ギラティナになったら箱庭に招待された… (反骨竜)
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雷に打たれました

思ったよりも長くなりました。


「急に降り出したな・・・」

 

俺はコンビニの帰りに雨が降り出しだしたので急いで走り出す。

 

が、次の瞬間轟音と共に視界が真っ白になった。

 

 

 

「貴方は死にました」

 

そんなこんなで俺はここに居る。

 

「返って冷静になってるようだな」

 

状況を説明すると、俺の周りだけスポットライト当てられてるように明るくなっていて、男の声が木霊するように俺に話しかけている。そして、声の主は神様らしい。

 

「何があったか説明すると、こちらの手違いで雷がお前に落ちてな、まあ、そんな訳でひまt・・・恩威で異世界転生させようとおもう」

 

おい、今暇つぶしって言おうとしたよな!

 

「さぁ?何のことやら」

 

「さて、転生の話だがどんな体で転生したい?妖怪とかアニメのキャラクターとかでもいいぞ」

 

おお、それはうれしいな・・・じゃあギラティナでいいか?

 

「ああ、構わん。次に付けてほしい能力を選んでくれ、そうだな三つ程与えよう、今回はこちらのミスだからな」

 

さらに三つの能力って、チートになりそうだな・・・・・・

じゃあ、ギラティナの使える技すべて使えるのと、某漫画の戦闘民族並みの成長と・・・そうだな・・・まあ、いいか適当に選んでくれ。

 

「そうか?分かった、なら私が決めよう。後のお楽しみだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付いたら森の中に居た

そして、六本の足と、背中に赤い爪の様な物のついた黒いボロボロの翼を確認する。そして

 

「キュガァァァァァーーーーーーーーーー!!!」

 

嬉しさのあまり叫んだ

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

我が名はギラティナ。そう、雷に打たれた『元』人間だ。

さて、これまでのことをざっと説明しよう。

 

転生してから二十年程時がたった。

ん?『何故そんなに時間がとんでいる?』だって?

決して面倒くさいからとかじゃないぞ?

 

まあ、その約二十年で分かった事は

 

・『破れた世界』に行けた

・フォルムチェンジが自由自在(白金玉を持っていれば)

・『反物質』を操れた

・三つ目の能力が分かった

 

 

こんなところだ。あと、一人称を我に変えた。

そして、問題があった。

それは、途轍もなく暇なことだ。あの神様『異世界転生』と言ったからてっきり魔物とかモンスターが居る世界かと思ったがそんなもの一切居なかった。元居た世界かもしれないと思ったが、よく調べたら記憶の食い違いがあった。多分パラレルワールドとやらなんだろう。知ってる漫画の展開が変わってたりした。

 

そして、三つ目の能力は、擬人化である。この能力にはかなり助けられている。上記に述べた漫画も擬人化して買った。転生して三年程気付かなかったので分かった時に嬉しくて

 

「よっしゃーー!!!」

 

と叫んだ

 

そして、叫んだ時に気付いた(あれ?声高くね?)と、

 

女体化してたんだ、それだけならよかった、水を使って見たら幼女が写った、身長は、百二十㎝前後か?金色のロングヘアに、赤い瞳、服は、ワンピースで灰色、黒、のラインが横にのびていてそのあいだに細く赤いラインがとおっている、そして、胸のあたりには、肋骨の様な形をした金色の模様があった。

 

 

 

そんな事があって二十年過ぎた。へ?『お金はどうした?』だって?まあそれについては、「脅してる人からもらった(暗い笑顔)」とだけ言っておこう。

 

さて、なんでこんな思考をしているのかと言うと、その『脅してる人』がかなり減ってお金が足りなくて漫画が買えず暇なのだ。

 

「面白いことないかなー」

 

と、独り言をもらしながら家(洞窟)でゴロゴロしていると、上から一通の手紙が落ちてきた。

 

(面白そう)

 

と、迷わずその手紙を読み始める。内容は、

 

”悩み多し少年少女に告げる。

 

その才能を試すことを望むのならば、

 

己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、

 

我らの“箱庭”に来られたし”

 

その手紙を読みギラティナは顔を綻ばせた。

 

そして次の瞬間視界が開けギラティナは上空に居た。

 

 

 

 




表現力が無い主人公の容姿書くのに十分程掛かった…
まあ、頑張ります。
あと、主人公は、雷に打たれて即死だったため電気に対するトラウマとかにはなっていません。

追記
9/17報告ありがとうございます
『和が名』を『我が名』に修正


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湖と兎

とりあえず二話ができたので投稿します。

前回のあらすじ
・異世界転生
・暇
・幼女化
・手紙



(どうやら転送されたらしい。あと、我以外に少女二人に少年一人に猫一匹か、助けれなくは無いけど・・・まあ、面倒くさいからいいか)

ボチャン

 

意外と小さい音がなり湖に落ちる人と猫と竜

みんなで陸に上がり、黒髪の少女が怒ったように口を開く。

 

「信じられないわ!まさか問答無用で引きずり込んだ挙げ句、空に放り出すなんて!」

 

「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜコレ。石の中に呼び出された方がまだ親切だ」

 

今度は金髪の少年が口を開く。

 

「・・・・・いえ、石の中に呼び出されては動けないでしょう?」

 

「俺は問題ない」

 

(我も問題ない)

 

「そう、身勝手ね」

 

ギラティナは心の中で相槌を打ちピリピリしている二人を見る。

 

(こんな短時間でよく仲が悪くなれるな)

 

そんな事を考えていると茶髪の少女が、猫を抱えながら呟く。

 

「ここ・・・どこだろう?」

 

「さあな。まあ、世界の果てっぽいものが見えたし、どこぞの大亀の背中じゃねえか?」

 

そんな事を言った後、少年は少しだけ真剣な面持ちになりここに居る者たちに訊いた。

 

「まず間違い無いだろうけど、一応確認しとくぞ。もしかしてお前たちにも変な手紙が?」

 

「そうだけど、まずは"オマエ"って呼び方を訂正して。・・・私は久遠飛鳥よ。以後は気おつけて。それで、そこの猫を抱きかかえている貴女は?」

 

「・・・春日部耀。以下同文」

 

「そう。よろしく春日部さん。それで、野蛮で凶暴そうなそこの貴方は?」

 

「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子揃った駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様」

 

「そう。取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」

 

「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様」

 

逆廻から視線を外しギラティナに視線をむける。

 

(よし、次は我の番だな。因みに、ギラティナと名乗る気はない。名前が長いと面倒だし、苗字無いし。そして、勿論偽名は考えてある二十年暇だった我を舐められては困る!)

 

「私は、世逆 反永(よさか たんえい)よろしく」

 

「ええ、よろしく、世逆ちゃん」

 

世逆 反永(よさか たんえい)これが我の考えた名前だ。まあ、言うまでもないが世逆は、反転世界、反永はギラティナの反骨ポケモンの『反』に永遠の『永』を合わせた名前だ。あと、擬人化した状態での一人称は『私』にした。)

 

そして、物陰から会話を見ていた人がいた。

 

(うわぁ・・・なんか問題児ばっかりみたいですねえ・・・)

 

そしてまた十六夜が苛立ったように言う。

 

「で、呼び出されたはいいけどなんで誰もいねえんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とかいうものの説明をする人間が現れるもんじゃねえのか?」

 

「そうね。なんの説明もないままでは動きようがないもの」

 

「・・・この状況に対して落ち着き過ぎているのもどうかと思うけど。」

 

「仕方がねえな。こうなったらそこに隠れてる奴にでも話を聞くか?」

 

(ああ、気付いてたのか。我だけかと思った。)

 

「あら、貴方も気づいてたの?」

 

「当然。かくれんぼじゃ負け無しだぜ? そこのおまえも気づいてるんだろ?」

 

「風上に立たれたら嫌でも判る」

 

「気配を隠しきれていないし」

 

「へえ、面白いなお前ら」

 

そんな会話に追い出されるように物陰から人が出てくる。

 

「や、やだなあ御四名様。そんな狼みたいな怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ? ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここはひとつ穏便に話を聞いていただけたら嬉しいのでございますよ?」

 

「断る」

 

「却下」

 

「お断りします」

 

「やだ」

 

「あっは、とりつくシマもないですね♪」

 

そう言い両手を上げ、降参のポーズをとるうさ耳少女。

 

だが、それでも少女はしっかりと考えていた。

 

(肝っ玉は及第点。この状況でNOと言える勝ち気は買いです。)

 

 

「えい」

「フギャ!」

 

風の様に素早く移動した耀が、うさ耳を引っ張った。

 

「ちょ、ちょっとお待ちを!触るまでなら黙って受け入れますが、まさか、初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きにかかるとはいったいどういう了見ですか!?」

 

「好奇心の為せる業」

 

「自由にも程があります!

 

何とか耀の手から逃れる黒うさぎ。だが、逃げた先は十六夜と飛鳥の方だった。

 

「へえ?このウサ耳って本物なのか?」

 

「・・・じゃあ私も」

 

そう言いながらうさ耳を掴む二人。

 

「ちょっ!ちょっと!」

 

黒うさぎが助けを視線で求める。が、(頑張って)と言わんばかりの温かい目を返される。

 

「この、問題児様方ー!」

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「・・・あ、あり得ない。あり得ないのですよ・・・まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは・・・学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのデス…」

 

「いいからさっさと進めろ」

 

(黒うさぎは、いつもこんな扱いなのか?・・・まあ、同情はしないが・・・)

 

「・・・コホン。それでは改めまして。ようこそ、皆様!『箱庭の世界』へっ!

我々は御四人様にギフトを与えられた者達だけが参加できる【ギフトゲーム】への参加資格をプレゼントさせて頂こうかと召喚いたしました!」

 

「ギフトゲーム?」

 

「そうです!既に気づいていらっしゃるでしょうが、御四人様は皆、普通の人間ではございません!

その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵なのでございます。

『ギフトゲーム』はその『恩恵』を用いて競い合うためのゲーム。

そしてこの箱庭の世界は強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活できる為に作られたステージなのでございますよ!」

 

大ぜさに動きながら説明していく黒ウサギ。

そして飛鳥が質問するために手を挙げる。

 

「まず、初歩的な質問からしていい?貴方の言う【我々】とは貴女を含めた誰かなの?」

 

「Yes!異世界から呼び出されたギフト保持者は箱庭で生活するにあたって、数多とある『コミュニティ』に属していただきます♪」

「嫌だね」

 

十六夜が速答する。

 

「属していただきますっ!!!そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの【主催者】が提示した賞品をゲットできるというとってもシンプルな構造となっております」

 

「・・・【主催者】って誰?」

 

今度は、耀が手を挙げた。

 

「様々ですね。暇を持て余した修羅神仏が人を試すための試練と称して開催されるゲームもあれば、コミュニティの力を誇示するために独自開催するグループもございます。

特徴として、前者は自由参加が多いですが【主催者】が修羅神仏なだけあって凶悪かつ難解なものが多く、命の危険もあるでしょう。

しかし、見返りは大きいです。【主催者】次第ですが、新たな『恩恵』を手にすることも夢ではありません。後者は参加のためにチップを用意する必要があります。参加者が敗退すればそれらは【主催者】のコミュニティに寄贈されるシステムです」

 

「後者は結構俗物ね・・・チップには何を?」

 

「それも様々ですね。金品、土地、利権、 名誉、人間、・・・そしてギフトを賭け合うことも可能でしょう。ただし、ギフトを賭けた戦いに負ければ当然ご自身の才能も失われるのであしからず」

 

黒うさぎは、少し暗い笑みをうかべる。

そして、もう一度飛鳥が質問する。

 

「そう。なら最後に一つだけ質問させてもらってもいいかしら?」

 

「どうぞどうぞ♪」

 

「ゲームはどうやったら始められるの?」

 

「コミュニティ同士のゲームを除けば、それぞれの期日内に登録していただければOKです!

商店街でも商店が小規模のゲームを開催しているのでよかったら参加して行ってくださいな」

 

「・・・つまり『ギフトゲーム』はこの世界の法そのもの、と考えてもいいのかしら?」

 

黒ウサギは感心したかのような声をあげ、また喋り出す。

 

「ふふん?なかなか鋭いですね。しかし、それは八割正解、二割間違いです。

我々の世界でも強盗や窃盗は禁止ですし、金品による物々交換も存在します。

…が、しかし!『ギフトゲーム』の本質は全く逆!!一方の勝者だけが全てを手にするシステムです。

店頭に置かれている賞品も、店側が提示したゲームやクリアすればタダで手に入れることも可能ということですね」

 

「そう。なかなか野蛮ね」

 

「ごもっとも。しかし、【主催者】は全て自己責任でゲームを開催しております。

つまり奪われるのが嫌な腰ぬけは初めからゲームに参加しなければいいだけの話でございます」

 

そう言うと黒ウサギは一枚の封書を取り出した。

 

「さて、皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭の世界における全ての質問に答える義務がございます。

・・・が、それら全てを語るには少々お時間がかかるでしょう。

新たな同士候補である皆さんを何時までも野外に出しておくのは忍びない・・・。

ここから先は我らのコミュニティでお話させていただきたいのですが・・・よろしいですか?」

 

 

「・・・待てよ、俺がまだ質問してないだろ?」

 

「・・・どんな質問でしょうか?ルールですか?それともゲームそのものですか?」

 

「そんなのはどうでもいい。ああ、どうでもいいんだ。俺が聞きたいことはただ一つだけ。

 

―――――この世界は面白いか?」

 

(そう、それが聞きたかった。面白くなければ、元居た場所と変わらない)

 

その言葉に全員が黒うさぎの方を見る。

 

「・・・Yes。『ギフトゲーム』は人を超えたものたちだけが参加できる神魔の遊戯。

箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」

 

と、黒うさぎは、自信満々で答える。

 

(ふふ、そうか、嘘だったら竜星群降らすからな?)

 

と、思いつつ反永は、期待していた。




主人公の名前をやっと出せました。

追記
9/19報告ありがとうございます。
抜けてた『「』を追加

2018 11/4
ピクシブ百科事典で調べた結果、漢字表記は『流星群』ではなく『竜星群』であることが判明。修正しました。


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虎男とプレッシャー

三話目が出来ました。
そして、字数がだんだん増えてきました。

前回のあらすじ
・ダイブ
・自己紹介
・偽名
・竜星群


少し時間が飛ぶ。特に何もなかったからな、強いて言えば十六夜が、「ちょっと世界の果てを見てくるぜ」と、森に入って行った事ぐらいだ。

 

「ジン坊ちゃーん!新しい方を連れてきましたよー!」

 

「おかえり黒うさぎ、そちらの三人が?」

 

「はい、こちらの御四人様がーーー」

 

そう言って反永の方を見る。

 

「・・・え、あれ?もう一人いませんでしたっけ?目つきが悪くて、口も悪い、全身から『俺、問題児!』ってオーラを放ってた殿方が…」

 

「ああ、イザヨイのこと?イザヨイなら『ちょっと世界の果てまで見てくるぜ!』って駆け出して行ったのよ」

 

「どうして止めてくれなかったんですか!?」

 

「止めてくれるなよ、と言われたもの」

 

「じゃあ、どうして教えてくれなかったんですか!?」

 

「黒ウサギには言うなよ、と言われたから」

 

 

「嘘です!! 絶対嘘です!! 本当は面倒臭かっただけでしょう御三人方!!」

 

「「「うん(正解)」」」

 

その三人に黒うさぎは頭を抱える。そして、ジンは驚いて叫ぶ。

 

「た、大変です!! 世界の果てには、ギフトゲームのため野放しにされている幻獣たちが・・・!!」

 

 

「幻獣?」

 

「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、特に世界の果て付近には強力なギフトを持ったものも多く、出くわせば最後、とても人間では太刀打ちできません!!」

 

その言葉に三人は、

「あら、じゃああの二人はもうゲームオーバー?」

 

「ゲーム開始前にゲームオーバー? ・・・斬新?」

 

「うん、骨も拾えないね」

 

「冗談言ってる場合じゃありません!!」

 

と、ジンは声を荒げる。

黒うさぎは、長い溜息をついた。

 

「ジン坊っちゃん。申し訳ありませんが、御三人方のご案内をお願いできますか?」

 

「う、うん。わかった。黒ウサギはどうする?」

 

 

「問題児たちを捕まえに参ります。事のついでに──『箱庭の貴族』と呼ばれるこの黒ウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやりますよ!」

 

すると、黒うさぎの髪が紅く染まる。

 

「一刻程で戻ります!! 皆様はゆっくりと箱庭ライフを御堪能くださいませ!!」

 

そう言うと凄いスピードで跳んで行った。

 

「・・・箱庭の兎は随分速く跳べるのね。素直に感心するわ。」

 

「ウサギ達は箱庭の創始者の眷属。力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限も持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣と出くわさない限り大丈夫だと思うのですが・・・。」

 

「黒ウサギも堪能くださいと言っていたし、御言葉に甘えて先に箱庭に入るとしましょう。エスコートは貴方がしてくださるのかしら?」

 

「え、あ、はい。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢よわい十一になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします。三人の名前は?」

 

「久遠飛鳥よ。そこで猫を抱えているのが…」

 

「春日部耀」

 

「世逆 反永」

 

「さ、それじゃあ箱庭に入りましょう。軽い食事でもしながら話を聞かせてくれると嬉しいわ。」

 

一方反永は、(幻獣ってどんなのが居るんだろう)と、考えていた。

 

 

そして反永達は、カフェテラスで軽食を採ることとなった。

 

 

「箱庭を覆う天幕は内側に入ると不可視になるんですよ。そもそもあの天幕は太陽の光を受けられない種族のためにあるものですから」

 

「あら、じゃあ箱庭には吸血鬼でも住んでいるのかしら?」

 

「え、居ますけど」

 

「・・・そう。」

 

(ふむ、不可視なら間違えて壊さないよう、注意しないとな)

 

「いらっしゃいませー。ご注文をどうぞ」

 

そうこうしているうちに、猫耳の店員が来る。

 

「えーと、紅茶を四つに緑茶を一つ。後軽食にこれとこれを」

 

「にゃー」

 

「はいはーい。ティーセット四つにネコマンマですね」

 

(猫の言葉分かるのか)

 

「三毛猫の言葉、分かるの?」

 

「そりゃ分かりますよー私も猫族何ですから。お歳のわりに随分と綺麗な毛並みの旦那さんですし、ここはちょっぴりサービスさせていただきますー」

 

(やっぱりそれ付け耳じゃなかったんだな。黒うさぎみたいに)

 

「にゃにゃーにゃーにゃー」

 

「やだもーお客さんったらお上手なんだから♪」

 

因みに我がもらった能力の、ギラティナの使える技をすべて使えると言うのは、特性も使えるようになるようだ。しかも、ON OFF加減も出来る。その為、どっちのフォルムでも、プレッシャー、テレパシー、浮遊が使える。そして、プレッシャーと浮遊はOFFにしているがテレパシーは動物の言いたいことを読む程度にしている。因みに、本気を出せば半径百mくらいに居る動物の心も読める。

 

「ちょ、ちょっと待って。貴方猫と会話出来るの?」

 

「うん。生きてる動物なら誰とでも話は出来る」

 

(ふーん、心を読める訳ではないのか)

 

 

「そう・・・春日部さんは素敵な力があるのね。羨ましいわ」

 

「久遠さんは」

 

「飛鳥でいいわ」

 

「う、うん。飛鳥はどんな力持ってるの?」

 

「私?私の力は最低よ。だって・・・「おんやぁ?誰かと思えば東区画の最底辺コミュ″名無しの権兵衛″のリーダー、ジン君じゃないですか。」・・・あら。」

 

飛鳥にかぶって、大男が会話に入ってきた。

 

「僕らのコミュニティは『ノーネーム』です。『フォレス・ガロ』のガルド=ガスパー」

 

「いんやぁ?聞けば新たな人材を呼び寄せたらしいじゃないか。そこで、この私がコミュニティの誇りである名も旗も奪われても、まだ!未練がましく過去に縋り付くガキの犠牲者を増やさないためにこうやって足を運んだんですよ」

 

「失礼ですけど、同席を求めるならまず氏名を名乗った後に一言添えるのが礼儀ではないかしら?」

 

「おっと失礼。私は箱庭上層に陣取るコミュニティ″六百六十六の獣″の傘下である

「烏合の衆の」

コミュニティのリーダーをしている、って待てやゴラァ!!」

 

ガルドが、キレのあるつっこみをする。まあ、実際は、少し殺意がこもっていたが。

 

「口を慎めよ、小僧。紳士の俺でも聞き逃せねぇ言葉はあるからな」

 

(紳士ってなんだっけ?)

 

「森の守護者であった貴方になら相応の礼儀で返していましたが、今の貴方はこの付近を荒らす獣でしかありません」

 

「ハッ、そういう貴様は過去に縋り付く亡霊と変わりないだろうがよぉ?お前のコミュニティがどういう状況か

理解してんのか?」

 

「はい、ストップ」

 

そんな会話を、飛鳥が止める

 

 

「二人の仲が悪いのはわかったから。…ねぇ、ジン君、一つ質問していいかしら。ガルドさんが指摘している私たちのコミュニティの状況っていうのを説明してくれるかしら?」

 

「そ、それは・・・」

 

その言葉にジンは、言いずらそうに口籠る。

 

 

「貴方はコミュニティのリーダーなのでしょう?なら、同士として呼び出した私たちにコミュニティがどういう物なのかを説明する義務があると思うのだけれど、違うかしら?」

 

その飛鳥の言葉を聞くとガルドの、虎の様に成った顔をもとの人間の顔に戻る。

そして、反永は、

 

(此奴も外見が変わるのか。これなら・・・いや、流石に竜は珍しいのか?)

 

と、考えていた。

そして、ガルドが話し出す。

 

「貴女の言う通りですよ、レディ。新たに呼んだ方々に箱庭のルールを説明するのはコミュニティのリーダーとして当然のこと。その話もせずにコミュニティの勧誘をするなど、言語道断です。レディ達がその説明を受けていないのなら私が代わりに説明いたしますが?」

 

飛鳥は一度ジンの方を見た。しかし、ジンは俯いて黙り込んだままだったので、でガルドに説明するよう促す。

 

「承りました。・・・まず、コミュニティとは読んで字のごとく複数名で作られる組織のことです。そして、コミュニティはそれぞれ名と旗印の二つを持っています。それらはこの箱庭世界で活動するにあたり自分がどこの誰か、つまりは自分の身分証として使われる物です。その二つの中でも旗、特にこれはコミュニティの縄張りを主張するためのものでもあります。この店にも大きな旗が掲げられているでしょう?」

 

指差された所を見ると、六本の傷が書かれた旗が揺れていたいた。

 

「そう。なら、この周辺のほとんどはあなたのコミュニティが支配しているのね」

 

「ええ。残す所は本拠のコミュニティが遠い場所にあるか、箱庭上層にあるか・・・奪うにも値しない名も無きコミュニティのみです」

 

ガルドは、ジンを見ながら笑みを浮かべる。

そして、さっきから空気の反永は、頼んだものが来るのを待っていた。

ガルドがまた口を開く。

 

「さて、私のコミュニティは置いておきましょう。ここからはジン君とレディ達が入ろうとしているコミュニティのことです。ジン君のコミュニティは数年前までは、この東区間最大のコミュニティでした。それはもう人間の立ち上げたコミュニティでは過去最高と言われて、箱庭上層でも知られるほどでした。まぁリーダーは別人でしたけどね。しかし、そんなコミュニティは敵に回してはいけない存在に目を付けられてしまった。そして、彼らはその存在にギフトゲームを挑まれて・・・一夜にして壊滅した。この箱庭にて最悪の存在、魔王によって」

 

「・・・魔王?」

 

魔王と聞こえ反永は、確認するようにガルドの方を向く。

 

「そう魔王・・・魔王とは、主催者権限…ギフトゲームを挑まれれば絶対にそれを受けなければいけない、という権力を振り回す者達の総称です。…彼らはその魔王との戦いに破れました。そしてコミュニティは名も旗も主力陣も、全てを失いました。・・・そこで終わっていればその人間が作ったコミュニティは、未来永劫、最高のコミュニティとして語り継がれるはずだったのです。そう!そこで終わっていれば!…しかしそこにいるガキはそうせず、過去の栄光に縋り付いた。結果、そのコミュニティは今や、名も無きコミュニティとしてしか数えられなくなった」

 

「なるほどね。そのコミュニティの復興のための新たな人材として私たちが呼ばれた訳ね」

 

「おそらくそうでしょうね。しかし、考えても見てください。名も旗も失った…身分証の無いコミュニティに何ができるでしょう?それに名と旗は身分証の役割だけではありません。名誉や誇り、魂といったモノを込めて作られる象徴みたいなモノです。それを守れもしないコミュニティに誰が集まろうというのでしょう?…彼は出来もしない目標を掲げ、僅かな生き残りである黒ウサギや子供達に無理を強いているだけです。実際にリーダーとしての活動も十分にしていませんし、コミュニティの経営なども全て黒ウサギに任せている」

 

長ったらしい説明の後、またジンに矛先が向けられたが、飛鳥が遮るように質問する。

 

「それで?ガルドさんは私たちに随分丁寧に説明してくれるけれども、どうしてかしら?」

 

「単刀直入に言いましょう。もしよろしければ、黒ウサギ共々私のコミュニティに来ませんか?」

 

「な、何を言い出すんですか!?」

 

ジンが慌てて叫ぶ。だが、がるガルドがジンを睨みつけながら言う。

 

「黙れ、ジン=ラッセル。今回の勧誘、テメェはどういう風にした?異世界のレディ達を自分勝手に呼び出しておきながら、理由や現状を話さずに自分のコミュニティに入れようとした」

 

「そ、それは…」

 

「何も知らない相手なら騙せると思ったか?あほが」

 

その言葉に反論出来ないのか、ジンはまた俯く。

 

「・・・で、どうすされますかレディ達?あ、今すぐに決めろなどとは言いません。箱庭には召還されてより三十日間はどのコミュニティにも属さなくても良いという自由期間がありますからね。なんなら、一度見学されますか?ジンのコミュニティ『ノーネーム』と私のコミュニティ『フォレス・ガロ』を」

 

「いえ、結構よ」

 

「「は?」」

 

飛鳥の答えにガルドさらに、ジンも驚く。

 

「だから結構よ。私はジン君のコミュニティに入ろうと思っているもの」

 

「春日部さんはどうするの?」

 

「私は、どっちでも。この世界には友達を作りに来ただけだもの」

 

「そうなの。なら私が友達一号に立候補しようかしら?」

 

「・・・うん。いいよ」

 

飛鳥と耀は、微笑み、反永の方を向く。

 

「反永ちゃんはどうするの?」

 

「私は、ジンの方に入るよ。暇だった私を呼んでくれた礼もしたいし、何よりも上面が良いだけの人間の所には入りたくない」

 

「お、お言葉ですがレデ」

「[黙りなさい]」

 

まだあきらめようとしないガルドは、飛鳥の言葉により勢い良く口を閉じた。ガルドは驚いて目を見開き、口を開けようとするが開かない。

 

「!?」

 

(今のって言霊ってやつなのか?やっぱり能力を持ってたんだな)

 

「さて、ガルドさん?貴方にはもっと色々聞きたいことがあるの。だから、[そこの椅子に座って私の質問に答え続けなさい]」

 

その命令によりガルドは、椅子が壊れそうなほど強く座る。

その音のせいか、店から店員が止めに入る。

 

「お、お客様!店内での揉め事は困ります!」

 

「ちょうどいいわ、あなたにも面白いモノを見せて上げる」

 

「?」

 

店員は、首を傾げるが、飛鳥は言葉を続ける。

 

「ねぇジン君と店員さん。私思ったのだけれど、この世界では自分達の誇りであるコミュニティの旗を易々とゲームのチップにするものなのかしら?」

 

「い、いえ。追い詰められた時などでは別ですが、それはかなりのレアケースです。何しろ負ければコミュニティの存続は絶望的ですから」

 

店員は飛鳥に確認するように視線を送られ、ジンの言葉に同意と首を縦に振る。

 

「まぁそれはそうよね。そんな大勝負を強制出来ることこそが、魔王が魔王たる所以なのですものね。なら、魔王でないあなたが、その強制する権限を持たないあなたが、なぜそんな大勝負を仕掛け続けることが出来たのか、[教えてくださる?]」

 

ガルドは言うまいと顔を顰めるが、その命令により、ガルドの口が開く。

 

「方法は簡単だ。相手のコミュニティの女子供を攫って脅迫すること。そに動じない所は後回しにして他を取り込んでから圧迫していった」

 

「…あなた程度が思いつくことなんて、そんなところでしょうね。では、取り込んだコミュニティはどうやって従わしていたのかしら?」

 

「各コミュニティから人質を数人取ってある」

 

「そう。それで、その人質は何処に幽閉しているのかしら?」

 

「もう殺した」

 

場の空気が凍り付いた。

 

「初めてガキ共を連れてきた日、泣き声が頭に来て思わず殺した。それ以降は自重しようと思っていたが、父が恋しい母が愛しいと泣くのでやっぱりイライラして殺した。それ以降、連れてきたガキは全部まとめてその日のうちに始末することにした。けど身内のコミュニティの仲間を殺せば組織に亀裂が入る。始末したガキの遺体は証拠が残らないように腹心の部下が[黙れ!]

 

飛鳥の命令により固くガルドの口が閉ざされる。

 

「素晴らしいわ。ここまで絵に描いたような外道とはそうそう出会えなくてよ。さすがは人外魔郷の箱庭の世界といったところかしら・・・ねえジン君?」

 

ジンは、その言葉を慌てて否定する。

 

「彼のような悪党は箱庭でもそうそういません」

 

「そう?それは残念。それよりジン君。箱庭も法を犯せば裁くようだが、この件は裁けるのかしら?」

 

「難しいです。吸収したコミュニティから人質を取ったり、身内の仲間を殺すのはもちろん違法ですが・・・裁かれるまでに彼が箱庭の外に逃げ出してしまえば、それまでです」

 

「そう。なら仕方がないわ」

 

飛鳥が指を鳴らした。それと同時に自由が戻ったガルドは、テーブルを砕き。

 

「こ・・・・・・この小娘ガァァァァァ!!」

 

ガルドは、強く吠え虎の姿となった。

 

「テメェ、どういうつもりか知らねえが・・・俺の上に誰が居るかわかってんだろうなぁ!?箱庭第六六六外門を守る魔王が俺の後見人だぞ!!俺に喧嘩を売るってことはその魔王にも喧嘩を売るってことだ!その意味が分かってるのか!!」

 

そう言いながらガルドは腕を振り上げる。が、振り下ろそうとした瞬間ガルドは勢いよく後ろに吹き飛ばされた。

そう、反永がガルドの腹に『岩砕き』を食らわせたのだ。それは、擬人化して、弱体化していても骨を砕き、相手を吹き飛ばす程度はできた。

ガルドはもちろんその場に得た全員が驚いていたが、構わず反永は特性『プレッシャー』を使いながら言った。

 

「ガルド=ガスパー、ギフトゲームをしよう。」




次は白夜叉が出てきます。そして主人公の暴走。

追記
9/24報告ありがとうございます。
ジン君が名前を聞く所を『二人』から『三人』に修正。

2019 7/16
誤字報告ありがとうございます。修正しました。


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反省と白夜叉

一年ぶりになります。
非常に長くなりましたが四話目です。
前回までと書き方が変わってしまったと思いますが治せそうにありませんでした。すいません……


「な、なんであの短時間に"フォレス・ガロ"のリーダーと接触してしかも喧嘩を売る状況になったのですか!?」

「しかもゲームの日取りは明日!?」

「それも敵のテリトリーの中で戦うなんて!」

「準備している時間もお金もありません!」

「一体どういう心算があってのことです!」

「聞いているのですか三人とも!!」

 

「「「むしゃくしゃしてやった。今は反省しています(している)」」」

「黙らっしゃい!!!」

 

あの後、黒うさぎと十六夜と合流し、ギフトゲームの事を話すと凄い勢いの質問攻めにあった。

すると、ニヤニヤと笑って見ていた十六夜が止めに入る。

 

「別にいいじゃねえか。見境なく選んで喧嘩売ったわけじゃないんだから許してやれよ」

 

「い、十六夜さんは面白ければいいと思っているかもしれませんけど、このゲームで得られるものは自己満足だけなんですよ?この"契約書類"を見てください」

 

「[参加者が勝利した場合、主催者は参加者の言及する全ての罪を認め、箱庭の法の下で正しい裁きを受けた後、コミュニティを解散する]・・・まあ、確かに自己満足だ。時間をかければ立証出来るものを、わざわざ取り逃がすリスクを負ってまで短縮するんだからな」

 

「どうせなら金品とかも要求すれば良かったのに」

 

そして反永達のチップは、『罪を黙認する』というものだ。それは今回の人質の事に限らず、既に犯した罪、さらに、これから犯す罪も含まれるものだった。

 

「でも時間さえかければ、彼らの罪は必ず暴かれます。だって肝心の子供たちは・・・その・・・」

 

黒うさぎが言いずらそうにする。箱庭の貴族と呼ばれる黒うさぎさえも、フォレス・ガロがそこまで堕ちているとは、思いもしなかったんだろう。

 

「そう。人質は既にこの世に居ないわ。その点を責め立てれば必ず証拠は出るでしょう。だけどそれには少々時間がかかるのも事実。あの外道を裁くのにそんな時間をかけたくないの」

 

我は、やろうと思えばその場でガルドを文字通り『消滅』させることができた。だが、それをしなかったのは、ガルド本人ではなく、フォレス・ガロ全体に正当な裁きをあたえる為だ。たとえ、(かしら)を消したとしても、部下はその罪を犯し続けるだろう。

 

「それにね、黒ウサギ。私は道徳云々よりも、あの外道が私の行動範囲内で野放しにされることも許せないの。ここで逃せば、いつかまた狙ってくるに決まってるもの」

 

「ま、まあ逃せば厄介かもしれませんけど」

 

「僕もガルドを逃がしたくないと思っている。彼のような悪人は野放しにしちゃいけない」

 

「私もあの人間は逃がしたくない」

 

「何よりも、もう決めちゃったんだからどうしょうもないしね」

 

我としてもここで捕まえておきたい。いくら破れた世界から一方的に監視することが出来ても、沢山の人間を同時に監視することは不可能だ。ならばこの機会にまとめて捕まえた方が良い。

 

「はぁ〜・・・・・・。仕方がない人達です。まあいいデス。腹立たしいのは黒ウサギも一緒ですし。『フォレス・ガロ』程度なら十六夜さんが一人いれば楽勝でしょう」

 

「何言ってんだよ。俺は参加しねえぞ」

 

「当たり前よ。貴方なんて参加させないわ」

 

そんな二人に黒うさぎは、口を出す。

 

「だ、駄目ですよ!御四人はコミュニティの仲間なんですからちゃんと協力しないと」

 

「そういう事じゃねえよ黒ウサギ」

 

「いいか?この喧嘩はコイツらが売った。そして奴らが買った。なのに俺達が手を出すのは無粋だって言ってるんだよ」

 

「あら、分かってるじゃない」

 

「・・・・・・ああもう、好きにしてください」

 

とうとう黒うさぎは折れ、「もうどうにでもなればいい」と呟き肩を落とす苦労うさぎ(黒うさぎ)であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ行きましょうか。本当はみなさんを歓迎するために素敵なお店を予約して色々とセッティングしていたのですが・・・不慮の事故続きで、今日はお流れとなってしまいました。また後日、きちんと歓迎を」

 

「いいわよ、無理しなくて。私達のコミュニティってそれはもう崖っぷちなんでしょう?」

 

黒うさぎは驚いた顔でジンを見て、ジンの申し訳なさそうな顔で悟った。

 

「も、申し訳ございません。皆さんを騙すのは気が引けたのですが・・・・・・黒ウサギ達も必死だったのです」

 

「もういいわ。私は組織の水準なんてどうでもよかったもの。春日部さんはどう?」

 

「私も怒ってない。そもそもコミュニティがどうの、というのは別にどうでも・・・・・・あ、けど」

 

耀は、少し迷いながら言う。

その様子にジンは答えた。

 

「どうぞ気兼ねなく聞いてください。僕らに出来ることなら最低限の用意はさせてもらいます」

 

「そ、そんな大それた物じゃないよ。ただ私は・・・毎日三食お風呂付きの寝床があればいいな、と思っただけだから」

 

ジンの表情が固まった。何か条件が満たせないものがあったのだろう。

それを察したのか、耀は慌てて取り消そうとしたが、先に黒ウサギが嬉々とした顔で水樹を持ち上げる。

 

「それなら大丈夫です!十六夜さんがこの大きな水樹の苗を手に入れてくれましたから!これで水を買う必要も無くなりますし、水路を復活させることも出来ます♪」

 

「水を売ることも出来るよね?」

 

「はい♪」

 

それを聞いたジンは、明るい表情になる。そして飛鳥も安心したような表情で口を開く。

 

「私達の国では水が豊富だったから毎日のように入れたけれど、場所が変われば文化も違うのよね。今日は理不尽に湖に投げ出されたから、お風呂には絶対に入りたかったところよ」

 

「それには同意だぜ。あんな手荒い歓迎は二度と御免だ」

 

「あう・・・そ、それは黒ウサギの責任外の事ですよ・・・」

風呂の話になったので我も前の世界を思い出す。

我の住んでいた所の近くには滝が上に流れている場所があった。そこから水を持ってきて、近くに作った石風呂に入れ、『鬼火』で湯を沸かしてそれに入っていた。良い風呂だったと思う。まあ、難点をいえば元の大きさじゃあ狭くて入れなかったこと位だ。

 

「あはは・・・・・・それじゃあ今日はコミュニティに帰る?」

 

「あ、ジン坊ちゃんは先にお帰り下さい。ギフトゲームが明日なら"サウザンドアイズ"に皆さんのギフト鑑定をお願いしないと。この水樹の事もありますし」

 

反永達は首を傾げて問う。

 

「『サウザンドアイズ』?コミュニティの名前?」

 

「Yes。"サウザンドアイズ"は特殊な"瞳"のギフトを持つ者達の群体コミュニティ。箱庭の東西南北・上層下層の全てに精通する超巨大な商業コミュニティです。幸いこの近くに支店がありますし」

 

「ギフトの鑑定というのは?」

 

「勿論、ギフトの秘めた力や起源などを鑑定することデス。自分の力の正しい形を把握していた方が、引き出せる力はより大きくなります。皆さんも自分の力の出処は気になるでしょう?」

 

その質問に四人は複雑そうな表情をする。だが、我を含め、拒否はしなかった。まあ、我の力は自分が望んだ能力と擬人化なので、鑑定に行くのが少し面倒臭いと思ったからだが。

 

そして、"サウザンドアイズ"に向かいながら街並みを見ていた。街は石造で整備されていて、家も近代的なものはほとんどなくて、日本には少ないであろうレンガ造りの家がかなり多かった。一方で、街路樹は桃色の花を散らしていた。

 

「桜の木・・・・・・ではないわよね?花弁の形が違うし、真夏になっても咲き続けている筈がないもの」

 

「いや、まだ初夏になったばかりだぞ。気合いの入った桜が残っていてもおかしくないだろ」

 

「・・・・・・?今は秋だったと思うけど」

 

「あれ?冬じゃなかった?」

 

「ん?四月辺りじゃないの?最近桜を見た気がする」

 

四人は顔を見合わせると、黒うさぎは笑って説明する。

 

「皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているのデス。元いた時間軸以外にも歴史や文化、生態系など所々違う箇所があるはずですよ」

 

「へぇ?パラレルワールドってやつか?」

 

「近しいですね。正しくは立体交差平行世界論という物なのですけども・・・今からコレの説明を始めますと一日二日では説明しきれないので、またの機会ということに」

 

黒うさぎは曖昧に濁し、振り返る。多分此処が目的地なんだろう。店の旗は、青い生地に向かい合う二人の女神が描いてある。

黒うさぎは、看板を下げる女性店員に話し掛ける。

 

「まっ」

 

「待った無しですお客様。うちは時間外営業はやっておりません」

 

どうやら此処に来るまでに結構時間がかかっていたようだ。確かに日が暮れかけている。

 

「なんて商売っ気のない店なのかしら」

 

「ま、全くです!閉店時間の五分前に客を締め出すなんて!」

 

「文句があるならどうぞ他所へ。あなた方は今後一切の出入りを禁じます。出禁です」

 

「出禁!?これだけで出禁とかお客様舐めすぎで御座いますよ!?」

 

我は元々興味の無かったので、「ダメなら仕方ないか」と、割り切りコミュニティの事について考える。

「フカフカのベットがいいな~」と、考え始めると女性店員が口を開いた。

 

「なるほど、"箱庭の貴族"であるウサギのお客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を伺いますので、コミュニティの名前を宜しいでしょうか?」

 

「・・・う」

 

言葉に詰まる黒うさぎ。だが十六夜は躊躇いなく名乗る。

 

「俺達は"ノーネーム"ってコミュニティなんだが」

 

「ほほう。では何処の"ノーネーム"様でしょう。よかったら旗印を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」

 

その店員の言葉に黙り込む。

 

(ま、まずいです。"サウザンドアイズ"の商店は"ノーネーム"お断りでした。このままだと本当に出禁にされるかも)

 

黒うさぎは焦り、どうしようか悩み、小声で言う。

 

「その・・・あの・・・私達に、旗はありま」

 

「いぃぃぃぃやほおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!久しぶりだ黒ウサギイィィィィ!!!」

 

その声と共に着物の様な服を着た白い髪の少女が、黒うさぎに引けを取らない速度で黒うさぎにフライングボディーアタックをかまして、そのまま二人は空中四回転半ひねりして街道の向こうにある水路にダイブした。

 

「きゃあーーーーー・・・・・・!」

 

水の音。そして遠くなった悲鳴。

店員は頭を抱え、他の人間三人と猫は目を丸くする。我もその光景を見て少し驚いていたが、竜になってから表情が変わりずらくなっていて二人を目で追うだけになった。

 

「・・・・・・おい店員。この店にはドッキリサービスがあるのか?なら俺も別バージョンで是非」

 

「ありません」

 

「何なら有料でも」

 

「やりません」

 

十六夜と店員が真剣な表情で会話する一方で、白い髪の少女は、黒うさぎの胸に顔を埋めてなすり付けていた。

テレパシー使わなくてもわかる。この人頭の中ピンク色だ。

 

「し、白夜叉様!?どうして貴女がこんな下層に!?」

 

「そろそろ黒ウサギが来る予感がしておったからに決まっておるだろうに!フフ、フホホフホホ!やっぱりウサギは触り心地が違うのう!ほれ、ここが良いかここが良いか!」

 

「し、白夜叉様!ちょ、ちょっと離れて下さい!」

 

白夜叉と言う少女を引っぺがし、頭を掴んで店に投げつける。縦回転する白夜叉を十六夜が足で受け止める。

 

「てい」

 

「ゴバァ!お、おんし、飛んできた初対面の美少女を足で受け止めるとは何様だ!」

 

「十六夜様だぜ。以後よろしく和装ロリ」

 

笑いながら自己紹介する十六夜。

そして呆気に取られていた飛鳥は、思い出したように白夜叉に話しかける。

 

「貴方はこのお店の人?」

 

「おお、そうだとも。この"サウザンドアイズ"の幹部様で白夜叉様だよご令嬢。仕事の依頼ならおんしのその年齢のわりに発育が良い胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」

 

「オーナー。それでは売上が伸びません。ボスが怒ります」

 

冷静に店員が言う。多分何度も同じことを言っているんだろう。

そこに水路から上がってきた黒うさぎは呟く。

 

「うう・・・まさか私まで濡れる事になるなんて」

 

「因果応報・・・かな」

 

服を絞る黒うさぎ。

濡れても気にしない白夜叉は、我達を見てニヤリと笑った。

 

「ふふん。お前達が黒ウサギの新しい同士か。異世界の人間が私の元に来たということは・・・遂に黒うさぎが私のペットに」

 

「なりません!どういう起承転結があってそんなことになるんですか!」

 

耳を立てて怒る黒うさぎ。白夜叉は笑って店に招いた。

 

「まあいい。話があるなら店内で聞こう」

 

「宜しいのですか?彼らは旗も持たない"ノーネーム"のはず。規定では」

 

「"ノーネーム"と分かっていながら名を尋ねる、性悪店員に対する詫びだ。身元は私が保証するし、ボスに睨まれても私が責任を取る。いいから入れてやれ」

 

白夜叉はそう言い、店の中に入る。五人と一匹もそれにつづいた。

ショーウィンドには、展示された様々な品が並んでいる。

 

「あれってお金払えば私も買えるの?」

 

「勿論。さっきも言ったがおんしたちの身元は私が保証する。問題なく買えるぞ」

 

「生憎と店は閉めてしまったのでな。私の茶室で勘弁してくれ」

 

白夜叉に先導されて和風の中庭を進み、縁側で足を止めた。

広めの和室の上座に腰を下ろした白夜叉はこちらに向き直る。

 

「それではもう一度自己紹介しておこうかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えている"サウザンドアイズ"幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女と認識しておくれ」

 

「はいはい、お世話になっております本当に」

 

黒うさぎは白夜叉の言葉を受け流す。その隣で耀が首を傾げて問う。

 

「その外門、って何?」

 

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心部に近く、同時に強大な力を持つ者達が住んでいるのです」

 

白夜叉は、図を見せた。

どうやら此処は、全部で七つの支配層に分かれていて、それを仕切る門には数字が与えられている。外から七桁、六桁と数字が若くなっているらしい。そしてそれを見た三人は、

 

「・・・・・・超巨大タマネギ?」

 

「いえ、超巨大バームクーヘンではないかしら?」

 

「そうだな。どちらかと言えばバームクーヘンだ」

 

「うん。タマネギよりはバームクーヘンだね」

 

と話していた。個人的には年輪に見えた。

白夜叉は微笑していった。

 

「ふふ、上手いこと例える。その例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番薄い皮の部分に当たるな。更に説明するなら、東西南北四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は"世界の果て"と向かい合う場所になる。あそこにはコミュニティに所属していないものの、強力なギフトを持った者達が棲んでおるぞ────その水樹の持ち主などな」

 

白夜叉は黒ウサギの持つ水樹の苗に視線を向ける。

 

「して、一体誰が、どのようなゲームで勝ったのだ?知恵比べか?勇気を試したのか?」

 

「いえいえ。この水樹は十六夜さんがここに来る前に、蛇神様を素手で叩きのめして来たので御座いますよ」

 

自慢げに言うと、白夜叉は声を上げて驚いた。

 

「なんと!?クリアではなく直接倒したとな!?ではその童は神格持ちの神童か?」

 

「いえ、黒ウサギはそう思えません。神格なら一目見れば分かるはずですし」

 

「む、それもそうか。しかし神格を倒すには同じ神格を持つか、互いの種族に余程崩れたパワーバランスがある時だけのはず。種族の力で言うなら蛇と人ではドングリの背比べだぞ」

 

神格とは文字通り神の格なのだろう。おそらくであるが、コイキングがギャラドスに進化するようなものだと思う。話を聞く限り蛇も人も持つことが出来るようだ。

それにしても、今の話の時に我の方を見ていた気がするのだが気のせいだろうか?

 

「白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いだったのですか?」

 

「知り合いも何も、アレに神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年も昔の話だがの」

 

胸を張り笑う白夜叉。だがそれを聞いた十六夜は瞳を光らせて問う。

 

「へえ?じゃあオマエはあの蛇より強いのか?」

 

「ふふん、当然だ。私は東側の"階層支配者"だぞ。この東側の四桁以下にあるコミュニティでは並ぶ者がいない、最強の主催者なのだからの」

 

『最強の主催者』と、言う言葉に、十六夜、飛鳥、耀は瞳を輝かせる。反永も例外ではなく、少しワクワクしていて、「神格を与えられるのなら、多分白夜叉自身も神格を持っているのだろう」と、考えたからだ。

 

「そう・・・・・・ふふ。ではつまり、貴女のゲームをクリア出来れば、私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティという事になるのかしら?」

 

「無論、そうなるのう」

 

「そりゃ景気のいい話だ。探す手間が省けた」

 

「抜け目の無い童達だ。依頼しておきながら、私にギフトゲームを挑むと?」

 

「え?ちょ、ちょっと御四人様!?」

 

慌てる黒ウサギを右手で制す白夜叉。

 

「ふふ、そうか。────しかし、ゲームの前に一つ確認しておく事がある」

 

「なんだ?」

 

白夜叉が着物の裾からカードを取り出しながら言った。

 

「おんしらが望むのは"挑戦"か────もしくは、"決闘"か?」

 

 目の前に広がるのは、白夜の世界。

 夜明けのように空は白澄み、地平の先には険しい山々が聳え並ぶ。

 

「今一度名乗り直し、問おうかの。私は白き夜の魔王── 太陽と白夜の星霊、白夜叉。おんしらが望むのは、試練への挑戦か? それとも対等な決闘か?」

 




2019 7/4
変なところで改行されていたので修正。


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挑戦、そして…

四話に引き続き連続投稿です。



「今一度名乗り直し、問おうかの。私は白き夜の魔王── 太陽と白夜の星霊、白夜叉。おんしらが望むのは、試練への挑戦か? それとも対等な決闘か?」

 

白夜の世界。

夜明けのように空は白澄み、地平の先には険しい山々が聳え並んでいる。

 

そして、それはまさしく一つの世界だった。通常世界の裏側に存在する反転世界よりは明らかに規模は小さいが、景色いう意味ではこっちの方が壮大と言えるだろう。まあ、破れた世界とも言われるあそこは混沌としすぎているから仕方ない。

 

十六夜達は如何やら白夜叉の空気に呑まれているようだ。格の違いを見たからだろう。

 

「水平に廻る太陽と・・・・・・そうか、白夜と夜叉。あの水平に廻る太陽やこの土地は、オマエを表現しているってことか」

 

「如何にも。この白夜の湖畔と雪原。永遠に世界を薄明に照らす太陽こそ、私が持つゲーム盤の一つだ」

 

「おんしらの返答は?"挑戦"であるならば、手慰み程度に遊んでやる。───だがしかし"決闘"を望むなら話は別。魔王として、命と誇りの限り戦おうではないか」

 

「・・・・・・・・・っ」

 

我は決闘を選ぶつもりだ。なぜって?ワクワクするから。

転生する時にあの戦闘民族並みの成長能力を貰ったからだと思うが、如何やら強い相手と戦いたいという思いも貰ってしまったんだと思う。

 

勿論それだけでなく他の理由もある。レベル上げだ。

ギラティナに転生して疑人化を覚えてから何度か喧嘩して人を蹴散らしたことがあったのだが、その時に一回だけ頭の中でこういう声が聞こえたのだ。『ギラティナはレベル2になった!!』と……

 

まあ要するに我のレベルは2という事だ。

あの時は本当に驚いた。てっきりプラチナの初登場と同じレベル50かと思っていたんだが……まあ、あの時は伸びしろがあると思って納得した。

 

なんとなくであるが、白夜叉と戦うとレベル20近くにはなりそうな気がするのだ。

 

「参った。やられたよ。降参だ、白夜叉」

 

「ふむ?それは決闘ではなく試練を受けるという事かの?」

 

「ああ。これだけのゲーム盤を用意出来るんだからな。アンタには資格がある。────いいぜ。今回は黙って試されてやるよ、魔王様」

 

彼は試練を選ぶらしい。世界を幾つも持っているというのは流石に予想外だったのだろう。

 

「く、くく・・・・・・して、他の童達も同じか?」

 

「・・・・・・ええ。私も、試されてあげてもいいわ」

 

「右に同じ」

 

「も、もう!お互いにもう少し相手を選んでください!”階層支配者”に喧嘩を売る新人と、新人に売られた喧嘩を買う”階層支配者”なんて、冗談にしても寒すぎます!それに白夜叉様が魔王だったのは、もう何千年も前の話じゃないですか!!」

 

「何?じゃあ元・魔王様ってことか?」

 

「はてさて、どうだったかな?」

 

飛鳥と、耀はも試練を選んだようだ。あと、もしかして我は言い出すタイミング逃してないか?はぁ、耀が『右に同じ』と言ったときに言い出せばよかった。

 

「……して、竜の娘よ。おんしは如何するつもりじゃ?」

 

いや、タイミングは白夜叉が作ってくれた。

それにしても、白夜叉は我が竜であることを知ってたのか。道理でちょくちょく視線を向けられていたわけだ。

 

「それが私の事なら私は決闘を選ぶよ」

 

「「「「っな!?」」」」

 

我と白夜叉以外はかなり驚いている。特に十六夜と黒うさぎ。そういえばこの二人の前では特に何もしていなかったな。

 

「ほ、本気ですか!?」

 

「うん。勝率はゼロではない」

 

我は白夜叉に全力で戦うつもりだ。最悪の場合反物質でのごり押しも考える位には。

 

「そうか決闘を選ぶか!だがその前に試練を先の終わらせるとするかの」

 

その時、何処からか何かの鳴き声が聞こえた。その声に一早く反応したのは耀だった。

 

「何。今の鳴き声。初めて聞いた」

 

「ふむ。・・・あやつか。おんしら三人を試すには打って付けかもしれんの」

 

そう言って白夜叉は何か手招きをすると巨大な獣が翼を広げ飛んでくる。

 

「グリフォン・・・嘘、本物!?」

 

「フフン、如何にも。あやつこそ鳥の王にして獣の王。”力””知恵””勇気”の全てを備えた、ギフトゲームを代表する獣だ」

 

するとグリフォンはすぐ近くに降りてきた。かなり大きく、我くらいの人間なら一飲み出来そうだ。

 

「さて、肝心の試練だがの。おんしら三人とこのグリフォンで”力””知恵””勇気”の何れかを比べ合い、背に跨って湖畔を舞うことが出来ればクリア、ということにしようか」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

試練の結果を言うと勝利する事が出来た。耀が勇気を選んで、飛ぶグリフォンの背に乗り振り落とされないように耐えるという内容で、最後に耀が落ちた時はサイコキネシスで助けようと思ったが、その前に耀はまるで空気を蹴るように飛んで帰ってきたのだ。

 

それを出来るようにする耀のギフトを見て白夜叉がかなり興奮していたが専門的な物は分からなかった。

 

系統樹が彫られているようだが、そもそもアルセウスにより創り出されたギラティナにとって進化とは無縁とも言えるので、はっきり言って興味は無い。

 

 

「さて、遅くなってしまったが竜の娘よ。本当に決闘でいいんじゃな?」

 

「うん。 構わない」

 

「では……こんなかんじかの?」

 

『ギフトゲーム名 "竜と星霊の対決"

 

・プレイヤー一覧 世逆 反永

 

・ホスト側ゲームマスター 白夜叉

 

・プレイヤー勝利条件 ゲームマスターに認められる。又はゲームマスターを戦闘不能にする。

・プレイヤー敗北条件 降参する。又は上記の勝利条件が満たせなくなった場合。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

 

"サウザンドアイズ"印』

 

「……解った」

 

「では、黒うさぎよ。開始の合図を頼む」

 

「はぁ、解りました。ただ命にかかわる事にはしないでください!!」

 

「「わかっておる(了解)」」

 

お互いに距離を取り睨み合う。そして我はプレッシャーとテレパシーを白夜叉に集中して発動する。これにより白夜叉の考えていることが解るようになる。

若干ずるい様な気もしなくもないが、使えるものは使わないと相手に失礼だろう。……反物質は除いて。

 

(っ!この威圧感…こんな強いものを受けたのは何千年ぶりかの?)

 

うん、やっぱりプレッシャーは効くんだね。ゲームではレベルの差なんて関係なく発動してたから効くだろうとは思っていたけど。

 

「では……始め!!」

 

お互いに動き出さない。何をしてくるか分からないのでまずは様子見が良いだろう。勿論いつでも『守る』を使えるようにしているが、連続して使うのは危ないため出来れば残しておきたい。

色々試した結果、1ターンは一分となるらしい。反動のある技などで分かったが、サポート系の技や『空を飛ぶ』といった技は途中でキャンセルすることが出来るらしい。

 

(……このままじゃ埒が明かないの)

 

「ふむ、先手を譲ろう。このままじゃあ埒が明かぬ」

 

「そう、わかった」

 

白夜叉が先手を譲ってくれたがどうしよう?『どくどく』や『鬼火』も考えてみたが命中率がな・・・ゲームで言う命中率は相手が全く動かない時の命中率であって、相手が木でも当たらないことがあるのに、白夜叉相手にこの距離では初手に使うのはどうかと思ってしまう。

 

取り敢えず様子見として一番最初に覚える技にしてみようか。

 

「竜の息吹」

 

威力60、命中100、30%の確率でまひさせることが出来る技だがタイプ一致なので威力は90になる。

ドラゴンタイプの技ははがねタイプとフェアリータイプのポケモン以外に威力を落されないので、この技の効き具合でどれほどの実力か知ることが出来るだろう。

出来れば追加効果の麻痺も狙いたい。

 

口を開け攻撃する。因みにアニメ仕様で派手な攻撃になっている。

 

「ほう」

(なかなかの攻撃じゃの。じゃが)

 

え~。持ってる扇子で払われたんだが。

でも、一見して何事も無いように見える白夜叉だが効果はあったらしい。

 

「ふむ、見た目通りそれなりの威力じゃの。少しばかり腕が痺れてしまった」

 

「そう」

 

それは追加効果なのか威力の御蔭なのかは知らないが、当たったという事はフェアリータイプではないという事だ。

 

「それじゃあ今度はこちらからいこうかの」

 

そう言うと白夜叉は直径一mくらいの火の玉を出して飛ばしてくる。が、そこまで早くは飛んでこないので横に避けた。

 

「隙ありじゃ」

 

「ッ!」

 

避けたとたん白夜叉が目の前に居た。ついでに言うと拳も。

だが私はゴーストタイプだ。ノーマル、かくとうタイプの技は当たらない。

 

顔を殴られるが効果は無いので攻撃に入る。

 

(ストーンエッジ)

 

命中80と心許無い技だが攻撃してすぐだ。すぐに動くことは…

 

「…今のは少しばかり危なかったのう」

 

動けたよ!何だかんだ言って一撃もまともに攻撃できてないじゃないか。

 

(それにしても今のはなんじゃ?まるで手ごたえが無い。あやつのギフトか?)

 

また距離が開いた。兎に角白夜叉が炎を使うことが解ったので、対策をしよう。

 

(神秘の守り)

 

5ターンの間、つまり五分間状態異常にならなくなる技だ。火傷は後になるほどきつくなるからね。

 

(雨乞い)

 

5ターンの間雨状態にしてみずタイプの技が威力1.5倍にあがり、ほのおタイプの技の威力が二分の一にさせる事が出来る。

ただ、普通の雨とは違ってどんな小さい火でも消えずに二分の一になるという謎の現象が起きるんだが。

 

「…雨か?」

 

「ですが此処は白夜叉様の世界。日を隠す雨なんて降るはずは…」

 

ん?さっきまで黙っていた十六夜達が話し出した。

 

「うん。それに何も前兆が無いのに雲が出た」

 

「ってことは世逆のやつがやったのか?」

 

「…今度は雨を降らせたか。なかなか奇妙な技を使うのぉ」

(じゃが雨程度なら焼け石に水じゃぞ?それだけではないのか?)

 

「…そろそろ行くよ。かみなり」

 

これまた命中が低めの技だが雨の時は必中技だ。威力も百越えの高威力である。

 

「っ!成程、このための雨か!」

 

見事命中。いくら白夜叉でも上空から急に来れれたら対応できなかったんだろう。

これを機に畳みかける。

 

「シャドーボーr…っ!」

 

「そう易々と攻撃はさせぬぞ!」

 

火の玉を飛ばしてくるがさっきより火力が低い気がする。雨の効果を受けてるんだろう。

避けると同時に雷を落す。が、

 

白夜叉の頭上に盾の様なものが現れ雷を防いだ。ギフトって奴だろう。

 

「流石に鬱陶しいのぉ」

 

そう言うと、直径十mはありそうなほどの炎の玉を作り出して…雨雲を吹き飛ばした。

二分の一であの威力となると、本来なら町一つ消し去れそうなんだが……

 

底が知れないとはこういう事なのだろうか?勘であるがこの世界ぐらいなら消し去る事が出来そうだ。

 

「思ったより時間が掛かってしまったの。そろそろ決着をつけるとしようか」

 

―――だが、それにしてもまだワクワクするのは絶対に戦闘民族の影響をうけてるよな……

 

「…うん、じゃあ()()()()()

 

兎にも角にも、全力を出すのは思いのほか楽しい。

…は~、本当は使うつもりはなかったんだが。

 

白夜叉は先の炎の玉より少し小さい物を作り出す、こっちの命も配慮してくれたんだろう。

対して私は無手、だがこれからする行動は決まっている。

 

「いくぞ!」

 

炎が目の前に迫ってくる。そして、

 

「シャドーダイブ」

 

シャドーダイブは特性ノーガード持ちのポケモンがいなければどんな攻撃も避ける事が出来る。更に防御技の効果を打ち消す事も出来るギラティナの専用技であり最高威力のゴーストタイプ技だ。

だがこの技で攻撃はしない。

 

(フォルムチェンジ、竜化、アナザーフォルム)

 

だれからも見えない状態でフォルムチェンジする。そして白夜叉の背後に回り、

 

「「「「「なっ!?」」」」」

 

姿を現す。だが、何故か広がるアナザーフォルム特有の羽で白夜叉を覆った状態で、だが。

驚いた声がするが白夜叉からすれば急に真っ暗に、他から見れば約7mの六足歩行の竜が出てきたから無理もない。

 

(守る)

 

これにより我の体の周りに青い光が出てくる。羽で覆った白夜叉が羽を攻撃するが全て無効化される。

これを使うと、我もただでは済まないだろう。『守る』もZ技を受けた時は守り切れず、本来の4分の1のダメージを受けるから。

でもこれが一番ダメージを負わせられる方法だから。迷わない。

 

(反物質!)

 

その時、大爆発が起きたのは言うまでもないだろう。



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拠点と休息

お久しぶりです。約八か月ぶりになります。
文字数が段々下がってきましたが、書き方は安定してきた…ハズです。


“反物質”

説明するととても長くなるが分かり易く言えば、反粒子により形成される物質だ。

その有名な性質といえば反物質と物質がぶつかることで起きる対消滅だろう。

 

これまた長くなるので省略すると対消滅とは、ぶつかった反物質と物質が消滅し、その消滅した分の質量のエネルギーが残されることだ。

 

どれ位かと言うと、1gの反物質と1gの物質で対消滅が起きた場合、広島に落された原子力爆弾の約三倍ぐらいのエネルギーが発生するらしい。

勿論あの時には威力を調整して十六夜達に被害が出ないようにしていた。

 

と、言うのも私の司る反物質は色々とおかしいのだ。

作り出しても反応させようとしなければ対消滅しないし、対消滅しても意識すると発生したエネルギーはどっかに消えたり、消えたと思っていたエネルギーは、本当は反転世界の水晶らしきものになっていたり……

 

そもそも反物質なのは分かるがそれが何なのかが分からないのだ。

自分でも言ってることが解らなくなっているが、例えれば「元素を操る」といってもその操る元素は水素なのかヘリウムなのか分からないのと同じように、反物質と言っても何の反物質なのかが分からないのだ。

 

 

兎にも角にも、反物質の事を考えて現実逃避するのはやめにしよう。

 

「全く!世逆さんは無茶しすぎです!!」

 

あの決闘は我の負けだった。

 

爆発させたあと一分ほど意識を失ってしまい負けてしまった。我の傷はかなり多いいし、痛いが瀕死と言うほどではなかった。我は脳震盪でも起こしたのだろうか?

 

対する白夜叉は、ほぼ無傷である。お互いにまだ少し余裕があるし、加減をしすぎたかもしれない。

 

「聞いてますか?!」

 

「はい」

 

…心を読まれたのかと思ってびっくりした。

 

「…それにしても、あのドラゴン?は何だったんだ?」

 

「気になる」

 

十六夜達はあの姿に興味があるらしい。特に耀は、グリフォンを見た時の反応に少し似ていて少し怖いんだけど。

 

十六夜達の考えていることをテレパシーで読んだが、あの姿がギラティナだとは誰にも思われていないようだ。見たところポケモンすら知らないようだし、種族が違うこと、そして擬人化能力のことを説明しよう。

 

「…あれは私の本当の姿。今は能力で人型になってる」

 

「へぇ、じゃあ白夜叉が“竜”とか言ってたのはそれが理由か」

 

「たぶん」

 

十六夜は納得してくれたらしい。うん、無視してたけど白夜叉が私をそう呼んでから何か言いたそうにしてたからね。十六夜は空気を読んでいたらしい。

 

その後、爆発やシャドーダイブのことなど訊かれたが秘密とだけ答えた。納得はしてくれなかったが―――

 

「…それよりも此処に来た目的は?」

 

「そうです!忘れていました!」

 

―――黒ウサギは思いのほかちょろかった。

 

「ギフト鑑定をしていただきたくこちらに来たんです」

 

「よ、よりにもよってギフト鑑定か…専門外どころか無関係もいいとこなんだがの」

 

しばらく考え、突然、思い出したかのように白夜叉は話し出した。

 

「ふむ。何にせよ主催者として、星霊の端くれとして、試練を乗り越え、私を楽しませてくれたおんしらにギフトを与えるのが筋じゃろう。ちょいと贅沢な代物だが、コミュニティ復興の前祝いとしては丁度良かろう」

 

白夜叉が手をたたくと目の前にカードが光って出現した。我、十六夜、耀、そして飛鳥と全員分でてきたが人によってカードの色が違うみたいだ。

 

十六夜のはコバルトブルー、

飛鳥はワインレッド、

耀はパールエメラルドのカードのようだ。

 

対して我のカードは派手というか、配色は解り易く言えば“ゴージャスボール”である。

黒色の下地で、半分より少し下には銀色で縁取りされた金色のラインがあり、上半分の真ん中くらいに金色で縁取りされた赤いラインがある。ゴージャスボールと違うところはスイッチ部分の丸がなくなり直線になっていることぐらいだろうか。

 

我にはこのカードの事は知らないが如何やら黒ウサギは知っているらしい。

 

「ギフトカード!」

 

「お中元?」

「お歳暮?」

「お年玉?」

「レポート?」

 

「ち、違います!と言うかなんでそんな皆さん息があってるのです!?このカードは顕現しているギフトを収納できる超高価なカードなんですよ!耀さんの“生命の目録”だって収納可能で、それもいつでも再顕現できるのですよ!」

 

ふむ、つまりゲームで折りたたみ式自転車とか釣り竿とか入れてるバッグみたいな物だろうか。

 

「つまり素敵アイテムってことでオッケーか?」

 

「だからなんで適当に聞き流すんですか!もうそれでいいです!超素敵アイテムなんです!」

 

そんなに価値があって凄いものなのだろうか?確かに持ち運びが自由にはなるが、ゲームとかでは主人公が最初からそんな事が出来るのも珍しくない気がする。

 

「そのギフトカードとは、正式名称を“ラプラスの紙片”──即ち全知の一端だ。そこに刻まれるギフトネームとは、おんしらの魂と繋がった“恩恵”の名称。鑑定は出来ずとも、それを見れば大体のギフトの正体が分かるというもの」

 

なるほど、ただ仕舞うだけではなく、正体を暴くことができるのか。ただ、鑑定が出来ないらしいから、そのギフトで何が出来るのか、などの説明は出ないのだろう。

 

「へえ?じゃあ俺のはレアケースなわけだ?」

 

ギフトカードを見て十六夜が声を上げた。我も自分のカードを見てみるが特に異常は無い。

 

「………いや、そんな馬鹿な」

 

白夜叉は十六夜のギフトカードを見たようだ。

我は傷だらけで動くのが面倒くさいのでテレパシーで白夜叉の考えていることを盗み見る。

―――なんでも“正体不明”と書かれているらしい。

 

「“正体不明”だと...? いいやありえん。全知である“ラプラスの紙片”がエラーを起こすはずなど」

 

「何にせよ、鑑定は出来なかったってことだろ。俺的はこの方がありがたいさ」

 

白夜叉は納得いかないようで何か考え込んでいる。まあ、白夜叉が分からないのなら新参者の私が考えたって無意味だろう。我は自分のギフトカードを読むことにする。

名前は飛ばしてギフトネームを見る。

 

“歪みの調整者”

“反物質操作”

“反転世界”

“超成長”

“擬人”

 

歪みの調整者と反物質操作はおそらくギラティナの設定から来たものだろう。前者は自覚が無かったギフトだ。まあ、なんとなく効果は察せるけど。

 

次に反転世界。これはこの世界に来たせいで破れた世界が変化した可能性がある。例えば、この白夜叉の世界みたいに“ゲーム盤”になったとか。

 

超成長と擬人は転生特典だ。尤も、それを言ったら全てがそうなのだが。

 

兎にも角にも、解らないギフトは後で試してみればいいだろう。今は拠点への道を覚えることに集中した方が良さそうだ。この年で迷子になりたくはない。

 

 

 

 

 

それは廃墟と言っても差し支えないものだった。

しかし、どこを見ても異常だ。放置されれば雑草で生い茂りそうなものだが、緑の一つもない大地だった。それも人の手で処理されたわけではなく、養分が無いためそもそも生えてこないようだ。

要するに土地が死んでいた。

 

「……おい、黒ウサギ。魔王とのギフトゲームがあったのは―――今から何百年前の話だ?」

 

「僅か三年前の出来事でございます」

 

「ハッ。そりゃ面白い冗談だ。いやマジで面白いぞ。この風化しきった街並みが三年前だと?」

 

(三年…)

 

その他にも十六夜達は話していたがそれよりも気になることがあり聞いていなかった。

土地が死ぬだけではなく、風化している。そう、まるで時間急激に進んだかの様に…

 

(…いや、ないか)

 

時間という観点から見れば我にも心当たりがある。でも、アレはこんなことに力を使わないだろう。それこそ凶暴化したときは最終的に自分のいる時間以外を破壊しようとしたが、通常だと慈悲深かったし、このように弄ぶような事はしないはずだ。

 

と言っても直接会ったわけでは無く、知識として知っているだけなので100%違うとは言い切れないが。

 

そして、何よりも気になるのが此処に来てから違和感があることだ。それも、不快感ともいえる様なものである。

それでも、今すぐに如何にかしたい、という程でもないのだが…とにかく落ち着いてからこのことも調査することにしよう。

 

 

その後我は、傷にしみるという言い訳をして、体は拭いたが風呂には入らかった。この体に性別は無いが見た目は少女である。試してはいないがポケモンの特性上、性別不明の我はメロメロ状態になったり、誘惑を受けることはない筈だ。それでも女性と一緒に風呂に入るのはとても抵抗がある。だから、前の世界では銭湯に行かず、わざわざ破れた世界に自分専用の風呂を造ったんだ。

 

 

そして、傷を癒すために早めに寝た。技の『ねむる』を使って。これは使った後に2ターンの間眠り状態になる技のため、二分後に起きることができる。それでも疲れまでは完全に抜けないためそのまま床に就いた。明日のゲームに備えるために……



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ゲーム前

年明け前になりましたが完成しました。


(…それにしてもあの竜の娘。少し妙なところがあったのう)

 

 白夜叉は黒ウサギ達“ノーネーム”が帰った後、少し考え事をしていた。

 新しく来た四人の一人、竜の恩恵を与えられた少女の事である。

 人の身でありながら()()()()()を僅かに発していたため、あの中では特に異常だった。初めにあの娘を“竜の娘”と呼んだのは、彼女にその自覚があるかの確認でもあった。

 

―――尤も、見たところ竜の力を扱え、竜になる事も出来るというギフトであるため、それは当然と言えば当然だったのだが。

 

 

 

 だがそれ以上に気になることがあった。

 

 

 

 あの娘は僅かに―――

 

 

(私の気のせいかもしれんが……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――竜になった時、霊格が下がっていた。

 

 

 

 

 


 

 次の日、我は日も出ていない時間に起きた。昨日は早めに寝たからか思いの外早く起きてしまったようだ。

 

 思えば時間が余っているのは此処に来てから初めてのことである。二日前まであれほど暇を持て余していたのが嘘のようだ。

 

 そういえば、白夜叉と戦って得たものがあった。

 

(これは伸びしろがあると喜ぶべきか…)

 

 レベルが10まで上がったのだ。

 

 “超成長”というギフトを持っていることを考えれば、意外と少ないと思う。それでも大幅にステータスが上がったのだ。ここは喜ぶべきだろう。

 今回は大した怪我は無かったが、もし、瀕死状態になり、そこから回復していたら、経験値はどれほど溜まっていたのだろうか―――とはいえ、痛いのも傷だらけになるのも嫌なのだが。それでも、あれほど実力が離れているとなると、多少無理をしてでも近づきたくなるものだ。

 

閑話休題。

 

 この後は“フォレス・ガロ”とのゲームも控えているのだ、自分のギフトの確認くらいはやっておいた方がいいだろう。特に“反転世界”は変質している可能性が高い。

 

 さて、実際に試してみようか。反物質は白夜叉との戦闘で一応使ったし、ここは“反転世界”を試してみよう。詳しいことが解らない“歪みの調整者”はひとまず措いておく。

 

 部屋にある姿見に向き合う。元の世界ではゲームのように闇の渦の様なものを作り、そこから出入りする方法、映画のように水面等の鏡のように反射する所から出入りする方法、咆哮等により、空間に穴をあける方法という三通りの手段があった。今はその中でも音も出ないし、目立ちにくい鏡を使った方法で試してみる。

 

(開け)

 

 鏡に触れる。すると、水面に触れたように波紋が広がり、沈んでいく。

 

 出た先は予想通りの世界だった。浮く大地。外の景色が映る浮遊した泡。巨大な水晶の様なものでできた柱。上に落ちる滝に、逆さになった川。そして…()()()()()()()()()。なるほど、拠点に来た時に感じたあの違和感はこれだったのか。

 

 黒い瘴気。これは強い毒素をもっており、映画ではディアルガとパルキアの戦いにより時空が歪んだことで大量発生したものである。前の世界では無かった…いや、観測出来なかったものである。

 

 推察するに、魔王によって時空が歪んだという事だろう。それでも小さく色の薄いものがひと塊だけである。これだけでもある程度の違和感を感じるのに映画の様な量になると…どれ程の不快感になるのか想像がつかない。

 

(なんとなく分かった気がする)

 

 その黒い瘴気に消えろと念じてみる。すると、周囲に溶け込む様にして黒い瘴気が消えた。それと同時に違和感も消える。

 なるほど、“歪みの調整者”とは、歪みそのものを消すのではなく、破れた世界が歪みを直し、それによって発生した黒い瘴気を浄化する能力というわけだ。そして、感覚的に分かったが、この速度にも限界があり、それを超える速度で歪んでしまうとあの映画の様な惨劇となってしまうようだ。

 

 元々この世界は、ゲームでの破れた世界と、映画での反転世界が混ざった様な場所だった。それでも破れた世界の要素が強かったため、そう呼んでいるのだ。むしろ反転世界の要素は、時間の概念があること(ただし昼夜は無い)と、外の景色が映る泡、そして外の世界とある程度座標が対応していることくらいしか観測できていなかった。

 

 それでもギフトネームが反転世界ということは存在の仕方そのものが反転世界と同じ、つまりこの世界は『現実世界の裏側にぴったりくっついている』のだろう。だから外の世界と座標が対応していたようだ。それでもある程度であり、同じ所からでも、半径一kmくらい離れたところまでなら出る事が出来たのだが。

……結局のところ、ギフトの正体が分かったのがこれだけのような気がする。

 

 感覚的に分かったことはまだあった。それは、この反転世界は前と比べてかなり小さいという事である。

 前の世界ではそれこそ無限に続き、まさにもう一つの世界であったが、ここは…前と比べてかなり窮屈に感じる。

 

 体をギラティナに戻し、適当な方向に飛ぶ。

 

 思えばここの端を知るために飛んだのは二回目だ。初めは気まぐれで飛び、気が付けばどの方向から来たのかすら分からなくなってしまっていた。

 あの時はかなり焦ったものだ。ふと泡から外を見るとオーロラを見下ろしていたのだから。

 何とか戻れないものかと色々試した結果、咆哮等で空間に穴を開けた場合、反転世界と反転世界間ならば念じた場所につなげる事が出来る、という事が判明して無事にわが家へ帰還する事が出来たのだが…できなかったら多分、二度とあの家には帰れなかっただろう。とはいえ、私は日本語以外は碌に使えないため、意地でも日本に帰ろうとするだろうが。

 

 感覚的には2kmほど飛んで端に来たわけだが、そういう事か。

 壁が在るわけではなく、見た目的にはさっきまでいた場所と変わらない。だが、それ以上進む事が出来なかった。例えるのならゲームで見えない壁に向かってひたすら歩いている時の状態だろうか。私は歩かずに飛んでいるから傍から見れば浮いて、止まっているように見えるかもしれない。

 

 さっき入ってきた場所、要するにこの範囲の中心に行きたいと念じながら咆哮で空間に穴をあける。ふむ、これは変わらずに使えるらしい。

 

 つまり、この反転世界は見た目は変わらず出来ることも変わらない。だが、範囲に制限が付いて、その範囲は入ってきた場所を中心とした半径2kmの球体、といったところだろうか。

 

 要は済んだので“擬人”を使って人間の姿に戻る。一応、これについても確かめておこう。まだ、時間はありそうだ。

 

 やはり、これが一番使い慣れている能力だろう。竜での生活は、色々と不便でならない。人前に出ることなどできるわけが無かったし、これのおかげで、ただ彷徨うだけの生活が変わったのだ。この能力をくれた事には本当に感謝している。しかし、何故幼女なのだろうか。あの人の趣味か?

 

 そういえば、なぜこのギフトは“擬人”なのだろうか、擬人化とは違うのか?

 

 いや、名前などどちらでもいいか。取り敢えず変わった所は無いか確認をしよう。

 この能力は外見こそ変わるものの、タイプや特性、技などには物理攻撃の威力以外は影響がない。なぜ、物理攻撃の威力が変わるのかというと、人間の姿になると身体能力が変わってしまうからだ。それに加え、質量が変わるのだから威力が低下するがその分小回りが利く。その為、回避率も上がっているだろう。

 更に、ほとんど人間状態のまま羽や尻尾を出したりすることもできる。竜の部分はフォルムによって変わるが、人の部分には変化は現れない。だが攻撃と防御、特攻と特防は変化する。このぐらいだろうか。

 

 試しに羽だけを出してみる。“反転世界”内で、意識をしなかったため、アナザーフォルムの羽……というよりは爪の様なものが出てくる。

 

「『切り裂く』」

 

 その羽で技を使ってみるが…特に問題は無い。この能力に変更点はなさそうだ。

 

 あの男がどの様なゲームを持ち掛けてくるのかは分からないが、勝てるように自信のある勝負を仕掛けてくる事は間違いない。あの大柄で気象の荒そうな奴がボードゲームとかで挑んでくるとは到底思えない。むしろあの虎男がそれで挑んできたらびっくりだ。恐らく単純な武力で挑んでくるだろうが、よほど理不尽な内容でない限り、負けないと思うのだ。飛鳥はガルドの動きを操れていたし、耀は様々な動物と話せるだけではなく、更に友達となった動物の力を借りる事が出来るらしい。ジン=ラッセルは……リーダーだから、何かあると思う。我は技を多くもっているため、大概の事なら対応する事が出来る筈だ。

 

 

 そう思っていたのだが、あらかじめゲーム内容を決めなかったことを少し後悔した。

 

 




尚、前日の会話は寝過ごしたようです。


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