変動を見せましたけど、それが工作だって決めつけるのは時期早々だと思います」

 

ラグナとノエルはそれぞれの言い方で、プラネテューヌが何かしたということに対して否定を述べる。

この時のラグナは一度落ち着いて欲しいので自身に焦りが見えないように、ノエルも考え直して欲しいのもあって悩んでいるような表情になった。

 

「というか、シェアの取り合いなんて今までずっとやっていたことなんだろ?何でそんな急にこうなったんだ?」

 

《何も調べないで決めつけてしまうのは、私も流石に看過できないわ・・・》

 

ナオトは根本的なところを突きながら問いかけ、ラケルは調べていると一言も言っていないことを突いて問いかける。

シェアエナジーは条約を結ぶ前からずっと存在しているもので、彼女たちは様々な手段で取り合っていたのだから、今回のことでいきなり難癖付けるのはどうかと思うところがあったのだ。

そして、この異世界組四人の問いかけは届いたのか、または届いていないのか、ブランが変身をした。

 

「(おうおう・・・中々ヤベェ感じになってるじゃねぇか)」

 

その様子を見てテルミはニヤリとした。

―これは最後まで聞いてしっかりと持ち帰らなければならないな。そう判断したテルミは迷彩の術式が掛かっているのを確認してから少しだけ近づいた。

 

「じゃあ、私は早速、原因を調べに行かせてもらう。言っとくが、まだ信じた訳じゃないからな・・・。そっちが原因だって分かったらタダじゃおかねぇからな・・・!」

 

「あっ、おい!」

 

怒気の籠った言葉を吐き捨てるや否、ブランは身を翻してさっさと飛び去ってしまう。

ナオトは制止を求めて声をかけるものの、不信感全開のブランには届かなかった。

 

「何事も無ければ参加したかったけど、この空気で参加するのはちょっと難しいわね・・・」

 

「あはは・・・だよねぇ~・・・」

 

ノワールも参加を拒否した事には仕方ないとネプテューヌは少しだけ乾いた笑みになる。

一先ず自分もいられるのはここまでだろうと思ったノワールは、国へ帰る為変身をした。

 

「疑うつもりはないけれど・・・完全には信じきれないから、こっちも調査に回らせてもらうわ。ノエルもそれでいい?」

 

「・・・はい。わかりました」

 

ノワールに投げかけられたノエルは一瞬迷いながら返事をし、『クサナギ』を装着する。

ノエルとしては、ネプテューヌの人なりから不正をするとは思えなかったので、不正の疑惑が掛かってしまったこと自体に悲しい思いをしていた。

 

「その企画は国民たちに楽しんでもらえるよう作ったんだし、しっかりやりなさいよ?」

 

「何か分かったら、すぐに連絡入れますね」

 

それぞれ一言ずつ言葉を投げかけ、二人も国へ帰っていった。

 

「はぁ・・・これ以上、ナインに仕事を増やさせる訳には行きませんわね・・・」

 

《彼女、相当に仕事を請け負っているようね・・・。今回は何を任せているのかしら?》

 

「そちらは秘密にさせていただきますわ・・・。明かせる時が来たら、またその時に」

 

ベールは少しだけ憂鬱な様子を見せる。

その時出た言葉にラケルは問いかけるものの、どうやら今は話せないらしい。

また、ベールもこれ以上プラネテューヌに留まれないらしく、変身をした。

 

「申し訳ありません。私、この後仕事があるのでここで失礼させていただきますわ」

 

そう言ってベールは国へ帰っていく。これによって、この場にはプラネテューヌにいる四人が取り残された。

 

「全く・・・なんだってこうなっちまったのさ」

 

《前途多難ね。今までこんなことにはなっていなかったと言うのに・・・》

 

ナオトとラケルはこの先彼女たちは大丈夫なのかと不安になった。

この二人が知る限り、彼女たちは良好な関係を保っていたので、まさかシェア一つでこうなるとは思ってもみなかったのだ。

 

「はぁ・・・取り敢えず、信じるしか無いか・・・」

 

「そうだな・・・。一先ず、それを進めちまおう」

 

ネプテューヌはこうなると彼女たちから疑いが晴れるのを信じるしかなく、ラグナの言う通り感謝祭の準備を進めることにした。

 

「(さぁてここまでで良いだろ。とりあえずここから離れるか)」

 

一通り話を聞き終わったテルミは、素早く離れてレリウスに連絡を入れた。

 

「レリウス、さっき女神たちがプラネテューヌの女神に疑いを持っている様子を見れたぞ。記録はしてあるから、一旦戻って確認しようぜ」

 

『感謝するぞ。では、そちらへ行くので少しだけ待っていろ』

 

簡潔に連絡を済ませて終了させると、即時に転移魔法でレリウスが現れた。

 

「では、行こうか」

 

「おう」

 

そして、二度目の転移魔法はテルミを巻き込んで移動し、二人はプラネテューヌから脱出する。

確かに潜入して情報を得ることには成功したのだが、今回聞きこんでいた相手がレリウスで無かったことが幸いし、演技であることは最後まで隠し通すことに成功した女神たちであった。




一先ず原作での仲違いの場所まで辿り着くことができました。

次回で恐らくアニメ11話分が終わるかと思います。


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58話 近づく決戦の時

アニメ11話分が終わるかなと思ったら終わりませんでした・・・(汗)


「・・・とまあ、ここまでがさっき録音できた会話の内容だ」

 

「ふむ。まだ出だしに近い状況だが、これからどうなるかに期待しようじゃないか・・・」

 

女神たちの様子を確認した夜、ラステイションの廃工場に集合して同盟の一同はテルミが録音した会話記録を聞いていた。

シェアエナジーの急激な変化は、それまでの関係を崩しかけているように感じられたので、彼らは『スサノオユニット』完成までこちらの意識を背けることには成功したと考えた。

 

「ところで、先日あの遺跡で準備していたが、其方の用意はどうなった?」

 

「そちらはもう終わっているので、後は全ての用意が整うまで待つだけです」

 

「そうか。早いものだな」

 

レリウスが気になって問いかけたところ、レイたちが行っていた準備は全て整っていたようだ。

これによって、残りは『スサノオユニット』の完成をすればすぐに仕掛けられることが判明した。

 

「後は、どこかで戦いが起こるかどうかに期待っちゅね・・・」

 

「ああ。女神同士の戦いのデータを取り込めれば、それで完成だ」

 

「もう少しだな・・・。まさか本当にやり遂げちまうとはなぁ・・・俺でもビックリだぜ・・・」

 

レリウスがやり遂げる目前まで来ている『スサノオユニット』の創造に、テルミも感嘆する。

彼なら多くのことができそうだと思っていたが、まさか神の力すら創り上げられるようになるとは誰が創造できただろうか?

 

「そう言えば、プラネテューヌではその感謝祭が行われると言っていたな?その日ならば人は嫌でも集まるだろうな・・・」

 

「大きな影響を与えるなら、その日に合わせて決行したいですね・・・」

 

「ああ。それまでには『スサノオユニット(アレ)』を何としても完成させたいところだな・・・」

 

マジェコンヌが先程の録音内容を振り返って話を聞き切り出し、レイがその日に決行したいと言えばレリウスが同意した。

テルミとワレチューも同じ考えであった為、彼らも首を縦に振って頷いた。

 

「では、その日に合わせるようにしてまた動こうか」

 

「じゃあ、今度はオイラがプラネテューヌを見てくるっちゅよ。小柄だから隠れるのも楽っちゅよ」

 

マジェコンヌがそう言えば、今回は真っ先にワレチューが名乗り出た。

確かに、同じ人が何回も潜り込むのは良くないので、人を変える方が良いだろうと判断してそれを了承する。

 

「何か変化があれば私を呼んでくれ。そちらに合流する」

 

「俺は他の国に潜って様子を見て見るわ。何かあったら知らせるわ」

 

「了解っちゅ。それじゃあ、早速行くっちゅよ」

 

「二人とも、気をつけてくださいね」

 

短く話を纏めて、ワレチューとテルミは潜入の為廃工場を後にする。

 

「さて、私たちも周囲には気を付けましょうか」

 

「ああ。ここで失敗しては元も子もないからな」

 

最後の最後でつまらないミスを犯さないように、この場に残ったメンバーもそれぞれの務めを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「この機材はどこに置くんだ?」

 

「それはそっちの隅っこ。んで、そのガスボンベはこっちで使うからそこのままで良いぞ」

 

仲違いしているフリを演じた翌日。プラネテューヌは感謝祭の準備で無数の機材が持ち込まれており、売店を出す人たちが準備で移動を繰り返していた。

久しぶりに楽しめるイベントであることから国民たちも活気づいており、この感謝祭の企画を立てたことは成功と見ても良いだろう。

 

「おお・・・結構賑わってんだな」

 

プラネテューヌで周囲の警戒を兼ねて準備している様子を見ていたラグナは、率直に呟いた。

彼自身こういった物を見たことが殆ど無かったので、準備している場所も新鮮に映るのである。

そうして少しの間楽しんで見ていたラグナだが、途中で一つの様子に目がいった。

 

「食品関係のリストができましたよー」

 

「おっ、サンキュー。次、これが飲料関係のリストだから点検お願いな」

 

「わかりました~」

 

「(あいつか・・・)」

 

リンダが真面目に働いている姿をラグナは目撃した。何やら売店関係に必要なものをリストに纏められているらしい。

そして、そのリストを受け取って早速次の仕事に掛かろうとしたリンダも、ラグナを見かけてそちらへ歩み寄った。

 

「どうも、お久しぶりです!」

 

「おう。エディンとの戦い以来だな・・・。何の仕事してんだ?」

 

「今度やる感謝祭の点検です。当日は自分も売店のお手伝いさせてもらう身ですからね・・・」

 

話して見た感じ、リンダは顔を表に堂々と出せるようにはなったらしい。

後はどのような方針で正当な職に就くかを考え、その道を行けば大丈夫だろうとラグナは確信した。

 

「そっか・・・そいつは良かったな」

 

「それはもう。あの時こっちに気を遣ってくれたブラックハート様に感謝ですよ・・・」

 

どうやらリンダはあれ以来、こちらの奮闘を素直に讃えてくれるだけでなく、その頑張りに対して与えたのが真っ当な道に戻る為の支援だったようだ。

その心遣いに心を打たれたリンダは、晴れてノワールの信仰者になった様子だった。また、この様子からして、シェア操作などは恐らく受けていない純心の信仰者である。

 

「さて・・・これからまだまだ準備するものがあるんで、自分はこれにて失礼します」

 

「おう。頑張れよ」

 

リンダが準備に戻っていく姿を、ラグナは手を振って見送った。

そうして再び準備を進めている時のリンダは、額に汗を見せながらも非常に楽しそうに作業をしていた。

 

「(俺も、あいつらの為にできることをしねぇとな)」

 

その姿を一瞥してラグナはそう決意し、見回りを再開するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

時間が昼に近づいてきたので、ネプギアは昼食を作っていた。

今回は珍しくラグナが早上がりするので、久しぶりに三人分の食事を準備することになった。

 

「(久しぶりに帰って来てくれるし・・・頑張らないと)」

 

無意識のうちにネプギアは張り切っていた。それもラグナの影響が多大にあることに、本人は気づいていないのだが。

しかしそれでも、ネプギアは最近気になっていることと、気が付いた事がある。

 

「(うーん。ラグナさんのことを考えると、妙に落ち着かないなぁ・・・)」

 

ネプギアはラグナのことを考えると落ち着かなくなっていた。

彼女(サヤ)と混ざっていた人格などが片付き、自分に正直になれるようになった時にハッキリとそうなったのは分かっているが、ラグナのことを明白に意識し始めたのはこの世界で始めて『蒼炎の書』を起動した時かも知れない。

何があっても諦めずに、大切なものを護ろうとする信念・・・その心の強さに自身は惹き付けられたのだろう。

ここまでが、最近気が付いた事である。

 

「(最近、私に対してだけ妙に落ち着いていないような感じがするけど・・・どうしちゃったんだろう?)」

 

これが今、ネプギアの気になっていることだった。

声色などや表情に変化が少ないからこそ分かりにくいのだが、ネプギアと話している時のラグナは僅かに緊張しているような、笑みを浮かべやすいような。そんな感じがするのである。

彼のことであるから、自分をどちらで見れば良いかに悩んでいることは無いと思いたい。そうなると、未だに管理場所が決まらないせいで『蒼』を保有している自分に重荷を負わせまいと気を遣っているのかも知れない。

そう考えると少し嬉しいのだが、同時に少し申し訳ない気持ちも出てきているのも、また事実であった。

ゲイムギョウ界に来て以来一日を楽しんでいるラグナだが、前いた世界での出来事も考えるとスケールの大きいことを一人で関わり過ぎているのである。

 

「何か手伝えることがあると良いんだけど・・・」

 

「・・・?ネプギア、どうかしたの?」

 

「えっ?ああ、ちょっと考え事してて・・・」

 

思わず独り言が出てしまったのを姉に聞かれたので一瞬慌ててしまうが、平静さを取り戻して悩んでいたのを答える。ちなみに、この時しっかりと料理は完成させており、後は盛り付けだけになっていた。

それを聞いたネプテューヌは「悩み事かぁ・・・」と呟いて考え出す。彼女からすれば、ネプギアの悩んでいることは意外と多いかもしれないと考えていた。

自分のことを真剣に考えてくれるネプテューヌの姿を見て、ネプギアはまた嬉しく思うのだった。

また、ネプテューヌは感謝祭の進捗状況を纏められている紙を持っている事から、一仕事終えた後であったにもかかわらず、普通に協力してくれた。これもネプテューヌが物事に関してある程度真面目になった証拠だろう。

 

「・・・ダメだ。一度考えると纏まらない・・・。取り敢えず悩んでいることを教えてもらってもいい?そうすれば私も答え易いから」

 

「うん。悩んでいることなんだけど・・・」

 

ネプテューヌに促され、ネプギアは自分が悩んでいることを話した。

それに対して、一つ一つを真剣に聞いて頷いたり一緒に悩んでくれるネプテューヌの存在は本当に本当にありがたいものだった。

 

「まあ『蒼』のことはしょうがないよ・・・。シェアクリスタルが一般には知られて無いにしろ、私たちに何かがあったらついでに場所が割れちゃうもん」

 

「そうだね・・・。今しばらくは、我慢するしか無いみたい」

 

『蒼』の管理場所にシェアクリスタルが置かれている部屋は却下されていた。

それもそのはずで、まず第一にプラネテューヌのシェアクリスタルが置かれている場所に管理した場合、プラネテューヌの重役しか『蒼』の所在を確認できない故に他の人が『蒼』の防衛を出来なくなってしまうという最大の問題があった。これは致命的だった。

その他にも、これ程強大な力を『独占』することには保有していない人どころか、所有者であるネプギア自身が否定的だった。

ラグナの場合は『蒼炎の書』と共にあることから止む無しであることと、二つも管理する場所は決めきれないということ、何よりもそれを無くすとラグナが右上半身を使えない生活に逆戻りする危険性が非常に高く、そうなった場合マジェコンヌらの同盟に対抗できる人が減るのでそれを避ける為等々・・・とにかくラグナが持っているべき理由が多すぎるので、引き続きラグナが保有する形になる。

以上のことも相まって、現在はネプギアがそのまま保有しておくことしか策が無く、現在早急に対応を求められている案件だった。

 

「ラグナからは何か聞けた?」

 

「うん。必要なことは大体教えてもらった」

 

ラグナが言うには、『蒼』を使わない時は基本意識から外すようにしているとのことらしい。

そうすることによって、普段のように使わない状況であれば『蒼』を持っていなかった時と変わらずに行動できるらしい。

そして、万が一使用するのであれば、『どのような可能性が可能にしたいか』を意識することが重要だと言っていた。

自身が重病に掛かってしまった時、病を完治できる可能性があるのなら、それが可能になるように意識すると言った具合で、そうすれば外的要因だろうと内的要因だろうと、最終的には実現するようだ。

逆に、一般人が宇宙空間を生身で活動するといったように、『どう足掻いても可能にならないもの』はそれの対象外なので気を付けろと言われた。

それを聞いたネプテューヌは、「ぴーこの遊び相手をできるかどうかみたいなものなんだねぇ~・・・」と納得した。可能性がある人たちは自分以外の女神で、不可能なのはイストワールのように体格の関係で振り回されてしまう人やその他色々である。

 

「あっ、ラグナのことで思い出したけど、具体的にはどう思ってるの?」

 

「え、ええっと・・・。もっといろんな事を話したいとか、一緒にいたいとか・・・何だろう?後は、一緒にいると安心するって言うべきか、それとも離れていると寂しいって言うべきなのか・・・」

 

「・・・・・・」

 

ネプテューヌに問われたネプギアが答えている内に少しだけ頬を朱色に染めたのをみて、ネプテューヌは固まりながら何があったのかを悟った。

しかしそうであるのに一切気づけないのであれば、それが何なのかは伝えておくべきだろう。そう決めた瞬間、ネプテューヌは自分の表情が穏やかになるのを感じた。

 

「ネプギア、ラグナのことが好きなんだね・・・。それも異性として」

 

「・・・えっ?わ、私が、ラグナさんを・・・」

 

まさか自分の妹が誰かに恋をしていたとは思ってもみなかったが、相手がラグナであると自然と納得してしまえた。

ネプギアの中にいた少女(サヤ)が深く関わっているのもそうだが、何しろ自分に素直になって生きられるのだからこそ、そう言った方面で意識できるようになったのだろ。

また、それによって自身がどういう状況に陥っていて、ネプテューヌに何を話したのかを理解したネプギアが一気に顔を真っ赤にして顔を下に向ける。

 

「あうぅ・・・。私、いつの間にかそんな風に・・・」

 

「まぁまぁ、何も悪いことじゃないんだし、思いっきり悩みなよ。どうやってラグナの心を惹きつけるかをね?」

 

ネプテューヌに投げかけられたネプギアは頷くしかなかった。

そして、その直後に「戻ったぞー」とラグナの声が聞こえたので、二人はハッとなって声のした方へ顔を向けた。

そちらに振り向いてから少ししてドアが開かれ、ラグナが部屋に入ってくる。

 

「えっと・・・どうした?二人して俺を見て・・・」

 

「ううん。久しぶりに三人でお昼だと思ってね・・・。ね、ネプギア?」

 

「えっ?あ、はい!久しぶりに三人でだったから、ちょっと嬉しかったんです」

 

「そっか・・・。そりゃ何よりだ。俺もちょっと楽しみにしてたしな」

 

ラグナが固まりながら問いかけるものの、ネプテューヌはすぐに平静さを取り戻してそれっぽい事を言いながらネプギアに話を振った。

対するネプギアは、少しだけ慌てながらもどうにかそれらしい事を言って誤魔化すことに成功した。

それによって大して気にしなくて良いと思ったラグナも、柔らかい笑みを見せたので、それによってネプギアは自分の心臓が跳ねるのを感じた。

こうなる辺り、姉の言っていた事は本当なのだとネプギアは改めて実感しながら、すっかり忘れていた盛り付けを終わらせる。

 

「さて・・・久しぶりに張り切って作ったので、量で不満になることは無いと思いますよ」

 

「おおーっ!それは嬉しいねぇっ!それじゃあ早速食べよっか?」

 

「ああ。そうさせてもらうわ」

 

二人が自身の料理を楽しみにしていたと名言してくれたことが、ネプギアにとってはとても嬉しかった。

ラグナとネプテューヌの二人は一足先に席に着き、食事をテーブルにおいたネプギアもエプロンを外して席に着いて食卓を囲んだ。

 

「それじゃあ・・・いただきますっ!」

 

「「いただきます」」

 

ネプテューヌが元気よく言うのに続いて、二人が少し落ち着いた様子で言う。

食事を始めてすぐ、今日は何があったのか、感謝祭の様子はどうだったで会話に花を咲かせながら食べるのは、一人増えるだけでも楽しさが増すのを実感できる。

 

「(この気持ち・・・ラグナさんに伝わると良いなぁ)」

 

「(これは私とネプギアだけで抑えておくべきかな・・・とにかく頑張るんだよ、ネプギア)」

 

談笑をしながら昼食を取る傍ら、ネプギアは心の中で思いが成就することを願った。

その一方で、ネプテューヌは彼女の恋が実るように心の中で応援した。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・それは良いけど、本当に大丈夫?」

 

「大丈夫。これであいつらを誘き出せるなら、やってみる価値はある」

 

遂に感謝祭当日となった朝、ネプテューヌとブランは早朝にも関わらず二人で打ち合わせをしていた。

内容としては、ブランがプラネテューヌが不正行為でシェアを取ったと決めつけ、全力で戦う姿を見せることだった。

それによって誰かが釣れるのなら、そこを近くにいた誰かに捕まえてもらう、或いは自分たちで捕まえるという算段であった。

また、ネプテューヌの方は決めつけられて誤解を解きたいという立場から、最初の内は全力を封印することも前提条件にある。

 

「当然、そこまで長い時間はできないから、ロムとラムが止めに入ったらそこで終了にするつもりよ」

 

「なるほど・・・。確かに、それ以上は危険だからね」

 

全力で戦うとはいえど、これが嘘だとバレてしまえば結局のところ意味が無いので、制限は設ける必要があった。

最も、自分たちが本当か噓かを気にせず戦いを見るだけならば、まだ良いのだが、襲撃されてしまったら目も当てられないと言う面が大きい。

 

「・・・分かった。それで、どこに行けばいいかな?」

 

「この前私たちが仲違いをして見せた場所があるでしょう?場所も広いからそこにしましょう」

 

「そうだね。そうしよっか」

 

腹を括ったネプテューヌが促せばブランはどうするかを教えてくれた。

それに反対する理由が見当たらなかったネプテューヌが頷いたことで、どうするべきかは決まった。

 

「さて・・・それじゃあまた後で会おっか。これで何か進展があるといいね」

 

「ええ。私もそう思うわ。それじゃあまた」

 

二人は通信を切って会議を終了した。

それを終えるや否、ネプテューヌは「同盟の釣りをブランとやってみる。そんなに時間はかからないから安心して」という書き置きを残し、すぐに待ち合わせの場所に足を運ぶのであった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「こちらを渡しておきますね」

 

「完成していたか。感謝するぞ」

 

ルウィーの女神たちが教会を出てから間もなくして、『刻殺しの刀(ヒヒイロカネ)』を完成させたトリニティがそれをハクメンに渡した。

 

「しかし、本当に私で良かったのか?」

 

「ええ。テルミさんたちや私たちは本来この世界にいないはずの存在・・・。であるならば、私たちが持ってきてしまったものは、私たちの手で終わらせるべきだと思うんです」

 

「成程・・・。御前がそう言うのであれば反対する理由はない。預からせて貰おう」

 

一度理由を問うたハクメンだが、トリニティの考えには同意できるので、『刻殺しの刀(ヒヒイロカネ)』を受け取った。

それを確認したトリニティからは、安堵の笑みが見えていた。

 

「・・・?どうした?」

 

「いえ・・・。ただ、ハクメンさんが以前より大分気持ちが楽になったように見えたものですからぁ~・・・」

 

「そうか。ノエル=ヴァーミリオンにもそう言われたのでな・・・。御前も言うならそうなのだろう」

 

どうやら自分は信じられない程心持ちが楽になっているようだ。

それもそのはずで、今までは独りでその使命を果たさねばならなかったが故に独りで全ての重みを背負わねばならなかったのである。

それが誰かと共にできる以上、その重みは非常に軽くなったのである。それは心境が楽になるはずであった。

 

「一人では大変だったでしょう?」

 

「ああ。情けない話ではあるが、大分抱え込むものがあった」

 

だからこそなのか、ハクメンは簡単に自分のことを吐露できた。

目の前の相手が気の許しやすいトリニティだからというのと、ロムとラムの前ではあまり吐かないように気を付けていたからか、自身でも予想外だった。

 

「だが、今はもう違う・・・。私は此の世界にいる者たちの協力があれば、此の世界の平穏を護り続けることは難しくとも苦とは言わないで済むだろう」

 

事実、ハクメンは大分楽な気持ちで事に構えることが出来ているので、それは大きいことだった。

それほどまでに、自身はこのゲイムギョウ界に影響されているのかもしれない。

 

「ふふっ。でも、あまり無茶はしないでださいね?心配してくれる人がいるのですから・・・」

 

「・・・肝に銘じておこう」

 

トリニティにそう言われれば、ハクメンも頷くしかなかった。

 

「では、改めてよろしく頼むぞ。トリニティ=グラスフィール」

 

「はい。こちらこそよろしくお願いします」

 

二人は改めて共に戦う仲間として、固い握手を交わすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「大分通りが狭くなってるっちゅねぇ・・・」

 

ネプテューヌがプラネタワーを出た直後、ワレチューはプラネテューヌの大通りで愚痴を吐きながら歩いていた。

感謝祭当日になっているのもあり、人の通りの多さや、売店などの設営から道が狭く、更にワレチューの小柄さが仇となって一般の人に気づかれないことから非常に移動が面倒なことになっていたのである。

 

「(ああ・・・己の歩幅の小ささを呪いたくなるっちゅよ・・・)」

 

己の体格から来る、一歩の小ささによってこのもどかしい時間を長く過ごす羽目になったワレチューは、それを恨みながらもどうにか人気のない場所に辿り着く。

以前テルミが仲違いしている場所を傍受した場所に偶然たどり着いたのだが、それ以上に重要なものを見つけた。

 

「(プラネテューヌの女神が変身した状態でいるっちゅね・・・。条件指定でも食らったっちゅか?)」

 

ネプテューヌがまさかの変身した状態でいたので、間違いなく何かがあると踏んだワレチューは少しの間張り込んでみることにした。

女神に目撃されれば即時に捕まってしまうので、物陰に隠れながら待っていると、これまた変身した状態でブランがやってきた。しかも武器を持った状態でだった。

 

「え、ええっと・・・ブラン?どうして武器なんて持ったまま来ているのかしら・・・?」

 

ワレチューはこれが誘い込みだのなんだの等を知らないが、武器を持ったまま来るなど一言も言われていなかったのでネプテューヌは本気で焦っていた。

それもそのはずで、ブランは素で戦いやすくするよう、武器を持ったまま来るというのは一切伝えていなかったらである。

当然、何も伝えなかったことには自分に非があることは分かっているので、後ほど謝るつもりである。

 

「どうしてって・・・そっちが不正な手段でシェアを取った事が判明したんだ・・・。テメェの応答次第では即ぶん殴るって意味合いだ」

 

「・・・不正な手段で?何を証拠にそんなことを・・・と、取り敢えず武器をしまってもらえるかしら?それと、やっぱり間違いなんじゃないの?」

 

ブランは本気そうな雰囲気を醸し出しながら言うのに対して、ネプテューヌは本気で焦っていた。

とにかく武器を構えられてるので、このままだと本気で殺しに来るんじゃないかとすら思ってしまってるのが最大の原因だった。

 

「オイオイ・・・武器構えられたくらいでそんなんじゃ、不正してますって言ってるようなもんじゃねぇか・・・?」

 

「ま、待ってブラン!いきなりそう決めつけられて、武器を持ったままにじり寄られたらこうもなるわよ・・・!」

 

「(おっ、何か始まりそうっちゅね・・・じゃあ早速・・・)」

 

ワレチューは何か起きると確信して、通信機でレリウスに連絡を入れる。

二コールすると、レリウスが応答してくれた。

 

『私だ』

 

「オイラっちゅ。こないだテルミが会話を傍受した場所にいるんちゅけど、女神たちで戦闘が始まりそうっちゅよ」

 

『・・・ほう?では、すぐに行かせて貰うとしよう』

 

「了解っちゅ」

 

短く交信を終えて通信機をしまうと、即時にレリウスが転移魔法でワレチューの傍に現れた。

 

「おお・・・。速いっちゅね・・・」

 

「此れ程貴重な機会・・・逃す訳にはいかんのでな」

 

余りの速さにワレチューは素で驚き、レリウスは自身の考えを話しながら女神たちの方を見る。

そして、彼女たちの保っていた拮抗は崩され、ブランが戦斧を担いだままネプテューヌに肉薄し、上から真っ直ぐに振り下ろす。

対するネプテューヌは条件反射で手元に刀を出しながら、それを横に構えることで受け止める。

 

「ちょ、ちょっと・・・!本気なの・・・!?」

 

「ああ、本気だよ・・・。そっちが不正を認めないなら、ここで打ち勝ってそれを認めさせてやる・・・!」

 

「くっ・・・!それなら仕方ないわね!」

 

動揺するネプテューヌに対して迷うことなくブランが肯定する。

もう話し合いでは止められそうに無いと感じたネプテューヌは、一度ブランを押し返すことで距離を取って高度を上げる。

それに合わせてブランも上に飛んで彼女と高度を合わせる。

 

「私だって、無抵抗のまま終わる訳には行かないわ!あなたがどうしても戦うと言うのなら、無理矢理にでも止めて話を聞いてもらうわ!」

 

「・・・へっ、上等だぁ・・・!やれるもんならやってみやがれッ!」

 

そして、両者が言い切ると同時に、何度も交差しながら動く高速戦闘が始まった。

この時ブランが最初から武器を構えていた事が功を奏し、レリウスには本気で戦っているように認識させることができていた。

 

「ほう?これは多方向から見てみる価値があるな」

 

そう判断したレリウスはイグニスを呼び出し、自分とは反対の位置から観察にあたらせた。

バレたらバレたでその時ではあるが、その間はじっくりと見させて貰い、『スサノオユニット』の性能強化に活かすつもりだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・!?」

 

戦闘が始まって五分後、リーンボックスで仕事に取り組んでいた傍ら、モニターで反応を確認したナインはプラネテューヌに魔法の反応が出たことに驚いて画面を凝視する。

それも全く同じ場所であったせいなのもあり、まさか堂々と同じ場所を選ぶと予想できなかったことから数秒硬直してしまった。

その硬直はドアノックの音が聞こえたことによって、自分だけでは後数秒かかっていたであろう硬直から少しだけ早く解放された。

 

「お姉ちゃん、今大丈夫?」

 

「セリカ?ごめんなさい、すぐに行かなきゃいけないところができたから、要件は後で伝えて!」

 

「・・・えっ?何があったの?」

 

声の主はセリカだったが、今回ばかりは流石にナインもセリカと話に興じている場合ではなかった。

その焦った様子から、思わずセリカは問いかけてしまうのも無理は無かっただろう。

 

「プラネテューヌに魔法を使われた反応があったの。それも転移魔法がね・・・!」

 

「・・・っ!じゃあ・・・」

 

流石に何も伝えない訳には行かないので、何があったかはしっかりとセリカに伝える。

それを聞いたセリカは大方察しが付いて息を吞んだ。ここまでくれば説明に苦労することも無かった。

 

「ええ。アイツらが潜入してる・・・。私は一度そっちに行ってみるから、そのことを誰かに伝えておいて!」

 

「分かった!お姉ちゃんも気をつけてね!」

 

「そういうセリカも、無理はしちゃダメよ?」

 

短く話を終えたナインは転移魔法で即座に移動を始める。

また、セリカもナインが去ったのを確認すると即時に教会を走ってベールかチカのどちらかを探し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「クソ・・・!渋てぇな全く・・・!」

 

「もうやめて!これ以上戦っても無意味よ!」

 

戦闘が始まってから約十分。持っているシェアの差が顕著に出てしまい、ブランは全く押し切ることができないままでいた。

ネプテューヌも全力で戦ってはいるものの、倒すことまでは考えていないので一度制止を呼びかける。

とは言え、元々ロムとラムの二人が来るまでは続けることにしていたので、あまり効果はで無いだろう。

 

「何言ってんだ・・・。そっちの不正をそのままにしておけるかよ・・・!」

 

「・・・話しさえ聞いてくれれば、こんなことにならないで済んだのに・・・!」

 

予想通りというか何というか、ブランは引き下がることを選ばなかった。

そんなこともあって、二人はそのまま先頭を続行することになってしまった。

 

「どうっちゅか?」

 

「ふむ。中々面白いデータだ。魂の輝きも十分に感じられる」

 

その一方で、彼女らの戦闘を分析しているレリウスには概ね高評価だった。

できればこのまま、もう少しだけ彼女らの戦闘を観察していきたいところだった。

 

「もうちょっとでプラネテューヌだけど、お姉ちゃん・・・やり過ぎてないかなぁ?」

 

「ちょっと心配・・・」

 

一方で、ブランとは約十五分遅れでルウィーを出発したロムとラムは、もうじきプラネテューヌに到着しそうだった。

頼まれていることは自分たちの戦闘を止める為に割って入るのだが、この時ブランが勘違いしているためネプテューヌを庇うような位置取りをして欲しいとのことだった。

これはブランが武器を持ったままネプテューヌに押しかけて行くと伝えていたので、自分を庇うように動いたら止めるはずが助長する形になるかもしれないからだ。

シェアが少なくなっているとは言え、女神の力を全力で行使するのだから、ブランがやり過ぎて都市に被害を出していないかどうかは確かに心配なのである。

 

「後は・・・何か問題になりそうなのって言ったら・・・」

 

「あの人たち・・・だよね?」

 

二つ目は、何か問題になりそうなのを見つけたら、それを捕まえる。最悪は追い払うだけでもして欲しいと言われていた。

この状況下でそうなると言えば同盟の人たちくらいなので、二人はその人たちを中心に探していくことにした。

そして、ネプテューヌとブランが戦っている姿が見えると同時に、視界の隅に妙なものが見えたラムはそちらを注視する。

 

「あ・・・ああーっ!?ロムちゃん、アレ見て!」

 

「アレ・・・?あ・・・イグニス・・・!?」

 

ラムが発見したのはレリウスが回り込ませていたイグニスであり、何やら監視しているような様子であることが伺えた。

 

「こうしちゃいられない・・・!ロムちゃん、足を止めに行こう!」

 

「うん・・・!」

 

ロムとラムは、戦っている女神二人は後回しに、イグニス目がけて猛スピードで近づいて行った。

 

「・・・!気づかれたか」

 

「イグニスっちゅか?」

 

「ああ。どうやら後から来た候補生に見られたようだ」

 

そのロムとラムによる、イグニスを捕まえようとする魂の輝きがちらりと見えたレリウスは事態を察してイグニスに引き上げの命令を出した。

 

「「ええーい!」」

 

二人は同時に杖から氷の塊を打ち出すが、レリウスの指示の方が僅かに早く、あと少しで届いた氷塊はイグニスが一飛びすることで避けられてしまった。

しかしそれは、戦っている女神たちの真正面を通り過ぎたことによって、彼女たちが戦闘を中断することになった。

 

「っ!?イグニス・・・!?」

 

「ま、まさか見られていたのか!?」

 

レリウスが監視に来るだろうという予想はしていたが、まさかイグニスを使ってタ方位を観察しにかかるとは思ってみなかったので、少し硬直してしまった。

 

「此れは偶然か必然か・・・興味深いところだが、まあ良いだろう。私の欲しいデータは揃ったので、今回は帰らせて貰うとしよう」

 

「っ!見つけた・・・!」

 

女神二人がイグニスを目で追った先にはレリウスとワレチューがいて、レリウスが挨拶をして去ろうとした時に、転移魔法でプラネテューヌ国内に入ったナインがようやくレリウスを発見した。

 

「逃がさない・・・!最悪どっちかでも良いからここで止めさせて貰うわよッ!」

 

「ナインか・・・残念だが、今回は時間だよ」

 

レリウスを止めようとするナインだが、自身の魔法では相当加減しないと周りを巻き込んでしまうのでそういう訳には行かなかった。

その為、魔法使いにしては決して侮ることのできない、十分な能力を有する体術で止めに掛かろうとするのだが、こちらは距離を詰めるしかないので、走ってレリウスの近くまで駆け寄ることを選ぶ。

しかし、その時にはレリウスが転移魔法の準備を終えており、後は去るだけになっていた。

 

「これにてご退散っちゅよ」

 

「では、また会おう」

 

捨てセリフを置いた二人は転移魔法の球体に包まれて消え去っていき、それによってナインが走りながら放った右の拳は空を切ることになった。

また、一度状況を整理するためにも、ネプテューヌとブランの二人は高度を下げて地面に足を付けることを選んだ。

 

「間に合わなかったか・・・」

 

「ちょっと遅かったかなぁ・・・攻撃当たんなかったし」

 

「でも、追い払えた・・・」

 

ナインは空振りした拳を数瞬眺めてからネプテューヌたちの元へ合流し、ロムとラムはそれぞれの所感を吐きながら二人の傍まで移動する。

 

「・・・取り敢えず、周りにいたのはあの二人だけね」

 

「ああ。後は周りにいるかどうかだな」

 

こうなると流石に戦っている場合じゃないので、全員で自分たちの視界に入る範囲で見回すものの、誰もいなかった。

誰かを見つければそこで仲違いのフリを終了しても良かったかもしれないが、まだ油断はできないので少なくともプラネテューヌを去るまでは続けるつもりでいた。

 

「はぁ。これじゃあ不正かどうかを疑ってる場合じゃねぇな・・・取り敢えず戻りながら誰かいるかどうかは見てやる。ただ、まだ認めた訳じゃねぇのは覚えておけよ」

 

「まだ誤解は解けなさそうね・・・」

 

「ったく、どの口がそれを言うんだよ・・・。二人とも、早いうちに行くぞ。アイツら残ってたらシャレにならねぇからな」

 

「うん。ネプテューヌちゃん、ナインさん、またね」

 

「またね・・・」

 

ネプテューヌとブランの二人は互いに溜め息をついた。レリウスがいなくなったことによる安堵と、これだけでもまだ油断できない二点にである。

その為、ブランはまだ猜疑心が残っているような言い分をして二人を促してから一足先に飛んでいく。

それに従った二人は、挨拶だけしてブランについていった。

 

「さて・・・私も少し周りを調べて見るわ。何かあったらまた伝えるから」

 

「ええ。そっちもお願いね」

 

仲違いを起こしているのは四女神間のみという認識をさせているので、ナインとネプテューヌであれば普通に話すことができる。

その為、短いやり取りを済ませたナインは歩いてこの場を離れていった。

 

「(さて・・・こっちは一旦感謝祭の方に回らないといけないわね・・・)」

 

できることならネプテューヌも周りを調べておきたかったのだが、感謝祭の主役がいないのは流石に不味いのでそれはできなかった。

その為、ネプテューヌは急いでプラネタワーに戻って準備を始めるのだった。




アニメ11話分は次回で確実に終わり、そのままアニメ12話分に入る形になります。

今回はネプギアも恋心に気付く形となりました。
凄い今更感あるので、大丈夫かどうかが凄い不安だったり・・・。

アニメ11話分が終わるとこの章は最終決戦を残すだけとなるので、本当に残りが短くなってきていますが、最後まで読んでいただけたら幸いです。


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59話 同盟の急襲、決戦の始まり

今回でアニメ11話が終わります。


「さて・・・これで用意は整ったな」

 

転移魔法でプラネテューヌを離れた後、レリウスは廃工場で『スサノオユニット』の再調整を行い、たった今それを完了させた。

後は使い心地だけ確認すればこれにて完成となる。その為、レリウスは『スサノオユニット』を持ち込んで全員が集まっている遺跡へと転移魔法で移動した。

 

「待たせたな。此れの調整が終わった」

 

「おおっ!?待ってたぜレリウス!ようやくこの時が来たか・・・」

 

転移魔法でやって来たレリウスが声を出して全員を振り向かせ、完成した『スサノオユニット』を見せる。

それを見たテルミが驚き、歓喜する。何しろこれはテルミが使用する為に作られたので、彼自身が誰よりも待ちわびているのは道理だろう。

 

「ほう?それが完成したモノか・・・ただ、見た目はまるでハクメンだな」

 

「あっ、言われてみれば見た目がそのままですね・・・」

 

「確か、ハクメンは『スサノオユニット』に中身が入ってるっちゅよね?」

 

「・・・そう言えばそうか。テルミが前に、『返せ』と言っていたからな」

 

最初は困惑するマジェコンヌとレイだったが、ワレチューが思い出したように言った事でマジェコンヌも思い出した。

それにより、レイも「そうだったんですね・・・」と納得できた。

 

「俺が憑鎧すれば見た目が変わるぜ・・・その辺も完全に再現できていればな」

 

「其の点については問題無いと自負しているが、確認の為に一度憑鎧を行って貰いたい」

 

「おうよ。それじゃあ、そいつ借りるぜ」

 

レリウスの頼みを承諾したテルミは『スサノオユニット』を受け取る。

 

「さぁてやってみるかね・・・『スサノオユニット』、憑鎧」

 

テルミの掛け声と共に、彼の足元に碧い紋章が現れ、紋章の直径と同じ大きさの、碧黒い竜巻が発生してテルミを飲み込んだ。

その竜巻が霧散して消えると、そこには先程までいた『スサノオユニット』とテルミの代わりに黒を基調とし、両肩と顔に口のようなものが付き、白く真っ直ぐに伸びていた髪も黒く広がるように伸びている、『スサノオユニット』のような禍々しい存在がいた。

そして、その『スサノオユニット』のような存在がその姿を確認して声を発した。

 

「おお・・・!これだこれ!大成功じゃねぇかッ!随分と久しぶりだなぁ・・・妙に縛り付けられるような感覚はよぉ・・・!」

 

その声はテルミのものであり、まるでハクメンが喋る時のようにくぐもった声が聞こえたのでレリウス以外の三人が驚いた。

唯一レリウスはそれが成功であることを知っていたので、ニヤリと口元を緩めた。

しかし驚くのはまだこれだけでは無く、次に聞こえてきた声で三人はまた更に驚くことになる。

 

「ふぅ・・・見苦しいところを見せたな。『スサノオユニット』と()の憑鎧は成功だ。感謝するぞ」

 

「あ、ああ・・・。確認するが、テルミで間違いないな?余りにも声が違い過ぎてな・・・」

 

「其の事か。如何にも我はユウキ=テルミだ。此の姿では『建速須佐之男(タケハヤスサノヲ)』となるが、覚えるのが面倒ならテルミで構わん。此れはレリウスがコピーしたものだから、寧ろ此の名は相応しくなかろうよ・・・。其れと、此の姿では口調がこうなってしまうのは気にするでない」

 

テルミにしては余りにも低すぎる声に三人は思わず驚いてしまい、どうにか反応できたマジェコンヌがたじろぎながら問いかけた。

マジェコンヌに問われたテルミは、普段のぶっきらぼうな口調が何処へ言ったんだと言いたいくらい尊大な口調で回答した。

 

「しかしながら、此の口調が引っ張られることすら完全に再現されるとは思ってもみなかったがな・・・」

 

「その方が雰囲気が出ると思ってな・・・。故に残させてもらった」

 

「そうか。ならば良い」

 

レリウスは後々『スサノオユニット』によるテルミの威圧感を引き出す為に、口調が変わるという部分をそのまま残した。

確かにそれならば人々に恐怖心を植え付け、情勢を荒れさせることなど容易いと考えたテルミはそれを良しとした。

 

「ところで、此れは後何度使用することができるのだ?」

 

「後二回・・・其れが限度になる。性能維持を最優先にした結果、寿命を犠牲にすることになったのでな」

 

「・・・後二回か。性能保持を優先したのならそれだけあれば十分だ」

 

たった二回という厳しい使用制限が課せられてしまっているが、元々使用制限がついてしまうと言っていたことを考えれば納得できる。

回数を優先したところで肝心な性能が酷いはシャレにならないので、寧ろありがたかったとも言える。

それが分かったテルミは、自身の体を碧黒い竜巻で覆い、少しするとそれを霧散させて元の姿に戻った。

 

「ふぅ・・・。とは言え、殆ど変わらない性能を使えるのはありがたいことだな・・・」

 

テルミにとっては何よりも嬉しいことがそれであった。

オリジナルと殆ど変わらない性能ならば、ハクメン相手には本来の持ち主という意味で有利を取れる。

これで本来のものより圧倒的に性能が劣っていた場合、ハクメンやラグナ相手には使うわけには行かなくなってくるので、それを避けられただけでも大きかった。

 

「さて・・・これで全ての用意は整ったな。後は襲撃を掛ける時間と、その段取りだな」

 

マジェコンヌの言う通り、今回の用意すべきものは全て整った。

その為、残りは襲撃を掛ける時間と段取りさえ打ち合わせれば準備完了であった。

 

「実はこの遺跡なんですけど、浮遊大陸として使えるんです。なので、移動する際はこれを使って注目を集めましょう。そうすれば、今回用意できた『スサノオユニット』で与えらえる効果をより期待できると思います」

 

「いいねぇ・・・そいつは乗ったぜ」

 

テルミ達が潜り込んでいる間に、タリの遺跡は浮遊大陸として使えることが判明していたので、それを余す事無く利用するつもりでいた。

今回用意できた『スサノオユニット』で恐怖心を煽ることができるのならと、テルミは真っ先に乗ることを決めた。

 

「後、プラネタワーをブッ叩けると効果が上がりそうだが・・・そっちは何かあるか?」

 

「一度きりですけど、浮遊大陸の状態ならプラネタワーを吹き飛ばせる威力を持つ大砲が使えるので、それを使いましょう」

 

「操作の仕方は聞いておいたから、操作はおいらにお任せっちゅよ」

 

テルミが思いついた事には既に方法があり、レイが丁寧に答えてくれた。

また、ワレチューが操作を行うことも決まっていたので、これでこちらが心配することは何も無かった。

 

「より恐怖感を出すのなら、誰か一人でも奇襲で倒せると良いな」

 

「ああ・・・それなら女神狙った方が良いか?ラグナちゃんやそれとよく似た奴狙う以上に効果出そうだし」

 

「それが良いだろう。候補生でも、女神でも、狙うのはどちらでも構わんだろう」

 

レリウスの言ったことは最もなので、同意したテルミが提案を出すとマジェコンヌが肯定してくれた。

候補生でも女神でも、どちらにしろ大きな効果を発揮するであろう。そうだとしても、テルミには一つ考えがあった。

 

「そうだな・・・できることなら候補生・・・。特に例のアイツを狙いてぇな」

 

「ほう?何か思いついたのか?」

 

テルミが考えたのはネプギアへの急襲だった。その選択に何か考えがあると気が付いたマジェコンヌがはテルミに問いかけた。

 

「実はこないだ洞窟行った時に気になることがあってな・・・。それを確かめるにはアイツが必要になる」

 

テルミとしては、己の中に燻っているものを確かめたかった。

実際のところマジェコンヌたちでプラネテューヌのみに絞った襲撃の際、テルミが洞窟に向かっていたのだが、最奥部の扉だけは開けられなかったのである。

これがもし『蒼』に関わるものとして仮定すると、テルミが前に持つ資格を得ていた以上、それと同じか、或いは既に『蒼』を所有している人が条件に当てはまると考えていた。

既に持っているならラグナは確定だが、今までのネプギアの様子からしてみて、彼女が持っていても何ら違和感が無いとも考えていた。

ネプギアを狙う事にした理由としては、『スサノオユニット』で女神を倒すことで恐怖心を煽ることが纏めてできるので、持っていたら最高だという希望的観測がある。

例え持っていなかったとしても、『二つの人格で自身が潰れるかもしれない』という状況を、何らかの方法で乗り越えている以上、『可能性』を示していることになるので、持つ資格は既にあると見て間違い無いだろう。

 

「なら、テルミさんはそちらを任せてしまって良さそうですね。そうすると私たちは残りを担当することになりそうですね・・・」

 

「私かレイは基本的に空を飛べる女神どもの相手をすべきだろう」

 

「それは是非とも頼む。そうなれば私は下側を受け負おう。モンスターを引き連れて行けば、嫌でもそちらに気が回るだろう」

 

空は当然ながらレイとマジェコンヌが引き受け、地上はレリウスが請け負うことになる。

この時モンスターを引き連れて行けば数の少なさを補えるので、それは名案だと賛成した。

 

「そしたら、誘導の段取りはどうするっちゅか?やれそうならおいらが引き受けるっちゅけど・・・」

 

「なら、操作は今の内に教えておきますね。時間になったら実行をお願いします」

 

「了解っちゅ。後はシェア収集装置の防衛がおいらの役目っちゅね」

 

役割分担はとんとん拍子で決まり、操作も教えられるものである為実行できる。

元々戦闘能力が皆無に等しいワレチューができることと言えばこういったことになるので、裏方仕事は抜かりなくやろうと心掛けるのだった。

 

「確か、この感謝祭夜にはイベントがあるらしいっちゅよ」

 

「夜か・・・ならば丁度良いな。そこに合わせることで良いか?」

 

ワレチューの情報が目安に出来ると判断したマジェコンヌが問えば、全員が頷いてくれた。

それによって、今回の方針は決定した。

 

「では、夜まで待機時間としよう。やり残しは無いようにな」

 

マジェコンヌの一言によって一時解散とし、レイとワレチューはモンスター誘導の為の準備に取り掛かり、残りのメンバーは休息に入った。

 

「(これだけ準備したなら、何としても勝ちたいところだな・・・)」

 

マジェコンヌは会議していた部屋にある椅子に座ってくつろぎながら、天を仰ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

『なるほど・・・そんなことがあったのね』

 

同盟たちが会議をしている最中、四女神は今朝起きたことを全員で共有していた。

できれば通話で直接・・・と行きたかったのだが、生憎ネプテューヌが感謝祭で顔を出さなければいけない時間がある為それは無しになり、代わりに術式通信を使用していた。

 

「うん。あと、これは私の予想なんだけどさ・・・あいつらが襲撃してくるの、今日の夜じゃないかなって思うんだ・・・」

 

『それは・・・どうして?』

 

「あいつらがプラネテューヌに紛れてたってことは、この感謝祭のことも知ってると思うんだ。だから、今日は人が集まっているプラネテューヌに襲撃を掛ければ混乱間違い無しになるはず・・・。ちなみに、夜だと思ったのは準備に時間があるはずだから」

 

ネプテューヌが予想した理由をノワールが聞いてみると、一昔前の彼女とは思えない程冷静な分析に基づいた回答が帰ってきた。

その考えは納得できるものである為、ノワールは文句無し。他の二人も思わず声を上げながら納得していた。

 

『そうなると・・・私も仕事の日程をずらしてもらう必要がありますわね』

 

『こっちはハクメンとトリニティをプラネテューヌに向かわせて、周辺警戒の協力をさせるわね』

 

『私の方は何か情報を掴めないか調べてみるわ。だからネプテューヌ、こういった雑務はこっちに任せて、あなたはプラネテューヌに来ている人たちをお願いね?』

 

同盟の襲撃が来るかもしれないと言う知らせがあれば、仕事だと言って無視するわけには行かない。

そう言った考えを言葉にせずとも全員が持っていた故に、即座に対応できるような選択を選ぶのだった。

それが有り難く思い、ネプテューヌ「みんな・・・」と嬉しそうに呟く。

 

「分かった。そういうことならプラネテューヌ(こっち)に来ている人たちのことはお任せあれ!そっちも何かあったらよろしくね!」

 

『ええ。時間も無いですから、早速行動しましょう』

 

『そうね。こっちもみんなで共有しておくわ』

 

『私たちも遠いから、出かけられる準備をしておくわね。後、それから・・・』

 

ネプテューヌの宣言と頼みは即座に承諾され、行動に入る雰囲気が出来上がっていた。

すぐに行動するのは良いが、ブランは先に言っておかなければならないことがあったので前置きを作る。

 

『ネプテューヌ、さっきは無茶振りをさせてしまったわね・・・。武器を持ったまま行くアレ、完全にアドリブでやったから・・・』

 

「ああ~っ!やっぱりぃ~!?まあでも、それで騙せたんだったら結果オーライだから別にいいよ」

 

『・・・ふふっ。実行する相手が貴女で本当に良かったわ』

 

あの後よくよく考えてみた結果、ブランのアレがアドリブであることに気が付けたネプテューヌだったが、元々ああやって仲違いをしているフリをしている時に、自身の心境を気にする余裕が無くなったのは帰って気が楽になったのでネプテューヌとしては寧ろ助かった気分だった。

アレがもしノワールやベールだったらすぐに気づいてしまい、それが内面に出てレリウスにバレる・・・。となっていたかもしれないので、ネプテューヌ自身は寧ろ自分で良かったかもしれないと考えを持っていたので、殆ど気にしていなかった。

それが分かったブランは、安心した笑みを見せていた。

 

「じゃあ、話すこと話したし、ここで解散だね」

 

『ええ。あなたも気をつけなさいよ』

 

『できるだけ早く来れるようにするから、それまでは持ちこたえて』

 

『運が良ければ、私は夜になるより早く来れるかもしれませんので、待っていてくださいな』

 

解散という言葉を合図に、全員が一言残してから通信を終了する。

 

「(ネプギアとラグナのお時間を奪うわけには行かないし、こういう時こそ頑張らないとね!)」

 

ネプテューヌは頬を両手で叩いて自分に喝を入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「さて、どっから回るかな・・・」

 

「人が多いから、大変そうですね・・・」

 

ラグナとネプギアは国内に同盟の人たちが残っていないかどうかの確認も含めて、感謝祭の様子を見て回ることになった。

ちなみにネプテューヌからはハクメンやトリニティが協力してくれるので、二人組を組めるならなるべくそうして欲しいと言う頼みもあった。

 

「こっちから回ってみるか?大体反時計回りで回れそうだしな」

 

「人通りの流れにも逆いにくいから、私もそれが良いと思います」

 

回るルートがすんなりと決まったので、ラグナとネプギアは早速移動を始める。

確かに流れに逆らわないとは言え、その人の数が少ないとは言っていない。人が密集している場所に入れば、鍛えていない体だと簡単に進めないだろう。

 

「う・・・うぅ・・・」

 

その密集した場所でもラグナ自身は問題無いからこのまま進めるが、平時の姿であるネプギアでは力が足りない。

その為、彼女は人の波に飲まれそうになっていたのだ。

 

「悪いな」

 

「・・・へ?」

 

自身が声を出していたことで気づいたのか、ラグナは自分の左手でネプギアの右手を掴んで引っ張った。

あまりにもいきなりの事であったため、ネプギアは思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

混乱しながらも掴まれた右腕を見てみれば、こんな状況とは言えラグナと手を繋いでいると言う事態を理解したネプギアは顔が少しずつ赤くなる。

 

「ら、ラグナさん・・・そんなことしなくても大丈夫ですから・・・!」

 

「人の波に飲まれそうになったのに、無理に大丈夫とか言わねえ方が良いぞ。とりあえず、この波抜けるまでは我慢してくれ」

 

「は、はい・・・」

 

抗議してみるネプギアだが、ラグナの言っていることは正論な為反論できず、手を繋いだまま人の波を抜けるのだった。

 

「(でも・・・こうしていられるのはちょっと嬉しいかも)」

 

助けられたことは申し訳ないと思う傍ら、ラグナと手を繋ぐことができたネプギアは自然と笑みがこぼれるのだった。

 

「どうにか波を抜けたな・・・」

 

「はい。助けてくれてありがとうございます」

 

「お前が無事で何よりだよ」

 

礼を言えば言われて嬉しくなるようなことを言われ、ネプギアは再び顔を赤くする。

その様子を見たラグナは、ただ本音を言っただけなのにどうしてだろうと首を傾げることになった。

とは言え、これは考えたところでそう簡単に答えは出ないだろうとだけは予想できた。

 

「アイツらの影は見当たらなかったし、そろそろ行くか」

 

「え・・・?あ、ちょっとラグナさん・・・!」

 

ラグナは自分がネプギアの手を引いたままである事を忘れたまま歩き出したので、ネプギアは引っ張られる形になってしまった。

もう大丈夫だからと言おうと思ったが、このままだと「何が?」と言われそうな気もして言うに言えなくなってしまった。

仕方ないので、ネプギアは暫くの間ラグナに手を引かれたまま調査すると言うことになった。

 

「それにしても、見当たりませんね・・・」

 

「もしかしたら、もう準備を始めてるのかもな」

 

結局手を繋いだまま調査をしているが、今のところ誰も見つけていない。

ラグナが口にした事の可能性も捨てきれはしないが、見逃してしまってはいけないのでこのままだと調査を続行することになった。

 

「それにしても大分賑わってるな」

 

「久しぶりに国民のみんなが楽しめるイベントなので、その反動もありそうですね」

 

回ってみて気が付いたことと言えば、国民の様子だった。

売店で商売をしている人も、ゆっくり回っている人もみんなが楽しんでいる様子が表情に出ていたのだ。

同盟のメンバーが見つからないのはさておき、国民たちが楽しめるイベントとしては確かに効果があったと言える。

 

「はい、お待たせ。こぼさないように気をつけてね~」

 

またしばらく見回りを続けていると、売店の一つでリンダが手伝いをしている姿を目撃した。

持ち運びが楽なものを取り扱っていたので、休憩がてら立ち寄ることを選んだ。

 

「よう、頑張ってるみたいだな」

 

「いらっしゃ~い・・・。って、ああどうも。来てくれてありがとうございます」

 

軽く声をかけて見れば、リンダは業務上の挨拶をしながら自分たちに気が付き、礼で返してくれた。

開店からずっといたのだろうか、彼女の額には光る汗が見えていた。

 

「とりあえず二つもらえるか?」

 

「二つですね。ちょっと待っててくださいね~」

 

要件を伝えれば、リンダは一度奥に引っ込んで品物の準備を始める。

もう既に作り終えてあるのか、一分もせずにこちらへと戻ってきた。

 

「お待たせしました~。それにしても、今日はお二人でデートか何かですか?」

 

「ん?デート?」

 

「いやほら、こっちに来る頃には手を繋いでたもんですから・・・」

 

「「・・・・・・」」

 

リンダに言われて二人は、繋いでる感触のある方の手をネプギアの肘の高さまで持ち上げる。

そして、今までどういう状態で回っていたかを悟った二人は顔を赤くし、慌てて手を離した。

 

「ああ、これか・・・さっき人の波に飲まれそうなったから、はぐれないようにってな・・・」

 

「そ、そうなんです・・・!難を逃れる為にこうしてただけで、私たちはそういう関係じゃ・・・!」

 

「ああ、そういうことだったんですね・・・。さて、他のお客さん待たせちゃうといけないんで、二つ分渡しちゃいますね」

 

「あ、ああ・・・」

 

ラグナは慌てながら、ネプギアは顔を赤くしながら理由を話すと、リンダはこの二人・・・特にラグナならそうだろうと納得した。

リンダが少し促すように品物を渡してきたので、二人はそれを受け取る。

 

「それじゃあ、俺たちはそろそろ行くよ」

 

「お店の手伝い、頑張ってくさいね」

 

「お任せください。それじゃあ毎度あり~♪」

 

リンダに笑顔で送られながら、二人はこの場を後にし、近くにあるベンチに腰を掛けて一息つくことにした。

 

「この感謝祭・・・上手く行って良かったですね」

 

「ああ。皆に楽しんでもらおうと思って考えたんだもんな」

 

休息を挟みながら周りの人の様子を見て、互いに安心する。

これで国民たちが楽しめていなかったら、今回の企画の狙いが外れたことになるので、それが避けられたと分かっただけでも良かったのである。

 

「俺・・・この世界に来た時は、平穏に過ごせるならそれだけでも十分だって思ってたんだ」

 

「・・・ラグナさん?」

 

ラグナは一度自分を落ち着かせてから、自分の内にあるものを告げ始める。

自分の事は話すことの少ないラグナだったので、珍しいと感じたネプギアはラグナの方へ顔を向けた。

 

「だけどさ・・・。ここにいるやつらと話したりしている内に、この世界での生活が楽しくなって、いつの間にか好きになってたんだ」

 

「・・・・・・」

 

ラグナの話を聞きながら、ネプギアは柔らかい笑みを浮かべる。

ネプギアがそう言う表情になってくれるなら良かったと思ったラグナも、また穏やかな笑みになる。

 

「まだ、色々問題とかは残ってるけど・・・それでもこの世界が好きだって気持ちは本当だ。だからこそ、俺はゲイムギョウ界(ここ)にいる皆を護りたい・・・そう思うんだ」

 

「・・・そうですね。ゲイムギョウ界とみんなを護りたい気持ちは、私も同じです」

 

ラグナは柔らかい表情でこう言うものの、心の中では一つだけ気掛かりなことがあったので、それだけは言わなかった。

今回もそれがバレるようなことは無く、ネプギアはラグナの言葉に同意した。

 

「さて、そろそろ見回りを再開するか」

 

「そうしましょう。休み過ぎて見つけられなかったら大変ですから」

 

ひとしきり休憩を終えた二人はベンチから立ち、再び見回りを再開するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「さて、頃合いだな」

 

「じゃあ、起動のスイッチを押すっちゅよ」

 

時間は夕方となり、浮遊大陸の移動速度を考えれば行動を起こすのに丁度良い時間となっていた。

マジェコンヌの呟きを聞いたワレチューが、レイに教えてもらった通りに操作をして浮遊大陸を浮かび上がらせる。

この時、元々地面に埋まる形で隠れていたので周辺に地震を起こし、被っていた土を落としながら上空へ移動した。

 

「テルミさん、私たちは・・・」

 

「おう。すぐ外に出られるように移動すっか」

 

「では、この場はネズミに任せよう」

 

「ああ。後は頼んだぞ」

 

テルミたちはプラネテューヌに着いたら真っ先に行動を起こすので、スタンバイすべく移動を始めた。

それには手を振ることで答えたワレチューは、すぐに次の行動へと移る。

 

「連れて行けそうなモンスターは・・・こいつらっちゅね」

 

ワレチューはプラネテューヌに誘導できそうなモンスターを見つけ次第、それらをプラネテューヌに向かわせるように仕向ける操作を行う。

それによってモンスターたちは我先にとプラネテューヌを目指して走り出した。

 

「(今の女神たちは・・・どうやって乗り越えようとするのかな?)」

 

プラネテューヌを目指して飛んでいく浮遊大陸の中で、レイは内心期待しながら時を待つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

夜になっても、プラネテューヌの感謝祭は相変わらず盛況だった。

アイエフがマジックを披露したり、コンパが怪我してしまった人に即時手当を行って感謝されるなど、平常運転と少し趣向を入れたものが混ざれど、多くの人たちが楽しんでいることは本当だった。

 

《ナオト、日本でのお祭りはこれくらい盛り上がっていたかしら?》

 

「いや、流石に国一つ丸ごとなんて規模は無かったよ・・・。それにしても、この様子なら上手く行ってるみてぇだな」

 

ラケルはナオトに尋ねてみるが、流石に規模が違い過ぎて否定される。

しかしそれでも盛り上がっている事には間違い無いので、後は何事もなく終わることを祈るのみである。

 

「ああ・・・ちょっとそこのアナタ」

 

「ん?俺がどうかした・・・って、お前は前に会った・・・。悪い、誰だっけ?」

 

「アブネスよっ!自分から名乗って無いとは言え、女神候補生から名前出てたでしょ?」

 

声をかけられたナオトは振り向くが、アブネスのことを言われるまで本当に思い出せなかった。

その為、ナオトは「悪かった」と平謝りするしかなかった。とは言え、アブネスも自分に非があることは自覚しているのでそこまで責めはしなかった。

 

《それで?貴女は何をしに来たの?》

 

「ああ、忘れるところだった・・・。えっと、プラネテューヌが何らかの手段でここまでのシェアを取ったから、何があったのかを聞きたくてね・・・」

 

「それか・・・ネプテューヌもこの時期になってから一気に集まるのはどうも怪しいって言ってたからなぁ・・・」

 

ラケルに問われてアブネスが目的を伝えると、ナオトはネプテューヌが怪しんでるなら勘のいい人はそうなるだろうと納得した。

 

「・・・アレ?じゃあ、プラネテューヌの不正手段じゃないのね・・・」

 

「そうだったら今頃、何事も無かったかのようにはしゃいだフリしてそうだが・・・」

 

《まあ彼女の性格からして、そもそもそんなこと自体しないでしょうね》

 

アブネスがガッカリしたような、安心したような表情を見せるとナオトも苦笑交じりに言い、ラケルはネプテューヌの性格を信じている旨を言う。

これによってまた、誤解による混乱を避けることに成功したのである。

 

「お、お前らここにいたのか」

 

「ん?今四人で行動してたのか・・・」

 

また違う方から声をかけられたのでナオトが振り向くと、そこにはラグナとネプギア、ハクメンとトリニティの四人がいた。

どうやらあの後合流していたらしく、周囲の確認を切り上げ、万が一のことが起こった時の為に人が多い場所に紛れ込むことを選んだようだ。

 

「な、なんか関わりづらい人が増えたような・・・。ロリコンまでいるし」

 

「お前はまだそれを言うか・・・」

 

アブネスが震えながら言うのを見ながら、ラグナは呆れ半分に溜め息をついた。

そうやって平穏に動いていた時間だったが、突如自分たちを巨大な影が覆ったので、上を向いてみると巨大な大陸らしきものが浮かんでおり、周囲の人たちがざわつきした。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・えっ?それ本当なの?」

 

『あいつの言っていた事が正しければね・・・。正直、本当であってほしく無いわ』

 

いきなり巨大な大陸を目の当たりにしたネプテューヌは現場に走りながら移動している最中に、ノワールから嫌な知らせを受け取った。

どうやらアノネデス曰く、レリウスがハクメンの使っている『スサノオユニット』をまんま創り上げていたとの話で、時期的に丁度完成している筈だということだった。

それが本当だったとしたら、色々と辛いことになるのでそうであってほしく無いのはネプテューヌも同じだった。

 

「なんかデッカイ大陸の下にヤバいの見えてるから、本当にあいつら来ちゃったみたい・・・」

 

『まさか本当に来るなんてね・・・分かった。私はみんなに連絡してすぐに行くから、それまでは持ちこたえて』

 

「うん。それじゃあ時間ないから切っちゃうね・・・!」

 

短く通信を終えたネプテューヌは変身して大陸の近くまで移動した。

大陸まである程度近づいて見ると、そこには変身した状態であろうレイの姿があった。

 

「・・・!?あなた、まさかだけどキセイジョウ・レイ!?」

 

「あっ、解りましたか?それは少し安心しました・・・」

 

驚くネプテューヌに対して、レイは胸をなでおろした。

自身の姿に変化が少ないからか、気づくのは楽だったのだろうと思うと変化の少なさに助けられたと感じるのだった。

 

「まさか・・・あなたが女神だったなんて・・・」

 

「驚くのも仕方ないでしょうね・・・。実は、大昔にタリという私の身勝手で滅亡してしまった国がありましてね・・・そこの女神だったんです」

 

同盟のメンバーに女神がいたということで動揺が隠せなかったネプテューヌに対し、レイはその様子に同意しながら自身が何をしていたかを答える。

その説明にも、ネプテューヌはまた驚くことになってしまった。

 

「でも、そんな昔の女神が今更何をするつもりなの・・・?まさか、国を返せとかそんなことは言い出さないでしょうね?」

 

「そんなことは言いませんので安心してください。ただ、確かめに来たんです。あなたたちが女神の力に溺れる事無くやっていけるかどうかを・・・。私のように、気に入らなければすぐに力を振るう愚か者にならないからを・・・」

 

レイから告げられた宣言に、ネプテューヌは身構える。

また、次の言葉を告げながらレイは杖を手元にだしたので、ネプテューヌも太刀を手元に出して身構える。

 

「それと、その力で、国民を護りきれるかどうか。それを確かめたいんです。私たちから彼らを護れないのなら、そこまでだったという話ですからね・・・」

 

「・・・・・!」

 

ネプテューヌは太刀で牙突の構えを取るが、レイは杖を持ったまま動きはしなかった。

代わりに、左手を耳元に当てて通信を始めた。

 

「それでは皆さん、始めましょう」

 

『了解、大砲のスイッチオンっちゅ!』

 

レイの合図が皮切りとなり、ワレチューがスイッチを押す。

それによって、浮遊大陸の下部にあった大砲が紫色の光を集めながら光を大きくしていき、臨界になったと同時にそれをプラネタワーに向けて撃ちだした。

その弾は寸分の狂いも無くプラネタワーに突き刺さり、柱状のプラネタワーを覆う爆風がそれを飲み込んだ。

そして、その爆風が消えると、プラネタワーは見る影もない程壊れており、周囲の地面や建物にも被害が及んでいた。

また、それと同時に国民たちがパニックを起こして避難場所へ向けてバラバラに走り出すのだった。

 

「そ、そんな・・・。プラネタワーが、ああも簡単に・・・」

 

「まだ終わりませんよ?ここからが本番ですから・・・。テルミさん、いつでもどうぞ」

 

『おうよ!つーことなら早速行かせてもらうぜェッ!』

 

レイから連絡を受けたテルミは、浮遊大陸から何の補助器具も無しに飛び降りていった。

 

「嘘っ!?何の補助も無しに飛び降りたの!?」

 

「彼の手に持っているモノ・・・それをよく見て下さい」

 

レイに促されたネプテューヌが落ちていくテルミを目で追ってみると、テルミが右手に『スサノオユニット』を持っている事が分かった。

ノワールの言っていた事が本当だったというのが証明され、最悪な状況であることが嫌でも伝えられた。

 

「ノワールが言っていた事は本当だったみたいね・・・」

 

それを見て危機感を持ったネプテューヌは、歯嚙みしながらそれを目で追うしかなかった。

そして、ある程度以上の高度まで降りたことで、テルミも行動に移る。

 

「行くぜ・・・『スサノオユニット』憑鎧・・・!」

 

自身の体を碧い竜巻に飲み込ませ、『スサノオユニット』を纏った状態に姿を変えながら地面に着地する。

その地鳴りと威圧感によって、騒ぎ立てていた人たちの動きと声が一気に止まり、姿の変わったテルミを目の当たりにする。

 

「・・・莫迦な!?『スサノオユニット』だと・・・!?」

 

「まさかレリウス(あの野郎)・・・!こっちで完成させたって言うのか・・・!?」

 

「人の手で、神を創造するなんて・・・」

 

その姿を見た三人は動揺を隠せなかった。まさかレリウスがそこまでやって来るとは予想できなかったからだ。

 

「下郎共よ・・・見るが良いッ!これが我、ユウキ=テルミの新たなる姿と力である!」

 

テルミは引っ張られる口調をそのままに、呆然としている国民たちに告げながら手元に碧い炎のようなもので生成した剣を手に取り、自身の最も近くにあった建物を右から斜めに振り下ろすことで切り裂いた。

切り裂かれて崩れ落ちた部分はテルミに直撃するが、全くダメージを受ける事無く、建物の破片だけが彼の近くに落ちるだけだった。

 

「さあ、怯えろ!走り回れッ!我を恐怖し逃げ惑えッ!死にたくなくば、安全な場所まで死に物狂いで逃げるのだなッ!」

 

「クソッ!こっちでどうにかするしかねぇな!」

 

テルミが焚きつけたことで、国民たちは再び悲鳴や絶叫を上げながら再び走り出した。

それによってラグナたちは、人の波に飲まれそうになりながらもテルミの元へ急がねばならないと言う事態に陥ってしまうのだった。

 

「くっ・・・!これ程だなんて・・・。でも、この国を護ると決めた以上、引くわけには行かないわっ!」

 

「ええ。それで構いません。では、こちらも始めましょうか・・・この国を護りたいのならば、他人の力を借りてでも良い・・・私たちを前に、己の国を護りきって見せなさい!」

 

ネプテューヌが太刀を持ったままレイに向かって行き、それを見たレイは杖を左から斜めに振り下ろすことでいつでも技を打てると思わせるように身構える。

こうして、同盟との最大規模の戦いは幕を開けるのだった。




最後はちょっと駆け足になった感じがあります・・・(汗)。

勇者ネプテューヌが等々発売しましたね。
私はプレイする時間が暫く確保でき無さそうなので、確保でき次第遊んでいきたいと思います。

次回からはアニメ12話分に入り、同時に最終決戦に入ることになります。
残すところ後わずかになりましたが、最後までお付き合い頂けたら幸いです。


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60話 God of War(前半)

今回からアニメ12話分・・・つまるところ、最終決戦になります。

まさかの感想によるサブタイバレが二回目・・・。どうしてこうも私の付けるサブタイはバレやすいんでしょうか・・・(汗)?

一回では纏め切れなかったので、前半とさせていただきます。


現状、プラネテューヌにいる戦力で空を飛ぶことができるのはネプテューヌとネプギアの二人しかいないので、ネプテューヌは迷うことなくレイへと向かって行く。

 

「・・・はぁっ!」

 

「ふっ!」

 

ネプテューヌが自身の持っている刀を右から斜めに振り下ろすのに対して、レイは杖を左から真横に振るうことで受け止める。

二つの攻撃がぶつかりあった瞬間、ネプテューヌはある違和感に気が付いた。

 

「何・・・!?力が抜けて行く・・・この感じは・・・」

 

「気が付きましたね?それと、それだけ急に力の分量が変わったなら、何が起きたかなんて・・・今の貴女ならすぐにわかるはずですよ?」

 

シェアが偏っていた事から、ブランとの戦いでは体力的には余裕だった。素のパワーで負けているはずの状況も、そのおかげで今回は緩和もされていた。

しかし、ブランと戦っていた時までのそれは今この時を持って急速に失われて行ったのだ。また、それに反比例するかのようにレイの力も強まっていた。

その状況で問いかけられたネプテューヌは、もうその答えが一つしかない事に気が付いた。

また、このままだと押し切られて自身が飛ばされてしまうので、レイの強まった力を利用して武器同士のぶつかり合いを自ら終了させ、彼女から距離を取って構え直した。

 

「という事は・・・シェアの操作はあなたたちの仕業ね?でもどうやって?シェアの収集装置はあの時確かに破壊したはずよ?」

 

「確かに、あの時エディンで使ったシェア収集装置は破壊されました・・・。でも、それをもう一度作った、或いは予備が準備されていたという可能性は・・・捨てきれないでしょう?」

 

「くっ・・・・・・」

 

ネプテューヌの問いかけに答えるレイは余裕を持った表情だった。

レイが出した答えは確かに考えられるものだったが、完全に盲点であった為ネプテューヌは歯嚙みするしかなかった。

 

「参ったわね・・・。テルミもああなっているのに、シェア収集装置の問題まであるなんて・・・」

 

「果たして、本当に其れだけだと思っているのか?そら、向こうを見るが良い・・・」

 

「向こうを・・・?・・・!?」

 

ネプテューヌの呟きを拾ったテルミに促されて後ろを振り返って見れば、そちらには大量のモンスターが押し寄せて来ており、避難していた人たちがより混乱すると言う事態を招いていた。

 

「っ・・・いけない!みんな聞こえる!?キセイジョウ・レイは私が抑えるから、テルミを相手する人を一人残して、残りはモンスターの方へ行ってちょうだい!」

 

すぐ助けにいかなければならないが、レイとテルミを無視すれば尋常じゃない被害を出されてしまう。

その為ネプテューヌは、自身がレイの相手をすることと、テルミを相手する担当に一人残ってもらい、残りはモンスターを対処するように術式通信で促した。

また、通信を行って気が付いたことだが、プラネテューヌの国外にいる人たちには一切通信が繋がらない状態になっていた。その為、残りの人たちは気づいて来てもらうしかなかった。

 

『それならテルミ相手は俺が残る!お前らは行ってくれッ!』

 

『否、残るなら二人だ。あの姿相手では負担が大き過ぎるのでな・・・故に私も残ろう。残りの者はモンスターを頼む』

 

テルミの狙いは間違い無く自分だと感じたラグナは、真っ先に自分から名乗り出る。

しかし、その力の危険性を知っていて対抗できる可能性を残しているハクメンは、異議を唱えて自分も残ることを選んだ。

この時ネプテューヌはモンスターをどうにかして欲しいと思いもしたが、ハクメンがそう言ったという事はそれだけ『スサノオユニット』を身に纏ったテルミが危険な存在である事を知らせていた。

 

「なら、テルミの相手はあなたたち二人でお願い!残りのみんなはモンスターを!」

 

『分かりました。ただ、私の能力は攻撃に向かないので、逃げている皆さんの支えを優先します!』

 

『ラケル、俺は先に行くから、お前はアイエフさんと合流しに行ってくれ!』

 

『ラケル、私の場所だけど・・・』

 

話が決まれば早いから各自が慌ただしく動き出した。

ネプギアも決まるが早いか、変身して飛べる状態になる。

 

「よし・・・。私も向こうに行って、モンスターを止めないと・・・!」

 

ネプギアもモンスターに対処するべく飛び始めた、その時であった。

 

「・・・ぬんッ!」

 

「・・・!?きゃあっ!?」

 

飛び去っていくネプギアの姿をみたテルミは、自身の左足を一歩前に出し、己の左腕を前に突き出して拳の辺りから碧黒い炎のようなものを高速で撃ちだす。

撃ちだしたそれはネプギアの装着していたプロセッサユニットの左翼に当たり、それによってバランスを崩したネプギアは錐揉み回転させられてしまう。

バランスを崩してしまったネプギアはモンスターの元へ向かうことを諦め、体制を立て直しながらテルミを見据える。

その時ネプギアの表情には驚愕があった。何しろかなり離れているはずなのに、左翼だけを正確に当ててくるとは思わなかったからである。

 

「生まれ変わりよ・・・貴様は誰の許しを得て飛び去ろうとしている?我は貴様に用がある・・・無駄な時間を取らせるとは、誰に了見を得ている・・・?」

 

「な、何・・・?この嫌な感じ・・・」

 

今まで通りであれば何と言われようと怯む事は無かったが、今回はそうもいかなかった。

候補生とは言え、女神であるネプギアですらその威圧感を前に数瞬とは言えひるんでしまったのである。

―背を向けて飛び去ろうとするならただ事では済まない。それだけの圧力をネプギアに感じ取らせていた。

 

「クソ・・・!テルミッ!テメェの相手は俺が・・・うおッ!?」

 

ラグナはテルミの意識をネプギアから逸らさせるべく剣を手にとって斬りかかるが、まるで見ていたかのようにテルミは左手でラグナの頭を鷲掴みにして見せた。

 

「・・・ふんッ!」

 

「グアァッ!」

 

そのままテルミはラグナの腹辺りに自身の右手を握った状態で押し付け、左手を頭から離すと同時に右手から碧黒い炎のようなものを撃ちだした。

それを至近距離で受けたラグナは、強烈な衝撃を受けてそのまま軽めに吹き飛ばされてしまい、地面に背中を滑らせることになった。

 

「あの時と同じく、貴様の相手は最後だ・・・『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』・・・。我の邪魔建てはするな」

 

「ぐぅ・・・クソッ!」

 

吹き飛ばされたラグナを見ることはせず、ネプギアの方を見据えながらテルミはそう宣言する。

ラグナはすぐに起き上がろうとしたが、受けたダメージが大きいせいか、体に思うように力が入らずすぐに起き上がれそうには無かった。

 

「テルミ・・・!これ以上・・・貴様の思い通りに等させんぞッ!」

 

「貴様か・・・そう言えば、『スサノオユニット』同士の戦いはまだ試した事が無かったな・・・」

 

ハクメンが『斬魔・鳴神』を構えながら自分に向かってくるのが見えたテルミは、そちらに顔を向けながら呟いた。

 

「良いだろう・・・余興にしては丁度良いと思っていた所だ。来るが良い・・・!」

 

「ズェアッ!」

 

レリウスが製作した『スサノオユニット』を纏った自分と、本物の『スサノオユニット』を纏ったハクメン(ジン=キサラギ)

これらが激突するのも悪くないと考えたら興が乗ったテルミは、ハクメンを迎え撃つべく構えを取った。

構えを取り終えるのに僅かに遅れて、ハクメンは『斬魔・鳴神』を上から真っ直ぐに振り下ろす。

 

「ふんッ!」

 

対するテルミは『スサノオユニット』によって増強された力を利用し、左腕を前に出して片手で掴むように受け止めた。

 

「・・・何ッ!?」

 

「ほう?ここまでの力を引き出せるようになるとはな・・・。レリウス、貴様の製作・・・見事成りッ!」

 

まさか片手で防がれるとは思っていなかったハクメンは体に力を入れて押し切ることを試みるが、テルミも負けじと力を入れることによって、余力を残しながら踏みとどまる。

また、これ程の力を出せるように製作したレリウスには感謝の念を込めて称賛をした。

テルミに取って、レリウスの製作した『スサノオユニット』はそれ程素晴らしいものだったのである。

 

「(注意がハクメンさんに回った・・・!今ならまだ・・・)」

 

「行かせはせぬぞ・・・」

 

「・・・ぬおぉッ!」

 

状況を見て再び飛び去ろうとしたネプギアではあるが、その意図に気が付いたテルミが右足の蹴りをハクメンの腹に当てて軽めに吹き飛ばして距離を取り、その直後に左手から碧黒い炎のようなものを撃ちだす。

 

「っ・・・!?」

 

「今回は特別にもう一度言おう・・・何処へ行こうとしている?誰が何時、何処へ行って良いと言ったのだ?」

 

「(ここは・・・踏みとどまるしかない・・・)」

 

殺気を感じたネプギアは体を左に捻って攻撃を避け、再びテルミの方へ向き直る。

そして、同時にモンスターの方へは行けないと悟った彼女はネプテューヌとレイの戦っている様子を見て、自分がどうするべきかを決めた。

 

「お姉ちゃんごめん。どうやら進ませてもらえなさそうだから、そっちを手伝うね」

 

「どうやらそのようね・・・。なら、お願いね」

 

こうなるとレイの相手をするしか選択肢が残らず、ネプギアはそれを選ぶ。

ネプテューヌもこれまでの状況からして反対することなど一切できず、手伝ってもらう事を選ぶのだった。

 

「気をつけて。二人掛かりとは言え、相手の方が圧倒的に多くのシェアを持っているから・・・」

 

「・・・うん!」

 

ネプテューヌの促しに、ネプギアは正直に頷く。

そうして再び武器を持ったまま構えるのはいいのだが、対するレイはクスクスと余裕そうに笑っていた。

 

「・・・・・・何がおかしいと言うの?」

 

「おかしいも何も・・・貴女たちは何か忘れていませんか?テルミさんがいる以上、私は一人で来ている訳では無いんですよ?」

 

「・・・!お姉ちゃん、まだマジェコンヌが来ていない!」

 

ネプテューヌに問いかけられたレイが投げ返し気味に答えると、何故笑っていたのかに気が付いたネプギアがその答えを口にする。

それによって理由が分かったネプテューヌはハッとして、浮遊大陸の方へ目を向けてみる。

すると、まるでお前がこっちに目を向けるのを待っていたと言わんばかりに、浮遊大陸の方から変身を済ませた状態のマジェコンヌが現れ、急速に近づいてきた。

 

「受けて見るが良いッ!」

 

「っ・・・!」

 

その勢いに任せたまま、マジェコンヌは金色の槍をネプテューヌに向けて突き立てる。

速度は凄まじいものであったが、真正面から来て尚且つ距離も十分にあった事から、ネプテューヌは体を左に傾けながら同方向に移動することでどうにか避けきって見せる。

この攻撃は避けられる前提だったのか、マジェコンヌは左程驚いているような様子は無く、そのままレイの傍まで移動した。

 

「レイの言う通りだぞネプテューヌよ・・・。この私もいる事を忘れて貰っては困るなぁ・・・」

 

「マジェコンヌ・・・。あれだけ女神を打倒しようとしていたあなたがそうしているの、未だに信じられないわね・・・」

 

「何とでも言え。ただ、レイは立派に我々の仲間であることは認識しておいて貰いたいな」

 

ネプテューヌの言葉には、昔であれば「手段だから」と言って嚙みつこうとしたかも知れない。

しかし、今のマジェコンヌはレイが女神だろうと関係無く、挑戦してみたい気持ちこそあれど、仲間なら気にすることでは無い。そう言う考え方をしていた。

つまるところ、ネプテューヌたちの預かり知らぬ所で、マジェコンヌも認識の仕方が変わっていたのである。

 

「マジェコンヌもいるならレリウスもいるはず・・・。どこにいるのかしら?」

 

「この位置なら私は狙えないはず・・・。ラグナさんは大丈夫かな・・・?」

 

レイたちがまだ仕掛けて来ないので、二人は辺りを目だけで見渡して確認する。

しかしながら、こちらには見当たらなかったので、全く違う場所に行ったと考えて良いと言う決断を下し、再びレイたちを見据える。

 

「彼ですか・・・彼なら、モンスターの方へ行きましたよ」

 

「まあ当分は静観だろうが、状況次第ではわからんな・・・」

 

静観の二文字だけを聞けば邪魔をされない分マシに思えるが、状況次第と言う言葉を聞くと嫌な汗を浮かべてしまうものである。

連絡が付かない以上、他の国にいる人たちの救援を信じるしか無いので、モンスターへの対処はかなり苦しいことになるだろう。

 

「さて、話すのはこの辺で良かろう。レイ、私が先に仕掛けるが構わんな?」

 

「大丈夫です。私はそれに続きます」

 

「了解した。では、行くぞッ!」

 

短く話を決めて、マジェコンヌは勢い良く二人の方へ突撃する。

 

「ネプギア、大丈夫ね?」

 

「うん。行こう、お姉ちゃん!」

 

マジェコンヌが向かってくるのを見て、ネプテューヌとネプギアは構える。

 

「そうだ。其れで良い・・・では、此方も始めるとしよう」

 

「此れが避けられぬ戦いだとするならば、今日こそ決着を付ける時・・・!」

 

ハクメンは『斬魔・鳴神』を自身の目の前に持っていき、テルミは手元に碧い炎のような剣を手元に創り出し、肩の高さで突きが出せるような構えを取る。

 

「我は『空』、我は『鋼』、我は『刃』!」

 

「我は『剛』、我は『力』、我は『全』!」

 

互いに前口上を告げていく際に、地面が揺れる。

普段はハクメン一人だったのに対し、今回はテルミもいて二人になった結果揺れが非常に大きくなっていた。

 

「我は一振りの剣にて、全ての『罪』を刈り取り、『悪』を滅するッ!」

 

「我が身は全てを裁ち斬る・・・『神の剣』ッ!」

 

揺れる感覚が短くなっていき、最後に両者は自身の『スサノオユニット』にある髪が扇状に広がってから元に戻る。

ただでさえハクメン一人の段階で大きかった揺れが、二人分になったおかげで途轍もないものとなり、彼らの周囲にある地面のコンクリートは亀裂が入った。

 

「我が名は『ハクメン』・・・推して参るッ!」

 

「我は『ユウキ=テルミ』・・・否、此の場は敢えて此方を名乗るとしよう」

 

テルミは自身が普段使ってきていた名を名乗ろうとして、考えを改めた。

 

「我は『建速須佐之男(タケハヤスサノオ)』ッ!・・・推して参る」

 

これは『スサノオユニット』同士の戦い。ならばこちらを名乗ろうと決めたテルミは、改めてそう宣言する。

その前口上が終わるや否、二つの『スサノオユニット』も戦いを始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・?繋がらない?」

 

時間はプラネテューヌに辿り着いた浮遊大陸による砲撃が行われた直後に遡る。

プラネテューヌの方角から地面が震えるような音が聞こえたノワールは、状況を確認するためにネプテューヌらプラネテューヌに滞在している人たちに連絡を取ってみたのだが、一向に繋がる気配が無かった。

通信の不具合かと最初は思ったのだが、何度やってもノイズのような音が聞こえると言う反応しか示さず、緊急通信で入れて見ても繋がらなかったので、間違い無く何かがあったと結論付けた。

その為、ノワールはプラネテューヌから離れている二人の女神に緊急で連絡を入れることにした。その通信は緊急通信として送ったのもそうだが、彼女たちもすぐに通信を送った為すぐに繋がった。

 

「全員同じタイミング・・・という事は考えは同じね・・・」

 

『ええ。さっきの大きな音・・・間違い無くプラネテューヌで動き出したわね』

 

『リーンボックスからでも、何やら光が見えましたわ・・・』

 

もうこの段階で同盟たちが襲撃に走ったであろうことが大体予想できた。

その為、彼女たちもやるべきことは自然と決まっていた。

 

「準備できた人からすぐに向かいましょう。最悪の場合モンスターまでいるでしょうから・・・」

 

『ええ。ロムとラムに伝えてすぐに行くわ』

 

『万が一怪我人が多かった時の事を考えて、セリカちゃんを連れて行けないかをナインと検討して来ますわ』

 

「ええ。それじゃあ、また後で会いましょう」

 

短くやることを決めて通信を切った瞬間、ドアノックの音が聞こえたのでノワールは入るように促す。

そして、ドアを開けて入って来たのはユニだった。

 

「お姉ちゃん、プラネテューヌで何かあったの?」

 

「ええ。あいつらの襲撃は今日の夜かもって言う、ネプテューヌの予想が当たってしまったわ・・・」

 

「じゃあ、アタシたちは・・・」

 

「もちろん、今すぐにプラネテューヌへ向かうわノエルたちを呼びましょう」

 

ユニの問いにノワールが簡単に答えたことで状況の共有を完了し、二人は急いで彼女たちに連絡を取った。

また、この時ニューが逃げ遅れた人を探すことなら自分もできると言って同行を申し出たので、モンスターたちと遭遇しても戦わず逃げること、指定した時間を回ったら自分も退避用のシェルターに走る事を条件にそれを許可した。

また、ラステイションはプラネテューヌから最も近い国であることから、モンスターたちによる二次被害の警戒を国民に呼びかけてから向かう事になった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ロム、ラム。プラネテューヌが襲撃を受けたみたいだから、これから向かう事になったわ」

 

「・・・何かあったの?」

 

「もしかしなくても・・・やったのあいつらだよね?」

 

ロムとラムの問いには即時に頷いて肯定を示した。それをみた二人はもう迷わなかった。

 

「なら、手伝いに行こうっ!」

 

「みんなを助ける・・・」

 

「ええ。その通りね・・・」

 

二人が何も不満をこぼさずそのまま応じてくれたのは何よりも嬉しいものだった。

それ故に、ブランの表情は自然に笑みがこぼれた。

 

「・・・っと。こうしている場合じゃなかったわ・・・。あいつらのことだから、モンスターを引き連れている可能性が高い。だから、見かけたらそれを倒しながら行くことは忘れないでちょうだい。良いわね?」

 

ブランの問いかけに、二人は首を縦に振って頷いてくれる。これで必要最低限の話すことは話したので、後は現場に急ぐだけだった。

 

「そうと決まれば、急ぎましょう」

 

「うんっ!ネプギアたち、大変な思いしてるはずだから・・・」

 

「ちょっとでも、楽をさせてあげる・・・!」

 

ルウィーからはそれなりに離れている為、三人は教会を出る前に変身し、そのまま空中を飛んで現場へ急行するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、現場に行かない限り分からないのね?」

 

「ええ。転移魔法の移動範囲に指定はできますの?可能であれば瞬時に現場に向かいたいのですが・・・」

 

「ちょっと待ってて。一度確認するわ」

 

連絡を取り合った直後、ベールはナインの部屋に行って状況を伝えた。

それによって転移魔法の重要性は嫌という程分かり、ナインも座標指定に妨害が無いかを確認する。

前に行ったことがあるので、それが割り出し時間の短縮に役立ち、確認自体はすぐに終わった。

 

「大丈夫。座標の妨害自体は受けてないわ。仲違いしているから来ないと予想してるのかしらね・・・?とにかくこれは大きいわ」

 

「ええ。それなら助かりますわ・・・」

 

一先ず転移魔法で移動できることが判明したので、話しさえ終わればすぐに辿り着けるのは大きかった。

何しろリーンボックスは海を渡らなければならない都合上、空を飛べない場合は移動手段が限られてしまうのが最大の問題だったからだ。

 

「それと、これを話せば、あなたは間違い無く怒るでしょうけど、それを承知の上で頼みたいことがありますの・・・」

 

「・・・それって、まさかだけど・・・」

 

ベールの頼み方から、ある程度は察しが付いていた。

当然、状況が状況なのでベールも迷わずナインに告げる事を選ぶ。

 

「モンスターの進行も重なっていることから少なからず被害が出ているそうですの・・・。そこで、少しでも治療する人の手伝いとして、セリカちゃんを連れて行けないでしょうか?」

 

「そうね・・・確かに、その理由は理解できる。けど、それは少し待って欲しいわ」

 

「・・・待って欲しい理由は何ですの?」

 

「セリカを連れていけばテルミの弱体も期待できるかもしれないけど・・・それは同時に、テルミがセリカを狙うことで被害を拡大させる危険性が高いわ」

 

ナインの待ったを掛けた理由を聞いて、ベールは完全に盲点であったことに気が付く。

ノワールの通達によって、レリウスの製作したものでテルミが強化されるという事は把握していた。

セリカの力は確かにテルミやマジェコンヌを弱体化させたと言う実績を誇るが、これをミネルヴァの力を借りて行う場合は身動きが取れないと言う最大の問題点が存在する。

そして、強化されたテルミを抑えきれなかった場合、そのままセリカが手を掛けられて有利にできるはずの手札を失う言う危険性が大きかった。

 

「それに、転移魔法で移動するなら尚更時間を置きたいわ・・・。何しろ、私たちが最初に到着する可能性が高すぎるわ」

 

もう一つの理由はこれにあった。自分たちが早く着くという事は、人数が揃っていないことと同義であった。

そうなった場合、セリカを狙われる確率と、狙われた場合止められない可能性が高まるのである。

逆に言えば、人数さえ集まればセリカの力を発揮できるので、時が来たら連れていくことである程度は安全を確保できるのである。

その為、ナインとしては限界まで待ちたい所であった。

 

「そうですわね・・・そうであれば仕方ありませんわ。なら、タイミングを見計らって・・・」

 

「大丈夫です。私も行きます」

 

方針が決まりかけたところで、それを振り切るような声が聞こえて二人がそちらを振り向くと、決意を固めた表情をしているセリカの姿があった。

 

「セリカ・・・別に連れていかない訳じゃないの。ただ、もう少しだけ待っていて欲しいの。大丈夫になりさえすれば・・・」

 

「でも、お姉ちゃんたちが戻っちゃったら、周りのみんなが慌てちゃう・・・」

 

どうにか説得をしようとしたナインだが、セリカが告げた反対の言葉を前に何も言えなくなってしまう。

どうせ参加するのなら、少しでも長い時間いた方が良いのは事実である。また、途中で抜けてしまえば一般の人に大きな不安を与えてしまう可能性も十分に捨てきれ無いのは確かに痛いところであった。

 

「それに、みんなが傷ついてるなら、やっぱりじっとしてなんていられないよ・・・。後、プラネテューヌにって大きいから範囲外に逃げやすいし、テルミさんもそこまで意識を回さないんじゃないかな?寧ろ、ラグナやネプギアちゃんに狙いがありそうな気がして・・・」

 

「・・・用を済ませれば留まる必要も無し、ラグナと決着を付けるならプラネテューヌから引き離してでも出来る・・・そういうことね?」

 

セリカが出したもう一つの危惧も無視できないので、ナインは仕方なしと説得を諦め、確認を取ることにした。

そして、その確認にセリカが頷いた事で、ナインは腹を括ることに決めた。

 

「なら、転移はシェルター前にするわ。ミネルヴァを連れてきて」

 

「お姉ちゃん・・・。ありがとう!それと、絶対に死なないって約束する!」

 

「なっ・・・。でも、ありがとう」

 

セリカがそう宣言した事は、確かに嬉しい事であった。

その為、最初の一瞬こそ面食らうものの、意外と素直に受け入れることができたのである。

それを見送ったベールは変身を済ませる。

 

「彼らとの戦い・・・これで終わりにしたいものですわね」

 

「ええ。流石に何回もやっていられないものね」

 

ベールとナインの考えは同じであった。

これ以上同盟との戦いを長引かせるつもりは無い。だからこそ、この戦いで終わりにしたかったのである。

 

「お姉ちゃん、ベールさん、準備できたよ!」

 

「では、お願いしますわ」

 

「ええ。・・・行くわよ!」

 

セリカとミネルヴァが魔法陣に入ったのを確認するが早いか、ナインは準備を終えた転移魔法を発動し、プラネテューヌへ移動した。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ズェアッ!」

 

「ゼェイアッ!」

 

ハクメンが『斬魔・鳴神』を左から水平に振るうのに対し、テルミは己の左腕を右から水平に振り払って受け流す。

己の装着した『スサノオユニット』によって能力が引き上げられたことにより、テルミはこのような技を可能としていた。

 

「連華ッ!」

 

「灼キ噴ク楼焔ッ!」

 

それに怯む事無くハクメンが二段の蹴りを放つのに対し、テルミは一度目の蹴りは右腕で防ぎ、二回目の蹴りを返しの要領で自身の左腕を地面に殴り付ける形で防ぐ。

その直後に地面から碧い炎のようなものを噴出させ、ハクメンに襲いかからせる。

それに気が付いたハクメンは考えるよりも早く体を動かし、飛びのく形でそれを回避した。

 

「レリウス=クローバーの創った『スサノオ』・・・これ程とはな・・・!」

 

「まだ終わらぬぞ・・・!さあ、もっとだ・・・もっと足掻いて見せろ・・・!」

 

ハクメンは『斬魔・鳴神』を構え直しながら、憎々し気に吐き捨てる。よくも厄介な事をしてくれたなと、レリウスがこちらに来たら言ってやりたい気分であった。

対するテルミは己の得た力に非常に満足気であり、余興を楽しむかのようにハクメンへ促した。

ハクメンが気を取り直して向かってくるのをみたテルミは、姿勢を低くして迎え撃つ構えを取った。

 

「「クロスコンビネーションッ!」」

 

マジェコンヌはネプテューヌに近づきながら、武器を彼女の使用している刀に切り替える。

そして、同時に同じ技を放ち、それらが大きなぶつかりあった音を広げ、火花を散らしていく。

 

「前よりも精度が上がっている・・・?それとも、シェアの下がった影響が・・・!?」

 

「そのどちらもだろうよ。アンチエナジーの補強が無いにしろ、ここまで優位を取れるとはな・・・!」

 

ネプテューヌはマジェコンヌが見せるコピー能力の精度に舌を巻き、マジェコンヌは自身が見せた成果に笑みを見せる。

ぶつかりあった結果として、ネプテューヌは予想以上の強さを目の当たりにして焦りを見せ、マジェコンヌは技を放った後の余力が多くなった事で気が楽になる。

 

「お姉ちゃん、今の内に体制を・・・。・・・!?」

 

ネプギアはM.P.B.Lでビームを一発放ってマジェコンヌに回避させた後もう一度撃とうとしたが、それは別の方向から放たれたビームによって阻まれた。

 

「私の事を忘れてはいけませんよ?」

 

ネプギアの行動を阻止した主はレイであり、杖の先端からビームを放っていたのである。

更にもう一度自身に向けてビームを放たれ、ネプギアは回避を強要されてしまった。

 

「まだ終わらんぞ?さあ、見せてみるが良い・・・」

 

「貴女たちの限界を・・・。でなければ、この国から順番に消えて行くだけですよ・・・?」

 

「引くつもりは無いわ・・・。私たちの後ろには大勢の人たちがいる・・・!」

 

「ゲイムギョウ界の為にも、私たちは負けません!」

 

マジェコンヌの促しに続き、レイが煽って見せた。

それに対してネプテューヌとネプギアは啖呵を切りながら武器を構え直し、同時に彼女たちへと向かって行く。

それを見たマジェコンヌは武器を自身が普段使う槍に戻し、レイも僅かに腰を落して構えを取った。

プラネテューヌを舞台に起こった戦いは、まだ始まったばかりであった。




描写の長さにかなり偏りが出てしまいました・・・。

度々言うことですが、残すところが本当にこの最終決戦だけになりました。短い間になりますが、楽しんで頂ければ幸いです。

次回はこれの後半に入ります。


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61話 God of War(後半)

前回の続きになります。


「紅蓮ッ!」

 

「薙ギ裂ク狂爪ッ!」

 

ハクメンが『斬魔・鳴神』の鍔本を押し当てるのに対し、テルミは己の右肩を使ってタックルを放つ。

テルミのタックルは『スサノオユニット』を纏ったことによって、肥大した質量で威力が上がっていた為、ハクメンの放った攻撃をあっさりと押し返して見せた。

 

「・・・何!?」

 

「もう一撃だ・・・」

 

自身の攻撃を押し返された反動と、ここまであっさりと押し返された驚きが重なり、ハクメンは一瞬硬直してしまう。

その隙を逃さんとばかりにテルミは舞うように回転しながら左腕を下から振り上げ、ハクメンの顎下にぶつける。

 

「ぬぅ・・・!」

 

「次はこれを受けよ」

 

ハクメンはそれによって軽く宙を舞う事になり、それによって無防備になったところにテルミは追撃を選択する。

テルミが放つは右腕の拳辺りから碧い炎のようなものを撃ちだす攻撃で、それは無防備となっていたハクメンの背中に直撃を許した。

 

「ッ・・・!」

 

「なっ・・・ハクメンッ!」

 

どうにか剣を使いながら起き上がったラグナの目には丁度、ハクメンが吹き飛ばされてビルのガラスを突き破って行ったのが見えた。

それと同時に、今ここでテルミを止めなければ危険だと考えたラグナは、右腕を自身の肩の高さまで持っていく。

 

「第666拘束機関開放・・・次元干渉虚数方陣展開!『蒼炎の書(ブレイブルー)』・・・起動!」

 

ラグナは『蒼炎の書』を速やかに起動させ、剣を手に持ち直してからテルミへと再び向かって行く。

ここで『イデア機関』を使わなかった理由として、あと一回しか使えないが故に迂闊な使用を避けたかったのだ。

 

「貴様を滅するのは最後にすると言ったのだがな・・・。まぁ、良かろう」

 

その姿を確認したテルミは一瞬ウンザリとした声を出したのだが、思いついたことがあるので引きずらないことにした。

 

「ならば貴様を動けぬ状態にして、いつでもトドメをさせるようにすれば良いのだからな・・・」

 

テルミはラグナの方に向き直りながら体をその場でうずくまるような動作を取り、力を溜めていく。

それによって碧い炎のようなものがテルミの体から吹き出て来ていた。

 

「覚悟するが良い・・・哭キ穿ツ崩落ノ怨嗟ッ!」

 

テルミは両腕を外に広げ、顔を上に向けながら雄叫びを上げる。

それによって自身の体から碧い炎のようなものがより大きくなり、地面が震えた。

それらが終わると同時に、テルミは自身の体に力が更に満ち溢れてくるのを感じた。

 

「さあ、どこからでもかかって来るが良い・・・。貴様の攻撃、此の我が全て潰してくれようぞ」

 

「クソがぁ・・・。こっちだってタダじゃ終わらねえぞ!」

 

向かってくるラグナを見たテルミが余裕そうに左手を使って挑発する。

対するラグナは、それが挑発だと分っていてもやるしかない考え、自身が持っていた剣を強く握りしめる。

 

「インフェルノディバイダーッ!」

 

「・・・見えるぞ」

 

ラグナは剣に黒い炎のようなものを纏わせながら振り上げるが、テルミは一歩後ろに下がる事でいとも簡単に避けて見せた。

 

「なっ・・・!?」

 

「残念だったな・・・」

 

受け止めてくるならまだ対応できた可能性はあったが、まさかの冷静に回避したのを目の当たりにしたラグナはその事実に気を取られ、次のアクションへ繋げられなくなってしまった。

ラグナが技を放った影響で一通り登り切ったのを見て、テルミは右足に碧い炎のようなものを纏わせ、自身の攻撃を準備しておく。

 

「散リ殺グ礫巌ッ!」

 

「うお・・・!?」

 

テルミは地面を削りながら右足を思いっきり振り上げ、碧い炎のようなもので形成した波をラグナに浴びせる。

着地のタイミングに合わせられた事によってラグナには防御しか選択が残されず、剣を使って守りに入るのだった。

 

「この野郎・・・!こんなに力が増えてるのかよ・・・!」

 

「・・・隙を見せたな」

 

「・・・!?」

 

ラグナが衝撃に負けぬように踏みとどまっている内に、テルミはラグナの目の前まで近づく。

衝撃に耐えきった頃に声を出したので、驚いたラグナは顔を上げる。

するとそこには両腕を頭上に掲げて、何らかの行動を起こそうとしているテルミの姿があった。

 

「特別だ・・・。貴様には神の剣を味わう権利をやろう・・・」

 

「ヤベェ・・・!」

 

テルミが碧い炎のようなもので剣を作り上げていくのを見たラグナは、慌てて剣に黒い炎のようなものを纏わせた。

 

「断チ斬ル閃刃を受けるが良いわァッ!」

 

「ふざっ・・・けんなァッ!」

 

テルミが作り上げた剣を左から水平に、ラグナが自身の持っている剣を上から縦に振るう事で、互いの攻撃がぶつかり合う。

しかしながら、両者の威力には余りにも差が大きすぎた。

 

「っ・・・・・・!」

 

「耐えるのは見事だが、呆気無いな・・・」

 

その反動で飛ばされそうになるのを耐えながら歯を食いしばるラグナを見て、テルミは抑揚がない様子で呟く。

そして、ラグナが体制を立て直すよりも早く右足でラグナの腹辺りを、自身の体感で軽く蹴り飛ばす。

 

「グアァ・・・!」

 

「ふん。『エンブリオ』の影響無しに此の力があれば・・・貴様など其の程度のものだ」

 

それでもハクメンが全力で蹴り飛ばして来る時と同じくらい威力があり、ラグナは吹っ飛ばされ、再び地面に背中を擦らせる形になった。

前回は『エンブリオ』の影響を一切受けていないラグナと、その影響をまともに受けているテルミと言う事もあって、十分にチャンスを与えてしまっていたが、今回はそれが無い故に余程の奇策でも無い限り一対一での敗北は殆ど無いだろう。それ程までにテルミの優位は大きかったのだ。

 

「クソ・・・このままやっても埒が明かねぇな」

 

「理解したか?ならば、貴様は最後の一人となるまでゆっくりと我が力の前に・・・」

 

「・・・っつっても、それは俺一人だけとか、ハクメン一人だけだった場合の話だ」

 

起き上がりながら吐き捨てるラグナの愚痴を拾ったテルミは満足そうに頷き、そのまま跪いていろと言おうとしたが、それはラグナが遮った。

また、愚痴をこぼしていた時こそ歯嚙みしているような表情ではあったが、今はそんなことも無く僅かに笑みを見せていた。

 

「・・・何?・・・!」

 

それが一瞬よく分からなかったテルミだが、その疑問は背後に感じる熱気によって解決した。

己の勘に従ったテルミは回れ右をしながら自身の右腕を眼前に構える事で、飛来してきた巨大な火球を防いだ。

一瞬だけ防御方陣を展開して防いだのでダメージこそ無いものの、爆風の影響で一時的に前が見えなくなる。

 

「大魔導士ナインか・・・予想よりも来るのが早いな・・・」

 

煙が晴れていく中で、攻撃した主を看過していたテルミは火球が飛んできた方向を見ながら呟く。

攻撃してきたナインは、火球が飛んできた方向の先に浮遊しており、次の攻撃ができるように準備をしていた。

それ自体は防げば良いので特に問題としてはいないが、テルミは一つの疑問が思い浮かんだ。

 

「一つ訊こう・・・。貴様らは仲を違えていた筈だが・・・何故此処まで早く合流して来れた?」

 

「理由としては幾つかあるわよ。まず一つ目として、私の近くにいた人なら転移魔法で移動することができた。プラネテューヌ国内に何も妨害が無かったから、楽に辿り着かせてもらったわ」

 

ナインの一つ目の回答を聞いたテルミは、成程それはそうだったなと納得する。

確かにナインは現在リーンボックスに所属している為、そこにいる人たちが転移魔法を使えば短時間でここまで来れるのは自然だろう。

 

「二つ目は、女神たちの会話を聞いていたのなら仲違いしたように見えるでしょうけど、私たちはそうでは無かった・・・ナオトやノエルが彼女たちの喧嘩を止めようとしていたでしょう?」

 

「・・・・・・」

 

二つ目の回答でテルミはハッとした。確かにラグナたち異世界組は言い争いに参加すると言うよりは、止めに行っていたのだ。

つまるところ、自分は女神たちの様子を気にしていた余りラグナたちの事を見落としていたのである。完全に足元を掬われた結果であった。

 

「そして三つ目・・・ここがあなたたちの最大の過ちね。マジェコンヌたちの方を見て見なさい」

 

「・・・何?」

 

ナインが指差して促すので、テルミは疑問に思いながらそちらを見やる。

 

「くっ・・・強い・・・!」

 

「まだ終わりませんよ・・・これに耐えられますか!?」

 

ネプテューヌがマジェコンヌに押し返されて体制を崩したところを、レイが容赦なく杖からビームを撃ちだそうとしていた。

 

「・・・!?」

 

「お姉ちゃん・・・!」

 

体制が崩れた事によってネプテューヌは回避が間に合わなくなり、ネプギアも救援に入りたいが今からビームを撃つのは間に合わない。

かと言って自身の身を投げ出してネプテューヌを庇おうにも、レイの攻撃を前には防御方陣込みでも怪しい状態であった。

これだけ見るとどこが過ちなのだろうかとテルミは首を傾げるが、それは即座に解決する事になった。

 

「っ・・・!?」

 

レイは急に嫌なものを感じて身を引いた。

すると先程までレイがいた場所を緑色の刃が物凄い勢いで通り過ぎていき、正面に向き直って見れば予想外の人物がそこにいた。

 

「お待たせしました。お二人共大丈夫ですか?」

 

「ベール!来てくれたのね・・・」

 

「ありがとうございます。おかげで助かりました」

 

何とプラネテューヌの女神二人より一歩前の位置に、仲違いしていた筈のベールがそこにいたのだ。

それによってレイとマジェコンヌ、そしてテルミはいよいよどういう事だと慌てる事になる。

―何故仲違いしていた女神どもがこうもあっさりと手を取り合うのだ?それが理解できなかったのである。

 

「残念だったわね・・・。そもそも彼女たちは仲違いなんてしていないッ!」

 

「何・・・だと・・・!?」

 

告げられた事実に、テルミは啞然とするしかなかった。何しろ彼女たちが詐欺めいた事に走るとは思わなかったのである。

 

「だが、奴らは現に・・・!」

 

「ああ・・・アレはアンタたちにそう思わせる為の振りよ。とは言え、こっちも『スサノオユニット(それ)』を造っているとは思わなかったけどね・・・」

 

ナインとしても、まさか『スサノオユニット』を創り上げているとは思っても見なかったのである。

しかしそれ以上に、まさか自分たちが策で負けたとは思っても見なかったので、彼らとしてはそちらのショックの方が大きかった。

 

「まさか、策士策に溺れるということが・・・実際に起ころうとはな・・・」

 

「とは言え、これくらいならばまだ十分に対応可能です」

 

「そうだな。二人増えたくらいならばどうにでもなる」

 

最初こそ自嘲気味に呟いたマジェコンヌだが、レイの言う通りまだ余裕があるのでそこまで気負う必要も無かった。

気を取り直したマジェコンヌとレイが武器を構え直すのを見て、三人の女神も武器を構え直した。

 

「ベール、分かっているとは思うけど・・・」

 

「ええ。キセイジョウ・レイ、マジェコンヌに劣らず強いようですわね・・・」

 

ネプテューヌの言いかけた言葉にベールは頷く。

何しろズーネ地区の時はアンチクリスタルの恩恵があったとは言え、女神候補生四人相手でも圧倒出来ていたマジェコンヌと、先程まで彼女と良い連携を見せており、それでいて一対一でもネプテューヌ相手に有利を確保していたレイ。

これらを相手にする以上、当然油断するわけには行かないのである。

 

「ところで、お二人共体の方は大丈夫ですの?」

 

「はい。私はまだ大丈夫です」

 

「私も平気・・・と言うより、後ろには国民がいるから逃げるわけには行かないわ」

 

「ふふっ。そうでしたわね・・・」

 

何せここはプラネテューヌの国内。ベールが救援に来たとは言え、ネプテューヌたちが先に後退してしまっては申し訳が立たないだろう。

それと同時に、苦しい状況に追いやられながらも諦めない二人を見て、ベールは安心感を覚えるのだった。

 

「では、行きましょう・・・あまり長時間不安にさせるのはよろしく無いですわ」

 

「来るか・・・。レイ、まだ行けるな?」

 

「ええ。そちらも無理はしないで下さいね?」

 

ベールが促したことで二人は頷き、三人で同時にマジェコンヌらへ向かって行く。

それをみたマジェコンヌは短く確認し、レイも注意を促す。しかしながら、それを聞いてもなお、マジェコンヌは余裕そうな笑みを見せる。

 

「何を言う。まだ序の口だ・・・これくらい余裕を残して切り抜けて見せねば・・・」

 

「そうでしたね・・・。では・・・!」

 

マジェコンヌの言う事は最もであり、レイもまだまだ余裕がある。

それと同時に、その心意気は自分も同じであった為に自然と笑みが零れる。とは言えそれはそれとして気を取り直し、二人も彼女らへ向かって行って距離を詰める。

 

「御前が来てくれたか・・・此れならば、もう幾分か持ちこたえられるだろう」

 

「ええ。逃げ遅れた人たちに被害が行かないようにする為にも、ここで食い止めましょう・・・ラグナ、『イデア機関』はまだ使っていないわね?」

 

「ああ。まだ残ってる」

 

ハクメンは突っ込んで行ってしまったビルから戻ってきてナインがいる事を確認し、ナインはハクメンに促しながらラグナに問いかける。

幸いにも残り僅か一回しかない『イデア機関』は未使用である為、そこだけは救いであった。

もしここで「使っちまった」などと言われれば、突発的な逆転性が一気に落ちぶれるので、それが避けられただけでも相当に大きい。

 

「大魔導士ナインも増えるか・・・良かろう。相手に取って不足は無い・・・」

 

元の世界では『六英雄』と呼ばれたナインが相手に増えてもなお、『スサノオユニット』を身に纏ったテルミは余裕そうな声色を出して構えを取った。

それもそのはずで、ナインやハクメンと同じくテルミも『六英雄』の一人であるからだ。故にテルミはこれくらいのことで怯みはしない。

 

「ったく・・・アレでも余裕だと気が遠くなるぜ・・・」

 

「これくらいで音を上げていたら持たないし、やるしかないわね・・・」

 

「無論其の心算だ。御前たちも、諦める事など無いのだろう?」

 

愚痴をこぼしたりはするものの、ハクメンの問いかけには素直に頷く二人。

例え『スサノオユニット(強大な敵)』が目の前にいたとしても、やることは変わらない。

ラグナであれば『タケミカヅチ』を、ナインとハクメンであれば『黒き獣』を前にした時のように、諦めの悪さは全く変わらないのである。

ハクメンの場合当時は執念もあったかもしれないが、それでも『黒き獣』を打つまで意志が折れなかったのは間違いないだろう。

 

「と謂う訳だ・・・テルミ、今度こそ貴様を滅してくれよう」

 

「ほう・・・良くもまあそんな事が言えたものだ・・・。貴様は誰にものを言っている?誰がッ!誰をッ!滅すると謂った!?」

 

ハクメンは真面目に言い切ったのだが、テルミには余りにも癇に障る言葉だったようで、語気を強めながら問い返した。

しかし、ハクメンはおろか、ラグナとナインも全く怯む様子が無かった。今テルミと対面している三人は心持ちの強さが常人を上回っているのである。

故に、その気迫に圧されて戦意を失うことは無く、まるで何事も無かったかのように立っているのである。

 

「無礼を働いた報いだ。貴様らは楽には殺さん・・・一撃一撃、念入りに入れてなぶり殺しにしてやろう・・・!」

 

「上等だァ・・・テメェこそ、その『スサノオユニット(化けた皮)』剝がしてやるから、覚悟しろよッ!」

 

テルミとラグナの言葉を皮切りに、こちらも再び戦いが始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、これで何体倒した・・・?」

 

「50からはもう数えていないわ・・・。一体どれだけ誘導してきたのよ・・・しかも大型のモンスターだって混ざっているし・・・」

 

現場に向かってからすぐ、ナオトたちはモンスター相手に必死で戦っていたが、数が多すぎて半分呆れかえっていた。

ドライブの性質上アイエフが小型のモンスターを倒しやすく、ナオトは大型のモンスターに対抗しやすさがあるので、小型のモンスターが集まればアイエフが一掃、取りこぼしと大型のモンスターが一定の場所まで進行して来たらナオトが倒すと言う形を取ることで善戦出来ていた。

また、この他にもトリニティが一般市民の前に立って流れて行ったモンスターたちの攻撃を防いでくれていたお陰で、怪我人こそいるが死亡者は出ないで済んでいた。

とまあ、ナオトたちが出している結果を見れば大丈夫だと思いたいが、前途の通り問題なのはモンスターの多さである。

いくらモンスターが一体一体はそこまで強くないにしろ、まだまだいるぞと言わんばかりのモンスターの数にはげんなりさせられるのである。

この他にも、ナオトたちが並の人たちより強いとは言え、人間である為、全てを完全に対処しようにも難しいものがあった。

 

「っ!?二体抜けられた・・・!」

 

「俺が行く!ちょっとの間頼むッ!」

 

アイエフが再びドライブで引き起こした風でモンスターの群れを吹き飛ばすものの、それから逃れた二体のモンスターが自身達の上を通り越していった。

流石に長時間を二人で捌くのは厳しいものがあり、少しずつではあれど精度が悪くなっていたのである。

抜けられたモンスターはすぐに倒さねばならないので、攻撃にそこまで時間のかからないナオトが即座に走って追いかける。

自身に近い、左側にいたモンスターを血で作った刃で切り裂いて倒す。背中から容赦なく切る形にはなったが、逃げ遅れた人たちの事を考えるとそうも言ってはいられない。

もう一体とは距離があったので、そのモンスターが進む方へ目を向けてみると、嫌なものを見ることになってしまった。

 

「ッ!?おいおいマジかよ・・・!」

 

モンスターが走る先、そこには何らかが原因で逃げ遅れた少女がいたのだ。

さらに運が悪いことにモンスターは彼女に目を付けてそちらへ走りだしてしまったので、ナオトも急いでそちらへ走るが、間に合う気がしなかった。

 

「あっ・・・」

 

その少女が気づく頃には、モンスターは既に自身の右手側の強靭な爪を振り上げていた。

それをみた彼女はどうにかして逃げようと試みるものの、足が動かないのではどうにもならなかった。

 

「クソぉッ!」

 

ナオトは自分の体に鞭を打つように走るが、まだ距離があるせいでモンスターを止める手段が効果を発揮できない。

 

「・・・危ないッ!」

 

誰も止められない状況で振り下ろされたその爪は、少女には当たらなかった。

その理由は、寸前のところで少女の視界外から走ってきたニューが、彼女を抱きかかえてその場から少しでも動いたことと、少女とモンスターの間に入ったトリニティが『無兆鈴』を使って強化した防御方陣によって、その爪による攻撃を止めてくれたのである。

これによっていきなりの事態にモンスターは困惑し、動きを止めてしまう。

 

「おおッ!」

 

それによってナオトがモンスターに手を出す時間が与えられ、その時間でナオトはモンスターの首根っこを掴み、思いっきり地面に叩きつけてやった。

投げつけられた時の衝撃が余りにも大きかった事で、致命傷となったモンスターは光となって消滅した。

 

「大丈夫?」

 

「う、うん・・・」

 

ニューに問いかけられた少女は、モンスターに襲われた恐怖が残りながらも答える。

答えてもらえるだけまだ大丈夫だが、いつまでもこの少女をこの場に残してはいけないのは確かだ。

 

「歩けますか?」

 

「それが・・・足に力が入らないの・・・」

 

トリニティの問いには弱々しい表情で答えた。

怪我などは見受けられない為、恐らくはテルミや砲台によって起こされた恐怖感に気圧されてしまったのだろう。

 

「えっと、シェルターってどっちにある?」

 

「すぐあっちに一個あるぞ。急げばまだ入れてもらえるはずだ」

 

「分かった。後はニューが連れていくから、モンスターをお願い」

 

ナオトが駆け寄って来るのが音で理解できたので、そちらを振り向きながらニューが聞いてみると、ナオトは即座に答えてくれた。

その距離であればモンスターに攻撃される心配も極めて少ないので、ナオトにはモンスターの対処に戻ってもらうよう頼んだ。

 

「さ、行こう・・・ここにいたら危ないから」

 

「うん・・・。お母さん、向こうにいるかな?」

 

「きっといるはずだよ・・・。だから行こう?お母さんも心配している筈だから・・・」

 

ニューに促されながら、手を引いてもらう形で少女はシェルターへ避難する。

 

「ちょっとヤバイかも・・・。・・・!」

 

ナオトが抜けた穴を埋めるようにドライブを酷使した結果消耗が早くなってしまい、アイエフには一気に疲労が押し寄せてきた。

ドライブを発動するインターバルが長くなって来て、とうとうモンスターの突破を完全に許してしまいそうになった時、近くまで来ていたモンスターが無数の剣とレーザーによって打ち払われた。

 

「お待たせしました!大丈夫ですか?」

 

「暫くラムダたちが引き受ける・・・貴女は後退を」

 

自身の傍まで駆けつけて来たのは『クサナギ』を装着したノエルとラムダだった。

更に有り難い事に、この二人は手数の多さから、小型のモンスターを多数相手にするのが比較的苦では無い点だった。

これなら自身にも少しだけ休める時間が与えられるのである。

 

「ありがとう。なら少しだけ・・・」

 

「揃ったのなら、私が手を出しても問題無いな?」

 

アイエフの言葉を遮るように声が聞こえ、彼女は周囲を見回す。

すると背後からイグニスが迫っていたのが見えたが、それはナオトが攻撃を仕掛ける事によって注意を逸らさせる。

 

「おっと・・・テメェにいつまでもやられてばっかりじゃねぇぞ?」

 

「ほう?此の世界ではどうやら御前と縁があるようだな・・・」

 

レリウスは何かの因果を感じた。

何しろナオトが本来いた世界、ラグナたちがいた世界、そしてこのゲイムギョウ界と、何かとこのナオトと言う少年と関わったことが多かったからだ。

 

「良いだろう。御前の力・・・改めて観測()せて貰うとしよう」

 

「良いぜ・・・そうまで言うならいくらでも見せてやるよッ!」

 

レリウスが一度自身の傍までイグニスを呼び寄せてから向かってくるのに対し、ナオトはドライブを全開の状態にしてからレリウスへと向かって行く。

 

《変わるわ。大丈夫になったら私に呼びかけてちょうだい》

 

「ええ。それまではお願いね」

 

流石にもう限界であったので、アイエフはラケルに代わってもらう。

 

「ナオト!向こうは私たちでどうにかするから、何としてもレリウスを食い止めなさい!」

 

レリウスと戦い始めているナオトには届かないかもしれないが、そう投げかけて、ラケルもノエルたちに加勢するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「あの時の恩恵が無いとは言え、ここまで強いだなんて・・・!」

 

「フッ・・・まだこの程度では終わらんぞ」

 

今日初めてマジェコンヌと実際に刃を交えたベールだが、その強さに改めて驚く事になった。

対するマジェコンヌはまだまだ余裕そうな笑みを見せる。一人増えたくらいで負ける気などさらさらないのである。

 

「だいぶ長い時間、女神になっていなかった人とは思えないくらいね・・・」

 

「シェアが急速に落ちたというのに、大分対応できていますね・・・」

 

いきなり力を削ぎ落とされて大変な戦いを強いられているが、それでも耐えているプラネテューヌの姉妹を見たレイは「それでこそです」と称賛の言葉を送った。

思った以上に救援が早いということもあるが、それでもここまで戦えているのは彼女たちの諦めぬ意志や根気の強さだろう。

 

「さて、次はこれを・・・。・・・!」

 

レイは杖を頭上にかざして何かしようとしたが、その前に左側から何かを感じ取って後ろに下がる。

すると、先程までレイがいた場所を大きなビームの火線が通り過ぎていった。そちらを見てみれば、そこには大型のランチャーを構えたユニの姿があった。

 

「お待たせ、ちょっと遅くなったわね」

 

「大丈夫。ユニちゃん、来てくれてありがとう!」

 

ユニとネプギアは互いに笑みを見せる。

これでも大分厳しい状況で戦っていたので、味方の救援が来るのはありがたいことだった。

 

「予想より早すぎる・・・。ということは・・・!」

 

「ええ。その通りよっ!」

 

ユニの後ろにはノワールが控えており、レイの言葉に続けるように高速で近づくノワールが答えながら、レイへ向けて剣を右から斜めに振り下ろす。

対するレイは杖を左から水平に振ることで受け止める。

 

「レリウスさんも動いてるようですし、そちら側の協力者は集合したようですね・・・」

 

「ええ。それから、こっちのメンバーも揃ったわよ」

 

ノワールが言ったことが分からず、問いかけようとしたが、強い敵意を感じたことで答えを得た。

ラステイションの女神たちより更に後ろには、こちらに超高速でマジェコンヌへと肉薄するブランと、彼女に置いていかれないようにと付いてきているロムとラムの姿があった。

 

「おりゃぁッ!」

 

「チィッ!」

 

ブランが戦斧を上から叩きつけるように振り下ろすのに対し、マジェコンヌは武器をハクメン『斬魔・鳴神』に似た形に変えながら上から下に振り下ろすことで受け止める。

 

「あん時アドリブやっといて良かったぜ・・・。お陰でレリウスにすら効果あったもんな・・・!」

 

「一番頭の硬かった貴様が、よりにもよってそんな手段に出るとはな・・・!」

 

流石にブランがそんなおっかない行為に走るとは、マジェコンヌも予想出来ていなかった。

それだけ、ネプテューヌの下に武器を持ったまま向かったのには効果があったのである。

冷や汗かきながらニヤリとするブランに妙な苛立ちを覚えながら、マジェコンヌは彼女を引き離し、レイもノワールを引き離して体制を立て直す。

 

「みんな、大丈夫?」

 

「・・・まだ戦える?」

 

「ええ。まだまだこれからよ」

 

「みんながいるから、この戦いだって乗り越えられます!」

 

ロムとラムの問いにはプラネテューヌの姉妹が答えるのに合わせ、それは自分たちも同じだと言うかのように残りの女神たちも頷く。

ならば大丈夫と判断した女神たちは、マジェコンヌたちを見据える。

しかしながら、女神が勢揃いしても、マジェコンヌとレイはこれからが本番だと言うかのように気を引き締める様子を見せた。

 

「さて、ここからが本番だな・・・」

 

「ええ。彼女たちの意思に、こちらも全力で答えましょう」

 

「みんな、向こうはここからが本番だと考えているから気をつけて!」

 

「当然!こっちも全力で行くけど、市民のことは気をつけて行きましょう」

 

全員が準備できたと言わんばかりに距離を詰め始めた事で、女神八人と、マジェコンヌとレイの二人による空中戦が始まった。

 

「よし・・・こっちもどうにか揃ったな」

 

「ならば向こうは気にせず、我らはテルミを滅するのみ・・・!」

 

「今度こそ、決着をつけさせて貰うわよ!」

 

「(面倒なことになったな・・・。だが、そろそろ狙い時だろう)」

 

朗報を受けたラグナたちがそのまま自分を倒さんと向かってくる中、テルミは一瞬だけネプギアへと目を向けてからラグナたちの方へ向き直る。

 

「さて、その根気が何時迄続くであろうな・・・?」

 

自身の狙いが成功した時のことを想像して、テルミは小さく嗤いながら構えを取った。




ちょっとだけ集合のテンポが早すぎる気もしますが、原作と違って仲違いはあくまでもフリであり、今回の襲撃はある程度予測できていたという二つの理由があるのでここは一つ・・・(笑)。

次回は戦況に変化が起こります。


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62話 囚われる蒼

前書きで話せる事が無くなって来ました・・・(汗)。

前回の予告通り、戦況に変化が訪れます。


「マジェコンヌ、レイ・・・『生まれ変わり』を此方へ誘導できるか?」

 

ラグナたち三人の攻撃を凌いですぐ、テルミは術式通信で確認を取る。

もちろん、この間に来る攻撃をいなしていくことも忘れない。

 

『不可能ではないが、完全にはできんぞ?』

 

『途中まで誘導したら、一気にそちらへ突き飛ばす形になりますが、構いませんか?』

 

「ならばそれでも良い。どれくらいでできそうだ?」

 

流石に八対二という圧倒的人数差では完全にできるとは思えない。

その為、二人から出された妥協案でもテルミは簡単に受け入れることができた。

 

『そうですね・・・最低でも一分、長くても三分あればどうにかなります』

 

「そうか。ならば孤立させる時に一声貰うぞ。其の後は我の役割だ・・・」

 

『了解した。レイ、こちらから場所をずらして行くぞッ!』

 

『はい!それではまたっ!』

 

短く話しを纏めた一行は素早く己の役割に戻る。

テルミが前を向いた頃には、剣を自身へ振り下ろそうとするラグナの姿があった。

 

「おおッ!」

 

「・・・見えているぞ」

 

しかし、その攻撃はテルミが左手で掴む事によって止められてしまった。

 

「クソ・・・!これじゃ足りねえってのか・・・!」

 

「ふむ。縛られないと謂うのは良いものだなッ!」

 

歯嚙みするラグナをよそに、テルミは満足そうに言いながら剣ごとラグナを投げ飛ばした。

しかし、それ自体は大したダメージでない為、ラグナはすぐに体制を立て直せた。

とは言え、テルミが投げた事によってそれなりに距離が離れた以上、すぐには攻撃できる範囲まで来ないので、ラグナは一旦視野から外す。

 

「脈動のモルガナイトッ!」

 

『スサノオユニット』の恩恵もあり一番渋といのがハクメン。『蒼炎の書』を持つが故に何をしてくるかわからない、一番厄介なのがラグナ。そして無数の魔法を扱うことで幾らでも攻撃手段を変えられる、一番面倒な相手がナインであった。

ナインが地面に落とした巨大な種は、地面を這うように迫り、こちらを数回に渡って攻撃する植物の種であり、今から飛ぶにしても遅いと感じたテルミは右手を前に出し、防御方陣を展開することで防ぐことを選んだ。

迫っていた植物はテルミに届く手前で弾き返され、そのまま極めて短時間の寿命の終わりを迎えて消滅するのだった。

 

「・・・嘘!?碌な足止めすらできないなんて・・・」

 

「どうした?より強大な技で来ても構わんのだぞ?最も、貴様のは範囲が広すぎて被害を拡大させてしまうだろうがな・・・」

 

「くっ・・・!」

 

ナインの最大の魔法なら、確かに『スサノオユニット』を纏ったテルミにも少なくないダメージを与えられるだろう。

しかし、ダメージを与える以上の問題として、テルミが言った通り攻撃範囲が広すぎて周辺の被害が甚大なことになってしまうのだ。

自分一人で戦い、周辺の被害を一切気にしないのなら別に構わないのだが、今回は周囲に女神八人、ラグナとハクメンの十人と離れた場所でモンスターを止めてくれているナオト、アイエフたちの四人、更にはシェルターで手当をするセリカや逃げ遅れたを助けるトリニティら四人に国内の被害、他にもシェルターに避難した人たちの事も考慮しなければならないので、迂闊に撃とうものならテルミを止める以前に味方や一般市民に被害を及ぼす本末転倒な状況に陥ってしまう。

それ故に、ナインは苦虫を嚙み潰したような顔をするのであった。

 

「ならば、この一撃を受けて見よッ!斬鉄ッ!」

 

「来るか・・・。ならば、這イ舞ウ双脚ッ!」

 

ハクメンが『斬魔・鳴神』を縦に振り下ろすのに合わせ、テルミは己の躰に碧い炎のようなものを纏わせながら、地面を這うように突進する。

それらがぶつかり合うものの、テルミは纏っていた碧い炎のようなもので防ぐ事で、ダメージは無かった。

 

「終わらぬぞ・・・!」

 

「其れは此方もだ!」

 

ハクメンは足元を薙ぎ払うように、『斬魔・鳴神』を右から水平に振るうが、それが届くよりも早くテルミは躰を跳ね起こしながら左脚でハクメンの胴を蹴り飛ばして見せた。

 

「うおお・・・ッ!?」

 

「こちらが一手速かったようだな・・・」

 

先程のように少し離れているビルのガラスにぶつかるということは無かったものの、それでもハクメンは僅かに体を飛ばされた。

とは言え何も抵抗できない状態から吹き飛ばされるという訳では無かったので、そこまで吹き飛ばされる事は無かった。

現にハクメンはすぐさま術式で姿勢制御をして、安全に着地している。

 

「ぬぅ・・・!やはり一筋縄では行かぬようだな・・・!」

 

「知れたこと。此の程度で我を打つことなど出来ぬぞ」

 

苦悶の声を出しながらも、ハクメンは一度突撃を控える。ナインが攻撃の準備を終えていたからだ。

ハクメンが立ち止まった事と、ラグナがまだこちらに来る途中でもハクメンと同じくらいの距離があった事から、違和感を感じたテルミは反射的にナインの方へ体を向ける。

するとナインが両手を頭上に掲げ、巨大な火球を生み出していたので、案の定かとテルミは納得する事になった。

 

「これを受けてみなさいッ!」

 

「見くびるでないわッ!圧シ焼ク惨禍ッ!」

 

ナインが飛ばしてきた火球がぶつかる寸前にテルミは己の右腕を突き出し、その拳の辺りから碧い衝撃波を発生させる。

その衝撃波を火球にぶつける事によって、火球は止められた先から進まなくなり、やがて爆発だけを残して消えていった。

 

「・・・ふんッ!」

 

「ッ・・・!?」

 

更に間髪入れず、その爆発によってできた煙の中を突き抜けさせるように、テルミは右手の拳辺りから碧黒い炎のようなものを撃ち出す。

何かしてきた事に気づいたナインは瞬時に体を捻る事で、それをどうにか避けきった。

この時、テルミの攻撃がナインの前髪をほんの僅かに掠めた為、ナインは冷や汗を流す事になった。

 

「全く・・・何かの冗談に思えてくる強さをしているわね」

 

「貴様は目の当たりにした事が無いからな・・・存分に味わうが良い」

 

呆れる程の頑丈さや能力に舌打ちの一つでもしたくなるナインに対し、テルミはまだ余裕を残していた。

ナインとハクメンという、『六英雄』の内二人がいて、更に『蒼炎の書』を抱え込んでいる為、突発性では間違い無く自分たちを上回るラグナの三人で掛かってもこれだというのは、十分すぎる程悩ませてくれる要素であった。

 

「流石にこれだけ相手が多いと、遠距離攻撃をする暇は無いですね・・・」

 

「だが、攻撃を凌ぐだけならばもう少しは耐えられる・・・!後僅かだ、持ちこたえるぞッ!」

 

一方で、空中戦は女神たちが人数差で有利を取っているが、同盟の思惑通りに進んできていると言った状況であった。

役割分担をして戦おうにも、相手が圧倒的に多人数であるが故にその戦い方をするよりは、お互いが近い距離で戦った方が安全という結論に達したのだ。

第一に、遠距離攻撃をしようにも常時遠距離攻撃を行う女神がネプギアを省く候補生の三人、状況に応じて攻撃を切り替えられるネプギアと四人もいる為、レイの強力な一撃で援護しようにも簡単に妨害されるのが目に見えていた。

マジェコンヌがフォローしようにも、今度は近接攻撃を主軸に置いた四女神の攻撃と、レイの妨害とマジェコンヌに牽制しようとする候補生の攻撃までも捌かなければならないので、負担が大き過ぎる。

しかし、互いに近い距離で誘導しながら防御に徹してしまえばフォローもしやすくなり、固まって動けば彼女らもこちらの包囲を維持しようとするので、さっきまでの戦い方と比べれば思惑通りの誘導をしやすいのもある。こうなればこの手段を選ぶしかないだろう。

 

「・・・?あいつら、攻撃してこないわよ?」

 

「数の差がありすぎて、迂闊に攻撃できないと判断したのでしょうか・・・?」

 

「でも、あの集まりのことだし・・・何か策を練られているかもしれないわね」

 

「そうだとしたら、実行する前に終わらせる方がいいな・・・」

 

女神たちもその行動に違和感を感じて一瞬攻撃の手を止めるものの、厄介な事をされる前に倒すと言うブランの考えに乗り、全員でそのまま攻め続ける事を選んだ。

この時マジェコンヌたちは少々苦しそうな様子を見せて移動を始めたので、女神たちも包囲を崩さないように並行に移動して距離と包囲網を維持する。

包囲を続けられてしまっては仕方ないので、マジェコンヌとレイはお互いがすぐにフォローしあえるように近くに固まり、防御の姿勢を維持し続けた。

 

「それそれっ!」

 

「まだまだ・・・!」

 

「反撃の時間なんて与えないんだから!」

 

「(・・・何でだろう?あの二人が攻撃を控えてから、ずっと嫌な予感がしてる・・・)」

 

ロムとラムが杖から氷の塊を飛ばし、ユニがランチャーで射撃をし、女神四人が接近戦を仕掛ける最中、M.P.B.Lで援護射撃をしながらネプギアは考えていた。

こちら側が上手く囲んでいるのに、何か誘われているような気がしてならないのである。

しかしながら、このまま攻撃を続ければ彼女たちに反撃の時間を一切与えないで済むのは確かであった。

 

「(それなら、あまり時間は掛けない方が良いのは確か・・・。ブランさんの言う通り、一気に行くべきだね!)」

 

「・・・フッ。耐え続けた甲斐があったな」

 

「ようやく・・・ですね」

 

ネプギアが自分も接近戦に参加するべく距離を詰めだしたのを見た二人は、ようやくこの時が来たと言わんばかりに安堵の表情を見せる。

 

「テルミ、聞こえるか!?準備は整ったッ!今から奴をそちらに突き飛ばすぞッ!」

 

『承知した。何時でも構わん』

 

『・・・!?』

 

マジェコンヌの発言に全員が固まる。特にネプギアに至ってはここで自身の疑問が晴れたのが災いし、中途半端な位置で固まる事となってしまった。

自分たちは追い込んでいると思ったら誘い込まれていたのである。

 

「では・・・マジェコンヌさん・・・!」

 

「ああ・・・行くぞッ!」

 

二人は頷き、女神たちが体制を立て直すよりも早くネプギアに向けて一気に距離を詰める。

 

「・・・!?」

 

「ハァッ!」

 

マジェコンヌが槍を突き立てるのが見え、対応に遅れたネプギアは慌ててM.P.B.Lで防ごうとするもあっさりと弾き飛ばされてしまった。

それを確認したマジェコンヌは追撃をせず、すぐにレイが攻撃できるように場所をずれる。

 

「悪いが貴様は・・・」

 

「テルミさんの方へ送らせて貰いますッ!」

 

マジェコンヌの言葉の先を言うかのようにレイが言葉を繋げながらネプギアの前にたち、杖で殴りつけてテルミの方へ飛ばした。

 

「きゃあっ!?」

 

「・・・何!?」

 

「ネプギアを狙った・・・!?」

 

ネプギアがこちら側に飛ばされたのが見え、ラグナたちも足を止めてそちらを見てしまう。

 

「・・・!?いけない、あいつらの狙いは・・・!」

 

「もう遅いぞ・・・」

 

ナインが気づいた頃にはテルミは動き出しており、落ちながら体制を立て直したネプギアが振り返ると同時に、その首を左手で掴んで近くのビルまで移動して叩きつけてやった。

 

「あぅ・・・っ!?」

 

「「ネプギア!?」」

 

有利だと思われていた空中戦は、同盟の思い通りの展開になって一瞬で危機的な状況に陥った。

テルミによって痛手を与えられたネプギアを見て、ラグナとネプテューヌが声を掛けるもネプギアは反応する余裕が無い。

それ程までに、自分の首を掴んでいるテルミの握力が強いのである。

 

「う・・・っ・・・うぅ・・・!」

 

「どうした?もう少し足掻いても良いのだぞ?其れは其れで僅かな退屈凌ぎにはなる」

 

ネプギアは両手でテルミの左腕を掴み、どうにかその手を引き剝がそうとするも、全く動く様子を見せない。

この後すぐに利用するので殺す程の強さで締め上げはしないが、それでも他に意識が回らないくらいの強さは維持した。

 

「クソッ!あの野郎・・・!」

 

「其の魂胆は読めている」

 

ラグナは助けに行くために走るが、テルミが空いてる右手で碧い炎のようなものを、ラグナの移動する先へ撃つ。

その攻撃の意図を理解したラグナは飛びのく事で進むのを止める。また、テルミの攻撃はそのまま走っていたら直撃していたであろう起動を進んで地面を抉った。

 

「っ!それ以上は・・・!」

 

「行かせはせんッ!」

 

ネプテューヌも救援へ向かおうとするが、動き出すよりも早くマジェコンヌに進路を妨害され、救援に行けなくなってしまった。

彼女がダメなら自分たちがと、他の女神も救出を試みるもそれはレイの牽制攻撃によって妨げられてしまった。

これによって女神たちは二人へ意識を向ける事を余儀なくされた。

 

「・・・もう限界だな」

 

「ぅ・・・っ・・・」

 

テルミの締め上げを止めることが出来ず、ネプギアは意識が薄れ出していた。

もうすぐ意識を手放す事になるその状況で、ネプギアは自身が想いを寄せるラグナの姿を探し出して視界に納める。

見つけた事で安堵してしまったのか、変身は解けて平時の姿に戻ってしまい、意識が薄れるにつれて視界も狭くなってきていた。

 

「ラグナ・・・さん・・・わ・・・たし・・・っ・・・」

 

「・・・!ネプギアッ!」

 

もう会えない気がしたネプギアは何かを伝えようとしたが、その言葉は伝えきれずに気を失ってしまった。

焦ったラグナは大きな声で呼びかけるも、全く反応を示さなかった。

テルミもネプギアの抵抗が無くなって気を失った事を確認し、締め上げるのを止めた。

 

「ふむ。其れなりには耐えた方だろう」

 

「ね・・・ネプギア!返事をして!・・・くっ・・・!」

 

「まだ行かせる訳には行かんのでな・・・」

 

テルミは前回ノエルにやった時よりは耐えていたので、そこそこ愉しめていた。

ネプギアが意識を失った事で気が気では無くなったネプテューヌはすぐに飛んでいこうとするものの、マジェコンヌがそれを攻撃することで阻んだ。

マジェコンヌに攻撃されてしまったネプテューヌは、止む得ず攻撃を受け止める事を選んだので、ネプギアの方へ行くことが出来なくなってしまった。

 

「さて・・・この『生まれ変わり』を連れ、我は行くべき場所に行くとしよう・・・。追うのならば好きにするが良い」

 

「なっ・・・待てッ!」

 

ラグナの制止など知ってか知らずか、テルミはネプギアを連れたままどこかへ飛び去ってしまった。

それを見たマジェコンヌとレイは間に合ってくれた事に安堵し、女神たちは啞然とする。

 

「そんな・・・」

 

「クソ・・・!」

 

「「ネプギアァァァァッ!」」

 

そして、ネプテューヌとラグナは、テルミが飛んでいった虚空へ向けて絶叫を上げる。

それぞれ大切な妹と、自身が意中にしている人を連れていかれたからである。

また、これだけではなく、女神たちの心境にはネプギアが連れていかれたと言う悪影響が出ていた。

 

「まだ、ここからなら追いつける・・・!」

 

ネプテューヌは考えるよりも早くテルミの飛び去った方向へ飛んで追いかけようとしたが、その出花はレイが放ったビームによってくじかれてしまった。

 

「すみませんが、行かせる訳には行きません・・・。それに、この国は貴女の国です。他の女神が戦っていると言うのに、貴女が逃げ出したらどうなるか・・・分からない訳では無いでしょう?」

 

「・・・!」

 

レイの詫びながら告げられた事によって、ネプテューヌは苦虫を嚙み潰したような表情になる。

今ここで抜け出してしまったら、プラネテューヌで戦いが起きているのに、プラネテューヌの女神が不在という異常事態であり緊急事態である状況に陥る。

姉としては助けに行きたいネプテューヌだが、プラネテューヌの女神としては国を放っておく訳には行かないと言うジレンマに陥ってしまったのだ。

 

「けど、こんな所でへたり込んでる場合じゃねぇな・・・!」

 

僅かな間顔を地面に向けていたラグナだが、やるべきことは決まりきっていたので、すぐに立ち上がる。

奇しくも『エンブリオ』でノエル(サヤ)が連れていかれた時と同じなのである。それならば、ラグナがどうするかは決まりきっていた。

 

「ラグナよ、行くのか?」

 

「ああ。俺は何としてもテルミを止めて、ネプギアを絶対に助け出す」

 

ハクメンの問いには迷うことなく、間を置かずに答える。

迷う理由などどこにも無い。ただテルミの行く場所まで行き、ネプギアを取り戻すだけである。

 

「それなら私も手伝うわ。運が良ければ転移魔法で先回りできる・・・と言うより、向こうにモンスターがいるから転移魔法を使わないと先に行けないもの」

 

ナインも二人の傍まで合流しながらそちらを指し示す。

彼女の言う通り国の出入り口方面には大型のモンスターがかなり残っており、馬鹿正直に突破しようものなら時間が掛かり過ぎてしまう。

 

「そうだな・・・それと、トリニティも呼ぼう。『無兆鈴』の力があれば成功しやすくなる」

 

ラグナの提案は二人が頷くことですぐさま可決され、話がまとまったので移動を始めようとするのだが、その前に一つだけ確認することがあった。

 

「私は残るわ!だから・・・ネプギアの事をお願い!」

 

「・・・本当に大丈夫なんだな?」

 

ネプテューヌがラグナに聞かれるよりも早く答え、しかも任せるというのだから、ラグナは思わず聞き返してしまった。

 

「私が抜けてしまったらそれこそ本末転倒よ・・・。それに、あなたになら任せられるから・・・私は大丈夫なの」

 

最初こそどうしようもない思いをしていたネプテューヌだったが、ラグナが行くというなら大丈夫だと考えを纏めることができた。

そうであるなら、ラグナは迷う事など無かった。それに、そう言われてしまったのだから、もうその期待に応えるしかなかった。

 

「分かった・・・。絶対に連れて戻ってくるから、待ってろよ!」

 

「では、行くぞ・・・!」

 

ラグナが一言いえば女神たちが頷いたり、サムズアップしたりとそれぞれの形で返した。

それを確認したハクメンが促し、ラグナとハクメン、ナインの三人はこの場を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「まだ痛む所はあるかな?」

 

「ううん。もう大丈夫」

 

プラネテューヌにあったシェルターにて、セリカは医療班と協力して怪我人の治療を行っていた。

魔力の都合がある為、セリカはなるべく比較的軽傷の人を担当するように頼まれていた。

 

「それにしてもビックリしたよ・・・5pb.ちゃんがプラネテューヌに来ているなんて思わなかった」

 

「あ、あはは・・・今日はスペシャルゲストとして呼ばれてたから・・・」

 

5pb.は今回、プラネテューヌの感謝祭があるので、同時に新曲の発表をやってしまうのはどうだろうかと言う提案がネプテューヌからあり、それを了承したのだ。

何事も無く感謝祭の時間は過ぎていき、イベントの時間になったのでいざ発表・・・と思っていた矢先に同盟の襲撃があり、避難している最中に戦いの余波で怪我を負ってしまったのである。

そしてシェルターに避難した後、セリカが5pb.の治療を担当する事になったのである。

 

「残念だったね・・・今日がせっかくの発表日だったのに・・・」

 

「また次の機会があるから、今回は仕方ないよ・・・」

 

5pb.は仕事以外は極度の人見知りではあるが、セリカと話しても平気なのはナインの妹であることから来ている。

会ってすぐにナインとどこか似たようなものを感じていたのだが、訊いてみれば案の定だったのである。

少し話しをしているとドアを開く音が聞こえたので、そちらを振り向いてみれば一人の少女と一緒にニュー、そしてその二人に一歩遅れてトリニティがやってきていた。

 

「どう?お母さんはいる?」

 

「えーっと・・・」

 

ニューに問われて少女が辺りをきょろきょろと見渡す。

少しの間見渡していると、少女たちの方へ少しずつ近づいている女性が一人いるのがわかり、その女性を見た少女と、少女を見た女性が目を見開いた。

 

「良かったね」

 

「うん!お姉ちゃんたちありがとう!」

 

「・・・!」

 

少女と目を合わせた女性は彼女の母親であった。どうやら自分だけ先にシェルターに辿り着いてしまい、自身の子供の安否が不安でならなかったようだ。

そして、自身の母親を見つけた少女はニューに礼を言ってから、繋いでいた手を離し、そちらへ走っていく。

お姉ちゃんと言う呼ばれ方に一瞬驚くニューではあったが、彼女からすれば自分の方が少し大きいので、そう呼ばれてもおかしくは無いかと納得した。

 

「・・・はぁ。よかったぁ・・・」

 

「お疲れ様です。今はゆっくり、休んでいて下さいね?」

 

「うん・・・お疲れ様」

 

残りは女神たちが戦っている場所なのだが、戦闘力の無いニューがあそこへ行くのは余りにも危険なのことと、既にノワールから言伝えられていた時間を超えてしまっていたので、救出活動はこれで終了となった。

少女を母親の場所まで送り届けられた安心感からか、ここに来るまでの疲労感が押し寄せてきて、ニューはその場にへたり込んだ。

トリニティに労いの言葉をかけてもらったニューは、そのまま体を休めながら今回の事が無事に終わる事を祈るだけだった。

 

「(それにしても、お姉ちゃんか・・・。実際に言われるとちょっとくすぐったいなぁ・・・)」

 

互いに無事であることと、再会できたことを喜び合う母娘の姿をみたニューはそんな思いを抱きながら、一つだけ分かったことがあった。

それは、例え戦う力が無くとも、それ以外のやり方で人を助けることは可能だと言うことだった。

一方でトリニティは、セリカがこちらのシェルターで怪我人の治療をしていることを聞いていたので、確認すべく彼女の元に足を運んだ。

 

「セリカさん。魔力の方は大丈夫ですか?」

 

「あっ、トリニティさん。まだ大丈夫だけど・・・何かあったの?」

 

大丈夫だと言うことが分かったので、後は要件を伝えるだけになった。

 

「実は、セリカさんの中にある力が必要になるかもしれませんので、心の準備だけはしておいて欲しいんです・・・」

 

「・・・・・・分かった。トリニティさんはまだ行くんだよね?」

 

「はい。まだ、やるべきことがありますから・・・」

 

トリニティの伝言を受けたセリカは確かに頷いた。

この時セリカが問い返してきたのでトリニティは肯定したが、セリカが特に反論することは無かった。

 

「それなら気をつけてね。トリニティさん・・・」

 

「ええ。セリカさんも無理はしないで下さいね・・・」

 

互いに一言だけ言い残し、トリニティはシェルターの外に出た。

外に出ればラグナたちが待っていたので、後はこの三人と共にテルミの行った場所へ向かうだけであった。

 

「準備は良いわね?」

 

「はい。では、私は『鳴神』に・・・」

 

「承知した。確実に成功させるぞ」

 

トリニティは『無兆鈴』の力を使って、ハクメンの持つ『斬魔・鳴神』の中に入る。

彼女の存在がテルミにバレていないことから、最後までその姿を隠す為の隠れ蓑として使わせて貰うのである。

 

「よし・・・。頼むぜ、ナイン」

 

「ええ。必ずテルミを止めてネプギアを助け出すわよ」

 

ナインが準備を終えた転移魔法を使い、ラグナたちはテルミの向かった場所へ飛んでいった。

ネプギアを伴って向かう場所がどこかと言われたら、この四人は既に分りきっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「さぁて・・・やってみるか」

 

テルミが向かった先は洞窟最奥部であり、今回『ムラクモユニット』たちはネプギアに危害を加えられない事から、一切攻撃ができなかった。

その為、テルミは誰にも阻まれる事無く扉の前に辿り着き、扉に手を触れてみる。

 

「・・・おお!案の定当たりだったなァ・・・」

 

ネプギアを伴って触れてみた事によって扉は開かれたので、テルミは中に入ってみる。

するとそこには、自身の探し求めていた『蒼の門』があった。

 

「あ、『蒼の門』だァ!?ヒャハッ!ヒャァハハハッ!オイオイマジかよ!この世界にもあるとか最高じゃねぇかッ!」

 

テルミは驚き、盛大に笑う。今自分の手元にはネプギアという『蒼』を所有する者がいるので、後は彼女から奪えばそれで万事解決であった。

勿論、自由な世界へ行く前にラグナを倒すと言う目的が残っているので、それだけは忘れはしないが、それでも先にやっておくべき事があった。

 

「さて、じゃあコイツから『蒼』を・・・」

 

「残念だけどそこまでよ」

 

「・・・あぁ?」

 

テルミが早速行動に出ようとしたのも束の間、人の声が聞こえたのでそちらを振り返ってみれば、ナインとハクメン、そしてラグナの三人がこちらまで追ってきていた。

 

「その子を返して貰うわよ。帰りを待っている人がいるからね・・・」

 

「テルミよ・・・我らの因縁をここで終わらせる時だ」

 

「俺とのケリは付けなくて良いのか?テメェはこっち来てからそれを望んでただろ?」

 

「あ~・・・そうだった。ナインちゃんの転移魔法か・・・それがあればこんなにも早く追って来れるよな」

 

三者三様に言われた所で、テルミは何故ここまで早く追って来れたかを理解する。

これでラグナがいないなら、乗らずにそのまま目的ここでの用事を済ませるところだったが、今回はそれに乗ることにした。

 

「・・・良いぜ。そうまで言うならお望み通り戦ってやるよ・・・憑鎧・・・!」

 

決めるが早いか、テルミはレリウス製の『スサノオユニット』を纏う。

それによって、あの感謝祭にいた市民たちを恐れさせた姿になった。

 

「またあの時と似たような感じになったな・・・」

 

ラグナは『エンブリオ』で似たような状況に陥ったことを思い出す。

その時はジンと彼を支えているトリニティと共にであったが、今回はハクメンと彼の奥に隠れているトリニティ、そしてナインと共に行くのが違いである。

また、助け出す相手がノエル(サヤ)からネプギアに変わっているものの、大方やることは変わらない。

 

「だが、今回は私たちがいる。御前から気をそらすのであれば、以前よりも楽であろう」

 

「こっちが引き付けるから、タイミングはしくじらないでよ?」

 

「ああ。お前らのこと、頼りにさせてもらうからな!」

 

自分たちがどう動くかを決めたので、ラグナは右腕を肩の高さまで持っていく。

 

「第666拘束機関開放・・・次元虚数方陣展開!『蒼炎の書(ブレイブルー)』・・・起動!」

 

「準備はできたのだな?では、宴を始めよう」

 

ラグナが『蒼炎の書』の起動を完了させ、彼とハクメンが武器を手にとって構えたのを見たテルミが、淡々と宣言したことで戦いは再び幕を開けた。




どうもCFに近い展開を辿っていますね・・・(汗)。

細かな変更点としては、5pb.は救援に来る女神たちに連れて来てもらうのではなく、もうプラネテューヌにいたけど、怪我を負ったのでセリカに治療を受けいると言う点ですね。

次回は門の前での戦いになると思います。


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63話 Fatal Judge

サブタイはCFのストーリーモードにおいて、ラグナとテルミの最後の戦いで流れたBGMそのままになります。


「ズェアッ!」

 

「ゼェイアッ!」

 

ハクメンの振り下ろした『斬魔・鳴神』と、テルミの外からの内へと振り上げた右足がぶつかり合う。

相手の振るっている武器が事象兵器であろうと、『スサノオユニット』を纏って身体能力が上がっているテルミはその攻撃を見事に受け止めて見せられるのだ。

暫く押し合いになるものの、これ以上長々とやっていても無意味だと判断したハクメンが自ら距離を取る事で、それを中段する。

 

「どうした?此の場であるならば、自由に技を振るっても構わんのだぞ?それとも何か?貴様には今、『斬魔・鳴神(其の剣)』を満足に触れぬ理由でもあるのか?」

 

「・・・・・・」

 

確かにテルミの言う通り、この場所であれば周囲の被害を気にせず攻撃をすることは可能である。

―さて、どうしたものか・・・。ハクメンは口には出さないで迷う。今現在、『鳴神』の中にはトリニティがいる為、彼女のことを案じると無理に振るうわけにも行かないと言う無意識な気遣いがあった。

 

《私は大丈夫です。どうか気にしないでください・・・》

 

「(・・・承知した)」

 

その悩みは自分にだけ聞こえるように告げてくれたトリニティのお陰で解決する。

よってハクメンは、彼女だけ聞こえるように返事をして構え直した。

これらの短い会話は術式による通信で行っており、テルミにはその状態は看破されずに済んだ。

 

「ならば、此れで行くとしよう・・・」

 

「来るか・・・ならば!」

 

ハクメンは『鳴神』を頭上に掲げ、テルミは碧い炎のようなもので剣を作り上げ、腰を落として右側に構える。

 

「虚空陣・・・疾風ッ!」

 

「解キ放ツ・・・魔葬ノ凶刃ッ!」

 

ハクメンが『鳴神』を上から真っ直ぐに振り下ろすのと同時に、テルミは剣を右から左へ振り抜く。

それらはぶつかり合い、『鳴神』に集まっていた蒼い風と、振り抜いた剣から出てくる火の粉が周囲に飛び散っていった。

 

「・・・!此のような結果になるのはラグナと戦った時以来か・・・?」

 

「・・・・・・」

 

ハクメンはぶつかり合った結果を見て少し前の己を再確認するが、テルミは何やら固まったような雰囲気を醸し出していた。

 

「(・・・何故だ?『スサノオユニット(此の力)』を持ってしても此れとは、些か力が不足しているな・・・)」

 

その理由は今回のぶつかり合った結果にある。

実のところを言うと、テルミは『門』の前に来てから微妙に力が落ち始めているのを感じていた。

最初にハクメンの攻撃を受け止めた時もそうで、先程より重みを感じた事で違和感を感じ、今回の大技同士のぶつけ合いでそれは確信に変わった。

―僅かにではあるが、着々と力が落ちている・・・。それがテルミの見解だった。

 

「(・・・何が原因だ?此の『門』の前にいるだけならば、その様な事にはならない筈だが・・・)」

 

テルミは自身で思いつく疑問を上げてみるが、どれも合っている気がしないでいた。

本当はもう少し考えていたい所だったが、それは飛んできた火球によって遮られた。

仕方なくそれを飛びのいて避けて辺りを確認すれば、ハクメンは既に安全圏に離れているので、自身が思慮に囚われていたことを嫌でも自覚させられてしまう。

 

「ボーっとしている暇は与えないわよ?アンタにはあの世界の分も返してやるんだから・・・!」

 

「チィ・・・!此の場では貴様が最も厄介だな・・・!」

 

被害を気にする必要がないなら、攻撃の自由度が跳ね上がるナインは非常に厄介な相手に早変わりする。

ナインとしても、ラグナから気を逸らせるので自分が狙われる分には無問題だった。

何しろ自身の強力な魔法を余すことなく使い、テルミに防御や回避を強要すれば、それだけテルミはこちらに意識を向けざるを得ないのである。

 

「これなら、いくらアンタでも避けたくなるでしょう!?選ばれし煉朱の(カーディナル)・・・」

 

ナインは一瞬でテルミの眼前にまで移動し、両者の間に巨大な火球を生成する。

いくら『スサノオユニット』を纏ったテルミだとはいえど、これだけ近い距離で強力な魔法を使われれば堪ったものではないと踏んでの行動だった。

 

新星輪廻(ノヴァ)ッ!」

 

「ッ・・・!」

 

そして、ナインはその火球を何の躊躇いもなく爆発させた。当然本人はその瞬間だけ防御魔法で安全を確保している為、何の問題も無い。

対するテルミは流石に避けるしかなく、爆発を起こされるよりも早く距離を取って退避した。

 

「外したか・・・でも、私だけで終わりじゃない・・・」

 

「ならば、私が仕掛ければ良い話だッ!」

 

「己・・・!」

 

ナイン自身はテルミの注意をラグナから逸らせるようにすれば良いだけなので、ダメージを与えたかどうかはそこまで気にしなくて良かった。

他にも、自分だけではダメだとしてもハクメンに手伝ってもらえるようにすれば良いので、少しは気が楽になるのだ。

この連携はテルミからすると厄介この上なく、間違い無く何かしてくるラグナを警戒したくてもできないのである。

 

鵺柳(やなぎ)ッ!」

 

「断チ斬ル閃刃ッ!」

 

テルミは突っ込んでくるハクメンに向けて、碧い炎のようなもので作り上げた剣を振るって迎撃するが、蒼い方陣を展開しながら突き進んでくるハクメンは一瞬だけ動きが止まるものの、大したことはないとテルミに肉薄し、左腕で首根っこを掴んで見せる。

 

「・・・何ッ!?」

 

「受けて見よッ!」

 

テルミが想定外の事態に驚いている隙を逃さず、ハクメンはテルミを地面へ向けて叩きつけて見せる。

 

「ぐぅ・・・!?」

 

「まだ終わらぬ・・・!」

 

『スサノオユニット』の影響で地面を跳ねることが無かったものの、それでもダメージは大きめだったので、テルミが気づいた頃にはハクメンの足の裏が見えていた。

それに気づいたテルミが転がりながら避けるのと、ハクメンがその足を振り下ろすのは同時だった。

ハクメンが踏み抜いた位置はひびが入っており、それを見たテルミは己の違和感が分からずイラつき始めた。

 

「何故だ・・・!何故こうなる・・・!?」

 

「余所見している暇はないわよ?見てみなさい・・・」

 

苛立ちを露にするテルミは、遮るようにナインに告げられて自身の身の回りを確認してみる。

すると自身の躰に張り付くように時計の針のようなものがゆっくりと回っており、回転が進むたびに青、緑、赤、紫と小さな紋章を出していた。

 

「!?しまった・・・ッ!」

 

「これでも喰らいなさい!終焉のネフライトッ!」

 

テルミが気づく頃にはその針が丁度一周しており、針が回り終えた直後、テルミの足元からそれぞれの色をした炎が姿を表してテルミを囲う。

それらの炎が逃げ場を無くすように囲ったのと同時に、テルミへ向けて上空へ昇るように炎が殺到していく。

この大魔法を国内で使おうものなら周囲の引火等で恐ろしい二次災害を出してしまっていたが、ここでは特に気にすべきものはせいぜい『門』と仲間の安否であり、ラグナとハクメンは安全圏に離れ、『門』も範囲外にあった為初めて実行できたのである。

 

「・・・グッ!うおぉぉぉ・・・!」

 

テルミは両腕を胸辺りで交差させ、防御方陣を全面に展開することでその業火を防ぐが、それでも防御方陣越しに伝わる衝撃は殺しきれず、自身もその反動でダメージを受けてしまった。

これがもし『スサノオユニット』無しの生身で受けていたのなら、今頃良くてもまともに動けぬ体であっただろうから、これだけでも十分すぎる成果ではあった。

 

「ぬぅ・・・!此れ程までに喰らうとはな・・・」

 

「良く言うわよ・・・コレだけやっているのに、全然動けるなんてね・・・」

 

テルミは『スサノオユニット』を纏っていながらもダメージが大きいことに歯嚙みし、ナインはネフライトを当ててもなお動けるテルミに呆れ混じりに返す。

互いに想定外な事態が起きている故に起きたことだった。ナインはレリウスが制作した『スサノオユニット』の再現度に驚き、テルミはこのダメージから危機感を覚え始めていた。

 

「(トリニティよ。準備の程は?)」

 

《大丈夫です。いつでもいけます》

 

「(承知した)」

 

ハクメンはトリニティに確認を取り、大丈夫と分かったので『鳴神』は構える程度に留めた。

 

「ナインよ。頃合いだ」

 

「!なるほど。それじゃあ・・・。ラグナ!しっかりと決めなさいよッ!」

 

「おうッ!『イデア機関』接続・・・反転!」

 

ハクメンからナインへ伝え、それを聞いたナインがラグナへ念押しする。

そして、この時を待っていたと言わんばかりにラグナは『イデア機関』を接続し、テルミへ向かって走り出した。

走り出したラグナの右手は、血のような色をしたエネミーで形成したものになっており、それは黒い炎のようなもので覆われていた。

 

「ッ!来ると分かっていれば・・・!・・・?」

 

「行かせはしないわ・・・。向こうで戦ってるみんなの為にも、これ以上アンタの好きにはさせない・・・!」

 

「己・・・!ならば、此の場で食い止めてやるだけの事ッ!」

 

向かってくるラグナの方に体を向け直したテルミが先に潰してやろうとしたものの、ナインが氷の魔法でテルミの下半身を氷漬けにして見せた。

これによって距離を取ることのできないテルミは、その場で迎撃しか選択肢が残されていなかった。

 

「うおぉぉぉおおおおッ!」

 

十分に距離を詰めたと踏んだラグナが、そこから地面を強く蹴り、ジャンプする形でテルミに近づく。

―また、あの時と同じか。愚かなことだと思いながら、テルミは右手でラグナが握りしめている左手を掴もうとしたが、その腕が動かせなかった。

 

「・・・何?・・・がッ!?」

 

「おぉぉぉおおおッ!」

 

何故止められたのかを考える間もなく、テルミはラグナの手によって『スサノオユニット』から引きはがされる。

どうしてこうなったかが分からないテルミは、ラグナに顔を掴まれたまま周囲の把握に努めると、ラグナの背後には『斬魔・鳴神』では無く『刻殺しの刀(ヒヒイロカネ)』を片手に携えるハクメンと、その隣にはトリニティ=グラスフィールがいた。

 

「なっ・・・クソメガネだと・・・!?テメェいつからこっちに来てたんだッ!?」

 

「ここへ来たのはつい最近です。もう二度と、会わないだろうと思っていましたが・・・」

 

焦るテルミと複雑な表情を見せるトリニティ。まさかまた会うとは思っていなかったという考えは二人して共通していた。

しかしながら、短い再会も束の間。次に発するラグナの一声で、ハクメンが動き出した。

 

「迷うことはねぇ・・・!やれェェェッ!」

 

「承知した。奴の手から、あの少女を連れ戻して見せよ。それと、我らの望みも御前に託すぞ・・・」

 

ラグナの一声を承諾したハクメンは、『刻殺しの刀』を持ったまま腰を落とし、右側にそれを引いた。

ハクメンやナインが今持つ望みは、テルミにもう一度終止符を打つことだった。ラグナを筆頭に、今戦っている人たち全員が望んでいることとすれば、それはネプギアを取り戻すと言うことに変わる。

 

「・・・『蒼の男』よッ!」

 

ラグナの事をそう呼びながら、ハクメンは『刻殺しの刀』を使って二人を纏めて切り裂いた。

その影響でテルミを中心に碧い光が膨らみだし、すぐそばにいたラグナを巻き込んで専用の空間を作り上げる。

 

―ラグナさん。信じていますからね?

 

「(ああ。任せろ!)」

 

その光に体が包まれていく最中、ネプギアに念押しされたような気がしたラグナは、心の中で力強く応えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「オイオイ・・・まさかこの俺様が、二回も同じ手段でやられるとは思っても無かったぜ・・・」

 

「それは俺もだよ。二回もこんなことするなんて考えられるかよ・・・」

 

テルミは呆れ半分に、ラグナは苦笑交じりに吐き捨てた。

元々はもう二度と対面することが無いだろうと思われていたのだが、別の世界に来てこうしてまた対面し、今は再びこの空間にいる。

ここまで来ると『あの日』以来、自分たちは何かの因果で結ばれているのではないかと思えてしまう。

 

「また・・・ここに来たんだな。『蒼の境界線』に・・・」

 

ゆっくりと目を開けてみれば、ラグナは蒼い空間の中にいて、ある程度以上離れた先は暗闇で覆われている。

これもテルミと雌雄を決した時の場所・・・『蒼の境界線』そのものだった。

 

「その通りだ。んで、今回も『門』を開いたのはテメェだぜ?」

 

「また俺かよ・・・」

 

テルミに告げられたラグナはげんなりとした。つまるところ、また『頑張り過ぎた』のである。

 

「んで、お前も選ばれた訳だが・・・今回は少しばかり条件が違うのか?」

 

「ああそうだ。本来は生き残ったどちらかが『蒼炎の書(ブレイブルー)』を手に入れるが、今回はラグナちゃんが既に持ってる・・・だから今回は、ラグナちゃんの『蒼炎の書』を賭けた戦いになる」

 

―当然、防衛側であるラグナちゃんは『蒼炎の書』を使用可能だ。とテルミは付け加えた。

その辺りはまあそうだろうなとラグナは思っていたので、あまり気に留めるようなことでは無かった。

 

「思えば・・・あの時もそうだったな。また俺は、託されたんだな・・・」

 

「・・・ああ。そういや、前にもそんなこと言ってたな・・・今回はアイツか?本当に好かれてるねぇお前・・・」

 

好かれているという表現は強ち間違いでもないが、今回は少々ずれている。ラグナはそう感じていた。

では心の内でテルミの表現を否定したラグナはどう考えているのかというと、信じてもらえていると言う考えだった。

 

「(まあ、今ならそれも悪くねえかな・・・)」

 

依然と比べて心持ちが非常に楽になっていたラグナは、思わず笑みをこぼした。

 

「・・・あ?どうしたよ?」

 

「いや、なんでもねぇ」

 

それを見たテルミが気でも狂ったかと感じて問いかけるも、答えるラグナの様子からして、それはないと断ずることができた。

 

「さてと・・・早いところ始めて終わらせようぜ。俺も向こうへ帰らなきゃいけねぇからな」

 

「そうだな。『スサノオユニット』はもう使えねぇが関係ない。ここでやることなんざもう決まってる・・・」

 

ラグナの促しにテルミも同意の意を示す。どちらにも自分を待っている人はいるのだこれ以上は時間をかけられないのが本音であった。

 

「あの時と同じだ・・・俺は、お前という存在を消し去る事で、お前に救いを与える可能性だ」

 

「・・・テメェなら言うと思ったぜ。そりゃそうだ・・・何しろ消し去ったはずの俺様がここにいるんだからな・・・」

 

ラグナの言い分は、テルミからすれば完全に予想通りであった。

何しろ『エンブリオ』でその可能性を実現して見せたと言うのに、このゲイムギョウ界で無に帰ったようなものであった。

 

「んで、俺も同じだ・・・俺はテメェを倒し、『蒼炎の書(ブレイブルー)』を手に入れる可能性だ・・・」

 

「だろうな・・・。テメェにとっちゃ、これが最後のチャンスでもあるからな・・・」

 

テルミの言い分もまた、ラグナからすれば予想通りであった。

事実、また別の世界で復活等が望めなかった場合、テルミは本当に後がないのである。

そして、これ以上は言葉を交えるよりも戦った方が早い。そう考えたラグナとテルミは、互いに『魔導書』の起動プロセスに入る。

 

「「第666拘束機関開放・・・次元干渉虚数方陣展開!」」

 

「コードS・O・L!」

 

「『蒼炎の書(ブレイブルー)』・・・起動!」

 

「『碧の魔導書(ブレイブルー)』・・・起動!」

 

それぞれの『魔導書』の起動を終えて、武器を手に取った二人は一斉に動き出す。

互いに距離を詰めてから、ラグナは剣に黒い炎のようなものを纏わせ上から下に振り下ろし、テルミは碧い炎のようなものを右足に纏わせながら蹴りを放つ。

それらがぶつかり合っても距離を取ることは無く、ラグナは黒い炎のようなものを纏わせた剣を両手で持ち直して下から上に振り上げ、テルミは右手から碧い炎のようなものを蛇の頭の形を作って飛ばし、それらがぶつかり合う。

ぶつかった結果、テルミが放った碧い炎のようなものが消滅するのを確認する間も無く、ラグナは剣を左手で持ったまま右手に黒い炎のようなものを纏わせて軽くジャンプし、上からテルミに殴りかかる。対するテルミは右手のバタフライナイフを左からの右へ振るう事でそれにぶつける。

その後着地したラグナはもう一度右手に黒い炎のようなものを纏わせて拳を振り抜き、テルミは頭に碧い炎のようなものを纏わせ、それで上から下に振り下ろすように頭突きをする。

 

「ヒャハハハ・・・!ラグナちゃ~ん、おっ楽しみの時間だぜェ~?」

 

「テメェの好きにはさせねぇ・・・ネプギアを返して貰うぞッ!」

 

テルミはバタフライナイフをしまい、ポケットに手を突っ込みながらニヤリとした表情を見せるのに対し、ラグナは剣を右手に逆手持ちの状態にして構え直しながら、少々怒気の籠った声で言う。

テルミからすればラグナを倒せる最後のチャンスなのだから、当然楽しむ理由にはなるが、ネプギアを取り戻す事を第一に考えているラグナはそんな場合ではないのである。

そして、ラグナが吐き捨てると同時に動き出したので、テルミもまた動き出した。

 

「うぉりゃあッ!」

 

「オラァッ!」

 

距離が近くなると同時に、互いにジャンプをして更に距離を詰めようとした為、互いが空中にいる状態で最初の攻撃を行う事になった。

この時、ラグナが選んだのは剣に黒い炎のようなものを纏わせながらの振り上げ、テルミが選んだのは二つのバタフライナイフに碧い炎のようなものを纏わせて、内から外への振り下ろしだった。

それらが激突して火花を散らすも、両者は自身の飛び込んだ勢いが殆ど残ったまますれ違い、相手がジャンプしだした時と同じ位置に背を向けたまま着地した。

 

「おおッ!」

 

「ヒャハハッ!」

 

そこから同時に相手の方へ向き直り、再び走って距離を詰める。

剣が届く間合いに入った瞬間に合わさるように、走ってくるテルミに向けてラグナが剣で下段の突きを入れるが、テルミは小さく体を浮かせながら左足を振り上げて避ける。

ならばとラグナはそのままの位置から刃をテルミの方に向けながら剣を振り上げ、テルミは靴の踵辺りからナイフを見せた状態で左足を振り下ろした。

それらがぶつかる事で再び火花を散らすが、自分たちにあまり時間が無いと考えているラグナたちは止まらない。

 

「ヘルズファングッ!」

 

「喰らうかよッ!」

 

ラグナが空いてる左手に黒い炎のようなものを纏わせて突き出してきたので、テルミは右足に碧い炎のようなものを纏わせた蹴りを放って防ぐ。

ここまで戦況が膠着状態にあった両者だが、次の攻撃で動き出すことになる。

 

残影牙(ざんえいが)ッ!」

 

「コイツを喰らえッ!」

 

テルミが右手に持ったバタフライナイフに碧い炎のようなものを纏わせながら足元を狙って振るう。

それに対するラグナは、剣を通常の持ち方に変えながら体を右に一回転させ、そのまま黒い炎のようなものを纏わせた剣で左から水平に振るう。

 

「ッ!?何・・・!?」

 

「次はコイツだッ!」

 

先に動きが崩れたのはテルミだった、ぶつかり合ったのは良いものの、ラグナの放った攻撃がテルミの攻撃相手に威力で押し切ったのである。

テルミの体制が崩れるのを見たラグナは、剣を再び逆手持ちに変えながら黒い炎のようなものを纏わせ、それを上から下に振り下ろした。

 

「ええい、クソッ!」

 

テルミは体制が崩れたのを利用したまま後ろに下がる事で、攻撃の範囲外に逃れる形を取って避ける。

押された勢いで倒れるかと思えば、そこは流石に手馴れているテルミは術式制御で体制を立て直して見せた。

しかしながら、流石に立て直しながらラグナの姿をとらえ続けるのは難しかったようで、上に気配を感じたテルミが反射的にそちらを見たことでようやくラグナの姿を捉えることができた。

 

「ナイトメアエッジッ!」

 

「ッ!」

 

攻勢を維持できているラグナはもう一度剣に黒い炎のようなものを纏わせ、それを振り下ろしながらテルミへ向けて急降下した。

対するテルミは飛びのいて避けるが、ただやられっぱなしと言うわけでもなく、突破口を見たテルミは敢えて距離を詰める。

 

「まだあるぞッ!」

 

「んなこたぁ知ってんだよッ!蛇翼崩天刃(じゃよくほうてんじん)ッ!」

 

ラグナが逆手に持ち替えながら剣を振り下ろすのに合わせてテルミは体を捻る事で避け、そのまま碧い炎のようなものを纏わせた右足でラグナを蹴りつける。

 

「うおぉぉぉ・・・ッ!?」

 

それによって上に吹き飛ばされるラグナを見たテルミは、追撃する為に自身もジャンプしてラグナを追う。

 

「これも喰らいなァッ!」

 

「ッ!させるかッ!」

 

ラグナに追いついたテルミが術式を使って、空中で前に一回転しながら右足で踵落としを放つ。

しかし、飛ばされている自分に追い付いてきたテルミを見たラグナは即座に術式を使って姿勢制御をし、剣の腹をぶつけることによってそれを防ぐ。

流石に勢いまでは殺せなかったので、ラグナはそれに逆らうことはせず、大人しく地面に落ちながら体制を立て直した。

テルミは下に降りながら『ウロボロス』を一つ伸ばして追撃を行うが、ラグナが冷静に剣を横に振るう事で打ち払ったので、それは失敗に終わる。

こうなると攻撃を続けても返り討ちで痛い目を見るだけだと判断したテルミは、無理せずに自分も地上に降りることを選んだ。

 

「やるじゃねぇか・・・。テメェが『蒼の魔導書(右腕)』を手にした頃からは信じられねえくらいの進歩だな・・・」

 

「俺もあの時から色々と学んだからな・・・」

 

テルミはラグナの強くなった姿に称賛をしながら、心の中では舌を巻く。

最初は自分の作った模造品だからどうにでもなると思っていたら、様々な対抗策が出来上がって其れで対処され、最後は『エンブリオ』で一度消し去られた。

その後は何の因果かこのゲイムギョウ界で再び行動することができたのだが、今はこうして再びこの『蒼の境界線』で自身が消し去られる可能性が出ていた。

 

「・・・多分、次の攻防で終わりだな」

 

「ああ。もう時間は残されてねぇな・・・」

 

互いに、次の交差が全てを決めると確信して、それぞれ武器を構え直し、暫くの間沈黙が支配した。

 

「「・・・・・・行くぞッ!」」

 

そして、二人は決着を付けるべく同時に地面を強く蹴った。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ん?テルミの反応が消えたっちゅよ?」

 

ハクメンが『刻殺しの刀』でテルミを斬った直後まで時間は遡る。

浮遊大陸の中でモニターと睨めっこをしていたワレチューが、テルミの反応がロストしたことに気が付いた。

 

「これは何かあったみたいっちゅね・・・」

 

すぐに連絡するべきなのだが、ここで一度ワレチューは状況を整理する。

マジェコンヌとレイは女神七人相手に二人だけで戦っている状態なので、今連絡するわけには行かないだろうことは簡単に予想できた。

また、テルミに何かあったと言う連絡はこちらの士気にも関わってくるので、こう言ったことへの変動が少ない人と考えると、それはレリウスしか思い当たらなかった。

そう整理を終えたワレチューが通信をすると、レリウスはすぐに出てくれた。

 

『私だが、どうした?』

 

「レリウス・・・今さっきテルミの反応が消えたっちゅよ・・・」

 

『・・・テルミの反応が?だが、その連絡を私だけにしたのは正解だったな。一先ず、万が一の状況になった時に備えて置いて欲しい。あの二人には、かなりの悪影響が出るだろうからな・・・』

 

「了解っちゅ。そっちも、無理しないようにっちゅよ?」

 

『了解した。では、また会おう』

 

戦闘音が近くで鳴り続いていたことから、レリウスは防戦に徹しながら答えてくれたのだろう。

その為、これ以上は悪いと感じたワレチューは短く要件を伝えて、すぐに通信を切ってレリウスには目の前を集中してもらうことにした。

 

「(・・・お前がいなくなると寂しくなるっちゅから、帰って来てくれっちゅよ?)」

 

心の中で祈るワレチューは、不安が拭えなかった。




相殺演出をしたり、展開だったりとCFと殆ど似たような形になってしまいました・・・(汗)。
次回はラグナとテルミの戦いに決着が付き、戦況も終盤に差し掛かることになります。


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64話 蒼の次元渡航者(ディメンショントリガー)

タイトル回収回兼、ラグナとテルミの決着回になります。


ラグナとテルミは『蒼の境界線』で最後の攻防を行っていた。

 

「ッ・・・おぉ・・・!」

 

「ハッ・・・オラ・・・!」

 

至近距離戦になって、テルミがバタフライナイフと靴に仕込まれているナイフを用いた蹴りで攻め込み、ラグナが剣を右に左に、上に下にと連続で剣を振るい、時に剣の腹を使って押し返す形で迎撃していく。

暫くの間攻防が続いてから、互いに大きく振りかぶった一撃をぶつけ合った。

その時の腕に来た衝撃が大きかったので、無理に押し合いをしようとはせず、互いに飛びのくように距離を取ることを選んだ。

しかし、距離を取っただけですぐに終わることは無かった。

 

「・・・オラッ!」

 

テルミは距離を話しながらも左手に出現させた『ウロボロス』をラグナの元へと伸ばしたのである。

それによって、もう一度距離を詰めようとしていたラグナは足を止め、剣を斜めに構えて防ぐことを選んだ。

 

「ぐッ・・・!うおぉ・・・!」

 

「ハァッ!」

 

自身に直撃することは免れるたものの、勢いを殺しきれなかったせいで少々押され始めていた。

呻き声を上げながら踏ん張っているラグナに対し、テルミはダメ出しと言わんばかり右手からもう片方の『ウロボロス』出現させて伸ばしていった。

 

「だァァッ!がぁッ!」

 

ただでさえ押し返すのが難しい状況になった上に、もう一つの『ウロボロス』による追加攻撃を剣に貰ったラグナは、握っていたその手を離してしまい、剣は宙を舞った。

 

「(・・・ヒヒッ、ようやくこの時が来やがったな・・・!)」

 

その様子を見て、勝ちを確信したテルミは両手を頭上の近くに掲げる。

 

「今度こそ・・・俺様の勝ちだァッ!」

 

「まだだ・・・!まだ終わっちゃいねぇッ!」

 

テルミは二つの『ウロボロス』に碧い炎のようなものを纏わせ、それを少しづつ大きくさせていく。

剣が飛んでいった方は前・・・すなわちテルミがいる方になる。しかし、そんなこと気にせずラグナは剣を回収するべく走り出した。

ラグナの攻撃手段は剣が無いとそれなり以上に減ってしまう。そして、剣を取る為にはテルミの攻撃の間合い入らなければならない。

無論、その危険を承知の上で剣を取りに行くことに勝機があるからこそ、ラグナは剣を走るのである。

そして、地面に突き刺さっていた剣を取ったラグナは即時に剣を鎌に変形させる。

 

「(あの時は一人世界の悲劇を繰り返さない・・・あの世界から『立ち去る』為に戦っていたが・・・今は違う!)」

 

「(何だァ・・・?あの野郎何を考えてんだ?)」

 

ラグナは『エンブリオ』でテルミと戦った時と、今の戦いで似たような行動を起こしたので、思わず振り返ってしまった。

しかし、それを見たテルミは何かがおかしいと感じ、一瞬とは言え動きが止まった。

 

 

 

 

 

そしてこの一瞬の停止が、テルミの明暗を分ける形となってしまうのであった―。

 

「俺はあいつらのいる場所へ・・・ネプギアと一緒に・・・!『自分の居場所へ帰る』んだッ!」

 

その叫びと共に、ラグナはこれまでにない勢いで剣の付け根部から血のような色をした鎌状のエネルギーを発生させた。

更に、ラグナがエネルギーを発生させた時と同時に、テルミは『エンブリオ』の時と同じように錯覚を起こすことになる。

 

「ハ・・・!?」

 

前回はまるで巨大な鎌を持ち、悪魔のような翼が片翼だけ残っていた、『人の姿をした獣』が貴様はここで死ぬと言わんばかり凶悪な笑みを見せていたような錯覚だったが、今回は違う。

今回は鎌を持っていること自体は変わらないが、悪魔のような翼は無く、彼の背後には金色の髪をした少女・・・サヤが両手を胸の辺りで交差させ目を閉じて、ラグナの帰りを祈っているようなものが見えた。

彼女が目を開けていくと同時に、その姿はネプギアのものに変わり、まるでラグナが帰ってくることを確信しているような表情を見せながらゆっくりと消えいくものがテルミには見えた。

また、この時『ウロボロス』に碧い炎のようなものを大きくするのが遅れてしまい、テルミが先に仕掛けて勝つと言うプランが潰えてしまったのである。

 

「(じょ、冗談じゃねぇ・・・!ここまで来てまたやられるかよッ!)」

 

まるで勝利の女神がラグナに肩入れしましたと言いたげな光景を見て、テルミは内心酷く焦り、額から大粒の汗が数滴落ちた。

 

「テルミィィィッ!」

 

「『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』ィッ!」

 

互いに相手の名を呼びながら、己の全力をぶつけ合う。

ラグナが鎌になった剣を振るうのと同時にテルミも『ウロボロス』の片方を飛ばして激突させる。

そして、何度かの激突が続き―。

 

 

 

 

 

剣を元に戻したラグナの突きがテルミの腹に深く突き刺さった。

 

「ぐおぉぉ・・・ッ!?ガハッ・・・!あぁ・・・ッ!?」

 

それによって、テルミは喉元に上ってきた血を吐き出した。

前と同じやられ方をした。しかしながら、自分とラグナの間に決定的な認識の違いがあるような気がしたテルミは、その真意を確かめるべく最後の力を振り絞り、そのまま仰向けに倒れそうだった体を動かし、ラグナの剣に体を乗せるような形でどうにか己を支える。

 

「ヒ・・・ヒヒッ・・・まさか二回もこんな方法でやられるとはな・・・」

 

「・・・・・・」

 

自嘲した笑みを見せながらテルミが語りかけるのに対し、ラグナは表情を変えず、いつでも剣を動かせるようにする。

しかし、前回と違って一言言ってからすぐにトドメを刺すのではなく、テルミの動きに何かを感じ、待つ事を選んだ。

 

「なぁラグナちゃん・・・一つ教えてくんねぇかな。どうして俺様が二回もこうして負けたんだ?テメェなら何か分かってるんじゃねぇの?」

 

「・・・そうだな・・・・」

 

テルミに問われたラグナは少しの間考える。

この状況に持ち込めた理由は簡単に思い浮かべられるのに、いざこうなると必死だったあまり殆ど思い浮かばないのが本音だった。

 

「俺もよく解んねぇけど、一つだけ・・・言えることがあるとすれば・・・」

 

その中でも、一つだけ言えることがあったラグナはそれをテルミに伝えることにした。

 

「俺はもう、『死神』の『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』じゃない。今の俺はゲイムギョウ界で生きる一人の人間・・・『ラグナ』なんだ」

 

「・・・・・・」

 

その回答を聞いたテルミは固まるものの、数瞬の後口元が緩んだ。

思えば、この世界に来てからラグナの事をそう呼んだのは自分とレリウス、そしてマジェコンヌくらいのもので、女神たちもそうだが、ハクメンやナインですら『ラグナ』と呼んでいた。

そこまで考えると同時に、テルミはラグナの回答の意味を悟った。

 

「そういうことか・・・。ご立派になったもんだぜ・・・」

 

ラグナが見違える程変わったのを理解できたテルミは、弱々しく称賛する。

テルミが今まで『過去』にばかり目を向けていたのなら、ラグナは『過去』を忘れはしないもの、基本的には『未来』を見据えていたのである。

そろそろ限界かも知れないと考えたラグナは、剣を握る力を少しだけ強める。

 

「いや・・・負けたとは言え結構楽しめたぜ。消えるっつうことはもう縛られる必要はねぇし、その辺の自由って意味では確かに救いなのかもな・・・」

 

「・・・テルミ、お前・・・」

 

やけに正直に認めてくるテルミを見て、ラグナは思わず硬直する。

何か狙いがあるのかと言われれば、テルミにはそんなことができる余力は残されておらず、最後に言葉を投げかけるくらいであった。

 

「もうお別れだな・・・。じゃあな『蒼の次元渡航者(ディメンショントリガー)』・・・。この先も精々頑張りな」

 

「ああ。そうさせてもらうわ・・・。今度こそ安らかに旅立て、ユウキ=テルミ・・・」

 

蒼の次元渡航者(ラグナ)』に別れの一言を告げたテルミは、最後の意地と思えるニヤリとした笑みを見せつける。

それを見たラグナは静かに目を閉じながらテルミに返答し、それが終わると同時に目を開けて刺さっている剣を奥へと押し込んだ。

剣を深く刺されたテルミは、込み上がってきた血を口から吐き出し、自身の躰から碧い炎のようなものが溢れて出した。

 

「地獄でゆっくりと見させてもらうぜ・・・ヒヒヒ・・・ヒャァ~ハハハ・・・!」

 

その炎のようなものと共に躰が消えゆく中、最後の宣言だけして高笑いをした。

テルミの高笑いは、彼が碧い炎のようなものに焼き尽くされ、その炎のようなものすら見えなくなったところで途切れるように終わった。

 

「(ようやく終わったか・・・あばよ、テルミ。俺はこの世界で、俺なりに生きてみる。見てぇんならいくらでも見てな)」

 

ラグナは剣を腰に下げながら、心の中でテルミに別れを告げる。前の世界から続いた因縁は、今ここで完全に断たれたのである。

そして、蒼い空間が少しずつ変わっていき、ものの二秒もかからずに目の前には『蒼の門』がある・・・洞窟の最奥部に戻ってきた。

 

「・・・戻ったか。我らの望みを遂げた事、感謝するぞ」

 

「ああ。これでこっちはひと段落だな・・・」

 

右側からハクメンに声をかけられ、ラグナはテルミとの決着はここで終わったことを改めて実感する。

そして、ラグナの左側には柔らかい感触があり、それが取り戻すべきものを取り戻した事を証明する。

 

「あ・・・ラグナさん・・・」

 

「お?気が付いたな・・・」

 

ネプギアがゆっくりと目を覚ましながら名を呼んだので、ラグナはそちらに目を向けた。

 

「信じてましたよ。ラグナさんなら、絶対に助けてくれるって・・・」

 

「そうか。それはちょっと嬉しいかな」

 

ネプギアが自身の旨を伝えながら笑みを見せたので、ラグナも自然と笑みがこぼれる。

これで『蒼の門』を利用されることも無くなり、テルミの目論見を阻止できたので、残りはマジェコンヌとレイ、無数のモンスターをどうにかして追い払うだけだった。

 

「さて、やることまだ残ってるし、そろそろ行くか」

 

「はい。お姉ちゃんたちに無事な姿を見せないといけませんから・・・」

 

「・・・!ちょ、ちょっと待ってッ!ネプギア、あなたの格好が・・・」

 

ラグナとネプギアはすぐに移動しようとしたが、ネプギアの状態に気づいたナインが慌てて呼び止める。

一度足を止めて振り向いてから、ラグナとネプギアの二人は格好を確認すると、何故かネプギアは一糸纏わぬ状態であった。

 

「・・・えっ!?わ、私・・・なんでこんな状態に!?」

 

「わ、悪い!そういやサヤの時もそうだったっけ・・・?と、トリニティ・・・取り敢えず頼んでいいか!?」

 

「ふふっ・・・わかりました。少し待っていて下さい」

 

前回もこんな事があったのになぜ忘れていたんだと心の中で自責し、ラグナは一先ずトリニティに頼み込む。

最後の最後で閉まらないなと感じながらも、トリニティは錬金術を使いネプギアにいつもの服を宛がう。

 

「・・・はぁ。ビックリしたぁ」

 

「な、なんか悪かったな・・・」

 

服をもらえてホッとするネプギアと、悪びれるラグナ。

ネプギアとしては助けてもらえただけでも大きいので、そこまで気にすることは無かった。

 

「・・・ハクメン。まさかだとは思うけど・・・」

 

「・・・私が其の様な情を持つとでも思ったか?」

 

「いえ・・・聞いた私が馬鹿だったわ」

 

念のため問いかけて見たらハクメンが顔一つ動かさず答えたので、それはそうかとナインは頭を抱えた。

一先ずこれでトラブル関係はどうにかなったので、本題に入った方がいいと感じた全員が顔を見合わせる。

 

「問題はシェアの収集装置ね・・・その為にはあの浮遊大陸に入らないと行けないと」

 

「中は狭いのは当然。そこから守備もあること前提で行くと、行けるやつが相当限られるな・・・」

 

いきなり難関に直面してしまっていた。

中が狭い以上、攻撃範囲の広すぎるナインや、遠距離攻撃を得意とするノエルたちは難しくなる。

この他にも、守備があることを前提で動く場合、テルミとの戦いで回復しきっていないラグナも行かせるのが難しくなる。

また、トリニティも補助専門に近い能力をしているので、単独突破は非常に厳しい。

 

「ならば私が行こう。この躰ならば・・・並み以上の荒事も可能だ」

 

少し考えてから、己が適任と考えたハクメンが名乗り出る。

確かにハクメンであれば、攻撃する時に注意すれば攻撃範囲もそこまで広くはならないし、遠距離攻撃が主体な訳でも無かった。

更には『スサノオユニット』の恩恵もあって疲労とは縁が遠いと言う、これ以上に無いほど至れり尽くせりな条件が揃っていた。

 

「ですが・・・どうやってあそこまで行きましょうか?転移魔法だって、連続で使うわけには行かないでしょうし・・・」

 

「・・・・・・」

 

トリニティの指摘通り、移動手段が問題となっていた。

ナインの転移魔法を使えば一瞬なのだろうが、それでも座標を把握しておく必要があるし、全員でプラネテューヌに戻ってからハクメンを送るにしても二度手間で、ナインの魔力消費の大きさも問題になる。

ならばハクメンが己の躰で一飛びで・・・。と言うのも高度差がありすぎて不可能になる。

そこまで状況を把握したハクメンは、一度押し黙ることになってしまった。

 

「なら・・・私が移動手段を用意すれば大丈夫ですね?」

 

『・・・?』

 

「ああ・・・そう使うのか」

 

ネプギアが言い出したことを、『六英雄』の三人は理解できずに首を傾げるが、ラグナだけは一人納得していた。

 

「そう使うって・・・どう使うの?」

 

「私の持っている『(これ)』を使って、行けるようにしちゃうんです」

 

ナインの質問に答えながら、ネプギアは手元に『蒼』を出して、自身の背後に蒼い渦を作り上げる。

ネプギアが『蒼』を使って実現したのは、『何らかの手段でハクメンが浮遊大陸に乗り込める』可能性である。

これを使えばナインが転移魔法を複数回使う必要も無く、ハクメンが一人で渦の中に入れば浮遊大陸に到着と言う算段である。

 

「成程。此れならば私一人を気にする必要もあるまい」

 

「えっと、いきなり用意した私が言うのもあれですけど・・・大丈夫ですか?」

 

「問題は無い。御前の事だ・・・悪用する筈は無いだろう」

 

全くもって躊躇いの無いハクメンを見たネプギアが一度問いかけるが、ハクメンはネプギアを信頼している旨を伝える。

そこまで全面的に信頼していることを伝えられれば、流石にネプギアも照れた笑みになる。

 

「では、私は此れで渡らせて貰う。御前たちは向こうを頼むぞ」

 

「はい。ハクメンさんも、どうかお気を付けて・・・」

 

「承知した」

 

行く前にトリニティの一言へしっかりと返事をしてから、ハクメンは渦の中に飛び込んだ。

その渦はハクメンを飲み込んでから急速に小さくなり、あっという間に消えていった。

 

「よし、俺たちも急ごう。アイツらを待たせてるからな」

 

「そうね・・・転移魔法を準備するから、私のすぐ近くに集まってもらえるかしら?」

 

それを見送ってすぐ、ラグナの促しにナインは頷いて三人に呼びかける。

三人が自分にくっつくくらいの距離に集まってから、ナインは転移魔法の準備を始め、ものの一分で用意を終わらせた。

準備が終わってすぐに転移魔法で洞窟から出て、すぐにプラネテューヌへ戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「イド・ロイガー!」

 

「ディヴァインリーパーッ!」

 

レリウスが自身の背中に隠していた機械の腕を伸ばせば、ナオトは自身の右手に集めた血を獣の頭を形どらせて飛ばした。

それらがぶつかることによって機械の腕は勢いを殺され、獣の頭をした血は霧散する。

 

「あれからまた伸びたか・・・。これも、仲間を思う心が成せるようだな」

 

「ったく・・・相変わらず一人でわけわかんねぇことをごちゃごちゃ言いやがるな・・・」

 

レリウスがナオトの力を評価する中、ナオトは呆れかえりながら呟いた。

―何をどうしたらお前はそんな風になったんだ?一度だけでも良いから訊いてみたいが、それはそれで何かダメな気もしていた。

一度頭を切り替えてモンスターの方をちらりと見て見れば、残りは大型モンスターが数体残っているのみで、自分がレリウスを引き留め続けていれば時期に終わるのが見えていた。

 

「(取り敢えず・・・アイツらを向こうに行かせないようにすれば・・・。・・・んあ?)」

 

レリウスを見ながら考えを纏めていたナオトは、突如として気配を感じてそちらに顔を向けた。

ナオトが顔を向けた先にはビルから剣を振りかぶりながら飛び降りた、紅い格好をしている人物が見えた。

そして、その人物は剣に黒い炎のようなものを纏わせ、急降下しながら振り下ろし、自身が狙ったモンスターの体を斬り裂いて行く。

突然意識していない方向から攻撃を受けたことと、それが予想以上のダメージであった事から、モンスターは声を上げながら数歩後ずさる。

 

『お前ら、聞こえるか?今戻ってきたぜ』

 

「ラグナか!?ネプギアは大丈夫なのか!?」

 

『ちゃんと助け出した。今女神たちの方へ合流しに行ってる』

 

突如として救援に現れたのはラグナであり、ネプギアが無事である事を聞いたナオトは心底安心して胸をなでおろす。

ナオトのみならず、モンスターを食い止めていた全員から安堵の声が聞こえる。

 

「そうか・・・テルミは逝ったか」

 

「・・・なんだかんだで、アンタにも仲間を思う心は残ってるんだな」

 

―惜しい人物を亡くしたな。そう呟きながら、レリウスは仮面のずれを直す。

仮面のせいで口元でしか表情を判断することができず、その口元がいつも通りだったのでわかりづらいが、声色が本当にわずかながら違った事でナオトはその変化に気づけた。

また、この時レリウスがただのマッドサイエンティストなだけではないと感じて、その方面でも安堵をした。

 

「こうなれば致し方あるまい・・・。ならばせめて、次の機会があった時の為に、得られる情報を可能な限り集めるだけだ・・・」

 

「そうなるか・・・。仕方ねえ、だったらそんなに手前掛けさせねぇで終わらせてやるよ!」

 

レリウスがイグニスに指示を出しながら構え直したのをみたナオトは、呼吸を整えながらいつでも動ける状態を準備した。

モンスターの進行とレリウスの妨害を食い止める戦いも、いよいよ終わりが近づいてきていた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

プラネテューヌの上空にて、マジェコンヌとレイの二人と女神たちが空中戦を続けていた。

 

「このっ!さっきからずっとこの調子ね・・・!」

 

「止めないならキセイジョウ・レイがこっちを撃ってくるし!」

 

「・・・止めようとしたら、今度はマジェコンヌが・・・」

 

数で劣るマジェコンヌとレイが取った戦法は二人で固まって引き撃ちにあった。

基本的には遠距離攻撃が主軸となる候補生たちに、レイが杖からビームを放って撃てる時間を減らし、候補生たちが攻撃に専念できるようにするべく女神たちが近づいて来たところをマジェコンヌが追い払う形だった。

自身たちから攻めないが故にそれ以上のことは望めないが、これのおかげで耐え続けるならいくらでもできる状況を生み出していた。

 

「まだ行けますか?」

 

「ああ、まだ耐えられる」

 

それでも人数的には多勢に無勢な状況ではある為、互いの状況を気遣うことは忘れない。

片方が無茶をしすぎたり、控えすぎたりすると、片方が崩れてそのままもう片方もと言う最悪な状況になるからだ。

 

「まさかここまで攻め切れないなんてね・・・」

 

「シェアを奪われてんだ・・・その状況でここまでやれてる分全然マシだろ」

 

拮抗した状況にノワールはため息混じりに呟き、ブランは状況の確認を兼ねながら答える。

シェアをタリに取られて尚、七人でとは言えこの状況に追い込めているだけでも中々良い成果であった。

 

「後は、何か崩せる切っ掛けがあれば良いのですが・・・」

 

「ネプギア・・・無事でいてくれるわよね?」

 

ベールの一言を聞いたネプテューヌは、ネプギアの事を案じた。

確かにラグナたちに任せた身ではあるものの、それでも自分の妹なのだから助けに行きたかったのが本音であった。

しかしながら、プラネテューヌで起きた出来事なのに、プラネテューヌの女神がそれを放ってしまうのは流石に不味いので、自ら赴く事は叶わなかった。

 

「(ラグナたちからの連絡も無い。ここは急いで終わらせて・・・)」

 

―ネプギアを助けに行こう。そう考えた瞬間、レイたちの方へ一筋の光が飛び込んで行った。

 

「「・・・!?」」

 

即座に気づいた二人は、その光から逃れてすぐに互いの背中を合わせて警戒の姿勢に入る。

 

「・・・あの三人では無いな?」

 

「ええ。ということは、まさかですけど・・・」

 

それは今、この二人に取っては考えたくもない事態だった。

どうか外れて欲しいと思っていたその願いは、舞い降りてきた人物によっていとも簡単に崩されてしまった。

 

「すみません、お待たせしました。プラネテューヌの女神候補生、ネプギア・・・ただいま戻りました」

 

『・・・ネプギア!(ネプギアちゃん!)』

 

その光を放った主はネプギアで、彼女が無事であることが分かった女神たちは安堵する。

 

「お帰りなさい、ネプギア。色々話したいことはあるけど・・・先にこっちを終わらせちゃいましょう。話しなら、その後いくらでもできるから・・・」

 

「うん。分かった」

 

ネプテューヌの案にはネプギアのみならず、誰も反対せずに頷いた。

話しが纏まってマジェコンヌらを見据えると、二人の表情が変わっていることに気が付いた。

 

「おのれ貴様ら・・・!よくもやってくれたものだなァ!」

 

「残念です。こんなことになるなんて・・・」

 

マジェコンヌは左の拳をきつく握りしめて激昂し、レイは悲痛な表情を見せて顔を横に向けた。

また、マジェコンヌは握りしめた際に自身の爪が食い込んだのか、手のひらから血が滲み出ていた。

 

「せめてものの手向けだ・・・!一人だけでも道連れにしてくれるッ!」

 

「私をここまで変えてくれた礼です・・・。私もただでは終わりませんよ・・・!」

 

怒りに身を任せたマジェコンヌは、自身の武器を、テルミが使っていた二振りのバタフライナイフに変えて飛び込んでいく。

レイも悲痛な表情を決意に変えたものにし、自身が手に持っていた杖を握り直してからマジェコンヌに追従する。

戦局が動いていく中、彼女らの・・・引いては同盟初の弔い合戦が始まるのであった。




これにてタイトル回収とラグナたちの決着になります。

『ディメンショントリガー』の意味合いについては色々と迷った結果コレになりました。
対象は誰なの?と言われると、現状はラグナ一人で、時が訪れるのならネプギアも対象になります。
プルルートは現在、他人に頼まなければ渡れないので例外となります。

残り1~2話でこの最終決戦も終わるかと思います。
最後まで走りきって行く所存ですので、付き合っていただければ幸いです。


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65話 残された者たち、近づく決戦の終わり

残すところが僅かになって来ました・・・。


「・・・ハァッ!そらッ!」

 

「っ・・・!急に動きが変わった・・・!」

 

マジェコンヌはバタフライナイフを用いてネプテューヌに連続で斬りかかり、攻撃されたネプテューヌは刀を構える事で防いで行く。

この時自身の反応が遅れかけたのは、先程までが守りに特化した動きだったのが急に攻めに特化した動きへと変わったからである。

自分たちが攻めてこなければ向こうも攻めない動きから一転、相手がどうであろうと自ら攻め続ける動きに変えると同時に、武器の特性を活かすべく素早い動きをするようになったのである。

これによって先程までのゆっくりとした動きに目が慣れてしまい、攻撃されたネプテューヌは急な速度の変化に対応が遅れてしまったのである。

しかし防いだのも束の間、マジェコンヌはネプテューヌの刀に強めの打撃を与えて押し出し、そのままネプギアの方へ肉薄する。

 

「・・・!?」

 

「そぉらッ!」

 

マジェコンヌは両手のバタフライナイフで、外側から内側に交差させるように振り下ろし、対するネプギアはM.P.B.Lを横に寝かせる形で受け止める。

武器自体は小物だというのに、マジェコンヌが出し惜しみしていないのが分るくらい力を入れている為、かなり押され気味になっていた。

 

「貴様が五体満足で即時復帰できるとはな・・・!」

 

「くっ・・・!あなたたちがテルミの事を気にかけていたのは分かるけど・・・私にも、帰りを待っている人がいるから!」

 

テルミが亡き者になったことで恨み節の一つや二つを言いたくなるマジェコンヌではあるが、ギリギリのところで残っている冷静さがそれを食い止める。

しかしながら、ネプギアもそれを理解できない訳では無く、理解を示しながらも自分の答えを告げる。

 

「ッ・・・!ええい、クソォッ!」

 

「きゃ・・・!」

 

マジェコンヌのまた、それを理解できるが故にやり場のない怒りを振り回すことになり、力に任せてネプギアを突き飛ばした。

戻ってきたばかりで少々動きづらい状態なのもあり、ネプギアは体制を立て直すのが後れてしまう。

 

「ネプギアっ!・・・!?」

 

「簡単にはやらせません!私たちにも、意地はありますからね・・・!」

 

それを見たユニはランチャーでマジェコンヌに狙いをつけ、彼女の援護をしようとしたが、それはレイが強襲をかけて来たことによって止められた。

レイが杖を斜めに振るって叩きつけようとしてきたので、ユニはランチャーを斜めに構え、止む得ず防御を選択するのであった。

マジェコンヌが怒り狂っているので忘れがちになるが、レイもかなり感情を激しており、テルミが同盟のメンバー間でそれなり以上の友好関係を築いていたことが伺える。

 

「それ以上はやらせないわっ!」

 

「テメェらは絶対にここで止めてやるッ!」

 

「甘く見積もるなよ・・・!残影牙ッ!」

 

バックアップを担っていた候補生たちに攻撃を回されてしまった事により、乱戦覚悟で救援に行くノワールとブランだが、マジェコンヌは振り向きざますぐに碧い炎のようなものを纏わせながらバタフライナイフを右から左に振るった。

 

「うっ・・・!?シェアを取り戻せてないのは厳しいわね・・・!」

 

「それにテルミの技までコピーしてる・・・。後何個真似されりゃ良いんだ?」

 

「いくらでもあるさ・・・。一部とは言え、貴様らの技をコピーできたこの私が・・・今更テルミの技を再現出来んとは言えんのでなッ!」

 

予想以上に早いタイミングで反撃された事により、出鼻を挫かれたノワールとブランは武器を前に出して防御を選択する。

幸いにも前に進んでいた時の勢いがあるおかげで、後ろに吹き飛ばされる勢いは緩和された。

しかし、それだけでマジェコンヌの攻撃が終わることは無く、更なる追撃が二人に襲い掛かることになる。

 

「轟牙双天刃ッ!」

 

「きゃあ・・・!?」

 

「うわぁッ!」

 

両足に碧い炎のようなものを纏わせながら片方ずつの蹴りを彼女らにぶつけ、それを受けたノワールとブランは上空へと吹き飛ばされる。

テルミと共にいる時間が長かった事もあって、コピーした技の完成度はラグナの技やハクメンの技の比では無く、マジェコンヌが放つ技の威力は想像を遥かに上回るものとなっていた。

更にここまでのあっさりさを出してしまった理由として、シェアを取り戻せていないことがあり、マジェコンヌと相対的に力の差ができてしまっている事も起因していた。

 

「ノワール、ブラン!」

 

「余所見をしている暇は無かろうッ!?」

 

吹き飛ばされて言った二人の姿を目で追いながらその身を案じるベールだったが、その一瞬の隙をついてマジェコンヌが目の前には来ていた。

 

「相手が速いなら避けれない速度で攻撃するまで・・・レイニーナトラピュラ!」

 

「連続攻撃にはこれをくれてやろう・・・!滅閃牙ァ!」

 

ベールは槍の連続攻撃でマジェコンヌの進撃に対する抑制を試みるが、マジェコンヌは体を素早く動かしながら即座に行動を決定して実行する。

自身の体を碧い炎のようなもので覆ったマジェコンヌは、そのまま槍による連撃を無視しながらベールにぶつかって見せる。

 

「っ!?あああっ!?」

 

「この程度で倒れることは無いだろう!?どうした、もっとかかって来ないかッ!?」

 

防御の姿勢を取れないまま攻撃を受けてしまったことで成す術も無く吹き飛ばされ、建物の一つに激突していくベールには目もくれずに周囲を見ながらマジェコンヌが吠える。

このやり場の無い怒りを、せめてお前たち相手に吐き出してやろうと言う八つ当たりに近いものだというものを自覚してはいるが、そうでもしなければやっていられない程今のマジェコンヌは荒れていたのである。

 

「マジェコンヌさんだけに目を向けられても困りますね・・・私も、このやり場の無い怒りをぶつけたいものですからね・・・!」

 

また、それはレイも同じだったようで、杖からビームを放って候補生たちに牽制をかけて動きを止めてすぐにネプテューヌへ肉薄し、彼女へ向けて杖を上から下に振り下ろした。

対するネプテューヌは一度後ろに下がって避けてから、刀を左から水平に振って反撃をするものの、レイはそのまま杖を左から斜めに振り下ろし直したことで、ネプテューヌの刀にぶつける形での防御を取った。

 

「その為にも今・・・せっかく調整させてもらったシェアを有効に使わせて貰いましょうか・・・!」

 

「そんな使われ方、こっちとしては勘弁願いたいけどね・・・!」

 

シェアの量に差がありすぎて、押し合いはレイが圧倒的な優位を持ち、ネプテューヌは苦し紛れに言い返すことで精一杯だった。

とは言えそのままやりたい放題やられるのも癪であり、ネプテューヌは敢えて自分から体を横に逸らすことで押し込む事に力を入れていたレイの体制が前のめりに崩れるのを見て、すぐに距離を取りながら刀を構え直した。

 

「あなたたちは確かに仲間を失ったのだから、それで許せない気持ちは分かる・・・。私も自分の妹を失いかけたからね・・・」

 

テルミが帰らぬ人となって彼女らが怒りに駆られる理由は、妹との永遠の別れを経験しそうになったネプテューヌはそれを理解できる。

しかし、だからといって自分たちも同じ経験をしてはいそうですかと頷くか・・・そう言われるとまた違う話しである。

 

「でも私には・・・いえ、私たちには帰りを待っている人だけじゃない、私たちを信じて恐怖に耐えてくれている人たちがいる・・・だから、思い通りになるつもりは無いわよ!」

 

「・・・いいでしょう。ならば、私は正面からそれを打ち砕くまでですッ!」

 

ネプテューヌが言い切ってから近づいてくるのを見たレイは、自身も杖を構え直してから向かって行く。

女神たちとマジェコンヌらによる空中戦は、まだ終わる気配を見せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「此処が・・・奴らの一時的な根城か」

 

ネプギアが女神たちと合流する少し前に遡る。

ハクメンはネプギアの『蒼』によって出来上がった渦の中に入り、浮遊大陸の入り口前に辿り着くことへ成功していた。

中に入らなければ存在しないのか、迎撃システム等は見られなかったので、ハクメンは乗り込む前に一度周囲を確認するだけの余裕があった。

 

「あの一撃で此れ程迄の被害を出そうとは・・・見過ごせぬな」

 

ハクメンはちらりと浮遊大陸が放った砲撃による被害を見て呟いた。

今現在二射目が撃たれることは全く見受けられないが、それでもプラネタワーは崩壊。その周囲にも甚大な被害を与えている以上は無視するわけにもいかない。

また、まだ一度も顔を見せていない以上浮遊大陸に残っているのはワレチューしかいないことは消去法で割り出せており、それならば防衛システムがあった場合はそれを全力で突破することに集中できるのが救いだった。

 

「しかし時間も掛けるわけには行かぬ・・・手早く終わらせるとしよう」

 

再び入り口に目線を送ったハクメンは『斬魔・鳴神』を引き抜いて自身の眼前に構え、一呼吸置いてから中に飛び込んでいく。

中に入れば案の定防衛の為に準備されたシステムが存在していたが、放ってくるのは全て飛び道具である為、進路方向にあるのは『斬魔・鳴神』を振るうことで破壊し、それ以外のものは『斬魔・鳴神』を押し当てて『封魔陣』を作る事で無効化していく。

そして、こうして防衛システムを突破しながら突き進んでいくハクメンは、一つの結論を出した。

 

「(此の浮遊大陸への侵入・・・躰と言い、武器と言い・・・私で無ければ却って危険だったな)」

 

問題は数の多さと距離の長さにあった。

更にその二つに加えて元々の狭さがあるせいで、あのメンバー内ではハクメン以外適任がいないことを改めて実感することになった。

強いて他の案を言えば女神が己の速度と防御力に任せて突破することにあるが、そもそもマジェコンヌとレイに対応できる貴重な戦力を割けるかと言われれば厳しいものがある。

そうなるとやはり自分が行くことが正解である。そのハクメンの判断が正しかった事を決定づけられる。

とは言え、例えそれが正解だったとしても、長時間掛けて行っていいかと言われれば違うのでハクメンはなるべく急ぐ。

 

「まだ距離はあるな・・・済まぬが、暫しの間耐えて貰うぞ、女神たちよ・・・ッ!」

 

シェアを奪われたまま消耗戦になってしまうと危険なのは分かっているので、ハクメンは届かぬ詫びを入れながら走るのだった。

 

「・・・いきなり入り口前に現れて侵入?あの魔女みたいなやつっちゅか?」

 

その一方で、ワレチューはモニターに映った反応に目をやって思考に入る。

いきなり入り口前に現れて突入できるのは、普通に考えればナインであると言う考え方は間違ってはいない。向こう側で転移魔法を使えるのはナインただ一人で、迅速な対応をするなら彼女一人で移動した方が速くここまで辿り着つけるからだ。

しかしながら、この『普通に考えるなら』と言う部分が問題であり、今回はその考え方が通用しないのである。

 

「それにしては随分と効率のいい突破方法っちゅね・・・あの魔女の場合、自身の事も考えて徹底的にやりそうっちゅが・・・」

 

ワレチューの感じていた違和感はコレにあり、実際正解でもある。

仮に侵入者がナインだとしても、確実に最短の方法で突破するのは防御との兼ね合いを考えると厳しいものがある。

では女神かと考えるとそれも違う。理由としては、マジェコンヌとレイ二人に貴重な空中戦力を割くのは厳しいからである。

ではナインはどうなのか?そう言われた場合はネプギア奪還の為に迅速な移動手段と、『スサノオユニット』を纏ったテルミに対抗できる戦力として行動したと考えられるので、この限りではない。

 

「じゃあ誰がいるっちゅかね・・・?」

 

ワレチューはテルミらと同じ異世界組の人たちを上げていく。この時力を失ったニューは予め除外して考える。

まず初めにネプギアの奪還に向かっていない中で、空を飛べないナオトの確率は最も低い。入った後はそれなりに行けるかもしれないが、それまでの過程が厳しすぎるのである。

次に空を飛べるノエルとラムダだが、この二人は可能性を考えれば十分にあり得たが、手数の多いタイプである為、モンスターの撃退に活用する可能性の方が高かった。

こうなると残りはラグナかハクメンが有力となるのだが、テルミ絡みが多くなるラグナが帰ってきた場合、それはテルミの死を意味するので考えられても考えたく無かった。

 

「そうなると・・・」

 

来るならハクメンしかない―。そう考えた瞬間、轟音が聞こえて思わずそちらを振り向いた。

するとそこには、念の為に閉鎖していたドアを簡単に蹴飛ばして見せたハクメンが、『斬魔・鳴神』を構えた状態で堂々と立っていた。

 

「やはり、此処に残っているのは貴様だったか・・・。収集装置の場所を言え。であれば無意味に斬ることはせぬ」

 

「・・・まあ、オイラに勝ち目は無いからそうさせてもらうっちゅよ・・・」

 

ハクメンの要求には、ため息混じりではあるが素直に従う。力量差がありすぎて勝てるはずも無いのである。

とは言え、一度だけ確認しておかなければならない事があるので、それだけは聞いておきたいと思ったワレチューは聞いておくことにした。

 

「一つ聞くっちゅが、テルミは・・・どうなったちゅか?」

 

「・・・・・・」

 

その問いを聞いたハクメンは、数瞬の間言うかどうかを迷ったが、これは答えてやるのが情けか。そう考えて一度『斬魔・鳴神』を降ろした。

 

「奴は逝った・・・。何を思うて去ったのかは、ラグナから訊くしか術は無いのでまだ聞けていないがな・・・」

 

「・・・そうっちゅか。せめて帰って来てくれても良かったっちゅのに・・・」

 

俯くワレチューを見て、奴の事を気に掛ける存在もいるものだなとハクメンは感じた。

 

「ああ、収集装置はそっちの部屋っちゅ。オイラには勝ち目ゼロっちゅから、これで失礼するっちゅよ・・・」

 

「そうか・・・ならば私は行かせて貰うぞ」

 

これ以上は互いに時間が無い。そう判断したワレチューは場所だけ教えてレリウスに用意してもらった簡易型転移装置でこの場を離れる。

もう既に誰もいないその場に向けて一言残したハクメンは、シェア収集装置の方まで足を運ぶのであった。

 

「此れで・・・少しは戦いやすくなれば良いが・・・」

 

シェア収集装置を見ながら、ハクメンはそう言わずにはいられなかった。

何しろこれが使われているせいで、女神たちは数の有利をあっさりと覆されてしまっているからだ。

そんな厳しい条件で戦っている彼女らの為にも、速やかに目的を遂行しよう。そう考えたハクメンは『斬魔・鳴神』を振り被る。

 

「・・・ズェイッ!」

 

そして、一呼吸の後、『斬魔・鳴神』は勢いよく振り下ろされた。

それによって斬り裂かれたシェア収集装置は光となって爆発を起こし、やがて縮小しながら消えていく。

シェア収集装置の破壊を確認したハクメンは『斬魔・鳴神』を鞘に納め、入ってきた方へ体を向け直した。

 

「我が役目は果たした・・・。助太刀の為に戻りはするが、間に合わぬ時は頼むぞ・・・」

 

浮遊大陸を真下に突き抜けて脱出する手段も考えたが、それはプラネテューヌに更なる被害を生んでしまうので即時却下とした。

しかしそうなると、今度は残していた防衛システムを避けながら戻ることになる為、時間が掛かる。

そんなこともあり、走ったところで間に合わない確率が非常に高いハクメンは、全員の健闘を祈りながらも間に合わせるように急いでこの場を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「テルミと『蒼の男』による戦いの決着・・・此れが全ての流れを変えたか」

 

ナオトと対峙し続けているレリウスは、状況の変化を感じ取って限界が来ていると悟った。

体力やイグニスの状況等、個人だけでものを考えればまだ動けると言えるが、全体的な戦況を考えるとそろそろ切り上げて撤退の準備をしなければ不味いと言う結論が出ていた。

 

「此の情報の流れ・・・ネズミが即時退避するのも仕方あるまい」

 

レリウスは既に情報を『観測』て、このまま居続けるとマジェコンヌとレイが危ういことを察し、脱出には自分の力がいる事も把握した。

であるならば、これ以上自分が足止めするのは得策ではなく、彼女らのが動けなくなった場合のフォローをいつでもできるように準備する必要があった。

 

「これで決めるッ!」

 

「来るか・・・」

 

国内に迫ろうとしていたモンスターの全滅までは後少し。レリウスにこれ以上邪魔されないようここで決めようと考えたナオトは一気に距離を詰める。

それを見たレリウスはイグニスに指示を出して防御の準備をさせる。

割って入ってきたイグニスを見ても大して怯むことなどなく、ナオトはそのまま右脚の膝蹴りをイグニスにぶつけてから飛び上がる。

 

G(グリム)O(オブ)P(ファントム)ッ!」

 

「・・・!?」

 

ナオトは落下しながら血で斧を作り上げ、地面に片膝をつけるように着地すると同時に、それを両手で地面に叩きつける。

それによって発生した血の波は、イグニスにぶつかるどころか、一部がイグニスを通り越してレリウスに届いていた。

予想以上の奔流を見たレリウスは咄嗟に防御方陣で防ぐものの、不十分な状態だったせいでそれはすぐに割れてしまい、抑えきれなかった波がレリウスに浴びせられた。

この世界に来てから始めてダメージらしいダメージを受けたレリウスは、軽く吹き飛ばされながらもどうにか姿勢制御を行い、地面に足を引きずりながら着地した後片膝をついて座り込む。

 

「私としたことが情けない結果となったな・・・。だが、同時にもう潮時でもある」

 

「・・・?潮時だって?」

 

「テルミは『蒼の男』によって打たれ、シェア収集装置も破壊された・・・。となれば、私はこの場で御前の足止めすらしている余裕が無くなるのだよ」

 

疑問に思ったナオトはレリウスに問いかけ、それによって帰って来た回答で気付くことになる。

今現在、レイのシェアはシェア収集装置で無理矢理稼いでる状態であり、それが失われるとなれば優勢だった戦況は一瞬で死の危機に早変わりになってしまうのである。

そうなるとこれ以上はここで戦っているともう立て直しができない程の戦力減少を喰らってしまい、二度と再起することができないと言う事態に陥るが故に、レリウスはこれ以上の戦闘ができないのだった。

 

「そういう事だ。私は行かせて貰おう」

 

「あっ・・・おい待てッ!」

 

ナオトの制止を聞くことは無く、レリウスはそのまま転移魔法を使ってこの場を離れた。

しかしながら、ナオトもナオトでドライブを長時間全開にして動いていたので、これ以上の疲労蓄積を避ける為に全開状態を解除した。

 

「ハァ・・・ッ!ハァ・・・。どうにかなった・・・ノエルさんたちは?」

 

疲労の溜まり具合から、肩で息をしながらノエルたちがいる方を見やるが、残りは大型モンスター二体と、その周囲に残っている小型のモンスターだけだった。

 

「・・・カラミティソード」

 

「オモヒカネ・・・この力、今度は護る為にっ!」

 

大型モンスターの内一体を、ラムダは狙っているモンスターの頭上から巨大な剣を突き落として串刺しにし、ノエルはもう一体の大型モンスターを捕縛してから、無数の剣で斬りつけた。

それらの攻撃に耐えきれなくなったモンスターたちが光となって消滅し、残った小型のモンスターたちはそれぞれの行動に移る。

一つはもう勝てるわけがない。幸い浮遊大陸は向こうなのだから自分たちは生きるために逃げると言うモンスターたち。もう一つはやけくそになりながらまだ攻撃をしようとするモンスターたちであった。

 

「残念だけど・・・これで終わりよ」

 

しかし、向かって来たモンスターたちは何かするより前に、アイエフの体を借りているラケルが発生させた二つの竜巻によって飲み込まれ、彼方へと吹き飛ばされながら消滅していった。

 

「終わったか・・・」

 

「レリウス=クローバーを止めてくれてありがとうございました。・・・ところで、彼はどちらに?」

 

脱力して地面に座り込むナオトの下に、ノエルが近くまでやって来てから問いかける。

何事も無いなら『クサナギ』を解いても平気なのだが、まだ油断ができない為に装着したままでいる。

 

「残った奴らのところに行ったはずだ・・・。もう限界だとか聞いたけど」

 

「そうなると・・・誰かがシェア収集装置の破壊に成功したと見て良さそうね」

 

ナオトの回答に対して自身の考えを伝えたのはラケルに体を返して貰ったアイエフだった。

どうやらラケルが負担の掛からない動きをしてくれたお陰で、回復が遅くならないで済んだようだ。

 

「残りは、あの二人だけ・・・」

 

《と言っても、今からあの戦いに入るのは難しいでしょうね・・・》

 

ラケルの言う通り、女神たちとマジェコンヌとレイの二人・・・計十人で戦うあの空間に入るのは難しいものがある。

ラグナが戻ってきた・・・。つまりはテルミが打たれたのを知った上でまだ戦っている為、恐らくは逆上しているマジェコンヌとレイがいる筈であり、不用意に入ろうものなら狙いを変えられて足を引っ張る可能性が高まる。

そう言った面では今から加勢するのはかなり悪手になってしまうのである。

 

「そういや、逃げ遅れはもう大丈夫なのか?ニューも時間ギリギリまでは探してたけど・・・」

 

「・・・私たち、モンスターの相手をしてるのが精一杯で、全くそっちを見る余裕はなかったわね」

 

ラグナに問われたアイエフが自分たちのしていた事を思い出す。そうなると、まだ逃げ遅れがいるかもしれない事を悟ったのである。

 

「それなら、急いで探しましょう!」

 

「飛べるから、ラムダたちは遠くの方を見てくる」

 

「取り敢えず、近場を見てみるよ!」

 

「何かあったらすぐに連絡でね!」

 

「頼んだぜ。バイクは探したところで時間の掛かるし・・・仕方ねぇ、このまま探すか」

 

ノエルとラムダは空を飛んで今いる場所から離れた場所へ移動を始める。

ナオトとアイエフも、近くなら探せるのですぐに走り出した。

ラグナは一度バイクを探そうとしたのだが、実際のところ悪路のせいで走りづらいのと、プラネタワーの近くに停めていたので見つけたところで御釈迦になっている可能性が極めて高い状態にあった。その為、止む得ず走って探す事を選択した。

 

「(後はあの二人を止めるだけ・・・頼んだぞお前ら!)」

 

ラグナは今戦っている女神たちの勝利を祈りながら、逃げ遅れの人を探すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?力が抜けていく・・・?」

 

ハクメンがシェア収集装置を破壊した直後、レイが急速な力の減少を感じで動揺した。

レイの力が減少すると同じタイミングで、女神たちは自身の力が沸いてくるのを実感した。

 

「力が沸いて・・・。誰かがやってくれたのね」

 

「・・・チィッ!ここまで来ておきながら・・・!後ろに下がれ!そのままでは危険だッ!」

 

「すみません・・・一度下がります」

 

ここに来て力の逆転は致命的なものであり、ここまで来ると逃げる為のチャンスを作り、それを逃さず全力で退避することしか残されていなかった。

また、マジェコンヌは自身の使っている武器を、普段使う槍に切り替えて構え直した。

 

「どうにか付け入る隙さえ作れれば良いのだが・・・」

 

女神たち全員が武器を構え直すのを、マジェコンヌは目だけで確認しながらどう動くべきかを考える。

しかし、更に苦しい追い討ちが、彼女らに与えられようとしていた。

 

「ここで大丈夫ね・・・。セリカ、危ないと思ったらすぐに中止してくれて構わないからね?」

 

「うん。お姉ちゃんも、わざわざ連れてきてくれてありがとう」

 

ナインの転移魔法によって、まだ無事であったビルの上にセリカは連れてきてもらっていた。

ここに来た理由は当然、ミネルヴァの能力を用いて自身の持つ力を増幅させ、女神たちを有利にさせる為である。

 

「5pb.も、無理はしないでね?」

 

「大丈夫。ボクはボクにできることをするから・・・」

 

5pb.もまた、ナインの転移魔法でセリカと一緒に移動させてもらっていた。

彼女の歌はラグナや女神たちのように『善』に属される者には力を与え、マジェコンヌやテルミのような『悪』に属される者は力を弱めると言う効果もあり、それによる女神たちの支援を狙ったものである。

 

「よし・・・ミネルヴァ、お願いね」

 

「・・・・・・」

 

セリカの一声に、ミネルヴァは「任せろ」と念を送って彼女の力を増幅させる為のアシストを始める。

それは瞬く間に女神たちの戦場まで届き、影響を与え始めた。

 

「何ィ・・!?ええいクソォッ!ここへ来てそれまで使って来るか!?」

 

「マジェコンヌさん・・・!?一体何が・・・うっ!?私も体が・・・」

 

マジェコンヌは突如として襲いかかった体の重みに苦しみながらも、必死に周囲を捜索する。

レイはマジェコンヌに何が起きたかを聞こうとしたものの、自身に襲いかかった体の重みに苦悶の表情を浮かべることになった。

少しの間探して見ると、まだ無事なビルの一つの屋上でセリカがズーネ地区の時と同じように力の増幅を行っているのが見えた。

 

「見つけたッ!これ以上の好き勝手にさせてなるものかよッ!」

 

「・・・!セリカちゃん!」

 

マジェコンヌは武器をテルミが使っていた『ウロボロス』と同じ形に変え、それをセリカへと伸ばした。

恐ろしい速度で伸びていくそれは、見てからでは追いつけるものではなく、思わずベールが声を上げるものの、最悪の事態は回避されることになる。

 

「誰がいつ・・・セリカに危害を加えて良いと言ったの!?蹂躙する蒼碧の重圧(ネイビープレッシャー)ッ!」

 

それはナインが『ウロボロス』が来るタイミングに合わせて放った巨大な腕の突き落としにより、地面に叩き伏せられる事になった。

止める為の手段を封じられたマジェコンヌは、またしてもかと歯嚙みする。

しかし、マジェコンヌとレイへのバッドニュースはこれだけでは終わらない。まだ5pb.が残っているのである。

 

「みんな・・・聞こえてる?ボクの声が聞こえるなら、一つだけお願いがあるんだ」

 

5pb.がマイクを使って投げかける。その声が届いたシェルターの人たちは、彼女が見えないところで反応を示して周囲を見回したり、耳を澄ませる者が現れた。

 

「今、女神たちやその協力者が戦っている中で、大した力を持たないボクたちにも出来ることが・・・確かにあるんだ」

 

5pb.の告げた『出来ること』というのが気になった人たちが次々と増えて、近くにいる人たちと「お前も気になったの?」と言いたげに顔を見合わせる。

まだかまだかと言う思いが次第に強くなっていく中で、丁度頃合いの時間だと感じた5pb.はその出来ることを伝える。

 

「ボクたちにも出来ることは、その女神たちと協力者が戦いに勝つことを祈ることと、その人たちが勝てるように応援することなんだ。ボクもその人たちが勝てるように新曲で応援するから、みんなも協力をお願い!」

 

5pb.が言い切った直後、様々なところで歓声が聞こえた。そこにいた人たちが全員、やってやろうと言う気持ちで一致したのである。

 

「それじゃあ行くよーっ!『Hard beat×Break beat』!」

 

5pb.が新曲である『Hard beat×Break beat』を歌いだすと同時に、彼女の周囲からセリカの持つ力と似たものが広がっていき、それも女神たちの戦場に届く事になる。

また、それは5pb.の促しによって影響された一般の人たちの想いも乗っており、彼女らに大きな影響を与えた。

 

「な・・・ぬあぁッ!?ま、まともに動けんだとぉ・・・ッ!?」

 

「す、凄い・・・力がこんなにも溢れ出て来るだなんて・・・」

 

マジェコンヌは変身して飛んでいるのがやっとな状態にまでなってしまい、対するネプテューヌは先程までのダメージなどが徐々に回復していった。

 

「(くっ・・・!こうなったら、最後の手段に出るしか無さそうですね・・・)」

 

レイは自身の動きづらくなっていく体の状況を感じながら、思いついた事の実行を考えるのであった。




次回でこの戦いも終わりとなり、その後にまたネプらじ回をやってから最終回で本小説は完結になります。
アニメ13話の部分は週一どころか月一になる可能性も大きくなりますが、やっていきたいと思います。

完結まであと一歩の段階になりましたが、それでも楽しんで頂ければ幸いです。


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66話 終幕と別れの時

今回でこの最終決戦は終わりとなります。


プラネテューヌの上空で行われている戦いは、一気に女神たちの優勢へと変わった。

シェア収集装置の破壊による吸収した分のシェアが消滅、セリカの持つ『秩序の力』による女神たちの強化とマジェコンヌらの弱体。更には5pb.の歌でセリカの持つ力の影響を更に強めると言う三段構えがほぼ全てを物語っている。

 

「・・・ええい、邪魔をするなッ!貴様らに纏わり付かれては奴らを止められもせんだろうがッ!」

 

「そんなことはさせないわ・・・。何としても、あなたたちはここで止めて見せるわ!」

 

ネプテューヌが刀を振り下ろしてきたので、マジェコンヌは槍を横にして受け止める。

動きを悪くされたのが響いており、先程までは有利を取れた状況では不利にされてしまう事態に陥っていた。

また、自身の動きが悪くなったことで、更に悪い事態は増えていた。

 

「くっ・・・避けるだけでも手一杯になるなんて・・・!」

 

「みんな、このまま続けるよ!」

 

「さっきまでのお礼・・・たっぷりとしてあげるわよ!」

 

レイはマジェコンヌが苦しそうなので、救援の為杖からビームを放とうとするが、女神候補生たちによる遠距離攻撃に阻まれてしまう。

先程まで平気だったのに、今回はダメになってしまった理由としては、ビームを放つまでに必要な時間が伸びてしまったことにある。

シェア収集装置が生きている時はノンチャージで撃てたのが理由で妨害を受けることは無かったが、今は僅かな時間のチャージが必要となり、その時間が女神候補生たちに付け入る隙を与えてしまっていたのだ。

 

「候補生のみなさんだけではありませんわよ・・・!」

 

「(あの手段を使うなら、マジェコンヌさんをここから遠ざけないと・・・!)」

 

女神候補生たちが作ってくれた隙を逃さず、ベールが追撃をして来たので、レイは防御してやり過ごすしかなかった。

その後もどうにかして押し返せば、今度は女神候補生が遠距離攻撃で彼女らをサポートするので、ジリ貧な状況が続いてしまう。

迷っていればこちらに勝ち目は一つも無くなるから、実行するなら速く実行したいのだが、タイミングを見誤ればマジェコンヌを巻き込んでしまうものであった。

それ故にレイは焦り、必死に物事を考える。

 

「(ダメもとでこれはどうですか・・・!?)」

 

「させませんっ!」

 

レイも杖からビームを放ってセリカを狙うが、今度はネプギアがM.P.B.Lから放ったビームでそれを阻んだ。

これによって、レイは迷っている場合じゃないことを認識する。

 

「マジェコンヌさん!私が時間を作るので退避してください!」

 

「何!?しかし、それではお前が・・・!」

 

レイがマジェコンヌに促せば、マジェコンヌは大きく動揺した。

それもそのはずである。何しろ今この段階でマジェコンヌが逃げるなどすれば、それこそレイが八人に取り囲まれてあっという間に打ち負かされる未来が見えてしまっているのだ。

 

「大丈夫です。一つだけ、この状況を打開する方法がありますから・・・」

 

レイが笑みを見せながら言い切ったので、マジェコンヌは押し黙る。

ならば自分も手伝うことを伝えようとしたのだが、言い出す前にレイが「ですが・・・」と前置きを作った。

 

「その方法は範囲が広すぎるせいで、マジェコンヌさんを巻き込んでしまうんです。範囲はこのプラネテューヌ内に納めますから、マジェコンヌさんはどうか安全な場所に離れてください。それが・・・私にとっては一番嬉しいお手伝いです」

 

「・・・・・・」

 

レイが強がりを言っているのと、それが事実であることが分かってしまったマジェコンヌは、数瞬の間硬直する。

―また失うのか?私たちからどこまで奪えば気が済むんだ!?しかしながら、これ以上はどうすることもできないと分かっていたマジェコンヌは、虚空に向けて己の悔しさ込めて叫んだ。

 

「ならばレイ、死なずに戻って来いッ!それが絶対だからなッ!?」

 

「分かりました。ちゃんと戻ります」

 

「その言葉・・・忘れるなよ」

 

レイに口約束をもらえた事で一先ず納得したマジェコンヌは、身を翻してこの空域から離脱を始めた。

この時セリカと5pb.を狙ったところでナインに防衛されてしまうのが目に見えていたので、手を出すことはせず離脱を最優先した。

 

「よし・・・これなら使える。マジェコンヌさん、本当にすみません・・・この方法は、本当に私一人にならないと使えないものですから・・・」

 

レイは離れて行くマジェコンヌを見ながら詫びを入れ、女神たちを見据え直す。

良くて自分は暫く動けない程のダメージ、最悪は死ぬかもしれないこの博打だが、女神たちを倒すにはこれしかないのが悲しいところであった。

 

「・・・マジェコンヌが逃げる?」

 

「追わせませんよ?いえ・・・私を止めざるを得ない状況にします」

 

「止めざるを得ない状況?一体、何をするつもりなの?」

 

マジェコンヌ飛び去っていくのに違和感を感じたブランがどうしようかと考えていたところ、レイが宣言して遮った。

何をするのかを気になったネプテューヌが問いかけると、レイがとんでもない回答を残すのだった。

 

「私は今から、この国全域が範囲になる・・・自爆も同然の攻撃を行います。これなら、貴女たちもこちらを止めなければならないでしょう?」

 

『・・・・・・!?』

 

レイのまさかの宣言に全員が絶句する。

そんなことをされてしまえば、シェルターに退避した人たちにすら被害が及んでしまうので、マジェコンヌを追っている場合では無くなる。

レイ自身成功しようとしまいと、マジェコンヌを逃がせれば良いのでそのことは大して気にしていなかった。

そこまで考えを纏めたレイは、自身に残っているシェアエナジーを収束し始めた。

 

「なっ・・・!?アイツ、正気なの!?」

 

「ど、どうしよう・・・!このままじゃ大変なことになっちゃう!」

 

「・・・関係ない人も巻き込まれる・・・!」

 

「(キセイジョウ・レイの最終手段・・・。女神たちで力を合わせれば止められるかも・・・)」

 

全員が焦りの色を示す中、ネプギアは一度今の状況を考えれば止められるかもしれないと考えた。

また、その時にラグナがいればより確実であることも、何となくではあるが理解していた。

それも全て、レイが己に収束させているものがシェアエナジーであることが分かったからである。

 

「あの・・・!一つだけ止められる方法があるんですけど、聞いてくれますか?」

 

「・・・ネプギア?良いわ、その方法を教えて」

 

「その方法だけど・・・」

 

ネプギアの問いかけには真っ先にネプテューヌが肯定し、もう全員の反応を待っている余裕も無いので、先に話しを聞くことにした。

そして、ネプギアが答えた提案に全員が驚きの声を出す。

 

「方法としては結構博打に近いわね・・・」

 

「でも・・・これが一番、一般市民たちを護りやすいわ」

 

その方法はまず初めにレイを自分たちで取り囲み、今ここにいる全員分のシェアエナジーを用いて彼女が放出しようとしているシェアエナジーを相殺することにあった。

失敗した場合は自身らもプラネテューヌと運命を共にしなければならない為、シャレにならないリスクがあるのは事実だが、同時に最もレイから市民を護りやすいものでもあった。

あまりにも危険が大きすぎることと、レイが今もこうして行動を始めているせいで迷っている時間が無いのも大きい。

 

「この際だ・・・迷ってる暇なんてねぇと思う」

 

「そうですわね。私も、希みがあるならそれに賭けますわ」

 

「アタシもですっ!考えてる時間も無いし、それしか無いと思います」

 

「「私もっ!」」

 

ブランが賛成の意を示せば、ベール、ユニ、ロムとラムの順番で賛成する。

それを見たノワールも、「こうなったら腹を括るわ」と宣言したことで、全員が賛成となった。

そして、やることが決まるや否、八人でレイを取り囲み、全員で手を繋いでレイを中心とした輪を作る。

 

「・・・なるほど。では、どちらが上から試して見ましょうか!」

 

「みんな、ここが正念場よ!」

 

「大丈夫・・・みんなとならできる!」

 

彼女らの意図を理解できたレイは、更にシェアエナジーを収束させる。

対する女神たちはネプテューヌとネプギアが順番に促すと同時に、シェアエナジーを集め始める。

 

「ラグナ、聞こえる!?私の言う場所に急いで向かって欲しいの!」

 

『その位置なら15秒ありゃ行ける!ちょっと待ってろよッ!』

 

また、彼女らの行動を見たナインはネプギアの意図に気づいていたが故に、ラグナへと即座に術式通信を繋いで事を伝えてくれる。

幸いにもラグナはすぐに行ける場所にいた。そのことがネプギアたちに一つの安心感を呼び起こした。

15秒ぴったりで現場に到着したラグナは、すぐにネプギアの真後ろについて、準備を始める。

 

「(私が望むのは・・・『市民たち(みんな)を護れた未来』!)」

 

「(俺が望むのは・・・『女神たち(アイツら)が生きて戻ってくる未来』!)」

 

ネプギアとラグナは同時に、『蒼』へ向けて自分たちが望んだ可能性を告げる。

その瞬間、ラグナの右手の甲と、ネプギアの胸の前から蒼い光が現れ、それが二人の間を輪のように光の線となって繋いだ。

 

「さあ・・・貴女たちの可能性を見せてみなさいッ!」

 

収束させたシェアエナジーが臨界に到達したレイが、女神たちに促しながら溜めこんでいたシェアエナジーを放出する。

紅い光をした暴力的なエネルギーが柱状となって広がろうとしていたが、それを女神たちが集めたシェアと、二人の『蒼』で作った見えない光の壁が受け止めて、女神たちに届く寸前で食い止めている。

 

「大丈夫。私は・・・私たちは負けない・・・!」

 

ネプギアが押し殺すように言ったその言葉が皮切りとなるかのように、他の女神たちも胸の前辺りから自分の国の色に合わせた光のが現れ、それが自身たちの作り上げた光の壁を強くする。

これの直後、レイの放出した光が無理矢理外へ広がろうとするが、女神たちが作った光の壁も強くなっていたお陰で食い止められる。

やがてレイの放出した光が行き場を失い、その場で大爆発を起こした。

 

 

 

 

女神たちの作り上げた光の壁に抑えられたまま―。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「うっ・・・んぁ?」

 

体を打ち付けられた痛みに呻き声を上げながら、ラグナは目を覚まして体を起こす。

目を覚ますと、そこには自身の近くの地面がひび割れている状態が広がっているが、背後のシェルターは無事であることから、レイの自爆まがいの攻撃を押さえきれた事が伺えた。

 

「・・・!そうだ、アイツらは無事か!?」

 

確かに『蒼』で女神たちが生存する未来を望みはしたものの、彼女らの姿が見当たらないので確認が取れないでいる。

その為ラグナはすぐに彼女らのいた場所へ移動して確認を取りに行くと、先程起きた爆発の反動で、変身が解けた状態で倒れている彼女らの姿があった。

 

「お、おい・・・!大丈夫だよな・・・?」

 

ラグナは不安になってネプギアの首筋に手を当てて見ると、脈を打っているのが伝わってきたので、彼女は無事であることが判明した。

その後も続けざまに全員の首筋に手を当てて確認し、全員が無事であることを確認したラグナはそこでようやく胸をなでおろした。

 

「全員無事か・・・それが起こり得る可能性があればこそだよな・・・」

 

ラグナが可能にしたいと願った『女神たち全員が生存する可能性』。それが僅かにでもあったからこそ実現できるものであった。

また、嬉しい情報はこれだけでは終わらず、術式通信が来たのでラグナはそれに応じる。

 

「俺だけど・・・どうした?」

 

『繋がった・・・!セリカと5pb.は私が咄嗟に逃がしたから無事だけど、女神たちは大丈夫?』

 

「ああ、全員無事だ。そういや、シェルターの方はどうだ?俺より後ろには被害が行ってねぇから大丈夫だと思うんだけどよ・・・」

 

『ええ。国内の被害は増えてしまったけど、市民は全員無事よ』

 

飛ばしてきたのはナインであり、近くにいたセリカと5pb.、自身の三人とその他一般市民たちが無事であることを伝えてくれた。

ここまで無事であることが分かれば、残りは外にいた人たちだけである為、全員に一斉で術式通信を飛ばした。

 

「おいお前ら・・・全員無事か!?」

 

『はい!ノエル=ヴァーミリオンは無事ですっ!』

 

『同じく・・・ラムダも戦闘終了からの損傷増加はゼロ』

 

『俺も無事だ!ラケルも俺んところにいる』

 

『私、アイエフもどうにか無事よ。アレを見た時は流石に冷や汗ものだったわね・・・』

 

『私も浮遊大陸から脱出に成功した。時期に合流する』

 

全員が無事であることが分かり、一先ず安心できた。

また、女神たちが順番に目を覚ましたので、「皆が目を覚ましたから、状況を伝えてくる」と告げてラグナは一度通信を切った。

 

「あ・・・ラグナさん」

 

「大丈夫だな?俺もそうだが、他のモンスター食い止めてたやつらも、一般市民たちも全員無事だ」

 

「・・・良かったぁ。私たちが望んだ可能性、両方ともあったんですね・・・」

 

気が付いたネプギアに事を伝えると、『私たち』と『両方』と言う単語が飛んできたので、ラグナはその言い方に察しが付く。

だからこそそれに頷いて肯定して見せると、ネプギアは互いが気づかぬ内にフォローしあえていたのが嬉しく感じて笑みを見せるのであった。

 

「立てるか?」

 

「あはは・・・ちょっと無茶し過ぎました。体借りますね?」

 

「ああ。今日くらいは構わねぇよ」

 

手を差し伸べて問いかけてみると情けない回答が返ってきたので、自分の左方を使わせてやることにした。

その好意に甘える事にしたネプギアは、立たせて貰った後思いっきりラグナの左肩に体重を乗せる形を取った。

 

「え、えっと・・・重く無いですか?」

 

「いや?そんなことはねえぞ」

 

思いっきり体重を乗せている状態になって気づいた事だが、それが不安になったネプギアは問いかけた。

しかしながら、ラグナもラグナで気を遣わせまいと真っ先に否定したので、ネプギアは安堵する。

最も、ラグナがこの場で重いと言ってしまえばそれは失言で、ネプギアも聞かなければ良かったと後悔するだろう。

 

「そう言えば、キセイジョウ・レイはどこに・・・?」

 

他の女神たちも体を起こすだけで精一杯な状態なのでそこまでに留め、辺りを見回して見る。

暫く見回していると、何か瓦礫をずらしていくような音が聞こえ、全員がそちらに注目をする。

するとそこには、瓦礫をどかしきってゆっくりと体を起こして立ち上がるレイの姿があった。

 

『・・・・・・!?』

 

「ま、まさか・・・これを阻止されるだなんて・・・。お見事ですね・・・」

 

彼女がまだ動けると言う事実に絶句したが、それも束の間、弱々しく称賛の言葉を送ったレイは、そのまま変身が解けて倒れそうになる。

しかし、彼女が真正面から地面にぶつかる直前に、突如として現れた巨大な鉄の腕に受け止められた。

何事かと思ってみて見れば、そこにはレリウスとイグニスがいた。

 

「此の様子・・・今から戻れば間に合うな」

 

レリウスは彼女の様態を確認して呟く。

その様子からして戦うつもりなどさらさらないらしく、それが分かったところで今動けない女神たちは警戒を続ける。

 

「此の度は面白いものを見せてくれて感謝するぞ。しかし、我々はまた機会を見つけて訪れると思っておいて貰おう。・・・時間が無い。では、また会おう」

 

そう告げてから転移魔法を使ってレリウスはレイとイグニスを連れて消えていった。

それから程なくして、浮いていた浮遊大陸はどこかへ飛び去って行く。それはつまり、この戦いの終わりを告げるものであった。

 

「終わったな・・・」

 

「はい。ようやく終わりましたね・・・」

 

飛び去っていく浮遊大陸を見送りながら、ラグナとネプギアは互いに確認し合う。

先程まで曇りきっていた空は、雲間から光が差し込み、段々と晴れていった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「すみませーん!この資材どっちに置けばいいんすかー!?」

 

「ああ、それこっちに持って来てくれー!」

 

戦いが終わってから、四ヶ国で協力し合ってプラネテューヌの復興を行っていた。

教祖間では「わざわざこうして貰って申し訳無い」とイストワールは言っていたが、他の三教祖が全員「事前に同盟の動きを察知し、自ら率先して引き付けてくれたのだから、これくらいの礼はさせてくれ」と言うニュアンスの回答を返して来たので、素直に受け取った次第である。

 

「あっ!こっちの資材必要としてる人いるから送ってくれるかー?」

 

「はーい!それじゃあ積み込み手伝ってもらいますねー」

 

また、復興の手伝いをしている人にはリンダも混ざっており、彼女は資材運搬の手伝いを行っていた。

女神たちの仲が条約を結んで以来非常に良くなっているのが現れたかのように、各国の人たちも分け隔てなく普通に接していたのである。

こうして四ヶ国全ての技術者や建築家の集まるこの空間には国間の距離感など無く、ただ平和と団結を強くするきっかけとなったプラネタワーを持つこの国を速く復興させたいと言う願いであった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ・・・お前らとはここでお別れだな」

 

復興を始めて数か月後。遂にプラネテューヌの復興が終わり、式典を一週間後に控えたこの日、周りの情勢が落ち着いたこともあって、ナオトたちは元いた世界に帰ることになった。

異世界組の中で残るのはラグナ、セリカ、ハクメン、ナイン、トリニティの五人。自分達の世界に帰るのはナオト、ラケル、ノエル、ニュー、ラムダの五人である。

 

「三人がいて賑やかだったのに・・・全員が帰っちゃうとちょっと寂しいわね」

 

ノワールの言うとおり、ラステイションにはノエルら三姉妹がいたことで賑やかになっていた。

仕事で毎日が多忙である中、彼女たちとの会話はそれなりに楽しく、時々手伝ってくれていた事に嬉しさを感じていたのもあり、尚更寂しさを感じるものであった。

 

「ニュー・・・本当に大丈夫?」

 

「大丈夫。もうあの時みたいに、全部が嫌いなニューじゃないから・・・向こうでも何か見つけてみる」

 

当時の事を知っているからこそ、不安に感じたユニが問いかけてみるが、その心配が無駄だと分かるくらい、ニューは明るい表情で前向きな答えを出した。

そんなニューの表情を見て、本当に助けられて良かったと全員が安心した。

 

《ナオト、向こうに戻ったら私が迎えに行くから待ってなさい》

 

「わかった。早めに来てくれよ?」

 

ラケルとナオトは元の世界に戻った時の事を話しておく。

ちなみに、ナオトの問いかけに対してラケルは「私を誰だと思っているのかしら?」と余裕そうに返して見せた。

 

「じゃあ開けるぞ。お前ら、向こうでも元気でやれよ?」

 

「はい。皆さんもどうかお元気で」

 

「皆・・・元気で」

 

「向こうでも元気にやっていくから、心配しないで」

 

「今までお世話になりました」

 

《この世界で過ごすのも楽しかったわ》

 

ラグナが促した後、ノエルたちが順番にそれぞれ別れの言葉を送る。

ラケルの言った言葉に全員が同意の表情をしたので、ゲイムギョウ界での生活はそれなりに満足できていた事が救いだろう。

帰る人たちが言いたいことを言えたのを確認したラグナは、手を触れて『門』を開いた。

元の世界に帰ることを選んだ五人は『門』の中に入り、それが閉じられるまでは見送りに来た全員の方へ振り向いた。

 

「元の世界でも、元気にやるんだよ~!」

 

ネプテューヌが代表して送る声をかけながら手を振り、殆どの人たちはそれに合わせて手を振る。

例外はハクメンとミネルヴァで、自分たちが手を振るのは合わないと分かっていた各々はサムズアップを見せて送るのであった。

少ししてから『門』は閉じられ、彼らはようやく元の世界へと帰還を果たすのであった。

 

「行ってしまったわね・・・」

 

「あの者たちはあれで良い・・・。本来の居場所があるのだからな」

 

ノワールが少し寂し気に呟くが、ハクメンの言葉を聞いた時は頷いて肯定の意を返した。

 

「さて、そろそろ行きましょう。私たちには、これからの事もありますから」

 

イストワールの言葉には誰も反論しない。

これから一週間後には復興した記念の式典があるので、その為のリハーサルも控えていたのである。

そうなればこれ以上長居している場合ではないとなった全員は、この場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「もう明日になったな・・・」

 

「早いですよね・・・あの戦いが終わってからもう数ヶ月経っているんですから」

 

元の世界にいる人たちが返ってから6日後。遂に式典を明日に控えたこの日の夕刻、プラネタワーの屋上でラグナとネプギアは外の景色を眺めていた。

戦いが終わった直後は荒れ果てていたプラネテューヌの国内だったが、今ではすっかりと元通りになっていた。

また、プラネテューヌ国内の復興事態は異世界組が帰還する三週間前には完了しており、ラグナとネプギアの二人は空いてる時間を使って二人きりで出かけたりと、少しづつ距離を縮めて行った。

 

「本当に色々あったな・・・一人の人として生きるようになったし、定職付けた訳じゃないが、真っ当に仕事できてるし・・・」

 

ラグナはこの世界に来てから自分の変化を思い返す。

あの時からすれば考えられない程変化しているのがこれでもかと言う程分かるが、それ以上に大きな変化は他にあった。

 

「よりによって俺が、誰かに恋心抱くとは思わなかったしな・・・」

 

「・・・・・・」

 

照れくさそうに笑うラグナに取って、これが一番の変化であった。

自分はこんなものずっと抱かないまま生きていくのかと思えばいつの間にかこうなっていたので、我ながら何が起きるか解らないなとラグナは改めて実感する。

ちなみにこの時、ネプギアはラグナが好きになった相手が自分で無いならどうしようと言う後ろ向きの感情が現れ、聞くのを躊躇ってしまう。

 

「気になるか?」

 

「・・・気になるんですけど、ちょっとだけ・・・怖いとも思うんです」

 

「そうか・・・」

 

そんなネプギアの反応を見たラグナは、これはいっそのこと自分から伝えた方が良いだろうと思って、「ならここで伝えたいこと伝えるよ」と言って話しを切り出す事にした。

 

「俺の好きになった人って言うのはな・・・」

 

「・・・!」

 

まさか伝えたい事がそれだとは思わず、ネプギアはその場で硬直する。

―本当に自分じゃなかったらどうしよう?ネプギアの思考はそれに支配されてしまったのである。

確かに気になる事ではあるが、いざという時の事を考えると聞きたくない。そんな相反する感情でせめぎ合う事が一瞬のようで永遠とも思えたかも知れない状況を感じ取るが、それはラグナの回答によって氷解することになる。

 

「ネプギア、お前なんだ・・・」

 

「・・・・・・えっ?」

 

ラグナの答えを聞いたネプギアは、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

まさかその相手が自分であったとは夢にも思っておらず、それ故に反応が遅れてしまったのである。

 

「えっと、その・・・私の事が好きだって言うのは・・・妹だからとか・・・そう言うことじゃ・・・ないですよね・・・?」

 

ネプギアは確かに『ネプギアとして(今まで通りに)』生きる事を決めているが、どうしてもそれが引っかかってしまっていたのだ。

事実、ラグナも自分がサヤに対してはかなり甘えさせていた事は自覚しており、その部分は絶対に解決させなければならないとは常々思っていた事だった。

 

「んな訳あるか。俺はな・・・一人の女の子としてお前が好きなんだよ」

 

「・・・・・・ラグナさんっ」

 

その言葉を聞いて嬉しさのあまり涙が出てきてしまったネプギアは、走ってラグナの胸に飛び込んだ。

一瞬それに驚きはするラグナだが、大して体制を崩す事は無く、そのまま抱き止める。

 

「私も・・・私も、ラグナさんの事が好き・・・好きなんです・・・!」

 

「・・・・・・」

 

どうして涙ながらに抱きついて来たのか、ネプギアの告白でその意味を理解したラグナは、数瞬の硬直から復帰して穏やかな笑みに表情を変える。

 

「どうなるかと思ったけど、安心したぜ・・・」

 

「それは私もですよ・・・」

 

互いに安堵した旨を伝えてから、顔を見合わせる。

この時ラグナとネプギアは、自分の見つめている相手が他の何よりも綺麗に思えていた。

 

「これからも、末永くよろしくお願いしますね?ラグナさん」

 

「ああ。末永くよろしくな、ネプギア」

 

互いに心を通わせた二人は、夕焼けが差し込むプラネタワーの屋上で唇を重ねるのであった。




少々駆け足な感じになってしまいましたが、これで最終決戦とお別れ、ラグナとネプギアの恋の行方の三点を纏めて終わりにさせていただきます。

残すのはネプらじ回と、最終回のみになりました。
私の今後の予定などは、次回のネプらじ回で軽く話させて頂こうとかと思っています。

最後の2話分も楽しんでいただけたら幸いです。


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ネプらじ回

話数が少なすぎる建て前、NGシーンはカットです・・・お許しを(泣)。


右から画面の中央へ、左から画面の中央へ、上からから画面の中央へ、デカデカと「ネプらじ」と書かれているロゴが現れる。

右から出てきた時にノエルが「ネプらじ」と言い、左から出てきた時にネプテューヌが「ネプらじ」と言い、最後の上から来た時にこの場にいる四人全員で「ネプらじ」と言う。

 

「はいっ!ようこそ『ネプらじ』へ!司会というかパーソナリティは私、ネプテューヌと!」

 

「ネプギアと!」

 

「ラグナ=ザ=ブラッドエッジと!」

 

「ノエル=ヴァーミリオンでお送りします!」

 

各自が順番で自己紹介していく、並んでいる順番は左から順にノエル、ラグナ、ネプテューヌ、ネプギアである。

 

「さて、この『ネプらじ』どんな番組かと言いますと!本小説『超次元ゲイムネプテューヌ-DIMENSION TRIGGER-』の各章終わりに章ごとにピックアップした場面を簡単に振り返って行くのと同時に、今後の展開の方針などを話していく番組になります!」

 

「今回も、BLAZBLUE側とネプテューヌ側から一人ずつゲストが来ています!」

 

前回と同じように自己紹介が終わった後、ネプテューヌが明るさを全開にして説明を行い、ネプギアが補足説明を行う。

 

「それでは早速ゲストをご紹介しましょうっ!」

 

「まずBLAZBLUE側より、短時間で『スサノオユニット』による圧倒的な力を見せつけてくれた・・・テルミ!」

 

「章の終わりごとにこんなことやってたんか・・・取り敢えずよろしく頼むぜ」

 

毎度のようにノエルが前振りをし、ラグナによって紹介されたテルミは、今まで現場を知らなかったが故の感想を呟きながら挨拶をする。

 

「続いてネプテューヌ側です!」

 

「ネプテューヌ側からは、クロスオーバーだからと言わんばかりにBLAZEBLUE側の技コピーしちゃったマジェコンヌ!」

 

「お前・・・ちゃんと私の名前を言えるではないか・・・。まあ、よろしく頼む」

 

ネプギアの前振りに続いてネプテューヌに紹介されたマジェコンヌは、呆れ混じりに突っ込みを入れてから挨拶をする。

この時、ネプテューヌはわざと自分の名前を変に言っていたのではないのか?とマジェコンヌが考えてしまうのも無理は無いだろう。実際のところ、途中からは呼ぶ機会すら無くなっていたのだが・・・。

また、例の如くこの二人には「ゲストとして来て欲しい」とだけ伝えてあるのだが、思った以上に平然としていた。

 

「さて、それじゃあ早速見ていきましょう!まずはこれっ!」

 

そんなマジェコンヌの思考などいざ知らず、ネプテューヌは合図を出してモニターに『55話 決戦に備えて~59話 同盟の急襲、決戦の始まり』と映し出させた。

 

「おおっ!?今回は大分纏めて出してきたねぇ・・・」

 

「普段はそうでもないのか?」

 

「今までは出しても4話分までだったんですけど・・・5話分をいっぺんに出すのは今回が初めてですね・・・」

 

ネプテューヌのリアクションに反応したマジェコンヌが問いかけ、ネプギアがそれに答える。

確かにこのネプらじ、今までのピックアップで同時に出したのは4話分までである。

 

「まあそんなことよりも内容だ。大まかに言えばプラネテューヌ国内での戦いが始まるまでだな」

 

「この時、協力側の陣営にはトリニティさんが加入して・・・」

 

「俺ら敵対同盟の陣営ではレイが記憶を取り戻す場面があったな」

 

ラグナが話しを切り出したことで、ノエルとテルミが互いの陣営に何があったかをまとめ始める。

トリニティは敵味方問わず最後の加入者である。ちなみにゲイムギョウ界と異世界問わずで同盟側最後の加入者はレイ、協力側はトリニティになる。

 

「戦いとは少し外れるけど・・・これも注目かな?」

 

「あぅ・・・そのシーンを持って来られると・・・」

 

「おい・・・何で俺の分まで持ってきた?」

 

ネプテューヌの一言によって、モニターにはラグナとネプギアの二名が恋心を自覚するシーンを映し出された。

それを見たネプギアが赤面しながら顔を隠し、ラグナはジト目になりながら問い詰める。

 

「・・・嘘?私、両方とも知りませんよ?」

 

「ん?ああ・・・。今メモを見せてもらったが、ネプギアの分を知るはネプテューヌただ一人、『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』の分を知るのはハクメンとナインの二名だそうだ」

 

ノエルが困惑する最中、メモを見せて貰ったマジェコンヌが状況を説明する。

実際に情勢が情勢だったので、それを知る人が全くもっていなかったのである。

 

「・・・んぁ?セリカ=A=マーキュリーはラグナちゃんの事情を知らねぇのか?」

 

「この時はハクメンとナイン、俺の三人でお前のことでどうするか話したついでだったからな・・・」

 

テルミが気になってラグナに聞いてみたところ返ってきた回答で、「ああ・・・そりゃ知る余地もねぇわな」と納得した。

まさか自身の対策のついでにそんな話しが起きる・・・しかもラグナから持ち出されるとは、流石にナインも予想していなかっただろう。

 

「すまねぇマジェコンヌ・・・ここが俺ら最大の過ちだわ」

 

「お前だけの問題ではなかろう・・・流石に私たちも甘く見積もりすぎた・・・」

 

テルミは己が仲違いしていると勘違いしたシーンをモニターに映し出しながら詫びる。恐らくここに気づければまだ変わっていたかも知れないと、今では悔やむばかりである。

マジェコンヌも、自分たちが変わっているのに相手も変わっていると考えれば、もう少し慎重になれただろうと悔いた。

 

「ちなみにここ・・・私は素で焦ってたよ・・・」

 

「アドリブでしたね・・・いきなり武器を持っままプラネテューヌまで来るの・・・」

 

ネプテューヌが脱力気味に言ったので、ノエルもそれには同情する。

演技とは言え、いきなり殺意増し増しの状態でプラネテューヌに乗り込んでくるとは思わなかったのである。

その結果、レリウスすら出し抜くことに成功したため、結果オーライではあるが・・・。

 

「しかしまあ・・・貴様らがこんな策を練るとは思わなかったぞ」

 

「こっちもお前らが『スサノオユニット(こんなの)』を用意してくるとは思わなかったけどな・・・」

 

マジェコンヌが仲違いの振りを予想外だと言えば、ラグナも『スサノオユニット』を自前で制作していたのを予想外だと言う。

前者は本章序盤にて違和感を感じたが故の行動、後者は前章から前々準備を進めていたものである。

 

「ちなみに前章から真面目な生き方に更生を始めたリンダさん・・・こうなっています」

 

「ラグナさん・・・良いカウンセラーになりましたね」

 

「俺はそんなつもり無かったんだが・・・まあいいか」

 

前章にて、ラグナに諭されたリンダは、本章にて真っ当な生き方をしている。

この時はまだ日雇いやそう言ったものの仕事ではあるが、その内正式な職に就く日も遠く無いだろう。

 

「前章から仄めかした『スサノオユニット』の披露もできたのはオーケー。その先はこっちで話そうか」

 

少しの間だけ『スサノオユニット』を纏った姿のテルミを映してから、彼の声に合わせてモニターには『60話 God of War(前半)~62話 囚われる蒼』と表示された。

 

「これはプラネテューヌ国内での戦いが中心だな・・・」

 

「後、ネプギアが連れて行かれちゃった場面だね・・・」

 

ラグナに続いてネプテューヌが言ったのに合わせ、モニターはネプギアの首を掴む、『スサノオユニット』を纏ったテルミの姿を映し出した。

 

「まあ、俺らはここまでなら何ら問題無かったんだよ」

 

「そうだな・・・お前はあの三人相手に優勢を保ち、私はレイと共に八人をどうにかして相手取っていたからな」

 

テルミとマジェコンヌはお互いに上手く行ったのを見てニヤリとする。

戦いの前半は、全体的にマジェコンヌら同盟側が有利を保っていたのである。

 

「ここはテルミが『資格持ち』。ネプギアが『蒼を保有してる』から突破ってことで大丈夫?」

 

「ああ、そこは問題ねぇ」

 

―読みが当たってしてやったりだ。ネプテューヌの問いに答えながら、テルミは喜びを言葉にする。

実際のところ、洞窟内で出てきた少女が直接条件を言い渡したのはラグナただ一人で、同盟側には情報が回ってないが故にテルミにとっては博打に近い行動となったのである。

 

「それにしても・・・この数話の間は完全に圧倒されちゃったよね・・・」

 

「ラグナさんやハクメンさんが束になっても、『スサノオユニット』を纏ったテルミはものともせず圧倒していましたね」

 

「他にも、マジェコンヌとレイの二人相手も八人掛かりなのに押しきれませんでしたね・・・」

 

ネプテューヌのげんなりとした様子で言った感想にはノエルが同意する。

また、ネプギアの言った通りに女神たちも余り良い戦績を出せなかったのである。

 

「すみません・・・私が捕まったことで、皆さんには負担を掛けてしまいました・・・」

 

「気にしない気にしない!最後は戻って来たんだから、結果オーライだよっ!」

 

モニターにテルミに首根っこを掴まれて気を失った自身の姿が映されたので、ネプギアは申し訳なさそうに謝罪する。

対するネプテューヌは、戻ってきてくれた・・・つまりは最悪の事態を避けられたので何ら問題無かったのだ。

 

「章が短いのでそろそろ終わりが近づいて来ました・・・次はこちらです!」

 

ノエルが合図を出し、モニターには『63話 Fatal Judge~64話 蒼の次元渡航者(ディメンショントリガー)』と映された。

 

「俺とテルミがケリを付ける回だったな」

 

「いや~アレはしてやられたわ・・・二回も同じ手段でやられるんだぜ?」

 

ラグナとテルミが戦っているシーンを映し出されるも、テルミはげんなりとした。

どうやら彼に取って、二回とも同じ手段でやられたのは大分堪えているらしい。

 

「アレかな?テルミを『スサノオユニット』から引きはがすシーンとテルミに決定打を与えたシーンは、アニメで言うところの敢えてそうしたバンク的なやつかな?」

 

「ネプテューヌら女神どもが変身するシーンも該当するな・・・」

 

ネプテューヌはモニターに自分の言ったシーンが映されたので、それを見ながら疑問符付きで呟き、マジェコンヌは彼女らの変身する瞬間の映像を映しながら、これも当てはまっていることを告げる。

別作品になってしまうと、前作主人公が自分の大切な人が狙われたので、もう一度巨大兵器に乗って出撃したシーンであったり、とあるカードゲームで、そのユニットに憑依(ライド)した時のシーンなどが該当するだろう。

 

「マジェコンヌさん・・・何気にネプテューヌ側で一番クロス要素貰っていませんか?技とかそちら側で」

 

「・・・ん?ああ・・・その辺りは確かに私が一番多いな」

 

マジェコンヌがバタフライナイフを手に取ったシーンを見ながらノエルが問いかけ、マジェコンヌは思い出しながら肯定する。

何気に本小説のマジェコンヌはラグナの武器を模倣してデッドスパイクを放ったり、ハクメンの『斬魔・鳴神』を模倣して雪風を放ったりと、BLAZBLUE側の技をコピーして戦うシーンが度々見受けられていた。

ちなみに自身の招待にまで至る所ネプギアになる。流石に本小説にある他のクロス要素の比では無いだろう。

 

「さて、次でまとめは最後になるか・・・次はコレだ」

 

ラグナが合図を出せば、モニターには『65話 残された者たち、近づく決戦の終わり~66話 終幕と別れの時』と映し出された。

 

「これでようやく決着が付きますね・・・」

 

「二度ならずして三度までも・・・何とも歯がゆいものだ・・・」

 

安堵するノエルに対し、マジェコンヌは頭を抱えた。せっかくあれ程対策したと言うのに、こうまでやられてしまっては世話ないだろう。

 

「・・・ありゃ?何気にレリウスが、初めてハッキリとした被弾をしてるな」

 

「あ、ホントだ・・・今まではなんだかんだ言って避けたり防いだりしてたもんね」

 

テルミがモニターに映された画面に気付き、ネプテューヌも今までのレリウスの戦績を思い出す。

確かにレリウスは、ナオトに攻撃を受けるこの時までは一度も直撃を貰っていなかったのである。となれば、ナオトはかなりの快挙を上げたと言えるだろう。

 

「しかしながら、今回は我々へのデバフが倍プッシュされていたな・・・」

 

「私も・・・マジェコンヌみたいになったら嫌かな・・・」

 

「・・・・・・」

 

マジェコンヌの頭を抱えながらこぼした溜め息交じりの言葉を拾い、ネプギアは自分がそうだった時の事を考えて顔を青くする。

ちなみにテルミに至っては自身が他の誰よりも悪影響を受けるので、右手を突き出しながら吐き気を訴えるような様子を見せて「この話題は止めてくれ」と言う趣旨を伝えた。

流石にそう言われれば止めざるを得ず、全員が無言で素早く二回程首を縦に振るのであった。

 

「それはそうとこの場面・・・確かに俺も自分がナインちゃんだったらハクメンちゃんに頼むかな」

 

「ああ・・・私もそうするかな・・・だって、向かない人たちと消耗激しい人だし」

 

ハクメンが浮遊大陸に乗り込んだシーンを見ながら感想を述べたテルミに、ネプテューヌも同意する。

あの場面はハクメンが最も適任だと言うのは味方視点になれば共通であるようだ。

 

「アイツ・・・ちゃんと働けてんだな」

 

「こうして見ると、結構楽しそうに働いてるんだよね~」

 

リンダが復興活動に協力しているシーンが映し出され、ラグナとネプテューヌが感慨深い思いをした。無論その中にはネプギアも含まれている。

実際にR-18アイランドで彼女の更生し始める瞬間から見ていた三人は、今回の為に話だけ聞いている三人と比べてその感情が大きくなっているのである。

また、復興が終わった後、リンダはラステイションで居住できる住まいを確保し、現在は建築系の職に就く為に絶賛勉学兼研修中である。

 

「ノエルさん・・・向こうでも元気でいてくださいね」

 

「うん。ネプギアちゃんたちも、体に気をつけてね」

 

ノエルたちが『門』を渡って元の世界に帰るシーンが映し出され、彼女とネプギアは互いに思いやりの言葉を送る。

この後ナオトとラケルは異能が潜んでいるものの、それ以外は普通の生活に、ノエルたちは教会での暮らしに戻ることになる。

最大の違いと言えば、ニューが五体満足な状態で、それも今までの散々嫌っていた世界に希望の目を持って生きることにある。彼女が幸福に生きられる事を願わずにはいられなかった。

 

「そう言えばネプテューヌさん。私たち、ラグナさんとネプギアちゃんに伝え忘れてることがありましたよね?」

 

「ああ、そう言えばまだ伝えて無かったよね。じゃあ今伝えちゃおうか!」

 

「伝える・・・?テルミ、何か聞いていたか?」

 

「いや。俺は聞いてねぇが・・・何を伝えんだ?」

 

ノエルの問いかけで思い出したネプテューヌと、何が何だかさっぱりわからないマジェコンヌとテルミ。そしてなぜ自分なのかと頭の上に疑問符が出ているラグナとネプギアと言いう構図になった。

一先ずラグナとネプギアの二人をよそに置き、テルミにはノエルが、マジェコンヌにはネプテューヌが耳打ちで事情を伝えると、伝えてもらった二人は一瞬目が点になるもそれに乗ると言う意思を示すべくニヤリとした表情になった。

 

「ラグナさん」

 

「ネプギア」

 

「「「「末永くお幸せに」」」」

 

「「・・・・・・!?」」

 

ノエル、ネプテューヌの順番で伝える相手の名前を呼んでから、最後に四人で伝えると同時にモニターで2人が唇を重ねているシーンを大々的に映し出した。

それを見た二人は驚きの余り、椅子からしまうのであった。その際二人には「何故それを公開したんだ」と言いたげな顔をしていた。

 

「さて、確認は終わったから残りは今後の予定だね」

 

「まず初めに、本小説は次が最終回になり、最終回が終わった後はアニメ13話の話しをゆっくりでいいからやっていこうと思っています」

 

ネプテューヌが話しの切り替えを促して、ネプギアが説明を行う。

本小説は最終回の後、アニメ13話の話しを書いて完全に完結となる。

 

「ところで、続編をやって欲しいと言う声があったのだが・・・これはどうする?」

 

「やれたらやりたいっては言ってたぞ・・・とは言え、シナリオをしっかり考えないと大変な目に遭うから、その練り合わせでどれだけ時間を食うかだな・・・」

 

「そういや作者のやつ、もう別作品のシナリオプロット出来上がってるとか言ってたな・・・だから話の内容出来上がっても、そっちが終わんねぇと始められねぇだろうな。作者の場合、小説を二つ一辺には書けねぇだろうし」

 

マジェコンヌの問いにラグナが答え、それを聞いたテルミが思い出したようにサラッと発言する。

作者が既に新作の予定が出来上がっていると言う事には全員が驚いており、目を一瞬だけ点にした。

 

「ちなみに・・・いつ頃新作は連載予定なの?」

 

「年明けからやろうかと思っているそうだよ」

 

ネプテューヌの問いには教えてもらっていたネプギアが答え、それを聞いてテルミがハッとした表情になる。

 

「ああ・・・そう言うことか、作者がこの小説書いてる途中で某カードゲームや音ゲーに手を出してたりしたのは・・・」

 

テルミは「次回作絶対に出番ねぇの分かってるから、その辛さや退屈さ先延ばしにしてくれんのは構わねぇんだけどよ」と、それなりに肯定的だった。

続編を考慮してくれているだけでも十分なのである。ならば、今は作者が新作でも頑張ってくれる事を祈ろうとテルミは考えたのである。

 

「そう言えば作者のやつ・・・次回作はタグだけ見たら地雷に見えそうだと不安視していたな・・・」

 

「だ、大丈夫ですよ・・・きっと・・・」

 

マジェコンヌの言葉を否定しようとしたノエルだったが、少しだけ自信を無くした。

本小説が初回作であった作者なのだが、取り入れられるだけ取り入れようとしてキャパシティーオーバーを起こした前例がある。

一応、予め流れを作り上げ切っているので、本小説程その心配はないのが救いだろうか。

 

「新作の方も連載を始めたら活動報告かアニメ13話分を書いている途中に後書きで伝えると思うので、その時はよろしくお願いします!」

 

「よし!伝えることも伝えたからここらで終わりにしよっか。ここまでお相手はネプテューヌと!」

 

ネプギアと!」

 

「ラグナ=ザ=ブラッドエッジとッ!」

 

「ノエル=ヴァーミリオンと!」

 

「マジェコンヌと」

 

「ユウキ=テルミでお送りしたぜぇ」

 

そして、最後は六人で『最後までよろしく~』と言いながら手を振る姿がフェードアウトしていく形で、この番組は終了を告げた。




少し短くなりましたが、これにてネプらじ回は終了となり、残すのは最終回ただ一つになりました。

次回作の予定としては『BanG Dream(バンドリ)!』の世界に『ヴァンガード(カードのみ)』を混ぜ込んだものをやる予定でいます。

最終回が終わった後は予告通りゆっくりでも良いのでアニメ13話分をやっていくつもりです。


残す最終回も付き合って頂ければ幸いです。


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最終話 それぞれの未来へ

最終回です


「うおぉぉッ!?」

 

ゲイムギョウ界にある『蒼の門』を使わせてもらったナオトはそれを渡るや否、早速上空から落下していた。

―どうして俺だけ毎回こうなんだよ!?そう問いただしたいところであったが、それに答えられる人など一人もいない。ラケルも日付のずれは少な目に抑えてくれると言ってはいたものの、流石に落下をどうこうできるとまでは言ってなかったので仕方ないだろう。

そんな風に考えている間にも、視界には次々と建物が入って来て、自身の真下には廃工場であろう建物を証明するように脆そうな建物が見えていた。

 

「ま・・・」

 

もうじきぶつかる。身体強化の恩恵で死ぬことは無いだろうが、それでもぶつかることは確かなので、ナオトはそれ以上無駄な抵抗をしない代わりに自分の胸の内を叫ぶことにした。

 

「またこうなるのかよおぉぉぉおおおおぉぉおおッ!?」

 

ラグナがいた世界に飛ばされた時も、ゲイムギョウ界に落ちていった時も、そしてこの世界に来る時も。全て上空から落ちていたナオトの心からの叫びだった。

ただ残念なことに叫んだところで自身がその屋根を突き破って地面に落ちるのは、どう足掻いても避けようのない事態になっていた。

 

「うおぁぁぁぁあああぁぁああ!?」

 

抵抗の意味もなく屋根を突き破り、その下にあった鉄パイプの山に突っ込みながらナオトは地面に背中から激突した。

その影響で鉄パイプは宙を舞ってから転がり、地面からは盛大な土煙が巻き起こった。

 

「痛ててて・・・ったく。今度はどこだ?本当に戻って来れたのか?」

 

「その疑い・・・私を見れば晴れるかしら?」

 

「んあ?晴れるってなん・・・」

 

―なんでだよ?と続くはずのナオトの言葉は、聞きなれた声を掛けて来た主の姿を見て止まることになった。

腰まで伸びている金色の髪を高い位置でまとめ、その根本をぴんと立ち上がった黒いリボンで飾っている髪型と、その髪よりも豪奢な金色の瞳。

その少女が身に纏っているのは新川浜第一高校(しんかわはまだいいちこうこう)の冬用制服だった。

自分の知っている中で、どこか高貴的で落ち着きあるような声とそれにそぐわない顔たちをしていて、その高校の制服を着て、自身のことを知る女性の人物など一人しかいなかった。

 

「・・・ラケル・・・なんだよな?」

 

「あら?暫く違う場所にいたせいで忘れてしまったのかしら?疑うのなら、私の『数値』をその眼で見て見なさい」

 

半信半疑で問いかけたナオトだが、彼女から自身満々に問い返されてしまったので、確信することができた。

ナオトの目の前にいる人物こそ、ゲイムギョウ界では光の球体の姿となりながらも自身やアイエフの補助をしてくれた、ラケル=アルカードその人だった。

そして、そのラケルが自分に向けて右手を差し伸べたので、ナオトは予想外の行動に硬直する。

 

「お帰りなさい。ナオト・・・間髪無しで二回も異世界で行動したのは疲れたでしょう?特別に手を貸してあげるわ」

 

「・・・・・・」

 

手を差し伸べた理由を告げるラケルが優しく微笑んだのを見て、ナオトは改めて自身が元の世界に帰って来れたことを実感する。

それと同時に、普段はそっけ無かったり、何かとご注文の多いご主人様(ラケル)がこうして労ってくれたのを目の当たりにして、ラケルがこうしてくれるのを見れたなら、頑張った甲斐があったなと感じた。

 

「ああ・・・ありがたく借りさせてもらうよ。それとただいま、ラケル」

 

ナオトも笑みを返しながら右手で差し伸べてくれた手を掴み、そのまま引き上げて貰った。

ラケルに任せっぱなしで大丈夫だった理由として、彼女が吸血鬼として持っている恩恵のお陰であった。

 

「さあ、帰りましょう。事情は上手く誤魔化せたけど、ハルカが心配していたわよ?」

 

「ああ・・・そういや完全には同じ時間に戻れて無いんだったもんな・・・」

 

ラケルに言われて、ナオトは帰ってきて早々、自身の幼馴染みが涙目になりながら迫ってきそうな絵面を簡単に想像できた。

 

「(まあ、今日くらいは甘えさせてやってもいいかな・・・。俺が寝ちまったら明日とかにでもだな)」

 

心配してくれたり、自分の帰りを待ってくれる人がいるだけ全然大きいよな。そう感じながら、ナオトはラケルと共に改めて帰路に着くのだった。

そして帰った後、案の定ナオトの予想通りの展開となり、その日一日の間好きなだけハルカに甘えさせてやるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「さて・・・これで全部かな」

 

元の世界に戻ってから数日後。ノエルはいつものように教会での生活に戻っていた。

 

「(長かったようであっという間だったなぁ・・・もう全く覚えて無いのがちょっと寂しいかな?)」

 

こちらに戻ってくる間、様々な出来事に直面したのだが、その内ノエルが覚えている事は殆ど無い。

友人にも「本当に覚えてないの?」と聞かれた事はあるが、覚えていないのだから仕方ない。また、ノエルたちがこちらに戻って来てからは蒼い球体は一切見当たらなかった。

というのも、これはラグナが『門』を渡る前にこっそりと『自分の事と悪夢に関する事を記憶等から消し去る』と言う施しを三人に行ったのが影響しており、ラグナたちと関わる時間が長かったが故に殆どの出来事を思い出せないようになっていたのだ。

しかしそれでも、確かに残っているものはあり、現に教会の近くで元気に走り回っているニューがそれを証明していた。

 

「(本当にありがとうございます・・・。貴方のおかげで、ニューは未来に向かって歩き出せました・・・)」

 

―身近な人たちも喜んでいましたよ?ノエルは今やどこか遠くに行ってしまった恩人に、心の中で語りかける。

例え本人に届かなくても、これだけは伝えておきたかったのである。

 

「ノエル・・・食事の準備できた」

 

「ありがとう。ニュー!ご飯にしよーう!」

 

「はーい!」

 

ラムダが外に来て伝えてくれたので、ノエルがニューを呼ぶと、彼女は駆け足でこちらまで戻って来た。

ラムダもニューも、ラグナたちのことはもう覚えていないが、それでもニューを助けて貰ったことだけはしっかりと覚えていた。

 

「今日のご飯って何?」

 

「それは・・・見てからのお楽しみ・・・」

 

「ええ~っ!?そんなのアリぃ!?」

 

「慌てない慌てない。ちゃんと手を洗ってからだからね?」

 

彼女たち三姉妹の会話は、幸せな日常の一つとなっており、三人ともこうして皆と暮らせる日がいつまでも続けばいいなと願ってやまない。

そして教会の中に戻って、彼女たちはまたいつもの平穏な日常を謳歌するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

ラグナとネプギアが正式に付き合いを始めた翌日。遂にプラネテューヌ復興の式典が行われる日となった今日この日、女神たちは全員変身した状態で、ドレス姿で集合していた。

ここまでであればプラネテューヌで結んだ友好条約の時と同じなのだが、プラネタワーは以前以上に立派なものに再建されており、今回は異世界から来て以来このゲイムギョウ界に滞在しているラグナたちも参加するのである。

また、一時的なシェアの減少も復興を行っている最中に各国それぞれのやり方で取り戻しており、今現在は全員が同じくらいのシェアを有していた。

 

「あれからどう?と言っても、ルウィーとリーンボックスはあまり変わらなそうね・・・」

 

「ええ。あれからはそこまで変わっていませんわ」

 

「こっちも、ロムとラムが簡単な仕事を手伝い始めたくらいで余り変わんねぇな」

 

ノワールの問いを聞けば、ベールとブランが肯定する。

ルウィーの方はハクメンやトリニティが一通り重大な局面を終えた事で手が空き、ロムとラムもそろそろ手伝わせても大丈夫だろうと言う判断から外回りを中心に手伝わせている。

無論、分からないところがあればすぐに連絡してくれれば答えるし、自分が手を離せない時はハクメンが代行してくれるので心配は無用だった。

一方でリーンボックスはナインとセリカが来て、教会での過ごし方が安定してからは殆ど変化していない。

強いて言うのであれば、ナインとプラネテューヌの技術者を中心として、各国でラグナの持っていた『イデア機関』の修復プランを全員で考案中の影響で、ナインがまたある程度多忙な生活をしているくらいである。

と言っても、セリカと話したりするだけでも彼女からすれば十分休めるので、少しの多忙さはそこまで問題にはならないらしい。

 

「一週間経ったとは言え、これは少しばかり時間がかかりそうね・・・。プラネテューヌも、ナオトたちが帰ってしまったわけだけど、どうなの?」

 

「・・・私?そうね・・・確かに寂しく感じるけど・・・それ以上に、昨日からラグナとネプギアが付き合い始めた方が驚きで・・・どうしてもそっちに気が回らないの」

 

「そうなのね・・・それなら気が回らなくても・・・」

 

―不思議じゃないわね。と続けようとしたノワールだったが、ネプテューヌが言った事を整理するためにその言葉を止める。

確かにナオトたちが帰ってしまった事は寂しいと言った。これは良い。問題はその次である。

―ネプテューヌは今、ラグナとネプギアが付き合い始めたと言ったのよね?もう一度ネプテューヌに聞こうと思ったが、彼女が「何かおかしい事でも言ったかしら?」と言いたそうに首を傾げたのが見えたので、殆ど全員が数瞬固まる。

 

「ええっと・・・ネプテューヌ?今の本気で言ったのよね?」

 

「もう、ノワールは私がそう言うことで嘘を言うとでも思っていたの?」

 

『えええええええええっ!?』

 

もう一度聞きなおしたら肯定と同義の回答が飛んできたので、流石に殆どの人が驚きの声を上げた。

 

「ほう・・・昨日であったか。それは良い話しを聞いたな」

 

「・・・あら?ハクメンはどっちかを知っていたの?」

 

「ラグナの方をね。それは私もだけど」

 

数少ない例外はハクメンとナインで、この二人はラグナの意中を知っていたが故に動じなかった。

これについてはネプテューヌも少し意外に思っていた。この事情を知っているのは自分だけだと思っていたが違ったようだ。

 

「ラグナ・・・いつからネプギアちゃんのこと好きだったの?」

 

「・・・R-18アイランドへの調査に行った時辺りからだな」

 

「・・・その時からなの?」

 

ラグナから回答を聞いたセリカは「知らなかった・・・」と言う呟きを加える。本当に予想外だったらしい。

聞きたい事を聞けたセリカは、一度自分を落ち着けてからラグナと向かいあう。

 

「おめでとうラグナ。これからネプギアちゃんを幸せにするのもそうだけど、ちゃんと自分も幸せになるんだよ?」

 

「ああ・・・分かった」

 

セリカから賛辞と念押しを受け取ったラグナは素直に頷く。

それと同時に、自分はネプテューヌらゲイムギョウ界組の人たちに聞かなければならない事があったので、それを聞いておく事にした。

 

「これは・・・こっちに来て暫くしてからずっと疑問に思っていた事なんだけどよ・・・」

 

ラグナが少しだけ表情を暗くしたことから、大事な話しだと分かった全員は耳を傾ける。

これだけすぐに反応されると少々聞きづらくなってしまうが、ここで引いてしまっては元も子もないので、ラグナは逃げずに問いかけることを選んだ。

 

「俺がこっちに来てから、大分面倒なこと増やしちまってたからな・・・本当にこの世界に来ちまって良かったのが分んねぇんだ・・・」

 

ラグナはずっと不安に思っていた事を吐露した。

こう思い始めたのはハクメンとこちらで再会してからであり、元の世界での事情をゲイムギョウ界にまでも持ち込んでしまった事が発端だった。

それ以来ラグナは自分が来た影響で面倒事を増やしてしまい、その疑念はテルミらとも再会したことでより大きくなった。

そんなこともあって、ラグナは自身がゲイムギョウ界に新しい災いをもたらしてしまったのではないかと言う考えまで持ってしまったのである。

 

「大丈夫よ。私は・・・いえ、私たちはラグナが来て良かったと思っているわ」

 

「・・・マジか?」

 

ラグナが持っていた不安は確かに否定できないものではあったが、彼女たちはそれをあっさりと否定できる答えを持っていた。

そんなあっさりと否定されたので、流石にラグナも面食らって思わず聞き返してしまった。

 

「私も、あなたのおかげで早めに考え方を改められたし・・・」

 

「私は妹たちを助けて貰った恩義があるしな・・・」

 

「私も、平時の時に手伝ってもらえましたから」

 

「もちろん、ただ助けて貰っただけじゃないわよ?あなたのおかげで、私たちは変わっていく事ができたし、ゲイムギョウ界全体でもいい傾向があったのよ?」

 

女神三人が言っていた事も、ネプテューヌが言っていた事も本当で、ラグナが来たことで良い意味での影響は多かった。

まず初めに女神たちの団結力が早い段階で高まりだし、女神以外では対処が困難な大型モンスターに対処可能な人が増えた事もあって各種交易の巡りも良くなったのである。

そして、何よりもいざという時に女神たちと共に戦うことができ、本人も積極的であることから国民への安心感をより与えることができたのであった。

更に、ラグナが呼び水となってその手合いの人が増えたので、安心感はより大きくなったのである。

ここまで来れば、最も良い影響を受けたのは誰かを分からないラグナでは無かった。

 

「ラグナさん。私は、ラグナさんと出会えてとても幸せです。誰かを幸せにできる人が来ちゃいけなかったなんて・・・そんなこと言いませんよ」

 

「そっか・・・そうだよな」

 

それを聞けたラグナは心底安心できた。一つ気掛かりなのは、ネプギアと結ばれた時も今回もそうで、泣けるかも知れないくらい嬉しい事なのに涙が流れないことである。

恐らく『あの日』の惨劇の時、流す分の涙を使い切ってしまったのだろう。最も、自分が涙を流すなど似合わないと言われるだろうし、そもそもそんな小恥ずかしい姿を見せたいとも思わないので大して気にしていなかった。

そんなことを考えるくらいなら、未来に希望を持って生きていこう。ラグナはそう考えるのであった。

 

「俺も・・・こっちに来て、俺なりの幸福を見つけられたから満足だ」

 

ラグナの回答には、全員がそれでいいんだよと言う表情を見せてくれる。つまりはその胸の内肯定していた。

それによってラグナが納得したことでこの話しは終わったのか、セリカが「ところで・・・」と新しく話しを切り出したので、全員がそちらに顔を向けた。

 

「私たちって普段着で大丈夫なの?女神のみんなは正装だし・・・浮いちゃわないかな?」

 

セリカの疑問は異世界組の服装であり、今回参加する中では自分たちだけが正装を身に纏わないので気になっていたのである。

女神たちはドレス姿だし、その他の人たちも今回の式典に合わせて正装をしてくるようだ。教祖たちは元々が正装として機能しているのでその心配は要らないらしい。

ちなみに今この場にいないナオトたちのことは、「復興後彼ら五人で予定していた旅に出ていった」と伝えられてある。

苦し紛れな言い訳な感じはあるが、流石に元の世界に帰ったとそのまま伝えるのは無理があった。

 

「そのことは心配しないでくださいな。皆さんはご用意が大変でしょうから・・・」

 

「今回の戦いを切り抜けた人たちが緊急参加だから、用意が間に合わなかったで通せるわ」

 

「というか、そもそも正装自体を着ることすらできなさそうなのが一人いるしな・・・」

 

セリカの問いにはベール、ノワール、ブランが順番に答えてくれた。

ブランの回答を聞いた瞬間、全員の目がハクメンに向いたのは仕方が無いだろう。無論理由を理解していたハクメンは頭を抱えることになったが・・・。

 

「実のところを言うと、各国の人たちの要望であなたたちにはそのままの格好で出て欲しいとも言われていたの。用意が大変だと言う事も重なって、それがすぐに決まったの」

 

最後にネプテューヌが種明かしのような答え方をして、そう言うことかと納得できた。

基本的に、女神たちは国民たちからの要望が出ればなるべく答えようとする節があるので、それならばそうなるだろう。

 

「さて、時間だからそろそろ行きましょうか」

 

ネプテューヌの促しに全員が頷き、それぞれの場所に移動を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

晴れ渡る青空へと仕込まれていた白い鳥が飛び去っていくのを合図に、旗が順番に上がっていき、式典が始まった事を告げてくれた。

 

「皆さんの信じる心のお陰で、こうして新しいプラネタワーも完成しました。プラネテューヌの街も、日々復興しつつあります」

 

階段を上りながら、ネプテューヌはプラネタワーの完成と、現在プラネテューヌの状況を伝える。

暫くの間は国民たちが紛失した物の保証だったり、その他諸々で慌ただしかったのも収まり、もう間もなくで何事もなかったかのような状況に戻れるところだった。

ちなみに、ラグナの場合は自身の購入したバイクが浮遊大陸の砲撃を受け、跡形も無く消し飛んでいたので泣く泣く買い直す羽目になっていた。

そして、プラネテューヌの現状を告げ終わると同時に階段を上りきる。階段を上り終えた彼女の前には三人の女神が待っていた。これも予行演習通りである。

この復興は本来ならばもう数ヶ月掛かっていたところを、全ての国で協力して行ったことでここまで速く復興を終えることができていた。

 

「本当にありがとう」

 

だからこそ、ネプテューヌは全員に感謝の言葉を告げる。

当然、この感謝の言葉は目の前にいる三人にだけではなく、この式典を見ている人や今日もどこかで働いている人など、協力してくれた全ての人たちに向けた言葉であった。

 

「それともう一つ、この場を借りて宣言したことがあります」

 

その言葉を聞いた瞬間、全員が頭にクエスチョンマークが浮かぶような反応を示した。

―何か言うことあったっけ?他の三人の女神たちですら記憶を探り返しているのをよそに、ネプテューヌは式典真っ只中なのにいきなり変身を解いて元の姿に戻った。

全員が驚いている中、ネプテューヌは「真面目にやるのも大事だけど、これはこっちの姿で言った方がいいもんね!」と、何も気にすることなく堂々と言って見せた。

 

「えっと・・・私、プラネテューヌの女神ネプテューヌは・・・本日を持って、友好条約を破棄します!」

 

突然の宣言に、事情を知らない人たちは大きく混乱する。ようやくひと段落着いたと言うのに、また問題が増えるのかと。

ところが、ネプテューヌがそう宣言した理由を推察できた、女神たちとラグナたちは違った。

 

「なるほど・・・そう言うことね」

 

「確かに、これからはもうそんなもの必要ねえもんな」

 

「そうでしたら、私たちも宣言してしまいましょうか」

 

ネプテューヌの意図を理解できた彼女たちも互いを見合ってから頷き、順番に口を動かす。

 

「私、ラステイションの女神ノワールは・・・」

 

「私、ルウィーの女神ブランは・・・」

 

「私、リーンボックスの女神ベールは・・・」

 

ここまでは順番に名乗り上げたが、最後に言う事は同じなので、ここで一度口を揃えた。

 

「「「本日を持って、友好条約を破棄します」」」

 

「うんっ!こんなもの無くたって、私たちは本当の仲間だもんね!」

 

彼女らの宣言を聞いたネプテューヌは満足し、満面の笑みでうなずいて見せる。

再び大きく動揺が起こるものの、暫くした後誰かが拍手をしたのを皮切りに、それに連れて次々と拍手が起こる。

つまりは、全員がその宣言に意義が無いことを示したことになる。

 

「さぁて・・・宣言も済ませたことだし、ここは一つ、エキシビションマッチでもどう!?」

 

伝えることは終わったので、ノワールは身に纏っていたドレス姿から普段通りの変身した際の格好になって剣を構え、予定変更だと言う意思を伝える。

これにはこれからも同盟たちと戦う可能性があることと、表向き公開されていないものの、誰かが狙っているかもしれない『蒼』を守護できるようにする為の第一段階として、全員の現在の腕前を確認しておく意図があった。

 

「良いぜ・・・いっちょやろうかっ!」

 

「胸が・・・高まりますわね・・・!」

 

ブランとベールも普段通りの格好となって武器を構え、それを合図に三人が上空に飛び立ってエキシビションマッチを始める。

 

「あぁ~!?待ってよぉ~!変身解いてたから完全に出遅れじゃないかぁ~っ!」

 

完全に出遅れたネプテューヌは、慌てて変身し直し、武器を手に取ってから飛び立った。

四女神だけで行うのかと言えばそうでも無かった。

 

「行ってきますね」

 

「おう。行ってきな」

 

一度目を合わせてからネプギアが短く告げ、ラグナも短く答えた。

ラグナとネプギアの二人が交際を始めたと言う話しはまだ広がっていないものの、近い内に広がるのは目に見えていた。

と言っても、プラネテューヌの女神であることもあり、「妹の方が先だったか・・・」等の反応で終わりそうでもあるが。

 

「ユニちゃん、ロムちゃん、ラムちゃん!」

 

ネプギアは変身しながら他の候補生たちにも呼びかける。

彼女が変身して飛び立って少しした頃に、ユニが追いついて自分の隣に寄ってきた。

 

「負けないからね!」

 

「私たちが最強なんだからっ!」

 

「うん・・・最強!」

 

候補生の四人も彼女らの空戦領域に合流し、エキシビションマッチに参加した。

それによって、プラネタワーから少し離れた上空で、彼女らが飛び回っていることを証明するかの如く、複数の光の尾が見えたり、武器がぶつかり合った証明として、度々閃光が見えていた。

―俺はネプギアを応援しようかな。そう思ったのも束の間、ハクメンが壇上に上ってラグナの方へ歩み寄ってきた。

 

「ラグナよ。我らも一つて合わせと行かぬか?」

 

「ん?そうだな・・・」

 

ハクメンがエキシビションマッチを兼ねて誘って来たのである。

ラグナは少し迷って周囲を見回して見るが、アイエフたちは「いいんじゃない?」と言いたげな表情で返し、他の人たちも期待したような顔を見せていたので、ラグナは覚悟を決めた。

 

「良いぜ。そう言うことならやろうか」

 

「感謝する」

 

ラグナの回答を聞いたハクメンは礼を述べてから飛びのいて、丁度壇上の十字道になる場所の端に陣取る。

ハクメンに場所を開けて貰ったラグナも、一飛びでハクメンとは反対側の場所に陣取る。

 

「ちょっと待ちなさい!そう言うことなら私も参加させて貰うわよ!」

 

二人が武器を構えて準備したのが見えたが、ナインが一度待ったを掛けてそちらへ飛んでいく。

これによって、異世界組は三人でエキシビションマッチを行う事になった。

 

「あらあら・・・それでは私は、余計な被害が起きないようにしておきますね」

 

「み、みんなー!やり過ぎちゃダメだからねーっ!?」

 

半ば諦め気味に笑みを浮かべたトリニティは『無兆鈴』の力を使って、式典に参加した人たちに被害が及ばないように施しをしておき、セリカはこれから戦い始める三人に注意喚起をした。

 

「始めるとしよう」

 

「ええ、いつでもいいわ」

 

「よし。それじゃあ・・・」

 

三人は戦う準備ができるや否、姿勢を低くして構える。

 

「「「行くぞ!(行くわよ!)」」」

 

「(また・・・騒がしい日々が始まりそうですね)」

 

そして、三人は同時に飛び出して戦いを始めた。この先の未来が一瞬だけ不安になったイストワールだが、それでも暗い日々よりはずっと良いと前向きに受け入れ、女神たちが戦っている方を見やると、先程より光の尾は激しく動き、閃光の数も増えていた。

こうして多くの民衆に見守られる中、これから『蒼』を守護する為の第一歩が始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

プラネテューヌでの式典が終わってから一週間後、ラグナは新しくなったプラネタワーに用意された自室でパソコンを開いていた。

つい二日前にラグナとネプギアの交際が始まっている事がバレ、ニュースの内容はそれで持ち切りになっていた。

最初は大丈夫かどうかで不安になったラグナではあったが、ネプテューヌらの予想通り「妹の方が先か・・・」とか「ラグナが誰かとお付き合い始めた方に驚き」と言った声ばかりで、大して気にすることでもなかった。

 

「ラグナさーん。準備できましたよー」

 

「おう。んじゃあ行くか」

 

ネプギアに声をかけられたラグナはパソコンをスリープモードにしてから席を離れた。

今回は付き合うに至った経緯を話す予定ができていたのである。

当然ながらサヤのことは離せないので、そこは上手くぼかして行くことになった。

 

「しっかし、話す内容って事前に決めておいた方が良いんかな?」

 

「少しは楽になるかなと思います。ただ・・・全部決めるといざという時に・・・」

 

乗ったエレベーターのドアが閉められる時にその話し声はかき消されてしまった。

これからラグナたちは自分たちの事を話すが、恐らくは恥ずかしげながらも嬉しそうに話すだろう。

ちなみに、珍しくラグナがパソコンをスリープモードにして出ていったが、その待機画面はノエルたちが帰る前に全員で取った集合写真に設定されていた。

そして、その写真に写るラグナは白い歯を見せた満面の笑みをしていた。

 

 

 

 

 

超次元ゲイムネプテューヌ-DIMENSION TRIGGER-  ―完―




ここまで読んでいただきありがとうございました。
投稿を開始してから1年と3ヶ月。無事に本編を走り切る事ができました。

前回の時も宣言しましたが、今後は遅まきながらもアニメ13話の話しを書いていき、年明けから新作の方を書いていく所存ですので、よろしければそちらでもよろしくお願いします。
新作を書く都合上、こちらが今までとは比べ物にならない程スローペースになってしまいますが、それでも楽しんで頂けたら幸いです。

また、今回大変申し訳ないのですが、この最終話を投稿した後はインターンシップで講師を任されている建て前、感想の返信が普段と比べて大幅に遅れてしまいますので、返事が来ないと思ったらこちらを思い出して頂ければ幸いです。

長くなりましたが、これにて本編を完結とさせて頂きます。
改めて、最後まで読んでいただきありがとうございました。


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