ブラック★ロックシューター Kagero Symphogear (イビルジョーカー)
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プロローグ



前作については本当にすみませんでした。

何もかもを一新したこの小説を読んで貰えれば幸いです。

では、どうぞ。





 

 

 

 

 

日本。先進国の一つであり、様々な和の文化の名残が存在する国のとある街中で、それは誰に知られることなく始まっていた。

 

「ハァッ!!」

 

活気溢れた一声と共に振り落とされる、剣の刀身。

 

それは身に純白のフードの付いたローブに赤いガスマスクのような仮面を付けた白装束の集団、その一人の頭へとめり込み、左右に一刀両断せしめた。

 

仲間の一人が死んだのを皮切りに白装束の集団は、ローブの内側から出すようにして長方形に穴を開けたような物体を向ける。

 

すると、数分と時間をかけず無数のエネルギーの閃光が穴から迸る。

 

その先には剣の持ち主である少女がいた。

 

少女はふんらりと波立たせた長い金髪で、顔は童顔ながらも大人びた魅力を有していた。

 

服装は黒を基調とした白混じりのゴスロリ風のもの。

 

これだけでも存在感が異様な程溢れ出ているのだが、極めつけは彼女の両足が金属の物質に包まれ巨大な車輪だ。

 

これではバランスを取るに一苦労だと思うかもしれないが、少女は両足の車輪を容易くこなし、そのスピードを生かした剣撃で次々と白装束たちの胸を重点的に斬りつけていく。

 

やがて最後の一人を斬り捨て、終了を得た。

 

「ふぅ、こんなもんか。終わったよロック」

 

《お疲れ。こっちも終わったよ『チャリオット』》

 

チャリオット。そう呼ばれた少女は右の手を右側の頭の側面へと添えて、ここにはいない誰かと通信する。向こう側の人物は『ロック』という名らしく、声で判断すればチャリオットと同じ少女のようだ。

 

「これで3度目……前みたいな奇襲じゃなくて『何らかを探してる』っぽいよね」

 

《私もそう思う。けど何が目的なのか、依然として不明なのが不安だ。碌でもないのは間違いないけど、一連の動きの全容を知る必要がある》

 

「と、言うと……“ネブレイド”してみる?」

 

ネブレイド。

 

チャリオットが口に出したその単語に対し、向こう側の少女は諌めるような口調で応答した。

 

《ダメ。例え因縁の宿敵であってもネブレイト行為は看過できない。情報の引き出しは、あくまでスキャンだけに留めて欲しい》

 

「分かったよ。それじゃ、後で合流しようね」

 

そんな会話を最後に通信を切り、チャリオットは既に事切れている白装束の遺体へと手を向けるようにして翳し、そこから光が発生。

 

光は、淡い黄色に染まっており白装束の遺体を照らす出す。

 

そしてそこから様々な情報がチャリオットへと送られた。

 

「う〜ん……ダメか。取れるには取れるけど、やっぱ肝心な情報に解析阻害のアーマメントが施されてる……んん〜」

 

参ったとばかりに唸るチャリオットだが、先程言っていたネブレイドと呼ばれる何らかの行為は禁止されている為、一先ず情報収集を止めて散乱した遺体の処理に掛かった。

 

 

 

 

 

 

一言で述べると、世界はいくつも存在する。

 

一つの宇宙にある幾つもの惑星…という意味ではない。

 

宇宙以外の幾千幾万と膨大な空間が幾つも存在するという意味だ。

 

次元の層は幾重にも存在し、その中に多種多様な空間が介在。人類が繁栄している地球が存在する宇宙はその空間の一つに過ぎない。

 

そして、幾千幾万以上と果てしなく存在する空間。その一つに空間全てを戦場と化した世界があった。

 

クシロロ。

 

それが世界の名。白と黒のマス目の市松模様が大地に描かれ、大空は果てのない幻想的な虹色。

 

そんな世界にはハートレスという種族がいた。

 

彼等の種には二つの強大な勢力に分かれ相争っていた。

 

平和主義を謳う『クロワ』。

 

闘争主義を掲げる『ハクト』。

 

この両勢力の戦いは800年と続き、その前にも平和主義と闘争主義は互いの信念と思想の為に幾多の戦いを繰り広げてい。

 

それこそ、クシロロの黎明なる原初から今に至るまでの数万年と。

 

そしてハートレスたちの戦いは、ある出来事を機に異世界へと移り変わった。

 

星々が輝く暗黒世界の宇宙。そこに浮かぶ太陽系の第3惑星『地球』へと……。

 

 

 

 

 



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第1話『交差する邂逅』 part1





自分の予想より遅くなってしまいましたが、次話です。

感想をいただければ幸いです。

※題名変えました







 

 

 

 

 

 齢18の少年、如月伸太郎は今日という日を心底と言う程に後悔したかもしれない。

 

 いや、もはや十分後悔していると言う方が適切か。

 

 何故なら自分の目の前で謎の白装束の連中が黒いツインテールに黒のパーカーらしき服装を身に纏った少女に、その手に持った大砲のようなもので胴を撃ち抜かれ、首を落とされる。

 

 そんな非現実的光景が広がっているのだから。

 

 時を遡れば、全ては今日の朝から始まった。

 

 

 

 

 

 

 

「お、俺のパソコンがァァァァァーーーーーーーーー!!!!」

 

 少年、如月伸太郎ことシンタローの悲痛と絶望を織り交ぜた叫びが部屋どころか外へと響き渡る。

 

 原因は彼のパソコンに置いてあったコーラが大量に溢れ見事に故障。パソコンがウンともスンとも言わなく成り果てたからだ。

 

 しかも大切なデータもいくつかパソコンの中にあった為、故障したとなるとデータの復元は難しい。

 

 とは言え、復元できる可能性は決してゼロではない。

 

 確率で言えば……0.03%だろう。

 

 もはや“絶望そのもの”としか言えないが。

 

《あ〜あ。またやっちゃいましたね〜ご主人》

 

 床に蹲るシンタローの耳に呑気な少女の声が届いた。

 

 急いで近くに置いてあったスマホを手に取り画面を見れば、ホームのディスプレイ画面の中をまるで魚のように舞う青いパーカー姿の少女が一人、同じ青のツインテールを靡かせシンタローに悪戯っ子な笑みを見せつける。

 

「笑い事じゃねーぞこれは!! どーすんだよ?! また何時ぞやの時みたいに買いに出る破目に…」

 

《よかったじゃないですか。せっかく外に出るんですから、メカクシ団の皆さんと一緒にお出掛けしましょう!!》

 

 何がよかっただ。最悪の事態の間違いだろ。

 

 声に出して叫びたいのを堪え押し込み、とにかく今問題とすべきはパソコンだ。

 

 壊れたパソコン。その中のデータは復元できる可能性がもはやゼロに近いと言っていいほど低い数値。

 

 ならば、どうすればいいか。

 

 どう考えても“外に出て買い行く”という選択肢しかない。

 

「はぁぁ………分かった行くよ。行けばいいんだろ」

 

「おおッ!! ヒッキーなご主人がそんな簡単に……さては偽物ですか?!」

 

「アホか。俺だって変わるんだよ色々」

 

 シンタローは、ほんの数年前まで俗に言うところのニートに属する人間だった。

 

 当然ニートである以上、他人と接触する機会なんてものは幻想に等しく存在せず、あったとしても実妹だけというのが関の山だった。父は幼い時に他界しており、母は入院しているため妹以外の人間には会っていなかったし、そも彼自身が会うことを頑なに拒んでいたからだ。

 

 そんな彼がエネと出会ったのは一年前ほど。

 

 最初こそ自分のパソコンに来てしまった悪戯メールの類だと思っていたのだが、これが大間違いだった。

 

メールの中身はエネそのもので、なんと自称『スーパープリティー・電脳ガール』と呼ぶ奇天烈で異様な存在だった。

 

 ただのAIプログラムやウイルスとは思えないほど情緖に溢れ、まさにハイテンションが

鰻登りも同然。

 

 悪く言えば小悪魔的迷惑電脳ガール(シンタロー曰く)。それがエネという、説明し難い存在にして少女というわけである。

 

 そんな彼女との望まなぬ日々を過ごす中で、今回のようにパソコンを壊してしまった時があったのだ。

 

 そして何という災難か。買いに出かけたデパートに強盗団が押し入りシンタローは人質として捕まってしまったのだ。

 

 そんな危機的状況でシンタローを救ったのは、メカクシ団だった。

 

 その後は恐ろしい速さで妹とのモモ共々メカクシ団にエネの脅迫と言う名の説得もあって入団。

 

現状において彼はそのメカクシ団という一風変わった集団に一員として、組みしているのである。

 

《あっ、どうせならモモさんやメカクシ団の皆さんと一緒に行きましょうよ!》

 

「やだ。一人がいい!絶対!!」

 

エネの提案に時間をかけず簡潔に三拍子で即答するシンタロー。

 

異議あり! と言いそうな感じを匂わせる。

 

《ええ〜!! 行きましょうよご主人!! ね?絶対楽しいですってホントマジで!!》

 

「集団行動のデメリットを知ってるか? 個人の自由が制限されるし、相手を待たなきゃいけない。そんなんだったらソロで行くのが吉ってもんだろ?」

 

ドヤ顔で正論を口にするシンタローだが、逆にそれが“なんぼものもんだ”と言いたげな顔のエネはすぐさま反論した。

 

《ご主人は青春の波に乗り遅れてしまった、言うなれば人生の遭難者なんです! みんなと一緒に楽しんで色々して、時には甘く切ない恋なんかも…》

 

「いや、ねーから。あんまし妄想垂れ流すなよキモい」

 

《き、キモいとはなんですか!! 私はただご主人の今後の為を思ってですね…》

 

「オカンかおのれは!! 余計なお世話だっつーのそんなん!!」

 

 あー言えば、こー言う。

 

 そう言えば反論する。互いに。

 

 言葉と言葉の応酬は、不毛な平行線を辿るだけで決め手に欠けていた。

 

 しかし、このまま不毛に続ける訳でも無意味に終わらす気もないエネはある策に打って出た。

 

《いいんですか〜ご主人。実は私、こ〜んなこともあろうかとご主人の誰にも見せられないデータ満載の秘蔵フォルダをこのスマホに写したんですよ? ああ〜拙いですね〜》

 

 誰にだって見せたく物の一つや二つある。

 

 そんな代物を秘密裏に手中に収め、脅迫紛いな言葉で心を翻弄させる手口というのはやはり末恐ろしい所業と言える。

 

 だが、それをエネはしているわけだ。

 

 ご主人と嘯く元ニートに勝つ為に。

 

 しかし、シンタローに焦燥や危機感はなかった。

 

 彼女の行動をよく把握しているし、これは前にもあったからだ。故に打開策を持っていたのだ。

 

「おいおい、エネよ。俺が二度も同じ手にひっかかるバカとでも思ってたのか? 秘蔵フォルダのデータは、この中にある!!」

 

勝機は我にあり、とその手に握ったある物を見せつける。エネが目を凝らしてみればそれは何処にでもある一般的なもの…USBメモリだ。

 

「二度あることは三度ある。逆に一度起きれば、二度同じようなことが有り得る。先手を打つってのはよ、先を見据えた者こそが成せる技なんだよエネ」

 

《プッ、プフフ。その中に入ってるの、私が予め用意しておいたダミーですよ?》

 

 ………………………へ?

 

 そんな間抜けな心内の呟きと共に一瞬、世界が凍てつくかと思うほどにシンタローは銅像の如く固まってしまった。

 

《疑うんでしたら、証拠をどうぞ》

 

 そう言って、エネは画面に明確な証拠となる本物の秘蔵フォルダの中身をスマホの画面いっぱいに表示した。

 

その内容は……想像にお任せ願おう。

 

「な、なっ、なんでだ! 確かに……」

 

《行動が遅いんですよご主人は。何事も早い段階から動くべし! 理解しました〜?》

 

 驚愕を隠せないシンタローにしてやったりとエネは口の両端をこれでもかと吊り上げ、ニヤリとした邪悪な笑みを浮かべてはこれ見よがしに見せつけている。

 

 その様、悪戯的という可愛いらしい領域を飛び越えて、もはや悪魔的な次元に入っていると断言していい。

 

 そしてこの状況を見た者は、すぐにある事を察するだろう。

 

 どちらが勝者で、どちらが敗者か。

 

 もはや軍配は決したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「で、こうなるわけか……」

 

 シンタローは溜息を吐き、何もかも諦観と化した状態で空を明るく照らす太陽の下を歩く。

 

 メカクシ団という集団は、その活動内容に決まったものはないが、主に人助けを生業にしている。

 

 とは言え、別段今日は困っている人などいない為、メカクシ団全員でお出掛けしようと言うことになった。

 

 ようするに、用無しの暇という訳だ。

 

「ほらほらお兄ちゃん! そんな亀みたいに歩いてたら置いてっちゃうよ?」

 

「むしろ置き去りにしてほしい。全てがちっぽけに見えちまうくらいの高い所で」

 

 某錬金術師アニメの有名なOPっぽい事をほざくシンタローに対し、彼を亀の歩みと酷評する妹の如月桃こと『モモ』は自身の兄を一瞥する。

 

「相変わらずダウナー全開だね。何かあったの?」

 

「前の時みたいにパソコンがぶっ壊れてよ、しかもその時に行ったショッピングモールにまた行く羽目になったわけだ。これ、気が急転直下しない理由あるか?」

 

「前向きに考えようよ。同じ事が起きる可能性なんて天文学率的数値なんだって」

 

「お前の口から天文学率なんて言葉が出るとは。お兄ちゃんビックリ」

 

 兄と妹でそんな会話を繰り広げている内に、一名ノリ気でないメカクシ団一行は目的のショッピングモールへと無事到着。

 

 ここは以前、シンタローが前回パソコンを買いに行った際に強盗団が押し入り、そしてメカクシ団に出会うキッカケとなった場所だ。

 

 故にテンションをダウンさせるも道理で、やはりここには行きたくなかったのが本音ではあるが、みんなの意向によりシンタローと言う一人の人間の拒否表明は却下された。

 

 多数とは、ある意味暴力なんだなと感じ入るシンタローを他所に、メカクシ団のメンバ

ーらは和気藹々とした空気を形成させていた。

 

「そーいや、ここって僕等とシンタロー君が出会った思い出ある場所だよね〜」

 

「おい、皮肉みたいに言うな」

 

 ニヤニヤとした顔を浮かべてシンタローを一瞥しながら言う鹿野修哉こと『カノ』の姿は、まさに団員内でよく例えにされている猫のそれだ。

 

 猫は猫でも、人を誑かす化け猫の類とでも言うべきか。

 

 身に纏った黒のフード付き半袖パーカーを靡かせては、してやったりと笑う姿にシンタローは苛立ちを覚えつつも何とか堪えた。

 

「調子に乗るなカノ」

 

 そう言って、カノの鳩尾へ拳を叩き込んだのはiPodをあしらった絵柄の薄紫のパーカーを目深く被り纏った、ボーイッシュな緑色長髪の少女。

 

 木戸つぼみ。通称『キド』だった。

 

「い、いっつつ……いや、そんなに怒んないでよキド。これはアレ、ホラ、ちょっとしたジョークだよジョーク。知ってるだろ?」

 

「ああ。よく知ってる。けど、だからこそ、意外とムカッと来るものなんだ」

 

「ぐぼぁっちょッ!!」

 

 思わず笑いで吹き出してしまいそうな奇声と共にキドのアッパーを顎に受けて軽く上昇

 

 そんな光景を眺めつつ、やはり溜息しか出ないシンタロー。同じく光景を見ていた深緑色のツナギに黄色のヘアピンをした少年、瀬戸幸助こと『セト』と。

 

 もう一人、白い髪に水色と白のエプロンドレスと言う、まるで童話不思議の国のアリスが現実世界に飛び出したかのような風貌の少女。

 

 本名小桜茉莉、団員通称『マリー』。

 

 この二人は眼前の光景に対し別段思うところは無かった。これが日常的に繰り返されている一種の日課と化しているからだ。

 

 故にのほほんとした両者の空気は変わらず、ただ『カノがいつもより吹っ飛んでるね』や『そうっすね〜』という会話が成立しているだけである。

 

 慣れとは、恐ろしいものだ。

 

 

 

 

 








感想待ってます!









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第2話『交差する邂逅』 part2




 遅くなってすみません(汗)

 二話をどうぞ!








 

 

 

 

 

 

 

シンタローにとって『ショッピングモール』という場所は一種の鬼門と言っていい。

 

 かつては、引きこもり生活を得意とする生粋のヒッキーであった故に『人が多い場所』という点でも苦手意識はあるのだが、それ以上に『強盗団による人質事件』に巻き込まれた経緯が過去にあった為、それがショッピングモールという公共の場を『最悪的印象』として脳内に焼き付けてしまった。

 

 しかしあの事件がシンタローとメカクシ団の邂逅であり、今の現状に至る始まりでもあったのは事実だ。その時はメカクシ団とエネのおかげで犠牲者もケガ人も出さず、一切全てにおいて事なきを得て強盗団は全員逮捕。

 

 一件落着なのはいいが、この一件でショッピングモールという場所が軽いトラウマになってしまったのは言うまでもない。脳内に焼き付くほどなら尚更だ。

 

 とは言え、あくまで『軽い』ものなのでこうして足を踏み入れられているのだが。

 

 しかし今回は前回と似たような状況のせいか、あの時のように何か良くない事が起こるのではないか。とシンタローは予感めいたものを心中に感じてはいたが、今は故障したパソコンに代わる新しいパソコンの目的の購入が最優先事項。

 

 一階のモール正面の入口から足を踏み入れたメカクシ団一行。

 

 その奥手前にあった目的の店舗を見つけた瞬間、根拠のない予感をとりあえず頭の隅へと追いやったシンタローは急ぎ足で店舗の中へ入っていく。

 

「あ、あの、お客様?」

 

「……」

 

 しかし入ってすぐ目に入った光景は、並ぶ電化製品の数々よりも一際目を引く奇妙な光景だった。

 

 白いカッパのような衣類を身に着け、フードで頭を覆い隠す怪しい人物ら二人が何も言わず佇んでいる。気になった女性の店員が声をかけているようだが無反応で、訪ねても何も言ってこないに何らかの動作を起こす様子も見受けられない。

 

 まるで、そういったオブジェクトのように佇むという気味の悪さを嫌という程に体現していた。 

 

「なんだ……あいつら」

 

「ん? どうしたのシンタロー君」

 

「……随分と怪しい格好の人たちがいるな」

 

 少し遅れて入ってきたキドとカノ。

 

 カノは何かを見ているシンタローを不思議そうに思い問いかけ、逆にキドはシンタローが見ているものに逸早く気付き、率直な感想を述べた。

 

「あれ、なんだろ……」

 

「う~ん……なんとも言えないっスね」

 

 続いて入ってきたセトとマリーも、白装束の異様な人物たちに気付き疑問符を浮かべた。

 

「撮影か何かか?」

 

「でもカメラはないみたいっす。それに何となく雰囲気もそーゆーのとは違う気が…」

 

 キドはドラマか、あるいはドッキリ番組の演出的なものかと疑った。しかしそれに対しセトはあの白装束が放つ異様なオーラを感じてか、そういったものとは違うと言う。

 

 そうして。ほんの数秒ほどメカクシ団一行がその異様な光景を見ていると、ようやっと白装束の内の一人が声を発した。

 

「一つ、聞きたい」

 

 開口一番はそんな問いかけだった。声は20代か30代辺りの普通の若い男性のそれだ。

 

 まるで機械的な無機質さを感じさせる淡白さ。それが気味の悪さを醸し出してはいるような声だったが、ようやっと喋ってくれたことに女性店員は安堵した様子で男の声に答える。

 

「はい、なん…」

 

 だが言葉は続かなった。

 

 男の、顔を隠していたフードの中から、『それ』が現れ一瞬にして女性店員の顔を覆い尽くしたからだ。

 

 グジュッ!

 

 まるで柔らかいものが容易く潰れるが辺りに響き渡る。

 

 それが一体何を意味するのか……見ていたシンタロー達には分かってしまった。

 

 潰れたのは否定しようもなく、紛れもない『女性店員の頭』だったからだ。

 

 

 

 

 ☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

「お前はどんな味だ?」

 

 人間では、なかった。

 

 『それ』から発せられた男の声を聞き、混乱と恐慌が自身の脳へ襲い掛かろうともシンタローは、それだけでも何とか冷静に把握できた。そして状況を理解した上で改めて『それ』を凝視する。

 

 『それ』は、白装束のフードの中から…丁度顔のある位置から出てきた太く真っ白な肉のような不定形の塊だった。それが女性店員の

頭部を覆ったかと思えば、その凄まじい力の圧迫で彼女の頭を『グチャッ』と。

 

 まさにトマトのように容易く潰してしまったのだ。

 

 大量の血を吹き出しながら女性店員は床に倒れ込み、その命が確かに消失した事は骨格も肉も滅茶苦茶に潰された頭が何よりの証明であり、同時に殺した男が人間ではない何かであることを物語っていた。

 

 糸の切れた操り人形の如く事切れた女性店員を一瞥し、男は辺りを見渡す。

 

 周囲はパニック状態の一言に尽きる有り様だった。

 

 とても現実的ではない死に方をした女性店員に、彼女を殺した張本人である男の現実とは認識し難い殺し方。

 

 これを目の当たりにして冷静沈着に分析に耽れる人間など皆無に等しい筈だ。

 

「まったく。堂々と殺してどーすんのよ」

 

 3人いる白装束の中で女性と思わしき人物が鮮血に染まった白い肉塊をうねうねと気持ち悪く動かしている男に対し、言を投げる。

 

「いいだろ別に。聞くより直接『血』を味わった方が旨さが分かる」  

 

「じゃあ、なんで最初問いかけたのよ」

 

 呆れる他ないと。そう言いたげに溜息を吐きながら女性らしき白装束は言う。

 

「いいじゃん。遅かれ早かれこうするつもりだったんだし、気にしなくてもいいんじゃないかな?」

 

 三人目は、少年のような幼さを持った声の持ち主だった。

 

「じゃっ、始めよっか!」

 

 軽快な声の少年らしき白装束は、懐から白く丸いボールのようなものを取り出したかと思えば、そのボールから紫電のような光が放出された。その矛先には突然の事態に唖然として逃げ遅れた人間におり、光は一つの現象として感情なく無慈悲に牙を剥いた。

 

 光は、人体を覆い駆け巡ったかと思えばたった数秒の内に消滅。この間に人体の内臓部位……心臓や肺、脳など生命維持に重要なものを含む全ての臓器が多大なダメージを負い細胞が壊死。

 

 体内の臓器が黒ずんだ状態で機能を停止させ、一瞬の内に目立った外傷を与えることなく死に至らしめた。

 

「逃げるぞ!」

 

 人がありえない方法で、迅速に死を迎える。

 

 そんな異常極まる状況の中でシンタローはメカクシ団全員に発破をかける形で一喝。そしてすぐこの状況下で最適な判断を下した。

 

「キド! 俺達を隠せ!」

 

「!ッ」

 

 メカクシ団には、全員が共通して持つ異能の力がある。それは俗に“目にまつわる力”と呼ばれるものだ。

 

 ここではキドの持つ目の能力について説明しよう。

 

 キドは“目を隠す”力の持ち主であり、その効果は自分や一定範囲内にいる対象の存在感を極限まで薄くし、周囲の人間・動物・電子機器から認識されないようにすることができる。

 

 能力を緩めても存在こそ認識はされるが、顔も覚えていない他人程度にしか認識されない為に変装にも向いている。

 

 ただしデメリットもある。

 

・能力の範囲外の人間と接触した場合、能力が強制解除される。

 

・能力を使う時に相手が目を離していなければ、能力を行使してもその相手には姿が見えたままの状態になってしまう。

 

・長い時を一緒に過ごした家族などの相手に対し、能力を少しでも緩めてしまうと存在を認知されてしまう。

 

 以上のこれらがキドの目を隠す能力に関してのデメリットだと言える。

 

 ともかく。キドはシンタローの言葉に従い、明確な自らの意思をもって目を隠す力を発動させた。

 

 この時、彼女の瞳は“赤”に染まる。

 

 目にまつわる力の保有者が共通に持つ“能力発動中を意味する特徴”である。能力によってメカクシ団は全員隠蔽され、周囲の人間又は人外らしき白装束達からも自分達の存在が認知されなくなった。

 

 今、この場にいるメカクシ団はシンタローにモモ。キド。カノ。セト。マリー。

 

 以上の6人となっている。

 

 彼ら以外にも他にいるのだが、他のメンバーは諸事情から一緒には来ていない。

 

「な、なんだよアレぇぇッ?! ぜってー人間じゃねーよアイツ等ッ!!」

 

「知るかそんな事! とにかく今は逃げることだけに専念すべきだ!」

 

 先程の逸早く指示を飛ばした時とは異なり、パニックに陥り気味な情けない声を上げるシンタローにキドが怒鳴り返す。

 

 白装束が人間なのかそうでないのかなど些末な事に過ぎない。

 

 ならば、自分達に死を齎しかねない脅威から逃げる事だけを考え行動する。

 

 この一択に専念するべきがこの現状において、利口で合理的手段と言えるだろう。

 

 とにかく正面の入口へ目指し彼等は駆け走った。

 

「ぎゃあああーーーーッッ!」

 

「やめ…がァァッ!」

 

 かつて、大勢の人々で賑わっていたショッピングモールの一階全区画は“鮮血の舞踏会”と化していた。

 

 あの白装束が3人以外にも他に大勢いたらしく、その白装束達はただ無言で一切躊躇もせず無抵抗で何も成す術もない一般人を相手に容赦なく、一切の慈悲もないまま殺戮を演じていた。

 

 ある者は白色の剣のような棒状の武器で切り裂き、ある者は手から光球を生み出して身体を撃ち抜き、またある者は単純な腕力で即死同然の致命傷を与えていく。

 

 しかも最悪な事に目的の正面入口の前では白装束等がひしめき合う程の数で行く手を遮り、しかも殺した人間へと食らい付いて、その血肉を悦とばかりに貪っていた。

 

 これでは正面入口からの脱出は不可能と化した。

 

「う、うえぇ……」

 

 恐怖以外にない未知の存在が人間を喰らう。この異様な光景を前に思わず吐きそうになるのを必死に抑えるモモだが、それはメカクシ団全員も同じ思いだろう。

 

 彼らは至ってまともだ。

 

 確かに非凡と断言できる異能の力こそ持ってはいるが所詮は人の子。

 

 この地獄と称する他ない惨劇を前に平然余裕をかまして見せる程の豪胆、あるいは図太い神経をもってなどいない。

 

「ま、マズいよね~これ」

 

「……これでマズくないって、言える人いないっすよ」

 

 引き攣った笑みで言の葉を零すカノにセトが返答を口にする。

 

 確かにマズい状況だろう。だがその為に脱却すべき策も道具もない、この現状はドが付く程かなりマズい状況下には違いない。

 

「くそッ……近くの非常口から出るぞ!」

 

 シンタローがそう叫ぶ。

 

 外へ出られる希望を目前にして引き返さなければならないというのは、悔しさと共に気力を削られる思いだろう。

 

 そんな指示を出したシンタロー自身もそれを感じつつ、口から零れ出さないように噛み殺しているのだから尚更だ。

 

 もし今、ここで。

 

 何とか噛み殺して抑えている負の感情を投げやりのままに吐き出して、強行突破のつもりで突貫する。それ自体は簡単だろうがその後で状況が好転することもなければ、脱出が成功することなど万が一にもない。

 

 あるのは予想し得る限り最悪な結果に終わるだけだ。

 

 メカクシ団全員の能力はそのどれもが非戦闘向けと言っても相違ないものばかり……つまり、まともに戦えないという事を意味している。

 

 それを補えるだけの戦闘的な技と力があれば話は変わるかもしれないが、そも無理な話というものだろう。

 

 比較的平和で小さな紛争の一つもない日本という国で生まれ育った彼等が、己の非戦闘向けの能力を戦いでも十全に生かす事のできる戦闘技術や経験、知識、武器などを手に入れられる機会など皆無だったからだ。

 

 非凡な力を持つ以外では所詮、メカクシ団はそこかしこにいる一般人……その少年少女らのお子様集団に過ぎない。

 

 それを踏まえて、強行突破という手段がいかに無謀極まるものか。それを踏まえて冷静に考えているからこそ、シンタローはこのまま何もせず引き返し新たな出口を探す選択肢を出したのだ。モモやキド達に反論意見はない。

 

 メカクシ団全員が正面入り口から背を向け、引き返そうとしたその時。

 

 凄まじい衝撃と閃光がその場を飲み込んだ。

 

 

 

 

 ☆☆☆☆☆☆☆ 

 

 

 

 

 シンタローたちがいるショッピングモール。

 

 そこで尋常ではない、予想すらできないような異常事態に陥っている頃。

 

 その場所を特定すること叶わぬ暗黒の一室では、一席の座に腰を下ろす少女らしき人影と、うさ耳のようなものを取り付けた少女の人影が相対していた。

 

「なぁ~に? 『フォメトス』が勝手に部隊を動かしただと?」

 

「……どうにもやることが無くて、憂さ晴らしの為の独断行動に至ったらしい」

 

 パッと。光が闇を一切払い二つの影だった少女たちの姿を曝け出した。

 

 まず、“フォメトス”という名前らしき単語を口にした少女は実に鳥を彷彿とさせる容姿を成していた。

 

 両腕は羽毛に覆われた鳥の翼のそれと化し、下半身の両脚は逆関節となっており菱形状の黄色い鱗が皮膚を隠している。更に足首から下もまんま鳥のものと大して変わらず、指には鋭利な爪が研がれた刃の如く鋭利に輝く。

 

 しかし全部が全部そうであるわけではなかった。

 

 頭と胴体は紛れもなく人間の少女と変わらず、純白のフードジャケットの下に黒のノースリーブを着ていて腰には計6本の黄のラインが縦に入ったスカートを履き、髪は灰色に前の方に左右黒のメッシュが入っていた。

 

 彼女の名は『バード・スラッシャー』。

 

 地球の存在する宇宙空間とは異なる次元の空間世界『クシロロ』に存在する闘争主義組織『ハクト』所属の幹部であり、その役職は空軍における全権限を一任する『航空将官』に就役している。

 

 ついでに言えば、その航空戦術における実力は追いつく者を出させない程に本物なれど、持ち前の臆病な気質と矮小極まる小悪党な性根のせいで、実力を十全に出せないのが残念な所。

 

 その上人望もあまりないのが悲しい。

 

 そんな彼女が面倒臭そうな顔を張り付かせて、相対している巨大な機械の両手両腕の少女に“どうにかしろ”と言いたげな視線を送る

機械的巨手の少女……ハクトの幹部にして参謀の『ナフェ』は頭部両サイドに取り付けられた聴覚センサーの端末をピクッと動かし、“それはこっちの台詞だ”と叩き返すばかりの鋭い視線をバードに飛ばした。

 

「……アレは、お前の部下だった筈」

 

「うっ……」

 

 中々痛いところを突かれた。

 

 まさにバードの心情は、これだけで容易く言い表せるものだった。

 

 バードの部下はハクトの空軍の兵以外にも実はおり、主に味方の航空部隊の支援・援護を担当している部隊だ。今回の一件はその支援部隊の隊長格の者が勝手に部隊を動かし、人間社会で騒動を巻き起こしているというものだった。

 

 当然、部下の暴走を止めるのは上司たる者の務めであればこそ、事態の収拾はバードに一任されるべきなのだ。

 

「分かった、分かったよ! なんとかすりゃいいんだろ?」

 

「当然。さっさとやれ」

 

 ヤケになった風な口調のバードに対し、冷たく坦々と指摘し述べるナフェ。

 

 重い腰を上げて飽々した様子のバードは小言をぶつくさ呟きながら、部屋を後にする。それを最後まで見送ったナフェはすぐさま通信で自らの師であり、自分達幹部を管理・統制する元帥へと報告する。

 

「こちら参謀ナフェ。管理元帥ザハ。応答求む」

 

《聞こえている。一体何用だナフェ》

 

 通信先の声は、重厚な威厳さを含ませた壮年の男性だった。

 

「バードの奴が、いえ、正確に言えばその部下がストックの社会域で問題を起こしました。事態収拾の為バードを向かわせましたが」

 

《よい、お前の考えは分かっている。バードだけでは心許ないのだろう。偵察部隊と隠密部隊の出動を許可する。我等が総督はまだ先の戦いでの傷が癒えない身。故に些細な規模であっても問題なぞ決してならぬ》

 

「承知致しています。では…」

 

《頼んだぞ、我が弟子よ》

 

 通信を終え、ナフェはすぐさま行動に移した。

 

 同じ幹部の失態の尻拭いの為に……。

 

 

 

 

 

 







 うちのナフェは優秀&忠誠度100%。バードは狡猾&反骨度100%。

 コンビとしては最悪だけど、根の方では何やかんで認め合っている節があるのか反発が原因での大事には至っていないんです、不思議と。


 感想待ってます!



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第3話『交差する邂逅』 part3

 

 

 

「ッッ……いてて……何が……!!ッ」

 

シンタローが目を開けると、自分はいつの間にか床に伏していた。

 

他のみんなも同じ様な体勢で気を失っており、さっきの衝撃で多少吹き飛ばされたのかバラバラに距離を離されてしまっていた。

 

更に目を引くのは、その先だ。

 

先程まで白装束らが群がっていた正面入口は、もはや大穴と称す他ない形状と化し、大小様々な瓦礫やガラスが周囲に散乱。

 

まるで何らかの爆発によって為されたような惨状へと変貌していた。

 

いや、原因こそ不明だが少なくとも爆発によるものであることは惨状から見て間違いないだろう。

 

しかし今はそんな事など問題ではない。

 

キドが失神し、能力の効果範囲外に皆が出て来てしまった以上皆の姿は他者に目撃されてしまう。

 

「や、やば……グゥゥッ!!」

 

立ち上がろうとしたが、突然背中に何かを押し付けられる様な感覚と共に強制的に地へ伏せ戻されるシンタロー。

 

そんな彼の鼓膜に声が届く。

 

「ん? なんだこいつは?」

 

何とか頭を動かして視線を上へ向けると、そこには異様な風貌の男性らしき人物が自分の背に足を乗せ踏みつけていた。

 

異様な風貌、と一口に言っても色々とあるが男性は漆黒のフード付きコートを纏い、赤く妖光な瞳から出る鋭利な視線をシンタローへと向けていた。

 

いや、瞳ではなく、赤い光そのものというのが正しいだろう。

 

何故ならその顔は……皮膚も肉も、眼球さえない獣の様な髑髏のそれだったからだ。

 

「ヒィィッ!!」

 

「おいおい、そんな怯えるなよ。

それより見ろよストックのガキぃぃ。この、美しい破壊を!!」

 

やけにハイテンション気味に叫ぶ黒装束の異形は、踏みつけていたシンタローへご高説を述べたくる。

 

「俺が愛し信奉する力……そいつは『爆発』よォォッ!! いいもんだぜ爆発は! 何もかもを纏めて吹っ飛ばしちまうんだから、こいつはもう破壊っつー概念を頂きまで特化させた破壊という概念の終着点!!

!!」

 

狂ってるだろ、こいつ。

 

陽気高らかに意味不明な言葉の羅列を垂れ流す異形の姿はシンタローにしてみれば、まさに狂気という言葉の二文字を置いて他になかった

 

そして、ある事実を導き出した。

 

「まさか、これって……」

 

「そうだ。俺の爆発だよ。まぁ、小規模だがそれでも俺の爆発は芸術的の一言に尽きる。見ろよ、さっきまで出入り口があったところを。見ろよ! 群がってた俺の足どもを吹っ飛ばした威力を!! こいつはぁ、パーフェクトにクールインパクトだろうがァ!!!」

 

もはや支離滅裂。常人には理解しかねる言動の数々はシンタローの頭には入ってこない。

 

だが、それでも分かることがあった。

 

先程の衝撃、光、轟音。それらによって引き起こされたこの惨状は、全てこの髑髏の男の仕業であること。

 

そして『俺の足ども』の台詞から、あの白装束の集団はこの男の手下だったこと。

 

この二つが導き出す答えは『ろくでもない』、この一言に尽きる。

 

「お前……自分の部下を……」

 

「んん? なになに? 教えてもないのに分かっちゃった系か?」

 

髑髏男は首を曲げて疑問系とでも言いたげな様子だ。

 

「確かにあいつらは俺の部下だ。でもな、いくらでも替えがいるんだよ。だから余裕で吹っ飛ばせる。俺の芸術的爆発をより華やかにする為のついで、でな!!」

 

そこに罪悪感だとか何からの深い思慮がある…など存在しない。

 

さも当たり前を語ったのみで、彼からしてみればちょっとした世間話を口にしてみた程度の認識でしかない。

 

人間ではない。改めて、シンタローはそれを確かに感じた。

 

仕草口調などは人間と大して変わらないが、それを否定する冷たく情に欠けた思考性。

 

人間でもサイコパスと呼ばれる人間のそれとは思えないような、まさしく悪魔の如き感性を持つイかれた人種を指す言葉だがそれは眼前の異形にも言えるだろう。

 

故に言葉で待ったをかけても無駄だ。

 

幼き子の命乞いも、BGMとして聴きながら殺しを平然と実行する殺人鬼。

 

そんなサイコパスと同じ存在なのだ。

 

「んじゃ、もののついで……だ。お前を爆破のアートに着飾らしてやる!! ありがたく思えよォォォォッッッ!!!!!」

 

声をシャウトさせ、とんでもないことを言ってのける髑髏男にシンタローは全身の流れ出る汗がより増したかのように錯覚した。

 

このままでは、死ぬ。

 

如月伸太郎という一個の命が今、訳の分からぬ状況の坩堝で消え失せる。

 

本人が恐怖しないなど有り得ない。

 

シンタローが言葉を発する前に髑髏男がその足を退けてシンタローの顔を掴み上げ、宙吊りの状態で天へ掲げる。

 

まるで至高の神に捧げる生贄のように。

 

「俺のアーマメント術式……つっても分からんか。まぁ、超能力って思っとけ。

俺の能力は『触れたものを爆弾に変える』、『爆発の威力そのものを放出できる』、『任意次第でいつでも爆破できる』……こんな感じだ。で、俺は今お前に触れている。この意味が分かるよな!!」

 

「がっ……!!」

 

顔を掴む手に力が込められる。ミシミシと頭蓋骨が軋むような音を僅かながらも立てて、それ故にシンタローは苦痛に苛まれる。

 

「あ、一つ言い忘れていたな。俺の爆弾、あるいは爆破の力は俺自身には何の影響もダメージもない。まぁ〜当然だろうな。毒虫が自分の毒で死んじゃ意味ねーように、俺が俺の能力で死ぬなんざ有り得ねーよなァァ!!」

 

更に力を込める。

 

苦痛が増し、木っ端微塵に散り果てる自分の未来の姿に心が仄暗いの絶望に支配されかける。

 

こんな訳の分からぬ状況の中で死ぬ。

 

シンタローにしてみれば想像なんてしていなかったし、死ぬ覚悟もできやしない。

 

それでも、覚悟を持とうが持たないとも、今自分が死ぬ事実に変わりはない。

 

(クソが……こんな、こんな訳の分からねーことで死ぬのかよ俺……)

 

絶望は心にとって最大の毒だ。

 

一度蝕むと隅々まで心を崩壊させ、その意志をへし折る。躊躇なく。

 

だが……。

 

バリィィィィン!!!!!

 

偽りでも何でもない。

 

「な、何だァァッッ!!」

 

「ッッ?!」

 

確固たる希望は、この上もない対絶望の特効薬だ。

 

「ロック……ファイア!!」

 

天窓のガラスを割り、降って来たのは一人の少女。

 

青いファイアーパターンが刺繍された漆黒のパーカーに身を包み、黒髪のツインテールを波のように揺らす彼女は、その手に持った大砲の砲身のようなものを髑髏男とシンタローに向ける。

 

そして、凜とした少女の掛け声が合図になったのか。砲身からフットボールに似た楕円形の岩石のような青い光弾が放出され、一直線に髑髏男とシンタローへと迫る。

 

「チィィッッッ!!!!」

 

このままでは拙いと思った髑髏男は、シンタローを光弾への当て身とする為に彼を迫り来る光弾へと投げ付けた。

 

「うわァァァァァァーーーー!!!!!!」

 

いきなり投げられ、しかも光弾が確実に当たるという恐怖から叫び声を力一杯腹から絞り出すかのように叫ぶシンタローだが、それは無意味に終わった。

 

光弾が、シンタローに当たることなく軌道をくねりと捻じ曲げ、髑髏男の方へ向かった。

 

「ぶべぁぁッッ!!!!」

 

光弾は計三発。

 

一つが顔面、残り二つが胴体腹部に直撃した髑髏男は間抜けな声を上げて後方へと盛大に吹っ飛ぶ。

 

その間、宙へ投げられたシンタローを抱き寄せるように片手でキャッチした少女は、結構な高さだった筈なのに無事着地を決めて見せた。

 

「ふぅ。大丈夫?」

 

「……………あ、ありがと……って!?」

 

間を置いたものの、何とか声を絞り出して礼を述べるシンタロー。

 

少女は無表情だが何処か安堵しているように見える。やがてシンタローは自分が抱き寄せるようにして抱えられていることを思い出し

、すぐさま少女から離れた。

 

「とにかく、ここは危険だから他の子たちと一緒に安全な場…」

 

一旦言葉を断ち、シンタローを押し退ける形で再び砲身から青い四角状の光弾を放つ。

 

光弾は飛来した瓦礫のカケラと衝突、軽度だが爆発を起こした。

 

「いってぇぇんだよ、クソが。俺ぁぁな、自分の芸術タイムを台無しにされるのが、一番むかつんだよォォッッ!!!!!」

 

いくつかに積み重なった大きめの瓦礫から、ゆっくりと顔を出すように立ち上がったのはあの髑髏男だった。

 

死んではいなかったようだが、それでもコートの胴体腹部は焼けたような穴が開き、顔はフードの部位が消失して全貌を嫌というほど見せつけていた。

 

やはり肉食獣のそれに似た髑髏の顔。ここまではいい。ただ、その後方両サイドに二つの鹿に似た黒い角があり、正確な大きさは不明。

 

何故なら、その角はゆっくりとだが人間の目でも分かる速度で大きくなっているからだ。

 

「食らいやがれ! インパクト・ボーン!!」

 

技名らしき単語を叫ぶ髑髏男は、大元から枝分かれした角の一部一部を鋭利な針へと変えて射出。

 

一直線に二人へと向かって来る。

 

「おいおい!! アレ、食らったら……ッ!!」

 

「大丈夫。ふんッ!」

 

人体なぞ軽く吹っ飛ぶ威力の爆発力を秘めた角の飛来針。

 

当然そんなものをこちらへ投擲されて焦らないほどシンタローの肝は豪胆でないし、何より迫る危機を理解できないわけではない。

 

よって、こうして情け無さ全開の慌てた様子に陥っているわけだが、同じ状況に置かれているはずの少女は至って冷静。

 

何故か? 簡単なこと。

 

この程度のことは、彼女にとって修羅場の内には入らないほど矮小な障害だからだ。

 

少女は力強く息を吐き出すように力強い声を上げる。

 

同時に左目の瞳に青炎が灯され、大砲の砲身のような武器に青い光のラインが浮かび上がる。

 

すると瞬く間に砲身はギゴガゴと音を立てて各パーツが組み変わり、変形していく。

 

やがて黒い砲身は、円形を取るように並んだ銃口を有するガトリングへと完成を遂げる。

 

この間、僅か0.05秒。

 

黒い角の飛来針よりも早かったおかげで、迫り来る飛来針は銃口から連なる無数の実弾で撃墜。食らうことはなかった。

 

「もうすぐ来る私の仲間と一緒に安全な場所へ避難して。勿論、君の友達も」

 

「あ、あんたは?」

 

「奴を仕留める。アレは私の……いいえ、私達クロワの敵である“ハクト”。ここで奴を排除しない限り罪なき人達が死んでしまう」

 

「ロック〜!!」

 

軽快そうな声と共に真上、割れた天窓から3人の人影が舞い降り、床へと着地する。見た所は少女のようだが、しかしその風貌は異様奇天烈の一言に尽きた。

 

まず、一人目は黄色いウェーブのように波立つ、ふんわりとした黄色の髪の少女。

 

黒を基調に白をサブとしたゴスロリ似の格好で、両手は黒い外骨格に覆われ異形のような風を呈している。頭部には王冠に似た黒い飾りを付けており、両脚もまた両手のように黒い外骨格だが、こちらは生物的な有機要素はなく、むしろ機械的な無機要素で構成。更に目を引くのは両脚の先……本来なら足首があるはずの部位には一般的な車のタイヤに近いサイズの車輪ローラーが備えられている。

 

二人目は、もう一人と車輪少女と比べて小柄な体躯だがそれを思わせないほどに目を引かれるのは巨大な一対の両腕。

 

チャリオットのような有機的な外骨格ではなく、こちらは機械のそれだ。髪は白髪で浅い褐色の肌を持ち、黒いノースリーブのパーカーを纏いフード部位を被っているが髑髏男と違い顔を隠すほどではない。

 

最後の3人目、外見は背中部分を開いた漆黒のワンピースドレスを身に纏い、骨格を彷彿とさせる尖端が緑色に染まった角を頭から左右一対に生やしている。背中の腰部には鎌の刀身のような部位が存在し、その部分も角と同様、先端半分が緑色で彩られている。

 

「先に行かないで! リーダーに何かあったら困るよ」

 

「ごめん。でも事は一刻を争うから」

 

「まぁ、何はともあれ指示を頼む『ロック』。

今すぐこいつ等をぶちのめしたくて、拳が疼いて仕方ない」

 

「そう血気盛んにしないの。で、指示は?」

 

「チャリオットとデッドは彼等をお願い。私とストレングスでハクトどもを鎮圧する」

 

車輪少女の『チャリオット』。

 

角の少女の『デッドマスター』。

 

鉄拳少女の『ストレングス』。

 

彼女等と他愛もない会話を交わした後、ツインテールの少女

『ロック』は、己が武器を敵へ向けた。

 

「さぁ、戦いの時だ!!」

 

 

 

 




多分、今年最後の更新になります。

今まで築いて来たものが何かしらの理由で崩れて、また一から始める
のってやはり大変だな、と。

しみじみ思います。来年の抱負は『注意深く、確認、絶対』なんてのがいいですかね。





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第4話『交差する邂逅』 part4




新年初投稿です!




 

 

 

 

 

青い光が舞う。火花が舞う。

 

容易く床や壁は爆発で抉れ、無数の瓦礫が生産されていく。

 

それを成しているのは髑髏男の異形とツインテールの少女『ロック』。

 

そして漆黒色の金属で構成された機械的な両腕の少女『ストレングス』。

 

「クソが! よりによって精鋭に……“ブラック”とはなぁ……」

 

「これ以上人間の犠牲者は出させない!!」

 

ロックはそう吼えて髑髏男へ砲身武器『ブラック★ロックカノン』を向け実弾を1発。

 

更に同時に青い岩石状のエネルギー弾も発砲、これも1発。

 

二種類1発ずつの弾丸の内、実弾のものはそのまま一直線に髑髏男へ向けて突き進む。

 

がもう一方のエネルギー弾は先ほどのように軌道を変え、実弾の周りを数秒ほど旋回。

 

そして、なんと実弾へ直撃したのだ。

 

ヘマでもやらかしたのか?

 

普通ならそう思うのが妥当な所だが、髑髏男は瞬時にそれがミスなんかではないと直感する。

 

エネルギー弾が実弾に当たった直後、実弾は青いエネルギーを纏いその攻撃力と貫通力を格段に上げた。

 

そう来るかよ!!

 

心の中で叫びつつ、すぐさま落とそうと先程の角の飛来針による攻撃ではなく、骨の一部一部を積み重ね連ねた鞭のような武器を懐から取り出し、その鞭の横薙ぎで見事弾を叩きお落としてしまう。

 

しかし、敵はロック一人ではない。

 

「しまっ…ッッ!!」

 

気づいた時には既に遅く。

 

ストレングスの注意を怠っていたばかりにその本人によって隙を突かれ、今まさに鉄拳を腹部へと叩き込まれる寸前に陥る髑髏男。

 

そのままダメージを喰らい吹っ飛ぶかと思われたが……

 

「ご無事ですか? “フォメトス”様」

 

突如地面から滲み出るように現れた白い肉塊のような柔らかい膜が防ぐ。

 

普通ならばストレングスの鉄拳は膜を容易く突き破り、髑髏男……“フォメトス”を仕留めた筈だ。

 

しかし実際はそうならず、膜はフォメトスを守り抜き、あろうことか絶大な破壊的威力を誇るストレングスの鉄拳を相殺してみせた。

 

その上……。

 

「お怪我はございませんか?」

 

「はぁぁ〜、さすがの俺もビビったわ。サンキューな『ムスクルス』

。今の所は擦り傷程度だから心配すんなよ」

 

ムスクルス。そう呼ばれた肉の膜は何と明確な言語を発した。

 

しかし、それだけに止まらず何と人形へと姿を変えフォメトスの側へと立つ。

 

既にストレングスは身を引いて距離を取っていた。

 

「我が主人に危機迫れば、それを何としてでも回避するのが私の務めです」

 

白い肉塊の膜だったもの……ムスクルスの姿は人型ではあるものの全身は白く、筋骨隆々としたマッスルボディ。

 

上半身は至る所に太めの棘が生え、頭らしき山状に突き出た部位には赤い一つ目がギョロッと生々しく見開きストレングスを見ていた。

 

そして下半身は上半身のような棘は無いが、コブのようなものができており、足首の先はまるで怪獣を彷彿とさせる形状だった。

 

「まぁ、精鋭相手にブラック……これじゃあ劣勢になるのも無理ないわ」

 

「そうだね。まっ、だからこそこうして数で攻める訳だけど」

 

更に二つの影がフォメトスの側へ現れた。

 

一人はドレッドヘアーに髪を束ね、白と赤のスレンダーな装甲スーツを身に纏った女性。

 

もう一人はライオンに似た機械的なマスクを装着し、ドレッドヘアーの女性と違い武骨なデザインの装甲を身に纏っている。

 

顔にある赤いバイザーからは、人間のそれだが爬虫類のような瞳孔が細く虹彩がひび割れた瞳が覗かせている。

 

「……見た所、新手の幹部ってわけではなさそうだな」

 

「フォメトス直轄の部下ってところか」

 

ストレングスはこの場に現れた新手が長年の敵の『幹部』ではないことを察し、ロックはフォメトスの直轄に位置する部下だと推察する。

 

「フォメトス。指示をちょうだい」

 

「できれば、こいつ等を殺せって言って欲しいなぁ……」

 

ドレッドヘアーの女性は、背中に装備していたメカニカルなデザインの剣を。獅子マスクの男は両腕の籠手部位からナイフと鉤爪三本を出し殺気は上々。

 

いつでも行けれることをアピールしていた。

 

「よし。なら『エルカー』と『レオール』、ムスクルスはストレングスを頼む。俺は……あの大ボスの小娘を狩る!!」

 

異論なし。

 

自分の上官たる存在の言葉を無言で受け止め、己が行動で答えを示した。

 

 

 

 

★★★★★★★

 

 

 

 

「ここなら安全ね」

 

一方、向かって来た白装束を容易く返り討ち、外の非常口の階段までメカクシ団全員を何とか避難させたデッドは近辺を目視で安全を確認した上で

呟く。

 

ちなみにここへ来る途中でメカクシ団は全員が目を覚まし、あの光景が夢ではないことを再認識させられていた。

 

故に、何とも言い知れない沈黙とした空気が自ずと形成されていたものの

、空気を破るようにシンタローが声を一つあげた。

 

「何なんだよ……」

 

その一言に場にいる全員の視線がシンタローに集中した。

 

「あ、あの白装束もそうだけど……お前等、ぜってー人間じゃねーよな?

 

「お兄ちゃん!!」

 

人でなし。と指して呼ぶに等しいシンタローの心無い言葉にモモは、諌めるように声を張り上げるがそれを不要と断じたのは、デッドだった。

 

「気にする必要はないわ。“貴方のお兄さん”の言う通り、私とチャリオットは人間ではないわ。無論、あの二人もね」

 

あの二人とは、チャリオットとロックのことだろう。

 

だがそれよりもシンタローが注目したのは、自分とモモが兄妹であることを知っているかのような口振りだった。

 

「……なんで」

 

「“知ってるのか?”って? ごめんなさい。念の為、身体検査が必要だったからさせてもらったわ。アーマメント術式でね」

 

アーマメント術式という単語自体は先程フォメトスが言っていたが、それがどういったものなのか。仕組み云々。

 

それらのことは皆目検討もつかないシンタローだが、それでも『超能力的なもの』であるということは把握している。

 

「ここでアーマメント術式も含めて、全てを説明するのは相応しくないわ。貴方達の精神状態は良好とは言い難いから」

 

「それもアーマメント術式ってやつか?」

 

「ええ。相手が一体どのような状態に陥っているのか、すぐ分るわ。特に大きな装置が必要ってわけじゃないから、結構便利ね」

 

「あ、そう言えば名前言い忘れたけど、私の名前はチャリオットって言うんだ。これでも結構強いからさ、もうバンバン頼っちゃってよ!」

 

チャリオットは二人の会話に割って入るようにふんすと鼻から息を出して胸を張り、活気よく自己紹介をする。

 

シンタローにしてみればどうでもよかったと思われていたので、知ったら本人的には残念の一言に尽きるかもしれなかったが。

 

「あ、そう。よろしく」

 

淡々とした態度で適当に言っておくシンタローを他所に本人は至って満足した様子で首を縦にウンウンと振る。

 

「………信用、してもいいのか?」

 

「僕としてはあんまし信用できないかな? 実は害なさそうなフリして近付く為……なんて、そういうのもあり得るよね?」

 

ここで、キドとカノが声を上げる。

 

それに含まれているのは疑念と疑心。信用と信頼などとは対極に位置する思考で、デッドを睨んでいた。

 

しかも、いつでも能力を発動できるよう精神的にスタンバイは完了している。

 

変な行動を見つければ、即座に逃げられる様に……。

 

「生憎と、信頼や信用させる為の材料はない。でも信じて…私達は、貴方たちを助けるし害するようなことはしない。まだ生き残っている人達も同じようにね」

 

そう言ってデッドは瞳を閉じ、今、この施設に到着したばかりの『仲間達』に連絡を取った。

 

“まだ生きている人達……生存者を一人も欠けることなく救出せよ”と。

 

 

 

 

★★★★★★★

 

 

 

 

「安心しろよデッド。こっちはきちんとやってるさ、なぁ兄貴?」

 

「無論。あんな奴らの為の犠牲者など出させん」

 

ショッピンモールの西側で、デッドの通信先である二つの巨大な漆黒の頭蓋骨が互いにそんな会話を交わしていた。

 

デッドからの通信を受け取る以前からこの頭蓋骨たちは、何とか逃げ延びている一般人を見つけては自らの中に存在する異空間へとまるで丸呑みでもするかのような光景で放り込んでいた。

 

だが特に害はなく、むしろ彼等の異空間は治癒と精神的な安寧の睡眠を齎す効果があり、おかげで暴れることなく取り込んだ人々はスヤスヤと眠りに落ちている。

 

「ヒャッハァァァァーーーー!!!! いいねいいね!! 皆殺し祭り開催ってか?!」

 

何処ぞの世紀末のモヒカンのようなハイテンション真っ盛りな様子で向かって来る白装束を返り討ちにしているのは、血、あるいは炎とも表現できるほど真っ赤なノースリーブのコートを羽織り、その中も同色ノースリーブのジャケットを着込み、その下の方は黒のホットパンツを履いている一人の女性だった。

 

髪型は茶髪のボブカット。瞳も服装と同じく赤に染まっている。

 

更に手には長方形に後方一面に丸いアーチ状の取っ手をつけたようなものを持っており、前方一面に開いた円形の穴から赤いエネルギーで構成された光弾を解き放ち、白装束等の胸部中央を確実に射抜いて行く。

 

「隊長に続け! ゴーゴー!!」

 

彼女と同じ赤いコートだが、その下は黒のジャケットとボトムスで構成された服装になっている、彼女の直轄の部下である一個部隊がナイフのような武器や手から光弾、光線の類などの攻撃手段で白装束たちを容赦なく屠って行く。

 

「ぐっ、せめて、かすり傷だけでも!!」

 

白装束の一人が腕の一部……手首から肘辺りまでを包丁のように変形させ、ボブカットの女性へ迫る。

 

迫り来る敵に対し、ボブカットの女性は口の端を大きく釣り上げて凶悪的な笑みを作り、銃のような長方形の武器で刀身を受け止め、そして空いたもう一方の手にコートの中に装備していた、もう一個の長方形の武器を手に取り、顔へ光弾を浴びせた。

 

「ザコは黙って殺されてろ」

 

倒れ臥す白装束へそう言い、とどめの刺しに1発胸へと撃つ。

 

「ザコでも意地ってやつを見せてやる!!」

 

今度は彼女の言葉に反応する様に答えながら白装束が一人、また一人。

 

更にもう二人。

 

計4体の白装束が円陣を形成し、そのまま囲い込むつもりで襲い掛かって来た。

 

「ハッ、しゃらくさいッ!!」

 

しかし動揺なく、恐怖もなく。

 

あるのは敵の命を奪う覚悟と殺意。

 

そして、戦いへの悦楽。

 

「オラァァァーーー!!!!!!」

 

迫る敵が自分を囲い、身動きを封じて息の根を止める前に彼女は両足を屈みバネの様に高く飛翔。その態勢のまま時計回りに一回転。

 

経口らしき穴から放たれた光弾はそのどれもが外れることなく、的確に白装束の頭部に命中。

 

そのまま胸部内部へと到達し、致命傷を与えた。

 

抗えぬ死の傷を受けた白装束達は、瞬く間に命を失い倒れ臥す。

 

そんな彼等に向けて一言。

 

「向かって来る気概は認めてやるよ」

 

 

 

 

★★★★★★★

 

 

 

 

「ふんッ!」

 

「たぁぁッ!!」

 

二つの力を込めた息を含む声が同時に上がり、ストレングスへ向けて剣と鉤爪を振り上げる『エルカー』と『レオール』。

 

彼等は前方からだが、後方からはムスクルスが己が筋骨隆々とした肉体を武器に突進して来る。

 

それを逃げず、回避さえしなかったストレングスは自分の何倍はある巨体を自らの巨大な両手でがっしりと掴み、あろうことかそのまま持ち上げて背負いの如く前方後ろへと投げ飛ばした。

 

すなわち、エルカーとレオールのいる方角へ。

 

「なっ?!」

 

「「ぐはぁぁッ!!」」

 

巨体を受け止めること叶わず、二人はムスクルスの下敷きとなり苦悶の声を上げる。

 

「ぐっ、舐めるな!!」

 

かろうじて位置的に重量の負荷が少なかったレオールは、何とか肉の束縛から抜け出して鉤爪にエネルギーを迸らせ、赤熱させた。

 

「死ねぇぇぇぇぇッッッ!!!!!」

 

赤熱した鉤爪でストレングスを焼き切ろうと通常よりも倍のスピードを引き出し、ストレングスの胸を斬りつける。

 

「ぐっ、うううッッッ!!!!」

 

胸から腹部を斬りつけられた事で袈裟状の傷が形成されたストレングスは、その痛みに堪え兼ねて苦悶の声を漏らす。

 

が、それ以上はしてやるものかと歯を食いしばり、拳を作ったかと思えばその拳でレオールの顔を殴りつけた。

 

思いっきり……それこそ、顔に装着したメカニカルな獅子の仮面が歪むほどに。

 

「げはァッッッ!!」

 

喪失。たった一発の拳だが、精鋭の中で最も高い腕力と握力を有するストレングスの一撃はレオールの命までは取らずとも意識を剥奪するには十分過ぎるものだった。

 

「レオール!」

 

「……ふゥゥん!!」

 

何とか倒れた状態から体制を立て直した二人だが、レオールの沈黙を見てエルカーは怒りを顔に宿らせ、ムスクルスは深く息を吐き込み跳躍。

 

人間では不可能な高さまで上がったムスクルスは、そのまま急転直下の力と自らの重量を生かした拳でストレングスを屠る気でいた。

 

その証拠に既に握り拳を作り、いつでも殴り掛かれるようにしている。

 

「私が、このストレングスが! 精鋭であるということを忘れたか!!」

 

勢い良く吼えるストレングスは自らの鋼の鉄拳でムスクルスの拳と相対せんと構える。

 

そして、ムスクルスの拳が繰り出されると同時にストレングスの鉄拳が前へ解き放たれる。

 

凄まじい轟音を昂らせ、両者の拳は激突する。余波で二人の周囲に瓦礫とクレーターができていくが、そんなことは些事に過ぎない。

 

「「うおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」」

 

二人の咆哮が重なる。

 

しばし押すか押されるかの攻防を拳で繰り広げる二人だが、押し負けたのはムスクルスだった。

 

拳で負けたムスクルスはその重量が嘘であるかのように紙の如しに吹っ飛び壁へと激突。

 

「残るはお前だ」

 

死んではいないものの既に二人も沈黙させらた、この結果。

 

これでは戦士として仲間に顔向けできない。

 

しかし勝てない状況で自分よりも遥かに強い敵に挑むなど自殺も同然。

 

ここは恥を受け入れ、撤退という選択肢を決意する。

 

《報告。ムスクルスとレオールが沈黙。死んではいませんが、戦闘不能です》

 

《……分かった。お前らは逃げろ。こっちもちとばかしマズくなったわ。ウン》

 

返信されたフォメトスの声は、何処か焦燥を滲ませたような雰囲気を匂わせた。

 

苦戦している。間違いない!

 

エルカーは、声の雰囲気だけで戦士としての勘が働き、すぐさま主人の危機を察知した。

 

ならば迅速に援護に向かうべきだが、倒れた仲間がいる以上援護に行くことなど出来ない。

 

正直なところ倒れたのが底辺の下っ端や同格の階級の者なら、まだよかった。

 

容易く切り捨てられるからだ。

 

だがレオールとムスクルスの両名は彼女にとって『仲間』と断言できる程の存在。

 

故に、切り捨てるという選択肢は存在しないのだ。

 

「転移系統術式、発動。目標『エルカー』、『レオール』、『ムスクルス』に設定」

 

「逃すか!!」

 

人間で言うこところの『テレポート』で逃げ果せようとしている気を察知したストレングスはそれを止める為、瞬く間に鋼鉄の両拳をガトリング形態に変形させ撃ちまくる。

 

しかし、放たれたいくつか光弾が当たるより先に景色に溶けるように消失。

 

ストレングスは、討つべき敵の逃亡を許してしまったのだ。

 

「チィッ!! 逃げ足だけは早い」

 

舌打ちを鳴らし心底忌々しそうに語るが既に後の祭り。

 

相手に逃げられてしまった以上、ストレングスはロックの援護へ向かう以外になかった。

 

 

 

 

★★★★★★★

 

 

 

 

一方、場所を変えて激しい闘いを繰り広げていたロックとフォメトスは、ショピッングモールの屋上……一部が割れた天窓にいた。

 

「オラァァッッッ!!!!」

 

「フッ!!」

 

フォメトスは雄叫び、ロックは軽く息を吐く。

 

その際にフォメトスの黒く歪な形状の長剣と峰が黒く刃が白に染まった刀剣が、お互いに激突し火花を散らす。

 

遠距離の武器を使った戦法では勝負が付かない為、両者はこうして接近戦に臨んでいる。

 

戦い自体は苛烈で互いに一歩も引かずだが…然程時間をかけず、開始から15分で決着がついた。

 

「ぐっ、うううッッッ!!!!」

 

「チェックメイトね」

 

両腕を切断され、更に袈裟傷を二つバツ印のように与えられたフォメトスは膝をつく他なかった。

 

そんな彼に冷たさを孕んだロックの声が届く。

 

「フッ、フフフ……やっぱ強えな。ブラックってのは……」

 

「大人しく身柄を投降して下さい。そうすれば命だけは奪いません」

 

至極真面目にそう告げるロック。しかしそれを『はい、そうですか』と聞き入れる謂れは何処にもない。

 

「ほざけ。敵は殺すのが基本中の基本だろーが!!」

 

結果は当然、聞く耳持たず。

 

この事実を既に分かっていた筈のロックは顔に僅かながら悲しみを浮かべ、その手に持った刀剣を振り上げる。

 

その時、

 

「おっと、持ちな。腐っても部下なんでね」

 

上空から降り掛かる一声。

 

少女だと思わせるにたる可愛らしく凛とした高い声だが、聞いた事のある声だったが故にロックもフォメトスも驚愕を隠せなかった。

 

「バード・スラッシャー……」

 

「この世界で会うのは初めてだね。ブラック★ロックシューター」

 

まさしく天女の如く空に舞い、ロックを見下ろすバードは視線を己が部下に移す。

 

「悪ふざけに浸かった遊びは終いだフォメトス。帰るぞ」

 

「チッ、ったくイイ所で邪魔してくれんじゃねーよ」

 

上司と部下の関係ながらこの二人の間にそのような雰囲気は垣間見れない

 

むしろ、互いに嫌悪し合ってる敵同士と言う風にとった方が正しく見える図だろう。

 

「お前が張ったフィールドバリアは解除されてる。あんまし事を起こすな」

 

「……そーかい。まぁ、こんなザマだ。あんまし言えるような立場じゃねーから、従ってやるよ特別に」

 

「ッッ……」

 

人間ならば額辺りにでも血管が浮かび憤怒の表情に顔を歪ませるところだろうが、バードは多少苛立つ程度で内心はあくまで冷静その物。

 

自分の部下からの信頼と敬意が希薄である事は、認めたくなくとも認めているからだ。

 

「私が逃すと思うんですか? 大人しく投降しなさい」

 

「……あんたにその気が無くとも、私たちは勝手に逃げさせてもらうだけさ!!」

 

そう言いバードは両腕の黒翼を大きく振るい、無数の羽根を撒き散らした。

 

羽根はロックと自身、そしてフォメトスへと纏わりつくように囲い込んだ。

 

「目くらまし、か!!」

 

刀を振るう際の風圧と刀から発生させた“青い炎”を利用して黒翼の羽根を蹴散らすが、時既に遅く。視界を晴らした後にバードとフォメトスの両名はその姿も影も消失させていた。

 

「…………クロワに通達。フォメトスは幹部の一人、バードと共に逃走。繰り返す、バードと共に逃走。本作戦は終了し速やかにその場から退避、救出した民間人たちは存在を察知されぬよう病院へ。以上とする」

 

部下にして信頼する仲間たちに通信で指示を送り、そのまま切ろうとしたが止まった。

 

「言い忘れた。チャリオットとデッドは救出した彼等を我々の基地へ

連れてって。確かめたい事がある」

 

 

 

 

 

 



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第5話『メカクシ団とクロワ』 part1




大雪で大変でしたが……それが済めば次は寒波。

まだ1月ですが、もう冬は早く終わってほしいものです。





 

 

 

 

 

事実は小説よりも奇なり。

 

そんな言葉があるが、シンタローやメカクシ団員達がこれをよく体現していると言っていいだろう。

 

何せ、バトル系の漫画やアニメなどに出てきそうな異能の力があり、それを使えるのだから。しかし、彼らの力以上に不可思議怪奇としか言い様の無いものもある。

 

それが『クロワ』だ。

 

あのショッピングモールで生命の危機に瀕していたシンタローたちを救った人ならざる者たち。

 

彼等は実際に人間では無いし、この地球上に存在するどの種の生物でもない。

 

彼等は、俗に言う『エイリアン』に当たる。

 

だが地球外の宇宙から来たのではなく、彼等は時空の垣根を超えて宇宙外の異世界より来訪したのだ。

 

そして彼等の正しき種の名は『ハートレス』。

 

宇宙の外側…自分達の故郷たる別次元に存在する異世界『クシロロ』からやって来た知的生命体。

 

その特性は人間に似た姿、あるいは動物などに似た形態を有し、中には機械的な無機系の要素を持った者も少なくなくアーマメントと

呼ばれる技術により、魔法のような事象現象を発動させることが可能だ。

 

そして何より特筆すべきは、種の特徴として感情面での希薄・欠如があるという点だ。

 

この感情的な希薄と欠如に関しては個体ごとに違いがあり、ある者は怒り以外に何もなく、ある者は楽の感情は並にあるがそれ以外は極端に薄い。またある者は憎悪と敵意が皆無で、大切な者を殺されても悲しみしか感じられないなど。

 

そのパターンは個それぞれごとに千差万別。

 

しかしいかに感情が薄く欠如しているからと言って争いが起きない理由にはならない。

 

どの世界にも、知能を発達させ文明を得た生命体に争いは付き物だが、彼等の争いの最たる要因は堪え難い闘争本能だった。

 

ハートレスという種は誕生から当初、黎明の時代においては闘争本能を有していた。自分以外の他者を殺す、まさに戦闘マシーンと揶揄されても仕方ない在り方を持っていたが、ある時期を境に平和主義という概念を持ったハートレスが誕生し増えていった。

 

この平和主義のハートレスたちによって創立された国家が『クロワ』だった。

 

クロワが創立して以降、クシロロは劇的に変化を遂げた。

 

絶え間なく溢れ果てていた死体は無くなり、凄惨な殺し合いもなくなった。

 

しかし、闘争主義らは消えることなくクロワと戦い続けた。

 

やがてクロワを真似てコミニティーを形成し集団戦を行うようになったが、大抵の場合は力と我が強い者同士の権力争いが原因で瓦解。

 

そう長続きはしなかった。

 

クシロロはクロワにとってまさに平和な時代と言えた。長い月日を経て、クロワは文明的にも大きく発展を遂げたが、栄光なる平和の時代は突如として終わりを告げられた。

 

少数に分裂していた闘争主義の組織勢力等が次々と一つに束ねられていき、単独で活動していた闘争主義らも取り込み勢力は拡大。クロワの本拠地、クシロロ最大唯一の都市であった『クロワ大都市区画』。

 

その中小規模の都市区画を一つ、また一つと闘争主義勢力は一切の慈悲も躊躇も持たず、悉く潰していった。

 

やがて奴等は、自分達をこう名乗った。

 

“白き闘民”と意味を冠する……“ハクト”という名を。

 

これがクロワとハクト。

 

両勢力の800年に渡る戦争の開幕だった。

 

「と、ここまで説明したけど。何か質問は? 遠慮しなくていいわ」

 

「……いや、あのさ、うん。説明はいいんだけどさ……ここ何処だよおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーッッッ!!!!」

 

叫ぶ、とにかく叫ぶ。

 

椅子に腰掛けていた自分の目の前にあった黒い金属性のような材質のデスクの表面を叩き、シンタローは悲痛の声を上げる。

 

今自分の前にはデッドがおり、今いる場所は何処とも知れない四角形状の一室。

 

その角四つには何やら長方形の武器のようなものを所持した警備員らしき黒コートの男が4人佇んでいる。

 

どうして、こんな事になったのか?

 

これでは、まるで事情聴取を受ける犯罪者の姿じゃないか。

 

そう思うシンタローだが、ここへ連れて来られた経緯はあまり覚えていない。理由はいきなり手を自分の顔へ翳された瞬間、突然意識が朦朧とし始め、そのまま意識は暗転。

 

そして気が付けば、この場所で椅子に座らされていた。

 

何とも容認し難い事柄かもしれないが、ともかく、状況は最悪を去ってまた最悪を迎えたと言えた。

 

「いきなりやってしまったのもあるし、混乱するのは分かる。けどお願い。落ち着いて」

 

「………みんなは無事なんだろうな?」

 

とりあえずは深く空気を吸い込み吐き出し、深呼吸の応用で少しながらも落ち着きを取り戻した。

 

興奮して喚いても何も始まらない。

 

それを理解しているからこそ、こうして何とか湧き上がる激情を抑えているのだ。

 

「貴方の友達に関しては安心して。何もしていないわ」

 

「信用できる証拠は?」

 

「この映像を見て」

 

そう言ってデッドはシンタローの前へ手の平を見せるようにして翳す。するとパッという効果音が付きそうほど一瞬にしてモニターのような半透明の長方形が出現。

 

そこに映し出されたのは、メカクシ団の皆だ。

 

『このカレー美味しい! おかわり!!』

 

『……イケる』

 

『本当だね。疑ってたけど、これ、昔キドが

失敗して作ったカレーより…』

 

『フンッ!!』

 

『ふごぉぉッッ!!』

 

『美味しいっすね!』

 

『うん。辛口だけど……辛さがあんまり続かなくて、甘口の私でも食べられる』

 

付け加えると、和気藹々とカレーを仲良く食べている皆の光景だが。

 

「………」

 

「この世界……特に日本ではカレーが人気のようだから、友好的好意と安全の意を込めて作ってみたの。貴方も食べる?」

 

さも、それが当たり前の事だと言う風な体で話して来るデッドだが、シンタローは片手で顔を覆い隠しており、もう一方の手では固く握り拳を作り震わせている。

 

もう、どうもにでもなっちまえ。

 

真面目に色々考えてた自分がバカだ……。

 

そんな心の声が今にも聞こえて来そうだが、しかしシンタローの心情を察してあげられるほどデッドは空気を読めないし、ここにいる男性ハートレスたちもそういった類だ。

 

「ともかく、今から貴方の友達に会わせてあげる。その後は私たち『クロワ』のリーダーに会ってもらうわ。重大な話があるの」

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

「問う。あのような凶行に走った理由を聞きたい……言え」

 

「別に? ただ暴れたかった。そんだけだ」

 

白い空間。

 

そう表現する他ない場所で座禅を組むのは、少々筋肉質な上半身を半裸の状態で、惜しむことも、ましてや恥じて隠そうともせずに曝け出した初老男性。

 

その目前で対しているのは、ショッピングモールで数多の血が流れる騒ぎを引き起こした異形の髑髏男、フォメトスだ。

 

「ほう。それだけの為にか?」

 

「ああ、それだけだ。文句あるか?」

 

ただの老人とは思えない鋭利で冷たい殺気が白亜の空間を支配していく。

 

あくまで冷静を取り繕うフォメトスだが内心、恐怖はあった。

 

人間なら冷や汗が滝のように流れ落ちて止まらなかったことだろう。

 

「貴様は幹部より下位の者だ。それを随分と

幹部並みに大きく出れたものだな」

 

「俺は俺だ。幹部より上の“元帥”の地位だからって指図する気か? ホワイト様ならともかく、な」

 

フォメトスはバードの部下であるが、本人にバードに対するの敬意は皆無だ。それは他の幹部も同じこと。

 

そしてその幹部達を束ねる眼前の初老の男性“管理元帥”の『ザハ』も

、彼にとっては従うに値しないのだ。

 

まさに傲岸不遜な男だが、そんな彼でも唯一従う者がいた。

 

その存在は……

 

「そう熱り立つな。らしくないぞ、ザハ」

 

凛とした、しかし確かな重圧を秘めた声。

 

それはザハの後方から発せられていた。

 

姿勢を変えることなく流れるように振り返ったザハの目には、1人の少女が映り込んだ。

 

そして、フォメトスもまた。

 

「あ、あんたはッ!!」

 

「んん? どうした。まさか、この妾が死んで化けたとでも言いたそうな面構えじゃないかフォメトス」

 

それはまるで、ブラック★ロックシューターを反転させた影写しのような白の少女だった。

 

ただ髪型や瞳、人相などは全てにおいて別物と断じることはできる。

 

青く慈悲を表したような優しげなロックの瞳とは違い、白の少女の瞳はまるで憎悪の炎を滾らせる激情の赤。

 

儚げな白髪を荒々しいポニーテールへと纏め上げ、ニヤリと笑う口から覗かせる歯は凶悪な猛獣を彷彿とさせるには十分の鋭さを有していた。

 

ロックの優しい笑顔とは、まったく正反対の笑顔と称していい。

 

「妾が死ぬとでも思うたか? 確かにこの世界に来る前は致命傷と言っていいダメージは受けたが……それはもう過去の話だ。こうして、妾は復活を果たした」

 

ゆっくり、ゆっくりと。

 

一歩一歩進みザハを通り過ぎて、フォメトスとの距離を縮めていく白き少女。

 

フォメトスは抵抗もせず、言葉も出さない。

 

ただ素早く頭を垂れ下げて傅くだけ。

 

「言え。此度の件は妾の耳にも聞き及んでいる。言いたい事があるならば答えろ」

 

「分かりました」

 

やっと出た台詞は、普段の彼の素行や性根を知る者からして見れば、驚愕の一言に尽きるほど丁寧なものだった。

 

「私的な娯楽気分でやった事については相違ありません。俺も部下達も何も知らぬ異世界 へ来てからというもの、待機や偵察、調査等の地道で面白味もない役回りでしたので息抜きが必要でした。今回の一件はそれ故です」

 

「……」

 

「ほう。それだけの理由でか?」

 

「はい。クロワとの戦闘では個人的に俺自身が気に食わなかったからで、そこに合理的な意図や目的は一切ありません」

 

さも当然と言うが、その答えに不愉快を示したのはザハだ。

 

彼は冷静な思考と寡黙の雰囲気を持つ男だ。今も不愉快さを感じこそすれ言葉として出してはいない。

 

だが、目は違う。

 

発する圧力も違う。

 

貴様如き黙らす事など蟻を潰すに等しいほど容易い。

 

無言に秘めた意はこれと同じ意味合いを忍ばせていたのだ。

 

「まぁいい。今回の件は不問しておくが、次からは弁えろよ? 万が一でもストックどもに気取られるわけにはいかないからな」

 

「分かりました」

 

「よろしい。行くがいい」

 

主君の言葉を聞き、転移によって数秒と経たずに消えたフォメトスを見届けたホワイトは踵を返して自らもこの空間内から去ろうとする。

 

が、その前に自身が最も信頼する腹心の1人であるザハに声をかける

 

「何か不満か? 遠慮はいらない。言ってみるがいい」

 

フォメトスに対し不快な感情を抱いているのは知っているし、先ほどから滲み出していた殺気やら目付きがそれを嫌というほど示しているのは明白だろう。

 

「……僭越ながら申し立てれば、あの不届き者を始末すべきかと。上司たるバードは貴方様の命を狙い、姑息な策を常に考えている愚か者

。バードやそれに下する者等はハクトにいらぬ輩共かと思い致しています」

 

「なるほど。確かにその意見は合理的だ。しかし我々は“闘争主義”のハートレス。今も昔も自しか認めず、他を敵とみなしては戦い続ける闘争の民。妾やお前は後天的なものだが、奴等は先天的…生まれ持っての闘争主義者なのだ。その在り方を変える事はできんだろうさ」

 

ハートレスという種は遥か昔……地球の時間感覚で言えば、およそ一万年から闘争主義と平和主義に分かれていた。

 

種が誕生して久しい時代は皆平等に闘争本能に従い、自分以外の他者を敵と見定めて殺し合いを勃発させるのが当たり前だった。

 

やがて平和主義が出現し、他を認めた集団における戦法を用いるようになるとそれに習う形で集団を成すようになった。

 

が、エゴイストの最高潮とも言える彼等闘争主義に集団という手段は相応しいものとは言えなかった。

 

そんな彼等は現在、少数ながらも逸れはいるが大多数がホワイトの支配下にあり、統制はそれなりに取れてはいる。

 

だが、所詮はホワイトという存在の抑止力があってこそに過ぎない。

 

フォメトスもそうだ。

 

ホワイトという絶対の支配者なしにハクトは存在し得ない。

 

闘争主義とは、そういう生まれ持った揺るがぬ在り方に縛られた存在なのだ。

 

「………」

 

「そう深く考えるな。きちんと手綱は握るし、お前やナフェの尽力は知っている。些細な事柄で瓦解などさせんさ」

 

そう言って笑う顔は、家族に向けた優しい物だった。

 

クロワと敵対し、ハクトの“総督”として破壊と虐殺を平然と行って来た者とは思えないであろうその顔は、欺瞞ではない確かな暖かい情念が通っていた。

 

ホワイトはそれだけを言い残しフォメトスと同様に消失。白亜の空間に残されたザハは静かに目を閉じ、ふと呟く。

 

「ワシも、まだまだ……か」

 

誰に聞かせるわけでもなく吐露した言葉は、当然ながら誰の耳に届くことはなかった。

 

 

 

 

 







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第6話『メカクシ団とクロワ』 part2






 

 

 

 

シンタローたちメカクシ団一行は、何とか合流を果たすことができた。

 

そもそも何故、シンタローだけがみんなとは違う部屋に隔離されたのかと言うと実際は一人一人別々にあの部屋へと案内されており、デッド曰く『検査の為』らしい。

 

ここに来る前にシンタローを含め全員が眠らされた理由は安全に保護して送る為と、ストレスによる心的ダメージで磨耗してしまった精神を緩和・回復させる為だったのだ。

 

更にカレーも食したおかげでメカクシ団員達は心身共に良好状態と言えた(約1名が少々疲れ気味だが)。

 

そして今、彼等はあの部屋よりも広くおよそ学校などの体育館の半分はあると思われる、一つのルームに集まっていた。

 

彼等の両端の傍にはデッドやチャリオットにストレングス。

 

デッドスカル兄弟。メイコックとショッピングモールに駆け付けたメンバーの他に青いショートヘアに白いコートを纏い、髪と同じ色のマフラーを首に巻いた青年。

 

そして武者の如き黒を基調とし、端が紫に染まった甲冑を纏い、端と同じ紫色の髪をポニーテールにした青年。

 

他にもいるが、今は割愛しておこう。

 

ともかくここにいる人ならざる者達…『ハートレス』たちは皆、ある共通点が存在している。

 

一つは、『クロワ』というハートレスのみで構成された組織に所属していること。

 

もう一つは、一人一人が上位戦闘員よりも上…最上位戦士である『精鋭』の称号を持っていること。

 

つまり、ここにいるハートレスたちは皆組織のトップという事になる。

 

「集まってくれて……と言うのは少し違いますね。いきなり連れ去ってごめんなさい。私はクロワの最高統率者『ブラック★ロックシューター』。気軽にロックと呼んで下さい」

 

窮地に陥ったシンタローを救った黒の少女。

 

一寸さえも違わぬあの時と同じ姿で彼等の前へその姿を現していた。

 

「で、本当に何の用なんだ? カレーの件は礼を言うけど、それとこれとは話が別だ」

 

メカクシ団の団長であるキドが目を細めて睨みながら、そう言った。

 

どうやら完全に猜疑心と警戒心を孕んでいるようで、これに関しては団員たちにとって大小なれど共通認識であろう。

 

「まず言わせてもらえば……貴方達は全員、“目に特殊な力”を持っていますね?」

 

その言葉の意味を理解した瞬間、メカクシ団の警戒心は一気に跳ね上がった。

 

自分達が持つ目の力は誰にも知られることのない、知られてはいけない異端の能力。

 

それを何故……この少女は知っているのだろうか?

 

“メカクシ団たちを監視・調査していた”

 

この解答以外に、彼等の秘密を知り得えている理由はない。

 

「あ、待って下さい。別に何か企んでるわけではないんです。これは貴方達を一人一人、あの部屋で調べた際に分かったことで詳しい事は分からないんです。信じて下さい」

 

目を見る限りでは嘘はない。

 

雰囲気も隠しているという風は見られず、仮に嘘をついていたとしてもセトの『目を盗む』能力で読心できる為、問題はない。

 

カノとキド、シンタローがセトを見るが首を横に振る。どうやら本当に嘘を吐いている訳ではなかったらしい。

 

「私達には“アーマメント術式”と呼ばれる技術体系があります。これはあなた方人間で言うところの科学技術に相当するものだと思って下さい。アーマメント術式には様々な系統に分かれていて、各系統に沿った事象や効果を齎しますが、その中には情報を得るものもあります

。それを用いたことで貴方達の持つ力を知りました」

 

「……本当にそれだけか?」

 

疑心を織り交ぜた視線を向けるシンタロー。

 

セトの存在で嘘は通用しないと分かっていても、やはり彼自身の疑り深い性根が無意識に問いを投げかけていた。

 

内心苦笑する中、ロックは至って間を空けずに答えた。

 

「本当です」

 

変に言い訳をするまでもなく、この即答。

 

どうやら全面的にとは行かずとも、自分たちの力目当てでないことは信用しても良さそうだ。

 

そう思い、シンタローは少し警戒を引っ込めた。完全にではないが。

 

「俺達の力が目的じゃないなら、なんでここへ連れて来た? その訳を聞きたい」

 

シンタローと同じく完全ではないものの警戒を緩めたキドがロックへそう問いかけた。

 

確かに彼女の言い分は正しい。

 

普通、何かしら一般人とは違う何からの特徴…メカクシ団の場合は目の能力だが、関係を有さないのであれば一般人たちと同じように記憶を消し、関わらない方が得策だろう。

 

情から来るお節介であれ、単に興味であれ。

 

異世界の事柄・人物に首をつっこんだり、手を出すような真似はご法度。

 

何気ない接触が未曾有の事態へ繋がることも有り得る。

 

しかし、彼等はメカクシ団へ接触して来た。

 

考える理由としては“何らかの緊急事態に対し、メカクシ団員達の力がどうしても必要”か。はたまた、“利用できそうなものを見つけたから

、利用しようとしている”。

 

この二択くらいだろうか。

 

だが、ロックの言葉はシンタローの考えた二択のそれとは大きく違ったものだった。

 

「セトさん。シンタローさんの“目を盗んで下さい”。そうすれば理由が分かります」

 

目を盗んで下さい。その言葉の意味を理解したシンタローはセトに能力を発動させた状態で自分を見るようアイコンタクトを送る。

 

意図を悟ったセトはすぐさま瞳を赤く染め上げて能力を発動。セトの目の能力は対象…人であれ動物であれ、あるいは物でさえも情報を得ることが可能なもの。

 

人間や動物の場合はその心を読み取り、更に意識すれば対象の記憶や過去を垣間見ることができる。

 

それがセトの“目を盗む力”の性質。

 

そしてものの数秒でシンタローの首筋に何かが付いているのを発見した。

 

「これは……」

 

見れば、それは白い星のシールのようなものだった。

 

それに意識を集中させ調べて見ると、発信機であり、盗聴器や盗撮機の機能を併せ持ったものらしい。

 

「ま、まさか、あの時に……」

 

「いや、違うっす。これ……二週間前につけられてたみたいっすね」

 

セトの言葉に誰もが戦慄を感じ得ずにはいられなかった。

 

もしやと思い他のみんなも見てみたが、全員に白い星は付いていた。

 

ということは、二週間も前から何者かに監視されていたことになる。

 

勿論、ロック達ではない。

 

「これは私達が仕込んだものではありません。セトさんの力で得られる情報が証拠です」

 

「その人の言ってることは正しいっす。これ、間違いなくハクトって連中の仕業っすよ」

 

ロックの言葉にセトも同調する。セト本人が言う以上、彼女の言葉を信用する他にない。

 

「……………まぁ、言いたいことは分かった。で、あんたはアレか。余計なお節介で俺達を助けてくれたってワケか?」

 

「敵が何を考えているのか、理由や目的は不明ですがメカクシ団の皆さんがハクトに狙われている以上、クロワは……私達は貴方達を全力で守ります。それが我々クロワの使命ですから」

 

「……そうかよ。まぁ、つーか、それよりもここって何処なんだよ? もう居場所は敵が知っちまったんだし、移動しなくていいのかよ」

 

未だ疑念はあるものの、とりあえず一旦は置いておくことにしたシンタローは改めて今自分達がいる場所を。

 

そして、先程から敵へ現在位置の情報が露呈してしまったにも関わらず、焦らないどころか何の行動さえも起こさないロック達に問い質した。

 

「大丈夫ですよ。ここ、異空間ですから」

 

「……へ?」

 

「ですから、異空間なんです。これを見て下さい」

 

なんて事のない風に言うロックだが、そんな答えでは呆気取られるのも無理はない。しかし彼女の言う通り自分達のいる位置から右にある四角い枠のような部分を見る。

 

するとまるで溶けるように枠の部位のみ壁が消失。外の景色が一望できるようになった。

 

「う、嘘だろオイ……」

 

「マジで……」

 

「………」

 

「「「ほぇ〜……」」」

 

『幻想的ですね! まさにザ・異世界ってヤツじゃないですか〜!!』

 

シンタローとカノは驚愕の声を思わず漏らし。

 

キドは言葉も出ず。

 

モモ。マリー。セトは気が抜け出たような声を出し。

 

ちゃっかり出て来たエネは、モモが無意識にポケットから取り出したスマホのカメラから光景を見て、異様にテンションを上げているがいつものことだ。

 

皆が見る視線の先には虹色の空。

 

赤や青、緑や黄、紫や橙など。

 

鮮やかな色彩で染まった空は紛れもなく地球には存在し得ない。

 

虹色の空が無限に広がる空間。

 

まさしく異空間と呼ぶしかない光景が確かにあった。

 

「ここは、貴方達の存在する世界から切り離された場所です。世界の何処を探しても存在しないですし、次元の位相座標が複雑な為、容易く侵入することはできないんです」

 

丁寧に説明してくれているロックだが、驚愕のあまり、彼女の言葉による羅列の数々は彼らの耳には届かなかった。

 

「では、クロワの精鋭メンバーの紹介に移りましょう。まずはチャリオット。精鋭の中でもスピードに長けていて、このように両足が車輪になっています」

 

「ど〜もよろしくね!」

 

チャリオットは元気良く答えるが、彼等は苦笑するしかなかった。

 

「剛腕の武器『オーガアーム』を持った腕力の戦士ストレングス。パワーで言えば精鋭の中で唯一と言っていい」

 

「……よろしく頼む」

 

ストレングスは特に表情を見せず、あくまでポーカーフェイス且つ平坦な口調で答えた。

 

「彼女はデッドマスター。医療のスペシャリストで、無くてはならない精鋭軍医です」

 

「よろしく。もし、怪我をしてしまったら私にどうぞ。しっかりきちんと治してあげるわ

 

こちらもストレングスと同じで平坦だが、言葉から医者としての風格が伝わって来る感じだ。

 

「クロワの様々な剣術・剣法をマスターした剣豪スライザー・カムイ

 

「今後とも、よろしくお願い致す童達。拙者は歓迎でござる」

 

黒と紫の武者甲冑に時代錯誤としか言いようのない“ござる口調”なものの、デッドとストレングスに比べ活気良い雰囲気の声と言える。

 

「彼等はデッドスカル兄弟。デッドマスターの補佐で、医療・戦闘においてはデッドマスターに並ぶ実力があります。兄がジニーで、弟がコニーといいます」

 

「紹介に肖ったジニーだ。何か不備があれば言ってくれ。相談に乗ろう」

 

「ヨォオオッ!! 俺はコニー!! ロック経由の紹介だが言わせて貰うぜ!! ヨロシクなァ

ァッ!!!!!」

 

冷静沈着、優雅と呼ぶに相応しい言葉遣いのジニーに対し、コニーは情熱を噴火の如く大爆発させたようなハイテンション。

 

メカクシ団面々は普通に引いていた。

 

「遠距離・近接銃器や武器のスペシャリスト

メイコック」

 

「まっ、よろしくなガキども」

 

そう言って手に持った長方形型の銃器をこれ見よがしに見せ付けるが、その様子にロックは非難的な視線を向けた。

 

一般市民にとって兵器・武器はそう容易く身近にはない代物。アメリカのように銃を購入できる国や地域もあるが、団員達が住んでいたのは銃刀の所持がご法度な日本。

 

縁などないにし、そもそも人を殺すことのできる物を他者が持っているというのは恐怖と不安しかないだろう。

 

「メイコック。武器をしまって」

 

「そんな怒るなって。ちと自慢したかっただけだよ」

 

僅かばかりの怒気と共に釘を刺すロック。

 

相手が相手にメイコックは苦笑しながら言う通りにし、武器を何処へと転移させた。

 

「最後にカイト・ストローク。水と氷を自在に操り、水中戦ではまず最強と言っていい」

 

「ははっ、よしてくれロック。そんな言う程じゃないよ」

 

やや苦笑気味に言う白マフラーに青髪の青年カイト。

 

これで今いる精鋭メンバーは以上だ。

 

「さて、一通り紹介しましたが、何か質問は

ありますか?」

 

特にない。とは言えないが、それでも今この場で言う気にはなれない。未だ色々と心情的に混乱しているメカクシ団面々(エネは平然そのものだが)は、とりあえず首を横に振ったり、ないと言って次に進ませようとした。

 

「では、今後について話し合いましょう……と言いたい所ですが、ひとまず整理が必要な筈です。今日のところは一先ず貴方達を家へ返しますが、何かあった時の為に護衛を付けさせてもらいます」

 

そう言って、一先ずだが団員達は家へと帰る事となった。

 

 

 

 











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第7話『戦姫邂逅』 part1




シンフォギア登場です。うっかり消してしまった前作と内容に変更がありますので、注意して下さい。

早く五期が見たいデス……。






 

 

 

 

 

クロワとメカクシ団の邂逅。そして情報共有や今後の事などを踏まえた議論という話合いを経た結果。クロワはメカクシ団に護衛を付け、その身辺を守る責を受け負った。

 

とは言え、これはクロワの最高統率者である『ブラック★ロックシューター』が少し強引にメカクシ団側に決めさせたものだが。

 

あまり強引な方法は好きではないロックだが団員達が前々よりハクトに目を付けられていた事を認知した今、何もせずにいると言うわけにはいかない。

 

だからこそ、守ると言う方法の基本たる護衛を選択したのだ。

 

キドやカノ、シンタローとしては、あまり余所者には側にいてほしくないと言う心境なのだが彼等の案は自分達の身を守る為には必要なこと。

 

それを思えば是が非でもというわけにはいかず、素直に従う他なかった。

 

そうこうしていく内に両者の邂逅から三日は経ち、徐々にだがお互い慣れ始めていった。

 

 

 

 

★★★★★★★

 

 

 

 

クロワの臨時基地。

 

そこは虹色の空間に浮かぶ八面四方体…簡単に言えばピラミッド型の建物がそれだ。

 

数多くあるルームの一室に“反応室”と呼ばれるものがある。この臨時基地が存在する空間の外側、つまり地球次元の反応を検知・分析しその情報を得る為の一室だ。

 

それだけの為にわざわざ一室設ける必要はあるのかと思われるかもしれないが、このルームの位置は外界の異変を早急に検知するには理想的らしい。

 

情報は常に迅速に得られる方がいいのである。

 

ともかく、そのルームではロックとクロワの分析員3名が巨大なモニター画面を眺めていた。

 

「ハクトに動きがあったの?」

 

「はい。この地点にです」

 

モニターに記されたのは文字の羅列と特定の場所を示す地図だった。

 

その場所は、横須賀の海上自衛隊基地。

 

「ここにハクトの反応が?」

 

「はい。でもそれだけじゃありません。他の反応もあります」

 

「こちらで調べた結果、“ノイズ”と“例の彼女たち”の反応に相違ないと思われます」

 

ロックの問いに分析員の2人がそう答える。

 

ノイズ。地球におけるそれは人類にとって忌むべき超常災害だ。空間から滲むように出現し、その後は人間を見つけては襲い掛かる。通常兵器はノイズ自体が存在の位相をズラしている為、全く通用しない。

 

襲われた人に待っているのは……命を消し去られ、煤と化す炭化現象の末路。この時ノイズも煤へと還元され襲わずとも自然消滅する。

 

これらがクロワが有するノイズにおける情報だ。人間社会に潜伏調査している諜報員の仲間が数多くいる為、その情勢や知識などの情報は常に更新されている。

 

勿論、ノイズの存在に関してもだ。

 

故に以前からノイズという超常災害を討つことのできる“特殊兵器”と

“その担い手”をクロワの内部では周知していた。

 

特殊兵器の名はシンフォギア。

 

歌を動力とし発動、ノイズの炭化能力を阻止する装甲スーツとアームドギアと呼ばれる武装を瞬時に展開する対ノイズ戦に特化した兵器。

 

それを纏い、扱えるのは計6人の装者にして歌姫たち。

 

分析員の1人が言った“例の彼女たち”とは、そのシンフォギアの装者らを指したものだ。

 

「分かった。すぐに部隊を編成して向かわせる。ここで得られる情報は可能な限り集めてほしい」

 

「了解しました」

 

「「了解」」

 

「頼んだよ」

 

そう言い残し、反応室を出るロック。

 

ハクトにノイズ、そしてシンフォギア。

 

おそらく三つ巴の勢力による戦況が形成されているのだろうとロックは予測していた。

 

これから、その渦中へと介入するわけだが、問題はシンフォギア勢側から敵と誤認されないかどうかだ。

 

クロワはあくまでハートレスという種の平和主義者で結束された組織

。そして、その理念と思想は他世界の住人との平和的共存にある。

 

よって人類への傷害や攻撃などはあってならぬもの。殺傷は尚更だ。

 

とは言え人類の方からクロワへ攻撃した場合は、そうも言ってられないのが現実だ。

 

反撃とは行かずとも、何かしらの対策は必要になる。それが人類にとって暴力的で恐怖させるに足るものであるのならより状況を悪化させかねないし、ますます共存など望めはしない。

 

ともあれ、対策に関しては今後の課題として後に回すしかない。本当に必要になるかどうか、それは向こうの出方とこちらの交渉次第なのだから。

 

「ロックより精鋭たちに通告。メイコックとカイト、そしてデッドスカルズに集合令をかける。直ちにゲートルームへ移行せよ。内容は追って話す」

 

通信で指名した精鋭たちに集合をかけ、足早にロックはゲートルームへと向かった。

 

 

 

 

★★★★★★★

 

 

 

 

ゲートルーム。学校の体育館が丸々一個収まってしまいそうな程に大きいこのルームには、この異空間の次元から地球の次元へと繋ぐ門が存在する。

 

それが“ワームゲート”と呼ばれるもの。

 

地球次元とこちら側の行き来は全てこの門によって成されており、その形状はオーロラが円形のように波打つような物となっている。

 

更にただ単に繋ぐだけでなく、行き先の場所を指定することも可能な為、非常に便利な代物となっている。

 

「みんな、準備はいい?」

 

ゲートが問題なく幻想的な光景を形成する形で作動中の最中、ロックは眼前に並ぶ精鋭らに問いかける。

 

編成はメイコック、カイト、デッドスカルのジニーとコニー。

 

そしてこの4人を指揮する隊長はロック。

 

最初はストレングスを任命しようと思っていたロックだが、しかしクロワの統率者としてシンフォギア装者への協力の為の同盟を結びたい為、代表者たる自分が直接交渉に望む方がいいと判断し自ら赴くことにしたのだ。

 

ちなみにチャリオットとカムイはメカクシ団の警護の任に就いている為、この基地内にはいない。

 

ストレングスは警備任務に、デッドマスターは医療関係者である事からこの任務には同行できない。

 

「私達の任務はノイズの殲滅とハクトの無力化。特にノイズだけは一匹足りとも逃さないよう念入りにね」

 

「任せとけ。徹底的にハクト諸共血祭りさ」

 

「メイコック…あんまり勘違されなよう頼むよ」

 

「ヒャッハー!! さっそく皆殺し祭りと行こうや!!」

 

「お前もだコニー。誤解されるぞ」

 

約2名危ない台詞を吐くものの、クロワ精鋭部隊は全員ワームゲートを潜り抜け、地球の日本。

 

シンフォギア装者がいる海上自衛隊の横須賀基地へ向かった。

 

 

 

 

★★★★★★★

 

 

 

 

横須賀海上自衛隊基地。

 

そこにシンフォギア装者らを戦力とした国連直轄下の超常災害対策機動部タスクフォース、Squad of Nexus Guardians。

 

これを略称して『S.O.N.G.』と呼ばれる組織の移動本部となる潜水艦が駐留していた。

 

現状、今のシンフォギア装者達の内、ギアを纏える者は“暁切歌”と“月読調”の2人のみ。

 

新たに現れた錬金術師の少女キャロル・マールス・ディーンハイムと彼女に従える四機の自動人形にして終末の騎士、オートスコアラーら一派の策謀に嵌り、主力装者だった三人。

 

『ガングニール』所持者の“立花響”。

 

『天羽々斬』所持者の“風鳴翼”。

 

『イチイバル』所持者の“雪音クリス”。

 

彼女たちのシンフォギアが、無残に破壊されてしまったのだ。

 

更に立花響は敵に重傷を負わされていた。

 

それを見越してか敵は近辺の発電施設を破壊してS.O.N.G.本部への電力供給をカット。

 

誰が口にするまでもなく、状況は窮地に陥ったそれだ。

 

この危機に対し、調と切歌はS.O.N.G.司令官の風鳴弦十郎の待機命令を無視して戦場へと出て行き、しかもその際、ギアとの適合係数を上げる代償に肉体に負担を強いる制御薬品LINKERを使用。

 

命に関わるような負担は今のところ無いが、それでも鼻血が出るなどの症状があり、適合係数は良いが肉体的コンディションはあまり良いものとは言えない。

 

だがそれでも、2人は眼前の敵へ力を振るう。

 

自らの犯した罪に向き合う為…自らが守りたいと願うものを守る為に。

 

「デェェスッ!!」

 

緑と黒の色彩で統一されたメカニックな大鎌、“獄鎌イガリマ”を縦に振り落とした切歌の狙い定める相手は、刃物の如き鉤爪を両手に備えた赤髪ロールの髪型の少女のような容姿のオートスコアラー『ミカ』

 

その凶器の如き鋭利さを秘めた歯を見せるように笑顔を形作るミカは、両手を交差し自慢の鉤爪でイガリマを受け止めてしまう。

 

「ニシシッ。軽い攻撃だゾ」

 

「言ってろ、デス!!」

 

挑発と怒号の言葉の応酬。しかしそれ以上続くことなく一度振り下ろしたイガリマを引き上げ、今度は横薙ぎに振るう。

 

先程よりも攻撃そのものの重さは軽くなってしまうが、その分スピードは速い。

 

その為ミカは対応できず受けてしまった。

 

「うぐッ!! 痛いゾ!!」

 

だが、ダメージは微々に等しい。

 

ミカはキャロルのオートスコアラーの中でも戦闘に特化した機体。

 

攻撃力や防御力に関しては折り紙付きだ。

 

そんな彼女をたかだか一撃当てた程度で撃沈とは行かない。

 

切歌にとってまさしく強敵とも言うミカだが、1人で戦っているわけではない。親友にして相棒である調の放つシュルシャガナの丸鋸の刃が高速と呼ぶに相応しい回転をもって、ミカの首めがけて迫る。

 

人間なら回避できず、防御したとしても無意味と化しその首を地に落としている筈だが、相手は錬金術によって製造された人形。

 

過酷な訓練を受けた人間の兵士よりも、その性能は遥かに上だ。

 

「無駄無駄、なんだゾ♪」

 

迫り来る7つの丸鋸を両手で、しかも見ることなくキャッチし、カードの手札のように並べてはこれ見よがしにチラす。

 

完全に余裕を見せた挑発だった。

 

それを見てスルーできるほど、切歌と調は戦闘面において熟していない。

 

まだ未熟者と言っていい。

 

「目にも見せてやるデスよ、調!!」

 

「うん!」

 

相手の予想通りとばかりに瞳に怒りを灯し、完全にお冠とでも言うような勢いでそう叫ぶ切歌。

 

続いて、その言葉に反応した調は返事で答え、その戦意と己が鋸の刃をミカへ向け突撃。

 

切歌も鎌を構え突撃を開始し、ダブルアタックを仕掛ける2人。

 

「これでも食らえ!!」

 

ミカは己の属性『火』の象徴とも言える赤い結晶体のカーボンロッドを出現させ、それを投げつける。

 

カーボンロッドの内部には高量の熱エネルギーが圧縮されており、その力が衝撃で解放されれば、受けるダメージは決して少なくない。

 

投げられたカーボンロッドに対し、切歌は緑の色の鎌の刃を幾つかに増やし飛ばす技を繰り出す。

 

その名も“切・呪りeッTぉ”

 

きちんと表記すればキル・ジュリエットだ。

 

何故こうなるのか、は切歌のそういう特性としか言えない。

 

ともかく鎌の刃はカーボンロッド二つと相殺し、続いて調がヘッドギアの左右のホルダーから小型の丸ノコを連続で放つ。

 

“α式・百輪廻”。

 

一個一個は大した威力を持たないものの、多数の雑魚敵や制圧、足止めなどに効果を発揮する技だ。

 

「ぬわッ?!」

 

直接ではなく、丸ノコはミカの足元へと当たった。驚いたミカは前へ駆けようとしていた足を止めてしまい、一瞬ながらも怯んでしまう。その一瞬こそが致命的な隙だった。

 

「その首、貰うデスッッ!!」

 

鎌の刃が首に到達できる距離まで上手く近づけた切歌は、問答無用。情け容赦なし。

 

そんな謳い文句が出てそうな程に迅速的に敵の首を狩る…

 

「ふん。つまらん遊戯だ」

 

ことはできなかった。

 

一つの声と共に赤い閃光がミカと切歌を吹き飛ばしたからだ。

 

「切ちゃん!!」

 

突然のことに驚きつつも親友の名を叫び駆け寄る調。見た所ダメージこそあるだろうが目立った傷は一つもない為、応急処置が必要という緊急の事態には至っていない。

 

「いってて……何が起きたデスか?」

 

「敵の援軍の攻撃……ってわけじゃないよね

 

もし敵側の味方なら、ミカ諸共吹き飛ばす様な真似はしない。

 

証拠にミカも何が起きたのか状況判断に困惑しているようだ。

 

「な、何が起きたゾ?」

 

「シンフォギアにオートスコアラー。なんとも脆弱過ぎる輩だな。それでよく実戦で立ち回れたものだ」

 

それは、嘲笑と失望を言葉に織り交ぜて近くにあった建物の屋上に立っていた。

 

白い髪をポニーテールに束ね、土の色彩を想起させる褐色。

 

上半身の服装は白いパーカーコートを羽織り、開けた胸部や腹部からは装備された白いメカニカルな鎧が覗かせ、それと同様のものが指先から肘までの両腕と指先から膝までの両脚。

 

格好もさる事ながら一番の印象はその両眼だ。まるで憎悪や怨嗟を薪として燃やし盛るかの如く紅蓮なる赤の双眸。

 

その視線から解き放たれる殺意はもはや重力に等しきものと錯覚しかねない程の“圧”。

 

切歌と調は身動きが取れなかった。

 

これに抗うには相当の精神力が必要なのだから。

 

「なんだァお前? 何者だゾ?!」

 

しかし、ミカは違った。

 

人間とは異なり、行動を縛り時として戦意を喪失させかねない『恐怖』という不都合な感情は存在しない。

 

良心も愛もない。だから躊躇なく人を殺せる。

 

そんな人形だからこそ、ミカは普通の人間ならば気絶しかねない圧を向けられようと平然にいられる。

 

「小煩い人形に用はない」

 

ミカの問いを交えた言葉を白き少女は一蹴し、右腕に装備された白の砲身の武器をミカへと向け照準を定める。

 

「消し飛べ」

 

そして、砲口から凄まじいエネルギーが射出された。

 

解き放たれたエネルギーは紅蓮のそれで、誰しもがそれを圧倒的暴力と表現できるほどの奔流。

 

故にミカは抵抗する術なく、断末魔の言葉さえ上げられずに飲み込まれた。

 

 

 

 

 







まさかのボス登場。

今回出てきたホワイトの姿はインセイン・B★RSみたいな感じを
想像して頂けると助かります。

インセインっぽいホワイト様は作者的に格好といい思いますが、
皆さんはどうでしょうか?





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第8話『戦姫邂逅』 part2



遅くなってしまいましたが8話です。どうぞ!!


 

 

 

 

「な、何なんだアレは……」

 

S.O.N.G.作戦司令室

 

移動本部の中に設けられたそのルームでは、大型のモニターから外の様子を捉えた映像を見て、その場にいる誰もが戦慄した。

 

一騎当千と規格外の強さを誇るS.O.N.G.の司令官こと“風鳴弦十郎”も同様だ。

 

強敵と言っていいあの自動人形を難なく、虫を潰すかの如く呆気なく破壊してしまった。

 

それだけでモニターに映る白き少女がいかなるものなのか、一瞬にして理解せしめた。

 

「何処の馬の骨か知らねーが、味方って雰囲気じゃなさそうだな……

 

「私も同意見だ。このままでは切歌と調が……ッ!」

 

「お待たせしました!!」

 

焦燥。不安。この二つが装者達やスタッフの皆全員を掻き立てる中に一つの声がドアの開く音と共に響いた。

 

「“エルフナイン”!!」

 

「ギアの修理が終わったのか!」

 

翼がエルフナインと呼ぶ少女はクリスの言葉に対し真剣な面持ちで頭を縦に頷く。

 

オートスコアラーの策略とアルカノイズの力によって破壊された翼とクリスのギア。その待機状態である赤い結晶体のペンダントを見せることで、修理が終わったことへの証拠をしかと見せつける。

 

しかしそれだけではない。

 

シンフォギア強化計画“プロジェクト・イグナイト”により、2人のギアは相応のリスクを伴うものの、新たな力を内包していた。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

失望。最初に、直でそれを見て思った感想がそれだった。それ以外になかった。

 

戦闘面に特化した自動人形…それは自分達の保有する特殊技術“アーマメント術式”に似た技術である“錬金術”の叡智をもって作られたものらしい。

 

が、蓋を開けて見ればこのザマ。

 

あの赤い小娘のような機体は他の青と緑、黄のオートスコアラーに比べ戦闘特化型だと。

 

確かにそう報告を受けた。

 

“こんなものが戦闘特化? 笑いを通り越して呆れる他ない”。

 

心内に漏らした愚痴にも聞こえるミカの評価は散々だった。

 

ならば、シンフォギア装者である切歌と調はどうなるのかと問えば同じ様なものだった。

 

手加減しても、保って3分か5分。

 

本気を出せば……それこそ1分も掛からない秒速さで肉塊へと変えられる。

 

それが白き少女、いや、ハクト総督“ホワイト☆ロックシューター”の見解だった。

 

「さて。あの人形は塵芥に還ったがお前達はどうする?」

 

ホワイトはその紅蓮の瞳から殺気の視線を放ち、切歌と調を捉える。

 

とうの2人は身動きができず、ただ冷たい汗が額から顎へと流れ落ちていく。

 

勝てない。

 

そんな言葉が2人の中に無意識に浮かんで来てしまうほどに、その戦意は殆ど削がれてしまっていたのだ。

 

「どこまでやれるか、試してみるか?」

 

口の端を釣り上げて凶悪な笑みを見せるホワイトは、照準を正確に2人へと定める。

 

そして、あの赤い閃光を放とうとした瞬間。

 

エネルギーのチャージをやめ、ホワイトは立っている建物の位置から地上へと飛び降りた。

 

側から見れば何事かと思うかもしれないが、ホワイトのいた位置に無数の赤い弓矢が降り注ぎ爆発。

 

威力は大した程ではないが、もしアレが危険性を有する攻撃だった場合を鑑みれば回避は当然の行為だった。

 

「何処の馬のヤッコさんかは知らねーけどな、大事な後輩に手を出してただで済むと思うなよ」

 

「貴様が何者なのか、ここに問わせてもらおう!!」

 

日本刀型のアームドギアを構え、青を基調としたパワードスーツ…“天羽々斬”を纏う音符のような髪型をした青髪の少女こと風鳴翼。

 

真紅に染まるイチイバルを纏い、両手に同色のボウガン型のアームドギアを装備した癖毛の混じった銀髪の少女、雪音クリス。

 

後輩の危機に馳せ参じた青と赤の戦姫が今、ここに復活を果たした。

 

「雪音センパイ!!」

 

「翼さん!!」

 

切歌がクリスを、調が翼の名を叫ぶ。

 

その声と表情は喜びに満ちたもので、先ほど味わった恐怖は未だ完全には拭い去れていないが、それでも少しはマシなものとなっていた。

 

「おっと。戦う気満々のところ申し訳ないが、今回は話があって来たのだ。先程のアレはジョークに過ぎん。あの人形を排除したのは話し合いに邪魔なんでな」

 

「話し合いだぁ? 随分とふざけた事言ってくれるじゃねーか」

 

「……何を話し合うつもりだ?」

 

警戒を解かない装者全員。その中で翼は相手の真意を問う。

 

ホワイトは、ただでさえ悪質な笑みを深める。

 

「まずは、私がどのような存在なのかを話そう。私の名はホワイト☆ロックシューター。この世界とは違う異世界の知的生命体ハートレスで、私はそのハートレスの組織“ハクト”を束ねる者だ」

 

「異世界だと? バカな……」

 

「信用できないのは仕方ないと思うが、先程の攻撃を見れば判断はつくだろう。アレは、貴様等で言う所のシンフォギアや聖遺物などの異端技術、または現代科学で作ったものではない」

 

疑心を剝き出す翼や他の装者達の目を逸らさず、虚言を言わぬと自信堂々とした顔で彼女は続ける。

 

「そも、現代科学では不可能。そしてアレが異端技術由来のものではないということはお前達がよく分かる筈。どうせ今頃解析などで調べているのだろう?」

 

『業腹だがそいつの言う通りだ。解析結果は聖遺物でもシンフォギアでもない、まったく未知のものだ』

 

本部から通信で送られる弦十郎の声は、彼女の言葉を思う所はあれど

、認める答えだった。これでホワイトの言葉を虚偽の妄言と断ずることはできなくなった。

 

「ここまではいいな? 話し合いというのは実に簡単なこと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“貴様らのシンフォギアを渡すか、我が組織の傘下に加われ”

 

「「「「!!!!ッッッ」」」」

 

シンプルな二択一択の要求。

 

それは4人の心内に驚愕という一言に染まるほどの衝撃も同然な内容

 

そして、到底首を縦に振ることのできるものではなかった。

 

「どういうことか、言を頂きたい」

 

「三度は言わん。貴様らの持つシンフォギアを黙って献上するか、我が組織ハクトの支配下に加わるか。この二択の内一つを選べと言っている」

 

決して冗談ではない。

 

そう断言できるほどに虚偽を捲し立てる様子はなく、隠そうともしていない威風堂々たる雰囲気。

 

無論、雰囲気では明確な証明にならないが……それでもそう感じさせる何かがあった。

 

「貴様等は…ヒトモドキに過ぎないストックとしておくのは惜しい器と信念、合理的な面からすれば戦闘能力は雛子に過ぎないが、磨けば相応に輝き価値を見出せる原石の持ち主。それ故の誘いだ。無理ならばシンフォギアを寄越せ。我々が有効活用してやる」

 

言葉から臭わせるのは、まるで自分達は今の現状では弱いと吐き捨てる“嘲笑”と“侮蔑”。

 

そして相手の気持ちを容易く虫かゴミのように踏み躙っては潰すかの如き“傲慢”。

 

切歌と調はあの恐怖で実力の差を思い知らされてしまった為、強くは出れないがそれでも悔しそうに歯と歯を食い縛る。

 

しかし、それ以上に看過できない者達がいた。

 

エルフナインのおかげで新たな力を得た翼とクリスだ。自分達のみならず後輩にまでも他愛ない雑魚な存在と見下す姿勢、それを前に憤怒を抱かないほど“先輩”をしていないつもりはなかった。

 

更に言えば……クリスはめっさ短気な部類だ。

 

「さっきからピーチクパーチクと言ってくれるじゃねぇか。アタシ等からの返答はこれだァァッッッ!!!!」

 

叫ぶクリス。

 

答えだ。と言ってばかりに放つのは、一発のミサイル。形状はトマホーク型のそれに近く、威力で物を言えばトマホーク以上。

 

そんなものを真正面から食らったのあれば、敵もただでは済まされない。

 

“普通の敵”なら……。

 

ガシィィッッッ!!

 

「……分かった。ならば是非もない」

 

ミサイルは爆発せず、その際に生じる衝撃と炎の嵐に巻き込むことなくホワイトの片手によって容易く無力化させられた。

 

「なっ?!!」

 

「バカな……ッ!」

 

「て、手で受け止めたデスか?!」

 

「……ッ」

 

そしてその事実に驚愕や畏怖やらを四者四様とばかりに顔に出す装者達に対し、ホワイトは不思議そうに可笑しいとばかりに口元を緩ませる。

 

「フフフ、何を驚く? あまり知られていないだけでこの位やってのける者はいるだろう? どれ程いるかは分からないが」

 

「そんなビックリ人間ショーなんざお断りだァァ!!ッ」

 

自分達の司令がまさにそのビックリ人間の体現者とも言うべき人な為、あまり否定はできないのだがそんなことなど露知らず、吼える

クリスは更なる追撃に打って出る。

 

「蜂の巣にしてやらァァ!!」

 

ボウガンだったアームドギアを4門式のガトリング型へと変形させて赤弾の雨を飛ばす。

 

その名も“BILLION MAIDEN”。

 

一斉掃射という攻撃仕様の為、集団で群成すの敵に対し有効に立ち回れる他、敵が単独の場合でも凄まじい弾圧でもって身動きを封じるので役立つ。

 

「面白い。まずは貴様から潰してやる赤娘」

 

ミサイルを後ろへと紙屑のように軽々と放り捨てたホワイトは赤弾の雨によって生み出される弾圧を受けながらも難なく急速に接近。

 

ダメージは愚か、傷もない状態でホワイトはクリスの懐へと入り込んで腹部を殴りつける。

 

「ガハァァッッッ!!!!」

 

「吹っ飛べ」

 

ホワイトの言葉通り、是非を問わず。成す術もなくクリスは吹き飛ばされた。

 

ギキィィンッッッ!!!!

 

「くっ!!」

 

「己を乱さず、的確に“妾”の首を狙ったのは良い点だ。しかし……遅い」

 

首を取ろうと迫る刃を紅蓮の炎と共に現出した黒刃の白刀で、しかも下手人である翼を見ずにしかと防いで見せた。

 

「だから雛子と言ったのだ。未熟極まる!」

 

「ぐあぁぁッ!!」

 

翼の刀を力で押し退け、その隙にホワイトの白刀が斜めと横に翼を切り裂く。

 

身に纏うシンフォギアの保護機能とホワイトの手加減によって外傷はないものの、受けたダメージは生半可なものではない。

 

翼は何もできず、ただ無様に倒れ伏してしまう。

 

この間で僅か1分。

 

もはや言うまでもなく力の差は歴然だった。

 

「なんだもうお終いか?」

 

「勝手に決めるなデス!!」

 

怒気を乗せて吐き捨てるように叫ぶ切歌は鎌を振るい、袈裟の切り方で入り一撃。しかしその一撃は白刀で防がれ、更にそこから二撃三撃と激しい打ち合いを繰り広げる。

 

切歌が斜め横から上へ振り上げるように斬りかかるのなら、ホワイトは白刀で円を描くように振るいエネルギーバリアのような半透明の膜を一時的に出現させて防ぎ、一撃を繰り出す。

 

それを何とか紙一重で躱し、今度は左右横薙ぎと上下縦薙ぎによる十字の連続切りで行くが、ホワイトは難なく白刀で防いでいく。

 

とここで調がヘッドギアの左右のホルダーからアームの付いた巨大な2枚の回転鋸を出現させて斬りかかる。

 

γ式・卍火車。

 

本来ならばアームを外して投擲する技だが、アームを付けた状態での白兵戦も可能な為に接近タイプの技でもある。

 

片手は刀を握り、切歌へ注意を向けているし空いた手で防がれたとしても、一つで二つを防ぐ術などない。だから二人は思った。

 

“勝った”と。

 

「……それで終いか?」

 

しかしそれは幻想に終わった。

 

「なっ?!」

 

「デェェスッ?!」

 

あっという間だった。

 

巨大な丸ノコの二つが線を何本も引かれたようにバラバラに分断され、金属の破片と成り果てた。

 

「これでも落としたのだがな……それでも見えなかったか?」

 

「ガァッ!!」

 

だがそれに終わらず、血を吐き、身体中からも血を吹き出して倒れる調。

 

「調ェェェェッッッ!!!!」

 

親友の名を叫ぶ切歌。

 

それが隙となってしまい、鎌を刀で弾かれた直後からの一閃を腹部に受け、浅くも横一線の大きな傷を貰ってしまった切歌も調と同じく地に伏してしまう。

 

「アアッッッ!! うぐっ……し、調ぇぇ……」

 

「月読! 暁! おのれぇ……」

 

「てんめェェッ!! ただじゃおかねぇぞ!

!!」

 

意識のない調の手を取り、ポロポロと目前の現実に涙を流す切歌。自分の傷など御構い無しだ。

 

そして大事な後輩を手にかけたホワイトに翼とクリスは憤怒の情念を松葉杖代わりに立ち上がり、殺気を向け修羅の如き形相で睨む。

 

「いい顔をするな。だが吠えるな。今でさえ弱いのにもっと弱く見えてしまうぞ?」

 

あくまで余裕綽々にして、威風堂々の姿勢。

 

傲岸不遜なる態度。

 

そして、それらを崩せないほど手強い。

 

イグナイトを使えば勝てる可能性はあるものの、ダメージの多い今の状態ではどうなるか分からない。

 

「ひっく…調ぇ……しっかりするデスゥ…」

 

溢れる涙が止まらなかった。

 

それでも切歌は大切な親友の名を呼ぶ。

 

「誰か…調を…センパイたちを…私の大切な人たちを……助けてぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーッッッ!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その思い、確かに受け取った!!」

 

一つの声と共に一筋の蒼き閃光が迸った。

 

 

 







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