とある少年の生体適応 (まうんてんうちうち)
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1話

ようやく書きあがりました。新作です。
初めましての方もいるかと思います。息抜き程度の作品ですので、あまり過度な期待とかはしないでください笑


 外より圧倒的に科学が進んでいると言われている学園都市でも、夏は暑い。

 道行く人は汗をかき、手で顔を仰ぎながら歩く人もいる。俺は能力の関係上汗はかかないが、視界から入る情報だけで気持ち汗をかく。

 

 首元のリングペンダントをいじりながら、特に寄り道することもなく家を目指す。学園都市に来る前、西葛西に住んでいた頃、幼少期に幼馴染からもらった指輪。学園都市に来てからは会っていないが、元気だろうか。

 

「あ、美旅(みたび)。あんたも今帰り?」

「ん……あぁ、美琴か。そっちも?」

 

 学校の帰り道。俺はひとりの少女に声をかけられた。

 茶髪の短髪、身にまとっている服は学園都市で暮らす人なら、知らない人はいないんじゃないかというほどの名門校、常盤台中学の制服。

 

 知る人が見れば、常盤台のエース、超電磁砲(レールガン)の御坂美琴だということは一目瞭然だ。

 

 俺の言葉に、美琴は頷いた。近くには美琴の後輩……たしか白井黒子、だったか。いつも連れてるが、まさか美琴には友達がひとりしかいないのか?

 

 ……まぁ、友達は人数じゃないとは思うけどな。

 

「なに、こっからどっか行くの?」

「黒子の友達が私に会いたいって言ってるらしくてね。あんたも来る?」

「んー……そうだな、お金をおろしたら合流するよ」

「了解、後で連絡するわね」

 

 それじゃ、と美琴。俺は手を振り返して銀行へと向かう。昔、美旅にぃ! とか言って所構わず抱きついてきた可愛さはどこに行ったのだろうか。もう見る影もない。

 

「あれ、帰ったんじゃなかったのか?」

「おーう……少し用事ができてな」

 

 銀行に向かって歩くこと数分。見知った少年に出くわした。

 

「そっちは?」

「もうすぐ夏休みだと思うとテンションが上がりましてね。散歩」

「……補習で潰れないことを祈っとくよ」

「ははは……潰れるんだろうな。不幸だ……」

 

 かわいた笑いで、上条はそう言った。まぁ、無能力者(レベル0)だと苦労するよな。奨学金は少ないし、補習はあるし。

 

「それじゃ、また明日な」

「おう。じゃあな」

 

 軽いやりとりをすませ、再び俺は銀行へと歩を進める。向かう銀行はふれあい広場前のいそべ銀行という銀行。まぁ、学園都市のどこにでもある平凡な銀行だ。

 

 途中、クレープのチラシを受け取りながら歩くこと数分。目的地へとついた。

 

「……あ?」

「え?」

 

 銀行の中には、顔に白い布を巻いた3人の男がいた。白い布は見るからにオシャレ目的というわけではなく、顔を隠すために巻いているものだ。

 

「……運が悪かったな。お前もあっちへ行け」

「……はい」

 

 頭によぎった銀行強盗の4文字。上条ではないのに、こんな不幸にあうのは理不尽だと思う。

 

 銀行強盗の指示に従い、恐らくは客と店員であろう人々の中に移動する。

 

 科学が進んでいて、利便性に優れ、学生は超能力を使えるという夢の都市と言われてはいるが、その実ここは治安が悪い。

 

 まぁ、精神の発達途中である学生が分不相応な力を手にしたら、こうなるのが普通なのかな。俺も学生だけど、俺の能力は攻撃系じゃないし、こんな大それたことはできない。

 

 

 そんなことを考えているとき、ジリリリリという音とともに、防犯シャッターが入り口を封鎖した。

 

「あぁ!?」

 

 強盗のひとりが、怒声にも似た声をあげた。どうやら、店員のひとりが防犯シャッターを作動させたようだ。

 ……しかし、この状況になっては手遅れだと思うんだけど。もしかして、客より金の方が大事なのか?

 

「ちっ……早く金を詰めろ!」

「は、はい!」

 

 手に炎を浮かべ、店員を脅す少年。どうやら発火能力者(パイロキネシスト)のようだ。それも、見た所強度(レベル)は3ほどありそうな、そこそこの能力者。

 

「……あのさ」

「黙ってろ!」

「……こんなことして、風紀委員(ジャッジメント)とか警備員(アンチスキル)から逃げられると思ってるの?」

 

 頭の中に浮かんだシンプルな疑問。この都市は治安が悪いぶん、治安を守る方もそれなりの力を持っている。

 

 とくに、警備員はいざとなったら銃火器も持ち出せる。風紀委員も本来戦闘はダメとはいえ、能力者もいるし、それなりの戦力を持つ組織だ。そんなふたつから逃げられるとは、到底思えない。

 

「それは……」

「おい、準備できたぞ!」

 

 口ごもる少年。それと同時に、3人組の他の少年が、現金の詰まったバッグを手渡した。

 

「あとは……!」

 

 手に火球を浮かべた少年は、それをシャッターに投げつけた。シャッターは外に向かって大きくひしゃげ、爆発した。

 

「逃げるぞ!」

 

 そう少年が叫ぶと、3人組は爆煙の中へと消えていった。

 

「……ま、いっか」

 

 どうせ風紀委員とかが捕まえてくれるだろうし、なんて考えて俺は出口へと踏み出す。

 

「……ん、美琴かな?」

 

 何歩か歩いたところで、ポケットの中のケータイが震えた。先ほど、後で連絡すると言っていた美琴かとあたりをつけてケータイを取り出す。

 

「……ふれあい広場?」

 

 内容は、今はふれあい広場でクレープを食べている、というものだった。

 



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2話

ようやくテストが終わったので、書き始めます。
更新速度は遅いと思いますが。


「おいおいおいおい……ウソだろ?」

 

 なんでもないメールの内容。ふれあい広場でクレープ食べてるから、来れるんだったら連絡ちょうだい。

 

 普通なら、本当になんでもない内容だ。あ、そうなんだ。今から行くね、で済む内容。

 

 ふれあい広場の目の前の銀行で、銀行強盗が起きてなかったら、の話だが。

 

 銀行から外に出て、あたりを見回す。すぐ右では、白井が金属製の芯のようなもので銀行強盗のひとりを制圧していた。

 

「あら、そこにいましたの」

「ああ……ひどい目に遭った。美琴は?」

「お姉さまなら……あそこにいますわ」

 

 そう言った白井は、ふれあい広場の方に視線を向けた。美琴は何やらあたりをキョロキョロと見ていて、何か、あるいは誰かを探しているようだった。

 

 道路を挟んで向かい側にあるふれあい広場。俺は車が来ていないことを確認して道路を横断する。

 

「何探してんの?」

「ん……あぁ、美旅。早かったわね、どこにいたの?」

「あの煙上げてるとこ。おかげでエライ目にあった」

「どうせ怪我ひとつしてないんでしょ。それより今男の子を探してるから、手伝って」

「すこしは心配してもいいと思うんだけど……なに、迷子かなんか?」

 

 俺の言葉に、美琴はコクリと頷いた。どうやら、学園都市の見学バスに乗っていた乗客のひとりである男の子が、広場から消えたらしい。

 

「じゃあ、俺は広場を探すよ」

 

 そう言って、俺は広場へと入って迷子を探す。

 銀行強盗にあったり、迷子探しをしたり……今日はなにかと忙しいな。

 

「きゃあっ!」

「ん?」

 

 広場に入って十数秒。そういえば、男の子の特徴とか聞くの忘れてたなーと考えていた時だった。

 女性の叫び声が、広場のすぐ外から聞こえた。

 

 反射的に、声のした方を向く。そこには小さい男の子を抱えた黒髪の女の子と、そこから走り去っていく銀行強盗の少年。

 

「黒子ぉ!」

 

 広場に響き渡った美琴の怒声。ここまで怒っている声を聞いたのは久しぶりだ。

 

「あの……大丈夫?」

「はい! ……えっと?」

「ああ……美琴に呼ばれてきたんだけど。今日会うって言ってた友達?」

 

 俺の言葉に、黒髪の少女は頷いた。

 

「その連れですけどね」

「なるほど……大丈夫? ……少し腫れてるね。すぐに冷やさないと」

 

 どうやら銀行強盗に何かされたようで、頰は赤く腫れていた。殴られたか、蹴られたか……傷が残らなきゃいいけど。

 

「あ、あの……御坂さんが」

「ん……あぁ、美琴か。大丈夫でしょ」

 

 そう言うと同時、道路の上を閃光が駆け抜けた。

 

「……ほらな」

 

 美琴の代名詞、超電磁砲(レールガン)が車を撃ち抜いた。ふん、と髪を払って不機嫌に言う美琴。車は放物線を描いて飛んでいき、地面に激突した。

 

***

 

 警備員(アンチスキル)の事情聴取を終えた俺は、伸びをして美琴の元へと向かう。

 

 しかし、このリングペンダントに傷がつかなくてよかった。子供の頃から大事にしてるものだから、傷ついてたら強盗がどうなってたかわからない。

 

「まさか美旅が強盗に巻き込まれてるなんてね」

「直前に不幸なやつにエンカウントしたから……移ったのかな」

「風邪じゃないんだから」

 

 はぁ、と呆れたようなため息を吐いた美琴。

 

 こんな事件に巻き込まれるのなんて初めてだな。本当に上条の不幸が移ったのかな……

 

「それで、美琴に会いたいって子はどこなの? あの黒髪ロングの子は違うでしょ?」

「あぁ、佐天さんね。なんか無理やり連れてこられたらしいけど」

「しかし、美琴があんなにキレたところ久しぶりに見たな」

「そりゃ怒るわよ。今日初めましてだったとはいえ、友達に暴力振るわれたんだし」

 

 それもそうか。俺は上条とか土御門ならわかるけど、あの青い変態はどうも何があっても助ける気はしないけどな。なんか、何もしなくてもなんとかなりそうだし、そもそも、あいつが巻き込まれるようなことなんて関わりたくもないし……

 

「でも、少し意外だったわ」

「なにが?」

「美旅が遊びに来たこと。普段私のこと誘わないし」

「それは美琴が反抗期入ったかどうか分からないから手を出しにくいんだよ」

「反抗期なんか身内なんだから気にしなくても……」

「アホ。超能力者(レベル5)の反抗期はなんかですまないから。軽く天災だっつの」

「……それじゃあ、傷ひとつ負わないあんたはなんなのよ」

「能力なんだから仕方ないだろ。美琴は俺に怪我してほしいの?」

「そうは言ってないわよ」

 

 少しムッとした表情を浮かべた美琴。いかんいかん、少しいじりすぎたか……電撃がとんでくる前にクールダウンさせないと。

 

「すいません、ようやく後処理終わりました……そちらの方は?」

 

 後方から、小走りの音と少女の声が近づいてきた。その声はどこか聞き覚えがあって、どこか俺を懐かしくさせた。

 

「あぁ、初春さん……ほら、私に会いたいって言ってた」

「初春……?」

 

 初春、という名前には聞き覚えがあった。俺の知っている初春という人物は、頭に花飾りをした少女で、西葛西にいた頃遊んだことのある、幼馴染といえる人物だ。

 

 後ろを振り返り、自身の中に浮かんだ予想と、現実とを答え合わせする。

 

「飾利……か?」

「……美旅くん?」

 

 あっけにとられたような表情で、目の前の少女はポツリと言った。



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3話

えーっと、大変お久しぶりです。
遅くなった訳は、今年新高校三年生ということで、受験になるので、です。
これが今年最後の投稿になると思います。もう片方の方もできれば更新します。


「それじゃあ、改めて紹介するわ」

 

 コホン、と咳払いひとつした美琴。

 現在、俺たちがいるのはファミレスだ。飾利と美琴、白井は俺のことを知っているが、佐天涙子さん……だったか。ひとり初対面の人がいるので、俺の紹介がてら入ったところだ。

 

「こいつは美旅で、こっちが佐天さん」

「えっと、さっきはありがとうございます」

「こいつって……まぁいいや。俺はなんもしてないけどね。よろしく」

 

 俺の対面に座る佐天さんにそう言うと、こちらこそと返事がきた。

 ちなみに、席順は向かい側が左から白井、美琴、佐天さん。それでこっちが飾利と俺だ。

 

「それで、初春さんは美旅と知り合いだったの?」

「えっと……なんていうか」

「俺が西葛西に住んでた頃の幼なじみ」

「あぁ、そういうことか。西葛西出身って言ってたもんね」

 

 俺の言葉に納得した様子の美琴。

 俺は小学校6年生まで西葛西に住んでいた。このリングペンダントの指輪も、誕生日に飾利にもらったものだ。指輪がはまらなくなったからペンダントにしたのだが、今思えば、小学生の頃に指輪のプレゼントってすごいな。

 

「それで、御坂さんは美旅さんとどんな関係なんですか?」

 

 ニヤニヤとした表情を浮かべる佐天さん。一体何を勘違いしているのだろうか。

 

「どんなって……身内よ身内」

「あ、兄妹ですか?」

「まぁそんなもんだな……飾利、そんな顔してどうした?」

「へ? あ、いえ、べつに!」

 

 手をワタワタと動かしてそう言った飾利。何やら深刻な表情をしていたが、なにか悩みでもあるのだろうか。

 

「それでこっちが……」

「いえ、お姉様。彼のことはすでに知っていますわ」

「あぁ、白井。久しぶりだな」

 

 白井に会うのは……2ヶ月? 3ヶ月? それくらいぶりか。あまり絡みはなかったけど、顔なじみではあるな。

 

「黒子、初対面じゃなかったの?」

「近くの支部の風紀委員(ジャッジメント)に少し前まで所属していましたので、何度か顔を合わせたことがありますの」

「え、美旅が風紀委員……似合わな」

「うるせ。これでも一応支部のエースだったんだよ」

 

 そう言うと、美琴はさらに「信じらんない」と付け足して首をかしげた。それはいったいどういう意味なのか後で問いただす必要がありそうだ。

 

「美旅くん、風紀委員だったの?」

「おう、去年までな。もう今は一般人だ」

 

 俺みたいなユラユラしてるやつは責任のある立場には向いてないってことに気づいたからな。一般の学生で十分だ。

 

「……むむ、初春が敬語を使わないなんて……ちょっと嫉妬です」

「え、飾利いつも敬語なの?」

「そうなんですよ。いつまでたっても佐天さん佐天さんって……涙子ー! 野球しようぜー! ぐらい砕けてもいいと思うんですよね」

「それは中島ぐらいしか無理じゃないかな」

 

 しかし、飾利が敬語か……昔からおとなしかったからなぁ。おとなしいというか遠慮がちというか微妙なとこだけど。一歩引いた姿勢だったな。

 

「だって、佐天さんはいつもいつもスカートめくるじゃないですか」

「え、それ関係あるの?」

「もっと距離を置いたほうがいいと思うんですよ」

「そんな……初春のスカートをめくれないなんて、私は何を楽しみに生きればいいの!?」

「スカートめくりしか生きがいがないんですか!?」

 

 手を激しく上下に振りながら言った飾利。しかし、元気そうで何よりだ。小6のときから会ってないから……約4年ぶりか。結構久しぶりに会ったんだな。

 

「もう、美旅くんもなにか言ってよ!」

「そうだなぁ……もう中学生なんだし、年相応のパンツを履けよ?」

「美旅くん!?」

「今日の初春は淡いピンクの水玉ですよ」

「佐天さん!」

「あ、そうなんだ」

「……美旅くんがこんなになってるとは思わなかった」

 

 はぁ、とため息まじりに言った飾利。

 

「元々こんなのだったでしょ、俺」

「もっとマシだった」

「マシって」

 

 はは、と軽く笑いながらコップに入ったメロンソーダを飲み干す。

 

 その日は、適当な雑談をして解散となった。しかし、学園都市は狭いな。飾利と白井に会うとは思わなかった。



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