『兵藤一誠』の物語 (shin-Ex-)
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プロローグ

どうも、shin-Ex-です

この作品は私としては初となる原作主人公への憑依転生ものとなります

超不定期更新になるかもしれませぬが何卒宜しくお願いします

それでは本編どうぞ


 

 

「死んでくれないかな?」

 

デートの終わり間際に、俺は彼女・・・・天野夕麻にそう告げられた。彼女は背に黒い翼を生やし、手には光る槍を手にしている。

 

夕麻が人間でないことには気がついていた。俺の中にいる相棒に夕麻が堕天使だということは聞かされていたから。だから堕天使である夕麻が俺と付き合っているのには何か目的があるんじゃないかと思ってたし、そのおかげで夕麻に告げられた言葉には驚きはしたが同時に納得もできた。

 

故に俺は・・・・・

 

「うん、いいよ。俺を殺して」

 

俺は彼女の願いを聞き入れることにした。別に死ぬことが怖くないわけじゃない。既に一度経験しているが、それでもやはり死ぬのは怖い。

 

だけど、それでも抵抗するつもりはない。俺はこの死を受け入れる。俺は本来存在するべき者ではないのだから。

 

(すまない、俺はここまでのようだ。お前の頼み、聞けそうにない)

 

(ふっ、残念だが構わんさ。お前の人生、お前の好きに終わらせるがいい)

 

俺が自分の中にいる相棒に謝罪すると、相棒は簡単に許してくれた。俺と白の戦いを楽しみにしていたというのに、受け入れてくれた。物分りのいい・・・・・俺には過ぎた相棒だと思った。

 

「・・・・あなたと過ごした日々は楽しかったわ」

 

俺が平然と死を受け入れたためか、表情を驚愕に染める夕麻だったが、それもほんの数瞬だった。手にした槍を俺に突き立て、どこか物憂げな表情で俺に告げる。

 

そして・・・・・手にした槍が放たれた。

 

「ぐぅっ!?」

 

放たれた槍は、俺の心臓を穿つ。あまりの激痛に意識が朦朧としてくる。

 

「・・・・・ごめんなさい。本当に・・・・・ごめんなさい」

 

朧げな意識の中ではあるが、俺ははっきりと見た。泣いている夕麻の顔を。望んで俺を殺したのに、辛そうな表情をしている俺の彼女を。

 

「あやまる・・・・必要は・・・・ない」

 

痛みの中、どうにか力を振り絞って俺は夕麻に告げる。これ以上泣いて欲しくなくて言ったのに、夕麻の表情はさらに悲痛に歪む。ああ・・・・俺ってやつはロクデナシだな。

 

「さようなら兵藤一誠くん」

 

別れの言葉を残し、黒い翼を羽ばたかせて夕麻はその場から去っていった。

 

「ここで・・・・終わり・・・か」

 

重たい体を引きずるように動かして、近くの気に背を預けるようにもたれ掛かりながらこれまでの、この世界での人生を振り返る。

 

17年前に俺は兵藤一誠としてこの世界に生まれ落ちた。特別裕福ではないが優しい両親がいて、ちょっと男勝りでたくましい女の子の幼馴染がいて、小中高ではそこそこ友達がいて、勉強はまあまあできて、運動神経も悪くはなかった。

 

10歳の時に自分の中の赤い龍、ドライグと初めて話をした。何度も話をして今では大切な相棒になって、いつか宿敵である白を倒すと約束して、強くなるために鍛えまくった。

 

充実していたと思う。幸せな人生だっとと思う。それでも・・・・・俺は疎外感を感じていた。俺は孤独感を感じていた。理由はわかっている。俺は『兵藤一誠』として生まれるはずではない存在・・・・本来ここにいるはずのない存在だったからだ。

 

それがわかっていたから、俺はこの死を受け入れた。俺がここで死ねば、俺という異物がいなくなり、この世界は正しい形に戻ると思ったから。だからこの死に後悔などない。ないはずなのだが・・・・

 

(せめて父さんと母さんと話がしたかったな。友達にも・・・お世話になった人たちにも・・・・せめて一言だけ・・・・)

 

ああ、なにが後悔などないだ。あるじゃないか・・・・後悔。これでいいと思っていたのに俺というやつは・・・・

 

「我ながら・・・・・女々しいな」

 

その一言を最後に、意識が遠のくのを感じた。どうやら終わりが訪れたようだ。

 

意識が消えていく・・・・・兵藤一誠という存在が・・・・消えていく

 

さよなら・・・・愛しき世界

 

「あなたね、私を呼んだのは」

 

女の人の・・・・声?

 

「へえ、面白いことになってるじゃない。いいわ。あなたの命、私が拾ってあげる。だからその命、私のために使いなさい」

 

意識を失う間際、俺の目に真紅が映った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・見慣れた天井だ」

 

(この状況で冗談を言えるとは余裕だな)

 

目を覚ました俺が発した第一声に、相棒が呆れたような声色でツッコミを入れてくる。

 

(ドライグ・・・・一体どうなっている?俺は確か死んだはずだが?)

 

(ああ。お前は間違いなく死んだ。だが、その後すぐに転生した。悪魔としてな)

 

悪魔として転生?そういえば窓から指す日の光が突き刺さるように痛く感じるが・・・・どうやらそれは俺が悪魔に転生してしまったかららしい。

 

(てことは、意識を失う前に見たあの紅は・・・リアス・グレモリーか)

 

(ああ。あの女はお前が死ぬ直前に現れておまえを悪魔として転生させた。これでお前は晴れてリアス・グレモリーの下僕となったわけだ)

 

(下僕か・・・・あのまま死んでたほうが幸せだったような気がするな)

 

悪魔の下僕とか、面倒なことになるに決まってる。俺の今後の人生絶対にロクなモノにならない。

 

それに・・・・・

 

(夕麻の願い、叶えそびれちまったな)

 

(自分を殺した女の心配とは、随分な紳士だな)

 

(そんなんじゃないさ。ただ、夕麻がどう思っていたかは知らないが、俺はあいつのこと普通に好きだったからさ。ひとつぐらい願いを叶えてやりたいと思っただけだ)

 

(人間の感性はよくわからんな)

 

(人間、というより俺の感性がおかしいんだと思うがな。それに、今はもう人間じゃなくて悪魔だ)

 

(それは自虐か?)

 

(かもな)

 

実際のところは違うけどな。自分がおかしいってことも、悪魔だってことも事実として受け入れて納得しているから自虐とは多分違う。

 

(これからどうするつもりだ?)

 

(俺が望む望まないに関係なく、転生させられたんだ。その義理を果たすためにリアス・グレモリーに従うさ)

 

(悪魔の飼い犬になってもいいということか?)

 

(まあとりあえずはな。リアス・グレモリーに悪魔に転生させてくれて一つだけいいこともあったし)

 

(いいことだと?)

 

(ああ。悪魔ってのは人間よりも身体能力は高いんだよな?魔力ってのも備わってるようだし。それだけの力があれば、白いのを倒しやすくなるだろ?それがいいことさ)

 

相棒との約束、白の龍と倒すこと。悪魔になったことでその確率は間違いなく上がった。それは俺にとっては良いことと言えるだろう。

 

(くくくっ・・・・今代の相棒は本当に頼もしいな)

 

(そう言ってもらえてなによりだよ)

 

「一誠、起きてるの?降りてらっしゃい」

 

一階の方から母さんの声が聞こえてくる。時計を見ると、普段ならもう起きて朝食を摂っている時間だった。

 

(呼んでいるぞ。早く行け)

 

(わかってるよ)

 

ベットから起き上がった俺は、気怠げな体を動かして一階のリビングへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう父さん、母さん」

 

リビングについた俺は、椅子に座っていた父さんと母さんに朝の挨拶をする。机の上には出来上がったばかりであろう暖かそうな朝食が用意されていた。

 

「おはよう一誠。今日は珍しく遅かったな」

 

「もしかして体調が悪いの?」

 

「いや、そんなことない。ちょっと寝坊しちゃっただけだよ」

 

俺の身を案じてくれる父さんと母さんに、俺はそう返事を返す。本当は悪魔になった影響で体調的にはあまりよろしくないのだが、流石にそれを言うわけにはいかない。

 

『兵藤一誠』の父親と母親。二人は世間一般的にいい両親と評して間違いのない人たちだと思う。二人共俺のことをしっかりと育ててくれているし、今のように些細なことでも案じてくれている。二人共、俺のことを愛してくれているんだと確かに実感することができた。

 

だが、それでも俺は、そんな両親に対して申し訳なさを感じてしまっている。俺は『兵藤一誠』として生まれてきたが、俺は本来『兵藤一誠』ではないはずの存在だ。俺は何かの間違いで生まれてきた本来の『兵藤一誠』を押しのけて存在してしまっている者。厳密に言えば、俺はこの二人の子供ではないのだろう。常に感じている疎外感や孤独感がその証拠だ。

 

『兵藤一誠』であるはずのない俺を育ててくれた父さんと母さん。このことを告げたところで馬鹿なことを言っているとしか思われないだろうが、それはきっと間違いなく事実だ。俺はこの人たちに償いたくても償えない罪を犯してしまっている。

 

償いようのない罪を背負ってしまい、俺はこの人たちにどうすればいいのかわからなかった。そう、昨日のあの時・・・・死ぬ瞬間までは。

 

今はこの人たちに対してしなければならないことが、言わなければならないことができた。言ったとことでどうこうなるものではないけれど・・・・・・それでも言わなければならないこと。

 

「父さん、母さん。ありがとう」

 

案じてくれたことに、育ててくれたことに、愛してくれたことに感謝の念を込めて、俺は二人に伝える。二人共突然のことに訳がわからないといったようにキョトンとしているがそれでいい。その意味はわからなくてもいい。

 

これはただ、俺があなたたちに送る一方通行のお礼なのだから。




この時点で既に一誠さんは原作イッセーさんよりもだいぶ強い上にドライグとも接触済みです。今後どうなるかは見てのお楽しみ

そして夕麻ちゃんの様子が・・・・?

それでは次回もまたお楽しみに





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旧校舎のディアボロス
第1話


今回は一誠さんの戦闘力の一端が見られます

まあ本当にほんの一端にすぎませんが

それでは本編どうぞ


 

俺が悪魔に転生してからかれこれ一週間。俺の日常生活は日の出ている朝昼が辛いということを除けば驚く程に変化はなかった。いつも通り学校に通い、いつも通り授業を受け、いつもどおり食事をしていつも通り就寝する。そんな何の変哲のない生活を送っている。

 

いずれ俺を悪魔に転生させたリアス・グレモリーが接触してくると思っていたが今のところそんなことはなかった。向こうは向こうで考えがあってのことなのだろうが、正直俺としては状況が一歩も進まないからたまったものではない。こちらから接触しようと思ったが、関係としては向こうが主で俺が下僕なので下手なこともできない。

 

そんなこんなでモヤモヤしながら一週間の時が経ったのだが・・・・今日になってようやく変化が訪れる。

 

「これは数奇なものだ。このような場所で貴様のような存在と出くわすとはな」

 

学校からの帰宅途中、変なおっさんに絡まれた。妙に嫌な感じのするおっさんだが、同時におっさんの気配に夕麻と似通ったものを感じた。

 

(ドライグ、コイツは・・・・・)

 

(ああ、先日お前を殺した女と同じ堕天使だ)

 

ドライグに確認をとってみると、やはりこのおっさんは堕天使だったようだ。主である悪魔よりも先に堕天使と接触することになるとはコイツの言うとおり数奇なものだ。

 

「お前の属している主の名を言え。それともお前ははぐれか?」

 

黒い翼を出しながら、おっさんは尋ねてくる。殺気も向けてきているので、返答しだいでは俺を始末しようという腹づもりだろう。

 

「・・・・・・答える義理はないな」

 

俺はおっさんの問いかけに短くそう答えた。下手に教えればリアス・グレモリーに不利益が生じるかもしれないと思ったからだ。

 

「生意気だな。だが、主の気配もないとなるとやはりはぐれか?だったら殺してしまっても問題あるまい」

 

おっさんは好戦的な笑みを浮かべながら光の槍を手にする。

 

(どうする相棒?おとなしく殺されるか?)

 

(冗談。こんなやつに殺される義理なんてないよ)

 

(以前はおとなしく殺されたのにか?)

 

(あの時と今では立場と状況が違う。今の俺はリアス・グレモリーの下僕だ。主の許可無く勝手に死ぬなど許されないだろ。なによりあの時は恋人の頼みだから聞き入れたに過ぎないしな)

 

もしかしたらこのおっさんは夕麻の仲間なのかもしれない。だが、それでも縁もゆかりもないこんな奴に殺されるのはまっぴらゴメンだ。幸い本屋によって帰宅が遅くなったおかげで日は暮れてるしここは・・・・・・正当防衛の名のもとに返り討ちにあってもらおう。

 

「死ね」

 

おっさんの手から槍が放たれる。俺はそれを体をそらすことで回避した。

 

「なにっ!?」

 

俺が回避したことにおっさんは驚いていたようだが、正直あんな遅いの躱すのなんて造作もない。アレで殺せると思っていたのなら俺の事甘く見すぎだ。

 

「くっ、少しはやるようだな。だが次はこうはいかんぞ!」

 

おっさんは新たに槍を作り、俺に放とうと腕を振りかぶる。俺は槍が放たれる前におっさんに近づき、腹に蹴りを食らわせてやった。

 

「ごはっ!?」

 

蹴りを喰らったおっさんは数メートルほど吹っ飛んで地面に仰向けに倒れる。正直そこまで力を込めたつもりはなかったのだが、どうやら悪魔に転生したことで俺の身体能力は想像以上に向上していたらしい。

 

というか・・・・

 

(なあドライグ。もしかしなくてもこいつ弱い?)

 

(そうだな。おそらく低級な堕天使なのだろう。たとえ本気を出してこようとも、今のお前の敵ではない。俺の力を使うまでもないだろう)

 

やっぱりそうか。悪魔としての初戦闘だからそれなりの心構えで挑んだのだが拍子抜けだな。けどまあそれならそれでいい。弱いなら弱いで軽くのして終わらせるか。

 

「良くも俺を足蹴に・・・・許さん!ひと思いに楽にしてやろうと思ったが、惨たらしく殺してやる!」

 

俺に蹴られたのがそんなに屈辱だったのか、おっさんは表情を怒りに歪めながら怒号を放つ。うるさいからとっとと黙らせようともう一発蹴りを食らわせようとしたその瞬間・・・・それを遮るものが現れた。

 

「そこまでよ。これ以上の狼藉は私が許さないわ」

 

現れたのは真紅の髪の女性・・・・・俺の主であるリアス・グレモリーであった。

 

「真紅の髪・・・・グレモリー家の者か?」

 

「リアス・グレモリーよ。ごきげんよう堕ちた天使さん」

 

忌々しげな表情で問いかけるおっさんに対して、リアス・グレモリーは余裕そうに微笑みを浮かべながらそう返す。このやりとりだけで核の違いが伺えるな。

 

「その子は私の下僕なの。ちょっかいをかけるというなら容赦しないわよ?」

 

「その少年はそちらの眷属だったか。これは申し訳ないことをした。だが、下僕の放し飼いは感心しないな。私のようなものが散歩がてらに狩ってしまうかもしれんぞ?」

 

こいつ自分の槍躱された挙句蹴り喰らっておいてなんでこんなに偉そうな態度取れるんだ?本気を出せば俺ぐらい余裕で殺せるとでも思ってるのか?自意識過剰も大概にしておけよ。

 

「ご忠告痛み入るわ。お礼に私からも一つ忠告しておくわ。この町は私の管轄なの。この町で私に仇をなそうというなら相応の対応をとらせてもらうわ」

 

「その言葉、そっくり返そう。我が名はドーナシーク。再びまみえないことを願おう」

 

堕天使のおっさん、ドーナシークは聞いてもいない名前を名乗って、黒い翼を羽ばたかせながらその場をあとにした。

 

(なんというか・・・小物感満載な堕天使だったな)

 

(それについては同意する。だが、堕天使が皆ああいう小物とは限らない。中には今のお前では敵わないような強者もいるからな)

 

俺では敵わないか・・・・・ならせいぜいそういう奴と戦うことがないように祈っておこう。

 

「大丈夫?怪我は・・・・・無いようね」

 

ドーナシークの姿が完全に見えなくなり、リアス・グレモリーは俺の方に視線を向けながら言ってくる。

 

ここで俺はあることを閃いた。一週間もの間放置してくれたのだから、ちょっとしたお礼をしてやろう。

 

「はい。ご心配していただきありがとうございますマイマスター」

 

俺はリアス・グレモリーの前に膝まづきながら返事を返す。

 

「あら?その対応からして、あなた自分が置かれている状況を理解しているのかしら?」

 

「ええ、理解していますよマイマスター。自分がどのような存在なのか、マイマスターが俺に何をしたのか」

 

「そ、そう。それならいくらか説明を省けそうね。もっとも、どうしてあなたがそれを平然と受け入れ、理解することができたのかが気になるけれど」

 

「それについて知りたければ俺から説明いたしますよマイマスター。聞きたいですかマイマスター?」

 

頭を上げ、リアス・グレモリーの顔を見ながら言う。リアス・グレモリーの表情は苦虫を噛み潰したような何とも言えないものとなっている。

 

「あ、あの・・・・いいかしら?」

 

「なんですかマイマスター?」

 

「その『マイマスター』っていうのやめてくれないかしら?あんまり連呼されると恥ずかしいのだけれど・・・・」

 

「何をおっしゃるのですかマイマスター?マイマスターは俺の主なのだからこう呼ぶのは当然のことでしょうマイマスター。恥ずかしがることなど何もありませんよマイマスター」

 

微笑みを浮かべながら言うと、リアス・グレモリーは表情をヒクつかせていた。

 

「・・・・ねえ、あなたもしかして何か怒ってる?」

 

「怒ってる?そんなことありませんよマイマスター。別に転生させておいて一週間も放置してたことを根に持ってるだなんてことありませんよマイマスター。俺は全く全然これっぽっちも気にしてませんよマイマスター。なので気に病むことはありませんよマイマスター」

 

「ごめんなさい。謝るからもう許してください」

 

深々と頭を下げるリアス・グレモリー。その姿を見て、一週間放置されて溜まった怒りがいくらか解消されたのを感じた。

 

(相棒・・・・・これはいくらなんでも酷いと思うぞ?)

 

(何を言ってるんだドライグ?原因を作ったのは向こうなんだからこれぐらいの当然だろ。むしろ生ぬるいぐらいだと思うし)

 

(・・・・・大した男だよお前は)

 

二天龍の一角を呆れさせたか・・・・・確かに俺は大した男なのかもしれないな。だいぶ自意識過剰だけども。

 

 

 

 




『マイマスター』の件のとき、朧は結構早口でまくし立てるように言っていました。そりゃリアスさんからしたらたまったものではないでしょう

それでは次回もまたお楽しみに


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第2話

今回はオカ研メンバーが勢揃いとなります

それでは本編どうぞ


 

「失礼、兵藤一誠くんだね?」

 

堕天使に襲撃され、リアス・グレモリーと初めて接触した翌日の放課後。一人の少年が俺に声を掛けてきた。その人物のことは知っている。

 

木場祐斗・・・・俺の同学年にして学園一のイケメンと噂されている男だ。

 

「そうだけど、要件は?」

 

木場がなぜ訪ねてきたのか理解していながら、俺は敢えて尋ねてみた。

 

「リアス先輩の使いって言えばわかるかな?」

 

やはりか。こいつがリアス・グレモリーの配下の悪魔であることは知っていたからそうだと思っていた。

 

「わかった。行こうか」

 

「うん。ついてきて」

 

俺は木場について教室から出ていく。

 

昨日、リアス・グレモリーから悪魔のことについて聞こうと思っていた俺であったが、彼女にそのことについては他の眷属を交えて話がしたいと言われてしまったため断念せざるを得なくなってしまった。後で彼女の眷属にも同じ話をして二度手間になってしまうということは分かっていたのでおとなしくその場は従ったのだ。

 

そして今、木場に連れられているのはその話をする場に案内されているからである。

 

にしても・・・・

 

(さすがは木場祐斗。廊下を歩くだけでここまで黄色い声援が上がるとはな)

 

周りを見れば木場のファンであろう女生徒が頬を染めてヒソヒソと話をしている光景が目に入る。まあ男の俺から見ても木場は格好良いし、仕方がないとは思うが。ただ、俺の方にも視線を向けるのは勘弁して欲しい。確かに俺なんかじゃ木場と釣り合わないのはわかるが、恨み言を言われるのは勘弁だ。

 

(・・・・・やはり気がつかないか)

 

突然、ドライグが呆れたように呟いた。

 

(気がつかない?なんのことだ?)

 

(いや、まあ俺が必要以上に口を出すことでもないからいいんだがな)

 

ドライグは一体何を言っているんだ?まるでわけがわからん・・・・・

 

「驚かないんだね」

 

ドライグの言っていたことの意味を考えていると、木場が声を掛けてくる。

 

「何の話だ?」

 

「僕が使いとして来たとき、君は一切動じなかったからね。自分で言うのもなんだけど僕は校内でも有名らしいから何か反応があると思ってたんだけど・・・・」

 

どうやら木場は俺が大してリアクションをとっていなかったことを疑問に思ったらしい。そんな話を人前でするなと思ったが、どうやら考え事をしているうちに新校舎を出て旧校舎の前まで来ていたようで人気はなかった。

 

「まあ、木場がマイマスターの配下の悪魔だってことは知ってたからな。マイマスターから使いを寄越すと聞いた時から同じ学年の木場が来るだろうことは予想してたから別に驚きはしなかったよ」

 

「あははっ、僕が悪魔だってこと気がついてたんだね」

 

「木場だけじゃないさ。この学園にいる悪魔は全員把握している。マイマスターの眷属もそうじゃない悪魔もな」

 

「それを聞いて君が何者なのかますます気になってきたよ。部長も興味を示していたし」

 

まあ、リアス・グレモリーや木場からすれば悪魔と関わりのない人間だった俺がどうしてそんなこと知っていたのか気になるのは当然のことか。その答えをこれから話に行くわけだが。

 

「というか、そのマイマスターっていうの部長の前じゃやめてあげてね。部長、だいぶ参ってたみたいだから」

 

「善処しよう」

 

苦笑いを浮かべる木場の様子からして、報復は予想以上に効いたようだな。

 

「善処じゃなくて確約して欲しいんだけどね・・・・・さあ、ついたよ」

 

旧校舎のなかの一室の前で木場は止まる。部屋の扉の上のプレートには『オカルト研究部』と書かれている。

 

(いや、まあ知ってたけどさぁ・・・・・悪魔がオカルト研究部ってどうよ?自分の存在そのものがオカルトじゃん)

 

「部長、連れてきました」

 

「入って頂戴」

 

俺が内心で呆れていると、木場が扉越しに報告をし、中からはリアス・グレモリーの声が聞こえてきた。木場が戸を開けて、俺もそれに続いて部屋に入る。

 

部屋の中はまさにオカルト研究部って感じがした。天井や壁、床に至るまでなんか形容し難い面妖な文字が書かれているし、奇妙な置物とかが置いてある。悪く言えばあやしい部屋だ。

 

ふと、部屋に備え付けられたソファに目を向けると、そこに一人の少女が座っていた。

 

この少女のことは知っている。一年の搭城小猫だ。高校生とは思えない程に小柄で可愛らしいその容姿からマスコット的な人気を誇っている・・・・・・リアス・グレモリーの配下の悪魔だ。

 

「小猫ちゃん。こちら兵藤一誠くん」

 

「・・・・どうも」

 

「ああ。こちらこそ」

 

搭城は無表情で俺に視線を向けて、ぺこりとお辞儀をする。俺も返事を返すが・・・・無愛想な態度だったのでもしかしたら警戒されているのかもしれない。まあ初対面だから仕方ない・・・・

 

「・・・・食べる?」

 

と思ったら、先程から黙々と食べていた羊羹の乗ったお皿を俺に差し出してきた。無表情なのはデフォなようだ。

 

「ありがとう。いただくよ」

 

せっかくの厚意なので。ありがたく羊羹をひと切れつまみ口に運ぶ。程よい甘さで美味しい羊羹だ。あとでどこで買ったのか聞いてみよう。

 

(と、そんなことよりリアス・グレモリーはどこだ?声が聞こえたから部屋の中にいるはずなんだが・・・・)

 

部屋の中を見渡すが、リアス・グレモリーの姿は見当たらなかった。ただ、部屋の奥・・・・カーテンを隔てた向こう側からシャワーの音が聞こえてきて、カーテン越しの女性のものであろう陰影が写っている。カーテンで隔てているとはいえ、シャワールームで浴室でもない部屋にシャワーを備え付けるってどうなんだ?

 

まあそれは置いておくとして、周囲にリアス・グレモリーの姿がないということは、シャワーを浴びているのは・・・そういう事なんだろうな。シャワー浴びるなら浴びるで俺が来る前に済ませておいて欲しかったなぁ。

 

「部長、これを」

 

キュッとシャワーを止める音に続いて、リアス・グレモリーとは違う女性の声が聞こえてくる。カーテンの向こうには彼女以外の誰かがいるようだ。

 

「ありがとう朱乃」

 

布の擦れる音がする。どうやら着替え中のようだ。というかこのひとはカーテン越しとは言え同じ部屋に男がいる中で着替えることに抵抗はないのか?オープンすぎるだろ・・・・・

 

「木場、俺たちの主様に羞恥心はないのか?」

 

「・・・・・・ノーコメントで」

 

「失礼なこと言わないでくれないかしら?それに祐斗もちゃんと反論しなさい」

 

カーテンが開き、中からリアス・グレモリーが姿を現す。その近くには黒髪ポニーテールの女性もいる。

 

「あらあら、あなたが兵藤一誠くんね。姫島朱乃と申します。どうぞお見知りおきを」

 

「いえ、こちらこそ」

 

黒髪の女性、姫島先輩が丁寧に挨拶してきたので、俺も短く返事を返す。

 

リアス・グレモリー、姫島朱乃、木場祐斗、搭城小猫・・・・・これでオカルト研究部の悪魔全員がここに揃った。

 

「全員揃ったことだし、話を始めましょう。座りなさい一誠」

 

「はい」

 

リアス・グレモリーに促され、俺は備え付けられたソファに腰を下ろす。

 

「一誠、私たちオカルト研究部はあなたを歓迎するわ。私達の正体については・・・・・話すまでもないわね?」

 

「ええ。俺含めてここに居るのは全員悪魔。そして姫島先輩、木場、搭城はあなたの配下なんですよねマイマスター?」

 

「・・・・・その呼び方はやめてと言ったでしょう?」

 

『マイマスター』と呼ぶと、リアス・グレモリーは額に手を当てる。

 

「これは失礼、ではなんとお呼びしたらいいでしょうか?リアス様?それとも主殿?」

 

「部長と呼んでくれればいいわ。皆もそう呼んでいるから」

 

部長、ねぇ・・・・俺がオカルト研究部に入部するのは確定事項ってことか。まあ、はなからそのつもりではあったからいいけど。

 

「わかりました部長」

 

「よろしい。さて、それじゃああなたがなぜ私たちが悪魔であることを知っているのか聞かせてもらおうかしら?」

 

部長がその一言を発するのと同時に、全員の視線が俺に向けられた。皆興味津々なようだ。

 

「教えてもらったんですよ。俺の中にいる相棒にね」

 

「相棒」

 

「ええ。まあ、実際に見せたほうが早いですね」

 

俺は皆が見やすいように左腕を突き出し、意識を集中させて神器(セイクリッド・ギア)を出現させる。俺の左手を甲の部分に宝玉が嵌められた赤い籠手が覆う。

 

「これって・・・・まさか!?」

 

俺の神器を目にして目を丸くする部長。どうやら部長はこれがなんなのか知っているようだ。

 

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)・・・・・これが俺の神器。俺は赤い龍の力を宿した今代の赤龍帝です」

 

俺の言葉に、その場にいた全員の表情が驚愕に染まった。

 

 




駒王学園内にどれだけ悪魔がいるか一誠さんはおおよそ把握しています

原作イッセーさんに比べて現時点で色々と察していますのでちょっとやそっとのことでは驚きません

それでは次回もまたお楽しみに


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第3話

今回は戦闘描写があります

ありますけど・・・・・うん、ちょっと可哀想

それでは本編どうぞ


赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)・・・・・まさかこんなにも身近に神滅具(ロンギヌス)の使い手が居たなんて」

 

俺の左手の赤龍帝の籠手を見ながら呟く部長。まあ赤龍帝の籠手は世界に13種しかない神滅具の一つだから驚くのは仕方ないか。

 

「けれど、それと一誠が私たちが悪魔だと知っていたことと何の関係があるのかしら?」

 

「赤龍帝の籠手の中には赤い龍・・・・ドライグの魂が宿っているんです。そのドライグから部長たちが悪魔だってことを聞きました」

 

「この中に赤い龍が?」

 

「はい・・・・・・部長たちからしたら、ドライグはやはり憎いですか?」

 

かつてドライグは白の龍との戦いで悪魔、天使、堕天使に多大な危害を加えてしまったらしいからな。三種族協力して神器に封じたとは言え、悪魔からすれば憎んで当然だ。

 

「まあ、全く何も思わないといえば嘘になるわね。けれど、憎んでいるかと言われればノーよ。かつてのことは二天龍を神器に封じた時点で終わっているわ。もっとも、また私たち悪魔に危害を加えるというなら話は別だけれど」

 

赤龍帝の籠手に鋭い視線を向けながら部長は言う。

 

(と言っているが、どうだドライグ?)

 

(別に悪魔たちをどうこうするつもりはない。今の俺が興味あるのは白との決着とお前の行く末を見届けることだ。そもそも、悪魔たちは危害を加えられたと言っているが、俺からすれば白との戦いを邪魔したから相応の報いを与えただけだからな)

 

正直その白との戦いの規模がシャレにならなかったのが原因だと思うんだが・・・・・まあ敢えて突っ込まないでおこう。

 

「今俺の中のドライグに聞いてみましたけど、悪魔たちをどうこうするつもりはないそうです。まあ、白との戦いの妨げになりそうだったらその限りではないかもしれませんが」

 

「そう・・・・・・だったら一誠自身はどうなのかしら?今代の赤龍帝が一誠である以上、一誠次第になると思うのだけれど?」

 

「正直に言えば、悪魔になる前は知ったこっちゃないと思ってましたよ。けれど、今の俺は悪魔ですからね。理由がない限り同族に危害を加えるつもりはありませんよ。部長の顔に泥を塗ることにもなりかねませんし」

 

「本当に正直な答えね。いいわ。あなたのその言葉、信じるわ」

 

ひとまず納得はしてくれたようで、部長は安心したように肩をなでおろした。

 

「さて、疑問が解消したところで聞くけれど兵藤一誠。あなたは今後私の眷属として生きてもらうことになるけれど異論はないかしら?」

 

「それ、異論はあるっていったらどうにかなるんですか?」

 

「あら?あるのかしら?」

 

意地の悪いひと・・・・いや、悪魔だ。どうあっても俺を手放すつもりなんてないくせに。

 

「いいえ、ありませんよ。命を拾ってもらったからには、誠心誠意仕える所存でございます」

 

ソファから降りて、部長に対して跪く。

 

「リアス・グレモリー様。あなたに拾ってもらったこの命。あなたの好きにお使いください。私はあなたの剣にも盾にもなりましょう」

 

「ふふっ、随分と気取るわね」

 

「形から入る主義ですのでね。一応俺なりの悪魔のイメージに従った結果なのですが嫌ですか?」

 

「いいえ、そういうのは嫌いではないわ。けれど、普段からそこまで堅苦しいと窮屈だからほどほどにお願いするわ。顔もあげなさい」

 

「わかりました」

 

部長に言われ、俺は顔をあげる。

 

「じゃあ、正式に私の眷属となった一誠に改めて自己紹介をしなければね」

 

部長のその一言をきっかけに、他の者達は立ち上げる。

 

「二年の木場祐斗。悪魔です。宜しく」

 

「一年、塔城小猫。悪魔です・・・・宜しくお願いします」

 

「三年、姫島朱乃ですわ。一応研究部の副部長をやっています。これでも悪魔ですわ」

 

「そして私が彼らの主、リアス・グレモリー。家の爵位は公爵。宜しくねイッセー」

 

4人は自己紹介をすると同時に、背中から悪魔の羽を生やす。俺もそうだが皆も気取るな・・・・・なら俺も倣うか。

 

「二年、兵藤一誠。皆さんと同じ悪魔として、今後よろしくお願いいたします」

 

俺もまた、背中から羽を生やしながら軽く自己紹介した。

 

(うん、やっぱこういう時のために部屋で羽だす練習しといたのは正解だったな)

 

(色々と台無しだぞ相棒・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・で、いきなりこれか」

 

俺は現在、部長とその眷属たちと共に町外れの廃屋に趣いていた。なんでも、大公から部長にはぐれ悪魔の討伐の依頼が来たそうだ。

 

はぐれ悪魔というのは、主を裏切って単独で行動する野良犬のようなやつを指すそうで、放っておくと大半が悪さをするから見つけ次第消滅させるのがルールらしい。実際、今日討伐目標となっているはぐれ悪魔は何人も人を食っているらしい。

 

まあたしかに・・・・いかにもそんなことしそうな風貌をしているものな。

 

「くく・・・・美味そうだなぁ。早く食い散らかしたい」

 

廃屋の中の血の匂いが漂う一室・・・・・その中にはぐれ悪魔、バイサーはいた。人型の上半身に四足歩行の獣の下半身。両手には槍を持っている。ぶっちゃけ控えめに言っても醜い悪魔だ。

 

そして俺は、そんな醜い悪魔をこれから一人で相手をしなければならないらしい。部長は赤龍帝の籠手を持つ俺の力が知りたいようで、ちょうどいいからバイサーを当て馬にすることにしたようだ。正式に眷属となった初日にこれってとんだブラックだな・・・・まあ俺としても、自分の力を見せる機会としてはうってつけではあるので引き受けたのだが。

 

「もしも危なくなったら助けるわ。だから思い切りやりなさい」

 

「一誠くん、頑張ってね」

 

「・・・・ファイトです先輩」

 

「怪我しないように気をつけてくださいね」

 

後ろで好き勝手言ってくる部長たち。別にいいんだけど・・・なんかちょっとムカつくな。というか危なくなったら助ける?思い切りやれ?あまり侮らないで欲しいものだな。

 

この程度の相手に危なくなることも、思い切りやる必要もない。

 

「食えるものなら食ってみろ。まあ、お前のような雑魚では無理だろうがな」

 

「貴様ァ!!」

 

軽く挑発すると、バイサーは槍を俺の方につき出してきた。

 

「遅い」

 

俺は体をひねって槍を躱す。そして跳躍してバイサーの顔に回し蹴りを叩き込んだ。

 

「ぐおっ!?この・・・・」

 

バイサーは獣の足で俺を押しつぶそうとしてくる。俺はそれを左手で受け止め、右手で足に殴打を叩き込む。感触からしてこれは骨を砕けたかな。

 

「がぁっ!?馬鹿な!こんな小僧に・・・・!」

 

「やかましい」

 

バイサーが怯んでいる隙に背後に回り込み、尻尾を掴む。そのまま持ち上げて地面に叩きつけた。

 

「うぐおぉぉぉぉ・・・・!?」

 

「まだ喚くだけの余裕があるか。だったら、その余裕をすぐに消してやる」

 

「ちょ・・・ごあっ!?待って・・・・ぐえっ!?やめ・・・・」

 

尻尾を掴んだまま何度も持ち上げ、叩きつけるのを繰り返す。8回ほどして、バイサーはうめき声すら上げなくなった。意識はあるようだが、もう気力は完全に死んでいる・・・・戦闘不能状態だ。

 

「部長、とりあえずもう抵抗してこないと思いますがどうしますか?」

 

「・・・・・」

 

バイサーを戦闘不能に追い込んだので、指示を仰いだのだが、部長はポカンとした表情で呆けていた。部長だけでなく、他の皆も同じような感じだ。

 

「部長?聞こえています?」

 

「え?あ、はい。聞こえてます」

 

「なんで敬語なんです?」

 

「それはまあちょっと。というかあなた・・・・いえ、後にしましょう。バイサーのことは私に任せなさい」

 

「はあ?わかりました」

 

どうしたんだ部長?俺何か間違えたか?

 

「バイサー、何か言い残すことはあるかしら?」

 

「いっそ殺してくださいお願いします」

 

部長に問われたバイサーは、潔く死を受け入れた。受け入れたのだが・・・・・なんかニュアンスがおかしいような気がする。

 

「そう・・・・わかったわ」

 

手に球体をつくる部長。凄まじい力を感じる・・・・・おそらくあれは部長の魔力だろう。

 

「せめて苦しまずに消えなさい」

 

魔力の球体がバイサーに向かって放たれる。その直撃を受けたバイサーは、跡形もなく消滅した。

 

「これで仕事は完了・・・・ってことでいいんですか?」

 

「ええ。ご苦労さま一誠」

 

部長は微笑みを浮かべながら俺の頭を撫でてくる。この年になって撫でられるなど恥ずかしいが、俺も男だ。女に撫でられるのは悪い気はしない。

 

「ただ・・・・どうして赤龍帝の籠手を使わなかったのかしら?」

 

・・・・まあ、部長は『赤龍帝の籠手を持つ俺の実力』が知りたかったわけだからな。それなのにそれを使わずに終わってしまったのだから部長としては不満なのかもしれない。

 

「単純に使う必要がなかったからですね。あれを使わなくても勝つ自信はありましたし、実際勝てましたし。それに、赤龍帝の籠手は必要ないときはあまり使いたくないんですよ。強力ではありますが、その分消耗が激しいので」

 

体に負担が大きかったから一定以上使いこなせるようになってからはあまり使わないようにしてたんだよな。今は悪魔に転生して体力も増してるから大丈夫だと思うが、人間だったときは使いすぎてしんどくなったこともあったし。

 

「そう。まあ、赤龍帝の籠手無しであれだけ戦えるってわかっただけでも十分だからいいけれど・・・・随分と強いのね。それに戦い慣れている感じもするわ」

 

「まあ白と戦う時のために鍛えていましたからね。あれぐらい造作もありませんよ。悪魔になって人間だったときに比べて力も増しましたし」

 

人間だったときは赤龍帝の籠手なしじゃさすがにバイサーの攻撃を正面から受け止めたり持ち上げて叩きつけるするのは難しかっただろうからな。やはり悪魔になって結構力は上がってるようだ。

 

「そう・・・・これは想像以上にいい拾い物をしたかもしれないわね」

 

「それは何より」

 

部長の役に立てるのなら満足だ。俺は部長の下僕・・・・部長の役に立つために生きてるのだから。

 

白と戦うことと部長の仕えること・・・・・この2つだけが今の俺の存在理由なのだから。




一誠さんの実力を見せるためにバイザー戦の時系列を変えたけど結局本気どころか赤龍帝の籠手を出すことさえなかったという。

そしてバイザー・・・・・すまない。あんなにボコボコにしてしまってすまない

それでは次回もまたお楽しみに


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第4話

今回はラストであの子が出てきます

ただそれまでの話の内容が・・・・

それでは本編どうぞ


「ただいま戻りました」

 

「お疲れ様、一誠」

 

部長の眷属となって一週間が経ち、俺は悪魔の仕事に明け暮れていた。初めは悪魔を召喚するためのチラシ配りから始まり、それを数日こなしたら実際に依頼者のもとに趣いて契約を結んでいた。まあ、契約を結ぶといっても全部が全部上手くいったわけではないけど。叶えられなかった願いも結構な数ある・・・・中には無茶振りもあったから仕方がないと言えば仕方がないが。

 

ただ、驚いたのは召喚者の中にミルたんがいたことだな。筋肉隆々ながっしりした体型に似合わず、魔法少女を夢見る漢女(おとめ)。俺とはちょっとした縁があって修行に付き合ってもらてたりしていた。というか、悪魔になって身体能力は上がったっていうのに未だに赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)無しでは物理的に勝てる気がしない。

 

(ミルたん・・・・・本当に人間なのか?)

 

(それについては俺も同感だ。あれは人間を超越した何かだとしか思えない)

 

二天龍であるドライグにここまで言わせるんだもんなぁ・・・・ミルたんおそるべし。

 

「一誠?」

 

俺がミルたんのことについて考えていると、部長が声を掛けてきた。

 

「と、すみません。ちょっと考え事を」

 

「そう。ところでどうかしら?悪魔の仕事には慣れたかしら?」

 

「まあ一応。最近は日の光を浴びても辛くなくなってきましたし、自分なりにはそこそこやれていると思いますよ」

 

「それはなによりだわ。これからも一層励みなさい一誠」

 

「はい」

 

俺の頭を撫でながら言う部長。部長は事あるごとに俺の頭を撫でてくる。あんまり撫でてくるものだから、最近は恥ずかしさが薄らいできた。正直結構心地いいし。

 

(ふっ)

 

(ドライグ?なんだその意味深な笑みは?)

 

(いいや、なんでもないさ。ただ、クールを通り越してドライなお前にそう思わせるとはリアス・グレモリーも中々やるものだと思ってな)

 

こいつ・・・・・俺を弄れると思ってやがるな。愉快そうな声出しやがって。

 

「一誠?渋い顔してどうかしたかしら?もしかして嫌だった?」

 

「いえ、そういうわけではありません。ただ、ちょっとドライグが・・・・・」

 

「ドライグがどうかしたのかしら?」

 

「部長が気にすることではないですよ」

 

ドライグに弄られて困ってますだなんて言えるはずないからな。

 

「そう。ならいいけれど・・・・・それにしても・・・・」

 

「どうしました部長?」

 

「いえ、前から思っていたのだけれど『一誠』ってちょっと呼びにくいわよね」

 

ッ!?

 

「そ、そうでしょうか?」

 

「ええ。ちょっとだけ言いにくいわ」

 

「あ、それ僕も思っていました」

 

「・・・・私も」

 

「私もどちらかといいますと・・・・」

 

部長だけでなく、木場も小猫も朱乃先輩もそう思っているのか、同意してくる。これは・・・・良くない流れだ。

 

「そうだわ。これからはあなたのことを『イッセー』って・・・・」

 

「やめろ!」

 

「「「「!?」」」」

 

俺はつい部長の言葉を遮るように叫んでしまった。その場にいた全員が目を丸くして俺の方をみてくる。

 

「声を荒げてしまってすみません。でも、そう呼ばれるのは昔から好きじゃなくて・・・・」

 

「そうだったのね・・・・・ごめんなさい」

 

「いえ、こちらこそ。呼びにくいかもしれませんがこれからも『一誠』でお願いします。では、今日はこれで失礼しますね」

 

居心地が悪くなってしまったので、俺は足早に部室から出て行く。俺のあとを追ってくる者も、引き止める者も誰ひとりとしていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・はあ」

 

(露骨に落ち込んでいるな。そんなに昨日のことを気にしているのか?)

 

(ああ・・・・まあな)

 

公園のベンチで座りながら、昨日のことを思い返して俺は自己嫌悪に陥る。あんな態度を主である部長にとってしまうなんて・・・・・けど、仕方がない。『イッセー』と呼ばれるのは嫌なんだから。

 

(やはり、『イッセー』と呼ばれるのは嫌か?)

 

(ああ。嫌だよ)

 

『イッセー』と呼ばれる度に、俺はいつも酷い罪悪感に苛まれる。だから俺はそう呼ばれるのが嫌で嫌で仕方がなかった。

 

その理由にはおおよそ検討はついている。おそらく『イッセー』というのは元々、本来の『兵藤一誠』が呼ばれるはずだったあだ名。本来ここにいるはずだった本物の『兵藤一誠』がそう呼ばれているからだろう。

 

だからこそ、俺は罪悪感に苛まれるのだと思う。なんで俺がここにいるんだと。なぜ本物の『兵藤一誠』を押しのけて俺のような偽物が存在してしまっているのか・・・・と。

 

偽物である俺がここにいて何ができるというのか?

偽物である俺が本物の代わりになるというのか?

そもそも偽物である俺がここにいていいのか?

 

なんで俺が・・・・・俺なんかが・・・・・

 

(随分とまた馬鹿なことを難しく考えているようだな。お前の苦悩、俺にもヒシヒシと伝わってくるぞ)

 

(馬鹿なことだと?)

 

(ああそうだ。本物も偽物もない。お前はここに居る一個の生命だ。この場にいてはならない理由など一切ないはずだ)

 

ドライグはおそらく俺のことを思って言ってくれているのだろう。だが、それでも俺にはその言葉は響かない。

 

(それはお前の理屈だよドライグ。俺の理屈は違う。俺は本物の『兵藤一誠』を押しのけて生まれてきてしまった偽物の『兵藤一誠』だ。存在していい理由はない)

 

(お前の家族や友人が聞いたら悲しむな)

 

(悲しまないさ。どうせ戯言だと呆れられる。誰も信じやしない)

 

俺は自分が偽物だと自覚している。だが、それを証明する術はない。誰に言っても戯言と思われるに決まっている。

 

(お前は変わらないな。俺がなんといおうと、自分を偽物としか扱わない。いつも疎外感と孤独感に苛まれている。今でこそリアス・グレモリーの眷属であるおかげでマシになってはいるが、自分を平気でないがしろにする。それこそ頼まれたからという理由であの堕天使に望んで殺されたのがいい証拠だ)

 

(悪いなドライグ。こればっかりは変えることはできないよ。俺は自分の罪を忘れる訳にはいかないからな。それと、夕麻に殺されたのは自分をないがしろにしているからじゃない。夕麻の頼みだったからだ)

 

いくら自分をないがしろにしているといっても、誰に頼まれても潔く殺されるというわけではない。夕麻の頼みだったから・・・・・だから俺は殺されたんだ。

 

(あの女のこと・・・・・本気で好きだったのか?)

 

(ああ、好きだったよ。夕麻といると、疎外感や孤独感が薄まるような気がした。あいつといると楽しくて、心が暖かくなって・・・・・この世界にいて良かった、この世界で生きていきたいと思えたんだ)

 

そう思わせるほど夕麻のことが好きだった。人間じゃないってわかっていたけど、それでも好きだった。たとえ俺を殺す目的で近づいてきたとしても、それでも好きだった。夕麻は俺を殺した。それでも好きだった。

 

いや・・・・『だった』ではない。俺は今もあいつを・・・・・夕麻のことを・・・・・

 

(相棒・・・・お前は・・・)

 

「はうっ!?」

 

ドライグが何か言おうとしたその瞬間、俺の耳に可愛らしい少女の悲鳴が聞こえてきた。声のした方に視線を向けると、金髪の少女が派手にすっ転んでいた。

 

「・・・・大丈夫か?」

 

あまりにも盛大な転びっぷりだったので、見過ごすことができずについ近づいて手を差し出してしまう。近づいてみてようやく気がついたが・・・・少女はシスターの格好をしていた。

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

俺の手をとり、立ち上がった少女は微笑みを浮かべながら俺に礼を言ってくる。

 

少女の微笑みは、まるで天使のように愛らしいものだった。




主人公である一誠さんの性格がかなり面倒くさい・・・・・

この一誠さんは原作イッセーさんのことは知りませんが、それでも違和感や疎外感、孤独感、罪悪感等を感じるという理由で『イッセー』という呼び名は自分のものではないと思っています

他にも変なところで本来の『兵藤一誠』と比べていますので・・・・・今後もこんな面倒くさい感じが随所で見られますのでご注意を

それでは次回もまたお楽しみに


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第5話

今回は一誠さんとアーシアさんの絡みがメインです

だけどラストで・・・・?

それでは本編どうぞ


 

「・・・・・」

 

「あ、あの・・・なにか?」

 

数秒、目の前の少女の可憐さに思わず視線が釘付けになってしまった俺に、少女が声をかけてくる。

 

「いや、ごめん。間近でシスターを見るのが初めてだったからついね」

 

とりあえずそれっぽい言い訳をしておく。さすがに見惚れてましただなんて本当のことは言えないからな。

 

「それよりも結構盛大に転んでたけど怪我とかは大丈夫か?」

 

「はい。大丈夫です・・・・あっ、荷物!」

 

少女の視線の先には中身が散らばってしまっている鞄があった。少女はあわてて散らばったものを拾い始める。俺も手伝おうと身近にあったものを手に取るが・・・・

 

「あっ・・・・やべ」

 

・・・・手にとったものは下着であった。

 

「はわっ!?」

 

俺が拾ったものを目にした少女は、ものすごい速さで俺から下着をひったくり、慌てて他の荷物と一緒にカバンの中にしまいこんだ。

 

「あはは・・・・お見苦しいものをおみせしました」

 

「いや・・・・・こちらこそすまない」

 

親切のつもりでやったのだが完全に裏目に出てしまった・・・・・まあ、正直眼福だと思ってしまったが。

 

(ふっ、相棒も男だな)

 

(うるせぇ黙れドライグ。というか人のモノローグ勝手に読むな)

 

俺だって男なんだからそういうことに興味あってもいいだろうがちくしょうめ。

 

「ところで君、日本人じゃないようだけどこの町には何をしに?」

 

とりあえず空気を変えようと少女に訪ねてみる。特に観光名所もないような町なので、どうして大荷物を持ってこんなところにいるのか気になったというのもあるが。

 

「今日からこの町の教会に赴任することになりまして。でも道に迷ってしまって。言葉も通じず困っていたんです」

 

少女は苦笑いを浮かべながら答える。俺は悪魔になったおかげで便利翻訳機能が内蔵されているようなものだから気にならなかったが、やはり言語の違いというのは結構きついようだ。

 

にしても教会に赴任か・・・・・悪魔の俺にとっては完全にアウェーだが、これも何かの縁というやつだし仕方がない。

 

「教会なら多分案内できる。連れて行こうか?」

 

「本当ですか?これも主のお導きです!」

 

「ッ!?」

 

少女が手を組み、祈りを捧げると同時に激しい頭痛に襲われた。少女に気づかれないようには表情は変えずに済んだが・・・・・やはり悪魔はその手のものに弱いらしい。

 

「じゃあ行こうか」

 

少女を連れ、教会に向かおうとしたその時・・・・・子供の泣き声が耳に入ってきた。声のする方へと視線を向けると、そこには膝から血を流している男の子がいた。

 

「あっ」

 

男の子に気がついた少女は、すぐに駆け寄る。そして一言二言声をかけた後、怪我をしている膝に手をかざす。少女の手からは淡い光が発せられ、男の子傷は瞬く間に治癒していった。

 

(ドライグ、あれって・・・)

 

(神器(セイクリッド・ギア)だろうな。回復系の神器とは珍しい)

 

やはり神器か・・・・・あの手際からして結構使い慣れているようだ。

 

「はい。もう大丈夫ですよ」

 

完全に傷が癒え、少女は男の子に微笑みを浮かべながら言う。その姿は、少女をより一層天使だと思わせた。だが・・・・・誰しもが俺のように思えるわけではない。男の子の母親と思わしき者が近づいてきて、その女性は男の子の手を引いて足早にその場から立ち去ろうとする・・・・・少女に対して蔑みの視線を向けて。

 

少女のしたことは尊いことだ。間違いなく善行だが・・・・それでも、何も知らない人にとっては気味が悪いもの。だからこそそれがどんなにいいことであろうとも恐れ、蔑む。少女もそのことを分かっている・・・・・いや、慣れているのだろう。表情は悲しげだが、どこか諦めが入り混じっているようにも見える。

 

だが・・・・

 

「お姉ちゃん、ありがとう!」

 

男の子のその一言が、少女から悲しげな表情を消し去った。言葉の意味はわからないだろうが、笑顔でこちらに手を振っている姿を見れば、悪感情を向けられていないということはわかるだろう。

 

「ありがとう、だってさ」

 

「・・・・はい」

 

少女の顔には既に一点の悲しみも映っていなかった。

 

「すみません。ついおせっかい」

 

「気にするな。悪いことをしたわけでもないし。俺が君でもそうしてた」

 

「・・・・・聞かないのですか?」

 

「何を?」

 

「・・・・・あの力のことです」

 

少女は少々表情を暗くしながら言う。あの力を持っていると知られて、これまで苦労したことも多々あったんだろう。だから聞いてしまったのかな。

 

「んー・・・・よし」

 

周りを見て、人がいないことを確認する。そして、俺は神器を発動して赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を出現させた。

 

「え?これって・・・・」

 

「聞かなかったのはこういうこと。俺もそうだからな」

 

少女に見せたあと、すぐに赤龍帝の籠手をしまう。少女の方はそれで納得したのか、それ以上は何も言ってこなかった。

 

「そんなことよりも、早く教会に行こう。あんまり時間食うと、向こうで君のこと心配してるかもしれないしさ」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

俺は少女と連れて、教会へと歩み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

案内を初めて10分ほどして教会に着いたのだが・・・・

 

(大丈夫か相棒?)

 

(大丈夫じゃねぇよ。寒気が半端ない)

 

正直舐めていた。まさか教会に近づいてこんなにも悪寒が走るとは思わなかった。

 

「ここです!よかったぁ」

 

俺の心境とは裏腹に、目的に到着できたことに喜ぶ少女。まあ、この笑顔を見られただけでも良しとするか。

 

「じゃあ俺はこれで・・・・」

 

「えっ!?待ってください!」

 

目的を果たしたので一刻も早くこの場から離れようとする俺を、少女が引き止めた。

 

「ここまで連れてきてくださったお礼をさせてください!」

 

「いや、俺急いでるから・・・・」

 

厚意は嬉しいが、感謝しているというなら早くこの場から立ち去らせてくれ。もうホントマジきつい。

 

「で、ですが・・・・・」

 

食い下がってくるな。しょうがない、ここは・・・・・

 

「なら、お礼はまた縁があって会えたときにってことで」

 

「それでいいんですか?」

 

「ああ」

 

むしろそれがいいです。ここから早く離れたいから。

 

「でしたらお名前を教えてくださりませんか?」

 

「ん、わかった。俺は兵藤一誠。一誠って呼んでくれ。イッセーって呼ばれるのは好きじゃないからそれは簡便な」

 

「わかりました。私はアーシア・アルジェントです」

 

「アーシアね・・・・・覚えたよ。じゃあまた今度な」

 

「はい!また必ずお会いしましょう一誠さん!」

 

満面の笑顔のアーシアに見送られて、俺は教会をあとにした。

 

(・・・・・お前好みの女だったか?)

 

(うるさい、黙れドライグ。まあ、可愛くて良い子だとは思ったけどな)

 

なにせ本当にまた会えたらいいなって思ってしまってるからな・・・・・教会のシスター相手にそんなことを考えてしまうなんて悪魔失格かもな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘・・・・・どうして?」

 

教会の窓から外を見ていた私は。ありえないものを目にしてしまった。もう存在しないはずの彼を・・・・・私が殺してしまったはずの彼を。

 

「一誠くん・・・・」

 

そう呟きながら、私は胸元のブローチに手を当てる。そのブローチは、付き合っていた時に彼からプレゼントされた・・・・・私の宝物だった。

 

一誠くんが生きている・・・・・その事実は嬉しい。嬉しいけれど・・・・・

 

「どうすれば・・・・いいの?」

 

私の心を埋めるのは喜びだけでなかった。元々私が彼を殺したのは、彼が計画の邪魔になる可能性があるからだ。だけれど彼は生きている。しかも、彼から感じた気配は・・・・・悪魔のものであった。

 

計画の邪魔になる可能性がある悪魔・・・・・もしも会うことがあれば私は・・・・また彼を・・・・

 

「なんで・・・・こんな」

 

私はまた・・・・・愛する男を殺さなければならないのだろうか?

 

 




不穏な感じになってまいりました

なお、原作よりも彼女が優遇されておりますがそれは完全に私の趣味です

それでは次回もまたお楽しみに


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第6話

今回はあの神父が登場します

それでは本編どうぞ


 

「二度と教会に近づいてはダメよ!教会は私たちにとっては敵地なんだから!」

 

アーシアを送り届けたあと、オカ研の部室に赴いた俺は現在、部長から説教を受けていた。どうやら俺が教会に近づくところを部長の使い魔が見ていたようだ。

 

「踏み込めばそれだけで問題になるの。いつ光の槍が飛んできてもおかしくなかったのよ?」

 

それはまた物騒な話だ。まあ、向こうだって悪魔を近づけさせたくないだろうから当然の処置といえば当然なのだが。

 

「それと教会の関係者に近づくのもダメよ。特に悪魔祓い(エクソシスト)は危険だわ。彼らの悪魔祓いを受けた悪魔は完全に消滅し、無に帰すの。それがどういうことなのかあなたわかっているの?」

 

つまりは輪廻の輪に加われなくなって未来永劫存在することができなくなるということか・・・・こう言ってはなんだが、前世の記憶を持ち合わせてしまっている身としては、構わないような気もする。まあ、だからって進んで消されにいくつもりはないけども。

 

けど部長がここまでお怒りとなると、アーシアとの接触は今後避けるべきなんだろうなぁ。アーシアはお礼がしたいと言っていたが、それも無理かもしれんな。

 

(残念か?)

 

(またお前は人のモノローグ読むなよ・・・・・まあ残念と言えば残念だけどな)

 

あんないい子滅多にいないし。可愛いし。一緒にいるとそれだけで癒されるし。やはり会いにくくなるというのは残念だ。

 

「金輪際、教会には近づかないと誓いなさい。わかった一誠」

 

「はい、わかりました」

 

部長に了解の返事を返す。だが、ぶっちゃけ時と場合によるのでこの誓いはあまり意味がなかったりする。口には出さないが。でもまあ、教会に近づくとそれだけで頭痛くなるし気分も悪くなるし、よっぽどのことがない限りはやっぱり近づくことはないだろうが。

 

「わかればいいのよ・・・・・・少し熱くなりすぎてしまったわね。ごめんなさい」

 

部長は俺の手を引っ張って自分の方へと引き寄せ、俺の頭を撫でてくる。なんかちょくちょくこれやられるけど部長の癖かなにかなのだろうか?けど俺以外にやってるところ見たことないし・・・・・俺は部長にとって愛玩動物(ペット)のような存在ということだろうか?まあ、これはこれでアーシアとは違った癒しがあるので大いに構わないのだが。

 

「いえ、それだけ部長が俺のことを心配してくださっているというのは伝わってきましたので。俺の方こそ、主である部長の心配を考えず、勝手なことをして申し訳ありませんでした」

 

部長の眷属である俺の行動は、時として部長に多大な影響を及ぼすことがある。主と眷属という関係上、あまり下手なことはできない。今の俺は部長のために生きているといっても過言ではないし、今後は自由がある程度縛られる可能性はあるが、気をつけておかなければな。

 

「さて・・・・・お説教はここまでよ。今日も依頼をこなしてきなさい」

 

「はい」

 

部長に言われ、俺は依頼者のもとに赴くために転送用の魔法陣の上に立つ。さて、今回は何を依頼されるのだろうか?無理難題をふっかけてくるような奴でなければいいか・・・・あと、頼むからミルたんみたいなのも勘弁してくれ。あんなあらゆる意味でトンデモない超人が世界にそう何人もいるとは思わないが。

 

「では行ってきます」

 

「行ってらっしゃい一誠」

 

部長に見送られ、俺は魔法陣によって依頼者のもとに転送された。

 

転送されたのだが・・・・

 

「ッ!?この匂い・・・・」

 

転送と同時に、むせ返るような強い血の匂いを感じた。どこから発せられているものなのかと周囲を見渡してみると・・・・部屋の壁に、逆さに貼り付けにされて惨殺されている男の死体があった。

 

「これは・・・・・」

 

死体を目にして、俺は思わず息を飲む。強盗の仕業でないことは一目瞭然だ。あまりにも猟奇的すぎる。問題はこれを誰がなんの目的でやったかだが・・・・

 

(死体から血が滴っているから、これをやった犯人はまだ近くにいるはず。一応依頼された縁もあるし、犯人を見つけて相応の罰を・・・・)

 

「おや~?これはこれは悪魔くんではあっりませんか~」

 

犯人を見つけなければと考えていた俺の耳に、軽薄そうな男性の声が聞こえてきた。声のする方に振り返ると、そこには白髪の神父っぽい服装の少年がいた。

 

「・・・・あんた誰?」

 

「俺?俺はフリード・セルゼン。お前たち悪魔を嘲笑いながらぶっ殺しておまんま貰う少年神父様だ♪」

 

歌うように声を弾ませながら神父、フリードが名乗る。すみません部長、誓ったそばから教会の関係者と接触しちゃいました。まあこれは不可抗力みたいなもんだが。

 

「ふーん・・・・・・じゃあ、この人を惨殺したのはその少年神父様のフリードくんってことなのかな?」

 

「イグザクトリー!その通りでございますよ?悪魔と取引するような人間に生きてる価値なんてないっしょ?だから俺がさくっと殺して救ってあげちゃったってわけ!俺ってばやっさしー!」

 

死体の顔を足蹴にするフリード。随分とまあ、格好以外何一つ神父らしくない狂い外道野郎だな。

 

「・・・・その足どけろよ。これ以上その人を冒涜するな」

 

「あ?何言っちゃてるの?」

 

「お前の言っている理屈は全くと言っていいほど理解はできないが、少なくともその人を殺した時点でお前はその人を救ったことになっているんだろう?ならその人にはもう罪はないはず。これ以上何かをしようって言うならそれは冒涜だ。だからとっとと足をどけろ」

 

「カッチーン・・・・・は?なに?悪魔風情が俺に説教たれんの?調子に乗らないでくんない?」

 

俺の物言いに腹を立てたのか、フリードは不機嫌そうな表情を顕にして俺のことを睨みつけてくる。その際死体から足を離したので、一応は俺の目的は達成できた。

 

「まあいいや。ちょうど悪魔とのお話にも飽きてきちゃったことですし?そろそろ君を殺しちゃいまーす。ま、安心しろよ。俺がじっくり時間をかけて殺してやるから。最初は痛いかもしれないけどそのうち快感に変わるぜー。だから新た扉開いちまおう♪」

 

右手に銃を、左手に刀身が光る剣を持ちながら、フリードは愉快そうに言う。

 

「さーて、せっかくだから悪魔くんには選ばせてあげよう。蜂の巣世界記録に挑戦するか、細切れ世界記録に挑むかどっちが・・・・あ?」

 

フリードの言葉は、最後まで紡がれることはなかった。その前に、俺がフリードが手に持つ銃も剣も蹴り飛ばしてしまったからだ。

 

「悪いが蜂の巣世界記録も細切れ世界記録も興味ない。俺が選ぶのは・・・・・タコ殴り世界記録だ」

 

「げふっ!?」

 

武器をはじかれ、呆然としていたフリードの顔面に裏拳を叩き込む。フリードの体は吹き飛び、壁に叩きつけられた。

 

「ただし、挑戦するのは俺じゃなくてお前の方だけどな。何発殴れば世界記録になるかは知らないがな」

 

「てめぇ・・・・ぶっ殺す!」

 

今の一撃で完全にキレたようで、フリードは武器を持たぬまま俺の方に突っ込んでくる。迎撃しようと拳を構えたその瞬間・・・・

 

「・・・・一誠さん?」

 

この殺伐とした空気に似つかわしくない、か細い声が聞こえてきた。その声には聞き覚えがある。

 

(まったく・・・・・確かにまた会えたらいいなとは思っていたが、まだ一日も経ってないだろうが。しかも、こんな形での再会なんて望んでなかったっての)

 

心の中でぼやきながら、声のした方へと視線を向ける。

 

「・・・・さっきぶりだな、アーシア」

 

そこには、表情を驚愕に染めるアーシアがいた。

 

 




現時点において一誠さんが原作イッセーさんに比べて強すぎるからフリードでは手も足もでないという

まあ、だからといって今後の展開が大きく変わるかどうかは別問題ですが

それでは次回もまたお楽しみに


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第7話

前回でフリードと邂逅したわけですが・・・・・今回はどうなるか?

それでは本編どうぞ


「一誠さん・・・・どうしてここに?」

 

戸惑いながらも尋ねてくるアーシア。質問の内容は俺がアーシアに聞きたいことでもあるのだが、今はそれどころではない。

 

「すまないがアーシア、話は後にしてくれ。今はやることが・・・・」

 

「すっき有り~!」

 

「ッ!?」

 

アーシアに意識を向けていたせいで目を離してしまい、その隙をついてフリードが動き出した。しかし、フリードがしたことは俺への攻撃でも武器の回収でもなく・・・・・アーシアを取り押さえることであった。

 

「フリード神父!?何を・・・・」

 

「きひひっ!ごめんねアーシアちゃん。アーシアちゃんあのクソ悪魔と顔見知りみたいだから利用させてもらうよ~」

 

「・・・悪魔?」

 

「およ?顔見知りでもそれは知らなかったの?そこにいる奴は俺たちの敵である悪魔なのよ?」

 

「一誠さんが・・・・悪魔?」

 

悲しげな表情で俺の方を見てくるアーシア。それなりに縁のある俺が悪魔だという事実は、やはりシスターであるアーシアにとっては思うところがあるのだろう。

 

「まあ、どうでもいいけどね。どうせコイツもすぐにそこのゲージュツ品みたいになるんだからさ」

 

「見るなアーシア!」

 

俺は声を張り上げるが、アーシアはフリードの指の先にある惨殺された男の死体を目の当たりにしてしまった。

 

「いや・・・・いやぁぁぁぁぁ!!」

 

あまりにも惨いそれはアーシアにとっては耐えられないものだったのだろう。アーシアは甲高い声で悲鳴を上げる。

 

「この手の死体を見るのは初めてだった?だったらとくとご覧よ。悪魔に魅入られた人間はこうやって殺すのさ。もちろん悪魔もな」

 

にやりと笑みを浮かべながら、フリードは俺に視線を向けてくる。

 

「お前程度の力で俺を殺せると思ってるのか?残念だがそいつは無理な話だと思うぞ?」

 

「確かに悪魔くんはなかなか強いようだねぇ。けどさぁ・・・・こうやってアーシアちゃんを人質にとっておけば、悪魔くんは俺に手を出せないでしょ?」

 

アーシアの手を掴み、自分の方へと引き寄せるフリード。

 

「アーシアはお前の仲間なんだろ?俺を殺すためとは言え仲間に危害を加えるのか?」

 

「確かにアーシアちゃんを死なせるなとは言われてるね。けどさ・・・・・こんなことはできちゃうのさ!」

 

「きゃあぁぁぁぁ!?」

 

フリードはアーシアの服の胸元に手をかけて、一気に引き裂いた。

 

「死なせなきゃ何したって許されるのさ!それこそ犯し尽くしたって問題ない!悪魔くんはアーシアちゃんと懇意にしてみたいだからそんな光景見たくないでしょ?だったら俺に大人しく殺されちゃいな!」

 

なるほど、そう来るか。確かにそういう脅しなら効果的ではあるな。

 

「逃げてください一誠さん!早く!」

 

俺の命が脅かされていると感じたようで、アーシアは俺に逃げるように進言してくる。だが、そうはいかない。このままアーシアを残してこの場を去るだなんてできるはずがない。

 

「別に逃げてもいいよぉ?そしたらアーシアちゃんをキズモノにしちゃうだけだからさ!ぎゃはははははは!!」

 

「・・・・・黙れよ外道が」

 

フリードの言葉に俺はキレてしまった。自分でもわかるほどドスの効いた声が出てくる。

 

「・・・あ?何言ってんの?状況分かってる?下手なことしたら俺アーシアちゃんに手を出しちゃうよ?」

 

「黙れって言ってるだろうが。さっきからふざけたこと言いやがって・・・・これ以上少しでもアーシアを辱めてみろ。お前の頭蓋を叩き割って脳髄撒き散らすぞ?」

 

「ッ!?」

 

「一誠・・・・さん?」

 

脅しが効いたのか、フリードは怯み顔を強ばらせる。ただ、アーシアも怖がらせてしまったが・・・・

 

「く、くくっ・・・・さすが悪魔だねぇ。随分とえぐい脅しを・・・・」

 

怯みながらも乾いた笑みを浮かべながら言うフリードであったが、その言葉が最後まで紡がれることはなかった。部屋の中に突然魔法陣が現れたからだ。

 

(この魔法陣・・・・まさか?)

 

その魔法陣には見覚えがあった。程なくして、魔法陣から4つの人影が姿を現す。

 

「一誠くん、助けに来たよ」

 

「あらあら・・・・これは大変な状況ですわね」

 

「・・・・・神父」

 

「一誠、大丈夫かしら?」

 

魔法陣から現れたのはオカ研の皆だった。

 

「あらら?これはこれは悪魔の団体さん・・・・・いらっしゃーい!」

 

部長達の姿を目にしたフリードは、銃を拾い上げて銃口を向け引き金に手をかける。まあ、撃たせるわけないけどな。

 

「もういい加減大人しくしてろよ」

 

「ぐへっ!?」

 

フリードが引き金を引く前に、一気に接近して鳩尾あたりを蹴り上げる。銃を拾うためにアーシアから離れてくれたおかげで遠慮する必要はなかった。フリードはうめき声を上げてその場にうずくまる。

 

「・・・・あれ?これもしかして助けはいらなかったかい?」

 

「助けが必要だったかと言われたら・・・・・この通りかな?」

 

蹲るフリードを見ながら言う木場に対して、俺は少し申し訳ないような気持ちを抱きながら答える。いや、もちろん心配して助けに来てくれたことに関しては嬉しいんだけど。

 

「ところでこいつ、神父にしてはいささか外道がすぎるようですが、教会側の人間としてこれはどうなんですか?」

 

「いいえ、彼は教会側の人間ではありませんわ。悪魔狩りに快楽を求めすぎて追放されたはぐれ悪魔祓い・・・・私たちにとって一番有害なタイプですわね」

 

俺の疑問に、朱乃先輩が答える。はぐれ悪魔祓いか・・・・それなら納得だ。だけど、だったらどうしてアーシアはそんな奴と行動を共にしてるんだ?

 

「はぐれにせよそうでないにしても、私の可愛い下僕を傷つけようとしたのは許せないわね・・・・消し飛ぶがいいわ」

 

フリードに対して手をかざす部長。この前のバイサーのように魔力で消し飛ばすつもりなのだろう。

 

だが・・・・

 

「部長!堕天使らしき者が複数近づいてきますわ!このままでは不利に・・・・」

 

部長が魔力を放つ瞬間、朱乃先輩が声を上げる。窓の外を見てみると、確かにそれらしい姿をいくつか確認できた。

 

「ちっ、仕方ないわね・・・・すぐに撤退するわ!用意を!」

 

「「「はい!」」」

 

舌打ちしながらも、部長は冷静に状況を見極めて皆に指示を下す。

 

「部長、この子も一緒に連れていけませんか?」

 

「・・・・無理よ。この魔法陣は私の眷属悪魔しか飛べないわ」

 

アーシアも一緒に連れて行こうと部長に進言するが、魔法陣でアーシアを跳ばすことはできないようだ。

 

「でしたら・・・・俺がここに残るのを許可することはできますか?」

 

「ダメよ。私たちはあなたを助けに来たの。それなのにあなたをおいていくことができると思う?」

 

部長の言っていることは理解できた。ここで俺をおいていけば、部長たちは何のために危険であるかもしれないこの場に来たのかがわからなくなってしまう。

 

「一誠、その子は堕天使側の人間・・・・・私たちの敵なのよ」

 

「確かにアーシアは俺たち悪魔にとって敵なのかもしれません。ですが・・・・・少なくとも俺にとっては違います」

 

誰になんと言われようとも、俺にとってアーシアは敵なんかじゃない。自分の身を顧みず、俺に逃げるように言った彼女を敵だなんて思えるはずがない。

 

「それでもダメよ。主として許可できないわ。その子は置いていきなさい。これは命令よ」

 

「・・・・・・・」

 

命令と言われれば、俺は従わざるをえない。俺は部長の眷属・・・・俺は部長のために生きているのだから。

 

だが、それでも・・・・・それでも、俺は了解の返事を返すことができなかった。どうしてもアーシアを見捨てることができなかった。

 

「一誠さん・・・・私なら大丈夫です。大丈夫ですから・・・・行ってください」

 

「アーシア・・・・」

 

この期に及んでも、アーシアが俺を気遣ってくれた。俺が行ってしまったら彼女はどうなるかわからないというのに・・・・・なんでこんなにこの子は優しいんだ。そうじゃなかったら・・・・・見捨てられたのに。

 

「部長、準備が出来ました!」

 

朱乃先輩が部長に準備完了を知らせる。いやでも決意を固めなければならなくなった。

 

「くそ!逃がすかよ!」

 

「邪魔」

 

俺たちを逃がさぬように迫ってくるフリードに、小猫が近くあったソファを投げつけて動きを封じる。

 

「アーシア・・・・これ着てろ」

 

転移の直前、俺は上着を脱いでアーシアに手渡した。

 

「はい。ありがとうございます一誠さん」

 

「・・・・言っておくけど、あげたわけじゃないからな」

 

「え?」

 

「いつか・・・・返してもらう」

 

「・・・・・はい!」

 

ニコリと微笑みを浮かべながら返事を返すアーシア。

 

(絶対に・・・・また会おうアーシア)

 

アーシアとの再会を心に誓いながら、俺は部長たちと共に魔法陣で転移した。




原作と違い、一誠くんは一切手傷を負っていませんが結局撤退いたしました

正直、この一誠くんなら複数の堕天使を相手取っても十分すぎるほどに戦えるでしょうが、それでも主であるリアスさんの命令には逆らえず、アーシアからも言われてしまったので・・・・

まあ、原作の流れなんてそうそう変わりませんよ(今後変えないとは言っていない)

それでは次回もまたお楽しみに


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第8話

今回はラストでついに一誠さんとあの方が再会・・・・・

それでは本編どうぞ


イカれた神父、フリードとの一件の数日後、俺は町をぶらついていた。学校にはいっていない・・・・そんな気分になれなかったからだ。まあ、夜の悪魔の仕事はちゃんとこなしてはいるが。学校に行かずフラフラしているというのに、理由も聞かずに受け入れてくれた両親には感謝しかない。

 

(またあの娘のことについて考えていたのか?)

 

(・・・・ああ)

 

(そうか・・・・・よほど入れ込んでしまったようだな)

 

ドライグの言うとおりだった。ここ数日は、アーシアのことで頭がいっぱいだ。あの時、フリードのところにアーシアを残してしまったことが心に引っかかってしまっている。アーシアは無事なのだろうか・・・・?

 

(・・・・リアス・グレモリーも言っていたが、あの娘とはもう関わるべきではない。あの娘は堕天使側の人間。悪魔のお前とは相容れない存在だ。これ以上関われば相棒だけの問題では済まなくなるぞ?)

 

(わかってるさ。部長の言ってることも、ドライグの言っていることも理解している。だけど・・・・それでもアーシアのことが頭から離れない。理解できてるのにどうすればいいのか、どうするべきなのかわからないんだ)

 

本当は今すぐにでも教会に乗り込んでアーシアを連れ出したい。だけれど、そんなことをしてしまえば悪魔と堕天使の間で面倒ないざこざが起きてしまう可能性が高い。部長の眷属として、一悪魔としてそんなことするべきではないんだ。

 

だけれど・・・・それでもアーシアを見捨てることもできない。いや、したくない。あんな純粋で優しい子を・・・・放っておくことなんて俺には・・・・

 

「・・・・ちっ」

 

自分がどうするべきなのかわからず、俺は思わず舌打ちしてしまう。

 

その時だった・・・・

 

「一誠さん!」

 

俺の耳に、聞こえてくる声・・・・・聞き間違うはずもない。その声は今の俺が求めていたものだ。

 

「アー・・・シア?」

 

声のする方に振り返ると、そこにいたのはやはりアーシアであった。

 

「良かった・・・・また会えました」

 

俺に会えたのがよほど嬉しかったのか、安堵の笑みを浮かべるアーシア。きっと俺も今、アーシアのような笑みを浮かべてるんだろうな・・・・まあ、アーシアみたいに綺麗なもんではないと思うが。

 

「あ、そうだ。一誠さん、これ・・・・」

 

アーシアは手に持っていた服を俺に渡してくる。それは先日俺がアーシアに貸したものであった。

 

「すみません、本当はお洗濯して返したかったんですが・・・・・」

 

「いいや、無事に返してくれたならそれでいいよ。正直あの神父あたりにズタズタにされてるかなって思ってたし」

 

「・・・・・・・」

 

俺が言うと、アーシアは何とも言えない表情で視線を逸した。この態度からしてフリードのやつ本当にそうしようとしてたんだろうな・・・・ただ、服が無事だったということはアーシアが阻止してくれたのだろう。

 

「アーシア・・・・ちょっと来てくれ」

 

「え?」

 

「こんな町中じゃ込み入った話はできないだろ?初めて会った時の公園なら今の時間人気は少ないからそこで話そう」

 

「はい。わかりました」

 

俺はアーシアを連れて公園へと移動する。これ、また部長の使い魔とかに見られたりしてるかもなぁ・・・・まあ、何か言われたらその時はその時だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら。これ飲みな」

 

「ありがとうございます」

 

公園のベンチに座るアーシアに、近くの自販機でかった飲み物を渡し、俺もアーシアの隣に腰掛ける。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

互いに何も言わぬまま、時間が過ぎていく。話がしたかったから連れてきたのだが、どう話を切り出すべきなのか・・・・・・とりあえず、先日別れたあとどうなったのかそれとなく聞いてみるか。

 

「あ~・・・・その・・・・あのあと大丈夫だったか?フリードに何かされたりは・・・・」

 

「それは大丈夫でした。ものすごく怒られましたけど、庇ってくれた方がいましたから」

 

「そうか」

 

あのあと大事には至らなかったらしい。どうやら堕天使側の中にはアーシアを気遣ってくれている者がいるようだ。それがわかっただけでも少し安心した。

 

「一誠さんはあのあとどうだったんですか?」

 

「俺?俺はまあ特に何もなかったよ」

 

本当は部長にこれでもかというぐらいアーシアに関わるなと念を押されたのだが、さすがにそれは本人を前にしていうことはできなかった。

 

 

「・・・・なあアーシア。聞いてもいいか?なんでお前は堕天使の中に身を置いてるんだ?」

 

アーシアのような優しい子が、なぜ堕天使の中に身を置いてるのか・・・・俺はそれが疑問だった。なにせフリードのようなイカれたやつがいるようなところなのだから、到底アーシアには合うと思えない。天使側の教会にいるというならわかるが・・・・・・

 

「・・・・・私、教会に追放されたんです」

 

「え?」

 

「元々癒しの力を持っていた私は、教会で聖女として祭り上げられていました。求められるがままにたくさんの人を治療して、教会はそんな私を手厚く保護してくださって・・・・たくさんの人を救う力を与えてくれた神に私は感謝しました」

 

アーシアは自身の過去を語り始める。確かに、癒しの力をもつアーシアが聖女として祭り上げられるのは何ら不思議なことではないのだろう。アーシア自身、癒しの力で聖女としての勤めを立派に果たしていたであろうことは容易に想像がつく。

 

だが・・・・話をしているアーシアはどこか寂しげだった。その理由も想像がつく。聖女という特別な立場はきっと・・・・アーシアを孤独にしたのだろう。

 

「ある日、私は悪魔祓いに追われて重傷を負った悪魔に出会いました。私は苦しむその悪魔を放っておけず力を使って悪魔を治療して・・・・そのことが教会で問題となり、聖女と崇められていた私は魔女と呼ばれるようになりました」

 

「それで・・・・追放か?」

 

「はい。そんな私を、堕天使が保護してくださったんです」

 

「そうだったのか・・・・」

 

皮肉としか言えなかった。アーシアの力は、人格は何よりも尊いものだと俺は思う。だが、その尊さゆえに、アーシアは悪魔を助けてしまい、魔女と蔑まれ教会から追放されてしまったのだ。アーシアを追放した教会は酷く身勝手だ。だが、その処断が間違ったものであるとは言えない。清廉潔白を謳う教会にとっては、悪魔を助けてしまったアーシアは異端でしかなく・・・・・切り捨てなければならない存在だったのだから。

 

「一誠さん・・・・私、どうすればいいのでしょうか?拾ってくださった堕天使には感謝しています。ですが、それでも私は・・・・フリード神父のように人を殺めたくありません。何より私は・・・・一誠さんのような方がいる悪魔の全てが悪しき存在だとは思えません。私は一体どうすれば・・・・・」

 

「アーシア・・・・」

 

辛そうに顔を伏せながら言うアーシア。何を信じればいいのか、何を信じるべきなのかがわからない・・・・だから苦しい。だから怖い。だから・・・・・迷っているんだ。

 

どうすればいいのかわからない・・・・・さっきまでの俺と同じだ。

 

(すみません部長。やっぱり俺はアーシアを見捨てられません。この埋め合わせはいつか必ずします)

 

「アーシア、だったら・・・・」

 

「・・・・探したわよアーシア」

 

「!?」

 

俺の言葉を遮るようにして聞こえてきた声。その声には覚えがある。

 

忘れない・・・・忘れられるはずのない声。

 

俺が最も・・・・愛する者の・・・・

 

「・・・・夕麻」

 

そこには俺を殺した・・・・俺が愛する夕麻がいた。




とうとう一誠さんとレイナーレさんが再会

原作とは違い互いを想い合っていますので・・・・果たしてどうなるか

それでは次回もまたお楽しみに


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第9話

レイナーレさん登場でいよいよこの章も佳境に

どうなっていくことやら・・・・

それでは本編どうぞ


「夕・・・・麻」

 

「・・・・・」

 

名を呼んでも、夕麻は何も答えなかった。ゆっくりと俺とアーシアの方へと歩み寄り、そして・・・・・俺に光の槍を突き立てた。

 

「・・・・レイナーレ。それが私の本当の名前。夕麻はあなたを殺すためだけに名乗った仮りの名よ」

 

俺に槍を突き立てながら、夕麻・・・・レイナーレは冷たい声色で告げる。

 

「レイナーレ様!?何を・・・・」

 

「・・・・少し黙っていなさいアーシア。でないとこの男を殺すわよ?」

 

「ッ!?」

 

俺を殺すと言われ、アーシアは沈黙した。

 

「それでいいのよ・・・・・まったく、せっかく殺したっていうのにまさか悪魔として転生するなんてね。あなたを殺すために色々と面倒なことをしたっていうのに・・・・・無下にするなんて酷いじゃない一誠くん」

 

「すまないとは思っているさ。だが、俺には俺の事情がある・・・・いや、事情ができてしまったんでね。こうして悪魔として甘んじて生きなければならなくなったんだ」

 

「だったらもう一度この手で殺してあげようかしら?」

 

レイナーレは槍を俺の心臓に近づける。ほんの少し突き出せば俺の心臓は貫かれるだろう。

 

「やめてくださいレイナーレ様!一誠さんを殺さないでください!」

 

「黙れと言ったのに・・・・仕方がないわね。けれどそう・・・・あなたは一誠くんが死ぬのが嫌なのね。これは好都合だわ」

 

「え?」

 

「アーシア。一誠くんを死なせたくなかったら戻ってきなさい。断れば・・・・・一誠くんを殺すわ」

 

俺の命を楯に、レイナーレはアーシアを脅す。夕麻のときには見せなかった冷酷な表情で。

 

「・・・・わかりました。行きます。だから一誠さんのことは・・・・」

 

「ええ、殺さないわ。あなたさえ来てくれれば、こんな男のことなんてどうでもいいもの」

 

レイナーレは槍を消し、アーシアを抱えながら翼を羽ばたかせて宙に舞う。

 

「アーシアに免じてこの場は見逃してあげるわ。アーシアは今日の儀式に欠かせない存在・・・・最後の願いぐらいは叶えてあげないとね」

 

儀式?儀式って一体・・・・?

 

「一応言っておくけれど、アーシアを取り戻そうだなんて思わないことね。次に会ったときは・・・・・容赦なく殺すわ」

 

「一誠さん・・・・・さようなら」

 

無感情に俺を見下ろすレイナーレと、儚げな微笑みを浮かべるアーシアがその場を去って行く。俺はそれをただ呆然と立ち尽くして見ていることしかできなかった。

 

(良かったのか相棒?あのまま行かせてしまって)

 

(・・・・・すまない、少し黙っててくれドライグ。ちょっと頭の中整理したいんだ)

 

(そうか・・・・・わかった)

 

俺の頼みを聞き入れ、ドライグは黙ってくれた。

 

(まさかここで夕麻・・・・レイナーレが出てくるとはな)

 

レイナーレの登場から俺の頭の中はぐちゃぐちゃにかき乱されていた。レイナーレに再会できたことは嬉しかった。けれど、悪魔になった俺にとって堕天使であるレイナーレは敵で、その上レイナーレはアーシアを連れ去ってしまった。

 

だけど、それでもやっぱり俺は・・・・

 

(まったく。自分を殺した相手だっていうのに、陰るどころかさらに焦がれるだなんて俺もどうかしている)

 

レイナーレに対して敵意を抱くことができなかった。自分を殺した女だというのに、自分にとって敵である堕天使だというのに、俺はレイナーレを敵だとは思えない。

 

レイナーレと再会して、自覚したのは・・・・・俺が未だにレイナーレに恋焦がれているという事実だけだった。

 

(きっと・・・・・この感情は許されないんだろうな。悪魔が堕天使に恋焦がれるだなんて・・・・・部長が知ったらなんて言われるか)

 

この感情は決して許されないもの。許されてはならないもの。だが、それでも俺は・・・・

 

(すみません部長。俺はあなたの下僕ですが・・・・それでも、譲れないものもあるんです)

 

俺は心の中で部長に謝罪する。俺が今からしようとすることは、部長の意に反するものだろう。だが、もう止められない。俺のするべきこと、したいことは揺るがない。

 

(行くのか相棒?)

 

(ああ。俺の行動がどんな惨事を引き起こすのかはわからないけど、それでも行くよ。それが他の誰でもない・・・・()の願いだから)

 

(そうか・・・・なら好きにするといい。俺はただ、お前の行く末を見守るだけだ)

 

(ありがとう。相棒)

 

考えるのはここまでだ。俺の行く末を見守ってくれるドライグに礼を告げ、俺は歩みだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、こんばんは一誠くん」

 

「・・・・こんばんは」

 

教会に向かう途中、木場と小猫の二人と出くわした。

 

「・・・・・二人してこんなところにいるってことは、俺の行動は部長に筒抜けってことか」

 

「うん。使い魔を通して見ていたからね」

 

「一誠先輩・・・・本当に教会に行くつもりですか?」

 

「ああ。そのつもりだ。部長の意に反することになるだろうが・・・・それでも俺は行く」

 

「そんなにあのシスターを助けたいんですか?」

 

小猫が俺に尋ねてくる。

 

「・・・・それもある。だけどそれだけじゃない」

 

「え?」

 

「アーシアのことはもちろん助ける。だけど、それだけが理由じゃない・・・・・それ以上の理由ができてしまった。多分俺にとって何よりも優先するべき理由が。だから俺は、何があっても教会に行かなきゃならない。二人が俺の邪魔をするって言うなら押し通るまでだ」

 

俺は左手に赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を展開し、構えを取る。二人の実力を正確に把握しているわけではないが、赤龍帝の籠手の力を使えばおそらく・・・・

 

「勘違いしないで一誠くん。僕たちは君を止めに来たんじゃない。君の助けになりに来たんだ」

 

「・・・・は?」

 

木場の予想外の一言に、俺は思わず気の抜けた声を出してしまった。

 

「・・・・部長は呆れていましたが、それでも一誠先輩のことを心配していました。いくら一誠先輩が強くても単独で教会に乗り込むのは危険。だから私達がフォローするようにって言われました」

 

二人は俺を止めるためじゃなくて、俺を助けるために来てくれた・・・・?しかも部長に言われてって・・・・

 

「・・・・どうやら俺は良い主に恵まれたようだな」

 

「そうだね。そんな部長に報いるためにも、君はまだ死ぬべきじゃない」

 

「もとから一人でも死ぬつもりはなかったが・・・・・まあ、地獄(教会)への道連れができたのは素直に嬉しいかな」

 

「今ルビがおかしいところがあったような気がします」

 

小猫、そういうメタいことはあまり言うものじゃないぞ。

 

「ともかく、二人共ありがとう。心強いよ」

 

「お礼なんていらないよ。仲間のことがほうっておけないのは当然のことだし・・・・何より、個人的には堕天使や神父は好きじゃないんだ。憎いほどにね」

 

一瞬、木場の表情が殺意がこもった。どうやら木場には木場の事情があるようだ。

 

「と、そうだ。部長から一つ伝言があったんだ」

 

「伝言?」

 

「これから私たちが向かう教会は私たちにとって敵地です。危険ではありますが・・・・敵地だからこそ、兵士(ポーン)である一誠先輩が仕える力があります」

 

敵地だからこそ使える力。悪魔の駒(イーヴィル・ピース)はチェスを基にしてるから・・・・

 

「・・・・プロモーションか」

 

「察しがいいね。その通りだよ。敵地に入ることで、ポーンは(キング)以外の駒に変化することができる。そして変化した駒の力を振るうことができるんだ」

 

「なるほど・・・・つまり、プロモーションを使えってことか」

 

これはいいことを聞いたな。使える力は大いに越したことはない。存分に利用させてもらおう。

 

「さて、行こうか一誠くん。君の背中は僕たちが守る。だから・・・・」

 

「一誠先輩は思う存分突き進んでください」

 

「ああ・・・・頼りにしてるよ」

 

木場と小猫を伴い、俺は再び教会へ歩み始めた。

 

 




絶対に止められると思ったから報告しないで教会に乗り込もうとする一誠さんですが、結局原作と同じように木場さんと小猫さんも同行することになりました

次回はいよいよ教会に乗り込みます

果たしてどうなることやら・・・・・・

それでは次回もまたお楽しみに


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第10話

今回は教会に乗り込みます

まだレイナーレとは再会しませんが・・・・

それでは本編どうぞ


 

来るな・・・・・来るな来るな来るな来るな

 

お願いだから来ないで

 

もう会いたくないの

 

もう・・・・・焦がれたくないの

 

私は堕天使なのに・・・・あなたは悪魔なのに・・・・

 

この恋情は決して許されない・・・・決して認められない

 

だから・・・・・お願いだから来ないで

 

・・・・・愛しの一誠くん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・やはりあまり気分のいいものではないな」

 

教会の前に到着した俺は、悪寒を感じていた。いくら堕天使の拠点とはいえ、やはり教会の持つ雰囲気は悪魔である俺にはよろしくないようだ。

 

「この気配からして中に堕天使がいるのは確実だね」

 

木場が手にしている紙を見ながら言う。どうやらそれは教会の図面らしかった。

 

「教会の図面か?随分用意がいいな」

 

「敵陣に攻め込む時のセオリーだからね」

 

確かに、ただでさえ不利な敵地での戦闘は地形を把握できていなければさらに分が悪くなる。地形を事前にある程度把握できるのは助かるな。

 

「教会自体はあまり大きくないようだな・・・・問題はアーシアがどこにいるかだが」

 

アーシアが居る場所に間違いなくレイナーレもいるはずだ。時間をかけてしまうと儀式が終わってしまうかもしれないからできれば最短ルートで行きたいんだが・・・・・

 

「おそらく聖堂だね。一誠くんの話だと何らかの儀式を行うようだし」

 

「儀式と聖堂は何か関係あるのか?」

 

「堕天使やはぐれ悪魔は神聖視されている場所を自分たちで汚すことで神への冒涜に酔いしれることが多いらしいんだ」

 

「なるほど」

 

随分とまあ神を嘲笑うことに熱心なことだな。。まあ、アーシアのような信徒をあっさり切り捨てる神とやらもどうかと思うが・・・・ただ、それは神が本当に存在すればの話か。

 

「聖堂までは入口からさほど遠くないから一気にいけると思うけど問題は・・・・」

 

「・・・・悪魔祓い」

 

小猫が教会の入口に目を向ける。そこには、二人ほどの神父がいた。まず間違いなく悪魔祓いだろう。

 

「儀式っていうのは堕天使にとってはよほど大事なものらしいね。ああしてわざわざ見張りを立てているぐらいだから」

 

「みたいだな。まあ、だからってやることは変わらないが」

 

「一誠くん?」

 

意を決し、俺は教会の入口へと近づいていく。木場の制止する声が聞こえてくるが、止まるつまりはない。

 

「止まれ!」

 

「貴様、何者・・・・」

 

「寝てろ」

 

見張りが俺に気がついて武器を手に取るが、構えるのが遅すぎる。見張りの二人が行動を起こす前に一気に接近して、一人は首に蹴りを入れ、もう一人は鳩尾を殴りつけて気絶させた。見張りを置くならもうちょっとタフな奴を用意しろっての。

 

「見張りは潰した。行くぞ木場、小猫」

 

「「ア、ハイ」」

 

何とも言えない表情を浮かべながら、木場と小猫も出てくる・・・・・なんでそんな微妙な表情してるんだよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一誠くんの手助けのために、僕と小猫ちゃんは一誠くんと教会に乗り込んだ。

 

乗り込んだのだが・・・・・

 

「・・・・祐斗先輩」

 

「何かな小猫ちゃん?」

 

「私たちは一誠先輩の手助けでここに居るんですよね?」

 

「うん、そうだね」

 

「・・・・・私たち、来る必要あったんでしょうか?」

 

どこか遠い目をしながら言う小猫ちゃん。だけど気持ちはよくわかる。なにせ・・・・一誠くんがたった一人で悪魔祓いを平然と倒す光景を目の当たりにしてしまったのだから。

 

相手がこちらに気がつくのとほぼ同時に接近し、急所に蹴りや拳を叩き込んでほとんど一撃で相手を戦闘不能追い込む一誠くん。背後から襲撃されることもあったけれど、まるで後ろに目がついているのかと思えるようにいともたやすく回避し、カウンターを叩き込んで気絶させる。

 

さっきからこの繰り返しだ。もちろん一誠くんの手助けに来た手前、僕たちも応戦しようと思ってはいるのだが・・・・・いかんせん、僕たちが何かする前に一誠くんが全て片付けてしまう。

 

「一誠先輩に私たちの助けは必要なかったのかもしれませんね・・・・」

 

「ま、まあ気持ちはわかるけど・・・・この先何があるかわからないんだ。僕たちの力が必要になる場面がきっと出てくる・・・・・はずさ」

 

正直自分の発言に自信が持てなかった。この先何があっても一誠くんひとりでどうにかしてしまうのではないか・・・・そう思えて仕方がなかった。

 

(一誠くん・・・・君がいればグレモリー眷属の未来は安泰だよ)

 

現実逃避のため、そんなことを考えてしまった僕だが、これもきっと仕方のないことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく着いたか」

 

教会に突入して数分後、ようやく聖堂の扉の前にたどり着いた。悪魔祓いの数が思ったよりも多かったせいで予想外に時間がかかってしまった。

 

「この先はさっきまでのように簡単には行かないと思う。覚悟はいいかい一誠くん?」

 

「覚悟?できてもいないのにこんなところに来ないさ」

 

「あはは、まあそうだね。それじゃあ行こうか」

 

聖堂の扉を開き、中に入る。だが、予想外に聖堂にいたのは一人だけだった。

 

「は~い!悪魔さん御一行いらっしゃ~い!」

 

そこにいたのはイカれた神父、フリードだった。

 

「いや~、感動的な再会だね~。俺悪魔とこんなふうに再会したの初めてですよ~。なにせ俺ってば強いから悪魔なんて所見でチョンパ・・・・」

 

「五月蝿い、長い」

 

「ぐっ!?」

 

なにやら長々と口上を垂れていたが、一々聞いてらればじゃったからとりあえず蹴り飛ばす。腹を狙ったのだが、直前で腕でガードされてしまい、あまりダメージは入らなかった。

 

「てんめぇ・・・・不意打ちとか卑怯な真似してくれるじゃないの。さすがは卑劣な悪魔だねぇ」

 

「卑劣?敵の前で長々と聞いてもいない口上たれてたお前が悪い。そんなことよりアーシアはどこだ」

 

「アーシアちゃんならそこの祭壇の下に地下祭儀場への隠し階段があるから、その先にいますぞい」

 

どうせ答える気はないだろうと思ってダメもとで聞いてみたのだが、フリードは思いのほか素直に答えてくれた。

 

「随分と親切じゃないか」

 

「そりゃ親切にもなりますぜ。なにせチミたちはここで俺様がぶっ殺しちゃいますからねぇ」

 

「随分と余裕だな」

 

面倒だな・・・・あんまり時間はかけたくないんだけどこいつ結構しつこそうだから厄介だな。ならここは・・・・

 

「・・・・木場、小猫。ちょっといいか」

 

「え?」

 

「なんですか一誠先輩」

 

「こいつ、さっきまで相手にしてた悪魔祓いよりは強いようだが・・・・・二人で抑えられそうか?」

 

俺が尋ねると、二人は一瞬驚いたような表情になるが、すぐに不敵な笑みを浮かべて言う。

 

「もちろん。彼一人程度なら僕と小猫ちゃんで十分だ」

 

「抑えるどころか、倒せます」

 

「ははっ、そいつは頼もしいな・・・・それじゃあ頼んでいいか?」

 

「ああ、彼は僕たちに任せて一誠くんは先に行って」

 

「祭儀場には堕天使も悪魔祓いもいるはずです。一誠先輩なら大丈夫だと思いますけど・・・・気をつけてください」

 

「ああ。二人共ありがとう」

 

フリードの対処を木場と小猫に任せ、俺は地下祭儀場へ続く階段のある祭壇に近づく。

 

「おっと、行かせると思ってるの?君は念入りに殺さなきゃならないんだからここに居てくれないと・・・・」

 

「・・・・潰れて」

 

「うおっ!?」

 

俺の前に立ちはだかろうとするフリードに、小猫が長椅子を投げつける。フリードはそれを光の剣で切り裂いて防ぐが、その隙に木場が詰め寄って斬りかかる。

 

「・・・・・頼んだぞ」

 

俺はフリードと交戦する二人の背を一瞥した後、俺は祭壇の下に隠されていた階段を降りて地下猜疑場へと向かった。

 




安定の一誠さん無双のせいで木場くんと小猫ちゃんの役割がフリードを押させるだけに・・・・・いや、まあ大事な役割だよ。きっと

次回、この章における一番の佳境に差し掛かります

それでは次回もまたお楽しみに


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第11話

とうとうレイナーレさんとの再会

そして・・・・・

それでは本編どうぞ


会いたい・・・・・会いたい会いたい会いたい

 

どうしようもないほどに焦がれてしまった・・・・求めてしまった

 

許されないということ・・・・・認められないということはわかっている

 

それでも会いたい

 

たとえ拒絶されようとも、否定されようとも・・・・・殺されようとも

 

この恋情は抑えられない

 

だから会いにいくよ

 

・・・・・愛しのレイナーレ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

走る走る走る・・・・・祭儀場へと向け、俺は階段を駆け下りる。この先にレイナーレがいる。そう思うと、一刻も早くたどり着かなければと気が早ってしまう。

 

その場にアーシアもいるというのに・・・・彼女を助けることもこの教会に趣いた理由の一つだというのに。なのに俺の思考は、心は、全てはレイナーレに集中してしまっている。今の俺はレイナーレのことしか考えられず、彼女に会うことだけを目的としてしまっている。

 

走る走る走る・・・・・階段の終わりが見えてきた。大きな扉が見えてきた。この中にいる。この中に・・・・愛しのレイナーレが・・・・・

 

扉の前に立ち、休むことなく開け放つ。扉の奥にいるのは二人・・・・何かの装置に磔にされているアーシアと・・・・

 

「会いたかったよ・・・・・レイナーレ」

 

愛しい愛しい・・・・・レイナーレがそこにいた。

 

「・・・・・私は会いたくなかったわ。一誠くんになんて・・・・二度と会いたくなかった」

 

「そうか。それでも俺はお前に会いたかったよ。会いたくて会いたくて・・・・・だからこうしてここに来たんだ」

 

「・・・・あなたはアーシアを助けに来たのではないの?」

 

「ああ、そうだな。確かにそれも理由の一つだったよ。だけど・・・・・ごめんなアーシア。俺は確かに君を助けに来た。けど、今はそれ以上に優先したいことができてしまっているんだ。俺のことを軽蔑してくれてもいいし憎んでくれたっていい。だけど・・・・・今は時間をくれ」

 

「一誠さん・・・・・はい。わかりました」

 

俺の頼みに、アーシアは微笑みを浮かべて返事を返してくれた。助けに来たにも関わらず、自分のことをないがしろにされているというのに・・・・・本当に優しい子だ。

 

「・・・・私に会いたかったと言っていたわね。そのためにここに来たと」

 

「ああ。言ったよ」

 

「会ってどうしようというの?私は言ったはずよ。邪魔をするなら殺すと。それなのにあなたはこの場に来てしまった。いったい私をどうしようというの?私をどうしたいというの?」

 

レイナーレをどうしたい、か。そんなの・・・・・そんなの・・・・

 

「・・・・わからない」

 

「え?」

 

「会ってどうしようとか正直考えてなかった。俺はただ、レイナーレに会いたかっただけなんだから。たとえその結果どんな結末が待っていようとも・・・・・・俺はただ、レイナーレに会いたかった」

 

そう、それだけだった。レイナーレに会って、どうこうしようだなんて全く考えていなかった。俺はただ・・・・愛しい女に会いたいだけだったんだから。

 

「ふざけないで・・・・ふざけるな!この期に及んでただ会いたかっただけですって?馬鹿も休み休み言いなさい!」

 

俺に向かってレイナーレは激情を顕にし、怒り、叫ぶ。

 

「この際だからはっきり言ってあげるわ!私があなたと付き合ってあげたのは、あなたを殺す前に弄ぶためなのよ!どうせ殺すなら楽しませてもらおうと思って恋人ごっこを楽しんだってわけ!楽しかったわよ?騙されているとも知らずに私に笑いかけてくれるあなたを見るのは酷く滑稽で愉快だったわ!」

 

レイナーレはニヤリといやらしい笑みを浮かべる。笑みを浮かべながら俺を嘲笑う。

 

「あの時だってそうよ!あなたを殺した時だって、最期だから少しくらい良い思いをさせようと思って、わざとしおらしくしてあげたのよ!あの時のあなたも惨めで愚かで哀れでたまらなく私を楽しませてくれたわ!」

 

レイナーレ・・・・・それは本当にお前の本心か?それは本当にお前の本音なのか?

 

「どう?これがあなたが会いたがっていた私・・・・・レイナーレという堕天使よ!ショックかしら?自分がこがれた相手にこんなふうに思われていて傷ついてかしら?だとしたら嬉しいわ。あなたのような悪魔に成り下がった男を弄べただなんて最高にいい気分ですもの!」

 

「・・・・そうだな。確かに傷つくよ・・・・・それがレイナーレの本心だって言うならな」

 

「・・・・は?何を言って・・・・」

 

「レイナーレ・・・・・泣きながらそんなこと言う奴なんていないぞ」

 

「え・・・・?あ・・・・え?」

 

自分の顔に手を当てるレイナーレは気づいただろう・・・・頬に伝う涙に。

 

はじめから・・・・俺への罵倒を始めたその瞬間からレイナーレは涙を流していた。口では俺を散々罵っていたが、俺を嘲笑う表情を作っていたけれど・・・・・はじめからずっとレイナーレは泣いていた。

 

その涙を見れば誰だってわかる。レイナーレの俺への罵倒は全て・・・・本心でないことに。

 

それに・・・・・

 

「そのブローチ・・・・・付けてくれているんだな」

 

俺はレイナーレの胸元に付けられたブローチに視線を向けばがらいう。そのブローチは、付き合い始めてまもない頃に俺がプレゼントしたものであった。本当に俺の事をなんとも思っていないのなら、わざわざつけているはずがない。

 

「レイナーレ。俺は今でも、お前が望むというならこの命を差し出すつもりでいる。あの時は結局死にきれずに、こうして悪魔に転生してしまったけれど・・・・またレイナーレが光の槍を俺に放つというなら俺はそれを受け入れよう。だけど・・・・・」

 

「や・・・・だ・・・・やめて・・・・言わないで・・・・」

 

いやいやと首を横に振りながら、自分の体を抱きしめるレイナーレ。依然として涙は流れ続けている。

 

「いいや、言わせてもらう・・・・ああ、そうか。さっきは会いに来ただなんて・・・・ただ会いたかっただけだなんて言ったけど本当は違うんだ。俺は会って伝えたいことが・・・・言いたいことがあったからここに来たんだ」

 

自分でもようやく気がついた。会いたいだけじゃなかった。俺は・・・・伝えに来たんだ。

 

「レイナーレ、よく聞いて」

 

「いや・・・・いやぁ・・・・・」

 

レイナーレはいやだと言うが、それでも耳を塞ごうとしない。そんな彼女を見て、本当は聞きたがっているのではないかと俺は勝手な解釈をしてしまう。

 

そして俺は・・・・・その言葉を告げる。

 

「レイナーレ・・・・・愛してるよ」

 

「っ!?」

 

伝えたかった言葉。彼女に殺され、二度と会うことはないかもしれないと思ってもなお、失うことがなかった・・・むしろ日毎に増してしまっていた俺の想い。

 

俺は・・・・・レイナーレを愛している。

 

「・・・・馬鹿。馬鹿よ。私は一誠くんを殺したっていうのに。散々嫌われるために一誠くんを侮辱したって言うのに・・・・」

 

ああ、そうだな。俺は馬鹿だよ。でも、馬鹿でもいい。レイナーレを愛せるなら・・・・馬鹿でもなんでもいい。なん

 

「けど・・・・だけど・・・・それは私も同じ。私は堕天使で、一誠くんは悪魔で・・・・許されないって、認められないってわかってるのに私は・・・・」

 

ああ、レイナーレ。お前も口にしてくれるんだな。さっきみたいな嘘偽りじゃない・・・・・レイナーレの本当の想いを。

 

「一誠くん。私もあなたのことが・・・・・」

 

レイナーレの口からその言葉が紡がれようとする。

 

その瞬間・・・・・

 

「・・・・え?」

 

レイナーレの胸を・・・・・・光の槍が貫いた。

 

「レイナーレ!」

 

倒れゆくレイナーレに駆け寄り、どうにか床に体が着く前に抱き寄せることはできた。だが・・・・俺の目に映るのはあまりにも無残な光景。光の槍は、レイナーレの心臓を貫いており、傷口からは血が溢れていた。

 

「レイナーレ・・・・レイナーレ!」

 

目の前の現実を受け入れられず・・・・いや、受け入れようと思えず、俺ただレイナーレの名前を叫ぶことしかできなかった。

 

「いっせい・・・くん」

 

今まで見たことないような儚げな微笑みを浮かべながら、レイナーレは俺の頬に手を当てる。

 

そして・・・・

 

「ごめん・・・・なさい。私もあなたを・・・愛して・・・るわ」

 

消え入りそうな小さな声でレイナーレはその言葉を告げる。その直後、俺の頬に当てていた手はだらんと垂れ下がり、静かに瞼を閉じた。

 

「レイナー・・・・レ・・・?」

 

閉じた瞼は開かない。レイナーレの体はピクリとも動かない。

 

「ああ・・・・・ああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

愛しのレイナーレは・・・・・俺の目の前で死に絶えた。




間違いなく一誠さんとレイナーレさんは相思相愛でした

レイナーレさんも初めは弄ぼうとしていましたが・・・・だんだん一誠さんに惹かれてしまったのです

そして想いは通じ合ったのですが・・・・・

それでは次回もまたお楽しみに


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第12話

今回はレイナーレさんを殺した犯人が判明し、そして・・・・

どのような展開になるかはその目でお確かめを

それでは本編どうぞ


「まさか悪魔などに絆され、挙句に愛してしまうとは」

 

レイナーレを失い、失意の底に叩きつけられた俺の耳に男の声が聞こえてくる。声のする方へと視線を向けると・・・・そこにはかつて俺に襲い掛かってきた堕天使ドーナシークの姿があった。

 

「ここ数日様子がおかしいから念のため儀式の様子を見に来てみたが・・・・・正解だったようだな。儀式は始まっていない上に、悪魔なんぞにうつつを抜かすとは愚かとしか言えない」

 

ドーナシークは侮蔑の篭った目で俺の腕の中で死に絶えるレイナーレを見やる。そんなドーナシークを目にして、俺の中でフツフツと感情がこみ上げてくるのを感じる。

 

「レイナーレ、せいぜい地獄の底で悪魔を愛してしまったことを後悔しろ。なに、安心するがいい。計画は私が引き継ぎいであげよう」

 

「・・・・無理だな」

 

「ん?」

 

「その計画とやらが何かは知らないがそれを引き継ぐことなんてお前にはできない。お前はここで・・・・・俺が殺す」

 

レイナーレを床に横たわらせ、俺はドーナシークを睨む。湧き上がる感情が抑えられない。こいつを殺さなければ・・・・・到底収まりそうにない。

 

「私を殺す?それはこちらのセリフだ。グレモリーの眷属とことを構えるのは気が引けるが、貴様は計画の邪魔となる。あの時は思わず手を抜いてしまったが・・・・喜ぶといい。全力をもって貴様もレイナーレと同じ所へ送ってやろう!」

 

ドーナシークは光の槍を作り出し、俺の方へ放ってくる。

 

「・・・・・昇格(プロモーション)戦車(ルーク)』」

 

ドーナシークが槍を放つと同時に、俺は戦車にプロモーションする。そして・・・・・放たれた槍を、右手で掴み取った。

 

「昇格!?貴様、兵士(ポーン)か!いや、だがそれでも光の槍を素手で掴み取るなど無事ですむはずが・・・・・」

 

ああ、そうだな。いくら防御力に特化している戦車に昇格したからって、悪魔である俺にとって光は有害でしかない。掴んでいる右手は痛いし、燃えるように熱い。だが・・・・それがどうした?この程度の熱さどうってことない。こんなものより湧き上がるこの感情・・・・憎悪と殺意はもっと熱い。

 

俺の思考が、心が、細胞すべてがドーナシークを殺せと熱く滾っている。この熱をはドーナシークを殺すまでは抑まりそうにない。

 

(ドライグ)

 

(ああ、存分に使うがいいさ。俺の力をもって・・・・奴を殺すがいい)

 

「こい・・・・赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)

 

『Boost!!』

 

右手で光の槍を砕くと同時に、俺は神器(セイクリッド・ギア)・・・・赤龍帝の籠手を出現させ、力を高める。

 

「それは・・・龍の手(トゥワイス・クリティカル)?いや、その赤は・・・・まさか赤龍帝の籠手!?馬鹿な!こんなガキが神滅具(ロンギヌス)の所持者だというのか!?」

 

赤龍帝の籠手を目にしたドーナシークの表情が驚愕と恐怖に染まった。そんなドーナシークに、俺は歩み迫っていく。

 

「さあ・・・・・覚悟は出来たか?」

 

「ま、待て!来るな!私が悪かった!謝る!だから許してくれ!」

 

赤龍帝の籠手を持つ俺相手では分が悪いと判断したのか、ドーナシークは俺に許しをこう。だが、そんなことをしても無駄だ。ドーナシーク・・・・貴様の行く末は、レイナーレを殺したその瞬間に決まったんだ。

 

『Boost!!』

 

赤龍帝の籠手がさらに俺の力を高める。もっとだ・・・・もっともっと・・・・もっと力を。

 

「そ、そうだ!その女は貴様にくれてやろう!もちろん儀式も行わない!だから・・・だからどうか!」

 

「アーシアをくれてやるだと?馬鹿なことを。アーシアのことは貴様を殺してから助ければいい。貴様を殺せば儀式もなにもないしな」

 

どうやらドーナシークは恐怖のあまり冷静な思考を失ってしまっているようだ。もっと恐ればいい。もっとおののけばいい。自分のしてしまったことを後悔するがいい。

 

後悔しながら・・・・・・死んでしまえばいい。

 

『Boost!!』

 

これで3段階、俺の力は高まった。それとほぼ同時に、俺は歩みを止める。目の前にはその場に立ち尽くすドーナシークがいる。逃げずに棒立ちになってしまっているのは、恐怖で竦んで動けなくなってしまったからだろうか・・・・まあなんでもいい。逃げなかったのなら都合がいい。

 

「ドーナシーク・・・・最期に言い残すことはあるか?」

 

「た、助け・・・て。死にたく・・・・ない」

 

ガクガクと震えながら、命乞いをするドーナシーク。叶うはずのない命乞いを。

 

「そうか・・・・・じゃあ死ね」

 

『Explosion!!』

 

高まった力を解放し、左手でドーナシークの胸部を殴りつける。

 

ドゴンッ!!

 

拳を振り切った余波で、壁や天井、近くにあった機材がひび割れ、壊れる。そして拳を直接その身に受けたドーナシークは・・・・下半身を残し、上半身は消滅していた。

 

「せいぜい地獄で・・・・・懺悔することだな」

 

下半身だけになったドーナシークを一瞥し、俺は赤龍帝の籠手を解除する。そして、床に横たわるレイナーレの下に歩み寄り、レイナーレの手を掴む。

 

「レイナーレ・・・・・ごめん。傍にいたのに・・・・俺は・・・・」

 

ドーナシークを殺したことで、俺の中の憎悪と殺意の熱は収まった。収まったあとに訪れたのは・・・・冷たい失意と絶望だった。

 

もっと俺が周囲に注意を払っていれば・・・・・ドーナシークに気がついてさえいれば

 

いや、それ以前に・・・・俺なんかのことを愛さなければ・・・レイナーレは今も・・・・・

 

「俺の・・・・せいだ」

 

俺が存在しなければ、レイナーレは死ぬことはなかった。俺が『兵藤一誠』として生まれさえしなければ・・・・レイナーレが死ぬことはなかった。

 

「なんで・・・・どうして俺は・・・・どうして俺が・・・・」

 

俺は本来『兵藤一誠』として生まれてくるはずのない存在だった。本当の『兵藤一誠』を押しのけて生まれてしまった異端(イレギュラー)だ。そしてそんな俺が存在してしまったが故に・・・・そんな俺を愛してしまったが故にレイナーレは・・・・・

 

「ご・・・・めん。ごめん・・・・レイナーレ」

 

本当の『兵藤一誠』であったのなら、レイナーレは愛することはなかったかもしれない。あるいは出会ってさえいなかったのかもしれない。出会うこともなく・・・・・レイナーレはこんなふうに死ぬことはなかったのかもしれない。

 

俺がいたから・・・・・

 

俺のせいで・・・・・

 

俺が・・・・・

 

ドーナシークじゃない。レイナーレを殺したのは・・・・・俺だ。

 

「う・・・ああ・・・・あああぁぁ・・・」

 

涙が溢れてくる。失意と絶望が抑えられない。今まで以上の孤独感に、疎外感に・・・・罪悪感に苛まれる。

 

改めて自覚した・・・俺は『兵藤一誠』として生まれるべきではなかった

 

俺は・・・・・『兵藤一誠』として存在するべきではなかった

 

俺は・・・・・・俺は・・・・・

 

この世界に・・・・・居てはならなかったんだ

 

「うう・・・・・うあああぁぁぁぁぁ!!」

 

消えない・・・・・消えない消えない

 

失意が消えない

 

絶望が消えない

 

孤独感が消えない

 

疎外感が消えない

 

罪悪感が消えない

 

何より・・・・・俺自身への憎悪が消えない

 

ああ・・・・もういいや

 

消えなくたっていい・・・・消える必要はない

 

どうか・・・どうか・・・・

 

どうか・・・・一生俺を苦しめろ

 

『兵藤一誠』として生まれてしまった罪深い俺に・・・・

 

どうか・・・・消えない罰を与え続けてくれ

 

どうか・・・・どうか・・・・永遠に

 

 




この一誠さんは憑依転生しているものの、原作に関しては何も知らないのでもちろん原作でのレイナーレさんがどうなったのかも知りません

なので、自分のせいでレイナーレさんは死んだと疑っていません・・・・これから一生、永遠と自責の念にとらわれるかもしれません

それでは次回もまたお楽しみに


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第13話

今回でこの章は終わりとなります

それでは本編どうぞ


 

「う・・・・ん」

 

目を覚ますと、見知った天井が俺の目に映った。

 

「ここは・・・・俺の部屋?」

 

俺は確か、教会の祭儀場にいたはずだ。だが、今はなぜか自分の部屋のベッドの上で横になっている。一体どうして・・・・

 

「目が覚めたようね」

 

聞き覚えのある女性の声が俺の耳に入る。声のする方に顔を向けると、そこには部長がいた。

 

「ごめんなさい一誠。勝手に上がらせてもらったわよ」

 

「いえ、それはいいんですけど・・・・・どうして俺はここに?俺は教会の祭儀場にいたはず・・・・・」

 

「私がその祭儀場からここに連れてきたのよ。あなた、呆然としていてとても動ける状態ではなさそうだったから」

 

呆然としていたって・・・・ああ、そうか。俺はレイナーレを死なせてしまって、それで・・・・

 

そうだ、レイナーレ。彼女はどうなって・・・・・

 

「部長、レイナーレは・・・・・」

 

「・・・・彼女の遺体はお兄様にお願いして堕天使の組織、グリゴリに引き渡してもらったわ」

 

部長のお兄さんというと・・・・・確か今の魔王ルシファーだったか。魔王様直々に引き渡してもらったって言うなら信用はできるか。

 

「彼女は独断でこの町で色々と企んでいたようだから本来なら私が処理するところなのだけれど・・・・一誠はそれを望まないと思ったから、グリゴリに引き渡したわ」

 

「俺が望まない・・・・ですか。俺とレイナーレの間に何があったのかご存知なんですか?」

 

「おおよその事の顛末は知っているわ。彼女に聞いたから」

 

そう言いながら、部長は俺のすぐ隣を指差す。そこには俺の右手を握り締めながら眠るアーシアの姿があった。そういえば、ドーナシークの光の槍を掴んだせいで右手は焼け爛れていたけど・・・・痛みを感じない。おそらくアーシアが直してくれたのだろう。

 

「アーシア・・・・・ありがとう。ごめんな」

 

俺はアーシアをないがしろにしてしまったというのに、アーシアは部長に事情の説明をしてくれた上に怪我まで直してくれた。頭が上がりそうにないな。

 

「一誠・・・・聞いてもいいかしら?」

 

「なんですか?」

 

「一誠は本当に彼女を、あの堕天使のことを愛していたの?」

 

問いかける部長の眼差しは、いつになく真剣なものであった。それだけ重要なことなのか、はたまた理解できないから気になるのか・・・・・まあ、おそらく後者なのだろうが。

 

「はい。愛していましたよ」

 

俺ははっきりと断言する。本当はこんな過去形みたいな言い方はしたくはないけれど・・・・レイナーレが死んだ今となっては、過去形にせざるを得ない。それが・・・・・悲しく、辛かった。

 

「おかしいですか?悪魔である俺が敵対する種族である堕天使のレイナーレを愛するのは」

 

「いいえ、そんなことはないわ。私は同族とはいえ、敵対関係にありながら恋に落ちて結ばれた悪魔を知っているわ。だから、あなたのそれをおかしいとは思わない。けれど・・・・・彼女はあなたを殺したのよ?殺されたのに・・・愛していたというの?」

 

部長の疑問はもっともだ。自分を殺した相手を、それでも愛し続けるなど正気の沙汰ではない。

 

だけど・・・・そもそもの前提が間違っている。

 

「違いますよ部長。殺されても愛してるんじゃない・・・・・愛しているから殺されたんです」

 

「え?」

 

「部長に転生させられたあの日・・・・・俺はレイナーレに死んで欲しいと言われて、俺はそれを受け入れ、彼女に殺されました。結果としてほんの僅かな未練があって部長を呼び寄せて悪魔に転生させられましたが・・・・それでも、俺はレイナーレに請われたから望んで殺されたんです」

 

「彼女を・・・・愛していたから?」

 

「はい。でなければ殺されたりしませんよ」

 

人間と堕天使という種族の差があったとしても、白龍皇を倒すために鍛えていて赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を使いこなせるのだから自分で言うのもなんだが俺は簡単に殺されるほど弱くはない。だが、それでも俺は殺された。それは愛するレイナーレの頼みだったからだ。それ以外にあの場で死を受け入れた理由はない。

 

『死ぬほど愛している』・・・・・きっと、俺のレイナーレへの想いはそう評されるものなのだろうな。

 

「わからないわ。愛しているからって殺されることさえ受け入れるだなんて・・・・・どうしてどこまでできるのか私には・・・・」

 

「わからなくていいんですよ。これはきっと理解してはならないことだと思いますので・・・・部長はどうか、まともな恋愛をしてください」

 

主である部長に、俺と同じような恋情は抱いて欲しくない。この恋情は・・・・呪いといってもいいほどにいびつなのだから。

 

「部長、俺の方からもいくつか話したいことがあるのですがいいでしょうか?」

 

「ええ。言ってみなさい」

 

「ではまず・・・・アーシアの件ですが、彼女は今どういう状況に置かれているんですか?」

 

結果として儀式とやらは行われなかったが、アーシアは元々は堕天使側の人間。本来なら悪魔である俺の家にいることさえ許されないはずだが・・・・・おそらくアーシアをここに連れてきたのは部長だ。部長はアーシアのことをどう扱っているのか気になった。

 

「そうね・・・・・結論から言うと、彼女は私の眷属となったわ」

 

「・・・・は?」

 

一瞬、部長の言っている事の意味が分からずに間の抜けた声が出てしまった。

 

「えっと・・・・部長?アーシアはシスターなんですよ?それなのに眷属って・・・・」

 

「まあ驚くのも無理はないわね。彼女にお願いされたとき、私も驚いたもの」

 

「お願いされたって・・・・・まさか、アーシアは望んで悪魔になったって言うんですか?」

 

信じられなかった。アーシアは信心深いシスターだ。そんなアーシアが神と敵対する立場にある悪魔になろうだなんて・・・・

 

「『一誠さんを近くで支えてあげたい。だから私を悪魔にしてください』・・・・・彼女はそう言ったわ。彼女は目の前で愛するものを失った一誠のことを心配している。だから悪魔になることを望んだのよ」

 

俺を支えるために?俺はアーシアをないがしろにしてしまったっていうのに・・・・どうして・・・・

 

「どうしてお前は・・・・そんなに・・・・・」

 

俺はすぐ傍で眠るアーシアを見やる。悪魔になったからには、神に祈るだけでもダメージを受けてしまうというのに、それでも俺のために・・・・・ああ、なんでこの子はこんなにも優しいんだよ。いっそこんなにも優しくなければ・・・・俺としても楽だったのに。

 

「彼女を利用しようとしていた堕天使たちについては私が処理したからそこは問題ないわ。今後彼女は私の眷属悪魔として生きていくことになる・・・・一誠、あなたは彼女の先輩悪魔よ。彼女があなたを支えようというなら、あなたは彼女を守りなさい」

 

「・・・・はい。肝に銘じます」

 

部長の言うとおりだ。俺が守らなければならない。彼女の人生は俺が狂わせてしまったようなものなのだから・・・・俺が責任を取らなければ。

 

アーシアを守る・・・・・生きる目的がひとつ増えたな。

 

「部長、もう一つお話が・・・・いえ、話というより、誓いですね」

 

「誓い?」

 

俺はアーシアが握る手を解き、ベッドから起き上がり部長に膝まづいた。

 

「部長、改めてここに誓います。俺の命はあなたのものです。あなたのためなら俺はあなたの剣にも盾にもなりましょう。この命、あなたのお好きにお使いください。俺は・・・・あなたに生涯、忠誠を誓いましょう」

 

改めて誓う。部長への・・・・リアス・グレモリーへの忠誠を。それも生きる目的だから。

 

 

 

 

 

白龍皇を倒すこと、アーシアを守ること、部長への忠義を尽くすこと・・・・その三つが俺の生きる目的

 

そしてレイナーレへの贖罪・・・・・それが俺の生きる理由

 

背負って生きなければならない・・・・・死に絶えるその時まで

 

 

 

 




レイナーレさんが悪魔に転生するのではと考えていた方もいるかと思いますが、純粋な堕天使である彼女が悪魔になるのは問題がありすぎるため不可能と判断しました

そして、まだ一章だというのに一誠さんの心には大きな闇が・・・・果たしてこの先どうなっていくのか

それでは次回もまたお楽しみに


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キャラ設定 ①

簡易ですが主人公の設定を公開します




兵藤一誠

 

本作の主人公。『兵藤一誠』に憑依転生した存在。原作の知識は一切ないが、前世の記憶があり(ただし現在ではほとんど思い出せなくなっている)、常日頃から感じている疎外感や孤独感、罪悪感のせいで自身を本来『兵藤一誠』として生まれるはずがない者として考えている。そのためか、態度にはあまり出さないが心中では自分を蔑ろにしたり、生まれてくるべきではなかったと考えている。また、『イッセー』と呼ばれると疎外感等を強く感じ、自分は偽物なのだと考えてしまうことからか『イッセー』と呼ばれることを極端に嫌う。

 

原作の『兵藤一誠』と同じように堕天使レイナーレに殺される。しかし、それは一誠がレイナーレのことを心の底から愛しているからであり、一誠自身が望んで受け入れた結果である。結果的には悪魔に転生してしまうが、殺されたあともレイナーレのことを想い続けており、またレイナーレも同様に一誠を愛していた。しかし、一誠を愛してしまったが故にレイナーレはドーナシークに殺されたため、結ばれる機会は永遠に失われてしまう。このことからレイナーレの死の原因は自分にあると激しい自責の念にとらわれてしまった。

 

1章終了時点において、一誠の生きる目的は『リアスへ忠義を尽くすこと』『アーシアを守ること』『白龍皇を殺すこと』の三つであるが、その三つはいずれも成り行き上定めてしまったものであり、実は一誠自身の願いとは言い難いものである。この三つの目的に対し、『レイナーレを死なせてしまった罪を背負い続けること』を自身への罰とし、生きる理由にしてしまっており、これこそが一誠の現在の願いである。

 

戦闘能力に関しては高い身体能力と才能を有し、魔力も豊富であり、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を使いこなしているなど原作イッセーとは比べ物にならないほど強い。人間だった頃から白龍皇を倒すために親の目を忍んで修行していたこともあって相当な強さであったが、悪魔に転生したことでさらにスペックは強力なものとなる。現時点では赤龍帝の籠手無しでも上級悪魔と渡り合えるほどの実力者である。戦闘スタイルは蹴り技主体で回避重視に立ち回る。蹴り技を主体にしているのは、赤龍帝の籠手を出した際、相手の意識が左手にいきやすいから意表を付くためであり、回避重視なのは白龍皇対策である。しかし、防御能力も低いわけではなく、蹴り技主体といっても赤龍帝の籠手持ちであるためかやはり拳の威力もかなり高い

 

 

 

その他備考

・原作とは違い、おっぱい要素はほぼなくなっている

・クールで頭が良く、運動神経もいいためかそこそこモテる

・松田や元浜とは普通に友達(出番はほとんどないが)

・実はやや不眠症気味で睡眠時間が極端に短い




とりあえず今回はこの程度で

今後も随所で設定は公開していきたいと思います

それでは次回もまたお楽しみに


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戦闘校舎のフェニックス
第14話


今回から第2章になります

この章ではレーティングゲームがありますからちゃんとした戦闘描写があると思うので・・・・過度でない程度に期待してください

それでは本編どうぞ


 

深夜三時。俺は今町内をランニングしている。始めたのが二時からなので、かれこれ1時間は走りっぱなしなのだが、悪魔になった影響でスタミナが増したようであまり疲れてはいない。

 

(相棒、あまり無理はしないほうがいいぞ?)

 

(大丈夫だ。無理なんてしていない)

 

俺の身を案じて声をかけてくるドライグに、俺はそう返した。

 

(だが、以前よりも()()時間から走り始めていて尚且つ速度もましているぞ?鍛えるのはいいがそれでは体が持たないぞ)

 

(と言われてもな・・・・・)

 

ドライグが心配してくれるのは嬉しいが、それでも仕方がないのだ。このランニングは何年も前から体力作りのために行っていた。正確にはランニングだけでなく筋トレとかも行っているのだが、ともかくそれは以前は四時から始めていた。そして現在はそれよりも二時間早く始めているのだが、それには理由がある。

 

元々俺は不眠症気味で、全く眠れないというわけではないが以前は一日に四時間程度しか眠ることができなかった。日常生活に支障が出ているわけではなかったし、日中眠くなることもなかったのであまり気にしてはいなかったのだが最近になって、睡眠時間は半分の二時間程度になってしまった。これは・・・・レイナーレが死んでしまったあとからだ。

 

以前少し調べたことがあるが、不眠症は精神状態の不調でも引き起こされるらしい。つまり、レイナーレを失ってしまったことが原因で精神的にダメージを受けてこうなってしまったということだろう。

 

これも・・・・彼女を死なせてしまったことに対する罰のひとつなのかもしれない。

 

(日常生活に支障が出ていないとはいえ、はっきり言って相棒も身も心も異常な状態にある。今はまだ大丈夫かもしれないが、いずれ倒れることになるかもしれんぞ?)

 

(別にそれはそれで構わないだろう。時と場合によるがいっそ倒れてしまえば体を休めることができるからな)

 

(その時と場合が悪いかったらどうするつもりなんだ・・・・鍛錬して力をつけたとしても、肝心な時に倒れたら元も子もないだろう)

 

ドライグの言っていることは正論だ。確かに鍛錬して力をつけたとしても、肝心な時に倒れたり力を発揮できなければ意味がない。だが、それでも俺は・・・・俺にはこれしかないんだ。部長に忠義を尽くすこと、アーシアを守ること、白龍皇を倒すこと・・・・・その全てに力がいる。今のままじゃ全然足りないほどの力が。だから鍛錬は続けなければならない。眠れないのなら、その時間は鍛錬に当てなければならない。

 

それぐらいしないと俺は・・・・・

 

(はあ・・・・・まあ、今更お前に何を言っても無駄か。本当に危ない時は強引にでも休め。それを守れるなら俺はもう何も言わん)

 

俺の心境を察してか、ドライグは折れてくれた。ドラゴンだというのに、こいつは本当に人間である俺の事をとことん気を使ってくれる・・・・・ここまでしてくれるのだから確実に白龍皇を倒せるだけの力をつけなければならない。

 

(よし、次は筋トレだな。それと今度ミルたんあたりに模擬戦の相手してもらうか)

 

(・・・・相棒。さらに無茶を重ねる気か?)

 

ミルたん相手の模擬戦がさらなる無茶なのか・・・・・まあ自覚しはているけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう一誠。相変わらず早いわね」

 

「おはようございます一誠さん」

 

四時過ぎぐらいになって、公園で筋トレしていると部長とアーシアが現れた。二人共ジャージを身につけている。部長は少し前から俺のトレーニングに付き合ってくれていたのだが・・・・なぜアーシアまで?

 

「アーシア、どうしてここに?」

 

「部長さんに毎朝ここでトレーニングをしていると聞いて・・・私もお役に立ちたくて来ました。といってもお茶の用意ぐらいしかできませんが・・・・」

 

「いや、助かるよ。体動かすとどうしても喉渇いちゃうからさ。ありがとう」

 

「はい」

 

俺が礼を言うと、アーシアはニコリと微笑みを浮かべる。本当にいい子だな・・・・ちゃんと守れるように、より一層強くならないと。

 

「それにしても、あれだけの力があっても鍛錬に余念がないだなんて随分とストイックなのね。悪魔になったばかりではあるけれど、あなたの力は私の眷属でもトップ・・・・いえ、それどころか私以上といってもいいほどに高いのに」

 

「まあ赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の性能からして体力があるに越したことはありませんからね。それに昔からやっていることなので既に日課のようなものですし」

 

「真面目ね」

 

「悪魔的には真面目なのはダメですか?」

 

「いいえ、そんなことはないわ。努力家な子は好きよ?」

 

そう言いながら、部長は俺の頭を撫でてくる。その隣では少しむっとした表情でアーシアが見てくるのだが・・・・まあ気にしないことにしよう。

 

「それよりも、確か今日ですよね?アーシアがうちで暮らすのは」

 

「ええ、そうよ」

 

「一誠さんのおうちで生活するの、とても楽しみです」

 

そう、アーシアは今日からうちで暮らすことになっていた。アーシアは俺のせいで悪魔になったようなものだから、俺は面倒を見るということだ。父さんと母さんには事前に部長とアーシア立会いのもとの家族会議によって報告済みであるが・・・・・あの時は大変だった。本当に色々と。

 

(唐変木のお前が女を連れ込んだと騒がれていたな)

 

(やめてくれドライグ・・・・あの時のことは思い出すだけで頭が痛くなるんだ)

 

父さんも母さんも俺の事なんだと思ってるんだ・・・・・俺だって一応は年頃の青少年だというのに。いや、アーシアとはそういう関係じゃないから別の意味で変な感じに捉えられても困るのだけれど。

 

「荷物はいずれ届くと思うから、その時は荷解きを手伝ってあげなさいよ一誠?」

 

「荷解き・・・・ですか」

 

まあ結構手間のかかる作業だから手伝うのは構わない。構わないのだが・・・・思い出されるのはアーシアと初めて会ったときだ。あの時俺、誤ってアーシアの下着を手にとっちゃったんだよなぁ・・・・アーシアもその時のこと思い出してるのか、顔が赤いし。

 

「二人共どうしたの?随分と微妙な表情をしているけれど・・・・」

 

「ま、まあ色々あるんです。色々・・・・・」

 

・・・・手伝うときは、細心の注意を払うことにしよう。あの悲劇を繰り返してはならない。

 

(眼福と思っていたくせにか?)

 

(ドライグ・・・・俺が手を出せないと思ってあまり調子に乗るなよ?)

 

なんというかドライグ・・・・知り合った当初に比べて余計なちょっかい出してくることが多くなったな。こいつ本当にドラゴンか?もうほとんど友達とか兄弟の感覚になりつつあるぞ。

 

「まあいいわ。それよりもいい加減トレーニングを始めましょう。さっきから話してばかりだったし」

 

「ええ、そうですね」

 

「頑張ってくださいね一誠さん」

 

はじめるというか、俺にとっては再開なのだが細かいことは言わないでおこう。俺もそろそろトレーニングに戻りたいと思っていたし。

 

ただ・・・・

 

「まずは腕立て500回。私を乗せた状態でやってもらおうかしら」

 

「・・・・・はい」

 

女性を背に乗せた状態で腕立てって・・・・誰かに見られたら俺、変態だと思われそうだなぁ。いや、確かに普通にやるよりは効果があるのは確かだし、主の命令なのだから文句はない。ないけども・・・・・

 

(大丈夫、朝早いからきっと誰にも見られない・・・・・頼むからそうあってくれ)

 

俺は心の中で誰にも見られないようにと祈りながら部長を背に乗せて腕立てをするのであった。

 

 

 




寝れない時間をほとんどトレーニングに当ててる一誠さん。才能もあって努力もしてるのでそりゃ強いに決まってます

それでは次回もまたお楽しみに!


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第15話

今回はちょっとほのぼの系・・・・になるのかな?

一章がのっけから重い展開でしたので箸休めと思ってください

それでは本編どうぞ


 

アーシアが駒王学園に転入してはや一週間。アーシアの学校生活はというと・・・・・

 

「イッセーさん、今日は体育でソフトボールをやるそうですよ。私初めてなのでとても楽しみです」

 

まあ、順調なようだ。楽しそうに笑顔を浮かべるアーシア。年頃の女の子らしく満喫できているようだ。

 

「学校は楽しいかアーシア?」

 

「はい。皆さんにはとても良くしてもらています。お友達もたくさんできましたし。今度一緒に買い物に行こうって誘われているんですよ」

 

「そうか。それはなによりだ」

 

教会で聖女として祭り上げられて、孤独の中にいたアーシアは友達を欲しがっていた。悪魔であるものの、学園内ではアーシアは普通の女の子としてしか扱われないため、アーシアの性格の良さも相まって自然と友達もできたのだろう。

 

もっとも・・・・個人的に友達になって欲しくない奴とも友達になってしまたようだが。

 

「やあアーシアちゃん!」

 

「おはよう、いい朝だね!」

 

「おはようございます松田さん、元浜さん」

 

「・・・・はあ」

 

その友達になって欲しくなかった奴筆頭が現れた。松田に元浜・・・・・俺の中学時代からの友達だ。決して悪い奴らではない。むしろ根はいい奴だということは中学からの付き合いでわかっているのだが・・・・・問題もある。こいつらはなんというか・・・・少々思春期らしすぎるところだ。

 

こいつら女の子・・・・特にかわいい子に対する執着というか欲求が強いからな。アーシアに変な色目を使ってこないか心配だ。

 

「ああ、そうだ」

 

何を思ったのか、アーシアに笑顔を振りまいていた松田が俺の方に歩み寄ってきた。

 

「一誠・・・・・おはよう!」

 

俺に近寄ってきた松田は、左手で俺の肩を掴み、右手で俺の腹を殴ってきた。まあ、素人の殴打なんてそう簡単には喰らわない。当たる直前に松田の腕を掴んで阻んだ。

 

「お前・・・・・相変わらず不意打ちのきかない奴だな。というか防ぐな。一発殴らせろ」

 

「断る。殴られる理由もないのに殴られてたまるか」

 

「理由がないだと・・・・・あるだろ理由は!」

 

「お前は毎日アーシアちゃんと登校している!松田が殴るに値する十分な理由だ!」

 

「あっそ」

 

今にも血涙を流しそうな勢いの松田と元浜。ただ、俺からしたらくだらないにも程があるが、こいつらにとっては重要事項なようだ。

 

「というかおかしいじゃないか・・・一誠、お前なんで毎日アーシアちゃんと同じ方向から登校してくるんだ」

 

「どうしてって、それは・・・・・」

 

「兵藤はアーシアと一緒に暮らしてるのよね?」

 

俺の言葉を遮るようにして聞こえてくる女の声。声の出処は俺の友人の一人、桐生からであった。

 

「「な、なんだってぇぇぇぇ!?」」

 

「あ、おはようございます桐生さん」

 

「おはようアーシア」

 

桐生の発言に驚きを顕にする松田と元浜。しかし、暴露した本人はというとのんきにアーシアと朝の挨拶を交わしていた。

 

「一誠!アーシアちゃんと一緒に暮らしてるってどういうことだ!」

 

「事情説明を要求する!潔く白状しろ!」

 

涙を流しながら詰め寄ってくる松田と元浜。ものすごい勢いだ・・・・そこらの妖怪よりもよっぽど恐ろしいぞ。

 

「事情説明と言われても・・・・縁合ってアーシアは俺の家にホームステイしているとしか言えないんだが・・・・・」

 

「じゃあ、お前は毎朝アーシアちゃんに起こしてもらっているというのか!?」

 

「毎日アーシアちゃんにご飯をよそってもらっているというのか」

 

「朝起こしてもらったりはしてないが、まあご飯をよそってもらうぐらいならしてもらってる」

 

「「ぐぬぬ・・・・」」

 

二人は歯が砕けんばかりの勢いで強く噛み締める。そんなに悔しいのかよ・・・・

 

「はあ・・・・・二人共発想が貧困ね」

 

そんな二人を見て、呆れた様子で桐生がため息を吐く。

 

「なんだと!?」

 

「どういう意味だ桐生!」

 

「どういう意味もなにも、そのままの意味よ。いい?うら若き少年少女がひとつ屋根の下で生活を共にしているのよ?朝起こしてもらうだとかご飯をよそってもらうだなんて次元が低いわ。もっとぐんずほぐれつ、あははうふふなことが起きている可能性だって十分にあるわ」

 

「「な、なんだってぇぇぇぇ!?」」

 

桐生の発言に驚き慄く松田と元浜。というか、さっきと全く同じリアクションするなよ。コピペしたって疑われるだろうが。

 

「くっそぉ・・一誠!うらやま・・・・・恨めしいぞこんちくしょう!」

 

松田、お前今一瞬本音が出てたぞ。

 

「こんな天使みたいに愛らしい子と・・・・うらめ・・・・羨ましすぎるわ!」

 

元浜、お前に至っては建前を訂正して本音が出てるぞ。

 

悪い奴らじゃないし、根はいい奴らだとわかっていても・・・・少しだけどうしてこいつらと友達なんだろうって思っちまうよこんなの。

 

「とかなんとか言いながら、二人共朝っぱらから盛ってるじゃない。もしかして何か変な妄想でもしちゃったの?」

 

怒り狂う二人に、からかうような笑みを浮かべながら桐生が声をかける。

 

「なっ!?何を言っている桐生!」

 

「い、いくら俺たちでも朝からそんな・・・・」

 

口では反論しているが、二人共動揺を隠せていなかった。

 

「隠しても無駄よ。私のメガネは男子のアレを数値化できるのさ。変化すれば一目でわかるわ」

 

「「な、なんだってぇぇぇぇ!?」」

 

だから全く同じリアクションをするなというに。というか、桐生のメガネってそんな能力を備えてたのか?確か前に元浜も『俺のメガネは女子のスリーサイズを測れる!』と豪語していたし・・・・俺の周りのメガネ装着者はろくな奴がいねぇな。いや、そもそもアーシアの前でそういう話はしないでもらいたいんだが・・・・

 

「あの、一誠さん。桐生さんのおっしゃったアレとは一体何なんでしょう?」

 

ほれみろ食いついた。この子世間からちょっと疎いから簡単に興味示しちゃうんだからマジやめてよ。

 

「アーシア、世の中にはな知らないことがいいこともあるんだよ。今回のことはその最たる例だと思ってくれ」

 

「そうなんですか?でも私気になって・・・・・」

 

「お願いですアーシアさん。気にしないでください」

 

「は、はい・・・・わかりました」

 

俺の必死の願いが通じたのか、アーシアは引き下がってくれた。すまないアーシア・・・・だけど、お前には汚れた知識を身につけて欲しくないんだ。勝手な保護者心ということはわかってはいるけれど。

 

「でもさ、実際問題どうなのよ兵藤?」

 

「どうって・・・・・何がだ?」

 

「しらばっくれちゃって。アーシアとそういうことはしてないの?」

 

こいつニヤニヤしながら聞いてきやがって・・・・明らかに楽しんでやがる。今後弄られるのを防ぐためにも、ここははっきりと言ってやらないとな

 

「そういったことは一切ないし、今後も起こりえない。アーシアとはそういう関係ではないからな」

 

アーシアは俺にとっては仲間であり、守るべき対象だ。そういった関係になることはない。

 

というより・・・・・俺はきっと、もう二度と恋愛することはない。愛する女を・・・・レイナーレを死なせてしまった俺にそんな権利はないのだから。

 

「・・・・ふーん、そう。わかったわ」

 

もっとしつこく色々と言ってくると思っていたのだが、桐生は思いのほかあっさりと引き下がってくれた。まあ、桐生は普段の素行には多少問題はあるが空気が読めるやつというか、察しのいいやつだからな。感情の機微にも鋭いし・・・・こういうところは助かるかな。

 

まあそれはそれとして・・・・

 

「ところで皆・・・・あんまりここで駄弁ってると遅刻するぞ?」

 

「「「「・・・・え?」」」」

 

俺の一言に、皆が硬直した後に時計に目をやる。

 

「よし、アーシア。とっとと行くぞ」

 

「い、一誠さん!?」

 

さすがに遅刻はまずいので、俺はアーシアの手をとって小走りで学校へと向かう。それから少し遅れて、松田たちも焦った様子で駆け出した。

 

(まったく・・・・・騒がしい朝だな)

 

とんだことで遅刻の危機に陥ってしまったが・・・・・まあ、こういうのも悪くはないかな。




松田さんも元浜さんも桐生さんも一誠さんにとっては大切な友人です

原作に比べエロ要素はほとんど排除されていますが、3人とも気のいい人たちなのでこの一誠さんとは友達関係は築けています

それでは次回もまたお楽しみに!


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第16話

今回はライザーさん登場

リアスさんの夜這い?それはまあこの一誠さんじゃ・・・・ね?

それでは本編どうぞ


アーシアが部長の眷属になって二週間が経った。俺と同じようにチラシ配りから始まり、今では契約もとっている。といっても、まだアーシア一人では不安ということもあり小猫が補佐についているが・・・・・俺の要望で。()()()の依頼は専門の悪魔が務めるそうだが、アーシアは純情で可愛いから心配になったのだ。少々過保護がすぎるかもしれないが、守ると決めたからにはどうしても気になってしまう。

 

俺の方は・・・・まあまあだ。契約に関してはよほどのことがない限りはきっちりこなせているし、最近は魔力の使い方もトレーニングに加えて慣れてきた。もっとも、この前ミルたんと模擬戦したら負けたが・・・・・赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)や魔力なしといっても肉弾戦で悪魔の俺が負けるとかミルたん本当に人間か・・・・?いや、俺がまだまだ未熟だっていうことだろうけど。

 

そんなこんな、色々あるが俺とアーシアの悪魔生活は特に大きな問題もなく順調だった。そう、俺とアーシアは。問題があるのは・・・・・部長だ。最近どうにも元気がない・・・・というか、何かを悩んでいるように見えた。部長に忠義を尽くすと決めた以上は部長の障害となるものは出来るだけ排除したいとは思う。だが、部長が何に悩んでいるのかわからない現状では動きようがない。下僕である俺から聞くのは不敬に思われるかもしれないし・・・・・どうしたものか?

 

「一誠くん?随分と難しい顔をしてどうしたんだい?」

 

木場とアーシアの二人と部室に向かう途中、木場が俺に尋ねてくる。どうやら表情に出ていたようだ。

 

「ん?まあ、ちょっと・・・・・なあ、木場。最近部長から何か聞いてないか?」

 

部長の騎士(ナイト)であり、俺よりも先輩悪魔である木場ならば何か知っているのではないかと思い聞いてみた。

 

「何かってなんだい?」

 

「何か困ってることがあるとか悩んでることがあるとか・・・・・何か聞いてるなら、差支えのない程度に教えて欲しいんだ」

 

「部長さん、何か悩んでいるんですか?」

 

どうやら気になったらしいアーシアが、木場よりも先に俺に聞いてくる。

 

「いや、そうと決まったわけではないけれど・・・最近どこか浮かない顔をしていることが多かったから気になってな」

 

「悩み事か・・・・・特に聞いてはいないね」

 

どうやら木場も何も知らないらしい。

 

「そうか・・・・・となると、何か知ってるとしたら朱乃先輩か?」

 

「そうだね。朱乃さんは部長の女王(クイーン)・・・・懐刀だ。もちろん知っていると思うよ」

 

やはり部長が現段階で一番信頼しているのは朱乃先輩ということか。聞くところによると眷属の中では一番付き合いも長いらしいし。俺が朱乃先輩並みの信頼を得られるのはいつになることか・・・・いや、忠義に信頼は必ずしも必要ということでもないのだが。

 

「部長さん・・・・早くお悩みが解決すればいいんですが・・・・」

 

「ああ、そうだな」

 

俺は心配そうな表情をしているアーシアの頭を軽く撫でる。その時・・・・

 

(ッ!?この気配・・・・・部室の中から?)

 

部室の前に到着した俺は、部屋の中から見知らぬ気配を感じた。木場も同じように何らかの気配を感じたのか、表情を強ばらせている。

 

「僕がここまで来て初めて気配に気づくなんて・・・・」

 

「木場、中にいるのは誰だ?まさか・・・・」

 

「敵じゃないよ。だからそう身構える必要はない。ただ・・・・まあ入ればわかるよ」

 

そう言って、木場は部室の扉を開く。中には部長と朱乃先輩、小猫といつものオカ研のメンバーと・・・・メイド服を着た、見知らぬ銀髪の女性がいた。

 

(ドライグ、この女・・・・)

 

(ああ、相当な実力者だ。魔王相当の力はあるだろう)

 

ドライグにそこまで言わせるか・・・・・一体何者なんだ?

 

「一誠さん・・・・」

 

隠れるように俺の後ろにつくアーシア。はっきりとはわかっていないかもしれないが、アーシアも女性から何かを感じ取ったのかもしれない。

 

「一誠・・・・・なるほど。あなたがお嬢様の仰っていた今代の赤龍帝ですか」

 

女性が俺に視線を向け、声をかけてくる。

 

「そうですが・・・・・失礼ですがあなたは?」

 

「私はグレモリー家に仕えるグレイフィアと申します。以後お見知りおきを」

 

グレモリー家に仕える、か。さすがは貴族ともなるとメイドがいるということか。

 

「さて、全員揃ったところで、部活の前に少し話があるわ」

 

「お嬢様、私からお話しましょうか?」

 

「いいえ。大事なことだから私の口から直接言うわ」

 

グレイフィアさんが部長に尋ねるが、部長はグレイフィアさんを制した。

 

「実は私は・・・・・」

 

部長が話そうとしたその時だった・・・・・部屋にグレモリーのものとは異なる魔法陣が出現した。

 

「これは、フェニックス家の・・・・・」

 

木場がそう呟くのと同時に、魔法陣から人影が見られる。

 

「久しぶりだな・・・・人間界に来るのは」

 

現れたのはスーツをやや着崩した男だった。顔の造形は男の俺でもわかるほどに整っているが、どこかヤンチャそうにも見える。

 

「愛しのリアス、会いに来たぜ。早速だが式の会場を見に行こうか。日取りも決まっているんだから早いほうがいい」

 

男は俺たちからの視線など知ったことではないといったように、真っ先に部長に絡んできた。

 

「離してちょうだい」

 

「そう言うなよ。俺とお前の仲だろう?」

 

馴れ馴れしく肩に手を伸ばしてきた男を、部長は嫌そうに振りほどく。だが、男はめげずにしつこく部長に突っかかっていった。

 

状況は把握できないが・・・・これは見過ごせないな。

 

「失礼」

 

俺は部長と男の間に割って入った。

 

「あ?誰だお前?」

 

「お初にお目にかかります。私は兵藤一誠。先日部長・・・・リアス様の兵士(ポーン)として転生した新米悪魔です」

 

「ふーん・・・で?どういう了見で俺とリアスのひと時を邪魔してくれたんだ?」

 

「無礼なのは百も承知です。見たところあなた様は位の高い悪魔であるようですが・・・・私の目にはリアス様が少々戸惑っているように見えましたので。下賎な下級悪魔である私が口を出すべきことではないと理解はしておりましたが、それでも放っておけなかったのです。どうかここはリアス様と少々距離をおいていただけないでしょうか?」

 

「・・・・・ほう」

 

無礼承知で口出しした俺に対して、男は初めは不機嫌そうにしていたが、今はどこか感心したように表情を緩ませていた。

 

「邪魔をされたことには腹が立ったが、新米悪魔にしてはそれなりの礼儀はわきまえているようだな。リアス、下僕の教育は怠っていないようで感心したぞ?」

 

「あなたに感心されてもあまり嬉しくないわね」

 

よくわからないが、対応としてはまったく間違ったものではなかったようだな。

 

「というかリアス、こいつ俺の事知らないようだが話していないのか?」

 

「ええ。話す必要がなかったから」

 

「あらら。こいつは手厳しい」

 

部長からの冷淡な返しに、男は苦笑いを浮かべる。結局コイツは誰なのだろうと思っていたら、グレイフィアさんが話し始めた。

 

「この方はライザー・フェニックス様。純潔の上級悪魔であり、古い家柄のフェニックス家の三男であらせられます」

 

フェニックス家・・・・そういえば木場が魔法陣を見てそう呟いていたな。確か72柱37位の名門家系だったか?聖獣であるフェニックスと同じで不死身の再生能力を持っているっていう・・・・・ちょっと戦ってみたいな。

 

いや、そんなことよりも、そのフェニックス家の人間がどうしてここに?

 

「そして、ライザー様はグレモリー家の次期当主の婿でもあらせられます」

 

グレイフィアさんの言葉は、俺の疑問を解消するものであった。

 

だがそれにしても婿か・・・・・

 

「となると、ライザー・グレモリー様とお呼びしたほうがいいのでしょうか?」

 

「「「「・・・・・・」」」」」

 

俺が言ったその瞬間、その場にいたほぼ全員が俺に呆れたような視線を向けてきた。俺、何か変なこと言ったか?

 

(相棒・・・・・お前は時々やらかすな)

 

え?俺今何かやらかしたの?




原作と比べてだいぶ礼儀正しい一誠さん。だけど時々変なことをやらかします。若干天然が入ってますので・・・・・

それでは次回もまたお楽しみに!


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第17話

・・・・・前書きで話すことが思いつかない

というわけで本編どうぞ


「いい加減にしなさいライザー!以前にも言ったように私はあなたとは結婚しないわ!」

 

部室内に部長の怒声が響き渡る。その声色から部長がどれだけライザーとの結婚を嫌がっているのかがよくわかった。それ故にだろう・・・・・ライザーをグレモリー姓で呼んでしまった俺が反省のため正座させられているのは。

 

うん・・・・・まあなんというか今は大変申し訳ない気持ちで一杯でございます。

 

「そうは言うが、グレモリーの御家事情は相当切羽詰っているんだろう?だったら素直に受け入れたほうが身のためだと思うが?」

 

「それはわかっているわ!けれど次期当主が私である以上、私の相手は私が決めるわ!」

 

まあ望まない縁談だなんて当事者からすれば溜まったものではないだろうな。人生を他人に狂わされるようなものだし。

 

「そもそも、皆急ぎすぎなのよ!私が人間界の大学を出るまでは自由にさせてくれるって約束だったのにこんな・・・・・」

 

「しかし、君も知っているとおり今はかつて永華を誇った純血種・・・・七十二柱の悪魔がどんどん潰えてしまっている。転生悪魔という新しい血が必要なのも否定はしないが、同じくらい純血種を守り、存続させることも大事だ。俺と君の縁談は重要性、理解できるだろう?」

 

「それは・・・・・・」

 

口をつぐみ、言葉が出ない部長。ライザーの言っていることは正しい。どれだけ転生悪魔を増やそうが、純血種が潰えてしまったら悪魔という種にとっては致命的だ。

 

まあ、だからといってやはり本人の意思を無視するというのはどうかと思うが・・・・・そう思うのは、俺が元々人間だからだろうか。

 

「・・・・家は潰させないわ。婿養子だって迎え入れる」

 

「そうか。だったら俺と・・・・」

 

「けれど、あなたとは結婚しないわ。私は私が望む相手と結婚する。古い家柄の悪魔にだってそれぐらいの自由は許されるはずよ」

 

婿養子は迎えるものの、あくまでもライザーと結婚する必要はないと言い張る部長。ここまで頑なだと若干ライザーに同情するな。そんなに嫌いなのか?

 

「・・・・リアス、俺もフェニックス家の看板を背負った悪魔なんだよ。この名に泥を塗るわけには行かない」

 

先程までの軽薄さを感じさせない・・・・神妙なお面持ちで、重たい声色でライザーは部長に言う。

 

「俺は君のためにわざわざ出向いたが、俺は人間界が好きではない。この世界の炎と風はあまりにも汚すぎる。炎と風を司る悪魔としては耐え難いんだよ!こんなところに出向いたからには・・・・君の下僕を全て焼き尽くしてでも君を冥界に連れて行かせて・・・・」

 

「そこまでです」

 

ライザーの言葉が最後まで紡がれる前に・・・・俺はライザーの眼前に拳を突き出した。

 

「なんのつもりだ?」

 

「申し訳ありませんライザー様。下級悪魔の分際で拳を突きつけるなど不敬だということはわかっているのですが、私の仲間・・・・リアス様の眷属を燃やすなどと言われては黙ってはいられません。そうなってしまってはリアス様が悲しまれるので」

 

「なるほど、リアスのためか。不敬ではあるがその忠誠心は認めてやろう。だが・・・・・」

 

ライザーが指を鳴らす。それと同時にフェニックス家の魔法陣が展開し、俺の周囲に10人を超える女性が現れた。女性のほとんどが俺に対して武器を突きつけ足り手をかざしたりと攻撃態勢をとっている。

 

「忠誠心なら俺の眷属たちも負けてはいないさ。お前が俺に仇をなすというなら、こいつらがお前を粛清する」

 

「だからなんですか?ライザー様がリアス様に仇なすというなら、俺は彼女たちをねじ伏せてでもあなたを潰すだけです」

 

「それをリアスが望むと思っているのか?」

 

「さあ?わかりませんよ。俺はただ、俺の忠義を尽くすだけなので。誰を傷つけ、誰に恨まれようとも・・・・主に咎められ、見限られようともね」

 

それが俺の生きる目的だ。俺の忠義に信頼や信用などいらない。たとえ咎められ、見限られようともただ忠を尽くす・・・・・それが俺の生き方だから。

 

「お二人共、そこまでです」

 

睨み合う俺とライザーをたしなめるようにルキフグスさんが言葉を発した。

 

「これ以上やるのでしたら私も黙って見過ごすことはできません。私はサーゼクス様の名誉のためにも遠慮などしないつもりです」

 

ゾクリ・・・・と、俺の背筋に悪寒が走る。それはライザーも同じようで、顔を引きつらせていた。

 

(ほう、この女強いな。今のお前では相手にならないかもしれないな)

 

ドライグの言うとおりだろう。全力を出したとしても、今の俺では彼女には勝てない。彼女はそれだけのものを秘めている。

 

「最強の女王(クイーン)と称されるあなたにそこまで言われては仕方がない。バケモノ揃いと評判のサーゼクス様の眷属とは絶対に相対したくないからな」

 

素直に引き下がるライザー。最強の女王・・・・・見立て通り、ルキフグスさんの力は絶大というわけか。

 

「どうやら話し合いで解決するのは不可能なようですね。ならば、最終手段を取るしかありません」

 

「最終手段?」

 

「お嬢様が御自身の意思を通したいというなら、『レーティング・ゲーム』で決着をつけるのはいかがでしょうか?」

 

レーティング・ゲーム・・・・確か、実戦を想定した下僕を使う戦闘ゲームだったっけか。成人していない悪魔には参加権はないはずだが・・・・・

 

「成人していないお嬢様は公式のゲームには参加できませんが、非公式のゲームならば話は別です。過去に何度も行われていますし、その多くは・・・・」

 

「身内同士、または御家同士のいがみ合い・・・・・つまりお父様方は私が拒否することも考慮していたということね。一体どこまで私の生き方を弄れば気が済むのかしら・・・・」

 

自分の意思に関係なしに次から次へと決められていくことに部長は納得がいかないといったようにご立腹だ。だが、レーティング・ゲームが最終手段として用意されているとなってはもはや選択肢はない。

 

「いいわ、こんな好機二度と訪れないでしょうし、ゲームで決着をつけましょうライザー」

 

高々と宣言する部長。まあ、部長ならそうするよな。

 

「いいのか?俺は公式戦を何度も経験している。勝ち星の方が多いんだが・・・・それでもやるのか?」

 

「もちろんよ。私と、私の眷属があなたを消し飛ばしてやるわ」

 

「いいだろう。ならリアスが勝ったら好きにすればいい。だが、俺が勝ったら即結婚してもらうぞ」

 

勝てば自由、負ければ結婚・・・・シンプルでわかりやすいな。要は勝てばいいだけなんだし。

 

「お二人の意思はこのグレイフィアが確認致しました。両家の立会人としてゲームは私が仕切らせてもらいますがよろしいですね?」

 

「ええ」

 

「ああ」

 

「では、両家には私からお伝えしておきます」

 

これであとには引けなくなったな。このゲーム、部長のためにも勝つしかない。となると、俺も本気を出さなければならないかもしれないな。

 

そう考えると、ある意味ちょうどいい機会だ。悪魔になってから本気で戦うことはなかったから・・・・・これで今の俺の全力がわかるかもしれない。

 

「聞くがリアス、ここに居る連中がお前の眷属なんだよな?」

 

「・・・・ひとりここにはいないけれど、ゲームに出るメンバーはこれで全員よ。だとしたらどうなの?」

 

「話にならないな。数も質もこちらの方が上。相手になりそうなのは君の女王と・・・・俺に牙を向いたそいつぐらいだ」

 

ライザーは俺と朱乃先輩に視線を向けながら言う。どうやら俺はライザーの目にかなう程度には認められているようだ。

 

いや、それよりも気になるのはここにいないっていう部長の眷属のことだ。ゲームには出せないようだが・・・・一体何者なんだ?

 

「十日やろう。それだけ時間があれば君ならばなんとかできるだろう」

 

「私にハンデをくれるというの?」

 

「感情論で勝てるほどレーティング・ゲームは甘くない。下僕の力をいかに引き出すかに王の資質が問われるんだ。才能があっても活用できずに落ちていった連中を俺は何度も目にしている」

 

「・・・・わかったわ」

 

ふむ・・・・・やはり一筋縄ではいきそうにないな。ゲームを経験しているだけあって、ライザーの言葉には重みがある。なにより、ライザーがどれだけゲームに真摯に向き合っているかが伺える。

 

(第一印象は軽薄な男だったが・・・・・こいつは立派な誇り高い悪魔だ。こういった面には素直に尊敬できる)

 

「おい、お前」

 

ライザーへの評価を心内で高めていると、そのライザーが俺に声を掛けてきた。

 

「なんでしょうかライザー様?」

 

「このゲーム、俺の勝ちは揺るがないだろうがお前には興味がある。俺の眷属に囲まれながらも怯まずに俺に拳を突き出し、敵意を向けるなんてそうそうできることじゃない。ゲームではせいぜい俺を楽しませてみろ」

 

「・・・・それは無理な相談ですね」

 

「なに?」

 

「ゲームに勝つのは我が主リアス様です。そのために俺は尽力する・・・・・そうなってしまっては、ライザー様は楽しめないでしょう?」

 

ニヤリと口角を上げながら、俺はライザーを挑発した。

 

「はっ、言ってろ・・・・またなリアス。次はゲームで会おう」

 

部長を一瞥し、魔法陣を展開したライザーは眷属たちを連れて冥界へと帰っていく。

 

こうして、部長の結婚をかけたゲーム(戦い)が十日後に行われることが決定した。

 

 

 

 

 




一誠さん、ライザーさんの眷属が全員女性であることにはノータッチ。原作と違ってハーレム願望皆無だから仕方ないといえば仕方ないけど・・・・・

それでは次回もまたお楽しみに!


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第18話

今回は戦闘描写ありです・・・・・超苦手ですけど

スランプも併用してるから上手く出来てないかも・・・・

まあともかく本編どうぞ


 

部長の婚約を賭け、ライザー・フェニックスとのレーティング・ゲームが行われるのが決まった翌日、僕達は山の上にある部長の別荘へと訪れていた。ゲームに備え、邪魔の入らない場所で修行するためにだ。ゲームまで十日しかないため、一日たりとも無駄にはできない。

 

だが、まだ本格的な修行には入っていなかった。その前にやることがあったからだ。

 

「さて、4人とも準備はいいかしら?」

 

部長に尋ねられ、僕と朱乃さん、小猫ちゃん・・・・そして一誠くんは頷いてみせた。やることというのは、一誠くんの実力を把握する為の模擬戦だった。一誠くんが部長の眷属になって一ヶ月近く経つが、僕達はまだ本気の一誠の実力を把握していない。一誠くんが戦うところは何度も見ているが、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を使っているところはこれまで一度も見たことがなかった。唯一、アーシアさんだけは一誠くんが赤龍亭の籠手を使って堕天使ドーナシークを倒すところを目にしていたようだけど・・・・それもただの一撃で終わってしまったらしく参考にはならなかった。

 

「一誠くん、ちゃんと赤龍帝の籠手は使ってね」

 

「ああ、わかってるさ。でないとこの模擬戦の意味がないからな」

 

そう言いながら、一誠くんは左手に赤龍帝の籠手を展開した。

 

「・・・・一誠先輩。本当に3対1でいいんですか?」

 

「一誠くんの実力が高いことはわかっていますが・・・・それでもいくらなんでも3人は・・・・・」

 

小猫ちゃんと朱乃さんが一誠くんに尋ねる。確かに、いくら一誠くんが強いといっても3対1はきついはずだ。僕達は一誠くんよりも悪魔歴が長いから戦闘経験は上。それなのに一誠くんは自分からやるなら3人でかかって来て欲しいと提案してきたんだ。

 

「大丈夫ですよ。はっきり言わせてもらうが、3人が相手でも負ける気はしない」

 

随分と自身に満ち溢れているね・・・・俺だけ自信があるってことだろうけど、そこまで言われるとその自信を崩したくなってくる。それは小猫ちゃんも朱乃先輩も同じようで、少し表情がむっとしている。

 

「気に障ったのなら謝る。だけど・・・・俺は今代の赤龍帝。それに見合うだけの力をつけてきたつもりなんでね」

 

「そうか・・・・わかったよ。そこまで言うんだったら僕達は本気でいかせてもらうよ。部長」

 

「ええ。では初めてちょうだい!」

 

部長の合図により、模擬戦が始まった。開始早々僕は神器(セイクリッド・ギア)の力で魔剣を作り、一誠くんに斬りかかる。確実に捉えたと思ったその一撃を・・・・一誠くんは左足を軸にして体を逸らして易々回避し、そのまま僕の頭に回し蹴りを放ってきた。

 

「くっ!」

 

ギリギリのタイミングで反応できて、バックステップで蹴りは回避できた・・・・と思っていたら、腹部に衝撃が走り、僕の体は吹き飛ばされてしまった。いつの間にか、一誠くんの殴打が僕の腹部に決まっていたのだ。

 

(速い!これ、騎士(ナイト)の僕よりも速いんじゃ・・・・)

 

僕が一誠くんのスピードに驚愕している間に、今度は小猫ちゃんが一誠くんの背後から奇襲を仕掛ける。だが・・・・

 

「甘い」

 

まるで後ろに目がついているのではないかと思えるような動きで殴りかかっていた小猫ちゃんの腕を掴み、遠心力を使って小猫ちゃんを僕の方へ放り投げてきた。

 

「大丈夫小猫ちゃん?」

 

「はい。平気です」

 

「おしゃべりとは随分余裕だな」

 

飛んできた小猫ちゃんを受け止める僕だったが、その隙に一誠くんが拳を振り上げながら接近してきていた。

 

「あらあら、私のことを忘れてもらっては困りますわね」

 

だが、僕たちに気を取られている隙に朱乃さんが動いた。一誠くんに向かって雷撃を放つ。これはさすがに決まっただろうと思ったが・・・・・

 

赤龍の尾(ドラゴン・テイル)

 

「「ッ!?」」

 

一誠くんの背から、赤い龍の尻尾のようなものが現れた。尻尾は僕と小猫ちゃんに巻き付き・・・・僕たちを朱乃さんが放った雷撃に向かって投げ飛ばした。

 

「「うっ!?」」

 

朱乃さんの雷撃・・・・模擬戦だから手加減はしたんだろうけど、それでも十分な威力だった。まともに受けてしまったため、しばらくはしびれて上手く動けそうにない。

 

「そんなっ!?」

 

「動揺している暇なんてあるんですか?」

 

雷撃を凌がれてしまい、動揺している朱乃さん。対して一誠くんは動きを止めなかった。赤龍帝の籠手から『Explosion!!』という音声が聞こえてくるのと同時に、一誠くんは左手で地面を殴りつける。相当な威力なようで地面は割れ、衝撃で砂埃が舞って視界が奪われてしまった。

 

(これじゃあ視界が・・・・一誠くんはどこに?)

 

視界を奪われた状態で動き回るのは危険だ・・・・もっとも、まだ体がしびれて上手く動けそうにないのだが。ともかく、一誠くんの居場所だけでも特定しておこうと気配を読もうとしたが、なぜか捉えられなかった。

 

数秒して砂煙が晴れてきた。そして僕の目に映ったのは・・・・・長く、赤い爪のようなものを僕たち三人に突き立てる一誠くんの姿だった。

 

赤龍の爪(ドラゴン・ネイル)・・・・・勝負ありだな」

 

ほんの僅かでも動けば爪は僕たちに突き刺さるだろう。これでは動けそうにない。

 

こうして、模擬戦は一誠くんの勝ちで終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「3対1で全く相手にならないなんてね・・・・」

 

「・・・・悔しいです」

 

「まさかこれほど差があるだなんて・・・・」

 

模擬戦を終え、僕たち3人は落ち込んでいた。正直、もっとやれると思っていたのだけれど・・・・考えが甘かったようだ。

 

模擬戦はあくまでも模擬戦。緊張感のある実戦ではまた違った展開になっていたかもしれないが、それでもこの結果は悔しい。僕たちは・・・・僕は一誠くんよりもはるかに弱い。

 

「皆お疲れ様。感想はどうだったかしら?まずは祐斗から」

 

部長が模擬戦を終えた僕たちを労いながら、感想を求めてくる。

 

「実は最初の一撃で決めようと思ってたんですが・・・・見事に躱されてカウンターをもらってしまいました。僕の現時点での最速の一撃だったんですが・・・・」

 

「確かにあれは速かった。さすがは騎士だと思ったよ。多分最高速度は俺よりも木場の方が上だろうな」

 

「僕は君の方が速いと思うんだけど?初めの蹴りを躱せたけど次の殴打は躱せなかったし」

 

「あくまでも最高速の話だ。多分瞬発力と反射神経は現時点では俺の方が上だと思う。それにそもそも、あれは殴打の方が本命で蹴りは囮だったしな」

 

「え?」

 

あのカウンターの蹴りが・・・・囮?

 

「木場ならあの蹴りは確実に躱せると思ってたから当てる気はなかった。んでもって木場は蹴りを躱すことに意識を集中させていたからその次の殴打に対する反応が遅れたんだよ。初めの斬撃が躱されて動揺してたってのもあるだろうがな」

 

まさか・・・・彼はあの一瞬でそこまで考えて動いたいたのか?そもそもその判断は僕の能力を把握し、僕の動きを予測しないとできないはず・・・・・・まだ仲間になって短期間だというのに彼は・・・・

 

「その次の私の奇襲を捌けたのは・・・・・」

 

「小猫は体の中心線をえぐり込むように狙って撃つっていう打撃の基本ができてるからな。だからこそどこを殴ってくるかわかるからタイミングさえ合わせれば止めることができるんだよ。背後から接近してたのは音でわかってたし」

 

あの的確な防御はそれが理由なのか・・・・・鍛えているとは言え、悪魔になって日が浅いから戦闘経験は浅いと思っていたけれど、どうやらそうでもなさそうだ。戦いなれてなければあんな動きはできない。

 

「では私の雷撃は・・・・」

 

「木場と小猫を狙っていれば必ず朱乃先輩は仕掛けてくると思っていました。朱乃先輩は基本的に雷撃を使った中・遠距離戦に特化している。だから攻撃を誘って、木場と小猫を盾にしようって思ったんですよ。こいつでね」

 

そう言いながら、一誠くんはあの時に見せた赤い尻尾を出現させた。

 

「一誠、それは?」

 

「赤龍の尾。ドラゴンの体の一部を魔力を使って具現させたものです。ちなみに三人に突き立てたのはドラゴンの爪を模した赤龍の爪。以前から魔力の使い方を色々と模索していたんですが、俺にはこういう使い方が一番しっくりくるようです。ほかにも派生技はいくつかありますよ」

 

赤龍の尾に赤龍の爪・・・・・まさかもう魔力の活用に手を出していただなんて。才能があり、鍛錬を怠らず・・・・・ストイックなまでに力を渇望する。そりゃ強いはずだ。彼は強くなるために一切妥協していないのだから。

 

彼のあの自信を自惚れだと思っていたけれど・・・・・そうじゃない。彼は、自分の力を信じられるほどに鍛え抜いてきた。そして自分と僕たちの力を正しく測り、その上で模擬戦を3対1の形式にしても勝てると踏んでいたんだ。

 

(強いね一誠くん・・・・・君はここに居る誰よりも強い)

 

悔しいと思うと同時に、僕は一誠くんに敬意を抱いた。あのライザー・フェニックスに堂々と啖呵をきったのは伊達ではなかった。

 

けれど、それでも・・・・それ故に思う。負けたくないと。負けるわけにはいかないと。

 

僕も君のように強くなろう。君以上に強くなろう。

 

部長の騎士の名に恥じないように。

 

 

 




一誠さんの強さに触発されて意気込む木場くん。強化フラグかどうかは未定(おい)

そしてとうとう出しちゃったオリジナル技・・・・・センスについてはノータッチでお願いします

それでは次回もまたお楽しみに


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第19話

今回は一誠さんとリアスさんのお話です

それではどうぞ


 

「部長?まだ起きてらしたんですか?」

 

深夜二時、いつものように短時間しか眠れなかった俺は走り込みをしようと別荘を出ようとしたのだが、部屋に灯りが点っていたので中を覗いてみると・・・・そこには部長がいた。

 

「いくら悪魔といえど、ちゃんと寝ないと体に悪いですよ?」

 

「それはこちらのセリフよ。一誠こそ昼間あれだけ熱心に修行していたのだからしっかり寝ないとダメじゃない」

 

まあ確かに昼間は結構ハードな修行をしてはいたからそう言われるのは仕方ないのだが・・・・

 

「いえ、俺はもう寝て起きたんですよ。これから走り込みに行こうと思って」

 

「寝て起きてって・・・・まだ二時なのだけれど?」

 

「ああ、そういえば部長にはまだ言ってませんでしたね。俺不眠症気味で一日二時間ぐらいしか眠れないんですよ。だからこの時間に起きてるのは俺にとってはいつものことなんです」

 

「不眠症って・・・・あなた、それ医者に見てもらったほうがいいと思うのだけれど?」

 

心配そうに俺に勧めてくる部長。心配かけてしまうことは心苦しいが、治る見込みがないから医者に見てもらってもなぁ・・・・

 

「俺なら大丈夫ですよ。これが俺にとっての普通なのですから」

 

「でも・・・・・」

 

「もしも本当に辛くなったら相談しますから。だから心配無用です」

 

「そう・・・・まあ、本人がそこまで言うのなら何も言わないけれど・・・・」

 

渋々といった様子で部長は引き下がってくれた。

 

「それよりも、部長の方はこんな時間まで起きて何をしてらしたのですか?」

 

「戦術の勉強よ。ゲームを経験しているライザー相手では気休めでしかないかもしれないけれど、出来ることはやっておきたいの」

 

なるほど。確かに、格上が相手となると戦術は重要になってくる。気休み程度だとしても、勉強しておいて損はない。

 

「なら、まだ寝ないのでしたら俺もご一緒してもいいですか?どれだけ鍛えても俺は実戦経験に欠けますので戦術で補いたいので」

 

「ええ。構わないわ」

 

「ありがとうございます」

 

部長からの許可を得て、俺は近くにあった本に手を伸ばした。結構分厚いな・・・・これは読み応えがありそうだ。

 

「・・・・・一誠、あなたに聞きたいことがあるのだけれどいいかしら?」

 

「なんですか?」

 

「仮にあなたがライザーと・・・・・フェニックスと一騎打ちをするとしたら、どうやって倒すかしら?」

 

ふむ、これはまたストレートに聞いてくるな。フェニックスはほとんど不死身。まともにやりあえば倒すのは難しい。倒す方法があるとしたら・・・・・

 

「俺だったらまあ、心が折れるまで殴り続けますね。不死身といっても、心を折れば再起不能にはできるでしょうし」

 

「あなたならばそれはできるかしら?ライザーを・・・・倒せるかしら?」

 

「その質問に答える前に、俺からも聞きたいことがあります」

 

「え?」

 

ライザーとのゲームが決まった時から、部長には聞きたいことがあった。それをこの機会に聞いてみようと俺は切り出す。

 

「部長がライザーとの縁談を頑なに拒否する理由・・・・・よろしければ教えていただけないでしょうか?」

 

俺はこれを部長に聞いてみたかった。あくまでも俺の所感になるが、ライザーは軽薄で強引に見えるが、その実誰よりも悪魔であることに誇りを抱いている。ゲームの前に準備期間を設けたりと部長の顔も立ててくれている。

 

眷属を女で固めてハーレムを築くようなやつだが、それでも結ばれればきっと部長の事を大切にしてくれるだろう。部長ならおそらくそれはわかっていると思うのだが・・・・その上でなぜ縁談を拒否するのかが俺は気になった。まあ、生理的に受け付けないとかの理由だったらそれまでだが。

 

「・・・・・私はね一誠、グレモリーなのよ。どこまでいっても私にはこの名前が付き纏う」

 

「それが嫌なんですか?」

 

「いいえ、そんなことはないわ。むしろグレモリーであることに私は誇りを抱いているわ。けれど、だからこそ私は『グレモリーのリアス』ではなく、『ただのリアス』として愛して欲しいと願っているの」

 

なるほど・・・・なんとなくわかった。どこまでいってもグレモリーの名がつきまとう部長は、『リアス』という個人で見られることは少ないだろう。『グレモリー』は部長の誇りであると同時に、『リアス』という個人を殺す呪縛。だからこそ、部長は『リアス』を愛してくれる相手を欲しているのだろう。

 

「我儘なのはわかってるの。だけれどこれを譲ってしまったら私は自分で『リアス』という自分を殺してしまうことになってしまう。ライザーにもいいところがあるのはわかっているけれど、それでもライザーは私を『グレモリーのリアス』として見て結婚を迫っている。だから・・・・嫌なのよ」

 

「部長・・・・」

 

部長の言っていることは確かに我儘だ。部長は上級悪魔・・・・・立場のある者は時に自らを律し、殺さねばならない。特に今回は御家事情が関わっているのだからなおさらだ。だが、悪魔なんてそもそもが欲深い生き物。願いを持つことを咎めることはできないし、部長の眷属である俺は部長の我儘(願い)のために戦うのは当然の事。

 

それに、俺は以前部長に言った。『部長はどうか、まともな恋愛をしてください』と。部長の意志に反する御家事情が絡んだ縁談をまともな恋愛というには無理がある。

 

尋ねたのは興味本位・・・・俺のやることは変わらない。

 

「俺にはグレモリー家の事情は詳しくはわかりません。ですが、これだけは言えます・・・・俺は部長の眷属。この力は部長のために振るいます。たとえ誰の恨みを買うことになろうとも」

 

「一誠・・・・・ありがとう」

 

「お礼なんていりませんよ。それが部長の眷属である俺の生きる目的なんですから」

 

そう、それが俺の生きる目的。自らが定めたものに自分で反することなんてできるはずがない。だから俺は・・・・・部長のためにライザーを倒す。

 

「さて、先程の問いの答え、俺がライザーを倒せるかどうかですが、ライザーの実力を正確に理解しているわけではないのおおよその勝率になりますが通常状態なら勝率は三割。赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を使えば五割といったところでしょうか」

 

「赤龍帝の籠手を使って五割・・・・あなたの力でも勝率は半分程度なのね」

 

「まあ、それだけ不死身っていうのは厄介っていうことですよ。それにあくまでも目算になりますし。ただ・・・・・」

 

「ただ・・・・・?」

 

「・・・・・いえ、なんでもありません」

 

俺は出かけた言葉を飲み込んだ。

 

本当は勝率をさらに上げる方法はある。禁手(バランス・ブレイカー)・・・・それを使えば勝率はおそらく八割を超えるだろう。

 

禁手は神器(セイクリッド・ギア)の至る究極系・・・・・・その力は通常状態の赤龍帝の籠手とは比べ物にならない。その力があればよほどのことがなければ勝てるだろう。まあ、本当は禁手より上の力もあるのだが・・・・・それは流石に使うことはないだろう。

 

(禁手のことは話さないのか相棒?)

 

(ああ。今回のゲーム、できれば禁手は使わないようにしたい。もっと言えば、俺ひとりじゃなく、眷属一丸で勝ちたいと思っている)

 

仮に俺一人でライザーを倒したとして、確かに部長はライザーとの縁談を回避することができる。けれど、そうなったら部長のために強くなろうとしてくれている朱乃先輩たちの中である種の不満が芽生えてしまう可能性がある。部長のためなら誰に恨まれても構わないとは思っているが、だからといって積極的に不満を抱かせるのは本意ではない。

 

それに、このゲームはグレモリー、フェニックスの両家も見るだろうし・・・・・一人に頼った戦術は部長への不審、不評を招きかねない。そうなっては部長の立場を悪くしてしまうだろう。

 

だからこそ、禁手はあくまでも奥の手・・・・使わなければならない状況に追い詰められない限りは使わないほうがいいだろう。

 

(お前にはお前の考えがあるということか・・・・まあ、好きにするといい。お前が決めることだからな)

 

(ああ。そうさせてもらうよ)

 

「一誠?急に黙り込んでどうしたの?」

 

「え?あ、すみません。なんでもありませんよ」

 

俺は部長に謝罪して、手にしていた本を開いて読み始める。

 

ライザーとのゲーム・・・・果たしてどうなるか。




既に禁手に至っている一誠さん。果たしてゲームで使うのかどうか・・・・・

そしてゲームに対して色々と考えている模様。見ようによっては上から目線に見えるかもですが・・・・・

それでは次回もまたお楽しみ!


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第20話

本年の最終投稿なのに短いという・・・・・

来年はもうちょっと投稿頻度あげられたらと思っています(フラグ)

それでは本編どうぞ!


 

ライザーとの邂逅から10日経った・・・・・そう、今日は部長の結婚をかけたゲームが行われる日だ。もうまもなくゲームが始まるということで、俺達は学園の制服を着て(アーシアだけはシスターの服だが)オカ研の部室で待機していた。

 

「部長、ひとつ伺ってよろしいでしょうか?」

 

「なにかしら?」

 

「部長にはもう1人僧侶(ビショップ)が居るんですよね?修行にも同行していませんでしたが、今回のゲームには参加しないんですか」

 

こちらはライザー達に対して、人数が圧倒的に不足している。戦力は一人でも多いに越したことないこの状況でなぜこの場に居ないのかが気になった。

 

「・・・・あの子については事情があるの。だから今回のゲームには参加できないわ。事情はまたの機会に詳しく話すわ」

 

「そうですか・・・・・わかりました」

 

この状況においても呼べない事情か。よほどの問題児なのかそれとも・・・・まあいい。いない奴のことを考えても仕方がない。今は目の前の戦いに集中しないと。

 

「開始十分前になります。皆様準備はおすみになられまいたか?」

 

室内に魔法陣が展開され、そこから今回のゲームの立会人兼審判を務めるグレイフィア・ルキフグスが現れた。

 

「今回のゲームはご両家の皆様に中継され、また魔王ルシファー様もご覧になられます。それをお忘れなきように」

 

「そう・・・・・お兄様も見ているのね」

 

部長はため息を吐きながら言う。先の大戦で失われた魔王・・・・その補填のために強力な力を持つ悪魔がその名を継ぎ、新たな魔王となったらしい。その中でもルシファーは最強の魔王と呼ばれている・・・・・そんな魔王を兄に持つ身としては、部長のプレッシャーも相当なものなのだろうな。

 

「そろそろ時間になります。皆様魔法陣の方へ」

 

グレイフィアさんに促され、俺達は魔法陣の上に立つ。一度バトルフィールドに転移させられたら、ゲームの決着がつくまでは戻ってこられない。次にこの部室に戻ってくるときは、結果が決まった時ということだ。

 

(負けられない。主である部長のためにも・・・・この勝負、勝たなければならない。それが眷属としての俺の役割だから)

 

心内でこれから始まるゲームへの意気込みが強くなると同時に、魔法陣での転移が始まった。転移を終えると・・・・そこは先程まで居たオカ研の部室だった。

 

「転移失敗?いや、これは・・・・なるほど、ここがバトルフィールドなのか」

 

初めは転移が失敗したのかと思ったが、窓から外を見ると空が真っ白だった。どうやらバトルフィールドは駒王学園の複製のようだ。

 

「学園を丸々複製するだなんて悪魔の技術力ってとんでもないですね・・・・」

 

俺は近くの小物に視線を向けながら言う。細かいところまでほとんど完璧に再現されているとは恐れ入る。まあ、おかげで地の利は得られたが。

 

「ここが私達の本陣になるわ。対してライザー達の本陣は新校舎の生徒会室になってるようね」

 

ふむ、新校舎の生徒会室か・・・・・位置は大まかに分かるし、外に出て魔力の塊でも撃ってみるか?いや、さすがに遠すぎるから当たらない可能性が高いからやめておこう。

 

「一誠くん、この通信機を付けていてください。戦場ではこれでやり取りをしますので壊さないでくださいね」

 

「ありがとうございます」

 

朱乃先輩から受け取った通信機を耳に付ける。小さいから特に動きの妨げにはならなそうだ。

 

その後、行動を起こす前にまず作戦が練られた。校舎内のどこに何があるのかを把握している俺たちに地の利があることから、作戦自体は滞りなく決まっていく。問題は、俺たちが立てた作戦がどこまで通用するかだ。地の利を得てもライザーたちの方が経験値が高いのだから、俺たちが建てた策は向こうも思いつくと見たほうがいいかもしれない。

 

「部長、俺はどうしたらいいでしょうか?」

 

朱乃先輩、木場、小猫の序盤での役割が決まり行動を開始する中、俺も部長の意見を仰ぐ。俺自身もやるべきことをいくつか考えてはいるが、それも主である部長次第だ。

 

兵士(ポーン)である一誠にはまずプロモーションしてもらいたいのだけれど・・・・・」

 

「まあ、簡単に相手陣地に入ることなんでできないでしょうね。俺たちだって向こうの兵士がこちらの陣地に入ってこないように作戦を立てているわけですし」

 

「そうね・・・・・となると、一誠にはここで待機していてもらいましょう。あなたの力はこのゲームを勝ち抜く要となるわ。可能な限り体力は温存しておきましょう」

 

「わかりました」

 

部長の言葉を聞き、俺は壁にもたれかかって楽な姿勢を取る。そんな俺に、アーシアが声を掛けてきた。

 

「・・・・一誠さん」

 

「なんだアーシア」

 

「その・・・・・手を握ってもらっていいですか?」

 

恐る恐ると尋ねてくるアーシア。これは・・・・・そういうことか。

 

「ああ。いいよ」

 

求めに応じて手を出すと、アーシアは俺の手をギュッと握ってきた。その手は小刻みに震えている。

 

「怖いか?」

 

「はい・・・・始まる前に覚悟は決めたつもりだったんですが、作戦を立てて皆さんが動き出すのを見てたら・・・・」

 

戦いを実感しちゃったってことか。

 

「アーシア・・・・・多分だけど、その恐怖は俺にはどうにもできないものだと思う。俺は、そうは思えないから」

 

俺は戦いを怖いとは思えない。むしろ、白龍皇を倒すという生きる目的を持ってしまってるためか戦いと聞いて心が沸き立つのを感じてしまう。だから俺はアーシアの気持ちを理解することはできない。

 

でも・・・・・

 

「それでも俺はアーシアに出来ることはしたいと思っている。今回のゲームは部長を優先しなければならないけれど・・・・アーシアが怖いって言うなら、可能な限りアーシアの望みを聞き届けたいと思ってる。こうして手を握たりすることぐらいしかできないかもしれないけれど・・・・それでも、何か望みがあるなら言ってくれ」

 

「一誠さん・・・・・でしたらその・・・・・もう少しだけ近づいてもいいでしょうか?」

 

「ああ。いいよ」

 

「ありがとうございます」

 

アーシアは俺の胸に顔を埋めるように体を寄せてきた。

 

「すごく暖かいです。こうしていると、怖くなくなります」

 

「そうか。それはなによりだ」

 

「一誠さん・・・・これからも一誠さんのそばにいてもいいですか?」

 

「それがアーシアの望みなら・・・・構わないよ」

 

アーシアは俺の生きる目的のひとつだ。だからアーシアのこの望みは俺にとっては叶えて当たり前のもの。アーシアのそばに居続けて、アーシアを守り続けなければならない。

 

それは、俺に課せられた義務なのだから。

 

「あ~・・・・二人共?眷属同士仲がいいのは結構なのだけれど、そろそろいいかしら?」

 

「ッ!?す、すみません部長さん!」

 

どこか気まずそうに、部長が俺たちに声をかけてくる。すると、アーシアは驚いて直ぐに俺から距離を置いた。

 

「見ていて和んだから程よく緊張がほぐれたからいいけれど・・・・ゲーム中だから程ほどにね?」

 

「は、はい・・・・」

 

「すみません部長」

 

「・・・・アーシアに対して、一誠は随分冷静ね。こういう時って普通は慌てふためいたりするんじゃないかしら?」

 

「はあ・・・・そういうものでしょうか?」

 

正直それはよくわからない。特に恥ずかしいことしていたわけじゃないし。

 

「やっぱり一誠って少し抜けているわね・・・・まあいいわ。もうすぐ皆も帰ってくるでしょうから、そこからはあなたにも動いてもらうわよ?」

 

「はい。わかりました」

 

(さて、出番が近いし・・・・ちょっと抜けてた気を入れ直さないとな)

 

戦いへの心構えを整えながら、俺は木場達が戻ってくるのを待つのだった。




自然とイチャついてる様に見えるけど一誠さんの方にそういう気持ちは一切ありません。現時点ではレイナーレさん一筋だから仕方ないね

それでは次回もまたお楽しみに!


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第21話

今回から戦闘描写という名の一誠さんの無双が始まる

ま、まあそこまで派手にやらないし圧倒的でもない・・・・と思う

それでは本編どうぞ


 

「ほんと、悪魔の技術は凄いな・・・・ここまでの再現度とは」

 

俺は現物とほとんど寸分違わない体育館を目の当たりにしながら感嘆の声を漏らす。

 

俺は今、小猫と共に体育館に来ていた。重要拠点であるこの場所・・・・敵がいるのは確実だ。俺と小猫の役割はその敵の相手をすることだった。

 

「ここから演壇に上がれます。行きましょう一誠先輩」

 

「ああ」

 

小猫に促され、演壇に上がる。

 

(この気配・・・・・居るな)

 

「そこにいるのはわかっているわ。出てきなさいグレモリーの下僕さんたち」

 

俺が気配を感じ取ってまもなく聞こえてきた。気がついていなかったら奇襲を仕掛けようと思ったんだが・・・・まあ、仕方ないか。

 

「小猫」

 

「はい」

 

俺と小猫は敵方の前に出ていく。敵の数は戦車(ルーク)が1人に兵士(ポーン)が3人。戦車はチャイナ服を着ており、兵士の方は1人は棍を手にしており、残る二人は大きなバックを持っている。バッグを持っているふたりは容姿が似てるからおそらく双子だろうな。

 

「一誠先輩、戦車は私が請け負います」

 

「わかった。兵士の3人は任せてくれ」

 

互いに相手が決まり、俺と小猫は自分の戦うべき者の前に歩み寄る。

 

「ふふふっ、一人で私達3人を相手にしようっていうの?」

 

「ああ。俺一人でも十分にお釣りがきそうだからな」

 

「「「・・・・・」」」

 

軽く挑発すると、三人とも表情を歪めた。これぐらいの挑発に乗るようなら、本当に俺一人でお釣りがきそうだな。とりあえず、まだ赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)は使わずに済みそうだ

 

「言ってくれるね・・・・・ライザー様は君のこと高く評価していたようだけど、私たちを甘く見ないほうがいいよ!」

 

「解体しま~す!」

 

双子っぽい兵士はバッグから武器を・・・・・チェーンソーを取り出した。女の子が随分とまあ物騒な武器を取り出すものだ。

 

「行きます!」

 

双子が武器を取り出しているあいだに、棍を持った子が俺に接近してきた。勢いのまま俺に棍を振るい・・・・・俺はその棍を、踏みつけて折った。

 

「え?」

 

棍が折られたことに動揺し、隙が生じた。俺はその隙に乗じて折った棍を拾い、投げつける。

 

「ふぐっ!?」

 

投げた棍は見事に顔に当たった。軽く投げただけだからダメージは与えられないだろう。だが、それは彼女にとっては予想外だったようで怯んでしまい動けなくなっている。その間に俺は接近し、腹部に右手で掌底を食らわせて吹き飛ばした。撃破にはいたらないが、それでもそこそこ力を込めて打ったため、少女はゴホゴホと息苦しそうに咳き込んでいる。しばらくはまともに動けないだろう。

 

「まずは一人」

 

「くっ・・・・よくも!」

 

「バラバラになっちゃえ!」

 

仲間がやられたことに腹を立てたのか、双子はチェーンソーを振り回す。流石に当たれば痛いで済みそうにないが・・・・怒っているせいか動きは短調で大振りだ。これぐらいなら躱すのはたやすい。

 

「この・・・・・ちょこまかと!」

 

「あーもうムカつくぅ!」

 

全く当たらないせいで双子はイラついている様子だ。だが、そんな風に冷静さを欠けば余計に動きは短調になる。こんなのに当たるほど俺は柔な鍛え方をしているつもりはない。

 

「女の子がそんなに物騒なものを振り回すのは感心しないな・・・・・赤龍の爪(ドラゴン・ネイル)

 

チェーンソーを交わしながら、俺は赤龍の爪を展開する。そしてその爪でチェーンソーの駆動部分を突き刺し壊した。

 

「「ああっ!?」」

 

チェーンソーを壊され、声を上げて動きを止める双子。そんな双子のうちの1人に回し蹴りを放ち、もうひとりを巻き込んで蹴り飛ばした。

 

(女相手に容赦ないな相棒)

 

(いや、勝負なんだし・・・・・男も女もないだろ)

 

ドライグの言うとおり、容赦はないかもしれないが負けられない勝負なんだから仕方がないだろう。というかライザーの眷属って全員女なんだから女相手に容赦しなければならないなら本気なんて出せないし。まあ、確かに可愛らしい女の子に暴力振るう男に見えるから絵ヅラは最悪だが。

 

「さすがは一誠先輩ですね」

 

「ありがとう。小猫の方もかたは付いたようだな」

 

小猫の方を見てみると、相手の戦車を押さえつけて行動できなくしている。とりあえず作戦の第一段階は完了だ。あとは部長からの指示を・・・・

 

『一誠、小猫。朱乃の準備が整ったわ。作戦通りお願い』

 

と、グッドタイミングだな。部長からの指示が来た。

 

「一誠先輩」

 

「ああ」

 

俺と小猫は一切躊躇することなく、敵を置いて体育館の外へと駆け出した。優位に立っているはずなのに重要な拠点である体育館から離れていく俺たちの行動の意味が分からず、彼女たちは混乱して戸惑っている。

 

「頼みましたよ・・・・朱乃先輩」

 

「うふふっ・・・・さようなら」

 

体育館に雷が降り注ぐ。その雷は悪魔歴が短い俺の目からも膨大な魔力が込められているとわかるほどに激烈であり、体育館を破壊した。さすがは朱乃先輩だ。『雷の巫女』の二つ名は伊達ではない。

 

『ライザー・フェニックス様の兵士三名、戦車一名、撃破(テイク)

 

グレイフィアさんのアナウンスが先程まで戦っていた彼女たちの脱落を宣言する。

 

これが俺たちの作戦だった。体育館は重要な拠点だ。だからこそ、そこを囮にする価値がある。朱乃さんが魔力を貯めている間に、俺と小猫が体育館内の敵を引きつけ・・・・あとはまあこのとおり。重要拠点一つ潰して相手の駒を四つ潰せるのなら安いものだ。

 

『作戦成功ね。三人ともお疲れ様。引き続き作戦通りお願い』

 

「「「はい」」」

 

通信機を通じて部長からの労いの声が聞こえてくる。声の調子からして、作戦が通じたことを喜んでいるようだ。まあ、これが初めてのレーティング・ゲームで損害なしで作戦を成功させたのだから無理もないだろう。

 

だが・・・・だからこそ気を引き締めなければならない。

 

「やりましたね一誠先輩」

 

「ああ。だが、ゆっくり休んでいるわけにもいかない。早く木場と・・・・・小猫!」

 

「えっ!?」

 

()()に気がついた俺は、小猫の腕を引き自身の方へ引き寄せる。程なくして、俺と小猫を中心に爆炎が炸裂した。

 

「ふう・・・・・間一髪だったな」

 

爆炎が収まり、視界が晴れる。俺と小猫にダメージは無かった。

 

「これは・・・・翼?」

 

小猫が俺が展開した翼を見て声を漏らす。

 

赤龍の翼(ドラゴン・ウィング)』。俺は爆発が起きる直前に魔力で作り出したこの赤い翼を展開し、その翼で俺と小猫を覆っていた。翼がシェルターの役割を果たして爆発を防いでいたのだ。

 

「ここで仕留めておきたかったのですが・・・・ライザー様が気にかけるだけのことはあるということね」

 

声のする方・・・・上を見るとそこには紫の髪の女性がいた。確かライザーの女王(クイーン)だったな。

 

「嘆くことはないさ。()()に意表を突かれていたらやられていたかもしれないからな」

 

「その言い方では、私の攻撃は予期していたと?」

 

「作戦成功直後は達成感のせいで隙が生じやすい・・・・ゲーム経験があるそちらさんならそう思って攻撃してくることもあるだろうと思って用心していたんだよ」

 

ゲームに関しての経験値は向こうが上だからな。そういった手を使ってくる可能性は十分にあった。だからこそ気を張ってたんだが・・・・おかげでノーダメージで凌げた。

 

「やはり厄介ですね・・・・ライザー様の勝利を磐石にするためにも、あなたにはここで消えてもらいましょう」

 

「そうはいきませんわ」

 

俺に再び爆撃を仕掛けようと臨戦態勢に入る彼女を、朱乃先輩が制止する。

 

「あなたのお相手は私がしますわユーベルーナさん。いえ、『爆発王妃(ボム・クイーン)』とお呼びしたほうがいいかしら?」

 

「その二つ名は好きではないわ『雷の巫女』さん」

 

相対する朱乃先輩とユーベルーナ。互い女王同士だ、意識しあっているのかもしれない。

 

「朱乃先輩。私も加勢します」

 

「小猫ちゃん・・・・ええ、そうね。二人で確実に彼女を倒しましょう」

 

小猫の進言を聞き入れる朱乃先輩。これでユーベルーナは二人が相手をすることが決まった。相手のユーベルーナは女王というだけあって敵方の中ではライザーを除けば最強だろう。朱乃先輩も強いが、それでも単独での勝率はおそらく五分。だが、そこに小猫がの援護が加わればあるいは・・・・

 

となると俺のやるべきことは・・・・

 

「一誠くん、ここは私と小猫ちゃんに任せてあなたは祐斗くんのところに行きなさい」

 

「わかりました。ここまお任せします朱乃先輩。小猫も頼むぞ」

 

「はい」

 

朱乃先輩と小猫をその場に残し、俺は木場のいる運動場方面へと駆けていった。

 

 




現状ほぼ隙がない一誠さん。これでも一誠さんは戦闘経験は比較的少なめという・・・・まあ原作イッセーさんよりは多いけど

次回もまた無双するのかな・・・・?

それでは次回もまたお楽しみに!


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第22話

同日連続投稿とか久しぶり・・・・・

今回もまた一誠さんは普通に活躍します

それでは本編どうぞ


 

『ライザー・フェニックス様の兵士(ポーン)三名、撃破(テイク)

 

木場の下に向かう俺の耳に、グレイフィアさんのアナウンスが聞こえてくる。どうやら木場が上手くやっているようだ。ただ、朱乃先輩と小猫の方に女王(クイーン)が居ることから木場の方に敵が集中している可能性がある。早く合流しなければ・・・

 

「一誠くん、こっち」

 

「木場」

 

運動場近くの体育倉庫付近で、木場と合流することができた。周りに敵の気配は感じられない。

 

「朱乃先輩と小猫ちゃんは相手の女王の相手をしているんだよね?」

 

「ああ。だからこっちは俺とお前で対処するわけだが・・・・兵士を3人倒したのはお前だよな?」

 

「うん。うまく誘導して一網打尽にできたよ。ただ、ここのボスがどうにも冷静で挑発に乗ってこない。というより、兵士を犠牲にしてこっちの手の内を探ろうとしていたって感じだ」

 

犠牲(サクリファイス)か・・・・まあ、向こうの方が数は上だから作戦としては妥当だろう。もっとも、そんなライザーの作戦がお気に召さないようで木場は表情を歪ませているが。

 

「今の状況は?」

 

「運動場と部室棟に騎士(ナイト)戦車(ルーク)僧侶(ビショップ)の三人だ」

 

「やっぱり体育館が消し飛んだからこっちに兵が集中するか。立ち回り次第ではほかの敵も集まってくるかもしれないな。まあ、それでもやるしかないが」

 

「・・・・冷静だね一誠くん。恐怖はないのかい?」

 

恐怖、か・・・・・

 

「戦闘に対する恐怖は不思議とない。むしろ普段よりも頭が冴えてるぐらいだ。個人的にはそっちのほうが恐く感じるよ」

 

俺が恐ろしく感じているのは戦闘にじゃない。戦闘を恐れていない自分自身にだ。戦闘経験などほとんどないのに、なんでこんなにも俺は戦うことを受け入れられているのか・・・・・ずっと昔から白龍皇を倒すと決めていたからか?

 

「それはそれで頼もしいね。正直僕は恐ろしいよ。この通りね」

 

木場は震える手を俺に見せてくる。戦闘経験自体は俺よりも豊富だろうが、それでもレーティング・ゲームのような形式の戦いは初めてだろうから慣れていないぶん恐ろしく感じるのかもしれない。

 

「ただ、恐怖と同時に自分が昂ぶっているのも感じるんだ。このゲームで感じられるもの全てを僕は糧にして強くなってみせるよ」

 

強くなってみせる、か。どうにも木場は強くなることに対して執着しているように思えるな。その執着が何からくるものかはわからないが・・・・・いや、今はそれを考えている場合ではないだろう。今はこのゲームを勝ち抜くことを考えよう。

 

「聞こえているかグレモリーの眷属よ!」

 

これからどう攻めていこうかと考えていると、威勢の良い声が聞こえてきた。

 

「私はライザー・フェニックス様の騎士カーラマイン!こそこそとした腹の探り合いは飽きた!尋常に剣を交えようではないか!」

 

これは挑発・・・・・ではないな。どうやら敵さんは正々堂々とした戦いをお望みのようだ。おそらく俺たちのいる場所はわかってはいないだろうが・・・・ここは下手に乗らずに奇襲の機会を・・・・

 

「・・・・騎士として、名乗られたからには隠れているわけにはいかないね」

 

「は?」

 

木場は相手の望み通り、運動場の方へと歩み始めてしまった。

 

(くくっ・・・・さあ相棒、共に戦う仲間は前に出てしまったがお前はどうする?)

 

ドライグの奴楽しそうに・・・・・こうなったら俺も出るしかないだろう。敵の方が数が多いのに、木場一人に任せる訳にはいかない。

 

「はあ・・・・・まったく、やれやれだ」

 

仕方なしに、俺も運動場の方へと向かった。

 

「呼びかけに応じて来たよカーラマイン。僕は騎士の木場祐斗」

 

「兵士の兵藤一誠だ」

 

「はははっ!堂々と真正面から出てくるとはな!私はそういうバカは大好きだぞ!」

 

自分から出てくるように促しておいて何を言っているんだ・・・・・いや、まあいいけどさ。

 

「騎士同士の戦いは僕としても望むところだったんでね。存分に斬り合おうじゃないか」

 

「よく言った!リアス・グレモリーの騎士よ!」

 

木場とカーラマインは互いに剣を抜き、戦闘を開始した。

 

となると・・・・俺の相手はこっちの戦車と僧侶か。

 

「嫌ですわね。カーラマインは相変わらず剣のことしか頭にないのですから」

 

僧侶であろうカールした金髪をツインテールにした少女が呆れたように言う。

 

「俺の相手はあんた達二人がしてくれるのかな?」

 

「いいえ、私はやりませんわよ。あなたの相手はこちらのイザベラがします」

 

「というわけで彼女は観戦だ。私が相手しよう」

 

二対一で優位な状況なのに戦わない?何を考えてるんだ?

 

「俺相手なら1人で余裕ということか?甘く見られたものだ」

 

「いいや、そうではない。彼女はレイヴェル・フェニックス様。ライザー様の実の妹君だからな」

 

ライザーの妹だと?妹を眷属に加えるとかライザーは何を考えているんだ?戦わないってことは正規の眷属とは事情が違ってそうだが・・・・・いや、それよりもだ。

 

「・・・・レイヴェル様。先程は失礼な口を聞いてしまい申し訳ありませんでした」

 

「え?な、なんですか唐突に・・・・?」

 

「いえ、知らぬこととは言えフェニックス家の令嬢に対する態度ではなかったと思いましたので戦う前にまず謝罪をと思いまして」

 

「そ、そうですか・・・・・まあ受け取っておきましょう」

 

よし、とりあえずはこれでオッケーかな?

 

(お前は何をやっているんだ相棒・・・・)

 

(いや、このゲーム、グレモリー家とフェニックス家も見てるらしいからさ。部長の眷属の中に礼儀知らずがいるって思われたら部長の評判が下がるかなと思って・・・・)

 

(考え自体は間違ってはいないかもしれないが・・・・やはりお前はどこか抜けているな)

 

解せぬ。礼を尽くしたというのになぜこんなこと言われなければならないのか。ドラゴンだから俺とは感性が違うのか?

 

「・・・・・もういいか?早く始めたいのだが」

 

「あ、すまない。もういいぞ」

 

というかイザベラ、わざわざ律儀に待ってくれていたのか?別に気にせずに攻撃してきても良かったと思うんだが・・・・まあいいか。

 

「では・・・行くぞ!」

 

イザベラの拳が俺に向かって振り抜かれる。体を捻って回避したが、その動きに合わせて俺の腹部に膝蹴りをうってきた。反応できたため、右手で受けてガードすることはできたが・・・・・

 

(さっき戦った兵士三人とは違うか。動きは鋭いし一撃も重い。このままでも負ける気はしないが・・・・援軍が来る可能性もあるし、使うか)

 

「来い、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)

 

『Boost!!』

 

俺は赤龍帝の篭手を展開し、赤龍帝の籠手はカウントを開始した。

 

「それは・・・・赤龍帝の籠手!?」

 

「驚いている暇はないぞ?今度はこちらから行かせてもらう」

 

赤龍帝の籠手を目にして驚いているイザベラに接近する俺。イザベラは迎え撃とうとするが・・・・わかりやすく赤龍帝の籠手を装着した左手に意識が向いていた。

 

「ふっ!」

 

「うぐっ!?」

 

右足でイザベラの左腕に蹴りを放つ。意識の外からの攻撃だったためかイザベラはガードできずにそれをモロにくらってしまっていた。

 

「手応えあり。左腕はしばらく痺れて使い物にならないんじゃないか?」

 

「くっ・・・・舐めるな!」

 

「舐めてなんてないさ」

 

ご丁寧に今しがた蹴ったばかりの左腕で攻撃してくるイザベラ。だけど俺が誘い出した攻撃だ。防御力の高い戦車相手じゃあの程度の蹴りでは怯ませることはできないなんてわかりきっていたからな。俺は殴りかかってきた左腕を掴み、背負投の要領でイザベラを地面に叩きつけた。

 

「かはっ!?」

 

「チェックメイトだ」

 

イザベラが倒れたところに、本命の左の殴打を腹部に叩き込む。

 

「ぐうぅ・・・・」

 

流石に一番威力の出る左手の殴打は戦車といえど耐えられなかったようだ。イザベラはうめき声を小さく漏らした後気絶した。

 

『ライザー様の戦車一名、撃破』

 

アナウンスと共に、イザベラの体は消える。なるほど、撃破されたらこうやって転送されるわけか。ともあれ、これでまた一人相手の戦力を削れたな。

 

もっともっと・・・・(部長)の勝利のために、もっと戦って、もっと倒さないと。

 




赤龍帝の籠手出したのに使ってない?いやいや、使ったじゃないですか・・・・陽動に

ちなみにあっさりとイザベラさんを倒しちゃったのは一誠さんが普通に強いからです。もうこいつ一人でいいんじゃないかなとかは言ってはいけない

それでは次回もまたお楽しみに!


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第23話

レーティングゲームも佳境・・・・あと今回入れて2、3話ほどで終わります

果たしてどうなるか・・・・・それでは本編どうぞ


「ねえ、そこの兵士(ポーン)くん」

 

イザベラを撃破した俺は背後から声をかけられる。声のする方に振り向くと、そこには4人の女性がいた。人数的に残った兵士二人と騎士(ナイト)僧侶(ビショップ)なんだろうが・・・・

 

解せないな。女王(クイーン)のユーベルーナは朱乃先輩と小猫が抑えている。カーラマインは現在木場と交戦中。レイヴェルは戦わず、高みの見物を決め込んでいる。つまり、今現在誰一人として俺たちの(キング)である部長に迫っていないということだ。レーティングゲームは王を攻略しない限り勝ちはない。俺達が自分の戦闘に集中していた隙に部長のところに向かうのが良策だと思うのだが・・・・何かあるのか?

 

「ふふふっ、あれを見てみなよ」

 

警戒しつつ、少女の指差す方へと視線を向ける。視線の先は学校の屋上。そこには・・・・・対峙する部長とライザーの姿があった。

 

「お兄様ったら、あなた達があまりにも善戦するので高揚してしまったようね。私たちの勝利は決まりきっていますが、ご自身の手で決着をつけようとリアス様に一騎打ちを仕掛けたようですわ」

 

笑みを浮かべながらレイヴェルが説明する。ライザーが勝つことを信じて疑っていないのだろう。実際、俺もどちらが勝つかと問われればライザーと答える。フェニックスの再生能力を前にしてしまえば、部長の滅びの力でもかなわないだろう。部長もそれは分かっていると思うんだが・・・・・部長の性格上、一騎打ちを仕掛けられたら断れなかったということだろうか?そもそもはこのレーティングゲームは部長の婚約をかけたものだし・・・・・部長自身の手で決着をつけたいのかもしれない。

 

だが・・・・このまま部長に戦わせてしまえば結局このゲームは俺たちの敗北に終わってしまう可能性が高い。となると・・・・・

 

『Explosion!!』

 

カウントを止め、高まった力を解放する。溜め込んだ時間は90秒。十分すぎる。

 

「すまない・・・・・一気に終わらせる。赤龍の破弾(ドラゴン・ショット)

 

圧縮した赤い魔力を四人に向かって放出する。俺の元々魔力量は高い方らしいが、今回は赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の力でさらに強化されている。この一撃は今この場にいる誰よりも強力な破壊の一撃となる。

 

『ライザー・フェニックス様の兵士二名、騎士二名、僧侶一名、撃破(テイク)

 

魔力に飲まれた4人は、そのまま撃破され転送されていった。ほとんど不意打ちの一撃だ。見るものによっては悪印象だろうが・・・・それでも今はなりふり構ってはいられない。

 

そう・・・・なりふり構っていられないんだ。たとえどんなに嫌な技を使おうとも・・・・本来俺が使ってはならない技を使おうとも。それが俺の部長への・・・・・忠義だ。

 

「そんな・・・・たったの一撃で?」

 

4人が一撃でやられてしまったことに驚愕するレイヴェル。とはいえ、そのレイヴェルに構ってはいられない。早く部長のもとに行かなければ・・・・

 

「一誠くん!」

 

部長のもとへ向かおうとした矢先に、木場が俺のところに駆け寄ってきた。そういえば、さっきのアナウンスで撃破された騎士が二人だと言っていたが・・・・・俺があれを撃ったのとほとんど同時に木場も相手の騎士を倒したということか。

 

「一誠くん・・・・・行こう。部長のもとへ」

 

「ああ。俺達は・・・・眷属だからな」

 

木場の思いは俺と同じだった。一刻も早く部長のもとへ向かい、ライザーを・・・・

 

『リアス・グレモリー様の女王一名、戦車(ルーク)一名、撃破』

 

「「なっ!?」」

 

朱乃先輩と小猫が撃破?あの二人は負けたのか?なら・・・・・まずい!

 

ドゴンッ!!

 

二人の撃破を通知するアナウンスが流れて本の数秒後・・・・・俺と木場の周りに爆発が起きた。先程と違い、心構えができていなかったため赤龍の翼(ドラゴン・ウィング)を展開することはできなかったが、俺はどうにか後方に跳躍することでダメージをいくらか軽減することができた。

 

だが・・・・

 

「ぐっ・・・・うぅ・・・・」

 

木場の方は大ダメージだった。木場もすぐに飛び退いていたのだが、それでも完全に躱しきることはできなかったようだ。撃破はされていないが、この状態ではまともに戦うことはできないだろう。

 

「また仕留め損なってしまいましたか・・・・まあ、撃破までいかなかったけれど、騎士に深手を追わせられたのでよしとしましょう」

 

爆発を起こした張本人であるユーベールーナが上空から現れた・・・・・ほぼ無傷の状態で。

 

「ユーベルーナ・・・・あの二人を無傷で倒したのか?」

 

「いいえ、さすがに私と互角以上に渡り合う雷の巫女と戦車相手では無傷で勝利を収めることはできません。なので、これを使わせていただきました」

 

そう言ってユーベルーナが取り出したのは空の小瓶であった。

 

「ふふふっ、フェニックスの涙をご存知かしら?これにはあらゆる傷を治す力があります。このゲームでは私と女王が持ってましたの」

 

レイヴェルがユーベルーナが持つものと同じ形状の小瓶を取り出して説明する。レイヴェルの持っている小瓶にはまだ中身が入っていた。

 

「回復アイテムか・・・・・そっちだけ持ってるとはまた不平等だな」

 

「あら?ルールにもゲーム中二つまで使用可能と記載されていますので別に卑怯ではありませんわよ?落ち度があるとしたらそれを知らず、そして手に入れることができなかったあなたがたにありますわ」

 

確かにレイヴェルの言うことは間違っちゃいない。ルールに違反していないのならそれを知らなかったこちらの落ち度だ。経験の差と言ってしまえばそこまでだが・・・・・

 

「ユーベルーナ、これを」

 

レイヴェルは自身が持っていたフェニックスの涙をユーベルーナに投げ渡す。

 

「お兄様がリアス様との一騎打ちで負けることはまずありません。だからあなたはここでこの二人を抑えなさい。兵士の彼は赤龍帝の籠手の所持者だけあって強敵ですが・・・・あなたなら足止めぐらいはできるでしょう」

 

「わかりました。お任せ下さいレイヴェル様」

 

どうやらあちらさんはあくまでも俺と木場を部長のもとへ行かせるつもりはないらしい。わざわざフェニックスの涙を渡したということは倒すのではなく、持久戦に持ち込もうという魂胆なのだろう。戦術としては間違ってはいない。部長の傍にはアーシアがいるだろうが、アーシアの回復があってもリアスが負けてしまうのは時間の問題だ。

 

となると・・・・・・もともとなりふり構ってはいられない状況だったが、こうなってしまった以上はもう切り札を切るしかないようだ。使わずに済めばそれで良かったのだが、使わなければもう敗北の可能性が高くなってしまう。

 

「くっ・・・・こんな・・・・ところで」

 

魔剣を作り出し、それを支えにして立ち上がる木場。戦おうとしているのだろうが、誰の目から見ても無理をしているというのは明らかだ。

 

「木場、下がってろ。そんな傷じゃまともに戦えないだろ?」

 

「だけど僕は・・・・・」

 

「お前の言いたいことはわかっている。だが、忠義を貫きたいのならやはりお前はここで戦うべきじゃない。アーシアのところに連れていけば回復してもらえる。それまでは大人しくしていろ。あの女王は・・・・・ユーベルーナは俺がすぐに倒すから」

 

俺は木場を下がらせ、上空にいるユーベルーナと向き合った。

 

「私を倒す・・・・ね。残念ながらそれは不可能よ。まともに戦えばわからないけれど、私はただあなたの足止めに徹しさせてもらうわ」

 

確かに足止めに徹してまともに戦ってくれない相手を倒すのは難しいだろう。だがそれは、今の状態での話だ。あれを使えば・・・・・速攻でかたをつけられる。

 

「ユーベルーナ・・・・・・悪いが足止めなんてさせない。切り札を切らせてもらう以上はな」

 

この力を使うのも久しぶりだな・・・・・悪魔になってからは初めてだからうまく加減ができないかもしれないが急いでることだしまあいいだろう。

 

禁手(バランス・ブレイク)

 

禁手(バランス・ブレイク)を発動し、俺の体は赤に包まれた。




赤龍の破弾(ドラゴン・ショット)は原作イッセーさんのドラゴンショットと同じ技です。魔力量の関係上、一誠さんの方が威力は断然上ですが、それでも『イッセー』と呼ばれるのを嫌がるのと同じように、一誠さんはあまりこの技を使いたがりません

今回は切羽詰っていたが故に使いましたが・・・・・非常に気分が悪いでしょう

それでは次回もまたお楽しみに!



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第24話

今回でライザーさんとのレーティングゲームは終了となります

果たしてどのような結末を迎えるのか・・・・・

それでは本編どうぞ


それはあまりにも苛烈な赤だった。

 

爆弾王后(ボム・クイーン)』と呼ばれ、その確かな実力を認められているライザー・フェニックスの女王(クイーン)ユーベルーナ。フェニックスの涙を用いたとは言え、朱乃さんと小猫ちゃんを倒してしまった強敵。そのユーベルーナを・・・・・赤を纏った一誠くんは圧倒していた。

 

爆炎よりも早く動き、強烈な打撃によってユーベルーナを追い詰める一誠くん。ライザーの妹だというレイヴェル・フェニックスから渡されたフェニックスの涙などとうに使ってしまい、あとがない。もう間もなく、彼女は撃破(テイク)されるだろう。

 

「あ・・・・ああ・・・」

 

レイヴェル・フェニックスは一誠くんの戦いように、腰を抜かしてその場にへたりこんでいる。でもそれは無理もないことだった。あんなの、僕だって圧倒されてしまう。

 

(一誠くん・・・・・それが君の本気なのかい?)

 

僕は思い知らされた。一誠くんの力は僕たちをはるかに凌駕していると。

 

一誠くんは・・・・・まさしく力の権化たる『(ドラゴン)』であると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リアス、もういい加減投了(リザイン)するんだ。これ以上は君のお父上やサーゼクス様にも格好がつかないだろう?」

 

「黙りなさいライザー!私は諦めないわ!」

 

投了をすすめるライザーに、私は滅びの魔力をぶつける。手応えはあった。けれど、ライザーの体はたちまち再生し、ライザー自身何事もなかったかのように顔色一つ変えていない。

 

実力差があることはわかっていた。フェニックスの特性もきちんと理解していた。けれど・・・・それでも自分の力が一切通用しないことに口では強がってはいても私は絶望していた。

 

「君の滅びの魔力は確かに強力だ。だが、それでは俺には、フェニックスには勝てない。リアスでは俺に勝てないんだ。敏い君ならよくわかっているはずだ」

 

私の心を見透かしたようなライザーの発言。ライザーはわかっているのだ。私がライザーには勝てないと悟ってしまっていることを。

 

諦めるとつもりはない。私は(キング)。私がここで投了してしまったら、私のために戦っえくれている下僕たちに示しがつかない。そもそも、このゲームは私の我を通すためのものなのだから・・・・・なおさらあとには引けない。

 

だけど・・・・・それでも・・・・・

 

「部長さん・・・・」

 

心配そうな表情で声を上げるアーシア。眷属にあんな表情をさせてしまうなんてなんて不甲斐ないのだろう。

 

「・・・・あくまでも投了するつもりがないならいいだろう。これ以上君を痛めつけるのは心が痛むが、それが勝利のためなら、フェニックスとグレモリー、両家の未来のためになるというなら甘んじてその痛みを俺は受け入れよう」

 

いっこうに投了しない私に、ライザーは真剣な面持ちで相対す。ライザーは本気だ。本気でフェニックス家とグレモリー家のことを思っている。真剣に両家の未来のことを考え、そのために私を倒そうとしている。

 

敵わない・・・・・私ではライザーに敵わない。

 

私は・・・・・私は・・・・・

 

『ライザー・フェニックス様の女王一名、撃破』

 

「え?」

 

「なんだと!?」

 

私の心が折れかけたその時、聞こえてきたアナウンス。ライザーの女王が撃破されたという通知に、私もライザーも驚きを隠せなかった。

 

「馬鹿な!ユーベルーナが負けた!?」

 

自身の懐刀である女王の敗北に、ライザーは戸惑っていた。それだけ彼女に対して絶対の信頼を寄せていたのだろう。

 

その一方で、私はライザーの女王が誰に負けたのかを考えて・・・・いいえ、考えるまでもなかった。朱乃をも倒したあの女王を倒せるのは私の眷属の中には一人しかいない。

 

「部長・・・・・お待たせしました」

 

声が聞こえた。声のする方に振り返ると・・・・・背に悪魔の翼を羽ばたかせた赤が居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「部長・・・・・お待たせしました」

 

ユーベルーナを倒し、木場を抱えて部長のもとに訪れる。間に合ったようでよかった。

 

「一誠・・・・なのよね?」

 

ああ、そうか。禁手(バランス・ブレイカー)を発動すると全身鎧で顔も見えなくなるんだったな。

 

「ええ。赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の禁手・・・・赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)。俺の切り札です」

 

「そう・・・・・来てくれてありがとう一誠」

 

「お礼なんていりませんよ。俺は部長の眷属なんですから」

 

そう、俺は部長の眷属だ。この場に駆けつけるのは当然のことだ。もっとも、本来なら部長が危機的な状況に陥る前にどうにかしなければならなかったのだが・・・・気遣って出し惜しみしたのが裏目に出てしまったか。

 

「アーシア、木場の回復を頼む。撃破には至っていないが重傷だ」

 

「はい。わかりました」

 

抱えていた木場をおろし、アーシアに回復を促す。返事を返したアーシアはすぐに木場の治癒を開始した。

 

「木場、回復が済んだらお前は部長の警護を頼む。下にレイヴェル様を残してしまったからな。手を出すつもりはないと言っていたがこの状況になっては奇襲の可能性も十分にありうる」

 

「本当なら僕も部長のために戦いたいところだけど・・・・わかったよ。今は君の指示に従う」

 

回復し傷の癒えた木場は、素直に俺の指示に従って部長の傍に移動した。

 

「部長、あとは俺がやりますので部長は後ろで控えていてください」

 

「そうはいかないわ。この戦いは私の・・・・・」

 

「部長のおっしゃりたいことはわかります。けれど、俺がライザー様を倒そうとも、万一にもそれよりも先にあなたがやられてしまえば負けなんです。どうかご理解ください」

 

この力なら、おそらくライザーには勝てる。だが、勝てたとしてもそれよりも先に部長が撃破されてしまったら意味がない。ここは部長には下がってもらわなければならない。

 

「・・・・わかったわ。一誠、あとは任せるわ」

 

「はい。あなたの兵士(ポーン)の名において、勝利を捧げましょう」

 

俺は勝利を約束し、俺はようやくライザーの前に立った。

 

「律儀に待ってくださりありがとうございますライザー様」

 

「いいや、気にすることはない。リアスに一騎打ちを仕掛けた時点で諦めていたお前との戦いの機会が得られたんだからな」

 

「そうですか。それならば何よりです」

 

どうやら俺と戦えることに歓喜していたようで、ライザーは不敵な笑みを浮かべる。

 

ライザーの気持ちは少しわかる。正直に言えば俺もフェニックス(ライザー)との戦いを楽しみにしていたからな。まあ・・・・・この期に及んで楽しもうなど思わないが。

 

「確認するまでもないが、ユーベルーナはお前が倒したんだろう?正直、期待はしていたが俺の最強の眷属を倒すほどだとは思っていなかった。その鎧の力あってのものなんだろうが、それを考慮してもお前は強いと断言できる。だからこそ、お前には・・・・・リアスの婿となり、身を固める俺の最後の炎を見せてやろう!」

 

拳に炎を宿し、俺に向かってくるライザー。

 

(フェニックスの炎はドラゴンの鱗にも傷を残す。まともに受けるのは危険だぞ?)

 

俺の中からドライグが忠告してくる。

 

(忠告ありがとうドライグ。まともに受けるのが危険か。なら・・・・・受けなければいいだけだな)

 

昇格(プロモーション)騎士(ナイト)

 

俺はライザーの拳が俺を捉える前に、騎士に昇格してライザー以上のスピードでライザーに迫り・・・・

 

「昇格、戦車(ルーク)

 

すかさず戦車へ昇格。それとほぼ同時にライザーの腹に拳を突き刺した。

 

「ごあっ!?」

 

どうやらこの一撃は効いたらしく。ライザーは苦悶の声を漏らしながら怯んだ。その隙に俺は戦車に昇格したまま連続でライザーに殴打を放つ。

 

フェニックスは再生能力に長け、どんな傷もたちまち再生してしまう。だが、だからこそ思った。その再生が追いつかないほどに連続でダメージを与え、傷つければいいと。フェニックスの再生の力を信じきっているであろうライザーはおそらくダメージの蓄積など経験がないだろう。単発の痛みならば慣れているだろうが、蓄積された痛みは未知のダメージ。おそらく相当堪えるだろう。

 

「くっ・・・・・このぉぉぉぉ!」

 

俺からの殴打を受けながらも、反撃のため拳を振るう。大した気迫だが・・・遅すぎる。

 

「昇格。騎士」

 

騎士に昇格し、その場から飛び退く。スピードに着いてこれず、ライザーの拳は空を切った。

 

「昇格、僧侶(ビショップ)赤龍の爪(ドラゴン・ネイル)

 

距離をとっても攻撃の手は緩めない。僧侶に昇格し、赤龍の爪を両手に展開してライザーを切りつけた。魔力に特化した僧侶に昇格したことでリーチと切れ味の増した爪はライザーの体を引き裂いた。

 

「きさまぁぁぁ!!」

 

今度は遠距離から炎を俺へと放つライザー。だが俺はそれをライザーの体ごと引き裂くことでかき消した。

 

ライザーの顔からはもう俺と戦う前に見せた余裕は見受けられない。俺の攻撃で確実に消耗しているのがわかる。となれば・・・・・そろそろ仕上げといこう。

 

「昇格、戦車」

 

再び戦車に昇格した俺は、左腕に全身全霊の力を込めてライザーに接近した。ライザーが放つ炎が何度も直撃するが、消耗しているせいかダメージはほとんどない。

 

そして俺の拳は・・・・ライザーの頬に直撃した。

 

「ガハッ!」

 

血を吐きながら、ライザー体は屋上から弾き飛ばされる。だが、まだこの一撃では撃破に至らない。ならばもう一撃加えるまでだ。

 

「昇格、僧侶」

 

僧侶に昇格しながらライザーのすぐ上に飛んで移動する。

 

赤龍の踏激(ドラゴン・スタンプ)

 

足に魔力を集中し、巨大なドラゴンの脚を展開。体を一回転させて遠心力を加えて・・・・ライザーを校庭へと圧し潰した。

 

ドンッ!!

 

衝撃により、校庭の大地はひびわれ、隆起する。直撃を受けたライザーは・・・・・気を失ったようで、ピクリとも動かなかった。

 

『ライザー・フェニックス様、撃破。王の撃破によりこのゲーム、リアス・グレモリー様の勝利となります』

 

グレイフィアさんのアナウンスがライザーの撃破と部長の勝利を告げる。

 

こうして部長の結婚をかけたレーティング・ゲームは幕を下ろした。

 

 




これにてレーティングゲームは御終いです

ライザーさんは一方的にやられてしまいましたが、これはライザーさんがフェニックスの力を過信して回避しなかったのが原因の一つにあります。ある程度回避に徹していればもっと別の展開もあったかもしれません・・・・・まあ、それを差し引いても一誠さんの禁手状態の力は凄まじいですが

それと、一誠さんが今回見せた昇格(プロモーション)の高速切り替えですが、これは作者が考えた一誠さん独自の戦い方となります。原作でこのような戦い方がありえるかどうかはともかくとして、この作品においてはある理由のもとこれが可能となっています。それについてはいずれまた

それでは次回もまたお楽しみに


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第25話

今回でこの章は終わりになります

ただ、一誠さんの視点はなく、一誠さん以外の4人の方の独白のようなものになっておりますのでご容赦を

それでは本編どうぞ


一誠の活躍により、私はライザーとの結婚を回避することができた。今回破談になったからとまた婚約の話が来るかもしれないけれど・・・・・それでも、今回私は一誠に助けられた。一誠は私の眷属なのだからあの尽力は当然のことなどとは思わない。私への忠義を尽くしてくれた一誠には感謝してもしきれなかった。

 

だからこそ私は・・・・・兵藤一誠という一人の男の虜となってしまった。

 

不死身の力を持つフェニックス家のライザーを、一誠は正々堂々正面から力でねじ伏せてしまった。あの力強い姿を目の前で魅せられてしまっては、ましてやそれが自分のために振るわれているとなれば女として惹かれてしまうのはきっと仕方のないことだろう。私は・・・・・一誠のことを、女として好きになってしまった。

 

けれど・・・・・私は知っている。この感情は許されてはならないものだということを。この好意は抱いてはならないものだということを。

 

一誠は目の前で愛する女を・・・・堕天使レイナーレを殺されてしまっている。その苦しみ、その絶望は私では計り知れないほど辛いものだろう。そして、それ故に・・・・一誠の中で、レイナーレへの愛は永遠のものになってしまっているかもしれない。きっと一誠は永遠にレイナーレを愛し続け・・・・永遠にその愛に縛られ続ける。そんな一誠が私に好意を抱くことなど未来永劫訪れるはずがない。

 

だけど、それでもいい。それでも構わない。一誠からの愛が得られないのならば・・・・せめて私は一誠を幸せにしてみせる。それを私ができる忠義を尽くしてくれる愛する男への報いとしよう。

 

一誠。私の可愛い、愛しい下僕

 

私はあなたを幸せに・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

圧倒的とも言える一誠くんの強さに僕は嫉妬した。ライザー・フェニックスとのレーティング・ゲームは僕たちリアス・グレモリー眷属に軍配が上がった。だが、僕はそれを僕たちの勝利とは認められなかった。

 

敵方の最強の眷属である女王(クイーン)ユーベルーナと(キング)ライザー・フェニックス。その二人は一誠くんが自身の力だけで倒してしまった。二人の撃破に対して、僕たちの功はまたくといっていいほど何もない。それが僕にとって悔しかった。そして何より、もっと悔しかったのは・・・・・・一誠くんが僕たちに足並みを揃えて、自らの力を律してしまっていたことだった。

 

一誠くんがはじめからあの鎧を纏っていたのなら、きっとたったひとりでライザーの眷属たちを全員倒してしまっていただろう。それこそ、策を労することなくだ。あれはそう断言するに足る強力な力だと思った。けれど、一誠くんは土壇場まであの力を使わなかった。あの力のことを僕たちににも話してくれなかった。理由はきっと・・・・部長のために強くなろうと、戦おうと息巻いていた僕たちを気遣ったが故にだろう。つまり、僕たちが彼を弱くしてしまっていたのだ。

 

悔しい。悔しい悔しい悔しい。こんなのではダメだ。こんな弱い僕ではダメだ。

 

もっと強くならなければならない。強くならなければ僕は、僕は・・・・・・

 

強くなりたい。彼のように。一誠くんのように

 

あんな力を・・・・僕は・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はあのレーティングゲームで本当の『力』と言うものを目の当たりにした。

 

私はお兄様の眷属としてリアス様の結婚をかけたレーティング・ゲームに参加した。といっても、私は形だけの眷属だったから戦いには参加せず、高みの見物をしてお兄様が勝利するのを待っていただけなのだけれども。しかし、私の予想に反してお兄様は負けた。あの殿方・・・・・今代の赤龍帝、兵藤一誠様の手によって。

 

彼がユーベルーナと戦っていたとき、恥ずかしながら私は腰を抜かしてしまっていた。彼の強さがあまりにも苛烈で、凄まじく・・・・・恐ろしかったから。そう、この時まではそうだった。一誠様がお兄様を打倒したあの瞬間を目の当たりにして私は・・・・・私の中で、感情が湧き上がった。

 

それは、お兄様の敗北に対する妹としての悲しみではない。縁談が破談になってしまったことに対するフェニックス家としての失意でもない。あの時私が抱いた感情は・・・・・一つの駒としての歓喜だった。

 

圧倒的なまでのあの強さ、あの力。一誠様は間違いなく覇道を歩むお方なのだと思った。そんな彼の覇道の一歩になるかもしれないお兄様との戦いを目にして、私の心は堪えようのない歓喜が溢れ出した。

 

そう、彼なのだ。兵藤一誠様こそが、私が望んでいた殿方。悉くを力で制する覇の道を歩む絶対強者。私は・・・・あの方の駒となりたい。駒となってあの方の覇道を近くで見てみたい。駒となってあの方の覇道の礎のひとつになりたい。

 

その衝動が抑えられなかった。私はすぐにお母様とお兄様に話を通して、お兄様の眷属からお母様の眷属になった。お母様はレーティングゲームをしない。だから・・・・うまくすれば、いずれ上級悪魔になるであろう一誠様の眷属になることができる。そうすれば私は一誠様と、一誠様の覇道にこの身を委ねることができる。

 

一誠様。私の偉大なる赤き龍帝様

 

どうか早く上級悪魔になってくださいな

 

そして私を御身の傍に・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リアスがレーティングゲームに勝利した。それは私にとって喜ばしいことであった。魔王『ルシファー』となり、家名を継げなくなった身としては、グレモリーの将来に関わることに下手に口出ししてはいけないとわかってはいたけれど・・・・それでも、妹が望まない結婚に身を通してしまうのは兄として嫌だった。だからこそ、このレーティングゲームの結果は私にとって満足のいくものだったと言えるだろう・・・・父上や母上にはこんなこと言えないけれども。

 

しかし・・・・・しかしだ。結果はともかくとして、ゲームの内容についてはいくらか考えさせられるものがあった。いや、ゲームの内容にではない・・・・・リアスの兵士(ポーン)、兵藤一誠くんにだ。

 

彼のことはリアスに聞いている。今代の赤龍帝であり、そして・・・・・目の前で愛するものを亡くしてしまった哀れな子だということを。死んでしまった堕天使の子に関して、グリゴリに連絡をとったのは私だからリアスから委細は聞いていたが・・・私は彼に起きた悲劇を他人ごとのようには思えなかった。

 

私も彼と同じだった。敵対勢力の女性に恋に落ち、愛してしまった。ただ、私はグレイフィアと結ばれたが・・・・・彼は私と違って死別してしまった。あるいは私も彼を同じようにグレイフィアを失ってしまっていたかもしれないと考えると・・・・恐ろしくて恐ろしくてたまらなかった。そう考えてしまうからこそ、私は彼のことを気にかけていた。

 

彼は今どんな気持ちで生きているのだろうか?辛くはないのだろうか?苦しくはないのだろうか?愛する者が死んでしまった世界で生きるのが・・・・・恐ろしくないのだろうか?ただただ、私は彼のことが心配になった。魔王として、一人の悪魔に過度に注目しすぎるのは良くないかもしれないが・・・・・それでも私は心配でたまらなかった。

 

なにより、そんな彼がリアスの眷属であることも私の心配に拍車をかけているといってもいいかもしれない。リアスは愛情深いが、言い換えれば自分の眷属には甘いところがある。それが彼にとってプラスの影響になるとは限らない。現に彼は・・・・・あのレーティングゲームを見ていてわかった。彼はリアスに忠義を抱いていても、敬意を抱いていないと。彼の忠義にリアス個人に対する想いはほとんど存在していないと。それに私は気がついてしまった。

 

リアス、そして兵藤一誠くん。君たちはもしかしたら良き主従関係を結べていないのかもしれない。いずれはそれが原因で決定的な亀裂が生じてしまうかもしれない。

 

だからこそ私は願おう

 

兄として妹の

 

魔王として一人の悪魔の

 

二人の未来に・・・・・陰りがないことを

 

私は・・・・・願おう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけで、リアスさん、木場さん、レイヴェルさん、サーゼクスさんの四方の独白でこの章の締めとさせていただきます

4人とも色々と一誠さんのことを思っていますが・・・・・サーゼクスさん以外の3人は自分にとって都合のいいように一誠さんのことを見ているという共通点があります。まあ、サーゼクスさんも一誠さんに関してちゃんと理解できているわけではないですが

次回からは私の気が変わらなければ原作3巻の内容に入ります。ここでは一誠さんの未来に関わる(かもしれない)キーパーソンとなる(かもしれない)方が出ますのでお楽しみに

それではこれにて失礼します


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月光校庭のエクスカリバー
第26話


今回から新章突入です

それでは本編どうぞ


『大人になったら私と結婚してくれる?』

 

『その時に嫁の貰い手がなくて俺に好きな子がいなかったら考える・・・・・かな?』

 

『やった!約束だよ!』

 

『結婚するとは一言も言ってないんだけど・・・・・まあいいか』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・なにがまあいいか、だ。何もよくねえよ」

 

いつも通り深夜の二時近くに目を覚ました俺だが、目覚めは最低最悪だった。なにせ昔の黒歴史にもなりかねない・・・・・いや、完全なる黒歴史な夢を見てしまったからな。

 

(随分と不機嫌そうだな相棒。大丈夫か?)

 

(大丈夫だよ・・・・・・多分)

 

正直寝起きということを差し引いてもだいぶ機嫌は悪いが、とりあえずドライグには大丈夫だと返しておく。

 

先程まで見ていた夢・・・・・それは幼い時の夢であった。もっとも、幼いといっても、『兵藤一誠』の年齢的な意味でだ。精神年齢的には前世からのものを引き継いでいるため、考え方やらは実年齢に対してそこまで幼稚ではない。だからこそ、あの夢の内容は俺にとっては黒歴史以外何ものでもないのだ。

 

幼い頃の約束など、大人になってみれば羞恥、恥辱の塊だ。それが結婚が絡んだものであるというのならなおさらである。あの時はその場のノリに任せて了承寄りの返事を返してしまったが、今になってしまえば後悔しかない。そしてそれはおそらく向こうも同じだ。まあ俺と違って覚えていないかもしれないが・・・・・むしろ覚えていない方が幸せだろう。叶うことなら俺もこの記憶は抹消してしまいたい。

 

というか『幼い頃の結婚の約束』というものが異様なまでに美化されているこの世の中はおかしいと思う。そんなもの当事者からすればマジで最悪なんだぞ。その上両者同意をもって反故したとしても何故か責められたりもするし・・・・・・今からでも全世界の幼子達に結婚の約束なんてそう易々とするものではないぞと促してやりたい。

 

「・・・・・はあ」

 

だめだ、考えれば考える程さらに気分が悪くなるのを感じる。自分で自分の首を有刺鉄線で締め上げてしまった気分だ。

 

(これ以上はやめよう・・・・・いつものようにトレーニングに励んで早々に忘れるに限るな)

 

そう思い、俺は着替えて外に出てトレーニングに勤しむのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・はあ」

 

最悪な夢を見たのが今朝のこと。現在俺はまたしても頭を抱える状況に陥っていた。

 

放課後、今日は旧校舎の清掃を部長の使い魔にやらせるということでうちでオカ研の活動をすることになった。それ自体は別に構いやしない。そう、それだけならば。

 

問題は・・・・・

 

「こっちが小学生のときの一誠よ」

 

「あらあら、幼い時からもう端正な顔立ちをしていますわね」

 

「だけど、やっぱり幼い分可愛らしくも見えるわね」

 

「わかります部長さん!」

 

「昔の一誠先輩・・・・・愛らしいです」

 

なぜか、昔のアルバムの鑑賞会が開かれていることだ。

 

会議をはじめようとした矢先、嬉々として母さんがアルバムを持ち出し、何故か全員がアルバムに興味を持ってしまってオカ研の活動はアルバム鑑賞会へとすり替わってしまったのだ。今朝に続いてどうしてこう、昔のことでこんなにも頭を悩ませなければならないのだろうか・・・・・

 

「ごめんなさいねぇ。一誠ったら写真が好きじゃないって言ってあんまり撮らせてくれなかったからアルバムが少なくて・・・・・」

 

母様、世間一般においてアルバム10冊は少なくないと思います。写真好きじゃないって言ったのに、結構お構いなしにシャッター切りまくってくれたおかげでこんな数になっちゃったんじゃないですか・・・・・

 

「あはは・・・・・大変だね一誠くん」

 

「そう思うならその手に持っているアルバムを閉じろ」

 

苦笑いを浮かべながら動揺してくる木場であったが、その手にはしっかりとアルバムが開かれている。こいつ、本当にいい性格してやがる。

 

「まあ、そう言わないでも。僕だって仲間の過去は気にな・・・・え?」

 

突然、木場は表情を変えた。先程までの笑顔は消え、ひどくこわばっている。

 

「どうした?」

 

「一誠くん、この写真・・・・・」

 

「ん?ああ、これか・・・・・」

 

その写真は俺が幼馴染の女の子の家で撮ったものであった。嫌だって言ったのに強引に連れ込まれて写真を撮らされたからよく覚えている。。

 

「この写真がどうかしたのか?」

 

「これ見覚えは?」

 

木場が指差したのは、壁に掛かっている剣であった。

 

「・・・・・ああ、覚えてるよ。俺も気になってドライグに確認をとったぐらいだからな」

 

あの時はどうしてそんなものがあの家にあったのか気になったが、もしかしたら骨董品感覚で買ったのかもしれないって思って済ませたんだったな。

 

「こんなこともあるんだね。まさかこんなところで・・・・・・聖剣を目にすることになるなんて」

 

そう、その剣は模造品でもなければ骨董品でもなく、ましてはただの剣でもない。それは・・・・・・聖剣だった。

 

ただ、それが聖剣であること自体は特に気にしていない。本当に骨董品感覚で買ったものかもしれないからな。問題は・・・・・木場の方だった。

 

「聖剣・・・・僕は・・・・・」

 

その表情には明らかな怒りが感じ取れた・・・・いや、怒りなどという生易しいものじゃない。その感情はおそらく・・・・・・憎しみだ。

 

「木場、お前・・・・・」

 

「一誠、ちょっといいかしら?」

 

きっかけが自分の写真である以上、一応事情を聞こうと思った俺であったが、母さんに声をかけられて遮られてしまった。

 

「なに母さん?」

 

「飲み物とお茶菓子を用意しようと思ったのだけれど切らしちゃって・・・・・ちょっと買ってきてくれないかしら?」

 

なんともまあ間の悪い・・・・・まあ断る理由はないからいいけど。

 

「わかった、行ってくるよ。他に何か買ってくるものはある?」

 

「大丈夫よ。お願いね」

 

「ああ」

 

母さんに飲み物とお茶菓子用のお金を受け取って、俺は外に出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・あなた達にききたいことがあります」

 

一誠が買い物に出たとほぼ同時に、一誠のお母様が嫌に神妙な面持ちで私たちに切り出してきた。どうやらこのために一誠に席を外させたようね。

 

「このアルバム・・・・・・幼い頃の一誠を見て、どう思ったかしら?」

 

幼い頃の一誠。少し目つきは鋭いけれど、それでもあどけなさがあって可愛らしいと思った。だけど、お母様が聞きたいのはそういうことではないのでしょう。お母様が聞きたいのは・・・・・

 

「・・・・・笑顔が少ないと思いました」

 

そう、写真の中の一誠は極端に笑顔が少なかった・・・・というより、笑っている写真はほとんどなかったのだ。そのことには皆も気がついていたようで、表情が暗かった。

 

「あの子は昔から滅多に笑わない子だったの。それだけならまだしもどこか大人びていて・・・・・いい意味でも悪い意味でも子供っぽく無かったわ」

 

一誠はどこか年不相応に見えていたけれど、それは幼い頃からだったらしい。

 

「それでも、滅多に笑わないってだけで嬉しいって感情があることはわかっていたわ。表情に出ないだけで、この子はちゃんと喜んでくれてるんだって私と夫はわかっていた」

 

表情から読み取れない感情・・・・・一番身近な親だからこそ、お母様やお父様はそれを察知することができたのみたいね。正直羨ましいわ・・・・・私も主として、一誠の感情の機微に気がつくことができるようになれればいいのだけれど・・・・

 

「だけど・・・・・・最近はそれさえもわからなくなってしまった。いいえ、無くなってしまったといったほうがいいかもしれません」

 

「・・・・え?」

 

「つい最近・・・・・一誠がオカルト研究部に入って少ししたあとから、一誠から『喜び』の感情を一切感じることができなくなってしまったわ。その理由に・・・・・あなたたちは心当たりはないかしら?」

 

「ッ!?」

 

お母様の言葉に、その場にいた全員が表情をこわばらせてしまった。

 

心当たりなど、あるに決まっている。その原因を・・・・・・私たちは知っているのだから。




のっけからフラグを建てていくスタイル

果たしてどうなるか・・・・・

それでは次回もまたお楽しみに!


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第27話

遅くなりまして申し訳ありません・・・・・他の小説の投稿や多忙が重なってしまいまして

今回は一誠さんのお母さんをメインに据えております

それでは本編どうぞ


 

真っ直ぐに私たちに視線を向けてくるお母様。あの一誠の母親であっても普通の人間であるはずの彼女の眼からは逆らい難い力強さを感じる。これが母親というものの強さなのでしょうね。それでも私は、私たちは一誠に起きた悲劇の全てを話すわけには行かない。今はまだ、彼女はこちらの世界とは無縁の存在なのだから。

 

だから・・・・・

 

「・・・・・一誠は愛する者を目の前で亡くしてしまいました」

 

だから私は・・・・・障りのない範囲でお母様に話すことにした。それが一誠の主としてのけじめだと思ったから。

 

「一誠から喜びの感情が失われてしまったと言うなら、原因はそれだと思います。そのことで一誠は・・・・・自分の事をひどく責めているでしょうから」

 

あの時以来、私たちも一誠の笑顔を見た覚えがなかった。堕天使レイナーレが死ぬ前は、いくらか冗談を口にするようなこともあったし柔らかな雰囲気を感じ取ることもあった。けれどそれ以降は・・・・・一誠はいつもどこかもの悲しい雰囲気を常に身に纏っているように感じられた。それはきっと私だけでなく、オカ研の・・・・私の眷属全員が感じ取っていると思う。

 

「そう・・・・・・あの子は愛する人を亡くしてしまったのね」

 

お母様の表情はひどく暗かった。今にも涙を流してしまいそうなほどに、まるで自分のことのように・・・・・いいえ、きっと彼女にとっては自分のこと以上に辛いことなのでしょうね。

 

「あなたたちは全員そのことを知っていたのね・・・・・私は親失格ね。あの子にそんな悲劇が起きたことさえ知らなかったなんて・・・・・」

 

「い、一誠さんはお母様を心配させたくないから言わなかったんだと思います!一誠さんは優しい方ですから!」

 

「ありがとうアーシアちゃん。そうね、一誠は優しい子よ。だけど・・・・・・教えてくれなかったのはきっと私に心配をかけさせたくなかったからではないわ。きっとあの子は・・・・・」

 

「お母様?」

 

アーシアの励ましは功を奏さず、お母様の表情はさらに憂いをおびてしまっていた。そこには、私たちの知らない事情があるように思われた。

 

「・・・・・私は一誠をどこに出しても恥ずかしくない子に育てたつもりよ。実際あの子は優しく、逞しい子に育ったと思うわ。けれど・・・・・同時にあの子はどこに出しても不安な子になってしまった」

 

「どういうことでしょうか?」

 

「昔・・・・・あの子がまだ6歳の頃の話よ。あるひあの子は腕の骨を折る大怪我を負って帰ってきたことがあるの。どうやら木登りをしていたお友達が落ちてきて、それをかばって怪我をしてしまったようなのだけれど・・・・・あの子はその怪我を私と夫に隠そうとしていたわ。怪我のことはすぐにわかったのだけれど・・・・・どうして隠そうとしたのかって聞くとあの子はこう答えたのよ『迷惑をかけたくなかった』・・・・・ってね」

 

それを聞いて、私は一誠らしいと思ったが、同時に違和感を覚えた。今の一誠ならいざ知らず、この話は6歳の子供だった時の話。どうにも子供っぽくないと思った。

 

けれど・・・・・お母様が憂いているのはそのことでは無いようだった。

 

「それを聞いて私は・・・・一誠は私と夫のことを『家族』として信頼しきっていないんだって思ってショックだったわ」

 

「家族として信頼しきっていない・・・・?どういうことでしょうか?」

 

「あの子は心配という言葉ではなく、迷惑という言葉を使ったわ。家族に対して心配かけさせたくないというのは当然の考え。けれど、あの子が使った言葉は迷惑。これはあの子にとって私たちが遠い存在であることを証明している言葉よ。私たちはあの子に信頼されていないからそう言う言葉を使わせてしまった。たった6歳だったあの子に」

 

「それは・・・・・」

 

違う、そんなことないと言いたかった。けれど、言えなかった。言ってしまったらそれは・・・・・表面上だけの嘘の言葉になってしまうとわかっていたから。

 

「あの子の考えはきっと今も変わらない。いえ、大人に近づいた分、より明確に私たちとの距離を線引きしてしまっている。あの子は親である私たちに感謝しているかもしれないけれどそれ以上に行き着くことはない。一誠と私たちは・・・・・家族という名の他人」

 

「お母様・・・・・」

 

「だけど、だからこそ私はあの子の幸せを願うの。あの子が私たちに対して踏み込まないとしても、あの子が私たちにとって愛しい子供であることには変わりはないから。あの子に起きた悲劇を知ることができなかったとしても、あの子が私たちに何を隠していようとも・・・・・・あの子には幸せになってもらいたい」

 

きっと苦しいのでしょう。辛いのでしょう。子供の幸せを祈りつつも、子供のことを知ることができず、距離を置かれてしまうことは私の想像を絶するほどの苦難なのだと思う。それでも、彼女はそれを選んだ。

 

これは今の私には持ち得ない強さ。グレモリーは愛情深いというけれど、この親の愛を前にしてしまえばきっと霞んでしまうでしょうね。

 

だけど・・・・・一誠の幸せを願う。それは私にとっても大切なこと。あの子は私の可愛い下僕で・・・・愛しいひと望まない婚約から私を救ってくれた救世主。だから・・・・・・私も背負わなければならない。

 

「お母様・・・・・私も同じです」

 

「リアスさん・・・・?」

 

「私もあの子の・・・・一誠の幸せを願っています。あの子は私を救ってくれた。私にとってもあの子は大切な存在なんです。だから私も何があっても一誠の幸せを願います。そしていつか・・・・・一誠を幸せにしてみせます」

 

「私も一誠さんを幸せにします。一誠さんは私の・・・・・恩人ですから」

 

私の言葉に同調するように、アーシアも名乗りをあげた。アーシアも私と同じように一誠に特別な感情を抱いているからでしょうけど・・・・・・アーシアの場合はそれだけではないでしょうね。なにせアーシアは一誠が愛する者を・・・・・レイナーレを失ってしまった時、同じ場所に居合わせてしまったのだから。あるいは、一誠に対する想いは私以上なのかもしれない。

 

「リアスさん、アーシアちゃん・・・・・・ありがとう」

 

私とアーシアへお母様から感謝の言葉が送られる。まだどこか悲しげではあったけれど、確かな笑みを浮かべて。

 

一誠にも・・・・・この優しい母親にも報いなければならない。それが一誠の主としての・・・・・私の責任なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

リアスたちとの話がちょうど終わったタイミングで、一誠が帰ってきた。手には飲み物とお茶菓子が入った買い物袋を持っている。

 

「おかえりなさい一誠。お使いありがとうね」

 

「これぐらい構わないよ母さん。これってそのまま部長達に出してもいいんだよね?それなら用意してくるけど」

 

「あら、それぐらい私がやるわよ?」

 

「いいよ、ついでだし。母さんは座ってて」

 

お使いを頼んで手前、準備ぐらいは私がしようと思ったのだが一誠はそれをやんわりと制して自分がやると言ってきた。相変わらず必要以上に気を遣う子ね・・・・・これも距離を置かれてしまっている弊害なのかもしれないと思うと少し悲しくなってくるわ。

 

「一誠さん、私もお手伝いします」

 

「私も手伝うわよ一誠」

 

「え?いや、これくらいは俺一人で・・・・・」

 

「「・・・・・ダメ(ですか)?」」

 

「いえ、喜んで申し出を受け入れさせていただきます」

 

リアスさんとアーシアちゃんが上目遣い気味に、さらにどこかシュンとした様子で(こっちは演技かもしれないが)申し出たら、一誠は容易く受け入れた。まあ、あんなふうに言われては受け入れざるを得ないわね・・・・・我が息子ながら女の子には甘いのかしらね。そういうところはお父さんに似たのかもしれないわ。

 

それにしても・・・・・

 

(二人共・・・・・そういうことなのかしらね)

 

リアスさんとアーシアちゃん・・・・・きっと二人は一誠に特別な感情を抱いている。だからこそ心の底から一誠の幸せを願ってくれているのだと思う。

 

私の願う一誠(息子)の幸せ

 

あの子達の願う一誠(愛する者)の幸せ

 

違いはあるかもしれないけれど・・・・・きっと一誠にとってはどちらも必要なもの

 

「・・・・・・あなたもこの場に居たら、一誠の幸せを願ってくれるのかしらね?」

 

私はアルバムの写真に映る、一誠の幼馴染の少女に触れながらつぶやいた。




この一誠さんのお母さんはある意味私の理想のお母さん像を体現しております。まあ、原作からしてすごくいい母親だと思いますし

それでは次回もまたお楽しみに!


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第28話

新刊&スラッシュドッグのおかげで少しだけモチベが上がったので比較的早く投稿できた・・・・・

まあ、短いですが

それでは本編どうぞ


「行くわよ一誠!」

 

「はい」

 

カキン、と金属特有を響かせて、部長のバットによって鋭い打球が放たれる。俺はその打球を軌道を読み、ダイビングキャッチすることなくボールをグローブでキャッチした。

 

現在、俺達オカ研メンバーは旧校舎の裏手で野球の練習をしていた。来週、駒王学園では球技大会があり、その部活動対抗戦のための特訓を行っているのだ。どうにも俺の主様はこの手のイベントが好きなタイプのようで、かなり張り切っている。まあ、オカ研は俺含めて全員悪魔なのでスポーツでそうそう負けることなんてないと思うが。仮に負ける可能性があるとしたら、同じく全員が悪魔のチームぐらいだろ。

 

「さすがは一誠ね。今のを容易くキャッチするなんて」

 

「まあこれくらいは余裕ですよ」

 

こういった動体視力と軌道予測は先頭でも活用できるからある程度は鍛えてきたからな。たとえ人間だった頃でもおそらく容易にキャッチすることができただろう。

 

「いくわよ祐斗!」

 

俺の時と同じように、次に部長は木場の方へと打球を飛ばす。いつものあいつなら平然とキャッチするのだが・・・・・ボールは木場ぼけっとしていた木場の頭に当たり、そのまま地面に落としてしまった。

 

「祐斗どうしたの?最近ボケっとしていることが多いわよ?」

 

「すみません・・・・・」

 

らしくない木場にリアスが声を掛けるが、それでも木場は心ここにあらずといった様子だ。

 

その原因はおそらく先日、俺のアルバムの中の写真に映っていた聖剣だろう。あれを見たときの木場は様子がおかしかった。ひどく暗く冷たい目をしていて・・・・・・そんな木場を見て、俺はなぜかドーナシークを殺した時の自分の事を思い出してしまった。

 

(やっぱりあれは・・・・・・憎悪なのか?)

 

木場は聖剣に対して何らかの思い入れがあり、それが憎悪につながっているのかもしれない。だとしたら、その憎悪をどうにしかしなければ木場は・・・・・・・・

 

「一誠、もう一度行くわよ」

 

「はい」

 

俺はまた部長の打球をキャッチしようとグローブを構える。

 

木場のことは・・・・・・ひとまず心の片隅に押し込めることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一誠、今日も部活か?」

 

「ああ。球技大会のために練習をな」

 

「オカルト研究部なのに随分とまあ体育会系だな・・・・・」

 

ある日の昼休み、俺は昼食を食べながら松田と元浜と談笑していた。

 

「そのあたりは部長がな。こういう行事には張り切るタイプみたいなんだ」

 

「あのお姉さまのリアス先輩がか・・・・・少し意外だな」

 

「だがそのギャップがいい!」

 

「わかる!」

 

「何を馬鹿言ってるんだお前らは・・・・・・」

 

松田と元浜の発言に、思わず頭を抱えそうになる。まあ思春期の男児なんてこれぐらいが普通なのかもしれないが。

 

(逆にお前は歳不相応すぎると思うぞ相棒?)

 

(そこはしょうがないだろ。精神年齢的には前世引き継いでるんだからさ)

 

正直、未だにこうして高校生やってることに違和感を覚えることがあるしな・・・・・我ながら面倒な設定をしているものだ。

 

「ところで一誠、いい加減俺たちは気になってしょうがないんだが・・・・・・誰が本命なんだ?」

 

「は?本命ってなんだよ?」

 

「決まってるだろ!オカルト研究部の綺麗どころの誰を狙ってるかってことだよ!」

 

「お姉様な先輩のリアス先輩と姫島先輩。癒し系同級生のアーシアちゃん。マスコット後輩搭城小猫ちゃん・・・・・お前は一体誰狙いなんだ?」

 

やたらと熱の入った感じで尋ねてくる松田と元浜。確かにあれだけの美少女たちが集まっている中にいるのだからそれを聞かれるのは仕方がないとは思うが・・・・・

 

「あいにくと誰狙いでもないよ。皆女性として魅力的ではあると思うが、付きたいたいとかそういうことは思ったことはないし、今後そういうことを思うこともない」

 

「なんだよ、あれだけの美少女に囲まれておいて随分と枯れたやつだな・・・・・・そんなんじゃホモ疑惑がかけられるぞ?ただでさえ一部じゃ木場と噂になってるんだぞお前?」

 

「ちょっと待て今聞き捨てならないこと言ったよなお前?」

 

松田の一言に、俺は思わず自分の耳を疑った。木場と噂って・・・・・・今現在恋愛ごとに興味がないとは言え、それは勘弁願いたい。

 

「だったらもう少し自分から青春を謳歌しに行けよな。お前だったら相手を見つけるのもそうそう苦労することもないだろうし。それとも心に決めた相手でもいるのか?」

 

「心に決めた相手・・・・・・」

 

そう、俺には心に決めた相手がいた。俺の最愛は俺のせいで死んでしまったレイナーレ・・・・・

 

『大人になったら私と結婚してくれる?』

 

「ッ!?」

 

なんでだ?なんで今あの子のことを思い出す?あれは違う。あの子とのあの約束はただの子供の戯言だっていうのに・・・・・・

 

「どうした一誠?」

 

「い、いやなんでもない。心に決めた相手もいないさ。今はあんまり恋愛のことは考えてないだけだ」

 

「そうか?まあお前がそう言うならいいけど・・・・・」

 

「余計なお世話かもしれないが、少しは考えたほうがいいぞ?そのほうが人生楽しいぞ?」

 

「ああ、検討しておくよ。それじゃあ俺部活の集まりがあるから抜けるな」

 

二人との談笑を切り上げ、空になった弁当箱を片付けた俺はアーシアのもとへ向かう。

 

「そろそろ部室に行こうアーシア。ご飯は食べ終えたか?」

 

「アーシア。彼氏が呼んでるわよ」

 

アーシアに声をかけると、アーシアと一緒に昼食を摂っていた桐生が茶化すように言ってきた。

 

「桐生、俺とアーシアはそういう関係じゃない。変に茶化さないでくれ」

 

「予想はしていたけれど全然慌てないのねあんたは・・・・・」

 

「一緒に暮らしてはいるけど別にやましいことは何もないからな。慌てる理由がない」

 

「いや、だとしてもよ・・・・・一誠、あんた枯れてるんじゃない?」

 

松田と元浜もそんなようなこと言ってたな・・・・・別にそんなことないのに。ただ今は・・・・・というより今後そういうことを考えられないかもしれないが。

 

「アーシア、あんたも大変ね」

 

「いいんです桐生さん。一誠さんが私の彼氏になることは・・・・・きっとありませんから」

 

「アーシア?」

 

どこか悲しげに言うアーシアを見て、桐生は不思議そうにしていた。

 

アーシアはあの日の夜・・・・・・俺がレイナーレを失ったとき、その場に居合わせていた。レイナーレの件はアーシアになんの責任もないが、それでもアーシアは優しい子だから・・・・・自分の気持ちを押し込めて俺のためにあろうとしてくれている。

 

そんなアーシアに報いるためにも・・・・・アーシアを守らなければならない。俺はそれしかできないから。

 

「一誠さん。部室に行きましょう」

 

ニコリと俺に微笑みを向け、アーシアは部室に向かおうと歩み始める。俺もそのあとに続こうとしたが・・・・桐生に肩を掴まれて止められてしまった。

 

「なんだ桐生?」

 

「・・・・・あんたに何かあったんだっていうことはなんとなくだけど気がついてた。松田も元浜も気づいてるだろうし・・・・・・だからあの二人なりにあんたに気を遣ってると思う」

 

確証とまで行かなくても、俺に何かあったんだっていうことは3人は気がついていたということか・・・・友人としては嬉しくも思わないことはないが複雑な気分だな。

 

「何が起きたのかは聞かないわ。聞いてもあんたのことだから教えてくれないだろうし。けど・・・・それでも・・・・・これだけは言わせてもらうわ。何があったとしてもアーシアを傷つけるようなことはしないで。あんないい子そうそういないんだから」

 

「何を言うかと思えば・・・・・言われるまでもなくわかってるさ。アーシアは・・・・・俺が守ってみせる」

 

「・・・・・そう。わかってるならいいわ」

 

俺の返答にとりあえずは満足したのか、桐生は手を離した。

 

「話は終わったわ。早くアーシアのところに行きなさい」

 

「ああ・・・・・桐生、ありがとな」

 

アーシアを気にかけてくれていることに対して桐生に礼を言った後、俺はアーシアのあとを追った。

 

 




松田さんも元浜さんも桐生さんもいい人になった・・・・・・一誠さんにはこういう友人が必要だと切実に思う

それでは次回もまたお楽しみに!


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第29話

なかなか話が進まないなぁ・・・・・

今回は生徒会の二人が登場します

それでは本編どうぞ


「遅れてすみませ・・・・・ん?」

 

アーシアと共にオカ研の部室に入った俺だが、いつものメンバー以外の人物が二人の男女居たことに気がついた。

 

その二人のことは知っている。女の方は生徒会長で、もう一人は最近生徒会に入った男だ。この二人がいるということは・・・・・・

 

「部長、これは顔合わせ・・・・・ということでよろしいですか?」

 

「あら?あなた知っていたの?」

 

「ええまあ。この学園にいる悪魔のことは大体把握していますので」

 

部長に返事を返したあと、俺は生徒会長・・・・・部長と並ぶ72柱の上級悪魔、ソーナ・シトリーの方へと歩み寄り跪いた。

 

「お初にお目にかかります。リアス様の兵士(ポーン)、兵藤一誠です。以後お見知りおきをシトリー様」

 

「ビ、僧侶(ビショップ)のアーシア・アルジェントです」

 

「お見通しということですか・・・・・・ですが私も自己紹介しておきましょう。私はグレモリー家と同じ72柱のひとつのシトリー家の悪魔、ソーナ・シトリーです。この学園における表の生活・・・・昼の学園の生活を守っています。よろしくお願いします兵藤くん、アーシアさん」

 

俺がまず自己紹介すると、それに続いてアーシアも自己紹介する。そのあと、生徒会長が簡潔に自分の事を説明しながら自己紹介してくれた。

 

「匙、あなたも挨拶なさい」

 

「・・・・・・」

 

生徒会長は自身の後ろに控える匙と呼ばれた男子生徒に挨拶するように促すが、なぜか口を閉ざして俺の方にじっと視線を向けていた。

 

「匙?」

 

様子のおかしい匙に、生徒会長が改めて声をかける。すると、匙は俺の前へと歩み寄ってくるが・・・・・どうにも自己紹介をしようという雰囲気ではなかった。

 

「・・・・・兵藤一誠」

 

「なんだ?」

 

「俺は・・・・・・俺はお前には負けないからな!」

 

「・・・・・・は?」

 

言っている事の意味がわからなかった。別にこいつと争うことなどないだろうし、そんなつもりも毛頭ない。だからそんなこと言われても正直困る。

 

「はあ、全く・・・・・匙、おやめなさい」

 

「いででででっ!?」

 

どう返答しようかと悩んでいると、シトリー様が匙の耳を引っ張った。あれは地味に痛そうだ・・・・

 

「ごめんなさい兵藤くん。匙は先のレーティング・ゲームでのあなたの活躍を耳にしてからあなたに妙な対抗意識を抱いてしまったようで・・・・・」

 

「は、はあ・・・・・・そうなんですか」

 

ライザーとのレーティング・ゲームが原因ってことか・・・・・・・・それでもまあ、一方的にライバル視されても困るわけだが。

 

「えっと・・・・・・匙っていったか?とりあえず自己紹介して欲しいんだが?俺がともかくアーシアがさ・・・・・・」

 

「うっ・・・・・・わかった。俺は生徒会書記の匙元士郎。駒四つ消費の兵士だ」

 

・・・・・・自己紹介しろとはいったけど、消費駒数は言わなくてもいいのではないだろうか?

 

「は、はい。よろしくお願いします匙さん」

 

「うん、アーシアさんなら大歓迎だよ!」

 

あと露骨にアーシアに大していい顔しすぎだ。別に特に文句はないけども。

 

まあ、それはそれとして・・・・・・言うべきことは言っておかないとな。

 

「匙、お前は俺に負けないと言っていたが・・・・」

 

「あ、ああ!いくらあのフェニックスを倒したからって同じ兵士として俺は・・・・・・」

 

「お前がシトリー様の兵士として成すべきことは俺に勝つことなのか?」

 

「・・・・え?」

 

俺が尋ねると、匙はキョトンとした顔をした。これはどうやらわかってなさそうだな。

 

「俺とお前は同世代の兵士だから意識するのはある意味仕方のないことなのかもしれない。別にお前が俺に対して対抗意識を抱く事自体文句はないさ。だけどな、その対抗意識はシトリー様の兵士として必ずしも必要なことか?俺に勝つことが、シトリー様への忠義を尽くすということになるのか?」

 

「そ、それは・・・・・・」

 

「対抗意識を抱くのはいい。だが、間違えるな。お前は・・・・・そして俺は兵士。この身は主のために捧げ尽くすたことを第一としなければならない。その過程で対抗意識を抱くことは構わないが、ただの対抗意識は時として主への忠義の妨げになりかねない。それが分かっていないというなら・・・・・そんなつまらん自尊心は捨ててしまえ」

 

我ながら偉そうな物言いだと思う。部長の眷属となって日が浅い俺が言えたことではないだろう。

 

だが、それでも俺に対する対抗意識が先行しすぎている匙の在り方が兵士として、眷属として正しいとはどうしても思えなかった。だから俺は自分勝手な考えを匙に押し付けたわけだが・・・・・果たして匙はどう受け取るか。

 

「・・・・・兵藤、お前の言いたいことは理解できた。理解できたからこそ俺は・・・・・それでもお前に勝ちたいと思う。お前はすごい奴だから・・・・そんなお前に勝てれば、会長には俺っていう立派な眷属がいるんだって証明できると思うから。それが・・・・・俺の忠義だ」

 

俺の言葉を聞いて行き着いた答えがこれか・・・・・・まあ、間違ってはいないか。眷属の価値はそのまま主の価値にも繋がる。そのために匙が俺に対抗意識を燃やし続けるというのなら・・・・・悪くないかもしれない。

 

「・・・・・わかった。そういうことなら好きにすればいいさ。だけど覚悟しろ。俺も部長の眷属としてそう簡単に負けるわけにはいかないし、負けるつもりもない。お前が俺を越えようというなら、俺は常にお前の前を行き続けてやる」

 

まあ、匙の今の段階での強さ能力もわからないから結構適当なこと言ってるんだが・・・・・発破としてはこんなところで十分だろう。

 

「望むところだ。会長のためにも俺は絶対にお前を超えてやるからな!」

 

そう言って匙は手を差し出してくる。握手を求めているのだろう。正直、こういう熱い展開は俺の性格的には合わないと思うんだが・・・・・乗るのも悪くはないかな。

 

「こちらこそ、簡単には超えさせないさ」

 

俺は差し出された匙の手を取りながら返事を返した。

 

(ん?ほう、これは・・・・・)

 

(どうしたドライグ?)

 

(僅かにだが、この男から微かだがヴリトラの気配を感じてな)

 

ヴリトラ?それって五大龍王の・・・・・確か今は魂を切り刻まれてドライグみたいに神器(セイクリッド・ギア)に封印されているだっけか。ということは匙はその神器の一つを持ってるってことか。

 

(この男の素質次第ではお前を超えるのも不可能ではないかもしれないな。これは本当にうかうかしていられないかもしれないぞ?)

 

(それはそれで悪くはないさ。仮に将来レーティング・ゲームとかで戦うことがあるとしたら・・・・・楽しみだ)

 

ヴリトラの神器・・・・・一体どんな能力なのか。匙はその能力をどういう形で使うのか。そして戦うとしたらどう攻略するか・・・・・・考えると少し心が踊るな。

 

「兵藤くん、うちの匙が失礼しました」

 

「いえ、俺は別に・・・・むしろ、意識してもらえることは光栄ですので」

 

「そう言ってもらえると助かります。リアス、私たちはこれで失礼するわ。球技大会、楽しみにしてるわね」

 

「ええ。私もよ」

 

「匙、行きますよ」

 

「はい。じゃあな兵藤」

 

「おう」

 

最後に俺に声をかけ、匙はシトリー様のあとについて部室から出て行った。

 

(ライバル出現・・・・・・といったところか?)

 

(そうなるのかな・・・・・より一層修行に身を入れる必要がありそうだ)

 

匙元士郎・・・・・・あいつの出現で、俺はより一層強くなろうという想いを強くすることとなった。

 

 




現時点では匙さんの力は一誠さんよりもかなり下です。だからこそ対抗意識を燃やしてるのですが・・・・・・ある意味では原作以上かもしれません

それでは次回もまたお楽しみに!


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第30話

今回はラストでとあるキャラが登場

それが誰なのかは見てのお楽しみ

それでは本編どうぞ


やってきた球技大会開催日。個人戦では部長とシトリー様が某王子様顔負けなテニス対決を繰り広げ(結果は両者ラケットが壊れてしまい同位優勝でおわった)、部活対抗戦では球技はドッジボールが選ばれ、オカルト研究部はチーム全員が悪魔であるということもあり、圧倒的実力で勝ち進んだ・・・・・決勝までは。決勝の相手は同じ悪魔で構成されたで生徒会チームということでこの試合はかなり苦戦した。特に匙は俺への対抗意識もあってかなかなかいい動きをしていたため仕留めるのに時間がかかってしまった・・・・・最終的には気合が空回りしてか、こけたところを当てて終わったのだが。

 

そんなこんなあって部活対抗戦は俺たちオカルト研究部が制した。球技大会終了後に雨が降りだしてしまったが、ひとまずは滞りなく終わることができた・・・・・・・そう、表向きは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・祐斗、目は覚めたかしら?」

 

球技大会終了後、部長は木場の頬を叩きながら言う。

 

球技大会中、木場はずっと心ここにあらずといった様子でぼんやりしていた。いや、それは球技大会中にかかわらず、ここ最近ずっとそんな調子だったのだが。ともかく、部長は明らかにやる気がなく、非協力的であった木場を咎めていた。

 

「優勝は出来たけれど、皆が団結する必要がある場面であなた一人だけが全く集中していなかったわ。一体何があったのかしら?」

 

「・・・・・」

 

部長が尋ねるが、木場は返答を返さずに沈黙していた。

 

ただ・・・・・俺はわかる。確証があるわけではないが、木場が何を考えているのか・・・・・何にとらわれているのか。

 

「聖剣、憎悪・・・・・・復讐か?」

 

「ッ!?」

 

それを言葉に出すと、木場は血相を変えて俺の方へと振り返ってきた。

 

「・・・・部長に聞いたのかい?」

 

「いいや。ただ、前俺の家に来てアルバムの写真・・・・聖剣の映った写真を目にしたお前を見てなんとなく察したんだよ。お前は聖剣に何らかの憎悪を抱いていて・・・・・それが復讐に繋がるっていうことがな」

 

おそらく、それは俺だからこそわかったことなのだと思う。俺もまた・・・・憎悪につき動かされ、レイナーレをころしたドーナシークに復讐したのだから。

 

「お前の気持ちは理解できる。部長たちがどう思おうが俺は憎悪も復讐も否定しない・・・・いや、俺には否定することはできない。俺も同じだったからな。だが・・・・それでもやはり、今のお前のあり方はリアス・グレモリーの眷属、騎士(ナイト)として正しいとは思わない」

 

「それは・・・・・復讐をやめろってこと?」

 

「違うさ。さっきも言ったがそれを否定することは俺にはできない。だが、その復讐は今すぐどうこうできることでもないだろう?お前が憎む聖剣はすぐ近くにあるわけではない。どんな形で復讐しようとしているのかは知らないが、今どうしようもできないことに囚われてやるべきことを疎かにするのは愚の骨頂以外の何物でもないと思うぞ?」

 

「・・・・・・」

 

俺の言葉に、何も言い返してこない木場。それは納得してしまったたからなのか、それとも・・・・

 

「まあ、最終的にどうするのかはお前が決めることだ。それでもなお復讐にこだわるというなら好きにしろ。ただし・・・・・お前はリアス・グレモリーの眷属だ。それだけは何があっても忘れるな」

 

木場の復讐心は理解できるし否定しない。だが、復讐心を抱くことと部長の眷属であることは矛盾しない。復讐心を抱こうが、眷属としてあることだってできる・・・・・木場ならばな。

 

「・・・・・・」

 

「祐斗!」

 

何も言わずに、木場はその場を去っていく。部長が呼びかけるが、振り返ることもなかった。

 

「部長、今は放っておいたほうがいいと思います。木場なりに考えをまとめたいのだと思いますので」

 

「・・・・・そうね。わかったわ」

 

「それと・・・・・勝手なことを言って申し訳ありませんでした。差し出がましいとは思ったのですが・・・・おそらく、今木場の事を一番理解できるのはこの中では俺だと判断しましたので」

 

「それについてはいいわ。私では祐斗の復讐心を理解してあげることはできないでしょうから・・・・・」

 

表情を暗くして、顔を伏せる部長。眷属である木場の事を理解しきれないことに悔しさを抱いているのかもしれない。

 

「理解できないからこそできることだってあると思います」

 

「え?」

 

「俺は理解できるからこそ木場の復讐心を肯定してしまっている。だけどそれが正しいとは限らない。いざ復讐する機会を木場が手にしたとき俺はどのような結末になるとしても、木場の後押しをしてしまうでしょう。それが木場の破滅に繋がることになろうともです」

 

復讐して悲願を果たしたとしても、あとに待っているものは平穏とは限らない。復讐が破滅に繋がることも十分にあり得る。それでも俺は・・・・・復讐を否定することはできない。俺は復讐の後押しをしてしまうだろう。

 

「木場を大切に思うなら、部長は木場の復讐心を理解しないほうがいいかもしれません。どんなにつらくても・・・・・それが木場を守ることに繋がるかもしれないので」

 

「一誠・・・・私はあの子を・・・・祐斗を守れるかしら?」

 

「守れると思いますよ。誰よりも俺たち眷属の事を思ってくれている部長なら・・・・・きっと」

 

それは俺の偽りのない気持ちだった。少し我侭なところがあり、粗も目立つけれど部長は・・・・誰よりも愛情深く、俺たち眷属を大切に思ってくれている。そんな部長なら・・・・俺が絶対的に持ち得ない強さをもつ部長ならきっと・・・守れるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

家路につく俺とアーシアであったが、少々空気が重たかった。

 

あのあと、部長から木場の抱える憎悪について聞いた。木場は教会の企てた聖剣エクスカリバーを扱えるものを育てる計画・・・・・聖剣計画に携わっていたらしい。しかし、木場は聖剣に適合することができず・・・・同じく適合できなかった者達と共に不良品として処分されてしまった。そして辛くも生き残った木場を部長が眷属として転生させたようだ。

 

聖剣を憎む理由として、至極当然のものだと思った。木場はおそらく自分と同じように処分されてしまった者たちの無念を背負って復讐を望んでいるのだろう。やはり・・・・・木場の憎悪を、復讐心を俺は否定することは出来そうにない。

 

「アーシア、大丈夫か?」

 

「はい、私は大丈夫です・・・・・今の私は悪魔ですから」

 

俺が尋ねると、アーシアは儚げな微笑みを浮かべる・・・・どう見ても無理して笑っているようにしか思えなかった。

 

今は悪魔であるといっても、元々アーシアは教会のシスターだった。今だって神への信仰心は相当に強い。そんなアーシアだからこそ、教会の非道な計画を聞いて心が痛んでしまったのだろう。

 

アーシアのような純粋で優しい子を追放し、聖剣計画のような非道を行う教会・・・・・神やら救済やらを豪語しているが、俺は教会に対して不信感しか抱くことができなかった。もちろん教会の全てが全てそのような悪意に染まっているわけではなく、ごくごく一部なのかもしれないけれど・・・・

 

「教会も所詮は人間の組織・・・・か」

 

「一誠さん?」

 

「ん?ああ、なんでもないよ。気に・・・・ッ!?」

 

アーシアに適当に誤魔化そうとしたその瞬間・・・・全身に悪寒が走った。

 

アーシアに初めて会っとき、教会に案内したときに近い嫌な感覚・・・・それを俺の家の方から感じた。

 

「い、一誠さん。これ・・・・・」

 

どうやらアーシアも感じ取ったようで、声も体も震えていた。

 

間違いない・・・・・今俺の家にいる。天使か堕天使か、教会の関係者なのかはわからないが・・・・悪魔である俺にとって害となる存在が俺の家に・・・・

 

俺の家・・・・今の時間、家には・・・・・

 

「母さん!」

 

俺は玄関を開き、急いで家の中に入った。もしもこの家にいるのがフリードのような異常者だったら・・・・そう思うと不安で不安でたまらなかった。俺は本物の『兵藤一誠』ではないけれど・・・・それでもあの人は大切な母親だから。

 

リビングの方から話し声が聞こえる。確認しようとリビングの扉を開いた俺の目に映るのは・・・・

 

「・・・・・え?」

 

俺の目に真っ先に映るのは・・・・・懐かしい少女だった。

 

最後に会った時よりもずっと女性らしくなっていた。それでも、ひと目で誰なのかわかった。栗色の髪をツインテールにしたその少女は俺の幼馴染の・・・・・紫藤イリナだった、

 

「・・・・・久しぶりだね一誠くん。本当に・・・・久しぶり」

 

俺に向かって笑顔を向けてくるイリナ。

 

その笑顔は・・・・どこか悲しげに見えた。

 

 

 

 




再会した一誠さんとイリナさん

イリナさんはこの物語における最重要人物の一人になりますので・・・・・果てさてどうなるか

それでは次回もまたお楽しみに!


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第31話

イリナさんと再会した一誠さん。果たして何を思うのか・・・・

それでは本編どうぞ


「・・・・・一誠くん」

 

リビングの椅子に腰を下ろしていたイリナは、立ち上がり俺の近くへと歩み寄ってきた。

 

「思ったよりも背は高くないのね。だけど凛々しくて体つきもがっしりしてる。それに・・・・・うん、元気そうで良かったわ。変わりなく・・・・・というわけでは無いようだけど」

 

俺の全身を見ながら言うイリナ。この口ぶりからして・・・・・おそらく気づいている。俺が悪魔であるということに。

 

「お前は・・・・女の子っぽくなったな。昔は男に見間違うような格好でヤンチャしてたっていうのに」

 

「昔はまあ・・・・うん、そうだったわね。私が無茶なことするたびに一誠くんは付き合ってくれて・・・・私が木登りして落ちた時も助けてくれたわよね」

 

「そんなこともあったな・・・・・そのイリナが教会の聖職者だなんて思いもしなかったよ」

 

「それは・・・・・お互い様よ」

 

傍から見ると・・・・母さんからしたら、久しぶりに再会した幼馴染の和やかな会話に見えるのかもしれない。だけど実際は違う。お互い腹の探り合いをしているんだ。俺もイリナも・・・・・立場上、敵同士なのだから。

 

「・・・おばさま、今日はこれで失礼しますわ」

 

「あら?もっとゆっくりしていってくれてもいいのよ?」

 

「それはまたの機会にさせていただきます。行きましょうゼノヴィア」

 

「・・・・ああ」

 

イリナが同じ教会のエクソシストらしい青髪に緑のメッシュを入れた女性に声をかけると、女性は返事を返して立ち上がる。

 

「それじゃあ一誠くん、またね」

 

ニコリと微笑みを浮かべた後、同行者と共にイリナはうちをあとにする。また・・・・ということは、近々また会う予定があるということだろ。

 

それは敵として相対すということか、それとも・・・・・・

 

「イリナちゃん、本当に可愛くなったわね。それに一誠と同い年なのに教会で働いているそうよ?すごいわね」

 

「・・・・・・・」

 

母さんが何か言っているけど・・・・それは俺の頭の中に入ってこなかった。俺の頭の中は今・・・・・イリナのことで一杯だった。

 

「一誠さん?大丈夫ですか?」

 

俺の様子がおかしいと思ったらしく、アーシアが心配そうに声をかけてくる。

 

「ああ、大丈夫だよ・・・・・今日はちょっと疲れちゃってさ。部屋で休んでくるよ」

 

そう言い残して、俺はリビングをあとにして自室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一誠さん・・・・・本当に大丈夫でしょうか?」

 

一誠さんがリビングをあとにして、自室へと戻っていった一誠さん。一精さんは大丈夫だと言っていましたが、私は心配せずにはいられませんでした。先程までこの家にいたエクソシストの女性の一人とお知り合いだったようですが・・・・・

 

「彼女のこと・・・・・イリナちゃんのこと気になる?」

 

私の心内を見透かしたように、お母様が私に尋ねてくる。

 

「はい・・・・・彼女は一誠さんのお知り合いなんですか?」

 

「一誠とイリナちゃんは幼馴染よ。イリナちゃんは小学校に上がる前に外国に引っ越して行っちゃったんだけど、昔は毎日のように二人で遊んでたわ」

 

一誠さんと毎日のように・・・・・幼い時の話ですが羨ましいです。

 

「・・・・思い返してみると、一誠はイリナちゃんと一緒にいた時、一番笑っていたのよね」

 

「え?」

 

「一誠は昔からやたら大人びててね。あまり笑わないってこともあって友達が少なかったの。あのときは多分友達はイリナちゃんだけだったでしょうね。ヤンチャするイリナちゃんに、ぼやきながらもついていく一誠・・・・・当時はよく見た光景よ。一誠は無自覚かもしれないけど、一誠にとってイリナちゃんは間違いなく特別な子よ」

 

一誠さんにとって特別な・・・・・それってレイナーレ様のような?

 

「だからこそ・・・・・愛する人を失ってしまったばかりの一誠にとってイリナちゃんとの再会は刺激が強すぎたのかもしれないわ。この再会があの子にどんな影響を与えるのか・・・・・私にもわからないわ」

 

一誠さんに与える影響・・・・・彼女はエクソシスト。悪魔である私達とは敵対する関係であるけれど・・・・・

 

その影響がいい影響であることを祈るばかりです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・イリナ」

 

自室に着くなり、ベッドにうつ伏せで倒れるように身を投げ出した俺は、自然とイリナの名を口にしていた。

 

10年以上も前に離れたっきり、連絡も取ることさえせずにいた幼馴染。かつて黒歴史的な約束を交わしてしまっていたが・・・・・俺にとっては大して気に留める相手ではないと思っていた。

 

だけど・・・・それなのに・・・・・

 

「・・・・・クソッ。なんだよこれ?なんでこんな・・・・・」

 

困惑していた。久しぶりに再会した幼馴染に対して異様なまでに感情が湧き上がっていることに。

 

最初に感じたのは喜びだった。懐かしい幼馴染に会えたことで、俺は予想以上に嬉しいと思ったようだ・・・・・こんなに嬉しいと思ったのはいつ以来だろうか?もしかしたらレイナーレを失ったあとは一度も・・・・

 

だが、感じたのは喜びだけではない。喜びの次に感じたのは・・・・・悲しみと怒りだった。

 

再会した幼馴染は・・・・イリナは教会のエクソシストだった。悪魔である俺とは敵同士。何かきっかけがあれば殺し合いに発展する可能性も十分にありうる。そんな関係性が嫌で・・・・・・少し悲しかった。

 

同時に、どうしてそんな関係になってしまっているのかと怒りも感じていた。なんでイリナは教会の人間なのかと。どうして俺と敵対関係にあるのかと、理不尽とわかっていつつも教会に所属したイリナに怒りを感じ得なかった。

 

何なんだ・・・・・なんでイリナと再会しただけで俺はこんなにもかき乱されるんだ?イリナは俺の生きる目的になんの関わりのない存在だというのに・・・・落ち着かない。イラついてくる。

 

イリナ・・・・・・お前は一体何なんだよ?俺にとってさして大事でもない、なんでもないただの幼馴染だったはずなのに・・・・・

 

(随分と困惑しているようだな相棒)

 

頭の中がイリナのことでぐちゃぐちゃにかき乱されている俺に、ドライグが声をかけてくる。

 

(・・・・・ドライグ、今は黙っていてくれ。お前とおしゃべりする余裕はないんだ)

 

(紫藤イリナ・・・・・相棒がよく気にかけていた女だったな。まだ幼かった相棒をよく連れ回していたのを覚えている。その度に呆れてはいたがどこか楽しそうにしている相棒を見るのはなかなか愉快だった)

 

「黙れって言ってるだろ!」

 

俺はつい、声に出してドライグに怒鳴り散らしてしまった。

 

(もし相棒があの女の事を本当になんとも思っていないというなら、そんな風に声を荒げることなどなかっただろう。だが実際はこのザマだ。お前をここまで感情的にさせる女は、紫藤イリナを除いてこれまで一人だけしかいなかった。それはお前の主である悪魔、リアス・グレモリーでも守ると誓った相手、アーシア・アルジェントでもない。それが誰なのか・・・・・俺が言わずともお前は分かっているのだろう?)

 

俺を感情的にさせる女・・・・・・思い当たる人物は一人だけだった。だが俺は、俺の思考はそれを否定する。決して同じだと思いたくない・・・・・否、それが同じだと思うわけにはいかないから。

 

(違う・・・・そうじゃない。そんなはずない。そんなことあるはずない。俺は・・・・俺は・・・・)

 

(自分の気持ちを否定するのか?違うことはない。お前があの紫藤イリナに抱いている感情は、想いはあの女と・・・・・)

 

「違う!」

 

またしても、俺は声を荒げてしまう。それは・・・・自分が必死になって否定しようとしたことの方が違うと言っているようなものであった。

 

(ドライグ・・・・・頼むからもうやめてくれ。この感情を受け入れる訳にはいかないんだ。レイナーレを死なせてしまった俺に・・・・それを受け入れる資格なんてない)

 

(・・・・・そうか。すまなかったな相棒)

 

(いや・・・・・俺の方こそすまないドライグ。ありがとう)

 

ドライグは俺に気を遣ったが故にあんなことを言ったのだろう。それに関しては素直に感謝している。

 

だが・・・・・それでも俺はイリナへの感情を受け入れない。否定しなければならない。

 

その感情は、愛する女を守ることさえできなかった俺が・・・・なにより、『兵藤一誠』の偽物である俺が抱いてはならないものなのだから。

 

 

 

 

 

 




なるべく直接的な表現はしないようにしましたが・・・・一誠さんがイリナさんに抱いている感情はそういうことです

ただ、今の一誠さんはそれを受け入れる気は無いようですが・・・・

それでは次回もまたお楽しみに!


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第32話

今回は部室で交渉のおはなし

そして・・・・・

それでは本編どうぞ


(全く・・・・・面倒な状況になったものだ)

 

放課後のオカ研の部室にて・・・・現在、部室に備え付けられているソファに昨日うちの訪れたイリナとその同行者・・・・ゼノヴィアの二名が腰を下ろしている。どうやらこの二人、この町を治める部長と何らかの交渉を持ちかけるつもりらしい。昨日うちの寄ったのはそのついでといったところだろうか。

 

だが、教会の人間が悪魔と交渉とは・・・・・この町に来ていた神父が惨殺されていると部長が言っていたし、よほど面倒なことがこの町で起きてるということか。

 

しかもさらに面倒なことに・・・・・木場の奴もかなり殺気立っている。イリナとゼノヴィアのことを忌々しそうに見ているからな。やはり教会の人間への憎悪は抑えきれないか・・・・先日話をして少しは頭を冷やしてくれると思ってた矢先にこれとは本当に間が悪い。

 

まあ、それについてはイリナだから仕方がないとも言えるか。昔からタイミングを考えずに俺を振り回すものだから俺は困惑しまくってたからな。わざとではないんだろうがあいつのそういうところはどうにかならないものか・・・・

 

(相棒、勝手にモノローグを読んですまないが変なふうに逸れてきているぞ?)

 

ドライグに指摘され、確かになにか変な方向に思考が逸れていってることに気がつく・・・・・うん、今はとにかく交渉を見守るとしようか。

 

「先日、カトリック教会本部ヴァチカン及び、プロテスタント側、正教会側で管理、保管されていたエクスカリバーが奪われました」

 

話を切り出したのはイリナだった。教会で保管されてたエクスカリバーが奪われたって・・・・なんでよりにもよってエクスカリバーなんだよ。タイムリーすぎるだろ。おかげで木場のやつ、表情がさらに険しくしやがった。

 

それにしても、エクスカリバーの強奪か・・・・・過去の大戦で折れて、今は錬金術で7本に分割されたってことは調べて知っているが、それでも強力な聖剣だ。警備も厳重だというのにそう簡単に奪われるものか?

 

「・・・・下手人は?」

 

部長も俺と同じ考えに至ったらしく、イリナ達に尋ねた。

 

「堕天使の組織・・・・グリゴリの幹部、コカビエルだ」

 

「「「ッ!?」」」

 

出てきた名前に、俺を含めた眷属全員が身体をこわばらせた。堕天使の組織が教会から聖剣を強奪・・・・それもコカビエルといえば聖書にも記された堕天使だ。こうなると事態は深刻だと言わざるを得ない・・・・ヘタをすれば天使、堕天使間の戦争の種火にもなりかねない。

 

「それをわざわざ私達に教えるということは・・・・・エクスカリバーとコカビエルの所在は・・・・」

 

「ええ。コカビエルはこの町に奪ったエクスカリバーを持ち込んでいるわ」

 

だろうな。でなければこの話を俺たちにする意味がない。

 

「つまりあなたたちがここに居るのはグリゴリからエクスカリバーを奪還するためということね」

 

「ああ。7本のエスクカリバーのうち、カトリック、プロテスタント、正教会から1本ずつ・・・・つまり3本のエクスカリバー奪われがこの地に待ちこまれた。私はカトリック、イリナはプロテスタントから残ったエクスカリバーを託され、奪われたエクスカリバーの奪還を命じられたというわけさ」

 

二人だけで奪還・・・・相手はグリゴリ、そして堕天使の幹部コカビエル。

 

(ドライグ・・・・どう思う?)

 

(無謀以外のなにものでもないな。コカビエルはかつて神や魔王と渡り合った堕天使だ。その実力は折り紙つき・・・・少なくとも小娘二人でどうにかできる相手ではない)

 

まあ、そうだろうな・・・・・二人の実力は知らないが、流石にコカビエル相手では・・・・

 

「・・・・・まさか交渉の内容というのはその奪還に私達に協力しろってわけではないわよね?」

 

部長もこの任務の無謀さを理解しているようだ。けどまあ、協力云々のことは本気で言っているわけではないだろう。部長もわかっているはずだ・・・・・教会が悪魔と手を組むことを良しとするはずがないと。

 

「いいえ、その逆。私たちから一切の協力を要請しない。あなたたち悪魔には今回の一件に関わらないで欲しいの」

 

やっぱりそうきたか。清廉潔白を謳う教会が悪魔と協力だなんてありえない。だからこの交渉は・・・・・牽制だ。

 

「見くびられたものね・・・・私たちが堕天使に助力するとでも思っているの?」

 

「本部はその可能性も憂慮している」

 

「それは無いわ。グレモリーの名にかけて、卑劣な堕天使と手を組むだなんてありえないわ。当然、あなたたちに協力するつもりもないけれど」

 

まあ妥当な判断だな。この状況で下手に動けば三すくみの関係性に影響を与えかねない。それを避けるためにも手出ししないほうがいいに決まってる。

 

そうに決まっているんだが・・・・・なんでだ?なんで俺は・・・・・心の底から納得することができないんだ?

 

「だけど二人だけでことに当たるだなんて・・・・・あなたたち、死ぬ気?」

 

「ええ、そうよ」

 

「ッ!?」

 

部長の問いかけに、さも当然のように答えるイリナ。それを聞いて俺は、思わず強く拳を握ってしまった。幸い、誰にも見られてはいないようだが・・・・

 

「教会は堕天使の手に渡るぐらいならエクスカリバーを全て消滅させても構わないと判断した。私たちの役割は最低でもエクスカリバーを堕天使の手から無くすことだ」

 

「そのためなら私たちはこの身を捧げる所存よ。エクスカリバーに対抗できるのはエクスカリバーだけなのよ」

 

「相変わらずあなた達の信仰は常軌を逸しているわね・・・・」

 

イリナとゼノヴィアの発言に、部長が呆れたように言う。教会の命令を、命をかけて全うする・・・・・言葉にすればそれはなんとも聞こえのいいものだ。だが、俺には教会が二人の使い捨ての駒にしているようにしか思えない。

 

それも全て聖書に記された神への信仰のためだというのなら・・・・・やはりそれはあまりにも残酷だと言わざるを得ない。アーシアの件や木場の件含めて教会への不信感は一層強くなった。

 

「本当に、たった二人で可能だと思っているのかしら?」

 

「無駄死にするつもりはないさ。そのための奥の手もある」

 

「そう・・・・・まあ、協力するわけでもないのだから、これ以上深入りはしないわ。頑張りなさい」

 

「悪魔から応援されても大して嬉しくもないが、一応受け取っておこう。イリナ、帰るぞ」

 

「・・・・・ごめんなさいゼノヴィア。ちょっと待ってて」

 

イリナと共に部室からさろうとするゼノヴィアであったが、イリナはゼノヴィアに断りを入れて・・・・・俺の前に歩み寄ってきた。

 

「一誠くん・・・・・聞かせて。どうして悪魔になったの?」

 

イリナは悲しそうな表情を浮かべ、俺を見つめながら尋ねてきた。表情からして俺が悪魔になったのを快く思っていないんだろうな。

 

「・・・・・答える必要はない」

 

俺は・・・・悪魔になった理由をイリナに話すつもりはなかった。そんなこと・・・・・わざわざ言う必要はない。

 

「教えて」

 

「断る」

 

「どうして教えてくれないの?」

 

「教えたくないからだ」

 

しつこく食い下がってくるイリナ。だが俺は話さない。話したくない・・・・・イリナには特に。

 

「私・・・・幼馴染なんだよ?一誠くんの幼馴染なのに・・・・それでも教えてくれないの?」

 

「・・・・・だからどうした?」

 

「え?」

 

「幼馴染だからどうしたって言うんだ?それが教える理由になるとでも思っているのか?だとしたらおめでたいな」

 

「ッ!?」

 

俺はイリナが怒るとわかっていて、わざと辛辣な言葉を投げかけた。予想通りイリナは表情をこわばらせるが・・・・・俺も心が痛むのを感じた。

 

「幼馴染だからどうしたって・・・・本気で言ってるの?私は一誠くんのこと・・・・・」

 

「幼馴染だから大切に思っていたか?それはありがたいが・・・・悪いが俺はそうじゃない。今の俺は悪魔で、イリナは教会の人間。今ことを構えることはなくても、立場上俺達は敵同士。この立場はたかが幼馴染というだけで覆るものじゃない」

 

ごめん・・・・・ごめんイリナ。本当はこんなこと言いたくはない。だけど・・・・それでも俺はイリナを否定しなければならない。イリナへの想いを受け入れるわけにはいかないから。

 

「だから私に悪魔になった理由を教えてくれないっていうの?」

 

「そうだ。わかったら早く帰れ。昔のよしみで任務がうまくいくように祈るぐらいのことはしてやるからさ」

 

「・・・・嫌」

 

「え?」

 

「嫌よ!一誠くんが悪魔になった理由を教えてもらうまで帰らない!だから教えて!」

 

教えてもらえないことに業を煮やしたのか、声を荒げるイリナ。言ってることはめちゃくちゃだが・・・・それはまあ俺も人のことは言えない。

 

「わがまま言うな。お前には任務があるんだろ?任務と俺が悪魔になった理由を聞くこと・・・・・どっちが大事なんだよ?」

 

「それは・・・・・でも・・・・!」

 

「イリナ・・・・・その悪魔の言うとおりだ。私たちにこんなところでのんびりしている暇はない。早く行くぞ」

 

ゼノヴィアが俺の言葉に同調し、イリナを連れて行こうとする。これでようやく終わると思ったが・・・・

 

「だったら・・・・だったら私と戦って一誠くん」

 

「・・・・は?」

 

イリナの言ってることの意味が分からず、俺は思わず間の抜けた声を出してしまった。

 

「私と戦って・・・・私が勝ったら一誠くんが悪魔になった理由を教えて」

 

なるほど、そういうことか。正直イリナと戦いたくはないんだが・・・・だけど、これを利用すれば・・・・

 

「・・・・・わかった。その勝負受けてたとう」

 

「一誠!?何を言ってるの!?」

 

主である自分の許可も取らずに、勝手に勝負を受けた俺を咎めるように声をあげる部長。申し訳ないが・・・・今回は我を通させてもらう。

 

「イリナが勝ったら俺が悪魔になった理由を教えてやる。だが・・・・俺が勝ったらもう詮索するな」

 

「ええ、それでいいわ」

 

よし、これで勝てればもう詮索されなくて済む。それに・・・・きっと、イリナからの心象も悪くすることができるだろうからな。

 

それでいい・・・・それできっと・・・・・

 

「ダメよ一誠!そんなこと許可・・・・」

 

「ちょうどいい・・・・・僕も一枚噛ませてもらおうかな」

 

止めようとする部長を遮るようにして、これまで沈黙していた木場が前に出てきた。

 

「誰だ君は?」

 

「・・・・君たちの先輩だよ。失敗作だけどね」

 

木場が不敵な笑みを浮かべると同時に、部室内に無数の魔剣が出現する。

 

(・・・・・木場も焚きつけてしまったか。これはちょっと面倒なことになってしまったが仕方ないか)

 

内心でぼやきつつ、俺は右手で赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の宿る左手を触れながらイリナを見据えた。

 




原作とは違う経緯で一誠さんVSイリナさんの展開となりました

おかげでアーシアさんが貶められることはなかったけど・・・・

それでは次回もまたお楽しみに!


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第33話

今回は一誠さん対イリナさんのおはなし

ただラストで・・・・

それでは本編どうぞ


「一誠くん・・・・」

 

「・・・・・」

 

旧校舎の裏手にある開けた場所で、俺とイリナは向かい合っていた。少し離れたところでは木場とゼノヴィアも同じように向き合っている。

 

これから俺はイリナと、木場はゼノヴィアと戦う。部長は渋っていたけれど、やらせないと事態を収めることができないからと了承してくれた。朱乃先輩が結界を張ってくれているから、互いに殺さないように配慮しつつも、存分に戦うことができそうだ。まあ、木場はともかく俺は必要最小限で済ますつもりだけどな。

 

「一誠くん、私本気でいくから覚悟してね?」

 

イリナは腕に巻いていた紐に手をかける。すると紐は形を変えて日本刀のような形をとった。

 

「それがイリナのエクスカリバーか」

 

「そうよ。擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)。形を自由に変えることができる聖剣よ」

 

律儀に能力を教えてくれるイリナ。おそらく、教会の戦士としてこれまで戦ってきた経験があるから自分の方が有利だと考え能力を教えてくれたのだろう。イリナに甘く見られたことは癪だが、情報が得られたのは好都合だ。

 

(ドライグ。俺があの刃に触れたらどうなる?)

 

(分割されているとはいえエクスカリバーほどの聖剣だ。一撃でも相当なダメージを負うだろう)

 

つまり、一撃たりとも食らったらアウトということか・・・・・流石に聖剣相手では相性的には圧倒的不利だな。しかも能力からして斬撃中に形を変えてきて回避が難しくなるかもしれない・・・・まあ、だからといって負ける気は毛頭ないが。

 

「一誠くん、今からでも悪魔になった理由を教えてくれれば退くわよ?」

 

「冗談。負ける気が一切しないのに降参なんてしないさ」

 

『BOOST!!』

 

イリナの申し出を断りながら、俺は左手に赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を展開する。

 

「それって・・・・まさか、赤龍帝の籠手!?」

 

赤龍帝の籠手を目にしたイリナは予想外だったのか、驚きをあらわにする。

 

「ああ。俺は今代の赤龍帝だ。そして、その名に恥じない力を身につけているつもりさ。イリナの方こそ降参したらどうだ?」

 

「ッ!?私を甘く見ないで!」

 

俺の挑発で気を悪くしたのか、はたまた赤龍帝の籠手の能力を鑑みたためか、イリナは一気に接近して剣を振り下ろしてくる。俺はその斬撃を後ろに大きく跳躍することで躱した。

 

(やはり斬撃の際、わずかに形を変えているな。紙一重で躱そうとしたらバッサリ斬られるな。かといって今みたいに大きく躱すとこちらから攻撃もしにくい・・・・だったら)

 

「はっ!!」

 

「・・・・・赤龍の爪(ドラゴン・ネイル)

 

再び接近して斬りかかってくるイリナ。俺はイリナの斬撃を右手に赤龍の爪を展開して受け止めた。

 

「赤い・・・・爪?」

 

「魔力で作った爪だよ。思ったとおり、聖剣は悪魔に致命傷を負わせることはできても、魔力まで問答無用で斬ることはできないようだな」

 

「私と斬り合うつもり?」

 

「ああ、そのつもりだ!」

 

腕を振るって剣を弾き、今度は俺が爪でイリナに斬りかかる。イリナはそれを躱そうとするが・・・・俺はその動きに合わせて爪の形をわずかに変えた。爪はイリナの体を捉えることはなかったが、首から下げていた十字架の鎖を切り裂き、十字架は地面に落ちた。

 

「今の・・・・・私の斬撃を真似したの?」

 

「ああ。といっても見様見真似だからうまくは決まらなかったが・・・・・あと何回かやれば慣れるだろう」

 

「だったらその前に終わらせてあげるわ!」

 

俺に攻撃をさせる暇を与えないようにと、連続で斬りかかってくるイリナ。教会の戦士として戦ってきた経験は伊達ではないようで、斬撃は鋭く早い。だが・・・・俺を仕留めるには足りない。俺はイリナの斬撃を悉く爪で防いだ。

 

(残念だなイリナ・・・・・やっぱりお前じゃ俺には勝てないよ)

 

俺は心内で自身の勝利を確信し、迫り来るイリナの斬撃を防いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一誠・・・・祐斗」

 

なし崩し的に始まってしまった決闘・・・・私はそれを目にすることが辛かった。

 

憎悪を刃に込めて斬りかかる祐斗。溢れ出る復讐心で普段穏やかな表情は酷く暗く、歪んでしまっている。その表情から祐斗の復讐心は私が思っている以上に根が深いことを理解してしまい・・・・主として、そんな感情で突き動かされる祐斗を見ると胸が酷く痛んだ。

 

祐斗は自分だけでなく、聖剣計画の被害者全員の無念を背負ってしまっている。祐斗の復讐心は、きっと正当なもの。祐斗の優しさ故だ。それは祐斗の美点ではあるけれども・・・・素直に祐斗の応援をすることは私にできない。私に出来ることはただ祐斗が憎悪に飲まれ、取り返しのつかない領域に至ってしまわぬように願うだけだった。

 

それだけでも十分に辛いのに・・・・・一誠の方も酷い。

 

幼馴染であるという栗色の髪の少女、紫藤イリナと戦う一誠。紫藤さんは一誠が悪魔になった理由を知るため戦い、一誠はその理由を知られたくないから戦っている。紫藤さんがそれを知りたがっているのは・・・・きっと紫藤さんが一誠に特別な感情を抱いているからでしょう。

 

けれど・・・・だからこそこの戦いは酷く哀れなものに感じられた。

 

一誠が悪魔になった理由・・・・・それは愛する女、堕天使レイナーレに殺されたから。きっと一誠はそれをただ知られたくないから戦っているわけではない。一誠はそれを・・・・・紫藤さんに知られたくないから戦っているのだと私は思う。

 

私の目から見てもわかる。一誠もまた、紫藤さんに対して特別な感情を抱いていると。だからこそ突き放そうとするし、悪魔になった理由を知られたくないのだろう。レイナーレを失い、自分を責める一誠にとっておそらく紫藤さんは・・・・特別であると同時に、受け入れることができない存在なのだろうから。

 

私はその戦いを見ていることしかできなかった。いや、本当は見ることさえ嫌だった。

 

一誠も紫藤さんも・・・・戦いながら浮かべる表情は酷く悲痛なものであった。お互い、大切な相手とこうして戦うことなど望んでいないということがひしひしと伝わってくる。

 

それでも二人は戦っている。二人共互いを想っている故に・・・・戦っている。

 

(私は・・・・・私にはどうすることもできない。一誠も祐斗も・・・・この戦いを止められない)

 

私は己の無力さに苛立ち、拳を握り締めることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

連続で剣を振るうイリナ。それを爪で防ぐ俺。一見するとイリナの方が圧しているいるように見えるであろう光景だが、実際追い詰められているのはイリナの方だろう。斬りかかるたびに、太刀筋が少しずつ荒くなっていくし、表情も苦々しげだ。十中八九、イリナは早く決着をつけようと焦っている。

 

どれほど剣を振ろうと俺には当たらず、時間だけが過ぎていく・・・・それは時間経過と共に力を倍加させる赤龍帝の籠手を持つ俺を相手にしているイリナにとっては不都合だろう。だからこそ、イリナが赤龍帝の籠手の力を解放される前に俺を倒そうと躍起になるのは無理もないことだが、それを焦りを生み、戦い方が荒くなってしまっている。荒くなれば対処が容易になり、さらに時間が稼ぎやすくなって倍加を重ねることができる・・・・イリナからすれば負の連鎖だ。

 

だがまあ・・・・いい加減決着をつけよう。これ以上時間を稼ぐのは無意味だしな。

 

『Explosion!!』

 

「ッ!?」

 

溜め込んでいた力を解放すると、イリナは後方に飛び退いて俺から距離を取ろうとする。正しい判断なのだろうが、その動きを読んでいた俺からしたらそれは悪手だった。

 

赤龍の尾(ドラゴン・テイル)

 

「きゃっ!?このっ・・・・!!」

 

後方に飛び退いたイリナを、魔力で作った尾で捉える。腕を巻き込んで拘束しているため剣を振るうことはできず、イリナは振りほどこうとするが強化された魔力で作った尾は全くビクともしない。

 

「イリナ・・・・俺の勝ちだ」

 

抵抗するイリナを引き寄せ、イリナの顔の前に爪を突き出す。あとほんのわずかこちらに引き寄せれば、爪はイリナの顔に触れる。尾で動きを封じられているイリナに、それを回避する術も、防ぐ術も存在していない。

 

誰が見ても文句のない・・・・・俺の勝利だった。

 

「あ・・・・・」

 

一瞬、何か言おうとしたイリナだったが、俯いて黙り込んでしまった。悔しながら敗北を受け入れた・・・・と見ていいだろう。ひとまず爪と尾は解除しよう。

 

「イリナ、約束通りもう俺が悪魔になった理由については詮索するなよ?」

 

「・・・・・・」

 

声をかけるが、イリナは返事を返さない。まあ、イリナが約束を反故にするとは思えないから大丈夫だろう。

 

俺はイリナをおいて、部長達の下へ戻ろうとするが・・・・俺の服の袖をイリナが掴んで阻んだ。

 

「イリナ?なにを・・・・」

 

「うっ・・・・・ふぇぇぇぇぇぇん!!」

 

「いっ!?」

 

あまりにも突然だった。突然イリナは大粒の涙を流し、泣き始めたのだ。

 

「イ、イリナ!?お前なに泣いて・・・」

 

「一誠くんに・・・・一誠くんに負けちゃたぁ!一誠くんが悪魔になった理由教えてくれないぃ!うえぇぇぇぇぇん!!」

 

「はあっ!?」

 

こいつ・・・・自分から勝負ふっかけておいて負けて大泣きするとかないだろ!?どんだけ子供なんだよ!?

 

「ま、まてイリナ!だからってそんな泣くことじゃ・・・・」

 

「うえぇぇぇぇぇぇん!!」

 

「いや、だから泣くなって!!」

 

俺の声など聞こえないといった様子で泣き喚くイリナ。どうしていいかわからず、部長達の方に視線を向けるが・・・・・部長達は『あ~あ。泣かせた』と言わんばかりの目で俺を見ていた。

 

「・・・・・悪魔というのはやはり最低だな。イリナをあんなに泣かせるなんて・・・・」

 

「一誠くん、それはないよ」

 

少し離れたところで戦っていた木場とゼノヴィアにまで白い目を向けられる。こいつら戦ってる最中なのになんで意気投合してるんだよ。というか、立場的に味方に近いはずの木場までなんで俺を貶めるんだ。

 

(な、なんで俺が悪いみたいになってるんだよ?俺悪くないぞ?)

 

(相棒、いつだって女を泣かせる男は悪者になるんだ。今回は相棒が悪い)

 

(ドライグまで何言ってるんだよ!?)

 

ついには相棒であるドライグにまで責められる始末だ。俺が何をしたって言うんだ・・・・ただ決闘で勝っただけだというのに。卑怯なこととかも別にしてないのに。

 

ええいくそっ・・・・・とにかく今はイリナをどうにしかしなだめなければ。

 

「イ、イリナ?俺が悪かった。謝るから泣き止んでくれ、というか泣き止んでくださいお願いします」

 

ひとまずかがんでイリナと目線を合わせ、謝罪する。なんか釈然としないが今は泣き止ませることが先決だ。

 

「ぐすっ・・・・じゃあ悪魔になった理由教えてくれる?」

 

「いや、それは無理だけど・・・・」

 

「うえぇぇぇぇぇぇん!一誠くんが教えてくれないぃ!!一誠くんの馬鹿ぁ!!」

 

「だからなんでだよ!?」

 

勝ったら教えないって約束で戦ってたのに、教えなかったら泣かれるってこれほど理不尽なこともそうそうないぞ。しかも思い切り馬鹿とか言われて完全に悪者扱いだし・・・・

 

「ああ、もう・・・・・誰か助けてくれ」

 

「一誠くんの馬鹿ぁ!悪魔ぁ!」

 

ひたすらに理不尽な罵りを受ける俺は、とりあえずイリナの頭を撫でて宥めることにした。

 

 




一誠さんに負けて号泣するイリナさん。そんなイリナさんをオロオロしながらなだめようとする一誠さん

シリアス多めだったから楽しかった(オイ)

それでは次回もまたお楽しみに!


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第34話

前回は最後でシリアスブレイクしましたがまたシリアスに戻ります

この章本当にシリアスばっかだなぁ・・・・

それでは本編どうぞ


「一誠さん、お疲れ様です」

 

「ああ・・・・・ありがとうアーシア」

 

あのあと、どうにかイリナを泣き止ませることができた俺に、アーシアがねぎらいの言葉をかけてくる。アーシアの笑顔を見ると少しは疲れも取れるが、同情がこもっているように思えて複雑な気分になる。

 

ちなみにそのイリナはというと・・・・・泣き止みはしたが、むっとした表情で俺の方を見ている。下手に視線を合わせてしまうとまた面倒なことになりそうだったのでとりあえずイリナはスルーしよう。

 

それよりもだ・・・・木場の方はどうなっているか気になるな。戦いながら横目では見ていたが、あまりちゃんと見れてなかったから把握できていないからな。

 

「・・・・・はあ、ダメだなあれは」

 

木場の戦い様を見て、俺は思わず呆れてしまった。今の木場からは普段の冷静さも、巧みなテクニックも一切見られない。激情に駆られ、常の戦いができなくなってしまっている。しまいには破壊力重視の魔剣を想像して斬りかかる始末だ。パワータイプではない木場の力任せな斬撃と破壊力が自慢らしいゼノヴィアの斬撃・・・・どっちが勝つのかなんて火を見るより明らかだ。木場の魔剣はいとも容易く砕け、ゼノヴィアが剣の柄を木場の腹部に叩き込んで木場は膝をついた。柄とはいえ聖剣の一撃だ。あれではもう立ち上がれれないだろう。

 

「まだだ。まだ僕は・・・・」

 

既に戦えない状態だというのに、執念で立ち上がろうとする木場。木場の復讐心は理解できるし、それを邪魔するつもりは毛頭ない。だが・・・・・これは流石に見過ごせないな。

 

「そこまでにしておけ木場」

 

俺は立ち上がろうとする木場に近づき、肩に手をおいて動きを制した。

 

「邪魔をしないでくれ一誠くん。君ならわかるはずだ。僕はここで立ち上がらなければならないんだ。立ち上がってエクスカリバーをこの手で破壊しなければ・・・・・」

 

「確かにその復讐心は理解できる。だが、立ち上がったところで今のお前ではゼノヴィアに勝つことは・・・・聖剣を破壊することは不可能だ。常の戦い方ができないお前ではな」

 

いつもの木場であったならまだ勝負はわからなかった。武器の性能に差はあれど、それでも俊敏性とテクニックを活かした戦いができれば決して高くはないが勝率はある。だが、そのいつもの戦いができない以上、木場は自分から勝ちの目を捨てているようなものだ。これ以上戦っても時間の無駄だろう。

 

「そんなことない!僕は・・・・」

 

「木場祐斗!」

 

「ッ!?」

 

俺が威圧すると、木場はびくりと体を震わせてた。

 

「気持ちはわかる。だがここは諦めろ。ここで退けないようでは、それこそ復讐など無理だ」

 

復讐心を理解しているとは言え、木場に無駄な戦いをさせて負傷させて部長を悲しませるわけにはいかないからな。まあ、さっきまでイリナと戦っていた俺が言うべきことではないだろうが。

 

「・・・・・くそっ!」

 

ようやく諦めたのか、木場は悔しそうに地面に拳を叩きつけた。

 

「・・・・決闘はこれで終わりだ。お前達はさっさと任務に戻れ」

 

「君は私と戦わないのか?私はその魔剣使いに勝ち、君はイリナに勝った。ならば次は私達が戦うべきだと思うのだが?」

 

ゼノヴィアは俺に剣の切っ先を向けながら尋ねてくる。

 

「イリナとは戦う理由があったから戦ったまでだ。俺があんたと戦う理由はないよ。木場の報復もするつもりはないしね。それとも君はイリナの報復を考えていたのか?」

 

「・・・・いいや。君に戦うつもりがないのなら私も退くさ」

 

ゼノヴィアは剣をしまい、ローブを身に纏う。これ以上戦う気は無さそうだ。

 

「リアス・グレモリー、先程の話はよろしく頼むよ。それと赤龍帝はともかくそこの魔剣使いはもっと鍛えたほうがいい。センスだけ磨いても限界がある」

 

「・・・・ええ。ご忠告ありがとう」

 

口では感謝の言葉を述べているが、部長の表情は複雑そうだった。まあ、敵対する相手から言われてしまったのだから素直には受け取れないということだろう。

 

「行こうイリナ。任務に戻るぞ」

 

「・・・・・」

 

ゼノヴィアに促されるイリナであったが、イリナは動こうとはしなかった。動かずに・・・・俺の方に視線を向けている。

 

「相棒が呼んでいるぞ。決闘に負けた以上、俺にはもう用は無いはずだ」

 

「・・・・・わかってるわ。またね一誠くん」

 

俺に言われると、イリナは渋々といった様子で踵を返してゼノヴィアの下へ向かった。

 

にしても『またね』か・・・・・立場もあるし、個人的にはもう二度と会わない方がいいと思うんだがな。

 

「赤龍帝。最後に一つだけ君に言っておく。白い龍・・・・白龍皇は既に目覚め、力を備えている」

 

「・・・・・なに?」

 

白龍皇・・・・俺の宿敵が力を・・・・

 

「君も相当な実力者であるようだが、せいぜい警戒はしておくんだな」

 

それだけ伝えると、ゼノヴィアはその場から去っていく。イリナもまた。最後に俺を一瞥した後にゼノヴィアのあとを追っていった。

 

(・・・・・俺達の宿敵は既に目覚めているそうだぞ)

 

(そのようだな。さっきの女の口ぶりからして、今代の白龍皇は相当な実力者のようだ。用心しておけ相棒)

 

(わかってるさ)

 

白龍皇には負けない。この手で打ち倒してみせる。それが俺の・・・・・生きる目的の一つなのだから。

 

「待ちなさい祐斗!」

 

俺が白龍皇の打倒を心に誓っていると、部長の声が聞こえてきた。声のする方を見ると、どこかに行こうとする木場とそれを引き止める部長の姿があった。

 

おそらく、木場は聖剣を破壊するために動こうとしているのだろうが・・・・

 

「あなたは私の眷属、『騎士(ナイト)』なのよ!『はぐれ』にねってもらうわけにはいかないわ!」

 

部長は木場の腕を掴む。だが、木場は部長の腕を振り払って歩みを進める。

 

「僕は同志たちのおかげで逃げられた。逃げて悪魔になって復讐の機会を得られた。皆の恨みを晴らすためにも・・・・・僕は魔剣に恨みを込めないといけないんだ」

 

木場・・・・・こいつは自分だけじゃない。犠牲になった他の者達の無念さえ晴らそうとしている。それを犠牲者達が望む望まないにかかわらず・・・・木場は復讐に駆られている。

 

「・・・・木場、さっきのような戦いしかできないのなら復讐は果たせないぞ?」

 

俺は木場の前に立ち、告げた。

 

「・・・・一誠くん。君が羨ましいよ」

 

「なに?」

 

「僕も・・・・・君のような全てをねじ伏せるほどの力が欲しかった。そうすれば復讐だってもっと簡単に・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「アドバイスありがとう一誠くん。今度はちゃんといつもどおりに戦うよ」

 

「祐斗・・・・」

 

俺の横を通り、木場は去っていく。部長は木場の名を呟くが、先程のように腕を掴んでまで無止めようとはしなかった。それは木場の意を汲んだからではなく・・・・・止めても無駄だとわかっているからだろう。

 

(いいのか相棒?あの男、あのままでは復讐で身を焦がし・・・・破滅するぞ?)

 

(かもしれないな。だけど・・・・復讐に手を染めた俺が無理に木場を止めることなんてできないさ)

 

さっきはやっても無駄だとわかっていたから止めた。だが、今度は止める理由がない。復讐そのものを止めることなど・・・・・できるはずがない。

 

だが、止められないというなら・・・・・それならそれでできることはある。復讐を止められないなら俺は木場の手助けをするだけ・・・

 

『一誠くん・・・・』

 

「ッ!?」

 

なんだ?なんで今・・・・・イリナのことを?イリナは何も関係ないのに・・・・ああ、くそっ・・・・イリナと会ってから調子が狂う。

 

何なんだよこれ・・・・・一体どうして?

 




最後のあれは・・・・まあ、一誠さんが木場さんに協力しようとしているのは木場さんのためだけではないということです

むしろ木場さんのためというよりはイリナさんの・・・・

それでは次回もまたお楽しみに!


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第35話

今回もまたシリアスブレイクが・・・・?

それでは本編どうぞ


イリナ達の来訪の翌日の放課後、俺は町に出てきていた。目的はイリナ達と接触して交渉を行うためだ。

 

だが・・・・

 

「・・・・小猫、なんで居るんだ?」

 

俺は隣について歩く小猫に尋ねる。

 

「怪しい動きをしていたのでつけてきました」

 

「尾行か。だったらなんでわざわざ俺の前に出てきたんだ?尾行なら普通姿を現さないだろう?」

 

「私では一誠先輩相手に尾行し続けるのは無理です。気づかれて撒かれるぐらいなら出てきて事情を聞いたほうがいいと判断しました」

 

なるほど・・・・確かに尾行され続けていれば途中で気づいて撒こうとしてただろう。こうして俺の前に出てきたのは正しい判断かもしれない。

 

「一誠先輩、一体何をしようとしているんですか?」

 

「・・・・話したら部長に報告するのか?」

 

「話の内容次第です」

 

内容次第か。このまま話さずにいたら部長に報告されるだろう。話したとしても報告されるかもしれないが・・・・まだ話したほうがよさそうだ。

 

「・・・・・イリナ達に接触する。交渉したいんだ」

 

「エクスカリバーの件ですか?」

 

「ああ」

 

単独で動こうかとも思ったんだが、いざというとき鉢合わせになるとあとが面倒だからな・・・・決して、決して決して決してイリナと会うためなどではない。というか二度と会いたくないと思ってたし。会ったら厄介なことになるってわかりきってるし。また泣かれでもしたら最悪だし。断じてイリナに会うためとかじゃない」

 

「一誠先輩、途中から声にでてます」

 

「・・・・え?」

 

こ、声に出てた?今のが・・・・?

 

(相棒、お前は本当に時々やらかすな)

 

やめろドライグ。俺の傷をえぐるんじゃない。今羞恥心で死にたい気分だんだから。

 

「・・・・一誠先輩、私も協力します」

 

羞恥心で悶えそうになっていた俺に、小猫が言う。というかさっきのは触れないんだな・・・・まあ俺としては助かるが。

 

「祐斗先輩のため・・・・なんですよね?だったら私も手伝います。私も祐斗先輩のために何かしたいです」

 

木場のために、仲間のためにか・・・・小猫の目からは強い決意を感じる。仮にここで拒否してて勝手についてくるか、あるいは部長に報告されるかのどちらかだろう。だったら・・・・小猫にも手伝ってもらおう。

 

「わかった。小猫にも協力してもらおう。一応言っておくが、部長達には・・・・」

 

「内緒にして欲しいんですよね?大丈夫です。わかっています」

 

「それならいい・・・・それともう一つ。今回の件はバレてもバレなくても俺が強引にお前を誘ったってことにしておけ」

 

「・・・責任を全部一人で背負うつもりですか?」

 

「発案は俺だからな。小猫まで責任を負う必要はないさ」

 

それこそこの交渉で種族間の関係を悪くする可能性もある。小猫にそこまでの責任を負わせるわけにはいかない。

 

「・・・・・それは合意しかねます。一誠先輩だけに全て背負わせたくありません。それに、一誠先輩が私を強引に誘ったといっても誰も信じないと思いますし」

 

「だとしても、だ。小猫がどう思おうとそういうことにしておいてくれ。でなければ協力の申し出は断らさせてもらう」

 

「・・・・・わかりました」

 

申し出を断るというのが聞いたのか、小猫は渋々といった様子ではあるが了承してくれた。

 

「頼んだぞ小猫。それじゃあまずはイリナ達を探さないとな」

 

とは言ったものの、これが結構大変そうなんだよなぁ。任務活動中の白いローブを着た二人組の女性だなんてそう簡単に見つかるはずがない。あの二人だって人目のあるところに堂々と出ているなんてことは流石に・・・・

 

「あ、居ました」

 

「・・・・・え?小猫、今なんて?」

 

「あの二人居ました。そこに」

 

小猫の指差す方へと視線を向ける。そこには・・・・

 

「迷える子羊にお恵みを・・・・・」

 

「天の父に変わって哀れな私達に慈悲をぉぉぉぉ・・・・」

 

路頭で祈りを捧げ、募金活動をしているイリナとゼノヴィアがいた。よほど困っているのか、表情が悲しげだ。

 

「え~・・・・」

 

ない。これはない。見つけるの大変そうだなぁと思ってた矢先、こんなに簡単に見つかるなんて・・・・しかもなんかすっごく哀れに思えてしまうし。

 

「一誠先輩、非常に声をかけにくいです」

 

「奇遇だな小猫。俺も同じ気持ちだよ」

 

正直、あの哀れな二人組に声をかけるのには抵抗がある。できることなら無関係を装ってこの場を素通りしたいが、あの二人と交渉するために町に出てきたので声をかけざるを得ない。

 

そもそもあの二人はなぜ募金を募っているのだろうか・・・・

 

「はあ・・・・仕方がない」

 

俺は意を決して、哀れな迷える子羊二人に声をかけるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うまい!日本の食事はうまいぞ!」

 

「これよ!これが故郷の味よ!」

 

「イリナ、ファミレスの料理は流石に故郷の味とは言わないだろう。というかどれだけ空腹だったんだよ」

 

目の前で女性とは思えぬ勢いで食事しているイリナとゼノヴィアに俺は思わず呆れながらツッコミを入れてしまった。

 

俺達は今ファミレスに来ている。どうにもこの二人は空腹だったようで・・・・話を切り出すいいきっかけになると思い連れてきたのだ。

 

「それにしても訳のわからない絵画を買って路銀が尽きるとか・・・・イリナ、あまり相棒に迷惑をかけてやるなよ」

 

「し、仕方ないでしょ!ペドロ様の絵画なんだから信徒としては買うしかないわ!」

 

「俺も絵を見せてもらったが、ペドロとやらはそんなのじゃないと思うぞ?」

 

「そんなことないわ!ペドロ様はきっとこんなのよ!」

 

「俺が言うのもなんだがこんなの扱いはないだろう・・・・」

 

本当にイリナは子供の頃からなんか抜けてるというか思い込みが激しいというか・・・・

 

「ゼノヴィア、イリナがこんなですまないな。今は悪魔とはいえ幼馴染として謝罪する」

 

「どうして一誠くんが謝るの!?」

 

「いや、イリナがこんなのは私も理解している。君が謝ることはないさ」

 

「ゼノヴィアまで何言ってるの!?というか私をこんなの扱いしないでしよ!」

 

いや、イリナだってさっきペドロをこんなの扱いしてただろうが・・・・・

 

「というかイリナ、外見は多少大人っぽくなったようだけど性格は全然変わってないんだばお前」

 

「そんなことないわよ!昔ほどヤンチャじゃなくなったし自分ではすごく女の子らしくなったって自負してるわ!」

 

「女の子らしさ云々はともかく、ヤンチャさに関しては健在だろうが。妄想激しくて思い込んだら一直線なところは治ってないみたいだし。俺が昔それでどれだけ苦労したと思ってるんだよ」

 

本当に、昔はイリナに振り回されっぱなしだったからな俺は。俺の意見聞かずに暴走してたし、フォローする身にもなれってんだ。

 

「む~・・・・そ、そういう一誠くんだってその年齢に見合わないクールさはどうにかならないの?よく子供っぽくないって言われてたじゃない」

 

「確かに言われていたがそれで人様に多大な迷惑をかけた覚えはない。というか今はもう17歳になったんだから年相応だろ」

 

「そんなことないわ!一誠くんほどクールな17歳はそうそういないわよ!ゼノヴィアもそう思うわよね?」

 

「それはわからないが・・・・少なくともイリナがこの男を貶める気が一切ないことだけはよくわかった」

 

まあ確かに自分で言うのもなんだがクール云々が一般的に悪口にカウントされるかどうかは微妙だよな。

 

(実際は相棒も抜けてるところもあるがな)

 

ドライグ、今は黙ってろ。

 

「全く、この様子じゃ教会内でも迷惑をかけまくってるんだろうなお前は。このままじゃ嫁の貰い手も見つからないぞ?」

 

「ふぇ!?い、いいいい一誠くん!?急に何言って・・・・」

 

「いや、なんでそこで動揺して顔を赤らめるんだよ?」

 

てっきりまた怒るのではないかと思っていたが、イリナの反応は俺の予想とは異なるものだった。小声で恥ずかしそうに顔を赤らめている上にモジモジしている。

 

これは・・・・まさか?

 

「イリナ、お前まさか嫁の貰い手がいるのか?」

 

「そ、そんなのいないわよ!これから先もできないし作らない自信があるわ!」

 

「いや、なぜそこをそんなに自身満々に言うんだ?」

 

女からすれば嫁の貰い手がないのはいいことではないだろうに。

 

あ、まさかこいつ・・・・

 

「イリナ、ひょっとしてお前・・・・・」

 

「ッ!?そ、そうよ。私は・・・・」

 

「独身主義者なのか?」

 

「なんでそうなるのよ!」

 

てっきりイリナは生涯独身を貫くつもりでいるのかと思っていたが・・・・どうやら違ったらしい。

 

「私の気持ちも知らないで・・・・一誠くんの馬鹿!悪魔!」

 

「またこれかよ・・・・・」

 

またしてもイリナに罵倒されてしまった俺。別に俺が悪いことなんて何もない・・・・

 

「一誠先輩、今のも先輩が悪いです」

 

「やはり悪魔は最低だな」

 

「なんで!?」

 

悪いことなんて何もないと思っていたのに、なぜか小猫とゼノヴィアにまで責められてしまった。というか小猫よ、『も』ってなんだよ『も』って。決闘の時泣かれたのも完全に俺が悪いって思ってるのかお前は?

 

(・・・・相棒、お前はこの女が関わると頻繁にやらかすな)

 

(いや、何がだよ?わけがわからんぞ・・・・)

 

そしてドライグにまで呆れられる始末だ。

 

本当に何だって言うんだ・・・・・別に俺、何も悪いことしてないのに。

 

「マジで勘弁してくれ・・・・・」

 

頭を抱える俺に、フォローを入れてくれる者は誰もいなかった。




普段クールなのにイリナさんが関わるとポンコツ度増し増しになる一誠さん

ギャップが激しいけど・・・・まあ、これはこれでいいよね!

それでは次回もまたお楽しみに!


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第36話

今回は一誠さんがイリナさん達に交渉を持ちかけます

それでは本編どうぞ


「さて、そろそろ教えてもらおうか。君達は何故私達に接触してきた」

 

食事を終えたゼノヴィアが俺と小猫に切り出してきた。まだ片付けられていない大量の皿やら、隣でデザートに舌鼓をうっているイリナのことが気になるが、聞かれたからには本題に入ろう。

 

「お前達が去ったあと、俺なりに色々と考えてみたんだが・・・・俺達と手を組んでみないか?」

 

俺の提案に、イリナとゼノヴィアは驚いた表情をしたのり、互いを見やった。

 

「・・・・それは、昨日の魔剣使いのためか?」

 

木場と直接戦ったゼノヴィアは、木場のエクスカリバーへの憎悪を理解しているらしく、俺に尋ねてくる。

 

「まあ、本音はそういうことになるな。木場の復讐のためにエクスカリバーを破壊させてやりたい。一応聞くが、分割されたエクスカリバーは、折れた破片を核にして作られているんだよな?」

 

「そうよ。私達もいざという時は聖剣を破壊して核となる破片だけを回収するつもりだったから」

 

「だったら、木場に破壊させても問題はないわけだ。お前たちはそのあとに破片を回収すればいい」

 

破壊と回収。俺達とイリナ達では最終的な目的が違う。だが、だからこそ利害は一致している。交渉が成立する可能性はある・・・・と願いたい。

 

「・・・・・随分と個人的な事情で協力を申し出るんだね」

 

「そうだな。けど、流石に個人的な事情が目的ではそちらさんを納得させる材料としては弱いから、それなりの建前を用意してきた」

 

「・・・・というと?」

 

「教会から聖剣を奪った堕天使、それも聖書に名を残すほどの大物、コカビエルがこの町にいる。この町が俺達の主であるリアス・グレモリーが納めていることをコカビエルほどの堕天使が把握していないとは思えない。つまりコカビエルは何らかの企みを抱いているからこそわざわざこの町に来ている可能性が高いということだ」

 

「つまり君達は眷属悪魔としてそれを見過ごすことはできないということか?」

 

どうやらゼノヴィアはそれなりに頭は回るようだな。理解が早くて助かる。

 

「そうだ。何か起こってしまってからでは手遅れになる可能性が高い。迅速に問題を解決するために任務にあたっている教会の戦士お二人に協力を申し出たということさ」

 

「このことは君達の主は了承しているのか?」

 

「いいや、部長から了承は得ていない。小猫は俺が強引に誘ったが、今回の協力の申し出は俺の独断で決めたことだ。種族間問題になったら、管理問題で部長が責められる可能性もあるが、それでも責任は俺が背負うつもりだ」

 

「なるほど。確かにそれなりの建前はあるようだな」

 

まあ、あくまでもそれなりだ。実際には想定よりも面倒なことになる可能性はある。それでもリスクを多少減らすためにもこうして建前でも理由をこの二人に言っておかなければならなかった。

 

「・・・・いいだろう。君達の手を借りることにしよう」

 

協力申請を承諾するゼノヴィア。物分りがよくて助かった・・・・断られたら『たまたま』現場に居合わせて、互いに目的のため行動した結果聖剣を壊せましたって展開に持ち込もうかなとも考えてたんだがその必要もなさそうだ。

 

(むしろそっちの方が交渉をする必要もなかったのではないか?)

 

(いや、種族間問題にはなりにくいかもしれないけど、協力したほうが確実性は高いからな。交渉したほうがいいと判断した)

 

大切なのは確実に木場に聖剣を破壊させることだからな。だったら確率の高い方を選ぶのは当然のことだ。

 

(・・・・本当にそれが理由か?)

 

(どういうことだ?)

 

(・・・・・いや、なんでもない。気にするな)

 

気にするなって・・・・・そんな意味深に聞かれたら普通に気になるんだがな。まあ、気にしてもしょうがないからほうっておくか。

 

「ちょっと、何言ってるのゼノヴィア!?いくら一誠くんとはいえ悪魔なのよ!悪魔の手を借りるなんて・・・・」

 

どうやら俺達が手を貸すことは反対らしく、イリナがゼノヴィアに反論する。だが・・・・

 

「という割には顔は嬉しそうにしているぞイリナ。幼馴染に協力してもらえるのがそんなに嬉しいのか?」

 

「そ、そんなことないわよ!」

 

いや、俺の目から見ても普通に笑みを浮かべているように見えるんだけどな。下手なこと言うとやぶ蛇になりかねないから黙っておくけど。

 

「実際問題、私達だけの力で任務を達成できる確率は低い。命を捨てる覚悟は確かにあるが、任務を遂行して生きて帰り、これからも主のために戦い続けることが真の信仰だと私は思う。そのためなら協力も悪くはないだろう」

 

「それはそうだけど・・・・」

 

ゼノヴィアの言い分は間違ってはいないだろう。それはイリナもわかっているらしい。

 

「無論、表立って悪魔と協力するというのもまずい。だから君たちには正体を隠して欲しい」

 

「わかった。簡単な変装はしておくさ」

 

協力を受け入れてもらった以上は、それなりの配慮はするつもりだ。別にこの二人を陥れたいわけではないからな。

 

「はあ・・・・・一誠くんとはいえ、悪魔の手を借りることになるなんて・・・・」

 

「そう言うなイリナ。悪魔の手を借りるのが嫌だというなら、ドラゴン・・・・赤龍帝の手を借りると思っておけばいいだろう。上はドラゴンの力を借りるなとは言っていないのだからな。これも主のお導きというやつさ」

 

「屁理屈にも程がある気がするけど・・・・・まあいいわ。確かに一誠くんの力を借りられるのは助かるし。主よ、お導き感謝します」

 

「「ッ!?」」

 

イリナが十字を切った瞬間、俺の頭に激痛が走った。隣にいる小猫も痛そうにしている。

 

「イ、イリナ。俺たちの前で十字を切るな・・・・」

 

「・・・・・痛いです」

 

「あ、ごめんなさい」

 

今のはマジで痛かった・・・・・下手に戦闘でダメージ受けるよりも痛いぞ。

 

「ともかく、交渉は成立したってわけで、こちら側のもうひとりの協力者も呼ばせてもらうぞ」

 

俺は携帯を出し、木場と連絡をとった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・話はわかったよ」

 

数十分ほどした後、やってきた木場に今回の交渉のことを話した。というか木場のやつ、ちゃっかりコーヒーを頼んでたけどこれ俺持ちか?イリナとゼノヴィアの分も俺が出すことになってるし、なんか小猫も勝手に料理頼んでたんだが・・・・まあ、仕方ない。諦めよう。

 

「聖剣使いに許しを請うのは遺憾だけど、僕としても益のある話だ。乗らせてもらうよ」

 

「随分な言いようだね」

 

話には乗ってくれたが、刺のある言い方にゼノヴィアは少々顔をしかめた。

 

「やっぱり『聖剣計画』のことで恨んでるのね。でもね、あの計画のおかげで聖剣使いの研究が飛躍的に伸びたわ。だからこそ私やゼノヴィアみたいに聖剣に呼応できる使い手が誕生したのよ」

 

「そのためなら僕たちのような失敗作は処分されても構わないと?」

 

「・・・・いいえ、そんなことはないわ」

 

憎悪を篭った目で、木場とイリナとゼノヴィアを見る。教会にとって有益なことでも、木場はその犠牲になった者の一人だ。今のイリナの言いように憎悪を抱いても仕方がないだろう。それがわかったのか、イリナも失言だったと表情を暗くしている。

 

「その件に関しては教会でも最大級に嫌悪されている。当時の研究者は異端とされ追放。今は堕天使側に身を寄せている」

 

「その者の名前は?」

 

「バルパー・ガリレイ。『皆殺しの大司教』と呼ばれた男だ」

 

皆殺しの大司教、バルパー・ガリレイ・・・・木場の憎悪のきっかけになった男。これを聞いてしまったからには聖剣を破壊するだけでは木場の復讐心は晴れないかもしれないな。この男を殺すまでは・・・・

 

「堕天使を追えば、その者にたどり着くのかな・・・・・僕からも情報提供しよう。先日、エクスカリバーを持った者に襲撃されたよ。その際神父が一人殺害されていたが・・・・やられたのはそちら側だろうね」

 

どうやら、イリナ達よりも先に木場が接触していたようだ。だけど、接触してたなら言えよ・・・・自分の手で聖剣を破壊したいってのはわかるけども。

 

「相手の名前はフリード・セルゼン。この名前に覚えは?」

 

「フリード・セルゼン・・・・!?」

 

その名前はよく覚えている・・・・レイナーレと共にこの町に来ていたイカれた神父だ。レイナーレと共に・・・・

 

「一誠くん・・・・手が」

 

「手?」

 

イリナに言われ、自分の手に視線を向けると、血が滲んでいた。どうやらレイナーレのことを思い出しせ、知らずに力が入って強く拳を握りしめてしまっていたようだ。

 

「手当しないと・・・・」

 

「触るな!」

 

「っ!?」

 

俺の手に触れようとするイリナの手を、俺は弾いた。今イリナに触れられたくなかったから・・・・

 

「ごめんイリナ・・・・だが大丈夫だ。この程度どうってことない」

 

「そ、そう・・・・わかったわ」

 

「それにしてもフリード・セルゼンか・・・・奴め、まさかコカビエルに与していたとは」

 

ゼノヴィアの口ぶりからして、どうやらフリードの名に覚えがあるようだった。

 

「彼は13歳という若さでエクソシストとなり、悪魔や魔獣を次々と滅していった天才児だった。だが、奴はやりすぎた。同胞すら手にかけたのだからね」

 

「彼に信仰心なんてものは微塵もなかったわ。あったのは悪魔や魔獣に対する異常なまでの敵対意識と殺意、そして戦闘に対する執着。審問にかけられるのも時間の問題だったわ」

 

イカれた男だと思っていたが、どうやら教会でも随分と手を余していたようだ。

 

「フリードが奪われた聖剣を使って裏で動き回っていたのか・・・・・異常者ではあるが、実力は確かだ。心してかかる必要がありそうだ。ともかく、聖剣破壊の共同戦線といこう。何かあったらここに連絡してくれ」

 

ゼノヴィアが連絡先の書かれたメモを手渡してきた。

 

「わかった。それじゃあこっちの連絡先も・・・・」

 

「その必要はないわ。一誠くんの携帯の電話番号はおばさまから教えてもらったから」

 

「母さん・・・・」

 

あなたは息子のプライバシーをなんだと思っているんですか?いくら幼馴染だからってそうポンポンと教えていいものではないだろうに・・・・まあ、今回は手間が省けたからいいけども。

 

「では、私達はこれで失礼しよう。食事の礼はいずれさせてもらう」

 

「食事ありがとう一誠くん。悪魔だけど、きっと一誠くんだったら主も許してくださるわ。また奢ってね」

 

イリナ、お前の信仰はそれでいいのか?というかまた奢って貰う気満々かよ・・・・

 

「それと・・・・・頑張りましょうね一誠くん」

 

最後にニコリと微笑みを浮かべながら、イリナはゼノヴィアと共にその場を去っていった。

 

それにしても頑張りましょうね、か・・・・・・そんなありふれた言葉でやる気になってしまうなんて、俺も存外単純だな。

 

 

 

 

 

 




交渉の件に関しては色々と考えましたが・・・・変なところがないか心配だったり

それでは次回もまたお楽しみに!


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第37話

今回は珍しくドライグさん視点があります

それでは本編どうぞ


「・・・・・二人共、どうしてこんなことを?下手をすれば種族間の争いにも発展しかねないんだよ?」

 

イリナ達が去っていったあと、木場が俺と小猫に尋ねてきた。

 

「お前の復讐を果たさせるためだ。俺はお前の復讐心を一番理解しているからそれを否定することができない。だから協力しようと思った・・・・まあ、建前だけどな」

 

そう、木場のタメっていうのは本当は建前だった。もちろん建前といっても感情移入してはいるのは事実だし、それも力を借そうと思っている理由ではあるけど・・・・・本当の理由は別にある。

 

「建前?ていうことは本音は別にあるってことかな?」

 

「ああ。俺のしたことは部長に迷惑をかけることかもしれない。だけど、それでもお前が一人で復讐に走って『はぐれ』になるよりはよほどマシだ。将来的なことを考えても、お前は眷属の中核になり得る存在だからな」

 

「眷属の中核・・・・それは僕よりも君の方がふさわしいと思うけれど?君の方が僕よりもはるかに強いし」

 

「俺には無理だよ。俺は・・・・・俺の部長への忠義は、俺の自己満足でしかないんだからな」

 

そうだ、俺の部長への忠義はただの生きる目的に過ぎない。そこには決定的に足りないものがあるのに俺自身が理解している。俺は決して・・・・眷属の中核にはなりえない。

 

「・・・・・小猫ちゃん、君はどうなんだい?どうしてこんなことを?」

 

木場は次に、小猫に尋ねた。

 

「・・・・・祐斗先輩がいなくなるのは嫌です。寂しいです。だから・・・・・手伝わせてください」

 

小猫は木場の手を取りながら言う。木場が居なくなることを想像してか、その表情は悲しげだ。

 

「木場、何度も言うがお前の復讐を俺は否定するつもりはない」

 

「一誠くん?」

 

「お前が復讐を望み、果たそうというならそれもいいだろう。その憎悪、復讐心はお前のものなんだからどうしようがお前の自由だ。だがな・・・・これだけは覚えておけ。『木場祐斗』という存在はもうお前一人だけのものではないんだ。お前を必要としている者がいる。お前に居なくなって欲しくないと思っている者がいる。それを忘れるな」

 

我ながら反面教師的な物言いだということはわかっている。誰よりも自分の事を認められない俺が言うべきセリフではないということは重々承知だ。

 

だが・・・・だからこそ俺は木場に言わなければならなかった。木場は・・・・・必要とされる存在だと理解しているから。

 

「二人にここまで言わせてしまうなんて・・・・これは僕も無茶できそうにないね」

 

木場は笑みを浮かべながら言う。最近憎悪のせいで笑うことがめっきり減ったから、こういう表情を見ると少しホッとする。

 

「今回は二人の厚意に甘えさせてもらうよ。一誠くんのおかげで結果的に真の敵もわかったことだしね。だけど、聖剣は必ず破壊する」

 

「当然だ。そうしてもらわないと困る。さて、本格的に動くのは明日にして今日は一旦帰ろうか。相手が相手だし・・・・・覚悟決めるのにも時間かけたほうがよさそうだしな」

 

堕天使の幹部、コカビエルと戦う可能性もある。それなりの心構えで挑むには一晩ぐらい時間をかけたほうがいいだろう。

 

「そういうことで、俺は今日はこれで失礼させてもらう。二人共また明日な」

 

「はい」

 

「またね一誠くん」

 

俺は二人に軽く手を振って、家路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(堕天使の幹部コカビエル・・・・・なあドライグ、お前の目から見て今の俺とコカビエル、どちらが強い?)

 

家に帰り、夕食を摂ったあと自室のベッドで横になりながら、ドライグに尋ねた。

 

(そうだな・・・・正直全盛期の俺はコカビエル程度のことなど気にも留めていなかった。やつの実力がどの程度のことなのかははっきりと測れていないからなんともいえん)

 

コカビエル程度って・・・・・・堕天使の幹部といえど、二天龍であるドライグからすれば眼中にもなかったということか。

 

(だが、そうだな・・・・禁手化(バランス・ブレイク)すれば相棒ならまともな戦いにはなるだろう・・・・・多分)

 

多分って・・・・・随分とまあ自信のない言い方だな。

 

(ただ、相棒以外でこの町でコカビエル相手にまともに戦えるものは居ないということは断言できる。相棒が勝てなければ、この町でコカビエルに勝てる者はいないだろう)

 

つまり、俺以外がコカビエルと戦えば敗北は必至。そして負ければ決して軽くはないダメージを負うか・・・・悪ければ死ぬことになるだろう。

 

俺以外の誰かが戦えば死ぬかもしれない・・・・・イリナが死ぬかもしれない。

 

(ッ!?俺は今・・・・・何を考えた?なんでイリナのことを・・・・・?)

 

俺が交渉を持ちかけたのは木場の復讐のため・・・・ひいては部長への忠義のためだ。それ以外に理由はない。

 

それなのに・・・・なぜ俺は真っ先にイリナが死ぬことを想像した?なぜ関係ないはずのイリナのことを・・・・?

 

(・・・・・お前が交渉を持ちかけた理由、あの時口にした言葉の中にはやはり本音はなかったようだな)

 

(どういうことだドライグ?)

 

(魔剣使いの復讐のため。主への忠義のため・・・・そのどちらもお前の本心ではない。お前の本心は、本音はコカビエルと対峙することになるあの女のことが心配だから・・・・・ではないか?)

 

(ッ!?違う!そんなことはない!俺は・・・・おれ・・・・は・・・)

 

違うはずなのに・・・・俺は自分でもわかるほどに動揺していた。動揺しているということは・・・・それは・・・・

 

くそっ・・・・イリナと会ってからこんなのばかりだ。酷くかき乱される。いつもの俺でいられなくなる。俺が俺でいられなくなる。

 

なんだよ・・・・何なんだよ?

 

一体イリナが・・・・・なんだっていうんだよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

相棒が交渉を持ちかけた理由・・・・それは間違いなくあの女、紫藤イリナを想ってのことだろう。本人は否定し、最もらしい言い訳や理由を口にしていたが、そんなものは建前に過ぎない。

 

相棒がそれを認めようとしない理由は二つ。一つは堕天使レイナーレを失った自責の念だ。紫藤イリナの事を思っている相棒だが、堕天使レイナーレへの愛情もまた決して偽りなどではなかった。本気で愛し、本気で大切に思っていた・・・・そんな女を失ってしまった原因が自分にあるのだと、相棒は思い込んでしまっている。故に、もう誰も愛することはできない、愛したくないと相棒は自らに言い聞かせ、紫藤イリナへのそれを相棒は否定し、紫藤イリナのために何かしようとする自分に対してさえ目を背けているのだ。

 

二つ目の理由は・・・・・相棒が自らを『兵藤一誠』と認めることができずにいるからだ。奴には三つの生きる目的がある。アーシア・アルジェントを守る事、リアス・グレモリーに忠義を尽くすこと、そして・・・・・宿敵である白龍皇を倒すこと。だが、それらの目的は成り行きと立場上決まってしまったものであり相棒が『兵藤一誠』として願ったものではない。相棒は『兵藤一誠』である自分を認めない。だから『兵藤一誠』としての自分の願いを持とうとしない。だが、紫藤イリナの力になりたいというのはその願いに当てはまりかねないのだ。成り行きや立場など度外視して、相棒自身がそうしたいと願ったこと・・・・・だからこそ、それを誤魔化そうとする。誤魔化して・・・・違う建前を用意しようとするのだ。

 

やはり・・・・・やはり相棒は愚かで哀れだと言わざるを得ない。純粋に愛する女のために動くことができない。一々面倒くさい理由をつけて自らを偽らなければならない。今までの宿主の中でもここまで愚かで哀れなやつはそういなかった。だが・・・・・だからこそ思う。相棒の救済を。相棒が救われることを。

 

よもや二天龍の一角であるこの俺が一個人の救済を願うとは・・・・・落ちたものだ。だが不思議と不快ではない。

 

・・・・・・紫藤イリナ。最も相棒に近く、同時に最も相棒と遠い存在である女。

 

叶うならば・・・・貴様が相棒の救いとならんことを・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 




あまりにも一誠さんが哀れすぎて救済を望むドライグさん

ドラゴンにここまで心配されるほど一誠さん相当だなぁと我ながら思います

それでは次回もまたお楽しみに!


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第38話

今回はフリードと接触します

その前にちょっとありますが・・・・

それでは本編どうぞ!


「ちょっと一誠、聞いてるの?」

 

「ん・・・・?」

 

授業の合間の休み時間にて、聖剣破壊について色々と考えを巡らせていたところに桐生が声をかけてきた。

 

「どうした桐生?」

 

「どうしたはこっちのセリフよ。さっきから話しかけてもボーッとしちゃってさ」

 

どうやら今の今まで気がつかなかったようだ。それだけ考えるのに没頭してしまっていたのか。

 

「あー・・・・すまん。ちょっと考え事をな。それよりもなんの用だ?」

 

「今度のボーリングとカラオケの件よ。木場くんも誘ってみるって言ってたけどどうなったわけ?」

 

「ああ、そのことか」

 

今度の日曜日に、俺達はボーリングとカラオケで遊ぶことになっていた。確定しているメンバーは俺とアーシア、小猫、松田、元浜、桐生の6人。そしてまだ確定していないのが・・・・木場だ。

 

「誘ってはいる。けど、返事は保留にして欲しいそうだ・・・・まあ、どうにかしてこさせるさ」

 

今の木場は聖剣のことで頭がいっぱいだ。保留されてしまっても仕方がない。ただ、断らず保留にしているということは来たくないということではないようだ。だったら・・・・日曜日までにケリを付ければいいだけだ。復讐と憎悪に染まった思考をほぐすためにも・・・・終わった後きっちり息抜きさせる必要があるからな。

 

(それがわかっていながら貴様は・・・・)

 

(うるさい、ほっとけ)

 

反面教師だなんてことは百も承知だ。だが、自分という悪い例がわかってるからこそそうならないように考えてるんだ。

 

「ふーん・・・・・なんか事情があるっぽいけどまあいいわ。木場くんと遊べる機会なんてそうそうないんだから、ちゃんとこさせなさいよ?」

 

「ああ、わかってるさ。桐生からすればイケメンと接する数少ない機会だしな。いっそ口説いてみるか?案外上手くいくかもしれないぞ?」

 

「あんたってたまに真顔で変なこと言うわよね・・・・口説いたりなんかしないわよ。確かに木場くんはカッコいいと思うけど、ああいう爽やか系は好みではないわ」

 

どうやら木場は桐生の好みからは外れているらしい。まあ、学園一のイケメンといえど万人からモテるわけではないということか。

 

「というか、それをあんたが言うわけ?」

 

「どういうことだ?」

 

「私の好みを一番わかってるのは一誠・・・・あんたでしょ?」

 

『ねえ・・・・・私と付き合ってみる気ある?』

 

・・・・どうやらやぶ蛇だったようだ。余計な事を思い出してしまった。

 

「・・・・自分の席に戻れ桐生。もうすぐ授業始まるぞ」

 

「そうね。そうさせてもらうわ」

 

俺の言うことを聞いて、素直に自分の席に戻っていく桐生。その桐生を見送って、俺は次の授業の準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・なかなか現れませんね」

 

「そうだな」

 

放課後、俺は小猫、木場と共に人通りの少ない裏路地を神父の格好をして歩き回っていた。変装しているのはもちろんフリードをおびき寄せるためなのだが・・・・それともう一つ、俺達の正体がバレないようにするためだ。先日交渉した際、変装すると行ってしまったからな。ただ、こうして作戦を開始してもう三日経つというのに収穫ゼロだ。

 

「追っ手が来ていることはもう知っているのだから警戒しているのかもしれないね。ただ、それでも向こうも無視することはできないはずだ。いつか必ず仕掛けてくる」

 

「それまでは気長にということか・・・・」

 

遊びに行くことも考えて日曜日までにはケリをつけたいというのに、やはりそうそう上手くいくものでもない・・・・・わけでも無さそうだな。

 

「・・・・どうやらもう待つ必要は無さそうだな」

 

「そうだね・・・・・上か!」

 

俺と木場は気配を感じ、上を見上げる。そこには刀身の長い剣を持つ白髪の男・・・・フリードが居た。

 

「きひひひひ!神父様ごいっこうはっけ~ん!こいつは丁重に天国に送って差し上げないと・・・・って、あら?魔剣使いと一誠くんんじゃあっりませんか~!こいつは奇遇だねぇ!」

 

俺と木場に気がついたフリードは、ニヤリといやらしい笑みを浮かべた。

 

「これはいい。魔剣使いくんとは先日の決着をつけたかったし、一誠くんは前の屈辱をしっかりと返したいと思ってたところなんだよね~!というわけでここらでいっちょぶっ殺させてもらいま~す!」

 

ビルの壁を蹴って、フリードは俺達の方へと接近して剣を振り下ろしてきた。その剣を、木場が魔剣を作り出して受け止める。

 

「まずは魔剣使いくんからかい?いいぜ。今度こそこの天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドィ)で首をチョンパしてやんよ!」

 

「ぐっ!?」

 

フリードは連続で木場に斬撃を浴びせる。天閃の聖剣の名は伊達ではないようで、斬撃は相当速い。スピード自慢の木場が回避で精一杯で、魔剣で弾こうとしてもその鋭い切れ味で魔剣を引き裂いてしまう。

 

「木場、少し手を貸すぞ」

 

このままでは不利だと判断した俺は、フリードに殴りかかる。だが、本気ではやらない。木場に復讐させることが最優先である以上、動きをある程度抑える程度に留めなければならない。

 

「君も来るかい一誠くん!だったらこいつだ!」

 

フリードは腰にさした剣の柄をつかみ・・・・刀身の見えない剣で俺に斬りかかってきた。俺はとっさに後ろに跳躍して、フリードから距離を取る。

 

透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)だ!どうだ見えないだろ!」

 

どうやら刀身が見えないのは聖剣の能力らしいが・・・・くだらない。見えないのなら見えないでやりようはいくらでもある。

 

「覚悟してね一誠く~ん。この二本の聖剣でバッラバラにしてあげるからさぁ!」

 

二本の聖剣があれば俺を難なく殺せると思ったのか、フリードは俺に接近してきた。

 

赤龍の爪(ドラゴン・ネイル)

 

俺は赤龍の爪を両手に展開。フリードは両手に持った聖剣の攻撃を全てその爪で防いだ。

 

「なんで防げるんだよ!?速いんだぞ!?見えないんだぞ!?」

 

斬撃が当たらず、全て防がれていることにいらだちを隠せずにいるフリード。だが、この程度造作もない。どんなに早かろうが見えなかろうが、腕と目を見ればどこを切ろうとしているのかなんてすぐにわかる。その斬撃に対して最小限の動きで爪を合わせれば防ぐのは簡単だ。

 

イリナ達の話じゃ才能はあるらしいが・・・・こうも単純じゃあ、たかが知れてるな。それに周りも見えていない。

 

「いいのかよ・・・・・俺にばっか集中して」

 

「あ?どういう・・・・」

 

「・・・・隙有りです」

 

「ぐおっ!?」

 

俺にばかり集中して周りが見えていなかったフリードは、横からの小猫の殴打をモロに食らって吹っ飛んでいった。戦車(ルーク)の一撃だ。人間であるフリードには相当応えるだろう。アバラ一本ぐらい折れてるかもしれない。

 

「祐斗先輩、今です」

 

「ありがとう一誠くん、小猫ちゃん」

 

小猫が殴り飛ばした先には木場がいる。木場は二本の魔剣を両手に、フリードへと迫る。

 

「さて・・・・一気に終わらせてもらうよ」

 

木場がフリードを聖剣を斬ろうと剣を振り上げたその瞬間・・・・それを阻むように声が聞こえてきた。

 

「ほう、魔剣創造(ソード・バース)か」

 

「「「!?」」」

 

声のする方、建物の屋上に視線を向けると、そこには神父の格好をした年老いた男がいた。

 

「ちっ、邪魔しに来たのバルパーの爺さん?」

 

「バルパー!?バルパー・ガリレイか!」

 

どうやらあの老人がバルパーであるらしい。木場が殺気の篭った目でバルパーを見る。

 

「フリード、遊びはここまでだ。コカビエルのところへゆくぞ」

 

「やっぱり邪魔しにきやがったのか・・・・まあいいや。了解で~す」

 

「待て!」

 

「逃がさないわよ!」

 

「おう?」

 

バルパーに促され、撤退しようとするフリードであったが、その前にイリナとゼノヴィアが立ちふさがった。どうやら戦いの気配を感じ取ってこちらに来たようだ。

 

「反逆の徒フリード・・・・神の名のもとに断罪してくれる!」

 

「うっせぇんだよこのビッチどもが!」

 

イリナ達に、そして俺達に向かって球体を投げつけるフリード。それは閃光弾だったようで、一瞬俺達の目はくらんでしまった。そしてその一瞬の間に・・・・フリードとバルパーの姿がなくなっていた。

 

「くそっ!追うぞイリナ!」

 

「ええっ!」

 

「僕も追わせてもらおう!」

 

逃してなるものかと、ゼノヴィア、イリナ、木場がすぐさま駆け出した。

 

「一誠先輩、私たちも」

 

「ああ。追うぞ」

 

俺と小猫もあとを追おうと駆け出そうとしたその瞬間・・・・俺の右手に黒いロープのようなものが繋がれて、動きを妨げられてしまった。

 

「これは・・・・?」

 

「そこまでよ一誠、小猫」

 

「「っ!?」」

 

聞き覚えのある声が聞こえてきた。声のする方に振り返ると・・・・・そこには部長とソーナ会長、そして匙の姿があった。

 

「まったく・・・・困った子達ね」

 

呆れたように額に手を置く部長を前に、俺と小猫は弁解もせずに互いに見合うことしかできなかった

 

 

 

 

 




原作とは違い、匙さんがリアスさん達の側に立っている理由については次回・・・・まあ大したことではありませんが

それでは次回もまたお楽しみに!


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第39話

特になにも思いつかないので早速本編どうぞ


 

「まったく、あなたたちは・・・・・」

 

部長達に近くの公園に連れてこられた俺と小猫は、正座を強いられていた。そんな俺たちを見下ろして、部長はため息を吐いている。

 

「匙からお二人がおかしな動きをしていると聞いてもしかしたらと思ってリアスに話したのだけれど、まさかこんな・・・・」

 

同じようにため息を吐くシトリー様。どうやら俺達の行動は匙に見られていたようだ。直接俺達を止めようとせず、先に主に報告するとは・・・・・俺とは違って優秀な眷属だ。

 

ちなみに、俺の腕を捉えたあのロープは匙の神器(セイクリッド・ギア)の能力であったらしい。あの時少し力が抜ける感覚もあったし・・・・中々厄介な神器なようだ。

 

「兵藤・・・・なんでこんなことをした?お前は俺に眷属としてのあり方を説いてくれたお前がどうして?」

 

「・・・・・部長にとっての一番の損失は木場がはぐれになることだと思った。だから俺は木場の復讐を果たさせるために行動した。そうすれば木場は部長のもとに戻ってくるはずだからな」

 

「・・・・・違うでしょう?」

 

「え?」

 

匙に今回の件の理由を話す俺だが、それを部長が否定する。

 

「あなたのことだからその気持ちも・・・・・私への忠義のためというのもきっと嘘ではないでしょうね。けれど・・・・それ以上の理由があったのではないかしら?」

 

「・・・・・・」

 

まるで俺の心の奥底を見透かしたかのように俺を見つめながら言ってくる部長。俺はそんな部長に・・・・・何も反論することができなかった。

 

「沈黙は肯定と取るわ・・・・まあ、あまり深くは詮索しないでおきましょう。小猫、あなたはどうしてこんなことを?」

 

「小猫は強引に俺が誘いました。少しでも戦力が必要だと思って・・・・・」

 

「一誠先輩の言っていることは嘘です。私は・・・・祐斗先輩がいなくなるのが嫌で自分から協力を申し出ました」

 

・・・・・小猫め。俺が強引に誘ったことにしないと協力を断るって言ったのにこれか。

 

「はあ・・・・・一誠、あなた自分で責任を全部背負おうとしたのね?」

 

「俺が動かなければ小猫が動くこともなかったと思います。だったら責任を負うのは俺ひとりで十分です」

 

「あなたという子は・・・・・あまり見くびらないでもらいたいわね。たとえ小猫が言わなくてもそれぐらいのこと私が気がつかないとでも思ったの?」

 

「だとしても・・・・・必要なことだったので」

 

たとえ気づかれたとしても、そういうことにしておいたほうがよかった。いざという時に責任を全部俺が背負うためにも・・・・

 

「・・・・馬鹿な子ね。一誠も小猫も・・・・・心配かけさせて」

 

俺と小猫の頭を手で抱え、そのまま自身の胸に抱き寄せてくる部長。その行為からいかに部長に心配をかけさせてしまったのかが伺い知れる。

 

だけれど・・・・・そんな部長の思いを俺は心地いいと感じることはできなかった。ましてや心中が罪悪感で埋め尽くされているわけでもない。俺の頭の中は・・・・・フリードを追っていった3人の動向をひたすらに気にしてしまっていた。

 

「・・・・・ごめんなさい部長」

 

「申し訳ありませんでした」

 

「過ぎたことよ。もういいわ」

 

俺と小猫は部長に謝罪する。小猫とは違い、俺のそれは心がこもっていないと悟られてしまっているかもしれないが・・・・それでも部長は、おそらく気がついていながらも言及せずに受け止めてくれた。

 

「ソーナも匙くんも付き合わせてしまってごめんなさいね」

 

「いえ、気にしなくてもいいわリアス」

 

「俺もただ、会長に同行しただけですので・・・・まあ、兵藤のことが気になったっていうのもありましたけど」

 

「・・・・・男にそういう感情を抱かれるのはさすがに勘弁なんだが?」

 

「そいう意味じゃねえよ!?」

 

「いや、まあ普通に冗談だから気にするな」

 

一応・・・・俺のせいで空気が悪くなったって自覚はあるから和ませようと思ったのだが、匙が思った以上にオーバーにリアクションしてくれて助かったな。部長もシトリー様も微笑み浮かべてくれてるし。

 

「さて、そろそろ帰るわよ。祐斗のことは私の使い魔が見つけ次第皆で迎えに行きましょう」

 

「はい」

 

なるほど、木場達は部長の使い魔が探しているのか・・・・・できればそれより先に俺が・・・・

 

「それと一誠、私は今日はあなたの家に泊まらせてもらうわ」

 

「・・・・・え?なぜですか?」

 

「あなたのことだから、ちょっとでも目を離すと祐斗達を探しに行こうとするでしょうから監視させてもらうわ」

 

どうやら俺の思惑など部長にはお見通しであったようだ。

 

「えっと・・・・こんなこと言うのもなんですが急に来たら父さんも母さんも驚いてしまうので・・・・」

 

「大丈夫よ。事前に連絡して許可はもらってあるわ」

 

手回しはしてあるということか・・・・・我が主ながら抜け目のないことだ。

 

(諦めろ相棒。こうなってしまっては素直に従うしかないぞ?)

 

(みたいだな・・・・仕方ない)

 

俺は致し方なく、部長と共に家に帰ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むぅ・・・・」

 

(こ、これは・・・・・きついな)

 

部長と共に家に帰り、夕食を食べ終えた俺は自室でまたしても正座していた。そして俺の目の前には、正座を強いたアーシアがいかにも怒ってますといった表情を浮かべたアーシアがいる。

 

どうしてこうなっているかといえば・・・・・木場の復讐の手助けをしていることをアーシアに黙っていたからだ。それでアーシアは怒っているのだろう。

 

「一誠さん・・・・どうして私に何も言ってくれなかったんですか?」

 

「それはその・・・・・アーシアを巻き込みたくなくて」

 

「私は一誠さんにとって足で纏でしかないということですか?」

 

「いや、そういうことじゃなくて・・・・・危ないし・・・・・」

 

なんだろう。別に特に強い口調でもないのにすごく追い詰められてる気がする。というかなんか怖い。普段大人しい奴ほど怒ると怖いというが、その理由をまさに体験しているといった感じだ。

 

「一誠さん・・・・・私だって一誠さんの力になりたいんです」

 

「そう言ってくれるのは嬉しいが、これは俺のためじゃなくて木場、ひいては部長の・・・」

 

「・・・・・違いますよね?」

 

「え?」

 

「その気持ちも確かにあると思います。だけど本当の理由は・・・・・・違うんですよね?」

 

部長と同じように、全て見透かしているかのように言ってくるアーシア。

 

なんで・・・・・なんでドライグも部長もアーシアも見透かすんだ。どうして・・・・・わかってしまうんだ?

 

「一誠、あなた・・・・自分のその気持ちから目を背けるつもりなのかしら?」

 

俺とアーシアの様子を黙って見ていた部長だったが、俺に尋ねてきた。

 

「・・・・・何を言っているのかわかりません」

 

「嘘です。一誠さんはわかっているはずです。わかっていながら一誠さんは・・・・」

 

「違う!」

 

「「ッ!?」」

 

俺が思わず声を荒げてしまうと、二人はビクリと肩を震わせた。前にドライグと話した時も声を荒げてしまったし・・・・俺は俺が思っている以上に嘘が下手なのかもしれない。

 

「・・・・ごめん、だけど・・・・・もうやめてくれ。俺は・・・・受け入れるわけにはいかないんだ」

 

俺にはその資格がない。その感情を抱くことは許されない。だからこそ、滑稽でも、無様でも、あからさまでも俺はそれを否定しなければならないんだ。

 

忘れてはならない。俺が愛した女が、俺を愛した女が俺のせいで死んでしまったことを。俺が・・・・俺さえいなければ今も生きていたはずだったのに。

 

もしもこの感情を受け入れてしまったら・・・・あいつも・・・・イリナも・・・・・

 

「一誠さん・・・・・ごめんなさい。私、一誠さんを追い詰めて・・・・」

 

「ッ!?アーシア・・・・・話はここまでだ」

 

俺に謝罪するアーシアだが、それを聞いていられる状況では無くなってしまった。

 

「部長」

 

「ええ」

 

部長は俺の部屋の窓を開ける。窓の外を見ると・・・・・塀の上に立つフリードの姿があった。

 

「あいつ・・・・!」

 

俺と部長、そしてアーシアは急いで外へと駆け出していった。

 

 




次回、とうとうコカビエルと邂逅

そして・・・・・

次回もまたお楽しみに!


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第40話

とうとう姿を現すコカビエル

そして一誠さんは・・・・・

それでは本編どうぞ


 

「ひひひ、こんばんは~。3人でヤってる最中にきちゃってごめんねぇ?でも俺ってば空気読めないから許してね~」

 

外に出た俺、部長、アーシアに対して、フリードは下品な笑みを浮かべながら言う。これが元とはいえ聖職者だというのだから呆れ果てる。

 

だが、そんなことはどうでもいい。それよりもこいつに聞かなければならないことがある。

 

「フリード・・・・・お前を追っていった3人はどうした?」

 

「ああ、あの3人?あの3人なら・・・・」

 

「俺の根城まで来たので歓迎してやった。まあ、二匹は逃してしまったがな」

 

「「「ッ!?」」」

 

フリードの言葉を遮るように聞こえてきた声。声のする方・・・・上空へと視線を向けると、そこには何枚もの漆黒の羽を背に生やす男がいた。

 

「コカビエル・・・・・!」

 

その男・・・・・コカビエルの姿を目にした部長が、体を強ばらせる。確かに、奴からは今までに感じたことのない異様なプレッシャーを感じる。

 

だが、そんなことよりも俺が気になっていたのは・・・・コカビエルが脇に抱えているものであった。

 

「これは土産だ。受け取れ」

 

コカビエルが放ったそれを俺は受け止める。それは・・・・・瀕死の重傷を負ったイリナであった。

 

「イリナ・・・・お前・・・・」

 

俺の・・・・せいだ。あの時、部長の制止を振り切ってでもあとを追うべきだった。そうすればイリナは傷つかずに済んだかもしれない。イリナを・・・・・・守れたかもしれないのに。

 

「いっ・・・せい・・・くん?」

 

怪我で意識も朦朧としているであろうイリナだが、それでも薄く開いた目で俺を見ながら手を俺の頬に添える。

 

「にげ・・・・て。はや・・・・く」

 

「!?」

 

それを言い残して、イリナは気を失った。傷ついてるのは自分なのに・・・・それなのにイリナは俺なんかの心配をしていた。

 

どうしてこいつは俺を・・・・・幼馴染だからって俺はこいつを拒絶するような態度をとったんだぞ?知りたがってた悪魔になって理由を頑なに教えなかった俺にどうしてこいつは・・・・?

 

どうして・・・・・?

 

「・・・・・アーシア、イリナを頼む」

 

「はい!」

 

俺の呼びかけに応えたアーシアは、すぐにイリナの治療ははじめる。意識はしばらく戻らないだろうが、アーシアに任せておけばイリナの傷はすぐに治るだろう。

 

なら、俺のすべきことはこのこみ上げてくる感情・・・悲しみに、怒りに、そして憎悪にこの身を委ねること。感情に身を委ね奴を・・・・・コカビエルを!

 

「ふんっ、所詮は教会の犬。こいつら程度では俺を楽しませるには・・・・・」

 

「黙れ」

 

『BOOST!!』

 

「なっ!?」

 

コカビエルの言葉が最後まで紡がれる前に、俺は悪魔の翼を広げ、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を展開してコカビエルに殴りかかる。まあ、さすがに堕天使の幹部なだけあってすんでのところで躱されてしまったが。

 

「ごちゃごちゃうるせぇんだよ堕天使風情が。殺すぞ?」

 

「くく・・・・・くははははははは!これはいい!思った以上に力を秘めているようだな赤龍帝!」

 

俺はコカビエルに殺気をぶつけるが、コカビエルは怯むどころか歓喜の声をあげる。どうやら俺が今代の赤龍帝であることは把握済みのようだ

 

「うるせぇって言ってんだろうが。その口を閉じろ」

 

「いい殺気だ。それに怒りも憎悪も篭っている。先程の女は貴様と何か関わりがあるのか?悪魔でありながら教会の聖剣使いに心を奪われているというのなら随分とまあ滑稽だな」

 

「黙れコカビエル!」

 

「いいぞ、もっと怒れ!もっと憎悪を俺にぶつけろ!俺を楽しませてみせろ!」

 

俺が殺気を、怒りを、憎悪を高めるほどにコカビエルは歓喜する。こいつは俺を煽って楽しんでいる。おそらく俺との戦いを楽しむためなのだろう。

 

だったら・・・・楽しませる余裕なんて与えない。こいつはここで俺が・・・・

 

「ダメよ一誠、落ち着きなさい!」

 

コカビエルを倒すために禁手化(バランス・ブレイク)しようとしたその瞬間、部長が俺の前に出て来た。

 

「止めないでください部長。俺はコカビエルを・・・・」

 

「あなたの怒りは理解できるわ。今すぐにでもコカビエルを殴り飛ばしたいのでしょう?だけれどここではダメよ。ここでコカビエルと戦えば周囲に被害が出る・・・・・あなたのご両親も無事ではすまないかもしれないのよ?」

 

「ッ!?」

 

部長に言われてようやく気がついた。ここは住宅街だ。コカビエルほどのやつと戦えば周囲に甚大な被害が出てしまう。それにすぐ近くには母さんや父さんも・・・・・

 

・・・・・ダメだ。ここで戦うわけにはいかない。どれだけコカビエルが憎かろうと、関係のない母さんや父さんを危険な目に合わせるわけにはいかない。

 

「ふっ、冷静だなグレモリーの娘。だがまあ、周囲の被害を気にして全力を出せない赤龍帝では確かに面白みに欠ける。となれば、当初の予定通り・・・・貴様等が根城にしている学園で存分にやり合うというのはどうだ?」

 

「駒王学園で・・・・?どういうつもりかしら?」

 

「お前の根城でエクスカリバーをめぐる戦いをさせてもらう。サーゼクスとレヴィアタンの妹が通う学園だ。ほどよく魔力が立ち込めてエクスカリバーの力を解放するには最適な地だ。さぞ混沌が楽しめるだろう」

 

「・・・・・そんなことをすれば戦争が起きかねないわよ?」

 

「願ったり叶ったりだ。俺は戦争を楽しみたいというのにアザゼルもシェムハザも神器の研究などに没頭して戦争に消極的でな。それどころか二度目の戦争はないとまでほざいてやがる。だったら俺が開戦の火蓋を切るしかないだろう?二人の魔王の妹の根城で、貴様らを蹂躙すれば悪魔どもも黙ってはいまい」

 

つまり教会から聖剣を奪い、そしてその聖剣をこの地に持ち込んだのは戦争を起こすためということか・・・・・くだらない。そんなくだらない理由でこいつはこの地に来て、そして・・・・イリナを。

 

「この戦争狂め・・・・」

 

「ふっ、俺にとっては褒め言葉だな・・・・では、俺達は一旦ここで失礼しよう。学園で待つぞリアス・グレモリー・・・・・そして赤龍帝。楽しい戦争をしよう」

 

「ひゃははっ!世界初のエクスカリバー大量所持者になった俺の初陣、しっかり付き合ってくれよ悪魔ども!」

 

捨て台詞を残して、コカビエルとフリードはその場を去っていった。本当はすぐにでも追って奴らを蹂躙したいところだが・・・・今はまだ、こらえるべき時だ。この感情を・・・・・心の奥底に封じておかなければ。

 

「・・・・・イリナ」

 

地面に降りて、俺はアーシアが抱えるイリナのもとに歩み寄る。傷は癒えているが、やはり意識は失われたままで目を覚ましそうにない。

 

「まったく・・・・・ほかの二人は逃げられたってのにイリナだけこんなになっちまって。お前のことだからまた無茶したんだろうな。本当に・・・・・しょうがないやつだ」

 

変わらない。成長はしているけれど、ヤンチャ具合は、無茶するところは昔から変わらない。昔から変わらない・・・・・俺の―――なイリナだ。

 

「・・・・仕方ない。悪魔になった俺にこんなこと言われても嬉しくないかもしれないけど・・・・・幼馴染のよしみだ。お前の敵は俺がとってやる。コカビエルは俺が潰してやる・・・・・約束だ」

 

イリナの手を握り、俺はイリナの仇討ちを誓う。

 

聖剣や木場の復讐のことなんてもうどうでもいい。俺の目的はただ一つ・・・・・イリナを傷つけたコカビエルをこの手で打倒する。

 

「一誠・・・・・」

 

「一誠さん・・・・・」

 

心配そうに俺の名を呼びながら、部長とアーシアが俺腕を掴む。きっと俺の考えなど二人にはお見通しなのだろう。

 

心配をかけさせてしまっていることに対しても申し訳なく思う。だけど、それでも俺はこの憎悪を収めるつもりはない。たとえ何があっても・・・・部長であろうともアーシアであろうとも、誰にも何にも邪魔はさせない。

 

これは俺の・・・・・俺だけの復讐なのだから。

 

 




イリナさんが傷つけられたことにより怒りと憎悪が爆発してしまった一誠さん

果たしてコカビエルとどのような戦いを繰り広げるのか・・・・・

それでは次回もまたお楽しみに!


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第41話

本章もいよいよ佳境に……

一誠さんどうなってしまうのか?

それでは本編どうぞ


「・・・・・一誠、あなたそれは本気で言っているのかしら?」

 

「はい。本気です」

 

コカビエルとの決戦に臨むべく、俺達グレモリー眷属とシトリー眷属は学校の前に集まっていた。そこでコカビエルとの戦いに対する作戦を練る中・・・・・俺はある提案をした。それを聞いたその場にいた全員の表情は驚愕に染まり、部長はそれが本気であるのかと尋ねてくる。

 

「いくらなんでも無謀だわ。一人でのコカビエルと戦おうだなんて・・・・・」

 

部長は表情を険しくしながら言う。そう、俺の提案の内容はコカビエルと一人で戦わせて欲しいというものであった。

 

「一誠、あなたは確かに強いわ。ライザーをも打ち負かしたあなたは私の眷属の中で・・・・・いえ、この町にいる誰よりも強いということは疑いようはないわ。けれど、コカビエルは聖書にさえ名前を残す堕天使。その強さは本物よ。いくらあなたでも一人では荷が重すぎる。コカビエルとは皆で連携して・・・・・」

 

「部長の言いたいことはわかります。ですがどれだけうまく連携を取ろうが、皆で戦えば怪我人が増えるリスクを負うことになる。最悪の場合は死者もでかもしれません。ならばここはコカビエルと唯一互角に戦える可能性がある俺一人で戦うことが一番被害を抑えられる可能性が高いはずです。俺の中のドライグも、コカビエルと渡り合えるとしたらこの町では俺しかいないと言っていました」

 

「それは・・・・・だけど・・・・・」

 

「部長、この戦いにおける勝利はただコカビエルを撃退すればいいというものではありません。被害を出さずに戦いを終えること・・・・・それが俺達の勝利なのではありませんか?でしたら一番確率の高い・・・・・俺にコカビエルを任せてもらえないでしょうか?」

 

もっともらしい理由をつけて、俺は部長に訴え掛ける。部長に言ったことに嘘はない。嘘はないが・・・・そこには本心もなかった。俺はただ・・・・・誰にも邪魔をされずに、この手でコカビエルを倒したいだけなのだから。

 

もっとも、部長にはそれぐらいのことお見通しなのだろうが・・・・それでも建前が必要であった。

 

「・・・・・あなたの言いたいことはわかったわ。筋も通っている。コカビエル相手に最小の被害で抑える方法は確かにそれしかないかもしれないわね」

 

「リアス、彼の提案を受け入れるつもり?」

 

シトリー様はどうやら俺の案に反対らしく、それでいいのかと言わんばかりに部長に尋ねる。

 

「わかってるわソーナ。一誠の案を受け入れるということは、愛すべき眷属をたった一人でみすみす危険な目に遭わせてしまうということと同義。本来は反対するべきだということだわ。だけど・・・・・こうなってしまっては一誠は考えを改めることはない。この子は一人でコカビエルを倒すために全力を尽くしてしまう。本気の一誠の力に対して私達は・・・・・・邪魔にしかならないわ」

 

酷く悔しそうに表情を歪ませて部長は言う。忠義を尽くすと決めた部長にそんな表情をさせてしまうのは心苦しかったが・・・・・それでも、もうあとには引けなかった。

 

「一誠、あなたが一人でコカビエルと戦う事を許可するわ。だけれど、二つ約束して頂戴。一つは決して無茶はしないこと。一時間後にお兄様が加勢に来てくださる・・・・・そこまで持ちこたえればコカビエルは確実に倒すことができるわ。だから、一人で戦うといっても無茶はしないで頂戴」

 

確実に倒すことができる・・・・か。部長のお兄様、魔王ルシファー様はそれほどの力を持っているということか。なら、ルシファー様が来る前になんとしても・・・・・

 

「二つ目は、危ないと判断したら、あなたの意思とは関係なしに私達は加勢する。その時は一切の反論をしないと約束しなさい。私は・・・・・私達は誰ひとり、あなたを失うことを望んでいないの」

 

部長をはじめ、朱乃先輩、小猫、そしてアーシアが俺の事を見つめてくる。その眼光は、拒否しづらい程に真っ直ぐだった。

 

「わかりました。約束します」

 

俺は部長の妥協を受け入れた。ただ、それは表面上だけ。そのような状況にさせるつもりはないし・・・・どんな無茶をしてでも、コカビエルを倒そうという決意に一切の揺らぎはなかった。

 

「・・・・ならいいわ。コカビエルは任せたわよ一誠」

 

俺の心境を知ってか知らずか、それでも部長は俺にコカビエルの相手を任せてくれた。これでひとまずはコカビエルと思う存分戦うことができる。

 

「一誠がコカビエルの相手をしてくれているとは言え、この戦いは間違いなく死戦となるわ。けれど死ぬことは絶対に許さない。全員生きて帰ってあの学園に通うわよ。いいわね?」

 

「「「「はい」」」」

 

部長は俺達眷属を鼓舞するために声を上げ、俺達はそれに返事を返す。そして俺達は決戦の地、学園の中へ向かおうと歩み始めた。

 

「兵藤」

 

「なんだ匙?」

 

匙に呼ばれ、俺は脚を止める。

 

「お前・・・・本気でコカビエルと一人で戦う気なのか?」

 

「そうでなければあんな提案しないさ」

 

「そうか・・・・俺は、俺達シトリー眷属は外に被害が出ないように結界を貼り続けるからもしもの時助けに行けない。だけど・・・・俺はお前達の無事を信じてる。だから絶対に生きて帰ってこいよ。お前は俺にって超えるべき壁なんだからな」

 

「当然。こんなところで死ぬつもりはないさ。生きて帰る・・・・外の結界は任せたぞ」

 

「ああ」

 

匙と拳を付き合わせ、互いの健闘を誓い合った後、俺は再び歩み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その光景を一言で言い表すのなら『異様』であった

 

校庭の中央には奪われた四本のエクスカリバーが光を放ちながら浮かんでいる。それを中心に校庭を覆い尽くすほどの魔法陣が刻まれていた。そして、四本のエクスカリバーの傍らにはバルパー・ガリレイがいる。

 

まさに異様な光景・・・・・だが、俺の視線はエクスカリバーではなく、バルパーの頭上にいるコカビエルへと視線を向けていた。

 

「この術式は・・・・・一体何を?」

 

「四本のエクスカリバーを一つにするのだよ」

 

部長の疑問に答えるように、バルパーは言う。七本に分かれたエクスカリバーの内、四本を一つに・・・・当然オリジナルのエクスカリバーには遠く及ばないだろうが、それでも強力な聖剣になるだろう。まあ、そんなこと俺にとってはどうでもいいことだが。

 

「バルパー、あとどれぐらいかかる?」

 

「五分もかからんさ」

 

「そうか」

 

バルパーに聖剣の統合にかかる時間を聞いた後、コカビエルは俺達の方へと視線を向けた。

 

「グレモリーの娘、サーゼクスは来ているか?それともセラフォルーか?」

 

「お兄様とセラフォルー様の代わりにあなたの相手は・・・・」

 

「つまらん」

 

部長の言葉で今この場で魔王が居ないと知ったコカビエルは、八つ当たりと言わんばかりに巨大な光の槍を作り、体育館に向かって放つ。俺はその槍を、赤龍の爪(ドラゴン・ネイル)を展開して引き裂いた。

 

「馬鹿みたいな八つ当たりはやめろよコカビエル。魔王はいなくても・・・・ここには赤龍帝()がいる」

 

「そうだったな。では余興として楽しませてもらうとしよう。まずは俺のペットと戯れるがいい」

 

パチンとコカビエルが指を鳴らすと、、闇夜の奥から10mはあろうかという巨体と三つの首を持つ大型の犬が二頭現れた。

 

「冥界へ続く門に住まう地獄の番犬ケルベロス・・・・こんなものを人間界に持ち込むなんて!」

 

ケルベロスの出現に、部長は息を飲み、同時に臨戦態勢へとはいる。朱乃先輩と小猫も同じく構え、アーシアはいつでも回復できるようにと後方へと控えている。

 

だが・・・・・皆が身構える必要などない。こんな犬っころは・・・・・相手にすらならないのだから。

 

昇格(プロモーション)僧侶(ビショップ)

 

僧侶へと昇格し魔力を高め、両手に展開した赤龍の爪を伸ばしてケルベロスの体を引き裂く。高まった魔力により切れ味の増した爪の一撃で深々と引き裂かれた二頭のケルベロスは絶叫をあげた後に絶命した。

 

「あまり俺を舐めるなコカビエル。あんな犬二頭では余興にすらならないぞ?楽しみたいというなら・・・・俺が存分に相手をしてやる」

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!』

 

禁手化(バランス・ブレイク)し、赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)を展開しながら、俺はコカビエルを挑発する。

 

「ほう、いとも容易く禁手化するか。今代の赤龍帝は白龍皇と同じく当たりのようだな・・・・いいだろう。この俺を楽しませてみろ!」

 

俺の禁手(バランス・ブレイカー)を目の当たりにし、コカビエルは歓喜して光の剣作り出し俺に迫ってくる。

 

覚悟しろコカビエル・・・・・イリナを傷つけたお前を、俺は決して許しはしない!

 

 




ケルベロス速攻退場…………まあ、一誠さん強いし今は軽い暴走状態だから仕方ないけども

そして始まるコカビエルとの戦い…………果たして勝つのはどちらか?

それでは次回もまたお楽しみ!


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第42話

お待たせいたしました・・・・・

今回からとうとうコカビエルとの戦いです

上手く書けてればいいのですが・・・・・


 

私は一誠が一人でコカビエルと戦うことを許可した。それは一誠の言うとおり、この町でコカビエルと唯一対等に戦えることができるのは一誠だけかもしれないということと・・・・・紫藤イリナさんの件があったからだった。

 

それでも、一誠一人に全てを委ねようと思っていたわけではなかった。一誠には危なくなったら加勢すると告げていたけれど、そうでなくても隙あらば援護しようと考えていた。

 

けれど私は思い知らされる。そんな考えはひどく浅はかで、滑稽であることを。

 

目の前で繰り広げられている戦いは私を想像を絶するほどに過激で、鮮烈で・・・・・・私が加勢する隙など僅かにでも存在していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤龍の尾(ドラゴン・テイル)

 

空中で俺と相対するコカビエルを、まずは地上に叩きつけようと俺は『赤龍の尾』を展開して振りかざす。だが・・・・コカビエルは光の剣を作り出し、その尾をいとも容易く切断してしまった。

 

「なかなか面白い魔力の使い方だ。次はこちらからいかせてもらう」

 

コカビエルは数十本もの光の槍を作り出し、俺に向かって放ってくる。一つ一つの大きさは先程体育館に放ったものよりも小さいが、いかんせん数が多い。爪を展開して切り裂くには手数が足りないだろう。

 

ならば・・・・・

 

赤龍の翼(ドラゴン・ウィング)

 

俺は魔力で翼を作り出し、それで自分の体を覆って盾の代わりにした。翼は槍を受け、俺への直撃を防いでくれたが・・・・・・あまりの数に翼の耐久力がもたず、翼を貫通して鎧の胸部と左肩に槍が突き刺さってしまった。もっとも、鎧が少々破損しただけで俺の体には届かなかったのでダメージはなかったが・・・・・小さくとも光の槍。届いていたら悪魔の俺にとっては大ダメージとなっていたかもしれない。

 

(俺の魔力よりもコカビエルの光の方が分がありそうだな。なら・・・・・)

 

『Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!』

 

俺は力を高め、左腕でコカビエルに殴りかかる。コカビエルは笑みを浮かべて俺に合わせるように右腕を突き出し、俺とコカビエルの拳がぶつかり合った。

 

「ぐっ・・・・・ぐおっ!?」

 

結果として、コカビエルの方がパワー負けして後ずさることとなった。ぶつけた拳は、血が滲んでいる。

 

(腕力・・・・・パワーは俺が上か。だったらこのまま・・・・)

 

俺はコカビエルに対して接近戦を仕掛けた。コカビエルに拳や蹴りの乱打を浴びせる。だが、コカビエルはそれらを躱したりいなしたりして、まともにダメージを与えることはできなかった。

 

「いいぞ赤龍帝!もっと楽しませろ!」

 

平然と俺の攻撃を捌くコカビエルは、高らかに笑い声さえ上げている。この程度ならまだまだ余裕ということか。

 

「・・・・・・」

 

俺は一旦攻撃の手を止め、距離をとった。

 

「む?どうした?俺と倒すのではないのか?」

 

「言われなくてもそのつもりだ。黙ってろ」

 

コカビエルの挑発を適当に流し、俺は戦術を建てることに専念する。

 

(俺の魔力はコカビエルの光に劣る。だがパワーは俺の方が上でスピードは互角といったところか。だが、それは現段階での話。コカビエルがまだ本気でない可能性もある。何よりあいつと俺とでは戦闘経験が違いすぎる・・・・・・このままなら不利だな)

 

戦闘能力以上に、戦闘経験の差は大きい。コカビエルは俺が生まれるより遥か前から戦ってきた。もしかしたら俺以上に強い奴と戦うこともあったかもしれない。あるいはコカビエルにとっては本当にこの戦いは余興なのかもな・・・・・

 

(こうなったらアレを・・・・・)

 

(よせ相棒)

 

奥の手を使おうと考える俺だったが、それをドライグが止めた。

 

(大帝(オーバーロード)・・・・・確かに決まればコカビエル程度を倒すことは容易だろう。だがあの力は大きすぎる。この学園どころか、この町を地図から消すことにもなりかねないぞ?)

 

ドライグの言うことはもっともだ。大帝(オーバーロード)・・・・・それは、白龍皇が覇龍(ジャガーノート・ドライブ)を習得していた場合に備えて習得した奥の手であった。だが、あれはあまりにも強力すぎる。ドライグの言うとおり、こんなところで使えば周りの被害が甚大だろう。

 

そうなればここのいる部長達や・・・・・まだこの町で休ませているイリナもただではすまないかもしれない。そうなると大帝(オーバーロード)抜きでコカビエルと戦わなければならない・・・・勝率は下がるだろう。

 

だが・・・・・

 

(だからといって・・・・・負けるわけにはいかない!)

 

昇格(プロモーション)女王(クイーン)

 

俺は女王へと昇格する。女王への昇格を戦闘で使うのは始めてだった。すべての能力を引き上げるこの女王への昇格・・・・・それは強力であるが、だからこそ扱いが厄介だ。一点突出ではないため力の調整に難義するし、戦い方が雑になる恐れもある。

 

だが・・・・・戦闘経験に差があるのなら、せめて戦闘能力ではコカビエルを上回っておかなければならない。それぐらいしなければ・・・・・勝てるはずがないんだ。

 

「いくぞコカビエル・・・・・ここからが本番だ!」

 

「ごあっ!?」

 

俺は一気にコカビエルに接近し、その顔面を殴りつけた。直前で体を後ろへと逸したため威力を少し殺されたが、それでも口から血を吐いているということはそれなりのダメージを与えられたということだろう。

 

しかし・・・・・

 

「ちっ・・・・くそが」

 

やはりコカビエルは強い。俺が殴る瞬間、体を後ろに逸らすのと同時に光の剣で俺を斬りつけていた。浅いが俺の胸部に裂傷が生じ、血が流れる。普通の剣でなく、光の剣で斬られたせいか傷口が酷く熱を持ち、体が内側から悲鳴をあげているように感じる。

 

「くくくっ・・・・・やはり面白いな赤龍帝。ここまで心が踊る戦いは久方ぶりだ」

 

まともな一撃入れてなお、コカビエルの笑みは消えない。

 

むかつく・・・・・むかつくむかつくむかつく

 

何を笑っていやがる。何がそんなに楽しい?

 

コカビエルが笑っている姿を見るたびに怒りが増していく。コカビエルが楽しんでいる姿を見るたびに憎悪が増していく。

 

なんでこいつは・・・・・・・なんでイリナを傷つけたこいつが、こんなに楽しそうに笑ってるんだよ!

 

赤龍の爪(ドラゴン・ネイル)赤龍の翼(ドラゴン・ウィング)赤龍の尾(ドラゴン・テイル)

 

これまでにないほどに魔力を練り上げ爪を、翼を、尾を展開する。

 

「ほう、かなりの魔力を練り上げているな。これはさらに面白く・・・・」

 

「笑うな」

 

「なに?」

 

「俺の目の前で・・・・・笑ってんじゃねぇぇぇぇぇ!!」

 

「ッ!?」

 

激情のままに腕を振るう。俺の赤い爪はコカビエルの8枚の黒い翼のうち、一枚を引き裂いた。

 

「もう・・・・・笑わせない!俺の目の前で笑うことなんて二度と許さない!楽しませてなんてやらない・・・・徹底的に苦しめて、貴様を倒す!」

 

「このガキが・・・・・・いいだろう。そこまで言うなら楽しむのはやめだ。俺も本気で・・・・貴様を殺しに行かせてもらう!」

 

羽を引き裂かれたことでようやくタガが外れたのか、コカビエルは笑みを消し、憎悪の篭った目で俺を見てくる。そして両手に光の剣を握り、俺に斬りかかり、俺も爪で受け、こちらからも斬りかかる。

 

俺の赤い爪と、コカビエルの光の剣は高速で何度もぶつかり合う。互いに防ぎきれなかった斬撃が身を引き裂き、血が溢れる。鎧のおかげでコカビエルよりも傷自体は浅いが、相性の悪い俺はそれでもダメージは大きい。トータルのダメージは俺もコカビエルも大差ないだろう。

 

(もっと・・・・・)

 

『Boost!!』

 

(もっとだ!)

 

『Boost!!』

 

(もっと速く!)

 

『Boost!!』

 

(もっと強く!)

 

『Boost!!』

 

(もっともっと・・・・・力を!)

 

『Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!』

 

倒す・・・・必ずこいつを・・・・コカビエルを!

 

だから・・・・

 

「もっと力を・・・・・寄越しやがれ!!」

 

もっと強く・・・・・もっと俺に力を!

 

 




いつもの冷静さが見られない一誠さん・・・・・それだけの怒りと憎悪を抱いてるのはもちろんですが、相手が相手なので余裕がない様子

はたしてどのような決着をみせるのか・・・・・

それでは次回もまたお楽しみに!


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第43話

今回でコカビエルとの戦いに一応の決着がつきます

はたしてどうなるか・・・・・

それでは本編どうぞ


「馬鹿な・・・・・私のエクスカリバーが・・・・・」

 

膝をつき、表情を絶望と落胆で染めるバルパー・ガリレイ。

 

僕の同士から抜かれた聖剣因子・・・・皆の思いと共にその力を授かった僕は、『魔剣創造(ソード・バース)』を禁手(バランス・ブレイカー)双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』へと至らせた。そして教会の戦士ゼノヴィアさん、そして彼女の奥の手である聖剣、デュランダルの力もあったとはいえ、とうとう僕はエクスカリバーに打ち勝つことができたんだ。

 

あとは・・・・・

 

「次はあなただバルパー。覚悟を決めてもらおう」

 

あとは諸悪の根源・・・・・バルパーさえ倒せば・・・・!

 

「聖魔剣・・・・ありえない。相反する二つの要素が混ざり合うなど・・・・」

 

聖魔剣をバルパーに向けるが、バルパーはそれを意に介することなく考えにふけっている。そんなバルパーの態度に怒りを抱く僕だったが・・・・・

 

「まさか・・・・・そうか!わかったぞ!聖と魔、それらを司る存在のバランスが大きく崩れているというのなら説明がつく!魔王だけでなく・・・・・神もまた既に死んでいるのか!」

 

「「「・・・・・え?」」」

 

バルパーの発言に僕の怒りは一気に冷えていくのを感じた。バルパーの話を聞いていたその場にいた全員が表情を驚愕に染める。特に元聖女であるアーシアさんと、教会の戦士であるゼノヴィアは相当動揺していた。

 

「バルパー、それは・・・・」

 

「ぐぅっ!?」

 

神の死・・・・・それが信じられず、バルパーに問いただそうとしたその瞬間だった。バルパーは・・・・光の槍に貫かれて倒れてしまった。

 

「バ、バルパー!?」

 

突然のことに慌てながらも、僕はバルパーに近づいて生死を確認した。槍はバルパーの心臓を貫いており・・・・・バルパーは間違いなく死んでいた。

 

光の槍・・・・・この場でそれを放てる者は一人しかいない。僕はそれを放った人物・・・・・コカビエルの方へと視線を向けるが・・・・

 

「ッ!?これ・・・・は・・・・・」

 

その光景を見て、僕は確信した。コカビエルは狙ってバルパーを殺したわけではないと。あの槍は・・・・・偶発的にバルパーに突き刺さってしまったものだと。

 

僕の目に映るのは・・・・・ぶつかり合う赤と黒。想像を絶するほどに苛烈な戦いを繰り広げる一誠くんとコカビエルの姿だった。

 

「「おおおぉぉぉぉ!!」」

 

咆哮を上げながら、二人は互いを倒すために体を動かし続けていた。一誠くんは全身に身につけた鎧の半分近くを砕かれ、体のいたるところに切り傷が生じ、そこからは多量の血が吹き出している。ただでさえ痛々しい姿だが、あの傷をつけたのはコカビエルの光の武器だ・・・・・その痛みは僕の想像を絶するものだろう。

 

だが、ダメージを受けているのは一誠くんだけではない。コカビエルもまた全身から血が吹き出しており、8枚あった翼は今では5枚になっている。そしてなにより・・・・・左足の膝から先が存在していなかった。

 

二人共、既に動けなくなってもおかしくないほどの重傷なのに・・・・・それでもなお、二人は戦い続けていた。

 

「はあはあ・・・・・思った以上にやるな赤龍帝」

 

「はっ。お前に褒められたところで嬉しくもなんともないんだよ。とっととくたばりやがれ」

 

攻撃の手を止め、二人は言葉を交わし始める。その間も、殺気と闘気は一切失われておらず・・・・僕は、僕たちは口を挟むことができなかった。

 

「・・・・赤龍帝。お前は俺に笑うなと、楽しむなと言ったな。確かにこの戦い、既に楽しむ余裕など俺にはない。だが・・・・・それでも言わせてもらおう。今まで俺が戦ってきた中でもお前ほどの強者はそうそういなかった。貴様と戦えたことを・・・・・俺は一人の戦士として誇りに思い、お前に敬意を評す」

 

コカビエルは真っ直ぐに一誠くんを見据えながら言う。その目からは、言動からは一切の邪気も悪意も感じられない。一介の戦士として・・・・・コカビエルは一誠くんのことを認めているんだ。

 

この事態を巻き起こしたのはコカビエルだ。それは許せないことだし、敵であることにも変わりはない。けれど・・・・・あんな態度を見せられては、敵でもコカビエルを認めざるを得なかった。

 

だけど・・・・・

 

「誇り?敬意?そんなものどうでもいい。そんなもののために俺は戦ってるんじゃない。俺はただ・・・・・お前を倒せればそれでいい!」

 

一誠くんは・・・・・誇りも敬意も何一つ抱いていなかった。一誠くんの目から読み取れるのは怒りと憎悪、そして殺意だった。あの目は戦士の目ではなく・・・・・ただの復讐者の目・・・・・僕と同じ目だ。こうして傍から見てようやく気づく・・・・・あれは見ているものを不安にさせるものだ。

 

複雑な気分だった・・・・・この戦い、敵であるコカビエルには敬意を抱かされるというのに、味方である一誠くんには不安を抱いてしまう・・・・・どうしてこうなってしまったのだろうか?

 

「一誠・・・・・」

 

「一誠さん・・・・」

 

部長と、先程まで神の死に絶望していたアーシアさんでさえ、一誠くんに心配そうな目を向ける。けれど今の一誠くんにはそれに気がつく余裕はなく、気づいたとしても・・・・・きっと何の反応も示さなかっただろう。

 

こうなってしまっては、僕たちにできることは・・・・・一誠くんの勝利を願うことだけだ。

 

「一誠くん・・・・・せめて、勝ってくれ」

 

僕は言葉に出して、一誠くんの勝利を願う。

 

それは間違った応援だと気づいていながら・・・・・・僕にはそれしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(くそ・・・・・やっぱり強い)

 

コカビエルの強さに、心内で舌打ちをする。全力で戦っている。神器(セイクリッド・ギア)で力も高めている。けれど、それでも決定打を与えられない。認めたくはないが、さすがは歴戦の勇士といったところなのだろう。

 

(・・・・・もうひと押し、覚悟を決める必要があるか)

 

決定打を与えられないとは言え、今の戦い方がコカビエルに通じているのは間違いない。だが、それでも倒すのには足りない。ならば・・・・確実に倒すためには賭けに出るしかない。下手をすれば死ぬかもしれないが・・・・それでももうこれしかない。

 

昇格(プロモーション)戦車(ルーク)

 

女王から戦車へと昇格を移行する。これで魔力もスピードも落ちてしまったが防御力は健全。そして・・・・・ただひたすらに、自身の力だけに集中することができる。

 

「コカビエル・・・・・・これで終わりだ」

 

今の状態では、これ以上力を倍加させることはできない。ならば全ての力を左腕に集中させる。残った力、ありったけを全てだ。

 

(倒す)

 

あとのことなんて考えない。先のことなんてどうでもいい。

 

(倒す・・・・倒す!)

 

今はただ、コカビエルを倒すことだけが俺の全て。

 

(ぶっ倒してやる!ぶっ潰してやる!)

 

コカビエルは・・・・・・

 

(必ず・・・・・・倒して見せる!)

 

コカビエルは・・・・・()()イリナを傷つけた!

 

「コカビエルゥゥゥゥ!!」

 

「赤龍帝ぃぃぃぃ!!」

 

俺はただ、まっすぐにコカビエルに向かって突っ込んだ。コカビエルは俺に向かっていくつもの光の槍を投げつける。俺はそれを・・・・躱すことなく、勢いを殺さずにコカビエルに向かって突き進んだ。

 

右肩、脇腹、左膝を光の槍が貫く。体に激痛が走ると同時に、毒のように光が俺の体内を駆け巡った。

 

目の前が霞む。意識が遠のく。だが、それでも俺は止まらない。止まるわけには行かない。

 

「はあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

意識が飛ばないよう、血を吐きながら叫び、俺はコカビエルに接近する。そして・・・・・すべての力を集約した左腕で、コカビエルの顔面をぶん殴り、地面へと叩きつけた。

 

ドゴン!、と大きな音を立て、地面は大きくひび割れ、クレーターができる。その中心で、コカビエルは倒れていた。

 

「見事・・・・だ。赤龍・・・・帝」

 

最後に笑みを浮かべながらそう言った後、コカビエルは動かなくなる。もう闘気も殺気も感じられない・・・・・起き上がることはないだろう。

 

「・・・・・笑うなって言っただろうが」

 

俺はコカビエルへの忌々しさを内に秘めたまま、鎧を解除する。

 

強敵であったコカビエル・・・・・それでも、倒したことに対する達成感は、一切沸いてこなかった。

 

 

 




バルパー、まさかの流れ弾で死亡

コカビエルもそうですが、一誠さんもそのことには全く気が付いていません・・・・それだけ戦いは過激だったので

そしてコカビエルを撃破した一誠さん・・・・・ただ、これで良かったかどうかと言われると・・・・・・複雑と言わざるを得ないでしょう

それでは次回もまたお楽しみに!


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第44話

今回は白龍皇との邂逅になります

さて、どうなるか・・・・・・

それでは本編どうぞ


 

「一誠さん!」

 

コカビエルとの戦いを終え、鎧を解除した直後にアーシアが俺の方に駆け寄ってきた。その表情は悲痛に染まっている。

 

「ああ。大丈・・・・ッ!!」

 

大丈夫だと答えようとしたが、体に走る激痛で言葉に詰まってしまった。戦闘が終わって気が抜けてしまったせいか、先ほどよりも強く、激しく痛みを感じる。考えてみれば光の武器で散々傷つけられ、最後には3箇所も槍で貫かれてしまったのだから痛くないはずがない・・・・・正直、意識を手放してしまいたくなるほどだ。

 

「一誠さん、じっとしててください」

 

アーシアは神器(セイクリッド・ギア)の力で俺を治癒する。自分でも痛々しいと思える傷はみるみる治癒していった。もっとも、体力まできちんと戻ったわけではないので意識が朦朧とするのには変わりないのだが。

 

「・・・・・一誠」

 

アーシアから治療を受けている俺のもとに、部長や皆が近づいてきた。

 

「部長、どうにかコカビエルは倒すことができました。かなりギリギリでしたけど・・・・」

 

「そうね。見ていてとても心配だったわ」

 

「・・・・・すみません」

 

「念を押したのに無茶をしたことに関して色々と言いたいことはあるけれど・・・・・今はいいわ。よくやったわね一誠」

 

部長は微笑みを浮かべて俺の頭を撫でてくる。コカビエルとの戦いで思うところはあるようだが、今は俺の労をねぎらおうとしてくれているのだろう。

 

それにしても・・・・・部長たちが俺のもとに来ているということは・・・・

 

「木場、お前の復讐の方は終わったのか?」

 

「うん・・・・まあね」

 

木場の返事を聞き、周りを見渡すと倒れているフリードとバルパーの姿を確認できた。フリードのそばには、折れた聖剣もある。

 

「二人共殺したのか?」

 

「いいや。フリードは死んでないよ。バルパーに関しては・・・・・やっぱり気づいてなかったんだね」

 

「どういうことだ?」

 

「バルパーは・・・・君とコカビエルの戦いに巻き込まれて死んだんだ」

 

俺とコカビエルの戦いに巻き込まれて・・・・・気がつかなかったな。それだけコカビエルとの戦いに集中してたということか・・・・・まあ、少しでも集中を切らせていたら死んでいただろうから仕方ないか。

 

ともあれ・・・・木場は俺と同じように、復讐をなしたということか。

 

「木場・・・・・お前はこれで満足か?」

 

「・・・・・正直よくわからないかな。自分の中で何もかも割り切れたわけではないから。けど・・・・それでも、一つの決着が付いたことには変わりないからね。これで僕は・・・・『木場祐斗』として部長の眷属であることに専念できそうだよ」

 

「そうか・・・・・ならいい」

 

とりあえず、当初の目的は果たせたというわけか・・・・・まあ、途中から俺はコカビエルのことしか考えられなくなってしまっていたが。

 

(そういう相棒の方はどうなんだ?)

 

突然、ドライグが俺に語りかけてきた。

 

(お前が執拗にコカビエルを倒そうと拘っていたのは、あの娘が傷つけられたからだろう?つまりあの戦いはお前にとって・・・・復讐ということになる)

 

こいつ・・・・・意地の悪い事を聞きやがる。

 

ここで俺があの戦いが復讐であることを認めれば、イリナが俺にとって特別である事を認めることになる。

 

いや・・・・今更誤魔化すことなんてできないんだろうな。そう、あの戦いは俺にとって復讐だった。イリナを傷つけられて頭に血が上って・・・・コカビエルを許せなくなって。傷つけられたのがイリナ以外だったら復讐なんて考えなかったかもしれないのに・・・・・・

 

俺はやっぱり・・・・・・イリナのことが・・・・・・

 

(相棒・・・・・いい加減自分の想いに素直になったらどうだ?これ以上誤魔化してもそれこそ無意味だと思うぞ?)

 

ドライグが俺を諭すように言う。ドライグの気遣いは素直に嬉しい。嬉しいが・・・・それでも、どれだけ滑稽でも、愚かでも、哀れでも俺はこの感情と向き合うことはできない。

 

だって俺には・・・・・そんな資格がないのだから。レイナーレを、最愛だったひとを亡くしてしまった俺に・・・・・偽物の俺にそんな資格など無いのだから。

 

(ドライグ・・・・・俺はやっぱり・・・・・)

 

「ほう、コカビエルを倒すとは今代の赤龍帝は当たりのようだな」

 

「「「!?」」」

 

ドライグに俺の考えを教え用としたその時、聞き覚えのない声が聞こえてきた。

 

声をする方・・・・・上空へと視線を向けると、そこには白い鎧が俺の目に映る。

 

(こいつ・・・・まさか!?)

 

自然と鼓動が早くなる。目に映る白に対して、強い闘争心が芽生えるのを感じる。

 

俺の鎧とよく似た白い鎧を纏うあいつはおそらく・・・・・

 

「貴様・・・・・白龍皇か!」

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!』

 

俺はすぐさま禁手化(バランス・ブレイク)し、赤い鎧を身に纏った。

 

「あれだけの戦いをしたあとで、まだ禁手化する力が残っているとはね。傷は癒えているようだが、体力までは回復していないはずだが・・・・・面白い。ますます君に興味が湧いたよ」

 

禁手化した俺に対して、白龍皇は機嫌よさげにしていた。

 

「だが・・・・・この場で戦うのはやめておこう。禁手化しているとはいえ、疲弊しきっている今の君では俺の足元にも及ばないだろうからね。その状態の君と戦うのはあまりにも勿体無い」

 

どうやら白龍皇は今は俺と戦うつもりがないらしい。ふざけるなと思ったが・・・・・実際問題、今ここで奴と戦うのは得策ではないことは俺自身十分に理解していた。

 

禁手化して鎧を纏うことはできたが、これはほとんど形だけだ。魔力はほとんど使い果たしてしまっているし、まともに動くことさえままならない。こんな状態では奥の手である『大帝(オーバー・ロード)』も発動できないだろうし・・・・・ようやく訪れた戦う機会が失われるのは残念だが、向こうから退いてくれるのは俺としても都合がよかった。見た限りだが・・・・・こいつは相当強そうだしな。

 

「ちっ・・・・・」

 

納得できないところもあったが、俺は鎧を解除した。

 

「それでいい。今はまだ、君と戦う時ではないからな。さて、それじゃあ俺は俺の役割を果たさせてもらうとしよう」

 

そう言いながら、白龍皇は倒れたコカビエルに近づいていった。

 

「コカビエルをどうするつもりだ?」

 

「連れて行くのさ。アザゼルからそう言われているんでね。本当はコカビエルと戦うのを楽しみにしていたのだが・・・・・まあ、そこは宿敵と会えたということでよしとしておこう」

 

アザゼルって・・・・・確か堕天使の総督だよな?そのアザゼルの命令でコカビエルを連れて行くっていうことは・・・・・

 

「まさか、今代の白龍皇が堕天使側だとはな」

 

「君も人のことはいえないだろう?君は悪魔なんだからな」

 

「まあ・・・・そうだな」

 

数奇なものだな。今代の赤龍帝も白龍皇も人ではない・・・・・かつて二天龍を封印した種族に身を寄せているとは。

 

「と、フリードも回収しなければな。聞き出さなければならないこともある」

 

そう言いながら、コカビエルと同じようにフリードも抱える白龍皇。そしてそのまま飛び去っていこうとしたとき・・・・・ドライグが声をあげた。

 

『無視か白いの?』

 

『すまんな。だが、せっかく会えたというのにこの状況ではな』

 

白龍皇の方から聞こえてくる声。この声の主が白い龍(バニシング・ドラゴン)アルビオンなのだろう。

 

『いいさ、いずれは戦う運命だ。今回は互いに宿主に恵まれているようだからな』

 

『そうだな。言っておくが、こいつは強いぞ?歴代最強の白龍皇になるだろう』

 

『それはこちらもだ。相棒は間違いなく歴代最強の赤龍帝となる。そちらには負けんさ』

 

『いいや。今回はこちらが勝たせてもらう』

 

『『・・・・・・』』

 

声だけだが、互いに闘志をむき出しにする二天龍。だが、その闘志の中に敵意があまり含まれていないように感じた。

 

神器(セイクリッド・ギア)に封印された当初は、自らの体で戦えず、宿主に委ねなければならないことに不満を覚えていたが・・・・・今回は全盛期並に楽しめそうだな』

 

『そうだな・・・・・戦う時を楽しみにしておこう。またなドライグ』

 

『じゃあなアルビオン』

 

会話を終えると同時に、白龍皇は飛び去っていった。

 

(あれが白龍皇。俺の宿敵で・・・・・俺の生きる目的)

 

気づけば強く拳を握りしめていた。宿敵との邂逅により、コカビエルとの激戦のあとだというのに俺の心は激しく高ぶっている。

 

だが・・・・・その昂ぶりに俺の体は、意識は付いていくことができなかった。

 

(ああ、くそ・・・・・久しぶりに・・・・・眠たいな)

 

激戦により疲弊しきってしまっていた俺は、瞼を閉じて意識を手放した。

 

(いつか必ず倒してやるよ・・・・白龍皇)

 

 

 




ひとまずここでの戦闘は回避。ただ、原作以上に白龍皇は一誠さんの実力を認め、興味を持っていますが・・・・・

それでは次回もまたお楽しみに!


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第45話

今回はコカビエル戦の後のお話になります

この章もそろそろ終わりかな・・・・・

それでは本編どうぞ


白い龍に魅入られたもの・・・・・・今代の白龍皇。奴を目にしたとき、俺が感じたのは圧倒的なまでな威圧感だった。あの場で戦うつもりがなかったにも関わらず、奴からはコカビエル以上の存在感を発していた

 

間違いなく、やつは強い。認めたくはないが・・・・・おそらく今の俺以上の力を有しているだろう

 

けど・・・・・けれど、やつがどれだけ強かろうが俺は負けられない。負けるわけにはいかない。白龍皇を倒すことは・・・・・俺にとって生きる目的の一つなのだから

 

倒す・・・・倒す倒す倒す。この手で倒して見せる。今代の赤龍帝として奴を必ず・・・・

 

そのためにももっと強くならなければ。奴を圧倒できるほどに。奴を膝まづかせるほどに。奴を超える力を

 

奴を倒せなければ俺は・・・・・俺の存在意味が・・・・・薄れてしまうのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、赤龍帝」

 

コカビエルとの戦いから三日経ち、部室に訪れた俺を出迎えたのは・・・・・・何故か教会の戦士であるゼノヴィアであった。

 

「いや、やあじゃないだろ。なんで教会の戦士であるお前が駒王学園の制服を着てここにいる?」

 

「神がいないと知ってやぶれかぶれになってね。悪魔に転生したんだ」

 

「・・・・は?」

 

悪魔の翼を広げながら言うゼノヴィアに、俺は思わず唖然としてしまった。俺とともに部室に入ったアーシアもまた驚きの表情をあらわにしている。

 

「あの、部長・・・・・彼女に悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を与えたんですか?」

 

「ええ。聖剣デュランダルの使い手である彼女が騎士(ナイト)となってくれれば頼もしいと思ったから転生させたのよ。これで祐斗と共に剣士の二翼が誕生したわね」

 

どこか誇らしげに言う部長。まあ部長が決めたことなら文句はないのだが・・・・・

 

「いいんですか?デュランダルって相当強力な聖剣なんですよね?聖剣とその使い手を悪魔に引き抜くだなんて教会との争いの種になりかねないと思うのですが・・・・・」

 

「そのことなら心配無用さ。私は教会に見捨てられたようなものだからね」

 

「見捨てられたって・・・・どういうことだ?」

 

「はじめは教会側も色々と言ってきたのだが・・・・神の不在を伝えた途端何も言わなくなったよ。どうやらそれを知る異端が教会に属するというのは避けたいようだ。私がデュランダルの使い手とはいえ、異端である以上は切り離すほかない。アーシア・アルジェントの時と似たようなものさ」

 

長らく教会に属していたのであろう。ゼノヴィアは思うところが色々とあるようで、どこか悲しげな表情を浮かべていた。

 

神の不在に関しては意識が戻った後部長から聞いた。部長が魔王であり兄でもあるサーゼクス様に確認をとったところ、それは事実であったようだ。神を絶対の信仰対象としている教会としては、その不在を知る者を切り捨てるのは当然といえば当然の処置であろう。

 

だが、ゼノヴィアが悪魔に転生したというのなら・・・・・

 

「・・・・イリナには神の不在を伝えたのか?」

 

俺はイリナがどうなったのかが気になり、ゼノヴィアに尋ねてみる。

 

「いいや、イリナには神の不在は伝えていない。私以上に信仰の深かったイリナがそれを知れば、酷く取り乱し立ち直れないかもしれないと思ったからね。こういってはなんだが、あの日の夜、戦線を離脱していたイリナは運が良かった」

 

とりあえずイリナは神の不在を知らずに済んだのか・・・・まあ、それでよかったんだろうな。ゼノヴィアの言うとおり、イリナが知ってしまったら心の均衡を乱してしまっただろうし。

 

「それで、イリナはどうしたんだ?」

 

「イリナは回収した私が持っていたものを含めたエクスカリバー5本とバルパーの遺体を持って本部に帰ったよ。ただ、私が悪魔になった事を残念がっていた。何度も理由を聞かれたが理由が理由なだけあって何も言えなかったよ・・・・・・今度会うときは、あるいは敵としてかもしれないな」

 

「・・・・そうか」

 

ゼノヴィアもある意味では俺と同じかもな。イリナとある程度近しい存在で共に悪魔になってしまった。その上、その理由を知ることができないというのだから・・・・イリナは一体どんな気持ちだったんだろう?

 

「・・・・・赤龍帝、イリナと別れる時に君に伝言を頼まれた」

 

「俺に伝言」

 

「ああ。大したものではないよ。ただ・・・・・生きてて良かったと。そう伝えて欲しいと頼まれた」

 

生きてて良かった・・・・・か。まったく、自分だってボロボロになるまでやられたっていうのになんで俺なんかの事を気にするんだよあのバカは。

 

「ああ、それと。次会うときには絶対に悪魔になった理由を聞いてやるとも言っていたな」

 

「・・・・・それはわざわざ伝えなくてもいい」

 

あいつ、まだ諦めてないのか・・・・・・何があっても俺からは話すつもりはないっていうのに。

 

「イリナは私が悪魔になった理由よりも、君が悪魔になった理由の方を知りたがっている感じだったよ。君はよほどイリナに思われているようだな」

 

「・・・・・何が言いたい?」

 

「別に。ただ、今は袂を分かったとはいえイリナは相棒だったからね。そのイリナの気持ちをないがしろにされて少々怒りを覚えているだけさ」

 

随分とまあストレートに言ってくれる。まあ、ゼノヴィアにどう思われようと、俺は曲げるつもりはないからいいけどさ。

 

さて、イリナに関してはここまでだな。他にも聞いておきたいことはあるし。

 

「部長、今回のコカビエルの件で教会や堕天使側で何か動きはありませんか?」

 

「あるわよ。まず教会側に関してだけれど、堕天使の動きが不透明で不誠実であるため、遺憾ではあるけれど連絡を取りたいと悪魔側・・・・つまり魔王に打診してきたそうよ」

 

「それと、バルパーの件に関しても自分たちの方にも非があると謝罪してきました」

 

いつの間にか部室に現れたシトリー様が補足するように言う。シトリー様の近くには匙もいた。

 

「堕天使側については、堕天使の総督アザゼルによると紺系の一件は三すくみの均衡を崩し、戦争を画策していたコカビエルの独断と言っていました。ほかの幹部たちは一切関与しておらず、計画の事を知りもしていなかったそうです」

 

「そしてコカビエルは地獄の最下層・・・・コキュートスでの永久凍結の刑が執行されたようよ」

 

永久凍結か・・・・・まあ、しでかしたことを考えればそれぐらいが妥当だろう。

 

「それと、堕天使達は兵藤がコカビエルを倒してくれたことに感謝してるようだぜ・・・・・今更だけどお前、よくあのコカビエルを倒せたよな」

 

匙が驚きながらも、どこか感心したように俺に言う。

 

「まあ、ギリギリではあったけどな。それにしても感謝ね・・・・・よく言う。俺が倒さなくても白龍皇が何とかしてただろうに」

 

現時点で、白龍皇はおそらく俺よりも強い。堕天使は白龍皇ならば問題なくコカビエルを止められると考えただろうからあの場に派遣したんだろうしな。

 

「ゼノヴィア、白龍皇は間違いなく堕天使側なんだよな?」

 

以前のやり取りでゼノヴィアは白龍皇のことについて触れていたので、確認のため聞いてみた。

 

「ああ。アザゼルは神器(セイクリッド・ギア)の使い手を集めている。白龍皇はその中でもトップクラスの使い手らしく、堕天使の組織、『神の子を見張る者(グリゴリ)の中でも4、5番目に強い実力者だと聞く」

 

堕天使側の中で4、5番目か・・・・・あの威圧感からして納得だな。

 

「それと、近いうちに三勢力の代表による会談が開かれるらしいわ。どうやらアザゼルから何か提言があるらしいのだけれど・・・・・コカビエルの件で当事者であった私たちも出席するよう言われているわ」

 

「三種族の代表による会談って・・・・・随分と大げさな話になりましたね」

 

下手をすると歴史を大きく動かすことにもなりかねない。そんな会談が近々開かれてそれに出ないとならないとは・・・・・

 

・・・・もしかしたら、白龍皇も出てくるかもしれないな。会談があることを考えると戦う機会を作るのは難しいかもしれないが・・・・・・・どうにかして戦えないか考えてみよう。

 

(白龍皇・・・・・・俺が必ずこの手で・・・・・!)

 

俺は心内に、白龍皇への闘志を高めていた。

 

 

 

 

 

 




やはり原作イッセーさんに比べ白龍皇への戦闘意識が高い一誠さん

いざ戦うとなったとき、どうなってしまうのか・・・・・・

それでは次回もまたお楽しみに!


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第46話

これにてこの章は終わりになります

それでは本編どうぞ


 

三種族会談が開かれることを知った日から次の日曜日。かねてからの予定通り俺達は遊びに出かけていた。

 

メンバーは俺、アーシア、小猫、松田、元浜、桐生・・・・そして木場の7人だ。復讐のことも一旦ケリがついたので、木場も誘うことに成功した。

 

ちなみにアーシアは自分といくらか境遇が似通ったゼノヴィアを気遣って誘ったのだがゼノヴィアはこなかった。今回は気分が乗らなかったらしい。まあ、機会があったらまた誘って欲しいと言っていたし、邪険にしていたわけではのでいいが。

 

「一誠、あんたもなにか歌いなさいよ」

 

皆が歌っているのを聞きながら、フライドポテトを摘んでいた俺に、桐生が歌うように促してくる。

 

「いや、俺は聞く専門だから歌うのはな・・・・・」

 

「何言ってんのよ。せっかく来たのに歌わないなんてもったいないじゃない。せっかくなんだから歌いなさい。アーシアと一緒に」

 

「き、桐生さん!?」

 

桐生の突然の提案に、アーシアが動揺した。桐生め・・・・余計な事を。

 

「アーシアもまだ歌ってないでしょ?けどまあ、カラオケ初めてって言うなら一人で歌うのはハードル高いだろうし一誠と一緒に歌えばいいじゃない」

 

「い、一誠さんと一緒に・・・・・・どうしましょう一誠さん。私聖書の暗唱ぐらいしかできないのですが・・・・一緒にやりますか?」

 

「いや、桐生の言ってることを間に受けなくていいから。それとそれはやめておけ」

 

桐生のやつ・・・・・純情なアーシアに何を吹き込んでくれるんだ。真に受けちゃうだろ。それにここで聖書の暗唱なんてされたら、悪魔である俺、木場、小猫がダメージを受けてしまう。もちろん暗唱するアーシア自身もだ。木場も小猫もそれはたまったものではないと思ったのか、手でバツを作って反対している。

 

「仕方がないわね・・・・・じゃああんた一人でもいいからなにか歌いなさいよ」

 

「昔家族とカラオケ行ったとき、俺が歌ったら父さんも母さんも苦笑いしていたたまれない空気になったぐらいには俺は音痴だがそれでもいいのか?」

 

「・・・・・まあ、無理して歌うのはよくないわね」

 

俺の弁を聞き、桐生は引き下がった。さすがに盛り上がっているのにそんな空気になるのは嫌なのだろう。ちなみに今俺が言ったことは事実である。音感がないわけではないが、俺は盛大な音痴なのだ。それこそ某猫型ロボットが出てくる国民的アニメに登場するガキ大将に引けをとらないほどに。

 

・・・・・自分の音痴っぷりに悲しくなってきたな。

 

「意外だな・・・・・お前にも苦手なことがあったんだな」

 

「どう言う意味だよ松田?」

 

「だって・・・・なあ?」

 

「ああ。一誠は器用になんでもこなすタイプだからな。苦手なものがあるとは思わなかった」

 

元浜の発言に、その場にいた俺を除く全員が頷いてみせた。別に俺はそんなに器用ではないんだが・・・・・音痴以外にも芸術センスも壊滅的にないし。高く買ってくれているのは嬉しいが、こいつらは俺をなんだと思っているんだ?

 

「誰にだって苦手なものぐらいあるだろ・・・・・ちょっと手洗い言ってくる」

 

皆にそう言って、俺は一旦部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?どうした木場」

 

用を済ませ、外に出ると木場がソファに腰を下ろしていた。

 

「少し君と話がしたくてね。出てきたんだ」

 

「話?」

 

「うん。まずは・・・・色々と手を貸してくれてありがとう。おかげで助かったよ」

 

そう言いながら、木場は俺に頭を下げてきた。

 

「何を言うかと思えば・・・・別に礼なんていらないさ。俺はただ、俺のしたいようにしただけだからな」

 

正直、決戦の時はコカビエルへの憎悪で頭がいっぱいになってて木場のことはほとんど考えてなかったからな。

 

「それでも、君がいなかったら僕は一人で突き進んで・・・・・戻ってこられなかったかもしれなかった。だからお礼を言うなら当然だと思うよ?」

 

「・・・・・そう思ってるなら小猫にも礼は言っておけよ?俺よりもよほどお前のこと心配してたんだからさ」

 

「うん。もちろんそのつもりだよ」

 

「わかってるならいい。それじゃあ戻るぞ」

 

「ちょっと待って。まだ話したいことがあるんだ」

 

部屋に戻ろうとしたところを木場に引き止められてしまった。

 

「なんだ?」

 

「君は・・・・・本気であの白龍皇を倒そうと思っているのかい?」

 

木場はいやに神妙な面持ちで尋ねてくる。

 

「当然だ。俺は赤龍帝だからな。奴を倒すことが俺の目的の一つだ」

 

「・・・・一人で戦うのかい?」

 

「ああ。こればっかりは誰にも邪魔されたくないからな。たとえ誰であっても・・・・・部長やアーシアであっても手を出すことは許さない」

 

赤龍帝として白龍皇を倒す・・・・・これは俺の、俺だけの宿命だ。誰にも邪魔をされてたまるか。

 

「実際に戦っているところを見たわけではないけれど、それでも白龍皇はコカビエル以上の威圧感を感じた。間違いなくコカビエルよりも強いと思う・・・・・それでも君は一人で挑むのかい?」

 

木場の言いたいことはわかる。俺はコカビエルを倒したとはいえ、それでもコカビエルよりも絶対的に強いとは言い切れない。あの戦いはギリギリで勝ったようなものだからな。つまり・・・・・現時点で俺は白龍皇に劣るということだ。そんな状態で本当に一人で白龍皇と戦うのか、と木場は言いたいのだろう。

 

「くどい。どんな状況であれ、どれほど実力差があろうとも俺は一人で戦う」

 

「そうか・・・・・まあ、それも君らしさではあるんだろうね」

 

木場は俺の言い分に苦笑いを浮かべる。

 

「けど・・・・・だったらなおさら、僕にそれを手伝わせて欲しい」

 

「・・・・・は?」

 

木場のその申し出の意味が分からず、俺は呆けた声を出してしまった。ついさっき一人で戦うと言ったばかりなのに手伝うとは・・・・・わけがわからない。

 

「さっきも言ったとおり、俺は誰にも手を出させるつもりはないぞ?」

 

「わかってる。だから僕の言う手伝いっていうのは君が強くなるための手伝いだよ」

 

「なに?」

 

「君のことだから、白龍皇に勝つために修行するんだろう?だったら僕がそれに付き合うよ。禁手(バランス・ブレイカー)双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』・・・・・これを習得した僕は自分でも自覚できるほどにかなり強くなることができた。それでも君には及ばないだろうけど・・・・君の修行相手ぐらいにはなる」

 

修行相手・・・・・なるほど、そういうことか。

 

「確かに一人で鍛えるよりよほど質のいい修行ができそうだ。だがそれはお前が本気で・・・・俺を殺す気で相手をしてくれた場合だ。本気の殺気、本気の闘気・・・・・それが込められていない相手と戦ったとしても修行の質は上がらない。お前にその覚悟があるのか?」

 

「ああ・・・・あるよ。僕は君を殺すつもりで修行の相手を務めるつもりだ」

 

木場の目は本気だった。そして真っ直ぐに俺を見ている。

 

禁手に至った木場を相手に修行・・・・・確かに俺にとっては好都合だ。木場が覚悟をもって相手をしてくれるというなら無下にするわけにもいかないだろう。

 

「・・・・・修行相手になるって言うならお前も大怪我をする可能性もある。ときには俺も殺す気で戦うことにもなるかもしれない。それでもいいのか?」

 

「構わない。それぐらいしないと僕程度じゃ君を強くすることなんてできないだろうからね。それに・・・・・それだけやってもらえば、僕にとっても修行になる」

 

こいつ、俺の修行相手とか言っておきながら自分が強くなることも画策してやがる・・・・・抜け目のないやつだ。だがまあ、その分信用もできるか。

 

「それじゃあ・・・・・頼むぞ木場。今度から俺の修行に付き合ってもらうからな」

 

「ああ。望むところだよ」

 

互いに拳を付き合わせる俺と木場。

 

木場が本気で相手をしてくれるというのなら、きっと俺は強くなれる。

 

強く・・・・強く

 

もっともっと強くなるんだ・・・・・

 

白龍皇を・・・・・ねじ伏せる程に

 

 




まさかお音痴な一誠さん

ま、まあこの世界線の一誠さんはおっぱいドラゴンの歌を歌わないからいいよね

そして相変わらず白龍皇への戦闘意識が・・・・・

それでは次回もまたお楽しみに!


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停止教室のヴァンパイア
第47話


今回から新章突入

そして今回はあの方が・・・・・

それでは本編どうぞ!


 

コカビエルとの戦いから一週間経ったある日、僕は駒王学園近くの人目のない広場で一誠くんと手合わせしていた。

 

「はっ!」

 

「ッ!」

 

僕の剣が一誠くんの魔力で作り出した爪を切り裂く。以前はこんなことはできなかったけれど、禁手(バランス・ブレイカー)双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』で作り出した聖魔剣がそれを可能にする。

 

(いける・・・・この力なら僕は一誠くんとも戦える)

 

僕が自身の力に確かな手応えを感じたその瞬間・・・・・

 

「・・・・禁手化(バランス・ブレイク)

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!』

 

「ッ!?」

 

一誠くんもまた、禁手化してきた。赤い鎧を身に纏った一誠くんから感じる圧力は先程までとは比べ物にならない。ただ向き合っているだけでも膝が震えてしまいそうなほどだ。

 

赤龍の爪(ドラゴン・ネイル)

 

再び魔力で爪を生成した一誠くんは、その爪を僕に向かって振りかざす。先ほどと同じようにそれを切り裂こうと僕は剣を振るうが・・・・・・切り裂かれたのは僕の剣の方だった。本物には及ばないとは言え、エクスカリバーにさえ打ち勝った聖魔剣だが、禁手化した一誠くんにはまるで通じないらしい。

 

「ここまでだな」

 

「・・・・そうだね」

 

僕の首に爪を添えながら告げる一誠くんのその言葉を僕は素直に受け入れた。これ以上やっても意味がない。たとえ新たな聖魔剣を作り出したところで、また切り裂かれるか折られるかのどちらかだ。

 

「聖魔剣・・・・相当な力だな。禁手化してない状態では正直厳しい」

 

「それを言うなら一誠くんの方だよ。禁手同士なのにここまで差があるだなんて・・・・・」

 

「それはお前自身がまだ禁手の力に馴染めていないからだろう。木場はセンスがある。禁手状態になれればもっともっと強くなれると思うぞ?」

 

「君にそう言ってもらえると嬉しいよ」

 

あの一誠くんから認めてもらえた。それは僕にとって嬉しいことだった。圧倒的ともいえるほどの力を有している一誠くんは僕にとっては憧れの対象でもあったから。

 

「そういえば気になっていたんだけど・・・・・一誠くんはいつごろ禁手に至ったんだい?」

 

僕は興味本位で一誠くんに尋ねてみた。

 

「俺は・・・・・初めて神器(セイクリッド・ギア)を、『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を展開したときに同時に禁手に至ったよ」

 

「・・・・え?」

 

僕は一瞬一誠くんの言っていることの意味が分からずに思わず間の抜けた声が出てしまった。

 

「え?それって・・・・はじめから禁手に至っていたっていうことかい?」

 

「それとは少し違うな。禁手ってのは所有者の思いと、劇的な転換点があった時に至るもの。俺にとってのその転換点が赤龍帝の籠手を展開したこと事態がそうだってっていうことだろう」

 

神器の発動そのものが劇的な転換点・・・・・確かに、人によってはそういうこともあるかもしれない。それこそ一誠くんの赤龍帝の籠手は超常の力を秘めているのだから。けれど、それでも発動するだけで禁手に至ったということは・・・・・そもそもそれだけのものが一誠くんには元々備わっていたのだろう。

 

「ちなみに初めて赤龍帝の籠手を発動したのはいつ?」

 

「俺が6歳の頃だ」

 

うん、もう間違いようもなく一誠くんは天才だよ。こと戦闘に関する才能は僕は愚か、部長たちをも遥かに凌いでいる。

 

「さて、俺は今日契約入ってるから手合わせはここまでだな。先行くぞ」

 

「わかった。僕は・・・・もう少しここで一人で剣を振ってるよ」

 

「そうか。じゃな木場」

 

軽く手を振って、その場から去っていく一誠くん。

 

「・・・・・まだまだだな僕も」

 

僕は魔剣を作り出し、握り締めた。今日はもう聖魔剣を作り出すことはできない。僕はまだ、それほど長く禁手を維持することができなかった。さっき一誠くんが言ったとおり、僕自身がまだ禁手の力に馴染めていないのだろう。

 

それに引き換え一誠くんは、コカビエルと激闘を繰り広げることができる程に禁手の力を我がものにしている。一誠くんと僕にははっきりとした明確な差がある。

 

けれど・・・・きっと一誠くんは今の自分の力に微塵も満足していないのだろう。それこそ、僕程度に禁手を使わされたことに苛立ちさえ覚えているかもしれない。

 

白龍皇との邂逅で、きっと一誠くんは焦りを感じているのだろう。一誠くんは、現時点では宿敵に及ばないと思っているからだ。だからこそ一誠くんはさらなる力を求めている・・・・・そのせいか、一誠くんの表情は以前にも増して険しくなることが多かった。

 

僕は一誠くんに憧れている。そんな一誠くんに報いるには・・・・・僕自身がもっと強くなって、一誠くんの修行相手にふさわしい力を手にしなければならない。

 

「もっと・・・・・もっともっと強くならないと」

 

僕は魔剣を握り締め、その場で強く振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、よく来たな。今日もよろしく頼む」

 

「はい。こちらこそ」

 

木場との手合わせを終えて、俺は契約のため依頼者の下へやってきた。赤い髪に髭をはやしている男性だ。一目見て、()()()()()()ことがはっきりとわかる。

 

「今日はゲームでもやろうぜ。レースゲームを買ったんだが相手がいないと寂しくてな」

 

「わかりました」

 

このひとはいつもこんな何でもないような頼みをしてくる。まあ要求以上の対価をもらっているから文句はないけども。

 

「日本ってのはいい国だな。娯楽がそこらに転がってて飽きない。ほら、コントローラー」

 

「どうも。一応言っておきますけど、俺結構ゲームは強いですよ?」

 

「ほう、そいつは楽しみだ。こっちは初心者だからお手柔らかに頼むぜ」

 

こうして俺は契約者とレースゲームをすることになった。はじめは俺の圧勝だったが、回数を重ねるごとにどんどんせるようになっていき、30分もしたら互角になってしまった。

 

「上達するの早いですね・・・・・もう互角とは恐れ入りました」

 

「そいつはどうも。赤龍帝に褒めてもらえるとは嬉しい限りだな」

 

「別にそこまで喜ぶようなことでもないと思いますけど」

 

あ、負けた。本当に上達が早いなこのひと・・・・今日中に俺勝てなくなるかもなぁ。

 

「・・・・動じないんだな。赤龍帝って呼ばれたのに」

 

「ええ。それぐらいのことは知っているとは思っていましたから。堕天使総督アザゼル様」

 

「・・・・ほう、気づいてたか」

 

契約者・・・・・アザゼルは背中に黒い翼を広げる。コカビエルのものよりも深い黒の翼だった。

 

「初めて会った時から只者ではないとは思ってました。だからドライグに聞いてみたんだが・・・・・思った以上に大物だったからさすがに驚きましたよ」

 

「初めて会った時か・・・・それから何度かこうして呼び出してるってのになんで普通に来てるんだ?俺はお前のような悪魔にとって敵対勢力の総統だぞ?契約にかこつけてお前を殺すって可能性もあったんだぜ?」

 

「その時はその時で抵抗はするつもりでしたよ。だけどあなたからは殺気を感じなかった。それに・・・・自分でも不思議なくらい、敵対心が湧いてこなかったんですよ」

 

そう、これは自分でも腑に落ちなかった。相手は堕天使の総督だというのに、不思議と疑おうと思えなかった。何故か自然と受け入れることができた。

 

本当に・・・・・どうしちまったんだ俺は?

 

「そうか・・・・・まあ実際手を出すつもりはなかったからな。特に今は三種族会談も控えてるしな。下手なことをして悪魔から目をつけられるのはごめんだ」

 

「目をつけられることに関してはコカビエルの件で手遅れだと思いますけど?」

 

「それは言うなって」

 

苦笑いを浮かべるアザゼル。そんなアザゼルを見て、何故か俺はどこか安心していた。

 

「さて、それじゃあ正式に俺の正体も明かしたわけだし、お前には聞きたいことがある」

 

俺に聞きたいこと?それはやはり今代の赤龍帝である俺に対して興味があるということか?白龍皇は堕天使の側にいるし・・・・・

 

「なんですか?あなたは今俺の契約者なので答えられる範囲なら答えますけど?」

 

「そうか。じゃあまあ・・・・・なんだ?その・・・・最近どうだ?学校とか楽しいか?」

 

「なんですかその子供と微妙に距離のある父親みたいな質問は?」

 

わけがわからない・・・・・なんでわざわざそんなこと聞くんだ?

 

「まあ、お前ぐらいの年頃だとやんちゃとかもしたいんだろうが・・・・・まあ人様にあまり迷惑かけない程度にほどほどにな?」

 

「いや、だからなんですかそれは?」

 

その後も、俺とアザゼルの訳のわからないやりとりは続いていった・・・・・本当になんだったのだろうか?

 

 




アザゼル先生の様子がおかしいのには理由があります

それに関してはいずれ明かされますが・・・・今は秘密です

それでは位階もまたお楽しみに!


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第48話

今回はあまり話自体は進みませんし、原作との差異も少ないです・・・・

ですがまあ、本編どうぞ


 

「信じられないわ!堕天使の総督が私の縄張りに侵入した挙句、私の可愛い下僕に接触してくるだなんて・・・・!」

 

アザゼルのことを部長に報告すると、部長は声を荒げる。かなりご立腹な様子だ。

 

「部長、お怒りはもっともですが落ち着いてください」

 

「落ち着いてなんていられないわ!というより、一誠!知っていたのならどうして報告しなかったのよ!」

 

「すみません。向こうから敵意を感じませんでしたので泳がせておいても問題ないかと思いまして。もちろん何かあったらすぐさま報告するつもりでしたけど・・・・・・報酬も良かったので」

 

そう、アザゼルとの契約は中々実入りが良かった。宝石やら大金やら内容の割に豪勢だったからなぁ。まあ、報告しなかったのは個人的にアザゼルに対して敵意を抱くことができなかったというのもあるが。なぜだかあのひとと一緒にいるのは悪い気分ではなかったし。

 

「アザゼルは神器(セイクリッド・ギア)に造詣が深いと聞くから、狙いは一誠くんの赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)かもしれないね。宿敵である白龍皇・・・・白龍皇の翼(ディバイン・ディバイディング)の持ち主も堕天使に属しているようだし」

 

木場の言うとおりかもしれないが・・・・・どうにもそうじゃないような気がするんだよな。まあ確証はないけれど。

 

「まったく、どうしたものかしらね・・・・アザゼルが何を企んでいるかはわからないけれど、こちらから下手に動くこともできないし・・・・」

 

「アザゼルは昔からそういう男だよ、リアス」

 

アザゼルの件をどうしようかと思い悩む部長にかけられる声。声のする方向に視線を向けると、そこには紅の髪を持つ男性と、部長とライザーとの婚約の件の時に出会ったグレイフィアさんがいた。

 

「お、お兄様!?」

 

男性の姿を見て、部長は動揺していた。お兄様ということは・・・・あの方が魔王、サーゼクス・ルシファー様なのか?

 

・・・・とりあえず跪いたほうがよさそうだな。木場たちもしてるし。

 

「アザゼルは悪戯好きだが、コカビエルのようなことはしないよ。だからそう警戒することはない。それと、今日はプライベートで来たから楽にしてくれて構わないよ」

 

どうやらルシファー様は気さくな方らしい。ご厚意に甘え、俺たちは姿勢をただした。

 

「君が・・・・兵藤一誠くんだね」

 

ルシファー様は俺の近くに歩み寄って尋ねてくる。

 

「はじめまして。私はサーゼクス・ルシファー。リアスの兄で一応現ルシファーの名を受け継ぐ魔王だ。君のことはフェニックス家とのレーティング・ゲーム以来気になっていてね。こうして会える日を待ち遠しにしていたよ」

 

「私のような下級悪魔にもったいなきお言葉ありがとうございますルシファー様」

 

「そう硬くならなくてもいいよ。私の方がこが凝ってしまいそうだしね。それと、ルシファーでなく、名前の方で呼んで欲しいかな」

 

「そうですか・・・・わかりましたサーゼクス様」

 

本当に気さくだなサーゼクス様は。だけど・・・・

 

(なあドライグ)

 

(ああ。この男、相当な実力者だ。あるいは旧ルシファーをも上回るかもしれん。お前がこれまでに会った者の中では間違いなく最強だろうな)

 

やはりか。ドライグさえ認める程にサーゼクス様は強いようだ。戦闘でもないのに、あのコカビエルを優に超える圧を感じるのだから・・・・・とてつもないな。

 

「お兄様、なぜこちらに・・・・?」

 

「なぜって、授業参観が近いからに決まってるだろう?妹が勉学に励む姿をこの目で見られる機会を私が見逃すはずがないさ」

 

授業参観・・・・そういえばそんなのあったな。高校生にもなって授業参観とか本当にどういうつもりなのだろうかこの学校は。しかもうちも父さんも母さんも年甲斐もなくはしゃいで参加するとか言ってたし・・・・まあアーシアが目当てなんだろうが。というかそうであってくれ。頼むからそのテンションで俺が授業を受ける姿を見たいとかそういうのはやめてくれ。

 

「どうしてそのことを・・・・・ま、まさかグレイフィア、あなたが伝えたの?」

 

「はい。学園から報告がありましたので、サーゼクス様にお伝えいたしました。これもグレモリー家のメイドであり、サーゼクス様の女王(クイーン)である私の勤めですので」

 

どうやら授業参観の事を黙っていたらしい部長だったが、その目論見は無意味なものとなってしまったらしい。なんというか・・・・・部長、心中お察しいたします。

 

「ああ、安心するといい。父上も時間を作ってみにきてくれるそうだ」

 

「安心できる要素が何一つありません・・・・!」

 

部長・・・・・本当に心中お察しいたします。

 

仕方がない・・・・・主のためだ、少し助け舟をだそう。

 

「僭越ながらルシファー様。三種族会談も控えている中、魔王の職務も忙しいでしょうし、授業参観に参加してもよろしいのでしょうか?」

 

「そ、そうよ!一誠の言うとおりだわ!お兄様は忙しいのですから無理に参加しなくても・・・・」

 

「いいや、これも立派な職務だよ。なにせ三種族会談は駒王学園で行われることになったからね。授業参観はいい会場の下見の機会なんだ」

 

「駒王学園が・・・・三種族会談の会場?」

 

おいおい・・・・そんな歴史に残るような会談を一つの学校の中で行うとか・・・・・まあ、コカビエルもこの学園に標的を定めたわけだし、それもあるのかもだけど。

 

「この学園は偶然では片付けられないような『縁』があるようだからね。様々な力が入り混じりうねりを生み出している。ならば会談の会場には適任だろう。そしてそのうねりの中心は兵藤一誠くん・・・・赤龍帝だと私は思っているよ」

 

俺は・・・・うねりの中心?

 

(なるほど、確かにそう思われてもおかしくはないかもしれないな)

 

(どういうことだドライグ?)

 

(わからないか?ここ最近の大きな出来事はお前が悪魔になってから起きている。つまりきっかけはお前なのだ)

 

俺がきっかけ・・・・ね。全然自覚はないんだが・・・・・けど確かに、悪魔になってからは色々と慌ただしかった気もする。

 

「さて、この話はここまでにしよう。難しい話は会談に持ち込むとして、今日の宿泊先を探さないとね。もう夜中だから見つけるのは難しいかもしれないが・・・・・」

 

「あ、それなら差し出がましようですがうちに来ませんか?」

 

「一誠くんの家にかい?」

 

「ええ。父も母もその辺り寛容ですので部長のお兄さんだって説明すればきっと喜んで受け入れてくれますよ」

 

むしろあの二人が拒否する姿を全く想像できない。父さんの方はちょっとアレなところもあるけど、それでも二人共俺にはもったいないほどにいい親だからなぁ。

 

「ふむ・・・・・それはいいかもしれない。君とももっと色々と話がしたいと思っていたしね。その招待、喜んで受けようかな」

 

「い、一誠?本気で言っているの?」

 

サーゼクス様は乗り気なようだが、部長はどうも反対っぽかった。なにか心配事でもあるのだろうか?

 

「まあ今から宿泊施設を探すのは難しいでしょうし、それぐらいは。部長には色々とお世話になっていますので、そのお兄さんであるサーゼクス様のためになるのなら構わないかと」

 

「そ、そう・・・・わかったわ。なら私も今日は今日は一誠の家に泊まるわ」

 

「・・・・え?」

 

いやいやいや・・・・なぜそうなる?部長はこっちの生活の拠点があるのに・・・・

 

「『え?』って・・・・お兄様は良くて私はダメなのかしら?」

 

「いえ、予想外の提案に戸惑ってしまっただけでそういうわけでは」

 

「ならいいわ・・・・・あまり大きな声では言えないのだけれど、お兄様は少し・・・・いえ、かなり変わり者なの。だから一誠になにか余計な事をしないか心配なのよ」

 

部長はサーゼクス様に聞こえないように小声で俺に伝えてきた。

 

部長がそこまでいうほどの変わり者・・・・・俺と話がしたいと言っていたし、もしかしたら俺は軽率な判断をしたのかもしれない。

 

(・・・・とりあえず、覚悟はしておこう)




一誠さんとサーゼクスさんの会話は次回となります

どんな話になるのか・・・・・・

それでは次回もまたお楽しみに!


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第49話

今回はサーゼクスさんとのお話

わりとシリアスになるかな?

それでは本編どうぞ


「リアスの幼少時はそれはもう可愛かったですよ。何かあるたびにお兄様お兄様と言って私のあとをついてきまして」

 

「それは確かに可愛らしい。うちの一誠なんて昔から無愛想でしたからね。まあ、私達夫婦の手伝いを自ら買って出るほどいい子でしたが」

 

「それはそれは」

 

「「・・・・・はあ」」

 

俺と部長は目の前の光景に思わずため息を吐いてしまった。うちで泊まってもらおうとサーゼクス様とグレイフィアさんを連れてきたのだが・・・・・サーゼクス様が父さん意気投合して、酒を飲みながら俺達の幼少期の話をし始めてしまったのだ。それも俺と部長を目の前にしてだ。

 

「なんというか部長・・・・・すみません」

 

「いえ、いいのよ・・・・・こうなることは覚悟していたから」

 

サーゼクス様を連れてきた手前、部長に対して非常に申し訳ない気持ちに陥った俺は部長に謝罪する。部長はそれを受け取るが、やはり恥ずかしいのか顔はほんのり赤かった。かくいう俺も頭が痛い。

 

なお、母さんとグレイフィアさんも二人で何やら話をしている。話の中で俺と部長の名前が何度も出てきていたが・・・・・詳しい内容を知ってしまえばさらに頭痛が増しそうな気がしたから、こっちの方は可能な限り聞かないようにした。

 

「えっと・・・・・お二人共大丈夫ですか?」

 

「ああ・・・・・大丈夫だよアーシア」

 

「ええ。心配してくれてありがとう」

 

あまりにもいたたまれなく見えるのか、アーシアが心配そうに尋ねてくる。返事を返す俺と部長だが、それは自分でもわかる程に力のないものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ。君のお父さんは実にいい方だ。ここまで話が弾んだのは久しぶりだよ」

 

「はあ・・・・それは何よりです」

 

父さんとの酒宴を終えたサーゼクス様を、俺は自分の部屋に連れてきた。なんでも俺と話がしたいとかで俺の部屋で一夜を越すことになったのだ。ちなみにグレイフィアさんは部長とともにアーシアの部屋で過ごすことになっている。

 

「それはそうと・・・・・一誠くん、アザゼルにあったそうだね」

 

サーゼクス様は神妙な面持ちで俺に尋ねてきた。ここからは真剣な話だということか。

 

「ええ。といっても危害を加えられたということはありませんが」

 

「そうか・・・・彼は神器(セイクリッド・ギア)への関心が強い。君に接触したのも君の神器、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)に興味を示しているからだろう」

 

「・・・・・本当にそうなんでしょうか?」

 

「え?」

 

「・・・・・いえ、なんでもありません」

 

サーゼクス様には誤魔化したが、俺にはアザゼルの興味が俺の赤龍帝の籠手に向けられているとは思えなかった。あのひとの目は俺に真っ直ぐに向けられていた。しかもあの目は・・・・・身内に向けるような目だ。どうしてそんな目を俺に向けてくるのかはわからない。だが・・・・なぜかそれ自体は悪い気はしないし、俺もまた、なぜかアザゼルのことが少し気になってしまっていた。

 

「まあ、彼は神器への関心が強いだけで危険な男ではないのは確かだよ。なにせ過去の大戦では最初に戦から手を引いたのは堕天使だったぐらいだからね」

 

「・・・・だからこそそんなアザゼルに反発してコカビエルは独断で戦争を始めようとしたんでしょうね」

 

「そうだろうね・・・・・一誠くん、君は堕天使のことをどう思っている?」

 

「どう・・・・といいますと?」

 

「コカビエルの名を出したとき、君からは憎悪を感じたからね。コカビエルのことだけじゃない。君は堕天使に殺されて悪魔になった。君の人生は堕天使によって狂わされたといっても過言ではない。だから、聞くべきではないとわかってはいるが、気になってしまってね」

 

俺の人生は堕天使によって狂わされたか・・・・・傍から見るとそう思えるんだろうな。だが・・・・・

 

「・・・・別に、俺は堕天使に人生を狂わされただなんて思ってはいませんよ。結果として悪魔に転生してしまいましたが、それでも俺はあの時殺されたことに対して怒りや憎しみを抱いていません。コカビエルにしても、あれは俺が個人的にコカビエルに対して憎しみを抱いただけです。現状敵対関係にあるとはいえ、堕天使という種族に対して悪感情を抱いてはいませんよ」

 

俺が堕天使に対して憎しみを抱くなんてことはありえない。堕天使に憎しみを抱くということは・・・・・レイナーレに憎しみを抱くことと同義なのだから。

 

それにしても・・・・・

 

「わざわざそんなことを俺に聞くのは、レイナーレの件があるからですか?」

 

「・・・・やはり見透かされてしまっていたか」

 

サーゼクス様の返答は、肯定を示すものだった。

 

「すまないね。触れてはいけないとは思ったのだけれど、それでも私はどうしても気になってしまったんだ。君はリアスの眷属だからね」

 

「魔王としてではなく部長の兄として部長のために俺と気にかけているということですか?」

 

「まあそうなるね。私は自分でも自覚できるほどにシスコンというやつだからね」

 

自らシスコンを自称するとは・・・・・サーゼクス様は随分と妹思いな方のようだ。

 

「正直に答えてくれ一誠くん。君はリアスのことをどう思っている?」

 

部長のことをどう思っている・・・・か。

 

「仕えるべき・・・・忠義を尽くすべき我が主。そう思っています」

 

「なるほど。その忠義は疑いようのないものだろう。だからこそ聞こう・・・・・君はリアスに敬意を抱いているかい?」

 

「それは・・・・・」

 

答えられなかった。きっとサーゼクス様はわかった上で聞いているのだろう。俺が部長に・・・・・敬意を抱いていない、敬意を抱くことができずにいることを。

 

別に部長に原因があるわけではない。これはきっと俺の問題だ。俺自身が、部長に対して一定以上の感情を抱くことを自ら避けてしまっているからだ。部長は・・・・・俺にとって身近な女性の一人だから。

 

「リアスは君に特別な感情を抱いている。きっかけはライザーくんとのレーティング・ゲームだろう」

 

「・・・・・・ええ。知っています」

 

部長から向けられている感情・・・・・それがどういったのものなのかは理解している。理解していながら俺は気づかないふりをしている。その感情は決して受けいれられるものではない・・・・・気づかないことにしておいたほうがいいと思ったからだ。

 

そしてそれは部長に限った話ではない。アーシアもそうなのだと思うし・・・・・そしてあいつも・・・・イリナも・・・・・

 

「知っていながらそれから目を背けていることに対しては何も言わないよ。その辛さは私では想像もつかないほどのものだろうからね。だが・・・・・・それでも忠告はさせてもらうよ。今のままではいずれ君とリアスの間で亀裂が生じてしまうかもしれない。それは君とリアスに破滅をもたらす可能性さえある」

 

「・・・・そうならないように気をつけろと言いたいのですか?」

 

「まあ、そうなるね。責めるつもりはないけれど、問題は君にある。これは兄としてリアスをかばっているわけではなく、客観的な見解だ。君のあり方、考え方は異常性を孕んでいると言わざるを得ないからね。君が何を抱えているかまでは聞き出すつもりはないけれど・・・・・・・リアスを苦しめるのなら私は君を許すことができない。たとえ君がリアスが愛する眷属だとしてもだ」

 

真っ直ぐに俺を見てくるサーゼクス様。その瞳からは凄みさえ感じ・・・・・思わず恐怖心を抱きそうにもなる。

 

「君は今代の赤竜帝だ。我々悪魔としては伝説のドラゴンの力を持つ君のことは優遇させてもらう。だが、それとさっき言ったことは別問題だ。どうか君に・・・・・私の怒りの矛先が向かないことを願っているよ」

 

「・・・・はい。お心遣いありがとうございますサーゼクス様」

 

妹を思う兄の忠告を、俺は受け入れた。

 

本当に部長は愛されているな・・・・・・果たして俺は、サーゼクス様の怒りを買うことなく眷属としてやっていけるだろうか?

 

・・・・いや、関係ないな。俺は部長の眷属。部長への忠義を尽くすのは俺の生きる目的の一つ。

 

だったら俺は・・・・・ただこの忠義を抱き続けるだけだ。

 

たとえ何があろうとも・・・・・この忠義を




一応言っておきますがサーゼクスさん別に一誠さんに対して抱いている感情は心配が主です。だからこそ、ああいう忠告をしたわけですので

まあ、一誠さんの方が色々と異常で不安定なので問題山積みなのですが・・・・

それでは次回もまたお楽しみに!


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第50話

今回はシリアスから離れてちょっとドタバタな感じに

ただラストで・・・・・・・

それでは本編どうぞ


「皆、今日は私たち限定のプール開きよ。その前に、掃除をしっかりを終わらせましょう」

 

部長の号令の下、俺たち眷属は一斉にプールの掃除を始めた。本当のプール開きは数日先なのだが、今日は俺達が掃除を引き受ける代わりにプールを使わせてもらえることになっているらしい。

 

正直、俺個人としてはプールにはさほど興味はない。だが、それでも部長からの命であるからしっかりとこなさなければならない。それにまあ・・・・・・・一応これも修行にならないこともないしな。

 

「・・・・・・一誠くん、随分と器用なことをしますのね」

 

朱乃先輩が俺の方を見ながら言う。器用なことというのは、デッキブラシを巻き付けて掃除しているいる魔力でできた尻尾のことを言っているのだろう。もちろん、手の方にもちゃんとデッキブラシは持っている。

 

「まあこれくらいは。魔力の精密操作と長時間の維持のいい修行になりますよ」

 

「私も魔力に秀でてはいますが、それはできる自信は・・・・・・悪魔になったのは私よりも後なのに、一誠くんはすごいですわね。なにより、こんな時でも修行に結び付けるだなんて・・・・・・随分とストイックね」

 

感心したような、それでいてどこか呆れたように言う朱乃先輩。ストイックか・・・・・昔から強くなることを意識していたから、言われてもあまり感想は抱けないな。

 

「ストイックで、その努力に相応しい強さを持っていて・・・・・本当に一誠君は頼りになりますわ」

 

なぜか俺に近寄り、腕を絡ませてくる朱乃先輩。俺を見つめる視線は、どこか艶っぽく感じる。

 

「朱乃先輩、どうしたんですか?」

 

「さあ?どうしちゃったのかしらね?」

 

「これじゃ掃除できないんですけど・・・・・・部長に怒られますよ?」

 

「少しくらいなら大丈夫ですわ」

 

より一層に腕を絡ませてくる朱乃先輩。本当にどうしたというのだろうか・・・・・・

 

「一誠くん・・・・・・私、一誠くんにはシンパシーを感じていますの」

 

「え?」

 

「あなたは堕天使によって運命を狂わされてしまった。私も堕天使に・・・・・・」

 

一瞬、悲しげな表情を浮かべた朱乃先輩。堕天使と何かあったということか?

 

「強くて頼りがいのある一誠くん。そんなあなたにシンパシーを感じるからこそ私はあなたを・・・・・あなたに・・・・・」

 

朱乃先輩の様子がどこかおかしい。確かに時折艶っぽさと大胆さを見せるひとではあったが、だが今はどこか危うさと弱々しさを感じる。こんな朱乃先輩を見るのは初めてだ。

 

「一誠くん、私をあなたの・・・・・・」

 

「何をしているのかしら朱乃?」

 

朱乃先輩の言葉を遮るように、部長が現れて声をかけてきた。声からして明らかに怒気が含まれていることがわかる。

 

「掃除をさぼって一誠と何をしているのかと思えばあなたは・・・・・・・一誠をからかうのはやめてちょうだい!」

 

「あら?私からかってなんていませんわ。本気ですもの」

 

「なおさらやめなさい!私の目の黒いうちは一誠に手出しはさせないわよ!」

 

「なぜそれをリアスに言われなければならないのかしら?私が一誠くんをどうしようが私の勝手でしょう?」

 

「「・・・・・・・」」

 

火花を散らしそうな勢いで互いをにらみ合う部長と朱乃先輩。これは何というかまずそうだな・・・・・・どうにか話を逸らさないと。

 

「あの、お二人とも。言い争いしている暇があったら掃除を進めませんか?このままではプールで遊ぶ時間が減ってしまいますよ?」

 

「そんなことはどうでもいいわ。今は朱乃と話しをつける方が大事よ」

 

「それに関しては同意見ですわね。掃除は話が終わって・・・・いえ、やはりここは掃除を終わらせてしまいましょう」

 

何か閃いたといった表情を浮かべる朱乃先輩。なんというか、さらに嫌な予感がするのだが・・・・・・

 

「一誠くん、掃除が終わったら私の体にオイルを塗ってくれないかしら?隅から隅まで・・・・・誰にも触らせたことのないところまで全て、一誠くんの手で塗りたくって欲しいの」

 

嫌な予感的中だった。朱乃先輩は自身の指を俺の指に絡ませ、俺の耳元で囁くように言ってきた。そんなことをすれば部長の怒りにさらに火を注ぐことになるだなんてわかりきっているだろうに・・・・・・

 

「朱乃・・・・・・あなた私の言っていることを理解できていないのかしら?一誠に手を出さないでと言ったはずよ?」

 

「ええ、ですから私からではなく一誠くんから手を出してもらおうかと思って」

 

「それが許されるわけないでしょう!何を考えているの!」

 

部長の言葉に激しく同意する俺は。数回首を縦に振った。

 

「朱乃がそういうつもりなら私にも考えがあるわ・・・・・・一誠、主として命じるわ!掃除が終わったら朱乃でなく私にオイルを塗りなさい!」

 

「・・・・・は?」

 

あまりにも予想外の部長の一言に、俺は思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。

 

「ちょっとリアス!どうしてそうなるのよ!」

 

「朱乃の毒牙にかかるぐらいなら、私がこの身差し出して一誠を守ろうと思っただけの話よ」

 

「そんなの一誠くんが困るだけじゃない」

 

「あなたの方が一誠を困らせてるじゃない!」

 

「いえ、そもそも俺はお二人にオイルを塗ったりは・・・・・・」

 

「「一誠(くん)は黙ってなさい!」」

 

おかしい。俺も話の中心人物のはずなのに黙れと言われてしまった。もうこれどうしろっていうんだよ・・・・・

 

「大体あなた、男嫌いのはずでしょ!それなのにどうして一誠を狙うのよ!」

 

「そんなの私の勝手よ!リアスだって男になんて興味がないだなんて言ってたわ!」

 

「一誠は別よ!というより私のはあなたとは違うわ!」

 

「とにかく私の邪魔をしないでちょうだいリアス!」

 

言い争いは段々とヒートアップしていく。ついには二人とも体から魔力がにじみ出てきてしまうほどだ。

 

このまま過熱すると掃除どころか、プールそのものが消滅しかねない・・・・・・そんなことになればおそらく生徒会長であるシトリー様に怒られるだろう。主に部長が。

 

(・・・・・・・これも忠義を尽くすためか)

 

俺はある意味ではライザーとのレーティング・ゲームに臨む時以上の覚悟を持って、部長と朱乃先輩の間に割って入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つ、疲れた・・・・・」

 

オカ研限定のプール開きを終え、学校から出ようと校門へと向かう俺の足取りは、自分でもわかるほどに重たかった。ひとまずあの場では部長と朱乃先輩を止めることはできたものの、その後も何かと二人は小競り合いを起こし、そのたびに俺が止めるために奔走する羽目になったのだ。

 

唯一、アーシアと小猫に泳ぎを教える時だけは俺の心も幾分安らいだが、それでも疲労の方が圧倒的に上回ってしまっている。

 

「本当に・・・・・・・朱乃先輩どうしたっていうんだ?」

 

部長の方はまあ朱乃先輩が俺に絡んで怒ってああなったのだからまだわかる。だが、朱乃先輩の方はどうして俺に言い寄ってきたんだ?やはり堕天使が関わっているのだろうか?情報が少なすぎて大した考察もできないな・・・・・・あまりこそこそと探りを入れるのは好きじゃないけど、今度部長に聞いてみるか。

 

「やあ、いい学校だね」

 

「ん?」

 

朱乃先輩のことを考えていた俺は、いつの間にか校門まで来ていた。そこで、銀髪の美形な男性に声をかけられる。

 

その男には・・・・・その男の気配には覚えがあった。間違えるはずがない。あの時のような闘気は感じないが、この男は・・・・あの夜に会ったあいつだ。

 

「そうだな。俺もそう思うよ」

 

「ここで会うのは二度目だな『赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)』・・・・・赤龍帝、兵藤一誠」

 

「また会えてうれしい限りだよ『白い龍(バニシング・ドラゴン)』・・・・・白龍皇」

 

俺は宿敵である白龍皇と、二度目の邂逅を果たした。




このお話ではイリナさんの想いを知っているのでゼノヴィアさんが一誠さんに言い寄ることはありません。ただ、朱乃さんの方は・・・・・・

そして白龍皇との二度目の邂逅。ここで原作となにか差異があるかどうか・・・・・

それでは次回もまたお楽しみに!


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第51話

今回は一誠さんとヴァーリさんの会話がメインです

はたして原作とどう違ってくるのか・・・・・・

それでは本編どうぞ


 

「ふふっ、安心したよ。あの時は鎧を纏っていたから言わなければわからないと思っていたが、気が付いてくれるとはさすがは俺のライバルだ」

 

「お褒めに預かり光栄だな白龍皇」

 

ニヤリと笑みを浮かべる白龍皇に、俺も同じように笑みを浮かべながら返す。

 

「・・・・・ヴァーリ」

 

「ん?」

 

「俺の名だ。一応名乗っておく。まあ、白龍皇でもヴァーリでも好きな方で呼んでくれて構わないさ」

 

ヴァーリ・・・・・・・それが現白龍皇の名か。容姿からして日本人ではなさそうだとは思ってたが、やはりそうらしい。

 

「そうか、それじゃあ気兼ねなく名前で呼ばせてもらうよヴァーリ。何せ俺とお前の仲だしな」

 

「俺と君の仲か・・・・・・確かに、俺と君とは切っても切れない縁で結ばれている。それこそ今ここで君に魔術的な何かをかけたり・・・・・・・」

 

俺の方へと手を翳しながら言うヴァーリであったが、その言葉は最後まで紡がれることはなかった。突如現れた木場とゼノヴィアがヴァーリの首筋に剣を突き付けたからだ。

 

「なにをするつもりかは知らないけど、それは冗談では済まないよ」

 

「こんなところで二天龍の戦いを始めさせるわけにはいかないな白龍皇」

 

木場とゼノヴィアはヴァーリを警戒しているようだ。だが、警戒する必要はない。ヴァーリも俺もこの場で戦おうなどと微塵も思っていないのだから。

 

「二人とも落ち着け。そいつは今ここで俺と戦おうなどとは思っちゃいない」

 

「兵藤一誠の言う通りだな。確かに彼と戦いたいという思いは強いが、一応アザゼルに止められているんでね。それに、無関係な他人を巻き込んでしまいかねないこの場では兵藤一誠は力を出し切れず、楽しめそうもない」

 

ヴァーリの言う通りだった。まだ日が出てる時間で人払いもしていないこの場で俺とヴァーリが戦ってしまえば関係のない誰かが巻き込まれてしまう可能性は高い。いくら白龍皇を倒すことを生きる目的の一つとしているとはいえ、そんな状況で戦おうと考えるほど、俺は自分勝手ではない。

 

「だから剣を降ろすといいい。強がってはいるようだが、切っ先が震えているぞ?」

 

ヴァーリの言う通り、木場もゼノヴィアも剣を振るわせてしまっている。それは白龍皇である奴に対する恐怖の現れとみていいだろう。

 

「彼の言う通り剣を納めなさい祐斗、ゼノヴィア」

 

どうやら様子を見ていたらしい部長が現れ、二人に剣を納めるように促す。部長の近くには、アーシアや小猫、朱乃先輩も居た。

 

「「・・・・・・・」」

 

部長に言われ剣を納める木場とゼノヴィア。だが、依然として白龍皇に対して警戒心を露わにしていた。

 

「それでいい。君たち程度では俺に傷一つつけることもできないだろうからね。この場において俺と渡り合えることができるのは兵藤一誠ただひとりだ」

 

どうやら、渡り合えることができると判断されるほどには俺の力を認めてくれているようだ。もっとも。言い方からして俺のことを下に見ているが故の余裕も見られるが。

 

「・・・・・・白龍皇、いったい何のつもりかしら?どうしてここに?」

 

「そう身構えなくてもいいリアス・グレモリー。俺もアザゼルの付き添いでこの町に訪れたものの少々暇だったのでね。退屈しのぎに我が宿敵である赤龍帝、兵藤一誠に挨拶しに来ただけさ」

 

「あなたといいアザゼルといい、堕天使の陣営は随分と勝手なのね。コカビエルの件で懲りてないのかしら?」

 

警戒心を抱きながらも、部長は呆れたように言う。まあ確かに、少々フリーダムすぎると俺も思ってはいたが。

 

「アザゼルはともかく、コカビエルの件は関係ない。奴が独断で行ったことだからね。ただ、その気持ちもわからなくはない。俺も戦いは好むし、戦ってみたい相手は大勢いる。もちろん、兵藤一誠もそのうちの一人だ」

 

そう言いながら、ヴァーリは好戦的な笑みを浮かべて俺の方へ視線を移してきた。

 

「兵藤一誠、君は自分が世界で何番目に強いと思っている?」

 

「さあ?いかんせん世界にどれほどの強さを持った奴らが居るのかわからないから何とも言えないな」

 

ただまあ、興味はあるがな。自分の力が世界基準で見てどれほどのものなのか測りたいとは思う。

 

「そうか。俺の見立てではギリギリとはいえコカビエルを倒した君の強さはこの世界の中でも上位に食い込む強さを持っているだろう。ただ、君以上の強者はいくらでもいるし、一位と比べれば君の力など無力に等しいだろうがね」

 

「まさかその一位が自分だなんて言うつもりはないよな?」

 

「ああ。いくら何でもそこまで自惚れてはいない。一位が誰なのかはいずれ君も知ることになるだろう。俺や最強の悪魔、『紅髪の魔王(クリムゾン・サタン)』サーゼクス・ルシファーでさえ足元にも及ばない不動の存在さ」

 

ヴァーリやサーゼクス様でさえ足元にも及ばない、か。いったいどんなバケモノだよそれは。ドライグなら何か知っているだろうし、今度聞いてみるか。

 

「兵藤一誠、今日のところはこれで失礼させてもらうが宿敵として宣言しておこう。俺はいずれ、必ず君と戦う。戦ってどちらが強いのかをはっきりさせよう。もっとも・・・・・・・勝つのは俺だがね」

 

「望むところだ。俺もお前に負けるつもりは毛頭ない。今代の赤龍帝としてお前を跪かせてやるよ」

 

ヴァーリからの宣戦布告を受け取り、俺もまた宣言した。現時点では俺の方が劣る。だが、それでも俺はこいつに勝ってみせる。いや、勝たなくてはならないんだ。

 

白龍皇を倒す。それが俺の・・・・・・・・生きる目的の一つなのだから。

 

「それでこそ俺のライバルだな。それじゃあまた・・・・・・ああ、そうだ。もう一つ忠告があったんだったな」

 

「忠告?なんだ?」

 

「これは君にだけじゃなく、君の主であるリアス・グレモリーやその眷属たちに対する忠告だ。過去に二天龍と関わった者の多くはろくな生き方をしていない。凄惨な死を遂げた者も大勢いるし、ドラゴンの力に魅了され、心酔し、精神を侵された者もいる。だから君たちも兵藤一誠と関わり続けるというのなら心した方がいいだろう」

 

思った以上に真剣な忠告に、部長たちは返事も返すことなく。聞き入ってしまっていた。

 

いったいどういう真意で忠告してきたのかはわからないが・・・・・・・なぜだかそこにヴァーリの中の何かが関わっているように思えてならなかった。

 

(って、俺も他人事ではないだろうが)

 

そう、ヴァーリの忠告は俺にとっては決して無視できないものであった。

 

俺が赤龍帝であったがゆえに

 

俺が赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を持っているがゆえに

 

俺と関わってしまったがゆえに

 

俺を・・・・・愛してしまったがゆえに死んでしまった者が居るのだから

 

「兵藤一誠、君の命を狙った堕天使の話は俺も聞いている。君が彼女に抱いた感情についてもね」

 

「・・・・・・何が言いたい?」

 

「大したことじゃないさ。ただ、君が生きている限り、赤龍帝である限り同じようなことはいくらでも起こり得る。そのことを覚えておくといい」

 

ヴァーリは俺にそういうと、踵を返してその場を去っていった。

 

(最後の最後で痛いところを・・・・・・そんなこと俺だってわかりきってるんだよ)

 

気が付けば、俺は拳を強く握りしめていた。強く握りしめながら・・・・・・・レイナーレのことを思い返していた。

 

「あ、あの一誠さん・・・・・・」

 

「大丈夫だよアーシア。俺は大丈夫だ」

 

心配そうな表情で俺に声をかけてくるアーシアに、俺はそう返事を返した。といっても、それはほとんど強がりなのだけれど。

 

「・・・・・・一誠。私は、私たちは後悔しないわよ」

 

「部長?」

 

「私たちはあなたと関わったことを後悔しない。だから、白龍皇の言ったことなんて気にする必要はないわ」

 

どうやら俺を気遣ったらしい部長が、俺の頭を撫でながら言ってくる。主である部長にここまで気遣わせるとは、俺もまだまだだな。

 

けど・・・・・部長には申し訳ないが、それでも気にせずにはいられなかった。俺にとって、ヴァーリのあの忠告は忘れてはならないものだ。

 

この先、俺と関わったせいでどれだけの者が死に、追いつめられるのか・・・・・・それは俺にも予測できないのだから。

 

 




原作のイッセーさんよりも一誠さんの方が強いため、ヴァーリさんの対応が原作よりも少々異なります

そのおかげで少々一誠さんの心の傷がえぐられていますが・・・・・・・

それでは次回もまたお楽しみに!


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第52話

今回は珍しく徹頭徹尾ギャグ展開でお送りします

それでは本編どうぞ


 

今日は待ちに待っていない授業参観の日だ。正確には中等部の生徒も授業を見に来るため、公開授業ということになっているのだが、まあそんなことはどうでもいいだろう。

 

いい歳した高校生が家族に授業を見られるなど、恥辱以外の何物でもない。この日は一年の学校生活の中で間違いなく最悪な日であると言えるだろう。

 

それだけでも頭が痛いというのに・・・・・・

 

「いいですかー?今日、皆さんには配った紙粘土で好きなものを作ってもらいます。人でも動物でも物でもなんでも構いません。ありのままに思いついたものを表現する・・・・・そういう英会話もある」

 

授業の内容がこれである。そういう英会話もある?ねえよそんな英会話。こんなのよの英語教師が聞いたら目を丸くして驚くわ。

 

だめだ、マジで頭が痛くなってきた・・・・・・・

 

「アーシア、一誠。頑張りなさいよー」

 

「いやぁ、アーシアちゃんは可愛いなぁ」

 

おしてさらに、俺の頭痛に追い打ちをかけるように我が両親の声援が聞こえてくる。そんな教室中に聞こえるような声量とかマジで勘弁してくれよ。恥ずかしくて顔から火が出るわ。そして我が父よ、別に構いやしないがあんたの関心はアーシアにしか向いていないのか。まあ、俺に向けてほしいとも思っちゃいないが。

 

(相棒ならその気になれば口から火ぐらいは吐けそうだがな)

 

(ごめんドライグ、今お前の対応ができそうにないから黙っててくれ)

 

茶化すように言ってくるドライグをひとまず俺は黙らせた。でも口から火ね・・・・・・・今度試してみるか。『赤龍の息吹(ドラゴン・ブレス)』といったところだろうか。

 

いや、そんなことよりも今気にするべきことは・・・・・・・・

 

「ほう、これが日本の学校の授業か。中々破天荒なことやってんだなぁ」

 

なぜか保護者達の中に混ざっている堕天使総督アザゼルについてだ。いやいやいや、マジでなんであんたここにいるの?この学校で三種族会談が行われるからその下見で学校に居るっているのは百歩譲って理解できるけど、授業を見る必要はないだろ?まじあのひと何考えてるんだよ・・・・・・

 

「おーい、兵藤一誠。せいぜい面白いものを作って俺を楽しませてくれよ?」

 

しかも俺を名指ししてくるし。こいつマジでなんなの?

 

「あら?あなたうちの一誠とお知り合いですか?」

 

「ん?ああ、まあ色々世話にはなってるな。もしかしてあいつの・・・・・・」

 

「ええ、母親です」

 

「おお、そうか。いやぁ、なかなかいい息子を持ったな」

 

「そうなのよ。あの子は私の自慢の息子で・・・・・・」

 

待て待て待て待て。なんでアザゼルと会話を弾ませてるんだよ我が母よ。そしてアザゼルもアザゼルでなんで普通に受け答えしてるんだよ。もういい加減俺はキャパオーバーで頭痛どころか意識が飛びそうな勢いだぞ?

 

「おや、一誠くん、手が止まっていますよ?どうしました?」

 

「・・・・・・・いえ、大丈夫です。ちゃんと作ります」

 

あまりの事態に粘土を弄る手が止まってしまい、先生から指摘されてしまった。ひとまず先生に返事を返し、俺は作業に没頭することにした・・・・・・・これ以上後ろの連中のことを考えると気が変になりそうだしな。

 

だが、好きなものを作れと言われても困るんだよなぁ。少しぐらい制約や制限を決めてくれた方がむしろ作りやすいというのに。無難なところでドラゴンでも作ろうかなとも思ったが、そんなもの作ったら中二病認定されかねないし・・・・・・・どうしたものか。

 

まあ、とりあえずは自分の好きなものについて考えてみるか。好きなもの好きなもの・・・・・・

 

『一誠くん』

 

・・・・・・ちょっと待て。なんで今イリナのことを思い浮かべた?なんで好きなもので真っ先にイリナ?ほかに色々とあるだろうが・・・・・・・って、この言い方じゃイリナが好きだって認めてるみたいじゃねえか。

 

確かにあいつの活発なところは嫌いではない。昔はやんちゃばかりしていたが、そんなあいつと一緒にいるのがなんだかんだ楽しいと思っていたからこそよく遊んでいたわけだしな。だからこそ、あいつが引っ越すときは少し寂しいと感じてしまったが・・・・・・

 

『大人になったら私と結婚してくれる?』

 

待て待て待て待て。なんでここでそのことを思い出す?関係ないだろマジで。

 

いや、まあ・・・・・確かにあいつは、イリナは可愛くなった。容姿関しては昔と比べてかなり女っぽくなったと言えるだろう。すらっとしてるし胸もいい具合に大きくなっているし。昔のやんちゃさや思い込みの激しいところはあまり変わっていないように思えるが、それでもまあ、元々イリナのそういうところは好ましいと思っていたところだったから別に嫌ではない。

 

「お、おお。これは・・・・・・・」

 

「ん?」

 

イリナについていろいろと考えを巡らせている俺の耳に、なぜか先生の関心したかのような声が聞こえてきた。

 

「す、素晴らしい・・・・・・・どうやら私は一人の生徒の秘めたる才能を開花させてしまったようだ」

 

「先生?いったい何を・・・・って、なにこれ?」

 

そこで俺はようやく気が付くことができた。俺の机の上にある・・・・・・これ以上ないと思えるほどに精巧に作られたイリナの像に。

 

「ちょ、待って。え?これ俺が作ったのか・・・・・・・?」

 

マ、マジか?まさかイリナのことを考えていて無意識に手が動いてしまったというのか?だとしたら正直自分で自分に引くのだが・・・・・・・

 

「い、一誠。まさかお前にこんな趣味があったとは・・・・・いや、そんなことより一誠、この美少女はいったい誰だ?俺の知る限りこんなアイドルやアニメのキャラはいないのだが・・・・・・」

 

「けど本当に可愛いな・・・・・・・まさか一誠、お前こんなに可愛い知り合いがいるのか?」

 

なんか元浜と松田が食いついてきたし。二人とも女に飢えているのは知っているが、できれば触れてほしくなかった。どうにか適当にはぐらかせないものか・・・・・

 

「ほう?これはイリナか。上手くできているな」

 

・・・・・・適当にはぐらかそうと思っていたのに、ゼノヴィアが余計なことを言ってしまった。元相棒のこととはいえ、そんな食いついてこなくてもいいのに・・・・・・

 

「やっぱりこの子は実在するのか!?くそっ、一誠め・・・・・・なんでお前の周りには美女美少女が集まるんだ!」

 

「元浜の言う通りだ!お前ばっかりずるいぞ!」

 

いや、そんなこと言われても困るんだが・・・・・ぶっちゃけ知ったことじゃないし。

 

「くそぉ、本当に羨ましい・・・・・・・五千円」

 

「あ?」

 

「五千円だす!だからこれを俺に譲ってくれ!」

 

「待て元浜!こいつは俺がもらう!俺は六千だすぞ!」

 

「なら俺は七千だ!」

 

「八千!」

 

なぜかいきなりオークションが始まってしまった。こいつら、金を出してまでこれが欲しいのかよ・・・・・・・なんかここまで飢えてるの見ると哀れすぎてこっちが悲しくなってくる。

 

だが・・・・・・

 

「お前ら一応聞くが、これを買ってどうするつもりなんだ?」

 

「「そんなの夜のお共にするにきまってるだろ!」」

 

「・・・・・・・あ?」

 

その時、俺の中で何かが『ブチッ』と音を立ててちぎれた気がした。そして・・・・・・俺は自らの感情に従い、松田と元浜の頭を鷲掴みにして思い切り指に力を込めた。

 

「「いだだだだだだだだっ!?」」

 

「松田、元浜・・・・・・・あんまりふざけたこと言うと頭握りつぶして脳髄まき散らすぞ?」

 

「いつも以上に超辛辣ぅぅぅぅ!?」

 

「わ、わかった!もうあの像のことは諦めるから手を放してくれぇぇぇぇぇ!?」

 

よほどの痛みなようで、涙目になりながら絶叫する松田と元浜。

 

こうして、英語という名の工作の授業は、混沌とした空気の中で終わりを迎えた。

 

 




こんな展開になったのは私(作者)の責任だ・・・・・・・・だが私は謝らない

ここまでポンコツというか、はっちゃける一誠さんも珍しい・・・・・・・まあイリナさんが関わってるからしょうがないね

それでは次回もまたお楽しみに!



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第53話

今回、一誠さんのキャラが若干崩壊します

どう崩壊するから見てのお楽しみ

それでは本編どうぞ!


「これは・・・・・すごいできね」

 

「あらあら。一誠くん、まさかこんな才能まであったなんて・・・・・」

 

「・・・・・・いっそ死にたい」

 

「一誠さん、大丈夫ですか?」

 

休み時間に、俺は部長と朱乃先輩に先程の授業で作ったイリナの像を見られて、思わず頭を抱えたくなっていた。そしてアーシアはそんな俺を見て慰めてくれている。

 

こんなものを見られて、なおかつアーシアに慰められるとか正直恥ずかしすぎる。

 

「なんで俺はこんなものを・・・・・・そもそも俺、芸術の才能なんて皆無なのに」

 

「あら、そうなの?けど、一誠は魔力で龍の体の一部を模したりしているから才能はあると思うのだけれど?」

 

「いえ、あれは芸術じゃなくてあくまでも戦闘スキルの一環ですので。自慢じゃないですが、俺の美術の成績は万年5段階評価では2ですよ」

 

「それは意外ですわね。まさか一誠くんに苦手なものがあるなんて・・・・・・」

 

俺に苦手分野があることに驚いている様子の部長と朱乃先輩。二人はいったい俺のことをなんだと思ってるのか・・・・・・

 

「ところで一誠、この像はどうするつもりなのかしら?」

 

「それは・・・・・・一応持って帰りますよ。不本意とはいえこんなクオリティで作ってしまったからには壊すのははばかられますし」

 

「そう・・・・・机の上に飾るの?」

 

「あの、部長。そんなに詳しく聞かれると俺さすがに泣きたくなるので勘弁してください」

 

ただでさえこれを作ったという事実だけでも凹みそうなのに、部長の質問は俺のさらなる追い打ちをかけるものでしかなかった。

 

(だが、無意識で不本意だったとはいえ、あの娘の像をこれほどの精度で作り上げたのだから、やはりお前はあの娘のことを・・・・・・)

 

(ドライグさん、マジやめてください。俺のライフはとっくにゼロです)

 

ついにはドライグにまでからかわれる始末だ。というか、こいつ本当に二天龍の片割れなのかって思うほどにノリがいいんだけど。これってまさか俺のせいか?

 

「ねえ一誠くん、今度よろしければ私の像も作ってくださらないかしら?そのためなら私、一誠くんにこの体をまじまじと見せて差し上げますわ?もちろんおさわりもアリで」

 

「朱乃!あなたは何を馬鹿なことを言っているのよ!」

 

「あら、馬鹿だなんて失礼ですわ。私は本気よ」

 

「余計にタチが悪いわよ!」

 

滅茶苦茶な提案をしてきた朱乃先輩に、部長が叱責する。最近、朱乃先輩からのアプローチがすごいんだが、なぜなのだろうか・・・・・・まったく理解できない。

 

「あの、一誠さん」

 

「ん?どうしたアーシア?」

 

「いえ、あちらの方が少し騒がしいのでどうしたのかなと」

 

アーシアの指さす方に視線を向けると、確かにそこは妙に人が集まっていて何やら騒がしかった。耳を澄ませると、シャッター音が多く響いていることがわかる。

 

「確かに騒がしいな・・・・・見に行ってみるか」

 

「はい」

 

気になったので、俺はアーシアと共に騒ぎのある場所に近づいて行った。どうやら言い争いを終えたらしい部長と朱乃先輩も一緒だ。

 

「あ、部長。それに皆も」

 

騒ぎの現場の近くには木場が居て、俺達に声をかけてきた。

 

「木場、お前も気になって見に来たのか?」

 

「まあね。なんでも魔女っ娘が撮影会をしているらしいよ」

 

「「「「魔女っ娘?」」」」

 

なぜこんなところに魔女っ娘がいて撮影会をしているのか・・・・・・余計に気になってしまった俺は人込みをかき分けた。

 

そしてその先にいたのは・・・・・木場の言う通り、魔女っ娘だった。カメラに向かって笑顔でノリノリでポーズを決めて、そして周囲の学園の生徒がその姿を写真に収めている。その光景はさながらどこかのコスプレイベントの一角で見られそうなものであった。

 

というか、ピンクを基調とした露出面積多めの衣装とあのステッキは・・・・・・間違いない。魔法少女ミルキースパイラルのコスプレだ。なぜこんな学園の中でミルキーのコスをした娘がいるんだ?

 

・・・・・・いや、今はなぜ彼女がここにいるかなんてことを考えている場合じゃない。今俺がやるべきことは・・・・・・

 

「あの、すみません。いいですか?」

 

俺は意を決して、ミルキーのコスをしている娘に話しかけた。

 

「ん?なーに?」

 

「その、こんなことを言うのは大変恐縮なのですが・・・・・・杖を振り上げたポーズで写真撮っていいですか?」

 

「「「「・・・・・え?」」」」

 

なんか部長達の意外そうな声が聞こえた気がしたけど、今はそんなことに構っている場合ではなかった。

 

「うん、い~よ♪はい♪」

 

俺の要望通りのポーズをしてくれたその娘の写真を携帯のカメラに収める。うん、いいポージングだ。だが、やはり携帯のカメラというのは・・・・・近くに父さんが居ればカメラを貸してもらったんだけどなぁ。

 

「こんな感じでいいかな?」

 

「はい。ですが、ウインクして杖を持ってない手でピースしてくれると助かります」

 

「は~い♪」

 

俺のさらなる要望に対しても即座に対応してポーズを決めてくれる。これは撮りごたえがあるな。学校でこんないい写真が撮れるとは思わなかった。

 

「あ、あの・・・・・・一誠?」

 

「何ですか部長?」

 

遠慮がちに俺に声をかけてくる部長に、俺は撮影をしながら応対した。

 

「えっと・・・・・・あなたって、こういう趣味があったのかしら?」

 

「こういう趣味というと?」

 

「その・・・・・コスプレした女の子の写真を撮ったり・・・・・・」

 

「いえ。俺も別にコスプレ写真を撮る趣味はないですよ。ただ、ミルキーだけは別でして」

 

ミルタンに散々DVD見させられて、かなり好きになったからなミルキー。そのミルキーのコスプレをした娘がいるとなったら、別に趣味でなくても写真を撮るのは当たり前というものだ。

 

「そ、そうなの。まあ、そのことをとやかく言うつもりはないけれど一誠、あなたが今撮っている相手は・・・・・・」

 

「おらおら!天下の往来で撮影会とは良いご身分だな!」

 

部長の言葉を遮るようにして匙が現れた。おそらく生徒会としてこの騒ぎを納めに来たのだろう。

 

「匙、あと一分待ってくれ。もうちょっと撮りたいんだ」

 

「いや、待つわけな・・・・って、兵藤!?お前何やってんだよ!?」

 

撮影している者の中に俺が居たのが意外だったのか、匙は大げさに驚いてみせる。まあ、撮影に集中してるから声だけでしか判断できないんだがな。

 

「見てのとおり撮影だ。こんな機会滅多にないからな」

 

「俺の中の兵藤のイメージが・・・・・・だあぁぁ!!とにかく解散だ解散!今日は公開授業の日なんだからこんなところで騒ぎを作るな!」

 

匙の一言で、撮影している生徒達はぶつくさ文句を言いながら去っていった。俺もさすがにここまで言われてやめないわけにはいかないので、携帯をしまう。

 

「まったく・・・・・・あんたもそんな恰好しないでくれ。さすがにその恰好は参観には適さないでしょう」

 

「え~。これが私の正装なのに~」

 

注意する匙に、対してコスプレした娘はぶすっとした表情を浮かべた。というかこれが正装とは・・・・・・ミルタン並みのミルキーファンだなこれは。いっそ尊敬にも値する。

 

「まったく、この騒ぎは何事ですか?」

 

「ソーナ・・・・・・・来てしまったのね」

 

騒ぎを聞きつけたのか、現れたシトリー様。だが、どうにも部長の反応がおかしい。まるで来ない方がよかったと言わんばかりの反応だ。

 

「あら、リアス。ここにいたのね。今ちょうどサーゼクス様とおじ様を案内していたところなの」

 

シトリー様の近くには、サーゼクス様とどこかサーゼクス様に似た紅の髪の男性が居た。どうやらあの方が部長の父親らしい。

 

「ところで匙、問題は早急に解決するようにといつも言っているでしょう。あなたは・・・・・」

 

「あ、ソーナちゃん見っけ!」

 

「きゃっ!?」

 

匙に説教をしようとするシトリー様に、ミルキーのコスの彼女が突然抱き着いた。しかもシトリー様を名前でちゃん付けして呼びながらだ。

 

「匙、彼女はシトリー様と知り合いか何かなのか?」

 

「いや?俺は知らないが・・・・・・」

 

彼女のことは、眷属である匙でもわからないらしい。いったい何者なのだろうか・・・・・・

 

「おや、セラフォルー。やはり君も来ていたんだな」

 

俺が疑問に思っていると、サーゼクス様が彼女に声をかけた。セラフォルー・・・・・・その名前には覚えがある。

 

「あの、部長。俺の記憶が確かならセラフォルーって現魔王の・・・・・」

 

「ええ、そうよ。あの方はセラフォルー・レヴィアタン様。現四大魔王のおひとりで、ソーナのお姉様よ」

 

「・・・・・・マジですか」

 

よもやあのミルキーのコスプレをした娘がレヴィアタン様で、なおかつあのシトリー様の姉とは・・・・・・・世の中っていうのはわからないものだ。

 

 




あくまでも、一誠があそこまで熱心なのはミルキーだからです。決してコスプレ撮影が趣味というわけではありません。

まあ、それでも十分酷いのですが・・・・・・まあミルタンのせいということで!

それでは次回もまたお楽しみに!


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第54話

今回はまだ一応コメディ路線なのかな?

まあ、少しだけシリアス要素もありますが・・・・・・

それでは本編どうぞ


 

「ソーナちゃんソーナちゃん!会いたかったよソーナちゃん!さあ、互いにハグハグし合おう!愛を確かめ合おう!百合百合な展開にしちゃおう!」

 

「お、お姉様、人前なんですよ!やめてください!」

 

激しいスキンシップをとるレヴィアタン様に対して、シトリー様はかなり困惑している様子だ。いや、まあ確かにこんな人前でこんなスキンシップ取られたら戸惑うのは無理もないけども。

 

「部長、確認しますが本当に彼女がレヴィアタン様なのでしょうか?」

 

目の前のあまりの光景に、俺は失礼を承知で部長に尋ねてしまった。

 

「ええ、まあ・・・・・そうよ。レヴィアタン様はソーナのことをひどく溺愛しているの。コカビエルが襲撃してきたとき、ソーナがレヴィアタン様を呼ばなかったのはソーナのことを心配するあまり何をしでかすかわからなかったからなの」

 

どうやら相当な溺愛っぷりらしい。魔法少女のコスプレをして重度のシスコン・・・・・これが本当に魔王なのかと疑ってしまう。

 

(これが現レヴィアタンか・・・・・・なかなか奇抜だな。だが相棒。あの娘、実力は相当なものだぞ?)

 

(それは俺だってわかるさドライグ。今の俺じゃかないそうにない)

 

行動は破天荒だが、それでも彼女が秘めた力がひしひしと伝わってくる。言動はともかく、魔王に相応しい実力を備えているのは間違いなさそうだ。

 

「・・・・・・イッセー、自己紹介なさい」

 

「え?ですが今自己紹介したら邪魔に・・・・・・」

 

「だからよ。さすがに親友として今のソーナは見過ごせないわ」

 

ま、まあ親友がもみくちゃにされる姿は部長からしたら見てられないんだろうな。ならば部長に意に従い、あれを止めるためにも自己紹介するとしよう。

 

「あ、あのレヴィアタン様?」

 

「ん?君はさっき写真を撮ってた子だね。どうしたの?」

 

「リアス様の眷属として挨拶をしておこうかと思いまして。今年の春にリアス様の兵士(ポーン)となりました兵藤一誠です」

 

「兵藤一誠・・・・・・あ、君が噂の今代の赤龍帝だね!よろしく!私のことはレヴィアたんって呼んでね!」

 

「い、いえ。さすがに私のような下級悪魔がそんな馴れ馴れしく呼ぶわけには・・・・・・」

 

「え~・・・・・別に気にしないのに。というより、あれだけ私の写真を撮ってたんだから今更だと思うけど?」

 

「うっ・・・・・・」

 

痛いところを突かれてしまった。確かにあれだけ写真を撮った後だと馴れ馴れしさもくそもない気もするが・・・・・それでもさすがに『レヴィアたん』というのは・・・・・・

 

「ふむ、ならいっそのこと私のこともサーくんとでも呼んでみるかい一誠くん?」

 

「お兄様!馬鹿なことを言わないでください!」

 

「まあまあ、そういわないでくれリーアたん」

 

「私の愛称をたん付けで呼ばないでください!」

 

ニコニコと笑顔を浮かべて悪乗りしてくるサーゼクス様に、部長は声を荒げた。何というか・・・・・・サーゼクス様もレヴィアタン様もいくら何でも魔王とは思えないほどに愉快すぎるだろう。

 

「あ、あの朱乃先輩。こう言っては失礼ですが四大魔王のうち御二方がその・・・・・あんな感じでいいのでしょうか?」

 

俺はサーゼクス様やレヴィアタン様に聞こえないように、小声で朱乃先輩に尋ねた。

 

「うふふっ、御二方がではありませんわ。現魔王様達はどなたもプライベートではああいった感じでノリが軽い方ばかりなのです」

 

衝撃の事実。あの二人だけではなく、魔王様はそろいもそろってノリが軽い模様。

 

「現魔王様はそろって愉快な方々ばかりなので、その身内の方々はほとんど真面目なのですよ」

 

「・・・・・・そうですか」

 

一瞬、そんなんで冥界は大丈夫なのだろうかと思ってしまった。部長もシトリー様も苦労してるんだなぁ・・・・・・・まあ、正直部長は部長でなかなか愉快なところもあるとは思うが。

 

「さあソーナちゃん!さっきの続きといこう!愛を確かめ合おう!」

 

「リーアたん、昔のようにお兄ちゃんに甘えに来てくれてもいいんだよ?」

 

「「いい加減にしてください!!」」

 

止まらない魔王様方の奇行に対して、顔を真っ赤にしながら怒鳴る部長とシトリー様。無力な俺はその光景をただただ眺めることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、リアスちゃんよく映ってるわ!」

 

「ふふっ、やはり娘の晴れ姿をこの目に納めるのは親の務めですな」

 

「わかりますとも。どうでしょう?次はうちの息子の雄姿と可愛らしいアーシアちゃんご覧になられますか?」

 

「それはいい。ぜひとも見させていただきましょう」

 

公開授業が終わり、家に帰ってきた俺に待っていたのは地獄だった。それも俺だけの地獄ではなく部長にとっても地獄だ。

 

いつの間にか、俺の知らないところで父さんと母さんは部長のお父様と意気投合してしまったらしく、サーゼクス様やルキフグスさん、そして部長の4人を家に招待したのだが・・・・・・家に着くなり行われたのはビデオ鑑賞という名の恥辱プレイだった。

 

いい年して親達に授業参観のビデオを見られるとか死ぬほど恥ずかしすぎる。

 

「部長・・・・・・大丈夫ですか?」

 

「とてもじゃないけれど大丈夫だと言える状態ではないわ。そういう一誠の方こそ大丈夫?」

 

「大丈夫です。もうあきらめましたから」

 

「それは厳密には大丈夫ではない気がするのだけれど・・・・・・・・」

 

「あ、あははははは・・・・・・」

 

互いに頭を抱えながら、恥辱に耐える俺と部長。この場にはアーシアもおり、アーシアもまたその恥辱を受ける身ではあるのだが、どうやら純粋なアーシアはこれを恥ずかしいとは感じていないらしい。まあ、俺と部長を見て苦笑いを浮かべているが。

 

「・・・・・・部長、とりあえずここから離れましょう。これ以上心に傷を負うのはさすがに辛いです」

 

「・・・・・そうしましょう」

 

「わ、私もご一緒します」

 

「ええ、アーシアも来なさい。あなたの存在は今の私たちにとっては癒しになるでしょうから」

 

これ以上の恥辱は到底耐えられそうにないと判断し、俺は部長とアーシアと共に部屋を去る。

 

「見てください一誠のこの器用さを!あれほど精巧な像を短時間で作り上げたのですよ!」

 

「ほう、これはまたすごい才能ですな」

 

・・・・・・・なにやら背後で不穏すぎる会話が聞こえてきたが、とりあえず俺は聞かないことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ・・・・・・お兄様もお父様も本当にもうどうにかならないのかしら」

 

「心中お察しいたします」

 

ひとまず俺の部屋に避難してきたはいいものの、部長の心中はまだ穏やかでないらしく、サーゼクス様とお父様に対して不満を漏らしていた。

 

「ですが一誠様のお父様もお母様も、部長のお父様もサーゼクス様もとても楽しそうでした」

 

「はしゃぐ内容が内容だけに俺としては素直に喜べないけどな・・・・・・」

 

「お父様もお兄様ももっと子離れ、妹離れできないのかしら・・・・・・」

 

「それはまあ、うちもですね。父さんも母さんもなぜかやたらと俺のこと構いたがるので」

 

親子とはいえ、なんかあの二人は少し過保護なところがあるんだよなぁ。一応前世含めれば精神年齢は二人とそうそう変わらないので、どうにもむずがゆい。

 

「けど、やっぱりこの出会いはよかったかもしれません。父さんと母さんがあそこまで楽しそうにしているのは久しぶりに見ますしね」

 

「・・・・・・出会い」

 

急に部長の声のトーンが低くなった。

 

「部長?どうしました?」

 

「ねえ一誠。あなたは私達と出会ったこと、後悔してないかしら?」

 

「・・・・・以前白龍皇が言ってたことを気にしているんですか?」

 

「まあ・・・・・・そんなところよ。あの時私は、あなたと関わったことを後悔しないと言ったわ。けれど、一誠はどう思っているのか気になったの」

 

俺がどう思っているか、ね。そんなの決まっている。

 

「・・・・・・意味がないと思ってます」

 

「え?」

 

「俺と部長はもう出会っているんです。それなのに出会わなければとか関わらなければとか考えたって時間の無駄でしかない。俺ができるのは、部長達が俺と出会わなければよかったと思わせないことだけですよ」

 

「一誠・・・・・・」

 

「一誠さん・・・・・・」

 

「部長もアーシアも、余計な心配は不要です。俺は、二人に俺と出会わなければよかったなんて思わせないほどに・・・・・強くなって見せますから」

 

そうだ。俺が強くなりさえすれば、きっと二人に後悔なんてさせなくて済む。それでいいんだ。それで・・・・・・俺の後悔なんてものは、どうだっていいんだ。

 

「ふむ、随分と男らしいね一誠くん」

 

「サーゼクス様?」

 

いつの間にかルキフグスさんを伴って、サーゼクスさんが俺の部屋に訪れていた。

 

「お兄様、もう鑑賞会は終わったのですか?」

 

「ちょっとリアスに話があって抜け出してきたんだよ」

 

「話・・・・・といいますと?」

 

「リアスのもう一人の僧侶(ビショップ)についてだ」

 

サーゼクスさんの口から出たのは、俺やアーシアよりも以前から部長の眷属であったという、もう一人の僧侶についてだった。




実は一誠さんのリアスさんからの問いかけに対する答えは、かなりはぐらかしたものとなっております。はぐらかした理由は・・・・・まあ、察せられるとは思いますが

それでは次回もまたお楽しみに!


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第55話

今回はあの原作キャラが登場します

まだ一誠さんとの絡みは少ないですが・・・・・・

それでは本編どうぞ!


「ここにもう一人の僧侶(ビショップ)が・・・・・」

 

部長とグレモリー眷属の全員で、旧校舎にある部屋の前に訪れた。部屋には『KEEP OUT』と書かれたテープが張られている。このテープは封印の役割を果たしているようで、中からも外からも簡単には出入りできないようになっているらしい。

 

「部長、その僧侶はなぜこの部屋に封印されているのでしょうか?」

 

「ここにいる僧侶の能力、素質があまりにも強すぎるためよ。私では扱いきれないと判断されて封印されているのだけれど、先のコカビエルの一件で私達のことが評価されて、封印を解くことを許可されたの」

 

コカビエルの一件が原因でか。俺にとっては忌まわしい一件だったが、それが原因でここの僧侶の封印が解かれると思うと複雑な気分だ。

 

「封印ということは、自由は完全に奪われているのでしょうか?」

 

「いいえ、そんなことはないわ。封印というよりは、ここに住んでいると言った方が正しいかもしれないわね。あこの部屋の中での動きは何も制限されていないし、夜になれば旧校舎の中なら自由に動き回れるから」

 

「え?ですが旧校舎の中でその僧侶に会ったことはないのですが・・・・・・」

 

「本人がこの部屋から出ることを拒否しているの。強力な力を持ってはいるけれど、臆病な子なの」

 

いわゆる引きこもりというやつなのだろうか?まあ、そのこと自体は本人の問題だから否定するつもりはないが。

 

「ただ、中にいる子は実は眷属の中で一番の稼ぎ頭だったりするのですよ」

 

部屋の中の僧侶について、朱乃先輩が追加で補足説明をし始める。

 

「パソコンを使った特殊な契約でかなりの業績を上げていますの。契約者の中には直接悪魔と会いたくないという者もいて、そういった方を相手にすることを得意としているのですよ」

 

ふむ、パソコンを使ってか。悪魔も最新機器を活用する時代になったということか。まあ、そういう技術を否定してしまえば、悪魔といえど時代の波に取り残されて色々とやりづらくなってしまうのだろう。

 

「さて、それじゃあ扉を開けるわよ」

 

朱乃さんと話をしている間に、封印を解いてテープを剥がした部長が扉に手をかけて開く。

 

その瞬間・・・・・・

 

「イヤァァァァァァァァ!!」

 

部屋の中から甲高い声が聞こえてきた。

 

「ごきげんよう、元気そうで何よりよ」

 

「な、ななななんで封印が解けてるんですか!?何事ですか!?」

 

「ふふふ、封印を解く許可が下りたのですよ。さあ、一緒に外に出ましょう」

 

「嫌ですぅぅぅ!!外になんて出たくありません!人に会いたくありません!」

 

部長と朱乃先輩が声をかけるが、非常にパニクった様子で、それでもはっきりと外に出ることを拒否している。これは何というか・・・・・・筋金入りにもほどがある。

 

「い、一誠さん。大丈夫でしょうか?」

 

「・・・・・・とりあえず入ってみよう」

 

あまりもの拒否っぷりに、少々あっけにとられているアーシアを伴って、俺は部長達に続いて部屋に入る。

 

部屋に入った俺達の目に映るのは、駒王の女子制服を着た、金髪の小柄な美少女であった。

 

「彼女がもう一人の・・・・・・僧侶はアーシアとそろって金髪コンビみたいだな」

 

「はい」

 

「いいえ。一誠、アーシア・・・・・・・この子は紛れもなく男の子よ」

 

「「・・・・・・・え?」」

 

部長の発言に、俺とアーシアは思わず気の抜けた声を出してしまった。

 

どうやら、このそこらの女の子よりもよっぽど可憐で、小猫並に小柄なもう一人の僧侶は男の子・・・・・・・男の娘であったようだ。

 

「・・・・・・なぜ女子の制服を着ているのですか?」

 

「女装趣味があるのですよ」

 

俺の疑問に、朱乃先輩が微笑みを浮かべながら答えた。外見もさることながら、自分からも寄せに行っているのかこいつは。

 

(まあいいや。とりあえず初対面なんだから挨拶を・・・・・)

 

「ひいぃっ!?」

 

・・・・・・挨拶をしようと少し前に出たら、おびえた様子で後ずさりされてしまった。

 

「・・・・・・皆、自覚はあるんだけど俺ってやっぱり目つき悪いのかなぁ?」

 

「い、いえ。そんなことは・・・・・・・」

 

「一誠の目には確かに凄みがあるな。目を見ただけで内に秘めた強さが窺い知れるほどだ」

 

アーシアは否定してくれたが、ゼノヴィアは少しずれているが目つきの悪さを肯定するかのような発言をした。まあ、アーシアもかなり歯切れ悪く言っているから否定になってはいないのだが。

 

「ギャスパー、この3人はあなたがここにいる間に増えた新しい眷属で兵士(ポーン)の一誠、騎士(ナイト)のゼノヴィア、そしてあなたと同じ僧侶のアーシアよ」

 

「新しく人がいっぱい増えてるぅぅぅぅ!?」

 

部長が俺達のことを紹介するが、やはり怯えてしまっている。この様子じゃ、俺たちの名前をちゃんと覚えられていないんじゃないだろうか?

 

ともかくこのままでは埒があきそうにない。やっぱりこっちから歩み寄ってみた方がよさそうだな。

 

「落ち着け。別に取って食おうってわけじゃないんだ。ただ同じ部長の眷属として、話をさせてほしくて・・・・・」

 

「こ、来ないでくださいぃぃぃ!!」

 

「ッ!?」

 

『BOOST!!』

 

彼が激しく拒絶した瞬間、妙な悪寒を感じた俺は反射的に赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を発動してしまった。

 

「な、なんだ?今の・・・・・・?」

 

「ひいぃっ!?な、なんで動けるんですかぁぁ!?」

 

「え?」

 

なぜか俺を見て、酷く動揺していた。

 

なんで動けるか・・・・・その言葉の意味が気になり、ひとまず周囲を見渡して俺は気が付いた。部長達が、まるで

()()()()()()かのように微動だにしないからだ。

 

(ドライグ、これって・・・・・・)

 

(おそらくこの者の神器(セイクリッド・ギア)の力だろうな。お前が動けるのは、赤龍帝の籠手()の力で打ち消したからだろう)

 

ドライグに確認を取った後、俺は女装僧侶の方へと視線を向ける。

 

「ううっ・・・・・ご、ごめんなさい」

 

怯えた目で俺を見ながら謝罪してくる女装僧侶。この目は・・・・・・なるほど。どうやらこいつは、自分の力を恐れているようだ。

 

「謝罪はいらない。それよりも、皆を動けるようにしてやってくれ」

 

「え?あ、それは・・・・・・・たぶん、時間がたてば・・・・・・」

 

(たぶん・・・・・か。こいつ、自分の力を制御できていないのか)

 

数秒後、あいつの言う通り、部長達は動けるようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)。それがあの子の神器の名前よ」

 

あのままではまともに話もできないからと俺達はひとまず部室に戻り、そして部長からあの僧侶の神器のことを聞かされた。

 

「視界に入った全ての物体の時間を一定の間止めてしまう神器。あの子はその所有者なのだけど・・・・・」

 

「力をうまく制御できていないと?」

 

「ええ。興奮すると本人の意思を無視して発動してしまうみたいなの。しかも、その効果は急速に高まっている。一誠はどうにか打ち消すことができたようだけれど、主の私でさえも容易に止めてしまうわ」

 

なるほど、部長でさえ止められてしまうから、扱いきれないだろうと封印されていたというわけか。まあ、そもそも本人が外に出たがっていないようだが。

 

「ギャスパー・ヴラディ。それがあの子の名前。私の僧侶で一応駒王学園の一年で、人間と吸血鬼(ヴァンパイア)のハーフよ」

 

吸血鬼・・・・・・どうやらあいつは元から純粋な人間ではなかったようだ。まあ、人間の血が入ってるから神器を宿しているのだけれど。

 

それにしても・・・・・・

 

「あれだけ強力な力を持った者を、僧侶の駒一つで眷属にできるものなんですか?」

 

ギャスパーの能力はあまりにも強力だ。対象の時を止めるなど、戦闘でうまく使えば勝利が確定するのと同義だからな。だからこそ、そんな能力を持ったあいつを駒一つで眷属にできたとは思えない。俺に兵士の駒8つ使ったように、ギャスパーにだって複数駒を使われて然るべきだ。

 

「ギャスパーの駒は変異の駒(ミューテーション・ピース)という特殊な駒なのよ」

 

「変異の駒?」

 

聞いたことのない言葉に、俺は首を傾げた。

 

「通常の駒とは違って、明らかに複数駒を必要とする相手でも一つの駒で悪魔への転生を可能とする特殊な駒よ。私は僧侶の変異の駒を持っていて、ギャスパーにはそれを使ったの」

 

「なるほど・・・・・・そういう駒もあるんですね」

 

「ええ・・・・・それほどまでにギャスパーの才能は凄まじいの。神器の力は日々高まって将来的には禁手(バランス・ブレイカー)に至ると言われている。それ以外にも吸血鬼の能力を有していて、魔術にも秀でているから潜在能力で言えば一誠にも引けを取らないと言って過言ではないと私は思っているわ。ただ、本人があの調子では・・・・・・どうしたものかしらね」

 

秘められた能力とは裏腹に、臆病な性格ゆえに引きこもりがちなギャスパーに対して、部長は頭を悩ませているようだ。

 

だが・・・・・俺はむしろ少し安心していた。あれほどの力を有していながら、臆病である・・・・・自らの能力に恐れを抱いているギャスパーに。

 

だからこそ、部長への忠義を尽くすためにも・・・・・・ここは俺が出張ってみよう。

 

「部長・・・・・・ギャスパーのことは俺に任せてもらえませんか?」

 

 




何気に目つきが悪い子をと気にしている一誠さん。彼も人並みにそういうことを気にしたりしています

そして次回は原作にはなかった一誠さんとギャスパーさんの一対一のお話しになります

はてさてどうなるか・・・・・・

それでは次回もまたお楽しみに!


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第56話

今回は一誠さんとギャスパーさんとのお話です

それでは本編どうぞ!


部長からの了承をえて、俺は再びギャスパーのいる部屋の前へと戻ってきた。まずは部屋には入らず、扉をノックする。

 

「・・・・・誰ですか?」

 

中から返事が聞こえてくる。応対はしてくれるようで安心した。これで返事が返ってこなかったら為す術なしだからな。

 

「兵藤一誠だ」

 

「一誠・・・・・新しく兵士(ポーン)になった?僕を連れ出しに来たんですか?」

 

「まあ、部長にはそう言ってここには来た。けど、別にお前を無理にここから連れ出そうとは思っていないさ」

 

そんなことをしたって意味がない。たとえ出てきたとしても、心が閉じこもったままだからな。

 

「なら何をしに・・・・・・?」

 

「ちょっとお前と話がしたくてな」

 

「僕とお話し?」

 

「そうだ。無理にとは言わないが、ちょっと付き合ってくれないか?」

 

「・・・・・わかりました」

 

とりあえず、話はしてくれるらしい。しかも、足音が聞こえてきたからわざわざ扉の前まで来てくれたようだ。

 

「それじゃあまあ、単刀直入に聞くがギャスパー。お前はなんで外に出たくないんだ?」

 

「・・・恐いからです。外は恐いことばかりだから僕は外に出たくありません」

 

「なるほど・・・・・まあ、気持ちはわかる」

 

「え?」

 

「外の世界はいいことばかりじゃない。お前の言う通り、恐いことなんていくらでもあるし、知らなければよかったと思うこと、見なければよかったと思うこと、聞かなければよかったと思うことがゴロゴロしてる。外の世界ってのは、自分にとって都合のいいことばかりじゃないのは確かだからな」

 

実際、ただ安全を求めるだけならばこの部屋の中に閉じこもってればいいと思うしな。そう思うこと自体は、俺は悪いとは思わない。誰だって、恐いことから逃げ出したいと思うものだ。それも、ギャスパーの場合特にだ。

 

「・・・・・・否定しないんですか?」

 

「否定なんてしないよ。俺にお前を否定する資格なんてないんだからな。ただ・・・・・」

 

「ただ・・・・・・なんですか?」

 

「ギャスパー、お前が一番恐いと思っていることは外の世界そのものではないんじゃないか?お前が恐いと思っていることは・・・・・お前自身の中にあるんじゃないのか?」

 

「・・・・・・」

 

俺の問いかけに、ギャスパーは答えなかった。だが、それは俺の言っていることを肯定していることと同義だった。

 

「お前が一番に恐れているのは。お前のその眼。見たものを停めてしまう神器(セイクリッド・ギア)の力なんじゃないか?」

 

「・・・・・はい」

 

今度は声に出して肯定するギャスパー。だが、その声は酷く弱々しく、か細いものであった。

 

「僕はこんな神器なんていらなかったんです。皆停まっちゃうんだ。皆恐がるんだ。皆嫌がるんだ。僕だってい嫌だ。友達を・・・・・仲間を停めたくなんてない。大切な人の停まった顔を見るのは・・・・・・もう嫌だ」

 

声から伝わってくる悲痛な感情。おそらく過去に何かあったのだろう。俺なんかでは推し量れないような何かが。本当なら踏み込むべきではないのかもしれない。だが・・・・・それでも、このままにはしておけない。

 

「ギャスパー・・・・・お前は強いな」

 

「え?」

 

「見たものの時を停める力。そんな力を持ってしまったら力に溺れたり傲慢になったりしてもおかしくない。だけどお前は違う。自分の力を恐れることができている」

 

見たものを停める力。それはあまりにも利便性が高すぎる。利便性の高さは悪用のしやすさにつながるが。ギャスパーはそんなこと微塵も考えていない。悪用どころか、そのことに対して罪悪感さえ感じている。

 

「それは・・・・・・僕が臆病だから」

 

「確かにお前は臆病だろう。だが、その臆病さを俺は非難するつもりはない。むしろ、それは誇らしいことだと思っている。自分の力を恐れているお前は、その力に溺れることはない。その臆病さはギャスパー・ウラディとして、確固たる強さを持っている証なんだ」

 

「臆病さが・・・・・強さの証」

 

「そうだ。その強さは誰しもが持ち得る強さじゃない。その強さを誇ってもいい」

 

そう、ギャスパーの心の強さは誰にでも持ち得るものではない。現に俺だって・・・・・力を発現したばかりの時はともかく、今の俺は自分の力を恐てなどいない。ゆえに、俺は時として自分でも自覚できるほどに傲慢な考えをしてしまうことがある。そんな俺に比べて・・・・・・・ギャスパーの方がよっぽど心が強い。

 

「ギャスパー・・・・・俺はさっき、お前を無理に連れ出すつもりはないと言った。それを今更撤回するつもりなどない。だが・・・・・お前自身はどうしたいと思っている?」

 

「僕自身が?」

 

「恐いのはわかる。その恐怖を抱いたまま、外に出るのはお前にとって簡単なことではないんだろう。ここにいたいのならここにいたって構わない。部長は俺がどうにか説得してみせる。だがそれは、お前がずっとその部屋の中に居続けてもいいと思っているならの話だ」

 

あくまでも可能性の話だが、ギャスパーが心の底からこの部屋の中に居続けることを望んでいるわけではないのかもしれない。外に出たいという気持ちはあっても、神器の能力や過去がギャスパーを心ごとこの部屋に押さえつけているのかもしれない。

 

まあ、あくまでも可能性の話なのだが・・・・・・

 

「僕・・・・・でも、僕は皆を停めちゃうから・・・・・・」

 

今度は部屋から出たくないとは言わなかったか。皆を停めてしまうから・・・・・それが一番引っかかっているということか。

 

「停めてしまうのが嫌で外に出たくないっていうなら、皆を停めることないようになればいい。修行して力を上手く扱えれるようになればいい」

 

「修行をして力を・・・・・・けど、修行といわれてもどうすればいいか・・・・・」

 

「それなら俺が修行を付けてやるよ。俺なら赤龍帝の籠手があればお前の眼でも停まることはない。お前の修行に付き合ってやることができる」

 

「僕なんかのために・・・・・修行に付き合ってくれるんですか?」

 

「ああ。俺でよければな」

 

まあ、それもこれも部長のためなんだけどな。ギャスパーが外に出て、力を使いこなせる様になれば大きな戦力になるだろうからな。それに、俺自身こいつが力を使いこなせるようになったらどれだけの戦闘力を身につけることになるのか気になるし。

 

・・・・・・我ながら、性根が腐ってるな。まあ、ギャスパーに言った言葉に嘘はないんだが。

 

「力を使いこなせれば僕は・・・・・・大切なひとを守ることができますか?」

 

「お前がそうあろうと願い続ければ・・・・今の強さを維持し続ければ可能だろうな」

 

結局のところどうありたいか、どうあろうとするのかは自分次第。だが、ギャスパーなら大丈夫だろう。気弱で臆病だが・・・・・・・それでもこいつは強いから。

 

「・・・・・・一誠先輩」

 

部屋の扉が開く。扉の奥には、ビクビクしながらも確かな覚悟を感じさせるたたずまいのギャスパーが居た。

 

「・・・・・・お願いします一誠先輩。僕を鍛えてください」

 

「ああ。言っておくけど、結構厳しめに行くから覚悟はしておけよ?」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

大きな動作で頭を下げるギャスパー。まったく・・・・・・まさか俺が自分から他人の修行に付き合って鍛えることになるとはな。

 

まあいい。やるからには徹底的にやらせてもらおう。部長の眷属として恥じない力を身につけてもらうためにも・・・・・・・

 

手始めに・・・・・・

 

「ギャスパー・・・・・・とりあえずお前10kgの重りをつけて何km走れる?」

 

「・・・・・・え?」

 

 




なんか気づいたらギャスパーくんが一誠さんの弟子になったような展開に

・・・・・・・ギャスパーくん、ガンバ

それでは次回もまたお楽しみに!


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第57話

今回からギャスパーくんの修行が始まります

内容はまあ・・・・・うん

それでは本編どうぞ!


「ほら頑張れギャスパー。あとラスト5kmだぞ」

 

「はあ・・・・ひい・・・・な、なにをもって5kmがラストなんですか一誠先輩ぃぃぃ」

 

早朝4時。俺はギャスパーと共に走り込みをしていた。まだほんの15kmほどしか走っていないのだが、ギャスパーは息も絶え絶えにひいひい言っている。

 

「も、もうだめ・・・・・死んじゃう・・・・・」

 

「安心しろ。人はそこまで簡単には死なん」

 

「ぼ、僕はハーフヴァンパイアで悪魔ですぅ・・・・・」

 

「と、そうだったな。なら人間よりももっと簡単には死なん。だからファイト」

 

「一誠先輩の鬼ぃぃ・・・・」

 

「何を言っているんだギャスパー。俺は鬼じゃなくてお前と同じ悪魔だぞ」

 

俺に向かって批難の声をあげるギャスパーをあしらいつつ、俺は足を止めずに走り続ける。ギャスパーもまた、なんだかんだ言いながらも必死に食らいついてきた。

 

頑張れギャスパー。これも必要なことなんだ。

 

「あ、ギャスパー。走り込みが終わったら今度は筋トレだからな」

 

「やっぱり一誠先輩は鬼だぁぁ・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、ギャスパー。大丈夫か?」

 

「・・・・・・・」

 

走り込みを終え、うちの近くの公園にやってきた俺達だが、着くなりギャスパーは倒れ伏してしまった。どうやらギャスパーの体力では20kmのマラソンは相当きついらしい。

 

「仕方ない・・・・・とりあえず10分だけ休憩にするから、その間に十分に体力を回復させておけ。短時間で体力を回復させることも修行の一部だと思えよ」

 

「・・・・・・はい」

 

蚊の鳴くようなか細い声ではあるが、ギャスパーはきっちりと返事を返してきた。

 

「これは・・・・・・・・むごいわね」

 

「あ、部長」

 

とりあえずギャスパーが休憩している間に、俺は筋トレを始めようかと思っていたら、部長が現れた。部長は倒れ伏すギャスパーに対して憐みの目を向けている。

 

「一誠・・・・・あなたギャスパーに一体何をさせたの?」

 

「ただ20kmほど走り込みをしただけですよ?」

 

「20kmって・・・・・一誠、部屋にこもりきりだったギャスパーにいきなりそれは厳しいと思うわよ?」

 

「そうですか?これでも結構緩くしたんですけどね・・・・・はじめは10kgの重りをつけて走らせようと思っていましたし。まあ、ギャスパーが本気で拒否していたのでやめましたけど」

 

「当然よ。そんなことしたらギャスパー死んじゃうわよ」

 

いやいや、さすがに死ぬは言い過ぎだろう。ただまあ、今よりもはるかに体力を消耗させることになってはいただろうけども。

 

「でも20kmって・・・・・ギャスパーはともかく、あなたそれで満足できるのかしら?確かあなたいつもは10㎏の重りをつけてその2倍近くは走ってたわよね?」

 

「ああ、それなら大丈夫ですよ。重りを3倍にしたので」

 

「それでたいして消耗もしてないのね・・・・・一誠、やっぱりあなたとんでもないわ」

 

なぜか呆れたような目で、俺を見てくる部長。別にこれぐらい大したことないのに・・・・・・色々と解せないな。

 

「まあ、それはそうとして一誠。この修行って本当に意味があるのかしら?」

 

「と言いますと?」

 

「ギャスパーの一番の問題は神器(セイクリッド・ギア)の能力をコントロールできていないことよ。走り込みや筋トレみたいな体づくりはあまり意味がないと思うのだけれど・・・・・」

 

どうやら部長はこの修行に疑問を抱いているらしい。まあぱっと見、神器とは関係なさそうに見えるからそう思われても仕方がないのだが。

 

「意味ならありますよ。ギャスパーが神器の能力を使いこなせないのはおそらく自分に対する自信のなさが原因の一端だと俺は思っています」

 

「自分に対する自信のなさ?」

 

「はい。ギャスパーは自分に対して圧倒的に自信を持てていない。その自信のなさのせいで神器をうまく使いこなせないと思い込む要因になっているんだと思います。だから俺はまずギャスパーに身体的なトレーニングをさせているんですよ。トレーニングで身体的に強くなればそれが自信に繋がるでしょうからね」

 

「なるほど・・・・・まあ、わからないでもないわね」

 

一応今の俺の説明で部長は納得してくれたようだ。

 

「それとまあ、ギャスパーを外に出すことに慣れさせるのも目的の一つです。いきなり白昼の町中に出したら戸惑うでしょうけど、深夜なら人気はほとんどありませんから、慣れさせるのにはちょうどいいと思いまして」

 

「そうね・・・・・人の多い昼間に町に出したら下手したらパニックを起こしかねなかったでしょうし、深夜ならちょうどいいかもしれないわね。安心したわ。一誠、思ったよりもギャスパーのこと考えてくれていたのね」

 

「思ったよりって・・・・・・部長、俺のこと薄情だと思ってたんですか?」

 

「あっ、いや、違うのよ。ただ、一誠ってあまり面倒見がよさそうじゃないというか、我が道突き進むタイプに見えるというか・・・・・」

 

部長・・・・まったくフォローになってないよ。目が泳ぎまくってるし冷や汗だって流れてるし。だがまあ・・・・・実際そういうふうに思われても仕方ないなとは思うけどさ。

 

それよりも、そろそろ10分経つ頃だな。

 

「ギャスパー、起きろ。休憩終わりだ」

 

「・・・・・・はい」

 

まだしんどそうだが、それでも幾分か体力は回復したようで、ギャスパーは立ち上がる。

 

「まずはとりあえず腕立て100回からだな。時間かかってもいいからきっちりこなせ」

 

「腕立て・・・・・・苦手だけど頑張ります」

 

ギャスパーはその場で伏せて腕立てを始める。どうやら腕力はあまりないらしく、一回やるだけでもしんどそうだ。

 

「ギャスパー、大丈夫かしら?」

 

「心配する必要ならありませんよ部長」

 

「え?」

 

「確かにギャスパーは現状、体力も腕力もからっきしで、すぐにひいひい言って弱音を吐きますが、それでも一度も『辞めたい』とは言ってないんですよ。どんなに死にそうな顔をしてても・・・・・・その一言だけは何があってもあいつは口にしていません」

 

そう、ギャスパーはただの一度も『辞めたい』とは言わなかった。俺からすれば軽いトレーニングではあるが、ずっと部屋に籠っていたギャスパーにとっては過酷なトレーニング。俺も何度かは辞めたいって言いだすのではないかと思っていたのだが・・・・・それでもあいつはその一言だけは絶対に言わなかった。その一言だけは言わずに・・・・・・食らいついていた。

 

「やっぱりギャスパーは強い奴ですよ。か弱く見えるけど、結構根性がある。能力を完全に使いこなせるようになって、肉体的にも強くなれば・・・・・・あるいは俺よりもずっと頼りになるかもしれませんね」

 

「一誠よりも頼りに・・・・・・」

 

まあ、俺もそう簡単に抜かれるつもりはないけどな。確かにギャスパーは俺よりもずっと素質も才能もあるだろうが・・・・・・俺も今よりもっと強くなってみせる何もかも守れるようになるように。全ての敵を倒せるようになるように。

 

「い、一誠先輩・・・・・なんか腕からパキパキって変な音が聞こえます」

 

「気のせいだ」

 

「絶対に気のせいじゃない・・・・・・」

 

「いいから頑張れ。あとラスト70回だ」

 

「だからそのラストが何をもってラストなのかわからないですよぉぉぉ!」

 

力のないギャスパーの叫び声がこだま・・・・・しないな特に。そこまで大きな声じゃないし。

 

「さて、いい加減俺も始めないとな」

 

いくら付き合ってる立場とはいえ、俺だってトレーニングを欠かすわけにはいかない。

 

今よりも少しでも強くなるために・・・・・俺もきっちり鍛えないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、腕が・・・・・・腕がもげそうです」

 

「安心しろ。腕立てごときで腕はもげん」

 

「ひぃぃぃぃ・・・・・」

 




体育会系な修行にひいひい言ってるギャスパーくん。それでも辞めたいとは言わないので、このギャスパーくんは根性あります

一誠さんもそんなギャスパーくんのこと結構気に入ってますしね

それでは次回もまたお楽しみに!


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第58話

今回もギャスパーくんの特訓・・・・・ってことでいいのかな?

ぶっちゃけ特訓描写はほぼ皆無なので

それでは本編どうぞ!


 

「ギャスパー、これから神器(セイクリッド・ギア)を使った特訓に入るが覚悟はいいか?」

 

「は、はい!」

 

駒王学園、旧校舎の近くでこれからギャスパーの神器の制御のための修行を始めるのだが・・・・ギャスパーの顔からは緊張の色が見て取れる。やはりまだ自分の神器が恐いのだろう。

 

「よし、では始めよう」

 

「・・・・ギャーくん、ファイト」

 

「ひいっ!?」

 

「ちょっと待てお前ら」

 

特訓の手伝いを申し出たゼノヴィアと小猫が詰め寄ると、ギャスパーは酷く怯えてアーシアの後ろに隠れてしまった。無理もないだろう。ゼノヴィアは聖剣を、小猫はニンニクの束を手にしているのだから。具体的に何をするつもりかはわからないが、ロクでもないことだろうと思い俺は二人に待ったをかける。

 

「お前らな・・・・・神器の特訓だって言ってるのにどうして追いつめようとするんだよ」

 

「いや、追いつめれば神器の制御ができるようになると思ってな」

 

「・・・・・これもギャーくんのため」

 

「お前らな・・・・・肉体的な追い込みは俺がさんざんやってきたから今日はそういうのはなしだ。修行の妨げになる」

 

「・・・・・あの、一誠さん。ギャスパーくん震えているんですが・・・・・」

 

おっと、どうやら俺とのとレーニングを思い出させてしまったかな。毎回トレーニングが終わるたびに死んだように倒れてたから恐怖心を植え付けてしまったのかもな。まあ、それでも食らいついてきてるから大したものだが。

 

「おーい、兵藤」

 

「匙?どうしたんだ」

 

本校舎の方から、ジャージ姿の匙が現れた。

 

「いや、花壇の手入れをするついでに、解禁されたっていう眷属を見に来たんだよ」

 

「花壇の手入れって・・・・・・お前、生徒会の雑用係なのか?」

 

「ぐっ・・・・それを言うなよ。それよりも解禁された眷属っていうのは・・・・・おっ、君か?」

 

「ひっ!?」

 

突然匙に近づかれ、ギャスパーは驚いて後ずさりしてしまう。

 

「すまん匙、あいつはちょっと人と関わるのに慣れてないからあまり前に出過ぎないようにしてくれ」

 

「そ、そうなのか・・・・・それにしても、なかなかの金髪美少女だな。アーシアちゃんといい羨ましいなおい」

 

「匙、残念ながらあれでもギャスパーは男だ」

 

「・・・・・マジで?詐欺だなおい・・・・・」

 

まさかギャスパーが男だとは思いもしなかったようで、匙は驚愕としている。まあ、俺も初めは同じようなリアクションをしたから気持ちは非常によくわかる。

 

「お?こんなところに悪魔ばっかで集まって・・・・・・お遊戯か何かか?」

 

突然、背後から聞こえる声、振り向くとそこには・・・・・堕天使の総督、アザゼルが居た。

 

「・・・・・こんなところで何をしているんですかアザゼル総督?」

 

「「「アザゼルっ!?」」」

 

アザゼルの名前を聞き、匙、ゼノヴィア、小猫が臨戦態勢をとる。アーシアとギャスパーもアザゼルに警戒している様子だ。

 

「皆落ち着け。このひとはこんなところで戦いを吹っ掛けようとするほど短絡的じゃない」

 

「赤龍帝の言う通りだ。コカビエルにさえ及ばない下級悪魔を虐める趣味なんて俺にはねえよ。この中で俺と渡り合えるあとしたら、赤龍帝だけだ」

 

「アザゼル総督にそこまで実力を買っていただけるとは、恐縮でございますよ・・・・・ところで、今日は何をしにここへ?まさかまた俺をからかいに来たんですか?」

 

「からかうってのは前の公開授業の時のことか?別にあれはからかってたわけじゃない。ちょっと会談の会場の下見がてらお前の学校生活を覗きに来ただけだ」

 

俺の学校生活を覗きにって・・・・・なんなんだこの妙な保護者感は。なんでこのひとは俺のこと気にかけるんだ?

 

「ところで赤龍帝、聖魔剣使いはどこにいる?ちょっと見に来たんだが・・・・・」

 

「木場ならここにはいませんよ。部長と一緒に居ます」

 

「そうか。つまらんな」

 

「一応言っておきますけど、部長達の方には行かないでくださいよ?部長、絶対にうるさく言うでしょうから」

 

「それは面倒だな・・・・・・わかったよ。今日は諦めるとしよう」

 

残念そうに肩をすくめるアザゼル。どうやら本当に木場に会いに来ただけのようだ。

 

「お。おい兵藤」

 

「なんだ匙?」

 

「お前、なんでそこまで堕天使のトップと自然に会話できるんだよ」

 

「どうしてと言われても・・・・・元お得意様だったし」

 

「いや、だとしてもおかしいと思うんだが・・・・・」

 

まあ、匙の言っていることは理解はできる。悪魔である俺と堕天使の総督であるアザゼルが自然に会話している光景は不思議がられても仕方がないだろう。

 

「と、そうだ。おい、そこのヴァンパイア」

 

「ひいっ!?た、食べないでください!」

 

「いや、食わねえよ・・・・・俺のことなんだと思ってるんだ。それよりも、お前は『停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)』の持ち主だろう?五感から発動するタイプの神器は持ち主の力が不足していると暴走する危険性がある。補助具で補えばいいんだが、悪魔はそれほど神器研究が進んでいなかったな・・・・・・まあ赤龍帝がそのヴァンパイアに血を飲ませれば補助具の代わりになるが」

 

「俺の血はパワーアップアイテムってことですか?」

 

「ヴァンパイアにとってはそうなるってことだ」

 

俺の血をギャスパーに飲ませる・・・・か。別に俺としては構わないが・・・・・・

 

「ギャスパー。俺の血飲むか?」

 

「・・・・・それはちょっと」

 

どうやらギャスパー的には拒否したいようだ。あの過酷なトレーニングは耐えられたのに血を飲むのは嫌って、相当な筋金入れだなおい。

 

「なんだよ、ヴァンパイアのくせに血が苦手なのかよ。となると・・・・・おい、お前」

 

「えっ!?俺!?」

 

突然、アザゼルに声をかけられて匙は動揺する。

 

「お前のその神器、『黒い龍脈(アブソープション・ライン)』だろ」

 

アザゼルは臨戦態勢に入ったときに出した匙の神器を指さす。

 

「それのラインをこのヴァンパイアに接続して練習してみろ。余分な力を吸い取れば暴走もある程度抑えられるはずだ」

 

「俺の神器って、相手の神器の力も吸い取れるのか・・・・・・」

 

「そんなことも知らなかったのか。自分の力ぐらい把握しておけ。今日は特別に、俺が少しレクチャーしてやる」

 

こうして、なぜかアザゼルによる黒い龍脈の使い方の講義が始まった。アザゼルの説明は具体的かつ、わかりやすいのですんなりと頭に入っていく。その場にいた全員が思わず聞き入ってしまうほどだ。

 

「・・・・まあ、こんなところだな。せいぜい自分の力を磨くことだな」

 

「アドバイスありがとうございますアザゼル総督」

 

「気にするな。前のヴァーリがちょっかいかけた詫びだとでも思ってくれ」

 

「自分がちょっかいかけることに関しては詫びようとは思わないんですか?」

 

「思わねぇよ。これは俺の趣味なんでな。じゃあな。次に会うのは会談の時だ」

 

ひらひらっと軽く手を振った後、アザゼルは去っていった。

 

「なんていうか・・・・・堕天使の総督ってフランクなんだな。コカビエルの件もあって堕天使ってロクでもない奴ばっかだと思ったが・・・・・」

 

「・・・・堕天使だって人間や悪魔と変わりないさ」

 

「え?」

 

「個人個人性格や考え方が違う。だから、個人を見ずに堕天使だからって理由で敵視したり差別的に見るのは・・・・・やめた方がいい」

 

そう、堕天使にだって色々いる。コカビエルのような戦闘狂もいれば、アザゼルのような神器マニアもいる。そして・・・・・・人間を、悪魔を愛してしまった堕天使だっているしな。

 

「い、一誠先輩?どうしたんですか?」

 

「ん?何がだギャスパー?」

 

「いえ、その・・・・・・様子がおかしかったので」

 

「なんでもない、気にするな。それよりも、特訓を始めるぞ。匙、花壇の整理しなきゃいけないんだろうが少しだけ付き合ってもらっていいか?」

 

「ああ。任せておけ」

 

アザゼルのアドバイス通りに、匙の神器のラインをギャスパーに繋げて、ギャスパーの神器の特訓を始める。

 

匙の神器で力を吸収されたおかげでギャスパーの力が暴走することはなく、特訓は思った以上にすんなりと進んで行った。

 




一誠さんとアザゼルさんの関係はわりと良好です

まあ、理由はちゃんとあるのですが・・・・・それはおいおいと

それでは次回もまたお楽しみに!


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第59話

今回は一誠さんがアスカロンを手に入れる話です

それでは本編どうぞ


「・・・・・ここか」

 

三種族会談を三日後に控えた日のこと、俺は朱乃先輩に呼ばれて町内にある神社に訪れていた。本来神社は悪魔にとっては近寄りがたい場所のはずだが・・・・・なぜかこの地に訪れても、頭痛に悩まされることはなかった。

 

「いらっしゃい一誠くん」

 

境内の奥から現れる朱乃先輩。その服装は巫女服だった。

 

「どうも朱乃先輩。その服は・・・・」

 

「私はこの神社で生活していますので。巫女服を着てもおかしくはありませんわ」

 

「神社で?それって大丈夫なんですか?」

 

「ええ。この神社は悪魔でも入れるように特別な約定が交わされていますの。そして昔、無人になっていたこの神社をリアスが確保してくれて、私はここに住まわせてもらってるということよ」

 

なるほど、ちゃんと悪魔が入っても問題ないようにされているのか。まあ、人間だった時でもそこまで信心深いわけでもなかったから特に思うところはないが。

 

「ところで朱乃先輩、今日はいったいどういった用件で?」

 

「それは・・・・・」

 

「私があなたを呼んだのですよ」

 

朱乃さんの声を遮るように聞こえてきたのは聞き覚えのない男性の声であった。声のする方へと視線を向けると、そこには白い翼を持つ美男子が居た。

 

「初めまして赤龍帝、兵藤一誠くん。私はミカエル。天使の長をしています」

 

男性は自らをミカエルと名乗った。感じられるオーラの質からしてただ者ではないことは容易に理解できるため、本人であることは疑いようもない。まさかここでこんな大物に出くわすとはな。

 

「お初にお目にかかりますミカエル様」

 

「そう畏まる必要はありませんよ。ふふふっ、今代の赤龍帝は随分と礼儀正しいのですね」

 

いや、まあ相手が相手だから形だけでも畏まった方がいいと思っただけなんだけどな。別に自分自身礼儀正しいだなんて思ったことはこれっぽっちもないし。

 

「さて、本日あなたを呼んだのはあなたに授けたいものがありましてね」

 

そう言うミカエルに案内されて、神社の境内に案内された俺の目に映るのは一振りの剣であった。それもただの剣ではなく、聖なるオーラを放っている剣・・・・・つまり聖剣だ。

 

「これは・・・・・聖剣ですか?」

 

「ええ。ゲオルギウス・・・・聖ジョージが持っていた聖剣、アスカロンです」

 

「アスカロン?それって確か龍殺しの・・・・・」

 

「おや、知っていましたか。そうです。この剣は聖剣であると同時に龍殺し(ドラゴンスレイヤー)の性質も併せ持っています」

 

ちょっと待て。聖剣でなおかつ龍殺しって、悪魔でドラゴンの神器(セイクリッド・ギア)を宿している俺にとっては相性最悪じゃないか。そんなものを俺に授けるって、実質俺を滅ぼすってことなんじゃ・・・・

 

「ああ、心配はいりませんよ。この剣には特殊な儀礼が施してありますので悪魔であり、赤龍帝の力を宿すあなたでも扱うことはできます」

 

(・・・・・と、ミカエルは言っているがどうだドライグ?)

 

(信じても大丈夫だろう。事実、これほど近づいても嫌な気配は感じないからな)

 

万が一のことを考え、ドライグに確認を取ったところ問題はないようだ。とりあえず危険がないというのはわかったが・・・・・やはり解せないな。

 

「・・・・・ミカエル様、なぜこのような貴重なものを私に授けてくださるのですか?会談を控えているとはいえ、天使にとって悪魔は敵対すべき相手のはずですが・・・・・」

 

「そうです。我々にとって悪魔は敵対勢力。ですがそれはこれまでの話です」

 

「これまで・・・・・というと、ミカエル様は三種族間の和平をお望みなのですか?」

 

「ええ。先の大戦で我々は神を失い、悪魔は魔王を失った。堕天使もまた、少なくない犠牲を背負ってしまったのです。三種族は例外なく疲弊しており、このような状態で小競り合いとはいえ争いが続けば、種の存続さえ危ぶまれてしまう。ですから、今回の会談は三種族が手を取り合う大きな機会だと私は思っています」

 

なるほど、確かにミカエルの言う通りだろう。悪魔になって日が浅い俺でも、現在の三種族の先行きの危うさは理解できる。ましてや他の神話体系の勢力だって、このまま衰退していく三種族を黙って見ているとは限らないんだ。

 

今回の三種族会談・・・・・どうやら想像以上に大きな意味を持ちそうだ。

 

「つまり、このアスカロンは和平のための布石ということですか?」

 

「その通りです。アスカロンは私達天使側から悪魔への贈り物。同様に堕天使にも送りました。悪魔側からも聖魔剣が送られてきましたしね」

 

「そうですか・・・・ですが、なぜわざわざ俺に?贈り物というならもっと権力のあるものに捧げるべきなのではありませんか?」

 

「それはあなたが今代の赤龍帝だからです。赤龍帝が悪魔になった・・・・・これは非常に大きな意味を持ちます。あなたが望もうが望むまいが、あなたは大きな躍動の中心になってしまうでしょう。だからこそあなたには力を持ってもらう必要があるのです」

 

つまり、三種族にとっても俺の存在は貴重になるから、弱いと困るっていうことか。なんというか、俺の意思はほとんど無視な気がするな・・・・・でもまあ、そういうことならもらえるものはもらっておこう。俺としても力はいくらあっても足りないなんてことはないしな。

 

「・・・・・朱乃先輩、一応確認しますが本当にこの剣は俺が触れても大丈夫なんですよね?」

 

「ええ。剣の術式はこの神社で施しました。悪魔でもドラゴンの力を宿している一誠くんなら触れられますわ」

 

ミカエルには失礼だとは思いながらも、俺は念のため朱乃先輩にも確認を取った。仲間である朱乃先輩がこういっているのなら安全は保障されているとみて間違いなさそうだな。

 

(やるぞドライグ)

 

(ああ。俺がフォローするから相棒は神器に意識を集中させろ)

 

俺は赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を出現させてアスカロンの柄に触れた。確かに、聖なるオーラをしっかりと感じはするが、俺に害はないようだ。

 

(剣を神器の波動に合わせろ)

 

ドライグの言う通りに、剣と籠手の波動を合わせる。すると剣は激しく輝きだし・・・・・籠手と一体化した。籠手の甲の部分から、アスカロンの刃が突きだしている。

 

(ひとまず成功か。だけど・・・・・使いにくそう)

 

同化に成功したはいいが、正直言ってこのままでは扱いづらそうというのが俺の感想であった。もともと肉弾戦特化の俺にとって、この刃は殴打の邪魔になりかねない。かといってせっかくのアスカロンを無駄にするわけにはいかないし・・・・・これは扱うために一考する必要がありそうだ。

 

「無事同化は完了したようで何よりです。では私はそろそろ行かなくてはなりませんので」

 

赤龍帝の籠手とアスカロンの同化を見届けたミカエルだが、どうやらあまり長居はできないようだ。

 

「ミカエル様、どうもありがとうございました」

 

「はい。それではまた会談の席で」

 

軽く挨拶を交わした後、ミカエルは神社をあとにした。

 

「一誠くん、少し時間を貰ってもいいかしら?」

 

「え?」

 

ミカエルに続いて俺も神社から出ようと思ったが、朱乃先輩に止められてしまった。

 

「・・・・ダメ、かしら?」

 

「いえ、大丈夫ですよ」

 

特に急ぐようもないので、俺は朱乃先輩の申し出を受け入れた。すると、朱乃先輩は嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「では奥の座敷にいきましょう」

 

朱乃先輩に連れられ、俺は神社の奥へと向かう。

 

何か用があるから俺を引き留めたのだろうが・・・・・いったいどんな用なのだろうか?

 

 




大まかな流れは、原作とほぼ同じとなりました

ただこの次が・・・・・・

次回もまたお楽しみに!


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第60話

今回は一誠さんと朱乃さんのお話なのですが・・・・・結構こじらせます

どうなるかはその目でお確かめを

それでは本編どうぞ!


 

「お茶をどうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

朱乃先輩に入れてもらったお茶を口に含む。普段朱乃先輩が淹れるのは紅茶だが、さすがに神社ということもあって今日は緑茶だった。

 

「うん、いつもの紅茶も美味しいですけど、この緑茶も美味しいですよ」

 

「あら、一誠くんったらお世辞が上手ですわ」

 

「いえ、お世辞ではありませんよ」

 

「ふふっ。ありがとうございます」

 

口に手を当てて、いつものように上品に笑う朱乃先輩。だが・・・・突然、朱乃先輩は切り出してきた。

 

「一誠くん・・・・あなたは堕天使をどう思っていますか?」

 

嫌に神妙な面持ちで、朱乃先輩は尋ねてくる。

 

「どうしてそんなことを聞くのですか?」

 

「・・・・・たとえ愛した相手とはいえ、一誠くんはかつて堕天使に殺された。そしてこの町を破壊しようとしたのも堕天使であり、一誠くんの大切な人を傷つけたのも堕天使。そんな堕天使に対して、一誠くんはどんな感情を抱いているのか知りたいの」

 

「・・・・・別にどうとも。確かに堕天使と・・・・・レイナーレと関わったことで俺の人生は大きく狂ったのは事実です。そしてこの町を破壊しようとしたコカビエルに対しては憎しみさえ抱いている」

 

・・・・・我ながら、敢えてイリナのことに関して触れないのはあからさますぎるとは思うが、俺は言葉をつづけた。

 

「ですが、それが堕天使を嫌う理由にはなりません。個人で起こしたことに種族を絡めて考えるつもりはありませんので。ですから、堕天使に対して特別悪感情を抱いているわけではありませんよ」

 

「そう・・・・・そうですわよね。一誠くんならきっとそう答えてくれると思っていましたわ。それなのにこんなことを尋ねるだなんて・・・・・私は嫌な女ね」

 

朱乃先輩は自嘲気味な笑みを浮かべながら、巫女服を緩める。そして、露わにした背中から・・・・・2枚の種類の違う翼を生やした。

 

片方は俺達悪魔を象徴するコウモリのような黒い翼。そしてもう一枚は・・・・・まるでカラスのような羽毛のついた、堕天使の翼であった。

 

「一誠くん・・・・・私は元々、堕天使と人間の間に生まれた子供なの。母親はとある神社の娘で、父親は・・・・・堕天使の幹部、バラキエルですわ」

 

バラキエル・・・・・その名前は知っていた。堕天使の中でも屈指の武人。その実力は堕天使総督であるアザゼルにも匹敵するほどだという。

 

「昔、傷つき倒れていたバラキエルを母が介抱したことが縁で、私を宿したらしいの。そのおかげで私は・・・・・こんなにも汚らわしい翼をもって生まれてしまった」

 

汚らわしい・・・・・堕天使の翼を、朱乃先輩はそう称した。堕天使を父親に持つにも関わらず、だ。どうやら、朱乃先輩とバラキエルの間には何かしらの事情があるようだ。

 

「この翼が憎かった。だから私は悪魔になったというのに・・・・・私は悪魔と堕天使の翼を持つ醜い存在になってしまった。ふふふっ・・・・・穢れた血を身に宿す私にはお似合いの姿かもしれませんわね」

 

「・・・・・自分のことをそんなふうに言わないでください。朱乃先輩は醜くなんてありません」

 

「ありがとう一誠くん。本当に一誠くんは優しいわね。優しくて・・・・・とても強い。あなたならきっとバラキエルさえ打ち負かすほどの力をその手にすることができるでしょう」

 

バラキエルを打ち負かす?朱乃先輩何を・・・・・

 

「やっぱり・・・・・・やっぱり私にはあなたが必要ですわ一誠くん。堕天使の幹部、コカビエルを倒したあの瞬間を見て私は確信しましたわ。私はあなたと寄り添わなければならないと」

 

服を大きくはだけ、肌を露出させた朱乃先輩は俺にすり寄ってくる。まるで甘えるかのように。

 

「私にはあなたの優しさが必要。私にはあなたの強さが必要。私に必要なのはあんな男じゃない。私に必要なのはあなたなの一誠くん。だからどうか・・・・・私をあなたの傍に置いてください」

 

「朱乃先輩・・・・・」

 

「その代わり、あなたのためなら私はなんでもやるわ。あなたの慰み者にもはけ口にもなります。だから一誠くん、どうか私を・・・・・」

 

俺の頬に手を当て、顔を近づけてくる朱乃先輩。だが・・・・・

 

「何をやっているの朱乃?」

 

そこから先は、酷く怒気を含んだ部長の一声によって遮られてしまった。

 

「・・・・・あらリアス部長。今日はサーゼクス様との打ち合わせがあったのではありませんか?」

 

「それはさっき終わったわ。だから一誠の様子を見に来たのだけれど・・・・・・一誠、もう剣は受け取ったのよね?」

 

「え?あ、はい・・・・・」

 

「だったら帰りなさい。もうここには用はないでしょう?」

 

「ですが・・・・・」

 

「帰りなさい」

 

有無を言わさぬほどきっぱりと俺に突きつける部長。これはもはや命令と言っても過言ではないだろう。

 

「・・・・・わかりました失礼します」

 

部長の命に従い、俺は部長と朱乃先輩のことを気がかりにしながらも神社をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「朱乃、いったいどういうつもりなの?」

 

一誠が去ったあと、私は朱乃から先ほどの行為について問いただした。

 

「どう、とは?」

 

「とぼけないで。なんであんな風に一誠に迫ったのかって聞いてるのよ」

 

朱乃の一誠へのあの態度・・・・・あれは明らかに一誠を誘惑しているように見えた。なぜそんなことをしたのか・・・・・おおよその察しがつきながら、私は聞かずにはいられなかった。

 

「それは・・・・・好きだからですわ。一誠くんのことが。だからああしてアプローチをかけただけですわ」

 

一誠のことが好きだから・・・・・朱乃はそう答える。だけれど違う、そうじゃない。朱乃が一誠に迫ったのは恋愛感情によるものではない。朱乃は一誠に依存し、一誠を()()()にするためにああやって誘惑し、迫った。私には・・・・・それがわかってしまった。

 

「朱乃・・・・・私ではあなたの想いを理解しきることはできないわ。だから、あなたのこと・・・・・否定したくない」

 

「あら?でしたら私のことを応援してくださるのかしら?」

 

「いいえ、それはできないわ。朱乃のことは大切だけれど・・・・・一誠のことも大切なの」

 

朱乃の想いを否定したくはない。けれど、それでも一誠はダメ。一誠に対しては・・・・・ダメなの。

 

「あなたも知っているはずよ。一誠の心に生じた深い傷も、そして・・・・一誠の気持ちが誰に向かっているのかも。そんな一誠にあなたが寄り添おうとしたらダメよ。そんなことしたらあなたも一誠も・・・・・」

 

「そんなこと、私だって理解してるわ!」

 

「ッ!?」

 

激情を露わにし、強い口調で朱乃は言い返してきた。

 

「そんなこと、リアスに言われなくたって理解している!けど・・・・・だからって諦めろと言うの?一誠くんは私がずっと求めてやまなかった、私の支えになってくれるかもしれないひとなのに・・・・リアスは、私に一誠くんを諦めろと言うの?」

 

「朱乃・・・・・」

 

「リアスは一誠くんのこと、諦めることができたのよね。それは立派なことだと思うわ。けれど・・・・私には無理よ。一誠くんのことを諦めることは私にはできない。諦めることなんて・・・・・・できないのよ」

 

朱乃の頬に涙が伝う。その涙を見て、私は理解してしまった。もう手遅れなのだと。私ではもう朱乃を止めることはできないと。

 

もっと早くに、朱乃に強く言い聞かせるべきだった。そうすれば、ここまで朱乃が一誠に囚われることもなかったかもしれないのに・・・・・・もう、私にはどうすることもできない。

 

「お願いリアス。もう何も言わないで。私の・・・・・・好きなようにさせて」

 

「・・・・・」

 

朱乃のその懇願に、私は返事を返すことができなかった。だが、もう私が朱乃を阻むことはできないだろう。そんな資格も権利も・・・・・・私にはないのだから。

 

私にできることは・・・・・・ただ、成り行きを見守り、不幸な未来が訪れないことを願うことだけだった。




ある意味では原作以上に一誠さんに依存してしまった朱乃さん・・・・・コカビエルを倒してしまった弊害がここでも出てきてしまっています

今後どうなっていくのか・・・・・

それでは次回もまたお楽しみに!


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第61話

今回から三種族会談となります

それでは本編どうぞ!


 

「・・・・空気が重いな」

 

とうとう訪れた三種族会談の開催日。窓から外を見てみると悪魔、天使、堕天使の姿が確認できる。彼らは結界で学内に入ることはできないがまさに一触即発。何かあればすぐに争いにも発展しかねない物々しい雰囲気だ。

 

「まあ無理もないよ。これまで対立してきた組織が集まっているんだ。和気藹々とはいかないだろうね」

 

まあ木場の言う通りだろう。会談の結果次第では、その場で即戦いということにもなりかねない。それだけこの会談は重要なのだ。

 

「面倒ごとにならないのを願うばかりね・・・・さあ、皆行きましょう」

 

「い、一誠先輩、部長、皆さん・・・・・」

 

部長の一誠で会談の会場に向かおうとしたところでギャスパーが俺達に声をかけてきた。

 

「ギャスパー、あなたには悪いけれど、今日はここで待って居てちょうだい。あなたの神器(セイクリッド・ギア)が暴走してしまったら、会談に支障をきたしてしまうから」

 

修行のおかげで少しずつ神器の制御ができるようになってきたギャスパーではあるが、それでもまだ暴走の危険性が無くなったわけではない。そのため、ギャスパーは部室に置いていかざるをえなかった。

 

「わかってます。だから僕はここで上手くいくように応援しています。皆さん、頑張ってください」

 

はたして会談で何を頑張ればいいのだろうかと思ったが、それを口に出すのはやめておいた。ギャスパーは俺達を気遣って言ってくれているのだから。

 

「終わったらすぐにこっちに戻ってくるからそれまでは大人しくしてろよ。暇つぶしになるものはおいていくから。ちなみに俺のお勧めは魔法少女ミルキースパイラルのDVDだ。さすがに全話見るのは無理だろうが、初めの数話だけでも見ておくといい」

 

まさかミルタンに布教用にもらったDVDボックスを俺も布教のために使うことになるとは・・・・まあ、実際ミルキーは素晴らしいのだから、少しでも広められるのなら本望だ。

 

「一誠先輩のお勧めなら絶対に見ます!」

 

「よく言った。あとでちゃんと感想も教えるように」

 

「はい!!」

 

「一誠、ギャスパー・・・・」

 

なぜか部長が何か言いたげに俺とギャスパーの方を見ている。他の皆も苦笑いを浮かべているし・・・・どうしたのだろうか?

 

「・・・・・まあいいわ。行くわよ」

 

「「「はい」」」

 

部長に続き、俺達は部室をあとにする。

 

三種族会談・・・・果たしてどうなるかな・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します」

 

部長に続き、会談の行われる部屋に入る。入った瞬間に、強い圧のようなものを感じた。まあ、戦闘態勢に入っていないとはいえ、この部屋の中にいるのは各勢力のトップたちだ。威圧感を感じるのも無理もないことだろう。

 

ふと、壁に寄りかかっている白龍皇、ヴァーリと目が合った。ヴァーリは俺を見て、ニヤリと不敵な笑みを浮かべるが・・・・どうにもその笑みが意味深に感じられた。

 

「私の妹とその眷属達です。先のコカビエルの一件では彼女たちが活躍してくれました」

 

サーゼクス様が、俺達のことを会談の出席者たちに紹介する。

 

「コカビエルの件では悪かったな。迷惑かけた」

 

アザゼルが俺達に対して謝罪するが・・・・どうにも悪びれている様子がない。まあ確かに、コカビエルは独断だったためこのひとが直接悪いということはないだろうが・・・・

 

「・・・・・一応あなたのところが問題起こしてこの会談の場が設けられたんですからもう少しぐらい悪びれたらどうですか?」

 

「ちょ、一誠!?」

 

「・・・・あ」

 

やばい、発言の許可も得てないのに思わず言ってしまった。下級悪魔の分際で。どうにもアザゼルが関わると口が軽くなるんだよな・・・・・

 

「はははははっ!違いないな!だがまあ許してくれ。何分こういう性分なんでな」

 

ひとまず、俺の発言に関してはアザゼルは笑って流してくれた。やっぱりこのひと、おおらかで結構度量が広いな。

 

「一誠・・・・こういう場では許可なく不用意に発言してはダメよ」

 

「はい・・・・・申し訳ありませんでした」

 

「わかってくれればいいわ。次からは気をつけなさい」

 

小声で部長に注意される。下手をすれば部長の顔にも泥を塗りかねなかった・・・・・何が忠義を尽くすだ。もっと慎重にならないと。

 

「では君たち、席につきなさい」

 

サーゼクス様に促され、俺達は席につく。そしてそののちに、会談が始まった。

 

会談は神の不在に関することから始まり、各組織のトップたちが各々の現状を説明し、そして先のコカビエルの件を当事者である部長と、会談に同席していたシトリー様が説明する。特に滞ることなく、会談は順調に進んで行った。

 

「さて、コカビエルの件に関して堕天使総督の意見を聞かせてもらおう」

 

サーゼクス様はアザゼルに説明するように促す。

 

「あの件に関してはコカビエルの独断だ。俺や大多数の堕天使、そして堕天使の中枢機関『神の子を見張る者(グリゴリ)』は関与していない。まあ、奴の動きを把握しきれなかったという点では確かに責任はあるが。だからこそ、奴を止めるために白龍皇を派遣したんだが・・・・・赤龍帝のおかげでそれも無駄になっちまった」

 

言い方に少しむっとするところもあったが、さっきのこともあったので喉まで出かけた言葉を飲み込んだ。

 

「コカビエルは現在、組織の決定で『地獄の最下層(コキュートス)』で永久凍結の刑に処した。もう奴が出てくることはないだろう。そのあたりの説明は報告書に書いてあったはずだ。あれで全部だよ」

 

「では、あなた個人が我々とことを構えたくないという話に関しては」

 

ミカエルが訝しげな目でアザゼルを見ながら尋ねる。

 

「それこそ一番信用してくれてもいい。俺は戦争なんかには興味ないからな。それこそ戦闘馬鹿である

コカビエルに神器馬鹿って言われるほどにはな」

 

「ならば・・・・・なぜここ数十年、神器所有者に接触し、集めている?」

 

今度はサーゼクス様が尋ねる・・・・その眼から、アザゼルを怪しんでいるというのが見てわかる。

 

「なんだ?戦力増強を図ってるとでも思ってるのか?だとしたらそれはとんでもない誤解だな。所有者を集めてるのは研究のためだ。なんなら研究データをお前たちに送ってやってもいい」

 

「白龍皇を手中に収めておいて戦力増強ではないというのですか?白龍皇だけではない・・・・・神滅具(ロンギヌス)黒刃の狗神(ケイニス・リュカオン)』さえあなたの下にあると聞きます」

 

(黒刃の狗神・・・・・ドライグ、何か知っているか?)

 

(さあな。俺も詳しくは知らん。だがあれは神滅具の中でも特異なものであるとだけは聞いたな)

 

神滅具の中でも特異か・・・・・少し興味があるな。

 

「白龍皇にしても黒刃の狗神・・・・・刃狗(スラッシュ・ドッグ)に関しても不条理で俺の下に来たってだけだ。戦力増強を狙っていたわけじゃない」

 

(・・・・・不条理?)

 

なぜかアザゼルの言った不条理という言葉がいやに引っかかった。

 

アザゼルの言葉を信じるなら、ヴァーリの身には何らかの不条理がすでに起きているということになる。ならあの時ヴァーリが部長や皆に言ったことは・・・・・自分の体験に基づく忠告だったということだろうか?

 

「たくっ、三すくみの中でも堕天使の信頼は最低かよ」

 

「当然だね」

 

「その通りね」

 

「そうですね」

 

サーゼクス様、セラフォルー様、ミカエルのトップ3人はよほどアザゼルを信用していないらしい。正直俺個人としてはアザゼルのことは信用できるんだがな・・・・・それこそ、今この場にいる誰よりもだ。まあ、どうしてそこまで信用できるのかの根拠なんてありはしないのだが。

 

「神や先代ルシファーに比べてまだマシだと思ったんだが・・・・・お前らもお前らで面倒くさいな。まあいい。そろそろこそこそ研究するのも性に合わないと思っていたところだ・・・・・まだるっこしいことは抜きにしよう。和平を結ぼうぜ。お前らもはなからそのつもりなんだろう?」

 

アザゼルの口から提案される三種族の和平。

 

会談は・・・・佳境へと差し掛かっていった。




現状原作と大きな差異はない・・・・と思います

まあ、この先もそこまで変わることはないと思いますが・・・・

それでは次回もまたお楽しみに!


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第62話

今回もまた会談のお話

それでは本編どうぞ


 

「和平・・・・確かに私も悪魔側とグリゴリに和平を持ちかけようとは思っていました。ですが、まさかいの一番にあなたが提案するとは・・・・」

 

「おいおい、その言い草はないだろう。本当に信用がないな俺は」

 

「信用以前の問題です。あなたが戦争を嫌うのを理解していますが、同時にあなたの自分勝手さも理解していますからね」

 

「はっ、自分勝手で悪かったな」

 

ミカエルの発言に、アザゼルは口では謝罪したが、心がこもっていないことは一発で分かった。まあ、実際悪いと思っていないのだろう。

 

「先の大戦で我らは神を失ってしまった。その損失はあまりにも大きすぎる。戦争の大元である神も魔王も居なくなってしまったのですから、これ以上三すくみの関係を続けていても害にしかならないでしょう」

 

「その点に関しては私達も同意見です。種を存続させるためには決断せざるをえません」

 

「戦争など私達も望むべきものではない。また戦争が起きてしまえば悪魔は滅びる。ならば、天使、堕天使と和平を結ぶ必要性は十分にある」

 

ミカエルもセラフォルー様もサーゼクス様も和平には賛成のようだ。なあ、各種族疲弊しきっているのだから和平の選択も納得できるものではある。

 

「天使の長も魔王共も物分かりがいいじゃねぇか。その通りだよ。これ以上三すくみでいがみ合っても仕方がない。天使達は神を失い、悪魔達は魔王を失った。堕天使は俺っていう頭は失わずに済んだが、それでも少なくない同胞を失った。ただでさえ三種族の中で最も総数が少ない俺達にとってはこれはあまりにも痛すぎた。今度戦争が起きてしまえばそれこそ共倒れだ」

 

たとえ戦争を起こし、敵対勢力を殲滅することができたとしても、そこから先は破滅しかない。一介の悪魔である俺でさえそんなことはわかっているのだから、各種族のトップがそれを理解できていないはずがない。理解できていてなお戦争を望むと言うなら、それは愚か以外のなにものでもないだろう。

 

「先の戦争で神は死んだ。そして次戦争が起きれば、俺達三種族は共倒れ。人間界へも影響を与え、世界は滅びちまうだろう。そんなアホなことがあってたまるか。神がいなくなって世界は滅びなかった。神がいなくても世界が大きく衰退することもなかった。たとえ神がいなくたって、世界は回るんだ。だったら、今の世界に淀みを与えるわけにはいかない・・・・・世界のためにも、和平は必要不可欠なんだよ」

 

神妙な面持ちでアザゼルは言う。アザゼルは自分勝手で自分の欲望を優先しているように見える。だが、それでも無責任ではないし、無知でもない。アザゼルはアザゼルなりに世界のことを、種族のことを考え、一勢力の長としての責任を果たそうとしている。

 

なんて言うか・・・・・こういうのをかっこいい大人というのかな。正直尊敬できる。

 

「さて、俺達三種族の意思は決まった。次は二天龍・・・・・赤龍帝と白龍皇の考えも確認しておくかな」

 

アザゼルは俺とヴァーリに目配せをする。まさかこのタイミングで俺達に話を振ってくるとはな・・・・・

 

「なぜ私達の考えを聞く必要があるのですかアザゼル総督?」

 

ひとまず、俺は自分が発言する必要性をあまり感じなかったので聞いてみた。

 

「お前達は今代の二天龍だ。二天龍はその圧倒的強さと存在感で世界に与える影響も大きい。お前たちが選択しなければ、俺達も動きづらくなる。何より、二天龍はかつて三種族が手を組むきっかけになった存在でもあるからな。なら、和平に対する考えを聞くのも当然の流れだと思わないか?」

 

アザゼルからの返答は、それなりに筋の通ったものであった。一つ反論するとしたら俺はあくまでもドライグの力を持つ神器(セイクリッド・ギア)を持っているだけであって、俺は俺自身のことを二天龍だとは思ったことがないのだが・・・・・言ったところでいなされるだけだろうと思ったから何も言わないでおいた。

 

「まずはヴァーリ。白龍皇としてどう考える?」

 

「俺は強い奴と戦えればそれでいい」

 

「まあ、お前はそう答えるよな」

 

ヴァーリはただ戦えればいいだけらしい。その答えはアザゼルも予測していたようで、呆れたように笑みを浮かべている。だがまあ、ヴァーリの考えは俺も共感できなくもないがな。

 

「兵藤一誠。赤龍帝としてお前はどうだ?」

 

アザゼルはまっすぐに俺を見ながら尋ねてくる。これは、真剣に答えなければならなさそうだな。

 

「私は・・・・・戦争には反対ですし、三種族がこれ以上いがみ合っても益はないと思っています。三種族が対立しあっているがゆえに、理不尽や不条理な目に遭う者がいて苦しむ者がいる・・・・・私はそれが嫌です」

 

俺の頭をよぎったのはアーシアのことであった。傷ついた悪魔を癒したせいで教会から追放され、堕天使に利用されて神器を抜かれそうになって・・・・・そして今は悪魔となってしまい、神への祈りさえまともにできなくなってしまったアーシア。アーシアはまさに不条理によって人生を狂わされた犠牲者だ。アーシアのような存在をこれ以上増やすわけにはいかない・・・・・いいわけがない。

 

「言っていることは理解できる。三種族のいがみ合いによって犠牲になった者は少なくない。兵藤一誠・・・・・ある意味では、お前もその一人だろう」

 

おそらくアザゼルはレイナーレとのことを言っているのだろう。仮に三種族が敵対関係でなかったとしたら、レイナーレとあんな風死別することもなかったかもしれない。レイナーレを・・・・失うこともなかったかもしれない。

 

(その女のことだけではないだろう?)

 

(ドライグ?)

 

(もう一人・・・・・お前の心にひっかかる女がいる。その女にしても、三すくみであるがゆえにこじらせているところもあるだろう?)

 

ドライグが言っているのは・・・・・まず間違いなくイリナのことだろう。こいつは本当に・・・・・俺がいくら否定しても突っかかってきやがる。あいつのことは・・・・・・あまり考えないようにしてるっていうのに。

 

(ドライグ・・・・・今はその話はやめてくれ)

 

(・・・・・ああ、わかった。すまなかったな)

 

ドライグは俺に謝罪してくる。謝るぐらいなら初めから言わないでほしいんだが・・・・・・まあいいか。

 

「だがまあ、つまりお前は和平には賛成だと言うことだな」

 

「ええ。ただ・・・・・」

 

「ただ、なんだ?」

 

「一つ譲れないこともあります。たとえ和平が結ばれようと・・・・・・何らかの形で、白龍皇と戦わせて欲しいです」

 

和平だとかそんなことか関係ない。白龍皇との戦いは何があってもなされなければならないものだ。そればかりは・・・・・譲れない。

 

「・・・・・一誠、それはどうしても譲れないことなのかしら?」

 

「はい。白龍皇を打ち倒す・・・・・それは俺にとって悪魔になる前から定めていた生きる目的です。こればかりは部長が何と言おうとも譲るわけにはいきません」

 

たとえ部長からの命令だろうとも、白龍皇との戦いから下りるわけにはいかない。白龍皇を倒すために俺は鍛え続けてきた。強さを求め続けていた。そして俺は白龍皇と出会ってしまった。だったら・・・・・いずれは戦わなければならない。戦って・・・・・倒さなければならない。

 

「ふふふっ・・・・・よく言った兵藤一誠。俺も同じ気持ちだよ。さっき俺は強いものと戦えればそれでいいと言ったが、その中には君も含まれている。俺も何があっても君とは戦って決着をつけたいと思っていたよ」

 

ヴァーリもまた、俺と同じ考えであった。今代の赤龍帝と白龍皇・・・・・二天龍の力を継ぐ者として、俺達は戦わなければならない。雌雄を決するために・・・・・この戦いを避けるわけにはいかない。

 

「なるほど。二人とも歴代の二天龍と比べ異質なところもあると思っていたが、それでもやはり宿命からは逃れられない・・・・・いや、宿命を受け入れていると言った方がよさそうだな。いいだろう。だったらその戦いの機会はいずれ俺がセッティングしてやるよ」

 

「アザゼル、それは本気で言っているのですか?」

 

「本気も本気だぜミカエル。こうでも言わないと、こいつらは俺達に反発しちまう恐れがある。お前だってそれは避けたいだろう?」

 

「それはそうですが・・・・・」

 

「なに、別に殺し合いをさせようってわけじゃない。どんな結果になろうとも、ヴァーリも兵藤一誠も死なせやしねぇよ。ただ思う存分に戦わせるだけだ。俺は歴代最強になるであろう今代の二天龍の戦いを見届けたい」

 

どうやらアザゼルは俺とヴァーリの戦いに興味を持っているらしい。そのために戦いの機会をセッティングしてくれると言うのならありがたい限りだ。

 

「そういうわけだ。和平が結ばれようと、きちんと戦えるようにしてやる。それでいいな?」

 

「お心遣い感謝いたしますアザゼル総督。そういうことでしたら、俺は和平に関して何も異論は・・・・・ッ!?」

 

異論はない・・・・・そう答えようとした瞬間、悪寒が走った。この悪寒には覚えがある・・・・・ギャスパーが時を止めようとしている感覚だ。

 

『BOOST!!』

 

俺は前と同じように赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を発動する。そして、とっさに近くに居る部長を引き寄せる。

 

そして次の瞬間に・・・・・空間内の時が止まった。

 

 

 

 

 




あくまでも白龍皇との戦いにこだわる一誠さん。まあ、それが生きる目的の一つなので仕方がないといえば仕方がないのですが

そして本章も佳境へ。どうなることか・・・・・

それでは次回もまたお楽しみに!


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第63話

今回からとうとうあの組織が現れます

それでは本編どうぞ



(ちっ・・・・厄介なことになったな)

 

俺は窓の外の光景・・・・フード付きのローブを着た集団がこちらに向かって魔術を放つ姿を目にしながら心内で悪態をつく。魔術自体は各勢力のトップたちが張った強固な結界により防がれているが、面倒なことこの上ない。

 

どうやら、これはテロであるらしい。アザゼルが言うには三種族の和平を快く思っていない者達がおり、邪魔をしようとしているようだ。そのために、旧校舎で待機しているギャスパーに接触し、ギャスパー神器(セイクリッド・ギア)を暴走させているというのだからその徹底ぶりには恐れ入る。

 

ちなみに、時間停止から逃れることができたのは各勢力のトップ達とサーゼクス様の女王(クイーン)であるグレイフィアさん、白龍皇であるヴァーリ、あと部長と木場、ゼノヴィア、そして俺だ。木場とゼノヴィアはそれぞれ剣を盾代わりにして、部長は時間停止の直前に俺が引き寄せたことで時間停止から免れた。

 

「たくっ、俺達を止めることはできなかったにせよ、外の三種族の軍勢を含めて大多数を停止させちまうとはあのハーフヴァンパイアの潜在能力は凄まじいな。末恐ろしい」

 

「テロのためにギャスパーを利用されるなんて・・・・・・これ以上の屈辱はないわ」

 

ギャスパーの潜在能力に関心しつつも悪態をつくアザゼルと、激しい怒りをあらわにする部長。二人の気持ち・・・・特に部長の気持ちはよくわかる。ギャスパーが利用されてしまっているだなんて許せない。

 

「ともかく、状況がよろしくないのは確かだ。このままだと『停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)』の力が高まれば、結界を張っている俺達の誰かも止められかねない。そうなれば一網打尽だ。奴ら、相当な戦力を投入しているようだからな。その証拠に・・・・・・」

 

アザゼルは外に光の槍を展開させ、魔術師たちに向けて放つ。魔術師たちは魔術で防御しようとするが、槍はいつも容易く防御を貫き、魔術師たちを絶命させる。

 

だが・・・・・・その直後には絶命した数とほぼ同数の魔術師が姿を現し、またこちらに攻撃を加えてくる。

 

「さっきからこの繰り返しだ。どれだけ倒そうともキリがない。どれだけ犠牲を払おうと、最後には俺達を仕留められれば構わないと言った感じだ」

 

胸糞悪くなるような策ではあるが、この状況においては効果的なのだろう。奴らがこちらを攻撃し続ける限り結界を解くことはできない。だが、時間が建てば時間停止の力が高まり、ここにいる全員が停められかねない。そうなってしまえば一巻の終わりだ。

 

それにしても、随分と攻め込んでくるタイミングがいいな・・・・・まるで図ったかのようだ。まさかとは思うが、この中にリークしている裏切者が・・・・・いや、今はそれを考えている場合ではないな。裏切者の可能性は他にも気づいてる者がいるだろうし、まずやるべきことは・・・・・

 

「お兄様、私にギャスパーの奪還に向かわせてください」

 

どうやら部長は真っ先にやるべきことを理解しているようだ。トップ勢がここを動くことができない以上、誰かがギャスパーを奪還しなければならない。そしてそれが一番適任なのは部長だ。

 

「リアスならそう言うと思っていたよ。しかし、道中には魔術師が控えているがどうやって向かう?」

 

「旧校舎の部室に戦車(ルーク)の駒が保管されています。それを利用すれば・・・・・」

 

「なるほど、キャスリングか」

 

キャスリングは(キング)と戦車の位置を入れ替える、実際のチェスでも存在している技だ。確かにそれを利用すれば大幅なショートカットが可能になる。

 

「確かにキャスリングなら敵の虚をつくことが可能だ。しかし一人で向かわせるのは危険すぎる・・・・・グレイフィア、私の魔力方式で複数人転移させることはできるかな?」

 

「この状況では簡易術式しか展開できませんがもうお一方なら可能かと」

 

「となるともう一人は誰にするか・・・・・・」

 

「俺に行かせてください」

 

俺は迷わずサーゼクス様に進言した。

 

「なるほど・・・・・確かに君なら信頼してリアスを任せられる。頼んだよ一誠くん」

 

「はい」

 

サーゼクス様は俺の部長との同行を認めてくれた。

 

「おい赤龍帝、これを持っていけ」

 

アザゼルが俺に腕輪のようなものを差し出してきた。

 

「これは?」

 

「神器の力をある程度抑えることができる腕輪だ。ハーフヴァンパイアにつけろ」

 

つまりこの腕輪は制御装置ということか・・・・・正直、これはあまり使いたくない。可能ならこんなものなしで事態を打開したいな。

 

「お嬢様、術式を施しますのでこちらへ」

 

「ええ。お願いグレイフィア」

 

グレイフィアさんが部長へと術式を施す。その間に、アザゼルがヴァーリに近づき声をかけた。

 

「ヴァーリ。外でテロリストの連中の相手をして来い。白龍皇が出てくれば、敵の首謀者も姿を現すかもしれないからな」

 

「俺がここにいることは向こうも承知しているんじゃないか?」

 

「だとしても、赤龍帝がキャスリングで転移してくることは向こうも予想できていない可能性が高い。お前が外に出て注意を引き付けることは十分に効果があるさ」

 

「だったらいっそ吸血鬼ごと旧校舎を吹き飛ばした方が早いと思うが?」

 

ヴァーリのこの一言に、部長が射殺さんばかりの鋭い視線を向ける。かくいう俺も、ヴァーリに思わず殺気を向けそうになってしまう。

 

「和平を結ぼうって時にそれは辞めろ。悪魔側・・・・・特にグレモリーの嬢ちゃんと赤龍帝の怒りを買うぞ?」

 

「怒りにかられた赤龍帝と戦うのも悪くはないが・・・・・まあいいか。禁手化(バランス・ブレイク)

 

『Vanishing Dragon Balance Breaker!!』

 

ヴァーリは禁手化して外に出て、敵の魔術師を殲滅し始めた。到底本気ではないだろうが、それでも強い。魔術師たちを苦も無く倒していっている。

 

俺はあれを倒さなければならないのか・・・・・・・やはり一筋縄ではいきそうにないな。

 

「アザゼル、聞きたいことがある」

 

俺がヴァーリの戦いを見ていると、サーゼクス様がアザゼルに声をかけた。

 

「こんな時にか?」

 

「こんな時だからだ。君は研究のために神器使いを集めていたと言っていたが本当にそれだけかな?何かほかに目的があったんじゃないか?」

 

「このテロがその目的だって言いたいのか?確かにうちは魔術師達と繋がりはあるが、テロなんて馬鹿なことは考えねぇよ。むしろその逆だ」

 

「逆・・・・・というと?」

 

「備えていたんだよ。今ここを襲っているであろう集団・・・・・『禍の団(カオス・ブリゲード)』に対してな」

 

禍の団・・・・・アザゼルの口から出たその組織の名は聞き覚えのないものであった。

 

「禍の団・・・・・・聞かない名ですね」

 

「組織名と背景が判明したのはつい最近だからな。お前達が知らないのも無理はない。奴らは三大勢力の危険分子を集めているそうだ。中には∥禁手《バランス・ブレイカー》に至った神器持ちは神滅具(ロンギヌス)持ちさえ居る」

 

「その者達の目的は?」

 

「破壊と混沌。平和な世界が気に入らないたちの悪いテロリストだよ。しかも・・・・・とんでもなく厄介なのをトップに据えてやがる。組織の頭はあの無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)のオーフィスだ」

 

(無限の龍神オーフィス・・・・・ドライグ、オーフィスって・・・・・)

 

(ああ。世界最強のドラゴンの名だ)

 

(ちっ・・・・・わかってはいたけど、やはりちんけなテロリストというわけではないようだな。そんなのをトップに据えてるとは・・・・・・)

 

あまりにも強大な敵組織の頭目に対し内心で驚愕していると・・・・・部屋の中で魔法陣が展開された。

 

魔法陣は悪魔のものだった。しかもただの悪魔ではない・・・・・・旧魔王に連なるものだ。

 

「この紋様、まさか、テロの黒幕は・・・・グレイフィア、転移を急ぐんだ!」

 

「はい。お嬢様、一誠様。ご武運を」

 

「ちょっと、グレイフィア!?お兄様!?」

 

突然のことに戸惑い、声をあげる部長だが、その声に返事は返されることはなく、俺と共に旧校舎の戦車の駒のあった部室へと転移された。

 

「向こうはどうなったのかしら・・・・・?」

 

「部長、気になるはわかりますが今俺達がやるべきことは・・・・・」

 

「わかっているわ。行きましょう一誠。ギャスパーを助けに」

 

「はい」

 

部室を出て、ギャスパーの下へと駆け出す俺と部長。

 

ギャスパー・・・・・すぐに行くからもう少し待ってろよ。

 




今回はほとんど原作通りの流れですが、次回からは少し変わってきます

原作とはどう異なっていくのか・・・・・

それでは次回もまたお楽しみに!


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第64話

今回はギャスパーくんが・・・・・

それでは本編どうぞ


「「ギャスパー!」」

 

部長と共に、ギャスパーの居る部屋に突入する。部屋の中には数名のローブを着た女魔術師達と拘束されたギャスパーの姿があった。

 

「部長・・・・一誠先輩・・・・・」

 

ギャスパーは力なく俺達の名を口に出しながら顔をあげる。その眼からは涙があふれていた。

 

「よかった。無事だったのね」

 

「部長、一誠先輩・・・・・ごめんなさい。僕は皆に迷惑をかけてばかりだ。僕なんて居ない方がいいんだ。だから・・・・・お願いします。僕を殺してください」

 

殺してください・・・・・だと?

 

「何を言っているのギャスパー。そんなこと・・・・」

 

「甘ったれたこと言ってんじゃねぇ!!」

 

「えっ・・・・?」

 

俺は感情に任せ、部長の言葉を遮ってギャスパーに向かって叫んだ。

 

「殺してくれだと?そんなのお前が楽になりたいだけの甘えだろうが!ここで俺と部長がお前を殺せば確かに事態の打開には繋がる。だがな、それは俺達に仲間殺しの罪を背負わせて、自分一人逃げだすってことなんだよ!お前はそれでいいと思ってるのか!」

 

「それは・・・・・で、でも僕は皆に迷惑かけてばかりで・・・・・」

 

「それがどうした!迷惑だと?そんなの俺の方がよっぽどかけている!部長に忠義を尽くすとか言いながら、勝手なことばかりして部長を困らせてるんだからな!」

 

こんなこと、声高に言うことではないのはわかっている。わかってはいるが・・・・・叫ばずにはいられなかった。

 

「ギャスパー、一誠の言う通りよ。一誠は私に忠義を尽くしてくれているけれど、勝手なことをして私を困らせることもあるわ。けれど、それは迷惑なことではあるけれど、私は決して軽蔑したり切り捨てたりはしないわ。だって私は・・・・・貴方達眷属のことを愛しているもの」

 

「一誠先輩・・・・・部長・・・・・」

 

「だから、殺してくれだなんて言わないで。私は・・・・私達はもっと、あなたと一緒に未来を生きていきたいから。いくらでも迷惑をかけてもいい。その時は一杯叱ってあげるし慰めてあげる。私は決してあなたを手放したりしないわ」

 

部長は優しくギャスパーに語り掛ける。こんないたわり方は俺にはできない・・・・・部長の愛情深さ故のものだ。そしてその愛情は俺達眷属全員に注がれている・・・・・このひとが俺の主でよかったと素直に思える。

 

「ふふっ・・・・・愚かね」

 

ギャスパーを捉えた魔術師の一人が、嘲笑しながら声をあげる。

 

「こんなやつ洗脳でも何でもして神器(セイクリッド・ギア)の能力だけ利用してればいいのに。愛してるだのなんだの・・・・・馬鹿じゃないの?」

 

女魔術師は部長を罵る。なんともまあ・・・・・愚かで滑稽だ。

 

「・・・・・俺に言わせればお前達の方がよほど馬鹿に思えるな」

 

「何ですって?」

 

「お前達に部長の何がわかる?部長はお前達の考えが及ばないほど眷属を大切に思ってくれてるんだよ。それにギャスパーのことだって・・・・・お前達はギャスパーをわかっていない。ギャスパーはお前達が思っているよりも遥かに強いよ」

 

「何を言い出すと思えば・・・・・・簡単に私達に捕まって利用されてるこいつが強い?あり得ないわね。それは何の冗談かしら?」

 

俺の言っていることなど戯言だと思っているのだろう。魔術師達は嘲笑っている。

 

笑いたければ笑えばいい。ただ・・・・・すぐに笑えなくなるだろうからな。

 

「ギャスパー。こんな風に笑われて悔しくないのか?」

 

「・・・・・・彼女達の言っていることは事実です。僕は強くなんて・・・・・」

 

「俺は何度もお前に言ったはずだぞ。お前は強いってな」

 

「けど僕は・・・・・一誠先輩に修行を付けてもらったのに神器の制御さえまともにできなくて。そのせいでこんな・・・・・」

 

たくっ、こいつは・・・・・・仕方がない奴だな。そんなふうに思っているうちは、いつで経っても神器の制御なんてできるはずがないっているのに。

 

「ギャスパー、これがなんだかわかるか?」

 

俺はギャスパーにアザゼルからもらった腕輪を見せた。

 

「こいつは神器の力を制御するものだ。こいつをお前につければ神器の暴走を抑えることができる」

 

「何ですって!?」

 

「暴走を抑える・・・・・そんなことさせない!」

 

「動くな!お前らは黙ってろ!」

 

「「「ッ!?」」」

 

腕輪を奪おうとしてか、魔術師達は俺に襲い掛かって来る。だが俺が一喝すると動きを止めた。この程度で怯むとは・・・・・・やはりギャスパーの方がよほど強い。

 

「一誠先輩・・・・・早くそれを僕に・・・・」

 

「つけないよ」

 

「え?」

 

「こいつをつけるのはあくまでも最終手段だ。神器の制御はお前が自分でやれ。そのために修行してきたんだろうが」

 

「そ、そんなこと言ってる場合じゃありません!今は・・・・・」

 

「甘ったれるな・・・・俺はさっきそう言うったはずだぞ?死に逃げるのも甘えだが、できることから逃げるのも甘えだ。そんな甘え、ここで捨てちまえ」

 

厳しいことを言っているというのはわかっている。ギャスパーの言っている通り、一刻を争うこの状況で悠長なことを言っているという自覚はある。だが・・・・・・それでも俺は、ギャスパーの強さを信じたかった。

 

「けど僕なんかに今この場で神器を制御するなんて・・・・・」

 

「少なくとも俺はできると思っている。なにせお前は俺が到底無理だって思いながら組んだ修行メニューをクリアしちまったんだからな」

 

俺がギャスパーに課した修行メニューは、部屋に閉じこもっていたギャスパーでは到底無理だろうと思いながら組んだものであった。限界まで鍛え上げようと思ってそうしたのだが・・・・・ギャスパーはそれをクリアしてしまっていた。歯を食いしばりながら、どんなに辛くても苦しくても、一言も辞めたいと言わずに成し遂げたのだ。

 

間違いなくギャスパーの心の強さは本物だ。あと足りないのは・・・・・自信だけ。だったら、その自信を持たせるために・・・・・背中を押そう。

 

「ギャスパー、一度だけ言う。しっかりと聞いておけ・・・・・俺は、俺達はお前を信じている。お前の強さを信じている。だから・・・・・こんなやつらに負けるな!その力を自分のものにしてみせろ!」

 

「一誠先輩・・・・・はい!」

 

ギャスパーは力強く返事を返した。その後、自ら姿をコウモリへと変化させて拘束を振り解く。

 

「なっ!?しま・・・・・」

 

「停まれ」

 

拘束が解かれてしまって動揺する魔術師達に、コウモリになったギャスパーが視線を向ける。すると、魔術師達は微動だにしなくなった。

 

ギャスパーは・・・・・この場で自身の神器を制御してみせた。

 

「一誠先輩、今です!」

 

「上出来だギャスパー!赤龍の尾(ドラゴン・テイル)!」

 

動きを停めた魔術師達を魔力で造った尾で薙ぎ払い、壁にたたきつける。本当は停まってる間に武装解除して拘束すれば事足りるのだろうが・・・・・・大事な後輩をいたぶってくれた礼だ。これぐらいはさせてもらう。

 

「やっぱり・・・・・こいつは要らなかったな」

 

アザゼルから受け取った腕輪を握りしめる。腕輪はすぐに圧力に耐えきれず、砕けてしまった・・・・・って、しまったな。このまま残しておけば何かに使えたかもしれなかったのに。勿体ないことをしてしまった。

 

「一誠先輩・・・・・」

 

「ん?どうしたギャスパー?」

 

「その・・・・・僕なんかを信じてくれてありがとうございます」

 

「別に礼なんていらないんだが・・・・・感謝してるっていうなら、一つ約束しろ」

 

「約束?」

 

「ああ。もう僕『なんか』って言うな。それはお前の自信の妨げになる。何度も言うが、お前は強いんだからな」

 

「・・・・・はい!わかりました!」

 

笑顔で返事を返すギャスパー。俺は思わず、そんなギャスパーの頭を髪がぐしゃぐしゃになるほど撫でまわしてやった。

 

「ふふふっ・・・・・」

 

「部長?どうしました?」

 

「いえ、なんだか貴方達、まるで兄弟みたいだって思ってね」

 

兄弟?俺とギャスパーが?

 

「僕が一誠先輩の弟・・・・・えへへ」

 

なぜか兄弟のようだと言われて嬉しそうにするギャスパー。そんなに俺の弟っていうのがいいのだろうか?すっごい修行でいたぶったっていうのに・・・・・まあ思うだけなら自由だから、好きにさせてやるか。

 

俺としても・・・・・・悪い気はしないしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そういえば一誠先輩から借りた魔法少女ミルキースパイラルのDVD、途中までしか見れなかったけどすごく面白かったです!ミルキー可愛かったです!」

 

「だろ?よし、落ち着いたら一緒に続き見るか」

 

「是非!」

 

「・・・・・・台無しだわ」




ギャスパーくん覚醒。原作と違い、腕輪も一誠さんの血も使わずに神器の能力を制御してしまいました。まあ、一誠さんの言ってたことはほぼほぼ根性論ではあったのですが・・・・・・

そして最後で色々と台無しに。最近堅苦しい話ばっかりだったので・・・・・ね?

それでは次回もまたお楽しみに!


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第65話

今回はいよいよあの戦いが始まります

それでは本編どうぞ


 

「さて、ギャスパーの奪還には成功した。力の制御もできるようになったから、皆も動けるようになってるはずだわ」

 

「迷惑をかけてごめんなさい・・・・・」

 

「気にするなギャスパー。結果論だが、そのおかげでお前は力を制御できるようになったわけだしな」

 

正直、今回のことがなければギャスパーが力を使いこなせるようになるのはもっと先になるだろうと思っていた。今回の一件は歓迎すべきものではないが、それでもきっかけになったと考えれば無駄ではないだろう。

 

「とにかく向こうに戻りましょう。皆が心配だわ」

 

「ええ。行きましょう」

 

「はい」

 

部長とギャスパーと共に、新校舎の方へともどる。

 

部長の言う通り、皆が心配というのもあるが・・・・・妙な胸騒ぎと予感がする。俺のこの勘、当たるか否か・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旧校舎を出て、あと少しで新校舎に到着するというところで・・・・・アザゼルの姿が俺達の目に移る。

 

どうやら戦闘をしていたらしいアザゼルは、負傷していた。それも左腕を失うと失う大怪我だ。

 

「お?そっちも終わったようだな。お疲れさん」

 

俺達に気が付いたアザゼルは、怪我などどうでもいいと言った様子で俺達に笑みを浮かべてくる。どうやら左腕を失いはしたものの、そこまで大きなダメージではないようだ。

 

自分でもなぜかはわからないが、アザゼルが平気そうにしているのにほっとする俺だったが・・・・・そんな俺の目の前でアザゼルが閃光に呑まれた。

 

「ッ!?これは・・・・・」

 

今のは明らかにアザゼルを狙った攻撃だった。それが誰によるものだったのか確認するために閃光の放たれた方へと視線を向けると・・・・・そこには白い鎧を身に纏ったヴァーリがいた。

 

「ちっ・・・・ここで反旗かよ、ヴァーリ」

 

アザゼルは片膝をつきながら、ヴァーリに向かって言う。

 

「そうだよアザゼル。悪いね。禍の団(カオス・ブリゲード)についた方が面白そうだったんだ。なにせアースガルズと戦ってみないかとオファーが来たんだからな。アザゼルはそんなこと許してはくれないだろう?」

 

「当然だ。俺はお前に強くなれとは言ったが、世界を滅ぼす要因は作るなとも言ったはずだ」

 

「関係ないね。俺は戦えればそれでいい」

 

ヴァーリは根っからの戦闘狂ということか。俺も血の気は多い方だと自覚はしているが。あいつのように平和を乱してまでとは思えない。

 

「まったく・・・・・カテレア達旧魔王派が禍の団に与してると知ったときお前もそうなのかもしれないと頭をよぎったが・・・・・・そこから目を背けちまうとは俺も焼きが回ったものだ」

 

旧魔王?なんでここでその話が・・・・・・

 

「なぜ俺と旧魔王が繋がるのかわからないと言った顔をしているな兵藤一誠」

 

どうやら俺のことに気が付いていたらしいヴァーリが、こちらに視線を向けながら言う。

 

「俺の体には旧魔王の血が流れているんだよ。魔王の血を引く父と、人間の母親の間に生まれた混血児だ。旧魔王の血を引き、人間の血によって『白い龍(バニシング・ドラゴン)』の力をこの身に収めた俺はまさに奇跡、運命に導かれたと言ってもいいかもしれない」

 

「・・・・奇跡だの運命だの、随分なロマンチストだな」

 

「ふふっ。少しくらい気取らせてくれたっていいだろう?さて、兵藤一誠。改めて俺の真の名を名乗らせてもらおう。俺の名は・・・・・・ヴァーリ・ルシファー。先代魔王、ルシファーの血を受け継ぐ者だ」

 

「ルシファー・・・・ですって?」

 

ヴァーリが悪魔の翼を広げながら名乗ると、部長は目に見えて驚愕していた。無理もないだろう。部長はサーゼクス様という現ルシファーを身内に持つのだから。

 

かくいう俺も、部長ほどではないにせよ驚いていた。まさかよりにもよってルシファーだとは思ってもみなかったからだ。

 

「・・・・・アザゼル総督。ヴァーリの言っていることは事実ですか?」

 

「ああ、間違いない。魔王の血を引く白龍皇・・・・・あいつは間違いなく最強の白龍皇となるだろう」

 

それはまあ、当然だろうな。何せ魔王ルシファーの血縁だ。そんなのが白龍皇だなんて強いに決まっている。

 

「兵藤一誠、俺は運命とは残酷なものだと思っていたよ。何せ君は俺の宿敵だと言うのに、その出生はあまりにも平凡なものであったからね」

 

「俺のこと、調べたのか?」

 

「当然だろう?白龍皇である俺は赤龍帝である君を無視できない。だから、君のいたって平凡な出生を知ったときはあまりの違いに落胆していたのだが・・・・・調べていくうちに、その落胆は消えていったよ」

 

ヴァーリは声を弾ませながら言う。兜で顔は見えないが、おそらく好戦的な笑みを浮かべているのだろう。

 

「普通の人間であるはずの君は、わずか6歳で赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を起動さえ、あろうことかその瞬間に禁手(バランス・ブレイカー)に至ってしまった。そして俺と同じように悪魔の力を身に宿し、神の子を見張る者(グリゴリ)の幹部、コカビエルさえも倒してしまった。嬉しかったよ・・・・・君が俺の宿敵になりうる力を有していることが!」

 

赤龍帝の籠手を起動した時期のことさえ知ってるのかよこいつは・・・・・むしろ、そこまで調べればわかるっていうのはプライバシーを侵害されているようで面白くないな。

 

「我が宿敵殿にそう言ってもらえるとは光栄だな。それで?なんでわざわざ今ここでそんなことを俺に言うんだ?」

 

「それはわざわざ聞くまでもないだろう?君は俺と戦いたがっていた。俺も君と戦いたい。ならば・・・・・やることは一つだ」

 

「・・・・・まあ、そうなるよな」

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!』

 

俺はヴァーリの言わんことを理解し、すぐさま禁手化(バランス・ブレイク)する。

 

「部長、ギャスパー下がってて」

 

「戦うの一誠?」

 

「ええ。それが・・・・・俺の宿命だから!」

 

『BOOST!BOOST!BOOST!BOOST!BOOST!』

 

俺は力を高めながらヴァーリに向かって接近する。もっとも、まだ高めた力をヴァーリに叩き込まない。接近したのは攻撃を誘い出すためだ。

 

「いいぞ兵藤一誠!それでこそだ!」

 

ヴァーリは向かってくる俺を迎撃しようと拳を振るう。俺はそれを回避し、反撃・・・・せずに、そのままヴァーリからの攻撃を延々と回避し続けていた。

 

「いい反応だ!だがいつまで躱し続けることができるかな?」

 

ヴァーリは俺に対して拳を振るい続ける。そして俺はそれを回避し続ける。ヴァーリの拳は速く、正直回避は紙一重だった。だが・・・・・それでも今は躱し続けるしかない。なにせ相手は白龍皇なのだから。

 

赤龍帝と白龍皇は宿敵同士だ。だが、俺は能力面では赤龍帝の方が不利だと思っている。

 

『倍化』と『譲渡』の力を有する赤龍帝に対して、白龍皇の力は『半減』と『吸収』。まさに正反対と言っていい能力だ。だが相性が悪い。白龍皇は触れた相手の力を半減させ、その半減した力を吸収してしまう。半減は倍化で相殺させることはできるが、吸収された力は単純に白龍皇の力となってしまう。すなわち、力の上昇スピードで劣ってしまい、赤龍帝の方が不利になってしまう。そのうえ、一対一という状況では、はっきり言って譲渡の力はあまり役には立たないため使える手札も一枚少ない・・・・・・まあ、そもそも俺は譲渡の力を全く使えないのだが。

 

そのため俺が白龍皇に対抗するために考えた戦術は・・・・・一撃必殺だった。ひたすら白龍皇の攻撃を回避し続け自分の力を高め続け、限界まで高まったところで必殺の一撃をカウンターで叩き込んで終わらせる。それが俺の対白龍皇戦術だった。

 

といっても、こんな単純な作戦はヴァーリのような強者ならすでに見抜いているはずだ。だが、見抜いたうえでヴァーリは敢えて俺に付き合って接近戦で俺に攻撃し続けてくれているのだと思う。それは、ヴァーリもまたいち早く俺に触れて白龍皇の能力を発動させたいから・・・・・そして、この戦いを楽しみたいからだろう。

 

互いの利害が一致しているためにこの戦術は成立している。問題はどっちの攻撃が先に叩き込まれるかだ。

 

「さて、兵藤一誠。いつまで躱し続けられるかな?」

 

「そっちこそ・・・・せいぜい当てられるように頑張るがいいさ」

 

勝ってみせる・・・・・必ず最高の一撃を叩き込む

 

必ず白龍皇を・・・・・倒してみせる

 

 




正直、歴代の白龍皇を倒してきた赤龍帝はすごいと思う・・・・・私的には赤龍帝の方が不利にしか思えないので

そして一誠さんの戦術はヴァーリさんにはたして通じるのか・・・・

それでは次回もまたお楽しみに!


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第66話

今回はヴァーリさんとの戦い、その中盤といったところですかね

それでは本編どうぞ!


『Boost!Boost!Boost!』

 

ヴァーリの攻撃を躱すと共に、神器(セイクリッド・ギア)の能力で俺の力はどんどんと高まっていく。だが、それでも限界にはまだ至っていない。限界まで高めるにはもう少し時間がかかる。

 

しかし・・・・・

 

(これ以上は・・・・無理だな)

 

これ以上、ヴァーリの攻撃を躱し続けるには無理があった。ヴァーリの方が戦闘経験が豊富なだけあって、俺の動きが読まれはじめていた。ほぼ確実に俺の力が限界まで高まる前にヴァーリの攻撃が当たってしまうだろう。

 

ならば・・・・・もうここで一撃与えるしかない。限界までとはいかないものの、それでもこれだけ力を高めた状態で渾身の一撃を叩き込めば・・・・・・

 

(決める・・・・・一気に終わらせる!)

 

俺はわざと回避のさい、回避の疲労に店かせてわざと体をよろめかせる。技と作った大きな隙とはいえ、ヴァーリほどの強者がそれを見逃すわけもなく、ピンポイントでその隙を突こうと拳を突き出す。そして俺は、それに合わせてヴァーリの頭部に拳を突き出した。

 

ヴァーリの攻撃も俺に当たるだろうが、これまで体を鍛え続けていたのだから一撃程度なら耐えることはできる。だが、俺の方は散々力を高め続けていたのだ。それと頭部に叩き込めば、いくらヴァーリでも耐えることは難しいだろう。

 

そして、ヴァーリの拳が俺の腹部に、俺の拳がヴァーリの頭部に触れたその瞬間・・・・・

 

「・・・・・残念だな、兵藤一誠」

 

「ッ!?」

 

腹部に衝撃を感じるとともに、俺の体は大きく後方へと吹き飛ばされた。俺の拳が、ヴァーリの頭部に完全に叩き込まれる寸前にだ。

 

完全にやられた・・・・ヴァーリは拳を叩き込む瞬間に手のひらを開き、俺に魔力で攻撃してきた。ヴァーリはかつての魔王ルシファーの血を引いているだけあって魔力量は俺とは比較にならないほどに多いのだろう。故に、その威力もまた強大であり・・・・俺の体は後方へと弾き飛ばされてしまった。

 

「・・・・・まさか触れただけでこの威力とはね。完全に決まっていたら俺の負けだった」

 

頭部を覆っていたはずの兜が失われ、頭部から血を流しながらヴァーリは言う。

 

「初めからこれを狙っていたのか・・・・・?」

 

「ああ。君の考えは読めていたからね。だから利用させてもらった」

 

ちっ、やはり戦闘経験の差は大きすぎたか。タイミングはかなりシビアだったはずなのに、それでもヴァーリは自らの思惑通りにことを運んだ。俺の考えを読み切ったうえでだ。

 

一体どれだけ長い間戦いに身を置けばここまで・・・・・

 

「君は一撃にすべてをかけようとしていた。だが、俺はその必要はない。少しでも君に触れてしまえれば・・・・・」

 

『Divide!』

 

「ぐっ・・・・・」

 

「こうして、力を奪うことができる」

 

身体から力が抜ける。ヴァーリの神器、白龍皇の力で俺の力は半減し、そして半減した力はヴァーリが吸収してしまっている。

 

『Boost!』

 

半減した力を、すぐさま倍化で戻す。だが、力は戻せてもヴァーリに吸収されてしまった力まではどうしようもできない。戦局は一気に俺にとって不利なものになってしまった。

 

「さて覚悟するといい兵藤一誠。ここからは・・・・・俺の独壇場だ」

 

ヴァーリは不敵な笑みを浮かべながら、俺に迫ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一誠!!」

 

白龍皇の猛攻を受ける一誠を見て、私は思わず叫んだ。致命傷をさけ、かろうじて凌いではいるが、それでも一誠が不利なのは明白であり。このままでは一誠は・・・・・

 

こうなったら、一誠に加勢を・・・・・

 

「やめておけ」

 

一誠に加勢しようとする私を、アザゼルが引き留めた。

 

「止めないでちょうだい。一誠は私の可愛い眷属。助けるのは主として当然よ」

 

「そいつは大した主従愛だ。だがな、お前が突っ込んで行ってどうなる?あの戦いについていけるのか?」

 

「それは・・・・・」

 

アザゼルが言っていることは理解できる。私は一誠よりも遥かに弱い。そんな私が戦いに加わったところで足手まといにしかならないかもしれない。

 

だけど・・・・・それでも、ここでただ見ているだけだなんて、私には耐えられなかった。

 

「そうだ・・・・・ギャスパー!あなたの神器の力で一誠を援護してあげて!」

 

ギャスパーの神器、停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)の力ならば、一誠の力になるかもしれない。神器の制御を成し遂げた今のギャスパーならば、わずかの間だけでも白龍皇を停めることができるかもしれない。

 

だけれど・・・・

 

「・・・・・すみません部長。できません」

 

ギャスパーは、私の頼みを断った。

 

「どうして?あなただって一誠のことを大切に思っているでしょう?」

 

「確かに僕は一誠先輩のことを誰よりも尊敬しています。でも、だから僕は一誠先輩の邪魔をしたくないんです」

 

「邪魔?」

 

「一誠先輩は、自分の手で白龍皇を倒すことが生きる目的の一つだと言っていました。そしてそれは、誰にも邪魔をされたくないことだと思うんです。だから僕は・・・・・どれだけ一誠先輩が苦戦しているとしても、一誠先輩の戦いの邪魔をしたくないんです」

 

ギャスパーは普段の弱々しさを感じさせないほどに強い声色ではっきりと言い放った。

 

「その吸血鬼のガキはよくわかってるようだな。この戦いは二天龍、兵藤一誠とヴァーリ・ルシファーだけの戦いだ。兵藤一誠からしたら不本意なタイミングではあったかもしれないが、それでも一度始まってしまったからにはあの戦いには誰も介入するべきではない。俺達外野はただ、戦いの成り行きを見守るしかできないのさ」

 

「・・・・・・」

 

アザゼルの言っていることは理解できる。理解はできるが・・・・・歯がゆかった。主であるにもかかわらず、ただ見ていることしかできないのは私にとって苦痛だから。

 

(一誠・・・・・負けないで)

 

私は戦いを見守りながら、一誠が負けないようにと願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(くっ・・・・・やっぱりしんどいな)

 

俺は心の中で舌打ちをする。俺に触れたことで半減と吸収の力を存分に発揮できるようになったヴァーリは、接近戦だけに拘らず魔力による攻撃も仕掛けてくる。致命傷を避けているとはいえ、それでもヴァーリの攻撃はいくらか喰らってしまって鎧は一部破損しているし、こちらからは攻撃することもできずにいる。俺はただ追いつめられる一方だ。

 

どうにか現状を打開する手段はないかと思案していると・・・・・突然ヴァーリからの攻撃が止まった。

 

「・・・・・解せないな。兵藤一誠、なぜ本気を出さない?」

 

「どういう意味だ?」

 

「君は俺と同じ、二天龍であると同時に悪魔でもある。なのに君は全く魔力を使おうとしていない。魔力を身に纏わせて戦う君の戦法は俺に対して有効であるにも関わらずだ」

 

ヴァーリの言う通りだった。魔力を体に纏わせればヴァーリに直接触れずに戦うことができた。それは有効だとわかってはいたが・・・・・俺は魔力を使わなかった。

 

「それだけじゃない。君はリアス・グレモリーの眷属で兵士(ポーン)だ。兵士であるならなぜ昇格(プロモーション)を使わない?この状況で彼女がそれを許可しないはずはないから使えるはずだ」

 

確かに昇格も使っていない。今の俺は兵士のまま。つまり昇格による能力上昇の恩恵は受けていない。

 

「さらに言うなら・・・・・君は俺に対して最大限効果を発揮する武器を持っているはずだ。それなのに君はそれさえも使おうとしない。それが解せないと俺は言っているんだ」

 

ヴァーリの言っている武器というのは聖剣アスカロンのことを言っているのだろう。龍殺し(ドラゴンスレイヤー)の力を秘めた聖剣アスカロン。その力はドラゴンであり、悪魔でもあるヴァーリに対しては絶大な効果を発揮するだろう。

 

だが・・・・・・俺はそれを使うつもりはない。悪魔の力も、聖剣の力も俺は一切使わない。

 

「俺は・・・・・生まれた時から白龍皇であり、悪魔でもあったお前とは違う。俺は人として生まれた。人として赤龍帝の力を宿した。そして・・・・悪魔の力を持っていないときに、純粋に赤龍帝として白龍皇を倒そうと誓ったんだ」

 

悪魔の力も聖剣の力も所詮後付け。それは純粋な赤龍帝の力ではない。

 

「確かに悪魔の力を使えば、聖剣の力を使えばもっと楽はできるだろうさ。だがな、それじゃあ意味がないんだよ。俺がドライグに約束したのは赤龍帝として白龍皇を打倒するということ。悪魔の力も、聖剣の力も今この状況においては邪魔でしかない」

 

「どうやら俺を舐めているというわけではなさそうだな」

 

「ああ。お前は確かに強いさヴァーリ。白龍皇としての力も、悪魔としての力も使いこなしている。俺がこれまでに戦った誰よりも強いのは疑いようもない。だが、それでも俺は・・・・・赤龍帝として培ってきた力だけで、お前を倒して見せる!」

 

これは譲れない俺の誇りだ。たとえ負けそうになったとしても、悪魔の力も聖剣の力も使わない。

 

俺は赤龍帝として・・・・・白龍皇、ヴァーリ・ルシファーを倒したいんだ

 

「くくくっ・・・・・・はははははっ!これはいい!俺を前にしてそこまで意地を貫き通すとは面白いぞ兵藤一誠!君との戦いは楽しい!君もそうだろう?」

 

「・・・・・なに?」

 

「君も俺との戦いを楽しんでいるのだろう?でなければそんなふうに笑っていられるはずがない!」

 

笑う?俺は・・・・・今笑っているのか?

 

「本気でないにも関わらずどうして笑っていられるのか疑問に思っていたが君の話を聞いて納得がいったよ。君は赤龍帝として俺と戦うことに喜びを感じている。方向性や考え方は違うが君は俺と同類の、戦闘に喜びを見出しているんだ。嬉しくてたまらないよ・・・・俺の生涯の宿敵が、俺と同類なんだからな!」

 

俺がヴァーリと同類・・・・・戦闘に喜びを見出している。

 

・・・・・ああ、確かにそうかもしれない。俺は白龍皇を倒すことを生きる目的にしているが、それにどうしてそこまで拘っているのかわからなくなる時がたまにあった。だけど・・・・ヴァーリに言われて納得した。

 

俺は・・・・・戦いが好きなんだ。

 

「ふふっ・・・・くははははっ!」

 

ああ、こんな風に笑ったのはいつぶりだろうか?コカビエルとの戦いのときは、憎しみに駆られてそんな余裕など一切なかったが、今は・・・・・今この時においては・・・・・・

 

白龍皇(ヴァーリ)との戦いが・・・・・楽しい

 

「ヴァーリ・・・・・お前のおかげで色々と吹っ切れたよ。色々とすっきりした。この礼は・・・・・拳に乗せてたっぷり返してやるよ!」

 

『Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!』

 

俺はこれまでにないスピードで自身の力を高め・・・・・ヴァーリに殴りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




ヴァーリさんのおかげで、自身の戦い好きを自覚した一誠さん。そしてそのおかげで色々と吹っ切れました

その結果どうなるかは・・・・・次回、その眼でお確かめを

それでは次回おまたお楽しみに!


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第67話

今回でヴァーリさんとの戦いは一旦終了です

はてさてどうなるか・・・・・

それでは本編どうぞ


 

「はああああああっ!」

 

ヴァーリに向かって接近する。その際ヴァーリから魔力による攻撃を浴びせられるが・・・・関係ない。その全てを受け、俺は進み続け、ヴァーリに拳を振るう。

 

「くっ、馬鹿正直に・・・・・!」

 

ヴァーリは俺の拳を躱し、カウンターで自身の拳を俺に叩き込む。さすがに俺の力を吸収しているだけあって力強い。殴られた箇所は痛むが・・・・関係ない。殴られようとも、殴り返せばいいだけだ。

 

「馬鹿で結構だ・・・・・お前を倒せればな!」

 

「ぐっ!?」

 

俺の拳がヴァーリの腹部に叩き込まれる。ようやくまともな一撃が入った・・・・・ここからは一気に畳みかける。

 

『Boost!』

 

俺の闘争心に答えるように、力が高まっていく。それこそ限界を超えるほどにだ。

 

(相棒!それ以上力を高めるのは危険だ!)

 

(それくらいわかってる。大丈夫だ・・・・・どうせ向こうから下げてくれるんだからな)

 

『Divide!』

 

白龍皇の力で俺の力が半減するが・・・・・それでいい。限界を超えた力を維持し続けるのはしんどいからな。これで調整が取れる。

 

「まだだ・・・・・もっともっと楽しませろヴァーリ!」

 

「それはこっちのセリフだ!」

 

互いに殴り合う俺とヴァーリ。もっとも、俺は全くのノーガードに対してヴァーリは回避や防御も織り交ぜてはいるが。だが問題ない。受けたダメージよりもでかいダメージを与えればいいだけなんだからな。

 

『Boost!』

 

さて、奴が倒れるのが先か、俺が耐えられなくなるのが先か・・・・・根性比べといこうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ははっ・・・・こいつはとんでもないな」

 

目の前で繰り広げられる赤と白の戦いに、思わず笑みがこぼれてしまう。

 

先ほどまではヴァーリが優勢だった。だが今では・・・・・圧倒的に兵藤一誠のペースになっていた。おそらく、先ほどのヴァーリとの会話で色々と吹っ切れたのだろう。だからこそああいう戦い方ができる。

 

だが・・・・・

 

「不安かリアス・グレモリー?」

 

先ほどから不安そうに二人の戦いを見つめるリアス・グレモリーに尋ねる。

 

「・・・・当然よ。だってあんな・・・・あんな・・・・」

 

まあ、不安になるのも無理はないだろう。何せ今、兵藤一誠は一切の防御行動をとらずに戦っているんだからな。

 

ヴァーリの拳も、魔力も一切防がない。一切躱さない。防御する暇があったら攻撃する。まさに猪突猛進な戦い方だ。馬鹿なんじゃないかと思える。

 

だが・・・・・

 

「不安になるのはわかる。かなり頭の悪い戦い方だからな。だが、まったく理に叶っていないわけでもない」

 

「どういうこと?」

 

「兵藤一誠はわかってるんだよ。吸収の力を持つヴァーリ相手に長期戦は分が悪すぎる。だからこそダメージ覚悟で、力を急速に倍化させて短期戦に持ち込もうとしてるんだよ」

 

「でも力を半減、吸収されるのなら短期戦だって危険だわ」

 

まあ、確かにリアス・グレモリーの言う通りではある・・・・・だが、それはあくまで普通に考えればの話だ。

 

「兵藤一誠はヴァーリの半減の力を利用してるんだよ」

 

「半減を利用?どういうこと?」

 

「兵藤一誠は今、限界を超えるほどに自身の力を倍化させている。そんなことをすれば普通は力に耐えきれず体がぶっ壊れちまうんだが・・・・・奴はよほど鍛錬してきたんだろうな。肉体のキャパシティが高いからしばらくは限界を超えた力を維持することができる」

 

鍛錬の様子は俺も見てはいた。奴は神器(セイクリッド・ギア)を発動させてからずっと鍛え続けていた。それこそ狂気を感じるほどにな。

 

「ただ、維持できるとしてもそれはあくまでもわずかな時間だけ。だからこそ、調整をするためにヴァーリの半減の力を利用してるってわけだ」

 

「白龍皇の半減の力を利用して限界を超えた力を限界にまで落として、負担をなくしている・・・・ということなの?」

 

「そうだ。一度発動しちまったからにはヴァーリの意思にかかわらず最低でも10秒ごとに半減の力は発動しちまう。あいつはそのタイミングを見極め、利用して限界以上の力をピンポイントで引き出してるんだよ」

 

ここまで言うと、一見頭を使った賢い戦い方に思えるかもしれないが、実際はさっき言った通りこれはかなり頭の悪い戦い方だ。耐えられるとはいえ、限界を超えた力は相当な負荷を身体に与える。ヴァーリの攻撃を受けながらそれだけの負荷をかけていれば相当きつい筈だ。正直俺ならとっくにぶっ倒れているだろう。

 

それでも倒れないのは意地か執念か・・・・・あるいはそれほどこの戦いが楽しくて仕方がないのか。

 

いずれにせよ・・・・・

 

(随分とまあ・・・・・二人そろって心配になる成長しちまいやがって)

 

兵藤一誠・・・・・こいつは本当に仕方のない奴だ。ガキの頃に初めて会ったときも感じていたが、あまりにも危うすぎる。

 

そしてヴァーリもまた・・・・・近くで色々と教えて育ててきたってのに、面倒ごとを起こしちまった。

 

(まったく・・・・・今代の二天龍は、色々な意味で厄介だな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおおおおおおっ!!」

 

「うぐっ・・・・・」

 

俺の拳を受け、ヴァーリの体は後方へ大きくはじき出される。互いに殴り合って、ダメージを蓄積していっているが、どうやら単純なダメージ量なら向こうの方が上らしい。まあ、辛うじて致命傷は避けられてはいるが限界を超える力で殴ってるんだ。それなりに堪えてくれなければ困る。

 

「はあはあ・・・・・大したものだな兵藤一誠。正直肉弾戦では分が悪いと言わざるを得ない」

 

「こっちは人間だったころから身体を鍛えまくってるんでな。他で劣っていてもこればかりは負けられないんでね」

 

ここまでの戦いでわかった。総合力でいえば、間違いなく俺はヴァーリに劣っている。だが、肉体面・・・・フィジカルに限定すれば、俺の方が上だ。向こうは豊富な魔力を持っている分、肉体面は突出させることができなかったのだろう。

 

とはいえ・・・・それでもあくまでも実力は俺の方が下。向こうの方がダメージ量が多いとはいえ、俺が優勢なのかといわれればそうでもない。ダメージ以上に、体力の消耗が重くのしかかってきやがる。

 

このまま戦いつづければもってあと5分程度といったところだな・・・・・だったらその5分で、こいつを倒さないと。

 

「これほどの力・・・・・アザゼルが目をかけるだけのことはあるということか」

 

アザゼルが目をかける?こいつ何を言って・・・・・

 

「・・・・・アルビオン。兵藤一誠なら覇龍(ジャガーノート・ドライブ)を使う価値があると思わないか?」

 

覇龍・・・・・こいつ、やっぱり至ってやがったか。

 

『それはあまりいい判断とは言えないぞヴァーリ。ここでお前が覇龍を使えば、向こうも使ってくる可能性がある』

 

「それは願ったり叶ったりだな・・・・・今よりももっと楽しい戦いができる」

 

どうやらヴァーリはこの場で覇龍を使うつもりらしい。となると俺も奥の手を・・・・・大帝(オーバーロード)を使わざるを得ないか。

 

「我、目覚めるは覇の理に・・・・」

 

「我、覇の理を超え・・・・」

 

ヴァーリが覇龍の詠唱を唱えると同時に、俺もまた大帝へと至るために詠唱を始める。

 

その時・・・・

 

「そこまでだぜヴァーリ」

 

俺達の詠唱を邪魔する者がいた。俺とヴァーリの間に降り立ったそいつは、長い棒のような武器を手にしている。

 

「美猴か。何をしに来た」

 

美猴・・・・・こいつ、まさか孫悟空の末裔か?またとんでもないのが来たものだ。しかも、なんかヴァーリの仲間っぽいし。

 

「迎えに来たんだよ。アース神族と一戦交えるから帰ってこいだと。カテレアは失敗したようだし、もういいだろ?」

 

「せっかく盛り上がってきたところだったのだがな・・・・・まあいい。そういうことなら帰るとしよう」

 

美猴の言に従うようで、ヴァーリは闘気を納める。

 

「ここまで来て逃げるのかヴァーリ?」

 

「逃げるとは心外だな・・・・・君との戦いは楽しいが、他にも楽しみたい戦いはいくつもあるんでね。この戦いは一旦保留にしよう」

 

「お前がそれでよくても、俺は納得するつもりはないぞ」

 

俺はヴァーリに向けて闘気をぶつける。

 

「おお、こりゃいい闘気してるじゃねえか赤龍帝。ヴァーリが残念がる気落ちもわかるが・・・・けど、こっちの用が優先だ。じゃあな赤龍帝」

 

「次に戦える時を楽しみにしているよ。その時は、お互いにもっと強く・・・・」

 

「待て!」

 

逃がすものかとヴァーリと美猴に接近するが、それよりも先に美猴は陣を張って、ヴァーリと共に転移していった。

 

「くそっ!」

 

俺は怒りのあまり地面に拳をぶつけそうになるが・・・・・すんでのところで止めた。力が高まっている今の状態で地面を殴ったら、地盤沈下も起きかねない。

 

「・・・・・白龍皇、ヴァーリ・ルシファー」

 

鎧を解除しながら拳を強く握りしめ、先ほどまでヴァーリのいた場所に視線を向ける。

 

次にやるときは・・・・・必ず決着をつけてやる




白龍皇の能力さえ利用して限界を超えた力で戦う一誠さん・・・・作中でも言いましたがぶっちゃけ頭悪い戦い方です。そこそこ賢いですが一誠さんは基本脳筋なので・・・・

それでは次回もまたお楽しみに!


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第68話

今回はこの章の最後の話となります

それでは本編どうぞ


禍の団(カオス・ブリード)の襲撃やヴァーリの裏切りがあったものの三種族の和平協定はなされた。この協定を期に、世界は変化していくと部長は言っていたが・・・・・正直実感は沸かない。別に急に身の回りで変わったことがあったわけでは・・・・

 

「今日からお前達の世話をしてやる。俺のことはアザゼル先生と呼べ」

 

・・・・・早速あったよ。笑みを浮かべ、挨拶をするアザゼル。どうしてこうなったのか・・・・

 

「・・・・・ソーナ?これはどういうことかしら?」

 

部長はアザゼルを連れてきたシトリー様に詰め寄った。

 

「その・・・・神器(セイクリッド・ギア)の知識は豊富で色々と教授できるだろうからオカルト研究部の顧問にうってつけだとサーゼクス様が・・・・」

 

「それだけで許可したの?」

 

「拒めばお姉様がくると言われてしまって・・・・・」

 

「・・・・そっちにも神器使いは居るのだから生徒会の顧問になって貰ってもよかったのではないかしら?」

 

「・・・・・」

 

わざとらしく目をそらし、返事を返さないシトリー様。どうやら俺達は売られたようだ。

 

「と、とにかくあとはよろしくねリアス。あ、そうそう・・・・兵藤君」

 

居心地が悪いのか、そそくさと去ろうとするシトリー様であったが、出る前になぜか俺に声をかけてきた。

 

「何でしょうかシトリー様」

 

「その・・・・お姉さまから伝言です。今度一緒にミルキーのDVDを見ようと・・・・」

 

レヴィアタン様とミルキーのDVD・・・・恐れ多いが、なかなか有意義かもしれない。

 

「あの・・・・嫌だったら断ってもいいのですよ?」

 

「いえ、是非ともご一緒させていただきますと伝えてください」

 

「・・・・え?」

 

異様に戸惑った様子を見せるシトリー様。よほど意外だったのだろう。

 

「あ、その時はギャスパーも一緒に連れていきたいのでそう伝えてもらえますか?」

 

「ぼ、僕もですか一誠先輩?」

 

「ああ。レヴィアタン様のミルキーのコスプレは完成度高いからな。一見の価値はあるぞ?」

 

「ま、魔王様は恐いけど・・・・・確かに興味があります」

 

ビクビクしながらも、乗り気なギャスパー。人見知りのこいつがここまで乗り気とは・・・・いい傾向だ。さすがはミルキー。

 

「で、ではお姉さまには伝えておきます・・・・」

 

レヴィアタン様に伝えると約束して、シトリー様は部室をあとにした。

 

「今代の赤龍帝が魔法少女に夢中とはな・・・・・まあ、面白いからいいか」

 

「俺のことよりアザゼル総督、その腕どうしたんですか?」

 

俺はなくなったはずのアザゼルの腕へと視線を向けた。先の戦いで失ったはずなのに、なぜかアザゼルは両腕とも健在だった。

 

「義手だよ。俺特製のな。生身とほとんど遜色なく動く上にミサイルにもなる」

 

(ミサイル機能って必要なのか?けどまあ、義手とはいえ腕が戻ったようでよかった・・・・・よかった?)

 

なぜかアザゼルの腕が戻ったことに安堵する俺。なぜ自分でもこんなふうに思っているのかわからず戸惑うが・・・・・考えても答えは見つかりそうになかったため考えないようにすることにした。

 

「それよりもだ、今後のことを話させてもらうぞ」

 

アザゼルは当たり前のように部長の机を占領して話を進めた。

 

「禍の団のだなんて物騒な組織が出てきちまった以上、お前達にも抑止力として働いてもらいたい。ヴァーリは白龍皇である以上、必ず赤龍帝である兵藤一誠と接触するだろうからな」

 

「上等だ。あんな半端な幕引きのせいで不完全燃焼だったからな。今度こそ決着をつけてやる」

 

「ヴァーリに劣らず血気盛んだな・・・・だが、今のお前ではヴァーリに勝つのは難しいぞ?先の戦いでは優位に進めていたが、フィジカル面以外ではお前はヴァーリに劣っているんだからな。何よりお前は赤龍帝として決定的な欠陥がある」

 

アザゼルの言う欠陥とは、おそらく譲渡のことを言っているんだろう。俺は譲渡の力を一切使えない。あれば使えれば、もっと戦術の幅が広がるのだから使えないままにしておくのは確かに勿体ないと言えるだろうな。

 

「お前は強いが課題も多い。普段から鍛錬は欠かしていないようだが、それを克服するために俺からいくつかアドバイスをしてやろう」

 

アザゼルからのアドバイスか・・・・神器に関しては三種族の中では最も詳しいだろうし、長年の経験もある。アザゼルに教われば確かに強くなれそうだな。

 

「他にもそうだな・・・・・聖魔剣使いお前、禁手(バランス・ブレイカー)をどれだけ維持できる?」

 

アザゼルが木場に向かって尋ねた。

 

「現状では一時間が限度です」

 

「話にならないな。最低でも三日は保たせろ。強力な力も維持できる力が短かったら使い勝手が悪すぎる。一応聞いておくが兵藤一誠・・・・・もう面倒だから一誠でいいか。お前はどうだ?まさか1日ももたないだなんて言わないよな?」

 

「さすがにもっともちますよ。そこまで長時間禁手状態でいたことはないですが、2週間は維持できるはずです」

 

「上出来だな。もっとも、ヴァーリは一カ月もたせることができるが」

 

一カ月か・・・・・軽く俺の倍以上はある。そこでも差が突いちまってるのか。

 

「まあ、禁手の長時間維持についても色々とレクチャーしてやるよ。次に・・・・・朱乃、まだバラキエルが憎いか?」

 

「当然です。母はあの男のせいで死にましたから」

 

アザゼルから問われた朱乃先輩は、きっぱりと断言する。だが、そこに込められた感情は・・・・・単純な憎しみではないように感じられた。

 

「気持ちはわからないでもないが・・・・あいつはお前が悪魔になったときも何も言わなかったぞ」

 

「あのヒトが私に何か言える立場にあると?」

 

「そういう意味じゃねぇが・・・・・まあいい。お前ら親子の問題にこれ以上俺が首を突っ込むのも野暮か」

 

「あんな男、父親なんかじゃありません!」

 

珍しく口調を荒げる朱乃先輩。朱乃先輩とバラキエル・・・・・二人の関係は、色々と根が深そうだ。

 

「あとは・・・・・そこのハーフヴァンパイア」

 

「ぼ、僕ですか?」

 

アザゼルに指され、明らかに動揺してみせるギャスパー。

 

「お前は素質な一誠と同等・・・・いや、それ以上と言っていい。停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)っていう強力な神器も持ってるしな。ただ、はっきり言って現状、お前は弱い」

 

「うぅ・・・・」

 

随分とはっきり言うなアザゼル・・・・・まあ、事実ではあるが。禍の団の襲撃の時に神器の制御はできるようになったが、それでもギャスパー自身に戦う力がない。サポートとしては優秀だが、素質を考えれば個人でも戦えるようになった方がいいのは確かだ。

 

それに・・・・

 

「なにより、引っ込み思案なところがな・・・・今だってそんな状態だし」

 

現在、アザゼルが居るせいか、紙袋を被っているギャスパー。中々異様な存在感を放っている。

 

「まずは引きこもり脱出を最優先するべきだ。そのためのメニューを考えてやる」

 

「で、でも僕は一誠先輩に鍛えてもらってますし・・・・・」

 

「肉体鍛錬を中心にして鍛えているんだろう?それはそれで悪くはないんだが、一誠は一誠で自分の鍛錬で手一杯になることもある。一誠の修行の妨げになりたくないなら俺の修行も受けた方がいいぞ?」

 

「僕が一誠先輩の妨げに・・・・わかりました。やってみます」

 

俺の名前が出たとたんにこれか・・・・・随分と慕われたものだ。まあ、悪い気はしないが。

 

「ここにいる全員、素質はあるんだ。正しい修業をすれば、相応の強さを手に入れることができる。そうすれば禍の団も退けられるだろうし、将来的にはレーティング・ゲームで結果を残せるだろう」

 

「だからあなたのアドバイスを素直に受けろと?」

 

部長は怪訝そうにアザゼルを見る。

 

「まあ、少し前までは敵対勢力だった奴から教えを受けるってのは思うところもあるだろう。だが、和平がなされた以上はこうやって関係性を築いていかなければならない。それが平和に繋がっていくんだ。だから、文句はあるかもしれないが付き合ってもらうぞ。俺はお前たちの先生なんだからな」

 

アザゼルの言っていることは理解できた。和平がなされた以上は、こういうことも必要になってくる。俺としては文句はない。

 

それに・・・・・なぜかアザゼルのことは信頼できる。信じても大丈夫だと思える。このひとについていけば俺はきっと強くなれる。今よりもずっと・・・・・・

 

だから・・・・

 

(頼りにしてますよ・・・・アザゼル『先生』)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・私一人を呼び出して、何のつもりかしらアザゼル?」

 

アザゼルに呼び出され、私は旧校舎の一室に来ていた。

 

「そう身構えるなよ。それと俺のことはアザゼル先生と呼べって言ってるだろ?」

 

「いいから話しなさい」

 

「おーこわっ・・・・」

 

こっちも暇ではないと言うのにこの男は・・・・・くだらないことだったら取り合わないでさっさと帰ろうかしら?

 

「・・・・お前に一誠のことで言っておきたいことがあってな」

 

「一誠について?」

 

いやに神妙な面持ちを見せるアザゼル。これは真剣に聞いた方がよさそうね。

 

「あいつは強い。ヴァーリが歴代最強の白龍皇になるように、あいつも歴代最強の赤龍帝になるだろう。だが・・・・・今のままなら、あいつは歴代の赤龍帝の誰よりも凄惨な破滅に向かって行っちまうかもしれない。それも遠くない未来にな」

 

「それは・・・・・」

 

否定したかったけれど否定できなかった。私も・・・・・そう思ってしまったから。

 

コカビエルとの戦いの時も、白龍皇との戦いの時も、一誠は自分の破滅を顧みなかった。どれだけ傷つこうとも、死ななければそれでいいと。どれだけ傷つこうとも敵を倒せればそれでいい・・・・きっとそんなことを考えて闘っていたのでしょう。

 

見ている私達の不安や悲しみなど、知ったことではないと言わんばかりに一誠は・・・・・傷つくことを恐れなかった。

 

「あいつを自分のことを大切にしようとしない。自分のことを顧みていない。それはあいつの心に闇が巣食っているからだ」

 

「・・・・堕天使レイナーレを死なせてしまったことが、あの子にそうさせてしまっているのね」

 

「いや、そうじゃない」

 

「え?」

 

私の言葉を、アザゼルは否定した。

 

「正確にはそれだけじゃない、だな。レイナーレの件も間違いなくあいつの心の闇になっているだろう。だがそれだけじゃない・・・・・レイナーレの件以前から、あいつの心には闇があった。重く、根深い闇がな」

 

レイナーレの件とは別の、重く根深い闇・・・・・それが何なのか、まったく見当がつかない。私には・・・・・わからない。

 

「あいつが何を抱えているのかは俺にはわからない。だが、わからないからって放置していいものじゃない」

 

「・・・・・私にどうしろというの?」

 

「あいつを大切にしろ。大切にして・・・・見守ってやれ。んで、間違ってると思ったらしっかりと叱ってやれ。主としての責務を果たせば、それでいい」

 

アザゼルの言っていることは当然のことだった。当然のことだったけれど・・・・難しいことだった。私は・・・・・一誠に守られてばかりだから。

 

大切にしてるつもりではある。見守ってあげてるつもりでもある。ちゃんと叱ってあげてるつもりでもある。けれど・・・・・それが一誠に届いているのか、わからなかった。

 

「・・・・言いたいことはそれだけだ。じゃあな」

 

「待ちなさいアザゼル・・・・・なぜあなたは、一誠の心にレイナーレ以外の闇があるとわかったの?」

 

アザゼルが一誠と会ったのは私よりもずっと後。ほんのつい最近のこと。だと言うのに、アザゼルがなぜそれを知っているのかが不可解だった。

 

「・・・・・さあ、なぜだろうな?」

 

アザゼルは意味深な、それでいてどこか優しいな笑みを浮かべて、部屋から出て行った。

 

 




一誠さんの心の闇はもちろん自分の存在についてなのですが・・・・・それをおぼろげながらなぜアザゼルさんが知っているのかはいずれ判明しますのでその時までお待ちを

それでは次回もまたお楽しみに!


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冥界合宿のヘルキャット
第69話


今回から新章

まずは手始めに軽く一誠さんとアザゼル先生のお話を

それではどうぞ


強くなりたい

 

もっと強く・・・・もっと強く

 

宿敵である白龍皇ヴァーリを倒せるほどに強く

 

そして・・・・そして?

 

白龍皇を倒してそのあと俺は

 

俺は・・・・・どうしたいのだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「589・・・・590・・・・591・・・・」

 

「おーおー。頑張るねぇ若人」

 

早朝、いつも通り俺はトレーニングしていた。ただ、これまでと違うのは・・・・・そこにアザゼル先生が居ることだ。なんでも、俺のトレーニングの様子を見てみたいんだそうだ。

 

「重りをつけての腕立てとか、随分とまあ古典的というか、芸のないトレーニングしてるんだなお前」

 

「確かに地味かもしれませんが、これも馬鹿にはならないですよ。パワーを上げるにはこういう単純なトレーニングが効果的なんです」

 

「そいつはわかってるよ。ただな・・・・・」

 

そう言いながら、アザゼル先生は俺の隣で死んだように微動だにせずに倒れているギャスパーの方へ視線を移す。ギャスパーは本人の希望で俺と同じ重さの重りをつけて腕立てをしようとしたのだが、一回も腕立てができずに力尽きてダウンしてしまったのだ。これは意識も朦朧としているかもしれない。やはりギャスパーにはこの重さはまだ無理だったか・・・・・いつもなら起こすところだが、少し休ませてやろう。

 

「魔力で負荷をかけて重りにするって発想は悪くない。筋トレしながら魔力の維持とコントロールの特訓にもなるからな。だが100㎏はやりすぎだ。普通はギャスパーみたいになるぞ?」

 

「俺も人間だった時はそう何回もできなかったと思いますよ。ただ今は悪魔になったおかげで地力が増してるので、これぐらいはこなせます」

 

「それを毎日1000回とか・・・・・根性あるな。俺ならやろうとさえ思わないね」

 

まあ、そもそもアザゼル先生はそういうトレーニングとかするイメージ自体がまずわかないけど。

 

「だが、こういうトレーニングは今後も続けた方がいいのは間違いない。身体能力の向上はお前の赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の倍化の力と相性がいいからな。倍化される素の力がでかければでかいほど、向上する力もでかくなってくし、キャパシティも増していくからな。お前がフィジカル面だけとはいえヴァーリを上回れているのもこのトレーニングのおかげだろう」

 

確かに、このトレーニングが無ければ俺はあの戦いで早々にヴァーリに敗れていただろう。

 

「だが、だからと言って筋力強化だけしていればいいと言うわけではない。お前が赤龍帝の力でヴァーリを倒したいという考えを否定する気はないが、お前の敵はヴァーリだけじゃない。他の禍の団(カオス・ブリゲード)の連中もそうだが、お前個人を狙って戦いを挑んでくる奴も出てくる可能性はある。コカビエルを倒しちまったことでお前の強さは有名になっちまったからな」

 

「敵はいくらでもいるということか・・・・」

 

「そうだ。だから身体能力だけじゃなく、ほかの力も鍛える必要がある。お前はヴァーリほどではないが魔力が高いからその方面も伸ばした方がいいだろうし、ほかにも強力な武器を持っているだろう?」

 

「アスカロンか・・・・・」

 

アスカロン。龍殺し(ドラゴンスレイヤー)の力を持つ聖剣。あの剣は今後必ず必要になってくるだろう。だが、正直籠手と一体化している状態では使いにくい。だからこそ使い方を考えてはいるのだが・・・・・それに関しては木場やゼノヴィアの力も借りたいところだな。

 

「あと、譲渡の力が一切使えないってのも痛いな。あの力も今後の戦いでは重要になってくる。まったく、これまでも片方だけの力に特化した赤龍帝は居るにはいたが、お前ほど極端なのはそうそういなかったぞ?」

 

「そんなこと言われても・・・・・俺だって使えるものは使いたいですよ。それなのに全く使えなくて・・・・・」

 

「そのくせ神器(セイクリッド・ギア)を初めて起動したと同時に禁手(バランス・ブレイカー)に至るとか・・・・・やっぱりお前、歴代の中でも赤龍帝として異質だぞ」

 

異質と言われても・・・・・って、あれ?俺アザゼルに禁手に至った経緯のこと話した覚えないのに何で知ってるんだ?

 

「まあ、譲渡の力に関してはどうにか発現できるようにする方法を考えるとして・・・・一誠、お前に聞いておきたいことがある」

 

アザゼルが嫌に真剣な目をして俺に尋ねてきた。

 

「ヴァーリが覇龍(ジャガーノート・ドライブ)を使おうとしていたとき、あの時俺はお前も覇龍を使おうとしたんじゃないかと思っていた。だが、あの時お前が唱えようとしていた詠唱・・・・少ししか聞こえなかったがあれは覇龍のものじゃなかった。お前、何をしようとしてた?」

 

あの時のことか・・・・俺は覇龍を使おうとしていたヴァーリに対抗して奥の手を使おうとしていた。まあ、結局は美猴に邪魔されてしまったのだが。

 

だが、どうするかな・・・・・あの力のことはまだ部長達にも話してない。なのにそれをアザゼル先生に話すのは・・・・・・うん、なんか別にアザゼル先生ならいいかなって思うな。少しぐらいなら話しても問題ないだろう。

 

「あの時俺が使おうとしたのは、覇龍と引き換えにして手に入れた力です」

 

「覇龍と引き換えに手に入れた力?」

 

「はい。二天龍の戦いは先に覇龍に至ったものが勝ってきたとドライグに聞いていました。ですが同時に覇龍に至ったとしたら・・・・勝率は良くて五分程度にしかならない。だから俺は、覇龍の力を棄ててでも、覇龍を打ち破る力を欲したんです」

 

「そして・・・・・手に入れたのか?」

 

「ええ。覇龍を凌ぐ力・・・・大帝(オーバーロード)。俺の奥の手ですよ」

 

あの時、たとえヴァーリが覇龍を使ったとしても、この力があれば勝つことはできるかもしれない。もっとも、一撃を当てることができればの話だがな。

 

「奥の手か・・・・まさかそんなものを用意していたとはな。これまでのどの赤龍帝にも当てはまらない進化の仕方が。だが、その大帝ってのをこれまで使ってこなかったってのはどういうことだ?そんなに強力な力なら、コカビエルとの戦いのときに使えばもっと楽に勝てただろ?」

 

「あの力は・・・・・扱いが難しいんです。強すぎる故にリスクも高い。おいそれと使えるものじゃないんですよ」

 

まあ、それを言うならヴァーリとの戦いの時も本当は使うのまずかったんだけどな・・・・使ったとしたら被害は甚大だっただろう。正直あの時はヴァーリとの戦いで頭に血が上っててそこまで考える余裕がなかった。

 

「使い勝手は悪いってことか・・・・・まさか覇龍と同じように命を削るのか?」

 

「いや、そういう力ではないですよ。たと使っても、命を削ることはありません」

 

ただ、俺の体が耐えられるかわからないが・・・・・それは言う必要はないだろう。

 

「ならいい。勝っても死んじまったら意味がない。勝つからには・・・・生きて未来を歩まねぇとな」

 

「アザゼル先生・・・・・なんか先生みたいなこと言いますね」

 

「ここでそれ言うか!?というかこれまで普通に先生付きで呼んでるのにそれはないだろう!?」

 

アザゼル先生は文句を言っているが仕方ないだろう。空気重くなっちゃったからそろそろ和ませないといけないかなと思ってしまったのだから。

 

「まったくお前は真面目なんだか天然なんだか・・・・・まあいい。それよりも、そろそろ少し休んだらどうだ?あまりぶっ続けでやっても効率が悪いだろ」

 

「まあそうですね・・・・・じゃあ少しだけ休みます。ということで飲み物が欲しいのでお金出してくださいアザゼル先生」

 

「なんでだよ!?」

 

「だって俺財布持ってきてないですし、何よりアザゼル先生は俺達の先生なんですからいいじゃないですか。あ、ギャスパーの分もお願いしますね」

 

「容赦ねえなお前は・・・・・」

 

ぶつくさと言いながらもお金を出してくれるアザゼル先生。なんだかんだこのひとやっぱり面倒見がいいんだなと思いながら、俺は近くの自動販売機へと向かった。




とりあえず章の頭なのでまずは軽めに

次回からは原作ベースのお話にしていくつもりです

それでは次回もまたお楽しみに!


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第70話

特に思いつかなかったので本編どうぞ


 

「おはようございます一誠くん」

 

「・・・・・朱乃先輩?」

 

深夜、いつも通りの時間に起きた俺の目に朱乃先輩の顔が映った。

 

「あの・・・・・なぜここに?」

 

ここは俺の家で、なおかつ俺の部屋で、さらに言うなら俺のベッドの中だ。本来ここに朱乃先輩がいるなどあり得ない。なのにこのひとは、さも当然かのように俺に微笑みを向けていた。

 

「それは・・・・夜這いですわ」

 

「・・・・は?」

 

朱乃先輩のこの発言に、俺は思わず間の抜けた声を上げてしまった。確かに最近やたらとアプローチしてくるようになったと思っていたし、さすがにあそこまであからさまなのだから朱乃先輩の想いは理解しているつもりではある。だが、だからといって夜這いとは・・・・・予想外にもほどがあった。

 

「一誠くんはこれからトレーニングしに行くのですよね?鍛えるのもいいですけれど、たまにはゆっくりしたらいかがでしょうか・・・・・私と一緒に」

 

俺の首に手をまわしてくる朱乃先輩。こうなってしまうと、朱乃先輩をなだめるのは難しいだろうな・・・・朱乃先輩もそれなりの覚悟をしてきたのだろうし。

 

どうしようかと、俺が頭を悩ませていると・・・・・

 

「・・・・・何をしているのかしら朱乃」

 

やたらとドスの利いた声が聞こえてきた。俺と朱乃先輩が声のする方へと視線を向けると・・・・・そこには鬼でさえ逃げ出しそうなほど恐ろしい形相の部長がいた。

 

「あらリアス、男女の営みに水を差そうなんて野暮ね」

 

「黙りなさい朱乃!もしかしてと思って見に来てみたら案の定・・・・一誠の迷惑も少しは考えなさい!」

 

どうやら部長は朱乃先輩のこの行動を予測していたらしい。いったいどういう経緯で予測するに至ったのかはわからないが、おそらくそれは部長と朱乃先輩の付き合いの長さゆえのものなのだろ。

 

「もう・・・・・だから全員一緒に暮らすのには反対だったのにお兄様は・・・・・」

 

ん?

 

「部長、なんか今ものすごく聞き捨てならないことを聞いたような気がするのですが・・・・・一緒に暮らすってどういうことですか?」

 

「・・・・・お兄様の意向で、私達グレモリー眷属は全員この家で暮らすことになったのよ。眷属同士のスキンシップは重要だと言って」

 

部長は居たそうに額に手を当てながら言っているが、俺の方が頭が痛くなりそうだった。なぜこの家の本来の住人である俺にその話が通っていないのか・・・・・・サーゼクス様、その辺り雑すぎる。

 

「じゃあ朱乃先輩は・・・・・」

 

「本当なら同居は今日、日が昇ってからということになっていたのだけれど、待ち遠しくてフライングさせていただきました」

 

「そんな行動力いらないわよまったく・・・・・」

 

部長の発言に全面的に同意なのだが、口に出すとまた火種を生みそうな予感がしたのでとりあえず思うだけにとどめておこう。

 

「というかその話、俺聞いてなかったんですけど父さんと母さんは知っているんですか?」

 

「ええ。そのことはお兄様から話がされているわ。二人とも喜んでいたそうよ。私はてっきり一誠も聞いていたと思っていたのだけれど・・・・・・」

 

きっと父さんも母さんも俺を驚かせようと思って黙っていたんだろうなぁ・・・・・我が両親ながら頭が痛くなる。

 

「というか、全員で暮らすにはこの家は手狭だと思うのですが・・・・」

 

一軒家とはいえ、眷属全員が暮らせるほどの広さはない。その辺りはいったいどうしようというのか・・・・・

 

「大規模な改築を行うそうよ。その話ももうあなたのご両親や近所の住民にも通してあるそうよ」

 

だからなんで俺だけがそれ知らなかったというのか。一瞬とはいえ悪魔を辞めたくなる勢いだ。

 

「それよりも・・・・一誠、朱乃のことは私に任せてトレーニングに行きなさい」

 

「あら?せっかく一誠くんとゆっくりしようと思ったのに、リアスはケチね」

 

「黙りなさい。一誠にとっては大事なことなの。それを邪魔するようなら嫌われるわよ?」

 

「・・・・・それは困りますわね。仕方がありませんわ。一誠くん、トレーニング頑張ってくださいね」

 

仕方ないといった様子で、朱乃先輩は俺を解放してくれた。

 

「では部長、あとはよろしくお願いします」

 

「ええ。行ってらっしゃい」

 

あとのことを部長に任せて、俺はトレーニングに向かう。

 

それにしても、朱乃先輩にも困ったものだ・・・・・俺も男なので、好意を寄せられるこ自体は悪く思わないのだが、いかんせん色々と困るのも事実だ。

 

・・・・こんど、アザゼル先生に相談してみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、今日はこれからの予定について話をするわ」

 

朱乃先輩の夜這いから一週間経ち、我が家の改築(という名の魔改造)も終わったある日。広大になりすぎた家の一室でグレモリー眷属のミーティングが行われた。

 

「夏休みは毎年冥界に帰省することになっているけれど、私の眷属である皆もついてきてもらうわ。特に一誠、アーシア、ゼノヴィアの3人は冥界に来たことがないからなおさらね」

 

ふむ、冥界にか・・・・どんなところか興味があったから少し楽しみだな。

 

「い、生きているのに冥界に行くだなんて緊張しますが、死んだつもりで行きたいと思います!」

 

「これまで天罰として地獄に送った者たちと同じ世界に行くとは・・・・悪魔になった今の私にはお似合いだ」

 

そういえば、アーシアとゼノヴィアは元々教会所属だったからな・・・・・冥界って場所に思うことは色々とあるのだろう。特にゼノヴィアは自嘲がすごい。

 

「向こうで行事の参加や修行があるから帰ってくるのは8月の末になりそうね」

 

やはり長期の滞在になるのか・・・・そうなると松田や元浜からの遊びの誘いは断らないといけなくなるな。まあ、毎年やってることは海に行ってナンパするあの二人が暴走しすぎないようにストッパーになることだが。

 

「うふふ、一誠くん。せっかくですし、冥界に行ったら私とデートなどいかがでしょうか?」

 

「やめなさい朱乃。そう都合よく時間が取れるとは限らないわよ?」

 

「あら?それは私を時間が取れないほど用事を押し付けると言うことかしら?」

 

「そうね。それも悪くないかもしれないわ」

 

またしても火花を飛ばし合う部長と朱乃先輩。ここまでくると仲違いを心配してしまうが、木場が言うには険悪にはなっていないようなので大丈夫であるらしい。

 

「冥界か・・・・悪くないな。なら俺もお前達と一緒に行くかな」

 

「「「ッ!?」」」

 

突然この場に居なかったの者声が聞こえてきて、一同は声の持ち主・・・・・アザゼル先生の方へと顔を向けた。まあ、俺は先生が堂々と部屋に入ってきたことには気が付いていたから驚きはしなかったが。

 

「ど、どこから入ってきたの?」

 

「普通に玄関からだ。気づけなかったのならそいつは修行不足だな」

 

まあ、堂々とといっても音はほとんど立ててなかったし、気配も希薄だったからな・・・・俺も悪魔になる前の状態だったら気が付けなかったかもしれない。

 

「それよりも、俺もお前たちの冥界入りに同行するぜ。何せ俺はお前たちの先生だからな。冥界での予定はっと・・・・・」

 

「ちょっと、それ私の手帳!」

 

朱乃先輩と言い合っている隙に拝借したであろう部長の手帳に、アザゼル先生は目を通す。

 

「リアスの里帰りに現当主に新入りの紹介、そして新鋭若手悪魔の会合に出たのちに修行に入るか・・・・・ちっ、本当にただの予定帳だな。乙女の赤裸々な日記でもあったら面白かったんだが」

 

「返しなさい!」

 

最後の余計な一言が部長の琴線に触れてしまったらしい。部長は激しくアザゼル先生から手帳をひったくった。

 

「おいおい、先生にそんな乱暴な態度は感心しないぞ?」

 

「黙りなさい・・・・・ともかくアザゼル先生も同行するということでいいのね?」

 

「ああ。手配は頼んだぜ。悪魔のルートで冥界に入るのは初めてだから楽しみだ。ああ、それと一誠」

 

「なんですか?」

 

「冥界での修行・・・・・お前にはおあつらえ向きに相手を用意しておいてやる。今のうちから覚悟を決めておくんだな」

 

俺におあつらえ向きの相手・・・・・アザゼル先生がそこまで言うのだから、相当なのだろう。それで俺がより強さの高みに到達できるのならば願ってもない。

 

冥界での夏休み・・・・・・俺にとって、有意義なものになりそうだ。




朱乃さんクラスに夜這いなんてされたら・・・・・大抵の男はころっと落ちちゃうでしょうねぇ

・・・・・クソ羨ましい

それでは次回もまたお楽しみに!


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第71話

今回から冥界突入です

どんな日々を過ごすことになるのか・・・・・

それでは本編どうぞ!


冥界・・・・死後の世界ともいわれる悪魔と堕天使の住まう世界。部長の話では人間の世界と何もかも違うと言うわけではないのだが、何分人間だった時のイメージからどこかおどろおおどろしく感じてしまう。

 

ただ・・・・・正直予測していなかった。そんな冥界に向かい方法が・・・・列車だなんて。

 

「まさか列車で冥界に向かうことになるとは・・・・・」

 

窓から外を見ながらつぶやく。もっとも、地下を通っているので冥界に入るまでは見れるような景色などないのだが。

 

「てっきり魔法陣か何かで向かうのかと思っていました。前にライザー様も魔法陣を通って人間界に来ていましたし」

 

「確かにその方がメジャーですが、一誠くん達のような新眷属はこのルートで入国し、手続きをしなければ罰せられてしまいますの」

 

どうやら色々と細かい決まりがあるらしい。正直面倒だとは思うが、これも必要なルールだと思って割り切ろう。

 

「あの、部長さんはどちらに?」

 

この場にはグレモリー眷属全員とアザゼル先生が居るのだが、唯一部長だけが居ない。それを気にしたようで、アーシアが朱乃先輩に尋ねる。

 

「部長は前の一等車両ですわ。主と眷属で乗る車両が分かれると決まっていますのよ」

 

まあ、俺達眷属と部長は立場が違うのだから当然と言えば当然か。

 

「今ここでは部長の目が届かない。だから・・・・こうしても咎められることはありませんわ」

 

朱乃先輩は微笑みを浮かべながら、俺の膝の上に腰を下ろして寄りかかってきた。

 

「ふふふっ。一誠くんの身体、暖かいですわね」

 

「あ、あの朱乃さん。一誠さんにあまりそういうことは・・・・・」

 

「あら?眷属同士のスキンシップは大切ですわよアーシアちゃん。こうして親睦を深めれば意思の疎通がしやすくなりますし」

 

正直、意思疎通どころか一方通行な気がしないでもないのだが・・・・・あまり余計なことを言ってしまうと朱乃先輩の気分を害しかねない。俺の目から見てもかなり不安定な状態にある朱乃先輩をあまり刺激はしたくないのだが・・・・・・

 

「朱乃、少し目を離した隙にまたあなたは・・・・・」

 

どうしたものかと悩んでいる俺に、救いとなる部長が現れた。部長は朱乃先輩をにらみながら制してくれている。

 

「あら?主様が下僕の車両に何の御用かしら?もしかして一人で寂しかったのですか?」

 

部長の牽制に対して、朱乃先輩は微笑みを崩さない。邪魔をされてもどこか余裕が伺えた。

 

「馬鹿言わないでちょうだい。約一名の動向が心配になって見に来たのよ。そしたら案の定だったわ」

 

「ふふっ、期待に添えたようで何よりだわ」

 

「期待なんてしてないわよ・・・・・まったく」

 

部長は朱乃先輩の手を引いて、俺の向かいの席に座る。ひとまず、部長のおかげで朱乃先輩からは解放された。

 

「おやおや、眷属と仲がよろしいようで何よりでございますリアスお嬢様。ですが、そろそろ新眷属の方の手続きをしてよろしいですかな」

 

「そうだったわね。ごめんなさい」

 

部長は近くにいた老人に謝罪する。恰好や言動からして、この列車の車掌のように思われた。

 

「新眷属の皆さんははじめまして。この列車の車掌のレイナルドと申します。それでは新しく眷属になられた方の確認と照合をさせていただきます」

 

「えっと・・・・・どうすれば?」

 

「あなた方の情報は転生したときに与えた駒に登録されておりますので、それを照合して確認を取るのですよ」

 

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)にはそんな役割もあるのか・・・・・この駒に関しては確認しておきたいこともあるし、駒を開発したっていう魔王ベルゼブブ様と話をしてみたいものだ。

 

「全員の確認が取れましたので、これで入国の手続きも完了となります。あとは堕天使の総督様なのですが・・・・」

 

「よくもまあ、仇敵の領域で堂々と寝ていられるものね」

 

部長は頬杖を突きながら呑気に眠っているアザゼル先生を見て呆れていた。けどまあ、こんなだが万が一襲われたとしてもすぐに対処できるのだろうこのひとは。

 

「アザゼル先生、車掌が確認した居そうなので起きてください」

 

「んが?なんだよ、気持ちよく寝てたってのによ・・・・・」

 

とりあえず声をかけると、アザゼル先生は寝起き故に不機嫌そうにしながらも目を覚ましてレイナルドさんにパスを渡した。

 

「確認いたしました。さて皆さま。そろそろ次元の壁を通過し、冥界に入ります」

 

「もうそんな時間ね。窓の外をご覧なさい」

 

部長に言われ、外を見てみる。そこには先ほどまでとは違い、広大な土地の景色が映し出されていた。

 

「今の日本では到底見られそうにない景色ですね・・・・・そういえば冥界って海はないんでしたっけ」

 

「ええ、大きな湖はあるけれど海はないわね。だから初めて人間界で海を見たときは私も驚いたわ」

 

海のない陸続きの世界・・・・・大半が海の人間の世界よりも、広く感じられるかもしれないな。

 

「ところで部長。少し遠くに見えるあの巨大なお城は・・・・」

 

「ああ、あれが私の実家よ」

 

・・・・・・どうやらグレモリーは、俺が思っている以上に立派な貴族様のようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「おかえりなさいませリアスお嬢様」」」

 

部長の実家である城に訪れた俺達がまず目にしたのは、ずらりと並んだ使用人達であった。何十人いるんだこれ・・・・

 

「・・・・・さすがにこの数は圧倒されるな」

 

「まあ、グレモリー家は日本の本州に匹敵するほどの領土を有する領主だからね。これぐらいの使用人は居て当然と言えるね」

 

木場は慣れたものなのか、特に圧倒されることもなく説明してくれた。

 

「もちろん一誠達にもグレモリー眷属として土地を与えるわ」

 

「土地を・・・・・ですか」

 

悪魔であり、グレモリー眷属といえども俺は高校生だ。いきなり土地を貰えると言われても正直困惑する。

 

・・・・・けどまあ、どこか手ごろな荒地は貰っておこうかな。修行で色々壊しても問題なさそうなところを。

 

「リアスお姉様!」

 

俺がどの土地を貰おうかと思案していると、部長の名に『お姉様』とつけて呼称する少年が近づいてきた。その髪は部長のものに近い紅だ。また、近くにはグレイフィアさんも控えていた。

 

「ただいまミリキャス。また大きくなったわね」

 

ミリキャスと呼ばれた少年と部長はスキンシップを取る。髪の色からして部長の親類か何かと言ったところだろうか。

 

「ミリキャス、私の新しい眷属達に自己紹介してくれないかしら?」

 

「はい。ミリキャス・グレモリーです。よろしくお願いします」

 

「ミリキャスはお兄様の子供で私の甥よ」

 

「えっ!?」

 

部長の親類だろうなとは思ったが、まさかサーゼクス様の息子とは・・・・・さすがに驚いたな。

 

って、そんなことより挨拶挨拶・・・・・

 

「初めましてミリキャス様。私は兵藤一誠。リアス様の兵士(ポーン)でございます」

 

「ビ、僧侶(ビショップ)のアーシア・アルジェントです!」

 

騎士(ナイト)のゼノヴィア・クァルタだ」

 

俺、アーシア、ゼノヴィアの新眷属3人でミリキャス様に自己紹介をする。ゼノヴィアはあまり畏まってる様に見えないが、まあそれは本人の性格的なところもあるだろうから気にしないでおこう。

 

それにしてもサーゼクス様の子供・・・・・母親は多分グレイフィアさんだろう。魔王とその女王(クイーン)の血を引くとなれば素質は十分以上と言えるだろう。鍛え方次第では・・・・・・化けるだろうな。

 

(随分と楽しそうじゃないか相棒?)

 

(ドライグ?楽しそうって・・・・・お前にはそう見えるか?)

 

(ああ。お前は戦いに楽しさを見出すタイプだからな。今は違うとはいえ、将来的に圧倒的な強者となる可能性を秘めた存在を目の当たりにし喜んでいる・・・・・といったところか?)

 

おそらくドライグの言う通りなのだろう。ヴァーリとの戦いで自分の戦いに対する欲望を知った今の俺は、強者の存在に歓喜するようになった。

 

圧倒的な強者との戦いは、どんな娯楽よりも俺を楽しませてくれる。まあ、コカビエルの時のように心が憎しみに染まっていなければの話だが。

 

ともかく、俺にとって強いものが居るという事実はこの上なく嬉しいものであった・・・・・この冥界でミリキャス様のほかに俺を歓喜させてくれる強者はいったいどれだけいるだろうか?

 

そんな奴らと会えるなら・・・・・・・冥界に訪れたかいがあるというものだろう。




ミリキャスくんは将来超越者に数えられることになりますしね・・・・・一誠さんからしたらそれほどの強者の存在は嬉しいのでしょう

本当に彼はヴァーリさんに引けを取らない戦闘狂だなぁ・・・・・

それでは次回もまたお楽しみに!


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第72話

今回は一誠さんとリアスさんの母親であるヴェネラナさんとのお話です

私独自の解釈が入ってますのでご容赦を

それでは本編どうぞ


「ここを我が家だと思って楽しんでくれたまえ。必要なものがあればメイドに用意させよう」

 

夕餉の席にて、部長のお父様が俺達に促してきた。厚意は嬉しいのだが、さすがにこんな城のような家では気を遣ってしまう・・・・・うちもリフォームしてかなり大きくはなったが、この城はその比ではないわけだしな。

 

「一誠くん、ご両親は元気かな?」

 

「ええ。リアス様のご両親にくれぐれもよろしくと言っていました」

 

「そうか。ふふっ・・・・彼とは非常に話しが合う。機会があればまた酒を酌み交わしたいものだ」

 

どうやら俺の父親をえらく気に入っているようだ。まあ、その理由は酒がらみであるのだろうが。父さんもまた一緒に飲みたいと言っていたし。

 

「一誠さん・・・・とお呼びさせてもらうわね。少しいいかしら?」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

今度は部長のお母様、ヴェネラナ様が俺に声をかけてきた。髪は茶色だが、部長によく似た・・・・・いや、部長の方がヴェネラナ様に似ているといった方がいいのか。ともかくかなり美女だ。かなり若く見えるが、悪魔は年を経れば容姿を魔力で自由にできるらしい。実際、部長の兄であるサーゼクス様も若く見えるが部長とは数百歳も歳が離れているそうだしな。

 

「あなたには冥界に滞在中、マナーのお勉強をしていただきます」

 

「マナーの・・・・ですか?」

 

「お母様?いったい何を?」

 

「一誠さんに自覚はないでしょうが、あなたの名前は悪魔達の間で広く知れ渡っています。次期グレモリーの党首であるリアスの眷属であり、今代の赤龍帝であり、そしてあの堕天使の幹部コカビエルをも打ち倒すほどの強さを持ったあなたは注目の的です」

 

そ、そんなになのか・・・・・・自分のあずかり知らないところで自分の名が知れ渡っているというのはなんか複雑な気分だ。特に有名になりたいという欲求もないし。

 

「それとマナーの勉強にどのような関係が?」

 

「これほど名が知られてしまった以上は、一誠さんが社交界に顔を出す機会は必ず訪れます。貴族の間で一誠さんを招待したいという話も飛び交っていますので」

 

なるほど、納得した。つまりその時無礼を働いては部長の名を汚すことになりかねないということか。正直マナーの勉強をしている暇があったら修行していたいのだが、主に汚名を着せるわけにはいかない。きっちりと勉強させてもらおう。

 

「そういうことでしたらぜひお願いいたします」

 

「そう言ってもらえて何よりだわ。ではさっそく明日から学んでもらいましょう」

 

こうして、マナーの勉強をすることとなった・・・・・正直自信は皆無だから頑張ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふっ、さすがに鍛えているだけあって体幹がいいですわね」

 

「は、はあ・・・・・どうも」

 

冥界に訪れて二日目、なぜか俺はヴェネラナ様とダンスのレッスンをしていた。確かにマナーの勉強をするとは言ったが・・・・・なぜ一番最初がこれなのだろうか?

 

「ワン、ツー、スリー・・・・・ここでターン。いいですね。少し教えただけでここまでのレベルに至れるなんて、一誠さんにはダンスの才能が有ります」

 

「ありがとうございます」

 

正直、必要になるとはいえダンスが好きなわけではないのでダンスの才能があると言われても嬉しくはないのだが・・・・・・まあ、それでも褒められているのだから感謝の言葉で返すのが礼儀だろう。

 

「では少し休憩しましょう。休憩後はさらにハードな・・・・タンゴの練習をしてみましょう」

 

「すみません、ダンスのこと詳しくないですけどタンゴって明らかに素人がどうこうできるものじゃないですよね?」

 

あまりの無茶ぶりに思わずツッコミを入れてしまった。というか、社交界のダンスでタンゴってあるのか?詳しくないからわからないけど。

 

「まあ、細かいことはお気になさらず」

 

「いえ、さすがに気にするのですが・・・・・」

 

なんだろう・・・・・この部長を思わせるやや強引な一面は。部長はやはりヴェネラナ様に似たのだろう。

 

ともかく休憩しよう・・・・・なんかもう疲れた。トレーニングの時よりは体は動かしてないから身体的な疲労はないけど、精神的にすっごい疲れた。

 

・・・・・と、そうだ。せっかくだしヴェネラナ様に聞いてみるかな。

 

「ヴェネラナ様、よろしいでしょうか?」

 

「何かしら?」

 

「私はリアス様とライザー様の婚約を台無ししてしまったのですが、そのことに関して・・・・・怒っていないのでしょうか?」

 

部長とライザーの婚約をかけたレーティング・ゲーム。そのゲームにおいて、俺はライザーを倒した。それはすなわち、俺が破談させてしまったも同義だ。あの婚約は部長とライザーだけでなく、グレモリーとフェニックスを繋ぐ縁談だった。それを台無しにされたとあれば普通は怒りをあらわにすると思うのだが・・・・・果たしてどうなのだろうと気になり尋ねてしまった。

 

「そのことですか・・・・・・確かに、何も感じていないといえば嘘になります」

 

やはり、ヴェネラナ様としても思うところはあるらしい。

 

「ですが・・・・・それはグレモリー家のヴェネラナとしてです。リアスの母、そして一人の女としては一誠さんには感謝しています」

 

「俺に感謝・・・・・ですか?」

 

「リアスはライザーとの婚約を嫌がっていた。私はグレモリー家の者として、そのような我儘は許さないとあの子をよく叱っていました。ですが・・・・・その一方で、あの子には望む相手と添い遂げてほしいとも思っていました」

 

「それは母親としてですか?」

 

「ええ。娘が好きな相手と結婚する・・・・・それを喜ばない親はいません。それに何より・・・・自分の相手を自分で選ぶというのはやはり女として幸せなことだと思いますから」

 

自分の相手を自分で・・・・・

 

「失礼ですがヴェネラナ様は・・・・・」

 

「私は元々バアル家の出身です。もっとも、私は納得した上で嫁いでいますし、夫のことも愛しているので後悔はありません」

 

ヴェネラナ様はバアルの・・・・・後悔はないとは行っているが、色々と家の事情が絡んでいただろうから、自由な恋愛ではなかったのだろうな。

 

それにしても・・・・・確か部長の使っている滅びの力は本来グレモリーのものではなかったんだっけな。そこまではまだ勉強してなかったけど・・・・・あの力はバアルのものっていうことか?

 

「ライザーの件もありますし、私はこれ以上あの子の我儘を許すつもりはありません。ですが、我儘を超えない範囲であればあの子の意思を尊重しますし、そのためのお膳立てをすることもやぶさかではないと思っています。今一誠さんを指導しているのもリアスが・・・・・」

 

「え?」

 

「・・・・・なんでもありません。少しおしゃべりが過ぎてしまったようですね」

 

誤魔化すように微笑を浮かべるヴェネラナ様。

 

この誤魔化し方はもしかしてヴェネラナ様は俺は部長にあてがおうと?そのために俺にマナーやダンスを教えているのは部長のために・・・・・・

 

だとしたら困ったな。部長の俺に対する感情は理解している。だが・・・・・それでも俺はその思いを受けい入れることはできない。俺は・・・・・俺には誰かを愛する資格も、誰かに愛される資格もないのだから。

 

そしてそれはきっと部長も理解して・・・・・

 

「さて、休憩はここまでにしましょう。一誠さん、ダンスレッスンの続きを」

 

「・・・・・はい」

 

ヴェネラナ様の一声で、ダンスレッスンが再開される。

 

はたしてこのレッスンはいったい誰のためのものなのか・・・・・・わからないけれど、必要になるというのならやるしかない。

 

どこでどう必要になるのか・・・・・・それは今ここで考えることではないだろう。




正直貴族の婚約の問題は複雑そうで私では理解しきれない・・・・・

家同士でいろんな目論見はあるんだろうなぁ

それでは次回もまたお楽しみに!


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第73話

今回は若手悪魔の会合の話になります

一話じゃ収まりきらなかったので次回も続きますが・・・・・

それでは本編どうぞ


 

旧王都ルシファード。今日はここで行われる若手悪魔の顔合わせが行われ、それに参加する部長に俺達もグレモリー眷属として同行していた。

 

「いい皆?これから何が起きても平常心でいるのよ。この先に居るのは将来の私達のライバル。無様な姿は見せられないわ」

 

控室に向けて歩を進めながら部長は俺達に促してくる。確かに、この場で部長の顔に泥を塗るようなことはあってはならない。一眷属として恥ずかしくない振る舞いをしなければな。

 

「おお、来たかリアス。久しぶりだな」

 

まもなく控室に到着するというところで、部長に声をかけるものが現れた。

 

「あら、サイラオーグ。変わりないようで何よりだわ」

 

「そちらこそな」

 

サイラオーグと呼ばれる男と部長は挨拶を交わす。部長の態度からして、おそらく部長と同期の若手悪魔といったところだろう。

 

「彼はサイラオーグ・バアル。私の同期で、私の母方の従兄弟でもあるわ」

 

どうやら彼は部長の従兄弟であるらしい。ヴェネラナ様がバアル家の出身であることは先日聞かされていたので、そこまでの驚きはなかった。

 

「ん?お前・・・・・兵藤一誠か?」

 

俺の方へと視線を向けたサイラオーグさんが声をかけてくる。

 

「ええ、そうですが・・・・・バアル様は俺のことをご存じで?」

 

「サイラオーグでいい。バアルと呼ばれるのは慣れていなくてな。それとお前のことに関しては良く耳にしている。今代の赤龍帝にしてあの堕天使コカビエルと打倒したお前は冥界でも有名だからな」

 

「・・・・・そうですか」

 

どうやら俺の名は、俺が思っている以上に広まってしまっているらしい。正直不本意もいいところだが、俺の名が広まることは俺の主である部長の評判にもつながるので心境としては複雑だ。

 

「今日はお前に会うことも楽しみにしていた。一体どれほどの強者なのかと期待していたが・・・・」

 

「期待外れだったでしょうか?」

 

「いいや、その逆だ。一目見ただけでも相当に鍛えていることがわかる。そこに至るには血反吐を吐くほどの修行を重ねたのだろう。お前は俺の期待以上の強者だ」

 

嬉しそうに微笑みを浮かべるサイラオーグ様。なぜそんなふうに微笑みを浮かべるのか・・・・・俺にはその気持ちが理解できた。このひとはきっと、気質としては俺やヴァーリに近いところにいるのだろう。

 

「兵藤一誠。お前とはいつか拳を交えたいと思う。その時は全力で相手をしてくれるか?」

 

「ええ。俺でよければぜひとも」

 

突き出しされたサイラオーグさんの拳に、俺もまた拳を突き合わせた。俺よりも大きな拳は、貴族の手とは思えないほどに硬く、ごつごつしている。サイラオーグ様は一目見て俺がどれだけ鍛えているのか見抜いていたが、それは俺も同じだ・・・・サイラオーグ様は相当に、もしかしたら俺以上に鍛えているのかもしれない。

 

間違いなくサイラオーグ様は部長やライザーとは違い、己の肉体で戦うファイターだ。上級悪魔のイメージにはそぐわないが、それでも相当な力を有しているというのはわかる。臨戦態勢に入っていないのに・・・・・・感じる闘気はあるいはコカビエル以上かもしれない。

 

戦ってみたい。このひとと・・・・・サイラオーグ様と。ここまで純粋に戦いを楽しみたいと思う相手は、あるいはサイラオーグ様が初めてかもしれない。このひとは、そう思わせるに足るほどの強者なのだ。

 

「ところでサイラオーグ、控室はすぐそこなのにこんなところでなにをしているの?」

 

俺が闘争心を胸に抱いているところで、部長がサイラオーグ様に尋ねた。

 

「なに、くだらんから抜け出してきただけだ」

 

「くだらない?一体何が・・・・・」

 

何があったのかと、部長がサイラオーグ様に尋ねようとしたその瞬間、控室の扉が吹き飛び、部長の言葉を遮ってしまった。

 

「な、なに?」

 

「着いた早々に、ゼファードルがシークヴァイラに絡んでな」

 

「ゼファードル・・・・・あの問題児ね」

 

「ああ。だからデビュー前の会合など不要だと進言したんだがな」

 

話を聞く限りでは、ゼファードルという者が厄介を起こしているらしい。

 

ひとまず、壊された扉から部屋い入る俺達。真っ先に目に飛び込んできたのは言い争いをする二人の男女であった。

 

「死にたいのゼファードル?今ここで殺しても上に咎められないかしら?」

 

「あ?そんなこと言ってるからいまだに男が寄り付かねえんだろ?何なら俺が開通式してやろうかくそアマ!」

 

「・・・・・・あの、部長。とても口が悪い男が居るんですがあれがゼファードル・・・・・様でよろしいのでしょうか?」

 

「ええ。そうよ」

 

どうやらあの思わず様付けを忘れそうになるほど下品な男がゼファードルのようだ。まあ、女性・・・・・おそらくシークヴァイラ様だな。そっちも物騒なことを言ってるのだが、それでも俺としてはゼファードルよりはマシだ。

 

「血の気の多い連中を集めるのだからこういうことも起こる。つまらん諍いには関わり合いになりたくはなかったが・・・・・・仕方ないな」

 

ため息を吐きながら、二人に近づいていくサイラオーグ様。どうやら仲裁に入るようだ。

 

「一誠、よく見ておきなさい。サイラオーグは・・・・・」

 

「若手の中では最強・・・・・ですよね?」

 

「・・・・・そうよ。まあ、あなたならそれぐらいのことはわかって当然よね」

 

部長に言われるまでもなかった。サイラオーグ様以上の悪魔が若手の中に居るとしたら驚くどころの話ではないからな。

 

「そこまでにしろシークヴァイラ、ゼファードル。これ以上続けるというなら強制的に黙ってもらうぞ?」

 

「サ、サイラオーグ・・・・・」

 

「あ?バアル家のできそこないが舐めた口きいてんじゃねぇ!」

 

サイラオーグ様の介入でシークヴァイラ様はたじろぐが、ゼファードルの方はサイラオーグ様まで挑発してしまった。正直愚かだと思う。サイラオーグ様はちゃんと忠告したというのに・・・・・

 

「・・・・・忠告はした。悪く思うな」

 

「アガッ!?」

 

ゼファードルの顔面に拳を振るうサイラオーグ様。その威力にゼファードルの身体は吹き飛び、奥の壁に激突していた。おそらく、あれでも相当加減はしていただろう。

 

「これはまた・・・・派手にやったようね」

 

「あら、ソーナ」

 

ひとまず厄介ごとが収束したのと同時に、ソーナ様が現れた。ことの一部始終は見ていたらしく、若干呆れている。

 

「よう兵藤。初めての社交場はどうだ?」

 

「匙か・・・・・正直、とても一般的な社交場ではお目にかかれないような光景を目の当たりにして面を喰らってるよ」

 

「ま、まあ確かにさっきのはな・・・・・けどまあ、特別に俺がお前に今日集まった若手悪魔達のことを説明してやるよ」

 

説明してくれるのはいいのだが、なんでこいつはこんなに偉そうなのだろうか・・・・・まあ、気にはなっていたので一応聞くが。

 

「リアス先輩とうちの会長を除いて、今日集まった若手悪魔は6人。大王バアル家のサイラオーグ様、大公アガレス家のシークヴァイラ様、現ベルゼブブ様を輩出したディオドラ様、そして現アスモデウス様を輩出したゼファードル・・・・・・様だ」

 

こいつ一瞬ゼファードルに様を付けるの忘れかけてたな。まあ気持ちはわかるが。

 

「大王に大公、そして現四大魔王を輩出した6家・・・・・まだ悪魔になって日が浅い俺でも、この世代は圧倒されるな」

 

「圧倒される?そんなこと言うなよ兵藤。お前だってリアス様の自慢の眷属なんだぞ?一部では若手悪魔の眷属の中では最強だって言われてるんだからな」

 

「だからなんで俺の預かり知らないところで名前が広がるんだよ・・・・・・」

 

確かに最強と言われるのは悪い気はしないけども・・・・・それでも頭が痛くなる。

 

「ほんと、お前が羨ましいよ・・・・・俺も会長の自慢の眷属になってみたいさ」

 

「そう思うなら、結果を残さないとな。こう言っちゃなんだが、結果が伴ってなければ自慢なんてできるわけないしな」

 

「わかってる!だから俺は、この冥界にいる間に一つでも何か結果を残してやるって決めてるんだ!」

 

どうやら相当意気込んでいるらしい。その意気込みが空回りしなければいいが・・・・

 

「まあ、応援ぐらいはいくらでもするさ。頑張れよ匙」

 

「おう!」

 

少し上からものを言いすぎな気もするが・・・・これぐらいでいいだろう。俺は一応、匙にとって目標なわけだしな。

 

匙がどれだけ結果を残せるか・・・・・お手並み拝見だ。

 

 

 

 




案の定、サイラオーグさんとの邂逅により歓喜する一誠さん

サイラオーグさんも一誠さんも強くなるために鍛えているので通じるところはあるのでしょう。ただ実際は・・・・・

それでは次回もまたお楽しみに!


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第74話

今回も会合の話になります

それでは本編どうぞ


 

(場違い感が半端ないな)

 

俺達若手悪魔が通された部屋・・・・そこには魔王様達と偉そうにふんぞり返っている老年の悪魔達が居た。ここで部長達上級悪魔達の会合が行われるのだが・・・・あまりいい気分はしない。魔王様達はともかくとして、偉そうな連中に品定めされている気がして落ち着かなかった。しかも、何人かは俺の方を見てひそひそ小声で話しているし。たぶん俺が今代の赤龍帝だからなんだろうが・・・・正直、鬱陶しいと思ってしまった。

 

「さて、よく集まってくれたな。これは次世代を担う貴殿たちを見定めるための会合・・・・・早速やってくれたようだが、まあいいだろう」

 

初老の男性悪魔がゼファードルの腫れた頬を見ながら言う。まあ、こういった席でああいう顔で出てくるのは確かに問題があるだろう。それ以前に、そうなっただけの過程があったというのもどうかと思うが。

 

「君達6人は家柄、実力共に申し分ない次世代を担う悪魔達だ。だからこそデビュー前に競い合い、力を高い合ってもらいたい」

 

一番上段の席に座るサーゼクス様が言う。競い合うというのはおそらくレーティング・ゲームを行うということだろう。この場に居合わせた悪魔達の実力は気になるところ・・・・この提案は俺にとっても嬉しいものであった。

 

「近いうちにエキシビジョンという形でレーティング・ゲームを行う。このレーティング・ゲームは我々だけでなく天使や堕天使達、そして他神郡の有識者も観戦することとなっているので、存分に君達の力を見せてもらいたい」

 

天使や堕天使、そして他の神郡までもか・・・・・各勢力の交流や、レーティング・ゲームの有用性のアピールも兼ねているのかもしれないな。だったらなおさら、部長の眷属悪魔としては恥ずかしいところを見せられない。

 

「力を高め合う・・・・というのは例のテロリスト、禍の団(カオス・ブリゲード)に対抗するためでもあるのですか?」

 

サイラオーグ様がサーゼクス様に尋ねる。

 

「それはまだ断言できないが、できる限り若い悪魔達は投入したくないと思っている」

 

「なぜですか?我々とて戦力の一端を担えると自負しております」

 

「それは理解している。だが、君達はまだまだ若く、そして将来有望だ。万が一君達を失うことがあっては悪魔にとって致命的な損失となる。それだけ我々にとって、君達若手は宝なのだよ」

 

「・・・・・・わかりました」

 

サイラオーグ様は完全に納得できていない様子であったが、それでも了承の返事を返した。確かに、サオラオーグ様なら滅多なことでは万が一は怒らないかもしれない。このひとはきっと・・・・・コカビエルやヴァーリにも引けを取らない猛者だろうからな。

 

「さて、それでは次に君達の今後の目標について聞かせてもらおう」

 

「俺は魔王になるのが夢です」

 

(ッ!?)

 

サイラオーグ様が言葉を発した瞬間、俺は思わず息を呑んでしまった。

 

言葉だけでも十分に窺い知れる・・・・・サイラオーグ様は、計り知れないほどの覚悟を持って、その言葉を口にしているのだと。その言葉に・・・・・自らの未来をかけているのだと。

 

「大王家から魔王か・・・・・出るとしたら前代未聞だな」

 

「俺が魔王になるしかないと冥界の民が感じたのなら、そうなるでしょう」

 

男性悪魔のその言葉に、サイラオーグ様はきっぱりと言い切った。やはりこのひとの想いは本物だ。どういう経緯があり、魔王を目指しているのかはわからないが・・・・・サイラオーグ様ほどの男が語る夢だ。部長の眷属である俺でも応援したくなる。

 

なのだが・・・・なぜだ?なんで俺はこんな・・・・

 

「私はグレモリーの次期当主として生き、私の眷属と共にレーティング・ゲームの各大会を優勝するのが近い将来の目標ですわ」

 

俺が自身の中に芽生えた感覚に戸惑っていると、部長が目標を口にした。部長の目標はサイラオーグ様のものと比べると壮大とは言い難いが、それでも部長らしさを感じるものであった。

 

一兵士として、俺もその部長の目標の礎にならなければな。

 

「私は・・・・・冥界にレーティング・ゲームの学校を建てたいと思います」

 

部長の次に、ソーナ様が言葉を発した。

 

学校か・・・・ソーナ様はそんなことを考えていたのか。まあ、学び舎というのは必要なものだ。いい目標だと素直に思う。

 

だが・・・・・俺の思いと比べ、お偉様方の反応は芳しくなかった。

 

「レーティング・ゲームを学ぶ場ならば既にあるはずだが?」

 

「承知しております。ですが、それは上級悪魔と一部の特権階級の悪魔のみしか行くことができません。私が目標としているのは、階級や身分の垣根を超え、誰もがレーティング・ゲームを学べる分け隔てない学び舎です」

 

誰もが学べる分け隔てのない学び舎・・・・・それは素晴らしいものであると思う。だがそれは、元々人間であった俺の感想。元々位の高い悪魔として生まれた彼等は・・・・・そう思うことはないだろう。

 

「ふはははははっ!これは傑作だ!」

 

「そのような無理を口にするとは、夢見る乙女というわけですな」

 

「デビュー前だから良かったものの、デビュー後にそのようなことを口にしてしまっては大恥をかいていたところだ」

 

お偉方の口から出るのは否定の言葉、あるいは嘲笑であった。この方々はソーナ様の夢に価値を見出していないどころか、無駄だとさえ思っている。

 

「・・・・・木場、これが悪魔の現状か?」

 

「そうだね。変わりつつあるといっても、上級、下級、転生悪魔の間の差別意識はなくなっていない。古い悪魔ほど、その意識が深く根付いていて、それを当たり前のように感じているんだよ」

 

木場から返ってきた答えを聞き、嘆かわしいと思ってしまったのはやはり俺が元々人間だったからなのだろう。俺と彼らとでは決定的に価値観が違う。だからこそ、ソーナ様の夢に対して抱いた印象に差がありすぎるのだろう。

 

「忠告いたしましょうソーナ・シトリー殿。下級悪魔、転生悪魔は上級悪魔である主に仕え、才能を見出されるのが常。いくら冥界が変わりつつあるとはいえ、有象無象に教育の場を与えるのは無駄というもの。伝統と誇りを重んじる旧家の顔を潰すことになる。事実、あなたのその発言はシトリー家の顔に泥を塗るようなものです」

 

「黙って聞いてれば好き勝手・・・・会長の、ソーナ様の夢の何がおかしいっていうんですか!俺達は本気なんです!本気で夢を叶えるために努力してるんですよ!」

 

お偉方の物言いに我慢ができなくなったのか、匙が激情を露わにする。だが・・・・駄目だな匙。お前の言ってることは間違ってると思わない。思わないが・・・・・これはそういうことじゃないんだよ。お前がそこで怒ったって意味がないんだよ。

 

「・・・・・私の眷属が失礼しました。あとで言い聞かせます」

 

「なんで謝ってるんですか会長!俺、間違ったことなんて・・・・」

 

「お黙りなさい匙。この場はそういった態度を示す場ではありません。私は将来の目標を語っただけ・・・・それだけなのです」

 

「ッ!?」

 

匙を咎めるソーナ様。そう、ソーナ様はわかったうえで語ったのだ。

 

嘲笑など覚悟のうえ。否定など承知のうえ。それでも、ソーナ様は強い意志と覚悟を持って、恥じることなく、臆面もなく自分の夢を口にした。

 

尊いと思う。健気で・・・・・強いと思う。ソーナ様の思いは尊敬にも値するものだろう。

 

だが・・・・・

 

(まただ・・・・・どうして俺は?)

 

サイラオーグ様の時と同じように、またしても俺の胸中にあの感覚が芽生えた。本心で尊敬している。本心で強いと思っている。だというのに俺の中で・・・・・・・なぜ言い様のない苛立ちが芽生えているのだろう?

 

一体なぜ・・・・・・?

 

「だったら、うちのソーナちゃんがゲームで勝てば文句ないんでしょ!ゲームで勝てばソーナちゃんの夢を叶えることだってできるはずだもん!」

 

我慢の限界とばかりに、ソーナ様の姉であるセラフォルー様が言葉を発した。

 

「おじさま達ったら寄ってたかってソーナちゃんを虐めて・・・・・私だって我慢の限界があるんだよ?あんまり虐めると、今度は私がおじさま達を虐めちゃうんだから」

 

そのセラフォルー様の一言で、お偉方は黙り込んだ。現レヴィアタンであるセラフォルー様からの虐めなど・・・・考えただけでもおぞましい。

 

「ふむ・・・・・ならちょうどいい。こういうのはどうだろう?」

 

セラフォルー様の言葉を聞き、どうやらサーゼクス様は何かを思いついたようだ。

 

「リアス、ソーナ・・・・・二人で戦ってみないか」

 

「「・・・・え?」」

 

サーゼクス様の提案に、部長とソーナ様はきょとんとした表情を浮かべる。

 

こうして、俺達グレモリー眷属とシトリー眷属のレーティング・ゲームが執り行われることとなった。




一誠さんに芽生えた謎の苛立ち・・・・・これについてはいづれ判明していきます

一誠さんの歪みにも関係しておりますので・・・・・

それでは次回もまたお楽しみに!


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第75話

今回はグレモリー眷属のトレーニングメニューに関するお話し

おおよそは原作通りですが・・・・・

それでは本編どうぞ


 

ソーナ様率いるシトリー眷属とのレーティング・ゲームを控え、俺達グレモリー眷属は戦力アップの為にアザゼル先生監修の下、各々修行を行うこととなった。

 

「よし、皆集まったな。これから各々の特性に合わせたトレーニングメニューを渡す。まずはリアスだな」

 

最初は部長にトレーニングメニューが渡されるようだ。

 

「お前は最初から才能、身体能力、魔力が高水準だ。何もせずとも数年後には最上級悪魔候補になっているだろう。だが、お前は今強くなりたいんだろ?」

 

「ええ。もっと強くなりたいの」

 

部長の表情は苦々しい。おそらく、ライザーとおレーティング・ゲームのことを思い返しているのだろう。結果としてゲームに勝利はしたが、部長はライザーに敵わなかった。

 

「なら、このメニューをゲーム当日までこなせ」

 

「特別凄いメニューには思えないけれど?」

 

「総合力の高いお前は、基本的なトレーニングだけで能力は十分に高められる。問題は(キング)としての資質だ。どんな状況であっても打破できる思考と機転、判断力が必要になる」

 

確かに、部長は俺達眷属を導くカリスマ性には溢れているが、その辺りは経験不足もあってまだ洗練されていないように思える。まあ、俺も大して高くはないから人のこと言えないが。

 

「だから過去のゲームの記録を見て学ぶことが私のメニューなのね」

 

「そうだ。王である以上、強いに越したことはないが、王は強さ以上に眷属の力を引き出すことが重要だ。過去、レーティング・ゲームにおいても王の強さは大したことなくても、眷属の力を引き出すことでタイトルを獲得している者もいる。王としての資質を磨け。もちろん、基礎トレーニングと併用してな」

 

「わかったわ」

 

「次に朱乃、お前は自分の中に流れる血を受け入れろ」

 

「ッ!?」

 

アザゼル先生の言葉に、朱乃は表情をこわばらせる。

 

「フェニックス戦の記録を見たが、あのゲームはお前が堕天使の力を振るっていればもっと楽に勝てたはずだ。堕天使の光の力を雷に乗せ、雷光にすれば相手の女王(クイーン)を倒すのも苦ではなかっただろうからな」

 

「私はあのような力に頼らなくても・・・・!」

 

「そうやって逃げ続けるか?ならお前は今後の戦闘で邪魔になる。お前だってわかっているんじゃないか?」

 

「それは・・・・・」

 

「自分に流れる血を否定するな。全力を出さずに勝てると思うなよ」

 

「・・・・・」

 

黙ってアザゼル先生に渡されたトレーニングメニューを見つめる朱乃先輩。その心境を推し量ることは俺にはできない。

 

「次は木場とゼノヴィアだな。木場は禁手(バランス・ブレイカー)状態をより長く維持するためのトレーニングだ。剣術は師に改めて教わるそうだな?」

 

「はい。また一から指導してもらうつもりです」

 

「お前の師のことは俺も知っている。剣術に関してはそれで大丈夫だろう」

 

木場の師か。どんなやつなのか気になるな。剣術に関しては俺も他人ごとではないからな。

 

「ゼノヴィアはデュランダルを使いこなすことが第一目標だ。あとは、細かい力のコントロールも覚えろ。パワーがあるのは結構だが、そればかりに頼れば手痛いしっぺ返しを食うこともあるからな」

 

それに関しては俺も気を付けないとな。俺も基本的にはパワー型だし。

 

「それと、お前達二人には他にもやってもらうことがある」

 

「他にも」

 

「一体なんだ?」

 

「ちょっとしたことだ。自分の剣術を見つめ直す機会にもなるだろうからまったく損になるようなことじゃない」

 

他にやってもらうこと・・・・・それは多分、俺に関することだろうな。二人の力を借りないことには独学じゃ限度があるからな。

 

「次にギャスパー。お前ははっきり言って素質だけならグレモリー眷属最強だ。血筋も神器(セイクリッド・ギア)も相当なものだからな」

 

確かに、正直ギャスパーの潜在能力は底が知れない。いつか追い抜かれる気がしてならないしな。

 

「だが、その素質を今はまだ活かしきれてない。その最たる原因は恐怖心だ。敵に臆することなく立ち向かうことさえできれば、それだけでお前は強力な戦力になる。引きこもり脱出計画を組んだから、最低でも人前で動きが鈍らないようにしろ。あとは、肉体トレーニングも継続しておけ」

 

「は、はい!当たって砕けろの精神で頑張りますぅぅぅ!!」

 

「そう思うならまず段ボールに籠るのをやめろ・・・・・」

 

意気込みながらも、段ボールの中に閉じこもるギャスパーに、思わず呆れてしまう。素質は高いんだが・・・・・先が心配である。

 

「次はアーシアだ。アーシアは基礎トレーニングを中心に身体と魔力の向上を図るが、それは神器の強化を見越してのことだ」

 

「アーシアの回復能力はすでに完成形に近いと思うのだけれど」

 

「回復自体はな。だが、弱点が無いわけじゃない。回復できる範囲が狭く、回復中は無防備になってしまう。相手だって回復が終わるのを黙って待ってくれるわけないだろう」

 

まあそうだろうな。俺だったら回復が終わる前か、回復する前に叩く。

 

「もしかしてアーシアの神器の強化って・・・・」

 

「回復範囲の拡大だ。聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)の真骨頂はそこにあるからな。効果範囲内であれば、複数人の同時回復だって可能だ」

 

「それが本当なら、アーシアの戦場での役割はとんでもないことになるわね」

 

部長の言う通りだ。遠距離回復が可能なら、グレモリー眷属は何倍も強く大きくなる。

 

ただ気になるのは・・・・・

 

「問題はアーシア自身の性格だな」

 

「アーシアの性格?」

 

「アーシアは優しすぎる。戦場で傷ついた者を見てしまうと、敵味方に関わらずに回復してしまう恐れがある」

 

だろうな。敵にさえ情を抱いてしまうほどの優しさはアーシアの長所だが、戦いにおいては欠点となってしまう。

 

「だからこそ、伸ばすのは別の方向性。広範囲回復ではなく回復効果を飛ばすやり方だ」

 

「回復効果を飛ばす?」

 

「ああ。飛び道具のように飛ばせば直接触れなくても回復できるようになる。理論上は可能だ。もっとも、直接触れるより回復量は落ちるだろうが。それでも、遠距離回復が可能になれば戦略性は増す」

 

「そうね。攻撃に徹する前衛、回復などでサポートする後衛、攻撃しつつ後衛を守る中衛。シンプルだけれど強力なフォーメーションだわ」

 

「もちろん、場合によってはそのフォーメーションも変更する必要はあるが、それでもアーシアの回復能力はこのチームも持ち味であることには変わらない。それを活かすためにも、アーシアの体力向上は必須だ」

 

「はい!頑張ります!」

 

自分の能力がチームの要になるとわかり、意気込むアーシア。俺としてもアーシアの成長には期待したいところだ。

 

「次は小猫。お前は戦車(ルーク)として攻守両面共申し分ないが、このチームにはお前以上に攻撃に特化している奴が多い」

 

「・・・・・・わかっています」

 

アザゼル先生の言っていることがもっともであることを理解しているようで、小猫は少々悔しそうにしていた。

 

「お前のやるべきことは朱乃と同じだ。自分を受け入れろ。自身の力を解放しなければ成長は見込めない」

 

朱乃先輩と同じ?小猫も朱乃さんと同じように特殊な血筋をしているということなのか?同じグレモリー眷属だというのに、俺には知らないことが多すぎるな・・・・・これも俺にとっては課題なのかもしれない。

 

「最後に一誠、お前は現状、このチームの中では最強の戦力だ。というより、悪魔全体を見ても圧倒的上位に位置する強さを身につけている。だが、それでもお前には欠けているものがある」

 

「実戦経験ですか?」

 

「そうだ。強さに対して実戦経験が釣り合っていない。頭は悪くないが、経験不足故に機転が利かないことも多い。ヴァーリとの戦いの時がいい例だ。結果的に力押しでどうにかなったが、もっといい手段もあったはずだ」

 

それに関してはぐうの音も出ない。あの時は楽しくてテンションが上がってしまったとはいえ、ノーガードで殴りまくるなど、作戦としては下の下もいいところだ。

 

「だからお前には実戦経験を積んでもらう。相手は・・・・・・お、来たようだな」

 

俺達のいる場所に大きな影ができる。見上げてみると、巨大なドラゴンの姿が見に映り、ドラゴンは俺のすぐそばい降り立った。

 

「よく来てくれたなタンニーン」

 

「サーゼクス殿の頼みだから特別に来てやったんだ。そのことを忘れるなよ堕天使総督」

 

「わかってるよ。てなわけで一誠、こいつがお前の相手だ」

 

どうやらこのドラゴンが俺の相手らしい。

 

だが、タンニーンって確か・・・・・

 

『懐かしいなタンニーン』

 

「ああ。久しいなドライグ」

 

俺の中のドライグがタンニーンに声をかけ、タンニーンはそれに変事を返す。

 

「ドライグ、タンニーンって確か龍王の?」

 

『そうだ。六大龍王だった時の一匹だ』

 

「タンニーンは龍王だったが、わけあって悪魔に転生したんだよ。今じゃ転生悪魔の中でも最強クラス。最上級悪魔のひとりだ」

 

「ドライグから聞いたことがあります。魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)タンニーン。隕石の衝撃に匹敵するブレスを吐くと」

 

そんなとんでもないドラゴンが俺の相手とは・・・・うれしい限りだな。

 

「タンニーン、とりあえず小難しいことは抜きにして、このガキと戦いってやつを教えてやってくれ」

 

「俺にこの少年を実戦でいじめぬけというわけか。構わんが、途中で音を上げるようなら見捨てるぞ?」

 

『安心しろタンニーン。この宿主は歴代の中でも最強だ。ちょっとやそっとで音を上げるようなことはない』

 

「それはいいことを聞いた。では、手加減無しでやらせてもらおう」

 

本気の龍王のしごきか・・・・下手をすれば死ぬかもな。だが、それぐらいの方が修行としてはちょうどいいかもな。

 

「リアス嬢、あの山を修行の場に貸してもらえるか?」

 

「ええ。存分に鍛えてあげてちょうだい」

 

部長の許可を得て、ここから見えるなかでひと際大きな山が修行場になることとなった。修行が終わる頃には山の形が変わってしまうかもしれないが、許可を得ているので問題はないだろう。

 

「では行くぞ赤龍帝」

 

「はい」

 

タンニーン様と共に、山へ向かって飛び立つ。この修行でどれだけ強くなれるか・・・・・楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一誠は行ったな・・・・・よし。

 

「それじゃあ、一誠もいなくなったことだ。各自トレーニングを開始する前に大事な話をしておく」

 

「一誠が居ないのにかしら?」

 

「ああ。一誠が居ないからこそだ」

 

内容が内容だから、あいつの前じゃさすがに言えない。

 

「率直に言って、このチームの弱点は一誠だ」

 

言った瞬間、ほとんどの奴らが何言ってんだこいつみたいな目で俺を見てきた。そういう目で見られる覚悟はしていたが、それでも辛いものがある。

 

「何を馬鹿なことをと思っているかもしれないが、これは事実だ。だがそれは一誠が弱いという意味ではじゃない。お前達が一誠を頼りすぎているということだ」

 

「一誠を頼りすぎている?」

 

「そうだ。フェニックスとのレーティング・ゲーム。あれは一誠が居なければ間違いなく負けていた。何せあいつが相手の王も女王も倒しているわけだしな。聖剣騒動の時も、あいつは苦戦しながらも、自力だけでコカビエルを倒しちまったし、あのヴァーリとも互角に近い戦いをした」

 

その三つの功績は、グレモリー眷属にとって大きすぎた。故に、それが問題となってしまっている。

 

「ここにいる全員が思っているはずだ。一誠さえいれば大丈夫だと。俺はそれが弱点だって言ってるんだよ。一人に対して信頼を置きすぎるのは危険だ」

 

「「「・・・・・・」」」

 

俺の言っていることを理解し始めたのか、全員表情が険しくなっていた。

 

「一誠に頼り過ぎれば、いざという時の選択肢を狭めることとなる。追いつめられれば一誠に何とかしてもらおうと、お前達は思ってしまうはずだ」

 

「そんなこと・・・・・」

 

「そんなことない?それはないな。お前達は一誠に比べて弱すぎる」

 

こいつらは決して弱いわけではない。素質や将来性も踏まえてだが、全員が全員ポテンシャルはかなり高いといえる。

 

だが、それでも現状は一誠に大きく劣ってしまっている。

 

「今ここでこうして説明しても、お前達の一誠を頼る心理を完全には解消できないだろう。それだけあいつはお前達にとって大きすぎる存在になっていると思う」

 

「ならどうしろというのかしら?」

 

「強くなれ。一誠に引けを取らないほどに。一誠ではなく、一人一人がいざという時自分が頼られる存在になってみせると自分に言い聞かせろ。一誠に頼らず・・・・・・一誠に頼りすぎないようにな」

 

我ながら、少々きつい言い方をしていると思う。だが、これは必須事項ともいえる。

 

一誠を頼り過ぎれば、このチームはいつか必ず崩壊する。そして、頼られ過ぎれば一誠はいつかどこかで潰れてしまいかねない。

 

こいつらの『先生』になった以上はそれは必ず避けなければならない。

 

「・・・・・わかったわ。強くなって見せるわ。私達全員・・・・・一誠の為にも強く」

 

俺の言っていることを正しく理解できているらしいリアスが、力強く返事を返してくる。その眼には、強い意志が宿っているように思えた。

 

他の連中は、リアスほど理解できていない奴もいるだろうが、それでも俺が今言ったことを忘れることはないだろう。

 

「・・・・・俺からの話は以上だ。各自、メニューをこなしてくれ」

 

俺の一声で、各自トレーニングメニューをこなそうと動き始める。

 

頑張れよガキ共。俺にお前達が潰れるところなんて見せるんじゃねえぞ?

 

 

 




原作よりも好戦的なためタンニーンさんとの修行を喜ぶ一誠さん。修行は原作以上にハードになるかも・・・・・

そして一誠さんを頼りにしすぎていると指摘されたグレモリー眷属は今後どうなっていくのか・・・・・

それでは次回もまたお楽しみに!


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第76話

投稿が遅れてしまい申し訳ない・・・・・

今回はタンニーンさんとの修行のお話

戦闘描写は少ないですが・・・・

それでは本編どうぞ


 

赤龍の爪(ドラゴン・ネイル)

 

赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)を装着した状態で赤龍の爪を展開し、タンニーンさんに斬りかかる。禁手し、力も魔力も跳ね上がった状態で展開した爪はタンニーンさんの鱗を裂くほどの切れ味を誇っていたが・・・・・それでも、タンニーンさんの腕にはほんの数センチ程度しか食い込んでいなかった。

 

「いい攻撃だ!だがその程度では俺は裂けん!」

 

「ぐっ・・・・・!」

 

タンニーンさんは腕を振り払い、俺の身体は後方に大きく吹き飛ばされる。そして飛ばされた俺に向かって、タンニーンさんの火球のブレスが襲い掛かる。

 

「ちっ・・・・・赤龍の翼(ドラゴン・ウィング)

 

魔力で翼を作り出し、自分の身体を覆うようにして火球を受け止める。だが、火球の威力は俺の想像を上回り、翼は少しずつ溶かされていき、勢いで俺の身体はじりじりと後退していた。

 

「くっ・・・・・このぉぉぉぉぉ!!」

 

『Boost!Boost!Boost!』

 

鎧の能力で力を倍化し、どうにか踏みとどまることに成功した。そして、完全に溶かされてしまう前に翼を広げ、火球を打ち消した。

 

「はあはあ・・・・・・うおぉぉぉぉぉ!!」

 

『Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!』

 

「いいだろう!来い!」

 

体力を消耗し、息切れしつつも俺は力を高め、タンニーンさんに殴りかかる。タンニーンさんは俺の拳を受け止めるつもりなのか、その場で仁王立ちしている。

 

「ああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「ぐうっ!?」

 

タンニーンさんの腹部に、全力で拳を叩き込む。タンニーンさんの巨体は後ろに弾き飛ばされ、殴打によるダメージで体が大きくぐらついた。

 

いける。魔力による攻撃では大したダメージを与えることはできないようだが、肉弾戦なら・・・・・・タンニーンさんにもダメージを与えることができる。

 

「大したパワーだ。この俺にここまでのダメージを与えるとはな」

 

「まだまだこんなものではありません。もっともっと、俺の力を見せてあげますよ」

 

「おっと、そこまでにしておけ」

 

さらに力を高め、タンニーンさんに肉弾戦を仕掛けようとしたその瞬間・・・・・・アザゼル先生の声が聞こえてきた。

 

「何ですかアザゼル先生?今いいところなので邪魔しないで欲しいのですが・・・・・」

 

「邪魔したことは悪いと思っている。だが、いったん休憩したらどうだ?この地形の変わりようからして、相当長い間やり合ってたんだろ?」

 

「地形?」

 

周りを見てみると、確かにかなり地形が変わっていた。修行を始めた当初は木々の生い茂る森だったが、今は草一本も生えておらず、地面は割れたりクレーターのような凹みができている。

 

「とっ、確かに、だいぶ派手にやっちゃったみたいですね・・・・・・後で部長に怒られるかな?」

 

「それについては多分心配いらないだろう。リアスだってそれぐらい覚悟の上だろうからな。それよりも、ほれ。差し入れ持ってきてやったぞ」

 

アザゼル先生は手にしていた包みを俺の方に差しだしてきた。

 

「リアスと朱乃、それとアーシアからの弁当だ。お前が修行を頑張れるようにって張り切って作ってたんだからちゃんと全部食ってやれよ?」

 

「はい」

 

弁当か・・・・・そういえば修行の間、ロクに調理した食事を採っていなかったし、食事を採る機会も少なかったからな。意識したらお腹がすいてきた。ここはありがたく頂くとしよう。

 

「いただきます」

 

アザゼル先生から受け取った弁当の包みを開き、まずはおにぎりを口に含む。程よい塩加減で美味しい上に、疲れた体に確かな活力を与えてくれるように感じられる。

 

「おいおい、食事中ぐらい禁手(バランス・ブレイカー)を解いたらどうだ?」

 

アザゼル先生は俺を見ながらどこか呆れたように言う。確かに、アザゼル先生の言う通り、今は禁手を解いていない。食事でいるように兜の部分を外しているだけだった。

 

「禁手を身体を馴染ませるには可能な限り常に禁手状態でいようと思ってるんですが・・・・・ダメですか?」

 

「いや、確かにそれは効果的ではあるが、食事の時ぐらいまともに休憩しろよ。身体が持たないぞ?」

 

「いくら言っても無駄だぞアザゼル総督。こいつは今のところ俺との修行を始めてからずっと禁手状態を維持し続けているのだからな。おそらく自然に解除されるまでこのままだろう」

 

「そうかよ・・・・・まあ、それを一誠が無茶と感じていなければそれでいいがな」

 

いや、正直自分でも無茶とは感じているんだが・・・・・まあ、言わないでおくか。

 

「ところでタンニーン、修行の具合はどうだ?」

 

「ドライグが歴代最強というだけのことはある。確かに経験不足であることは俺の眼から見てもわかるが、それでも気を抜くと俺の方が大怪我しかねん。正直、俺にとってもいい修行相手になっている。その上、日に日に動きが洗練されていくしな」

 

「それこそタンニーンさんのおかげです。変に加減したりせずに戦ってくれてるから、俺も気を抜かずに経験を積むことができているんです」

 

タンニーンさんとの実戦形式の修行は、俺にこれまでにないほどの手応えを感じさせていた。自分でもはっきりと自覚できるほどに、日に日に強くなっていくのがわかる。本当に、タンニーンさんを紹介してくれたアザゼル先生には感謝しかない。

 

「なるほど、修行の成果は着実に出ているということか。それを聞いて安心した。このままいけば近いうちに白龍皇・・・・・ヴァーリを上回ることができる・・・・・といいんだがな」

 

「まあ、そこまで甘くはないですよね」

 

確かに強くなっている実感はある。だが、俺が強くなっていくように、ヴァーリだった俺と戦った時以上のに強くなっているはずだ。あいつは根っからの戦闘狂。戦うために、際限なく力を求め、強くなっていくタイプだ。あいつに勝つためには、あいつの成長を上回る速度で俺自身が強くなるか・・・・・・大帝(オーバー・ロード)以外にも、俺だけの武器を用意しておく必要もあるかもしれないな。

 

「現白龍皇はそんなに強いのか?」

 

「ああ、強いぞ。ルシファーの血筋から来る強大な魔力と、天性の戦闘センスを持ち合わせているからな。現時点では間違いなくイッセーより上だ。覇龍(ジャガーノート・ドライブ)だって扱えるようだしな」

 

「ほう、覇龍をか・・・・・それは厳しいな」

 

どうやらタンニーンさんは覇龍の強大さを理解しているようだ。俺はもう、覇龍のエネルギーを大帝の方に注いでしまったから覇龍は使えないのだが、それでも少し興味がわいてきたな。まあ、使えないもののことを考えても仕方がないが。

 

「そういえばアザゼル先生、他の皆の修行の進捗はどうですか?」

 

「ああ、全員順調・・・・・といいたいんだが、二人ほど少し進みが悪い奴がいるな」

 

「二人?」

 

「朱乃と小猫だ。朱乃の方は未だに堕天使の力を使うことに抵抗があるようでな。まあ、それだけ父親・・・・・バラキエルとの確執が深いということだが」

 

「バラキエル・・・・・堕天使の幹部なんですよね?朱乃先輩は随分と憎んでいるようですが、一体何があったんですか?」

 

「それは・・・・・・悪いな。俺も無関係ではないんだがそれは俺の口から離すべきことじゃねぇ。知りたければ朱乃に直接聞くんだな。お前が聞けばあいつは答えてくれると思うぞ?」

 

確かに朱乃先輩なら聞けば答えてくれるかもしれない。だが・・・・・心情的に、聞き出すのが難しいからアザゼル先生に聞いたんだけどな。まあ、教えてくれないというなら仕方がないから諦めるが。

 

「だが、朱乃の方は大丈夫だろう。たとえバラキエルのことを許せないとしても、あいつはそれ以上に自分の弱さを許しておけないだろうからな。今はまだ葛藤してるが、近いうちに受け入れるさ。問題は・・・・・」

 

「小猫ですね。小猫の方はどうなんですか?」

 

「今朝オーバーワークで倒れた」

 

「え?」

 

「今の自分の力に相当疑問を抱いているようでな。俺の組んだメニューの何倍も身体を酷使してやがった。必要以上のトレーニングは逆に効率を落とす上に身体を痛めるってのにな・・・・・」

 

アザゼル先生の言っていることの意味は分かる。俺だって赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を初めて起動し、白龍皇を倒すと決めてトレーニングを始めたころは俺も加減がわからず身体を酷使しすぎてしまったことがある。

 

「・・・・・アザゼル先生、以前小猫に朱乃先輩と同様、自分を受け入れろと言っていましたよね?それって小猫も血筋に何かあるということですか?」

 

「そうか、そっちの方は一誠は知らなかったのか。まあ、小猫が自分から話すとは思えないし、リアスもそういうのを積極的に話すタイプではないだろうが」

 

「その言い方からして、やはり何かあるんですね」

 

「ああ・・・・・まあ、こっちは調べればわかることでもあるし教えてやるよ」

 

アザゼル先生は話し始めた。小猫の過去・・・・・二匹の猫又の話を。

 

 




小猫ちゃんの過去のことについては申し訳ありませんが割愛させていただきます

まあ原作を読めばわかることだと思いますので・・・・・原作未読の方には本当に申し訳ない

それでは次回もまたお楽しみに!


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第77話

今回は一誠さんの自分の力に対する思いが少しわかります

それでは本編どうぞ


 

アザゼル先生が持ってきてくれた弁当を食べ終わった後、俺は一度グレモリーの屋敷に戻ってきていた。タンニーンさんが一度自分の領土に戻りたいそうなので、修行が一度中断となるためだ。まあ、俺としてもタンニーンさんとの戦闘訓練とは別にやらなければならない修行があったため丁度いいタイミングだったかもしれない。

 

そうしてグレモリーの屋敷に戻ってきた俺だが、ひとまずは小猫が休んでいるという部屋に向かっている。アザゼル先生から小猫の事情を聞き、俺としても少し思うことがあったので見舞いがてら少し話をしようと思ったからだ。

 

「小猫、入るぞ」

 

数度ノックした後、小猫のいる部屋へと入る俺。そんな俺の目に映るのは、ベッドに横たわる、猫のような耳を生やした小猫の姿だった。

 

「一誠くん、これは・・・・・」

 

「事情は大体アザゼル先生から聞いています・・・・・調子はどうだ小猫?」

 

小猫の看病をしていたらしい朱乃先輩の隣の椅子に腰かけながら、小猫に尋ねる。

 

「一誠先輩・・・・・何をしに来たんですか?」

 

「タンニーンさんとの修行がひと段落してな。アザゼル先生からお前が倒れたって聞いたから様子を見に来たんだ」

 

「・・・・・そうですか」

 

俺がこの場に赴いた理由を聞いたのち、小猫は顔を逸らして黙り込んでしまう。しかし、それから数十秒ほどして・・・・・小猫は俺に語り掛けてきた。

 

「一誠先輩・・・・・どうしたら一誠先輩のように強くなれますか?」

 

「小猫?」

 

「強くなりたいんです。このままでは私は役立たずになってしまう。戦車(ルーク)なのに・・・・・私が一番弱いから」

 

小猫は泣き出しそうな表情で語る。どうやら俺が考えている以上に、小猫は自分のことを責めているようだ。弱い自分自身を。

 

「・・・・・強くなりたいのなら、自分の力を受け入れなければならないだろうな」

 

「でも私は・・・・・あの力を使いたくない。使えば姉様のように・・・・私は・・・・・」

 

強くなりたい。けれど、秘められた力は使いたくない。小猫の葛藤は相当なものだろう。それこそオーバーワークに繋がるほどに。そしてその葛藤は、隣にいる朱乃先輩も同じく抱えているものであり・・・・俺も、わずかにでも理解できるものだ。

 

だからこそ俺は・・・・・敢えて、小猫を慰めたりはしない。

 

「それは、その葛藤は甘えだよ小猫」

 

「え?」

 

「強くなるために必要なものが自分の中にある。だけどそれに頼らず強くなりたい。それは甘えだ。本当に強くなりたいっていうなら、その甘えは振り解かなければならない」

 

「一誠くん、それは・・・・・」

 

朱乃先輩が俺に何か言いたげだったが、俺はそれを手で制した。

 

「強くなりたいなら甘えなんて捨ててしまえ。そうすれば強くなる。そうすれば・・・・・その葛藤の苦しみから解放される。恐いかもしれないが、前に進むにはそれしかないと俺は思うぞ?」

 

「一誠先輩に何がわかるんですか。一誠先輩に私の何が・・・・・」

 

「まあ、全部が全部理解できるだなんて傲慢なことを言うつもりはないさ。だが、自分の力を恐れる気持ちなら、俺にだって理解できる」

 

「・・・・・え?」

 

「俺は力を、強さを欲している。だが、別に最初からそうだったわけではない」

 

俺は左腕に赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を展開する。

 

「赤龍帝の籠手。神滅具(ロンギヌス)・・・・・神をも滅ぼしかねない力を秘めた神器(セイクリッド・ギア)。俺はこいつを6歳の時に初めて発動し、その時にドライグからこの籠手の力を、白龍皇との因縁を、そして・・・・・この籠手の歴代の所有者の末路を聞いた」

 

あの時のことは今もよく覚えている。俺の人生を変えた・・・・・いや、俺の人生に役割が与えられた瞬間だから。今でこそそれを受け入れてるし、それが当たり前のように感じられているが・・・・・初めからそうだったわけではない。

 

「最初に抱いた感想は『恐い』の一言だった。自分にそんな力があるなんて、自分が望んでもいない因縁を背負わされて、自分もいつか歴代の赤龍帝のように凄惨な死を遂げるのではないかって・・・・・とにかく恐かったよ」

 

自分は『兵藤一誠』ではないと、自分の生に疑問を抱いていた。それでも、いやだからこそか。自分のあずかり知らないところで、本当の『兵藤一誠』でもないのにそんな宿命を背負わされて、こんな宿命を背負わせたことを呪った。

 

俺は悩み、苦しんで・・・・・葛藤した。

 

「この力は自分を飲み込んでしまう。この力は自分を狂わせてしまう。この力は、自分を自分ではない『ナニカ』になってしまうんじゃないかって・・・・・・とにかく恐かった。そういう意味では、小猫の気持ちを俺は理解できていると思う」

 

「「・・・・・」」

 

左腕の籠手に触れながら話す俺のことを、小猫と朱乃先輩はじっと見つめてくる。その眼から感情を読み取ることはできなかったけれど・・・・・それは無理に理解する必要のないことだと思った。

 

「まあ、色々と悩んだ挙句、俺は赤龍帝としての力と宿命を受け入れたわけだがな。結果として俺は赤龍帝の宿命で人生を狂わされてるのかもしれないし、自分では自覚はないけど力に呑まれてしまっているのかもしれない。けれど俺は・・・・・致命的な、超えてはならない一戦は超えていないつもりだ。少なくとも、暴虐のために不必要に力を振るっているつもりはない。そんな風にはなっていないと思っている」

 

戦うことは確かに好きだ。だが俺は破壊や暴虐を好んでいるわけではない。誰かに傷ついてほしいと思っているわけではないし、不必要に戦いを求めようとも思っていない。その一線だけは、超えていないと自覚している。

 

「俺は小猫が・・・・・そして朱乃先輩が自分の力を恐れていることは理解できる。だが、理解できるからこそ言わせてもらう・・・・・力は力でしかない。力が原因で人格が変わることもあるし、それに振り回されることもある。だが、結局のところはその力をどう扱い、どう操り、どう向き合い・・・・・どう受け入れるのか。それは二人次第。ただ・・・・・強さを願うのなら、力をないがしろにしてはならないと俺は思うよ」

 

我ながら勝手なことを言っていると思う。結局のところ選ぶのは小猫と朱乃さんの意思に委ねなければならないのだから、俺のしたことは余計なお世話だったのかもしれない。

 

ただ、そうとわかっていながらも話したのは・・・・・・まあ、結局のところは俺の我儘なんだろうな。

 

「・・・・・上から目線で偉そうなことを言って悪かった。これ以上は俺から話すことは何もないよ。煩わしいと思ったのなら忘れてもらっても構わないし、俺のことを嫌ってくれても構わない・・・・・ただ、もう一度、自分の力についてよく考えてみてくれ」

 

そう告げて、俺は部屋から出ようと立ち上がった。

 

だが・・・・・そんな俺を、小猫は引き留める。

 

「待ってください一誠先輩・・・・・一つだけ教えて欲しいことがあります」

 

「なんだ?」

 

「一誠先輩は・・・・・どうして自分の力を受け入れようと思ったんですか?なにか、受け入れようと思ったきっかけはあるんですか?」

 

受け入れようと思ったきっかけ・・・・・か。

 

「色々あるけど、多分一番の理由は・・・・・縋りたかったから、かな」

 

「縋りたかった?」

 

「ああ。俺は縋りたかった。赤龍帝という存在に。それを支えにして、そこに役割を見出したかった。俺には・・・・・それしかなかったからな」

 

赤龍帝・・・・・葛藤はあったけれど、それは当時の俺にとっては『兵藤一誠』ではない俺に与えられた役割。縋るべき・・・・縋りたかった希望。

 

だから俺は、修羅の道になるとわかっていながら、力を受け入れたんだ。たとえその先に、凄惨な死が待っているとしても・・・・・

 

「・・・・ゆっくり休んで、ちゃんと体力回復に努めろよ。部長も心配してるだろうから」

 

最後に小猫にそう告げて、俺は部屋を出た。

 

 




『兵藤一誠』である事を放棄している一誠さんにとって、『赤龍帝』であることはある意味希望です。もっとも、一応は一般人であったため力に対する恐れは最初はきちんと存在していましたが。

それでは次回もまたお楽しみに!



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第78話

今回は修行を終えた後のお話。メインは一誠さんとタンニーンさんの会話となります

それでは本編どうぞ


「「はあはあ・・・・・」」

 

互いに荒く息を切らせる俺とタンニーンさん。実戦形式の修行が最終日を迎えた今日、俺とタンニーンさんはいつにもまして苛烈な戦闘を行っていた。油断すれば命さえ持っていかれないほどの戦い・・・・それも今、終わりを迎えた。俺は地面に背をつけているのに対して、タンニーンさんは片膝をついている。結果だけ見れば、俺はタンニーンさんに敗れたという形であった。

 

「さすがはタンニーンさんですね。かないませんでした」

 

「何を言う。お前は修行中常に禁手(バランス・ブレイカー)状態で消耗が激しかった。休養時にしっかりと禁手を解いていればどうなっていたかはわからんぞ?」

 

「そういってもらえると助かります」

 

確かに、常に禁手状態を維持していたため消耗は激しかった。だが、だからといって禁手を解くことはしなかった。そもそもこの修行の目的の一つが禁手の継続時間を延ばすことにあったからだ。

 

「万全の状態ならば禁手はどれほど保たせられるようになった?」

 

「一カ月はいけます。まあ、戦闘で大きな力を使えば短くなりますが。ただ、ずっと禁手状態で居たおかげか、負担は軽減されているように感じます」

 

「ふむ、それならば上々だ。俺との修行が意味のあるものとなったようで何よりだ」

 

満足げに語るタンニーンさん。実際この修行は俺にとって有意義であった。禁手の持続時間のこともそうだが、基礎能力の向上や実戦経験の蓄積も同時にこなすことができた。今の俺は、修行を行う前よりも確実に数段強くなっているはずだ。

 

「少ししたらグレモリーの屋敷まで送ろう。それまで身体を十分に休ませるといい」

 

「ええ。そうさせてもらいます」

 

タンニーンさんに促され、俺は久方ぶりに禁手を解除して体力回復につとめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兵藤一誠、修行を終えた今だからこそ、お前に一つ忠告しておくことがある」

 

グレモリーの屋敷に向かう途中、タンニーンさんが俺に声を掛けてきた。

 

「修行を始める前と比べ、お前は数段上の強さを手にした。それはお前の向上心があってこそのものであり、その点は俺も評価している。だが・・・・・お前は少々ストイックすぎる」

 

「といいますと?」

 

「休息や食事の時間でさえ禁手状態を維持するのは、結果的に見れば禁手時間を延ばすことに繋がったのだろうが、普通はそこまでしない。はっきり言ってお前のストイックさは異常だ」

 

「それは・・・・・そうでもしないと、俺は白龍皇に勝てそうにないから」

 

俺は白龍皇・・・・ヴァーリよりも弱い。だからこそ強くならないといけないんだ。たとえどんな無茶をすることになろうとも。

 

「そこだ。俺が解せないと思っているところは」

 

「え?」

 

「なぜそこまで白龍皇を倒すことに拘る?何がお前を駆り立てる?」

 

「何って・・・・・俺は今代の赤龍帝ですよ?白龍皇を倒したいと思うのは普通の事では?」

 

赤龍帝と白龍皇は戦い続ける定めにある。だから俺だって歴代の赤龍帝達がそうであったように、白龍皇と戦わなければならない。そんな当然のことに、タンニーンさんは何を疑問に感じているというのだろうか?

 

「確かに赤龍帝と白龍皇は戦う宿命にある。これまでもそうだった。だが・・・・・・兵藤一誠、お前は赤龍帝の宿命を、兵藤一誠としての宿命として考えているのではないか?」

 

「・・・・・・どういうことですか?」

 

「お前が打倒白龍皇を語るとき、並々ならぬ思いを感じた。お前は何としても白龍皇を倒さなければならないのだと考えているのだろう。だが、お前はそれが少々強すぎる。まるで自分に言い聞かせるかのように、自分はそのために存在しているのだと言わんばかりにだ」

 

タンニーンさん、何を言い出すかと思えば。そんなの・・・・・

 

「そんなの当然じゃないですか」

 

「なに?」

 

「俺は赤龍帝として生まれたんです。だから白龍皇を倒すために生きる。それが生きる目的・・・・・・それは当然のことじゃないですか?赤龍帝の宿命は、そのまま俺の宿命ですよ」

 

「・・・・・」

 

俺が自分の考えを口にすると、タンニーンさんは黙り込んでしまった。一体どうしたんだ?

 

「ドライグ、兵藤一誠は・・・・・」

 

『ああ。相棒はある意味では歴代の誰よりも赤龍帝の呪縛に呑まれている』

 

「そうか・・・・・ふむ」

 

ドライグ?タンニーンさん?一体なにを言っているんだ?俺が呪縛に呑まれている?

 

「兵藤一誠、白龍皇を倒すこと以外に目標はあるか?」

 

「え?まあ、一応・・・・・部長に忠義を尽くすことと、同じ眷属であるアーシアを守り抜くことが俺の生きる目的ですが?」

 

「・・・・他にはないのか?他にお前の・・・・・兵藤一誠としての目的はあるか?お前自身の欲望を満たす夢は?」

 

兵藤一誠としての目的?欲望を満たす夢?そんなの、そんなもの俺には・・・・・

 

「それは必要なものなんですか?少なくとも・・・・・俺には必要のないものです」

 

そう、そんなもの俺にはないし、必要もない。俺はそもそも本当の兵藤一誠ではないのだから・・・・・そんなもの、持つ資格があるはずないんだ。それは・・・・・持ってはならないものなんだ。

 

『タンニーン、相棒は少々事情が複雑でな。そのおかげでこの有様だ』

 

「お前はこれを放置していたのか?」

 

『どうにかできるものならしているさ。こいつは歴代の宿主の中で最も俺に声を掛けてくれているからな。だが・・・・・残念だが、俺ではどうすることもできない。それほどに根が深いのだ』

 

「むう・・・・・・」

 

さっきからドライグとタンニーンさんの言っていることの意味がよくわからない。俺のことを話しているというのはわかるのだが・・・・・まったくわけがわからなかった。

 

「・・・・・兵藤一誠。一つ忠告しておこう」

 

「忠告?」

 

「俺は修行を通してお前を知り、お前に為すべき大儀を果たす強さを持って欲しいと思っていたが・・・・・どうやらそれ以前の問題だったようだ。兵藤一誠、もっと自分と向き合え。自分と向き合い、自分だけの欲望を知れ」

 

「それは・・・・・」

 

「自分には必要のないこと、などと切り捨てるな。そんな達観して考えを持つにはお前はあまりにも若すぎる。お前に今必要なのは『個』だ」

 

俺に必要なものが・・・・『個』?

 

「そうだ・・・・今のお前にはそれが圧倒的に足りていない。足りてないがゆえに、不完全を通り越して不十分なのだ。お前は確かに強いが、それだけでは駄目だ。俺が言ったことをしっかりと考え、自分の中で一つ答えを出してみろ」

 

「・・・・・」

 

「意味が分からないか?ならば、その意味を見つけることも含めて考えてみることだな。ただ力を求めるだけでは、お前は一向に先には進めんぞ」

 

力を求めるだけじゃ・・・・ダメだっていうのか?その先には進めないって・・・・・そもそも『先』って何なんだ?俺はただ・・・・白龍皇を倒して、部長に忠義を尽くして、アーシアを守れればそれでいいのに。それだけが俺なのに・・・・・

 

・・・・・それだけ?俺は・・・・・それだけなのか?

 

白龍皇を倒すことも、部長に忠義を尽くすことも、アーシアを守ることも大切なことなのに・・・・・・必要なことなのに。

 

何なんだろう?それだけって考えると無性に落ち着かない。

 

それだけで十分なはずなのに・・・・・どこか納得がいかない。

 

「俺は・・・・俺は・・・・・」

 

タンニーンさんに、返事を返そうとしても何の言葉も浮かんでこない。

 

何を言いたいのか、俺が何を考えるべきなのかわからない。

 

俺は・・・・俺には・・・・・

 

何もわからない




タンニーンさんの言う一誠さんに足りない『個』というのは個人のことです

一誠さんには決定的に『自分』というものが不足していて、それ故に大きな欠陥を抱いてしまっていますので

この問題が解決するのはいつになることか・・・・・

それでは次回もまたお楽しみに!


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第79話

今回はレイヴェルさんが再登場

どんな話になるのか・・・・・

それでは本編どうぞ!


 

レーティングゲームを三日後に控えた日の夜、若手悪魔の為に魔王様方が用意したパーティに俺達グレモリー眷属は参加していた。もっとも、部長が言うには若手悪魔のためというのは建前であり、実際はお偉いさん方が楽しみたいからというのが本音らしいが。

 

ともかく、このパーティには悪魔の中でも大層な権力者や貴族も来ているらしく、部長から口酸っぱく失礼のないようにと言われている。こういった雰囲気は得意ではないが、それでも俺みたいな下級悪魔風情に好んで声を掛けてくるようなものなどいないだろうし、気楽に構えていればいいだろう。

 

「って、考えていた自分が恨めしい・・・・」

 

「だ、大丈夫ですか一誠さん?」

 

パーティ会場の隅の方にあるテーブルで、ゼノヴィアの持ってきてくれたドリンクを飲みながら意気消沈していた俺を、アーシアが慰めてくれる。

 

下級悪魔である俺に声を掛ける者など少ないだろうという俺の予想は大きく外れ、俺は数えるのも億劫になるほどの数の者から声を掛けられてしまっていた。

 

「随分と人気者なんだな一誠は」

 

「茶化さないでくれゼノヴィア。俺としては勘弁してほしいんだからさ。まったく、俺なんかに声を掛けたところで得なんてないだろうに・・・・・」

 

「ど、どんな話をしたんですか?」

 

ギャスパーが恐る恐ると俺に尋ねてくる。

 

「どんなって言われてもなぁ・・・・・正直よく覚えてない。なんか肩が凝るようなことばっか言ってたからさ。ただ、茶会に誘われたり食事に誘われたり・・・・あと、なんか知らんが縁談を持ってきたひとも居たなぁ」

 

「「「縁談!?」」」

 

縁談というワードに、なぜか3人は強く反応を示してきた。

 

「い、一誠さん。その話もしかして受けたりは・・・・・」

 

「するわけないだろ。俺は部長の眷属だからそういう話は部長を通してからにしてくださいって言って突っ返した」

 

そんな見ず知らずの相手からの縁談なんて受けるはずがない。

 

それに俺はもう・・・・・

 

「ふむ・・・・・以前から気になっていたのだが」

 

「なんだゼノヴィア?」

 

「一誠は色恋沙汰には興味ないのか?」

 

「ッ!?」

 

ゼノヴィアめ・・・・まさかそれを聞いてくるとはな。

 

「クラスの女子からの評判はいいし、告白されることもざらにあると聞いている。だというのに告白は全部断っているんだろう?一誠ぐらいの年頃の男子は恋人を作りたがるのが普通らしいが、そこのところはどうなんだ?」

 

「ゼ、ゼノヴィアさん。それは・・・・・」

 

「恋愛なんてしないよ」

 

アーシアが何か言いかけたが、それを遮って断言した。

 

「恋愛なんて俺はしない。俺にはそんな資格はない。そんなの・・・・・できるはずがないんだ」

 

そう、俺には恋愛なんてする資格はない。己の無力さのせいで・・・・いや。俺が存在しているせいで愛するㇾ―ナーレは命を落とすことになったんだ。愛する女を死なせた俺に、本来存在するはずのない俺に恋愛なんて・・・・できるはずがない。

 

「一誠。君は・・・・」

 

「お久しぶりでございます赤龍帝様」

 

ゼノヴィアが何かを話そうとしたその時、別の誰かが俺に声を掛けてきた。声のする方へと振り返ると、そこにはかつてレーティング・ゲームで戦ったライザー・フェニックスの妹であるレイヴェル・フェニックスがそこにいた。

 

「レイヴェル様」

 

「私のことを覚えていてくださったのですね。光栄でございます」

 

「いえ、こちらこそ・・・・・今日はライザー様とこちらに?」

 

「いいえ。お兄様はお屋敷で塞ぎ込んでしまっていますわ。以前のレーティング・ゲームで完膚なきまでに叩きのめされたことがよほどショックだったようで」

 

「まことに申し訳ありませんでした」

 

俺は深々とレイヴェルに頭を下げた。確かに、今思い返すと自分でも引くほどボコボコにしてしまったような気がする。まさかふさぎ込んでしまうほどだとは・・・・・

 

「ああ、そのレーティング・ゲームのことは私も話に聞いている。一誠がフェニックスの悪魔を力でねじ伏せて勝利を手にしたそうだな」

 

「さすがは一誠先輩です!」

 

「よせゼノヴィア、ギャスパー」

 

一々説明するなゼノヴィアと俺に尊敬の眼差しを向けてくるギャスパー。こいつらは目の前にレイヴェルがいるというのに何をしているんだ・・・・・

 

「お気になさらず。お兄様は才能に自惚れて調子に乗ってい巻いたので、前回のレーティング・ゲームはいい薬になりましたわ。お母様や他のお兄様方もそう言っておりましたし」

 

どうやらレイヴェルはその件に関して俺を咎めるつもりはないらしい。実際に手を下した身としてはありがたかった。

 

「ですが大変ではありませんか?兄妹とはいえ、レイヴェル様はライザー様の眷属ですので色々と不都合があるのでは・・・・・」

 

「いいえ、心配は無用ですわ。私はもうお兄様の眷属ではありません。今はお母様の眷属ということになっていますわ」

 

「トレードされたのですか?」

 

「ええ」

 

トレードはレーティング・ゲームのルールの一つだ。(キング)同士で同じ種類の駒であれば交換することができるらしい。

 

ちなみにこの話は部長から聞いたのだが、部長はよほどのことが無い限りトレードはするつもりはないようだ。いかにも愛情深い部長らしい。

 

「ただ、お母様はレーティング・ゲームをなさらないので私は実質フリーの僧侶(ビショップ)ということになります。そこで赤龍帝様、あなたは・・・・・」

 

「あ、すみませんレイヴェル様。その赤龍帝様っていうのはできればやめていただけないでしょうか?あまり呼ばれ慣れていないのでできれば普通に一誠と・・・・・」

 

「名前で呼んでもいいのですか!?」

 

なぜか名前で呼ぶように促すと、レイヴェルは目を輝かせてきた。どうしたというのだろうか?

 

「では遠慮なく、一誠様と呼ばせていただきます」

 

「いえ、様付けも不要なのですが・・・・」

 

「そういうわけにはいきません!大事なことですので!というより、それを言うのなら一誠様の方こそ私に敬語を使うのをやめてください!」

 

「ですが私は下級悪魔で・・・・・」

 

「や・め・て・く・だ・さ・い!」

 

「・・・・・わかった」

 

あまりもの圧に、思わず気圧されてしまった。一体なぜそれほどまでにこだわるのだろうか?

 

「では改めまして・・・・一誠様、いずれ私を貴方様の眷属として迎えていただけないでしょうか?」

 

「え?」

 

レイヴェルを・・・・・俺の眷属に。

 

「いや、ちょっと待ってくれ。俺は下級悪魔で眷属を持てるような立場には・・・・」

 

「確かに今はそうでしょう。ですが、私のお兄様はおろか、あの堕天使の幹部、コカビエルさえ単身で打倒してしまった一誠様であれば、近い将来上級悪魔に昇格することは間違いありません。その際には、私を貴方の眷属にしてほしいのです」

 

俺が上級悪魔に・・・・・なんというか、あまりピンと来ないな。その上レイヴェルを俺の眷属にだなんて・・・・・

 

「先のレーティング・ゲーム・・・・・あれは私にとってとても衝撃的なものでした。目の前で振るわれる圧倒的なまでの赤き力。思わず腰を抜かしてしまうほどに恐怖しましたが・・・・・・同時に私は魅了されてしまいました。圧倒的な力を振るう赤龍帝である一誠様に。この方は間違いなく覇道を歩まれる。私はその礎の一つになりたい・・・・・私はそんな欲望に取りつかれてしまったのです」

 

俺の覇道の礎・・・・・不思議だな。覇道なんて歩むつもりは毛頭ないというのに、レイヴェルの言葉を否定する気にもなれない。俺の中のなにかが、彼女を肯定しているような気がしてならなかった。

 

「一誠様、すぐに答えは出さなくとも結構です。ですが、貴方様の下僕となりたい悪魔が一人いるとだけ覚えてくださいますか?」

 

「・・・・・わかった。覚えておこう」

 

先のレーティング・ゲームで顔を合わせてはいたものの、俺にとってレイヴェルは先ほどまで声を掛けてきた悪魔達と同じように、ほとんど知らない相手だ。そんな相手の言うことなど本来は覚えておく義理はないのかもしれないが・・・・・それでも、これは覚えておいた方が良いような気がして、俺は返事を返してしまった。

 

「ありがとうございます。では私はこれで失礼いたします。さようなら一誠様」

 

ドレスの裾を摘み、俺に一礼した後、去っていくレイヴェル。

 

そんなレイヴェルの後姿から、なぜか俺は目を逸らすことができずにいた。




原作では覇道の素質が高いとされるレイヴェルさんは、一誠さんとはある意味原作イッセーさん以上に相性がいいです。なので原作以上に魅了されているのですが・・・・・はてさてどうなることやら

それでは次回もまたお楽しみに!


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第80話

諸事情により投稿が遅れてしまい申し訳ない・・・・・

それでは本編どうぞ


「よう兵藤」

 

少し風にあたろうと一人でバルコニーに出ていた俺に、匙が声を掛けてきた。

 

「ん?なんかお前疲れた顔してるけどどうかしたのか?」

 

「ちょっとな・・・・・パーティの出席者に声かけられまくって気疲れしたんだよ」

 

「お前有名人だもんな・・・・・何というかお疲れさん。けど、俺からしたら羨ましいけどな」

 

同情の籠った視線を俺に向け、いたわってくれる匙だったが、同時に羨望の言葉を口にした。

 

「羨ましいって、どうしてだ?」

 

「それだけ有名ってことは、お前は多くのひとに認められてるってことだ。俺なんて見向きもされないんだぞ?」

 

「そんなに有名になりたいのか?」

 

「ああ。俺の名誉は会長の名誉だからな。俺は会長が胸を張って自慢できる眷属になりたい。だから、皆から注目されてるお前が羨ましいんだよ」

 

自慢できる眷属、か。匙は俺を羨んでいるが、俺だって自慢の眷属ではないと思う。結構独断で行動しているし、無茶して心配を掛けさせたりもしてる。眷属としては、問題児なのだろう。まあ、自覚しておいてあまり自分の行動を顧みていない俺に問題があるのは事実だが。

 

「だけど・・・・だからこそ、お前達とのゲームは負けられないんだ」

 

匙は真剣な眼差しで俺を見つめてくる。

 

「お前達とのゲームで勝てば・・・・会長の力を、俺達の力を認めてもらえれば俺達の夢を笑う連中を見返すことができる。俺達は夢に一歩近づくことができるんだ」

 

「夢、か。お前の夢はソーナ様の夢を叶えることなのか?」

 

「それもある。けどそれだけじゃない。俺はさ兵藤。先生になるのが夢なんだ」

 

匙が先生に?

 

「先生っていうと、ソーナ様が言っていたレーティングゲームの学校のか?」

 

「ああ。今冥界にある学校はどれもこれも上級悪魔の貴族しか受け入れていない。そしてそこで教える教師も貴族出身の頭が固い奴等ばかりだ」

 

貴族による貴族の為の学校ってことか。前々から思ってはいたがやはり同種族での格差が大きいな。いわゆる貴族主義。地位や名誉、権力の持つものを重視する風潮。今の魔王様方はそれを変えたがっているそうだが、長年培われたこの制度は根深い。中級以下の悪魔でさえ、そこに疑問を抱くものが少ないからこそ、それが当たり前とされているのだろう。

 

「おかしいと思わないか?今の悪魔の社会はゲームで活躍して実力を身に着ければ上級に昇格できるっていうのに、実際は多くの下級悪魔はゲームのことを学ぶ機会さえ与えられない。それこそ、俺やお前のように上級悪魔に見いだされて眷属にならない限り、不可能と言っていい」

 

「まあ、不平等ではあると思う」

 

だが、その不平等さでさえ、お堅い貴族の悪魔が意図的に敷いている精度なのだろうな。認められれば上級に昇格させると希望を与えながら、実際にはその機会は与えない。今の貴族主義の制度を保つためにあえてそうしている可能性がある。たとえ悪魔達のトップである魔王でも、あるいは魔王だからこそ、そういった制度に容易く手を出せないのかもしれない。

 

「会長はそれを変えたいって言ってた。下級悪魔でもゲームができるって教えたいって。そのための学校なんだ。誰でも入れる学校を創って、皆が平等に学べる場を作る。そして誰もが上級悪魔になれる可能性があるって証明する」

 

匙の言葉には並々ならぬ熱がこもっていた。それだけ、夢にかける思いが本物だっていうことか。

 

「俺はそんな会長の夢に惹かれた。そして、俺自身の夢も決まったんだ。その学校の先生になろうって。先生になって、俺が兵士(ポーン)として培ってきたことを教えようって。俺は、学ぼうとする者達の・・・・下級悪魔達の希望になりたいんだ」

 

学ぼうとする者達の、下級悪魔達の希望・・・・素直に、率直に匙に対して感心した。匙の思いは立派なものだと思う。超えなければならない壁は多いだろうけど、それでもどんな壁をも乗り越えてみせるという覚悟が十分すぎるほどに伝わってくる。

 

そんな匙の夢を、応援したいと思った。だけど、それと同時に俺は・・・・・またあの妙な苛立ちを覚えていた。間違いなく匙の夢を尊いものだと思っているはずなのに・・・・・どうして?

 

「そのためにも、俺達は次のゲーム勝つ。勝ってみせる。そのために俺は厳しい修業を積んで強くなったんだ」

 

「それは俺も同じだ。山に籠って散々タンニーンさんと・・・・・ドラゴンと戦って強くなった」

 

「ドラゴンって・・・・・お前、とんでもない無茶してるな。しかもタンニーンってあの元龍王で最上級悪魔のだよな?」

 

顔を引きつらせる匙。おそらく修行内容を想像しているのだろうが、匙の想像を上回る修行を強いていたと思う。なにせ山が丸坊主どころか、ほぼ平地になってしまったからな。

 

「お前の夢に関しては素直に応援している。だが、それをゲームに持ち込む気はない。お前がどれだけ強くなり、どんな思いで戦おうとも俺は、グレモリー眷属として手を抜くわけにはいかない。主の勝利の為、持てる力を尽くさせてもらう」

 

「わかってるさ。というか、手なんて抜いたら一生許さねぇ。本気のお前達に勝ってこそ、俺達を馬鹿にした連中を見返せるんだからな」

 

俺も匙も、負けられないという気持ちは同じ。そうなれば、純粋に力が上の者が勝つ。厳しい修業を積んだと言ったからには、相応の力を身に着けているのは確かだろう。俺としても匙の対策となる力を手にしてはいるが・・・・・それでも警戒に越したことはない。ゲームでは心して戦わなければな。

 

「それじゃあ俺はこれで。会長達のところに戻るな」

 

「ああ。またな匙」

 

「またな兵藤」

 

軽く挨拶を交わした後、バルコニーをあとにする匙。次に会う時はゲーム当日になるだろう。

 

「・・・・・夢、か」

 

壁に寄りかかりながら空を仰ぎ、先ほどの匙の話を思い返す。

 

匙は自身の夢を持っている。そしてそれは匙だけでなく、匙の主であるソーナ様や魔王になることを目標とするサイラオーグ様、そして部長にだって夢がある。

 

『兵藤一誠としての目的はあるか?お前自身の欲望を満たす夢は?』

 

唐突に、タンニーンさんに言われた言葉を思い出す。

 

『兵藤一誠』としての目的、そして俺自身の欲望を満たす夢。それは存在しない、存在してはならないものだ。なぜなら俺は本来なら『兵藤一誠』ではないはずなのだから。本当の『兵藤一誠』・・・・・俺はその居場所を奪ってしまった異物。

 

そんな俺に、夢を抱く権利などない。それは俺の中で定まった答え。だというのに・・・・・なぜだ?なんで俺は・・・・今、タンニーンさんの言葉を思いだした?俺にとってそれは意味のないものだというのにどうして?

 

「くっそ・・・・・なんだっていうんだよ?」

 

考えても答えが出ず、イラつきから思わず悪態が声に出てしまう。考えないようにしようとすればするほど、俺の頭は俺の意に反して夢のことを考えてしまう。そうしてまたイラついて・・・・・そんな悪循環に嵌りつつある。

 

どうにかして思考を切り替えようとしていると・・・・・視界の端に、外の森の方へと駆けていく小猫の姿を捉えた。

 

「・・・・・小猫?」

 

一人で外に出ていく小猫の様子はどこかおかしかった。修行の時の一件もあり、今の小猫は精神的に不安定な状態にあるのも相まって、小猫の動向が気になってしまった。

 

(・・・・・追ってみるか)

 

バルコニーから飛び降りて、小猫のあとについて森へと足を踏み入れる。

 

期せずして、先ほどまで思考を支配していた夢のことを、頭の片隅に追いやることができた。




自らの夢について思い悩む一誠さん

ここまで悩むのにはもちろん理由があり、それはおいおい明かしていきます

それでは次回もまたお楽しみに!


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第81話

今回は黒歌さん登場回です

それでは本編どうぞ


「一誠、どうしたの?」

 

小猫を追いかけて森に入ったところで、部長に声を掛けられた。どうやらバルコニーから飛び降りたのを見られたらしい。

 

「小猫が森に入っていくのが見えまして。様子もおかしかったので追ってきたんです」

 

「それは気になるわね………私も行くわ」

 

「はい」

 

部長と共に森の奥へと進んで行く。しばらくして小猫の姿を確認できたが、小猫は一人ではなかった。小猫の向かいに着物を着て頭に猫耳を生やした女性と………会談の際、ヴァーリを迎えに来ていた美猴と呼ばれた男もいる。

 

「部長!」

 

「ええ!」

 

隠れて様子を見ようとも思ったが、あのレベルの相手ではおそらく気が付かれる。俺と部長は駆け出し、小猫と二人の間に入った。

 

「部長、一誠先輩………」

 

「小猫、あっちの女性の方はもしかして………」

 

「はい………私の姉です」

 

部長の問いかけに答える小猫。もしかしたらと思っていたが、やはり彼女が話に聞いてた小猫の姉………主の悪魔を殺したという猫又か。

 

「グレモリーの姫さんに赤龍帝………また会ったな」

 

「あらん?これがヴァーリの話してた赤龍帝?ヴァーリを楽しませたって聞いてたからどんなものかと思ったけど………確かに、それなりに雰囲気はあるわね」

 

「お褒めに預かりどうも。テロリストの一味がこんなところで何をしに来た?まさかパーティに参加しに来ただなんて言うつもりはないだろうな?」

 

「黒歌が悪魔達のパーティを見学するって出てったっきり中々戻らなかったんでな。迎えに来たんだよ。そしたら姉妹の感動の再開にご対面ってわけだ」

 

パーティの見学、ね。そんなことの為にわざわざ敵地に赴くはずもないし、この女………黒歌の狙いは十中八九小猫なんだろうな。

 

「白音、私と一緒に来なさい。あの時連れてってあげられなかったことは謝るから、また姉妹一緒に仲良くしましょう?」

 

黒歌は不敵な笑みを浮かべながら小猫に言う。白音、というのは小猫の本当の名前なんだろう。だがこの女………話では小猫を見捨てたと聞いていたから小猫にはもう関心が無いのかと思っていたが、そうでもないのか?冗談で言っているようには聞こえない。

 

だがまあ………だからと言って、わかりましたの一言が俺の主から出てくるはずもない。

 

「この子は私の大切な眷属よ。貴方達には指一本触れさせないわ」

 

「部長………」

 

まあ、部長ならこう答えて当然だ。このひとは誰よりも眷属である俺達に愛情を注いでくれているのだから。

 

「俺達としてはその娘さえもらえれば大人しく帰るつもりなんだがな。それでこの場は丸く収めねぇか?」

 

「つまんねぇ冗談言ってんじゃねえぞクソ猿が。部長がこう言ってる以上大人しく帰………すわけにもいかないな。お前達はテロリストだ。ここで会った以上、押さえつけて引き渡す」

 

「はっ。言うじゃねぇか赤龍帝」

 

美猴からの提案を一蹴して、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を出しながら挑発する。挑発された美猴は、獰猛な笑みを浮かべてみせた。

 

「眷属ねぇ………私から言わせればだから何って感じよ。白音は私の妹。私には妹を可愛がる権利があるの。ほら、白音。お姉ちゃんの胸に飛び込んでおいて?」

 

両手を広げて小猫を迎え入れようとする黒歌。もしもあいつらが敵じゃなくて、俺も立場が違ったら、それを許容していたかもしれない。だが、今の俺はグレモリー眷属の一員。部長が小猫を渡さないと言っている以上、こいつらに手出しはさせない。

 

だがまあ………それでも、聞いておくのが筋というものだろう。

 

「小猫、お前はどっちの手を取る?」

 

「え?」

 

「部長とお前の姉がお前に対して手を伸ばしている。お前はどっちの手を取る?血肉を分けた肉親か、敬愛すべき主か。お前の選択はどっちだ?」

 

そう、結局のところ決めるのは、決めなければならないのは小猫だ。過去に何があろうとも、小猫にとって黒歌は肉親。思うところはあれど、その事実が消えない以上は小猫も黒歌の手を容赦なく振り払うことはできないのかもしれない。そして、黒歌を失い、苦しんでいたところを救ってくれた部長の手も、小猫からしたら縋りつきたいものであるのかもしれない。

 

故に、結局のところ小猫が自分で決めなければならない。小猫の心情は小猫にしかわからないのだから。

 

「私………私は………」

 

黒歌と部長を交互に見やる小猫。そして………小猫は答えを出した。

 

「ごめんなさい黒歌お姉様。私は搭城小猫。リアス部長と共に生きます」

 

小猫が選んだのは………部長だった。迷いが、葛藤があっただろうが小猫は部長と共に生きていく道を、『搭城小猫』として生きる道を選んだ。

 

「………そう。わかったわ」

 

選ばれなかった黒歌は、顔を伏せる。だがそれは一瞬のことで………顔を上げた黒歌は、殺意に満ちた顔をしていた。

 

「ならいいわ。そいつら殺して、強引にでも連れていくわ!」

 

黒歌を中心に霧が発生する。霧に紛れて小猫を連れ去ろうとしているのではないかと思い、小猫の傍に近づくが………そこで異変に気が付く。部長と小猫が、口に手を当てながらせき込み、その場に膝を着いてしまっていた。

 

「俺っちも巻き込む気かよ黒歌。しかも赤龍帝は動けるみたいだし」

 

いつの間にか霧の届かない木の上に移っていた美猴が言う。この口ぶりからしてこの霧は単なる目眩ましではないようだ。

 

「毒霧か」

 

「正解よ。悪魔と妖怪によく効く特別製にゃ。まあ、赤龍帝には効かないみたいだけど。それとも毒をもっと強めれば効くかしら?」

 

「そんなことしたら小猫が死ぬぞ?」

 

「わかってるわ。そんなことしないわよ。本当は毒で弱らせたところを殺して白音を連れて行こうと思ったのに………上手くいかないものね」

 

こいつなら本気でやりかねないだろうな。毒が効かなくて本当に助かった。だが、それでもこの霧が出ている限り、部長と小猫は苦しみ続ける。まずはこれをどうにかしないと。

 

赤龍の翼(ドラゴン・ウィング)

 

魔力で翼を出現させ、大きく羽ばたかせる。翼の羽ばたきによって、霧を吹き飛ばすことに成功した。

 

「あら?霧を吹き飛ばすなんてやるじゃない」

 

「ヴェーリが気に入るわけだな。面白れぇ。ヴァーリに怒られるかもしれねぇがこんな展開になったからには存分に楽しませてもらうとするか」

 

美猴が俺に手にした如意棒を俺に突き出す。それと同時に黒歌も俺に殺気をぶつけていた。どうやら二人で俺を潰す気らしい。

 

そっちがその気ならこっちも相手をさせてもらおう。特に美猴は、ヴァーリとの戦いを邪魔された借りもあることだしな。

 

「部長、こいつらは俺が相手しますので小猫と一緒に退避してください」

 

「だめよ。私も戦うわ」

 

「毒の影響は?」

 

「それは………」

 

口ごもる部長。やはりまだ毒が抜けきっていないのだろう。そんな状態の部長を戦わせるわけにはいかない。

 

「俺は大丈夫です。伊達に一カ月も山に籠って修行していたわけではないので。なので早く退避を」

 

「………わかったわ。ここはあなたに任せる。けど、退避はしない。なにかあったらすぐに援護できるように後方に控えているわ」

 

あくまでも、退避はしないということか。部長らしいと言えばらしいのだが………まあいい。何があっても、部長と小猫に手を出させなければいいだけだ。

 

「話は終わったか?」

 

「別に終わるまで待ってくれなくてもよかったんだが?」

 

「これが最後のお話になるかもしれないから気を遣ってあげたのに随分な言い様ね」

 

「ほざけ………禁手化(バランス・ブレイク)

 

禁手化し、鎧を身に纏う。さて、不本意なシチュエーションではあるがタンニーンさんとの修行の成果、この場で示させてもらうとしよう。




原作の衝撃的な禁手化が無いのであっさり戦闘開始となりました

正直原作のあのインパクトには勝てない・・・・

それでは次回もまたお楽しみに!


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第82話

今回は戦闘描写があります

あまり得意ではありませんが………

それでは本編どうぞ


「オラァ!!」

 

美猴が俺の腹部に向かって如意棒を突き出してくる。それを直撃する前に左手で掴み、逆に美猴を地面に叩きつけようと持ち上げた。

 

「うおっと、やるねぇ!」

 

地面にたたきつける前に、美猴は如意棒を縮めて俺の左手に蹴りを入れてくる。その衝撃で如意棒を手放してしまったが、逆の手に赤龍の爪(ドラゴン・ネイル)を展開し、美猴に振りかざした。直縁で身体をひねられたが、それでも爪は美猴の胸部を掠めて僅かにだがダメージを与えることができた。

 

「次はこっちよ」

 

後方から黒歌の声が聞こえてくる。振り向きざまに爪で引き裂くが、黒歌の姿はそこにあれど手応えがまったくない。どうやら幻術によって作り出した分身だったらしい。

 

「残念。死んじゃえ」

 

黒歌の操る木の根が、俺の身体を拘束して動きを封じてきた。そして動けない俺に対し、黒歌は魔力の塊を放ち、それを爆発させる。

 

「はい終わり。まずは一人………」

 

「勝手に殺すな」

 

「なっ!?」

 

「黒歌!」

 

隙のできた黒歌に、赤龍の尾(ドラゴン・ネイル)を叩きつける。美猴がギリギリで反応できたようで如意棒で防がれてしまったが、咄嗟のことで衝撃は殺しきれなかったようで黒歌もろとも吹っ飛び、二人共木に身体を叩きつけていた。

 

「嘘でしょ?今のを受けて無傷だなんて………」

 

「いいや、少し効いたよ。蹴られた腕も鎧越しだっていうのに少し痺れたし。さすがにヴァーリとチームを組んでいるだけあって強いなお前達」

 

「それはこっちのセリフだ。ヴァーリから戦い方が少し拙いって聞いていたがどこがだよ?」

 

「あいにくと、一カ月も山籠もりして実戦訓練に明け暮れていたんだ。いやでも経験値は積み重なる」

 

実際、タンニーンさんとの修行が無かったらここまでは動けなかった。美猴の初激だってあんな風に防ぐことは難しかっただろう。

 

「黒歌、やっぱこいつは本気でやらないとマズイぜぃ?コカビエルを倒し、曲がりなりにもヴァーリと渡り合えたこいつの実力は本物だ」

 

「わかってるわ。遊びはいらない。本気で殺すわ」

 

「んじゃ俺は、赤龍帝と全力で遊ばせてもらうか!」

 

喜々としてはしゃぐような笑みを浮かべる美猴と、俺を強く睨んでくる黒歌。二人の表情は対照的だが、二人共俺に対して殺気をぶつけている点では共通していた。

 

あの修行により、俺も強くなった自覚はある。だが、この二人は最低でも最上級悪魔クラスの力を有しているだろう。後ろの二人に被害が出ないように本気を出したこの二人と戦うとなればやはり少し分が悪いか。となると、何か策を用意しないと………こういう時、遠距離戦の手段がほとんどないのが悔やまれる。

 

「妙なオーラを感じてきてみれば、どうやらパーティに相応しくない来客のようだな」

 

俺が思案していると、上空から巨体が降り立つ。この一カ月で何度も目にしたその巨体は、まぎれもなくタンニーンさんだった。

 

「兵藤一誠、加勢するが構わないな?」

 

「ええ。助かりますタンニーンさん」

 

「マジかよ!?こいつ元龍王、魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)タンニーンだぜぃ!赤龍帝と元龍王とやり合えるなんて最高だな!」

 

「何が最高よ。赤龍帝だけでも厄介なのに、また邪魔が増えたわ」

 

タンニーンさんの加勢に敵であるはずの美猴は喜びをあらわにし、対照的に黒歌はげんなりした様子だ。

 

「さーて、それじゃあ。派手にいくとするか!」

 

「馬鹿言わないで。他の悪魔に感づかれたら余計面倒なことになるじゃない」

 

二人はそれぞれ分身を作り出しながら構えを取る。分身含め、合計10を超える数だ。この中から本物だけを探り当てるのは正直不可能だ。どうしたものか………

 

「ふんっ。その程度の分身で惑わそうなど甘く見られたものだな」

 

そう言いながら、タンニーンさんは火炎を口から吐き出した。火炎は巨大で、分身を巻き込んで美猴と黒歌を飲み込む。なるほど、これだけ広範囲の火炎なら確かにいちいち分身を気にする必要もないか。

 

「あっちち!さすが元龍王。大したブレスじゃねぇか」

 

「黒焦げはさすがに勘弁だわ」

 

本体と思われる二人が、火炎を裂けるように上へと飛び上がった。だが、そう来るのは予測済み。俺は二人よりも先に飛び、両手に展開した爪で迎撃する。

 

爪が二人の身体を引き裂くが………引き裂いた感触が伝わってこなかった。どうやら、本体だと思っていたこの二人も幻術だったらしい。そうなると本体は………

 

「一誠先輩、下です!」

 

「ッ!?」

 

小猫の叫び声が聞こえると同時に、俺は後方へと飛び退く。その直後、俺のいた場所に伸びた如意棒と球体の魔力が通り過ぎていった。

 

「ちっ。熱いの我慢して仕掛けたってのに空振りかよ」

 

「白音………やってくれるわね」

 

下を見ると、炎のダメージを受けながらもその場に立つ美猴と黒歌の姿があった。どうやら、分身を囮に使って俺に不意を突こうとしていたらしい。こんな手に引っかかるとは俺もまだまだだな………

 

「すまない小猫。助かった」

 

振り返り、小猫に礼を言う。だが、小猫の姿は普段とは少し違い、黒歌のように頭から猫耳を生やしていた。おそらくだが、さっき美猴と黒歌の本体を捉えたのは小猫の猫又としての力であり、あの猫耳はその影響で出てきたものなのだろう。

 

「一誠先輩、姉様たちが幻術を使って来たら私が本体を教えます。だから先輩は迷わず攻撃してください」

 

「わかった。頼むぞ小猫」

 

これで厄介な幻術による分身に意識を割く必要は無くなった。思い切り攻撃を仕掛けることができる。

 

「幻術による分身は封じられちまったか」

 

「構わないわ。だったら攻撃に意識を集中させればいいだけよ」

 

「ちげぇねえ。来い筋斗雲!」

 

金色の雲を出現させ、その上に乗る美猴。機動力を上げて翻弄しようってところかな?まあいい。真向勝負なら負けやしない。

 

「兵藤一誠」

 

「はい。一気に決めます」

 

「上等!やれるものならやってみやがれぃ!」

 

「何としてでも、白音を連れていくわ!」

 

互いに力を高め、接近していく。だが………それを阻む者が現れた。

 

「そこまでです」

 

美猴と黒歌の後方の空間が裂け、その奥から剣を持った青年が姿を現す。

 

「戻りが遅いから来てみれば。まったく貴方達と来たら………」

 

どうやら、こいつは二人の仲間であるらしい。男の持つあの剣………あれで空間を引き裂いたようだが纏うオーラの性質は聖剣のものだった。

 

「空間を切り裂くあの剣………気を付けろ兵藤一誠。あの剣は聖王剣コールブランド。史上最強の聖剣だ」

 

聖剣であるのはわかっていたが、最強の聖剣とは………そんなものの使い手がヴァーリの仲間に居るとかとんでもないな。それに………あの男の腰に差しているあの剣。あれもただの剣ではなさそうだ。

 

「腰に差している剣もただの剣ではないな?」

 

タンニーンさんもその剣のことが気になっているようで、男に尋ねる。

 

「この剣が気になりますか?こちらは最近発見された最後のエクスカリバー。支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)ですよ」

 

支配の聖剣………行方不明になっていたという聖剣まで向こうの手の内か。コールブランドにエクスカリバーの一振り。厄介な剣士が敵方に居たものだ。

 

「そんな情報簡単に教えちゃっていいの?というか何しに来たの?」

 

「お前、ヴァーリに付き添ってたはずだろ?」

 

「私は貴方達を迎えに来たんですよ。まったく、勝手な行動は慎んでほしいですね」

 

美猴と黒歌を睨みながら言う。大した迫力だ。おそらくこいつは人間だろうに、妖怪相手でもまったく臆していない。

 

「いやぁ、俺は止めたんだがよ?黒歌が………」

 

「一番楽しんでたくせに何言ってるにゃ!」

 

「はあ………まあいいでしょう。私としても赤龍帝に………正確にはそのお仲間に興味がありましたので」

 

二人のやり取りを見て溜息を吐いた後、男はこちらに視線を移した。

 

「赤龍帝殿。聖魔剣とデュランダルの使い手によろしくお伝え願えますか?いつか一剣士として相まみえたいと」

 

剣士として、か。どうやらこいつはテロリストではあるものの剣士としての矜持というものを持ち合わせているようだ。そのうえで、どこか好戦的な雰囲気も感じ取れる。美猴といい、さすがヴァーリが仲間にするだけあって戦い好きのようだ。

 

「今ここで俺達に倒されて捕まるとは思っていないのか?」

 

「ええ。私達はここで退くので戦う気はありませんよ。グレモリーの姫君が援軍を呼んでいるでしょうしね」

 

チラリと部長の方を目配せすると、表情を歪ませていた。どうやら、この男の言う通り援軍を呼んでいたらしい。確かに、援軍が到着すれば被害は出たかもしれないが彼等を捕らえることができたかもしれない。それなら援軍が来るまでこいつらを足止めした方が良いのかもしれないが………

 

「兵藤一誠、足止めしようと考えているのならやめた方が良い。コールブランド相手では、致命傷を負いかねないぞ?」

 

「ええ………わかっています」

 

ここは、無理してでも足止めをするのは得策ではない。タンニーンさんの言う通り、あの聖剣を相手にしてはただでは済まないだろう。

 

「では二人共、帰りますよ」

 

「ちぇっ。これから面白くなりそうだったってのによぉ」

 

「美猴?」

 

「わかってるって!そう睨むなよ!」

 

不満げにする美猴を、目で制する。美猴ほどの実力者に言うことを聞かせるってことは、この男もやはり相当な実力者なのだろう。

 

「仕方ないわね………今日のところはここで退いてあげる。だけど覚えておきなさい白音。私はあなたを諦めないから。いつか必ず連れていくわ」

 

「姉様………」

 

「それじゃあ、さようなら」

 

空間の裂け目を通って、三人は撤退していく。

 

「まったく………とんでもないのを仲間につけやがって」

 

鎧を解除して天を仰ぎながら、俺は宿敵であるヴァーリの手強さを改めて再認識した。




やっぱり戦闘描写難しい………

一誠さんも強くなってるとはいえ、あの二人相手では圧倒とはいかないと思い、接戦となりました。まあ、大したダメージは負っていませんが

それでは次回もまたお楽しみに!


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第83話

今回はゲーム前のミーティングです。かなり短いですが………

それでは本編どうぞ


美猴、黒歌、そして聖王剣コールブランドの使い手との接触から二日後。今日は明日に控えたレーティング・ゲームの為のミーティングが行われた。パーティでは不測の事態が起きはしたが、それでもゲームは予定通り行われるようだ。

 

「さて、いよいよ明日はゲーム本番だ。お前達、心構えはできてるだろうな?」

 

アザゼル先生の言葉に、皆頷いて答える。先日までの修行で皆力をつけている。多少のハプニングは会っても準備は万端だった。

 

「リアス、シトリーはグレモリー眷属の情報をほとんど知っていると見ていいんだよな?」

 

「ええ。ライザーとのゲームの記録で能力に関してはほとんど把握されているでしょうね。ソーナの性格からして、対抗策はいくつも練られていると思うわ」

 

「逆にお前は向こうの陣営についてはどれだけ知っている?」

 

「編成は『(キング)』『女王(クイーン)』『戦車(ルーク)』『騎士(ナイト)』それと『僧侶(ビショップ)』と『兵士(ポーン)』が二人ずつの計八人。数はこちらと同じだけれど、一部能力が不明な者も居るわ」

 

どうやら人数は同じようだが、情報アドバンテージでは向こうに利があるようだ。実際俺も匙以外の能力は部長に教えられたこと以上のことは何も知らないしな。

 

「情報においてはこっちが不利か………まあ、そこは仕方がないだろう。とりあえず戦力の分析をしていくぞ。俺はプレイヤーを『パワー』『テクニック』『ウィザード』『サポート』の4つに分類している。グレモリー眷属で言えば魔力で戦うことに秀でているリアス、朱乃がウィザードタイプだ。リアスはパワー、朱乃はテクニックに寄っているから、まったく同じタイプというわけでもないがな」

 

アザゼル先生がボードに図を書きながらグレモリー眷属の戦力分析を始める。

 

「戦車である小猫はパワータイプ。ただ素質的にはウィザードの適性もある。ゼノヴィアはスピードに秀でたパワータイプで、木場はスピードと技で翻弄するテクニックタイプ。タイプの違う騎士が二人いるのはバランスとしてはちょうどいいな。僧侶であるアーシアとギャスパーはサポートタイプだが、アーシアはウィザード寄りでギャスパーはテクニックタイプに近い」

 

一人一人の特徴を大まかに捉え、大まかに位置づけしていくアザゼル先生。分析に迷いが無いのは、このひとの優秀さの表れなのだろう。

 

「そして一誠だが………基本的にはパワータイプだ。だが、状況によってはテクニックやウィザードの戦い方もできる。サポート以外ならこなそうと思えばこなせる万能タイプだな。まあ、譲渡の力も使えればサポートもできるんだろうが………ともかく、こういうタイプは相性による不利が少ないのが強みだ」

 

万能タイプか………アザゼル先生に評価されているのは嬉しいが、個人的には力任せな戦い方の方がやりやすいからパワータイプとして見て欲しいんだよな。まあ、状況によってスタイルを変えなきゃならないんだろうけど。

 

「リアス、シトリー眷属のタイプはわかるか?」

 

「そうね………テクニックとウィザードが多い傾向にあるわ」

 

「となると相性が悪いな。うちの主力はパワーに寄っている。パワータイプはテクニックタイプ………特にカウンター系能力と相性が悪い。自分の力をそのまま利用されちまうからな。うちで言うと、木場のようなタイプだ」

 

確かに、木場はカウンターが上手い。何度か模擬戦しているが、カウンターを喰らいそうになったことは何度もあるしな。

 

………というか、うちで純粋なテクニックタイプって木場だけなんだな。その分木場の負担が増えそうだが………まあ、俺も可能な限りフォローはしていこう。

 

「パワータイプである小猫とゼノヴィア………あと、一誠も警戒しておけ。特に一誠は必ず何らかの対策が取られていると思っておいた方が良いだろう。最悪の場合、向こうは大多数の戦力を投じてもお前を倒しに来る可能性もある」

 

「数が同じなのに、大多数を投入することはないと思うのですが………」

 

「あくまでも可能性の話だ。正直言って、お前は今回のゲームの中では実力が突出している。その分警戒されるのは当然のことだし、グレモリー眷属としても突出しているからこそ一誠だけを主軸にした作戦を建てるわけにはいかない」

 

「そうね。私としても一誠の負担を大きくするような作戦は反対だわ。誰を主軸にしても動けるような作戦を立てていくのがベストなのだけれど………」

 

「ただ、作戦の数も増やし過ぎるのは禁物だ。作戦を増やせば一つ一つの練度落ちる可能性もあるしな。もっとも、作戦を複雑にし過ぎても綻びが生じやすくなるわけだが………その辺りは経験を積んでいかないとバランスは掴みにくいだろうな。それに関しては王であるリアスの今後の課題でもある」

 

確かに、作戦っていうのはバランスが難しい。シンプルにしてしまえば容易に対処されることもあるし、複雑にしても綻びが生じやすい。それを頭に入れたうえで作戦立案するのが王の役割の一つなんだろうが………部長に任せきりにするわけにもいかないし、俺達眷属も考えていかなければな。

 

「今回のゲーム。お前達の勝率は90%を超えると言われている。実際、俺も順当にいけばお前達が勝つだろうと踏んでいるが、それでも絶対に勝てるとは思っていない。いいか、絶対に勝てると思うな。ただし、絶対に勝ちたいとは思え。俺がこの合宿でお前達に伝える最後のアドバイスだ」

 

絶対に勝てると思うな、か。アザゼル先生の言っていることはもっともだろう。絶対に勝てると思って戦ってしまえば、それは隙となる。勝ちたいと思うのなら、それは排除するべきだろう。そして、それを一番に意識しなければならないのは………俺なのだろう。

 

アザゼル先生が言っていたように、正直俺はこの中で自分が一番強いと思っている。だが、その考えが隙となってしまえば俺は最弱にもなりえるだろう。

 

誰よりも強くありたいと思う。だからこそ油断も隙も見せてはならないし、自分の力を過信してもいけない。それを忘れてしまえば俺は………部長への忠義を貫けないのだから。

 

 

 

 




原作に比べ、魔力が豊富で独特ではありますが技術も備わっているため一誠さんは万能型と位置付けました。それでもパワー特化ではありますが

それでは次回もまたお楽しみに!


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第84話

今回はゲーム直前のお話です

それではどうぞ


「これは………少々厄介ね」

 

レーティング・ゲーム開催日。グレモリー家から転移してきたゲームのフィールドを目にし、部長は僅かに表情を歪ませる。

 

今回の部隊は学園の近くにあるショッピングモール。それも、建造物を過度に破壊してはならないルールの下行われるため、パワータイプや攻撃範囲が広い者にとっては戦いづらい環境だった。

 

「ふむ、私や副部長、一誠にとっては戦いづらい環境だな。効果範囲の広く、威力の高い攻撃が使いづらい」

 

確かにゼノヴィアの言う通りだ。この条件下では力任せな攻撃はほとんどできない。禁手化(バランス・ブレイク)するメリットがほとんどなくなっている。

 

「ギャスパーくんの眼の力もこう遮るものが多いと使いづらいですね」

 

「どちらにせよ今回はギャスパーの眼は使えないわ。以前よりも眼の力を使えるようにはなっているけれど、まだ制御できないこともあって、ゲームに支障が生じる可能性があると規制が入ったわ」

 

「すみません………まだ完全には使いこなせなくて」

 

「それでも、引きこもりは脱出できたんだろ?なら十分な進歩だよ」

 

「一誠先輩………ありがとうございます!」

 

落ち込むギャスパーを慰めると、ギャスパーがぱあっと表情を明るくした。ゲーム前にテンションを下げられるのも困るので、立ち直ってくれて良かった。

 

「ゲームの間、ギャスパーにはこの眼鏡を書けてもらうわ。アザゼルが開発したもので、眼の力を封じることができるらしいわ」

 

「嬉しいですけど、もっと可愛いのがよかったです」

 

「引きこもりは直ってもそういう女々しいところは直ってないんだな………」

 

まあ、ひとの趣味それぞれだから文句があるわけではないのだが………これじゃあ当分男らしくはなれそうにない。

 

「一誠、力を抑えて戦うことはできるかしら?」

 

「一応大丈夫です。力任せに戦う方がやりやすいですが、抑えても戦えないことはないです。それ用の武器もありますしね」

 

タンニーンさんとの修行と並行して行っていたもう一つの修行。このルールの為のものではなかったが、結果的に使えるというのなら存分に使わせてもらおう。

 

「それならよかったわ。さて、細かい作戦を決める前に、まずは周りを調べてみましょう。よく使う施設とはいえ、まじまじと見る機会はなかったし、なにか使えるものがあるかもしれないわ。各自別れて15分後にここに集合。いいわね?」

 

「「「はい」」」

 

返事を返し、各自行動を起こす。俺も気になることがあったので、そこへと向かって歩き出した。目指す場所は一階の食品売り場。その中も生鮮食品の集まるエリアだ。

 

「………まあ、当然あるか」

 

「何がですの?」

 

目当ての物があるかどうか確認していた俺の背後から、朱乃先輩が声を掛けてきた。

 

「朱乃先輩、背後からいきなり声を掛けないでくださいよ」

 

「ごめんなさい。それで、何を確認していらしたの?」

 

「これがあるかどうかですよ」

 

俺は目の前にあるニンニクを手にして朱乃先輩に見せる。

 

「ニンニク?」

 

「ええ。こいつを使えばギャスパーの動きを封じることもできますからね。あるかどうか確認しに来たんですが、ご丁寧に本物がきちんとおいてありましたよ」

 

「となると、ギャスパーくんをここに向かわせるわけにはいきませんわね」

 

「ええ。シトリー眷属がギャスパーをおびき出す可能性もありましたし、先に確認しておいてよかったです」

 

これで不安要素は一つ消せた。それどころか、本当にシトリー眷属がギャスパーをここに誘い込もうとしたなら、それを逆手に取ることもできるだろう。わざわざ確認しに来たかいがあった。

 

「ところで朱乃先輩はなぜここに?」

 

「一誠くんに少し、用があったの」

 

「俺に?」

 

「ええ………一誠くん」

 

突然、朱乃先輩は俺の背に腕を回し、体を密着させてきた。

 

「勇気を………ください」

 

「え?」

 

「私は………私に流れるもう一つの力を使うのが恐い………嫌なの。だから、勇気が欲しいの」

 

もう一つの力………朱乃先輩はどうやら使うと決めたようだ。朱乃さんに流れる堕天使の血………そこから生じる光の力。

 

それを使うのは、勇気が必要なのだろう。堕天使………バラキエルに対する感情に折り合いをつけられずにいる今の朱乃先輩にとって………

 

だけど………俺は朱乃先輩が思うほど大した存在ではない。俺は………バラキエルの代わりになどなれるはずがない。朱乃先輩の思いに応えることなんで………できるはずがない。

 

できるはずない、けれど………

 

「それで、朱乃先輩が力を発揮できるのなら」

 

俺は朱乃先輩の頭に手を置き、軽く撫でる。

 

今はゲーム直前だ。下手なことをして、朱乃先輩のモチベーションを下げるわけにはいかない。これで朱乃先輩が力を発揮できるのなら………これでいい。

 

「一誠くん………一誠。私はあなたを………」

 

「………お二人共、そろそろ集合時間です」

 

朱乃先輩の言葉を遮るように、小猫が現れ声を掛けてきた。

 

「あらあら、見られてしまいましたね」

 

朱乃先輩は俺から身体を離し、クスリと微笑む。最後に何を言おうとしていたかはわからないけれど、ともかく朱乃先輩はもう大丈夫だろう。

 

「ありがとう一誠くん、私は先に行きますわね」

 

俺に礼をした後、朱乃先輩は集合場所へと戻っていく。俺も朱乃先輩に続こうとしたが………小猫に手を掴まれて引き留められてしまった。

 

「小猫?」

 

「私も………私にも勇気をください」

 

小さな手で、すがるように俺の手を握る小猫。どうやら小猫も覚悟を決めたようだ。

 

「仙術、使うのか?」

 

「はい。お姉様のようになるのは嫌ですが………私は皆の役に立ちたいです」

 

「………そうか」

 

黒歌のように………小猫は黒歌が仙術を使ったことで変わってしまったと思っているようだが、俺にはそうは思えなかった。黒歌は小猫を手中に収めようと俺と部長を殺そうとしていた。だが、それは小猫を想っているがゆえの事だろう。その想い自体には、邪気も悪意もあるように感じられなかった。黒歌が仙術に呑まれているようには俺には思えなかった。

 

しかし、黒歌が主であった悪魔を殺し、小猫を置いて行ったことも事実。何が原因なのかは知らないが、そこには何かしらの事情があったのかもしれない。俺なんかでは理解しえに事情が。

 

だが………

 

(………さすがに言うわけにもいかないか)

 

これを今小猫に話したところで、小猫を混乱させてしまうだけだ。そもそも、俺の憶測で実際はそんな事情などないかもしれないし、黒歌は本当に仙術の力に呑まれてしまっているのかもしれない。

 

ならば………今は何も言わない方が良い。

 

「小猫の力、頼りにしている。呑まれそうになっても、俺が止めるから」

 

「一誠先輩………ありがとうございます」

 

小猫も朱乃先輩と同じように、笑顔で感謝の言葉を口にする。だが、その言葉は俺の胸に突き刺さっていた。

 

自分の心内を明かさずに、口から出るのは二人が力を発揮できるように建前の言葉。我ながら最低だ。だけど、最低だとわかっていても、ゲーム前のこの時間に、他にどう声を掛ければいいのか俺にはわからない。

 

結局俺はただ………上っ面だけで二人が必要としている言葉を投げつけているだけだ。本音を口にしたら悪影響が生じてしまうと、あるいはそうやって俺は………恐いから逃げているだけなのかもしれない。

 

「………一番勇気が無いのは俺かもな」

 

「一誠先輩?」

 

「何でもないよ。早く戻ろう。皆待ってるかもしれない」

 

「はい」

 

俺は小猫と共に、集合場所へと戻る。

 

切り替えなければ………もうゲーム開始まで時間が無い。

 

俺の心内なんて、ゲームには何も関係ない………引きずるわけにはいかない。

 

全部全部抑え込んで………ゲームに集中するんだ。




原作イッセーさんと違い、色々と察しているけれど快活な性格ではないのでうじうじと抱え込んでしまっている一誠さん

今更ながら話が進むにつれて精神的に追い込まれてる………間違いなく大丈夫ではないですね

それでは次回もまたお楽しみに!


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第85話

今回からレーティング・ゲーム、スタートです

原作との相違点は果たして………

それでは本編どうぞ


『それではゲームスタートです!』

 

「私の可愛い下僕達!行きなさい!」

 

ゲーム開始のアナウンスの後の部長の一声の下、俺達眷属は行動を開始する。

 

ショッピングモールを舞台とした今回のレーティング・ゲーム。作戦としては俺と小猫が陽動として店内フロアを進み、手薄となった本陣を立体駐車場を経由する木場とゼノヴィアが叩くという作戦だった。俺達が進行している間はギャスパーが店内の監視を行い、進行具合で部長と朱乃先輩、アーシアが動く手筈になっている。

 

「行こう、小猫」

 

「はい。索敵はあたしが請け負います」

 

頭に猫耳を付けた小猫が言う。仙術の力を使うため、猫又としての姿をあらわにする必要があるようだ。

 

「見える範囲に敵はいないが………どうだ?」

 

「近くではないですが動いています。まっすぐにこちらに向かって二人………相手の詳細まではわかりませんが、数分ほどで接敵します」

 

「そうか………今のうちに出しておくか」

 

左腕に籠手を出現させ、接敵に備える。とはいえ、やはり禁手(バランス・ブレイカー)は使えないだろう。ここでは禁手状態で周りの物を壊さずに戦うのは難しい。まあ、通常状態でもある程度力を抑えないと壊しかねないが………これで力加減間違えて負けましたってことになったら部長に合わせる顔が無い。

 

「………以前から思っていましたが、一誠先輩は戦いになると少し雰囲気が変わりますね」

 

「そうなのか?あまり自覚はないんだが………」

 

「うまく言葉にできないんですが………普段よりも少し鋭くなるような気がします」

 

「まあ、戦いとなれば集中しないとならないからな………普段よりも緩んでたらダメだろ?」

 

戦いの最中気を抜けばどんな痛手を受けるかわからない。小猫の言う鋭さが集中状態にあるというのなら、それは当然のことだ。特に最近はコカビエルや白龍皇、タンニーンさん、美猴に黒歌という気の抜けない強敵と戦い続けてきたためか、より集中が深まってきた気がする。

 

「そうなんでしょうけど、私は………ッ!?」

 

「どうした?」

 

「凄い速度で近づいて………上です!」

 

「よう兵藤!」

 

上を向いた瞬間、神器(セイクリッド・ギア)を展開した匙の姿を捕らえた。どうやら急にスピードが上がったのは、神器のラインをロープのように使い、天井の柱を伝ってきたからのようだ。

 

「まずは一撃!」

 

匙は壁を足蹴にし、勢いをつけ、俺に膝蹴りを放ってくる。俺はその蹴りを左腕の籠手で受け、匙の身体を弾き飛ばした。

 

「いい蹴りだな匙。しかも抜け目なくしっかり繋げてきやがる」

 

「これぐらいできなきゃ、お前と渡り合えやしないからな」

 

俺と小猫の正面に立つ匙。そしてその隣にもう一人………確か仁村って名前の一年の兵士(ポーン)だったかな?正直仁村の方は情報が少ないから能力がわからない。

 

ともかく、先に一撃貰っちまったか。ガードしたからダメージはほとんどないとはいえ、しっかりと触れた瞬間に俺にラインを繋げてきている。それも一本ではなく二本………一本は匙の神器と繋がっているが、もう一本はショッピングモールの奥に続いていて、どこに繋がっているかわからない。

 

「一誠先輩、そのライン………」

 

「ああ。匙の神器に繋がってる方はともかく奥に続いているもう一本………アザゼル先生から匙の神器は応用の利くものだと聞いていたが、どういうものかはわからないな」

 

奥に続く方も通常のものと同じように力を吸い上げるものなのか、あるいは別のなにかを吸い上げるのか………考えても検討もつかないな。

 

ただ………

 

「匙、こいつが俺を倒すための策か?」

 

「さあ?どうだろうな?」

 

質問をするが、匙は不敵な笑みを浮かべまともに答えようとしない。だが、あの態度からして、二本目のラインの方に何か仕掛けがあるのは間違いないだろうし、このラインが勝負の鍵となっている可能性があると見てもいいだろう。

 

ラインは応用が利く能力。だが、通常とは違う使い方をしようとすれば、相応の鍛錬が必要になるはずだ。俺だってハードな修行をしてきた自覚はあるが………匙のそれだってきっと負けてはいないのだろうな。一体どんな修行をしたのか、どれほどの思いと覚悟を持って修行に臨んでいたのか。それは、俺では計り知れない、匙地震にしかわからないものだ。

 

それでも、あえて言わせてもらうのなら………俺も見くびられたものだな。

 

「匙………あまり俺を舐めるな」

 

『Blade!』

 

「なっ!?」

 

繋がった二本のラインを切断した瞬間、匙の表情が驚愕に染まった。その表情を見て確信する。やはりこのラインは、匙の切り札だったのだと。

 

「赤い液体………血か。なるほど考えたな。確かに、血を抜かれ続ければどこかで必ず俺は倒れていた」

 

本当に、ここで斬っておいてよかった。どれだけ鍛錬して身体能力を高めようと、生物である限り血を失い続ければ意識を失う。もしも斬らずにこのラインが繋がったままだったら………俺は確実に脱落していただろう。恐ろしい策を用意したものだ。

 

「お前、その剣は………」

 

「聖剣アスカロン。こいつが俺の手にあることはお前も聞いていたんじゃないのか?だったら驚くことはないだろ」

 

俺は右手に持ったアスカロンを匙に突き出しながら言う。本来は籠手から刃が出現するのだが、それでは使いづらいと判断し、俺は通常の剣として右手で持つようにしている。

 

「俺がこれを使うのは予想外だったか?だとしたらやはり、お前は俺を舐めていたんだよ」

 

「な、舐めてなんかいない!俺はお前を倒すために必死に修行した!お前に対抗するために俺は………」

 

「俺もだよ。俺もお前に対抗する手段を手にするために修行した」

 

「え?」

 

「お前は俺をライバル視していた。だからこそ俺を倒すために何らかの策を用意してくると思っていたよ。そしてその策はきっと神器を用いたものだろうともな。だからこそ俺は、こいつを使うことを決め、修行した」

 

このレーティング・ゲームが決まった時、俺はすぐに思った。匙はきっと俺に向かってくるだろうと。匙が俺に向けたライバル心は十分すぎるほどに理解できていたから。だから俺は、アザゼル先生に相談し、修行期間に木場とゼノヴィアから剣の扱いについて学んでいたんだ。

 

アスカロンは龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)の性質を持つ聖剣。ドラゴンの神器を持つ悪魔である匙に対抗する手段として、これほど相応しいものはない。

 

「あのパーティの時に言ったはずだ。持てる力を尽くさせてもらうと。その言葉通り、俺は俺が持つ力を存分に使わせてもらう。このアスカロンは、その力の一つだ。この期に及んで見くびって欲しかったと言うのなら謝るが?」

 

「くそっ………冗談じゃねえ!そうさ………お前がアスカロンを使うのは完全に予想外だったよ!コカビエルや白龍皇と渡り合ったお前をすげぇ奴だって思ってだけど………お前は俺の想像を超えていた!だけど、だからって負けられねぇんだ!お前を倒して、俺は先に進む!」

 

策は破綻したが、それでも匙の闘志は消えていなかった。あるいは、俺を倒すための策は他にも用意してあるのかもしれない。正直、ライン以外に対しては俺もどんな手を使ってくるか予測できなかったから用意している対抗策はもうない。

 

だが、それでも匙が向かってくるというのなら俺は匙を倒すために動くだけだ。接近戦を仕掛けてくるにしても、魔力を使ってくるにしても、はたまたラインをさらに応用してこようとも、俺は俺の持つ力を用いて匙を倒す。

 

「小猫、俺は匙の相手をする」

 

「はい。もう一人は私が相手をしますので、一誠先輩は心置きなく戦ってください」

 

「ああ、頼んだぞ小猫」

 

仁村の方は小猫に任せておけば大丈夫だろう。仙術を使える今の小猫なら、そう簡単にやられはしない。だから俺も、匙の相手に専念すればいい。

 

「来いよ匙。赤龍帝の力の一旦………存分に思い知らせてやる」

 

「行くぜ兵藤………お前は俺が倒す!」

 

拳を握りしめ、俺に向かってくる匙。そんな匙を迎え撃つため、俺はアスカロンを構えた。




原作とは違い、この時点でアスカロンを使う一誠さん。しかも、きちんと剣として使います。おかげでゼノヴィアさんの手にアスカロンが渡ることが無くなりましたが………

それでは次回もまたお楽しみに!


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第86話

今回は一誠さん対匙さんの戦いになります

それでは本編どうぞ


 

油断などなかった。必ず勝てるという確信もない。だが、それでも負けることはないと思った。

 

単純な戦闘能力ならば間違いなく俺の方が上だ。アスカロンという匙に対してこの上なく有効な武器も持っているし、何より匙の策を破綻させることができた。

 

現状、俺が匙に負ける要素はない。十中八九俺の方が優勢のはずだ。

 

それなのに………なんでだ?

 

なんで俺の方が………気圧されている?

 

「うおぉぉぉぉ!!」

 

「このっ………!!」

 

「ぐっ………おらあっ!!」

 

迫りくる拳を躱し、カウンターで匙の顔を籠手で殴りつける。まともに入ったため、間違いなくダメージを負っているはずなのに………匙は怯むことなく、また俺に殴りかかってくる。

 

さっきからずっとそうだ。俺は匙の全ての攻撃を対処し、カウンターを叩き込んでいる。さすがに匙もアスカロンによる一撃だけは受けまいと斬撃は躱してくるが、アスカロンに意識割かれているから拳や蹴りによる一撃は決まりやすくなっている。

 

既に匙のダメージはかなり蓄積されているはずなのだが………それなのに、匙は倒れない。それどころか、ダメージを与えるたびに、匙の気迫は増していく。俺を睨む目が………鋭くなっていく。

 

「いい加減………倒れろ!」

 

「ぐはっ!」

 

匙の腹部を殴りつけ、そのまま勢いに任せて壁に叩きつける。匙の身体は大きくぐらつくが………それでも強く地面を踏みしめ、倒れずに俺を見据える。

 

「負けねぇ………負けて、たまるか!」

 

くそっ………ふざけんな。もうフラフラのはずだ。力なんてまともにはいらないはずだ。なのに、なんで倒れない?なんで向かってくる?

 

なんで………そんな目ができるんだよ!

 

『ソーナ・シトリー様の兵士(ポーン)一名、リタイア』

 

匙に気味の悪い戦慄を感じる俺の耳に入るアナウンス。チラリと横を見れば、そこには仁村を倒した小猫の姿があった。

 

「一誠先輩、加勢します」

 

「いや、いい。匙は俺一人でやる」

 

小猫は俺に加勢を申し出るが、俺はそれを断った。

 

これはチーム戦で、協力して匙を倒そうという小猫の考えは間違っていない。だが、今の匙の気迫は並々ならぬものだ。それこそ、小猫を倒すまではいかずとも深手を負わせる可能性も否めない。そのリスクを考えれば………俺一人で対処した方が良い。

 

「今の匙は油断できない。だからこそ、万が一のリスクを避けたいんだ。先のことを考えるなら、小猫にはここで消耗して欲しくない」

 

「一誠先輩………わかりました。私は後ろで控えています。負けないでくださいね」

 

「ああ。任せてくれ」

 

俺の進言を聞き入れ、後方に控える小猫。ここまで言ったからには、負けられない………必ず匙を倒してみせる。

 

「仁村………お前の思い、俺が引き継いでやる。兵藤は俺が倒す!」

 

匙は魔力弾を俺に向かって放ってくる。赤龍の翼(ドラゴン・ウィング)を展開して防ぎはしたが………魔力弾の威力は魔力が乏しい筈の匙のポテンシャルを超えるものだった。どうやってこれほどの威力を………

 

「やっぱすげぇな兵藤………俺が命懸けで撃った魔力弾を簡単に防ぎやがって」

 

命懸け?まさか………!

 

「お前………自分にラインを?」

 

「ああ。魔力の低い俺が高威力の一撃を撃つにはこれしかないんでね」

 

匙は自分にラインを繋げ、生命力を糧に魔力弾の威力を上げている………文字通り、匙は命を懸けていた。

 

「………死ぬ気か?」

 

「そのぐらいの覚悟がなきゃお前に勝てないだろうが!」

 

匙は何度も魔力弾を放ってくる。撃つたびに命を削っているはずなのに、何のためらいもなく撃ってくる。その全てが、俺に防がれているというのに………届かないのに、なぜ躊躇なく撃てる?

 

「これでも足りないか………ならもっとだ!」

 

魔力弾から感じる力が大きくなる。それは削った命の量に比例しているということだ。こいつは本当に死ぬ気なのか?ここまでする必要があるのか?

 

「馬鹿野郎………なんでそこまで命を懸けられんだよ!死ねば夢も何もないだろうが!死ぬのが恐くないのか!」

 

匙の放った魔力弾を、アスカロンで両断する。手は多少痺れたが、それでもこの魔力弾以上のタンニーンさんの火球だって防いだんだ………これでは俺は倒せない。匙の懸けた命は無駄に終わる。

 

「なんで………だと?決まってるだろ!俺達は夢を笑われた!馬鹿にされた!踏みにじられた!だけど俺達は必死なんだよ!馬鹿にした連中にそれをわからせなきゃならない!俺達シトリー眷属の本気を見せてやらなきゃならないんだ!」

 

叫びながら、今度は俺に殴りかかって来る匙。だが、俺には当たらない。逆に俺に殴られる。けれど………やはり匙は倒れなかった。俺がどんなに倒れてくれと願い、拳を振るおうとも匙は倒れてくれない。とっくに限界など超えているはずなのに、匙は何度も何度も限界を超えてくる。

 

倒れろ………倒れろ倒れろ倒れろ!とっとと倒れちまえ!

 

くそっ………なんでこんなに落ち着かない?なんでこんなにイラつくんだよ………!

 

「倒れろ匙!」

 

「ぐうぅ………!!」

 

俺の拳が匙の顔面に突き刺さる。身体を大きくのけぞらせ、鼻と口から血を流す匙だが………強引に体制を持ち直し、依然として戦う姿勢を見せる。

 

「匙………もういいだろ!これ以上は本当に………!」

 

「まだだ!まだ俺は倒れちゃいない!まだ負けてねぇぞ兵藤!俺は戦う!シトリー眷属皆の為に!会長の為に!俺達の………夢の為に!」

 

「ッ!?」

 

クソ………まただ。またイラつく………また………

 

わからない。わからないわからないわからない。なんでこんなに必死になれるんだ?なんでこんなにボロボロになってまで戦うんだ?

 

そんなに夢は大事か?夢の為なら………命は惜しくないのか?夢は………人にそこまでさせるのか?

 

………駄目だ、やっぱりわからない。そこまでするほど、夢に価値を見出す気持ちを理解できない。俺には………わからない。

 

だって俺には………俺には、夢なんてないから

 

「………禁手化(バランス・ブレイク)

 

予定のなかった禁手(バランス・ブレイカー)を使い、俺は全身に鎧を纏う。

 

今度こそ終わりにする。終わりにさせなければならない。

 

匙を倒す。倒さなければならない。

 

こんなにイラつくのは………もうたくさんだ。

 

「匙………これで終わりだ」

 

左腕を振り上げ、匙に接近する。この一撃で確実に終わらせられるように、相応の力を籠める。

 

イラつくんだ………お前と戦っていると、イラついてしょうがないんだ。だから………

 

終わりに………させてくれ!

 

「一誠先輩、ダメです!」

 

「ッ!?」

 

小猫の叫び声が聞こえた瞬間、俺は我に返って拳を止める。拳を振るおうとしたその先には………匙の姿はなかった。

 

「匙はいつ消えた?」

 

「一誠先輩に叫んだすぐ後に………立ったまま気を失い、リタイアしました」

 

「そうか………止めてくれてありがとう小猫」

 

全く気が付かなかった。いや、それを認識することができなかった。認識できないほどに、俺は自分の我を失っていた。

 

もしも小猫の声が聞こえず、あのまま拳を振るっていたら………建物を破壊していただろう。そうなればこのゲーム、敗北となっていたかもしれない。

 

情けない………匙の気迫に気圧されて冷静さを欠き、チームを敗北に追いやるところだった。

 

「………くそっ!」

 

匙をリタイアに追い込むことができた。この勝負は俺が勝った。勝ったというのに………気分が晴れない。まったく満足できない。勝った気が全くしない。

 

本当に俺は………匙に勝てたのか?

 

………いや、今はそんなことを考えてる場合じゃない。ゲームはまだ終わってないのだから。

 

「………行こう小猫」

 

「はい」

 

俺は小猫と共に、敵陣へと向かい駆け出した。

 

胸に苦い思いを抱いたままに。




形だけ見れば一誠さんの圧勝となりましたが、気持ちの上では完敗となりました

原作のイッセーさんは匙さんの策にしてやられましたが、気持ちでは渡り合っていたので、それと比べると………原作よりもある意味では劣る結果となってしまったでしょう

それも一誠さんの欠陥が原因なのですが………

それでは次回もまたお楽しみに!


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第87話

遅れてしまって申し訳ない………

今回はちょっと時間が飛んでゲームの後のお話です

それではどうぞ


「はあはあ………」

 

シトリー眷属とのレーティング・ゲームが終わった後、俺はすぐにランニングを始めた。理由は………ゲームの内容にある。

 

シトリー眷属とのレーティング・ゲームは俺達グレモリー眷属の勝利で幕を下ろした。匙を撃破した後、部長達と合流し、相手の戦略に多少は翻弄されつつも、仙術を使う覚悟を固めた小猫、そして雷光の力を受け入れた朱乃先輩の力もあり、戦力では大きなアドバンテージを得ていた俺達が押し切った形だ。途中でゼノヴィアが脱落してしまったが、それでも結果としては勝利ということで、俺達グレモリー眷属の株は多少なりとも上がっただろう。

対するシトリー眷属も負けはしたがアザゼル先生曰く、戦術自体は俺達よりも1、2歩先をいっていると評され、一部からは認められたようでそこまで評価を落としていないらしい。

 

何にせよ、俺達グレモリー眷属は勝利をおさめることができた。主である部長に報いることができた。それは間違いなく誇らしいことだ。

 

なのに………だというのに俺は、勝利による従属感を一切感じることができずにいた。

匙との戦い………アレは間違いなく俺の勝ちだった。匙の策を封じ込め、終始優位に立つことができていた。だというのに………勝ったという実感がまるで沸いてこない。心の中にもやもやしたものが巣食っている。その正体が何なのかはっきりせず、苛立ちだけが募っていく。それをどうにか晴らそうと思い、ランニングを始めたのだが………それでも、一向に晴れる気がしなかった。

 

「くっそ!」

 

一旦走るのを止め、近くに会ったベンチに座って休む。だが、止まってしまったせいで余計に匙との戦いが鮮明にフラッシュバックし、さらに苛立ちは増すばかりであった。

そうして苛立ちを抱える俺の前に………一人の老人が現れた。

 

「ゲームが終わった後に走り込みとは………よくやるの」

 

ニヤリと笑みを浮かべながら言う老人は、一見しただけでもわかるほどに風格と威厳を備えていた。間違いなくただ者ではない。

 

「失礼ですがあなたは?」

 

「オーディン………と言えばわかって貰えるかの?」

 

「ッ!?あなたが北欧の………」

 

オーディン………北欧の神々を統べる主神。アザゼル先生からレーティング・ゲームの観覧に来ていると聞いていたがこんなところで会うことになるなんて………というか、護衛もつけずに本当にこんなところで何をしているのだろう?

 

「隣いいかの?」

 

「え、ええ。どうぞ」

 

「すまんな。この歳になると立ちっぱなしは腰にきてな」

 

俺に断りを入れてから、隣に腰を下ろすオーディン様。正直俺としては予想外の事態にまだ少々混乱していた。

 

「レーティング・ゲーム、見ていたぞ。今代の二天龍は歴代最強になると聞いてどんなものかと思っていたがなるほど………確かに、良い素質を持っているようじゃ。まあ、持ち味を発揮し切れず、本気のお前さんを見られなかったのは残念だったがな」

 

「オーディン様にそう言っていただけるとは、恐縮です」

 

「言葉だけの賛辞ならいくらでもくれたやろうとも。じゃがな………あの戦いにおいて、わしはお前さんより相手のシトリーの兵士(ポーン)の方を評価しておる」

 

「匙を………ですか?」

 

「ああ。あの手のタイプはこれから先どんどん強くなる。それは実際に戦ったお前も十分感じ取っておるのではないか?」

 

「………はい」

 

確かに、匙は今後間違いなく強くなっていくだろう。はっきり言えば、今の段階では何度戦っても匙に負けることは無いと思う。だが、匙が自身の力を高め、ヴリトラの力を使いこなしたとしたら………とてつもない力を手にすることになるのは容易に想像がついた。

 

何より………あいつは多分、俺とは違う強さを持ってる。それが何かはわからないけど………あいつのあの気迫は、おそらくそこから来るものだと思う。

 

「………今代の赤龍帝よ。この際だからはっきりと言わせてもらおう。お前さんは確かに強い。だが………お前さんには先が無い」

 

「先が………ない?」

 

「そうだとも。お前さんもまた、これからさらに強くなっていくだろう。歴代最強に恥じぬ力を手にし、いずれは神に届くか………あるいは凌ぐほどに強くなるかもしれん。じゃが………ただそれだけじゃ。お前さんにはそこから先が無い」

 

強くなった先………オーディン様の言うそれが何なのか、俺には全く見当もつかなかった。

 

「その先というのは一体………?」

 

「それは………すまんが、わしの口から語れることではないな。突き付けておいて無責任だと思うかもしれんが、それは自分で見つけなければならん。シトリーは兵士にはあって、お前さんにはないもの………それは自分で見つけろ」

 

自分で見つけなければならない先………見つけろと言われたって、なんのヒントもないんじゃ探しようもない気もする。これがどうでもいい奴からの言葉なら妄言として切り捨てるが、オーディン様からの言葉となれば無視はできない。

 

「あまり急かしたくはないが、ゆっくりしている暇はないぞ?間違いなく、三種族の和平を機に、世界はこれから大きく動くことになる。例のテロリストの件もそうじゃが、神の中には今の状況を快く思っておらん者も多くいるからな。かくいううちも問題を抱えとる。本来ならば存分に楽しみ、苦しみ、満喫しろと言っているところだが………それほどの余裕があるかどうか。今のままではお前さんは、近い未来に必ず破滅する」

 

必ず………オーディン様が口にするそれは、あまりにも重たかった。片目を失ってまで得た知識を持ち、全知全能の神とさえ呼ばれるオーディン様は、俺なんかとは比べ物にならないほどに賢しい方だ。この方はきっと………俺の結末でさえも容易に見通してしまえるのだろう。

 

「自分の身が惜しくば、今一度見つめ直せ。力があるに越したことは無いが、力だけを求めればその先にロクな未来は待っとりゃせん。わしはそういった輩を何人も見てきた。力は破滅に通ずる道………溺れれば逸れるための横道は悉くなくなるぞ?」

 

「………それでも俺は、力を求めます。もっと強くならなければならないので。溺れてでも………俺は強くなりたい」

 

「そうか………まあ力への執着自体は止めはせんがの。じゃが、わしの言ったこと、ゆめゆめ忘れる出ないぞ?お前さんの破滅は大きな意味をはらんでしまうのだからな」

 

「はい………お心遣い感謝します」

 

俺の破滅が持つ意味………確かに俺は今代の赤龍帝。自分でいうのは嫌だが、世界に及ぼす影響は多少なりともあるのだろう。オーディン様は俺にそれを自覚しろと言いたいのかもしれない。

 

正直、どうすればいいのかなんてわからない。どう生きればいいのかなんてわからない。部長に忠義を尽くし、アーシアを守り、白龍皇を倒す………強くなることそれ以外の事を考えるのは俺には難しい。

 

それでも考えなければならないというなら………少しは考えてみよう。あてなどなくても、何もわからなくても………結果破滅してしまうとしても。俺の『先』というものを。

 

「あー!!ようやく見つけましたよオーディン様!」

 

俺が考えにふけっていると、一人の女性がなにやら慌てた様子で駆け寄ってきた。

 

「おお、ロスヴァイセか」

 

「ロスヴァイセか、じゃないですよ!こんなところで一人で………何のために私が居ると思ってるんですか!」

 

「相変わらず口やかましいの………別に一人ではない。こうして赤龍帝も一緒におる」

 

「だからって………って、赤龍帝!?」

 

ロスヴァイセと呼ばれた女性は今になって俺の存在に気が付いたのか、俺の方に視線を向けて驚いていた。

 

「ほんっっっっとにすみません!ゲームが終わったばかりだっていうのにオーディン様の道楽に付き合わせてしまって!なんとお詫びをしてよいのやら」

 

「あ、いえ………俺としても実りのある時間を過ごせたので、お詫びなんてそんな………」

 

「本当に固いのおぬしは。そんなんだから男が寄ってこんのだぞ?」

 

「独り身で悪かったですね!私だって彼氏欲しいですよ!」

 

なんというか………とても愉快なひとだなこの人。オーディン様の護衛ということはヴァルキリーか?彼氏を欲しがるヴァルキリーって………いや、ヴァルキリーは勇士を誘う役割も持ってるからあながち不自然でもないのか?

 

「さて、うるさいのも来たことじゃ。わしはこれで失礼するぞ赤龍帝。機会があればまた会おう」

 

「はい。ありがとうございましたオーディン様」

 

「うむ、せいぜい励むがよい。ほれ、行くぞロスヴァイセ」

 

「うぅ………彼氏欲しい」

 

この場をあとにするオーディン様と、涙目になってあとからついていくロスヴァイセさん。そんな二人の後姿を眺めながら、先ほど言われたことを思い返す。

 

「………やっぱ、わからないな」

 

いくら思い返しても何もわからず、募っていた苛立ちも晴れきれぬまま、俺もその場をあとにした。

 




オーディンさんに諭される一誠さん。しかし、考えるきっかけにはなるかもですがこのままではほとんど何も変わらないでしょうね

はたして一誠さんの今後は………

それでは次回もまたお楽しみに


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第88話

今回は本章の最後の話となります

最後くらいはほのぼのとさせたいですが………

それでは本編どうぞ


「はあ………」

 

思わず漏れてしまった溜息で、今の俺の困惑具合を察してほしい。

 

冥界から人間界へと戻る列車の中。先日オーディン様に言われたことについて少し考えたかった俺は皆から離れた席に座っていたのだが………なぜか両隣を占拠されてしまっていた。

 

「うふふ♪」

 

右隣に居るのは朱乃先輩だ。俺の腕に自身の腕を絡ませて上機嫌にしている。体勢が体勢のため、腕に柔らかいものが当たってしまっているが、そのことについてはあまり考えないようにしよう。

 

「にゃん♪」

 

そして反対の席に座るのは小猫であった。それも、猫耳と尻尾を出した状態だ。仙術の扱いや姉である黒歌との件が原因なのか、なぜかやたらと懐かれてしまったようだ。

 

ともかく、この二人のおかげで現在俺は考えるどころの状況ではなくなってしまっている。この状態で考えにふけるのはさすがに無理があるし、周りからの視線が痛い。

 

部長は朱乃先輩を睨みつけているし、アーシアは小猫を羨ましそうに見ている。さらに、木場とギャスパーは苦笑いを浮かべつつ、同情の籠った目を俺に向けてくる始末だ。唯一、ゼノヴィアだけが夏休みの宿題に手を付けていてこちらを見ていないのが救いかもしれない。

 

ちなみに、部長は当初当然のように朱乃先輩に離れるように言ってくれたのだが、朱乃先輩はそれを笑顔で受け流してしまい、最終的には言っても無駄だということと、先のゲームでの功績もあり、今回は大目に見るということとなった。その割には、朱乃先輩を睨む目つきは直接向けられていない俺でも寒気を感じるほどには鋭いのだが。

 

「はあ………」

 

「お疲れかしら一誠くん?」

 

またしても溜息を吐いてしまう俺に尋ねてくる朱乃先輩。この溜息の原因の一旦は朱乃先輩にあるのだが、そのことを理解しているのだろうか?

 

「やはり冥界での修行の日々で疲労が溜まっているのかもしれませんね。私の膝を貸してあげますのでそこで少し眠りますか?」

 

「朱乃!そこまで許してはいないわよ!」

 

朱乃先輩の提案に、部長が待ったをかける。どうせならこの状況に対してももっと待ったをかけて欲しかったがそこに関しては突っ込まないでおこう。

 

「部長の言う通りです朱乃先輩。そんなことされたら兄様にひっついていられなくなります」

 

小猫も朱乃先輩に待ったをかける。ただ、その理由が完全に私的なものであったため、素直に感謝することができない………って、待て。今小猫なんて言った?

 

「小猫。今兄様って………」

 

「………これからはそう呼ばせて欲しいです。ダメですか?」

 

下から不安そうに俺の顔を見上げながら尋ねてくる小猫。こんな表情をされてしまったらさすがに断りづらい。

 

「まあ、学校の他の人の目があるところでは勘弁してほしいけど、それ以外なら構わないよ」

 

「ありがとうございます兄様」

 

特に嫌というわけでもなかったため、条件付きで許可を出すと、小猫は嬉しそうにしながら俺にすり寄ってきた。まったく、自分でいうのもなんだが、こんな目つきの悪い不愛想な男が兄で何が嬉しいのだろうか?

 

「ずるいです小猫ちゃん!私も一誠さんのことをお兄さんって呼びたいです!」

 

「一誠先輩、僕もお兄ちゃんって呼んでいいですか?」

 

「いや、なんでだよ………」

 

なぜか食いついてきたアーシアとギャスパー。なぜか俺を兄と呼びたいと必死な様子だ。

 

「あははっ。それなら僕も兄さんって呼ばせてもらおうかな?」

 

「ふむ、これは私もそう呼んだ方が良いのかな?」

 

更に木場とゼノヴィアまで参戦してくる。二人共完全に悪乗りだろう。というかゼノヴィアよ。わざわざ宿題の手を止めてまで乗るようなことでもないだろうこれは。

 

というか、これはカオスすぎる。さすがに勘弁してほしいので、目で部長に助けを求めた。

 

「まったくこの子達は………やめなさい。気持ちはわからなくもないけれど一誠が困ってるでしょう?」

 

「うぅ………わかりました」

 

「残念です………」

 

「にゃん♪」

 

がっくしと肩を落として残念がるアーシアとギャスパー。それに対して、小猫は勝ち誇ったようにはにかんで見せる。なんでそんなことでマウントをとって喜んでいるのか理解に苦しむが………まあいいか。

 

「お?両手に花じゃねーか一誠。羨ましい限りだ」

 

「うわっ………」

 

奥の車両の方から現れたアザゼル先生。俺の状態を見て楽しそうに笑みを浮かべているのを目にして、思わず声が出てしまった。

 

「おいおい、先生に対して『うわっ』はねえだろ。これは教育的指導を入れた方がよさそうか?」

 

「貴方には言われたくないですよ不良教師。あんまり軽はずみなことばかり言ってると懲戒免職くらいますよ?」

 

「いつにも増して辛辣だな………」

 

この状況に色々と溜まっているものもあったため、ついつい口調が荒くなってしまう。まあ、こうして発散できるので、アザゼル先生が来てくれたのはある意味ではよかったかもしれない。

 

「お前今俺に対して失礼なこと思わなかったか?」

 

「いえ全然まったくこれっぽっちも思ってません尊敬するアザゼル先生に失礼なこと思うはずないじゃないですか」

 

「句読点無くなるほどに棒読みじゃねえか」

 

どこかメタさを感じる発言をしながら肩を落とすアザゼル先生。だが、どこかわざとらしいのでおそらくそこまで気にしちゃいないのだろう。

 

「というか、冗談抜きで言うがお前はもうちょっとそっち方面にも目を向けたらどうだ?」

 

「そっち方面というと?」

 

「いちいち聞き返さなくてもわかるだろ?歴代赤龍帝の中には女を何人も侍らせてたやつもいるぐらいだ。もっというと、女の赤龍帝は男をとっかえひっかえって奴もいたしな。お前だってその気になればより取り見取りだろうに。修行もいいけど、たまには女とデートとかしてみたらどうだ?」

 

つまりアザゼル先生が言いたいのは、もっと異性関係にも目を向けろと言っているのだろう。というか、歴代赤龍帝はそんなに異性にだらしない奴が多かったのか?

 

『実際アザゼルの言っていることは事実だな。そっち方面に目を向けていた者も少なくはなかった。それだけ赤龍帝というだけでひとが集まってきたともいえるがな。それは相棒も同じだろう?』

 

ドライグが俺の脳内に語り掛けてくる。確かに、赤龍帝だったからこその縁もあったのは確かだ。冥界でのパーティの時だって、赤龍帝である俺に寄って来るひとは多かったしな………まあ、そっちの方は鬱陶しくはあったが。

 

けどまあ………

 

「気遣いはありがたいですが、今はちょっとそっちに目を向けるつもりはありませんね。俺はまだまだ力不足だ。デートなんてしてられる余裕はとてもじゃないがない」

 

「まったくお前は………色々な方面にマジで同情するぞ」

 

呆れたような目で俺を見ながらやたらと深いため息を吐くアザゼル先生。さすがにこの態度には思うところはあるが、言及してしまえば面倒くさいことになりそうだから言うのはよしておこう。この話はここまでだ。

 

「あら、残念ですわね。向こうに戻ったらデートしようと思っていたのだけれど」

 

「あ~け~の~?」

 

ここまでにしようと思った矢先、朱乃先輩の一言によってそれは不可能になってしまった。案の定、部長が反応してしまい、一触即発だ。

 

「はあ………アザゼル先生、勘弁してくださいよ」

 

「いや、今のは俺のせいじゃないだろう。どっちかというとお前が原因だ」

 

俺だって悪くない………と思いたい。これはまた部長と朱乃先輩の小競り合い確定ルートだ。

 

こうなったら、二人には申し訳ないがもう俺は黙っていよう。なんか二人共魔力を纏ってるように見えるけどそれも見なかったことにしよう。

 

そうだ………今の俺にそんなことにかまけている余裕なんてないんだ。オーディン様に言われて色々と考えてはいるけれど………結局は強くなることが最優先。今の俺にとって、力をつけることが何よりも大事だ。

 

そう、たとえ………

 

たとえ、強くなって、先に何もないとしても………

 

俺の生きる目的を果たすために俺は………

 

………強くならなければならないのだから




これにて、本章は終わりとなります。結局最後の最後でややシリアスに………今回の章で一誠さんの病み具合がさらに深まった気がする

次章は原作通りイリナさん再登場となりますので、そこで多少いい方に向かうかどうか………正直作者の私でも不明です(無責任)

そして次章ではついに一誠さんの禁手を超えた力も………

それでは次章もまたお楽しみに



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体育館裏のホーリー
第89話


今回から新章開始となります

それではどうぞ


 

俺の知る限りアーシアほど優しく尊い存在は存在しなかった

当然のように他者を慈しみ、救いを願う心を持ち、誰に対しても温かな太陽のような笑顔を振りまく………俺に言わせれば、アーシアはその存在自体が奇跡のようにも思える子であった。

だが………そんな彼女を俺は縛り付けてしまった

アーシアはレイナーレが死んだ現場に居合わせていた。俺が絶望するところを目の当たりにしてしまった。優しいアーシアはそんな俺を放っておくことができなかったのだろう………俺を支えるために悪魔になってしまった。悪魔になれば容易に祈りを捧げることもできなくなるとわかっていたはずなのに………俺なんかの為に、自らの生き方を歪めてしまった。

だからこそ、俺はアーシアを守らなければならない。それは俺の贖罪………一生かけても償いきれない罪に対する償い。

アーシアを守り、アーシアの幸せを助ける………それが俺の生きる目的の一つ。

その障害になるものがあるというのなら………この手で排除してやる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ………」

 

夏休みが終わり、しばらくたあったある日の通学路にて。未だに学生の大半が長い休みの終わりを嘆いている姿が多数みられる中、隣を歩くアーシアは溜息を吐いていた。だが、その溜息が夏休みの終わりから来るものではないことを俺は知っている。

 

「やはりあのこと気にしてるのか?」

 

「………はい」

 

思った通り、アーシアを悩ませているのは例の出来事であった。

それは人間界に戻ってきた直後の事であった。アーシアに声を掛ける男がいた。男の名前はディオドラ・アスタロト。若手会合にも顔を出していた今のベルゼブブ様を輩出したアスタロト家の次期当主であった。そのディオドラがなぜアーシアに声を掛けたのかわからなかったのだが………どうやら奴はかつてアーシアが治療した悪魔………つつまり、アーシアが教会を追放されるきっかけを作った男であったようだ。

それだけであったのなら、まだ劇的な再会というだけのものであった。ディオドラもアーシアに対して感謝の言葉を述べていたし、結果追放されることになったとしても、彼の治療はアーシアが望んで行ったことなので俺も別に横から口を出すつもりもなかった。

ならばなにがアーシアを悩ませているのかというと………なんとディオドラは、その場でアーシアに求婚したのだ。『これは運命だ、愛している』と言い、アーシアに跪きながら手に口づけを落とすディオドラ。傍から見ればロマンチックな告白にも見えるかもしれないが、それがアーシアを戸惑わせる。突然の事なので無理もないだろう。そしてアーシアを悩ませているのは………そのディオドラの告白に対して、どう答えるべきなのかということだろう。

 

「色々と気にすることもあると思うけど、あれに関してはアーシアが思うように答えを出せばいいと思うぞ?」

 

「それはわかっているのですが………一誠さんは、どうしたらいいと思いますか?」

 

縋る見上げながら俺に尋ねてくるアーシア。本音をいえば、断って欲しかった。それはあのディオドラという男が信用できないからだ。あいつはアーシアに対して礼儀正しく振る舞ってはいたが、どうにもその姿に違和感のようなものを感じていた。どこか取り繕ったような………質の低い芝居を見させられているような感覚だ。もっとも、悪魔で俺個人の抱いた印象だ。この印象の正しいものなのか同化気になって、奴の事を部長に尋ねてみてが部長も詳しい人柄までは知らないようで結局は何もわからなかった。

結局は、ディオドラという男に嫌悪感を抱いているのはあくまでも俺個人の感情………それをアーシアに押し付けることはできない。

 

「俺は………アーシアに幸せになって貰いたいと思ってる。そのための手助けなら可能な限りしたい。だけど………少なくとも今は、今回の件で俺が言えることは無いよ。アーシアの人生にも関わることだ………俺なんかが口を出すようなことではない」

 

我ながら無責任だということはわかっている。俺は既にアーシアの人生を狂わせてしまっているのだから。アーシアは俺を支えるために悪魔になってくれたというのに、俺は………

 

「役に立てなくてすまないな」

 

「いえ。私の方こそごめんなさい。これは私が考えなければいけないことなのに………」

 

考えなければいけないこと、か。そう思っている時点でアーシアの中で答えは決まっているのだろう。それでもアーシアが悩んでいるのは、ディオドラに気遣っているから。優しさ故に、アーシアは悩んでいるのだ。

ままならないものだ………多くの者を救ってきたアーシアの優しさが、自分を苦しませてしまっているだなんて。

 

「………アーシア」

 

俺はアーシアの頭に手を乗せ、軽く撫でる?

 

「一誠さん?」

 

「アーシアがどんな選択をしようとも、俺のやることは変わらない。お前のことは………俺が守るから」

 

「………はい。ありがとうございます」

 

笑顔で感謝の言葉を口にするアーシア。だが、それは俺にとっては痛いものであった。

彼女を守るのは俺の贖罪………自己満足でしかないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聞いたか一誠?」

 

教室に入って自分の席についたところ、唐突に元浜が俺に声を掛けてきた。近くには松田もいる。

 

「お前達のナンパ旅行が大爆死に終わったことなら何度も聞いた」

 

「そっちじゃない!!というか言うなよな!!」

 

「ちくしょぉぉぉぉ!!そこら中にこの夏に童貞を捨てた奴がいるってのになんで俺達は報われねぇんだぁぁぁぁぁ!!」

 

「わかったわかった。俺が悪かったから号泣しながら叫ぶな」

 

よほど傷が深いのか、大粒の涙を流しながら叫びちらかす松田と元浜。周囲の者達(主に女子)が白い眼を向けてきているが、この様子じゃまず間違いなく気が付いていないだろう。

 

「それで?聞いたってな何をだ?」

 

「ああ、どうやらこのクラスに転校生が来るらしい」

 

「は?また?」

 

思わずぶっきらぼうな返答をしてしまったが、それも仕方がないことだと思う。何せ今年に入ってからアーシアとゼノヴィアの二人がこのクラスに編入してきているのだ。三人目ともなれば、いくら何でも多すぎる。

 

「まあ確かに、なぜこのクラスにばかり転校生が固まっているのかは疑問だが、そんなことはどうでもいい。大事なのはその転校生が女子だということだ」

 

「ああ、妙に男どもが落ち着かない様子だったのはそれでか………」

 

先ほどからやたらと落ち着きなく意味もないのに動き回ったり、服装や髪形を整えている男子が多いとは思っていたが………転校生の女子に少しでもいい印象を抱いてもらいたいからか。なんというか、そういう姿を見ると情けないと思う一方で、涙ぐましいほどに哀れに見えてしまう。

 

「まだ女子だってだけでどんな子なのかもわからないっていうのに、どうしてこう気がはやるんだよこいつらは………」

 

「だけど気持ちはわからなくもないな。何せ前例があるからな」

 

「ああ、そういう………」

 

先に転入してきたアーシアとゼノヴィアは世間一般的には間違いなく美少女と言って差し支えないレベルだ。だったら今回の転校生もそうなのではないかと期待してしまう気持ちもわからないでもない。

 

「一誠、お前はどんな子が転入してくると思う?俺は今回は大和撫子系な清楚な女の子だと思うんだ」

 

「俺は活発な子に一票だな!」

 

「いや別に俺は………どんな子が転入してこようとあまり興味はないし」

 

アーシアとゼノヴィアに関しては関係者であるため当然気にかけていたが、今回は全く知らない赤の他人だ。別段興味を持つことは無い。強いて言うなら、こんな興奮しきった男子が多数いる中に放り込まれる子のことを思うと同情を禁じ得ないということだけだろうか。

 

「なんだよノリ悪いな………」

 

「お前も男なんだからもっとこう、テンション上げてこうぜ」

 

「ノリが悪くてもテンションが低くても結構。ともかく、転校生に関してはそこまで興味はないから」

 

そう、この時はまだ転校生に対して特に気にも留めていなかった。誰が転校してこようとどうでもいいとさえ思っていた。

だが………

 

「今日からこのクラスでお世話になる紫藤イリナです!皆さんどうぞよろしくお願いします!」

 

「………マジか」

 

転校生の正体がイリナだと知った俺は………この教室の誰よりも驚いている自信があった。




原作イッセーさんに対し、アーシアさんに負い目の感情が強いイッセーさん。それ故にある意味では誰よりもアーシアさんはイッセーさんにとって特別ともいえるのですが………

そしてイリナさん再登場。果たしてイッセーさんにどのような影響を与えるのか………

それでは次回もまたお楽しみに


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第90話

今回からイリナさんが本格参入

それでは本編どうぞ


「こんにちわ紫藤イリナさん、あなたの来校を歓迎するわ」

 

放課後の部室にて。当然のように俺達についてきたイリナに歓迎の言葉を贈る部長の姿を目の当たりにする。全く動じていないということは、間違いなく部長はイリナの来訪を知っていたのだろう。

 

「部長………知っていたのならなぜ教えてくれなかったんですか?」

 

「なぜと言われても………確かに一誠からすれば思うところがあるのはわかっていたけれど、話したところで彼女がこちらに来ることは変えられないから、わざわざ言う必要は無いと思ったのよ」

 

「それは………まあ、そうですが」

 

反論することは確かにできない。しかし、それでもどこか釈然としないものがあった。

 

「もう一誠君ったら。私が来るのがそんなに嫌だったの?」

 

「別にそういうわけではないが………それよりも、一応改めて挨拶はしておいた方が良いんじゃないか?」

 

「そうね。初めましての方もいるけれど、再びお会いした方の方が多いわね。天使様の使者としてはせ参じました紫藤イリナです!よろしくお願いします!」

 

元気よく快活に挨拶をするイリナ。こういう時、物おじせずに当然のように笑顔を振りまけるイリナの社交性の高さは、少しだけだが羨ましく感じる。 

 

「さて、一応聞くが紫藤イリナ。お前は聖書の神の死は知っているんだよな?」

 

「先生、いきなりそれは………」

 

アザゼル先生のその一言に、俺は思わず動揺していった。信仰心の高いイリナにとってその事実は相当に答える者のはずだ。アーシアやゼノヴィアだってショックを受けていたのだから。

 

「お前の言いたいこともわからないでもないが、駒王は三種族にとって重要な拠点の一つ。そこに派遣されるってことはある程度の知識、情報を知ってる必要がある。その確認はしておいた方が良いだろ」

 

「もちろんです堕天使の総督様。私はもう主の消失を認識しているから」

 

どうやら既に聖書の神の死については受け入れているらしい。ただまあ、イリナの性格上、すんなり受け入れられたとは思えないが………

 

「お前の事だからショックのあまり寝込んだりしてたんじゃないか?」

 

「当然よ!主は私達の支え!世界の中心!あらゆるものの父!その主が死んでいたのよ!?ミカエル様から聞かされたときはあまりの衝撃で七日七晩寝込んでしまったわ!あああぁぁぁ主よ!」

 

突然喚きだしたイリナ。どうやら堪えていたものがあふれ出してしまったようだ。イリナはテーブルに突っ伏して号泣する姿を目にすると、俺が直接の原因ではないにせよ聞いた手前、若干の罪悪感に苛まれる。

 

「わかります」

 

「わかるよ」

 

イリナを慰めるように、肩に手を置くアーシアとゼノヴィア。おそらく今のイリナの気持ちはこの二人にしか理解できないのだろう。それほど信仰心の厚い信徒にとって神の死はあまりにも衝撃的なのだろうが………正直俺は俺は『へえ、死んでるのか』程度にしか思わなかった。

 

「ごめんなさいアーシアさん!私はあなたの事を教会の意に反する魔女だと思っていたわ!ゼノヴィアにも酷いことを言ってしまったって………!」

 

「気にしていません。これからは同じ主を敬愛する同士、仲良くできたら幸いです」

 

「私もだ。あの時の事は破れかぶれに悪魔になった私にも非がある。だが、こうして再会できてうれしいよ」

 

「「「ああ、主よ!」」」

 

突然祈り始めた3人。何やら3人の間で何か絆のようなものが芽生えたようだ。まあ、変にぎくしゃくされるよりはずっといいので、仲がいいに越したことは無いだろう。

 

「あ、そうだわ。皆に見せたいものがあったの」

 

イリナはそう言いながらゼノヴィアとアーシアから少し離れたところに立ち、祈りのポーズをする。すると、イリナの身体が輝き、その背から天使の証である純白の翼を生やした。

 

「イリナ、それは………」

 

「ふふふっ、驚いたでしょうゼノヴィア?ミカエル様から祝福を受けて、私は天使に転生したの」

 

「天界と冥界の研究者が共同で研究して完成した技術だな。根本的なところは悪魔への転生システムを用いているんだろう」

 

「総督様の言う通りです。悪魔が転生にチェスの駒を使っているのに対して、天使ではトランプの札をを用います。主となる熾天使様を『K(キング)』として、Kを除くA(エース)からQ(クイーン)の札で転生天使、御使い(ブレイブ・セイント)を生み出し、12人の配下を生み出しています」

 

人間を天使に転生させるシステムか。神不在が原因で天界は新たな天使を増やすのが困難になっていると聞いたことがあるが、その問題を悪魔の転生システムをを応用したことにより解決したらしい。信徒からすれば信仰の果てに天使へ転生するとなれば、大変な栄誉なことなのだろう。

だがそうなると残る堕天使も同じシステムを使っているのだろうか?

 

「堕天使も同じように転生システムを構築しているのですか?」

 

「いいや、そんなシステム作っちゃいない。俺達は無理に総数を増やそうとは思っていないからな。もっとも、天使の方から堕ちてくれるっていうならその限りではないが」

 

どうやら堕天使達は転生システムを用いてまで仲間を増やそうとは考えていないようだ。まあ、アザゼル先生の性格上、そこはあまり関心はないのだろう。

 

「それよりも、トランプを使うとはミカエルも面白いことをしてくれるもんだぜ。裏でジョーカーって呼ばれる強い奴も居そうだな。それに、ポーカーの役を作って力を発動させるってこともできそうだ」

 

アザゼル先生は楽しそうに考察を始める。アザゼル先生は堕天使を統べるだけあって戦闘力はかなり高いのだが、気質的にはやはり研究者なのだろう。能力があり、立場的なものもあって戦うことはあっても、本来は研究に明け暮れるのが好きというタイプなのかもしれない。

 

「そういえばイリナ、さっき天使はトランプの札を用いて転生仕手いるといっていたが、お前はどの札で転生したんだ?」

 

「よくぞ聞いてくれたわねゼノヴィア!私は『A』よ!しかもミカエル様の『A』なの!」

 

「「ミカエル様の!?」」

 

イリナが胸を張り自慢げに言うと、アーシアとゼノヴィアは驚きを露わにした。無理もないだろう。ミカエル様と言えば天界のトップ。天使を統べる長だ。そんなミカエル様のAとなれば、栄誉どころの話ではない。

………俺は正直、少し自慢げなイリナを見てイラっとしたのだが。

 

「ミカエル様に選ばれるだなんて本当に光栄で話を聞いた時は心臓が飛び出るかと思ったぐらい驚いたわ。これからはミカエル様のAとして恥じない働きをしてみせるわ」

 

「………張り切りすぎてから回らなければいいけどな。お前、昔から無鉄砲なことあったし」

 

「むっ………何よ一誠くんったら。人が意気込んでるのに水を差さないでほしいわ」

 

「実際昔のお前はそうだっただろ。お前の無鉄砲にどれだけつき合わされたと思ってるんだ?」

 

「た、確かに昔はやんちゃしてたこともあったけど、そこまで無鉄砲じゃなかったもん!失礼しちゃうわ!お詫びに一誠くんが悪魔になった理由を教えて!」

 

「それ今関係ないだろ………」

 

突然、悪魔になった理由を聞きだそうとしてきたイリナ。こいつ、まだあきらめてなかったのか。

 

「というわけで教えて一誠くん!」

 

「断る。というかそれは決闘に勝ったんだから教えないってことで済んだだろうが」

 

「あの時はあの時、今は今よ!」

 

「そんな理屈が通ると思ってるのかよ………」

 

くそ………こうなるのがわかってたから嫌だったんだ。本当にしつこい………

 

「教えて教えて教えて教えて教えて!」

 

「だから、嫌だって言ってるだろうが!」

 

「お~し~え~て~!!」

 

「引っ付くな!服引っ張るな!何をされても教えるつもりはない!」

 

「い~や~!!」

 

「子供かお前は!」

 

またしても駄々をこね始めてしまったイリナ。引きはがそうにも、天使に転生したからか凄い力で中々離れてくれない。多少強引にすれば離れるかもしれないが、そうもいかないし………

 

「だ、誰か手を貸してくれ!」

 

仕方なしにこの場にいる誰かに手を借りようとするが………俺の希望は見事に打ち砕かれた。皆して見ているだけで手を貸してくれそうにもない。一部楽しそうに笑みを浮かべてるし。

 

「もう………本当に勘弁してくれ」

 

「教えてよ~!一誠く~ん!」

 

駄々っ子のように俺の腕を引っ張るイリナと、思わず頭を抱えそうになる俺。今後もこう言ったことが何度も起きるのではないかと思うと、さらに頭が痛くなるのを感じた。




相変わらず悪魔になった理由をしつこく聞かれる一誠さん

周りから見たらじゃれ合ってるようにも………見えないか?

それでは次回もまたお楽しみに


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第91話

今回は一誠さんとイリナさんのお話です

それでは本編どうぞ


「この辺りは全然変わってないのね」

 

「住宅街なんて10年じゃそこまで変わらないだろ。商店街の方は多少変わってるけど」

 

日曜日、俺はイリナと町内を歩き回っていた。

転入してから俺が悪魔になった理由をしつこく聞きだそうとしてくるイリナ。いい加減しつこく感じたため、どうしたらやめてくれるのかと聞いたところ、今の駒王町の事を知りたいから案内して欲しいと言われて、今日に至るということだ。これぐらいで聞いてこなくなるのなら安いものだと思ったが、それならこの間の決闘は何だったのだろうか。

 

「というか、10年も前の事なのにそこまで覚えてるものなのか?」

 

「私の記憶力を舐めないでもらいたいわ。今だって目を閉じれば一誠くんと遊んでた時の事を鮮明に思い出せるんだから」

 

自慢げに胸を張って言うイリナ。まあ、俺も当時のことは結構覚えてる方ではある。その理由は散々振り回されたからという何とも言えないものではあるのだが。

 

「あ!あの駄菓子屋まだあったのね!懐かしいわ。よくあそこでお菓子を買ったわよね」

 

「ああ。くじで当たりが出なくて泣いたことがあったよなお前」

 

「え~?そんなことあったっけ?」

 

「記憶力を舐めるなって言っておいてなに呆けてるんだよ………結局俺が買った方で当たりが出て散々喚いていたのを俺は忘れていないぞ?」

 

「………記憶にないわね」

 

こいつ、あからさまに目を逸らしやがって………絶対に覚えてやがるな。

 

「せっかくだ、久しぶりに何か買うか?」

 

「あ、それじゃあラムネをお願いね一誠くん」

 

「奢ってもらう気満々かよお前………」

 

「当然!聞かない代わりの交換条件なんだからそれくらいわね!」

 

なんか結局俺ばっか損してるような気がしてるから納得がいかないが………まあいいか。ラムネの一つぐらいで目くじら立てていたらきりがない。前にファミレスで奢った時に比べればはるかにマシだしな。

………今更だがあの時の料金、天界に請求したら返って来るかな?まあ、領収書もレシートもないけど。

 

「こんにちはー。久しぶりおばあちゃん」

 

「あら………イリナちゃんかい?久しぶりだねぇ。随分とまあ美人さんになって」

 

「ありがとうおばあちゃん。おばあちゃんは変わらず元気そうで安心したわ」

 

確かに、この駄菓子屋のおばあちゃんは変わっていない。それこそ10年前から全くだ。ここまで変わっていない姿を見ると、本当は悪魔なんじゃないかって思ってしまうのは俺が悪魔の環境に慣れ過ぎてしまったためだろうか?

 

「おばあちゃん、ラムネ2本貰うよ」

 

「はい、ありがとね一坊」

 

「その一坊ってのやめてくれよ………俺もう坊やって歳じゃないんだからさ」

 

このおばあちゃん、なぜか昔から俺のことを一坊と呼んでくるんだよな。そのくせイリナはちゃんと名前で呼ぶから、なんだか納得がいかない。

 

「私に言わせれば、一坊はいつまで経っても一坊だよ。言われたくなかったらいっぱしの男になって出直すんだね」

 

「つまり今の俺はいっぱしの男として認められないってことか………というか何がどう変わったら認めてくれるんだ?」

 

「そうだね………しゃんとしたら認めてあげようかねぇ」

 

しゃんとって………抽象すぎてわからない。

 

「もういいや。ほら、ラムネの代金」

 

「まいど。また二人でおいで」

 

「はーい!また来まーす!」

 

「またねおばあちゃん」

 

代金を払い、おばあちゃんに挨拶をしてその場をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これよこれ!やっぱり日本の飲み物と言ったらこれだわ!」

 

「前のファミレスの時もそうだけど、いちいち大げさすぎやしないかお前は?」

 

歩きながら飲むのもマナーが悪いということで、近くの公園のベンチに座りラムネを飲んでいたのだが………大げさなリアクションをとるイリナに、思わず呆れそうになる。まあ、こうしてちょっとしたことでも楽しめるのはイリナの長所の一つだとは思うが。

 

「お前みたいに生きられたら楽しいんだろうな」

 

「ええ。私すごく楽しいわよ?」

 

「それは何より………ほら、ビー玉欲しいならやるぞ?」

 

「本当?ありがたくいただくわ」

 

喜んで俺の飲んでいたラムネの瓶からビー玉を取り出すイリナ。『そんなもの欲しがるほど子供じゃない』と怒られると思っていたのだが………俺の予想の超えてくるなこいつは。

 

「………ねえ一誠くん」

 

俺からもらったビー玉を楽し気に眺めていたイリナだったが、急に神妙な面持ちで俺に声を掛けてきた。

 

「さっき、私みたいに生きられたら楽しそうって言ってたわよね?」

 

「まあ言ったけど………それがどうかしたか?」

 

「一誠くん………今楽しくないの?」

 

どこか辛そうに、悲しそうに尋ねてくるイリナ。

 

「前に会った時もそうだったけど………一誠くん、全然笑ってない。一誠くんの笑顔、全然見られない」

 

「仏頂面は昔からだろ?何を今更」

 

「確かに昔からポーカーフェイスだったけど、昔はちゃんと笑顔も見せてくれてたわよ?楽しそうな時はちゃんと笑ってた。だけど今は全然笑ってない。だから、楽しくないのかなって」

 

全然笑ってない、か。確かに笑う機会は減ってるかもしれない。最後に笑ったのは………ヴァーリと戦った時か?

 

「だったらどうした?イリナには関係ないことだろ?」

 

「そんなことない!」

 

「え?」

 

「一誠くんが笑ってくれないのは嫌!楽しくないのは嫌!一誠くんには笑ってほしいし、楽しく生きて欲しい!笑ってくれないのなんて………嫌だよ」

 

俺の手を掴み、泣きそうな表情で言うイリナ。なんでこいつがこんな顔をしているのか、理解できない。理解できないが………あまりいい気分ではなかった。

いい気分ではないが………それは俺にはどうすることもできない。実際、楽しいと思えることなど何もないのだから。戦っている時ぐらいしか、俺は楽しいと感じられない。その戦いでさえ………匙との戦いは、酷く苦しく感じていた。

 

「………お前がどう感じようと、やっぱり関係ないな。俺は俺の生きたいように生きているだけだ。楽しいとか楽しくないとか、笑えようが笑えまいがどうでもいい。それこそ、さっき言った通りイリナには関係ないことだろう?俺がどうなろうがお前には………」

 

「………駄目なの?」

 

「え?」

 

「一誠くんに楽しく生きて欲しいって思ったら………駄目なの?そんなに私………間違ったこと言ってるかしら?」

 

「それは………」

 

否定できなかった。否定することができなかった。

俺がどう生きようが、笑えようが笑えまいがそれは俺の勝手。その考えを変えるつもりはない。だが、だからこそ………イリナの考えを、思いを否定することなど、できるはずがなかった。

故に俺は………イリナに何と言えばいいのか、わからなかった。

 

「ねえ一誠くん………一誠くんは、望んで悪魔になったの?」

 

「………どういう意味だ?」

 

「今一誠くんが笑えないのは、悪魔になったせいなの?望んで悪魔になったわけじゃないから、一誠くんは笑えなくなったの?だったら私やっぱり悪魔の事………」

 

「それは違う」

 

俺が笑えないのは、悪魔になったからではない。確かに、自分から進んで悪魔になったわけではない。けれど、それは関係ない。

俺が笑えないのは………俺が楽しいと思えないのは………

 

「確かに今の俺にとって、楽しいと思えるようなことはほとんどない。もう簡単には笑えないだろう。だけどそれは悪魔だからじゃない。悪魔として生きていくことに不満は無いし、悪魔になったことに後悔はない。それだけは確かだよ」

 

「だったらどうして?どうして一誠くんは………」

 

これは………適当にははぐらかせないだろう。だが、だからと言って話すことはできない。

愛する女を………レイナーレを死なせてしまってこうなったことを。イリナにだけは知られるわけにはいかない。

なんでそう思うのか自分でもはっきりとわからないけれど………知られたくないんだ。

 

「………そろそろ行こうかイリナ。商店街の方も見て回りたいだろ?あっちは色々と変わってるしさ」

 

「一誠くん………」

 

「コーヒーが美味しいカフェもできたんだ。ランチも美味しいからそこで昼食にしよう。もちろん俺の奢りだ」

 

「一誠くん!」

 

誤魔化そうとする俺を咎めるように、イリナは声を荒げる。それも当然のことだとは思うけれど………誤魔化せるはずないとは思うけれど………

 

「イリナ………頼むよ」

 

「ッ!?」

 

言葉を詰まらせるイリナ。潤んだ眼からは涙があふれ出しそうになっている。

ごめん、ごめんなイリナ………心配してくれてありがとう。その気持ちは嬉しい。だけど………どうか、今はもう察してくれ。

もう………諦めてくれ。

 

「………そうね。確かに商店街の方も見てみたいし、休憩はここまでにしましょう。一誠くんお勧めのカフェにも行ってみたいわ。この際たくさんご馳走になるから覚悟してね?」

 

俺の思いを察してくれたのか、イリナは同調してくれた。俺に気を遣って笑顔を見せてくれているが………その笑顔は、あまりにもぎこちなかった。

 

「ほら、早く行きましょ一誠くん」

 

俺の手を取り、歩き出すイリナ。

強く握られた右手は………痛くて痛くてたまらなかった。




初めはほのぼのとしていたのに結局シリアスに・・・・・今の一誠さんは基本暗いので仕方がないといえば仕方がないですが

それでは次回もまたお楽しみに


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第92話

前置き思いつかない………

と、とりあえず本編どうぞ!


 

「はーい!私借り物レースに出まーす!」

 

教室内に、よく通るイリナの声が響く。今はクラスで体育祭の出場種目決めをしているのだが、イリナは転入したばかりだというのに率先して声を上げている。

生来の社交性の高さも相まって、既にクラスの人気者となりつつあるイリナ。共に行動することの多いアーシア、ゼノヴィアと一括りにされクラスの3人娘と呼ばれるほどであった。俺としては転入してきた3人がクラスに馴染めているのはいいことだとは思うのだが………この3人の人気があまりに高すぎて、クラスの大半の男共から睨まれることが多くなったのが少々心苦しい。

ただまあ、そのことに関してはそこまで気にしているわけではない。それ以上に俺が今気にすべきことが他にあるからだ。

 

「………はぁ」

 

笑顔を振りまくイリナを見て、思わずため息が出てしまう。原因は先日イリナに町の案内をした時の事だ。あからさまに気まずくなってしまったし、あの日はイリナの笑顔も酷くぎこちなかった。あの時のイリナの顔を思い出すたびに、胸が痛くなる。

幸い、次の日からはイリナはあまり引きずっていないらしく、元の明るい笑顔を見せてくれるようになったのだが………正直、俺としてはまだ気まずい。どうイリナと接すればいいかわからずに頭を抱える日々を送っている。さらに、そんな俺に追い打ちをかけるように………イリナが俺の家に住むこととなってしまったのだ。

グレモリー家の財力によって豪邸へと作り替えられた俺の家には現在、部長とグレモリー眷属全員が暮らしている。父さんと母さんは賑やかになると言って喜んでおり、俺としても特に大きな不満はなかったわけだが………そこにイリナが加わったのだ。部長の方には元々そういうことで話は通っていたらしく、これはイリナをこの町に派遣したミカエル様の意思でもあると言うので反論は無いのだが………家でイリナと顔を合わせるたびに、胸が痛む感覚に襲われてしまう。しかも、イリナの方からは普通に接してきているのだからなおさらだ。あんなことがあってもあんなに普通でいられるイリナを羨ましく思う一方、気まずさで軽く凹んでいる自分が情けなくなってくる。

 

「………はぁ」

 

今日何度目かになるかわからない溜息を吐く。いい加減ネガティブすぎてそろそろ誰かから突っ込まれるかなと思っているところに………桐生が俺に声を掛けてきた。

 

「ちょっと、一誠。脇のところ破れてるわよ?右腕の脇」

 

「え?」

 

桐生に言われ、右腕を上げて確認しようとしたその瞬間………

 

「はい!決まり!」

 

声が上がったと思ったら、黒板に俺の名前が書かれていた。どうやら俺は嵌められたらしい。考えてみれば、桐生の席から俺の服の脇が破れているところなんて見られるはずがない。そんなことに気が付けないほどに、今の俺は余裕がなかったらしい。

 

「桐生、お前………」

 

「いいじゃない。あんたまだ度の種目にも立候補してなかったでしょ?どうせ後に残ったのに突っ込まれるんだから同じよ同じ」

 

確かに、桐生の言い分もわからないことは無い。正直、桐生に嵌められなければどれにも立候補せずに残ったものに参加することになっていただろう。なのでまあ、別に構わないといえば構わないのだが………なんか釈然としない。

 

「たくっ………それで?俺は何の種目にでるんだ?」

 

「あれよ。あれ」

 

桐生に促されるままに黒板を見ると、俺の名前は二人三脚のところに書かれていた。

二人三脚。二人一組で出る競技だ。となると当然、もう一人いるはずなのだが、その相手は………

 

「一誠さん、頑張りましょうね!」

 

なんと、アーシアであった。いや、まあ変にあまり知らない相手と組まされるよりは俺としてはよほどいい。桐生としてはアーシアが白目を使う男子と組まされるのを阻止するために俺を嵌めたのだろうが、これならばまあ納得はできる。

 

「ああ。よろしくなアーシア」

 

こうして、俺はアーシアと組んで二人三脚に出場することが決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝負よゼノヴィア!」

 

「望むところだイリナ!」

 

種目決めの翌日から始まった、体育祭の練習。学園全体での練習なのでそこそこの人数が校庭に集まっているのだが、その中でも駆けっこで競い合っていたイリナとゼノヴィアはひと際目立っていた。まあ、美少女と言っても過言でない2人が、陸上部の男子にも負けないどころかそれを遥かに超える速さで爆走しているのだから、目立たないはずはないだろう。

というか、イリナにしてもゼノヴィアにしても教会の戦士として戦ってきただけあって運動神経良すぎるんだもんなぁ。体育祭みたいなイベントでは大活躍間違いなしだ。対抗できそうなのなんてそれこそ同じ悪魔である生徒会メンバーぐらいな気がする。

 

「うわっ………あの二人速いな」

 

「ん?匙か」

 

「よう兵藤」

 

イリナとゼノヴィアの走りっぷりを眺めていた俺に、匙が声を掛けてきた。正直、匙ともレーティング・ゲーム以来、少し気まずさを覚えているのだが………まあ、イリナと比べればまだマシなので、普通に話すことぐらいはできる。

 

「って、その包帯どうした?怪我でもしたのか?」

 

匙の右腕には包帯が巻かれていた。それも結構広い範囲に幾重にもだ。俺達悪魔は回復力も人間よりも高いため、大概の怪我ならすぐに治るのだが………これほど包帯が巻かれているということは結構重傷なのか?

 

「ああ、これな」

 

匙は腕の包帯を解く。匙の腕には俺の考えていたような怪我は見られなかったが………代わりに黒い蛇のような痣が色濃く浮かんでいた。

 

「これは?」

 

「アザゼル先生に聞いてみたんだが、どうにも前のレーティング・ゲームでお前にラインを接続したのと血を吸ったのが原因らしい。繋がってた時間は短いし、血も少ししか吸ってなかったけど、その少しでこんな影響が出ちまうほど今のお前の力は強いってアザゼル先生は言ってたぜ」

 

どうやらこの痣の原因の一旦は俺にあるらしい。そういえば、アザゼル先生は俺の血を飲めばギャスパーも力を高めることができると言っていたし………俺の血はそんなに影響力の強いものなのか。

 

「それ大丈夫なのか?」

 

「大きな問題は無いらしい。ただ、ヴリトラの力が前よりも強く出るようになるかもしれないって」

 

「………呪いか?」

 

「恐いこと言うなよ………ヴリトラってあまりいい伝承を残してないんだぜ?それこそ本当に呪われそうだ」

 

少し嫌そうに言う匙。だが、心配もわからないでもない。以前ドライグから少し聞いたのだが、ヴリトラは龍王の中で唯一邪龍とも呼ばれる存在で、一部伝承では忌み嫌われているらしい。その能力も、直接的な戦闘能力というよりは特異な能力を駆使するトリッキーなタイプだったようだし、呪いの一つや二つ覚えていてもおかしくはない。

 

「なんというかまあ、ご愁傷様だな………一応俺が原因っぽいし、何かあったら相談ぐらいは乗るぞ?」

 

「もしもの時はそうさせてもらう。ところで兵藤は何の競技に出るんだ?」

 

気分を変えたかったのか、匙は俺の出場種目を尋ねてきた。

 

「二人三脚。アーシアと一緒にな。ちなみに今はアーシアが二人三脚で使う紐を持ってくるっていうから待ってるところだ」

 

「マジかよ………美少女と一緒に二人三脚とか普通に羨ましいなちくしょう!俺のパン食い競争と変わってくれ!」

 

「いや、そもそも俺とお前クラス違うだろ………それよりも匙、後ろ」

 

「後ろ?」

 

俺に言われ、後ろを振り返る匙。そこには生徒会長のソーナ様と、副会長でソーナ様の女王(クイーン)でもある真羅先輩が居た。

 

「匙、話しをするのも結構だけれど、仕事もちゃんとしなさい」

 

「生徒会はただでさえ男手が足りないのですから、しっかりと働いてください」

 

「す、すみません!それじゃあ兵藤、またな」

 

慌てて二人について、生徒会の仕事に戻る匙。なんだかんだ、匙も忙しい毎日を送っていそうだ。

 

『………ヴリトラか』

 

何を思ったのか、ドライグはヴリトラの名を口にした。

 

(どうしたドライグ?)

 

『いや、気にするな。ただ、俺や白いの以上に幾重にも魂を切り刻まれ奴も、近いうちに目を覚ますことになりそうだと思ってな』

 

(そのきっかけが俺ってことか?)

 

『まあそうなるな。アザゼルに協力するファーブニルに、神器となったヴリトラ。そしてタンニーンともまみえた。お前は龍に縁があるのかもな』

 

龍に縁か………そうなると、いずれ他の龍王とも会うことになるかもしれない。

二天龍であるドライグには劣るようだが、それでも強大な力を持つ龍の王達。

どれほどの力を有しているのか興味が沸く俺は、やはり戦闘狂なのだろうと改めて自覚した。

 




イリナさんとの気まずさを引きずる一誠さん。こういうところは原作イッセーさんに比べてだいぶ情けなく見えますね………

それでは次回もまたお楽しみに!


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第93話

今回は二人三脚の練習からスタート

それではどうぞ


 

「おっと」

 

「あう………またやっちゃいました」

 

アーシアと共に二人三脚の練習に励んでいたが………中々難航していた。何度やっても歩幅が合わずに躓いてしまう。

 

「あんた達………それ何回目よ?」

 

近くで見ていた桐生が呆れ顔で言う。桐生の策略で二人三脚に出ることになったのだから呆れるなと怒りたくもなったが、実際呆れられても仕方がないほど躓いてしまっているから何も言えない。

 

「すみません一誠さん。私が上手く合わせられないから………」

 

「いや、それは俺のセリフだ。アーシアの歩幅に合わせられなくて………」

 

「いや、あんたら上手くいかない原因それだから」

 

「「それ?」」

 

どうやら桐生はうまくいかない理由を察しているらしい。

 

「あの、桐生さん。それというのは………?」

 

「あんた達、互いに合わせようとしすぎなのよ。アーシアは一誠に合わせて歩幅を大きくして、一誠はアーシアに合わせて歩幅を狭くしている。その結果合ってないのよ」

 

なるほど………互いに合わせようとした結果としてズレてしまっているのか。だったら片方だけが合わせようとすれば………

 

「わかった。そういうことなら俺が合わせるから、アーシアはいつも通りの歩幅で行ってくれ」

 

「いえ、そんな。一誠さんが合わせてくださらなくても、私が合わせますので」

 

「いいから。俺が合わせる」

 

「大丈夫です。私が合わせますから」

 

「いや、俺が………」

 

「私が………」

 

「ええい!お約束な漫才するなまどろっこしい!」

 

俺とアーシアのやり取りを見て苛立ったのか、桐生が喚きだした。こいつはなんで自分の事でもないのにここまで騒ぐのだろうか?

 

「一誠!あんたが合わせなさい!男なんだから女に負担を掛けさせない!アーシアはいつも通り!いいわね!」

 

「は、はい………」

 

「わかった」

 

結局、桐生の命令で俺が合わせることとなった。あまりの迫力に否とはとうてい言えない。まあ、俺としては全く不満は無いから構わないが。

 

「よし、それじゃあ俺が合わせるからな?」

 

「はい」

 

「「せー………の!」」

 

紐で結ばれた足を一歩踏み出した瞬間………俺とアーシアは盛大に躓いてこけた。明らかに歩幅があっていない

 

「いやいやいやいや………アーシア、あんたなんで歩幅大きくしてるのよ。一誠が合わせるって言ったじゃない」

 

「ご、ごめんなさい。つい………」

 

どうやらアーシアは半ば無意識に俺の歩幅に合わせようとしてしまっていたらしい。優しいアーシアのことだから、合わせてもらうというのに抵抗があるのだろう。

 

「仕方ないわね………ならアーシアが一誠に合わせなさい。一誠は普段通りに」

 

「わかった。それじゃあ頼むぞアーシア?」

 

「はい。任せてください」

 

今度はアーシアが合わせるということで、練習を再開する。

だが待てよ?アーシアと俺の身長差を考えると、俺の普段通りの歩幅ってアーシアの負担が………

 

「行きますよ一誠さん。せー………の!」

 

アーシアの掛け声で、再び一歩を踏み出す。だが………また歩幅はあわなかった。

 

「なんでよ!?一誠!あんた明らかにいつもより歩幅が狭かったわよ!?」

 

「いや、いつも通りの歩幅だとアーシアがきついかなと………」

 

「その気遣いは結構だけど、そんなことしてたら一向に前に進めないわよ!」

 

「あう………すみません一誠さん」

 

「アーシアが謝ることじゃないし!ああもう………これは時間がかかるわ」

 

なぜか練習をしていない桐生の方がつけれたような表情で、額に手を当てていた。

結局この日は、まともに一歩すら踏み出せずに練習が終わってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「はあ………」」

 

「二人共、随分浮かない顔だね」

 

今日の授業が終わり、部室でうなだれている俺とアーシアに、ゼノヴィアが声を掛けてきた。

 

「ええ、まあ………」

 

「二人三脚の練習がまあ………うまくいかなくてな」

 

「そうなのか?イッセーとアーシアならば息は合うと思ったのだが………二人は眷属になった時期も近く、共に過ごすことも多かったと聞いているが?」

 

「あら、そうなの?」

 

ゼノヴィアの言葉に、いの一番に反応したのはイリナであった。まあ、俺が眷属になった理由について何か聞けるかもしれないと思ったからなのだろうが。ただまあ、話すつもりは一切ないが。

 

「一緒に過ごす時間が長かったと言っても、まだほんの2,3ヵ月の話だからな。というか、先月は俺ほとんど山籠もりだったし」

 

「山籠もり?一誠くん、山に籠って何をしてたの?」

 

「修行でドラゴンとひたすら戦ってた」

 

「そ、それはハードね………」

 

さすがのイリナも若干引いていた。まあ、今にして思えば確かにハードだった。気を抜いたら本当に死ぬんじゃないかと思ったし。山一つをほとんど更地にして、部長に怒られはしなかったものの呆れられてたもんなぁ。

 

「それはともかくとして、私の眼から見ても、一誠はアーシアと共に居る時間は長い。家でも学校でもほとんど一緒に居るだろう?それならば呼吸は合うと思うのだが………日本では確か、以心伝心と言うのだったかな?」

 

「いや、言葉にするのは簡単だけどそんな単純なものじゃないから………」

 

「そういうものなのか………そういえば、以前から気になっていたことがあるのだが」

 

「なんだ?」

 

「一誠はアーシアの事を特別扱いしているように思えるが………何か理由があるのか、同じ眷属の仲間として、ぜひとも聞かせて欲しいのだが?」

 

「「っ!?」」

 

ゼノヴィアの言葉に、俺は思わず言葉を詰まらせる。アーシアも表情を強張らせていた。

確かに、俺はアーシアを特別扱いしている。それは………アーシアが優しいからだった。

アーシアは俺がレイナーレを失うところを………絶望するところを見てしまっている。そんな俺のことを放っておけず、支えるためにアーシアは眷属になってしまったのだ。だからこそ俺には、アーシアを守る義務がある。支えようとしてくれているアーシアに報いる義務がある。

故に俺は………アーシアを守ることを、生きる理由の一つにしたんだ。

 

「ゼノヴィアさん………すみません。それは私の口からは………」

 

「俺もちょっと………」

 

「む?そうか………まあ、無理にとは言わないさ。二人にも事情があるのだろうしな。では、私は木場と修行の約束があるから失礼する」

 

歯切れの悪い俺達の態度を見て、ゼノヴィアは聞かない方が良いのだと察したようで聞くのを止め、木場の方へと向かって行った。随分と気を遣わせてしまったようだ。

だが………イリナの方は、訝し気に俺とアーシアを見つめていた。俺とアーシアは眷属となった時期が近いため、さっきの話の内容は悪魔になった原因に何らかの関係があるのかもしれないと思っているのかもしれない。

実際、レイナーレがらみであるためそれは間違っていないのだが………だからこそ、言えるはずの無いことだった。

 

「………そういえばイリナ。お前、当然のようにオカ研の部室にいるけど入部してなかったよな?」

 

俺は強引に話題を逸らした。正直、未だに気まずさのの頃イリナと会話するのは少し戸惑わるのだが、致し方ないだろう。

 

「え、ええ、私は他のクラブに入ることにしたわ。しかも自分で作ることにしたの」

 

イリナは戸惑いながらも、俺の質問に答えてくれた。どうやら話題転換は成功したらしい。

 

「どんなクラブなんですか?」

 

アーシアも乗ってくれて、イリナが作るというクラブについて尋ねる。

 

「聞いて驚きなさい。その名も『紫藤イリナの愛の救済クラブ』よ!学園で困っている人が居たら無償で助けるの!主の為、ミカエル様の為、学園の皆に愛を振りまくの!」

 

思わず『うわぁ』とか『胡散臭そう』だとか『怪し過ぎて絶対に頼りたくない』などと言ったネガティブな言葉が喉から出かけたが、どうにかして飲み込んだ。相変わらずこいつはどこかぶっ飛んだ発想をしている。

 

「まあ、なんというか………頑張れ」

 

「頑張ってくださいイリナさん!」

 

「任せなさい!当然オカルト研究部もお助けするんだから!」

 

あからさまな社交辞令な言葉を振り絞った俺と、心の底からイリナに賛同したようで、目をキラキラさせて応援の言葉を贈るアーシア。それに対して、イリナは胸を張って誇らしげである。

まあ、結果として学園の皆の助けになるのならいいかもしれないが………なぜか問題を起こしたイリナのフォローに入る自分の姿を想像してしまい、思わず頭を抱えそうになる。

どうか………どうか洒落にならないような問題を起こさないでくれよ?振りじゃないからなマジで?




レイナーレさんの件により、ある意味では原作以上に互いに気を遣い過ぎている一誠さんとアーシアさん。その結果、合わないところも生じてしまっていますが………

そしてイリナさんが来てからシリアスとコメディのバランスがおかしくなってきている気がするが………ま、まあこれはこれでいいかな?

それでは次回もまたお楽しみに


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