Another Trainer (りんごうさぎ)
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0.ぼうけんの じゅんびを しよう

本編をスムーズに読むための導入です



目次

 

 物理技とは?

 特殊技とは?

 能力の略称

 三値とは?

 種族値とは?

 個体値とは?

 努力値とは?

 努力値関連の用語

 能力値計算の式

 Lv050のステータス算出方法

 Lv100のステータス算出方法

 S最速実数値表

 ダメージ計算の式

 指数計算とは?

 指数計算の使い方

 HBDの理想配分(耐久値の最大化)

 HBDの理想配分の活用

 

 

 

◆物理技とは?

攻撃技の種類の1つ。攻撃(よく“A”と略します)と防御(同じくB)に依存してダメージが決定

接触する技は物理技であることが多い(例外:“くさむすび”など)

 

 

◆特殊技とは?

攻撃技の種類の1つ。特攻(C)と特防(D)により決定

接触しない技は特殊技であることが多い(例外:“じしん”など)

 

※技の分類は仕様変更前後で異なります

 ・第三世代(FRLG、RSE)以前まではタイプごとに決定。

 (たとえば炎タイプの技は全て特殊技など)

 

 ・第四世代(DPPt)以降は個々の技ごとに決定。

 (“かえんほうしゃ”は特殊技、“かえんぐるま”は物理技など)

 

本作では現行の後者の仕様に従っています。技ごとに決まっているので分類が不明な場合はその都度然るべき場所で各自調べて下さい

 

 

◆能力の略称

 体力→H

 攻撃→A

 防御→B

 特攻→C

 特防→D

 素早→S

 

 

◆三値とは?

種族値、個体値、努力値の総称。非公式用語。

上の3つ全てはポケモンの能力の実数値(ゲーム内で直接見れるステータス)の導出に関わる隠しパラメーター(ゲーム内で直接的に確認できない数値)であり、HABCDS全てに三値が存在

(例えばAの種族値、Bの個体値というような表現をする)

 

 

◆種族値とは?

ポケモンの種類(カントーなら151種類)により定められた値

これを参照すれば種類ごとの強さの目安になる

下限は1。上限はなし。200を超える場合もある

合計種族値は700を超えるものもいる

「~族」は種族値の数値を指している(Ex.130族、600族)

 

 

◆個体値とは?

ポケモンの個体により定められた値

同じレベル、同じ種類のポケモンを捕まえても能力が異なるのは個体値が異なるため

対戦では能力は高いべきなので個体値も高いものが好ましい(→「個体値厳選」)

個体値は0~31の32通り

最高値31は「V」、30は「U」と言う。0は「逆V」とも言う

6つの能力のうち3つに個体値Vがあれば「3V」、全てVなら「6V」のように表現する

Uなども同様に「5U」、「4V2U」のような言い方をする

 

 

◆努力値とは?

ポケモンを育てることで後天的に変化する値

トレーナーの手で関与できる唯一の部分なので、普通「育成」といえば努力値の獲得のことを指す(個体値厳選などを含める場合もある)

 

努力値の獲得を努力値を「振る」といい、育成のことを「努力値振り」ということがある

努力値はポケモン(野生、トレーナーの手持ち問わず)との戦闘により経験値とは“別に”得られる

“努力値を「2」もらった”というようなメッセージは出ないので注意

メッセージがなくても獲得できる状況であればきちんと獲得できている

 

得られる努力値は戦闘する相手により異なり、基本的に相手の一番高い種族値の努力値がもらえる

(例えばパルシェンならBに「2」もらえる)

 

 

例を見ましょう

例えば「ビクティニ」を倒すとHに「3」努力値がもらえます 

これは蓄積するので10回倒せば「30」もらえます

どのビクティニを倒しても(ビクティニのレベルが異なっても)一回にもらえるのは一律「3」です 

 

但し蓄積する努力値は上限が2つ存在

 

 ・1つの能力には上限252まで

 ・全ての能力には合計510まで

 

これを超える場合努力値はそれ以上増えません

なので、無残にもビクティニを1000回倒してサンドバッグにしても、Hには「252」までしか蓄積しません

このあと別の努力値、例えばバスラオを10000回倒せばSに「252」まで蓄積します

つまり過剰分は「+0」としてカウントされますので合計の制限に響くことはないです

 

 

※努力値獲得の手段は戦闘以外にも様々な道具や方法があります

 本作で名前が出る道具だけ少し紹介

 

・ドーピング

「タウリン」など、使うと基礎ポイント(努力値のこと)が上がるという説明書きの道具の総称(非公式用語)

使えば対応する努力値が10増えますが、既に100以上振っている場合は使用できません

本作は仕様変更して100以上振っていても使えるようにしています

 

・努力値下げのきのみ

「ザロクのみ」など、使うと基礎ポイントが下がるという説明書きの“きのみ”の総称、便宜的な呼び方

使えば対応する努力値が10減りますが、既に100以上振っている場合は世代によっては最初の一回で努力値を100まで減らし、その後10ずつ減る場合もあります

本作は区別なく一律で10ずつ減る仕様にしています

一応使うとなつきやすくなる効果もあります

 

 

◆努力値関連の用語

ポケモンの育成は苦手な部分は手持ちの他のポケモンに任せればいいので、得意な部分を限界まで伸ばすのが基本です

 

例えばゲンガーはCとSが高いので

  C252

  S252

ずつ最初に振り分けて、余りはどこか(Hが多い、偶数を嫌えばBかD)に振ればいい

 

努力値を最大まで振ることを「極振り」といい、これに性格補正を加えれば「特化」とか「最高」のような言い方をします。0振りは無振りとも言います

 

 

特に素早さなら

  

  最速 (252振り個体値Vかつ性格上昇補正)

  準速 (252振り個体値V)

  無振り(0振り個体値V)

  最遅 (0振り個体値0性格下降補正)

 

などの呼び方があります

普通は育成の話では特に言及しなければ6V個体前提です(→「理想個体」)

“めざめるパワー”使用時などはめざパに対応した最高値を前提にします(→「めざパ理想個体」)

 

素早さでは最遅にもメリットが存在します

トリックルームや特性の発動順序(天候の上書き等)などを考慮する場合遅いと優位に立てます。

混乱による自傷ダメージや相手のイカサマのダメージを考慮すると特殊技主体のポケモンならAは低い方が好ましいです。これはどちらも自身の攻撃力を参照するためです。

 

場合によっては育成の際、個体値0も選択肢の1つとなります

 

 

 

◆能力値計算の式

三値を使って実数値を求めます

種族値を種、個体値を個、努力値を努、レベルをL、αを定数としてその式は次の通り

 

 

 (種*2+個+努/4)*L/100+α=(その能力の実数値) ――➀

 

 

※性格補正がある場合は上の式の値を求めた後、最後に1.1か0.9をかけてコンマ以下切り捨てです。簡潔化のため式からは省きます

 

αの値は

 

 ABCDSは α=5

 Hのみ  α=L+10 (Lはレベルの値)

 

つまりレベル1で左の掛け算の頂がゼロに近くても、Hは11,ABCDSは5が最低値となります

(そこからαの値は忘れても逆算できる)

 

 

◆Lv50のステータス算出方法

能力値はLv50時のみ知りたいのでL=50,個体値はV(=31)前提、ABCDSは代表でSを使うとして、そのときα=5、コンマ以下切り捨てに注意して➀の式にこれらを代入して計算します。具体的にはL=50と100を約分して()のなか全て2でわって()外します

 

 L=50

 個=31

 α=5

を代入して、

 

 S=種+31/2+努/8+5

 S=種+20 +努/8+1/2

 

努力値が000なら S=種+20

努力値が252なら S=種+52

 

Hはα=60なので、同様にして

 

 H=種+31/2+努/8+60

 H=種+75 +努/8+1/2

 

努力値が000なら H=種+75

努力値が252なら H=種+107

 

個体値が奇数だと必ず式の中に1/2が残ります。なので努力値の余りの4/8とあわせて「1」実数値が増えるので、奇数個体値には努力値の「4振り」がお得です

 

また、努力値は4の倍数しか有効ではないこともわかります。つまり508のみ有効で、残りの2はどこに振っても影響しません

 

結局、ステータスは種族値に状況に応じた数を足すだけで求まることがわかります

中途半端な努力値でも似たようにして求まります

 

例えば、種族値100に116振りすると、(理想個体前提)

 

 116=8*14+4

 

努力値は8振りごとに実数値「+1」、奇数個体値なので4振りで「+1」、合わせて14+1で「15」上がります

無振りは「20」足すので、合わせて「35」上がるので、実数値は「135」となります

 

 

結論としては、無振りのときの実数値が種族値にいくつプラスになるか覚えていると便利です

 

 

 S → +20

 H → +75

 

 

これならあっさりしていて覚えやすいです

これを使って実際にステータスを求めてみます

上の結果が反映されていることを確かめてください

ガブリアスの能力をHABCDSの順に並べて載せておきます

 

種族値  無振り  ようきAS252D6

108    183    183

130    150    182

095    115    115

080    100    090

085    105    106

102    122    169

 

 

◆Lv100のステータス算出方法

サンムーンだと王冠システム導入でレベル100まで育てることが多いですね。実数値を50換算で知りたい場合や、努力値の振り直しで計算が必要になることがあるので追加で考察します

 

基本的に実数値はレベルに比例するのでレベル50時の2倍になりますが、それでは少しだけ誤差があります

逆にその誤差がいくつかを把握できれば調整して暗算で確認できます

なので新たにレベル100の式を覚えるより、既知レベル50の式を利用する方がスマートです

 

導出の手順はレベル50の時と同様です

V個体前提で確定値を代入してレベル50時の2倍と比較しましょう

()内はレベル50時の2倍の値です

αは5と110(60ではない)になることに注意

 

 S=2種+31+努/4+5

 S=2種+36+努/4

 

努力値000なら 2種+36 (2種+040) ……マイナス4

努力値252なら 2種+99 (2種+104) ……マイナス5

 

 H=2種+031+努/4+110

 H=2種+141+努/4

 

努力値000なら 2種+141 (2種+150) ……マイナス9

努力値252なら 2種+204 (2種+214) ……マイナス10

 

 

レベル100になってもαは倍にならないので、そこでややマイナスになっていますね

 

005と05*2の差でマイナス05

110と60*2の差でマイナス10

 

この2つは導出が簡単ですね

マイナスが4や9になるのは個体値の端数が原因です

努力値に4振りがない場合、レベル50では切り捨てられた0.5がレベル100の式では1になるのでマイナスが縮まります

 

マイナスは必ずSなら4か5、Hなら9か10になります

これさえ覚えていれば使い分けは簡単です

換算する際、必ず2倍してから引き算するので偶奇で判断できます

レベル100で実数値が奇数なら2で割れるように奇数を足して半分、偶数なら偶数を足して半分にすればレベル50に換算できます

 

性格補正を含む場合は補正後の差で考えるのはかなりややこしいので必ず補正前に両方戻して比較します

 

以上より結論をまとめると

 

 

 S → 2倍-05 (or-04)

 H → 2倍-10 (or-09)

 

 

シンプルですね

 

ではこれを使って実際にステータスを求めてみましょう

上の結果が反映されていることを確かめてください

ガブリアスの能力をHABCDSの順にレベル50と並べて載せておきます

 

種族値  Lv50無振り Lv50AS252D6 Lv100無振り Lv100AS振り

 108    183     183     357     357

 130    150     182     296     359

 095    115     115     226     226

 080    100     090     196     176

 085    105     106     206     207

 102    122     169     240     333

 

 

※性格補正後の実数値の比較について

上の表では下降補正のC、上昇補正のS、どちらの補正後を比較しても上記の結論通りで一見補正後の比較もできそうに思えます

しかし性格を「いじっぱり」に変えると共に1.1倍の切り捨てで200と394になりマイナスは「6」です

このように実数値が「1」だけ誤差でずれる場合があります。理由を説明しましょう

 

 

上昇補正から考えます

努力値は252を想定してマイナスは5とします

まず補正前の値をⅩ(ガブならA182やS154に相当)とおくと、正しい手順での実数値は

 

(2Ⅹ-5)*1.1=2.2Ⅹ-5.5

 

先に1.1倍してからだと

 

 2(1.1Ⅹ)-5=2.2Ⅹ-5

 

先に補正すると正しい手順よりも0.5多いです

実際の数値、例としてⅩ=182では394.9と395.4となり395を跨ぎます

要するにⅩの一の位が

 

「0」「1」「2」「5」「6」「7」

 

のいずれかなら正しい手順でくり下がりが「発生して」誤差が出ます

上の表、Ⅹ=154の場合は一の位が「4」なのでこれに当てはまらず誤差がありませんでした

 

 

下降補正も同様に比較します

努力値は0を想定してマイナスは4とすると

 

正しい手順 1.8Ⅹ-3.6

先に補正  1.8Ⅹ-4

 

今度は0.4少ないです 

この時、Ⅹの一の位が

 

「1」「2」「6」「7」

 

のいずれかなら正しい手順でくり下がりが「発生せず」誤差が出ます

上の表、Ⅹ=100の場合は一の位が「0」なのでこれに当てはまらず誤差がありませんでした

 

この結論は4振りするか否かなどでも変化しその都度考慮するのは難しいです

おとなしく補正前を考えるのがベターですね

 

 

◆S最速実数値表

有名どころの特化の値は覚えていると便利

準速は52足すだけなので覚える意味は薄い気がします

それでも100族や96族など、準速がメジャーな場合もあり知っていて損はないですが

メジャーなポケモン、最速がいそうなポケモンなどを中心にします

 

S050→112 ラッキー  メガクチート

S060→123 ギルガルド ジバコイル

S061→124 バンギラス テッカグヤ

S070→134 キノガッサ パルシェン メガラグラージ ニョロトノ (パルガッサライン)

S071→135 メガバンギ

S077→141 ヒードラン

S080→145 マンムー  カイリュー フワライド オニゴーリ バシャーモ (害悪ライン)

S081→146 ギャラドス ミロカロス

S085→150 スイクン  ジャラランガ レヒレ

S086→151 FCロトム

S090→156 ポリゴンZ ゲンシグラードンなど伝説多数

S091→157 霊獣ランドロス

S095→161 グライオン テテフ ウインディ

S096→162 ミミッキュ 

S100→167 メガル、メガリザ、サンダー、ウルガモス、ミュウなどいっぱい

S101→168 霊獣ボルトロス

S102→169 ガブリアス

S110→178 メガグロス (メガ)ラティ二種 ゲンガー

S120→189 メガマンダ アルセウス

S121→190 アーゴヨン

S122→191 ゲッコウガ 

S125→194 ダークライ

S130→200 メガゲンガ コケコ サンダース プテラ

S135→205 メガミミ  メガライボルト

S150→222 メガプテラ メガフーディン

S151→223 フェローチェ

 

性格補正なしの場合、種族値の差はそのまま実数値の差になります

例えば同じ振り方なら必ずギャラドスはマンムーより1多いわけです

準速なら132と133になります

 

性格補正ありの場合、基本的に極振りして特化までいくことが多いですが、特化の値は種族値の一の位が8近辺でない場合には種族値の差がそのまま実数地の差になります

例えばアーゴヨンは121族なので189+1で190、ゲッコウガは122族なのでさらに+1して191になっていますね(上の表を確認)

 

ところが、上の表を見てヒードランとマンムーを比較すると種族値の差は3ですが実数地は4違います

S78をまたいで準速時の十の位の数字が変わるので性格補正の増分が異なるためです

変わり目さえ理解していれば120族などキリの良い値だけ覚え、それに近い値は121族の例のように自分で調整して暗算できますね

 

 

◆ダメージ計算の式

物理技で考えます。特殊技はAをCに、BをDにすれば同様です

当たり前ですが、Aは技を使う側の攻撃力、Bは技を受ける側の防御力を参照します

 

※途中出てくる式は計算、表記しやすいように一般に知られる式から若干同値変形している部分があります。ご了承ください

 

技の威力をW,レベルに依存する比例定数をK,「乱数」をRと各々おくと、次の式で与えるダメージが決定します(*は掛け算、/は割り算のつもりで書いてます)

 

 

 (W*A*K/B+2)*(相性その他の倍率)*R=(与ダメージ実数値) ――➁

 

 

・R、つまり「乱数」について

Rは0.85~1.00の間の数(0.01刻み、16通り)

この数字は全く同じ状況で同じ技を使ってもダメージにバラつき、つまり幅を持たせる役割があります

どの値になるかは毎回完全にランダムで、16通りの乱数は全て出る確率が一緒です

これは戦闘に関する乱数で、その他にも乱数というのはゲームの成立のためあらゆる場面で用いられています

「乱数調整」という言葉をポケモンで聞いたことがあるかもしれませんが、あの乱数はまた別物です

 

・Kについて

Kは、“攻撃する側のレベル”によって変動する変数です。呼び方は比例定数でも係数でもなんでもいいです。便宜的に筆者がそう呼んでいるだけで、今後もそういう呼び方を本作ではします

変数と言いつつ定数と表現したのは、全てのポケモンが同じレベルになる対戦環境では定数になるからです

Kを求める式は、依存するレベルをLとおけば

 

 K=(L*0.4+2)/50

 K=(L*0.8+4)/100

 

レベルを0.8倍して4足した後コンマを2つずらせば求まります

特に、L=50→K=0.44

 

※Kはほぼレベルに比例していますね。これがあるおかげで攻撃側と防御側共にレベルに比例する数値が2つずつ(AとK、HとB)になるのでレベルが変わっても極端に確定数が変わることはないわけですね

もしKが式の中にないとレベルが上がる程倒すのに要する攻撃回数は増加していきます

 

➁の式に戻ります。手計算でダメージを求める場合は、2/H<<1と近似すれば➁の式の「+2」の頂を無視できます

「+2」の頂は計算ではウザイだけですが、小数点切り捨てで最小ダメージを1以上にする役割があります

 

以上を踏まえると、乱数と倍率は最後に考えればいいので、結局➁の式は

 

 

 W*A*K/B=(与ダメージ実数値) 

 

 

と簡単に表せます。

もし「効果抜群」ならダメージを2倍、「こだわりハチマキ」を持っているならこれを1.5倍、乱数が最低なら0.85倍、というように考えます

当たり前ですが、“掛け算”ですから掛ける順序は計算結果に影響しませんのでご安心ください

 

Lv50フラットの対戦(ポケモンのレベルの上限をLv50にして、それ以上のレベルのポケモンはLv50に換算して行う対戦)なら次のようになります

 

 

 W*A*0.44/B=(与ダメージ実数値) ――➂

 

 

だいぶスッキリしました。基本的にダメージ計算式を用いて手計算で計算する場合は、この➂式を用いることになるので、この結果だけ覚えておけば十分です

 

 

さらにこの➂式を考察します

ダメージ計算は加減でなく乗除で行われるのがミソです。

比例計算なのでいろいろ工夫できます。

 

たとえば

 

 (与ダメージ実数値)=H*(ダメージ割合)

 

を用いて➂式を変形すれば

 

 W*A*0.44/(H*B)= (ダメージ割合)

 

つまり、

 

 W*A

 H*B

 

の比が肝要になることがわかると思います

「ダメージ割合」というのは、たとえばHPの半分なら0.5(50%)、1割なら0.1(10%)となります

 

これが次の話につながります

 

 

◆指数計算とは?

ダメージ計算の方法のひとつ。

W*A,H*B、このふたつの積の比でダメージ割合を考える方法

本質的にやっていることは上で紹介したダメージ計算の式と同じ

 

 

まず、比較する指標ふたつを

 

 火力指数 (W*Aの方)

 耐久指数 (H*Bの方)

 

と呼びます。非公式用語なので多少呼び方のバラつきはあるかも

 

もちろん、係数のKはどっちにくっつけて比較しても良いわけですが……

筆者は火力指数に“掛け算”してくっつけることを推奨します

たまに指数計算のとき0.44という係数を“割り算”して使う人もいますがおすすめできません

理由は途中経過の数字が大きくなるからです。計算がしんどくなるだけ。何の得もありません

 

※筆者の計算のモットーは「途中経過は小さく簡単に」です。これは今後の計算全てで意識しています 

 

抜群その他の補正は当然指数に考慮します。

タイプ一致なら火力指数1.5倍。“しんかのきせき”持ちなら耐久指数に1.5倍など

係数は今述べたように(レベル50なら)0.44を火力の方に掛け算します

 

 

 

◆指数計算の使い方

指数の見方を少し触れておきましょう

まず指数を各々次のように略します

 

 火力指数→火

 耐久指数→耐

 

単純に「火≧耐」なら受ける側がひんしになります。(ダメージが最大HPを超える)

ただし、乱数で最後に0.85~1.00かけるのを踏まえれば、実際にはこれより火力はしょっぱくなりますね

なので、「火=耐」なら乱数は1.00のときのみ倒れます

つまり低確率でしか倒せません

これを「低乱数1」(で倒せる)といいます

特にこの場合は乱数が「1.00」の1つのみ対応なので超低確率のため、「超低乱数1」あるいは「超低乱1」みたいな言い回しをします

逆に技を受ける方からはすれば高確率で耐えるので「超高乱耐え」といいます

 

これがもし、0.85*火=耐であれば、どの乱数を引いて火にかけても耐を上回ります

つまり必ず倒せますね。これを「確定1発」といいます

同様にこれらの表現は「高乱数2」、「確定3発」、のように使います

 

 

 

では指数計算の結果を使って何回で倒せるか考えてみます

たとえば、乱数抜きで火が耐の丁度15%だったら、乱数を考えて与えるダメージは

 

 12.75~15% 

 

なので乱数7発(7回か8回で倒せる。6回では絶対無理)とわかります

このようにダメージ割合から倒すのに要する回数を特定できます。

 

※上の確定数の計算は「きゅうしょ」「技の命中率」を考慮していません

極端な話、命中が100でない技は何回使っても全て外れることもあるので確定~発とは言えないですよね。それらは確率計算をかなり複雑にするので専用のツールで計算しないと求めるのは厳しいです。一応ご注意を。

 

 

 

実際の例でもいくつか試しましょう

 

・化身ボルトvs珠ルカリオ

“でんじは”「けしんボルトロス」を上から叩き潰したいので勇者「ルカリオ」を召喚します

「けしん」は「けしんフォルム」を指しています

 

まず耐久から。H4振りのみとして、

 

 H79 → 155

 B70 → 90

 

指数は13950

 

ルカリオは珠剣舞しんそく型のいじはAS(いじっぱりAS252振り)として、

 

 A110   → 178

 しんそく → 80

 

「いのちのたま」は1.3倍

“つるぎのまい”を積んでいるとすると2倍

K=0.44として、全てかけると、16290.56

もし最低乱数を引くと、0.85倍なので、13846.976

 

 13846.976 < 13950 < 16290.56

 

13950と比較するとだいたい倒せそうですが乱数次第で耐えることがわかります

つまり高乱数1発。いわゆる「乱1」。気分悪いですね

 

「珠ハッサム」もそうですが(筆者がよく使っていた)、ルカリオは指数でみると少しだけ火力が足りないことが多いです

なので“ステルスロック”を先にまくと全抜き(一匹で相手三匹を全て倒すこと、フルバトルなら六匹)をしやすいです。相手より素早く一撃で倒していけるようになるからです。

 

先に“ステルスロック”を使うことを前提にして考え直してみましょう

 

ボルトロスはいわ弱点なのでHPの1/4減るので、耐久指数も約1/4減ります

このダメージを受ければ当然、計算するまでもなく耐久指数が最低乱数時の火力指数を下回ります

 

また、“しんそく”は特性「いたずらごころ」込みの“でんじは”の上から先に技を出せます(優先度2と優先度1)

 

つまりまとめると、“しんそく”は“でんじは”より先に発動し、かつ、ステロ込みで確定1発、いわゆる「確1」ですので、無抵抗のままボルトロスは倒れます

相手より速く一撃で倒せていますね

 

悪は滅びました

 

 

・化身ボルトvsメガルカリオ

珠は化石なので、「ルカリオナイト」を持たせて「メガルカリオ」にします

圧倒的にこっちの方が強いです

S112族(ボルトロス+1!)なのでようき一択

AS252振りで計算すると

 

 A145 → 197

 

交代際に積むなり起点を他で作るなりして剣舞(つるぎのまい)したとしましょう

 

 攻撃力2倍

 

技は“でんじは”がウザイので“しんそく”一択。そのためのルカリオです

 

 しんそく → 80

 

以上の数値を用いて、同様に計算すると13868.8

乱数込みで11788.48

ステロダメは38(最大HPの1/4切り捨て)

これを引いたらボルトの耐久指数は10530(<11788.48)

確定1発!

 

やはり悪は滅びました

 

“れいじゅうフォルム”も化身と耐久面の種族値は同じなので耐久に努力値を振ってなければ倒せます。実際はこっちの方が多いですね(PGL調べ)

 

この計算でなぜメガルカリオにカバルドンなどがよく一緒にいるかわかると思います

ステロ撒きとつるぎのまいを使うための起点づくり(“あくび”が使える)の両方ができるからですね

手持ちのメンバー編成の時点から指数計算は大事ですね

 

 

ちなみにメガルカリオは、

 

・特性「てきおうりょく」で威力80の先制技3種類

・S勝っていれば威力240のインファ

・剣舞を覚える

・両刀もできる、技範囲広い(ハッサムは無理)

 

これは珠ハムの再来ですね(メガルカリオを使ったことはない)

 

 

 

◆HBDの理想配分(耐久値の最大化)

よく勘違いされる内容で、先に結論だけいうと、

 

  H:B:D=2:1:1

 

に近いほど耐久値は高くなります

 

BとDは和がHと同じなら1:1でなくてもよいというのはよくある「誤り」です

実戦で気にするレベルはないですが一応1:1の方が効率がいいのは確かです

ランクルスぐらいしかできた記憶はないですしそれも耐久型ならHB特化とかの方が動かしやすいですのでこれに従うことは皆無ですが……

 

 

 

以下、指数計算を使って検証します

 

耐久値(耐久指数の和を以後こう名付けます)は

 

 H*B+H*D=H*(B+D) ――➃

 

で表されます

また、HBD3つの能力値の合計が同じ場合に、➃の値が最大となる能力値配分を考えたいので(この表現で伝わりますよね?)、当然前提として 

 

 H+B+D=K(=一定) ――➄

 

とおけます

つまりKは定数です

 

条件は以上なので➃と➄を使えば最大化の条件が求まるはずですね

B+D(=K-H)を代入できるのでHの二次関数に持ち込めて、そこから頂点を求めることもできますが、どうせB+DをまとめるならB+D=G(Guardのイニシャル)とおけば、

 

 ➃⇔H*G  (⇔は同値、つまり本質的に同じ式という意味のつもりです)

 ➄⇔H+G=K

 

となり、見事に相加相乗が使えるので

 

 H+G≧2√HG

 

等号はH=Gのときで、このときH*Gは最大になります

つまりGを戻せば

 

 

  H=B+D(=1/2K) ――➅

 

 

が最大化の条件となります

 

 

※相加相乗平均の関係

 足し算の平均は必ず掛け算の平均(積の累乗根)以上になるという関係

 左辺に寄せて因数分解すれば証明できる

 

 

※数学が嫌なら算数っぽく長方形の面積を考えるとわかりやすいかも

 

 周囲の長さの和を同じに保ったまま面積を広くすることを考えます

 周囲の長さの和が2K(これも定数なのでKと本質的に同じ)、縦が「H」、横が「B+D」

 面積は縦かける横で「H*(B+D)」となりうまく対応します

 

 細長い長方形より正方形の方が面積は広くなりそうなのは直感的にイメージできますね

 つまり縦と横の長さ(「H」と「B+D」)が等しいか、それに近いほど面積は広いです

 (図形は基本円に近いほど広くなる)

 

 

 

よくある間違いはここで考察がおわっています

 

実はひとつ見落としがあります

今までは耐久指数の和の最大を考えました

ですが、耐久指数は最後火力指数に“割る数”なので、「ダメージの最小化」を考えるなら、耐久指数は逆数を考えないといけないです

 

つまり

 

 1/(H*B)+1/(H*D)=B+D/(H*B*D)

 

の最小を考えないといけないです

➅をふまえればH,B+Dは定数なので無視できて、変数だけ考えると結局

 

 1/B*D

 

の最小を考えればいい

いいかえればB*Dが最大になればよく、B+Dが定数ですからまた相加相乗が使えます

同様にして、

 

  B=D ――➆

 

という条件が得られます

 

なので➅と➆を合わせて冒頭の結論が得られます

 

 

努力値いくつ振るとかは実数値から逆算すればいいので問題ないですね

努力値を計算に絡めるとアホみたいに面倒な式になるので上記のやり方が一番楽な証明でしょう

 

 

 

※B=Dはややこしく考えなくても例を考えればすぐわかります

 

 HBDの合計が400として、火力指数10000が飛んできたとします

 理想配分は「200,100,100」で、物理特殊に一回ずつ攻撃を受けるとダメージは

  

  100+100=200  

 

 次に、BDを1:1から離すため、「200,1,199(約200)」とすると、ダメージは

  

  10000+50=10050

 

 どう見ても増えてますね(50倍)

 この結果を見れば

  

  「H=B+DならBDの配分は何でもいい」

 

 なんて口が裂けても言えないはず

 

 

 

以上から、耐久はラッキーみたいにBとDが偏っても効率悪く、ツボツボのようにHだけ低いのはそれよりもさらに効率悪いとわかります

(ラッキーのついては偏ってるからこそ特殊受けになれるとも言えますが)

 

 

➅と➆の重要度を比較すると➅、つまり、H=B+Dの方が圧倒的に重要です

試しにツボツボは種族値H20、BD共に230なのでHB振りずぶといだと

 127-310-251

が最大で耐久値は71247

 

効率よくすると

 344-172-172

で耐久値は118336まで上がります

(BD振りのずぶといきせきラッキーが106762.5)

 

 

 

◆HBDの理想配分の活用

散々式を弄繰り回して説明しましたが一番大事なのは考え方です、結果ではない

上記の結論をどう生かすか例で見ましょう

 

Ex.1 ロトム

H50 B107 D107

典型的なHが際立って低いパターン

➅に従いH252振りだけで耐久は著しく上がります

 

Ex.2 ソーナンス

H190 B58 D58

典型的なHが際立って高いパターン

➅に従いBDに252振りすると耐久は著しく上がります

 

Ex.3 カビゴン

H160 B65 D110

典型的なBDに偏りがあるパターン

➆に従いB振りから入ると効率良く総合の耐久力をあげられます

 

Ex.4 バンギラス すなおこし(D1.5倍)

H100 B110 D100

能力に補正が入るパターン

耐久値の計算がややこしくなります

➅に従いまずH振りから入りたいところ

BDはBの方が低くなりますが、➆を考えてBに振るよりDに振って能力値の合計を増やす方が耐久値は高くなります(特殊受けにもなれる)

 

ちなみにH振りだけとD振りだけ(性格補正なし)を比べるとギリギリH振りだけの方が合計は高いです(64170>62650)

➅は有効ですね

 

要するに効率を考えるより能力の和そのものを増やす方が効果的なこともあるということです

 

 

 

 

(参考)

 

理想配分にすることでアップする指数は「差の二乗」で求まります

 

「200,100,100」と「300,70,30」なら指数の差は

 

  200*200-300*100

 

合計が同じなので、H同士の差とB+Dの差は必ず同じですから、次のように変形できます

 

  200*200-(200+100)*(200-100)

 

後ろの掛け算は和と差の積なので二乗の差になり、先に展開すると

 

  200^2-100^2 (「^2」は二乗のつもりです)

 

200の二乗は相殺するので、結局100の二乗、つまり差の二乗が指数の増加分になります

 

 

※この結果は➅に従うことによる増分のみを考えています

 ➆に従うことで減るダメージはかなり少ないです

 努力値だけでどうこうできないことの方が多いですし、あまり考える意味はないです

 

 

これを見て筆者の印象は「案外少ないな」という感じです

100も差があって25%しか違わないので、20や30の差ならほぼ誤差です(1%と2.25%)

 

Hの「16n-1」調整などもそうですが、効率化による増分は思ってるより少ないです

例えば162→159とすると元取るには3回定数ダメージを受けないといけないなど

 

あまり数字にとらわれ過ぎると、かえって結果は悪くなります(経験談)

“みがわり”の回数とかに直接関わる場合の奇数調整など、かなり大事な場合もありますが、そうでなければ「できたらしよう」ぐらいにしておきましょう

 




大事な式まとめ

◆レベル50のステータス導出
無振りで
 S → +20  (ABCDも同様)
 H → +75

極振りなら、さらに「+32」

◆ダメージ計算の式
 
 W*A*0.44/B=(与ダメージ実数値)

相性その他の補正と乱数は最後にかければいい(かける順序は不同)

◆指数計算

 (W*A)/(H*B)=(ダメージ割合)

指数が同じならHPは丁度なくなる
0.44の係数は火力、相性その他の補正と乱数は然るべき方に掛けて二つの指数を比較する

◆HBDの理想配分

 H:B:D=2:1:1

これに近いほど効率がいい
H=B+Dから離れると「差の二乗」分合計指数が減る
(差とは理想配分のH実数値と実際のH実数値の差を指す)



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タマムシ脱出編
1.夢によばれて






 ――おいで――

 

 誰? 誰かに呼ばれている気がする。お前はいったい……?

 

 ――おもしろいトレーナー、みぃつけた――

 

 ぼんやりと見えるその人影はワンピースを着た青い髪の少女の後ろ姿。クスクスとこっちを振り返りながら笑っている。手招きするその輪郭はぼやけて見覚えのある別の姿にも見えるような……。

 

 ――おいで、私のハウスに――

 

 段々とその誰かの姿が遠のいていき、手を伸ばして後を追うが思うように体が動かない

 

 ――落ちて――

 

 え?

 

 混乱するうちに突然浮遊感に襲われ、強い衝撃と共に光が差し込んで目を覚ました

 

 ◆

 

 バタン!!

 

「いってぇ……ここはどこだ?」

 

 目が覚めると俺は知らない路地裏で倒れていた。どうしてこんなところにいる? 突然の異常事態に戸惑うが混乱していても仕方ない。まずは自分の現状を確認してみた。

 

 浮浪児のようなボロい恰好。全く知らない場所に手ぶらで寝っ転がっていて、しかもこころなしか背が縮んでいるような…………?

 

 そんな話も漫画ではあった気がするが現実とは考えにくい。夢でも見ているのか? そう思い立ち上がろうとすると体の節々から鈍い痛みが走った。

 

 この感覚……夢とは思えない。夢でも感覚がある場合もなくはないって聞くがリアル過ぎるし……ならどうしてこんな状況になった? そもそもここはどこだ?

 

 いや、考えても仕方ない。情報が無さ過ぎて推測しかできない。まずは誰か人から話を聞いて考えよう。前向きにそう思った時にはすでにさっき見た夢のことは頭から離れてしまい、深く考えることはなかった。

 

 歩き回ることしばらく、ようやく大通りが見えた。しかし無理に体を動かしたせいか体中の痛みがひどくなってきた。早く休みたい気持ちから俺は最後の力を振り絞り小走りで通りに出た。

 

 人がいた! ずいぶん久々に人と会った気分だ。とりあえず近くにいた人に声をかけた。

 

「すいません、尋ねたいことが……」

 

 ……あるのですが、と言い終わる前に怒声が上がった。

 

「貴様! 裏路地のクソガキがなにしにきよった!」

「またか?! 今度という今度は許さん! 徹底的に痛めつけて二度と悪さできないようにとっちめてやる」

 

 1人だけじゃない。突如周りにいた人達全員が呼応してドス黒い負の感情を抱えながら俺に近づいてきた。

 

 迫ってくる人だかりのうちの1人とたまたま目が合った。この目……まるで自分の心に直接作用してくるようだ。怒りや憎しみがなんの障害もなくまっすぐ自分の芯にまで流れ込んでくる。

 

 ……怖い。感じたのは純粋な恐怖。全く見ず知らずの者から向けられるまじりっけなしの憎しみに思わず体が竦んでしまった。相手は怯えた俺の隙を見逃さずに襲いかかってきた。

 

 まさかいきなり殴られるとは思わずとっさのことで反応できない。そのうえ体はすでにボロボロときている。モロに拳をもらってしまった。多勢に無勢で抵抗できず、終わらない痛みにのたうち回りうめき声をあげることしかできずいつの間にか意識を失っていた。

 

 めのまえが まっくらに なった……

 

 ◆

 

「痛っ! ここは……?」

 

 早くも今日2回目のお目覚め。辺りを見るにどうやら町の郊外に放り出されたらしい。憎らしいほどの大自然だ。もう日は沈みかけている。満身創痍の子供1人をこんなところに置いてきぼりとは容赦ない。

 

 くそっ、あいつらめ……! さっきのことを思い出して怒りが込み上げてきた。受けた仇は必ず返す。だが脳裏に蘇るのはあの目……思い出すだけでも身震いする。俺はこんなに臆病で弱かったのか? 信じられない……でも今は否定することもできそうにない。

 

「いや、弱気になってどうするっ! 一度でもあんな屈辱を受けたことは絶対に許さねぇ! どうしてあんなことをしたのかは知らない。だが俺にはそんなこと関係ねぇ! この借りはいつか10倍にして返してやる!!」

 

 覚えてろっ! 

 

 そう虚空に叫んで怒りを爆発させながら復讐を己に誓った。

 

 ガサガサ……

 

 近くの草むらから物音がした。思わず大声を上げたせいで野良犬でも寄ってきたか? 音のした方向の様子を見ていると予想の遥か外の生き物が出てきた。

 

「ポッポ」

「ポケモンッ!?!?」

 

 さらに驚く間もなくポッポの先制攻撃が飛び出し“たいあたり”をモロにくらってしまった。ここはゲームじゃないから戦闘開始の合図なんてあるわけないということか!

 

 だが地面に倒れるまでの刹那の間、宙にふっとばされながら周りの景色がスローモーションで流れるような感覚を味わった。それと共にこの瞬間全てを悟った。

 

 ここはポケモンの世界で、俺は何の因果かここに迷い込んでしまった。そう、あの夢の誰かに呼ばれて……。

 

 そしてここは夢なんかじゃない。それはこの痛みが、怒りが、俺の本能がはっきりと教えてくれる。

 

 だとすると今のこの状況……かなりマズイ。俺の体はすでに危険な状態にある。今ここで負ければこの世界での人生は終わってしまうだろう。敗北は死、負けは許されない。ならば何としてでも勝つ! たとえ手持ちも道具もなく、この身1つだけであっても勝ってみせる!

 

 体の奥底から生への強い渇望と復讐を望む堅い意志が沸々と湧きあがり、痛む自分の体を強引に突き動かした。

 

「この程度の攻撃……!」

 

 思考は一瞬。意識が現実に舞い戻る。今俺の体は宙にあって身動きはできない。なら逆らわず流れに身を任せる。

 

 改めて絶対に負けない決意を胸に固め、受け身を取りながら起き上がって後ろへステップ。いったん敵と距離を取った。幸いにもポケモン勝負は得意分野。もちろん面と向かって自分が戦ったことはないが必要なことは全て知っている。

 

 ずっとこのゲームをやりこんでいた俺には自然と脳内で懐かしい音楽が思い返された。最初に草むらでポケモンに出会ったあの時のメロディだ! 人生最大のピンチでありながらどこか楽しむ余裕すらあった。

 

「フルッフー」

 

 戦闘体勢をとった俺を見てポッポも警戒を強めた。むやみには突っ込んで来ないか。さっき受けた技のダメージ的に大したレベルではないはず。だが野生なだけあって獲物に容赦はないらしい。本気でこっちを倒す気なのが伝わってくる。そこまで甘い相手ではないようだ。

 

「何か突破口はないか?」

 

 なんでもいい……なんでもいいからとにかく戦略の起点になる取っ掛かりが欲しい。じっと目を凝らしてポッポを観察していると、フッと頭に見たことのない映像が浮かんできた。

 

 ポッポ♂ Lv15 おだやか

 実数値 38-17-17-17-18-23

 個体値 10-04-02-12-15-14

 努力値 00-00-00-00-00-00

 

 これは……このポッポのデータか? 何かが自分の中に流れ込んで来るような初めての感覚と共になぜか急に頭に浮かんできた。視界に映っているが視界を妨げてはいない。よくわからんな。なんだこれ……さすがに精神異常による幻覚とかではないと思いたいがこんなの普通じゃない。もう何がどうなっているんだっ!

 

「ポッポッ!」

「これはかぜおこし……! よけるっ、よけるしかない!」

 

 悩んでいても相手は待ってくれない。遠距離攻撃にはこっちが素手である以上突っ込んでも意味がない。ここは逃げの一手。だがいつまでも遠距離から狙われ続けたらヤバい。一度相手の使える技を確認したいな。

 

 ……技は見えないのか! そう念じると技も同じく浮かび上がってきた。

 

 

 たいあたり でんこうせっか かぜおこし すなかけ エアカッター ……

 

 これは便利だ。今は緊急事態、この際訳も理由も後回しでいい。使えるものは有難く使わせてもらう! ポッポがこの程度の技だけならなんとかなりそうだ。

 

 技を躱した後、“かぜおこし”を連打されるのを防ぐため一気に近づいて接近戦に持ち込んだ。相手も“たいあたり”で迎え撃って来たのでぶつかる直前を見極めて回避し、後ろを取ったところに回転で勢いをつけた蹴りをお見舞いした。

 

「ポッ!?」

 

 10削った。HPは全部で38……ダメージは約4分の1ってところか。その後苦し紛れに撃ってきた“すなかけ”を腕で目を守ってやり過ごし、再びの“たいあたり”には同じように対応して蹴り飛ばした。さすがに人間よりは知能が低いらしい。弱い技ばかり使うのは不幸中の幸いだな。

 

 コツを掴んだのでその後も1番弱い技の“たいあたり”に狙いを絞ってカウンターを繰り返した。但し相手も躱す、避けるは当然のように行ってくるのでさっきみたいに何度もクリーンヒットさせるのは難しい。

 

 そんな中でもジリジリと削っていき、時間をかけて残りHP5まで追い詰めた。そこで急に今までと違う動きをして突っ込んできた。まだ見ていない攻撃は限られている。

 

「速い!」

 

 これは“でんこうせっか”……! 技を確認した時から想定していたのでとっさのガードが間に合ったが、もし完全に不意を突かれていたらヤバかったであろう攻撃だ。

 

「こん畜生めっ!」

 

 “でんこうせっか”を使用した後なぜか動かないポッポに拳で連続で殴りかかり、なんとか体力を0にした。ポケモンの技でいえば“れんぞくパンチ”ってところか。スーッと体が軽くなる感覚と共に、自分も力を使い果たして倒れた。

 

「ッッシャアア! 俺の勝ちじゃーっっ!!」

 

 勝利の雄叫び。しかしまだ意識を手放すわけにはいかない。幸いと言っていいかわからないがアドレナリンが切れたのか体中に痛みが戻り、そのおかげでまだ意識はしっかりとしている。食料と安全な寝床を確保しないとここで気絶するのは絶対にダメだ。また襲われないとも限らないわけだし。

 

 無い力を振り絞りきのみのなる木を探し当て、ようやく食事にありつけた。きのみはさっきの力の適用外らしくポケモンのようには探せずに少々時間がかかってしまった。もうとっくに日は沈んでいる。

 

 木に登り手頃なきのみを1つもぎ取ってそのままかじりついた。

 

「これは“オレンのみ”か。体力を消耗しているから丁度いいな。……んっ!? ポケモンの食べるものかと思いきやおいしい……! しかも目に見えて体が癒えてくる!?」

 

 トンデモきのみだ。痛みが引いていく。まるでゲームそのままの効果。そういえばポッポの能力は数値化して“視る”ことができた。ならここはゲームに近い世界なのだろうか。だが戦闘中にポケモンがこちらの様子を見るような仕草をするリアルな部分もあった。

 

 だとするとベースはゲーム寄りだがそれを元にリアルっぽくした感じ……ということなのか? これはおいおい確かめていくしかないし、あの不可思議な相手の能力がわかる力もどういうものか検証しないとな。

 

 とりあえず元の世界とは全く別のところに来てしまったのは間違いない。未だにわけがわからない状態だが今はとにかく休んで明日に備えよう。疲れが限界を迎え、思考もそこそこに眠りについた。

 

 ◆

 

 夜間は木の上で眠ったので襲われることも特になく無事に朝を迎えられた。寝心地の悪さであまり眠れなかった以外は問題ない。空が明け始めていて、木のてっぺんから周りを見渡せば近くに昨日いたのだろう町が見えた。そして改めて今後どうするかを考えた。

 

 もう二度とあの町には近づきたくないほどひどい目にあったが、今の俺はこの世界について一切の情報を持ち合わせていない。こんな町の外うろついていたらどんな目に合うかわからない。

 

 冷静に考えると今の俺は知らない土地に着の身着のままで放り出されたような状態だ。しかもポケモンとかいう人を襲う凶暴な生き物までいるのだからさらに状況は悪いと言える。……そもそもよく考えたら初の戦闘が自分の肉体でのタイマン勝負とか、ちょっとこのゲーム壊れてないか……?

 

 バグか……これはバグなのか! あの時は勝つのに必死で何も思わなかったが、まさかこれからずっとこんな『せんとう、俺!』なバトルが続くのか……。思わずため息が出てしまう。リアル過ぎて夢もファンタジーも感じられない。

 

 ともあれ今はあの町に戻るしかないのだろう。何の手立てもなしに別の町を探して草むらに入れば下手すると死ぬリスクを伴う。地図もないから別の町に辿り着くことすら困難だろうし。

 

 チッ! 背に腹は代えられない。もうこの際手段なんぞ選ばない。こんな世界にいきなり放り出されてなりふり構う余裕なんてない。生きるためなら何でもしてやる。

 

 そうと決まれば行動あるのみ。こっそりとまだ朝早い今のうちに町へ忍び込み、最初にいたあの路地裏で適当な奴から情報を絞るとしよう。まともに話の通じる人間はあの町にいないだろうし無理やり聞き出すしかない。先に喧嘩売られた以上仕方ないだろう。そうなると目立ちにくい早朝に目が覚めたのはラッキーだったか。

 

 今はまだこの場所に甘んじて留まっておいてやる。だが今に見てろ……俺はさっさとこんな場所おさらばして自由になってやる。この程度の理不尽に屈しはしない。五連麻痺の屈辱を、三連流星外しの絶望を思い出せ……。それに比べればこの程度何でもないはずだ。目にもの見せたるからなぁ。

 

 元々こんな性格じゃなかったはずだが、気がついたら頭の中は真っ黒な思考に染まっていた。

 




せんぶんのいちはダメだと思います
ボルトロスを許すな(本編に関係ない)





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2.聞き込み 潜入 大儲け

 きのみをいくつかストックしてから路地裏に戻ってきた。誰かいないか探してみるが全然人がおらず時間だけが徒に過ぎていく。さすがに表通りにいくのは暴挙だしここで見つからないと厳しい。

 

 ずっと歩き回っているうちにいつの間にか太陽が真上まできていた。

 

「チッ。誰か1人ぐらいうろついていても良さそうなもんだがな。いや、人が寄り付かないからこそ今までここに居れたのか。ん? そういやこの体はこの世界では突然降って湧いたものなのか? 思い返せば町の奴らは俺を知っていたようだった。ならこの体は元々こっちにあってそこに俺が……」

 

 なんか今、かなり触れてはいけないことに気づいてしまった気がする。実際はどうなのかわからないし、ひとまず考えるのは保留だな。考え込んでうつむいていた顔を上げてみれば、いつの間にいたのか3人の子供が眼前に立っていた。

 

「あっ、てめぇ! 昨日絞ってやったドロボー野郎じゃねぇか。へっへ、意外と元気そうだな。俺の前にノコノコそっちから出てくるとは、まだ殴られ足りねぇようだなぁ?」

 

 なんだこいつ? これまたみょうちくりんな3人組だな。

 

 酔っ払いみたいに顔が赤いクリムガン野郎にチビとノッポ。今の俺と同じ中坊ぐらいの子供だが、因縁つけているというよりは本当に知っているらしい雰囲気だな。何モンだ?

 

 こいつらが誰であるにせよ話を聞けそうな奴に会えたのはラッキーだ。取り巻き含め相手は3人。ちと数は多いが他に当てがない以上こいつらから聞き出すか。当然力ずくでな。もう昨日の傷は完全ではないにせよ癒えている。この話しかけてきたボス面している顔面クリムガンをまず潰せば残りはなんとでもなるか。

 

「おい、てめぇ何シカトこいてんだよ。まさかビビっちまって動けねぇのか? まっ、無理もねぇか。昨日あれだけいたぶったからな」

 

 ピクッと体が反応した俺を見て図星と思ったのかクリムガンは気を良くしてさらに笑い出した。だが俺の心中は怒りでそれどころじゃなかった。よく観察すればこいつからは俺を見下した感情がはっきり伝わってくる。俺を殴るためのサンドバッグ程度にしか考えていないんだ……。

 

 今ここで屈したら俺は終わってしまう。これまでこんなバカみたいな奴に踏みつけられ、虐げられていたのか。そんなこと絶対に認めない、認められるはずがない! ここで……今ここで、その因縁を断つ!

 

「……てめぇか……」

「あ? 今なんか言ったか?」

「俺に傷をつけやがったのはてめぇかぁぁーーっ!!!」

 

 一気に踏み込んで距離を詰め、勢いそのままに顔面に拳を叩き込んだ。挨拶代わりの“マッハパンチ”ってところか。仰け反った相手の腹にそのまま蹴りを入れ、さらに屈んだところに上からエルボー、下から顎への膝蹴りでノックアウト。間髪入れずに呆けている取り巻き2人を両手で引っ張り、力任せに思い切り衝突させた後顔面クリムガンの上に叩きつけた。

 

 片が付いて3人とも俺の豹変ぶりにすっかり怯え、クリムガンにいたっては痛みで半べそだ。きゅうしょを突かれて意識があるだけ丈夫な方か。手加減なしでやったからかなり効いたはず。これならある程度おとなしくなるだろう。クリムガンの首根っこをつかみ、乱暴に壁に押し付けて低い声で言った。

 

「クソガキ、これ以上痛い目見たくなければ俺の質問に答えろ。聞かれたこと以外は言うな、いいな?」

「お、お前何なんだ、急に雰囲気変わって、ドロボー野郎のくせに、ガァァッッ!?」

 

 余計なことを言おうとしたので容赦なく指を曲げた。折りはしないが。

 

「……無駄口は慎め。俺は何度も同じことを言う気はない。次は……へし折るぞ?」

「いっ!?」

「まずお前らはなんだ、なぜ俺をサンドバッグ代わりにしていた? もちろん正直に言えよ? ウソはわかるからな」

 

 間をおいて、少し落ち着くのを待ってからさりげなく脈を見れるように手を首筋に添えた。

 

「何言ってやがる。それは、お前なら何しても町の奴がみんな何も言わねえからこうやって……。なのに急になんか変わって、イダッ」

「ずっとか? しかも町ぐるみで公認? どれだけ腐ってやがるんだ……チッ、ふざけたマネを!」

 

 バンッ、と壁を拳で殴りつけると3人は小さく悲鳴を上げた。その声でイライラ続きのまま感情的になっていたと思い直し一旦落ち着くことにした。よく考えたらこいつらのことなんかより先に聞くべきことはいくらでもある。だが騒ぎを誰かが聞きつけたのか表通りの方が騒がしくなってきた。場所を移すべきか。

 

「おい、場所を移す。どこか人目につかない場所へ案内しろ」

「え、そんな場所なんかありま…」

「案内しろ……!」

「は、ハイィィーッ!」

 

 ◆

 

 案内された場所は路地裏の奥、周りの森との境界上の秘密基地だった。こんなところにスペースがあったのか。そういえばゲームでは謎の空間があったような気もする。

 

「なんだ、案外いい場所があるじゃねぇか。しばらくはここを使わせてもらおうか」

 

 フーッと一息ついて、まずこいつらからどうやって話を聞くか考えた。何もわからない俺には必要な情報が多過ぎる。なら自発的に協力させた方が早いか。

 

「お、おい。聞きたいことってのを早く言ってとっとと出ていってくれよ」

「そう焦るな。お前ら、俺が急に様変わりして訳が気になっているんだろ? 気が変わったから説明してやるよ。ま、あくまで推測だけどな」

 

 少し雰囲気を和らげて、砕けたしゃべり方にした。

 

「訳だって? じゃあやっぱり何かあったのか」

 

 今しゃべったのはチビの取り巻き。初めて口をきいたな。

 

「俺はどうも記憶喪失って奴になったらしい。これまでの出来事を何も覚えてないどころかここがどこか自分が誰かもわからん。おそらくさっきの話しぶりからしてお前らに殴られた際に頭を強く打ったのだろうな」

「げ、やっぱりあれはヤバかったのか」

「りゅうさん、だから言ったんだ、気絶させるのはマズイって! やめとけばこんな目にあわずに済んだのに、無視して殴るから!」

「黙れ! 仕方ねぇだろ、あの時反撃してきたんだからよ」

 

 めんどくさいなぁ。クリムガンとノッポの取り巻き、こいつら俺の前で仲間割れするとかバカか?

 

「仲間割れなら後にしな。目障りだ。あと、もう俺は以前とは別人と思った方がいい。前程優しくはないと思うし、もう十分思い知ったろう?」

 

 睨みを利かせるとクリムガンとノッポはおとなしくなり、代わりにチビの方が俺にしゃべりかけた。

 

「じゃあ僕達のことすら何も覚えてないんだね。それであんなことを聞いたのか」

「そういうことだ。お前らのせいでこうなった以上きっちりその分働いてもらう。……そうだ、何か食い物持って来い。どうせ今まで俺から散々巻き上げてたんだろ? それぐらいはやれ。そうだな……さっきからピーピーうるさいノッポ、お前が持って来い」

「お、俺かよ。しかもノッポって」

「持って来い……!」

 

 強めに首を絞めてやると嬉し泣きしながら出ていった。2人と秘密基地を人質にして脅したから帰ってくるだろう。来なくてもきのみは一応持っているしな。これでうるさいのは追い払えた。

 

「それじゃ、まずは俺が何者か、わかることを全て話せ」

 

 クリムガンでなくチビの方に問い質した。こいつの方が雰囲気的に見て話がわかりそうだからな。

 

「君はここに住んでいる浮浪児。いつも盗みをしていたから町の嫌われ者だ。けど、たしか孤児として引き取られるはずがジムリーダーがほったらかしでなし崩し的にここに住み着く羽目になったはずだから、仕方ない面もあったと思うよ。親もいない子供1人じゃそれしか生きる術はないし」

「どういうことだ?」

「普通孤児は施設に送られるけど、君の親は相当な嫌われ者だったらしくて、その親が居なくなったとき町から君も見放されたのさ。当時ジムリーダーも忙しくて手が回らなかったから。本当はジムリーダーが手助けするべき案件なんだけど、気づいたらうやむやになっていたんだよ。君の親を嫌う人間も多かったから君には皆辛くあたって、君も復讐とばかりに盗みを重ねたのさ。もちろん君にすれば生きるためでもあっただろうけど」

 

 やっぱりこいつに聞けばスムーズだな。俺の聞きたいことをよくわかっている。ある程度機嫌を窺う姿勢から見ても頭は悪くなさそうだ。

 

「そうか。そしてそれを知っていたから俺を食い物にしていたと」

「あ、あははは」

 

 実際こいつらも相当ワルだよな。子供がこんなとこ出入りしてるだけでも大概だし。……おっと、自分も人のこと言えないか。

 

「ま、昔のことは今のところはいい。どうせ覚えてもないことだ。俺の名前はなんだ?」

「さっぱりしているね。名前までは知らないなあ。知っている人はもういないんじゃないかな。嫌いな奴の名前なんか知ろうとするはずないし」

 

 そりゃ道理だ。じゃあ名前は勝手に決めて問題なさそうだな。これはラッキー。知らん奴の名前を借りて生きるのも癪に障るからな。

 

「そうか。……………なら、これからはレインと名乗る。今までとの決別の意味も込めて名前を一新だ。あぁ、お前らは……クリムガン、チビ、ノッポで十分だな」

 

 レインはReign。つまり君臨、支配。間違ってもRain(雨)ではない。

 

「あ、そう……かな」

「俺の名前はき…なんでもないです。そんなに睨むなよ、痛ッ!」

 

 こいつらも納得したようだし次だ。

 

「質問を続ける。ここはどこだ? 日本か?」

「そうだね。カントー地方のタマムシシティ。有名なのはデパートとか…」

 

 やはりカントーだな。ポッポで予想はついていたが。これが判明しただけでも色々わかる。だいたいの地理はゲームと変わらないだろう。

 

「場所はわかった。年代は?」

「XXXX年の…」

「いや、聞き方が悪かった。そうだな……チャンピオンは誰だ?」

 

 これなら人名で特定できるからな。歴史で天皇や将軍の名前で時代判定する感覚だな。

 

「ワタルだね。ドラゴン使い。数年前にチャンピオンになってからずっと防衛してる」

「手持ちはドラゴンで固めているのか?」

「当たり前じゃないか。最強のドラゴンタイプを操るワタルの強さは歴代でも1,2を争うって噂だよ」

 

 手持ちがドラゴンだけなら対策すれば簡単に倒せそうなものだが……わかんねぇなぁ。とはいえだいたい今がいつ頃なのかはわかってきた。聞けばレッドとか目ぼしい名前は知らないらしいし、シルフで何も起きてないから物語冒頭以前の年代辺りか。これは偶然か必然か、なんにせよ自分の知識が活用できそうなのは悪くない。

 

 その後もこの世界の通貨が円であること、トレーナーの常識、いろいろ聞き出したが概ね自分の知る通りだった。ただ、カントーにもトレーナーズスクールがあること、物価が知っているのと違いキズぐすりが割高などの細かい差はあったが。どこかでしっかりと常識のすり合わせをしておく必要があるだろう。

 

 幸い戸籍はガバガバで上手くやれば俺でもトレーナーになれないこともないらしい。但し、今のままだと多少お金を積む必要はありそうだが。

 

 ポケモンの常識については、タイプ相性などを聞くとチビがスクールに通っていたらしく確認がとれた。こいつはスクール卒業後(ここでは12で卒業らしい)旅に出たがすぐに諦めたようだ。今は普通の学校に通っているとか。

 

「でも、なんで記憶がないのにそんなにポケモンのことは良く覚えているのさ」

「それを記憶喪失の人間に聞くか? 俺が知るわけないだろうが」

「確かにそりゃそうだけど、変だなぁ」

 

 適当にごまかしたがやはり初めから何でもかんでも知っているのは不自然だ。この先悪目立ちしないためにはある程度自分の知っていることは抑えて小出しにしていかないと。とはいえある程度はやむを得ないだろう。

 

 俺はこのままこんなところに留まるつもりは毛頭ない。いきなりこんな最底辺の人生を甘んじて受け入れるなんて絶対にできない。ここはポケモンの世界。ならばポケモンバトルで活路を見出す。

 

「とりま、今必要なのはお金と、ポケモンと、トレーナーカードってところか」

「本気でトレーナーになる気かい? 戸籍も身分も何にもない孤児からトレーナーを目指すにはコネでもないと厳しいよ。なんせトレーナー資格のために何かしら実力を示す必要があるからね。スクールの認定試験をパスするのが手っ取り早いけど、それにもお金と時間がかかる。そもそもスクールに行かずにいきなりトレーナーなんて余程の天才でなきゃ無理だし、できたとしてもすぐにってわけにはいかないだろうね。それに最初の1匹はどうするつもりさ? 君じゃおそらくもらえないよ? その上仮になんとかできて旅に出られても本当に大変なのはそこからなんだ」

 

 ゲームとは大違い。やっぱりここは現実なのだなと思い知らされる。が、その程度でへこたれている暇はない。この町の奴らを見返してやると己に誓ったし、そのためにはチャンピオンになることが手っ取り早い。俺には能力がわかるアドバンテージもあるしな。そうだ、ついでに普通はどんな旅立ちかも聞いとくか

 

「普通は博士から最初の1匹を貰うのか?」

「博士? 一般的には最初にトレーナー登録したポケセンでもらうけど? まれに野生のポケモンが勝手になついたり、竜の一族とか古いしきたりのあるところはそこでもらったりするらしいけど」

 

 ワタルやイブキか。そういや主人公組はド田舎のマサラ出身だからスクールに行ってなさそうだし、やっぱり天才なのかもな。トラブルメーカー的な意味でも。

 

 一通り聞き終わり、ノッポも来たので今日はお開きにした。着いてすぐ解散にノッポは物申したそうだったが結局何も言わなかった。言わせなかったともいう。

 

「ねえ、レインはいつまでここにいるの?」

「俺の飛躍への準備が整うまでだ。早く出てほしくば自発的に協力しろ。ただ、俺も鬼じゃない。最後には相応の礼はしてやる。ジム戦の賞金ぐらいはくれてやるよ」

「ジムの賞金? そんなのないよ? トレーナーは依頼をこなして生活費とかを稼ぐんだから」

 

 聞いてないぞ、それは!……賞金で簡単に金儲けとはいかないのか。やっぱ、この世界は思っていたのと全然違うな。もうちょっと簡単なゲームがしたかった。

 

 ◆

 

 3人が帰った後、本格的に金の工面が必要だとわかり頭を悩ませていた。とりあえずじっとしていても仕方ないので、この日は人目につかない夜を待ってからタマムシを徘徊することにした。この体の目が特別なのかわからないが夜目も利くようになっていたので夜の散策も容易だった。

 

 いくつか案はあるが、稼ぐ方法として1番いいのはゲームコーナーで稼ぐことだろうか。あるいは盗みをやるか。だが俺は常習だったらしいから警戒されている現状では難しいだろう。

 

 ふと気づけばジムの前まで来ていた。最南端だ。だがそこで衝撃的なものを見つけた。

 

「にひひ! このジムはええ! おんなのこばっかしじゃ!」

「のぞきじじい……!」

 

 ここはゲーム準拠で間違いない。パラメーターの辺りからそうかもと思っていたが思わぬところから証拠が出たな。こいつは絶対ゲームにいた奴だ。確信した。全く、こんな夜中までご苦労なことだ。

 

 さて、これならゲームコーナーで一稼ぎできるかもしれない。幸い稼ぐコツは知っている。これが通用すればいくらでも金の工面はできそうだ。

 

 しかしその考えは愚かだった。いや、結論からいえば勝ちはした。ただ、コインの換金は景品としかできない。なので、金には替えられない。しかも景品のレートが異様に高い。ボロ勝ちしても1回じゃそんなに大したものもらえないぞ。

 

 客はこのレート納得しているのか? 自分はゲームプレイ時は「れいとうビーム」に80,000円など完全にぼったくりなので散々文句を言っていた。……でもよく考えたらどうしようもないので渋々諦めていたし、案外納得するものなのかもしれない。拾ったコインを増やした後、最初は試しにわざマシンとコインを交換しておいた。げっ、使い捨て式か。まあいい、みんな苦労するなら平等だしな。

 

「かえんほうしゃ」「10まんボルト」「れいとうビーム」の3つをとりあえずもらった。もちろん店内では外見を変えて孤児とバレないようにしていた。面が割れたら叩き出されるまでありえるからな。ロケット団だと利益優先で気にしない可能性もあるが。

 

 ◆

 

「いいなぁ……1つくれよ!」

「ならやるよ、いくつでもとってこれるし。1つずつやる」

 

 秘密基地に戻ると俺の戦果を見てクリムガンがうらやましそうに言った。なんとなくクリムガン呼びしているが、クリムガンって“かえんほうしゃ”とか覚えたっけ。無理な気がするな、イメージ的に。普通ドラゴンは覚えるんだけどこの顔を見るとなあ。偏見か? いや、そんなことどうでもいい。

 

 ここでわざマシンをやることで気前がいいとでも思わせられたら儲けものだし、何事も飴と鞭だからな。まあ子供は単純だしこれで言うことを聞きやすくなるだろ。実際に渡してみればどえらいはしゃぎようだった。盆と正月が一緒に来たみたいな喜びようだな。俺はそれらが一緒に来ても別に嬉しくはないけど。

 

「こんなに簡単に手に入るなら俺もやってみるか」

「やめとけ。あそこはとんでもないぼったくりだ。絶対に勝てる方法を知らなけりゃ大損こいて泣きを見るのがオチだ」

「いや、だったらレインは何者なんだ?」

「さぁな……あいにく記憶喪失だし」

 

 まんざら全部ウソってわけでもないが、記憶喪失って便利な言葉だな。これがあるだけで余計な説明を省ける。

 

 一見順調そのものにみえる現状。しかし俺は焦っていた。なんの兆しもなくただスロットでチビチビと稼ぐだけの現状に。延々とこんな最底辺みたいなところで燻っていたくない。なんとかしてここから出て成り上がる機会はないものか。

 

 ◆

 

 毎日当てもなく町を彷徨い続けて、ヘドロや怪しい工場やお茶好きばあさんと色々見て回ることにも行き詰まりを感じた頃、どうしたものかと悩んでいたある日、転機は訪れた。

 

 夜、何かないかと歩き回っていると、怪しい黒服の男を見つけてこっそり後をつけた。怪しい雰囲気の家屋に入っていったので静かに屋根に上り、常備している道具を使って窓のカギをいじり、なんとかピッキングして忍び込んだ。屋内では天井裏に忍び込んで階下の会話を盗み聞きした。槍で突かれる忍者みたい状態だな。もともと盗人だったって話だし、こういう行為に罪悪感は全くなかった。

 

「けへへ……! スロットは大繁盛! 儲かって仕方ないわ! 今日の売り上げも上々、馬鹿な連中め、おかげでボロ儲けじゃ」

「景品がレアなポケモンってだけですぐに飛びつく。裏相場の10倍以上なのになあ。こっちはいくらでも増やし放題だというのに」

 

 そう、ゲームコーナーのイーブイ・ポリゴンなどはわざマシンと比較しても高額に設定されていて、とんでもない大勝ちをするかコインを買いまくらないと無理な上、そうして現金で買おうとすると何百万という値段になる。詐欺もいいところだ。

 

 つけている時からそうだろうとは思っていたが、やはりここはロケット団とオーナーの密会場所。景品は密猟されたポケモンってところか。当初は景品で1匹目をゲットすることも考えはしたが高過ぎるし、ロケット団のポケモンじゃ使い物になるとも思えずやめていたが正解だったな。

 

「次もしっかり頼むぞ。なんせ金のなる木だ」

「わかっている。景品はちゃんと用意してある。明日、同じ時間にここで。金を忘れるな」

「わかっとるわ」

 

 心臓がバクバクと鳴り止まない。俺はとんでもない場面に出くわしてしまった。明日取引が行われる。こうして忍び込めているように案外セキュリティは低い。ゲーム内の数々の盗難事件のことを考えてみればこの世界はセキュリティの意識が低そうだしそんなものなのかもな。上手く立ち回れば金の問題は解決するかもしれない。

 

 しかもすぐに滅びると知っているロケット団なら失敗してもリスクは小さい。ここでやらなきゃ俺は一生このままだ。ならば生きるか死ぬか勝負に出る。

 

「明日、俺は未来を勝ち取る」

 

 そうと決まればこうしちゃいられない。下準備と下見をしておくか。相手は無法者だからジュンサ―(実在するらしい、チビに聞いた)の出る幕はないだろうが、証拠は消すに限るし用意できるものはなるべくしておくに限る。

 

 ◆

 

 早朝、やってきた3人組に必要なものを買ってこさせ、来るべき時に備え休息に努めた。

 

 そして、満を持して取引現場にやってきた。ロケット団が家屋内に入るのを見てから手袋やバンダナをつけて昨日同様に忍び込み、用意した道具で穴を開け階下の様子を伺った。時間までまだ余裕があるはず。失敗は許されない。慎重に、かつ手早くことを済ませる必要がある。

 

 屋敷の中を静かに探して回っていると、足音が近づいてきた。音は目の前の十字路の左手からだ。戻って屋根裏に上がる暇はない。一か八かで十字路の交差点からやや距離をとった場所の天井の部分で手足をつっかえ棒にして張り付き息を殺した。ろうかの幅がせまく高いからこその荒業だ。

 

 そいつはオーナーらしい人物でそのまま俺の下でなく、反対側に曲がって奥の部屋に入っていった。気づいているそぶりはない。暗いし死角だからな。助かった。こっちに来たら、とびかかって実力行使する気だったがバレなかったな。

 

 いったん天井裏に上がり、人の気配が消えた後オーナーが入った場所へ向かった。そこには檻があり、いくつかの中にはポケモンが眠っている。ここが取引現場のようだ。恐らくここにあるな。探すとトランクが見つかり中には大金が詰まっていた。

 

「軍資金ゲット……」

 

 まだ余裕がありそうだ。もうすこし物色するか。そこでさらにポケモンの取引額などの資料を発見した。これを見る限り本当にあの景品はぼったくりだな。ぼったくりはゲームのときからだったが。

 

 檻のポケモンはレベルから見て野生の奴なんだろうが、もし孵化させたポケモンで儲ければすごい収入だな。タマゴの研究はまだなのかもしれない。それにラッキーとか景品になかったのも資料に出てきている。まだ種類を増やす予定なのかもな。持ち帰って後でゆっくり見よう。

 

 ひとまず目的を果たして屋敷を脱出。痕跡は目に付くところは消したし、この世界のレベルじゃ特定すら出来ないだろう。そもそも俺はタマムシの戸籍にないから調べられないけど。

 

 月明かりすらない外はまだ真っ暗。夜目が利かなければ満足に歩けもしない。その中を忍び足で進み夜のタマムシの闇の中に消えていった。

 




クリムガン「(かえんほうしゃで)満足させてくれよ!!」
一応覚えるようです
使ってるのを見たことはないですが
資金面は一気に解決してしまいましたがあんまりグダグダやるとテンポが悪くなるという事情も
次からようやくゲットとかポケモンらしいことをします
遅過ぎですがこのゲームバグってるので仕方ないですね


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3.見つけた見つかった エスパーと運命の出会い

若干設定などに関わる話が多いです
主人公ひとりだけということもあり地の文多いですね
地の文地獄は最初だけなので許してください
書く方も会話文の方が楽なんで本意じゃないんですよ

途中ポケじゃらしとか完全にゲームの説明文無視していますが気にしないでください
多分バグか何かでしょう

……ホントは同じ効果の道具とか存在意義が謎なので使い分けたかったんですよ!


ポケモンの能力を調べる際に表示には略記があります

以後

 個体値→個
 努力値→努
 実数値→実

と表記します


服装関連の内容は後から書き足しました
ぼんやりしていたのでイメージつけるためですね
今後もちょくちょく挟んでいきたいです
顔はポケモン主人公っぽいビジュアルでちょっと目つきが鋭いぐらいでアバウト
頭にはレーダーがついています()



 金に不自由しなくなり、これで一気にできることが増えた。まずは手持ちポケモンと道具だな。これからの旅の用意も必要だし一度ヤマブキへ行くか。タマムシだと俺はゆっくり買物しにくいからな。大量に買い込むし回復道具などは生命線、あいつらに任せるわけにもいかない。大金を渡せるほど信頼もしてないし。

 

 3人にヤマブキへ行くので留守にすることを伝えて町を出た。ここはゲームと違い小さな町はタマムシとヤマブキの間にもあるし、バスなども通っていることが3人組を使って調達したタウンマップですでに確認できていた。なので町をバスで渡りながら人から話を聞いたり、店を回って相場を調べたりを繰り返しながらヤマブキへ向かった。

 

 移動中は本屋で買ったトレーナー入門書のようなものをかいつまんで読んでおき最低限の常識は身に着けた。一応常識のすり合わせのためだ。自分以外の人間の考え方を知っておくことは役に立つはず。

 

 トレーナーならばポケセンが無償なのは同じで、宿もあるらしく、これも依頼事業の収益などで上手いことやりくりされていてタダらしい。その代わりトレーナー修行に出るためにはスクールの成績など実力を示すものがいるらしい。そしてバッジを得る度にトレーナーのランクというのが上がり、受けられる依頼のランクも一緒に上がるそうだ。

 

 トレーナーを仕事にしている人間はこの依頼をこなすことで稼いでいる。プロになると試合に出たらファイトマネーが入るようだがそういうのはごく一部らしい。依頼とかランクとかどこぞのダンジョンRPGのようなシステムだが、意外と合理的で感心した。要するに稼げない奴はリタイヤしていくらしい。ホントにリアルで世知辛い世の中だなぁ。

 

 ただ、なんでも取り寄せられる四次元パソコンや見た目の何倍も容量のある四次元バッグなど不可思議な道具もあったのでそのへんはファンタジー感もあった。

 

「さて、とりあえずヤマブキに着いたか。まずは……この恰好じゃ満足に買い物もできない。身だしなみからだな」

 

 自分で言うことではないがひっどい格好をしている。銭湯で体を洗って清潔にした後、ヘアサロンとブティックに行って外見を整えた。

 

「この飛び出しているのはどうしま…」

「ほっといてください」

 

 切ってなくなる程度のもんならとうになくなってんだよ! どうしようもねーんだってのっ!

 

「こちらのもっと明るい服はいかがで…」

「こっちの服でいいです」

 

 あそこじゃ目立つことはできないし、そうでなくても俺はハデな服はキライだ!

 

 鏡をのぞけば見違えた姿の自分が見える。少しはマシになったか。これで心置きなく買い物ができる。先に必要なものは考えてリストアップしてある。順番に店を回っていこう。

 

 予算にものをいわせモンスターボール各種や回復道具、旅道具などを大量にそろえてパソコンにしまい、今回の目玉を探すことにした。……パソコンを持てばいくらでも持ち歩けるため食料系以外買い過ぎた感も否めないが気のせいだろう。物価がゲームより高かったせいで出費は馬鹿にならなかったが。

 

 やって来たのは大手シルフカンパニー。ここで育成必須アイテムのドーピングやギブス、パワーキットそしてきのみを探した。しかしここでは努力値下げのきのみはないらしく、タマムシデパートでホウエンから取り寄せるしかないらしい。パワーキットやギプスはあったからよしとするか。

 

 自分で作ったメモのリストに目を通し必要な物を全てそろえたことを確認して帰ろうかという時、ゲートに見覚えのある人物がいることに気づいた。この町のジムリーダー、ナツメ。たしかにヤマブキならいてもおかしくはないがジムでチャレンジャーを待っていなくて大丈夫なのか? あんまり関わりたくはないな……。

 

 小耳に挟んだところでは、こいつは相当な異端児でポケモン協会だかなんだかというリーグを運営してる組織でも手を焼いているとか。幸い向こうはこっちのことを知らないし、知らんふりで横を通り過ぎよう。ヤバイ奴なら関わらない方がいい。何食わぬ顔で横を通るといきなり後ろからがっしりと肩をつかまれた。

 

「ッ!」

「あなた、見ないオーラね。不思議……何者?」

 

 いきなり何意味不明なこと言ってんだ、こいつは。オーラだって? 電波なのか? エスパー少女じゃなくて電波少女なのか? それに、なんか急に気分が悪くなってきた。なんだこの感覚? まるで自分の心がかき乱されるような、そして圧迫されているような感覚。本能的にここにいてはマズイと感じた。

 

「急ぎなんでな、用がないなら失礼する」

 

 無理やり立ち去ろうとするもさらにがっしりと肩をロックされた。……振りほどけない!

 

「ウソね。むしろ今用事が済んだところ。あなた旅のトレーナーかしら? いいえ、違うわね。私でも読めないなんて……ただのトレーナーじゃない」

 

 これがエスパーか。こいつ確信を持って俺のウソを見抜いてやがる。ナツメの目を見ているとまるで心の奥底まで見透かされているような錯覚に陥る。それにつかまれた肩からヤな感じがして本格的に気分が悪くなってきた。何かと厄介な奴だ……今の口ぶりだとわからないこともあるみたいではあるが。

 

 そういえばこの肩にかかる力も少女のものにしては強過ぎるし、おそらくサイコパワーみたいなものが働いているのだろう。つくづく面倒な奴に絡まれたな。

 

「ならはっきり言う。迷惑だ。道を通せ」

「私が誰かわかって言っているの? こんなに震えているのに強がり言っちゃって。ふふ、いいわ。今日は見逃してあげる。でもあなたは遅かれ早かれ私のところへ来ることになる」

「……」

 

 なんとかその場を離れられたが心臓に悪い。この世界のエスパーはかなり面倒な人種で間違いない。本当に何が起きるかわからない。ある意味精神的には今までで最も危険を感じた。

 

 気を取り直し、帰りは歩きで野生のポケモンを探しながら草むらを進んだ。そこで俺は気になっていたことを色々と実験していった。

 

 

 ~実験中~

 

 

1.ポケじゃらし

 まず、ダイパ冒頭のムックル襲撃の二の舞はごめんなので安全確保のために“ポケじゃらし”と“ピッピにんぎょう”が有効なことを確認し、成功。町に戻り大量に買い込んだ。一生買い足さなくていいだろう程に。これは持ち過ぎて困ることはまずないと思われる。それぐらい便利で汎用性が高いと判断した。

 

 

 

2.モンスターボール

 試しにポケモンを捕まえようとするがHP満タンではハイパーボールでも全て失敗。それどころか残り1割程度でも捕まらなかった。しかもほっとくとHPが少しずつだが自然回復するので悠長にできないし生き物だから不利と悟れば戦闘から逃げ出す。最も簡単と思っていたところで予想外の壁に当たってしまった。

 

 さらに調べると、ダメージの乱数の幅が大きいことに気づいた。ガードしたりすればゼロに近づけることもできるようだ。現実の常識が当てはまる部分が多く確率だけのゲーム脳だけでは通用しなさそうだった。早めに気づけて良かった。

 

 

 

3.ポケモンの技

 レベル不相応なものを覚えている奴がチラホラいて、技の覚え方もゲームのようなきっちりした基準はなさそうだった。最初のポッポも“エアカッター”を覚えていた。運よくバトルでは使われなかったがあれは間違いなくタマゴ技だ。

 

 

 

4.自身の不思議な能力

 重要な戦力になるはずなのでじっくり検証した。まず辺りに何かポケモンがいないか探ろうとすると、半径数十m範囲で探知ができ方向と名前がわかった。さらにそのうちの1匹に集中するか直接目で捕捉して集中すると、その能力が確認できた。見れる能力は自分が見たいと思った能力を切り替えて表示することもできたのでかなり便利な力だった。まるで自分の願いが具現化したようだ。

 

 とりあえず名前があった方がいいと思い、探知能力をサーチ、分析能力をアナライズと呼ぶことにした。あまり使い過ぎると疲れるし、サーチ範囲も調子などで上下するがおいおい鍛えていけばいいだろう。

 

 ちなみに自分のステータスは鏡などで自分を調べても見えなかった。この力はさすがにポケモン限定らしい。最初に鏡を見た時には容姿が昔の自分そのものだったので驚いて複雑な気分になったりした。鏡に写る見慣れた顔。黒髪黒目、目つきは鋭く、キリッとした男前……自分で言っておいてだがむなしいな。

 

 ……どうせ変なところに連れてくるなら顔ぐらい良くしろよ。服装も最悪だったしひっどいなぁ。いや、それはおいといて。

 

 自分の強さに関してはレベル20のポケモンまでけっこう余力を残して倒せたので野生で言えば20台後半程度の水準だろう。このまま俺が戦い続けたらもっとレベルが上がっていくのだろうか。あんまり嬉しくはない。

 

 

 

5.キズぐすり

 自分、つまり人間に対しても使えて効果は数分で現れたが、さすがにバトル中使えるほどの速さはなかった。まあ十分異常だが。ポケモンにオレンを食わした場合はすぐに回復したのできのみは戦闘中でも使えそうだ。きのみは回復量こそ少ないが即効性がある分緊急時の万能薬的な使い方もできそうだ。効果は初日の自分で実証済み。きのみは道端に割とあるが入門書によれば素人は毒入りなどと見分けがつかないのであんまり手を出さないらしい。ゲームで見た目を知っているきのみだけ食っていたことに遅過ぎる安堵をした。

 

 

 

6.努力値・物理と特殊

 戦闘後の休憩中、バトルについて書いてある本も読み終わりあることに気づいた。努力値などの言葉が出てこないのだ。読み返して、さらに他の本を見てもない。おそらくこの世界にはそんな概念自体がないのだろう。考えてみればそんな数値視えるのは俺だけだし、実験しても簡単に発見できるわけもない。あるという前提を知らねば気づく術はない。つまり誰も知りようがないということだ。とすると、チャンプですらまともに育成できてないポケモンを使っているのか?

 

 気になった俺は翌日最寄りの町の本屋で詳しく調べたが、どうも攻撃と特攻や、防御と特防の違いすら理解されていないらしい。例えば“かえんほうしゃ”を挙げると、上級者だと経験的にパルシェンには良く効くがラッキーには効きにくい、というようなことはわかったりするらしい。だがそれがなぜかまではハッキリわからないわけだ。

 

 また、物理技と特殊技の分類は第四世代以降の基準に基づいていることも何度も技を受ける中で確認できた。何かの間違いで第三世代以前の仕様だったなら、ドラゴン、ゴースト、悪がメインウエポンを失ってご愁傷様、フーディンはめざパがわりに三色パンチ攻撃を始めるカオスなことに。一応確認しないと何があるかわからないからな。

 

 ともあれ、これらの情報は俺にとっては朗報だ。周りがここまで原始時代なら自分の知識があれば冗談抜きにチャンピオンを超えられる。もう泥をすするような生活とはおさらば、サヨナラバイバイだ。この目と知識がそろえば死角はない。

 

 ◆

 

 ここまでわかってきたら知識面はもう十分。後はまず1体信頼できるパートナーが欲しい。そこで俺は厳選とも呼べる、ポケモン探しの旅を始めた。アナライズが出来なきゃこんなこと絶対しないけどなぁ。これが廃人の悲しい性か……。厳選せずにはいられない、この作業は終わらない! 結局何日も野宿を繰り返して探すがなかなか見つからない。早くも妥協も視野に入れだし、心が折れそうになる頃、奇跡的な出会いをした。

 

 

 ガーディ♂ LV20 むじゃき

 

 個 25-31-23-22-18-31

 実 47/57-39-25-37-26-38

 技 ひのこ 

   にらみつける 

   かえんぐるま 

   たいあたり 

   とおぼえ 

   かぎわける

 

 

 大当たりだ。キタキタキタ――!! 

 

 2V……まさに1000に1つの逸材。性格も補正的な意味でいい。こっちにきて初めて大騒ぎ。絶対に捕まえてやる。これを逃すのはありえない。今までの実験でピッピにんぎょうとかの使い方や、ポケモンの誘い込み方もわかってきている。ボールも惜しまない。ハイパーも大量に用意してある。

 

 まずは先手必勝! 静かに近づいて不意打ちを狙った。だが間一髪で躱され、逆に“ひのこ”を放ってきた。いい動き……! ますます捕まえたくなる。ここは無理せず後ろに引いて攻撃をやり過ごした。

 

「おっと、やるなぁ」

「グウゥゥ」

 

 警戒されたな。油断なくこちらをうかがい、相手の構えにはムダがない。さっきの動きも今までの奴らよりも格段に良かった。一筋縄ではいかないか。さてどうする? 相手の隙がないならこっちから能動的に隙を作るしかないか。

 

「ほら、いい子だからこっちにおいで?」

「ガウッ」

 

 ピッピにんぎょうを投げて気の逸れたうちに蹴りをかます。クリーンヒット。かなりいい感触。20入った。

 

 ピッピにんぎょうはポケモンの気を引き付ける。逆にポケじゃらしは遠ざける効果があり、その結果戦闘から逃げられる。同じ結果でもからくりは違うことがわかっていた。今回はそれを利用した。先に色々実験したのが活きたな。

 

「油断したな。その程度か?」

「グオオォォン」

 

 左右にステップしながら“かえんぐるま”を繰り出した。やはり単調な普通の野生ポケモンとは違う。真っ直ぐには来ないでフェイントモーションを入れてきたか。だが俺には届かない。この程度なら簡単に動きが読める。

 

 慌てずによく見れば左右で微妙に動きに違いがあった。フェイクは当てる気がないせいか動きがやや浅い。フェイクも攻撃時と同じ動きでなければクセを見抜かれ騙すことはできない。まだ訓練が足りていないな。右がフェイク。左からの攻撃を堂々と右に躱した。

 

「!」

「お返しだっ」

 

 パンチをかますが見切られて距離を取られた。体がこんなんだと致命的にリーチが足りない。読み切ってなお当てられない。人間の限界か。これじゃ動きを完全に止めるぐらいの隙を作らないとまともに攻撃できないな。どうしようかねぇ。

 

 考えを巡らせていると、相手は攻撃のメインを“ひのこ”に切り替えてきた。こっちの攻撃を見て有利なリーチを学んだか。なら接近してこっちの間合いに持ち込むまで。

 

 一気に距離を詰めると俺の動きに合わせて素早く“たいあたり”をしてきた。いい反応、しかも鋭い攻撃だ。やみくもに突っ込んでいれば自分の勢いを殺せずに直撃コース。だがこれも甘い。こいつなら俺の行動に合わせてこれぐらいはするだろうと思っていた。

 

 こいつが黙って近づくのを許すわけがない。甘い行動をとるはずがない。もちろん他のポケモン相手ならこんな読みはしなかっただろう。だが読みは相手のレベルに合わせてその裏をかく、これが極意。故に予想通り。

 

「お前はたしかに強い。でも独りだけではまだ足りない!」

「ガウアッ!?」

 

 俺は“たいあたり”を避けながら、ピッピにんぎょうと一緒にあらかじめバッグから取り出して手に持っていたポケじゃらしを相手の“たいあたり”の軌道上に投げた。するとどうなるか。

 

 ガーディは反射的にポケじゃらしから離れようと、思わず動きを止めてしまう。注文通りのチャンス到来! そのタイミングを見計らって渾身の一撃を放った。しかし驚くべきことにこれに対応してガーディは身をそらして攻撃を軽減し、さらに受け身をとった。

 

 見事な体裁き。だが残念、無理な動きで体勢が大きく崩れてしまっている。そのまま容赦なく追撃しさらに削りを入れた。残りHP5。頃合いか。モンスターボールを構えるが急に様子が変わり何かを訴えかけるように吠えた。

 

「ガッガウアッ、ガウウア!」

 

 鳴き声では何を言いたいのかわかるわけがない……はずなのだが、なぜかこのとき雰囲気から言わんとすることがわかってしまった。気持ちを感じたというのだろうか。不思議な感覚だった。

 

「何かやるべきことがある、だから待て……と言いたいのか?」

「ッ!」

 

 コクン、と頷き、驚いた表情を見せた。必死にアピールしていたが通じるとは思ってなかったのかもしれない。そういえばこいつは最初からHPが減っていた。それが関係するのか?

 

「なぜ体力が最初から減っていた? 用と関係あるのか?」

「ガウアウ、ググゥ、ガーウ」

「……バトルのため、か。つまり倒したい奴がいると。ふぅ、おかしなことばっかだ。この目も、そして今度はポケモンの言うことがわかるなんて、どう考えても普通じゃない。でもポッポとかは何考えているのかわからなかったな」

 

 なぜこのガーディとは意思が通じたのだろうか。なにか浅からぬ因縁があるとか? それは考え過ぎか。でもそう思いたい気持ちになっていた。

 

「……」

 

 ガーディは不安そうに黙ってこっちの様子を見ている。本当はこんな逸材逃したくないが、ここはゲームじゃない。それを十分思い知ったし、相手にも感情はある。無理に捕まえても仕方ないし、なにより今はこいつを気持ちよく送り出してやろうという気になっていた。

 

 不思議と考えが読み取れ気の合うこいつの前では、どうしても欲しいという下心を見せずに、器の大きさを見せるため見逃してやろうと思ってしまった。そして何より、このガーディとはまた会えそうな気がした。

 

「安心しな。お前は強いし仲間にしたいが、無理にとは言わない。大事な用なんだろ? 野暮なことはしない。ほれっ」

 

 そういって“オボンのみ”を投げて渡した。不思議そうな顔をするガーディに、餞別だと言い残して、その場を立ち去った。

 

 …………

 

「かぁーーーっ! 出てこねーっ! なんであんなカッコつけたんだ、アホ! 俺のアホォ!」

 

 一時の感性に任せてよくわからない勘に従った結果、当然の報いを受けて途方に暮れることとなった。もうその時の不思議な感覚はきれいさっぱりないし、予感めいたものも消え失せていた。端的にものすごく後悔した。

 

 しかし何の因果か、そのガーディとはすぐに再会することになる。

 

 ◆

 

 その日の晩、爆発音と光に目が覚め音の方へ様子を見に行くと、例のガーディがその他大勢の同種とバトルしていた。驚く俺をよそにそいつはばっさばっさと敵の群れを倒していった。

 

 用事はこれか。あいつここのガーディじゃないのか? 縄張り争いでもしているのだろうか。敵はとうとう1匹になったがすごいのが出てきた。目に傷があり、他の奴よりも若干大きい。雰囲気的には群れのボスってところか。

 

 アナライズすると、レベル21、攻撃の個体値がV、性格いじっぱり、“かみくだく”持ちか。……タマゴ技だろうな。等倍だからこれは効く。逆にあいつのメインの“かえんぐるま”は半減で通りにくい。厳しいな。手助けしてやりたいがよそもんの俺が口出しすることじゃない。見守るだけにするか。

 

 案の定結果は敗北。しかし驚異的な粘りを見せてもう少しのところまで追いつめていた。だが時間がかかったせいで周りの奴らが回復してしまっている。起き上がって攻撃体勢の奴らを見てまさか……と思っていると、本当にいきなり全員で“ひのこ”の一斉放火を始めた。

 

 思わず息を飲んだ。あいつはもう気絶している。いくら“こうかはいまひとつ”でもあれを食らい続けたら……。

 

「死ぬ……!!」

 

 ここはゲームであってゲームじゃない。現実の中の出来事なんだ。だから敗北は即座に死につながる。それをこれまでの日々で実感していたからこそ、いてもたってもいられずに走り出していた。

 

 走りながら手も動かし、ピッピにんぎょうを遠くに放り、ポケじゃらしは目の前に投げつけた。強引に道を開けて“ひのこ”の中に飛び込み、ガーディをしっかりと抱きしめて脱出を試みた。

 

「ガルル、ガアアアア!」

「グルァッッ!」

「チッ、囲まれたか。まさか夜は道具の効果が薄いのか……? クソッ、こんなときに」

 

 さすがにここまでは実験でも想定していなかった。危険予測が甘かったか。だが悔いても仕方ない。何か手を打たないとここで野垂れ死にだ。全方位360度敵意剥き出しのポケモンに囲まれるとさすがに威圧感がある。だが泣き言をいっている場合じゃない。こんなところで終わるわけには……。

 

 ガーディの敵意を込めた“いかく”に体が否応なしに竦む。攻撃を1段階下げる特性の効果だってことは百も承知だが、まるで自分が臆しているかのような錯覚に陥ってしまう。一度に大量の“いかく”を受け過ぎたせいかもしれない。おそらく俺の攻撃力は最低値まで下がっている。力ずくの突破も不可能という状況……いよいよ以てヤバイ。敵も臨戦態勢でもう待ったなし! 

 

「クゥゥン……」

「しっかりしろ! 絶対助けてやる! だからもうしばらくこらえろ!」

 

 抱えているガーディからは生気がほとんど感じられない。弱弱しい鳴き声が漏れた。これ以上グズグズもしていられないか。早く手当てして絶対に助けてやらないといけない。俺もこいつもここで終わっていいはずがない!

 

 “たたかう”ダメ。“ポケモン”いない。“にげる”不可。残りのコマンドはもう“どうぐ”しかない! 何かないかと祈りながら急いでバッグを探すと面白いものを見つけた。ピッピにんぎょうが夜ダメなら、これは夜にこそ真価を発揮するかもしれない。

 

「一か八か……くらえっ! けむりだま!」

 

 ボワッッ!!

 

 暗黒が広がり敵は全員算を乱して統制がとれなくなっていた。しかもこっちはサーチのおかげでポケモンのいる方向は視えているので支障がない。

 

「とっさだったが、どうやら大正解を引き当てたらしい。ギリギリもいいところだが、俺の悪運もまだ尽きちゃいねぇな」

 

 だが油断はできない。奴さんらは鼻が利く。ジュンサーがよく捜査のために手持ちにしているぐらいだし警戒した方がいいだろう。そこで買いだめしていたこしょうをつぶして靴の裏に塗りたくり、においでの追跡を予防した。そしてそのおかげなのか追っ手に見つかることもなく朝を迎えた。

 

 とんでもなく高価な“げんきのかたまり”を惜しまずに使い、オボンとチーゴを食べさせたが一向に目を覚まさない。万能薬に近いこれらのアイテムでダメだとすると手遅れだったのか……。

 

「しっかりしろ! 根性見せろ! 生きろ! お前は強いだろ!」

「ガゥゥ、グゥゥグァーッ……」

 

 まだ苦しそうだ。相当なオーバーキルだったはずだし無理もないか。ここで力尽きれば本当に命が危ない。ガーディの苦しみを少しでも肩代わりして和らげてやりたくて、やさしめに抱き上げて体をゆっくりとさすってあげた。気休め以外の何物でもないが、何もせずにいるなんてできやしない。ずっとそうしたまま時間だけが過ぎていった。日が昇る頃には不眠とオーバーワークが祟り自分までガーディを抱きとめたまま眠ってしまっていた。

 

 ◆

 

 ―ガウガウ―

 

 ん?

 

 ―ガブッ―

 

 ん!?

 

「いたっ! 何すんだっ! ガブッといくのはダメだろ!?……あっ、お前っ。もう良くなったのか!? ちょっと、うわっ、ちょっと待って!」

 

 痛みで目を覚ますと眼の前に助けたガーディがいて、俺が起きて嬉しいのかそのまま顔中をなめられびっしょり濡れてしまった。けど喜んでいる気持ちが伝わってきて悪い気はしない。

 

 頭を撫でると目を細めて頬ずりしてくる。あったかい。ほのおポケモンだからだろうか、心の芯まであったかくなる。あれ、心っていうのは変か。でもなんか体というよりは心って感じがする。

 

 手当をしている間は余裕がなかったが、改めてこうして触れ合っているとすごく感慨深いものがある。こんなにかわいい生き物が現実にいて、こうして直に触れられるなんて……。知らない場所に飛ばされてひどい目にあったけど、今はこっちの世界も悪くないって思える。

 

「よし、おいで」

「ガーウーッ!!」

「おっと! んー、よしよし。ホントにかわぃぃ……」

「クゥゥ……」

 

 手招きして両手を広げると勢いよく飛びついてきた。元気過ぎてこっちが倒れそうになる。素直で人懐っこくてあったかくて……幸せ過ぎてなんか色々ダメになりそう……。嬉しくてつい思いっきり抱きしめてしまった。力を入れ過ぎたかと思ったがガーディも嬉しかったようでこちらに体を預けてくる。うわぁ、めっちゃいい子……。

 

 惚けてばかりもいられない。ガーディの様子を見ると顔色は良好。体力も全快しているようだし、体調は大丈夫みたいだ。日はもう高く上がっている。あれから結構時間も経っていたようだな。あのときはヒヤヒヤしたし、今でも思い出すと寒気がするが間に合って良かった。

 

 キュルキュルゥゥゥ

 

「ガウゥー」

「あーそうか、結構時間が経ってるもんな。今日は大変だったしお腹も減っただろう。これ食べて」

 

 腹の虫が鳴ったので、念のためチーゴとオレンを選んでガーディにあげた。割と好物なのか、目を輝かせて喜んで食べた。見てるだけで口元がにやけてしまう。なんとなく食べている姿からなつきアップのテロップが見えそうな気がした。やっぱり食べ物でなつかせるのは基本なんだな……。いいことを覚えた。ちなみになつき度はアナライズしてもわからないままだ。そういう指標はこの世界にはないのか、あるいはこの能力の限界なのか……それはまだわからない。

 

 そういや、こんなにいい子なのに一度は逃がしてしまったんだよなぁ。冷静に考えると暴挙過ぎた。また会えたのは幸運としかいいようがない。めちゃくちゃ後悔していたが、結局これで良かったのかもしれない。俺の直感も捨てたものじゃないな。今度こそは絶対に仲間にしたい。

 

「なぁガーディ、話があるんだが」

「ガウ」

 

 食べるのをやめて行儀良く俺の話を待ってくれる。最初あった時は鋭く周りを寄せつけないような雰囲気だったのに、素直でお利口でいいポケモン。

 

「改めて聞いてみたいんだけどさ、どう? 俺の最初のパートナーになってくれない?」

「……ガウーン」

 

 あんまり芳しくない感じの返事だな。けっこう懐いていると思ったんだが……まだ押しが足りないのか。いや、昨日のようにまた何か理由があるのかも。

 

「あの目に傷のあるボスガーディ、あいつに勝つまで諦めきれないのか? お前、なんであいつらと無茶な勝負をしたんだ。わからないことじゃないだろうに」

「グゥゥ、ガウガウガ!」

 

 聞けば、このガーディは昔ここの群れを追い出されて、強くなったから見返すためにあんなことをしたらしい。たしかにガーディが出てくるのはこの辺りじゃ他にはない。まさか俺と似たような境遇のポケモンがいるとは。

 

 ……さりげなくまた言葉はしゃべれないのに感覚で言いたいことがわかったな。本当になんでだろうな。いや、今は勧誘が先か。

 

「そうか。実はさ、俺も似たようなもんなんだよ。自分の町の奴らに嫌われている。しかもどん底生活付き。でもな、俺は絶対に這い上ってこの地方、いや、世界で1番強くなるつもりだ。だからこんなところでグズグズ立ち止まっている暇はない。そのためにお前の力を貸してくれ。お前は一目見た瞬間からすぐわかった。モノが違う。すごい才能が眠っている。それにバトルのセンスもある。強くなりたい志もある。ただ、今はそれを御しきれるトレーナーがついてない。自分を活かせてないからあいつに負けたんだ。能力では負けていなかったし」

「……グウーン」

 

 悔しさからか低く唸り声をあげたが、俺の言葉に思いあたるところはあるらしい。何も言わないな。

 

「ここを出よう。ここを出て色んな所に行こう。俺が世界を見せてやるから、一緒に来いよっ! お前とは気が合いそうだし、きっといいパートナーになれる。だから……」

「ガウアッ」

「ん、なに? うわっと、待て待て! ちょっと待ておいっ!」

 

 その先まで言うことはなかった。いきなりじゃれついてきて戸惑ったが、これはガーディなりのOKの返事らしい。聞けば、自分を倒した実力と命を救われた恩があるから最初からついてくる気だったらしい。倒れていた間もうっすらと意識はあったようだ。それならなんで最初からすぐにじゃれてこなかったのか尋ねると、真剣に誘われて嬉し過ぎてずっと聞いていたかったが、さっきは耐え切れずにあのように飛び出してしまったということらしい。

 

 拍子抜けしてしまったが、最初の仲間ができて今までの中で最も嬉しいのは間違いない。そういえばガーディといえば忠犬ポケモンだし、恩は忘れないトレーナー思いのポケモンなのかもなぁーと昔の記憶の知識を思い出しながら、ガーディと改めて握手した。

 

「よろしくな」

「ガウガウ」

 

 ガーディは前足を出してがっしり握り合った。やっぱりポケモンでは最初の1体ってすごい大事。

 

「そういや、ニックネームをつけてやろうか。ポケモンといえば、だしな」

「ガウンッ!」

 

 その提案にすぐに頷き、期待に満ちた表情で尻尾を振って目を輝かせている。ここまでされたら張り切らざるを得ない。さて、どうしたものか。ガーディと言えばなんだ? ほのお、いぬ、……いぬぅ……。

 

「犬なら、ハチ公?」

 

 ガブッ

 

「いだぁぁ!?」

 

 いきなり飼い犬に手をかまれた! 冗談にならないレベルで痛いんだけど! まさか“かみつく”使ったのか! それはダメだろ! こっちは平凡な人間だってことお忘れか? いや、1回戦闘しているからセーフと思われているのか。できたらもうポケモンと自分がバトルなんてやりたくない。

 

「ガウアウア!」

「ごめんごめん、怒るな怒るな。もうふざけないから大丈夫だって。いや、ふざけたつもりは別になかったんだけどな。んー、じゃあ無難にポチでいっか……あっ、今のはウソだって! ちょっと、逃げようとするな! ごめんちゃんとよく考えるから!」

 

 冗談のつもりなのだろうが森の中に消えようとするのはやめてくれ。それは俺に効く。よく考えたらまだボールに入れてすらないし洒落にならない。とはいってもニックネームなんて思いつかないんだよなぁ。一旦犬から離れた方がいいかもしれない。ほのおか……。そういやいい毛並みだな。まるで燃えているように見える。……これいいかも!

 

「じゃあ、ほのおタイプで毛並みも燃えているみたいだから、グレン(紅蓮)でどうだ?」

 

 ウウウ、と唸りながら飛びかかるかやめるか何度もポーズを変えておどかした後、満面の笑みで飛びついてきた。とりあえず前見えないから顔から降りてっ。

 

「わかったわかった。気に入ってくれてなにより。ったく、大げさだなぁ。じゃ、これからはグレンって呼ぶからな」

「ガウアッ!」

「こっちこそよろしく、グレン。まさか最初にこんな出会いがあるなんて、ほんとに運命的なものを感じる。これからもこんな運命的な出会いがたくさんあればいいなぁ」

 

 ――ッ!!――

 

 あれ、今何かいたような……気のせい?……なんかちょっと頭が痛い。最近木の上生活でよく寝れていないしそのせいか。まぁともあれ、ようやくこれでこの世界のトレーナーとして第一歩を踏み出せた。

 

 ◆

 

「グレン、トドメ!」

「ガウッ!」

「ポポッポォ」

 

 よし、一丁上がり! 俺はあんなに苦労してようやく倒したのに、グレンは簡単に倒しちゃうな。ものすごく楽になった。これが普通なんだよな。

 

「さすがだな。グレンこっちにおいで」

「ガーウ」

 

 ご褒美代わりに頭を撫でてあげてから傷の手当てを行った。その間、グレンが仲間になりいい機会なので、ついでに気になることを色々聞いてみた。

 

「なぁ、ボールの中ってどんな感じ? 窮屈だったりしない?」

「ガウガー」

「ふーん……」

 

 ボールの中の居心地は悪くないようで、外の様子もうかがえたりするらしい。快適になるように配慮はされているようだ。外も見れるというので試しにその日の夜に出してみたら就寝中だったのでいつでも外を見ているわけではないようだった。

 

「ガウガッ! ガウガウガウー!」

「ごめんごめん、つい気になって。もうしないから許して」

 

 安眠を妨げられてグレンはご立腹だな。不必要に起こすなと注意されてしまった。また“かみつく”でもされたらかなわないので抱き上げて頭を撫でてあげると、すぐにおとなしくなってそのまま眠ってしまった。俺の腕の中って寝心地がいいのかな……。

 

「グゥゥー……zzz」

「戦っている時とは打って変わって無防備でかわいい寝顔。安心しきっているのかぐっすりだな。冗談でかみつかれたりはしたけど、本当は俺の事トレーナーとして信頼してくれているのかも。俺を信じてついてきてくれたんだもんな。はぁ……トレーナーってのは責任重大だな。グレン……一緒に頑張ろうな」

「ガーウ……zzz」

 

 こんな形で期待されていることを知ってしまったら、イヤでもその重みを感じてしまう。バトルに勝つだけじゃない。ちゃんと育てて面倒も見てあげないといけない。口では簡単にトレーナーになるといってもそれに伴う責任までは深く考えてなかった。

 

 ここじゃまだまだ俺も初心者なんだな。初心者だっていうなら別にそれでいい。グレンと一緒に成長していけばいいんだから。

 

 グレンとは話が大まかには通じるので、唯一の話し相手ということもありよくしゃべった。とても賢いようで、グレンは物覚えがいいのでバトルの基本、タイプ相性や三値のおおまかな説明をしてみたり、こっちの世界に来てから考えた戦術なども教え、技の修練や実験などを同時並行で進めながら急ピッチで努力値の振り分けを進めた。下手な調整はここじゃ無意味だろうし、個体値と性格を踏まえればH4AS252がベストか。丁度この辺りのポケモンは攻撃と素早さの努力値を獲得できる奴が多い。

 

 しかし努力値稼ぎがなかなか進まない。現実となったことで野生ポケモンを探すのも一苦労という感じで作業は難航していた。無限にポケモンがいるわけじゃないからなぁ。だが目に見えて強くなっていったのでグレンもやる気を出し、充実した日々を過ごしていた。

 




メタな話ですがこれの原案を最初に書いたのはだいぶ昔、確かプラーズマー団が暴れていた頃です
その時は野生のポケモンがタマゴ技を覚えたりはしなかったはずですが、今は覚えるみたいですね
主人公の知識もそのときの作者と同じでクリムガンまでと思ってください
ケロマツ辺りから怪しいです(作者は当然わかっています)

その影響でフェアリーとかいう謎タイプは国内、つまり素敵ファッションがいるところまでの範囲では確認されていないという設定にします
ピクシーのフェアリー属性とかは海外限定のリージョンフォルムみたいなイメージです。

題材がカントーの時点で作者が化石なのはお察しですし
昔のポケモンをプレイする気分で見てもらえれば


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4.喧嘩上等 最初の戦闘

やっとらしい戦闘が出てくる……
今まで自分が戦闘仕掛けてましたからね
今回も普通の戦闘とは言いませんが
あと後書きの補足説明が長いです


 グレンを鍛えながら西へ進み、かなりタマムシの近くまで来た。そろそろ戻るか。まだ育成は完了していないが、かといって長期間あの基地を留守にしたままにもしたくない。大金を抱えることは出来ないので、そのほとんどをトランクに入れたまま3人組にも内密にして基地に埋めてあるからだ。大金っていうのはどうにも人を不安にさせるものらしい。

 

「ここはもうタマムシに近いな。ここらの野生も狩りつくした感があるし、一旦3人組の様子を見にタマムシに行くか」

「ガウ?」

 

 考えをまとめているとグレンがもの聞きたげなので説明してやった。

 

「俺のいたところだ。あの町は嫌な奴ばかりだが、少しは味方もいるんだよ」

 

 しかし、基地に戻ると半月前と打って変わって滅茶苦茶に荒らされていた。爆弾でも投げ込まれたかのような有様。やっと住みやすくなっていたのに! きのみなども保管していたのに持っていかれている。何者かに襲撃されたのは明らかだ。

 

「おい……おいおいおいおい!! ふざけんなよっ……誰だ! どこの誰だっ! こんな舐めたまねしくさった野郎はよぉ!!」

 

 怒りながらも頭の中では冷静に思考を続けていた。今は状況把握に努めるべきだ。

 

 まず、トランクを掘り返して中身を確かめた。生命線のこれがやられたらおしまいだ。だが、さすがに地面を掘り返すことまではされておらず無事だった。ひとまず最悪は回避したか。これから現金はパソコンにしまうことにした。ここに預けとけばパソコンさえあればいつでも俺だけが引き出せるからな。これでマネーロストの危機は去った。一安心だ。パソコンはどこにあるものからでもいいし。

 

 次に状況を把握するため3人組を探すがなかなか見つからず、チビの自宅へ赴いてようやくコンタクトをとれた。出かける前、一応呼び出しの時のためにと思って自宅を聞き出しておいたのが幸いした。身だしなみが整えば自分から呼びに行きやすくなるからな。

 

「レイン、やっと帰ったのかい。もう野生のポケモンにやられたのかと思っていたよ」

「俺がそんなヘマするかよ。つまらん冗談を言うな」

「君の場合冗談じゃ済まないはずなんだけど……。ずいぶん恰好が変わって見違えたね。へー、こうしてみるとけっこうイケテルと思うよ。オシャレかい?」

「ハッ、それこそ冗談。変装に決まってるだろ。わざと地味な色選んでんだよ。町の奴に気づかれると面倒だからな。前がボロくて小汚い恰好だったしこれなら一目じゃ気づけないだろ。この町をうろつくときはこのサングラスもかけてる」

 

 黒の薄いタンクトップみたいなやつの上からグレーでファスナー式の上着を前を開けっ放しではだけさせたまま羽織っている。当然暑いのでこれも薄手。暑いなら脱げよと言えばその通りだが、まだ春先だし露出が多いのはイヤで何となく上着を羽織っていると落ち着く。大きめのポケットが付いていて遊ばせている片手を入れておけるし。

 

 ズボンもハーフは気持ち悪いのでロング。これもブラック。黒は日光を吸収するから白の方がいいけど、白より黒の方が好みだから仕方ない。

 

「サングラスだけなんで黄色なのさ。しかもその帽子なんなの?」

「黄色が好みなんだよ。ミスマッチで悪かったな。帽子はまぁ、特徴的なくせ毛を隠すために……」

「あぁ、あのアホ毛か」

「アホ毛言うな!」

 

 ちょっとクセではねてるだけだ!

 

「あっははー、そんなに気にすることないと思うけど……ってそういえば変装なんだったね。僕が言いたかったのはそのりんご……いや、りんごうさぎのデザインの方なんだけど」

「これ? かわいいだろ。人のファッションなんだからほっとけ! あのな、俺はこんなつまらんファッションショーをしにきたわけじゃない。単刀直入に聞くが、あの基地でいったい何があった?」

 

 さっきから妙につっかかる。こんなどうでもいい話ばかり続けてまるで話したくないことでもあるかのようだ。どうも嫌な予感がするのでばっさりと本題を切り出した。案の定チビは顔をしかめた。

 

「ッッ! もう見たのか。……実はあれは暴走族の仕業なんだ。ここの西の橋の向こうの奴らがこっちにやって来て、最近タマムシ周辺で暴れまわっているんだ」

 

 暴走族だと?……そういえばゲームでサイクリングにわんさかいたな。あれかぁ。嫌な予感が的中。やはり敵襲か。それで言いづらかったのだろう。

 

「サイクリングの奴らか」

「あれ、知ってるの? そいつらさ。元々そのサイクリングを主に縄張りにしている連中だったんだけどね。突然そことタマムシを結ぶ橋が閉じてしまった影響でこっちに締め出されているんだ。それで広いサイクリングを自由に走り回れなくなった腹いせにこっちで無茶苦茶しているんだ。おかげであの基地もやられて僕以外の2人は喧嘩でボコボコにされて病院行き、今は自宅療養。僕はバトルしたけど全く歯が立たずにポケモンはセンター行きだ。もうどうしようもないんだよ」

 

 まただ。また俺は虐げられるのか。やっと道が拓けたと思った矢先にこのザマか。

 

 ……いや、違うっ。俺は変わった。もう何物にも屈しない。どんな奴だろうがねじ伏せる。ここで一度後ろに引いたら俺は一生前に進めない。このゴミだめのような場所から抜け出すためには勝つしかない。勝って勝って勝ち続けて、俺が全ての頂点に立つまで勝ち続ける!!

 

「お前、それで諦めておめおめ引き下がれってのか? 認めねぇ、認められねぇよ。そいつらはお前らだけじゃねぇ。俺にも喧嘩を売ったんだ。俺の前に立ちはだかる奴は容赦なくぶっ倒す!! 俺は勝って未来を勝ち取る!」

「む、無理だよ。そりゃレインは強いし敵は討ってほしい。でもやっぱりダメだ。腕っぷしは強くってもポケモンがなきゃ勝ち目がない。やられちゃうよ!」

 

 こいつは臆病なのかと思ったが、頭が回る分慎重になるだけなのかもしれない。クリムガンとつるんでいたのも、そろばんを弾いた結果強い者に従って取り巻きになっていたのかと思いきや、今みたいなお人好しな発言をする。俺が暴走族にやられたら厄介者が消えるのに……変な奴。

 

「ふふ、ははははは!」

「ちょっ、何笑ってんのさ!? 笑い事じゃないよ!?」

 

 いきなり笑われたらそらそうなるわな。でも、今はこいつに救われた気分だ。

 

「いやなに、お前も変な奴だと思ってな」

「え、なんでそうなったの!? 何も変なこと言ってないよね?!」

「そうだな。とにかく俺は行くぜ。要は、ポケモンバトルでその暴走族を全員倒せばいいんだろ? いいぜいいぜ、喧嘩上等! 丁度いい経験値稼ぎになる。最初の戦闘にはもってこいだ。そうだろ、グレン?」

「ガウガッ!」

 

 呼びかけると息ぴったりでボールからグレンが出てきた。

 

「ガーディ! ゲットできたのっ!?」

 

 あえてその言葉には答えず代わりに指示を与えた。

 

「お前らは急いで暴走族の居場所とか情報を集めとけ。俺はまだやることがある。明日夕方に基地にいる。その時報告しろ。お前らもやられっぱなしで終われねぇだろ? 男見せろよ」

「あっ、ちょっと!」

 

 チビの返事を待たずにサングラスをかけて変装しデパートへ向かった。まずはきのみの取り寄せなどここでしかできないことをして必要なものを買い足しておく。随分と時間がかかり夜になってしまった。だがその間に面白いものも見られた。

 

 お嬢様トレーナーが買ってすぐにポケモンにタウリンを使っていたのだが、それがすでに100以上努力値が入っているのに有効だったのだ。試しにガーディにも使うと成功し、あっけなく金の力で難航していた努力値の割り振りは終わった。確かに考えてみればドーピングは100が限界というのは変な話だ。固定観念の罠だな。今では限界まで振れるのが当たり前という感覚になっていた。

 

 ◆

 

 次の日は技の習得に専念した。どうもわざマシンなしでも覚えること自体はできるらしい。俺がはっきり技のイメージを知っているおかげかどんどん覚えていった。予測だが、技教えの人とかが教えられることと同じ理屈なのだろう。思い出し屋も「全てのポケモンの覚える技を把握していて~」とか言っていたし、覚える技を分かっていれば可能なのかもしれない。わざマシンと違って時間はかかるが、少しずつなら技は確実に増やしていけそうだ。

 

 そうなるともう進化してもいいかもしれない。この世界では進化後でも進化前の技を覚えられたりするみたいな雰囲気もあるし。これならすぐにでも暴走族をとっちめてやれる。考えもまとまり、意気込んで基地で待つがなかなか3人組が来ない。おかしいと思い路地裏を探し回ると暴走族に3人組が囲まれていた。そっちから出向いてくるとは丁度いい。

 

「こんなところにいたのか。探したぞ? 張り切るのは結構だが、さすがに暴走族と直接コンタクトをとるのが早過ぎないか、お前ら?」

「「レイン!」」

「助かった~」

「ああん?」

「誰だてめえ、こいつらの知り合いか?」

 

 ノッポだけ気の抜けた声出してもう助かったつもりらしい。能天気というか、あいつの性格が出ているな。俺が負けると微塵も思っていないところだけは評価してやるよ。さて、この下っ端どもを、ちゃっちゃとこらしめてやるか。

 

「悪いがこっちもいい加減好き放題されてイライラしてんだよ。お前ら全員ぶちのめしてやるから覚悟しな」

「ぶちのめすだぁ? へッ、笑わせやがる。お前みたいなゴフッ!?」

「キンジ! てめえ……! いきなり何しやがる!」

 

 俺の文字通りの先制パンチで1人はノックアウト。これであと3人。

 

「なんだ? 殴ります、とでも言ってから殴った方が良かったのか? チンピラ相手に、わざわざしゃべり終わるのを待つ気なんざねえんだよ。バーカ!」

「こいつっ! ぶっ殺す!……おい、やるぞ!」

 

 残りは3人。向こうも怒り任せにいきなりポケモンを出してきたな。うまく怒らせることができた。グレンは相手がポケモンを出したのを見て何も言わずとも自ら出てきてくれた。ありがたくその間にアナライズを使った。相手はエビワラー、ドガース、ウツドン。能力は壊滅だな。かなり低い。レベルは25程あるが敵じゃない。3人相手でも勝てる。ウツドン、エビワラーは防御、ドガースは特防がかなり薄い。“いかく”で攻撃を下げた後、すぐに指示を出した。

 

「エビワラー5、ウツドン3、2」

「は? あいつ何をぶつぶつ言ってんだ」

「レインッ、技の指示を出すんだ! じゃないとポケモンは戦えないよ!」

 

 チビは俺がポケモンをゲットしたてなのを知っているから、バトルの仕方をわかってないと思ったらしい。それを聞いて暴走族は頭に血が上っていたのが一変、笑い転げだした。

 

「おいおい、こいつ初心者かよ。そんなこともわかんねえとは、恐れ入ったぜ」

「典型的な喧嘩はつえーがバトルはからっきしなタイプだぜ、これは。くひひ」

「それはどうかなぁ……」

 

 笑いたいのはこっちだ。もうグレンは攻撃準備に入っているのにこいつらは指示も出さずに笑っているのだから。それに……ここでは喧嘩は強いが~、みたいな風潮はあるのだな。ゲームで暴走族を見たらよく思ったが、この場合も言った本人に強烈なブーメランになっている。

 

「なにィ? ……な、こいつ攻撃してきたぞ!?」

 

 エビワラーは“おにび”を受けてやけど状態。ウツドンは接近しながら“ひのこ”と“かえんぐるま”の連続攻撃で倒れた。波状攻撃にすることで“ひのこ”を囮にして“かえんぐるま”を当てやすくする狙いだったんだが、そこまでする必要はなかったか。相手のレベルが低過ぎる。色んな意味で。

 

「ドガース1」

「チッ、れいとうパンチだ」

「たいあたりだ!」

 

 愚かだな。エビワラーはやけどで攻撃力半減の上、“れいとうパンチ”はいまひとつ。ドガ―スは“かえんほうしゃ”の中に突っ込む形になってしまいまともに攻撃が届いてない。

 

「どうなってる、なんで効いてねえんだよ!」

「喧嘩だけなのはどっちの方なんだろうな? エビワラー2」

「てめえ、言わせておけば!」

 

 ウツドン使いは2体目のウツドンを出し、エビワラーは“かえんぐるま”でやけどのダメージと合わせて倒れ次のサワムラーに交代したところで、ドガース使いがとんでもない指示を出した。

 

「こうなりゃ道連れだ、“じばく”しろ!」

 

 ヤバい! “みがわり”は発動に時間が掛かるし“まもる”はまだ時間の都合で習得できていない。かくなる上は……。

 

「あいつを盾にしろ!」

「てめっ、俺のウツドンの背後に隠れる気か!」

 

 だが、暴走族が俺の言葉に気を取られている間に指示が遅れ、ウツドンはされるがまま盾になり、結果グレンのダメージはかなり減って暴走族の手持ち3体のみが倒れた。とはいえダメージは決して小さくはない。特性の“いかく”がなければやられていた。このまま後続が来ると少々厳しいか。

 

「おいおい、これじゃ文字通りじばくだな。このまま手持ちを全員倒して、身ぐるみ全て剥いでやる。どうやらこいつの出番はなさそうだしな」

 

 空のモンスターボールを握りながら、まだ余裕があるという空気を装った。これは賭けだったが暴走族は簡単に逃げ腰になった。

 

「げっ、あいつまだ強いのがあんのかよ。もしかしてヤベーんじゃねえのか?」

「元はと言えばてめえが考えなしにじばくしたせいだろうがダホがっ!」

「るっせえ、てめーらがよえーからやったんだろうがっ!」

 

 とうとう仲間割れまでし始めたので遠慮なく畳みかけた。

 

「グレン、あいつらを消し炭にしてやれ」

「ガアッッ!」

「やべえ、逃げろっ!」

 

 これ以上やってパンチで伸びているこの男みたいになりたくはなかったらしくさっさと逃げて行きやがった。仲間を置き去りにして。

 

「すっげえぜ、レインお前すげえよ。3人がかりのあいつらに勝つなんてよ。俺らのヒーローだ」

「なあ、今追っかけたらあいつらも倒せるんじゃねえの? 思いっきり仕返ししてやろうぜ!」

「むやみに逃げる敵を追いつめれば手痛いしっぺ返しをくらう。窮鼠は猫をも嚙むというからな。それにもう手持ちはないしグレン、このガーディも限界だ」

「え、でもさっきはよぉ、まだ何かあるみたいなことを」

「あれはハッタリ。正直限界だった。こんな道半ばでこいつに無理させるわけにもいかないし」

「あ、あれがハッタリだったとは、恐れ入ったよ。まさかここまですんごいなんて、もうなんか、胸がスカッとしたよ」

 

 グレンも俺の意図を汲んで、ハッタリに合わせてまだまだ戦う余裕があるというポーズを見せてくれた。おかげでなんとか凌げたが、次も上手くいく保証はない。4人以上が相手になったら対処しきれないだろうしな。もう悠長なことはしていられない。進化する必要があるか。

 

「ガウ」

「おつかれさん、よくやってくれた。攻撃も全部ばっちりだった。これで回復しろ」

 

 グレンを労い、おいしいみずを渡しながら今の戦闘を振り返った。俺の考えた、技名を言わず番号で伝える方法。相手に悟られず、かつ普通より早く連続で伝えられる。複数相手の戦闘でも指示がしやすい。結果、やはり効果はてきめんだったな。グレンはしっかり指示に応えてくれたし、連携に問題はなかった。恐らく今後も使っていけるはずだ。

 

 これはまだドーピングが限界まで使用できるとわかる前に野生ポケモンと戦いまくっていた時。ついでに連携なども練習する際に早く指示を伝える方法を考えて思いついた。番号はアナライズしたときイメージすると技に数字を割り振ったり順番を任意に変更できたりして、それが番号を使う大きなきっかけとなった。

 

 普通は手持ち6体の常にレパートリーの変わり続ける技の番号を1人で覚えきるのは難しい。だが、分析能力を使えば見ながら言えるので簡単にできる。

 

 結構意表も突けるだろうし悪くない。強いて言えば練習に時間がかかるのがネックか。

 

「おいしい?」

「ガウ!」

 

 頭を撫でながらグレンにおいしいみずをあげた。同時にHPを見ていて気づいたが経験値が入ってレベルが上がっている。格上補正はつくみたいだ。もしかすると雑魚狩りしていた時は格下補正的なものもあったのかもなあ。けどたったレベル5の差でこれだけ補正がつくなら一気にレベル上げができる。進化して暴走族を狩って一気にレベルを上げてやるか。回復し終わったグレンにその考えを言うと一も二もなく頷いてくれた。さっきの戦闘でグレンも進化の必要性を感じたようだ。

 

「進化すればもう戻ることはできない。それでもいいな?」

「ガウッ」

 

 再度確認すると「当たり前だっ」とこづかれた。愚問だったな。こいつも目指すのは頂点のみ。ためらうわけがなかったか。バッグから“ほのおのいし”を取り出し、グレンに与えた。石は一応デパートで取り寄せを待っている間に全種買っていた。

 

「俺、進化なんて初めて見るぜ」

「ウインディは見たことないなあ」

 

 グレンの体を白い輝きが包み込む。

 

 テケテケン! テッテッテッテッ キュイーン テンテンテン …… キュピーン ピコピコン テッテッテー テケテテッテテー

 

 ガーディは ウインディに 進化した ▽

 

 神聖な進化の儀式がイメージを文字に起こした瞬間急に安っぽくなったな。

 

 ……気をとりなおして、どの程度能力が上がったか見ておくか。

 

 アナライズ!

 

 グレン Lv22 むじゃき

 実 77-74-45-53-39-73

 技 1かえんほうしゃ 

   2かえんぐるま 

   3ひのこ 

   4みがわり 

   5おにび 

     ………… 

    しんそく

 

 よく見ると技も増えているな。最後にある技……“しんそく”はウインディの時にしか習得できなかったはずだ。今使えるということは進化によって覚えるものなのかもしれないな。ゲームではレベルが合ってないと覚えないが、こっちでは必ず覚えるのかも。試し撃ちしとくか。

 

「新たに技を覚えているな。試しにあの男の前までしんそく」

 

 殴られてまだ伸びている暴走族を指さしながら言うと、一瞬でその場に移動した。本当に一瞬だ。これは相当強いな。けどおそらく……。

 

「次はしんそくからかえんぐるま」

 

 続けて指示を出すと2つ目の前に長いラグがあった。やっぱりそうか。努力値振りの際にわかったことだが、先制技など特定の技には他の技よりも目立つほど大きな技後硬直が存在する場合がある。

 

 ゲームにはなかった要素なので実際に実験する中でなんとなくにしかわからないが大まかな傾向はこうだ。

 

 まず強力な技ほど時間が必要で威力の低い技の方が小回りが効く。そして先制技は高速で移動できる代償なのか技後硬直は大きい。

 

 そして技の完了は遠距離技ほど遅い。対象に届くのに時間がかかるから当たり前だ。逆に自分に使う技や補助技などは相手に攻撃するよりも速く決まる。

 

 だが“みがわり”はそうでもなかった。この法則だと自分に使うから速そうに思えたが格別速くはなかった。法則には付き物の例外ってやつだ。相手の補助技より速く使えれば凄かったのになぁ。世の中簡単にはいかないようになってるよなぁ。世知辛い。

 

 力のある技にはリスクが伴う。安易に強い技だけに頼ることはできない。

 

「ヴォウッ!」

「!?」

 

 い、今“しんそく”してすぐに“かえんほうしゃ”を使ったぞ? どうやったんだ?

 

 俺が1人で考え込んでいた間にもグレンは技の試行錯誤をしていたらしい。よくこんなこと自力で見つけたな。

 

 詳しく調べると足は動かないが逆に足を使わない遠距離技などはすぐに使えるらしい。これは強い。強過ぎる。え、リスク? 安易に頼れない? 今時強いのは理不尽に強いからねぇ。世の中力こそ全て!(手のひら返し)

 

 すっかり実験にとりつかれていると3人組からは尊敬の眼差しを向けられて感心された。こいつらの存在なんてすっかり忘れて技の考察に夢中になっていた。そういえばと思い返し、ふと見ると伸びていた暴走族はいなくなっていた。目が覚めていたようだ。まあどうでもいいか。

 




言いたいことは知っています
数字は分かりにくいんでしょ?
正直書いてる本人が1番めんどくさいんでよく分かります
どの技が何番とかの把握もしんどい
まぁ相手に悟られにくくするための戦術なんで当然ですが

ここは賛否あるでしょうが先に明言します、これは変えない譲れない
自分はこう考えます、技名を声高に宣言するのは敗退行為以外の何者でもないと
なので技名唱えること自体理解しがたいです
フリー勢みたいな人達が気にしないのは別にいいですけどね

一応理由をつけてレイン以外の人はできないことにしてますが別に訓練すればできるでしょうし、やらない理由も本当はないです
実際にみんな数字しか言わなくなったらカオス過ぎるのでそこまではしませんけどね


あと先制技に硬直時間とか身代わりは発動が遅いとかはバランス調整です
補助技の出が早いのは攻撃より動作が簡単になるのでリアルなら速そうと思ったからです

バランス調整に関してはちょっと考えればわかるはずです

例えば先制技
でんこうせっかが無制限に使えたら相手は一生攻撃当てれません
どく盛ってでんこうせっか連打で逃げれば勝ちが確定します

アニメとかでなぜしないかは不明ですが、交換が全て無償降臨なのに苦手タイプにつっぱする変人さんしかいないので考えるだけ無駄です


身代わりはもっとヤバいですね

実は調整なしで一度リーグまで本編を書いてしまいました
結論から言うとレインさんはみがあくバトンをする機械になりました、むしろこれをしないのが敗退行為のレベルなのでどうしても身代わりバトンに収束する
もうタイトルがアナトレじゃなくてみがあくバトンでいいレベル
当然闇に葬りましたが
なのでこの変更はやむなしです

身代わりの仕様については、分かるか知りませんがロックマンエグゼのバリア100とかが攻撃を肩代わりする感じ
変更理由は人形が攻撃を肩代わりするのは無理があるからです

まず本体と人形が一緒にいて両方に全体技(じしんとか)が当たらないのはおかしい
さらにいうとゲームじゃないなら身代わりでなく後ろから本体を狙えばいい
下手すると眠り粉とか流されて飛んできて本体被弾までありえます
よ、弱すぎ……よって変更します

長くなりましたが要するに設定には理由があります、という話


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5.カチコミ 決闘 大暴れ

前話を分割しました
分割は文字数調整のためです
文量が多過ぎるようなのでなるべく短くしようと思います
本編の手直しは多少ありますが基本そのままです
補足は追加しています



 下っ端4人組を倒した日からは暴走族の下っ端軍団との小競り合いが続いた。進化したグレンが負けるわけもなく全て鎧袖一触で倒した。その間着々と新技の修練も続けていた。

 

 下っ端はもう俺を見れば逃げ出すようになった頃。暴走族のボスが西の郊外で俺を待ち構えているという話を無謀にも俺に挑んできた下っ端から聞いた。

 

 基地に戻って話せば3人組はボスに目をつけられたと知って顔面蒼白。でも自分の考えを改めるつもりはない。

 

「まさか、いくらなんでも敵のド真ん中に飛び込むような真似は……」

「俺が臆して行かないとでも?」

「ですよねー」

 

 ◆

 

 秘密基地で3人組には引き留められたがそれを振り切り、敢然と敵の巣の中に飛び込んでいった。やつらの根城だけあって暴走族がうじゃうじゃいるな。真ん中でふんぞり返って座っているのが例のボスか。さすがに全員相手にするのは面倒だな。

 

「てめぇか、こいつらをしきっている親玉は」

「くく、まさかそっちから出向いてくるとはな。探す手間が省けたぜ。うちのもんが世話になったなぁ」

 

 探す手間? こいつらあの基地が根城であることを知らないのか。本当に無差別に何も考えず暴れていたのか。

 

「俺はやられた借りはきっちり返さないと気が済まねぇタチでな。お前にも落とし前つけさせてもらうぜ。覚悟しろよ?」

「ずいぶんな大口を叩くじゃねぇか。自分が誰にものを言っているのか理解してないらしいな。こいつらを倒したぐらいで粋がるなよ。俺はこのカントーの西半分を締めている。つまりここらで敵なしってわけだ。わかるかガキんちょ」

「だからどうした? 俺に勝ったことはないだろうが。肩書なんざ、バトルにおいて何の意味もない。必要なのは腕っぷしの強さだけ。それ以外は不要だ」

「はっはっは、こいつはいい! 久々に骨のある奴が出てきたな。てめぇが口先だけじゃないことを祈ってるぜ。楽しませてくれよ」

 

 腰を上げてボールを握ったのでこっちもグレンのボールに手をかけた。すると脇から下っ端が出てきた。

 

「おれらも助太刀します」

「ああ? 余計な真似すんじゃねえ! こんなガキ1人、俺だけで十分だ。それともお前、この俺が負けると思ってんのか? ああ?」

「す、すんませんゴウゾウさん」

 

 意外だな。これまではなりふり構わず複数人で向かってくるのが当たり前だったのに。

 

「ほう、てめぇらにもプライドはあったのか。手下の前なんで見栄張ってんじゃねぇのか? 別にこっちは何人相手でも構わないぜ?」

 

 本当は複数人だと困るので、絶対そうさせないためにわざと煽っておいた。負けそうになったら次々加勢とか面倒だからな。言われるとムキになるタイプに見えるし、こういえば意地になるはずだ。

 

「敵陣のド真ん中に手ぶらで乗り込んできた奴に卑怯な真似はできねぇよ。そっちこそ、あんまり大口を叩き過ぎると後で恥をかくぞ」

「そうか、だったら別に構わねぇよ。サシで決闘といこうか。真っ向から叩き潰して、バトルのセオリーを教えてやるよ。まずは頼んだ、グレン」

「ぬかせぃ! 出てこいパルシェン」

 

 アナライズ!

 

 グレン Lv24 いかく

 実 83-80-48-58-42-80

 技 1かえんほうしゃ 

   2かえんぐるま 

   3しんそく 

   4ひのこ 

   5まもる     

   6みがわり   

   7おにび 

 

 

 パルシェン Lv30 シェルアーマー

 実 76-80-140-61-34-52 

 

 極端だな。防御と特防の開きが約4倍。これは攻めやすい。“からをやぶる”や“スキルリンク”も使わないくせにパルシェンなんか使ったのが運のツキだな。相手は相性が良いと思ってか笑みを浮かべている。ちっとばかし現実を教えてやるか。

 

「ウインディ……相手じゃねぇな。チェンジするか?」

「不要だな。その程度のレベル相手にわざわざ変える理由もない」

「なんだと? お前、相性がわからないわけじゃあるまい。どういうつもりだ?」

「別に。強いて言えばハンデみたいなもんだよ。相性だけじゃちょいと足りないかもしれないが」

 

 勿論ウソだ。だが真っ正直に手持ちは1体だと教えるにはバカのやること。相手を挑発しとくのが正解だ。するとその表情から笑みが消え、怒りで顔を真っ赤にした。

 

「なめるな! すぐに後悔させてやらぁ! オーロラビーム!」

「1,4」

 

 それだけの指示でグレンは淀みなく動く。“かえんほうしゃ”が“オーロラビーム”を破ってパルシェンを直撃し、“ひのこ”ですばやく追い打ちをかけた。特攻はこっちが上で威力も上だから当然だ。

 

「なっ、バカな!」

「7、1」

 

 威力で押し負けて驚いている隙に“おにび”を当ててダメージ軽減を狙った。補助技だから出が速い。ここはゆっくり時間をかけてもダメージは最小限にしておきたい。あっちは何体いるかわからないからだ。

 

 その上やけどになれば相手は長期戦を嫌って強引な攻めをする可能性も出てくる。思った通りゴウゾウは“おにび”を受けて慌てて“バブルこうせん”を使うが、先読みして指示していた“かえんほうしゃ”と相打ちになった。

 

「聞いていた通り妙だな。あのウインディが勝手に技を出しているのか?」

「考え事とは余裕だな。6」

「今はまずあいつを倒すのが先決か……つららばりぃ!」

「2、蹴散らせ」

 

 さりげなく余裕のあるうちに“みがわり”を張らせた後、“つららばり”は“いかく”で威力が下がっているので“かえんぐるま”で相殺した。あとはじっくり戦わせてもらおうか。攻撃を受けないように立ち回れば確実に勝てる。遠距離技は相殺しやすい。やけどしているので膠着すれば焦るのは相手の方だ。これで痺れを切らせて強引に接近戦に来れば……。

 

「こうなりゃたきのぼり!」

「1」

 

 ニッコリ。思った通りに動いてきて思わず笑ってしまった。真正面から“かえんほうしゃ”が直撃して戦闘不能になった。無傷の上“みがわり”を残している。

 

「ありえねぇ! 鉄壁のパルシェンがあっさりやられただと!」

「だから言っただろ、バトルのセオリーを教えてやるってさぁ。そいつはかえんぐるま・とっしんなどの接近技には滅法強いが、かえんほうしゃなどの遠距離技には極端に弱い。だから直接のダメージには全て遠距離技を使ったのさ。仮にもトレーナーなら、相手はともかく自分のポケモンの得手不得手ぐらいわかってないと勝負にならねぇな。やる気あるのか?」

 

 わざと嫌味ったらしく余裕ぶって言った。バトルに集中できないように。

 

「なっ、バカ言え! そんなことあるわけ……お前、全ポケモンの能力の傾向を覚えてるってのか? そんなこと四天王クラスでも……」

「さっさと次を出せよ。まさかこれで終わりだったか?」

「なわけねぇだろうが! 次が俺の最強の相棒だぜ! 出てこいドードリオ!」

 

 空元気なのが丸わかり。それでも今の戦闘不能でくしゃっと潰れないだけ下っ端よりはマシか。もう少し楽しませろよ?

 

「ケケケケッコー」

「出た、リーダーのドードリオッ! あのドードリオの速さに勝てる奴なんかいねえ!」

 

 そこまでいうなら素早さは見ておくか。

 

 アナライズ!

 

 ドードリオ Lv32 せっかち

 実 92-88-50-55-54-97

 

「Lv32でS97……確かに速い。グレンより1枚上手か。これは先に出てきたのがパルシェンで助かった」

 

 つい感心して声に出してしまっていたようで、これを聞いて相手はギョッとして顔色を変えた。

 

「そんなバカな! なんでレベルがわかるんだ?! さっきから言うこと為すこと普通じゃない。くっ、こいつらがてこずるわけか……だ、だが、それがわかったところで自分の敗北を知るのが早まっただけだ」

「敵を知り己を知れば百戦危うからず。わかってれば対策は容易いってことを教えてやろう。いや、この場合すでに勝敗は決している……俺の勝ちでな」

 

 “みがわり”1枚あるだけで圧倒的に有利。その上こいつはそのことに気づいてすらいない。布石でもう結果は見えている。

 

「虚勢を張ってもドードリオの速さには追いつけねぇ! 最速のみだれづきだ!」

「引きつけろ」

「!」

 

 グレンはこの一言でわかってくれたみたいだな。この短期間で俺とグレンの息はぴったり合うようになった。もう最高のコンビだと自負できる。

 

「はっ、引きつけるだぁ? よけれねぇだけだろっ!」

「今!」

 

 スッとグレンが消えた。“しんそく”による緊急回避。これなら素早さの差は関係ない。引き付けてから相手と距離を取ればすぐに反撃されず隙を見せにくい。初見ならばなおさらだ。相手は標的を見失い動揺した一瞬が命取りとなる。

 

「1、2」

「消えた! 後ろか! なんとかドリルくちばしで対抗しろ! とにかく当ててくれっ! そうすれば……」

 

 そんなに当てたいなら望み通り、素直に受けてやるぜ。まずは背後から無防備な敵に“かえんほうしゃ”が決まる。さらに“しんそく”の反動が終わって、グレンが動いて“かえんぐるま”で畳みかけた。後ろに振り返ったドードリオは“ドリルくちばし”を放って応戦してくるが構わずに突っ込ませた。

 

「よっし! 今度はクリーンヒットしたか! あいつの最高威力の技だ。もうまともに立ち上がれ……なにっ?!」

 

 ここまで思い通りだと逆に怖くなる。もちろんグレンは“みがわり”があるので攻撃を受けたところで倒れるようなことはない。そのまま“かえんぐるま”をカウンター気味に当てた。……よし、圏内に入ったな。これで倒した。

 

「トドメ、3」

 

 バンッッ!

 

 “しんそく”を受け、一瞬でドードリオは吹き飛んで戦闘不能になった。ゴウゾウは攻撃を当てることで頭がいっぱいで、案の定耐えられた場合どうするかなど微塵も考えてなかったな。指示がノロい、ノロ過ぎる。もっと指示の速さを追及して、さらに先を見越した技選択をしなければいけない。ただ強い技を使わせるだけならトレーナーは必要ない。

 

 この“みがわり”と“しんそく”を絡めた畳みかけるような連撃こそグレンの真骨頂。実戦においては相手を戦闘不能にする最後の詰めが最も難しい。相手が死力を尽くしてくるからだ。だがグレンには“しんそく”がある。回避不能の高威力の先制技は確定圏内に入った敵を容赦なく沈める。速いのでガードも難しいから乱数も低くなりにくい。

 

 だからこそ特攻でなく攻撃力を高くすることには大きな意味がある。しんそくはもはやグレンのメインウエポンと言っていいだろう。攻防一体の強力な技だ。

 

「バトルは強い技を何も考えずに使うだけで勝てる程簡単じゃない。結局お前は最初から最後まで俺の手の平の上で踊らされてたんだよ。お前程度の腕じゃ、100回やっても俺には勝てないだろうな。格が違う」

「あ、ありえねぇ。こんなこと……ありえるわけが……」

 

 膝をついたか。手持ちはやはり2体。物の本にはトレーナーの技量を測る目安の1つに手持ちの数を挙げていた。お金や労力などの理由から強くて稼げるトレーナーしかポケモンは育てられない。たくさん育てられるのは強者の証。普通は2体、多くて3体程度らしい。こいつはよく育てていたがやはりこのレベルで3体揃えることはできなかったか。

 

 まぁこの勝負、実際のところは読み勝ったというより技を上手く活用して勝てた部分の方が大きい。だが言うだけならタダなんだ。こう言っておけば二度と俺に勝負を挑もうなんて気は起こさないだろう。

 

「そんな、まさかゴウゾウさんが負けた? じょ、冗談だろ!?」

「くそっ、こうなりゃせめておれ達がっ」

「お前らが……なんなんだ? やる気か、下っ端共? 面白い、相手になってやるぜ? こっちはようやく体があったまってきたところだ」

「「ひぃぃーー」」

 

 俺の言葉でビビッて後ずさりしやがった。こっちは見た目14,5に対してこいつら高校生ぐらいの年なのに、なっさけねぇな。

 

「やめねえか、お前らっ!」

「リーダーッ」

 

 ゴウゾウが立ち上がって下っ端を一喝した。まだそんな元気があったか。

 

「おい、お前」

「なんだ? まさかまだやられたりねぇ…」

「完敗だ。悔しいがお前は本物。俺もトレーナーの端くれだ、それぐらいわかる。そして今回の件、迷惑をかけたことは詫びる。この通りだ」

 

 難癖つけて今度はリアルファイトでもする気かと思ったら、拍子抜けするぐらい潔い奴だな。しかも手下の眼前にも関わらず頭を下げるこのゴウゾウという男、メンツもあろうにここまでするとは見上げた精神だ。だが……。

 

「当然だな。それで、どう詫びてくれるんだ?」

 

 褒めたりはしない。付け入られても面倒だし、こっちもかなり頭にきているからな。

 

「この詫びは必ずする。だがその前に1つだけ、どうしてもお前にしか頼めないことがある。頼む! 男ゴウゾウ、一生の頼みだ! 引き受けてくれ!!」

 

 そういうことか。さすがに潔いにも限度があろうな。頼み方には不満はないが、さすがに虫の良過ぎる話だ。相手にならないな。

 

「俺は今やるべきことがある。しかもお前らのおかげで遅れに遅れている。これ以上お前らの面倒事に俺が付き合うと本気で思ってんのか?」

「そこをなんとか頼むっ! 俺達には後がねぇ。どうしても俺より遥かに強い凄腕のトレーナーが必要なんだ。あんたは単身ここに乗り込むような度胸もある。もう他に当てがねぇんだよ。俺達にできることならできる限りの礼はする。だからどうかっ! 男ゴウゾウ、一生の頼みだっ!!」

 

 一生の頼みだか何だかはどうでもいいが、凄腕のトレーナーが必要というのは気になるな。どういう訳か探ってみるか。

 

「なぜ凄腕が必要なんだ? 倒したい敵とかライバルでもいるのか?」

 

 ありがちなところだとこんな内容かと思って予想してみるがどうなんだ?

 

「ああ、倒してもらいたい奴がいる。別にカタキってわけじゃないが……その相手は橋の番人。とんでもなく強ぇじいさんだ」

 

 急にシャレてる二つ名が出てきたな。何モンだ?

 

 話を聞くと、こいつらは橋の管理をしているじいさんと仲が悪く、そいつに締め出されてこっちに流れてきたらしい。そういえばどっかでそんな話は聞いたな。

 

 そのじいさんはバトル好きで、自分に勝てる骨のある奴がいれば通すと言っているらしい。だがゴウゾウは何度も挑んだ結果手持ち6体のうち1体しか倒せずお手上げで、おそらく暴走族全員で束になっても勝てないと悟ったらしい。そこさえ開けば向こうに戻れて全て解決するらしいが、問題はそこじゃない。

 

「6体だと? 間違いないのか?」

「ああ。あのじいさん昔は名の通ったトレーナーでな。手持ちが何かまではわからねぇが、最初はユンゲラーが来て、次がゴローンってとこまでは見たな」

 

 おいマジかよ。これは面白い。利用できるかもしれない。上手くいけばグレンを一気に強くしつつこいつらにも貸しが作れる。悪くない。そんな内心はおくびにも出さず、無表情を貫いた。

 

「チッ、めんどくせーな。6体も相手させる気か。それによく考えればお前らが口約束を反故にしない保証もない。論外だな。他を当たれ」

「ま、待て! 俺は約束に関しては絶対守る。俺を信じてくれ」

 

 両者無言のまま時間が過ぎる。こいつの人柄はもうわかっている。バトルだけでも十分に伝わってきた。ただ言質を取りたかっただけ。

 

「ふぅ。まぁ、お前は筋の通った性格をしているのはバトルでも感じた。そういう奴はキライじゃない。そこまで言われて断れば、恥をかくのは俺の方か」

「それじゃ!」

「手を貸してやるよ。今までのことは水に流してな」

 

 仕方なくという演出が効いたのか、えらく興奮してブンブン握手して手を振られた。……こんなバカみたいな三文芝居は二度としたくない。

 

「恩に着る!」

「余計な言葉はいい。それより今は時間が惜しい。さっそくだがその番人とやらの詳細を話せ」

 

 ダラダラしても仕方ないのでさっさと片を付けようと思ったが期待外れの答えが返ってきた。

 

「詳細つっても、今言った通り使うポケモンは6匹ってことぐらいしかわかんねぇよ」

「はぁ? 戦った相手の強さとか、せめてレベルぐらいわかるだろ」

「無茶言うな! あんたじゃあるめーしわかるかよっ」

「図鑑とか使えばわからないのか?」

「そんな機能あったらブリーダーはいらねぇよ。あんた、いくら何でもぶっ飛び過ぎだ。ちょっと感性がおかしくないか。本当に何者なんだ? エリートトレーナーだったりするのか? 見ねぇ顔だが」

「別に……ただの孤児だ。ずっと路地裏で暮らしていた。だから今は何者でもない。まさか普通のトレーナーがこんなに無能だとは、ここのトレーナーのレベルが知れるな」

「あんた、かなりの毒舌だな……」

 

 図鑑は本当に図鑑としての役割しかないらしい。不便だな。そう言うとまた変なもの見るような目で見られたが。アニメとかならそういうのもついていた気がするが、気のせいか?

 

 ダイパ辺りのアニメで図鑑を見ながらムックルを厳選するトレーナーがいた気がしたんだがなぁ。使えないな、とか言いながらポケモン逃がす奴がたしかいたようないなかったような。

 

 だが図鑑に便利機能なんてないのが当たり前のこいつらからすると変らしいな。そして話に出てきたこの世界のブリーダー……そっちこそ何モンだ? アナライズとかなしで分かるならその方がすごくないか。本気でそう思った。

 

「まぁとにかく、お前が1体倒したなら30代後半ぐらいか」

「行けるか?」

「さすがにグレンだけで6連戦は無理だな」

 

 “みがわり”を張るにも限度があるからな。手持ちを増やすか? でも食費がなあ。一度捕まえて用が済んだらポイもなんかグレンからの信頼が落ちそうだし、露骨に道具扱いするのはさすがに手段を選ばないにも限度があると思った。もちろんいざとなればやるがせめて最後の手段にしたい。

 

「え、部下の報告だと手持ちはまだいたんじゃ……」

「それはまぁハッタリだ。俺はこいつだけしかいない」

「ガーウ」

 

 グレンを撫でながら言うとゴウゾウは呆れて笑っていた。

 

「手持ちたった1匹で俺らに囲まれてあそこまで啖呵切れるなんてな。頭のネジ飛んでるぜ、あんた。やっべぇよ」

 

 確かにこいつらからしたら頭がおかしいのだろうな。単に勝算があっただけなんだが。

 

「褒め言葉として受け取っておく。おい、バトル中だけ手持ちを借りることはできるか。手数さえあれば戦術でカバーできる。あと、現在グレンの習得中の技を完成させる必要もあるから少し時間もほしい」

「いけるのか! だが簡単には言うことを聞かないぞ、他人のポケモンはな。ポケモンは実力があるトレーナーしか認めないからな」

「なんだ、逆に実力を見せればすぐに言うこと聞くのか。バッジとか要らないなら楽だな。俺の実力を示せばいいんだろ? 容易いことだ。これならなんとかなるか。よし、あと1週間にしよう。その後決戦だ」

 

 あっけにとられる暴走族をおいて、俺はすぐ準備にとりかかった。番人とやら、俺のためにたっぷりと経験値を稼がせてくれよ?

 




タイトルからしてレインが完全にあれな感じですが気にしないでください
他に思いつきませんでした(限界)


後からの編集でアナライズの技の番号付けに統一性を持たせたのでここで補足します

1~4は覚える数が4つ縛りで覚えさせたいもの。だいたいメインサブ補助技の順
5,6はまもみがを必ず全員に覚えさせるのでそれで固定
7~10は残りを採用する優先度の高いものから順に配置
技の番号は基本10ぐらいまでにする予定です
ただし、使わない技は忘れるわけではないので使うことはできます
戦闘中は番号付きしか使わないというだけです
10までに限定するのはポケモンの方が覚える限界が10ぐらいだと思うからです
リスト長いとウザイのもむろんそうですが

技の入れ替えも変更がなるだけ最小限に収まるようにしました
番号はコロコロ変わらないということですね
例えばしんそくならずっと3番で固定、ひのこは何かとチェンジする形で後ろに移っていくという感じです


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6.昨日の敵は今日の友って

「あの暴走族と共闘だって!?」

「なんやかんやあってな。ま、あいつらは手懐けておいた方が悪さもされねえと思ってな」

「なんやかんやって……いったい向こうで何があったんだ……」

「暴走族って手懐けられたのか。ほえー」

 

 こいつはいつも間抜け面だな。クリムガン、ビビリ、アホ面でよかったかもしれない。……さすがにひどいか。すでにクリムガン呼ばわりしておいてあれだが。

 

「そういうわけだ。お前らのことも言っといたから、もう二度とあんな目には合わねぇだろうよ。俺はバトルのために準備することがあるからしばらくは顔を出さない。向こうで野宿する」

「はえー」

 

 3人共目が点になっているな。ちょっと面白い。だがのんびりしてらんねぇ。速く完成させないとな……ほのおタイプ最強の技、“オーバーヒート”を。

 

 ◆

 

「エビワラーリベンジ」

「ばっ、バカな! ドードリオが相性のいいエビワラーに負けただと! あんた、やっぱりタダモンじゃねぇ」

 

 グレンが練習する傍らで暴走族に借りるポケモンの調整もしていた。言うことを聞かせるため俺がバトルで使って格上を倒し、順調に信頼を獲得していった。ちなみに今使ったのは最初の下っ端との戦闘の際に相手だった3体のうちの1体。対戦相手はゴウゾウだ。

 

「よし、よくやった。上手くリベンジを使えてたな。やればできるじゃないか」

「ッビー!」

「おれより手懐けてる……」

「もしかしてよぉ、レインは手持ちが同じならチャンピオンにも勝てるんじゃねぇか?」

 

 ゴウゾウがしょうもないことを聞いてきた。

 

「はぁ? バカかお前」

「だよな! さ、さすがにそれは」

 

 ねぇよな、ははっ、と続けようとしたところで俺がさえぎってしまった。

 

「当たり前だろ。ワタルなんてレベルに任せてゴリ押しで勝っているだけだろ? 同じ戦力ならトレーナーの差で俺の圧勝だ」

 

 場の空気が凍った。

 

 ◆

 

 いよいよ決戦の日、あっというまだったな。

 

「用意はいいな」

「へい、こいつらです。レインさん、頼みますよ」

 

 下っ端連中からモンスターボールを受け取り、言葉数少なく橋に向かった。橋にはいかにも頑固じじいという風貌のいかついじいさんがいた。あれが番人か。イメージ通りだな。

 

「またお前らか。前のバトルで諦めたと思うたが案外しつこいのう。少しは腕を上げて来たか?」

「残念ながら戦うのは俺じゃねぇ。こっちで助っ人を用意した。さすがにあんたには俺じゃ勝てねぇからな」

「助っ人じゃと? チンピラのお前に頼る相手なぞおったのか」

 

 挑発だな。ゴウゾウは意外とプライドが高くて挑発には乗りやすい。ペースを握られないために自ら前に出た。

 

「あんたの相手は俺だ、橋の番人」

「お前が? ゴウゾウよりもちっこいのが出てくるとはな。どうやら今回もつまらん戦いになりそうじゃ」

「御託はいい。バトルして俺が勝てば橋を開放しろ。それだけだ。実力はすぐにわかること、今ごちゃごちゃと並びたてることじゃない。違うか?」

「口先は一人前だな。じゃが橋の管理はわしが一任されとる以上別に開放する必要はないんじゃがのう」

 

 この言葉に焦ってゴウゾウが乗せられてしまった。

 

「なっ、くそじじい、話が違うぞ!」

 

 わざわざペースを握るために俺がしゃべっているのにこれじゃ意味ないだろ。ゴウゾウには暗に黙るように言った。

 

「落ち着けゴウゾウ。こっからは俺に任せておけ。あんた、バトル強いんだろ? 俺はゴウゾウに頼まれたのもあるが1番は強い奴とバトルするのが楽しみでここにきたのさ。橋はたしかにあんたの自由だが、俺と1戦やっていくぐらいは断る理由がないだろ?」

「それで勝てたならなし崩し的に橋を開放させようってわけか、え? 全く以て大した自信じゃな……面白い。わしの実力をわかった上でそこまで言うなら、勝てばここを開けることは、約束してやってもええがの」

「レインの奴、あの番人から譲歩を引き出したぞ!」

 

 こいつ、まだいらんこと言ってんな。はぁー。交渉事には向かないな、こいつは。一々一喜一憂するな。

 

「ただし!」

「ただしなんだ?」

 

 やっぱりまだなんか注文つけてきたな。予想通りなのですぐに聞き返した。ゴウゾウはもっとこういう言葉の機微に敏感になれ。

 

「代わりに小僧、お前が負ければ今後何があろうと永久にここは開かん。この条件でどうじゃ? これでもまだバトルする勇気があるか?」

 

 ニヤリと笑っていうその表情はどこぞの悪代官のようだった。だがそれで怯む俺じゃない。こっちも笑いながら言い返した

 

「上等。その言葉を待っていた。今の約束、忘れんなよ」

 

 さすがの番人も少したじろいだが、すぐに鋭く言葉を返してきた。

 

「その鼻っ柱へし折って存分に後悔させてやるわい。ならついてこい。バトルの厳しさを叩き込んでやるわ」

 

 場所を移して仕切り直し。そしてとうとうバトルが始まった。

 

「ではいくぞ! ゆけい、ユンゲラー」

「任せた、グレン」

 

 アナライズ!

 

 ……レベル38、予想よりちょい高いな。が、ゴウゾウが倒せたように穴はある。それが俺には視えている。周りのギャラリーは沈黙して戦いを見守っていた。俺よりもよっぽど緊張してそうだな。

 

 ユンゲラー Lv38 いじっぱり 84-40-33-90-63-90

 

 グレン   Lv25 むじゃき  86-83-50-60-44-83

 技 1かえんほうしゃ 

   2かえんぐるま 

   3しんそく 

   4ひのこ 

   5まもる 

   6みがわり    

   7おにび    

   8オーバーヒート

 

 能力の差は大してない。この力……アナライズはホント便利だ。だがフルバトルなら長引くことも考えられる。まだ不慣れなこの力は必要なところだけに絞って使うことにしよう。

 

「先手必勝、サイコキネシス」

 

 おっと、いきなりそう来るか。

 

「3、右から突っ込め」

 

 技の番号は暴走族戦の時のままだ。“しんそく”は後ろを取るなど移動に用いるときは方向の指示は何も言わず、当てるときはこのように方向を言うと決めてある。後ろに回るのはだいたい技の連携をして3,1と繋ぐようなパターンが多いから、指示は短くする方が都合がいいためだ。

 

 グレンは俺の指示の通りにすぐ動き、“サイコキネシス”の軌道を避けながら攻撃。“しんそく”は相手に直撃した。

 

「なかなかの威力じゃが無駄じゃ、じこさいせい」

「ヤバい、あの回復が決まったら!」

 

 ゴウゾウが慌てるがどうということはない。ユンゲラーが起き上がって技を始めるときにはもう“しんそく”の硬直時間は過ぎていた。

 

「隙だらけだ。3」

「シェエエイィィ………」

「ユンゲラー!?」

「「おおおっ!」」

 

 まず1体目。あっさり無傷で勝ったことでギャラリーからは歓声が上がった。

 

「そいつはもう戦えない。次を出せよ」

「たしかに少しはやるようじゃが、この次はそうはいかんぞ。任せたゴローン」

「戻れ、グレン」

「えっ、戻すのかよ」

「いい感じなのに」

 

 周りは不思議がっているな。番人も便乗してきた。

 

「いいのか? そんなことをすると流れを失うぞ?」

 

 無傷でやられたのに、浮足立つどころかこっちを煽ってくるとは恐れ入る。さすがに熟練しているな。精神的に揺さぶってくる手並みは見事。相手が俺じゃなきゃ動揺ぐらいはしただろう。

 

 ……俺には本当に冗談でも言っているようにしか聞こえないが。

 

「分の悪い相手に無理をするのは三流だ。わかって聞いてんだろ?」

「ほう。ま、わしは構わんがな」

 

 食えないじいさんだな。尤も、俺も親切に理由を話してはいない。半分は建前。グレンは基本的に倒しちゃ引っ込めを繰り返すつもりだ。

 

「いけ、ウツドン」

「ドンッ!」

 

 こいついっつもドンッ! ってしてんな。

 

「面白い、ウツドンか。ならいわなだれ」

「“はたきおとし”ながら避けろ」

「ロックブラスト」

「くっ、はっぱカッター本体へ」

 

 この番人技選択に隙がない。ジリ貧になる前に最低1発、運良く2発入れれば御の字だがどうだ?

 

「5回連続か。ツいてねえな」

「これでイーブンじゃ」

 

 表情は悔しそうにするが、これは想定内。技の選びに隙がなさそうなのもわかったし、もうこいつは圏内に入っている。レベル差はあれど“はっぱカッター”は4倍弱点だからな。

 

 尤も、この世界じゃ弱点は正確に2倍という認識はないらしい。良く効く程度の感覚のようだ。測定できないから当然ではあるが。

 

「グレン」

「ヴォウ!」

 

 再び現れたグレンに周りは湧くが、じいさんはしめたと頬が緩むのを見逃さなかった。やっぱり相性をわかってるんじゃねーか!

 

「やはりそいつが切り札らしいの、小僧。じゃがこいつには勝てんよ。鉄壁の防御じゃからな」

「鉄壁……もしかしてレインのやつ」

 

 ゴウゾウは気づいたか。思い当たる節はあるだろうからな。

 

「行けい、調子のいいロックブラストで押しまくれ!」

 

 ラッキー、“じしん”じゃなくて助かった。これは躱しやすい。

 

「3,8」

 

 “しんそく”により一瞬で背後を取って“オーバーヒート”をぶちあてた。これでたまらずゴローンはダウン。1発で倒せることは確認していた。確定1発。

 

「ゴローン戦闘不能だな」

「なんじゃ今のは!?」

 

 驚くじいさんにこっちも煽るのを忘れない。

 

「どうした、自慢の防御力は? 鉄壁じゃなかったのか?」

 

 練習していたのは8つ目の技、“オーバーヒート”。何度もグレンを使い回して“いかく”と“オーバーヒート”をフル活用するのが今回俺の立てた策だ。能力のリセットはほとんど認知されてないらしいから狙いがバレることもないだろう。

 

「くっ、おのれぇ」

 

 おーおー悔しそうだな。これで楽に戦えたらいいが。

 

「間違いない、あんときと同じ。レインは俺達にはわからない境地にいる。あっさりと2本とっちまうなんてなぁ。さすがにここまで上手くいくとは思ってなかったぜ」

「この借りはこいつで返す! 小手調べは終わりじゃ、ゆけいゴースト」

「こっからは未知のポケモンだが、いきなりゴーストタイプだと!? 本当に今までのは小手調べだったってのかよ!!」

 

 やけに驚くな。ゴーストは珍しかったりするのか? とすると、勝負をかけに来ているのか。煽りが効いたか。一応ステータスを確認しておくとしよう。

 

 ゴースト Lv38 いじっぱり 93-59-50-93-58-88

 

「交代だグレン、出てこい、パルシェン」

「そのパルシェン、もしやゴウゾウの……小僧、これはどういうことじゃ?」

 

 へぇ、わかるのか。よく見ているな。

 

「さすがに6体全てグレンで倒すのは無理だ。だから一時的に借りているのさ、こいつらからな。苦労したぜ、バトルがものになるまでな」

「バカなっ、前のときから大して時間も経っとらんのに5匹も手懐けたのか! しかも他人のポケモンを! 信じられん。……じゃが使いものにならねば烏合の衆。わしが以心伝心の技を見せてやろう。さいみんじゅつじゃ!」

「目を閉じろ」

「面白い躱し方じゃが、それでは隙だらけよのう。ナイトヘッド」

「右へ躱して左後ろにオーロラビーム」

 

 うまく躱して反撃するがこっちの攻撃はゴーストをすり抜けた。大きくなった部分は幻影か。続けて“ナイトヘッド”が来るが今度は目を開けさせ、こっちの攻撃は的の真ん中を狙わせたが今度は動いて避けられた。

 

「やるのう、ダメージがないことに即座に気づいたか。しかも呼吸も合っとる。思ったよりも信頼されとるな。少々面倒じゃ。あやしいひかり」

「ちょうおんぱ、オーロラビーム」

「シャドーボール」

 

 避けきれないと判断して相打ちを狙う。お互い混乱するが今度はこっちにツキが来た。ゴーストが先にファンブルして“オーロラビーム”が直撃。これはこいつの得意技。だから対グレンでも最初に使ったらしく、これを使うと調子が上がるらしい。そういうのもあるのかと感心したが、今回はそれが吉とでたな。“つららばり”で畳み掛けるが運悪く2連射止まりで耐えられ、今度こそ“さいみんじゅつ”をかけられた。

 

「そのままゆめくいじゃ!」

「なにっ!? くっ、戻れ」

 

 やや回復されたか。このじいさんえげつないな。まともには催眠を食らわないと見て、混乱させてからの催眠。しかも“ゆめくい”コンボで回復まで狙ってくるとは。“ゆめくい”が本命のはずだから必然的に“シャドーボール”は一度間を置いたことになる。自滅まで込みの戦略とは恐れ入った。自滅読み行動なんて絶対真似できないな。

 

「ずいぶんとおっそろしいことしてくるな。あんた本当に強いよ」

「まさかすぐに交代されるとは。そっちこそ、わしの戦術に気づくとは、少しは勉強しとるようだの。ゴウゾウが頼るだけはある」

 

 やっぱり狙っていたか。ゴウゾウらは目が点になっているな。知らなければ恐ろしさもわからない。そういう意味で勉強している、といったのだろう。お互い実力がわかりはじめ、ニヤリと互いに笑い相手を称えあった。そっちがそう(催眠で)くるなら、こっちは……。

 

「グレン頼む、6」

 

 交代させながら技を指示して即“みがわり”を準備させる。間に合ってくれよ。

 

「あやしいひかり」

 

 よし、“ナイトヘッド”じゃない。やはり回復を優先させてコンボを狙いにきたな。“みがわり”がなきゃ眠らされてジリ貧になるしかないから相手からすればこれは安定行動。やはり強い。そして強いからこそ、その考えは読みやすい。俺の一番得意なレベルの相手だ。読みがハマりニヤリと笑ってしまった。

 

「1、2」

 

 “かえんほうしゃ”を打たせ、その火の後ろから同時に突っ込ませて“かえんぐるま”を当てにいく。囮の“かえんほうしゃ”はギリギリ躱されるが、追撃の“かえんぐるま”は避けられない。相手は接近されたことに慌てて“さいみんじゅつ”をかけてきた。チャンスだ。

 

「2」

「ヴォウ!」

 

 相手が技を失敗している間にもう一度“かえんぐるま”。残りが30程だったためゴーストは倒れた。初見殺しもいいとこだが、こいつは厄介だからこうでもしなきゃ倒せないだろう。悪く思うなよ? 口には出さないが。

 

「あの至近距離で外したのか? いや、ありえん、どうしてじゃ……」

「勉強不足のようだな。悪いがタネは教えないぜ」

「こやつ……言ってくれる。ならば来い、ポリゴン」

 

 ポリゴン Lv38 いじっぱり 109-68-69-72-73-47

 

 堅い。だが技はフルアタ。“じこさいせい”もなしか。とすると強引に一気に削ってしまうのもありだな。小細工は要らない。

 

「8」

「トライアタック」

 

 “みがわり”を盾にして“オーバーヒート”を叩き込んだ。64入ったな。残り45……ここでエビワラーにチェンジ。特防が厚いし相性もいい。“みきり”で一度攻撃を躱してから“マッハパンチ”を決めるが、17残った。“トライアタック”を受け、さらに運悪く“やけど”を引いて二発目のマッハパンチも耐えられてやられてしまった。確2だから本当は今の攻撃で仕留め切っていたはずなんだが……エビワラーが耐えれば、後々先制技による削り要員として有力な交換先になっただろうが、仕方ない。

 

「グレン、3」

 

 グレンは掛け声ひとつで勝手に出てきてくれる。相手は虫の息。先制技である“しんそく”の前ではなす術もない。ポリゴンも倒れた。

 

「速い。そうかその技はしんそくか。カイリュー以外にも扱えるポケモンがいたとはな」

「ご名答。しんそくはこの地方じゃウインディとカイリューだけに許された強力な技だ。簡単には攻略できないぜ?」

「カイリューと同じ技っ?! レイン、お前のポケモンすっげえな!」

 

 カイリューというだけでこの反応……もしかしてチャンピオンや四天王の使うポケモンは強ポケみたいな風潮があるのかもしれない。だったらゴーストはキクコの使う強ポケってことになるし、ありえるな。それぐらいここの奴らは単純そうだ。

 

「だったらイワーク出てこい」

「戻れ! 出番だ、ドガース」

「特性ふゆうか、ならばいわなだれ」

 

 イワーク Lv38 いじっぱり 86-55-138-35-50-69

 

 意外と攻撃力は低い。ポッポと同じだしな。一発は受けられる。

 

「耐えてどくガス」

「どく状態か、めんどうな。アイアンテールじゃ!」

「まもる」

 

 時間を稼ぎじわじわ削りながら、最後は“じばく”でダメージを稼いだ。もう少しで削りきれるがグレンが下手にダメージを負うと残り次第で不味いしな。最後はなんだ? 今まではどうだった? そういや全部レベル38、性格いじっぱりだったな。で、ユンゲラーゴローンゴーストポリゴンイワーク…………この面子はもしかして……? いやいやいや、これはもしかしてもしかするのか?!

 

「小僧、はよう次を出せ。時間稼ぎする気か」

「今は置いとくか。出てこいパルシェン」

 

 防御の高さはこのイワークともタメを張れる。時間を稼いでくれ。1発耐えたが結局眠ったままやられた。続けてグレンを出して“まもる”と“しんそく”の躱しで時間を稼ぎ倒し切った。

 

「こんな形でイワークがやられるとは、攻めるだけではないらしいな。が、そやつも疲れが見えてきている。残り2体でわしに勝てるかな」

 

 相手は余裕を見せるが既に俺はわかっていた。番人の最後の1体、これはもう間違いない。

 

「なら、最後の1体当ててやるよ。ゴーリキー、レベル38 いじっぱりな性格」

「な、なんじゃと! 小僧、どこでそれを」

「驚くことじゃないだろう。他の奴がみんな進化前で、判で押したかのようにレベル38で意地っ張りばかりとくれば簡単に予想できる。そしてそこまで読み切った俺に、最後に抜かりなんてあるわけないだろ」

 

 開いた口が塞がらないとはこういうことなのか。見れば暴走族も似たような顔だな。こういうリアクションはやった側としては最高だな。やっぱり楽しいぼっちパか。

 

「お前、実はブリーダーなのか……いや、そこまでの腕でそんなわけは……それにいくらレベルがわかろうがなぜゴーリキーと断定できる、ありえん!」

「あんた、手持ちのポケモンは進化“してない”んじゃなくて、進化“できない”んだろ。ぜんぶ進化方法が特殊な奴だ。そして同じ方法で進化する奴はゴーリキーだけ」

 

 俺の言葉によほど驚いたのか、番人は大袈裟過ぎる程のリアクションを取った。

 

「なんと、今なんと! お前、わしのポケモンの進化方法がわかるのかっ!!」

「え、まぁな。それより早く来いよ。こっちはドードリオで相手してやる」

「……わしは、たとえ進化前でも負けやせん。これで最後じゃ! ゆけいゴーリキー、じごくぐるま」

「よけてドリルくちばし」

 

 すばやさの差から十分避けて攻撃できたが、攻撃後の隙を狙われ、“クロスチョップ”を当てられた。本命はこっちだったらしく一撃で倒された。最初は見せ技を使う辺り抜け目ない。だが十分仕事は果たしてくれた。

 

「よくやったドードリオ。さぁ最後だ! 頼むぞグレン!」

「ヴォウオオンン!!」

 

 今日1番強烈な“いかく”が決まった。張り切っているな。

 

「まだ気合十分か。ゆくぞ、クロスチョップ!」

「引きつけろ」

「ハッ! 避けられんだけじゃろうが」

「これ、前と同じなんじゃ……」

「3,8」

 

 ゴウゾウが言い終わるかどうかのタイミングで指示を出した。最後の指示、グレンの十八番の“しんそく”連携。

 

 ゴーリキーはいきなり消えたグレンを見失い、その隙に最大火力の“オーバーヒート”を叩き込んだ。ゴーリキーは特防が薄い。耐えるべくもない。そして、すでに素早いドードリオ相手にこの連携を決めているグレンが、それより格段に遅いゴーリキー相手に外すわけもない。勝負あった!

 

「俺の勝ちだ、橋の番人っ!」

「「うおおおおーー!!」」

 

 暴走族達の歓喜の嵐はしばらく止むことはなかった。

 

 勝負に勝ち、晴れて橋は自由。グレンもレベルアップしたし言うことなし。

 

「じいさん、約束だ。橋は開けてもらう」

「わかっとる、二言はない。じゃが、お主に頼みがある」

「俺にか? またこの流れ? 今度はポケモン退治でもさせようってか?」

「頼みはわしのポケモンのことじゃ。こいつらは長年育ててきた大切なポケモンじゃが、どうしても進化できなくてな。今となっては立派に進化させてやれなんだことだけが心残りじゃが、諦めて引退したんじゃ。だから、どうかその進化方法を教えてはくれんか!」

 

 ぼっちパで意地っ張りだからそういうことなのかと思っていたが、単に方法を知らなかっただけか。ということは進化方法自体知られてないのかもな。進化方法を調べたりはしただろうし、見落としたってことはないだろう。

 

「そうか。そういうことならいいぜ、教えても。いいバトルができたしな。その代わり俺から聞いたことは他人に言わないでくれ」

「本当か! 感謝する少年、これで悔いもなくなる。じゃがなぜ口留めなんぞ」

「あんたが知らないようなことを俺が知っているとわかれば色々面倒だろうし、そういう面倒事は嫌いなんだよ。進化方法自体は至って単純。ポリゴンとイワーク以外はすぐにでも進化できる」

「まことか!」

「条件は通信交換。交換先で進化が起こる。だから一旦誰かに送ってまた戻すことを4回やれば全員進化できる。相手は……そうだな、ゴウゾウ、お前がやってやれ」

「俺か? 別にいいが、あんたじゃダメなのか」

「俺はグレンしか持ってない。交換には2体以上手持ちが必要なんじゃないのか?」

 

 言ってからここじゃそんな仕様ないかもしれないと思い直したが普通にあったようだ。

 

「おっと、そういや1匹だけだったか。すご過ぎてすっかり忘れてたぜ。最近2匹いないと交換できなくなったんだよな」

「ゴウゾウ、わしの進化を手伝ってくれるのか」

「たりめーだ。レインに言われたのもあるが、橋開けてもらうんだ。その程度は頼まれてやるよ。そんじゃ、さっさと行こうぜ。タマムシのセンターはケーブルおいてあるぜ」

 

 ゴウゾウならそう言うと思った。任せて大丈夫だな。

 

「かたじけない」

「これで本当に万事解決か。ゴウゾウ、これからはこんなことないようにしろよ。部下の管理が甘いから周りと軋轢を生むんだ。ちゃんと教育しろ。暴れる時も、やるのはいいがせめてバレないようにやれ。目立つからダメなんだよ」

「耳が痛いな。善処しとくわ」

 

 どこのお役人だお前は。しばらく待つと満面の笑みで番人とゴウゾウが帰ってきた。

 

「いやーありがとう。無事に進化できた。たまたま近くにいた町のもんも驚いとったよ。これで丁度橋を開けてやる口実もできたし、お主の考えた通りというわけじゃな」

 

 そうか。周りからはゴウゾウが進化させてやったように見えるから、橋も俺もハッピーって寸法か。そこまで考えてこいつにやらせたわけじゃないがまぁいいか。

 

「そういうことだな。ちなみに、ポリゴンはアップグレードという道具を持たせて交換、イワークはメタルコートという道具を持たせて交換させれば進化する。ポリゴンはその後あやしいパッチを持たせて交換すればさらにもう1回進化したはずだ。一応教えとく」

「そうなのか。しかしそんな道具聞いたことないのう」

「シルフで取り扱ってるはずだ。近くだし見に行けばいい」

「そんなことまでよく知っとるのう。やはり旅のトレーナーはよくものを知っとる」

 

 どうやら勝手にトレーナーだと思われていたらしい。いや、普通そう思うか。

 

「あいにく俺はトレーナーじゃない。そもそも戸籍もないから申請しないと作れないんだ。あんた、何かカードを作るための実力を示すてっとり早い方法を知らないか」

「なんと、その腕でトレーナーでないとは」

「もしかしてやることがあるって言ってたのはそのことかレイン」

 

 あれは言葉の綾で言っただけだが、乗っかって話を合わせておくか。

 

「ああ。手っ取り早くここのジムリーダーでも倒してやろうかと思っていたが、トレーナーカードなしでは入れないらしくて困っていた。この前行った時は問答無用で門前払いだ」

 

 今思い出しても屈辱だ。男ってだけで変態扱いから即締め出し。間違いなくあのピーピングじじいのせいだろうが、とんだとばっちりだ。

 

「そういうことならわしに任せい。こう見えてもわしはリーグ認定のトレーナー推薦資格を持っとる。わしが一筆入れればそれは問題なかろう。実力は見せてもらったし、お主になら何でも協力してやろうというもんじゃ」

 

 マジか! これはまたすごいのが来た。まぁバトルした時点でただものじゃないとは思っていたが、推薦資格って……そんなものあるのか。こうも都合よく事が進むとは。

 

「本当か! そりゃ助かる」

「戸籍とかは俺らに任せろ。うちのカントー連合の力があればジョーイを嫌でもうんと言わせてやれる」

「「おれ達も協力しますぜ!」」

「ゴウゾウ、お前ら……」

 

 いける、いけるぞ。随分道草食っちまったと思っていたが回り回って逆に最短の道を進んでいたのかもしれない。急がば回れ、とは少し違うが遠回りも悪くないということか。

 

 思えば3人組に始まり、最初は敵だった奴がこんなに仲間になるなんて思いもしなかった。最初は敵は敵と割り切っていたが、世の中そう単純でもないのか。そんな感じの古い言葉もあった気がする。お金とポケモンはあるから、後はトレーナーカードさえあればここを出ていける。ぐっと手応えを感じ、トレーナーカード獲得へ向けて動き出した。

 




今後含めて、ネタはわかる人だけニヤリとしてもらえれば(ポケモン以外のネタも混じってます)
わざわざ説明とかは基本ここではしません、長くなりますし

ちなみに番人が交代をしなかったのは本人も意地っ張りだからです

今後ダメージ計算は昔の技の威力を参照してます
オーバーヒートだと威力130でなく140みたいな
これに関しては手直しがややこしいので
リアル乱数マジックのせいに出来なくはないですが……
本当にいらん変更してくれましたよ。
やるならそんなん直す前にエアスラが外れるバグを修正して下さい


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7.嗤う狡童ゆく公道 白昼行進女医抗心

不穏なワードがチラホラ出てくるので先に注意勧告させて頂きます
今回は直接的にはないですが、この先残酷な描写はほんとにあるので注意して下さい
冒頭でいきなり集団リンチから入って直後人間バトルが始まった時点でお察しですけどね
そういう内容も少なからずあるので抵抗がある方は本当に注意




 雲一つない快晴のある日。春のうららかな陽気に包まれ、のんびりとした町。そこで俺は町の空気とは似つかわしくない物々しい集団を引き連れて堂々と天下の往来を闊歩していた。

 

 機は熟した。必要な3つのうちもう2つは手に入った。あとはただ1つを残すのみ。俺はとうとう最後の関門、トレーナーカードの獲得へ乗り出した。 

 

 ザッザッザ

 

 歩く一団はタマムシにいた暴走族ほぼ全員。皆上半身裸に袖のない上着を一枚着ているだけ。しかも前がはだけている。髪は当然リーゼント。かっちり決まっている。そういやなぜかスキンヘッドは見ないな。

 

 俺もこの集団に溶け込むために同じ服装を用意してそれを着込んだ。とはいえ全く同じ外見は嫌だったので髪はソフトリーゼント。服もタンクトップを一枚着て上着は袖付きだ。サングラスは黒に変えた。

 

「レイン、お前案外その格好サマになってるぜ。今日からずっとそれにするってのはどうだ? なんなら暴走族になってもいいぜ?」

「はぁ? こっちが願い下げだ。そもそもこんな不良みたいな恰好はあんまし好かねぇな」

「それを俺らの前で言うか? お前本当に毒舌だよな」

 

 もちろんゴウゾウも冗談で言ったのだろう。それ以上は何も言わない。けどこの恰好が似合っているなんて心外過ぎる。下っ端共にも性格的に暴走族をやっている方が合っているとか普段の恰好はしっくりこないなど好き勝手言われた。それは遠回しに言っているだけで俺の性格が悪いってことだよなぁ?

 

 当然好き勝手言っていた下っ端はバトルでわからせたのでもう何も言うことはない。こんな口をまだ利けるのはゴウゾウだけだ。

 

 どうせこんなコスプレみたいなことするなら別のトレーナーの恰好が良かった。FRLGだと他にどんな奴がいたっけ。子供っぽいのとむさいのと澄ましてるのはなんとなくイヤだな。“もうじゅうつかい”とかいいかも。アメをちらつかせながらムチでバシバシいわせたい。今度服とかムチを買い足そうかな。

 

 バカなことを考えていると町の中心地、ポケセンのある場所に近づいてきたみたいだ。通行人も増えてきた。大きな町の中でもこの集団は目立ちに目立っていた。そもそも暴走族は町の鼻つまみ者。嫌悪感を隠そうともしない者が多い。だが面と向かって口出しする者はいない。それも当然のこと。この連中に喧嘩を売れば相当な数の暴走族を敵に回すことになる。誰だってこんな面倒な連中に目を付けられたくはない。

 

 つまり、これまで変装を強いられて帽子とか被って行動し俺の方が恐れていたが、今は逆に町の連中が俺達を恐れているってわけだ。この上なく愉快。やっぱ数の力は正義なんだよなぁ。戦いは数だぜ。

 

「この様子を見るとお前んとこは本当にすごい連合だったらしいな」

「さすがにあんた程ぶっとんでねぇがな」

「俺は普通だろ。アウトローのお前らに比べればなおさらだ」

「そういう問題じゃねーよ。1番ヤベーのは俺達全員をバトルで倒したアンタだ。けんか売るだけでもたいがいなんだけどなぁ」

「みたいだな。あいつら全員縮こまって遠巻きに見ているだけだ。これ以上愉快なことはない」

「……マジでここの奴らがキライなんだな」

 

 俺達一行は大通りを西から進み東の広場にあるポケセン前で止まった。野次馬共が見守る中、先頭を切って自動ドアへ足を踏み出した。ウィーン、という機械音がして自動ドアが開く。そのまま奥のカウンターの方へ眼を向けるとジョーイが口を開けて大きく目を見開いているのが視界に入った。

 

 顔色を注視するとジョーイは心底驚いたって表情だ。ゴウゾウもさすがにポケセンまで乗り込んだことはなかったらしいから、突然の招かれざる客の来訪は寝耳に水。ジョーイはいよいよ来るところまで来たと思ったのか、一瞬覚悟を決めたような真剣な顔つきになる。別に一戦交えようってわけではないんだが、そんなこと向こうは知らないからな。

 

 堂々と中へ入っていくと後ろに控えている下っ端もついてきた。大勢いるから迫力はあるだろう。俺達が受付に向かうと重々しくジョーイが口を開いた。

 

「何か御用でしょうか」

 

 “何か”だって? “何の”の間違いだろ。ジョーイの奴め、よっぽど俺達に来てほしくないらしい。

 

 ジョーイは内心まだ驚きが収まらず、恐怖すらあったかもしれない。だが最初に表情を変えた以外はそんなそぶりは一切見せず、黙したまま集団の出方をじっと待つ対応を見せた。ひとまずここは合格ってところだな。

 

 下手に騒いで俺達を刺激すればどうなるかわからない。こっちがまだ動かないうちはジョーイに許されるのは待つことだけ。受付としては逃げたくなるのも助けを呼びたくなるのもこらえて我慢するしかない。とりあえずは無難な対応。だが所詮は無駄なこと。さて、どうやって遊んでやろうかな。

 

「悪いなぁ、ジョーイさん。えらく驚かせたみたいでごめんねー。オメメまん丸になってたよ? 別に驚かす気はなかったんだけど、友達がついてくるってきかなくてさー。どうしても仕方なかったんだよ。そう、仕方なくね」

 

 ジョーイはウソをつくな、と言わんばかりに表情をゆがませた。もう動揺を隠せないと思って諦めたのか表情を取り繕うのもやめたな。下手なことを言わずにこらえるので精一杯か。

 

「では、用件はあなたお一人ですか」

「まぁねー。ところでやけにさっきから俺に対して丁寧な物言いだけどさ、どうしたの? なんか全然感じが違うなぁ。らしくないねー。もしかしていつもはこんな風なのかな」

「え、ここに来たこと……」

「お客の顔忘れるなんて二流だよ、接客の基本でしょ。それとも、思った以上にお友達のことが気になってるの?」

「別に……いや、それよりあなた誰なの…ああっ!!」

 

 周りの暴走族と同じようにかけていたサングラスを外すと、ジョーイは俺の正体にすぐ気づいた。

 

「髪型変えるだけじゃやっぱダメか。無駄だったなぁ。顔つきぐらいはさすがに覚えているんだね。このリーゼントダサいし後で戻そっと」

「お前…いだっ!」

 

 ゴウゾウが何か言おうとしたのでひじで小突いて黙らせた。それを見ていたジョーイは声でゴウゾウの正体にも気づいたようで、俺がいきなり出てきたのにも驚くがそれ以上にゴウゾウを下につけていることに戦慄し、やや取り乱した。

 

「あなたは裏路地の浮浪児ね! いまさら何だっていうのっ?! それにこれ、どういうこと!? あなたこのゴロツキ共といったい何の繋がりが……ひぅぅ!」

 

 ゴロツキ呼ばわりの上詮索を始めたので黙っていた暴走族達が動いた。全員で睨みを利かせてジョーイに無言で圧力をかけて黙らせた。ジョーイにしゃしゃられるとうっとうしいからな。話をスムーズにするためにもこいつらがいて助かった。

 

 この暴走族の役割はもうひとつある。ジョーイに対し圧力をかけるだけではなく、周りの客に俺の正体が伝わらないようにカウンターの周りを囲わせバリケードにする役目だ。物理的にこっちの様子を見えなくしているのだ。強引な取引をするかもしれないし、人目には触れない方が何かと都合がいい。

 

「余計なことは言わないでね、ジョーイさん。お友達が黙ってないよ」

「あなた、通報しますよ」

 

 ジョーイのあがき。しかしムダだ。

 

「通報? ジュンサーさんにかい? 残念だけど今日は忙しいと思うからムダだと思うけどなぁ。お前らもそう思わないか?」

 

 暴走族に話を振ると全員ニヤニヤと笑い、それを見てジョーイが事態を悟り、ヒステリックに声を上げた。

 

「ジュンサーさんにまで手を回していたのっ!? どこまで卑怯な真似を!!」

「別に忙しいと思うって言っただけなのに、何をそんなに叫ぶわけ? ヒステリー女は嫌われるよ? やっぱりこじつけは良くないよね。うん、良くない良くない」

 

 俺がそういうと周りの暴走族もそれに合わせて深々と相槌を打った。よくわかってやがる。ヒステリー呼ばわりされたジョーイは顔を真っ赤にさせた。

 

「白々しいことを……」

 

 暴走族が近くにたくさんいる町なだけあり、ジョーイはこの手の類の相手にも慣れていたのですぐに手回しを考えた。だがこれは俺の仕組んだ罠。実は本当に手回しなどしていない。ゴウゾウらにとってはジュンサーを足止めするぐらい造作もないことだが、わざわざそこまでする必要はない。そう思わせるだけで十分だと俺自らが言ったのだ。

 

 理由はあとで勘違いしたことをジョーイに知らしめて悔しがらせてやりたいから。ただそれだけ。絶対に引っかかると思っていたし、そもそもムダなことはしない主義だ。

 

 嫌がらせのようにこんなことするのにはわけがある。最初から俺が村八分のようになっていたことにはこのジョーイとジムリーダーが深く関与していることをゴウゾウから聞いていたのだ。「ああ、孤児ってあの騒動のときの奴だったのか、ああ、お前さんが」といって孤児である身の上を説明した時にこのことをゴウゾウから聞き、嫌がらせをすることを即決した。

 

「そう冷たくしないでよ。こっちは話し合いに来てるだけ。安心していいよ。そっちから話をややこしくするような真似をしなけりゃ、こっちも何もしないさ」

 

 当然これは脅し。ジョーイの耳には要求を飲まなければ暴力も辞さないとはっきり聞こえたことだろう。ジョーイの声は震えていた。

 

「まずはその用件を言いなさい。話はそれからです」

「おお、そうだった。忘れてた忘れてた。ごめんねーうっかりしてたよ。でもそんなに急かさないでよ、別に急ぐこともないでしょ? せっかちさんは嫌われるよー」

 

 ただでさえこんな浮浪児の子供に何度もコケにされて頭にきている上、呆けた態度を続けられて我慢の限界が来たのか、普段は温厚なジョーイもプッツンキレた。

 

「いつまでふざけているつもり、いい加減さっさと……ひぃっ!」

 

 だがそれも一瞬のこと。暴走族の一睨みですぐに縮こまってしまった。

 

「ごめん、よく聞こえなかったんだけど。さっさとなんだって?」

「だ、だから……さっさと話しをしてすぐに帰れって、んんっ?! それは、うそぉ……冗談でしょぉぉ。今何もしないって……」

 

 あーあー。ビビってるなぁ。おもむろに下っ端共が腰ベルトのボールに手をかけたのを見てまた声が出なくなった。最後はかすれかすれの蚊の鳴くような声。

 

 今ジョーイは窮地にいる。頼みのジュンサーもダメ。周りは暴走族に包囲されて今にもカウンターの奥までなだれ込んできそうな勢い。もうポケセン内にいた他の客は危ない空気を感じたのか触らぬ神に何とやらで早々に退散していた。孤立無援。まさに四面楚歌の項羽さながら。自害まで秒読み待ったなし。最悪の展開が脳裏をよぎったのかみるみる泣き顔に変わった。

 

「何、怖いの? もしかして泣いてる? ねぇ泣いてるの? なっさけないなぁ」

「だ、誰があなたの前で泣くもんですか。1人だったら何にもできなくて、ろくでなしの親すらいなくなったみなしごのクセに!……図に乗るなぁ!」

「……」

 

 せめてもの意地なのか、ジョーイは今までで1番はっきりと強い口調で言い切った。俺にとっては何の意味もない言葉、そのはずだった。だがこの体は違う。俺が来る前のことも、その記憶はしっかりと刻み付けられている。

 

「そう。簡単に折れてしまったら面白くないもんね。でもさぁ、あんたのその顔見てるとどうにも抑えがさぁ……」

「え……」

「おいレイン、どうした? 何かヘンだぞ?」

 

 この感じ、いったいなんなんだろう。さっさと話をまとめて退散しないと騒ぎを見つけてジュンサーが来るかもしれないっていうのに、このまま感情任せに暴走族のポケモンをけしかけて、本気でこのジョーイをポケモンのえさにしてやりたいと思ってしまった。体の奥の方がぞわぞわして自分のものではないかのように心が落ち着かない。

 

「いま……らみ……らせて……いっそ…………とおもいにっ!」

「レイン、正気か!?」

「ちょっと、なに真に受けているのっ!? その目はしゃれにならない……」

 

 カタカタッ

 

 ん!? 今のはグレン? ボールが動いた。気がそがれて、さっきまでの変な感じが消えた。こっくりして頭をぶつけて急に眠気がなくなったみたいな感じ。本当にきれいさっぱりだ。俺は何事もなかったかのように言葉を続けた。

 

「なーんてね。さすがにいじめ過ぎたかな。今本気でビビってなりふり構わず逃げようって思ったでしょ? ねぇ図星でしょ?」

「なっ! さっきのも私をからかっていたの!? ぐぐぅぅ、くぅぅーっっ!」

 

 ここで逃げられたら元も子もない。こいつは妙に意地張ってるところがあるし先にこう言われたらみっともなく逃げ出すことなんてできやしないだろう。

 

「レイン、もういいんじゃねーか?」

 

 ゴウゾウが心配そうに声をかけてきた。別に時間ならまだ大丈夫だろ。まぁ失敗したらややこしくなるし早めに済ませるに越したことはないか。

 

「しゃーねぇ。もう少し遊んでやりたいがそろそろ本題に入ってやるよ。用件は別に大したことじゃない。俺がトレーナーになろうと思ったんで、ちょいと書類仕事をしてもらいたいのさ」

「あなた口調が……それより、ふざけないでっ! あなたのような人間がそんな資格あるわけないでしょう! 戸籍も実力もなんにもないのに!」

「友達ならたくさんいるけどね」

「くっ、やはりそういうことね。でも、いくら私を脅してもちゃんとした戸籍のないあなたじゃスクールには通えない。誰かに推薦状でも貰わないとトレーナーカードの許可は降りないわ」

 

 水を得た魚だな。侮っているからこそ、俺じゃトレーナーなんて無理だと思っているのだろう。さっきまでとは違ってえらく強気なこと。

 

「じゃ、その推薦状があれば作ってもらえるんだな?」

「で、でも、この町であんたにそんなもの書く人なんかいやしないわ。諦めることね」

「それはどうかなぁ。実は持ってんだよな、推薦状。ほらよ」

 

 推薦状を投げて寄越すとジョーイは驚きの声を上げた。

 

「これは……! 鉄橋のおじいさん!? 確かにあの人は町の功労者で推薦資格を持っている。でもあの人は頑固で簡単にこんなもの書かないし暴走族も毛嫌いしていたはずなのに、何がどうしてこんなこと……」

「そんなことは本人に聞きなよ。ずっと橋にいることだしな。それより言質は取ってんだ、いいからとっとと書類を作れ。それがあれば出身とかは適当に作っとけばいけるはずだ」

 

 悔しそうな顔をするが、さっきのことは相当な恐怖だったのか、こちらの様子をチラチラ何度も見ながら渋々書類を取りに行った。

 

「レイン、お前さっきのはなんだったんだよ。本気で()っちまう気かと思ったぜ?」

「ゴウゾウ、ちゃんと事前に話をしておいただろ。問題起こすとまた橋を締め出されたりするから脅すだけにすると言っておいたはずだ。お前まであの泣き虫と同じように俺に騙されてどうすんだよ」

「あ、あれはマジで演技だったのか!? やっぱりあんた人を騙す天才だな」

「お前程の奴に言われるとは光栄だな。あの見栄っ張りをいじめた甲斐があった」

 

 適当にごまかしつつムダ話をしながらジョーイをけなしていると本人が戻ってきた。

 

「リーグ登録の許可は降りました。ですがトレーナーへの優遇措置のいくつかは制限されます。回復や依頼の引き受けは利用できますが宿泊施設その他付属のフリーサービスは一切利用できません。それでも本当によろしいんですか?」

 

 ジョーイにとっては最後の抵抗。みなしごの浮浪児と思ってずっと侮ってきた俺への嫌悪感からどうしても認めたくないわけだ。ここまでくるとむしろ大したものだ。よっぽど認めたくないのだろう。「よろしいですか」とは言わず、わざわざ「よろしい()ですか」と言うところに断ってほしい気持ちが見え隠れしている。しかしそう言われるとなおさら逆らいたくなるのが人の性。

 

「それならやっぱりやめとこうかな……とでもいうと思ったか! バーカ、このトレーナーカードさえありゃこっちのもんだ。すぐにチャンピオンにでもなってこの町が俺にした今までの仕打ち全て後悔させてやる」

「どこまでも反抗的ね。いいわ、勝手に出ていきなさいっ。せいせいするわ! 用が済んだなら早くここから出て行って!」

 

 カードを投げて寄越し奥へ逃げるように去っていった。それを指で挟んで受け取り一言。

 

「トレーナーカード……ゲット」

 

 これで3つ。俺の前に立ちはだかる全ての障害が取り除かれた。俺をこんな目に合わせた元凶はあと1人。そいつに片を付ければこんなところはさっさとおさらばできる。もうあと少し。あと少しで全て終わる。

 




着せ替えはUSUMをやりながら考えました
これを書き始めてからUSUMをやり始めちゃいまして……
ずっと読み進めると後書きの方で作者がいつUSUMに憑りつかれたかわかります
着せ替え要素はその後に書き直した形になります
ただ服装の描写に関してはファッションに疎いのでどうしても雑です

項羽は漢文やると必ず出てくるので有名ですよね
敵になった旧友に首を差し出して自害する奴です
つまり投了待ったなしをちょっと四面楚歌になぞらえただけです

ブチギレて小声になったときに言っていた内容は
「いまならうらみをはらせてしまう。いっそ……ここでひとおもいにっ!」
まるで人が変わったようですね


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8.憎しみの根は深く 復讐の蜜は甘い

先に謝っておきますが……
全国数百万人のエリカさんファンの皆さん、ほんとにごめんなさいっ


若干指数計算の話があります
一応冒頭の「0.ぼうけんの じゅんびを しよう」でも説明はしています
簡単な実用例は後書きにもつけましたので合わせてどうぞ

アナライズ中の略称は

 個→個体値
 努→努力値
 実→実数値

の意味です(再確認)



「やったなレイン。あとはジム戦してとうとう出ていくのか。お前なら案外すぐにチャンピオンになれるかもな。今年のリーグ中継は楽しみだ」

「中継なんてあるのか。そういやジムにもややっこしいランクシステムがあるらしいな。ジョーイには説明放棄されたし教えてくれ」

「なんでそんな基本的なことを知らねぇんだ。知識に偏りあり過ぎだろ」

 

 そう言いつつもジムへ向かう道すがら、ゴウゾウは一から教えてくれた。なんだかんだこいつとも仲が良くなったな。橋から戻った後3人組からの信頼も上がっていたし、なんだかんだこの町にも縁はあったか。そう考えると悪いことばかりじゃなかったな。まあ出ていくことへの迷いはつゆ程もないが。

 

「っておいわかったのか?」

「簡潔にまとめろ。長ったらしい」

「かあーっ! 人が親切で教えてやってるのによ! まあ長ったらしくて面倒なのは同意するけどな」

 

 ……自分の理解をまとめて一度整理してみるか。

 

 ランクとは挑戦者のレベルに合わせジム側が手加減するための制度。勝てば挑戦者のランクが上がっていき、そのまま受けられる依頼の難易度の目安にも使われる。

 

 ジムリーダーはランクに合わせたくさんのポケモンを用意する必要があるため専門タイプを持つのが普通。ジムはポケモンの育成や弟子の育成のため国から援助を貰って経営されている。

 

 ポケモンを多く育てられることが強者の証と聞いていたが、そのトップがジムリーダーというわけか。そして初心者が本気のジムリーダーに勝てるわけがない以上ランク制度は当たり前といえば当たり前だ。ここはすんなり理解できる。

 

 ランクは、例えばバッジ4つならランク5、依頼もランク5まで受けられて、挑戦するジムのレベルもランク5になる。ズレてるのがややこしいが、バッジを持たない最初がランク1になるように調整したとか理由はあるらしい。

 

 また使用ポケモンはジムの経済状況(はっきり言うと貧乏なら少ないなど)やチャレンジャーとの戦闘でレベルが上がりポケモンの数が薄くなったなどの理由でジムごとに変動するらしい。ランクごとのジム側のレベル制限は統一されており、それが特定のランクの層が薄くなることに繋がる。

 

 レベルは判別する道具もあるがジムリーダークラスだと見ればレベルはわかるらしい。そこもジムリーダー選考の基準の目安になっているとか。ゲームの謎がいろいろ解けた気分になり、聞いていて割と面白かった。 

 

 実際、レベル一桁でジムリーダーやっていて本気ですとか言われたら任せた人間の方をまず疑う。……改造ピジョン使ってるお前のことだよ!                

 上限は次のようになっていて、4と5の間に隔たりがある。ランク8の45は目安で、実際は守るのが難しいなどの理由でバラバラらしい。

 

 RANK   1  2  3  4  5  6  7  8

 CEILING 10 15 20 25 35 38 41(45)

 

 この隔たりはゲームでいえばエリカとナツメ(あるいはキョウ)の境界線。ライバルも一気に強くなる大きな壁だ。こっちでも同じで、ここを超えられるかどうかがエリートトレーナーと副業トレーナーの差になるらしい。

 

 副業トレーナーというのは「釣り人」「格闘家」などの草トレーナーの総称らしい。つまりプロ志向かアマかの違い。しっかりしたトレーナーでなくても誰でもポケモンを1体は持つ程バトル人口は多いが、この壁を越える者は一握りらしい。だからゴウゾウが敵なしで、橋の番人が凄腕と言われていたってわけだ。

 

 実際レベル30で成長が頭打ちになるケースが多いらしく、格下では経験値がなかなか稼げないので格上に勝てないと伸び悩むらしい。エリートって本当にエリートなんだな。

 

 そんな中なんとかバッジを8つ集めるとリーグランクに上がり(つまりランク9は存在しない)以後ずっとリーグ参加資格を得る。毎年数人しか増えないが失効がないため蓄積するので結構ランカーはいるらしい。

 

 ここではリーグはトーナメント式で上位何名か(毎年変わり、審査員の絶対評価で決まるらしい)がマスターランクに昇格する。そして今度はマスターズリーグなるものに参加できるようになるらしい。そこに四天王とかはいるようだ。ジムリーダーもマスターランクの者から選ばれているようだ。

 

 ずいぶん長い話だが結局やることは同じ。バッジ集めてリーグをクリアすればいいだけ。話は軽く流して目の前のジム戦に意識を切り替えた。

 

 ◆

 

 話を聞く間にジムには着いた。このジムは入ることがある意味最大の難関だった。もしものために顔の利くゴウゾウを呼んだから今度は大丈夫と思いたいが果たしてどうなるか。

 

「おい、誰か出てこい、ジムへの挑戦だ」

 

 声をかけるとしばらくしてミニスカートが出てきた。

 

「あーっ! あんたまた来たのっ! トレーナーカードがなけりゃダメって……ゲッ、暴走族!」

「それならある、この通りな。こいつは気が短い。機嫌を損ねると手が付けれねぇ。待たせないでおとなしくそこを通した方が賢明だと思うがどうする?」

「え、エリカ様ァ!」

 

 叫びながら奥に逃げ帰った。勝手に入らせてもらうか。ゴウゾウがデタラメ言うなって目でこっち見ているが無視した。でも今の慌てっぷりは傑作だったな。ふと横に目をやると、ジムの看板が目についた。

 

「ジムリーダーエリカ 自然を愛するお嬢様、か。笑わせる。この町じゃ自然より廃液とベトベターがお似合いだ」

「言うことは尤もだがよく知ってるな。町の奴らはほとんど知らねぇのに」

 

 やっぱり認識あるのだな。ベトベターしかでない水面はゲームにもあった。つくづく碌なところじゃないな、タマムシは。

 

「情報操作か? ここは碌なことしてないな。エリカも、こんな植物育てる暇があるなら生きている人間の方にもっと気を配ってほしいもんだ。犬公方じゃないんだから」

「……? ジムリーダーはジムの経営が楽じゃねぇから副業持ちがほとんどって話だ。人によってはリーグにも出ないとか。普通のマスターランクの奴らはほとんどポケモンバトル専門で稼いでいるらしい」

「ふーん。そんなもんなのか。ん? 受付に誰もいない。奥にいったあいつが受付だったのか?」

 

 奥に進むとフィールドがあり、そこに眠そうなエリカがいた。

 

「あらあら、もう来ましたか。ごめんあそばせ。わたくしったらどうやらぐっすり眠っていたみたいで、あなた方がいらしていることに気づきませんでしたわ。わたくし、良いお天気の日はお昼寝すると決めているものですから」

「!!?」

 

 なんなんだこのふざけた発言は? 挑戦者をなんだと思っている? なめてんのか? おいリーグ運営! ここに職務怠慢がいるぞ! こいつのふざけた日課のせいで俺は今まで入れなかったのか! 許すまじ……!

 

 俺が視線で人を殺せたらエリカは死んでいただろうが、そんな俺の殺気には気づく素振りすらない。さらにあろうことか見当違いな発言をした。

 

「あら、あなたもお眠いのですか? 目が細くなっていますわ。本当に今日はよいお天気ですわねぇ」

「てめぇ……!」

 

 それはあんたを睨んでいるからだこの船漕ぎ女! いちいち癪に障る奴だ。 

 

「お、落ち着けレイン!」

 

 ゴウゾウの取り成しで引き下がったがこいつには目にもの見せてやる。気づけばミニスカートはトンズラしていなくなっていた。

 

「それで、ジム戦に来たんですわね?」

 

「ああ、最初にそう言ったはずだ。今はどっかに行ってしまったミニスカにな」

「ジム戦……いいですわ。ただし!」

「な、なんだ?」

 

 それまでぽわぽわしていた奴が急にはっきりした口調になるので何か大事なことがあるのかと身構えたがその内容に拍子抜けした。

 

「わたくし、負けませんわよ。全力でお相手しますわ」

 

 今のは少し、いや結構、むしろかなりイラっと来た。こいつ、「ジムリーダーの役割わかってんのか?」と小一時間問い詰めてやりたい。あんたは勝ち負けじゃなく相手の実力を見極めるのが仕事なのにどうしてこんな発言が出てくる? バカだな、こいつは。1番周りに害をなすタイプのバカ。

 

 それに……こいつとは会った時からずっと体の奥から負の感情が抑えきれずにこみあげてくる。それも自分の意思などとは無関係に。

 

 最近どうもおかしい。自分の体なのに自分のものではないみたいだ。厳密にいえば自分のものではないしあながち間違っていないが……。おかしな感覚が徐々に自分自身をむしばんでいって、時折鋭い痛みが走る。拒絶反応という言葉が何となく脳裏に浮かんだ。もう何がなんだか……。

 

 思い出せば、最初の頃は人の目を見ただけで悪感情に押しつぶされそうになったり、肩をつかまれただけで気分が悪くなったりして体がおかしかったが、ここまで心がざわつくのはそれ以来だ。しばらく忘れていたイヤな感覚だ。

 

「ぐぅぅぅ、苦しい……」

「おい、お前大丈夫か?」

「早くトレーナーカードをお出しになって」

「くぅ……わかってる。ほらよ、トレーナーカード」

 

 体調は最悪だが根性で耐えながらトレーナーカードを出した。ああもう、さっさと仕事しろ! いちいち優雅に振る舞おうとしなくていい! 時間のムダでしかない! こっちは頭おかしくなりそうなほど苦しんでいるんだよ。少しでも早く動け!

 

「……あら、ここが初めてのようですわね。ではランク1でお相手致しますわ」

「ちょっと待て、俺はランクの引き上げを希望する。上げるのは構わないだろ?」

「確かにそうですが、あなた最初の挑戦でいきなり上げるなんて変わっていますわねぇ。ランクひとつ上げるだけで一気に難しくなりますわ。本当に上げてしまっても大丈夫でしょうか」

 

 のほほんとした声にイライラする。いちいち言葉を絞り出すのも億劫だ。

 

「勘違いするな。俺はランク2なんかじゃ歯ごたえがなさ過ぎて満足できねぇ。MAXまであげてもらう。ランク8を用意しろ」

「ええっ?! 何を言ってますの、ランク8はわたくしの全力ですわ! 意味がわかって言ってますのっ!? そもそも規定でランクは上げても7までと決まってますし、どちらにせよ認められません」

「7まで? 全力の相手は最後だけってことか。ゴウゾウ聞いてないぞ、ちゃんと言え」

 

 早くここを出たくてイライラしていた俺はやつあたり気味にゴウゾウのせいにするが、ゴウゾウには逆にたしなめられた。

 

「こっちも聞いてねぇよっ! いきなりランク8からとか何考えてんだあんたっ!? さすがに少しは自重しろ! 負けたら意味ないだろうが!」

「あなた、なぜこんなことをするのです?」

「さすがに駆け出し相手にレベルが上のポケモンで負けたら堪えるだろ? あんたを叩き潰してやれば、少しは今までの恨みも晴れようってもんだ」

「恨み? あなた誰ですの? わたくし何かしましたか?」

「何も知らないことこそ1番の罪。無知こそ最も重い大罪なんだ。俺はあんたらが何もしてくれなかったせいで保護もされず路地裏へ捨てられた孤児さ」

「え……まさか、あなたがあの時の。……わたくし、手が回らなくて心配してましたが無事みたいでなによりですわ」

「無事? 無事だと? ふざけるなよ。こっちはゴミだめみたいな腐った場所で、この町の影を今まで見続けてきたんだ。表面上はきれいだが、中はベトベターと廃液まみれ、町には怪しい組織の影も見え隠れしている。もう限界まで来てるぜ、この町は。いまにも淀みが溢れてくる。そんな場所で俺はまともな扱いじゃなかった。記憶も過度の暴力で失った。全て俺は失い一度死んだようなもの。無事なわけねぇだろっ……!」

 

 気づいたら言葉が堰を切ったように溢れ出して止まらなかった。憎しみが膨れ上がり俺の背中を押す。まるで自分じゃない誰かが俺の口を借りて訴えかけているようだ。恐ろしい感覚だな。……だが、完全に頭に血がのぼり苦しさを忘れることができた。そして苦しさが消えたことに気分を良くしていた。

 

「あなた、あることないこと好き勝手に言ってくれますわね。でも、わたくしはあなたのことなんて知りませんわ。勝負は手加減しませんわよ」

「上等だ。手加減したなんて言い訳されたくないからな。お前がどの程度の実力か試してやる。がっかりさせるなよ」

「本気でランク7に勝つつもりですの? まあいいですわ、一度身の程を教えて差し上げましょう。初心者を導くのもわたくしの務めですから」

「今のうちにほざいてな。さっさとポケモンを用意しろ」

「いいでしょう。審判はアヤメが務めますわ。使用ポケモンは3体。チャレンジャーのみ交代が認められます」

 

 さっきのミニスカか。いつの間にか戻ってきているな。まともなジャッジできるのか、こいつに。ポケモンは3体必要であることはわかっていたので、一応足りない分はゴウゾウに借りている。

 

 こいつがこの町の諸悪の根源なのはさっきのやりとりで確認できた。カントーではジムリーダーが町の中心人物らしい。この町がロケット団の根城になるのは確実にこいつのせいだ。もう我慢できない。絶対に心がへし折れるまで徹底的に潰す。無能の輩などいない方がいい……このとき、自分のものでない怒りが、紛れもなく俺自身のものに変わった。

 

「両者ボールを構えて……開始」

「頼みましたわ、モンジャラ!」

「こい、グレン」

 

 アナライズ!

 

 モンジャラ Lv39 のうてんき

 個 10-24-28-20-7-19

 努 43-111-159-55-55-87

 実 107-67-132-95-39-67

 技 どくのこな

   しびれごな

   ねむりごな

   ギガドレイン

   ソーラービーム

    ……

 

 グレン Lv27

実 92-89-54-64-47-89

 技 1かえんほうしゃ

   2かえんぐるま 

   3しんそく 

   4ひのこ 

   5まもる 

   6みがわり    

   7おにび    

   8オーバーヒート

 

 これはやりやすい。振り分けはムダだらけでダメダメ、性格も悪い。やはりこの程度か。

 

「まぁ、あなたのウインディ、新米とは思えない程レベルが高いですわね。27、28というところ。ですがランク7には早過ぎますわ」

「それは俺に土をつけてから言いな。そいつじゃ相手にならねぇよ。防御面が弱過ぎる」

「あらあら、困った方ですわ。このモンジャラは鉄壁。防御力の高さにこそ自信がありますのに。どうやらわかってないようですわね」

「さて、それなら試してやるよ、6,1」

「草ポケモンの強さ、思い知らせてあげます、どくのこな!」

 

 やはり状態異常狙いか。こいつも一応ジムリーダー。技構成を見た時点で先に状態異常かましてくると思っていたぜ。“みがわり”を先に張ったので“どくのこな”は通らずにこちらの“かえんほうしゃ”のみが成功。

 

 当初の予定では今回も番人と戦ったとき同様“オーバーヒート”の使い回しを考えていて、そのために手持ちも借りていたがあえてそれをやめたのには理由がある。

 

 その理由は指数計算。概算でもおそらく中乱数1発辺りというのはすぐにわかる。そのうえ、技が失敗して動揺したタイミングを狙えば乱数は高くなる。十分“かえんほうしゃ”でこと足りるだろう。必要ないなら“オーバーヒート”を使うまでもない。“いかく”もくさタイプには絶対ではないが刺さりにくいしグレンを連戦でやらせてみるか。

 

 相手の“どくのこな”の狙いはおそらく防御力を活かして持久戦に持ち込み毒のダメージを稼ぐこと。エリカがモンジャラでよく狙う作戦なのだろう。ジムリーダーらしく少しは戦略ってもんがあるらしいが、まだまだ考えが浅はか過ぎる。

 

「モンジャラッ! い、一撃!? しかもどうして毒状態にならないんですの!?」

「いきなり戦闘不能だな。ジャッジ、コールしろよ」

「あ、モンジャラ、戦闘不能!」

 

 エリカは呆然として動かないし審判も固まったまま。だらしないな。

 

「二流……いや三流か。まずジムリーダーならいちいちこの程度でおたおたするな。相手を見極めるのが仕事なのに、その相手に振り回されてどうする? しかも育て方も悪い。トレーナーなら、自分のポケモンの能力ぐらい正しく把握しておくもんだ。なにが鉄壁だ。紙くずがいいところ。レベルは12も上なのに、一撃でやられているのがいい証拠だ」

「ぐっ……た、たまたまですわ。“きゅうしょにあたった”に違いありません」

「自分の無能を棚に上げてポケモンのせいか。最低だな。わかるまでやってやるから次を出せよ」

「1匹倒したぐらいで調子に乗らないことです。ここからは本気でいきます……ウツボット! 出てきなさい!」

 

 アナライズ!

 

 ウツボット Lv40 いじっぱり

 実 122-104-65-74-72-73

 技 ヘドロばくだん

   しびれごな

   ギガドレイン

   ソーラービーム

   はっぱカッター

    …………

 

 これはひどい。物理寄りなのに覚えているのは特殊ばっかりだ。区別がはっきりしてないからやむを得ない部分はあるが、ポケモン自身が何も感じていないはずはないんだ。押しつけがましい技構成に怒りすら湧く。

 

 あーもう、これじゃこっちがバカバカしくなってきた。ジム戦だからどんなポケモンが来るかと思って、ダメージ計算も慎重にして完璧な立ち回りを目指そうと思い気合いを入れていたが、そんなことまで考える必要すらないな。まるで期待外れ。お遊びにしかならない。どうせなら少しちょっかいかけて盤外で遊んでやろうか。

 

「冗談だろ? そいついったいどんな育て方をしている? 攻撃技が酷い、酷過ぎる。ヘドロばくだん、ギガドレイン……どれもそいつには向いてない。お前、ちゃんとポケモンと向かいあって、そいつの力を見極めようとしたことがないのか。俺ならパワーウィップやたたきつけるのような物理的に攻撃する技を覚えさせるが」

「なっ! 一度見ただけで勝手なことを。このウツボットはわたくしが大切に育てて強くしたのですから、そんなことあるわけないですわ。いい加減なことを……」

「そいつに聞いたことあるのか? 無理やりそんな技ばかり覚えさせたんだろ? おい、ウツボット。お前程のレベルなら自分自身が1番よく感じているはずだ。ギガドレインは上手くいかないが、はっぱカッターとかは得意だって思っているだろ? いっつももどかしいんじゃないか?」

「!!」

「えっ! ウツボット?!」

 

 するとウツボットは首を何度も縦にふった。エリカが驚いて声を上げるとそれに気づいてウツボットは申し訳なさそうに首をすくめた。

 

「お前最低だな。本当にポケモンを見ようともしないで自分の考えを押しつけてたのか。あげくにポケモンの方に気を使わせるなんて。そもそもこんなのはトレーナーが気を配るべきこと。もうジムリーダー失格だな。かわいそうに、このウツボットは一生弱いまま。いや待て……もしかしてジム用のポケモンだから手加減のために育てる時点から手抜きなのか。ありえるよなぁ? あーあ、ウツボット、お前ツいてねぇなぁ……一生ジム戦の道具として終わるなんて。普通のトレーナーならきちんと育ててくれただろうに」

 

 これにはものすごくショックを受けたようで、さっきまで気を使っていたエリカに懐疑的な眼差しを向けている。

 

「ち、違いますわっ! ウツボット、わたくしはあなたを大切に育てましたわ」

「でもっ!……知らなかったんだろ、ウツボットの気持ちは。だろ? それがウツボットにとっての真実。言ったよな、無知こそ最も罪深いと。これでわかっただろ? そのウツボットじゃ、もうお前を信用することはできない」

「いいえ、そんなことはありません。わたくしはポケモンと長い時間をかけて共に戦ってきた。それが簡単になくなりはしない。これ以上わたくしのポケモンに妙なことを吹き込まないで。アヤメ! 早く始めてしまいなさい」

「わかりましたエリカ様ッ。か、開始!」

「ヘドロばくだん!」

「右へ躱せ」

 

 余裕だな。躱すだけならほとんど苦労しない。最初は相手の出方を見ながら回避に徹するか。最初から“みがわり”があるから無理に攻める必要はない。まずは敵の自滅を待つ。

 

 何度かウツボットが技を繰り出すがグレンは全て簡単に躱した。これにエリカはしびれを切らして攻め方を変えてきた。

 

「くっ、速い。やはり動きを止めないと……しびれごなです!」

「あーあ、学ばない奴……無意味だ。1」

「そんなっ! これも効かないなんて……ありえない!!」

 

 “しびれごな”はさっき張っていた“みがわり”で不発。狙い通りだ。驚き無防備なウツボットに“かえんほうしゃ”が決まった。ウツボットのHPは残り僅かとなった。

 

「懲りないな。何回やってもエリカの指示じゃ攻撃を当てることも出来ねぇよ。そんな自分勝手なトレーナーの言うことなんか聞いているから技が失敗するんだ。こいつはお前に勝ってほしくないんだよ。ウツボット、まだ気づかないのか。主人同様、お前もバカな奴だ。得意な攻撃をしてればこうはならなかったのに。お前らって、見ていて実に、実に滑稽だなぁ。ウツボットは強そうで厄介かと思ったが、エリカのおかげで案外楽に勝てそうで助かった」

「ふざけないで、まだ負けてませんわ。勝負は最後までわかりません! ウツボット、ギガドレインで回復ですわ」

「キシャー!」

 

 しかしウツボットはその命令に迷いを見せた。そして考えた挙句“ギガドレイン”でなく“はっぱカッター”を出した。完全にエリカを裏切った。もうエリカのことをトレーナーとして認めてない証だ。

 

 しかも、俺が言ったことに従い、自分の得意な“はっぱカッター”を使った。もしなつき度合いが見られたら、きっと普通以下にまで下がっているだろう。ジムリーダーが試合中にポケモンの信頼を失うなんてとんでもないな。こいつはもう……。

 

「お前、ジムリーダー以前にトレーナー失格なんじゃない? やめたら、トレーナー? 植物とたわむれる方がお似合いだ。たしかご趣味は生け花じゃなかったっけ?」

「そ、んな……ウツボット、なんで?」

「当たり前だろ、最後まで苦手な技ばかり指示されて、しかも技が不発になって、これでトレーナーを信用しろという方が酷だ。お前みたいなのがポケモンに偉そうに命令する資格はない。調子に乗っているのはお前の方なんだよ」

「う、ウツボット! お願いわたくしを信じて、まずは回復よ! もうかなり傷ついています。無理はダメですわ」

 

 しかしウツボットは頑なに“はっぱカッター”を続け、グレンも避け続けている。

 

「むだむだぁ。そいつは意地っ張りな性格。一度やったらすぐには曲げないさ」

「な、なんで性格なんかわかるんですの! そもそも覚えてる技も、どうして!」

「一流は見ればすぐにわかるんだよ、覚えときな。わからないのはお前みたいな二流以下だけ。ウツボットも、拾われたのが三流トレーナーじゃなくて俺だったらもっと強くなれたのに。いいところを目一杯伸ばしてやれたのに……残念だなぁ」

 

 ピクッとウツボットの動きが止まった。やっぱり話をよく聞いて理解している。ここまで言われたら俺の方が信憑性は高いだろうし気になっても仕方ない。それが命取りなんだけど。

 

「グレン、トドメを刺して楽にさせてやれ、3」

 

 “しんそく”が決まりウツボットは倒れた。

 

「ウツボット、大丈夫ですか?」

「キシャー!!」

 

 近寄るな、とばかりにエリカをふりほどいた。これは見ものだな。

 

「あーあー、嫌われちゃって。ウツボット、そいつがイヤなら俺のとこに来てもいいぜ? お前は見どころがある。俺が言うんだ、間違いない。そいつなんかより大切にしてあげるけどなぁ」

「な、何言ってますの! そんなこと許しませ……ウツボットッ、何してるのっ?! ダメッ!!」

 

 あろうことかウツボットは瀕死の体で地面を這いつくばりながら俺の方に来ようとしてきた。エリカが無理やりボールに戻して弟子の1人に運ばせたが、あれじゃこの先が思いやられるな。

 

「ウツボットはまんざらでもなかったのに、最後くらいポケモンの意思を尊重してあげたらどうだ? どうせそんなんじゃ逃げられるのがオチだしな」

「最後じゃないですわ! もう何も言わないでっ。どうしてこんなことするの!」

「なんでか? 最初に言わなかったっけ。俺はお前が憎くて仕方ない。町へ出れば周りから常にあの目で……憎しみのこもった目でみられる。その根本の原因であるお前にも、同じ目に合わせてやろうかと思っただけ」

 

 また言葉が溢れてくる。負の感情が溢れて止まらない。こいつの顔を見ているだけで怒りが湧き上がる。平常心を保てない。

 

「ッ!」

 

 下唇をかんで……ようやく自分のやったことに気がついたって表情だな。いまさら後悔しても遅い。あいつはここまでしないとわからないような人間だ。徹底的にしないとすぐに忘れるだろう。容赦はいらないな。

 

「どうした? まさか、いまさら後悔するようなタマじゃないだろ? まだ試合中だ。早く次を出しなよ」

「わ、わかってますわよ。ラフレシア、出てきて。ここから逆転します」

「ラァ……」

 

 アナライズ!

 

 ラフレシア Lv41 おだやか

 

 ラフレシアも不安そうにエリカを振り返った。どうやらバトル中だから外の様子を見ていたらしいな。エリカは今にも泣きだしそうな顔をしている。

 

「あなたも疑ってるの!? う、ウソでしょ?!」

「こりゃホントに傑作だな。ウソかどうかは見ればわかるだろ、三流トレーナーさん」

「ラフレシア、お願い! 絶対に勝つから、わたくしを信じて」

「ラアッ!」

 

 ほう、持ち直したか。こいつからはかなり信頼されているみたいだな。その信頼関係も今ズタボロにしてやる。

 

「あ、ありがとうラフレシア。絶対に勝ちますわ。まずはヘドロばくだん」

「躱せ! 最初は相手の攻撃後の隙を探れ」

 

 さっきと同じ。“みがわり”があるうちは徹底的に回避だ。攻撃をグレンによく見せておけばグレンなら動きのパターンを覚えられる。相手が自滅して補助技に走ればそれでよし。膠着してもじっくり隙をうかがえばこちらの優位は動かない。グレンは回避に関しては絶対の信頼がある。

 

「このウインディ、攻撃をしっかり見切っていますわね。しかもラフレシアよりかなり速い。なかなか技が当たらない……。やはりここは……。ラフレシア、一面にねむりごな!」

「2、1」

 

 “ねむりごな”は効かないのでそのままつっこませ、予想外のことにラフレシアは対応できず“かえんぐるま”が直撃。そのまま馬乗りになり、“かえんほうしゃ”を至近距離で放った。ラフレシアはなんとか頭でガードして低乱で抑えたがもうひんし寸前だった。

 

 あきれたなぁ。初見殺しであるのは間違いないが、同じ手に二度三度と引っかかるのは下の下だ。タネに気づくまで何回でも負けるつもりか? ジムリーダーってのはしょせんこの程度なのか。

 

「ラフレシア、お前の目は節穴か? さっきの様子を見ていただろう。そいつの言うことなんか聞いていたら犬死するのが関の山だってわかっただろ? レベルはお前が遥かに上なのにこんなにボロボロになって、いったい誰のせいだと思うんだ?」

「ラッフゥ!」

 

 グレンを押しのけ、バッと振り返り、怒ったラフレシアはなんとエリカに“ヘドロばくだん”を放った。間一髪でエリカはこれを躱すがラフレシアの怒りが収まる気配はない。

 

「ハッハッハ!! おいおい、トレーナーが攻撃されるなんて聞いたことないぞ。おかしくって腹痛いわ~。エリカ、面白い奴だなお前」

「え、エリカ様、危ないです。下がってください、ここは私が……キャアッ!?」

 

 弟子にも攻撃を始め、手が付けられなくなっていたのでトドメをさすことにした。

 

「仕方ないな。8、動けなくしてやれ」

「ヴォウ」

 

 ラフレシアは“オーバーヒート”の勢いのまま壁にたたきつけられ完全に気絶した。

 

「今の技、なんて威力なの。あれなら最初から一撃で倒せたんじゃ……」

「最初から実力の差を見せたら面白くないだろうが。レベルで判断して驕っているところを倒してこそ面白い。珍しいものも見られたし。最初っからお前は俺に遊ばれてたんだよ。バトルに夢中で気がつかなかっただろ? お前が遊ばれてるとも知らず本気になって、ポケモンにまで愛想つかされて……笑いをこらえるのが大変で……楽しかったぜ、お前とのバトルごっこ!」

 

 驚いたままエリカは何の反応もない。ただ茫然とラフレシアをながめ、静かに涙を流していた。

 

「エリカ様、そんな……! うう、あんたっ! よくもこんなこと! エリカ様はね、毎日忙しい中一生懸命ポケモンを育てて、私達にも笑顔で指導してくれるような素敵な人なのに、そんなエリカ様を泣かせるなんて、許さない!」

「今の全部俺のせいだって言いたいのか? ポケモンをないがしろにしていたのは事実だろ? ポケモンが感じていた不満やもどかしさは元々あった。こんな独りよがりな育て方なら当然。ポケモンは意思のない道具じゃない。俺はそれを教えてやっただけ。むしろ感謝して欲しいぐらいだ。ま、愛想つかしたのがお前にとって替えが利くポケモンで良かったな。ランク8ならどうなっていたか。手持ちまで愛想つかされる前にさっさとジムリーダーなんざやめちまえ。エリカじゃジムリーダーには力不足だ」

「あんたなんてこと言うの……! くぅ、覚えてなさいっ! 絶対に許さない! これ持ってさっさと出ていって!」

 

 パシッ!

 

 投げて寄越してきたものを左手で掴んだ。ここのバッジか。よっぽど俺が嫌いらしいな。一刻も早くここから追い出したいのだろう。アヤメはバッジを投げた後、すぐにエリカに肩を貸しながら下がっていった。

 

 ◆

 

 さて、とりあえず目的は果たしたな。経験値も入ったし満足だ。このジムもこれだけやればなくなるかもしれないな。一刻も早く消えてなくなれ。そう思いながらジムを出るとゴウゾウが話しかけてきた。

 

「レイン、お前怖過ぎるだろ。容赦とか慈悲とかいう言葉を知らないのか」

 

 いたんだな、そういえば。今回は説明をした以外完全に空気だったな。

 

「お前まで冗談言うなよ。ところで、俺はもうここに用はないから旅に出る。ここからだとどこに行くのがいいか、何か案はないか?」

「もうさっさといっちまうのか。行動がはえーなぁ。あの3人組とはいいのか?」

「もう別れは済ましてる。おたくの子分らにはお前からよろしく言っといてくれ。俺がいなくなってからもあんまり好き勝手するなよ。やり過ぎれば己の身を滅ぼす。今回の締め出しでもう十分わかっただろうけど」

「そりゃお世話様。にしても準備がいいな。最初から勝つ気満々だったんだな……しかもランク8に。行き先は色々考えられるが、そういえば面白い話をついこの間に聞いたな。北にある町で虫取り大会があるんだが、そこでとんでもなく強いポケモンが出るらしい。最近のことだからまだいるんじゃないか? 興味があればその大会に行ってみたらどうだ?」

 

 面白い情報が出てきた。こいつ案外有能だな。あんまり期待はしていなかったのに。

 

「たしかにそれは面白そうだな。特に当てもないし、ひとまずそこへ向かうか。お前意外と情報通だな」

「ここら全体を締めてるからな。下っ端共からいろんな話を聞くんだよ。くだらない噂から耳寄りな情報までな。俺よりツウな奴はそういないぜ。これからも何かあればいくらでも協力する。困ったことがあればいつでも俺らを頼れよ」

「律儀な奴だ。ま、機会があったらな」

 

 頼れる仲間ができたのは悪くない。ここに来ることはもうほぼないとは思うが、何があるかはわからないのは散々思い知らされたしな。

 

 久々にちゃんとタマムシのゲートをくぐり、ようやく俺は自由を得てレインとしての旅立ちの第一歩を踏み出した。あの日、路地裏から始まった数奇な第二の人生はまだ始まったばかり。これから俺はどう進んでいくか、何も決まっちゃいないがあせる旅路でもない。ゆっくり進もうか。

 




弁明させてもらいますが別に自分はエリカアンチとかではないですよ
こうなったのは主人公のスタート地点としてベトベターやロケット団など闇が深そうなタマムシが選ばれたからです
本人は関係ないです、強いて言えば草タイプ使っていたぐらい
だからエリカさんは嫌いではないです、本当です、信じてくださいっ(フェアリーのようなつぶらな瞳)
……エリカさんから恨み節が聞こえるのでもうやめましょう


補足すべきはランクの話でしょうか
まずジムリーダーさんの威厳と、賞金システムで金品奪って生活する盗賊みたいなトレーナーさんを何とかしたいので、ジムリーダーは手加減、トレーナーはちゃんと働いて生産的な活動をしてもらうことに

このランクシステムとか依頼とかはポケダン空の探検隊を参考にさせて頂いてます
ストーリーは全然違いますが同じポケモンジャンルなので設定面で参考にしたり、アイデア面でも似たようなところはややありますし今後も出てきそう
最初によーわからん能力があるけど後で理由やらが明らかに……みたいなところとかいきなり似てる
言われなきゃ誰も何も気づかないでしょうけどね
サーチやアナライズは一応後半秘密が明らかになります、少し
いきなり物語冒頭で湧いて出てきましたが一応設定もあるということで

やたらポケダン意識なのはやっぱあれに受けた影響が大きかったからですね
ほんとにいい作品でした



指数計算の簡単な紹介

実用的にはレベル50の時のみで十分なので、その場合計算がどうなるか紹介します
当然種族値からスタートして計算しますのでそこは暗記している必要があります
レートで概算できると持ち物確定させたり後出しできるか計算したりできるので一応便利

鉢巻いじガブのげきりん二発でH振りハッサム落とせた気がしたので(つまり後出しが厳しかったはずなので)、その例でどんな感じで使えるか試してみましょう。

レベル50の時の比例定数は0.44です
乱数込みで低めにキリよく0.4で考えると暗算はかなり楽です
電卓ある時は作者は0.44で計算していました
むしろ対戦時は必ず電卓用意していました(真顔)
ちなみにガブとハッサムにしたのは数値がキレイで暗算が非常にしやすいからです。


ガブはA130族なのでMAX200(52足して1.1倍)、鉢巻で300
逆鱗は一致技、威力120の1.5倍で180
300*180で指数54000

ハッサムはH70族なのでMAX177(107足せばいい)ですが、16n―1なら175でキリよく計算しやすいしその個体も多いのでそれで計算
B100族なので無振り120(20足せばいい)
4振りはめんどいので無視
175*120は120=4*30と考えてまず4かけて700、次に30かけて21000と暗算できます。

これは54000に0.4かけたのとほぼおなじ(五万の四割は二万)であり、逆鱗は半減なのでだいたい全体の半分、つまり50%ぐらいのダメージ。だから二発ぐらいで倒せるのが概算できます。(途中計算は端数全て無視してるので暗算は難しくないのがわかると思います)

実際にダメージ計算ツールでも上の実数値入れるとダメージ84~100で乱2と出るのでだいたい合っています
かなりアバウトなので細かい確率とかは無理です
電卓使えば乱数いくつ引いたとかけっこう正確にパッと計算できますが

上の計算の結論としては、相手が鉢巻なら後出しできない、逆にハッサムが体力半分もっていかれたら相手は特化鉢巻とわかります


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1章まとめ

1章のまとめです
初めて通読する方はここでレポートを書いて休憩するも良し
読み返したいけど全部見るのは大変という方はここでショートカットするも良し
飛ばして次に進むも良しです



1.目覚めの路地裏 vsポッポ

不思議な夢に呼ばれて目が覚めるとそこは見知らぬ場所。

着の身着のままで辺りを散策し、ようやく見つけた人間とのファーストコンタクトは友好的とは言い難いものだった。

わけもわからぬまま町の外に放り出され、初めて見たポケモンと戦うことになる。

能力の発現により辛くも勝利した主人公は理不尽な世界を生き抜くため行動を開始する。

 

2.vs3人組 スロット売り上げ強奪

必要な情報を得るため町に戻った主人公。

路地裏で遭遇した3人組を倒し、初めてこの世界について知る。

主人公はレインと名乗り自分に必要なものをお金・ポケモン・トレーナーカードの3つに絞り、その獲得に向けて動き出す。

ある夜、怪しげな取引を目撃したレインはロケット団を出し抜いて大金をゲットする。

3つの目標のうち1つ目を手に入れた。

 

3.vsガーディ グレンゲット

必要な物を揃えるためヤマブキへ向かい身支度を済ませるレイン。

道中様々な実験を行い道具や自身の能力について理解を深めた。

ポケモン探しを始めたレインは強力なガーディを見つけ自らバトルを仕掛けた。

相手の気持ちを汲み一度は見逃すも、窮地を救い信頼を得たことで仲間となった。

3つの目標のうち2つ目を手中にするも、何者かがその様子を窺っていたようだ。

 

4.vs暴走族

グレンと共に町に戻ったレインが見たのは無残に荒らされた秘密基地だった。

怒りに燃えたレインはチビから事情を聞き出し暴走族退治に乗り出した。

戦いの準備を終えたレインは暴走族に襲われる3人組を見つけ出し勝負を仕掛ける。

奇抜な戦い方で意表を突き見事に暴走族を撃退したが、進化の必要性を感じグレンをウインディへと進化させた。

 

5.vsゴウゾウ

暴走族のボスの居場所を突き止めたレインは単身敵の根城に乗り込んだ。

一騎打に持ち込んだレインは強力な技を駆使して見事に勝利を収める。

負けたゴウゾウはレインの実力を認め、その腕を見込んで事件の元凶である橋の開放を依頼する。

これに興味を持ったレインは橋の番人との勝負に乗り出した。

 

6.vs橋の番人

暴走族のポケモンを借り受け番人とのフルバトルに挑んだレイン。

互いに実力を認め合い激しく鎬を削るもののグレンの活躍によりレインが勝利を飾った。

勝負の後、番人の願いを叶え感謝されたレインはその証としてトレーナーの推薦を受けることになる。

そして橋の開放で自由になった暴走族からもトレーナーカード獲得に向けて協力を得ることとなった。

 

7.vsジョーイ トレーナーカードゲット

必要な物が揃ったレインはトレーナーカードゲットのためポケセンへ向かった。

しっかりと目的を果たし、因縁あるジョーイへ決別を告げた。

レインは当初掲げた3つの目標を全て達成した。

 

8.vsエリカ

タマムシとの因縁にケリをつけるべくレインはエリカの元へ向かった。

レインはポケモンの心を惑わすことでトレーナーとの信頼関係に亀裂を作り、エリカに対して残酷な敗北を突き付ける。

自由を勝ち取ったレインはタマムシを出る喜びを噛みしめながら旅に出た。

 

 

データメモ

 

グレン 25-31-23-22-18-31 むじゃき (ガーディ時Lv20)

vs下っ端暴走族

Lv22 77-74-45-53-39-73

 

vsゴウゾウ

Lv24 83-80-48-58-42-80

 

vs番人

Lv25 86-83-50-60-44-83

 

vsエリカ

Lv27 92-89-54-64-47-89

 




タイトルを要約にマッチする感じに差し替えましたが、わかりやすいし本編のタイトルもこれでよくね、というのは作者が泣いてしまうのでナシの方向でお願いします

真面目な理由を挙げると、タイトルを内容の要旨にするとネタバレになっちゃうからですね
あ、今回はジム戦なんだなーみたいに先にわかるのは作者の美学に反します。
もちろんわかりやすいので読み返す時を考えると便利なんですけどね

なので今回はその両方のいいとこどりをするわけですね

要約で全体図を眺めると話の展開とかも見やすくて理解が深まるかなぁと思います
見たい部分を探す時にここがこの回だなーとか確認する場合も便利

要約の書き方でこうしたらいいよーみたいなアドバイスがもしあれば教えてもらえるとありがたいです
そんなに下手ではないと思いたいですが基準というか、手本がないのでやや不安


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もうひとりのトレーナー編
1.気になるポケモン そのお名前は?


ここから新章です

「S+4」は素早さが4ランクアップという意味です
能力変化の表記ですね

準伝は準伝説、つまりスイクンとかそういうポケモンの総称です
各地を飛び回る、いわゆる徘徊個体が多く、なんでもない草むらなどで突然何の前触れもなく出てくることがあります


 タマムシを旅立ってしばらく、俺は青々とした森の中を歩いていた。季節は春も過ぎてそろそろ初夏という頃か。横には景色を見たいと言ってボールから出てきたグレンが並んで歩いている。

 

 せっかくの機会だ。急ぐこともないし敢えて乗ることはせず俺も自分の足で歩いていこう。出てくる野生のポケモンは弱いので寄り付くこともなく、のんびりとした旅路になった。

 

 顔を隠すため以前はキャップやサングラスをしていたが、今は必要ないので外している。服装などはそのままだ。さすがに暴走族の恰好は二度としない。

 

 アクセサリーとかはジャラジャラするのでつけていない。戦闘になったら邪魔になる。今までの経験で考えれば俺自身が戦う可能性はないとは言い切れないので念のためだ。

 

「ガウンー」

「ん、なに?」

「クゥゥーン……」

 

 急にじゃれてくるなぁ。森の方を向いていたので急に来てびっくりした。もちろんイヤな気はしない。ゆっくりじっくり撫でてあげると幸せそうな表情になる。見ているこっちまで癒される。グレンのこともこれから考えないとな……。やっぱり自分よりも先にグレンの身だしなみを気にしてあげたい。

 

 思えば手持ちが1体だからここのところずっと戦い詰めだし、その分しっかりと労はねぎらってあげないと。頭を撫でたりするだけでもずいぶん嬉しそうにはしてくれるが、懸命に戦った対価がそれだけというのはあんまりな話だ。ちゃんとした“けづくろい”をしてあげたい。次の町でブラシとかドライヤーなど必要なものを買い揃えよう。

 

 かなり近くの町だったようで、グレンと戯れているうちに町が見えてきた。

 

「だんだん見えてきた。あれがゴウゾウの言っていた町だ。時間もあるし少し情報収集といくか」

「ガウンー」

 

 また全力でじゃれてきた。進化して間もないせいかまだグレンは力加減ができていない。進化前と同じように全力でじゃれてくるとそれなりのダメージが俺にもくる。じゃれつくだけでまるで攻撃しているみたいだ。技を使っているわけでもないのに。

 

「グレンは体がおっきくなっても中身はガーディの時のまんまだな。その体で抱き着かれたら俺が下敷きになるから勘弁してくれよ?」

「グゥゥ……」

 

 なんか寂しそうな顔だな。もしかして進化で大きくなってからガーディの時のように構ってもらえなくなったのを気にしているとか? 体格差があるから以前みたいに抱き着いたりは最近していない。

 

 もしかして景色を見たいっていうのは方便でホントは俺と一緒にいたかったのかな? じゃれてきたのもグレンを見てないで放っておいた時だったし。だとしたらかわいいところあるじゃん。たまには好きなだけじゃれさせてやるか。

 

「町に着いたらいいもの買ってやるよ。今日はずっと一緒にいていいし、それに……ここだと困るけど部屋の中なら汚れないから好きなだけじゃれてきていいからな」

「っ!? ガウガー、ガブッ!」

「おい! だからじゃれるのは屋内だけだって!」

 

 嬉しかったのかじゃれながら甘噛みもしてきた。グレンをなだめてとりあえず町で宿をとった。あんまり休めなかったがそこで一休みし、さっそく町の探索に出た。

 

 トレーナーなら情報は足で稼ぐのが基本。ゴウゾウの情報では詳しいことはわからなかったからな。噂のポケモンについて通りすがりのトレーナーに聞いてみた。

 

「……ああ、いるよ。凄まじく強いポケモンがね。倒していいならなんとかいけそうだけど、この大会じゃ倒すのは禁止されてるからかなり厳しいよ」

「どういうことだ?」

「君、知らないのかい? 普通はポケモンを倒してからボールを投げれば必ずゲットできるけど、瀕死のポケモンは返す決まりだから倒してからのゲットはできない。体力が残っているとなかなかボールに収まらないから難しいのさ」

「え、倒してからゲットなんてできるのか」

「……あ、まさか初心者さんかい? 基本だよ。ポケモンは弱らせて捕まえる、倒したら必ずゲットできる、ってね。悪いことは言わないから、初心者ならあいつには手を出さない方がいいよ。もう何人もやられてるから」

 

 これまたとんでもない常識違いだな。そんな格言みたいなものまであるのか。言われてみれば倒してゲットできない道理はない。でもそれだとハイパーとかはなんのためにあるんだ? 全く必要ない気がするのだが。

 

「え、ハイパーあるの? いいなー、倒しきれなくても捕まえれるもんね。初心者の時はよく使ったな、そういえば」

 

 ハイパーさんいらねーー!! うっそだろおいっ。これ、ハイパー買う意味全くなかったんじゃないのか。キズぐすりがゲームより高騰しているのにボールがそのままだったのはそういう事情か! 

 

 買いだめの時、準伝辺りがいきなり出てきた場合に備えて一生分と言い聞かせながらアホほど大人買いしてしまった。特にハイパーをかなり……。いや、今回役に立つしまんざら使い道がないわけじゃないか。

 

 聞けばこういう大会だとボールは各自用意が基本で、配給されたりするケースはほとんどないらしい。でもまさか倒していいとは思いもしなかったなぁ。本当に驚きだ。先入観ってヤバイ。微塵もそんな発想なかった。そしてこの衝撃で、大会開始になるまで大事なことを忘れていた。

 

「噂のポケモンの名前聞き忘れてた……!」

「あれ、君やっぱり出るの? せっかくエリートの僕がレクチャーしてあげたんだから、ケガしない程度に頑張り給えよ。まあ優勝は僕が頂くけどね。じゃ、僕は場所取りがあるから」

 

 開始直前またさっきのキザなトレーナーと会った。あいつエリートトレーナーだったのか。そういえば恰好はそれらしいな。初心者扱いは正直腹が立ったが知らないことが多いのも事実なので何も言わずにスルーした。

 

 ついでに、場所取りとかいうイヤな単語を残していったが、これは本格的に出遅れた感が否めない。あいつの後をつける手もあるが、初心者呼ばわりの件もありプライドが許さなかった。

 

 ◆

 

「制限時間は2時間、スタート!」

 

 開始の合図が出て、とうとう始まってしまった。それもなんの計画も練れていないままに。仕方ないからサーチを使ってしらみつぶしに探すが、この能力を使い慣れていないせいで思いのほか疲れが来て、残り時間も30分を切った。

 

 サーチの力は便利だがやはり多用し過ぎるとしんどい。目がかなり疲れてきた。これ、まさか使用すると代償として視力を失うとかトンデモなリスクないよな。そんなどっかの忍者みたいな設定ないよな。……ないよな?

 

 確かめることもできないから祈るしかないが、あんまり負荷が重いと使用制限も考えないと。ここはポケモンが多くて大量の情報が入ってくるので余計脳への負荷も大きいのが疲れの原因かもしれない。諸々考えて、今回は諦めるしかないかと思い始めた頃、遠くから声が聞こえた。

 

「出たぞー、ストライクだぁー!」

「もしやこれか? ストライクだったのか、いいポケモンじゃないか、楽しみだな」

 

 例のポケモンが出たと当たりをつけて現場へ向かうと1体で周りのポケモンを蹴散らしているストライクがいた。間違いない。どれ、ステータスは……。

 

 アナライズ!

 

 ストライク♂ Lv26 いじっぱり テクニシャン

 個 31-31-25-24-23-24

 実 80-77-53-35-52-65 S+4 はりきり状態

 技 でんこうせっか にらみつける  きあいだめ  おいうち 

   みねうち    こうそくいどう つばさでうつ

 

 グレン Lv28

 

 実 95-92-56-67-48-92

 技 1かえんほうしゃ 

   2かえんぐるま 

   3しんそく    

   4ひのこ  

   5まもる 

   6みがわり    

   7おにび    

   8オーバーヒート 

   9こうそくいどう

 

 凄まじいポテンシャルだ。こりゃ強いわけだ。まさかグレン以上の奴に会うことになるとはたまげたな。それに虫取り大会は“あまいミツ”でポケモンをおびき寄せることで珍しいポケモンも出るようになるらしいが、こいつはそんな気配はしないな。好戦的な印象を受ける。いいな、絶対に捕まえたい。

 

 周りのトレーナーがやられるのを待って、ついでに素早さを“こうそくいどう”で上げながら様子を見ていた。今戦っているのはさっきのエリートのようだ。エリートは確か“壁”を超えたバッジ5つ以上、つまりランク6以上のはずだが見事にやられたな。

 

 あのストライク、油断できない。すでに素早さを4段階上げているので実質素早さは3倍で195。加減して攻撃しようなどという甘い考えでは今のエリートのように一太刀も浴びせられずに敗北する。グレンも素早さを限界まで上げてから迎え撃った。

 

「君、危険だっ! こいつは本当に強い!!」

「心配無用、俺はそれよりはるかに強い。エリートなら、相手の力量ぐらいちゃんと見抜けないとな」

「ヴォオオウウッッ!」

 

 グレンの咆哮で周りにいたトレーナーは思わず道を開けた。さながらモーゼだな。俺はストライクへ向かって高らかに宣戦布告した。

 

「次は俺達が相手だ。お前、直接見てすぐわかったぜ。ここのミツに誘われたんじゃなくて強い奴を探しに自分から来たんだろ? グレンは超強いから期待してくれよ」

 

 するとストライクは獰猛な笑みを浮かべてから大きく吼え、グレンに向かってトップスピードで突っ込んできた。やっぱりバトル目的か。

 

「3,1」

 

 まずはお得意のしんそく連携。相手の攻撃を“しんそく”を使ってヒラリといなして後ろからカウンター気味に“かえんほうしゃ”を放つ。だが、なんとストライクはこれに対応して見せた。

 

「4!」

 

 しかし無理な動きで体勢が崩れた。その隙に追撃の指示をして“ひのこ”で素早くダメージを与えた。小技は威力が低いがその分出が早いので使いやすい。

 

「サイッ!」

 

 今度は“つばさでうつ”か。同じ手は通じないかもしれないし、スピードだけでなく、次は真っ向から力の差を見せつけてやる。

 

「2!」

 

 互いの技がぶつかる。“かえんぐるま”と“つばさでうつ”。威力は“テクニシャン”で向こうが1.5倍だがこっちには“いかく”がある。特性は互角。しかし能力においてグレンが勝る。そして炎はストライクに効果抜群。もちろんこの攻防を制したのは……グレンだ!

 

「サイィ……」

 

 しぶとい。何とか起き上がってきたが一度倒れているしモロにくらったように見えた。だがHPは残っている。まぁ倒したらダメだからこっちとしては助かったが。あのストライクはよく戦っているが、さすがにグレンは積み技でS300相当だし速さについてこれないのは当然。

 

「どうだ? 強いだろ、俺達は。お前は素質はあるが1体で強くなるには限界がある。こんなところで埋もれるのは勿体ない。まださらに強くなりたい気持ちがあるなら……たとえどんな奴が相手でも勝ちたい、と本気で思うなら俺と一緒に来いよ。どんな相手にも、たとえそれがグレンのようなほのおタイプであっても決して負けない最強のエースポケモンにしてやる」

「……」

 

 ゆっくりと間をおいて……互いの視線が重なり交差した後、スッと目をつぶりストライクはじっと動かなくなった。これは仲間になる気になったということか。ダメもとで勧誘したが上手くいくもんだな。

 

「歓迎する。心強い仲間ができた」

 

 ゴウゾウには感謝しないと。今回は大収穫だ。……積み技で能力上げていたのはストライクには内緒だな。

 

 ◆

 

「優勝は、ぶっちぎりのぉぉぉ、レインとぉ、すぅぅとらアアアアイイイイッッッッくだああッッ!」

「「うおおーひえー」」

「優勝賞品は“たいようのいし”! ぜひ有効活用してくれ! かなり珍しい石だぞ!」

 

 ポケモンのことばかり考えていて優勝景品の存在を忘れていた。意外と珍しい、というか景品が金銀の虫取り大会そのまんまではないのか? あの大会も景品かポケモンか狙いを絞るのがコツだったな、そういえば。

 

 たいようのいし……どの店にも置いていなかったがこんなところで手に入るとは。タマムシデパートには、ほのおのいし・みずのいし・かみなりのいし……みたいな普通の石しかなかった。もっとも、今もらった石が必要なのはキマワリとかキレイハナぐらいだから、国外にでも行かないと使う機会はないだろう。特に俺の場合くさタイプがキライだからな。元々キライだったがあのエリカと同じタイプを使うと思うとなおさらなぁ……。

 

 そのあと周りからどうやって捕まえたかなど質問攻めになったがグレンに乗って離脱した。ドーピングもして、育成も一段落したところでニックネームを考えることにした。

 

「よろしくな、ストライク。お前にはうちのパーティーでエースとしての役割を期待しているから頼んだぜ。じゃ、これで強化も終わったし、ニックネームをつけてやるか」

「サイサイッ!」

 

 よろしくお願いします、という感じで景気よく返事をした。強くなった実感が持てたからなのか、いじっぱりなのに良く言うことを聞いてくれる。

 

「じゃ、アカサビ(赤錆)でいいな」

「サイッ!?」

「グウゥ……」

 

 ストライクには驚き、グレンには呆れの視線をもらった。今なつき度合いダウンのテロップが見えた気がしたな。その後、進化したらメタルボディのカッコいいポケモンになることを説明……力説してなんとか説得し、自分の拘りを貫けた。捕獲より苦労したな。いや、気のせいだな、多分。

 

 ……今度からは希望も聞こうかな。ポケモンはしゃべれないから希望を聞くことはないだろうけど。

 

 あ、そういえば結局ハイパーさん出番なかったな。……ハイパー無能説爆誕。

 




リーフのいし「」
主人公はくさポケモンだいっきらいなので意図的ですね
ちなみに(作者の私も)嫌いな理由は初めてポケモンした際にライバルが4倍弱点の草タイプですいとるを連打してキズぐすりの多用もむなしく一向に相手へダメージを蓄積させられず詰んだことがあるからです
イベント直後にいきなり自転車乗って現れたライバルに、傷ついた大事な相棒が無残にリーフブレードで痛めつけられ、さらにハルカかなーた、うみのむこーうの町まで強制送還されたときは本気でブチギレました
さんざん暴れたくせに最終進化使わん無能っぷりのせいで図鑑は埋まらないですし
その他にも悪行は数え知れず
その後もシリーズごとに毎回くさタイプは大きな障害として立ちふさがったのでキライです


タイトルの気になるお名前はアカサビでした
赤錆は出来たらダメなやーつで人工的に作るのは黒錆なんですけどね
アカサビさん哀れ

なんかストライクコールがバグってますけど何なんでしょうね
何なんでしょうね(すっとぼけ)


レインは技の「じゃれつく」は知りません
トレーナーがメガクチにじゃれつかれることがあれば即ひんしですね


服装は夏の間は基本的に同じでいるつもりです
レインのこれまで挙げた特徴を全て加味して似ているキャラいないかなーと思って考えた結果サンムーンの「グラジオ」が似ている気がしました
はねてる髪と目つきと服の色とツンデレ感
金髪とか服の種類、着かたなど違うところも多いですが
あとレインは普段片手をポケットに入れています

前髪かかってるのはグラジオ見てからいいなーと思いました
デザイン的にはかなりいいんで前髪装備したいのは山々なんですが視界を妨げるのでレインの場合死活問題になるため諦めました


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2.変人変態 お転婆乙女

今更ですがこれを読んで下さっている読者の皆さんへ

本当に拙い作品ですが、お付き合い下さり感謝の至りです
お気に入りや評価もちゃんと見ています
身に余る評価で逆に恐縮ですが内心かなり喜んでいます
感謝感謝です

もちろん打ち切り前の感謝祭とかではないので、お話はまだまだ続くので今後もよろしくお願いします。


 アカサビという新メンバーを加えながら旅路を進め次の町に着いた。虫取り大会があった町はタマムシの北にあったので必然的に次に目指していたのはハナダジムだ。ハナダシティはゲームではかなり出入りがしづらい町という印象だったがここではどうなんだろうか。

 

「ジムのある町にやっと着いたな。タマムシからだといつもの流れに背いているみたいで変な気分だが南からも普通に入れるな。さすがに細い木に囲まれて入れない、なんてことはないか。町として不自然だしな」

 

 ハナダシティを見てそんな印象を受けていると北東の方から自分のいる方に黒ずくめの男が慌てて走ってきた。どう見てもロケット団だな。そして場所と方角からすぐにこいつが何者か見当がついた。“あなをほる”ドロボーだ。

 

「まさかレッドが取り逃がしたか、あるいはそもそも会わなかったのか。いずれにしても、一度とっ捕まえてみればわかることか。とりあえずグレン、行く手を塞いで“いかく”してやれ」

 

 “しんそく”で男の前に立ちふさがり“いかく”すると、男は慌ててのけぞり、しりもちをついた。もう完全に戦意を失っているな。

 

「あんたいかにも怪しいな。このままジュンサーに突き出しても構わないが、出すもん出すなら見逃してやってもいいぞ?」

 

 暗に“あなをほる”のわざマシンを要求すると、観念してすぐにわざマシンを差し出してきた。もちろん盗品の又盗みなんて褒められたことじゃないが、俺は元々盗人。レッドのような正義の主人公様ではない。いまさら遠慮はなかった。……もっとも、そのレッドも持ち主の鼻先で又盗みしているが。

 

「いいもん持ってるじゃん。そういや、この辺で赤い帽子の子供に会わなかったか?」

「なぜそれを! あっ、いや、知らない知らない!」

 

 こいつ、底抜けに間抜けだな。しかしレッドには会っているのか。しかもついさっきと見た。あっちも今旅を始めたところか。俺が西側からきて奴が東側から抜けたなら丁度入れ違いになったということか。ま、あっちの進み具合がわかっただけで十分だ。確実に今年のリーグは面白くなる。楽しい勝負ができるかもな。あんまり相手が弱いと退屈極まりない。歯ごたえのある奴がいるようで安心した。

 

「じゃ、俺はここで……」

「待て」

 

 俺が考え事をしている間にどさくさに紛れて逃げようとしてんじゃねぇよ。そもそもレッドにもわざマシンは渡しているはずなんだ。そう考えるとこいつは複数個持っている可能性が高くなる。

 

「な、なんの用です? へへ、もうわざマシンは…」

「まだあるだろ? あるだけ全部置いていけ。さもないと……」

「ヴォウ!」

 

 レインは わざマシンを 30個手に入れた ▽

 

 グレンの一鳴でボロ儲けだな。正直すぐには使い道なんてないから売るぐらいしかないが、もしかしたら何かあった時に役に立つかもしれない。とりあえず今はキープしておこう。さて、いきなり変な奴が出て来たが、この町に来たら最初にやることは決まっている。そう、自転車だ! 念願の折り畳み!

 

 ◆

 

「この自転車は100万円になります」

「なん……だと……!」

「この自転車は100万円になります」

 

 きれいに復唱された。そういう意味じゃない! なんで自転車に100万も値段がつくんだっ! なんでそこはゲーム通りなんだよっ!

 

「この折り畳み式自転車はモンスターボールの技術を応用して圧縮して持ち運べるのです。世界最先端の技術ですのでこの価格になります」

 

 ロマンが、折り畳みのロマンが……いや、まだ諦めない。交渉してなんとかする。俺はずっと現実でも折り畳み片手に旅するのが夢だったんだ。せっかくそのチャンスが来たのにここまで来て諦められるかよっ!

 

「なら、このわざマシンと交換はどうだ?」

「それは非常にレアな“あなをほる”のわざマシン! どうやってそれを! いや、でもダメですよ。こっちは100万ですからね。複数なら考えてもいいけど……」

「3つ。これでどうだ?」

「だ、ダメです! せめて……10、10はないとなー。ま、そんなにないでしょうが……」

「交渉成立だな」

 

 バンッ!

 

 わざマシン10個を叩きつけて、見事折り畳みを勝ち取った。まさかこんなにすぐにわざマシンが役立つとは、ラッキー。交渉は俺の粘り勝ちだ。なんとなく、トレーナーで自転車に乗っている人を見かけない理由がわかったな。

 

 ◆

 

 嬉しさの余りその後は自転車を乗り回し、気づけば方角も見失い広い河原に出てきて道に迷ってしまった。だがなんとなくこの地形は見覚えがある。ハナダの北西の、洞窟の前にある川の辺りか。川の流れから方角は逆算できる。とはいえさすがにはしゃぎすぎた。疲れたし少しここで休もう。

 

「ガーウッ」

 

 グレンは広い河原に飛び出して行った。たまにはゆっくりさせてやるか。そもそもあの町から出られたらもう急ぐ意味もない。この町でジム戦はしないといけないが探すのは後にするか。回復は十分だし、見つけたらすぐできるだろうからな。けど、グレンは泥んこになってけっこう汚れているな。けづくろいしてやるか。

 

 最近はなつき度上げを兼ねてグレンとアカサビには“けづくろい”をするようになった。前の町でブラシなど必要そうなものを一通り購入しており、だんだんコツもわかりグレンもアカサビも喜んでくれるので毎日一度はやるのが習慣になっていた。ついでだし今からやるとするか。

 

「クゥゥーン」

 

 毛並みを整えて、軽くマッサージをしてあげた。いろいろ試してどこがいいのかもわかってきた。優しくツボを押してやると嬉しそうに鳴いた。それを見てこっちまで嬉しくなり、頬ずりして背中を撫でた。グレンもそれを受けいれて身を任せてくれる。

 

 ちなみにアカサビは鋏(?)を研いでやると無表情ながら嬉しさを隠しきれていないなんともいえない反応を見せてくれる。なんでかポケモンに触っていると感情が手に取るようにわかり、しかも幸せな気分がこっちまで移ってくるのでけづくろいをするのは自分にとっても至福のひと時であった。

 

 ――ッッ!!――

 

 ハッ!? 幸せをかみしめながらブラッシングしていると、どこかから視線を感じた。なんだ今の感覚。慌てて辺りを見渡すが人影はない。気のせいか?

 

「……」

 

 ふと、遠くへ目をやればハナダの洞窟が見える。……なんとなくヤな感じだ。

 

「ガーウ?」

「いや、なんでもない。横になってろ」

「クウーン」

 

 けづくろいを続け、きれいになったグレンは気持ち良さそうに伸びをした後、蝶を追って駆け回り始めた。和む風景だな。空気もタマムシとは違って澄んでいるし言うことなしだ。あの町は廃液やら煙やらのおかげで空気が淀んでいたからな。満足してゴロンと横になり休憩していると、静かな河原に鋭い悲鳴がこだました。

 

「やめて、離してっ!」

 

 子供、それも女の子の声。こんな昼日中から厄介事のにおいがする。関わるとめんどそうだが、ほっとくのもさすがにマズイか。チラリとグレンを見ると、どうするんだ、と目で語りかけてきた。俺の指示を待ってくれている。当たり前といえば当たり前だが、それを見て俺への信頼を感じて少し嬉しくなり、その信頼に応えるため助ける決意をした。こんなガラじゃないのにな。

 

「しゃーない、急いで助けに行くぞ。飛ばせ!」

 

 ガウ、と嬉しそうに返事して身を屈めたグレンに跨り一気に駆けた。遠くの木陰に人影が見える。女子とおっさんの2人いるな。

 

「それ、返してよー」

「へへ、いいじゃないか、ちょっと遊んでこうよ。おじさんのきんのたまをあげるからさあ、へへへ」

 

 え、なんなのこれは。きんのたま……おじさん? この状況は、いろいろ狙い過ぎじゃないのか。なんと言うべきか……とりあえず間に入るか。

 

「えーん、もう、誰か助けてー!」

「おバカだな。こんなとこに人なんてこないよ、へへへ」

「それはどうかなぁ。ここに1人いるけど?」

 

 俺の姿を見て怪しい男、言い草がきんのたまおじさんみたいな奴はうろたえて距離をとった。小心者だな。

 

「な、なんだ、お前! なんでこんなところにいるっ!」

「お前こそ、こんなところで何をしてたんだ?」

 

 いちいちバカ丁寧に相手の質問に答えるのは下の下。今のところ被害者っぽいこの女の子は何もされてなさそうだし、様子見に徹した。

 

「た、助けて! この変な男に付きまとわれて、なんか私の体に触ってくるし」

「イヤなら無視して逃げたらいいだろ」

 

 普通はそうすると思って聞いてみた。

 

「それが着替えを取られちゃって、ううっ……」

 

 と、困った表情で訴えかけるこの子は確かに水着姿。服がないと困るな。でもまだ夏前なのにもう泳いでいるのか。しかも水着のままこんなところをうろついていたことに。こっちも大概変な奴だな。失礼なことを考えていると俺が何も言わないことに対して勝ち誇ったように男が声を上げた。

 

「へへ、でも残念。これは落ちてたもんを拾っただけだ。だからこれは俺のもんー、欲しいなら代わりに俺と遊んでいくんだ」

 

 こいつ子供かぁ? 自分勝手な小学生と同じレベル。アホらしい……真面目に話するだけムダか。さっさとケリをつけよう。

 

「あっそ。だったらこうだ。グレン、いかく」

「ヴォウオオォォンン!」

「ヒイイッッ!」

 

 ビビッて男が手を放した隙に服を取り返した。

 

「ほれ、これでいいか?」

「え、あ、はい」

 

 ポン、と投げて寄越すと目を白黒させながらも女の子はペコリとお辞儀した。

 

「ああっ!? お前っ! 勝手に何やってんだ! 俺の服!」

「何って、落ちてたもんを拾っただけだ。拾ったものは俺のものだから、この水着っ子に渡してもいいだろ。おっさんが言ったことだぜ?」

「こいつ、屁理屈を! あと、俺はまだ20代だ! おっさん言うな! こうなったらバトルして力ずくでも奪い返して……」

 

 ごちゃごちゃうるさいのでグレンに目で合図して追っ払ってもらった。

 

「ガウゥゥゥ……!」

「ッッ! す、すいませんでした!!」

 

 グレンの唸り声が決め手となり、怖気づいた男は全速力で逃げていった。さっき見たロケット団の奴そっくりの逃げっぷりだな。逆に感心しながらも水着っ子に視線を戻すと、意外にもこっちは怯えた様子もなくグレンを見て感心していた。そういえばさっき視線を感じたが、あれはこいつからの視線だったのだろうか。他に人はいないしな。

 

「ほえー、とってもよく育てられてる。すごーい。あっ、どうも、助けてもらってありがとうございます。一時はどうなることかと」

 

 俺の視線に気づいて改めて礼を言われた。最初は助ける気もなかったからバツが悪く、素直には礼を受け取れなかった。

 

「たまたま近くにいたから様子見に来ただけだ。大したことしてないしな。それより、お前トレーナーか? こんな時期に水着だし、グレンに腰が引けてるわけでもない。なのになんであんな奴に後れを取っていたんだ? バトルして無理やり奪い返してやればいいのに」

「うう、実はここで特訓をしていて、もうポケモンはヘロヘロなんですよ。元気ならあんな奴ぶっ倒してやるのに。さすがにこの子の“いかく”みたいにすごいことはできないけど」

「やっぱりそうか。トレーナーは得てして変な恰好をしているしな。だったらハナダのジムの場所知っているだろ。教えてもらえるか?」

「ちょっと、この服装はうちのフォーマルなのっ、変な人扱いしないで下さい。……あなたジム戦にいくのね。ならラッキーよ! 何を隠そう私こそっ、我らがハナダジム、ジムリーダーカスミの一番弟子、コズエよ! えへへ、びっくりしました? よろしくね。丁度戻るところだから一緒についてってあげる。えーと……」

「レインだ。こっちこそよろしく」

 

 まさか関係者だったとは。一番弟子というのは正直怪しいが、これは確かにラッキーかもしれない。グレンを挟んで着替えると、コズエはなんとピクニックガールだった。水関係ないなと思ったが弟子というのはこいつ曰く大概そんなものらしい。

 

 河原のピクニックガールか。ゲームではそんな奴いなかったが、ジムの中にはいたのだろうか。わからない。そこまで覚えてないな。グレンをボールに戻し、コズエの後についていくと、道すがら町の案内もしてくれたので非常に助かった。意外と面倒見のいい奴だ。

 

「悪いな、こんなにゆっくり案内させて」

「いえいえ、助けてもらったお礼ですから、このぐらいなんでもないです。さあ、着きましたよ。我らがハナダジムに到着です。すぐカスミを呼んでくるので待っていてください」

 

 タマムシに比べてトントン拍子に行き過ぎていて怖いな。まあこれが普通なんだろうが。一応今回も看板を見ておくか。

 

 おてんば人魚カスミ

 

 ……これ、まさか自称じゃないよな。自分でこんなこと言っていたとしたら大分変人だな。ゲームでなくリアルで見ると大分印象が変わる。

 

「あなたがチャレンジャーのレインね、コズエが世話になったわ。バトルの申し込みならすぐに受けて立つわよ。奥へついてきて」

 

 看板について考えているとすぐにカスミが現れた。予想外に早く出てきて思わず考えていたことをそのまま言ってしまった。

 

「あ、おてんば人魚もう来たのか。早いな」

「ちょっとあんたっ! その言い方はやめてちょうだい! それは姉さん達にふざけてつけられたのよ。私はれっきとした乙女なんだからっ」

「やっぱり自称ではないのか。……乙女?」

「何よその顔は! 失礼な男の子ね。いいからさっさとこっちに来なさい!」

「っと、奥についていくんだったな。じゃあ案内してくれ」

「もしかして今看板見てそんなこと考えてたの? はぁ、随分と余裕ね。足元掬われても知らないわよ。バトルの世界はそんなに甘くないわ。そんなことでジム戦の方は大丈夫なの?」

「それはバトルしてみればわかることだろ」

 

 やれやれ、という感じでカスミはトレーナーカードの読み込みを行い、ランクを見て驚きの声を上げた。何事だ?

 

「まだランク2だったの? 慢心するのが早過ぎよ。もうちょっと気を引き締めた方がいいわよ。コズエからかなり強いとは聞いているけど、本当なの?」

 

 バトルフィールドに立ちながら呆れ声で言うカスミに、ランクを上げるためにあえて余裕を見せつけるように自慢げに返した。

 

「誰だって最初はランク1から始まるんだ、どんなに強かろうとな。その証拠に最初のジム戦はランク7に勝ってバッジを手に入れた。俺は既にバッジ7個相当の実力、ということだ。もっとも、前はあのジムのリーダーが弱過ぎたせいかもしれないが」

 

 これにはカスミだけでなく審判として間に立っていたコズエも驚きを隠せなかった。

 

「レインさんホントですか!?」

「そんなことありえないわっ! まさかあなたずっとジム戦はしないでポケモンだけ育てていたの?」

「別に。トレーナーになったのはつい最近。だがポケモンは短い時間でもみっちり鍛えてあるから同族で敵う奴はいない程強い。まぁ俺のことはどうでもいい。今回もランクは7にしてくれ。できるだけ強い奴と戦いたいんだ。いつも弱い奴ばっかで退屈だから。いいだろ? とにかく格上との戦闘経験を積んでおきたいんだよ。駆け出しだから」

 

 駆け出し、というところをあえて強調して言った。

 

「あなた、ホントにランク7に勝ったの? どこのジムよ?」

「タマムシ。そんなに信じられないなら連絡とってそこに聞けよ。待っていてやるから。面白いものが見れるかもしれないしな」

「面白いもの?……うーん、あのエリカが駆け出しのトレーナーに負けるなんて信じられないけど……。いや、いいわ。そこまで言うなら信じてあげる。それに、あなたの言うようにバトルしてみればわかることだしね」

「なんだ聞かないのか。チッ、あいつのうろたえる声が聞けると思ったのに」

 

 最後はぼそりと、カスミには聞こえない程度に言ったので聞こえてはいないようだ。

 

「じゃ、ジム戦を始めるわ。先に言っとくけど私は強いわよ。それに、ランクを上げるからって手加減はしないわ。覚悟してよ」

「別にこの前も相手が油断してたから勝ったわけじゃない。そっちこそ油断したとかそういう言い訳はなしだぞ? 前はつまらん試合だったしちゃんと楽しませてくれよ、おてんば人魚さん」

「だ・か・らっ! その名前で呼ぶな! 使用ポケモンは2体、交代はチャレンジャーのみ。フィールドはこのプールよ。いいわね?」

「ああ」

 

 やっぱりハナダはこんなフィールドか。ジム側に有利すぎてセコイ。水なかったら水ポケモンは戦えないから仕方ないのかもしれないが。

 

「両者構え、用意……始め!」

「いけ、アカサビ」

「いくわよ、ゴルダック」

 

 アナライズ!

 

 ストライク Lv27

 実 83-97-54-36-54-85 

 技 1つばさでうつ 

   2でんこうせっか 

   3みねうち

   4つるぎのまい 

   5まもる

   6みがわり

   7こうそくいどう 

 

 ゴルダック Lv40 

 実 106-97-76-83-68-107

 

 かなり能力値は負けているし、ゴルダックだから能力も尖りがない。逆に戦いづらいな。積んで決めるか。

 

「水中に潜って周回して」

「4。相手は視ず、俺の言葉に集中しろ」

 

 攻撃せず、舞を続けるストライクを見てカスミは怪訝な顔をした。今指示したのは“つるぎのまい”、攻撃力を2ランク上げる技だ。

 

「どういうつもり? そっちから来ないならこっちから攻めて攻めて攻めまくってやるわ。みずのはどう、連続で撃ちなさい!」

「右の足場へ移れ! 次は前だ」

「避けられたか。ならねんりきよ!」

「右だ! なにっ!? 避けられないだとっ!!」

 

 躱す指示をするがそれでも当たった。“ねんりき”は避けられないのか? しかしすぐに技の効力は切れて、ゴルダックも動かない。硬直時間があるのかもしれない。技にかかるとこっちも動けないから、このまま積みにいくのはマズイ。だったら盾を先に張っておくか。“みがわり”をさせてから“つるぎのまい”をするように指示を飛ばす。

 

「6,4」

「また舞い始めた。何も技の指示をしないし、あんたやる気あるわけ? まさか私のことなめてんじゃないでしょうね?」

「さぁ、どうだろうな。というか、お前は何も思わないんだな。意外だ」

「どういうこと? ……ふーん、何か考えがあるのね。なら悠長にしていられないか。次はれいとうビームよ」

「もう十分だな。1、当たるのも構うな」

「なんですって?!」

 

 直撃も厭わず“つばさでうつ”が決まり、ゴルダックに命中。ちょっとインチキくさいがしゃべって時間を稼いだおかげもあり4ランク能力は上昇している。つまり攻撃力は3倍。ゴルダックをもう少しまで追い込んだ。だがおかしい……。

 

 テクニつばさでうつ(135)に係数0.25と3倍をかければ約100だから、100*97>106*76となり指数では相手の耐久指数を完全に上回っている。普通ならほぼ1発、というところだったんだが……技を受けながら水中に逃れ、水で上手く衝撃を和らげているようにも見えた。そのせいで完全にはダメージが伝わっていないのだろうか。

 

 人間なら鞭打ちのようになってもおかしくないのにさすがは水ポケモンか。防御にまでフィールドを使っているとは、さすがにいい動きをしてくる。確実に当てるなら先制技の“でんこうせっか”の方が良かったかもしれない。乱数の幅が大きいというのは考え物だな。

 

「まさか無理やり突っ込んでくるなんて! 水中で体勢を立て直して」

「仕留め損ねたか、乱数が悪かったな。アカサビ、慌てるな。俺の声に集中しろ。敵は見なくていい」

「たいした自信ね。いい度胸しているじゃない。ゴルダック、あれをやるわよ」

 

 なんだ、何かする気か? アカサビの真後ろから攻撃の準備をするのが視えた。すぐに指示を飛ばす

 

「真後ろ、2」

 

 “でんこうせっか”は先制技。水から出てきたゴルダックが技を出すより先にこっちの攻撃が決まり戦闘不能になった。

 

「うそっ!? なんでわかったの!? 完全に今のは読まれていた。私の考えがわかったのっ」

「実力の差だな。ポケモンの能力は攻撃以外全てゴルダックが上だが、トレーナーのレベルが全く違う。たとえ水の中に姿をくらまそうが、俺には全て手に取るようにわかる。これで少しは俺の実力を認める気になっただろ?」

「……確かに、今のは見事だったわ。でもあなたずっと技の指示はしてないじゃない。ポケモンが自分でやったことでしょう」

「ああ、そうか、そっちからはそう見えるのか。そうそう、1つ気になったんだけど、あんた、つるぎのまいっていう技は知らないのか?」

「え、もちろん知ってるけど……まさか今のがそれだったの?」

「気づかないもんなんだな」

「ポケモンごとに特徴があるんだから技名を聞かなきゃ普通わからないわよ!」

 

 へぇ、これはいいことを聞いたな。なら技名を言わないのはかなりのアドバンテージになる。

 

「そういうもんなのか。ま、聞きたいのはそれだけだ。次のポケモンをどうぞ?」

「なんか釈然としないけど、今はバトルに集中しないと。ジュゴン、出番よ!」

「パウパウウ!」

「ジュゴン……らしくない。えらく守り寄りのポケモンだな。攻めて攻めて攻めまくるのがポリシーじゃないのか? ちょっと意外」

 

 ジュゴン Lv41 おだやか 

 実 137-71-72-75-104-67

 

「ハッ、まさか! 全員が攻撃寄りなわけないでしょう? それに、この子も攻撃面を疎かにしたつもりはないわ」

 

 そう言われても……能力でみれば疎かにしているのが一目瞭然なんだがな。やっぱりレベルぐらいしかわからないもんなんだろう。能力がわかればこんなことは恥ずかしくってとても人に言えたもんじゃないだろうし。

 

「はじめっ!」

「なみのり!」

「5」

 

 範囲攻撃は避けられないから“まもる”はかなり有効だ。広範囲を攻撃する際はその分反動も大きいから“まもる”後の隙も気にならない。今みたいにこの技は相手の出方を見てからでも間に合うので“みがわり”よりもさらに使い勝手はいい。覚える技の上限がないこともあって、“まもる”と“みがわり”は完全に必須技だ。

 

「そのまま潜ってみずのはどう連打」

「右に、次は左」

 

 なるほど、“みずのはどう”は攻撃後にそのまま潜ることで技後の隙をカバーしているのか。初動も“なみのり”でスムーズに水中にそのまま逃げ込めているし、さすがに戦術ってやつを考えているな。水中からの狙いもバラけていて読みにくい。この目でサーチできなければ苦戦していたな。

 

「なんで!? ここまでやって一度も当たらない! そんなことありえないわっ! リーグでもここまで読み切られることなんてなかったのに、どうして?!」

「スキあり! 左、1」

「しまった、みずのはどうよ!」

 

 “つばさでうつ”が完璧に決まったと思ったが、なんとジュゴンはその場で“みずのはどう”を盾のように展開して攻撃の衝撃を水で吸収して受けきり、見事に防御した。信じられない技の使い方に唖然としてしまい、技の指示が遅れてしまった。

 

「動きが止まった、チャンスッ! れいとうビーム!」

「やば、2だ」

 

 慌てて“でんこうせっか”を指示するが、上手く動けず直撃して倒れてしまった。アカサビで全抜きするはずが、こんなことになろうとは。向こうはまだ大したダメージはない。これは少々マズイな。アカサビとはまだ阿吽の呼吸とはいかないか。

 

「ようやく隙らしい隙を見せたわね。正直今のはラッキーだったわ。それに急にポケモンが動かなくなったのは、やっぱりあなたが指示を出していたからなのね。もしかしてその数字みたいなので伝えていたのかしら」

 

 今俺が呆けたせいで番号で技を伝えていたことに気づかれたな。仕方ないか。

 

「そんなところだな。ま、今のは素直に感心した。技の使い方に関しては、確かに長くバトルをしているあんたに一日の長があるな」

「みずのはどうはうちのジムのお家芸なの。ジムにはそれぞれ研究している技があるものなのよ、駆け出し君」

 

 そうか、そういやここでは“みずのはどう”のわざマシンがもらえたっけか。研究して極めればあんな使い方もできるようになるのか。さっきは特に何も言わずあの使い方をしていたし、普段から使い慣れているようだな。だが良いことを知った、いろんな意味で。得意そうな顔をしていられるのも今のうちだ。

 

「一度見れば二度同じ手は食わない。任せたぞ、相棒!」

「ヴォウオオン!」

「あ、あのときの」

 

 コズエはグレンの登場にちょっと嬉しそうだな。

 

 グレン Lv28

 実 95-92-56-67-48-92

 技 1かえんほうしゃ 

   2かえんぐるま 

   3しんそく 

   4かみなりのキバ 

   5まもる

   6みがわり 

   7オーバーヒート 

   8こうそくいどう 

   9ひのこ 

  10おにび

 

「ふーん、その子が切り札なのね。でも、うちのジムに炎ポケモンを使うなんてどういうつもりなの?」

「俺は相性よりこいつの強さを信じてる、それだけのこと。いくぞグレン!」

「か、開始!」

「ヴォウ!」

 

 “いかく”でビリビリと空気が振動する。

 

「大したいかくね。でもレベルはまだまだよ。みずのはどう」

「レベルしか見てないようじゃ、まだまだ甘いな。グレン、右」

「みずのはどうを続けて」

 

 次々来る波動を右、左、右後ろ、と短い指示でかわし続ける。グレンとは最初の頃からの付き合いで戦闘経験が長いので、阿吽の呼吸で俺に応えてくれた。

 

「だったら、今度は変化もまぜなさい!」

「!……5」

 

 今度は避けたはずの波動が曲がってきた。指示を聞いて念のため先に“まもる”を張らせておいたが初見でされたらまた直撃だったな。

 

「チッ、グレン、真ん中の浮島へ行け」

「そんなところじゃいい的にしかならないわ。れいとうビーム」

 

 いろんな攻撃が飛んでくるがその全てをグレンは避け切った。曲がる波動も、曲がり際を見切ってなんなく避けられた。

 

「なんで……そうか、足場が広いからね。真ん中は一番足場が広い。だったらその足場から崩してやるわッ、たきのぼり!」

 

 下から来たか、チャンスだ。

 

「右へ、ついでに当てろ」

 

 なにを、と言わずとも避けながら“ひのこ”をジュゴンに当てた。

 

「逆に攻撃されるなんて、なんて連携力なの。負けずにオーロラビームよ」

「来た! 右後ろ! 7だ! 決めろっ!」

「ヴォオオオ!」

 

 “オーバーヒート”が炸裂。この技は能力が下がるがその他のデメリットが薄い。この一発を確実に当てるため、ずっとグレンに攻撃パターンを見せて隙をうかがっていたんだ。グレンも何も言わず俺の意図を感じ取ってくれていた。やっぱりピンチでここぞという時に頼りになる。だがジュゴンはまだ耐えている。……いや、それどころか結構残っているな。残りHPは90ぐらいか。理由は……特性か。

 

 “あついしぼう”のせいでダメージはいまいちだったが、吹っ飛んで浮島に打ち上げられている。あいつは素早くないからすぐには潜れない。今まで水中で攻撃できなかったが、これで一気に畳みかけられる!

 

「ジュゴン! マズイ、一旦かげぶんしんで攪乱して!」

 

 これでゲームセットかと思いきや、それはむこうも承知。対策を講じていたか。“かげぶんしん”で時間を稼ぐ気だな。抜け目ない。だが俺には無意味。

 

「そいつだ! 新技を決めてやれ!」

 

 バリバリッ!

 

「うそっ! しかもここでひるみぃ!?」

「そのままもう1回だ! いっけぇ、グレン! やっちまえ!」

 

 俺の指さした先にグレンの新技、“かみなりのキバ”が炸裂。いきなりのことでガードも満足にできず、さらに“ひるんでわざがだせない”ようだ。この技は一定確率で相手をひるませる追加効果がある。ラッキー。もう一度“かみなりのキバ”を当てて、ジュゴンは戦闘不能となった。

 

「ジュゴン戦闘不能、勝者チャレンジャーレイン!」

 

 互いに歩み寄り、カスミからバッジを渡された。

 

「ふう、まさか本当に負けるなんてね。いいわ、あなたの実力を認め、ブルーバッジを渡します」

 

 水滴のような形をしたブルーバッジを手に入れた。戻ってきたグレンと一緒に喜んだ。

 

「全くもって大した奴ね。一瞬で本物を見破られるとは思いもしなかったわ」

「かげぶんしんか。あれは俺も教えようとして弱点に気づいていたからな。分身には影がない。だからすぐにバレる」

「やっぱり知ってたのね。それにしても早かったけど」

 

 そう、俺も一度は覚えさせようとしたがやめたのだった。回避率が上がるならまだしもほんとに分身を出すだけの上、分身中は他の技を出せず、気づかれたら丸損するリスクがあるので使う気はおきなかった。ただし、さっきは本当のところは影じゃなくてサーチで視たのだが。

 

「レインさんやっぱりすごいんですね。びっくりしました。あの猛攻を全部軽やかにかわし切って一瞬の隙を突いて反撃。あれはもう神がかってましたよ。ポケモンとも息ぴったりで、どうやったらあんなことできるんですか?」

「こいつとはそれなりの場数を踏んでるから、以心伝心でお互いの考えがわかるんだ。なぁグレン。俺達に敵はいないな」

「ガウッ!」

 

 適当に言ってごまかしたがコズエは信じたらしい。ちょっと目を輝かせている。そんな反応されると逆に困る。

 

「レイン、いい勝負だったわ。でもあんまり無茶ばっかしてちゃダメよ。こんなランクの上げ方普通じゃないんだからね。油断していると……」

「心配しなくても、勝算のない勝負はしない主義だから。じゃ、またな」

 

 手を上げてジムを後にした。面白い技の使い方も見られたし収穫アリだな。技の使い方はもう一度見直す価値がありそうだ。

 




本当にこの拙作を見て下さる方がいることには驚きました
そもそも評価云々以前に、宣伝も何もない作品を見に来る人っているんだなってびっくりしました
最初は読み手なしも覚悟で自己満足で投稿していました
今となっては何人来たかなーとか考えてにやけています

あと意外としおりって効果絶大だと思いました
あれが動いて最新話に追いついてくると結構、続き投稿しなきゃ、って思うもんですね
しおりは書く人間のための機能だと初めて知りました
あの、もちろんだからといって、読んでないけどとりあえず最新話にしおりぶち込んだろ、とか考えないでくださいね、不毛ですので


で、本編の話ですね
まずこれも今更過ぎますが題材がカントーですがこれは赤緑ではないです、ましてや青でもピカピカ版でもない
FRLGの話ということを前提にしておいて下さい、ピクニックガールで説明抜けに気づきました(赤緑は確か別の名前)
もしかしたらそれはタグを増やすかも


また、本編の地の文はレインの一人称ということにはご注意ください
推測部分などはレインの勘違いや間違いなども当然ありえます、神様ではないので
もちろんその辺はわざとミスリードしています
作者がそういうことする人なんやな、と思っていてください
タイトルでそういうことをしているのでもうバレていそうですが

今回の内容の補足だとアカサビの“みねうち”が気になった方がいるかもしれませんね
倒してゲット出来るならいらない気がしますし、なのになぜかいい番号をもらっている
どういうことなんでしょうね(黒笑み)

あとはコズエちゃんのことですね
この人なんと実在します、ないと思いますがプレイ機会があれば探してみましょう
ついでに言うと暴走族のリーダーだったゴウゾウさん、あの人もいるんですよ
暴走族って数多いので探すの大変ですけどなんちゃらを探せみたいに探すと面白いかも

看板のおてんば人魚とかもゲームから引っ張ってるので、そういうところはあったあったと思いながら読むと楽しいかもです。
攻めまくるのがポリシーとかもゲームのセリフを意識していますし、そういうパロネタは所々入れていきたいです。

なお、言った本人はゲームではスターミーで“じこさいせい”を使ってくるので、体力半分以上削れないと急所乱数頼みの運ゲーを強いられます。
お前のポリシーはどうしたんじゃ! と文句言った記憶があります。完全に詐欺です。
その文句を本人に言えたらどうなるかなーと思って書いたのが本編のその後の発言です。

……と、いうわけで、懐かしくなったらFRLGをしてみよう!
ゴウゾウさん見つけられたら教えてください
ちょっと難しい


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3.かわいいこにはバトルをさせよ

 ジムを出て、ひとまず回復のためポケモンをポケセンに預け、ハナダの町をふらふらと見て回ることにした。ポケモンコレクターの爺さんや粉職人の家をのぞいたりして、それなりに収穫はあった。“ばんのうごな”とか作れたしな。一通り見て回り、バッジもあるしもう次の町へ向かおうと思い立った時、ふと道端で面白い話を小耳に挟んだ。

 

「またやられたよ。あの橋の6連戦、きつ過ぎだろ。地味に不便だし勘弁して欲しいぜ」

「ほんとだよな。各自はそんなに強くないが、状態異常にされたりして途中で力尽きるんだよな。いっつもイヤになる」

 

 思い出した。そういやハナダといえばレインボーブリッジだったな。ちょいと情報を集めてみるか。

 

 軽く聞いてみると、岬へ行く道の途中に6人のトレーナーがいて、連続で勝たないと通れない上、賞金も必ず決まった額で強制的に設定されるらしい。

 

 他に行く道はあるがかなり遠回りの上、賞金目当てに挑む奴もいるらしいが、最後に近いほど賞金額が増えるので途中で負けると結局減ってしまうらしい。

 

 むしろ賞金制度があったことに驚いたが、両者の合意があれば普通にこの世界じゃやることらしい。プロのトレーナーはそういうところで稼いで強くなっていった奴らってことか。

 

 とにかく全員に勝てばかなりの額が入るみたいだ。今までに勝ち抜けたのはここらじゃジムリーダーぐらいらしいが、やはり状態異常にしてくるのが相当きついらしい。一応警戒しながらいくか。岬にいるマサキに会っておくのも悪くないしな。

 

 ◆

 

 翌日、橋に行くとホントにトレーナー達が待ち構えていた。仰々しいな。

 

「おっ、新しいチャレンジャーか。ルールは知っているか?」

「フルバトルの勝ち抜きだろ? 相手になってやるよ」

「そうこなくっちゃな。いくぜ、ポッポ!」

 

 レベル20か。そこそこだが、相手にはならないな。なんなく勝ち進み、時折出てくるくさタイプなどのまひやどくは“みがわり”で起点にして積極的に能力を積んでいき、順調に勝ち進んだ。手持ちが2匹いるので“オーバーヒート”が打ち放題なのもデカい。PP制限なんてものはないみたいだからな。

 

「これで6人目か。来いよ」

「なんて強さだ。だがここで負けるわけにはいかない。いけ、ニドキング!」

 

 レベル25。結構上がってきているな。

 

「あばれるだ!」

「なるほど。5!」

 

 グレン

 技 1かえんほうしゃ

   2かえんぐるま

   3しんそく

   4かみなりのキバ

   5まもる

   6みがわり

   7オーバーヒート

   8こうそくいどう

   9ひのこ

  10おにび

 

 技の番号は視たときの技の並びをそのまま使っている。順番は使用頻度に合わせて変えられるので、後ろの方は新技“かみなりのキバ”を覚えたときに少し入れ替えた。

 

 俺は見ながら言うから間違えることはない。だがポケモンの負担を考えて変え過ぎないようにはしている。アカサビもグレンも技の練習はいつもかなり頑張ってもらっているからな。この戦法はその努力の賜物でもある。

 

「くっ、当たらない!」

「やっと混乱したか。7」

 

 “まもる”“みがわり”連打、いわゆる「まもみが」でやり過ごし、混乱したところを“オーバーヒート”で決めた。ニドキングの“あばれる”で残りの手持ちを一掃するのがこいつらの狙いだったんだろうが甘かったな。これで全員倒した。賞金を受け取ろうとするとなぜか話になかったはずの七人目が現れた。

 

「おっと、勝ったと思うのはまだ早い。最後に俺とバトルしてもらおう。でなければ賞金は没収。勝てばこのきんのたまをやろう……って、お前、あの時の!」

「ん? ……ほう、よく見れば昨日の変質者か。またセコい真似して、大の大人が情けない。今度こそグレンで叩き潰してやろうか?」

「くそう、あの時は戦略的撤退を試みたが、今はお前のポケモンは弱っている。返り討ちにしてやらぁ!」

 

 逆上して襲い掛かってきて、強制的にバトルが始まった。だが怒り任せの雑な攻めで、特筆すべきこともなくあっさり倒せてしまった。こいつ、ここにいたってことは実はロケット団だったのか。たしかにロケット団みたいな逃げっぷりだとは思ったがまさか本物さんだったとは。

 

「バカな、強過ぎだ! これじゃカスミ並の強さだ!」

「相手が悪かったな。とにかく賞金を渡しな。お前、この前の分も合わせて、きっちり出すもの出してもらおうか」

「ひいいい!」

 

 チャリーン

 

 予想外の収入に懐を温めながら改めて岬へ向けて出発。しかしその先でもかなりのトレーナーに絡まれた。どうやら勝ち抜きで消耗したトレーナーを狙って待ち伏せしているようだ。

 

 つまり二段構えってわけね。油断も隙もありゃしねぇ。セコイこと考えるなぁ。結局何戦連続で戦えばいいんだ? 普通のトレーナーにとっちゃかなりタフな展開だな。

 

 だが大して消耗していない俺にとっては賞金を稼ぐ絶好のカモにしかならない。積極的に賞金を賭けてくれるからむしろ好都合。

 

 普段はここに来るトレーナーをカモにして儲けているだろうし遠慮もいらないだろう。ここでしっかり稼がせてもらおうかな。

 

 戦闘してない方をきのみなどで回復させながら順番交代で戦わせ、全てのトレーナーを倒し切った。さすがに数が多く、気疲れはしたな。そういやここはゲームではかなりしんどかった記憶がある。

 

 ◆

 

 ようやくマサキの家に着くが、なんとマサキは留守だった。仕方ないので庭の方を見てみるとたくさんのポケモンがいた。ジムではたくさんポケモンがいるらしいが、それに匹敵するんじゃないか? すごい。

 

 感心しながらクセになっているサーチを使うと、柵の外の木の上からポケモンがこっちの様子見ているのに気づいた。何で柵の外に? そして能力を見て驚愕した。

 

「なんて奴だ! すごい能力じゃないかこれは!」

 

 イーブイ♂ Lv25 おくびょう

 個 20-00-04-27-23-31

 

「なんやなんや何事や? おっ、あんさんこの辺では見かけへん顔やな。ワイのコレクションでも見に来たんか? ええでええで、ゆっくり見てきーや」

「あんたがマサキか。いや、実はかなり気になる奴を見つけたんで、つい」

「なるほどな。わかるでー、おおかたワイのギャロップを見て仰天したんやろ。わかるわかる、ワイの自慢のポケモンやからな」

「違う。そっちじゃなくて、あのイーブイ。すごい素質がある」

 

 へ? とマサキが間抜けな声を上げ木の上を見ると、そこからイーブイが出てきてマサキに駆け寄ってきた。ほっぺを摺り寄せて甘える姿から、この上なく懐いているのはすぐにわかった。

 

「おーよしよし。しかし、あんさん変わっとるなぁ。たしかにイーブイは珍しいポケモンやけど、このイーブイは全然つよないで。むしろよわ過ぎてかなわんって愛想つかされて捨てられとったのをワイが拾ったぐらいや」

 

 驚愕の事実だった。このイーブイを捨てる? なんてことを……。

 

「なんだとっ! 馬鹿な奴め……もしかして人見知りしてあんなとこに隠れていたり、おくびょうな性格だったりするのはその馬鹿のせいか。かわいそうに……こんなに素質があるのに勿体ないなぁ」

「ありがとな、トレーナーの人。あんた、何て名前や?」

「レイン。このイーブイがなんで捨てられたかは見ればわかる。おそらく前の奴からは攻撃力も低いし、防御力も低くて何の役にも立たないって悪態突かれたりしたのだろう。 しかもノーマルタイプだ。使い道がないって思うのは想像に難くない。でもお前は進化して初めて才能を開花する。天性の素早さに加え、とくこ……でんきタイプやみずタイプの技に関してならかなり能力が高い。悪いのはその馬鹿の方だ。お前は悪くないよ、イーブイ」

 

 最後はイーブイに語りかけるようにして言った。

 

「ブイイィ」

「ほ、ほんまか? でも素早いのは当たっとるで。……あんさん何者や。本職のブリーダーでも、見ただけでそんなこと簡単にわからんで。触れば別やけどな」

 

 しつこいけど、ブリーダーさんマジ何者? 触ったらわかるのかよ。

 

「俺よりいい目を持っている奴はこの世にいないだろうな。にしても……ホントに、どこの世界にも簡単に責任放棄して捨てればいいと思っている奴はいるもんだな。聞いただけでも腹が立つ」

「えらいご立腹やな。なんか昔あったんか」

「俺自身もまあ似たようなもんだし。身寄りはおろか親の顔も知らない。まぁ、かといって別に同情してるわけじゃなくて、純粋にこのイーブイの才能を腐らせるのは惜しいと思っただけなんだけど」

「そないか。悪いこと聞いたな。レインはんも苦労しとるな」

 

 その後もたわいもない世間話をしながら、マサキのコレクションを見せてもらった。その帰り、どうしても諦めきれずマサキにお願いをした。

 

「なぁ、あのイーブイ、俺に譲ってくれないか? どうしても育ててみたいんだ」

「あんさんほんまにあのイーブイに惚れ込んどるな。ワイとしても、あのイーブイをしっかり育ててくれるなら任せてあげたいのは山々やけど、如何せんかなりの人見知りやからな。たぶんワイ以外のトレーナーに懐くことはないと思うで」

「なら、もし俺に懐いたら任せてもらえるか?」

「それなら構へんけど、相当しんどいで。めっちゃ辛抱強くないとアカンやろな」

「わかっている。懐いてくれるまでいつまででもここに来る。あいつにはそれだけの価値がある。じゃあ、明日また来るから、よろしく頼むよ」

 

 ◆

 

 そこから岬通いが始まった。ポケセンに泊まれないので宿代もかかるが、構わずイーブイのところへ行き続けた。あの手この手でやれることは手を尽くしたと思う。この地道な努力を続ける根性には、ポケモン愛好家のマサキも舌を巻いた。

 

「自分で言うのもあれやけど、ここは町と離れとって辺鄙なとこにあんのによう毎日くるなぁ。イーブイもちょっと打ち解けてきてるで」

「でもまだまだ。何かきっかけがあれば」

 

 まだ親元を離れる決心はできないのか、何度か一緒に来ないか誘ったがまだ返事は芳しくない。俺のことはマサキの言うようにいい感情を持ってくれているみたいだし、好奇心もありそうだ。外へ行くことに興味自体はあるみたいに見える。でも何か壁がある。そう、怯え。俺に……いや、トレーナーに対しての怯え、それが妨げになっている。きっと昔の苦い記憶が邪魔をしている。何か手はないか。

 

「イーブイ、おいで」

「ブイイィ」

「ネコブの実だ。食べてみな、おいしいから」

「ブィッ!」

 

 おいしそうに食べてくれる。最近はほんとによく笑顔を見せてくれるようになった。好感度はやっぱり高そうだ。始めはずっと怯えていて、近くに行くだけでも一苦労だったからな。となると心の問題か。

 

「イーブイ、聞きたいことがある。俺の勘違いでなければ、俺はお前からそんなに嫌われてはいないと思う。でも一緒には行けないのは、やっぱりまた捨てられたり、ひどいことを言われたりするのが怖いからじゃないか? 最初は優しくても、自分が弱かったらまた怒られて捨てられるんじゃないかって心配してるんだろ? バトルになれば何度も負けて、痛い思いをして、容赦のない暴言で心も傷つけられる。バトルなんて二度としたくないと思うには十分過ぎる程とても辛いことだと思う。必要以上にポケモンから距離を置いて木の上にいたのは、もしかしてバトルになるのが怖かったからなんじゃないか?」

 

 そう尋ねると力なく首を縦に振った。不安げにこっちを見ている。疑心暗鬼、そんな目だ。きっとイーブイ自身とても苦しんでいるのだろうな。

 

 グレンと俺が一緒にいる時、羨ましそうにこっちを見ていることもあった。気づいたのは偶然だったが、その時のせつなそうな目は忘れられない。旅に誘ったときは期待と不安がごっちゃになったような表情をしていた。それを見ると強引に連れて行く気にはなれなかった。

 

 イーブイだって珍しい種類だし、捕まえられた最初は期待されていたはず。始めは大切にされた経験はあるだろう。ならそれを忘れることは、辛い過去がある分なおさらできないだろう。だったらイーブイだって普通のポケモンのようにトレーナーに大切に育てて欲しいと今でも思っているはず。だからこそ行ってみたいと、もしかしたら優しい人かもと淡い期待を抱く。けど怖い……一度裏切られたから。ほんとは手を伸ばしたくても体が固まってできないんだ。

 

 そんなジレンマに苦しんでいる姿を見るとやるせない気分になって、とにかく真正面から自分の気持ちをぶつけた。

 

「イーブイッ!」

「ブイッ!?」

 

 ガッシリと強く抱きしめてその不安をかき消すように言葉を紡いだ。

 

「ごめんな、すぐに気づいてやれなくて。ずっと辛かったんだろ。俺から誘われる度に、きっと思い出したくもないことを、苦しい思い出を突き付けられて、行きたくても行けないこと、ひとりぼっちで悩んでいたんだな。本当は仲間も欲しかったんだろう。褒めて貰ったり、一緒に勝って喜んだり、トレーナーから大切にされたり、お前だって望んでいるに決まってるよな。無理だなんて思っていても簡単に割り切れやしないよな。でも、どうしても勇気が出ない。簡単には決められないよな」

「ッブイィ、ィィィ」

「ずっと苦しくて寂しかっただろう。でも、俺は全部受け止めてやるから。お前の気持ちは全部分かる。周りが何と言おうが、誰もお前を認めなかろうが、俺はお前のこと裏切らない、ずっと味方だ。だから全部吐き出して。今まで1匹でため込んだ苦しいことも悲しいことも全部、ここで出していい。今は誰にも見えないから。怒られないからな」

「ブイィ、イイィッ、ブイーッ!!」

 

 さめざめと泣く声が、徐々に大きくなり、しだいにはワンワンと大声で泣いていた。きっとそれだけ苦しかったのだろう。ゆっくり頭をなでて落ち着かせると、泣き止んだイーブイは恥ずかしそうに横を向いた。照れているな。そんなところもかわいいので、ほっぺをぐりぐりしてやるとまんざらでもなさそうだったが、調子に乗りすぎて度が過ぎたせいで仕返しをくらい、いつぞやのように頭をなめまわされべたべたになった。

 

「つ、疲れた。イーブイ、はしゃぎすぎだ」

「ブイ、ブイイッ」

 

 そっちこそと言われた気がする。たしかにそうだが。

 

 その後は急激に距離が縮まり、一緒に庭の周りを駆け回って遊んだりした。以前の引っ込み思案は鳴りを潜め、俺を見つけると自分からじゃれついて遊んでほしそうにする。驚くほど元気ではつらつとしている。元々は明るい性格だったのかも……。

 

 折を見て、イーブイにある提案をした。

 

「一度俺と特訓して、実際にバトルをやってみよう。絶対勝たせてやるから! ホントに一度でいいから俺を信じてくれ。お願い!」

 

 ギュッと抱きしめながらお願いするとコクコクと頷いてくれた。予想通りだな。意外と人懐っこい一面もあるようで、あれ以来抱きしめてあげるとものすごく嬉しそうなのがこっちにも伝わってくる。捨てられて人とのつながりを断っていた分その反動だろうか。おかげでこうすると無理を頼んでも言うことを聞いてくれる。

 

 最近は俺の姿を見ると胸か背中に飛びついて抱き着こうとすることもある。特に心臓の辺りによく顔をうずめる。落ち着くのかな?

 

 ちなみに、このタイミングでこの話を切り出したのには理由がある。きのみを与え続けて努力値下げが完了し、ドーピングで振り分けもできたからだ。……こっそりと育成は進んでいたのだよ。

 

 つまり、この時点でこのイーブイはそんじょそこらのポケモンよりステータス的には強くなっていた。ここから野生のポケモンで技の練習をしながら戦闘に慣らしていって、なんとかトレーナー戦で勝って自信をつけさせてやりたかった。

 

 間違いなくイーブイはバトルの自信さえ取り戻せば旅に出る勇気も出るはずなんだ。過去の記憶はバトルに勝つことで克服するしかない。勝たなきゃ前には進めない。

 

 特訓はイーブイの頑張りのおかげでどんどん進んで、技の練習もすぐに終わった。もう技名なしでも連携がとれる。ここに来てからもう半月以上か、ようやくだな。ただ、たまーに何度か何かの視線を感じるようなことがあり、少し不気味だったが。

 

 ◆

 

「イーブイ、今日は気合入れて行こうな。でも心配するな。負けてもまた一緒に特訓するだけだ。とにかく思い切っていけ。自信持てよ?」

 

 イーブイを抱き上げながらそう言うと、緊張しながらもコクリとうなずいてくれた。まぁいけそうだな。多少動きが鈍るぐらいなら負けるわけないし。今日はいよいよ初バトルだ。これを転機にしてイーブイをつれていく。必ず。

 

「あ、やっぱりあんたレインじゃない。ホントにまだいたのね」

「か、カスミ!? なんでこんなところに」

 

 唐突に出てきたな。聞けばどうやらコズエが俺の姿を見かけたというのを聞いて気になってここまで見に来たらしい。もしかしなくても不気味な視線はコズエだったのか。そういえば河原でもコズエは近くにいたし、全てあいつか。意外と陰険というか、イメージに合わないことをするなぁ。コズエは実力があるのに先へ行かないから何かあったのかと思って俺が心配になったとか。それでカスミにも話したと。

 

「ここにいたのはこのイーブイを口説いてたからだ。素質のあるポケモンだからどうしても仲間になってほしくて」

「ふーん。ガラにもなく似合わないキザないい方するわね。ん? その子、もしかしてマサキさんが預かっていた訳アリのイーブイ? あれ、なんで! ものすごい人見知りって聞いていたのになんでそんなにあんたに懐いてるのよっ。何かあったの?」

 

 ガラにもないは余計なんだよ! 人相悪いって言いたいのか? 自分が一番わかってんだよ! カスミはイーブイが俺にすり寄る様子を見て驚いていたが、俺クラスになると人相なんて関係なく懐かれるんだよ。どうだ、羨ましいだろう。気分がいいから今の発言は捨ておいてやろう。

 

「別にー。ずっと一緒に遊んでいただけだ。なあイーブイ」

「ブイーッ、ブイブイッ!」

 

 そういって抱っこしてやると嬉しそうに声を上げた。それを見てカスミもいけると思ったのか触ろうとしたが、イーブイは全身の毛を逆立てて威嚇した。やっぱりまだ俺以外の人間はダメみたいだな。

 

「ぐ、予想していたとはいえ少し傷つくわね」

「悪いなぁ。許してくれたまえ。まだ知らない人間は慣れてないから怖いんだ。それに今から大事なバトルを控えていてナーバスになってるしな」

「その言い草は悪いと思ってないでしょ。バトル? 大丈夫なの、その子は……」

 

 心配そうに言葉を濁しながら言われたが、その不安を払しょくするようにあえて強く言い切った。

 

「心配無用。言いたいことはわかるが必要なことだ。このイーブイが過去と決別するには勝って自信をつけてやらないとな。それに自分でも気づいてないがものすごいポテンシャルはあるんだ。絶対に勝たせてやる。これほど能力があるのに負けたら、そりゃトレーナーのせいだと言い切れる程強いからな」

「へぇ、そこまで言うなんて、なんか面白そうね。いいわ! じゃ、そのバトル私も見させて。わざわざ心配してここまで来てあげたんだし、いいでしょ?」

「観戦ね。まぁ構わないか。気の散るようなことはするなよ?」

「へいへい。わかってるわかってる。で、誰とするの?」

 

 他人事だと思ってずいぶん楽しそうに言ってくれるな、このおてんばは。絶対に乙女とは認めねぇ。相手はすぐに見つかった。いつも横にいるグレンの代わりにイーブイがいるのを目聡く見つけて、いつぞやに連戦した時フルボッコにした短パン小僧がリベンジに来たのだ。

 

「俺と1対1の勝負だ! 今度は勝ってやるぞ! いけ、ポッポ!」

「イーブイ頑張って」

 

 イーブイ Lv25

 技 1シャドーボール

   2めざめるパワー

   3あくび

   4バトンタッチ

   5まもる 

   6みがわり

   7こうそくいどう

   8てだすけ

   9でんこうせっか

 

 ノーマルは相性が悪い。メインの“シャドーボール”が効かないからだ。でもこいつの“めざめるパワー”は氷威力65。見せてやれ、お前の力!

 

「ポッポ、かぜおこしだ!」

「右へ避けて7」

「いきなり反復横跳びなんかして何のつもりだ?」

「軽いウォーミングアップってところだ」

 

 “こうそくいどう”だが正直に教えはしない。逆に挑発した。

 

「ぐっ、なめるなよ! たいあたりだ!」

 

 煽られて単調な攻めになったな。トレーナーって人種はノーキンさんが多くて助かる。

 

「相手は遅い。よく見て引きつけて躱して」

「なっ!? いきなりそんな高度な指示あのイーブイには無理よ!」

 

 カスミが慌てて言うが、その心配をよそにイーブイはそれを難なくやってのけた。イーブイ自身も驚いている。だがこれは当然だ。素早さが違い過ぎるからな。

 

「相手は隙だらけだ。2! やっちまえ、イーブイ!」

 

 無防備な相手の背中に渾身の“めざめるパワー”が決まり、効果は抜群。不意を突いたので乱数もいい。一撃でノックアウトだ。イーブイは嬉しさのあまり飛び跳ねて俺に“たいあたり”をかましてきた。

 

「うおっと!! 攻撃力は低いはずなのに結構衝撃が……。よしよし、よく頑張ったな。本当にえらい。お前は元々これぐらいはできたんだ。今まで上手くいかなかったのはトレーナーのせいだ。わかっただろ?」

「ブイ一ッ!」

「これからもっともっと勝ちまくって、強くてカッコイイポケモンにしてやる。なりたいだろ?」

「ブイッ」

 

 しっぽがブンブン振れていて、耳もピコピコせわしなく動いてる。よっぽど嬉しかったらしい。やっぱりバトルして良かったな。短パンは悔しそうにして帰っていった。もちろんその後は存分にイーブイを抱きしめて撫で回してあげた。懐いてるポケモンって本当にかわいい。

 

「すごいわね。本当にこのイーブイ強いわ。今の動き、それにあの威力……あなたには最初からわかっていたの? それにこんな短期間で連携も抜群。技も増えてる。レイン、ホントにあんた何者なの? まさか別の地方からきた実力者だったりするんじゃないでしょうね?」

「だから、トレーナー登録はこの前にしたばっかだ。ポケモン捕まえたのも最近だしな。まぁポケモンに関する知識とかは元々あったけど」

 

 イーブイのほっぺをぐりぐりしながらテキトーに答えると、思ったより真剣な表情で考え込み始め、しまいにはとんでもないことを言い始めた。

 

「ねぇ、良かったら私の全力の手持ちとバトルしてみない?」

 

 ……これはまた面白い提案だな。フルバトルか。なら、イーブイゲットで新たに考えていた戦法のお披露目といこうか。実戦での肩慣らしには丁度いい。今からイーブイの活躍が楽しみだな。

 




おくびょうなイーブイかわいい
元気で笑顔のイーブイかわいい
抱きついて褒めてほしそうなイーブイかわいい
結論イーブイかわいい

いや、元々ブイズは使ったこともなく、そこまで好きなわけじゃなかったのですが、このイーブイめっちゃ好きになりました、自分で書いたんですけどね
もっというと次の話で進化するんですけどね
イーブイかわいいですね


……そろそろ本編にツッコミいれましょう
まず橋の六連戦、サラッと途中で負けたら金減るぞってありますがこれは大変なことです
六人のかける賞金を整数比で考えるとします

1,1,2,4,8,16 (一戦目に負けで減る)
1,2,3,6,12,24 (二選目までに負けで減る)
1,2,4,8,16,32 (六戦目までに負けで減る)

最後が最初の32倍って、それでええんか?(コガネ弁)

これは「勝つまで倍プッシュ」っていう二分一の賭け事で最終的に絶対に勝てる必勝法を使っています
負け筋は軍資金切れだけなので資金力があれば必勝です
本編では結局全敗で勝つまで我慢できませんでしたが

見ての通りすぐ大金絡む上勝ち分は必ず最初に賭けた額で固定というデメリットもあります
この橋ロケット団が管理しているだけあって汚い手口ですね

イーブイは見ての通り抱っこ大好きです
レインのハートには魔力があるので
……じゃなくてめざパですね
昔の威力計算です
これあるので技の威力変更込みで書き直すのはめんどくさい
めざパで矛盾が発生しまくる気がするんです

◆威力計算の仕方
6つの能力にHABCDSの順で得点を設定します
1,2,4,8,16,32
これ全部で63点の加点方式
加点は個体値が4n+2、+3の部分
具体的にはUとVなどが対応していることから逆算できますね
最低点30最高点70にしたいので上の点数を40/63して30足せばいいわけですね

※一次関数のイメージです
Y=(40/63)X+30 
X:0~63 → Y:30~70

なお、得点設定が倍々なのは二進数で0から63全部対応が存在するからでしょう
この手順で理解しておくと理屈とかも込みで記憶にヒモがつくので思い出しやすいです

イーブイは右3つ対応なので1,2,4の7減点
係数かけたら約分で40/9つまり4ちょい
70から引いたらだいたい65ですね
加点方式といいつつ減点方式なのは計算しやすいので仕方ないです
本質的には同じことですので

威力についてはまぁね、主人公が迷い込んだ先が最新ゲームとは限らないですから、昔のゲームなら仕様そのままなこともあるでしょう
いや、あるんです(断言)


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4.人魚は朝焼けの岬に

 まだ辺りが暗く肌寒い時間帯。朝日が地平線の下に隠れている頃、俺はグレンに乗って町から北へ向かっていた。カスミとは非公式ながら全力での勝負をすることとなり、その場所がハナダの観光名所、ハナダの岬。今日に合わせてポケモンの調整もしっかり行い、イーブイも“かみなりのいし”を使ってサンダースに進化させた。

 

 イーブイはポケモンの中で最も進化分岐が多い。遺伝子が不安定なので環境に合わせて様々な姿・形に進化する。そもそもイーブイというのはエボリューションの頭二文字、EVを当てて名づけられている。“しんかポケモン”と呼ばれるだけあってどのポケモンに進化させるかが重要になる。

 

 進化の選択肢はとにかく多いわけだが、かといって適当に決めていいわけではない。性格は後から変えられないからだ。性格を活かすことを考えれば進化先はおのずと限られる。

 

 “おくびょう”な性格なら基本的にサンダースかエーフィの二択だろう。どちらも優秀だが今回は素早さを重視してイーブイ系列、通称ブイズの中で最速のサンダースを選んだ。理由はターン制という縛りがないのでより素早さの重要性が高いと判断したから。

 

 そしてニックネームも、最初はふざけてカーネルと言った時は俺がふざけているのがわかったようで嬉しい時の甘噛みでなくマジの“かみつき”をくらったが、きちんとしたのを……イナズマ(稲妻)というニックネームをつけて今は満足してくれている。……と思う。

 

 マサキもイーブイの旅立ちを快く許してくれて、そのときイーブイは寂しそうだったが、また会いに来ることとリーグ戦で活躍しているところをマサキに見せることを約束した後、しっかりとお別れをしてくれた。

 

「ガウガウッ」

 

 グレンの声で意識を前に戻す。見えてきた。あそこがハナダの岬か。カスミはもう先にいるようだ。俺の姿が向こうからも見えたのだろう。手に力が入っているのがわかる。近くで降りてグレンをボールにしまった。

 

 両者あいまみえ、しばし無言のまま視線で火花を散らすが、カスミが先に沈黙を破った。

 

「やっと来たわね。待ちわびたわ、レイン」

「ずいぶんと早かったな。張り切り過ぎじゃないのか、カスミ?」

「チャレンジャーを待たせるわけにはいかないでしょ?」

 

 フッ、と口角が釣り上がるのが自分でもわかった。カスミは自分が上だということをチャレンジャーという言葉で示してきたのだ。その挑発的な言葉が逆にたまらなく愉快だった。

 

「なら、岬のおてんば人魚の腕前を見せてもらおうか」

「ちょっと! あんたねぇ……いつまで同じ話を被せる気!? 何回も繰り返してもしつこいだけなの、わかる?! これに負けたらもうやめなさいよっ!」

 

 さっきまでの空気はどこにいったのか、キレキレのツッコミを返してきた。条件反射なんだろうな。やっぱりこういうところを見ると“おてんば”に違いない。根っこの性格は簡単には変わらないよな。

 

「別にいいだろ。それに、案外そういうところも悪くないと思うけど?」

「はぁ!? なに言ってんのよ! 余計なお世話よっ! あんたこそ、負けたらコズエにがっかりされるわよ。あの子あんたのことかなり憧れているみたいだったし」

 

 ちょっと笑いながら言ったせいか俺がからかっているのがバレたらしい。だいぶ気にしているらしいな。早々に話題を変えてきた。これ以上は言い過ぎだしおとなしく乗っかっておこう。

 

「そりゃ負けられねぇな。さーて、もうこっちの準備は万全だ。勝負は一瞬。カスミが見とれているうちに決着がつくだろうぜ?」

「悪いけど、私はそんなに安くないわよ」

 

 お互い黙ってボールに手を当てた。合図も何もないが、自然と2人同時にボールを投げていた。

 

「頼んだイナズマ!」

「頼んだわよMy steady!」

 

 カスミが繰り出したのはギャラドス。“いかく”する間に能力を視た。

 

 アナライズ!

 

 ギャラドス Lv42

 実 160-150-87-70-95-89

 

 イナズマ Lv25

 実 72-33-36-82-58-102

 技 110まんボルト

   2めざめるパワー

   3あくび

   4バトンタッチ

   5まもる 

   6みがわり

   7こうそくいどう

   8シャドーボール

   9でんこうせっか

 

 

 89と102か……。即座に素早さがイナズマの方が高いことだけ確認した

 

「あっ! あのイーブイはサンダースにしたのね。シャワーズにすれば良かったのに。もしかして私対策に電気タイプにしたの?」

「まさかっ。サンダースにするのは最初に見たときから決めていた。こいつの素早さを最大限に活かせるのは進化先で最も速いサンダースしかない」

「そういうことなら仕方ないか。だったらいいわ。でもその子には悪いけど、容赦はしないわよ。ギャラドス、いくわよ! りゅうのいかり」

「右へかわせ、イナズマ!」

 

 作戦通り序盤は避けることに専念して間合いを詰めていった。頼むぞ。

 

「また何か狙っているわね、みずのはどうで囲んで逃がさないようにして!」

「5,6,3」

 

 避けられない分は“まもっ”てやり過ごし、すぐに“みがわり”と“あくび”、いわゆる「みがあく」に入った。

 

 “みがわり”は追撃の“アクアテール”で剥がされたが、それを盾にする形で接近に成功。懐に潜り込んだ。吹っ飛ばないことに相手が不意を突かれた隙にイナズマが“あくび”を決めた。よし、相手は“ねむけ”状態だ。アナライズでも確認できた。さすがイナズマ、見事な手際だ。イナズマの類稀なる速さがあってこそできる芸当。イナズマの動きは相手より一歩速い。

 

 そしてこの瞬間、“あくび”が決まった時点でほぼ俺の勝ちだ。

 

 “あくび”とは相手をねむり状態にする補助技だ。相手を眠らせる技としては有名なものに“さいみんじゅつ”や“ねむりごな”などがあるが、“あくび”にはこれらの催眠技と決定的に違う点がある。

 

 それは技を当ててから“ねむり”状態になるまでにラグがあること。1ターン時間をおいてから眠らせる。なので単純に効果が遅い分デメリットだし、さらに致命的なのは1ターン経つ前にすぐ交代されると効果が切れて無効になること。その場合相手は眠らない。つまり確実性でも“さいみんじゅつ”などに劣る。

 

 こうして欠点を並べるといいとこなしのようだがもちろん長所も存在する。それは命中率が100%であること。普通の催眠技は基本的に命中難に悩まされることになるが、“あくび”にはそれがない。また、交換で効果が消え確実に眠らせられないデメリットも裏を返せば交換を強要できるともとれる。つまり使い方によってはどんな相手でも“あくび”を使えば一度引かせることができる。これはかなり強力といっていい。

 

 但し、以上のことは全てゲームでの話。今、このバトルにおいてはまた話が変わってくる。まず、この技は遠距離から当てるのは難しいので基本的に接近することが前提になること。もうひとつはこの技の認知度が高くないこと。これは相手にとって致命的だ。

 

 まず、催眠技として見る場合確実性に劣る、というデメリットは相手が交換で効果を消せることを知っているのが前提。その前提がなければ“あくび”は命中率100%の催眠技と化す。しかも、前回のジム戦でカスミ自身が言ったように技の出し方にはポケモンごとの個性がある。トレーナーの指示を聞けなければ何の技を使われたのかは判断しにくい。だから番号しか言わない俺が相手だと仮に“あくび”を知っていても対処は難しい。これでより確実に催眠を決められる。

 

 結局、接近してうまく“あくび”を当てさえすればほぼほぼ相手は眠ることになる。そうなればこっちから攻撃を加えるなどして相手を刺激しない限りはだいたい4,5ターン以上は夢の国へおさらばだ。ポケモンは楽しい夢を見ることになるだろう。トレーナーが見るのは悪夢だけどな。

 

 “ねむり”によってできるこの時間はとても重い。これだけで勝敗を分ける程の重大な隙ができる。そのことをカスミにはたっぷりと見せてやろうか。

 

「よくやった! 間合いを空けて逃げろ」

「逃がさないで! かえんほうしゃ!」

 

 “あくび”を当てた以上イナズマは1ターン生き残るだけでいい。ここは当然逃げの一手。やや攻撃をくらったが特殊技だったおかげでHPはなんとか残っている。

 

 カスミは即座に逃げるイナズマには追いつけないと判断して遠距離技を選択したのだろう。悪くない判断だが無駄な抵抗だったな。といってもイナズマはできればHPを1/4以上残したかったのでそれを考えると結構危ないラインではあったが。けっこうギリギリだ。

 

「もう一押しよ! ギャラドス、りゅうのいかり!」

「ギャーラァ……zzz」

「ギャラドス!?」

「さぁて、いよいよ始まったか。これから夢の時間の始まりだ、楽しんでくれよ? 7,6」

 

 “かえんほうしゃ”を使った後、バタン、と突然ギャラドスが倒れた。カスミは驚きあわてふためく。その間にイナズマには素早さを上げさせてから“みがわり”を張らせた。

 

「ちょっと起きて! 起きてってば!! なんで急に寝ちゃうのよ、朝早いけどそれはないでしょ?! どうしたの!?」

「もう十分か。イナズマ、いいぞ!」

 

 その合図でイナズマが“バトンタッチ”を使い、アカサビが出てきた。

 

 

 アカサビ Lv28

 実 86-101-56-37-56-88 

 技 1つばさでうつ 

   2でんこうせっか

   3みねうち

   4つるぎのまい 

   5まもる

   6みがわり

   7こうそくいどう 

 

 

 

「交代? このタイミングで? 今のうちに、攻撃される前に起きなさい! 今ならチャンスよ! 起きてギャラドス!」

「とにかく4!」

「ッサイ!」

 

 予定通りだ。威勢よく“つるぎのまい”を始めるアカサビを見てしばらく、ようやくカスミは俺の狙いに気づいたらしい。

 

「能力を上げるのが狙いだったのね! だったら戻って! スターミーあなたの番よ」

「いい判断だが少し遅かったな。もう準備は終わった。お前がこの舞に見とれてる間に、既に勝敗は決した。俺の勝ちだな」

「バカ言わないで、勝負はこれからじゃないっ。10まんボルト!」

「避けてから1」

 

 しかしアカサビは余裕でこれを避け、“つばさでうつ”を決めた。一撃だ。

 

 ランクは攻撃が4ランク、素早さが2ランク、各々3倍と2倍になっている。実数値にすれば、

 

 攻撃  303

 素早さ 176

 

 係数の兼ね合いを無視すれば、能力をレベル50のポケモンと比較すると攻撃力は“こだわりハチマキ”を持っている「いじガブ」(性格いじっぱりのガブリアス)とほぼ同じ。素早さは最速のゴウカザル(108族)と同じ。レベル50として見てもかなりの高水準。レベル40台で育成もままならないポケモンでは相手にならない。

 

「なんて威力! しかも私のスターミーよりも速い! この前とは比べ物にならない……まさかイーブイだけでなくこのストライクもこれだけ育てていたの!?」

「だから勝負は一瞬だと最初に言っておいたのに、呆けていたらこのまま一気に終わってしまうぞ?」

 

 ニヤリと笑うとカスミの目の色が変わった。

 

「だったら今度は耐久勝負よ! お願いラプラス」

「突っ込め!」

「れいとうビームよ!」

「遅い、後ろから1」

 

 ヒラリと冷気を避けてから回り込み、無防備な背面に強烈な“つばさでうつ”を叩き込んだ。前のめりにラプラスが倒れこんだところにもう一度攻撃してラプラスは倒れた。攻撃が重過ぎてバランスをくずし、ラプラスはまともに攻撃できずに終わってしまった。こういう耐久ポケモンを警戒して“みがわり”もバトンしたんだが、必要なかったかもしれない。

 

「速過ぎる。これじゃ次元が違う。これがレベル20代のポケモンの動きなの?……信じられない。この強さ、まるで四天王クラス。どうやってこんな強く……」

 

 カラクリは簡単。この世界じゃ積み技は1回で十分という認識で、それ以上は効果が薄い上に多大な隙が生じるから重ね掛けすること自体がそもそもあまりない。だから元々攻撃力が高かったと誤解しているわけだ。素早さの方も、“バトンタッチ”が能力変化を引き継ぐことは恐らく知らないだろうから元々の速さだと思っているはずだ。

 

「次は誰だ? 勝負はこれからなんだろ?」

「くっ、ならゴルダック! 出て来てみずのはどう!」

 

 次のポケモンを出すがストライクは余裕で全て躱した後、技後硬直を狙って“つばさでうつ”を当ててノックアウトした。

 

 ここまでくればもうアカサビは止まらない。その後も全ての攻撃を避け切っての完封勝ちを収めた。

 

「ッッサイィィィィクッ!!!」

 

 圧倒的な勝利。たった1体で手持ち全てを倒し、ようやく出てきた朝日を背に受け勝利の雄叫びをあげるアカサビの姿は神々しさすら感じさせた。

 

「ダァァッ!」

「おっと、イナズマお疲れ。お前のおかげで勝てたよ」

 

 ボールからイナズマも出てきたのでよしよしと褒めながら撫でてやった。「あくびバトン」あってこその今回の大勝利だ。イナズマにはとびっきりのご褒美をやらないといけないな。イナズマの加入で俺のパーティもかなり形になってきた。

 

 バタン

 

 カスミは地に膝をつきうつむいて顔を上げない。様子を見に近づくと突然コズエが出てきてカスミに駆け寄った。

 

「カスミ、大丈夫?! しっかりしてっ!」

「だ、大丈夫よ、ちょっと力が抜けちゃって」

「全くもう! レインさんいくらなんでもあれはないですよ! 一方的過ぎ! 相手は女の子なんだからもうちょっと優しくしてよ!」

「バトルにそんなの関係ないだろ。つうかコズエ、お前最初からいたな? しかもカスミもそのこと知ってたんだろ?」

「ギクッ、な、なんでそれを」

「今の反応で確信したし、カスミがお前見ても驚いてなかったからな」

「変なところで鋭い」

 

 コズエとあーだこーだ言っているうちにカスミが立ち上がった。

 

「もういいわよ。レイン、あなた本当に強いわね。あれからあなたのことは調べたの。そしたら本当に駆け出しで、スクールにも行ってないみたいね。現実離れし過ぎていて、なんといったらいいかわからないけど……あなたホントに人間?」

 

 いきなり人間否定とは心外の一言に尽きるな。“へんしん”中のポケモンだとでも言いたいのか?

 

「わからないにしても、もう少し他の言い方はなかったのか」

「冗談よ。半分本気だけど。でも私も目が覚めたわ。こんなにバトルで気持ちがたかぶったのは久しぶりよ。あのムダのない研ぎ澄まされた動きを見ていると私もさらにもっと強くなりたいと思った。だから、あんたには絶対リベンジしてやるわ。だから……あんたも簡単に負けたりしないでよ!」

 

 これは遠回しに応援してくれているのか? 素直じゃないが、逆にそうまでして応援されると嬉しいな。地味に「あくびバトン」された試合をいい試合に分類しているのもすごい。

 

「ありがとさん。絶対に負けない。そうだな……この朝日に誓って、リベンジの時まで負けないでいてやるよ。こういう雰囲気の出るところで真剣勝負というのも悪くなかった。リベンジのときまでにお前も腕を上げとけよ」

 

 そういうとニッと笑ってカスミも負けじと軽口を叩いた。

 

「そっちこそ、怠けて今日より弱くなってたら鼻で笑ってやるわ! 元気でいなさいよ」

「またな」

 

 そう言うとふっとカスミの表情も柔らかくなり、大きな声で返事をした。

 

「絶対よ!」

 

 岬の人魚に見送られ、次の目的地、ニビを目指して歩みを進めた。

 




フルバトルなのに番人のときよりかなり短いです
それだけイナズマが強いということですね
イナズマは大活躍といっていいはずです
イナズマの加入によって、この前はランク7に苦戦していたのに今回は全力のカスミに圧勝できたわけですからね

「あくびバトン」や「かそくバトン」は物凄い強力というイメージです
しんそくみたいな高火力先制技か避けきれない範囲攻撃とかないと詰みに近いと思います
ほえるはこの世界の住人から産廃という認識なので誰も使わないでしょうからね、レインさん以外は
とはいえ毎回バトンするだけは芸がないので使わないことが不自然にならない範囲で控えるようにはしますが

なお、イナズマは活躍しましたが、経験値は丸ごと全てアカサビさんのものです
雄叫びは一気にレベルアップしたことによるもの
サポート役が経験値もらえない仕様はイナズマには辛いですね
一瞬だけ戦闘参加したら半分もらえる仕様がおかしいと思ったのでこういう感じに変更しましたが、どっちにせよおかしいのは一緒という説はあります。

イナズマはどこでレベルを上げることになるんでしょうね(すっとぼけ)

設定いじってるのでバトン最強とかパワーバランスが変わるのは面白いですね
持っているポケモンが少ないのであんまり何でもできるわけではないのが残念

眠っているターンについても触れておきます
レインはすでに味方に試し打ちするなどして実験しているものと思ってください
攻撃を受ける時と受けない時で眠る時間は変わり、今回のように何のアプローチもない場合には眠りターンが長めになります

また、素早さを上げているのでその分行動回数も増えます。極端に言えば倍の速さで動けば3ターンの間に6回行動できるわけです


手持ちも3体出たので触れますがニックネームは基本二字熟語統一にするつもりです
別に拘りはないので何でもいいんですが、何でもいいと逆に決めきれないので考える取っ掛かりがほしくてこうしました
あくまでレインが考える場合の話です
例外とかもあります
アニメとかでもたまにニックネーム持ちが出てくるのでやっぱりあった方がいいかなと思います

余談ですが一番印象に残っているニックネームはカメックスのクスクスです


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5.歩けば迷子 掘ったら化石

 ハナダから続く舗装された道を過ぎ、1人と1匹は険しい山道を歩いていた。初めての山道で慣れないこともありかなり疲労がたまっている俺とは対照的に、グレンの足取りは驚くほどに軽かった。

 

 しんどけりゃボールに戻してやろうと思っていたのに、これじゃこっちが先にバテて乗せてもらう羽目になりそうだ。そんなみっともない真似はごめんだ。せめてまともな道なら自転車が使えるのにと思わずにはいられない。

 

 グレンとしゃべったりしながら気を紛らわせていたが、ふとした拍子に考えてしまうことはあった。俺自身のことだ。今までは目の前を生きるのに必死だったりして考える余裕はなかったが、俺はいったいどうしてこんなところにいるんだろうか。最初に何かを見た気もするが、あまりわからない。考えても仕方ないだろう。

 

 考えるべきは俺がこの後どう行動するか、だろうか。ここから元の場所へ帰ることはできるのか? 方法があるとすればこの世界の「神」に会うしかないか。そして本当にそうするなら、グレン達とはいつか別れることになる。

 

「ガーウ?」

「……なんでもない。さっさとここを越えるぞ」

 

 やっぱり今は先のことより現在をどう生きるかが大事だな。まずは強くならないとできることも限られる。今まで通りで間違っていない。

 

 そんなことを考えているとようやく洞窟が見えてきた。あれがおつきみやまで間違いない。ロケット団はもう引き上げているだろうし、特に苦も無く越えられるだろう。

 

「そういえば、なんで山なのに洞窟なんだ? よく考えたら変だぞ」

 

 今まで全く気づかなかったがこれは本当に変だな。自分が洞窟に入る段になってやっと気づくのもどうかと思うが。山らしくなったのはテンガン山からだし仕方ないのはもちろんわかってはいる。そのために“ロッククライム”がひでんわざとして実装されたぐらいだし。だいぶメタな思考だが。

 

 これ、たぶん洞窟に入らなくても山を越えていくことは可能なのだろうな。おつきみやまは試しに中を見て回ろう。次からは今回の結果を踏まえて考えられるし。洞窟までは割と道がわかりやすかったし中も一本道だろう。予想と違ったのはトレーナーがあまりいなかったことぐらいか。

 

 おつきみやまの中へ入り、グレンの明かりを頼りに奥へ進んでいった。上り下りが激しく、スプレーなどの準備は万端だったが、かなり時間をロスしたあげく迷ってしまった。

 

 これだけ道がややこしくなっているとは思わなかった。外とは大違いだな。一度方向を見失うともうそれを知る術はない。幸か不幸かトレーナーも全然いない。こんなところにいる方がおかしいし当然と言えば当然だが思ってたのと何か違うな。

 

 方位磁針があればとりあえず西へ進めばなんとかなっただろうが、必要ないと思って用意していなかった。せめて“じしゃく”でもあれば水に浮かべて方角がわかったのに。まだ威力アップ系のアイテムは1つも見たことがないが、いったいどこにあるんだ?

 

 もうこれは仕方ない。あれの出番だな。緊急用の“あなぬけのひも”を取り出すが使い方がわからない。そういえばゲームでどうやって使っているか説明されたことはないな。金銀でライバルがマダツボミの塔から脱出するのを見たぐらいしか覚えていない。あの時はワープする感じだった気がするしたぶんこれもそうだと思うが。とりあえず説明を見ることにした。

 

「何々? まず、迷いそうな洞窟などに入る前に入口付近のどこかに先端を結び付けて結び目の少し先に図のように少し切りこみをいれます。そして中に入って迷ったと思ったらロープを辿って入口に戻りましょう。もし迷わなければ瞬間的に力を込めて強く引っ張ると切り込みでロープが切れてまた再利用できます。これで暗くて迷いやすい洞窟も迷路のようになっていて道が紛らわしい森でも怖いものなし! 思い切って色んな場所を冒険しちゃいましょう! それでは良い旅を! …………」

 

 ええええええ!? 

 

 それはねーよっ! さすがに予想の斜め下過ぎる! 驚くべきことに入るときにひもを入り口につけて迷ったらそれを辿って脱出するらしい。なぜか驚くほど原始的だった。

 

 ワープは!? ねぇワープはどうした!? 「それでは良い旅を!」じゃねーよ! まさに今詰んだわ! お前のせいで絶賛迷子中だよ! もしかしなくても異様に安かったのはこのせいか。無駄に再利用できるみたいだし絶対これ売れてねーな。そういえば入口に結び目の残りとか1つもなかったし間違いない。

 

 これは罠だ! 俺を陥れようとする罠だ!……それは冗談にしても完全に出る術を失った。本気でヤバい。死活問題だ。

 

「ガウ!」

 

 グレンが急にバッグに首をつっこみ中をあさり始めた。何のつもりかと見守っていると口にはわざマシン。“あなをほる”のやつだ。……はっ!?

 

「そうだ、その手があった! でかしたグレン、お前この技の隠された能力を知っていたのか! これならなんとか出られるぞ」

 

 さっそく技をやる気マンマンのグレンに覚えさせて使ってみた。人間が教えると時間がかかるが、わざマシンなら習得は一瞬。“かえんほうしゃ”のときに確認済みだ。またこのわざマシンが役に立つとは。これも日頃の行いの賜物だな。

 

 グレンは技を覚えてすぐ急にどこかへ走りはじめ、ある場所で技を発動した。もしかして地盤が緩くて出やすいところを探していたのだろうか。グレンはホント賢い奴だ。しばらくすると穴の中からグレンが出てきて、なぜか石っころみたいなものを持っていた。が、とにかく外につながったならそれでいい。

 

「もう外に繋がったのか? なんかやけに早いな」

「?」

 

 なぜか首をかしげて俺の手にその石を渡してきた。穴の奥を見ると垂直に掘ってあるだけで外には通じてそうにない。つまり、だ。

 

「これを取り出すためにこの技を覚えようとしたのかっ!」

「ガウッ」

 

 もち! と返事されて俺は全身の力が抜けた。このわざマシン、よく考えたらただの盗品だし日頃の行いはどちらかと言えばあまりよろしくはなかったな。

 

 普通に考えればわかることだ、。困ったら一瞬で洞窟から脱出なんて都合良くできるわけない。こんな思考自体が頭エリカとしか言いようがない。習慣の怖さだ。グレンの方は「ほめてー」と言わんばかりにしっぽをふっている。こんな石もらっても今どうしろと。ん、でもこの石よく見ると何か……。

 

「まさかこれは琥珀か、“ひみつのコハク”!……グレン、お前、やっぱすげえよっ。最高だ!」

 

 ガシガシとちょっと乱暴に撫で回してやると嬉しそうに俺の方へすり寄ってきた。そういえば……最近、イナズマが進化する前のイーブイだった頃は勧誘して仲間にするためにイナズマに構ってばかりだった。前のバトルもイナズマバトンからのアカサビ無双で勝負アリだったからグレンは見せ場ゼロだった。

 

 仲間が増えることはいい。だけどグレンもちょっと忘れられたくなくて、こんな風に俺の気を引こうとしたのかもしれない。もっと大切にしてやらないと不安にさせてしまうな。

 

「なぁグレン」

「ガウ」

「お前はずっと俺にとって1番のパートナーだからな」

「……ガウガ!」

 

 パン、と息ぴったりのハイタッチ。んー、サイコー!! だけど状況は変わらないんだよなぁ。

 

「さて、グレンさんよ、これからどうする? 依然として道がわからないままだぞ?」

「ガウーーン」

 

 それは人間的には「うーん」というような感じなのか。一緒に首をひねって考えていると野生のピッピが飛び出してきた。あれこれしているうちに時間がけっこう経過していたみたいだな。

 

「スプレーの効果が切れていたか。あ、でも丁度いいな。なぁお前、ちょっと出口までの道を教えてくれないか?」

「ピ?……ピッ」

 

 あっけなくそっぽをむかれるがその程度は想定内だ。

 

「おっと、教えてくれたらここらで取れないおいしいきのみをくれてやろうと思ったのに、残念だな。ま、ここならピッピは他にもいる。別の奴を探すか」

「ピィ!? ピッピッ!」

 

 どうやら気が変わったらしい。このきのみを一目見ただけでどれほどのきのみなのかわかったみたいだな。あるいはポケモンだし香りで判断したのかも。意外とグルメだ。

 

 今見せたのは努力値下げのきのみ。これは世間的にはただ美味なきのみという認識でホウエンだとポロックの良い材料として広まっているらしい。かなりおいしいことはイーブイの反応ですでにわかっている。

 

 ただ、そのせいで値段もすこぶる高くなってしまっていて、そこがトレーナーとしてはネックだった。まぁ高いのはカントーでは生産されていないので遠くから取り寄せているのも理由のうちだが。転送してるくせに割高になるからな。タマムシデパートの闇だ。

 

 そもそも努力値下げ用として仕入れて活用しているのは俺だけだから、トレーナの中で困っているのは俺だけで普通はこんなきのみセレブとか限られた人間しか買わないんだろう。だからアホほど高いと。この隠された効果が一般的に認知されたらここからさらに高騰しそうだ。そうなったらかなり困る。

 

 ともあれ、ピッピは乗り気になってくれたのできのみを渡してやるとすぐに案内を始めてくれた。ピッピってジャンプしながら進むんだな。そういえば3年後のおつきみやまのイベントで月曜日に現れる時もこんな感じだったか。重力を感じさせない動き。まるで月の上を移動しているみたいだな。月から来たからこんな動きになるということなのかな?

 

 ちなみにあの「つきのいし」が貰えるイベントには罠がある。隕石みたいなのから取り出す演出でもしたかったのか、なぜかゲットには“いわくだき”が必要となる。覚えてないと悲惨だな。

 

 なお、この罠に全国のプレイヤーがキレたのかリメイクのHGSSではピッピが落としていく形に変わっていて“いわくだき”は不要になっている。

 

「ピッピピピー、ピッピッピ! ピッピピピーピッピッピ!」

 

 ピッピはきのみを美味しそうに頬張りながらスイスイと淀みなくリズミカルに進んでいく。思ったより移動が速いのでグレンに乗って追いかけた。ここに住んでいるだけあってやっぱり洞窟内部の地形は全て把握しているようだな。

 

 出口まで案内されると、うまいこと反対側まで辿り着くことができていた。一時は詰んだとまで思ったが案外なんとかなるものだな。

 

 終わってみれば案内されてからここまであっという間だった。道さえわかっていればすぐに出られたんだな。おそらく迷った時点で割と良いところまでは来ていたのだろう。それでも出口に辿り着けないのが洞窟の恐ろしさだ。今度からは洞窟に入る時はよく準備をして迷わないように注意しよう。

 

「無事到着できたな。じゃ、お礼にこれもやるよ。予想以上にいい案内だったから俺から心ばかりのチップだ。ご苦労さん」

「ピッピ!」

 

 最後にもう1つきのみをあげるとピッピが何か懐から取り出した。どこにしまっていたのか気になるが、ツッコミ入れるのは野暮か。どうやらこれを俺にくれるみたいだな。これは……。

 

「つきのいしか。これまた珍しいものを持っているな。いいお土産ができた。サンキュー」

 

 “つきのいし”はこの前の“たいようのいし”と比べて用途が広い。カントーだけでもピンク2体、ニド2体、他の地方にもけっこういたし、持っていて損はないはずだ。本当にいいものを貰った。

 

 このピッピ、最初はあれだったが案外イイ奴だったな。きちんと対価を渡せば、野生のポケモンといえど礼はするものらしい。

 

 ただ、どうでもいいがなんでピッピがつきのいしを持っているのに進化しないのかは不思議だ。ゲーム中にはそんなこと全く思わなかったが、こっちに来てからそんなことばかり考えている。疑問は尽きない。

 

 ついでにいえばこの山も、初心者が最初に登る山としてはちょっとハード過ぎるな。否応なしに連戦になるだろうし、スプレーも高レベルのポケモンがいないと効果は薄い。本当にこの世界はトレーナー修行も楽じゃないな。この山で挫折したトレーナーとかいたりしないのか?

 

「ピッピィー!」

「バイバイ、ありがとうな」

 

 ピッピに別れを告げて、まずはこの辺りにあるポケセンを探すことにした。さすがに歩き詰めで疲れたし、そろそろゆっくり休憩したいなぁ。

 




ゲームの疑問を色々書き連ねた話になりました
意外と当たり前になってるけどよく考えるとフシギーなことって多いです

この回は大事なこともしていますが基本繋ぎで、次回からがこの章のメインです
アナザートレーナーとかいう謎の横文字の意味も明らかになります


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6.もうひとりのトレーナー

真打登場


「回復できない……だと!?」

「申し訳ありませんがトレーナー手帳をお持ちでないとご利用できません。ここは特別に増設された場所なので無償というわけにはいかないんです」

 

 ようやく休めると思った矢先にこれか。思い出されたのはタマムシでトレーナーカードをゲットした時のこと。普通ならトレーナー手帳というものがもらえ、それを使って食事や宿泊もできるようになるらしい。今の俺にはそれがない。

 

 そういえば洞窟の外のセンターは2ヶ所しかない。やっぱここは難所という認識は普通にあるんだな。しかし回復できないとなると大丈夫か? かなり歩き詰めだし、グレンはボールに戻して休ませるか。俺だって疲れているのにここまで来て野宿とは恐れ入った。

 

「ガウガウ!」

 

 グレンは大丈夫と言っているが、HPは目減りして自然回復が遅くなっている。そんなに無理はさせられない。

 

「無理するな、疲れてることぐらい見ればわかる。仕方ないからお前はボールの中で休んでいろ。ニビに着くまでは無理はするな」

 

 イナズマも疲れているが、まだアカサビはHP満タンだ。なんとかなるだろう。だが、そもそもあのタマムシのジョーイが余計なことをしなければこんなことにはなっていない。意外なところでしっぺ返しをくらったな。全く余計なことばかり……。ああっ、あいつら思い出しただけで腹が立つ! 戻ってもう1回いじめ倒してやりたいが顔も見たくない。でも仕返ししてやらないと気が収まらない! 思考がループし出して苛立ちだけが際限なく増していった。

 

 横にグレン達がいないこともあって気分はどんどん落ちていった。思えばこっちに来てから俺は自分でも驚くほど情緒が不安定になっていた。急に気分が悪くなること数え切れず。異世界に放り込まれたストレスか、はたまた……。

 

「ねぇ、そこのあなた、トレーナーよね?」

「あ? 誰だお前……何の用だ?」

 

 今は疲れているのみならずこの上なく虫の居所が悪いってのに、どこのどいつだ、俺にちょっかいかけるのは。むしゃくしゃして無茶苦茶なことをしてしまいそうだ。速やかにどっかに消えてもらいたい。

 

「何を言ってるのよ。トレーナー同士、目と目があったらポケモンバトルでしょ!」

 

 この世界にもその考え方はあるのか。それにこいつ、どっかで見たような、なんか見覚えがあるな。白い帽子。緑っぽい服、動きやすそうな赤のスカート、耳にかかる特徴的な髪型。誰だったか、なんかもう少しで出てきそうだが頭がごちゃごちゃで働かない。いや、どうでもいいか。そもそも面倒事に付き合う気はない。

 

「悪いがこっちは疲れているんだ。他を当たれ。じゃあな」

「あら、逃げるつもり?」

 

 ピクリ。通り過ぎようとしていたがつい足を止めてしまった。何をしているんだ、俺は! こんな言葉無視してさっさと通り過ぎればいいのに!

 

「言い訳して逃げようなんて、敵に背を向けた時点で負けを認めたも同然よ」

 

 脳裏で朝日に誓った約束がよぎる。もちろん形のないものだし、軽い口約束。相手も気にはしないだろう。それに誰も知りはしない。だが、他人を騙すことはあっても、自分にウソはつきたくない。確かに俺は負けないと誓ったんだ。プライドが、逃げるという選択肢を消した。

 

「お前……喧嘩を売る相手は選んだ方がいい。こっちはその気になればお前ごとき一瞬でけちらしてやれる。ケガしないうちに失せな。さもないと今は手加減できそうにない」

「へー、言うわねぇ。面白いじゃない。じゃ、賞金を懸けましょう。だったらやってもいいでしょ?」

 

 あくまで引き下がる気はないか。むしろ賞金が最初から狙いっぽい感じもする。これは教育やろなぁ。

 

「なら1万かけろ。それなら受けてやる」

「いちまっ! ほ、本気!? いいわ、受けてやるわよ。負けても恨まないでね」

「そっちこそ後悔するなよ。やるからには徹底的に潰す」

「あんたこそ、負けてからしらばっくれたりしないでよ」

 

 馬鹿が。相手の力量もわからずに挑み、しかも大金をかけるなんてな。こういうことは相手の力量を推し量れない奴がすると破滅する。その身で教えてやる。

 

「頼むグレン」

「いくわよ、ピーちゃん」

 

 アナライズ!

 

 ピジョン♀ Lv18 ようき 

 個 23-29-24-15-14-27

 努 23-17-12-08-11-34

 

 グレン Lv30

 実 73/101-99-59-71-52-99

 技 1かえんほうしゃ 

   2かえんぐるま 

   3しんそく 

   4かみなりのキバ 

   5まもる

   6みがわり 

   7オーバーヒート 

   8こうそくいどう 

   9ひのこ 

  10おにび

 

 アカサビは温存、まずは様子見だ。……このピジョン、すごくいい素材だ。育て方が無茶苦茶じゃなければなぁ。もったいない。

 

「育てがなっていない。素材はいいのにもったいない」

「あんたちょっと、好き勝手言わないでよ! わたしのピーちゃんは強いんだからあんまりなめないでよね! つばさでうつよ!」

 

 おっと、口に出ていたか。怒ってそのまま突っこんできた。挑発ってホント有効なことが多いな。勝負事はメンタル勝負。ポケモンバトルも例外ではない。

 

「まっすぐ来たか。3、ひきつけて横から吹っ飛ばせ」

 

 “しんそく”を横から当ててピジョンが吹っ飛んだ。グレンは動けなくなるがトレーナーは驚いたまま何もできずにいた。驚いて動きが止まる奴も多いよな。気持ちはわかるけど。

 

「速過ぎよっ!? なんなの今のっ!!」

「2」

 

 驚く間にこっちは指示を飛ばす。グレンの動きを見てから相手は慌てて叫んだ。

 

「ヤバい、避けて!」

 

 あいまいな指示のため逃げ遅れて“かえんぐるま”が直撃した。しかしそれでも根性でピジョンは立ち上がってきた。

 

「よし、今度こそ“つばさでうつ”よ!」

「根性だけは認めるが、指示が雑過ぎる。グレン、こっちに来たところを噛み殺せ、4」

 

 “かみなりのキバ”がクリーンヒット。こうかはばつぐんだ。ピジョンは気絶した。

 

「くっ、一撃も与えられずにやられるなんてありえない……」

「で、次はなんだ? こっちはこのままでいいぞ。さっさとしろ。いや、なんならここで棄権してもいい。こんなところで手持ちを全て失えば大変なことになる。こっちも手加減してやるつもりはないしな。さぁどうする? 1万おいてずらかるかい?」

「何言ってるのっ。誰が諦めてやるもんですか! 絶対に勝つ! おねがいフーちゃん」

 

 

 フシギソウ♀ Lv20 ひかえめ 

個 31-10-20-27-24-21

 

 

 フシギソウ、くさタイプ。イラっとくるぜ、このタイプを見ているとな。だがこいつも個体値はかなり高い。偶然とは思えないが、トレーナーの方は特に変わったところはないんだよな。

 

「6、2、9」

「まずはしびれごなよ、動きを止めて!」

「予想通りだな」

 

 “みがわり”でやり過ごし“かえんぐるま”で攻撃させた。なぜしびれないのかわからず相手が慌てるうちにこっちの攻撃がヒットし、離れ際の“ひのこ”も命中。“はっぱカッター”で反撃するが性格が“ひかえめ”のため攻撃が低く“みがわり”を破るには至らず。完全に一方的な展開となった。

 

「弱い、弱過ぎる。普通のトレーナーの実力じゃ、弱ったグレンでも強過ぎたか。いい加減諦めたらどうだ? 今ならまだ体力は残ってる」

「い、いやよっ!! まだ私は負けてない!!」

 

 往生際の悪い奴。引き際をわかってないな。

 

「あ、そう。ならトドメだ。オーバーヒート!」

「なっ!? そんな技まともに受けたらフーちゃんが……」

 

 “オーバーヒート”がどんな技かくらいは知っているらしい。わざと相手をあざ笑うかのように技名を声に出した意味があったな。

 

「もしかしたら重傷で死ぬかもなぁ。だが降参するチャンスは散々やったはずだ。今更やめたりはしないからな。恨むなら自分の軽率さを恨め、愚かなトレーナー」

「ヴォウッッ!」

 

 逃げることもままならず直撃。白目をむいて倒れた。丸コゲに見えるな。見た目だけならかなりヤバい状態にも映る。だが案外乱数が悪い気がする。

 

 攻撃自体はモロに受けているからクリーンヒットのはず。それでもオーバーキルとまでいかないのはおそらくグレンが手を抜いたりしたんだろう。傷はそこまで大したことない。グレンもずいぶんと器用なことをする。

 

「フーちゃん、しっかりして! 死なないで! ご、ごめん、こんなに無理させて……ううっ」

「そいつはもうダメだな。ほっとけばあと1時間ほどで死ぬだろ」

「そ、そんな……!」

 

 具体的な数字を聞かされ顔を真っ青にしておろおろし始めた。冗談のつもりだったが真に受けるとは。大嘘なのに。

 

「それよりさっさと賞金を渡せ。たとえそれでキズぐすりを買えなくなろうが俺は知ったこっちゃないからな。早くしろ」

「うぅぅ……! 許してぇ……ぐす……」

 

 泣きが入ってきたがこれで考えを改めるなら最初からこんなことしない。ニッコリ笑ってやると一瞬泣き顔が笑顔になるが次の言葉で再び表情が絶望に染まった。

 

「拒否するならお前も仲良く黒コゲだ。さてどうする?」

「えっ!? あ、ご、ごべんなざい、じつはわたし1万円なんて持ってないの。それにこの子が死ぬなんてイヤ、早くポケセンにつれていかないと……。お願い、助けてください……」

 

 ニッコリからの黒コゲは効いたらしい。あと、相当やられたポケモンが気になるらしいな。逃げるための方便ともとれるが……今は俺に対して本気で怯えているように見える。あんまり下手なウソなどはつかないだろう。

 

 煤けているのは火力が十分でなかった証に思えるが、こいつは本気で本体が焦げていると思ったらしい。煤なのに。頭の中では俺がヤバい人間だと思っているんだろう。……実際ヤバいやろというツッコミは否定しないが。

 

「へえ、持ってないのか。どうりで諦めが悪かったわけだ。なら仕方ないなぁ」

「見逃してくれるのっ」

 

 期待したその表情を再び奈落に突き落とす。

 

「お前の手荷物全てで手をうってあげよう。無理やり1万払わせる権利が今の俺にはある。契約違反をしたのはそっちだから、代償として払う質は当然俺の決めた値段で売ることになるってわけ。あぁそうだ。あと借金するなら今キズぐすりを売ってやってもいい。ここからじゃポケセンまで間に合わない。そうだな、ひとつ1万で売ってやろうか」

 

 ニッコリ

 

 気分がいいな、弱者を食い物にする輩をいじめるのは。悪魔の愉悦。これで一緒にトレーナー手帳とかも奪えばこれからポケセンで困ることもなくなるんじゃないか? 今思いついたが意外といい考えかもな。ボロ儲けかもしれない。こいつはどうせここで金目当てのトレーナー狩りでもしていたんだろうし自業自得なんだ、気にすることもない。

 

「そんなぁ……! どうしてそんなヒドイこと言うのっ!?」

「はぁ? バトルの前散々自分が言ったこと忘れたのか? 俺は機嫌が悪いから手加減できないと言ったのに、バトルを強いたのはお前だろ? こういうのを自業自得って言うんだよ。トレーナーのくせにぬるいこと言ってんじゃねぇ。あんまり鬱陶しいとマジでグレンをけしかけるぞ!」

 

 ぐうの音も出ないダメ押しでとうとう大声で泣き喚き始めた。

 

「う、ウソ……そんなことされたら、わたし、もう旅もできない、この子も死んじゃう、わたしも殺される、う……ううっ、うえーーん! ひどいわっ、許じてよ、ごべんなざいぃ!」

「泣いても無駄だ! もういい、さっさと全部寄越せ!」

 

 どこからそんな大声が出てくるんだ。みっともない。これじゃ赤子同然だな。無理やり荷物を奪い取ってグレンに乗った。後はほっとくか。ワンワン泣きじゃくって本当に鬱陶しいからな。ひったくられてようやく自分の状況に気づいたのか、慌ててグレンの方に駆け寄ってきた。

 

「待ってっ! お願いだからわたしのフーちゃんを助けて! わたしなんでもするから、この子だけは助けてあげてっ。こんなあっさり死んじゃうなんて、絶対にイヤ! な、なんでも……しますから、どうかお願いします。どうか……」

 

 ガチ泣くするほど俺が怖いくせにしつこいな。よく見れば体も震えている。何がこいつをそこまで突き動かすんだ? それに、なんでこんなに心がざわつくんだ。さっきのことを振り返ると、こいつと出くわしてからいつぞやのように心の乱れがひどくなった気がする。

 

「知るか、お前が招いたことだ。自分でなんとかしな。どうしようもないなら諦めてそのフシギソウに謝っておくんだな。自分が馬鹿なせいで死なせてごめんなさいとな。じゃ、俺も暇じゃないんだ。これ以上つきまとわないでくれ」

 

 軽くあしらって進もうとするがグレンが動かない。足元を見るとトレーナーがみっともなくグレンの足にしがみついていた。

 

「お願い、助けて、何でもするから。借金でもなんでもいいから、だから……」

「チッ、最後まで面倒な奴だな。なり振り構わないにも程があるだろ。お前、やっぱり丸焼きにでもした方が良さそうだな。そいつみたいにさぁ」

「うう……や、やれるもんなら、やってみなさいよっ。そんなの、こわぐ……ぐぅぅ、ううっ、うぐっ、ひっぐ」

 

 どう見ても怖くて仕方ないって顔じゃねぇか。ホントに頭おかしいのな、こいつ。さすがに人間に危害を加えればバレたらヤバそうだしな。脅しが効かないとなると……。

 

「なら、お前のもう1体のポケモンを俺に寄越せ。そうすればそいつの命ぐらいは助けてやろうか」

「そ、そんなっ! ピーちゃんを手放せっていうの! ひっ、ヒドイわっ! ううぅ、うわぁーーん! ひとでなしぃーー!」

 

 また泣き始めた。どさくさに紛れて俺に毒吐いてるし。無視して先に行こうとするとまた足にしがみついてくる。グレンもなぜか振り払おうとはしない。めんどいなぁ。なんなんだこいつ! 仕方ない、一度首でも絞めて気絶させるか? 俺が実力行使も辞さないつもりで動こうとすると、それを感じ取ってかグレンが俺を引き留めた。

 

「ガウガウガ、ガウ」

「傷を治してやれって? おいおい、お前まで情にほだされたのか?」

「ガーウ!! ガウガウー」

「……ったく、仕方ねーなぁ」

 

 グレンに説得され、仕方なく回復ぐらいはしてやることにした。グレンに自分は助けたのにこの子は見捨てるのか、と言われたからだ。そう言われると俺も弱い。なまじグレンやアカサビは言うことがはっきり伝わるから無下にはできない。

 

 きのみクラッシュ産“ふっかつそう”を取り出し、フシギソウに飲ませた。飲むとき苦そうにしたがすぐに体力が戻っていった。トレーナーは最初苦しむのを見て悲鳴を上げたが、すぐに良くなったのでフシギソウに寄りかかって喜んだ。よっぽど心配だったんだな。

 

「よかった! ほんとによかった、生きてるわっ! ごめんね、わたしがしっかりしてないせいで、本当にごめんねっ」

「ソウ、ソウ」

 

 驚くことにポケモンはそれに笑顔で返した。トレーナーのせいだとは思ってないように見える。かなりなつき度が高そうだ。

 

「ふっかつそうという薬草を飲ませた。それですぐに体力も満タンに戻る。これでいいだろ」

 

 さっさと戻ろうと背を向けた瞬間グレンにもっていた戦利品をふんだくられた。

 

「ガウガ」

「あっ、何してんだグレンッ!」

 

 荷物もグレンが勝手に返してしまった。これじゃ骨折り損だろうが! グレン! お前ホントに何考えてんだっ!

 

「わたしの荷物、返してくれるの?」

「違う! 返すわけないだろっ。グレン! どういうつもりだ!」

 

 そのあと口論を続けるが、イナズマも出てきてかわいそうだと押しきられて結局本当に返すことになってしまった。

 

 こ、こいつら性格が良過ぎる。イナズマも辛い目に合っているのに心根が真っ直ぐでびっくりだな。いや、いい子に育っていて嬉しいが、それも時と場合を考えてほしい。……もちろん俺の性格が悪過ぎるだけなのは自覚しているけれど。

 

「ありがとうグレンちゃん、イナズマちゃん。恩に着るわっ。わたし本当にもう終わりかと思ったもん。ありがと、ありがと……」

 

 あいつ、ちゃっかり2体と仲良くなってやがる。俺がニックネームで呼ぶのを聞いていたのか、さりげなくニックネーム呼びで距離を縮めている。自分以外と仲良くしているとなんか腹立つな。しかも悪いのは俺だけってか。

 

「運のいい奴だ。チッ、とんだ無駄足だ。さっさとここを抜けてニビヘ行くぞ」

 

 しかし、グレンはなんとそのトレーナーも乗せていくと言い出した。さすがにこれには開いた口が塞がらなかった。ほんまにどしたん? 見ず知らずのトレーナーにここまで入れ込むなんて。

 

 一応目的地は同じらしいが、もうグレン自体の残り体力もそんなにないのに、さらにしんどくなるようなことを自分から言うなんて考えられない。このトレーナーのことやけに気に掛ける。そういえばこいつの手持ちも驚く程トレーナーに懐いていた。初対面でもポケモンに好かれやすいのかもしれない。

 

「賞金を踏み倒したあげく、町まで俺に運ばせる気か? いい度胸しているな。もう一度泣かせてやろうか?」

 

 四面楚歌。こうなればもう本人にやつあたりするしかない。

 

「うう……そんなに睨まないでよぉ。グレンちゃんが乗ってもいいよって言ってるんだもん。お願い、乗せて?」

 

 言ってることがわかっただと? 面白い答えが返ってきたな。

 

「グレンの言うことがなんでお前にわかる?」

「なんとなく表情や仕草とかでわかるから……」

 

 たしかにグレンもそう言っているが、ホントにこいつ何者だ? グレンだけでなく人見知りの激しいイナズマまですっかり懐いてしまっている。ただの雑魚トレーナーかと思っていたが、使うポケモンも素材は悪くないし、もしかして何かあるのか? わからないが、まあどうせトレーナー手帳をかっぱらうのは失敗したわけだし、つれてってやるぐらいはいいか。俺はグレンに乗っているだけだし。

 

「気は乗らないが、グレンの言うことなら仕方ない。こいつによーく感謝しておくんだな」

「や、やった! ありがとう! ピーちゃんも早く回復させてあげたいの! よろしくお願いするわね、グレンちゃん」

 

 ああ、それでついてくるのにも必死に食い下がってきたのか。ま、自分のポケモンを大事にするところぐらいは好感が持てるな。

 

「うわぁ、けっこう背中って広いのね。失礼しまーす」

「振り落とされんなよ。俺の肩つかんで足に力入れとけ。グレン、Go」

「え、ちょっとまっ、きゃっ!」

 

 掛け声でグレンは一気に加速する。後ろの奴、慌てて俺につかまったはいいが、勢いよく俺の首をつかまれて窒息しかけた。後ろに振り返り首を絞め返すとよく反省したようなので一旦は許してやった。

 

「ゲホゲホッ、容赦なさ過ぎ」

「十分加減した」

 

 後ろから恨めしい視線を感じたが無視。行程が残り半分ほどの距離に来たところで休憩を挟むことにした。最初は飛ばしていたがかなり疲れが見えてきたからな。

 

「グレン、お疲れさん。そろそろ休もうか。あの岩陰に止まってくれ」

 

 スッと停止して俺は地面に飛び降りた。

 

「うひゃあ、この高さからあっさりジャンプなんてすごい。よし、わたしも……」

「お前は無理せずグレンが低くかがんでから…ちょ、待て!?」

 

 見事に着地した……俺の上に。蹴り殺す気かこいつ! まさに今のは“とびひざげり”だ。あわよくばさっきの報復でもしてやろうとか思ってないよな? 一睨みすると愛想笑いでごまかされた。こいつまさか確信犯か? こんなことでいちいち相手するのも面倒だ。目で牽制するだけにして早くグレンを休ませるためにおいしいみずを……。

 

 あれ、そういえばさっきまで続いていたイライラがなくなっている。目を見て気分が悪くなるなんてこともないし、そもそもさっきまでならいきなり“とびひざげり”なんかされたら倍返しにしていたはず。今はそんな気は起きない。

 

 冷静になって思い返せば俺はさっきまで何をしていたんだ。いくらなんでも、相手に非があるとはいえさっきのはやり過ぎじゃないのか。言葉尻に付け込んで精神的に追い詰め、さらに荷物も全て奪う気だった。こんな子供相手に容赦なさ過ぎだ。ここのところこんなことばっかり。最初が最初だったとはいえずっと思考が殺伐とし過ぎだ。これじゃ自分すら信用できない。

 

「ガウンー?」

「はっ!? いや、なんでもない。ほんとにご苦労さん。疲れているだろ? よく休んでおけよ」

「ガウ」

 

 バッグに手を入れたまま固まっているとグレンに心配された。笑顔でごまかしておいしいみず探しに戻った。

 

「グレン、おいで。これ飲んどいて。頑張り過ぎて無理するなよ。お前が倒れたら意味ないからな。……あ。おい、お前もこれやるよ」

 

 グレンを撫でていたわりながら、ついでにさっきの罪滅ぼしにトレーナーの方にもおいしいみずを投げてよこした。

 

「うわっと。これはおいしいみずね。あ、あの……わたしまでいいの? まだ賞金も払ってないし、はっきり言ってわたし、あなたにものすごく嫌われていると思ったんだけど。もしかしてこれって何かの罠なの? なんかこの中に混ぜてるとか」

 

 言い方は遠慮がちだが思ったことは本当にはっきり言うな……。

 

「いらん心配せんでも新品だ。さっきのことはもう別にいい。あのバトルは……その、多少はやり過ぎたと思っている。あの時は最初にも言ったが本当に気が立っていたんだ。イヤなことを思い出していて、疲れも重なっていた。お前がビビって断ればいいと思って1万かけろなんて吹っ掛けたが、別に金がほしいわけではない。実際金には困ってないし、そんな端金ここにきていまさら拘る気はない。だからもう気にしなくていいから。ポケモン回復する前にお前がダウンしたら元も子もないし、それは詫びとしてやるよ。それで回復しとくことだ」

 

 移動しているうちにもう不快な気持ちがなくなったのはグレンとしゃべっていたのが大きいのかもしれない。やっぱりグレンは自分が気づいてなかっただけでいつもムードメーカー的な役割を果たしていたんだな。いつも外に出ていたし。少しいないだけで自分のものじゃないみたいにあんなに心が乱れるなんて……どうかしていたのは俺の方だった。

 

「ええっ、い、いいの? いきなりそんな対応されると戸惑っちゃうわね……ありがとう。えーと……」

 

 名前を聞きたいのだろうな。グレンをマッサージしながら答えた。

 

「レインだ。ずっと休んでいるわけじゃないからさっさと飲んでしまえ。もう少ししたら出発する」

「うん。レインって、意外と優しいのね。特にポケモンのことかなり気を使っているし。さっきでもポケモンに言われたことは結局全部聞いてあげてた。最初はもっと横暴なトレーナーだと思ってたのに、全然違うのね」

 

 褒めているのはわかるがなんか腹立つ言い方だな。

 

「意外で悪かったな」

 

 こいつの言うことは適度に流す方がいいと悟り、グレンのけづくろいをして放っておくことにした。確かにさっきのことに負い目はあるが、運んでやることでチャラだ。

 

 しばらくけづくろいしていると、視線を感じて何度かトレーナーと目が合った。ずっとこっちの様子をうかがっているようだ。あまりいい気はしないな。

 

「おい、さっきからジロジロと失礼な奴だな」

「ご、ごめんなさい。何しているのか気になって、つい」

 

 泣くほど酷い目に遭ったのに俺のことジロジロ見る度胸があるとはたまげたな。もちろん悪い意味で。普通はもうちょっと尻込みしたりしないか?

 

「見ればわかるだろ、けづくろいだ。お前はしないのか?」

「え? それが……ブリーダーしかしないもんだと思ってた」

 

 どうやらトレーナーがするのは珍しいようだな。世話ぐらいしても良さそうなもんだが。そういや、こいつの名前聞いてなかったな。丁度時間があるし聞いておくか。

 

「おい、お前」

「はい! あの……やっぱり怒ってる?」

 

 さっきのはお前が不躾な視線を送っていたからだろ。まぁさっきの今だし気持ちはわからんでもないが。

 

「いや、お前の名前でも聞いておこうと思ってな。名乗れよ」

「あっ、そういえばそうね。わたしはブルー。マサラ出身で、今年トレーナーになったばかりなの」

 

 はあああ!? マサラでブルーということはレッドの同世代、というかこいつの容姿ってFRLGの女主人公そのものじゃねぇか! 顔の印象薄いから忘れていた。だが、そうすると気になることが出てくるな。なぜこいつはこんなところにいる? レッドはもうクチバには行っているだろう。それにこいつがいるならゲームとは微妙にキャストが変わっているのか。展開も違うのか? 一度に色々判明し過ぎだ!

 

「あのー、どうしたの、レイン……さん?」

 

 こいつ……最初からずっとフランクだったのに、いきなりさん付けされても気持ち悪いだけなんだが。なんのつもりだ?

 

「気色悪いからレインでいい。お前、マサラに赤いトレーナーはいなかったか?」

「きしょくっ……もしかしてレッドのこと? あいつとグリーンはわたしと一緒に旅に出たけど、昔からの幼馴染ってやつなの。でもわたしは置いてかれて、あいつらはどんどん先へ行って、もう追いつけないぐらい遠くに行っちゃった。わたしはこんなところで躓いているのに」

 

 そういえばおつきみやまはヤバかったし、それだろうな。

 

「おつきみやまか」

「そう。最初はバカみたいに勢いだけあって、チャンプにでもすぐなってやるって息巻いていたのに、ちょっと壁に当たると簡単にしぼんじゃって。今じゃすっかり自信喪失よ。それでせめて道具をためてなんとかポケモンを強くして、ここを超えようとしてたのよ。でも、もうわかったわ。わたしにはここが限界。今日も負けたし、この子達には悪いけど、もうがんばれそうにない。こんなところで終わるはずじゃなかったのに……何でわたしだけ……」

 

 泣きそうな顔で語るブルーの言葉には悔しさと無念さがにじみ出ていて、どうしようもない不条理を嘆く心の叫びがレインには伝わっていた。

 

 ――身に覚えがありすぎる――

 

 ここに来て不自由な日々で自分も味わってきた気持ちだった。自分は屈辱をバネにしてここまで来たが。とすると、こいつは経験値を稼ぐためにおつきみやまに近いところにいたのか。金稼ぎなら雑魚をトキワ辺りで探す方がいいし、持っている金も少ない……もしかしなくても邪推だったのか。……相手が蛇に見えるのは自分がそうだからってことかよ。さすがに少し反省しよう。醜い人間でごめんなさい。

 

 そして悟った。なぜブルーがここに留まっているのか。こいつは俺に会わずともここで朽ちる定めだったのだ。

 

 ブルーは表舞台から弾かれ、レッドの影としてゲームには出てこない。誰にも知られることのない、もうひとりのトレーナー。それがブルー。どうしようもないことだが、思わずにはいられない。ああ、なんて……。

 

「ああ。なんてもったいない奴なんだ。きっかけさえあればなぁ。だが、ここで朽ちるのも運命ということか」

「え、ど、どういうことっ」

「それだけ天性の才を持ちながらこんなところで埋もれているなんて、お前ってホントに惜しいな。これじゃダイヤの原石止まり。もうすこし向上心、いや、執念があればなんとかなったか。でも結局きっかけがなけりゃ無理だな。仕方ない。ま、ポケモンと仲良くできればそれでいいだろ。ポケモンには好かれやすいみたいだし」

 

 進む勇気がないんじゃその先はない。意地でも這い上がる覚悟があれば俺のように駆け上がれたかもしれないがな。ポケモンに好かれたり、意思疎通が少なからずできたり、そういうのは才能でしか得られないものだけに本当に勿体ないとは思う。間違いなくバトルの才能もあるだろうし。

 

「わたしがダイヤの原石……はは。それ、からかってるの?」

「……そうか。お前自分の価値もわからんのか。とことん憐れだな。どうしてもトレーナーとしてやり直したいならどこかのジムに弟子入りするとか、やりようはあるだろ。変に手段に拘るからこんなところでムダにボンヤリする羽目になるんだ。ほんっと執念が足りない。育てが悪いと言ったのも、結局技術の話だしな。ちゃんと訓練すれば……。別にぃ? お前の人生はお前の勝手だしぃ? 俺には関係ないからどぉーでもいいけど。さて、長話が過ぎた。いい加減そろそろ出発するぞ」

 

 その後の行程はブルーが驚くほど静かになり、グレンもしっかり休んでいたので特に何事もなくすぐに着いた。もう夕方だが、普通なら何日もかかるところをすぐに来られたな。

 

「じゃあな。二度と俺に喧嘩売るなよ。今度は本当に身包み剥ぎ取るからな」

「う、うん。グレンちゃんも送ってくれてありがとう」

 

 気の抜けた返事だな。わざとブラックジョークをかましたのに無反応とは面白くもない。まぁいいか。早く宿をとらないとここまで来てまた野宿になるのはさすがに勘弁願いたい。

 

 その時ブルーの俺を見る目が明らかに変わっていたことに全く気が付かなかった。重要人物と関わって何も起きないはずもなく……。

 




この話のサブタイはこの小説のタイトルと同じ意味です
いつからもうひとりがレインだと錯覚していた?
ということで真打ブルー登場
ブルーについては2,3思うところがあることでしょう
あのな、その子本当はリーフっていうんやで、とか
名前青の癖に使ってるポケモン緑じゃねーか、とか

まず名前
マサラ3人組は全員出てきますが、その名前はレッドは当然確定、ならグリーンもほぼ確定
とするとリーフはグリーンと被り気味、ブルーなら赤青緑で都合が良い

で、ポケモン
レッドはリザードンでしょう。グリーンは相性考えてカメックス一択
じゃあフシギバナしか残ってないです
ブルー……きっとレッドとグリーンに先をこされて選ばれてしまったのでしょうね、あはれなり

オリジンでも2人の名前と御三家は同じでしたし、残り考えたらやっぱりこうなるのは仕方ないですね、ということで納得してもらえれば


途中手帳を奪えば万々歳という内容がありますが実際にはそんなことはありません
他人の手帳は使えないようにできています
冷静に考えれば当然ですよね
つまりあの時レインは冷静ではありません


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7.避けられぬもの 終わらないもの

 グレン達もばっちり回復し、あくる日に万全を期してジムに向かった。この町は見るべきものも特にないし、さっさと通過してクチバへ向かうつもりだ。羽じいさんは3年後だし、博物館は見ても仕方ないからな。ほんとに何もないな。逆に珍しい。

 

 北西のジムへ着くと、なぜかそこに見覚えのある奴がいた。あんまり会いたくはなかった顔だな。ジムの真ん前にいるので無視するわけにもいかず嫌々ながら声をかけた。

 

「お前か。何してる? もしかしてホントにジムに弟子入りする気か?」

「え? あっ、レインっ!……いや、別にそういうわけじゃ。それに、ちょっと見に来ただけで、深い意味はなくて……」

 

 そんなわけないだろうに。今俺を見て一瞬嬉しそうにしたのが引っかかるが、さすがに見間違いだろうな。優柔不断は見ていて不愉快だし、まどろっこしいことはさせない。

 

「うだうだ言わずにとりあえず入ればいいだろ。おーい、ジムの挑戦に来た。誰かいるかー?」

「あっ、ちょっと待ってよ! わたしはまだ…」

 

 呼びかけると珍しいことにジムリーダー本人が出てきた。“かたくてつよいいしのおとこ”ジムリーダータケシ。いよいよ登場か。俺にとっては天敵の岩使い。かなり相性は悪い。だがそんなことは前々からわかっている。避けられない相性の試練というわけだ。ヒトカゲだと苦労したのが遠い思い出のようだ。

 

「本人が出てくるとは」

「今日は丁度ここに戻ったところでね。いつもは待たせることが多いんだが君達はラッキーだったというわけだ。さて、挑戦はどっちが先だい?」

「あ、こいつはでしい…」

「あああーーーっっっ!! わたしは見学希望よ! ちょっとバトルを見てみたいの!」

 

 いきなり大声出して俺の言葉をかき消しやがった。なんだこいつ。俺は本気でこいつを奇異の眼差しで見ていた。ブルー変人説まである。

 

「そういえば君はこの前バッジを渡したな。わかった、上にあがっていてくれ。じゃ、挑戦するのは君だけだな。見学はアリでも構わないかい?」

「まぁ構わないが、先に言っておく。俺はランクアップを希望する。限界の7まで上げてもらいたい。前も上げていたから実力は心配無用だ」

 

 トレーナーカードを渡しながらそういうとタケシは驚きながら受け取って読み込みを始めた。

 

「7まで!? 今どき珍しいチャレンジャーだ。感心だな。どれどれ……ランク3か。だが、前も上げていたのなら限度は弁えていると見ていいか。腕試しならジムでしかできないし……よし、その心意気しかと受け取った。だが手加減はしないから覚悟してくれよ?」

「へぇ、あっさりオッケーするんだな。前まではごねられたりしたのに。ポケモンは硬くても、頭は柔らかいらしいな。これは助かったぜ、ジムリーダーさん」

「バトルは力だけじゃ勝てないからな。お手並み拝見といこうか、チャレンジャーくん」

「ランク3でもすごいのに、そこからランクを上げるなんて信じられない……本当に勝てるの? これはわたしの予想以上のバトルになるかもっ!」

 

 ◆

 

 ジムの奥、岩のフィールドに着いた。

 

「使用ポケモンは2体、フィールドはこの岩場、審判はうちのトシカズだ。交代は挑戦者のみ許される。いいな?」

 

 トシカズってあれか、「10000光年は時間じゃない……距離だ!」の人か。弟子1人だけでセリフもインパクトあったから覚えている。

 

「わかった。フィールドってのはどこもジム固有なのか?」

「うちみたいに、ジムのタイプに有利なフィールドが作られている場合もある。ノーマルのとこもあるが、タイプが割れている分これぐらいはな。じゃ、始めるか。名前は?」

「レインだ。よろしく、ジムリーダータケシ」

 

 たしかにその代わりと思えばズルくはないか。そしてバトルが始まりお互いに1体目を繰り出した。

 

 アナライズ!

 

 サイドン Lv40

 実 142-116-140-45-48-65

 努 1-2-252-0-3-252

 

 グレン Lv30

 実 101-99-59-71-52-99

 技 1かえんほうしゃ 

   2かえんぐるま 

   3しんそく 

   4かみなりのキバ 

   5まもる

   6みがわり 

   7オーバーヒート 

   8こうそくいどう 

   9ひのこ 

  10おにび

 

 え、なんなのこの振り方は。どんな育て方したらこうなるのか。どう見ても先に防御と素早さの努力値がカンストしてそのあと残りが適当にバラけた感じだが……偶然にせよ、極振りしているポケモンを始めて見た。タケシはなにか育て方が特殊なのか?

 

「まさかのBS振り……ムダに堅いな。だが極振りしてる奴は地味に初めて見た。偶然かもしれないが」

 

 ボソッとつぶやいたので相手には聞こえてないようだ。こっちが逆に問いかけられた。

 

「レベルは確かに高いがランク7にするには少し物足りないな。どうするつもりだ?」

「レベルなんて目安にしかならない。能力は負けちゃいないさ」

「では、用意……バトル開始してください!」

「10」

 

 開始の宣言と共に短い指示と補助技で先制して“おにび”を放つ。タケシは特に避けることもなく受けて攻撃してきた。これが今回の(かなめ)だから無警戒は助かるな。

 

「がんせきふうじで動きを止めろ!」

「避けて距離を取り続けろ。右、左後ろ、後ろ、右前」

 

 ターンの概念がないのでやけどの仕様はゲームと違い、時間ごとに1ずつ減っていく。体力が多いほどよく耐えるということだから、現実に即しているとも言える。毒の歩く度に減るのがこれに近いか。毒の戦闘中の減り方もやけどと同じだ。程度の違いだけ。

 

 だからレベルが高いポケモンは状態異常のみで倒すには時間がかかりすぎる。攻撃も必要だ。

 

「きりさくだ!」

「うけて7」

 

 “いかく”で下がっているので弱点を突かれなければ威力は大したことない。あえて受けて特殊技の“オーバーヒート”をカウンター気味に決めた。これなら防御が高かろうが関係ない。40……やけどダメージとあわせて64入ってあと78。交代が必要だな。

 

「チェンジだ、戻れグレン」

「ここで交代か。むやみに変えると流れが悪くなるぞ?」

「流れか。たしかにミスかもしれないが、まだ結果はわからない。来い、アカサビ」

「サイッ!」 

 

 アカサビが威勢よく出てきた。やる気十分だな。しっかりけづくろいしているからピカピカだ。

 

 ストライク Lv31

 実 94-112-62-41-61-97

 技 1つばさでうつ 

   2でんこうせっか 

   3とんぼがえり

   4つるぎのまい 

   5まもる

   6みがわり

   7こうそくいどう 

 

「今度はストライク……“ほのお”に“むし”と来たか。ここに来る奴はみな“みず”や“くさ”タイプばかりなんだがどういうつもりだ? 全く、つくづく君は変わっているな」

「俺は相性よりこいつらの力を信じてるからな」

「よく言った! やっぱり、バトルはそうでないとな。相性の壁を越えてみせろ! いけ、ロックブラスト!」

「と言いつつ、いきなり容赦ねぇな。右後ろ3歩、次跳んで左、攻撃3!」

 

 当然ここは回避一択。躱した後、“とんぼがえり”を決めてボールに帰っていった。新技だ。

 

 今のが21ダメージ。やけどで19、残り38で、さっき“オーバーヒート”は40ダメージだったから、うまくいけば次で倒せるか。

 

「もう戻るのか、どういうつもりだ?」

「今のは交代じゃなく技の効果。そして戻したのはいかくを使うためだ。来いグレン」

「ヴォウ!」

 すでにサイドンの攻撃はやけどと合わせて1/4になっている。恐れる必要もない

 

「確実に当てるぞ、とっしんだ!」

「受け止めて7」

 

 がっしりと“とっしん”を受け止めてから至近距離で“オーバーヒート”がクリーンヒット。サイドンはこれでノックダウン。グレンが吼えた。

 

「サイドン戦闘不能です!」

「ヴォーーーウ!」

 

 攻撃を下げまくったのでダメージも最小限。まともに受けたので乱数は高かったが2回合わせて32ダメージ。この声を聞く限りまだまだ大丈夫そうだ。

 

 

「俺のサイドンのとっしんを受け止めるなんて、パワー負けしていたのか。いや、これがいかくの効果か。これを狙って何度も交代を……なるほど、君はかなり腕が立つらしいな。圧倒的に不利な状況を覆したか」

「いかくの使い回しぐらい誰かが思いついていても良さそうだが、そういうことはあまりされてないらしいな」

「そんな戦術は初めて見たよ。さぁ、次はこいつだ。どう対処する? 行けゴローニャ」

 

 ゴローニャ Lv41

 実 120-127-149-56-64-45

 

「こいつは……」

「このポケモンの防御力は天下一品。サイドンより上だ。攻撃力もさっき以上だぞ」

「こういうときどう反応すりゃいいのかねぇ。たしかに堅さは(まさ)るが、体力で劣る分耐久力はサイドンの方が高い。1つだけ教えといてやるが、この手の防御に秀でた連中は防御面を伸ばすより、その分を体力強化に充てた方が耐久値は高くなる。育て方を間違えたな。まあ勘違いしても仕方ないが」

「いったい何を言ってるんだ? 防御力を上げれば受けるダメージも減る。まず防御を上げた方がいいだろう」

「……なら試すことだな。別に戯言と聞き流しても構わないが。どっちにしろ、俺にとっちゃありがたい。グレン、10」

「二度は食らわない。避けろ」

「10」

 

 何度も打っては避けてを繰り返すがSで勝るグレンが上手(うわて)を取って最終的に狙い通りに事を進めた。

 

「結局避け切れなかったか。ならじしん!」

「5、6」

 

 すぐに「まもみが」に入って守りを固めた。Sのおかげでぎりぎり受け切れているが余裕はない。ここでは「まもみが」は絶対の戦術ではない。ゲームなら対抗策がない場合一度決まると絶対に相手からの攻撃を受けなくなる。だがここでは攻撃連打をされると“みがわり”の出が遅い分そこで綻びが生じやすい。ヤバくなる前に交代した。

 

「出てこい、アカサビ。浮いて攻撃は躱せ!」

「じしんを利用して即座に交代か、考えたな。なら今度は岩技だ! がんせきふうじを展開しろ!」

 

 岩が浮遊してアカサビを取り囲む。こんなこともできたのか。

 

「今だ、やれゴローニャ」

「5!」

「ここだ! ころがる!」

 

 “がんせきふうじ”は回避が難しいので“まもって”やり過ごした。だが動けない隙をついて“ころがる”を使ってきた。“まもる”を俺が使うのは折込済みってわけね。これを受けて大ダメージを負った。残りHPは7……!

 

 この手法はいつも俺がやっていることだ。遠距離技に近距離技を被せて波状攻撃を仕掛ける。最初の攻撃は避けさせて態勢を崩すためのおとり。

 

 今の場合さらに俺よりも上手い。 “がんせきふうじ”はこのように先に四方を覆いつくすようにして展開されるとやり過ごすには“まもる”しか術がないし、そのあと移動が速く当たるまで時間差が小さい“ころがる”が来るとさばき切れない。ましてや“ころがる”なんて使ってくると思っていなかったので虚も衝かれた。技を見せるタイミングも計っていたのだろう。

 

「2発目のころがるだ! やれっ!」

「まだ避けれる、右」

 

 ギリギリ躱して勢いはなんとか失わせた。“ころがる”は連続で使い命中させ続けるとヒットする度に威力が倍増していく。最高5回当てれば最後は最初の16倍の威力になる。当然易々とこれを決められたらこっちは壊滅だ。回避して勢いを削ぐしかない。

 

 一度落ち着いたのでこの隙にまたグレンに入れ替えた。“とんぼがえり”を打つ余裕はない。僅かなダメージと引き換えにするリスクが高過ぎる。うかつに接近すると多彩な岩技の餌食になる。

 

「くっ、いかくか。だが二度目の効果は薄い。はかいこうせん!」

「それは特殊技……ガード! 1、7」

 

 受け身の体勢で威力を軽減し、相手の反動の時間を使って“かえんほうしゃ”から連続で“オーバーヒート”を使った。

 

「これで終わりだ……!」

「こらえる!」

 

 無駄なあがきだ。“オーバーヒート”をギリギリ“こらえる”で耐えられたがその場しのぎに過ぎない。この技を使えば必ずHPを「1」残せる。だが技を使って耐えても技後硬直を考えれば当然すぐには動けない以上さして意味はない。

 

「3でトドメ…」

「そのままだいばくはつ!」

「すぐに5!」

 

 ヤバい! まともに食らったら相打ちだ! なるほど、おそらくグレンの“しんそく”連携と同じ。足は動かないが遠距離技なら連続して使えるのだろう。これなら“こらえる”が活きる。

 

 つまりこの攻撃はラグなしで飛んでくる可能性が高い。“しんそく”はたしかに速い。だが“だいばくはつ”は自分を中心にして爆発する。自分から爆発に飛び込むような行為は危険だ。その上“だいばくはつ”は使えば必ずひんしになる。だからもう倒す必要もないのだからただやり過ごすだけでいい。

 

 相手が技を使う前に“しんそく”を当てて倒すか、あるいは相手の攻撃を受けるより先に“まもる”を使うか。相手の攻撃が届くまでの方が時間が掛かる上“まもる”の方が優先度も高い。どちらを選ぶべきかは明白だ。

 

 そこまでを一瞬で判断して即座に“まもる”を指示。なんとか回避に成功した。これで文字通り自爆だ。“まもる”がこのタイミングで間に合うことを踏まえると、自爆技はかなり弱いな。覚える価値はないか。

 

「きしかいせい!」

「はぁ?!」

「ガウ?!」

 

 のんきに自爆技の考察をしていると突然攻撃が飛んできて、すでに勝ったと思い油断していたため指示が遅れてグレンがやられてしまった。

 

 ……いや、おかしいよな? 油断というより、ありえない想定になるよな、今の攻撃を予知していたら。今のはどうやったら避けられたのか。……無理だな。

 

 “だいばくはつ”がフェイクだったのか? いや、たしかに技は発動していた。あの威力なら別の技でもないはずだし……もうわかんねぇな。

 

「バカなっ……! 自爆したんじゃ」

「こらえると合わせることで自爆技はひんしにはならなくなる。いわポケモンの切り札さ。これは知らなかったみたいだな」

 

 そんなっ! “がんせきふうじ”だけでなくこんなのまでやってくるとは想定してない。こいつしれっと同時に2つ技を使っているが反則じゃないのか。爆発を防いだ後二段構えで“きしかいせい”か。どちらかは直撃を避けられないところがイヤらしい。しかもこいつやけどのダメージも“こらえて”いる。この技強過ぎないか?

 

 修練すればなんでもできる感じなのか、ここでは? 無茶苦茶過ぎる……全くもって衝撃の展開だな。いわポケモンは簡単には終わらないってわけか。

 

 よく考えたらこっちが2体残っているのにラス1で自爆するわけなかったか。考えが甘過ぎた。……すまんグレン。

 

「とんでもないな。これはしてやられた。アカサビ、最後の詰めだ。頼んだ」

「このまま押しきる、“ロック……」

「2。悪いけど、もう勝負はついてる」

「ゴロッ!?」

 

 先制技で倒し、勝負には勝った。むしろこれで負けたら憤死するわっ! どうしてもまだランク7相手だと初見技で一度はやられてしまうな。しかも今回はアカサビもひんし寸前。マジで危な過ぎだろ。レベルが低いし、努力値を攻撃にガン回しする分やはり耐久不足は否めないか。

 

「ゴローニャ戦闘不能!」

「速い! なんて速さだっ! やられたかぁ。君の使う技は面白いものが多い。こっちも勉強になったよ。君の勝ちだ」

「あんたの「こらえるだいばくはつ」より面白い戦い方はないと思うが。こっちからしたらたまったもんじゃないぞあれは」

 

 新戦法「こらばく」が今爆誕したな。とんでもねぇなぁ。今回はどうしてか勝った気がしない。

 

「うちの自慢の1つだからな。ハハハッ! さて、君にはこのグレーバッジを贈る。これからも頑張れよ。おっと、ランク7に勝ったんだから心配は無用だったかな」

「まぁ精進するよ。面白いコンボも見られたしこっちこそ参考になった。……どうも」

 

 バッジを受け取りこれで3つ目。さて、この後はどうしようか。これからの旅路などに考えを巡らしていると、すっかり忘れていたブルーが俺に向かってダッシュしてきた。

 

「レインッ、すっごいわ! わたしものすっごく感動した! ランク7に勝つなんてすごい! すごいすごい! しかも最後なんてあっさりと……追い詰められていたはずなのに余裕すら感じたわ! ねぇホントすっごい!」

 

 こいつ何回すごいって言うんだ。連呼し過ぎだろ。それしか言葉知らんのか。

 

「お前、いったん落ち着け。興奮し過ぎだ。まず深呼吸しろ。はい、ゆっくりはいてー」

「はあー」

「はいて、またはいて、はいてー、もっとはいてー」

「はーはーはぁー……って、なんではいてばかりなのよ、もっと吸わせなさいよ、酸欠になるでしょ、何考えてるの! げほっげほっ! 息切れるっ!」

 

 そら(酸欠状態でまくしたてるようにしゃべり続けたら)そう(息が持たん)よ。この前は首絞めたりさんざんされたからお返しだ。

 

「じゃ、そういうことで。弟子入り頑張れよ」

「あ、ちょっとどこ行くの!? わたしの扱い雑過ぎよ! このままほったらかしにする気!? わたしのことやっぱり怒ってるの? ちょっと待ってよ!」

 

 ぜえぜえと息の吐き過ぎで呼吸を乱すブルーを置いて先にジムを出ると、ブルーもしつこく俺の後を追ってきた。なんでついてくるんだ。もしかしてジムの前で立っていたのは本当は俺に会うために待っていたとか?……まさか、な。

 

「なんの用? もう俺には構う理由はないだろ」

「ちょっと! 置いていくことないじゃない! 仮にも名前まで知っている仲なのに」

 

 こいつは名前を教えただけでつきまとう理由になるとでもいうのか?

 

「俺が言うことじゃないが、下手すりゃ人生終了レベルの大惨事があったのによく俺に話しかける勇気があるな。トレーナー修行を続ける勇気はないくせに」

「うぐっ! そんな意地悪しないでよ、もう怒ってないんでしょ? そりゃ、最初はめちゃくちゃ怖かったけど、けづくろいしているところとか、すごく優しいところも見てたし、ホントはそんなに悪い人じゃないと思うの。なんかわかるのよね、直感で。今は雰囲気違うし、グレンちゃん達もいい子だし、助けてくれるもん」

「俺が優しいわけないだろ……頭打ったな、お前」

「しっつれいね。そんな呆れた顔しないでよ!」

 

 ほっぺたふくらませて怒る奴目の前で初めて見た。思ったより様になっているな、恐ろしいことに。いや、そんなことはどうでも良くて、だ。

 

「知ったことか。前にも言ったがもう賞金は要らないし、早くどっか好きなところに行け。というかあのジムに弟子入りするんじゃないのか?」

「ううん、どこにも行かない! むしろずっとついていくから!」

 

 とうとう意味不明なことを口走り始めた。何を言っているのかさっぱり意味が分からん。終わらないストーキングって今頭に浮かんだ。なんでかな?

 

 なんかこいつ目がヤバい気がする。獲物を見つけた肉食動物みたいな。いや、気のせいだよな。考え過ぎか。

 

「はぁ……わからないな。ついていくってどういうことだ?」

「わたし決めたの! わたしは絶対に強くなる! そのためには手段は選ばないし、もう諦めたりもしない。そして強くなるためにはあなたについていくしかないってはっきりわかったの! だからわたしを弟子にして!……ということでよろしくお願いします、師匠?」

 

 こいつ全然離れる気がしない。キングボンビーかな?

 

 ブルーの 攻撃は 避けられない ▼

 




ししょーと言えばあれですね、てんさいププリン
今でも続きが気になります
プクリンが続きをほのめかしていたんですよね
ししょーの表記は少し変えます


さて内容ですが、BS振りの謎が気になる方がいるかもしれないので一応補足
努力値は倒した相手の種類で決まります
この場合、タケシはBとSが上がるポケモンばかり倒してレベルを上げたことになります
ではそれは誰か


ニビということを考えればわかったかもしれません……1つめの答えはディグダです
ディグダは「ディグダのあな」にいますので。大量に。これがSの努力値
野生のポケモンがたくさん出てくるというのは大変ありがたいことです
現実では数には限りがあります
なので倒す敵に困らない「ディグダのあな」はレベル上げに持って来いです。

Bはイシツブテです
というのも、タケシは防御を高める研究をひたすらしているという裏設定があります
その試行錯誤の中でなぜかイシツブテ同士を戦わせると硬いポケモンになると気づき、その延長で他のポケモンもイシツブテを倒すとより硬くなると判明
そこから防御の高いポケモンがどうやって育ったかを調べたりしながらBの努力値を上げるポケモンを模索しています
努力値の概念に気づいたわけではないので、理屈はわからんが経験則としてそうなることがわかった、というだけです
ですが、学会に提出すれば何か表彰されるかもしれない、ぐらいの成果です(この世界では)

ジムリーダーは常に自分の専門分野の研究には余念がないです
こらえるしかり、Bの努力値しかり
わざマシンの「がんせきふうじ」だけで終わるはずはないですね

カスミは「みずのはどう」だけでしたがジムリーダーとしては新入りなので他よりも全力手持ちのレベルや研究は一歩遅れを取る、というイメージです
3年後の金銀で「カスミは最近急成長している」みたいな発言を手下が言っていた記憶があるので


結論として、タケシは育成の際、
まずイシツブテで死ぬほどB振り
次にディグダを倒しまくってレベル上げ
というプロセスを経て、チャレンジャーと戦います
なのでバラけている努力値はチャレンジャーさんのポケモンの努力値です


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8.近づく距離 聞こえる鼓動

「お願いシショー、わたしも一緒に連れて行って!」

「いきなり何言ってんだお前!? 俺に弟子入りだと!? なんでそうなるんだっ。その言い方もやめろって」

 

 びっくりし過ぎてテンパっていた。俺に満面の笑みでこんなこと言う時点でどっかおかしい。即逃げるべきだった。しかし逃げる前に肩をがっちりロックされて逃げられなくされた。逃げる相手にそこつかむのがこの地方では流行っているのか。

 

「さっきのバトル見て、わたしのセンサーがビビッときたの。あなたすごい人だわ! わたしものすごく感動しているの! あんなバトル見たことないし、もっと知りたい! 相性最悪、レベルは格上なのに笑みさえ浮かべて、踊るようにポケモンは動いて気づいたら勝っている。ああ、素敵だわ。ジムじゃダメなの。あなたについていきたい! だからお願い、いえ、お願いしますシショー! わたしを弟子にしてください」

 

 こいつ、眼が本気だ。下手に見学なんかさせるんじゃなかった。というかそんなにすごいと思う要素あったか? 補助技特性使い回して苦しいセコイ戦い方、と言われてもおかしくないと思うが。基本避けてばっかりだったし。

 

 もちろん戦い方を褒められて悪い気はしないが、くっついてくるとなれば話は別だ。俺は持っている知識を簡単に他人に見せびらかす気はない。となれば近くに人を置くことはありえない。百害あって一利なし、だ。

 

「強い奴なら他にもいる。そんなにすごい人に教えてほしいならチャンピオンとかに頼みに行けばいい」

「そんな人のところに行けるわけがないじゃない! それにわたしはわかるの。レインはチャンピオンよりも強くなるわ。レッド達みたいにすぐに駆け上がっていく。ファン心理ってやつなのかもしれないけど、とにかくわたしはレインがよくて、レインじゃないとわたしは一生このままで終わっちゃう! それに、あなたは強いだけじゃない。ものすごく惹かれるというか、わたしのことをバカにしないでダイヤの原石だって言ってくれたし、レインならきっと……」

 

 顔を赤くしてくねくねするな! そんなに恥ずかしいなら言うなよ! でもだいたい言いたいことはわかる。直感、いや勘かな。俺も勘頼みがこっちでは多いし、実際こいつの言っていることは当たっている。筋道はめちゃくちゃだが、俺には誰にもない才能(アナライズ)と知識があるから他人にはできないことができるのは間違いない。そういう面で代わりになれるトレーナーはいないだろう。偶然核心を突いているのは確かだ。

 

「言いたいことはまぁわかった。たしかに俺ならお前をなんとかしてやれんこともない」

「ホントにっ!! じゃあ……」

「だが断る。能うと為すは違う。できることとやるかどうかは別問題。やる気もないし、俺は暇じゃないんだ。お前みたいなガキんちょの相手をする気はない」

 

 当たり前だ。今は最初に比べれば余裕はあるが、未だにレベルは低いしやっておきたいことは山積みだ。聖人君子でもないのにこんなこと安請け合いできるわけがない。邪魔になる理由がもしなくても、そもそも引き受ける理由がないんだよ。

 

「そんな……! お、お願いします、ほんとに真剣なんです。わたし、もう一度がんばってチャンピオンを目指したいの。だからどうしても強くなりたい。弱いままはもうイヤ」

 

 いきなり悲痛な顔で必死の懇願……役者ばりに表情豊かだな。急に敬語になった辺りに必死さがうかがえる。でもさぁ……。

 

「それを同じ旅の途中のトレーナーに頼むか、普通?」

「ぐっ」

「しかも、俺になんの見返りもないのに、そんな頼みを受けるメリットがないとは思わないのか。アホらしい。勝手に頑張れよ。俺は心の中で応援してやるから」

「も、もちろんなんでもします。わたしにできることなら!」

 

 こいつなんであんな目にあったのか忘れたらしいな。お金がないから破滅しかけたくせに。鳥頭かっ。

 

「1万ぽっちも払えない奴に言われてもな。しかも実力も皆無、何にもなし。それに俺の本当の望みをただのトレーナーが満たせるわけないし。つまりお前はハナから交渉の舞台にも立てていない。よって去れ」

 

 目じりに涙を溜めて悔しさで拳を振るわせるブルー。こいつの真剣さを疑う気はもうないが、ほんとに俺にとっては何の得もない、意味のない話だ。素質をもったいないと思ったことはたしかに事実だが、わざわざ苦労して育てたいとまでは思えない。

 

「ううっ、お願いします。どうか、せめてわたしを一緒に連れて行ってください。雑用でもなんでも手伝います。この恩は必ず返します」

 

 周りに人もいる中、俺の前に回り込んできれいに土下座をした。……ここまでするか。こんなところでここまでされたら普通なら折れるだろうが……俺は鉄の意志で断った。

 

「無駄だ。いくら頭を下げようが関係ない」

「ううー! ひっどーいっ! 即答しなくてもいいじゃないっ! ここまで本気で頼んでるのに……」

 

 立ち上がって泣き顔で言うのを見て先手を打った。

 

「俺は泣き虫な奴は嫌いだ。うっとうしい。顔洗って出直してくるんだな」

 

 ピシリと固まって動かなくなった隙に俺はその場を離れた。なんとなく振り返ってみるとうつむいたまま動く気配がない。もう追って来ないな、この様子だと。ただ、目元は帽子に隠れて見えないが、堪え切れずに溢れ出て頬を伝う涙と、抑えきれずに震えが止まらない肩がはっきりと見え、振り返ったことをとても後悔した。

 

 あいつ、ここまで真剣に……。でも、俺は強くなるために旅をしているのだから、弟子なんかいても邪魔にしかならないんだ。だからこれ以上関わるわけにはいかない。仕方ないんだ……。

 

 そうだ、あいつから離れるためにもさっさとこの町から出るか。そう思ったが、イナズマが初めて見る知らない町にはしゃいで色々見て回りたがったので仕方なくここで一泊することにした。まずポケセンで2体を回復させる必要もあるし仕方ないか。

 

「この2体の回復を」

「かしこまりました。1時間程お待ちください」

 

 さて、どこで時間を潰すか。一通り見て回るか。ぐるっとな。

 

「ダース!」

「わかってるって。ちゃんと町を見て回ってやるからいい子でいろよ」

「あっ、シショーじゃない! よかった、まだここにいたんだ! また会えて嬉しいわ」

 

 頭を撫でてイナズマと戯れていると非常に聞き覚えのある声が聞こえた。イヤイヤながらも振り返ればまたあの顔、ブルーだった。よりにもよってこんなところで!

 

「げっ、またお前か。顔を洗って出直せとは言ったがホントに来なくてもいい」

 

 しかもそこにジョーイまで便乗してきた。お前は仕事でもしていろ!

 

「あら、ブルーちゃん知り合いなの? 仲が良さそうね」

「えっ、ジョーイさんもやっぱりそう見える? えへへ、シショー、わたし達お似合いだって!」

 

 このジョーイ、眼球が腐っているんじゃないか? どこをどう見たら仲良く見える? ブルーも解釈が捻くれ過ぎだ。こいつさっきまで泣いていたくせにすぐに機嫌が戻っているな。なんか損した気分だ。バカバカしい。腹が立ってついそっけない態度を取ってしまった。

 

「あとは2人でしゃべっていれば。俺はお前に興味はないから。じゃあな」

「そんな……あっ! そっか、照れているのね。全くもう、別に照れなくてもいいじゃないっ」

「どこをどう見たらそうなる……!」

「微笑ましいわね」

 

 くそ、頭がお花畑の住人しかいないのか、この世界は。無視して勝手に離れようとするとすぐさまブルーが目の前に先回りして通してくれない。邪魔くさいなぁ。仕方ないから力ずくで押し通るか。

 

「あくまでどかないなら実力行使だな」

「待ってよっ。そ、そんなにムキにならなくてもいいじゃない。別に照れる程のことじゃないわよっ。ねっ!……お、お願いだからわたしと一緒にいてよ……。いきなり弟子にしてくれなんて言ったのは悪かったと思っているの。だから、ちょっと一緒に町を見て回るだけでいいから、ね?」

「お前、まだ言って……ッッ!」

 

 払いのけようとしてブルーに触れて気づいた。こいつ、ものすごく震えている。表情も雰囲気も明るく振る舞っているが、どうしようもなく体だけは震えていた。

 

 最初厚かましいぐらいのもの言いだったのは、もしかして頼み方がわからない不器用さ故のもので、内心では俺に拒絶されることを恐れていたのか? ところどころ見せる弱気な言葉や表情からイヤでも推し量れてしまう。それに、今はさっき興味ないって俺が言ったせいでいっそうおくびょうになっている気がする。

 

 それに明るく振舞おうとしているのは俺に泣き虫は嫌いだと言われたから、俺に嫌われたくなくて無理しているのではないか。よく見直すとこの笑顔も努力して作っているように見えてくる。本当にそんな気がしてきた。

 

 あの時は追い払うために方便で言っただけなのに、ブルーは真に受けて必死に頑張っているんだ。やはり振り返って見てしまったあの表情が本当の気持ちだったのか。知ってしまった。知ってしまった以上もうこれ以上傷口を抉るような真似はできない。これ以上健気なブルーを悲しませるような言葉を言えやしない。

 

 結局俺はすぐそこまで出かかっていた拒絶の言葉を飲み込み、全く逆のことを言っていた。

 

「……いいよ。丁度イナズマが町を回りたがっていたから、ついてくるだけなら」

「えっ…………いいの?」

「……ああ。好きにしろ」

「あ、あはは、やった。やったやった! ありがとう。……あ、思った通りやっぱり照れてただけなのね」

 

 俺がこんなガキんちょの誘い1つ断れないなんて、ゴウゾウ達が知ったらなんて言うだろうか。盛大に笑われるのは間違いない。ただ、単なる強がりだとわかれば、ブルーの言葉も微笑ましく思えた。

 

 ◆

 

 最初にどうせならと博物館に行き、その後行く宛もなく町をブラブラとしていた。

 

「ねぇ、次はどこに行く?」

「博物館を見たらもう行くところもないしな。時間的に回復はもう済んでいそうだし……」

「あ、あそこにカラオケあるわ、行ってみましょう!」

 

 強引に腕を引っ張られて連れてこられた。意外と力が強い。博物館では静かにしないといけないのでほとんど会話もせず、イナズマに化石のことを教えるだけになった。ブルーは化石のことは何も知らなさそうだったし、それであんまりしゃべれなかったので次で挽回したいとか思っているんだろうな。なんで俺のためにそこまでしようと思うのか。不思議だな。

 

「ねー、どれ歌う?」

「別に俺は……そんなっ」

「どうしたの?」

 

 どうして今までその考えに至らなかったんだ。知っている歌が1つもない。こっちだと何もかもが違うんだ。もしかしたらポケモン以外俺が知っていることなんてないのかも。失ったのは係累だけじゃなく、俺の今までの全てだったのか。もはや悟りの域だな。俺は失ったものを見せつけられて言い様もなく落ち込んでしまった。解脱しそう。

 

「……何も知らない。知っているものがない。俺にはもう何も……」

「え、ほんとに? ご、ごめん、カラオケ嫌いだったのね。あの、もう出る?」

「いいよ、俺は聞いていてやるから、お前が歌いなよ」

「そう……わかったわ」

 

 これではっきりしたな。やっぱりずっとこっちにいるわけにはいかないか。なんとかして帰らないと。そのためにも早く強くなるしかない。弟子なんか面倒見る暇は……。

 

 これが終わったらもうポケセンに戻って町からも出よう。なら最後ぐらいちゃんと聞いてやろうか。そう思い曲に入り込んで歌うブルーに意識を向ければ、驚くべきことに知っているメロディーが流れていた。懐かしい曲……たしか映画の曲だったか。丁度このカントーのやつだ。

 

「え? それ……知ってる!」

「らーらら……え、本当?! 知ってるのがあるの? じゃあ、一緒に歌いましょうよ!」

 

 そうか、ポケモンのやつは普通にあるんだな。ほんとにそれしか希望がない。でも、わかるものがあって良かった。……うわ、たんけんたいをつくろう、とか懐かしい。あの頃は良かったなぁ。さっきのも名曲だったし、なんかノスタルジックになるな。

 

「ねぇ、暗い気分の時は明るい曲が1番よ。さ、立って立って!」

 

 テーテンッ!

 

「ほらもっと思いっきり歌って!」

「わかったわかった。お前テンション高過ぎだ」

「ダーッス!」

 

 イナズマも楽しそうで何より。こんなに大声で歌うなんて初めてだ。どうでもいいがブルーはどっから声を出しているんだ。

 

「お前こういう熱血って感じの曲好きなのか?」

「え、まぁそうね。思いっきり歌ったらすっきりするでしょ? それにこの曲故郷のマサラタウンが出てくるじゃない? そこから旅に出て夢に向かって進んでいく感じが今のわたしと重なってシンパシーを感じるから選んでみたの。自分が歌の中に入り込んだみたいに思えてちょっと嬉しいじゃない」

 

 なるほど。実際その曲の元になったタイプがワイルドなマサラ人も、ブルー同様マサラタウンにさよならバイバイして憧れのポケモンマスター目指して旅に出るわけだしな。確かにドストライク過ぎて歌わない理由がないか。

 

「ねぇ、楽しかったわね」

「そうだな」

「ダース」

「イナズマちゃんもとっても上手かったわ。また一緒に歌いましょうね」

 

 思いっきり歌ったな。なんか気分まで晴れやか。ブルーにも少しは感謝してもいいかな。こんなに楽しくカラオケしたのはいつ以来だろうか。本当に楽しめた。

 

 カラオケが終わる頃にはさっさと帰っておさらばしようと思っていたことはすっかり忘れてしまっていた。

 

 盛り上がって満足した流れのまま、今度はブルーが食事をしようと提案した。

 

「あー、少しお腹減ったかも。どこかに食べに行きましょうよ」

「どっかいいところ知ってるか?」

「任せてよ! 伊達にここで長く留まってないわ。あはは」

 

 じ、自虐かよ。もう使えるもんはなんでも使うな。つれて来られたのはけっこうオシャレな店だった。ブルー、いまさら何も言うまいが……お前、気合い入れ過ぎ……。

 

「いいところだな」

「でしょ? それじゃ、当然今度はシショーがおごってくれるわよね?」

「なんでそうなるんだよ」

「わたし、さっきのでお金なくなっちゃった。えへへ」

「はぁ? バカだな、お前」

「ダメだって言うなら、わたしあなたにされたことジュンサーさんに言っちゃうかも」

 

 あれは言われたらマジでヤバイかもしれないな。いや、証拠も何もないし大丈夫か。でもブルーには悪いことした自覚はあるからなぁ。ま、飯奢るぐらいはいいか。大したことじゃないし。

 

「わかったよ。俺だけ食べるわけにもいかないしな。……なんだそのニヤケ顔は!」

「いや、やっぱりシショーってわたしが思った通りの人なんだなってわかったから嬉しくって」

「本当は飯代浮いてラッキーって顔なんじゃないのか? あと、さっきからずっとその呼び方やめろ。シショーなんかしないからな」

「照れない照れない。早く入りましょ」

 

 調子のいい奴だ。だけど、一思いに突き放して無視してやりたいと思っても、返事を待っている間あんなに拳を堅く握っているのを見たら言う通りにしてやろうって気になってしまう。本人に自覚がないからタチが悪い

 

「ねぇ、シショーって……す、好きな……ポケモンとかっているの?」

 

 食事も一段落という頃合いを見計らってブルーが質問を飛ばしてきた。好きなポケモンか。さっきバトルを見たから聞いてみたくなったのか?

 

「この地方にはいないけど、ミズゴロウが好きだな」

「あ、そうなんだ……」

 

 え、何この沈黙は。さすがにカントー以外のポケモンを挙げたのはダメだったか? さっそく完全に会話が切れたんだが。

 

「じゃあさ、趣味とかあるのかしら?」

「趣味……一応ポケモンが趣味だったんだけど、それはここじゃダメか」

「あ、そうなんだ。やっぱりすごい人はいつもポケモンのこと考えているのね。じゃあ、好きなトレーナーっている? わたし、やっぱりチャンピオンがカッコよくて小さい頃から憧れだったのよね。ワタルさん。マントを付けていて超カッコイイ。シショーもそんな人いる?」

「そうだなぁ。好きってわけじゃないが、最強のチャンピオン、シロナとは戦ってみたいかな」

「え、その人どこのチャンピオンなの?」

「シンオウだな」

「……そうなんだ。シショーってさ、けっこうカントー以外にも詳しいのね。わたしカントー地方の外になんて行ったことないから羨ましいな」

 

 いや、俺も行ったことはないんだけどな。その後もなんやかんや聞かれたが、もしかしなくてもあれだな。俺に対して色々しゃべって親密度を上げようという作戦なんだろうな。ものすごくわかりやすい。

 

 あんまり好かれると本当についてきかねないので深入りせずあえてそっけなく返すことにした。だが、ブルーはそれでもなおしつこく話しかけてくる。面と向かっているのでさすがに無視はしにくいし弱ったな。ものすごい執念を感じる。執念が足りないだなんて、あの時は本当にいらんことを言ってしまった。

 

「でね、そしたらその人がこうなって……」

「それはそいつがおまぬけだな。まさかそんなことになるなんてなぁ。こりゃ傑作だな」

「でしょー? だから言ってやったのよ。…………あー面白かった。シショーもやっと笑ってくれたし、話し続けた甲斐があったわね」

 

 しまった! 長くしゃべっているうちに気が緩んでいた。あんまり認めたくはないが、なぜかブルーとは気が合う。友達にならぜひしたいぐらい話も弾むし、気づけば思わず笑ってしまっていた。ちょっとマズイな。

 

「あの、それで次、あー、シショーの好きなタイプとか、教えてほしいなーって」

 

 やっぱり、手応えアリって顔をしている。早く戻ってこの町を出た方がいいかもしれない。ブルーとはなんか惹かれ合うんだよな。一目惚れで、とかではなく、心と心が近いとでもいうのか、そんな印象を受ける。言葉では表現しにくいが……。たしかに容姿もかわいいと思うけど。

 

「みずタイプかな。ミズゴロウもみずだから」

「あ、いや、これはそういう意味じゃなくて……」

「それより、ここに長居し過ぎだ。いい加減出よう。俺はもうポケセンに戻るから」

「あ、待って!」

 

 無理やり話を切り上げて勘定を済ませ、さっさと店を出てしまった。戻る道すがら、ブルーが俺を引き止めて言った。

 

「あのっ! わたし、やっぱりあなたとはものすごく気が合うと思うの。わたしの思い違いでなければ、シショーもわたしのことキライではなさそうだし。だから、どうかわたしのシショーに」

「ダメだっ!!」

「ひぐっ!」

 

 思わず強く否定してしまいブルーを怖がらせてしまった。言ってすぐ内心申し訳ない気持ちでいっぱいになったが、やはりここはちゃんとはっきりさせておかないといけない。

 

「あ、ごめん。いや、そうじゃなくて。たしかにキライではないし、お前が仲良くなろうと頑張ってくれていたのはわかった。だから……そう、友達にならない?」

「え……」

「ついてくるのは困るけど、友達になるぐらいなら構わない。たまになら連絡するから……それじゃダメか?」

 

 今の自分にできる最大限の譲歩だ。そもそも、ついてきて自分の素性を知られるのが怖いだけで、ブルーがキライだから拒絶しているわけではない。これは名案に思えた。

 

「……わかってない。シショーはなんにもわかってないわよっ! やだっ! そんなんじゃイヤ! おねがい! ホントに、後生だからつれてって! わたしを弟子にしてー!! 冗談じゃなくて、本当に心の底からシショーに感動した。運命だとさえ思った。もう忘れることなんか絶対にできない。だから、わたしもう、シショーについていくことしか考えられないのー!!」

「ちょっとお前っ! 叫びながらベタベタくっつくな! 何考えてんだっ!」

「おねがい! 迷惑はかけないから! わたし言われたことはなんでもするから、だから……」

 

 絶対に離れたくないというブルーの意志を見せつけられる程、それに対する反発心も強くなり、それは声として形になってしまった。

 

「もういい加減にしろ! 付きまとわれること自体が迷惑なんだよ!!」

「ひっ!」

「あっ。……ああもう、まただ。ごめんな。本当に怒鳴りつけるつもりはなかったんだ。もうお前の心を傷つけるようなことはしたくない。悪気がないこともわかっている。ただ一生懸命なだけなんだって。それに、お前だって年上にいきなり怒鳴られたら怖いよな。俺は最近精神的に不安定というか……少し、いや結構、むしろかなり……こう、怒りっぽくなっているみたいで、ついこうなってしまうんだ。俺にもそれなりに事情があるんだよ。悪いけど許してくれ」

 

 ブルーが頭を押さえてビクビクしているのはあまりにもかわいそうだったので、やんわり手を下ろさせてから、落ち着かせるようにゆっくり優しく頭を撫でてあげた。

 

「あっ。あぁ……シッショォー……」

「どう、落ち着いた?」

「あ、うん。それに、わたしわかってるから。本当は思いやりがあって優しいんだって思ってる」

 

 恐る恐る顔を上げてこっちを見るブルーに対して、怒り任せにならないようにだいぶ幼い子供にいい聞かせる気持ちで、優しい口調の言葉を選んで話しかけた。

 

 

「そうか、ありがとう……。ブルーの方が俺なんかよりよっぽど優しいよ? 健気というか、一途だし、こんな子初めて見た」

「あっ! そ、そうかな? そんなことないわよ……」

 

 口ではそういいつつも、俺の顔を見ながら頬を緩めて嬉しそうにしている。別に大して褒めてはいないんだけどな。何が嬉しかったんだろうか。でもこれで話ができそうだな。

 

「いいか、ブルー」

「ッッ!」

 

 ブルーは急にピシッと背筋を伸ばして直立不動の体勢になった。またうっすら嬉しそうにしているが、これから話すのは別れの言葉。少し罪悪感が湧く。

 

「俺はな、どうしてもお前と一緒にはいられないんだ」

「えっ、そんな……」

 

 一言だけでそれまでの嬉しそうな表情は消え去り、また悲しみに染まってしまった。それを見て先手を打つように言い訳がましく言葉を続けてしまった。

 

「俺だってお前といた間、ものすごく楽しかったし、ずっと気遣いしてくれて嬉しかったよ。だから俺だって辛い。だからこそもうこれ以上俺と仲良くなろうとするな。余計悲しくなるだけだから」

「シショー、わたし…」

「ブルーッ! お前はいい子だからわかるよな?」

 

 これ以上責められるのは耐えられず、語気を強めて無理やり言葉を遮り、ブルーは口をつぐませてしまった。だが、それでも諦め切れないのかブルーはまだ食い下がってきた。

 

「でも、それならっ」

「ブルー、頼むからこれ以上俺を困らせないで。辛いのはお前1人じゃない。もう追ってくるな。いいな?」

「……」

 

 ようやく落ち着いたのか、うつむいて静かになった。最後に別れを告げるため、少ししゃがんで顔の高さを合わせ、ブルーと正面から向かい合った。

 

「ッッ!」

 

 驚いて声を上げそうになった。ブルーは滂沱の涙を流し、歯を食いしばって必死に声を押し殺していた。その瞳は深い悲しみに包まれていて、もう俺を見ていない。既に諦め、悲しみに飲み込まれないようにただ必死に耐えているようだった。

 

 胸を裂かれるような思いだった。尋常ではない涙の量。そんなに悲しませたかったわけじゃない。唇を強く噛み過ぎて、ぷっくりとしたきれいな唇からは鮮血が零れ落ちている。これも俺が泣き虫呼ばわりしたせいなのか。そこまでしてほしかったわけじゃない。ただ、真っ直ぐに自分の描いた道を進みたかっただけなんだ。それだけだったんだ……。

 

「っゅ、っぅ」

 

 ブルーの口から嗚咽が漏れた。我慢できずに声が出てしまい、いっそう強く唇をかんだ。また血が溢れてくる。もう体も震えっぱなしだ。こんなところ見ていられなかった。俺は立ち上がって、無理やりブルーを抱き寄せ、ぐちゃぐちゃになったその顔を受け止めるように自分へ押しつけた。

 

「んんっ!」

「ごめん、ほんとうに。許してくれ。頼むからもうそんな顔しないで。見ていられない」

 

 服はびちゃびちゃだが、あんな顔を見せられるよりはずっとマシだ。泣いているブルーの頭を強く抱えこんで、泣き止むのを待った。

 

 意外にも、泣き止むのは早かった。物の数秒。震えが止まったのでパッと離して様子を見れば、さっきまでのことがウソのように血も涙も止まっていた。ボーっとした表情で不思議そうに俺の顔を見ている。

 

 泣き止んだのならもう後ろめたさもない。ここにいたらずっと同じことの繰り返しになる。すぐさまポケセンに向かって走り出した。今度は振り返ることはしなかった。たぶん、今度こそ振り返ってしまえばその瞳から逃れられなくなるだろうから。最後に一言だけ言い残した。

 

「もう追いかけてくるなよ!」

 

 その言葉はブルーに届いたのかどうか。ブルーからの返事は何もなかった。

 




ブルーの弟子入りは失敗しましたね
ですがレインも未練を残しているのが伝わればいいなと思います
なぜこんなに意固地なのか疑問に思うかもしれないので少し考えましょう
レインが恐れているのは自分の記憶、知識の出所がないことがバレることです
素性を洗えばトレーナーになったタイミングや環境は割れますから、短期間で無から知識が湧いて出てるように見えますし、実際そうです
この世界はエスパーさんもいるのでウソは言えないため、エスパーに正解を引かれて、別の人間の記憶があるの?とか言われたらアウトです
だから不自然さを時の流れが解決するまでしばらくは人と深く関わりたくないと思うわけです
真実をもしブルーが知ったらどんな反応をするかも未知数です
なまじ嫌いでないだけにいきなり弟子にしろと言われても心の整理も出来ませんし及び腰になるのは致し方ないかと思います

というわけで決別した、かに思えますが……最後振り返らなかったことがブルーに光明を残します
なぜピジョンを持っていたのか、ということですよ
まさにこのときのためです
直接ピジョンを使う描写はしないつもりですけどね


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9.心が交わり 感謝を紡ぐ

 もうブルーは追ってこないだろう。いや、あそこまではっきりと拒絶したんだ。もう俺なんか顔も見たくないと思っているに違いない。願い通り、のはずだが少し心が痛んだ。

 

 今日はもう疲れた。この町を出るのは明日にしよう。宿を取ってゆっくりするか。追ってくる心配はないのだから、別に問題はないはずだ。この日はポケモンと遊んでガリガリ削れた精神を癒そう。

 

「グレン? イナズマ?」

「……」

「……」

 

 

 グレンとイナズマはブルーがいなくなって寂しいのか元気がない。そこまで深刻にならなくてもいいだろうに。……もしかすると自分自身もこいつらから見れば似たような顔をしているのかもな。後悔がないと言えばウソになる。

 

 俺は普通の人間とは事情が違う。あるはずのない知識、出生も不明、怪しいことが多過ぎる。俺もいつボロが出てしまうかわからない。特に長くいればいるほど緩みは出やすくなるだろう。それにブルーだって、俺といればすぐに実力をつけて、いずれ俺の異常性には気づいてしまう。せめて1年は時間をおいて、俺が異常と思われないようになるまでは下手に他人と関わりを持たない方がいい。

 

 とはいえ、こいつらの浮かない顔を見ると忍びない気分にはなるのは事実。こんな表情見たことない。本当にブルーは懐かれていたんだな。つくづくポケモンに良く好かれる奴だった。まあもう会うこともないだろうが……。

 

 ◆

 

 翌朝、いつもより早く目覚め、さっさと身支度をして外に出ようとゆっくりドアを開ければ、目の前にはブルーが待ち構えていた……?! ブルー!? ブルーナンデ!?

 

「お前っ!!」

 

 もう少しでとんでもない奇声を上げてしまうところだった。驚いて後ずさりして遅れをとった隙に、ブルーにはスルリと部屋に入られてしまった。淀みのない動き。洗練された、まるで予行されていたかのような身のこなし。俺の中で戦慄が走った。

 

「おはようシショー、今朝は早かったわね」

「まさか、ずっと待機していたのか。この時間まで、廊下でずっと!……す、ストーカーッ!!」

 

 これは怖い。ストーカーなんて、今まで後をつけられるぐらいで何が怖いのか不思議だったが、実際に目の当たりにするとこれは本気で身の危険を感じる。この執念はヤバイ。何をされてもおかしくないという不安に襲われる。

 

「しっつれいね、これはわたしなりの誠意よ。ここまで来るのにすっごい苦労したんだから! でもまた会えて嬉しいわ。苦労した甲斐があったわね」

 

 普通苦労した程度で住所特定なんて出来ねーよ! 誠意ってあれか、三顧の礼的なノリなのか? しかし……どうする? この調子じゃ、町をまたいでも追ってきそうな怖さがある。おつきみやまならこいつは抜けられないだろうから、いったんは撒けるかもしれないが完全に逆走になるし、どうするべきか……。

 

「ガウ!」

「ダース!」

 

 悩んでいるうちに2体が出てきてブルーとじゃれあい始めた。こいつらも嬉しいのか。イナズマが心を開いているのだから間違いなくいい奴なんだろうが、どうするべきか。なんで普通に会って普通に仲良くなるという選択肢がなかったのか。

 

「あ、あの、図々しいのはわかっているけど、もう一度言わせて。わたしも旅に同行させてください。傍であなたがどうポケモンを育てているか、見させてほしいの。本当につれていくだけでもいい! 絶対に迷惑はかけないから、お願いします! この恩は必ず返します!」

 

 グレンとイナズマも便乗してつれていってやれと言ってくる。この2体に頼まれるとホントに弱い。姑に逆らえない嫁みたいな気分。この援護にブルーはうっすらと笑みを浮かべている。本当にポケモンの言わんとすることがわかるんだな。はぁー。仲間にした時のことを引き合いに出されるとな……。

 

 一度ブルーを正座させて向かい合い、別方向から咎めることにした。

 

「まず勝手にここに上がりこむな。住居不法侵入だ」

「そ、そんな難しそうな言葉知らないっ。わたし子供だもん。お兄さん、年下の女の子が頭下げてお願いしているのよ。なんとも思わないの?」

 

 こいつぜってー意味わかってるな。これってマジで犯罪なんじゃないのか。いや、ゲームでは好き放題他人の家に出入りしていたし、案外これが当たり前なのか? そう考えるとおかしくない気がする。いや、それよりも、だ。

 

「……思わないな」

「じゃあ、これでどうっ!」

「ちょ、やめろ! 何してんだ!」

 

 今度は抱き着いて桃色作戦かよ! ホント手段を選ぶ気ないな! 自分も正座していたので避けられない。しかも抱きつき方もやんわりじゃなくてかなりがっしりと。絶対に逃がさないという鉄の意志を感じる。

 

 もう本当にストーカー染みていて怖い。でも不思議と心の奥に伝わり感じるものもある。これがなんなのかわからないが、知らず知らずブルーに対する気持ちが変わり始めた。だが言葉と対応はそのままだ。

 

「こんなことしてもダメなものはダメ。むしろ印象悪くなった」

「むぅぅ! じゃあどうしろっていうの! ひどいわよっ。ホントのホントに後生の頼みだから!」

 

 体を震わせいつぞやのように手にも力が籠もっている。後生の頼みなんて言葉どこで覚えたんだ。住居不法侵入は知らないって言ったくせに。まだブルーの手は俺を逃がさないようにしっかり体をつかんでおり、俺の体に爪が食い込んでいて結構痛いんだが……無意識なのか。

 

「その前に、俺がもう追ってくるなと言ったのは聞いてなかったのか?」

「だ、だって……わたし、初めて名前を呼ばれたり、慰めてもらったりしただけで嬉しくて……泣いているわたしを抱き締めてもらった時、何かが伝わってくるような不思議な感覚がして、すっごい嬉しくて幸せな気持ちになって、もうシショーのこと忘れられなくなっちゃったんだもん」

「あれは……さすがにあんまりにもかわいそうだったから。くっ、あの余計な助言といい、また墓穴なのか。なんであんなことしたんだ」

「そんなっ! わたしは嬉しかったのに、なんで後悔するの? そんなこと言わないでよ……ものすごく寂しくなるわ」

 

 嬉しそうな表情を一変、また悲しみのどん底のように変わった。演劇女優かお前は。しかし、演技ではなく本当に気持ちの浮き沈みもそうなっているのがなぜか感じられて、こっちまで胸を締め付けられるような気分だ。

 

「……本当に困るんだよ。わかってくれ」

「シショーこそ、わたしが諦めないって、いい加減わかってよ! わたしは何度でも言うわ。一緒につれて行って! シショーと一緒に強くなって、それで楽しく冒険できたらなって思うの。シショーもほら、考えたらワクワクするでしょ?」

「……」

「だからお願いします。後生の頼みです。お願いしますっ!」

「でもやっぱり断る」

「ひうっ!」

「……といったら?」

「怖いことしないで! 寿命が縮んだわよ! そんなの決まってる、地の果てまで追いかけ続ける以外ありえない。ぜっっったいに『うん』って言わせる!」

 

 顔が近い! 唾を飛ばすな! デカい声を出すな!

 

 やっぱりこいつストーカーだ。「言うまで」じゃなくて「言わせる」ってところに狂気を感じる。ナツメやらゴウゾウやらなんでいっつも俺はこんな変なのばかりに絡まれるんだ。

 

「別に俺以外でも誰か師匠になってくれる人はいるかもしれないだろ。どうにか今の自分を変えたいというのはわかるし、生半可な決意じゃないのは十分伝わっているが……まさか、俺に惚れてる、とかじゃないよな、ストーカーさん?」

 

 正直もうそうでもなきゃこんなの説明つかないと思わなくもないし、今までの反応からしてもあり得ると思い念のため聞くと、ブルーは慌てて俺から離れて激しく否定した。

 

「ばっ、ばっか言わないでよ! そんなんじゃないわ! シショーをトレーナーとして尊敬しているってだけで、そういうことは思ってないわよ! 勘違いしないでよね。あとストーカーじゃないっ」

 

 そりゃそうだよな。あれだけ泣かされてここまで拒絶し続けてまだ好かれていたら逆に引く。まぁわかりきっていたな……いや、内心はけっこうダメージくらったが。そしてストーカーなのはさっきの発言でもう確定しているから否定しても虚しいだけだ。むしろ言い訳がましい。

 

「はいはい、わかったわかった。さっさとここからトンズラしてもいいが、ここまではっきり言われるとそうもいかないし、これだけグレン達が懐いているんじゃ、無下にもしにくいか」

「じゃ、じゃあわたしのシショーになってくれるの?」

「そうはいかないな。俺の育て方はまぁなんというか、奇抜であまり人に知られたくはないものだし、俺にも知られたくないことはある。そういう事情で、はっきり言ってお前みたいなのがついてくると俺としては邪魔でしかない」

 

 これは事実だからしょうがない。ポケモンお薬漬けってどういう目で見られるんだろうか。

 

「ええー! やっぱりすごい育て方とかあるの!? それに知られたくないことって、何か恥ずかしいことでもあるの!? 気に、なるっ!!」

 

 なんでそんなに嬉しそうな反応なんだ。いったい何考えているんだろうねぇ。

 

「残念ながらそういうのじゃない。これは知るべきではない秘密とでも言おうか。最悪知ってしまえば、この世界そのものの否定にもなりかねないし」

 

 ここは実はゲームの世界なんだー。へー、そーなのかー。とはならないだろう。

 

「な、何よそれ、世界って。もしかしてわたしを脅かすために冗談言ってるの?」

「……悪いけど俺はまだブルーのことを信用はできない。疑り深いタチでな」

「だったら、わたしは絶対シショーのこと探ったりしないし、邪魔もしない。とにかくシショーを裏切るような行動はしない。これでどう?」

 

 攻め時だと感じているんだろう、ブルーも必死だ。俺としても無暗に突っぱねる気はもうないんだが、どうしても色々考えてしまう。

 

「……やっぱり無理だなぁ。望むか否かに関わらずお前は俺に疑問を抱き、そこに辿り着く。ブルーは素養だけは十分にあるんだ。俺についてくればまともにポケモンを育てるようになるだろうし、ゆくゆくは俺を凌ぐことになる……かもしれない。そうなった後俺を裏切るようなことをされたらかなり困る」

「な、なんの臆面もなくサラッと褒められると、本気で照れるわね。……さっきも言ったけど、恩は必ず返します。仇で返すようなことは絶対にしないわよ。わたしは絶対裏切ったりしない。どうしたら信じてもらえるの?」

 

 嬉しそうにするブルーを見ると、ほんとに弟子にしてみるのも面白そうという気もしてきた。弟子と言っても一緒についてくるだけだろうし。でも、やっぱり決定的な明確な理由がないと気は進まない。そもそも、間違いなく俺の秘密や知識は粗末に扱っていいものではない。後々とてつもなく後悔しそうな気がする。直感なんて……と馬鹿にすることはこのトンデモワールドではできない。安易に判断は下せない。

 

「そんな方法ありはしない。だから初めから無理だと散々言っている。お前には悪いとは思うが、こればっかりは仕方ないし、諦めてくれ。理由まで言ったんだからもういいだろ。本当はこんなことまで言うつもりなかったんだ」

「そんなっ! でも、わたしに悪いと思っているなら、条件さえ合えばやってくれる気はあるのね!! じゃ、わたしの眼を見てよ! ほらっ! この純粋な眼を見てまだ信じられないの!?」

「あのなぁ、眼を見たぐらいでそんなことわかるわけがないだろう」

「それでもよ! ホントに信じて! こんなにきれいな瞳を見てまだ信じられないの? 冗談抜きでわたしは本気なの! ねぇ、こっち見て!」

「無茶言うなよ。どこぞのエスパーさんじゃあるまいし。そんなことわかるわけ……え?」

 

 この感覚……ポケモンのステータスを初めて視たときと同じ。ブルーの中のナニカがこっちに流れてくる。感覚が研ぎ澄まされて、相手の深層にあるものが視えてきた。

 

 一途な尊敬と憧憬、貪欲なまでの強さへの渇望、そして俺への無上の信頼。どうしてここまで他人のことを信じられる? わからない。疑うことしか知らない俺には理解できない。だけど、相手が手を伸ばすなら、それをつかんでやることぐらいはできる。信じられないことだが、これがウソ偽りないブルーの感情なのだとはっきり確信できたし、ここまで慕われ尊敬されていたことに少なからず心を動かされた。今まで嫌われようとすらしていたのに、それでもブルーは手を伸ばしてくれた。

 

弟子になる、そうブルーは言うが、それだけじゃない気もする。打算だけじゃない気持ちがあることも確かに感じられた。この世界に来て1番嬉しかったかもしれない。最初に見たのは憎しみ。次に見たのは絶望。初めて暗闇の中で光を見た。

 

「えっ、なに、なんなの今のは! わたし、なんか不思議な感覚がして頭がボーッとしたんだけど」

「……ありがとう」

 

 そっとつぶやいた言葉はたぶんブルーには聞こえてない。

 

「え? 今何か言った?」

 

 相手の本質を読み取る力……未だに謎のままだが、今は考えても仕方ないな。

 

「お前の気持ちはよくわかった。もう十分だ。これ以上は必要ない」

「!……ま、待って、もっと考え直してよ! おねがい、まだわたしは…」

「あぁ、勘違いするな。断るという意味じゃない。気が変わった」

「えっ?」

「俺の素性の詮索をしないこと。俺の言うことには絶対に従うこと。この2つを守れるなら、お前が一人前……いや、トレーナーとして俺が納得できるところまで面倒見てやるよ。ただし、俺はそんなに優しい性格はしていないし、面倒見も良くない。もうわかっているだろうがな。きっと厳しいものになるだろうが、覚悟はいいな?」

「や、やった……やったやった! ありがとシショー!!」

 

 バッと抱き着いてきて、条件を言い含めたことはスルーされ、ずっと狂喜乱舞というのがぴったりなはしゃぎようでピョンピョン飛び回って喜び続けた。現金なもので、こうして嬉しそうに抱き着いてきたり、はしゃいでいるのを見ると無性にかわいげのある奴だと思えてきて、あやすように頭を撫でてやった。真っすぐ進むのもいいが、ちょっとぐらいなら寄り道も悪くないかな。

 

「無邪気に喜んでいるところはほんっとかわいいな、ブルーも」

「……あ、ありがとね、わたしがんばるわっ」

 

 自分の状況に気づいて恥ずかしくなったのか、さっと手元を離れて目を逸らしながらブルーは言った。愛嬌のある奴。不思議と後悔はないな。ブルーのためなら別にどうなってもいいや。最悪なんやかんやバレてもそんときはそんときだな。もともと拾ったような命と体だったんだし。

 

「きゃっきゃと忙しい奴だな。これからお前を弟子にすると決まれば、またあれこれやることが増える。この俺の弟子が軟弱なままなんて認められないからな。自分が納得いくまで鍛え上げて……いや、一から叩き直さないと。お前はさっさとその寝間着から着替えて、すぐに支度してポケセンまで来い。俺は用があるから先に行ってる」

「わかったわ! すぐに行くし、期待に応えてどんどん強くなってやるわ!」

 

 バン、とドアを強く叩きつけてすごい勢いで出ていった。張り切り方が尋常じゃないな。あれならすぐに来るかな。さて、最初にどこまでやるか。努力値振りだけ最初にさせて、理屈は段階的に教えてやるか。あとは俺についてきていれば勝手に覚えていくだろ。最初に必要なものは、きのみとドーピングとあとは……

 

 ポケセンでこれからどうやって教えていくか考えながら必要なものをパソコンから取り出してブルーを待っていると、バタバタしながら駆け込んできた。

 

「ぜえぇーぜえぇー。良かった、ちゃんといた! はぁっ、ほんとに、はっ、疲れた。もう、かなり、ふーっ、焦ったわ」

「おうブルー、張り切っていた割には意外と遅かったな。しかしそこまで急ぐこともなかったのに随分と慌ててどうした?」

「最初は、んっ、浮かれて、んぐ、気づかなかったけど、ふぅ、てっきり、私を撒くために、先に行ったんじゃないかって、心配になって、慌ててここに」

「あぁ……お前って、前のめりになるとけっこうバカというか、単純というか。そんな回りくどいことするわけないだろ。撒くだけなら簡単だし。いったんやるといったことは最後まで責任持ってやってやる。お前が音を上げない限りはな。ま、ブルーならモノになると思うけど」

「ウフフ、いいわ、何でもやってやるわよ! さあ、どんどん来て! 最初は何をするの?」

 

 すごく嬉しそうだな。普段よっぽど褒められ慣れてないんだろう。おそらくマサラにいた頃はあの2人と比べられていたのであろうことを思えば仕方ない部分もあるが。

 

 最初はお互いに手持ちを出し合い、顔見せをすることにした。グレンはフシギソウ達には最初怖がられていたが、ブルーの取り成しもありなんとか打ち解けたみたいだ。なぜか今度は俺が全て悪いような、悪の大魔王みたいな印象をフシギソウとピジョンから持たれたが。顔見せもできて打ち解けてきた頃、聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「おー、君達はブルーちゃんにレイン君。奇遇だな、こんなところで会うなんて。それにどうやら仲良くなったみたいだな」

「タケシ! また出てくるとは。毎度ジムリーダーっていきなり出てくるな」

「えへへ、実はそうなのよ! シショーったらわたしのことベタ褒めするんだから困るわー」

「してない。実力はまだ駆け出し未満なんだから調子に乗るな」

「……アハハ、すぐ照れるんだから、もうっ!」

 

 ほんとにポジティブだな。顔は引きつっているようにも見えるが。あと常に俺が照れているみたいに言うのいい加減にやめろ。お前の中で俺はいったいどんだけシャイボーイってことになってんだよ。おかしいだろ。

 

「それで、そっちは何の用でここに? 普段はジムにいないとか言っていたし、忙しいんじゃないのか?」

「いや、君とのバトルで俺もさらにもっと鍛え直さないといけないと思って特訓中さ。普段は化石堀の仕事をしている時間だが今日は特別だな。で、ポケモンを回復させるためにここに来たってわけだ」

「え、こんな朝早くから特訓!? すっごーい。いつ起きたの?」

「4時ぐらいかな。まぁいつも通りだ。化石探しをする人間は朝が早いんだよ」

 

 さすがにそれは早起きのレベルじゃない。異次元過ぎてもはや生活サイクルそのものが違うといっていいだろう。ブリーダーといい化石マニアといい、ヤバイ奴ばっかだな。

 

 そんな風に雑談しながらほのぼのした空気が流れていたが、突如舞い込んだ凶報でそれは一瞬で吹き飛んだ。

 

「大変よぉ!! 一大事一大事、住民を避難させる避難勧告を出してくださぁい! ああこんなときタケシさんがいればいいのに、もうどうすればっ」

「落ち着いてくださいジュンサーさん、自分ならここにいます、何があったんですか!」

 

 なんだなんだ、こいつがジュンサー? こっちで初めて見たが目の前のタケシに気づかないって慌て過ぎだろ。何があった?

 

「あ、こんなところにいたんですか! 実はポケモンが大量発生してその群れがこの町に向かっていて、もう被害が出始めているとかでっ」

「なんだって!? それはマズイな……。今自分の手持ちは疲れ切っていてここへは回復に来たところなんです。そのポケモンの名前はわかりますか?」

「それがわからなくて、この地方じゃ見ないポケモンで……あっ、ジョーイさん、急いで避難勧告を! 危険度Sです。すぐにお願いします」

 

 ジョーイが慌てて奥から出てくるがそれを聞いて頷いた後すぐにとんぼ返りしていった。あのふざけたジョーイがあんな真剣な表情になるなんて相当ヤバイらしい。初めて聞く危険度Sってのも気になる。

 

「ひとまずこれで避難はできます。まずは詳しい話を」

 

 ようやく落ち着きを取り戻し、ゆっくりと事の顛末をジュンサーが話してくれた。

 

「そうですね、わかりましたタケシさん。一から説明します。事の始まりは昨日の夜、北の外れのドラゴン仙人の家がそのポケモンに襲われて、自慢の流星群で追い返そうとしたけど失敗。流星群は相性が悪くてこうかはいまひとつだったようで、たまらず敗走しました。この町に来て、その後色々調べて大量発生の事実にようやく気づいたんです。もうかなり時間が経っているし、ポケモンの数は未知数。しかもかなり強い。このままだとこの町は廃墟になるかもしれなくて……」

「待て、なんでそんなに強いポケモンがこんなとこにいる? しかも人里に降りてくるなんて変だろ、誰かの差し金とかじゃないのか?」

 

 真っ先に浮かんだのはロケット団の仕業という線。カントーの厄介事は9割方奴らの仕業だ。しかし俺の予想はすぐに打ち消された。残りの1割を引いたらしい。

 

「そのポケモンはさっきも言ったけど外来種らしくて、おそらく誰かがこの地方に持ち込んで捨てたポケモンが生態系を崩して増えて、人間への恨みとかで襲いに来てるんじゃないかと予想されてるわ。だから強いのよ。山を棲み家にする、“てつのよろい”を持ったポケモンということしかわからないし、もうどうしたらいいか……」

 

 ジュンサーがまたパニックになりそれをタケシがなだめるが、それより俺は思い当たることがあった。

 

「シショー、どうしたの?」

「そのポケモン、知ってるぞ。おそらくボスゴドラ。ホウエンにいるポケモンだ。間違いないな。それなら手こずるのも納得だ。レベルは40以上と見た」

 

 それを聞いて反応は3種類。驚くもの、絶望するもの、そして……

 

「シッショー! すっごい、あっさりこんなことまでわかるなんて……」

 

 今ブルーにしたら俺は何でも知っているそれこそ仙人みたいな感じなんだろうな。反則で知っているようなものだから居心地が悪いが。

 

「なんでそう言い切れるのっ!? り、理由はっ!!」

 

 ジュンサーが絶望的な事実を認めたくないとばかりに言うが、状況は正確に把握しておく必要がある。

 

「外来種で“てつよろい”とくればボスゴドラしかない。それにボスゴドラは“はがね”タイプで、三段階進化の最終形態。流星群の“こうかがいまひとつ”なのもはがねタイプだけだし、進化先ならレベルが高いのも納得だ」

「なるほど。ほぼ間違いないと見ていいな。じゃあ他に特徴はわかるかい?」

 

 声も出なくなったジュンサーに代わり、タケシが問うた。

 

「タイプはいわ・はがね。防御がものすごく高い。並のトレーナーじゃ傷をつけるのも難しいだろう。みずタイプがいれば楽に倒せるが……」

「じゃあ、ハナダのカスミさんを呼べば!」

「着く頃にはここは廃墟だろうな」

 

 ジュンサーはまた意気消沈して黙ってしまった。

 

「自分のいわポケモンなら倒せますよ。回復さえできればじしんで一気に殲滅できるはずです。問題はそれまで持つかどうかですが……」

 

 ポケモンはさっきジョーイが回復を始めたので急げば1時間とかからずに回復するだろう。

 

「手詰まり……やはり逃げるしか……」

「そう結論を急ぐなよ。まだ手はある」

「え、でも今並のトレーナーじゃ無理ってあなたがっ」

「並ならたしかにそうだ。だが並じゃないトレーナーがいる。俺がそいつらを引きつけて、全員ボールに捕獲して、ホウエンに送り返してやるよ」

 

 ボスゴドラの大量発生。この俺の経験値稼ぎには丁度いい。

 

 さあ、狩りの時間の始まりだぜ!

 




久々にカントー以外のポケモンの名前が出たので補足
ここでは基本ポケモンのグローバル化はあまり進んでいないと思って下さい
分布の面でも知識の面でもカントーではあまり見ません
無論、ドサイドン、ニョロトノ、ピチューみたいな進化前後はいてもおかしくはないですし、今回のように持ち込みが皆無でもないので外のポケモンがゼロというわけではないです

また進化レベルについても大幅にずれることは少ないですが個体差があると思って下さい
レインも野生のポケモンの観察の結果などから承知しています
こうしないと改造カイリューみたいなのが出てきたとき説明をつけられませんし


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10.己が手でとれ 求むものなら

「C-2」は特攻の能力変化が2ランクダウンの意味です


「作戦をまとめるぞ、時間がない1回で聞け。まず、グレンと今あなをほるを覚えさせたジュンサーのウインディで落とし穴をできるだけ多く作り、できれば奴らをそこへ誘導して拘束してくれ。ピッピにんぎょうを持たせたブルーの方はポケモンでボスゴドラを引きつけ、印をつけてあるこのポイントに誘い込む。奴らが来たらすぐに俺が倒し、片っ端から捕獲、最後に落とし穴の方も回収に向かう。以上だ。地形は頭に叩き込んどけ。万一のため俺の回復道具は多めに渡しておく。いいな?」

 

 群れは基本ブルーに誘導させて俺が待ち構える所に集めて一網打尽。無数に“あなをほる”で落とし穴を作りそこに目立つようにピッピにんぎょうを置くことで抜けてきた取りこぼしに対処。俺がきっちり仕事すればこれで何とかなるはず。

 

 最初、ジュンサーはランクが4しかない俺の実力に懐疑的だったが、タケシの取り成しで今は従ってくれている。タケシの物分かりが良くて本当に助かった。

 

「ねぇ、ホントにわたしも行くの? さすがに怖いわよ」

「そうだな、たしかにブルーちゃんには荷が重いかもしれない」

「タケシさんがそう言うのなら私も反対ですね」

 

 ブルーはまだ足が竦むらしい。こんなところで立ち止まっている暇はない。俺が焚きつけてやるしかないか。

 

「逃げるだけなら十分可能だ。言い忘れたがボスゴドラはかなり動きが遅い。スピーダーまで用意している以上、逃げるだけなら出来ないなんてことありえない。ブルー、これはお前のためでもある」

「ほ、本当?」

「俺のことがどうしても信じられないのか? さっき部屋で言ったこと、忘れてないよな? 俺の言うことは従え。どうしてもイヤなら弟子なんてやめな。……それに、お前ならできると俺が判断したんだ。絶対にブルーならできる。お前が本気で上を目指すなら、俺に頼るだけじゃなく己の力で這い上がってこい」

「ぐっ、うう……それは……ええい、わかった。だったらやってやるわよ! こんなとこで足踏みしてたらあいつらに追いつけない。絶対何とかして生き残ってやるわ!」

 

 案外あっけなく説得できたな。今にも泣きだしそうな顔には行きたくないと書いてあるが、弟子をやめる方が重大らしい。今後もあの約束を引き合いに出せばすぐに丸め込めるだろう。

 

「それでこそブルーだ。お前はとにかく逃げることだけ考えろ。ピッピにんぎょうの効果は強力だからずっと追いかけてくる。どうしてもヤバイと思ったら捨てろ。あと、何があっても俺の指示には必ず従え。たとえ自分のポケモンを見捨てて逃げろ、とか言ってもだ」

「そんな! 無理よ!」

「わかってる。そんなこと言うつもりはない。だがそれぐらいのことでも指示には従え。乱戦になることも考えられる」

「……わかったわ。うん、わたしはシショーのこと信じてるから」

 

 迷いのない眼。これなら連れて行っても大丈夫だな。タケシとジュンサーも上手く言いくるめておいた。おっと、あともう1つ先に手を打っておく必要があった。欲しいものは自分の力で手に入れる。それは俺も同じ。

 

「すまないな、君達をこんなことに巻き込んでしまって」

「気にしなくていい。俺達にとっても強いポケモンと戦ういい機会だ。いきなりのSランクだが、俺達にはこれぐらいが丁度いい。普通の依頼じゃつまらないからな。ああ、報酬は期待させてもらうぞ?……町を救われてケチ臭いことは言わないだろう?」

 

 タケシは苦笑いしながらも期待してくれていいぞ、と言った。俄然やる気も増す。俺は走って誘い込みポイントに向かった。

 

 ◆

 

 現場に着いてすぐ、アカサビに準備をさせて、念のためイナズマをブルーと一緒に行かせた。ブルーの言うことなら聞いてくれるし、速いし、電気技なら万一の時には戦力にもなる。これで大丈夫のはずだ。なんだかんだ言って、自分でも少しは心配ではあったからな。ほんとはサーチ能力もある俺自身が行きたかったが、倒す役が俺にしかできないから仕方ない。

 

「ダース!」

「来たか……来るぞ、構えろっ」

 

 イナズマの声だ。ボスゴドラの足音に負けないように俺はメガホンで掛け声をした。ここにはあらかじめピッピにんぎょうを大量に置いてある。近くまで来ればブルーではなくこっちへ向かってくるはずだ。

 

 四方を高い岩壁に囲まれた袋小路に大量のボスゴドラを連れたブルー達が迫ってきた。ブルーは袋小路に入る前にピッピにんぎょうを捨ててコースを外れて岩壁の外に。ピジョンはイナズマを乗せて壁の上に、フシギソウもツルを使い上がってきた。

 

 狙い通りボスゴドラは設置しておいたピッピにんぎょうに向かってきた。こっちに気を取られている隙にボスゴドラの背後からアカサビが強襲した。見事に伏兵が決まった。

 

 使った技は新技“かわらわり”……前のジム戦で技の範囲の狭さを痛感し、わざマシンをデパートで買っていたのであの後覚えさせた。今は手持ちが少ないから技の種類で補うしかないと考えてのことだが、さっそく役に立ったな。

 

 攻撃6段階アップの“かわらわり”は強力で、一撃で敵を倒す。アカサビが通った後には倒れ伏したボスゴドラの山。恐ろしい速さで次々に敵を蹂躙する様はさながら鬼神の如く。

 

「ええっ! ウソでしょ、なんなのこの強さ!? 信じられない!!」

「万全の準備をして相手の不意を突けば、これぐらいはあいつなら出来て当然。試合と喧嘩じゃ、喧嘩の方が本気を出せるってこと」

「あ、もう全滅した。す、すご……ねぇ、本当にシショーって何者なの? か、神様?」

「つまらん冗談を言う暇があったら早くまた集めてこい。次は大分近づいているはずだろ。ああ、グレン達のルートは避けろよ」

「……わかったわ。調子に乗ってやられないでよっ」

 

 そう言ってブルーは次の獲物を探して走っていった。発破をかけるならもう少し上手く言えないもんかね。

 

「おつかれ。もう効果が切れかかってる、またつるぎのまいだ」

「サイッ」

 

 能力変化は長時間経過すると効果が切れていく。だから定期的にかけ直す必要がある。

 

 準備する間にボスゴドラを回収。数にして15ぐらいか。いったい何匹いるのか。大量発生はほんとに数が多いからな。何事もなければいいが…

 

「たすけてええええーーー」

 

 グレン Lv31

 実 104-102-61-73-54-102  C-2

 

 

 やっぱそうもいかないか。この声は落とし穴ペアのジュンサーか。相当な数に追われているな。仕掛けの最中に群れとエンカウントしたってところか。グレンは特攻が下がっている。これは1回交戦しているな。戦ってよくここに戻って来られたな。だがあれじゃ横に逸れるのは無理か。仕方ない。

 

「ジュンサー、持ってるピッピにんぎょうをすべてグレンに預けて横へ逸れろ。グレンはおにびでさらに気を引け。十分引きつけたらしんそくでこっちに来い」

 

 すぐに指示を聞いて動いた。グレンは上手く引きつけてボスゴドラを岩壁の中に誘い寄せ、ジュンサーはグレンのおかげで命からがら逃げのびた。当然グレンは崖の下で動けなくなるが、俺がボールに戻して事なきを得た。さらにボスゴドラ達がグレンという目標を見失った瞬間、敵の後ろをアカサビが強襲、すぐにケリはついた。さっき以上の数だったが無事に殲滅完了だ。

 

「シショー! ヤバイわよこれーっ!」

「ブルーがもう来たか。早過ぎる」

 

 さっきの群れを倒してまだ間もないっていうのに、遠くでブルーが叫んでいる。準備は出来ていないが助けに行かないとマズイか。それを見てジュンサーが一言添えた。

 

「このポケモン達みんな気性が荒くて、私達を見ただけですぐに追っかけて来てどうにもならないの。1回攻撃されて交戦して……」

「グレンがオーバーヒートで倒したんだろ?」

「えっ、なんでそんなことわかるの?」

「トレーナーならポケモンの状態を視ればわかる。さて、お前ら悪いがもうひと働きしてくれ。グレン、アカサビ、行くぞ! これを使え」

 

 能力を“プラスパワー”などの道具で無理やりすぐに上げ、ボスゴドラを迎え撃つ。奇襲は無理だ。正面からになるな。

 

「アカサビに敵を集めろ。他は倒そうとしなくていい。グレンはいかくしつつ撹乱、イナズマは攻撃を躱しながらあくびを撒いて、ブルーは手持ち2体を出して戦わさなくていいから周りをうろつかせて注意を引け。ギリギリ向こうから攻撃されない位置を保てよ。ジュンサーはそいつにブルーを拾ってくるように言ってくれ」

 

 さすがに正面からだと少し厳しいか。誰かがやられたらジュンサーのウインディが回収し、“げんきのかたまり”で復活させなんとか戦線を繋いだ。

 

「あなたどれだけ回復道具があるの! 本当にただのトレーナー?!」

「だから普通じゃないって言っただろ! それよりまたフシギソウがやられた、連れてきてくれ」

 

 だが、着々と敵の数は減り、上手くアカサビを中心とした策がハマっていた。余裕が出来て空気が緩みかけたとき、予想外の事態が起こった。敵の増援だ。

 

「これだけやっつけたのにまだいるの!」

「あのボスゴドラヤバイわよシショー! 多分ボスじゃないの?!」

「お前にしちゃ勘がいい。その通りだ。レベル48、技もヤバイ。最初に捨てられたオリジナルか……こいつが元凶だな」

 

 “ふぶき”“かみなり”“だいもんじ”と見事に技マシンで覚えるものばかりの上、努力値もあるから間違いない。増えたのは15体。今いるのが5。合わせて20か。連戦で今日1番きつい。数も多い上に不意を突かれての正面衝突。その上戦闘時間が長引き過ぎてアカサビのプラスパワーが切れかかっている。こうも悪条件が重なるとさすがに厳しい。

 

「いったん守りに入る。とにかく時間を稼げ。ウインディ達は一度ボスゴドラを外に誘った後あなをほるで足止め。ただしこのスペースの中ではするな。悪路をつくって自滅しかねない。フシギソウはやどりぎのタネを当ててから即逃げて、余裕ができたらねむりごな。ピジョンはさっきよりも多めにリーチを取っていつでも避ける準備をしながらまた空中から気を引け。かみなりやふぶきに気をつけろ。アカサビは戻ってみがわり使った後つるぎのまいを積みなおす。イナズマは気を引きながら余裕があればあくびだ」

 

 すぐに動き出した。上手く気を引いてくれるがさすがに全部を処理しきれず、数に呑まれてイナズマとフシギソウがやられた。一発が致命傷になるだけにやむを得ないところではある。そして数が減れば残りへの負担が大きくなる。もう崩壊寸前か。

 

「グレン、右にオーバーヒート。ピジョン、もっと奥に誘い込め」

「もうダメよ、持たないわ! きゃあっ! こっちにも攻撃来てるしここも危ない! もうアカサビさんを出して!」

「攻撃力が足りない、まだだ、あと少し。今出せばアカサビもやられて本当に終わる。もう回復薬も尽きた」

「そんな! でもこのままじゃ!」

 

 もう残りはグレンだけ。上手く逃げているがもう避けるので精一杯だ。完全に手詰まり。万事休すか?

 

「ゴローニャ、じしんっ!」

 

  この声はっ……!

 

「タケシか、しめた! まもるだ!」

「タケシさん、回復が間に合ったのね! 九死に一生ね、助かった!」

 

 絶妙なタイミングで放たれた“じしん”でいくらかは倒れた。敵が奇襲に動揺しているうちに時間も稼げた。タケシ、本当にいいとこで来てくれた。これで準備は整った。出番だぜ……!

 

「待たせたな。いけっ、アカサビ! 蹴散らしてこい!」

 

 そこからはアカサビの独壇場。全て一撃で気絶させ、あっという間に殲滅した。あとは親玉だけだ。

 

「残るは大将のみ。行くぞ?」

 

 ボスゴドラは“ふぶき”を繰り出すがアカサビは1番最初にみがわりを使っている。効きはしない。構わずに突っ込ませて脳天に“かわらわり”をお見舞いし全て片付いた。何とかなったか。振り返ればタケシが笑顔でこっちに来ている。まぁこの人は基本常に笑顔だが。

 

「見事だな。恐ろしいぐらいに強い。これでニビは助かった。町を代表して礼を言うよ」

「こっちこそ、さっきは助かった。あの援護がなけりゃ全滅していた。タイミングばっちりで威力も全体技と思えないほど申し分なし。さすがジムリーダーだな」

「タイミングは偶然だ。最初は反対側を回っていたがこっちにポケモンがあまり来てなかったから気になってな。じしんをまもるで回避した判断も良かったし、ピッピにんぎょうとあなをほるの策も上手く行ったみたいだ。君にはトレーナーとして尊敬する。すばらしいトレーナーだ」

 

 互いに健闘を称え合っているとブルーも首を突っ込んできて調子のいいことをのたまい始めた。

 

「そうでしょそうでしょ! ほんっとにシショーはすっごくて、ここでもボスゴドラをばっさばっさとなぎ倒して、相手も味方も全てお見通しで……わたし、一生シショーについていくわ!」

「ハイハイ、ありがとブルー。でも一生はついてこないでくれ。むしろ困る。あと怖い」

「むっ! ちょっと、その言い方は何? シショーどんだけすごいかホントにわかってるのっ! あと人を疫病神みたいに言わないで」

「じゃ、やっぱりストーカー?」

「ストーカー違う!」

 

 ブルーをあしらいながら罠のポイントに向かいボスゴドラを回収。ほとんど俺達のいた場所に集まっていたようで討ち漏らしもいないようだ。これでSランク任務は無事成功。その後町に戻ってから俺は報酬を受け取り、さらに俺は上手く交渉をしてトレーナー手帳をもらえることに。最初から狙いはこれだった。

 

 こっそり裏で取引したからブルーには説明していない。まあトレーナー手帳がないなんて普通じゃないから詮索されても困るし、あんまり知られたくもない。伏せておくのが無難だろう。

 

 色々あったが、元はといえばトレーナー手帳がなくてイライラしていた時にブルーに会ってここまできたのだった。回り回ってブルーに会ったことがその手帳を得るきっかけになるとは、世の中わからんもんだ。案外ブルーとは最初から縁があったのかもしれない。不思議とそんな気がした。

 

 ◆

 

 翌日、ポケセンに預けていたグレン達を迎えに行った際、ブルーに報酬の話を嗅ぎつけられてしまった。

 

「お預かりしていたポケモンはみんな元気になりましたよ。例の件は明日にはできますのでそれまでお待ちを」

「ああ。どうも」

 

 そのまま外に出ようとするとブルーに聞き咎められた。

 

「ねぇ、シショーはもしかしてまだ何かもらえるの? ずるーい。わたしにはなんにもないのにー」

「別に何でもない。それに、報酬がないというなら、そもそもお前はなんにもしていないだろう。俺はあの後の事後処理とかも色々手伝っていたんだ。わかってんのか?」

「そりゃそうだけどさぁ。いきなりあーんな怖いポケモンの群れに放り込まれて死にそうな思いまでしたのに骨折り損って感じなんだもん。もちろん町の人達にお礼とかたくさん言われて嬉しかったけど、釈然としないっていうか……」

 

 こいつ、自分がどれほどの恩恵を享受しているかわかってないな。努力に見合う対価はちゃんとある。ムダなことなんて何もない。

 

「まさか本当に意味もなくお前をつれていったと思っているのか? 一生ついていくとか調子いいことばっかり言ってたくせに、その割には俺のこと信用してないらしいな。度胸試しであんなことするかよ」

「え、わたしを試していたとかじゃないの?! やっぱりなんか理由があるのね! なんなのなんなのっ!?」

「質問を返すようだが、駆け出しが1番苦労するのはなんだと思う? 俺は経験してないが、おそらくポケモンを育てる際に1番難しいのは最初のレベル上げ。経験のないトレーナーが格上に勝つことは難しいはず。今まで見た感じこの予想はそうは外れてないだろう。違うか?」

 

 レベル上げにはやはり格上を倒す必要が出てくる。できなければとてつもない時間を要することになる。何事も初めの一歩は最も難しいものだ。

 

「そうよ、そこが最初の難関。2番目がレベル30台の壁、と言われているわ」

「だろ? だから、そこをとりあえず超えさせてやった。これでお前は晴れて駆け出し卒業というわけだ。おめでとさん」

「…………え? どういうこと?」

「お前のポケモンはもう大幅にレベルアップしている。フシギソウはレベル27、ピジョンはレベル28。お前のライバルに追いつくにはゆっくりしていられないからな。今回の事件はお前のレベル上げに持ってこい、まさに天の助け、天恵だ。これをみすみす逃すようでは話にならないだろ? 結果的に上手くいってよかった」

 

 しばらくぼけーっと固まったままだったが、理解が追いついたのか突然絶叫し、モンスターボールを持ってポケセンに駆け込んでいった。しばらくしてようやく戻ってきたかと思えばものすごい勢いでとっしん、もとい、抱き着いてきた。

 

「しっ、シショー、ありがと、わたしこんな、レベル……」

「ブルー、この程度で泣いていたらこの先もたないぞ。それに、その成果はお前自身で勝ち取ったんだから、そのことは誇っていい。さて、ここを出発するまで一日暇ができた。その間に大事なことだけお前に教えといてやる。草むらのあるところに行くからついてこい。俺の教えは厳しいから覚悟しろよ」

 

 もちろん本当のことを言えば、ブルーがレベル上げをできたのは完璧なお膳立てがあったからだ。倒すのは全てアカサビがやったし、倒れても俺が何度も回復させた。ブルーのポケモンは守ったり回復させたりする必要がありどちらかというと戦力的には負担になっていた。だからブルーのレベル上げをしなければもっと楽に勝てていたのは間違いない。

 

 だけど今それを言う必要はない。ブルーはトレーナーを一度は諦めかけた程追い詰められている。それが必死の弟子入りに繋がったわけだしな。なら何と声をかければいいか。

 

 どん底にいるブルーに今必要なのは自信だ。まやかしでも偶然でも、とにかく何でもいい。とにかく強くなったと思わせること。自分の力を信じさせること。それが1番の特効薬になる。

 

 たとえ今はウソだったとしても、それがいつかは本当になる。

 

「シショー……うん、わかってるわっ! こんなところで立ち止まってる暇なんかないっ。教えて! わたしすぐにシショーなんか追い越してやるからっ!!」

 

 ニヤリ、と思わず笑ってしまった。自信は出てきたかな。本当に俺を超えるぐらいの気概がなきゃ、教える張り合いがないと思っていた。実力差は十分痛感しているはずなのに、それでも最初からここまで大言を吐けるなんて大したもんだ。やっぱり大物になりそうだな。

 

「それは楽しみだ。骨のあるトレーナーがなかなかいなくて退屈していたからな。お前が強くなれば、少しは楽しめるかもしれない」

 

 ブルーがどこまで行けるか、しっかり見届けてやるとしようか。

 




経験値とレベルの補足

経験値はポケモンが倒れたときその周り一定範囲内にいるポケモンに均等に分配されるという仕様にしました
ゲームの「何もしなくても一瞬顔をだせば経験値」は現実でやるとすごいことが起きると思ったからです

 1.AとBが会う(戦闘画面で対峙することに相当)
 2.Aはボールに戻し、何もせず三年後、初めてBが戦闘不能になる
 3.三年後突然Aのレベルが上がる

戦闘に開始も終了もありませんので「戦闘終わってるから無効」とかそういう理屈は通じません
開始終了は人間が勝手に決めたこと、自然法則には影響しない
このため、究極のところ、大量のポケモンとすれ違うことで爆発的な経験値稼ぎができます
研究大好き主人公ならぜっっったいにやります
ヤバ過ぎます

なので……
「戦闘中」という時間の区切りがないのがマズイので倒れた瞬間近くにいるポケモンに経験値が入るとすれば問題解決
倒した貢献度は状況により異なるので倒した奴だけ経験値が入る、というようにしても結局労せず経験値だけ得ることは可能になってしまいます
なのでそこは割り切って一律均等に分配することに

つまりこの仕様でも何もしなくても近くにいるだけで経験値稼ぎはできますが、それは学習装置で経験値稼ぐのと似たようなものですしチートとまでは言えないのでセーフという判断です

レベルの「すれ違いアップ」は鬼のような効率叩き出すのでダメ
厳密には将来的に獲得される経験値を盗んでるだけなので非生産的ではありますが


また、経験値にはレベル差補正を考慮しています
BWとかはこの仕様だった気がしますが、相手のレベルが自分より高いと多目に、低いと少なめになるというものです

採用理由はレベル上げに才能が必要になるようにしたかったからです
この仕様がないと年月さえかければ誰でもポケモンのレベルを100まで上げれることになります(チャンプでも60とかなので現実と矛盾)
こうなると、ゲームのように才能よりプレイ時間でレベルゲーが始まります

要するにどんなことが起きるかというと、変な話、ポケモンリーグが達人とかベテラントレーナーで溢れかえって、レッドみたいな子供は完全に締め出されます
トレーナーの全盛期が齢70代のゲームとか誰得ですか?

なので格上を倒せないとレベル上げが著しく困難になるとしました
これがレベルを上げるうえで壁ができて、30以上はあげにくい、最初の入門が難しいという設定につながり、四天王などが50台などでレベルが止まるのも説明がつきますよね


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2章まとめ

1.vsストライク アカサビゲット

ゴウゾウの情報を頼りに強いポケモンを探すレインは虫取り大会で好戦的なストライクに出会う。

圧倒的な強さを見せつけ、誓いと共にストライクを2番目の仲間とした。

新メンバーに喜び、はりきってニックネームをつけるレイン。

ポケモン達はレインについて理解を深めるのだった。

 

2.vsカスミ

ハナダシティに到着したレインは逃げるR団を捕まえわざマシンを手に入れた。

その後交渉により念願の自転車を手に入れるが道に迷ってしまう。

河原で助けた女の子の案内でようやくジムに辿り着き、カスミとのジム戦に挑んだ。

初めて見るこなれた技の使い方に驚くが、グレンとの息ぴったりの連携で活路を見出す。

バッジを手にしてレインはジムを後にするのだった。

 

3.イーブイゲット

レインボーブリッジを突破してマサキの家にやってきたレイン。

その素質に惚れ込み、三顧の礼をもってイーブイを3番目の仲間として迎え入れる。

イーブイの大事な初バトルを見事に勝利してみせたレインは、これを見ていたカスミからフルバトルを申し込まれる。

 

4.vsカスミ(フルバトル)

イーブイをサンダースに進化させ、レインは決戦の地であるハナダの岬へと向かう。

イナズマを駆使した恐るべき戦術によりレインはカスミを翻弄する。

朝焼けに染まる岬でアカサビは勝利の雄叫びを上げた。

 

5.おつきみやま

ニビジムを目指しおつきみやまへ向かうレイン。

道中不覚にも道に迷うが、野生のピッピの助けを借り、事なきを得る。

 

6.ブルー登場

おつきみやまを無事抜けたレインはトレーナー手帳がないため強行軍を強いられていた。

疲労の抜けきらぬままニビを目指す道中で通りすがりのトレーナーにバトルを挑まれる。

イライラ気分のまま手酷くいじめてしまうが、グレンのとりなしで考えを改めニビまで送り届けることとなる。

道中トレーナーの正体とその運命を悟り、その才能を惜しむ気持ちから助言を送り、秘めた才能を高く評価する。

 

7.vsタケシ

ニビのジム戦に向かったレインはブルーと再会を果たす。

ブルーが観戦する中、天敵の岩使いに対して苦戦の末かろうじて勝利する。

その後ジムを出ても追いかけてくるブルーにレインは弟子入りを志願される。

 

8.弟子入り失敗

一度弟子入りの頼みを断りポケセンに向かうものの、レインはそこでブルーと再会する。

強がる表情の裏に秘めた本当の気持ちを悟ってしまい、レインはブルーの誘いを断り切れずに一緒に町巡りをすることになった。

仲良く意気投合してしまう2人だが、レインは自身の素性や秘密を隠すためきっぱりと弟子入りを断り決別を告げた。

 

9.弟子入り成功

離れ離れになった後、レインの居場所を突き止めたブルーは再度弟子入りを試みる。

不思議な感覚によりブルーの心の奥にある純粋な思いに気づき感銘を受けるレイン。

ブルーへの感謝と共についに弟子入りの許可を決意する。

一方町では事件が発生し、レインはこれを解決すべくボスゴドラ退治に乗り出した。

 

10.Sランク達成 手帳ゲット

嫌がるブルーを連れてレインはボスゴドラ討伐を開始する。

一時は全滅の危機に陥るものの、タケシの救援により見事に依頼を達成する。

町を救った報酬としてレインは念願のトレーナー手帳をゲットした。

 

 

データメモ

<レイン>

・グレン 

vsアカサビ

Lv28

 

vsカスミ

Lv28

 

vsブルー

Lv30

 

vsタケシ

Lv30

 

vsボスゴドラ

Lv31

 

・アカサビ いじっぱり 31-31-25-24-23-24 (最初Lv26)

vsカスミ

Lv27

 

vsカスミ(フルバトル)

Lv28

 

vsタケシ

Lv31

 

vsボスゴドラ

Lv31

 

・イナズマ おくびょう 20-0-4-27-23-31

vs短パン小僧

Lv25

 

vsカスミ

Lv25

 

 

<ブルー>

フシギソウ Lv20→27

ピジョン  Lv18→28

 

 




FRLGだとゲームのシステムで最初に「これまでのあらすじ」というのが流れて前回の冒険のあらましを教えてくれるんですよね
まとめはそれを意識してます!


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謎の襲撃者編
1.常識を 叩いて壊して 投げ捨てろ


今回も設定に関わる話が多いです


 いよいよこれからブルーの特訓が始まる。そのために俺達はニビの南の草むらの近くに来ていた。もう季節は夏。あの町を出た時に比べるとやはり暑くなってきたな。これだけ違ってくるなら、もしかすると季節によって技の威力に変化が出たりするのだろうか。真夏なら“ソーラービーム”打ち放題とかありえなくはない。

 

 いや、それよりも今はブルーの特訓だった。気になると余計なことまで考え出すのは悪いクセだ。その辺はおいおい検証すればいいか。

 

「それじゃあブルー、今からトレーナーとして最低限知っておくべきことを教えておく。知ってなきゃ話にならないことだから最初だけ丁寧に教えてやる。頑張れよ。これから覚えることも多いし、生半可な道のりじゃないけど、準備はいいな?」

「ハイ! 何でも来ていいわよ! 厳しいのは承知の上よ!」

 

 ほう、こいつえらく自信ありげだな。まずはブルーの力量を確認するか。

 

「お前、スクールには通ってたんだろ? 相性とかの基本はわかっているな?」

「わたしスクールには行ってないわ。でも基本はオーキド博士に教わったから全部ばっちりよ。これでもレッドとグリーンの2人より勉強は得意だったのよ」

 

 スクールにはやっぱり行ってないのか。聞いた話じゃそんなのは天才ぐらいだって誰かが言っていたが、こいつらが行ってないということはほんとに天才だけなんだな。だが教わったのがオーキド博士なら下手な奴に教わるよりしっかりしていそうに思える。しかも座学はけっこう得意みたいな雰囲気。意外と教えるのは楽かもしれない。

 

「わかった。お前はその辺はしっかりしてそうだから、知らないだろうと思うことだけしゃべる。が、その前に1つ断っておくことがある」

「えへへ……なになに?」

 

 こいつはほんとに褒められるとすぐに表情に出るな。落ち込むと逆に引きずりそうだし、褒めて伸ばすのが合っているタイプの典型だろう。実際はブルーじゃなくオーキド博士の指導力を信頼したんだが、言わぬが花だな。

 

「今からは己の常識を捨てろ。現在知られているポケモンの知識はまだまだ未完成。穴だらけで間違いもある。そして、俺の言うことを疑うな。それができなけりゃ、俺が何をしてもモノにはならないし、教えても意味はないだろう。いいな?」

「ゴクッ! わ……わかったわ。シショーの言うことなら太陽は西から上ってくるって言われても信じる! 約束するわ、絶対守る。続けて」

 

 さすがにそれは疑った方がいいが、好都合なので何も指摘しなかった。

 

「よし、いい子だな。じゃ、まずは技について。勘違いしていると一番致命的なミスになるからな。まず技は補助技と攻撃技の2種類があると教わったな?」

「ええ。それがどうかしたの?」

「その認識がそもそも間違い。致命的な誤解だ。実際には技の種類は3種類ある」

「うそぉ!? じゃあもう1種類新しい技があるの?!」

 

 そう来たか。たしかにこんな言い方ならそう思うのが自然か。あー、なんか教えるのって難しいな。相手のレベルに合わせないといけないから。特に自分が当たり前と思っていることはなおのこと教えにくい。

 

「違う。分類の仕方の問題だ。攻撃技として一括りにしている中には、実は全く別の2種類が混在している。例えばかえんぐるまとかえんほうしゃ、この2つは別の種類。それぞれ必要な能力が違う。俺は物理技、特殊技と呼んで区別している」

「何よそれ、そんな話聞いたことないわ。シショーが見つけたってこと?」

 

 ここだよな問題は。俺が見つけたと言うしかないんだろうな。この世界じゃ出所は俺だし。だが俺がなぜそれを知っているか本当のことを説明はできない。バレないことを祈るしかない。

 

「まあ、そんなところだ。重要なのは、この2つは必要な能力が違うということ。ゆえに、ポケモンによってはこの2つの扱いに決定的な差が生まれる。俺がこれに気づいたのは経験……いや、実験でこの差を感じ取れたから。抽象的でわかりにくいし、今実際にやってみせてやる。何事もやってみるのが手っ取り早いし。出てこい、イナズマ、グレン」

「えっ、何をするのよ」

「今からイナズマに2つの技をグレンに打たせる。よく見ておけ」

 

 まずは“でんこうせっか”。動きは俊敏だがほとんどダメージはない。次に“でんきショック”。グレンの体勢が少し崩れた。この違いを見てブルーはあっ、と声を上げた。

 

「両方同じような威力の技、でもダメージは全然違う! 急所に当たった感じでもないのになんでなのシショー?」

「それはでんこうせっかは物理技だがでんきショックは特殊技だからだ。イナズマは物理技の攻撃力は極端に低いが、特殊技の攻撃力は高い。その上、グレンは物理の防御力は高いが特殊はやや低め。これにはポケモンの性格も関わっているが、その話はまたの機会だな。とにかくそういった理由でここまで極端に、素人目にもわかる程の差が出る。それに実践ならグレンは特性のいかくで物理技の攻撃力のみ下げることができるから、これ以上に差は顕著になる……イナズマ、グレン、おいで。ありがとう、ご苦労さん」

 

 イナズマは頭を撫でてあげて、グレンにはおいしいみずをあげて労ってからボールに戻した。

 

 もちろん技の威力も違うが、当然測定なんて出来ないのでこの世界の常識に技の威力なんてない。だいたいこの技は強い、弱いと経験でしか語れない。

 

 この場合タイプ不一致の“でんこうせっか”の威力がタイプ一致の“でんきショック”より低いのは説明上都合がいいので黙っておく。あくまで目的はブルーに理解させることで公平に比較することではない。だから平等な比較でなくても構わないというわけだ。同じ威力で“いかく”込みなら結局今の実験と全く一緒の状況になるからあながち間違いでもないし。

 

「物理の攻撃力とかっていうのは何なの? 物理技の上手さみたいなもの?」

「そうだ。そして守る方も物理攻撃のダメージの受けにくさというものはある。長くて言いにくいから、俺はこの4つ、物理攻撃、物理防御、特殊攻撃、特殊防御を順番にA,B,C,Dと略して話す。ここまでわかったか?」

「つまり、攻撃技には物理と特殊の2種類あって、そのダメージの大きさは物理はAB,特殊はCDの大小で決まる。だからさっきみたいに能力が高い方で相手の低い方をつけば、同じぐらいの威力の技でも大ダメージが狙えるってことね! すっごい、これを上手く活用できたらどんなポケモンも簡単に倒せちゃうわよ! タイプの弱点以外にも能力的な弱点まで活かそうなんて、やっぱりシショーは普通とは発想のレベルが全然違う」

 

 さっすが、ものすごく理解が速い。しかも、俺の説明よりすっきり整理されている……。その上この話の急所を、俺が指摘する前に気づきやがった。やはりただものじゃないのか。このまま俺の知識を与え続けたら……。

 

「お前……」

「あれ、シショー? もしかしてわたし何か間違ってた?」

「いや、その逆。よくわかっていて驚いた。ただ、事はそう簡単じゃない。お前の言うように、これは戦術として活用できればバトルの根底が覆る。なのに、なぜ誰もできないか。いや、厳密にいえばマスタークラスなら多少はこの理論を使っている。無意識にな。経験の豊富なトレーナーだと、どのポケモンにはこんな技が良く効く、なんてことがわかるって聞いたことはないか?」

 

 これは本で読んだ知識だ。専門書みたいなのに書いていた。最初の擦り合わせがここで活きてきたな。

 

「あっ、それ博士が言ってた。技の選択は経験によってできるようになるって。あれはただのホラ話だと思ってたけどホントなの!?」

 

 サラッと毒吐いたな。こいつ仮にもオーキド博士に基礎を教わったクセに、舐め腐っているな。人の話を聞いたりする態度はあんまり良くなさそうだ。とするとこうしてちゃんと聞いてるのは俺にはよっぽど心酔しているからだろうな、ポケモンバトルに関してだけは。

 

「個体差はあれど、ポケモンの種類ごとに大まかな傾向があり、基本的にはそれは覆ることはない。サンダースはAが低く、Cが高い、というようにな。イナズマはその中でもとびきりその傾向が顕著でACの差はかなり大きい。こんな感じだ。そして、こうした傾向を活用するにはポケモンごとの大まかな傾向、そして自分のポケモンの得手不得手をわかってやらないといけない。さらには、技ごとにどれが物理、どれが特殊ということを覚えておく必要もある。どうだ? 気の遠くなる話だろ?」

 

 個体値種族値という用語なしだと説明しにくい。おいおいこれも教えた方が手っ取り早いか?

 

「そんな! いや、でもカントーのポケモンは150、進化前は進化後がわかれば推測できるから覚えなくてもいいし、技もよく使うものから覚えていけばそこまで大変じゃないはず! シショー、わたしを脅かそうとしてもムダよっ」

 

 ドヤッと胸を張って鼻を鳴らす姿は子供らしい。でも言っていることはその通りで、ほんとにブルーは聡い。とはいえこの返しは予想の内、まだ肝心なことがわかってない。

 

「そいつは失礼した。たしかに、覚えること自体はそこまで苦労しないかもな。お前の言うことも一理ある。やっぱり賢いじゃないか」

「でしょっ! んもう、人が悪いんだからー」

「でもな、お前何か勘違いしていないか? 本当に大変なのはなんなのかわかっているのか? たしかに覚える量は案外知れているが、お前はそれをどうやって知るつもりだ? どこかの本に書いてあるのか?」

 

 サーッと顔から血の気が引いた。気づいたな。

 

「っっ!! そうだったわ! そもそもこんな分類ないんだから、知りようがない! じゃあ、ほんとに経験を積みながら何となくこうだろうという感覚を身につけるしかないの? さすがに技とポケモンの組み合わせってなったら膨大過ぎる。あっ、だから誰も使わない……いいえ違う、調べようがないからわからないのね。そもそも技に2種類あるという前提が鬼門。攻撃技は1種類という偏見があると靄がかかって、ケースごとにあのとき同じ技はよく効いた、というような経験則しか得られない! ウソでしょ、こんなのわかりっこないじゃない!」

 

 そう、だからこの世界じゃ物理と特殊の違いの認識はない。もちろん今やってみせたように簡単な実験はできる。しかし、肝心の測定手段がない以上どうしても経験則の域を超えられない。種族値や個体値も同様だ。しかも努力値は荒唐無稽だから、仮説を立てることも厳しいだろう。相性特性種族値個体値、複雑に絡まり過ぎてこの糸は誰にも解けない。

 

 ゲームじゃ当たり前に知られている相性の倍率だって、きっちり2倍ということは知られていない。ケース毎に効き具合が違うように見えるからだ。イワークに“かわらわり”はあまり効かないがラッキーにはかなり効く。同じ「こうかはばつぐんだ」であっても倍率が1.1と10ぐらいで変わっているように見えて誤解すると、今度は種族値も誤解することになる。

 

 結局、考える拠り所、たしかな足場が用意されて、実験を行うための測定技術が生まれないと、ポケモンの研究は進まない。最前線のトッププレイヤーは、効率よくレベルを上げることと、効果的な技の使い方の研究に没頭しているらしいし、向こう100年ぐらい進歩はなさそうだな。

 

 実際、リーグというのはレベルの高いポケモンが正義という風潮がある。それを否定する気はない。チャンピオンというのは負けが許されない。なら、必ず勝つには相手より強力なポケモンで圧勝しないといけない。急所一発痺れ一回で負けるような接戦をした時点で負け。ならレベルを徹底的に上げることが1番の解決策になる。だから同じレベルでも強く育つ方法など論じる価値もない。そんな暇があるならレベルを上げろとなるわけだ。だから何も進まない。

 

 使うポケモンも分かりやすい強さが求められ、技もいかに威力の高い技を覚えるかに注力される。“しんかのきせき”で悪魔と化したラッキーも、パルシェンを本気にさせてしまった“からをやぶる”の恐ろしさも、ここの住人は知らない。もっとも、それが幸か不幸かはわからないがな。

 

「ブルー、座学は3人で1番だったというのはウソじゃなさそうだ。よくわかっているじゃないか?」

「……シショー、あなたはわかっているのよね? 今見せたあの2匹についてだけわかっているわけじゃない。ジム戦も依頼も、攻撃はよく効いていた。しかも、あの依頼に至ってはこの地方のポケモンじゃないわ。あのときの魔法の一部が今垣間見えた。バトルの指示の1つ1つに、膨大な知識が背景として存在しているのね。どうやってそんな……こんなの一生かかっても調べきれるかどうか。本当に可能なの? シショーはいったいどうやって……」

「ブルー!!」

「っ!」

 

 言えば言うほど墓穴だな。ここまで頭が回るとごまかしきれない。強引だが話を変えるか。俺のことには触れさせないように。

 

「約束……だったな。詮索はしないと。結論から言えば俺は全国のポケモンの有名どころの能力の傾向は把握している。ただし、正確にはわからない、当然な。だから俺はポケモンを見たり捕まえたりする度にそのデータを採ってパソコンにデータをまとめている。普通はポケモンを見ても能力が高いか低いかなんてわからないが俺はわかるんだよ。原因は俺ですらわからないが。だから能力の傾向を覚えてその隙を突くような芸当できるのは世界で唯一人俺だけということだ。どうだ、すごいだろ?」

 

 わざと茶化して言ったが、ブルーの耳には冗談には聞こえなかったのかいつもと比べて真剣な表情。むしろこんな顔初めて見るな。さすがにいきなりサービスし過ぎたか。これは加減が難しいな。ブルーは黙ったまま考え込んでいるのか反応がないし、先に進めるか。

 

「ブルー、技の説明はもういいだろ。おいおい技の種類と、ブルーの手持ちの能力ぐらいは教えてやる。その前に先に、というより最初にお前にはやってもらうことがある。そのためにこんなとこまで来たんだからな」

「最初にここでやること……バトルの話とか?」

「いい線いってるが違う。ポケモンをどう育てるか、についてだ。まず育てることからしないとバトルもクソもないからな。面倒だから結論だけ簡潔にいう。細かいことが気になるなら自分でなんとかしろ」

「えーっ! 何よそれ、雑過ぎない? 1番大事なことじゃないの? ポケモンのことならなおさらちゃんと教えてほしい!」

 

 ポケモンを大事にしているからこその発言だな。気持ちはわかるがどうしようもないしなぁ。なんせ説明できないから。努力値は本当に意味不明過ぎる。現実的な解釈が不可能なレベル。

 

 一度振ったら固定され、能力の伸びしろには制限。お薬で増やせる。きのみで減る。……やっぱり意味わかんねーよ。筋トレはしたらいくらでも伸びるし、腹筋鍛え過ぎて背筋を鍛えられなくなったりしない。でもサボれば筋力は落ちる。きのみ食って筋力落ちたりしない。ドーピングはできるけど。一番おかしいのは増える条件が野生ポケモンとの戦闘ということか。なぜか相手の得意な能力が上がるし。防御高いの倒したら攻撃上がれよ。……まあそれは置いといて。

 

「ん? お前、連れていくだけでもいいとか言ってなかったっけ? これでもサービスし過ぎだと思っているんだが」

「うぐっ、そ、それはその……」

 

 ブルーには悪いが強引に行くしかない。なんせ言えるわけないんだ。このリアルで、現実の中で、努力値なんていう意味不明な概念がある、などというのは狂人の妄言。個体値、種族値はまだ説明がつくが、一度振ったら以後変わらず、なぜか上限があり、トレーナーしか伸ばせない謎のパラメーターなんておかしい。ブルーなら信じそうだが、それが他の奴の耳に入ることになればかなりヤバイことになるのは想像に難くない。だが、どう説得するか……。

 

「はぁ~。ブルー、これは別に意地悪で言ってるわけじゃないんだ。わかってくれ」

「えっ、どういうこと?」

 

  その顔は単なる嫌がらせと思っていましたってツラだな。微妙に失礼な奴だな。

 

「今、お前の目標はなんだ? 直接はっきり聞いたことはないが、おそらくあの2人に追いつくことじゃないのか?」

「!」

 

 何も言わないことが肯定の証。そのまま話を続けた。

 

「そして、そのためには……とてつもない速さでどんどん前に進んでいくあいつらに追いつくには、自分はもっと早く前に進むしかない。そういう思いがブルーを前へ前へと駆り立てている。見てりゃわかる。だから、俺もそれを手伝ってやりたいんだ。だから……」

「そのためにはいちいち説明する暇がないってこと?」

 

 仰々しく頷いてみせ、さらに話を続けた。半分ウソでごまかしているような状態だが、ここまで言われたら疑わないだろう。

 

「いちいち仕組みを説明するのは難しいし、理解しがたいこともあるだろう。別にお前を侮っているわけじゃない。むしろ、わかるとすればお前しか……いや、何でもない。とにかく、すぐに最善の結果を求めるなら、今は黙って俺の言うことを聞いてもらうしかない。わかってくれ。先日の依頼の件も、訳も分からずついてきただろうが、結果的にレベルが上がり、最短で結果はついてきただろ? とにかく今はすぐに強くなれるようにやるべきことを教えてやる。その上で知るべきことは惜しまず教えてやる。絶対俺が目指す理想のトレーナーになれるように手ほどきしてやるから信じていてくれ」

 

 正直なところ、“いや、なんでもない”とか実際に言ってみると恥かしさで悶絶しそうだし、演技下手過ぎ!と心の中で自分に叫んでいたが、驚くべきことにブルーには効果てきめんだった。

 

「そこまでわたしのことを……。じゃあ、弟子入りしてすぐのあの時から、そのことをわかっていて、わたしのためにレベル上げをさせたのね。最初からあいつらを追いかけていたわたしの考えはお見通しだったんだ。ずっとわたしのために考えてくれていたんだ……シショー!」

 

 顔を上げてまた抱き着いてきた。ものすごくキラキラした目でこっちを見ている。だいぶいい方向に解釈してくれたみたいだ。けどあの時は単に、ブルーのポテンシャルの高さを考慮して行けそうな気がしたからついでにレベル上げさせとくか、程度のノリだったんだよな。色々考えたりもしているが基本的には即断即決だった。口に出してそんなこと言ったらややこしいことになるし黙っとこう。知らぬが仏ってやつだ。

 

「ま、まぁそういうことだ」

「ありがとシショー。なんだかんだ最後には結局優しいのがシショーよね。でも、そこまで言われると、さすがにちょっとプレッシャーかも」

 

 顔をうずめながら少しおどけた雰囲気でそう言うが、実際には結構マジなのか、つかんでいる手が震えている。わかりやすいなぁ。

 

「心配するな。お前には才能だけはあるんだから、本当にダメだったら全部俺の責任だ。もしチャンピオンになれなくてもお前は悪くないし、いらんことで気を病む必要なんてない」

「ちょっと、シッショーッ! 褒め過ぎよっ。んもうっ、ズルイんだから……わかったわよ。もう教えてくれとか文句言ったりしないわ。シショーはわたしのシショーだもんね」

 

 パッと離れて後ろを向いて、背中で手を組みながら言うブルーの仕草からは照れ隠ししているのがまるわかりだった。褒め殺しされていることには気づいているみたいだが、それでも照れてしまうものらしい。簡単に抱き着いてくるところといい、子供っぽいけどそこがかわいい。

 

「理解してくれたようで助かる。じゃ、さっそく始めようか。ポケモン育成其の一、努力値振りを!」

「ええ、やってやるわ! まずどうすればいいの? なんでも言ってちょうだい」

「じゃ……まずは200万ほど金を出してもらおうか」

「よっし、わかったわ、200万ぐらいすぐに……うえっっ?! えぇーー?!」

 

 キラキラした瞳は一瞬で消え去り、ブルーの絶叫がこだました。このリアクション、なかなか筋がよろしい。ジョウトでも通用する……というのはふざけ過ぎか。

 

「実は、今からやることには莫大なお金がかかる。とあるきのみと、ドーピングアイテムのタウリンとかを1体につき50ずつ程。各々ひとつ10,000円ってところだ」

「え、マジなの!? 結論だけってたしかに言ったけどさぁ、お金だけ出せってそれ簡潔過ぎよ! これ詐欺じゃないの!? だいたいそんなお金あるわけないじゃない! まさかこれから依頼こなしてわたしに稼げっていうのぉ?! はぁ、なんか別の方法ないのー?」

「きのみは絶対必須だが、ドーピングは使わない手もある。その代わりお前が今までこなしたポケモンとの戦闘回数以上の戦闘を今からこなすことになるが、そんな悠長なことをするつもりか?」

 

 さすがに苦虫を噛み潰したような顔になり、うんうん唸った後、今度は怒りだした。

 

「ぐうう! でも、だからって依頼でお金稼ぐのも変わらないじゃない! どうしろってのよ!」

 

 そこで精一杯のスマイルでかねてから考えていた提案をした。

 

「フッ、安心しろ。金を出せと言ったのは冗談だ。今すぐお前が用意できないのは重々承知。急いでいるのもわかる。幸いなことに俺にはかなり資産がある。だから立て替えてやるよ」

「えっ、シショーがくれるの! やったやった!」

「おまっ、違うわ! 立て替えだ、た・て・か・え! 当然借金に決まってるだろ。なんとしても強くなりたいブルーさんなら、当然手段は選ばない。……だよな?」

 

 ニッコリスマイルで言うとブルーはさっき文句を言わないと言った舌の根も乾かないうちにブーブー言い出した。

 

「借金って、わたしのこと経済的に殺す気?! 信じるとは言ったけどさすがにこれは露骨に悪どいわよ! ほんとに金取るの!?」

「まぁ待て。慌てるな慌てるな。お前が文無しなのは俺が1番よくわかってる。だから、そう、出世払い。お前がマスターランクになって仕事もできれば200万ぐらいすぐだ。その時に全て払ってもらう。まぁ余裕があれば少しでも旅の間に返済して欲しいところだが、そうもいかんだろうし、無理はさせたくない。全て将来まで待ってやる」

「そんな、でもっ」

「安心しろ、大丈夫利子は取らない。値段もまとめて買って普通よりは安く仕入れてるし、きのみの方はよく見ると50個もいらなさそうだ。実際には200万もいかない。ちょっと脅かしただけだ」

「そんなことじゃないわよ。もう腹は括ったわ。シショーが必要というならもう疑ったりしないわよ。なんか今までのこと全部この大金をふんだくるための罠だったみたいに見えなくもないけど、そんな性格じゃないのはわかってる。タウリンが10,000円ぐらいだったのは知ってるし、そのきのみも特別なものなんだってわかる。でもね、もしも、もしもよ? わたしが全然ダメで、そんなお金返せなかったらどうするのよ。絶対なんて保障ないじゃないっ。違う?」

 

 こいつ信じたのか。俺ならこんな胡散臭い話絶対信じないし、こいつの言うように今までの全てがこのぼったくりのための伏線に見えただろうが、ほんとに掛け値なしに俺を信じてくれているな。その期待には応えてやろうかね。

 

「その通り、絶対なんてことはない。じゃ、もしお前が出世しなかったら、その金はチャラにしてやるよ。これなら安心だろ?」

「えっ、チャラ!? タダってこと!? そんなあっさり決めていいの!?」

「さっきも言っただろ。ブルーは絶対強くなれる。それが俺の見立て。もしダメなら俺の教え方が悪かったとしか思えない。なら、お金はそのツケだ。構わない」

「ほ、本気で言ってたのっ! わたしを励ましてたんじゃ……」

「てっきり嬉しくて照れているのかと思っていたが、案外信じてなかったのか? 女は見かけによらないもんだな。怖い怖い」

 

 おどけて言うが、ブルーは真剣そのものな表情で問い返してきた。

 

「それはっ、だってそうでしょっ! 本気で真に受けたりするわけないじゃないっ! でも、それじゃほんとにほんとなの?」

「バカだなぁ。俺がつまらん世辞を言うような人間に見えるのか? 意図的に褒めた部分はたしかにあるが、思ってもないことを言ったりはしない。ダメなところははっきりダメと言うし、いいところははっきりいいと言ってやる。俺はそういう性格だ」

「シショー……」

 

 こいつは変に賢い分わかりやすく言葉にして伝えておかないと変なところで曲解しかねないな。言葉の裏を読み合う駆け引きはキライじゃないが、教えるときは邪魔なだけだ。

 

「ん、どうした、顔が赤くないか?」

 

 蛇足なのはわかっているがこの顔を見るとちょっといじめたくなる。

 

「気のせいでしょ……変なこと言ってないで、早く育成其の一のなんとかっていうのをやりましょうよ……何よーっ、その顔はーっ!」

 

 照れてるなー。3人組の中でもいじられキャラだったに違いない。この反応は絶対にいじめたくなる。

 

「わかったわかった。まずはきのみから始めよう」

 

 努力値振りは順調に進み、同時に俺がきのみをあげることで2体から悪の大魔王のように思われていたのをなついていると言えるところまで持ち直すことにも成功した。このきのみはなつき具合を上げる効果もあるからな。……作戦通り。

 

 ちなみに草むらに来たのは努力値の端数を戦闘で稼ぐため。節約だ。ちょっとだけバトルさせたことにブルーは訝しげだったが黙殺した。その後も技のことやらを色々教え、あっという間に夜になった。

 

「ぷはー、トレーニング後の一杯は格別ねー。これホントサイコー!」

「ブルー、お前はおっさんか。あー、お前また溢して! 服も顔も汚し放題……だらしないなぁ。いい加減なんとかしろよ。ほらこっち向け、顔拭いてやるから」

「ちょっともうっ! やめてよ! そんなの自分で拭くから! 恥ずかしいでしょ!」

「そう言ってずっとほったらかしだよな。そもそも自炊も片付けもできないし、自分のことなんもできないじゃないか。だから何から何まで面倒見てやってるんだろ」

「そ、それは言いっこなしでしょ!」

「お前自分が言ったことなんも覚えてないのな。雑用でもなんでもするって言ってたから信用して任せてみればてんでダメ。むしろ尻拭いさせられて余計手間がかかった。お前が何もできないもんだから、結局逆に俺が面倒見る羽目になるし、よくそれで両親は旅に出してくれたな」

「うぐぐ……シショーの意地悪ー!」

 

 そういって空になったグラスを机に置いて先にブルーは部屋に戻っていった。ここはポケセン内のレストラン。ここも仮手帳で使えるようになり、手帳の有難みを実感していた。

 

 これで、もうさしあたって大きな障害はない。ロケット団は首を突っ込まなきゃそのうち勝手に消えるだろうし、ブルーの扱いも慣れてきた。手のかかる奴だが、その成長ぶりは見ていて楽しいし、案外弟子がいるのも悪くないと思い始めていた。ブルーが年下だからポケモンの世話をする感覚で楽しいからな。こっちの世界に来るまで、まさかこんなになにかを育てたりものを教えたりするのが性に合うとは思わなかったが、人生何があるかわからない。

 

「そんじゃ、俺も部屋に戻るとするか」

 

 これからの旅のルート決め、新しくわかったデータのまとめ、道具の整理、やることはいくらでもある。グレンたちのけづくろいもしないと。部屋で忙しく作業をしていると誰かがドアをノックした。出てみるとそこにいたのは……。

 

「ストーカー!」

「しっつれいね、ストーカーじゃないって何回も言ったでしょ! 絶対違うわよ!」

「で、なんの用?」

「流さないでよ! フン、やっぱり気が変わった。かえるー!」

「冷やかしかよ。お前もけづくろいでもしてやったらどうだ? こんなことしている暇があるならさ。けっこう喜ぶぞ、ポケモンは」

「……ふーん、そうなの。じゃあそれ教えてー」

 

 軽く教えるつもりがブルーの絶妙な合いの手で結局長くしゃべることになり、日付をまたごうかという時間になった。

 

「なんかこうしてると林間学校とか思い出すな。よく友達とこんな風に駄弁ったりしてたなぁ」

「友達かぁ……」

「なんか言ったか?」

「別に。もう遅くなったから戻るわね。……ねぇ、さっきはごめんね。わたしついあんなこと」

「ん?……さっきって晩飯の時か? 別に気にしてないし、今日は楽しかった。しゃべりたければいつでも来いよ。ポケモンのことでもなんでも教えてやるから」

「シショー……! うん、絶対また来るから」

 

 そう言い残して笑顔で出ていった。さっぱりしているなぁ。会ったときとは印象が違う気がする。まさか狙ってやって……ま、そんなわけないな。あのブルーだし。

 




ポケモンの研究が現実になった世界でどれぐらい進んでるかというのは大事なポイントになると思います
色々考えましたが、やはり実験が難しいのはかなり痛手だと考えました
数学はともかく、自然科学はトライアンドエラーで進歩するものですしポケモンもそんなに変わらないでしょう

きのみがやたら高いですがホウエン地方限定なので輸送費やらで高くなってる、元々高級きのみ、などの理由です、両方ゲームにない設定ですが
ホウエンに行けば安く手に入りそうです


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2.やっぱり強いのカオスイリュージョン

英語は雰囲気で適当に書いたのでおかしいのはスルーでお願いします
わからない単語はググりましょうね、カオスとかイリュージョンとか

途中ブルーに視点変更して一人称が変わるところがあります
見たらわかるでしょうが一応ご注意を
一人称チェンジは今後ちょくちょく出てきます


 翌日、俺は約束の手帳を取りにポケセンへ向かった。どうにも気になるらしくブルーも一緒にいる。我慢できず、とうとうブルーが何をもらうのか聞いてきた。

 

「ねー、教えてくれてもいいじゃない」

「大したもんじゃない。それにお前はもう持っている。お前の想像しているようなものじゃない」

「え、そうなの? わたしが持っていてシショーが欲しいものなんてあるかしら……なぞなぞみたいね」

「レインさん、おはようございます。例の物はこちらに」

 

 ブルーがいらんことを考え始めたところにちょうどジョーイが声を掛けてくれたので上手く流せた。

 

「ジョーイさんおはよう。たしかに受け取った。それじゃ、俺達は次の町へ行く。世話になったな」

 

 最初は目ん玉節穴とか散々悪態をついていたが、事件後の働きぶりでかなり見直した。

 

「次はハナダの方へ行くんですか? 途中にはおつきみやまという難所があるので準備はしっかりした方がいいですよ」

 

 ブルーもなぞなぞの方は関心を失ったらしい。話に乗っかってきた。

 

「いや、シショーはそっちから来たからそれはないんじゃないの。たぶんトキワ……でも今はジムリーダーが留守で、グレン島まで行かないとジムはないわよ。どうするの?」

「ブルー、よくわかっているな。けど外れだ。どっちにも行かない。行先は決まっている。トキワはリーグへ行く最終地点だからハナッから最後に回すつもりだったし、来た道を戻る気もない。一筆書きでカントー地方を回るつもりだからな」

「でも、前も後ろも行かないなんて、いくらなんでも無理なんじゃ……」

「なるほど、ディグダのあなを使うんですね! それならいいことを教えてあげますよ。あそこには乗り板というものがあるんです。それで……」

 

 ◆

 

 ジョーイから有益な情報を得て、その場所に向かった。ブルーは初めて知ったらしく、地元の人間でも知るものは多くないらしい。旅人の話をよく聞くジョーイは知っていたが、逆に俺が知っていることに感心していた。そして俺の知識とも少し違うところがあった。乗り板だ。

 

「ほんとにこんなところにそのなんとかっていうのがあるの? 周りには木しかないけど」

「この辺にあるのは間違いない。ん? なるほど、こっちか」

 

 ディグダを見つけた。俺のサーチの範囲は視界の範囲に加え、障害物を超えて50M程あるのは今までの経験と実験からわかっている。ポケモンが見つかれば洞窟も見つけられるっていう寸法で、見事目的地に辿り着いた。

 

「すっごーい! ホントにあった!」

「俺が先に降りるから、後からついてこいよ」

「あっ、ダメよ! わたしが先に降りる! シショーは待ってて」

「お前が先? 大丈夫か? ドジって落っこちたりするなよ?」

「だ、大丈夫よ、これぐらい。うわっ!」

 

 降り始めてすぐ、はしごから足を踏み外して見事に落下。地面まではまだ高さがある。前もってそんな気がしていた俺は即座に落下地点へグレンを出した。

 

「ガウ!」

「受け止めてあげて」

 

 見事にブルーをキャッチ。危なっかしいな。運動神経はいいのにドジッ子だな。俺も後に続いて下に降りた。

 

「た、たすかった……」

「よっと。ったく、おっちょこちょいのくせに無理するな」

「ううっ、バカー! だって、わたしが後で降りたら下から見えちゃうじゃない!」

 

 そういってスカートを抑えるのを見てようやく合点がいった。そんなことするわけないだろ……でもさすがに不安にもなるか。

 

「そういうことか。それならそう言え、というのは無神経過ぎるか。悪い悪い」

「なんでもわかるのになんでこういうことは気づかないのよ! ホントにもうっ」

 

 本気で怒ってるなぁ。これは一応謝った方がいいか。

 

「そういうなよ。本当に反省してるから。じゃあ、ここを出たらなんかおごって…」

「よーし、さっさとこんなところ抜けちゃうわよー!」

 

 調子のいい奴だな。女の子らしいところもあると思ったらこれだからな。

 

「さて、これが乗り板か。たしか話じゃ、ここのポケモンはきのみをやればそれに応じて俺達を運んでくれるって言ってたが、どうやってやるんだ?」

「とりあえず進みましょう。これ持って進んでいけば何か……きゃっ!」

「戦闘かっ! いや、そうか、これを持って進むと出てくるのか。じゃ、これを渡せば」

 

 乗り板はけっこうスペースがある。途中で落ちることはまずないだろう。これなら大丈夫か。ザロクなどの高級きのみを渡すといきなり俺達を乗り板に担いで、凄まじいスピードで進み始めた。

 

「ヤバイ! すぐに何かにつかま……うげっ!」

「あっごめん。思わず首つかんじゃった、テヘ」

「ゲホゲホッ! てんめぇ……覚えてろよ?」

「わたし忘れっぽいからすぐに忘れるわ」

 

 二度とブルーとポケモンには乗らないと決めた瞬間だった。木の実のおかげかあっという間に反対側に着き、1日かかると聞いていたのが半日もしないうちに着いてしまった。揺れも最初以外は思ったよりは少なく、少しブルーに種族値の話などをして時間を潰していた程だ。洞窟を出た後は本当にデザートをおごらされ、ブルーは好き放題食い散らかした。

 

「どうりでディグダってあんなに速いんだ。でも体力はないから次々代わっていくと。ディグダのことはもう絶対に忘れないわね」

「それはけっこうだが、お前……どれだけ食べれば気が済むんだ? おごりだから食べれる時に食べとこうとか思ってないか?」

「な、何を言っているのかわたしにはさっぱり……」

「しょーがない奴だな。それだけ食い意地張ってるのに、よくその体型を維持できるな。不思議だ」

「えへ、わたしって昔っからあんまり太らないのよ。すごいでしょ?」

 

 あ、こいつ体質だとか言ってかなり油断しているな。代謝の激しい子供のうちはいいが、年を重ねるごとに……見物だな。

 

「ほう、そうか。じゃ、油断しているといきなり太りだす可能性はあるな。これは見物だ。楽しみにしておこう」

「ちょっと、変なこと言わないでよね! わたしは成長期だからたくさん食べてもいいんですよーだ」

「はいはい。せいぜい今のうちに英気を養っておけ。この後時間があるからすぐにジム戦に行くからな」

 

 それを聞いていきなりブルーが食べていたものを俺の方へ飛ばしてきた。

 

「ぶはっ! 聞いてないわよ!」

「汚い! 口にもの入れたまま大声でしゃべるな! 行儀悪いなぁ。ジム戦行くのは今言ったからいいだろ。あと、楽な勝負になるとは思うなよ? もうレベルは30近い。ランク2じゃ勝てて当然。経験値的にもおいしくない。お前はこれからずっとランク7と勝負してもらう」

 

 すると今度はちゃんと飲み込んでから言った。

 

「ばっ、んっ、バカ言わないでよ! そんなのいきなり勝てるわけないじゃない! レベルが高いのが救いだったのに相手が自分よりレベルが上だったら勝てっこないでしょ! それに、まだバトルのことは何にも教えてもらってないわよ! あっ、もしかして何か秘策みたいなのがあるのね! それならそうと最初から……」

「甘えんな!」

「えっ!」

 

 ブルーは何も分かっていないらしい。これからのことも思えばここではっきり言っておかないといけない。

 

「お前勘違いしているな。俺はな、何でもかんでも一々手取り足取り教えたりしない。あくまで今までのは補助輪。先を急ぐだろうし、お前だけじゃどうしようもない部分だから、仕方なく結論を先に教えただけ。これからは自分で強くなれ。そもそもジムというのはな、トレーナーが成長するための試練なんだ。楽をして勝とうとするな。甘えた考えは捨てろ。厳しいようだが、これからも旅の試練は自力で乗り越えろ。おんぶにだっこじゃ、いずれすぐに頭打ちになるのは明白だ」

「それは、そうかもしれないけど……でもわたしはシショーとは違う……そんな怒らなくてもいいじゃない……わたしはシショーに教えてもらうのが嬉しかっただけなのに……」

 

 急に涙目になり戸惑ってしまった。別に今のはそんなに強く言ったつもりはなかったけど言い方がきつ過ぎたのだろうか。暴走族とかには常にこれぐらいだったんだが。いや、この年頃だと年齢が少し違うだけでも年上を大きく感じるし、威圧感があったのかもしれない。すぐに反対の席に回って涙を拭いて慰めてあげた。

 

「あー、いや、ごめん、別に怒ってるわけじゃないから。ブルーには1人で頑張ってもらいたいと思って、その方が将来的にはブルーのためになるからさ。言ってることわかるな?」

「うん」

「ブルーは賢い子だな。それじゃ、今回は仕方ないからランク5ぐらいから始めよう。ちょっと温過ぎるけど、いきなり無理させるのもよくないな。あと、わざわざ格上を倒すのはもっと別の意味もあるんだ。ブルー、ボスゴドラ事件のときなんであんなに急にレベルが上がったか考えたか? あれは格上との戦闘をかなりこなしたからだ」

「ほんとに? でもわたしの方は大して戦ってないような」

「それでも上がった。つまりそれだけ格上を倒す経験値は大きい。だから俺はそれに拘る。ブルーもこの勝負に勝てば一段高みに近づけるだろう」

 

 本当のカラクリは少し違う。経験値は倒れたポケモンの周りにいるポケモンに均等に分散される。実験で検証済みだ。だから近くにいただけでも敵を倒しまくったアカサビと同じぐらい経験値を得られた。敵を引き付けるように、つまり離れないように指示をしていたのもそのためだ。ブルーに説明してやることはないけどな。

 

「わかった。ランク5ならなんとかなりそうだし、頑張ってみる」

「ま、期待せずに見ててやるよ。だから気楽に行け。大事なのは勝ち負けより全力を尽くすこと。使えるものは何でも使ってな」

 

 ジム戦の話を聞いて食欲が失せたのか、その後すぐにジムへ向かった。ちょっと食べ物が喉を通らないところは見ていて申し訳なく思った。意外とブルーはおくびょうというか、メンタルが弱いところがあるらしい。一心不乱になると意地でもやり通す根性があるんだがなぁ。これからは注意しよう。

 

 看板はどうだ? イナズマアメリカン、か。そういやそんな感じだったな。手持ちはライチュウとかだったな。今回はアカサビはお休みか。あとは順番。ライチュウは後に来そうだし、そこにイナズマをあてたいから……決まりだな。作戦会議終わり。ブルーの方はもっと悩むだろうな。

 

「こんにちはー、ジム戦に来たんですが誰かいませんかー?」

「あん? ぼうやがチャレンジャー? こりゃまたずいぶんちっこいのが来たね」

「この人がジムリーダーなの? なんか中の雰囲気といいギャングのアジトって感じなんだけど。この人もヤンキーっぽいし」

 

 そもそも俺は身長低くないんだけど。子供だって言いたかったのか?

 

「おや、もう一人お嬢ちゃんもいたのかい。安心しな。あたしはただの見習いだよ。ただし、うちのボスはもっとおっかないけどね」

「ひいい!」

「おい、あんた。あんまりこいつを脅かさないでくれ。たしかに見た目は怖そうに見えるが、マチスは軍人、ギャングみたいなことはしないだろ?」

「あら、よく知ってるね。今のは軽い歓迎のあいさつみたいなもんさ。受付なんてつまんない仕事をしているあたしの唯一の楽しみなんだ。多めに見な」

「趣味の悪い楽しみだな」

 

 ここってわざとそういう雰囲気作っていたのか。意外な発見に事欠かないな、この世界は。

 

「なんだ、脅かしてただけなのね、よかった」

「Oh,boy and girl,welcome to Vermilion gym!  歓迎するぜ」

「ひいい! めっちゃいかつい人きたー! シショー、話が違うじゃない!」

「話聞いてたか? この人は元米軍兵士。喧嘩ならギャングみたいなゴロツキより強いに決まってるだろ。何聞いてたんだ?」

「うっそー!」

 

 俺がびっくりしたぞ。こいつ普段は話半分に聞き流しているみたいだな。

 

「ヘイ、ユー! ジム戦だろ? どっちから始めるんだ? それとも、いまからシッポをまいてかえるかい、ボーイ?」

 

 それあんたじゃなくてドラゴン使いの奴のセリフだろ。別にいいけどさ。

 

「冗談よせよ。戦場で敵に背を向けて逃げる奴がいるか? 後ろから射殺されるのがオチだ。俺もこいつも逃げも隠れもしない。まずは俺からだ。楽しませてくれよ?」

「威勢のいいボーイだ。オーケー、すぐに準備しよう。ブツを出しな」

 

 ブツ……トレーナーカードのことなんだろうな。そんなところまで、芸が細かいな。

 

「ランクだが、俺は7を希望する。いいだろ?」

「Why? ミーのポケモンはベリーストロング! 戦場においてはネバールーズ! ランクを上げてミーに戦いを挑むなんてユーは身の程知らず。ユーはミーのこと舐めてないか?」

「前のジムでもランク7に勝てたからな。単なる自信過剰ではなく、根拠のある勝負をしてるのさ。なるだけ強いポケモンと戦って経験を積みたいんでな」

「Strange。エキセントリックなボーイだがまあいいだろう。その言葉を信じてやろう。ユーも敵のソルジャーみたくビリビリシビレさせるぜ! Go ahead! リングへ上がれ」

「そう来ないとな。ブルー、お前は向こうで見てろ」

「う、うん」

「ルールの確認だ。お互い2匹ずつ、チェンジはユーだけ。オーケー?」

「わかった。さあ始めようぜ」

 

 今回は分析能力なしでやってみるか。自分の知識を頼りに戦う方法をあいつに見せてやるためにな。チラッとブルーを見た後、ボールを構えた。バトル開始!

 

 マチスはまずエレブーを出してきた。こっちはグレン。エレブーなら両刀もありえるし能力は読みにくい。いきなりめんどいのが来たな。アナライズを使ういつもなら苦労しないんだが……。

 

「10まんボルト!」

「かえんほうしゃ」

 

 技名もわかりやすく言うことにした。今回だけだが。技は相殺。特攻は同じ程度か。かといって特性が“せいでんき”だからうかつには近づけない。しばらく遠距離で様子見か。

 

「ひかりのかべ」

「壁張り……! こうそくいどう」

 

 交代でもいいが、劣勢でもないしグレンでゆっくり料理しよう。

 

「スピードスター」

「おにび」

 

 まずはやけど。不一致の“スピードスター”は当たるがダメージは小さい。

 

「避けられないならせめてやけどに、ということか。ならでんじは」

「攻撃範囲が広いな。まもる」

 

 なんとか凌ぐが“まもる”後の隙を狙って“かみなりパンチ”を打ってきた。ここでってことは得意技か。物理が本命とみた。早めにやけどにしたのは正解だったな。やけどだと攻撃力が半減することは正確には知られていない。物理と特殊の区別がないから当然だが。それが効いている。

 

 “かみなりパンチ”がメインならやはり壁は近距離戦闘へ誘う罠。“しんそく”で距離を取って“しんそく”の反動の間にすかさず“みがわり”を張った。相手は突然の“しんそく”に驚いて追撃はない。距離も十分空けているしな。その後も避け続け、“でんじは”が来たところで攻勢に出た。

 

「効果がない、Why?」

「そんなことより、そろそろ時間だぜ?」

「時間? Oh,My God! ひかりのかべが!」

「オーバーヒート!」

 

 直撃。しかしこれを耐えられてしまう。が、まだ“みがわり”はある。まひは怖いが“かえんぐるま”で強引に追撃。“かみなりパンチ”を受けるが今度こそ仕留めた。まひもない。

 

「やられたか。攻め際と引き際の判断がいいな。レベルで勝る相手にこのエレブーが負けるとは。Great。ところで、ひかりのかべの効果は知っているのか?」

 

 この世界での壁の認識は気になって効果を調べたが単に“ひかりのかべ”なら遠距離技が半減、と説明されてた。そういう雑な認識らしいから、それに合わせて言っておく。

 

「無論知っているが、あれは誘ってんだろ? おそらくそいつの得意技は使うタイミングを見る限りかみなりパンチ。その壁で遠距離技を封じ、自分の間合いに誘い込みつつ、あわよくば特性のせいでんきでまひも狙う。そういう戦略だろ?」

「HAHAHA! そこまでバレているとは、恐れ入った。大言を吐くだけのことはあるぜ。だが次はそう簡単にはいかない、ミーのFavorite,Go,ライチュウ!」

「やっぱりそいつか。こっちはこいつだ! いけ、イナズマ!」

「サンダースか、まさかでんきポケモン勝負をこのライチュウに挑むとは。まったく生意気な奴だ。面白い、受けてやるぜ」

 

 粋に思ってくれるのはいいが、自分の技が殆ど通らないのに気づいているのか? “ちくでん”はライチュウにはガン刺さりする。どうくる?

 

「でんこうせっか」

「あくび」

 

 ダメージは負うが“あくび”が入った。ラス1催眠の恐ろしさを思い知れ! まぁ相手はラス1でなくっても交換できないんだが。時間を稼いだ後、ライチュウはぐっすりおやすみ。イナズマは“こうそくいどう”の後“めざめるパワー”の連打。あとは圧倒的な素早さでかき回して起きてからも攻撃を掠らせもせずに勝利した。

 

「……ユーは恐ろしいトレーナーだ。こんな方法でやられるとは」

「何言ってる。戦争で正々堂々真っ向勝負をするなんてバカのやること。いかに相手が行動できないようにするかがバトルの基本だろ?」

「わかる、言うことはわかるが釈然としない。ジムを始めてそれなりになるがこんなに理不尽なバトルは初めてだ」

 

 うなだれるマチスに首を傾げているとブルーがやってきて……

 

「シショー……今のはないわ」

 

 ブルーにまでドン引きされた。

 

 ◆

 

 いよいよ、ね。わたしの番がきた。シショーがあんなことをしたおかげで気が抜けたけど、緊張もほぐれたかも。もしかしてそれも狙って……はないわね、あの顔だし。動けない敵をいたぶるのも楽しそうに……絶対にあれはS。シショーの言葉だと、Sに極振りね。

 ……もちろんイナズマちゃんの速さのことよ。

 

「こっちは準備OK。かかってきな、プアリトルガール?」

「むぅ! わたし、たしかに金欠気味だけど、貧しくはないわよ! しっつれいね! なめないでよね! 行くわよ! ピーちゃん!」

「……? Go,レアコイル!」

 

 レアコイル? 何これ、見たことない。でもやってやるわ。さっきはわたしが弱音を吐いたせいでシショーを失望させちゃっただろうから、絶対ここで挽回してやる!

 

「行くわよ、まずは速攻、つばさでうつ!」

 

  カキンッ!

 

 でもその攻撃は弾かれて、空中でバランスを崩してしまった。これはマズイ!

 

「でんげきは」

「避けて!」

 

 でもさすがピーちゃん、すぐに立て直してうまく躱した。

 

「今度はでんこうせっか……危ない!」

 

 攻撃しようとしたところで後ろから攻撃が当たり、驚く間もなく続けて“10まんボルト”が直撃。戦闘不能になってしまった。

 

「うそ、どういうことなの!」

「ユーはさっきのボーイと違ってまだ経験が浅いな。でんきポケモンの恐ろしさをわかってないらしいぜ」

「どういうことなの?」

「ユーが最初に避けたと思ったのは“でんげきは”。ミーの研究した最高の技だ。この技は放たれたら最後絶対に避けきれない。躱すのは最悪の指示だ。しかもレアコイルは“はがね”タイプを併せ持つカントー唯一のポケモン。ほとんどの技がこうかはいまひとつで、特にひこうタイプはほとんど効果がない」

「そんな! はがねタイプついてるのっ!? 反則よ! しかも絶対避けれないなんてどうしようもないじゃない!」

 

 このレアコイルってポケモン、めちゃくちゃ強いじゃない! わたしも欲しい!

 

「HAHAHA! 諦めるならいいぜ、とっとと帰んな。実力もないのにランク5に勝とうなんて諦めるんだな」

 

 くうう! 悔しいけど、今のわたしじゃやっぱり無理よ。

 

「諦めるなっ、ブルーッッ!!!」

 

 びくっと体が跳ねた。すごい大声、今のシショーよね。こんな大きな声も出すんだ。そんなイメージなかったからびっくりした。

 

「シショー?」

「お前なら勝てる。もっと自分とポケモンを信じろ。そんなんじゃ、一生何もできず逃げるだけで終わるぞ。負けてもいい。だから最後まであがいてみろ」

 

 そうだ、諦めたら終わり。しかもまだ万全のフーちゃんも残っている。わたしどうかしてた。もう一度目の前を見る。不敵な笑みを浮かべるジムリーダー。こんな奴、シショーに勝負をふっかけるのに比べれば全然マシ!

 

「いい面になったな。どこまでやれるか見てやるぜ」

「見てなさいよ! その余裕、すぐに剥ぎ取ってやるわ!」

 

 闘志を漲らせているとシショーから呆れた声でツッコミが来た。

 

「あのなぁ、ジムリーダーは試す立場だから余裕なのは当たり前だ。それより、お前はもっと頭を使え。今までなんのために俺にくっついてきたんだ? さっきまでお前は何をしてたんだ?」

 

 その言葉を聞いてはっとした。もしかして先に戦ったのはわたしのために倒し方を見せたのかも……よく考えたらトレーナー相手に技名をちゃんと言っているところは初めて見た。いつもは変な数字をむにゃむにゃ言うだけなのに。気まぐれかと思ったけど、あれがわたしのためだとしたら? そういえばニビでもシショーは色々しゃべっていた。その中にイナズマちゃんの話の中で、でんきポケモンの話をいろいろ言っていた!

 

 ぐるぐると回る思考。1対2だけど、まだやりようはあるわ。思考を終え、なんとなくあの人の方を向くと笑っていた。やっぱり合っていたんだ。その顔を見ただけなのに、不思議ともう負ける気はしなくなっていて、もう勝たなきゃダメっていうさっきまでの変な気負いなんかは全て忘れていた。

 

「待たせたわね。フーちゃんいくわよ!」

「フシッ!」

 

 元気よく出てきたフーちゃん。目を合わせただけでもう考えていることも伝わってくる。この勝負、暴れるわよ!

 

「バトル開始!」

「でんげきは」

「受け止めてしびれごな!」

 

 いきなり来たわね。でももう慌てない。何も避けるだけが全てじゃない。あえてわたしはそれを受け止めさせ、その後“しびれごな”を使った。

 

「レアコイル!」「ビビビッ」

 

 いきなりしびれてる! 今がチャンス!

 

「やどりぎのタネよ」

「しまった!」

 

 この技は当てるのが難しいけど、動けない敵なら簡単に当てれる。そして当てにくい分効果は強力。これで鉄壁の守りを崩す。

 

「エナジーボール」

「10まんボルト」

 

 相打ちか。でも、これでいい。時間が経てば経つほどわたしが有利。

 

「甘いぜ、でんじほう」

「それって、ヤバ! まもる!」

 

 緊急回避。この技はさすがに知っている。当たったら必ずまひしちゃう高威力のヤバイ技。もう1回来たら厳しい。“まもる”は連続では使えない。

 

「ビビビッ」

「ガッデム! よりによって今しびれるとは」

「ラッキーッ、エナジーボール!」

 

 直撃! こうかはいまひとつだけど“つばさでうつ”よりはだいぶ効いている。何倍も効いているわね。そうか、これが防御と特防の差ね。この技は特攻が高いフーちゃんのための技。ピーちゃんはすべて物理。ということはあいつは防御が高いのか。はがねタイプは物理防御が高いポケモンが多いのかも。Sランクのホウエンのポケモンもそうだったし。

 

「マグネットボム」

「周りを囲まれた! くう、エナジーボール、本体にぶつけて!」

 

 この技もなんか避けれないとかありそうだし、ダメージは痛いけど相手を削っておくべきね。シショーも無理なときは避けずに相手に技を当てたりしていた。ここもそう。もうあと一息。

 

「ビビー」

 

 しめたわっ! またしびれたわね。ほんとわたしってツいてる!

 

「ふふ、しびれたわね。フーちゃん、トドメよ! やっちゃいなさい!!」

「フシーッ!」

 

 直撃。予想通り限界だったようね。まずは1体目。でも安心できない。こっちは消耗しているし、相手のポケモン次第……。

 

「ナイスバトル、よくやった。が、勝ったことよりも次のポケモンが気になるようだな。どうやらうちのジムのしきたりを知らないらしい」

「どういうことよ。だいたい初めて挑戦するんだから当然でしょ!」

「なんだ、本当に下調べもなしでここに来てランクを上げたのか。とんだ命知らずだ。なら教えてやるぜ。ここではな、最後のポケモンは必ずあるポケモンを使うと決まっているのさ。もうわかるだろ?」

「ってことは最後のポケモンはさっきも出てきた……」

「そうだ、Go,ライチュウ」

 

 もう! 一度見たポケモンが出てくるのは嬉しいけど、さっきのバトルは眠らせてフルボッコにしてただけじゃない! 参考にならない。いや、それこそがライチュウの攻略法なの?

 

「先手はもらった。アイアンテール」

 

 キタ! ちょうど向こうから近づいてくる。やるなら今しかない。

 

「周りにとにかくねむりごなを出しまくって!」

「No way! また眠らせる気か! 戻れ!」

 

 ヤバイ、気づかれた。今逃げられて警戒されたらもう当てられない。

 

「思いっきり前に飛ばして!」

 

 お願い当たって。

 

「ライーzzz」

 

 当たった! 攻撃が中途半端になって動きが鈍ったからかえって当たりやすくなったのかも。普段なら上手くいかなかったかもしれないけど、さっきの今だから相手が焦ったわね。こうなればあとは……。

 

「エナジーボール、打って打って打ちまくって!」

 

 そして……

 

「ありがとうございましたー」

「一度ならず二度までも。ねむり……もうこりごりだな」

 

 なんと結局一度も目覚めることなく、そのまま勝負が決まった。今日は負ける気しなかったけど、ほんとにバカツキね。最初はボロボロだったのに、結局勝てちゃうなんて。もちろんわかっている、これはあのおかげ、そう……。

 

「ブルー……お前……」

 

 気づいたらシショーもフィールドに降りてきていた。なら、今言っておかないと。

 

「シショー……あの……」

「わかっている。お前はよくやっ」

「やっぱり、眠らせてから攻撃しまくるのって、やみつきになるわね」

 

 するとシショーはわたしの肩をつかんでいった。

 

「俺が言いたかったのはそこじゃないし、さっきと態度変わり過ぎだ! 俺のときはドン引きしてただろうが!」

「あだだだだ!」

 

 強烈なショルダークラッシュを受けて目がチカチカして火花が弾けた。容赦なさ過ぎよっ。

 

 ◆

 

 全くこいつは、やっぱり持っているな。目の前で悲鳴を上げるブルーを見ながら、さっきのバトルを振り返った。信じがたい強運に助けられはしたが、たしかにバトルの質が変わっていた。単に強い攻撃技を出すだけだったところから、効率的に相手の弱点を本来の意味で突いていくスタイルに変わっている。こんなにあっさり壁を超えるとはなぁ……。

 

「シショーいい加減にやめてよ、死ぬわよ!」

「今のは死にそうにしてたのか。てっきり俺のおかげで逆転勝ちできて嬉しさを爆発させてるのかと思った」

「そんなわけないでしょ! やっぱりシショーはS極ぶ……なんでもないわ」

 

 こいつ今なんか……いや、それよりも、だ。

 

「今のは冗談だ。これでお前は本当の意味でトレーナーとしての1歩を踏み出し始めた。おめでとう」

「シショー! うん、ありがと。わたし、もう絶対諦めたりしないし、シショーの言うこともちゃんと聞く。そしていつかは、シショーが笑って見てられるようなすごいトレーナーになってやるんだから!」

 

 ブルーがこんなこと言うなんて。本当は健気なんだよな。それがなぜ普段はちょっとこずるくて我が道を行くマイペースな性格なのか……。俺がちゃんと教育しないといけないな。でもまずはご褒美でもあげようかな。こっちも嬉しかったし。

 

「よし、じゃ、お祝いに何かおごってや…」

「今日は焼肉食べ放題よ! ピーちゃんとフーちゃんもシショーにお礼言いましょうね」

 

 はぁー。ホントに遠慮しないなぁ。別にいいけどさ。早くも教育方針がブレそうだな。

 




クチバシティを英語ではVermilion City というらしいです
クチバ=朽葉色→赤っぽい黄色→朱色→バーミリオン、ということみたいです、夕焼け色の港町

当たり前ですが「poor」は「貧しい」の意味ではないです
「不幸な」とか「気の毒な」とかそんな感じ
ブルーは借金し過ぎてお金関連に意識過剰になっているんでしょう

ブルーがでんじほうを知っていたのは威力が高いからです
威力高い=強いの図式があったので、一撃必殺やきあいパンチみたいなものも含め高火力技はよくしっています
初登場時オーバーヒートを知っていたのも同様

バトルに関してはひどいですね
自分がされたらのたうち回りますよ
これだから草タイプは……
いいつつエルフーンで宿身がアンコールとかするんですけどね
補助技、半減技あたり起点にできるので強すぎますね。ほうし剣舞その他諸々悪を滅ぼすための必要悪なので仕方ないですね(ニッコリ)

あ、電気タイプは麻痺らないというツッコミはなしで、このゲームの仕様です
そもそも、じゅうなんマッギョがいるのに電気タイプが麻痺しないのはおかしい
よって背理法的に仮定が誤りなので電気タイプは麻痺する(Q.E.D.)
スピンロトムはフォルムチェンジの弊害のため例外で
じゅうなんマッギョの存在が誤りという説もありますが、かわいそうなこと言わないで下さい


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3.謎の襲撃者

「やっぱりブルーはブルーだったな」

 

 ジム戦の後マジに焼肉をおごることになり、この前の分までたらふく食べられた。あの時のデザートの件は申し訳なかったからいいんだけどね。ただこの展開はもうこれ以上しなくていい。

 

「ほら、早く食べないと焦げちゃうわよ。はい」

「……」

 

 珍しく気が利く、と思ったら渡されたのはピーマン。おそらく、いや間違いなくこいつのキライな食べ物だろう。ほんとにブルーはぶれない。

 

「ふーん。お前これキライなのか」

「な、何言ってるの? わたしは単に焦げそうだったから」

「肉だけ食べると。明日の昼はピーマンを大量に作っておくか」

「ごめんなさいもうしません許してシショー!」

 

 冷ややかな視線を送るのは勘弁して、さっきのバトルの話をした。ブルーはあの勝ち方で満足しているようだった。

 

「たしかに運は良かったけど、それも実力の内でしょ?」

「お前に限ってはあんまり否定しにくいが……もっとだ。まだ考えが甘い、もっと考えろ。特に、ピジョンの戦い方は考え直した方がいい。これから先、強くなるには格上と戦い続ける必要がある。そうなればマチスとの勝負の最初みたいなゴリ押しは通用しない。相手が苦手で、自分の得意なところで戦うこと。そのために、知らない相手に対してはまず分析をして様子を見る。うかつに近づいて反撃されるなんて下の下だ」

「ぐっ、でもあんまり他の技もないのよ。そんなにガミガミ言わなくてもいいじゃないっ」

「“すなかけ”とか何かあるだろ何か。あと“とんぼがえり”とか。しゃーない、なんなら今度技の習得を手伝ってやるよ」

「ホントォ!? ありがとシショー!」

 

 結局言いたいことが多くて、クチバ巡りは次の日になった。あと、先にダメ出しをするとブルーは拗ねる。人にものを教わるのはあんまり好きじゃなさそうだ。ならなんで弟子入りなんかしたんだと言いたくなるが、もうなってしまったものは仕方ない。ブルーがちゃんと話を聞くように話し方を工夫するしかないな。

 

 ◆

 

「おい、起きろブルー。朝だぞ、今日はクチバを見て回るんじゃないのか」

 

 翌朝、ドンドン、とドアを叩くが起きてこない。中からは「昨日の疲れ」「あと5分」というような生返事ばかり。溜め息をつき、俺は諦めて戻ることにした。

 

「仕方ないな。せっかくいいものが手に入るところを教えようと思ったが俺がもらってブルーはまた今度にし……」

「いますぐ出発よ!」

 

 バタバタと音がしたらものの数秒でブルーが出てきた。こいつの変わり身の速さは天下一品だな。

 

 回るところは意外とあって、まずはポケセンの近くの釣り人の家。さすがにさっきの“いいもの”が釣り竿だと言おうとするとブルーは明らかに不満顔になったので俺がもらい、あとは地主の冷やかしをしたり、サント・アンヌ号を見たりしてその後本命の大好きクラブの集会所に向かった。

 

 ここでは自慢好きの会長がいて、その話を最後まで聞き続けられたら自転車の“ひきかえけん”がもらえる。現実となったこの世界ではどれほどの長さになるか見当もつかないが、なんとか耐えきってみせる。ブルーにもよく言い聞かせてから覚悟を決めて中へ入るが……。

 

「はっ!? しまった、うかつにも意識が飛んでいた。今どうなって……」

「でね、シショーってホントにすごくて、育てるのもすごくて、昨日ジム戦した時にわたしのポケモンちゃんまでものすごく強くなってて……」

「なるほど、ではポケモンを強くする秘訣のようなものがあるのかもしれませんな。それにこのサンダース、色艶も申し分ない。きっと毎日きれいにけづくろいされているのでしょうな」

「すっごーい、わかるんだ、そういうことまで。シショーはブラッシングしてあげるのが大好きだって言ってたわ」

「それはすばらしい。私も自慢のポケモンちゃんの手入れには人一倍拘りがありましてな……」

 

 この後さらに数時間続いた。俺はゆっくりと意識を手放した。

 

「おっと、もうこんな時間ですか。時間が経つのは早いものですな。あなたとはまたゆっくりとお話ししたいものだ。最後にこれを友好の証として差し上げましょう。遠い地方からの贈り物で、温泉好きのばあさまからもらったものです。珍しいポケモンですが、どうもこのポケモンは育てるのが難しく、まだきちんと育てられたトレーナーはほとんどいないので引き取り手に困っているのです。ですが、あなたなら上手く育てられるやもしれません。いかがですかな?」

「うわぁ、すっごい。わたしポケモンのタマゴなんて初めて見たわ! かわいい~! よし、任せてよ会長さん! このブルーちゃんが大切に育ててすごいポケモンにして見せるわ。本当にありがとう。旅が一段落したらこの子の顔見せにまた来るわね」

「是非に。ではお達者で」

「ん……終わったか。じゃ、お邪魔しました」

 

 ギリギリ最後に意識が戻りなんとかバレずに済んだ。ブルーはえらく嬉しそうだからおそらく“ひきかえけん”はもらえたのだろう。これでここからは移動が楽に……。

 

「ブルー、ひきかえけんはもらえたようだな。それがあれば次に行くハナダで自転車がもらえるはずだ」

「えっ、何言ってるの? あー、やっぱりシショー寝てたでしょ。んもうっ、せっかく面白い話が聞けたのに。それに、もらったのはタマゴよ、タ・マ・ゴ! 珍しいポケモンが生まれるって言ってたわよ。わたし今から楽しみだわ~」

 

 タマゴ? そんなイベントなかったはずだが。俺の知っているものとは別物になりつつあるのかも。自転車がないのは面倒だが、これはこれでいいものをもらったな。

 

「で、それは何のポケモンのタマゴなんだ?」

「あー寝てたことスルーした! ったく、もういいわ。なんでも、とっても育てるのが難しい遠くの地方のポケモンだって。あ、あと温泉好きのばあさまからもらったって言ってたわ」

 

 わかる? と首をコテンと傾けながら聞いてくるブルーにドキリとしながらも、その内容に心当たりを見つけた。

 

「ホウエンに温泉で有名なフエンタウンというところがある。そこでタマゴをくれるばあさまが確かいたはず。そして育てるのが難しいという言葉から察するに、そのポケモンはソーナノだな。間違いない」

「え、すごっ、わかったの! これだけのヒントで!」

 

 ものすごくキラキラした目でこっちを見てくる。今回に限ってはゲームの知識ありきでカンニングに近いから、すこし心苦しいな。前もこんなことがあった気がする。

 

「……育てにくい、といったのはそのポケモンが攻撃技を覚えないからだろう。レベル上げはかなり大変と思った方がいい。その代わり、ちゃんと育てて使いこなせば恐ろしい強さを発揮するが」

「なにそれ、そんなポケモンいるの?! なんかほんとにとんでもないポケモンをもらっちゃったみたいね。フフフ、燃えてきたわー!」

 

 ずいぶん気合い入れているが、実際他のトレーナーはどうやってソーナノを育てているのだろうか。敵を倒すたびに体力を必ず失うから一気にレベルを上げづらい。格上とも戦いにくいし相性のいい相手、昨日乗ったディグダみたいなのを大量に倒すしかレベル上げの方法が思いつかないな。まあ、真っ当な手段に限れば、だが。

 

「ねぇ、さっき次はハナダに行くって言ってたけどもう行くの?」

「その前にもう1つやっておくことがある。これだ」

「そ、それはつりざお……!」

 

 ◆

 

 やってきたのはクチバの港。もちろん釣りだ。ボロでもコイキングは釣れるんだ。個体値さえ良ければすぐに進化させて即戦力にできる。しかもどういうわけか人が全くおらず、のんびりと釣りを楽しめた。

 

「シショー、さっきからコイキングしか釣れてないじゃない。もうそれしかいないんじゃないの?」

「何言ってるんだ? ハナからこの竿ではコイキングしか釣れないぞ」

「はあっ!? じゃなんでずっと釣り続けてるのよ!」

「そりゃ、いいコイキングを待ってるんだ。たまに普通の魚も釣れるし」

「え、ええ……。大きさ比べってこと? そんなに釣りにハマってたなんて」

 ドバーン!

 

 なんか勘違いされているから何をしているか説明しようとしたとき、突然目の前の海が爆発した。巨大な水柱が上がって、それはそのまま俺達のいるところへ落ちてきた!

 

「ヤバイ! ブルーッ」

 

 ブルーを抱えて横に飛びのき、回転を殺さずすぐに起き上がりボールを投げた。こんなのは自然に起こるものじゃない。直感的に敵の襲来を予感して、すぐに戦闘態勢をとった。

 

 出し惜しみはなし。3体全て出した。まずは様子見だ。うかつに技を使えばその隙を狙い撃ちされるかもしれない。

 

 ったく、いきなり戦闘開始とか、最初のポッポのときといい、やっぱりこのゲームバグってんだろ!

 

「え、えっ、どうなってるの?」

「敵襲だ、ボケっとするな! 戦え!」

 

 未知の敵との遭遇による余裕のなさが言葉の荒々しさに表れてしまったが、おかげでブルーも気を引き締めて立ち上がった。

 

 ドドドドドドッ!

 

 しかし休む間もなく第二陣が来た。右、左と躱していくが、やはりこれは作為がある。俺達を狙い打っている。避けながら周りを視て回るがそれらしいポケモンの影はない。おそらく水タイプのポケモンが“たつまき”みたいな技を使っているんだろうが、俺の探知の外からとなるとかなりの使い手だ。

 

「きゃああ!」

 

 ブルーが狙われた! ここからでは遠い。

 

「しんそく」

 

 その一言で俺の言いたいことを察してくれたグレンはすぐにブルーを口でつかんで助けてくれた。相性は悪いがやっぱり出しておいてよかった。

 

「どうしよう、わたし!」

「大丈夫、心配するな。なんてことない。俺がなんとかしてやるから」

 

 もちろん状況は厳しいが、足が竦んだら逃げることもできない。気持ちだけでも負けないためにブルーには笑って安心させた。

 

「うん」

「10まんボルト、海に」

「ダーッス!」

 

 海水は電気をよく通す。周りのポケモンにも被害が及ぶがこれで……

 

 ドオオン!

 

 気絶したポケモンが何匹か浮かんでくるが攻撃はやまない。届かないか。

 

 必死で攻撃を躱しながらなんとか状況を打開する手を考えるがブルーのフォローで手一杯で何もできない。これじゃジリ貧だ。

 

「チッ! 止むを得ない、ここを離れるぞ。戻れイナズマ、アカサビ」

 

 後ろへ走り出すが水柱はそこに回り込むように突き刺さり、うまく内陸へ逃げられない。

 

「ひゃあっ、当たるっ!」

「くっ、もどれ!」

 

 とっさにグレンがブルーを俺の方に投げて寄越し、動けないグレンはボールに入れてなんとか躱した。まさに緊急回避。もう次はない。

 

「ブルー、マジでヤバイ。こうなるともうこっちから相手を倒すのは無理だ。とにかく逃げるぞ。走れ」

 

 水柱を避けながら内陸へ向かう。理不尽な暴力に対して何も反撃できないことが心をかき乱す。傷を負うことになっても一矢報いてやりたい衝動に最初は駆られた。だが、ここでブルーに危険な真似はさせられない。ブルーはもうただのお荷物じゃない。俺にとって大切な弟子なんだから、俺が守ってやらないといけない。俺はあいつの命も預かっているんだ……!

 

「シショー、ごめん、シショーだけ逃げて、わたしもう逃げきれない」

「何言ってるんだ、バカ! 諦めるな!」

「違うの、わたしさっき足をくじいて」

「くうっ、万事休すか……!」

 

 足を止めてブルーの方に向きなおり、引きずってでも生きて連れ帰る覚悟で戻る。そのとき不意に何かの声が聞こえた。

 

 ――おいで、もっと遊んで――

 

「なんだ今の……声?」

 

 それに一瞬気を取られたのが命取りだった。足を止めて思わず周りを見渡してしまい、ブルーに近づくのが一瞬遅れた。その隙に今までで一際大きな水柱がブルーに襲い掛かろうと迫った。

 

「こんなの、うそ、あたったら、死……」

「ブルーッッ!!」

 

 遠い! ここからではブルーをつかんで避ける暇はない!

 

 どうする、どうするっ!? 

 

 いや、そんなの考えるまでもない。選択肢は1つだ!

 

「死んでも助ける!」

 

 迷わず死に向かって飛び込んだ。ブルーに覆いかぶさるように手をついて、ありったけの力を腕に込めた。

 

 ドバアアァァンン!!!

 

「シショー!?」

「がはァァーーッ!!!」

 

 体がバラバラになったのかと思うほどの衝撃。あっけなく潰れそうになるが、目の前のブルーの顔を見て思いとどまった。このまま潰れたら、こいつも一緒に押し潰されてしまう。それだけはさせない。

 

「ぐううおおっっ、っっらああああっっ!」

 

 意味のない叫びを上げてひたすら耐えた。永遠にも思える時間。焼けつくような感覚。それがだんだんマヒして、もう何も、考え、られなく、なって……。

 

「おわった……ぐうぅ」

 

 手足がガクガクと震えるが、なんとか耐えきった。これじゃもうさっきみたいに躱したりはできない。体を支えるだけで限界だ。

 

「シショー、ごめん、わたしのせいで、ごめん、こんなつもりじゃ」

 

 ハッとして見るとブルーは罪悪感で押し潰されそうになって泣きじゃくっていた。だが、今はダメだ。なんとかこいつだけでも逃がさないと。

 

「バカ、こんなの……俺は平気だ。さっさと逃げるぞ」

 

 本当は苦しくて弱音を吐きそうなほど辛い。それでも無理やり体を奮い立たせて立ち上がり、ブルーの手を引いて逃げようとした。だが敵は待ってくれない。

 

 ――逃げないで――

 

 またあの声! 幻覚じゃない、なんなんだ!?

 

 それと同時にまた水柱も襲い掛かってくる。避けられない! 腕をクロスさせてなんとか耐えようと覚悟を決めたとき、ボールからアカサビが出てきて水を切って“とんぼがえり”して相殺し、さらに交代したグレンが俺達を乗せてすぐにその場を離れた。

 

 ――あっ……――

 

 相手も不意を突かれたらしい。もう追ってはこない。

 

 ――次は逃がさない――

 

 混濁した意識でそんな声が聞こえた気がした。

 

 ◆

 

 なんとか逃げ切った! さすがアカサビさんにグレンちゃん、目にもとまらぬ早業ね。

 

「ありがとグレンちゃん、もう大丈夫ね。シショー、ごめんね、無理させて。今度からはがんばるから、でもこれで……ねぇ、シショー、もしかしてやっぱり怒っているの?」

 

 うんともすんとも言わない。こんなこと今までになかった。でも怒っているというより、様子がおかしい。

 

 恐る恐る体を揺すってみても死んだように動かない。どれだけゆすっても、どれだけ語りかけても、全く反応がない。これ、まさか、イヤよ、冗談はやめてよ! ねぇ!

 

「すぐ止まって、動かないの! どうしようっ!」

 

 自分でも何を言っているかわからないほどパニックになっていた。シショーはどれだけ揺すってもぐったりしたまま動かない。視界がぐにゃりと歪んだ。また涙が止まらない。後悔で頭が一杯になり、苦しくてどうにかなりそうだった。

 

 シショーに触れている手が震えた。わたしは取り返しのつかないことをしてしまった。わたしがドジで足手まといだから……平気だって言ったのはウソだったんだ。能天気に真に受けて1人で安心しちゃってた。シショーにだけ無理させてたんだ。もっとわたしがしっかりしていれば……わたしの、わたしのせいでシショー……こんなことに……。

 

「ガウッ!」

 

 ッッ! これは……空気の流れ……息がある!

 

「息……してるっ。生きてるっ! 急げば間に合う、すぐにポケセンに!」

 

 グレンちゃんは素早く行動してくれた。わたしはポケセンに着いたら一心不乱でジョーイさんのところに駆け込んだ。後悔だけはしたくなくて、とにかく必死だった。その後はもう覚えてない。気づいたらシショーがベッドに寝ていて、ずっとそのそばで目覚めるのを待っていた。

 

 ◆

 

 ――ねえ、あそぼうよ――

 

 誰だ、誰かに呼ばれている。

 

 ――はやくおいでよ、まってるから――

 

 この声、前にも聞いた。お前は誰だ。なんで俺に語りかけてくるんだ。

 

 ――私のハウスにおいで――

 

 おい、話を聞け。

 

 ――おきて――

 

 え?

 

「ハッ、ここは……?」

「あっ、起きたのっ! よかった……もう、死んじゃうかと思ったでしょ! ばかっ、すぐに起きて返事してよ、ばかばかばかばか!」

 

 ポカポカと俺を叩いてばかばかとつぶやき続けるブルー。どうなっているんだ? ここはどこ? 病院、ベッドの上。最後に、俺は……。

 

 ―死んでも助ける―

 

 そうだ、決死の覚悟でブルーを助けようとして……。自分でもなんであんな無茶をしたのかわからない。とにかくブルーだけは失うわけにはいかないという強い意志に突き動かされていた。

 

「そうか、どうやら死なずに済んだみたいだな。あの後グレン達に助けられたのか」

「もう、何言ってるの! ホントに死ぬとこだったのよ! もう死んでも助けるなんて言わないで。ずっと一緒に……そばにいてほしいから」

 

 そうか、ブルーにはだいぶ心配かけたみたいだな。本気で死んだと思ったのか、目は赤く腫れあがっていて、どれだけ心配してくれたのかすぐにわかった。

 

「ごめんブルー、心配させたな。ずっとここで見ていてくれたんだろ、ありがとう。もう大丈夫だから、お前も休め。疲れてるし、足もケガしてただろ?」

 

 乱れた髪を撫でて、涙の跡を拭うように手を当てながら、ブルーに休むように言った。するとなぜかブルーは顔を曇らせた。……もしかして怪我が思ったよりひどいのか?

 

「ううぅ、ばか。なんでシショーが謝るのよ、足引っ張ったのはわたしなのに」

「……そうか」

 

 責任を感じてたのか。ずっとここにいたのもそれか。変なところで気を遣ってくれる。

 

「あの、うぅ……んー、その……ごめんなさいっ! もう、わたしドジったりしないから。わたしもシショーに負けないくらい強くなるから、だから、許してっ。それと、もう絶対にあんなのは、何にも返事しないなんて、もうイヤだから、どこにもいかないで、絶対に死なないで」

 

 返事がないって何のことだ? わからないけど今日は本当に大変だったし、優しくしてやろう。いつも以上に。

 

「おいで、ブルー」

「え、うん……んんっ!」

 

 顔を引き寄せて左胸に抱き寄せて、頭を撫でてやった。

 

「ほら、伝わるだろう、心臓の鼓動が。ちゃんと生きてるから、もう昔のことにくよくよするな。俺は絶対に約束を守るまでどこにも行かないし、お前を置いて行ったりもしない。それに、お前のこと……キライじゃないし、キライになったりもしないから。だからもう謝るな」

 

 最後の言葉にブルーがビクッと反応した。やっぱり、足引っ張って愛想尽かされたんじゃないかとでも思っていたんだな。前は散々拒絶していたから心配するのはわかるが、俺は最初に言ったはずなんだがな。

 

「お前は絶対一人前にする。それまで俺は死なないし、途中で止めたりもしないって、前も言っただろ」

「でも、やっぱりその約束があるからいてくれるだけで、本当はわたしなんか邪魔だって心の中で思ってるんじゃない?」

「別にそんなこと」

「でもっ! わたしはいっつもわがままだし、シショーみたいになんでもできないし、弱いし、すごくないし、今日も、ドジで、バカで、シショーに頼りっぱなしで」

 

 内心では自覚があったんだな。明るく振る舞う人ほど、けっこう悩みを抱え込んだりするのかな。本当にブルーを見ているとなんだかなぁ。堪えきれず、俺は大声で笑っていた。

 

「ちょっと! わ、笑わないでよ。ひっどーい! わたしのこと本当にキライなの!?」

「バカだなぁ、ほんとうに……」

「うう、そうよ、どうせわたしは」

「……俺達は」

「ん、えっ?」

 

 こいつと俺は実は似た者同士なんだ。だから、ブルーがバカなら、きっと俺も同じなんだろう。ここに来る前の頃の自分の姿が、今のブルーとダブって見える。呆けたままのブルーに、もう一度頭を撫でながらゆっくりと語って聞かせた。

 

「わかる、わかるさ、その気持ち。頑張って俺に釣り合うようになりたいのに、全然届かなくて、そしてその前に自分のせいで俺が死んじゃいそうで、もう心がぐちゃぐちゃになってたんだろ」

「う、うん」

「もういいんだよ、お前はお前だ。無理するな。俺は前向きに頑張ろうとしているブルーを見てるのが好きだから。ずっとそのままでいい」

「うん」

「俺はお前のシショーだから、今は俺に頼っていい。そうだな……今はこうやってまだ甘えていてもいいよ。怒ることや叱ることはあっても、お前の味方でいることは絶対に変わらない。だから安心してろよ。いいな?」

「うん、うんうん。ごめんね、ごめんね」

 

 ぎゅっとしがみついて顔をうずめているブルーから安心した気持ちが伝わってきたような気がした。撫でてやるほどはっきり伝わってくる。忘れそうになるがブルーはまだ13。つまりまだまだ子供、甘え足りない年頃なのだろう。この前は甘えるな、なんて厳しく言い過ぎたのかもしれない。

 

「ブルー、そういうときはごめんじゃない。謝ってもらっても嬉しくない」

「え、じゃあ……ありがとう?」

「チッチッ、そこは惚れ直した、ぐらいの方がいいな」

「バッ! 何言ってるの! 言ったでしょ!! わたし、そんなんじゃないからっ! 最初から惚れたりしてないっ! いきなり変なこと言わないでよバカシショー!」

「そうそう、お前はそれぐらい元気な方が似合ってる。惚れてなかったのは残念だけど」

「えっ」

 

 ひょいとベッドから起きて、そのまま外に出た。自分で言っといてなんだが、あの場に留まるのはさすがに無理だ。いくらなんでも元気づけのためとはいえ、少し調子に乗っていらんことまで言い過ぎた。お互いなんとも思ってないとはいえ、やっぱり多少は怒るもんなんだな。

 

 その後、日を空けないですぐに動き回っている俺を見つけたジョーイから悲鳴を上げられ、安静にしてろとこってり怒られた。バツが悪くてなんとなく部屋を出たが、聞けばここに来たとき俺は重傷で、しかもブルーは泣いて俺を助けてほしいと必死だったらしい。

 

「ブルーさんの思いを無駄にする気なの? ちゃんと安静にして、一刻も早く回復するのが一番の恩返しなのよ」

「すいません」

 

 戻ってゆっくり休んだ甲斐もあってか、次の日には全快。ジョーイさんは呆れ顔。まるで“じこさいせい”を使ったみたいだと言われた。

 

 あの……これでも一応人間なんですが。

 

 だが治ったなら好都合。一応しばらくは安静にしろという言葉は無視して次の町へ向かうことにした。“じこさいせい”は冗談にしても驚きの生命力だな。自分の体に感謝。

 

「ほんとに無茶だけはしないで、気をつけてね。例のみずポケモンに関しては、こちらでも調査と注意喚起をしておくわ」

「よろしくお願いします」

「ありがとうジョーイさん」

 

 結局あのポケモンについては何もわからないまま。それにあの声……ブルーには何も聞こえなかったらしい。これも関係あるのか? 今は考えてもわからない。でも……。

 

「ん? どうかしたのシショー?」

「いや、お前もかわいいところがあるんだなって思い返してさ。あんなしおらしいブルーが見られるなら、たまには死にかけてみるのも悪くないな」

「なっ! ほんっとに、もう……ヵ」

「え? なんか言った?」

「バカーーーー!」

 

 キーーンと耳鳴りがした。大声を出した後ブルーはさっさと先に行ってしまった。残ったジョーイと顔を合わせると、ものすごく責めるような眼差しを浴びた。この人目線だと俺完全にダメな人間に見えてそうだな。

 

 でも……こうして平和に旅ができるだけでも幸せなのかもな。あの吹き溜まりから抜け出して、ようやく手に入れた自由なのだから。

 




主人公の昔のことに触れていましたが、掘り下げて書く予定はないです、やっても面白くないので
設定的には最初のブルーと似たような時期があった、ぐらいの認識で十分です

人間をポケモンセンターに運んじゃっていますが、ブルーは慌ててたので間違えたんでしょう
人間の病院がどうなってるか考えるのがめんどかったという説もありますが

けがの度合いはジョーイさんの反応から察して下さい
1日で回復は異常です、丈夫とかそういう次元じゃない
案外主人公は本当にポケモンかもしれませんよ
シショーポケモン説浮上!




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4.優しい笑顔の裏側に

 うららかな日差しのもと、ポケモンの鳴き声を聞いたり虫取り少年とバトルしたりしながら地下通路を目指して歩いていた。

 

「ピーちゃん、つばさでうつ!」

「ああ、バタフリーッ! くっ、俺の負けだ」

「やりー!」

 

 バトルは基本ブルーのレベル上げと実践経験のために譲り、俺は1戦ごとにブルーを指導するようにした。

 

「状態異常をかぜおこしで避けたのはいい判断だ。相性の良さもしっかり活かせている。よくできたな」

「でしょ? シショーに状態異常は注意しろって散々言われたからねー」

「だが、攻撃の避け方があまり良くない。あいまいに避けろというのではポケモンがどっちに避けるか考える分動きが少し遅くなる。どっちに避けるべきか、ブルーが判断して伝えればすぐに回避に移れる。次からはこれも意識した方がいい。そうすればムダなダメージは減らせる」

「なるほど、わかった。あー、でもちょっとお手本を見せてほしいかなぁ」

「仕方ないな」

 

 次のバトルで俺が戦い、わざとわかるように動いた。

 

「なるほど。右とか短くすぐに伝えるから1歩目が早いのね。だからあんまり攻撃を受けないんだ。息が合ってないと難しそうだけど、できたらカッコいいかも」

「ブルーはポケモンと息は合ってるから練習すればできるはずだ」

「そう? えへへ。あ、ねぇ、さっき急にボールに戻っていった技があったわよね。あれってなんなの?」

 

 作戦は上手くいったな。褒められると素直になるから、先に褒めてから直す部分を言うと話を聞いてくれる。それに見るべきところを教えれば手本を見て自分で理解できる。何となくブルーの扱いがわかってきた。

 

「あれは“とんぼがえり”という技だ。俺が好きな技の1つ。威力はきりさくと同じぐらい。効果は使うと強制的に手持ちに戻り、好きなポケモンと交換できる」

「へぇー、面白い技ね。でも使いにくそうかな。勝手に戻るんじゃあねー」

「この技のメリットは攻撃しながら戻れることだ。相性の悪い相手が出てきたらとりあえず隙を見てこれを使えば有利な控えと交換できる。相手が交換した後すぐにこれを使えば有利な対面を維持できるし、交換合戦のときは重宝する。みがわり……は使う奴がいないか。あ、あとはこんなふうに連携させることもできる」

 

 いくつか使い方を見せるとブルーもわかってきたようだ、この技の素晴らしさが。本当は交換読みとかで使うんだが、交代際に攻撃とかしないから仕方ない。

 

「意外といいわね。つまり、不利な時はこれ使って交代して、有利なときは他の技使えばいいってことね」

「まぁ、とりあえずはそんな感じだな」

「これわたしも使ってみたい!」

「じゃあ今から覚えるか? この前ピジョンにとんぼがえりとか教えるって約束していたしな」

「ホントに! やった、シショー太っ腹!」

 

 技を覚えて、ブルーは上機嫌。並行してフシギソウにも“ギガドレイン”などを覚えさせた。着々とブルーも強くなっている。この分なら近いうちに1人でも……。

 

 しばらく歩き続けて、正午を回った。意外と地下通路は遠い。ゲームみたいに近いわけはないと頭ではわかっているのだが、どうしても体感はすごく遠く感じる。ブルーも疲れているはずだし、そろそろ休憩にしようか。振り返って少し後ろをついてきているブルーに呼びかけた。

 

「ブルー、ずっと歩いてるけど疲れてない?」

「んー、大丈夫よ。あー、おなかはへったかなぁ」

「じゃあ、そろそろ休もう。無理することないし。すぐ昼食にするから、これ飲んで待ってて。ホイ」

 

 おいしいみずを投げ渡して準備に取り掛かった。ブルーも始めの頃は手伝おうとしてくれたが、致命的に家事全般は能力が低いので俺が全てやっている。面倒事はキライな俺は普通なら雑用すらできない無能を罵倒するところだが、ものすごくおいしそうに食べるし、お礼は必ず言うので、結局進んで自分からするようになっていた。こっちに来てから育てたり弟子の面倒見たりそんなことばっかりしている気がする。

 

「おいしー! やっぱりシショーのご飯が1番ね。焼肉もいいけど、これが1番なんか安心する」

「どういたしまして。……デザートもあるから」

「さっすが! シショーは料理も読みが一味違うわ!」

「別に上手くないからな」

 

 乗せられているのはわかっているが嬉しい自分がいる。自分のチョロさ加減にびっくりだ。そして休憩もそこそこに、また歩き始めた。

 

「さ、どんどん進みましょう」

「……ブルー、左から来てる。食後の運動だ、軽くやっつけてこい」

「あいあいさー」

 

 さっそくポケモンが出てきた。あれは……

 

「ニャーゴー」

 

 ニャースか。特性“ものひろい”のくせになんにも持ってないのかよ。使えない猫だな。そういえば“ものひろい”ってどうなるんだろ。さすがにボールに入れたままなんか急に持ってたらホラーだよな。

 

「フーちゃん、ギガドレインで体力もらっときなさい!」

 

 そんなことを考えていると倒してしまったな。特に言うことはないか。

 

「新技の方も絶好調だな。申し分なし。この調子でいこう」

「やった! フーちゃん、褒められちゃったわよ」

「フッシッシ!」

 

 お前の鳴き声はナチュラルに笑い声に聞こえるな、フシギソウよ。

 

「あー、早く来ないかなー」

 

 ブルーはずっと戦闘を待ち望んでスキップまでしている。早く褒められたいのが見え見えだが、微笑ましいので指摘することもなかった。

 

「ブルー、疲れてない? 水飲む?」

「わたしはめっちゃ元気よ! お水は貰うわっ」

 

 “おいしいみず”ばかりなのはこれが1番コスパがいいからだ。ブルーはサイコソーダがいいらしいが。

 

気分が乗っている時のブルーは本当にスタミナがすごい。腕力もかなりあったし、身体能力はけっこう高い。……まさか俺が低過ぎるという可能性もあるのか。と、トレーニングとかした方がいいのか? でもそんな時間ないしなぁ。サーチやらの研究に明け暮れているからな、今は。あ、そう思ってサーチしてみればさっそくポケモンか?

 

「右から2体。多分同時だな。丁度いい。1対1はもう十分形になっている。試しに次はお前も2体出して同時に相手してみろ。こういうのも慣れておいて損はない」

「わかったわ。今なら相手がどれだけいても負ける気しないもん。見ててよ、華麗に勝っちゃうから!」

 

 思えば俺の最初のトレーナー戦は3体同時だったし、ここじゃ何があるかわからない。ブルーも万が一のために慣れさせておくべきだ。ブルーは何も考えず意気揚々とバトルをしかけるが、意外にも結果は惨憺たるものだった。

 

「え、あ、避けて! ああ、避けるのはピーちゃんの方よ! あ、“エナジーボール”! そっちじゃない! ああ、次はどうしよう……」

 

 頭がこんがらがってどうしようもないな。この有り様ではこれ以上やってもムダだろう。ひんしになる前にアカサビを出して相手を片付けて戦闘を終わらせた。

 

「……」

「ブルー、元気出せ。最初は誰でもこんなもんだ。でも最初の1回を超えないことには次はない。これを活かして次頑張ろう。ほら、さっきまでの元気はどうした?」

「でも、あんなに下手な指示しか出せないなんて……わたし、才能ないわ。シショーは1体で簡単に倒したし。こんなんじゃ……ダメ、なのに……」

 

 ボロボロ泣いて下を向いたまま動かない。野生のポケモンに負けたのはショックかもしれないが、どうしてここまで深刻になるんだ?……もしかして俺が見ているからなのか。期待をかけるようなことを何度も言った。本人も褒められたくて小躍りしていたし。……あ、ありえる。俺のせいなのか。

 

「……ブルーさん、今回は重症だな。どうやったら上向いてくれるんだ?」

「……」

「これで元気出る?」

 

 また顔を寄せて抱き留めると、真っ赤な顔でこっちを見てくれた。「元気になった?」と問うとコクコクと首を縦に振って頷いた。今はしびれるからあんまりしないが、イナズマがイーブイだった頃はほんとに抱っこが好きだった。なんか落ち着くみたいだ。ブルーの反応もその頃のイナズマと似ている。案の定泣き止んだ。

 

「じゃあ悪かったところを反省しよう。まず、指示は誰が誰に何をするか、明確に言うこと。じゃないとポケモンも混乱して動きがまとまらない。次に、互いに動きが邪魔にならないようにして、できれば互いに隙をカバーし合うようにすること。どうすればより隙をなくせるか、どうしたら効率的に動けるか自分で考えれば、おのずと見えてくるはずだ。例えば、対角線同士で技を出したらぶつかる。相手は選べるから、両方が相性のいい方と戦うべき、などだな。あとはトレーナーは大局を見て素早く指示を出すこと。目の前だけでなく、一手二手先まで考えられればスムーズに指示が出せる。ちょっと俺と練習しよう。一緒に頑張ろうな?」

「うん」

 

 動きは見違える程良くなり、ブルーも自信を取り戻したのか少し元気になった。歩く足取りはまだ軽くはないが、思い詰めるほど深刻ではない。とはいえまだスキップしていた時に比べると下を向いて暗い表情だが。

 

「ブルー、下ばっか向いて、何考えてるんだ?」

「えっ。いや、別に」

 

 たまに後ろを振り返って様子を見るが、ずっと下を向いたままだ。ちょっと気分を上げさせようと話しかけてみた。

 

「ずっと下向いてると俺とぶつかるぞ。あ、そういえばぶつかるといえば面白い話があるんだ。ブルーは“フラッシュ”っていう技知ってるか?」

「明かりで命中率を下げる技?」

「そうそう。それって洞窟とかを明るくする効果もあって、暗い洞窟では普通それを使うんだけどな、俺ぐらい上級者になると洞窟のルートを完全に暗記してあえてフラッシュは使わずに目隠しプレイをしたりするんだ」

「えっ、ウソでしょ! 真っ暗なのに迷ったらどうすんのよ! そもそもそんなことできるの?!」

「もちろん下見は何度もする。そんで少しずつ覚えるんだ。でも迷ったらほんとになんにもわからなくて、何度閉じ込められたか。脱出するのは大変だが、正解はあるから戻る可能性はあると信じて壁にぶつかり続けながら戻るわけだ。こころのめのない奴は洞窟の闇に飲まれるのさ。迷うのはだいたい覚え違いだが、たまにあるのは人間にぶつかるパターンだ。予想外の計算違いだから対処が難しくてな。今のお前みたいにな」

「え、じゃあそのぶつかった相手の人もまっくら上級者なの?」

「えっ! あー、まぁそうなるな。それで……」

 

 ゲームの話で盛り上げて、気分転換させようとあれこれ言っているうちにブルーもだいぶんマシになった。そんなときまたポケモンが出てきた。

 

「これは……また複数、今度は3体。ブルー、汚名返上のチャンスだぜ?」

「ッッ! わ、わたしがやるの?」

「自信がないのか? 戦う勇気もない? だったら俺がやろうか?」

「……ううん、わたしがやる。見てて」

 

 ブルーは健闘した。しかしあと1歩というところで勝てなかった。またひんしになる前に俺に助けられる形となった。今度はもうこの世の終わりという顔をしている。真っ青で涙も逆に出ない程らしい。

 

「シショーごめんなさ」

「ブルー、よくやったな。さすがだ」

「……い、ええっ? なんで褒めるのよっ」

「ちゃんとさっき俺に言われたことは全部できていたし、2回目でここまで形にできるなんてそうはいないよ。戦闘で難しくなるのは相手が複数になった時。これが1番キツい。当然最初から勝てる程甘くはない。だけどブルーはもう少しで勝てるところまで来た。俺はブルーを弟子にして本当に良かったと思ったよ。よく頑張ったな」

「シショー、わたし……ものすごく嬉しい。わたしのこと失望とかしてないのね?」

 

 今のブルーにとっては俺からの評価が全てなんだろうな。いいとこ見せたいと気負い過ぎるところが今までもあった。

 

「ブルーの才能がすごいってことは誰よりもわかってるつもりだ。何があっても失望したりしないから。あんまり落ち込んだりしないで、負けたら全部俺の教え方が下手なせいだと思って割り切るぐらいじゃないと、一々気にしてたら身が持たないぞ」

「そんなっ! シショーは教えるの上手いわ! わたし、人の話聞くのは苦手だけどシショーは聞きやすいし、歩いている時もいつもわたしのこと気にかけて、落ち込んでも励ましてくれて嬉しかったし、なのにシショーのせいだなんて冗談でも思ったりしないわよ!」

「ありがと、その気持ちだけで報われる。でも本当に一々負けを引きずったらダメだ。勝敗は兵家の常。勝負事なら負けることは誰にでもある。勝ち負けよりもまず強い心を持つことがトレーナーには必要だ。今は泣いてもいいけど、下は向くな。胸を張って前を見ろ。自信を持っていればポケモン達も安心する。逆にトレーナーが不安を抱くと、ポケモンにもそれは伝わる。ブルーの才能は俺が保証してあげるから、苦しい時こそ笑っていられるような、そんなトレーナーを目指せ。いいな?」

「うん。わかった。もう下は向かない。ポケモン達にも情けないところ見せたくない」

「よし、そうでないとな。じゃあ、さっきの反省をして、また次頑張ろうな」

「うん。次は勝ってシショーを驚かせてやるわ。もう目が覚めた。弟子入りするときのことを思えば、こんなの大した障害じゃないもの」

 

 その考え方はどうなんだ。引き合いに出されても反応に困る。

 

 だがこの次、今度は4体相手のバトルでブルーは圧勝して本当に俺を驚かせてくれた。元気も戻り、いつものブルーになった。本当に見ていて楽しみなトレーナーだな。

 

「こいつ、散々心配させといて、結局簡単に勝ちやがったな。これはお仕置きだな」

「わたしだってびっくりなのよっ! でも……心配、はやっぱりしてたんだ。あ、ちょっとほっぺぐにぐにひないへよ、なんで勝ったのにおしおきなの、ううー!」

「それはブルーのほっぺがぷにぷになのが悪い。しばらくこうさせてもらおうかなぁ」

「ふぁなしへよー!」

 

 と、言いつつそんなにイヤそうじゃないので割と本気で遊んでしまった。さすがに最後にはジト目で見られたが適当に頭をぽんぽんしているとなんとかなった。これからなんかあったらバツでほっぺぐにぐに、続けようかな。笑いながら俺はそんなくだらないことを考えていた。

 

 ◆

 

 目的の場所が見えてきた。地下通路だ。これでヤマブキを越えてハナダへ直行だ。

 

「ねえ、ここちょっとまずくない? もしかして暴走族が出るっていう地下通路じゃないの? なんか危険って張り紙とかあるしやめた方が……」

「心配するな。ちゃんと考えてある。それに今はここからしかハナダへ行く手段がないからな。とにかくついてこい。中は広いからグレンに乗っていく。あ、乗せてやってもいいが首を絞めたら振り落とすから」

「あっ、置いてかないでよ。首絞めたりするわけないでしょ。もう、シショーの言葉、信じるからね、信じていいのよね!?」

 

 やたら不安がるブルーを無理やり引っ張って中へ入った。さすがに3度目はなかったな、首絞め。

 

 この通路ものすごく長い。町2つ分の移動だから当たり前だが、これだけ広いと暴走族が入り浸るのも当然だな。

 

 道半ば、半分ほど来た時、妙な揺れを感じた。それはだんだん大きくなり、ブルーも感じたようだ。

 

「これ……ウソッ! やっぱり出たのよ! なんてツいてないの! シショー、今すぐ引き返しましょう! まだギリギリ逃げ切れるかも……ってシショー!? その目は……」

「あぁ、俺はやっぱりツいてるらしい。カモがネギしょって箸まで持ってきたぜ。お前は下がってな。余計なことは絶対するな」

 

 自分でも思わずニヤリとしてしまったのがわかる。ブルーはものすごく引きつった顔をしてるがそんなに暴走族が怖いのか?

 

「アカサビ、後ろで“準備”してくれ」

 

 アカサビセット完了。あとは奴らを待つだけだ。グレンから降りて待っているとすぐに奴らが姿を見せた。

 

「おーおー、こりゃずいぶんとちっさいお子様が来たもんだ。もしかして俺らのこと知らなかったのかぁ?」

 

 こいつがリーダーか。戦闘になれば真っ先に潰そうと思いながら、話に応じた。

 

「お前ら暴走族か。ここに居着いてるみたいだな。悪いが俺達は急いでるんでな。道を空けてくれ」

「ぎゃははは! 道を空けてくれ、だと? 笑わせんなよ、俺達が何のためにこうしてるのかわかんねえみたいだな。ここじゃ、俺達のルールがあってな。バトルで勝たなきゃここは通せねぇ。そして必ず持ち金全てを賭けてもらう」

「ほう、賞金か。なるほど、俺達はお前ら全員を相手にする必要があるから、どこかで負けたら結局全て持っていかれるって寸法か。お前ら、ここで随分稼いでそうだな。一本道のこの通路なら取り逃がしも少ないだろうし」

「おいおい、人聞きの悪いこと言うなよ。逆に言えば俺達全員を倒してがっぽり儲けられる……かもしれないぜ? ぎゃははは!! ぎゃあっ!?」

「なっ、てめえ、何しやが、がはっ!?」

 

 馬鹿みたいに笑うリーダーに“しんそく”、そのまま横にいた奴に“かえんほうしゃ”を食らわせた。こいつらが非合法に金を巻き上げていることはもうわかった。こいつらは法の縛りの外にいる。なら、俺が搾取することに何の妨げもない。アウトローには容赦しないって決めているんでね。搾れるだけ搾る。

 

 そして当然正々堂々戦う気もない。不意打ちで動揺した隙にこっちの手持ち全員でトレーナーに攻撃した。慌ててポケモンを出す奴もいたが全てアカサビの攻撃の前に撃沈した。ほどなくあっさりと、拍子抜けするほど簡単に制圧できてしまった。全員を“あなぬけのヒモ”で縛りあげて、ボールを触れられないようにした。

 

「てめぇー、きたねぇぞっ! オラッ、縄解けガキッ!」

「黙れ。自分の立場をわきまえろ」

 

 バシッ! 

 

 顔を地面に押しつけて黙らせた後、思いっきり横っ面を蹴飛ばした。気絶しないように軽めに蹴ったのでまだ意識はあるな。

 

「がはっ、ぺっ、おまえぇ」

「お前、こんなことして、タダで済むと思うなよ。自分がどこに喧嘩売ってるかわかってるのか、ああ? 俺達はな、カントー連合の一員だ。お前、顔は覚えたからな、ゴウゾウさんにチクって絶対報復してやるからなぁ! 首洗っとけよ!」

「二度も言わせるなよ。黙れ」

 

 今度は容赦なく顎を蹴り上げて意識を刈り取った。おそらく、勝負に負ければ地べたに這いつくばっていたのは俺の方だったはず。その上途轍もない大金を失う。それを思えばこの程度の仕打ちは当然、正当防衛だ。尤も、わざわざここに好き好んで入ったのは俺の意思だから、セルフ正当防衛とでも言うべきなのかもな。自作自演とも言う。

 

「次しゃべった奴は殺す。見せしめにな。状況がわかってないのはお前らだ。報復? させるわけないだろ。死人がどうやってしゃべるんだ?」

「なっ!? こいつ……キれてやがる。頭おかしいんじゃねえか?」

「じゃ、お前はその狂人に殺される、それだけのことだ」

 

 いまさら俺の殺気に気づいたのか、そこからは手のひらを返すように全員が命乞いを始めた。こうなればもう後は簡単。皆喜んで有り金を全て渡してくれたので、それを仕方なく受け取ってやった。

 

「ん? お前、まだなんか持ってるな? もしかして死にたいのか?」

「ひぃいいい!」

 

 さらにギフトが増えた。

 

「こんなもんか。稼いでるだろうとは思ったが、ここまであるとは。ボロい商売だなぁ、お前ら。……なぁ、ここで稼いでいること……」

 

 小声でこっそりとあることを囁くと、リーダー格の男は驚いて後ずさりした。

 

「なんでそんなことまでわかる!」

「知らないのか? 最近ゴウゾウのところで何があったのか。それとも鈍いのか」

「そういえば、あれはウインディ。まさかあんたが!」

「なんだちゃんと知ってるじゃないか。そういうこと。くく、これからは、カツアゲはなぁ、やめろとは言わねぇが、相手は選んですることだ。安心しろ。ここでやってることは言わないでおいてやる。この金はその勉強料だ。いいな?」

「は、はいぃ」

 

 やっぱりな。さて、臨時収入で気分もいいし、さっさとこんなところ抜けてやるか。

 

「おい、ブルー、行くぞ」

「うん……でもこの人達このままでいいの?」

「おっと、それもそうか。じゃ、お前、これで他の奴の縄も切るんだな」

 

 そういって懐からナイフを出して男の縄を切って足元に捨てた。男はそれを使いすぐに仲間の縄を解いた。

 

「え、シショーこれは……でも」

「早く乗れ」

 

 先にブルーをグレンに乗せてからその後ろに自分も乗った。後ろを気にする素振りもなく、な。

 

 やろうと思えば後ろから俺に報復に来ることもできたはずだが、結局最後まで来ることはなかった。根性なしめ。今この瞬間向かってくる勇気もないなら、これじゃ俺に報復に来ることは以後ないだろう。ここで襲ってくればこの場で再起不能にするつもりだったんだが、手間が省けるならそれに越したことはない。そして去り際に声に出すか出さないか程度に、口だけ動かして暴走族に言った。

 

 い の ち び ろ い し た な

 

 真っ青になった顔が印象的だった。

 

「ねぇ、さっきシショーなんて言ったの、なんか言ってたでしょ?」

「ああ、別に。追ってくるなよって言っただけだ」

「ふ、ふーん」

 

 信じてないって顔だな。でも本当のことを言う必要はないだろう。

 

「なぁ、さっきからずっと気になってたんだが、なんでイナズマはずっとブルーの腕の中で丸まってるんだ?」

「え、何言ってるの、シショーが怖いからに決まってるでしょ! 本当に何言ってんのよっ!?」

「あ、そういやそうか。アカサビはこういうの慣れてそうだからいいが、イナズマにはキツかったか」

「わたしだって怖かったわよ! 最近けっこう優しいことが多かったから忘れてたけど、最初はフーちゃんもひどい目にあったし、シショーって初対面にはきっつい性格よね。むしろ暴走族より怖かったぐらいだし。……シショーの鬼、悪魔、外道!」

「わ、悪かったな、鬼で。だが、俺は元々ああいう手合いには容赦しないし、昔はこうしないと生きていけなかったからな。だから別に悪いことだとも思ってないし、改める気はないから諦めろ。……しょーがないだろ、ここ通らないとハナダに行けないし、あれは正当防衛だ」

「クウウゥゥン」

「ああ、かわいそうに。優しいトレーナーさんだと思ったら、ほんとは暴走族も裸足で逃げ出すようなおっかない悪魔だったなんて。笑顔の裏側に悪魔を隠しているのよ! イナズマちゃん絶対怖いわよ、こんなの見たら。トラウマレベルね。バトル中とかいきなり豹変するんじゃないかって思っちゃうわよ」

「あのな、俺も好きであんな怖そうにしているわけじゃなくて、舐められないように、雰囲気を出してるだけだから。分かる? 脅しはしてもあの程度で本当に人殺しとかしないし、したこともない。こういうのはな、相手に本気で殺されそうだと思わせるのが大事なんだ。頭のネジが吹っ飛んでると思われるぐらいが丁度いいんだよ。だから演技なんだ」

「グウウゥゥ」

「イナズマちゃんはそうは思わないみたいね。人間はみんな狼だって言ってる」

 

 これはもうダメだな。完全に人間不信がぶり返している。こんなことならあの連中は軽くあしらって無視しとけばよかった。

 

「イナズマ、本当に俺が怖いのか? よく思い出せ、今まで一緒に頑張って来ただろ? あの時間にウソなんてないだろ?」

「グウウ、シャアア!」

 

 ものすごい毛が逆立っている。めっちゃ警戒されているじゃねえか!

 

「グレン、お前からもなんとか言ってやってくれ!」

「ガーウ」

「わたしには知ーらないって聞こえたけど」

「くうう! おいグレン! お前面白がってるだろ、わかるぞ! 他人事だと思って!」

「……グレンちゃんはいつも通りね。やっぱり仲いいから?」

「いや、こいつとは昔からの付き合いだから、俺の昔のこともよく知っているからな。ああいうゴロツキを一緒に何人もコテンパンにしてやってきたから今さらだ」

「シショーって昔どんな人だったのよ。めっちゃ気になる」

「グウウ、シャアアッッ!!」

 

 うわ! 電気弾けた。そういえば戦闘中も途中から電撃は止んでいたな。あの辺りからずっとブルーの腕の中で丸まっていたのか。

 

「仕方ない。イナズマ、ごめん」

「ダアア!?」

「わひゃ!」

 

 ブルーからイナズマを奪い取り、思いっきり抱き締めてやった。こいつはもう進化してからは俺が電気でしびれるから遠慮してあんまり抱き着いてこなくなったが、イーブイの時はいつもこうしてぎゅーっとしてやると嬉しそうにしていたんだ。ものすごくなつき度合が上がっているのが感じられるぐらい効果的だったから、この方法ならいけるかもしれない。これでダメならもう手がない。全身しびれるのも構わず自分の感情を全て込めるつもりで思いっきり抱きしめた。

 

「ダアァ、シャアァ、クウウン」

 

 だんだん落ち着きを取り戻して逆立った毛も元に戻り、嬉しそうにしっぽを振りながら抱き返してきた。上手くいったみたい。

 

「あ……すごーい、いぃなぁ」

 

 きっと今、イナズマはすごく幸せそうな顔をしているんだろう。ぺたりと垂れた耳だけでも想像がつく。思わずブルーが羨む程だ。地下通路を抜ける頃にはいつも通り俺にじゃれつくイナズマに戻っていた。

 

「やっぱりシショーってポケモンのことよくわかってるんだなぁ。あっさりおとしちゃって。このポケモンたらし」

「なんか人聞きの悪い言い方だな。好かれやすさでいえばお前も大概だろ?」

「え? わたしは別にそんなことないでしょ?」

「……無自覚たらし」

「なっ、違うわよ! シショーに言われたくないし!」

 

 なんとなく照れ隠しで言い返してしまったが、第三者から見ればどっちもどっちなんだろうな。だが、俺の場合は好かれたら情が移りやすくて、ブルーはほんとに惹かれやすいって感じで微妙に違う気がするんだよな。何が原因でこうなっているのかはわからないが、まぁありがたいだけだからあんまり考える必要もないか。

 

「そうだ。イナズマ、ハナダに行ったらマサキのとこに寄っていこうな。お前ものすごく逞しくなったからめっちゃ驚くぞ、絶対」

「ダーッス!」

 

 こんなに早く戻ることになるとは思なかったが、顔なじみに会うと思えば悪くないか。

 

「あ、見えたわ。あれが次の町ね。わたしが1番乗りぃっ!」

「あっ、バカ!」

 

 また飛び出して行きやがった。変わらんなぁ。イナズマよりもはしゃいでいるんじゃないか? どうせポケセンで待っていればいいかと思い、勝手にさせることにした。

 




前半は移動中の日常風景を盛り込んでみました
今回以外は基本合間合間を全てカットしていますが、実際にはいつもこんな感じで歩いて移動していると思ってください
教えられたことは今後ブルーが活かして活躍してくれると思います

真っ暗プレイはTAで思いつきました
当然フラッシュはとる時間が無駄なので真っ暗必須です
一番の難所……と思いきやムロのいしのどうくつ同様基本一本道で簡単です
サイユウのチャンピオンロードはほんまに難しい
本編の内容は完全に脚色で、実際には攻略本片手に見ながらプレイするので手探りとかはないです
人は固定なのでぶつかって迷うとかもないです

そういや当たり前のようにナイフを取り出したりしてますが、いつもすぐ出せるようにしているわけではありません
暴走族が来るのがわかっていたから用意していただけです


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5.秘めた思いはまた会う日まで

 走って町の中を見て回るうちに、段々と町の中心から外れ、郊外の川辺に来てしまっていた。当然シショーは追って来てないし、もしかするとこれはまい…

 

「気のせいね。せっかくだしここで一息入れよっと。なんかきれいなお花もあるし、のどかでいいところね。ちょっと遠出し過ぎたけど、いいとこ見つけてむしろラッキーね」

 

 ゆっくり景色を堪能していると頭上に影が差した。見上げるとわたしと同じぐらいの年のピクニックガールがいた。

 

「うふふ、こんにちは」

「あっ、こんにちは。こんなところにも人がいるんだ」

「それは私のセリフかな。ここまで来る人なんて珍しいから声かけちゃった。最近は1人ここに迷い込んできたトレーナーさんもいたけどね。ここは私の秘密の特訓場なのよ。あ、自己紹介がまだだったわね。私はコズエ。見ての通りのピクニックガール。あなたは?」

「わたし、ブルー。新米だけど一応トレーナーなんだ。今はちょっとここで気分転換してたけどね。いい景色だから思わず座りこんじゃって」

「ここって穴場だからね。いいところでしょ? そうだ、良かったらここで少しおしゃべりしない? 私あんまり年の近い子としゃべる機会がないからさ」

「あっ、いいわね。じゃ、わたしが旅の冒険譚をしゃべってあげるわ」

 

 偶然出会ったわたし達はすっかり意気投合して、気づけばすごい仲良くなっていた。同じ女友達ってやっぱりいいものね。

 

「それでねー、結局最後は弟子入り成功でシショーに教えてもらうことになったのよ。でもそれまではぶっきらぼうだし怖いし、一度とんずらされて逃げられたりもしたし、ずーっとツンツンしてさぁ。ほんとに頑固で……」

「そのお師匠さんって意地悪なの?」

「いや、意地悪というか、それもあるかもしれないけど、自由人っていうのかな? でもすっごいトレーナーなんだから!」

「あはは、なによそれっ。結局その人のこと好きなのね」

「違う違う、そんなんじゃないから! もう、からかわないでよ!」

「ごめんごめん。それで、その人ってなんていう名前なの?」

「シショーの名前? 名前はね、えーっと。あー、あれ。うーん。あっ、あーーー!」

「えっ、どうしたの? もしかしてマズイこときいちゃった?」

「いや、それが…………名前、忘れちゃった」

「え? なにそれ、冗談で言ってるの?……って言いたいけど、その表情からするとマジなのね。これだけ語っておいて、名前の方は忘れてましたってどういうことなの?」

 

 うう、コズエの視線が痛い。だって仕方ないじゃない! いっつもシショーとしか言わないんだもん。昔聞いたような気がしなくもないけど、もう忘却の彼方だし。

 

「……まぁでも、シショーはシショーだし、名前なんて飾りみたいなもんだから気にしなくていいわよ! あはははははははははっ!」

「……天然ねー」

「ぐうう。あ、ポケセン見えたわよ。そうだ、もしかしたら気を利かせて先に中で待ってるかも」

「名無しのお師匠さんが?」

「もしかしたらほんとに名無しだったりして」

「冗談キツイわよブルー。というか、ホントにいたらなんて言うの? 私に、『この人がシショーの……シショーよ』とか言ってごまかすつもりだったんじゃないでしょうね」

「あっはは、まっさかー」

 

 まさかその通り、とは言えないわね。ホントにどうしよう。今さら悩むけど、もう目の前まで来てしまったので、とりあえず本人がいないことを祈って中に入った。素早く辺りを見渡すと、今は見つけたくなかった人と目が合ってしまった。

 

「げ、シッショーッ!!」

「ああっ、もしかしてレインさんじゃない!? なんでこんなところにっ!」

 

 あれっ、と思って横を見るとコズエが手を振ってシショーの方へ駆け寄っていて……もしかしてあの2人知り合い? ハナダには一度行ったみたいだからその時に会ったのかも。で、さっき言ってたのって……

 

「ああっ! 思い出した!」

 

 あの人の名前レインだった。久しぶりに聞いた気がする。

 

「ほう、思い出したってのは俺のことか、ブルー?」

 

 うわ、いつの間にかコズエと一緒にこっちに移動してる。もしかして名前忘れてたのバレたの?!

 

「い、いやーそれはそのー」

「てっきり俺のことなんか忘れてさっさと次の街に行ったのかと思ったぞ?」

 

 へ? ああ、シショーを置いてって勝手に走り回ってたことを言ってるのね。早とちりしちゃった。助かったわ。

 

「あ、そっちか」

「は? そっち? 他に何かあるのか?」

「あはは、あのねレインさん、この子ったらむぎゅう!」

 

 とっさにコズエの口に指を突っ込んで強制的に会話をシャットダウン。なんとかこの危険な話題からは離れないと。

 

「何やってんだ、お前……」

「えへへーなにやってるのかなー」

 

 ごめん、もうどうにでもなーれ。

 

「変な奴だな。まあいい。それより、お前ら仲いいみたいだが友達か?」

「いやー、さっきばったり会ってから意気投合して打ち解けちゃって」

「むごごご!」

 

 コズエが何か言いたそうだけど今は黙っててちょうだい。

 

「いい加減離してやれ。ということは、お前川辺までブラブラしていたのか。そりゃ遅くもなるわな」

「なんでわかったの!?」

 

 ホントに鋭いわね。名前のことまでバレそうでヒヤヒヤする。あ、驚いてつい口から手を離しちゃった!

 

「ぶはあっ! ブルー容赦なさ過ぎ! レインさんがわかったのはね、最近迷い込んだ人がいるってさっき言っていたのがレインさん本人だからよ」

 

 コズエから睨まれたが視線に気づかないフリをしてごまかした。

 

「へー、そうだったんだ。それで2人とも顔見知りなんだ。ハッ!? もしかして、あそこは人気が少ないし、シショーまたなんかヒドイことしたり……」

 

 実際にやりかねないしさっさと話を変えないとね。あの暴走族に対しての狼藉の数々はまだ記憶に新しい。やるときは容赦ない苛烈な人だからね。

 

「バカ、だったらこんな和気藹々とするかよ」

「ん? あー、レインさんってバトルだと容赦ないもんね。そういやブルーのシショーなんでしょ? 意外よねぇ。レインさんそんなことするガラじゃなさそうなのにさ。年も近いし。私はもっとダンディーでカッコいいおじさまかと思ってた」

「悪かったな、ダサい子供で! 俺だって最初はつっぱねたが、こいつがストーカーみたいにべったりついて来て、なし崩しでこうなったんだよ。一度完全に撒いたのに次の日宿の部屋の真ん前で待ち伏せして、一日中張り込みしていたのを見た時は背筋に冷たいものが流れたな。ちょっとしたホラーだぞあれは」

「え、ちょっとブルー話が違うわよ? そういや一度逃げられたって言ってたけど、確かにおかしいわよね。足取りなんて簡単には……」

 

 げ、この流れはマズイ! わたしはストーカーじゃないのに! みんな大袈裟に考え過ぎなのよ!

 

「だーっ! シショー誤解を招くようなことはやめて! わたしはストーカーじゃないから! 純粋にシショーのすごさに憧れて必死だっただけなの! こんなところで立ち話もなんだし、とにかく一度座りましょ! あーわたしそういえばおなかへったかもー」

 

 全く、なんで話を変えたのにまたアウトな話題になるの! これ以上は限界よ!

 

「そうだな、いったん腰を降ろすか。ブルーはお腹減ったらしいしな」

「そうね、それになんだか疲れているみたいだし、場所を変えたいんでしょうね」

 

 ううっ、この2人には完全にわたしの浅い考えは読み切られている。2人して結託して……なんか悔しい。いつか絶対にギャフンと言わせてやる!

 

 ◆

 

 全く、ブルーの奴め。散々待たせておいて帰って来たら来たで挙動不審だし、いったい何しでかしたんだ? 疑いの眼差しを夕食中これでもかという程続けたが、ブルーは確固とした意志でスルーし続けた。仕方ないから追及はしないが、気になるな。

 

「で、たまたまレインさんを町で見かけたからカスミに言ったらすぐに岬の方に行って、そこでイーブイと一緒にいたレインさんを見たのよ」

「じゃあ、それが今のイナズマちゃんなんだ。ほへー」

「まぁそんな感じだ」

 

 今の話……何となく変というか、違和感を覚えたが、あんまり深くは気にしなかった。しっかし、コズエといきなり再会したのは驚いた。なんかこの町に来たら最初にコズエが出てくるのがお決まりみたいになってきたな。そのコズエはジムで寝泊まりしているらしく、ブルーのことはカスミに伝えておいてくれるそうだ。おかげで翌日ジム戦は待つこともなくすぐにできた。

 

「久しぶり、という程でもないか。ずいぶん早く会うことになったわね」

「こっちも色々あってな」

「大体の話はコズエから聞いたわ。その子があなたの自慢のお弟子さんかしら? 早く会ってみたくて待ちくたびれたわよ。よろしくね。一応名乗っておくけど、私はこのジムのジムリーダー、カスミ。みずポケモンのエキスパートよ」

「わたしはマサラタウンのブルーよ。あの、さすがにシショー程の期待をされても困るんだけど……」

「わかってるわよ。で、ランクはいくつかしら?」

「あ、ここは聞いてくれるんだ。6でお願いします」

「バカ、普通なら聞くわけないだろうが。俺がいるから聞いてるんだよ」

「あ、そういうことか」

「あっはっはっは! やっぱり、そんなことだろうとは思ったけど、ホントにあなたも上げるのね。レインらしいけど、ちょっとスパルタ過ぎなんじゃない、お師匠さん?」

「茶化すな。7じゃないだけマシだろ」

「それを本気で言っているところがあんたのヤバイところよね。その感覚にブルーちゃんも毒されていくのかぁ」

 

 失礼するな、このおてんばは。別にスパルタとかじゃなくて、経験値稼ぎでやらせているだけなのに。説明できないから何も言い返せないが。

 

「シショーってここも7で?」

「ここどころか、最初も7でやったって言ってなかった?」

「ああ、そうだな」

「うそぉ……そんなのありえないでしょ……。だからわたしにも厳しいの? はぁ……」

 

 厳しいのは承知の上とか言ってなかったか? さすがに覚えてないか。俺はバトルしないので観客席へ移り、今回は見学だけさせてもらう。

 

「おい、ブルーしっかりしろ。集中しないと勝てないぞ」

「そうね、今はこのバトルに勝つ! それだけよ」

「では、バトルを開始します。3,2,1,はじめっ!」

 

 審判はコズエ。その掛け声で両者ボールを放つ。最初は誰で来るのか、お手並み拝見。

 

「ヤヤァ」

「フシッ」

 

 ヤドラン Lv37 ずぶとい 126-62-104-87-73-36

 

 ブルーの奴相変わらずツいているな。タイプは無論、能力の相性もバッチリ。ヤドランは防御力が高い物理受けだから特殊技はよく効く。ここで消耗するなよ。

 

「だいもんじ」

「右へ、やどりぎのタネ!」

「厄介な技を仕掛けるわね。サイコキネシス」

「エナジーボール」

 

 上手いな。ヤドランは遅いから“やどりぎのタネ”は躱せない。相手のヤバイ攻撃は特攻の高さを生かして相殺して処理。様になっている。

 

「よし、いいわよ、もう1回エナジーボール!」

「だいもんじで焼き払って!」

「しまった! 大丈夫っ!?」

 

 調子に乗ったな。相手が遅いから図に乗って先に技を出したのが裏目。後出しでも相性の悪い“だいもんじ”を受けたらさすがに相殺できない。まだ詰めが甘いか。やっぱり“あれ”はブルーには早いのか……。

 

「れいとうビームよ」

「……つっこんでギガドレインよ。なんとか耐えて!」

「トレーナーが自棄になったらおしまいよ。バカね、そのままトドメのサイコキネシス!」

 

 しかし、その言葉がヤドランに届くことはなかった。

 

「ヤドラン戦闘不能!」

「そんな! こんなにあっさりやられちゃうなんて、どうして……」

 

 無論俺には理由はわかった。だが、それでもかなり驚かされた。

 

 今のは特性の“しんりょく”を使ったんだ。あえて攻撃を受けて体力を減らし威力を高めた。しかも威力が上がった分回復量も増す。攻防一体のナイスプレーだ。

 

 いや、それだけじゃない。今の判断はかなり難しい。特性や状況判断に加え、ポケモンの体力の減り具合も把握してないといけない。それも相手と味方の両方正確にわかっていないと一撃では倒せない。

 

 俺だからこそ簡単に分かったが、自分の目で判断するしかないブルーがここまでのことをやってのけるのは称賛に値する。今のは間違いなく狙ってやっている。まぐれだけの前回とは違う。やっぱりこいつは天才…

 

「イエーイ、シショー見たー? びっくりしたでしょー?」

「……特性使っただけで、バトル中にいばるな」

「ぶぅー、いじわるっ」

 

 軽く試してみたんだが、やっぱり意図的にしたと見て間違いない。成長したな。口には出さなかったが。

 

「特性? そうか、しんりょくね。あんまり見ない特性だからすっかり忘れてた。やっぱり侮れないわね。だったら今度は……行くわよ、ラプラス」

「ラーァァ!」

 

 ラプラス Lv38 おくびょう 157-71-76-79-87-67

 

「えっ! 話が違うわよ! しかもめっちゃ強そうっ」

「あら、もしかして下調べしてたの? 悪いわね。あなたができそうだったらこの子を試してみようと思っていたの。普通のチャレンジャーにはちょっと強過ぎると思って予備で置いていたんだけど、あなたなら大丈夫でしょ?」

「ごめんブルー、私も知らなかったのっ」

 

 小声でコズエが謝るのがここでも辛うじて聞こえた。カスミは反応なしだが。

 

「ううー!」

 

 そうか、情報源はコズエか。確かに一番手っ取り早いし信用できるな。昨日俺にみずポケモンの特徴いっぺんに聞いて全部覚えるとか言っていたが、本当はコズエから聞いていたポケモンだけ覚えていたのか。無茶すると思ったが、あいつそういう要領かますのはホントに天才的だな。しかも傍目には全部覚えていたように見えるから、俺を驚かせられるって寸法か。だが、そのおかげで昨日ラプラスについてもしゃべっている。本当に全て聞いていたのなら……。

 

「間もなく始めます。3,2,1,開始!」

「れいとうビーム」

「躱してやどりぎのタネ」

「潜るのよ」

 

 ラプラスなら“やどりぎのタネ”を食らうかもと思ったが意外と素早い。おくびょうな性格が生きているな。

 

「同じ手は食わないわ。みずのはどう」

 

 水中のあちこちから波動が変幻自在に飛び出し、少しずつフシギソウの体力を奪っていった。

 

「しっかりして、こうごうせい!」

「甘い、狙い撃ちよ!」

 

 集中攻撃を受けかえって傷を負い、慌ててブルーはポケモンをチェンジした。

 

「今のはいい交代ね。でも私のラプラスを水中から引きずり出さないと勝機はないわよ」

「くぅっ! もう、なんでこんなフィールドなのよ! バカッ! ピーちゃん、頼んだわよ」

「この地形も試練なのよ。れいとうビーム」

「こうそくいどう」

 

 素早さを上げて徹底的に回避に徹する気か。狙いは敵の釣り出しかな。根比べになるな。普通は下策だが、相手がジムリーダーなら敢えて誘いに乗ってくれる可能性は高いか。

 

「やっぱり当たらないか。じゃあみずのはどう」

「避け続けるわよ! 上、右、次は前!」

 

 やはりというべきか、ずっとブルーが避け続けて状況が膠着したな。どうなるか。

 

「速いわね、仕方ない。水から出て狙いをつけて」

 

 動いた。さぁここからどうする、狙いはなんだ?

 

「今よ、とんぼがえり!」

「とんぼがえり? その技は……」

 

 ピジョンが戻り、代わりに控えが出てくる。なら当然狙いは……

 

「エナジーボール!」

「フッシーーッ!!」

「ラアァァッッ!?」

「ラプラス?!」

 

 不意を突いたおかげか急所を乗せやがった。これはすごい。一致新緑抜群急所。メンタンピンドラ1。満貫だな。相手はとんだ。俺も下に降りるか。

 

「や、やた、やったー!!」

「すごいっ! 勝者、マサラタウンのブルー!」

 

 満面の笑みで俺の方に駆けてきた。よっぽど嬉しかったらしい。渾身の賭けに勝ったんだから当然か。

 

「ねぇ見たでしょ? 今のは……ちょっとすごくない?」

 

 その割には控えめに聞いてくるブルー。さっき厳しく言ったからだろうな。

 

「そんなにビビらなくても、勝ったのに怒ったりしないって。よくやったな。さすがブルー、俺の見込んだ通りだ」

 

 ポンポンと頭を叩くと嬉しそうに笑った。今、ブルーはバトルに勝ったことを純粋に喜んでいるだろうが、この勝負、俺にとってはブルーの実力を見極める試金石でもあった。俺としてもこの結果には助かったという気持ちが1番だな。

 

「油断したわ。まさかあの使いにくい技、とんぼがえりをあんな使い方で活かすなんてね。それに私のラプラスを一撃で倒すなんてそうできることじゃないわ。あなたやっぱりすごい。これだとレインもうかうかしてられないんじゃない?」

「そんなこと、最初からわかってる」

 

 ぽつり、と言うと聞こえていたらしい。

 

「え? わかってるって、じゃあ……」

 

 聞かれる前に話を終わらせた。

 

「さ、それじゃあ俺達は用があるからもう行くぞ。それとも、今この前のリベンジをするか?」

「……いいわ。受けて立つ。あの後ずっとどうやったら勝てたか考えていたから、次こそは勝ってやるわ! この前と同じメンバーでリベンジよ! 今度は簡単には行かないんだから!」

「え、どういう流れなのこれ。コズエわかる?」

「えっとねぇ」

 

 その後のバトルはアカサビをおとりにしてイナズマが1体で6タテして勝利した。相性いいし、多少はね?

 

 ◆

 

 カスミを倒した後、マサキの家に寄ってから大事な話があると言ってブルーとハナダの岬に来ていた。ブルーは有名な観光スポットに来れて嬉しそうだが、今からする話をしたらどんな顔をするのか……。

 

「ねぇ、大事な話があるって言ってたけどなんなの? そんなに改まって」

 

 なんかやけに機嫌がいいな。バッジ1つでこんなに浮かれる性格じゃなかったはずだが。褒められたのが嬉しかったのか?

 

「いいか、これから俺が何を言っても、絶対に取り乱すなよ」

「わ、わかったから早く言ってよ」

 

 それに妙にそわそわしている。もしかして俺の話が何か察しているのか? 大きく息を吸ってから一息に言い切った。

 

「じゃあ言うぞ。……これからブルーとは別行動を取るからお前は1人でタマムシへ行け」

「え……な、なんて言ったの?」

「俺と別れてお前はタマムシへ行け」

「え……あ……ええー!!!!」

 

 ブルーの声がハナダの岬にこだました。さすがにこれは予想外だったらしい。そりゃそうだろうな。でもはっきり言っておかないといけない。

 

「落ち着け!」

「ここでっ、別れ話ってことは、普通に考えて、わたしのこと捨てる気なのね! 薄情者! 外道! 鬼! わたしまだダメダメなのに。シショーがいなくなったら死んじゃうんだからー!!」

 

 死んじゃうってのはダメ過ぎて死ぬのか後追いする的な死ぬなのかどっちだ。あの世までストーカーする的な意味と考えるとさすがに怖い。声が完全に裏返っていて、泣きが入っている。またあんな顔になる前に先に弁明をした。

 

「今外道とかは関係ないだろ。それに捨てるとかじゃない。一時的に別行動するだけだ。まずは話を黙って最後まで聞け」

「ぐす……でも、納得しなかったら意地でもくっついていってやるから」

「泣いていてもそれ言うのか。やっぱり根はスト……いや、先に説明だな。まず理由だが、俺はタマムシには絶対に行きたくない。俺はあの町と住人をこの世で1番憎んでいる。目が合ったら殺したいぐらいな。向こうも俺を見ればどんな反応するかわかったもんじゃないし。だから絶対行かない。だがお前はバッジのために一度必ず行かないといけない。だからいずれ一度は必ず別れることになる。要するにタイミングの問題。遅いか早いかの違いだけだ」

「に、憎いって、なんでなのよ」

「ほう、お前、聞きたいのか?」

「シショー、目のハイライト消えてる! 聞かないからっ! 聞かないから続きを!」

 

 もちろんこいつに聞かせる気はない。こういう反応をすると思ったから言ったんだ。

 

「で、問題はいつにするかだったんだが、1つは今。もう1つはこのまま俺と一緒にシオンタウンを経由してヤマブキに行き、その後分かれてセキチクで落ち合うという案。ヤマブキからセキチクは遠いし、長いことほったらかしになるからできたら今の方がいいと思ったが、まだブルーを1人にするのは心配でな。1人だと危ないことしそうだし、意外と打たれ弱いし、すぐ泣くし、お調子者だし……今日まで迷っていたんだが、お前のジム戦を見て決めたよ。お前は俺が思ってる以上に伸びてる。なら、崖から突き落とす気持ちで1人で行かせるのもアリかなって」

 

 本当に崖から突き落とすような事態になる可能性があるし、かなり危険かもしれないのは確かだ。だが、ブルーはそういう状況でこそ最も成長できる人間であることも事実。簡単には負けないだろうし、ブルーの素質に賭けることにした。

 

「シショー、それはふつうにしんじゃうとおもうの。それにわたしのことそんな風に思っていたことに対して二言三言物申したいけど……でもそこまで考えてくれてるなら、わたしはもうわがまま言わない。がんばってみるわ」

「よし。そう言ってくれると思っていた。合流はヤマブキ。期間は1ヶ月ぐらいと見ているが、たぶん俺が先に着くだろうし、お前のことは待っていてやるから、焦らず慎重に行動しろ。最近きな臭い動きも出てきているからな。お前なら大丈夫だとは思うが念のため言っておく」

 

 ホントに気をつけてほしいし、大事なことなのだが、ブルーはそうは思っていないようで軽く聞き流された。

 

「任せてよ。パパッと華麗にジム戦に勝って、シショーより早く着いてやるんだから!」

 

 この発言にはさすがに頭が痛くなる。悪気とかはないんだろうなぁ。話の内容を理解してくれ。

 

 ブルーはタマムシで何が起こるか知らないとはいえ、このままだと危機感が薄過ぎる。やっぱりあれを用意しといてよかった。

 

「お前、俺の話全然聞いてないな。やっぱりこれを用意しておいて良かった。心配で仕方なくなった」

「全く、変なところで神経質ね。何これ? 袋? 3つもあるの?」

「これは言わばお助け袋。しばらくなんの助言もしてやれないから、俺の代わりにお前の助けになるように中に困った時の対処方法を紙に書いて入れておいた」

 

 携帯みたいなものがあれば良かったがそういうものはあんまり見ない。俺が偶然見ないだけなのか単に普及していないだけなのかは定かではないが。

 

「へー、面白そう。じゃあさっそく開けるわね」

「バカッ! 今開けたら意味ないだろ! 何のために口じゃなく紙に書いたと思ってるんだ。それに、俺と別れた後もこれの中身は見るな」

「えーそれじゃ意味がないじゃないっ」

 

 意味ない合戦になっているぞ。まずは話を聞け。

 

「この中身は本当に困った時にだけ開けろ。それ以外では決して開けるな。だが、逆に困ったら必ず開けろ。絶対に助けてやる。いいな?」

「別にいいけど、わたしが勝手に開けたりするかもよ?」

「困ってもないのに開けたらちゃんとわかるように工夫してある。お前ごときが俺を欺けると思うのか?」

「……軽率でした」

「素直でよろしい。あと、それには順番がある。絶対に数字の順番に開けろ。あと、2つ目はタマムシ、3つ目はヤマブキにいる時だけ開けていい。1つ目は困ってなくてもタマムシに着いたら開けてもいい。覚えたか?」

 

 これだけはきっちり守ってもらわないとな。いらんことまで知る必要はない。本当はブルーには危険な目には合ってほしくないから。

 

「わかった。これはシショー自身だと思って大切にするわ」

「本当にそうしてくれ。大体伝えたし、俺からはこんなもんか。お前から聞いておきたいことは?」

「別にないわよ。でも、やっぱりいざ別れるとなると寂しいかも」

「すぐに会えるだろ?」

「それはそうだけど……」

 

 ブルーもそんなことはわかってるって顔だな。それでもってことは……本当に俺のことを慕ってくれているんだな。いつもはなんやかんやとうるさい奴なのに、こんなときだけしんみりするんだから困ったなぁ。

 

「ブルー、こっち見ろ」

「何? ひゃあ!」

 

 ブルーを抱き寄せていつものように頭を撫でてやった。いつもはどこか恥ずかしそうなところもあるが、今は会えない寂しさが勝ったのか、逆に体を預けてきた。

 

「シショーォ」

「こんなことしかできないけど、また会ったらいっぱい褒めてやるから。がんばれブルー! 元気がお前の取り柄だろ!」

「わかってるわよ! 今の言葉、絶対忘れないから、絶対忘れちゃダメだからね!」

 

 それだけ言うと急に俺から離れてものすごい速さで駆け出してあっという間に視界から消えてしまった。いきなり行ってしまったな。ここカントー最北端の岬だし、今日ぐらいはゆっくりして心の整理をさせてから明日送り出そうと思っていたのに。多分ノリで飛び出してしまったんだろうな。

 

 それじゃ、仕方ないし俺も1日早いが出発するか。目的地は伝説の三鳥が一体、雷の神サンダーの眠る“むじんはつでんしょ”だ。せっかく居場所が割れているんだから、捕まえに行かないわけがない。育てるのが大変そうだが、些細な問題だ。ハナダでスプレーを補充して、東へ向かった。

 




ここでこの章は終わりで、ここから別行動になります
ブルーはバイバイでしばらく出番なし……と見せかけて、次の章は全てブルーサイドの話です
外伝っぽく済ますだけのつもりが長くなって本編にすることに
この地方ではブルーが真の主人公なので仕方ないですね

今回の内容ではまずコズエの無実が判明しました
レインの中ではストーカー疑惑が一時出てましたが冤罪です

あとお助け袋に関しては、なんじゃこれ、という反応が大半でしょうが元ネタがあります
孔明の罠でお馴染み孔明さんです
演義で劉備が呉に向かう時お供の趙雲に渡した三つの錦の袋が由来
1回やってみたかったんですよね、リアル孔明

レインさんはしばらく活躍の機会なしです
しばしお待ちを


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3章まとめ

1.ブルーのお勉強

手帳を受け取るまでの間、レインはシショーとしての務めを果たすべくブルーにポケモンの基礎をレクチャーする。

ブルーはレインの想像以上の理解を示し、レインを驚かせた。

順調に進めていき、レインの指導のもとトレーナーとして最も大切なポケモンの育成に取り掛かるブルー。

しかし迅速な育成のために大量のドーピングを要し多額の借金を背負うことになる。

それでも時折垣間見えるレインの思いに触れ、ブルーは嬉しさを感じるのだった。

 

2.vsマチス

ディグダのあなを通りクチバにやってきた2人。

腹ごしらえもそこそこにさっそくジム戦へ向かった。

あっさりとジム戦に勝利したレインとは対照的にブルーは強力なジムリーダーのポケモンにくじけそうになってしまう。

しかしレインの声援がブルーを勇気づけ、起死回生の催眠攻勢により逆転勝ちを収めた。

 

3.vs襲撃者

ブルーを連れてクチバの町を見て回るレイン。

だいすきクラブ会長の長話に意識を失うが、ブルーは友好を深めポケモンのタマゴを託される。

町巡りを楽しむ2人は最後にクチバの港へやってきた。

釣りに興じるレインだったが、突如として異変が起こり謎の襲撃者から攻撃を受ける。

レインの決死の覚悟とグレン達の機転でなんとか窮地を脱するも、ブルーを攻撃から庇ったレインは重傷を負う。

ところが驚異的な回復でレインは一命を取り留め、これを契機にブルーとの絆をより深めることになった。

 

4.vs地下通路の暴走族

次の町への道中、複数相手の戦闘に苦戦し自信喪失のブルー。

しかしレインの励ましと優しい指導により見事にこれを克服する。

さらに地下通路へ進んだ2人はそこをナワバリとする暴走族に見つかった。

ピンチかと思いきやレインは嬉々としてこれらをいじめ倒してしまう。

イナズマはレインの本性を目の当たりにして恐怖するが、久々の優しい抱擁を受けてあっさりと陥落してしまうのだった。

 

5.vsカスミ

ハナダの町にやってきたブルーとレイン。

ブルーはレインを置いて1人先へ飛び出して偶然河原で出会ったコズエと意気投合し、レインも再会を果たす。

さっそくジムに乗り込んだブルーはレインの期待以上の活躍を見せ見事にジムバッジをゲットする。

成長を感じ、実力を高く評価したレインはブルーとの別行動を決意し、もしものために3つのお助け袋を授ける。

ブルーは寂しさを感じながらも再会の日を夢見て1人先へと走り出した。

 

 

データ

<ブルー>

フシギソウ Lv27→30

ピジョン  Lv28→29

 




文字数縛りがあるのでやや詳しめの要約に
もしかすると短すぎるよりこれぐらいの方がわかりやすいのかも


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ブルーの冒険編
1.始まりは いつも必ず あの人達


「うう、おなかすいたー」

 

 シショーと別行動を始めて1日、恥ずかしさと悲しさを紛らわすために何も考えずに飛び出したせいで手持ちの食料が尽きていた。それに最後、ちゃんとシショーの顔も見ずに来ちゃったし、わたしのバカ、なんでこんなことに……。

 

 1人で落ち込んでいるとボールから出てきたフシギソウが心配そうにわたしをうかがいながら慰めてくれた。

 

「わたしってバカよねー。はぁー」

「ソウソウ」

「ありがとね、心配しなくても大丈夫だから。でもその鳴き声はわたしがバカだって肯定しているみたいに聞こえるんだけど、ちゃんと励ましてるのよね?」

「フ、シッシ!」

 

 問いかけにはニッコリと笑顔で返された。悪意がないのはわかるけど、その声は嘲笑にしか聞こえないんだけど。気にし過ぎかしら。でもおかげでなんか気分が暗くなっていたのもバカらしく思えてきちゃった。気持ちは前向きに行こう。

 

 とはいえ、現実問題として今わたし達の食料事情は厳しい。何とかしないとね。一応そんな中でもポケモンにはちゃんとご飯をあげている。わたしのせいでこの子達にまでひもじい思いをさせたくないから。わたしは……だ、ダイエットも兼ねているから。うう、自分で言っていてむなしいわね。

 

「ピジョッ!」

「えっ! 町があったの! よし、急いで案内して! これで何か食べるものを買えるわ!」

 

 先行していたピーちゃんが合図している。まだわたしの運も尽きてないみたい。助かったわ。とにかく何か食べたい一心で底力を出して駆け足で町に向かった。自分でもどこに残っていたのかびっくりするくらい力が出た。

 

 ◆

 

 町に着いて腹ごしらえをした後、改めて旅に必要なものを買うためにショップへ向かった。1人旅の時は当たり前だったけど、シショーといるようになってからは、いつのまにかわたしは全部シショーに任せっきりになってしまっていたことにいまさらながら気づかされた。こういうところも考えて1人で行かされたのかな。それに……。

 

「お金がなーい!」

「フシィ……」

 

 フシギソウとがっくりと肩を落としているといきなり知らない人に声をかけられた。

 

「君、大丈夫かい? 見たところかなりイイ感じだな。良かったら僕がいいことを教えてあげようか?」

 

 げ、エリートトレーナーじゃない!? わたしエリートは苦手なのよね。それになんか危ない空気が漂い始めた気がする。わたしまだ13なのだけど……。考え過ぎよね?

 

「あ、いや、大丈夫ですから」

「そうは見えないけど……。腕に覚えがあるなら、もうすぐ始まる大会に出たらどうだい? 受け付けはまだやってるし」

「大会? この町って大会とかしてるんだ。いつもやっているものなの?」

 

 危ない話ではないみたい。イイっていうのはバトルの方だったのね。わたしをまじまじと見ていたから勘違いしちゃった。良かった……。うん、わたしの考え過ぎだったわね!

 

「ここではいろんな大会があっていつも盛り上がっているよ。最近はすごいポケモンが出てくる虫取り大会とかもあったね。これから参加するならポケモンバトルの勝ち抜きバトル大会があるはずだ」

「へー。すごいポケモンかー。ちょっと気になる!」

「残念だけど、もうそのポケモンはいないよ。ものすごく強いストライクなんだけど、この前フラッと来た旅のトレーナーが捕まえちゃってね。僕も狙っていたんだが、全然歯が立たなくてね」

 

 へえ、ストライクか。シショーのアカサビさんとどっちが強いのかな。惜しかったな、おつきみやまで足踏みしてなければ……いや、そのおかげでシショーと会えたわけだし言っても仕方ないわね。

 

「そのトレーナーってどんな人だったんですか?」

 

 何気なく興味本位で聞いたら驚く答えが返ってきた。

 

「それが、最初見たときは初心者同然でね。虫取り大会なのにポケモンの捕まえ方も知らなくて、僕が優しくレクチャーしてあげたんだが、ポケモンの方は恐ろしく強くてね。たしか、ウインディに乗っていたな。いやー、あの2匹を持ってたら、もう向かうところ敵なしだろうなぁ。まぁ、半分はいいレクチャーをした僕のおかげでもあるけどね」

 

 なんだろう、その組み合わせはものすごく覚えがあるような。でも捕獲の仕方を知らないなんておかしいわよね。あの人はなんでも知っているのに。まさかわざと知らないフリをしたとか? いや、見ず知らずの人にすることじゃないし、そもそも本人と決まったわけじゃないわ。

 

「ねぇ、その人って、丁度このくらいの時期にここにきたんじゃない? で、こんな感じの人じゃない?」

「あ、そうだねそんな感じだね。でもなんで君がそんなことわかったんだい?」

「……あ、わたし、その大会の受付に行かないと。場所教えてもらえませんか?」

「ん、いいだろう。僕が優しくレクチャーしてあげよう」

 

 レクチャー好きの人から教えてもらって大会には無事に参加できた。この大会はアマチュアオンリーみたいで、ランク6以上のトレーナー、つまり‘壁’を超えたバッジ5個以上のエリートは参加できないらしい。だからあの人は自分が出られないから教えてくれたのね。わたしは一応バッジ3つでランクは4だから参加OK。敵も弱いから簡単に優勝できたわ。

 

 賞金もゲットして、しばらくは困らないわね。でもこれからはお金の工面も大変だなぁ。それにシショーのことも気になる。どう考えてもここでアカサビさんを捕まえたみたいだし。ま、どうせ本人に会えるしその時に聞いてみればいいか。そうと決まれば、さっさとタマムシまで行っちゃいましょうか。フーちゃんもピーちゃんもバトル後だけど余裕みたいだし。

 

 ◆

 

 軽い足取りでどんどん進み、出会った野生のポケモンもばっさばっさと倒して、タマムシまで後少しのところへ来た。ピーちゃんのおかげで道に迷ったりしないし、順調そのものね。これじゃ1ヶ月どころか1週間かからないわね。

 

 そんなことを考えて気を抜いていたせいか、わたしは重大なことに気づかずにいた。

 

 ブロロロロロッッ

 

「あれ? これ何の音?」

「フシーッ!」

 

 ものすごく警戒している。まさか敵? ……あ、これバイクの音! ってことはまたぁ!?

 

 地下通路の再来。最初の試練の予感がヒシヒシとする。わたしの予想外れて!

 

「おう、嬢ちゃん、痛い目見たくなかったら通行料を置いていきな」

「やっぱりまたあんた達なのっ!?」

 

 カントーって暴走族多過ぎでしょ! おかしいわよこんなの! 他の地方もこんなもんなの? 絶対違うわよね?

 

「へへ、お好みなら、少しおとなの教育をしてやってもいいんだぜ?」

「チビだが、顔は悪くないしな。おっと、お前みたいなガキんちょにはまだわからないか。今日は身包み剥がすぐらいで勘弁しといてやるよ」

「「ガハハハッ!」」

 

 ブチッ! 

 

 今の言葉でわたしの中の何かがキレた。こんな不潔な連中は、何人だろうと叩きのめす! 毎日シショーにしごかれて、とんでもなく強いジムリーダーを倒してきたのに、今更こんなチンピラにビビるもんですか!

 

「どうしても通さないなら……力ずくで押し通るまでよ! あんたら全員まとめて倒してやるから覚悟しなさい!」

「ヒューー、威勢のいいガキだ。俺達にバトルを挑むとはなぁ。だったら遠慮なく泣くまでいじめてやる! まずは俺からだ。出てこいワンリキー!」

「いくわよピーちゃん」

 

 敵は5人。ワンリキーはレベル20、いや25ぐらいってところね。わたしのピーちゃんは29、フーちゃんは30ある。十分勝てる。連戦になるからいかに消耗しないか、だけね。

 

「からてチョップ!」

「避けてつばさでうつ! 反撃には気をつけるのよ!」

「リキッ!」

「チッ、もたついてんじゃねえ、けたぐりだ!」

「バカね、飛んでいる敵に蹴りだなんて。態勢崩したところにつばさでうつ! これでトドメよ」

 

 あっさり倒せたわね。やっぱりわたし達は確実に強くなっている。こんな奴ら、ものの数じゃない。この後も順調に敵を減らしていったけど、負けそうになると次から次へと応援が来て数が減らない。これじゃキリがないわ。

 

「くそっ! こっちは総出で向かってるのになんで倒せねぇんだ。こんなのまるであんときみたいじゃねーかっ」

「ムダだってわかったならいい加減諦めたら?」

「へっ、こっちにもメンツがあるんだよ! ここで終われっか!」

 

 そこに拘るならそもそも女の子相手に総がかりなのは何とも思わないのかしら。そこにはプライドとかないの?

 

 いや、そんなことよりこっちもヤバイ。2体とも頑張ってくれているけど、さすがにこの数はキツイ。フーちゃんの“やどりぎのタネ”で上手く回復しながら凌いでいるってだけで、もう気力が限界に近い。こんな時シショーならどうするのだろう。もう、なんでこんな時にいないのよ!

 

 ―困ったら必ず開けろ。絶対に助けてやる―

 

 そうだ! あの袋があった! シショーのことを考えて別れ際の言葉を思い出した。今まさにその時よっ! 「必ず開けろ」って言っていたし、もうこれに頼るしかない。一か八かよ。お願いシショー……助けて!

 

 ……急いで紙を広げて読むとこう書かれていた。

 

『まず、今暴走族に襲われているならすぐにこう言え』

 

 これだっ!

 

「あんた達、まだこんなところで走り回って街に迷惑かけてるの! そんなことしてたらまた橋を締め出されるわよ」

「あ? いきなり何言ってやがる。いや、そもそもなんでお前が橋のことを知ってやがる? どこでそのことを嗅ぎ付けた?」

 

 知らないわよ、こっちが聞きたいんだから! ただここにそう言えって書いてあるだけなのよ! でもなんか効果があるみたいだし、もう最後までやってやるわ!

 

「あんた達、昔言ったことを忘れたわけじゃないでしょうね。こんなことしていたら、シショー……レインに言っちゃうわよっ!」

「げえっ!? なんでその名前を! お前何モンだっ!?」

「え、わたし? わたしは……」

 

 手紙の先を見ると続きがある。わたしのことを聞かれるだろうからこう言え……これね。何気に相手のこの反応まで想定済みなのね。

 

「レインに言われてあなた達の様子を見に来たのよ。なのによりによってそのわたしを襲うなんて、あなた達舐めたことしてくれるわね」

「そんなのはデタラメだ! レインさんにそんな知り合いがいるわけねえし、わざわざ様子を見に来させるなんて考えられねぇ。第一証拠がねぇ!」

「証拠はわたしのポケモンの強さを見ればわかるわ! なんなら一度バトルしてみる?」

「はぁ? もうしてるじゃねーかっ」

 

 やっば! 安心して書いてあること何も考えずに言っちゃった!

 

「あ、間違えた。でも、わたしの強さはわかったでしょ。強さこそが正義よ」

「くっ!」

「それに、レインから証明として伝言があるわ。えーっと、俺と番人との勝負、1ユンゲラー2ゴローン3ゴースト4ポリゴン5イワーク6ゴーリキーだって」

 

 すると暴走族がざわざわ騒ぎ始めた。今の伝言の意味はわからないし、なんでこいつらがシショーのこと知っているのかわからないけど、とりあえずなんとかなりそうね。でも、怖いぐらいに書いてある通りに進むわね。全部書いてある通りに言っただけなのにここまで上手くいくなんてびっくり。さすがに既に交戦しているとは思ってなかったみたいだけど、わたし自身もこんな無謀なことした自分に驚いているぐらいだし、それ以外はこの場を見て書いたかのような文章だわ。というか、暴走族に襲われることもわかっていたのね。

 

「す、すまなかった。頼む、今回のことだけはどうか見逃してくれ。さすがにレインさんに本気で怒られたら俺達タダじゃ済まねーんだよ、頼む!」

 

 ホントに謝ってきた。なんか怖いわね。さっきまで身包み剥がすとか言っていたのに。シショーのこと「さん」付けだったし、なんかあるのかしら。

 

「いいわよ。その代わり、これからあなた達のボスのところに案内してくれない? 話があるの。それで今回のことは水に流して黙っておいてあげる」

 

「おお! ありがてぇ。ゴウゾウさんに話があるってことは、やっぱり何か用があったのか。いいですぜ、レインさんには恩がある。その人の使いの言うことならなんでもしますぜ」

 

 本当に話通っちゃった。わたしまだ先の分まで読んでないけどホントにそんな人のところに1人で行って大丈夫なの? というかシショー、この人達に何したのよ!

 

 案内される道中色々考えたけど何にもわかんない。なんかこの人達シショーを恐れているけど、恩もあって、それで協力関係にある? なんでそうなったのか、何をしたらこんなことになるかがさっぱりね。あ! 今のうちに手紙を読んどけばいいじゃない!

 

「着きました。この方がリーダーのゴウゾウさんです」

 

 とりあえず一通りは目を通せた。ギリセーフ。顔を上げればいかにもボスって感じの暴走族がいる。気を引き締めておいた方が良さそうね。

 

「よう、あんたがレインの寄越したっていうトレーナーか。まさかこんなちっこい女が来るとは、レインの奴何考えてんだ? 様子を見に来たとか言ってたそうだが、そりゃ本当なのか?」

「わ、わたしはレインの弟子なの。トレーナー修行の面倒を見てもらっていて、ここにレインの仲間のゴウゾウって人がいるから困ったことがあればここに来いって言われてて。様子を見に来たっていうのは、まぁついでよ」

「だろうなぁ。あいつはそんなことする奴じゃない。要はただの方便だな。だが、お前がレインの弟子になったってのは信じられねぇな。あいつが赤の他人様に無償でそんな面倒なことするとは思えねぇ」

 

 その通りね。実際そう言って最初は何度も断られたし。やっぱりこの人もレインのこと良く知っているようね。

 

「……でしょうね。わたしも生半可な努力で弟子になったわけじゃないわ。それより、実は伝言もあるの。先に言っておくわ」

「いいぜ、聞いてやるよ」

 

「おほん!

『ゴウゾウ、まだ部下の躾がなってないみたいだな。暴走族がまた好き勝手していたぞ。それにどうせまだタマムシで暴れて問題起こしてばかりいるんだろ。番人にも愛想尽かされたら終わりだ、やめろとは言わんがせめて慎重に、バレないようにやれ。あと、最近タマムシはどんな感じだ? そっちでは今面白いことになっているんじゃないか? 街の奴らが慌てふためく様が目に浮かぶ。お前らも巻き込まれないようにしとけよ。地下通路の奴らとかも含め、ちゃんと手綱をにぎって団結しないと、面倒なことになったらどうなっても知らないぞ。それと、例の情報は役に立った。おかげでいいポケモンを捕まえられた。今後会うこともないだろうからな。今礼を言っとく』

 ……以上です」

 

 読んでいて思い出した。全体的にわたしにはわかりにくくぼかして書いているけど、地下通路のことはわかる。それにゴウゾウって名前はあの時も言っていた。この人がリーダーだからその名前を出していたんだ。とすると、この人かなりの人数の元締めなのかもしれないわね。

 

「なぁ、今の伝言はその紙に書いてあるのか?」

「え、ええ。そうよ」

 

 なんか怒っているみたいな感じね。でもお礼とかもあったのにどういうこと? 注意されたのが気に食わないのかしら。さすがにわたしにとばっちりがくるのは勘弁してほしいわ。

 

「ありえねぇ、ありえねぇよ。おい、お前、レインはタマムシのこと調べたりしてたか?」

 

 首を振って否定すると、「だよな」といってぽつぽつとしゃべり始めた。

 

「レインはこの町のことは毛嫌いしている。自分から関わろうとはしないはず。なのになんで俺達のことを見透かしてるみたいにそんなことがわかるんだ? あいつがエスパーだったって言われても驚かねぇ、いや驚けねぇぞ、これじゃあよ。おい、その紙、ちょっとこっちに渡せ。もう1回内容を見させろ」

 

 これには驚いた。なんで手紙をひったくろうとするのよ、どうして!?

 

「え!? ウソでしょ!? いや、でもなんでよ、まだ」

「いいから貸してくれ」

 

 本当に無理やりひったくられた。でも、こんなのって……。

 

「あ? まだ続きがあんじゃねーか。……な、なんだこりゃ!?」

「ゴウゾウさん、どうしたんですかい」

「は、ははは、はーはっはっは! 笑っちまうぜ、あいつには全部お見通しってことかよ! もう間違いねぇ。こんなふざけたことできるのもやるのもあいつだけだ」

 

『ここからはブルーは読むな。

 勝手にこれを読んでいるだろうゴウゾウへ

 ここからが本当の伝言だ。そいつは訳あって俺が面倒見ることになった弟子だ。リーグに出られるようになるまでは面倒見てやるつもりだったんだが、そこのバッジが必要になってな。俺はそこに行きたくないからそいつだけ行かせた。悪いがそこにいる間そいつが困っていたらお前が力を貸してやってくれ。逆に、やばいヤマに首突っ込んでいるなら、そいつと協力して事に当たれ。ああ、そいつの実力が気になるなら、一度バトルしてみるといい。相性はいいから、運が良ければお前でも勝てるかもな。そいつは俺と違って優しいから、適度に手加減もしてくれるだろう。あと、もしも、ないとは思うが、そいつに危害を加えるようなことをお前らの誰かがしたら、あるいはそいつが無事にヤマブキに来なければ、お前らもタダでは済まないと思えよ。一応差し入れにわざマシンを持たせてあるからブルーから受け取ってくれ』

 

 怖っ。何もかも掌の上のようで、シショーに操られているのではないかってバカな考えすら浮かんでしまう。ひったくることまで計算済みなんて、ポッポ肌立っちゃうわね。わたしは無言で袋の中にあったわざマシン(チラッと見たら貴重で高価な“れいとうビーム”のわざマシン)をゴウゾウに渡した。

 

「……」

「俺の言いたいこと、わかるか?」

「まさか、俺とバトルしろ、とか?」

「そのまさかだ。おそらくレインは俺がこうなるのを見越してあんなこと書いてるんだろうが、わかっていても俺のプライドがそれ以外の選択を許さねぇ。ここまでコケにされた以上、この場でお前をバトルで倒す。当然、受けるよな?」

「わたし、今100人ぐらいと戦ったばっかりなんだけど」

「ああ? 手加減してくれるんだろ?」

 

 あーあ、これはプッツンキレてる。断るのは無理ね。やるしかないか。この人を倒さないと先には進めないみたいね。

 

「わかったわ。受けて立つ。わたしだって勝ちを譲る気はないから」

「いい度胸だ。俺はさっきお前が倒した雑魚とは文字通りレベルが違う。いい気になっていると痛い目見るぜ?」

 

 どれぐらいの実力か、まずは見極めないと。ボールを構えて、同時に振りかぶった。

 

「お願い、フーちゃん」

「出て来い、パルシェン!」

 

 比較的HPに余裕のあるフーちゃんを先に出したけど裏目に出たわね。そういや相性いいからとか書いてあったし、“れいとうビーム”のわざマシンでこおりタイプがいるって気づくべきだった。しかもけっこうレベルは高そう。厳しいわね。

 

「先制のつららばりぃ!」

「すぐ右へ!」

「次はオーロラビーム!」

 

 一撃も受けるわけにはいかないから避けるばかりで余裕がない。このままじゃすぐにつかまる。どうすれば……交換しても意味ないし……。

 

「ちょこまかとめんどくせぇ! 逃げるしかできねぇのか?! ああ? だったら接近してシェルブレードをぶちかませ!」

 

 しめた! みずタイプの技なら受けても耐えられる!

 

「やった! 受け止めてギガドレイン!」

 

 効果は抜群、これでHPは五分にできるはず。後は隙を見て“エナジーボール”を当てれば……遠距離でいいから無理しなくて済むし、2体目も頑張れるわね。

 

「パルゥゥ……」

「ウソだろ、おい! パルシェン、しっかりしろっ!」

「へ? あれ、もう倒れるの? 次の手も考えていたのに」

「てめぇ……! 言ってくれるじゃねぇか。俺のパルシェンなんか相手にならねぇってことか。久々に燃えてきたぜ」

「あっ、いや、つい、びっくりして、思わず。そんなつもりで言ったんじゃないの、ごめんなさい」

「優しい、というのは残酷なまでに素直、の間違いだろ、レイン。ここまで強いとはさすがに思ってなかったぜ。やるじゃねぇか。だが、今度はスピード勝負だ。行くぜ、ドードリオ!」

「出た、ゴウゾウさんのドードリオ! 並みの相手ならワンパンっすよ」

 

 取り巻きのあの反応。こいつが切り札ってわけね。とすると2体で終わりかしら。発言からすると、速さが自慢、しかも攻撃力もあるようね。だったらフーちゃんよりは、同じタイプのピーちゃんがいいわね。

 

「ひこうタイプか。暴走族では意外なタイプね。ならこっちも交代よ。頼んだわよ、ピーちゃん」

「ピジョンだと? 真っ向からねじ伏せようってわけか。おもしれぇ。先手必勝、最速のみだれづき!」

「甘いわ。引きつけて空中からつばめがえし!」

 

 ドードリオはひこう持ちとはいえ陸上戦しかできない。空中に躱せば避けられない速さじゃないと思ったけど、その通りね。ギリギリで躱し、技を出した直後で動けない敵の後ろを取って技が決まった。うちの子だって速さはもちろん、技のキレにだって自信があるのよ。

 

「ウソだろ?! 初見でこれを見切ったのか! バカな!」

「もたもたしていて大丈夫なの? でんこうせっか!」

「つつく!」

「回り込んで!」

 

 くちばしを突き出して目線は前に寄っている。先制技なら後ろを取るのは難しくない。クリーンヒット。続けて“つばめがえし”を同じように放ち、そのまま勝利した。結局一人一殺で締めたわね。

 

「ドードリオ! くっ、戦闘不能だ。悔しいがお前の勝ちだ。お前もどうやらレインに劣らない程の腕っぷしみたいだな。よく育てられている。俺達の中じゃ強さこそが正義……認めざるを得ないな」

「あ、ありがとう。ゴウゾウも強かったわ。1番苦戦しちゃった」

 

 勝負の後は握手で和解。わたしのこと認めてくれたみたいだけど、シショーはこの人達の性格を踏まえて、わたしが舐められないようにバトルさせたのかも。シショーすごい。でも、この展開をわかっていたということは、シショーも同じことをしたってことなのかしら?

 

「あの、もしかしてシショーともバトルしたの?」

「ああ。俺の下っ端がレインのアジトを襲撃して、それに怒ったあいつがこいつら全員倒して俺のとこまで1人で乗り込んできてな。そんときサシの真剣勝負をしたぜ。もちろん俺が負けたが」

 

 この数を全部倒したの?! 頭おかしいでしょ! どんだけいたと思ってんのよ!

 

「シショーワイルド過ぎ! やっぱり昔は突っ張っていたのね」

「しかも、あの時は捕まえたばかりのウインディ1匹で俺に勝ったからな。信じられねぇ強さだぜ」

 

 そうするとその時はわたしのポケモンよりレベルが低くて、しかも1体だけなのに大立ち回りした可能性もあるの? どんだけー。ちょっとわたしもカッコよく暴走族をなぎ倒してボスにも勝って、シショーみたいな感じになったと思ったのに。

 

「ああ、わたしってやっぱりまだまだね。よし、じゃあシショーを超えるにはこのままジムを攻略するしかないわね。サクッといっちゃうわ!」

 

 メラメラと闘志を燃やしているとゴウゾウから呆れた声を出された。

 

「まだやるつもりか。さすがに休ませてやった方がいいんじゃないか? 俺が言うことじゃないかもしれないが。それと、ジムは今行っても無駄足だ。休業しているからな」

「え、ええええ!! 困るわよぉ! わたし、1ヶ月で合流しないといけないのに! これじゃバッジが手に入らない! どうしろってのよ!」

 

 これは深刻だ。期限に遅れたらシショーに迷惑かけるだろうし、離れる時間が増えること自体耐え難い。

 

「大丈夫だ。発作みたいなもんだし、何日か置きに再開しているからな。ジムが開いたら俺らが知らせてやるよ」

「それは助かるわ。ホントに頼もしいわね。じゃあ先に町巡りをしようっと。どこかいい場所って知ってたりする?」

 

 問題なさそうだし今のうちに町を見て回っとかないとね。シショーは重要なところは時間を取って必ず漏らさずに回っておくようにしていたし。

 

「まぁ、ベタなところだとデパートとゲームコーナーか。ただし、あのゲームコーナーはなかなか勝てないし、息抜きでも軽い気持ちで行くのはやめておけ。一応例外的に勝ちまくる人間もいるにはいるがな」

 

 そう言って手元のわざマシンを見ているけど、まさか……それ景品なの?

 

「わかったわ。じゃあ行ってくる。色々ありがとうね」

 

 暴走族だけどゴウゾウは割といい人みたいね。同じ暴走族でも色々いるもんなのね。

 




お助け袋さっそく活躍
レインはタマムシの内情を実際に見ている上ロケット団のアジトがあることを知っているので色々予測できていて、過去にも少しエリカ戦でのセリフなどで触れています
タマムシは実際にロケット団の悪事でめちゃくちゃピンチになっています
ゲームではシルフ乗っ取り以外たいして悪いことしていない印象なので、ロケット団は悪の秘密結社らしくもう少し暴れてもらいます
具体的には秘密結社なら密猟、ポケモンの生体実験、ヤバイ怪電波の実験とかをしていて、かつボスはかなり強いというイメージで書いてます(偏見)

ジムの休業は察し


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2.緊急Sランクは事件の香り

 とりあえず一難去ったし、まずはポケセンでポケモンを預けてから買い物ね。お金稼いどいてよかった。色々買っちゃおうっと。ジムが開くまでは依頼でもこなして買い物してようかなー。

 

 ルンルン気分でデパートへ向かうと、遠くからでも見える程おっきな建物だった。これが今まで目に入らなかったのが不思議なくらいね。ついさっきまでホントに大変だったからなぁ。

 

 さてさて、どんなものが売ってあるのかしら。インフォメーションを見ると……色々あるわね。ふむふむ。あっ、ドーピングもあるじゃない! これならもし新しいポケモンを捕まえても大丈夫ね。とりあえず、やっぱり最初は2階のトレーナーズコーナーからね。キズぐすりも少ないし。

 

「ぷはー。いっぱい買っちゃった。それに久々のサイコソーダ、おいしいわね」

 

 満足いくまで買い物を楽しみ、屋上のベンチに座ってサイコソーダを飲んでいた。シショーといる時はおいしいみずばっかりだったもんね。コスパがいいとかよくわからないことを言っていたけど絶対こっちの方がいいじゃない。

 

「相変わらず炭酸ばっかり飲んでるんだな」

 

 いきなり懐かしい響きの声がして反射的に振り返ると、これまた懐かしい顔、幼馴染のレッドがいた。……え、レッド!? なんでこんなとこに!

 

「うそっ、れ……レッドッ! 久しぶりじゃない! 元気してた?」

 

 コクリ、と首だけ動かして答えた。この感じ、なんかものすごく懐かしく感じるわね。

 

「あいっかわらず無口ね。そんなあんたが話しかけてくるなんて珍しいじゃない。ずっと会ってなくて寂しかったとか?」

「そんなんじゃない。ブルーが追いついてくると思ってなかったからびっくりして、話を聞いてみたくなった」

 

 こいつ、茶化してやっても乗ってこないし真顔でこんなこと言ってくるなんて、こんなとこまで変わらないわね。

 

「はっきり言ってくれちゃうわね。まぁたしかに、最初はちょっと後れをとったけどもう油断しないわよ。あんた達なんか軽く追い抜いてやるわ! そういえば、バッジは何個集めたの?」

「4つ。ニビ、ハナダ、クチバ、でここ」

「くうう! わたしもここのバッジさえあれば4つなのに! あんた運がいいわね。ジムさえ開いてればなぁ。今来たところだし仕方ないけど」

 

 惜しい! もうちょっとで追いつけていたのに! なまじ追いつけそうだっただけに悔しさもひとしおね。

 

「やっぱりそうか。やるな。じゃ、あいさつ代わりにバトルでもするか?」

「あんた今日はやけに積極的ね。望むところよ! ……と言いたいところだけど、今はポケセンに預けてるの。場所を移してそこでやりましょうよ」

 

 ここでバトルに勝ってわたしも追いついてるってとこを見せてやる! バッジの数なんて実力と何の関係もないもの。今なら勝てるわ。

 

「そうか。悪いが時間が来たらこの後はグリーンと依頼をするから、今から場所を変える時間はない。また今度にしよう」

「じゃあ仕方ない、また今度ね……って、ちょっと待てぃ! グリーンの奴までここに来てるの!?」

「ああ。お前も来るか?」

 

 勝負できないがっかりより、グリーンのことで頭がいっぱいになった。あいつはわたしが挫けるきっかけになった言葉を言った。今でもちょっと、いや結構、ううん、大分根に持っている。

 

「誰がっ! あのウニ頭、ニビでわたしをバカにしたこと忘れてないんだから! 次会ったら泣かす! 絶対! それ終わったら絶対にポケセンまで2人で来なさいよ! まぁ積もる話もあるしね。あんたもそれで声かけてきたんでしょ? 3人そろうのなんて久しぶりだし」

「絶対に行く」

 

 短くそれだけ言うとレッドは先に行ってしまった。はぁ、まさかレッドにここで会うとはなぁ。あいつ見ていると、こんなことしている場合じゃないって思っちゃうわ。もう時間も潰せたし、さっそく戻って特訓開始ね。新しい技でも覚えようかしら。

 

 ◆

 

 ポケモンセンターに戻って預けたポケモンを受け取った。頭の中はもうどうやってあいつらに追いつくかしか考えていない。強くなるにはやっぱり依頼とかこなしていくしかないのかな。特訓も1人じゃ効果あるかわからないし。

 

「お預かりしたポケモンはみんな元気になりましたよ」

「どうもありがとう。よし、じゃあ……そうね、どうせなら今依頼も見とこ。ここに来ている依頼でランク4以下のやつ見せてもらえますか?」

「わかりました。といっても、今はこの町はちょっと大変なことになっていて、依頼は全部似たようなものしかないの」

「どういうこと?」

「実は最近この町の近くに変な工場があちこち増えて、そこの廃液からものすごい数のベトベターが出てきているのよ。定期的に大量発生して、今週なんかもう3回も! それが町に襲いに来るのよ。またいつ出てくるかわからないし、今日もさっきあなたぐらいの子供が増え過ぎたベトベターを討伐に向かったわ。だからできたら次の討伐依頼が来るまで手を空けておいて欲しいの」

 

 うえーっ。ベトベターってあれよね、べたべたの、触りたくない奴。ポケモン同士でも戦わすのはかわいそうだなぁ。でも困っているみたいだし、どうしよっか。それにさり気に今話に出た子供ってレッドとグリーンよね。あいつらの方も気になるし……。

 

「大変です、ジョーイさん!」

「どうしたんですか? 落ち着いて話してください」

 

 どうするか悩んでいると慌てた様子の大人が駆け込んできた。ただごとじゃない空気ね。ヤバイ事件でも起きたのかしら。ボスゴドラ事件の時と同じにおいがする。

 

「それが、とうとう町の中でも出たんですよ! 20はいます! もう周りの民家などを攻撃し始めていて……」

「そんな! 町の中まで危険だとなれば住民にパニックが起きるわ! なんとかすぐに討伐しないと。エリカさんは動けないの?」

「もちろん先に当たりましたがダメみたいで。例のやつですよ。今はお弟子さん達が応戦していますが、いかんせんくさタイプは相性が悪いのでいつまで持ちこたえられるか……」

 

 ほんとにヤバそうね。ジムリーダーが動けない上、依頼で有力なトレーナーは出払っているはず。この町が手薄になるのをまるで狙い澄ましたかのようね。間の悪さにイヤな感じがするけど、危ない事件でもわたしがやるしかなさそうね。

 

「決めた! わたしが何とかするわ。あなた、すぐに現場に案内して!」

「おお! トレーナーか! まだいたとは、これは助かった!」

「ちょっと待って! あなたランク4でしょう? ベトベターは全員レベルは30以上。しかも20匹も相手することになれば、難易度はSランクにもなり得るわ。さすがにあなたには荷が重過ぎる」

 

 Sランクか。ちょっと怖いけど、でも今はやるしかない。できるできないは関係ない。できなければこの町が滅ぶ。考える時間はない。とっさに思いついた言葉をそのまま言った。

 

「安心して。わたし、一応緊急でSランクの依頼をこなしたこともあるから。ニビのボスゴドラ事件って知ってる? あれにわたしも一枚噛んでるの」

「本当なの!? それなら大丈夫なのかしら? いえ、もう考えてる時間はないし、ここはお願いします」

「すぐ案内して」

「わかりました」

 

 ◆

 

 久々の依頼、またいきなり大変なのに関わることになったわね。現場は大混乱だった。住民の避難はできているようだけど、トレーナーはもう2人しか残っていなかった。近くで何人か倒れている人もいる。きっとポケモンの攻撃にやられたのね。本当に人間にも襲い掛かるって事実を改めてまざまざと突き付けられた。でもビビッてる場合じゃない。

 

「アヤメ、ごめん私もやられた!」

 

 訂正、トレーナーは残り1人ね。まだ相手は10以上残っている。これはしんどいわね。でも、ボスゴドラに囲まれたあの時に比べれば、絶望的というには温過ぎる。たったのレベル30、大したことない。

 

「助太刀するわ。後はわたしに任せて!」

「増援?! ありがとう、もう限界だったの!」

「いいから下がって。やどりぎのタネ、つばめがえし」

 

 こいつら動きは遅いみたいだから“やどりぎのタネ”で回復できるわね。暴走族とやっているときこの技の有用性はよくわかった。これを使わない手はない。

 

「待って! あいつらの中にはヘドロえきっていう回復技を使うとダメージになる特性を持っている奴がいるみたいだから気をつけて」

「ウソでしょ!? フーちゃん大丈夫?」

「フシッ」

 

 なんとか当たりを引いたみたいね。回復がダメなら仕方ない。できるだけダメージは抑えるしかない!

 

「すなかけで撹乱、右の奴らはしびれごな」

 

 動きはかなり制限したけど、まだこっちから反撃はキツい。スキを作る行動は自滅を招く。しかも相手からは連続で技が来るから避けきれない!

 

「上昇して当て逃げよ! できるだけ注意を引いて。 フーちゃんはさっきやどりぎのタネ入れた奴にギガドレイン」

 

 最初が1番きつかったけど、とにかく堅実に辛抱強く立ち回った。回復しながら少しずつ数を減らし、気づけば残り4、5体という状況。あとはしびれて鈍い敵に攻撃を叩き込みまくるだけ。最後はあっという間に数を減らし、いよいよラスト1体になった。

 

「よし! トドメよ! つばめがえし!」

「ジョッ!」

「ベタァ……」

 

 全部倒した! やった、何とか勝てたわ!

 

「やったやった! ……ふふん、ざっとこんなもんね」

「「おおおおお!!!!」」

「すごーい。あの数のベトベターをほぼたったの1人で」

「2匹同時に的確な指示。カッコイイーッ!!」

 

 バトルに夢中で気づかなかったけど、いつの間にか周りに人が集まっているわね。避難したのじゃなかったの?

 

「なんでこんなにギャラリーがいるのよ?」

「それはあなたのことを聞きつけて集まったに決まっているでしょ? すごかったわ。私じゃ全然歯が立たなかったのに」

「あ。あなたは最後まで戦っていた、たしかアヤメさん?」

「ええ。とりあえず、先にジョーイさんのところに報告に行きましょう。みんなを安心させて、それから小さなヒーローの紹介もしないとね」

「ヤダ、わたしそんなガラじゃないのに」

 

 とは言いつつも、内心はものすごく嬉しかった。自分もシショーみたいにヒーローになれて、少しその背中が見えた気がしたから。

 

 ◆

 

 ポケセンに戻ったらたくさんお礼を言われて、依頼としての達成ということにもしてもらえて、しっかりわたしの実績になった。その時、もちろんボスゴドラ事件の解決の功がないのはバレて、正直に本当のことを言ったがむしろ感心された。よく生き残ったな、みたいな感じで。

 

 そして今回のことでなぜ突然町の中にポケモンが現れたのか調査することになった。わたしも協力して捜査に加わったが、なかなか発生源がつかめなかった。日をまたいで次の日も行うけど成果は芳しくない。目撃情報などからある程度絞れているものの、どうもその足跡が不透明で、ほんとに湧いて出たとしか思えない状況だった。

 

「困ったわねぇ」

「あの、思うんですけど、あの子達も一応ポケモンだし、何か上手く誘導したりして野生に返したりはできないんですか?」

「それがダメなのよ。ここに出るベトベターは狂暴で人間を襲う習性があるから」

 

 やっぱりダメかぁ。でもなんでなのかな。ここだけベトベターが狂暴なんて。何か裏がありそうな気がする。これは……事件の予感! わたしが謎を解いてやりたいけど、でもなんの手がかりもなしじゃなぁ。憂鬱としていると、そこに更なる凶報が舞い込んできた。

 

「一大事だ! 昨日工場に向かった討伐隊が壊滅して戻ってきた! トレーナーもすっかりボロボロだ。かなり深刻な状態だぞ」

 

 う、うそっ! そんなのウソでしょっ!? その討伐隊ってレッド達が一緒のやつよね。まさかあいつらっ……! お願い、なんとか無事に帰ってきて! まだ言いたいことなんにも言えてない!

 

「レッド! グリーン!」

「待ってブルーさん! あなたがいってもどうにもならないわっ」

 

 居ても立ってもいられなくなり、ポケセンを飛び出して西にあるという工場の方へ向かった。誰かに呼び止められた気がしたが振り向いている余裕はない。無事でいなさいよ、2人とも! 

 

 ずっと走ると町の端で、帰還している途中の討伐隊を見つけた。その中に赤と緑の姿を見つけた。

 

「いた! レッド、グリーン!」

「あれは……ブルー!」

「ホントにいたのか。けっ、いきなりこんなとこを見られるとはな。ツいてねーぜ」

 

 近づけば近づく程、全員がボロボロになって逃げ帰ったということがはっきりとわかった。意識のない人もいる。きっとポケモンに攻撃されたのだろう。ほんと、人間にも容赦なく襲い掛かるわね。

 

「はぁ……はぁ……あんた達、ホントにっ……」

「おいおい。なんだよ、息せき切って。まさか、オレらがしっぽ巻いて逃げ帰ったのを聞いて大急ぎで笑いに来たのか? いいさ、笑えよ。どうせオレ達は……」

 

 自嘲気味に笑うグリーンを見て、わたしの中の感情のタガが外れた。こんなこと言う奴には、はっきり言ってやらないと! この大バカは、なんにもわかってないわ!

 

「バカッ! バカグリーン! わたしがあんたのことどんだけ心配したと思ってんのっ! いっつも偉そうなことばっか言ってすぐ慢心して、肝心なとこで大ポカかますんだから! 死んだかもしれないのよ! 死んだらもう会えないのよ! それなのに何悪びれてんのよ! たしかにあんたのことはすっごい腹が立ったし、今も許してないけど、それでも大事な幼馴染なんだから、死にそうになってるのを見て笑ったりするわけないじゃない!」

「ったく、お前はいっつもビビり過ぎなんだよ。ちょっとポケモンバトルで負けただけだってのに、大げさな奴だぜ」

 

 ほんとに、こんなときでも見栄張って! バカなんだから! 生きていることより大事なことなんかないでしょっ!

 

「ウソ言わないでよっ。こんなボロボロで、ほんとにヤバかったんでしょ! それに……ベトベターは、あなた達が行った後に町に現れたの。だからあいつらのことはわたしも知っている。実際に目の当たりにしたわ。あれはほっておけば大変なことになる」

 

 さすがにこの発言には周りのトレーナーにも動揺が走った。すぐに町のことを聞かれたがわたしはさっきまでとは違い冷静に答えた。さっきは感情的になったけど、今の状況を思い出してもう落ち着いた。

 

「そんな、町は大丈夫なのか?」

「ええ。わたしが倒しましたから」

「おまっ、あいつらとやりあってたのか。しかも勝っただと? そんなこと信じられるわけ…」

「グリーン」

 

 まだ減らず口を叩こうとするグリーンを、ずっと沈黙を貫いていたレッドが諫めた。

 

「なっ、なんだよ」

「ブルーの気持ちも考えろ」

「……あーもう、わかったよ! オレが悪かった。あれだけバカにしたのに、お前がそんなんだと調子狂うんだよ! くっ、ホント悪かった。謝っとくよ、一応な」

 

 レッドって言葉数は少ないけど、一言で核心を突いちゃうから重いのよね。グリーンのことは今まで怒りでおかしくなりそうなぐらいだったのに、一言謝られただけでもう許してもいいやって気になっちゃった。なんでなんだろう。でも、悪い気はしない。

 

「それでいいわ。グリーンはツンデレさんだしね。さぁ、町の話もするから、みんな早くポケセンに急ぎましょう」

「おま、どさくさに紛れて何言ってんだ! そんなんじゃねーよ!」

 

 2人とも軽口が言えるぐらい元気みたいだし、グリーンのかわいいところも見られたから、まんざら悪いことばっかりじゃないわね。一安心したのと、グリーンの心変わりに、わたしは気づいたら笑みまで零れていた。

 

 




コスパはおいしい水とシルバースプレーが最強

肝心なところで大ポカな性格の由来はあれです
この俺様が! 世界で一番! 強いってことなんだよ! からの三日天下のくだり

ベトベターの発生源はゲームコーナー横のあれです
ゲームコーナーがロケット団の施設なことを踏まえればどう考えても意図的なものを感じます

ブルーがグリーンに言われたことに関してはだいぶ先でその話が出てきます
トレーナーなんかやめちまえ、みたいな感じの発言です



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3.困ったときのお助けシショー

一人称について
複数人の会話が連続するので、一人称で区別できるようにしました
参考にして下さい

ブルー  → わたし (地の文含む)
レッド  → おれ
グリーン → オレ
シショー → 俺
アヤメ  → 私
ゴウゾウ → 俺
サカキ  → 私   (後々変化あり)

他の話でも一人称は上と同じように統一しています



 ポケセンに戻ったわたし達はポケモンの回復を待つ間にお互いの情報を共有してベトベターを退治する方法を考えることになった。町の危機なのでわたし達3人も一緒になって協力することに。まずはわたし達、町にいた方を話し終わり、今度はグリーンが討伐隊のことを話してくれた。

 

「そっちのことはこれでわかった。次はこっちの番か。正直振り返りたくもないが、そうも言ってられねぇからな」

「正直わたしはあんた達2人がそろってやられるなんて未だに信じられないのよね。うっかりさんのグリーンはともかくとしても、レッドはしっかりしているし」

「お前、ほんとにオレに対しては昔っから容赦ないよな。そんなんだから……いや、なんでもない、なんでもないって! ゴホン、だがその通り、オレ達も相手がベトベターとわかっているし、楽勝だと思ってた。特に強いポケモンでもなければ、頭数だってこっちも負けてねぇ。けどあそこはヤバイ。マジでヤベーんだよ」

 

 わたしはグリーンが余計なことを言おうとしたので、いらんことまで言ったらシバくと合図を送ってやったけど、ちゃんとわかったようね。

 

 にしても、グリーンがここまで言うなんて本当に珍しい。自然、緊張して力が入った。

 

「ど、どういうことなんだ?」

 

 アヤメさんがグリーンに聞いた。グリーンは重苦しい表情で吐き捨てるように言った。

 

「どうもこうもねぇ。終わりがねぇんだよ。倒しても倒してもキリがねぇ」

「次々数が増えるってこと?」

「それもあったが、倒してもすぐに回復してキリがない。倒した奴が廃液のヘドロの中に浸かると回復していって、倒したそばから蘇ってイタチごっこになる。あれを何とかするには一瞬で全部倒して片っ端から捕獲するか、あるいは廃液そのものを止めるか、そのどっちかしかないと思うぜ。ブルーが倒せたのはヘドロの中じゃなかったからだろうな」

 

 さすがにこれは予想外ね。単に数が多いとか手強いとかならまだしも、再生するなんて厄介ね。今回の討伐失敗を考えても物量戦で挑むのは無謀か。

 

「それはかなりヤバイわね。でも、それならなんですぐに撤退しなかったの?」

「気づいた時にはもうボロボロになっていた。まさかヘドロで回復するとは思わないだろ。あと少しあと少しと思っていると引くに引けねぇのさ。まぁ、最初からわかっていたとしてもすんなり諦めがついたかはわからねぇし、あいつらしつこく襲ってくるから被害は免れなかっただろうがな」

 

 その言葉からグリーンの悔しい気持ちが伝わってくる。ホントは一矢報いてやりたいけど力及ばず、というところかしら。

 

「それで、どうする? あいつらの発生も間隔が短くなっている。猶予はもうない」

「そうね。それに今回のことで私達は大きな痛手を負った。体にも……そして心にも。町も討伐隊もしばらくは戦えない。なんとか折れずにいるのが、町の人間でなくあなた達ぐらいだっていうんだから、情けない話よね」

 

 レッドの冷静な言葉に、アヤメさんが溜め息をついた。ほんとにこの状況はマズイ。でもなんでこんなになるまでほったらかしだったのよ。同じ思考をしたのか、グリーンがそのことをアヤメさんに尋ねた。

 

「ほんとに突然だったの。まあ、予兆はあったわ。そういえば、それを指摘するトレーナーもいた。でも、あいつの言うことは考えたくもなかった」

「あいつ? 誰だよ?」

 

 グリーンが問い、わたしも気になったが、レッドが話を戻した。

 

「そんなことより、ベトベターの対処が先だ。どうする? なんとか廃液を止めるしかないだろ? おれ達で工場に突入するか?」

「ダメよ。ベトベターは廃液に集まるからそれはもちろん私達もやろうとしたけど、頑丈な扉に阻まれていて鍵がないと工場内に入れないの。工場を管理している、そのカギを持つ人間が絶対にこの町にいるはずだとは思うんだけど、なぜか見つからなくて……」

「八方塞がりか。でも怪しいな、その工場。何かありそうだが、なんの手がかりもなしじゃあなぁ」

「さすがに困ったな」

 

 ほんとにお手上げね。この町はもうダメなのかしら。困ったわ……。ん、困った?

 

 あ。そうよ、そうだわ。ずっと忘れていた。わたしは今、困っているんじゃない!

 

困ってる!

困ってる!

 

「そうよ、わたし困ったのよ! わたし超困ってる! 困った、困った!」

「……おいおい、勘弁してくれ。とうとう頭にまでヘドロが回っておかしくなったのか? 気持ちはわかるけど冷静になれよ、ブルー」

「うっさいわよ、ウニ頭! 色々と頭パッパラパーのあんたにだけは言われたくないわよ! ちょっと用を思い出したから席外すわね。みんなで考えていて、すぐに戻るから」

 

 ここじゃあの袋を見るわけにはいかないものね。普通に考えたらこんな突発的な事件のことなんてシショーが知っているわけないし、そのことでわたしが困るなんてわかるわけないから。でも1つ目は見事に的中していたし、もしかしたら何かヒントくらいはあるかもしれない。

 

「ちょっと中身が見たかったっていうのもあるけどねー。どれどれ」

 

『これを見ているってことはやっぱりお前はそっちで事件に首突っ込んでいるみたいだな。お前はトラブルメーカーだから、どうせこうなると思っていたが。

 結論から言うと、お前の関わっている事件の黒幕はロケット団という悪の秘密結社。まぁポケモンギャングみたいなものだ。そいつらが今野望を成就しようとしている。そいつらをなんとかしないとその町は終わりだ。これを見たらお前はイヤでも首を突っ込もうとすると思ったから最初は見るなと言った。悪かったな。ああ、お前ならもう黒幕が誰かは気づいていたか。これを開けたのはそのアジトの場所がわからなかったからなんだろ? わかっている、お前は優秀だもんな』

「ごめんシショー、さすがにそこまではわからなかったわ。若干嫌味な言い方がひっかかるけど……それにわたしのことトラブルメーカーって、そんなふうに思っていたのね。でもこれで事件の謎が解けたわ。タイミングの良過ぎる襲撃も、いきなり現れた怪しい工場も、何もかもロケット団のせいだったのね」

「そういうことか。それならたしかに辻褄が合うな。オレもタイミングといい、不自然な凶暴性といい、なんかクサイと思ってたんだよな」

「またあいつらか。懲りない連中だな」

 

 いきなり近くで声がしてびっくりして距離を取ると、グリーンとレッドがついてきていた。ちゃんと裏道に行って隠れたのに!

 

「驚いたか? 何年お前のこと見てると思ってんだ。バレバレなんだよ。それに……1人で抜け駆けなんてズリーじゃねぇか。オレ達にも見せろよ」

「3人でやらなきゃ、ロケット団は倒せないだろ?」

 

 こいつら、ホントに……。ここぞで1番頼りになるわね。でも先に1つ言わせて。

 

「それはいいけど、こんな路地裏でいきなり人の背後に立つな! ビビるわ!」

 

 やっぱりそれはそれ、これはこれ。とりあえず拳骨を落としておいた。その後はもうバレたし、仕方ないので一緒に手紙を読むことにした。

 

『アジトはゲームコーナーの地下だ。あの店は奴らの隠れ蓑兼資金調達源ってところだな。無理やり捕獲したポケモンを餌にしてスロットで荒稼ぎってわけだ。そこの店内のポスターのどれかの裏に秘密の入り口のスイッチがある。多分見張りの人間がいるから、怪しい奴の近くのポスターを探せ。逃がすと仲間に知らされるから見張りは気絶させるなりして無力化するのが無難だろうな。あと、できればその入り口の周りか、店の周りを味方で固めておけ。背後からの挟み撃ちを防ぎつつ、逃げる敵の不意を突いて捕えられるからな。中では乱戦になるからとにかく囲まれることだけはないように、なるだけ1対1に近くなるようにしろ。サシならお前のレベルでもまず負けない。だが一度やられたら終わりだ。回復系を多めに用意しとけ。中の封筒に一応資金は用意しといた。惜しまずに使うといい。中にはボスもいるかもしれない。そいつのレベルは桁違いだ。万全を期した方がいい。

 本当はこんなどうしようもない街のために命を張るような真似はしてほしくないが、言ってもムダだろうから、好きにしろ。ただし、絶対に勝て。お前ならできるよ。俺が保証するから安心しろ』

 

 シショー。なんか、ただの手紙なのにものすごく勇気が湧いた。特に最後。心強い。めちゃくちゃ嬉しい。これは事件の後も大事に取っておこう。むしろ家宝にしよう。

 

「1つ言ってもいいか」

「何よ、ウニ。今は感傷に浸ってるから後にして」

「それだと、もはやただの“ウニ”じゃねぇか。オレの原型を留めてねぇぞ。……これ書いた奴は一体何者だ? ここにはいねぇんだろ? ここにいるオレらでもわからねぇのに、当たってたら神業だぜ」

「まるで何が起こるかわかっていたみたいな内容だな」

 

 わたしが拒否しても結局言うなら最初から“言ってもいいか”とか聞くな! でも、その後の言葉は一理ある。神業か。そりゃそうよね。わたしもヒントぐらいあればってつもりだったのに、まさか答えをそのものズバリで教えてくれるなんて。全部、ハナダで別れたあの時にすでにわかっていたの?

 

「これ書いた人はわたしのシショーなの。これは困ったことがあったら読めって渡されていて、全部で3つあったんだけど、その2つ目よ。その人は、トレーナー修行で壁にぶつかったわたしを……こう、目覚めさせてくれて、最近はずっと一緒に旅してたの。すんごい人で、ジムリーダーの本気に勝ったところはとりあえずこの目で見たわ。しかも1匹で。どうやらすごいのはそれだけじゃなかったみたいだけど」

 

 手紙に視線を落としながら言うとグリーンが驚いた。

 

「ま、マジかよ。それ強過ぎだろ。まさかワタルか?!」

「いや、無名の人。昔この町にいたみたいだけど、ここはキライみたいで、行きたくないってこれだけ渡されて今は一時的に別行動しているの。ヤマブキで落ち合うことになっているから、ホントは急いでるんだけどね。だからこれを書いたのは少し前になるのよね、信じがたいけど」

「ホントに信じられねぇな。もしかして、お前そいつに気が合って、ちょっと話を盛ってるんじゃねぇの? お前は人からものを教わったり、弟子になったりするようなタイプじゃねぇし。それに、別行動と言いつつ、実際はそいつに愛想尽かされたとかじゃないのか? ぜってーヤマブキには来ないパターンだな」

 

 隠そうともせずにわたしを見てニヤニヤ笑うグリーン。こいつ、腹立つ笑い方するわね。こいつのこういう冗談だけは絶対に許さない! シショーの言葉だとそう、ゼッキョよゼッキョ!

 

「ばっか、んなわけないでしょ! ほんとデリカシーの欠片もないんだから。 控えめに言って死んでほしいわ。それと、わたしは絶対に愛想尽かされたりしないから!」

「お前、死んでほしいのかそうじゃないのかどっちなんだよ。大体そういう割には声が震えてる気がするけど、オレの気のせいか?」

 

 こいつ、言わせておけば! 死ねって言っても堪えてないし、余計に腹立つわね。

 

「それはないな」

「は? なんでだよ?」

 

 あれ、意外にもレッドが反論したわね。どういう風の吹き回しよ。まぁレッドはいつも思ったことは中立に言うのだけどね。

 

「キライならこんなもの渡さない。それと、この手紙だけでも只者じゃないのは明白。手紙の内容に関しては、もしかしたらロケット団の内情を知っていたんじゃないか? それでブルーが困るような事件が起きれば、まずあいつらの仕業と踏んでこれを書いたんだ。実際、ここにはベトベターのことは書かれてない」

「言われてみればたしかにそうだ。ってことは、元々オレ達の知りえない情報を色々知っていて、一番確率の高いことを考えてこれを書いたってことか。それならわからなくもないが、オレ達の困るところを予知してるあたりは感服するしかないな。まぁブルーが嫌われてないのがわかっただけで良しとするかぁ?」

「あんた、しびれごなでしばらく動けなくするわよ。シショーのことはまた今度話してあげるから、今はロケット団よ。こいつらが元凶なんだし、奴らの場所がわかった以上、やることは決まってるわ。ここから忙しくなるわよ」

 

 拳骨でグリーンを黙らせてから、ポケセンに戻りロケット団のことを伝えた。ベトベターを何とかする前にまずこいつらを追っ払うことで方針が固まり、潜入は見つからないように少数精鋭でわたし達3人。で、外を固めるのは町のトレーナーは再起不能なので助っ人を用意した。一応挨拶をしておいた。

 

「よろしくね、ゴウゾウと下っ端さん達」

「この人らマジの暴走族だよな。お前のシショーの知り合いっつっても、普通すんなりこんなこと協力しないだろ」

「ロケット団の内情を知り、暴走族とつながりのあるジムリーダー以上の実力者。ロケット団とは別の秘密結社のボスとかじゃないだろうな」

「ごめん、そういわれると自信ないわ。そういや弟子入りする時に条件として素性の詮索をするなって言われたからむしろ可能性としてはなくはないかも」

 

 詮索すると世界がどうのとかいっていたのは世界征服を始めるから、みたいなことだったのかも。何それ怖い。なまじ力があるから冗談にならないのよ。

 

「あー、それはねぇよ。あいつは最近までここに住んでいた普通の子供だったからな。ちょうどあの辺にいた」

 

 いきなりゴウゾウが否定した。そこだとわたし達の話は聞こえていたのね。

 

「え? 本当?」

「あ、やばっ。余計なこと言ったかもしんねぇな。おい、俺が言ったことは黙っていてくれよ」

 

 話を打ち切られ、入れ替わりで誰かがやって来た。

 

「ブルー、持って来たわよ」

 

 まだ聞きたいことはあったけど、アヤメさんがキズぐすりを届けに来てくれたみたい。ここでシショーの話はおしまいか。詮索するなって言われているし今はいいか。

 

 わたし達はゲームコーナーに来て、ポスターのスイッチはすんなり見つけて見張りも倒した。後は潜入するだけ。

 

「いくぞ」

「いよいよ潜入ね」

「ロケット団の実力、どれほどのもんか見てやろうぜ」

 

 意を決して階段を下りると、どっかの研究施設みたいな感じの本物の秘密基地が広がっていた。まるで自分が映画の主人公にでもなって潜入捜査するみたい。ワクワクするけど、それ以上に見つからないか心配でドキドキする。遊びじゃないから緊張するわね。

 

 わたし達は感知能力が高く、状態異常にするのが得意なレッドのバタフリーを先行させて、できるだけ戦う前に眠らせながら先へ進んでいった。こういうのが仲間にいると心強い。

 

「なんとなく慌ただしいな。多分もうバレてるぞ」

「変装するとかどう?」

「身長でバレる」

 

 案の定通路を移動中に見つかり、後ろからも増援が来て挟み撃ちになった。狙いすました連携。やっぱりバレていたのね。ここが最初の山になりそうね。だったら……。

 

「やるしかないわね。まずはわたしが……」

「いや、ここはオレ達2人に任せろ。お前にカッコ悪いところばっか見せるわけにはいかねぇ」

「何言ってんの、そんなこと言ってる場合?!」

「いや、グリーンの言う通り1人は残しとくべきだ。どっちかがやられたらすぐにスイッチできるし、不意打ちにも対応できる。ここの通路は狭いから3人でやるより格段にいい」

「そういうことだ。わかったか?」

 

 グリーン、あんたはそこまで考えてないでしょ! でも、レッドの言うことは一理あるし、ここは2人に見せ場を譲ってやる方がいいわね。

 

「もう、わかったわよ。その代わり、ヤバくなったらすぐ代わりなさいよ」

「へっ、その前に全員倒してやるぜ」

「来るぞ」

 

 その後のバトルは圧巻だったわ。レッドはバタフリーで状態異常にしてピカチュウの速攻で倒し、グリーンはユンゲラーの超能力とラッタのすばやい攻撃で敵を寄せ付けない。それにベトベターとの戦闘のおかげか、2体以上を使いながらの乱戦にも慣れているし、レベルもかなり高い。30前後はあるわね。ピカチュウは30代後半なんじゃない?

 

「どうだブルー。マジでオレらで片づけてやったぜ?」

「サシなら怖くないって言っていた通りね。とりあえずこいつらを縛って、すぐにポケモンを回復させましょう。また誰か来る前に急がないと」

「ちぇっ、反応わりーなー」

「あんたらがそろったら、これぐらいは出来て当然でしょ?」

「……へへっ、わかってるじゃん?」

「そうだな」

 

 別に思ったままを言っただけなのだけど、2人は嬉しかったみたいね。でも本当にこの2人が味方にいるのは頼りになるわ。

 

 戦闘後、一息ついて少し気が抜けるようなタイミング。図ったかのようにポケモンが転がってきた。

 

 コロコロ……

 コロコロ……

 コロコロ……

 

「?」

「なんだ? ……ってこれビリリダマじゃねぇか? なんでこんなところにポケモンだけでころがってるんだ?」

 

 ビリリダマ……! この雰囲気、ヤバイかも!

 

「出て来て! すぐにまもるよ!」

 

 ピカッ!!

 ドカーーーーン!!!

 

「なんだ今のはっ! まさかじばくしたのかっ!!」

「どうなったっ!」

 

 2人が慌てて声を掛け合っているけど心配ないわ。ギリギリ間に合った。暴走族でドガースの“じばく”を使ってくる奴と戦ってなかったら、この空気を察知できなかったわね。ここが狭くてポケモン2体分の幅しかなかったのも幸いしたわ。

 

「安心しなさい。じばくはまもるで防いだからダメージはないわ。全く、ここは油断も隙もあったもんじゃないわね。さすがに今のはヒヤッとしたわよ」

「マジかよ、ブルーが先手を打ってたのか。あっぶねー。お前よくわかったな」

「似たようなのと戦ったことがあったから。それより、今の音でまた集まってくる前にずらかるわよ。ここにいるのはヤバそうだわ」

 

 駆け足でその場から離脱した。さすがにロケット団のアジトだけあって一筋縄ではいかないわね。ここからは一層気を引き締めていかないと。

 




ヘドロによる回復は「くろいヘドロ」の効果です
くろいヘドロは野生のベトベターが所持している道具なので廃液の中にあってもおかしくはないと思います
もしレインがいたら、間違いなくベトベターそっちのけでくろいヘドロの回収にはしっていたでしょう

じばくスイッチとか何気にジョウトネタも多いですね
同じロケット団のやることですからね


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4.致命の過失 目覚める資質 

分割回


 危ないトラップや数だけは多いロケット団の下っ端を潜り抜けたりぶち破ったりして、とにかく基地の中をあちこち歩き回るけどゴールが見えない。さすがにキリがないので何か手を考える必要があるわね。

 

「ねぇ、わたし達とりあえず1番奥に向かっているけど、一度工場のカギの在り処とか全部聞き出した方が良くない?」

「それもそうか」

「でもどうやって聞き出すんだよ。なんかいい方法でもあるのか?」

「それはわたしに任せて」

 

 さっそく近くにいた団員を拘束し、尋問を始めた。意外にも、あっさりと欲しい情報を全て吐いてくれた。根性ないわね。

 

「それはあっさりなのか?」

「……」

 

 若干わたしから離れながらグリーンが聞いてきた。レッドは無言で離れている。別に引くことないでしょうに。シショーに比べれば手心がある分マシよ。気絶させたりしてないもの。

 

「何よ、ちょっと首を絞めて負荷をかけただけじゃない。もちろん、本当に絞め殺したりする気はなかったわよ。相手にそう思わせるのが大事だから、ちょっとそういう演技をしただけ。わかった?」

「どこでそんなこと覚えたんだよ。昔は間違ってもそんなことやろうとはしなかっただろ、さすがに」

「もちろん、シショーの受け売りー」

「やっぱりギャングだったか」

「いつのまにか幼馴染がギャングになってたらどんな反応したらいいんだろうな」

 

 しっつれいね。2人には引かれたけど、これで必要なことはわかった。工場のカギは最下層、地下4Fにいる幹部が持っていて、しかもこのアジトから怪しい電波を出してポケモンを狂暴化させていたらしい。その電波のコントロールパネルは最奥にあるみたい。

 

 なら、幹部を見つけて鍵を奪って1番奥のコントロールパネルを壊したら、後はここからトンズラするだけね。工場に入れたら廃液を止めてベトベターを倒せるようになる。やっぱりここに来たのは正解だったわね。それにこのフロアには地下4Fに直通しているエレベーターがあることも聞きだせた。一気に奥に進めるわね。

 

「おい、あれじゃないのか、そのエレベーターって。ちょうどここに止まってるみたいだ。こりゃオレ達ツいてるぜ」

「やったわね。一気に地下4Fまで行けるわ」

 

 嬉々として中にわたしとグリーンは飛び乗ったけど、レッドは周りを見回して中に入ろうとしない。何しているのかしら。

 

「いや、待て。2人ともすぐにその中から出ろ!」

「ちょっと何すんのよ。いきなり引っ張らないでよっ」

「なんだよレッド、いきなりよぉ?」

 

 いったいなんなのよ。こんなに強引なことするなんてレッドらしくもない。どうしたの?

 

「上手く出来過ぎていると思わないのか? これは間違いなく罠だ。さっき中のカメラが動いていた。こっちを見ているぞ」

「なんだと! そうか、オレ達が中に入ったら閉じ込めるつもりだったのか。中からの脱出はほぼ不可能……あっぶねー」

 

 これはレッドのファインプレーね。いや、よく考えたらこんな便利なものがあるのに向こうが何の手も打たないわけないか。うっかりしていた。この場所が油断できないところだってことは最初からわかっていたのに。

 

 トントン拍子に行き過ぎてつい気が緩んでいたみたい。もっと慎重に行かないと。1回ミスしたら終わりなのにこんなことに気づかないなんて。わたし1人じゃなくてよかった。単独ならヤバかったわね。

 

「迂闊だったわ。サンキューレッド。それじゃ、地道にまた階段を探すしかないわね」

 

 結局かなり時間をかけて地下4Fにた辿り着き、ようやくカギを持っている幹部を見つけた。なんでこんなわっかりにくいところに下っ端と同じ格好でいるのよっ! 鍵持ってるならもっとそういうオーラを出しときなさいよ!

 

「くそっ。まさかこんな子供にここまで侵入を許すとは。あの役立たず共め、後で罰を与えないとな」

 

 役立たずって……あなたそれ、ものすごいブーメランになるわよ。いや、むしろすでに後頭部に突き刺さっているわ。

 

「だったら自分もここで役立たずの仲間入りをするんだから、お前も罰を受けないとな」

 

 グリーンにも言われているし。

 

「抜かせ! 子供でもここまで舐めた真似をした以上ただじゃおかねえ。大人の怖さを思い知らせてやる」

 

 言うことは一人前だけど、敵の前でしゃべり過ぎなのよね。うかつにわたし達の方に気を取られていると……。

 

「ねむりごな」

「しまった、そこは勇敢に俺に対して立ち向かってくるとかじゃないのか! まだ、俺の出番……ガクッ」

 

 ロケット団って、けっこうおまぬけというか、悪役っぽくない人が多いわね。幹部は後ろからレッドのバタフリーにねむらされ、戦うこともなく楽に勝った。

 

「あったぜ、これが鍵だ。後はコントロールパネルだな」

「急ぎましょう」

 

 ようやくというべきかしら。先へ進むと、とうとういかにも、という扉があって幹部らしき人がその脇に2人いた。さしずめこいつらが扉の門番ってところでしょうね。

 

「相手が2人か」

「だったら決まってるわね」

「……全員で、すぐに倒す」

「「なんだと!?」」

 

 見事にハモったわね。2人だからこっちも2人で相手すると思った? 残念、あんたら相手に正々堂々なんてするわけないでしょ!

 

「こいつら、微塵も迷いがないぞ」

「子供のクセになんて奴らだ」

「それはあんたらのおかげだっつーの。カメール、みずのはどう!」

「エナジーボール」

「かえんほうしゃ」

 

 今まで数に任せて散々手を煩わせてくれたけど、今回はこっちが多いから意趣返しになったわね。集中攻撃で1人ずつ仕留めて結局あっさり倒せちゃった。やっぱりロケット団って大した敵じゃないわね。無理やり扉をぶっ壊して、中に入った。

 

「よく来たな、ご苦労」

 

 部屋には高そうな椅子に座った人がいて、なんかヤバそうなオーラを放っていた。しゃべり方にも余裕が感じられる。……格上かも。

 

「ああ? まだ団員が残っていたのか。こいつもさっさとやっつけるか」

「いや待て。こいつ、さっきまでの奴らとは違う」

「それに……見た目からして、なんかボスっぽくない?」

「こ、こいつがロケット団のボス?! なんでこんなとこにいるんだよっ! まさかここって重要な拠点だったりしたのか!」

 

 グリーン、いまさら何言っているのよ。手紙にもボスがいるかもしれないって書いてあったでしょうが。

 

「察しがいいな。そうだ、私がボスのサカキ。ここにいたのはたまたまだがな。部下では実力不足のようなので、仕方なく私自ら手を下すためここで待っていた、というわけだ。私が相手になることを光栄に思うがいい」

「へっ、こんな雑魚共のお山の大将していても、怖くもなんともないぜ。一気に行くぞ!」

 

 “みずのはどう”“エナジーボール”“かえんほうしゃ”……グリーンの声に合わせてわたし達の攻撃を合わせた。それぞれの今出せる最高の攻撃。さすがにこれならいけるはず!

 

「まもる。つのドリル、ストーンエッジ、れいとうビーム」

「しまった、ヤバイ! 避けて!」

 

 3体で一点集中したのが裏目に出た! 素早く相手は4体もポケモンを展開し、わたし達の攻撃は全て“まもる”でいなされてさらに技を出した隙を突いて他のポケモンが弱点を突いてきた。

 

 カメールは耐久力が高いけど一撃必殺は耐えられない。リザードは抜群の上急所。フーちゃんは技の隙が少なくて、相手の攻撃が他の攻撃より比較的遅かったからギリ避けられたけど、これで一気に形勢が傾いてしまった。……わたし達にとって最悪の方へと。こいつ、ボール捌きも、指示の出し方も洗練されている。イヤでも自分達との格の違いを痛感させられる。

 

「所詮子供。攻撃パターンが単調で読みやすいことこの上ない」

 

 わたし達が得意技で一点集中することは読まれていたってこと? その一言にレッドが反応した。

 

「そうか、ここでずっと見ていたのか。そしてわざとおれ達をここまで泳がしていた……違うか?」

「なんだと! じゃあオレ達はこいつの掌の上で踊らされてたってのか!?」

「そういうことだ。君らの手の内はもう十分見た。その上ここに用意しているポケモンは本気のものではないが、それでもレベルは40以上。君達は30ちょい。悪いが何匹束になっても勝てはせんよ」

 

 サカキが勝ち誇った顔で宣言した。実際にレベルはそれぐらいある。ヤバイ。しかもさっき渾身の一撃をあっさり躱されたのも痛い。かなり堪えている。上手く進んでいたことも相手にそう仕向けられただけだとこのタイミングで知らされたのもキツイ。

 

 はっきりいって状況は最悪ね。

 

「こっちのレベルもわかるのか。使い手だな」

「くそっ! カメールがやられたんじゃ、どうしようもねえ」

 

 2人ともレベルの差にも気落ちしている。たしかに勝つのは厳しいけど、こんなので諦めたらダメよ。レベルの差なんて簡単にひっくり返る。わたしはそんなところを今まで何度だって見てきた。だから諦めることが1番ダメだってよくわかる。そうよ、今のわたしなら勝てる、勝てるはずなのよ。シショー、どうか見ていて……! わたしに力を貸して!

 

「諦めないで!」

「ほう? まだ向かってくるか?」

「ブルー、なんか勝機があるのか?」

 

 グリーンはもう戦意をなくしている。その言葉には覇気がない。レッドも表情には出にくいけど、もう折れかけている。このままではダメだ。わたしが2人を立ち直らせるしかない。最後まであがき続けてやる。

 

「そんなのわかんない。でも、あんたは勝てる見込みがないと戦わないの?」

「!」

 

 やっと俯いていた顔を上げたわね。あと一押しってところね。

 

「レベルなんて関係ない。そんなものバトルでは簡単にひっくり返るのよ。だから簡単に諦めないで。それが今できるベストでしょ? トレーナーなら、最後までベストを尽くしてよ。あんた達が諦めたら、ポケモン達は何を信じるっていうの!!」

「ブルー……」

「……」

 

 2人は目が覚めたみたいね。身に覚えがあるからこそ、その効果はよくわかる。身近な人に言われるとけっこう効くのよ。

 

「だったら行動で見せてみろ。ダグトリオすなじごく、ゴローニャすてみタックル」

 

 さすがに2人が立ち直るのを黙って待ってはくれないか。でも負けない! 素早くピーちゃんをボールから出した。

 

「速い! ダグトリオの攻撃は避けられないぞ!」

「動きを止めてすてみタックルを当てるのが狙いだ、まもるを使え!」

 

 この2人はやっぱりこんな時でも相手の考えが見えている。でも、その対応じゃきっとダメ。直感でわかる。普通の立ち回りではこの男には読まれてしまう。その先の先を考えた立ち回りが必要。狙いを読んで“まもる”を使えば、きっとその後の隙を見て残りの2体が黙っていないはず。だからこそあの2体は後ろに控えている。そうなれば手痛い攻撃を無防備に受けることになる。だから……わたしは更にその上を行く。

 

「ううん、ゴローニャにフェザーダンス、ダグトリオにエナジーボール」

 

 まずフーちゃんが“すなじごく”を受けながらもダグトリオには“エナジーボール”を当てた。予想通りHPの低い分1発で倒しきった。あなたが体力ないのは“ディグダのあな”でよーくわかっているのよ。さらに“フェザーダンス”で攻撃を下げたおかげで“すてみタックル”までも耐えきってくれた。火力と耐久両方自慢のフーちゃんなら出来ると思ったわ。ここまで計算通り。

 

「何っ!? 受け切っただとっ!」

「ゴロッ?!」

「よくやったわ! ついでにそいつからたんまりかっさらっちゃいなさい! ギガドレイン!」

「ここでギガドレインか! あっちの作戦もなかなかだが、それを見事に利用してやがる。ブルーも負けてねぇ!」

「これは避けられない。それに他のポケモンも動けないゴローニャが邪魔で手が出せない。ブルー、上手いぞ」

 

 こうかはばつぐん、ゴローニャも倒しきって失った以上に回復もできた。相性はいいのだから、まだまだやれるわね。

 

「しまった! 回復までされたか。しかも2匹ともやられるとは。同士討ちを避けて2匹だけで攻めたのが裏目に……いや、最初に狙う順番を間違えたか」

「ばっちりね。これでまだまだいける。わざわざ回復させてくれてありがとうね。おかげで楽になったわ、おじさん?」

 

 ホントは気持ち的に余裕なんて全くない。相手の威圧感に圧倒されてギリギリいっぱいだけど、いつものシショーの姿と言葉を思い出して、わざと余裕を見せた態度をとった。苦しい時ほど笑って見せ、不安な時ほど堂々と胸を張る。それが相手の動きを鈍らせ、味方を鼓舞するのだから。

 

「くくく、ははははは! 私相手におじさん呼ばわりか。面白い子供だ。いいだろう、今回のところは見逃してやる。そろそろヤマブキで大事なビジネスの時間だ。それさえ上手くいけばこんなところは用済みだからな。だが、もし次に会うことがあれば今度は手加減なしだ。本気でお前達を潰させてもらう。二度とバトルなどしたくないと思う程にな」

 

 効いたの? わかんないけど、なんでもやってみるものね。今まで暴走族とか、アジトの場所とか、この超やっばい奴とか、苦しい場面でいつもシショーが、その教えが助けてくれた。離れていても、まるで傍にいるみたいな安心感。ありがとシショー。

 

「なっ、てめぇ逃げる気か! だが扉は通さねぇぞ」

「それに出入り口は町の者が固めている。簡単には逃がさないぞ」

「フフフ、まだまだ青いな。私がそんな袋小路を自分のアジトに作ると思うのか? 3人だけで無謀にもここに飛び込んできたのかと思っていたが、外を固めようと思う程度にはお利口だったのは褒めてやる。だが、まだまだ詰めが甘い。その程度の浅知恵で私を捕まえることは無理だ」

 

 パチン、と指を鳴らすとサカキの座っていた椅子が上の階へ移動した。もしかして別の出入り口があったの?!

 

「逃がすもんですか!」

「いや待て、深追いは禁物だ。また罠があるかもしれねぇ。あいつ用心深そうだしな。追っ払っただけで上出来だ。正直、さっきのブルーには救われたぜ。悔しいが完全に戦意をなくしちまってた。なっさけねぇ」

「グリーンの言う通りだ。ブルーは良くやったし、引き際は心得ておくべきだな。まずはコントロールパネルを壊そう」

 

 そうね。ちょっと熱くなり過ぎていたかも。窮鼠猫を噛む、戦いは五分の勝ちを上とするっていうしね。今はあの男を追い詰めるときではない。でも、いつかは必ず……。

 




今回の見どころはやっぱりブルー対サカキのバトルですね
つばさでうつ連打するだけだった頃に比べるとまさに別人
毎日甘い行動をするとすぐにシショーに咎められるので立ち回りが慎重になり、格上相手は読みのレベルも裏の裏を考えるのが当たり前という感覚になっています
手持ちが不十分ながら、この辺の駆け引きはブルーがレッドとグリーンに一歩リードというところ

この世界はひっさつの「よけろ!」が使えるので確実に当てるコンボはダブルの基本
さらにじばく技、ため技などの大技の存在価値を地に落とした悪の技「まもる」もあるのでそれを見越した波状攻撃も大事
今回のように後続を残したり、いつぞやの大爆発→起死回生とかですね
ちなみに「こらきし」ならぬ「こらばく」はじばく技が弱過ぎるが故の調整という面もありました

「まもる」は優先度の関係で相手の指示を聞いてから後出しジャンケンできるのでほんとにインチキ、それをわかってるのでレインは「つばめがえし」や「むしくい」より優先して「まもる」と「みがわり」をアカサビに覚えさせたんですけどね
ただし連続だと失敗しやすい効果を受け継いで、技の使用後次の行動までラグができるという設定で考えています
破壊光線とかの反動ほど大きなものでなく、僅かではありますが

最後のサカキ大脱出は作者が思ったことをそのままサカキにしゃべってもらいました
自分の城に袋小路作ってそこに待機する殿様がいたら間違いなくバカ殿でしょう
ボス部屋からは逃げられないって言っておいて自分が逃げれなかったらそれこそじばくですよ
サカキさんに限ってそんなミスするわけないでしょう、そうですよね(ニッコリ)


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5.終わってそうで終わっていない 約束の地から決戦の舞台へ

 見事にわたし達はアジトを攻略し、パネルを壊し、ボスも追っ払って、カギも見つけた。ロケット団を倒したということでわたし達は一躍町のヒーロー。でも、まだこれで終わりじゃない。

 

「まだよ、これで終わりじゃない」

「そうだぜ、お礼はまだ早い。オレ達の仕事はまだ終わっていない。工場に乗り込んで、あのベトベター共にお返ししてやらないとオレの腹の虫が治まらねぇ!」

「回復もできた。さっそく向かおう」

 

 2人共まだやる気満々ね。今わたし達は勢いに乗っているし、このまま工場も一緒にパパッと攻略してしまうのも悪くないか。ベトベターもこれ以上増えたら大変だもんね。ジョーイさん達からお礼の言葉をもらうのもそこそこに工場へ向かった。

 

 ◆

 

 工場に着いたけど、周りにはベトベターがわんさかいる。グリーンの話で聞いた通りね。凶暴性はなくなっているはずだけど、ここはもうベトベターの縄張りだから勝手に入ればさすがに襲ってくるでしょうね。どうしたものか。

 

「しびれさせるしかねぇな。レッド、バタフリーだ。ブルーはフシギソウ。オレはユンゲラーで進路上の邪魔な奴をどかす」

「それが上策だな。行くぞ」

 

 グリーンの考えが上手くハマり、あっさりとベトベターの群れは突破して中に入れた。わたしが入れる向きを逆にしてカギがすぐに開かなかった時は迫るベトベターにちょっと焦った。レッドが冷静に逆だって気づかなかったらヤバかったわね。

 

 上手く侵入できて安心したのも束の間、中はロケット団らしき人間はおらず、むしろポケモンだけ、それも大量のコイルの巣窟と化していた。

 

「中に人間じゃなくてポケモンがいるなんて聞いてねーぞ、おい。さすがに密室でこの数相手は厳しいぞ。とにかく全員手持ち出しまくって総力戦だ。ここが山場だ、いいなっ!?」

「のっけから大ピンチ、か。おれ達らしいな」

「のんきなこと言ってないで、さっさと数減らしてよね、2人共!」

 

 数が尋常ではない。外のベトベターと同じぐらいだ。当然回復して蘇ったりしないがはがねタイプが入っていて戦いにくい。長期戦になるわね。でもわたしには秘策がある。

 

「ジジジジ!」

「一斉にでんきショックか。何回もされたらさすがに避け切れねぇな」

「何割かはピーちゃんに引きつけさせるから、気が逸れたところを一気に叩くわよ。ここで減らせなきゃ、わたし達の負けは確実……行くわよ!」

「大丈夫なのか? いや、今は考える暇はないか。グリーン」

「わーってるよ。みずのはどう連打だ!」

 

 全員で一斉攻撃。上手く決まって数は減らせた。周り全部敵だから、どこに技を撃っても当たるから外すわけないんだけどね。

 

「おい、ピジョンは大丈夫か?」

「平気よ。避け切ったわ。……いや、1発はもらったみたいね」

「あれをほぼ避けたのか」

「しかも食らってもピンピンしてないか? ブルーも育っているのはフシギソウだけじゃねぇってことか」

 

 驚いているけど、種は簡単。シショーみたいに先に“こうそくいどう”と“みがわり”を使っておいただけ。ピーちゃんは技のレパートリーが少ないから“みがわり”を覚えさせていた。とっておきだから教えないけどね。状況はさっきまでより格段に良くなった。でもまだはっきりとこっちの不利には違いない。

 

 さらにコイルの群れにかかりきりのわたし達に予想外のことが起きた。

 

「ジリリリリ」

「ジョッ!?」

 

 あれはレアコイル!? いきなり死角から“でんじほう”を撃ってきた。コイルの影に隠れて様子を見ていたのね。いくら速くても不意を突かれたら避けられない。ピーちゃんが突然現れた親玉っぽいレアコイルにやられた。残りはフーちゃんだけ。どうする?

 

 レアコイルが出てきてから一気に攻めづらくなった。どんどんこっちのポケモンがやられていく。2人の方もわたしと同じく残り1体になったみたい。4,5体やられたのを見たから、レッド達は最初から5,6体持っていた計算ね。私は2体だけなのに。

 

 

「おい、ブルー。まさかもう他に手持ちがないのか?」

「やけに控えを温存すると思っていたが……単にいないだけだった、ということか」

「ぐ、そうよ、悪い? むしろなんであんたらそんな何体も手持ちに持っているのよ。育てきれなくならないの?」

「オレは天才だしぃ? お前とはレベルが違うからなあ」

「言わせておけば!」

「それより、どうする? あれは厳しいぞ。レアコイルをなんとかしないと他の奴を倒すのも難しい。なんとかならないか?」

 

 言い返そうとしたらレッドに遮られた。もう、言われっぱなしは癪だっていうのに。もちろんそれどころじゃないのはわかるけどさぁ。

 

「レッド、お前相性いいんだからなんとかしろよ。けっこう削ったし、もうひと押しってところだろ」

「やっているが、あと少しってなった辺りから周りの奴がレアコイルを庇ってこっちの攻撃は通らず、逆に隙をついて反撃されてここまで追い詰められたんだ。先に取り巻きをなんとかするしかないが、そうすると今度はレアコイルが援護に回る。だから何か策はないか聞いている」

「それじゃ、お互いにカバーされて手が出せないってことじゃない。どうしろってのよ」

「あークソッ! もっと強力な技があれば庇おうとする気も失せたかも知れねぇのによ!」

 

 そんな都合のいい技なんてあるわけないでしょ! ムダなこと言ってないでなんか考え……あ、技じゃないけどあるにはあるんじゃない? これなら……!

 

「いいこと思いついたっ! 行けるわよ、あいつを封じる方法がある! 2人共同時にあいつの周りに攻撃して動きを制限して。コイルごとまとめてレアコイルをまひらせる」

「まひ? そんなんで大丈夫かよ。まぁいい。足止めならオレだけで十分。みずのはどうなら自由にコントロールできる。それぐらい朝飯前だ」

 

 言うや否やすぐに見事なコントロールでレアコイルの退路を断ってくれた。グリーン、けっこう役に立つじゃない。ありがたくこの隙に……。

 

「レアコイルがいる辺り一面にしびれごなよ」

 

 うまく巻き込んでしびれさせられた。これで準備は整ったわね。

 

「これならたしかにコイルは庇えないが、レアコイルの動きを止めても相手は遠距離攻撃が主体だから効果は薄いぞ」

「大丈夫、狙いはこの後よ。しびれたところを狙って、こうするのよっ!」

 

 投げたのはハイパーボール。これならコイルもわざわざ捕まりに来る真似はしない。

 

「その手があったか」

「あっ! てめっ、きたねーぞ!」

「早い者勝ちよ」

 

 シショーがいらないって言っていたハイパーボールもらっといて良かったわ。なんでかわからないけどハイパーなのにやけにあっさりくれたのよね。

 

 コロコロ……カチンッ!

 

 やった! レアコイルゲットよ! でもまだ戦闘中だから気は抜けない……と思ったけど、そんなこともないみたい。

 

「コイルの動きが止まった?」

「そうか、親玉がいなくなったから混乱しているんだな。おいレッド、今のうちにまとめてやっつけてやろうぜ」

「待って。この子を使えばその必要はないわ。出てきて」

「ジリリリ!」

 

 レアコイルにコイル達を説得させて攻撃を止めてもらった。おかげで簡単に廃液は止まり、ベトベターは勝手に散り散りになっていった。ここからさらにベトベターと戦うのはしんどいから、これは嬉しい誤算ね。ただ、工場内はもうコイル達の棲み家になっているようなので、取り壊しはやめて廃液だけを止めて発電機関は残しておくことにした。

 

「わかったでしょ? 時には力押しでなく、懐柔するのも手なのよ。頭を取れば手下もおとなしくなるんだから」

「お前、なんかそういうの手慣れてるよな。師匠さんの影響か?」

「手下を従える。やっぱり、悪の組織なのか」

 

 違うって言っていたでしょ。いや、これはわざと言っているんでしょうね。レッドが言うと無表情だから分かりにくいけど。

 

 何はともあれ無事に事件は解決。あとはバッジをゲットすればこれで胸を張ってヤマブキへ向かえる。お礼もたんまりありそうだし、これで一歩前進ね。

 

「たしかにブルーのおかげもあるけどな、オレのフォローも忘れるなよ? なのにお前だけゲットってのはズリーよな」

「だったらコイルがいたじゃない」

「手下に興味はねぇよ」

「まあまあ。ブルーは手持ちも少ないし、増やしておきたいところだったはずだ。丁度良かったと考えるべきだ」

「さっすが、レッドはよくわかってるわね。どっかのウニ頭と違って」

「てめっ、それ個人特定され過ぎじゃねぇか!」

「あら、自覚があったの?」

「このっ! いいぜ、今すぐバトルしろ!」

「望むところよ! 返り討ちだわ!」

「……はあ、どっちもポケモンは戦える状態じゃないだろ」

 

 いつも通りのわたし達。わたしにグリーンがつっかかって、レッドが側で呆れて眺めている。逆に安心感のある日常ね。でも、これからはまた3人別々の道を行くのよね。ポケセンに戻るとアヤメさん達作戦メンバーに加え、和服姿の美人な女性……聞けばジムリーダーのエリカさんらしい、そんな人までいた。この人、たしか動けないみたいなこと言われてなかったっけ。

 

「あれ、大丈夫なんですか?」

「ええ、なんとか。どうやら上手くいったようですね」

「もうベトベターは自然に散っていった。これで事件は解決だ」

 

 レッドが宣言すると住民達から歓声が上がり、歓喜の渦に包まれた。わたし達も報酬をもらいニッコリ笑顔。予想以上の額に驚くと、町を救われたのだから当然だ、とジョーイさん達から笑われた。ホクホク気分でシショーみたいにパソコンでも買っちゃおうかなーとかこれを何に使うか考えていると、エリカさんに話しかけられた。

 

「あなた、ジム戦を希望しているらしいですわね」

「え、なんで知ってるんですか?」

「暴走族の男から聞きました。あなたは今回の事件で多大な功績を挙げました。なので、このバッジはあなたに差し上げますわ」

「え、いいんですか! ラッキー! ……はっ!? ダメダメ、ちゃんと勝負してください。わたし、ジム戦はランクを上げてポケモンを鍛えるって決めてあるんです。ランク7で勝負してください、お願いします」

「なんですってっ! しかもランク7に上げる!? なんでそんなことを言うの、どうして! こんなことあっていいわけ、あの子達がまたわたくしを……ううっ、胸が苦しい、頭も、気持ち悪い……」

 

 サボったのがバレたらシショーに何言われるかわからないからランク7の勝負をお願いしたら、エリカさんはいきなり大きな声を出して取り乱し、挙句に頭を抱えてうずくまってしまった。なんなのこれ、さすがに異常だわ。なんかヤバイんじゃないの!?

 

「エリカ様、大丈夫ですかっ! うう、凛々しい人だったのに、こんな風になっちゃって……なんでエリカ様がこんな目に遭わないといけないのよ」

 

 アヤメさんが肩を貸して少し落ち着いたみたい。やっばぁ……これ、わたしのせいなのかな。ただならぬ様子なので原因はわからないがとりあえず謝っておいた。

 

「ごめんなさい、なんか失礼なこと言ってしまったみたいで。悪気はなかったんです」

「構うこたぁねぇよ。こいつがだらしないってだけ。お前は悪くねーよ。ま、ランク7まで上げろってのは調子に乗り過ぎって気もするが」

 

 いきなりのグリーンのあんまりな言葉にさすがに聞き返さずにはいられなかった。

 

「グリーン、どういうことよ」

「こいつはジムリーダー失格だ。こんな一大事に引きこもって、終わった途端にのこのこ顔を出すのもそうだが、ジム戦の内容もひどかったぜ。全くポケモンに指示を出さねえんだ。自分は突っ立っているだけ。話になんねぇ」

「ホントなの、レッド?」

「ああ。控えめにいっても無能だな」

 

 グリーンは口が悪いから、レッドに聞いてみてもこの反応。無能って、あんたときどきびっくりするぐらい辛辣になるわよね。歯に衣着せぬというか。でもレッドをしてこの評価、かなりのもんね。シショーは特になんにも言ってなかったけど、どういうことなの?

 

「ごめんね、今はこんな状態だからバトルは無理よ。急ぎらしいし、ここはバッジだけで手を打って。私もね、もうこんな姿のエリカ様を見たくないの」

 

 そう言われるとこっちも言い返せない。シショーには手抜きがバレたら怒られそうだけど仕方ないわね。

 

「わかりました。変なこと言ってすみません。あの、私が言うのもなんですけど、早く良くなるように頑張ってください」

「ありがとう。あなたは町を救ってくれたし、ホントにいい子ね。あなたのことは責めてないわ。全部悪いのは、あの悪魔、孤児のレインのせいなのよ。だからあなたは気にしなくていいわ。ブルーちゃんも、これから頑張ってね。お師匠さんにもよろしくね」

 

 ええ!? 今、なんて言ったのっ!? たしかにレインって聞こえたけど……。

 

「あのっ!」

 

 思わぬ言葉に我を失い、気がついて声をかけた時にはアヤメさん達はジムに帰った後だった。せっかく事件も丸く解決して万々歳のはずが、何かスッキリしない。こんなモヤモヤしたままじゃ、ヤマブキに行けない。

 

「さて、これでお前もバッジは4つ。ここでちょっと話があるんだが……」

「ごめん急用ができた。あなた達は先に行って。わたし達、また別々になることはわかってたわ。また次はさらにお互い強くなって会いましょう。じゃ!」

「あ、おい、待てよ!」

 

 グリーンの声を無視して再びゴウゾウのいるアジトへ向かった。そして当人を見つけるとすぐにさっきのことを激しく問いただした。

 

「まさか最後にここへ来た要件がそれとはな。あのアホ余計な事まで口を滑らしやがって」

「やっぱり知っているのね。ねぇどういうことなの、教えて!」

「気持ちはわかるが、レインが言わなかったってことはお前には教えたくなかったってことだ。それを勝手に俺が教えたらマズイんじゃないか? 最悪俺まで何されるかわからねぇ。あいつヤバイ金にも手を出している雰囲気だったし、マジで何するかわからねぇところもあるからな。あんまり軽々しく詮索しない方がいいぞ」

「あ、そういえば……」

 

 詮索はするなって言われていたんだった。やったらヤバイことになるとかなんとか。でも知りたい、でも怖い、うううー!

 

「じゃ、エリカさんとの関係だけ教えてくれない? あなた訳知り顔だし、何か知ってるんでしょ?」

「まぁそれぐらいならいいか。単純に言えば、レインがバトルでエリカをボコボコに潰した、ってところか」

「相手はランク7で、それでボコボコにしたの?」

「実は、俺はそのバトル直に見ていたんだが、ランク7相手に一方的に勝ってしまってな。しかも1匹で。とんでもねぇ強さだ。しかもその倒し方がえげつなくてな。ただ負けるだけならあそこまで病んだりしない。あのバトルでエリカはトレーナーとしてのプライドをズタボロにされた」

「ど、どんなふうに?」

「……精神的な揺さぶりをかけて、相手のポケモンを寝返らせたんだ。最終的に3匹のうち2匹がレインの言葉を信用して造反。最後の1匹に至ってはエリカに攻撃を始める始末。あれじゃ自信も失くす。トレーナー失格を言い渡され、それを真に受けていた。それからは指示をしても言うことを聞かなくなるのが怖くなって何も言わなくなってしまったのさ。ああなったらおしまいだ」

 

 う……そ……。あのシショーがそんなヒドイことするなんてショック……いや、フーちゃんも一度殺されかけたし、むしろやりかねない。よく考えてみたらいつも通りね。身内には甘いけど、敵には容赦しない。やっぱりそういう性格なのね。

 

「なんでそんなことしたの? 他のジムではそんなことしてなかった。エリカさんがひどいトレーナーなの?」

「あれがひどいってんなら、俺はそれ以下だ。ほんとにダメだからじゃねぇ。その気になれば、俺や、他のジムリーダーにも同じことができるだろうぜ。やったのはエリカ個人にあいつが恨みを持っていたからだ。孤児になって町から疎まれた原因がエリカだからな」

「そんな、あの人がシショーの……」

「これで話は終わりだ。最後に忠告しとく。この話はレインから聞かされるまでこれ以上深入りするな。あと、レインはタマムシとかエリカとかの話をかなり嫌う。その単語を言うだけでもな。機嫌を損ねたくなかったら言わない方がいい。ああ、あと草ポケモンも嫌ってるから気をつけろ。下手したらエリカみたいにされかねないからな、冗談抜きに」

 

 ひぃぃぃぃ、やっぱり聞かなきゃよかった! 怖過ぎぃ! フーちゃんってもしかしなくてもそのとばっちり!?

 

 さすがにこれ以上聞くのは本気で命の危機を感じる。バレたら何されるか……私は神妙にうなずいてこの人の言うことに従うことにした。

 

「ねぇ、逆にエリカさんにシショーの話をしたらどうなるの? 一応今回の功労者の1人だし、少しは……」

「間違ってもするな。親の仇より憎いと思われてるんだ。お前まで火だるまだ」

 

 あぶなっ! うっかり漏らしていたらわたしゲームオーバーだったの!? シショーもそんなにヤバイなら一言ぐらい注意してよ! 忠告もしたくない程タマムシの話題はイヤなの!?

 

 ちょっと、いや結構、ううん、大分ショッキングな話を聞いたけど、気を取り直してヤマブキへ向かおう。なんかシショーに早く会いたかったのに、今の話であんまり会いたくなくなったかも。

 

 この町にいるのも最後なので、ラストにデパートに少しだけ寄ってからヤマブキを目指して東のゲートに向かった。わたしはそこで見覚えのある顔を見つけた。

 

「ボンジュール! ブルー、偶然だなぁ。案外すぐに会えたな」

「本当はここを通るのを見越して待ってたんだけどな」

「ばっ、言うんじゃねーよ!」

 

 グリーンにレッド、まだいたの? いっつもどんどん先に行っちゃうのに何していたのよ。考えられるのはわたしに大事な用でもあったってことかしら。

 

「どういうつもり? 何か用?」

「お前、そりゃねぇだろ。人の話も聞かずにさっさと行っちまってよ。すっぽかしたのはお前の方だぜ?……ブルー、これはマジな話だ。結論から先にはっきり言うぜ。オレ達の使命は終わってそうで終わっていない。ヤマブキにいるロケット団を倒すってミッションが残ってる。サカキの目的地だ」

「そのためにブルーの持っている手紙がヒントになるはずだ」

 

 いきなり本題か。回りくどいのがキライなグリーンらしい。しかもどえらいこと言い始めたわね。でも正直、驚いてはいない。なんとなくそんな気はしていたし、まだ何も終わってないこともわかっていた。でも、私は少し目を逸らしていたのかもしれない。

 

「仕方ないか。たしかに出来過ぎよね。あのサカキが残した言葉……ヤマブキへ行くつもりみたいだった。ヤマブキはわたしの目指すところでもある。それにこの手紙。3枚目はヤマブキに着いたら見ろって言われていたの。この手紙そのものがロケット団との接触に備えて渡されたものみたいだし、そうだとしたらこれも奴らの手がかりになるかもしれないわね」

 

 もしかすると、ヤマブキを約束の地に選んだのはサカキとの決戦を見据えていたのかしら。そこが決戦の舞台になるとわかっていたから。シショーにはいったいどんな景色が見えているのだろう。わたしなんかじゃ推し量ることもできない。

 

「そういうことだ。オレはあいつ、サカキにやられっぱなしじゃ納得いかないんだよ」

「おれもだ。それに、あいつらはほっとくわけにもいかない」

「そうね。いいわよ。じゃ、ここで見ちゃいましょ、3枚目」

「いいのか? 着いてから見るように言われたんだろ?」

 

 レッドはそう言うけど、頭が固いのよ。もう見るのは決まっているのだから遅いか早いかの違いだけ。なら早い方がいいに決まっている。

 

「いいわよ、どうせ見るなら先に見ても問題ないわ。その方が合理的よ」

「その通りだな。奴らの出方を先に知れば対策も先に打てる。たまにはいいこと言うじゃねぇか。オレもそう思ってたんだ。さっそく読んでみようぜ」

 

 レッドはなぜかちょっと気が進まないみたいだけど、わたしは気になってすぐに開けてしまった。最初の言葉を見た瞬間、びっくりして心臓が跳ね上がった。

 

『まず、これをまだタマムシに着いてもないのに勝手に読んでいるなら、今すぐやめろ。今なら勝手に読んだことは多目に見てやる。だが、ここまでしてまだ俺の言うことを聞く気がないならお前の面倒はもう見ない。信用がなければ付き合いきれない』

 

「……」

「これはどういうことだ?」

「気にしないで、先を見ましょう」

 

 内心、シショーのこの言葉には感心していた。こう言われてしまえば、もし軽い気持ちで盗み見をしていたならすぐにやめているだろう。こんなことで縁を切りたくはない。そして3枚目にこのトラップを仕込んでいたのは、やるなら最後から見ると読み切られていたのだろう。その予想も当たっている。驚く程わたしの性格を理解している。もっとも、この場合は理解されても全く嬉しくないけど。

 

『さて、本題の前に今お前はどこにいる? 実はタマムシでフライングしていないか?』

 

「ぎくぅうう!」

「やっぱり。読まれているな」

「お前はわかりやすい性格だしなぁ。はーはっはっは!」

「笑うな! あんたも一緒のこと考えてたでしょうが!」

 

 こいつさっきは同調して開けようとしたクセに! レッドがなんか考えていたのはきっとこれを予期していたのね。教えてよ! 恨みがましくレッドを見ると笑っていた。

 

「だが、今回は悪いことじゃなかったみたいだぞ?」

「どういうことよ」

 

 レッドに目で先を促されたので続きを読んでみた。何々……。

 

『結論から言えばお前は最善の行動に出たことになる。タマムシで見ているならロケット団は倒した後だな。ならこれを見ても構わない。実はヤマブキへ行く前に用意しておくべきものがある。今、ヤマブキのゲートは通行規制が入っている。通るにはブツが必要だ。といっても金は用意できんだろ。

 そこで、代わりにお茶を用意しろ。それもかなり熱めの奴をな。その辺で買ってもいいが、できたらその町のばあさんからわけてもらえ。どこにいるかは聞き込みすればわかる。

 もしこれをゲートで読んでいるなら、ご愁傷様。おとなしく取りに帰れ。期限を多めに取っていたのはこの往復の時間を考慮していたからだ。とはいえ俺の予想じゃ8割方そんなことにはなっていないだろうが』

 

「なるほど。行動を読まれていたが、結局ベストならいいじゃねぇか」

「むしろ、ブルーの性格を踏まえてベストになるように調整されていたように思えるが」

「とにかく、お茶が要るのがよくわからないけど、最後まで先に見ときましょう」

 

『ヤマブキに入ったら、中は奴らのテリトリーだ。気を抜くな。ボスはシルフにいる。奴らの目的はシルフの乗っ取り、そして開発中のマスターボールの確保。野望を止めるにはシルフに乗り込んでボスのサカキを倒すしかない。タマムシで一度退けているとはいっても、奴はまだ本気じゃない。シルフでは桁違いの強さでくる。覚悟しとけ。

 それに、中には社員が人質になっているだろう。そいつらを解放しつつ、集結した団員を全部相手にしていたらキリがない。かなり大変になるだろう。それでも行くなら止めはしない。お前ならなんだかんだ生きて帰って来られるだろうしな。

 少しだけ助言しておくと、まずシルフに潜入するときに気を付けるべきことはワープパネルが大量にあることだ。うろ覚えだが中のマップを書いておいた、参考にしてくれ。あと、助けるのはシルフの社員だけにしろ。中にはロケット団に魂を売った悪の科学者も混じっている。油断していると背後を突かれるぞ。最後に、入り口の見張りは、眠らせたら簡単に中に侵入できる。なんとか頑張れよ。俺はいつもブルーの無事を祈っている

 正直、ロケット団相手にお前を戦わせるのは不安だったが、ゲームコーナーのアジトで一度勝っているなら大丈夫だ。お前はいいトレーナーになったと思う。自信持てよ。ヤマブキで先に待っていてくれ』

 

 はい、家宝決定ね。絶対に期待には応えてやるわ。

 

「あんた達、こうしちゃいられないわ。急いでサカキをぶっとばしに行くわよ!」

「……なるほど、ブルーって思っていた以上に人に乗せられやすいんだな」

「それよりよぉ、まずいくつもツッコミどころがあるだろ! ボスの名前とかシルフの内部機密のワープルートとかなんでこんなに知ってんだぁ?」

「そりゃシショーだもん」

「まさかのスパイ説浮上か」

「お前らふざけてんのか? それとも本気なのか?」

 

 本気に決まってるでしょ。シショーはだいたいなんでもできるから。レッドは真顔でふざけているけど。

 

 シショー、ヤマブキに着いたらわたしがロケット団を倒して強くなったところ見せつけてびっくりさせてあげるわ! あんまり遅いと置いていっちゃうからね!

 




お助け袋でワープルートが書かれているところがありましたが、あれは実際にシルフに行ったときにいくつかだけ試して、それで自分の知ってる通りだったので残りは記憶を頼りに書いた、と思ってください。大事なところだけ手紙にメモっておいたんでしょう
この時点でレインさんはストーリーのやりこみ度合いもヤバイのが確定ですね

お茶についてはレインはそのばあさまに直接会っています
怪しい工場とかも含めて1章の伏線がようやく回収されたわけです

本編関係ないですが、本作の閲覧数とかが伸び始めたのはこの話を投稿した頃でした
その節はたくさんの高評価ありがとうございました
だいぶ後になってから評価が入ると日間ランキングに乗ったりして閲覧数が伸びることに気づきました
気づくまでは唐突なバブルの原因究明のため、謎仮説を乱立させていましたね


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6.悪への激情 芽生える友情

非道な生体実験などがあります
たぶん大丈夫だとは思いますけど念のため警告




 手紙を読んでやるべきこともはっきりしたわたし達は、さっそくまずはおちゃ探しを開始。聞き込みによってすぐにおちゃをくれるおばあさまがホントにいることがわかり、タマムシマンションに向かい、あついおちゃを手に入れた。

 

 すぐに足早にヤマブキのゲートに向かうと、警備員に呼び止められて中に入れなかった。すかさず、半ばやけくそでお茶を見せてあげると、驚く程あっさりと通してもらえた。ダメだったら報酬のお金を使うつもりだったけど、使わずに済むならそれに越したことはない。

 

「狐につままれるってのはこんな感じなんだろうな」

「そんなことより、さっさと中に入るわよ。のんびりはできないでしょ。こっちの準備は万端なんだからいけいけで強行突破よ」

「いや、待て。正面から行くのは厳しい。数が違い過ぎる。物量は最も厄介だっておれ達は散々思い知らされた。それに前回監視されて痛い目見たのを忘れたか?」

「確かにレッドの言う通りだな。ならどうする? 見つかったら終わり、当然監視カメラは死角なし」

「レッド、考えがあるの?」

 

 こういうときなんの考えもなしにこんなことは言わないはず。すると思った通り、レッドらしからぬ悪戯っ子のような笑みを浮かべて面白いことを言った。

 

「闇夜に紛れて潜入っていうのはどうだ? あいつらも予想していないだろ」

 

 レッドが説明した作戦はこう。夜、でんきポケモンを発電所に送り込んで停電を起こし、無理やり監視カメラを使えなくして混乱した隙に中に潜入。自分達はシルフスコープで暗視して意思疎通はトランシーバーで行い、人質はポケモンを使って誘導して解放する。ちなみにヤマブキシティの電力源となる発電所は1つだけ。それもしっかり調べて事に当たった。

 

「悪くないわね。というか……トランシーバーはともかく、そのシルフスコープはどこで見つけたのよ! それを売ってるシルフが今相手の手に落ちているのに」

「アジトで拾った。丁度3つある。使い方はおれが教える。前にロケット団絡みで一度使った」

「用意がいいなレッド。でんきポケモンは丁度ブルーのレアコイルも増えているわけだし、意外と悪くねぇ作戦だ。なんか怪盗みたいでワクワクするな」

 

 3人でにんまりと顔を合わせ、作戦に取り掛かった。いよいよ、敵の総本山へ乗り込みね。停電作戦が上手くいくか、これはもう賭けだったけど、戦力低下を補って余りある成果を叩き出した。入口は眠らせるまでもなく居眠りしていたし、指揮系統はぐちゃぐちゃみたいで、団員に見つかっても各個撃破。逆に情報を聞きだした。電力を絶っておいたのはかなり効果があったわね。それに早めに情報を吐かせた方がいいのは前回学んだもんね。

 

「人質は4Fの社員の人達と、地下のポケモンか」

「わたしが下に行く。あんたらは上に行って。地下は地図に載ってなかった。時間がかかるわ。あなた達の方がわたしより戦力があるんだから、先にいきなさい」

「わかった。単独は危ないが、時間もない。頼む」

「ノロノロしてると、オレ達で全部終わらしちまうぜ?」

 

 そういってすぐに2人は階段を駆けて行った。わたしもすぐに応援に行けるようにがんばんないと。駆け足で階段を降りていくと、地下は意外と広く、ポケモンもあちこちに閉じ込められていた。みんな生体実験とかされていたのね。体に傷が目立つし、みんなぐったりとしている。なんてひどいことを……許せない。

 

 “あまいかおり”で落ち着かせて外に誘導するつもりだったけど、これならボールに入れた方が早いわね。みんな眠らせて、片っ端から捕まえてボックスに転送した。終わるまでの辛抱よ。

 

「お前、何してる!」

「ヤバイッ……ってなんだ、シルフの人か。ここにも人がいたんだ」

 

 ロケット団かと思って焦ったけど、研究員の人みたいね。

 

「……君はなんでここにいるんだい? ここは立ち入り禁止だよ」

「あなたも逃げて、今なら逃げれるわ」

「君は助けに来てくれたのか。そうかそうか。じゃあ外まで案内してくれ」

「いいわよ。こっち……」

 

 言いながら後ろを向く途中、イヤな予感がして、とっさに距離を取ってフーちゃんを繰り出した。すると、丁度わたしがいたところに電流が迸った。あれはスタンガン! こいつ、話に聞いていた悪の研究員か。タチ悪いわね。

 

「チッ、今のを避けられるとはっ!」

「フーちゃん!」

 

 驚いた相手の隙は逃さない。声掛けだけでフーちゃんは動いて研究員に向かって攻撃してくれた。

 

「うぎゃ!」

「ポケモンに罪はないもんね。悪く思わないでよ。先に手を出したのはそっちの方だし。ね、悪の研究員さん?」

「気づいていたのか! くそっ、始めから芝居だったのか!」

 

 あれ、なんか勘違いされている……いや、全て計画通りね。

 

「そうよ、最初からあなたの姑息な考えなんてオ・ミ・ト・オ・シ! わざと勘違いしているフリをしたのよ。ホホホホホ」

「フッシッシ」

 

 ぐ、めっちゃバカにした笑い方するわね。そんな声出したらバレちゃうでしょ!

 

 研究員をそのまま締め上げると、まだ奥に研究中のポケモンがいることがわかった。もう全部回ったと思ったのに、まだいるのね。

 

「奥の部屋は特別で珍しいポケモンがいるからな。ラプラスってポケモンだ。あれは高値で売れるからなぁ。普段は脳波を調べてテレパシーが使えるか調べたり、生態調査が主だが、今はおそらく……あれをやっている頃だろうなぁ」

「な、なんなのよ」

「何、ちょっとした鳴き声を出させるだけさ。賢い、群れを成すポケモンはな、自分に生命の危機が迫ると、甲高い声で仲間を呼ぶんだよ。それさえ録音できれば、仲間も一網打尽ってわけだ。もうすぐあのボールも手に入るからな」

 

 ウソでしょ!? それ、要するに群れのラプラスを乱獲するために、死ぬほど痛めつけてその鳴き声を出させているってこと!?

 

「あんたら、それでも人間なの!? この悪魔、鬼、外道! 許さない!」

「今だ!」

「フシッ」

 

 パリン!

 

 何、今の。注射器? 一瞬のことで目が追い付かなかった。フーちゃんに助けられたの?

 

「チッ! 邪魔が入ったか」

「……そうか、わざとわたしを怒らせるためにこんなことを言ったのね。大人ってホント油断ならないわね。手も縛っておくわ。いや、いっそここで気絶していてもらおうかしら」

 

 フーちゃんが助けてくれなかったらヤバかった。もう毛ほども油断しない。こいつらは悪に魂を売った外道なのだから。

 

「好きにしろ。だがな、あそこに入るには俺達の指紋認証が必要だ。俺がいなきゃ入れねぇよ。あと、さっきの話は本当だぜ。ひひひっ」

 

 こいつっ! ……落ち着いて。ダメよ、怒っちゃダメ。こいつの思うツボだわ。

 

「だったら最後までこき使ってやるわ。抵抗すればあんたは殺して代わりを探す。今なら人間ぐらい簡単に殺せそうな気分だもの」

 

 研究員はその後はおとなしく言うことを聞いて、奥の部屋を見つけて指紋認証も上手くいった。中に入ると研究員が本当にラプラスを痛めつけていた。怒りはあるが今はグッとこらえて、即座に内部の制圧にかかった。

 

「キュウ、キュウゥゥゥゥ……」

「誰だ! なっ…がはっ!?」

 

 すぐに近くにいた2人はフーちゃんとピーちゃんで押さえたけど、まだ1人残っている。向こうもポケモンを持っていたみたいで膠着状態になった。

 

 周りを見れば怪しい計器がたくさん置いてあり、よくわからない数値を表示している。中央には大きな台の上にラプラスが乗せられていて、体中に拘束器具が取り付けられた上に高圧電流を流されて苦しそうにしている。あのコンデンサーみたいなのから電気流して痛めつけているのね。

 

「ほう、外が騒がしいと聞いていたが、ここまでネズミが迷い込んでいたとは。いきなり非常電源に切り替わるから何事かと思えば、やはりトラブルが起きていたのか。ここが何をするところかわかっているのか?」

「わかっているわよ。あんたらにもうポケモンを痛めつけるような真似はさせない!」

「ああ? なんだって?」

 

 ギュイーン……バチバチバチッッ

 

「キュウゥゥッ、キュウ……」

「ラプラス! よくもっ!」

 

 研究員が手元のレバーを引くと電流が強くなった。いきなり意味もなく電流を強くするなんてっ。わたしに見せつけるためだけに……なんてひどい奴! 絶対に許せない! ラプラスの必死に押し殺したような鳴き声から、痛みを耐えてなんとか声を上げないようにこらえているのが見てとれて、いっそう痛ましさを増していた。こんなことやっていいわけない。早く助けてあげないと!

 

「わははは! バカめ、お前になんと言われようと怖くはないのだよ。後でお前もこの苦痛を味わわせてやる。人間に使ったらどんな鳴き声を上げるのか、試してみたいと思っていたところだ」

 

 こいつ……どこまでも人をコケにしてっ! いや、冷静になるのよ。こいつはわざと挑発している。しかも相手のポケモンはカイリキー。うかつに近寄ればヤバイ。間合いに入ったら最後、“ばくれつパンチ”が飛んできて1発でもくらったらアウトよ。

 

「どうした。怖気づいたか。お前もこんなポケモンなんかにムキになって、賢くないな。このポケモンもそうだ。さっさと鳴いてしまえばこんな痛い目に合わずに済むものを、どうしたわけか、頑なに声を抑えようとする。もう10まんボルトを何回も受けているのにな。テレパシーについてもわからないままだし、頑固で愚かで、どうしようもないポケモンだ。こいつが捕まった時も、群れのポケモンを庇って自分から捕まりに来たんだから、ここまで来るともう傑作だな。本当はこいつには大した知能はないんじゃないかと思い始めていたところなんだよ、くっくっく!」

 

 こいつ、泣かす! 仲間のために必死で耐えて苦しんでいる姿を見て楽しむだけでなく、その思いまで愚弄した。わたしが天誅を下す!

 

「ラァッ!」

「!」

 

 ラプラスの声が聞こえて冷静になって気を取り戻した。迂闊にも本当になんにも考えずに飛び込むところだった。感謝を込めて視線をラプラスに向けると、その目からとんでもない闘志を感じた。絶対にこんな奴らの思い通りにはさせないという決意がはっきりと伝わる。だからわたしを助けてくれたのね。このラプラスはやっぱり賢い。全部わかっているんだ。

 

「ふふふ」

「あ? 何笑っている!!」

 

 怒ると思っていた相手が笑い出したら癇に障るわよね。悪いけど、こういう駆け引きに関してはもっとすごい人をわたしは知っているのよ。

 

「あら、ごめんなさい。あなたが間抜け過ぎて、つい笑っちゃった」

「なんだとお前! もっぺん…」

「後ろ、見なくて大丈夫なの?」

「なにぃ? まさかあれだけ痛めつけて動けたのか!」

 

 バカな男ね。もちろんそのラプラスはもう動けないわよ。でも……その目を見て冷静でいられるかしら。

 

「ラァァッッ!!」

「ひぃっ!?」

「あなた達! 今よっ!」

 

 ひるんだ一瞬の隙をついて、パチン、とわたしが指を鳴らすと2体はあらかじめ決めていた通り、1番の得意技でカイリキーに同時攻撃を仕掛けた。乱戦においてとっさに素早く技を出すことがいかに大切か散々味わった。だから得意技だけはすぐに出せるようにしておいたのよ。

 

 “つばめがえし”と“エナジーボール”が決まる。どちらも使い慣れて技の出の速さも切れ味も抜群。使った後の隙も小さい。不意を突いてクリーンヒットすれば相手はまず耐えられない。

 

「カ、カイッ!」

「しまった!」

「そいつにもねむりごなよ!」

 

 カイリキー戦闘不能。研究員も眠らせた。これで地下は制圧完了ね。

 

 ……そう思い、このとき勝利に油断して気を抜いたことがわたしにとって命取りになった。

 

「ラッ!?」

「動くな! 動けばこの猛毒でこいつを今すぐ殺す!」

「しまった! ラプラス! くそっ、油断した!」

 

 さっき連れてきた研究員、いつの間にか縄を解いている。いったいどうやって……バトルに気を取られて完全に意識の外だった。そうか、ここまでおとなしくついてきたのも、目立たないようにして機会を待って、ここでこの子を盾にしてわたしを嵌めるためだったのね。どこまでズル賢い奴らなのよ! 大人ってホント汚い!

 

「さぁて、じっくりお礼はしてやろう。まずはそのポケモンを戻してこっちにボールを渡せ。早くしないとうっかり俺がこの注射器を押してしまうかもしれないぞ?」

 

 こんなに悔しかったことはなかったかもしれない。自分が歯ぎしりする音が聞こえる。でも、こんなに優しい仲間思いのラプラスを見殺しにはできない。ごめんグリーン、レッド。わたしドジ踏んじゃった。応援には行けないわ。

 

 ポケモンを戻して、研究員の足元にボールを投げた。

 

「へ、へへへ……いい子だ。ものわかりがいいじゃねぇか。これでもうこれは必要ないな。さあ、今までの分、たっぷりお返しをしてやるぜっ!」

 

 パリンッ!

 

 研究員はいきなり注射器を投げ捨ててわたしに殴りかかってきた。

 

「なっ! ごはっ!? うぐっ!!」

 

 殴られてわたしが倒れたところをさらに踏みつけてくる。全然手加減してない。痛い……。でも、ラプラスに比べればこれぐらい何でもないっ。

 

「いいザマだ。やっぱりお前はバカだよ。子供は単純で……騙しやすくていい」

「!」

 

 こいつ、今……。

 

「へへ、そうさ。さっきのはウソだ。お前はまんまと自分から降参しちまったのさ。愚かな奴め。ははっ、どうだ、最後の最後に騙された気分は? ああ、あのポケモンも反抗的でもう使い物にもならんし、お前と一緒に殺すとするか。ははは!」

「わかってたわよ」

「ああ? なんか言ったか」

「わかってたわよ、あれが毒薬なんかじゃないって」

 

 わからないわけないでしょ。考えればわかる。わかっていたからこそ悔しかったのよ。

 

「何言ってんだ、お前? じゃあなんでおとなしくボールを手放した? ほら、言ってみろよ、ホラ吹き女」

 

 ぐりぐり顔を踏まないでよ。こいつ、ホントにクズね。

 

「あんたが都合よく毒薬なんて持っているわけないでしょ。持っていても何に使うのよ、自分の研究施設で。ラプラスは貴重だし、殺そうとするわけもない。あんたが持っていたのは、鎮静剤か睡眠薬ってところでしょ。それぐらいわかっていたわ」

「なっ! へっ、じゃあお前はもっと大バカだ。わかっててあんな…」

 

 こいつが言い終えるのを待たずに、わたしは叫んでいた。

 

「わかっててもっ! 99%わかっていても、1%でもラプラスが死ぬ可能性があるなら、わたしには選べない! 何があっても、こんなに優しいポケモンをあんたみたいなクズ人間なんかに殺させるわけにはいかないわ!!」

「ああ……あああっっ!! イライラするっ! 俺はなぁ、お前みたいな奴が1番気に入らねぇんだよっ! 死ね! 死ね死ね死ね、死にさらせっっ!!」

 

 ぐうううう! 首が、絞められている。息が、もう、できない。でも……悔いはない。わたしは、トレーナーとして、自分の信じる道を、まっすぐ、進んできた。これで死んでも本望よ……。

 

「てめえっ、なんでそんな顔してる! もっと苦しめっ、もっと泣き叫べっ!」

 

 目が霞んできた。もう何も見えない。音も消えた。だんだん感覚がなくなっていく。人間ってこうやって死んでいくのね。全部なくなって……無に……。

 

「がはっ! ゲホゲホッ」

 

 急に締め付けがなくなって意識が覚醒した。感覚が蘇ってくる。なんで? 何が起きたの? まだ脳はいつも通りに働いてくれない。何もわからない。

 

(早くそこを離れて、早くっ!)

 

 まだ頭が動かない。でもなぜか急にここを離れないといけない気がして、急いでわたしはそこから離れた。おぼつかない足取りで、必死に。

 

(私だけでなく幼い命まで弄んだ罪、その身で償え!)

「ラァァアアーーーッッ!!!」

「ぎゃああああっっっ!?!?」

 

 凄まじい冷気で意識がはっきりと覚醒した。あれは“れいとうビーム”!

 

 ラプラスが……怒りに燃えている。あの男は決してさわっちゃいけない竜の逆鱗に触れてしまったんだ。ポケモンが本気で怒り狂っているところなんて初めて見た。

 

 ラプラスは最後の力を振り絞っているのだろう。体は震えているけど、眼だけは死んでいない。瞳孔が小さく定まり研究員をにらみつけている。できあがったのは氷の彫像。もうこいつは生きていないかもしれない。

 

 研究員の末路を見届けてすぐ、事切れるようにラプラスは倒れた。それを見て一瞬ヒヤリとしたが、駆け寄って様子を見れば息はある。急いで回復薬をつぎこんで必死に治療した。治療の甲斐あってすぐに目を覚ました。嬉しくってラプラスの顔に抱きついてしまった。

 

「良かった、無事なのね。本当に良かった……わたしてっきり……」

(あなたの気持ちはずっと感じていました。気絶して眠っている間も、そして今も。あなたは私の命の恩人です。その上、私の誇りと一族はあなたに守られた。私にできる最大限の感謝をあなたに捧げます)

「そ、そんなっ、大袈裟よ。そこまで言われても、わたし結局あなたに助けられちゃったし、こんなひどいことされてたのにずっとなんにもできなくて、ホントにごめんね。こんなに傷ついて。わたしがもっとしっかりしてれば……早く助けに来てあげれたら……」

(いいえ、あなたは素晴らしいトレーナーです。そんなに気を落とさないで。あなたは最善を尽くし、身命を賭して悪に立ち向かってくれた。これ以上は望めないでしょう。もう一度、あなたには感謝の言葉を。ありがとう。本当に、ありがとう)

「あっ」

 

 優しく包み込まれて、あったかい。ラプラスから深く、そして重い感謝の気持ちが伝わってくる。不思議な感覚。ものすごく幸せな気持ち。これがテレパシー?

 

(そうです。そしてこうして意思疎通ができるのもテレパシーの力)

「……ああっ! 今わたしあなたとしゃべってたっ! すごいすごい! ポケモンとおしゃべりできるなんて夢みたいっ!」

(気づいてなかったのですか?)

「なんかすっごく自然にあなたの声が受け入れられて、違和感が全くなかったわ」

(そうですか。やはり、あなたと私は波長が合っているのでしょうね。一目見た時から他人だとは思えませんでした)

「え? どういうこと?」

(……お願いです。私をあなたの手持ちに加えて頂けませんか?)

 

 手持ちって、もしかして自分からゲットされたいって言っているの? なんでよ、仲間のためにあんなに頑張っていたのだから、また会いたいと思っているんじゃないのっ?

 

「ちょっと、いきなり何を言っているのよ! あなた、仲間がいるんでしょう? 帰らないとダメなんじゃないの?」

(あなたには私の気持ち、伝わりませんでしたか? 私の全霊をもってあなたに恩返しをさせてください。お願いします)

 

 首を垂れて真剣にお願いする姿を見れば、冗談の類でないことはすぐにわかった。でもあんなに仲間のために一生懸命なところを見た後だけに、少し躊躇ってしまう。

 

「でも、ホントにいいの?」

(不遜ながら、私は自分の力には自信があります。役には立って見せます。それにあなたは今この組織と戦っているのでしょう? 少しでも戦力は増やしておきたいはずです。もう迷っている時間だってありませんよ)

 

 その言葉でハッとした。さっきは諦めたけど、今こうして助かったんだから早くあいつらを助けに行かないと。回復に時間を使ってしまったし、もう別れてからだいぶ経つ。事ここに至り、迷いは消えた。この子にも手伝ってもらいましょう。

 

「そうだったわ。グリーンとレッド、あいつらの加勢に行かないと! よし、わかったわ。あなたも連れていく。ホントはね、わたしポケモンに乗って船旅を楽しむのが夢だったの。ラプラスって人を乗せてくれたりもするんでしょ? ……これからよろしくね。わたしの名前はブルー。あなたはこれからラーちゃん。……いや、ちゃんはないか。しゃべり方がわたしよりだいぶ大人っぽいし。ラーさん?」

(何でも構いません。我が主となるあなたの名前、たしかに承りました。これからはブルー様と呼ばせて頂きます)

「何言ってるの!? ダメよ! そんなのダメダメッ! わたしのことはブルーでいいわよ、いっつもそう呼ばれてるし。それにね、トレーナーとポケモンは、常に対等でないといけないの。だからそんな畏まったしゃべり方もしなくていいわ。わかった? わたしとは……そう、友達になりましょう。1番の友達」

 

 お話もできるし、ポケモンの友達ってとっても素敵。いろんなことを想像して、楽しみでワクワクして、考えただけで嬉しくなっちゃう。自然と、わたしは今までで最高の笑顔でラプラスに笑いかけていた。

 

(対等……友達……。わかりました。ではこれで良いですか、ブルー? しゃべり方は私のクセなので諦めてください。あなたは本当に素晴らしいトレーナーです。私のことは最初に言ったようにラーちゃんと呼んでください。これからはどんなことがあろうと私があなたを一生お守りします)

「ありがと。あなたのこと大好き。ずっと大切にするからね。よろしくね、ラーちゃんっ」

 

 嬉しくなって笑いかけると、ラーちゃんはすりよって顔をわたしのお腹のあたりにうずめて嬉しそうに身を捩らせた。

 

「キュウゥゥーー!!」

 

 今のは? 甲高い声だけど、仲間を呼んでいる感じじゃない。なんとなく、テレパシーってやつのおかげか気持ちが読めるんだけど、これは……。ラーちゃんはわたしが聞こうとするとその前に話を変えてしまった。それにいつの間にかわたしからは離れている。

 

(上には仲間がいるのですよね。申し訳ないですが、他人には私の力については一切しゃべらないでほしいのです。たとえそれがどれほどあなたが信頼している人でも)

「え、なんでよ。テレパシーがあればものすごく便利になるのに、どうして?」

 

 この力、さっきは単純に感動しているだけだったけど、実際すごい力のはずよ。技名を言わなくてもいいし、応用の幅はかなり広そう。普段シショーが技を悟らせないのを見ているから、そのメリットの大きさもわかる。あいつらロケット団が躍起になるのも当然だわ。

 

(誰もがあなたのように純粋で優しい心を持っているとは限りません。多くの人々に知られる程何かの弾みで悪しき者に伝わる可能性も高まる。秘密が世間の知るところとなれば私だけでなく一族の仲間にも危険が及ぶ。……身勝手なお願いなのは承知の上です。どうかお願いします)

「そっか。じゃ、わかったわ。わたしだってあなたが必死で仲間を守るところを見たのに、それを無下にはできない。そういうことなら仕方ないわ。あなた達の秘密は絶対漏らさない。きっとわたしなら約束を守るって思ったからテレパシーを使ったんでしょ? あなたがわたしのこと信用してくれたのがとっても嬉しい。今はそれで充分よ」

(ありがとうっ! あなたならそう言ってくれると思ってました。では、急ぎましょう。ブルーの仲間が待っています)

 

 その通りね。わたしはうなずいてすぐに現状把握のためトランシーバーでレッドに通信を試みたけど、聞こえた声は予想よりも緊迫したものだった。

 

「ブルーヤバイ。今7F、劣勢だ」

 

 ブツッ

 

 すぐに切られたことから交戦中でかつ余裕がないことはわかった。これは本格的にマズイ。もしラーちゃんがわたしを助けてくれなかったら、わたし達ここで全滅なんてこともありえた。本当に奇跡的な巡り合わせね。

 

「レッドがこんなに焦るなんて……。ゆっくり休ませてあげたいけど、悠長なことはしていられない。悪いけど急ぐわよ」

(構いません。できる限り役に立てるよう頑張ります。早く向かいましょう)

 

 頼もしい仲間が増え、希望を胸に階段を駆け上がった。待っていてよ2人ともっ! すぐに助けに行くから!

 




発電所については、金銀で部品1つでリニアが止まるという意味不明なことになっていたので停電ぐらいなら簡単に成功しそうという偏見です
あとここで出てくる発電所は金銀で出てくるやつの先代と思ってください
ないということはないでしょうからね

カードキーがないと開かないシルフのシャッターの描写がありませんが、これは停電の影響で機能せず全て最初から解除されていたと思ってください
シャッターというのは基本あっても邪魔なだけなので敵襲などの緊急時のみ発動するのが自然だと思います
なのでレインの下見の際は平常時なので影も形もなく本人はないものと勘違い、今回は電力不足でシャッターが上がった状態のまま動かないという感じです

非常電力は実験中の地下に全て持っていかれていると思ってください
なので地下だけ電流ビリビリしていたわけです

……本当はどっちも設定を忘れていました(小声)
でも後付けにしては割と筋が通ってるように思えますよね(震え)

ヤマブキにはまだレインは着いていません
いたら戦力になったんですけどね

悪の研究員がやたら卑怯ですが悪に手を染めたら手段なんか選ばないですよ
当然氷漬けの刑です

研究所に毒薬はないとか、首絞めで感覚が消えていく、とかは演出なので変だなーと思ってもスルーして下さい

最後の怒りの一撃は乱数が10割増し、2倍ぐらいになってるイメージです
このラプラスはキレると恐ろしい力を発揮します
本気で怒るのはブルーに危害を加えられたときぐらいなので限定的ですが
乱数はどっかで触れましたがゲームよりかなり幅が広がっています
0近くから1以上まで何でもありです
基本的には0.85~1.00の間ですが、ガードしたりすればいくらでも変えられるということですね
その辺はゲームよりも現実寄りです


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7.変わらないもの 変えられないもの

 ワープパネルを使って大急ぎで上の階を目指すと、7Fでは大激戦が繰り広げられていた。幹部級に捕まったみたいね。最後のワープの前に“せいちょう”を最大限使い、7Fに移動したらすぐにフーちゃんの“エナジーボール”で敵をレッド達から分断するように吹き飛ばして間を取った。

 

「ハーイ、レッド、グリーン。苦戦しているわね。手、貸しましょうか?」

「頼む」

「もうHPが残ってない。しばらく時間稼げるか?」

「4人ぐらいならわたしだけでも十分よ。あんた達はゆっくり回復してなさい」

 

 その余裕綽々の言葉に相手はキレて、まずは相手の内2人ががむしゃらに攻撃してきた。わざと煽っているのがわからないのかしら。怒っている相手はいなしやすい。もう散々思い知った。

 

「ゴルバット、エアカッター」

「サンドパン、きりさく」

「ラーちゃん、エアカッターごと吹き飛ばしてれいとうビーム。フーちゃんは近づいてきたところをサンドパンにギガドレイン」

 

 効果抜群。2匹ともノックアウト。ついでに相手の残り2人の方も“ねむりごな”と“あやしいひかり”で動けなくした。

 

 ボール越しにここにくるまでにテレパシーで聞いた話じゃ、わたしが首を絞められた時に使ったのがこの“あやしいひかり”なんだとか。わたしは目が霞んでいたから混乱せずに済んだのでしょうね。

 

 ラーちゃんは技の練度がかなり高いようで、上手に操って味方に効果が及ばないようにしている。この子めちゃめちゃ強い。

 

「ラプラスだと? いつの間に……」

「お前隠し玉なんか用意してたのかよ!」

「あら、あんた達はなんもなしにここに来たの? 全く、わたしがいないと締まらないわね。ここはわたしがなんとかしてあげるわよ」

 

 準備万端でやって来たわたしは幹部を圧倒し、時間稼ぎも十分にできて2人も加勢した。

 

「さぁ、ここからはオレ達も反撃開始だぜ」

「一気にいくぞ」

「同時攻撃よ」

 

 “かえんほうしゃ”

 “みずのはどう”

 “エナジーボール”

 

 わたし達の最も信頼するパートナーの最も得意とする技、それが最強でないはずがないわ。それぞれまとめて2匹ぐらいを吹っ飛ばして、3体同時に光り始めた。

 

 まばゆいひかりがあたりをてらす……

 

「これは!?」

「きたっ! この光はまちがいないぜっ!」

「進化の光よっ!!」

 

 リザード、カメール、フシギソウ、超進化ッッ!!

 

 光の中から現れたのは辿り着く進化の果て、リザードン、カメックス、フシギバナ。最終進化形態揃い踏みね。さすがに最終進化形が3体並ぶと迫力が違う。

 

「ひいい! こんなの相手にしてらんねえよ!」

 

 幹部たちはシッポ巻いて逃げて行っちゃったわね。

 

「まさか全員一緒に進化とはな。そろそろだとは思っていたから、オレが1番乗りして差をつけてやろうと思ってたのに、当てが外れたぜ」

「だが、これでこっちはかなりの戦力補強ができた。進化で勢いにも乗れる」

「そういうことね。ちょうどこの先のワープパネルは最上階に通じてるわ。一気にチェックメイトよ」

 

 幹部を倒したわたし達を止められる者はもういない。あっという間に社長室まで辿り着いた。本来社長が座るはずの席にはあの男がいた。グラスを傾けて、今シルフの社長室まで追い詰められているっていうのに、ワインなんか飲んでえらく余裕じゃない。ふざけた真似してくれるわね。

 

「もうここまで来たか。それもこんな夜更けに。私はたしかアジトで忠告してやったはずだが、どうやら聞いてなかったようだな。これじゃおちおちワインを嗜む時間もない」

 

 出たわね、サカキ。こんな非道な実験をさせる奴らの親玉である以上、ここでこいつを倒さないとまた不幸なポケモンを増やすことになる。絶対に負けられない。トレーナーとして、こいつのやっていることを認めるわけにはいかないわ!

 

「それなら聞いてたぜ。でもよぉ、オレ達がおとなしく言う通りにしなきゃいけねぇ理由はないはずだ。だろ、レッド?」

「その通りだ。サカキ、覚悟しろ。もう逃がさない」

「あなたがいるとたくさんのポケモンが苦しむ。これ以上の好き勝手はさせない。ポケモンはあなたの道具じゃないのよ。これまでの数々の悪行、ここで悔い改めてもらう」

「くくく……好き勝手に言ってくれる。言うことは一人前だが、しょせんお前らはただの子供。我々の理念を理解できないばかりか、非力で、無力だ。お前達こそ、己の分をわきまえろっ!」

 

 ビリビリと空気が震える。そんなはずないのに、言いようのない圧迫感に押し潰されそうになる。これが殺気ってやつなのかしら。わたしの頭の中では警報がガンガンうるさく鳴り響いている。

 

 こいつはヤバイ。でも、だからって引くわけにはいかない。ここで一歩下がってしまったら、わたしは二度と前へ足を踏み出せない。自分の体を奮い立たせて、わたしは右足を大きく前に踏み出して、力強く宣言した。

 

「いいや言わせてもらうわ。絶対にあんたはここで倒す! そんなことあんたが決めることじゃない。わたし達は非力でも、無力でもない。わたし達3人がそろえば、不可能はないのよ。ロケット団なんて、片手で捻り潰してやるわ」

「よく言ったぜ、その通りだブルー。サカキッ! お前こそ、この前はアジトをぶっ潰されてノコノコ逃げ帰ったのを忘れたのかよ?」

「追い詰められているのはどっちか、立場をわきまえるのはあんたの方じゃないか?」

「フフフ……愚かな。あの時、私はその気になればお前達など簡単に倒せた。せっかく拾った命をむざむざ捨てに来るとは。お前達、そこまで正義に拘り我々の邪魔をするなら、その正義に心中する覚悟はあるのか? そのために死に、また屍を踏み越える覚悟が? 口だけの安い正義なら今すぐここから立ち去れ。これでも、まだお前らの覚悟は変わらないのか?」

 

 サカキの言葉に思わず考え込んでしまった。自分の死と、仲間の死について

 

 わたしが死ぬ。……またあの時のように、無に還る。怖い。慣れるなんてことはない。一度死の淵を見て、逆に恐怖を覚えた。知らない内は無謀に突っ走れたのに。死ぬことは恐ろしい。

 

 屍……もしこいつらが死んだら、ベトベターの時のように。もしラーちゃんが死んでしまったら、拷問され力尽きたときのように。そしたら……。

 

「……ッッ!!!」

 

 許せないっ! 許せない、許せない、絶対に許せないっ!! わたしは死んでも、わたしを支える人達を死なせることだけは絶対にダメ。こんな野郎に、そんなことさせない。怒りが、体の底から打算のない純粋な怒りが湧いてくる。

 

 今まで見てきた非道な実験の数々が蘇るっ。ポケモンの悲鳴が心を抉るっ!。わたしの正義が、悪を滅ぼせと叫んでいるっ!! そのためなら……命なんて惜しくない。屍を越える覚悟なんて必要ない。絶対にわたしがそんなことさせないから! もう恐怖はない。こいつを倒すことしか頭にない。そう、わたしの“変わらない”意志が悪を討つ!!

 

「なめんじゃねえ! オレ達は最初から命捨ててきてるんだよ! くだらねぇこといってんじゃねぇ! あんたこそ、ここで負けて死ぬことになってもいいんだな?」

「そうよ。わたし達はポケモンのために命を懸けてる。ここで悪の芽を断つことができるなら、わたしは命も惜しくない。憂いは断たなければいけない。そのために死ねれば本望! わたし達の意志、それは絶対に“変わらない”! 変わることはないのよ!!」

「ああ。小動(こゆるぎ)もしない」

「……いいだろう。お前達には俺と、いや、この俺様と戦う資格がある。躾のなっていない子供に、カントー最強のトレーナーが誰か冥土の土産に教えてやろう。どれほど力の差があるか、その身で以て思い知れっ!!」

 

 スッと軽い動作で投げられたボールから、その仕草とは似つかわしくないとんでもないポケモンが飛び出してきた。

 

 ……見たことないポケモンね。サイドンに似ている。レベルは50以上はあるわね。わたしの手持ちは最高でもラーちゃんとフーちゃんの36。さすがに強い。本気じゃないってあの時はそう言っていたけど、まさかここまでとは。

 

「面倒なのが出てきたな。こいつはドサイドン、サイドンの進化形だ。かなり強いぜ」

 

 グリーンが教えてくれた。種類とかに関しては昔から詳しいのよね。助かるわ。

 

「おっと、まさかこれだけだとは思うなよ?」

 

 続いて出てきたのはニドキングとダグトリオ。何よこれ、こいつら全部50台の後半じゃないのっ?! これじゃ、マスタークラスの実力じゃないの! どうなってんのよっ!

 

「本気じゃないというのはハッタリではなかったのか。だが……これは予想外過ぎる。あんた、名の知れたトレーナーなのか」

「フン、名が通っていなくても強い奴は強い。レベル30そこそこでいい気になっているようじゃ、まだまだヒヨっ子というわけだ」

「へっ、ちょうどいい。ここまで歯ごたえがなさ過ぎてつまらねぇと思っていたところだ。進化したオレ達の肩慣らしぐらいにはなるかもな」

「そうね。メインのポケモンの相性は有利だし、勝てるわ」

 

 狭いから、わたし達は1体ずつが限度ね。向こうも3体。持久戦に持ち込んで勝つ。

わたしはピーちゃんを、レッドとグリーンはバタフリーとラッタをくりだした。

 

 サカキ  ドサイドン ダグトリオ ニドキング ひんし0

 赤青緑  バタフリー ピジョン  ラッタ   ひんし0

 

「しびれごな」

「いかりのまえば」

「すなかけ」

 

 まずは様子を見て出方をうかがう。2人もそのつもりのようね。さすがにこれだけレベルの差があると無茶はできない。当然の判断ね。

 

「くく、甘い。ふぶき、あなをほる、ふぶき」

 

 なんですって! こっちの攻撃が通らないどころか、全部跳ね返ってきた! ここまで力に差があるなんて信じられない。様子見ですらぬるかったというの?!

 

「2体やられたがラッタは耐えた! いけ、いかりのまえばだ!」

 

 あと少しでドサイドンに届くというところで、地中に身を潜めていたダグトリオの“あなをほる”が当たり戦闘不能になった。惜しい……そう思いたかったし、以前なら思っただろう。でも、今ならはっきりわかる。あと1歩。だけどこの1歩は果てしなく遠い。

 

「くぅぅ! ラッタ……くそっ、戻れ!」

「甘いな。この俺がそいつだけを見逃すとでも思ったのか?」

「全て計算ずくか。ポケモンのレベルだけでなく、戦闘経験も格上だな」

「大丈夫よ、対策はある。ラーちゃん」

「ホントだろうな? ナッシー!」

「ニョロボン!」

 

 サカキ  ドサイドン ダグトリオ ニドキング ひんし0

 赤青緑  ニョロボン ラプラス  ナッシー  ひんし3

 

 口ではそう言うけど、どっちも相性のいいポケモンを出す辺り信頼されているようね。悠長にしているとどんどん押されて不利になる。こっちから勝負を仕掛けるしかなくなった。余裕のない状況。お願いだから変なことしないでよ!

 

「ドサイドン戻れ、出ろゴローニャ」

「何っ!? ここで引っ込めやがった!」

「驚いている暇があるのか? ゴローニャ、やれ!」

「!!」

 

 この構え、まさか……“だいばくはつ”?! もう、変なことしないでって言ったでしょ! なんでこう1番こっちがイヤなところでやるのよ!!

 

「ヤバイ、後ろのわたし達もタダじゃ…」

 

 ドカーーーンッッ!!!

 

 目を開けるとわたしの前にはラーちゃんがいて、そのまま倒れてしまった。わたしはなんともない。庇われたんだ……!

 

「ラーちゃん! わたしを庇ったのねっ! まだ傷は完治していないのに、無茶して!」

「すまねぇ、ブルーまでリフレクターが間に合わなかった」

 

 ナッシーとニョロボンはやられたみたいだけど、グリーンとレッドは大丈夫そうね。

 

「そっちもなんとか生きているみたいね。ポケモンはお互い3体失った。わたし達も痛いけど、総数はこっちが上だからかなり優位になったわ」

「それはどうかな? こっちは1体しか減っていないぞ?」

「バカな、そんなわけ……なっ!?」

 

 見るとダグトリオとニドキングはピンピンしている。どうして?

 

「取り乱すな、落ち着けブルー。以前にお前がやったのと同じ。“まもる”を使ったんだ」

「ご名答、赤い坊主。あれが見えていたのか」

「そうか……技の指示がないから気づかなかったが、あらかじめ爆発するときは連携をとっているのか。戦術もマジもんじゃねーか」

 

 この連携力、シショー以上の使い手かも。指示なしでここまでポケモンを操れる人がシショー以外にいるとは思わなかった。なんて奴なの。

 

「さて、どうする? これでお前達は大きく手持ちをロスしたが」

「その手には乗らない。おれ達の動揺を誘うためにやったんだろうが、実際には3:1で減っても五分にしかならない」

「違うな。俺が失ったのは最もレベルの低いポケモン。対してお前らは俺の“ふぶき”対策を失った。果たしてこれが本当に五分と言えるのか?」

 

 その言葉にレッドも反論できず渋い顔になる。が、ここで気力を尽くしてラーちゃんが起き上がった。

 

「ラァァアアアッッ!!」

「ラーちゃん!? ダメ、無理しないで!」

「ほう、意地でも立ち上がるか。大した根性だ。しかし、それを悠長に待つ気はない。出ろ、ドサイドン!」

「ヤバイ、こっちも次のポケモンだ! ユンゲラー!」

「エーフィ!」

 

 サカキ ドサイドン ダグトリオ ニドキング ひんし1

 赤青緑 エーフィー ラプラス  ユンゲラー ひんし5

 

 三者が次のポケモンを繰り出し、矢継ぎ早に指示が飛ぶ。

 

「ふぶき、あなをほる」

「ごめんラーちゃん、お願いっ! がんばってっ! こっちもふぶき!」

「「サイコキネシス!!」」

 

 ラプラスの渾身の一撃は見事に相手2体の攻撃を相殺して、その隙に2人が“サイコキネシス”を決めた。

 

「よし、ニドキングは倒した」

「甘い!」

「しまった、耐えろユンゲラー!」

 

 しかしユンゲラーも“あなをほる”でダウン。“リフレクター”込みでもダメなんて。それに今の時間でその壁も消えた。範囲を広げた分早く消滅したってところかしら。そしてグリーンはウインディ。サカキはガラガラを繰り出した。

 

 サカキ ドサイドン ダグトリオ ガラガラ  ひんし2

 赤青緑 エーフィー ラプラス  ウインディ ひんし6

 

「今度は大したことないな。ガラガラなら恐れることないぜ」

「それはどうかな? すなじごく、ホネブーメラン、まもる」

「かえんぐるま」

「サイコキネシス」

「れいとうビーム」

 

 しかし攻撃が通らない。“すなじごく”でウインディは動けず、残りの攻撃はドサイドンへの攻撃を読まれ“まもる”で両方まとめてガードされた。さらに“ホネブーメラン”で体力満タンだった2体が一気にまとめてひんしにされてしまった。

 

「ウソでしょ!」

「こんなの聞いてねーぞ、なんて攻撃力だ! ホネブーメランは1発だけならそこまで威力は高くないはずだっ」

「おかしい、何かカラクリがあるぞ」

「フハハハッッ!! お前達ではこの俺様には勝てん、決してな」

 

 その後もポケモンを出すが、この3体のコンビネーションを崩せない。全員がものすごく厄介だわ。ダグトリオが速さにものをいわせて先制して足止め役。そこにドサイドンとガラガラがバカみたいな攻撃力で襲い掛かってくる。集中狙いしても“まもる”を当てられるし、1回や2回の攻撃じゃレベルが違い過ぎてびくともしない。あの男のズバ抜けた読みの深さも相まって1匹も倒せず攻めあぐねているうちに、わたしのラプラス、レッドのカビゴン、グリーンのピジョンがやられて、とうとう全員最後の1匹になった。

 

 サカキ ドサイドン ダグトリオ ガラガラ  ひんし2

 赤青緑 リザードン フシギバナ カメックス ひんし11(4+2+5)

 

「リザードン、カメックス、フシギバナ。あの時のポケモンが進化したか。どうやらそれが最後のようだな。俺はまだ4匹いる。勝負あったな」

「なめるなよっ。オレ達はピンチでこそ本当の実力を発揮する! いけ、みずのはどう!」

「ドサイッ?!」

「何ィ? ドサイドンがやられるとは。そうか……“げきりゅう”か。うっかりしていた。あまり遊びが過ぎると、この俺様といえどさすがに危ないというわけか」

 

 そうよ、わたし達はいつもピンチこそチャンスなのよ! この3体の特性と同じ! 勝負はここから、まだまだ戦えるわ!

 

「へっ、どうだ! 今までのお返しだぜ」

「ナイスグリーン! 一番ヤバイのはやっつけられたわね。後はよくわからないガラガラとすばしっこいダグトリオさえやっつけたら終わりね」

「おっと、勘違いしているようだな。お前達はまだこのサカキの真の実力を理解してはいない。俺様の切り札はまだ出していないのだからな」

「なっ、ここに来てハッタリこいてんじゃねーよっ! そんなのあるならなんでさっさと使わないんだっての!」

「君らと同じだ。1番強いのは最後に取っておく主義でね」

 

 その言葉と共にボールから出てきたのは、たねポケモンのサイホーン。でもレベルが桁違い。

 

「な、70!? バカな! こんなの……こんなこと、チャンピオンでもありえねーよっ!!」

「おれ達の倍……!」

「そんな……」

 

 サカキ サイホーン ダグトリオ ガラガラ  ひんし3

 赤青緑 リザードン フシギバナ カメックス ひんし11(4+2+5)

 

 待っていたのは絶望。一瞬だけ、頭が真っ白になって、何も考えられなくなって、わたしは今自分が勝負の最中であることを忘れてしまった。

 

「メガホーン!」

「ひうっ!」

 

 気づいたら“メガホーン”がこっちに向かってきていた。直接わたしを狙い撃っている! あんなのくらったらわたしなんか文句なしに死んでしまう。また無に還ってしまうっ! 死の恐怖が蘇り体は固まってしまい動けない。どうしてよ、さっきまでちゃんと動いたのに、ウソでしょ……? パニックでもう何もできない。どうしよう、どうしようっ!

 

「バナァッッ!」

 

 ドッシィィッンン!

 

 すさまじい音がしてサイホーンが止まった。フーちゃん? まさか、またっ!? またわたしはかばわれたの? フーちゃんは気力を尽くしてくれたのだろう。今はぐったりと倒れている。

 

「ブルー、大丈夫か!」

「ハハハ! いまさら卑怯などと言うなよ。お前達も俺の部下に散々してきたことだからな。まずは1匹か。厄介なのは消せた。残るは2匹、それもひんし寸前だ」

「てめぇ、許さねぇ!」

「姑息な真似を」

「どう許さないんだ? お前達にこのサイホーンに立ち向かう勇気があるのか?」

 

 無理だ。70なんて強過ぎる。こんなの無茶苦茶だ。2人もわたしがやられて怒っていても、勝てるなんて思ってない。もうどうすることもできないのよ。

 

「なんだ、かかってこないのか。面白くもない。なら今度こそ始末してやるとするか。我々の秘密を知った以上、生かしてはおけないからな」

「ヤバイ、カメックス、ブルーを助けろ」

「リザードン、お前もだ」

「邪魔だ。お前達、足止めしろ」

 

 “すなじごく”と“がんせきふうじ”。こんな小技まできっちり決めてくる。隙がない。わたし達の負けね。敗者を待つのは死のみ。

 

 でも、これまでわたしは自分の心に正直に進んできた。もう悔いは……ああ、でも、最後にもう1回、シショーに会いたかったなぁ。よく顔も見ずに飛び出したあの時が最後になるなんて。こんなことなら、あの場所で言っておけば良かった。

 

「シショー……レイン……さよなら」

「ブルー、逃げろ!」

「何してんだ! 動けよ、急げっ!」

「メガホーンだ!」

 

 目を閉じて静かにその時を待った。痛いのは一瞬。もう覚悟はできたわ。

 

 次の瞬間、爆音が響き体中に大熱波が叩きつけられる。でも、感じるはずの痛みはない。何がどうなっているの? 混乱の渦中にありながら、また助かったことは理解できた。どうもわたしは悪運だけは強いらしい。

 

「なんだ今のは! 何者だ!」

「どうなったの……? サイホーンはどこにいったの?」

 

 閉じた目を開いて周りを見渡した。状況は一変している。どうしたわけかサイホーンはいなくなっていた。呆然とするわたしに、誰かが声をかけた。

 

「それならあそこだ。ブルー、ずいぶん苦戦してたみたいだな。俺がかわろうか?」

 

 その声は……レッドでもグリーンでも、ましてやサカキでもない。死の間際で最も強く願った、わたしの聞きたかった声。わたしが最も尊敬するあの人の声が聞こえた。

 

「えっ! あなたは……もしかして!」

「待たせたみたいだな。ここまでよくやった。俺が来たからもう大丈夫」

 

 シショー! 来てくれたのね! ヤマブキにいないみたいだったからまだ来ないと思っていたのに。まるで神様がわたしの最後の願いを聞き届けてくれたみたい。信じられない。でも、夢じゃないっ!

 

 わたしを安心させるように笑いながら頭を撫でてくれる。そうだ、わたしはいつもこんな表情のシショーを見て憧れていたんだ。どんな強い奴が相手でも、笑って安心させてくれる。本物のヒーローみたいな姿に。

 

 シショーは鋭く真剣な表情に戻って、サカキと向かい合った

 

「お前、何者だ? どうやってここに?」

「そんなこと聞いてどうするんだ? それに、俺を倒すのが先じゃないのかい?」

「力ずくで聞けということか。面白い。まぐれは一度きりだ。お前のポケモンもレベルは30そこそこ。この俺様の敵ではない。サイホーン、すてみタックル。きりさく、ホネブーメラン」

「気をつけろ、ガラガラはっ…」

 

 グリーンが叫んだけど言い終わる前にシショーは手で制した。

 

「攻撃力だろ。見ればわかる。アカサビはダグトリオ、グレンはガラガラ、ユーレイはサイホーン」

 

 まずは高速で接近するダグトリオをそれ以上の速さで翻弄して一撃で倒した。あれは必中の“つばめがえし”ね。

 

 さらにガラガラに対してはブーメランを一度避けるも二度目が当たり、やられたかと思いきや、平然と耐えて逆にオーバーヒートで一発K.O.

 

 サイホーンはいきなり床から現れたゲンガーのシャドーボールをモロに受けてあっさりと倒れた。

 

 それに……よく考えると技の指示が全くない。合図すらなしでもこの程度の連携は当たり前だっていうの? 本当に……こういうのを次元が違うと言うのでしょうね。サカキですらわたしには遠く感じたばかりなのに、シショーはそれをも軽々と超えていく。

 

「バカな! 俺様の最強のフォーメーションが、こんなガキにやられただと!」

「井の中の蛙大海を知らずって言葉知らないか? あんたがその蛙だったのさ。ロケット団のボスっていっても、案外大したことねぇな」

 

 “名が通っていなくても強い奴は強い”って言葉はサカキ自身が言ったことだけど、それをこんな形で我が身で思い知らされることになるなんてとんだ皮肉ね。わたし達は知らないだけで、世界にはこんな強いトレーナーがたくさんいるのかしら。

 

「ウソだろ、あいつ何モンだよ。レベル70のサイホーンを簡単にやっつけたぞ」

「ほう、あれは70もあったのか? その辺の野生のポケモンと変わらない強さなんで気がつかなかったなぁ。もしかして、あれがお前の切り札だったのか?」

「貴様ァ、よくもぬけぬけと……許さんぞ」

「いいぜ、来いよ! いくらでも相手になってやる。まだ終わりじゃないだろ?」

「いけっ、ドサイドン!」

「はぁっ?! あいつなんでまだポケモン持ってんだ!? あれ7体目だぞっ!」

「レベル65か。ほんとにそれが最後みたいだな。もう少し遊んでやるよ」

「ほざけ。じしん!」

 

 こいつ、ここどこだと思ってんのよ! ビルごと壊す気!? 窓も割れて中はめちゃくちゃ。ポケモンもヤバイ!

 

「ったく、あぶねぇな。ヤケになったか?」

「くそ、やれたのは雑魚だけか。まもるが使えるとは」

 

 地面にいたリザードンとカメックスがやられたけど、グレンちゃんは“まもる”、あとは浮いてかわしたわね。シショーはやっぱり冷静ね。大技が来てもしっかり躱し方を心得ている。

 

「ユーレイ、さいみんじゅつ」

「離れて躱せ、ストライクにストーンエッジ」

「つっこんで3。グレンもっかい」

 

 “ストーンエッジ”をもろともせずにつっこんで、力任せにドサイドンに攻撃した。あれは“むしくい”かしら? ドサイドンが衝撃で宙に浮いたところへグレンちゃんの“オーバーヒート”が炸裂、ドサイドンごと壁を突き破った。

 

「しまった、外に出てしまったか! 戻れ!」

「さて、これであんたは丸腰だな。ここからどうする?」

 

 そうか! “さいみんじゅつ”は避けさせるためのおとりね。あれで窓際へ追い立てたんだ。だから技名を言ったのね。わざと避けさせるためにこんなことまで戦術に生かすなんてすごい。

 

「くくく、お前は私を追い詰めた気でいるようだが、それは違う。我々は不滅だ。今回は……確かに遅れをとった。だが、私は何度でも立ち上がり、野望を果たす。それまで君達とはしばしの別れだ」

「何をする気だ? ……まさか!」

 

 シショーが何か悟ってサカキに駆け寄った。でもそれより早くサカキは窓に走り出して……そのまま飛び降りた!?

 

「うそっ!!」

「自害したか……」

「ヤケになったんじゃねぇの?」

 

 あんたらあっさり言うわね! しかし、激しいプロペラ音と共に、ヘリのはしごにつかまったサカキが高笑いするのが見えた。

 

「こんな手まで用意していたのか」

「クレイジー過ぎるだろっ! それにいつヘリなんか用意したんだ? そもそもついさっきまでずっとあいつが優勢だったはずだ。今呼んですぐに来たっていうのか?」

「シショーなんとかなんないのっ。あいつが生きていたらまた悪さするわよ!」

「……ムダだろうな。これだけ周到な奴のことだ、深追いすれば逆にこっちがやられる可能性が高い。まさかこんな手で脱出するとは思いもしなかった。これもやはり決まっていたのか。結果オーライといえばそうだが杞憂だったな。一足早い解散になるかと思えば、しょせん俺1人の働きじゃ変えられないものもある、ということか」

 

 最後の言葉の意味はわたしにはわからなかったけど、なんとなく忘れてはいけない気がした。変わらないものと変えられないもの……忘れぬ様に心に刻む。

 




手持ち一覧(レベル割愛)

レッド   ブルー   グリーン  サカキ
バタフリー ピジョン  ラッタ   ゴローニャ
ニョロボン ラプラス  ナッシー  ニドキング
エーフィー フシギバナ ユンゲラー ドサイドン
カビゴン  レアコイル ウインディ ダグトリオ
リザードン       ピジョン  ガラガラ
ピカチュウ       カメックス サイホーン
                  ドサイドン

※シルフカンパニーは丈夫です
 カビゴン460㎏ ゴローニャ300㎏

※ピカチュウとレアコイルは別任務

「カントー最強」発言はゲームのセリフで似たようなことをいっていたのが由来です
実際に実力的にも本作ではワタルといい勝負すると思います。シングルなら互角、ダブルかトリプルなら圧勝するでしょう

サカキは無名を装っていますがもちろんジムリーダーしていますから有名です
ただ、ロケット団としてのサカキは世に知られておらず、マスターランカーとして世間で知られる実力(サカキの昔の実力)より数段強くなっています
ジムリーダーがサカキだと知って驚くのはもっと先ですね

マサラ組の戦闘配置は緑赤青の並びです
語感で表記では赤青緑にしてますが実際の戦闘中の並びとは異なるので注意

サカキはやりこみ半端ないです
ガラガラはお察しの通り“ふといホネ”持ち
この道具の有用性に気づいたのはこの人だけです
他は“やわらかいすな”持ちです

サイホーンはまさかの進化キャンセルです
進化キャンセルすれば経験値割り増しなのでレベル格上がいなくても限界の壁を超えられます
だからこそのLv70
倍率はゲームでは1.2倍らしいですが、本作はもっとあると思ってください
これもサカキだけです、シショーも知らない
FRLGだと切り札がサイホーンLv50なので、なんで進化してないのかなーと考えてこんな感じに

手持ち7体は完全に違法行為です
ロケット団による違法改造
しかも7体で終わりでなくサカキはもっと持っている設定です
悪の組織だからこのぐらいはできるでしょう
むしろルールなんか守る意味がない
一応普通はシステム的に無理という設定です

ヘリコプターの件は、まず呼んだのは「じしん」を使った時です
あれは助けを呼ぶために撃ちました。避けられたみたいな雰囲気は演技で、サイホーンら3匹がやられた時点で逃げることを考えていました
「じしん」の波をコントロールして下にいる部下に緊急手段による脱出の指令を命じたわけです
研究すれば技はいかようにも使えます
そして常に先を見越して逃げる準備の用意も怠りません
どんなに自分が優位で作戦がうまくいっていても流れが不利になったと感じたら即撤退
これが長く捕まらずにいる秘訣ですよ

で、サカキは技を使った後追い込まれたフリをしながら窓際へ行き、かすかなプロペラ音がしたら一転余裕の笑みを浮かべます。一人称が私に戻った辺りですね。

ヘリコプターにつかまった手段は、ロケット団印の小型ロケットを背中に装備して飛びました。いつぞやの自転車のように小型ロケットをモンスターボールの技術で圧縮して持ち歩き、飛び降りた瞬間装備、飛行してヘリコプターのはしごにつかまったらブルー達のいる方を向いて高笑いです
ロケットはまた圧縮

これこそロケット団のロケット団たる所以です()


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4章まとめ

1.vs暴走族

タマムシを目指すブルーは道中暴走族に襲われる。

終わりの見えないバトルに苦戦するも、1つ目のお助け袋を使いこれを乗り切る。

ボスのゴウゾウにまみえ、バトルを制したブルーは暴走族を仲間にした。

 

2.vsベトベター

デパートへ向かったブルーは屋上で幼馴染のレッドに再会する。

先を行くレッドに刺激を受けて張り切りポケセンへと向かうと、そこでベトベター発生の凶報が舞い込む。

ベトベター退治に向かったブルーは見事に2体のポケモンを操り町の危機を救ってみせた。

ブルーは因縁のあるグリーンとも再会し、無事を喜ぶ姿に心を動かされたグリーンと仲直りを果たす。

 

3.R団アジト潜入

レッドグリーンの討伐隊と合流し大量発生するベトベターの対策を講じるブルー達。

ベトベターを倒すためには廃液を止める必要があることが判明する。

困ったブルーは2つ目のお助け袋を頼り、R団アジトへの潜入を決意する。

アジト内の罠をかいくぐり、3人は最奥を目指して歩みを進めた。

 

4.vsサカキ

卑劣な罠を越えてとうとうボスのもとに辿り着いた3人。

バトルを仕掛けるもののあっさりと主力を倒され、圧倒的な力の差を前にレッドとグリーンは戦意を失ってしまう。

追い詰められた状況の中で仲間のピンチに奮い立つブルー。

シショーの言葉を思い出し、起死回生の立ち回りで見事サカキを退けたのだった。

 

5.vsレアコイル レーちゃんゲット

工場のカギをゲットしたブルー達は廃液を止めるため工場内へ潜入する。

内部はコイル達の巣窟と化しており、総力戦を強いられ苦戦する。

ブルーの機転で親玉のレアコイルを捕獲し、無事に目的を果たす。

タマムシは平穏を取り戻すが、サカキの野望を阻止すべくブルー達は決戦の舞台ヤマブキを目指す。

 

6.vs悪の研究員 ラーちゃんゲット

3つ目のお助け袋を頼りにヤマブキへ到着した3人は停電に乗じてシルフ本社に潜入する。

地下のポケモンの解放に向かったブルーは悪の研究員を倒し非道な実験に苦しむラプラスを救い出す。

極限状態を共に乗り越え絆が芽生えたラプラスは自らブルーの仲間となった。

 

7.vsサカキ

幹部を倒し御三家の進化を果たした3人は勢いそのままにサカキの待つ社長室へ向かう。

各々の信念を胸に死力を尽くして戦うものの、強力なポケモンとその巧みなコンビネーションを前に苦戦を強いられる。

最強のサイホーンの攻撃がブルーに狙いを定め、逃げることもままならずブルーは一抹の後悔を抱えたまま死を覚悟する。

万事休すと思われたその時、ブルーの願いが天に届いたかのようにレインが窮地に駆けつけた。

レインはサカキのポケモンを圧倒し、R団の野望を見事に打ち砕いた。

 

 

データメモ

<ブルー>

フシギバナ Lv30→36

ピジョン  Lv29→35

レアコイル Lv32

ラプラス  Lv36

 




最後のレベルのメモはホントにメモ書きみたいなものなので参考程度に
実数値や技のリストは省きました


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信頼のドラゴン編
1.行きはよいよい 帰りはこわい


 ブルーと一時的に行動を別にして、久々の一人旅。今まではブルーと歩幅を合わせる意味で封印してきたあのアイテムがようやく日の目を見るときが来た。“じてんしゃ”だ!

 

「ヒューーー、はええ!」

 

 ハナダの東の道は段差が多く距離も長い過酷なところだが、じてんしゃがあれば楽なものでスイスイ進めている。しかもこれにはもうひとつメリットがあって、一気にトレーナーの横を駆け抜けられるので簡単には勝負を挑むために捕まったりしない。

 

 ゲームなら“おろかにも”一時停止するのでバトルは強制だが、さっさと通り過ぎてしまえばそんなことにはならないのだよ。

 

 このペースは予想以上に速いので、このままだと何日も待つことになるかもしれない。少しのんびりと休憩するか。人が減ってくる中腹辺りで一度休むことにした。いつものようにけづくろいをしながらのんびり景色を見ていると、突然異変が起きた。ドドド、と遠くから地面を揺るがすような音が聞こえ始め、それは段々大きくなってきた。グレンに乗って様子を見に音源の方へ向かうと、とんでもない光景が見えた。

 

「トレーナーがこっちに向かってくる!」

 

 ポケモン勝負からは逃げられない!

 

 狂気を感じて次のポケセンのあるところまで急いで逃げた。多分建物の中までは追ってこない。その予想は当たり、なんとか事なきを得た。やっぱりトレーナーを撒くこと自体は難しくないな。楽ちん楽ちん。明日もこの調子で行こう。

 

 しかしそれも甘かった。なんと翌日も外にかなりの数のトレーナーがスタンバイしていた。一度効力は切れて無効、とはいかないらしい。さすがにここまでするのはリアルの常識に当てはめればおかしいと思うが、ここは現実だがゲームでもあるということか。結局全員と戦うことになった。

 

 しかし、やっぱりここは現実でもある。トレーナーは転んでもただでは起きない。わざとボールに戻さずに連戦する、というゲームでは不可能な戦術により、アカサビさんが大暴れして一気に全員倒した。さらに連戦をハンディに見せながら賞金を釣り上げていき、とんでもない荒稼ぎした。もちろん両者合意の上の事、何の問題もないのだった。結果的には効率的に賞金と経験値を稼げた。多数のトレーナーを相手にする時はこれからもこの方法で乗り切れそうだ。

 

 ◆

 

 回復した後“むじんはつでんしょ”に向かった。水路は“なみのり”要員不在で通れないので山道をスプレーを使って進んだ。ゲームには本来ないルートだ。距離は近いのですぐに着いた。

 

 建物の中は無人のはずなのにかなり明るく電気が通っている。電力が十万、いや充満している。スパークとか使ったら大変なことになるんじゃないか。めっちゃショートしそう。

 

 施設の中を進んでいると、お決まりのマルマイントラップもあった。もちろん、遠目にポケモンとわかったので、遠距離攻撃でおいしく経験値にさせてもらった。いい道具もたくさんあり、特に“かみなりのいし”や“エレキブースター”などがいくつもあった。

 

 ゲームではイメージ通りの道具で不思議じゃなかったが、冷静に考えるとなぜライチュウやエレキブルを見かけないのか、謎が深い。

 

 そして最奥。すさまじいプレッシャーは特性のせいだけではないだろう。伝説と呼ばれたポケモン、サンダーがそこにいた。出かけていて留守、なんて展開も予想してただけに、あっさり見つかってラッキーだったな。期待を込めて久々のアナライズをした。

 

 サンダー Lv50 なまいき 

 個 20-17-12-22-13-11 

 実 160-92-96-141-111-99

 

 えー。これはハズレか。能力がおいしかったら頑張って育てようと思ったが、素早さが性格補正で下がるんじゃさすがにきついよな。よく考えればでんきタイプはイナズマもいるし諦めるか。だがせっかくだし、経験値にはなってもらう。

 

「ギャリギャリギャリ!」

 

 挨拶代わりの“ほうでん”か。だが対策は万全だ。

 

「シャア!」

 

 出番が来た、とばかりに俺の前に躍り出て、全ての攻撃を吸収した。このイナズマの“ちくでん”こそ最大の盾。これでサンダーの8割方の攻撃手段を封じた。

 

 イナズマ 

 技 110まんボルト

   2めざめるパワー

   3あくび

   4バトンタッチ

   5まもる 

   6みがわり

   7こうそくいどう

   8シャドーボール

   9でんこうせっか

 

「ギャリギャアア!」

「3!」

 

 電撃がダメなら直接来るしかない。“ドリルくちばし”をしてきたその瞬間に“あくび”を決めた。後は簡単。時間を稼いだ後“10まんボルト”を連打。なぜかいつもより威力が高い。この場所のせいかもしれないな。おかげであっさり勝ててしまった。万全の状態で挑めば、野生のポケモンに後れを取るなどありえないからな。

 

 聞いた話では伝説のポケモンは秘境にいて、「会うは幸運、勝てれば奇跡、捕獲できれば伝説級」ってのが常識だったが、なぜ勝つのにハードルがあるのか謎だな、これでは。いや、むしろ捕獲に難易度が上がる方が謎か、普通に考えれば。

 

「ダーッス!」

 

 そんなことを思案してるとイナズマが飛びついてきた。

 

「おっと、よしよし。ああ、もちろんよくやった。伝説のポケモンを倒したんだからな」

 

 ポケモンにとっても大金星だという認識なのかな。イナズマは嬉しそうに喜んだが俺を呼んだのは別の意図もあったらしい。イナズマに引っ張られてついていくと、なんと“ふしぎなアメ”が落ちていた。

 

 まずお前道具として存在したのか、という驚きと、元の在処と全然違うところにある驚き、そして今まで一度も話を聞かなかった驚き、そしてその理由を考えて頭を悩ませた。話を聞かないから存在しないものだと思っていたが、こうして出てくるなら色々活用もできそうだな。

 

「ギャリギャリ!」

「なにっ!? イナズマ!」

 

 考えている最中突然背後から“10まんボルト”がきた。とっさにイナズマを盾にしてダメージはないがどういうことだ? こいつはたった今倒したばかり。なのにアナライズすればHPが半分近く回復している。おかしいぞ。

 

「理由はわからないが仕方ない、もう一度やるぞ!」

 

 もう1回戦って新たに気づいたことがある。1つはふしぎなアメの出どころ。今度はハッキリ見た。倒した瞬間、サンダーが落としていた。そして、サンダーは戦闘中も含め、常に超回復し続けていた。

 

 伝説を倒すのが困難なのがなぜかようやくわかった。おそらくこの場所は電撃の威力を高める効果があるから、ここに限らず伝説は皆地の利で能力を増すものなんだろう。そして回復し続けるので不死身であり、ひんしにして捕まえるというこの世界の捕まえ方は通用しないので捕獲も困難。なるほど苦戦するわけだ。道中の疲労なども重なればなおさら簡単にはいかなさそうだ。だが、俺にとってはどうか。倒せばアメ。すぐ回復。レベルは格上なので補正もつく。

 

「絶好の稼ぎ場じゃねえか!!!」

 

 当然だが、俺は1日中サンダーを倒し続けた。なんかソウルに火がついてしまったらしい。しまいにはサンダーの方が勘弁してくれと頭を下げてきた。通訳はイナズマだ。

 

「仕方ないか。アメもどういうわけか途中から出なくなったしレベルも十分上げられた。もう潮時か。よく考えたら野生のポケモンを無意味にいたぶり続けているようにも見えなくはないからな。この辺にしとこう」

「ギャリー……」

「……さて、俺にはなんと言っているのかわからない。が、レベル上げに協力してもらった礼ぐらいは渡そうかな」

 

 なんとなくその視線が俺を責めているように感じられたので、一応努力値下げのきのみを渡すことにした。気持ち視線の強さが和らいだ……気がした。

 

「これでもう用はない。さっさと外に出るぞ」

 

 そういって帰り用の出口へ進もうとするが、なぜかあるはずの扉がない。まさか、いや……そんなはずはっ。

 

「ダーッス」

 

 無情にもイナズマの指し示す方向は元来た道。これはもしかしなくても元来た道を戻るパターンですか。

 

 いや、最初からよく考えればすぐわかったはずだ。扉が出口にあったら、それはもうただの入り口だってことが。帰り用の出口なんてあれば最初からそこを使って入っている。つまり、そんなものあるわけないのだ。出入り口の真ん前に伝説がスタンバっているというゲームのあの仕様がおかしいのだ。じゃあ出口がなければ結果どうなるか。

 

「スプレーが、足りない!」

 

 帰り道で無人発電所の本当の恐ろしさを味わった。行きはよくても帰りがキツイ

 

 相手の電気技はフィールド効果のようなもので威力が文字通り倍増。しかも定期的にどこからかビリリダマが転がってきて、“じばく”を繰り返す。HPが1自然回復したらそれでまた“じばく”するのでとにかくビリリダマを見たらすぐに離れないといけないことを覚えた。

 

 さらにでんきにでんきタイプが引かれてくるので、ポケモンがポケモンを呼び、結局中のほとんどのポケモンを倒して外に出た。行きのスプレーは無駄だった気がする。今度からはスプレーは大量にストックしておくことにした。発電所を抜けた後、そのまま南へ下って、イワヤマトンネルを無視する形でシオンタウンへ向かった。これ以上戦闘したら死ぬ。

 

 ◆

 

 まだ数日しか経っていないが、もうシオンタウンに着いてしまった。とりあえず念のためにロケット団の足取りやレッドたちの足取りを聞き込みしてみることにした。

 

 曰く、ポケモンタワーの幽霊事件はレッドという少年が少し前に解決。

 

 曰く、ロケット団はさっさと逃げて行った。今の消息は不明。

 

 曰く、フジ老人は無事。カラカラも今は元気。あんたもポケモンハウスに寄っていけ。

 

 曰く、タワーの2階以降にはゴーストポケモンを持ってないなら上がるな。

 

 曰く、ゴーストポケモンは同じゴーストポケモンを持ってないと捕まえられない。

 

 色々わかった。そして考えた。まず、ロケット団はタイムリーでタマムシにいる可能性が高い。やっぱりブルーと鉢合わせたな。そしてもうひとつ。最後の1つはウソだ。なぜなら最初の1匹を捕まえた人間はどうやって捕まえたんだ? 矛盾している。

 

 だから俺はタワーに登ることにした。無理と言われればやってやりたくなる。ついでに伝説をとり損ねたからゴーストポケモンの1匹でも捕まえたいな。ブルーといるとそういうことに気が回らないし。

 

 俺は昔番人のゴーストを倒しているし、余裕だろうと思っていたがそれは甘かったことをすぐに悟った。タワーの内部はまさに魔窟。ゴーストタイプの厄介さをすぐに理解した。

 

 まず、神出鬼没なところ。ゲームみたいに馬鹿正直に目の前に現れたりしない。背後ならまだマシで、最悪床下からも襲ってくる。これでは常に神経が張り詰めたままだ。

 

 次に奴らは絶対に倒せない。弱ってくると壁抜けですぐに下の階へ逃げる。すり抜けだから追えないしすぐ抜けるので止めるのも不可能。

 

 最後は地の利。迷路のようになっている上に、ところどころ毒ガスが濃くなっていて通れない。肝心なところをピンポイントで通れなくして迷宮化に一役買っている上、霧と紛らわしいので間違えて通りやすい。この毒霧がなければ設計したときはこんな入り組んではなかっただろう。内部のトレーナーが全員ゴースト使いで、町の奴がああいっていたのもこういう理由からだろう。ゴーストなしじゃ、どう考えても詰み。そう考えるのが当然。

 

「普通のトレーナー、だったらの話だがな」

「ゴ~ッス!」

「サイッ!」

 

 “つばめがえし”で一撃。俺はこの目のサーチでどこから来てもすぐわかるし、毒霧もモモンで問題なし。敵は一撃で倒すので討ち漏らしもない。タネがわかって慣れてくればちょいめんどくさい程度のものでしかなかった。

 

 ひんしになると壁抜けはしないようなので最初のゴーストタイプを捕まえるだけなら簡単だが、どうせならもっといい奴を探すことにした。

 

 あっけなく最上階。だが、そこで面白いものを見つけた。辺りは全くポケモンの気配がしない。霧もなく、見通しはいい。何もない。だが、俺はサーチではっきりと感じ取っていた。“そいつ”の存在を。

 

 バシッバシッ!

 

 突然何かが飛んできた。避けるとその先で水が落ちてくる。さらに躱した先にはマネキンが2体飛来。襲いかかって来たそれらを蹴り飛ばし、最後に飛び出してきた“そいつ”に向かってアカサビに“つばめがえし”を打たせた。

 

「ゲンガッ?!」

 

 ゲンガー♂ Lv30 うっかりや イタズラがすき

 個 26-24-24-31-5-31

 

「これで俺の勝ちだな。イタズラがすきみたいだが、やる相手を間違えたな」

「ゲエエエ!」

 

 言いたい気持ちはわかるがその声はややこしいからやめろ

 

「サイ!」

 

 ふむ。こいつは初めていたずらが失敗してえらく悔しいらしい。まあいきなりあんなことされたら普通は驚くわな。何もないと思っていればなおさら。その辺りは、こいつもさすがというところだな。

 

「なあ、お前、そんなに悔しいなら、俺と一緒に来るか? そうすればもっといろんな奴に会えるし、俺を驚かせることもできるんじゃない?」

「ゲエエエン?……ガーガッガッガ!」

「サイクッ!」

「あ、あれが承諾なのか? 笑ってるだけに見えてそういう感じしないが……あっさりしてるな」

 

 本人曰く「勝ち逃げはさせない。そしておれは面白いとこへならどこへでも行く」ということらしい。もう俺は面白い人間という認識なんだな。

 

「それなら、心置きなく仲間にしようか。よろしくな」

 

 こうして4番目の仲間は意外な奴になり、今までとは異色な感じのメンバーとなった。ニックネームはどうしようか。

 

「じゃあ、ゴーストタイプだしユーレイ(幽霊)でいっかー」

「ガガガ! ゲンガー!」

「サイッ?!」

 

 いつものノリで懲りずに冗談を言ったら、なんと快諾しているらしい。アカサビは「またこいつやってるよ……」という驚きかと思ったら快諾したことへの驚きだったらしい。

 

 ええ……逆にこういうときどうすればいいんだ?

 

「マジで言ってんのかよ! お前何考えてんの?」

「ガッガッガ!」

 

 するとゲンガーは威勢よく笑い出した。話を聞くと、俺の反応を見越してあえてボケを真に受けてみたらしい。こいつどこまでもそれにこだわるな。芸人か。

 

 しかも、気を取り直して、別のニックネームを考えようとしたら、ほんとにこれでいいと言い出した。俺やアカサビの驚く顔が見られたからむしろこの名前の方が嬉しいらしい。嬉しい基準が謎過ぎる。だがほんとにこのノリで決定されてしまった。

 

 こういうこともあるならこれはやっぱり毎回続けようと言ったらアカサビからどつかれた。このポケモンだいぶ攻撃力高くなってきているからけっこう痛い。

 

 アカサビをボールに戻してここを出る準備を始めた。

 

「じゃ、これで晴れてユーレイが正式に仲間になったし、ここからおさらばするか。またゴーストいっぱい出てくるが帰りはもうポケモン探しはしないからスプレーで……」

「ガーガッガ」

「……? えーと、この先に行けばすぐにここを出られる抜け穴がある? おい、それ本当かっ! ユーレイ、さすがに罠やらなんやらいっぱい作っているだけあって、ここの地理にも詳しいんだな。さっそく案内してくれ」

「ガッガッガッガッ!」

 

 やたら高笑いするがなんなんだ。妙にテンション高いな……ユーレイはあった時から笑ってばっかだが、どうも胸騒ぎがするな。なんか企んでるような……

 

「ゲンガッ」

「え? 着いた? ここなんにもないただの行き止まりだけど」

 

 ユーレイの方に向き直るとなぜか“シャドーボール”を構えて俺の方を向いている。おいおい、まさかそれを……どうするつもりだ……もうこれ以上経験値はいらんぞ……。

 

「ゲ~ン」

 

 撃ち出した攻撃は俺でなくその足元に当たって不発。はは、さすがにいきなり主人に攻撃してくるわけないよな。いやーすまんすまん、別に疑ってたわけじゃなくて……

 

 バキッ

 

「ん? 何の音……」

 

 バキバキメシッ、バリッ!!

 

 なんということかっ! 今ユーレイに連れられて立っていたのはかなり薄い板の上だったようで、さっきの衝撃に耐え切れず崩れ去り、俺は真っ逆さまに落下した!

 

「ユゥゥーレェェェイッッ!!! これは抜け穴じゃなくて落とし穴だバカッ!!!」

「ゲエエエ?!」

 

 そんな声出してもわざとやったことぐらいバレバレじゃアホユーレイ!!

 

「アカサビ、地面に着地する前に俺に向かってみねうち!」

「サイッ」

 

 先に下にアカサビを出して、地面に衝突する前にみねうちで衝撃を抑える策に出た。とっさだからどうなるかわからん!

 

「グヘッ!? め、めっちゃ効く……」

「サイ?」

「大丈夫、絶対に1は体力残るから……」

 

 は、吐きそう……。まさか「俺に向かって“10まんボルト”」モドキをすることになるなんて。一応、なんとか軟着陸……することに成功して事なきを得た。いきなり最上階から直通で1階までまでいけるとは思わなかった。ユーレイには感謝しないとなっ!

 

 よく考えたらこいつ罠作ることしか考えてないんだからせいぜい落とし穴がいいとこだとなぜ気づかなかった。そもそも抜け道なんてないってことはこの前のむじんはつでんしょで散々思い知らされたところだったのに。行きは楽々、帰りは死にそう

 

「ガーガッガッ!」

「……自分がついていくからにはこれぐらいはできないと話にならないって? ユーレイさん、もう二度としないでね。次したら一生壁にめりこんだまま動けなくするぞ?」

「ガガガ!」

「サイ……」

 

 全然聞いてねぇ。アカサビ曰く、どうやらユーレイはさっそく俺を驚かせられて大満足らしい。こいつ驚かすためなら手段選ぶ気ないな、本当に。その後二度とこんなことをしないように厳重注意した。もうないと信じたい。

 

 タワーを後にして、今度はポケモンハウスに行くことにした。聞き込み中に勧められたのもあるが、目的は別。あのカツラとフジの関係の謎や、フジマッドサイエンティスト説を確かめに行くためだ。

 

 しかし、気づけばカラカラの不幸な生い立ち話などを聞かされ、しんみりした気持ちでハウスを出ることになっただけで、なんの手がかりも得られなかった。結局わかったのはただ1つ、フジ老人はマジ博愛、ということだ。

 

 ……何の成果も得られず落ち込んでいるとユーレイが出て来て俺を笑い始めた。こいつ、いい性格しているな。

 

「礼儀のなってない新入りクンには洗礼を与えないとな。イナズマ、出動だ!」

 

 イナズマさんをけしかけて場が混沌とし始めた。さりげなくその場を離れて巻き添えを回避し、周りをうかがうと気になる話が聞こえてきた。

 

 2人の男の会話で、1人はシルフへの問い合わせができなくて困っているという話で、もう1人のピジョットを連れたトレーナーがヤマブキに行ってみようかなという会話だ。

 

「全く、お前の野次馬根性はすごいよなぁ」

「……ああっ!」

 

 その言葉、聞いたぞ! ゲームに出てきた野次馬を思い出し、おもわず大声を上げてしまった。

 

「なんだ?」

「……あ、コラ、お前ら何してんだ。喧嘩しちゃいけないだろー、はい、仲直りしようねー」

 

 とっさにユーレイとイナズマをなだめる芝居をしてごまかし、その場を離れた。もちろんイナズマには思いっきり顔をひっぱたかれた。

 

 だが、イヤな予感がしてきて、俺は予定より早めにシオンを出てヤマブキへ向かうことにした。最初から可能性としてはドンピシャでブルーが事件に巻き込まれることも想定していた。実際に話を聞いて心配になるなんておかしなことだとは思うが、それでもどうにも気になって仕方なくなってしまった。なってしまったものはしょうがない。

 

 あのお助け袋に従えば最速で事件を解決することもあり得る。今俺はかなり速いペースではあるが、ブルーが最短でヤマブキへ向かっていれば俺よりも一歩早く到着する。先に待っていてくれとは一応書いておいたが、ドジなところもあるし、早く会って無事を確かめておきたい。

 

 ……待ってろよ、俺もすぐに行くからな! 

 




軟着陸()

お待たせしました
ようやくシショーが動きます
次がシルフ決戦、その後また二人旅です
ブルーがあんなに長かったのにシショーはその間の話が一話で終わるという……

設定的にはふしぎなアメだけ謎ですね
あれはどうやってレベルを上げているのかなーと思って考えた結果、伝説とかが蓄えた経験値の結晶、ということにしました。
Lv50になったあと獲得した経験値は全て体内に蓄えられて、倒されるたびにアメとして放出するということです
逆にアメとして経験値を蓄えるのでキレイにレベルが50で止まっているということです
ふしぎなアメの効果自体はゲームと全く同じです

フィールドやら回復やらは伝説があまりに弱すぎるから強化しました。四天王クラスで持っているトレーナーがいないのは不自然なので捕獲は困難ということに
尤も、レインにはその設定全部逆手に取られてますが


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2.ヒーローは いつも遅れて やってくる

 ヤマブキへの道中、もう時刻は深夜という頃。居ても立っても居られず俺は夜も進んでいたが、ヤマブキの近くの発電所で騒ぎが起きていた。

 

 事件が起これば9割方ロケット団の仕業という法則に基づき、俺は様子を見に行くことにした。聞けばどうもポケモンが停電を起こしているらしい。おそらく野生のでんきポケモンが発電所の電気に引かれて停電を起こしてしまったのだろうという見立てらしい。今回もロケット団の仕業ではなかったか。ボスゴドラ事件のときといい、この法則は案外役に立たないな。停電のせいで暗くて見つからないらしいが、サーチで探せる俺なら容易いこと。仕方ない、急いでるがほっとくわけにもいかないか。

 

 発電所に行きサーチを使うとすぐに見つかった。しかし、そのポケモンは意外にも野生ではなく、努力値が入っている。さらに調べると持ち主がわかり、犯人はブルーのレアコイルと、レッドのピカチュウだった。その2体からは何が何でも俺を倒すという意志を感じる。どういうことだ?

 

 一応イナズマを出して電気攻撃に備え、様子を見ながら話しかけた。

 

「おい、お前、もしかしてブルーのポケモンか?」

「!! ジリリ……」

「そう警戒するな。俺はそいつの知り合いだ。名前はレインというんだが、お前ら、なぜ…」

 

 こんなところにいるのか、と聞く前にレアコイルがすごい勢いでこっちに近づいてきた。それを見て俺をかばうようにイナズマが前に出た。

 

「ダース!」

「待て、イナズマ! 大丈夫だ」

 

 殺気はない。イナズマが攻撃しないように制して様子を見ると、思った通りレアコイルは襲っては来なかった。必死に俺に対して何かを伝えようとしている。ほんとにブルーのポケモンみたいだ。それに俺のことも知っているらしいな。

 

 イナズマを介して事情を聞くと、こいつらはブルー達の潜入のためにシルフの電力を断つように言われたらしい。これには俺も感心した。見つからないようにする気だな。だが、同時にそれは今現在ブルーがおそらくレッドやグリーンと一緒に戦っているということでもある。

 

「なら猶予がない。あいつなら大丈夫だろうが、万一のことも考えないとな。そうだ、イナズマ、お前はここに残ってこいつらの手伝いをしろ。必ず迎えに来るから。ここの停電を維持できなきゃあいつらは終わりだ。重要な仕事になる。いけるか?」

「ダダーッス!」

「よし!」

 

 どどーんと任せろという頼もしいその言葉だけ聞くと、俺はすぐにイナズマに手を振ってシルフへ向かった。もう悠長にはしていられない。グレンに乗って最高スピードで突き進んだ。

 

 ◆

 

 ヤマブキが見えた。ゲートに入ると警備員に止められたがそれはユーレイの“さいみんじゅつ”で眠らせ、シルフの見張りは寝ていたのでそのまま中に潜入した。

 

 中に入ったら最短で最上階を目指した。3Fからワープ。激戦の跡が残る7Fを経由して11Fに到着だ。一瞬で社長室の前まで来られた。

 

 今どうなっている? そのまま考えなしに突っ込むのはさすがにマズイ。先に能力を上げておくか。アカサビは攻撃と素早さ6段階、グレンは素早さ6段階とスペシャルアップで特攻6段階、ユーレイはスペシャルアップで特攻6段階積めれば、準備万端だ。

 

 一時的な能力アップアイテムはかなり強力だ。ルールでバトル中には使えない場合もありあんまりトレーナーの間では広まっていないが、そのおかげでよく使う俺としては意表はつける上安く手に入り万々歳だ

 

 能力アップの間に俺は奥のポケモンを壁越しにサーチして状況把握に努めた。俺の能力は障害物を超えることができる。ブルーの他には、やはりレッドとグリーンがいて、3人はもうかなり追い詰められている。特性げきりゅうを使い1体倒したが、3人共おそらく今出しているポケモン、あれがラスト。その上この体力じゃ、もう限界か。

 

 しかも相手のサカキ……ポケモンに道具を持たせているな。特にガラガラの“ふといホネ”。これは厄介だ。よく発見したな。“ふといホネ”の恐るべき特殊能力に気づく奴がいるとは。

 

 “ふといホネ”はガラガラ専用道具。ガラガラが持つ時のみ効果を発揮する。攻撃力を倍にするという反則効果なので、実験すれば気づきやすいのは確かだろうが、それでもよく研究している。

 

 そして、ドサイドンがやられた後、最後にこれまたすごいのが出て来たな。サイホーンレベル70。何をしたらこんなにレベルが上がるのか……ゲームでもそうだったが、進化させないことも謎としか言いようがない。もしサカキがふしぎなアメを持っていたら、最強ドサイドンの出来上がりだな。進化前だから能力がかなり低めなのは本当に助かった。

 

「メガホーン!」

 

 あの野郎っ!! サカキがブルーを直接狙っている! ヤバイ!

 

 まだこっちは能力を上げ切れていない。あとはアカサビの素早さだけだが、4段階で妥協するべきなのか……もう猶予はない。

 

「バナァッッ!」

 

 なんとか防いだか。だがもう見てられない。ヒヤヒヤする。ポケモンもさすがに限界だ。俺が行かないとブルーはやられる。まだ積み切ってないが手遅れになっては意味がない。そしてブルーに直接手を出した以上、サカキはタダでは済まさない。一足早く解散になろうが構わない。その後ロケット団の動きがどう変わるか全く予想がつかなくなるが、ブルーの方が大事に決まっている。

 

 ユーレイを下から先行させておき、だだっ広い社長室に突入した。

 

「シショー……レイン……さよなら」

「ブルー、逃げろ!」

「何してんだ! 動けよ、急げっ!」

「メガホーンだ!」

 

 さよならって……諦めるんじゃねぇよ! 俺はここにいる! こんなところで終わらせない! お前には俺を超えてもらわないといけないんだ!

 

「グレン、全力のオーバーヒート見せてやれ!」

「ヴォウゥゥ!!」

 

 最大火力の“オーバーヒート”は体重100kg以上のサイホーンを派手に吹っ飛ばした。今特攻はいつもの4倍。それを横からもろに受ければただでは済まない。

 

 グレンの攻撃の余波で辺りに炎塵が舞い、一筋の道を作る。俺はその中をゆっくりと進み、ブルーの傍に立った。

 

「なんだ今のは! 何者だ!」

「どうなったの……? サイホーンはどこにいったの?」

 

 今まで目をつぶっていたのか? バトル中に目をつぶるなんて……いや、ほんとに崖っぷちだし、これに説教はさすがに酷か。いっつもこいつは危なっかしいバトルばっかりして、心配ばかりかけさせる。だが、ブルーはここまで頑張って自力で来れたのだし、こうして無事な姿を見て安心できた。大した時間も経っていないのに、懐かしくすら思えるその顔を見て、自然と笑みがこぼれた。

 

「それならあそこだ。ブルー、ずいぶん苦戦していたみたいだな。俺がかわろうか?」

「えっ! あなたは……もしかして!」

「待たせたみたいだな。ここまでよくやった。俺が来たからもう大丈夫」

 

 きっともうギリギリだったのだろう。ブルーは座り込んだまま力が抜けている。ここからは俺の出番だな。いつものように頭を撫でて安心させてから、気を引き締め直してロケット団のボス、サカキに向かい合った。

 

「お前、何者だ? どうやってここに?」

「そんなこと聞いてどうするんだ? それに、俺を倒すのが先じゃないのかい?」

「力ずくで聞けということか。面白い。まぐれは一度きりだ。お前のポケモンもレベルは30そこそこ。この俺様の敵ではない。サイホーン、すてみタックル。きりさく、ホネブーメラン」

「気をつけろ、ガラガラはっ…」

 

 グリーンが叫ぶが言い終わる前に俺は手で制した。3人はかなり手こずったみたいだが、俺はあいにく種を知っているんでね。対策済みだ。アカサビとグレンは“みがわり”を先に張ってある。

 

「攻撃力だろ。見ればわかる。アカサビはダグトリオ、グレンはガラガラ、ユーレイはサイホーン」

 

 ダグトリオの速さはそれよりも速いアカサビの一撃で。ガラガラは“オーバーヒート”で一発計算だから“みがわり”を盾にしながらグレンに突っ張らせる。サイホーンの能力は大したことないからユーレイに適当にやらしとけばいい。

 

「バカな! 俺様の最強のフォーメーションが、こんなガキにやられただと!」

「井の中の蛙大海を知らずって言葉知らないか? あんたがその蛙だったのさ。ロケット団のボスっていっても、案外大したことねぇな」

 

 もちろんこの世界でのすごさはよくわかっている。だが、俺にとっては、これもある意味正直な感想でもある。下手な小細工レベルでしかない、とも感じられるからだ。洗練された強さはない。

 

「いけっ、ドサイドン!」

「はぁっ?! あいつなんでまだポケモン持ってんだ!? あれ7体目だぞっ!」

 

 挑発を混ぜながら次の出方をうかがうと、今度はきっちり最終進化しているドサイドンが出てきた。能力的にも、真の切り札はこいつか。奥の手のさらに奥の手ってところか。

 

 グリーンの言葉も気になる。サカキはもう3匹は先に使っていたのか。なんか違法臭いことをやっていそうだな。一応悪の組織だし、こうなるともうなんでもありか。一応後続を警戒しといて良かった。

 

「レベル65か。ほんとにそれが最後みたいだな。もう少し遊んでやるよ」

「ほざけ。じしん!」

 

 むちゃくちゃするな。これまでは“じしん”を使っている様子はなかった。使えばこのビルごと揺れていただろうからな。ここに来ていったいどういうつもりだ? ヤケになったようにも見えるが……。

 

「ったく、あぶねぇな。ヤケになったか?」

「くそ、やれたのは雑魚だけか。まもるが使えるとは」

 

 探りを入れてみたが、この反応じゃ本当にやけくそだったように思える。だが、“じしん”は範囲攻撃だが比較的躱しやすい。じめん技だからだ。それをじめんタイプの専門家がわからないわけじゃあるまい。特にこいつの場合、この技を最も極めているはずだからな。これはなんか怪しいな。

 

「ユーレイ、さいみんじゅつ」

 

 これは避けるはずだ。本当は黙って眠らせたいのは山々だが、こいつは急いできたせいでまだ技の練習もままならない状態だ。狙っても上手く決まるか不安が残る。割り振りはドーピングで終えているが、今は戦力にはしにくい。だからあえて“さいみんじゅつ”をおとりに使う。これでまずは窓際へ追い込む。

 

「離れて躱せ、ストライクにストーンエッジ」

「つっこんで3。グレンもっかい」

「しまった、外に出てしまったか、戻れ!」

「さて、これであんたは丸腰だな。ここからどうする?」

 

 この高さから落ちればタダでは済まない。いったんポケモンは戻すしかない。そうなれば今度は俺が再び場に出すのを黙って見過ごしたりはしない。その隙にサカキを窓から叩き落してやる。それぐらいのことはこの男もわかっているはず。さぁ、ここからどうする?

 

 やけにあっさりと誘導に乗ったことにイヤな感じはするが、この状況でできることなど限られている。俺の勝ちは揺るがない。

 

 勝利を確信しサカキを見れば、いきなり不気味に笑い始めた。何を企んでいる?

 

「くくく、お前は私を追い詰めた気でいるようだが、それは違う。我々は不滅だ。今回は……確かに遅れをとった。だが、私は何度でも立ち上がり、野望を果たす。それまで、君達とはしばしの別れだ」

「何をする気だ? ……まさか!」

 

 投身自殺からの死体は見つからないパターンに移行したのか! それは面倒だから何としても阻止しないと!

 

 慌てて駆け寄ると思った通りサカキは窓から勢いよく飛び降りた!

 

「うそっ!!」

「自害したか……」

「ヤケになったんじゃねぇの?」

 

 しかし、俺の予想を裏切りまさかのヘリ生還ルートだった。どうやってヘリコプターのはしごにつかまったんだ? ヘリコプターはそこまでビルに近づけないはず。飛び乗るなんて不可能だ。何かポケモンでも使ったのか? 信じがたいことが目の前で起きたな。

 

「こんな手まで用意してたのか」

「クレイジー過ぎるだろっ!」

「シショーなんとかなんないのっ」

 

 こいつらも驚いている。これは予測しておけと言う方が無理だ。ブルーはなんとかあいつを捕まえたいようだが、こうなるともう手の打ちようがない。あの男がどこまで手を打っているかわからないし、何をしてくるか全く読めない。そもそも俺自身空中戦はあまり得意ではない。ここはリスクを冒して追撃するより、おとなしく見逃すべきだな。

 

 ……俺のポケモンの技構成は見直した方がいいのかもしれない。対空戦用の技を増やしておくか。

 

「……ムダだろうな。これだけ周到な奴のことだ。深追いすれば逆にこっちがやられる可能性が高い。まさかこんな手で脱出するとは思いもしなかった。これもやはり決まっていたのか。結果オーライといえばそうだが杞憂だったな。一足早い解散になるかと思えば、しょせん俺1人の働きじゃ変えられないものもある、ということか」

 

 簡単に変わることはないのかもしれない。だが、ここが現実である限りこの世に絶対に変えられないものはない。今回はたまたま相手が1枚上手だったというだけのこと。構わず俺は自分の道を進む。……ブルーだけは絶対に強くしてやる。これだけは意地でも変えて見せる。

 

 意識を窓の外に向ければ下からサイレンの音がする。逃げた社員辺りが通報したんだろうな。ジュンサーにいまさら来てもらってもなぁ。一足遅い。

 

「せめて後始末ぐらいはあいつらに任せるとするか」

 

 ブルー達をまずゆっくりと休ませてやらないとな。こいつらは戦い詰めで疲労はピークのはず。疲労困憊の3人をグレンに乗せて運び、こっそりとシルフを出てポケモンセンターに連れて行った。真夜中ということもあり、道中で3人ともグレンの背中でぐっすりと眠ってしまった。

 

 サカキを倒して、これでようやくいい夢が見られるだろうな。

 




いっつもヒーローって最後の最後にタイミング良く来ますよね
やっぱりそれは偶然では無理だと思うんですよ
なのでレインさんにはタイミングを見計ってもらいました
夢を壊してごめんなさい


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3.事件の後には ご褒美ちょうだい

分割回


 後にシルフ占拠事件とよばれる今回の事件はサカキを追い払ったことで無事解決。相当無茶をしたので事情徴収などもかなりしつこく、3人は目を覚ましてからずっとジュンサーに尋問されっぱなしだった。

 

 3人が寝ている間に俺が工場のポケモンを迎えに行ってこっそりまとめて回収したのだが、ブルーがうっかりそのことをジュンサーに漏らしてしまい、イナズマのことをブルーは知らないので俺はバレなかったがマサラ組だけ追加であれこれ聞かれたりしてこってりしぼられていた。逆にジュンサーの尋問対象が3人に集中して俺は助かったが、放っておくのはかわいそうか。

 

「ホントに勝手なことばかりして! どうして私達に通報しなかったの! しかも独断で停電なんか起こして、一歩間違えればあなた達が犯罪者よ!」

「んなこと言ってもよ、あんたらじゃロケット団を倒せなかったからこんなことになったんだろ。言ったら代わりに倒してくれたのかよ。だいたい停電は一時的だし、多くの命を助けることを思えば些細な犠牲だろ?」

 

 ジュンサーの追及にグリーンが1人で反論し、残り2人は黙って聞いているようだ。グリーンに一任したらしい。

 

「試しもしないで決めつけるなんて間違っているわ。私達ができなかったというのはあくまで予想よ。それに、理由の如何に関わらず、停電を起こすなんて犯罪です。そもそもあなた達みたいな子供が3人だけで乗り込むことがどう考えても無謀! 生きていたのが奇跡なぐらいよ。わかっているの? 本当によくボスを倒せたわね」

「それはまぁそうだが、でも、あんなデカい組織をなんの危険もなく倒せるわけないだろ」

「じゃあ、あなた達が危険に飛び込まなければいいじゃない」

 

 かなりてこずっているな。仕方ない。助け舟を出してやるか。

 

「その辺にしといてやってくれ。こいつらも全て考えあってのことだ。これは偶然でも奇跡でもない。紛れもない実力。あとな、ボスを最終的に倒したのは俺だ」

「あ、あなたも関与してたの! じゃあ、どうゆうことか説明してもらおうかしら」

 

 関与してたの!……って、じゃあさっきまで俺はなんだと思われていたんだ。偶然近くにいた一般人か何かと勘違いされてたのか。それでやけにあっさり解放されたんだな。

 

「まず、あんたらに伝えなかったのはそっちの力不足もあるが、ロケット団にあんたらがマークされていたから。今回は人質の解放のために隠密に動く必要があったから奴らに悟られるわけにはいかず、潜入も実力を備えた少数で行わざるを得なかった。停電もそのため。協力を取り付けていたらバレてしまう。だから突発的に行動した」

 

 俺が割って入ると3人はあっさりと俺に任せることにしたようだ。グリーンまで引き下がるのはなんか違和感があるな。なんでだ? やりやすいからいいけど。

 

「そんな! 私達は細心の注意を払っていたわ!」

「その程度で防げるものか。それで防げたら苦労はない。簡単にバレる程度のマークしかできないなら、ロケット団はとっくに滅びてる」

「じゃあ、なんであなた達はそんなことを知っているのよ」

「タマムシに奴らのアジトがある。そこで既に奴らと一度事を構えている。その時に気づいたんだ。証拠は、タマムシに問い合わせればわかることだ。大事件になっているからな」

 

 あえて主語はいわなかった。もちろん今言ってる内容は全てデマカセ。だが、裏を取ろうにもロケット団はまだ捕まっていないのだからそんなことできやしない。つまりバレる心配はない。

 

「……でも、あなた達が潜入するのはやっぱり無謀だわ。たった4人でロケット団を相手するなんて無理よ」

「普通のものさしではもう測れないんだよ。実力はマスタークラスに近いんだ。あんたらの思っているより数段強い。実際、俺は70レベルのポケモンを倒している。何なら今からマスタークラスを名乗っても実力的には差し支えないだろう」

「70!? いや、ロケット団のボスにもなるとそれぐらいはありえるか。……いいわ、あなた達の言い分は認める。でも、そこの3人! あなた達は停電事件の容疑で裁判を受けてもらうわ」

「ええっ! どうしてそうなるのよ!」

「だ・か・ら! オレはでんきタイプのポケモン自体そもそも持ってねーって何回も言ってるだろーが! やるならこいつら2人だけだろっ!」

「じゃあ俺が弁護してやろうか? 少しは役に立つだろう」

「その必要はないわ。この町では簡単な方法で善悪は判定できる。あなた達がある人に会ってもらうだけで事は済むわ。悪意がなかったなら、10分もすれば釈放される」

 

 なんだそりゃ。怪しいな。何か罠とかじゃないのか? だが、その考えは杞憂だったようで、3人はホントにものの数分で釈放されていた。

 

 それを見計らって、今度はシルフの社長が直々に挨拶にきた。なんでも、今回の事件解決の報酬とは別に、本人からも直接何かお礼がしたいとのことだ。人質やポケモンが皆無事だったことをかなり感謝しているようだった。この人も社長室で見なかったから変だとは思っていたがあの時は人質と一緒にされていたようでうまく外に避難していたらしい

 

 レッドとグリーンはポリゴン。ブルーは中で解放したポケモンをもらう許可。そして最後に俺の番。この人はものすごく太っ腹なのを俺は知っている。3人はずいぶん謙虚だが、ここでもらうものは1つしかない。

 

「じゃあ、マスターボール……なんてのはどうでしょうか?」

「「「!!」」」

「ど、どうして君はそのことを!」

「サカキ……ロケット団のボスから聞きました。それが奴らの狙いなんだとか。トレーナーなら誰しも欲しいと思うものなんじゃないですか?」

「……残念じゃが、それは開発を中止するつもりでな。まだ未完成なのだよ。すまないが私には用意できない」

 

 さすがに、ここまで問題になったものをひょいと渡せはしないか。ゲームだと「こーんなものではいかがかな」とか言いながら渡してきたからいけると思ったんだがな。これじゃもらえそうにはないが、ちょっと確かめておきたいこともある。

 

「そうですか。べつに試作品でも構わないんですよ。あるんでしょう、1つだけ?」

「え、もうあるの?!」

 

 このバカ、お前が驚いたらサカキから聞いたことにしているのにおかしいだろ。3人を振り返って目で黙るように言うと、とりあえず口を閉じてくれた。

 

「どうしてそのことを……! それはあの男にも秘密にしていたのにっ!」

 

 ……どうやらサカキから聞けないことだったらしい。さすがにヤバいな。調子に乗り過ぎた。何と言って乗り切るべきか。

 

「やっぱりあるんですか。そうだと思った。社長さん、気を付けた方がいいよ。こういう誘導尋問は悪い奴の常套手段だから」

 

 ごまかすために今のはただのカマかけだとアピールしたら、なぜか社長さんは震え出した。後ろの気配も距離が空いた気がする。どういうことだ。

 

「し、仕方ない。マスターボールは君に渡そう」

「あれ、もしかして本気にしちゃいました? 冗談ですよ。いくらなんでもそんなもの要求したりしないですよ。だいたい、俺には必要ないものだし」

 

 そう言うとあからさまにホッとした表情を見せた。やっぱりもらってしまうのはかなりマズかったみたいだ。変に欲を出さないで良かったな。

 

「そうですか。あなたも人が悪い。ですがなぜ必要ないんです?」

 

 この人すぐに悪い奴にだまされそうだな。いや、実際サカキに利用されていたから間違いなくそうなんだろうな。今もこんなこと聞いたりせず、俺の気が変わらないうちにさっさと話を進めてしまえばいいのに。

 

「俺に倒せない野生のポケモンはいないので。だからモンスターボールがあれば十分。それより、本当は別に欲しいものがありまして、“メタルコート”っていうアイテムなんですが、ありますかね?」

 

 そして案内されたのは何かの生産工場。ここでつくる製品の余剰生成物としてメタルコートもできるらしい。ただ、なんの価値もないので、スクラップとして大量に余らせているらしい。

 

「じゃあなんでこんなに残しているんだ?」

「ある研究者がこれは何かに使えるかもしれないと研究していてね。こんなもので良ければたくさん余っているからいくらでも持っていってくれ」

 

 俺の呟きにわざわざ答えてくれた。そうか、まだ用途が判明してないのか。じゃあ、その研究がうまくいって用途がわかれば一気に高騰するな。あ、これ……使える。

 

「じゃあ、ここにある分全部もらえますか? いや、むしろあるだけ全て買い取らせてください」

 

 日を改めて翌日に商談は成立。向こうは鉄屑と思っている上、会社を救った報酬だけあって、大量に仕入れられた。ブルーは俺が何か企んでいることに気づいているって顔だったが、一応さっきいらんことをした手前黙っていてくれた。この行為で社長の俺に対する印象も物好きなトレーナーぐらいにかわったようで一石二鳥だったな。

 

 それ以外にも工場を巡って、アップグレードやなんちゃらブースターなどの進化アイテムも持っていないものを補充しておき、気づくとまた1日経過していた。一息つくため一度ポケセンで休むことにした。

 

「いやーもうけたもうけた。こりゃヤマブキまで急いで来た甲斐があった」

「あ、やっぱりなんか企んでたんだ。シショーって色々悪いこと考えてるわよね」

 

 ジト目で言われ、すかさず反論しようとしたが、急にブルーのトランシーバーから声が入った。いつの間にそんなもん用意した?

 

「ブルー! よう、オレだ。お前に最後に一言伝えておきたくてな」

「あ、グリーン! どこにいるのよ」

「オレとレッドはもうバッジは手に入れた。悪いが先に行かせてもらうぜ。ブルーなんかに追いつかれたままってのは癪だからな」

「あー! ずるーい! あんたらまた抜け駆けする気?! ヒキョーものっ!!」

「へへ、悔しかったら追いついてみな。もうジムは閉まってるぜ。つーより閉まるのを待ってから連絡したんだけどな」

 

 なるほど、あいつらもう次に向かっているのか。ホントにあっという間にどんどん進んでいくな。1日空けただけなのに。パッと見ではレベルも上げてきていた。やはり最後に俺の壁になるのはこいつらなんだろうな。

 

「このウニ頭! いっつもいっつも腹立つことばっかしくさって! 次会ったら覚えておきなさいよ!」

「心配しなくてもどうせお前の方が覚えちゃいねーよ。ま、そんなことはどうでもよくてだ。ロケット団の件、なんだかんだ言ってブルーには何度も助けられたからな。一応礼は言っとくぜ。今回は……お前のこと認めてやるよ。けどな、次会ったらバトルしてお前を倒してやる。覚悟しとけよ」

「グリーン……フフ、いいわよ! そっちこそ返り討ちにしてやるから首洗っときなさい」

「楽しみにしてるぜ。あ、そうそう、妖怪……あー、仙人のシショーにもよろしくな。オレは面食いのブルーのことだし、最初はイケメンにくっついているだけだと思っていたんだが、案外そういうわけでもなかったな。実際サカキを倒す程だし、ブルーにしては良い奴を見つけたみたいじゃん? そっちにも、首洗っとけって伝えておけよ」

 

 始めはグリーンに認められて嬉しそうだったが、後半を聞いて顔色を変えたな。まあ変わったのはブルーだけじゃないだろうが。

 

「ブルー、聞こえるか。おれからも一言。今度はバトルしよう。それと、裏組織のボスの例の人、師匠さんにもよろしく」

 

 プツッ

 

 裏組織?……何がどうなっているんだ?

 

「……」

「ブルー、言いたいことはあるか?」

「あのね、わたしシショーのことカッコイイなーって思ってるのよ?」

「そこじゃないだろ! それに心にもないことを言うな! 余計腹立つわ!」

 

 これはじっくりとお話しないとなぁ。

 

 問い質すと、こいつはあの手紙の内容を2人にも見せたらしい。そりゃあの発言も納得だ。仙人は行動予測をかなりしていたから。裏組織ってのはロケット団の内情に通じていたから、ということらしい。あれは一晩で仕上げたから深夜テンションでふざけ過ぎた。

 

 ルートは色々考えてあったが、全部の袋を見てかつそれをタマムシで全て見る一番ありそうと思っていたパターンを体験しているわけだ。つまり1番いらんことをあれこれ書いたパターンだ。

 

 弟子になったことも説明したそうだが、どんな反応が来たか気になって聞けば「別に」としか言わない。詳しく聞くと、この世界じゃそもそもトレーナーは弟子入りするのが珍しいことじゃないのでブルー達にとっては普通のことだという感覚らしい。さすがに年が近い相手に弟子入りするのはレアらしいが。ジムでも弟子がいるでしょと言われてそれもそうかと俺も納得してしまった。最初は俺もブルーにジムの弟子にでもなれって言ったしな。あれは思いつきだけど。

 

 その後はきつめに軽弾みなことはしないように注意した。さりげなく手紙の3枚目の冒頭に目配せしながら。当然ブルーはしょげ返った。言った後、久々だったので加減せずきつく言い過ぎたと思いしまったと思うが、ブルーは泣くこともなくただ反省しているだけのようだった。

 

「本当にごめんなさい。やっぱりマズかったわよね。これからはよく気を付けます」

「そうだな……。まぁ、見つかって仕方なく一緒に読んだという話だし、今回は仕方ない。俺も他人に見せるなとは言わなかったしな。ただ、これからは俺に関することは極力他人にしゃべるな。もちろん教えたことも含めてだ。出所を問われればお前も困るだろう」

「……わかったわ」

 

 いまさらだが、シルフ事件を通してブルーは雰囲気が落ち着いたように思える。壁を越えて大人になったということなのだろうか。以前のブルーだといつも泣いてばかりで困ることもあったが、それがなくなってしまうとそれはそれで寂しい。弟子の成長を素直に嬉しいとは思えないのは俺がダメな師匠だからなのかな。

 

 もう説教はやめよう。そういえば“約束”もしていたし、今回はブルーのお手柄だったわけだから、小言はこのぐらいにしてご褒美でもやろうか。何がいいか……普段しないことがいいな。

 

「十分反省したみたいだし、この話は終わり。ところで、約束のことは覚えているか?」

「ギクッ!(詮索したことバレたの!?)」

 

 なんで今こいつこんな反応したんだ? 後ろめたいことでもあるのか。問い詰めて……いや、今褒めてやろうと思ったところじゃないか。

 

「ハナダで最後にした約束。たしか、また会ったらいっぱい褒めてやる、という話だったが」

「あ、そっち……じゃなくてそれよ! わたし、あの後大変だったのよ! 手紙のおかげでなんとかなったけど、何回もヤバイことになって、それにすっごく頑張ったのよっ!」

「そうか。どんな感じだったんだ?」

「まずねー、いきなり暴走族100人斬りして、ゴウゾウを倒して、レッドに会って、ベトベターを倒しまくって、アジトに乗り込んで、サカキを追っ払って、工場に入ってレアコイルを捕まえて、それからヤマブキへ行ってシルフ潜入! もう立て続けで大変だったわ」

 

 やっぱりイベント引き寄せ体質なんだな。こっちとはえらい違いだ。俺はユーレイ捕まえたぐらいで何もしていないしな。

 

「お前を見てればわかったよ、トレーナーとしてずいぶん成長したことは。レアコイルも、捕まえてすぐなのに手元を離れても逃げたりせず懸命に使命を果たそうとしていたし、バトルの腕も相当上げただろ? 悪い奴らの扱いも手馴れてきているみたいだし、俺が期待した通り、やっぱり崖から突き落とすつもりでロケット団と戦わせたのは正解だったな」

「えぇ……あれってそういう意味だったのね。やっぱりシショーはこうなること全部わかってたんだ」

 

 ため息をつかれたが本当のことだから仕方ない。

 

「ブルー、おいで」

 

 俺はポケセン内の空いている椅子をポンポンと叩いて手招きした。ブルーは誘われるままその上に座った。

 

「今日だけ特別。ご褒美に髪をといてやるよ。本当に良く頑張ったからな」

「え! そんなことできるの? シショーって男なのに」

「ぶっちゃけ、けづくろいよりだいぶ簡単だから。これでお前もポケモンの気持ちがわかれば、その下手なけづくろいをそれなりに頑張ろうという気にもなるだろ」

 

 ブルーは下手過ぎてそういうことはしないからな。あげくに自分の髪の手入れも雑そうだし。そういうことには疎いというのがよくわかる。いつもだらし……勿体ないなぁと思っていた。

 

「まぁそうねぇ……頑張ろうと思うかはシショーの腕次第ね」

「はいはい。じっとしてろよ」

 

 始めは余裕でそんなことをのたまっていたが、すぐに表情が緩んだのが後ろからでもわかった。他人にしてもらうとこういうのはけっこう気持ちいい。ふわふわした感じになる。

 

「すごい、いいかもぉ」

「ずっと休みなしで大変なことばかりだったし、今はゆっくりしておけ。ブルーが期待通り頑張ってくれて俺も嬉しい。ブルーは俺の誇りだな」

「えっ、シショーにそんなこと言われるなんて。お世辞とかじゃないのよね?」

「当たり前だろ?」

「ゆ、夢なのね、ここはユメ……」

 

 意識が別のところにいってしまったな。

 

 ◆

 

「ブルー、おい、終わったぞ」

「……ふえ、もう? は、早過ぎよ。もっとゆっくり、丁寧にしてよっ」

「丁寧にって……もうだいぶ時間経ってるけど? それに自分の髪を触ってみろ。もうサラサラでキレイだろ?」

 

 手入れも終わり、ブルーに確かめさせるとえらく驚いたようで目を丸くしている。

 

「ホントだっ。めっちゃサラサラじゃないの! シショー、わたしよりすごいわよ!」

「そりゃお前はからっきしだからなぁ。これで頑張る気になったか?」

「……わたし、トレーナーよりもポケモンが良かったかも。わたしがポケモンだったらシショーに自分から捕まっちゃうわね」

 

 え、自分から捕まるって、要するに捕まえるまでずっとついてくるってことだよな。完全に発想がストーカーのそれじゃん。やっぱり根っこがストーカーなんだろうな。

 

「お前変なこと言うなよ。なんかポケモンになったブルーがずっと俺にゲットされようとしてストーカーしてくるところがありありと思い浮かんでイヤなものを想像してしまった」

「むっ! なんでそうなるのよ、いじわるー! ……あっ! あの、それはそれとして、1つお願いがあるんだけど…」

 

 このタイミングでってことは間違いなくもう1回してくれってことだろうな。さすがに何回もする気はないし、そもそも自分でやる意識を高めるためにやってるのにいつも俺がやっていたら意味がない。

 

「ダメ。今日の1回だけだ。ご褒美だから特別って言っただろう」

「ま、まだなんにも言ってないでしょっ!?」

「でも、合ってるんだろ?」

「くっ……別にいいでしょ。1日……いや、1週間に1回とかでもいいから!」

「ダメなものはダメ。いつもはポケモンのけづくろいとかで忙しいから」

「ううー!! シショーのけちんぼっ!!」

 

 そのままいつぞやと同じように振り返らないで走り出してしまった。そういうところは変わっていない。髪をとくことぐらいであんなに怒るなんてびっくりだが、それだけ良かったということなのかもしれない。

 

 まさかお礼を言われるならともかく、逆に怒られることになるとは思わなかった。たまになら少しぐらいしてあげても良かったかな。……たぶん、今日はまた部屋にこもるだろうな。あいつ怒ったらいっつも自分の空間に引きこもるし。

 




さすがに問題になったマスターボールをポンと渡すことはしません
太っ腹とか以前の問題ですので

メタルコートは何する気かわかりますか?
世間に効果を知らしめれば一気に高騰しますが、問題は知らしめる方法ですね。
レインにはブルーがいるんですよね……(ニッコリ)
コネって大事


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4.人を見るにはポケモンを見よ

 もう、シショーのわからずや! あーあ、冗談抜きでわたしもポケモンが良かったかも。イナズマちゃんには毎日しびれるのも構わず抱っこしたりするくせに、わたしに対してはいつも厳しい。もう少しポケモンに向けているものをわたしの方にも分けてほしい。

 

 なんとなくあの場を離れて自分の部屋にこもってしまった。今日はもうシショーの顔は見たくない。

 

「ホントにもう! 毎日ちょっと髪をといてくれるぐらい別にいいじゃない! なんでダメなのよ! しかもしてほしいことをわかっていて先回りして断るなんて、性格悪過ぎよ! ありえないわ!」

(ブルー、気を静めて。私で良ければ一緒にいますよ)

 

 わたしの言葉に反応してボールからラーちゃんが出てきてくれた。自分から慰めようとしてくれるなんて、あの人とは大違いね。ラーちゃんはいつもわたしのことを最優先で気にかけてくれている。

 

「ラーちゃんっ! ありがと、やっぱりわたしの味方はあなただけよ。あのオタンコナスとは大違いだわっ! ラーちゃんも、あの人はわからずやのけちんぼだからそこには気を付けてね。けっこうお金稼ぎとかには目聡くて妥協しないし、守銭奴よ、あれは」

(ブルー、本人がいないところではズバズバとものを言うのですね)

「いいのよ、本当のことだもん。それはそうと、この前は社長さんへのアピール手伝ってくれてありがとね。一時はどうなるかと思ったけどちゃんとお許しが出て良かったわ。ラーちゃん迫真の演技で社長さんも1発オーケーだもんね。びっくりしちゃった」

 

 自分の欲しいものにラプラスを挙げた際、社長さんは最初悩んでいた。けどラーちゃんが機転を利かせてボールから出てきてわたしに必死に抱きつき、かなり懐いているところを見せるとすぐに快諾してくれた。賢いラーちゃんだからこそのファインプレー。感心しちゃった。

 

(いいえ。お礼を言うのは私の方ですよ。ブルーには私が頼んだのですから、この程度の協力は当然のことです。それにあなたを慕っているのはお芝居じゃありません。あの時の行動はあなたと別れたくない一心でしたこと。紛れもない私の本心。社長さんはそのことに気づいていたからこそすぐに了承して下さったのですよ)

 

 そう言ってまた抱き着いてきた。ホントにわたしのこと好きなんだ。もちろん最初に会った時もそのことは感じていたし、わかっているつもりだったけど、こうして言葉にされるとやっぱりものすごく嬉しい。シショーもこれぐらいわかりやすければなぁ。

 

 わたしはそのまましっかり抱きしめたままラーちゃんと色々しゃべりこんでしまった。ヒンヤリして気持ちいいのでついつい頬ずりしてしまう。ポケモンとしゃべれることも新鮮でやめられない。

 

「他の仲間とは上手くやれそう?」

(フーちゃん達とは話をしました。皆主人思いの良い方です。ブルーの話もたくさん聞けて楽しかったですよ。仲良くできそうで安心しました)

「え、ポケモン同士ってどんなこと話すのっ!? 気になるっ!」

(別に大したことじゃないですよ。私がブルーのことを教えてほしいと言ったのであなたの話ばかりです。ブルーは全員からこの上なく慕われているので、私の方まで幸せな気持ちになりました。ブルーのことは思いやりがあって優しいだけでなく、最近は頼もしくなってきたと口をそろえて皆さんおっしゃっていました。皆あなたを信頼しています。もちろん私も含めて、ですが)

 

 うわぁ、ポケモンから直接こんなこと言ってもらえるなんて夢みたい。今まで大変なこともあったけど頑張って育ててきて本当に良かった。きっと世界でわたしだけでしょうね、ポケモンからこんなこと言われるなんて。ものすごく幸せ。……やっぱりわたしトレーナーで良かったぁ。これからも今まで以上に頑張ってラーちゃん達に好きになってもらおう。

 

「ほんとにっ! ありがとぉ。よかったぁ。やっぱり気になるもんね。なんか陰口とか言われてたらヤだし……あはは」

(何を言っているんですかっ。ブルー程素晴らしいトレーナーは他にいませんよ!)

 

 照れちゃってこんなことを言ってもラーちゃんは本気でわたしを褒めてくれる。でもわたしの方がラーちゃんに助けられているからむずがゆい。

 

「でもさ、わたしってずっと頼りなかったから皆にはずっと迷惑ばっかりかけているし、この前だってあなた達に何度もかばわれて……」

(私は嬉しかったですよ、あなたのために戦うことができて。それにほらっ、あの時のキズはこの通り、もう完全に治っています。あなたが気にすることではありません。あなたの堂々とした戦いぶりには私も惚れ惚れしました)

「えへへ、そうだった? じつはわたしもようやく実力がついて皆をちゃんとリードしてあげられるようになれて本当に嬉しくてすごく楽しいの。まぁ、ほとんどシショーのおかげだけどね」

 

 ラーちゃんを撫でながら言うと、シショーという言葉に反応した。

 

(あのレインという人ですね。その話もフーちゃん達から聞きました。一度コテンパンにされたあと師事したとか。ブルーはかなり恩を感じているようですが、あれには気を付けた方が良いです。平然と人を騙すようなことを言い、腹の中では何を考えているかわかったものではありません。先日の件もマスターボールはいらないと言いながら、あれは本当は機があればかっさらう魂胆でしたよ。油断ならない悪の手先です)

「よく見ているわね。たしかにそれはわたしも思ったし、昔もっとひどいことをしているのも何度も見聞きしたわ。でもね、あなたは心配し過ぎよ。わたしには甘いし、基本はいい人だから。いっつも厳しいけど、わたしが……その、ちょっと泣いたりするとすぐに優しくなるの。実はちょっと嬉しくてそれですぐに泣いちゃってたところもあるんだけどね、えへへ。だから大丈夫よ。涙は女の武器だから。あなたって心配性過ぎるのよ」

 

 シショー嫌われてるなぁ。むしろラーちゃんはわたしのことを心配し過ぎて嫌いになっているのかな。泣いちゃうのは今はもうマシだけど、どうしても気づいたら涙が出てしまうのよね。そのあと我慢すれば声は抑えられるけどいつも甘えてシショーにそのまま泣きついてしまう。今思い出すとものすごく恥ずかしい。

 

(ブルーを泣かせたら誰であろうと氷漬けにします。私のような人前にあまり出ない種族のポケモンは総じて警戒心が高いものです。私だけに限ったことではありません。それに私は人の悪しき部分を今まで何度も見てきた。だからああいうことを平気でする手合いは信用できない。ブルーもいつかひどい目に合うかもしれない)

 

 うわぁ、ラーちゃん目が本気だ。いつかシショーがあの研究員みたいに氷の彫像にされそうでシャレになんないわ。一応そんなことしないように釘をさしておかないと。イメージ通りラーちゃんって用心深いのね。

 

「わたしが困るからシショーは氷漬けにしないでね。その点に関しては大丈夫よ。むしろ、わたしは一度体を張ってシショーに助けられているから。あの時シショーは死んでも助けるって言って本当に死にかけたんだから。それに人見知りなのかわからないけど、初対面にはキツイ対応をする反面、身内にはだだ甘だから。なにより手持ちのポケモンからは絶大な信頼を寄せられているわ。こっちが羨ましくなるぐらいなの。きっとグレンちゃん達と話せば考えも変わるわよ。ほら、よく言うでしょ? 人を見るにはポケモンを見よ、さすれば汝の為人(ひととなり)を知れんって。そうだ! 明日、シショーがけづくろいするところを一緒に見に行きましょう。顔見せのためって言えば大丈夫だと思うわ」

(わかりました。そこでレインの心根が曲がっていないか見極めます)

 

 なぜかシショーの調査をするという結論でおしゃべりは終わった。それに最初はわたしがシショーの文句を言い始めてそれをラーちゃんが聞いていたのに、なぜか最終的にはわたしの方がシショーの弁護をしていた。まさか、ラーちゃんがわざとそうなるように仕向けた? いや、本気で毛嫌いしているように見えるしそれはないか。お気に召さなかったら明日本当に氷漬けにしそうで怖い。お願いだからシショー、もう悪いこと考えたりしないでよ?

 

 ◆

 

 次の日、予想通り顔見せしたいと言うとすぐに了解してくれた。シショーも一度わたしの追加メンバーをちゃんと見ておきたかったらしい。

 

「まさかお互い一気に手持ちが増えるとはな。やっぱ1人旅じゃないと捕まえる暇も機会もないのかな。特にお前の場合手持ちが著しくレベルアップしている。そして新入りはすでにかなり懐いている。普通じゃありえないからな?」

 

 グレンちゃんにブラシをかけながらそう言った。普通じゃないって言うけどそれってほとんどブーメランじゃないの? シショーの方こそ自覚なさそう。

 

「わたし達はいっぺんに何十匹も相手するような状況ばっかりだったからねー。イヤでも強くなるわよ。むしろシショーの方がどうやってレベル上げてきたのかフシギー。わたしよりもよっぽどレベル高くなってない?」

「聞きたいのはわかるがこっちのことは置いておこう。それよりもお前の新入りの2体、そいつらが懐いているのはやっぱり気になる。レアコイルは無機質系だから懐かせるのは大変そうに思えるんだがものすごく忠誠心が高いし、なによりそのラプラス。シルフの社員にもらったわけじゃないなら人間のことはかなり警戒心が高いはずだろうし、実際さっきから俺のことはかなりピリピリ警戒している。なのになんでお前にはそんなに懐くんだ? なんかあったのか?」

(鋭い。警戒心は表にしないように気を付けていたのに)

「あはは、なんでだろう。わたしってどうしてか懐かれやすいもんね」

「ほんとにお前が羨ましいな。俺なんかなんにもしていないのに娘をとられた母親みたいな目つきで睨まれるし。おいイナズマ、なんで嫌われているか聞いてくれないか?」

(ラーちゃん、そんな気持ちでシショーのこと見てたの!?)

(ご、誤解です。それより、なんでこの者はイナズマさんにこんなことを聞くんですか?)

(自分のポケモンならだいたい言いたいことがわかるらしいわ)

(本当に? では波長が合っているのですね。懐かれているのは本当のようです)

 

 波長ってなんのことだろう。そういえば最初に会った時もそんなことをラーちゃんが言っていた気がする。ちょっと気になるなー。

 

「ほう、人を騙したりするロケット団のような悪人は嫌いだ、と言っていたのか。まさかそいつロケット団に密漁されたのか? それを助けたからブルーは好きだと。しかも俺にそういう評価ってことはボールからずっと俺を見て観察していたことになる。もしかして俺が思っていた数倍賢いんじゃないか? その上でブルーのために悪人と判断した俺を警戒している、と。それなら警戒心MAXなのも納得だな。やっぱりここまで警戒するには訳があるよなぁ」

 

 ラーちゃんなんでそんなことしゃべっちゃってるのよ! ラーちゃんに聞くとさっきすでにしゃべってしまっていたらしい。間が悪い。

 

「ほ、ほんとにラーちゃんはシショーのこと警戒しているの? そうは見えないわよ?」

「表面上はな。だけど顔を見ればなんとなくわかるんだよ。なぁブルー。このラプラスを見ていて、何かいつもと変わったこととかなかったか? なんか聞こえたとか」

「……別に、特にないわよ?」

「本当に? これだけ懐かれていれば何かあっても良さそうだが。おい、ラプラス、お前本当になんにもしていないのか?」

「……ラー」

 

 わたしがとぼけてみてもブレない。ラーちゃんにまで確認しているし、何か確信があるのね。なんでこういう妙なところで異様に鋭いのかしら。

 

「そうか。……今はまだわからないか。じゃ、ラプラスにこれだけは言っておく。俺はブルーに危害を加えるようなことは絶対にしないから、今はいったん俺を信じてくれ。それでいいか?」

「ラー」

「ありがとう。じゃ、仲直りの印にこれをやるよ。食べてみろ、おいしいから」

 

 あれは高級きのみ! ラーちゃんちょっと嬉しそうに食べている。若干警戒が薄れている気がする。息を吐くようにして好感度を上げにきたわね。改めてそのポケモンを手懐ける手腕には感心させられる。やっぱりシショーはワルね。あれは悪の手口だわ。

 

 食べ終わってからテレパシーでシショーには聞こえないようにして餌付けされていることをラーちゃんに伝えた。テレパシーはラーちゃんの力でわたしの方から送ることもできるし、対象を特定することもできる。

 

(ラーちゃん、さりげなく餌付けされているわよ)

(はっ!? 私としたことが。あれがあの男の手口なのですね。気を取り直して、続けてグレンさん達に聞き込みを始めます)

(あ、どんな話をしたか後でわたしにも聞かせてね)

(わかりました。楽しみにしていてください)

 

 ラーちゃんのおかげで色々聞けそうね。これは楽しみが増えた。それに久々にシショーとずっと一緒にいられるし、もう言うことなしね。なんだかんだ久々にこうして会えたのだし、嬉しいことには変わりない。

 

「じゃ、シショー今日はどうするの? もう技の練習とかも終わったんでしょ? わたしは早いところジム戦をしてあいつらに追いつきたいんだけど」

「まぁ待て。先に街を回って、そのあとジムだな」

「仕方ないわね。付き合ってあげるわよ」

 

 シショーといられるならゆっくり町を見て回るのもいいわね。ボールの中からでもラーちゃんの声は聞こえるし、いっぺんに楽しい仲間が周りに増えてこれからも楽しい旅になりそうね。

 




タイトルのやつは勝手に作りました
この世界だけの故事成語みたいなイメージです
こういう言葉があってもおかしくはないですよね
意味の予測はつくでしょうがちゃんとそのうち本編で説明されます


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5.恐怖再来! 負け即人形!? 超能力を見極めろ!

作者のトラウマナツメ登場
アニメのヤバナツメのインパクトが強過ぎてそのイメージでしか書けず、この人だけ完全にゲームのキャラとかけ離れてます
「たたかうの すき じゃない けど」ってこれ誰ですか?

ポケモンのデータ中の「@メタルコート」は持ち物がメタルコートという意味です
メタルコートが道具なのでまあわかるとは思いますが補足しておきます



 さて、ブルーと一緒にいるのも懐かしい気分だが、落ち着いたところでさっそく町へ出て主要な場所をグルっと見て回ろう。

 

 まずは格闘道場に足を運び道場破り。ユーレイを使うと簡単に完封できた。基本ノーマル技とかくとう技しか使わないからな。ポケモンはもうレッドとグリーンに2体とも持っていかれていた。この短期間で何度も看板を持っていかれそうになっていることを思えばなかなか災難だな。ほしいものもないし経験値稼ぎにはなったから珍しく何も取らず許してあげた。

 

 次はモノマネむすめも見に行き、技を見せてもらった。ものまね芸もついでに見た……というか見せられた。異様に腹の立つものまねでブルーが爆笑しただけだったが。

 

 最後に……ナツメの親父さんに会ってナツメについて情報収集をすることにした。

 

 そう、思い出すのはタマムシを脱出する前の頃。俺は昔一度ヤマブキに来た際にナツメに見つかりイヤな言葉を残されている。エスパーはどうしても少し、いや結構、むしろかなり……苦手なんだよな。だからこそ先に情報を仕入れて対策を打つ。

 

「はっきりという あいつは 強過ぎる もうダメだ 私の手には 負えない」

「……」

「お父さんでもどうにもできない異端児って噂は本当なのね。ちょっと怖い」

 

 ナツメ、お前ミュウツーみたいなこと言われているぞ。ほぼセリフそのままだろ。むしろナツメがミュウツーなんじゃないか? ……今すごい説が爆誕したな。

 

 結局エスパー親父はなんの役にも立たなかったので、腹を括ってやけくそでジムに乗り込んだ。

 

「おーい、ジム戦に来た。誰か……いないな」

 

 どういうわけか中は無人。しかも受付すらない。人がいないとかではなく受付そのものがない。ここほんとにジムだよな? 看板にはたしかにエスパー少女ナツメ、と書いてあったはずだし。

 

「どういうことなのこれ?」

「おかしい。エスパーだから本人が待ち構えているパターンまでありえると踏んでいたんだが。逆になんもないとそれはそれで何かありそうで怖いな。あなたの来る予感は3年前からあったのよ、ぐらいは言われる展開を期待していたが、当てが外れたな」

「そのセリフ、なんかエスパーなら本当に言いそうな気がするわ」

 

 まあ本当に言うセリフだからな。全く、こっちは散々警戒していたのに肩透かしで気が抜けた。

 

「当てが外れて悪かったわね」

 

 油断していたら図ったようなタイミングでいきなり背後に気配が!

 

「出たぁ!?」

「げえぇぇ!!」

「失礼ね。ゴーストポケモンを見たような声を出さないで。私がナツメよ。ついてきなさい」

 

 むしろゴーストタイプ(ユーレイ)みたいな声が出たわ! 気を抜いた途端出てこなくてもいいだろ。マジで心臓に悪い。

 

 前を行くナツメは淡々と歩いて何も言わず奥に向かって歩いている。フィールドへの道中なんか言われるかと思ったが何も無いな。前は気分が悪くなったし、ここに来るにあたってそのこともだいぶ警戒していたが特に調子も悪くはならず取り越し苦労だったか。

 

 ……と思ったタイミングでナツメが急に振り返って口を開いた。なんでそう一々こっちが気を緩めた瞬間瞬間を狙い撃ちしてくるんだ。

 

「やっぱり……あなたはここに来たわね。ここに来る時刻を予知できなかったのはあなたが初めてよ。思った通り、あなたは普通じゃない。久々に面白い人間を見つけた。期待しているわ。ちゃんと私を楽しませてね」

 

 “やっぱり”と言っているから完全に顔を覚えられていたようだな。もう忘れとけよ! ジムって毎日いくらでもトレーナーが来ているんじゃないのか?

 

「やっぱりバレてるか。忘れろよな」

「あれ、シショーナツメさんと知り合いなの?」

「いいや、一度一方的に絡まれたことがあるだけだ」

「私はずっと待っていたわ。あなたのようなオーラは見たことないもの。なんでも先のことが分かってしまうのにも退屈していたし。ねぇ、前も聞いたけどあなた何者? やっぱりただの人間とは思えない。実はポケモンだったりとかじゃないの?」

「ええっ! ここにきてシショー実はポケモン説が出るの!?」

 

 適当に言っているだけなのだろうが、なんとなく外し方がイヤな感じだな。下手したら俺がこの世界の住人とは違うことに気づくんじゃないか、こいつ。聞かれたらその時点でウソが言えないから詰むのが怖い。やっぱこいつマジもんのエスパーだな。ほんとに勘弁してくれ。

 

 それにさっき、ここに来る時刻が~と言っていたから、チャレンジャーがいつここに来るか分刻み、あるいは秒刻みでわかるんだろうな。

 

「なるほど。予知できるから受け付けもなしか。いつもは自分でチャレンジャーを出迎えて、そのまま対戦すると。弟子も居ないのか?」

「そんなの居ても仕方ないでしょう? 予知能力のある私なら1人で十分なんだから。さ、着いたわ。どっちから来るの?」

「シショー、ここは私から行かせて。ランクは7にして」

「いいわ。じゃ、使用ポケモンは2体。審判は私自身がする」

 

 さりげにランク7にはノーリアクションか。しかも審判なしと来た。

 

「え、それってどうなの?」

「審判は不要でしょう? 私にはポケモンの状態がハッキリわかるから」

 

 そういう問題じゃないだろ。こいつ、性格が抜き身過ぎる。こういうところが異端児と言われる所以なのだろうな。

 

「まあいいや、それじゃいくわよ! レーちゃん!」

「ヤドラン」

 

 ヤドラン Lv40 ひかえめ

 個 10-2-27-31-31-1

 努 0-0-0-252-252-4

 

 レアコイル Lv32 アナライズ

 実 104-47-69-122-58-48

 技 10まんボルト 

   でんじは 

   かみなり  

   でんじほう  

   ソニックブーム 

   きんぞくおん 

 

 相性はいいな。……そういえばヤドランはハナダでも見たな。ジムのポケモンがダブっているのはいいのか? ナツメの場合尋ねてみても他人の事なんか我関せずって感じの答えを返してきそう。

 

「10まんボルト」

「……」

 

 ナツメは何の指示もしないがヤドランはいきなり“サイコキネシス”を繰りだした。技は相殺。それを見てブルーが一言。

 

「シショーみたいに悟らせないタイプか。ならまずは先に“でんじは”よ!」

 

 いやいやいやっ!! ちょっと待て!!

 

 ちょっとブルーさん、なんでそんなあっさり受け容れてんの?! 俺のせいなのは間違いないだろうけど、その俺でも物凄く驚いている。こんなに冷静に対応できるのはさすがにブルーだけだろう。慣れってすごいな。

 

 ナツメは合図している様子すらないから、おそらくテレパシーを使っているとかそういうオチだな。こりゃ反則染みているぞ。だが攻め方は単調。ずっと“サイコキネシス”を連打するだけ。レアコイルはダメージを負うもののしっかり受けきって“でんじは”で相手をまひさせた。

 

 基本的にブルーは“サイコキネシス”を全て“10まんボルト”で受けて、後はしびれた分だけターンができて順当にブルーが勝った。ずいぶんあっさりした内容だな。

 

「ふーん。それなりにやるわね。次はフーディンよ」

 

 フーディン Lv41 ひかえめ

 個 4-6-7-31-31-26

 努 0-0-0-252-252-6

 

 こいつ……さっきのヤドランもだが、何気に特攻と特防の個体値がVだ。しかもそこを狙ったかのように極振り。ここまで完璧な育成は初めて見たな。2連続となればまぐれでもなさそうだし、振り方そのものはあれだが努力値の効率は最高。この世界で間違いなく最も良い育て方をされている。

 

 特殊に拘るのはエスパーだから特殊能力を高めたのか? あるいは“めいそう”が関係しているとか? いや、もしかすると偶然の産物で狙ったわけではない、ということもあるか。偏った相手とばかり戦闘すればこうなるからな。戦い方自体はエスパーのくせに攻撃一辺倒のノーキンだし、ナツメがこのシステムに気づけるわけもないか。

 

 だがタケシの例もあるしジムリーダークラスなら育成に近いことをしているパターンもあるのかも。驚いたが、これからはこの程度はありえるものと思っておく方が動揺もしないか。チャンピオンぐらい簡単になれると高を括っていたが、俺の考える程甘い世界でもないらしい。

 

 ……

 

 ここまでしっかりした育成を見るのは初めてだったのもあり、あれこれ努力値振りについて考えこんでいると勝負中のはずのブルーから声をかけられた。

 

「ねぇシショー、みたみた? とうとうピーちゃんまでピジョットに進化したのよ! もうわたしのパーティーすごくない?!」

「……ん、そうだな。けど、相手が攻撃一辺倒じゃなきゃこうはいかないから、まだ……」

「フフ、オーラが乱れているわよ。何食わぬ顔で答えているけど、あなた今試合見てなかったわね」

「え、ウソでしょ!? シショーひっどーい。久々にシショーの前だから張り切ったのに! そんなんだったらわたしも応援してあげないからね!」

「そういやエスパーにはウソがバレるんだったか。ちなみになんなんだそのオーラって」

 

 今日初めてウソを言ったがすぐに指摘された。演技は悪くなかったはずなのに……恐ろしい能力だな。ブルーは俺の方を見ないでむくれたまま観客席に上がった。……褒めてほしかったんだろうな。

 

「あんたみたいな人間に言ったところでわかりはしないわ。私はムダなことはしない主義なの。そんなことよりさっさとリングに上がりなさい」

「さっさと始めて、シショーなんか負けちゃえばいいのよ!」

 

 ブルーはまだ観客席でも怒っているが、まさかこんなに早く決着がつくとは思いもしなかったんだから仕方ないだろ。進化まで見逃したことは完全に不覚としか言いようがないが。

 

 ……いや、ナツメがわざと手を抜いたのかもしれないな。最初少し見た感じではあっさりし過ぎていた。どうにもナツメは俺とのバトルにご執心らしい。こんなヤバそうな奴に目をつけられるとはな。別に普段の行いは悪くないのに。

 

 オーラについては以前も聞いた気がするし、出来たら教えてもらいたかったがこいつには聞くだけムダだろうな。さっきの物言いは若干イラッと来たが。

 

 ランクは7に上げたいがそれは現在戦闘不能になっている。6で我慢しておくか。

 

「ランク7……は無理だろうからランク6でやってくれ」

「遠慮はいらないわ。ランク8のフルバトルで戦ってあげる。あなたいつもランクを最大にしているでしょう? 私も全力でやってみたいと思っていたの。いつもつまらない勝負ばかりだから。これでもあなたにはものすごく期待しているの。楽しませてもらうわ」

「なるほど、さすがエスパーだな。ランクを変えることまで予測済みか」

「勘違いしているわね。これはエリカ達から聞きだしたの。あなた、あの時タマムシへ向かっていたでしょう? どうせいつもランクを上げているのなら最初からランク8まで上げればお互いWin-Winじゃない?」

 

 わざわざ行き先を考えて聞き出したのはホントに俺の予知ができないからと見るべきか。そこが唯一の救いだな。

 

「規則ではランクは上限が7までらしいがいいのか?」

「そんなつまらない規則どうでもいい。私は自分の力を高め、自分に足りないものを探し、エスパーの技を極めるためにわざわざ面倒なジムリーダーの仕事をしている。なのに、ランク8でここに挑戦に来るのはやわなトレーナーとポケモンばかり……しかも負けたら最後、二度と誰もこない。最近じゃ低ランクの相手ばかりでつまらなかったの。あなたはどうかしら? まぐれでもいいから、私が本気を出しても大丈夫だと嬉しいのだけど」

 

 何か所々どっかで聞いたようなセリフだな。ジムリーダーにも色々いるが、ここまでハッキリと自己中心的な奴は初めて見た。完全にバトルジャンキー。逆に清々しいぐらいだ。もちろん、チャレンジャーとしては迷惑この上ないだろうが。

 

「異端児って噂は本当のようだな。規則破り上等、トレーナーは全員再起不能か。なあ、もし俺が勝てなかったらランクを下げてもいいのか?」

 

 本物のバトルジャンキーがどんな反応をするか一度見てみたくて興味本位で言ってみた。しかし俺はすぐにこの発言を後悔した。

 

「は? どういうつもり? まさか怖気づいたの? ……失望させないで。いまさら遅い。もうランク8以外での挑戦は認めない。勝つまでやれ。試合放棄すれば人形にしてやる」

「え……」

「ナツメさん、シショーと同じぐらいこわぁぁ」

 

 人形……ナツメ……ものすごくイヤなことを思い出した。まさかこいつも人間を人形に変えることができるのか……。そうなればもう助からない。ずっとこいつのおもちゃにされる。

 

 まるでかなしばりにあったかのように体が動かない。これはエスパーの力じゃない。恐怖で体が竦んでいるんだ……!

 

 何も言わなくなった俺を見てナツメは語気を強めた。

 

「どういうつもり? 黙ってないで何か言いなさい。まさか本当に試合放棄するつもり? なんなら今あなたを操り人形にしてあげましょうか? 冗談で言ってるわけじゃないからね。私ならサイコキネシスでその程度造作もないわよ」

「あ、そういう意味か」

 

 人形って、操り人形かよ! 紛らわしい! 脅かすなよ! 第一、人を無機物に変えるなんて簡単にできるわけないんだ。さっきはどうかしていた。

 

 だいたい昔の記憶に囚われるなんて愚か過ぎる。今目の前にあるもの、それだけが俺にとっての真実。それ以外は所詮幻に過ぎない。ナツメの言葉も、単なる脅しなら何も怖くない。

 

 気持ちが弱気ではダメだ。あの頃を思い出せ……負け即人生終了の絶望的な戦いの連続。あの頃の感覚を呼び起こすんだ。今回は本当に藪をつついて何とやら、余計なこと聞いてしまった。だがこれでもう臆した気持ちは吹っ切れた。あの頃のように、命を懸ける覚悟でエスパーを倒す。

 

「は? なにか言ったかしら?」

「……ナツメ、俺は逃げも隠れもしねぇ。ここでお前を倒して、エスパー恐るるに足らずって証明してやる! 俺が負けたら操り人形でもなんでも好きにしな!」

「あら、今度は一転して威勢がいいわね。さっきまで臆して体が動かないのかと思ったけど、案外根性はあるようね。まぁ、始めから期待外れな結果ならタダではすまさないつもりだったけど。あなたがどの程度持ちこたえられるか、見せてもらおうかしら」

 

 まさに絶対零度の視線。言葉にも棘がある。次に下手なこと言えばどうなるか……。一応俺はまだランク8にしてくれとすら言ってないはずだが、勝手に強制される流れだし……。

 

 だがこれでいい。楽に勝とうなんて気はサラサラない。上から目線のこいつを地べたに這いつくばらせてやる。

 

「上等! ランクも8で結構。今のはお前の反応を試しに見たかっただけだ。それに、俺は微塵も負けるとは思ってない。お前に膝を着かせて参りましたと言わせてやるよ」

「ふーん。ウソ……ではないわね。本当の私に対峙した人間は皆恐怖で身が竦むか逃げ出すかのどちらかなのだけど、心の底から勝つ気でいるトレーナーはあなたが初めてよ。やはりいいものを見つけた。……さぁ、早くボールを出しなさい。さっきと同じ、審判はなしよ」

「いいぜ、俺も審判はいらないと思っているクチだしな」

 

 合図なしで同時にポケモンをくりだした。

 

「バリヤード」

「頼んだグレン」

 

 グレン Lv37 

 実 123-121-72-87-63-121

 技 1かえんほうしゃ 

   2かえんぐるま 

   3しんそく 

   4かみなりのキバ 

   5まもる

   6みがわり 

   7オーバーヒート 

   8こうそくいどう 

   9ひのこ 

  10おにび

 

 バリヤード Lv46 ひかえめ

 個 4-6-5-31-31-24

 努 0-0-0-252-252-6

 実 94-49-67-154-158-91

 

「恐ろしいな」

「何を驚いているの? ランク8なのだからレベルが高いのは当然でしょう?」

「レベルじゃなくて特殊能力の高さに感心したんだ……マジに全員最高なのか」

「サイコパワーのこと? 私はその力を最大限に高める修行をしている。私の育てたポケモンはすべて限界までサイコパワーを高めてあるわ」

「偶然ではなさそうだな。とすると、間違いなくあんたが最強のエスパー使いだ。こんな芸当を狙ってできる奴は初めて見た」

 

 タケシも防御に極振りはしていたが個体値はVじゃなかった。それに全員が個体値Vとなるとゲットのほうの腕もヤバいな。こいつが排他的な人間じゃなきゃ育成ノウハウが何百年分も進む革命が起きていただろう。

 

「あなた、ちゃんとサイコパワーがわかっているの? まさかあなたもサイコトレーナーなのかしら。……まぁどうでもいいわ。始めるわよ。このコインが落ちたら開始よ。いいわね」

「その方法で構わないが、それが落ちるタイミングを超能力で変えたりできないのか?」

「もちろんできるわ。でもそんなつまらないこと私がするわけないんだから、問題ないでしょ」

 

 こいつ性格が抜き身過ぎる。ウソは言えないのが当たり前っていう感覚が根付いているのか、本気でそう思っているのか。いずれにせよ、こんな性格じゃ周りとの軋轢は避けられないだろうな。

 

「……軽い冗談みたいなもんだ。本当にできるとは思わなかったが」

「そう」

 

 短く答えるとすぐにコイントスをした。開始の一言もなしとは、ムダなことは徹底的にしないらしい。ピン、とコインが弾かれて、ゆっくりと地面に落ちた。

 

「6」

「……」

 

 空気が歪んだと思ったらもう“みがわり”が消えていた。技の出が早い! しかも攻撃が見えない?!

 

「なにっ!?」

 

 驚いているうちにすぐ2発目が当たって壁と激突、戦闘不能になった。さっきの試合では“サイコキネシス”は可視光線だったが、消すこともできるのか。厄介だな。

 

 このジムは“サイコキネシス”を研究しているというわけか。たしかもらえるわざマシンは“めいそう”だった気がしたが鍛えようがないからこっちを鍛えているのかもしれない。

 

「うそっ! グレンちゃんが何もできずにやられるところなんて初めて見た!」

「ふぅ、大したことないわね。やっぱりしょせんはその程度なのかしら」

「言ってくれるな。こんな初見殺しかましといてよく言うぜ……。一応言っとくが、二度は同じ手はくわない」

「そうでないと困るわ。簡単に潰れないでね?」

 

 よほど期待されているらしいな。今のも俺を試すためにわざと挑発している感じだ。あっちはまだまだ余裕みたいだが、あぐらをかいていると勝負は一瞬で決まるぞ?

 

 ここはさっさと切り札を出したいところではあるが、勝ち急ぐと自滅する。俺はここまでまだ相手の手の内をほとんど見れていない。ならば確実に勝ちにいくなら少しだけ様子見しておくか。こいつは何してくるかわからない怖さがあるし。

 

 この勝負、“サイコキネシス”の見極めが勝敗をわける。トレーナーの腕の見せ所ってわけだ。

 

「いけ、ユーレイ」

 

 ユーレイ Lv30 

 実 83-51-48-122-45-99

 技 1シャドーボール

   210まんボルト

   3きあいだま

   4さいみんじゅつ

   5まもる

   6みがわり

   7あやしいひかり

   8みちづれ

 

「出た、シショーのネーミングセンス」

「ゴーストタイプ! 幽霊ポケモンを使うなんて、面白いじゃない……!」

 

 こいつ、若干イヤそうに見えるなぁ。やはりゴーストは弱点だし、苦手意識はあるのかもしれない。あとそこの外野、聞こえてるぞ。

 

「……」

 

 これだ。技が来た! 

 

「下へ、6,1」

 

 今の感じ……俺の考えが正しければ、やはり“サイコキネシス”にも弱点はあるな。もう少し検証するか。

 

 地面に潜って撹乱しながら隙をみて地上に上がり“みがわり”を張り、それを盾にして無理やり“シャドーボール”を叩き込んだ。バリヤードはうまく“ねんりき”を自分にかけて軟着陸したが、その間に張り直し、また同じ手で攻撃を当て気絶させた。

 

 さすがに“みがわり”を地中で使うことはできないが、すり抜けを使えば隙を作ることはそこまで難しくない。ユーレイにはこの戦術がかなりマッチしており、自分より遅い相手ならほぼ“みがわり”だけで勝てる。

 

「どういうこと? ……攻撃がちゃんと通らない。何をしたの? ゴーストお得意の小細工?」

「どうした、一体やられただけでえらく余裕がないな。次は何で来るんだ?」

「……いいわ、今度は全力で叩き潰して壊してあげる。次はこれでどう?」

「ジュワッ!」

 

 ここに来てスターミーか。割とガチなポケモンが来たな。能力も高い。一旦様子見しておいて正解だったか。こいつの手持ちはフーディン使ってたの以外はモルフォンぐらいしか覚えていないが、こんなの絶対に使ってないだろ。エスパータイプがついていればなんでもアリなのか? 

 

 スターミー Lv45 ひかえめ 

 個 10-0-4-31-31-28 

 努 0-0-0-252-252-6

 実 113-64-83-150-123-122

 

 さすが、4振りでこの速さか。能力はかなり理想的だな。結構手強い。まともに勝つのは厳しいか。

 

「考え事とは、なめられたものね」

「しまった!」

「シショー何してるの、危ない!?」

「もらったわ!」

「……なーんてな、8」

 

 “サイコキネシス”直撃で戦闘不能になるが、ユーレイの影が伸びてスターミーにまとわりつき、あっという間に両者戦闘不能となった。ユーレイで素早くてめんどくさいポケモンを消せたのは幸先いい。

 

 今使った技は“みちづれ”。この技を使った直後戦闘不能になると相手も同時に戦闘不能にする。これで2体目……。

 

「ソォォォナノォォォオオオーーーッ!!!!」

「うん、ソウダナ……って、何事だよ?!」

「なんで私のスターミーが!?」

「え、タマゴから孵って、いきなり進化するの!?」

 

 一度に色々起こって全員が混乱状態だな。何があった? ナツメを驚かせてユーレイを満足させてやろうという意図も“みちづれ”にはあったが、逆に自分がびっくりしたわ!

 

「ガガガガ!」

 

 当のユーレイは倒れながら大爆笑。しかしなぜかナツメじゃなくて俺の方を見てないか? やたらと腹の立つ笑い方をするなぁ、ユーレイさんは。喜んでくれたらこの際なんでもいいけどさ。

 

「ブルー何やってんだ? 応援しないとはたしかに聞いたが、まさかそっちでポケモンを進化させるとは思わなかったぞ。どういうことか説明してくれ」

「わたしだってわっかんないわよ! バッグが光りだしたから開けて見たらいきなりポケモンが生まれて、しかも勝手にリングの方に降りちゃうからわたしもそっちに降りようとしたらご覧の有様よ!」

 

 ツッコミどころしかないが……解釈すると、愚かにもこいつはバッグにそのままタマゴを突っ込んで今の今まで放置。いきなり生まれてびっくりし油断した拍子にポケモンが飛び出して、丁度ダブルノックアウトした2体の経験値がそのまま全て格上補正付きでソーナノに転がり込んであっという間にソーナンスに進化したということか。

 

 よし、状況は把握した。

 

「要するにお前の管理不徹底だな。あとで厳重注意」

「なんでそうなるの!」

「なぜそんな結論になるの? 生まれていきなり進化なんて尋常じゃない出来事よ。少なくとも私はそんな話聞いたことない。レベルもすでにかなり高い。その上、そのポケモンエスパータイプみたいだけど、サイコパワーが全く感じられない……こんなエスパーポケモンがいるなんてとても信じられない。何から何までおかし過ぎる」

「別になんでもいいだろ。あんた、バトルジャンキーだから勝負以外は興味ないんだろう? ポケモンやられたんだから次を出せよ、俺はそれ見てから出すから」

「なっ!? 威勢がいいわね。しかもチャレンジャーのみ交代できるからってそこまで露骨なこと考えるなんて……あなたやっぱり普通とは違うわね。ここに来る奴は、フルバトルする場合は2体目がやられた辺りで泣いて降参し始めるものなのだけど、あなたはタフみたいで楽しいわ。もっと楽しませてちょうだいよ? 最後にどんな表情になるか……期待してるわよ」

「期待ってそういうことなの!? ナツメさんってS極振りで性格も補正つき!?」

 

 S極振りってなんだよ。努力値のことをやんわり説明した影響なのか、そんなところまで廃人用語を使わんでいい。

 

「そういえば、ランク8でここに来て負けたら二度と来ないとか言っていたが、他のジムに変えられないから、リタイヤした連中は絶対マスターランクになれないんじゃないか? なかなか鬼畜なことをするな」

「フン、どのみちここで勝てないならリーグに行ったって大した成績は残せやしないわ。だったら別にいいじゃない」

「それは立派なお考えだ。絶対お前は指導者には向いてないな」

「自分が1番わかってる。あなたは私に勝つことだけ考えたら? 次行くわよ、ナッシー!」

「それもそうだな……イナズマ!」

「ナッシーィ」

「ダース!」

 

 ナッシー Lv45 142-81-88-174-105-68

 

 イナズマ Lv36 100-45-49-116-82-145

 技 110まんボルト

   2めざめるパワー

   3あくび

   4バトンタッチ

   5まもる 

   6みがわり

   7こうそくいどう

   8シャドーボール

   9かみなり

  10あまごい 

 

 ナッシーもこれまで通りの能力だな。おかげで特攻がかなり高い。だがここで鈍足はラッキーだ。こっちも余裕ぶってはいるが、バトンを決められなきゃかなり苦しくなる。負けたらヤバいし、いい加減こっちも気を引き締め直さないとな。

 

「“頼むぞ!” 攻撃だけきっちり避けろ」

「……」

 

 やはり“サイコキネシス”が飛んでくる。ナツメは今までこれ以外の技を一度も使っていない。おそらく絶対的な自信があるのだろう。だが、俺はすでにあの技は見切っている。さっきのバリヤード戦で全てわかった。ユーレイならほっといても簡単に避けてくれるから観察に集中できていた。

 

 まず、“サイコキネシス”は必ずポケモンの目の向いている方に飛んでくる。たぶん狙いをつけているのだろう。そしてそれを放つ直前、ポケモンは完全にモーションが静止する。技の発動に集中しているとかだろう。“めいそう”するとサイコパワーが増すような世界だし。この2つに注意して俺が避ける方向を指示すれば不可視といえどイナズマの速さなら避けるのはそこまで難しくない。

 

 こんなに簡単にわかったのは一言でいえばナツメの攻め方が単調だから。一本調子でフェイントのひとつもない。たまに視線を外すとかされたら気づけなかった可能性もある。

 

 ナツメは育て方と能力だけはダントツだが、それに伴うべき技術がない。きっと、今まではその強すぎる力と恐怖が対戦者の目を曇らせていたのだろう。だが一度わかってしまえばこんなに簡単な敵はない。

 

 イナズマはうまく避けながら接近して“あくび”を決めた。さて、お膳立ては整った。あとは時を待つだけ。

 

「ナシーzzz」

「な、どういうこと!」

 

 眠ったな。イナズマにはバトンさせるとき最初に「頼むぞ」と合図するように決めていた。だから俺の指示なしで勝手に「みがあくバトン」を実行する。相手からしたらどうしていきなり眠ったのか皆目見当もつかないはずだ。技名がなければ戦闘中の“あくび”に注意する人間はいない。これが技だなんて思うわけもない。

 

「ここで真打登場! いまこそ真の姿を見せろ……来い! アカサビ!」

「ッサム!!」

「え、すご! アカサビさんなの!? どうしちゃったのよそれっ! まさか進化したの?! ストライクって進化系がいたんだ」

 

 アカサビ Lv37 @メタルコート

 実 110-148-88-48-72-85

 技 1バレットパンチ

   2でんこうせっか

   3むしくい

   4つるぎのまい

   5まもる

   6みがわり

   7とんぼがえり

   8つばめがえし

   9こうそくいどう

  10かわらわり

 

「……?」

 

 ボールから現れたのはメタルコートの力でようやく進化し、ハッサムへ姿を変えたアカサビ。やっとメタルボディになったな。進化により鋼タイプが追加され、合計は変わらないものの、種族値の配分が大幅に変化。タイプ一致の強力な先制技“バレットパンチ”を引っさげて満を持して登場だ。

 

 持ち物のメタルコートは進化だけでなく、鋼タイプの技の威力を1.2倍に高める力もある。なので“バレットパンチ”の威力は特性なども合わせて108になる。その恐ろしさをナツメには存分に味わってもらう。

 

 あちらさんはこっちが仕掛けないから不思議で仕方ないって顔だな。アカサビにもバトンされた場合はすぐに“つるぎのまい”を積むように言ってある。だから出だしが早くムダがない。積み終わったら俺の勝ちだ。

 

「ナッシー!」

「あなた、やる気はあるの? もうナッシーの目も覚めた。何をしていたの?」

「勝つためのことだ」

「あーあ、ナツメさん油断したなぁ。これじゃシショーの勝ちね。ホント容赦ないなー」

「なんですって?」

 

 ブルーの言葉にウソがないとみて警戒を強めたか。だがもう遅い。

 

「3」

「……」

「サムッ」

 

 すさまじい速さで後ろを取って、“むしくい”の一撃でひんしに追い込んだ。イナズマがすでにこうそくいどうを積んでいるからそれを受け継いでいる。素早さは行動の速さに直結するから、バトンするときは“みがわり”よりも先に素早さを上げている。

 

 今のアカサビは攻撃3倍かつ素早さ2倍。もう止まらない。

 

「ひんし!? なんなの今の速さ、レベル30台の動きじゃない!」

「わかりやすいだろ? 相手より速く動いて、一撃で倒す。これが俺の考える最強のポケモン。あんたじゃアカサビには勝てない」

「なら、こっちも速さよ、フーディン!」

「シェェイ」

「甘い甘い。1」

「!?」

 

 動く間もなく戦闘不能。わざわざ計算どころか、レベル以外見る必要もない。種族値で十分予想がつく。ナツメの言う素早さも、先制技の“バレットパンチ”の前には意味を成さない。今のフーディンがレベル48だし、これ以上のポケモンは出てこないだろうな。続けて出て来たヤドランも簡単に“むしくい”で倒し、最後の1体を残すのみ。

 

「こんな、ありえない……私が負けるわけない、負けるわけ……フーディン!」

 

 

 フーディン Lv58 ひかえめ

 実 140-61-63-237-169-162

 

 

 レベル58!? いきなり上がり過ぎだ! まさかまだ本当の全力ではなかったのか?

 

 最初からこんなのが来ていたらヤバかったんじゃ……。それぐらい能力は高い。バトンしていなければアカサビの“バレットパンチ”2発で倒せなきゃ勝ち筋がなかった。

 

 試しにざっと計算すると……0.336→1/3、100、150として5000だから2発で10000……あ、耐久指数余裕で超えてる。アカサビ強っ!! 問題なかった。

 

「勝ちなさい!」

「残念だが、それでも勝てない」

 

 俺が指示するまでもなく“バレットパンチ”を放ち、一撃で勝負はついた。“つるぎのまい”1回で十分のところを2回積んでいるから当たり前だな。フーディンはアカサビに何もさせてもらえないまま倒された。

 

「そんな……!」

 

 やっとだ。やっとアカサビの真の姿が解放された。ハッサムはとてつもなく強い。これを待っていた。先制技で有無を言わさず敵をなぎ倒す、最強のエース。俺の理想!

 

 ……もうエスパーなんか怖くない!

 




(操り)人形にしてやる!

人形化はアニメで実際にしていました。ナツメに負けたことでカスミとタケシが本当に人形の姿にされておもちゃにされます

作者はその回とミュウツーのせいでエスパー最強説を唱えるに至り、本作の独自設定の大半は元を質せばナツメに行きつきます
付加設定はだいたい全部エスパーの一言で説明できます

ミュウツーがねんりきで相手を拘束する演出見たときはどうやったらエスパーに勝てるのか皆目見当もつきませんでした
なお、今でもねんりきの攻略法は思いつきません

とにかくエスパーはヤバいです


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6.ねんりきは エスパー少女の スキンシップ

 勝敗は決した。ナツメはバタリと膝をついて動かなくなり、声をかけても反応がない。最初に宣言はしたが本当に膝をつくとは。ナツメは覚えてなかったんだろう。

 

 なお、審判がいないから当然勝者のコールもない。この後どうすればいいんだ? バッジがほしいんだけど……。

 

「あーあ、シショー大人気ないなー。いくらナツメさんが強いからってバトンはズルイわよ。初見殺しがどうこう言うならそれが1番ヒドくない?」

 

 ブルーが下りてきて開口一番に戦術批判かましてくるが、こいつはソーナノの件忘れてないか? この後ちゃんと反省してもらうからな。タマゴがもし割れたらどんなことになっていたのか……あんまり考えたくはない。四次元バッグじゃなければヤバいことになっていたのは間違いない。

 

 ブルーがこんなこと言うのは以前バトンとか技の説明のついでにそれに関する戦術も若干教えてしまったから。黙っていた方が良かったかもしれない。前はシショースゲーしか言わくて素直だったのに……いや、割と最初の方からドン引きはしていたな。クチバジムの催眠の時とか。

 

「こういうのは俺らの世界じゃ対策しない奴が悪いんだよ。それにブルーにはまずタマゴの件を反省してもらわないとな。お前はタマゴをあろうことか何も考えずそのままバッグに入れていた上、孵った後も危ないリングに近づけるし、扱いが雑過ぎる。トレーナーならもう少しポケモンの命を預かる責任感を持て!」

「ぐぅっ! そ、そんなに怒んなくてもいいじゃない! タマゴなんて初めてだからよくわかんなかったんだし。だいたいシショーの世界って何よ、そんな業界知らないわよ。……もしかして裏組織の世界?」

「違うからな。下手したらタマゴがバッグで潰れていたかもしれないんだぞ? 結果的に大量の経験値を得て進化したからお前にとってはかなりラッキーだったが」

「シショーはさっきの進化した理由はわかるの?」

「格上補正だな。普通じゃこんなの無理だ。そいつはソーナノの進化系でソーナンスという名前なんだが、前も言った通り攻撃技を覚えないから最初のレベル上げが鬼のように厳しい。そこを一気にショートカットして今レベル27まで上がっているから、ここからならお前でも比較的楽に育てられる」

 

 “がくしゅうそうち”があれば大変でもないが、この世界にはないみたいだからな。ホントにどう育てているのか皆目見当がつかない。俺がブルーの立場なら、ジム戦で“やどりぎのタネ”とねむり状態の複合で上手くソーナノの交代した瞬間に倒れるようにしてレベルを上げるとかできるが、HP調整が難しいからブルーにはできないだろうしなあ。

 

「うそっ! もうそんなレベルなの!……あ、ホントだ! すっごい!」

 

 ……何気に今ブルーの奴見ただけで判断した。レベルの判定ができるようになっているのか。どうやっているか今度聞いてみたいな。ブリーダーの真理を見られそうな気がする。

 

 と、どうでもいいことを考え始めた時、突然手首が引っ張られてナツメにものすごい剣幕で詰め寄られた。また油断していた!

 

「レイン! あなた、どうやったの! 教えなさい、どうしてあなたは私に勝てたの! 私が負けるなんてありえない! どうやったの、早く答えろ!! 早く!!」

「痛い痛い!!」

 

 さっきまで魂の抜け殻と化していたナツメがいきなり起き上がって、俺に大声を上げながら超能力的なもので手首に圧力をかけてきた。恐ろしい力だ、ブルーの馬鹿力よりも強い。

 

「言いなさい、私はなぜ負けたの! 言わなきゃその手首をへし折る!」

「ええっ! ちょっと落ち着いてよ、どうしちゃったのよナツメさん!」

「いいから言えっ! 早く!」

「わかった、言う通りにするからこれをやめろ! 痛くてしゃべれない!」

 

 なんとかブルーの取り成しのおかげもあって、手首は致命傷で済んだな。……次もう一度くらうわけにはいかない。即座にボールに戻さずにそのままだったアカサビの後ろに隠れた。

 

「なっ! 卑怯よ!」

「エスパーで人を痛めつけるお前には言われたくない! 次変なことをすればもう黙ってないからな!……アカサビさんが」

「シショー……よっぽど痛かったのね。他力本願過ぎてカッコ悪い」

「体裁よりも手首の方が大事だ!」

「……なら、言わなければバッジは渡さない」

「なん……だと……! くっ、こいつ!」

 

 そういった瞬間満面のドヤ顔で俺を見下してきた。ナツメが俺より身長が高いせいで自然とこっちが下になっているのが表情と合わせて腹が立つ!

 

「どう、しゃべる気になった?」

「……なんで負けた原因なんか聞く? 仮にもジムリーダーのクセに」

「私は、昔ある人に負けてからずっと自分に足りないものを考えていたの。だから、私に勝てるような人がいれば、その答えを知っていると思ったわ。でも、私の未来にそんなトレーナーはいなかった。だから私は絶望の中で淡々とジムリーダーをしていた」

「なるほど。そこに俺が来たと。それでそんなに必死なのか。ふーん。俺しか頼れる相手がいないのかぁ」

「うわぁ、シショーその顔はめっちゃ悪いこと考えてそう。S勝負なら負けてないわね」

「ねぇ早くしなさい。早くしないとバッジは渡さない」

「いいぜ。一言でいえば戦略の差だろうな。俺は必勝の戦略をうって、お前はその対策を怠った。だから負けた。確かに攻撃技は強力だったが、サイコキネシス一辺倒で補助技を使わないんじゃ、いくら強くてもそれは頭打ち、限界を迎える。まさに今のお前だ。もうここが自分の限界だって薄々気づいているからそんなに必死なんだろ?」

「……どういうことよ。わかるように、そして詳しく教えなさい!」

「悪いけど、お前に言ってもどうせわかりっこないな。お前みたいなド素人同然のトレーナーには、この話は難し過ぎる。ムダなことはしない主義なんだろ? じゃあ、言う必要もなさそうだな」

「っっ!!」

 

 きいてる きいてる !

 

 今のはただの嫌がらせじゃない。紛れもない俺の本心。だからこそ、それがわかるナツメには余計に堪えるはずだ。本当のことがわかってしまうというのも考え物だよな。

 

「シショーさっきのこと根に持っていたのね。でも、そこまで言う必要はないんじゃない? ちょっといい過ぎよ。シショーの言葉には棘があるし、かわいそうだわ」

「それはどうかなぁ? 俺はバカ正直に思ったことをそのまま述べただけだ。別に悪意があってこんな言い方になったわけではない」

「それって……あ、もしかしてわざと! ナツメさんが本心かウソかすぐにわかるから!……お、鬼!」

 

 なかなか察しが良ろしい。鬼呼ばわりは心外だが。

 

「……私が、ド素人……? そんなわけない……」

「ん? そうだろ? バカの1つ覚えで攻撃技ばかり。それどころか“サイコキネシス”しか使ってなかったんじゃないか? 攻め方も単調。何の工夫もなし。こっちとしては興醒め。倒すのが簡単過ぎて面白くもない。やること為すことまるでポケモンバトルを始めたばかりの子供同然。昔負けた時も補助技使いに負けたんだろ。恐らくゴースト使い辺りに」

「なんでそんなこと!?」

「図星? ホントわかりやすいな。人のオーラは読めても、自分が読まれるのは慣れてないらしい。お前、顔は無表情でも案外態度に出やすいぞ? だから勝負の駆け引きにも負けるんだよ。一からバトルの勉強をやり直した方がいいんじゃない?」

「この私が、一からですって? 今まで公式戦で1回しか負けたことなかったのに、そんなこと言われるなんて……なんで? 何が足りないの? あいつの言っていた足りないものって何?……私はダメなの? やっぱり未来予知の通りこのままで終わるの?」

 

 独白の中でサラッと何気にすごいこと言ったが、ここで畳みかけないとな。

 

「そうそう。どうせ俺には一生勝てないから、早いところ潔くバッジを渡してくれない?」

「くぅぅぅ! ぐぐぅぅぅぅぅぅ!!」

 

 この一言がトドメになった。みるみる涙目になって顔が真っ赤になった。ずっと高飛車な態度だっただけにブルーみたいな反応で若干めんくらってしまった。

 

「おいおい、急にどうしたんだよ。さっきまであれだけクールだったのに、いきなり泣くことはないだろう。それとも、意外と泣き虫だった?」

「ぐぅぅぅ!」

 

 ものすごい目つきで睨んでくる。視線で人が殺せたらって思ったことはあるが、こいつの場合ほんとにエスパーで人が殺せそうだからシャレにならないな。

 

 ……ま、そうはいってもしょせん人間。うちのアカサビバリアが発動しているうちは安全だから全く怖くないんだけど。

 

「シショー! いくらなんでも口が過ぎるわよ! ウソじゃないってわかるのを利用してこんなことするなんて、まずなんでこんなこと思いつくのよ!……というか、シショーっていつも心の中ではそんなこと思っていたってことよね。……まさかわたしのこともそんな風に思ってたの?!」

「さ、最初だけな」

「ガーン!! いや、それより、ナツメさんどうするのよ! あんなに自信家だったのにこんなにしょげさせるなんて……少し涙目だし。女の涙は安くないのよ!」

「お前、まさかいきなり人の手首を折ろうとした挙句規則破ってバッジを人質にとる奴の肩を持つのか? 今だから言うけど挑戦するときから今までずっと俺は命の危機を感じていたんだぞ?」

「それでもよ! こうなったらもうシショーしか慰められないでしょ。ちゃんと謝ってあげないとかわいそうよ。 シショーにされるとものすごく堪えるのよ!」

 

 経験者の言は違うな。ものすごく気は進まないがバッジのこともあるし、頼まれたことぐらいは教えてやるか。……どうせ何も理解できないだろうし、それで気が済むならいい。今もこっちを睨みながら半泣きのナツメに声をかけた。

 

「仕方ない。どうしても、というなら教えてやってもいいけど? だからもう泣くな。な?」

「ないいぇない! お、お前を睨んでるだけだっ!」

 

 びっくりした。さっきまで音量は大きくはないけどよく通る冷たい声だったのに、子供みたいな大きな震え声になっていた。呂律もちょっと……。いきなりこんな声出されたらビビる、さすがに。

 

「……わかった、俺が悪かった。さっきのは冗談だから、ホラ、もうそんなこと思ってない。だからもうそんなに俺の事睨まないでもらえる? こっちもけっこう怖いから」

「……」

 

 これでもまだ親の仇でも見るような目つきはやめない。手首が怖いが埒が明かないのでアカサビの後ろから出てナツメと正面から向かい合った。

 

「1回落ち着いて、ゆっくり話をしよう、な? ちゃんとお前でもわかるように説明するから」

「絶対そうしなさい。じゃなければ何が何でも手首をねじ切る」

「…………わかった」

「よし」

 

 うわぁ、やっちまった。「よし」の一言で返事したことに対して凄まじい後悔を残した。悪魔との契約だ。最悪な言質をとられた。言質とったらケロッとして表情も声も元に戻っているしあんまりだな。

 

 まさか今のは演技? 女優かお前は!……そういえば後々本当に女優かなんかになっていた気がする。じゃあエスパーの直感で一番効果的な方法を悟って泣いている演技をしたとか?……泣き落としって言葉が脳裏をよぎった。本当にエスパーは最悪だ。

 

「シショー、死なないでね」

 

 言葉とは裏腹にブルーは笑っていた。こいつ楽しんでやがる! こっちはマジでヤバいのにっ。こいつこそ試合を見てなかったのをまだ根に持っているだろ!

 

「覚えてろ……!」

「わたしは忘れっぽいって前も言ったでしょ?」

「レイン、あなた早くこっちに来なさい。私が瞑想する部屋があるから」

「イダッ!? お前、場所を移すのはいいがなんでわざわざ超能力でしかも手首を引っ張るんだ!」

「そこが1番ねんりきをかけやすい。これは私のようなエスパーにとっては軽い挨拶……いや、スキンシップみたいなものよ」

 

 最悪な理由だ! もう絶対にエスパーとはお近づきにはなりたくない!

 

 拉致された後ほんとに根掘り葉掘り聞かれてすごくしんどかった。主に精神的に。なんせウソが言えないからいつもみたいにごまかすのもしんどいし、エスパーだからか鋭い指摘も多い。もうかなり疲れた。

 

 やっとジムを出て外の空気を吸えた時には外は暗くなっていた。案内されたあの部屋真っ白でなんにもないから自分の感覚が全部狂わされてどれぐらいの間いたのかもわからなかった。だが、悪夢は終わったのだ。

 

「それじゃ、約束通りバッジを……」

「じゃ、続きは明日」

「え」

 

 やめろ……それだけは……聞き間違い、聞き間違いであってくれ……。

 

「明日も今日と同じ時間に来なさい。じゃないとこれは渡さない」

「てめぇ……! じゃ、それでも来ないと言ったら?」

「ううぅぅぅ!」

「ああっ!? わかった! ちゃんと行くから!」

「絶対そうしなさい」

 

 また一瞬で元に……! 切り替えが早い。やっぱり演技なのか。でも戻る前は全くそうとは思えない。真に迫るというか、感情が込められているというか……。こんな攻撃バカのノーキンに翻弄されるなんて……。

 

「ぷぷ、シショーって泣き落としにはかなり弱いのね」

「お前がしたらほっていくがな」

「いじわる!」

 

 結局3日ジムに来させられ、その間ナツメのいいなりだった。本当に散々な毎日だった。会うたびにスキンシップだかなんだか知らないが手首を捻じられるし、教えている間ずっと無表情のまま微動だにせず俺の顔……というか目をずっと見てきてかなり怖かった。あれは絶対俺がウソを言えないように無言の圧力をかけていたに違いない。それになまじ顔が整っているだけに無表情はマネキンみたいで怖かった。かといって油断すれば教えたことの出所をいきなり聞いてくることもあるし。なんで俺だけこんな罰ゲームを……。

 

「はい、これがバッジ」

「…………やっとか。まあ手に入ったから良しとするか。手首も無事……といえなくもないし」

「良かったわね、シショー。それに、意外とナツメさんとも仲良くなったわよね」

「はあぁ!? 何言ってんのお前!? 目ん玉節穴か?!」

 

 このドアホいらんこと言うな! これでストーカー増えたりしたら冗談じゃなく(手)首が飛ぶ!

 

「だってそうじゃない。色々あったけど、ナツメさん今じゃ、シショーのことかなり頼りにしているというか、興味がありそうというか」

「それはあれこれ教えてやって、まあ知識だけはあるし、あと自分の予知の外だからだろ。退屈だーとかいってたし。そ、そうだよね?」

「……あなたと関わってから、私の予知能力がおかしくなっているの」

「え、なにそれ怖い。どういうこと? そもそもなんで急にそんな話に?」

 

 この電波いきなり関係ない話始めたけどなんなの? やっぱり頭イタイ系の人なのか。質問に「はい」か「いいえ」で答えられないの?

 

「おそらく不確定要素が入ったおかげで未来が変わったからだと思う。未来が分岐したとでも言うのかしら。こんなこと私でも初めてだから上手くは言えないけど……こうして色々話を聞くだけでも私の未来はどんどん変わっていった。私は決まりきった未来には飽き飽きしてた。だから変わっていく未来に夢中になってしまった」

「それであんなに……」

「ちょっと強引だったもんね」

 

 あれはちょっとで済むレベルじゃないと思うが。内容は完璧に脅迫だし。

 

「だから、できたらこれからもこうして私に会って話をして。それと、私の友達になってほしい」

「ブーーーッ」

 

 今度は爆弾かよ! 冗談じゃねーぞ! だいたいお前そのクールさで友達とかなんなの、ギャップ狙い?

 

「うわっ、シショー何吹き出してんのよ! もう!」

「いや、だって、いきなり友達って、ナツメってそんなこと言うタイプじゃねぇだろ!」

「わかってるわよっ。 私には友達なんていないし、私なんかと関わりたくないって思っているんでしょ、どうせ」

「……」

「はぁ、何も言えないってことは図星か。そうよね。昔からそうよ。私を見た人間は皆例外なくそう。この強過ぎる力に怯え、恐れ、決して近づこうとはしない。私を見る者の目にはいつも私への純粋な恐怖や憎しみだけ。およそポジティブな感情には程遠い、非友好的なオーラばかり。予知でも、今後も私はずっと1人きりだって出ていたわ」

 

 さりげなく言ったがその予知は悲しいな。ある意味ほんとの孤独だな。黙ったのは図星というより唐突なぼっち宣言に戦慄していただけなんだが……話を聞く程こいつやべぇな。

 

「なんかかわいそう」

「いいのよ。とうの昔からわかっていたことだし、もう慣れているわ」

「そりゃまぁ、言ってみれば親にさじを投げられるぐらいだしな」

 

 この一言がナツメの琴線に触れたのか、いきなり表情が一変した。こんな必死な表情もあるのか。

 

「でも!! あなたはっ、私の予知になかったっ!! 最初は途中で私に恐れをなして逃げ出したり途中で音をあげてしまったらバッジは渡して諦めるつもりだった。過度な期待もしていなかった。でもあなたは最後まで私に付き合ってくれたし、教えてくれるときに限っては丁寧だし、意味不明なこともあったけど思ったよりはわかりやすかったし気遣いも感じた……。何より、あなたは目が違う! 私に対する恐れはまだあるけど、単に痛いのがイヤという感じにも見える。少なくとも私の存在そのものを否定するような恐怖ではない。育て方なんかについては私のことを認めているようにも思えた。私を認めてくれる人間は初めてだし、サイコパワーを高めていることをわかってくれる人はいなかったからそのことは正直に言えばかなり嬉しかった。私を理解してくれるのだから、きっとあなたも私と似たところがあるはず。だから、なんとなくあなたとは気が合いそうだと思うの!……エスパーの勘で」

 

 いきなり口調を強めて激しく詰め寄ってきて、驚く間もなくマシンガンのようにまくしたてられ、次々と信じられないようなことを言われた……エスパーの勘って何?! なんでそんなに俺に好印象なの?! 心外だから勝手に同族認定するのやめてもらえる? あと、痛がっていることに気づいていたなら毎日手首引っ張るのはいい加減やめろや! いや、それよりも先に確認すべきことが。

 

「ちょ、ちょっと待て! それじゃまさか、執拗に手首を折ろうとしたり強引に俺を逃がさないようにしていたのは、全部俺を試していたのか!」

「そりゃそうでしょ? じゃなきゃ私だって誰かれ構わずあんなことしないわ。度が過ぎればここから追い出されてしまうだろうし」

 

 そりゃそうでしょ……じゃねぇよっ! 俺がおとなしくギブしたらすぐに終わっていたのかよ! じゃあ自分からアカサビバリアとかして事をややこしくしていたってことか! こんな最後の最後に最悪なタイミングで知らされるとは。エスパーってほんとにタイミング最悪だっ。

 

 そもそもこの異端児に常識的な発想があったことが驚きだった。今までの所業を顧みればまさか夢にも思うまいよ。ナツメなら何をしてもおかしくない、と思わされた時点で俺は負けていたんだな。

 

 ……もう関わりたくない。すでにストーカーみたいなのが近くにいるのにこれ以上はさすがに……もちろんほっとくのはかわいそうな気はする。言っていることが本当なら、ナツメを助けてやれそうなのは俺しかいないことになるし、実際話しているとき目が本気だった。でもやっぱり自分の(手首の)方が大事だし、ナツメは過度の自己中だし、上から目線だし、イタイし。

 

「そういうことだから、レインくん、私の友達になって。いやなれ」

「友達になることを強制する人初めて見た」

「なろうっていってなるもんでもないと思うしねぇ」

「まさかレインくん、断るつもりじゃないわよね? もし断るなんていったら……道連れよ」

 

 なんの道連れにするんだ……怖過ぎる。こんな勝手に追尾してくる地雷とか聞いたことないんだけど。どうやって回避しろと? 急に君呼びしてくるところも怖い。友達になれっていう圧力に思える。諦めるしかないのか。これから毎回こいつと顔を合わせる度に手首グキーがデフォルトになるのか。

 

 いや、俺はトレーナーだ。どんな技でも、たとえそれが必中技であっても、躱さずにやり過ごす術を知っている。対処できない攻撃なんて存在しない。

 

「よし、わかった。お前の気持ちはよーくわかった。そこで、俺からひとつ条件がある」

「条件……? なに? 変なことを言ったらホントに手首を折る」

「……条件は1つ、マスターリーグに出て俺に勝つこと。勝てば友達でもなんでもなってやるよ。負ければ残念だけど縁がなかったってことで。これでどうだ?」

「ふぅん、面白いわね。乗ったわ。絶対に友達になる!」

 

 やっぱノーキンだこいつ! チョロイ、チョロ過ぎる。これで地雷は回避した。追尾してこようがなんだろうが見えている地雷に引っかかる奴なんていやしないのだよ。

 

「よっしゃ! ……オホン。じゃ、約束だからな。忘れるなよ。次はリーグで会おうぜ」

「必ずよ。あなたが来なかったら強制的に友達にするから! 来れなかった場合も同様よ」

「わかってるわかってる!」

 

 よっし! エスパーは撒いた! やっぱりこいつバカだ。俺に勝てるつもりでいる。補助技も使えない奴が勝てるわけないだろ。頭エリカで助かった。ようやくジム戦終了。次はセキチクだな。ナツメから逃げるようにして急いでジムを出て町からも出た。

 

「シショー、“どうせ一生俺には勝てない”とか思いながらその条件を出すのはどうなの?」

「ほう、ブルーよく覚えていたな。ま、知らぬが仏。黙ってろよ」

「わたし、やっぱりシショーが良い人か悪い人なのかわかんないかも」

「俺が良い人なわけないだろ。いまさら何を言ってんだか」

「ダース!?」

 

 げ、イナズマ!? いつの間に出てきたんだ。ジム戦が終わったから構ってほしくなったのか。

 

「……じょ、冗談に決まってるだろイナズマさん?」

「ポケモンには弱いわよね」

 

 うるさい! なんかブルーにも性格バレてきているせいかお見通しって対応が増えたな。師匠の威厳もへったくりもない。なんか悲しいなぁ。

 




エスパーは撒いた!(再登場確定)
……やること為すこと全部墓穴なんだよなぁ
逆にすごいですね
ちょっとだけゲームの設定使いましたがゲーム通りなのはまぁ多分そこだけです



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7.謎の襲撃者 再び

略称とか多いのでわからなければ
「0.ぼうけんの じゅんびを しよう」
の説明を参照してください(丸投げ)



「とりあえずやっと一息つけたし、ここらでそろそろポケモンの育成の方もやっておかないとな。ブルー、お前タマゴから生まれたソーナンスが増えただろう? そいつを強くしてやるから、まずは1回全部出してみろ」

「ソーちゃんね。わかったわ。使える技とかも教えて」

「そうだな。戦い方が特殊だし、その辺も教えておこう」

 

 ヤマブキの隣のゲームにはない町でポケセンに寄って努力値振りをすることにした。ブルーのポケモン全員勢ぞろいだ。

 

 俺のポケモンの方はちゃんと振り終わって技の習得も必要な分は出そろっている。ブルーの方さえやれば終了だな。

 

 ◆

 

 フシギバナ Lv37 ひかえめ 140-62-73-123-87-72 H31C27   HC振り

 ピジョット Lv36 ようき  114-95-67-54-60-121 A29S27   AS振り

 ソーナンス Lv27 しんちょう147-26-61-019-67-29 H29B31D31 BD振り

 レアコイル Lv32 れいせい 104-47-69-122-58-48 H31C31D27 HC振り

 ラプラス  Lv37 おだやか 177-68-75-79-121-59 H31B29C30D31S27 HD振り

 

 (※実数値、個体値、努力値振りの順)

 

 これで完了。改めて並べて見ても素晴らしい。本当に野生だったとは思えない。

 

 全体的にパーティのバランスも申し分ないし、レベルも高い。特殊に偏り気味なのが気になるが、最後で補完できればそこまで気にはならないだろう。耐久力が全体的に高いからシルフでもなんとかやっていけたんだろうな。

 

 努力値の配分の意図をブルーに教えることはしていない。あくまでどこを伸ばしたということだけを伝えている。それで十分だろうし。

 

「なんかラーちゃん達も改めて見ると以前とは見違える程強くなったわね。全然違う。……その分借金もいっぱい増えたけど。今かなりそのアイテム使わなかった? この前ラーちゃん達に使ったのと合わせたら100以上使ってない?」

「150ぐらい使ったな」

「150万……これじゃ借金だけでシルフの報酬全部なくなっちゃう!」

「ラーッッ!」

「なんかラプラスにめっちゃ睨まれてるが、別にぼったくろうとしてやってるんじゃないぞ? お前も耐久力がかなり上がっただろ?……借金は出世払いでいいって約束だから今は払わなくていいし、無理やり取り立てたりもしないから」

 

 ホントに俺はこのラプラスに嫌われているな。なんでなんだ。完全に悪人認定されている。

 

「あ、ごめんね。やっぱりロケット団のせいで人見知りするみたいで、なんかシショーのことどうしても信用できないのよ。許してね?」

「別にいいが、本当にそれだけが理由か? この前はけっこう懐いたと思ったのにまた嫌われている。意味もなく警戒している感じでもないしなぁ」

「あはは……(グレンちゃん達のおかげで信用しかけたのに、ナツメさんのとこであんなことするからよ! エスパーまで泣かせるからわたしも危ないって怒ってその後大変だったのよ! あの時全部見られていたのになんにも知らないでもう!)」

「まぁいいや。全員どう強くしたかは説明したし、ソーナンスもさっき教えた戦い方は理解できたな?」

「わかったけど、カウンターとミラーコートの使い分けなんてわたしにはやっぱり難しいわ。他の人はどうやっているの?」

「どうせカウンターばっかり使うとかして適当にごまかしているんだろ。難しいのは最初からわかっていたんだからいまさら文句を言うな」

「わかったわよ。あ、それとさ、やっぱりまだそのマックスアップとかの使い方教えてくれないの? シショーがいないとまともに育てられないじゃない」

「そんなこといっても、ポケモンごとに違うものを全て教えられるわけもないだろ」

「ホントに? なんか方法があるんじゃないの、ホントはさぁ? あーあ、こんなことならわたし達が尋問された時みたいにナツメさんにホントのこと言ってるかどうか見てもらえば良かったなぁ」

「……まさか、あの時すぐ終わるって言っていたのはナツメが真偽を見たからなのか」

「そうなのよ。ヤマブキではナツメさんが裁判長みたいになってるんだって。だからあんな性格でもやっていけてるみたい」

「たしかにこれ以上の適任はいないな」

 

 今ヤマブキの闇を見た。ナツメの気分次第で有罪無罪が自由に決まるなんて暴走したら恐ろしいことになるだろ。無茶苦茶なところだな、ここは。ヤマブキといい、タマムシといい、これが国の中心だっていうのだからこの国も闇が深い。

 

「ねぇ、それじゃあやっと次の町へ行くの? 次はどこ? たしか前はセキチクに行くとか言ってたっけ」

「ハナダで先の話をしたことを覚えていたのか。ここから南東に向かってサイレンスブリッジを通りながらそこに向かう。まぁそうだな、けづくろいが終わったら出発するか」

 

 本来はシオンタウンを経由していくところだがあの町にはもう用もないし、この世界ではゲームにはない道もあるのだからナナメに突っ切った方が近道できる。

 

「えー、早く行きましょうよ」

「ダメ。こいつらずっと楽しみにしてるんだからナシにしたらかわいそうだろ」

 

 これが1番の楽しみなんだから最優先に決まっている。ブルーを待たせてグレンの毛並みを見ていると、ブルーの方もボールから出したままにしていたポケモンが騒がしくなってきた。

 

「ブルー、何やってるんだ?」

「あ、いや……なんかこの子達もそれが羨ましいみたいなの。シショーがけづくろいしてるところなんてこの子達初めて見るから。……良かったら、シショーがわたしのポケモン達もけづくろいしてあげてくれない?」

「……かわいいポケモンを自分でキレイにしてあげよう、とは思わないのか」

「できたら最初からやってるわよ! シショーが特別なのよ。見ただけでなんでもわかったり、こんなに上手くけづくろいできたり、絶対本職はブリーダーでしょ!」

 

 言われてみればたしかにブリーダーの方が合ってそうだ。ポケモンのことは見ただけで誰よりよくわかるし、こういう世話とかもすっかり手馴れてきた。だが、育てるのが仕事なんだからトレーナーもブリーダーと本来そんなに変わらないはず。というかそのふたつの定義ってなんなんだ? 明確な境界ってあるのか? 今度調べてみようかな。

 

「じゃ、トレーナーのシショーはやめようかなー」

「ぐ、いじわる!……ねぇ、けづくろいしてあげてよ。……そしたらラーちゃんも警戒を解いてくれるかもよ」

 

 こいつ、最後だけ小声で俺だけに聞こえるように言いやがった! 最初からこれが狙いか!

 

「断る、と言ったら?」

「ラーちゃんにシショーの悪行の数々を全部教える。わたしいっぱい知ってるもんねー」

「げ、外道!」

「えへ♪ シショーには敵わないわよ」

 

 いい性格しているな、こいつは。ブルーってこんな性格だったか? いつからこんな風に変わったんだ?……なんとなく自業自得って言葉が浮かんだ。俺の影響か……。仕方ない。結局合わせて9体全てやることになった。

 

「はぁー、やっと終わった。今回だけだからな」

「わかってるって。ありがとシショー!」

「ったく調子の良い奴」

「シショーはホントは優しいもん。絶対頼めばやってくれると思ってたわ。ね、ラーちゃん?」

「ラー」

 

 乗せられているのはわかっているが、本当に嬉しそうにしてるラプラスを見たら良かったと思ってしまうのは単純過ぎるんだろうか。でも本当にラプラスが1番けづくろいを喜んでいて懐いてくれた気がする。なぜか確信が持てた。

 

 ◆

 

「さ、次の町目指してどんどん進んでいくわよ!」

 

 旅を続けて数日。また自転車なしの歩きに戻っていたがレベルを上げながら順調に進んでいた。水辺だけあってブルーのポケモンが大活躍。くさタイプにでんきタイプ、それにちょすい持ちもいるのでまさに無双していた。その上俺の方も釣り名人から“すごいつりざお“をもらえて上機嫌、言うことなしだった。

 

「どんどんレベルが上がるわね」

「どんどんポケモンが釣れるな。今度こそいいコイキングが来るぞ!」

「……ねぇ、シショーってホントにコイキングの大きさ比べが好きよね。そんなことして何が面白いのよ」

「アホ! 大きさ比べじゃないっ! これは強い奴が来るのを待っているんだ。進化したらギャラドスになるからな」

「そんなの初めて聞いたわよ?」

 

 前に言わなかったっけ? そういや前に釣りをした時は……。

 

「そういえば前にシショーと水辺に来た時って……」

 

 ドオオオーーン!

 

「「また来た!!」」

 

 俺とブルーの言葉が契機になったのか、また例の水ポケモンが出て来た。

 

「まだ捕まってなかったの!?」

「それより、なんでクチバからこんなに離れたところで現れるんだ!?」

 

 ドバアアァァンッッッ!

 

 間一髪最初の攻撃は躱した。一度見ているのは大きいな。

 

「こうなったら仕方ない……」

「え、何かいい策とか秘密兵器とかがあるの?!」

「とにかく走れえぇっ!」

「だよねえぇっ!」

 

 とにかく全速力で水柱から逃げた。後ろを振り返ると、足場になっている木のブリッジをどんどん破壊しながら水柱が自分達の方へ近づいていた。消える足場のスクロール面でミス即ゲームオーバーとか最悪だ。完全にブリッジの上で孤立。後ろは足場を壊しながら近づく水柱。なぜか周りには人影が全然ない。違和感はあるが今は逃げるので精いっぱいだ。

 

「だんだん追いつかれてる。どうするのっ!」

「ポケモンを出せ! ピジョットに乗れ!」

「その手があったわ!」

 

 俺もグレンに乗って一気に加速。これで突き放したかと思いきや向こうもスピードアップしていた。どういうことだ? 最初はわざとゆっくり来ていたのか?

 

「うそぉっっ!? なんで追いついてるのよっ!!」

「ブルー危ない!」

「え? キャアアッッ!?」

 

 いきなりどこからか“れいとうビーム”が飛び出してピジョットに直撃。ブルーが落ちたがユーレイを出して受け止めさせた。

 

「た、助かった……戻ってピーちゃん」

「乗れ!」

 

 ブルーも乗せてグレンに頑張ってもらうがスピードは落ちてしまった。それに後ろから攻撃も飛んでくるようになって来ていよいよきつくなってきた。

 

 攻撃が来たのでサーチもしてみたがやはり引っかからない。以前より探知範囲は伸びているはずなのに。このブリッジゾーンを抜けるまでまだ距離があるし、どうする?

 

「ラー!(ブルー、私に乗って!)」

 

 自己判断でラプラスが出て来た。これはありがたい。

 

「ラーちゃん!? シショーッ!!」

「わかった」

 

 掛け声だけで二手に別れた。

 

「ブルー、お前は先に1人で陸へ行け。おそらく狙いは俺だ。お前は逃げられる。

「ラー」

「ちょっと、ラーちゃんどこ行くの! シショーも何言ってるの! ダメよ!」

「よし、お前はそっちから逃げろ。先にセキチクへ向かえ」

「えっ!? なんでよ、シショーは!? 一緒に来てよ!!」

「黙って早く行け! お前がいても足手まといだ!」

「そんなっ……!」

「ユーレイ、ブルーに攻撃」

「キャッ! なんで!?」

「早く離れないとお前から倒す!」

「……絶対に後から来てよ!」

 

 ……ようやく行ったな。ここからはもう完全に離脱できただろう。あとはこいつと一騎打ちか。

 

 ――やっと2人っきり――

 

 この感覚、テレパシーか? やっぱり前と同じ。一部のポケモンはやはりこういうことができるようだな。あのラプラスにできなかったことを考えると、相手は相当知能が高いのかもしれない。そういえば水柱は止まった。俺と話をしたいということか?

 

 ――そんなにあの子が大事なの?――

 

「……なんのことだ?」

 

 予想通りテレパシーが来たな。これは脅しのつもりか? さすがにブルーを意図的に逃がしたのはバレているのか。会話を聞かれた? いや、近くにはいないはずなのだが……。

 

 ――言いたくないなら別にいいの。今は2人だけ……一緒に遊んで――

 

「お生憎様。お前みたいな得体の知れない奴に構っている暇はない」

 

 ――遊んでっ、一緒に遊んでっ――

 

「ッチ! まるで子供だな。そんなに遊びたきゃ1人で遊んでろ! こっちまで巻き添えにするな!」

 

 ――なんでなの、なんで? 早く来てよ、私のハウス――

 

 ハウス……だと? その言葉どこかで聞いた気が……

 

 ――おいで、私のハウスに……早くおいで――

 

 ドドドォォーーッ!

 

 水柱がまた来た! 考えるのは後か。先になんとか陸まで逃げないとな。サシなら逃げる手はいくらでもある。こっちだって前回やられた後何もしていなかったわけじゃねぇ!

 

「秘技、乱れピッピ! 煙幕添え!」

 

 ――!!――

 

 今のうちだ! 念のために用意しといて良かった。大量に持っていた逃走グッズをふんだんに使い、這う這うの体でなんとか陸まで逃げ切った。備えあればってやつだな。命拾いだ。

 

「ここまでくればもう安全か」

 

 どっと疲れが出て座り込んでいると、不意に頭上からブルーの声が聞こえた。ピジョットに乗ってこっちに手を振っている。なんで俺の居場所がわかったんだ?

 

「おーい、シショー無事だったのね!」

「お前、なんでここに?」

「……ごめんなさい、やっぱりシショーが気になって戻っちゃったの。そしたらいっぱい人形が落ちていたから後を辿って……」

「バカ! そんなことしてあれと鉢合わせたらどうするんだ!」

「……死んじゃうと思ったんだから、仕方ないじゃないっ」

 

 前がああだっただけにそう言われるとなぁ。本気で心配していることも伝わってくる。けれど、強くは言いにくいがここでしっかりケジメをつけておかないとまた危ないことになる。言い方に気を付けて話をつけるしかないな。

 

「そうだな……心配してくれたのに、怒ってしまってごめんな」

「シショー?」

「ありがとう、ブルー。それと足手まといだなんて言って悪かった。忘れてくれ」

「そんな、いいのよ。あのときは切羽詰まってたし、シショーの判断が正しかったと思う」

 

 ブルーも落ち着いてくれたな。あんな見下すようなことはもう言いたくない。ブルーが気遣ってくれた一言で救われた気持ちだ。

 

「サンキュー。でも、今度からは何かあったらお前はすぐに逃げろ。俺が逃げろと言えば俺には構わずに遠くへ行け。いいな?」

「ダメよ! もう1人で危ないことはしないで! 大事な人を失いたくない!」

「いざとなったら誰かが危険を背負うしかない。なら俺の方が生き残る可能性は高い。……だからいいな? シショーっていうのは弟子を守る義務があるんだよ」

 

 有無を言わせず念を押した。俺が守れる命には限りがある。自分とブルー、どちらか、となればブルーを助けるつもりだ。もちろん2人とも助かる可能性があるうちは微塵も自分の命を諦めるつもりはないが。

 

「イヤだけど、わかったわ。その代わり、絶対にわたしのところに戻ってきてよ!」

「当たり前だろ。じゃ、先を急ぐぞ。この辺りも何が起こるかわからない。それに今度からは水辺には注意しないとな。ついでに今度お前にもピッピにんぎょうとかポケじゃらしの使い方も教えておいてやろう。何が起こるかわからないし」

 

 なんとか逃げ切れはしたがしょせんは問題の先延ばしに過ぎない。なぜ俺達が、いや、俺が狙われているのか。なぜいつも人気(ひとけ)がないのか。姿が見えず強力な襲撃者。どう考える?

 

 水ポケモンであんなことができるとすれば、シードラゴンのラプラスか、伝説級ならスイクンか、水タイプじゃないがルギア。

 

 ルギアはないだろうし、前ふたつのどっちかという気がする。現れるのは人気(ひとけ)のない水辺とわかっているわけだし、一矢報いてやりたいがどうしたものか。

 

「ねぇシショー。あの襲ってくるやつがどんなポケモンか予測できないの?」

 

 ブルーも同じことを考えていたらしいな。ちょうどいいから試してみるか。

 

「カントーで見かけ得るポケモンであんなことができるとしたらラプラスかスイクンといったところだろうな」

「え、ラプラス!?」

「なぁ、1回ラプラスに何か感じなかったか聞いてくれないか?」

「そうね。外に出ていたし、もしかしたら何かわかるかも」

 

 すぐにボールから出してブルーがラプラスに聞いてみたが、いきなり大声を上げて驚いた。やっぱりラプラスだったのか?

 

「え、いや、その、同族の気配はなかったって。わたし、てっきりラプラスの仕業とばかり思ってたから」

「そうか。でもスイクンは考えにくいしなぁ。こうなるとカイリューか、アホほど強いギャラドスとかもありえるのか」

「そ、そうよ、水ポケモンじゃないかもしれないわよ!」

「……なんで急にそんな大声で言うんだ?」

「え、なんとなくそんな気がして」

 

 なんかブルーの態度が怪しいな。こんなことは今に始まったことでもないし気にしても仕方ないが。

 

「あ、お前らトレーナーだな、おれと勝負しろっ」

「次は私よ」

 

 急に話に割り込んできたのはタンパンとミニスカか。もうトレーナー地帯に入っていたようだな。

 

「げ、いつのまにかトレーナーに囲まれてる」

「そういや説明しとくのを忘れてた。さっきまでは人影がなくて失念していたが、ここら一帯はトレーナーだらけの地獄ロード。レベル上げにはもってこいだろ? そのためにこの道をわざと選んだ。まぁ釣りのためもあるが」

「聞いてないわよっ! 今からこの数を相手にするの!? いっつもいっつも事前通達が遅過ぎなのよ、シショーはっ!」

 

 とはいっても、もうロックオンされているし戦うしかない。

 

「トレーナーならいついかなる時も勝負の準備はできているはずだぜ。さあ、おれと勝負しろ!」

「私達から逃げられるとは思わないでね」

 

 その発言は以前身をもって恐ろしさを味わったからシャレにならない。底なしに追いかけてくるからな。

 

「こうなりゃ腹決めてバトルするしかないんじゃないか? ちゃんとピジョットも回復させてからこっちに来たみたいだし、ブルーの方も意外と余裕あるだろ?」

「わかったわよ。こいつら全員ボコボコにしてやるわ!」

 

 終わりのないバトルが今始まる!

 




全体的に個体値が都合よすぎですね
これには種族値に個体値やらが引っ張られるという裏設定があります

確率で言うと、個体値は2Vで1/1024つまり約「せんぶんのいち」
五連麻痺の屈辱とか三連流星外しの絶望と同じぐらいです(どっかで見たようなフレーズ)
6Vは約「10おくぶんのいち」
もし会ったら奇跡通り越してますね


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8.ラッキー まれには しあわせタマゴ

「バカシショーッ!! こんなにしんどいなんて聞いてないっ!」

「安心しろ。俺だって聞いてねーよ。こっちもアカサビさんが進化してなかったらきつかった」

 

 なんとか全員に勝ってセキチクに辿り着いた。実際には流れ着いたって感じだったが。発電所の時の経験が活きた気がする。町に着いた日はさすがに疲れてすぐにぐったりとベッドに倒れこんでしまったが、翌日からは元気に町の探索を始めた。

 

「シショー、昨日の今日でよくそんなに元気が出せるわね。ちょっと頭おかしいんじゃない?」

「辛辣だな。だがお前は何もわかってない。ここに来ることがどれほどの意味を持つか。そしてここでやるべきことのために全ては準備されていたことを知れっ! そのためなら多少の疲れなどあってないも同然」

「ど、どういうことよ。簡潔に……十文字以内で説明して」

「こ こ は サ フ ァ リ が あ る」

「きっちり10ね。でも句点が抜けてるわよ。減点」

「お前……けっこう厳しいのな」

 

 しゃべっているうちにサファリに着いた。この町は入り組んでいてサファリの建物探すのに少し手間取ったが、ようやくここまで来たな。

 

 ゲームならここで“なみのり”ゲットでカメックス超強化、お手軽にレベル30越えのニドキング、ふしぎなアメ、しあわせタマゴ、技教え用のキノコ、唯一のドラゴンポケモンハクリューなどゲットできるものが目白押しだ。スロットの景品系のポケモンが集まるのもいい。 

 

 そういや、“かいりき”のひでんマシンもセキチクか。ほんとに重要なところだ。で、今回の狙いは2つ。ラッキーの持っている“しあわせタマゴ”とハクリューだ。これでレベル上げは効率化されるし、あわよくば手持ちも増やせる。

 

「ここがシショーの楽しみにしていたサファリね。どんな感じなのか気になるわ」

「気を取り直して中に入ろうか。どんなところなのかは説明があるだろう」

 

 さっそく中に入ると営業スマイルの店員から声をかけられた。

 

「こんちわ! サファリゲームは初めて?」

「ああ。とりあえず、どんなところか説明してくれ」

「わかりました。じゃあ説明しますね」

 

 その後の説明は驚くべきものだった。ゲームの時とは全く勝手が違ったのだ。ブルーも一緒に驚いていたので何も言われなかったが、その驚きの意味は全く異なっていた。

 

 まず制限時間が歩数でなく時間。リミットは3時間らしい。まあ当たり前だろうな。歩かなければ延々居続けられるのはおかしいし、居座って回転し続けて半永久的に粘る作戦はやはりできないようになっていた。

 

 そして値段。なんと10倍の5000円。500に慣れていた身としてはかなり高く感じたが、500がおかし過ぎるレベルで安いから妥当といえなくはない。高いと言ってもポケモンと引き換えだからそう思えば安いとも言える。ゲームコーナーは何十万とかだし。

 

 さらにボール。これは持ち込み制で自己負担のようだ。500円で20個支給などという甘えはやはりゲームだけらしい。現実は厳しい。だが、これに関しては(図らずも)買いだめしてしまった備え(ハイパーボール)があるので問題なかった。ついでに餌も有料らしい。ポケモンを捕まえやすくなるからぜひお試し、とのことだが……。

 

 そして1番意外だったのがポケモンを1体持ち込めること。よく考えたら当たり前で、ポケモンなしで草むらに入るのは危険なのが常識なのだから手持ちなしで放りこむわけがなかった。昔素手でガーディとやりあったせいでありえると考えていた俺がおかしかったらしい。

 

 イメージはアカサビを捕まえたあの大会と同じだ。ただ、それと違うのは、このサファリの内部ではこっちからの攻撃は認められていないことだ。だから攻撃されたら基本サンドバッグ、状態異常は「どく」「やけど」「こんらん」はNGで、それ以外ならかけてもオッケー。ポケモンがやられたら最初に渡される“だっしゅつボタン”でここに強制送還されるという話だ。

 

 だっしゅつボタンというのはポケモンに持たせられる道具の1つ。戦闘で技を受けたら控えのポケモンと交代できるというもの。使い方としては天候を変えるポケモンに持たせてスムーズに天候エースに交代するとか、あるいは“ほろびのうた”を使って即座に控えと入れ替わるなどがある。両方できるポケモンにニョロトノがいてよく持っていた。

 

 今回は戦闘用ではないが道具をうまく活用していて地味に感心した。“あなぬけのヒモ”が無能だと判明しているだけにこれは参考になった。ここは道具に対して独自に若干改造しているようだがどんな仕様なのか気になる。さすがに実験する余裕はないが。

 

「ということで、普通は皆さん耐久力に自信のあるポケモンを持っていく方が多いですね。あと、ランクが低い方は危険ですので従業員が付き添って、行動エリアを制限させてもらっています。ランクが6以上なら問題ありません」

「良かった、わたし達は6だからギリセーフね。ねぇ、面白そうだし、さっそく行ってみましょうよ!」

「いや、待て。ここの地図はあるのか?」

「残念ですが、地図の類は用意しておりません。帰還はボタンがありますので」

「……」

「ねーねー、どうしたのよ。急に考え込んじゃって。わたし早くサファリ見たいー、ポケモンと触れ合いたいー、餌をあげたりしたいー」

「あーもう、考えてるのにうるさい! だいたい、直に目の前といっても野生のポケモンもそうだろ! しかも触れ合いも餌やりも毎日手持ちのポケモンにしてるだろ!」

「あ、言われてみればそうね。でもシショーだってめっちゃ楽しみにしてたじゃないのっ。まさかお金がないとか言うんじゃ……」

「なわけないだろ。いくらでもある。が、ここの条件が俺の予想とかなり違ってたし、これは少し考える必要がある。いったん出直すぞ」

「え、ちょっと、いきなり!? 待ってよっ!」

 

 いったん出直すことにして、帰り際足で情報を稼ぎ、一通り聞いて回れたところでまずは作戦会議を始めることにした。お預けをくらってむくれるブルーをなだめながら、まずは自分の考えをまとめた。

 

 第一印象としては、ここのシステムはかなり上手い。長いことやってきて絶妙なラインを見つけたのだろう。ゲームみたいに適当にやっていると金がなくなるし、捕まえ過ぎでポケモンが減り過ぎないようにも気を配っている1つずつ検証しよう。

 

 まず、5000円で3時間という値段だが、これは少々高いが、トレーナーなら全く手が出ないわけではない絶妙なラインを突いている。だが実際にはサファリはかなり広い上、他の出費も嵩むから結局何回も来ると高くつくし、完璧に自分でマッピングできる程籠り続けるのは旅のトレーナーの資金では厳しいだろう。つまり何回かリピートしたくなるが大量に捕獲出来る程籠り続けることはできない。

 

 情報収集した内容だとアイテムが落ちていたりもして、隠されたレアアイテムも存在し、それ目当ての客も多いとか。捕獲失敗したボールが転がっていることもよくあるらしい。モンスターボールもこの町では他の町よりも高騰しているようで、あまり多くは用意できず、これもサファリの思うツボだ。案外ショップと提携していたりしてな。

 

 そして1番感心したのが“エサだま”の販売。割高だがポケモンを留める効果覿面で飛ぶように売れているらしい。経営的には餌代は浮くし、ポケモンは捕まえにくくしてボールを消費させられるし、とにかく恐ろしい罠だ。“いしころ”拾うのが安定だな。そういや、サファリはほとんど人の手を加える必要がないらしいし、ゲームコーナー並みの収益を出してそうだな。

 

「ねぇ、それでどうするの?」

「楽にいけると思っていたが、想像以上に相手はかなりのやりてらしい。もしかしたらゲームコーナー並みのヤバさだ」

「え、それってあの!? そんなになの?」

「ああ。だからサファリには総力戦で挑む。まず、今日1日は下見だけにする。ポケモンは捕まえない」

「え、なんでそんなことするの!? もったいない!」

 

 まあ普通はそう言うだろうな。サファリもそこまでわかっていてこんな仕様になっているんだろう。だが、最初の様子見が後々大きな役割を果たす。目先の数体のポケモンに目を取られるようでは温い(ぬるい)。俺は効率良くいかせてもらう。

 

「いいか、よく聞けよ。サファリは区域によって出るポケモンが違う。だから狙ったポケモンがどこで最も良く出るか先に調べたほうが効率的だ。それに、マッピングしがてらアイテムを探せば多少は儲かる。普通ならこんな金のかかることはできないが、そこは俺が用意できるから安心しろ」

「さすが、すっごい力業ね。で、狙いはなんなの?」

「基本的にはラッキーを狙う。これには理由があって、ラッキーがまれに持っているある道具が目当てだ。あと、その他のポケモンは俺が良さそうなのを見つけたらその都度捕まえる。こんなところだ。サファリは一見さんには絶対捕まえられないようになってるし、餌とかは罠だから、お前1人で来るのはやめた方がいい」

 

 ブルーだと調子に乗ってハマりそうだから一応釘を刺しておいた。ゲームコーナーもまさか行って遊んでないだろうな。リアクションが怪しかったが。

 

「え、ゲームコーナーでもシショーは儲けていたらしいけど、なんかコツとかあるの?」

「餌はポケモンを留める効果はあるからそこはいいんだが、代わりに捕まえにくくなるデメリットがあって、それを使うとポケモンは捕まえられてもボールはすぐ減るから大量に捕まえられなくなる」

 

 さすがにゲームコーナーのことはゴウゾウから話を聞いただけみたいだな。今回のいしころはコツというか裏技に近いが、こんなことゲームをしていなければ絶対に思いつかないだろうな。

 

「ウソ! そんなの詐欺よ! じゃあ、どうやって捕まえるのよ!」

「それは考えてある。コツというか、ちょっとしたものを使えば簡単に捕まえられるようになる。で、つれてくポケモンだが、お前はピジョット、俺はグレンをつれていく。“こうそくいどう”を使って素早く見て回るが、マッピングはお前がメインでしてくれ。上からの方がやりやすいだろうから。今回お前にはかなり手伝ってもらうことになるがいいか?」

「わかったわ。シショーのためならわたしなんだってするわ。少しはわたしも役に立ちたいもん」

「頼りにしてるからな」

 

 ブルーが協力的なのは大きい。2人なら効率もぐーんと上がる。ホントはユーレイにトリックを覚えさせていたらてっとり早かったんだが、実戦で使えなさそうだから覚えさせる気が起きないんだよなぁ。どのみちラッキーは全て捕まえるつもりだし。

 

 さっそくサファリに行ってマッピングを始めた。一応また来たときのことも考えて全体のマップを完成させておくつもりだ。

 

「うっわぁ、いっぱいポケモンいるじゃない!」

「だろ? その辺の用のないポケモンが多くて、本命探すのはかなり大変なんだよ」

「そういや、ラッキー狙うって言ってたけどそれって超レアポケモンよね。ほんとにこんなところにいるの?」

「むしろ、確実にいるのはこのサファリしかない。さっさと技を積んで早くするぞ。時間は限られているからな」

 

 9時間休憩を挟みながら居続け、あらかた見て回ることができた。途中でリタイヤしたらそこで終わりだし、3時間終了ごとに延長する場合一度受付に戻されるという最悪な仕様のせいでこんなことになった。

 

 まさか休憩小屋がありがたいと思うことになるとは思わなかった。昔はなんであるのか存在意義が怪しかったのに。基本的に園内の形などは自分の覚えてた通りだが、さすがに分布などまでは覚えていない。もう後何回か来てポケモンの出方を調べないとな。

 

 帰る前に先に受付前のスペースでブルーからマッピングした地図を受け取ることにした。

 

「あー疲れた。1日中居たもんね」

「そうだな。じゃあマッピングした分を見せてくれ」

「はい、存分に使ってね」

 

 渡れたのは何を書いているのかわからない落書きだった。

 

「ブルー、地図を渡してくれ」

「ん? だからそれよ。ちゃんと書いてるでしょ?」

「……」

 

 こいつ、地図書くの絶望的に下手だな。ブルーはバトル以外何もできないことを忘れていた。とりあえずこいつに任せたのが間違いだったな。

 

「ブルー、無能、クビ!」

「えーーーっっ!! 頑張ったのに!? はぁぁぁ、がっくし」

 

 本人はふざけないで全力でやっていたらしい。だとしたらなおさら悪い。

 

「ファファファ、失敗は人の常、気を落とすことなかれ若人よ」

「え、あ、はい、どうも。あなたは?」

「あ。忍者だ」

 

 渋い人がいきなり話しかけてきて驚いたが、なんてことはない、この町のジムリーダーだ。こんなところで出くわすとはな。

 

「む? ファファファ……拙者の正体を一目で見破るとは、お主できるな」

「あ、キョウさん、ご苦労様です」

 

 従業員がそう言うのを聞いて思い出した。そういやキョウはときどきここに来て見回りをしているって話がゲームでもあったっけか。

 

「礼には及ばぬ。これも我が町のため。中に異常はなかった故、これにてお役御免」

「そういやここの見回りをしてるんだったな、ここのジムリーダー」

「え、ジムリーダー?」

「いかにも! 拙者こそ、イガニンジャの子孫にしてセキチクジムのジムリーダー、キョウでござる。拙者の得意タイプは毒、お主に我がジムを攻略できるかな?」

「ジムリーダーさんだったんだ。それにわたしがトレーナーだってわかるのね。あ、そうだ、聞きたいことがあるんだけど、このサファリのどこでラッキーが出るか教えてくれない?」

「ほう、ラッキーを探しておるのか。なかなか捕まえるのは大変だが、目撃者は多い。チャンスは十分あるだろう。見たものの話では、案外入ってすぐの場所などでも見たとか。なのでランクが低くても捕まえた者はいるそうだ」

「へぇ、そうなんだ。ありがとうキョウさん」

「なんのなんの。お主達はなかなか筋が良さそうだ。挑戦に来るのを楽しみにしておるぞ。では、この後は娘の稽古があるのでな。これにてドロン!」

 

 ボン!

 

「消えた! すっごーい、本物の忍者みたい!」

「みたいじゃなくて本物だ」

「あ、そっか。でも娘さんなんかいるんだね。そこはなんか忍者っぽくない」

「忍者の跡継ぎなんだから別におかしくないだろ。それより、作戦を練り直して明日出直すぞ。お前にマッピングを任せられないからな」

「はーい。って、ホントにクビなんだ……」

 

 面白い奴に会ったが、意外といい情報を残してくれた。ここのサファリ、まだカラクリがあるようだ。

 

 たしか、ゲームではラッキーは2ヶ所に出たはず。ここもおそらくそれは同じ。片方は奥のどっかだが、もう片方はゲームでもたしか最初のエリアだった気がしてきた。ただし出現確率は奥の方が格段に高かったはずだ。

 

 だが最初のエリアも少しだけラッキーが出現することで客引きになっているのだろう。よく考えられている。

 

 そうなると、軽くマッピングして、後は1回でもラッキーを見つけたらそのエリアで張り込めばいいことになる。統計を取ったりして出現率の違いまで調査する必要はなくなったな。そうとなれば俄然作業が楽になった。

 

 今度はポケモンを変え、俺はユーレイにしてブルーと一緒にピジョットに乗ることにした。ユーレイ抜擢はポケモンに襲われたら“さいみんじゅつ”が使えるからだ。

 

「ほへー、シショー地図キレイに書くわね。わたしより上手いかも」

「お前の落書きと比べるな。ホントお前はバトル以外のことはからっきしだな」

「あははー。あ、あそこになんかあるわよ?」

「……全くお前ってやつは。あ、きんのたま。ラッキー」

 

 そんなかんじでマップも完成。出てくるポケモンの種類をざっくり埋めるのにさらにもう1日、結局下見で3日使ってしまった。

 

「今日はどうでしたか?」

「ん、収穫ゼロよ」

「坊主だ」

「……そうですか」

 

 店員からは奇異の眼差しを向けられていたが、最近は若干イヤな予感がしているようだ。そりゃ露骨に下見している感じだもんな。そしていよいよ実践。今日からは持っていくポケモンをまた変えて俺はイナズマ、ブルーはフシギバナだ。ブルーにはハイパーを十分に渡しておき、これで準備完了。

 

「あ、出て来た!」

「さっそくか。幸先いいな」

「ラキ、ラッキー」

 

 ラッキー。でも道具は持っていない。持ってはいないが、捕まえない理由はない。

 

「最初は俺が手本を見せる。イナズマ、でんじは!」

「ダスッ」

「ラ、ア、キッ」

 

 うまくしびれたな。さすがイナズマさん、いい仕事をする。

 

「まずは状態異常にして動きを封じつつ捕獲もしやすくする。これは基本通りね。でもサファリではダメージは与えられない。ならここでハイパー?」

「いや、ここでこいつを使う」

「それはさっき拾っていた石?……まさか!」

 

 にっこりと笑ってブルーに言った。

 

「そのまさか! くらえいっ!」

「ラキー!」

 

 よし、狙い通りだ。うまく怒らせたが、相手はしびれているから動けない。この隙にボールを投げる!

 

 ……カチッ。

 

「すごーい! 簡単に捕まえた! でも石投げていいの?」

「ポケモンで攻撃するなとは言われたが、俺達がやる分には何も言われてない。それにこれはダメージ狙いじゃない。あくまで怒らせて捕まえやすくするのが狙いだ。そこを勘違いするなよ。これをすると捕まえやすくなる分逃げやすくもなるが、しびれさせれば怒ったまま動けなくできるし、しびれた分もさらに捕まえやすくなる。あえて眠らせないのは怒らせるためというわけだ」

 

 言い訳、もとい種明かしをするがあまり納得はいかないらしい。

 

「悪魔の手口ね。まさか拾ったいしころでこんなことができるなんてとんだ裏技ね」

「お前もフシギバナでしびれさせて試してみろ。こっからは二手に別れてやるぞ」

「オッケー。じゃ、どっちが多く捕まえるか今から勝負よ。たまにはわたしもすごいってところ見せてあげるわ。ちゃんと捕まえ方の勉強はしていたからね(虫取り大会でシショーの捕獲技術はあんまり高くないことはわかっている。ひんしにできなければわたしの方がうまく捕まえられる可能性は高い!)」

「面白いな。勝った方が肩揉みね」

「乗った! 絶対勝つ!」

 

 結果は勿論俺の勝ち。探知範囲が段違いだからな。この捕獲方法なら誰がやってもほぼ確実に捕獲はできる。ならば勝敗をわけるのは遭遇した回数。より多く見つけた方が勝つに決まっているんだから俺が勝つのは当たり前だ。

 

「そんな、ありえないわよ! こっちはあまいかおりでおびき寄せて目当てと違うのは眠らせて大量にポケモン集めたのに! なんで?! これ以上わたしに何ができるのよ?!」

 

 こいつ、かなりのガチ勢だな。“あまいかおり”まで使うとは。それは忘れていた。しかも他のポケモンが寄ってくるのも“ねむりごな”を使って上手くカバーしているし。ブルーってポケモンに関してはやっぱりセンスのカタマリだな。

 

「まぁ2体と3体の差だし、偶然ってこともある」

「ううう! 悔しい! 明日もやるわよ!」

 

 肩揉みをさせられながらブルーはリベンジを誓い、それから俺に毎日勝負を挑むが全て俺の勝ちだった。ブルーは力だけは強いから案外肩揉みは悪くない。ブルーの方はかなり疲れるみたいだが。

 

 ◆

 

 今日もいつも通り俺が圧勝。ブルーは懲りずに勝負を続けて来るが、いつになったら勝てないとわかるんだろうねぇ。

 

「あ、ありえない……」

「気を落とすな若人よ」

 

 つい調子に乗ってよくわからん発言が出てしまった。いやぁ、やっぱり勝負に勝つと気分がいいなぁー。

 

「むう、キョウさんみたいなこと言わないでよ! はぁ、やっぱりシショーってすごいわよね。なんだかんだわたしの倍近く集めているし。これなら絶対勝てると思ったのになぁ。わたしにはゲットの才能はないのね」

「……いやいやいや、お前より効率いい集め方はないだろ」

「でしょ!? じゃシショーはなんなの?! やっぱり仙人? 妖怪?」

 

 しまった、今のは巧妙な誘導か。どこでこんなこと覚えて……言うまでもなく俺の影響か。だんだんブルーが黒くなる。

 

「バカ言ってないで帰るぞ」

「ま、待って下さい!」

 

 いきなり従業員から呼び止められた。そろそろ捕まえた数もバカにならないほど増えてきたし、とうとう来るべき時が来たか。

 

「どうしました?」

 

 すっとぼけて答えるがもちろん用はわかりきっている。

 

「あのー、お願いですからそろそろラッキーの乱獲はやめてください! これじゃうちは倒産しちゃいます!」

 

 やっぱりな。さすがにヤバいことになってきたことに気づいて尻に火がついてきたか。

 

「んー、そういわれてもなー。別にルールに従ってやっているんだし、乱獲なんて心外だなぁ。でも、どうしてもというなら……ゆっくり“お話”をしてもいいけど」

 

 お話というところを強調すると食いついてきた。

 

「ぜひお願いします!」

「仕方ないなー。じゃあそういうことだからブルーは先に帰ってろ」

 

 へっへっへ、こっちでビジネスのお話でもしましょうか。じっくりたっぷりお話させて頂きますよ。

 

「えー」

 

 なんで駄々をこねるんだ。お前は駄々っ子か! これを逃したくないし、なんとか適当に言い包めないと。

 

「じゃ、今日の負けた分はチャラにしてやる」

「わかったわ! シショー頑張ってね」

 

 ブルーはものわかりが良くて助かる。

 

 その後ラッキーをサファリが買い戻す交渉が始まり、さらに今後俺達はラッキーを捕まえない契約が結ばれ、ラッキーショック(ブルー命名)は終了した。

 

「まさかそんなことになってるとは。シショー、最初からこれ狙いでずっとラッキー捕まえてたのね。で、いくらで売れたの?」

 

 ブルーも今となっては慣れたもので、かなり悪い顔をしながら聞いてきた。お主もワルよのう。

 

「俺はちょっと機会があって裏の相場にも詳しくてな。その倍以上で売れたよ。数が数だったし釣り上げて、今後捕まえない取り決めもしたから」

「裏相場……って、それよりもうやめちゃうの?! ラッキーはともかく、シショーの言っていた道具が取れなくなっちゃうのはマズくない?」

 

 驚くのもわかるけど、その点に関しては抜かりない。

 

「ああ。目的の道具は十分集まったからな。それに追加で道具を集めるだけならトリックで集められるから、実際にはあの取り決めは俺にとっては全く効果がないんだよな。もちろんそれを始めから織り込み済みで話を進めてたんだが」

 

 そうなんだよな。ポケモンの持ち込みができるのがやはり俺にとっては大きくて、キノコ集めとかもかなりスムーズにできそうなんだよな。ポケモンさえいれば基本何でもできる。

 

「トリック? なにそれ?」

「お前はもうちょっとお勉強しとくか?」

「あ、そういえば目当ての道具って何なの? わたしも手伝ったんだから見るぐらいはいいでしょ?」

 

 ブルーはすぐに話題を変えようとするなぁ。

 

「仕方ない奴だなぁ。これだ。“しあわせタマゴ”っていうんだが、すごい効果があるんだよ」

「へー、これが。こんなの見たことも聞いたこともないわね。どんな効果なの?」

「聞いて驚けっ。なんと、ポケモンに持たせておくと経験値が1.5倍になるというスーパーアイテムだ!」

「え、えええええ!!!!!」

「はっはっは!! 全てのトレーナーが夢にまで見た奇跡の一品だ。すっげーだろ?」

「マジなの!? マジマジマジッ!? すっごーい! こんなのあったら簡単にレベルが上がっちゃうじゃない!」

 

 テンションがヤバイな。いやーその反応を見れただけでも満足だ。実際本当にヤバイ道具だからな。ブルーもわかってくれてなにより。

 

「そういうことだ。これをいかに早く手に入れるかでだいぶレベル上げの効率が変わるからな。これだけでもサファリに来る価値はある。それにだいぶ儲けられた」

「うわぁ、いいなぁ。シショーってなんでそんなこと知ってるの? こんなの知れたら絶対に皆ラッキー探しに躍起になるわよ。むしろラッキー絶滅までありえるわね」

「そうだな。まぁわかっていてもこんなに大量に捕まえるのは無理だし、俺達がだいぶ回収したから今は道具の方はもうほとんど残っていないだろうけど」

「そっか。それもそうよねぇ」

 

 ブルー急に元気なくなったな。なんでだ?

 

「えらく元気がないな。嬉しくないのか?」

「だって、そんなの聞いたらわたしも欲しかったんだもん」

「おいおいおい、まさか俺がこれを独り占めすると思っているのか?」

「え、しないの? まさかとは思うけど、ひょっとしたら、もしかしてくれるの!!」

 

 「けちんぼ」だの「守銭奴」だのといつもよく言われているが、こいつマジでそう思っていたのか。十分過ぎるほど気前よくしてきたつもりなのにびっくりだな。自分が教わっている知識がどれほどありがたいものなのか絶対に理解できていない。……一生理解しないでいてくれた方が都合はいいんだけど。

 

「当たり前だろ。お前も手伝ったんだからお礼ぐらいはする。なんでそんなに自信ないんだよ。はい、お前の分」

「うわはは、やったー! しかも2個くれるなんて!」

「ダブルバトルだと2個いるし、予備の意味もある。大事にしろよ。なくしたら一大事だからな」

「当ったり前よ! あぁ、シショーありがとう! わたしずっとついていくわ!」

「いや、ずっとは来なくていい」

 

 思わず反射的に言っていた。前にも言ったなぁ。

 

「ええー、なんでよっ! そんなつれないこと言わないでよ、わたしはこんなに感謝してるのに」

「お前が言うとストーカーみたいだし」

「だーかーらー、ストーカー言うな! 隙あらばストーカーって言うのもういい加減勘弁してよ! で、もう道具は集めたし、次はジム?」

「何を言ってるんだ? まだサファリは終わっていないぞ?」

「え、まだなんかする気なの? あの店員さん、そろそろ本当に泣いちゃうわよ?」

 

 ブルーじゃあるまいし涙目にはならんだろう、さすがに。

 




店員「こんちわ!」

ラッキーの生息地がサファリの陰謀説は作者がプレイしていて実際に思ったことです
さすがに狙い過ぎだと思うんですよ
客引きで少し見せて本命は常連しか行けない場所に

そこからサファリは黒いという前提で色々設定加えました
それでも結局レインには逆手に取られていますが





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9.伝播する声 信頼の証

 ブルーの言葉通りサファリに行くと従業員は俺らを見て涙目になった。まさかブルーの言うことが当たるとは。さすがにむしり過ぎた?

 

「まだなんかする気なんですかっ?!」

 

 しかもブルーと同じ反応だな。こいつら気が合うんじゃないか。

 

「大丈夫、ラッキーは約束通り捕まえないし、それ以外ならそんなに珍しいのはいないでしょ、少なくとも経営が傾くようなのはさぁ? もしかしてまだいるの?」

「そ、それは、まあ……そこまでのはいませんが……では、持っていくポケモンは」

 

 ふふっ……。思わず笑ってしまいそうになった。危ない危ない。もちろんまだ目玉が残っているのはわかっているし、この反応からしてこの人もわかっているのだろう。だがわかっていても、こうやって面と向かって聞かれたら「はい居ます」とは言えない。言えばまた乱獲される恐れがあるのだから。

 

「サンダースと……こいつはラプラス」

「!!」

 

 この反応……やはりいる、ドラゴンポケモンが。これだけでも俺にとっては有益な情報。ラプラスを連れて行く価値があったな。何時間も出なかったりしたらいないのか出にくいのかの判断がしにくいからな。分布が自分の知っているものと全く同じという保証はないわけだから。けど、ハッキリ居るとわかってさえいれば何日でも勇気を持って粘り続けられる。

 

「ねぇ、さっき反応が変だったけど何かあったの?」

「気づいていたか。次の狙いはドラゴンポケモン。今回は仲間にするために捕まえる。さっきの反応からして、ここに居るのは間違いないだろう」

「え、そんなのまでここにいるの! サファリってかなりすごいわね。でもどこにいるの? マップ作った時から1回も見てないじゃない。もう調べ尽くしているはずよね?」

「まだ見てないところがあるだろ」

「そんなのあるわけ……うーん。…………あっ、水中ね。ラーちゃんを連れて行こうって言ってたのはそういうことなんだ。でもどうやって探すの?」

 

 ブルーはしばらくうんうん唸った後見事に正解を引き当てた。勘のいい奴だ。洞察力とか目に見えにくい部分でも成長を感じる。

 

「もちろん抜かりはない。そのために用意したのがこれ、すごいつりざお。これがないと出てこないからな」

「まさかそこで釣りが出てくるとは。サファリのために用意していたのね。ただ、いっつも釣りをすると碌な目に合ってない気がするんだけど、大丈夫なの?」

「安心しろ。サファリ内部の環境は外とは隔離されている。だからあれは入って来れないし、いざとなればこのだっしゅつボタンがあるから問題ない」

「ホントォ? そんなこと言ったらなんか余計に出て来そうじゃない?」

「……論理的に考えてあり得ないのだから心配する必要はない」

 

 さすがにフリで言ったわけじゃないからな。ブルーはまだ疑い半分って目をしているが。

 

 中に入った後、俺は1番近くの水辺で釣りを始めた。ラプラスは保険みたいなもので、“なみのり”をするつもりはない。どこでも確率は同じだからな。ストラクチャーには獲物がいやすいとか釣りの常識はここでは存在しない。

 

「あれ、ここでするの? 最初のエリアじゃない。奥行かないの?」

「これはどこでも一緒。奥に行っても移動時間をロスするだけ」

「……ねぇ、シショーってここに来たのほんとに初めてだったの? ちょっとおかしいぐらい詳しくない? 全部根拠があって行動しているみたいだし」

「……気にするな。俺のことなんかどうでもいいだろ。それよりいつ出て来てもおかしくないから、気を引き締めていろよ」

 

 ……コーダッ(コダック)

 ……ピーポー(トサキント)

 ……ゴッゴッ(コイキング)

 

 気を引き締めようにも弱いポケモンばかり出て来るので完全に集中力が切れていた。……ブルーは。

 

「あーあ、釣れないなぁー」

「ゆっくり待て。まだ5時間ぐらいしか経ってない」

「それ……本気で言ってるの?」

「当たり前だろ」

「……というか、今回ってわたしが一緒にいる意味あるの?」

 

 こいつ、待ちきれなくて帰りたくなったのか? いや、でも考えてみればブルーは必要なかったな。なんとなくずっと一緒だったから連れて来てしまったが。

 

「ごめん、よく考えなくてもお前のいる意味全くないな」

「もう、シショー頼むわよ。勘弁してよ」

「次は1人で来るから今回だけ我慢してくれ」

「仕方ないわねー」

 

 ブルーには悪いが俺はあと半日でもまだまだいける。とはいえ、なんとか今日中に姿の片鱗だけでも見ておきたい。もしかしたら出現しない可能性も考えられるから場所を移すことなども考えないといけなくなる。

 

 ピーリュー

 

「なにっ、今の鳴き声っ!」

「っしゃきたぁ!」

 

 ミニリューだっ!! フィッシュすれば後はこっちの土俵だ。速攻で麻痺させて“いしころ”を使いボールを投じた。

 

 カチッ!

 

 よし! ここでミスを犯すわけないよな。こちとらずっとラッキー捕まえまくっていたんだ、格下のミニリュウなら余裕だぜ。片鱗だけでも、とは言ったが、実際は見つけた時点でこっちの勝ち確定だ。

 

「もう捕獲は楽勝ね。何事もなく終わって良かった。で、今のは何? カイリューではなさそうだけど」

「ミニリュウだ。それより、それは言っちゃだめだろ」

 

 何事もなく、なんてフラグにしか聞こえないんだが。イヤな予感がひしひしとする。頼むから今だけなんも起こるな。もう水辺から離れてキノコ狩りに行くからっ。

 

「え? なんでよ? 何もなくて良かったじゃ…」

 

 バッシャァァアアアンン!

 

「げっ、やっぱりそうなるのかよ! なんか起こりそうだからイヤだったんだよ、その発言は!」

 

 やはりというべきか、また水柱が上がって見事にフラグを回収した。もう意識はバトルに切り替わっている。すぐにサーチしてポケモンを探った。

 

「ウソ!? またなの! 勘弁してよぉ……別にこうなるとは思ってなかったのよ!」

 

 勘弁して欲しいのは俺の方だ。けど今回はポケモンが見える。探知に引っかかった。こうもあっさりということはまさか……。

 

「いや、違う! 今までの奴とは別だ! これはハクリュー!!」

「ヒーリュー!」

 

 ハクリュー♀ Lv35 98-81-55-51-61-62 だっぴ

 

「別? じゃあ関係ないの? でもこのポケモンなんかめちゃくちゃ怒ってない?」

「らしいな。イナズマ」

 

 すぐに“でんじは”をかけるが、構わずこっちに突っ込んできた。……俺を直接狙っている! 幸い相手のスピードは1/4で大したことはない。余裕を持って躱した。今のは“たたきつける”攻撃か。……問題は攻撃技よりも特性がきついな。攻撃後にもうしびれが取れている。カイリューと言えば“マルチスケイル”だが、ハクリューも特性は“だっぴ”で悪くない。

 

「シショー!」

「大丈夫だ。だが厄介なことにまひが治っている。特性“だっぴ”の効果だ」

「何それ、状態異常技が効かないの? じゃあどうするの?! 攻撃もダメだし何もできないじゃない!!」

「落ち着け、まだ手は残っている」

 

 今度は“まきつく”攻撃を躱しながらブルーに言った。恐ろしい技使ってくるな。あれに捕まったら至近距離からもろに攻撃されるんじゃないか? それにこいつ……攻撃するときは執拗に俺を狙ってくる。ポケモンを無視して、となるとさすがにきつい。

 

「これはどうだっ」

「リューッッ!!」

 

 苦し紛れにボールを投げても“でんじは”でうまく弾かれた。むしろ怒りを買って火に油を注ぐ結果となった。このポケモン知能もズバ抜けて高そうだ。これを攻撃なしで捕まえるのは無理か。潔く諦めて逃げるしかない。引き際は弁えないとな。

 

「ブルー、しろいきりだ!」

「わかった」

 

 ラプラスを出してもらい、霧に紛れてだっしゅつボタンを使いその場を脱した。だっしゅつボタンを使うと強制終了なので今日はもうサファリは終わりだ。緊急事態だったから仕方ない。

 

「かなり危なかったわね。結局ボタンを使っちゃったし。そういえば別だって言ってたけど、ほんとにあれが犯人じゃないの? 空から入ったかもしれないじゃない? わたしは犯人は水タイプじゃない気がしてたし。あれが犯人ってこともありえると思うけど」

「いや、現れ方や攻撃のやり口が明らかに違う。それに、あれが犯人なら5時間も出てこなかったのはおかしい」

「あ、それもそうね。やっぱり手掛かりはなしか。じゃあさ、気を取り直してさっそく捕まえたミニリュウを見ましょうよ」

 

 考えても仕方ないし、俺も早く見たいと思っていたところだ。場所を移してボールから出してみた。

 

「そうだな、顔合わせをしとくか。出てこいミニリュウ! お前らも!」

「うわぁ、すっごいかわいい! いいなー、シショーにはこんなかわいいポケモンは似合わないんじゃない?」

「シャァァ!」

 

 そういうと黙ってないのがイナズマだ。もうすっかり俺のパーティーのマスコット的な存在になっているからな。

 

「あっ、ごめんごめん。イナズマちゃんはかわいくて強くてカッコイイけど、シショーが似合っているわよ」

「ダース」

 

 イナズマは機嫌を良くして俺の頭に乗っかったが、ミニリュウは様子がヘンだった。

 

「リュ…………」

「どうした? 大丈夫、ちゃんと優しく育ててあげるからね。おいで」

 

 いつものようにあやして警戒を解こうとしたが、俺が触ろうとすると威嚇するように攻撃してきた。

 

「リューー!」

「ぐわぁっ!?」

「げ、今のは“でんじは”ね。モロに当たったけど大丈夫?」

「ああ、大丈夫。イナズマで慣れてる。乗っかっているイナズマの“ちくでん”で若干緩和されたみたいだし、驚いただけだ。しっかし、なんでこんなに嫌われてるんだ? お前のラプラスといい、珍しい系にはとことん嫌われているような」

 

 大丈夫かと聞いておきながらブルーはあまり心配してない。俺ならもうこの程度は数に入らないと思っていそうだ。微妙な気分だな。

 

「リューリュー」

「とうとう泣き始めたわね。もしかしてシショーが怖いんじゃないの? ポケモンもいっぱい出しているじゃない? この子まだ子供みたいだし、シショーを見たら……まぁ無理ないわね」

「どういう意味だ。怖がってるみたいなのは認めるがその言い草はひっかかるなぁ」

「別に他意はないわよ」

「ホントかぁ?」

 

 一旦イナズマ達を戻し、もう一度話しかけてみるが全く効果はなかった。弱ったなぁ。何をしても泣いたままだ。きのみをあげても見向きもしないし、攻撃して来るので触ることもできない。

 

「ガウガ!」

「グレン! どうした?」

 

 困った俺を見かねてかボールから出てきたグレンが言うには、この子は寂しくて元の場所に帰りたがっているらしい。そういえばあのハクリューは俺ばかり狙っていたな。とすると……まさか。

 

「ねぇ、もしかしてあのハクリューが親だったんじゃ?」

「ありえるな。そりゃ泣くわけだ。けど、サファリなのにこんなのアリか?」

 

 サファリで毎回ポケモンがこんな感じだったらちょっと捕まえにくくなるよな。

 

「仕方ないじゃない。サファリは自然のままだって言ってたし。そもそもこの子からしたらいきなり無理やりわたし達につれてかれたのよ。親と離れ離れにされたことに変わりはないわ。このミニリュウに罪はないのに、これじゃかわいそうよ」

 

 ブルーのいうことはもっともだ。ポケモンの事真剣に考えるようになったみたいだし、本当に最近子供っぽさがなくなってきたな。

 

「だよなぁ。それに、嫌がるポケモンを無理やり仲間にするのは俺のモットーじゃない。人間もポケモンも皆それぞれいるべき場所がある。このミニリュウにとっては、その場所が俺じゃなかったと思うしかない」

「じゃ、返してあげるの?」

「あぁ、そうだな。これもトレーナーの責任だ。最後まで面倒見てやらないとな」

 

 すると急にブルーは笑い出した。なんで今笑うんだ?

 

「フフ、やっぱりシショーってポケモンには優しいわよね。人を見るにはポケモンを見よ、って言うけど、シショーほど似合わない人はいないわね。ねー、グレンちゃん?」

「ガウ!」

「なんだその言葉、聞いたことないぞ。それに言ってることがめちゃくちゃ過ぎないか?」

 

 人を見ようとしているのに人から目を逸らしてるじゃん、と言いたいが、逆説的な感じからしても、こっちの世界のことわざみたいなもんなんだろうな。文化の違いというか、世界の違いを感じる言葉だな。

 

「え、知らないの? ぷぷ、しかもアホグリーンと同じこと言ってる。じゃあ絶対教えてあげなーい!」

「嬉しそうに言うなぁ、ブルーさん。無知で悪かったな。そんなこと言って、ホントは俺がミニリュウ返したら自分が捕まえようとか思ってないだろうな」

 

 俺としては知らないのはどうしようもないので諦めて話を戻した。

 

「思ってないわよ! もう、早く行きましょう。この子も早く戻りたがってるわよ」

「リュー」

「ん? わっ! このミニリュウ自分からボールに戻った。急に暴れなくなったし、まさか今の会話全部理解していたのか。やっぱり賢いな」

「急ぎましょう、わたしも見送るわ」

 

 持っていくポケモンをミニリュウとラプラスにして再びあの池の前に来た。

 

「リュー」

 

 ミニリュウは目的地に着いたらすぐに元気よく飛び出した。

 

「元気でな。俺が言うのも変だが、もう簡単に釣り上げられないように気をつけろよ」

「バイバイミニリュウちゃん、元気でねー」

 

 別れを告げて帰ろうと背を向けた時、またハクリューが池の中から襲い掛かってきた。

 

「この空気はヤバくないか?」

「まだ怒っているみたいだけどなんか勘違いされてない?」

「ヒーリュー!!」

 

 “りゅうのいかり”が飛んで来た! 文字通りやっぱり怒っているな。

 

「しまった! 俺は今手持ちがいない! だっしゅつボタンで逃げるぞ!」

「リュ!」

「しまった! こいつこれのこと理解しているのか」

 

 取り出したボタンを“でんじは”で弾かれ、絶体絶命の危機に陥ってしまった。相手は容赦なく続けて“たつまき”を繰り出した。俺は身を固くして攻撃に備えた。

 

「ヒーリュー!!」

「これまでか……!」

「ラァァ!!」

 

 この危機になんとブルーのラプラスが俺の前に現れ盾になり、見事に助けてくれた。

 

「ナイスラーちゃん!」

「ラプラス?! なんで俺を……」

「リュリュ!」

 

 驚く間もなく、また攻撃がきた。“まもる”を挟んで耐えているが、連続では使えない。

 

「待ってくれ、俺達はミニリュウをここへ返しに来ただけなんだ。すぐにここから立ち去る! だから攻撃しないでくれ。本当なんだ、信じてくれ!」

「そうなの! いきなりミニリュウを捕まえて逃げたのは悪かったと思っているわ! ごめんなさい!」

 

 それでも聞く耳を持たれず、またもやハクリューの怒りを体現したかのような“りゅうのいかり”が放たれた。運悪くそれはラプラスの守りを抜けて俺自身に直撃した。なかなかのスピードで、かつ、ラプラスを挟んで俺の死角を利用することで出所を上手く隠された。遠距離攻撃だったこともあり反応しきれない。ハクリューの思いがこもったような一撃で、40固定とは思えない衝撃が走った。

 

「ぐっ!!」

「大丈夫!?」

「リュー!!」

 

 また来る! これ以上受け続けたら動くことすらできなくなる。一か八か背を向けて全力で逃げるしかないか? 後ろから攻撃されて戦闘不能になる気しかしないが、賭けるしかない。

 

 前回の戦いを踏まえて接近戦ならこっちが躱しにくることまで想定しているような立ち回りだし、並の相手ではない。受け身になり続けているとジリ貧。ボタンをそう易々と拾わせてくれそうにもない。ブルーはいつでも1人で脱出できる。俺さえ逃げ切れば……!

 

「リュー!!」

 

 しまった! 背を向けようとしたのを見越したかのように回り込まれた! 正面にはハクリュー、背後には池。まさに背水の陣。焦り過ぎたか。こっちは攻撃もできない……万事休す!

 

(おやめなさい。そのトレーナー達の言うことは本当です。あなた方に危害を加えることはありません)

「リュ?」

「なっ、誰だっ?!」

「げっ!? なにしてるの!!」

 

 いきなり知らない声が響いて来てハクリューの動きも止まった。襲撃者の時とは明らかに口調が違うがこれもテレパシーか? 何者だ? ハクリューの攻撃も止んだのでいったんはおとなしく様子を見ることにした。

 

(本当です。このトレーナー達が信用に値することを私が保証しましょう。あなたなら、私のこの行為がこの者達への信頼の証であることがわかりますね?)

「リュリュ?」

(根拠ですか。それはあなたのよく知るその方に聞いてみてはどうですか)

「……どういうことだ?」

 

 俺1人が混乱しているのをよそに話は進んで、ハクリューはミニリュウと何か話した後、何とか怒りを鎮めてくれたようだ。

 

「あー、もうどうする気なのよ!」

(お師匠様、申し訳ありません。わけあって今までこのテレパシーの力を隠していました。これは私、ラプラスの声です)

 

 ラプラス? 視線を向けるとラプラスは黙って頭を下げた。これはやっぱりラプラスがすごいポケモンだったってことなんだろうな。やはりテレパシーはできたのか。意図的に隠していたということは、何か事情があったのかもしれない。ブルーは知っていたようだしな。

 

「そうか。ということは、どうやらラプラスに助けられたらしいな。やっぱりテレパシーとかそういうことができる奴もいるのか……。とにかく今回は助かった。感謝するよ」

(いえ。私も、誤解をうけて争うようなことになるのは見ていられなかったので。ハクリューは誤解だとわかってくれたようですね。ミニリュウをここまでつれて来たことに大層感謝しています)

 

 テレパシーもだが、1番意外だったのはやっぱり嫌われていると思っていたラプラスの態度の変わりようだ。俺に対してめっちゃ丁寧な話し方だし。

 

「リュ!」

 

 ハクリューはもう怒っていない。むしろどこか嬉しそうにしている。本当になんとかなったらしい。やれやれだな。

 

「今回はさすがに冷や汗が出た。バトルすらできない状態だからな。ポケモン持たずに草むらはやっぱりダメだと改めて思った。……無茶してたんだなぁ」

「もうっ。本当に心配したわよ! というか、シショーは1回攻撃受けたけど大丈夫なの? 怒りの籠った強烈な一撃だったけど」

「あれはりゅうのいかりといって、相手に一律の固定ダメージを与える技だからそんなに大したことはない。倒せるのはレベル15ぐらいまでだから」

「15までは倒せるんだ……シショーってけっこうレベル高いのね。あ、ラーちゃん。おかげで助かったけど、良かったの?」

 

 それについては何も言わないでくれ。今改めて自分で戦ってポケモン捕まえようとしたことは黒歴史だと判明したところだから。幸いにも上手いことラプラスがこっちに来たからブルーの気は逸れたみたいだ。

 

(もちろんです。ん? これは……)

「どうしたんだ?」

(ハクリューがお礼をしたいと言ってます。良ければ自分をつれていってくれと)

「なにっ!? 本当か! よっしゃ…いや、ちょっと待て、そもそもお前ら親子じゃないのか?」

 

 思わずフライングでガッツポが出てしまったが、このままつれてくのはさすがにマズいんじゃないか?

 

(いえ、このハクリューは群れのリーダーで、親子ではないようです。その子の親は別にいるそうですよ。ここに長くいるので、信頼できる者になら是非ついていって外の世界を見て回りたいと言っています)

「そ、そうなのか。いやー、災い転じて福となす、情けは人の為ならずか。これはツいてるなーいやーそうかそうか」

「シショー嬉しいのが丸わかりね。なんか急にことわざばっかり言うけど、意外とさっきの故事成語を知らなかったこと気にしてるの?」

 

 ブルーめ、意外と鋭い……いや、さすがに今の反応は自分でもわかりやすいとは思う。あと、あれは地味に故事成語だったのか。なんか面白い逸話とかあるのだろうか。

 

(あの、言いにくいのですが、このハクリューはブルーについていきたいと言っています。なんでも私が従っているトレーナーなら必ず信用できるとか。あなたは、今までずっと私が黙っていたことも含めて、完全には信用できないそうです。すみません、私がつまらない意地を張ったばっかりに)

「え、わたしなの!? やったー、ラーちゃんナイスッ!」

「禍福は糾える縄の如しかっ! くっそー! いや、もちろんラプラスを責めてはいない。俺が悪いんだよな。あぁ、でもこれで俺は4で、ブルーは6か。やっと並んだと思ったのにな」

 

 ここまで態度を軟化させてくれたのにラプラスを責める気なんてないし、ただただ運のなさにため息をつくことしきりだった。

 

「あ、手持ちの数気にしてたんだ。やっぱシショーでも気になるもんなのね。わたしも気持ちはわかるし、心中察するわ。じゃ、ハクリューだからリューちゃんね。これからよろしく!」

 

 そんなこと言いながらブルーはめっちゃ笑顔だけどな。もしかして意図的に煽ってんのか? 自分もお助け袋を預けた時に煽るようなことを書いたりしたけどさぁ。逃した魚は大きい。けっこう落ち込んでしまった。

 

「リュー」

(皆さんよろしくとのことです。リューちゃん、私もよろしくお願いします)

「リュリュー」

 

 挨拶した後ハクリューは水中に戻ってから何かを持って上がってきた。

 

(これは……。ブルー、リューちゃんが渡したいものがあるようです。これは何かのウロコのようですね)

「これは珍しい。名前はりゅうのウロコ。ポケモンに持たせるとドラゴンタイプの技の威力を高める。そういえばハクリューは稀に持っていたな」

「マジッ!? すっごくいいアイテムね! リューちゃん、これをわたしにくれるのよね? めっちゃ嬉しい! サンキューリューちゃん。ホントいい子ね」

「……」

 

 俺にはないのかよ?! あれだけ攻撃されたのにひどくない? 人徳の差なのか……。

 

(お師匠様、今のはブルーを気に入っただけで他意はないと思いますよ。気にすることありません。もう用もありませんしそろそろここを出ませんか?)

「そうだな。ひとまずここから出ようか。気を遣ってくれてありがとう。ラプラス優しいな」

「ラー」

 

 まさかポケモンに直接慰められる日が来るなんてなぁ。もうここでポケモンを捕まえたりする気分でもないし、帰りは寄り道はなしでサファリを出た。

 

 ◆

 

 その後、ハクリューの努力値振りも完了しサファリも終了。いよいよジム戦をして次の町へ、といきたいところだが、その前に避けて通れないことがある。

 

(わかっています。聞かれることは覚悟してました)

「あの、ごめんねシショー。悪気があったわけじゃないんだけど、どうしても……」

「事情はわかっている。もともと密漁されたって話だし、お前が見つけた時も碌な扱いじゃなかったんだろう。人間がキライでもおかしくない。それにこういうことができると知れたらどんな奴から狙われるかわかったもんじゃない。それを理解していたからラプラスは黙っていたんだろうし、ブルーも口止めされてたんだろ」

「うん。よくそんなにわかったわね。でも理解が早くて助かるわ」

「予想はしていたからな。実際にテレパシーが来たときの衝撃はヤバかったが」

「でしょ! わたしもポケモンと話せて感動したもん! ラーちゃんの話って面白いしさ!」

 

 俺の驚きはあの襲撃者以外にもテレパシー使いがいるのかって意味合いだったんだけどな。ラプラスとわかってからはお前が助けてくれるのかって驚きだったし。

 

「今までラプラスとブルーはけっこうしゃべっていたのか」

(お師匠様のポケモン達と話した内容などをブルーに話していました)

「そうか。やっぱり俺のこと警戒してたんだな」

「ギク!」

(……)

「ああ、別に責めているわけじゃない。むしろ俺にテレパシーを使ったことは不用心だったんじゃないか? あの時はもちろん助かったが、こんなこと本来言うべきじゃなかっただろう。当然聞いてしまった以上俺は絶対に秘密は守るし、できる限りそのための協力もするが、やろうと思えばロケット団にこの情報を売りつけることもできるぞ? そうなるとは思わなかったのか?」

 

 これは率直な意見。また嫌われるかもしれないがあえて言わせてもらった。こういう秘密は無暗に明かすべきではない。自分に心当たりがあるからなおさら強くそう思う。

 

「シショー、サラッとそういうこと言うのホント怖い。そういう悪いことばっかり言うせいでラーちゃんは信用できなかったんだから反省して!」

(いえ、もっともなお言葉です。ですが、私は信じていました。人を見るにはポケモンを見よとはよく言ったものです。人間の為人というものは、育てるポケモンへの態度に如実に現れます。良い心を持てば慈愛に満ち、悪しき心を持てばその命は軽んじられ、残酷なものになる。だからその者がポケモンからどう思われているかを見れば、人間の本性というものは自ずと知れるというわけです。……あなたは全てのポケモンから愛されていました。それだけでもあなたの人柄は伺えます。それに、一度私にけづくろいをして下さった時……あなたの気持ちは直接ハッキリと伝わりました。とても良い心をお持ちです。あの時はテレパシーを使うわけにもいかず、礼の一言もなく申し訳ありませんでした。我が主ブルーをあの橋で助けて頂いたことと合わせて改めて感謝の言葉を。ありがとうございます、お師匠様。そして先程の件。迷わずミニリュウを返した時点で、私の心はすでに決まっていました。ただ、機会を得る前にあのような形で唐突に打ち明けることになってしまい、本当に申し訳ありません。お詫び致します)

 

 ものすごい丁寧だな。ポケモンなのに理知的だし、やはり知能は人間以上のものがある。……あとついでにいいことも聞けた。

 

「そこまで考えていたならもう何も言うまい。それに信用してもらえたことは素直に嬉しい。こっちこそありがとう。ところで、その言葉はそういう意味だったのか。ブルーの言いたかったことがやっとわかった。ポケモンには好かれるのに性格が悪いって言いたいんだな?」

「えへへ。実際そうじゃない?」

(ブルー、ちょっとからかい過ぎですよ)

「え、元はと言えばシショーのことはラーちゃんが最初に言い出したんじゃない。ずっと警戒してさぁ。何言ってるの?」

(あ、余計なことを! いや、これは違うんです!)

「もうその話はやめよう。ラプラスの話が面白いって言ってたのはそういうことなんだな。これ以上は俺の精神的なダメージが大き過ぎる。ポケモンに悪く思われていた話とか聞きたくないし。とにかく、これでお互いわだかまりもなくなったし、改めてよろしくな」

 

 強引に話をまとめた。ブルーは隠そうともしないで爆笑し、ラプラスは苦笑いしながら答えた。

 

(はい、お師匠様)

「ずっと俺の事はお師匠様って呼んでいるが、なんでそんな呼び方なんだ?」

(ブルーのお師匠様だからです。あなたはサイレンスブリッジで自らおとりになってブルーを助けました。悪党には決して真似できないことです。あの時からあなたは本当に良い師匠だと感服しましたのでこう呼ばせて頂きます)

「そう思われるのはもちろん嬉しいが、そこまで畏まらなくても。ブルー、ラプラスはいつもこんな感じなのか?」

「それがラーちゃんだから。シルフで助けてからわたしのナイトみたいになっちゃってずっとこうなの。しゃべり方は直せないってその時から言ってたわ。でも、おしゃべりしている時はけっこうおちゃめなのよ? 最初はシショーのことも“油断ならない悪の手先”って言ってたし」

 

 ええ……最初はそんな感じだったのか。ポケモンに言われると堪えるな。

 

(ブルー! それを言うなら、あなたも“あの人はわからずやのけちんぼだからそこには気を付けてね”って言ってたじゃないですか!)

「げっ! いや、それは冗談のうちじゃないの」

「お前ら、そんなこと言って楽しんでたのか」

 

 ブルーはもういい。いまとなっては師匠に対する敬意もへったくれもあったもんじゃないからな。全く誰に似て……お、俺か。

 

「ご、誤解よ! でも、ラーちゃん面白いでしょ?」

「お前が話に付き合わせているだけだろ。そんなことしゃべる前に、もっとその能力を有効活用しようとか思わないのか? まぁ悪用したりするよりマシだが」

(純粋なところがブルーのいいところなんです)

「まぁそうだな。で、ラプラスに1つ聞きたいことがあるんだが、あの襲撃者のこと、本当に何もわからないのか?」

 

 ラプラスと話ができるならもう一度これは聞いておきたい。案の定俺の望んでいた答えが返ってきた。

 

(実は、私に考えがあって、あれは絶対にみずタイプポケモンの仕業ではないと思うのです)

「それはお前の考えだったのか。それでブルーが隠そうとして変な感じのリアクションだったわけね。ちなみにその考えの根拠は?」

(あんなことはただのみずタイプポケモンには不可能です。おそらく伝説級のポケモンの仕業でしょう。それに何度も襲われているとなると、また来る可能性が高いのではないでしょうか)

 

 その仮説が正しいとなればだいぶ限定されるな。まず水の中に潜んでいて、かつ遠距離からあのレベルの攻撃ができて、それでいて水タイプでないとなれば……限定どころかそんなポケモンいなくないか? 他の地方の奴も考えた方がいいのかもしれない。ポケモンって種類だけは無駄に多いからな。

 

「なるほど。ラプラスから見てもヤバイってことは相当だな」

(心当たりのポケモンは?)

「まだなんとも……。でも教えてくれてありがとう。参考になった」

(いえ。これからも困ったことがあればお呼びください)

 

 お礼に頭を撫でてあげると、ヒンヤリとしていていい心地だった。こおりタイプならではの感触だ。今は夏場だし、暑ければ重宝しそう。水も出してくれるし、背中に乗れるし、ラプラスって思ったよりも万能だな。

 

「ああ、頼りにさせてもらうよ。ブルー、お前いい仲間に恵まれたな」

「でしょ? ラーちゃんってホントにいい子なのよね。そうだ! シショーにもラーちゃんと最初に会った時の話をじっくりしてあげる! 聞くも涙語るも涙なんだから!」

 

 ラプラスのなつき具合だけでもただならぬ出会いだったことは想像できる。ちょっと気になるし、せっかくだから聞かせてもらおうかな。

 

 ブルーは身振り手振りを交えて詳しく語ってくれた。ブルーに聞かされた話もたしかに興味深い。でも、それ以上にその隣で微笑ましそうにブルーを見つめるラプラスの表情が印象的だった。

 




良い話な感じのところにどうでもいい話をしますが、カイリュー系統は表記ややこし過ぎです

ミニリュウ
ハクリュー
カイリュー

なんか仲間外れいませんか?
どうでもいい威力変更するぐらいなら命中率改善とか表記統一とかやることあるでしょう
表記の違いに気づくまで検索でひっかからなくてわけわかりませんでしたよ

……もしどっかで間違えてたらこっそり教えてください


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5章まとめ

1.vsサンダー ユーレイゲット

無人発電所へ向かったレインはそこでサンダーと遭遇し、伝説のポケモンについて理解を深めた。

続いてシオンタウンにやってきたレインはポケモンタワーでゲンガーを4番目の仲間にする。

町で小耳にはさんだ情報からブルーの危機を悟り、レインは急ぎシルフ本社へ向かう。

 

2.vsサカキ

ヤマブキへの道中、レインは停電を起こすブルーのレアコイルを見つけ事の次第を悟る。

一刻の猶予もないことを知り、急ぎシルフへ向かったレイン。

間一髪でブルーの窮地を救い、サカキを退け野望を阻止したが、上手く逃げきったサカキに変えられぬ運命を感じ苦々しく思うのだった。

 

3.メタルコートゲット

停電騒ぎでレッド達3人は事情聴取に追われるが、なんとか無罪で釈放される。

その後社長から事件解決のお礼を受けるレイン達4人だが、交渉の末レインはメタルコートをゲットする。

レインはブルーへご褒美を与えるが、機嫌を損ねてしまいブルーは自室に引きこもってしまう。

 

4.ブルーとラプラス

ブルーはテレパシーによる会話によりラプラスとの親密度を深めた。

レインを警戒しブルーに警鐘を鳴らすラプラスだが、レインの懐柔策にハマりつつあるのだった。

 

5.vsナツメ

ヤマブキでの用事を済ませたレインとブルーはナツメにジム戦を挑む。

簡単に勝利を決めたブルーとは対照的にレインはエスパーの力に翻弄される。

ナツメの戦術の弱点を見抜いたレインは形勢を覆し、進化したアカサビの活躍によりバトルを制した。

 

6.vsナツメ?

ジム戦に勝利したレインだったが、ナツメのわがままにつきあうことになりバッジゲットが難航する。

レインは無理やり友達にされそうになるが再戦の約束をすることで難を逃れた……つもりになるのだった。

 

7.vs襲撃者(Ⅱ)

ポケモンの育成を終えたレイン達はサイレンスブリッジへやってきた。

釣りを楽しむレインだったがまたしても謎の襲撃者に遭遇する。

ブルーを先に逃がしなんとか自分も危険地帯から脱出する。

その後レイン達はトレーナー達との終わりの見えない戦いに明け暮れるのだった。

 

8.サファリパーク

連戦を勝ち抜きセキチクに流れ着いた2人はサファリパークへ向かった。

自分の知るサファリとの違いにレインは最初戸惑いを見せるが、逆にそれを利用して大量のラッキーとしあわせタマゴを手に入れてしまう。

レインはさらなる獲物を求めてサファリ探索を続けるのだった。

 

9.vsハクリュー リューちゃんゲット

ドラゴンポケモンを求めて釣りをするレイン。

ミニリュウを捕獲するものの、三度水柱が上がり現れたのはハクリューだった。

一度は逃げ切るレイン達だったが、ミニリュウのため戻ってきたところを再び襲われてしまう。

手も足も出ないレインだったがラプラスの助けで九死に一生を得て、ハクリューも誤解に気づき無事和解する。

レインはラプラスの秘密と真意を知り、ブルーはハクリューを仲間に加えた。

 

 

データ

<レイン>

ウインディ Lv31→37

ハッサム  Lv31→37

サンダース Lv25→36 

ゲンガー  Lv30

 

<ブルー>

フシギバナ Lv36→37

ピジョット Lv35→36

ソーナンス Lv01→27

レアコイル Lv32

ラプラス  Lv36→37

 



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幻のポケモン編
1.裏をかくなら裏の裏 裏の裏ならそのまた裏を


キョウさんが本気を出します
本気のジムリーダーの実力をとくとご覧あれ!


 日を改め、準備万端でセキチクのジムにやってきた。そこにあったのは今まで見てきたジムとはかけ離れたお屋敷のような建物だった。

 

「忍者屋敷と言われている噂は聞いていたが、これじゃホントにカラクリ屋敷みたいに見える。本当にここであっているよな?」

「ちゃんと看板もあるし間違いなさそうよ」

 

 ジムリーダー キョウ どくの ことなら なんでも ござれ

 

 たしかにあるな。いつものやりとりをして、ここが間違いなくジムであることはわかった。屋敷が横長なのに扉がやけに建物の右側にあるのが気になったが、とりあえず中に入ってみることにした。内装も外見に見合った和風の部屋。入ってすぐ脇の壁にある掛け軸に和の心を感じる。味のある字だ。

 

『天を目指せ』

 

 だが、呑気にそれを楽しむ気分にはなれそうにない。そもそも玄関でなくいきなり小部屋のようになっていて住居っぽくない。小部屋だが妙に奥行きはあるし、室内にあるのは正面に見える奥の扉ぐらいで何もなく、しかも入る前からずっと人の気配は全くないのに、建物内では名状しがたい殺気のようなものを感じる。一応調べてみるか。……これは!

 

「なんか不気味なぐらい静かで怖いわね。でもなんか昔にタイムスリップしたみたいで楽しいかも。奥に行ったら誰かいるでしょうし、とりあえず人を探しがてら探検しましょうよ」

「バカッ! 迂闊に進むな! ここにはなんかあるぞ!」

「え? ジムなのになんかもなにもあるわけないでしょ?」

 

 カチッ

 

 ブルーの足元が沈んでスイッチが入ったような音がした。かなり耳につく音だ。ブルーは音に釣られてつい下を向いてしまったが、それは罠。上から仕掛けが出てきた。後ろにいた俺は迷わずブルーを引っ張って自分の後ろに隠した。

 

「ブルー! 下がれっ!」

「ひゃっ!」

「コン、パンッ!」

 

 上から“どくのこな”が降ってきた。天井にポケモンを配置してスイッチと共にこの技を使うようになっているのだろう。それにこの仕掛け……単なる脅しじゃない。本当に俺達に当てる気で作られている。罠の張り方に容赦がない。

 

「サンキューシショー。これはどういうことなの?」

「ここはカラクリ忍者屋敷。トラップありありの最初の試練ってところなんだろう。見ろ、この掛け軸。“天を目指せ”とある。つまり最上階まで自力で上がって来いってことだろう」

 

 最初はレジスチルの点字がそんな感じだったとか全く関係ないことを考えていたが、この言葉には意味があったようだ。この部屋の妙な奥行きも、あの奥の扉まで罠を躱して進んで来いってことか。

 

「なるほどそういうことだったのね。でもこんな罠をいきなり仕掛けるなんてアリなの?」

「ジムはたまに仕掛けがあるパターンが存在するし、ナシではないだろう」

 

 クチバとか内心少しは心配していた。さすがに現実でゴミ箱漁りはやりたくないし、そうでなくてもあの仕掛けはかなり面倒だからな。今となってはもう仕掛けはどこのジムにもないものと思い込んで決めつけていたので不意を突かれた。

 

「うそっ!? 聞いてないわよ! 先に言ってよね」

「俺も中に入ってから気づいた。ここからはかなり気を引き締めた方がいい。少しでも隙を見せたらタダではすまないだろうな」

「そ、そんな大げさな。いまさらわたし達がどうこうされるわけないでしょ?」

 

 ブルー、この罠の恐ろしさがまだわかっていないのか。シャレにならないレベルでヤバイぞこれは。見えない壁でキョウまで辿り着けなくて困ったーとかそんな温いレベルじゃない。

 

「上を見ろ。あれわかるか?」

「上? げっ、なにあれ! 怖い!」

 

 ブルーが見た後仕掛けは再び閉じてしまったが、天井裏の暗闇に潜む赤い光は見えただろう。天井裏は暗いが、かなり狭そうな感じだ。赤い瞳のポケモン……コンパンが通れる程度の隙間。……それ以上の大きさだと潜り込ませるのはキツイか。

 

「ポケモンだ。名前はコンパン。どくポケモン。今の技はどくのこな。この罠、一見大したことないように見えるが、実はかなりタチが悪い。まず、仕掛けそのものが俺達の死角を突いている」

「死角?」

「お前、スイッチの音で下を向いただろ。あれはわざと目立つ音を立てて下に注意を逸らすように仕向けている。それを利用して死角になる頭上から攻撃をした。攻撃に気づいて上を向いたタイミングでどくのこなを丁度吸い込むぐらいの完璧なタイミングだ。さらにそのスイッチ、今の時点でどこのものを踏んだかわかるか?」

「……わかんないわね。わかってても見分けがつかない。でも、だいたいの場所はわかるからもう同じ手には引っ掛からないわ」

 

 その考えが甘いんだよなぁ。ここの罠もこういう反応を見越しているのだろう。仕掛け人はこっちの心理をよく理解している。俺もサーチがなければ迂闊にこの地雷原に踏み込んでいたかもしれない。

 

「甘い。そこが次の罠。スイッチはこの部屋の中に無数にある。1つ躱すことで安心して油断すればすぐに別のスイッチを踏む」

「じゃあ3回目はもう油断しない! 踏んでもすぐ避けるわ!」

「……それも危なそうだな。スイッチの音を頼りに避けるってことだろ?」

「そうよ。これだけ音がするならそれを聞いてすぐ避けられるはずよ」

「たぶんそうやって避けることに慣れた辺りで音無しのスイッチが現れるな。もし俺が仕掛けるならそうする」

「えぇ……いじわる過ぎない? でも、それだって一度見ればもう引っかからないわ!」

「いや、そこまで何度も踏んでいると全て避けていたとしてもアウトだな。どくのこなが来るのがミソだ。粉は消えないから何度も押していると部屋中粉まみれ。そうなれば直接浴びなくてもこの部屋にいるだけで危険。加えて毒は放っておくと時間ごとにダメージが蓄積する。こんな序盤で毒を受けたら最上階へ行き着くのは絶望的だろう」

「そんな! なんでここまでヤバイ仕掛けがあるのよ!」

「ヤバイ仕掛けを置いているのは仕掛け人からのメッセージだろう。そもそも罠なんてあると思わないでここに来て、こんな周到な罠があれば99%引っかかる。その上どく状態になったら最後、即リタイヤを余儀なくされ出直しだ。単に警告するだけなら水でもかければ済むこと。あえてポケモンまで用意して罠を仕掛けたってことは俺達を試しているのさ。容赦はしないが、それでも進む勇気があるかってな。町で俺達がトレーナーと知った時の住人のあの反応、これを知ってたんだな。そりゃ笑うよな」

 

 サファリの情報集めが主な目的だったからその時は聞き流していたが、こんなに大事になるとは思ってもみなかった。こうなるとこのカラクリの事前調査もしておきたかったな。この町じゃボロボロになって出てくるトレーナーの姿が風物詩みたいなものなんだろう。見世物にされる側としてはたまったもんじゃない。

 

 もっとも、だからといって逃げ帰る気もサラサラない。どんなことであれ戦わずに負けを認めるなんてあり得ない。絶対に最上階まで行ってやる。

 

「とんでもないわね。でも、あの罠1つでそこまで色々わかるシショーはなんなの」

「バカ、頭使えば誰にでもわかる。順当な推理だ。ただ強いて言えば、俺はお前の後ろにいて余裕があったというだけ。とりあえずスイッチを押さないようにして奥の扉まで進もう」

「ちょっと待って。ここ突っ切って走っていったら余裕でどくのこなは躱しきれるんじゃない? 発動は遅いみたいだし。名案でしょ?」

「いや、たぶんそれは1番ヤバイ。罠っていうのは二重三重に張り巡らすもの。安易にぶら下げられた正解に飛びつくのは下の下。そもそもお前でもわかったことを仕掛け人が想定していないわけがない。そんなポカに期待するのは楽観的という言葉でも生温い。ここの罠はかなり周到に用意されている。最悪を想定して慎重過ぎるぐらいが丁度いい」

 

 バトルと同じ。読みは相手のレベルに合わせて臨機応変に。勝負は相手より1枚上手になった方が勝利する。裏をかくなら裏の裏、裏の裏ならそのまた裏を。問題は裏の裏が表ってことか。深読みして下手に警戒し過ぎると自滅してしまう。典型的な策士策に溺れるってやつだ。

 

 この屋敷に関しては裏の裏のさらに裏をかいてなお警戒するぐらいでいいだろう。三重の罠ぐらいは平気で仕込んでいそうだ。

 

「でも絶対大丈夫よっ。すぐ走って抜けて次の部屋に行ってドア閉めたらどくは回ってこないし」

「扉がすぐに開く保証があるのか?」

「え? まさか鍵がいるってこと? たしかにそうだとしたら大変なことになるけど、それは考え過ぎよ」

「実際どうなっているかはわからない。何もなければそれはそれでけっこうなことだしな。だが、ここは考え過ぎるぐらいでいいんだよ。俺の勘だ」

「勘ねぇ。まぁそこまで言うならシショーの言葉に従うけど、そもそもの話、わかっていても見分けがつかないのにどうやってスイッチを避けるの?」

「発想を変えろ。スイッチを避けるんじゃダメだ。ならポケモンの気配を利用してその下を避ければいい。天井裏には無数のコンパンがいる。俺があのスイッチ以外にも同様の仕掛けがあると判断した理由、それがコンパンの気配だ。スイッチはコンパンの下にしかないはずだ。お前は俺の後ろから来い。絶対に道を外すなよ」

 

 俺が先に進むが後ろからブルーがついてこない。振り返ればうんうん唸って立ち止まっていた。何しているんだ?

 

「天井裏のポケモンの気配? んんーーっ!! んんんーーーっ!!!……わからないわね」

「……いいから早くついてこい。俺の後ろ辿れって言っただろ。置いていくぞ」

「あっ! 置いてくなんてひどいわよ!」

 

 予想通りコンパンの下しか罠はなかったようだ。もし別の罠も混在していたら避けようがなかったがさすがにそこまではなかったな。あったらお手上げと割り切っていたがなくて良かった。距離はすぐそこなので扉にはあっさり辿り着いた。

 

「げっ! この扉偽物じゃないっ! ただの壁だわ! それじゃダッシュしていたら本当に“どくのこな”の充満した部屋で立ち往生じゃない!」

「しかも時間制限付きで本物の扉探しが始まる。当然焦って碌な考えは浮かばない。でも冷静ならほら、あれが本物だ」

 

 思えばこの奥行きこそ最初の罠だったのか。この扉をゴールだと思わせるための心理的な罠。なら正解はこの壁の向こうにはない。そうなれば必然的に方向は限られてくる。

 

「え、どこよ?」

「この偽扉を背にして右の壁。下の床を見ると一部床の色が違うところがあるだろ、扇状に」

「あっ、あれはドアがあるから色が違うのか。よく気づいたわね」

「最初に目星がついていた。ジムの入り口は建物の右側に不自然なぐらい寄っていた。奥へ行けないならあっちにしか進むスペースがない」

「なるほど! そんなこと気にもしてなかったわ」

 

 壁に近づいてよく見れば開けるための取っ手があった。忍者屋敷にはスライド式の方が似合う気がしたが、この床はわかりやすくわざと印があったのかもな。最初のサービスってところかねぇ。ここからはさらに難易度が上がるってわけか。 

 

 やっと次の部屋に入った。まさか部屋1つ進むだけでこんなに大変だとは思わなかった。ちょっと仕掛けに力入れ過ぎじゃない?

 

 次の部屋はこれまた何もない殺風景な部屋。あるのはまたしても正面の出口だけ。今度は奥に階段も見えており間違いなく本物だろう。

 

 だが部屋の広さは段違い。相当な広さだ。罠満載の屋敷でありながら広い空間でこうも何もないよと言わんばかりだと逆に警戒度は高くなってしまう。とりあえずまたサーチでポケモンを探してみるが……これまたよくもまぁこんなに隠したもんだ。あちこちにいるわいるわ。動けば碌なことにはなるまい。

 

「……さすがにこの部屋、何もないわけないわよね?」

「当たり前だ。それどころか、さっきとは比較にならない程わんさかポケモンが潜んでいる。1歩前に足を出すだけで何が起きるかわからない」

「うそ?!」

「ちょっと考えるからじっとしていろ」

「シショー、早くしてね。怖くてこんなところにずっといるなんてイヤよわたし!」

 

 さて、ホントに数が多い。どこから手をつけるべきか。サーチを発動して意識を前にグッと集中した。範囲を広げていくとポケモンが見えてくる。

 

 最初に気を引いたのは下だ。地下にポケモンがいる。しかもメンツがベトベター系統だけ。これが罠に使われるとは考えにくい。間違いなく落とし穴だな。はまったら最後、ベトベターさんとこんにちは、というわけだ。冷静にバトルすれば倒すのは難しくないが、いきなり鉢合わせて冷静な人間がどれだけいるのか。……いい性格している。

 

 上には今度はドガースがいる。こいつはおそらく罠に使うのだろうが、2通りありえるのが怖い。“どくガス”も厄介だが、“じばく”してくるのが特に怖い。どく状態は“モモンのみ”で治るっていう気楽さは今までもあったからだ。

 

 天井で特に気になるのはバリヤードもチラホラいること。なぜどくタイプのジムにいるのか。ゲームでも関係ないスリーパーがいることはあった。だがこのチョイスには何かしらの意味がある気がしてならない。バリヤードといえばパントマイム、壁を作るとかだろうか? 罠メインのここでエスパーを前面には出さないだろうし。とすると考えられる役割は……!!

 

 恐ろしい考えが浮かんできた。これが当たっていたら最悪の状況だ。

 

「おい、この部屋シャレにならんかもしれん。ブルー、ちょっと周囲を警戒してろ。出ろ、ユーレイ! 周囲に10まんボルトを散らしてくれ」

「ガッガ!」

 

 “10まんボルト”は方向ごとに不規則な軌道になった。その全てが何かに遮られたかのように反射あるいは遮断。このことが意味するのは1つだけ。

 

「セキチクジム名物、見えない壁! ここで来るか……!」

「見えない壁ですって! じゃあ、この部屋全体が見えない壁に仕切られた迷路ってこと?! そんなのどうやって向こうに渡るのよ! 迷ったら戻ることもできないわ!」

「そういうことだ。見えない壁の迷路、しかもそこら中に罠がある。俺の見立てでは、さっきの部屋のようにスイッチがいくつも下に埋まっている。今度は2パターン。1つは落とし穴。下にはベトベターつきだ。もう1つは上からドガース。落とし穴はいわずもがなだが、上からくる方もこの迷路は壁が見えないからとっさに逃げる場合に壁で身動きとれなくなる。そこをドガースが“じばく”なんてしようものならどうなるか」

「落ちたらベトベターって、絶対触っちゃうじゃない! じばくも至近距離で受けたらヤバイわよ!?」

「しかも上にはバリヤードもいる。たぶんうっかりそいつを下に落としたら道が閉じるっていう罠だ。これが1番ヤバイ」

 

 壁が増える迷路とか冗談抜きに迷宮と化す。最悪なのは閉じ込められてからの“だいばくはつ”。ドガースなら転がってきたりとかもありそうだし、ここにポケモン以外の罠がない保証も当然ない。相当タチが悪い。

 

「ひかりのかべとか? でも一定時間経てば消えるでしょ?」

「バリヤードはおそらくその場に残るタイプだな。ずっととおせんぼされるだろう」

「エグ過ぎ! 下手したら閉じ込められて詰みまであるじゃない! どうすんのよ!」

「仕掛けを避けるのは別に難しくない。さっきと同じ手が使える」

「あ、そっか。じゃあシショーなら、案外楽ショー?」

 

 いきなり韻を踏みだしたがラッパーかお前は。罠がきつ過ぎて頭おかしくなったのかな、というのはブルー相手でも失礼過ぎるか。

 

 罠に関してはわざと同じ方法が使えると思わせて油断させる気だろうな。あの部屋で三重に罠を張っていた人間が初歩的なミスをするとは思えない。走り抜けれる程度に調整して部屋中どくのこなにするような奴の発想なら、こっちがラッキーと思って気を緩めたところに罠を張ってくるだろう。

 

「俺は楽に同じ手でいけると油断させることこそが相手の策略だと思える。さっきの部屋をクリアするにはポケモンの場所を察知するしかない。ならここに来た人間はそれを攻略した人間しか来ないから同じ罠が通用しないことはわかりきっている。そこをあえて同じ罠で来た。となればこれはもう必ず他にも罠を用意している。さっきなかったことを踏まえるとなおさら怪しい。全く別パターンの罠を似た形で紛れ込ませるとかして、安心した俺達を狙い撃つ罠がもう1枚眠っているはず。驚くような仕掛けがあるだろうぜ。絶対の安全なんてこの屋敷にはない」

「そんな悪魔染みたことしてきたら人間疑うわよ?」

「さっきの部屋でもう悪魔染みているのはわかっていること。絶対にある。最悪見えない壁と合わせて罠を踏まなくてはいけない状況に追い込まれるかも。そもそも、正解の経路の中に罠がないと決まったわけでもない。ポケモンを避ける道にポケモンを使わない罠を忍ばせるぐらいはしてきそうだ。とにかく確実に罠は踏まされると思った方がいい」

「そんなぁ……上のフロアへの階段は目の届くところにあるのに」

「……」

 

 階段か……。そういえば妙だな。なぜ今回はハッキリ正解の扉の位置を教えた? もちろん同じことをしても芸はないが、さっきブルーがいったように扉にカギを用意して、さらにそれを迷路に隠すようなことをすれば難易度は跳ね上がる。俺ならそうするな。だが仕掛け人はそれをしなかった。何が狙いだ? きっと何か意味はあるはず。

 

 もしかしてわざと見せたのか、答えを。意識を前に向けた。ブルーも見えるのに進めないのがもどかしいと思っての発言。見えてなければそうは思わない。つまりこの迷路の中へ誘い込む罠。

 

 いや、それはおかしい。そもそも迷路はどのみち入るしかないから誘う必要はないんだ。それにカギをつけるなり何か扉に仕掛けをいれない理由も結局ない。やはり何かズレている。思考の根本から間違っている気がする。足元を揺さぶられる感覚。

 

 ……まさか、この迷路自体がフェイク? 迷路に入らずにここを超える方法があるのか? だからこの中に誘導するために出口を見せた。階段が見えれば逸る気持ちもなおさら増す。ならあの出口は餌か、間違いない。獲物を地獄へおびき寄せる罠。

 

 そこまで考えるとこの迷宮、袋小路という線も出て来たな。出口を作る意味がない。

 

 もしもこの屋敷、罠は全て回避できるようにできているとすれば、可能性としては何か裏技みたいな方法で抜けれる可能性がある。迷宮内は罠を避け切るのは無理だろうし、ますます別の方法がある気がしてきた。見えない壁の盲点をついた抜け道のような何か……!!

 

「わかった! 端だ! この部屋、おそらく端は完全に壁がなくて反対側の出口まで回っていけるぞ」

「ホントッ!? でもなんでそんなこと言えるのよっ」

「お前の言葉で気づいた。あの出口はわざと見せているんだ。俺達をまっすぐ前に進ませるために。そしてその先はおそらく出口のない迷宮。まっすぐ行けば正解はないんだろう」

「はぁ?! そんなのサギじゃない!? だいたいなんで出口がないって言いきれるの?!」

「正解をおそらく別に用意している。なら、ハズレに出口は不要だ」

「えぇ……でも中に入っても出口がなかったら戻るから大丈夫か」

「いや、それはない。階段を見て一度中に入ってしまえば必ず罠を踏む。そうすればますます迷宮を超えようとする。罠があるならそれが進むべき道だと考えるから。罠がある方が正解という心理を逆手にとった、いわば心理的死角をついたトリック。おそらくこの部屋のトリックに気づけるのは今俺達がいるこの場所だけ。中に入ったら二度と気づけない」

「たしかにそうね。夢にも思わないでしょうね、別にルートがあるなんて」

「つまり俺達は最善の選択をしたことになるな、結果的に」

「それじゃ、なんで端を伝うってわかったの?」

「正解はまっすぐと別方向、つまり横に進めばいい。あの階段が見えているのに最初から横に進もうとする奴はいない。それを見越してあれを見せていると読めば正解はその先にこそある。とにかく裏をかくには相手の狙いを考え、どう誘導しようとしているか考えればいい。そうすればその思考の逆を行けば必ず正しい道筋は浮かんでくる」

 

 実際にはゲームの攻略法から考えたのが8割ぐらい占めているけど、言ったもん勝ちだからな。ゲームの見えない壁は壁沿いに進むとほぼ一周グルッと回れた。それと同じわけだ。

 

「ほぇー。べ、勉強になるわね。難しくてあんまりどういうことかわかんないけど」

「そのうちブルーもわかるようになる。行くぞ」

 

 端を伝っていくと予想通り簡単に反対側に辿り着いた。ブルーはまだ夢でも見ているかのようなポカンとした表情。確かにこの答えはちょっと拍子抜けするのはわかるが、ショートカットできたのだから楽できてもうけもんぐらいに思わないと。まだまだ先は長いのだから。

 




本気出す(バトルするとは言ってない)

みんな大好きカラクリ屋敷の時間!
楽しくて仕掛けがどんどん増えて1階で収まらず2階へ

思考が長いので際限なく話が伸びて何話使うかわからないですね
バトルもこれぐらいやれって感じですね


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2.つりてん たけやり ピアノせん わなのことなら なんでもござれ

タイトルはゲーム中のジムの看板から取ってきました(大嘘)




 大部屋を越えて一拍置き、目の前の階段を見て周囲にも気を配り警戒し直した。……ここにもなんかありそうだな。ただの階段と思って油断できない。階段に罠は付き物だし。ポケモンは……うげぇ。それなりにいるな。ビリリダマとかがいる。というか埋まっている。ここ本当の地雷原みたいになってんな。こわぁ。挑戦に来た奴をどうしたいの? 爆殺?

 

 呑気に階段を登ろうとするブルーを引っ張って引き留めてから声をかけた。

 

「ブルーちょっと待て」

「何よ? まさかここにもなんかあるの?! もういい加減にしてよ、休む暇も与えないつもり?!」

「俺にやつあたりするな。ここにもヤバイのがある。さすがにいちいち相手にしていたらキリがない。さっきは壁があったが今はないんだ。ユーレイにつかまって建物と接触しないようにしながら俺達を上に運んでもらおう」

 

 今まではユーレイの出番がなかったが、ここからはフルに使えるはずだ。すり抜けができる偵察役は心強い。

 

「あ、なるほどっ。シショーってこういうズルすることにかけては天才ね」

「ズルばっかりで悪かったな。俺が先に行って様子を見ておくから後から来い」

 

 2階に上がると長い廊下に続いていた。特に扉などもないし、突き当りまで行けば道が曲がっているのだろう。幸い廊下の上と下には仕掛けはなさそうだ。少なくともポケモン絡みの罠はない。

 

「シショー、来たわよ」

「よし。ユーレイ、ちょっと先がどうなっているか調べて来てくれ。絶対に建物とは触れるな。ポケモンが出たらシャドーボールで迎撃していい」

「ガッ!」

 

 偵察に向かわせたユーレイの報告を待つと、曰く、ここから見える突き当りの先はただの行き止まりで、俺達から見えている空間がこの階の全てだと言う。

 

「どういうこと? まさかわたし達道間違えたの? ここに来てやりなおしはイヤよ?」

「それはないな。ユーレイ、建物の内側、こっち側の壁をすり抜けて部屋がないか見てくれ」

「ガー? ……ゲェェェ!」

「びっくりしたのはわかったから。とりあえずあったってことだな、その声は?」

「ガッガッガ!」

 

 そのリアクションやたらと気に入ってるな。俺の反応が面白いのか? ……もしこいつまでここの罠に協力させたら数段難易度上がりそうだな。ユーレイは人間を7階から平気な顔で落とす畜生だから容赦もしないだろう。あれは忘れない、一生。

 

 部屋はあるってことは、ここはオーソドックスに隠し扉があると考えるべきか。なら壁を調べて行けばいい。今までの罠の過密具合を考えると調べるのは怖くなるところだが、特に印になりそうなものもない。判別は無理。どうするか。

 

 そもそも、この壁は罠を仕込んでいるとは考えにくい。扉があるなら罠を仕込むほど壁を厚くはできないはずだからだ。

 

 1階と違いヒントが全くないことからしておそらく故意だ。あのとき床に違いがあったから、逆に今後も扉があれば何か目印があるという先入観ができる。だから何もないところを触る気は起きない。1階のあれもやはり伏線だったのだ。

 

 ここの狙いとしては度胸試しってところか? 罠を恐れず調べないと一生前に進めない。恐怖に縛られると最悪ここで堂々巡りに陥る可能性もあるな。人によってはこれこそ最も難しい試練になり得る。

 

「この辺りかな?」

「ちょっとシショー、なにトチ狂ってんの!? そんなところうかつに触ったら何が出てくるかわかんないわよ!」

「大丈夫……おっ、この感触! やっぱりだ、開いたぞ?」

 

 廊下の真ん中辺りで壁を押し込むと回転扉が動いた。思った通り周りを触った時も何もなかった。こんな試し方までしてくるなんてな。楽しませてくれる。それに罠の仕掛け方にも好感が持てる。

 

「もう、なんもなかったからいいようなものの、なんかあったらどうする気なのよ! 一声ぐらいかけてからやってよ!」

「そういうことにはならないんだよ。下の階でこの罠作ってる奴の性格はほぼわかった。つまらない罠は仕掛けてこない。そして必ず罠は避ける方法を用意してくる。だから隠し扉を見つけるために壁を調べても罠は出てこない。逆に反対側の壁と突き当りのところには大量に罠があったはずだ。特に廊下の突き当りにはな。それをくらったらもうここは罠だらけじゃないかと疑心暗鬼になる。1階を踏まえればなおさらだ。だから罠に慣れてくるこのタイミングであえて罠を仕掛けなかったんだよ。な、ここには不要だろ?」

「な?って言われてもそんなことまでわたしにはわかんないわよ! とりあえず、これ仕掛けた人もシショーに負けず劣らずの性格しているのだけはわかったけど」

「そりゃないだろ。ここはもうちょっと感心するところだ。度胸試しみたいなもんだし」

「ホントなのかしら。じゃ、この部屋はどうするの?」

 

 回転扉の向こう側。今度は見るからに仕掛けがありそうだ。もちろんあからさまにヒモが天井から垂れている、とかはない。部屋が連なっていてそれを隔てる仕切り、障子はあるが全て開いており、いくつもの部屋が合わさり大部屋になっている。

 

 見通しはいいから端まで見えて、全部合わせれば屋敷の広さと同じぐらいの広さだな。建物の大きさ的にゴールは3階ぐらいが屋上のはず。この上にジムリーダーはいる。つまりここが最後の山場だ。

 

 サーチするとポケモンはいるが比率的には今までより数は絞られている。となると……

 

「先鋒はお前だ! いけ、ピッピ!」

 

 遠くに5体程投げると内2つが罠の餌食に。1つが吊り天井でぺちゃんこ。もう1つは竹槍で突かれて串刺しに。右隣の部屋は天井が落ちたままで完全に行けなくなったな。

 

「うわぁ。むごいことするわねぇ」

「人形だから構わないだろ。それより、これで普通の罠もこの部屋にはてんこ盛りとわかった。動けないな」

「ムダな罠はないんでしょ? じゃあ案外あっさりいけるかもよ?」

「いや、この感じだと今回は逆だな。さっき案外罠はないところを見せて、こっちにそう思わせたのだから、今度はその逆で罠は多目だろう。普通の罠は見てから対処するしかないのがキツイ。1つ引っかかると連鎖する可能性もある。うかつに逃げたら別の罠にもかかったなんてことになればもう目も当てられない。ここは強硬手段でいかせてもらう。ユーレイ、俺が指示するから言われたところ調べて来て」

 

 ポケモンがいないところを隈なく調べてもらうと、吊り天井と横の壁から竹槍、下の階を経由してベトベターまで直通の落とし穴もわかった。しかも部屋同士のしきりは空いているように見えて見えない壁も所々あるらしい。当然足場のスイッチも健在で、ビリリダマも埋まっている。今までの罠が盛りだくさんだ。加えて、よくわからない仕掛けみたいなものもまだあるらしい。端に多いようだ。逆にポケモンは中央に集中している。

 

「ユーレイがいるならさっきみたいにつかまって浮いていけば簡単に抜けられる気はするな。問題は仕掛け人がそれを見越しているかどうか。……そうだ、階段はどこにある? 先に探してきてくれ」

 

 これが見つからない。部屋の中にはどこにもないらしい。

 

 これだけ区切られていて、かつ罠を捌きながら、となればどこを調べたかはいちいち把握しきれない。まさかこの部屋全てハズレとは思わないからこの罠地獄を全て調べるはめになる。下手したら同じところを回り続けることもありえる。本当に性格が出ている。

 

 どこかに階段を出す起動スイッチがあるとかだともう最悪。みつからない階段……なんとかならないのか。階段は隠れているにせよどこかにはあるはず。今度は壁の外も含めて探させるか。

 

「ゲーン」

「あったのか!? ……屋敷の外?!」

「屋敷の外に階段って、もうなんでもアリね。それ誰が気づくの?」

「しかもジムの表から死角になる裏手に用意しているから本当に徹底している。運の悪いことにここから正反対だから遠いしな。ワンチャン灯台下暗しで近場に、なんて考えていたが甘いか」

 

 最初に裏手に回っていれば気づいただろうが、そんな奇特な人間いないだろうしな。そもそも入る前はカラクリ満載とは思わなかったし。

 

「外にはどういくのよ?」

「隠し扉だろうな。ある前提で探さないと見つけられないからオーソドックスだが効果的。あとはここを超えるだけ。壁で仕切られてないからユーレイで飛んでいけるが、やっぱりこれは罠だな。ゲンガーは想定されている気がしてきた」

「なんでよ。今まで使い放題だったじゃない?」

「今まで全てが伏線だな。まさにそう思わせる罠だ。そもそも仕掛け人は絶対にゲンガーを知っている。それどころか熟知している可能性が高い。そのことを今思い出した。だからゲンガーで簡単に攻略はできないはずだ」

 

 気になった切欠はユーレイをしてよくわからないと言わせしめた謎の罠。今までとタイプが違う罠があったなら、それはゴーストタイプなどで浮いて行こうとする人間を狙い撃っている気がする。

 

 そもそもこの罠を作ったのは誰かってことを考えてみたら、間違いなくジムリーダーのキョウ。奴の専門はどくタイプ! ならゲンガーもその範囲内だ。だから想定されていないはずはない。今までは偶然何もなかっただけ。それが今後の保証になるわけはない。なら罠はあるとして、どう仕掛ける?

 

 ……罠は空中にあるな。間違いない。浮いて進んだところに恐るべきトラップを用意する。ユーレイがよくわからないといっていた罠。それが起動するはず。そしてそれを使えば恐らく真ん中に追い詰められると見た。あのポケモンの密集具合は今まで楽した分ツケを払わせようって魂胆だろ。落とし穴もあるから一階からやりなおし、それも迷宮の中からってことにもなりかねない。

 

「まさかそんなっ! でもシショーがあると読み切ったならそうなんでしょうね。じゃあどうするの?」

「おそらく空中に何かある。それを解除すればいい」

「空中ですって? 何も無いところにどうやって罠なんか仕掛けるの? そんなことあるわけないわ」

「視認できない空中の罠といったら、これはもう見えないピアノ線としか考えられない。ま、ピアノ線までいかなくても、糸かなんかあるのは間違いない。それが罠のトリガーになるんだ。割とよくある定番だろ」

「定番? 忍者の定番ってこと? シショーはなんでそんなこと知っているのかしらねぇ。それじゃ、その定番の罠の対処方法はどうするの?」

「わかっていれば簡単。軽くて目につくものをばらまけばいい。水でもまけば十分。水のしずくが残って反射するから見やすくなる。ピアノ線がありそうな場所もだいたい見当はつく。このフロア、なんでこんな小部屋に仕切られていると思う?」

「吊り天井のためじゃないの? 屋根全部落とすわけにいかないし。あとさっき言っていた見えない壁も」

「その辺はカモフラージュだな。本当の目的はピアノ線を張るためだ。その辺の罠は仕切りがなくても問題はない。なんとでもなる。だが、ピアノ線は違う。この大部屋を横断するような長い仕掛けを張ると他の仕掛けとミスマッチになる。罠の配置に制限ができる」

「じゃ、細かくピアノ線を張るために部屋の区切りがあるのね。つまり部屋と部屋の境界のところに注意すればいいってこと?」

「そういうことだ。簡単な推理だろ? 念のため俺が先に行く。お前は後だ」

「簡単……?」

 

 用心しながら水をまいて進むとちょっと気が緩みそうな頃に唐突に仕掛けが現れた。最初の目に届く範囲はピアノ線がないのがいやらしい。見えない壁で進路を曲げたのは遠回りさせるためというより、反対側へ行く経路を直線から外すためだったのか。ほんとに考え込まれているなぁ。

 

 ブルーも同様にして連れて来て、反対側の壁の前に立った。隠し扉探しはユーレイのおかげで階段の位置がわかっていたので、その周辺を徹底的に調べた。壁の厚みからして罠はないから遠慮なく調べて回り、やはり隠し階段の近くで隠し扉を見つけた。

 

「なら階段の横のこの辺りに……あった、隠し扉」

 

 今度はスライド式だ。取っ手もなし。これじゃあることを確信していないと一生見つかりっこない。1階でスライド式じゃなかったのはここで取っ手を探させるためか。まともに見つけるとなればいったん外に出て屋敷の周りをグルっと一周するしかない。そんなことにならずに済んで良かった。

 

「めっちゃ開けづらいわね。これ、あるのがわかってないと気づかないでしょ」

「そういうことだな。うわぁ、本当に外だな。おそらくこの隠し扉は階段の位置を裏に回って確認することが前提で作られているんだろうよ。あるいは壁を叩けば厚みはわかるから、薄いところをしらみつぶしに開けようとするとかかな。スライド式であることに気づくのしんどいけど」

「常人の考えることじゃないでしょ。そもそも外に階段っておかしくない?」

「たしかに、よくこんな場所に階段作ったなとは思う。というか、ここからも階段まで若干距離があるんだが」

「飛び移れる距離でもないわね。中からだとジャンプしにくいし。落ちたら……高っ! ここめっちゃ高いじゃない! 落ちたらただじゃ済まないわよ!」

 

 ブルーの言葉に違和感を覚えた。確かにかなり高いのは見たらわかるのだが、なんか変な気がする。何か忘れている?

 

「……おい、ここ2階じゃなかったか?」

「あれ? そういえばそうね。でもけっこう高いわよ?」

「錯覚させるために裏側だけ地面が異様に低くなっているのか? いや、そんなことすれば入る前に目立つんじゃないか? 多少は地面を低くしてそうだがここまで落差があると全部そのせいとは考えにくい。もう1つ、もっと簡単なトリックがある気がする……あ、錯覚というより屈折か!」

「いきなり何わけわかんないこと言ってるのよ」

「光の屈折だ。お前、水の中に物を置いた時とか、水中って思ったより浅く見えたことってないか?」

「ああ、あるある。わたしプールが浅く見えて溺れかけたことがあるのよね。水に文句言ったから覚えてる。それが光の屈折と何か関係あるの?」

 

 そういえばブルーはまだ中学生ぐらいの年だっけ。今は学校にも行ってないから知らないのか、物理は。常識として知っていてもおかしくないかと思ったが、賢いブルーが知らないってことは教えてもらったことがないんだろうな。水に文句言う奴は初めて見た。

 

「俺達が見た時の浅い深いの感覚は光が曲がってない時の感覚をそのまま感じてしまう。だから光が水中で曲がった分浅いと錯覚する。同じ原理で今俺達の視線を特殊な透明なガラスかなんかで遮っているから屈折が起きて錯覚を受けているのだろう。下側がレンズになっているのかもしれない。だとするとここに足場が……」

「あ、危ない!」

「大丈夫、ホラ、ここにガラスがある。これに乗れば階段まで簡単に行ける」

「見えない壁の次は見えない足場? もう何でもアリね」

「けっこうこの足場広いから落ちる心配はなさそうだ。ユーレイの手を借りるまでもない。早く来い」

 

 着いた着いた。ようやくここまで来たな。ここが目的地の最上階らしい。ここまで大変だったなぁ。最初はよくもやってくれたなという気分だったが、カラクリは元々キライではない性分で、仕掛けも闇雲でなく考え込まれて凝っているのが感じられたから案外楽しめるものだった。終わってしまうとそれはそれでちょっと残念に思える程だ。ホウエンでカラクリ屋敷を攻略したときもそんな感じだったな。最初はめんどいだけだったが最後は楽しくて、急に旅に出るとか言い出した時はガッカリしたものだ。

 

「着いたー!!……あれ、誰もいないじゃない」

「そういや何もないのはおかしいな。掛け軸に従ってここにきたのに。そういやユーレイ、ここにはずっと誰もいなかったのか?」

「ガー」

 

 さっき見て回った時もいなかったらしい。ここじゃなかったってことか? ここまで仕掛けを用意してそれはないだろう、いくらなんでも。ならまだ何か見落としている可能性が高いな。ここは最上階屋上。上は空。下は床。周りは特になにもない。罠とかはある気配はしない。ならやることは限られるか?

 

「シショー、どうしよう。また戻るの?」

「いや、少し待て。まだ何かあるぞ」

 

 ――ファファファ――

 

「そこ! シャドーボール!」

「ガーッッ」

「おっと! 危ない危ない。お主、なぜ拙者が床下に隠れているとわかった?」

「出た忍者! ホントに床下とかに隠れたりするんだ!」

 

 チッ! 間一髪避けられたか。もうあと何センチかで当たっていた。どさくさに紛れて本気で当てにいったのに。いや……ギリギリじゃない。身のこなしに余裕がある。わざと最小限の動きで躱したのかも。俺よりもかなりレベルが高そうだな。別にレベルなんか高くなりたくないけど。

 

 懐かしくてカラクリ屋敷を思い出した流れで仕掛け人が床とかに隠れていたりしないかと思って注意してみれば本当に隠れてやがった。セリフもカラクリ大王みたいなこと言ってるし。

 

「なぜもなにも、あんた今思いっきり笑ってただろ。それよりもどういうことなんだ、ここの仕掛けは? ジムの歓迎にしちゃ、ちょっと本気過ぎないか?」

「何を言う、拙者の考えた仕掛けを次々とあっさり破っておいて。拙者の隠形を見破ったことといい、忍びの罠に精通していることといい、やはりただものではなかったようだな。サファリで見かけた時からそんな気はしていたが、久々に面白いトレーナーを見られた。愉快愉快」

 

 愉快で片づけていいのか? 俺だからなんともなかったが他のチャレンジャーはどうしているんだ? まさかそろいもそろって忍者染みた化け物ぞろいってわけでもあるまい。

 

「こっちもこんなにエキセントリックなジムは生まれて初めて見たよ。随分と楽しませてくれるじゃないか?」

「ファーファッファッファ! このジムは拙者好みの忍者屋敷に改造してあるからな。なかなか趣向が凝らされていて面白いだろう?」

 

 皮肉が通じてない。1番めんどくさいタイプじゃないか、もしかして。戦い方と同じだな。町ごと改造しようとするジムリーダーとかもいるし、案外ジムリーダーなら普通の感覚という説もあるが。

 

「チャレンジャーはいつもこれをやっているのか?」

「無論。しかし、最初の挑戦では最上階の屋上バトルフィールドはおろか、2階に辿り着いたものもおらん。最初は皆コンパンの小部屋で立ち往生するのが通例。運よくそこを越えても、見えずの間にて多くの者がリタイヤする。たいていは何度も繰り返して罠の場所を覚えて、仕掛けを理解し、苦難の連続に耐え抜いて、ようやく何人かがここに上がれるかどうかというところ。近頃は途中で音を上げる軟弱なトレーナーが多く、嘆かわしく思っていたところにお主の快挙だ。上機嫌にもなろうというもの」

 

 コンパンの小部屋とかって、あれいちいち名前とかあんのかってのも気になったが、何度も繰り返すといったこと、これは大変なことじゃないか? 失敗を前提に組まれた試練ってポケモンではなかなかないと思う。ルネジムは初見では何をするのかわからなくていきなり落ちた記憶があるがそれぐらいか。もちろんこの屋敷が難易度ベリーハード通り越してルナティックっていうのは最初から分かり切っていたけど。

 

 その割には1回でクリアするのを前提にした駆け引きもあったと思うけどなぁ。失敗前提なら、例えば最初の部屋は気配が読めなかったら全部1個ずつ覚えるとかいう感じに変わるのかな。それはそれでとんでもない忍耐が要求されそうだ。歩数で数えたりするのか? 完全に別の試練だな。

 

「それじゃ完全に覚えゲーと化してるのか。けっこう色々練られた罠だったしそれはそれで勿体ないなぁ。いかに罠を躱すかの駆け引きが面白いのに。……じゃあ、最近来た赤い奴と緑の奴はどうだった?」

 

 こういう言い方だと別の人を思い浮かべそうだが、レッドとグリーンのことを指している。あいつらならなんとかしそうな気がするがどうか。

 

「お主よくわかっておるな。さすがノーミスクリアの実力者。赤と緑というのは、レッドとグリーンという名の少年か? それならたしかに来た。何回もやったあと屋上まで来たな。センスもあり、かつ久しく見ない根性のあるトレーナーだったぞ。ファファファ」

「久しくって、挑戦者は全員ここに来るんだろ?」

「まさか。ここに至るはほんの一握り。大多数は拙者に助けられ入口に戻されるか、これ以上進歩の見込みなしと判断すればそこまでで中断させて挑戦を認めている」

「……恐ろしいな」

 

 やり直し前提どころか、リタイヤまで考慮されていたことが判明。こんなレベルのジムの試練をランク1から全員にこなさせるのはどう考えてもヤバイな。早々にトレーナー修行に絶望するだろう。あの2人でも1発はダメだったなら相当難度が高いと見ていい。

 

「むしろそれをあっさりとはいかなくても一発でクリアする人がおかしいんじゃない?」

「ブルーなんか言った?」

「別にー? それよりもさぁ、そんなえげつない仕掛けジムに作らないでよ! めっちゃ疲れたじゃない! わたしはシショーみたいに変態染みた読みとかないし普通のか弱い女の子なのよっ! あなた、今すぐバトルよ! わたしがボコボコにしてやるわ!」

 

 疲れたっていっても、お前ほとんどついてきただけだろう? 精神的にってことなのか? 後、どさくさで人を変態呼ばわりするな。

 

「ファファファ、なかなか血気盛んなおなごだな。良いだろう。バトルフィールドをすぐに用意しよう。しばらく拙者の近くで待たれよ」

 

 ここでやるのか。掛け軸でここに誘導したのはちゃんとフィールドの場所へ向かわせるためだったのか。観客席はないので離れた場所から立ったまま見ることにした。カラクリが動いて床が動き間もなくフィールドが現れた。

 

「では、改めて自己紹介致そう。拙者の名はキョウ! 得意とするはどくタイプ! 毒を食らったら自滅! 眠ってしまったら無抵抗 ……忍の技の極意! どくポケモンの恐ろしさ! 受けてみるがよい!」

 

 いよいよジム戦開始だ!

 




ブルーが疲れたのは驚き疲れたからでしょう
先に戦ってほしかったからというのが本当の理由ですが

2階の部屋は特に名前を考えていないです
被るところなどもあって名前が付けにくいんですよね
名前を出さないことで解決しましたが

罠に関してはもう少し引っかかって悪戦苦闘するところなども見たいですがノーミスクリアしてしまったので見れずじまいですね

レッド達の挑戦記録を書いたら面白そうですね


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3.かわせども かわしきれない 歌の()

カラクリもなかなかでしたがバトルも3回程に跨ぎそうです
これはさすがに長すぎると判断し分けます


「審判は我が門下のアンズが務める。使用ポケモンは4体、交代はチャレンジャーのみ可能とする。良いな?」

 

 え、いつの間にかもう1人増えている。さっきまで俺、ブルー、キョウの3人だったのに。忍者恐るべし。気配を殺しているな。

 

 名前を呼ばれペコッと頭を下げる審判。アンズと言えばもしかしなくても次期ジムリーダーじゃん。これを見るとジムの審判は一番有望そうな奴がやるものなのかもしれない。コズエって1番弟子とかほざいていたがあれは本当だったのか。いまさら真実味を帯びてきたな。審判をさせるのはジムリーダーの仕事を直接見て学ばせる意図とかもあるのかもしれない。意外と奥が深い。

 

「ぐっ、自己紹介聞く限りめっちゃイヤな戦い方をしてきそうね。わたしはマサラタウンのブルー。ランク7を希望するわ」

「ファファファ! イヤと言いながらランク7に上げると? ますます面白い。よろしい。お受け致そう。では、いざ尋常に勝負!」

 

 さぁ始まったな。前は見逃したし今回はじっくり見させてもらおう。

 

「両者最初の1体を」

「ピーちゃん!」

「ゆけい、マタドガス」

 

 ピジョット Lv36 114-95-67-54-60-121

 マタドガス Lv40 120-93-115-70-78-62

 

 能力は目立ったところはないが、問題は技だな。厄介な補助技がずらっと並んでいる。

 

  おにび おきみやげ どくどく どくびし いたみわけ

 

 これはまともにいくとかなり厳しい。

 

「はじめ!」

「そんなポケモンすぐにやっつけてやるわ! つばめがえし!」

 

 あーあ、ダメだ。悪いときのブルーのクセ。前のめりになって視野が狭いと攻撃が単調になる。これじゃ術中に嵌るな。

 

「おにびから」

 

 相手は物理防御主体のポケモン。致命的なダメージには至らず逆にやけど状態にされていきなり機能停止。やけどすると攻撃力が半減するからだ。ブルーは幸先悪い。

 

「えっ、どくどくじゃなくておにびなの!? 話が違うわよ! なら、おんがえし!」

「まもる」

「そんな! こうなったら押せ押せよ! もっかいおんがえし!」

 

 ゴリ押しは最悪だ。ダメージを多少は与えるが、“ヘドロばくだん”などで反撃も受けて、もうボロボロだな。やけどのダメージを考えて勝負を急いだのかもしれない。思ったよりは技のキレのおかげなのかダメージはたまっているがギリギリ相打ちになるかどうかというところ。

 

「もう一息よ! つばめがえし」

「おきみやげ」

「ドガァ……」

 

 マタドガスは倒れた。だが今のはブルーが倒したわけじゃない。“おきみやげ”は自らひんしになることで相手の攻撃と特攻を2ランク下げる効果を持つ。つまり確実に相手を弱体化できる。

 

 キョウのマタドガスへの見切りは抜群にいい。この“おきみやげ”はかなり厳しい一手になる。しかも“おきみやげ”を始めから狙っていたならばわざと手加減して攻撃力の落ちたピジョットを生かした可能性もある。キョウ……想像以上の手練れかもしれない。

 

「やった! まずは1体先制よっ」

「これはぬかった」

 

 ……上手いな。もちろんブルーではなくキョウが。相手が自分で倒したと思わせるタイミングまで狙ったのか。“おきみやげ”なんて絶対マイナー技で知られてないだろうし、今の言葉と合わせてまず騙される。

 

 場にはほとんど何もできなくなったピジョット。こいつのいる間は能力を上げ放題になる。キョウ、さすがにあの恐るべき罠を仕掛けただけのことはあるな。今こうして起点を作った以上、次に何をしてくるかで実力がわかる。

 

「ブルー、落ち着け。単調な攻めだと術中に嵌るぞ」

「え、どういうことよ?」

 

 さすがにそこまで教えるつもりはない。もしかすると被4タテもあるかもしれないな。

 

「ファファファ、あちらの御仁は用心深い性格のようだな。良いことだ。お主はどうかな? ゆけい、ベトベトン」

 

 ベトベトン Lv40 150-100-79-60-108-53

 

 えげつないなぁ。真っ先に積み技を探したら“ちいさくなる”があった。“どくどく”と“ちいさくなる”による嵌め殺し狙いか。ただの“どく状態”ではなく“もうどく状態”ならば割とすぐに倒れるから効果的な作戦だ。

 

「げ、ベトベターの進化形じゃない! ピーちゃん、おんがえしでやっつけて」

「ちいさくなる」

「ジョッ……トッ!?」

「避けられた?! なにこれ、ヤバイ!」

「さらにちいさくなる」

「だったらつばめがえし!」

「ジョット!」

「必中技か。面白いが、ならば攻撃して相殺するまで」

 

 攻撃力がないから簡単に捌かれている。ブルーどうする? もう“ちいさくなり”過ぎてベトベトンは要塞と化している。キョウならお得意の“どくどく”を外すことはないだろうし、俺が戦うとしてもこうなったらもうかなり厳しいな。

 

 俺も“ほえる”をグレンに覚えさせておいた方が良かったかもしれない。あまり戦術のレベルが高い相手を見なかったからそういう対策用の技はあまり覚えていない。そろそろその辺も意識して技を調整した方がいいかもしれない。

 

「げ、これじゃキリがないじゃない! どうなってんの! 何回やっても倒せないし、やけどダメージに能力アップまで……」

(私に任せて下さい!)

「ラーちゃん? お、お願い、なんとかして!」

「ラー! ラァーーラァー」

 

 ここで遅いながらも交代。何をするのかと思えば“ほろびのうた”か! やけくそで“ぜったいれいど”でも当てにいくのかと思ったが、これはいい技を覚えているな。キョウは交代できないから一変して追い詰めたな。

 

 “ほろびのうた”は3ターン後に自分を含めその場にいたポケモン全てを問答無用で戦闘不能とする恐るべき技。ただし、交代すれば効力が切れるという弱点があるが、交代できない状況だと手の打ちようがない。

 

 今回特に重要なのは“ほろびのうた”が命中率と回避率に左右されず必ず当たること。“ちいさくなる”で要塞化した相手にはうってつけというわけだ。

 

 この技は“みがわり”も貫通し、滅び状態はバトンすると引き継いでしまうからバトン戦術、特にフワライドとかの「ちいさくなるバトン」には絶大なメタになる。扱いは難しいが持っていると案外使える技だ。

 

「そうか! ナイスラーちゃん、キョウさんは交代できないからこれは効く!」

「ほろびのうた! まさかそのような技でベトベトンを攻略するとは、お主なかなかの使い手のようだ。こちらも気を引き締めねばなるまいか。ならばどくどく」

「ラー」

 

 先手を打って“しんぴのまもり”か。このラプラス相当賢い。むしろブルーより賢い可能性もあるんじゃないか? これはキョウにとってはかなり厳しい一手だ。

 

「やってくれるな。技の選択に隙がない。ならば正攻法、ヘドロばくだん」

「交代よ、レーちゃん!」

 

 どくタイプの技は効果がない。上手いぞ。調子出て来たな。ラプラスがブルーのいいところを引き出している。というか、交代で味方のポケモンに受けさせるのはルール的にオッケーなのか。ここに来て俺は初めて知ったぞ。だったら交代はやりまくったほうが得じゃないか? 

 

「鋼タイプを持っていたか。見事な手際よ。ならかえんほうしゃ!」

「まもる」

 

 炎技に慌てることもなく冷静に対処して確実にターンを稼いでいる。“ほろびのうた”はきっちり3ターンで発動するわけではないようだ。微妙に俺の知識とずれている部分って多いな。どく状態とか同様仕様は調べておく必要がありそうだ。

 

「もう時間切れか。どくびし!」

「ベトー!」

 

 倒れたか。だが最後に爪痕を残したな。ただでは死なないところが忍者らしい。……さすが忍者きたない。

 

「なにこれ? まあいいわ、これで2体目よ」

「あっさりやられるとは思わなかったが、まだ手は残っておる。いでよ、ラフレシア」

 

 ラフレシア Lv40 130-60-80-110-99-70

 

「それはありなのか?」

「こっちも交代よ、ピジョット!」

 

 キョウがラフレシア使うなんて違和感があるな。たしかによく考えたら毒は入っているし、ナツメもエスパーがないモルフォンとかゲームでは使っていたからいまさらだが、やっぱ違和感がなぁ。

 

「ほう、相性ということか」

「それだけじゃないわ。この子はもうやけど状態だからラフレシアお得意の“ねむりごな”とかの状態異常技は効かないわ。それさえ封じれば怖くないって知ってるもんね」

 

 へぇ、ブルーの奴やるな。“かえんだま”ヘラクロスとかでキノガッサ対策をするようなイメージだな。あるいみ定石のような考え方だ。ブルーもかなり強くなってきている。もう侮れないな。

 

「なるほど、よくわかっているな。さすが、ランクを上げようとするだけのことはある。だがそれだけが戦い方ではない。まずは“にほんばれ”!」

 

 そっちで来たか! これはすごいのが見られるかもしれないな。そういえばここは屋敷の最上階の屋上にあり、頭上には雲一つない晴天の空が広がっている。ここまで考えてここにフィールドを用意していたのか。単にカラクリを下の階に詰め過ぎたせいかなと思っていたが、この忍者屋敷を作るだけあって計画的に設計されていたらしいな。どこぞのくさタイプ使いよりよっぽど上手いラフレシアの使い方だ。

 

「にほんばれ? お天気が良くなるけど、何の意味があるの? 時間もないし速攻で終わらすわ。つばめがえし!」

「遅い、ソーラービーム」

「うそっ!? 速い、避けて!!」

 

 あまりの速さに対応できずピジョットは直撃してしまった。攻撃の途中だったのもあるが、今のラフレシアの攻撃を初見で躱すのは無理だな。もともとダメージが蓄積していたこともありそのまま倒れてしまった。

 

「ファファファ、これぞ勝負の極意。じわじわと体力を削りつつ、好機とみれば一気に畳みかける。小技だけが拙者の戦い方ではない。油断していれば容赦なくその隙はつく。一部の隙もない戦術こそ我々の戦いの真骨頂」

 

 すげぇ……ホントに理想的だな。“どくびし”“やけど”などで削りながらも、一転、“おきみやげ”“ちいさくなる”のコンボや晴れエースでの全タテも視野に入れている。お手本として真似したいぐらいだ。ステロまいてハッサムで全抜きとかものすごくやってみたい。

 

 ナツメみたいな個体値努力値のヤバイ奴や、高レベル強力アイテムゴリ押しのサカキとはまた違うベクトルの強さだな。単純な力だけではない戦術と戦略。トレーナーとしての技量で勝負するタイプだ。

 

「どういうこと!? ラフレシアってこんなに速いの!? しかも威力もすごい。育て方で変わるもんなの?」

「ブルー、今のは“にほんばれ”が原因だ。そいつの特性は“ようりょくそ”、晴れ下では素早さが倍になる。しかも今の技ソーラービームは本来ために時間がかかる大技だが晴れ下だと連射できるんだ。そのラフレシアの技の威力はレーちゃんの“でんじほう”ぐらいだな。バトルにおいて天候の操作は大掛かりな戦術の最初の布石になりやすい。天候の変化には常に注意しろ!」

 

 ポケモン名をぼかして特攻の高さを教えた。レアコイルはCがこいつより少し高いが“ソーラービーム”の方が威力は高いからだいたい同じになる。

 

「うそでしょ!? そんなヤバイのがポンポン簡単に飛んできたら勝てっこないじゃない! どうしろってのよ!」

「ほう、一目でそこまで見破るとは、侮れぬな。だがわかっていても対策が打てるとは限らぬのが世の常」

 

 全く以てその通り。たしかに対抗策が手持ちにいなけりゃきついが、ブルーにはあれがある。問題は気づけるかどうか。

 

「こうなったら、こっちも同じタイプで勝負よ! たのむわフーちゃん」

 

 フシギバナ Lv37 140-62-73-123-87-72

 

 そっちかぁ。ソーナンスならあっさり勝てた可能性が高いが、さすがにそこまでの判断力はないか。“どくびし”で図らずもねむりは対策できるしミラーコートは読まれないだろうからソーナンスでも悪くないと思うがなぁ。フシギバナで4つの枠を使い切ったし、まだレベルが低いからレベル上げの育成段階のポケモンは控えということだろうな。一応フシギバナは“どくびし”を回収できるメリットもある。ブルーは知らないだろうけど。

 

「おお……見事などくポケモンよ。いい育て方をしているな。かなり自信があるとみえる」

「もっちろん、わたしの1番の相棒よ! 簡単には負けないわっ。それに同じタイプならソーラービームも怖くない。くさタイプの技でしょ?」

「いかにも。だがそれだけではないぞ? ヘドロばくだん!」

「やっぱりそうくるわよね。こっちもヘドロばくだんよ!」

 

 同じ技、力と力の真っ向勝負。こうなればブルーのフシギバナに勝てるわけがない。

 

「ラフゥゥゥ!?」

「なぬ、力負けしたか」

「続けて攻撃よ! どんどん攻撃して!」

「バナァ!」

「くっ……押し切られた。これはやられた」

 

 最初の攻撃はラフレシアが驚いたせいもあってか急所に当たったみたいだな。そのままブルーが力押し。案外あっさり勝ったな。力勝負に持ち込めばこんなものか。数値でゴリ押しできるレベルにまで上がってきている。

 

「ではこれが最後。いざ!」

 

 出てきたのはモルフォン。さすがに“ちょうのまい”は覚えてないな。あったらあったで容赦しないにも程があるけど。

 

 モルフォン Lv40 120-55-63-89-85-90

 

 レベルは40か。レベル41はいなかったな。丁度今42に上がってしまったところなのかも知れない。なら以前は5体用意していた可能性もあるか。このジムやっぱりかなりレベルは高そうだ。ここは近くにジムもないし、旅のトレーナーは終盤に来ることが多いのだろうな。あのカラクリを初心者が凌げるとも思えないし。

 

 最後の1体をブルーがどう料理するのか見ていると、ブルーがなぜか謝りだした。

 

「あの、ごめんなさい」

「ん? どういうことだ?」

「ラプラス出てきて、もう1回ほろびのうたよ!」

 

 ……。

 

「ファファファ。やってくれたな。お主、拙者よりも戦い方が巧みかもしれんな」

 

 ホントそうだよな。さすがにあれはないわ。あの後は“まもる”と交代を繰り返して難無く勝ってしまった。俺でもないと思ったわ。ルールをついた戦法はさすがにやったことがなかったな。キョウはこれされて笑っているところがすごい。

 

 交代なしだと強い技って考えてみれば多い。混乱とか、“やどりぎのタネ”“のろい”みたいな交代でしか外せない類、“アンコール”とかも。俺もさらにその辺の技を覚えさせてもっと考えれば……いや、ジム戦は途中経過、一々そのためだけに技を用意して対策をするまでもないか。

 

「なんかズルイことした気がするけどごめんなさい」

「何を言う。あそこまで有利な状況を作り出した時点でお主が勝っていたというだけのこと。遠慮はいらぬ。これが拙者を打ち破った証、ピンクバッジだ。受け取るが良い」

「ありがとうございます」

 

 あんなことされて笑って相手を称えられるなんて大した人だな。さすがジムリーダーと言いたい。マチスはねむり連打で落ち込んでいたのに。

 

「うむ。しかと渡した。お主、攻撃一辺倒かと思いきや存外クセのある技を使いこなす。ポケモンの扱い方もしっかりしておるし、尋常ではない鍛え方をしておるのは一目でわかった。レベル以上の強さを感じた。きっとリーグでは大活躍するであろうぞ」

「ええっ!? あ、ありがとうございます! そこまで言ってもらえるなんて嬉しいです!」

 

 ブルーはベタ褒めされて頬が緩みきっている。さっきまでカラクリに怒っていたくせにもう完全に忘却の彼方だ。まさかここまで考えて褒めたのか? 

 

 たしかに俺から見ても感心する内容ではあったが。もっとも感心したのはブルーというよりほとんどラプラスの“ほろびのうた”に対してだけど。ブルーの成長も目を見張るものがあるがラプラスも負けていない。どちらも凄いな。

 




ほろびのうたは若干変更
「よけろ」というコマンドがあるのでハードルを上げて、技の練度でターンも変わることにしました
ポケモンごとにターンが違うとそれはそれで面白いと思ったのもあります

使い手の耐久高いですし、最後までうまく残してラス1掃除用として使うならけっこう活躍するかも
あとは対シショー最終兵器としても良さそうです



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4.とにかく当たって 避けないで

「ファファファ、これからも精進するがよい。さて、次はお主の番か。カラクリを解除する手並みは見させてもらった。実に見事。バトルの方も期待しておるぞ」

「俺も期待してるぜ。今までの中で1番いいバトルができそうだ。できればランク7でやりたかったが仕方ないな」

「ほう、面白い。ならばランク8で相手してもよいぞ?」

「ほんとにか?! でも、なんでまたそんなナツメみたいなことを。いや、できるならこっちとしてもその方がありがたいが」

 

 どういう風の吹き回しだ? ジムリーダーの方から進んであげてくれるなんて。キョウが言うとなんか罠かと思ってしまうな。

 

「そうです、どうしてそんなことを急に言われるのですか! 規律に厳しい父上らしくない!」

「父上? あの審判の子、キョウさんの娘さんだったの!?」

 

 いまさらかよブルー。まぁ顔を見たことないから普通はわからないか。「らしくない」というのはわざわざこんなことをするような性格じゃないということだろうな。やっぱりナツメみたいなテキトーな性格じゃないだろうし、理由が気になる。

 

「ふむ……たしかに普通なら認めはせんよ。しかし、この者らは拙者自ら手掛けた最高傑作の罠を見事に掻い潜ってここにおる。屋敷の攻略具合を見るに並々ならぬ実力があることは疑いの余地もなし。希望があれば特例でランク8へ上げることも絶対ないわけではない。故に、拙者が真剣勝負をするに値すると判断するには十分な内容だった以上、ランク8でも構わないであろう。そもそも拙者の罠を初見でパーフェクトに抑えた者は我が門下の有望株のお前も含めて今だ誰もおらん。この者は忍と比較しても劣らぬ腕前、お前がどうこう言う相手ではない」

「なんですと?! 父上、それは真ですか!! 訓練を受けたあたいでも苦戦するあのカラクリをただの一度で! それならば仕方ありませんね。恐れ入りました。あたいもそれなら納得です」

「いやいやいやいやっ! あんたらどんだけカラクリ屋敷を重視してるんだよっ! そんなに重要なのかあれは?!」

「まず本職の忍者にクリアできないレベルを一般人にさせたらダメなんじゃ……」

 

 アンズの言葉に思わず突っ込みをいれてしまった。本気の真顔で言うから逆に笑ってしまう。カラクリというワードが出ただけで見事なまでにあっさり手のひら返したよこの子。

 

「何を言って居る? 普段は忍の修練場も兼ねているが、あの屋敷のカラクリはトレーナーに必要な素養を試すためにある。状況判断、機転、危険予知、そして諦めずに挑み続ける根性、全てが凝縮されている。さらに一度でクリアするにはまた別の力が試される。裏の裏を読むような周到さ。そして時には大胆さも要求され、一部の隙もない完璧な読みが必要となる。いけそう、たぶん大丈夫という甘い心持ちでは到底進めぬ。確固たる知識と知恵、己を信じる自信を持ち、0か100かという読みを続けられなければノーミスなどとてもとても」

「本人から聞くとやっぱり違うな。よく練られた罠だし、攻略の道筋が存在して闇雲に罠を大量に作ることはしていなかった。多角的に挑戦者を試しているのは実際に感じられたし、そう考えると本当にいい試練だった」

 

 実際俺がクリアできたのがいい証拠。ちゃんとクリアはできるようになっていた。問題をあげるなら本気でチャレンジャーのリタイヤを狙い過ぎていることか。迷路に閉じ込めるような詰みも平気であるし、毒くらって倒れたりしたらどうなっていたのか。まさか放置されたままってことはないよな?……ないよな?

 

「そうであろう。お主はある意味最もこの屋敷の醍醐味を味わえたとも言える。カラクリに精通しているようだし、我が門下になれば優秀な忍になれようぞ。いや、もしやジョウト地方に伝わる他流派の忍であったか?」

「え! ここに来てシショー忍者説?! 定番とかオーソドックスとか忍者みたいなことばっかり言っていたからやっぱりそうかなとは薄々思っていたけど」

「違うからな。本気にするなよ? お前俺の後ろでそんなこと考えながらついてきていたのか。今の発言にしても冗談に決まってるだろ」

「ファファファ! この屋敷はその攻略の出来をみればトレーナーとしての器もしれるようになっておる。拙者はいつもそれを参考にして挑戦者にとって最良の力加減を考えている。お主達の場合は過去最高の出来故、先の戦いも拙者、全力に近い形でお相手し申した」

 

 本人も笑っているしやっぱり冗談か。他流派ってチョウジタウンのコウガニンジャのことか? あの町忍者の里と言いながら忍者が全くいなかったんだよな。この世界だといるのか? 

 

 俺もちょっと忍者修行とか体験してみたいとは思うけど、本当に忍者になるのは人間やめることになりそうだからそこまでしようとは思わないな。キョウは絶対レベル40ぐらいあるだろ。ユーレイの攻撃躱したし。

 

 ただ攻略の出来を見て手加減していたのはびっくりだ。わざわざ力量を測るためにここまでの仕掛けを考えたのか。一々チャレンジャーの攻略具合を調べるのも大変だろうし、案外ジムリーダーの仕事に熱心な人なのかも。大半のチャレンジャーにとっては有難迷惑になっていそうだが。

 

「そこまで深い意味がねぇ。ジムリーダーの仕事をそこまで真剣に考えているジムリーダーがいたなんて。さっき俺達のことも見ていたと言ってたがそのためということか。屋敷の中にいた時は人の気配には全く気付かなかったが。じゃあ今まではチャレンジャーによって適度に手加減をしていたと?」

 

「無論。全力でするだけでは誰もバッジを手に入れられぬ。あくまでジムリーダーは挑戦者にとってのよき壁、よき指導者であらねばならぬからな。できるだけ挑戦者の力量を引き出せるように最善の力加減を心掛けておる」

 

 すっげえよ、今めっちゃ感動している。やっていることは一見クレイジーだったが、ここよりもいいジムは存在しないんじゃないだろうか。ほんとにジムとして最高の形だな。世の中には挑戦すっぽかして寝ている奴とか手首折ってバッジを盾にとるような奴もいるのに。今ものすごくこのジムが輝いて見える!

 

「俺、なんか誤解してたわ。ここは最高のジムだな。間違いない。本当にここに来れて良かったよ」

「あたいの父上はほんとに素晴らしい人だ。あたい達門下も皆尊敬している。もちろん、トレーナーとしての実力の評価も高い。その気になればリーグ制覇も難しくはないんだからな」

「アンズ! よさぬか、忍が自慢話などみっともない!」

「ぐ、申し訳ありません、父上」

「いやいや、全く以てその通りだ。俺も尊敬する。ほんとにすごい。あのナツメもここを見習って欲しいもんだ。あいつの頭の辞書には周りへの配慮とか手加減とか、ジムリーダーに必要な素養が全くないからな。レベルはアホほど高いし俺にだけ全く容赦もしないし」

「さっきも名前が出ていたが、まさか、ナツメのランク8と戦ったのか?」

 

 ふとそうつぶやくと、いきなり真剣な声色で心配そうに聞かれた。

 

「え、急にどうしたのさ。たしかに8でやったけど。もちろんバッジもある」

「なんと、よもやランク8であやつを倒せるトレーナーが現れるとは。あれは難儀な性格をしておるからな。いつも拙者はリーグ関連の連絡から何から押しつけられ、ほとほと困っておる故、その性分はよくわかっておる」

「え、あんたあれと普通にコンタクトとれるのか。それだけでも尊敬に値するな。まさか、ナツメが言ってた1回負けたのってあんたなのか?!」

「ええっっ!!」

 

 ブルーも驚いていた。よく考えたらこの人未来の四天王だし、アンズがさっき言っていたのも誇張じゃないってことか。戦術もヤバかったし、ありえる話。が、予想は外れた。

 

「いや、勝ったことはない。一度引き分けになって、それから拙者を多少は認めるようになったが、よもやあの娘から一本とるとは恐れ入った」

「いやいやいやいや! 普通に考えて毒中心でエスパー相手に引き分けにする方がやべえよ! ほんとにあんた何モンだよ!? ナツメは絡め手にはからっきしとはいえかなり不利なはずだろうに」

 

 そういえばナツメが負けたのはゴースト使いだった。おそらく四天王のあの人だろう。だが難易度は毒ポケモンで引き分ける方が絶対に難しい。実力は現時点でも四天王レベルかもしれない。

 

「なんかすごいわね。ナツメさんを介してお互いの実力が明るみになるって」

 

 たしかにここにきてまさかナツメが役に立つことになるなんて思わなかったな。今回はナツメのとき以上に気を引き締めていかないと。

 

 さぁ……始めようか!

 

「丁度よい。これで心置きなくバトルもできよう。覚悟しているだろうが、拙者の戦い方、一筋縄ではいかんぞ! 惑わし、眠らせ、毒を食らわせる……まさに変幻自在、あやしの技よ!……ファファファ! 力だけでは及ばないポケモンの奥深さたっぷりと味わうが良い!」

 

 イガニンジャのキョウが勝負を仕掛けてきた! 

 

 お互いに最初のポケモンを繰り出す。

 

 ゴルバット Lv45  140-80-80-75-98-102

 

 グレン   Lv37  123-121-72-87-63-121

 技 1かえんほうしゃ 

   2かえんぐるま 

   3しんそく 

   4かみなりのキバ 

   5まもる

   6みがわり 

   7オーバーヒート 

   8こうそくいどう 

   9フレアドライブ 

  10おにび

 

 まずは“いかく”で攻撃力を下げた。ゴルバットか。能力は怖くないが面倒な技がおおい。間違いなく補助技で攻めてくる。グレンをうまく使って様子見だな。

 

「6」

「どくどく」

「4」

「あやしいひかり」

 

 やっぱりまっすぐにはこない。絡め手から入ってきたな。うまく“みがわり”が機能した。この流れだとうまくいけばサンタテぐらいは狙えるか。“かみなりのキバ”は半分弱効いた。

 

「ファファファ。こちらの技は共に通らずか。お主、黙ってみがわりを使うとは食えない男。まるで忍びのような戦い方をする。愉快愉快」

「なにっ!? 1発で見抜いたのか!?……信じられねぇ。……そうか、お仲間か」

 

 “みがわり”というのは技名を言われなければ技そのものの知識があっても気づくことは難しい。人形が出て来るならわかりやすいがそうではないからな。これを一度で見抜くとなれば普段から使い慣れているということに他ならない。この相手に補助技で出し抜くのはおそらく無理。下手するとバトンも読まれるかもしれない。

 

 念を入れてイナズマでなくグレンを先鋒にしているから問題はないが、予定が狂ったな。どんな補助技を使ってくるかもわかったもんじゃないからこれは俺が気を抜いたら一瞬で勝負がついてしまう。

 

「ゴルバット、いかりのまえばでみがわりを破壊せよ!」

「チッ! 対策も織り込み済みってわけか。もう1回、4」

 

 “いかりのまえば”は必ず“みがわり”を破壊できる。火力不足を完璧にカバーされた。いかく込みならワンチャン残せる計算だったのに、ここまで徹底して対策されると“みがわり”は使いづらい。

 

 素早さにもそこまで差はない。無理せず“みがわり”を残すことは諦めて確実にダメージを与え手持ちの数を減らしていくことにしよう。今の“かみなりのキバ”で圏内に入った。

 

「どくどくのキバ!」

「させねえよ。3」

 

 補助技がダメなら追加効果でってことか。すっぱりお得意の“どくどく”を諦めたか。甘い考えはしてこないな。この様子じゃ完全に“みがわり”で起点を作るのは無理だな。

 

「ゴルバット戦闘不能!」

「速い。まるであの男のカイリューを思わせる。補助技と攻撃技をうまく組み合わせている上、攻撃にムダがない。お主、誰に学んだ?」

「俺は我流さ。こんな指示の仕方のトレーナーだって、マスターにはいないだろ?」

「我流でここまで完成させるとは信じがたいな。どうやらこちらも本気を出さねばなるまいな。あの技を使うことも考えねば……。さて、次の勝負と参ろうか。絡め手は通りにくいならこれはどうかな?」

「ガーギー!」

 

 ニドキング Lv45 140-95-90-100-95-94

 

 技じしん

  かえんほうしゃ

  10まんボルト

  れいとうビーム

  ヘドロばくだん

  だいちのちから

  メガトンパンチ

  メガトンキック

   …………

 

 技構成からしてもガンガンのパワー押しだな。こんなのもいたのか。これは逆に厄介だ。こっちのポケモン全て弱点を突かれる。

 

 一致抜群のイナズマと4倍弱点のアカサビは厳しい。ユーレイも潜っているときは“だいちのちから”が当たるから出したくない。“しんそく”があるグレンで突っ張るしかないか。

 

「だいちのちから」

「6、1」

 

 あっ! いつものクセでつい(けん)に回ってしまった。ゆっくり技を分析して考える時間がなかった。ホントのノータイムだとつい普段通りのパターン行動をしてしまう。ここは集中だ。

 

 あっちが“だいちのちから”を連打するならこっちから仕掛けてそれをさせないようにするしかない。このまま攻め続けるしかないんだ。“かえんほうしゃ”は躱されたがそれでいい。躱()()()のが大事なんだ。

 

「2,1」

「かわしてメガトンパンチ」

 

 間合いを詰めないと撃ち放題だ。接近戦を狙い、“かえんぐるま”を選択。相手は接近するグレンを見てから技を選んだ。まず躱してからその隙を狙ったのだろうが、この連携はいつもとは順序が逆だがグレンの十八番のひとつ。最初の技は囮で、その後の“かえんほうしゃ”が本命だ。

 

 近づくと見せかけたグレンは絶妙な距離感を保ち相手のリーチの外へ逃れた。狙いを外されニドキングの攻撃は空振り、そしてグレンの攻撃をまともにくらった。

 

「陽動か。味な真似をする。これ以上ペースを握らせるわけにはゆくまい。ヘドロばくだん」

「右へ」

「もう一度攻撃」

「3、7」

 

 避けても逃すまいと追撃され、とっさに“しんそく”で逃げた。相手の技の連射が速い。補助技が少ない分攻撃に特化しているのか。だが「しんそく連携」は初見ではさすがに対応されず、“オーバーヒート”はクリーンヒット。問題はその後の攻撃をどう躱すのか。

 

「だいちのちから」

「5、3」

 

 “まもる”で緊急回避。避けられずこれでしか回避できないタイミング。もう一発も受けられないから仕方ない。その後“しんそく”と相手の攻撃の競争になるがどうだ? “まもる”ですぐには攻撃できないが“しんそく”は優先度が1でなく2多い。相手の攻撃が届くよりは先に動いて避けながら攻撃できるから何とか間に合うはず。

 

「どくびし」

 

 しまった! 攻撃しないのか。“しんそく”を見せ過ぎた。“しんそく”を使うことを読まれた上、速さも正確に計られている。たぶんキョウは間に合わないと見切って補助技を使ったんだ。攻撃技なら間に合わなくても、補助技なら幾分出が速いから何とか間に合う。

 

 やはりキョウは分析も判断も甘くない。しかも俺は“どくびし”を解除できない。できれば交換が無償だしすぐに取り除けたのだが。いくらアタッカー寄りといえどもそこはさすがにキョウのポケモン。タダではやられないな。

 

「面倒なことしてくれるな」

「効果は当然知っているようだな。先程は不発に終わったが、今度こそ真骨頂を見せる時が来た。これから忍びの技をとくとご覧に入れよう。次はゆけ、マタドガス」

「こっちもチェンジだ。マタドガスならユーレイ、出てこい」

 

 マタドガス Lv45 130-90-130-90-88-68

 ユーレイ  Lv32 89-54-51-129-48-105

 

 技 1シャドーボール

   210まんボルト

   3きあいだま

   4さいみんじゅつ

   5まもる

   6みがわり

   7あやしいひかり

   8みちづれ

   9ゆめくい

 

「ガーッ!」

「こいつならどくびしは効かない」

 

 本当は効いてくれた方が良かったんだけどな。特性“ふゆう”がなければ毒タイプだから“どくびし”を回収できた。ゲンガーの特性一時的に変えれたら便利なのになぁ。

 

「毒ポケモンを持っていたか。しかもゴースト。厄介だな。まずはあくのはどう」

「潜って7,6,4」

 

 こいつのお決まりの連携。“あやしいひかり”で確実にターンを稼ぎながら“みがわり”を盾にして眠らせることを狙う。その後はじっくり“ゆめくい”で“みがわり”分の体力も回収し“みがわり”を残して次のポケモンへ。まさに無限ループ! 地獄ロードのトレーナーとの連戦は“ゆめくい”大活躍だった。

 

「混乱から眠りとは、まるで拙者自身と戦っているようだ。さらにこちらは交代できないのが痛い。打つ手もないか」

「これじゃどっちが忍者かわかりゃしないわ。さすがシショー汚い」

「マタドガス戦闘不能!」

 

 あっという間に体力を吸い上げた。ゴーストポケモンは本当にかなり強い。倒せるポケモンは限られるので交代に制限がある時、特にジム戦じゃかなり猛威を振るう。外野の声は無視だ無視。

 

「ゆけいゲンガー!」

「げ、ここでミラーマッチかよ!」

 

 ゲンガー Lv46 120-80-75-135-84-133

 

 さすがにレベルが違い過ぎる。これはきつい。交代するか? いや、ヤバイ補助技は一通りそろっているようだし、他のポケモンでもこいつを倒すのは至難の業か。なら仕方ない。おとなしく諦めるか、ユーレイでの全抜きは。素早さだけでも勝っていればまた違ったが、ユーレイは素早さを上げる技がないからな。“こごえるかぜ”で相手を下げるぐらいしかできない。

 

 最初は多少有利でも素早さで劣る以上結局ジリ貧。間違いなく勝てない。ここはユーレイを切って確実にあのゲンガーを仕留めた方がいい。あれが暴れだしたら手の付けようがなくなる。

 

「シャドーボール」

「8」

 

 “みがわり”があるのでやはり攻撃から入ってきた。わざと“みがわり”を解いて“みちづれ”で相打ちに持ち込んだ。

 

 ここはゲームじゃないから任意で“みがわり”を解除することもできる。ユーレイは“みちづれ”の指示だけで意図を察して自分から倒れてくれた。

 

 案外ユーレイに限らずポケモンは自らひんしになることを嫌がることはない。“だいばくはつ”を見ることも多いし倒されるのは嫌でも自分から倒れるのは構わないという考えが普通なのかもしれない。

 

「潔し。いきなり“みちづれ”を使うとは思い切ったことをする。わざわざ回復までしておったというのに未練を残さなかったか。あわよくば倒せるかも、などと相打ちを先延ばしにして欲をかけばそのままこちらのペースに入り“みちづれ”すら使えず敗れただろう。拙者の罠を潜り抜けただけあって甘い未練がどれほど自分の首を絞めるかよく知っている。これだけでも実力の程がうかがえよう」

「現実主義だからな、俺は」

「血も涙もないが抜けてるわよ」

 

 うるさい! 

 

「これでこちらは4体を失ったか。だが、勝負はこれからよ! ゆくぞ、ベトベトン!」

「レベル48……耐久高すぎだろ。来い、アカサビ!」

 

 ベトベトン Lv48 

 実 192-103-115-77-130-62

 

 アカサビ  Lv39 @メタルコート

 実 116-157-92-51-76-89

 技 1バレットパンチ

   2でんこうせっか

   3むしくい

   4つるぎのまい

   5まもる

   6みがわり

   7とんぼがえり

   8つばめがえし

   9こうそくいどう

  10かわらわり

 

 特殊から攻めるのは下策。“どくびし”も考えるとアカサビしか出せない。まだ相手の残りは2体だからベトベトンの他にもう一体いる。だがレベルを見ればこのポケモンが切り札と見て間違いはないだろう。ここでアカサビを出して勝負をかける。

 

「6」

「ちょうはつ」

「げ! 1だ!」

「かなしばり」

 

 はあぁ!? 何してくれてんだこいつ! 鬼畜過ぎ!

 

「え、何が起きてるの?」

「ファファファ、これでもはや手足をもがれたも同然。ちいさくなる」

「なんだと! 調子乗ってんじゃねえぞ、7!」

 

 ヤバイ。“みがわり”は警戒薄くなるかと思ったら“ちょうはつ”でこっちの補助技をまとめて封じにきた。当然“みがわり”は不発。さらに慌ててこっちが攻撃すれば、当然1番有効な技を使うから、そこを狙い打って“かなしばり”か。“まもる”も持ってるから初手に攻撃してきそうな相手なら一度“まもって”から“かなしばり”ということも考えているのだろう。

 

 その上、有効打と“ほえる”その他の補助技を全て消してから次の行動が“ちいさくなる”ときた。この状態だと放っておけば際限なく能力を上げられてしまう。キョウは2回以上能力変化技を使う珍しいタイプであることはさっきのバトルでわかっている。

 

 今の攻防、キョウは俺のレベルに合わせて行動を読んで、かつこっちの対策も見越して先手を打ってきた。さすがに強い。技の使い方も俺より上手い。“かなしばり”は使いにくいと思っていたがこれがどうして痛いところを突いてくる。

 

 ひとまず“とんぼがえり”で交代させたが、こっちも打つ手はない。運否天賦に任せた勝負は1番キライだがやむを得ないか。ここまで見越してあっさりゲンガー同士を1:1交換していたのなら策士過ぎる。

 

「グレン、すまないが頼む、9!」

 

 いかくを入れた後、“フレアドライブ”を使った。一致120技の威力は伊達じゃない。アカサビの“バレットパンチ”よりも指数で勝る。さっきの2発で81ダメージだった。“フレアドライブ”でどこまで削れるか。いや、まずは当たるかどうかだな。

 

「躱してヘドロばくだん!」

「攻撃は最小限の動きで避けてしつこく追い続けろ! 速さで勝る以上いつかは追いつく」

「それが狙いか。ならば躱そうとはせず受けきってからヘドロばくだんを当てよ!」

 

 決まった! 素早さそのものはこっちが倍近いんだ、狙う隙があれば外さない。

 

 ベトベトンが使ったのが補助技なら大した隙にはならなかっただろう。だが、グレンがすでに体力残りわずかで毒状態、もうあと一息で倒れるという状況の悪さが逆に功を奏した。これなら補助技を使うよりも素直に攻撃した方が手っ取り早い。

 

 もちろん、“フレアドライブ”は高威力だが反動がある自傷技。どく状態もある。いかくは入っていたが相手の攻撃を受けてグレンはさすがに倒れてしまった。ダメージは62だったので、残り49。“バレットパンチ”はさっきダメージが55だから当たればなんとか倒せるだろう。

 

「アカサビ、詰めは頼んだ! 1!」

「いたみわけ」

 

 はぁ!? これはくらったらきつ過ぎる! 当てろ! 絶対に当てろ!! お願い何でもいいからとにかく当ててくれ!

 

「ッサム!!」

「ベトー!?」

 

 た、倒れた? 当たった? 当たった、当たった! 

 

 当てた! アカサビが当てたー!

 

「よっしゃあああ!!!」

「うわぁ、シショー本気で叫んでない? こんな感情露わにして喜ぶところ初めて見たかも。あのポケモン倒したのがそんなに嬉しいの?」

「ブルー、お前わからないのか! あの技はなぁ、人類の敵みたいなものなんだよ! 今の勝負、俺は負けられなかったんだよ、トレーナーとして!」

 

 ブルーにはまだわからないのか。どんなに強かろうが、ツキという壁は越えられない。運命のいたずらひとつで俺達は負けちまうんだ……!

 

 俺は今その壁を越えた!

 

 もう忍者なんて敵じゃない!

 




(事実上の)ニンジャ対決

手直しで地の文増やして20000文字超え始めて急遽キリの良いところで三分割したので今回と前回のタイトルが思い浮かばず雑な感じに
とりあえず両方トレーナーの気持ちをこめました
ジム戦は次回レイン戦残り半分で終了です

甲賀は本当の読みは「こうか」らしいですが違和感しかないのであえてコウガに
()ときたらこっちもコウ()と濁さないとバランス悪い気がします

チョウジに忍者いないのは本当に謎
詐欺じゃないんですか?
どういうことなの?

回避率についてもコメントを
ゲームの感覚とは決定的に違うのは回避率を上げようが努力次第で当てられるということです
確率で決まるわけではないので、極端なことを言えば回避率が6段階アップしていても全く動かないなら簡単に当てられます、当然ですね

なので感覚はだいぶずれています
わかりやすく一言で言うと弱体化しています
そうなると避ける戦術自体が鈍足のポケモンには向いてなさそうに思えます

じゃあなんで鈍足のベトベトンで使うねーんとツッコミきそうですね

高耐久ポケだと劇的に当たりにくくなることはないが何回か被弾しても生き残る
紙耐久ポケだと劇的に当たらなくなるけど一発なんかの間違いで当たるとアウト

どっちを取るかですね

まあ自分がどっち取るかと聞かれたらそれよりも先にS上げますといいそう
避け易くなり行動回数増えるので明らかにその方がメリット大きいですし


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5.感じる気配 解けゆく謎

「お主、ちいさくなるにはずいぶんと思うところががあるようだな。ひとまず拙者のベトベトンを倒したのは見事であった。だが、あと1匹と安心すること勿れ。拙者の頼りは端からこの最後の1体、本当の勝負はここからよ」

「何? 今のが切り札かと思っていたが……こんな展開、前にもあった気がする」

「出でよ、クロバット!」

 

 クロバット Lv56 206-116-106-77-102-223

 

 やっぱりナツメのときと同じか! 本気出してきた! とんでもないの隠し持っているな。しかもカントー地方のポケモンではない。さっき出て来たゴルバットの進化形だからアリってことか。

 

 目につくのは素早さ。アホみたいに高い。……ようきで個体値VのS252振りか! 完全に最速個体。こいつだけきっちり育てられている。全体的な個体値もかなり優秀。種族値のバランスが良くて速さが上だから、この前のレベル58のフーディンよりも厄介。それを能力アップなしで倒さないといけない。かなりハードだぞこれは。

 

 唯一救いなのは残りの手持ちがクロバットに対してかなり相性がいいこと。特にアカサビは体力満タンかつ毒無効。しかもこいつは“いかりのまえば”がないようだ。一応あれはタマゴ技だから不思議はないけど。こちらへの有効打は“つばめがえし”程度。補助技に気をつければ倒すことは不可能ではない。

 

「挨拶代わりだ、1」

「ニン!」

 

 先制技の“バレットパンチ”はあっという間に距離を詰めてクロバットを捉えた……はずだった。だが、技がまさに当たろうという瞬間、クロバットの姿が一瞬ブレたように見えた。圧倒的違和感。何かおかしい。

 

「サム?!」

「つばめがえし!」

「ガードしろ!」

 

 技後硬直を狙われて直撃。42減ったな。ガードしきれずいい乱数を引かれたようだ。3発でやられるのか。思ったよりも余裕はない。相手の方はどれぐらい減った?

 

 ……206/206!?

 

 どういうことだっ!? 減ってないっ?! クロバットの体力が満タンのまま! ありえない。完全に捉えて避けれないタイミング。しかもさっきのは先制技で命中率100%だ。外すわけもない。こんなことが可能になる技を俺は知らない。

 

「ファファファ。驚いたという顔だな。さてはもう気づいたか、今の早業。普通は何度か対戦してようやく気付くというものなのだが」

「やっぱりか。今完全に避けたな? あのタイミングで」

「ファファファ! その通り。拙者のクロバットは特別でな。その得意技、忍法変わり身の術の効果よ。お主のそのハッサムの素早さでは、たとえ先制技のバレットパンチでも当てることすらできはせん」

 

 なんてことだ。“ひかりのこな”でも持ってるのかよ。いや、持ち物はないけどさ。タワーで命中100%技外して100連勝逃したことを思い出してしまった。粉ドンファン……ぐっ! 頭が!

 

 どうにかしてこのトリックを見破るしかないか。とりあえずクロバットが避けているのが確定しているなら必中技を使えばいい。

 

「8」

「ニン!」

 

 今度は当たった! 驚いて受け身も取り損ねたな。それでもダメージは薄いが。今、ブレたときにアカサビが一緒に横にズレた。まさかあの一瞬で横に移動しているのか? アナライズではわからない。もう一度次はサーチで位置を探るか。

 

「今の番号はつばめがえしか」

「げ、番号覚えてんのか。……3!」

「……ニン!」

 

 忍者だから解読とかも得意なのか? あっちも番号解読してきているようだが、こっちも読めて来たぞ。しっかり気配を感じる。あの掛け声、「ニン」と言えば何か技を発動して左右に躱しているようだ。気配が完全に移動していた。

 

 ここまでわかれば後はどの技を使っているかだ。ジムリーダーがとんでもない技の使い方をするのはもう十分わかっている。消去法で探るしかない。

 

「つばめがえし!」

「こっちも同じ技で応戦しろ!」

 

 威力は同じ。攻撃力ではこっちが上! アカサビが相手をはじき飛ばした。

 

 ……変わり身として使う技はまず攻撃技はありえない。一瞬で使うから出の速い補助技に限定される。

 

「あやしいひかり」

「目を閉じて指示に集中!」

「変わった避け方をする。ねっぷう!」

「5、目を開けろ」

 

 技が多くて全部見切れない。ねっぷうとかもあるのか。あまり練度は高くなさそうなのが救いだ。十分“まもる”を使うだけで対応できるレベルだ。

 

 ……補助技の中でも相手に掛けるものも違う。“まもる”“みがわり”も使えるが違う。使った後の隙が大きいからすぐ反撃してきたことに矛盾する。能力変化の技も論外。とするともう候補になる技なんてなくないか?……いや待て。

 

「2!」

「ニン!」

 

 もう見せていない攻撃技は限られる。たぶんこれがラスト。次はもう相手も違う番号を聞いても避けてくれない。ここで見極める!

 

「……!!」

「クロバット、つばめがえし!」

 

 見えた! 俺が指示できずアカサビは相手の攻撃は受けて残り体力が厳しくなったが、あれは間違いない。先制技が来て相手が慌てた分1番見やすかった。ブレて見えたクロバットの正体、あれは幻影だ!

 

 ……謎は解けた!

 

「忍法変わり身の術見切ったり。つばめがえし!」

「受けきってからつばめがえし!」

 

 相殺もできず避けることもできないから諦めて受けきったか。反撃でアカサビは倒れてしまった。だが勝つ道筋はできた。まさかイナズマが攻略のキーマンになるとはな。

 

「ハッサム戦闘不能!」

「……アカサビは倒れたが、もう見切ったぜ、その技。いわば超高速のクロバットの素早さが可能にした奇跡。その正体はなんのことはない、ただの“かげぶんしん”だろう?」

「見事! 正解だ。やはり今の攻撃探りに来ていたのか。こちらの手がこうも易々と見破られるのは四天王のあの方以来だ。全く恐ろしい洞察力よ」

「恐ろしいのはあんたのその発想だろ。かげぶんしんは使えない技だと思っていたが……その性質を利用したな。かげぶんしんは一瞬で多数の幻影を生み出し本物をそのどこかに紛れさせる。あんたは幻影を作ることでなく、本体がランダムに移動することに目をつけた。そうだろう?」

「いかにも。クロバットは分身を一体に留めるかわり先制技同様の素早さで発動出来るよう鍛錬している。その上素早さを極限にまで高める修行をした。故に攻撃を受ける瞬間に使うことで一瞬で本体を移動させ、攻撃は必ず分身が受ける。これ即ち変わり身の術の極意なり」

 

 たまげたなぁ。気づいたのは“かげぶんしん”が積み技ではないことを思い出したからだ。さらにその後クロバットの分身が見えたことで確信した。

 

 そしてこのトリックは移動することが肝心。だからかげぶんしんを移動のために使ったことは予想できたが、実際に聞くととんでもないことだな。

 

 思えばたしかに“かげぶんしん”は移動手段として見ればこの上なく優秀に思える。最初にカスミと戦ったとき、ジュゴンは鈍足にも関わらず一瞬で本体は別の場所に移動していた。ジュゴンでも一瞬で難を逃れることができるのだから、最速のクロバットが本気を出せば移動どころか回避手段として使うことも不可能ではない。

 

 言うならばこれはテレポートに近いか。あれと違うのは移動技や先制技に付き物の技を使った後の大きな隙、あれがない。使いようによっては、これはテレポートの上位互換といってもいい。

 

 このミラクルを可能にしたのがクロバット。俺の今まで見た中で最速のポケモン。素早さを意図的に極振りしているのもすごいが、鍛錬と素早さで優先度を無理やり上げてしまうという離れ業はもはやルールすら逸脱している。あっさりとこの世の摂理が捻じ曲がってしまった。無理が通れば道理は引っ込むのか。意味違うけど。

 

 そもそも“かげぶんしん”を移動手段に用いるという発想そのものが忍者過ぎて俺みたいな普通のトレーナーでは絶対に思いつけない。こうなると本来の使い方そっちのけで強技認定される可能性まで出て来た。

 

「恐ろしいこと考えるな、ジムリーダーって言うのは。マスターは皆こんなのばっかりなのか?」

「お主はあまり技を極めるようなことはせんのか」

「まだ慣れないんだよなぁ。ずっと慣れ親しんだものを別の使い方にするのは」

「いずれお主も辿る道だ。すぐに慣れる。さて、そろそろ次の勝負と参ろうか。まさかここで打つ手なしというわけではあるまい?」

 

 いずれ辿るって、なんかイヤな予言だな。俺も“だいばくはつ”を“こらえ”たりする日がくるのだろうか。カオスな環境だな。

 

「冗談。見切ったって言っただろ。タネのわかった手品は通用しない。ただのかげぶんしんなら対処の方法はいくらでもある。イナズマ頼んだ」

 

 イナズマ Lv36 どく状態

 実 100-45-49-116-82-145

 

 技 110まんボルト

   2めざめるパワー

   3あくび

   4バトンタッチ

   5まもる 

   6みがわり

   7こうそくいどう

   8シャドーボール

   9かみなり

  10あまごい 

 

 対空戦用に用意していた技。まさにこういう屋外で飛行ポケモンと戦う場面を想定して習得した新たな技をここで初披露だな。変わり身に対しては出だしが肝心だ。俺はイナズマを出すと同時にすぐに指示を出した。

 

「10」

「……あやしいひかり」

 

 やっぱりな。避けるタイミングはキョウ自身が計っている。だから番号だと技をまず見極める必要があるから少し遅れる。攻撃したら躱されて損するだけだが、補助技なら相手の行動がワンテンポ遅れる分逆にこっちが有利になる。しかも“どくびし”のおかげで猛毒や催眠はくらわない。せいぜいが混乱。それも躱すのは容易い。

 

「イナズマ、少しの間目をつぶって!」

「これはあまごいか? なるほど、目をつぶっても差し障りないということか。ちょうはつ」

 

 目を開けたら今度はちょうはつか。変わり身戦術は補助技に弱い。そのための対策として“ちょうはつ”か。きっちり対策の対策まで用意しているということはやはりこの戦術はよく研究して練られているのだろう。抜け目ない。

 

 “ちょうはつ”を初手で使われたらかなり厳しかったがもう準備は整った。天候はどんどん崩れている。

 

「おや、補助技はお気に召さないらしいな。だがちょうはつは1手遅かった。変わり身戦術の弱点、それがこの技だ! やっちまえイナズマ! 9!」

 

  “あまごい”が成功した時点で俺の勝ちは揺るがない!

 

 天候を利用することは何もキョウだけの専売特許ではない。さっきまで晴れやかだった空は見る間に雨雲で黒く染まり、今天候は雨に変わった。

 

「攻撃技が来るとわかっておれば怖いものはない。ニン!」

「それはどうかなぁ」

 

 ゴロゴロゴロ……ピカッ!!

 

 光った!……と思った次の瞬間、まるで何かが爆発したかのような大きな音がして“かみなり”が落ちた! それは吸い寄せられるようにしてクロバットに命中。一撃でクロバットは地に堕ちた。

 

「!?」

「クロバット!!」

 

 クロバットはアカサビとの戦闘で体力を半分程消耗していた。そこに今の技、“かみなり”が直撃した。一致抜群、威力360!……確定1発!

 

 クロバットは声を上げることもできず気絶してしまった。

 

「忍法変わり身の術……破れたりっ!」

「……あっ! クロバット戦闘不能! 勝者、チャレンジャーレイン!」

「よっしゃ! よくやったイナズマ! よーし、おいで?」

「ダァー!」

 

 飛びついてきたイナズマを撫でてあげると、“あまごい”による雨もすぐに止んだ。時間的に早いからイナズマが止めたのかな?

 

「おお、まさか拙者が負けるとは。お主、やりおるな! 持てる全てを出し尽くした。拙者もまだまだ精進せねばならんな。うむ。実に素晴らしい内容のバトルだった。お主ならリーグは無論、マスターでも通用するであろう。レベルを上げてゆけばとんでもない成績を残すはずだ。そら、ピンクバッジを受け取れ!」

 

 キョウはそういって巻物をスルスルと開き、俺はその中にくっついていたピンクバッジを受け取った。忍者らしさに拘るな。

 

「ありがとう。今までの中で1番嬉しい誉め言葉だ。戦い方もかなり参考になるものばかりだったし、ここで貴重な経験を積めて良かったよ」

 

 これは心からの言葉だ。戦術なら今まででダントツに手強かったし、反省することも多かった。俺もこれからさらなる精進あるのみだな。

 

「それはジムリーダー冥利に尽きる。お主はカラクリの才能もあるようだし、是非とも我が門下に欲しいぐらいだな。ファファファ」

 

 ……弟子になったら俺でも忍者になれるのか?

 

「なんかすごいバトルだったわね。わたしずっと内容についていくだけで精一杯だったわ。シショー、最後のあれって“かみなり”よね。キョウさんは“かげぶんしん”で避けたはずなのにどうして当たったの?」

「おお、拙者もご教授願いたいな」

「え、ブルーはともかく技に詳しいあんたまで知らないのか? 自分も晴れソーラービームとかしてただろ。あれと同じで天候の隠された効果の1つだ。雨特有の効果で、あの時は“かみなり”が必中技になっていた。だから分身を出そうが本体に直撃したってわけだ」

 

 やけにあっさり通ると思ったらそういうことか。キョウが“あまごい”を見ても呑気だからいけそうな気配は感じていたが、まさか本当に知らないとは。

 

「そんな効果が! なるほど、理解した。そのような隠れた効果は世に出回っているものはなかなかない。自分で見つけるしか知る術はほとんどないのだ。拙者の“にほんばれ”戦術もリーグでは使っておらんからあまり知られてはおらん。お主はよほど研究熱心なのだろう。拙者でもここまで技の効果について造詣の深いトレーナーは初めて見た」

「シショー、技のエキスパートみたいなキョウさんからそこまで言われるなんて、やっぱりすごいのね。久々に感動したわ」

 

 そうか。たしかに自分で見つけられるかと言われたら俺も厳しいな。万有引力は今なら誰でも知っているが、それを見つけることができたのは天才だけだ。そういうことだろう。

 

 ブルーにもシショーらしいところを見せられたようだし、終わってみればこのジム最高だったな。リニューアルして罠が変わったらまた来てみたいかも。

 

「とりあえず、これでやっとジム戦終了だな。なんだかんだずいぶん苦労したがいいジムだった。……というか、今思えばあんたは俺に勝たせる気あったの?」

 

 あのクロバットは何回か戦ってようやくタネに気づくと言っていた。あれが本当なら俺は何回かリトライ前提の敵と戦っていたことになるんじゃないか?

 

「ファファファ! これぐらいせんとお主は本気になれんだろうに。本気の罠でもなんとか避け切ったのだから、あの程度の幻惑でいまさらどうこうなるお主ではなかろう」

「……たしかに、あの屋敷のことを思えばいまさらなことか。実力の限界ギリギリを試された気がする」

「人は限界に直面し、それを知ることで初めてそれを超えることができる。限界を見ずしてどうしてそれを超えられようか。限界に臨み、それを克服することが最も人を成長させる。そう拙者は考えている」

 

 この人のポリシーみたいなものなのかな。たしかに言っていることはもっともだし、そう考えればあのトラップの殺意にも納得はいくな。あんな強烈な罠を伊達や酔狂で仕掛けたりはしないよな。やはり考えあってのものだったか。

 

「その言葉、今の俺達には身に染みるなぁ。よく覚えておく」

「シショー、とにかくこれでわたし達そろってランク7ね。残っているのはグレン島とトキワシティだけど、順当に進むと次はグレン島に向かうの?」

「そうだな。ここからは船旅だ」

「ふむ、お主達グレン島へ向かうのか。ならふたご島には注意せよ。極端に冷える上、内部をうろつけば伝説のポケモンに出くわして凍り付けにされることもある。傍の航路はできるだけ避けて速やかに抜けてしまうのが無難だ」

 

 おっと、助言がくるとは。ジムリーダーって基本的にかなり親切だよな。ふたご島はそんなにヤバイところなのか? そんなイメージはないがなぁ。

 

「え、こんなところに伝説のポケモンがいるの!?」

「はっきりと生息地がわかっておる珍しい種類だ。だが生息地を極寒に変えるため挑む者は数知れないが命を落とすものも少なくない。未だに誰にも捕まっておらんのが強力なポケモンという何よりの証であろう」

 

 わかっている伝説もいるんだな。誰かに捕まったら極寒じゃなくなるってことなのかな。あそこが寒いのはフリーザーが環境を塗り替えたからなのか。……なんかの能力者かよ。

 

 そういえば3年後にあそこはグレンジムに改修されていたが、あれはフリーザーがいなくなったおかげで寒くなくなったということなのか。カツラが熱いせいだと思っていた。

 

「フリーザーか。そんなにヤバイのか……」

「こわあぁ!! 先に聞けて良かったぁ。そんなところに行ったらかよわいわたしなんか絶対死んじゃうわね」

 

 ブルー、ちょくちょくかよわいアピールしているがこんなに気が強くて馬鹿力なクセにそれは無理があるだろ。それに今は言う気はないが俺は当然伝説を全て見ていく。となるとこいつの発言はかなり現実のものになる可能性が高い。

 

「それとここから南へ行くと海に出られる海岸があるが、現在は少々問題が起きていて凶暴なポケモンが出没するので用心されたし」

「まさか水柱があがってドーン!っていう感じの?」

「いや、聞いた話ではドククラゲの群れだそうだ。こんなところでは普通見ないのだがどこかから流れてきたのだろう」

「別件みたいね」

 

 そらそうだろうよ。あれはこんなところでずっと留まっているわけないからな。狙いは俺だ。

 

「お主ら、何かあったのか?」

「実は俺達最近水辺で何度かポケモンに襲われていてな。しかも相手の姿は近くに見えず水柱だけが襲い掛かってくるから手の打ちようがなく、ホントに困り果てていた」

「しかもいろんな場所でなのよ! 信じられないでしょ!」

「それはまた面妖な。しかし、可能性があるとすれば……まさか例のあれか」

 

 意味深な表情を浮かべるキョウに藁にも縋る気持ちでそのポケモンについて聞いてしまった。

 

「何か心当たりがあるのか?! どんだけ考えても俺達ではわからなかった。現時点の予想では水タイプではない気もしてカイリュー辺りかと思っているのだが……」

「いや、みずタイプやドラゴンタイプの仕業ではなかろう。複数個所というのも気にかかる。意外とエスパータイプの仕業かもしれんぞ。この地方には、知られてないがとんでもない強さのエスパーポケモンもどこかに潜んで居るからな」

「え、エスパー? ホントに意外ね。でも水の中にいなきゃ姿は見えるだろうし、水中にいるとしたらスターミーぐらいじゃないの? あとヤドランもか。ねぇ、シショーはどうおも…」

「まさか……たしかにそれなら……」

「シショー?」

 

 正体不明のポケモンの実態。それがおぼろげながらやっとつかめてきた。もっと早く気づくべきだったんだ。あんなことできるのはこの地方なら限られている。

 

 強さからいって伝説級。みずタイプ以外であんなふうに水を操りテレパシーも飛ばすならたしかにエスパーしかいない。今までみずタイプだという先入観があった名残でずいぶん的外れなことを考えていた。

 

 カントー地方にいる伝説級のエスパーといえばもう誰でもわかる!

 

 ……最強の遺伝子ポケモン、ミュウツーか! 

 

 キョウのあの口ぶり……あの感じだと、例のポケモンってのはミュウツーのことを指していると見て間違いなさそうだ。なんでキョウが知っていたのかはわからないが、まだ人にはあまり知れていないようだし、姿を隠していたのも人に知られないためとかそういうことなのかもしれない。

 

 どうして最初からエスパーの仕業と気づけなかったんだ。いや……少し待てよ?

 

 実際に声を聞いた時のあの口調、もっと子どもっぽい反応じゃなかったか? ミュウツーだとイメージが合わない気がする。ならばあの追手の正体はミュウツーではなく、まだ誰も知らない幻のポケモン…………ミュウ?

 

 ――みゅみゅみゅ――

 

「!!」

 

 呼ばれている。はっきりと何かテレパシーのようなものを通じ、その気配を感じとれる。ミュウは間違いなくいる! 今この瞬間も、俺を見ている……!

 

「ちょっと、どうしたのシショー。急にボーッとしちゃって。聞いてるの?」

 

 ハッとして思考の海から抜け出し顔を上げる。ここはまだジムの屋敷の屋上だ。

 

「ブルー? ああ、悪い。ちょっと考え事だ。キョウさん、とにかく色々教えてくれてありがとう。参考になる話で助かった」

「なんのなんの。お主達、精進してリーグでも頑張るのだぞ」

 

 頷いてジムを出たが、もう意識はほとんど別の場所に持っていかれていた。ほんの少し前までは初めて素晴らしいジムに来られたことに感動していたが、今はもうそんなことは頭から吹っ飛んでいた。俺の頭の中ではこの世界に来てからのことがめまぐるしく駆け回り、周りの声は次第に遠ざかってゆく……。

 

 探知できない姿。聞こえてくる声。強過ぎる力。執拗なストーキング。長くその正体の片鱗にすら辿り着けなかったが、キョウの何気ない一言は俺をようやく真実の道へと導いたのかもしれない。

 

 見えない敵の正体……謎は解けた。

 




謎の襲撃者はミュウです
色々ヒントは用意していたつもりだったのですがわかったでしょうか
最初にタグ見て「カントー」「エスパー」「幻のポケモン」だからどっかでミュウは出てくるかなーと思われた方は少なくないでしょう
タグはほぼこの伏線のためにあったといっても過言ではないです(真顔)
ネタバレ嫌なので「ミュウ」とか固有名詞は基本外しました

水の中にいたはずなのに話違うぞ!とご不満の方もいるかもしれませんが、そのトリックのタネはミュウの技、「へんしん」です
水ポケに化ければセーフですね(ズル)

しかもわけあって普通とはちょっと違い元々使えた力を失いません
なので変身中もねんりきで水を操ってドーンができます
れいとうビームとかもミュウは全部の技使えるので余裕ですね

目的とかまだ色々謎ですがじきに明らかになるでしょう

かげぶんしんについては発想源はアニメのやつです
いっつも相手が本物引くまで周りグルグルするのやめてもらっていいですか?
毎回分身出したらすぐに後ろから容赦なく攻撃しろって思うんですよね
なぜ次の行動までに一拍置いてしまうか
むしろこれすぐに本体移動しているから移動手段として有能なのでは?
むしろ回避手段として一瞬だけ使ってすぐ反撃という使い方だとめちゃつよなのでは?

その結果完成した使い方はご覧の通りです


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6.どんなに 遠くに 離れていても

「シショー、実はちょっと聞いてほしいことがあるんだけど」

 

 ジム戦を終え、ポケモンを回復させてからブルーに話があると言われて外に連れ出されていた。だが頭の中はずっと追っ手の正体とここに来てからのことでいっぱいでそれどころではなく、その記憶の海に引きずり込まれるようにして意識は深く沈んでいった。

 

 ……そうだ、思い出せ!

 

 最初に目が覚めた時、あの時から何かに呼ばれていたような気がする。同時に声の主の姿も見ていたような……あまり思い出せない。

 

 次がクチバの港。あの時はただ一方的に声を聞いただけだった。まだ何もわかっていなかった頃。遊んでという言葉が印象に残っている。

 

 そしてこの前のサイレンスブリッジ。初めて会話が通じた。あいつは自分のハウスへ来いといった。そうだっ! それは最初に呼ばれた時にも聞いた言葉で……なら、あの襲撃は俺をどこかへつれていくためだったのか。それとも別の何かがあるのか。そういえば奴はこの時も遊ぼうとも言っていた。どういう意味だ? 何が狙い?

 

「もぉーーっ!! シショーってばぁーーっ!!」

「ぎいぃっ!? うるさい、耳元で叫ぶな!!」

 

 何考えているんだこいつは! 鼓膜破る気か! 頭がキンキンする……。

 

「じゃあわたしの話聞いてよっ! さっきから何回も何回も話しかけてるのにずっと無視しないで!」

「……なんだ?」

 

 こういう場合ブルーと問答してもムダなのでとりあえず好きなようにしゃべらせた。

 

「だ・か・ら! 今からグレン島へ行く前にちょっと海岸で遊んでいこーよっ。わたし達ものすごーく時間に余裕があるし」

 

 まだリーグまで期間があるのは確かにそうだ。あれは冬にあって、今は真夏だからな。

 

「遊ぶ? ビーチで泳ぎたいのか? たしかにまだまだ時間はあるがあいつらにどんどん先越されていいのか?」

「どうせ早くバッジをそろえてもリーグ開催の時期まで待つんだから一緒だと思うようになったのよね。最初は張り切っていたけど、もう急ぐ意味ないかなーって。でね、わたし水着も用意してるからさ、シショーも一緒に行きましょうよ」

 

 俺も急いでも仕方ないとは思っていたがブルーも同じことを考えていたのか。でも今はあんまり海水浴とかそういうことする気分じゃないんだよなぁ。昨日だったら行っただろうが、今はあのポケモンをなんとかしなくてはという思いが強い。もう放っておけない。

 

「あいにく俺に水着はないし、考えたいことがある。1人で楽しんでこいよ」

「なんでよ、シショーも一緒に来てよ! 水着なら大丈夫、わたしがちゃんと用意しておいたって言ったでしょ。シショーの分もあるわよ」

「えっ? 今なんて言った?」

 

 まだミュウのことを考えていて話半分だったが、今の衝撃で意識が戻った。目の前の女の子が得体のしれない魔物に見えてきた。

 

「だーかーらー、シショーの分もあるわよ! えーっと……ほら、これこれっ。似合うと思うけど、どう?」

「わざわざ俺のために買ってきてくれていたのか。そうかそうか、ありがとうな。で、サイズは大丈夫なのか。いや、ぴったりそうな感じには見えるんだけどな」

「もちろん大丈夫よ! 抜かりないわ、安心して! ね、だからいいでしょ?」

 

 大丈夫じゃねーよ! むしろサイズピッタリなのがアウトだろ。こいつなんで俺の海パンのサイズなんかわかるんだ? 正直なところ俺自身でも自分の体のサイズとか身長とかわからないんだぞ? なんせこの体になってから測ったことなんかないからな! 当然こいつに教えたりできるわけもない。いや、ホントにどういうことだ? 完全に謎だ。

 

「なぁ、俺ってお前にサイズ教えたりしたっけ?」

「え?……あら、忘れたの? 1回おしゃべりしている時に自分で言ってたじゃない。こういう話になったときに。ね? わたしのサイズがどうとかも一緒に言ってたでしょ?」

「あ、ああ……」

 

 確かにそういう話は雑談の中であったし、ブルーのサイズも自慢されて聞かされた気がする。確信がなければ今の巧妙なウソにひっかかっていただろう。嘘は真実を混ぜるのがいいとは言うが、こいつ……上手いこと騙してくるな。逆にここまでして隠すということは……これ以上つついたら何が出てくるかわからない。深入りするのはさすがに怖いな。

 

「じゃあ行こーよー。もちろんわたしの水着姿も見せてあげるから、ね? 1回ぐらいは見てみたいでしょ?」

「そ、そうだな、よーし、いこういこう」

 

 ものすごい棒読みになったがブルーには十分嬉しかったらしい。嬉々として俺を引っ張って海岸に連れてこられた。

 

 ◆

 

「あれー、おっかしいなぁ。海岸の近くには年中トレーナーがいっぱい待ち構えてるはずなのに。全然いないわね」

「さっき話に出ていたドククラゲのせいじゃないのか?」

「ああ、そういえばそうだったわね。わたし達には問題ないと思って聞き流してたけど、普通なら危ないから来ないか。ここらはね、年中温暖な海流が流れてくるからいつでも泳げるの。だからトレーナーもいつでもいるんだって」

 

 さすがにそれはツッコミどころしかない。

 

「どんな理屈だよ。ふたご島があるのに温暖なのも意味不明だし、あったかいからトレーナーがいるってさらにわけわからんぞ。その考えが当たり前なのか」

「シショーこそ何言ってるのよ、普通でしょ。でもラッキーよね。けっこう有名なリゾート地なのに、これならわたし達で貸し切り。つまりシショーとわたしはふたりっき……」

「おい、誰かいるみたいだぞ?」

「あらら、なんでこうなるのっ!」

 

 漫才みたいにおっとっとってやる奴初めて見た。ノリが良いのか悪いのか。いや、そんなこと考えている場合じゃない。ちょっと普通じゃない空気だ。

 

「それより、なんか様子が変だ。ポケモンがいて攻撃してる。もしかして襲われてるんじゃ……」

「え? まさか凶暴なドククラゲ?! よっし、わたし達で助けましょう!」

 

 ブルーはそういって走り出して先に行ってしまった。張り切り過ぎだ。ドジだからそこが心配だな。

 

「キャーー!?」

 

 案の定現場に駆け付けたら悲鳴が上がっているし。さすがにブルーの悲鳴ではないみたいだが。

 

 ドククラゲ Lv32 努力値 157-124-12-18-106-32

 

 ……?

 

「あ、ごめんなさい、人にも当たっちゃった」

 

 レアコイルがいて、ドククラゲに捕まったままなぜかしびれて痙攣している水着のおねえさん2人、ブルーの発言。……状況は把握した。

 

「よし、お前はもう何もするな。先に人間がやられる。ユーレイ、あやしいひかりで混乱させてから眠らせてくれ。君ら、死にたくなかったら目をつぶれ」

「「は、はいぃぃぃ!!」」

 

 さっき攻撃されたのがよっぽど堪えたようだな。すぐに従ってくれた。“あやしいひかり”からの“さいみんじゅつ”で眠らせて無力化した。その隙に人質の2人を解放した。

 

「助かったぁ」

「死ぬかと思ったぁ」

「け、計算通りね!」

 

 このアホは反省してないな。足引っ張っただけだろうが。単純なバトルは強いが人質を解放するような器用な芸当はまだできないようだ。

 

 水着の2人はブルーよりは年上、俺と同じぐらいの年かな。どっちの水着もパレオをスカートのように巻いていて、違うのは色だけだ。赤と緑。そういえばFRLGはこんな水着だったっけ?

 

 2人とも同じということはカントーではこの水着が流行っているのかもしれない。他の地方ならその地方のゲームのグラと同じ水着を拝めるのか……。

 

「ギュイイイン!」

 

 下らんことを考えている間にもう1体ドククラゲが増えていて眠らせた2体をつれて逃げて行った。こいつらは退治してしまっても良かったが、別に誰かに頼まれているわけでもないし逃げる分には放っておくか。

 

「ねぇ、これでもう安全だし早く泳ぎましょうよ。ぐずぐずしているともう夕方になっちゃうし」

「そうだな。あんたら、もう大丈夫だろ。これに懲りたらもう危ないとこにあんたらだけで行かないようにしろよ。さぁ、今なら大丈夫だから早く安全なところへ逃げな」

 

 暗に帰れと言って催促するが座り込んだまま動かない。どういうつもりか問い質そうとするとやっと口を開いた。

 

「ごめんなさぁい。あたしら、さっきのショックで腰が抜けちゃって、力が入らないんですぅ。全く動けませぇん」

「……」

「あの、うちら、どうしたらいいでしょうかぁ」

 

 やっと口を利いたと思ったらこれか。どうしたらって、俺が聞きたいわ。

 

「全く動けないのか。歩くことも?」

「ごめんなさぁい」

「おにーさん助けてくださぁい」

 

 無視してもいいが冗談でもなさそうだし、半分はブルーのせいだしなぁ。……おにーさんか。仕方ないなぁ。別にちょっとポケセンにつれてくぐらいなら構わないか。

 

「全くもう。世話が焼けるなぁ。仕方ない。ブルー、いったんこの人らをポケセンまでつれていこう。服は動けないなら仕方ないから水着の上から着てもらうしかないな」

「やった! おにいさん優しいぃー!」

「うちこんなに優しい人初めて会ったかもぉ」

 

 こっちの人はおにいさん呼びなのか。

 

 赤の方があたしでおにいさん、緑の方がうちでおにーさんか。んー悪くないな。

 

「おおげさ過ぎだって、別にそんなに優しい性格じゃないから。でもまぁ悪い気はしないけど」

「もぉー!! なんでわたしよりも知らない人に対しての方が親切なのよ! いっつもは初対面にはきっついクセに、今回だけこんな簡単にデレデレしちゃって! わたしと一緒に海水浴するのはどうなるのよっ!」

「バカ、そんなんじゃない! だいたいしゃーないだろ。腰抜かしたのはお前のおっちょこちょいのせいでもあるだろうし。まさかこいつらこのままにして俺らだけその横で遊んでるわけにもいかないだろ?」

「それを言われると……あーもう! わかったわよっ」

 

 ブルーも納得したのでポケセンに戻ることにした。ユーレイに持ち上げてもらってグレンの上に乗せて2人を運んだ。道中もすごく感謝された。

 

「おにいさんホントにありがとぉ。あたしらツいてるかもぉ」

「おにーさんがいなかったらうちらヤバかったかもだしぃ」

「どういたしまして。もうお礼は十分だから。見つけたのも偶然だから」

「……わたしも一緒に助けたのに、しかもわたしなりにめっちゃ頑張ったのに、見向きもされないなんて」

 

 ブルーは最初のあれが痛過ぎたな。俺達はポケセンに戻り、事情をジョーイさんに説明するとさっそくありがたい説教を頂戴した。

 

「あなた達、ホントに何考えてるの! こんな時に海岸に行こうなんてどうかしています! 下手したら大ケガしていたのよ!」

「だってあたしら強いトレーナーの知り合いもいないしぃ」

「うちもこの夏1回も泳がないとかありえないしぃ」

「泳ぐのと自分の命どっちが大事なの!」

「「すいません」」

「ジョーイさんおかんむりだな」

「あなたもです! 運よく誰もケガしなかったけど、一歩間違えばどうなってたか。あれは依頼にも出しているけどランク6でも討伐できてないのよ! 今日から7に上がった程の難事件で、あなた達も危なかったのよ!」

 

 へえ、依頼に出ているのか。なら丁度いいな。たまには依頼もやっておくか。実績になるしな。それに……。

 

「え、依頼あるの! ねぇシショー、だったらわたし受けるわ! 絶対あのドククラゲとっちめてやる! わたしランク7だから大丈夫よね!」

 

 こうなると思ったしな。俺としても異存はないが。

 

「あ、あなたがランク7? 見かけによらず高ランクね。でも海岸では相手に地の利があるから危ないわよ?」

「大丈夫よ。わたしがババーンと解決してあげるわ」

「ジ~ッ」

「フーン」

「……なによあなた達その目はっ」

「ジョーイさん、どうせならこのおにいさんに頼んだ方がいいと思うのぉ」

「この人めっちゃ強くて、ドククラゲに捕まってたうちらを簡単に助け出したのぉ」

「攻撃しないで!」

「傷つけずに!」

 

 ものすごくブルーの方を見て言った。かなり攻撃されたことを根に持っているな。

 

「俺はゲンガーを持ってるからそういうのは得意ではあるな」

「ゲンガー!! す、凄い。これは稀に見る実力者かもしれないわ。ということは海岸に行ったのも本当に自信があるからだったのね。それならぜひ依頼を受けてもらえないかしら」

 

 ゴーストタイプってホントわかりやすいバロメーターだな。もちろんこれを狙って発言したんだけど。

 

「ブルーさん、どうやら頼りにされてるのは俺の方みたいだな? 残念ながらお前はお呼びじゃないみたいだぞ?」

「わたしがお呼びじゃない、ですって……!? むぅぅぅーー!! ふんだっ! もうシショーなんか知らない……勝手にすればぁ?! わたしもう寝るからっ!!」

 

 鼻息荒く宿の方に姿を消してしまった。本気で今から寝るつもりなのか。ちょっと言い過ぎた? いつも何かと言われっぱなしだし軽い意趣返しのつもりだったんだけど、あれは完全にすねている。ブルーもラプラスを持っているとかいえば頼りにされたかもしれないのに。

 

「あいつは後で俺がなんとかするんで、詳しい内容を教えてもらっても?」

 

 そう言うとジョーイはすぐに仕事モードに切り替わって説明を始めた。メリハリだけはいい。

 

「依頼の内容は最近南の海岸で現れる3体のドククラゲを退治すること。そしてできれば捕獲してここにつれてきてほしいです。きちんと生息地を調べて元の居場所に返してあげたいので」

「捕獲?……あの、ドククラゲが現れだした経緯とか、今までの依頼の経過とかを聞かせてもらっても?」

 

 ちょっとこの事件が解決できていない理由がわかってきたな。

 

「事の発端は数ヶ月前、いきなりドククラゲが現れるようになりたくさんの被害者が出ました。普段は海岸にいないようですが人が行くと突然現れて人間を狙って襲ってくるんです。依頼ではいつも奇襲にあって失敗。ジムリーダーにも頼んだのですが、その時に限って何度やっても現れず、しばらくするとまた暴れて……。キョウさんも忙しい方なので何度も頼むわけにもいかず、困り果てている状態です」

「なるほど、そういうことか。じゃあバトルはいつも後手に回りがち、しかも連携とかもとってくるんじゃないか?」

「そうなんです。本当に野生としてはびっくりするぐらいの強さのようで」

 

 やっぱりか。となると仕事自体はそんなに大した手間はかからないだろうな。

 

「なるほどね。まあ期待して待っててくださいよ。明日にはここにしょっぴいてきますから」

「ホントにお願いします。町の皆が困っているんです」

「あたしらからもお願ぁい」

「今日みたいにやっつけてぇ」

「任せといてくれ」

 

 驚く顔が目に浮かぶ。事の真相は案外単純なトリックなんだよな。

 

 その後、一応ブルーの部屋にも行ったが本当に寝たようでドア越しには反応がなく、翌日1人で現場に向かった。

 

 ◆

 

 海岸を歩いてみるがすぐには出てこない。やっぱり警戒されているな。昨日とっちめたばかりだからな。油断するまで出てこないか。砂浜に横になって寝ているフリをすると、30分程してようやく出て来た。それもゆっくりと、忍び足で。用心深いことで。だからこそ今まで捕まらずに済んだのだろうな。

 

 今、俺は仰向けに寝ながら警戒心を抱かせないために顔に帽子を乗せて視界は閉ざしている。だが、ポケモンを視る分には障害物は関係ないのでドククラゲの存在は感じている。距離を詰めて来て後ほんの少しで技の届く距離というところでこっそり合図を出した。

 

 グレン、アカサビ、イナズマ。3体が同時に出て各々1体ずつに攻撃を当てた。“かみなりのキバ”“つばめがえし”“10まんボルト”を撃つが、“つばめがえし”だけ耐えられた。残った1匹は慌てて逃げようとするがその先にユーレイが地面から現れて立ちふさがった。

 

「ゲエーーンガッ!」

「ギュイイン!?」

 

 驚く間もなく“シャドーボール”が直撃して倒れた。3体は纏めてあなぬけのヒモで縛り上げ、一番素早く技を使えるアカサビに見張らせて、俺はユーレイの案内に従って黒幕のもとへ走った。

 

 そう、最初から俺はわかっていた。こいつらはボスゴドラの時のように努力値が入っていた。前は捨てられポケモンだったが、今回は違う。はっきりわかったのはポケセンで話を聞いたとき。こいつらには指示を出している奴がいるはずだ。だからこそ強い奴には襲い掛からず、今みたいに油断しているところを狙う。つまりトレーナーがどこかからこっちを見ているんだ。だから寝ているフリをしている間にユーレイに探させたのだった。

 

 どんなに遠くに離れていても……ゴーストポケモンに探されたらどうしようもない。俺が敵に回った時点で犯人の運命は決まっていた。

 

「ゲエエエッッ!」

「いたいた。こいつらか」

「ぎゃあああっっ!! 出たああっっ!!」

「ガッガ、ガッガ!」

 

 こんなときまで驚かれて喜ぶんだな、お前は。3人いた海パン野郎は問答無用で“さいみんじゅつ”をかけて眠らせた。さらにあなぬけのヒモで縛りあげ、ポケモンはボールに戻して人間は縛ったままポケセンまで引っ張っていった。

 

 当然人間を引きずりながら天下の往来を歩いていればイヤでも人目につく。目立つことをしたのはわざと。こいつらの顔を町の住人に覚えさせ、かつ俺が真犯人をみつけたことを印象付けるためだ。手柄はアピールしないとな。ポケセンに戻ると人間を引きづって現れた俺を見てジョーイは叫び声をあげた。

 

「どうしたんですか?! その人達はなんなんですか!? まさかここまでその状態で引っ張ってきたんですか! 非常識ですよ! というか依頼の件はどうなったんですか!」

「ひええぇ」

「おにーさんどうしたのぉ」

「どうしたも何も、依頼の通り。たしか退治だけでなく連行までしてほしいとのことでしたよね? こいつらが黒幕ってこと」

「え、ええ? どういうことなんですか。黒幕って、じゃあ、ドククラゲはこの男たちのポケモンで、その指示で人を襲っていたと?」

「そういうこと。よーく思い返して。野生じゃおかしいことがあったでしょう? 強過ぎ、人を襲い過ぎ、タイミング良過ぎ。聞いた時点で人の手が加わってるとすぐにわかりましたよ」

「そうか、たしかにそれなら辻褄が合うわ。あなた、すごいわね。誰も倒せなかったポケモンを倒すだけじゃなく、真犯人まで見つけるなんて。これこそエリートの鑑だわ」

「別に俺はエリートトレーナーではないけど。とりま、これで事件は解決。後はこの不届き物をどうするか。まずは町に真犯人が見つかったと報告したらどうだ?」

「そうですね」

 

 正式に依頼の達成が認められ、報酬をもらい達成報告が町の掲示板にも書き込まれた。すると町の人間はこぞってポケセンに押し寄せた。よっぽど大問題になっていたんだな。

 

「お前だな! よくもいままで好き放題してくれたな!」

「みっちりこらしめんとなぁ」

「トレーナーさんありがとー」

 

 罵声7割歓声3割、人が殺到してテンヤワンヤになった。

 

「なんでこんなに!」

「ひえぇぇ」

「俺らどうなるんだ……」

「そりゃずっとここまで引きずってきたからな。皆すぐにお前らが真犯人だとわかる。今までビーチを独占して迷惑かけてきたんだ。ツケはきっちり払わされるだろうな」

 

 相当お怒りのようで糾弾はどんどん激しくなる。この3人はずいぶんと人気者らしいな。こっちとしては好都合だ。

 

「皆さんちょっと落ち着いて!」

 

 ジョーイが野次馬をなだめるが全く効果なし。今にも3人組をつるし上げそうな勢いだ。3人は恐怖で縮みあがっている。

 

「「「ひいいいいい!!」」」

 

 この3人には申し訳ないがおとりになってもらうか。今後、普通に海岸に行ってもこいつらがいなくなった以上混雑は免れない。が、今日に限ってこいつの糾弾に忙しいからガラ空きの状態で遊べるというわけだ。こいつらの判決は推して知るべし。

 

「ジョーイさん、後の仕事は任せた。俺はそろそろ本来の用事を思い出したから先に失礼するよ」

「本来の用事? なんですか?」

「もちろん、海水浴に決まっているだろ?」

「レインさん!?」

「じゃあねー」

 

 謀られた、という顔のジョーイをおいて、まずはブルーを探した。ポケセンの外を探しても近くにはいない。まだ部屋にこもっているのか?

 

「ブルーいるか?」

 

 部屋の前で呼びかけて返事を待つが応答がない。いるのは間違いないと思ったがどっか出かけているのか? いたら返事ぐらいはしそうだし。

 

「あ、おにいさん、こんなところにいたんだぁ」

「ねえ、ビーチに行くんでしょ? じゃあうちらも一緒に行きたいんだけどぉ」

 

 なぜかさっきまで受付にいたはずの2人組がいる。

 

「あんたらは人質の。なんでこんなところに?」

「さっきのジョーイさんとの会話が聞こえちゃって。あたしらも今のうちに海で遊びたいのぉ」

「うちらトレーナーの友達とかいないしぃ、うちらだけで危ないとこ行くなって言ったのはおにーさんよね?」

「まあたしかにそんなようなことは言ったが……まあいいか、ブルーもいないみたいだし」

「やった、じゃあ早く行こぉ」

「さっすが、おにーさんやさしー!」

 

 ガタン、と音がした気がした。まさか中にブルーがいたのか? だが呼びかけることはかなわずそのまま海岸に連れられてしまった。

 

 ◆

 

 このマイペースな2人に流されてついて来てしまったが、ホントに良かったのだろうか。ブルーは今どうしているだろうか。きっとここに来ることをだいぶ前から楽しみにしていたはず。水着を用意するあの計画性といい、俺が行こうと言ったときのはしゃぎぐあいといい、ここまですねていることといい、全て本気だった証拠だ。なら、ブルーはまだ部屋の中でふて寝しているか、あるいは……。

 

「あっ!」

「え、急にどうしたのぉ?」

「おにーさん?」

 

 何気なくサーチを使ってみたら思いがけないものが見えた。

 

「……ごめん、悪いが今日はこれでお開きにしないか? ちょっと用を思い出して。先に帰ってもらえる?」

「あ、そうかぁ。おにいさん依頼とかバリバリやってそうだもんねぇ。わかった、今日は楽しかったし、チョー思い出に残ったかもぉ。ありがとねー」

「じゃあねー」

 

 別れの最後は母音じゃなくて語尾伸びるのか。いや、そんなことよりもブルーだ。さっき周りを見渡したらラプラスが視えた。ここに来ていたようだ。やっぱり海水浴に未練があったんだな。あんな遠くの岩陰に隠れているとは思わなかった。こっそりこっちの様子もうかがっていたのかもしれない。水着の2人がいなくなるのを見計らってからブルーの様子を見に行ってみた。

 

「ラー」

「……」

 

 ブルーは体育座りで顔を腕の中にうずめて黙ったまま微動だにしない。おそらくラプラスはブルーの様子を見かねて慰めようと思って出てきたのだろう。だが、あの鳴き声を聞く限り、テレパシーも拒否されてそうだ。テレパシーは強く拒絶されるとできないそうだから。

 

「!!」

 

 ブルーの後ろからそっと近づいたが、海にいるラプラスからは正面だったのですぐに気づかれた。

 

(お師匠様、どうしてこちらに?)

(悪いけど、2人だけにしてくれないか? 後は何とかするから)

(……そうですか。お願いします)

(ご苦労さん)

「ラー」

 

 一声鳴いて頭を下げた後、ラプラスはボールに戻った。

 

「ラーちゃん……?」

「ブルー、久しぶりだな。何年ぶりだ?」

「え?……あー! んぐっ、何しに来たのよ、ほっといて! 今は誰ともしゃべりたくないっ」

 

 驚いて振り向きはしたが、すぐに体育座りに戻って顔をうずめて話を切られた。今うっすらと頬に……。悪いことをしたなぁ。ただの海水浴と思っていたけど、ブルーにとっては大事なことだったようだ。

 

「なぁ、ここって綺麗な海だよな。ブルーの目に留まるだけはある。しかも今なら貸し切りだぞ?」

「もう無理しなくていいわよ。あの人達のところに帰ったら?」

 

 びっくりするぐらい冷たい声が返ってきた。こんな声初めて聞いた。もう完全に興味がないとでも言いたげだが、ここまで来て様子を見ていたぐらいだから本心ではないに決まっている。本当は一緒に遊んでほしかったはずなんだ。神経を逆撫でしないように上手く誘ってあげないと。

 

「あの人達には帰ってもらった。貸し切りって言っただろ」

「え、なんでそんなこと……ホントに返したの?」

 

 一瞬いつもの素の声に戻ったが、すぐに冷たい態度に戻った。やっぱり意図的なものなんだな。これなら説得できそうだ。

 

「用があるからって言って先に帰らせたから本当だ」

「……ばっかじゃないの。せっかくゆっくり遊べたのに、棒に振っちゃって。用なんてないクセに」

 

 さっき驚いた時は若干期待した顔になりかけたのに、またつっぱねて……意地っ張りな性格だな。……実際ブルーの攻撃力高いし。

 

「用ならあるだろ? 俺はブルーと海水浴するためにここまで来たんだから、これより大事な用はない」

「なっ!? だったら、なんで最初からわたしと来てくれなかったのよ! わたしのことなんか忘れて、あんな知らない人とデレデレしちゃってさっ! どうせわたしは子供だし、あの人達といた方が楽しいんでしょっ」

 

 そう言われるとは思わなかった。急に感情的になったな。でも、そもそもさっきもブルーのことは呼びにいったし、その時部屋にいたのは間違いないから誘いを蹴られたのは俺の方なんだけど。余計なことを言っても機嫌を損ねそうだから言わないけどさ。

 

「そんなわけないだろ。気心の知れた相手の方が楽しいに決まってる。それに、お前の方がかわいいし、俺がどっちの方が好きかなんて言うまでもないだろ?」

「……言うまでもなく、あの人達なんでしょ。わたしには何にもないのに、あの人達には視線がいやらしいし」

「そんなわけないだろっ! 偏見だ偏見! 全く、ああ言えばこう言う。あーそうだっ。なぁブルー、1回その水着よく見せてくれよ。俺に水着姿を見せてくれるって言ってたよな?」

 

 ブルー、鋭い。というかずっと拗ねていたのってヤキモチだったのか? エコヒーキしてるみたいなことも言われたし。そうだとしたらずいぶんとかわいいヤキモチだな。あるいはブルーならヤキモチ焼いている自覚はないのかも。

 

 だったら水着を褒めれば機嫌も直してくれるだろう。根は素直な性格だから。

 

「あ、あれは勢いで言っただけで……いいわよ、もう。どうせかわいくないし」

「なんだ、あれはウソだったのか。普段と違うところが見られると思って楽しみにしていたのに。残念だなぁ」

「……そこまで言うなら仕方ないわね。じゃあ……1回だけよ」

 

 やっぱりすぐに乗ってきた。立ち上がってようやくちゃんと俺と向かい合ったブルーの顔はそっぽを向いて口を曲げているし、表情はまだ怒っているようにも見えるが、内心はかなり嬉しいんだろう。若干頬が緩んでいる。今まで見てきたからこそわかる程度のわずかなものだが。

 

 無難に選んだのかブルーは普通のセパレートのビキニだった。色はもちろん青。ボトムだけキュートなフリルがついているのがちょっぴりオシャレだ。これが付いているとヒラヒラしているところも見たくなる。クルッと回ってくれないかなぁ。

 

「へぇ、けっこう似合ってるじゃん。お前のセンスなら変な服を選んでくると思ってたのになぁ。ちゃんと考えて選んだんだな」

「あ、当たり前でしょ! そんなこと考えてたの?!」

 

 だいぶ砕けてきたし、いつもの元気が戻ってきたな。ブルーは元気な方がいい。落ち込んでいるところは似合わない。

 

「大丈夫、安心しろ。ホントに似合ってる。明るい青がブルーのイメージとマッチしてるし、特にそのフリル、キュートでものすごくいいと思うよ。こうやって水着姿で改めて見るとブルーはすっごいかわいいし」

「ハッ! そんなことだろうと思ったわ。そんな見え透いたお世辞を言われても全然嬉しくないから」

 

 腕組んでまたそっけない声でツーンとそっぽを向いた。一見ホントになんとも思ってなさそうに見えるが……。

 

「俺がつまらないお世辞なんか言ったことあったか? そんなに卑下しなくても、ブルーは身だしなみがいつもだらしないだけで元々素材はいいんだから自信持てよ」

「ず、ずっこいわよ、そんなこと言うのは! いっつもウソばっかのクセにっ! あと、だらしないは余計よ!」

 

 こうかはばつぐんだ。実際この言葉はウソじゃない。ブルーは最近ますますかわいくなっている。

 

 ブルーが俺の言葉を予想していたように、こっちもブルーがそう返すことまで織り込み済み。いつも褒めていたのがここで活きたな。これでさっきまでの座ったままで自分の殻に閉じこもった状態からは抜け出せた。あと一押し。

 

「なぁ、せっかくだし一緒に遊んでいくだろ? そのためにわざわざ水着まで用意してくれたんだから」

「い、イヤよ。わたしはもうシショーのこと“嫌い”だから」

「きらっ……ホントに?」

「当たり前でしょ」

 

 言葉なんて言うだけならタダなのだから何を言おうが大したことないと思っていたけど、実際に面と向かってブルーにこう言われるとちょっと……。

 

「……じゃあ、どうやったらキライじゃなくなる?」

「え?」

「どうしたらいつも通りに戻ってくれる?」

「それは……」

「……ブルー、俺が悪かったよ。もっと早くこうすれば良かった。遅くなったのは本当に悪かったから、機嫌直してくれ」

「……」

「ブルーの気持ちも今ならわかる。もう独りだけ置き去りにしてどこにも行かないから。独りだけにさせないし、喧嘩しても離れ離れになっても絶対に忘れないから、な?」

 

 ブルーの顔をしっかり見て、瞬きしないぐらいのつもりでじっとその目を見つめ続けた。一瞬何かが通じたような気がした。

 

「……わかったわ。ごめんなさい。わたしも意地張って引っ込みがつかなくなってた。自分でもなんでこんなことするんだろうって思ってたの。でもどうしようもなくて。あの……さっきキライなんて言ってごめん。ホントはそんなこと一度も思ってないから。最初も、本当はここまで来てくれるなんて思ってなくて、シショーが来てくれただけで嬉しかったのにあんな……」

 

 びっくりするぐらい急に素直になったな。どうして? でも良かった。内心驚いていることは微塵も表情には出さずに答えた。

 

「わかってる。俺は気にしてないから。ブルーなら最後はわかってくれると思ってた」

「……ねぇ、なんでわたしがここにいるのがわかったの? いつから気づいていたの?」

 

 なんでわかったのか、か。サーチしたから、ということじゃなくて、なぜブルーを探してサーチしようと思ったのか、という部分を聞きたいのだろうな。

 

「……そういや、まだ数ヶ月しか経ってないのか」

「え、なんのことよ?」

「お前がくっついてくるようになってからだよ。短いけど色々あったよな。今じゃもうブルーがいるのが当たり前で、いないことなんか考えられないぐらいだし、すっかりブルーのことならなんでもわかるようになってしまった。それこそブルーのことなら直接姿を見てなくてもどんな行動をするのかわかってしまうぐらいに。だからお前ならきっとこのビーチに来るだろうって最初から思っていたよ。まぁさすがにこんな岩陰にいるとは思わなかったけど」

「なんでもかぁ。ねぇ、それってわたしがどう思ってるかとかも?」

「ん、何を?」

「……ウソつき!!」

「おい、また怒るのかよ」

 

 何の話をしているか聞いただけでいきなりウソつき呼ばわりするってどういうことだ。なんか聞き漏らしたのか?

 

「別に怒ってない!……じゃあ、わたしがどっか行っちゃって、ものすごく遠い、たとえば地球の反対側とかに行っちゃっても、わたしのこと見つけられるの?」

「当たり前だろ。俺を誰だと思ってるんだ? 俺はお前のシショーだぞ? できないことなんてない。必ず見つけてやるよ。……どんなに遠くに離れていても」

「……ホントにシショーってずっこい。でもやっぱりすっごい」

「どっちなんだよ」

「どっちもっ!」

 

 ちょっと見栄を張って断言したが、実際にはそんなことはまぁ起こらないだろうしな。笑っているブルーの様子からはもう怒りは見受けられない。機嫌は完全に直ったな。

 

「ねぇ、ここにきたらね、まずは水着バトルをするのがトレンドってやつなの。だからわたしと水着バトルをやりましょ。負けたら砂風呂の刑ね」

「ほう、面白い。受けて立つ。お前を砂の中に沈めて参りましたと言わせてやろう」

「フフフ、そう簡単に勝てるのかしら? いつまでも弟子だからってわたしのことなめていると足元すくわれるかもよ、シショー?」

 

 調子出てきたなブルーの奴。いつものらしさが出てきた。最初っから水着のお披露目とこれが目的だったのかな。ならブルーなりに俺に勝つために色々考えてきているだろう。ならばいつも見せている戦術はブルー相手といえど使えない。なら新たなる別の戦術を披露するまで。

 

「いくわよ!」

「こっちはいつでもいいぜ?」

「「バトル!!」」

 

 やっぱり俺達は、泣いても笑っても喧嘩して仲直りしても最後は結局ポケモンバトルということか。結果は……!

 

「ま、参りました……」

「そうかそうか。砂風呂の湯加減はどうだ、敗者のブルーさん?」

「悔しい! なんでわたしが負けるの!? おかしいわ! バトンタッチはさせなかったし、状態異常にもかからないように注意したし、ポケモンの数は2体も多いのに、なんで!?」

(申し訳ありません、私が至らないばっかりに)

「あ、違うの、ラーちゃん達は頑張ってくれたし、責めてないの」

「そうそう、トレーナーの実力不足だ。ソーナンスの使い方も下手だし、持っているポケモンは強くても扱う人間がダメダメじゃあねぇ……」

「ううう! そもそもなんでソーちゃんのかげふみに弱点というか、抜け道があるのよ!しかもなんでそれを持ち主じゃないシショーの方が良くわかってるのよ!」

 

 なんとブルーは「ほろびのうた+かげふみ」の極悪コンボを敢行してきた。見事にイナズマを捉えた上に“しんぴのまもり”で“あくび”も封殺する徹底ぶり。しかしあっけなく“ボルトチェンジ”で逃げることに成功し、相手は絶叫。「交代できないけど交代技は使えるっておかしい!」と言っていたな。

 

「1番おかしいのは交代合戦になって技の受け合いになったのに、なぜかこっちが先に全滅したことよ。絶対なんかおっかしいわよっ」

(攻撃を受けた回数が同じでも、私達の方が一度に受けるダメージが大きかったように思います。特にこちらからは効果が今一つなことが多かったので)

 

 あの一度のバトルでそこまで考えが及ぶのか。このポケモンヤバイ。もう完全にブルーの知恵袋だな。参謀だ。

 

「さっすが、ラプラスは賢いな。サイクル戦になれば読みで多少の不利はどうにでもなるからな。元々こういう戦いを1番想定して育てているし」

「え、どういうこと?」

「自分で考えろ。戦い方まで俺の真似をしてたらいつまで経っても俺の劣化のままだからな。自分で考えて強くなれ」

「じゃあ、真似しないからどういうことかだけ教えてー」

 

 そういえば教えると思ったのだろうが甘かったな。

 

「それもダメー」

 

 わざと意地悪くブルーの言い方を真似した。ブルーは身動きできたら襲い掛かってきたろうが残念、今は身じろぎすらできない。

 

「ううー!! なんでよっ、もう! 相手の戦い方を知るのは大切なことでしょ? 対策ができるんだからさー。よく相手の考えを読めっていっつも言うじゃない!」

 

 ちゃんと話を聞いていたんだな。感心感心。でも言わない。

 

「それはその通りだが、俺が自分の手の内を簡単に見せたりするわけないだろ?」

「何よそれ、仮にも弟子のわたしに言う言葉なの?! わたしには教えてくれてもいいじゃない! このケチケチケチー!」

「お前は弟子だけど、俺を超えるんだろ? 1番有力なライバルになるかもしれないのに軽弾みなことはできないな」

「あーもう、調子いいんだから! やっぱりけちんぼ!」

 

 こいつ反論できなくなったらすぐそれだよな。他にないの?

 

「それはないだろ」

「だってホントのことだもん。ね、ラーちゃん」

「……ラー」

 

 こいつ、わざと鳴き声で返事したな? 都合のいいポケモンだな。丁度いい、そろそろブルーにも砂風呂の本当の恐怖を教えてやるか。わざわざ自分から砂風呂を選んで埋まってくれたのだから、これを逃す手はない。

 

「こういう時だけテレパシーを使わないのか。なぁラプラス、お前のテレパシーはずいぶんと都合のいいテレパシーなんだなぁ。まぁいいや。ところでブルーさん、砂風呂の中からかわいいおみ足がはみだしておりますなぁ。これはちゃーんと埋め直して差し上げないと」

「な、なに企んでいるの! シショーが悪い顔になってる! めっちゃイヤな予感! そこだけ最初からわざと埋めなかったのね!」

「人聞きの悪い。さて、ちゃんと埋めなお……あ、手がすべったー」

「アハハハハ、ヒャッッ!! ヤメ、ちょ、くすぐるな!」

 

 砂風呂の刑からのくすぐり地獄の刑へ繋げるコンボ。相手は(笑い)死ぬ。

 

「助けてラーちゃん!」

(ブルー、ご愁傷様です)

「身の程知らずな挑戦をしたことを後悔するがいい!」

「助けてぇーっ!!」

 

 なんだかんだはしゃぎまわって俺の方は楽しい海水浴だった。あんまり泳いでないし、ブルーはずっと砂の中に埋まっていただけだった気もするが、たまにはこういうこともある。

 

 そうやってこの時だけはイヤな事も悩み事も何もかも忘れて心の底からブルーといる時間を楽しめた。ずっとこんなふうに一緒に遊んでいられたらいいのになぁ、と本気で思ってしまう程に。

 

 だが本能は既にハッキリと直感していた。これは束の間の平和に過ぎないことを。

 




今回パッと見では水着出したかっただけみたいに思えるかもしれません
ですがちゃんとこの話には意味があるんですよ
理由の8割がみずg……もとい、伏線です

バトルカットは長くなり過ぎるし分割もできないしでやむなしです
内容は会話から想像して下さい


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7.退屈船旅にヒンヤリスパイス

 目の前に果てしなく続く青い海、見上げれば地平線まで続く白い空。頭の中がクリアになり大自然の中で自分までひとつになるような壮大な感覚。まるでこれは……

 

「……とけそう」

「あきたー」

 

 頭の中はグチャグチャで思考能力はほぼゼロになり、体は周りとの境界線がグニャグニャになったような錯覚すら覚える。

 

 同じ景色の連続で時間の感覚もおかしくなり、ブルーの方はとうに船旅に飽きてしまったようだ。

 

 今、俺達は海の上で暑さと暇さでどうにかなりそうな地獄の船旅を満喫していた。

 

「もうダメー。ずっと同じ格好で足痛ーい。ふかふかベッドで寝たーい」

(ブルー、ごめんなさい。狭くて硬い背中で大変ですよね)

「あ、いや、違うの。違うくはないけど。あー、しんどい」

「ブルー……お前もう本音がダダ漏れだ。そもそもこんなことになったのはお前が妙なこと言い出すからだろ」

「なによっ、シショーもいいなって言ってたわよ!」

「……すまん、やめよう。こんなこと言い合っても不毛だ。俺が悪かった」

「そうよね。しゃべったら余計にしんどい」

 

 ことの始まりはどうやってグレン島まで行くか相談した時。俺は船があることは調べていたのでそれで行くつもりだったが、ここでブルーがラプラスに乗って行こうと言い始めた。なんでもポケモンに乗ってなみのり船旅を楽しむのが夢だったとかなんとか。俺もそれを聞いた時にたしかに一度はやってみたいな、と言ってしまったのが運の尽き、地獄の幕開けだった。

 

 俺達は冷静じゃなかったんだ。普通に考えればわかる。こんな長距離間をポケモンの狭くて硬い背中の上でずーっとやることもなくただ日干しになりながらゆっくり進むなんて正気の沙汰じゃないってことは。それがわからない程度には浮かれていた。つまりかなり浮かれていた。頭どっか打っていた。頭エリカ。

 

 最初は海の中はどうなっているだろうとか楽し気に会話していた。しばらくしてようやく事のヤバさに気づき、その時には引き返せるような場所でもなくなり立ち往生。結局ラプラスにスピーダーを使いまくってなんとか速く着こうとする状況に陥った。今じゃ会話1つなくだらしなく寝転がってダウンしていた。

 

 しばらくすると島が見えて、ブルーも目聡くそれを見逃さなかった。

 

「あ、島! 着いたのね! やっとグレン島に……」

「そんなはずはない。あれはふたご島だろう」

(そうですね。あそこはふたご島。心地良い冷気を感じます。グレン島へはまだ半分といったところです)

「そんなぁー! わたしもうダメ、ここで死んじゃうかも」

「ブルー、それならいい案があるぞ。もうこんな狭くて硬い足場とはおさらばできる」

「え、なになに、教えて! すぐにそうしましょう、早くそうしましょう!」

「それじゃ、今日はあの島に泊まろう」

「え」

 

 ブルーの顔が凍り付いた。

 

 しかしなんだかんだと言いつつホントに上陸してしまった。ブルーは相当参っていたようだ。陸地に上がれる誘惑には抗えなかったらしい。

 

 洞窟の前に立つと中から冷気が吹きつけ肌を突き刺すようだった。風がけっこう強い。外部は暖流と夏の気候で温かいが、それとは対照的に内部は凄まじく冷えているため温度差で対流が起きて強い風が生じるのだろう。

 

 科学的には当然の現象。だが、この風はまるでこの洞窟の主が侵入者を拒み警告しているかのようにも思えてしまう。入ればタダでは済まないぞと無言で語りかけているようだ。

 

「ホントに大丈夫なの、こんなところに来てさぁ。キョウさんの話でここは危ないって言ってなかった?」

「なんだお前、怖いのか? ロケット団に立ち向かったりしてたくましくなったのかと思っていたが、案外そうでもなかったか」

「ばばばっ、バカねっ! そりゃあ、あの時に比べたらこんなところ何でもないわよ。ただシショーはいっつもすぐに危ない目に遭うから心配しただけよっ!」

「そうか。なら問題ないな。奥に進むぞ。ちゃんと俺についてこいよ」

「えーウソでしょ……」

 

 チラリとブルーを一瞥すると泣きそうな顔になっている。本気で怖いんだな。死者数え切れずって言っていたし無理ないが。まぁそれで中断したりするわけはないけど。

 

 ◆

 

 中は全面氷に覆われており、気温がマイナスなのは間違いないだろう。内部はさながら真冬の北国だな。

 

「さっむ! 何よこれ、おかしいわ! ここらは温暖な海流で年中暖かいはずなのに! 中は全部凍ってるじゃない!」

「ほら、これ着てスプレーしとけ。ポケモンが全部俺達に集まってくるからな」

「あ、あったかそうなコート。ありがとう。さっすがシショー、いっつも準備がいいわね」

 

 こいつ、気づいてないのかバカなのか。準備がいいのは最初からここに来る気だったからに決まっているだろう。誰が真夏にこんなコートを用意するんだ。単純なところは相変わらずだな。今は都合がいいから黙っているが。

 

「ヴヴヴ、サヴヴヴ」

「震え過ぎだ」

「だって、シショーはグレンちゃんにぴったりくっついているからいいけど、わたしはさぶいもん!」

「じゃあ反対側にくっついたらいいだろ」

「いいの!? やったー」

 

 別に最初からそうすればいいのに変なところで遠慮するなぁ。

 

「ちゃんと俺からはぐれないようにしろよ。はぐれたらたぶん死ぬからな」

「ひっ!……でもシショーなら、もしはぐれても、見つけてくれるわよね。ねっ?」

「見つけた時に氷の彫像になってなければいいが」

 

 今ので一気に顔色が悪くなったな。

 

「わたしのバカー! なんでこんなとこについてきちゃったのよ! もう帰りたい! もしフリーザーに出くわしたらどうするの!」

「何言ってんだ? なんのためにここへ来たと思ってる?」

「え、今日泊まる場所探してるんでしょ?」

 

 え、逆にこっちが引くわ。ブルーはこんな寒い場所で寝るつもりだったのか。さすがにそれは冗談抜きで死ぬんじゃない?

 

「だったら洞窟の外でいいだろ。目的はもちろん、フリーザーを見つけるためだ」

「もう、バカバカバカーーッ! あー、なんでこんな人について来ちゃったんだろ。今だけ弟子やめたい。ラーちゃんの背中が恋しい。なんであそこがイヤだなんて思ったんだろう。安全で安全で……安全なのに」

 

 安全以外に何か言ってやることはなかったのか。……まあ実際何もないんだけれども。

 

「それでも安全しか取柄は思いつかなかったんだな。こんなところ来たら死んじゃうとかセキチクジムで散々言ってたが、本当にその通りになったりして」

「うう、こわいぃぃ! さぶい、さぶい! えーん、もうやだぁー」

 

 もう顔がぐちゃぐちゃだな。すぐに固まっているけど。何がとは言わないが。今はもう強がる余裕もないのか最近では珍しく俺の手にすがりつくようにして離さない。はぐれたらって言ったのが怖かったのかな。グレンにくっつくのも忘れている。ちょっと微笑ましい。

 

 ポケモンとの戦闘がないのでスイスイ奥へ進めた。アカサビの“かいりき”で岩を動かし、何度も上の階と下の階を行き来して仕掛けを動かした。岩が無いときは“いわくだき”で岩を作り、時には“サイコキネシス”で岩を持ち上げ、足りないものは自力で補った。

 

 自然にできたものだから答えが用意されているわけではない。強引に切り開くことも必要だった。

 

「すっごい力押しね。あとどれくらい?」

「もうすぐだな。ん、これは……」

 

 ふと目に着いたのは水晶のような少し普通の氷と違うように見える物体。少し青みがかっていて光っている。これはおそらく……。

 

「どうしたの?」

「ブルー、お土産ゲットだ。これは“とけないこおり”。こおりタイプの技を強化する。この洞窟の中でとれる道具なのか……。ブルー、お前もほしいだろ? もう少しこれを探そう」

「え……わたし早くここから出たい! シショーだって寒いでしょ!?」

「ん? 俺は別にそんなの気にならないけど。とにかくこれもっと探すぞ。こんなの採れる場所相当限られてるだろうし。そういやこれって一応こおりなんだよな。ここから出てもとけないのか? 名前通りならとけないだろうがそもそもとけないこおりって矛盾してるし、それに……」

「あああぁぁーーっ!! わかったから早く探しに行きましょ!! いますぐ行きましょ! ここで実験とか考察とか始めないで!!」

 

 やっぱりブルーも欲しいんだろ。言わなくてもわかっている。この道具は一言で矛盾しているが詳しいことはここを出てからゆっくり調べよう。

 

 とけないこおりは無事集め終わり、さらに下の階へ進んでいった。

 

「シショー……まだなの? いつ終わるの? もうこんなとこ出ようよ」

「ここの岩を押してっと。これで下の海流が止まったはず。ようやくフリーザーのいる奥まで進める。いよいよお待ちかねの時間だ。水辺に着いたらラプラスを出してくれ。今から下の階に向かうぞ」

 

 下に降りて“なみのり”で奥の孤島に向かった。道中のブルーの言葉は黙殺して聞き流した。

 

「ねぇ、ホントに行くの? やっぱりやめましょうよっ。こんなの自殺行為よ! お願い、考え直してっ! 伝説のポケモンなんてあったら幸運なんてよく言うけど、ホントは逆よ! 目にした人はとびっきり不幸なのよっ。めっちゃ強いのよ? チャンピオンでも苦戦するのよ? わたし達じゃ死ぬわよ! シショー、やめましょう?」

「それなら安心しろ。伝説のポケモンなら倒したことあるからどうすればいいかわかってる」

「……え?」

「あと、せっかくだから最初はお前に戦わせてやるよ。いきなり俺が倒してもいいが、けっこう強くなってきたブルーのバトルを見てみたい。どうやって伝説をさばくのか、俺に見せてくれよ」

「なんでこんな時にそんな期待をするのよ! そんな顔で言われたら断れない……だいたい、伝説のポケモンなんていつの間に倒したのよ!」

「別行動の時しかないだろう。さて、そろそろ準備しとけ。近くにいる。あちらさんもこっちに気づいたな」

「ウソでしょ、まだなんの準備もしてないのに! 冗談じゃないわよもう!」

「ボオー、オオー!!」

 

 アナライズ!

 

 フリーザー Lv50 おだやか

 個30-31-16-12-25-4

 実165-94-88-106-156-92

 

 ほんとにいきなり戦闘が始まった。まさに「やせいのフリーザーがとびだしてきた!」という感じだな。

 

 個体値はほぼ2Ⅴだし、性格も三鳥共通の種族値125の部分、フリーザーで言えば特防に補正が乗っている。今回はかなりいい……ように思える。

 

 だが、実際はどうか。まずAは無駄。そして一番重要なSが4だけ。下降補正かかっているよりはマシだがこれはきついな。HD寄りで育てることになるだろうができたらHSかCSで育てたいんだよな。飛行ポケモンを最低1体は欲しいし、恐るべきコンボが使えるから育てて見たかったんだけど、やっぱり伝説育てるのはどう考えても大変だろうしなぁ。近くにいるだけで寒くなるし。

 

「どうせこおりタイプでしょ。レーちゃん、頼むわよ! ロックオンしてからでんじほう!」

「ボオー、オオー!!」

「ジリリーーッ!?」

「いきなり氷漬け!? し、死んじゃう! 戻って!」

 

 今の連携は“こころのめ”からの“ぜったいれいど”! フリーザーのみに許された極悪コンボ。交換をしない変態ばかりのこっちの世界なら凶悪極まりないコンボだ。まさか実際にお目にかかれるとは。野生で使いこなすとは驚いた。

 

 “こころのめ”も“ロックオン”も同じ技同士だったので素早さで勝る分フリーザーが先手をとりレアコイルがひんしになった。“がんじょう”だったら効かなかったのだろうが、ないものを考えても仕方ない。

 

 その後ブルーはソーナンスを出し“みちづれ”を狙うが“こうそくいどう”で粘られた。野生にしては賢い。ならばと“ミラーコート”を狙ってみれば“こころのめ”なしでいきなり“ぜったいれいど”がきて倒れてしまった。

 

「なんでよりによって今その技なの?! しかも当たるし! 運悪過ぎ!!」

「バカ、ソーナンスは微動だにしないのだから簡単に当てられる。狙いをつける必要もない。少しは考えて行動しろ!」

「くっ。ならラーちゃん、ほろびのうた!」

 

 相性的に最後の希望ラプラスを出して、“ほろびのうた”に希望を託した。“こころのめ”の後の攻撃はしっかり“まもる”ことで凌いだが、その後“ぜったいれいど”を連打され何発目かで鈍足も祟り運悪く被弾。次のフシギバナが“れいとうビーム”を根性で耐えたところでなんとか“ほろびのうた”の効果が発動してブルーが辛勝した。

 

「ギリッギリね。でも、野生のポケモンって“ほろびのうた”さえあれば恐るるに足らずって感じね。思っていたよりは何とかなったわ。もっととんでもないと思っていたのに」

「あんなに追い込まれてよく言う。もう残りは相性悪くて瞬殺される奴しかいないし実質壊滅。それに、まだちゃんと勝ったわけでもない。今回はお前の負けだ」

「え、なんでよ?」

「ボオオーオオオッッ!」

「げっ、復活してる! ウソでしょ!? 今“れいとうビーム”をくらったらやられる!」

「アカサビ、助けてやれ」

 

 バシン!!

 

 “バレットパンチ”で行動を許さず気絶させた。待っている間に当然能力は限界まで上げている。あとはサンドバッグを続けるだけ。

 

「うひゃあー、アカサビさんってめちゃつよじゃない! 1発で倒しちゃった」

「情けないな。お前の悪いクセだ。相手のネームバリューに変にビビる割に、隙だらけですぐに油断する。もう少し用心深く慎重に行動しろ。相手は唯の野生のポケモンだぞ? もっと余裕を持って普通にやれば何回復活されようが負けるわけないだろ」

 

 俺とバトルする時は凄まじい集中力を見せて全く隙のない立ち回りをするし、シルフのときだって迂闊な行動はあまりなかったらしいとラプラスから聞いている。サカキ相手に物怖じしない心もあるのに、スイッチが入ってないと簡単にフリーザー如きで腰が引ける。わからない奴だ、ブルーは。

 

「うう、だってこんなの聞いてないわよ! すぐに復活するなんて!」

「俺も最初にやったときは知らなかったがそれでも勝ったぞ? イナズマが1体で相手していとも簡単にな」

「ええーっっ!! イナズマちゃんってやっぱりすごいんだ。まれにみる速さだもんね」

「ボオオ…」

 

 バシン!!

 

 いつもどおり和やかにしゃべっているが、もちろんその横ではせっせとフリーザーを何度も倒している。ついでにユーレイ達も出して経験値稼ぎをしている。それを見てブルーが同情の言葉を述べた。

 

「……ねぇ、これ何回倒したら気が済むの? グレンちゃん達までスタンバイして過剰戦力気味だし、ちょっとかわいそうな気が」

 

 延々と俺達がおしゃべりする傍らで黙々とアカサビが“バレットパンチ”でフリーザーを倒し続けるのはさすがにブルーも気になり始めたようだ。やっぱりこの構図はあんまりよろしくはないな、わかっていたことだとはいえ。

 

「実は伝説のポケモンは倒すとすごいアイテムが出てくるんでな。ほら、これ」

「何これ? アメみたいな形ね」

「これはふしぎなアメといって、食べるだけでレベルが1上がるんだよ」

「………………え、もう1回言ってくれない? わたしよく聞こえなかったわ」

「これはふしぎなアメといって、食べるだけでレベルが1上がるんだよ」

「そのままリピート! うっそー!? それホント?! ヤバイわよ! しかも今何個取ってるのそれ!」

 

 これ全て使えば1体だけなら最強にしてしまうこともできるだろうな。

 

「伝説のポケモンについては前も自分で色々考察してみたが、俺の仮説ではおそらくこいつの経験値の結晶がこうして固形化してアメみたいになっていると考えている。今こいつを見て確信に変わった。伝説は丁度レベル50なのが前から気になっていて、たぶんそれを超える分が体内に蓄積されたままで、気絶すると体外に放出されるのだろう。それがこのアメ。また、伝説ポケモンは自分の周囲の環境を自分の住みやすいように変化させる。この中にいる間は永続的に体力が超回復し、その上自身のタイプの技、ここなら氷技の威力が割り増しになる。ここでは伝説のポケモンは無敵で、故にふしぎなアメを体に蓄え続けられる。そんな奴が各地の秘境に隠れているから、俺はそいつらを探し回りふしぎなアメをがっぽり稼がせてもらうつもりだ。今回はその第一歩だな」

 

 効果がゲーム通りかどうかは試していない。単に勿体ないからだ。もしかしたらレベル50の必要経験値分だけ増える仕様とかに変わっている可能性もあるが、たぶんゲーム通りだと予想している。半分希望でもあるけど。

 

「すっごーい! こんなこと誰も知らないわよ絶対! やっぱりシショーってカントーで1番すごいトレーナーだわ! 意地でもシショーに弟子入りしといて良かったぁ」

「……さっきまで弟子やめたいとか言ってなかったか?」

「え、そんなこと言ったかしら。ホホホホッ」

 

 調子のいい奴。いい加減俺は無意味なことはしないって学習しろよな。

 

「まぁいい。アメはもう出ないし取り尽くしたな。ほら、お前にもお駄賃。ここまで頑張ってついて来たからな」

「さっすがシショー! 太っ腹! じゃ、さっそく……」

「あ、バカ! 今使ってどうする! それは使わず大事にとっておけ!」

 

 いきなり使おうとしたので心底驚いた。即使用とかお前は小学生か!

 

 ……よく考えたらブルーは小学7年生だった。それにここのレベルだと大半の奴の思考はキノガッサに“ギガドレイン”、グラードンに“10まんボルト”覚えさせるみたいなキッズレベルしかいないんだったな。

 

「え、なんでよ?」

「それはレベルを1上げるが、その効果はいつ使っても同じ。レベルってのは高い程上がりにくいから、当然高レベルで使った方がいい。さらにレベルが上がる場合後少しの経験値で次のレベルになる時も上がったばかりで次までに大量の経験値がいる時でも使えば同じレベルになるから、できるだけレベルが上がった直後に使うのがいい」

「ふーん。たしかに一理あるかも。じゃあ、結局いつ使うのがいいの?」

 

 さすがに理解はできるのね。ブルーは賢いしな。

 

「レベル70になったぐらいで使えばいいんじゃないか? 理想はレベル99だが、逆にそれは勿体ないとも言えるし、レベル95ぐらいでもいいかもしれないがそこまでたどり着くことがあるかは怪しいしな」

「なんで理想がレベル99なの? もっと高いレベルで使ったらダメなの?」

 

 一瞬何を言っているのかわからなかったがすぐに合点がいった。ブルーはレベルの上限を知らないんだ。それも無理はない。上限なんて誰かたどり着くものがいなければ確認しようがないし、最大でも現時点ならシロナのレベル80ぐらいが上限のはず。レッドはまだまだの状態だからな。とするとこれをそのまま説明するとマズイかもしれない。

 

「そうだな。まあお前はそんなに考えなくていい。とにかくレベルが上がりきって壁に当たったと感じるまで取っておけ」

「あんまりよくわかんないけど、要するに当分はお預けか。つまんないのー」

「ほんとに大事にしろよ。一生に何個かしか手に入らない代物だからな。どうしても使うしかないとかじゃなきゃ使うなよ」

 

 そう言うとようやく納得してくれた。

 

「……たしかにそうね。わかったわ。ラーちゃんも回復したし、早くここを出ましょう。寒くて死にそうだわ。特にこの最下層は。あ、そういえばフリーザーは捕まえないの? この状態ならほんとにモンスターボールで捕まえられるわね。マスターボールは不要とか以前言っていたけど、シショーならほんとにいらないかも。……ねぇ、シショーってホントは何者なの? 絶対現時点でもうとんでもないことになっているわよね」

「何者も何も、俺はただのレインでお前のシショー。それ以上何かあるか? フリーザーの捕獲は考えたけどもうやめた。……寒いのは懲り懲りだろ?」

「……それもそうね。もったいない気もするけど、シショーには似合わないかも」

 

 似合わない、か。たしかにそうかもな。グレン達はなんか仲間になるべくしてなったような不思議な縁みたいなものを感じる。こんな考え方じゃ、まるでエスパーみたいだな。俺も意外とナツメとかに毒されている。

 

 そそくさと洞窟を抜けて反対側の島から外に出た。暖かい空気が心地いい。

 

「やっと出られた。それに今日は陸で寝られるわね。ちょっと肌寒いけど毛布があるならギリギリいけるわね。というか、これだけ用意しているってことはだいぶ前からここに来る気満々だったのよね? 元々ここにフリーザーがいること知っていたの? 前に伝説と戦ったって言っていたし」

 

 今頃気づいたか。毛布まであればブルーでもおかしいとは思うんだな。

 

「まぁな。目ぼしい伝説ポケモンの居場所はだいたいわかる。ひとところに定まってない奴も多いからそんなにはわからないが」

「え、サラッと言ったけど、それおかしいわよね。なんでそんなことがわかるの?」

「余計な詮索はしない! 企業秘密だ」

「やっぱりどっかの裏組織のボスなのね……闇の情報網……」

「違うからな」

 

 一応ユーレイを見張りに立てたりしながら無事に夜を明かし、何事もなく島を出た。万一例の水柱が来ても大丈夫なように警戒したが、空振りだったらしい。

 

 もちろん何もないに越したことはない。だが、今はそれすらも嵐の前の静けさのようにしか思えなかった。昔、海に引く潮が大きい程次に来る波は大きくなると聞いたことがある。……高波の予兆。あのポケモンは今も何か機を待っていて、ずっとこちらを見ながら俺を狙っているのではないか? そんなバカげた考えまで浮かび、心の奥に一抹の不安を残していた。

 




よっし閲覧数伸びてる!
これはどう考えても前回の水着効果ですね(違う)
計算通りっ(白目)


伝説のポケモンはとりあえず捕まえてキープしておきサファリの時のように売り払うとかトレードの弾にするとかしないのかと思われるかもしれませんが、さすがのレインもそこまで非道ではないと思ってください
なりふり構わないという宣言はしていましたが、それでもポケモンの使い捨てなどには抵抗があるようにそういうモノ扱いをすることもしないです

サファリのラッキーショックは別です
あれはそもそもサファリがポケモンを景品として扱っていたので

まぁ仲間にしたらちゃんと面倒を見るだけで野生の伝説をサンドバッグにすることにはなんのためらいもないですが
あくまで経験値稼ぎのためであって無意味にいじめているわけではないからセーフという認識
最初にポッポと戦った時から思考が弱肉強食ですから負けた方が悪いという考えです
そこはドライですね


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8.幻の151番目

 ふたご島を出てまた幾日が過ぎた。慣れとは恐ろしいもので、ラプラスに乗った船旅を今では快適とは言わないがそれなりに楽しめる余裕もできていた。

 

「ねぇ、次の街に着いたら何をするの? 温泉? 登山? グレン島は結構観光地としてもいいところよね。シショーは行きたいところとかある?」

「まぁ、順番に良さそうなところをゆっくり見て回っていけば……」

 

 ――みつけたの――

 

 ドクンッ!

 

 見られている。近くにいる。今までで1番近くに来ている! サーチを使いたい。だが、急に頭が痛い。胸も苦しい。それにまるで心臓を鷲掴みにされているようなプレッシャー。どうにかなっちまいそうだ。集中できずサーチはちゃんと使えなかった。仕方ないので辺りを見渡して肉眼で探してみるが全くその姿を捉えられない。

 

「くっ。下か、上か?」

「シショーどうしたの? 急に顔色変えて」

「いいか、よく聞け。もしも……」

 

 襲われたら……と続けようとしたらラプラスからテレパシーが入った。

 

(みなさん、見えました。到着です、グレン島ですよ)

「え、やったー!! 待ってましたっ!! ありがとーラーちゃんっ。よく頑張ってくれたわね」

(いえ、大したことは。でも、そこまで褒めてもらえるならもっと撫でてください)

「いいわよ、ずっとナデナデしてあげるから」

「ラーー」

 

 着いたのか? あれは……本当に陸だ、陸が見える。すぐに上陸できた。じゃあ運良く助かった? いや……違う! そんなことは自在に移動ができる向こうの方がよくわかっていたはず。始めから狙ってこのタイミングを計られたんだ。こっちの心理を見透かしたかのように。わざと警告してきたんだ。自分はいつも見ていると。やっぱりずっと見られていたに違いない。

 

 ――はやくきて。はやくみゅーのハウスに――

 

 またあの声が! やはり俺を脅しているのか。ゆっくり見て回ろうなんていったから。その気持ちを察知して催促するためにこんなことを。こっちの行動は筒抜けだって言いたいのか。この俺をあざ笑うためにこんなことを……。

 

「ぐっ……くそっ!」

「ど、どうしたの!? 大丈夫?」

 

 地面に拳を突き立てて悔しさを隠すこともできずにいる俺を見て、ブルーが心配そうに声をかけた。だがそんな言葉は耳には入らない。

 

「……そうだ。よく考えりゃ、最初っから全部おかしい。おかしいところだらけじゃねぇか!」

「え?」

「なんで水辺だけに限られていた? 相手はエスパーで間違いない。なら、陸でもいくらでも襲うチャンスはあった。昔は俺1人の時もあった。じゃあ人がいたから諦めた? それも違う。あれは偶然じゃない。不自然だった。人払いされていたんだ、他ならぬあのポケモンの手によって。なら水辺に現れた理由は唯1つ、俺達が水ポケモンだと勝手に勘違いしていたから! そこまで相手は把握しきっていた!」

「どうしたのよシショー。なんか怖いわよ。急に何があったの?」

「気づかないのか! 俺達はずっと弄ばれてたんだよっ! いつでも攻撃できたのに、勘違いしてる俺達を見て笑ってやがったんだ。屈辱だ……許しがたい屈辱だ。こんなふざけたことってあるか!? 俺のことなんかいつでも始末できた。本当にただ遊んでいただけだったんだ。そいつの“きまぐれ”ひとつで、俺の軽い命なんか簡単に消し飛んでいたんだ。ずっと俺がお情けで生かされていただけなんて……ありえない。こんなことはあってはいけない」

「シショー、そんなの考え過ぎよ。それに、まだエスパーと決まったわけじゃ…」

「……聞こえてるんだよ」

「え?」

「俺は、あの日からずっと、脳に直接語りかけられてるんだよ。何度も何度も、見つけた遊んでと、おかしくなりそうなぐらいしつこく繰り返し何度も! 俺は呼ばれたんだ。あいつにここへ呼び込まれたんだ。こんなところに来るつもりはなかったのにっ! あいつのせいでっ!」

「シショー、さっきから何を言っているの? ちょっと1回落ち着いて! どうしちゃったのよ。顔色も悪いし、早くポケセンで休みましょう。すぐに気分も良くなるから」

「……こんな高度なテレパシーを使うあの声は、誰も知らないあのポケモンに間違いない」

「もしかして、キョウさんがいってた強いポケモン?」

「違う。そいつじゃない。リーグ関係者も知らない、新種の……幻のポケモン」

「え、なによそれ」

「カントー150種、それだけのはずのポケモン図鑑。そこに記されていない151番目のポケモン。……ミュウ」

「151番目? そんなはずないわ。オーキド博士の研究で確かこの地方には150種類って判明して学会でも認められているはずよ。伝説でもそんなのありえ……」

「違う。だから言ったろ。ミュウは……幻のポケモンだ」

 

 もう猶予はない。今まで先延ばしにしてきたがそれはもう終わり。こいつと雌雄を決する時が来た。

 

 そしてどうしても聞いておかないといけない。なぜ俺はここへ呼ばれたのか。

 

 そもそも、あの日から俺自身がどうしてこんなところに来てしまったのか、どうやったら帰れるのか、立ち止まって深く考えることはあまりしてこなかった。いや、仕方ないものとして半ば諦めていた。だが、今目の前にその答えがあるのかもしれない。

 

 俺は知らなければならない。真実を!

 

「……ねぇシショー、とにかくいったん休みましょう? 幻のポケモンは後で考えて、一度休憩した方がいいわよ」

 

 恐る恐るといった感じでブルーは話かけるが、頭がいっぱいで耳に入ってこなかった。

 

「……」

「もう、ホントにどうしたのよ。いつものシショーらしくない!」

 

 ブルーが叫ぶとボールからイナズマが出て来た。いつも勝手に出て来るので最初は気にはしなかったが、俺が反応なしでもしつこくじゃれてくるのでついそっちに気が逸れた。

 

「ダーッス!」

「イナズマちゃん!」

「なんだ? そんなに遊んでほしいのか?」

 

 今日はいつも以上に甘えて来るが、それでも懐いている証だと思えばやはりトレーナーとしては悪い気はしない。イナズマはやっぱり愛嬌があってかわいい。

 

「ダー!」

「ほら、こっちにおいで」

 

 頭の上に乗っていたイナズマを抱き寄せてほっぺを撫でてあげた。嬉しそうだ。ちょっとビリビリする。

 

「さっすが。イナズマちゃんのおかげでいつものシショーに戻ったわね」

「なんのことだ?」

「自覚ないの? ほんっと、シショーはわかってないわねぇ」

「なんでそれで嬉しそうな顔してるんだお前は」

「知らなーい。あ、あれがここのポケセンね。おっきいわねー。ヤマブキよりも大きいんじゃない? こんな大きなポケセン初めて見た。早く行きましょ」

 

 考え事をしながら歩くうちにポケセンまで着いたらしい。ブルーの言う通り本当に大きいな。こんな辺鄙な島にあるのになんでなんだ? 気にはなったがブルーに引っ張られて中に入った。

 

「なんか人も多いな。あんまり人が多いのは好きじゃないんだが、あれのことを考えれば今は好都合か」

「ダーッス?! ダーッ!」

「え、どうしたのイナズマちゃん?」

「どこ行くんだ、待て!」

 

 俺の制止を振り切って人混みに入っていってしまった。仕方ないので慌てて後を追った。幸いにもサーチで見えているのでこの建物の中なら見失うことはない。

 

「ちょっと待ってよー!」

「お前は後から来い」

 

 ブルーを置いてイナズマの動きに集中すると、建物の端の方で動きが止まった。何か見つけたのか?

 

「こら、イナズマ! 勝手に飛び出したらダメだろう。何かあったのか?」

「ダー♪」

「おー、やっぱりレインはんもこっちにきとったか。お久やな」

 

 足元のイナズマから視線を上げるとマサキが笑顔で手を振っている。マサキはそのままイナズマを抱き上げた。そういえばここで会うイベントがあったな、FRLGでは。すっかり忘れていた。イナズマがあんなにはしゃぐわけだ。

 

「こんなところで会うとは、久しぶりだな、マサキさん。急に飛び出すから何事かと思ったけど、これなら仕方ないな、イナズマ」

「ダーッス」

「マサキさん、この方はご友人ですか?」

 

 するとマサキの横にいた研究員っぽい人が尋ねた。ニシキとは違うし、いったい誰だ?

 

「ああ、すまんすまん、話の途中やったな。この人は未来のチャンプ候補のレインっちゅうトレーナーや。このサンダースが人に懐かんで困ってた時に引き取ってくれたんや。このサンダースはずっとワイが育てとったから、久しぶりにワイに会えるとおもて思わず飛び出してきてもうたんやろ。かわいいやっちゃで、ほんま」

「なるほど。そうでしたか」

「実際は俺の方から頼み込んだんですけどね。この子はすごいポケモンだったので。快く譲ってもらったことには今でも感謝しています。申し遅れましたが、俺の名前はレインと言います。あなたはこの島の研究室の方ですか?」

「さすがにこの格好だとそう思うか。実は私はその研究室の総長なんだよ。二代目のね。今日はちょっとマサキさんに頼みがあってきたんだがどうも上手くいかなくてね」

 

 総長なのか。大物だったな。二代目っていうのは、おそらくフジ老人の跡を継いでってことか。その辺のことも聞きたいが、今は無理か。

 

「あー! やっと見つけた! もう、シショーもイナズマちゃんも速過ぎ! なんでそんなひょいひょい先に行って場所まですぐにわかるのよ! ってあれっ!? マサキさんじゃない!」

「おお、ブルーちゃん。まだ一緒におったんやな。ここまできとるっちゅうことは、旅の方は順調そうやな」

「もっちろんよ! レッド達には先を越されているけど……」

 

 レッドの名前を耳にして、ナナシマはどうなっているか気になり尋ねてみた。

 

「そういや、マサキさんはなんでこんなところまで? ナナシマ関連の用事とか?」

「ん? なんや、ナナシマのこと知っとるんか。でもワイの用事はそれじゃないんや。確かにレッドはんらにはナナシマに野暮用を頼んどるけどな」

「え、レッド達はそのナナシマってところにいるのっ! そこってどんなところなの?」

 

 なぜかマサキではなく俺の方を見て言うのでそれに答えてあげた。

 

「ナナシマはここから離れたところにある7つの島の名前だ。由来は島が7つあるから……ではなく7日で島ができたからだそうだ」

「ええっ!? なにそれ紛らわしっ!」

 

 ホントそうだよな。由来はたしか7の島辺りで教えてもらえた気がする。

 

「レインはんほんまによう知っとるな」

「といっても、聞きかじりみたいなもんだけど。すると、結局マサキさんの用はなんなんだ?」

 

 その問いには総長さんが答えた。

 

「それが、実は私の研究所の実験で必要なものがあって、その工面についてマサキさんに相談していたのです。マサキさんはカントーでも人脈が広いですから、そのお力を借りようと思って」

「へーなになにー、どんな実験なの? 必要なものって何なの?」

「おいブルー、あんまり無暗に研究のことを聞くな」

「えー、いいじゃない! 気になったんだもん」

「ハハハ! ほんまに師弟って感じやな。そんなトップシークレットっちゅう話でもないから別に構へんで。な?」

「ええ。実は我々は今化石の復元実験をしているのですが、それに使う標本、つまり化石が足りないんです。これが貴重で高価なので、予算がもうなくて、もう少しで上手くいきそうなんですが……提供者の方にもう先の見えない投資はできないと断られてしまって」

 

 足りないってことは失敗したらなくなるんだろうか。ゲームなら復元はできて当たり前だが現実ではそういうわけにもいかないようだな。世知辛い。

 

「そーなんや。そんないきなり成功するわけないのに、ちょっと失敗が続いたらすーぐに手の平返しや。化石のムダ使いやー言うてな。(やっこ)さんらの手首はクルックルやでホンマ。困ったもんや。偉大な研究に犠牲とリスクはつきもんやっちゅうに」

 

 スポンサーの手首はボロボロ……。

 

「これまでは確かに失敗続きだったんですが、今はもうある程度データがそろってきています。前回は不運にも失敗しましたが、もうかなりの確率で上手くいきそうなんです。ですがもう研究も崖っぷちで、予算もストップ、期限も今年まで。とにかく一度結果を残さないとプロジェクトは中止になることが決定して、もう藁にもすがる思いなんですよ」

「なるほどぉ、そういうことですか」

 

 予想外の展開だな。そういえばこれまでの道中で、グレン島で化石の復元をしている、的な話を全く聞かなかった。ゲームで情報を得られたニビの博物館には以前に足を運んだが何も聞かなかった。今にして思えばそもそも復元技術自体がまだなかったからなんだな。そうなってくると、思ったよりも今ここで化石復元の研究について話を聞けたことは幸運だったかもしれない。

 

「化石の復元かぁ。ロマンがあるわねぇ。でも研究って大変なものなのね。なんとかならないのかしら、シ……」

 

 何か言いかけていたところで急に口を閉ざしたブルー。見れば俺の方を向いたまま顔が引きつっているが、どうしたんだ?

 

「なぁ、レインはん。ダメ元で聞くけど、そういう化石とかよーさん持ってそうな人とか、なんでもええから心当たりのある人おらへんか?」

 

 やっぱり聞くよな、藁にもすがるんだから。ここは気前良くしとくのがベストだろうな。

 

「知り合いにはそういう人はいないですね。知り合いには」

「くっ、そうですか。やはりそう上手くは……」

「おっと、でも化石ならなんとかなりますよ。ちょっと待ってください」

 

 落として上げる。もう総長さんは俺に対して期待が膨らんでいるのがはっきり表情に現れていた。わかりやすい人だ。

 

「ん、なんやなんや?」

 

 パソコンを起動して取り寄せ。収納していた例の、“ひみつのコハク”を取り出した。

 

「なっ、レインはん、これは……!」

「コハクですね! これをどこでっ!」

「おつきみやまにいったとき偶然見つけて。これが役に立つとはなぁ。総長さん、良ければこれを使ってください」

 

 人生何が役に立つかわからないな。グレンには感謝しないと。

 

「お……おおっ! いいんですかレインくんっ!!」

「もちろん。その代わりといってはなんですが、お金は要りませんから、復元に成功したらポケモンは俺に下さいね。恐らく、一度実績が出来れば化石提供には困らないでしょうし、構わないですよね?」

「もちろんですよ! 実験できるだけでもありがたい。それにその条件は成功することを信じてもらえているようで、研究者としては大変嬉しい限りです」

「ホンマにレインはん、あんた太っ腹過ぎるで。その化石、然るべきとこへ売ったらものごっつい値段なんねんで。その保管の仕方はコレクターのワイから見ても手がこんでしっかりしとるし、相場を知らへんってわけでもないんやろ? まさか、ワイに気ぃつことったりせえへんか?」

「いや、別にそんなんじゃない。一応これでもお金には困ってないし、偶然拾っただけなんで惜しくはないから。それに対して化石を復元してもらう機会なんてそうそうないだろうし、もしこの化石の復元が成功したら、その第一号のポケモンのトレーナーになれる。そういうロマンはキライじゃないんですよ。化石探して復元するのは楽しいですよね」

 

 もちろんほとんど建前のようなものだが、総長さんからはえらく喜ばれた。

 

「レインくん、君はよくわかっている。本当に、化石には我々のロマンが詰まっている。きっとこの実験を成功させて、君を偉大な化石復活の第一号にして見せますよ。ぜひ、化石復活が完了するまでこの島にいてください」

「わかりました。頑張って下さい。俺達もしばらくここにいるつもりだったので気長に待ってますよ」

「ぜひそうしてください。いやぁ、もしかするとレインさんは私達の救世主になるかもしれない。本当に助かりました。こんな方にここで会えるなんて。やっぱりマサキさんの人脈はすごいですね」

「なっはっは! まあそれ程でもあるで。じゃ、ここでワイはお役御免やし、うちに戻ろかな。大事なギャロップちゃんが待っとるし。イナズマ、ほな、またな。リーグで活躍するの楽しみにしとるで」

「ダーッス!!」

「私もこうしていられない。すぐに研究に取り掛かりたいので失礼します。レインさん、本当にありがとうございました」

「いえ。2人ともお元気で」

 

 ◆

 

 マサキ達と別れてポケモンを回復させている間にブルーがさっきのことを問い質してきた。

 

「ねぇ、なんでさっき化石をタダであげちゃったの? シショーめっちゃ悪いこと考えてる顔してたから、てっきり高く売りつけるつもりだと思ったのに」

「……お前、途中からおとなしくしていると思ったらそんなことを考えていたのか。あの反応もそういうことか。別に悪いことなんか考えてないし、理由ならさっき言っただろう」

 

 それで終わらずにブルーは食い下がってきた。

 

「あんなのどうせ建前でしょ。シショーはロマンとか考えるタイプじゃないし。お金だって、余ってるからって稼がない理由にはならないじゃない? あの時の顔は絶対に悪いこと思いついたって時の顔だったし、正直に吐きなさい」

 

 ド真ん中ストライク過ぎて怖いな。完全に考えていることが読まれている。俺はそんなに単純な性格なのか。

 

「ブルーさんには全部お見通しか。敵わないな」

「えへへ、なんか最近はシショーの考えてることがわかってきたんだ。で、ホントはなんでなの? また借金でもさせる気かと思ったのに」

「わかってないな。相手は金欠だって言ってるのに代償として金を要求するのは下の下だ。借金とかもダメ。それで済む程度の話なら最初から借金して化石を買ってるだろうしな」

「あ、そっか。……やっぱりそういうこと考えてるんだ。案の定というか、シショーってロマンチストじゃなくてリアリストよね。こんな夢も希望もない人だってわかったらあの人ひっくり返るわよ」

「……悪かったなロマンの欠片もなくて。もうこれで気は済んだだろ?」

「まだよ。なんでタダであげたの? 見返りがポケモンだけなんておかしいわ。もしかしてあれってすごいポケモンの化石なの?」

 

 興味を持ったらとことんしつこいな。あんまり詮索されるのは気分のいいものじゃないんだがなぁ。

 

「あれはプテラの化石。たしかに珍しいポケモンだが、別に持っている奴は持っているな」

「ふーん。シショーって化石も詳しいんだ。マサキさんも感心してたし。で、狙いは何なの?」

「なんでそんなに絶対なんかある前提なんだ?」

「……」

 

 しばらくジト目のこっちを責めるような視線に晒され続けて、耐え切れず白状してしまった。

 

「わかったわかった。降参だ。話すからその目をやめてくれ」

「じゃ、キリキリしゃべりなさい」

「……理由は、まず前提としてあの実験がおそらく成功するだろうと思ったから。あれは間違いなく復元される。それが大きいな。失敗すると思っていれば当然渡しはしない」

 

 シナリオ的に考えてここは成功するだろう。メタな予想だからそれは当然説明できないが。

 

「やっぱり打算はあるんだ。それじゃ本当にポケモンが目当てなんだ」

「それもあるし、ここで俺が協力して実験が成功すれば、少なからず俺はこの分野の功労者になれるだろ? 最初の復元体のトレーナーになれるだけでも大きなプラス。それでなくても先見の明があったということにはなるし。しかも、あの総長さんにはものすごく感謝されるだろう。苦境に立っている人間は、その時助けられたことは忘れないもんだ。要するに、ここで恩を売っとけば、また化石を見つけた時ここに持ってきたら復元してもらえるだろうから、それも込み込みってこと。化石はまだ手に入るだろうし。これなら納得だろ?」

「そうね、納得したわ。めっちゃシショーらすぃー答えね。人間急にお人よしになったりはしないものね、やっぱり。なんか安心したわ。ちなみに、実験が成功すると思ったのってやっぱりシショーもこういう研究したことあるからなの?」

 

 こいつ、失礼なことを平気で言うなぁ。しかも言い方が腹立つ。らすぃーってなんだよ。めっちゃ煽ってんな。それに研究したことあるかって、あるわけないだろ。

 

「あるわけないことぐらい考えればわかるだろ。上手くいくと思ったのは勘だ。ナツメっぽくいえば予感だな。明確な根拠はない」

「えー、そんなあいまいな理由?」 

「あえて挙げるならこの研究が崖っぷちだからかな。まだ次があると思っているうちはなおざりの心が生まれてここ一番で決めてやるという気概は薄れる。だからどうしてもそのチャレンジはどこか疎かなものになる。だが後がなく、チャンスも一度きりとなればその集中力は最大限に高まるから、当然期待値も高くなる」

「ふーん。ここ一番ねぇ。それじゃあさ、さっきは化石を探して復元するのは楽しいって言ってたじゃない? あれはなんなの? いつそんなことやったの?」

 

 げっ! しまった! つい口が滑ったか。

 

「別に、言葉の綾だ。そういう仕事ができて羨ましい、っていうニュアンスのつもりだ。とにかく、もうこれ以上は化石の話を気にするな。いいな?」

「ふーん。そうは聞こえなかったけど、まあいっか。シショーはいつも通りに戻ったみたいだし。ホント、イナズマちゃんに感謝ね」

「なんだよいつも通りって。別に変わらないだろ」

「シショーセキチクからずっと幻のポケモンのことばっかり考えて全然いつもと違うじゃない。目が虚ろになってボーッとしたり、急に大声出したり、おかしいわよ?」

「そんなに? 気のせいだろ」

「気のせいの域を超えてるわよ! 最初に会った時に精神的に不安定みたいなこと言ってたけど、またそれなの? もうあんなところ見たくないからシショーはいつも通りでいてね。だいたいフリーザーでも簡単に倒せちゃうんだから、幻のポケモンって言ってもパパッと倒せちゃうわよ。きっと考え過ぎよ」

「……だといいが」

 

 ここまでブルーに心配かけていたのか。まったく気がつかなかった。いや、気が回らなかったというべきか。弟子に心配されているようじゃカッコがつかないな。

 

「レインさん、ブルーさん、ポケモンの回復が終わりましたよー」

 

 ちょうど回復が終わったようだな。呼ばれたので受付に向かった。さっきのことはあまり考えないでおこう。気分が悪くなるとかそういうのは考えても対策の打ちようがないから仕方ない。

 

「これで準備万端ね! じゃあさっそくジム戦ね?」

「……そうだな」

 

 本当は先に幻のポケモンについて対策を講じたいが、またブルーを心配させたくないしいったんは気にしないようにするか。

 

 ◆

 

 やって来たのはグレンジム。さっさと終わらせないとな。

 

 ガチャガチャ ガチャガチャ

 

「ん? んん? なんだこれ開かないぞ。ここで合っているよな? 地味な建物だけど」

「うん。ここに看板もあるわよ。グレンじま ポケモン ジム リーダー カツラ ねっけつクイズおやじ。間違いないわね。もしかして留守なのかしら」

「あ、そういえばこのジムには仕掛けがあったんだった」

「仕掛け? さすがにまたあの忍者屋敷みたいなのは勘弁よ」

「いや、仕掛けというのは、つまり……」

 

 言い淀んだところで、いきなりドアから音声が流れてきた。

 

 “うおおーす、チャレンジャーの諸君! ジムに入りたくば、ポケモン屋敷でひみつのカギを取ってくるのだ!”

 “うおおーす、チャレンジャーの諸君! ジムに入りたくば、ポケモン屋敷でひみつのカギを取ってくるのだ!”

 “うおおーす……”

 

 繰り返されるカツラの声の録音を聞いてブルーもことの次第を悟った。

 

「なんでチャレンジャーが入るためのカギを探さないといけないのよ。普通に中に入れてよ!」

「どのみちポケモン屋敷には行くつもりだったし丁度いいか」

 

 ポツリとつぶやいたのがブルーの耳にも入ったらしく聞き返された。

 

「なんで行くつもりだったの?」

「……そこには昔のとある実験の資料やら、あるポケモンに関する日記やらが置いてあったはずだからな。それを確認しておく必要がある」

「あるポケモン?……あっ、もしかして幻のポケモン?」

「ああ。よくわかったな。そこにミュウの日記がある。さっそく行くぞ、ポケモン屋敷に」

 

 幻のポケモンとの邂逅はすぐそこに迫っている。そんな予感がした。

 




分割してタイトルを考えてからミュウの実名はこの回で最初に出せば良かったと気づき後悔
やっつけ感がひどい……
まぁいっかと開き直りました

観光云々はアニメの方です
そもそも本作は割とゲーム準拠にみせかけて所々アニメ準拠ですよね
作者の思い出補正もあるんですが、特にジムリーダーに関してはゲーム中のセリフが少な過ぎるのが原因です
戦闘前後と技マシンの説明のセリフだけではキャラ付け薄い
仕方ないから自分が見たことあるやつで補っているわけですね
キョウさんのように完全に魔改造してイメージだけで書いている場合もありますが

セリフと言えばカツラはゲームのセリフが不味いんですよね
エンジュのことをキョウトとかいうちょっとよくわからない呼び方してるんですよね
そんな名前の町ないはずなんですけど……

ギアナは仕方ないからそのまま使いますけどね


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9.未知の導き 少女の笑貌(しょうぼう) ひみつのへやは運命の始まり

 ここはポケモン屋敷。ゲームでは半壊しておりポケモンも住み着いていたが外から見る限りは思ったより綺麗な建物だ。まだ人の手入れが行き届いている。

 

 おそらくジムの仕掛けに使っているからジムの関係者がきちんと管理しているのだろう。あるいはカツラが研究について知っているとすれば、資料などを管理する意味もあるのかも。ただし綺麗といってもなんとなく薄気味悪いというか、窓から中を窺っても暗く見える。ブルーも同感のようだ。

 

 屋敷が持ち主に放棄された直後、一時はポケモンも居着いてしまい荒れ放題で、それが由来でポケモン屋敷などと呼ばれるようになった。だが今はポケモンもおらず中を見て回る最中襲われることもないらしい。

 

「うう、なんかこの建物ちょっと怖いわね」

「ジムの仕掛けだから、おそらくわざとそう思うように造ってあるんだろ。入るぞ」

 

 ブルーが恐る恐る後ろについてきたのを見てから俺はゆっくりとドアを開けた。

 

 ギィィィィ

 

 ドアの立て付けが悪いのか、開けただけで甲高い音が鳴る。屋敷の雰囲気と合わせてけっこう様になっている。

 

 キィーーッッ……バタン!

 

 完全に中に入ると、触ってないはずのドアが勝手にしまった。

 

「シショー、今ドアが勝手に!」

 

 ビューーー!! ガタガタガタガタ!

 

 突然窓も開いていないのに突風が巻き起こった。窓がガタガタと揺れ、本棚の本もカタカタとこちらを嘲笑うかのような音を立てる。さらに館の中にいくつかあった壁に掛かった燭台のろうそく、その炎が一斉にかき消されるようにしてフッと消えてしまった。

 

 辺りが一気に暗くなり緊張が走る。なぜ誰もいないのにろうそくの明かりが最初からついていたんだ? 窓から差し込む光があるので全く周りが見えない程暗くはない。ろうそくは必要ない気はするが……考えてもわからない。だが突然の異常事態に否が応にも警戒心は高まっていく。

 

「なんだこれは。明らかに何かいるぞっ」

「ここって今はポケモンもいないんでしょ? なんなの!?」

 

 ここに住み着いているポケモンがいないなら考えられる原因は……。

 

 ガシャン!

 

 今度は近くにあった花瓶が落ちて割れた。大きな音に気を取られて俺が横を向いた瞬間、反対側から耳元で誰かが囁いた。

 

「早くおいで。みゅーのハウスに」

 

 ビクッとして振り向くともういない。鳥肌が立ってイヤな汗が噴き出て来た。今のはテレパシーではない。もう直に近くまで迫っている……! やっぱり正体はミュウで間違いない。なんで最初にみずタイプだなんて思ったんだ!

 

「こわいいい! シショー助けてぇ!」

 

 この状態じゃブルーの救援は望めない。俺1人で倒すしかない。ここで仕留めてやる!

 

 幸いにも今はあのとき程調子が悪くない。これならサーチに集中できる。こっちはジム戦のつもりでポケモンも体力満タンだし、正面きって戦えば勝てるはずだ。

 

 サーチ!

 

 周囲を万遍なく探ると、ミュウは真後ろにいた。振り返らずにアカサビを出しながら指示を出した。

 

「6時。1」

 

 あえて後ろとは言わずに“バレットパンチ”を打たせるが、アカサビが出た瞬間にはもうミュウは消えていた。これだけ最善を尽くし不意をついてもなお届かないのか。

 

 ……テレポートか! 今の一瞬の移動、そうとしか説明できない。しかもかなりの熟練度。最悪だ。これではまともには捕まらない。今までもこうして人間の目を掻い潜って来たのか。

 

「チッ、逃げられた」

「やっと収まったの? もう、ここ怖い! なんなのあのジム!? 絶対文句言ってやる!」

「違う。今のはジムの仕掛けじゃない。ミュウの仕業だ」

「え、また来てるの!?」

「安心しろ、もう近くにはいない」

 

 ジムへ悪態をついていたブルーはようやく本当のピンチに直面していたことに気づき震え始めた。

 

「本当に大丈夫?」

「ああ、とりあえず今のところは。あちらさんもさっきのアカサビの奇襲で警戒しているようだな。近くに気配はない。……ブルー、ジムは後回しだ。先にあのポケモンをなんとかしないとそれどころじゃない。これは命に関わる」

「そ、そうね。でも何をするの?」

「まずはここの本を全て調べる。こっちから探すことはできないし、今できることはあれについての情報を集めるぐらいだからな。お前も手伝え」

「え、ここの本全部?! 無理よ!」

「何も中身を全て読めとはいってない。本を見て何を書いてるか、何ならタイトルだけでもいいからそこだけ見て回れ。お前の判断でいいから、もし気になる本を見つけるか、後は日記みたいなのがあったら中断して俺に見せに来てくれ」

「わかった。わたしも頑張るわ」

 

 ここから長い作業が始まった。日を跨いでの作業になり、その間ずっと警戒していたがミュウの襲撃はなかった。あれは歓迎の挨拶ってところか。あるいは攻撃しないのは余裕の現れなのか。腹は立つが好都合だ。

 

 意外と本は整理されていた。科学者が出入りしているとかいう話だったし、しっかり管理されているのは間違いないな。屋敷のフロアは3Fまであり、地下はないようだ。1Fから3Fまで順に見ていくことにした。

 

 1Fはポケモンの生態、分布、能力などの資料。対象のポケモンは適当で、片っ端から調べてみたという感じだった。

 

 2Fはポケモンの筋力や脳のメカニズムなど生体に関する資料。日付は下のフロアよりも新しい。この時点ですでにイヤな予感がし始めた。

 

 そして3F。予想通り、ヤバめの生体実験などのデータがぎっしり。

 

 誰でも入れる割においてあるものはけっこう危険だ。間違いなく下の階の研究は全て上の階の研究のための下準備。ここに来る科学者ってのも、おそらく人工ポケモンのポリゴンを作ったシルフの社員とかだろう。

 

「ねぇシショー、結局3Fまで来たけどシショーが言ってた日記みたいなのはなかったわよ。それにここの研究ってだいぶ昔のやつだし、今じゃもう時代遅れで見ても仕方ないんじゃない? 変な実験ばっかりだし」

「……いや、ここの実験はおそらく全てはっきりした意味がある。一見バラバラに意味のないことをしているように見えるが、全てある目的のためだと考えると筋が通る」

「な、なんなのその目的って」

「人工的に強いポケモンを作ることだ」

「ええっ!? ポケモンを作るなんてそんなことできるの?! ……いや、そういえばポリゴンがいたわね」

「おそらくあれもここの研究データを使っているのだろうな。そしてこの実験は一応成功している。結果、最強の遺伝子ポケモンが誕生した」

「え、どんなポケモンなの?」

「それならお前の後ろにいるじゃないか」

「ひっ!? ううう、うそ、し、シショー、た、たすけてぇ」

 

 冗談で言ったんだが本気にしたようで、腰を抜かしてヘナヘナと座り込んでしまった。

 

「ビビり過ぎだ。さすがに本物じゃない。銅像だ」

「なんだーもうっ。びっくりしたっ! あー良かった。幻のポケモンがいるのかと思ったじゃない。銅像ってこれね。うわ、こわそーなポケモンね」

 

 振り返って安心して、俺に文句を言うのも忘れるところに恐怖の本気具合を感じる。この前のミュウの歓迎はブルーにも堪えているみたいだ。さすがに今のは悪いことをしたかも。

 

「その銅像はミュウツー。幻の方はミュウ。追ってきている奴とは別だ」

「ふーん。あれ、ツーってつまり2ってこと? なんでなの? 151番目がミュウなのに150番目の方に2がつくなんておかしいわよ」

「キョウみたいなリーグ関係者も口を閉ざしていることだ。それなりのわけはある。いずれわかるだろう。それよりその像をよく調べてみろ。なんかないか?」

「え、これ? 特には何も?」

「本当に?……あった。ここ見てみろ。ここだけホコリを被っていないだろ。これがスイッチになっている。押してみろ」

「ここね。ポチッと」

 

 カチッ ピカッ ゴゴゴゴゴゴゴ

 

 銅像の目が光って、近くにあったシャッターが上がり奥へ行けるようになった。

 

「ひみつのカギはここにあるみたいだな」

「すっごい、忍者屋敷みたい! 隠し扉みたいね。シショーってこういうのホント得意よね。ってこの像の目光ってるじゃない! こわっ! なんか威圧されてるみたいな気がする」

「本物よりはマシだろ。いくぞ」

 

 隠し扉の先にあったのはゲームだとジムの中にあったクイズマシーン。起動するとカツラの声で音声が流れた。

 

「うおおーす、チャレンジャーの諸君。よくぞこの場所を見つけた。ひみつのカギがほしくば、わしのだす〇×問題に全て正解してみよ! では、第一問! キャタピーは進化するとトランセルになる?」

「〇だな」

「正解だー! この調子で次の問題……」

 

 順調に進めて第五問

 

「わざマシン28はしねしねこうせんである?」

「×」

「正解。素晴らしい。優秀な諸君にはこれを渡そう。ジムで挑戦を待っているぞー」

 

 ガタン!

 

 取り出し口にカギが出て来た。全部こちらの回答は音声で拾っていたようだが、この声本人が今しゃべっているのか? クイズマシーンはよくわからん。

 

「あ、出て来たわね。ここを見つけるのは大変だったけど問題は簡単過ぎない? こんなの普通はどれも間違えないわよ。“しねしねこうせん”とか聞いたこともないわ」

 

 問題は聞いたことあるようなものばかりだったからたぶん同じはずだが、たしかに冷静に考えたらおかしいよな。いつものことながら難易度がガバガバ過ぎる。

 

「あえて理由を考えればランク1のトレーナーも来るから手加減しているんだろ。けど、本題は終わっていない。まだこの屋敷の探索が終わってないからな。この屋敷にはまだ隠されたエリアがある」

「え、ホント? なんか忍者屋敷みたいになってきたわね。隠されたひみつのへや探しかぁ。ジムの仕掛けじゃないと思うとなんかちょっとワクワクするかも。それってどこにあるか見当ついてるの?」

 

 このクイズマシーンを見つけた時に確信した。見当はついている。

 

 そもそもこの屋敷はゲームと同じで3Fまであるが、全く同じなら地下もフロアがあるはずなんだ。しかも本来カギは地下にあった。それがなぜか3Fに変わっている。

 

 そして本の配置が下ほど古く並び替えられていることも気になる。この屋敷を綺麗に管理しているのは本の並び替えを不自然にしないためのように思えてならない。本だけ並び替えれば目立つからな。

 

 ではなぜそんなことをしたのか。わざわざ本が整理されているのはこの3Fの資料が研究の終着点であるかのように思わせるためなのでは? だが俺は知っている。ここにはまだあるはずなんだ、ミュウツーへ繋がるその先の資料が。それがない。だから何らかの手段でそれは隠されている。この並び替えが意図的ならその秘匿された資料を悟られないためのカモフラージュと考えられる。

 

 もしかするとこのクイズマシーンも3Fがゴール、つまり終着点だと思わせるトリックなのかもしれない。そして出入り自由の屋敷の中に平然と危険な資料が置かれていること。これはさらに危険な資料を嗅ぎつけられないためのエサなのだとしたら。

 

 ……俺の探しているものはここの地下にある!

 

「この屋敷の中全てが俺達の意識を上へ上へと向けている。なら、本当に隠したいものはその逆の下、つまり地下に隠していると考えるのが自然だろう。ひみつのへやは地下にある」

「はえーすっごい。もうわかっちゃってるのね。じゃあその地下ってどうやって行くの?」

「それなら簡単だ。場所がわかっているなら壁抜けすればいい。出番だ、ユーレイ!」

「なるほど、その手があったわね。ちょっとズルイ気がするけどシショーだし仕方ない。あっという間に秘密を暴いちゃった!」

 

 あっさりと地下への道は拓かれたと思った。しかし思わぬハプニングが起きた。

 

「ゲエエエ!?」

 

 ユーレイさん、毎回のことだがその鳴き声は何とかならないのか。

 

「どうした?」

「ゲエエン、ガー」

「ウソだろ? 壁抜けできないのか? 他の壁はできるのに? うーん、これは……」

「そんなことあるの?! もしかして振り出し?」

「いや、逆に言えばどうやったのかはわからないが壁抜け対策までしている以上、相当な代物が地下にあるのは間違いないと見ていいだろう。これで地下にあることはハッキリした。あとは1Fを隈なく調べるだけだ。下に降りるぞ」

「そうこなくっちゃ! 絶対見つけましょう!」

 

 地下への通路探しは難航するかと思われたが、必ずあるとわかっている心理的な余裕が功を奏したのか案外すぐに見つかった。

 

「シショーなんか見つけたの?」

「ああ。ここ叩いてみろよ。音が他と違うだろ?」

「ん? ……んー? うーん、違うと言われれば違う気もするけど、あんまりよくわかんないかも。これがなんなの?」

「音が違うのはこの中が空洞になっているからだ」

「え、それじゃ柱の意味がないんじゃないの?」

「そもそも、位置的にみてこの柱は不要だ。ここだけ不自然なんだよ。だから調べて見たんだが、おそらくここが入口。ここが空洞なんだから、仕掛けとしてはこの辺が動いて……」

 

 ゴゴゴゴゴゴ!!

 

「本棚が動いた! 柱にスッポリ入ったわね。この本棚って固定されてなかったんだ」

「周りに人はいないな。中に入るぞ。ちゃんと入ったら閉めとけよ」

「軽いわね、これ。裏側はご丁寧に取っ手もあるし。スライドしやすく作ってるのね。最初だけ固くてロックされているけど」

「簡単に動いたら何かの弾みでズレてしまうからな。ポケモンを追い出したのもここがバレないようにするためだろうよ」

 

 とうとう地下への階段に辿り着いた。だが、ここに入った時からイヤな胸騒ぎがし始めた。それに進めば進むほど心のざわつきが大きくなる。俺の異常な精神の乱れはやはりあのミュウが関係している。今ならそんな気がする。

 

 階段の奥に進むと小部屋があるだけで行き止まり。あるのは真ん中にポツンと佇むミュウツーの像のみ。これが先へ進むためのスイッチなのだろうな。

 

「今度は見た感じ全部ホコリを被っているな。単にここまで人が来ないからなのか、あるいは……」

「この手の裏側にあったりして……あっ、ここ押せる! ポチッと」

 

 また目が光ってシャッターが開いた。

 

「お手柄だなブルー。探しているものはこの先にある。いくぞ」

「うん。なんかトレジャーハンターみたいで楽しいわね」

 

 暗い廊下が続き、燭台のろうそくには火がついていない。真っ暗だ。グレンを出して火をつけながら先に進んだ。

 

「ねぇっ! この廊下の上に貼ってあるの、あれなんなの?! なんか不気味っ」

「あれは……きよめのおふだ? のろいのおふだも少しあるな。まさかあれのせいですり抜けできなかったのか? きよめのおふだ……初めて見るがすり抜けを遮断するほど強力なアイテムだったのか? のろいのおふだに至ってはゴーストタイプにとっては好アイテムのはずだが、不思議なもんだな。ゴーストはゴーストに弱いし、そういう理屈なのかもしれない。とりあえず1枚ずつ頂いておくとしよう」

「えぇ、なによそれ。ホントなの? というか勝手に持ち帰っていいの?」

「別に構わないだろ。ここは放棄された場所だし」

 

 さらに進むといくつかの部屋があった。本が置かれた部屋や、実験場のような部屋もある。どうやらここは実験が行われていた秘密の研究所だったらしいな。ならそのデータを上に建てた屋敷に置いておくのは理に適っている。ひとまず散策してみた。

 

「うわー、すっごい。ここシルフ以上に色々そろっているわ。すごい実験してそう」

「してそうじゃなくて実際にやってたんだよ。ここでポケモンの生体実験とかを主にやっていたのだろうさ。シルフでロケット団のやっていた実験を見たのなら、どういうことをしていたのか想像はつくだろ」

「まさか、あの虐待みたいなことをここでもしていたの!」

「おそらく。そもそも元祖がここの実験だからシルフの実験はこれをマネしたものだろうし。チラッとここにあった資料を調べてみたが、えげつない内容のものばかり。おそらく、命を命と思わないような非道な実験がここで繰り返されていたんだろう。そして最悪のポケモンが生まれた。見てみろ、この部分を」

「これはシショーが言っていた日記ね。ミュウツー? ……このポケモンは つよすぎる ダメだ わたしのてにはおえない なんかどっかで聞いたセリフね。つまり、強いポケモンを作ったのはいいけど、強過ぎて持て余したってこと?」

 

 聞いたのはナツメの親父さんからだな。まあ先に出たのはこっちなんだが。

 

「そうだ。今は人の手を離れてどこかでひっそりと生きているだろう。そして問題なのはそのミュウツーがどうやって生まれたのか。これによればミュウツーはあるポケモンをベースとして生まれたらしい。そのオリジナルこそが……ミュウ」

「だからなんだ。ツーにはそういう意味があったのね。……ってことは、ここでミュウツーの研究をしていたならミュウについても何かわかるかもってことね!」

「そういうこと。ここで話がグルっと繋がるわけだ。ミュウを最初に見つけたのがこの研究を始めた人物、初代総長。今は行方不明ということになっていて、この屋敷の持ち主でもある。研究は現在秘匿され、こうして隠されたまま月日だけが経過した」

「ふーん、そうなんだ……。ねぇ、じゃあミュウについて何か手掛かりとかあった?」

「いや、資料とかはないし、研究していた人達も始めから大したことはわかってなかったのだろうな。あるのはミュウを見つけた時の日記だけ」

「え、じゃあなんでここに来たの?」

「その日記に書いてあるはずだからだ。どこで捕まえたのか、そしてどうやって捕まえたのかを」

 

 場所は確かギアナだった気がするが、正確に覚えているわけじゃないからこれも確認しておく方がいい。

 

 日記を広げて読んでいった。要所要所で見覚えのある記述が散見された。

 

 7がつ5か

 ここはギアナ ジャングルの奥地で新種のポケモンを発見 見たことのないを能力を保持 これを捕獲すればあの実験も……

 

 7がつ10か

 新発見のポケモンを私はミュウと名づけた このポケモンを使えば実験は成功するだろう 悲願達成の時は近い

 

 2がつ6か

 とうとう実験に成功 生まれたばかりのジュニアをミュウツーと呼ぶことに 我々の理論は間違っていなかった 私は最高の栄誉を手に入れるだろう

 

 9がつ1にち

 このポケモンは強すぎる ダメだ…… 私の手には負えない! どうしてこんなことに……

 

 当然ちゃんとした日記だから記録が一言で終わることはなく、もっと長いものだが、大事なところはこの辺りだったはずだ。後ろにこんなコメントがあったとは思わなかったが。

 

「ねぇ、もっと私にもちゃんと見せて。どれどれ……うわぁ、これ典型的なマッドサイエンティストじゃない。きっとこれを書いた人は碌な人間じゃないわね。かなりヤバイ性格に違いないわ」

 

 それが普通の反応なんだろうな。まさかこの人が後のフジ老人だとは思うまい。直接会った自分でも信じられないし。もっとも、ブルーはシオンに連れて行ってないから面識はないが。

 

「もういいだろ。この日記だけではまだ肝心の情報がない。もう少し他の場所を見て回ろう。まだなんかあるかもしれないし」

 

 この日記にはなぜか捕獲に関することが記述されていない。ただ発見した、とあるだけ。普通捕獲と発見はイコールにはならず、特に相手があんなバケモンなら多大な苦労を伴うはず。なのにあっさり捕獲できたようで不自然だ。ゲーム中でも記述はなかったと言えばそれまでだが。

 

 再び探索を始めるとブルーがまた隠し扉を見つけた。研究所内にもあるのか?

 

「ねぇシショー、ここ良く見たらちょっと他の壁と比べて色が違うわよね。ここにくぼみがあるし何か仕掛けがあるんじゃないかしら」

「なるほど、本当だな。隠し扉かと思ったが、たぶんノブが抜けているだけだな。さすがにここにカラクリを用意するのはおかしいし間違いないだろう。ノブはその辺に転がっているかもしれない。探そう」

 

 ノブを探すと、またブルーが見事に見つけてきた。こいつもけっこうセンスあるな。

 

「これじゃない? 入れてみるわね」

 

 ガチャ

 

「当たりだ。よくやったブルー。またまたお手柄だ」

「えへへ、わたしもトレジャーハンターになれそうね。この中にすっごいものがあったらどうしましょ。それっ」

 

 扉を開けばそこは今までの実験施設とは打って変わって青とピンク基調の子供の遊び部屋のような場所だった。おもちゃやポスターが並べられている。今までの部屋と比較してひどく場違いな光景だ。

 

「なんでこんなとこに子供部屋があるんだ?」

「シショーどういうことなの?」

 

 俺が知る由もない。ブルーにそう言おうとする前に知らない声が背後から聞こえた。

 

「みゅみゅみゅ。ここはみゅーのお部屋なの。ひみつのお部屋」

 

 背筋がゾクッとするような声。この感じ……聞き覚えがある! 

 

 サッと振り返れば予想していたポケモンの姿はなく、代わりに小さな女の子が立っていた。青い髪でピンクのワンピースを着た普通の女の子に見えるが、どこか違和感がある。それになんでこんなところに子供がいるんだ?

 

「あれ、あなたいつの間にそこにいたの? わたしよりも小さい子みたいだけど、それじゃここはあなたの部屋なのね。なんでこんなところに?」

「みゅみゅっ。ここはみんなが用意してくれたの。遊び道具もたくさんくれたの」

「みんな? みんなって誰? もしかして、あなたってこの屋敷に住んでいたお嬢さんだったり? もしかしてわたし達が勝手にここに入ってるのを見つけて怒りにきたとかなのかしら……ごめんなさい、悪気はなくて……」

「みゅみゅみゅ。やっと来てくれた。ずっと待ってたの。きっと来ると思ってた。みゅーのお部屋に外から人が来るなんて初めて。……お客さん」

 

 クルッと一回転してから裾を上げて優雅にお辞儀した。神秘的な雰囲気に包まれた人形のように整った顔立ちが一瞬で愛らしくかわいい笑顔に変わり、そのギャップが見ているものを引きつける。

 

 親しみやすそうな笑顔はそれだけ見ればこちらに対して友好的であるようにも見える。流れるような所作にも気品があり、思わず感心しそうになったが、本当に摩擦を感じないかのような滑らかな動きを見てまた違和感を覚えた。

 

「うわぁ、ホントにお嬢様なんだぁ。かっわいい~! 歓迎してくれるのね、ありがとう!」

 

 いや待て! そんなはずはない! ここはもう何年も前に放棄されている。その時に子供だったら今はもう大人になっているはず。この少女も只者じゃない。やっぱりナニカがおかしい。一体何者なんだ? 

 

 警戒を強め油断なく少女を見据えていると、その本人と目が合った。自分の中の全てが見透かされているような錯覚さえ受ける。どんどん感覚が狂い、その瞳の奥の深淵に引き込まれ、足元が崩れ落ちるような気分を味わった。もう何がどうなっているのかわからなくなり、軽い混乱状態に陥った。

 

「みゅみゅみゅ。おいで、みゅーのハウスに」

「!!」

 

 驚いて、驚き過ぎてもう声も出ない。バクバクと心臓が早鐘のように鳴る。驚いたショックで逆に混乱が少し収まり、通常の思考が戻って来た。

 

 ……きっとこいつなんだ。始めからこいつこそが探していたポケモン、ミュウだったんだ! あの日記の見たこともない能力とはこのことかっ! 普通の“へんしん”はポケモンにしか化けられない。明らかにこれは普通の技とは違う! 

 

 改めて視野を広げてみれば、少女の足元はわずかに浮き上がっている。道理で摩擦を感じない滑らかな動きだったわけだ。本当に摩擦を受けていないのだから。こんなことに気づかないなんて! 完全に不覚を取った。まさか人間の姿に扮して現れるとは思ってもみなかった。

 

「ん? シショー、どうしたのそんなにまじまじとその子を見て。……ねぇ、ホントに大丈夫なの? ちょっとっ! 顔真っ青じゃない! かなり苦しそうだけどまた調子がおかしいの?」

「は、離れろ」

「え、なんて?」

「今すぐその子供から離れろ!」

「えっ!? どうしたのよ急に」

「みゅみゅみゅ、みゅーはもっとおしゃべりしたかったのに……もうおしまい?」

 

 こいつ……! 余裕かましやがって。この状況で笑ってやがる! 正体がバレたとわかっているはずなのにこの態度。おそらく挑発だろうとわかっていても心が乱される。

 

「てめぇ、やっぱりあの……!」

「やっと気づいたの? 意外と鈍いところもあるの。みゅみゅみゅ」

 

 クスクスと笑うミュウとは対照的に俺はまたどんどん気分が悪くなる。ミュウがいるだけで体のもとっこが狂わされる感覚。こんな大事な時になんでこうなるんだ!

 

「ええっ、なんなのっ、どういうことなのっ?」

「いいから、早くこっちに来い! そいつこそが日記にあった新種、幻のポケモンのミュウだ!!」

「冗談でしょ?! どう見ても人間の女の子じゃない!!」

「擬態……ポケモン的にいうなら“へんしん”でも使ったんだろ。そいつ、よく見たら足元が浮いている。少なくともただの人間じゃない」

「ホントにポケモンなの!?」

 

 そうだ、俺は何をしてるんだ。せっかくこうして目の前にいるんだ。今のうちにゆっくり能力を視ておかないと。

 

 アナライズ!

 

 ミュウ Lv50 きまぐれ

 個 31-31-31-31-31-31

 実 175-120-120-120-120-120

 

 そんなバカな!? なんだこの能力はっ!! ありえない、ありえないぞこれは!!!

 

「6Vだと!? バカな!! こんな能力ありえない!! 存在するわけが……10おくぶんのいちだぞ? 夢でも見ているのか?」

「シショーどうするの? 戦うの? ラーちゃんの技で仕留める?」

「あ……この感じ! レインー、みゅーのこと調べてるの? 恥ずかしいけどちょっと嬉しい……やっぱりレインも波動が使える……みゅーと同じ……。思った通り、やっぱりおもしろいの。ずっと待ってて良かった。これでみゅーだけの……」

 

 ブルーの言葉は今のミュウの発言で吹っ飛んでしまった。こいつは聞き捨てならないことを言った。俺のアナライズに気づいて、しかも波動といったのか? 波動ってなんだ? それにこの前サーチして捉えた時は気づいた様子はなかったはず。

 

「波動だと……どういうことだ?」

「……? ホントにわからないみたいね。知らないの? それとも自覚がないの? でも、素質はたしかにあるの。今もみゅーに酔ってるみたいだし。みゅふふ」

「はぁ? 何を言ってるかさっぱりだ。いや、それよりも先に聞いておかないといけないことがある」

「みゅ? なぁに?」

「シショーッ、そんなことよりも早く指示をして! ヤバイんじゃないの!? どうするの? 戦わないのっ!?」

「黙ってろブルー!! どうしても、聞かないといけないんだっ。ミュウ、はっきりと答えろ! 俺を……この俺を、こっちへ呼んだのはお前なのか? なぁ、お前なんだろう?」

「……みゅー? なんのことかわかんないの」

 

 こいつ、わざとはぐらかしているのか。いかにも自分は知っていると言わんばかりの対応。やはりこいつが全ての元凶で間違いないんだ。

 

「とぼけるなっ! お前だろ……お前にしかできないだろうがっ! 俺をあの掃きだめのような場所へ落としたのは、間違いなくお前だっ!!」

「……みゅみゅっ? 知らないものは知らないの。何度言われても同じ。いくら言ってもムダなの」

「ふざけるなっ!!」

「シショー、落ち着いて、冷静にならないとダメよ」

「みゅーみゅー。いいの。だったら……そんなに知りたければ、レインらしくみゅーとバトルしてみる? 欲しいものは勝って手に入れる。いつもそうやってきたんでしょ? みゅーもバトルは好き。さぁ、一緒に遊んで? 1番大事なものを賭けて勝負しましょう? その方がおもしろいもん。負けたら終わりの真剣勝負……ゾクゾクするの」

「その言葉……後悔させてやる! ユーレイ1、アカサビ3」

「わたしも加勢するわ!」

「させないの。せっかく2人で遊べるのに、邪魔しないで!」

 

 突如バリアのようなものがブルーの周りを球状に覆って身動きできなくした。その間にボールから飛び出した2体の“むしくい”と“シャドーボール”を無防備に受けるがミュウは平然としてやがる。ダメージは合わせてもわずかに60程。どういうことだ?

 

 アナライズ!

 

 BCD+6

 

「ッッ!?」

 

 こいつ、能力が上がっている! BCDが6ランク。この3つは実質480ってことか。あらかじめ能力を上げてから姿を現したことになる。野生のポケモンにこんな知性があるなんてありえない! その偏見と、個体値のぶっ飛び加減で能力変化を見落としてしまっていた。

 

「――!」

 

 ドンドン!

 

 ブルーが何かしゃべっているが全く聞こえない。手で指さしている。……後ろ?

 

「みゅみゅ」

「しまった! テレポートか!」

 

 俺が驚いて一瞬目線を切った隙に後ろに回り込んで“かえんほうしゃ”を使ってきた。アカサビがやられた……クソッ!

 

「4! グレン7,9」

「みゅ!? ううーん、それはズルイの……」

 

 よし、眠った! “さいみんじゅつ”が当たった。さらに“オーバーヒート”と“フレアドライブ”を連続で使いグレンで一気に削りにいった。続けてイナズマも出して全員で総攻撃を仕掛けた。相手のBDの能力上昇が切れ始めている。割と効いている。90程与えて、残り24、約1/7だ。後一押し!

 

「……ZZZ!!」

 

 カランカラン!

 

 なんだこれは? スズ? スズの音? 技なのか? ……まさかっ!

 

 慌てて技を確認すると“ねごと”さらに“いやしのすず”を見つけた。

 

「ユーレイ、もっぺん4」

「もう起きたの。させない」

 

 早い! こっちの行動を見透かしていたかのようにテレポートで逃げられた。アナライズしていたせいでサーチが遅れ、死角から不意を突かれまず“サイコキネシス”でユーレイがやられた。ユーレイが先に狙われるとは、かなり厳しい。危険度を理解して先に狙われたのか?

 

 これで拘束するのは厳しくなったし、火力も相性がいい2体がいなくなって厳しい。残りHPが削れて、能力上昇の効果も切れてきているのが救いか。“フレアドライブ”と“10まんボルト”を当てればギリギリ仕留められるか。もう油断しない。この狭い空間なら俺が注意していればまず外すことはない。

 

「クスクス。何を考えているのかわかるの。もうみゅーは弱っているから勝てると思ってるのね。でも、おもしろいのはここから……おいで」

「――!」

「しまった! ブルーごと連れて逃げる気か!」

 

 相手が出入り口側にいたのが裏目に出た。だがここは不幸中の幸いか、壁から通り抜けができない。なら、おそらくテレポートでも脱出はできないんじゃないか? それに相手の位置は俺ならわかるからドア越しでも待ち伏せを食らう心配もない。

 

「そこか! もう逃がさないぞ、観念しろ!」

「追いかけっこはもう終わり。楽しかったの。みゅみゅみゅ」

「……何を企んでいる?」

 

 イヤな感じだ。この余裕……何か仕掛ける気か。まさかここまで誘い出されたのか!? クソ、罠か!

 

「いったん引いて……」

「させない! みゅ!」

 

 周囲から突然謎の煙があがって周囲を覆った。全方位からきているので避けられない。これはマズイ! とっさに2体を手持ちに戻すが、自分はどうしようもない。モロに吸いこんでしまった。ミュウはまたバリアのようなものを使い回避したようだ。

 

「……動けない。神経毒か何かか。よくも……!」

「クスクス。当たり。これでみゅーの勝ち! ちょっとヒヤッとしたけど、なんとか勝てたの。レインも負けることがあるのね。次はもっと楽しいバトルをさせてね」

「お前に次はない……やれ!」

「ヴォウ!」

「シャアア!」

 

 2体がタイミングよく飛び出し各々の得意技を繰り出す。だが真っ向から“サイコキネシス”を受けて2体合わせても火力負け……一撃で両方倒された。手持ちが尽きて完全に万策尽きた。

 

「強い! こんなバカなっ! 俺が負けるなんて……お前はなんなんだっ! 野生のポケモンがなぜここまで……」

「みゅーはみゅーだよ? みゅーは強いでしょ? みゅみゅみゅっ。あ、レインが負けたんだから、さっき言ったように1番大事なものをもらうの。レインはこの女の子が大事なんでしょ? いっつも大事そうにしてるの。だからみゅーがもらう。この女の子がいたらみゅーと遊んでくれないもん」

「お前、最初からブルーを人質にするつもりで……今まで襲ってきた時も俺の反応を試していたのか! ふざけたマネを……!!」

「みゅー、なんで怒るの? みゅーは遊んでほしいだけ。そんなにこの女の子が大事なら、もう一度バトルしましょう。場所はみゅーの故郷。もう一度みゅーとバトルして勝てたら返してあげる。ただし、それまで女の子がギブアップしなければだけど。1人でジャングルの中を生きていけるか、見物なの」

「なんで、なんでそんなにブルーに拘る? 連れていくなら俺にしろ!!」

「ダメッ! 自分で来て。そのことに意味があるの。レインには直接来てほしい。自分で選んでみゅーを探しに来て! でないと……この女の子がどうなっても知らない。来れば返してあげる。みゅーは待ってるから、必ず来て」

「それでも断る、といったら?」

「……あなたは必ず来ることになる。みゅみゅみゅ。みゅーとレインは必ずひかれあう。逃れることはできないの。これは運命だから」

 

 ビュウウウウ!!

 

「ぐっ、ねっぷう……!」

 

 ミュウが軽く手を振るだけで強烈な“ねっぷう”が発生する。それを生身でまともに受け、力尽きてしまった。俺にとって初めて味わう完全な敗北。意識を失う瞬間、目にしたのは俺を見下ろす瞳と涙するブルーの姿。完膚なきまでに打ちのめされ、深い絶望の中でゆっくりと意識を手放した。

 




とうとう実力行使
エスパーを本気にさせたらダメですね
サーチできないとテレポート連打でほぼ詰むので強過ぎです
ブルーを故郷に連れて行くようですが、故郷ってどこなんでしょうね(すっとぼけ)


今回も例によって設定変更たくさんあります
まずポケモン屋敷
さすがにポケモンいるのはおかしいでしょう
しかもよりによって炎タイプ
燃える物には事欠かない場所でバトルなんかしようものならどうなるか
ポケモンに荒らされるので資料の置き場としても最悪ですし何の手も打たないのはさすがに不自然かと
ゲームはカギがポケモンいるとこに無造作におかれてることといいおかしなことが多過ぎますよ
絶対入手前にカギ紛失から攻略不可能になるパターン

研究所が地下にあるのはミュウツーを作った場所がどこかにあるはずという考えからです
外の研究所は系譜は繋がっているにせよヤバイ実験していたのとは明らかに別でしょうし

3Fからダイブは狂気過ぎるので他の変更と合わせてまとめて没に

おふだは組み合わせて使うことですりぬけ防止できることにしました
同じ効果の道具との差別化です
基本は壁の中に埋められています
ろうかのやつは例外です
実験室の天井にもおふだびっしりということはないです

日記は遊び心で少し書き足し、逆に一部は削除している箇所も
イッシュなアメリカのところと、ミュウが子供を産むの件
タマゴグループ不明と矛盾しますよね
タマゴ発見に成功したのなら不明じゃなくて発見済みですから
あと子供っていう表現はないと思います
タマゴならわかりますが

ミュウツーはあくまで実験で生み出されたコピーという解釈
見ての通り設定変更はだいたい不満の現れが原因なことが多いですね


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10.過ぎし日は幻のように

長かった忍者編、もとい幻のポケモン編もラストです


 ここはどこ? じぶんはなにをしていたんだっけ? きづいたらしらないところにいる。まわりはまっくらでなにもみえない。なにもわからない

 

 ふと、とおくにひかりがみえた。そこになにかある。とおくにだれかいる。みおぼえがあるような、ないような。だれだっけ……。だんだんまわりのけしきがかわる。どこかのやまみちのようだ。ぼんやりしただれかはくっきりとおんなのこのすがたにかわった。

 

「わたしはブルー。マサラ出身で、今年トレーナーになったばかりなの」

 

 トレーナー? トレーナーってなんだっけ? でも、ブルーというなまえはどっかできいたきがするな……

 

 くびをかしげるとまわりのけしきもかわった。まちのなかにいるようだ。

 

「あなたについていくしかないってはっきりわかったの! だからわたしを弟子にして!」

「お願いシショー、わたしも一緒につれていって!」

 

 でし? シショー? そのままかってにいっしょについてきて……ストーカーみたい。ストーカーというにはすがたがかわいすぎるけど。

 

「もう死んでも助けるなんて言わないで。ずっと一緒に……そばにいてほしいから」

 

 またけしきがかわった。こんどはじぶんがしたにいる。おんなのこのこえはふるえている。こんなにしんぱいそうなこえで、だれにいっているんだろう? なみだもかれてしまったような、なきくれたひょうじょう。とてもつよいおもいをかんじる。

 

「今の言葉、絶対忘れないから、絶対忘れちゃダメだからね!」

 

 リンゴみたいにまっかなかお。うれしさをこらえきれていないけど、どこかせつなそうにもみえるあまずっぱいひょうじょう。はずかしそうにすぐにかけだしてしまったけど、きっとそのあいてのことをにくからずおもっているんだろうな。

 

「わたしがどっか行っちゃって、ものすごく遠い、たとえば地球の反対側とかに行っちゃっても、わたしのこと見つけられるの?」

 

 そんなとおくまでいくことなんてあるのかなぁ? そういえば、じぶんもだれかとこんなことをやくそくしていたようなきがする。

 

「シショー……レイン……さよなら」

 

 レイン……じぶんの……じぶんできめたなまえ? じゃあじぶんがシショー? ずっとあのこがよんでいるのは……。

 

 うかんではしずみ、つぎつぎとかわりゆくけしき。それがとうとつにぷつりときえて、またくらいばしょにもどった。でもしだいにほんのりとあおいひかりがさしこんで、どこかのじっけんじょうのようなばしょにかわった。

 

「みゅみゅみゅ。みゅーとレインは必ずひかれあう。逃れることはできないの」

 

 きこえたのはさっきまでとはべつのこえ。あおいひかりのおくにだれかいる。からだのおくまでいぬかれるようなかんかく。いったいだれ?……あんまりみていないきもするし……じつはなんどもみていたきもする……。

 

 よくおもいだそうとじっとかおをみる。そのだれかはうすくえみをうかべている。めずらしいあおいかみ。ととのったかおだち。しんぴてきなオーラ。めもとは……ふと、そのだれかとめがあった。せつな、あしもとがくずれおち、じぶんというものがそのまなざしのおくにひきずりこまれた!

 

 ――面白いトレーナー、見ぃつけた――

 ――おいで、もっと遊んで――

 ――遊んでっ、一緒に遊んでっ――

 ――みつけたの――

 

 いろんなこえがきこえる。それもくりかえしなんどもなんども。あたまのなかにちょくせつひびくようなこえ。はんきょうしてかさなりあいもうわけがわからなくなる。このこえはなんなんだ……。そのこえはいきなりピタリとやんだ。

 

 

 ――おいで、私のハウスに――

 

 

 ゾクリと寒気のするような声。絶対に逃がさないという強い意志と執念を感じる。まるで自分の魂と共鳴するかのような特別な声。

 

 ……これだけは忘れない。はっきりと覚えて、いや、刻み込まれている! 今、ようやく思い出した。全身を“10まんボルト”が貫いたような衝撃と共にあの記憶が蘇る! 

 

 あの青い髪にピンクのワンピース姿。ぼやけた輪郭は、どこか“ミュウ”の姿にも見える。紛れもない。あれはそう、俺のこの世界での始まりの日、その最初に見た姿。あれこそがミュウそのものだったのだ。

 

 全てあいつから始まっていたんだ。求むべき答えはあいつが握っているはず。俺はあいつから取り返さなくてはならない。

 

 そして、俺は探しに行かないといけない。ブルーとは確かに約束した。必ず見つけると約束した。……どんなに遠くに離れていても。

 

「おいで、私のハウスに……早くおいで」

「ダメよ! もう1人で危ないことはしないで! 大事な人を失いたくない!」

 

 それまでぼんやりとしていた意識が徐々にクリアになり、目の前に大きな2つの道が現れた。その先にはさっきの声の主が俺を呼んでいた。

 

 別々の方向に分岐した道。青い髪を靡かせる輪郭のぼやけた少女が手招きする方か、あるいはそれを引き留めようとしている白い帽子の子がいる方か。もう意識は完全に覚醒した。選ぶべき道は俺が決めるんだ。

 

「ごめんブルー。また心配かけるだろうけど、俺はこっちの道を行くよ」

「どうしてなの? そっちに行ったらまた危ない目に遭うかもしれない。もしかしたら死んでしまうかもしれない。しょせんわたしは赤の他人……なのになんでそこまでするの?」

「約束は必ず守る。それに、俺がいなかったら本当は寂しがりで泣き虫なお前のことだから、きっと怖くて泣きじゃくっているだろうし、助けに行ってやらないとな」

「そう。本当にそれで後悔はないのね」

「当たり前だ」

「……ありがとう。わたしも頑張るから、待ってるから、だから……シショーも……早く……助けに来て!!」

 

 シャボン玉が割れたかのようにパンと視界が途切れ、今しがた見ていたものが幻のように儚く消えた。そして夢の中のまどろみから意識が覚醒した。

 

 ◆

 

「はっ!? ここはっ……ブルーは!?」

 

 目が覚めるとそこは屋敷の地下。俺が最後に倒れた場所。ブルーはもういない。

 

 そうだ。俺は負けた。負けて全て失った。絶対に負けてはいけない戦いだった。ブルーはもう帰ってこない。どうしてこんなことになったんだ。あの時ああしてれば。あの時早く気づいていれば。悔やんでも悔やみきれない。俺は初めてバトルに負けてしまった。

 

「ガウ!」

「グレン! お前ら、もう大丈夫なのか? 傷は?」

 

 驚くことにグレン達の傷は癒えている。もしかしてかなり長いこと眠っていたのか。俺も直に攻撃を受けたし、精神的にもここ最近限界だった。仕方ないか。

 

 しばらくは喪失感と虚脱感で茫然として立ち上がる気力も湧かなかったが、不意にある言葉を思いだした。

 

 ――必ず見つけてやるよ。……どんなに遠くに離れていても――

 

 ブルーと交わした約束。なぜかついさっきのことのようにハッキリと思い出せる。たとえ地球の反対側に行こうとも、必ず見つけると言った。確かに俺はそう言ったんだ。なら、それは守らないといけない。絶対にウソにはしない。

 

 ……俺は長い夢を見ていた気がする。記憶がボンヤリとしていてもうハッキリと思い出すことはできない。ただ、それでもしっかりと刻み込まれている感情もある。

 

 夢に呼ばれて……俺はあの日あの夢に呼ばれてここに来てしまった。あのときに見たもの……ミュウこそが、俺が倒すべき敵。俺から何もかも奪い去った張本人。ならば俺はミュウから全ての答えを聞きださなければいけない。どんな手段を使ってでも、必ず……!

 

 そのためには休む暇はない。頭を動かせ! 思考を続けろ! 今俺は何をすべきか、とにかく考えなければ!

 

 そうだ、思い出せ。あの時ミュウはなんと言った? あいつは故郷で待つと言った。奴の故郷……ギアナ! そこにブルーもいる。なら早く行って助けないと。

 

 このまま終わっていいはずがない。まだ終わっちゃいないんだ! なら、もう一度立ち上がれば勝てるチャンスはある。

 

 ギアナと言えば地球の裏側。まさか本当に地球の裏側に行くことになるなんてなぁ。さて、どうやって行く? まず足になるものが必要だ。船を用意するか? ならばまずはクチバに行くしかないか。

 

「ガウガ!」

 

 俺が考えをまとめたのを感じ取ったのか、絶妙なタイミングでグレンが俺に声をかけた。そうだ、悔しい思いをしたのは自分だけじゃない。グレン達も燃えているんだ!

 

「ああ。わかっている。もう立ち止まっている暇はない。グレン、アカサビ、イナズマ、ユーレイ! 全員いいな? これから俺達はブルーを取り返しにギアナへ行く。そして今度こそあのポケモンを倒し、何を企んでいるのか吐かせてやる。もう二度と負けない。絶対に勝つぞ!」

「ッサム!」

「ダーッ!」

「ゲェーン!」

 

 最後にグレンとアイコンタクトを交わして点呼終了! さぁやるぜぇ……!

 

「よっしゃ! 気合十分! どんな手を使ってでも、あのポケモンだけは許さない。この俺を本気にさせたこと、死ぬほど……いや、死にたくなるほど後悔させてやる」

 

 全員で一致団結して俺達は再び決起した。後は行動あるのみ。所詮野生のポケモンに過ぎないミュウが万全のトレーナー相手に勝つなんて不可能だ。その当たり前のことを徹底的にわからせてやる! 全員ボールにしまってひとまず屋敷から出ることにした。

 

 旅の準備のため屋敷を出た後ポケセンに向かっていると研究員の男に声をかけられた。

 

「やっと見つけました! もう、ポケモンセンターにもいないし、どっか行っちゃったのかと思ってましたよ。レインさん、ついに実験が成功しそうなんですよ! 歴史的瞬間なんです、ぜひ研究所にきてください!」

 

 実験?……そういえば化石を預けてたんだっけ。忘れていたな。

 

 これは丁度いい。プテラなら空を飛んでギアナにいけるかもしれない。いきなり足を確保できるかも。さっそく研究所についていった。

 

「おお、来てくれましたね。待ってましたよ! ついに復元が完成しそうなんです。ゆっくり見ていってください。本当に……ここまで来れたのはあなたの協力あってのものです。深く感謝します」

「いえ。じゃあここで見させてもらいます」

 

 総長さんはもう喜びを隠そうともしないではしゃいでいる。ここで失敗なんてことは勘弁してくれよ? 今はもうプテラがいないとマズイって状況に変わってしまったからな。

 

 日付を聞くと、あの敗北から丸1日経っていた。ブルーがあの時の言葉通り本当にジャングルに放り出されているとしたらこうしている間にも危険な目にあっているかもしれない。今この瞬間も俺に助けを求めているかもしれない。もう悠長なことはしてられない。早く行かないと。そしてミュウを必ず倒す。今まで散々好き勝手した分、思い知らせてやる。昔グレン達に内緒で見つけたあの禁じ手で……。

 

「復元5秒前! 5,4,3,2,1,0!」

 

 プシュー!

 

 煙が上がり、化石を入れたカプセルの中にポケモンのシルエットが浮かびあがった。カプセルはよく見ると屋敷の地下にあったものとそっくりだ。やはりあの場所とつながりはあるんだな。

 

「おお、この姿! 間違いない、化石ポケモンのプテラだ!」

「現代に確認されているものと同じ姿だな。これは興味深い!」

「実験は成功! これは歴史的快挙だっ!」

 

 全員が実験の成功を喜ぶが、カプセルに異変が起きた。

 

「ゴオォウオォウ!!」

 

 ピキッ ピキキ……

 

 おいおい、これはかなりマズイんじゃないか? プテラがカプセルに収まりきらずヒビが入っている。

 

「なっ!? 大変です総長! カプセルにヒビが!」

「バカなっ! あれはイワークが踏んでも壊れないような代物だぞ? そうそう簡単に壊れるようなことあるはずがない!」

 

 しかし俺はアナライズでプテラの能力を視て息を飲んだ。

 

 プテラ Lv40 ようき 

 個 29-31-20-22-24-31

 技 ギガインパクト ……

 

 恐ろしく能力が高い。惚れ惚れする程に。もしかすると能力が高いからこそ化石として残ったのか? これは絶対に仲間にしたい。最速の130族が弱いわけない。

 

 俺がアナライズで分析していると、プテラが狭さに耐えかねたのか暴れだし、そしてまさに今、プテラが“ギガインパクト”を放たんと構えをとった! 攻撃力は決して低くない。この図体でそんな大技使ったらタダでは済まない!

 

「ヤバイ! 死にたくなかったら全員伏せろ!」

 

 俺が叫んだその次の瞬間、凄まじい衝撃と共にカプセルは砕け散り、プテラは研究所の屋根を突き破って外に飛び出した。辺りは大惨事だ。幸い全員頭を伏せて大ケガしてそうな奴はいない。

 

「なんてことだ! こんなに凶暴で力の強いプテラは初めて見た! それに通常の個体よりもかなり大きいぞ! あんなのが町に向かったら大騒ぎになる! なんとか止めねば! 誰かポケモンは?!」

「総長っ、お忘れですか?! 予算がないと言って雇ったポケモンの数は削減してる上、我々の手持ちではあんなの相手にできません!」

「これじゃまた研究がパーだ! どうにかできないのか!」

「そういうことなら俺がなんとかする。あれは俺がもらう約束だしな。あんたらは住人の避難誘導を。その間に俺がなんとか人気の少ないところに誘導して仕留める。誰か体力あってここの地理がわかる人、ついてきてくれ」

「わかった。なら私がいく。総長は体力仕事だ、任せてくれ。君達は早く住民を逃がせ!」

 

 全く、金がないのはわかるが容量不足のカプセルといい、ザルな警備といい、こっちの方が心配になる。よく実験が成功できたな。外に出て様子を見ればすでに大変なことになっていた。

 

 プテラは甲高い咆哮を上げながらそこかしこに無差別に“はかいこうせん”を乱れ撃ちし、道路や建物には容赦なく“ギガインパクト”で突っ込んで特大のクレーターを作り家屋は倒壊していた。

 

 当然住民はパニック状態で阿鼻叫喚の大騒動になっていた。突発的なことでまともに対処できる人間も近くにいない。俺がなんとかしないと死人が出るな。

 

「ユーレイ、まずはおにび」

「ゴオオウ!」

 

 唯一空を飛べるユーレイをいかせるが、なんとプテラは“ちょうはつ”で返してきて補助技を封じられて失敗。やむなく“10まんボルト”を当てにいくが性格補正のあるプテラは圧倒的に素早く、全て躱された。逆に相手の方から“ストーンエッジ”を見事に命中させられ、さらに不運にも急所に当たりユーレイは倒れてしまった。ゴーストタイプの強みは壁抜けで死角から攻撃でき回避も容易であること。なので空中戦は一応できはするが本領を発揮できない。それが如実に表れた形だ。

 

 勢いづいたプテラは人間にも攻撃し始めた。残りの手持ちを全て出して攻撃するが、こっちからの攻撃はグレン達が飛べないこともあり全て簡単に躱され、逆に向こうの攻撃は全方位に的しかないので全て命中し町を襲う。伝説の三鳥とは閉鎖空間でバトルしたからこそ何も苦労はなかったが、人質が大量にいる広い空間だと対空戦はきつい。

 

「きゃああ! 助けてっ!」

「どうしよ、もうダメだ、食べられる!」

 

 あれは“かみくだく”をする気か! 兄妹らしい子供が今まさにかみ殺されようとしている。おいおい、人間かみ殺す気かよ! 冗談じゃない!

 

 さすがにこんなところでスプラッターな光景は見たくない。すぐに子供達を助けるために指示を飛ばした。

 

「アカサビ、でんこうせっかで移動してあの子らを助けろ!」

 

 カキンッ!

 

 メタルボディに攻撃が当たりなんとか子供は助かった。ダメージも大したことない。

 

「グレン!」

 

 続けて“しんそく”を当てるが、こうかはいまひとつでダメージは薄い。いったん時間を稼いで素早さを上げるしかないか。今の状態じゃ先制技しか当てれない。

 

「レインさん、西には広い土地があって、あいつを誘いこむにはうってつけです」

「よし。なら、まずはハイパーボール!」

「!?」

 

 おそらくプテラはモンスターボールなんて見たことないだろう。不意を突かれて一瞬動きが止まったな。だがハイパーとはいえ捕まえることはおろか、長く拘束することもできないだろう。だが、一瞬でもここに収まればいい。

 

「アカサビ、思いっきり投げてやれ!」

「サム!」

 

 遠投! からの出てきたところをグレンの“ほえる”!

 

「一気に距離は稼げた。アカサビ、“ちょうはつ”して引きつけて西へ向かえ。ダメージを与えることより距離を稼いで長く引き付けることを考えろ。いいな?」

「サム」

 

 遠投で時間を稼いだ間にスピーダーで迅速にアカサビの素早さを上げた。そのままアカサビにプテラを引きつけさせ、その間に俺と総長さんはグレンに乗って西を目指した。

 

 キンキンッ! カキンッ!

 

 硬質なもの同士が激しくぶつかり合う音がする。やってるな。アカサビはうちのメンバーでは耐久力は1番ある。放っておいても簡単にはやられはしまい。

 

「レインさん、ひとまず民家からは離れましたがここからどうするんですか? このまま放置してもまた戻って暴れだすでしょうし」

「簡単なこと。きっちり倒してゲットしますよ。対空戦はこの子の得意分野ですから」

 

 そういって俺の腕の中にいるイナズマの頬を撫でてあげた。見た目はかわいいが、実力はサンダー以上だ。

 

「ホントに大丈夫ですか? あんなおっかないのをこんな小さなポケモンで倒せるもんなんですか?」

「まぁ見てて。あまごい!」

「ダアアアーーー!」

 

 “あまごい”により、瞬く間にあたりは豪雨が降り出した。グレンはイヤそうな顔をするが少しだけ辛抱してくれ。すぐに片をつける。

 

 プテラも急に天候が変わったことに気づいて辺りをうかがっている。突然の天候の変化にかなり驚いているな。太古を生きただけあってその辺りには敏感なのかもしれない。

 

「ゴオォウオォウ!」

 

 しばらくして落ち着きを取り戻し、自身に近づく俺の姿を目で捕捉してこっちに向かってきた。だがもう遅い。

 

「どんなに速くても避けることはできない! 忍者のお墨付きだ! やれ、イナズマ! かみなり!」

「ゴオオウッ!?」

 

 落雷が見事に直撃。一致抜群、威力は360。とくぼうは高くないプテラには十分過ぎる。そのままプテラは墜落し、地面に堕ちた際に大きな地響きを立てた。家屋の上だったら中の人間もペチャンコになっていたな。

 

「モンスターボール!」

 

 コロコロ……カチッ!

 

 ちゃんとゲットできたな。何気に戦闘不能にして普通にゲットしたのは初めてだ。かなり苦戦したが、やはり状況が悪過ぎたのが大きかった。サシならグレン辺りの“まもる”でイナズマを匿ってから即“かみなり”で簡単に倒せただろう。

 

「よっし! プテラゲット! 人質さえいなければこんなもんよ」

「すごい! あのプテラを簡単に捕まえるなんて。マサキさんがおっしゃっていたことは本当だったんですね」

 

 それは未来のチャンプとかのくだりのことだろうか。あれは深い意味はなく社交辞令、コガネ流の挨拶みたいなもんだと思うが。

 

 プテラは無事捕獲されたことを町に伝え、まずは一段落。その後事情を町の人に説明したり復興作業をしたり、研究所の人は色々あっただろうが、俺は研究員の人に断り、急ぎグレン島を発ちギアナへ向かうことにした。

 

 事情がある旨を説明すると快く送り出してくれ、いくつかした頼み事にも復興に先んじて手伝ってくれた。努力値振りと莫大な量のスピーダーの買いだめが終わり、空中戦の備えを少々して、準備が完了次第すぐにギアナへ向かうことができた。長い旅になるだろうし、長時間空を飛べば乗っている自分も疲労の蓄積は著しいだろう。だが休んでいる暇はない。

 

「プテラ、長旅になるが頼むぞ。時間がないんだ。お前の速さならかなり早く着くだろうが、それでも1週間ぐらいはかかると思う。まあ地球で1番遠いところに行くことになるからな。いきなり大変なこと任せるが本当に一刻の猶予もない。頑張ってくれ」

「ゴオォウ!」

 

 バサッ! 

 

 “こうそくいどう”で素早さを最大に高め、トップスピードで飛び立った。おそらくギアナまでこれから本当に1週間ぐらいはかかるだろう。なんとかがんばってくれ、ブルー!

 

 ――ミステリーツリーへ来て――

 

 これは……! ミュウのテレパシーか!

 

 ――世界で1番大きな樹でブルーと待っているから早く来て――

 

 そっちから誘って来るとは上等! 絶対見つけ出して俺に喧嘩売ったこと後悔させてやる。もしもブルーに手を出せば、あれの使用も辞さない。

 

 雪辱を晴らすため、そしてブルーを助け出すため、ただひたすらにギアナへ向けて飛び続けた。

 




主人公ですからレインは当然負けっぱなしで終わりません

次の章はカントーを離れてギアナ編
これもまた最初はブルーサイドの話になります
ギアナに行くまで時間がかかるので仕方ないですね

「素乗りで1週間2万キロ移動は(頭)おかしいんじゃない?」というツッコミはなしで
ここだけなんかレインの計算機壊れてるというのは言ったらダメですからね
あれはもう人間の域を脱している何かですから

一日3000㎞ 15h稼働なら200㎞/hつまり60m/sぐらい(3.6で割る)
「猛烈な」台風の風速が54m/s以上
15℃ 湿度65% 秒速60m で体感温度は約0℃になるそうです(ネットのツールで計算)
人間には耐えられませんね(白目)

そもそもどうやって進路とるのかとか他にも色々ありますがポケモンがいるから大丈夫でしょう

あと、ミステリーツリーについては名前の理由はミステリージャングルにある大きな木だからです(安直)
ミステリージャングルはポケダンでミュウがいる場所です
ルカリオの映画の世界のはじまりの樹とは別物です
イメージはそこから考えましたが


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6章まとめ

1.カラクリ屋敷

セキチクジムへやってきたレイン達。

しかしそこは悪魔染みた罠が待ち受けるカラクリ屋敷だった。

何重にも張り巡らされたトラップを見事に掻い潜り、レインはジムリーダーの待つ屋上へ向かい歩みを進めるのだった。

 

2.キョウ登場

熾烈を極めるトラップの山を何とか躱しきり、レインは屋敷の屋上へ辿り着く。

そこで床に潜むキョウの隠形を見破り、いよいよジムバトル挑戦がかなうのだった。

 

3.ブルーvsキョウ

カラクリに怒るブルーはレインに先んじてジム戦に挑んだ。

変幻自在のキョウの戦術に翻弄されるものの、ラーちゃんの起死回生の滅びの歌が見事に刺さり危なげなく勝利を収めた。

 

4.レインvsキョウ

続いてジム戦に挑戦するレインは実力を買われ、ランク8の全力を以てキョウが相手をした。

なかなか隙を見せないキョウに苦戦が続き、ちいさくなるによる戦術を前に敗北が脳裏をよぎる。

しかし敵を倒す最後のチャンスにアカサビ渾身のバレットパンチが見事に命中し、なんとかベトベトンを倒すのだった。

 

5.vsクロバット

消えるクロバットの謎を突き止め見事にジム戦に勝利したレイン。

素晴らしいジム戦ができたことに感動するのも束の間、キョウの何気ない言葉が謎の襲撃者の正体を知るきっかけとなり、レインはとうとうその正体に辿り着くのだった。

 

6.vsドククラゲ

ブルーに誘われセキチクの海岸へやってきたレインはそこでドククラゲに襲われるおねえさん2人を救出する。

これをきっかけにドククラゲ退治の依頼をこなし見事に解決するが、除け者にされてヤキモチを焼いたブルーは拗ねてしまいレインと離れ離れになってしまう。

海岸でブルーを見つけたレインは自分の気持ちを正面からぶつけて無事ブルーと仲直りする。

笑顔を取り戻した2人は水着バトルで盛り上がり幸せな一時を満喫した。

 

7.vsフリーザー

グレン島を目指す2人は過酷な船旅を耐え抜き、その道中ふたご島へ立ち寄った。

怖がるブルーを連れて洞窟へ入り、最奥に辿り着いたレインはフリーザーに遭遇する。

まずはブルーがバトルを挑むが倒れても回復するフリーザー相手に手詰まりを迎える。

これをレインが倒し、目的を果たした2人は洞窟の外で夜を明かした。

 

8.化石交渉

見えない敵に心を乱されるがレイン達は無事にグレン島へ辿り着く。

イナズマの導きによりポケセンでばったりマサキと再会し、そこで化石を求める総長さんに気前よく化石を提供するレイン。

ブルーはレインの真意を問い質し、納得したところでジム戦へと向かった。

しかし入るためにはひみつのカギが必要であり、やむなくポケモン屋敷攻略に乗り出した。

 

9.vsミュウ

ポケモン屋敷の探索を進める2人は徐々に遺伝子ポケモンの秘密に迫っていく。

地下への隠し通路を発見し、その先でミュウへの手掛かりを探るうちに奇妙な子供部屋を見つけた。

そこで現れた少女の正体はなんとミュウ本人だった。

ミュウが自分の謎を知るカギになると考えたレインはバトルを挑むが、ブルーを人質にとられミュウの罠にかかり敗北してしまう。

バトルに勝ちブルーを奪ったミュウはレインに再戦を約束させる。

絶望し、薄れゆく意識の中、レインが最後に見たのは涙するブルーの姿だった。

 

10.vsプテラ プテラゲット(NNは次章)

不思議な夢から目を覚ましたレインはブルー奪還のため行動を開始する。

レインは研究員に会い、プテラを仲間にするため化石復元に立ち会うことにした。

復元は成功するものの、プテラは研究所を飛び出し破壊の限りを尽くす。

レインは対空戦を制してプテラを5番目の仲間に加え、ミュウの待つギアナへ急ぐのだった。

 

 

データメモ

<レイン>

vsキョウ

ウインディ Lv37

ハッサム  Lv39

サンダース Lv36 

ゲンガー  Lv32

 

vsミュウ

ウインディ Lv38

ハッサム  Lv40

サンダース Lv37 

ゲンガー  Lv33

 

vsプテラ

4体同上

プテラ   Lv40

 

<ブルー>

フシギバナ Lv37

ピジョット Lv36

ソーナンス Lv27

レアコイル Lv32

ラプラス  Lv37

 




要約は本筋の展開に関係ない部分は大胆にカットしています
カラクリとかですね
逆にレイン達がどういう目的で行動しているかなどは本編の理解に役立つと思うのではっきりと書くように意識しました
とにかく短い文章で流れをつかめるように、という感じですね



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決戦ギアナ編
1.異郷の洗礼 怒髪衝天 奔る少女に勝利を!


新年ですね
あけましておめでとうございます
今年もよろしくおねがいします

お正月なのでお年玉投稿ってやつですね
やってみたかったので作者は満足しています

……よく考えると毎日更新しているのでお年玉感ないですね
もっと言うと年始で忙しいので待つ人がいるかも怪しい
気にしても仕方ないですけどね

最後になりますが、皆さんよいお年を!



 ―たすけてシショー―

 ―ここから出して!―

 

 突然現れた幻のポケモンに為す術もなく囚われ、知らない土地に飛ばされた。いきなり体が捻じれるような感覚がして意識を失い、気がついたら周りは鬱蒼と木々が覆い茂るジャングル。見たこともない場所だった。

 

 目が覚めて最初自分がどうしてこんなところにいるのかわからなくて戸惑うけど、すぐに状況を思い出し、同時に認めたくない、信じられないという思いが湧き上がってきた。

 

 あの時最後に見たのは幻のポケモンの攻撃で無惨に力尽きたシショーの姿だった。声こそ聞こえなかったけどその光景はハッキリと思い出せた。

 

 弟子になった日からシショーはいつだってわたしにとって憧れのヒーロー。負けることなんて絶対にない、いや、あるはずがないと信じていた。……こんなの夢か何かに決まっている。そんな気持ちが行動となって現れ、シショーを探して大きな声を上げた。

 

「シショーどこっ! どこにいるの!? すぐに返事してっ! お願いだから!!」

 

 誰も答えない。躍起になって何度も大声で叫び続けた。するとガサガサと遠くの茂みが動いた。

 

「!!」

 

 シショー? いや違う。ちょっと考えればわかる。こんなところにいるのは人間ではなく、十中八九ポケモンだ。なにより茂みにシショーが隠れているわけない。

 

 事ここに至り、自分がどれだけ愚かなことをしたのかようやく悟った。ここでいくら呼んでもシショーが来るわけない。逆に自ら危険を招いてしまった。

 

 身を固くしてその茂みの影の敵に備えていると、現れたのは大きくて毒々しい見た目のポケモン。今まで全く見たこともない。大きい上に強そう。レベルも測れない。未知の敵との遭遇はわたしにとって予想外のことで、一瞬頭が真っ白になってしまった。

 

「キシャアア!」

 

 恐ろしい鳴き声でようやく我に返った。今臆したら負けてしまう。戦わないと!

 

「ひっっ! ま、負けない! 何もわからなくても、わたしの最強のパートナーなら勝てる! お願い、フーちゃん」

 

 未知の強敵を前にし、わたしが選んだのは自分が最も信頼する相棒のフーちゃん。サカキのポケモンと戦ったこともあるんだ、こんな野生のポケモンに負けたりするわけない! 絶対に勝つ!

 

「バナーッ!!」

「いくわよ! ヘドロばくだん!」

「キシャーーー!」

「バナッ!?」

 

 まずは遠距離攻撃で1番火力の高い“ヘドロばくだん”を使った。予備動作なしの素早い攻撃。完璧に決まったはずのその攻撃は、なんということか、一瞬の動きで躱され逆に反撃を受けた。

 

「早過ぎる! なんなの今の動きっ!? その上なんて威力なの! フーちゃんがあっさり体力を半分以上持っていかれた……」

「キシャアーー!」

「バナー! バナッ!」

 

 フーちゃんから指示の催促をされた。そうだ、今は驚いている場合じゃない。まずは攻撃しつつ回復して体勢を立て直さないと。

 

「ギガドレイン!」

「キッッシャアア!!」

 

 ウソでしょ?! ほとんど効いてない! そんな、ありえないわ!! 

 

 そのまま相手の攻撃を今度は至近距離からモロにくらい、急所にも当たったようで吹っ飛ばされて気絶してしまった。

 

 こんなことありえるの? わたしはシショーについてきて強くなったはずよ。なのにこれはなんなの? 

 

 幻のポケモンにはいいようにしてやられ2人して完敗。拉致されて連れてこられた先で今度はただの野生のポケモン相手にわたしの最強のポケモンで挑み真正面から負けた。速く重い一撃。かつフーちゃんの攻撃を物ともしない耐久力。

 

 ……こんなの、勝てるわけない。わたしはまだ弱いままだったということなの? シショーの近くにいて何となく強くなった気でいたのかもしれない。もうここで終わりなの? もう二度とシショーに会えずにこんなところで1人で終わってしまうの? こんなところじゃシルフの時みたいにシショーが助けてくれることもないだろう。この敵から逃れる術はない。

 

 思い出されるのはあの屋敷での最後の光景。勝負に負けて幻のポケモンの攻撃を受け、力なく倒れたシショーの顔。わたしを見ながら事切れたように倒れた姿が脳裏に焼き付いて離れない。グルグルと頭の中で悪い考えが負のスパイラルにはまり、目の前が真っ暗になった。

 

「キシャーーッッ!」

「もうダメ。ごめんなさい。わたしはシショーの期待に応えられなかった。ここで終わりよ」

 

 またこの光景だ。角を向けて相手のポケモンがわたしに突進してくる。明確な死が迫ってくる。前はサイホーンにやられたんだっけ。そういえばこの技は“メガホーン”だ。こんな最後の最後に思い出すなんて。じゃあこのポケモンは虫タイプだったのかな。……もうどうでもいいや。

 

「ラァァアアーーッッ!!」

 

 ドォォォオオォン!!

 

 どっしりと目の前に現れたのはわたしの1番の親友、ラーちゃん。恐ろしい威力の攻撃を見事に受け止めてわたしを助けてくれた。

 

「あっ! ラーちゃん!? また助けてくれたのっ!」

 

 まただ。また守られてしまった。この前も、今も、いつもわたしは守られてばかり。成長したつもりだったけど、実際には何ひとつ変わってなかったんだ。

 

「ラアアアッッ!!」

 

 すごい殺気! わたしまで緊張して震えてしまいそうになる。いつもはおだやかな性格のラーちゃんだけど、怒ったときは1番怖い。あのシショーよりも。研究員を氷漬けにした時みたいに瞳孔が小さく定まって敵を睨み付け、息を吐いた口から白い冷気が漏れている。相手のポケモンも、凄まじい気迫と殺気に当てられて少しひるんでいる。

 

「ラーーー!」

 

 “あやしいひかり”ね! ラーちゃんの得意技! さらに間髪入れず混乱させたその隙に渾身の“れいとうビーム”を放った!

 

「ギシャアアッッ!」

「すごい、めっちゃ効いてる!」

 

 相手のポケモンは敵わないと思ったのかそのまま逃げていった。わたしなんかよりよっぽど戦い上手だ。ラーちゃんのおかげでひとまずなんとか生き残った。もうダメかと……。

 

 ペタンと力が抜けて座り込んだわたしに、ラーちゃんはさっきまでとは打って変わって優しい表情で寄り添ってくれた。

 

「ラーァァ……」

「ありがとうラーちゃん。助かったわ」

(いえ、ブルーが無事で良かった。心配させないでください。ブルーならきっと大丈夫です。あの程度のポケモンなら何度でも倒せます。諦めず一緒に頑張りましょう)

 

 頑張ろう、そうラーちゃんは言うがそんなこと意味があるのだろうか。ここは未開のジャングル、見たことない上に恐ろしく強いポケモンがたくさんいる。こんなところをなんの助けもなく越えることなんて絶対できない。

 

 よく見ればラーちゃんだって体の傷はかなり深い。相当なダメージだ。体もぐったりしている。今のバトル、ギリギリだったんだ。なのにわたしには疲れを悟られまいと気丈に振る舞い、精一杯微笑みかけてくれた。わたしのためにここまでしてくれる姿を見せられ、嬉しさと不甲斐なさで心の中がぐちゃぐちゃになり、死地を乗り越えて緊張が解けたこともあって涙が止め処なく溢れた。もう泣かないって心の中で決めていたのに、また泣いてしまった……。

 

「……ラーちゃん、ごめんね。こんなダメなトレーナーで。ラーちゃん、ありがとう。わたしのせいでこんなになったのに、励ましてくれて。ホントはわたしが頑張んなきゃいけないのに、シショーのことばっか考えて、1人だとなんにもできなくて、いっつも助けられてばっかりで、うう……」

(ブルー……。大丈夫ですよ。何度だって言いますが、ブルーは素晴らしいトレーナーです。落ち込まないで)

「ううん、そんなことない。わたしもう自信ない。こんなことになるなんて思わなくて、もう何を信じていればいいかもわからないの。もうダメ。わたしはもうここでおしまいなのよ。ラーちゃんは励まして頑張ってくれたのに、わたしもう戦えない。こんなことに巻き込んじゃって、こんなに傷つけちゃって、ごめんなさい。許して」

 

 どうしようもなく心が弱気になってしまい、普段なら絶対に言わないようなこと口に出してしまった。トレーナーが諦めたらポケモンは戦えない。それはポケモンを裏切る最低の行為。だけど、わかっていても……わかっているのに、もう自分ではどうすることもできなかった。こんなことを言ったら、きっとラーちゃんにも見放されるだろう。それはとっても怖い。でも、壊れた心は簡単には戻らず、弱気な言葉が堰を切ったように次々と口をついて出てきてしまった。

 

 もうラーちゃんと目を合わせることもできない。怖くて顔も上げられない。震えるだけのわたしにヒンヤリとしたものが擦り寄って来た。……ラーちゃんなの? 恐る恐る横目に見たラーちゃんはさっきと同じ優しい瞳をしていた。

 

(いいですよ。じゃあ、怖いこと不安なこと全部私に話してください。私はずっとブルーの味方です。ブルーはいつもたった1人で頑張ろうとして、私達には苦労をかけまいとして、全部抱え込んで頑張り過ぎてしまう。だから本当に辛い時、私には苦しいことや弱いところ、全部吐き出してさらけ出していいんですよ。絶対に全部受け止めてあげます)

 

 その言葉でわたしの中で抑え込んでいた感情が溢れ出した。気づいたら辛いこと苦しいこと寂しいこと怖いこと自信をなくしたこと、何もかも全てを話していた。どれぐらいの時間しゃべったのだろうか。

 

「ごめん、なんか気づいたらものすごくしゃべっちゃった」

 

 わたしのみっともない感情の吐露をラーちゃんは全て黙って受け止めてくれた。話始めてからどれだけ時間が経ったかもわからない。気づいたら夢中になっていた。恥ずかしいことに途中から泣きついて体ごと抱きしめられたまま話していたので、気持ちが落ち着いてから我に返って慌てて距離を置いた。

 

(謝らなくていいですよ。いつもブルーのおかげで救われているのは私の方なんです。だからもっと力になりたいと思っていました。あなたのためならどんなことでもいくらでも聞いてあげられます。私はブルーの役に立てましたか?)

 

 ラーちゃんは嬉しそうにいう。まるでそれこそが最大の喜びであるかのように。本当にわたしはいい仲間に恵まれているんだってしみじみと感じた。

 

「うん。スッキリした」

(それは良かった。これでここから脱出してお師匠様の元へ帰る覚悟は決まりましたね)

 

 その言葉でドキッとした。わたしはどうして自分がこんな目に遭うのかとか、泣き言しか言ってないのに、ラーちゃんはお見通しだったんだ。わたしがこんなに弱気になったのはそもそもここから帰れないという絶望のせい。ここを乗り越えて行く覚悟がなかったからだ。そこまでわかっていたんだ。その上でわたしが立ち直るためにここまでしてくれたんだ。

 

「ラーちゃんは全部お見通しか。はぁーー……これだけ泣き言いっていまさらだけど、わたしってみっともないわね。森の中じゃなかったら転げ回りたいぐらいよ」

 

 でも、おかげでもう気持ちは吹っ切れた。シショーは確かにもういない。でもわたしにはまだポケモン達がいる。まだまだなんとかなる! ラーちゃんにこれだけしてもらっているのに諦めてはダメだ。ラーちゃんがこんなに頑張っているのに、わたしはまだ何もしていない!

 

(いいんです。私には弱い所を見せても。私達はお互いに支えあうべきなんです。ポケモンとトレーナーは対等でなければいけないんですから)

「あっ、その言葉! もしかしてわたしが言ったこと、ずっと覚えていたの?」

(もちろん! この言葉をブルーに言われた時は私も認められたような気がして嬉しかったのをハッキリと覚えています。ブルーも覚えていてくれて嬉しい……どんなことがあっても、私にとって1番のトレーナーはブルーです。お師匠様より、チャンピオンより、ずっとずっとブルーの方が素敵です。ブルーがいるから私も頑張れるんです。だから私に……ブルーがここから脱出して、あの不届きな幻のポケモンも華麗に倒してしまうところを見せてください)

 

 面と向かってこんなこと言われるなんて。今自分が苦境に立たされているだけに、この言葉はわたしの中で一際輝いて見えた。嬉しくて、今吹っ切れて頑張ろうって思ったばっかりなのに、また泣きそうになっちゃうじゃない! こんなの反則よ!

 

「ラーちゃんっ!! うう、もうっ、大好き! だいだい大好きっ!! ありがとう、もう迷わない! 絶対ここから脱出して、また一緒に冒険しましょ! わたしとラーちゃんはずっと一緒よ!」

 

 言わずにはいられなくなり、今までで1番強く抱きしめた。わたしの気持ちはラーちゃんにも伝わったみたい。

 

「キュウウーーー!!」

 

 たっぷりと抱擁を交わして、顔を合わせて笑いあった。

 

(幸せ……)

「え?」

(はっ!? 何でもないです。それより、一旦この場所を離れましょう。まずは休める場所に行って体を休めるべきです。ここを突破するには私もフーちゃんも万全の状態にした方がいい。もちろんいざとなれば私はこの身を賭してあなたを助けますが、どうしてもできることの限度というものはあります。それに今後どうするか方針を立てないと)

 

 いきなりキリッと真面目な顔に戻ったラーちゃん。切り替えも速い。もうちょっとさっきのままでいたかったのに。わたしはちょっと未練が残ったまま答えた。

 

「いまさら過ぎるけど、わたしこんなジャングルのド真ん中でずっと何してたんだろう。野生のポケモンに見つかったらヤバかったわね。たしかに、ここは離れた方がいいわね」

(心配ありません。私が注意していました。向こうからくる分にはあやしいひかりで追い返せましたし)

「そうだったの。ラーちゃんはさすがね。頼りっぱなしになるけど、やっぱり助かるわ。これからもお願いね」

(任せてください。ではとりあえず、洞窟のような場所を探しましょう。あるいは崖を探してあなをほるを使う手もあります)

「そうね。ピーちゃん! 出て来て! この辺りに休めそうな洞窟や、基地が作れそうな崖とか、何かないか周りを見渡して!」

「ジョット!」

(空から探すのですね。賢明です)

 

 上空を旋回して徐々に遠くへ行くピーちゃん。うまく見つけてくれたらいいけど、どこにもなかったりしたらどうしよう。そんな心配をしていると突然鋭い悲鳴が木霊した。ピーちゃんに何かあった?!

 

「リューちゃん、何があったのか教えて!」

 

 高く上がったリューちゃんはすぐに戻ってきた。聞けばピーちゃんは大量の未知のポケモンに襲われているらしい。自分も危なそうだったのですぐに戻ったようだ。パニックになったわたしは慌てて教えてもらった方角へ走り出した。

 

(待って! 1人で先に行っては危ないですっ)

「急がないと、助けないと!」

 

 頭が一杯になっていてラーちゃんに言われたことが頭に入っていなかった。全速力で駆け続けると、木の枝に引っかかってぐったりしているピーちゃんを見つけた。

 

 恐るべきことに翼の一部が凍っていた。そのせいで墜落したんだとすぐわかった。まさかフリーザーみたいなのがこの辺にはウヨウヨいるってこと?! さすがにこの辺りのポケモンの生態系はヤバ過ぎる気がしてきた。

 

「ピーちゃん戻って!」

 

 とりあえずこれで今以上酷くはならないので一安心。治療のためにも早く安全な場所を見つけないと。

 

 でも一難去ってまた一難。安息の暇もなく次なる障害が現れた。

 

「ゴアア!」

「イヤァァ!! また強そうなのが出て来た! 羽みたいなのがある……ひこうタイプかしら、ここはレアちゃんお願い!」

 

 さっきはおそらく相性も悪かったんだと思う。冷静になって振り返れば状況が見えてなかったことに気づく。もう二の轍は踏まない。まずは様子見がてらの“10まんボルト”。でもこうかはいまひとつみたい。どういうこと?

 

「ゴアアア!」

「ジリリッ?!」

 

 うそっ!? 今のは“ほのおのキバ”! たしかに顔赤いけどこのポケモンまさかほのおタイプなの?!

 

 電気技の効き具合からしてひこうタイプはなさそうだし相性最悪じゃない!

 

「戻って! いくのよソーちゃん!」

「ゴアアッ!」

 

 こんどは“かみくだく”!? なんでこう裏目になるのっ! でも物理攻撃ばっかりだから“カウンター”は決まりそうね。

 

「カウンター!」

「ゴアアッッ?!」

 

 また“かみくだく”ね。ソーちゃんはしっかり耐えてくれてカウンターで倍返し。相手は1発で倒れたわね。

 

「うわ! すっごい経験値ね。レベルアップした。やっぱりここのポケモンは強いんだ」

(ブルー、大丈夫ですか!)

 

 丁度ラーちゃんも追いついてきた。来た道には氷の跡がある。地面を凍らせて移動して来たのね。すごいことを当たり前のようにするわね。

 

「もっちろん。バッチリ勝ったわよ」

 

 今は勝てた自分が誇らしく、嬉しくなり笑顔で答えた。これでラーちゃんにも胸を張って顔を合わせられる。

 

(ああ、良かった。でも気を抜いてはダメです。早く場所を移りましょう。私の氷を他のポケモンにつけられるかもしれませんし。ピーちゃんは話せる状態ですか? なんとか何か見つけてくれていれば助かるのですが)

 

 そうだった。出してみると体力は残っているようで、墜落したものの洞窟は見つけたらしく、教えてくれた場所へひとまず向かうことにした。ピーちゃんは傷ついても使命を全うするため探すことを優先させてくれたのね。ホントにこの子達皆なんていい子なの! 道中ポケモンは出て来たけど、その都度“あやしいひかり”で上手く逃げてなんとか洞窟に辿り着いた。

 

「中に何かいる?」

(わからないですね。慎重に進みましょう)

 

 結論から言えば何事もなかった。でも、こんなところでもいつもどれだけシショーに助けられていたのか思い知らされた。草むらではいつポケモンが飛び出してくるかわからない。でもシショーにはどんな時も全てわかっているようだった。わたしもそのことに慣れてしまっていた。

 

「いっつも野宿する時には安全なところを見つけてくれたし、ポケモンが来ても全部勝手に追い払ってくれたもんなぁ。ホントになんでもできてそれが当たり前だと思ってたけど、こんなに大変なことだなんて思わなかった」

(ブルー)

「あっ……ごめん。つい口に出してたわ。別にクヨクヨしているわけじゃないの。ちょっと思い出してしまっただけ」

(わかっています。ブルーは強い子です。でも休むことも大事。まずは休めるうちに休んでおきましょう)

 

 ラーちゃんの言う通りね。まずは皆を出して休むことにした。キズぐすりを出してラーちゃんに使おうとすると止められてしまった。どういうことか視線で問うと、ラーちゃんはゆっくりと答えた。

 

(ブルー、キズぐすりというのはいくらでも使えるのですか? この先どれほどこうした状況が続くかわからないのですから、安易に消耗してはいけません)

「でも、皆ひどいケガよ。今使わなくてどうするの!」

(ブルー、よく考えなさい。私達は今孤立無援。帰る目途も立っていない。もしかすると何年もここにいる羽目になってもおかしくはない。そんな時にキズぐすりが尽きて、誰かが今よりもひどい傷を負うことになれば、あの時使わなければ良かったと後悔することになります。極力使用は連戦で危険な場合などやむを得ない場合に留め、今のように休めるうちは自然回復に任せた方が良いです。私はこの程度なら1日眠れば治ります。わかりますね?)

 

 なるほど、ラーちゃんの言いたいことはわかった。ラーちゃんもシショーと同じ、現実をよく見ている。わたしみたいに希望を見るだけじゃなく、常に最悪の可能性を考えているんだ。きっと体中痛いはずなのに、我慢してわたしのためを思って言ってくれているのが伝わった。

 

「わかったわ。確かにそうね。こんなわけのわからないところだと何が起きるかわからないし。ありがとうラーちゃん。じゃあ治すのはピーちゃんの凍った場所だけにするわ。そのぶん今日はゆっくりやすんで」

 

 こおり状態は自然回復しないから、これだけは治してあげないと。

 

(それがいいです。でも休みながら時間のあるうちに全員で今後のことも考えましょう。ここはどこなのか、どうやって戦っていくか、どうやって帰るのか。まずはブルー、ここがどこなのか心当たりはないですか?)

 

 やっぱり避けては通れないか。今考えるしかないわね。

 

「そうね。そういえばここってジャングルみたいだけど、確か地下室で見た日記にミュウもこんなジャングルで捕まえたって書いていたわね。私のハウスに来てって言ってたし、あの子が連れてきたんだからここがミュウの故郷なのかも」

(それは可能性が高そうです。では、そのジャングルがどこのものか日記には書いてなかったですか?)

「えっと、どこだっけ。そういえば……あっ、ギアナって書いていた気がするわ」

 

 それを聞いてラーちゃんは驚いて大きな声を上げた。テレパシーだからイメージだけど。

 

(ギアナですって!? そんなっ!! ブルー、あなたはギアナがどこか知っているのですか?!)

「え、わかんない。カントー地方ではなさそうね。ジョウトの方なの?」

(ホントに知らないんですね。ギアナは国内ではありません。外国です。見たことのないポケモンばかりなのも納得がいきました)

 

 う……そ……。外国? わたし、いつの間にかそんな遠くに飛ばされていたの?

 

「で、でも、外国といっても近くならなんとか」

(ブルー……ギアナはほぼ地球の裏側。1番遠い場所です)

 

 何を言われたのかわからなかった。いや、わかりたくなかった。うつむいて、体が震えて、涙が出そうになるが、グッとこらえた。今はフーちゃん達も皆見ている。わたしが諦めたら、この子達はどうなるの! もうみっともないマネはしない。精一杯の笑顔を作って顔を上げた。

 

「わかったわ。だったらなおさらのこと、もうシショーを当てにはできない。わたし達で頑張るのよ」

(ブルーッ! そう、その通りです! 遠いといっても、船ならすぐです。カントーにはクチバという大きな港があります。まずは人がいる街を探せば帰る道筋もわかるはず。ひとまずは人がいるところを目指してこの森を抜けることを目標にしましょう)

 

 わたしが諦めないことが嬉しいのか、目を輝かせてまくし立てるようにラーちゃんが考えを述べた。まず卑近なところに目標を置いて、わたし達を導いてくれている。やっぱり頼りになる。

 

「そうね。さっきピーちゃんがやられたから、空から抜けるのは危ないとわかったし、仕方ないから地道にこのジャングルを突破しましょう」

「ジョット!」

(この森は果てが見えないほど広大だそうです。簡単には超えられないですね。こうなると私達は長い時間をかけて計画的に動く必要がありそうです。もしかすると、まずはこの辺りのポケモンに力負けしないように全員のレベルを上げることが1番の近道かもしれません)

 

 気の長くなる話だけど、ホントにそれが最善かもしれない。

 

「そうなんだ。じゃ、まずは全員のレベルを上げつつ、この辺りのポケモンの情報を集めた方がいいわね。最初に見つけたポケモン、さっきは気が動転していて気づかなかったけど、きっとフーちゃんが負けたのは相性のせいだと思うの。だからタイプだけでも把握しておくことはきっと重要になると思うの」

「バーナー」

(戦いにくさは感じていたようですし、苦手なタイプで間違いないですね。見た目と、メガホーンを多用したところからしておそらくむしタイプ。色からすればどくタイプもあったかもしれない。虫と毒はよくある組み合わせです)

 

 なるほど、複合タイプの可能性も考えないとダメなのね。タイプの予測だけでも結構難しいものね。

 

「そうか、どくタイプもあったのか。じゃあ相性最悪ね。シショーはタイプ不利1つで半分が目安って言ってたから、全部1/4しか効いてなかったのか。その上相手はタイプ一致。シショーは1.5倍ぐらい違うっていってた。これじゃ、攻撃も耐久も強く感じるわけね。ホントにすごかったのは素早さだけだったんだ」

(ブルー、やっぱりあなたは弱くなんかない。ただ運が悪かっただけなんですよ)

「えへへ、そうみたい。なんか元気出て来た。じゃあ、あの赤い顔のポケモンは何タイプだったんだろう。カウンターで倒したからわかんないなぁ。今度からは様子を見る攻撃もしないとダメね」

「ジリリッ!」

 

 考えているとレーちゃんが助け舟を出してくれた。そういえば1回攻撃はしたんだっけ。

 

(え、10まんボルトがいまひとつだったのですか? ではタイプはかなり絞れるはずです)

「あ、そっか。でんきが効かないのはくさ、でんき、じめん……」

(じめんは全く効果がないので違うでしょう。それに、あとドラゴンタイプもあります)

 

 それを聞いてピンと来た。

 

「あっ、そうか! あれはドラゴンタイプだったんだ! だから羽みたいなのもあったのね。じゃあレーちゃん出したのは間違ってはなかったんだ。ほのおのキバ食らったけど」

(ドラゴンタイプはそういう技を覚えても不思議はないですね。ほぼ間違いないでしょう)

「すごい、あっという間に全部わかってきちゃった。でも、さすがにどの能力が高いかとか、そういうことはわからないわね。むしポケモンが速くて、ドラゴンが攻撃力高いのはわかるけど、シショーはどうしてか防御と特防の差とかもわかっていたわよね。こうして未知のポケモンに遭遇すると、とんでもないことなんだって痛感するわね」

(おそらくお師匠様は別格です。ポケモン同士でもそんなことは普通わかりません。才能なんでしょう。ブルーはブルーにできることをやりましょう)

 

 1人になると、いつもシショーとの力の差をイヤという程痛感させられる。傍にいる方がその戦い様をよく見られるのに、普段は全然気づいていなかったということだ。きっとわたしが未熟なのも原因だとは思うけど、シショーが悟らせないように振舞っているような気もする。悟られないようにするのも才能なのでしょうね。あーあ、なんか皮肉よねぇ。思わずため息が出た。

 

「はぁー、そうね。あー、いっぱい考えて疲れちゃった。日も傾いてきたし、もう今日は寝ちゃって、明日夜明けとともに調査を始めましょう。まずはこの辺りを、そして少しずつここを拠点にして範囲を広げましょう」

「リューリュー!」

(リューちゃんが疲れてないので見張りをしてくれるそうです。確かに誰か見張りをしないと安心して眠ることもできないでしょう。ここはリューちゃんにお願いしてしっかり休みましょう)

「そっか、ここも夜になったらポケモンが来るかもしれないもんね。ありがとリューちゃん」

(今後も常に最低1匹は温存し、完全に休ませた方が良さそうですね。全員疲れたままでいるといざという時に誰も戦えなくなってしまう)

「そうね。気をつけるわ。じゃあ、おやすみ」

(あっ、ブルー……もう寝ちゃった。よっぽど疲れていたんですね。私達で毛布を出して寝かせてあげましょう)

 

 ……夢の中、わたしはずっとシショーがどこかへいってしまう悪夢にうなされていた。

 

「シショー、行かないで……1人にしないで……」

(ブルー……。やはり、気丈に振舞っていたのは無理をしていたのですね。ギアナの場所を聞いた際、ショックを受けていたことは皆気づいていました。何も考えずあのような伝え方をしたことを許して、ブルー。……あなたにはいつも私がついているから安心して。あなたは必ずお師匠様の元に送り届けてみせます)

 

 覚めない悪夢はない。明日はギアナ2日目。ここからが本番だ。

 




だ~れだ?
3匹未知のポケモンが出ました
ギアナは南アメリカということでこの章ではイッシュのポケモンしか出ません
特徴は出揃っているのでシルエットはなしでもわかりますね?
空中で襲ってきたポケモンは縄張りへの侵入者に問答無用で攻撃したのがヒントです
図鑑説明を参考にしています




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2.常夏の 強い日差しに 花踊り

(おはようブルー。ちゃんと眠れましたか?)

 

 んんー! 伸びをして辺りを見渡せばここは洞窟の中……そうだ、わたし昨日先に寝ちゃったんだ。洞窟にしては暖かいと思ったら毛布をかけられている。みんなでわたしにかけてくれたのかな。

 

「おはよ、ラーちゃん。ありがとね、毛布かけてくれて。もうすっかり元気よ。今日も頑張りましょう」

(もちろんです、ブルー。でも焦らず、まずはどう戦っていくかよく検討してから出発しましょう)

 

 身支度をして、さっそく作戦会議を始めた。いつもは寝起きがだらしないわたしだけど、今は驚く程スッキリ目が覚めている。今日はなんかいけそうな気がする。

 

「それで、どうやって戦うかだけど、最初はレーちゃんとリューちゃんに戦ってもらう。どっちも“でんじは”で相手を弱らせてじっくり観察しながら戦えるし、耐性も多くて、浮いている分移動も速いから」

(なるほど。良い判断だと思います。では私達は危なくなったら出してください)

「そうさせてもらうわ。今日もお願いね」

「ラー」

 

 頷いてボールに戻っていった。これでもうラーちゃんは危ない時しか使えない。今日はわたしが頑張るのよ。グッと拳を握りしめた。

 

 拠点には目印になるように近くの木に遠くから見えるように旗のようなものを立てた。“ポケじゃらし”で作ったのでポケモンが寄り付くことはない。洞窟の入り口にも置いてある。シショーに使い方を教えてもらっておいて良かった。サイレンスブリッジのとこで教えてもらったのがここで役に立った。

 

 これで拠点は大丈夫のはず。安心して森の中へ入った。奥へ進むとさっそくポケモンが現れた。正面から来るのは助かるわ。姿は……見たことない新手ね。当たり前だけど、これからは未知との敵を相手に負けられない戦いが続く。気を引き締めないと! 

 

 さぁ、落ち着け。シショーのように、まずはしっかり相手を分析するのよ。目立つ特徴……鹿みたいな恰好で頭の角に葉が茂っている。素直にくさタイプかな? 安易に決めつけ、固執することはしてはいけないけど、まず間違いないと見ていいでしょうね。

 

 最初の一手はもう考えて来ている。バトルの基本は最初にどれだけ有利な状況を作れるか。それを昨日のわたしは忘れていた。相手が強いからって焦って前のめりになり、早く体力を減らしたい一心で攻撃ばかりの単調な指示になっていた。それではダメ。相手が強い時ほど、なおさら上手く補助技を使わないとわたし達は生き残れない。

 

「りゅうのいかり! レーちゃんでんじは!」

「ブローッ!?」

 

 上手くいったわね。素早さは戦闘の要。その足を先に奪えた。これで行動回数に差が出る。じっくりいけば2:1だし問題なさそう。

 

 わたしが優位を確信していると相手は猛烈な勢いでこっちに突っ込んできた。こんな危ない攻撃してヤケになったの!? これはヤバイ! リューちゃんは耐えれない!

 

「レーちゃん受けてあげて!」

 

 ドォォン!

 

 この捨て身って感じの突撃は“すてみタックル”ね。いきなり反動も構わず突っ込んでくるなんて。しかもすごい威力。半減でもかなり持っていかれた。攻撃力はあのドラゴン以上かも。それに反動技のせいで体力の調整も失敗したわね。アンラッキーが昨日から続く。ここのポケモンがどれぐらいのレベルなのか余裕のあるうちに調べようと思ったけど、今回は潔く諦めよう。この攻撃力じゃ無理はできない。

 

「たたきつける。10まんボルト」

 

 わざとでんきタイプの技を使わせた。やっぱりでんきタイプの方は“たたきつける”よりも効きが悪い。こうかはいまひとつのようね。でもこれで確認できた。間違いなくくさタイプ。

 

「ブロッブロォーッ!」

 

 今度は角を立てて突進してきた。でも“メガホーン”じゃない。角が緑に光っている。こんな技は見たことがない。レーちゃんなんとか耐えて!

 

「ジリリ……」

「よくやったわ! 反撃よ! ラスターカノンとドラゴンダイブ!」

 

 はがねタイプはやはり使いやすい。だいたいの攻撃を半減で受けられるから初見技の様子見には重宝する。これでなんとか倒した。やっぱり経験値は大きい。それだけが唯一の救いね。

 

 でもレーちゃんはもうきついわね。ひんしになるのは最悪だからピーちゃんと入れ替えましょう。攻撃はできるだけタイプをバラしたけど、鋼竜無が等倍ということはおそらく草単一と見て間違いない。

 

 振り返って気になったのはあの“すてみタックル”。あの知らない技と比べても倍近い威力があった気がするけど、あれが未知の技だからなんとも言えない。もしかしたらノーマルタイプもあったのかも……そう思ってしまう程の威力だったけど、ノーマルくさタイプなんて変だし、くさタイプだけなんでしょうね。本当に恐ろしい攻撃力ね。

 

 考えをまとめて先に進むと、今度はとってもちっさくてかわいいポケモンがいた。いきなりきついバトルだったからありがたいわね。これなら倒すまでもなさそう。

 

「ウウウ!」

「あれ、警戒されてる? ごめんね。ここを通るだけだから、おとなしくしててね」

「プーーッッ!」

「きゃあっ!? ちょっと、何するのよっ! “いとをはく”ね。あんまり戦いたくなかったけど、そっちがその気ならいいわ。リューちゃん、“りゅうのいかり”でおしおきして!」

「リュー!!」

「クルゥ……」

 

 あっさりと一撃で倒せちゃった。レベル15もないのかな? ホントに見かけ通り弱いのね。こんなポケモンもいるんだ。ちょっと安心。そのまま通り過ぎようとしたらさっき倒したポケモンが大声で泣き始めた!

 

「クルゥーー!! クルゥーー!!」

「なにこれ!? 耳が痛くなる!!」

(ブルー! 急いで逃げて!)

 

 いきなりボールから出てきてラーちゃんは焦り交じりの声色でテレパシーを送ってきた。たしかにすごい音量だけど焦る程のものじゃない。どうしたっていうの?

 

(わからないんですかっ?! このポケモンは親を呼んでいるんです! 見つかったら怒り狂った母親と戦うことになる! 我が子のために怒るポケモン程怖いものはありません!)

 

 そういうことか! 合点がいき慌てて逃げようとするがすでに遅い。……見つかってしまった!

 

「ハーモッ!!」

(マズイ、下がって!)

 

 いきなり“シザークロス”でわたしに襲いかかってきた。間に入ったラーちゃんが“まもる”で受けてくれたけど、この怒り方は尋常じゃない。

 

「でんじは、つばめがえし」

 

 上手く痺れたところを必中の“つばめがえし”が炸裂。なんとあっさり一撃で倒してしまった。大変なバトルになることを覚悟していたのにこんなに簡単に勝てるなんて。信じられなくて一瞬呆然としてしまった。

 

「ウソ……すっごい! ピーちゃん、あなたさいっこうよっ!!」

「ジョット! ジョッジョ!!」

(おそらくむしタイプに加え、くさタイプもあったのでしょう。この森はむしタイプやくさタイプが多そうです。ピーちゃんはきっと活躍しますよ)

「なるほどね。ジャングルならたしかにそうね。よっし、このままバンバンいくわよ」

 

 この後もピーちゃんとリューちゃんのコンビが機能してサクサク進んでいけた。レーちゃん離脱で暗雲立ち込めるかと思いきや、いきなり救世主登場ね。またあの鹿みたいな奴とか、前回の毒虫みたいなのが来た際にも“つばめがえし”が有効でピーちゃんが雪辱を晴らしてくれた。

 

 でも厄介な敵もどんどん現れた。1番ヤバかったのはかわいい顔して悪戯ばかりするポケモン。“やどりぎのタネ”や“しびれごな”を凄まじい速さで繰り出して邪魔をするだけしまくった後、こっちの攻撃は簡単に全て回避。幸いにもすぐに風に乗ってフワフワどこかへ飛んでいったけど、補助技を使うのが上手過ぎでまともに戦ったら全滅した可能性も否めず冷や汗をかいた。

 

 またある時はモンスターボールと思って触ってみたら実はポケモンで、起こされて怒ってきたポケモンもいた。“キノコのほうし”で簡単に眠らされてヒヤッとすることもあったけど、それを受けたのがリューちゃんで特性だっぴの効果ですぐに起きれたから被害は最小限だった。怖いのは催眠ぐらいなので、あのキノコみたいなやつはくさタイプに耐性があるリューちゃんをメインに対処すればそこまで怖くはないか。

 

 今のところなんとか誰も倒れずに進んでいる。状態異常を直す道具はいくらか消耗し不安になったが、使わないわけにもいかない。何か対策は考えた方がいいかも。探索は日が高くなってきてお昼時になったので、周りから上手く隠れられる場所を見つけて休憩することにした。

 

(ブルー、ここまで来た証として木に印をつけておきましょう。今度もしまた来たらその時にわかるようにしておくのです)

「そうね。じゃあ、1回目の冒険到達点、と。この調子でここからもガンガン進んで行くわよ!」

(ええっ!? ブルー待って! これ以上進むのは危険です。帰りも考えないと。行きしなと違い消耗した中の帰り道は知らない道を進む時とはまた違った危険がある。まだ私達はこの土地のことをよく知らないですし、無理は禁物です)

「でも、こんなに調子がいいなんてそうないわよ。わたし、今日はすごく冴えている気がするの。情報収集も上手くしながら、被害も最小限に留められている。シショーがどうするか必死で考えたら、自然とシショーならこうするっていうのがわかるのよ、今までの経験で。今日ならきっともっと進めるわ!」

 

 本当にわたしはよくやっていると思う。タイプも見たものは全てだいたい絞り込めた。効果的な戦い方もわかりつつある。こっちは慎重に立ち回って戦闘不能による離脱者はゼロ。すぐに攻撃一辺倒になってしまう悪癖も抑えて、今までで1番調子がいい。

 

 それにどうしても先へ先へと進めるだけ進みたい気持ちが強くなっていた。またここまで進めることがあるかは未知数。こんなに調子がいい日はもう来ないかも。なら、進める時にどんどん攻めないとチャンスをみすみす捨てることになる。取り返しのつかないことになって後悔するかもしれない。

 

 色んな気持ちが重なり、ついラーちゃんの言うことに逆らってしまった。でも、ラーちゃんは簡単に折れてはくれなかった。真剣な表情でラーちゃんも食い下がってきた。

 

(ブルー! お願いです、いったん戻りましょう。焦る気持ちはわかりますが無理しないで! ブルーに何かあったら、私は、もう……)

 

 ラーちゃん……! 涙ながらに説得され、さすがに「いいえ」とは言えなかった。ラーちゃんはいつもわたしのことを第一に考えてくれている。そのラーちゃんにここまで言われたら折れるしかない。

 

 でも納得はいかなかった。ラーちゃんはなんでこんなに弱気になるのだろう。わたしが頼りないからなのかな。……昨日の今日だし、そう思われても仕方ないか。

 

 それでもわたしは欲張って、来た道とは別のルートから戻ることにした。またあの親子とかモンスターボールみたいな変なキノコに出くわしたらイヤだと言うと、渋々ラーちゃんも認めてくれた。帰りもピーちゃんとリューちゃんのコンビで快調に進んだ。

 

「順調順調っ! ちょっと日が高くなって暑くなってきたけど、それだけね」

 

 そういえば地球の裏側ならあっちとは季節も違うわけか。これだけ太陽が高いことを踏まえると、季節は夏なのかな。もう1回水着で泳げたりして? シショーが来たらまた一緒にバトルしたいなー。楽しいことを考えてルンルン気分でスキップしていた。するとそんな気分にぴったりのポケモンが出てきた。

 

「あら、また初めて見るポケモンね。うわぁ、すっごいカワイイ! いいなー、ちょっと欲しいかも」

 

 頭に花飾りがついていてドレスを着ているような見た目をしている。目元もクリッとしててベリーキュート。すぐに捕まえたくなったけど、あれは見るからにくさタイプ。同じくさタイプはフーちゃんがいるので諦めた。同じタイプを被らせるのは下の下とシショーに言われていたからね。

 

「ディーアー」

「えっ! もしかしてお辞儀してるの? ヤダー、ホントにカワイイー!」

 

 見とれているとこちらに向かって頭を下げて、見たこともない踊りを始めた。晴れやかな天気だけでなく、ポケモンまでわたし達を祝福してくれているようで、この日、気分は最高潮になっていた。もう気が抜けて頭が真っ白になり、いい気分で一緒にニコニコ笑ってわたしも踊り始めた。しばらく一緒に踊っていると、相手の踊り方が変わってきた。

 

「やだー! おじょーずねー わたしも じょーずに おどれてるー?」

 

 それを見てまたラーちゃんが出てきて警告を飛ばした。

 

(ブルー、様子がおかしいですっ! あのポケモン、能力が上がっていませんか? だんだんあの花踊りの動きも速くなっている……というかブルー、あなた正気ですか?……起きなさい! ブルー!)

「はっ!? だ、大丈夫だから怒らないでっ! い、今の話本当? まさかあれってれっきとした技なの? でも、見たことないわ」

(知らない技なんてさっきまでもたくさんありました。とにかく逃げましょう! あれは危険です!)

 

 いまさらながら自分がどれだけ気が緩んでいたか気づき、一目散に逃げ出した。なんで呑気に踊っていたのよ、どうかしていたわ! 後方を振り返り十分距離を取れていることを確認し、安心だと思ってホッと一息ついて速度を緩め、ふと前に顔を戻せば、いつの間にかさっきのポケモンが先回りして待ち構えていた。驚きで体が硬直した。

 

「うそ、はや…」

 

 はやすぎ、と言い終わる間もなく一筋の光がわたしの横を抜けてリューちゃんに直撃した。完全に気絶している。一瞬の出来事だった。辛うじて“ソーラービーム”を使ったのだと理解はできた。目の前では右へ左へと体を揺らしながらピーちゃんとラーちゃんを品定めしている。急いでリューちゃんをボールに戻し、どうしたらいいか考えた。

 

(そうか、特性です! ブルーがセキチクジムで見たラフレシアと同じ! ひざしがつよいと特性“ようりょくそ”で素早くなり、ソーラービームを連射してくる)

「そういうことか。それにあの踊りで攻撃力、いや、特攻も上がっている。かなりヤバイ!」

 

 迂闊だった! 無邪気にいいお天気を喜んでいる場合じゃなかった! シショーに天候には注意しろと言われたことがある。わたしは何をしているの!

 

「ディアー」

「くっ、まもる!」

 

 次は何? また別の踊りを始めて今度は攻撃してきた。ものすごく速くて強力な攻撃だけど、“まもる”で1回は見れるのが救いね。ラーちゃんもわたしの声に即座に反応してくれた。

 

「ディアー!」

「ジョット!?」

「今度はそっち?! 速過ぎて指示が間に合わない! この不規則な動き、もしかして“はなびらのまい”?!」

 

 要のピーちゃんがあっさり倒れてしまった。一応半減のはずなのに……これだけでも相手の特攻の高さは窺い知れる。

 

「ブルー、“はなびらのまい”は連続で発動する技。しかも使った後必ず混乱します」

「そうよね、だったらその弱点を利用するまでよ。ここはフーちゃん、お願い!」

 

 フーちゃんなら草技は1/4で逆にこっちの“ヘドロばくだん”は効果抜群。特殊勝負ならなおさら有利、フーちゃんの独壇場よ!

 

 壮絶な攻防が始まり、技の撃ち合いになった。合間に“まもる”を挟んで時間稼ぎもしたが、いつまで経っても“はなびらのまい”が終わらない上に混乱もしない。しかも、技の打ち合いで体力の減り方はフーちゃんが押されていて、目に見えて差が出てきた。相性で8倍有利なはずなのに、とても信じられなくて訳がわからなくなっていた。

 

「がんばって! そうだ、ラーちゃんも加勢して!」

(もちろんできれば私も加勢したいですが、フーちゃんの周りを不規則に動くので上手く狙いをつけにくい。同士討ちになりかねません)

「くっ、どうすれば……」

(逃げましょう。ピッピにんぎょうです。これ以上は厳しい。逃げる道具は数が少ないので惜しいとはいえ、ここで全滅しては元も子もありません。ここは出し惜しみせず使うべきです)

 

 悩む暇はない。すぐに言う通りにした。

 

「わかったわ。ポケモンちゃん、これと、遊んでなさい!」

「ディア? ディアーッ!」

 

 ピッピを見つけるとドレディアは大喜びでそれに駆け寄った。良かった。カントーのポケモンだから効果がなかったりしたらどうしようかと思ったけど上手くいったようね。

 

「今よ、フーちゃん逃げるわよ! ラーちゃんも戻って!」

 

 駆け足でその場から逃げた。傍には休んで少し回復したレーちゃんだけ。命からがらの敗走だった。取り戻しかけていた自信もろとも全てブチ壊された。

 

「はぁ、はぁ、とりあえず、これで、なんとか、撒いたわね。助かったわ」

「ハーモッ!」

 

 げ、また出てきた。これはさっきの母親ポケモン! べつの個体でしょうけど、今はピーちゃんがいない。圧勝した分、得ている情報も少ない。このタイミングで裏目なんて!

 

「とりあえずでんじは! そして10まんボルト」

 

 しかし“でんじは”を避けられ、見たこともない攻撃をしてきた。必死の抵抗に見えて大技がきたのかと思わず身構えてしまう。

 

「がんばって耐えて!」

「ジリッ!」

 

 よし、あんまり効いてない。これならゴリ押しでもいける。

 

「10まんボルトよ!」

 

 野生だけあってやはりそこまで賢くないのか、さっきと同じ技ばかり使ってくる。これは助かるわ。でも、こっちの攻撃もあまり効いていないようで、長期戦になってきた。

 

 このポケモン、もしかして防御は低いけど特防は高いのだろうか。レアちゃんはかなり特攻が高いのにここまでダメージが少ないのはいくら半減でもおかしい。

 

「ジリリリリ!」

「ナイス! もう相手もへばっているわね。さすがにもう勝ったかな」

「ハーモッ!!」

 

 わたしも防御と特防の違いが分かるようになってきたかも。これを生かせばかなり優位に勝負できる。そう考えていると、突然力を漲らせて相手が起き上がり、強烈なシザークロスを打ってきた。不意を突かれてレアちゃんは倒れた。

 

「威力が増してる! 何これ、やられかけのポケモンが出す威力じゃないっ。ヤバ、フーちゃん、出て来てヘドロばくだん」

 

 相手がまた接近して“シザークロス”を使ってきた。そこに上手く技を合わせてなんとか倒せた。特殊技なのに1発であっさりと倒れたので少し驚いた。うーん、単に特防が高いというわけでもないようね。やっぱりよくわからないなぁ。でも、考える暇もないので拠点に急いだ。

 

「ブローーーッッッ!」

 

 拠点までかなり近づいたところで今度は最初に見た鹿のようなポケモンに出くわした。こいつなら“あやしいひかり”で簡単に逃げられる。

 

「ラーちゃん、あやしいひかり」

「ラー」

「ブロォォーー!」

「ブロォォーー!」

「新手!? ラーちゃんっ!」

「ラァーッ!」

 

 しまった! いつの間にか前後左右囲まれている! 最初から相手は複数いたのね。最初の奴と合わせて5体か。ここで群れに出くわすなんて! こっちはもう余裕がないし、逃げるしかない。とはいえ簡単に逃走できる状況でもない。周りにも“あやしいひかり”を使わせてみるけどそれでも何匹かはこっちを攻撃してきた。お得意の角を使った攻撃、“メガホーン”だ。

 

「ラァッ!?」

「耐えてっ! れいとうビームよ!」

 

 すごい速さだ。このポケモンも“ようりょくそ”持ちみたい。逃げ切れず、仕方ないのでフーちゃんも出して総力戦になった。恐ろしい速さに翻弄され、フーちゃんはひんし、ラーちゃんも気絶寸前に追い込まれたが、この2体の奮戦でなんとか半分ほど倒した。数が減ったのを見計い、最後はピッピにんぎょうを使って拠点まで逃げた。

 

 逃げて逃げて、なんとか拠点まで無事に辿り着いた。

 

「ふー、助かった。死ぬかと思ったわよ」

「ラー」

 

 テレパシーで答えることもなく、拠点に着いてすぐにぐったりと倒れてラーちゃんは気絶してしまった。

 

「ラーちゃん!! ……くっ! わたしはまた……」

 

 きっとわたしを守るために精神力だけで体を支えていたのだろう。何度も効果抜群の技を受けていたから無理もない。また限界以上に酷使してしまった。ボールの中では回復しないからみんな外に出して今日はまだ明るいけど休むことにした。見張りには温存して残していたソーちゃんに立ってもらった。ソーちゃんに頼んだ後すぐに自分も眠ってしまった。

 




だ~れだ?

感想でみなさんの答えをお待ちしています(笑)


今更ですが鳴き声はもう諦めて雑にしているのでそのつもりで
ゲームの表記を参考にしようにも三鳥が全員「ギャーオ」ってどういうことですか
ミュウツーも鳴き声かわいいですし
ゲームよりはマシだろうと思って割り切りです

ギアナの天候についてですが、赤道辺りなので常夏みたいです。
すてみタックルしてきた鹿はXYとかでは四季がないので春の姿になるそうですがギアナでそれすると変なので夏状態で

新しく出て来たポケモンをまとめておくと

1.鹿みたいなの
2.母親ポケモン(と子供)
3.イタズラしてきたフワフワ
4.モンスターボールきのこ
5.花飾りのヤベー奴

まあポケモンはほぼわかるでしょうが、技は色々ありえるのでわからないかもしれません
ソーラービームとかよく考えたら技マシンなので覚えているのは変だと気づいたんですが気にしないでください

あと特性もそれなりに発動していますね

このペースで探索しているとカントー戻るまで年単位の時間かかりそうです
いったいこの章は何話まで続くのか
同じ展開の繰り返しにはならないように努力します
ただし今までで一番長くなるのは間違いないです


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3.甘嚙みは友愛の情をこめて

 翌日、ギアナ3日目。皆はまだ全快とはいかないようで、少し辛そうだった。全員1体ずついたわってあげた後、ソーちゃんを呼びに表にいくと、驚くべきことにばったりと倒れていた。一瞬ドキッとして心臓が止まりそうになった。早足で駆け寄るが、命に別状はなさそう。気絶しているだけみたい。

 

 キズぐすりで回復させて話を聞くと、なんと昨晩敵襲があったらしい。どうしたのか聞くと、一度戦った顔の赤いポケモンなのでその時と同じようにして“カウンター”で倒したそうだ。この時点ではまだ倒れなかったらしい。

 

 その後疲れて明け方についウトウトと寝てしまったところに、初めて見る大きな耳で白っぽいポケモンにビンタで起こされてバトルになり、倒せるかわからなかったのでみちづれで相打ちにしたのだとか。これには色々驚いた。

 

 まず敵襲が2回もあったこと。これからはもう少し入口のポケじゃらしを増やすべきだろう。これでは安心して眠れない。

 

 そしてソーちゃんが見事に撃退したこと。わたしが指示してしっかり倒しきれた自信はない。ラーちゃんもだけど、わたしのポケモン達はみんなわたしよりも賢い気がする。トレーナーとしては微妙な気分ね。

 

 大事なことなので一度中に戻ってみんなにもこのことは話しておいた。

 

「そういうわけよ。とにかく、今回はソーちゃんがよくやってくれたわ。あなたが頑張ってくれなきゃ今頃わたし達大変なことになっていたわ。最善を尽くしてくれた。本当にありがとうね。でも、今度からは無理せずに敵が来たらわたし達を起こしに来るのよ。あなただけじゃ危ないわ。わかった?」

「ソーナンスッ!」

 

 ホントにこの子はいつもいいお返事ね。ソーちゃんはわたしのことを本当の親のように思ってくれて、いつも言うことをよく聞いてくれる。表情は正直まだあまり読めないけど、意外と甘えたがりなところがあったりしてすっごくかわいい。

 

(きっとわたし達が疲れ果てていたので起こしたくなかったのでしょう。本当に優しい方です。ブルー、これからはもっと余裕を持たせて探索は早めに切り上げましょう。限界まで戦えば夜襲に備えられず、翌日に疲労を残します)

 

 あ、そういうことか。普段あまり表情を変えないけど、ソーちゃんもやっぱりわたしのこと気遣ってくれているんだ。わたしも皆のこともっと大事にしないといけない。焦ってばかりで無理をさせ過ぎている。

 

 それに、今の言葉でようやく気付いた。引き返せと言ったラーちゃんの諫言の意味。あの時は弱気になっているだけだと思っていたけど、真意はそうじゃない。あれはこうなるリスクを理解した上で、余力を残すためでもあったんだ。

 

 そもそも、わたしは気を引き締めようとは思っていてもこのジャングルの本当の恐ろしさを何も理解できていなかった。レベルの高いポケモンが厄介なのではない。未知の敵がいることが脅威なのよ。それこそが最大の難関。そのことをラーちゃんはわたし達の中で誰よりもよくわかっていた。

 

 敵の強さに上限はない。群れと遭遇することもありえる。そこまで考えが及べば決して無理に先へ行こうとはしない。わたしはなんて愚かなことをしていたの。ラーちゃんがいなかったら、もしわたしを諫めてくれなかったら、今頃どうなっていたか考えたくもない……。

 

「ごめんなさい。……反省しているわ。昨日、もしラーちゃんがわたしのことを説得してくれなかったら、きっと調子に乗って全滅していた。焦り過ぎて皆に無理させてしまって、本当にごめんなさい。最後も結局ラーちゃん頼みだったし、全然進歩していない。皆、改めてわたしを支えてくれて本当にありがとう。そしてこれからは素直にラーちゃんの言うことはよく聞くわ」

(ブルー……いいんですよ。失敗は誰しも付き物です。でも、それに気づいて反省することは誰にでもできることではありません。ましてや他人からの諫言など耳に痛く聞き入れることは難しい。それができることがブルーの才能なんです)

 

 わたしの才能か。どうなんだろう。それは違う気もするなぁ。わたしはあんまり人の話をよく聞くタイプではないと思う。ただ、シショーやラーちゃんはよく聞こうと思わせる何かがある。だからこれはむしろラーちゃんのおかげな気がする。

 

「わたしとしてはあんまりそうは思わないかな。褒められたりする方が好きだし、反省とか上手くできないし。でもありがとう。気持ちはちょっと楽になったわ。これからは必要以上に後悔したりしないようにするわね」

(フフフ……ブルーらしい……そうですね。大事なのは失敗してもそれを引きずらないで皆でカバーしあうこと。ここにいる全員ブルーが好きだから頑張れるんです。それに、ブルー自身だってよく頑張っていますよ)

「ラーちゃん……」

 

 テレパシーだからイメージだけど、薄く笑って、始めに何か小声で言った後頬ずりしてわたしを励ましてくれた。ラーちゃんの気持ちがテレパシーを通じて伝わってくる。嬉しくなってラーちゃんにそっとキスした。

 

「よし、今日は昼までお休み! しばらくゆっくりしましょう。みんなゆっくり休んでちょうだい。昨日のことも検討しとかないといけないし、ラーちゃん、また一緒に考えましょ」

(ああ、しあわ……あっ、はい。任せてください)

「ラーちゃん?」

(実は私に考えがあるのですが、この辺りはようりょくそ持ちが多いので、朝夕2回探索に出るというのはどうでしょう? つまり昼はここに戻るということです。真昼の活動は危険です。特に今はレベル上げに専念した方がいいので、近場をグルっと周回して危なくなったらすぐ拠点に戻る感じが理に適っていると思います。遠くに行くのは私達にはまだ早いと感じるのも理由の1つです)

 

 真っ赤な顔からすぐに真面目な表情に変わったラーちゃんの様子にクスっと笑いつつ、わたしも切り替えて真剣にこれからのことを考えた。皆のことを考えればできるだけ無理はしたくないし、とてもいい案のように思える。

 

「なるほど。日差しが弱い時間に動いてお昼はここに戻るのね。ゆっくり一度休憩できるからリスクも減らせる……名案ね。じゃあ今日は夕方に出発しましょうか。やっぱりラーちゃんはさすがね」

(いえ、それほどでは。遠出に関しては曇りの日にすればベストですね。あと、昨日のポケモンのこと、基本的にタイプは皆くさタイプ。ようりょくそ以外は怖くない。ただ、あの花飾りをしているポケモンは非常に危険です。今度からは全力で倒すのがいいです)

「あのカワイイポケモンね。でも、逃げるんじゃなくて倒すの? 大変じゃない?」

(それについても少し考えていたのですが、能力が上がった際のあの妙な踊り……もしかして攻撃耐久素早さ、全て上げているのではないかと思ったのです)

 

 ええっ!? その発想はなかったわ。3つもいっぺんに上げるなんて想像すらしなかった。それが本当ならとんでもない脅威よ! 勝ち目あるの?!

 

「えっ!? そんなっ、3つも同時に上げるなんてありえないわっ! 何かの間違いよっ! “りゅうのまい”でも攻撃と素早さの2つだけなのに」

(ここでは常識は通用しません。それに思い出してください。あのポケモンはずっと“はなびらのまい”をしても混乱しなかった。あれはきっと特性マイペースです)

「あっ、そういえば最初は襲ってこなかったし、マイペースなポケモンだったからならありえる。じゃあ“ようりょくそ”じゃないんだ」

 

 たしかに言われてみれば納得せざるを得ない。突拍子もないようで、ラーちゃんは根拠を持って確信していたんだ。

 

(つまり、速かったのはあの踊りのせい。そして異常に打たれ強かったのもその踊りのせいだとしたら、わかりますね? これから会ったとき、下手に逃げれば素早くなった後追ってきて能力の上昇した状態の相手とバトルになる。なら耐久を上げられる前に全員で攻撃すべきです。あらかじめ、なんの技を最初に出すかも打ち合わせておきましょう)

「そうね。そこまで徹底的にマークすればなんとか勝てるかも。ラスターカノン、でんじは、れいとうビーム、ヘドロばくだん、エアスラッシュでいいかしら。ソーちゃんは念のため待機ね。一応同士討ちの危険を考えて遠距離攻撃だけにしたわ。うまくいけばしびれかひるみを狙えるし」

(そうですね。“あやしいひかり”は効かないので、それでいいでしょう)

「あ、いいこと思いついた。そのまま倒したら仲間にしちゃえばいいじゃない! あのポケモンとってもカワイイし、レベルが高いんだから強力な即戦力になるわ! タイプはダブるけど今わたしってものすごくキツイし、緊急の戦力としては申し分ない! ここのポケモン相手にも案外簡単に勝てるようになるかも!」

 

 強いなら仲間にすればいいという考えは、単純だけどこの時はこの上ない名案に思えた。しかしラーちゃんからの反応は芳しくなかった。

 

(えっ! ブルー……私では力不足ですか?)

 

 見てる方が胸を締め付けられるような寂しげな表情になり、テレパシーも震えているかのように感じた。すぐにしまったと思った。いくらいい案でも言い方というものがある。たしかにこれではラーちゃん達へ不満を持っていると捉えられても仕方ない。

 

「あ……違うの。ラーちゃんは頼りにしているし、もちろん強くてカワイイわよ? でも6体じゃ数が少ないでしょ? 本当にそれだけの理由なの。不満とかあるわけじゃないわ。いつも助けられてばかりなのにそんなこと思うわけないじゃない」

(……すみません。変なことを言ってしまいました。今のことは忘れてください)

 

 しょんぼりするラーちゃん。あのポケモンに夢中になり過ぎていたかも。これまでは仲間を増やしても、今までのメンバーがどう思うかなんて考えたこともなかった。たしかに7体になれば必然的に誰か1体はボックス送りだし、構ってあげられる時間も当然減ってしまう。わたしが新しいポケモンに執心すればやはり不安になるものなんだろう。レッド達はたくさん捕まえているだろうけど、だからって自分まで大急ぎで捕まえ過ぎるのは早計かもしれない。

 

 理想か現実か。わたしはどちらを選ぶべきなのか。6体で強くなる理想を目指すか。たくさん捕まえて現実的な方法で強くなるのか。どうすれば……ラーちゃんにも相談できない。わたしが自分で決めなくちゃ。どうするのが正解なの? どうすれば……。

 

(ブルー、もう日が傾いてきました。そろそろ行きましょう)

「え、ああ、そうね、いきましょうか」

 

 まだ考えがまとまらず生返事をしてしまう。いつの間にかもう夕方だったのね。あのポケモンが出たらどうしよう。いや、迷った心でバトルはできない。いったん忘れよう。それに捕まえるとしてもすぐに捕まえないといけないことはない。花飾りに会った後で考えても遅くはないかもしれない。

 

 ラーちゃんの進言通り浅いエリアで活動すると、ピンチになってもすぐに逃げられる安心感があり、窮屈な戦い方でなく、伸び伸びとした戦い方ができていた。

 

「出たわね、またあんときのむしポケモン! ピーちゃん、つばめがえし」

「ジョット!」

 

 順調ね。皆半日休んで体の調子はいいみたいだし、やっぱり万全のピーちゃんがいるとサクサク進む。今ピーちゃんには“しあわせタマゴ”も持たせているのでどんどん経験値がたまっている。すごいわね。

 

 順調に進んで悩んでいたことが完全に頭から消えかかっていたタイミングであの花飾りが出て来た。

 

「ディアー」

「あっ、出たっ!! 皆、一斉攻撃よ!」

 

 相手がこっちの様子をうかがっている間に問答無用で先制総攻撃。一度目は耐えられたが相手はひるんで、もう一度攻撃して倒した。

 

(ブルー、チャンスです。モンスターボールを)

「え? ラーちゃん……わかったわ」

 

 わたしはもう捕まえるのはやめようと思っていた。たしかに大きな戦力にはなるけど、それで仲間の士気を下げてしまっては意味がない。だからこのメンバーで苦しくても乗り越えようと思っていたが、ラーちゃんが本心かはわからないが促してくれたので、ついそれに甘えてしまった。

 

 コロコロ……カチッ!

 

 ポンッ! エラー! エラー!

 

「え? 何これ、なんで捕獲できないのっ?!」

 

 ボールが弾かれてどこかへ飛んでいった。ポケモンの体力は確かに尽きている。どういうこと?

 

(あっ! ど、どうも捕獲はできないみたいですね。ここはいったん潔く諦めて、次の機会を待ちましょう。ずっとここにいたままでは危険です)

「そうね。起き上がってきたらマズイし、先に進みましょう」

 

 原因はわからないけど捕獲は諦めて探索を続け、時間が来たので拠点に戻った。パソコンで調べてみると、なんとモンスターボールのあずかりシステムがこの辺りに存在しないので、7匹目以降は捕獲ができないらしい。このことは2つの意味でわたしを絶望させた。

 

 まず、1つめは当然これ以上の戦力の補充が一切できないということ。そしてもう1つはこの辺りには人が全くいないことが確定してしまったことだ。カントーでトキワの森に迷いこんでも、近くに町があるからあずかりシステムは使える。だけど、ここはそういうレベルではないということだ。

 

(ブルー、元気を出してください。たとえ近くに人里がなくても、結局やることは変わりません。それに、ブルーは必ず私がお師匠様の元へつれていきます。たとえ地球の半分を渡ることになっても、最悪私がブルーを運びます。だから“私達”と一緒に頑張りましょう!)

 

 ラーちゃんに言われて目が覚める思いがした。もちろん、励まされて助かったのもあるが、気を引いたのは“私達”と強調したこと。

 

 さっき、捕獲に失敗したときもどこか嬉しそうな表情をしていた。それに最初に促してくれたのもラーちゃんだが、すっぱりと諦めるように言ったのもラーちゃんだったし、今も自分が頑張ることを強調している。

 

 ……つまり、わたしを困らせたくなくて一度は捕獲に賛成はしたが、内心ではやっぱり受け入れがたく、快くは思っていなかったということだ。

 

 ラーちゃんの行為が浅ましいとか、イヤな奴だ、という風には思わない。自分にも身に覚えがあったから。セキチクでビーチにいったとき、シショーが知らない人と仲良くするだけで不愉快な気持になった。ラーちゃんも同じだとしたら、むしろ自分はとても酷いことをしてしまったと気づいて後悔した。つい誘惑に負けてモンスターボールを使ってしまった自分を心から恥じた。

 

「ラーちゃん、ごめんね。わたしが悪かったわ。許して……」

(え、どうしたんですか。何かありましたか?)

「ううん、違うの。わたし、これまで何度も助けられて頼りっぱなしだったのに、簡単に他のポケモンに頼りたいなんて言ってごめんね。ラーちゃんもほんとはイヤだったよね。許せなかったよね。わたしのこと幻滅したでしょ。わたしだって同じ事をされたら絶対にイヤな気分になっていたはずなのに、それを1番大事なラーちゃんにするなんて……。だからもう仲間は増やさない。ここを出た後も、このメンバーでリーグに行く。6体そろったんだから、わたしはこのメンバーと頑張ってチャンピオンになる! もう決めた! だからもう心配しないで。絶対に裏切るようなことはしないから」

(ブルー……!! 私の方こそ、くだらないヤキモチを焼いてしまいました。本当は仲間を増やすことが必要なことだとはわかっているんです。でも、どうしてもブルーには私を……私だけを見ていてほしかった。だから今はその言葉がこの上なく嬉しい……感無量です。私も、これまで以上にブルーのために頑張ります。ブルー、やっぱりあなたは私にとってかけがえのない、最高のトレーナーです。私、ブルーが大好きです。本当に好きです)

 

 嬉しそうに何度も好きだと言ってくれるラーちゃん。こんなに目を輝かせているのはシルフで会った時以来かな。

 

「ウフフ、そんなに言わなくてもずっと知ってるわよ。抱きしめたりキスしたりするといっつもラーちゃんすぐに顔が赤くなってるもん。わかりやすいわよ」

 

 言いながら顔に手を回してほっぺにいたずらっぽくキスしてあげると、いつものように顔が赤くなってオロオロした。これまで自分では自覚がなかったのね、きっと。

 

(えっ、私そんなに赤くなっていたんですか! ブルーッッ! いつも気づいていて、それなのに黙って言わなかったんですか! もう、そんなっ、違うんです、これは!)

「今もすごく赤くなってるわよー。別に恥ずかしがらなくても、ラーちゃんだってもっとわたしに甘えてもいいのよ? わたしも大好きだから、ね?」

(ブルー! 大人をからかわないで! もう、ブルーはやっぱり意地悪です。恥ずかしい私の姿を見て笑っていたんですね! 私だってブルーのこと知ってるんですからね! 意地悪ばっかりすると、お師匠様に言っちゃいますよ!)

「え、言うって何を? なんかあるの?」

 

 甘えてもいいっていうのは割と本気で言ったのだけど、ラーちゃんはちょっと怒っちゃったわね。何かわたしのこと知っているって言うけどいったい何のことなの?

 

(ビーチで私はハッキリと確信しましたよ。ブルーがお師匠様を好きだと思っていることを暴露します)

「えっ!? ダメッ! ダメダメッ!」

(あら、ブルー? かわいいお顔がりんごみたいに真っ赤ですよ。図星でしたか?)

「違う! そんなことない! 誤解される! だからやめて!」

 

 頭に血が上っているのが自分でもわかる。思わず言葉も途切れ途切れになってしまった。ラーちゃんめぇー!

 

(必死に否定しちゃって……かわいいですね。いいですよ。じゃあ今はそういうことにしておきます)

「ぶぅー! ラーちゃんだって意地悪じゃない! ……なんかヤーなおねえちゃんが増えたみたい」

(私はブルーのおねえさんになれるなら嬉しいですよ?)

「こんなおねえちゃんはわたしがヤダッ! いーだ!」

「ラー」

 

 最後はなんて言ったかわからない。でも、優しく甘噛みされてラーちゃんの気持ちは十分伝わってきた。口では軽口を叩き合ったけど、わたし達の距離はさらにグッと縮まり、絆はより深くなったと思う。それはこの上なく幸せな瞬間で、わたしはこれからもラーちゃんと一緒にいられることを強く願った。

 




だ~れだ?

感想いつもありがとうございます!
こんなに感想もらえるならこのポケモン当ての企画は恒例にしたい程ですが、ポケモンシルエットは次回でラストです

ブルーの冒険も終わりが近そうですね……

今回は探索少なめなので未知のポケモンは最初のソーちゃんの話に出て来た白っぽい奴だけですね
次の登場で活躍するので(ブルーを苦しめるので)正確にはそこでわかるでしょうがこの時点でも特定はできるはずです











以下次回予告(という名の茶番

やめて! クリムガンの特殊能力でフーちゃんを焼き払われたら、ミュウの超能力でポケモンと繋がってるブルーの精神まで燃え尽きちゃう!
お願い、死なないでブルー! あなたが今ここで倒れたら、私達やお師匠様との約束はどうなっちゃうの? HPはまだ残ってる。ここを耐えれば、ミュウに勝てるんだから!
次回、「ブルー死す」
みんなでポケモン、ゲットです!


※ウソ予告です


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4.残酷な結末はいつも唐突に

 さぁ、今日は4日目。もうこっちでの毎日には慣れてきた。今日も慎重にジャングルを探索し、昼を挟んで2回目の探索。体調は万全。ポケモンの処理も慣れてきて、一度見たポケモンは確実に1匹ずつ攻略法を確立している。レベル上げも軌道に乗ってきて、今までの苦労がウソのようだった。

 

「やっと少し楽になったわね。今までが大変過ぎたとも言えるけど」

(はい。やはりゆっくりとでも慎重に進んで、ここまで辛抱強く頑張ってきたおかげだと思います。ブルーはよく頑張りました)

「えへへ。そうよね、ホント。頑張った甲斐があったわ。……あっ、あれ! あの木、なんかついてない?」

(あれはきのみですね。いいにおいがここまでします。今日実がなったのかもしれませんね。このにおいだと、おそらく食べられるでしょう。食料もたくさんあるわけではないですし、調達しておきましょう)

 

 たくさんきのみがなっている木を見つけて、夢中で駆けよった。どれもおいしそうでよく熟している。久しぶりに新鮮な果物が食べられる! 買いだめしていた保存食やインスタントは飽きてきた頃なのでありがたい。

 

 まずひとつ取って食べてみようと手を伸ばした瞬間、いきなり四方から大量にポケモンが現れて囲まれてしまった。あのヤバイ花飾りや、ようりょくそ持ちの鹿や母親ポケモン、素早い最初の虫ポケモンもいる。あ、赤い顔のドラゴンも。見たことない白いポケモンと仮面ヒーローみたいなのと両手が槍みたいな、ランス持ちの虫ポケモンっぽいのもいる。白いのはソーちゃんが倒した奴かもしれない。

 

「ウソ、何よこの数!」

(うかつでした。私でもにおいを嗅ぎつけたのですから、森のポケモンが気づかぬわけがない。おそらく皆このにおいに誘われてきたのでしょう。ただ、それにしてはタイミングが……今は考える暇はないですね。囲まれてしまいましたし、なんとか総力戦で倒すしかありません。最初から5匹出し切った方がいい)

「腹を括るしかないわね。ソーちゃん以外出てきて!」

 

 まさかここにきてこんな試練が待っているなんてね。やっと慣れてきたと思ったらこれだもの。このジャングルは本当にわたし達を休ませず、飽きさせないわね。……面白いじゃない。

 

(ブルー、いけますか?)

「任せて。こんなヤバイ状況だっていうのに、わたしね、不思議と怖くなくて、むしろちょっと高揚してるみたいで、今は全然負ける気がしないの。たぶんラーちゃんがいるからだと思う」

(実は私もです。私達にかかれば越えられない壁はない。ブルー、派手に暴れますよっ!)

 

 先手必勝! こっちからいくわよ! あの花飾りは特殊能力を上げまくるから、速くて物理アタッカーのピーちゃんに急いで倒してもらうしかない。

 

「ピーちゃんは花飾りを優先的に狙ってつばめがえし! フーちゃんは鹿にヘドロばくだん。レーちゃんとリューちゃんは耐性を生かして攻撃を耐えつつ、足の速い虫と母親ポケモンにでんじはをまいて! ラーちゃんは無理に動かず、残りの手薄なところにできるだけあやしいひかりをまいて足止め、ドラゴンは冷凍ビームで倒して」

 

 全員が弾け飛ぶように動いた。ピーちゃんは踊りを始めた花飾りをそれが終わる前に倒し、フーちゃんは弱点をついて今までの鬱憤を晴らすように敵をなぎ倒し、ラーちゃんも獅子奮迅の大活躍。麻痺と混乱もうまく広がって相手の足が止まり、同士討ちも始まっていた。これならなんとかなりそう。しかし、そんな空気も未知のポケモンによってガラリと変わってしまった。

 

「チラーッ!」

 

 すさまじい速さで高速のビンタを繰り出した。“おうふくビンタ”? 不運にも5回当たってリューちゃんが大ダメージ。さらに仮面ヒーローのような奴が恐るべき速度でリューちゃんに対し続け様に襲い掛かり、リューちゃんはたまらず気絶してしまった。技の反動なのか、体力満タンのはずの相手も倒れたが、とうとう最初の1体がやられた。もともと数は相手が圧倒的に多く、こちらが1つ欠けただけで一気に不利になった。

 

「バナー!」

「カン、コーン!」

「うそっ!? あのポケモンヘドロばくだんをモロに受けて全く効いてない! 鋼タイプなの?! フーちゃん逃げて! あの白いのにギガドレイン!」

 

 どくタイプが無効だったのはランス持ちのポケモン。幸いにも動きは遅く、なんなく距離を取ってから白い奴へ“ギガドレイン”を放ち、上手に回復しつつ倒すことができた。でも遅いとはいえど、フーちゃんが躱した相手の攻撃は後ろの木に当たりばっさりとへし折っていた。もしあの攻撃が当たればひとたまりもないだろう。

 

「ディアー!」

「ジリリ!」

 

 さすがにピーちゃんでも全ては倒せず、残った花飾りが大暴れしている。こうかはいまひとつで技を受けられるレーちゃんでも耐えきれない。花飾りはあと2体。1体は弱っているけど、元気な方は脅威ね。くっ、レーちゃんが倒れた。こうなったら、控えがいなくなるけどソーちゃんで元気な方は“みちづれ”よ!

 

「ソーちゃん出てきて、あのこをみちづれにして!」

「ディーァー」

 

 上手くいった! 弱っている方は隙を突いてラーちゃんが“れいとうビーム”でさばいてくれた。これであれが手がつけられないほど強くなって全滅、というのは免れた。あとは虫系とランス、白い奴の残り、鹿ね。

 

「ピーちゃんは母親ポケモンを。フーちゃんは白いのにギガドレイン。ラーちゃんはあやしいひかり!」

 

 ラーちゃんがうまく相手だけに“あやしいひかり”を当てているおかげでなんとかだましだましで持ちこたえているけど、状況はかなりきつい。フーちゃんが“ギガドレイン”を打ちやすい相手が少なくなっているのが特に厳しい。

 

「チラー!」

 

 げ、また5回!? あのポケモンさっきから最大ばっかりじゃない! 訓練されたトレーナーのポケモンでも難しいはずなのにどういうことなの?! フーちゃんがだいぶ体力を持っていかれた。回復しても厳しい。

 

「ラー?!」

 

 白いのに気を取られているとラーちゃんがランス持ちから強烈なずつきのような攻撃をくらっていた。はやく回復させないと! ラーちゃんは私を守るように近くにいるから直接わたしが回復させられる。

 

「あのランスいつの間にそんなところに! ラーちゃん、オボンの実よ、食べて!」

 

 ランスに痛恨の一撃をくらい、体力が一気に半分以上持っていかれた。残りわずか。きのみを食べさせるためラプラスに駆け寄って直接わたしの手から食べさせた。

 

(ブルー、こんなところまで来ないで! 危険です!)

「どうせ負けたら同じこと、危険は一緒よ! わたしだけ安全なところで見てるだけなんてできない! ラーちゃん、相手は鈍足の鋼タイプよ。ハイドロポンプなら良く効くはずだわ! 距離をとってハイドロポンプで攻め続ければ倒せる」

(なるほど、その手がありました)

「ラー!」

 

 よし、いいダメージね。倒す程じゃないけど、これなら勝負にはなる。こっちは遠距離攻撃できているのが大きい。

 

「バナー!?」

「しまった! くっ、戻って!」

 

 今度はラーちゃんにかかりきりになって向こうが手薄になっちゃった。もう、あっちもこっちも全部対応しきれない! 相手はあとまひ状態の速い虫2体、ランス1体、白いの1体、鹿1体。最初何十といたことを考えるとこれでもだいぶ減らしたわね。それに虫が麻痺していて脅威じゃないのが大きい。今なら逃げることもできるかも。ただあの白いのが虫並みかそれ以上に速いので逃げ切れなければ追い打ちをくらう危険はある。どうする? どうすべき?

 

「ジョット!」

 

 指示を催促される。迷う暇はない。とりあえず白いのを攻撃して上手く倒せたら逃げよう。

 

「白いのに攻撃して!」

 

 “つばめがえし”を当てるも耐えられた。連戦で疲れが出たのか、キレがない。相手がお返しとばかりに反撃して……あれは、“ロックブラスト”!? ウソでしょ!? ノーマルタイプ目に見ていたのに、なんで岩技なんか使えるの?! 

 

 少なくともいわタイプは“ギガドレイン”の効きかたからして持っていないはずなのに! ああ、しかもまた連続攻撃が5回ヒット! 当然ピーちゃんは耐え切れずダウン。くぅ、ホントにもう後がない! 正真正銘残りの手持ちはあと1体になってしまった。

 

「わたしのバカ! ピーちゃんなら鹿や虫を倒せたのに、逃げること考えて無理させちゃった。なんでこんなことしちゃったんだろ……」

 

 最後の最後で指示を誤った。焦っていたと言い訳はできる。でも倒れたピーちゃんはもう立てはしない。相手の強さに気圧されて、気づいたら弱気になっていた。最初はそんなことなかったのに……。攻撃の要を失い、敗北の二文字が脳裏をよぎった。

 

(仕方ありません。苦戦しながらむしろよく戦ったぐらいです。ブルー、あなたはここから逃げなさい。私がこのポケモン達を命に代えても足止めしてみせます。さぁ早く)

 

 いきなりそんなことを言われて、“かみなり”に打たれたかのような物凄いショックを受けた。なによりもそんなことをラーちゃんに言われたこと、いや、言わせてしまったことが情けなく、そして別れることを考えただけで胸が張り裂けそうなほど辛くなった。

 

「何言ってるのっ!! イヤよっ、ラーちゃんだけ置いていくなんてできない!!」

(甘ったれないでブルー!! 私の言うことを聞きなさい!!)

「っ!」

 

 凄まじい迫力に、思わず言葉を飲み込んでしまった。ラーちゃんは“あやしいひかり”で敵と距離を取りながら器用にテレパシーを送った。

 

(最初から私は覚悟の上です! 誰かが犠牲になるしかないことなんて、生きていればこれからいくらでもあります。別れなんていつも唐突に来る。それを越えて行かないと前には進めない。ブルー、あなたは進みなさい。今あなたは逃げるんじゃない。前に進むんです! 私もそう長くは持たない! もう猶予もない! だから早く行きなさい! 迷わず、振り返らないでっ! さぁ、早く!!)

 

 初めて強い口調で叱咤され、思わず頷いてしまいそうになる。たしかに以前、洞窟の基地ではラーちゃんの言うことは素直に聞くと言った。その気持ちは変わらない。だけどわたしにも譲れないものはある! だから、どんな言い方をされようと大事な親友を見捨てることはできない。ラーちゃんを見捨てるなんて選択肢、わたしには絶対に選べない!

 

「イヤよ。絶対にイヤッ!! あなたが動かないならわたしも戦う! 最後まで一緒に戦い続ける! 誰かを犠牲にして生き延びるなんて絶対に間違ってる! そんな簡単に諦めないでよ! 完全に勝ち目がなくなったわけじゃない。諦めなければまだ勝つ方法はあるはずよ!」

(ブルー……!! この大バカッ……なんでそんなことを……! 現実はいつも残酷で、否が応にも別れないといけない時もある。私だって悲しいのに……どうしてわかってくれないの! 大人になりなさい!)

「ばかでいいもん……! わたしは、皆一緒に帰りたいの! わたしが歩む道はラーちゃんと一緒でないと進めない。誰が欠けてもダメなの! もちろん、ラーちゃんの言いたいことはわかっているわ。でも、誰かを犠牲にするぐらいなら、わたしはここで死んでもいい。どうしても何かを犠牲にしないといけないなら、わたしはわたしの命をかける! 一緒に戦って死ぬなら本望よ! これ使って!」

 

 スペシャルアップで特攻を上げ、その間ピッピにんぎょうで注意を逸らした。複数相手じゃ逃げ出すのは難しいけど気を反らすことはできる。ラーちゃんの言葉で逆にわたしの覚悟は決まった。もう焦りもない。怖くもない。勝つことだけに集中できる。

 

「わたしだって戦える。絶対にひとりぼっちになんかさせない。さっさとこんなのやっつけて、皆できのみパーティーするわよ。ラーちゃんには1番たくさん食べさせるから覚悟してね」

(……ブルー、後でお説教ですよ)

 

 ……ラーちゃんが認めてくれた! ここに残って一緒に戦ってもいいみたいね。

 

「ラーちゃんに怒られるのは……ちょっと本気で怖いわね。きのみと一緒にミックスオレもあげるから許して?」

 

 感情が表に出て自然と笑みがこぼれた。こんな死地に残ろうとしているのに嬉しいなんて、我ながらわたしって変ね。

 

「飲みながら叱ってあげます。いきますよ!」

 

 ピッピにんぎょうで気を逸らしている間にさらに回復させ、これで体力は半分以上ある。わたしが能力もさらに上げて防御と特攻をもう1段階強化しておいた。もう手元のピッピにんぎょうはなくなった。逃げる選択肢は完全に消えて、これで本当に崖っぷちに追い込まれた。

 

 まずは挨拶代わりの“れいとうビーム”。一撃で鹿を倒した。さっきまでとは火力が違う。今度はこっちに注意が戻ってむしポケモンが向かってきたが動きは遅い。ここに辿り着く前に“れいとうビーム”で2匹とも倒した。残りは初めて見る白いのとランス持ち。

 

「チラー!」

「避けるのは無理よ、頑張って耐えて!!」

 

 連続ビンタの猛攻。1回、2回……早く終われと念じるが、またしても5回ヒット。でも、ラーちゃんは耐えきった。

 

「いっけぇぇー!! ラーちゃん!!」

「ラァァァァッッ!!」

 

 至近距離からの“れいとうビーム”で勝負あり。これも倒した。防御も上げたのが生きたわね。

 

「カン、コーン!」

「まもるよ!」

 

 またいつのまにか近づいて攻撃してきた。ラーちゃんはわたしを信用して攻撃を確認せずに技を使った。おかげでギリギリ間に合った。

 

「すぐに左へ! まずは距離を取りましょう! そこからハイドロポンプ攻めよ!」

 

 ところが、近距離物理タイプと思ってたこのポケモンが遠距離攻撃を仕掛けてきた。なんかすごいさざめいてる!

 

「ラァッ!」

「大丈夫?!」

 

(問題ありません、ほとんど効いていませんから。特殊耐久はお師匠様のお墨付き。半端な攻撃は効きません)

「さすがね。よし、決めちゃって!!」

「ラーッ!」

 

 渾身の“ハイドロポンプ”で見事に最後の1体も倒すことができた。わたし達勝っちゃった。あんなに絶望的な状況から、なんとかなっちゃった……。やった……! やったんだ!

 

「ラーちゃん、やったよ、わたし達勝った勝った! 勝っちゃった! 時間稼ぎしたとはいえ5体相手に勝つなんてラーちゃんホントにすごいわ! 最初なんてもう何十匹いたかわかんないのに」

(ブルー、やりましたね。最後まで一緒にいてくれてありがとう。結局あなたの言う通りでした。こうして勝てたのはあなたのおかげです。私ですら諦めてしまったのに、あなたは最後まで命を張って諦めなかった。それが勝利を引き込んだ。やっぱりブルーは私なんかとは違う。あなたはトレーナーとして最も大切な資質を持っている。絶体絶命の土壇場でも決して曲がらない不屈の闘志、諦めない心。私がでしゃばるのもおこがましいことだったのかもしれませんね)

「いーのいーの、もういいっこなし。これからも一緒にいれるんだから、これ以上のことはないわ。早くきのみを摘んで拠点に戻りましょう。いや、その前にラーちゃんとピーちゃんを回復させるわ。さすがにこのままじゃ帰れないし、もうこの辺りで増援に来るポケモンもいないだろうから回復する時間はあるでしょうし」

(そうですね。早く戻りましょう)

 

 手当を開始してまずはラーちゃんを回復させ、次はピーちゃんを手当てしようとした時、辺りの雰囲気が一変した。さっきまでとは明らかに違う。木々がざわめいている。肌が粟立ちそうな感覚。これは……何か来る!

 

 突風が吹き荒れ、ジャングルの奥から何かがこちらにやって来る。宙を浮いたままゆっくりとこっちに移動しているのが見える。あれは……わたし達をここに連れて来た全ての元凶。幻のポケモン、ミュウ! 少女姿で妖艶な笑みを浮かべてわたし達を見澄ましていた。絶望的な状況。最悪の敵。わたしは脱力してぺたりと膝をついてしまった。

 

「ブルー……見ぃつけた」

 

 ミュウの言葉にゾクリと背筋が凍りついた。わたしはもうダメかもしれない。

 




だ~れだ?

これがラスト!
今回の新登場ポケモンはペアで登場、仮面ヒーローとランス持ち
ペアっていうのが最大のヒントです
ランス持ちは呼び方他に思いつかなかったので仕方なくこう呼んでいます
名前を知らないポケモンの呼び方は難しいですね

他は全部どこかしらで一度は出ましたね

ラーちゃんがブルーを諭すときのセリフは自分の過去を思い出してのものです
ロケット団に捕まった時も今回同様仲間を逃がして群れから引き離された苦い思い出があります




ラーちゃんとは異なる「最後まで一緒に戦う」という選択をして窮地を乗り越えたブルーの行動は、ラーちゃんの過去の残酷な結末を払拭することにもなり、自分にはないブルーの可能性を感じてラーちゃんに大きな希望を見せることになりました

しかし、孤立無援のギアナでやっと見つけたラーちゃんの小さな希望はたやすくかき消されます
現実はラーちゃんの想像以上に残酷な結末を用意していました

 ラスボスミュウ降臨!!

手持ちで戦えるのはラーちゃん1体のみ
果たしてミュウに勝てるのか?
ブルーはここで終わってしまうのか?
4日目なのでシショーの助けは間に合わない……
どうなるブルー?

次回「けっせん! ミュウ!」 
みんなでポケモン、ゲットだぜ!

※本当の予告です

今回は前回アレやったので真面目にしてみました
ラプラスの心中を本編で書くタイミングもないのでここで補足の意味も
予告はもうしません


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5.けっせん! ミュウ!

「ブルー遊ぼう?……なんちゃってね。お久しぶりなの。今日までなんとか生き残れたみたいね。だらしないトレーナーだと思っていたのに、ちょっと見直したの。みゅーの仕掛けたモンスターハウスに引っかかって勝ち残るなんてびっくり。みゅーでも全部倒すのはちょっと大変なのに。ドレディアを先に倒したのはいい判断だったと思うの」

「あなたが仕組んでいたの!? しかも最初から見てたの……? どうして……」

「だって見てるの面白いもん」

 

 楽し気にしゃべりながら地面へゆっくりと足を下ろした。始めは無邪気に見えた笑顔も、今となってはただただ恐ろしい。完全にわたしは相手の雰囲気に飲まれていた。そもそも相手は万全の状態のシショーを簡単に一蹴した化け物。わたし如きでどうこうできる相手じゃないことは明白。その事実がより一層わたしの恐怖を駆り立てる。

 

 そのうえ最初は様子見を決め込んであえて自分は攻撃せずにひとり高見の見物。いつでも勝てる自信があるに違いない。しかもこの程度の罠、自分なら1体で破れるとまで言っている。これでは勝負にもならない。もう助からないだろう。わたしはラーちゃんとの別れを悟って静かに涙を流した。

 

「ごめん、さよならラーちゃん」

「ラアアァァーーッ!!」

 

 ラーちゃんがわたしの前に出て威嚇するように大きな鳴き声を上げた。テレパシーをしようとしてもできない。遮断されている。完全に戦うことに集中している。ラーちゃんからここまで交信拒否されたのは初めて。きっとわたしを守るために死力を尽くす覚悟だ。もう体は連戦でボロボロなのに……。

 

「心配しなくていいの。みゅーは戦いに来たわけじゃない。だからそんなに怖い顔しないでほしいの」

 

 信じられないことを言いながらこっちに近づいてきた。ラーちゃんも当然信じられないようで牽制するように“れいとうビーム”を放った。相手の足元に横一線に冷気が残った。おそらくこれ以上近寄るなという意思表示なのでしょうね。幻のポケモンはつまらなそうにそれを見た後、構わずその一線を踏み越えてラーちゃんに近づいた。

 

「ラァーッ!!」

 

 足が線を越えて地面についたその瞬間、ラーちゃんは素早く“れいとうビーム”を繰り出した。それを予測していたかのように幻のポケモン、ミュウもこれを躱し、あっちも技を出して応戦してきた。あれは“でんじは”! 当たれば一気にこちらが不利になり形勢が傾いてしまう。しかし、ラーちゃんはこれも読んでいたのか、“しんぴのまもり”を未然に使ってこれを凌ぎ、さらに“あやしいひかり”を放って逆に相手を状態異常にかけようとした。

 

 怒っていてもラーちゃんの読みは的確。わたしより冴えている。きっと思考だけは冷静さを保っているんだ。わたしが指示するまでもないわね。今有効な道具も尽きていて何もできない自分が恨めしい。

 

「すごいの。あなたもバトルが上手なのね。楽しい」

 

 余裕を感じる笑みを浮かべ、ミュウは知らない技を使ってきた。マジックミラーのようなものが出てきて……“あやしいひかり”が跳ね返ってきた!? “しんぴのまもり”でこっちに被害はないけど、補助技を跳ね返すなんておっそろしいことするわね……。幻のポケモンってこんなことまで出来てしまうの!?

 

 補助技では勝負がつかないと見るや、2体共今度は力勝負とばかりに動き出した。ラーちゃんは得意の“れいとうビーム”を放った。紛うことなき渾身の一撃。これならいけるかも! ……しかし、後から出したミュウのサイコキネシスはあっさりとそれを受け止めた。後出しなのに押し負けていない。つまり純粋な威力は相手が上。完全に相殺され驚くわたし達。ミュウはクスクスと笑うだけ。

 

 今度は威力重視で“ハイドロポンプ”を使った。しかしミュウはその軌道を完全に見切って最小限の動きで躱し、素早く“サイコキネシス”で反撃した。

 

「ラーッ!!」

「ラーちゃん!?」

 

 避けられずモロに受けてしまった。素早さも全然違う。ラーちゃんは耐えているけど苦戦を強いられてさすがに渋い表情だ。どう攻めても簡単にいなされる。お願い、なんとか頑張って!

 

「もっと楽しませてよ。あなたならこの程度で倒れないでしょう?」

「ラァァッ」

「させない」

 

 ラーちゃんが息を吸い込んだのを見てミュウは“ちょうはつ”してきた。まさか補助技読みの“ちょうはつ”!? そんな……ウソでしょ……これじゃシショー並の立ち回り。こっちの行動が悉く読まれている。どうすればいいの……。

 

 これがエスパーの力だとでも言うの? どうやってこんな化け物に勝つの? 何をしてもダメ。勝てるビジョンが見えない。じんわりと私の心に絶望が広がる。

 

「ラァァ……」

「残念だけどそれはダメ。ほろびのうたはさすがにみゅーでも耐えられない。ちゃんと攻撃して勝負して。でないと面白くないの」

「ラーーッッ!」

 

 今度は“ぜったいれいど”を連続で放つが、相手はテレポートで全て簡単に躱した。距離を取ったミュウは顔をよく見ると何か“わるだくみ”でもしていそうな表情になっている。今度は何を考えているの? 

 

 いや、そんなことわたしが考えてもわかりはしない。もっと他に考えるべきことがある。とにかく、今大技は絶対に当てられない。当てやすい攻撃を使うしかない。ラーちゃんもそれを悟ってすぐに“ふぶき”に切り替えた。これなら逃げられないかと思ったが、今度は“ねっぷう”で簡単にいなされた。

 

「ラァッ!? ラーーッッ!」

「みゅみゅみゅ。もうおしまいね。楽しかったの」

 

 諦めずに“れいとうビーム”を使うがミュウの“サイコキネシス”はそれを容易く貫通してラーちゃんに直撃した。……尋常ではない威力! さっきまでとは比べ物にならない。まさか今までは本当に遊び半分で手を抜いていたの!? ラーちゃん頑張って耐えて! 

 

 ラーちゃんは吹っ飛ばされないように技を受け止めてわたしの目前で踏み留まった。なんとか耐えきってくれたと思い一瞬わたしは喜んでしまった。でもそうじゃない。わたしを巻き込んで飛ばされないようにギリギリで堪えていただけ。ラーちゃんはもう限界だった。ガクガクと震えながら苦しそうにうめき声を上げ、そのままゆっくりと地面に倒れこんだ。

 

 わたしのためにこんなになるまで……。ラーちゃん、ラーちゃん、ラーちゃん……!

 

 その姿に涙が出て、思わず叫んでしまった。

 

「ラーちゃーーん!!」

「これでわかったでしょ? みゅーはとっても強いの。あなた達ではみゅーには勝てない。そもそもここはみゅーのお庭。あなた達を倒すぐらいわけないの。やろうと思えばいつでもできる。だからおとなしくしてね」

「ラーッ!」

「まだ動けるの? けっこうタフね。ちょっとそのまま止まってて」

 

 ラーちゃんまだ動けるの?! もうやめて、起きないで! 無情にもラーちゃんは“ねんりき”で動きを封じられ、苦しそうに身を捩るけどミュウの力が強くて全然抗えない。そしてミュウがゆっくりとわたしに近づいてきた。

 

 ど、どうすればいいの? せめてラーちゃんだけでもなんとかできないの? しかし体は固まってしまい、頭は真っ白になってしまった。

 

「ラァァアアアア!!」

 

 ミュウが動けないでいるわたしに触れようとした瞬間、ラーちゃんが再び覚醒した。雄叫びを上げて“ねんりき”を振り払い、油断したミュウに渾身の一撃を叩き込んだ。ラーちゃんにできる最も速く最も鋭い一撃、“れいとうビーム”!! 相手は声に気づき反射的に半身になって避けようとしたけど、完全には躱し切れずに攻撃を受けて体の左側はほとんど凍り付いた。すごい、まともに攻撃が通った! ラーちゃんはまさに逆鱗に触れたように怒り狂っていた。

 

 もしかしたらこのまま押し切って勝っちゃうなんてことも……。

 

「もう! なんでそんなに怒るの! ちょっと気絶してて!」

「ラァァーー!?」

「ラーちゃんっっ!!」

 

 何してるの?! ダメ!! やめてっ!! 

 

 容赦ない“10まんボルト”を浴びせられ、断末魔の叫びを上げてラーちゃんが今度こそ瀕死になった。なんてことを……ひどい。これじゃもうダメだ……。負けた……。完全に負けた。このポケモン、やっぱり強い。本気のラーちゃんでも歯が立たないなんて。こんなことってあるの? 必死で戦い続けてここまで勝ち残って、それなのにこんなあっさり負けてしまうの?

 

 だけど悪夢はまだ覚めない。突然鈴の音が響き渡ったと思ったらミュウの氷が勝手に溶け、さらに体も勝手に修復してみるみる回復していった。あっさりと、本当に何事もなかったかのように全快に戻ってしまっている。ラーちゃんの必死の攻撃がものの少しの時間でこんなに簡単に無になるなんて……ば、化け物過ぎる!! 絶望という言葉でも生温い。もう打つ手が全くなくなった。

 

「こんなことって……こんなの反則よ」

「ラァ……」

 

 もう“ひんし”状態のはずなのにラーちゃんはまだ動こうとした。なんでそこまで……。

 

「まだ動けるの? 呆れたしぶとさね。本当に耐久力だけはみゅー以上。もっと攻撃されたい?」

 

 バチバチと手元で電撃をチラつかせながら脅してきた。脳裏にラーちゃんがシルフで電撃の拷問を受けていた時の姿が蘇った。もうあんなの見たくない! 絶対に!

 

 固まっていた体がようやく動いた。自分が身代わりになって攻撃を受ける覚悟で2体の間に割って入った。

 

「やめて!! もうこれ以上攻撃しないでっ! わたし達はもう絶対に攻撃しない。だから許して! すでに戦う元気は残ってないわ! これ以上無意味にラーちゃんを苦しめないで……お願い!」

「……最初からそうすればいいの。みゅーは戦う気はないって言ってるのに。ちょっとそのラプラス、みゅーに見せて」

「何する気っ!? これ以上苦しめないで!! もうたくさんよっ!!」

「安心して。回復させてあげるだけだから」

 

 何をしたのかわからないけど、ミュウが手を触れたらラーちゃんがみるみる回復していった。反対にミュウは少し苦しそうにしていた。

 

「何よこれ、こんな技見たことない。それに、あなたは苦しそうだけど大丈夫なの?」

(これは……いたみわけですか。あなた……いったい何の真似です? まさか敵意がないというのは本当なのですか?)

 

 ラーちゃんは傷が癒えるのを見て驚き、怒りを鎮めた。テレパシーも通じる。こんなに急に態度を軟化させるなんてどうしたの?

 

「当たり前なの。あなた、このトレーナーのことが大事なのはわかるけど、もう少しみゅーの言うことも聞いてほしいの」

「ねぇ、そのいたみわけってなんなの?」

 

 ラーちゃんに“いたみわけ”が何か聞いてみたらミュウがそれに答えた。

 

「使った相手と自分の体力を同じになるようにやりとりするの。100と200で使えば150ずつになるというふうに」

 

 そんな変わった技があるのね。見たこともない技をいくつも使えるなんて、ホントにこの幻のポケモンはいろんな技が使えるのでしょうね。

 

(つまり、今はミュウさんの体力がそっくりそのまま明け渡されているわけです。自分を傷つけてまで私を回復させているのですから、敵意がないとしか考えられません)

「じゃ、じゃあ、わたし達ホントに助かったのね! ふあぁ……良かったぁ。もう完全にダメだと思ってた。ラーちゃん……わたしのために戦ってくれてありがとう……」

「ラー」

 

 ミュウが現れて本当に諦めていた。絶望的危機からの生還。こんなの今までで何度目だろう。わたしって本当に悪運だけはシショーにも負けていないと思う。ギュッと喜びを噛みしめながらラーちゃんを抱きしめた。

 

「みゅー。もういい? みゅーのこと忘れてない?」

「あ、ごめんなさい。あなたは体力減っちゃって大丈夫なの?」

「みゅーはじこさいせいできるから。ちゃんとお話聞いてくれるなら安い代償なの」

(すみません。でも、いきなりこんなところへ連れてこられているのに、会ってすぐに信用しろという方が無理な話です。あなたはなぜブルーを誘拐したんですか?)

 

 それは気になっていた。そもそもこのポケモンはなんでわたし達につきまとうのだろうか。

 

「それは……。聞きたいなら後で話してあげる。今はここを離れた方がいいの。倒したポケモンもそのうち目が覚めるだろうし」

「そうね。でもきのみが……」

「これでいいの?」

 

 “ねんりき”できのみを一気に集め、わたしのバッグにしまいこんだ。エスパーって便利ね。

 

「じゃあ、わたし達の拠点に戻るわ。あなたもついてきてくれる?」

「わかったの。帰りの護衛はしてあげる。みゅーは強いから安心して」

 

 その言葉通り圧巻の強さだった。さらに強いだけではなく、全てのポケモンに的確に弱点を突いて一撃で倒していた。この子、かなりレベルが高そうね。わたし達は楽々拠点に辿り着いた。

 

「着いたわ、ここよ。いつもわたし達はこの中で休んでいるの」

「じゃあ傷ついたポケモンを出して。みゅーが全部治してあげるから」

 

 あっという間に皆完治した。治療されたこともあり、皆ミュウへの警戒をいったん解いた。

 

 ようやくお互いに話ができる状態になったのでゆっくりミュウの話を聞くことにした。

 

(じゃあ、話してもらえますか? ミュウさんは何の目的で私達をこんな目に?)

 

 いきなりズバッと切り込んだわね。前置きもなし。

 

「あなた達をここに呼んだのは……レインをここに自分から来させるため。ひみつのへやでレインと約束したの。ブルーを取り戻したかったらみゅーのハウスまで来てって」

「シショーを呼ぶため?」

 

 わたしをつれてきたのがシショーを呼ぶためってことは今のわたしは人質なの?

 

「そうなの。みゅーはずっとテレパシーでみゅーのハウスに来てって言っているのに、レインは全然来てくれないの。波長はあっているから、いつかは必ず来てくれるはずなのに」

 

 波長とかいうのはよくわからないが、思ったよりあんまり悪気とかはなさそうに見えた。でも、ラーちゃんは油断なく次の質問を続けた。

 

(ですが、これまで水柱で襲ってきたり、敵対的な行動が目立ちます。それは何の大義があったというのですか)

「そういえば、今まで襲ってきた水柱もあなたの仕業なのよね。あれはなんだったの?」

「それは……だって、レインは強いし、遊んでほしかったから、ちょっとイタズラしただけ。最初はちょっと嬉しくって張り切り過ぎちゃって……みゅーもちょっとは悪かったと思っているの。あなた泣いてたし……みゅーはただ、みゅーが強いってところ見せたくて。みゅーのことよく知ってほしくて。レインは傷つけちゃったけど、でも、ちゃんとレインはみゅーが治してあげたんだからいいでしょ?」

「ええーー!! あれはじゃれてただけってこと?! しかもあの異常な回復はあなたの仕業だったのね! 今までずいぶん好き勝手していたのね。じゃ、なんでシショーに拘るのよ。きまぐれ?」

 

 もしかして……この子、一見怖そうに思えるけど、実はそんなに悪い子じゃなくて、ちょっと力が強過ぎるだけで性格はいい子なのかも。あれは今でもトラウマレベルだし、簡単に許せることではないけど。

 

「ううん、みゅーは最初からずっと見ていたの。ある日突然みゅーのエスパーの予感がビビッときて、すごくおもしろいトレーナーが現れた気がしてここからカントーへ向かったの。みゅーはハウスとひみつのへやはすぐに行き来できるから。そしたらレインを見つけたの。目立つオーラだったからすぐレインがみゅーの予感した人だってわかったの。それで……あのね、じつはね? レインってみゅーと波長が全く同じなの! みゅふーっ! それでね、レインはいつもすっごくてかっこよくて、タマムシにいる時からいつも華麗にバトルに勝って強くなって、どんどん仲間を増やして、みんな仲良く旅をしていたの。みゅーはトレーナーと一緒にいたことがないからとっても羨ましかった……。だからずっとみゅーは遠くから見ていたの。でも、ある時あなたが現れた」

 

 夢中で話し続けるミュウちゃん。よっぽどシショーのこと気に入ったのね。ここまで入れ込んでいるところ見るとちょっと怖い気もする。好き過ぎて攻撃するってどうなんだろう。

 

 話の途中、ミュウちゃんがわたしのことを話す時、急に声のトーンが落ちた。ちょっと背筋がゾクッとした。

 

「わたし? ……おつきみやまの近くのこと?」

「いつ仲間になったかは知らない。ちょっと目を離していたの。でも、ニビで仲良さそうにしていた。レインにはみゅーがいるのに……。だから試してみたの。そしたらあなたがとても大事にされていることはクチバとサイレンスブリッジではっきりわかった。だから、あなたをつれてくればレインは自分からここに来てくれると思った。それに、レインはバトルが強ければ仲間にしてくれるの。だから技の練習も一生懸命して、たくさんポケモン倒して強くなって、しっかり作戦を考えてからレインにバトルを挑んだ。ひみつのへやではバトルして、みゅーが勝ったの。非常手段を使うことにはなったけど、レインは手段とかは気にしないしたぶん大丈夫なの。勝てた時はホントに嬉しかったの。今まで簡単に勝てる弱い相手としか戦ったことなかったから楽しかった。レインがブルーに教えていたこと、みゅーも試したらどんどん強くなれたの。レインは他のトレーナーとは違うの。オーラが普通じゃないから最初からそう思っていたけど」

 

 最初は不機嫌そうだったけどだんだん嬉しそうに話し始めた。案外わかりやすい性格ね。やっぱり裏表がなくて、根は良い子なのでしょうね。とはいえ、さすがにずっと見られていたというのは驚きだった。

 

「特訓している時も近くにいたの? 気がつかなかった。でも、バトルしたいなら普通に挑めばいいじゃない。あなた程強ければ仲間にだって喜んで迎えるでしょうし」

「レインはサンダーと戦った時、レベルがみゅーと同じで、ものすごく強いサンダーを捕まえなかったの。きっと能力が高くても簡単に負けたら仲間にしないの。だから、仲間になるにはみゅーが勝って認めてもらうしかないの。じつはね、ここに来たらね、またバトルしようってレインに言ってあるの。そこでもう一度、今度は面と向かってバトルして勝てたら、今度こそみゅーを仲間にしてもらうつもりなの」

 

 サラッと言ったけど、サンダーってフリーザーと並んで伝説に数えられているあれよね。シショー凄過ぎ。

 

(ミュウさん……あなた、やっていることがずいぶん空回りというか、遠回りというか……仲間になりたければ、普通に頼めば断りはしないと思いますが。お師匠様はポケモンには目がない方ですし、イナズマさんへの対応などを見るにかわいいものには弱そうですよ。あなたはポケモンの私から見てもかわいいのできっと大切にしてもらえると思います)

「みゅー……でも、レインはグレンを捕まえるとき運命的な出会いがしたいって言ってたの。だからこれぐらいはしないとダメ。だいたい、こんなに波長が同じで、みゅーはいつもレインのことを考えているのに、レインは全然みゅーのこと気づいてくれないし。ずーっと何度も何度もハウスに来てって言ってるのにいつまで経っても来ないもん。そのせいでポケモン屋敷に来るまで待つことになったの。だからその分、今度は自分でここまで来てもらうの!」

「そんな、無茶よ。あなたはエスパーだからなんでも出来ても、シショーはあれでも一応普通の人間なんだから」

「何を言ってるの? レインは超能力が使える歴としたエスパーさんなの。ひみつのへやで波動を使ってみゅーのこと調べてたから間違いないの」

 

 ええええーーっっ!!! ウソでしょ!? いや、ちょっと待ってよ? そういえばナツメさんにはサイコトレーナーなの?って言われていた気がする。シショーポケモン説とかも出たけど、まさかここに来てシショーエスパー説が有力になるなんて! でも、さっきからちょくちょく出てくる波長とか波動とか、その辺がよくわからない。エスパー用語なの?

 

(お師匠様……やはり只者ではなかったのですね)

「わたしは波動とかはよくわかんないけど、ホントにシショーはエスパーで間違いないの?」

「エスパーにはみんな必ず特異な能力が備わるの。カントーで有名なのは、あなたも戦ったナツメ。あれは予知の能力持ち。みゅーはへんしんとテレポート。普通の技とは別に、こうやって人間になったり遠くまで一瞬で移動したりできるの」

「へー。たしかに普通のへんしんは人間にはならないし、ずっと維持はできないもんね。じゃあ、シショーは何の能力なの?」

「知らない。あんまり自分の能力に自覚がないみたいだし。でも、みゅーを調べるような感じはたしかにしたの」

「ふーん。でもいいなー。わたしもエスパーだったらなー」

「……そんなにいいものじゃないの。特異な能力なんてあっても他人から嫌われやすくなるだけ。差別の対象になるか、恐れの対象になるのが関の山。いつも必ず周りから壁を作られる。そしてエスパーは痛いほどハッキリとそうした感情を感じ取ってしまう。たまに近寄ってくるのはこの能力を悪用しようとする悪い人間だけ。だからエスパーの中には自分の能力を隠している人も多いの。誰だってすきこのんで疎まれたいとは思わないの」

 

 それを聞いてハッとした。そういえばシショーはあんまり詮索はするなと言っていた。それってエスパーなことを隠すためだったんじゃ……。だとするとこれ以上知り過ぎるのはマズイ気がしてきた。

 

(だいたいみゅーさんのことはわかりました。幻のポケモンですし、孤独なところもあったでしょうから、お師匠様と一緒に遊びたかった気持ちはわかります。あなたがお師匠様をどう思っているかも理解しましたし、仲間になることを応援こそすれ、反対する気はありません。さっきのことも私の誤解のせいですから水に流しましょう)

「ホントに? ありがとうなの。あなた、怖いところもあるけど、意外と優しいの」

(……なんか、複雑な心境です)

「まあ実際問題ラーちゃんが本気で怒ったらシショーを差し置いてわたし達の中で1番怖いのは間違いないだろうし、妥当な評価ね」

(ブルーッ!)

「えへ、ごめんごめん。でもさ、珍しいポケモンってやっぱり大変なもんなのね。わたしには正直想像もつかないけど。……ラーちゃんも寂しかったりしたの?」

(全くもうっ。私は寂しいと思うことはありませんでした。私には群れの仲間がいましたから。1番は人間に追われるのが大変でしたね。……それより、これからはどうしましょう? お師匠様を呼ぶのが目的なら、みゅーさんは私達をカントーに帰す気はないんですよね?)

「みゅーが来たのはそのことを話しておくためだったの。あなた達にはみゅーのハウス、ジャングルの最奥部にあるミステリーツリーに来てほしいの。レインもそこにくるように言ってあるから。案内はみゅーがするの」

「ちょっと待って。そもそもシショーはここまで来れるの? 地球の裏側なのよ? いったい何年待つの?」

「みゅみゅみゅ。そんなこと心配していたの? 大丈夫なの。レインはもうこっちに向かっている。1週間で着きそうって昨日つぶやいていたから、すぐに来るの」

「え、ほんとに!? やったやった! シショー来てくれるんだ、うわはーっ!」

(……信じがたいですね。たった1週間でここに? そんなことできるんでしょうか)

「シショーなら余裕よ! じゃ、早くそのなんとかツリーへ行きましょう! またテレポートで飛ばせるんでしょ?」

「それはできないの。みゅーの能力によるテレポートはあらかじめマーキングした場所へしかいけないの。自分以外の人を遠くに飛ばすのは特に難しくて、この前は初めてやったから失敗して、マーキングがツリーから消えてこっちに移っちゃったの。だから1回は歩いて行ってまたマーキングし直さないとできないの」

「そんな! というか、わたし達手違いでここに飛ばされたの!?」

「みゅみゅ」

 

 さもおかしいといった様子でミュウちゃんは笑った。笑いごとじゃないわよぉ~ミュウちゃん。わたし何度も死ぬかと思ったんだから! その気持ちはラーちゃんも同じようね。

 

(笑い事ではありませんよ。でも、お師匠様のこともわかりましたし、私達が向かうべき場所もはっきりしました。明日からそこに向かって進んでいきましょう)

「そうね。案内もしてくれるし、何よりすぐにシショーに会えると思ったら力が出てきたわ! そういえば、今日はきのみパーティーだったわね。みんなでパーッとやりましょう!」

 

 こんなところすぐに乗り越えてなんとかツリーまで一直線よ!

 




エスパーの詳しい説明はもう少し先でみゅーちゃんにしてもらいます
そこでおおまかにはわかると思います
当初はそれが44話になる予定だったのですが、だいぶ話数が伸びていますね
一番増えたのはカラクリジムでした(1話が5話に)

5章から分量を減らすようにしていましたが、それ以前の章も長くて自然に分割できそうな話があれば分けようと思います

タイトルの帳尻に長考するのですぐ分割とはいかないでしょうが

文字数は今後も含めだいたい8000ぐらいに収めるつもりでいます
参考として、今回の話は投稿時で9100文字です
話毎にどうしても多少上下しますが、4000以下とか16000以上などは可能な範囲で避けたいと思っています



本編について

モンスターハウスは(ポケダンの)ダンジョン内で通路から小部屋に差し掛かったら突然大量にポケモンが湧いてくる罠のことです

ミュウが仕掛けたことについて
きのみの匂いに誘われてポケモンが寄って来たとすると同時に多数のポケモンが来る可能性があるのはきのみが出来たばかりのときだけだと思います
なのによく熟していたのは矛盾しますよね
それはミュウの干渉があったからというわけです
どうやって仕掛けたかは幻のポケモンの秘密です

ミュウが「いやしのはどう」とか「タマゴうみ」などを使わないのはミュウがその技を知らないからと思ってください
現時点で全部の技が使えるわけではないです


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6.幻さんには 秘密が多い

 荷物を確認、体調も万全、心の準備もオッケー! ミュウちゃんが道中回復させてくれて、かつ休める場所も教えてくれるそうなので、この拠点から旅立ち本当にジャングルを進んでいくことにした。それにちょうど今日は曇り。ジャングルを進むにはうってつけのいい天気ね。

 

「チラー!」

「あれはチラチーノっていうの。ノーマルタイプだからこうやってかくとう技で攻めるの」

「チラァ……」

「うわ、躱しても追尾して当たるなんてすごっ! 今のはなんて技なの?」

「はどうだん。波動を使うからみゅーの得意技。必中技で威力も高いから強力で使いやすいの」

 

 ミュウちゃんがいるのはかなり大きい。迷うこともなくスイスイと歩みを進められた。知らないポケモンもすぐにタイプを教えてくれるし全く苦労しない。最初からわかっているとこんなに楽なんだなと改めて痛感した。ポケモンの勉強って大事なのね。

 

 1日でどれほど進んだのだろうか。だいたいこの辺りのポケモンについては全部聞けたので、途中からリューちゃんに乗って移動速度重視に切り替えてかなりの速さで進んだ。おかげでいつもよりだいぶいいペースね。倒した野生ポケモンの数も桁違い。

 

 日が暮れて来た頃になるとミュウちゃんが今夜休めそうなところに案内してくれた。

 

「今日はここで休もう。川があるから体を洗っていくといいの。もう何日もそのままでしょ?」

 

 まさか川つきの場所を教えてくれるなんてっ! ミュウちゃんの案内はバッチリね。女の子のことをよくわかっているわ。

 

「ホントに川があるのっ!? やったー! 実はずっと気になっていたのよ。助かるわ。やっぱりこういうとき女の子同士だといいわよね。シショーはあんまりこういうところは気を遣ってくれないもん。わたしが女の子だってこといっつも忘れてる!」

(そんなことまで少年に考えろという方が酷です。それに水浴びは私がさせてあげていたじゃないですか)

「それでもよ。さ、早いところ旅のホコリを落としておきましょう。しっかり洗っておかないと次洗えるのがいつになるかもわからないし。ラーちゃん達も一緒に洗いましょうね」

「じゃ、みゅーも」

「うわ! 服が一瞬で消えた! なんなの今のっ!」

 

 ミュウちゃんは初めて会った時からずっと同じ服装で人間の女の子姿だった。そのミュウちゃんの服がまばたきの間にパッと消えて、最初から何も着ていなかったかのようにそこに立っていた。驚くわたしにミュウちゃんは淡々と説明した。

 

「服はへんしんでつくった偽物みたいなものだからいつでも消せるの」

「服まで作れるんだ、すごいわね。……人間の体も本物同然ね。そういえば洗う時に元の姿には戻らなくても大丈夫なの? そのままでいいの?」

「みゅーの本当の姿に戻らないのかって? あなたはへんしん解いたところを見てみたいの?」

 

 あれ、ちょっと警戒されている気がする。何かマズイことを聞いてしまったのかもしれないわね。

 

「いや、別にそういうわけじゃないけど、へんしんした姿で水浴びって、なんか変だなって。ちゃんと元の姿がキレイにならないんじゃないかなって思ったの」

「この姿もちゃんとみゅーの体。キレイになれば元の姿にも反映されるの」

「へー、そうなんだ。へんしんも奥が深いのね」

 

 よくわからないがそういうものらしい。感心していると、わたしの瞳の奥を覗き込むかのようにしてじっと目を合わせながらさらにわたしに尋ねてきた。

 

「あなたはみゅーがどんなポケモンか興味あるの?」

「……もちろん、あるわよ。幻のポケモンですもの。でも、ラーちゃんが言ってたけど、珍しいポケモンは自分の秘密を簡単に明かせないんでしょ? だったら仕方ないわよ。それに、わたしはこうしてポケモンとおしゃべりできるのが楽しいのよ。だからそれで満足かな」

 

 まるで自分の心の中まで完全に見透かされているような気がして、とりあえず思ったままのことを答えた。少し緊張して反応を見ていると、ミュウちゃんはフッと目線を外してさらに質問を続けた。

 

「そう。じゃ、みゅーのことどう思っているの?」

「え、いきなりストレートな質問ね。うーん、そうねぇ……最初は怖かったけど、今はわたし達に協力してくれるし、今までのことも悪気はなかったみたいだから、もう友達みたいな感覚かな」

 

 言葉にしなきゃ伝わらないこともあるし、せっかくこうして聞いてくれているんだから、はっきり言っておこうと思い友達だと伝えてみた。喜んでくれるか心配だったけど、表情は少しさっきよりも柔らかくなった。

 

「友達……。みゅーも、あなたのことは最初あんまり好きじゃなかったけど、今はちょっと好きかも。ちょっとだけど」

「あれ、ちょっとだけなの? じゃ、もっと好きになるようにしないとね。ほらほらうりうり!」

「え、あ、ちょっと、やめてっ! 感覚は人間と同じなんだから、直にそんなところ……みゅうう!!」

 

 ラーちゃんとじゃれている時のようにちょっとくすぐりをして笑わせてあげた。ばしゃばしゃ水を飛ばしながら割と本気で遊んでしまった。ミュウちゃんは意外とわたしのくすぐりには弱いみたいで笑い転げながらギブギブと手を叩いた。

 

 ちょっぴりミュウちゃんとも仲良くなれたかな。それはミュウちゃんも同じだったのか、ミュウちゃんの方から呼び方を変えるように言われた。

 

「ねー、これからはみゅーのことはみゅーって呼んで」

「みゅー? ミュウじゃないの? まあそんなに変わんないけど」

「それは変な人間に勝手につけられたの。ほんとはみゅーはみゅーっていうの」

 

 本気で言っているみたいね。名前ってやっぱり勝手に付けられたものなんだ。だったらたしかに拘るのもわかる。

 

「いいわよ。わたしはブルーでいいわ。みんなそう呼んでるから。よろしくね、みゅーちゃん」

「みゅみゅ」

 

 がっしりと握手して笑いあった。みゅーちゃんとなら、わたしは仲良くなれるかもしれない。

 

 ◆

 

 それからさらに幾日が過ぎ、こっちに来て10日目、ついにツリーに到着した。驚くほど巨大で、樹齢は何千年というレベルなんじゃないだろうか。てっぺんが下からは全く見えない程だ。

 

「これがあなたのハウスなの? とんでもない大きさね」

「みゅみゅ、すごいでしょ? これはみゅーが育てたの。……ちょっとだけ手伝ってもらったりもしたけど。世界の中心に大樹を育てるのが今までのみゅーの生きがいだったの。この木はみゅーの人生そのものね」

 

 え? どういうこと? みゅーが育てた? 世界の中心? 人生そのもの?

 

「みゅーちゃんが育てた……っていっても、この木はだいぶ昔から元々ここにあったんじゃないの?」

「ううん、違うの。みゅーが植えて、ここまで大きくしたの」

「……あなた、ずっとわたしより年下かと思ってたんだけど、ホントは何歳なの?」

 

 みゅーちゃんは茶目っ気たっぷりに笑っていった。

 

「幻のポケモンだから、秘密なの!」

「あーーっ! それはずるーい! この木の樹齢からして千年は年いってるでしょ!」

「この木は科学力とみゅーの力でかなり大きくしたの。だからブルーの思う程時間は経っていないの。植えたのは割と最近だから」

「本当? ラーちゃんどう思う?」

(幻のポケモンの最近程当てにならないものはないでしょう。つい最近という話が本当だとしても、最近と感じられる程なら植えた時点でかなり生きていることになりますし、年齢は想像して余りあるかと)

「じゃあみゅーちゃんってすっごいおばあちゃんなの!? みゅーちゃん仙人説?!」

(ブルー、なんでもかんでも仙人にし過ぎです)

「ぶぅー!! おばあちゃんじゃない! みゅーは年とかとらないの! 人間とは全然違う! おんなじように考えないで!」

「えええ!!?? それ、いくらなんでもすご過ぎない?! ヤバ過ぎてもう頭ついていかないわよ?!」

「あ……。ブルー、これは内緒ね? 言い触らしたらダメ。特にレインには絶対。おばあちゃんとか勘違いされたら嫌われるの」

「わ、わかりました」

 

 コクコクと頷いておいた。ポケモンの秘密はお口にチャックしておくに限る。みゅーちゃんは怒らせたらシャレにならないし。

 

 この木、大きいから登るのも一苦労ね。ほどほどに木を登って広い空間を見つけ、そこを拠点にすることにした。ゴロンと横になると解放的ですっごくいい気分。

 

 木といっても高層マンションのようになっていて平らなスペースがけっこうあり、住み家としてはとっても居心地がいい。秘密基地にしたらサイコーだろうと断言できる。快適ハウスを満喫していると寝転んでいるわたしの顔の上からラーちゃんが覗き込んでテレパシーしてきた。

 

(ブルー、これからどうしますか? ここでのんびり待っているのですか? 7日で着くならみゅーさんの話では今日がその7日目ですし、お師匠様をここでゆっくり待っているのも手ですが)

「そうね。そうしましょう。というか、ラーちゃんずっとみゅーちゃんにさん付けしていたのは年上ってわかってたからなの?」

 

 今はフーちゃん達も含めて皆仲良しでみゅーちゃんって呼んでいる。でもラーちゃんだけみゅーさんだった。前もミュウさんだったし。

 

(まぁ薄々は。技の練度やバラエティーの年季が私などとは比べ物にもなりませんから。ポケモンはあまり見かけで判断しない方が良いです。ほとんど見た目は当てになりません。もっとも、みゅーさんは実年齢ほど精神年齢が高いというわけではなさそうです。おそらく、本当に年をあまりとらず、成長も緩やかなのでしょう)

 

 そういうものなのだろうか。人間にはわからない世界ね。

 

 久々にゆっくりできるので、今日はまだ昼間だけどこのままゆっくりゴロゴロしながらシショーを待っていることにした。こんなにわたしがのんびりしているところ見たらシショーなんて言うかなぁ。暇だし予想してみよ。

 

 本命は拍子抜けして呆れ顔になってから「焦って損した」とかかな。うわ、めっちゃ言いそう! いかにもシショーらしいセリフね。 完璧に想像できる。ものすごく急いでここまで来てくれているだろうし、こんなにのんびりしていたら言いたくなるでしょうね。大本命ね。

 

 それとも真っ先に無事を喜んで抱きしめられたりするのかな。そこから耳元で「お前が心配で夜も眠れなかったぜ」……いくらなんでもこれはないわね。シショーがこんなこと言ったらむしろ気持ち悪いし。

 

 逆に短く「会いたかった!」とかだったりして。そんなこと言われたら照れちゃうかも~。……ま、あのシショーだから絶対ないでしょうけど。

 

 感激してシショーの方が泣いちゃったりして。やっぱりそれはないかなぁ。その反対で明るく「待った?」とか。シルフの時のこと踏まえるとありそうかも。こんな感じだったし。これは大穴であるわね。

 

 そういえば、ビーチでわたしを見つけた時、シショーはわたしに約束してくれた。地球の裏側に行っても、どんなに遠くに離れていても、“必ず見つけてやる”ってあの時は言ってくれた。もしそのことを覚えていてくれたら……きっとこう言うんじゃないかしら。「“必ず見つけてやる”って言っただろ。俺はお前のシショーなんだから」……ホントにここまで探しに来てそんなこと言われたら嬉し過ぎてどうにかなっちゃうかも。

 

 シショーは変なところで意地っ張りで、一度決めたら曲げない性格。そのせいで弟子入りの時は大変だったし、わたしが弟子になってからは真剣にわたしのこと強くする気でいる。そんな人だから、わたしとの軽い口約束でも本気で守ってくれそうな気がする。

 

 もちろん、こんなこと覚えてない可能性の方が高いとは思う。わたしは嬉しくてはっきり覚えていたけど、シショーにとっては取るに足らない記憶だろうし。

 

 結局、予想しようとは言ってみても、結果を見れば本命以外はわたしの希望を並べただけね。現実的なシショーとは正反対で、わたしはいっつも理想ばかり追いかけてしまう。なんでかなぁ。夢を見過ぎだとわかっていてもどうしても期待はしてしまう。

 

「そんなに待ち遠しいの?」

 

 声の方を見ればみゅーちゃんがいた。全く気配がなかった。いつも突然現れるからびっくりする。これにはなかなか慣れないわね。

 

「みゅーちゃんっ。いきなり来たらびっくりするじゃない。待ち遠しいかと聞かれたら、まぁそうね。とっても待ち遠しくて、それしか考えられないぐらい」

「みゅみゅ。なら良かったね。もう来たみたいなの。見て、シンボラー達がざわめいている。侵入者が来た証」

「え! まさかシショー空から来てたの! でも、あのポケモンってピーちゃんがやられたヤバイ奴じゃないの!? これじゃシショー危ない、助けに行かないと!」

 

 来てくれて嬉しくってはしゃぎたくなったけど、シンボラーを見て血の気が引いた。

 

「やめた方がいいの。ブルーでは足手まといにしかならない。それに、ここまできてるならすでにかなりの数と戦って来ているはず。おそらく問題ないの」

 

 確かにそうだ。あれはジャングルのどこから上にいっても出てくる。でも1体ずつがかなり強いのにあんなにたくさんを相手にしてどうやって倒しているのだろう。空中では使えるポケモンも技も限られるのに。

 

 どんどん近づいて来てわたしも直接姿を確認できた。ものすごい速さでこっちに接近している。ピーちゃんよりも速そうだ。

 

「あ、わたしも見えた! やっと来た! ホントの、本物のシショーだ! うはー!! あれはプテラ? プテラが電撃出してる! どうなってるの?!」

 

 プテラはきっとあの化石のやつでしょうね。あのコハクとかいう化石のことは今の今まで忘れていた。化石ポケモンに乗ってくるなんて思いもしなかったわよ。しかもすごい技覚えてきてそう。

 

「みゅー。なるほどなの」

「あれは“ほうでん”かしら? しかもすごい威力ね。どうなっているの?」

 

 ぐんぐん近づいてきて、あっという間にそのシルエットは大きくなった。

 

「あ、危ない!」

 

 シンボラーの1体がプテラに急接近している。体が光っていてなんかヤバそうな技に見える。当たれば乗っているシショーが墜落してしまう! それに気づいてプテラも何か技を使った。

 

「あれはストーンエッジなの。グレン島で練習していたのは少し見ていたけど、もう完璧に使いこなしてる。さすがなの。シンボラーの技はゴッドバード。ためがいるけど威力はかなり高いの」

 

 石の礫を体の周りにまとい、“ゴッドバード”中のシンボラーはモロにそれに当たり墜落した。“ストーンエッジ”はまとえば攻防一体の鎧になるってことか。

 

「ブルーーッッ!!」

 

 シショーが呼んでる! 手を振って応えた!

 

「シショー! ここよここ!」

 

 ぴょんぴょん飛び跳ねて必死に自分の姿をアピールした。プテラはここに降りるようだ。でもなんかおかしい。スピードが緩まない。このままだとこのツリーに激突しちゃう! 何考えてるの!?

 

「つばめがえし!」

 

 距離を詰めて勢いそのままこっちに攻撃してきた。あまりの速さの上、“つばめがえし”は必中攻撃。みゅーちゃんといえど避けきれずに当たってしまった。正確に近くにいるわたしには当てずにみゅーちゃんにだけ攻撃するなんて凄い。それでも風圧がすごくてわたしも思わず帽子を押さえて顔を伏せる程だ。

 

 あ!! みゅーちゃんに攻撃したので思い出した! このまま戦闘になるのはマズイわよ! シショーはみゅーちゃんのことをよく知らない。だからきっと本気で倒すつもりだ。慌ててわたしは目の前に降りたシショーを止めに入った。

 

「待って、実はみゅーちゃんは……」

「プテラブルーを! イナズマ!」

「ダーッス!」

 

 プテラからイナズマちゃんが降りてきた。もしかしてさっきのはイナズマちゃんの技?と思っているうちにプテラにがっしり掴まれてツリーの上の方へ連れ去られてしまった。ちょっと待ってよ! せっかく会えたのにまた離されるの!? 最初にどんな反応するか色々予想したのに、何も言わずにわたしだけ即隔離が答えってどういうこと?!

 

 離れ際、空中からさっきまでよく見えていなかったシショーの顔が見えた。それを見て言葉が詰まってしまった。この表情は見たことがある。ラーちゃんが本気で怒ったときの表情と同じだ。心の底からの純粋な怒り。自分の命を投げ捨ててでも報復することしか考えていない者の目だ! みゅーちゃんが危ない……!

 




ようやく役者が揃いましたね

この後はだいぶ大変なことになります

……大変なことになります


次の話では“みねうち”とモンスターボールが活躍します
両方考えた人間の神経疑うような使い方されます
こんなこと思いつくなんてシショーの鬼、悪魔、外道!!
やっぱりシショーの闇人格は怖いなぁ(すっとぼけ)


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7.無慈悲な宣告 最悪の罰

 やっと見つけた! 一口にギアナと言っても広過ぎる。よくこんなアバウトな指示で呼び付けようと思ったな。だいぶ余計に時間を取られた。ここまで何体シンボラーを倒したかわかりゃしない。

 

 ミュウに対してまず入りは上々。予定通りの先制攻撃。そしてこれが1番大事だったが近場にいたブルーを上手く逃がせた。また人質になるようなことがあれば絶対に勝てない。

 

 ミュウは油断しているのか余裕のつもりなのかは知らないが無関心だ。あっさり最も懸念していた不安要素がなくなったのは助かる。これさえクリアできればもうほぼ負け筋はない。

 

 ここまで空中にいたシンボラーの群れは“チャージビーム”の追加効果とスペシャルアップを組み合わせて特攻を上げまくったイナズマさんが“ほうでん”で倒した。プテラが“ほうでん”で感電しないのは鞍のようなものを用意してそこに絶縁体の足場をつけたから。プテラとの接触箇所が絶縁体なら電撃は伝わらない。研究所の人にうまく用立ててもらった。これのおかげで飛行ポケモンはまとめて倒すことができた。プテラ自体も岩タイプ持ちで相性がいいのでイナズマのカバーもこなせ、順調に進めた。

 

「みゅぅぅー。いきなりやってくれるの。やっと本気でみゅーと勝負する気になった? さぁ遊んで。ハウスならみゅーは前よりもさらに強くなる。みゅーの本当のすごさ、見せてあげるの」

 

 技を受けて吹っ飛んでいたミュウがこっちに来た。飛び方は派手だったが見た目ほど効いてはいない。しゃべり方にもずいぶん余裕を感じる。一応目的地であるこの木が見えた時点でプラスパワーも使っていたが、やはり素のステータスに差があり過ぎるか。しかも今現在も猛烈に回復している。やはり“じこさいせい”ぐらいは当然使えるようだ。だがここまでは想定内。この攻撃はダメージ目的ではない。ブルーを逃がすための時間稼ぎ。

 

 問題があるとすれば、あれが近づいてきてまた眩暈がしたことか。まるで体が近づくことを拒絶しているかのよう。ともすれば自分の心臓を直接掴んで掻き毟りたくなる。今まで似たことが何度もあって慣れていなければどうにかなっていたかもしれない。こんな感覚どう考えても普通ではない。あれは……あれだけは絶対近づけてはダメだ! 即刻排除すべき!

 

「悪いけどまともに戦ってやる気は毛頭ないし、もう毛ほども容赦しない。どれだけ泣こうが喚こうが慈悲はないと思え。死ぬより……いや、地獄よりも恐ろしい罰を与えてやる」

「脅しのつもり? そんなの全然怖くないの。できるもんならやってみてよ? そうやってみゅーの動揺を誘う作戦なんでしょ。レインの考えそうなことなの。みゅーはレインのことはよくわかってるからムダなだけ」

「ふっ……くははっ、脅しだって? ハハハハハッ!!」

「……何がおかしいの?」

 

 頭は痛いのに思わず笑ってしまった。脅しかぁ。それならどれほどミュウにとって良かっただろうか。だが俺は本気。今、こいつは自ら命綱を切ってしまった。もう後悔しても遅い。

 

「今の自分の言葉、よーく覚えておけ。後悔するなよ?」

「みゅっ!?」

 

 素早く最初の一手、ハイパーボールを使った。対人じゃこんなことできないが、こと野生のポケモンに限ればこれに抗う術はない。もっとも、捕まえられるとはハナから思っていない。狙いは奴の拘束。一瞬でも時間が稼げれば十分。

 

 コロ……

 

 この僅かな拘束時間で勝負は決まるっ! 手早く打ち合わせ通り手持ちを全て出し、迅速にミュウをとり囲んだ。これで最低限はできた。ここからどこまで持つか。

 

 コロ……

 

 まだでない。続いて俺はピッピ人にんぎょうを両手に抱えた。グレン達はしっかり技を出す準備をして構えに入った。ここまでやればもう完璧。最高の結果だ。体力はあるわけだしもっとすぐに出てくると思ったがやはりハイパーボールは拘束力が大きいのか?

 

 コロコロ……

 

 まだ出ないのか? やけに遅い。まさかこのまま捕まるわけはないだろうが……エスパーだけに何かこっちの狙いに勘づいてタイミングを窺っているのかもな。だとしても別に構わない。わかっていようがいまいがどのみち抗うことは不可能。1発で蹴りをつける!

 

 ……ボン!

 

 出てきた!

 

「レイン、どういうつも…」

 

 ミュウが何か言う前に全員が手筈通り最初のアクションを起こした。ミュウには息つく暇も与えない。ボールが開いた直後、俺がミュウの頭上辺りを狙ってピッピにんぎょうを投げた。計算通りにミュウが上を向いて気が逸れた瞬間、周りを囲んだグレン達が一斉攻撃した。

 

 グレンが“かみつく”

 アカサビが“ちょうはつ”

 イナズマが“でんじは”

 ゲンガーが“くろいまなざし”

 

 全員の攻撃が無防備なミュウに直撃。これでミュウは手足をもがれたも同然。補助技と“にげる”はさせない。攻撃も速度が1/4では大したことはできない。まずは行動を制限して自由を完全に奪う。料理はその後じっくりとしてやろう。

 

「みゅー!!」

 

 ミュウはひるんでしまって動けない。二分一のアタリをいきなり引いたか。いい感じ……。

 

 ここから先はひたすらミュウをひるませ続ける作業だ。何もできないままなぶり殺しにしてやる。

 

 グレン“かみつく”

 アカサビ“アイアンヘッド”

 イナズマ“ずつき”

 

 これで毎ターンほぼ行動できない。確率的には4回に1回動けるかというところ。さらにユーレイは“あやしいひかり”、技を撃ってきたら“かなしばり”で1つずつ使えなくする。

 

 “かなしばり”はゲームと違いボールに戻すか相当時間が経たないと解けない。まあすぐ解けるようじゃさける、よけるがあるこっちじゃ使いもんにならないからな。これで面倒な攻撃も全て封殺できる。

 

「あぐ、あぐぅ、動けな…」

「ユーレイ、次はこごえるかぜも使って完全に身動き取れなくしろ」

「さぶぶ、みゅ~?」

 

 混乱してわけもわからず自分を攻撃したか。もうほとんど体が動かない上にひるみの連続、さらに体力も減って来た。だけど、本番はむしろここから……。

 

「これで勝負あったな。俺の勝ちだな、ミュウ」

「みゅみゅー!」

 

 混乱も治り、正気には戻ったがまだ体は動かない。今ミュウは“こごえるかぜ”を何回も受けて素早さが普段の1/16になっている。それはもう体がほとんど動かないといっても過言じゃない。攻撃は中断し、ユーレイに両手を押さえさせ、グレンには両足をまとめて噛ませ、ミュウを完全に動けなくした。イナズマはボールに戻しバッグにしまった。イナズマの仕事はもう終わっている。

 

「何するのっ。ねぇ、これやめてっ! もう負けなの。みゅーの負け、降参するの。だからはなして」

「離してやってもいいが、その前に俺の質問にいくつか答えてもらおうか」

「みゅー! はなして! はなしてー!」

 

 どうやらおとなしくしゃべる気はないらしい。だったら力ずくでも吐かせてやる。

 

「アカサビ、態度が悪いからちょっとこらしめてやって」

 

 ドスッ!

 

 攻撃がクリーンヒットして鈍い音がした。

 

「ふぎゅっ!?」

「どう? これでしゃべる気になった?」

「みゅっ、やめて、これ以上攻撃しないで!」

 

 埒が明かないので無視して尋問を始めた。

 

「じゃあ聞くけど、お前は俺がタマムシにいた頃からずっと、ハウスにこいハウスにこいと呼び続けてたよな?」

「う、うん。でも全然来てくれなかったの。なんで来てくれなかったの! ずっと待っていたのに……」

「なんでこの俺がお前なんぞの言うことに従う必要がある? それと、今まで襲って来ていたのは、お前の仕業だよな?」

 

 こいつ頭おかしいんじゃないか? 誰から言われているか、そこがどこなのか、何もわからないのに行きようがないし、行きたいと思うわけもない。

 

「それは……遊んでほしくて」

「ハッ! こいつは驚いた。遊んでほしいだと? 命がけのお遊戯か? さぞ楽しかったろうねぇ、お前の方は。だったらこれから楽しいお遊戯の続きといこうか? 1回俺と同じようにお前も半殺しにしてやるよ」

「みゅぅぅぅ」

「おいおい、そんな怯えた顔するなよ。冗談なのに本当にやってみたくなるだろ?……まぁ今は先にやることがあるからな。お楽しみは後に回そうね。で、これが1番聞きたいんだけど……お前、どうやって俺をこっちの世界に呼んだ? 毎度お馴染みエスパーの力ってやつか?」

 

 明確な殺意を込めていうと、ようやく自分が置かれている状況がわかったらしい。じたばたもがくのをピタリとやめた。

 

「そんなこと言わないでよ……怖いの。オーラも冷たい。寒いよ……。それに何を言っているか全然わからないの」

「とぼけるなっ! お前が呼んだんだろっ。その面には見覚えがあるんだよ。何もしてない訳がないんだよ。……別に責めているわけじゃない。俺は戻る方法を知りたいだけ。だからここで今すぐ言え。どうやってここに呼んだんだ? どうやったら戻れる? いいから答えろ!」

「ここにはブルーちゃんを取り戻しに自分で来たんでしょ?」

「違う! ここじゃない。この場所じゃなく、この世界、次元、言い方は何でもいいが、俺をこっち側に引っ張りこんだのはお前だろ?」

「何言ってるかわからないの。レインはどこか違うところから来たの?」

 

 何言っているんだこいつは。ずっと頭に呼びかけられて、ずっと付きまとってきて、それなのにミュウがやったわけじゃなかったって言いたいのか? でもこっちに来た時はっきり夢で見たのはこの姿。青い髪に、ピンクのワンピース。やっぱり間違いない! 間違いないんだ! やっぱり白を切ってはぐらかそうとしているんだな。往生際が悪い!

 

「どうやら躾が足りなかったらしい。もっと痛めつけて、自分から白状するまでおしおきだな。アカサビ、存分に痛めつけてやって」

「え、待って! なんでなの!? ウソじゃないの!! レイン、わかるでしょ!? ほら、みゅーのオーラ見て!! みゅーはほんとに何もしらな、ぐみゅっ、みゅぶっ!!」

 

 何回も何回も攻撃して、もう体力は「1」しか残っていない。……いや違う。「1」だけ残させられている。それが「0」になること永遠にない。あり得ない状況の中で、延々と気絶することもできずミュウは攻撃を受け続ける。もう息をするのがやっとの状態で、口元からはだらだらと唾液がこぼれている。涙と唾液で顔はもうべちゃべちゃだ。そんなことを気にする余裕は全くないだろうが。

 

「ひゅー。ひゅー」

 

 肺の辺りも何度もどつかれて、息が詰まりそうになり、必死に呼吸しているせいでひゅーひゅーと音がしている。今まで散々負け続け、殺されかけて、苦汁をなめさせられた怨敵をようやく追いつめた。そのことがさらに理性を狂わせ、ネズミをいたぶる猫のような嗜虐心がムクムクと膨れ上がる。

 

「どう? おもしろいだろ? これだけ攻撃されても全然体力がなくならない。気絶することもできずにずっと攻撃を受け続けるなんて初めてだろ?」

「はーっ。はーっ。や……めて。だす……げて」

「じゃあ答えろ。どうやって俺をこっちに呼んだ? 俺は元々あんなところにいたわけじゃない。誰かに呼ばれたに違いないんだ。その時見たのはお前の姿だった。はっきりと思い出した」

「じら、ない。わがんない、もん。みゅーは、レインを、見づけて、ここに、来てほし、くて、呼んでた、だけ。突然の、こと、だったから、不思議だったけど、それがなんでかはしらないし、みゅーがしたわけじゃないの」

 

 ホントなのか? それともウソなのか? ここまでされてウソを言うとは思えないが……なら先に別のことを聞いて様子を見るか。

 

「じゃ、なんで俺に拘る? 何回も殺されかけたし、大事な弟子のブルーに至ってはこんな地球の裏側まで拉致して、俺に何か恨みでもあるの? 恨みがあるなら最後に聞いてやるけど?」

 

「そんな! 違うの! 殺そうとなんかしてない! なんでそんなこと言うのっ! みゅーはレインに遊んでほしくて……信じてよ」

 

 ミュウはしゃべりながら俺に手を伸ばした。攻撃が激しくてユーレイが手を離してしまっている。ミュウにとっては藁にも縋るような気持ちで伸ばした小さな手。それがゆっくりと俺の体に触れた。

 

 その瞬間感じたのはすさまじい吐き気。思わずうずくまる程苦しくなり気分が悪くなる。今まで抑え込んでいた苦しさまでも一緒に膨れ上がってきたようだ。

 

 何もかもがかき乱されるような感覚。その不快感が憎しみを焚き付ける。やはりミュウが全ての元凶! 倒すべき敵! 俺は触れた手を払いのけて、ありったけの怒りをこめて言った。

 

「嘘!! 噓噓噓噓! 嘘ばっかり! あれのどこが殺す気はなかったっていうんだ? 現に俺はブルーに介抱されなきゃお陀仏だったかもしれないんだ! やっぱりお前は諸悪の根源、憎むべき敵!! もうはっきりわかった。十分だ。くく、くははっ、もうどっちでもいっかぁ。帰る方法を教える気がないのか、最初から知らないのか……俺にはわからない。だがいずれにせよ、もうお前は不要であることに変わりはないわけだ。むしろ存在しても害にしかならない。それだけは間違いない事実。それが俺にとっての真実……そうだ、本気であれがお遊びだっていうなら面白いことをしてやるよ」

「ええっ、なに? なにをするのっ? やめてぇ」

「そんなに怯えなくてもいいだろ。ちょーっとしたお遊びだから。アカサビ」

「……サム」

 

 ドスッドスッ!!

 

「みゅがっ!?」

 

 アカサビの攻撃が痛烈に突き刺さり、胃が押し潰されてその内容物が全てまき散らされた。見たところ相当な苦痛であることは間違いないが、こいつはタフだし、さっきから自然回復もかなりしているようだからまだ余裕はありそうだ。ここからは痛みの質が変わる。聞き出すことよりも復讐のための容赦のない攻め。いつしか苦しませることが目的となっていた。

 

「どう? 先に教えといてやるよ。この技はみねうち、どんなにダメージを与えても、必ず相手の体力を1残す。だからこの技を使い続けると気絶しないまま延々と苦しみ続けることになるんだ。まさに地獄の苦痛。俺が今まで受けた分お前にもきっちりお返ししないとなぁ。存分に味わってくれよ」

「えぇっ、うそっ、そんな技みゅー知らない! なんで、そんなのおかしいの。攻撃されたらこんなに痛いのに気絶はしないなんておかしいの!」

「そうだな。おかしいねぇ。なんでこんな技あるんだろうなぁ。「1」だけ残しても何の意味も無いのに。でも、実はこの痛みと同時にダメージはちゃんと蓄積しているんだ。ホントに消えてしまうわけじゃない。じゃあどこへいったと思う? それはな、みねうち以外の技で体力がなくなったときに効果が現れるんだ」

「どういうことなの」

「消えたダメージの反映は体力がゼロになった時って言ってんだよ。1回で理解しろこのバカ!」

「ひうっ。バカなんてひどいの……」

「事実を言って何が酷いの? ところでさ、お前、今ずいぶん自然回復しているよな?」

「みゅ!?」

 

 ミュウはバレていないと思っていたのだろう。これまでで1番驚いた顔を見せた。抜け目ない奴。隙を見て逃げる気だったのだろう。“くろいまなざし”でそんなことはできないのに、ムダなあがきだ。

 

「フン、気づいてないとでも思っていたのか? 息をするのも苦しそうな奴が流暢にしゃべりだしたらお前みたいなバカでも気づく。だが、ダメージが溜まり続ければその回復も鈍ってくるんじゃないか? せっかくだからちょっと試してみようぜ、お遊びでな。お前も俺と遊んでみたかったんだろ? なら構わないよな? みねうちはサンドバッグになる実験体が必要だからなかなか試す機会がなくて困っていたんだよなぁ。お前ならいくら傷つけても構わないから丁度いい」

「……そんな、イヤ。イヤイヤイヤッ! こんなのお遊びじゃないの! 全然面白くもない! やめて、痛いの! これホントに痛いから!」

「ダメダメダメ! 自分も痛みを伴わないと、人の痛みは理解できないだろ。人を殺しかけてお遊びでしたなんて言い訳人間には通用しないんだよ。悪い子にはちゃんとわかるようにお仕置きしないとな。アカサビ、つるぎのまい」

「え、何してるの……? やめて、なんで攻撃力上げてるのっ! ねぇ、やめてよ、やめさせて! ねぇ、聞いてるのっ! なんで攻撃力上げてるの、ねぇ!!」

「うるせぇなぁ……もっと痛くするために決まってるだろ。黙って攻撃されるまでおとなしくしてろ! 今まで自分がしてきたことがどういうことか、その身で教えてあげるから」

「やぁぁぁああああ! 離してぇぇぇぇ! 離して離してぇぇぇぇ!!」

 

 とうとう半狂乱で暴れだした。だが体がしびれているのであまり動けていないし、動けば動くほど手足の拘束がきつくなるのでかえって自由は奪われる。その分ミュウは大声で泣き叫ぶが……。

 

「本当にうるさいなぁ。もしブルーにまで聞こえたらどうしてくれる? まだ2倍だけどすぐにみねうちで黙らせて」

「がふっ!? あぐ、あぁ……ハーッ、ハーッ…………」

 

 その後散々“みねうち”を受け続け、ボタボタと胃液まじりの唾液が垂れ流しの状態になった。目はうつろになり、とうとうグッタリとして動かなくなった。胸が上下しているので息はあるから生きてはいる。気絶すらさせない「優しい」攻撃だから当たり前ではあるが。

 

「なるほど……これだけ痛めつけてもほとんど同じように回復はするのか。よほどここがミュウにとって良い環境なのか回復量が他の伝説と比べても段違いだな。これは面白い。こうなると、もしかしたら過剰分のダメージの蓄積はほぼ丸々残っているのかもなぁ。回復システムが同じだけあってふしぎなアメもたくさん出てきたし、実験も上々。ホントにラッキー。しかもお前はなかなか勤勉だったらしい。よく戦闘をこなしていたんだろう? ふしぎなアメがサンダーやフリーザーなんかとは比べ物にならない量だ。しかも期せずして“みねうち”でもこれが出て来ることがわかったのはありがたい。逐一体力が「1」回復するのを待たなくていいわけだ。さぁ、アカサビ、これが出なくなるまでどんどんやって。やり過ぎてもみねうちなら死にはしないから」

「……」

 

 しかしアカサビは突然攻撃をやめてしまった。いきなりどういうつもりだ? まさか同情でもしたのか?

 

「何してる? 速くやれ!」

「……」

「チッ、だんまりかよ。お前見てたよな? こいつの攻撃で俺が何回死にかけた? なぁアカサビ? 俺とこいつ、どっちが大事なんだ? ホントに情けでもかけるつもりなのか? 全く、お前ともあろうものがどうしたんだ?…………まぁいい。おい、ミュウ聞こえるか! チッ、グレン、こっち向かせて」

 

 当然気絶はできないので意識はある。足は離して無理やりグレンにミュウの顔をつかんでこちらを向けさせた。ミュウは涙交じりに許しを乞う。

 

「もう許してよ、痛いの……苦しい。息もできない。体がバラバラになりそうなの」

「痛いうちはまだましさ。この技の本当の怖さはここから。今、お前は限界を超えて致死量に近い攻撃を受けてしまっているとする。そこに別の攻撃をして、体力がゼロになったらどうなると思う? あるいはうっかり致死量を越えてしまっている状態で気絶したら?」

 

 ぼんやりした頭でも俺の言っていることは理解できたらしい。すぐに真っ青になって首を振り始めた。

 

「……やめて。やめてやめてやめてっ! イヤなの! みゅー死にたくない!」

 

 さすがに他人はどうでもよくても自分が死ぬのはイヤか。そりゃそうだよな。

 

 今ミュウを殺すのに大した力はいらない。デコピン1発で簡単にあの世行きだ。

 

「ハハハッ、物分かりがいいなぁ、ミュウちゃん? そう……死ぬ! 死んじまうんだよ、一切抗えず。でも、もしかしたら死んだ方が楽かもな。延々と苦しみ続けるよりは辛い思いをせずに済む。さぁ、どうする? 死にたい? 痛いのを我慢する? それとも本当のことを話す?」

 

 こうして選択肢を並べられては、もう白状するしかないだろう。

 

「ごめんなさい。みゅーが悪い子だったの。みゅーは悪い子、みゅーは悪い子。レインに攻撃して痛かったなら謝るから。みゅーは痛いのがこんなに辛いってわからなかったの。本当に知らなかったの。今までのことも全部謝るの。許してください。みゅーは悪い子でした。本当に悪い子だったの。もうしません。これからはもう悪いことしません、絶対しません。いい子になります。みゅーはちゃんと言われた通りいい子になるの。だから許してください。本当にレインのことはなんにも知らないの。わからないから答えられないだけなの。信じて! もうなんでもするから許して! なんでもするから殺さないで! 痛いことはしないで!」

 

 こいつは驚いた。まさか本当に知らない? あるいはわからないのか。なんでもすると言いつつしゃべる気はないと。知らないとしか考えられないか。この状況で命より大事なものもないだろうし。まぁ、結局役に立たないならどちらでも同じことなんだけど。

 

「そう。なら本当に知らないのか。信じがたいことだが、ここでダンマリする余裕はないよな」

「そうなの、ホントに知らないの。みゅー、みゅー。みゅーみゅー」

 

 なんだこれは。鳴き声……? 鳴き声のつもり? これで同情を誘っているのか? 媚びるような声を出して、人間の恰好をしながら、都合のいい時だけポケモンに戻るのか? 癪に障る。浅ましく醜い行為。不愉快でしかない。だがそれだけ追いつめられている、ともとれるか。

 

「今すぐ黙らないとすぐに殺す」

「!」

 

 よく言うことを聞く。すぐに黙った。肝心の聞きたいこと以外は素直に応じるな。

 

「じゃあもうひとつ聞かせろ。結局、お前は何が目的でこんなことしたんだ? 最後に教えてくれよ?」

 

 興味本位でなんと言うか聞いてみると、下を向いてか細い声で答えた。

 

「……みゅーは、レインの仲間になりたくて。それでバトルして勝って認めてほしかったの」

 

 はあ? 何を言ってるんだ? 仲間ァ? バトルゥ? 今までのことは全てバトルしているつもりだったと? 何度もブルーを盾に取るようなことをしたのに? いまさらになって仲間にしてほしいだなんて、さすがにこれは酷過ぎる。脈絡がないにも程がある。せめてもう少し上手く取り繕えよ。呆れたわ。

 

 こんなこと言い出すのは、十中八九死にたくないが故の嘘。媚びた鳴き声と同じ。最悪懐に入ってしまえばこれ以上酷い目には合わないだろうという打算だろう。もう助かること以外に頭を回す余裕はないのだろう。言っていることがめちゃくちゃだ。俺を欺いて庇護を得ようとするその精神が気に食わない。虫が良過ぎる。

 

 だけど残念、この場合ミュウは最悪の選択をしたことになる。このまま一思いに殺してやってもいいが、それじゃ俺の気が済まない。これを利用してもっと面白いことができる。怒りも湧いたが、それ以上にこれからすることを思えば笑みを浮かべることも難しくはない。

 

「そうか。そうだったのか。ホントは仲間になりたかったのか。それじゃあ悪いことをしたな。ごめんねミュウ」

 

 ニコニコと笑って見せてあげた。俺の言葉に驚いてミュウは顔を上げ、一瞬虚を突かれて身を固くするが、俺の態度が一変したとわかると目を爛々と輝かせてすぐに嬉しそうに笑い返した。

 

 ……バカめ。俺がお前のやっすい三文芝居に騙されるわけないだろう? これだけ恐ろしい目に合ってまだバカな夢見てるなんて、単純な奴。

 

「え! あ、ありがとう……!! そんなのいいの、気にしないで。悪いのは全部みゅーだから。初めて笑ってくれた! 嬉しい、嬉しいの……。こんなに幸せなんて……やっぱりみゅーと同じなんだ。レインは同じ……!」

「そう。良かったね。じゃ、これに入ってくれる? 入ったら仲間になれるからね。知ってるだろ、モンスターボール」

 

 ボールを差し出し、自分から入るように促した。ユーレイが拘束を解き、ミュウがボールに入ろうと震える手を伸ばす。その時ふとミュウと目が合った。すると見る間にミュウの表情が幸福感に満ちた笑顔から絶望のどん底のような真っ青な顔にかわり、怯えながらモンスターボールから離れた!

 

「イヤァッ! なんで、どうしてなの!? 嘘! 嘘ついてる! オーラがぐにゃぐにゃで、ずっと冷たいままなの! まるで氷みたい……。寒い……寒いよ……。こんなの酷い。酷過ぎる。みゅーは、みゅーは……。今本当に……本当に嬉しかったのにっ! 今のが嘘だったなんて……あんまりなの。こんな嘘イヤァ。なんで人間は嘘ばっかり……レインは違うって信じてたのに……。辛い……心が辛い。悲しいの。耐えられない。それで何する気なの? みゅーを仲間にしてくれないの? それに触ったら、酷いことになる気がする!」

 

 いきなり態度が豹変した。なぜ? ボロボロ泣き出して、少し声も裏返っていた。勝手に人の言葉を本気にして勝手に落ち込んでいるのはどうでもいいけど、問題は態度を一変させたこと。なぜこっちの演技を見破ったのかが重要だ。

 

 今こいつと目が合ったが、まさかこれが原因? いつもエスパーの目を見ると全て見透かされるような錯覚を覚えたが、それが錯覚でないとしたら? 有り得ない話ではないな。カマかけしてみるか?

 

「あーあ、もうちょっとだったのに。わざわざ演技までしたのにバレたか。お前もバカだなぁ。もう少しで勘違いしたままこの中で幸せな一生を送れたかもしれないのに。せっかくのチャンスを棒に振って。このままだとお前は地獄を見るかもね……。にしても、さすがはエスパーと言うべきか。やっぱり侮れないな。オーラでウソがわかるのはお前もなんだな。でも俺も最近読めてきたんだよな。今、俺の目を見たろ? お前らは目を合わせるとそのオーラとやらが見えるみたいだな。それってコツとかあるの?」

「エスパーならだいたい誰でもできるの。みゅーは最初からできたからコツなんてわかんない」

 

 あっさりしゃべったな。これなら聞きたい内容は全て誘導尋問にすればよかった。ウソはすぐにわかると判明した以上ますます生かしておけない。そもそもこいつは子供みたいな奴だが、持っている力はとてつもない。赤ん坊が見境なく包丁を振り回しているようなもの。その上こいつは意思を持って人に襲い掛かる上、自分の力に自覚がない。最も危険な人類の敵だ。確実に“封印”しておかないと。

 

「そう。参考にならないな」

「ねぇ、それなんなのっ。ただのモンスターボールじゃないの?!」

「そんなにこれが気になる? これ自体はただのモンスターボール。ただ、俺はちょっと普通とは違う使い方をするだけ。悪いこと言わないから、おとなしくこれに入っておけ。でないと気絶させてから捕まえることになる。その場合、さっきも説明した通り命の保証はできかねる。死にたくはないんだろう?」

「ぐぅぅ、みゅぅぅー!」

「おっと! 反抗的な行動をとればしんそくとバレットパンチで先制して倒すぞ。そうなると確実に気絶するが、自分の寿命が縮んでもいいのか?」

「みゅーっ、みゅーっ、いやいやいやっ!」

 

 構わずにモンスターボールを投げた。抗えずミュウは中に入る。コロコロとボールが動く。1回……2回……。ようやく観念したかと思ったが、最後の最後、すんでのところで中から出てきてしまった。

 

「お前……あくまで抵抗するつもりか。アカサビ、つるぎのまい」

「……」

 

 黙々と攻撃力を上げ始めた。これがどういうことかわかったのだろう。出て来たミュウは俺にすがりついて命乞いをした。まだ少し気分が悪くなる。俺の神経を逆撫でして、自分で自分の首を絞めているのがわからないのか?

 

 今のミュウの様子からはポケモン屋敷で俺達を圧倒し、クスクス笑っていた姿は想像できない。もう見る影もない。

 

「もうやめて! ごめんなざい、たずけて!」

「最初に言っただろ。まともに戦ってやる気は毛頭ないし、もう毛ほども容赦しない。どれだけ泣こうが喚こうが慈悲はないと思え。死ぬより……いや、地獄よりも恐ろしい罰を与えてやる、と。その恐ろしい罰がこれだ。ここで死よりも過酷な罰を受けさせる。お前は脅しだと言って取り合わなかった、それがお前の落ち度だ。後悔するなと念押しまでした」

「そんな……!」

 

 がっくりと膝をついてまたボロボロと泣き始めた。ただし、表情は全く変わらず、声も上げず、ぐったりしたまま涙だけが流れた。これで完全に心が折れたな。もう抵抗する気も失せただろう。今なら簡単に捕まえられる。ボールを投げようとゆっくりと振りかぶった。

 

「シショー!! 待って! みゅーちゃんに攻撃しないで!」

 

 ブルーの声!? 上から!? あいつプテラの制止を振り切って勝手に木を降りてきたのか! 上の方まで連れて行かせたのに! それにブルーは何を言ってるんだ? 攻撃するな? どういうつもりだ? アカサビに何かあれば攻撃して逃がさないように言い聞かせ、降りてきたブルーに問い詰めた。

 

「どういうことだ。なんで攻撃したらダメなんだ?」

「これは誤解なの! この子はね、悪意があったわけじゃないの。ちょっと加減がわかってないけど、シショーの気を引こうとしたっていうか、構ってほしかっただけみたいで」

「なっ!? まさかお前はそう言われて、はいそうですかと真に受けたのか? この大バカ! 後でどうなっても知らないぞ?!」

「わたしだって簡単に信じたりしないわよ! みゅーちゃんはわたし達のことジャングルで助けてくれたの。とにかくお願い、一度話し合いをしましょう。それに、やっとシショーと会えたのに、もうこんなところ見たくないわ。みゅーちゃんに何したの? げ、何これ……むごい、むご過ぎる。気絶こそしてないけどひっどい状態じゃないの……とにかく、これ以上みゅーちゃんをいじめないで! シショーは普通と違って強過ぎるのに野生のポケモン相手に本気出し過ぎよ! これじゃ虐待実験と変わらないわ!」

 

 その言葉でハッとした。たしかに、俺はいつのまにか怒りに任せて痛ぶることを楽しんでいた。最初こそ尋問のためという名分はあったが、今はもはやそれも飾り。やり過ぎなのは否めない。触られて気分が悪くなった辺りから自分でも歯止めがかからなくなっていた。

 

「みゅーっ、ブルー! 助けて! 痛いの! みゅー死んじゃう! 死にたくない、お願い助けて! みゅー、みゅーっ」

「よしよし、今までよく耐えたわね。もう大丈夫、あとはわたしに任せて。ちゃんとシショーは説得してあげるから、もう怖くない」

 

 ミュウはブルーに気づいたようで、その姿を見ると迷いなくブルーにしがみついて、ブルーもそれを当然のようにうけいれている。元々仲が良かったように見えた。これだと攻撃しづらいし、モンスターボールを投げるタイミングを失った。マズイと思ったがもう遅い。

 

「……本当にそいつと和解したのか?」

「うん。だからもう許してあげて。こんなにパニックになって死んじゃうと思うほど怖がらせるなんてどう見てもやり過ぎよ? もう弱りきっているし、十分反省したと思うわ」

「……仕方ない。いったんは様子見にしよう。ただ、ミュウが非友好的な行動をとれば次は容赦しない。俺だって死ぬのはごめんだからな。これでいいか」

「それで十分よ。あ、それともうひとつ。シショー、助けに来てくれてありがとう。わたしもうここから帰れないかと思ってたの。さすがにシショーでもこんな遠くまで来れないと思ってたし。だから……」

 

 その言葉でそれまでの殺伐とした気持ちが全て消え去り、自然と笑みがこぼれた

 

「ブルー、地球の裏側にいこうが、宇宙の果てまでいこうが、どんなに遠くに離れていても“必ず見つけてやる”って言っただろ。 俺はお前のシショーなんだから」

「えっ!? それ、覚えてたの!? いきなり不意打ちなんてずるいわよ……ううぅ、シショーッッ!!」

 

 感極まって嬉し泣きするブルー。きっとこれまで大変だったに違いない。ずっと心細かっただろう。それでも俺を信じて待っていてくれた。これだけでもうここまでの苦労も全部吹き飛んでしまった。大切な約束を守ることができ、ブルーのシショーとして誇らしい気持ちになった。

 




途中切りにくくてなんか長くなってしまいました
最後ちょっとだけハッピーエンド感出しましたが途中までレイン怖すぎ!

ブルーいなかったらみゅーちゃんはどうなっていたのか
モンスターボールは結局なんだったのか
その辺りは次ぐらいで説明します


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8.なんでそんなこというの?

前回は寝れなくなるほどのたくさんの感想ありがとうございます。
多種多様な感想を頂けて感謝の至りです。

これからもたくさんの感想を書いてもらえるように頑張りたいと思いました。
皆さんからの感想を楽しみに待っています。



 ブルーがこれまでのことを説明するというので、少し時間をおいてからゆっくり話に耳を傾けた。ミュウは遠くの樹の陰からこっそりとこちらの様子を見ていた。

 

「こんなところよ。シショー、ちゃんとわかった?」

「……つまり、だ。ミュウは最初から悪気はなく俺達を攻撃した時もちょっと力加減を間違えただけで、ブルーも最初からちゃんと返すつもりで今まで一緒にいた。だから悪意があるどころかむしろ好意すらあって、仲間になりたいというのは本心からの言葉だったということか?」

「そうそう! そうなのよ! どうしたの? シショーのことだから意固地になって絶対わたしの話も聞かないと思って覚悟してたのに」

 

 仰々しく驚くブルーにため息が出た。人の事なんだと思っているんだ。

 

「お前、俺の事そんなふうに思ってたのか……。あのさぁ、何が言いたいかぐらい俺でもわかるに決まってるだろ? でも、あれを簡単に許すことは絶対にできない」

「もう……やっぱり意固地ね。許してあげようよ。わたしも、こんなところにつれられて怖かったし、言い尽くせないぐらい色々大変だったけど、今はこうして無事だったんだからいいんじゃない?」

「結果的に無事なら何をしてもいいって言うのか? 無事ならお咎めなし。俺が死んだらもう取り返しはつきません。なるほど、めでたしめでたしだな」

「うっ……いじわる! たしかにそうだけど、じゃあ正当防衛だからって何してもいいってことにはならないでしょ?!」

「お前はバカか? やられるまえにやるのは当たり前だろ? 法律で決まってるとか、倫理的にダメだからって理由があれば黙って殺されるのか、お前は? バカバカしい。正当防衛どうこう以前の問題だ。殺されかけたんだからこっちも命取る気でかかるのは当たり前。多少尋問はしたが、今まで俺がされたことに比べれば大したことじゃない。ましてやあれは人間ですらない。ポケモンのルールは弱肉強食だけなんだよ。だったら俺に敵対した時点でああなるのは当たり前だろ?」

「……わかったわ。降参よ。シショーに口論で勝てる気しないわ。でもね、みゅーちゃんはシショーにここへ来てもらうのをずっと楽しみにしていたの。それはわかってあげて。シショーに遊んでほしかっただけなのは間違いないんだから」

「本当に遊んでほしくてあんなことしていたならむしろ最悪。また何かの弾みでとんでもないことをしでかす可能性もあるということ。まだ悪意がありましたと言う方がマシだったぐらいだ。俺としては正直エスパーは怖いし、近くにいると体調もおかしくなる。仲間なんてこっちがお断り。むしろ二度と俺には近づかないでほしい」

「みゅぅぅぅ、うう、みゅうんん……」

 

 ミュウはまたボロボロと泣き始めた。視線をやればいつの間にかミュウはかなりこちらに接近していた。注意していなかったから気づかなかった。俺が怖いから離れていたんじゃなかったのか?……あえて無視して話を進めた。

 

「なんでそんなこというのよ! 悪気はないのよ?」

「ないから余計ダメなんだ。いいか、もし悪気があってしたなら善悪の判断ができる分まだ更生の余地はある。だがこいつにはそれがない。ならば良かれと思ってまた同じようなことをするに決まってる。それに、きまぐれでわがままで自分本位で、自分では気づかずに周りに迷惑かけるような奴は大っ嫌いなんだよ。どっかのジムリーダーみたいでな!」

 

 大っ嫌い、と言ったところでミュウは声を上げてみゅーみゅーと泣きだした。人間の格好でその鳴き声出すのやめてくれないかな。いい加減こっちも我慢の限界なんだけど。

 

「そんなっ! もう、泣いちゃうようなこと言わないでよ。はっきり言うことないでしょ!」

「ムダだ。そいつはナツメと同じでウソは見抜く。だったら取り繕う意味はない。何と言おうがこいつの第一印象は最悪。そっちが俺を好きだろうがなんだろうが、こっちはキライだから」

「みゅーっ、みゅーっ、……わぁぁぁんんん、いやいやいやっ、そんなのいやいやぁぁ!」

「また癇癪か。こいつ……ひと思いに……」

「げっ、ダメよ! ちょっと待って! ほら、みゅーちゃん、泣かないでー。こんなことしても余計に嫌われるだけよー」

 

 ブルーがミュウに駆け寄って泣き止ませようとした。ミュウはそれに甘えてブルーに抱きついている。……どの面下げてこんな真似できるんだ? ミュウは自分がブルーにしたこと覚えてないのか? こいつの神経を疑う所業だ。

 

「でも、今急にものすごくキライだっていうイメージが伝わったの。ブルーが説明している時はちょっとずつオーラがおだやかになっていたのに……もうこんなの無理、みゅーまた絶対ヒドイことされるの」

「ふーん……。そんなに苦しそうに泣くぐらいならこの中に入ればいいのに。そしたら一生余計な事は何にも考えなくて良くなるし楽になれるけど?」

「…………それ、どういうことよ。まさか……それに入ったら死んじゃうの?」

 

 重苦しくブルーが俺に問いかけると、びくっとブルーの体にうずくまっていたミュウが反応した。よっぽどこれが怖いらしい。

 

「それこそまさかだ。ただのモンスターボールなのにいきなり死んだりするわけない。でもさっき言ったことは本当だ」

「……お願いだから絶対にそれは使わないでね。いや、シショーなら言っても使いそうだから没収ね。それは預かるわ……とりあえず、シショーがみゅーちゃんをキライなのはわかったから、しばらくいっしょにここで生活しましょう? せっかくこんなところにきたんだし、ゆっくり見て回りましょうよ。近くには古代の遺跡とか滝の裏の洞窟とか面白いのもあるらしいし」

 

 ボールはおとなしく渡し、ここにいることにだけ了承した。

 

「まあ、たしかにここまできて手ぶらで帰るわけにはいかないし構わないだろう。けど、それが一緒にいるのはよしてくれ。比喩とかじゃなく本当に気分が悪くなるから」

「そ、それぐらいは勘弁してあげてよ。ミュウちゃんが悪いわけじゃ……」

「じゃあハッキリ言おうか? キライだから視界に入らないで」

「みゅぅぅ」

「……ひどい! なんでそんなこと平気で言うの!」

「俺も言いたくて言ってるんじゃない。でも、言わないとわからないだろ?」

「ダメ! シショー、いくらミュウちゃんが悪いからってそれはダメよ! これ以上言ったら……そう、シショーが後悔することになるわよ!」

「……どういうことだ?」

「えーと、ほら! 昔同じことがあったでしょ。わたしと最初バトルした時。あの時シショーは後悔してわたしに謝ったじゃない! 同じこと繰り返す気?」

 

 あれか……そうだ、あれもブルーが悪いからって結構ひどいことしたな。たしかに今回も同じなら落ち着いてから後悔はするかもしれない。

 

「それだけじゃないわ。シショー、みゅーちゃんがシショーを好きだってこと、どういうことか全然わかってないでしょ? 好きな人からこんなにはっきりキライだって言われたらどんな気持ちになると思う? シショー、自分ならどうか考えてみてよ。もし、例えばだけど……わ、わたしが、心の底からシショーのことを、嫌いだっ!!……って言ったらどう思う?」

「……」

「シショー? まさか、なんとも思わないなんてこと…」

「そうだな。言いたいことはわかる。ブルーに言われたらショックだろうな。たしかにミュウのことは軽んじていたかもしれない」

「ふぅ、良かった。じゃ、みゅーちゃんも一緒にいてもいいわよね?」

「いるだけならな。どうせそいつは好き勝手テレポートするからこっちからはどうにもできないし……勝手にすればいい」

「やった! シショーの言葉だと言質取ったってやつね。じゃ、今からさっそく探索に……」

「探索は明日だな。今の殺伐とした感情のままだとここのポケモン全部再起不能にしそうだし」

「みゅ~ぅ」

「あははっ。やだシショー、そのジョークは笑えないわよ」

「そのミュウの顔見てもジョークだと思えるのか?」

「……」

 

 今日はもう何もしたくない。けづくろいして癒されてから早く寝よう。プテラに乗って樹の上の方に行き、ミュウから離れた。

 

 けづくろいをするためにボールから全員出すと、少しいつもと違う。少し怯えている? こんなこと初めてだ。聞いてみるとどうもさっきのが怖かったらしい。自分はいつも通りのつもりだったが、グレン達は違ったらしい。聞けば“みねうち”なども怖いことは怖かったが、特に笑顔でモンスターボールに入れようとしたのが怖かったらしい。モンスターボールは何をするための道具か教えてないはずだが、なんで怖いんだ? ブルーに渡したのとは別のモンスターボールを見ながらしばらく思案にふけった。

 

 ミュウに対してモンスターボールをどう使おうとしたのか……それは簡単に言えばミュウを永久にボールに閉じ込めるつもりだったのだ。モンスターボールに封印。これが俺の秘策。名付けてピッピ式二重結界!

 

 最初に思いついたのは、ポケモンに道具を持たせる実験中。複数個持たせたらどうなるかなどを試す際、大した道具を持っていなかったので数合わせでモンスターボールを持たせたのがきっかけだった。

 

 そのとき疑問に思ったのは、中にポケモンが入ってるボールを別のポケモンに持たせ、そのままボールに戻すとどうなるかだった。試すとボールの中のポケモンは出れないことがわかっていた。理由を考えて検証した結果外の空間が自分の体より狭いからということは確認できた。

 

 これを利用すると、ボールに入ったポケモンを完全に封印することができる。ただ、このままだとボールを持たせたポケモンも二度と出すわけにはいかなくなる。出した瞬間に封印したポケモンも勝手に出られるようになるからだ。

 

 そこで別の日に、生きたポケモンでなくピッピにんぎょうをボールに入れる実験をした。これが意外にも上手くいった。ボールにボールを入れることはできないのに、道具の中でもピッピにんぎょうだけはポケモンと誤認しているのか入れられた。

 

 理由はわからない。ピッピにんぎょう自体ポケモンにピッピだと誤認させているわけだからボールをも欺いてしまったのか、あるいは単純にバグなのか。だが大事なのはこれが可能だということ。

 

 次にピッピにんぎょうにボールを持たせて中に入れた。これも上手くいった。やはりピッピにんぎょうがポケモンと同じ扱いなのかもしれない。そして、これを組み合わせて完成したのがピッピ式二重結界。ボール内にいる間は年を取らず代謝もない。故に死ぬことはない。殺さずに簡単に無力化できる。

 

 実験はバラバラにしたのでグレン達はこの封印術を知らなかった。さすがにポケモンに見せていい代物ではないと思ったからこれは意図的に避けていた。

 

 モンスターボールを見ながらそんなことを思い返していると、遠くから視線を感じ、素早くサーチを使った。

 

 ……ミュウが木陰からこっちを見ている。思い切って振り返ると目線が交わった。

 

「みゅっ!?」

 

 気づかれると思ってなかったのかミュウは慌てて逃げようとした。よっぽど驚いたのか、その場でこけてから慌ててブルーのいる下の方へ逃げて行った。ブルーがこけたならドジだなぁで終わるが、ミュウがこの反応を見せたことは少なくない意味を持つ気がした。

 

 調子の良い時なら俺が振り向いた時点でテレポートしていたはず。ゆえに目視もできない。今簡単に見れたということはエスパーの力はいつでも使えるわけじゃないのだろう。力そのものは完璧でも、使う者は完璧ではないんだ。これは大きな隙になる。もし何かあればこの隙をついて封印を……。

 

「ガーウ?」

「なんでもない。さ、けづくろいしよう。ちゃんといつも通りしてあげるから怖がらないで」

 

 但し、もうミュウにはこちらから何かするつもりはない。最初は目を合わせただけで気分が悪くなったし、テレパシーで呼びかけ続けられた時はひどい頭痛があったりもした。最初のバトルではボロボロに負けはしたが、もうミュウを封殺する手順も確立されている。ミュウの能力の強力さに不安もあったが、改めて考えてみれば能力を上げた状態で不意をつかれてもこちらが万全ならもう負ける気はしない。ボールに入れれば能力は戻るし一瞬周りをポケモンで囲むための時間は稼げるからだ。だからあっちから何もしないならもうどうでもいい。

 

 今からは徹底的に無視する。相手にしない。そうすれば俺への興味も失せてまた1人で好き勝手にするだろう。ミュウの性格は“きまぐれ”。心の移ろいも勝手気ままだから俺なんてすぐに忘れるはずだ。

 

 時間をおいてから下に降りると、らしくもなくブルーがテーブルを用意して料理の準備をしていた。

 

「おい、まさかお前が何か作る気か? やめとけ、お前じゃ食料が無駄になるだけだ」

「あれ、降りてたのね。別にわたしでも少しはできるのに。じゃあシショーが作ってくれるの?」

「あの腕で少しでもできるという自信が持てるのか……料理とかは全部俺がするから。こっちで準備しているから先に体でも洗ってくればどうだ? 近くに川があったろ?」

 

 みゅーの方に目を向けながら言うと少し考えてからブルーも答えた。

 

「……そうね。じゃ、任せたわよ。……みゅーちゃんも一緒にいきましょう」

「うん」

 

 ブルーは俺の意図を察したらしいな。ミュウがいると料理の間ジロジロ見られてうっとうしいからブルーと一緒に追い出したかったのだ。しばらくして料理が出来た頃にブルー達は帰ってきた。

 

「シショーもうできてる?」

「できてるよ。今できたから早く食べろよ」

「なんかシショーに作ってもらうのってものすごく久々な気がしちゃうわ。とっても楽しみ」

「あれ、みゅーの分は?」

 

 みゅーも一緒に帰ってきてキョロキョロと俺とテーブルを交互に見ている。

 

「なんだ、お前もほしかったのか? お前には不要だろ? お前は野生のポケモンなんだから、きのみでも拾ってきて食べればいい」

「みゅー。そんな……みゅーも一度レインの作ったごはんを食べてみたかったのに……」

「あっ。かわいそうに……ねえみゅーちゃんっ。わたしの分あげるから元気出して」

「ブルー、余計なことはするなよ。お前のために用意したものをそんな奴に渡すな。そんなことしたら本気で怒るから」

 

 ブルーは俺の顔、やや上の方を見ながら答えた。

 

「ご、ごめんなさい。でも……それだとみゅーちゃんが……あっ、ちょっとみゅーちゃん!」

「みゅぐっ」

 

 ミュウはシンボラーに“へんしん”してどこかへ飛んでいってしまった。

 

 夕食の後、しばらくすると戻ってきて、その後はずっと俺の後ろをつけるようにしてついてきた。休憩していてもこっちをじっと見て、技の練習を始めてもその間ずっと俺のことを見ている。たまに振り返って睨むとすぐに下を向いて目を逸らすが、俺が目を離した瞬間またこっちを向く。予知されているかのような無駄のない動き。腐ってもエスパーか。試しに少しだけ話しかけて見た。

 

「……なんか用?」

「えっ」

 

 話しかけられるとは思わなかったのか、まごまごとして何もしゃべろうとしない。予知できるのかできないのかどっちなんだ。

 

「え、じゃない。ずっとこっち見てるだろ。どういうつもり?」

「みゅーぅ。みゅーは何しているのか気になって。近くにいたくて。それだけで……」

「そのわりには俺の顔ばかり見てるようだが。気が散るからやめてくれる?」

「イヤだったの? ごめん。そんなつもりじゃなくて……本当にみゅーは傍にいたいだけなの……。あの、じゃあ、一緒に……みゅーにも技とかを教えてほしいの」

 

 こいつ……本当にバカなのか? なんで敵になる可能性が高い奴を強くしないといけないんだ。それにさっきからジリジリと間合いを詰められている。何のつもり?

 

「なんで俺がそんなことしなきゃいけないんだ? 邪魔だからあっち行って」

「みゅ……なんでそんなこというの……真剣にお願いしてるのに。みゅーのオーラ見えないの?」

「そんなもの知らない」

 

 近づいてきたミュウを手で軽く払いのけようとすると、触れた瞬間ミュウがまた大声で泣き始めた。

 

「みゅうぅぅぅ! みゅうぅぅぅ!」

「ったくもう! 別に泣くことないだろ。俺は何にもしてないだろ、なぁ? まったく、まるで会った頃のブルーみたいだな。ストーカー具合でもあいつに負けず劣らず。ブルーも最初はウザイぐらいしつこかったからなぁ」

「……ぐひゅ。ブルーも?」

 

 つい余計なことまで言ってしまった。すぐに聞き返されたがとりあわずに追っ払うことにした。

 

「とにかくお前はあっちいけ!」

「……いや! ずっと見てる」

 

 こいつ……! なんなのこのポケモンは。目を直視する勇気すらないのか目をそらした格好で口をとがらせて駄々をこねた。なんでこんなにしつこいんだ?

 

「一応聞くけど、痛い思いしたこと忘れてないよな? ここだと自然回復が速いからもう治ったみたいだが、喉元過ぎればってやつなのか? 何ならもう一度思い出させてやろうか? みねうち100回してやるよ」

「こ、……怖くないもん。今のレインはあの時とは少しオーラが違うの。もう冷たくはないし……それに、みゅーとレインは波長が同じだから、きっとみゅー達はひかれあう運命なの」

「またか! もう! 運命とか波長とか、エスパーは何言っているのかさっぱりわからん! やめだやめだっ。ヒリュー、今日はもう練習終わり、寝よう」

 

 あたらしくニックネームをつけて、優先的に練習させていたプテラ改めヒリュー(飛竜)をボールに戻して練習を切り上げて下の拠点にした場所に戻った。

 

 ニックネームの理由は翼竜みたいな見た目だから。ではなぜヨクリューではないのか。それは飛竜の漢字にある。飛と竜。こう、なんか、表と裏というか、縦と横というか……。

 

 とにかく、練習を切り上げブルーのいる場所に戻ると、当然のようにミュウもついてきた。無視していたのが裏目に出たのか、俺が黙認したと勘違いしたようでほんとに好き勝手するようになってしまった。

 

「あら、シショーずいぶん懐かれてるじゃない。さすがねー」

「これが懐かれてるだけに見えるのか? これはな、ストーキングっていうの。俺はストーカーにつきまとわれているの。わかる?」

 

 暗にストーカーのお前にはわからんだろうという含みのあてこすりだ。

 

「……またまた照れちゃって。それで、もう寝るの? せっかくだしおしゃべりしましょうよ! 深夜のガールズトーク! 特別にシショーも混ぜてあげるから、ね?」

 

 こいつ、ストーカーって単語出すとホント露骨に話をそらそうとするな。毎度俺のことを照れてる扱いするし。だいたい俺がいたらガールでもなんでもなくなるだろ。

 

「別に混ぜんでいい。そこのお子様の面倒はお前が見てやれよ。自分が言いだしたんだから」

「あ、ちょっと!」

 

 ミュウを押し付けて俺はさっさと寝ることにした。これで一時的とはいえミュウの呪縛から解放される。ストーキングは意外と精神的にクルものがある。俺は枕を高くして眠りについた。

 




封印の正体が明らかに
要するに聞きたいことだけ吐かせた後、危険なのでミュウは封印してパソコンに送るつもりだったわけです
ボールの中は快適とは言え一生閉じ込めるのはかわいそうですね


道具を直接ボールに収納できないとしたのはそれできると汎用性高過ぎだからです
例えばバッグ持っている人間がおかしくなります
そのバッグをボールにしまって持ち歩けば軽くなりますのでしない理由がない
ピッピ式限定だと持たせられる道具に制限がつくので汎用性は低くなります


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9.こころを波に

 翌朝、安心して油断していた俺はとんでもない目にあった。悲しみ・絶望・憤り・後悔……いろんな感情がごちゃまぜに湧き上がり、起きたらものすごい量の涙を流しており自分で自分に驚いた。鏡で見れば目が真っ赤に腫れあがってる。こんなことになる原因は1つしか考えられない。すぐさまミュウのもとに苦情にいった。

 

「おい、ミュウ!!」

「ひゃうっ!」

「お前、またなんか俺にしただろ! もういい加減にしろ!」

「どうしたのシショー朝っぱらから……って何その顔!? どんだけ泣いたのよ!」

「こいつのせいに決まってるだろ! もうたくさんだ。エスパー使いはどいつもこいつも俺に攻撃してくる。目を見れば気分は悪くなる。テレパシーを受ければ頭痛がする! 今度はこれだ! いい加減にしろ! これは立派な攻撃だ! やっぱり放っておくと碌なことにならない!」

 

 本気で怒るとミュウもしっかりそれを感じたらしい。涙交じりにミュウは必死で言い訳を始めた。

 

「わざとじゃないの! 昨日みゅーが悲しくて、その感情が抑えきれなくて溢れちゃって、レインにも流れこんでしまったんだと思うの。寝てると心の膜は薄れるし、レインはエスパーとして未熟だから、みゅーみたいな力の差があるエスパーの力を強く受けてしまうの」

「はぁ? 何言ってんだ? 俺が未熟なエスパー? 寝言なら寝ている時に言えよ」

「あ……いや、あははー。そうよね、シショーがエスパーなんておかしいわよねー。でもみゅーちゃんはシショーにもなんか特別な力があるから間違いないって言うのよ、ハハハッ」

「そうか……まだ寝ぼけていたのか、あるいはまだ夢の中なのか……。いろんなことがあったし、俺も疲れているみたいだな。もう1回寝よう」

「みゅぎゅっ!」

 

 戻って本当に寝ようとすると、“ねんりき”を使って器用にピンポイントで俺の手首をねじりやがった。かなりの力だ!

 

「痛い痛い痛い! 何すんだよ!」

「夢だっていうから、つねってあげたの。みゅふふ、起きてるでしょ?」

「余計なお世話だ! ……やっぱり封印してやろうか? 最後に言い残すことは?」

「え、シショーまだ封印できるの!?」

 

 ナツメと同じくまた手首を捻じりやがった! そういやここが“ねんりき”かけやすいとか言っていたな。冗談の類ではなかったのか。どうしてどいつもこいつも平然と人様の手首を破壊しようとするのか。

 

「え……ウソでしょ、本気なの? 待って、ミュウはウソついてないの。おかしくなるのはみゅーのせいじゃない! じゃあみゅーは悪くないってわかるまでエスパーのこと説明してあげるの。レインはなんにも知らないみたいだし、あんまりエスパーの力は使えないみたいだから、みゅーの言うことも聞いた方がいいと思うの。だからもう怒らないで」

「え、そんなこと言ったらマズイんじゃ……」

「なんでマズイんだ? だったら早く説明しろ。これ以上こんなこと続けられても困るし、なんとかできるならそれに越したことはない。なんともならないなら速やかにミュウは追放だ。いいな?」

 

 俺は手首捻じって来たのにキレたんだけど、自分からタネ明かしするというなら願ったり叶ったりだ。とりあえずその通りにしてもらおうか。軽めに脅すと素直に説明し始めた。

 

「そんな! 絶対そんなことさせないの!! じゃあミュウの言うことを良く聞いてね。えーっと、あのね? んー、エスパーっていうのは心が波みたいに感じられて、それで感情の変化に敏感なの。強いサイコパワーがある程敏感に相手の心を読めるの。相手の波を読み取るために自分の波を、つまり波動を使って相手を調べたりするから、エスパー同士が会うと、力の差が大きいと相手の力に飲まれて体調が悪くなることもあるらしいの。みゅーはないからあんまりよくわからないけど。なんていうのかな? ラジオの電波が電気ポケモンが近くにいると乱れるみたいな感じ? いわゆるエスパー酔いなの。みゅーもナツメっていうジムリーダーも力が強いからレインじゃすごくしんどかったかもしれないの。一度慣れたらもう起こらないと思うし、みゅーより強い力の持ち主はいないだろうからこれからはもう安心していいの」

 

 なるほど。少しはエスパーについてわかってきた。ただ、こいつ説明がかなり下手のようだ。いきあたりばったりで思いついたことを並べている感じ。絶対人に説明したこととかないな。こっちからもいくつか聞いてみるか。

 

「オーラが見えるとかよく言ってたよな。感情の変化がオーラってやつなのか?」

「そうなの。レインよくわかったね。オーラは感情を波として感じたものなの。感情の起伏と一緒に変化してだいたいの気持ちはわかるの。特にウソを言うとき、人は必ずオーラが乱れる。どんなにウソが上手くても、自分にはウソつけないから。だから必ずエスパーにはウソがわかるの」

 

 なるほど。そういうカラクリだったのか。ウソがバレるのは厄介と思っていたが、もしかしてエスパーを騙すのって意外と簡単かもしれない。自分を騙す、いや納得させればいいわけだ。ミュウはできないと言ったが方法がないわけじゃない。

 

「じゃ、波長と波動とオーラ、これらは何? あるいは違いはどこ?」

「え、違い? うーん。難しいこと聞くのね。波長はその人の個性が現れて、人によって長かったり短かったり、形も色々あるの。波動は自分の波を相手に干渉させるときに体の外に出すやつのことかな。オーラはモヤモヤしていて、形とか色とかでそのときの気持ちとかがわかるの。場合によっては考えていることもわかったりするの」

 

 なるほど。説明は下手だけど言いたいことはなんとなーくはわかる。今までわからなかったことも言わんとしていたことが推測できそうだ。

 

 できたらそれらの関連性も聞きたかったんだが、全部独立していて別物なのか? そんな感じには思えないけど、これ以上は聞いてもこいつ自身が理解していなさそうだ。

 

「あと、俺が波動使いとか言っていたがあれはなんだ?……ブルーどうかしたか?」

「いや、なんでもないの。どうぞ続けて!」

「みゅみゅ。あの時、みゅーはこっちの波動を探られるような、なんか調べられているような感覚がしたの。みゅーは敏感だからちょっとした違和感だったけどわかったの。レインはきっと能力に目覚めている」

「能力に目覚める?」

「資質に目覚めると言い換えてもいいけど、エスパーには誰しも普通じゃできないような特殊な力があるの。みゅーはへんしんとテレポート。普通の技とはちょっと違うの。人間になれてずっと維持できるし、マーキングした場所へはどんなに遠くでも一瞬でいけるの」

 

 なんと、エスパーにはそんな共通点があったのか。おそらく俺の場合はこのよくわからない力、サーチとアナライズ。なんでこんなことができるか今までわからなかったが、まさかエスパーだからだとはなぁ。自分がエスパーなんて信じられないし、事実と断定はできないが、今までの突拍子もない出来事の数々を顧みればありえそうだとは思えてしまった。

 

 そもそもミュウの“へんしん”がずっと解けないのは気にはなっていた。気絶してないからだと思っていたが、この分じゃ気絶しても解けないんだな。自分の意志でしか元に戻らないのか。技とは別なら性質とかも微妙に違うんだろうな。例えばこの前はポケモンを見ずにシンボラーになっていた。あんな芸当はやはりこいつだけしかできないんだな。

 

 テレポートも強力過ぎるとは感じていたが、やはり特別なものなんだな。つくづくこいつの力は侮れない。

 

「じゃあナツメの予知とかスプーン曲げもか?」

「たぶんそうなの。スプーンを曲げるぐらいはみゅーもできるけど。レインはどんな力なの? すごく気になるの」

 

 俺のことはやはり当然聞いてくるか。アナライズとサーチについては自分でもわからないこともあるし、努力値云々が絡むとあまりしゃべり過ぎたくない。できるかわからないが多少ごまかしてみるか。

 

「……さぁな。俺自身まだ使いこなせてないし。わかってるのは、ポケモンの良し悪しははっきりわかるってことだな」

「どういうこと?」

「素質がわかるんだよ。単純な強い弱いじゃなくて、本質的な良し悪し。眠っている才能がわかるとでも言えばいいのか。だからうちのメンバーはみんな俺の眼にかなった優秀なポケモンばかりだ。この力はトレーナーとしては最高の能力だな」

 

 ウソではないが真実でもない。全てを言わなくてもウソではないからこれは通るはず。それに、俺がウソではないと納得できることで、さらにオーラの乱れとやらはなくなるはずだ。

 

「ふーん。まぁ能力は必ず本人がほしい力が宿るから。そんな力があるのはレインがトレーナーとしてそれを欲したということなの。みゅーも人間になりたいと思ったらなれちゃったし。ねー、その能力でみゅーも見てよ。すっごく強いから! いいでしょ? 見てよ、絶対すごいって思うから。お願い、見て?」

 

 今の話、ほしい力が宿るっていうのはおかしくないか? それになんだこいつの反応。見て見てって何?

 

「お前はもう見たんだけどな。一応使うか。どれ……」

 

 サーチ!

 

「はやくはやく!」

 

 ……気づいてない! やっぱりサーチはわからないのか。あえて乗ってみたのはサーチを使った時の反応を見るため。みゅーの説明でなんとなくわかったが、たぶん波動とやらの使い方がアナライズとは微妙に違うんだな。

 

 俺が波動使いという今の話の流れだと、相手を調べるのはおそらく波動とやらを利用していると考えるのが自然だ。アナライズは相手の波動の中枢に干渉する感じで、それゆえミュウも俺の波動を感じるが、サーチは万遍なく自分の周りを見るのでこっちの波動の狙いがバラけている分ミュウに対しては干渉が小さく感知できない、という感じなのだろう。完璧に当たっているかはわからないが当たらずとも遠からずというところだろう。

 

 アナライズ!

 

「あっ! すごい! 見られてる。やっぱりちょっと恥ずかしいかも……」

 

 完全にアナライズだけ反応したな。体をくねくねさせて恥ずかしいけど嬉しそうな顔をしている。本当にこれは感知できているようだ。サーチの活用が攻略のカギか……。

 

「うわー、ホントに今なんか見ているの? シショー本当にエスパーなんだ。うわぁ……いっつもその力を何食わぬ顔で使っていたのね。びっくりねぇ。……というか、傍目に見るとなんかいやらしいわね。シショーだけ真顔でシュール」

「へんなこと言うな。ん? あっ、えええ!! 何これ!?」

「みゅうっ?」

「何々? 何なのよっ!」

 

 6Vは相変わらず。だが、大事な性格の部分が変わっていた。なんと“きまぐれ”から“おくびょう”に変化していたのだ。理想個体性格一致とか奇跡にも程がある。たぶん、いや絶対、二度とお目にかかることはできないだろう。

 

「いや、それが、なんでか前見た時と違……あ」

 

 原因はすぐわかった。言うまでもなく昨日のあれだ。そりゃ人間でも久方ぶりに会えば性格変わっている奴もいるが、ポケモンもそれと同じなのだろう。

 

 だが、そうすると昨日みたいにすれば少なくともおくびょうな性格のポケモンは量産できる可能性が……もっと言えば理想的な性格なのに後天的に変わってしまうこともありえることになる。おくびょうなアカサビさんとか勘弁してもらいたいな。絵面的にもイヤだ。

 

「なんなの、みゅーはどうだったのっ!」

「あー、その話はまた今度な。それよりお前の話はいくつかおかしなことがある。まず、能力は求めたものが手に入ると言ったな? だが、ナツメは予知の能力にうんざりしていた。どういうことだ? ウソだったなら許さない。もしここまででウソがあったなら今言えば許してあげるけど?」

「みゅ!? みゅーのこと疑ってるの?! なんで、全然オーラわからないの? みゅー……本当に下手っぴなのね。信じられない。エスパーとして最高の素質はあるはずなのにここまで未熟なんて……」

 

 その目はイラッとくるんだけど。ものすごい憐れむような視線を送られた。なんでよくわからん力について下手だの何だの言われなきゃいかんのだ。理不尽過ぎる。

 

「仕方ないわよ。シショーって疑り深いから。その上いじっぱりな性格だし」

「うるさい。俺はしんちょうな性格だ。のうてんきなお前には言われたくない。それで、ウソじゃないなら俺の質問に答えてみろよ」

 

 ふくれっ面のブルーはおいといてみゅーに問い質した。わざとしっかりと目を見ながら。その意味はミュウもわかったのだろう。こっちの目を見返して答えた。

 

「ウソじゃないの。ナツメが過去に予知の力を欲しがったことは間違いない。みゅーはナツメのことはよく知らないから正確にはわからないけど、だいたいの予測はつくの。未来を知りたいなんていかにも人間の考えそうなことだし、幼かったならなおさらね。小さいときは先のことが視たかったんだと思うの。エスパーとして成長して、今になってようやくバカなことをしたって気づいたんでしょ。愚かな人間らしいの。みゅみゅみゅ」

 

 思わずゾクッとした。子供のくせにやけに達観しているな。しかもエスパーとしての格もナツメより遥かに上と見ていいだろうな……。こういうところはさすが幻のポケモンか。目を見て牽制したし、話の内容からしてウソはなさそうだ。……本当に俺はエスパーだったのか。

 

「まだ聞くことはある。お前、ずっと俺達を見ていたらしいが、いつから見ていた?」

「タマムシでポケモンと戦っていた頃、グレンを捕まえていた頃からなの。ずっと近くから見てた。もっと近くでいたかったけど、何度かみゅーに気づいたような素ぶりをされたからちょっとずつ遠くになって寂しかった……」

 

 やっぱりこいつずっと近くに……ほぼ最初からじゃないか。思い返せば旅を始めた頃はいつも気持ち悪い視線を感じていた。正真正銘本物のストーカーだな。やることが常軌を逸している。ブルーがかわいく見える程だ。

 

 グレンを捕まえた時何か感じて、その後に頭が痛くなったが寝不足のせいだと思っていた。だがあれはエスパー酔いのせいだったんだ。

 

 ハナダで感じたのもコズエじゃなくこいつの視線だったのか。……よく考えるとコズエは町の中で俺を見たと言ったのに、俺は町の外で視線を感じている。コズエは冤罪か。心の中で謝っておこう。

 

「それじゃあ、今まで俺が気分が悪くなったりしたのは全部お前が近くにいたときなのか。もしかして最初に夢に出て来た時も干渉を受けていたのか? エスパー酔いっていうのは厳密にはどんな時に起きる?」

「うーん……あんまりわかんない。みゅーは酔う程近づいたつもりはなかったけど、レインは最初なぜか普通の人よりも精神が歪で不安定だったから、みゅーが近くにいただけでも酔うぐらい影響を受けやすかったのかな。ごめん、ホントにわかんないの」

 

 みゅーは謝るけど納得がいった。そうか、そういうことか。不安定な原因は心当たりがある。話が繋がって来た。

 

 俺は突然こっちに引っ張られて来たからここに馴染むまで精神が不安定、そこにミュウからテレパシーが飛んできてさらに体の調子がおかしくなっていた。たぶんタマムシにいる時はずっとおかしなままだったんだろう。

 

 ずっと俺自身のストレスとかそういう理由だと思っていたが、結局全部ミュウのせいだったのか。俺が変じゃなかったのが判明したことはいいが、とんだ迷惑だったな。ミュウ自身が近付くことでそれは加速し、直接目を合わしたり触れたりしたときそれは最大に達したのだろう。

 

 最初のタマムシの住人からの視線も俺が精神的に不安定で外部の影響を受けやすい時に目を合わせてしまったから。

 

 ナツメと最初に会った時に目を見て見透かされるような気分になったのもそこからオーラを読まれていたからだろう。

 

「別にいい。お前は肝心なことは全然わかっていないようだし、説明も元々下手みたいだ。これ以上聞いても仕方ないな。今はこれだけわかれば十分か。とにかく話をまとめると、俺の体の変調は全てミュウのせいで、近くにいなければ問題は起きないということだろ? じゃあ、これからは俺の近くに来ないでね」

「えっ! そんな……一生懸命説明したのにあんまりなの……」

「ここにいたらお前はずっと俺の近くにいそうだし、もう出発するか。それじゃブルー、早く支度しろ。探索に行くぞ」

「え、ちょっと待ってよ、もういくの? 今起きたばっかじゃない」

「お前、日が昇ってから森に行ったらどう考えても危ないだろ。早くしろ」

「……それってようりょくそ持ちとかがいるからってこと?」

「ほう、よくわかってるじゃん。そういうこと。わかったなら早く支度しろ。俺は先に待っているから」

 

 それからはものすごく気分が晴れやかだった。ミュウが離れたからだろうか、台風の後の快晴のようだ。ずっとイライラしていたのがウソのよう。体の調子も未だかつてない程いい。準備を終えてブルーを呼びに行くと、むこうも準備を終えて俺を探していたようで声をかけられた。

 

「シショー、なんか今日は一段とはつらつとしているわね。どうしたの?」

 

 嬉しそうにブルーは笑顔を見せた。ブルーの笑顔なんて見るのはいつぶりだろう。ブルーが笑っているのを見ただけでこっちまで嬉しくなってきた。……これもエスパー効果なのだろうか?

 

「なんか体の調子がものすごくいい。自分が自分じゃないみたいだ。今まで壊れていたところが全部治ったみたいな感じ」

「……みゅーちゃんのせいで磁場が乱れていたけど、チューニングが終わって乱れがなくなった、みたいな?」

「ああ、言ってることはめちゃくちゃだがそんな感じだ。体中の枷がようやくとれたような解放感があって体が軽い軽い! 頭痛とかも今はもうないし、気分も悪くならない。やっぱりあいつのせいだったということだな。原因がはっきりして対処方法とかもわかって安心できたし、慣れたら大丈夫って思えたから余裕もできた。波やらなんやらは結局心の問題だから、気の持ちようでエスパー疾患は治るということだろうな。病は気からって言う通りだ」

「今まで大変だったのに、治ったらホント調子いいんだから」

「まぁそういうなって。あ、そういや言っておこうと思っていたんだが、お前ホントによく頑張ってこのジャングルを越えてきたな。昨日ラプラスからちょっと話は聞いた。ブルー、かなり頑張っていたらしいじゃないか。ラプラスがベタ褒めだったぞ? 師匠としては誇らしい限りだ。よくやったな」

 

 感情の全てを込めて言った。ブルーは幸せそうに息をついた。

 

「あっ! ふぅーー。シショー……。わたし、ホントに大変だったの。何回も負けそうになって、でもいつもラーちゃん達に助けられて。シショーがいないだけでわたしすごい心細くて……」

「でも今日からはまた一緒。さぁ行こう。ここらは人が来ないから、お宝とか珍しいポケモンとかいっぱいあるに違いない。もっと冒険したいんだろ?」

「そうね。じゃあさっそく、今日はあっちの森の方に行きましょう。わたしも向こうは行ってないから」

 

 ツリーを降りて森に向かおうとするとミュウが追ってきた。

 

「待って! みゅーも行きたい」

「みゅーちゃん!? ねぇシショー、みゅーちゃんはここのポケモンにすごく詳しいのよ。それにものすごく戦闘も強いし回復もさせてくれるから、絶対に連れて行った方がいいわよ!」

「そう。でも関係ないな」

「そんな! なんで? みゅぅぅ」

 

 しょんぼりとするミュウを見てブルーは俺から離れてミュウのそばに駆け寄った。

 

「なんでよ! ここは意地を張るよりも助けてもらう方が絶対いいわよ! まだ近くにいたら気分悪いの? ずっと調子良さそうだったじゃない!」

「言いたいことはわかる。気分は、正直思った程悪くはないかな。念のため近くには来ないでほしいけど……わかったよ、ブルー。そんな顔するな。もうミュウのことをとやかく言う気はないし、そこまでキライじゃないから。ずっとミュウのせいでおかしくなってたから遠ざけたかったが、今はなんか昨日までのことがウソみたいに心が穏やかだ。完全に全て許せたわけじゃないけど、もう十分気持ちはわかった。遺恨はないよ」

 

 それは本当だ。気分が良くなって、客観的にこれまでのことを振り返れた。改めて考えれば、これまで何度も大変な目に遭わされたが、殺意や悪意を感じたことは確かにない。ずっとそれは弄ばれていたからだと思い込んでいたが、本当に遊んでほしかっただけなのかも。テレパシーでも遊んでほしそうにしていた。みゅーの年齢や性格を見れば額面通りの意味だった可能性もある。

 

 それに俺がこっちに来たことに関しても今は何も知らない可能性が1番高いだろう。状況が整い過ぎていてそう決めつけていた。いや、俺がそう望んでいたのかも。

 

 ミュウの執拗なコンタクト。これは普通じゃない。俺ならあんなことされればすぐ逃げるし、ミュウもそうなると思っていた。だがそうはならなかった。なんでここまでするのか。何度か耳にした運命とやらを信じているからなのか?

 

「じゃあなんで断るのよ!」

「みゅー……おねがい、連れてって?」

「あのなブルー、この場合理由は1つしかないだろう? ミュウがずっと一緒だと、経験値の分け前が減っちまうだろうが! しょせんミュウは野生のポケモン。経験値が分散したら全部ムダになる」

「ガーン!」

「えぇー……。なんか、シショーってこういうときほんっとにドライよね。もっとさぁ、損得より大事なものとかないの?!」

「今この状況ではない。そもそもブルーだけならいざ知らず、俺に道案内なんざ必要ない。敵のレベルは高くても、しょせん野生のポケモンに過ぎないから助太刀もいらない。わかったらとっとといくぞ」

「え、ほんとに置いていくの?……ごめんねみゅーちゃん。帰ったらいっぱいお土産持ってくるからね!」

 

 エスパーには拭い切れない苦手意識がある。前触れなく現れたり唐突に攻撃してきたり……。近づき過ぎればまた苦しくなるだろうし、とにかく離れたい。理由をかこつけてブルーの手を引いて無理やり引き離した。つい気になって去り際に振り返ると、ミュウは恨みがましく俺の方をにらんでいた。思わず目を逸らし、逃げるように立ち去った。

 




こんばんは、読んでいる方は最後どんな結末なら1番嬉しいのかなぁと思う作者です
もう結構先まで書いているので大筋変更はできませんしする気もないですが、もう何しても意見が真っ二つに割れる気しかしないんです
いったいどのくらいまでなら許されるのか
みゅーちゃんの処遇はどうすべきなのか

……逆にどういう展開が見たいんですか?
あるいは見たかった?
読者の求めてるものがわからないダメな作者でごめんなさい


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10.伝えたいのに伝わらない 信じたいのに信じれない

 ジャングルの中は上から見た通り木々が鬱蒼と茂っており見通しが悪い。ポケモンのレベルも高いし、初見の相手ばかりならブルーの苦労も推して知るべしだな。

 

 だが今日の俺は一味も二味も違う! サーチは絶好調! どこまでも見通せそうだ。これだと不意打ちを受けることはまずないだろう。気を取り直して前向きに進もう。

 

 ガサガサ!

 

「シショー、ポケモンよ!」

「慌てるな、ただの風だ」

「え?……ホントだ。何も出てこないわね」

 

 ちょっとした音でも敏感になるのは、それだけ苦労してきたという証。ブルーは恥ずかしそうに顔を伏せるが笑うことはできない。

 

「気にするな。本当にポケモンかもしれなかったんだし、教えてくれてありがとう」

「う、うん」

 

 しばらくして今度は本当にポケモンが来た。右50Mってところか。ポケモンはペンドラー。ラティオスより速かったはずだし、まだ距離はあるが念のため早めに用意するか。森の中では炎技は危ないし、ここは鋼持ちのアカサビに任せるのが無難。

 

「出てこい。アカサビ、4」

「え、どうしたの急に」

 

 アカサビ

 技 1バレットパンチ

   2でんこうせっか

   3むしくい

   4つるぎのまい

   5まもる

   6みがわり

   7とんぼがえり

   8つばめがえし

   9こうそくいどう

  10かわらわり

 

 ブルーにはじっと見ていろと目で合図すると、しばらくしてペンドラーが現れた。

 

「あっ! シショー気をつけて! あいつめちゃくちゃ強いわよ! わたしここに来て最初に散々苦しめられたの! とにかくこのポケモンは……」

「速いんだろ? だったら先制技を使えば関係ないな。1」

 

 バコン!

 

 “メガホーン”の構えに入ったところを強烈に横から叩いて一撃で倒した。

 

「う、ウソでしょっ、一撃!?」

「能力を先に上げたんだから当たり前だろ。早く先に進むぞ。……ん?」

「どうしたの? またポケモン?」

「いや、なんでもない」

 

 再びサーチすると後方探知ギリギリのところにミュウが見えた。やっぱりついて来たのか。まあ離れてれば経験値は分散しないから構わない。放っておこう。

 

 さらに進んでいくと今度はメブキジカの群れが見えた。これは丁度いい。こっちに気づいてないからユーレイとアカサビで狩りつくしてやろう。

 

 十分“つるぎのまい”と“こうそくいどう”を積んでバトルした。当然苦戦するわけもなく、圧勝した。

 

「シショーすごいっ! すごいすごい! わたしじゃ応戦して倒すのが精一杯なのに自分から勝負仕掛けて経験値稼ごうなんて、まともな人間のすることじゃないわ! 普通なら考えもしないわよ! やっぱりシショーはすごかったんだ。えへへ、良かった」

 

 ものすごく嬉しそうで、どこか安心したようにも見える。ブルーにも何か思うところはあったのだろう。ただ、どさくさで人のこと廃人みたいに言うのはやめないか。別に否定はしないけどさ。ただ自分以外から言われるとなんか腹立つ。

 

「褒めていると見せかけて微妙にけなしてないか、それは。ちなみに、ブルーはなんで苦労したんだ?」

「さっきのあの虫は、最初タイプがわからなくて1番強いフーちゃんで挑んで……」

「ご愁傷様。相性最悪だな。攻撃効かないわ、相手は速いわで手も足も出ないだろうな。あの鹿は?」

「レーちゃんとリューちゃんの2対1で挑んだけど、すてみタックルが強くて……」

「そりゃタイプ一致だからな。まともに受けるのはバカのやることだ」

「え、あれってノーマルタイプあるの?!」

「あるな。気づかなかったとしても無理ない。確かめにくいし」

「……ねぇ、シショーはここのポケモンのことわかるの? それにポケモンが近くにいたらなんで気配とかわかるの?」

「ポケモンに関して俺がわからないことなんて今までもなかったのにいまさらだな。気配は……そうだな、まぁエスパーのカンってやつだな」

「……冗談ばっかりなんだから。でもホントにすごい。なのに、なんでわたしは全然ダメなんだろう。わたしって弱いのかな。これまではここのポケモンが強過ぎるんだと思ってたけど、シショーは簡単に倒しちゃうし。ずっとシショーに鍛えてもらってこんなんじゃわたし……」

「おっとっと。ブルーさん自信喪失か?」

「だって、さすがにシショーでも少しは苦戦すると思ってたのに、全く苦労しないんだもん。今もしゃべりながら倒しちゃったし。あれ、わたし全滅しかけてほんとに酷い目にあったのよ! なんかこんな感じで変な踊りしてきて!」

 

 ブルーの踊り、ちょっとかわいい。

 

「それってまさかちょうまい決められたのか? 逆によく生きてたな。あれは特攻特防素早さ全部同時に上げている。ラプラスは当然として、下手するとフシギバナでも突破されそうだ」

「まさにそうよ! フーちゃんが草単タイプに負けかけて、命からがら逃げたのよ!! あれほんとに3つも能力あげてたの!? インチキじゃないっ!!」

「ほんとにそうだったのか……ブルー、お前初心者が嵌る罠に全部ひっかかっているような感じだな。大変どころの騒ぎじゃなかっただろうが、聞いているこっちは面白くて仕方ない」

 

 “ちょうのまい”に関しては気持ちはよくわかる。同じことを思ったことがあるから。登場時は“からをやぶる”よりマシやからセーフという風潮はあったと思う。“ちょうのまい”だけ出てたらどうなったか。もちろん覚えるポケモンが限られていたのもあるだろうけど。ウルガモスは犯罪。

 

「もう! わたしは真剣なのに!」

「悪い悪い。でもブルーは全然弱くないからそんなこと気にせんでいい。気にしてもムダだ。俺と比べるからダメなだけ。心配しなくても、お前ならチャンピオンぐらいなら簡単になれる」

「それ、いっつも言うけどホントにホントなの? 今度みゅーちゃんに見てもらおっかなー」

「別にいいぞ、本気で思っているから」

「……そんなこと、本気でも簡単に言わないでよっ」

 

 本気で照れているのだろう、顔を真っ赤にしている。ちょっとからかいたくなった。

 

「もう自信喪失タイムは終わりか?」

「最初からしてない! ねぇ、今度はわたしがやる。シショーばっかにレベルアップされたくない!」

「じゃ、お手並み拝見だな」

 

 最初に出てきたのはアギルダーとシュバルゴ。いきなり面白いのが出てきたな。一緒でないと進化できないから野生でもペアでいることが多いのだろう。

 

「げ、こいつら! 仕方ない、リューちゃん、ラーちゃん! でんじはをあっち、あやしいひかりをこっち!」

 

 まずは動きを止めにいったか。正確に速い方だけまひ状態にした。けど“でんじは”をうたれながらアギルダーが“いのちがけ”を使ってきた。いきなりダブルノックアウトか……もう1匹は混乱するうちに“ハイドロポンプ”で押している。ジュバルゴはほとんど抵抗できず倒れた。

 

「えへ、どう?」

「……へたっぴ。やっぱりチャンピオンは言い過ぎた」

「ううぅぅーん! わたしも頑張ったけど、あんなのどうしようもないじゃない!」

「あれはいのちがけといって、自分の体力をゼロにして、その減らした体力分相手にダメージを与える技だ。あれはペンドラーよりも速いし最初に撃たれたら避けようがないと思うかもしれないが手はある」

「どうするの?」

「まずはまもる。あとはいのちがけ警戒で最初はみがわりとか。俺ならそうするな。あとはあいつより体力のあるラプラスとかをぶつける。最初にラプラスとフシギバナでいけばひんしにはならずにすんだ」

「そうなんだ。ポケモンを出す時点でそこまで考えて選出するんだ。わたしとは次元が違うのね。シショーみたいになんでもわかればなあ」

「最初は1つずつ覚えるしかないな。しっかしこの森広いな。日も高くなってきたし、1回休むか。その辺座って休憩しよう」

「え、こんな森のド真ん中で休憩するの? さすがに襲われるんじゃ……」

「大丈夫、これ使うから」

 

 円状にポケじゃらしをびっしり配置して、のんびり昼飯を食べた。ブルーは釈然としない表情だった。

 

「ポケじゃらしをこんなに使うなんて……力技過ぎない?」

「使えるもんは使わないとな。お前にもまたやろうか? 大量にもってるから10個ぐらいならあげるけど? 追加しとく?」

「ぜひください!」

 

 休憩を終えて出発するとき、ブルーが疑問を呈した。

 

「シショー、そっちは逆よ」

「お前こそ何を言ってる。そっちは来た道のはずだ」

「え、ここから帰らないの? わたし最初の探索で無理して進もうとしたらラーちゃんに怒られて、実際危ない目にあってその通りにしたおかげで助かったし、さすがに戻った方がいいんじゃ……」

「わかってないな。そりゃ全部初見のブルーなら帰って当然。けど俺は大丈夫。帰りは空飛んですぐ帰れるから」

「ええっっ!? いや、でも考えてみればたしかにそうね。じゃあなんでジャングルの中を進んでるの? 最初から飛んでいけばいいんじゃない?」

「ん? お前は遠くに行きたかったのか? 俺は最初から森の中に道具と経験値を求めて入ったんだが。今のところハハコモリの持っていたメンタルハーブぐらいしか収穫はないが、そのうちもっと見つかるだろうし」

「なんにもわかってないのはわたしだけなのね……」

 

 結局この日見つけたのはきのみとキノコぐらいのものだった。リーフのいしとか、どくバリとか、そういうのがほしかったなあ。微妙な気分でツリーに戻った。まだ全部見たわけじゃないが、森の中は大したものはないと見た方が良さそうだな。

 

 ツリーに着くと先回りして戻ったのだろうミュウがすぐに寄ってきた。

 

「あ、みゅーちゃん見てよ、いっぱいきのみ持ってきたのよ」

「みゅー」

 

 力なく答えるのを聞いて、ブルーは俺にみゅーを明日から連れて行ってあげようと言った。さすがに連れて行くのは……。

 

「その必要はない」

「もう! ひとりだけ除け者なんてかわいそうでしょ!?」

「心配しなくてもそいつは勝手についてくる。今日もついてきてたしな」

「え!? なんで知ってるの? かなり離れていたつもりなのに」

「やっぱりそうだったな。ちょっと考えたらすぐわかる。お前は1日中ずっと俺にくっついて来ていたんだ。簡単にそばを離れるわけない」

「シショー、エスパー相手にカマかけしたの?! とんでもないワルね」

 

 もちろん違う。考えたらわかるのはたしかだけど、サーチで確認していた。サーチ能力は伏せておきたいからわざとはぐらかした。

 

「みゅうう……ごめん……。でも、悪気はないの。ただ近くに……」

「まぁいいよ。別に怒ってないし。極端に近づかれたら困るだけで、ある程度離れてさえいれば調子も悪くならないし、経験値も分散しないから。俺に害さえなければ、つまり邪魔さえしなければお前は好きにすればいい。言ってることはわかるな?」

「うぅ、みゅうぅ……なんでそんなにみゅーのこと遠ざけるの? もう怒ってないんでしょ? ちょっと後悔してる気もするの」

「えっ! それホント!?」

「そ、そんなわけないだろ!」

「あっ、オーラが乱れた。みゅふっ! やっぱり!」

「くっ、お前まさか……」

 

 やられたらやり返すということか……。

 

「これがエスパー同士の探り合いなのね……でも良かったじゃないみゅーちゃん!」

「良くない! みゅーが危険なことは変わりない。そいつはいつ俺に牙を向けるかわからないし、絶対に近づくことはしない!」

「みゅーっ!! みゅーそんなことしない! あのね、みゅーはレインにされたこと怒ってないよ。オーラ見えてなかったみたいだし、みゅーが全部悪かったから。だから後悔しているならみゅーと仲良くしてほしいの。近くがダメなら、せめてお話だけでも……みゅーだけひとりぼっちは辛くて耐えられない……もう、本当に辛くて限界なの……」

「なんで……なんで俺なんだ。トレーナーなら他にもいる。幻のポケモンなら邪険にされることもないだろう。俺以外にもっといい人がいて、仲良くなれるかもしれないとは思わないのか? 一度は完全に心が折れていたはず。なんでそこまでするのか…」

「好きだから一緒にいたいと思っちゃダメなの?」

「!」

「ホントに好き……他に何も考えられない……今までこんなことなかった。でも本当に嬉しかった。みゅーもひとりじゃないって初めて思えた。ようやく見つけた人だから絶対に離れたくないの。みゅーのことちゃんと見てくれるのはきっとレインだけ。みゅーは信じてるから。どんなにひどいことされても信じてる。絶対にみゅーとレインは惹かれ合う。これは運命だから」

 

 鳥肌が立った。ミュウの言葉の意味がようやくわかった。重過ぎる……みゅーの言葉はあまりに重い! 考えるより先に足が動き、そこから一刻も早く離れるので頭がいっぱいになった。

 

「あっ……」

 

 走って登ってだいぶ樹の上まで来た。幹にもたれて息をつくと横から声をかけられた。

 

「ねぇねぇ。みゅーのことだっこしてよ」

「いっ!?」

「いいでしょ? 1回でいいから、ぎゅーってして?」

 

 ありえない。サーチに引っかからずにいきなり現れた。直接ここにワープしたのか! もしかして俺はミュウをなめていたんじゃないか? 本当に俺は勝てるのか? 次戦えば負けるんじゃ……。

 

 金縛りにあったように動けなくなり、俺が黙っているとみゅーは続けて言った。

 

「なんでそんなに怖がるの? みゅーは好きだって言ってるのに。それとも怖いんじゃなくてキライなの? どうしたら好きになってもらえるの? みゅーはわかんないの。教えて」

「だっこなら、ブルーにしてもらえばいい。ブルーの方が優しいし、俺なんか怖いだけだろ」

「ううん、そんなことないの。エスパー酔いのせいで怖くなってるだけだってみゅーはわかってる。ホントのレインはいっつも優しいの。どんな時もポケモンのために何をしてあげられるかずっと考えてる。そして必ず大切にしてくれる。だからレインがいい。それにレインにしてもらわないと意味がないから……」

 

 黙ってミュウのいない方へ逃げると即座に先回りされた。

 

「じゃあ、今度はみゅーにけづくろいして」

「あいにく人間にはしない」

「みゅーはポケモンだよ?」

「見た目は人間なんだから一緒だ」

「……この姿がキライなの? みゅーにはあんまりわかんないけど、とってもかわいいと思うのになぁ。一生懸命好きになってもらえるようにって思いながらなったのに……。じゃ、もしみゅーが本当の姿になったら、みゅーにもけづくろいしてくれるの?」

「別にお前の姿なんか興味ないし、元の姿を見たいとも思わないから関係ない」

「みゅーぅ。やっぱりみゅーの“これ”が、キライなのかなぁ。みゅぐっ。みゅーが悪いのかなぁ。なんでこんなことに……みゅーが普通と違うから……ぐひゅっ。みゅーは好きでこうなったんじゃないのに……」

 

 髪をくしゃくしゃに握って頭を抱えたままうずくまってしまった。あまりにも悲痛な様子だったので声をかけて慰めてしまった。

 

「何のことか知らないけど、そんな悲しそうな顔しなくてもいいだろ。なんかこっちまで悲しくなるから。エスパーのせいで比喩抜きで気分悪くなるからやめてくれ。気に障ったなら謝るから、もうそんなに泣くな。その姿がキライだとは思ってないし、もう怒ってないから昔のことはお相子で水に流そう」

「ホント!? ありがとう……嬉しい。じゃあだっこして。1回だけでいいから。いいでしょ?」

「それは……」

 

 できるわけない。エスパー酔いは接触が増える程ひどくなっているのは明白。今までだって耐えるには筆舌に尽くしがたい苦痛を伴った。これ以上なんて到底無理だ。

 

「ねぇ、はやく! もう怒ってないんでしょ? ホントに1回だけでいいからしてほしいよぉ。ウソだったの? みゅーは嬉しかったのにまたウソなの?」

「……ごめん。それは無理だ。やっぱり怖い。どうしてもお前のことは好きになれそうにない」

 

 このとき、もっと違う言い方ができていれば別の結果にもなっただろう。しかしミュウに対する意識は簡単には変わらない。嘘偽りない言葉は刃物のようにミュウの心を切り刻んだ。

 

「いや……なんで……レインは違うはずじゃないの? 違うはずなのに……。みゅーはやっぱりずっと1人なの? またずっとひとりぼっちはいや。もうホントにイヤ。たすけて……もう限界。みゅぅぅっっ!! みゅっ……はぁー。はぁー。ずっと信じて、ふーっ、待って、はぁ……みゅーは、みゅぐっ。今までなんのために……みゅーはなんのために生きていたの? ねぇっ!?」

 

 どう見ても正気じゃない。瞳孔が開いて急に呼吸も荒くなった。もう俺のことも見えていなさそうだ。いったい急にどうしたんだ? こんなの普通じゃない。

 

「だ、大丈夫……?」

「うぐっ! みゅぐぅぅぅ、ぐひゅっ!」

 

 そのまま苦しそうに心臓の辺りをおさえて泣きながらどこかへ飛んでいった。その後ミュウの姿はサーチを使ってもどこにも見つからなかった。

 




というわけでみゅーちゃんは
「サヨナラバッドエンド」
でした
来世で会おうね……



はい、ウソですよ
本気にしないでくださいね

次とその次ぐらいがこの章のメインです
ある意味、本作全体のメインともいえるかもしれません

この章自体はまだここで2/3ぐらいだと思います



前の後書きへのレスポンスがすぐに来て嬉しかったです

割と作風まで変わるんじゃないかと心配してくださる方も多そうですがそれはまずないので大丈夫ですよ
なんかこういうのってさじ加減難しいですね。
他人の話を聞かないと学ばない奴ですし、周りに振り回されて右往左往すると芯のない奴となります。
どっちに極端でもダメってことぐらいもちろんわかっているんですが……

例のあれは好き嫌いがはっきりするものの嫌いじゃない人には受けそうなので尖らせるならむしろもっとするのもありかとは思いました
これでも丸めていますし


あと先の展開に関しては明言こそ避けているものの、コメ返やらなんやらでバレているだろうなとけっこう前から思っていましたが割とみなさんピュアというか、作者のどうなるんでしょうねぇとかを真に受けてる感じがしました
そもそも書き溜めがあるって最初の一章で言ってるのに今考えているわけないですね
それとも気のせい?

あるいは親切にネタバレ防止で分かった人が黙ってくださっているのか
まあ予想を書かれて当たっていてもはいそうですとは言いませんけどね、たぶん
とはいえ予想は見ていておもしろいので書いてもらえたらもちろん嬉しいです

一言でまとめるとここに答えかいとるやんけって言いたくて今すごくうずうずしています


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11.導きの果て 果たすべき役割

 翌日までミュウは見つからなかった。もうどこか遠くに行ったのかもしれない。ブルーからは何があったのかしつこく聞かれたが放っておけばいいと言って俺は取り合わなかった。

 

「ダメ! ちゃんと探してあげましょう?」

 

 それでもブルーは食い下がり、やむを得ずミュウを探すためにこの日は空から広範囲を見て回ることにした。見つかることはないだろうと思うが、本当にしつこく言われたので仕方ない。

 

 ジャングルをずっと見て回ると大きな湖が見えた。たくさんの水鳥がいる。あれはスワンナだな。“ほうでん”を使ってまとめてイナズマの経験値にしようかと思ったが、その前にあるものを見つけた。

 

「あれは……ハネ?!」

「どうしたの。その羽なんかあるの?」

「バカ、ハネだぞ?! スワンナの! 回収しなきゃ! いったん逃がさないように俺だけ近づこう。ポケじゃらし総動員だ。逃げたらマズイし、お前はそこで近づかないで待っていてくれ」

 

 自分で直にハネを集めることにした。誰もとらないからだろう、湖のそこかしこにハネが大量にある。夢中になってとにかく片っ端からバッグに入れた。

 

 この時、大量のハネを前に浮かれていたせいで周りへの注意が薄くなってしまった。ハネ集めに夢中になる俺に突然の攻撃。死角から強烈な“10まんボルト”を受け、しびれて動けなくなった。当然周りのスワンナは攻撃に驚いてみな逃げてしまった。後で“みねうち”してハネをとろうと思っていたのに!

 

「しまった、油断した……」

「みゅーちゃん!? 何してるの!」

「あ……違うの、みゅーはただ……」

 

 ブルーの視線の先に顔を真っ青にしたミュウがいた。今のはミュウの仕業か!

 

 ミュウ……やはりこうなったか。甘かった。さっさと封印しておけば良かった。不覚にも麻痺して体が動かない。これでは勝負にもならない。

 

「ミュウ、やっぱり攻撃したな。まんまと騙されたよ。……絶対許さない。今度はきっちり封印してやる」

「ひっ! みゅぅ、これはちが……あうっ!」

 

 後ずさりしようとして、ミュウは足を木の根にとられて転んだ。ミュウが逃げようとしたのを見て何とか体を動かしてボールに手をかけると、こっちの動きを察知してミュウはすぐにテレポートしていなくなった。

 

 ……相当モンスターボールが怖いらしいな。触っただけで逃げてくれるとは思わなかった。今のは単純にポケモンを出そうとしただけなのに……助かったからいいけど。

 

「逃げたか。ホント、逃げ足の速い奴。今のは状況的にかなりヤバかったから助かった」

「シショー、派手にやられたわね。大丈夫?」

「ああ。クラボのみを食べればすぐ直る。だが今日はもうダメだ。当分スワンナは戻ってこないだろうし、残りのハネも全部丸焦げだ。最悪だよ。もう先に進む気も起きないし、適当にジャングルをうろついて帰ろう」

 

 クラボを食べながら答えるとブルーは俺の顔をみながら答えた。

 

「……意外とあっさりしてるわね。是が非でもあの子を探し回るとか言い出すと思ったのに。みゅーちゃんはいいの?」

「いいもわるいもない。俺にあいつを見つけるのは不可能だ。それにこっちから探しに行かなくても、どうせさっきのように向こうから勝手に来る。だから今朝も言っただろ? 慌てる必要はないんだよ」

「思ったよりは冷静なのね……ねぇ、さっき言ってた封印って何なの? 前も言ってなかった?」

「気にするな。言葉の綾みたいなもんだ」

 

 うっかり口が滑ったがごまかして押し通した。強引だったのでかなり気にされているだろうが。

 

 ツリーに帰ると案の定ミュウがいた。さて、こいつをどうしてくれようか。

 

「あ、あの……」

「よく俺の前に出てこれたな」

「ひうぅ……。みゅーはさっきのこと謝りたくて。さっきのは間違えてレインに当てちゃったの。スワンナに襲われてるみたいだったから助けようと思って、“10まんボルト”がよく効くから使ったら周りにも感電しちゃって……」

 

 どこかで聞いたような話だな。ウソを言っているようには見えない。本当に間違えただけ? ブルーの方を見ると苦笑いをした。

 

「よ、よくあるわよね。わたしもうっかりやっちゃったことあるからわかるわ。でも、みゅーちゃんは一生懸命だったんだから仕方ないわよね」

「俺としては一生懸命した結果があれなら、わざとやったより悪いな。無能ってことだし」

「みゅううう! 無能じゃない!」

「じゃ、わざとなの?」

「みゅぅー。いじわる言わないで……。みゅーの気持ちも少しはわかってよ。なんでこんなにしてるのにわかってくれないの! ……こうなったら、もう仕方ないの!」

 

 俺が止める間もなく勢いよく宙に浮かんで俺の背中から抱き着いてきた。

 

 不意のことで何もできずにされるがままに抱き着かれ、ミュウに触れた瞬間今までの比じゃないエスパー酔いが襲い掛かった。一瞬気を失いそうになり、そのまま前のめりに地面に倒れた。ものすごい力で腕ごとホールドされて全く動けないので、着地に受け身も取れず体を強打。でもその痛みが気にならない程おかしくなりそうなエスパー酔いが続いた。

 

「すぐにやめろ……離せっ」

「いや! レインがわかるまでやめない! 早く感じて。お願い、早く!」

「みゅーちゃん! それヤバイわよ! 離れないとシショーすごく苦しそうよ!」

「でも……みゅーはもうどうしたらいいかわかんないもん! こうしないと見捨てられる。みゅーから離れていっちゃうの! 絶対にみゅーは離さない!」

 

 もう意識が保てない。このままでいればもう助からないかもしれない。そんな予感すらする。だが助かりたい一心でなんとかしたいと強く思うと、無意識の中、自分に眠る何かに目覚めて得体の知れない力が沸き上がった。

 

「いいから……とにかく俺の言う通りにしろっ!!」

 

 体の中の何かが弾けた。すごい力が放出される感覚とともに、ミュウが吹き飛んだ。

 

「みゅぐっ!?」

「外れた!? くぅぅ……まるでどく状態になったみたいだ。気持ち悪い。今のはなんだったんだ?」

「みゅ……みゅぅぅぅ! なんで、なんでこんなに嫌われてるの? こんな、突き飛ばさなくてもいいでしょ? みゅーはやっぱり出来損ないなの? またずっとひとりぼっちになるの? もう戻りたくない、ひとりぼっちに戻りたくない! なのにレインは冷たい。もう誰もみゅーと遊んでくれない。みゅーはいい子にしてるのに、みんなすぐにいなくなる! みゅーは悪い子なの? なんで? なんでなんでなんでなんでっ!! みゅうううう!!!」

 

 いきなり暴れだしたミュウは無差別に周りに“サイコキネシス”を飛ばし始めた。どれも手加減なしの本気の一撃。当たったらどうなるかは言うまでもない。それがブルーの体を掠めた。

 

「きゃっ!」

「ブルーッ!? 大丈夫か! ミュウ、すぐやめろ!……ええい、やめろって言ってるだろ!」

「うぐぅう!」

 

 強く念じるように言うと、突然“かなしばり”にあったかのようにミュウの動きがピタッと止まり、俺が力を抜くとそのまま糸の切れた人形のように崩れ落ちた。顔を上げたミュウと目が合い、急にミュウが苦しみ始めた。

 

「ハァー、ハァー、あぐっ、あぐぅ。ぐる、じぃ……」

 

 昨日のように急に過呼吸になり、心臓の辺りを強く掴みながら身悶えしてのたうち回り苦しみ始めた。明らかに異常な様子にさすがに戸惑ってしまった。

 

「シショー、何したのっ! シャレになんないっ、すぐにやめてあげて! ホントに死んじゃうわ!」

「俺じゃない! なんでもかんでも俺のせいにするな! 昨日からミュウは急にこうなるんだ。何かの病気かもしれない。さすがに病気のことまでは俺でもわからないしどうしようもない!」

「ウソでしょ!? じゃあみゅーちゃんはどうなるのっ!」

「とにかく様子を見て手当てするしかない。でも見たところ体調に悪いところはないし体力もある。原因が全くわからない」

 

 すぐにアナライズで状態は確認しているが本当に悪いところはどこにもない。何が悪いのかわからないのでは当然手の打ちようもない。完全に手詰まりだ。

 

「そんな! でもこんなに苦しんでるのよ!」

「はー、はー、ああぐ、ああう、うぐぅ、ぐぐぅぅぅっっ!」

「なら、かいふくのくすり。これでダメならもうどうしようもない!」

 

 ダメ元ではあるが、かいふくのくすりでなんとかしようと思いミュウの体に少し触れた。……瞬間、弾かれたようにミュウは飛び上がり、俺を見た後逃げるようにして離れた!

 

「いやーーーっっっ!! 冷たいっ! 冷たい手で触らないでっ!! もういやぁぁ!!」

「冷たい? 何言ってるんだ?」

 

 おかしい。基本的にポケモンの体温は人間よりは低い。だから熱いならわかるが冷たいというのはどういうことだ?

 

「いやいや、許して! もうイヤ! ごめんなさい、わざとじゃないの。役に立って認めてほしかったの! 好きになってほしかったの! みゅーの気持ちわかってほしかっただけなの! もう絶対にしないから許して……言う通りにするから……近くには……みゅぐぅ、苦しい、もうダメ、死んじゃう、ごめんなさい、限界……みゅうぅぅ……」

 

 始め叫ぶようにして必死に懇願していたが、次第に苦悶の表情を浮かべ、何かを言いかけたまま遠く夜のジャングルの中に消えていった。

 

「シショー、後を追いましょう!」

「……いや、おそらくムダだ。前に言ったが、俺の方からミュウを見つけるのは無理だ」

「やってみないとわからないじゃない!」

「試すまでもない。仮に運よく近づいてもこっちが気づく前にミュウに気づかれてテレポートで逃げられる。幻のポケモンというのは簡単には見つけられない」

「じゃあどうするのよ!」

「体調に問題はないんだ。落ち着くのを待って、それでも戻らなければ探しに行こう」

「……仕方ないわね」

 

 ミュウを待っている間、ブルーがミュウのことで話したいことがあると言ってきた。この前の夜、寝る前にミュウからいろんなことを聞かされたらしい。

 

 話の内容はこれまでミュウがどんな日々を送ってきたか。ミュウは産まれた時のことはあまり覚えていないらしいが、気づいたらこのツリーを育てていたらしい。なぜか本能的にこのツリーを大きくしなくてはいけない気がしたとか。

 

 そんな時、カントーから研究者が来て、この木の成長の手伝いをする代わりにミュウを実験に協力させた。ミュウは面白いと思ってついていったが、すぐに飽きて研究所を抜けて来たらしい。……その時の研究者はほぼみんな死んでしまったらしい。そして、以後人間には姿を見せないようになり、また1人になって人生に飽き飽きしていた頃、俺を見つけたらしい。

 

 ミュウ曰く、俺は一生に一度会えるかどうかというレベルで奇跡的に波長が一緒のエスパーらしい。波長が一緒というのがどういうことかはブルーもよくわからなかったそうだが、とにかくミュウには大事なことのようで、それ故に俺についてきたがるそうだ。

 

 どうもミュウは自分と仲良くなれるのはエスパーの力があって波長が同じ俺しかいないと思ってる節があるようだ。だから俺に嫌われたことを殊更悲しんでいたのかもしれない。

 

「わかんないけど、波長が近いと仲良くなりやすいんじゃないかな。だからシショーはきっと特別なのよ。きっとエスパーって孤独なんだと思う。シショーが例外なだけで」

「でも、お前とミュウは仲良くなかったか?」

「あ、シショー程じゃないけどみゅーちゃんはわたしともかなり波長が近いらしいわ。最初は気づいてなかったらしいけど」

「……じゃあ、俺とお前も波長が近いのか」

「えっ! あ、それは……そうかもね」

 

 別に深い意味はなく、気づいたことをそのまま言ったのだが、ブルーは顔を赤くして黙ってしまった。

 

「まぁとにかく、ミュウのことはだいたいわかった。でも、あの発作や冷たいってのは結局なんだったのか……」

「あ、それはたぶん……」

 

 聞くと、ミュウの感情を見る方法はもうひとつあるらしい。目を見るだけでなく、直接触れることでもオーラがわかるらしい。エスパーなら誰でもできるらしく、俺がポケモンに好かれるのはそのためじゃないかとブルーは言った。

 

「いっつもイナズマちゃんをだっこしたりするでしょ? あれって触れてる部分が撫でるだけよりも広いから、その分だけ感情がよく伝わって嬉しいんじゃないかなって思うの。特にシショーは感情が伝わりやすいのよ。エスパーとしてかなりレベルが高いんじゃないかってみゅーちゃんは言ってた。未熟だけど素質十分みたいね」

 

 確かに、特別な能力はミュウと同じく2つあるし、今思えばさっきミュウが吹き飛んだのはサイコパワーのせいだったとわかる。自分の力であのミュウを吹っ飛ばしたとすると、酔ってばかりのへっぽこエスパーは卒業したらしいな。あるいは、酔っていたのはエスパーの自覚がなかったり精神が最初歪だったせいなのかもしれない。

 

 思えば触れることでエスパー酔いしていたこともあった。ナツメに肩を掴まれた時なんかがそうだ。結局オーラは見たり触れたりすることで伝わるもので間違いなさそうだ。

 

 今までのことも全て説明がつく。イナズマだけでなく、ブルーも抱きしめるとよく喜んでいたし、思えば弟子入りされたあの時、ブルーの目から尊敬や信頼の感情が流れ込んできたように感じたのもエスパーの力だったのだろう。あの時はエスパーでもないのにそんなことできるわけないと思ったが、本当にエスパーだったなら出来て当然か。結局知らず知らずのうちに自分のエスパーの力に振り回されていたのか。

 

 俺が納得したのを感じたのか、ブルーは話を続けた。

 

「それでね、シショーがみゅーちゃんを拒絶すると、オーラを冷たく感じるらしいの。それが触れたときに伝わって、推測だけど、みゅーちゃんが嫌われてることを突き付けられたように感じて耐えられなくなったんじゃないかしら。さっきいきなり抱き着いたのも、目よりも触れる方が自分の気持ち、つまりオーラを直接伝えられるからそうしようとしたのよ」

 

 なるほど。冷たいとかもそういうことか。だっこにやたら拘っていたのは甘えていたわけではなく、オーラを伝えて自分の気持ちが本気だって教えたかったのか。だったらそう先に説明すればいいのに。

 

「ということは、あの発作は心の問題だった可能性が高いな。エスパーってのは情緒不安定過ぎるよな。一々精神に引っ張られて、他人から嫌われたぐらいで呼吸困難になるほど苦しむなんて」

「ちょっと、シショーも他人事じゃないでしょ! ミュウだミュウだって言ってた頃はすっごく荒れてたじゃない! 今だからわかるけど、あれは絶対エスパーのせいよ!」

 

 俺も気づかないうちにエスパーのせいで苦しんでたのか。この力も本当に考え物だな。

 

「それに、シショーはやっぱりわかってないのよ。みゅーちゃんにとってはきっとシショーは最後の頼みの綱なのよ。だから必死なの。もしシショーに嫌われたら、一生孤独になる覚悟をしている。もう後がないのよ。たくさん聞いたわ。仲良くなりそうになっても、いっつも気づいた時にはいなくなっているんですって。そのせいか波長が近くない人はそれだけで好きになれないみたい。だからどんなにひどいことされても、どんなに嫌われても、シショーにだけは健気についてくるのよ!」

 

 それを聞いてハッとした。思えばいつもそうだ。ブルーも、シショーしかいないといって地の果てまでストーカーするとまで言った。ナツメも、天涯孤独を破れるのは俺だけと言っていた。ミュウも同じだったってことか。

 

 わかってしまった。それでも、それを認めたくなくてつい言い訳がましい言葉を並べてしまった。

 

「だからといって何をしてもいいということにはならないし、相手の都合なんて俺は知ったことじゃない」

「それはそうだけど、みゅーちゃんってきっとまだ幼いのよ。人生経験はあんまりないから、なんにもわかんないんだと思う。両親もあんまり覚えてないみたいだし。わたし達だって、わからないことはどうしようもないじゃない。なのに、みゅーちゃんにはそれをわかれというのは酷よ」

「……」

「それにね、わたし思うの。きっと、みゅーちゃんみたいな子をちゃんと育ててあげるのはシショーの、いや、トレーナーの役割だと思うの」

「トレーナーの?」

「そう。わたしなりにいつも考えていたの。シショーの育て方とか、考え方とかを見て、ずっと。それで気づいたのよ。トレーナーはただレベルを上げるだけじゃダメ。ポケモンのために何ができるか考えて、1番いい育て方をしてあげないとダメだって。ただ戦わせるだけじゃない。本当の意味でトレーナーになるのってこういうことなんだってわたし感動したんだ。それってさ、ポケモンを導いてあげるってことでしょ? なんか、シショーが神様みたいに思えて……それに、いつも愛情を持って接してる。きっとポケモンにとっての幸せってこういうことなんだって思ったの。もちろん、わたしもそうできるように努力したわ。だからね、みゅーちゃんもシショーのやり方で導いてあげるべきだと思うの。みゅーちゃんを導いてあげられるのは世界でシショーだけなんだから。トレーナーである以上、それは果たすべき役割なんだと思う。シショーの言葉でいえばトレーナーの責任ってやつよ」

「……俺が導く、か」

「そうよ。シショーは元々誰かを導くのが上手いもん。ポケモンだけでなく、わたしもそうだし。わたしのこと、弟子にして後悔してないでしょ? シショーが導いてくれたおかげでわたしはここまで来れた。みゅーちゃんもきっと同じように仲良くなって導いてあげられるわよ。だから、みゅーちゃんも助けてあげて。手のかかるポケモンほど、トレーナーの腕の見せどころでしょ? ここで諦めちゃったら、わたしのシショー失格にするわよ?」

 

 その時、目が覚めるような思いがした。そして悟った。俺がここに来たのは誰のせいだとか、そんなことは問題ではなかったんだ。導くべき者がいるから、果たすべき役割があるから、来るべくしてここに行き着き、俺は旅に出ることになったんだ。もしかしたら、ミュウの言うように最初から決まっていた運命だったのかもしれない。

 

 そしてもうブルーは俺の手を離れた。すでに自分の道を歩き始めている。俺なんかよりもトレーナーとして本当の意味で大切なことがわかっている。知識がどうとか戦術がどうとかはあくまで枝葉に過ぎない。最も大切なことはポケモンとどう向き合うか。どう導いてあげるか。いまさらそんな大事なことを弟子に諭されているようでは、シショー面できる時間はもう長くないかもしれない。

 

「ブルー」

「何?」

 

 弟子は卒業だ、と言おうとしてやっぱりやめた。リーグが終わるまでぐらいはシショーでいたい。……ブルーの越えるべき壁として。せめてそこまでは見届けてあげよう。

 

「……いや、何でもない。お前の言う通りだ。やっとわかった。なんで俺がここにいるのか、そして何をすべきか。ずっと悩んでいた大事なことがやっとわかった気がする。感謝するよ。本当にありがとう」

 

 ブルーの目をしっかり見てお礼を言った。

 

「え、いや、別にたいしたことじゃ……」

 

 照れるブルーに、ぽつりとつぶやいた。

 

「なぁ知ってるか。トレーナーには2種類の人間がいるんだ」

「え、なんの話?」

「ひとつは、トレーナーがポケモンを引っ張るタイプ。俺みたいなタイプだ。トレーナーの力で多少の壁は簡単に乗り越えていけるから最初は苦労しない。でも、始めからある程度完成しているし、1人だけで成長するから伸びしろには限界があるだろう。もうひとつは、トレーナーがポケモンにも引っ張られて強くなるタイプ。トレーナーが未完成だから最初はかなり苦労するが、周りに支えられて一緒に強くなれる分、きっかけを掴めば互いに補い合ってどこまででも強くなれる可能性がある」

「それって、もしかしてわたしのこと?」

「……お前はさ、どっちが最終的に強くなれると思う?」

「えっ……それは……」

 

 驚いたというよりまだわけがわかっていないような表情のブルー。いくらなんでも過大評価過ぎたかな。

 

「なーんてな。そろそろ落ち着いただろうし、お姫様を助けに行くか。お前はゆっくりここで待っていてくれ」

「みゅーちゃんのところにいくの? でも大丈夫? 1人だと見つけられないんじゃ……」

「お前の話を聞いてどこにいるか見当はついた。絶対にミュウはそこにいる。それに上手くやれば逃げもしないだろう」

「ホントに?……あっ、今の話だけど、わたしから聞いたことは言わないでちょうだい。実はみゅーちゃんにはシショーに言わないでって口止めされていたの。でも、話した方がいいと思ったから……」

「わかった。上手くする。ヒリュー」

 

 ヒリューに乗ってミュウがいるであろう場所へ飛び立った。予測は簡単だ。ミュウにとって1番大事なのは俺から嫌われないことなのはもう疑いの余地がない。ならばさっきのことを深く後悔しているはず。去り際にも謝ろうとしていた。なら、悔いのある者はその過ちを犯した場所へ戻ろうと思うだろう。

 

 ……罪の意識に導かれるように。

 




今回大事だったのがわかりますか?
ここが主人公にとっての分水嶺になっていました
ここから(基本判明した範囲で)怒涛のネタバレ解説(ネタバレというか伏線?)
イヤならスキップしてください、スペース空けときます









あらすじで役割がどうとか触れてるのはこの話のことです
この世界に来た理由について度々モノローグが入っていましたが、それに対して今回主人公に答えを出してもらいました
根本的な話なので完全に宙ぶらりんにしとくのは気持ち悪いですからね
あくまで主人公の答えであって、真実は判明してません
それについてこれ以上触れる気はないですので、言及することは以後ないかも

ついでに今更ですがあらすじの未知の波動はミュウの波動ですね。一応未知の(新種の)ポケモンからの波動の影響なので
適当に言ったんとちゃいますよ

また、レインのブルーに対する思いや考えもここではっきりして、大きな分岐点になりました
この弟子は結局シショーにも今回大事な言葉を残してくれたのでレインにとっても大事な役割を果たしてくれたわけですね

とっても気になるみゅーちゃんに関しては、今回ほぼ自発的に探しに向かったことでもうわかるでしょうが仲直りに行きます
ずっと言いたかったんですがみゅーちゃんはもうあらすじの時点で決まってたんですよ

あらすじで「エスパーとかストーカーとかに絡まれながら冒険する話」とあるのは「時には絡まれて」とかじゃなくて「ながら」にしてるのは恒常的な並列行動、みたいな意味のつもりで「ながら」を選んでいました
つまり一緒に……ということですね
雑な文なのでナツメになんかされたりしたことを指しているとか色々解釈はまあ、できますが、一応作者の意図としてはエスパーとストーカーはミュウとブルーを登場順に並べたつもりでした

一章三話のエスパーもナツメだけでなくみゅーちゃんも指しているダブルミーニングでした
誰かは気づいてますよね、誰かは……


あと本編ふつうに補足すると、ポケモンは人間より体温が低いという新説がありますが、これは水の都の映画で言ってた発言を参考にしています
もちろんグレンとかは人間よりも体温高いですので大まかな傾向としての話と思ってください


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12.夜空の星々 重なる波長

「見えてきた。大きな湖だから夜でも目立つな。ヒリュー、この辺りで降ろして」

 

 スワンナの湖、その近くに降りた。今の時間ポケモンは寝静まっている。いきなり湖まで行かなかったのはミュウが俺に気づいてから心の準備をする時間をあげるため。いきなり現れたら驚いて逃げる可能性が高い。徘徊個体はじわじわ近づくのが鉄則だ。

 

 ミュウがサーチの圏内に入った。やはりいた。おそらくもうミュウも気づいている。ジャングルを抜け、直接肉眼で見えるところまで来た。ミュウは湖畔で湖をぼんやり眺めながら寂しそうにポツンと座っていた。俺はわざと気配を殺さずに相手に気づかれるようにして近づいた。あともう何歩というところでミュウがこちらを振り返った。その時のミュウの表情は印象的で、嬉しいようで、怯えているようで、苦しんでいるような、色んな感情が入り混じった顔をしていた。しかも涙の乾いた筋が2本はっきりと見えた。胸が締め付けらるような思いがした。

 

「何しに来たの。またみゅーのこと、い……いじめにきたのっ!」

 

 ミュウは今にも泣きそうな顔に変わり、上ずった声で絞り出すようにして言った。俺はゆっくりと首を横に振った。

 

「用がなきゃ来たらダメ?」

「だって、ずっとミュウが来てほしくても来てくれなかったの。レインが自分から探しに来るなんて……みゅぅ」

「……ちょっと2人だけで話をしよう。横に座ってもいい?」

 

 ミュウの瞳は揺れている。物凄く不安でたまらないんだ。安心させるためじっと目を見て静かに待った。

 

「…………いいよ」

「サンキュー。よっと」

 

 まだ怖がっているところもあるので、少し距離を開けた。あえて話を急がず、ミュウの心が穏やかになるのを待った。ミュウの方は気が気でないのかずっとこっちをチラチラ見ながら顔色を窺っていた。

 

 バタンと背中を地面に投げ出し、満天の星空を見ながらミュウへ友達にしゃべるような感覚で話しかけた。

 

「ここってきれいな湖と木に囲まれていてけっこういいところだよな。空気も澄んでいて夜空もはっきり見える。ホント、いい眺めだなぁ。カントーじゃこんな景色見られないだろ?」

「えっ……そう……かも」

 

 やっぱりどこかぎこちない。打ち解けてくれるまで、しばらくは会話を続けながら様子を見ることにした。

 

「ずっと前ばっかり見ていて、立ち止まって空を見上げたことなんてなかったから気づかなかった。こんなに星ってきれいだったんだな。ちょっと感動した。ミュウはきれいだと思わない?」

「……お星見るの、みゅーも好き。キラキラしてるし、星座もいっぱいあって面白いの」

 

 星座か。夜空を見上げて、なんてこと今までなかったから本当に気がつかなかったが、自分の知っている星座が全くない。今の季節がここでどうなっているのかわからないが、おとめ座、さそり座、うお座、オリオン座、どの季節の代表的な星座も全然ない。黄色の北極星とか知っている星すら見あたらない。本当に全然違う世界に迷い込んだのだということを痛感した。

 

「そうか。残念ながら俺の知っている星座は全くないみたいだ。知っていたら色々教えてあげれたのに……」

「みゅーは星座いっぱい知ってるの。人間の本とか見て勉強したことあるから」

 

 上手く話が広がらないなと思い諦めて残念がると、意外にもミュウの方がよく知っているらしく自信たっぷりに言った。

 

「ふーん、ミュウってそういうこともわかるのか。じゃあ教えてよ。ホントに全くわかんないから、有名な奴から」

「うん。えっと、あっちに青くておっきい星があるでしょ? あれを中心に星が並んでて、先っぽの方、しっぽになるんだけど、そこにも小さい青い星が2つあるの。あれがハクリュー座っていうの。青いのはハクリューについてる天候玉なの」

 

 ここじゃポケモンが星座になってるのか。ポケモンの星座とかいいなぁ。俺なら喜んで覚える。たしかに動物はポケモンばっかりだし当然といえば当然か。しかも、青い玉の色とかまでしっかり再現されてるのはすごい。それに形もそっくりだ。

 

 あっちはよくわからんからなぁ。例えばおとめ座とか、どの辺が人の形なのかさっぱりな上、きこりでも牛飼いでもなく乙女なところは何を以て決めたのかさっぱりわからん。名付けた奴もそれで納得した奴も気分屋過ぎる。

 

 対してこっちは初見の俺でもわかりやすくて納得いくし、ずいぶんといい星座だな。たしかにハクリューには青いのが全部で3つ付いていたし、全体的にもドラゴンっぽい形だ。ブルーのハクリューを見ているからよく覚えている。

 

「すごいな……思ってたよりそっくりだ。あの青いのは天候玉っていうのか」

「そうなの。みゅーもそっくりだって思った。あの青い玉はね、自在に天候を操る力があるんだって。雨にしたり晴れにしたり。だからハクリューが飛んだ後はお空に虹がかかるって言われてるの。虹って雨の後ですぐ晴れないと見れないでしょ?」

 

 へぇ、そんな話もあるのか。ハクリューと言えば進化させるのがしんどいぐらいのイメージしかなかったな。そういえばなんかの話で嵐がやんだあと虹がかかって大樹の上空をハクリューが飛ぶシーンとか見た気はする。

 

「へぇーっ。ハクリューが飛んだら虹がかかる、か。ロマンチックだな。俺は戦うことばっかだし、そういう話を聞くのは新鮮だな。ミュウさん、けっこうもの知りじゃん」

「みゅうみゅー、そんなに大したことじゃないの。でも、レインが喜んでくれたなら嬉しいの……」

 

 赤くなりながらチラチラこっちを見ている姿にこっちまで温かい気持ちになった。やっぱりエスパーは感情が相手に流れやすいのかも。役に立ちたいという言葉通りに俺のためになろうとしてそれを喜んでいる。あの襲撃犯と同一人物とは思えない。こんなところを見せられると今まで冷たくあしらっていたことが申し訳なく思えてきた。そんな考えを振り払うように次の質問に移った。

 

「他にはどんなのがあるんだ?」

「この季節だと……あ、あっちの方には親子熊がいるの。あそこに赤くて大きな星が2つあるでしょ? あれが目になっていて、こっちを向いているリングマになってるの」

 

 星座はカントーのポケモンだけじゃないのか。ってことは星座の名前って全国的なものなのか。

 

「リングマ座か。たしかにあれはリングマだな。にしても、あれはめちゃめちゃ怒ってそうだな。両手上げてこっち見て威嚇してるように見えないか?」

「みゅーもみゅーも! みゅーもそう思ったの! リングマは怒りっぽいし、目も赤いから、昔はこっちに襲い掛かってきそうで怖かったの」

「たしかに最初は怖いかもな。じゃ、横の小さい赤い星のやつはヒメグマ座か?」

「うん、そうなの。子供だから星も星座も小さいの。目が1つなのはリングマの方を向いているから。ちっさくて、とってもかわいいから、みゅーはこっちの方が好きなの。でも、リングマもヒメグマを守ってあげているような気がしてキライじゃないの。それとね、親子熊は冬になると冬眠するから見えなくなるんだよ。春になると起きるから見えるようになるの。みゅみゅ、おもしろいでしょ?」

「なるほどなぁ。全くよくできた星座だな。解説付きで見るとより面白いな」

 

 ホント、たくさんの星座がある。気づいたら夢中になっていてつい話し込んでしまった。座っていたときの距離は少し縮まっていた。

 

「ありがとミュウ。楽しかったよ」

「みゅーも嬉しかったの。みゅーは嫌われてると思ってたし。あ……」

 

 失言だと思ったのか口をおさえてシュンとうなだれるが、俺は構わないと身振りをして本題を話すことにした。

 

「いいよ。俺もそっけない態度をとってたし。ここへ来たのは、そのことで謝っておきたかったからなんだけど聞いてくれる? ずっとここに呼ばれたのは絶対にお前のせいだと思い込んで勘違いしてたし、クチバのときからミュウのことを目の敵にして倒すことしか考えてなくて、お前のことは何にも考えてなかった。なによりここに来てから俺の冷たい態度のせいで体調がおかしくなるほど苦しんでいたのが、きっと1番辛かっただろう。体より、心が。今も随分泣いてたみたいだし。本当にごめんね。もうキライじゃないから心配しなくていい」

 

 目元の涙の筋を見ながら申し訳ない気持ちを込めて言うと、ミュウも辛そうに自分の気持ちを教えてくれた。

 

「うん。わかったの。今まで本当に辛かった。心が痛くて、近くにいたいはずなのに、もうレインの傍にいることも苦しかったの。だから、みゅーはもう言われた通り近くにはいかないで、レインからずっと離れたところに行って、もう顔も見ないようにしようって思って飛び出して……でも、やっぱり……ぐひゅ、離れるのがイヤで、ここに来て、んぐっ。湖を見ながらこれからのこと考えて、……もう、一生……みゅぅ、会えないんだって……みゅぐっ、思ったら、涙が……みゅうう」

 

 目に涙を浮かべながら、最初は泣いてしまわないように、溢れ出す感情が心の器からこぼれないようにゆっくりゆっくりしんちょうに気をつけながら言葉を絞り出していた。

 

 でも離れる寂しさを思って耐え切れなくなったのか、とうとう堪えきれずボロボロと泣き始めた。今まで何度も泣くところは見た。でも今のが1番心に突き刺さった。

 

「もうギリギリまで追い詰められていたんだな。……ごめん」

「みゅ、みゅううう、うう……」

「……こんなことしかできないけど、今はこれで許して」

 

 もう怖さはない。まだわずかに離れていた距離をそっと縮めて、ぎゅーっと力いっぱい抱きしめてあげた。

 

 触れた時、ピクリ、と最初は怯えたように震えたが、ミュウはすぐに自分から体を寄せ返した。そしてミュウのつかみ方はすぐに力一杯の強い抱擁に変わり、気づけばミュウは必死で自分を繋ぎ止めるかのようにしがみついていた。

 

 ぴったりとくっついているおかげなのか、オーラもはっきりと感じられた。それは今までのような不快なものではなく、心が安らぐような温かい感情だった。

 

 ……それだけじゃない。なにかフシギな感じ。今まで噛み合わなかった歯車がようやく噛み合ったような……いや、むしろ何かと何かがぴったり一緒になったと言うべきか。初めて感じる特別な一体感に包まれ、温かく、そしてとっても幸せな気持ちになった。

 

「あったかい……あったかいの……こんなにあったかいんだ……」

 

 ミュウはいったん泣き止んだが、また涙がこぼれ始めた。もちろん今度はさっきまでとは違う。きっと同じ感覚を共有しているんだろう。こうして一緒にいてあげて、ミュウの押し込んできた気持ちを受け止めてあげるのが1番の特効薬になるのかもしれない。もうあんな苦しそうなミュウは見たくない。

 

「本当にごめん。ミュウの気持ちに気づいてあげられなくてごめんね。今までよくひとりでがんばった。もう泣いていいよ。好きなだけ泣いて。今まで長い間よく頑張ってきたな。ご苦労さま」

「みゅーーーー!!!」

 

 全力で抱きつかれ、ミュウの力が強過ぎてそのまま押し倒された。ミュウは顔をぐいぐい押し付け、長い髪は俺の顔に勢いよく覆い被さった。

 

 俺はこれまでの罪滅ぼしのつもりで特に抵抗することもなくそのまま好きなようにさせていると、ミュウは夢中で顔を胸のあたりにうずめたまま、抱き着くというよりはしがみつくようにして長い間そうしていた。おそらく星座の話をしていた時間よりも長かっただろう。ミュウが泣き止む頃には服がベタベタになっていた。それにミュウも気づいてすまなさそうにしていた。

 

「みゅうぅぅ」

「いいのいいの、俺がいっぱい泣けって言ったんだし。あ、じゃあ、ちょっとねっぷうで温めてくれ。軽めでやけどしない程度ね」

 

 こういうときポケモンは便利だ。すぐに乾いた。ついでにミュウの顔もキレイに拭いてあげた。わしゃわしゃと大雑把にしたのでうーうー唸っていたが嬉しそうだった。

 

「ねぇ、あの……なんで急にこんなに優しくなったの?」

「え?」

「あっ、違うの。もう怒ってないのはわかってるけど、でも、なんかそれでも怖くて気になって……1回騙されかけたし。やっぱり、みゅーが苦しそうだったから?」

 

 ずっと嫌われていると思っていたわけだし当然か。今は本当にキライじゃなくなったけど簡単には信じられないだろうな。

 

「俺ってさ、今でこそブルーを弟子にしているけど、元々トレーナーにはなったばかりで、実はまだ駆け出しトレーナーなんだ。だからついトレーナーの本分を忘れてしまう。1番大事なのはどんなポケモンでも大切にしてやること。たとえそれがどんなにわがままで、自分勝手で、世間知らずで、手のかかる奴でも、ちゃんと導いてあげること。それが自分を好いているポケモンならなおさらだ。だからどんなに大変でも頑張ってみようと思ったんだ」

「そうなんだ。トレーナーだから……か」

「どう、納得した?」

「うん。一応納得はしたの。ただ、わがままとかって、それみゅーのこと?」

「ん? お前はわがままじゃないのか?」

「みゅ!? 違う! みゅーはいいこ!」

「そう。それは失礼っ」

「もう!……ねぇ、みゅーはこれからも近くにいてもいい? 迷惑じゃない?」

「何をいまさら言ってるんだ? 当たり前だろ。それより、もうだいぶ時間食っちまった。ブルーには待っていてくれって言ったままほったらかしで飛び出してきてしまったから、そろそろ心配して1人でこっちまで探しに来てしまいかねない。急いでお前のハウスに帰るぞ。出てこいヒリュー! さ、ミュウも一緒に、早く乗って」

「うんっ! レイン好き!」

 

 満面の笑みでいきなり言われてドキッとしてしまった。無邪気というか、素直というか、思ったまま口にしただけなんだろうが、裏のないストレートな言葉なだけに本気で照れてしまった。黙ってポンポンと頭を叩いて、顔を見られないように先にヒリューに乗り込んだ。

 

「みゅーみゅー」

「こら、飛行中はおとなしくしてろ! 落ちたら危ないだろ!」

「みゅーは平気だよ?」

「そりゃミュウはねんりき使えるからな。俺が危ないからやめてね」

 

 飛行中はずっと上機嫌で、背中を俺にもたれかけ、俺の顎にはずつきをしたり、ぺちぺち顔を叩いてみたり、子供みたいなはしゃぎようだった。というかミュウは子供だったな。ヒリューの足なのですぐツリーに着いたのが救いだった。

 

「あー! やっと来た! おっそーい!」

 

 ブルーはこっちに気づいたらすぐに駆け寄ってきた。やっぱり待ちくたびれたようだ。上から大きな声でブルーに呼びかけた。

 

「悪い、遅くなったー。……さ、降りて」

「えー、もう終わりなの? みゅー……イヤ! もう1回飛んで!」

「おいこらっ! 駄々をこねるな。早く降りろ」

「みゅー!! もう絶対に降りないもん……。早くもう1回飛んでっ!」

 

 降りるように促すがなかなか言うことをきかない。トレーナーのレベルが足りてませんってことじゃないよな? 少しきつめに言い直すとぷっくりと頬をふくらませて余計に機嫌を損ねてしまった。この感じ……拗ねた時のブルーと一緒だ。よっぽど嬉しかったんだな。ミュウも叱ると逆効果でますます意固地になってしまうタイプみたいだ。

 

 すぐ叱りつけるのはエスパー関係なく俺の悪い癖だなぁ。自分が腹が立って怒るようじゃトレーナーとしてまだまだか。ミュウのために怒ってあげられるようにならないと。とにかく心を鎮めて……幼稚園児。そう、幼稚園児ぐらいに話しかけるつもりでいこう。

 

「……無茶言わないで。もう遅いし、ブルーにはなんにも用意してないからきっともうお腹ペコペコだろう。晩御飯の準備があるから、俺はもう遊んでやる時間はないんだよ。ミュウならわかるだろ?」

「でも、みゅーはずっと一緒がいいもん。もう離れたくない! ヤなことはヤだもん!!」

 

 そういってテコでも動かない構えだ。ずっと1人だった分その反動か一度くっつくとホントに離れない。困っていると下からブルーがぴょんぴょんしながらこっちに手を振るので、それ幸いとミュウに言った。

 

「ちょっと、上で何してるのー、早く降りてきたらー?」

「ほら、下で呼んでるだろ? あんまりわがまま言って困らせないでくれ。みゅーはいいこだってさっき自分で言ってたよね? あれはウソ? ブルーもお前のことかなり心配していたし、大丈夫なところを早く見せてあげないとダメじゃないのか?」

「……みゅー、ウソじゃない。ごめん」

 

 いいこだな、と言って頭を撫でると、渋々ミュウが降りてくれてようやく一息つけた。ブルーはミュウを見て一安心して俺に労いをかけてくれた。

 

「お疲れシショー。ミュウちゃんもお帰りー。ねぇ、もう体は大丈夫? 痛くない?」

「みゅ、大丈夫。もうあんなふうにはならないと思うの」

「そっか、良かった。わたしもシショーも心配したんだから。何もなくてホントに良かった。でも、それならずいぶん遅かったじゃない。何してたの?」

「えっと、それは……」

 

 何をしていたか聞かれてミュウが困ってしまったので代わりに俺が答えた。

 

「実はいい眺めだったからミュウに星座を教えてもらってたんだ。ミュウはけっこう物知りなんだよな。一緒に星空を見ていたら夢中になってしまって、時間が過ぎるのをつい忘れてしまったんだ、な?」

 

 ウインクして合図するとミュウもコクコクとうなずいた。もちろんそれだけじゃなかったがウソは言ってないからミュウも何も言わない。

 

「え、何よそれ! わたしずっと心配してたのに2人だけでずるーい! わたしも混ぜてよ! というか、シショーは星座知らないの? 仮にもポケモンの星座なのに」

「俺だって知らないこともある。星座なんか教わったこともないし知る機会もなかった」

「あら、意外ね。まーいいや。それより早くご飯にしてよ。もうおなかへっちゃって」

 

 そういってブルーは自分のおなかをさすった。もう晩御飯にはかなり遅い時間だが、やっぱり律儀に俺が来るまで何も食べずに待っていてくれたみたいだな。

 

「そうだな。今から準備するから、腹減ってるところ悪いがもうちょい待っていてくれ。じゃ」

「あ、ちょっと待ってシショー。みゅーちゃんは……」

「みゅー」

 

 ミュウは寂しそうにしている。そういえば一昨日は俺が追い出したし、昨日はどっかいってたからいなかったんだっけ。

 

「そうだった聞き忘れてた。ミュウは好きなきのみや食べたいきのみとか何かあるか?」

「き、きのみ……一応、みゅーはオレンが好き」

「シショー、それはあんまりじゃ…」

 

 ブルーが言い終わる前に俺はオレンが好きだという言葉を聞いてすぐに調理に向かった。もう頭は料理のことしかない。早く作ってあげないとな。

 

「大丈夫、すぐ作るから待ってて」

 

 返事は聞かずにそのまま料理を始めた。今日はちょっと一捻りしてみようか。驚く顔が目に浮かぶ。それを想像するだけで楽しい気分になった。

 




やっとみゅーちゃんが報われましたね
元々波長は同じなので話をすれば気の合う者同士というのが伝わればいいなぁと思っています
みゅーもみゅーも!って言うのがかわいい

星座は火の神、雷の神、氷の神で大三角作って、それら三つの真ん中に海の神爆誕!とかやってみたいことは色々ありましたが長くなるのでちょっとだけに

星座に限らずポケモンアレンジ考えるのは楽しいのでちょくちょく今後もでてくると思います

この後はもうカントーに帰っても問題はないわけですが、もう少しここにいます
ストーリー進めるというよりは日常パートっぽくなるかなと思います
レインはトレーナーというより保護者っぽくなりそう……


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13.みゅーちゃん 素敵な 隠し味

 シショーってば何考えてるの! せっかくみゅーちゃんと仲直りしたみたいなのに、またごはんはあげないつもり?! きのみを聞いたってことは絶対みゅーちゃんにはきのみしかあげない気だ。

 

「もぅーーっ、バッカシショー! あとで絶対とっちめてやるわ! どうかしてるわよ。なんできのみだけなの?」

「やっぱりみゅーのこと好きではないんだと思うの。キライじゃないってさっき言ってくれたけど、好きだとは言ってないし。たぶん仲間にする気はないっていう意思表示なのね。養う気はないから、みゅーはきのみだけで十分ってことだと思うの。そういう遠回しなメッセージとかしそうだし」

「そんな!……考え過ぎって言いたいけど、ないとは断言できないのがシショーよね。他人には相当ドライだし。もう、そんなとこまで拘らなくてもいいじゃない! 野生でもなんでも一緒にいるんだからごはんぐらい作ればいいのに。やっぱりケチンボ! バカ! とーへんぼく! 石頭! 人でなし!」

 

 とりあえず思いつくだけの悪口を並べてみたけどみゅーちゃんは苦笑い。けっこう深刻なことだと思うけど、もう苦しくなるほど辛くはないみたい。そこは一安心ね。

 

「ありがとうブルー。でもいいの。きのみはくれるみたいだし、追い出されるよりはマシだからそれで十分なの。みゅーはもう十分幸せだから。あのねブルー、さっきね、レインがみゅーのことぎゅーってしてくれて、とってもあったかくて、しあわせで、もうそれだけでこれから生きていけるの。みゅーはもう十分過ぎるぐらい幸せだと思う」

「そんな……! あなたなんて健気なの。そんな悲しいこと言わないでよ、なんかわたしまで涙出てくるじゃない。よし、今決めたわ。もしシショーに反対されても絶対わたしのごはん半分あげる。怒られても絶対曲げない。この前はつい怖くなって諦めちゃったけど、みゅーちゃんに食べさせるまでわたしも何にも食べないからね!」

 

 みゅーちゃんの悲壮過ぎる言葉にわたしはなんとしてもみゅーちゃんの応援をしようと強く決心した。こんな子を不幸にはできない。

 

「だ、ダメ! そんなことしたらブルーまで……みゅー」

「だ、だいじょーぶよー。なんだかんだシショーはわたしには甘いから、見逃してくれるわよ。……たぶんね」

 

 わかっていても怖いものは怖い。覚悟は決まったが声は震えてしまった。それは当然バレていて、しっかり指摘された。

 

「ブルー、ものすごくオーラ乱れてる。やっぱりブルーでも怒られるのは怖いんだ……」

「……わたしだって最初にシショーと会った時はみゅーちゃんと変わらないのよ。めっちゃ怖かったわ。今までで1番のトラウマよ、あれは! 丸焦げにされかけたもん!」

「そっか。ブルー、一緒に頑張ろう」

 

 がっしりと握手して、わたし達の間には深い絆ができた。共通の敵に立ち向かうために……! なぜかわたしの方が元気付けられてしまった。ごはんの時はこんなんじゃダメよ、しっかりしないと!

 

「おーい、できたぞー」

 

 と思ったらいきなり来た! 慌ててしまいシショーへの返事はかなりどもりどもりになってしまった。しかも自分でも苦しいと思う理由になってしまった。

 

「わ、わかったわ。やったー。あーあのね、わたしはあんまりおなか減ってないし、みゅーちゃんに半分あげようと思うんだけど、どうかなーって」

(ブルー、弱気過ぎだしウソがバレバレなの……)

「何言ってるんだ? お前さっき腹減ったって言ってなかったか? おかしな奴だな。何も食べてないんだから食欲なくてもちゃんと腹の中に入れとけよ。はい」

 

 その気遣いが心苦しい。諦めて正直にお願いしようと思ったが、料理を見ると3人分用意されていた。これ、もしかして……。

 

「うう……ってあれ、3つ?」

「え、これもしかしてみゅーのっ!」

 

 飛び上がってみゅーちゃんがはしゃぐと、ニコニコとシショーは笑った。

 

「もちろん。俺の特製ハンバーグ、よーく味わえよ。気合い入れたからいつもとは一味違う。ミュウにはきのみのオマケも付けておいたから」

 

 たしかにオレンをカットしたものがキレイに添えてある皿がある。飾り付けも上手ですごくおいしそうに見える。

 

「最初からみゅーちゃんの分もあったの!? じゃ、さっきのはなんだったのよもうっ!」

 

 取り越し苦労に怒っているとシショーはあっけらかんと答えた。

 

「見たらわかるだろ? それはこのオマケと……後は食べればわかる。まさか、きのみだけだとでも思って落ちこんでたのか? たしかに急いでたからちゃんと言わなかったけれど、いまさらそんなことするわけないだろ。ミュウは手持ちになったわけじゃないけど、ついてくる間は面倒見てあげるよ」

「レイン……ホントにいいの?」

「……もちろんミュウのやったことには納得いかない部分はある。けど、やっぱり辛く当たり過ぎたとは思うし、少しお詫びの気持ちもある」

「いいの、全部みゅーが悪かったから。こんなふうにしてくれて……すごく嬉しい。あ、ありがと……」

 

 みゅーちゃんは感極まって目は潤んでいる。わたしもちょっと視界がぼやけてきた。へんね、今日はにわか雨かしら。

 

「いいからいいから。さ、早く食べよう。ハンバーグ冷めるだろ。あ、でも勝手に触るなよ、食べるのは皆でいただきますしてからね」

 

 4人テーブルでみゅーちゃんとわたしが隣同士で座っていたのでシショーはみゅーちゃんの向かい側の席に着いた。お礼を言われて照れくさそうに早く食べるように促すシショー。わたし達のおなかが空いているのも事実だし、早く食べましょうか。

 

「みゅ……いただきます?」

「よしよし。いい子だな」

 

 しつけの基本、いいことをしたら褒める、わるいことをしたら叱る。なんだかんだしっかり面倒見る気あるのね。

 

「みゅふー! 褒められちゃった! じゃ、食べてもいい?」

「どうぞ召し上がれ」

 

 どれどれ。わたしもいただきますしてまずは自信ありげだったハンバーグを食べると、驚くべきことにオレンの味がした。よく注意すればほんのりとオレンのいい香りが漂っている。意外とこの組み合わせ、おいしい。

 

「んー! うんうん、わたしこれ好みかも~っ!」

「ホント? 良かった。やっぱりおいしいでしょ?」

 

 どうやって味付けしたんだろ。普通に混ぜてもダメよね。お味に関してはみゅーちゃんも同じ感想らしくおいしそうに食べてる。ただ、その食べ方はかなり独創的と言わざるを得ないけど。

 

「みゅー! これオレンなの! しゅごいおいしー! ねぇレイン、しゅごいおいしーのっ!」

「あー……」

 

 手で食べながらはしゃいでいて行儀悪いし、ケチャップとかも好き勝手に飛び散って宙を舞っている。さらに食べながらしゃべったことで口の中のものが飛び散ってる。それらは当然正面に座っている人、つまりシショーの方に飛んでいくわけで……わたしはみゅーちゃんの横から静かに見守っていた。

 

「ミュウ、何やってんだお前! 今すぐはしゃぐのをやめろっ。いきなり手で掴んで丸かじりしたかと思えば食べながらしゃべり出す! まさかテーブルマナーとか全くわからないのか?」

「らってぇ、これ使ったことないもん。わかんない。んみゅんみゅ。この方が簡単なの。んっ。そのまま掴んだらダメなの? けぷっ」

「だから食べながらしゃべるなよ。全く……世話が焼けるな」

「みゅー?」

 

 怒るんじゃないかと思ってちょっと戦々恐々と見守っていたけど、意外にもそんなことはなく、口調こそ昨日までと変わらないが怒鳴ったりはしなかった。それどころか少し微笑ましそうに笑っているし、みゅーちゃんに驚くべきことを言った。

 

「仕方ない。一緒にいる間は人間の習慣にも慣れさせないといけないし……今日は俺が食べさせてあげるよ。俺の横空いてるからこっちに皿ごと持ってきて座って」

「え、食べさせてくれるの? 手で?」

「手ぇ違う! 手で掴むわけないだろ! こうやって、フォークとか使って食べるの。そしたら手が汚れないし食べやすいだろ? だからこれを使うの。今日はどうやってこれを使うか横から見てるだけでいいから、早くこっちに来て」

 

 シショーはおいでおいでと手招きするがみゅーちゃんはすぐには行かず、さらに要求を追加した。

 

「ふーん。レインの横に座れるんだったらいいけど、いい子にして言う通りにしたらぎゅーってしてくれる?」

「……俺相手に交渉なんてミュウには100年早い。なんでわざわざ食べさせてあげた俺がミュウの言うことまで……いや、わかったわかった! ちゃんと約束するから!」

 

 言葉の先を読み取り涙目になるみゅーちゃんにシショーも形無し。一も二もなく了承してしまった。みゅーちゃんがテレポートで席を移すと、シショーがハンバーグを丁寧に切り分けて食べやすくし、みゅーちゃんにゆっくり食べさせた。そう、その瞬間、それは驚くべき光景だったわ。

 

「はい、口開けて。あーん」

「ん、あーん。んみゅんみゅ。んふーっ! うんまーーいのっ!」

「あーん!?」

 

 ガタン!!

 

 思わずその場で立ち上がって大声を上げてしまった。なんなの今の!? お話の中の行為だと思ってたのに、今目の前で現実になったとでも言うの?!

 

「ほら、またしゃべった。ミュウ、食べてる時はしゃべらない。ん? いきなり立ち上がってブルーどうした。中のものが飛んできた? なんかあったのか?」

「え、いや、ううん、なんでもないわ」

「……みゅ? なんでもないのに立ち上がったの?」

 

 ぐ、痛いところをつくわね。というか目を合わせたりしないとウソだとはわからないのね。

 

「ミュウ、あれはいつもあんな感じだしほっといてやれ。ほら、次はこっちのミズナも食べてね」

「はーい。みゅー、シャキシャキ」

 

 めっちゃバカにされてるけど今は反論しにくい。まぁいいわ。それにしてもこの2人、昨日までと打って変わってものすごく仲良さそう。それにおいしそうに食べるわね。たしかに今日は一段とおいしいけど、あんなにおいしそうに食べる人初めて見たわ。シショーもそれを見てまんざらでもないって顔をしている。なにより、あの「あーん」……しかもシショーから……羨ましい! そこ代わって!

 

「あー、もう食べちゃった。みゅー、もっとほしい。レイン、みゅーもっとほしい!」

「え、まだ入るのか。見かけによらずくいしんぼうだな。女の子はみんなそんなもんなのかねぇ」

「ちょっと、なんでわたしの方を見ながら言うのよ! こっちみんな!」

 

 しっつれいね! わたしまでくいしんぼうキャラにしないでよ! わたしはね、節度はわきまえているの。遠慮はしないけど。

 

「別に? じゃ、ミュウにはこれもあげる。食べかけで半分ぐらいしか残ってないけど、これで我慢してくれ」

「え、それレインの分……いいの?」

「いいよ。今日はミュウの分はどれぐらい食べるかわからないからちょっと小さめにしたし、次からは大きめにするから。ミュウはハンバーグ気に入ってくれたみたいだし、サービスしてあげよう。そうだ! オレン味は好きみたいだしこれにはケチャップの代わりにオレンソースをかけようか。ハンバーグに混ぜた残りが余ってるから。よし、じゃあ口開けて。あーん」

「あーーん。んんーーっっ! オレンの味もしゅるけど、なんかレインの味もしゅるの! こっちの方がおいしいかも」

「そう。ミュウはホントにおいしそうに食べるから、こっちも嬉しいな。作り甲斐がある」

 

 かかかかかか! 間接キス!? 今、はっきりシショーの味って言った!! 絶対そうよね!! そういうことでしょ?! シショーは自分のハンバーグはめんどくさがって切り分けてなかったの見てたからね! シショーは今の言葉聞いてなんにも思わないの?! なんでそんな平常心を保てるの?! ありえないんだけど!?

 

 そこからはもうみゅーちゃんの食べるところを見てばかりでドキドキしっぱなしだった。シショーはホントに何考えているのか全くわからない。

 

「けぷ……ふー、おなかいっぱい……」

「さすがに食べ過ぎみたいだな。こんなにお腹おっきくして、今度からはそんなになるまで食べるなよ?」

「だって、こんなにおいしいの初めてなんだもん。仕方ないの」

「調子いいこといって。まぁ、それなら……仕方ないか。また作ってあげるからな」

 

 え、仕方ないの!? だだ甘!? シショーってここまでチョロくはなかったと思うけど……どうしたのよ。また作ってあげるって言って約束までしちゃって。もしかして、今ならこのままわたしでも……。

 

「ねぇシショー、今度わたしにも今みたいに食べさせ…」

「いい年して何言ってんだブルー? 恥ずかしくないのか」

 

 言い終わる前に即答!? なんでなの!?

 

 ◆

 

 夕食も食べ終わり、みゅーちゃんは幸せそうな顔でぐてーっと仰向けで横になってお腹をさすり、シショーはひとり食器とかの片づけ。わたしはやることもないのでみゅーちゃんに話しかけた。

 

 さっきの「あーん」について事細かに聞こうとしたけど、みゅーちゃんは特になんとも思っていないらしく期待通りの反応とはいかなかった。「みゅーのためにしてくれたことが何より嬉しい」という至極真っ当な答えを聞いた時、わたしだけが邪なことを考えている気になってしまった。きっとシショーも同じような感じなんでしょうね。

 

「おい、なんで1人でorz状態になってるんだ。めんどくさいオーラが出てるぞ」

「おる……? シショー、エスパーに目覚めたからってオーラとか言わないの。ねぇ、この後はシショーは何するの? 用とかある?」

「言葉の綾だって。この後は実はやっておきたいことがあるから、ちょっと1人でその作業をするつもり。なんかしてほしいことがあるなら明日にしてくれ」

 

 断られたけど妙に察しがいい。心なしかエスパーが発覚してからさらに感覚が鋭くなったみたいに思えるわね。

 

「あー、そうなんだ。ちょっとわたしも星座を見ながらおしゃべりとかいいなーって思ったんだけど……」

「それなら明日とかいつでもできる。あ、そうそう。明日はミュウに場所を聞いて洞窟に行こうと思うから楽しみにしてろよ。こんなミステリーな場所じゃ、どんなおっかないのが出てくるかわからないからな」

「もう! またそうやってわたしを怖がらせてからかってるんでしょ! いじわるなんだから! そんなこと言うなら、わたしシショーの作業の邪魔してやるんだから!」

「ちょ、それはやめろ。パソコンにデータの打ち込みをするから、邪魔されてデータ飛んだりしたら洒落にならん。おとなしくミュウとでも遊んでろ」

「え、パソコン? データってまさかポケモンの?」

「まぁな。せっかくここでカントーにいないポケモンも色々見れたし、早いうちに整理しとこうと思って」

 

 ポケモンのデータか。そういえば弟子入りして最初に特殊技とか教えてもらった時もそういうのがあるってほのめかしていたわね。シショーの秘蔵データか。きっとすんごいのがあるに違いない。でも今まで見せてくれなかったし、まともに頼んでもダメでしょうね。ならみゅーちゃんと協力すれば……。

 

「んみゅ~。おなかいっぱいなのー。あったかくってー、おいしくってー、しあわせ~」

 

 

 目線を移せば幸せそうに転がっているみゅーちゃんが映った。あれに協力を頼むのは愚かね。じゃどうすれば……あ、寝ている間に見てしまえば問題なかろうね! なら早起きのためには今のうちにさっさと寝ておいた方がいい。わたしはいつでもすぐ眠れるのよ。

 

「……あ、わたしもやることを思い出したわ。じゃ、シショー、作業頑張ってね!」

「あ、おい!」

 

 わたしはそそくさと眠りについた。

 




このハンバーグお砂糖効きすぎ……
読者の皆さんはどんなお味だったでしょうか

食べさせてあげるのは仕方ないです
毎回超能力で食べるのも変な気がしますし
逆にめんどくさそう
みゅーちゃんのことは別に甘やかしているわけでは……
客観的に見れば完全に甘やかしている判定ですね

シショーはいうほどエスパーには目覚めていません
自覚が出来ただけで意図的に操ったりとかは全くできない状態です


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14.忘れないでね 大事な約束

 カタカタ……

 カタカタ……

 

 なんの音? なにかを叩いてる音? なんか明るい……うーん……zzz……

 

 ……

 

 ペチッ!

 

「痛っ、うーーん……」

 

 何かが顔に当たって目が覚めた。眠気眼をこすってよく見ると、自分の上で誰かが寝転んでいた。びっくりして顔を確かめるとミュウだった。おだやかな寝息をたてながらスヤスヤ眠っている。寝顔だけ見れば癒されなくもないが、残念ながらうつ伏せになっていたせいで下にいた俺はよだれでベトベトになっていた。よだれ多過ぎ。

 

「なんでミュウがこんなところに……」

 

 昨日ミュウはずっと1人でゴロゴロしていた。俺は最近疲れていたせいかすぐに眠くなってしまい作業をすぐ終えたのでミュウを放っておいたまま先に寝てしまった。

 

 昨日はブルーがいるからいいやと思っていたが、まさかミュウがこんなことをするなんて予想だにしていなかった。いや、そもそも人間1人乗っかっていてなんで顔を叩かれるまで気づかなかったんだろうか。

 

 脇に寝かせようと思ってミュウを持ち上げた時ようやくわかった。ミュウがびっくりするほど軽いのだ。どう考えても見た目と釣り合いが取れていない。これだけ軽ければそこまで寝苦しくなることもないだろう。軽過ぎて片手だけでなんなく持ててしまった。

 

 “へんしん”の仕様で、きっと質量は変わらないんだろう。ミュウは羽毛みたいに軽い。すごい力を持っているのにこんなにちっさくて軽いなんて不思議だなぁ。ミュウって重さいくらだったっけな……。

 

「うみゅぅ、いや、いかないで、おいてかないで……」

 

 寝言だろうか。突然しくしくと眠ったまま泣き始めた。俺から離したせいか? もう一度自分の体に乗せると安心したように泣き止んだ。もしかして眠っていても肌を通してオーラを感じ取っているのか。離れると悪い夢でも見るのかも。少し離れただけでこんなに不安そうになるなんて……やっぱりミュウはずっと面倒見てあげた方がいいのかもしれない。

 

 しんみりしたが、ちょっと今日は早く目が覚めたし、このまま昨日の続きをするか。あとはファイルの並び替えをして番号振って目録をつければひと段落……。

 

「ん? このパソコン……位置が動いてる?」

 

 いつもどこに置くと決まっているわけではないが、妙に手前にあるのが気になった。さすがにこれでは目と近い。こんな距離じゃ作業しにくい。……ミュウが動かしたのか。

 

「おい、ミュウ起きろ!」

「みゅわぁ~あ。……え、レイン!? なんでっ!」

 

 話を聞くために起こすと、飛ぶようにして離れてしまった。

 

「なんでって……お前が勝手に俺の上で寝てたんだろ?」

「あ、あのまま寝ちゃったんだ。……だって、ひとりじゃ寂しいもん」

「前はブルーと一緒に寝てたじゃないか。それにこんなことして恥ずかしくないの? よだれでベトベトだし、髪もボサボサだし、だらしない寝顔も見られていいの?」

「えええ!? ウソ言わな……うみゅうぅ。みゅー、だって、ブルーはいつの間にか寝てたし、レインは後でぎゅーってするって言ったのに忘れてるし。約束忘れちゃダメなのに……みゅぐっ。またひとりだと思ったらさみしくて……みゅぅぅ」

 

 自分の口元を触ってべちゃーとした感触を確かめて顔をしかめた。そして昨日の寂しさを思い出したのか、今度は涙交じりの表情になった。そういえばこの子供は見かけ通りの子供なんだった。ブルーぐらいなら恥ずかしがるだろうが、ミュウぐらいならまだ一緒にいたいと思うのかも。

 

「悪かった悪かった。約束忘れたまま1人にさせてごめんね。ほら、おいで。顔ふいてあげるから」

「うん」

 

 素直にうなずいて目をつぶった。わがままなのかと思えばこういう素直なところもあって、意外に単純な性格ってだけなのかもしれない。キレイにしてあげると目を開けて嬉しそうに笑った。

 

「よし、キレイになったな。ところで聞きたいことがあるんだけど、お前、このパソコンに触った?」

「これのこと? さぁ、みゅーはここに来てすぐに寝ちゃったみたいだから知らないの。ねぇ、それよりぎゅーってして。約束したんだからいいでしょ? 昨日の分なの。ねぇはやく!」

 

 ミュウは知らないのか。ニコニコして甘えるのでミュウが満足するまで抱きしめてあげた後、真犯人の元に向かった。当然、ここには3人しかいないのだから誰の仕業かは言うまでもない。

 

「あら、こんな朝早くにどうしたのシショー?」

「それは俺のセリフだ。お前、今日俺のとこに来ただろ? なんか用があったんじゃないか?」

「え……、あっ、それは……」

 

 この反応。やっぱりブルーの仕業か。何か隠してるのは間違いない。それにあやしいところはあった。ミュウの話じゃかなり早く寝たらしいし、データの話に食いついてたのもつい昨日。間違いない。そう確信したタイミングで、なんとブルーの方から自発的に白状した。

 

「……ごめんなさい。実は勝手に忍び込んでパソコンのデータを見てたの」

「これまたえらくあっさりと白状したな」

「……ごめんなさい」

 

 どうしたんだ? ブルーは基本的にすぐごまかそうとする。だけど、たまーに今日のようにしおらしい対応をするので戸惑うことがある。もしかするとこっちが怒っているのを察知しているとか? さすがにそこまでは考え過ぎか。

 

 でもなんとなくブルーの視線が気になる。いつになく俺の顔を良く見ているから、一見顔色をうかがっているようにも思える。けど怒りを表情に出しているつもりはないし、ブルーの目線はもう少し上の方を見ている気もする。頭を見てるのか? わかんないなぁ。

 

「最初に言ったように俺は人に詮索されるのは特にイヤだ。約束したことは覚えているよな? 勝手にこんなことするのは俺の信用を裏切ることになるってわかるよな? 実際あそこには見られたくないものもあるし。そういうのはロックしているから見れなかっただろうけど」

「ごめんなさい。別に詮索しようとかそんなつもりは全くなかったの。……シショーが知られたくなかったのって、エスパーってことと、タマムシのことだけじゃないの?」

 

 ごめんなさいばかりだな。表情からしてもかなり反省はしているようだ。きつくとっちめようかと思っていたが、あんまり言い過ぎるのはやめてあげるか。なんか釈然としないけど。

 

 隠してたのは自分の記憶関連。将来ここで何が起きるか忘れないうちに書き留めておいた。ここで何年も経過したらきっとその記憶は薄れる。だからこの世界で重要になりそうな事柄に関しては形にして残しておく必要があった。要所要所イニシャルで略したり言葉を言い換えたりするなどしてわかりにくくはしてあるし、パスワードは前世関連だから絶対に開けられないけど、万一見られて内容を理解されるとマズイ。

 

「エスパーは別に自分でもびっくりだったし隠すとかいう以前の問題だな。タマムシは思い出すと腹が立つがそれだけ。だからそれ以外のことだ。お前、見たのは種族値のデータだけ?」

「種族値……ああ、あの数字はそう呼んでたわね。そうね」

「勝手に編集とかしてないよな?」

「も、もちろん、見ただけよ。編集したらバレちゃうし」

「それもそうか。……ならいい。実害はなさそうだし。ったく、人騒がせな奴だ。お前はいつもほしいものがあると後先考えずに行動する。一生懸命なのはいいが行動が極端なんだよな」

「……だって、どうせ頼んだって見せてくれないでしょ」

「……まぁそう思うのも無理ないが……。実際今お前が理解できるとも思えないし、今はまだ早いだろう」

「!!……わたしだってわかるわよ! あれの素晴らしさがわからないほどバカじゃない! ホントに感動したわ! あのデータすごいわよ。あれさえあればどんなポケモンにも絶対に勝てるはずよ! そうでしょ? お願い! 押しかけの弟子だし、いっつもずうずうしいのはわかってる。でも、教えてほしいの! あれ、もう1回見せて! 忘れるなんてできっこない!」

「あのなぁ……そんなに素晴らしさがわかっているなら遠慮しようとは思わないのか?」

「だってあれすごいんだもん! イワークは防御、ラッキーは特防が高いだっけ? そういうのって普通なら絶対わかんないもん。ましてや数値化までするなんて時代を一足飛びで先取りしているわよ!! どうやって調べたのかはわかんないけど、シショーはいつも正しかったし、わたしもシショーと同じ景色を見てみたいの! お願いします! わたしなんでもするから教えて!」

 

 俺の言うこと全く聞いてない。しかもとうとう土下座までして頼んできた。ブルーはホントにためらいなくそれをやるな。特技なの?

 

 ……なんの説明もしていないのにあの数字の羅列だけ見てかなり理解できているみたいだし、これなら教えること自体はできそうだ。けど、このデータは俺にとっては唯一の前世(?)の遺産みたいなもんだからなぁ。そう簡単には……。

 

「ブルー。あれは全てのトレーナーにとって万金を積んでもほしい情報なんだ。いくら弟子とはいえ簡単にはなぁ……」

「……お願いっ」

「かわいくお願いされてもなー。んー、ブルーがもうちょっと大人だったら考えたかもなー」

「ううー! お願い、なんでもするから!」

「じゃ、1体につき100万、出世払いでどう?」

 

 冗談のつもりで言うと、ブルーは顔を赤くしたり青くしたりしながら震え声で承諾してしまった。

 

「わ、わかったわ。ひゃ、100万円で済むなら安いものよ! シショーはわたしにはひどいことはしないし吹っ掛けてるとは思わないわ。シショーがそういうなら言い値で構わない」

「……ホントにこれはまいったな。ブルー、冗談だよ、冗談。弟子からお金なんか取らないに決まってるだろ。対価なんかいらない。いつでも好きに見せてあげるから安心しろ」

「え、えーーっ! ほんと?!」

「ほんとほんと」

「ほんとのほんとに?」

「ほんとのほんとだって。そもそも昨日作業してたのは早くお前に見せられるように編集を済まそうと思ってたからだし。先に種族値の説明やらを詳しくして、様子を見て内容がわかってくれば少しづつ見せていこうかと考えてたが、思いのほか理解が早いみたいだからな、予定よりも早く見せてあげよう」

「さすが! 太っ腹ね! やっぱり勝手に見て良かった!」

「良くないっ! あれは本当に大事な約束なんだ。次やったらさすがに許せないからな?」

 

 許()ないのではない。許()ないんだ。その辺の違いはブルーも気づいたようで重々しく頷いた。

 

「わ、わかりました。ねぇ、できれば今から見せてくれない? わたし早く色々知りたくって! 今日はずっと見ていたい!」

「ダメ! 探索が優先だ! ここにいる間は我慢しろ。その後いつでも見せてやるから。もしパソコンがあればデータを送って本当に自由にいつでも見れるようにできるが、パソコンは高いし、まぁ仕方ない」

「え、データくれるの?! わたしパソコンあるわ! 送って送って!」

「えっ。ブルーパソコン持ってたのか。いつ買ったんだ」

「別行動の時よ。でないと買いだめできないからこんなところで何日もサバイバルできないわよ」

 

 なるほど、納得した。以前別行動して1人でいた際、ブルーは料理ができないからインスタント系とかを買い込んでいたに違いない。ギアナではその時の残りでなんとかしていたのか。

 

 話が進み、結局データをあげることにした。もちろん誰にも口外しないという約束はさせたが。それからはずっと上機嫌で、1日中怖いぐらいニコニコして俺の言うこともなんでも聞くようになった。一言頼めば料理洗濯なんでもござれという状態だ。もちろん何の役にも立たなかったが。空回りして酷過ぎたので二度と頼まない。

 

 事件は解決したので探索へ向かう準備を始めた。

 

「ねぇ、ブルーはどうしたの? ずっと嬉しそうだけど」

「いいことがあった日はあんなもんだ。昨日のミュウもあんな感じだったぞ」

「え、ホントなの?!」

 

 ミュウと談笑しているとようやくブルーが来た。いつも準備はブルーが遅くて俺が待たされている。

 

「シショー、準備できたわ。さっそく探索に向かいましょう!」

「あ、みゅーも行きたい!」

「わかった。ミュウもおいで」

「みゅー! やった!」

 

 朝から色々あったがようやく探索に出発した。移動中ブルーに気になったことを聞いてみた。

 

「そういえば、ブルーは今朝俺んとこに来てたならミュウも見ただろ。なんで連れて帰ってやらなかったんだ」

「え、あれってシショーが一緒に寝てあげたんじゃないの?」

「いや、俺が寝た後勝手に来たんだ。寂しかったみたいで」

「あー、わたし早起きするために先に寝ちゃったもんね。みゅーちゃんのこと忘れてた。ごめんね。今日は一緒に寝てあげるから」

「みゅー。ブルーも好きだけど、今日からはレインと一緒がいい」

 

 即座につっぱねようとしたが、よりかかって服を強く握りながら言われ、断ろうと思った言葉を飲み込んでしまった。

 

「いや、でも……仮にも女の子だし、ポケセンとかで泊まるときのことも考えるとちょっとな……どうしても一緒がいいのか?」

「お願いなの……」

 

 口調は控えめだが、握る手は堅く意志の堅さがそのまま現れているようだ。結局問答の後俺の方が折れて、一緒に寝ることにした。

 

「みゅみゅみゅ♪」

「えへへ♪」

 

 女性陣はすこぶる機嫌がいい。なんか俺だけがテンション低いみたいだ。2人は機嫌よく俺より先に進んで行くが、ブルーはともかくミュウは道をわかっているからいいか。鼻歌交じりで進む2人。その後ろをついていき、しばらくすると洞窟が見えてきた。中は思ったより明るい。天井の裂け目から光が漏れているようだ。

 

 中はけっこう広く、ポケモンも洞窟らしい面子がそろっている。ギガイアスやココロモリ、ドリュウズといったポケモンが中心で、またまたデータも埋まりそうだ。図鑑完成も目指そうかな。

 

「ねぇ、あそこ見て! 砂塵が舞ってるわ!」

「あれはっ! 急いで行くぞ! ミュウ、先行して調べてきてくれ」

「みゅ!……あ、何かある。キラキラしてる」

「それすぐ取って! よし、ありがとう。これはやっぱりジュエルだな。……エスパージュエル! よっしゃ! まさかこんなにはやくお目にかかれれるとは。ここに来たのも悪くなかったな」

 

 ミュウからジュエルを受け取ってガッツポーズ! ここは文字通り宝の山かもしれない。

 

「なにそれ。宝石? とっても嬉しそうだけど、もしかして高価なものだったりする?」

「そうだなぁ……物は試しだし、一度見せてやる。丁度あそこに大岩が2つあるな。ミュウ、片方に思いっきりサイコキネシス」

「みゅ。任せて」

 

 ドゴッ!

 

 たいした威力だ。大きく穴が開いてえぐれたな。努力値を振る前でこれか。

 

「次はこれを持って同じようにもうひとつに攻撃してみろ」

「わかった。んみゅ?!」

 

 ゴッゴッ!

 

 光り輝いてジュエルの効果が発動した。

 

 ドゴゴゴッ!

 

「わわっ、すごーい! 岩が弾けたわね。その道具、技の威力を倍増させる効果があるのね」

「正確には1.5倍ってところだ。但し、1回こっきりの使い切り。そして1つのタイプ限定。だから使いどころは難しいが、リターンは大きい。ここで全種類複数個集めたいな。今日はここでジュエル集めだ。集めるにはとにかく素早く動くのが大事だ。あの砂塵はすぐ消える。あと、ドリュウズとかポケモンが出ることもあるから作戦を立てないとな。2人とも協力してくれる?」

「もっちろん! シショーのためならなんでも協力するわ」

「みゅーも、役に立ちたい!」

「よし、サンキュー2人とも」

 

 ◆

 

 ジュエル探しは順調に進み、十分過ぎる量を確保できた。区切りをつけて俺達はツリーに戻り、一息ついてこれからのことを話しあっていた。

 

「やったわね。わたしもいっぱいゲットしたし、大収穫ね」

「ホントにな。明日からはハネも集めて、もう少しこの辺を探索したらそろそろ帰ろうか。帰るにはブルーの飛行訓練もしないといけないし、そろそろ帰ることも考えないとな」

「え……もう帰るの? そんな……」

「あ……みゅーちゃん」

「あー、実はそのことで話がある。今はミュウとは成り行きで一緒にいる感じだけど、これからは正式に仲間にならない?」

「えっ! もしかしてみゅーを手持ちに入れてくれるの!?」

「今日の戦いぶりを見て改めて思ったが、ミュウはホントにすごい。もし最初から普通に会ってたら、間違いなくこっちから仲間になってくれと願い出ていただろう。個体……素質は世界中のポケモンの中でも文句なしで1番だから」

「えっ! すっごーい。やったじゃない。ポケモンの良し悪しにはうるさいシショーにそこまで言われるなんてなかなかないことよ」

「うみゅうぅぅ! こんなこと、思ってなくて……みゅー、ずっと待ってて良かった。嬉しいぃ……嬉しいの……みゅぅぅ!!」

 

 泣きながら飛び込んできたミュウの頭を撫でてやりながら、話を続けた。

 

「それじゃ、一緒に来てくれる?」

「うん! 一緒にいる! ずっと一緒!!」

「よし、決まりだな。ずっと大事にしてあげるからな」

「みゅっ……みゅーー!! みゅーー!!」

「ミュウ……?」

「みゅうっ。よ、よろしくなの」

 

 ミュウはブンブンと大げさに手を振って、さっそく技を教えたりいつもの特訓をしてくれと言ってきた。照れ隠しかな?

 

「そういえばミュウは俺達の様子をずっと見ていたのか。じゃあすでに俺の戦い方とかは十分理解できているな?」

「みゅ。バッチリ」

「よし、じゃあちょっと能力を見せてくれよ?」

「え、ああっ、見られてるー! やっぱり恥ずかしいからあんまり見ないでー! 大事なところレインに覗かれてるのーっ!」

「なんか毎度字面だけ聞くとちょっとアウトな気が……」

「うわ、予想してたが覚えてる技めっちゃ多いな。これだと番号でやるのは無理だな」

「わたしは無視なのね。ねぇ、前から気になってたんだけど、数字で伝えてるのはわかるけど、それって全部覚えてるの?」

「ああ。ポケモンも賢くないとこんなことできないし、何よりトレーナーがポケモン全ての技の番号を完璧に覚える必要があるからな。普通ならこんなことできないだろうし、俺ならではだ。そんな俺でも、この数はさすがに面倒だな。いい技が多いし、絞るって言うのも勿体ない。数字は諦めよう。で、先に技を新しく覚えて……といってもまもるみがわりぐらいだな」

「じゃあ、連携とかの練習したい! しんそくとかでみゅみゅってしてるやつ!」

 

 しんそくで素早く移動するのを表現したいのだろう。仕草がかわいい。

 

「その前にミュウ、お前洞窟にずっといてだいぶ汚れたろう? せっかくだからきれいにしてあげよう」

「みゅみゅみゅっ!? けづくろい!? してして!! してほしーっ!!」

「ええーーっ?! それじゃあわたしにもしてよ! みゅーちゃんは人間姿じゃない!……わたしもけづくろいしてくれたらシショーに懐いちゃうわよ?」

「ブルーはこれ以上ストーカー度合いが深くなったら困るし、初めてなんだからミュウに譲ってあげたらどうだ?」

「……明日はわたしにしてね」

「考えるとだけ言っとく」

「それしない時のやつじゃない! ケチ!!」

 

 お前今朝太っ腹とか言ってなかった? 掌返し早くないか。心外なんだけど。

 

「ねえねえねえねえ、はやくぅ~!」

「わかったから! まずはそのボサボサ頭をきれいにしないとな。ミュウって最初は髪とか含め全部びっくりするほどきれいだったのに、顔を見る度に荒れ果てていってるよな。これまで人間姿じゃなかったからたいして手入れしてないんだろ? せっかく素材はきれいなのに勿体ない。ゆっくり手入れしてあげような」

「はいはいはーい!」

 

 けづくろい開始!

 

「最初はブラッシングね。これだけでもけっこう汚れとか落ちるから。ミュウはじっとしててね。痛くない? かゆくない?」

「んー、気持ちイイ、あったかい。あ、レイン好き」

 

 それは全部聞いてないんだけど。いや、ものすごく嬉しいけど。

 

「次はお水も使うからここに体寝かせて。シャンプーしとこうか。その後トリートメントも色々しとこうね。サラサラにして、いい匂いにして、きれいにしないとなー。ミュウは素材がいいから磨けばきっと素敵になるよ。これでモテモテだな」

「みゅー! じゃあきれいになったらレインに見せてあげる。触ったりにおい嗅いだりもさせてあげるからね」

 

 なぜ手入れした俺に対して見せようと思ったのか。

 

「ハイ、きれいになった。ほら、サラサラでしょ? これでミュウもすっごくかわいくなって見違えた。うん、バッチリ。満足できた?」

「ねぇ、髪だけじゃなくてもっとみゅーに触ってよ。もっとナデナデされたりしたい」

 

 ……触られ願望かな? これだけだとただのへ……

 

「じゃあマッサージしよう。凝ってるところある?」

「全部!」

 

 聞いた意味……。

 

「じゃ、うつ伏せで横になってねー。どう、これ痛くない? 気持ちいい?」

「レイン好き、ずっとして」

 

 また関係ない話になってるよ。

 

「肩も凝ってるな。ミュウでも意外と疲れてたりするのか?」

「今日は初めて役に立てた。頑張った。……できたら褒めてほしい」

 

 頑張ったから疲れたって意味かな。なら褒めるぐらいはしてあげようか。

 

「ミュウはすごいからな。ホントに助かった。これからも力を貸してくれたら嬉しい。お礼に今日は満足するまでマッサージでも何でもしてあげるから」

「これからもずっと一緒にいて。みゅーはいっぱい活躍してレインに喜んでもらう。みゅー頑張るの。あ、そこいい。みゅー、もっと強く……ああ、すごくいい。今までで1番幸せなの。レイン好き」

 

 この子どさくさに紛れてさっきからスキスキ挟んでくるな。いや、全然いいけど。

 

「マッサージは終わりだな。体の調子はどう?」

「レインの手があったかくって、嬉しくって、幸せだった」

 

 ……調子は良し、と。

 

「……満足?」

「んー、最後にキスして」

 

 ……満足、と。

 

「もういいんだな。じゃ、おわりね」

「んー! んー!」

 

 スルーしようとしても目をギュッと閉じて唇を突き出してせがんでくる。目を閉じて信じて待つところを見ると無視するのはかわいそうだが、人間の女の子姿とはいえポケモンにはちょっと……。

 

「……ほっぺに1回だけね」

「いいの!? うんうんっ! 今はそれで十分だから、はやくー!」

 

 片膝をついてしゃがみ、同じ高さに目線を合わせてあげた。右手は軽く背中に添え、左手でミュウの顔を包み込むようにして引き寄せ、ミュウの左のほっぺに少し触れる程度の控えなキスをしてあげた。

 

「ん……これでいい?」

「クスクス、遠慮しなくていいのに。レインは優しいキスなのね。でも気持ちは伝わったから満足してあげるの。ありがと……みゅみゅ」

 

 どんな喜び方をするかちょっと楽しみにしていたが、けっこう余裕の表情だ。感情が表に出やすいミュウなら顔が真っ赤になるかと思ったのに。ミュウは前を向いたまま流し目でこっちを見て微笑した。

 

 口元に手を当て控え目に微笑む姿にはミステリアスな雰囲気があり、幻のポケモン独特の魅力を感じる。でも最後にお礼を言いながら見せた笑みは子供らしい花が咲くような笑顔だった。とんでもないやつに魅入られたと思っていたが、魅入っていたのは自分の方かもしれない……。

 

「どういたしまして。お嬢さん」

 

 そう言うといつぞやのようにクルッと1回転してからワンピースの裾を上げて優雅にお辞儀した。ものすごくノリがいい。星座のときもそうだったがミュウとは案外気が合うかも。息ぴったり。

 

「ねぇ、これからはみゅーのことはみゅーって呼んで。みゅーはね、ミュウって言う名前だけどホントの名前はみゅーなの」

 

 みゅーと鳴くからミュウじゃなく、みゅーだからみゅーと鳴くってことか? 自分で言っててよくわからないからもう考えるのやめよ。でも本人が言うなら名前が先なのかも。

 

 あと何気にニックネームの希望なんて言われたのは始めてだな。そもそもポケモンがしゃべることはないから、みゅーがしゃべれるからこそではある。

 

「じゃ、ニックネームはみゅーにするか。本人の希望だし」

「みゅ。じゃ、ボール出して。それに入んないとダメなんでしょ?」

「そういやボールには入れてなかったな。よろしくな」

 

 コロコロ……カチッ!

 ボン!

 

「ぶはっ! やっぱり中はイヤなの。何か怖いし。これからはこの姿でずっと一緒にいることにするの。傍にいてもいいよね?」

 

 何気にトラウマは残っているな。むしろよく自分からボールに入ってくれたな。オーラが読めるから怖くはなかったんだろうけど、ボールの中はキライになってしまったようだ。

 

「まぁそうだな。みゅーがそうしたいなら別に……ってどうした?!」

 

 みゅーはちょっと涙目になりながら嬉しさを堪えているような、でも押し隠せないようなそんな表情を浮かべている。何かあった?

 

「みゅー。名前で初めて呼ばれた。みゅうーぅ、嬉しい……レイン好き!!」

 

 名前か。ブルーもそうだったし、大事なものなんだな。よく考えれば今まで誰とも接してこなかったならちゃんと呼ばれる機会はほとんどなかったことになる。ちゃんと呼んでたのはブルーぐらいか。一緒に寝てあげたり、名前を呼んだあげたり、当たり前に愛情を注がれることがずっとなかったからここまで感情的になるんだろうな。……みゅーは厳しく育てるよりも、もっと甘えさせてあげよう。今までの分もうんと甘えさそう。

 

「何回も好きって言ってくれてありがとうね。ものすごく嬉しい。俺もみゅーのこと好きだよ。これから色々あるだろうけど、一緒に頑張ろうな」

「はぅぅぅ!! みゅううんん!!……ねぇ、もうみゅーのことキライになったり捨てたりとかしないでね?」

 

 喜びで心臓が爆発しそうなぐらい脈打ってるのがこっちにまで伝わってくる。みゅーは言葉とかで言われた方が喜ぶタイプなのかも。でもすぐに暗い表情で不安げにいらぬ心配をされた。嬉しいからこそ失いたくないってことかな。表情豊かだな。ミュウの頭を長い髪ごとわしゃわしゃとなでながら答えた。

 

「そんな顔するなよ。絶対しないから大丈夫。そんなこと言う奴には、こうしてオーラでわからせないとな」

「みゅー! あったかーいっ! あふっ、頭、ちょっとグリグリし過ぎ。みゅみゅ、わかった、もう十分だからいいの。あ……やっぱりもうちょっとしてほしい。今度はこのまま抱っこして?」

 

 言われてやめると、すぐに寂しげに手を伸ばして甘えてきた。こっちを向いたみゅーは必然的に上目遣い。このせつなそうな表情にうるうるした瞳……狙ってやっているならブルーよりあざとい! 今度は乱暴にせず優しく包み込んであげるつもりで抱き留めた。

 

「みゅーはほんとに甘えん坊だよな」

「甘えられたら迷惑? 嫌われるならやめるの……」

「あー違う! だから、そんな悲しそうな顔をしないで。イヤなこと想像するとすぐ元気なくなるな。俺はみゅーのトレーナーだけど、みゅーにとってはお父さん……程の年ではないから……お兄さんみたいに思ってくれていいよ。みゅーは今まで1人だったから、その分までいっぱい甘えていい。してほしいことがあったら何でも言って。できる限りは叶えてあげる。みゅーのわからないこともなんでも教えてあげる。悪いことをしたら叱って直してあげる。そしてずっと大事にしてあげる。約束ね。大事な約束。もう絶対に忘れないから」

「みゅうううう! みゅーー!! みゅーー!!」

 

 涙がもう止まらない。みゅーの涙はとめどなく溢れてとどまることがなかった。言葉はなくても気持ちは感じる。しばらく落ち着くまで甘えさせてあげた。

 




ミュウは体重4㎏らしいです
人間だと赤ちゃんぐらい
ホント、羽毛みたいな軽さ

なのにジュニアのミュウツーは122㎏
人間よりも重いですね
当然赤ちゃんも人間より重いでしょう
ということは生まれた時点で絶対親(ミュウ)よりも重いことに
フジ博士、ダウト!


あとジュエルについて
今は種類はノーマルのみ
倍率1.3に変更のようです

あの、しょーもない変更をするのはホントにやめて……

まあこの話の中では変更に関してはスルー安定ですね


ミュウのニックネームについて
どっかで二字熟語縛りにすると言ってましたが今回は例外ですね
あくまでレインが名づける場合に限ります


ブルーが怒られてる際に見ていたものについて
見ていたのはシショーの頭のレーダーです(アホ毛)
あとから変更して書き足しましたが、最初から怒ってる時はわかりやすい目印があるつもりで書いていました
何回かすぐ謝っていたのはこれを見て判断してました
序盤は全然ノータイム謝罪がないですが後半になってレーダーに気づいたということです


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15.魔法の変身 シンデレラガール

会話文長いので読みにくいかもしれません


 結局、みゅーは寝るまでずっと俺の服とかを握ってぴったりついて来て、しかも、片時も俺から目を離さない徹底ぶり。まばたきもしていないんじゃないかと思うぐらいだった。

 

 転んだりしないのかなと思って最初は注意していたが、さすがにそこはエスパー、なんの問題もなかった。前を一切見なくても歩いたりできるらしい。地味にすごい。

 

 夜はブルーに押し切られて星座談義をたんまり聞かされ、そのブルーをどうにか自分のテントに放り込むまで続いた。いざ寝ようとすると、今度はみゅーがはしゃぎまわって眠るどころではなかった。

 

「んみゅー。レイン、これふっかふか、ずっとこうしてたい」

「フカフカはけっこうだけど、あんまり人の体をペタペタ触らないでね。明日も早起きするんだから早く寝てしまえよ」

「でも眠くなーい。急には寝られないの。なんか眠くなることしてよ。そしたら寝るから」

「さいみんじゅつしようか?」

「それはダメ。すぐ起きちゃってかえって目が覚めることもあるの」

 

 ふーん。たしかにターン数は決まっているしわからんでもない。簡単に寝れると思って一瞬名案だと思ったが浅はかだったか。じゃあどうしようか。子供を寝かしつけるとかしたことないしなぁ。

 

「じゃ、面白いお話を聞かせよう。それ聞いたら寝てくれよ?」

 

 わからんけど、子供を寝かせるならやっぱりこれが定番だろう。童話を読み聞かせ。当然本はないから自分の記憶頼りだけど。

 

「え、お話聞かせてくれるの? どんな話?」

「みゅーは女の子だし、かわいい女の子が主人公の話にしようか。じゃあシンデ……灰かぶり姫の話だな」

「灰、かぶり? みゅー? 聞いたことないの」

 

 この世界には元の世界とは別だからなのか存在しないものもある。一時期本を読み漁っていたから気づいていた。考えた人間がこっちではいないから当たり前といえば当たり前なのかもしれない。相違点は少なくない。

 

「聞いたことない話の方が楽しめるだろ。じゃいくぞ。……昔々、ある国にみゅーというかわいい女の子がいました」

「え、みゅーってみゅーのこと!?」

 

 いきなりいい反応。これはしゃべりがいがありそう。

 

「お話の中だからみゅーっていう名前にしてみたんだけど、どう?」

「それでいいの。みゅーがお話の中に入ったみたい。続けて」

「よし。……みゅーちゃんは継母とその連れ子である意地悪な姉達に毎日いじめられていました。みゅーちゃんがかわいいことを妬んでいたからです。毎日掃除や洗濯を押し付けられた上に粗末な服を着せられ、みゅーちゃんはいつも灰にまみれていました」

「みゅー!! 許さない! 本当のお母さんじゃなくてもレインみたいに優しくしてよ! なんでみゅーの周りにはいつも意地悪な人間ばっかりなの! それになんでみゅーが掃除とかして灰かぶりにならなきゃいけないの?! ひどいひどいっ!」

 

 ヤバッ、ちょっとチョイスをミスったか。みゅーに自分が主人公の話をしたら喜ぶかなとか思い付きでやったからどんな反応するかまでは予測してなかった。あとさりげなく継母とか意味わかるんだな。俺はみゅーぐらいの年じゃ知らんかったぞ。

 

「ちょっとっ、感情移入するのはいいけど本気で怒らないで。これはあくまでお話だから」

「あ、そっか。……こんなこと考えるなんて、やっぱりレインって怖いところあるの。もしかして、いつも家事をやらされてるのがイヤだったの?」

 

 怒りをすぐに鎮めてくれたのはいいけどそういう反応されると微妙な気分になる。

 

「あの、変に深読みしないで。そういうわけじゃないから。ゴホン! ……ある時、城で王子様の花嫁を決めるために舞踏会が開かれ、姉達は着飾って出ていきますが、みゅーちゃんには肝心のドレスがありません。舞踏会に行けないみゅーちゃんは留守番を命じられ、1人で寂しく掃除をすることになりました」

「みゅー!? なんでみゅーだけドレスがないの!」

「粗末な服着せられてるってさっき言ったでしょ」

「ええーっ。イヤ! みゅーもぶとーかいに行く! レインなんとかしてよ!」

 

 お、これはいい反応だな。わざとお遊戯のセリフのようにドラマチックに言うことでみゅーの気を引いた。

 

「ああ、なんてかわいそうなみゅーちゃん。一度でいいから私も美しいドレスで着飾ってみたい。舞踏会に行って王子様と踊ってみたい。みゅーちゃんがひとり悲しみに暮れていると、素敵な舞踏会へ思いを馳せるみゅーちゃんの元に不可思議な力を持ったエスパーが現れ、みゅーちゃんの頼みを聞いてくれました。みゅー、今からコラッタ2匹とかぼちゃを持ってきなさい。そうすればあなたの願いを叶えてあげる。みゅーちゃんは大変喜んで、すぐに言われたものを家の中から探してきました」

「エスパーはみゅーの味方なの? いい人もいるんだ。これでみゅーもお城に行けるの? なんでコラッタとか集めるの?」

「さぁ、なんでだろうな。それは続きを聞いたらわかる。話を続けようね。……みゅーちゃんはいつもお掃除をしているので、屋根裏に潜んでいるコラッタを捕まえるのはお手の物です。すぐに2匹捕まえました。台所に行くと、余っているかぼちゃが丁度おいてありました。さぁ、言われたものは揃いました。それらをエスパーに渡すと、あーら不思議。えいやっと“ねんりき”をひとつ込めれば、屋根裏のコラッタは立派なギャロップに、もひとつ込めれば台所のかぼちゃは立派な馬車に。そしてみゅーちゃんの服があっという間に素敵なドレスに早変わり。最後にエスパーはみゅーちゃんにガラスのくつを渡しました。ガラスのくつはキラキラとみゅーちゃんの大好きなお星様のように光り、みゅーちゃんの足にぴったりと収まりました。

 みゅーちゃんは大喜びでさっそくカボチャの馬車に乗り、急いで舞踏会に向かおうとしました。みゅーちゃんは夢見心地ですが、エスパーは警告をします。気をつけなさい、みゅー。私の魔法は0時の鐘が鳴り終わると解けてしまう。それまでに必ず帰るのよ。それに対してみゅーちゃんは、わかったの、と言い残しさっそくお城へ出かけました」

「よかった、みゅーもお城に行けたんだ。みゅみゅ! どんなところか楽しみ」

 

 みゅーは集中して話を聞いている。面白くなってきたみたいだ。

 

「お城では王子様と国中のたくさんの娘達が楽しそうにダンスをしていました。遠巻きに見ても皆綺麗に着飾った美しい女性ばかりです。自分がこんなところに来て大丈夫なのか不安になりますが、みゅーちゃんは自分のドレスとガラスのくつを見て、エスパーにせっかくもらった大チャンス……なんとか王子様と踊れるように頑張ろう、と決意を改め、勇気を出して広間に入り王子様の元へ向かいました」

「みゅぅぅ」

 

 みゅーも手に握り拳を作って緊張している。名前をみゅーにしたのは正解だったな。

 

「みゅーちゃんが広間に現れると、周りの者は一斉に振り返ってみゅーちゃんを見ました。みゅーちゃんのみすぼらしい姿に呆れているのでしょうか? いいえ、誰もが突然現れたみゅーちゃんの美しさに眼を奪われてしまったのです。意地悪な継母と姉も、それがみゅーちゃんだなんて気づきもしません。みゅーちゃんに眼を奪われたのは王子様も同じでした。それまで踊っていた相手も放っておいてみゅーちゃんの元に駆け寄り、捲くし立てるようにみゅーちゃんへ問いかけました。あなたはどなたですか? お名前は? あなたのような方がいたなんて信じられない。こんなに美しい方は初めて見ました。ぜひ教えてください。みゅーちゃんは困ってしまいました。姉達がいるので自分の正体をバラすわけにはいきません。でも王子様の言うことを無視するような失礼なこともできません。考えたみゅーちゃんは、薄く微笑みかけると、黙って手を差し出しました。踊りましょうということですか? 王子様が再び問うと、みゅーちゃんは夢か幻のように消えてしまいそうな儚い声で答えました。私はあなたと一緒にいるだけで幸せです、と。それを聞いて王子様は自分の行いを悔い改め、みゅーちゃんの手を取って答えました。僕も同じです。ここは舞踏会。踊りは心を通わせ、お互いの気持ちを伝えることができる。お嬢さん、野暮なことを聞いてしまいました。一緒に踊りましょう。僕もそれで満足します。もう何も聞きません。みゅーちゃんはその答えに一安心し、笑顔で王子様に応え、一緒に踊りました。神秘的で美しいみゅーちゃんに、終始王子様は夢中でした。もう他の誰も誘わずに、ずっとみゅーちゃんと踊り続けました。そして優しい王子様の眼差しにうっとりとして、みゅーちゃんもまた、夢のように幸せな時を過ごしたのです」

「……スースーzzz」

「あれ、寝ちゃった? 今日はここまでか。いったんレポートを書いてセーブだな」

「んーんー、私も踊る。ん、それはひみつ。一緒に踊れば……んみゅ、むにゅむにゅ」

 

 さっそく夢に出てきているな。意外と読み聞かせっておもしろいかも。みゅーのリアクションがいいからこそだろうけど。

 

 ◆

 

 翌日、みゅーを起こすとものすごく残念そうな顔をされた。名残を惜しむ、まさに夢なら覚めないでくれって感じに見える。ちょっと悪いことをしたかもしれない。夢の中でずっとお城の舞踏会にいたのだろうな。

 

「みゅー」

「おはようみゅー。ずっとお城の舞踏会でお楽しみだったようだけど、もう魔法は解けてしまったみたいだな」

「え、魔法? なんのこと?」

「言っただろう。エスパーの魔法は0時の鐘が鳴り終わるまで。ほんの一時の儚い幻。魔法が解けたら、カボチャの馬車も、コラッタのギャロップも、素敵なドレスも、全部なくなるんだよ」

 

 ちょっとネタバレになるけど、これが好奇心に火をつけた。みゅーはものすごい食いつき方をした。

 

「え、じゃあレイン、あの後どうなるのっ! みゅーは王子様と最後まで一緒にいられるの? ねぇ、どうなるの!?」

「それは今夜のお楽しみ。おうちに戻ったら灰かぶり姫に戻るんだから、みゅーも戻っておいで。朝ごはんもうすぐできるから、顔洗って寝ぐせ直してこい」

「ううみゅ、早く続きを知りたい。すぐに夜になってー!! 早く寝たいのー!!」

「まだ起きたばっかりでそれはどうなの?」

 

 まさかここまではまるとは。ここでやめたら怒って大泣きだろうな。ちょっと見てみたい気もする。怖いもの見たさってホント怖い。

 

「何騒いでるのよ。シショー、ごはんマダー。あ、みゅーちゃんおはよーっ」

「あ、出たの! 妖怪継母! 私のエスパーできれいにへんしんして王子様は渡さないの!」

「え、なになに、どういうこと?」

 

 みゅーはすっかり灰かぶり姫の話に夢中みたい。一人称まで変わって完全になりきっている。

 

「へんしん!……ん? あれっ、できない? 人間の姿、これしかできない! んー、最近できるようになったばかりだから?」

「お前別の姿にへんしんできないのか。驚愕の事実。意外と融通利かないんだな。自分で自分に魔法をかけるなんて都合が良過ぎるってことだな」

「うみゅぅぅ! ねぇ、レイン魔法かけて! みゅーにドレス着せて!」

 

 無茶振りするなぁ。まぁ却下するだけなんだけど。

 

「魔法は夜のパーティーの間だけだから今はご飯食べようねー」

「ぶー!」

「……はへ?」

 

 ブルーだけ蚊帳の外。これは朝食でも続いた。

 

「えええ! かぼちゃ!?」

「話の流れだ。嬉しいだろ?」

 

 丁度いいと思って出したがみゅーのキライな食べ物だったらしい。子供かよ。ポケモンは好き嫌いあるから何かしらあるだろうとは思っていたが子供っぽい好みだな。

 

「みゅーこれキライ! イヤッ! これもかぼちゃの馬車にしてどっかにやって!」

「無茶言うな。ホントに馬車にできるわけないだろ。それにコラッタのギャロップがないと動かないぞ」

 

 さっきも思ったがコラッタのギャロップって違和感が凄まじい。ネズミの馬はそんなにおかしいとは思わないのに。ポケモンは固有名詞っぽく感じるからだろうか。

 

「ぐうぅっ! じゃあコラッタ探す!」

「ダメだからね。それにここにはコラッタは生息してないからムダだし。今は先にごはん食べような。はい、口開けて」

「んみゅ……うべぇ、やっぱり変な味! もう食べたくないの!」

 

 押し問答が続くので、みゅーのキライなものが出た時のために考えていた秘策を披露することに。

 

「仕方ないなぁ。じゃあみとけよー。ぱっぱらぱーのほい! ほら、今魔法をかけてあげたから、お食べ」

 

 子供の味方、お砂糖を使ってみゅーの口に合うようにした。

 

「えーっ! なんか今にも気の抜けそうな掛け声だし、レインのエスパーってみゅーよりもかなり弱っちいの。あんまりいい魔法じゃなさそう」

「はっきりと言うなぁ、みゅーさん。さっきはへんしんさせろとか無茶不利したのに。早く食べないと魔法が切れても知らないからな」

「えっ! それはダメ! あむっ……んんっ、ちょっとおいしい! これなら食べられるの! ホントに魔法かかってる!」

「お嬢さん、お口に合いましたか? 満足ですか?」

 

 昨日のことを思い出したのか、みゅーはちょっと笑って黙ったままうなずいた。パロディって楽しいな。目で語ってニヤリと笑いあった。

 

「ちょっとちょっと! さっきから何で2人だけで楽しそうにしてるの! どういうことかわたしにも教えてよ!」

「みゅー。じゃ、妖怪継母はもうみゅーに意地悪しない?」

「え、よくわかんないけど、意地悪なんかしないわ。というか、この状況ってわたしの方が苛められてない?!」

 

 さすがにかわいそうと思ったか、あるいはやりとりに満足したのか、みゅーは笑って教えてあげた。

 

「仕方ないから、ブルーにも教えてあげるの。これはみゅーちゃん姫のお話のことなの」

「違うからな。灰かぶり姫ね」

 

 素早くツッコミを入れた。油断も隙も無い。

 

「灰かぶり姫? 何それ?」

「なんというか、俺がみゅーに昨日聞かせてあげたお話のタイトル。全然寝れないって言うからちょっと面白い話でもと思って」

「えええ! なにそれ、シショーって読み聞かせみたいなことしてくれるの!? わたしにはしてないじゃない! わたしにも聞かせてよ! なんか最近みゅーちゃんばっかりじゃない! わたしにもわたしにもっ!」

「アホ! なんでお前にするんだよ! お前は子供か!」

「そうよ、わたしは子供だもんっ!」

 

 内容が小学生レベルの口論で頭痛くなる。ブルーは何を考えてるのやら。

 

「お前たしか昨日帰ってきてからはずっと俺があげたデータとにらめっこしてなかったか?」

「……それはそれ、これはこれよ。今日からわたしも一緒に寝る! 絶対!」

 

 曖昧な微笑みでごまかされた。かわいいから許される特権だな。今のブルーを見てそう思った。思ったよりまだ子供っぽいところも多いな。

 

「ブルーは1回言い出すと頑固だからなぁ。お話聞きたいから一緒にって、いったい何才の発想なんだ」

「わたしは13だから立派な子供だもん。わたしだけ仲間外れなんてヤな感じ! みゅーちゃんもいいでしょ?」

 

 そういえばそうだった。こいつはまだピッカピカの小学7年生だったな。

 

「んみゅ、3人の方が盛り上がって楽しいと思うの」

「寝るためにやっているんだから盛り上がっても困るんだが」

「レインは意地悪な継母みたいなことするの?……見損なったかも」

 

 くっ、本当に思っているわけじゃないのはわかるが、それでもダメージがあるな。

 

「……俺はいいけど、仮にも女の子なのに、ホントに男と一緒でいいのかブルー?」

「いいよ、シショーだったら。あと仮にもは余計! 着替えたりする時はどっかいってね」

「俺が追い出されるのか……。今に始まったことではないが勝手な奴だな。でも、野宿の時だけね。宿とかで変に思われたくないし」

「オッケー! これでわたしも一緒に話に混じれるわね」

 

 本当に一緒に寝ることになった。大丈夫なのか? この日はみゅーの努力値振りや技の確認などをして、探索も程々に夜を迎えた。

 

「わくわく」

「わくわく」

「これ聞いたらホントにすぐ寝ろよ。昨日は確か王子様と踊ったところまでぐらいでレポートを書いて寝たんだっけ」

「レポート?」

「あーそれは言葉の綾だな。とにかくそこからでいいな、みゅー?」

「あ、出来たら最初からもう1回して。みゅーがブルーに教えたんだけど、あんまりよくわからなかったみたいなの」

「みゅーは人に教えるのは向いてなさそうだもんな。じゃ、最初からね。……昔々、ある国にみゅーちゃんというかわいい女の子がいました」

「えへへ、みゅーなの! かわいい女の子!」

 

 2人を比べると聞く態度がはっきり別れた。みゅーは昨日聞いた話でも同じように怒り悲しみ、喜びを示し、ブルーは終始じっとしたまま静かに耳を傾けていた。みゅーは驚く程同じリアクションをして同じところで笑ったりし、ブルーは普段とは打って変わっておとなしかった。

 

「ここまでが昨日進んだところ。素敵な時間が終わって魔法が解けてしまうところからだな。ブルー、どう、ここまで面白い?」

「辛い生活からいきなりお城の王子様と一緒になれたら、もうこれ以上ない幸せよね。みゅーちゃんには幸せになってほしいわ。こんなお話わたしも憧れちゃう」

 

 王子様と結ばれて玉の輿っていうのはどこでも憧れなのかな。だいぶ話に入って来れているし、ブルーも問題なく楽しめていそう。

 

「みゅ、任せて。みゅーは幸せになるの。あ、そうだ! だったらこれから王子様はレインって名前にして」

「え?! なんで俺なんだよ?!」

 

 自分の名前を使う発想はなかった。

 

「そ、そうよ! そんなのずるい! ……もとい、シショーが困っちゃうわよ」

「何? 別にお話だからいーでしょ? みゅーは知ってる男の子がレインしかいないもん。だからレインが王子様。何か問題あるの? みゅーの名前は良くてレインはダメなの?」

「ダメじゃないけど、まあそうだな。自分が出てくるなんて変な感じだけど、フィクションだしいいか」

「ぶぅー!」

「……今度の話はブルーが主役ってことにするから」

「やった!」

 

 ブルーの反応が完全に小1のそれだ。

 

「続き早く! もう今日中ずっと待ってたんだから! それでどうなるの!?」

「……楽しい夜を過ごしたみゅーちゃん。でも、幸せな一時は束の間。そんな時間もとうとう終わりの時を迎えます。あのエスパーとの約束の時間、お城の大きな時計台の0時の鐘が鳴り始めました。一夜限りの魔法が解け始めたのです。この鐘の音が止めば正体がバレてしまう。たいへん、魔法が解けてしまうの。そう言ってみゅーちゃんは王子様が……あーはいはい、レインが引き留めるのも聞かずに大急ぎで広間を飛び出しました。もうすぐ時計台の鐘も鳴り終わってしまいます。あんまり急いで走ったみゅーちゃんは、階段の途中でガラスのくつを落としてしまいました。けれども拾いに戻る時間はなかったので、みゅーちゃんはガラスの靴を残したまま長い階段を駆け下りて行きました。帰り道、途中で魔法は解けてしまい、立派なギャロップはコラッタに、かぼちゃの馬車はただのかぼちゃに戻ってしまい、みゅーに残ったのはエスパーにもらったガラスのくつの片割れのみ。もう取り戻せない幸せな時間を思い返し涙を浮かべながら、片方だけのガラスのくつを見て1人みゅーちゃんは独白しました。片方だけじゃ履くこともできないの。あの素敵な時間は夢だったのかしら。短い時間だったけど、楽しかったの。さよなら、レイン。みゅーのこと忘れないでね。……みゅーちゃんはこぼれる涙をふいてトボトボとおうちに帰っていきました」

「えー!? そんなのひどいのっ! なんでいきなり0時なのっ。なんで片足脱げて帰りは歩きなの?! なんでそんな聞いてるみゅーまで悲しくなるような言い方するの?! なんでみゅーをこんなに不幸にするの?! こんなのひどすぎるの! 普通めでたしめでたしじゃないの!? さすがに怒るの! レインって女の子いじめるのが好きなの?!」

 

 ガバリと起き上がり、やいやいと苦情を言うみゅー。俺は手で制して必死に弁明した。

 

「みゅーはドジっ子だったんだよ、たぶん。それに話はまだ終わってないから。そもそもさ、こういうのって最初は悲劇的な方が後々も含めて盛り上がるでしょ? 別にいじめて楽しむとかじゃないし、不幸にしたいわけじゃないから。いつも楽しいことっていうのは夢中になるから時間なんてすぐ過ぎるし、辛いことは逆に長く感じるものだ。約束の時間なんて頭から抜け落ちてすぐ忘れてしまうから、こうなるのは仕方ないだろ」

「そうね。よっぽどみゅーちゃんは嬉しかったのね。わかるわ、わかる。でもシショーの性格の悪さが前面に出ていることには同意ね。S種族値はミュウよりも上じゃない?」

 

 うんうんとうなずいてじっと続きを待つブルー。それを見てみゅーも落ち着きを取り戻し横になったので、もうこれ以上はあえて何も言わず、俺はそれを見て続きを語り始めた。

 

「王子……あー、レインがようやく広間を抜けて階段まで辿り着いた時には、あの美しい人の姿はもうそこにはありません。どうにか手掛かりはないかと辺りを調べてみると、階段で星のかけらが零れ落ちているかのようにキラキラと輝くガラスのくつを見つけました。もしやこのくつはあの方が落としていったのか。……間違いない。ガラスのくつを拾い上げ、レインはいつまでもそこに佇んでいました。まるで夢のような時間の余韻に浸っているかのように」

「あ、ドジっ子したことはここで活きてくるんだ。意味はあるのね。突然去る美少女。残されたガラスのくつ。儚いけど、お互い1つずつ持っているガラスのくつが夢の時間の確かな証になるのね。これだけ魔法が解けてもなくならなかったのもすごい偶然ね」

「これはへんしんさせたものじゃないからな」

「みゅ。最初から計算通りなの。レインはきっとみゅーを探しに来るの。みゅーとレインは必ず惹かれ合う。これは運命だから。おいで、私のハウスに。待っているから」

 

 なるほど、とブルーが納得し、みゅーが謎のドヤ顔でこのセリフ。腹立つ顔だけどちょっとかわいくて憎めない。あと後ろのそのセリフは俺にとってはトラウマに近いから本気でやめてほしい。……気を取り直して続きに進もう。

 

「……何日か経って、町にお城からの使いがやって来ました。舞踏会で出会った名も知れぬ女性が忘れられないレインは、ガラスのくつがぴったりと入る女性を花嫁にするとお触れを出したのです。国中の若い娘達がこぞってガラスのくつを履きました。けれどもガラスの靴は小さくて、それを履ける娘は誰1人いませんでした」

「みゅーちゃん足ちっちゃいんだ」

「んみゅ? そうなの?」

「あのね、これはお話の中の設定だから!……レインは国中を廻って、最後にようやくみゅーちゃんの家にやって来ました」

「やっときたの。待ちくたびれた。おいでおいで!」

「どうなるの? 正体バレちゃうの?」

「まずは意地悪な姉達が試しました。ですが誰も履けなかったガラスのくつです。そう簡単には入りません。継母は見かねてこう言いました。足が入らないならそんな余計な足は切っておしまい! お后様になれば、もう自分で歩く必要なんてなくなるんだからね! 継母の言葉を信じて、1人の姉は踵を、もう1人の姉は爪先を切ってしまい、四苦八苦しながら痛みに堪えてガラスのくつに足を入れました。けれどもくつから血が滴っているのをレインに見咎められてしまいます。あの方は血を流してはいなかった。あなた達は違う。その言葉に泣きながらも満足に動くこともできず、姉達は止血のため部屋から担ぎ出されていきました」

「えぇ……グロ……。シショー、さすがにそれはドン引きするんだけど。シショーってなんか心に闇を抱えてるの? いくら意地悪してきたからってそれはかわいそう。やり過ぎよ!」

「レイン怖い……みゅーのことも足おっきくなったら切っちゃうの? みゅぅ、痛いのはイヤなの、許して……」

「するわけないだろ! だからあくまでお話だからね、これ! そういう話なんだから仕方ないだろ! もうラストなんだから黙って聞いてて!」

 

 なんで俺に批判が集中するんだよ。やらせたのは継母だろうに。原作でもこんな感じだし。はっきり覚えてないから脚色はしているけど、闇抱えてる説は心外過ぎる。俺は平然と人の足をチョキチョキすると思われてるらしい。

 

「……もう若い女性の方はいらっしゃいませんか? レインが尋ねると、部屋の奥からみゅーちゃんがおずおずと顔を出しました。継母が怒って奥へと押しやろうとするのを制して、レインはみゅーちゃんにガラスのくつを差し出しました。すると、今までの娘達とは打って変わって、レインの前でみゅーちゃんは何の気負いもなくそれを受け取り、当然の事のようにその足をくつに入れて見せました。みゅーちゃんの一際小さな足は、するりとガラスのくつの中に入りました。ガラスのくつがみゅーちゃんを本当の持ち主として認めたのです。レインも継母もたいそう驚き、思わず息を飲んでガラスのくつを凝視しますが、ただ1人みゅーちゃんは笑って口を開きました。ずっとあなたを待っていました。あなたに一言お詫びとお礼が言いたかった。最後は急いでいて別れの挨拶もなく飛び出してごめんなさい。舞踏会であなたといた時間は夢のようでした。本当にありがとう。それを聞いてハッとしてレインは顔を上げました。その時のことをレインは一生忘れないでしょう。みゅーちゃんの顔を見たレインは言葉を失ってしまいました。どんなにみすぼらしくても、たとえ姿が異なっていようとも、その笑顔は紛れもなくあの時の美しい女性のものでした。変わらないみゅーちゃんの笑顔にレインは心を打たれ、みゅーちゃんをお触れ通りに花嫁にすることにしました。

 レインのお后として迎えられたみゅーちゃんは、意地悪な継母と姉達もお城に呼んで、姉達のケガを治してあげた後、一緒に暮らそうと言いました。継母達は驚いて聞きました。お前は今まで私達からひどい仕打ちをされて、ましてや自分はお后になれたのに、どうしてそんなに優しくしてくれるんだ、と。みゅーちゃんは静かに笑って、血の繋がりはなくても私はあなた達を家族だと思っています。家族を招くことに理由はいりません、と答えました。それを聞いた継母達は己の過ちを悟り、今まで血の繋がりがないというだけで除け者にして辛く当たったことを深く後悔し、その場で泣きながらみゅーちゃんに謝罪しました。みゅーちゃんはこれを快く許し、継母と姉達は改心することができ、本当の家族のように仲良く暮らすことになりました。それからレインとの幸せな生活の中、みゅーちゃんは仲直りした継母から、舞踏会のあったあの日が最初のお母さんの命日であることを知りました。みゅーちゃんは思いました。あの時助けてくれたエスパーは、きっと小さい頃に別れてしまった私の最初のお母さんなんだと。その母がひとりぼっちにさせてしまった私を心配して助けてくれたのだと。それからみゅーちゃんは毎年、レインと初めて出会ったその日には母を弔い、ずっと見守ってくれていたことに感謝を捧げました。灰かぶり姫、終わり」

「みゅぅぅぅ! お母さん、ぐひゅ、みゅーのこと、いつも見守ってくれてたの? みゅーは今幸せになれたから、ホントに幸せだから、もう心配しないでねぇっ!」

「みゅーちゃんなんていい子なの。別れ別れのままにならずにレインと幸せに結ばれてホントに良かった。継母達もみゅーちゃんの優しさに触れて改心してくれて嬉しい。みんなかけがえのない家族だもんね。そしてまさかエスパーの正体がお母さんだったなんて……みんないい人しかいないのね。涙が止まんない……!」

「よしよし、2人とも好きなだけ泣いて、すっきりしたらぐっすりおやすみ」

「みゅぅぅぅ。zzz」

「ぐすっ。zzz」

 

 泣き疲れて寝てしまったな。こんなに泣くなんて。ちょっとアレンジし過ぎたかも。これ以降、毎晩童話を話すのが本当に日課になった。

 




チョサクケンハ50ネン……チョサクケンハ50ネン……(呪文)

レインが題名をシンデレラから言い直して灰かぶりに変えているのは女の子の名前をみゅーにしたかったからです
深い意味はないです

内容はかなりいじっています
特にシンデレラがものすごくいい子になっています
いい話でまとめるためですね

本当はシンデレラって先代の母上を手にかけているんですよね
継母は二代目じゃなかったという闇
なのでイメージはだいぶ違いますね

ただし起源自体も正確に定まってるわけではないようですし、色々派生はあるようです
ややこしいなぁ

あと何気にずっと気にしてたんですが、あらすじでみゅーの一人称が「私」になっていて「みゅー」じゃない点について
この話でキャラになりきっている時はみゅーちゃんの一人称は変わるというのが判明しましたね
つまり謎の襲撃者の時はキャラ作りで自分のことを「私」と言っていた……ということにしています
あらすじに「おいで、みゅーのハウスに」って書くとモロバレルなんでやむなしですね


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16.幻のシンカ 可能性の遺伝子

ミュウが全てのポケモンの祖ってホント?


「さ、そろそろトレーナーらしいこともしないとな。みゅー、バトルだ」

「みゅみゅ、頑張る!」

 

 しかし、いきなり大きな問題に直面していた。みゅーはとにかく俺に褒めてもらいたいようで、どうもバトルになると頑張り過ぎる。簡単にいえば手加減ができなかった。

 

「みゅー! またやり過ぎ! お前はわるだくみを3回もしなくていい! 能力上げきってさらに一致抜群なんかいれたらオーバーキル過ぎるだろっ! 相手死んじゃうよ? 野生相手でもやって良いことと悪いことがあるだろ?」

「……それを今までめちゃくちゃしていたシショーが言うの?」

 

 ブルーの言葉は無視したが、みゅーは泣き出してしまった。

 

「ぐみゅぅぅ、みゅっ、みゅーは、やっと一緒になれたから、早く頑張って役に立ちたくて……。一生懸命にやっただけなのに、なんでそんなに怒るの? みゅーは要らない子なの?」

「ごめんごめん、泣かないで。そんなわけないだろ。みゅーが一生懸命だってことよくわかってるつもりだ。でも頑張り過ぎもダメ。みゅーは元々強い上に、俺が鍛えてさらに強くなってしまった。だから力を抑えないといけないんだ。言ってることわかる?」

「うん。でもなんで強くなったのに力を抑えないといけないの? それじゃ意味ないの。みゅーは全力で思いっきりバトルしたい」

 

 ぐっ……正論だな。たしかにそうだ。元々ミュウというポケモンを育てることには大きな問題があった。今回はせっかくの6Vだから強くしたいし、特攻と素早さを伸ばして攻撃重視の育て方をした。

 

 だが強過ぎる上に幻だから素の姿では人前に出せない。かと言って人間姿で今みたいに戦わせるのはもっと話にならない。だからこの先バトルする機会は驚くほど少なくなることは目に見えていた。ならなんのために強くなるのか。もうそれはただの自己満足に過ぎないんじゃないか。

 

 もちろんそんなことはもう何度も考えていた。だからバトルが終わった後、みゅーと2人きりになった時にそのことをみゅーにも話すことにした。

 

「え、そんな! それじゃ、みゅーは役に立てないの? バトルできないの? みゅーはもっと頑張りたい。バトルも楽しいからしたい。みゅうぅ、なんか思ってたのと違うの。大事なところではみゅーの出番あるよね? レインが目指してるポケモンリーグとかは?」

「悪いけど、リーグでのお前の出番はゼロだろう」

「え……」

「全国中継まであるらしいからな。なおさらお前を出すわけにはいかない」

「そんな……」

 

 みゅーにはかわいそうだがこれはどうしようもないことだ。ただ現実を知るのが遅いか早いかの違いだけ。それに言うべきことはこれだけではない。

 

「それといつか言うことだから先に伝えておくが、リーグ戦になれば当然フルバトルになる。だから最低でもあと1体は新しくポケモンを捕まえて、そのポケモンを育てる間とリーグの期間はお前にはボックスにいてもらうことになる」

「ボックス? 何それ?」

「みゅーにわかるように言えば、俺の傍から一時的にだが離れるってこと」

「えっ! う、ウソだよね? それ……みゅーを捨てるってこと? 全然みゅーが役に立ってないから、レインにとってみゅーは邪魔で、要らないからポイするの?」

「違う違う! 手持ちのパーティーから外すだけ。ボックスにいる間は面倒見れないけど、当然ずっとじゃないし、みゅーもちゃんと育てるから……」

「そんなの、みゅーのことポイして捨てるのと一緒でしょっ! ずっと一緒じゃなかったの? 捨てないって言ったでしょ?! ずっと一緒にいてくれると思って嬉しかったのに……なんで? なんでなの? ……レイン嘘つき!! もう……もう、大っ嫌い!」

「待って、話を……」

「みゅーー!!」

「あっ! 待って……嫌いなんてゲットする前にも言われなかったのに……」

 

 まさかこんなことになるなんて。残ったのは取り返しのつかない喪失感。ポッカリ穴があいたような心境。みゅーなんて最初は渋々一緒にいて、それからもこっちがみゅーの面倒を見てあげている、そういうつもりだった。

 

 本来自分にとってはさして重要な相手じゃなかったはずなのに、ブルーに言われた時より数段大きなダメージを受けてしまった。目に見えるほど落ち込んでしまい、ブルーにも気づかれてしまった。

 

「シショーどうしたの? なんか元気ない気がするけど」

「ブルーか。別になんでも……ってごまかしてもムダか。実は……」

 

 みゅーはいないし探して連れ戻すこともできないのでバレるのは時間の問題。ブルーには事の顛末を正直に話した。話を聞いたブルーはため息をついた。

 

「そりゃ飛び出しもするわよ。シショーの言い方が悪いわ。わたしだってそんなこと言われたらすっごくショック受けるだろうし、思わず飛び出しちゃうわね。今まで何のために頑張ったんだーって。たしかにいずれ言わなきゃいけないけど、こういうのは少しづつ慣らさないと。失敗を続けたらボックスに入れることにして納得させて送るとか、その後はちょっとずつボックスにいる期間を長くするとか。事実だし避けられないからって相手の気持ちを無視しちゃダメよ」

 

 ブルー。言っていることは尤もだが、そのポケモンの干し方は手馴れ過ぎていてちょっと怖い。どこで覚えたの? 納得させて干すとか……。だがそう考えると俺がやったのは唐突な戦力外通告みたいなもんだし堪えるのも無理ないか。

 

 編成にポケモンの気持ちを考えなきゃいけないなんて思いもしなかったな。自分の都合に合わせてメンバーを出し入れするのは当たり前と思っていたが、そうはいかないものらしい。

 

「そうだな。みゅーが帰ってきたら謝るけど、結局今回も落ち着くまで待つしかないか」

「そうね。きっと晩御飯までには戻って来るわよ。シショーのことは大好きなんだし。そうだ、今日はハンバーグにしたら? みゅーちゃんの大好物だし、香りに誘われてやってくるかも」

 

 最初のごはん以来、あの時の嬉しさが忘れられないのか、みゅーはハンバーグとオレンが大好物になっていた。本気で効果があるとは思わないが、みゅーは何かと鋭いところがあるし、気休めとしてはありかもしれない。

 

「サファリのポロック設置じゃあるまいし……と言いたいところだが、まぁやらないよりはやった方が気休めにはなるか」

 

 ところがどっこい、これが見事に大当たり。みゅーがおなかを空かせる頃、本当に香りに誘われたのか、顔を真っ赤にしたみゅーがもじもじしながら戻ってきた。いつもは俺の顔をじっと見ているが、今は下を向いてバツが悪そうにしている。

 

「みゅーちゃん! ホントにちゃんと遅くなる前に帰ってくるなんてっ! シショーとは大違いで良い子過ぎるわね」

「みゅぅぅ……レインがかわいそうだから、仕方なく戻ってあげたの」

 

 ツリーに戻ったがみゅーはそっぽを向いてなかなかこっちには来ない。まだわだかまりが残っているんだろう。自分からみゅーの元まで歩み寄ってあげた。それは気持ちでも同じ。みゅーは少し後ずさりするが、逃げはしなかった。

 

「みゅっ、みゅーはまだ許してないから! どっ、どれだけ怒られても、絶対ボックス送りなんか認めな……うみゅ?!」

 

 とにかく思いっきり抱きしめて、これでもかというほど自分の気持ちをみゅーに込めた。

 

「ごめん。みゅーには全部言葉にしなくても自分の気持ちは勝手に伝わると思ってた。急にあんなこと言ったのは許して。本当はずっと一緒に居たいし、なんとかしてあげたいと思ってる。だから許してくれない?」

「……」

「お腹も減っただろ? みゅーの分も用意してるから、早く食べて。みゅーのために用意したから」

「……」

「戻ってきてくれて本当に良かった。もうどこにも行かないでくれよ?」

「……わかった」

 

 拗ねているのか口数は少ないが、とりあえず矛は収めてくれたようだ。

 

 食べている間、いつもならおいしいと言ってくれるが今日は全くの無言。みゅーが何も言わないことがどうしても気になり、つい声をかけてしまった。

 

「みゅー、おいしくなかった? また食べさせてあげようか?」

「……」

「まだ怒ってるんだな。手持ちのことは後でちゃんと相談しよう。みゅーの話も聞くからさ。みゅーが一緒にいたいって気持ちもよくわかったし、俺だってみゅーのこと大事にしたいと思ってるから。きっといい方法が見つかる。だから……みゅー!?」

「みゅーちゃんどうしたの!?」

 

 みゅーが顔を伏せ、最初はこらえていたようだが少しずつ涙がこぼれ始め、やがてそれは大泣きになり、慌てて傍に駆け寄った。背中をさすっても、涙を拭ってあげても効果はなし。やればやるほど逆に涙割り増し。こうなれば泣き止むのを待つしかないと、じっと待つことしばらく、ようやくみゅーが口を開いた。

 

「ぐしゅ。みゅぐっ、レインごめん。みゅーさっきひどいこと言った。大嫌いって言っちゃったけど、あれはホントじゃないよ。本当はね、レイン大好きなの」

「え、それを気にして泣いたの?……いいよ、あの時のみゅーの気持ちは今ならわかるし、みゅーが俺にスキスキなのはわかってるから」

「みゅー! 違うの! いや、好きなのは違わないけど……みゅーは灰かぶり姫を思い出して。みゅーはひどいこと言って飛び出して、迷惑かけて、なのにレインはみゅーが帰ってきたら笑ってくれたから嬉しかったし、おいしい料理も当たり前のように用意してくれてるし、優しくしてくれるし……まるで継母を許した灰かぶり姫みたいなの」

「そういうことか……」

 

 子供らしい理由に笑みを浮かべてしまった。みゅーって純粋なポケモンだなぁ。いい子過ぎてびっくり。でも暖かい気持ちになった。

 

「灰かぶり姫はみゅーだから、みゅーが優しくならないとダメなのに。でもホントに嬉しくって……やっぱりここがみゅーの居場所なんだって思えたから。そしたら、なんでこんなにあったかいところから出ていったんだろうって……優しい人にひどいことしたんだろうって……これじゃ、みゅーが継母なの」

「そんなことないない。みゅーは優しいから戻ってきたし、こうやって涙も出るじゃんか。継母だってホントはいい心があったから仲直りしたんだろ。みゅーは優しいから灰かぶり姫になれるよ」

「でも、ホントはおなか空いたから戻ってきただけだもん」

 

 泣いてるせいか正直者だな。そんなこと言わなければわからないのに。

 

「そうなのか。でも、これからは一緒にいてくれるんだろ? 申し訳ないと思っていてそれで心が痛むなら、これからはみゅーと俺はずっと一緒って約束して仲直りの指切りしよう。それでこのことはおしまい。いい?」

「指……? 仲直りしたいから、そうしてくれるならなんでもするの」

「よしよし、いいこいいこ。じゃ、指切りして? ああ、小指を出して。ほら一緒に合わせて腕振って、一緒に続けて言って」

「んん……わかった」

「そうそう。じゃあさんはいっ、ゆーびきーり拳万、嘘ついたら針千本飲~~ます、指切った! ハイ、これで仲直り……ん?」

 

 指切りしたらいきなりみゅーの様子が一変した。いったい何事?

 

「みゅううぅぅっっ!! ごめんなさいっ!! もうわがまま言わないし怒られるようなことしないからそんなことしないで! 痛いの怖い、みゅー死んじゃうの!!」

「シショー、さすがにそれはドン引き。まさかこの流れでそんな歌が出て来るとはね……。こんなに恐ろしい歌をなんでそんなに楽し気に笑顔で言えるの?」

 

 えっ、ちょっと待ってこれどういう流れ? なんかとんでもない勘違いをされてない?

 

「みゅうみゅー! しかもオーラが恐ろしいほどキレイなの! キレイなオーラがこんなに怖く思えたのは初めて……。間違いなく今の全部本気で言ってるの! きっとみゅーへの怒りで染まり切って逆にオーラが澄み切っていたんだと思うの。だからまたみゅーのこと痛めつけて“みねうち”でバンッバンッてして殺す気なの!!」

「え、ウソでしょ……? みゅーちゃんマジなの、これ脅しじゃないの? え、ん……えっ?!」

「みゅううぅぅ、こんなのヤッ! なんでもするって言ったけどあんまりなの!」

「いや、何これ? なんで指切りしただけでこんなめちゃくちゃ言われるの? もしかして指切りってこっちじゃ習慣がなくて、お前ら知らないとか?」

 

 みゅーの“みねうち”バンバンが迫真だな。……何回も受けただけある。俺はもう怒ったら“みねうち”する奴という認識のようだ。心外だな。

 

 あんまりな反応が続くのでもしかしてと思って指切り知らないのか聞いてみたらブルーに怒られた。

 

「知るわけないでしょ! そんな恐ろしいもの知っててたまるもんですか! ウソついただけで針千本飲ますとか聞いたことないわよ! シショーって鬼なの? 悪魔なの? レインなの?」

「レインは悪の代名詞なのか。いやさ、指切りって俺の故郷じゃ有名なもので、子供は約束する時よくさっきみたいにするからさ」

「本当なんでしょうね?」

「オーラはウソついてない」

「……二度とあそこにはいかない。(レインという恐怖の怪物を生み出してしまったのはタマムシという恐るべき魔境だったのね。タマムシシティ……きれいな見かけとは裏腹にヘドロが蔓延し、子供でも暴走族ばりの恐喝。闇が深い)」

「子供が、指切り……(幼い頃からウソだけで指切ったりしてたら、誰でも精神破綻するの。異常な加害行動の原因は全部この指切りみたいな悪い習慣のせいに違いないの)」

「なんとなく考えてることは読めた。普段は意識しないが、たしかに指切りって文言自体は怖いな。でも、これはおまじないみたいなもので、実際にウソついてもその通りにしたりしないし、意味なんて子供だから考えたりしないから。約束ちゃんと守れよぐらいの軽いもんだよ。だからそんなに真面目に受け取らなくていい。怖いものじゃないから」

「ま、まひ状態。(そんなえげつない内容が子供の間で広まることが異常だとなぜ気づかないの? 環境が偏見を生んで目を曇らすの? そんなこと言われて約束すっぽかそうなんて考える奴なんかいるわけないでしょ?)」

「みゅーはそれでも怖い。その指切りはしたくないの。あと他の人とするのもやめた方がいいと思うの。(そんなことを思いつく頭と受け容れて何も思わない頭の両方が狂ってるの。みゅーがなんとかレインを普通にしてあげないと)」

「わかったわかった。なんでかなぁ。これけっこういいと思うけど、まさかこんなに不評だとはねぇ。継子話の灰かぶり姫はウケたのに。わからんもんだ」

「当たり前よ。ポンとこんなのが出て来る辺りシショーはホントに闇が深い。もうそんな変なのいきなり言わないでよ。冗談抜きに肝が冷えたわ」

「みゅーも、今までのが全部飛んで行った気がする」

「そこまでか……。じゃ、代わりにみゅー、おいで」

「みゅ? みゅー?!」

 

 いつものようにギューッと抱き寄せ、そのまま丁度いい高さなので、おでこにキスをして席に戻した。顔を真っ赤にして下を向いてしまったが、嬉しかったのはよくわかる。

 

「いいなー、シショーにキスしてもらえるならわたしも家出しよっかなー」

 

 指切りのドン引きムードを一新するためか、ブルーが冗談を言ってきたのでありがたく乗っからせてもらうことにした。

 

「ブルーだったら家出してもすぐにしょっぴいて説教してやれるけどな。ブルーは王子様にキスされてーとかいう話が好きなのか? だったら今日はキスで魔法が解けるって話をしようか?」

「え、何それすごい! それにして! しかも今日はわたしが主役……いいわね」

「みゅっ、レインこれおかわり!」

 

 気づいたらごはん食べ終わってたのか。さっきまで怖がっていたかと思えば、恥ずかしがって。かと思えばいつのまにかよく食べる。やっぱりみゅーはまだまだ花より団子なのかな。食べ終わった後、ブルーも交えてみゅーとバトルのことを話し合った。

 

「ねぇ、ホントにどうにかならないの? シショーならなんとかしてよ。いっつもなんとかしてきたじゃない」

「お願い! みゅーはレインと一緒にいたい……」

「と、言われてもなぁ。強過ぎて逆に使いづらいし、技も多くて番号不可で扱いづらいし、そもそも幻のポケモンだから姿を見せられないし……。色々と難しい。まさかスペックの高さに悩まされる日が来るとは」

 

 現実って色んなしがらみがあって難しいな。なんにも気にしないでバトルしたいなぁ。

 

「じゃあさ、高過ぎて困るなら能力を低くしたらどう? 育て方とか、あと技で弱くするとかどうかしら」

「それじゃ本末転倒なの。強い相手と戦いたいとは思うけど、みゅーは自分が弱くなりたいわけじゃないの」

「そういうわけじゃないのよ。つまり、なんか、こう、弱くなるけど、ミュウとしての特徴を生かす、みたいな」

「みゅー? みゅーの特徴? どんなの?」

「さ、さぁ。みゅーちゃんは幻のポケモンなんだからわたしはわかんないわよ。シショーわかる?」

 

 わからんのに言ったのか。行き当たりばったりだな。俺は当然わかっている。

 

「……ミュウと言えば最大の特徴は全ての技を扱えること。教えられる技は全部覚えられたはず。技に“ものまね”があるし、それを活用して練習させれば大体の技はすぐ使えるようになるだろう」

「え、みゅーちゃんって凄過ぎない?」

「みゅふふ、やっぱりみゅーは天才」

「でも、さすがに姿を隠したまま全力で、技のレパートリーを生かして戦うなんて無理よねー。そんな都合のいいことできるわけ……あ、ごめん」

「みゅうぅ……やっぱりみゅーは要らない子なの」

 

 みゅふふと笑っていたみゅーは一転してしょんぼりしてしまった。だけどブルーの言葉が絶妙なヒントになり、最高の方法が“でんこうせっか”のように閃いた。ブルーは偶然とはいえ見事なアシストだ。やっぱりこいつは何か持っている。

 

「いや、待て。これはもしかしたらもしかするかもしれない」

「え?」

「ひとつだけ、いい方法を思いついた。ミュウが全部の技を覚えることを思い出して、あれも使えるのに気付いた。こんなに間近でいつも見ているのに、なんで今まで思いつかなかったのか不思議だ。これはとてつもないことができるかも」

「え、えっ?! ホントなの!? みゅーはやっぱりレインのエース?!」

「かもな。ま、明日のお楽しみだ。今日はもう寝るだろ?」

「その顔は自信たっぷりみたいね。さっすが! サラッと幻のポケモンの特徴とか知ってるし、やっぱりシショーはポケモンのことに関しては頼りになるわね」

「みゅー。これで安心して寝られるの。あ、今日はどんな話?」

「今日は白雪姫だな。雪のように白くて美しい王女の話」

「すっごい勝ち組じゃない。ラッキー!」

 

 ◆

 

 一夜明けて……俺はさっそくみゅーの再育成に取り掛かることにした。

 

「もう、まだ寝ていたかったのに。もうちょっとでキ……ごほん! あーあ、どうせ眠りから覚めるなら白馬の王子様からの魔法のキスで起こされたかったなー」

「はいはい。メルヘン少女は夢ばかり見てると生き遅れるぞー」

「余計なお世話じゃい! ロマンのかけらもないわね! 昨日の話を考えた人の言葉とは思えないわ!」

 

 まぁ考えたのは別の人だからな。

 

「ねぇ、それでみゅーは何するの? みゅー何でもするから。あ、針千本とかはダメ!」

「そんなこと言わないって。念押しまでしなくても。言っても信用されてないだろうけどな。今日はまずきのみを食べてもらう。実はこれには能力を下げる効果がある。世間じゃただ美味いだけのきのみってなってるが、こっちの効果が真骨頂なんだよな」

「え、そんな危なそうなものみゅーに食べさせるの? みゅぅぅ、大丈夫?」

「いや、これはなんというか……とにかく強くなるためには必要なことなんだ。今までは特攻を高くしたが、今度はそこを抑えて、代わりに体力を伸ばしたいんだ」

「ふーん。不思議とウソは感じないの。強くなるために弱くなるなんて、レインは変なこと言うのね。でもわかった。じゃあ信じるの」

「こういうときオーラがわかるのは便利だな」

「んみゅ。んんっ! うんまーいのっ!」

 

 あえて言わなかったがこのきのみにはもうひとつ効果がある。おいしいからなんだろうが懐く効果もある。イナズマの時と同じ作戦だ。さらに続けてマックスアップを与えて努力値振り完了。やっていることだけ取り上げると危ないきのみで餌付けしたあと薬漬けにして肉体改造しているということに。これに加えてタマゴを量産して生まれたての赤子を大量に野に放ち始めたらいよいよロケット団も真っ青の極悪非道っぷりになる。

 

「これでどうするの?」

「これからみゅーにはへんしんを極めてもらう。灰かぶり姫の魔法のようにな」

「へんしん?」

「そう。へんしんはメタモンとミュウとドーブルにしか使えない。そしてミュウはこの中で体力と素早さがダントツ。ついでに全ての技が使えるからへんしんしても相手の技を使いこなせる。間違いなくミュウは最もへんしんを上手く使えるポケモンだ。さらに、俺は世界で1番へんしんを上手く使えるトレーナーだ。最強のコンビだろ?」

「レインも? なんでなの?」

「へんしんは相手と全く同じ能力になる。だから相手の能力を知らなければその力を引き出せない。能力が同じだから、普通はへんしんされた方が練度の差で勝つ。だからへんしんは弱い。ところが、俺なら一目で能力も技も全て見抜いて相手より上手く能力を活かして戦える。相手が世界最強のポケモンでも能力をコピーすれば必ず勝てる。これならみゅーは誰にも倒せない」

「すごいの! みゅーの力でへんしんして素敵な姿に……」

 

 よし、灰かぶり姫を例えに出したのは正解だな。あれを話しておいて良かった。

 

「しかも、これなら相手が弱くても能力が同じだから全力で戦える。純粋にバトルの腕を磨くにも、みゅーがバトルを楽しむのにもうってつけ。ずっと全力でバトルしたかったんだろ? さらにこれにはもうひとつ狙いがある。どうせ最初はへんしんしか使わないから、あらかじめお前にはボールにいる時はメタモンになっていてもらう」

「みゅ? それって、みゅーの能力でってこと?」

「そうだ。今人間になっているように、お前はポケモンなら実物を見なくても何にでも自由にへんしんできる。しかもそのへんしんならみゅーのステータスはそのまま、外見だけしか変わらない。人間姿でもみゅーの技が使えているようにな。その能力で最初からメタモンになっておき、そこから技のへんしんを使えば絶対にバレない。気絶してもメタモンに戻るだけ。そして技のへんしんを使用するには元々体力と素早さが高いことも重要だが、今みゅーはその2つに特化して能力を伸ばしている。これならみゅーのいいところを完璧に全て生かせるし、文句もないだろ?」

「やるー! それする、なんかすごそうなの! みゅー頑張る!」

 

 それからは色んなポケモンに“へんしん”して戦い方を覚えていき、技もできるだけたくさん覚えさせてほとんどの時間を探索兼みゅーの育成の時間に使った。ブルーはできるだけ野生のポケモンをたくさん倒して一気にレベルアップをしていた。

 

 もちろん俺もレベル上げに抜かりはない。ここのポケモンは50台ばかりなので格上補正がつく。しかもくさタイプには基本全員相性がいいし、イナズマとヒリューのコンビはシンボラー狩りですさまじい効率を叩き出した。だいたいレベル50ぐらいまでスムーズに上げられた。特にイナズマなどサポートに回ることが多いポケモンを重点的に上げられたのは大きい。

 

 みゅーは技の練習に終始したのでレベルは上がっていない。アカサビもレベルは後からいくらでも上げられるので優先度は下がった。

 

「さて、それじゃそろそろ帰ろうか。まずは飛行訓練をしないとな。1週間乗りっぱなしだし。ブルー、気合入れろよ?」

「うぅ、そのヒリューちゃん速いから怖いのよ。頑張るけど、手加減してね」

「みゅー? レインなんで飛んで帰るの? みゅーがテレポートで送ってあげるのに」

「え、お前テレポートで俺らも送れるのか」

「ん、ちょっと集中しないと自分以外は送れないけど、すぐにできるの」

「やった!! お手柄ね。元々みゅーちゃんに連れてこられたんだし、当たり前といえば当たり前ね。テレポートできるのを忘れていたわ」

「そうか。よし、だったら話は早いな。ここにも長くいることになったが、後はやることもないし…」

 

 ビュン!!

 

 突然締め付けられるような感覚とともに意識が弾けて、気がつくと今や昔、懐かしの秘密の部屋に倒れていた。

 

「ここはひみつのへや! わたし達カントーに戻ってきてるわよ!」

「みゅーっ! いきなりテレポートするな! 荷物とか置いてきちゃっただろ!」

「ひうっ! だって……うみゅぅぅぅ」

 

 ぺたんと座りこんでさめざめと涙を流し、悲しみにくれた表情で見つめられて逆に俺の方が慰めに入ってしまった。

 

「もう、すぐに泣いて。いや、悪かった、謝るから! ごめんごめん、みゅーは俺達のために頑張ろうとしたんだよな、わかってるから!」

「みゅぅぅ、レイン、今みゅーのことめんどくさいって思った」

「……まぁ。いや、でもみゅーは好きだから、ね?!」

 

 みゅーにも自覚はあったのか。思わず肯定すると涙5割増し。とりあえず抱きあげてあやしてみるが、泣き止むまでに服がびしょびしょに。

 

「ふぎゅ、みゅぐっ。……ごめん」

「仕方ない。失敗は誰にでもある。落ち着いたらまた荷物を取りに戻ろうな。できる?」

「うん」

「よしよし。みゅーはホントにかわいい子だな」

「みゅへへ。レインにかわいいって言われちゃった。嬉しいの」

「……上手くかわしたわね」

 

 かわいいとか今関係ないやろ、というブルーの視線はさておき、荷物を無事回収して、ようやくカントー地方の冒険が再び始まった。

 

 ブルーは逆境でも強く生きぬく心と体を手に入れ、俺は大事な仲間がまた増えた。とうとう手持ちも6体そろい、ポケモンリーグへの旅路も佳境を迎えた。

 




指切りって怖くないですか?
割と日本の闇だと思います
幼稚園ぐらいのとき意味も知らずに言ってたのが怖いですよ

へんしんは何もかもかみ合いますね
名付けてダブルフュージョンプランA!
状況に応じてプランBに移行
Bは能力でフーディンとかにへんしんして普通に戦います
技使わないのでステータスそのまま
正直こっちの方が強そうに思えます

ダブルフュージョンプランAという名前は本編では使いません
ネタです


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7章まとめ

1.vsペンドラー

異郷の地に飛ばされたブルーは初めて見る強力な野生ポケモンからジャングルの洗礼を受ける。

絶望し死を覚悟するが、ラプラスの助けにより窮地を脱する。

ラプラスの言葉で立ち直ったブルーはジャングルを進んでいき、ひとまず拠点となる洞窟を見つけ傷ついた身体を休めるのだった。

 

2.vsドレディア

ジャングルの探索に乗り出したブルーは出だし好調のスタートを切る。

しかし強い日差しを浴び本領を発揮した森のポケモン達がブルーに牙をむいた。

必死に逃げ続け、なんとか拠点へと帰り着くものの、過酷な戦いで身も心も疲弊しきってしまうのだった。

 

3.ラプラスの気持ち

夜襲に遭い余力を残して行動することの重要性に気づくブルー。

反省を踏まえて慎重にジャングルの探索を進めると、再びドレディアを発見する。

一時は仲間にしたいと思うブルーだったが、ラプラスの気持ちを悟り今の仲間を大切にする決断を下す。

優しいブルーの行為にラプラスは心を動かされ、精一杯の気持ちを込めて甘噛みをするのだった。

 

4.vsモンスターハウス

ジャングルできのみを見つけたブルーはモンスターハウスの罠にかかってしまう。

多数相手に苦しい戦いとなるが、上手く敵を捌いて順調に数を減らしていく。

しかしわずかな心の隙が判断ミスを招き絶望的な窮地に陥ってしまう。

ラプラスは囮となりブルーを逃がそうとするが、ブルーは自分の信念に従い共に戦う覚悟を決める。

迷いが消え集中力の増したブルーの的確な判断は見事な逆転勝利を呼び込んだ。

しかし勝利を喜び合うのも束の間、恐ろしい幻のポケモンがブルー達を待ち受けていた。

 

5.vsミュウ

ミュウの脅威を前に死を覚悟するブルー。

ラプラスはブルーを守るために決死の覚悟で戦いを挑む。

しかしミュウは圧倒的な力の差を見せつけラプラスを簡単に倒してしまった。

ブルーの懇願で勝負は集結し、ミュウは戦いの意思がないことを伝え両者は和解する。

ミュウとの話し合いでその目的と真意を知り、ブルーはミステリーツリーを目的地として行動を開始する。

 

6.ミステリーツリーへ

ミステリーツリーを目指しジャングルを進むブルーはその道中みゅーとの親睦を深めた。

辿り着いたミステリーツリーは巨大な大樹だった。

みゅーの秘密の一端を知ったブルーはレインを待ちゆっくりと羽を伸ばす。

再会したレインの表情はみゅーへの怒りに満ちており、ブルーはレインの手により隔離されてしまった。

 

7.レインvsミュウ

道具と頭数の違いを活かし、何もさせずにミュウを無力化したレインは尋問を開始する。

どれだけ問い詰めてもレインの聞きたい答えは得られず、とうとうミュウを封印する判断を下してしまう。

レインの無慈悲な宣告に心を折られたミュウは抵抗する気力を失うが、寸でのところでブルーがミュウを助け出したのだった。

 

8.みゅーの処遇

話し合いの末レインは一旦みゅーは自由にさせ、しばらくギアナで生活することに決めた。

常時執拗に近づいてくるみゅーに対してレインは冷たい態度を取り続けるが、それでもみゅーは諦めずレインの傍に居続けようとするのだった。

 

9.エスパーとは

みゅーの力を問題視したレインは厳しくみゅーを糾弾し、その解決のためにエスパーについて説明を受ける。

エスパーについて理解を深め、心持ち体調がよくなったレインは晴れやかな気分のままジャングルの探索へ向かうのだった。

 

10.みゅーの異変

レイン達はジャングル巡りをして道具と経験値を集め、みゅーはその様子を遠くから眺めていた。

ツリーに戻ったレインとみゅーは互いの心の内を探り合う。

僅かなレインの心境の変化を感じ取ったみゅーは必死に自分の好意をアピールする。

しかしみゅーの思いは届かず、レインからはっきりとした拒絶の言葉を向けられる。

酷く傷ついたみゅーはその身に異常をきたし、失踪してしまうのだった。

 

11.レインの運命

失踪したみゅーを探しに出たレインはスワンナのいる湖を見つけた。

ハネ集めに勤しむレインを見たみゅーは誤ってレインに攻撃を当ててしまう。

嫌われることを恐れて焦ったみゅーは強硬手段に出るが、かえってレインの怒りを買い拒絶される。

精神の限界を迎えたみゅーはまたしても失踪してしまうのだった。

ブルーはレインに対し、みゅーについて、導きについて、果たすべき役割について語り、レインは己の運命を悟ることになる。

ブルーに感謝の意を示した後、レインは己の役割を全うするためみゅーを導く決意をするのだった。

 

12.星空の仲直り

ミュウを探して湖に来たレインは予想通りみゅーを見つける。

始めはレインを警戒しぎこちなさの残るみゅーだが、星空を一緒に見ているうちに打ち解け合い、心の距離はどんどん縮まっていく。

恐れと憎しみをなくした抱擁はレインとみゅーを繋ぎ止め、バラバラだった2つの波長はようやくぴったりと重なり合った。

レイン達はツリーに戻り、無事を喜ぶブルーとみゅーのためレインは調理に向かう。

 

13.甘い隠し味

初めて食べるレインの料理に大満足のみゅー。

レインのハンバーグには最高の隠し味がトッピングされており、みゅーは初めて感じる幸せを噛みしめた。

 

14.みゅーちゃんゲット

レインは寝食を共にするうちにみゅーのことを放ってはおけなくなり、ミュウを6番目の仲間とした。

けづくろいでなつき度をぐぐーんと上げたレインはみゅーと大事な約束を交わすのだった。

 

15.みゅーちゃん姫

なかなか寝つかないみゅーのため読み聞かせを始めるレイン。

ブームはブルーにも伝染し、毎日の日課となるのだった。

 

16.みゅーのへんしん

みゅーの戦い方に行き詰まるレインは考えのすれ違いからみゅーと仲違いしてしまう。

家出したみゅーをレインは暖かく迎え入れ、雨降って地固まり、2人は互いの気持ちをより深く理解し合えた。

思案の末レインはみゅーを活躍させる方法を思いつき、へんしん戦法の特訓に取り組む。

その後ギアナでやり残したことがなくなったレイン達はいよいよカントーへ戻ってきたのだった。

 

 

手持ちリスト

レベル 個体値 性格 努力値

 

<レイン>

グレン  Lv48 25-31-23-22-18-31 むじゃき  AS

アカサビ Lv46 31-31-25-24-23-24 いじっぱり AS

イナズマ Lv50 20-00-04-27-23-31 おくびょう CS

ユーレイ Lv45 26-24-24-31-05-31 うっかりや CS

ヒリュー Lv50 29-31-20-22-24-31 ようき   AS

みゅー  Lv50 31-31-31-31-31-31 おくびょう HS

 

<ブルー>

フーちゃん Lv49 31-10-20-27-24-21 ひかえめ  HC

ピーちゃん Lv50 23-29-24-15-14-27 ようき   AS

ソーちゃん Lv42 29-15-31-00-31-23 しんちょう BD

レーちゃん Lv45 31-12-10-31-27-15 れいせい  HC

ラーちゃん Lv50 31-24-29-30-31-27 おだやか  HD

リュちゃん Lv45 30-31-15-10-20-25 いじっぱり AS

 

※性別

レインはみゅー以外全てオス

ブルーはレアコイル以外全てメス

 




ギアナはまとめがあれば流れをさっくり理解した後みゅーちゃんがかわいいところだけじっくり見れますね
本編は12,13,14の流れだけ読むと癒される……
さいつよムーブ!

本編だけでは理解しにくそうな部分は解釈とか補足も混ぜるようにしてます
本編をいじってわかりやすくするのは諦めました
作者が文章書くの苦手なので仕方ないですね()


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ポケモンリーグ編
1.いつも見ているけど見えないものなーんだ


 ポケモン屋敷を出れば懐かしきグレン島の街並み。ようやく帰ってきたことを実感した。時間にすればひと月ほどの期間だが、向こうでの経験は充実していて長い間離れていたような気分になる。それは言葉にも表れた。

 

「帰ってきたな」

「そうね。なんだか懐かしくって新鮮な感じ。いよいよポケモンリーグへむけてラストスパートね」

「みゅー! 頑張るのっ」

 

 肌寒さを感じ季節の移ろいを実感しつつ、ひとまず宿のためにポケモンセンターへ向かうと見知った顔がある。またマサキに会った。この人はよくここにいるな。むこうも同じことを思ったようで、俺達を見て驚いていた。

 

「あれ、あんさんらまだこんなところにおったんかいな。どないしたんや、ここで会うの何回目や?」

「いや、ちょっと色々あって。マサキさんはなんでまたここに?」

「ワイはちょっとここのパソコンの預かりシステムが故障しとるっちゅうからメンテにきとるんや。こういうのも一応仕事やからな。ついでにナナシマで頼んでた仕事も終わって、ちょっとカントーの預かりシステムをバージョンアップさせとこーと思てな。今改良してんねん」

 

 メンテナンスとかやってるんだな。全然そんなイメージなかった。俺はバージョンアップに興味をそそられたが、ブルーはレッド達の方が気になったらしい。

 

「え、じゃあレッド達は……」

「おお、もうはように用事済ませてマサラタウンの方へ先にいっとるで。レッドはんはリザードン、グリーンはんはピジョットに乗って海越えてったわ。2人にもあんさんらのこと聞かれてな。もう先にいっとると思てたからハッパかけてもうたわ。あの2人やったら今頃8つ全部のバッジ集めとるやろ。ははは、すまんな」

 

 なぜとりあえず煽ろうと思うのか。コガネ人らしいというべき? 言いたくなる気持ちはわからんでもないけどさぁ。

 

「いや、別にいいの。あいつらにはそれぐらいしてもらわないと追いかけ甲斐がないもの。でも、焦りはしないわ。時間はあるし、わたし達すっごく強くなったから」

「おっ、こりゃまたおっきく出たな。もしかして今まで秘密の特訓でもしとったんか?」

「えへ、まぁそんなところね」

 

 若干苦笑いしながらブルーが答えると、マサキの目線が俺の後ろに隠れていたみゅーに移った。人見知りなのか、俺達がしゃべっている間は俺の服をつかんだままずっと陰に隠れていた。

 

「それはそうと、あんさんら気づいたらまためんこい嬢ちゃん連れとるけど、その子はどないしたんや? トレーナーさんにしては年が足りとらん気がするで」

「え、あ、それはその、つまりね……」

 

 ブルーが言い淀んでいるとみゅーは警戒心を隠そうともせずにぶっきらぼうに問い返した。

 

「みゅーはみゅーって言うの。レインの友達。あなた誰」

「なんかえろうきらわれてもうたな。ワイはマサキゆうねん。レインはんとは同じく友達でな。一応預かりシステム作ったのはワイなんやで。ポケモンマニアでもあるな。よろしゅうな」

「ふーん」

 

 自分で聞いておいて心底興味なさそうにそっぽを向いてしまった。さすがにマサキも戸惑いを隠せず、怒られそうなので俺がフォローしとくことにした。

 

「この子は人前に出てしゃべったりすることが今までほとんどなくて、見てのとおり人見知りだし多めに見てやってくれ。身内がいなくてずっと1人だったんだが、俺に懐いてしまったから一緒に旅をして色々見せてあげようと思って連れてきたんだ。みゅーっていうのは愛称で、こいつもみゅーって呼ばれるのが好きだからマサキさんもそうしてやってほしい」

「そうなんか。なんかあんさんも大変やな。ええでええで、子供はこれくらいの方がええわ。できたらあんまりワイのこときらわんといてほしいけどな。じゃ、ワイは仕事に戻るわ。レインはん、ブルーはん、リーグがんばりや、期待しとるで」

 

 何とか怒られずに済んだな。マサキが優しくて助かった。それに上手くオーラを乱さなかったのも良かった。俺はウソは言ってない。ウソを言うとすぐにみゅーはオーラが乱れたって指摘して、またそれにつっこまれたら説明が面倒だからな。

 

「みゅー、お前けっこう人見知りするんだな」

「みゅっ、だってみゅーは人間キライだもん。特にさっきみたいな研究者っぽいのとか、マニアとかはキライ。ポケモンのこと道具かなんかだと思ってるの。みゅーがついていったら本当の姿に戻るところを見るために色々されて、毎日気を休める暇もなかったの。自分の事ばっかりでみゅーのことは何にも考えてないジコチューって奴なの」

「そうか、大変だったんだな。気持ちはわからんでもない。昔色々されたことを思えばな。でも、全員が悪い奴とは限らない。少なくともマサキは良い奴だ。肩書だけで判断してやるな」

「みゅー……レインがそう言うなら、わかったの」

 

 素直でよろしい。みゅーの頭を撫でてあげてから受付にむかった。そういえばそれなりに一緒にいるが、みゅーは決して元の状態に戻ろうとはしない。見られたくないのだろうか。いつも一緒なのにトレーナーすら真の姿を見られないなんて、やっぱみゅーは幻なんだな。一応俺はどんな感じかは知っているが、それをみゅーが知ればどう思うのだろう。あんまりそのことは触れないようにしよう。

 

 ふとみゅーの方を見ると、周りの視線を避けるようにして俺の後ろに隠れていた。だが外を歩くのがキライなわけではないようで、キョロキョロと辺りを見渡していた。通行人がみゅーの方を向くと服を引っ張って顔を引っ込めていたし、今もそうしているが。

 

 やっと受付に着いて、手続きを行った。

 

「はい、宿泊ですね。お部屋はどうしましょう。別々でシングル3つですか? あ、その子はトレーナーではないようですね」

「みゅー、レイン……」

 

 ものすごく心配そうな顔をしている。ずっと服を引っ張っておどおどしていて、ギアナにいた頃とはうってかわって内気だな。甘えていいといったし咎めはしないが。

 

「この子は身寄りがなくて俺達と旅をしているんです。一緒に泊まることはできませんか?」

「子供ならお連れも大丈夫ですよ。部屋はまとめるかバラバラかどっちにしましょうか」

「2つにしてください。俺とこの子は一緒で」

「わかりました」

 

 地味にみゅーが泊まれるか懸念していたが余裕だったな。まあダメでもメタモンになってもらえば入るのには問題はなかったんだが寝る場所がなくなるからな。俺と一緒と言ったらみゅーはものすごく嬉しそうな表情に変わった。さすがに知らないところで1人じゃ心細いだろうし、すぐにテレポートで俺のところに来てしまうだろうからな。

 

「あーあ、今日のお話はナシか。みゅーちゃんだけずるいなー。これだったらわたし野宿の方がいいかも」

「野宿は俺がイヤだ。そんなことより、今からジム戦に行こう。何気にゴタゴタ続きでここのジムに挑戦してないからな。ずっと前のことだがもうジムの扉のカギは手に入れているわけだし」

「あ、そういえば忘れてたわ。じゃ、成長したわたし達の肩慣らしには丁度いいわね。パパッと勝って、今日は温泉に行きましょう。観光地にもなってるのよ、ここって」

「そりゃいい。みゅーも一緒につれてってあげような。みゅーはバトルはどうする? まだへんしんは練習中だし、その恰好のまま見学でもいいと思うけど」

「みゅーバトルしたい。ダメ?」

「ホントにバトルが好きだな。じゃあどこかで使ってやるよ。ただし、メタモンの時は必ずへんしんしか使うなよ。ひんしになってもだ。これを守れなきゃ試合には出せない」

「んみゅ、それはわかってるの。安心して。みゅーも幻の端くれ、ヘマはしないの」

「それもそうだな。よし、じゃあさっそく行こうか」

 

 ジムに入って受付に行くと、なぜか今はジムが使えないらしく、そのまま別の場所に案内された。受付の人になんでカギ取ってきたのに場所を移すのか尋ねると、カツラさんの考えることですから、と答えられた。それで納得する? トレーナーの考えることって謎が多いなぁ。

 

 くだらんことを考えながら連れてこられたのは火山の火口にあるリング。すさまじく暑いな。いや、これはもう熱いというべきか。ポケモンなら耐えられるかもしれないが、俺達人間、トレーナーには少々きつい。

 

 そういえば、ここって将来的に噴火したはずだしこの施設はかなり危なくないか。やめさせた方がいいのかな。

 

「うおおーす、よく来たチャレンジャー。わしがジムリーダーのカツラだ。2人は共にランク7か。せっかくここまで来てもらってすまないが、今日は1人しか相手はできないな」

「だったら、俺がランク8でいい。たしかこういう特例は、ランク8でもいいんだろ?」

 

 連戦で7の空きがなければ仕方なく認めることはセキチクでわかっている。

 

「ほう、これはずいぶんと活きのいいトレーナーだ。最初は元気、最後しょんぼりとならなければいいが」

「ちょっと、シショーずるいわよ。わたしもランク8がいいのに。ジャンケンで決めましょ」

「最初はランク上げるのも嫌がってたのに、すっかり俺と同じで経験値稼ぎにとりつかれたな。仕方ない。ジャンケン勝負受けてやる。あらかじめ宣言しておこう。最初に俺はグーを出す」

「オッケー……じゃ、わたしはパーにしよっと。ウソついたら怒るわよ」

 

 読める読める。ブルーの考えなんぞお見通し。

 

 ここ最近の傾向で言えば、ブルーは意外と裏をかくようになった。なんだかんだと考えるだろうが、結局最後には俺がグーを出すことだけはないと思うだろう。予告してその通りになって俺が負けるなんてありえないからだ。それではいくら何でも単純過ぎる。俺がそんな簡単に負けることはないとブルーはわかっている。

 

 なら、チョキかパーのどちらかと読んでくるはずだ。つまりブルーが出すのはグーかチョキ。そうなれば必然的にブルーの頭にないグーさえ出しておけば負けることはない。悪くてもあいこ。これが最初に宣言した狙い。

 

 しかも、ブルーはチョキを出す可能性の方が高い。チョキならグー以外からは確実にあいこ以上に持ち込める。1番安全に勝ちを拾える。誰しも勝負事は安全に勝ちたいと思うもの。そこを狙い撃ちしてやる。

 

「もういいか?」

「ええ。いくわよ……」

「「最初はグー! じゃんけんぽんっ!」」

 

 俺は当然グー、ブルーは……パー!?

 

「よっし、わたしの勝ちー!」

「はぁ!? いやなんでっ……こんなんおかしいやろっ! いやいやいやっ! 俺が、この俺がブルーごときに読まれたっていうのか?!」

「えへへ、わたしもエスパーね」

「……ウソなの。ブルーはみゅーがウソを感じてないのに気づいたのね」

「あっ……。くぅぅ! しまった! お前がいたのか……忘れてた。策士策に溺れる、か」

 

 馬鹿にしたように口に手をあてて高笑いするブルー。オーホッホッホとか実際に言う奴漫画だけだろ。まあここもそれに近いけどさ。あーあ、仕方ない。お手並み拝見といくか。仮にもブルーにとっては初めてのランク8。これにどう対応するか見させてもらおう。

 

 まさかこんな初歩的なミスをするとはなぁ。ショック……。うっかり選出で弱点被りまくってサンタテくらうぐらいダサい。エアスラで6連怯みぐらいありえない。……そう言われるとありそう。

 

「シショーもまだまだね。じゃあカツラさん、最初はわたし、ランク8ね」

「それは構わんが、積極的にランクを上げたいなんてお前さんら変わっとるな。しかも今日はグレンジム名物の特別リングだというのに。……知らないと言えるけど、知っていると言えなくなるものなーんだ?」

「え? なにそれ。なぞなぞ? そんなの聞いたことないわ」

「……カツラか」

「いかにも! 燃える炎の男、カツラとはわしのことだ! このリングを出したからには、そう簡単にはバッジは渡さん。リング、オープン!」

「え、いかにもって自分で言わせたんじゃない。って、あわわ、すごいのが出てきた。これがリング?! めっちゃ凝ってるわね。どこのジムもこういう仕掛け作るのが趣味なの?」

 

 なんだなんだ? いきなりでかいリングが岩の中から出てきたな。こんなところでこの島の科学力の高さを使うのか。これもセキチクのカラクリ屋敷みたいに意味があるのか? ほのおのフィールド? ……なんかありそう。

 

「ここはグレン名物、灼熱のバトルフィールド。水系氷系は弱くなり、炎は勢いを増す。このリングを知ってしまえば、次からはランクを上げたいなどと二度と言えなくなるだろう。さぁチャレンジャー、やけどなおしの用意はいいかー?!」

 

 でたな、名言。もっとも、試合中には使用は認められないがな。バトルの後のケアでってことだろう。俺はチーゴのみがあるから一応大丈夫だろうが、実際にはやけどになるようなおにびみたいな技は使ってこないんだよな。やけどした記憶が全くない。

 

「準備オッケーよ」

「使用ポケモンは4体、チャレンジャーのみ交換可能。場所を移した都合で審判はいないため、臨時でジャッジはわし自らする。ではいくぞ、まずはキュウコン!」

「こっちはピーちゃん!」

 

 キュウコン Lv44 133-85-70-70-105-106  

 ピジョット Lv50 155-131-92-73-82-155 

 

 技 つばめがえし

   おんがえし 

   とんぼがえり 

   でんこうせっか 

   エアスラッシュ 

   まもる 

   そらをとぶ 

   フェザーダンス 

   こうそくいどう

 

 いきなり最もレベルが高いピジョットか。ジャングルでむしタイプを倒しまくって1番強化されたからな。技も最低限はそろったし、もうエース格だな。

 

「よく育てられている。だがそれだけで簡単には勝たせはしない。バトルは戦略が重要だ。まずはにほんばれ!」

「つばめがえしよ!」

 

 “にほんばれ”をしているキュウコンにクリーンヒットするが、さすがに一撃とはいかず、半分ほど体力を残した。

 

「よし、よく耐えた。必殺のだいもんじ!」

 

 これはヤバい! “だいもんじ”のダメージはだいたい90になるはず。ピジョットが先制できるとはいえ相手は遠距離でこっちは近距離。しかも“つばめがえし”のダメージが半分弱程度のようだから“でんこうせっか”があるとはいえ、その乱数次第では打ち合いに負ける。大丈夫か?

 

「ジョッ?!」

「うそっ、一撃?!」

 

 えっ!? まさかの一撃? 計算は間違ってないはず……そうか、フィールドか。炎は勢いを増すってのは本当だったのか。1.5ではきかないから、約2倍と見るべきか。かなりのもんだな。ハナダのプールフィールドよりもさらにとんでもないインチキだ。

 

「うおおーす。言ったはずだ、このフィールドは灼熱。わしの攻撃はひざしの効果もあり、もはや一撃必殺。あまごいを覚えたポケモンでもいなければ突破は難しいということだ」

「フィールドの効果……そんなものもあるのね。でも、そういうことならこっちも考えがある。出てきて、ハクリュー!」

 

 ハクリュー Lv45 123-134-70-64-77-107

 

「ドラゴンポケモンか。たしかにほのおタイプはこうかがいまひとつ。だが構わん。炎技で焼いて焼いて焼き尽くせ! だいもんじ!」

 

 ダメージは一致ひざしフィールドで4.5倍になるから540。下手な不一致抜群じゃ、ほのお半減でも“だいもんじ”の火力の方が上になる。

 

「かわしてあまごいよ!」

 

 いっきに天候は雨に。これで炎は合わせて三分の一になる。そういえばハクリューは……

 

「みゅー。天候玉なの」

「だな。ブルーが俄然有利になったな」

「ハクリューの天候を操る力か。ならもう一度にほんばれ!」

 

 カツラの発言内容からして天候玉って有名なのか。そんなイメージ俺はなかったが。

 

「でんじは、あまごい」

「落ち着いているな。確実に有利な展開に持ち込んでいる」

 

 天候の奪い合いになればダメージのないままターンを重ね、しびれる間だけアドバンテージを得る。その通りの展開になった。

 

「く、しびれたか」

「りゅうのまい、ドラゴンダイブ!」

「タダではやられん! にほんばれ!」

 

 天候の取り合いになるがしびれた分ブルーがターンを取り、キュウコンを倒した。しかしやられ際にキュウコンも“にほんばれ”を使った。さすがに積んでから攻撃した分やや遅れたか。欲張ったな。だけど舞ったハクリューはホントに強い。天候か“りゅうまい”か、これがどう転ぶかだな。

 

「戦闘不能だ。次のポケモンを出そう。いでよ、ウインディ! いかく、だいもんじ」

 

 ウインディ Lv44 140-100-85-90-82-102

 

「こっちの方が速いはず。避けてあまごいよ!」

「させん、しんそく!」

 

 “あまごい”をしようとしたところに“しんそく”が決まってハクリューは吹っ飛んだ。なんとか起き上がり“あまごい”をするが、無防備なままウインディの攻撃を受けた形だ。ブルーは“いかく”で攻撃を下げられたので一撃で仕留めきれないと判断したのだろう。危険な晴れ状態を先に変えようとしたが、そのスキをうまくつかれたな。

 

「げきりん!」

「な、ドラゴンタイプの技?!」

 

 効果は抜群、当然ダウン。天候は有利になったが「りゅうまいハクリュー」を失った。どう立て直すのか。炎一辺倒と見せかけて、端から“にほんばれ”を囮に“げきりん”を決めるのが狙いか。“いかく”で“りゅうまい”をケアしたところといい、意外としたたかだな。

 

 しかも倒して間を置いたことで“げきりん”の効力が切れている。なんでだ? 怒りが収まったとかそんな理由か? 

 

「まだまだトレーナーの判断が甘い。もっと先を読まなければバトルを制することはできんぞ。上は冷え冷え、下は熱々なーんだ?」

「……露天風呂」

「ピンポンピンポン。大正解。体は熱くなっても、頭は冷静でなければ足元をすくわれるぞ、お嬢ちゃん」

 

 ブルーは正解したのに悔しそうだが、カツラの言うことは尤もだ。本当にトレーナーにとってのいい壁って感じ。なぞなぞばっかりで変わっているところはあるが、いいジムリーダーなのは間違いないな。

 

「くっ。ラーちゃん、お願い!」

「ラァァ!」

 

 ラプラス Lv50 236-91-95-105-161-78 

 

 さすが535族。耐久特化だとさすがに硬さが尋常じゃないな。欠点は火力不足。相手に好き放題積まれたりすると厳しいが、ブルーは補助技を混ぜて器用にカバーしている。それにキレたときのラプラスは明らかに乱数が2.0ぐらいに上がってるから侮れない。

 

「みずタイプか。果たしてこのフィールドに耐えられるかな?」

 

 うわぁ、獲物を見つけた猛禽類の目だ。多分みずタイプはキライなんだろうな。このフィールドで倒すことを楽しんでいるに違いない。ブルー、これはしんどいぞ。

 

「にほんばれ!」

「あやしいひかり」

「だいもんじ!」

 

 しかしわけもわからず自分を攻撃。その隙にブルーは“あまごい”を使った。ラプラスも使えるのか。カツラは天候を諦め、そのまま“だいもんじ”を使うが40弱しか効いていない。さらにラプラスは“ハイドロポンプ”を使った。ダメージは……フィールドで仮に半減としても……

 

「ウインディ、戦闘不能」

 

 ギリギリだが倒し切ったな。このラプラス本当に強い。ブルーの手持ちで最も厄介だ。

 

「よっし! さすがラーちゃん、ほのおタイプには滅法強いわね」

「恐ろしく鍛えられているな。これは骨が折れそうだ。ギャロップ! いけぃ!」

 

 ギャロップ Lv48 135-115-84-92-97-123

 

「きたわね。いつものいくわよ!(あやしいひかりで動きを止めてほろびのうたで終わらせるわ。頼むわよ)」

「ラー(わかりました)」

 

 “あやしいひかり”のあと“ほろびのうた”を使った。えげつないな。ブルーはかなり習練してほろびの発動タイミングをつかんだらしい。3ターンよりは長いが常に一定というわけでもなく、タイミングを計るのは難しい。最初はよく粘り過ぎて失敗していたが最近はなんとなくわかるようになってきたらしい。

 

「ここね、交代よ! ソーちゃんお願い!」

「にほんばれ! だいもんじ!」

「いただきっ! アンコール!」

 

 “にほんばれ”を捉えて“アンコール”を使い、うまく補助技を縛った。

 

 素早さは遅いが、基本的に優先度が同じなら、技の出の速さは圧倒的に補助技の方が攻撃技より早い。そのおかげでアンコールはこういう補助技→攻撃技の流れで補助技を縛って攻撃技を止める動きがしやすい。さっきブルーがした「りゅうまいダイブ」もこの流れにあてはまるし頻度は少なくない。

 

 ソーナンスの戦術としてアンコールの使い方を教えてやったのは自分だが、まさか“ほろびのうた”と合わせて使うとは思わなかった。ゲームなら3ターンで発動するからアンコールはいらないので俺では考えもしなかった。ブルー……恐ろしい奴。

 

「うわぁ。ブルーさん容赦ないなぁ。こわいこわい」

「みゅ。レインみたいになってきてるの。弟子はシショーに似るってホントなのね。ま、えげつなさで言えばレインの方がぶっちぎりだけど」

「ちょっと、そこっ! 聞こえてるわよ! さすがにシショーと同類扱いはへこむからやめてちょーだい。甚だ心外よ」

 

 ブルーは本気で言っている疑惑があるから普通に俺の方がショックなんだが。みゅーって本当に罪な存在だな! こっちは冗談半分で言っただけなのに!

 

「むむむ! アンコール……珍しい技だな。同じ技を出させるだけの効果、まさかこんな使い方をするとは。ただのトレーナーじゃないな」

 

 カツラは苦悶の表情。ブルーはこっちを見て渾身のどや顔。何もさせずに完封した上、育てにくいソーナンスのレベルも上がった。ここで見事に明暗が別れたな。今のがレベル48で、おそらくエース。ブルーもそれをわかって“ほろびのうた”を使ったんだろう。最後は何が出てくるか。

 

「これが最後の1匹だな。さて、ここでまたまたなぞなぞだ。この世で最も熱い炎、マグマの中のマグマ。その中で動き出す熱い炎、なーんだ?」

「またぁ? んー、そんなのわかんないわよ、なんのこと?」

「時間切れ……いでよ、ブーバー!」

 

 ブーバー Lv50 148-124-82-150-104-111

 

「げっ!? まだこんなのいたの!?」

「エースはブーバーだ。こいつは強いぞ。わしの主力と比べても遜色ない」

 

 何気にCがVだ。努力値もCに集中している。けっこうヤバイのが来た。だが1番驚いたのはこいつより強いのが主力だと言ったこと。レベルいくつだ?

 

「こ、交代よ。ラーちゃん! いくわよ、ほろびのうた!」

「やはりそうきたか。ブーバー、まもる」

 

 あちゃー。ブルーの奴焦ったな。“ほろびのうた”は1回見れば対策のしようはいくらでもある。これで不利になったな。

 

「やられた……交代よ! 耐えてソーちゃん」

「特大のだいもんじを見せてやれ!」

 

 ダメージは約300、耐えるべくもない。

 

「なんて威力なの! でも諦めはしない。ラーちゃん!」

(任せてください。お師匠様の前で無様なところは見せません。私を信じてください)

「さぁ、覚悟はいいか?」

「いつでもいいわよ」

「ならば遠慮はしない。だいもんじ!」

(まもるからあやしいひかりよ)

 

 ブルー、テレパシーを使ったな。指示なしでラプラスが技を使っている。あんまり人前で使うのは感心しないが、この状況では仕方ないか。相当追い詰められているからな。

 

「まもってもムダだ。ブーバーはだいもんじを連射できる」

「うそぉ?! 踏ん張って!」

「ラァァァァァ!!」

 

 受けきった!? なんちゅう耐久力だ。威力540は“だいばくはつ”2発分を超えているんだが。

 

「あやしいひかりか。ブーバー、正気を保て!」

「あまごい!」

 

 ブーバーがわけもわからず自分を攻撃しているうちに天候を変えた。これで水の半減は消える。一致雨相性フィールド全て込みで威力は270になる。

 

「ハイドロポンプ!」

「ブバーァァ!?」

「こらえろ! だいもんじ!」

 

 しかし混乱中でコントロールを乱したのか、ラプラスは紙一重でこれを躱した。

 

「よっしゃあぁぁ! みずのはどう!」

 

 こっちも技を外したら元も子もないから確実に当てにきたな。“なみのり”は水辺でしか使えない。技の選択もきっちりしてきた。隙が無い。

 

「ブーバァー……」

(やりました! 勝ちましたよブルー!)

「ありがとラーちゃん、よくがんばったわ! だいすき!」

「戦闘不能、だな。わしの負けだ。君には脱帽だ」

「やった!……あっ、はい」

 

 接戦を制しラプラスと抱き合って喜ぶが、カツラが文字通り帽子を取ったのを見てブルーは真顔に戻って黙ったな。なぜとは言わないが。……くっ、こんなベタなボケで笑ってしまった。特にブルーの呆けた顔が不意打ち過ぎる。けっこうお茶目なジムリーダーだな。

 




カツラってどんなしゃべりなんやろと思ってアニメ見返した記憶があります
ゲームではセリフが少な過ぎるので
なぞなぞは全部そこで言っていたものです
ジムのなぞなぞは一応カギの時にやってますしいいですよね

タイトルもなぞなぞ
これも一般的な答えに加えてもうひとつあります
難しい問題出すのね(みゅーちゃん並感)


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2.へんしんの落とし穴

 ブルーがバッジを受け取り、次は俺の番だ。みゅーをボールにしまったりバトルの準備をお互いにしてリングへ上がった。みゅーのボールがカタカタと動いた。張り切っているのが伝わる。みゅー……メタモンをどこで使うかはもうだいたい決めてある。そっとボールを撫でてあげた。

 

「さぁ、今度は君の番だ。ランク7。さっきと同じルールだ。いいな?」

「もちろん。さて、いくぜグレン」

「いけい、ウインディ!」

 

 ウインディ Lv39 134-130-75-120-70-118

 グレン   Lv48 156-155-92-111-81-155

 

 技 1かえんほうしゃ 

   2フレアドライブ 

   3しんそく 

   4かみなりのキバ 

   5まもる

   6みがわり 

   7オーバーヒート 

   8こうそくいどう 

   9かえんぐるま 

  10おにび

 

 あらら、いきなりミラーマッチか。ありえる展開だとは思っていたがこれはこれで悪くない。へんしんバトルの前哨戦には持ってこい。いかく込みだと相手が特殊寄りな分こっちが若干不利だが、素早さと耐久でこちらが相手を凌いでいる。これを生かさない手はない。

 

「わし相手にほのおポケモンを選ぶとはいい度胸だ。しかも同じウインディとはな。ほのおポケモンの戦い方というものを見せてやろう。だいもんじ!」

「右、1」

 

 同じウインディでも素早さがまるで違う。ましてや“だいもんじ”は命中不安定。軽く右に避けた後“かえんほうしゃ”を繰り出した。こっちの技はきっちり当てて7割程持っていった。フィールドの補正が凄過ぎる。一発でもう圏内に入った。

 

「オーバーヒート!」

「させない。3」

 

 いきなり切り札を使ってきたな。見切りが早い。“だいもんじ”では当てるのが厳しいし、“オーバーヒート”は出も早く威力も十分。だがそれでも使うのは一手遅かった。“しんそく”で一瞬のうちに距離を詰めて技を出す前に倒した。

 

「速い……! 恐るべき速さ。攻撃力も素晴らしい。レベル以上に鍛えられている……こんなに強いウインディは初めて見た。まさにウインディの理想形。畳みかけるような連撃、圧倒的な攻撃力。わしの方が感心してしまうとは」

「こいつは俺の1番の相棒だからこれぐらいはできて当然……と言いたいところだが、ほのおポケモンのエキスパートの言葉だ。ありがたく頂戴しておく」

「自信満々だな。威勢のいい若者を見るとわしも燃えるというもんだ。さて、勝負を続けるか。いくら素晴らしかろうと、そのウインディだけに負けるわけにはいかん。ゆけい、キュウコン」

 

 キュウコン Lv40 120-78-75-97-100-101

 

 能力はともかく、特性がもらいび。やはりランク7にもいるな、炎対策の炎が。迷わず引っ込めた。

 

「戻れ!」

「え、せっかくグレンちゃんの見せ場なのに交代!?」

「ほう、迷わずすぐに交代か。1番の相棒じゃなかったのか?」

「キュウコンはもらいび。分が悪い。そっちもそれが狙いだろ。遠慮なく交代させてもらう」

 

 交代自由なのだからこれは当然。ベテランになるとやたら交代で揺さぶりかけてくる奴多いな。

 

「特性までわかっていたか。では次は何で来る?」

「もらいびにはもらいびってね。さぁ、出番だぞ! いけ、メタモン!!」

「モンモンッ!」

「そうきたか。もらいびを逆に利用しようというわけだな。ならば簡単にはへんしんさせん。あくのはどう!」

「ジャンプしてへんしん!」

 

 慌ててすぐに“へんしん”すれば初撃は避けられない。今は距離があるので落ち着いて躱してから“へんしん”した。

 

「あくのはどう!」

「サイコショック! 本体へ」

 

 同じ技を相打ちにするだけでは勝負はつかないから本体狙いは仕方ない。技を変えたことにも意味がある。

 

 “あくのはどう”と“サイコショック”の威力は同じ。だが“サイコショック”は面白い効果があり、本来特殊技だがダメージは相手の防御により決まる。つまり自分の特攻と相手の防御を参照するイレギュラーな技。なのでキュウコンのような特防よりも防御が低いポケモンには効果的だ。

 

 とはいえ、大きな差にはならず互いに決め手に欠ける。相手はフルアタのようで、しかも大半が炎技なのでなんともしようがない。結局互いにジリジリと体力を消耗し、相手が120、こっちが96くらって蹴りがついた。みゅーは残り111だ。

 

「なんてタフなメタモンだ。まさかメタモンに持久戦で負けるとは……信じがたいな」

「これでこっちはもらいびが残る。あんたの負けじゃないか?」

「ハハハ! 確かにもらいびは強力だ。だが、わしとてもらいびは1体だけではないし、手はいくらでもある。いでよ、ブースター!」

 

 ブースター Lv40

 

 技 でんこうせっか 

   あまえる 

   あなをほる 

   シャドーボール 

   こらえる 

   じたばた 

   ばかぢから

 

 まずは先に技、特に炎以外の技を確認した。能力が高くても有効打がなければ完封できるからだ。だがけっこう面倒な技があるな。覚えている技自体がかなりのものだ。全部は見切れない程に多い。

 

「ブースター……そんなポケモンまで使うのか。やむを得ない。メタモン、ここは交代……」

(待って! お願いだから、みゅーに任せて!)

 

 テレパシーが届いて驚いてみゅーを見ると、俺を振り返ってひと鳴き、懇願するように合図した。

 

「コーーーン!」

「……よし、この勝負、お前に任せた。期待してるからな。頑張ってくれ」

(やった! みゅー頑張るから! 任せて!)

「続投か、面白い。ブースター、シャドーボール」

「どこを狙っている?」

 

 “シャドーボール”はみゅーの手前に当たり、リングで砂煙を巻き上げた。何が狙いだ?

 

「コン!?」

「いない……なるほど。メタモン落ち着け、敵は地中にいる。慌てて敵を探そうとはするな。俺からの指示だけに集中しろ。俺なら絶対に見逃したりはしない」

 

 サーチを使いすぐに場所を突き止めた。アナライズを同時には使えないので、この間に能力を見ることはできないが技さえわかっていれば十分だ。

 

「すぐにあなをほるを使ったことに気づいたか。だが、簡単に地中のブースターを捉えられるかな?」

「……今だ! 右へ避けてサイコショック」

 

 ステータスは確認してないが見るまでもない。ブースターの種族値は特防が2番目の110に対し防御は半分程だったはず。これが1番効くのは明白。

 

「体勢を立て直せ、ばかぢから!」

「離れろ、接近戦に付き合う必要はない」

「ならばかまわん。ブースター、突っ込め!」

「あくのはどうで迎え撃て」

「ブースター、よけきれん、あなをほる」

 

 下に潜って躱したか。だが同じこと。また返り討ちにしてやる。

 

「出ろ!」

「正面だ、サイコショック」

「コーン!」

 

 これで2発目、さすがに耐えられないはず……そのはずだった。しかしブースターはこれを耐えて見せた。“こらえる”を使ったのか? そんな指示はなかったはずだが……。

 

「よし、ブースターいいぞ! あれを使え!」

「メタモン、でんこうせっかだ!」

 

 しかしメタモンは倒しきったと思い油断していたのだろう。目の前で起き上がったブースターに気を取られて技を出すのが遅れた。俺も驚きはしたがもうこの程度で動じたりはしない。勝負中は素早い切り替えが必要。みゅーは接戦の経験不足が祟ったか。その隙にブースターは“じたばた”を使い、相手の攻撃力が高くこちらの防御が低いこともあり一撃で倒されてしまった。威力240だし当然だな。

 

「モンー……」

「メタモン戦闘不能だ」

 

 戦闘不能を告げられ、みゅーをボールに戻した。チッ、完全にやられた。“あなをほる”で正面に出たのは俺の裏をかいたのだと思ったが、端からこっちの反撃を避けられないと見切りをつけてこのコンボを確実に決めに来たのかもしれない。

 

 つまりあれはわざと攻撃を受けに来ていたんだ。……俺にはそう見えた。“こらえる”は技の動作がほぼないから一瞬相手の意表も突ける。考える程悪くない戦法に思える。

 

 その辺りの判断力はさすがだ。それにポケモンがそれを理解していたのがすごい。どうやって伝えたのかわからなかった。連携技術の高さが際立つ。フィールドにかまけて“だいもんじ”をぶっ放すだけが能じゃないらしい。

 

「メタモン、ご苦労さん。最大威力のじたばたか。わかってはいたが間に合わないか」

「まだそのメタモンとは息があっていないようだな。トレーナーが引っ張っていくだけではポケモンは強くならんぞ」

「そうだな。もう少し時間はかかる。だが、この勝負に関してはこれでいい。メタモンは十分に役目を果たした。これでもらいびは潰した。あとはグレンの独壇場だ。いくぜ!」

 

 カツラめ……自ら用意したフィールドの餌食になるがいいわっ。もらいびがいなけりゃ、グレンの炎技は受からない! 最初から俺の戦略はいかに相手の“もらいび”を倒すか、それだけだった。残りはグレンで瞬殺だ。残りといっても結局最後の一体しかいないけどな。俺のときに限って2体も“もらいび”いるんだもんなぁ。

 

 もちろん特性をコピーして残せればそれにこしたことはない。だがそれは目的とは違う。あくまで狙いはグレンの障害を排除しておくこと。

 

「だいもんじ!」

「3」

「やはりしんそくを使ってくるか。ブースター戦闘不能。これがわしの最後のポケモンだ。いでよ、ブーバー!」

 

 ブーバー Lv41 

 

 123-95-60-125-85-103

 

 やっぱり最後はそいつだったな。指数的に“オーバーヒート”でほぼ1発。終わりだ。

 

「7,3当てに行って」

「だいもんじ!」

 

 こっちも相手から攻撃を受けるがまだ余裕がある。きっちりオーバーヒートを当てて残りわずかまで追い込んだ。最後はまた“しんそく”でトドメをさして勝利した。

 

「ブーバー戦闘不能だな。よろしい、君の勝利だ。このクリムゾンバッジは君のものだ。わしにほのおポケモン勝負を挑んで勝つなんて大した奴だ。ほのおタイプ使いが増えるのはいいことだ」

「いや、別にほのおタイプ専門とかではないけど……」

 

 カツラからはとにかくグレンのことを褒められて、俺も気分が良い。ついでに温泉はポケセンにあることを聞いて、ひとまず戦ったポケモンを休ませるのも兼ねてポケセンにやって来た。

 

 ここのポケセンがムダに大きかったのはフエンタウンみたいに温泉内蔵だからなんだな。考えることは同じなんだな。

 

「お預かりしたポケモンはみんな元気になりましたよ」

「ありがとジョーイさん」

「どうも。さて、それじゃ出てこいメタモン」

「モン……んんん! みゅー!」

 

 あっという間に人間姿に早変わり。姿が変わる時は技だとグニャグニャするが能力では光って粒子が出てパッと変わるんだな。まさに瞬間芸で、周りの人は誰も気づいてないみたいだ。さすがだな、と言おうとするとみゅーは突然大泣きして謝りだした。

 

「みゅぐぅぅ、みゅううぅぅーっ!! レイン、みゅー負けちゃった……ごめんなさい。みゅーね、これでも本当に頑張ったの。今度は絶対に勝つから、だからボックスはやめて! 無能って思わないでっ……。お願い、もう負けないから! もう1回バトルさせて!」

「落ち着けみゅー。大丈夫、ボックス送りなんかしないから」

「みゅぐぅ、ぐす……ホントみたい。良かったの」

「いくらなんでも1回負けたぐらいで見限ったりしないから。心配し過ぎ」

 

 そんなことしてたら手持ちがいなくなるだろ。考えればわかりそうだが、それがわからなくなるぐらい不安なのか。今までの執着心を見ればありえ……るな。

 

「でも、みゅー期待されたのに、よりによってレインの指示を守れなくて負けちゃったの。みゅーの前に勝ってたグレンは活躍して相手から褒められてたのに。バッジも、みゅーのせいでとれなかったの」

「あぁ、ずっと気絶してたもんな。大丈夫、バッジはあの後グレンが勝って手に入れた。元々みゅーなしでもグレンとヒリューだけで勝てるレベルだったからな」

「え、そうなの? なーんだ、心配して損したの。みゅーはレインの足引っ張ったから、怒ってここでそのままボックス送りにするつもりだと思ったの。ボックス送りのためにポケセンでみゅーを呼んだんじゃないのね。レインのポケモンみんな強いから、みゅーだけ役に立てないとすぐに手持ちから外されると思ってずっと怖くて。活躍できないポケモンから見捨てられそうで」

「もしかして……試合中強行して続投しようとしたのはそれが理由? みゅーはひとりで気負い過ぎだなぁ。バトルは総力戦、自分は負けてもいいぐらいに思っとかないと。いくら俺でも誰も倒れずにパーフェクト勝ちばかりとはいかないし、必ず負ける役割のポケモンも出てしまう。今回はたまたまそれがみゅーになってしまっただけ。弱いから負けたわけじゃないことぐらい俺はわかっている」

「みゅー。だって、みゅーはレインに見捨てられたら、もういくところが……みゅぐっ」

「大丈夫、みゅーは強い。もう十分役に立ってくれてるから。そんな悲しいこと言うな」

 

 みゅーは相当負けたことがショックだったようで、俺以外には初めて負けたらしく、かなり自信を失っていたようだった。あくまで今回は“へんしん”の実戦練習だから仕方ないと言って頭をなでてあげるとようやく安心したのか、いつもの調子が少し戻ったみたいだ。

 

 そのままよく話を聞けば、やはり7体目が入った時のスタメン落ちを気にして気負って頑張り過ぎていたようだ。みゅーにとっては死活問題。安易にその話をしたのが本当に悔やまれる。その話を横で聞いていたブルーが口を開いた。

 

「ねぇシショー。わたしね、ポケモンはみんなトレーナーのことが大好きで、ずっと一緒にいたいものだと思うの。どんなポケモンにとっても、トレーナーはその子にとって世界で1番素敵な人で、ずっと自分を見ていてほしいって思っているんだと思うの。ポケモンだからしゃべれないし、普段は何も言わないけど、心の中ではきっとそう思っている。実は、ラーちゃんもわたしが7体目をジャングルで捕まえようとしたら悲しそうな表情をしていたの。だからきっとみゅーちゃんも、それにグレンちゃんやイナズマちゃん達も、ずっとシショーと一緒がいいと思っているんじゃないかな。だから7体目を捕まえるのはもう少し考えてみるのはどうかしら」

「みゅー。その通りなの。みゅーはもっと一緒がいい。こうやってぴったり手がくっついているだけでもオーラが混ざり合うようでとっても幸せ。これだけでも本当に幸せなの。だから、ずっとこうしてみゅーを大事にしてほしい。お願いなの」

 

 ブルーの言葉はみゅーの反応と合わせて俺の心を動かした。確かにそうだ。ポケモンは一生トレーナーについていって信じるしかない。そのトレーナーに見放される絶望感は想像して余りある。もっと大切にしないといけないと改めて思い直すには十分な言葉だった。重苦しく一息ついて俺は宣言した。

 

「……わかった。俺はお前達で満足しているし、リーグには今の6体で挑む。やりくりはしんどいかもしれないが、なんとかなるだろう。そしてみゅー、お前には負けた罰としてリーグ戦のときまで徹底的にバトルに使って、俺と一緒にたっぷりトレーニングもしてもらうから覚悟しろよ」

「みゅーをバトルに出してくれるの? レインと一緒?」

「みゅーがイヤといってもずっと一緒だからな。わかった?」

「みゅうみゅぅ、レインありがと。絶対みゅー頑張るから……」

「よしよし……それじゃ、今からブルーと温泉に行くけどお前もどう? 一緒に来るだろ? 人間になれるからブルーがいるなら入っても大丈夫だろうし」

 

 しんみりしたので気分転換にみゅーもと思って誘ったが、思わぬ言葉が返ってきた。

 

「え、いいの? みゅーもいくいく! レインと一緒に入りたい!」

「俺と? あのな、人間のお風呂は男湯と女湯に分かれているから、みゅーはブルーと入るの。俺は男湯。みゅー女湯。いい?」

「そんな……。ずっと一緒じゃなかったの? 今言ったばかりなのに……」

「いや、これはさすがに決まりだから仕方ないだろ?」

「イヤッ、みゅーもその男湯っていう方にいく!」

「……男に裸見られて恥ずかしくないの?」

「みゅ? なんで恥ずかしいの?」

 

 あーそうか。みゅーはポケモンだしそういう発想はないのか。説明しにくいな。“へんしん”の弊害というべきか。ポケモンを人間にするのってやっぱり根本的に無理があるな。

 

「ねぇ、みゅーちゃんはまだちっちゃいし、本人が気にしてないなら一緒につれてってあげれば? それともシショーがこっちに来る? わたしは歓迎するわよ?」

「あ、それがいい。みんな一緒!」

「ばっか、冗談言うな! 人をおちょくる時だけ活き活きとしやがって。この年で女湯に入れるわけないだろ! 仕方ない。じゃ、みゅーは俺と一緒に来ればいい。ただし、俺の言うことはよく聞いて、絶対に勝手な行動はしないこと。はしゃいだりもせず、何かあれば必ずすぐに俺に聞くこと。聞かないで行動したらダメ。いい?」

「わかったわかった、わかったから早く温泉いきたい!」

 

 さっきまで泣いていたのがウソみたいな変わり身の早さ。やはりみゅーは感情の起伏が激しい。これだと風呂で大泣きとかしないか心配だ。熱いとか目に入ったとかですぐに泣きそう。やっぱりやめさせた方がいいかもしれない。

 

「ぷぷ、シショーめっちゃ心配そうね。まるで過保護なおとうさんね。あんまり過保護だと子供に嫌われちゃうんじゃない?」

「なっ!? 余計なお世話だ! ほらいくぞっ! みゅー、早くついてこい」

 

 ブルーの奴め、面白がってここぞとばかりに好き放題言いやがって! あのニヤニヤした顔思いっきりほっぺつねってやりたい! 

 

「それじゃ、わたしはこっちだから。おふたりさんは仲良くごゆっくりー。あとであっちの休憩所でおちあいましょ。じゃーねー」

 

 温泉に着くとさっそうとブルーは女湯に消えていった。

 

「ブルーの奴、まさか自分だけゆっくり寛ぐためにみゅーを押しつけ……」

「レインー、はやくいこう。みゅーこんなとこ来たことないからもう楽しみで待ちきれないの。はやくして」

「わかったから、あんまり服を引っ張るな」

 

 謀られたっ。完全に乗せられた! ジャンケンの時といいブルーのいいようにされっぱなしだ。みゅーの面倒ぐらいたまには見てくれてもいいだろ。いらんところで頭が回るし、いつも自由だし、しょーがない奴だな。誰に似たのか……。1回親の顔が見てみたいわ。

 




みゅーあっさり敗北
いや、へんしんした場合タイマンに勝つだけでも十分過ぎる戦果ですけどね
今まではエスパーの力に頼っていたのでへんしんでそれを全て失うと脆いです
気配を察知したりすることもできないのでいちいちオロオロしてしまいます

カツラはだいもんじ連打するだけのゴリ押しスタイルにしようかと思っていたのですが、少しはジムリーダーらしい連携も見せてみました
シャドーボールはほぼ砂煙のために覚えさせています
なのでその後あなをほるを使うのは必ずセットです

こらえるに関しては「よけきれん」と言った時点でこらえるを使えという含みがありました
前もって決めていたこらえるの合図ということですね
これはちょっと連携力高過ぎ?


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3.無知の大罪 天国地獄

ホントの ヒロインは みゅーなの!
これは 最初から 決まっていた 運命だから……


 ホントにみゅーをつれて来てしまった。どうしよう。さっきは勢いで即決してしまったがいまさらながら後悔し始めていた。そんな俺の気も知らないでみゅーは楽しそうに声をあげて更衣室に入っていった。すぐにみゅーは感心したような声をあげた。

 

「わー、裸の人ばっかり。人間にしては珍しいの。こんなところ初めて見たかも」

「あんまりジロジロ見ない! 女の子になってるのに人間とか言うのもダメ。怪しまれる。騒いだりしないで大人しくしたままみゅーも早く脱いで。その服は本物だからな」

「へんしんしたらマズイから本物を貸してくれてたの?」

「そういうこと。わかってるならもうちょっと自分でも用心してくれよ……」

 

 ブルーに借りた比較的小さめの服を脱いでみゅーも裸に。さすがにこのままだとみゅーが良くても自分がイヤなので丁寧にタオルを巻いてあげた。

 

「じっとしてろ。今きれいに巻いてあげるから。ばんざいして?」

「んー。これだとまた服着てるみたいだけど意味あるの? んみゅ、これ何?」

「細かいことは気にしなくていい……ちょっと! ばんざいしろって言っただろ! だいたいみゅーどこ触ってるんだよ!」

「だって、気になったんだもん。みんなついてるけど、これ何?」

「帰ったら教えてやるから、今は頭をそれから離してくれ。早く温泉入りたいんだろ。よしできた。ほら俺についてこい。最初はお湯をかけて体きれいにしてから入れよ」

「ふーん。はいはーい。ん、熱ッ! みゅぐ、レイン……」

 

 みゅーのタオルを巻き終えて風呂に入り、最初にかけ湯。タオル巻いたままだけどそれは目をつむることにした。ただ、みゅーにはお湯が熱過ぎたようでウルウルして俺の方を振り返った。

 

「あ、ごめんごめん、体温低いみゅーには熱かったか。大丈夫? 今度は俺がかけてあげるから、辛かったら言って」

「んみゅ、わかった。ゆっくりしてね」

 

 ゆっくりかけ湯して奥に進んだ。屋内屋外両方あるのか。フエンみたいに屋外だけだと思ってた。色々あるみたいだけどとりあえず普通のやつから。

 

「みゅー、隣においで」

「みゅふーっ! あったかぁーい。温度に慣れてきたの。すっごく気持ちいい。体がポカポカして癒されるの。あったかいのみゅー好き!」

「だろ。温泉いいよな。しばらくゆっくりしたら違うやつにもいこう。温泉毎になんか効能が違ったりするらしいし、寝転がるやつとか、電気風呂とかもあるみたい」

「電気電気! みゅー電気がいい! あ、そうだ! レインにはみゅーが10まんボルトしてあげよっか」

 

 なんでそんなに電気好きなんだ。なんか勘違いしてそうな発言も出て来てるし怖い。釘をさしておかないと何もわかってないみゅーに殺される可能性が出て来たんだけど。

 

「それはここでしたら俺が死んじゃうから絶対にしないでね」

「えー、つまんないのー。レインなら大丈夫だと思うのになぁ。じゃあ……あっち! これ入りたい。……レイン、ここ何?」

「まだ大してあったまってないだろ! 落ち着きないなぁ、もう! 勝手に1人で離れないで」

「入ろーっと。みゅみゅっ!? あついー、溶けちゃうー」

 

 人の話全く聞いてないな。みゅーは俺を置いて小走りで別のところへ向かった。しかも電気風呂はもう頭にないらしい。気分屋だな。エスパーだしこけたりはしないだろうが危なっかしい。みゅーが選んだのはなぜかサウナ。絶対どういうところかわかってない。暑いの苦手なのに自分から入るとは。案の定中に入ったら先に入っていたみゅーはしかめっ面をしていた。

 

「ここはサウナ。汗を流すところだから、暑くていいの。子供にはしんどいかな?」

「もうダメ、あがりたい」

「根性ないな。数秒しか入ってないじゃん。じゃあ水風呂に入るか」

「だって暑過ぎなんだもん。こんなの何がいいの? あ、ここ冷たくて涼しい。しかもここ深ーい。レイン、潜るから見てて!」

「あー! タオル脱げてるし! あんまりはしゃぐなよ!」

「大丈夫、このお風呂誰もいないもん」

 

 そりゃ水風呂にずっと浸かっている奴なんかいないだろうよ。その上ずっと潜っている奴となれば変人間違いなしだ。……まぁ全く見たことがないかと言えばオーラが乱れるけど。みゅーは体温低いからずっと潜っていても平気みたいだが、俺には無理だな。

 

「レインもおいで、ヒンヤリするから」

「は!? バカッ、ひっぱるなっ! ぶぱっ!?」

 

 みゅーは仮にもA100族。力は強い。引っ張られたら逆らうこともできず、水風呂に“ダイビング”をする羽目になった。俺はポケモンじゃねぇから! しかも水中でも引っ張られて出られない上しゃべれない極悪コンボ。なんで温泉に来てこんな寒い目に遭うんだ!

 

「さぶぅ!!」

「ねぇねぇ、今度はあのお外にあるお風呂に行きたい。あっちも広そうだしなんか楽しそう」

「今このタイミングで?! みゅーって俺になんか恨みでもあるのかな?」

 

 心当たりは……いっぱいあるな。楽し気なみゅーに押し切られ本当に露天風呂に来た。当然死ぬほど寒い。俺なんかより自覚がない分みゅーの方が鬼畜だ。無知ってやっぱり1番の罪なんだって改めて思った。寒くて凍え死ぬので当然すぐに風呂に入った。

 

「さっぶぅぅぅ! あーあったかぁ、生き返った」

「みゅー、そんなに寒かったの? 別にそんなに冷たくなかったのに。みゅ、さっきは最初に熱かった時助けてもらったから、今度はみゅーが助けてあげる。はい、これであったかいでしょ?」

「みゅーちゃん?! それはあったかいけど、さすがに大胆過ぎっ!」

 

 巻き直したタオル1枚越しで抱き着かれ、完全に密着状態。しかもみゅーは嬉しそうな顔でがっちり抱き着いて動かない。こんなに押し付けて、ホントにこれわざとじゃないの? だいたいここ周りに人いるからな! ……無知って本当に罪深いなぁ。……これこそ最高の祝福!!

 

「みゅー、あったかぁい」

「そのあったかいはどんな意味? みゅー、のぼせるからもうあがって。あー、今なら俺が髪を洗って、体もきれいにしてあげるから。早くしないとやってあげないけどいい?」

「えっ! あがるあがる! はやくして!」

「たんじゅ……素直でいい子だな。今日はゆっくりきれいにしてあげような」

「うん。ホントにゆっくりしてね」

 

 場所を移してタオルを外し、椅子にちょこんと座らせた。間近で見ても恥ずかしがるそぶりはない。本当に全く気にならないんだな。

 

「お湯を出すから、丁度いい温度になったらいって。ぬるめがいいか」

「んー。あ、これがいい」

「じゃあ、先に体から洗っていこう。何かあったらいって」

「うん。あー、すごい。ものすごく優しい感じ。とってもいいの~」

「きもちいい?」

「みゅー。レインにしてもらったら上手いし楽なの」

「最初だけだからな。みゅーも自分でやるようになったらちゃんとしっかりやれよ」

「みゅー。わかった」

 

 どうでもいいけどみゅーの体はぷにぷにでかつもっちりとしていてすばらしい感触だな。日々のけづくろいの効果だろうか。……これがさっき抱き着いて……いや、これ以上考えるのはやめておこう。

 

 極めて冷静な状態で何も考えないように洗っていった。考えたらオーラを読まれそうだし。背中を流して髪の毛を洗おうと言うと水しぶきが飛び散る程はしゃいでブンブン頷いた。

 

「みゅーはね、この髪触ってもらうとものすごく嬉しいの。前と比べてものすごくきれいでサラサラになって、それにいっつもいいねって褒めてくれるから」

「そんなに? じゃあしっかり洗ってあげような」

 

 髪を洗っている間は終始笑顔で、ふと見れば鏡越しにずっと俺の顔を眺めていた。俺の方は心臓が跳ね上がりそうになるが、対するみゅーは目があっても気にするそぶりもなくそのままニコニコこっちを見ている。おどかすなよ……。さすがに鏡越しだと読めないのかな?

 

「なぁ、鏡越しでもオーラってわかるのか?」

「ううん、みゅーはわかんないけど」

「じゃ、なんでずっと俺の方見てるんだ? みゅーは単に顔眺めるの好きなのか?」

「うえっ、んみゅー。……みゅーずっと見てた? そんなつもりはなかったの。イヤだった?」

「別に見たいなら見てもいいよ。なんでかなーと思って聞いてみただけ。みゅーの顔はかわいいからイヤなことないし」

「みゅー」

 

 顔を赤くしてややうつむき加減になるがそれでも嬉しそうなまま目は離さない。みゅーの反応に疑問を持つがそういえば以前ジロジロ見るなと釘をさしていたことを思い出した。だからかも。

 

 恐らく、みゅーはそれから顔を見ないように努力はしていたのだろう。だが実際には意思に反して吸い寄せられるように俺の方ばかり見ていたわけだ。俺を見るのはオーラを観察してウソがつけないようにしているのだと思っていたが、単にクセになっているのかもしれない。

 

 いい加減髪もよく洗ったし水で流そう。

 

「じゃあ目つぶって、お湯流すから」

「みゅー、ゆっくりして」

 

 ゆっくり? 普通に考えるとゆっくりすればするほどお湯に耐える時間が長くなるが、それでいいのか? 俺なら早く終わらせてほしい。

 

 案の定途中で我慢できずみゅーが目を開けて大変なことになった。目を開けたらダメだってわからないのか。そういえば今まではギアナだったし水浴びぐらいしかしたことなかったのかも。けづくろいの時は横になって顔にはかからないようにしていたし。

 

 さすがにシャンプーハット出せとは言わなかったが、まだ頭を流すのは怖いみたい。普段強力な技の応酬をしていることを思えば、意外な一面だった。

 

「よし、これでいいだろう。今度は俺が体洗ってるから、ちょっと待っていて。先にお風呂に入ってきていいから」

「うーん。みゅーはここで待っていることにするの。レインがいないとヤだもん」

「みゅー……。そうか、本当にみゅーは優しいなぁ。じゃ、ちょっと待ってて」

 

 自分の体を洗っていると、みゅーが背中を流すと言ってくれた。ブルーならこんな気遣いは絶対にない。そもそも待つこともしないだろう。みゅーの優しさが嬉しかったので、せっかくなのでお願いした。

 

「みゅー、それじゃお言葉に甘えて頼もうかな」

「みゅみゅー、任せてっ。お礼にしっかり洗ってきれいにするから。いくの、みゅぎゅぎゅっ!」

「みぎゃああぁぁぁ!」

 

 渾身の力でおもいっきりこすられ、背中が腫れ上がる程の重傷を負った。鏡で見ると赤くなってなんか痛々しい有様に。グロい……。

 

「ご、ごべんなざい」

「やばっ! いいからいいから、みゅーの気持ちはわかるから。お礼をしようとしてくれたことが1番嬉しかったから、今は泣かないでね。また今度も頼みたいなー」

「でも、ものすごく痛そう」

「大丈夫、この程度今までの苦労を思えば……うん、全然痛くない。だから気にするな」

「あ、ホントだ。痛くないんだ。なーんだ、良かった。大きな声出したから心配したの。みゅみゅ。今度は優しくするから次は任せて」

 

 相対的に考えてそれらよりは痛くないわけだから、ウソにはならないし、自分で本当だと納得できればそう思いこむことはできる。なんかポケモンよりも“じこあんじ”が上手く使えるようになりそう。“じこあんじ”スイクンとか面白くて強かったなー。(現実逃避)

 

「そうか。じゃあ今度に期待しよう。それじゃ、最後どこかで温まってからお風呂から出ような。どこがいい?」

「露天風呂。空気がヒンヤリしてるもん」

「最後に冷えるところはどうかと思うが、みゅーがそういうならいいか。最後は肩までしっかり浸かって、一緒に100数えたら上がろうな」

「100も数えるの? 長いからイヤ」

「ダメだろ。ちゃんと温まっておかないと。……ちゃんと数えたらあとでモーモーミルクあげるから」

「みゅふー! ホント!? それすっごくおいしいやつなの! やった! じゃあ数えるの。いーち、にーい、さーん……」

 

 嬉しそうに数を数えるみゅーの声に、周りの人達も微笑ましそうにしている。子供がこういうことしていると和むのはわかる。ただ、自分はのんきに和む余裕はなかった。背中の腫れはタオル越しでも容赦なくこうかはばつぐん。かなり湯がしみていた。とはいえ自分だけ肩まで浸からずにすぐ出ては示しがつかないし、痛くないといった手前これを言い訳にすることもできない。ひたすら根性で耐えた。やっぱり無知は大罪。

 

 あがった後は約束通りモーモーミルクをあげた。これは特注だ。生産地はジョウトでもカントーまで出荷していることは知っていた。だから取り寄せておいたのだ。パソコンは何でもできるから便利だな。

 

「ぷはぁっ! おいしーーのっ!」

「そこらの牛乳とはわけが違うし、風呂あがりの一杯はまた格別だからな。温泉っていいもんだろ? また一緒に来ような」

「みゅ。絶対ね」

 

 水風呂攻めやらひっかき攻めやらあったがなんとか風呂から解放された。逆にミルクが格別に感じられる。こっちは内心もうこりごりだが、みゅーは終始楽しそうにしていたのでそれだけでまた来ようと言ってしまった。

 

「ちーっす、シショー。待ったぁ? いやー、温泉っていいわねー。ついゆーっくりしちゃってさー。あ、何よそれ、モーモーミルクじゃない! どこに売ってるの!?」

「ここのじゃない。俺が持ってきたんだ。お前の分もあるから心配しなさんな」

「さっすが、わかってるわね。これホントにヤバイわよね。くーっ、キター! 生き返るー!」

「お前はおっさんか」

「みゅーっ、ぷはーっ! 生き返っちゃうのー!……あれ、レインはやらないの? ねぇ、やってよ。おいしいでしょ? おいしくないの?」

「ホントにそうよ。シショーはノリ悪いわねー」

 

 ノリの問題なのか、これは。別にいまさらブルーやみゅー相手に恥ずかしくもないしいいけれどさ。なんか言わされてる気がする。

 

「わかったよ、やればいいんだろ、やればっ。……カーッ、うめーっ! 五臓六腑に染み渡るー!」

「みゅはははっ! おっさんおっさん! カーッだって!」

「いやー、本物のおっさんはやっぱり違うわねー! さっすが!」

「お前らが言わせたんだろ! いい加減にしろ! 怒っていい?」

 

 こっちが黙ってると思ったら大間違いだからな! 今日はハッキリとわからせてあげないとなぁ。みゅーはそれを察してか、いちはやく逃げる体勢をとった。

 

「みゅー、逃げろー。ブルーあとはよろしくなのー」

「あ! みゅーちゃんわたしを生贄にする気?!」

「まずはブルーからきっちりお話しようか。肉体言語で」

「あは、それはちょっと勘弁……」

「問答無用!」

 

 逃げるブルーとみゅーを回収して、くすぐりの刑に処した。たとえみゅーでもおびき寄せるぐらい造作もない。トレーナーとしてのレベルが常人とは違うのだよ。処刑執行後、温泉の話で盛り上がったり、ツヤツヤのみゅーをブルーが羨ましがって今度は自分にもけづくろいしろとか言い出したり、散々騒いですぐに夜になった。

 

 みゅーにとってはいい思い出にもなったはず。ふざけすぎた気もしないこともないが、いい気分転換になったらいいな。もうバトルで負けたことなんて忘れてしまっただろう。

 




これで わかったでしょ?
けっきょく みゅーが いちばん つよくて かわいいんだよね!


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4.海の香りは故郷の香り

 温泉の翌日。今日はグレン島を出て久々のカントー本土上陸だ。俺はヒリュー、ブルーはピジョットに乗ってマサラタウンに向かうことになった。さすがにラプラスに乗るという暴挙はやめた。ラプラスは残念そうにしていたが、これは当然の判断だ。ブルーはポケモン乗って飛行するのは不慣れなのでゆっくり俺と並びながら飛行した。

 

「うわー、懐かしいなー。夏にはよく海まで遊びに来たのよね。ここはわたしのお気に入りなの。ここでレッドとグリーンと一緒によく遊んだわ。でも海の方から来るのは初めてだしちょっと新鮮」

「やっぱいいもんだな、故郷に海があるのは。自然に囲まれて幼馴染と一緒に、なんて最高じゃないか」

「ふーん。海っていいところなんだ」

「もちろん、とっても素敵よ」

 

 みゅー、興味ないことは反応がそっけないな。ジャングルで育ったから海で遊んだりしたことなかったんだろう。次の夏は暇な時ゆっくり遊んであげよう。

 

 俺もブルーと同じで夏にはよく海へ遊びに行った。いつかまたいけるのだろうか……とりとめもない記憶が次々蘇る。いや、ないものを考えても仕方ないよな。今の自分に不満はないし、そこへ戻るということはブルーや、ここで得たもの全てを捨てるということ。そんなことになればブルーは、みゅーは……どうなってしまうのだろう。

 

「みゅー。ところで、今日はどこに行くの? 野宿?」

「あ、それなら大丈夫よ。なんてったって、マサラタウンはわたしの家があるからねー。2人ともうちにおいでよ。そしたら全員一緒に寝られるわ。自分家だから気にしなくていいし。それに前々からわたし、シショーを連れてくるのが楽しみだったの。お母さんきっとびっくりするわよ」

「ちょ! 待て待て待てっ! それは色々とマズくないか? 本当に仰天するだろ。俺はいいから、2人だけでいけ。俺は先にトキワで待っているから」

 

  ちょっとボーっとしていたら、どんどん勝手に話が進んでないか?! さすがにそれは黙って見過ごせない。

 

「えー。なんでよっ、遠慮しなくてもいいじゃない。いっつも助けられっぱなしだし、たまにはおもてなしするわよ? わたしのお母さんの料理はめちゃおいしいし、絶対来た方がいいわ!」

「んみゅ、おいしい料理があるなら行く。みゅーが行くならレインも一緒にいないとダメ。だからレインも一緒に行く」

「なんだその理屈は。そもそもブルーは俺のことどうやって説明するつもりなんだ? 自分のシショーだとか言うのか。俺は見た目15ぐらいだぞ。俺みたいな年のトレーナーに弟子入りするのはここじゃよくあることなのか?」

「……さぁ、あんまり聞かないけど……ま、事実だしいいじゃない。取り繕うこともないわ。なんとかなるわよ」

「ならんわ!」

 

 こいつ、なんで何とかなると思えるんだ。自分の子供が久々に旅から帰って来ていきなり見知らぬ男つれてきたらどうなるか考えたことないのか。ブルーだし考えてないんだろうなぁ。ため息出る。

 

「もー、あんまり喧嘩しないで。レインは一緒に来る。説明は全部レインに任せる。みんな一緒に寝る。これでいいの。もう何にも言わないで。いい?」

「あ、はい」

「ご、ごめん……じゃなくて!」

「返事は?」

「はい」

 

 右手で“はかいこうせん”を向けながら言うのはズルくない、みゅーさん? みゅーは人に向かって“はかいこうせん”ぐらいの暴挙は平気でやりそうだからシャレでは済まない。結局みゅーの一声で俺もついていくことになってしまった。

 

(みゅーちゃんGJ! 作戦通りね。いいフォローだったわよ。強引だけど)

(上手くいったの。昨日こっそり作戦会議した甲斐があったの。やっぱりレインは押しには弱いのね。この調子でもう1つの方も上手くやるから見ててね)

(え、もう1つ? そんなこと話したっけ?)

「(ブルー見たいって言ってたでしょ? みゅーに任せてほしいの)……ねぇねぇ、ちょっとお願いがあるんだけど聞いてくれる?」

「どうした、そんなに改まって。別にいいけど、何?」

「みゅみゅ。レイン、ちょっと服とか全部脱いでほしいの」

「……ん? んん? ごめん、よく聴こえなかったかな」

 

 今上空だしなぁ。乱気流で幻聴が聞こえることもあるだろうな。みゅーに限って変なことは言わないだろうし。

 

「だーかーらー、服全部脱いでって言ってるの!」

「えっ……えっ、なんで?」

「脱がないと体見えないでしょ」

「ぶっ!!」

 

 あ、今のリアクションでわかった。これ絶対ブルーの仕業だな。幻聴じゃなかったのか。そういえば昨日ブルーが1人だと寂しいとか駄々こねてみゅーを持っていって2人部屋を占拠したから、その時にいらんことを吹き込んだな。

 

「ブルー……! お前の仕業だな! みゅーに何させてるんだこの変態女!」

「ちょ、わたしが言わせたんじゃないわよ!」

「でもこんな邪悪なこと考えるのはお前だろ。みゅーは人間には興味ないだろうし。なぁみゅー、その辺どうなんだ? ブルーから昨日良くないことを色々聞いてたんだろ」

「だって、レインは教えてくれないんだもん……。だからみゅーが聞いたの。そしたらブルーがレインはどんなふうだったかしつこくきいてくるし、みゅーは説明できないから、それならここで見ちゃえば早いと思って」

 

 ブルーさん、なんかポケモンバトルの話している時より熱心そうじゃないか? これはどういうこと?

 

「……何か弁明はある?」

「誤解なの! 本当に、これは誤解なのよ!」

「犯人は必ずそう言うんだよな」

「違うの! 本当に違う! ちょっとした話の弾みというか、好奇心というか。まさかこんなこと言うとは思ってなくて、みゅーちゃんがこんなにたんじゅ……素直だとは思わなかったのよ」

「あー、こんなのお母さんが知ったらなんて言うんだろうな。あろうことか自分のシショーを故郷で丸裸にしようと……」

「ちょ! いや、本当にやめて! 本気で困る! それだけは勘弁して! 本当にこれは違うの! シショー鬼過ぎるわよ、さすがにそれは!」

「じゃあ二度とみゅーに変な事吹き込むなよ。そしたら勘弁してやろう」

「むぅぅ! というか、シショーの方も大概でしょ?……昨日もみゅーちゃんのこと髪はもちろん、体まで洗ったそうじゃない。隅々までっ!」

「……さ、もうこの話はやめよう。みゅー、これから他人がいるところでこんな非常識なこと絶対言うなよ。黙っていたら見た目はかわいいんだから、これ以上変態発言はするな」

 

 ここはお互い手を引いて停戦協定だな。この話題は今後避けるべし。

 

「みゅ、わかったの。何が非常識なのかわかんないけど、初めから説明とかは全部レインに任せるからみゅーはしゃべらないの。何か聞かれても何にも言わないから安心して」

「さすがに話しかけて無視は……せめて首を振るとかはしてよ。どうしてもイヤなら最悪しゃべらなくてもいいから」

「はいはーい」

 

 みゅーってけっこう常識がないところあるよなぁ。仕方ないことだけどかなり心配。

 

「なんか先行き不安だ。ホントにお前の家に行っていいのかどうか。お前、莫大な借金抱えてるとか言ったら親はひっくり返るんじゃないか? 今どれぐらい借金してるかわかってる? 俺が言うのも変だが、悪い男につかまって貢ぎまくってる、という解釈をされてもおかしくはないぞ」

「……大丈夫、黙っていればいいのよ。チャンピオンになった後こっそり返すから。みゅーちゃんもお願いね。基本何も余計な事言わないでちょうだい。(あと、昨日わたし達だけでこっそりとおしゃべりしたことは基本的にシショーや他の人には内緒にして! 恥ずかしいから!)」

「うん、わかった!(みゅーと2人だけの秘密にするってことなの? なら黙っていてあげるの。みゅみゅっ)」

「よっし!」

「そうこう言う間にだいぶ進んだけど、ブルーの家はどっちだ?」

「ここならもう近くね。1回降りましょ。わたしについてきて」

 

 待ちきれないのか降りたらすぐブルーは走り出し、俺も小走りで後を追うとけっこうおっきな家に着いた。近くに似たような家がもう2つある。あれがレッドとグリーンの家だろうか。

 

「えへへ、久しぶりね。なーんか自分の家なのに緊張するな……。ガチャリ、と。すぅー、ただいまー、お母さんいるー? わたしー、ブルーよっ!」

 

 バタバタドタドタ!!

 

 ブルーのお母さんらしき人が2階から降りてきて、ブルーを見つけるや否やすぐに抱き着いた。いきなりアグレッシブな出迎えだな。予想してたよりもかなり若い。どう見ても20代にしか見えないがそんなわけはないだろうしなぁ。これで30代なのか。

 

「ブルー! やっと帰ってきたのね! もう、遅いから心配したわよ!」

「むううっっ! は、離して……息が……」

「あ、ごめんごめん。あら、あなたがブルーのお師匠のレインさん? 初めまして、うちの娘が御世話になっております。何もないところですがどうぞゆっくりしていってください」

「ど、どうも……え?」

 

 まさか、すでに俺のことを知っている? ブルーが手紙とかで知らせた? いや、それはないな。ならどういうことだ?

 

「お母さん、なんでシショーのこと知ってるの? どうやって説明するか悩んでたのに」

「そうね。そのことも含めて、ゆっくりお話しましょう。まずはあなた達、うちにあがっちゃいなさい。あら、もう1人いるの? いいわ、3人ともあがって。すぐに飲み物用意するわ。何にしましょうか」

「わたしとシショーはサイコソーダ。みゅーちゃんは……オレンジュースでいいかしら」

「……」

 

 コクリとみゅーは黙って頷いた。オレンジュースってちょっと不思議な響きだな。

 

「わかったわ。とりあえず居間に来て座って待っていてね」

 

 トントン拍子で話が進んでなんか文字通り拍子抜けだな。すでに俺のことをある程度知っていて、その上で俺が実際にどんな人間か興味があるって感じの視線だった。思っていたより説明は楽だが、逆に怖い。どこまで知っている? 

 

 一息ついて、テーブル越しにブルーのお母さんと自分が向かい合って座る形になり、その容貌をよく見れた。ブルーと見比べると物凄く似ている。だけどその雰囲気は全く違う。

 

 色で例えると、ブルーが明るくて快活な晴れ渡る空のような水色。お母さんは全てを包み込むような包容力に満ちた深海のような藍色。かわいい系のブルーと違い落ち着きがあってクールな青って感じ。

 

 さっきはいきなり飛びついていたからブルーみたいな性格なのかと思ったが全然違うな。ブルーも大人になったらこんな風になるのだろうか。……想像できないなぁ。俺が黙ったまま2人を見比べているとブルーのお母さんが口火を切った。

 

「それじゃ、さっきのことを話しましょうか。驚かせちゃったみたいだけど、実はあなた達のことはレッド君とグリーン君から散々話を聞いたのよ。なんせあの2人は一緒に帰って来たのに、あなただけ来ないんですもの。心配で2人に聞いてみたら、先にあなた達はグレン島を出ているって言うじゃない。でもうちには確かに来てないし、ここに寄って行かないってことも考えられないから、何かあったんじゃないかってずっと心配だったのよ? もしかしたら誘拐とかされているんじゃないかって私が言ったら、あの子達はレインさんがいるから大丈夫だろうって言うんで、レインさんのことはその時聞かせてもらったのよ」

 

 まさにその心配通りブルーは誘拐されて地球の裏側まで行ってました。俺とブルーは苦笑いだが、実行犯のみゅーは素知らぬ顔でジュースを飲んでいる。こいつ、面の皮が厚いな。ちょっと感心した。

 

「そうですか。実は俺達はポケモンのレベルを上げるため遠くに行っていて、それを知らないマサキっていう友人がナナシマから戻ったあの2人に発破かけちゃったらしいんです。行き違いになったわけですね。だからあいつらより遅くなったんです」

 

 チラッとみゅーを伺うが、ここで「ウソなの」と言い出す気配はない。さすがにこれぐらいの空気は読んでくれたか。

 

「そうでしたか。それなら良かった。この子は本当にわがままでこうと決めたらすぐ突っ走って後先考えないから、またいつもみたいにわがまま言ってレインさんを困らせているんじゃないかって心配で心配で」

「ちょっと、好き勝手言わないでよ! だいたいわたしの心配はしてないの?!」

「あんたはいつも心配よ。ドジだし、おっちょこちょいだし、見てられないっ。それに……レインさんもその通りだって顔しているわよ。ブルーのことよくわかっているわね」

「えっ、うそっ……うわぁ」

 

 ず、図星だ。ブルーの性格そのものズバリだからな。俺のことを言い当てられたのは驚いたが。

 

「心配しなくても、ブルーは立派にトレーナー修行を続けていますよ。たしかにそういうところもありました……まぁ今でもそうですが。でもバトルに関しては俺の言うことをよく聞いてくれるし、飲み込みもいい。元々の才能のおかげもあって素晴らしい成長をしたと思いますし、これからも成長すると思っています」

「本当ですか?! この子に才能があるなんて……」

「もちろん。素質はあの2人にも負けてないと俺は思ってます。この3人は間違いなく天才でしょうね」

「そうですか。ブルー……あんたいい人にあったわね。お世辞でもこんなに褒めてくれる人そうはいないわよ」

「わ、わかってるわよ。それと、シショーはお世辞とか言わないもん。わたしならチャンピオンになれるって言ってくれて、絶対そうしてやるって言ったんだから! ね、シショー」

「え……本気で言ってるんですか?」

 

 何言ってんのこいつ?……ってニュアンスを感じる。世迷言扱いとは、ブルーって最初どんな評価だったんだ。いくらなんでもこれはヒドイ……哀れな。

 

「ブルー、悲しいかな実の親からも実力を疑われていたんだな」

「どーせわたしなんかマサラじゃ3番手なのよ!」

「……ブルーのお母さん。あの2人を見てれば仕方ないかもしれませんが、もう少しブルーのこと信じてやってください。ブルーは頭も良くて、要領もいいけど、その分考え過ぎたり、周りと比べてすぐに落ち込んだり、わからないことには不器用だったり、簡単に自信を無くしたり、とにかく色々欠点もあります。でも、だからこそ、導いてあげる側がブルーを信じて、そしていいところは褒めてあげないと。普段明るくてマイペースだけど、ブルーって心の奥は繊細ですからね。些細なことでも気にするタイプですよ」

 

 なんか面談している先生みたいな話ばっかりしているな。欠点挙げだすと思いの他いっぱい思いついてびっくりした。なんで人間ってダメなところの方がよく見えるんだろうな。哀れになってつい擁護に回ったが、イマイチどんな風に話せばいいか距離感がつかめない。こんなんで大丈夫なのか?

 

「たしかにそうでした。表には出さないけど、あの2人と比べられてコンプレックスがあったのかもしれないです。旅立ちの日も、からげんきの勢いだけでなんとかしようとしていましたし、私の眼には脆くて危なっかしく見えて、これでもし最初の壁で躓いたりしたら、そのまま立ち直れないんじゃないかって心配で」

「ぐっ!」

「……ブルー、図星だったのね。そうなんですね、レインさん?」

「ま、まぁ」

「それじゃあ、レインさんは最初どこでブルーと会われたのですか?」

「……ニビの辺りで。心配されていた通り、おつきみやまにぶつかって自信喪失してくすぶっていましたね」

「やっぱり。あなた、今でこそバッジは7つあるみたいだけど、そこでレインさんがお師匠になってくれなかったらバッジ1つで終わってたんじゃないのっ!」

「そ、そんなもしもの話をしても仕方ないでしょ。もう、せっかく帰ってきたのにわたしのことばっかやめてよっ」

「仕方ないじゃない、気になるんですもの。あんた、ロケット団と戦ったりめちゃくちゃしていたのもしっかり聞いたんだからね。本当に何考えてるの!」

 

  もうほとんどバレているみたいだな。ママさん情報網恐るべし。こいつらの感性が常識外れなだけで普通ロケット団に喧嘩売ったりしないし、そんなことすれば当然心配する。現にブルーはラプラスを助ける際に死にかけたそうだし。

 

「それは仕方ないでしょ。町がどうなるかっていう瀬戸際だったんだから」

「全く、向こう見ずは相変わらずなんだから。レインさん、これからも迷惑をかけると思いますが、本当にブルーをよろしくお願いします。ブルーはこれまでずっといまいちパッとしなくて、なのに今こんなところまでこられたのは一重にレインさんのおかげです。きっとレインさんでなければ道半ばで倒れていました。感謝の言葉もありません」

 

 ものすごく真剣な表情でお辞儀して言われたのでびっくりした。なりゆきで連れているだけで、別にジムみたいなしっかりした師弟関係があるわけでもないのに。

 

「そんな、頭を上げてください。ここまで来られたのはブルー自身の力です。強い意志を持ってここまで努力してきたからこそ、こうしてここに戻ってこられた。俺は言ってみればそのためのきっかけをあげたに過ぎないですよ。もう少しブルーも褒めてあげて下さい。ブルーは照れていますが、きっとお母さんに褒めてほしかったはずです。ここに来るまでずっとそわそわして落ち着きがなかったですから」

「シショー! 違うわよ!」

 

 口では何とでも言えるからな。目でみゅーの方をチラッと見ると、ハッとして顔を赤くした。正直になっちまえよブルーさん。楽しみにしていたのは丸わかりだ。

 

「あらあら、レインさんは何でもお見通しね。そういえば、レインさんはどうしてブルーのお師匠になられたんですか? 思っていたよりもずいぶんお若いですし、レインさんも旅の途中なんですよね。きっと迷惑も少なからずかけているでしょうに、とても親身になってくださって、私が羨ましいぐらいですから」

「……それは、わたしが頼みこんだのよ。きっとわたしの誠意が伝わったのよ」

「ウソね。ブルーは昔からわかりやすいわね」

「ぐっ!」

 

 ブルー、今日はいいとこなしだな。親の前だと強気には出にくいよな。にしても、師匠をやってる理由か。はっきりブルーに対して口にしたことはなかったが、改めて今聞かれるとなぁ。

 

「レインさん、実際のところどうなんですか?」

「シショー……」

「なんで師匠なんかしているのか……。傍から見れば、ブルーに追いかけ回され、拝み倒されて渋々……という感じで、たぶんブルーもそう思っているでしょう。でも、本当は……」

「ほ、本当はなんなの?」

「やっぱり、またいつか気が向いたらってことで」

「えええ!? なによそれっ、なんか理由があるなら教えてよ! けちんぼ!」

「だから、けちんぼ言うなストーカー!」

「そっちこそ、わたしはストーカーとは違うって言ってるでしょ!」

「はい、そこまで! 喧嘩は良くないの」

 

 ムキになって言い合うと、意外にもみゅーに止められた。みゅーが人前で口を利くなんて驚いた。今のは自発的な発言だ。

 

「あ、はい」

「それはいいけど、お前も一応話は聞いてたんだな。いつもと違っておとなしいから、実は目開けたまま寝てるんじゃないかと思ってた」

「みゅー!? レイン、それホントなの!?」

 

 冗談に決まってるだろ。“いつもと違って”は皮肉。でも冗談や皮肉は虚言じゃないから。あくまでジョーク!

 

「ウフフフ、仲がいいわね。その子はお名前何ていうのかしら? レインさんのお知り合い?」

「この子は訳合って俺達と旅をすることになって一緒にいるんです。呼ぶ時はみゅーちゃんって呼んであげてください。人見知りなのであんまりしゃべろうとはしませんが、いい子なんで悪く思わないでください」

「そうなのね。みゅーちゃん、よろしくね」

「みゅー」

 

 良かった。無視はしなかったな。人前で口利くなんて本当に珍しい。ブルーのお母さんはそんなにキライじゃないみたいだ。助かった。

 

 その後ブルーの口添えでホントにここで泊めてもらえることになった。話も一段落したので俺達は荷物を置くために今夜泊まる部屋に案内してもらった。

 

「あ、お母さん、わたし達はわたしの部屋にまとめて一緒でいいわよ。いつも一緒に寝ているから」

「え?……でも、他にもベッドとか余っているわよ?」

「一緒がいいの。夜は楽しみがあるから。ねー、みゅーちゃん」

「みゅみゅー、楽しみなの」

「楽しみって……あなた達、もうそんな……」

 

 ちょっと!? ブルー何言ってんの!? なんでわざわざそんな言い方!? みゅーも便乗するな! 当然俺は必死で首を横に振って否定した。

 

「違う違う! 違いますから! というか、ブルーも紛らわしいこと言うな!」

「何が?」

 

 こいつ、まさか今の無自覚?! 何もわからないで言ったのか!? 偶然……! この表情で演技だったらもう舞台女優になればいいと思う。

 

「どういうことなんです?」

 

 敬語こそ残っているがお母さんちょっと声が低くなっている。怖ぁぁっ! 下手な事言ったらガチでキレそうな顔だ。

 

「実はですね、みゅーが寝つけなかったのが始まりで、いつもこの2人に寝る前におとぎばなし? みたいなのを聞かせてあげているんです。2人とも聞いたことのない話だからえらく気に入ったみたいで」

「おとぎばなし! まぁ、そんなことまでしているの。なんというか、師匠というよりもうお兄さん、いや、お父さんみたいな感じね」

「まぁ、それに近いですね。家事やら料理やらもしていますし」

「え……? じゃあブルーは何をしているの?」

 

 今度は振り返ってブルーの方を見て言った。

 

「え、わ、わたしは……まぁ……あはは」

「あんたっ! まさか何にもしてないの?! バトルの手解きをしてもらって、身の回りのことも、寝る時も……。あぁ、なんてことっ! もっとちゃんと家事も教えておくべきだったわね! いっつもバトルバトルでそれ以外何にも興味ないから結局教えずじまいだったのがこんなところで……」

「ごめんなさい」

「ごめんなさいじゃないでしょ! それはレインさんに言いなさいっ! これからはあんたもちゃんと手伝いぐらいはしなさい! いいわね!」

「うぐぅ……」

 

 怒るときつそうだな。ブルーとは迫力が違う。料理とか生活面のスキルもかなり高そうだし、ブルーみたいなだらしないのとは正反対で締めるところはしっかり締めている。性格も真面目そうでしっかり者なオーラがある。なんでこの人からブルーみたいなチャランポランが産まれたんだろう。見た目以外全然違う気がする。

 

「今日は掃除洗濯からきっちり叩き込まないとダメみたいね。動けなくなるまでその根性叩き直さないとあんたは反省しないでしょうし」

「そんな! なんでうちにいるのにそんなことしなきゃなんないのよ! うちに帰った時ぐらいたまにはゆっくりさせてよ!」

「あんたは普段から何にもしてないのにたまにもなにもないでしょ!」

「くっ……シショー、助けてよぉ」

 

 ブルー……普段俺に頼りっぱなしだから怒られてるのに俺にすがりついてどうするんだ。この人の言うように根本的に性根から叩き直さないとこのチャランポランは一生そのままだな。案の定ブルーはお母さんからさらなる怒りを買うことに。

 

「この大バカ! あんたがレインさんに頼り過ぎだから怒ってるんでしょ! 今まで一体どれだけ甘えた旅をしていたのやら……あなた自分が情けなくないの?」

「うぅ……だって……」

 

 自業自得……なんだけどやっぱりかわいそうだな。ブルーには頼みたいこともあるし一度くらいは助け船を出してやろうかな。

 

「その辺でいいんじゃないですか? ブルーも何度か手伝おうとして努力はしていましたし、役に立とうとしてくれて頑張っています。その気持ちだけで嬉しいですし、いつも十分助けられてますから構わないですよ」

「シショー!」

 

 目がキラキラしてる。ブルーにとっては地獄に仏だろう。

 

「そんな! でもさすがにここまでおんぶにだっこでは……」

「……実は少し行きたいところがあって、そこまでブルーに案内を頼みたいんです。ブルーがいた方が話もつけやすいでしょうし」

「あら、ここでわざわざ出向くような場所と言うと、オーキドさんの研究所かしら?」

「そうです。ポケモン研究の権威ですから、せっかくの機会ですし伺っておこうと思って」

「あっ、博士のところね! わたしも行くわ! ね、いいでしょ?」

「そうね。どのみち挨拶ぐらいしとかなきゃだし、一緒にいけるならたしかに丁度いいわね。ただし、帰ったら手伝いするのよ?」

「わかったわ。じゃ、さっそく行きましょ!」

 

 一刻も早くここを離れたかったのだろうな。すぐにうちを飛び出すことになった。

 

 みゅーは説得してうちに残すことにした。来ても難しい話をするだけだからと言っても傍にいたそうにしていたが、最終的についてきたらけづくろいはしないと言うと渋々諦めてくれた。

 

 恨めしそうな目で見られたが仕方ない。ウソが言えなくなるしみゅーがいたら何かと面倒だから。約束もさせたしブルーのうちは気にいったみたいだから勝手に飛び出すこともないだろう。

 




話が進まない!
なんかポケモン要素がどんどん薄くなりつつある気がします
いったいどこに向かっているのやら
なんで関係ない話の方が内容が膨らむんでしょうね




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5.届かぬ想いは両手に込めて

「さっすがシショーね。ホントに助かっちゃったわ。お母さん久しぶりでも容赦なさ過ぎよね」

「お前のそういうところ見ると心配になる気持ちもわかるな」

 

 説教攻撃から解き放たれて開口一番にこんなこと言うのは反省してない証だ。さっきはつい助けたがやっぱり反省させた方がいい気もしてきた。

 

「ちょ、ちょっと、シショーまで説教とかはやめてよ?」

「別にそんなことしない。好きにすればいいし。研究所は遠いのか?」

 

 俺からどうこう言うことはないが、次は助けないからな。

 

「いや、もうすぐよ。何しに行くの? また何か企んでるんでしょ? 絶対に目的がないと行かないもんね?」

「今すぐに帰ろうか?」

「ごめんなさい」

 

 素直でよろしい。研究所に着くとブルーの呼びかけに応じてオーキド博士が自ら出迎えてくれた。

 

「はーかせっ! わたしよー。今いるー?」

「おお、ブルーか。よく来たな。そろそろ来るんじゃないかと思って待っておったぞ。元気にしておったか?」

「えぇ、もっちろん。元気元気よ!」

「それは何よりじゃ。便りがないのは元気な証拠とは言うが、たまには元気な姿を見たいもんじゃからな」

「わたしも色々あったから遅くなっちゃって。あ、それでね、実は紹介したい人がいるの。わたしのシショーのレインよ。博士に会いたかったんですって」

 

 わざわざブルーのために待っていたということはここを留守にすることも多いのだろう。ジョウトでもけっこう見かけたし、ラジオ番組とかも持っていたから忙しそうだ。やっぱりブルーをつれてきて良かった。

 

「おお、君が噂のブルーの師匠か。話は聞いておるよ。ブルーが世話になっておるな」

「どうも初めまして。レインと言います。師匠と言っても一緒に旅をしているだけで大したことはしていません。オーキド博士の数々の功績は存じています。トレーナーとしてだけでなく研究者としても偉大な方に会えて感激です。ここへ来たのはポケモン研究の権威であるあなたとポケモンについて少しお話したいことがあったからなんです。オーキド博士の研究はどれも興味深いですから。よろしければお時間をとって頂けませんか?」

「おお、これは驚いた。師匠というにはずいぶん若いと思ったが、わしの研究に興味があるとはなかなか見どころがある。勉強熱心なのは感心じゃな。ブルーもこれぐらい人の話を聞いてくれれば良かったが……少しは見習ってほしいもんじゃな」

「えぇ……シショーがそこまで言うなんてどうしたの? なんか丁寧過ぎて怖い……博士ってそんなにすごいの? どう見ても普通のおじいちゃんにしか見えないけど。変な感じ」

「ブルー、お前仮にも基礎はオーキド博士から教わったんだろ。少しは敬意を持て」

「ブルーは昔からその調子なんじゃ。忘れずに顔見せに来ただけでも十分じゃろう」

 

 それもおそらく俺が言わなければ来てなかっただろうしな。うちでグータラする気だったのはバレバレだ。

 

「ブルーはこれからどうする?」

「わたしは庭の方で待ってるわ。帰ったらこってり絞られそうだし」

「ブルー! 帰ってきて間もないうちにまた怒られるようなことをしでかしたのか! 全く呆れ果てた奴じゃ。いつもわしの研究所を避難所代わりにしよって! どうせここにいるなら師匠さんに茶でも出してあげなさい。場所は覚えておるじゃろ?」

「げ、博士までわたしに雑用させる気!? あ、わたし用を思い出したから帰るわね」

「ブルー、寄り道したらお母さんにバラすからな」

「ぐっ!」

 

 いそいそと帰ろうとしたのでドアを閉める直前に声をかけた。これでここに留まることも道草して時間を潰すこともできない。反省するべし。ブルーもいなくなったわけだがこれで話もしやすくなった。

 

「すまんな。ホントに君には苦労をかけとるじゃろう。今わしが茶を用意するから待っておってくれ」

「ああ、別にいいですよ。話をしていればどうせ飲むことも忘れるでしょうし、もったいないですよ」

「……それもそうじゃな。わしに話があると言ったが、何か聞きたいことがあるのかな? 最初にそれを聞いておこう」

「ええ。まず……」

 

 まず知りたかったのはここでの研究の進歩具合。そしてその速度。もちろん自分で軽く調べることはしたがその筋のトップに聞けるならその方がより正確に知れる。

 

 例えばポケモンの三値の部分。どこまで本質に近づいているか。その他に技の威力や経験値、進化のレベルなどがどれほど数値化されているか。もう数値化して研究する取り組みはあるようだがどうしても乱数がからむことなので正確な割り出しはできていないようだ。

 

 乱数自体にも乱数があるような感じだからな。ゲームなら乱数1、つまり1番ダメージが多い時を基準に威力を決められる。だがここではそれが1を超えて一定値にならず上限もない。上限がないのでは基準が定まらない。その他も数値化にもかなり時間がかかりそうだ。バトルに関わることは黙っているに限る。

 

 逆に生態系などについてはずいぶん進んでいるようだ。どんどん別の地方の新種も判明して詳細な図鑑のデータも集まりつつあるのだとか。生息地とか体重大きさなどのデータはすぐに調べられるからな。ただ研究が滞っているものもあった。

 

「進化についてはレベルで進化するポケモンはすでにほぼ全てはっきりしておる。だが、中にはどうしてもわからんものもある。例えばゴローニャはよくゴローンのいる山に一緒に生息しており、その進化先であることは疑いようがないとされておるが、どのような条件で進化するかは皆目見当がついておらん。レベルではなく、進化の石のような道具による進化でもない。まだトレーナーによって進化に成功したという例は報告されていないんじゃよ」

 

 これだ。実は最も聞きたかったのはこのことだった。昔橋の番人がぼっちパを使っていた時から違和感を持っていた。あれだけ実力があるトレーナーが進化方法を知らないから、もしやとは思っていたがやっぱりか。これなら売り込める。

 

「そうですか。もし私がそれを知っていると言ったらどうしますか?」

「ん? はっはっは! 面白いことを言うのう。そんなこと子供が知っていたら世間がひっくり返るぞ」

 

 やっぱりそうか。安易に通信進化について言うのではダメだな。慎重にいかないといけない。発見した経緯とか聞かれそうなことへの説明は考えて来てある。そしてこれは俺にとって非常に重要な仕事になる。心して挑まないと。

 

「偉大な発見というのは案外偶然で見つかることも多いものです。年齢は関係ないと思いますよ。そもそもあなた方は進化について重大な勘違いをしていませんか?」

「勘違い? ふむ、それこそまさかじゃな。長年研究してきていまさらそんなこと……」

「もちろんこれまで様々なポケモンの進化体系を築き上げた功績は重々理解していますが、少々それに囚われ過ぎています。これまで全く手掛かりも見つからなかったということは根本的に何か誤りがあるということ。ならば発想を変えなくてはいけません」

「ふむ。一理あるが、ではどう変えろと?」

「野生とトレーナーのポケモンでは条件が違う場合があるということです」

「!」

「これがどういうことかわかりますか?」

「……君は何か確信があって話を進めているのじゃろう。ならば先を教えてはくれまいか?」

 

 ちょっとこっちを信用し始めてくれたかな。ここはさっさと話しを進めた方がいい。

 

「フフッ、結論から言えということですか。回りくどいのは好きじゃないですしいいでしょう。私が言いたかったのは進化条件に極めて人工的な条件が関与しうるのではないかということです」

「なるほど……。ならば野生で進化する場合を想定していれば絶対にその進化方法に辿り着かない。ゆえに今まで見つかっていなかった、そう言いたいわけじゃな? だが人工的というのはいささか曖昧過ぎる」

「話が速くて助かります。今言ったのはあくまで一般論としてです。具体的な条件に関してもすでにわかっています。例えば先程挙げたゴローニャ。あれは通信交換で進化します」

「本当かね!?」

「実際にその場面を目撃しているので間違いありません。きちんと再現性があることが証明できれば正式に学会でも認められるでしょうね。そしてこれは進化方法が未発見のポケモンについて同様に可能性がある。当然それは一通り調べてきました」

「で、その結果はどうだったんじゃ!?」

「博士、焦っちゃダメですよ。その前にお仕事の話です。この事実、公表すれば大発見になるでしょうが、実はこれを私と博士の共同での発見にして頂きたいんです」

「共同? 君個人ではなくか?」

「理由はあります。まずこれが最も大きいですが、はっきり言えば博士の名前を貸して頂きたいんです。私も実験などは入念にするので内容そのものには自信はありますが、無名の子供の発言など耳を貸す者はいない。そして半分あなたの手柄にすることで名前を借りる対価にして頂きたい。私はオーキド博士のことは人柄も見込んでお話しています。普通ならこんな発見誰かに言ったところで横取りされるのがオチですから、半分でも名前を出してもらえればそれで十分です。つまり私にとってはいわば保険。欲張って全部持っていかれるぐらいなら最初から半分渡しておこうというわけです。もちろん気休め以下の保険ですけどね」

「……君は15程に見えるが、子供とは思えんな。良くも悪くも大人びておる。そもそもこんなことただのトレーナーでは偶然見つけても正確な確証を得るまでは至らんはず。いったい何者なんじゃ?」

「これからはポケモン進化研究の末席にでも置いてもらえるといいんですがね。条件はどうですか? 口約束で十分なので了承してもらえれば他にも知っているものはすぐに教えさせて頂きますよ」

「口約束で十分ときたか。信用してないのかしてるのか。……よし、いいじゃろう。久々にいい話を聞かせてもらったし、ブルーの信頼する師匠じゃからな。その話乗った!」

「そうでなくっちゃ。じゃ、さっそく他にも挙げますよ。まず…」

 

 もちろんこの人の人柄は反則的な事情で知っている。だから無条件に信じられる。その上ブルーの口添えでここにきたし、横取りするようなマネをすればそれはマサラではみな知るところとなりここでは顔が立たなくなるだろう。

 

 また、当たり前だが本当に保険のつもりで半分手柄を差し出したわけではない。そんなこと考える人間がそれをベラベラとしゃべるわけないのは少し考えればわかる。これには色々理由がある。

 

 ひとつにはこれはアピールの意味がある。俺がバカな子供じゃないよと教えたかった。子供扱いされてそもそも話に取り合ってくれないという最悪のケースは避けたかった。なんも知らないと思われたら舐められるし、今後を踏まえてもよろしくない。

 

 そしてこの情報をこんなに安々とオーキド博士に叩き売りしたのにも理由がある。理由としてはこれが最も大きいが、正直発見した名誉とかその辺のことはどうでもいい。だから極端に言えば手柄は全部持っていかれたとしても構わない。

 

 もちろんあるに越したことはないが、本当の狙いは別にある。だが、あからさまに手柄はいらないという態度だと怪しまれる。だから半分は名前を残してほしいという姿勢は見せないといけない。いわばカモフラージュ。

 

「あと、特殊な通信交換の進化もあって、イワークとストライクはメタルコートを持たせると進化します」

「その2匹に進化先があるというのか!? いったいなんじゃ!?」

「片方はこいつです。出てこいアカサビ!」

「ッサム!」

「ハッサムか! なるほど、ジョウトのポケモンも可能性はゼロではなかったわけじゃな」

「そういうことです。もう1体はハガネール。これもジョウトですね。ここで最初の話に戻ります。野生では条件が別と言いましたが、おそらくそのポケモンが好んで生息する環境そのものが進化を促すのだと考えています。なのでハッサムの場合は野生ではジョウトでしか進化できないんでしょうね」

 

 これは推測でしかないがもちろん根拠はある。ジバコイルのようにこれに当てはまる、環境で進化する進化条件のポケモンは実際にいるからだ。そこまで教えるほどサービスする気はないけれど。

 

 このメタルコートによる進化方法を公表すること、これが真の狙い。判明すればメタルコートの高騰不可避。オーキド博士が言えば間違いないのだから、メタルコートは急激に需要が増す。昔、ほのおのいしなどが高騰した時のことを調べたがえげつない跳ね上がり方だった。

 

 メタルコートを取り扱っているのはシルフだけでその在庫も以前全て買い占めたから今は極少。俺はほのおのいしの時を超えるような高騰を引き起こす気でいる。

 

 当然目的から考えれば言うべきはハッサムの進化方法だけで十分。それは承知だが、発見の過程としては先にゴローニャ達が来るのが自然な流れ。ならそっちも報告するしかない。そして1体でも教えれば残りのフーディンとか、メタルコートならハガネールのこともすぐに調べがついてしまう。だからキングドラやポリゴン2など他の特殊な道具が必要なポケモン以外は先に全て教えておいた。出し惜しみする意味がないから。

 

 そもそも、はっきり言ってこんな知識持っているだけでは何の価値もない。金になるならさっさと使ってしまうに限る。

 

 大事なのは俺がカントーにいる間に高騰してもらうこと。そのためにはとにかくオーキド博士の名前を借りることが最も重要。それさえクリアすれば後はどうでもいい。

 

「なるほど。そう考えると筋は通るわけじゃな。よし、至急今名前の出たポケモンを取り寄せて検証に入ろう。わしの方でも確認がとれたら論文をまとめて学会へ正式に提出しよう。おっとそうじゃ、君は連絡のとれるものはあるかな?」

「そういえば通信機器は持ってないですね。……携帯とかってあるんでしょうか?」

 

 携帯というもの自体がなかったら変な事言う人間になってしまうがそれは存在するみたいだった。

 

「そうじゃな。明日わしがそれも用意しておこう。それで何かあった場合は連絡をとって貰おう」

「わかりました。ありがとうございます。勝手がわからないので助かります。ただ、こちらもポケモンリーグに出るので論文をまとめるのは早めに済ませてくださいね。その前なら基本的にいつでも連絡はとれます」

「うむ、そうじゃな。よし、それを考慮して事にあたろう。君の功績は必ずわしが正当に評価されるように努力する。期待していてくれ」

「ありがとうございます。丸投げするような形になるのにそこまで言ってもらえるなんて感謝の至りです」

「いやぁ、なんのなんの。ブルーも世話になっておるし、これだけの発見を提供してもらえばお釣りが来るほどじゃ。この新たな切り口は後進の研究者にとっても大きな役割を果たすじゃろう。間違いなくこの分野の発展に大きく貢献できるはずじゃ」

 

 すごいな。何気なく言ってるがこの人は研究全体の利益を考えているんだな。このレベルの人になると個人の功績がどうこうという次元はすでに超えているのかも。俺にはわからない感覚だな。

 

 そして話は上手くまとまりいよいよ最後になった。

 

「ありがとうございました。また機会があればお話を伺いに来てもいいですか? 最先端の話が聞けて非常に勉強させて頂けるので」

「ははは! わしのような老いぼれの話で良ければいくらでも構わんぞ。君は本当に熱心じゃが、研究者になる気はないのか? トレーナーとしても優秀なのはバッジの数を考えれば十分わかるが、全く惜しいもんだのう」

「さすがに本職の人には勝てませんよ。やはり自分にはバトルの方が水が合います。また何か発見があれば伝えさせて頂きます。では今回の件、よろしくお願いしますね」

「たしかに任された。経過は追って連絡する。今年のポケモンリーグには出れそうなのじゃろう? リーグはわしも見ておるからしっかりと頑張りたまえ」

「もちろん。リーグはぶっちぎりで優勝しますよ」

 

 話もそこそこに研究所からブルーのうちに帰ってきた。うちに入るとみゅーが玄関で待ち構えていて、俺を見るとすぐに飛びついてきた。待ちきれなかったのか?

 

「みゅーみゅー!」

「おっと! どうした? まさかずっとここで待ってたのか?」

「気配がしたからここに来たの。外に出たらダメだからここで……」

「あー……そうか。かわいいとこあるじゃん。いいつけ守って偉くなったな。ご褒美に今からけづくろいしてあげようか?」

「みゅ!? うんうん!!」

「みゅーちゃん……またあれやってぇ……たんないのぉ……」

「いっ!?」

 

 突然奥からフラフラしながらヤバイ状態のブルーが現れた。何があったらこんな短時間でここまで様変わりするんだ。しゃべってる内容も何かヤバくない?

 

「んみゅ? またー? 仕方ないの……こっちきて。じゃあ入れるからね。みゅみゅっと!」

「んんー!! キタキタキター!! ブルーちゃん復活ッ! 体力満タン! ゲンキハツラツ!」

 

 それだけ言うとすぐに戻っていった。なんだったんだ……。

 

「ブルーは家事の手伝いですぐにあんなふうにぐったりしちゃうからみゅーがいたみわけで体力入れてあげて何回も元気にしてあげたの」

「みゅーってホント便利だよな」

 

 様子を覗くと掃除洗濯などを徹底的にやらされていた。ブルーはムダに動きがせわしない。目をグルグルさせて、あれじゃすぐバテるな。

 

「ねーねー、みゅーおなかもすいたの」

「あっ、そうだな。じゃ何か俺が…」

「待ってください。それなら今日は私がごちそうしますよ。レインさんはゆっくり寛いでいってください。ブルー、あんたは一緒に来て手伝いなさい」

 

 話を聞いていたようだ。戻って来たことを伝えてなかったので軽く会釈してから答えた。

 

「いいんですか? じゃあお言葉に甘えて、その間みゅーのけづくろいしてようか」

「みゅふーっ!」

「いいなー。わたしは手伝いなのに」

 

 しばらくするとぐったりしたブルーが呼びに来て、晩御飯を御馳走になった。団らんなんてこっちに来てから初めてのことで、料理のおいしさ以上に心が温まった。ところどころ変な形の具材があったのはご愛敬。

 

「みゅー、ご馳走様。とってもおいしかったの。ありがとう」

「はい、お粗末さま。みゅーちゃんはお行儀が良くて偉いわね」

「みゅみゅ。全部レインが教えてくれたの。もうお箸も使えるの」

「みゅーちゃんは幸せ者ね。さて、レインさん、お風呂はどうしますか。もうわかしてありますが」

「みゅー! お風呂いきたい! レイン、早くいこうよ!」

「あら、ふたりは一緒に入るの?」

「そ、そうしてもらえるとありがたいです」

「じゃあ私達はその後にしましょう。ゆっくりしてくださいね」

 

 微笑ましい、という感じで見送ってもらえたがまぁギリギリだな……。みゅーも早く一人立ちさせないと。風呂から上がってブルー達のところに行くと、親子2人で何かしゃべっていた。

 

「お、噂をすれば。どう、湯加減は大丈夫でしたか?」

「いい湯加減でした。な、みゅー」

「うん。気持ち良かった」

「ブルー、次お前も入ってこいよ、旅の疲れが癒されるぞ」

「うん……」

 

 どうしたんだ? 俺の方を見て急に顔真っ赤にして。俺は当然もう服も着ているし、赤くなる理由がないんだが。

 

「気にしないで。良かったらブルーが入っている間、旅のことを教えてもらえないかしら」

「ええ、まぁいいですけど」

 

 この人ブルーが変な理由なんか知っているな。でも聞き出すのも面倒だし、ブルーがおかしいのはいつもだから気にすることでもないか。

 

 その後は旅の話のはずがなぜか俺がブルーをどう思っているかとかブルーはどこがいいとかやはりブルーの親だからなのかブルー絡みの話に何度も脱線した。ちなみにみゅーはまたジュースをおいしそうに飲んでいた。

 

「あーさっぱりした。お母さん、あがったわよ」

「じゃ、あとは3人でね」

 

 今度はいつもと同じ、ブルーと3人か。ゆっくり顔を合わせて喋る機会は意外と少ない。たいてい喋るのは歩きながらだし食べている時はみゅーに気配りしている。

 

「あの、シショー、ちょっと話があるんだけど」

「なんだ? あっ、みゅー! ストローでブクブクするな! 行儀悪い!」

「だって、おもしろいもん」

「あの、ちょっと聞いてよ!」

「あ、悪い悪い。で、何?」

 

  ストローを摘まむとそのままぷっくりとほっぺが膨らみ不満顔になるが、ストロー遊びを諦めてまた勝手におかわりを入れておいしそうに飲み始めた。

 

 ブルーは大事なことなのか真剣そうな顔をしている。改めて言うとややしゃべりにくそうにしていた。なんかごめん。ちょっとはフォローしてあげよう。

 

「ぐっ。いや、それはその、つまり……わたしってほらっ、一応弟子だし、感謝してて、尊敬とかしてるから……シショーのこと好き、なの。だから…」

「改まって、いきなりどうしたんだ? そんなの知ってるって」

「えっ! ウソでしょ!?」

「みゅー。みゅーもレイン好きー」

「ん、ありがと。俺もだからね」

「あ、そういう。そうじゃなくて、だから……」

「わかってる。ブルーが俺に対して言葉にしなくても感謝していることも、尊敬してくれていることも。今日料理とかして苦労して思い知らされて、さっきお母さんにお礼を言えとでも言われたんだろ。どうせそんなところだろ? 様子変だったし。別にいいよ。これからもちゃんと何でもしてやるから。無理して手伝いまでしようとしなくていい。それに、感謝しているのは俺もだから」

「え? なんで?」

 

 これは本心だ。ブルーには感謝している。感謝っていうのは理屈じゃないって今まで生きて来て初めてわかった。いっつも散々苦労させられて、振り回されっぱなしだけど、それでも一緒にいるだけで嬉しい。

 

 それにブルーの気持ちもわからなくはない。感謝はしていても、それを当たり前に受けて生きていると、改めてお礼を言うのはとても難しい。頭でわかっていても出来ないことってやっぱりある。こうして口にしてくれるだけでも俺には十分だ。

 

 それに、恩義を感じているなら俺ではなく別の誰かに返してほしい。ブルーにもきっと導いてあげるべき誰かがいるはずだから。

 

「俺もブルーがいて毎日楽しいから。こうしてしゃべることも、色んなことを教えるのも、バトルすることも、冒険することも、全部が俺にとってかけがえのない思い出。最初は独りで生きようって思っていたのに、今じゃ考えられない。ありきたりな言葉だけど、本当にありがとう。これからもよろしくな」

「あ……あうぅ。これからも、す、末永く、よろしくおねがいしましゅ」

「みゅーも!」

「はいはい、ホントにかわいいなーもう」

 

 ブルーは耳まで真っ赤だ。ちょっと最後に噛んじゃったからかな。こんなに人って赤くなるのか。

 

「ねぇ、本当に……ずっとそばにいてほしい。ずっと……どこにもいかないで」

「……」

 

 たった一言、どこにもいくなと言われただけで、それまでの幸せな気分はしぼんでいき、先への憂いが心の中を支配して熱を失った。どうしようもなく今朝海辺で蘇ってきた昔の事を思い出してしまった。ついさっきまでここからいなくなることを考えていたなんてとてもじゃないが言えない。ブルーの言葉に対しはっきりと答えることはできず、ただ沈黙することしかできなかった。

 

 俺が急に黙ってしまい不思議そうなブルーに精一杯の作り笑いで応え、ポンポン、と頭を叩いて離れた。

 

「みゅー、レイン? どうしたの、急に冷たい…」

「さ、今日はもう寝て、明日からまたジム巡りだ。しっかり休んどかないとな」

 

 それ以上言われるのがイヤで強引に話を打ち切った。……俺はブルー達とは住んでいた世界が違う。最初からずっと一緒なんてことはありえない。

 

「シショー……そうね。今日は早く寝ましょうか」

「みゅー」

 

 幸いにもブルーにそれ以上は追及されなかった。潮の香りを思い出しながら、夢の間だけでもその記憶に浸れるように祈りながら眠りについた。

 

 ◆

 

 次の日、3人で一緒のベッドにすし詰めだった上、みゅーの寝相が悪かったりしたせいで起きたら体勢がすごいことになっていた。

 

 真ん中にいたはずのみゅーは俺の上に乗り上げていて、絶対逃がさないと言わんばかりに俺の顔を抱え込むようにして覆い被さっていた。息苦しくなかったのが不思議な状態だ。客観的に見て窒息死を免れたのは奇跡だろう。それぐらいガッチリつかまれていた。

 

 ブルーは俺の心臓の辺りに顔をうずめてぴったりとくっついていた。しかも左手が……恐らく掴みやすいところにあったからだろう……いつぞやのように首をつかんでおり、右手に至っては体の下に回り込み、心臓辺りを背中から鷲掴みしているように思えて、文字通り心臓がドキッとした……ストーカーに心臓握られて身動き出来なくなるのを連想してしまった。こいつらくっつき方が怖過ぎる。昨日あんなことを言われているし。

 

 恐る恐る2人を起こし、いつもしているけづくろいをしてみゅーの髪をといてきれいにし終わると、ブルーのお母さんに呼ばれて朝食を食べた。

 

「ねぇ、みゅーちゃん朝からものすごくきれいねぇ。その髪よくお手入れされているみたいだけど、自分でやってるの?」

「んみゅ。んっ。レインが」

「え、レインさんがしているの?」

「いつもポケモンの毛並みを整えたりするので慣れてますから。とっても喜んでくれるのできれいにしてあげるのが好きなんですよ。さすがにブルーにはしてないですけど」

「どうりで、ブルーがボサボサでこの子がサラサラなわけね。ブルー、あなたこれを見て何も思わないの?」

 

  みゅーの髪を褒められて嬉しくなった。自分が褒められたような気分だ。

 

「だって、めんどくさいし、わかんないもん。仕方ないでしょ」

「もう……ホントにあんたは! 女の子とは思えないわね。教えてもらえばいいじゃない」

「……」

「教えてもこればっかりは……」

「はぁ……もう~全くっ! でもみゅーちゃんはいいわね。こんなにきれいにセットしてくれる人がいて。服とかもオシャレしたらもっとかわいくなるんじゃないかしら。良かったらブルーのお古あげましょうか?」

「みゅー? お洋服くれるの?」

「……あ! それいい! ぜひください!」

 

 服を貰った後、雑談もそこそこにそろそろお暇することにした。ずっとお世話になりっぱなしというわけにもいかないし、まだ先は残っている。

 

「本当にもう行ってしまうのね。ゆっくりしてもいいのに。あなた達、気をつけて……無事に帰ってきてね」

「わかってるわよ。大丈夫だって! 次帰ったらわたしはチャンピオンになってるから楽しみにしていてっ!」

 

 善は急げ。心配そうに見送るブルーのお母さんに別れを告げた。ブルーはチャンピオンになると大言をはいたが、それは以前の空元気とは違う。実力に裏打ちされた自信に満ちた表情をしている。もう笑われることもなく、しっかり応援するからね、と言われて逆にブルーの方が目を潤ませていた。ブルーは頑張らなくちゃいけなくなったな。

 




いいこと言うときとわるいことするときの落差がすごい

メタルコートに関してはやってることが畜生なのはもはやいまさらですよね

野生だと進化条件が違う説は突拍子もないようで実はこれしかありえないんじゃないかと思っています
まあ“つうしんケーブル”を与えると進化するとかも考えましたが野にケーブルだけ落ちてるのも変ですしやめました
実際の設定もレインの予想と同じにするつもりです

(国外なので)どうでもいいですがマーイーカってどうやって進化させるんでしょうね
野生云々抜きで不可能な気が
どうするんでしょうか


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6.旅ゆけば トキワの町に リーグの香り

 マサラタウンにサヨナラバイバイして最後のジムのあるトキワシティへ向かって幾日。歩みを進めていると、途中の町で前から歩いてきたエリートトレーナーの男女のアベックに声をかけられた。方向的にこの2人はトキワの方から来たのかも。

 

「やぁ君達、良かったら僕らとバトルしないかい?」

「げっ、エリートトレーナー! わたしはちょっと……シショー、たまには譲るわよ」

「おいおい、えらく弱気だな」

「だって、わたしエリートってなんか苦手なのよ。ここらってなんかいつになく周りにいっぱい人もいるから緊張しそうだし」

「ランク8に勝ったのにいまさら過ぎる。さすがに実力ならお前の方が強いはずだ。それにリーグならギャラリーはこの比じゃないだろ」

「わかってるわよ! でも苦手なんだもん、しょーがないじゃないっ」

 

 普段強いクセに苦手な奴の前だと何もできないとか……こおりタイプに睨まれたドラゴンタイプにでもなったのか。ガブはめざ氷なら耐えるけど。

 

「じゃ、俺が相手しようかね。おい、フルバトルでいいのか?」

「いや、実はちょっとおもしろい提案があるんだ」

「提案?」

「この辺りじゃあんまり知られてないけど、マルチバトルっていうルールがあってね。ちょうどお互い2人だし、どうかな?」

「あれ、2人?」

「ああ、そこのお嬢さんはトレーナーじゃないって僕のエリートの勘が告げているのでね」

 

 なんじゃそれ。エリートさんにはレーダーでも付いているのか。……冗談で言ったけど、自分がポケモンレーダーみたいなもの付いているし案外本当にあったりして。

 

「わたしはそういう意味で言ったんじゃないんだけど……シショー、マルチバトルって何?」

 

 自分は戦いたくなかったって意味合いなんだろうな。わかりやすい。今エリートでなく俺に聞いたのもあいつらが苦手だからなのかな。どんだけイヤなんだよ。

 

「そうだなぁ。ダブルと同じならホウエンとかの方だと盛んなんじゃないか? 一言で言えばタッグマッチだ。4人が2人ずつのチームに別れて1匹ずつ出し合い、2vs2で戦うチーム戦。先に2人とも手持ちが全滅した方が負け。ダブルバトルは1人ずつが各々2匹出し合うんだが、マルチだと別々のトレーナーがポケモンに指示を出すから単に2vs2というだけでなく、トレーナー同士のコンビネーションが重要だろうし、2匹同時に場にポケモンがいるからシングルとはまた違った戦い方が必要になる。1体を集中狙いするとか、味方のサポートをすることもできる。ダブル専用の技や戦術も当然ある」

「へぇー。君、意外と詳しいね。僕らはホウエンからこっちに来ていて、リーグ戦の前に気分転換にダブルバトルをしたくなってね。ぜひお願いするよ」

「……まぁ物は試しだ。ブルー、やるだけやってみよう。俺がリードしてやるから気楽にやってみたらどうだ?」

「シショーがリードして初の共同作業……いいわ、やってやろうじゃない!」

 

 何かブツブツ言ってから急にやる気出してきた。よくわからん奴だな。

 

「決まりのようだね。おっと、ギャラリーも増えてきた。じゃ、勝負は全員あらかじめ決めておいた2匹ずつということにしよう。あんまり勝負が長引くとスマートではないからね。なので交代もなし。これでどうだい?」

「……交換なしか。よし、わかった。ブルー、耳貸せ」

 

 ダブルならまずは1体ずつ潰すのが基本。攻撃するのは俺がブルーに全て合わせれば連携は必ず取れる。ブルーが変な事すればきついがたぶん大丈夫だろう。あとはブルーは耐久力の高いポケモンでなるだけ耐えてもらい、隙を見てあの技を使う。

 

「ふむふむ……わかったわ。じゃあこの2匹にしよっと」

「ねぇ、みゅーもバトル!」

「みゅーはボールに入ってないとダメだ。悪いけど今回は応援に回ってくれ」

「みゅー。残念だけど、じゃあいっぱい応援する」

「作戦タイムかしら? シンと私のコンビは簡単には倒せないわよ?」

「さて、それはどうかな」

 

 女エリートが心理フェイズに入ってきた。しかも俺じゃ手応えなしとみてか標的をブルーへシフトしてきた。

 

「そっちの子は緊張しているみたいだけど、大丈夫かな?」

「な、なめないでよ! これでもわたしだってバッジ7つよ!」

「あら、私達は8つよ? おチビちゃん」

「ぐぐぅ……シショーッ!」

 

 あっさり降参かよ。情けないなぁ。

 

「大丈夫、任せとけ。俺がなんとかしてやるから心配するな」

「みゅーも応援しているの。だから頑張って」

「あ、ありがとう……頑張ってみる!」

「それじゃ、そろそろ始めようか。バトル開始だ、いくぞ!」

 

 4人同時にボールを投げた。

 

 シン ニドキング Lv48 146-124-89-87-87-97 

 カヨ ニドクイン Lv48 155-114-99-79-97-89 

 レイン ユーレイ Lv45 121-74-70-180-66-146

 ブルー ラプラス Lv50 236-91-95-105-161-78

 

 

 ニド夫妻かよ。……みせつけてんの? そういえばチャンピオンロードにこんなアベックがいたような気もする。……今はそれよりバトルに集中するか。レベルもリーグランカーらしくかなりの水準だ。油断できない。

 

「「てだすけ」」

「あっちにちょうはつ」

「ニドクインにれいとうビーム!」

 

 あ、バカ! なんでそっちなんだよ! 「わたし種族値覚えてきちゃったわー」とか言ってたから信頼したのにどうなってんだ! そっちの方が明らかに耐久力高いだろうが!

 

 この2体なら絶対ニドキングの方が倒しやすく攻撃力も高い。優先して狙うべきだ。読まれて“まもら”れてもニドクインなら大した攻撃もないから痛くない。

 

 逆にニドクインはダブルであえて使うなら補助寄りのはず。だからブルーに合わせて遅らせて攻撃するより最初はブルーの様子見もかねてそっちに“ちょうはつ”した方がいいと思ったわけだ。

 

 でもこれじゃ攻撃した方が良かったし先にニドクインから倒すしかなくなった。他人に合わせるのってやっぱり面倒だな……。ブルーじゃ俺に合わせられないだろうから仕方ないけれど。

 

 しかも相手は初手で合図もなくお互いに“てだすけ”。……慣れてるな。優先度は“ちょうはつ”より上だから止められない。この最初の動きだけ見てもなめてかからない方がいいと思わされた。

 

「ちょうはつ……攻撃技しか出せなくする技か。ゴーストタイプだし面倒だな。カヨ、仕方ない。あのゲンガーをなんとかしよう」

「オッケー、かみくだく」

「10まんボルト」

 

 2匹共誰に技を出すか指示してないからあからさまにこっち狙いか。さすがに会話の時点から実は仕込みでこれが裏をかくための偽装だったら丸損するがさすがにないだろう。ここは“まもる”以外ありえない。裏をかかれたらここから警戒度を上げるしかない。

 

「まもる」

「ヤッバ! ラーちゃん、れいとうビームで助けてあげてっ」

 

 ハァ!? “まもる”で攻撃を引きつけている間にブルーに攻撃してもらおうとしたが、攻撃を相殺させてしまい失敗した。ったく、なんで俺が技名をバカみたいに口に出してるかわかってんのか? 俺が“まもる”使ってるのにかばってどうすんだよ。全然連携がとれてない。

 

 おそらくブルーは自分が動くのに精一杯で周りの状況は全く頭に入ってないんだろうな。こいつは慣れてないこと、初めてすること、同時にすること、などが絡むとすぐにテンパってしまう。今までそうだった。

 

 ならばと声をかけて俺の狙いを伝えるとまさに今のように簡単に相手に読まれて丸損することになる。だから今ブルーに何かアドバイスすることはできない。……テレパシー使いたい!

 

「あれ、よけいなことしちゃった?」

「もらい、ダブル10まんボルトだ!」

「サイコキネシス、ニドクインへ」

 

 ブルーが呆けているのを見逃さず男エリートがニドクインまでまとめて指示を出してきた。そんなこともできるのか。指示がかなり速い。ブルーは反応できていないが俺はすかさず指示を出した。

 

 体力が減っているニドクインの方だけ先んじて倒したが片方の“10まんボルト”はラプラスが受けた。“てだすけ”補正もあったはずだがラプラスはかなり余力を残して悠々耐えた。ダメージは半分どころか、四分の一ってところだな。

 

「なんて耐久力だ。全然効いてないな。効果は抜群のはずだが」

「私のニドクインがやられるなんて、恐ろしい攻撃力だわ」

「次は?」

「余裕ぶっちゃって、かわいくないわね。次はこの子よ、ギャロップ!」

 

 またレベル48か。これがアベレージなのか。レベル高いなぁ。これで相手は4体のうちの3体目、ここがベストのタイミングだな。

 

「ブルー、やるぞ。ゲンガー、まもる」

「ラーちゃん、ほろびのうた!」

「なんだって!!」

「ほろびのうたですって!?」

 

 これが切り札。決まれば確実に2体倒し、最後の1体は2vs1なら圧倒できる。ギャロップに補助技はないようだし、あとは耐えるだけでいい。ひたすら攻撃を避けて、相殺し、“まもり”ながら、時間を稼いで3体同時ノックアウトになった。交代できないルールだからな。

 

「徹底して守備に入られると本当にどうしようもない。ガードが固過ぎる」

「ごめん、私やられちゃった。あとは頼んだわ」

「ああ、なんとかするさ。いけ、キュウコン!」

「いって、フーちゃん!」

 

 相性悪いな。あとからメンバーを変えられないから仕方ないが、まぁそれでも勝てる。

 

「オーバーヒート!」

「フーちゃん!?」

 

 普通にやれば3対1なので余裕で勝てる。そう思いしばらく技を撃ち合っていたが、なぜか焦っていたブルーは攻撃一辺倒で格好の的になって簡単にやられてしまい、結局俺が片を付けた。相性悪いんだから無理せず守備に徹すればいいのに。ブルーは終始行動が謎だったな。

 

「いいバトルだったよ。カントーでこんなにいいマルチバトルができるとは思わなかったよ。ありがとう。良ければまた手合わせしてくれ」

「あなた達もその実力からして今年からリーグに参加することになるでしょうね。もし当たったらお手柔らかにね」

 

 最後までさわやかなエリートだな。そのエリートと別れ、ギャラリーも散開してようやくブルーは緊張を解いて俺に言った。

 

「マルチバトルって難しいわ。わたし、なんか足引っ張ってばっかだった」

「……いや、ほろびのうたのおかげで勝ったようなものだし、ほとんどお前の手柄だ。それに初めてやったにしては上出来だろう」

「……ウソなの」

「ううぅぅっ! もう、みゅーちゃんっ、そこは黙っててよー!」

「あ、ごめんなの。今のはブルーのことかばってたのね。でもウソだったんだもん」

「みゅーって罪深いな。たしかに本当は俺から見るとブルーはツッコミたい行動が多過ぎてあれだったが、リーグではマルチバトルなんてないから気にするな」

「はぁ~。ため息しか出ないわよ。いいとこ見せたかったのに……。ねぇ、それじゃあリーグ終わってからでいいから、今度マルチバトルとか他のバトルも教えてよ」

「……気が向いたらな。さ、今日は早めにトキワのポケセンまで急ごう。満員で泊まれなくなったらマズイし、ジム戦も控えているから早めに回復も必要だ」

 

 ブルーの言葉に対してはあえて明言はせず、先を急がせた。本当はいざとなれば飛んでいけるから“歩くことを”急ぐ必要は全くないんだけどな。急ぐ必要があるのは事実だけど。

 

 ◆

 

 トキワに到着して俺達はとうとう最後のジムへ向かうわけだが、このジムはリーダーがロケット団のボス、サカキだった。これがどうなっているのかわからないが、ブルー達に言うわけにもいかないし、トキワの方から来たと思われるエリートは特に変わった様子もなかった。問題も起きていなさそうだし、あんまり気にしないで出発した。

 

「ここね。シショー、早く入りましょう」

「……ああ」

 

 立札がないな……。

 

 普通と違うところはないか注意していたのですぐに気づいた。何かイレギュラーが起こりそうな気配。イヤな感じがする。エスパーの予感なのか。いきなりサカキ襲来とかないよな。いざとなればこの2人は守ってやらないと……。

 

 入ると中はもぬけのから。ただジムの中には見慣れない立札があった。こんなこと今までなかったから初めてだ。……カラクリ屋敷に掛け軸はあったけど。

 

「何これ。えーっと……受付の機械にトレーナーカードを入れて黙して立ち去れ、だって。どういうこと?」

「他に何もないんだ、やってみるしかないだろうな。どいてろ、俺が先にやる」

 

 言われた通りにすると、カランと音がして何かが出て来た。なんと、出て来たのはグリーンバッジ! まさかこんなことになるとは。とりあえず俺の予感なんていつも当てにならないことを思い出した。完全に杞憂だ。

 

「これってどういうこと?」

「たしかなのは、これで俺達はリーグ出場資格を得たということ。申請はトキワでするらしいから早く済ませにいくぞ」

「え……ええーーっっ!! なんかあっけなさ過ぎて実感湧かないじゃないっ!! 最後はこう、なんか己の全てを賭けた、凄まじく壮絶なギリギリの接戦を辛くも辛勝するみたいな的な……ね、なんかそういうのあるじゃない?」

 

 日本語おかしいからな、だいぶ。納得いかない気持ちはよく伝わって来たけど。

 

「わかったから、お前もはよこれにカード入れろ」

「……はーい」

 

 おそらくジムリーダー不在による緊急措置だろう。このジムに関しては今はリーグ間近で駆け込みがあるから休業するわけにもいかない。だから今からリーグが始まるまでの短い間だけこうなっているんだろう。

 

 経験値稼ぎができないのは痛いっちゃ痛いが、すでに十分に上げてきたし、今まで散々ランク7や8とやったから1回ぐらいは休んでもいいか。もうランク8でも格上とは言いづらいから大幅な経験値アップは望めないわけだし。

 

 サカキがいなくなったのは見たところつい最近のはずだ。とするとレッドとグリーン、あいつら2人だけでやりやがったな。さすがというべきか。

 

 これでロケット団はカントーの拠点を完全に失ったし、団員自体もシルフの時に大幅に削られている。ここまでくれば解散は免れないだろう。一件落着と見ていい。やっぱり放っておいても奴らは滅びる運命だったか。これでロケット団に狙われたりすることも以後ないだろう。俺は何かと恨みを買っているだろうからひと安心だな。

 




最後は不戦勝でした
先を越されたので仕方ないですね
レッド達の方は書く予定はないです
サカキ戦はもうシルフで本気出したのでいいですよね……


一応確認しますがトレーナーの格付けは上から

1四天王
2ジムリーダー
3その他マスターランク
4リーグランク

となります(ちなみに四天王はチャンピオン含めて4人とします)

ジムリーダーは2番手です
マスターランクの中から選ばれた人間がやっているので当然ですね
なのでランク8は本気ではないです
よってエリートトレーナーがジムリーダーのランク8のレベルを超えていてもおかしくないです
じゃあ今まであれは本気だーと言ってたのはなんじゃいという話ですが、その話ちゃんとソースはありますか……?
ランク8が全力なんて誰が言ったんですか?
頭エリカなんてことはないでしょうか。

逆にクロバットとかフーディンはジムリーダーの独断によるイレギュラーです
これは逆に本気過ぎ
一応上限は45付近までって決まりがあるのに無視していますね
ちゃんとルールぐらい守ってよ……

サカキやナツメ、今回のエリートのレベルを見ればリーグのレベルは見えてくると思います
今回のバトルはリーグレベルの予告でもあったわけですね

マルチバトルでは交代なしの縛りがありましたね
実は今までも何だかんだ相手の交代はほとんどない状況になっていました
気になっていた方もいらっしゃるでしょう
交代はどうしても扱いづらいんですよね

無償で可能だと千日手になりますし、交代際に行動できるとするとどこまで許されるか曖昧ですよね
次のポケモンを悩む間に補助技使うとか交代で攻撃を避けまくるとか無法地帯と化しそうです

そもそもアニメとかポケスペとかのリアル仕様のルールがよくわからないんですよね
リーグとかで明らかに交換すれば有利になれる場面でそれを怠るのは控えめに言って敗退行為だと思うんですが……

この辺はリーグのルールではっきりさせたいですね
つまりゆくゆくは交代も戦術として確立させたいです

他にも道具とかフィールドとかこれまで割と軽視されていた要素がいくつも残っていますね
この辺もルールをしっかり決めてリーグで実装していきたいです
あれこれ手を出すと大変なのでどこまで実現できるかわかりませんが

こうしてみるとこれまでのバトルはまだ完全ではなくてまだ序の口という感じですよね
新要素追加の伸びしろをあえてリーグまで残していたわけですよ(震え)


あともうひとつ自分の考えている理想があるんですよね
アマからプロへのランクアップです
リーグランクは飾りじゃない!
ここからはプロリーグでのバトルになります

実力が均衡してる中で必勝が求められるトーナメントリーグ
レベル上げは皆もう限界、なら次に何をするでしょうか

コンマ一秒の奪い合いや、腹の探り合い
能力の最適化や相手のクセなどの研究

そういうのが欲しいかなと思います
むしろ勝ちたかったらその辺は必然的に突き詰めようと思うはずですよ

例えばマスターならメタ張って氷や悪タイプを用意する
相手のメンバーや技の研究をする(わかりやすいのだと“はかいこうせん”が穴とか調べる)

本当は努力値の効率化とか指示の伝達の効率化とかもレインみたいにするべきですができないことは仕方ないですね

一般トレーナーから見ればよくそこまでやるなぁとなってもおかしくないですが、マスターレベルがこの程度を怠慢してるようではダメでしょう
何年もリーグで戦って来て今までレベル上げ以外何をしてたんやって話ですので

そもそもの話、「はかいこうせん連打のカイリュー」とか「ギガインパクト連打のガブリアス」などが国内で最強って思うと悲しくなってきませんか?
競技人口=ほぼ国民の数といえるほど多いのに、その頂点がただのノーキンでしたなんてことが許されるでしょうか、いや、許されません!(強い反語)


とにかく言いたかったのは全部盛り込むのは厳しいでしょうがそういう感じを目指したいです(できるとは言ってません)

……たまにはポケモンらしからぬガチバトルをする主人公がいてもいいですよね


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7.ポケモンリーグへの道

長かったなぁ


 不戦勝のモヤモヤ気分は“きりばらい”してポケセンに戻ることに。そこですぐにポケモンリーグの参加登録を行った。登録はすぐに完了。その後リーグについて説明を受けた。

 

 普通はやっぱりこういう説明があるのが当たり前みたいだ。説明書なしでゲームスタートはおかしいよなぁ。自分のことだけど。

 

 しかもその説明は初っ端から知らないことばかりで面食らってしまった。

 

 まず驚いたのは登録の期限が年内で締切だったこと。そもそも締切というものが発想になかった。ジムバッジさえあればすぐ挑戦できるという認識は過ちだった。ちょっと危なかったか。ギアナで長居し過ぎたらアウトだった。

 

「あんまり余裕はなかったんだな。偶然だけど早めに来ておいて良かった良かった」

「え? まさか締切日程把握してなかったわけじゃないわよね?」

「……お前は知ってたのか?」

「トレーナーなら常識だと思うんだけど……本気で言ってるの?」

 

 これは常識なのか。なんでそんなこと知っているんだ。いや、本気で目指しているなら知ってない方が変か。そんなもん元々はなかったんだから仕方ないだろ。

 

 次の話、リーグの方式もゲームに慣れている身としては衝撃だった。なんとチャレンジャー四天王勝ち抜き戦ではなく普通に全てトーナメント方式らしい。

 

「じゃ、マスターリーグの方とかで四天王勝ち抜きっていうのはないのか? 4連戦に勝たないとチャンピオンに挑めないみたいな」

「はぁ? シショー何言ってんの? リーグと同じに決まってるでしょ。だいたい、そんなんじゃ四天王はチャンピオンに挑めないじゃない。そもそもチャンピオン含めて四天王だし。ホントにどうしたの? 大丈夫? 考えたらわかるでしょ?」

 

 確かに言われてみればそうだ。なんで気づかなかったんだろうか。そういや昔リーグはトーナメント戦ってどっかで聞いた気もする。イメージが先行し過ぎて記憶がごちゃごちゃになっていた。考えたらわかるでしょは言われる側になるとダメージあるな……。

 

「もう説明はいい。あと、場所は?」

「……もちろんセキエイ高原ですよ。セキエイ大会ですから」

 

 ジョーイも何聞いてんだこいつって目に変わった。そのセキエイ高原の場所が知ってる通りか確認しようとしただけなんだけど。みんな知ってるもんなのか? もうこれどうしろっていうの?

 

「そこへはどうやっていくかを知りたいんだ。チャンピオンロードを勝手に越えていけばいいのか?」

「……? タウンマップで場所はわかると思いますが、ここから北西に進んで道標を頼りに行けばまず迷うことはないと思います。もし飛行ポケモンがいれば建物は目立ちますし距離的にも本当にすぐそこです」

「えっ。ふふっ、何それチャンピオンロードって……ふふ」

「いや、こう、チャレンジャーの試練の洞窟みたいな……」

「そんなのあっても空飛んだら終わりじゃない……だいたいそのネーミング……やっぱシショーはシショー……ふふはは、もうダメッ。真顔でボケるのやめてよ、シュール過ぎて笑っちゃう、お腹痛い!」

 

 知らないんだからどうしようもないだろ! もう絶対なんもいわねー!

 

 みゅーがポンポンと背中を叩いてなぐさめてくれたのだけが救いだった。

 

 勝手に説明だけ続いた。トーナメントの対戦者はギリギリまでわからない仕様らしく、試合の前日まで不明のままらしい。年明けるとトレーナーはセキエイに集まり始めるらしい。細かいルールとかの説明は本部でしてもらえるそうだ。それまで早めにリーグに来た者はこの辺で勝負したり、依頼をしたり、情報をやりとりしたりするらしい。この前勝負したエリートもリーグを控えてここらを徘徊していたということだろう。

 

 会場では人気選手のグッズとかもあり、本部だとポケモンの専用道具とか売ってたり選手間でも道具などの売り買いやトレードとかもあったりしてにぎわうらしい。戦闘用の道具はそろそろ欲しいな。

 

 選手はだいたい200人、観客はカントー中からたくさん来るらしい。一年で最大のビッグイベントになるようだ。テレビ放送があるって聞いていたから盛り上がっているとは予想していたがここまでか。やっぱりここではポケモンバトルが人々の中心にあるんだな。

 

 説明もだいたい聞いて、これからのことについて考えた。ここらのトレーナーを狩りまくってレベル上げをしてもいいが、話の中で出て来た情報というのが気になった。

 

 情報が何のことなのか詳しくはまだ聞けなかったが、あんまり目立つことは避けた方が無難かもしれない。大会は200人だから7,8回戦う計算だしどのみち対策はされるだろうが、無闇に手の内を晒す理由もない。

 

 そもそもレベル的にもトレーナー狩りはあまりおいしくないし、みゅーがいるから身内で競い合った方が経験値は入る。ふしぎなアメを解禁して1匹レベルを上げまくればそれを倒して他の奴もレベル上げしやすくはなるが、そいつだけサンドバッグになるのでなつきが下がりそうだしかわいそうだから自重した。そんなことしてみゅーが見たら泣きそうだし。

 

「ねぇ、これからどうしよっか。まだ始まるまで時間があるけど、シショーのことだしここらで経験値稼ぎ?」

「それは色々な面で微妙かなぁ。最悪ギアナに戻ってレベル上げするのも手だが」

「ねぇねぇ、みゅーはもっといろんなところ見てみたい。どっか他のところも行こうよー。この町なんにもないから飽きたの」

「そうか。もう見て回るところもないけど、じゃあトキワの森方面へ行く? ジャングルにいたから森は好きだろ。どう?」

「んみゅ、そうするの」

「シショー……みゅーちゃんに甘過ぎ。まさかと思うけど、これからずっとなんにもしないつもり? さすがにあの2人に置いてかれるわよ」

「まさか。これからは俺達同士で勝負して経験値を稼ぐことにしよう。自分達ならバレるもんもないし、下手な奴より経験値も遥かに多い」

 

 せっかく近くにレベルの高いトレーナーがいるのだから利用しない手はない。今までは周りに自分達より強い奴ばかりがいたが、もうそういうレベルは終わった。マスターのトレーナーとかもレベル上げには同じマスターのトレーナーと戦うしかないんだろうな。

 

「ちょっとっ! それはわたしが困るわよっ! わたしだけ負けてばっかじゃ強くなんないじゃない!」

「格上との勝負には慣れておいて損はない。お前にとっては俺の研究をするチャンスにもなる。それに、みゅーがいるからいくらでも回復できる、心配するな。経験値に関しては多少のハンデをやるから、それでバランスをとれば文句ないだろ?」

「そっか、みゅーちゃんがいれば回復はし放題なんだ。そうするとすっごく効率良さそうね。ハンデくれるならわたしでも経験値稼げるかな。ちなみにじこさいせいといたみわけを同時に覚えるポケモンっているの?」

「いないことはないけど、いたみわけを覚えさせるのはしんどいし、体力がみゅーみたいに多いポケモンはいないな」

「……やっぱ特別なんだ」

「みゅみゅ、みゅーはすごいの」

 

 “いやしのはどう”とか回復させる専用の技もあるから必ずしもみゅーだけの特権というわけでもないが、FRLGではラッキーの“タマゴうみ”ぐらいだろうな。その使い方自体あんまり知られてなさそうだし。

 

 とにかくこれからはゆっくり旅しながらレベル上げをすることに。とりとめもない毎日が続いた。バトルは俺だけ交代なし。常に相性の悪い戦いとなり、これでほぼ五分になった。

 

「いやおかしいわよ! なんでこれで勝率が五分なのよ!」

「まだ考えが浅いんだよ。能力自体も互角だからな」

「みゅー、また勝てたの。ほめてー」

「よーし、みゅーはえらいな。あとでご褒美あげよう」

「やったー!」

 

 バトルでポケモンが疲れたらその間に先へ進む。時間が経てばまたバトル。町と町の間には距離があるからいい休憩にもなる。人もポケモンもいくら体力を回復しても疲れは多少残るからな。

 

 何日も経たずにトキワの森に差し掛かった。森は広く、迷いの森の名にふさわしい入り組んだ地形だが、サーチがあり、みゅーもいて迷うわけもなく、問題なく抜けてニビに到着した。何となく真っすぐ進んできてしまったな。

 

「面積はけっこう広かったな。マサラの新人にとっては最初の試練ってやつなのか?」

「まぁね。でも洞窟とかが最初の試練の町に比べればマシよ。レベルも低いし。わたしの場合、割と近くだからよく遊びにきていて地理もわかっていたし。と、言っているうちにポケセンについたわね。なんかここ懐かしいわねー」

 

 ニビのポケモンセンターか。ここから色々始まったもんなぁ。

 

「そうだな。お前がストーカーになった記念すべき場所だもんな」

「違う! ホント、思い返せばあの頃のシショーはエスパー拗らせて意地悪でいけずで頑固でわからずやだったから大変だったわねーっ!」

「そんなに大声で言わんでもいいだろ。性格悪いことばっかしてた自覚はあるけど。あれ最初はともかく、つきまとうようになってからはある程度わざとお前に嫌われるためにそっけなくしてたんだからな」

「え、そうだったの?」

「……気づいてなかったのか。こうかはないようだ……」

「みゅみゅ、もしかしてレインってみゅーより人見知りじゃないの?」

「……たしかに。一理あるわね」

「別に違うからな。おい、ブルーなんだその面!」

 

 ほっぺをぐにぐに制裁してからポケセンに入って受付にいくと、ジョーイが目を輝かせて身を乗り出して俺に握手してきた。そういえばここのジョーイってこんなんだったっけ。頭くさタイプだったのは覚えてる。

 

「レインさん!? あなた、ボスゴドラキラーのレインさんですよね!? いいところに来てくださいました! なんて巡り合わせっ! 実は今また大変なことになっていて、凄腕のトレーナーがいないかと探していたんですよ!! ここまではなかなか人が来なくって! いやぁ、これぞ天の助けですね!」

 

 いきなり面倒事の予感がするんだけど何の騒ぎ? しかも拒否させる気がないらしく勝手に話を進めて依頼書の書類らしきものまで出していた。

 

「ちょっと待て。まだすると決まったわけじゃ…」

「もしかしてあの事件以来のガチのSランク?! 任せて! ボスゴドラキラーことレインと、その1番弟子のブルーがパパッとどんな事件でも解決してみせるわ!」

「ホントにーっ!? ブルーちゃんありがとう、助かるわ! よし、書類あったあった。依頼受理、と」

「おいっ! だから待て! だいたいその変な呼び名やめろ!」

「えーっ、ボスゴドラキラーって初めて聞いたけどいいじゃない! カッコいいわよ! なんかいきなりわたしの心を鷲掴みされたわよ」

 

 お前はもう年齢的にも中二だからな。普通はイヤだろ。誰がこんな頭痛くなる名前で呼ばれたいの?

 

「今じゃレインさんはここらではすっかり有名ですよ。凶悪なポケモンから街を救った勲章としてドラゴン仙人からこの名を賜ったんですから、ありがたいことなんですよ」

 

 またその仙人か。前にも聞いたぞ、結局何者なんだ。勝手に祭り上げられても困る。

 

「わたしもこの依頼でなんか二つ名みたいなのほしいなー」

「活躍すればきっともらえるわよ。仙人はそういうの好きだから。それじゃ、そろそろ依頼の説明をしますね。まず……」

 

 このあとは俺が何を言ってもお仕事モードに入っていて一切質問等受け付けず、淡々と説明を続けた。……ゲームさながらポンコツAI。

 

 説明をまとめると、ディグダの穴のディグダ達の様子がおかしく、そこが通れなくなっていて、かつ出入り口付近で怪しい黒ずくめの男の目撃証言があり、そこの調査をしろということだ。これまでのトレーナーは皆ディグダに返り討ちで中を調べられなかったらしい。今はジムリーダーまで出張っているがそのタケシとマチスも相性が悪くて苦戦しているそうだ。

 

「ディグダって打たれ弱いからある程度強ければ攻撃される前に倒せるんじゃないの?」

「それが複数で襲ってきて、最初は能力を下げるすなかけ、どろかけなどを使い、そのあと一斉に波状攻撃をされてどうにもならないとか。じしんやいわなだれは範囲攻撃で避けるのも厳しいとのことです。まさに数の暴力でどうしようもなくって」

「えげつねぇなぁ。野生のポケモンなら協力はしても戦略的に動いたりはしないはずだろ? 間違いなく手引きしている人間がいる。そいつは洞窟の中央にいるはず。そこまでなんとかしていくしかない」

「ねぇ、もしかしてその人間って……」

「十中八九ロケット団だろ、どうせ。残党がまだいたか。あんまり乗り気じゃなかったが、俺らで始末するしかないかなぁ」

「残党?」

「あら、ブルーちゃんは知らないの? 少し前にロケット団は解散したって噂が流れて大騒ぎだったでしょ?」

「ええーっ!? あ、わたし達がいなかった時か。……じゃあなんでシショーは知ってるの!?」

「俺達はこれからどうすれば?」

「急いで現場に向かいましょう。今もタケシさんが交戦中です」

 

 ブルーは無視して現場に急行すると、タケシはかなり苦戦していた。“じしん”で殲滅しようにも上下左右全方位にちらばるので上や後ろにいかれると“じしん”でも倒せないようだ。困った状況だ。

 

「もしかしてレイン君か! やっと応援が来たか。しかもボスゴドラキラーの君が来るとは心強い!」

 

 まさかその名前ニビにいる限り毎回言われるのか。やめてくれよ。

 

「状況は最悪みたいだな。ここからは俺が指揮をとる。言う通りに動いてくれ。先鋒はじしんが使えるタケシ。俺がピッピにんぎょうを投げるから、そこに集まったのをじしんで殲滅してくれ。ブルーは難しいけど殿になってくれ。ラプラスで天井を凍らせて上からの“いわなだれ”による奇襲を防ぎ、ハクリューとピジョットで後ろの露払い。追って来なければ無理に全滅を狙わなくていい。あくまで防戦に徹してくれ。俺は真ん中で両サイドと全体の討ち漏らしをアカサビとゲンガーで処理する。細かい動きは俺がした方が都合がいいだろう。これで一気に奥まで駆け抜ける。いくぞ!」

 

 サーチ!

 

 ピッピにんぎょうを投げると、思った通り地中の奴まで集まってきた。“じしん”で殲滅して、周りの討ち漏らしは攻撃を上げたハッサムが“バレットパンチ”で迅速に対処。どこから不意打ちかましてくるかわからなくても俺なら視えているから先読みして対処できる。後ろはブルーがしっかりしてるようで安心して進める。ラプラスはほぼ俺の言葉を聞いて自己判断で動いてくれているおかげで後ろに3体おけているのも大きい。

 

「たしかにこれなら安全に奥まで辿り着けそうだ。だけど相当距離があるからいずれ限界が来るぞ」

「相手の数が多過ぎるから持久戦になるのはやむを得ない。限界があるのは相手も同じ。いつか敵も尽きるはず。そうしたらポケモンに乗って一気に進もう。疲れたところは俺がキズぐすりで回復させるから攻撃に集中してくれて大丈夫だ」

 

 しかし思った以上に数が多く、途中俺が回復を挟みながらでも疲れが見えてきた。ピッピにんぎょうも上手く回収しながら使い回しているが、戦闘の余波で減りつつはある。

 

「ポケモンを変える。タケシはこれまで通り手持ちを回してじしん。俺はプテラとウインディ。ブルーは俺のメタモンをラプラスにしてかわりにしつつ、後ろは残りの手持ちを上手く出し入れしながらなんとかしてくれ。ブルーの動きが遅くなるからしばらくは倒すことを優先して移動ペースは落とそう」

「わかったわ。みゅ……メタちゃん借りるわよ」

「モンモンー!」

(やっと出番なの! 頑張るの!)

「ちょっと! 俺の方に飛びつくんじゃなくて、今日はブルーの言うこと聞いてくれ。ブルーもバッジ8つだし言うこと聞いてくれるよな?」

(んー、終わったらオレンパフェ食べたいな)

 

 みゅーは デザートのことを 考えている……

 

「あげるあげるっ!」

「モンー!」

 

 やっとブルーの方にいってくれた。メンバーは変わったがやることは変わらない。しばらくしてようやく敵がいなくなり、3人でグレンに乗ってトップスピードで奥に向かった。ディグダはあらかた倒したが今度はダグトリオが出てきた。だがこれは数が少なかったので襲われる前にヒリューさんの必中“つばめがえし”で各個撃破した。単騎でバラバラなら対処は容易なんだよな。

 

「君はまるでどこにポケモンがいるか全てオミトオシみたいだな。出て来るダグトリオへの反応が尋常じゃない。さっきの作戦もじしんの弱点を理解してしっかりカバーしていたし、昔戦国時代に活躍した名のあるトレーナーのような千里眼だな」

「え、え、えっ! もしかして千里眼のレイン爆誕!? いいなー、千里眼っていいなー」

「やめい! これ以上黒歴史が増えそうなこと言うな!」

 

 バカな話をしていると中央に到着し、怪しげな連中と装置があった。これが原因だな。ここのポケモンをこの装置で操っていたのか。

 

「げっ、なんでここにジムリーダーが! 相性は悪いはずなのに!」

「げっ、まだ十分なデータがとれていないのに! これじゃ俺達の復活が!」

「観念しろ、もう逃がさないぞ。ここは俺にとっても大事なトレーニング場所なんだ。手加減はしない」

「そう簡単に負けてたまるかよ! こっちだってトレーナーの端くれ!」

 

 しかしタケシが負けるわけもなく、あっさりと“じしん”で制圧して連中はお縄についた。俺達が助太刀する必要もなかったな。

 

「一瞬で無力化したな。いわじゃなくてじめんタイプの技使ってるけど」

「それは目をつむってくれ。ひとまずこれで問題は解決できただろう。ここまでこれたのは君達のおかげだ。礼を言うよ」

「やったわね。一件落着。でも、今回はさすがにハードだったわ。この洞窟長過ぎよね。めっちゃ疲れた」

 

 ニビに帰ると人だかりができていて俺のことはホントにボスゴドラキラーとして認知されていた。その名前で有名になってしまったのか。さらに件のドラゴン仙人もいて、初めて直接姿を見れた。お礼をしてくれるらしい。

 

「どうじゃ、ここはひとつ、わしの自慢の技を覚えさせてはみぬか?」

 

 と、いうことで、それならとブルーのハクリューに“りゅうせいぐん”を覚えさせてもらった。特攻は低いとはいえ、覚えられる技の上限がない以上あって損はない。攻撃範囲が広いし、一度ならパルシェンのような苦手な相手への有効打になるだろう。

 

 ♪~♪~

 

「あ、電話か」

「え、何そのバトルとか試練とか始まりそうな音は」

「よくわかったな。別の地方だとジム戦の時にこれが流れるんだよ」

「え、それホント!?」

「……ウソではなさそうなの」

「どういうことなの……?」

 

 電話はもちろん博士から。もう仕上げたのか。なんか俺も召喚されるみたいだ。やっぱり多少は仕事もあるんだな。どうせ暇だし、ささっと終わらせよう。

 

「悪いけどしばらく用事ができたから別行動させてくれ。リーグまでには間に合うようにするから、ブルーは別の人と自主練してくれ。レッドとか探せばいい相手になるだろ」

「えっ、そんな……。せっかくいい感じでトレーニングできてたのに。なんでいまさら別行動なのよ。そもそもその用事って何?」

「つまらん用事だ。駄々をこねるなよ。仕方ないだろう、呼ばれたんだから」

「いっつもシショーは肝心なことは何にも教えてくれないじゃない……。急に呼び出されるような相手なんかいた? ヤな感じー」

「……毎日みゅーを介して連絡とるぐらいはするから、それならいい?」

「……まあ、それならいいわ」

「レイン、ポケモン使いが荒いの」

「オレンパフェ」

「ブルー、みゅーに任せてね」

 

 そして期は満ちた。用事を済ませてブルーと合流。受付期間も終了して、本選開始まで各地からトレーナーが集まる。いよいよリーグの開始が迫り、俺達もセキエイの地に向かうことに。

 

 セキエイ高原にはすでに多くのトレーナーが集まり、互いに火花を散らし、闘志をむき出しにしている。周りの気迫に負けてしまえば、そのまま飲まれてしまってもおかしくはない。だが、これまでの準備期間しっかり鍛えられたブルーに動揺は見られない。今はもうエリートや観客に恐れをなすこともないだろう。そしてもちろん鍛えられたのは俺も同じだ。特にみゅーはしっかり調整してきた。

 

「いよいよね。わたし、ちょっと燃えてきた。絶対に勝って故郷のマサラに錦を飾るわ」

「戦う時はお前でも容赦しない。それは覚悟しておけ」

「……わたしだって、タダでは勝てせてやらないわ。わたしは世界で1番シショーのことよく知ってるんだから」

「たしかにそうだな。ドジ踏んであっさり負けたりするなよ。楽しみがなくなるから」

「……えへへ。そっちこそ、わたしと戦う前に負けたらシショー失格だからね」

 

 ニヤリ、とお互いに笑みを浮かべた。

 

 自分の求めていたものがもうすぐそこに手の届くところまで来ている。あと少し、あともう少しなんだ。

 

 最後の舞台まで来たことを噛みしめながら、セキエイ高原の中心に位置するポケモンリーグ本部へと向かった。

 




これまでの冒険の日々こそが君のチャンピオンロードだ!


前から間が空きましたが作者はもう何年ぶりかなぁという気分です

ここからは色々考え直すこともあってほぼ一からになるのでだいぶゆっくりになると思います
毎日のように更新みたいなおかしなことはできないです

また、最初から完璧にするには時間がかかり過ぎそうなのでざっくりで進めていきます
具体的にはあとから展開とかを変えたり大幅な修正をするかもしれないですが大目に見て下さい
変なところがあるとかは教えてもらえると助かります


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8.開幕 最初の 第一歩

 ここはセキエイリーグ本部受付。ここで最後の説明を受けていた。

 

「出場確認は完了しました。ではルールについて大まかに説明致します。基本的には『公式ルール』に基づき、トーナメント式であなた方は8試合。5回戦までは水氷岩草の4つのフィールドからランダムに選ばれて、その後は全てのタイプからランダムに選ばれます。また、対戦相手は前日にフィールドと一緒に抽選で決定します。よって対戦相手は毎回前日までわかりません」

 

 これはかなり厄介だな。トーナメントなら普通勝ち上がってくる奴は対戦表を見た時点であらかじめ絞られるからその対策をすればいいが、これじゃあらゆるポケモンとフィールドに対応しないといけない。柔軟な対応力が試されるということか。

 

「使用ポケモンは、1,2回戦は3vs3、3,4回戦は4vs4、5,6回戦は5vs5、あとはフルバトルです」

「だんだんきつくなるんだ。ペースも考えないとダメね。条件が毎回バラバラで大変そう」

「それはジム戦を通じて鍛えておられると思います。そのために各地で様々な条件、環境、フィールドでバトルするのですから」

 

 そういう意味もあったのか。ジム戦からリーグに向けて仕込みはあったわけか。あのインチキフィールドもこれを見越していた……?

 

「一応確認しますが、道具の使用は禁止。入れ替えは自由です。マスターランクには連盟の選考委員の判断でだいたい3人程が選ばれます。優勝者は必ず昇格です」

「1つ聞きたいんだが、道具を持たせるのはいいのか?」

「それはキズぐすり、きのみなど以外なら可能です」

「きのみはダメなのか?」

「試合中に道具による回復は認められていません」

「じゃあたべのこしは?」

「……? 食料などなら、おそらくダメです。詳しくはリーグ運営事務局にお問い合わせください」

「反則事項などは教えてもらえないのか? 後からそれはダメでした失格ですというのは困るだろ」

「ルールブックは事務局で貰うことができます」

 

 全部その何とか事務局に丸投げする気か。事務局に行くしかないのか。うっかり“くろいヘドロ”とか持たせて反則負け、みたいなことは勘弁してほしいな。トーナメントは負けたら1発でアウトだからリカバリーが利かないのが怖いし。……すでに持たせる道具はもう決めてあるけれど。

 

「あと、リーグではバトルビデオ、通称BVという記録映像の販売があります。出場選手の過去のリーグやジム戦での映像がありますので、ぜひ活用してください」

「……いやいやちょっと待て。ジムってことは俺らの映像もあるのか?」

「はい。当然対戦相手には研究されることになりますのでご注意ください」

「おいおいおい! 聞いてないぞ。勝手にそんなもん撮っていいのかよ。プライバシー云々はいいのか? ジムでもそんな説明なかったが」

 

 なんのために最近トレーナーとのバトルを控えたと思っているんだ……! しかもジムで散々戦い方をバラしてしまっているじゃないか。もうどうしようもない。この事実はさすがに看過できないぞ。自分の感覚だと完全に盗撮の類なので怒り交じりで問い詰めると慌てて言い訳を始めた。

 

「落ち着いてください。こ、これには理由がありまして、映像販売はあなた方のような初めて参加する方に情報を提供する意味合いがあるんです。実際便利だと好評なんですよ?」

「好評なのは常連の連中からだろ。そりゃ便利さ。俺達は200人からいる先輩方のビデオを見とけば怖いもん無しだ。直前まで誰が相手かわからなくても問題ない」

「そ、それは……」

「対して先輩方は俺ら新人の数人分を見なきゃいけない。そりゃ大変だな。そして藁にも縋る気持ちで集めた情報と引き換えにリーグ運営はたんまりともうけるわけだ。ジム戦も絡むなら、そっちにも利益はいくのかな。最初からジムリーダーもグルだな」

「す、すいません!!」

「シショー、その辺にしときましょう。だいたい、この人はただの受付だしやつあたりにしかなんないわ。たしかに聞けば聞くほど悪意しか感じられないけど」

「チッ、まぁいいか。それにしてもやけに研究熱心だな。映像で対策とはたまげたなぁ。指示のクセとかも研究されるのか、これ? 連中はレベル上げるぐらいしかしないと思ってたが、そこまでバカじゃないか。だったらこっちも考えはある。そのビデオとやら、どこで売ってるんだ?」

「あの、苦情などは一切受け付けていないので、穏便に……」

「買いに行くだけだ。いいから教えろ!」

「ひぐぅぅ!!」

 

 その後ルールブックを事務局でもらってからバトルビデオと呼ばれる映像を買いに行った。なぜか自分の映像は買えない決まりらしいので、ブルーとテレコにして買ってみた。変な習慣多いな、このリーグ。ちなみに、DL方式なので買い占めの類は不可、複製も特別な対策がされているようだ。

 

「くそ、やっぱ音声付か。そりゃそうだ。番号で言うのはとりあえずバレたな。しかもこれ歯抜けかよ。規則無視でランク8でやったのと、やっぱりエリカがなしか。……面白くねーな。そもそもこれ高過ぎなんだよ。ホントに足元見てる感が尋常じゃないな」

「……内容はわたしも同じような感じね」

 

 若干声が上ずってるけど気のせいか? 助かったのは、ジムをクリアした順番はわからないことか。普通はランクでわかるからそうなんだろうが、俺は全部7だからな。俺の映像を興味津々で覗き込みながらブルーが言った。

 

「ホントに最初から全部7なのね。シショーなんでこんなに強いのよ。絶対警戒されるわね」

「それはないだろう。最初から鍛えていれば無理なことじゃない。トレーナーになってすぐだからおかしいと思うわけだからな」

「何言ってんのよ。トレーナーになった時期なんて簡単に調べれるし、そういうのってテレビとかでは紹介されたりするわよ。だったら選手も把握してるでしょ」

「本当に? それはマズイかもな……。マークされて、研究もがっつりとなると意表をついて勝ちを拾うような戦法はやっぱりダメか。あーもう何もかも面倒だな。いや、逆に上の連中に対して目立つには都合がいいか? 勝手に人の情報売り捌かれているし、徹底的に目立ちまくってこの大会使って死ぬほど儲けてやる。その上で研究の1つや2つじゃ到底勝てやしないことをイヤという程わからせてやる。あえて対策もマネもできない戦法で暴れまくってやるのもおもしろい」

「そうそう、そうでなくちゃ! 細かいこと気にしても仕方ないわよ。シショーはいっつもそうだし。それじゃ、他の人のバトルビデオは集めないの?」

「は? いらんいらん。見てもしょーもないのばっかだろ、どうせ。数も多いし個々に対策とか時間のムダだ、やめとけ。見るならチャンピオンのやつとかぐらいだな。流行りと言うか、トップの感じだけつかめれば個別の対策はいらないだろ」

「やっぱりそう言うと思ったわ。ワタルさんのやつだけ買っといたから一緒に見ない?」

「おっ、気が利くな」

 

 ということでワタルの分だけ見ることに。マスターリーグの映像はまだ売り出されていないので過去にポケモンリーグに参加していた頃のものだ。マスターズリーグの映像はマスターランカーしか買えないらしい。

 

 驚いたのは、本当に交代が無制限なこと。これでは交代合戦になってすぐ千日手になりそうだが、どうなるかと見ていると交代際に攻撃を当てていた。やっぱりこれアリなのか。いや、なしだと試合にならないから当然なのだが。

 

「これ、わざと何のポケモンを出すか言ってないのね。だから攻撃側は戻した時点で次を予測して技を出しているんだ」

「それに交代したポケモンを見てからの指示じゃ相手のポケモンに動かれて避けられるからボールを投げた瞬間に技を出しているな。うまくボールに戻して技を避けつつ、どうやって交代際にダメージを与えるかも重要になってそうだ」

 

 さらに言えば恐ろしいことに死に出しという概念がないらしい。負けて次のポケモンを出す時は毎回必ず相手の攻撃に晒される。これは大変なことやと思うよ。

 

 だから審判は開始・終了の宣言だけとなる。戦闘中には交代時の相手のトレーナーの思考中に技を使うことも許されるほど自由なので戦闘を仕切り直しするのが難しいからなのかもしれない。とんでもなく厳しいルールだ。……一度やられ出すと止まらないんじゃないか?

 

「やっぱりけっこう研究しているわね。交換を読んで素早く能力を上げたり、交代際の技も弱点をついてる。そもそも覚えている技が弱点を上手く補い合っているわね」

「相性補完ってやつだな。氷と電気とか、通りのいいペアってあるからな。さすがに本職でやっている連中はシビアなバトルをしている。正直驚いたよ。今までの有利な条件下のジム戦はお遊びだと言わんばかりだ」

 

 この辺りはゲームの感覚に近いのだろうか。ターン制じゃないから多少の差はあるが、交代連打で勝てるほど甘い世界じゃないらしい。研究もかなりしているのだろう。技の選択ミスもかなり少なく思える。

 

 バリヤード・ラッキーに特殊技で攻撃する、レアコイル・フーディンに物理技を使わせる、そういう不合理な戦術は自然と淘汰されているのだろう。理屈とかではなくな。これだけでもプロの研究の凄さは垣間見える。もっとも、この慣れ親しんだ環境はある程度定石通りの読みができることも意味するのでむしろ大歓迎だ。

 

 今まではギャラドスが“かえんほうしゃ”などを使うケースも考えなきゃいけないレベルだった。ギャラドスぐらいなら特殊型は全くノーチャンスでもないし逆に恐ろしい。一周回ると奇形ってこの上なく強いから性質が悪いと思う。

 

「さすがにシショーでもキツイ?」

「まさか。むしろ安心した。自分の最も得意とする勝負ができそうだってな。あとはレベル上げだけかな」

「やっぱりそう言うわよね。わたしも心配するだけムダか。それじゃさっそく特訓ね! 今日はレベルを上げまくって…」

 

 ブルーは気合いを入れているがもうあまり一緒にいることはできない。自分達同士でも試合はあるのだし、何よりもう……長くない。

 

「悪いけど、俺はこれから1人で練習するから、お前もそろそろ自分で強くなれ」

「また!?……これからはわたし達もライバルってことなの? じゃあせめて、できたらリーグの間もポケモンの回復をみゅーちゃんにしてほしいのだけど、それもダメ?」

「それぐらいなら別にいいよ、もちろん。じゃあ回復に向かう時間は決めておこうか。そのときテレポートでみゅーだけそっちに送ればいいな。みゅーもいいよな?」

「みゅ。もちろんいいの。ブルーは仲間」

「ありがとみゅーちゃん。……シショーは来ないのね。ちなみにこれからシショーはどこ行くの?」

「みゅーと練習したいこともあるし、そういう人目につきたくない練習にはもってこいの場所がある。他の選手からすれば俺の姿が見当たらないのは不気味だろうし、主役は遅れて来るものだろ? 俺ら同士も、本番の作戦とか知られたくないこともある。もうライバル同士なんだから。俺の方からお前に会いに行くことはしないから、用がある時はみゅーに伝えてくれ」

「わかった……」

「じゃーな。1人だからってサボるなよ?」

「シショーが見てない間にめちゃめちゃレベル上げとくから、後で後悔しても知らないからね」

「それは楽しみだな。じゃ、みゅーお願い」

「みゅみゅ!」

「あっ!」

 

 テレポート!

 

 ◆

 

 リーグ戦開始当日。今日大事な初戦があるけど、シショーとは開幕前日に対戦相手の発表があった時に少し後ろ姿を見ただけでまだちゃんと会っていない。

 

 レッドとグリーンとは当然顔を合わせてお互いに健闘を祈りあった。あいつらがロケット団をやっつけたって聞いた時は驚いたけど、ポケモンも格段に強くなってそれに見合う程のレベルになっていた。もちろん、自分も絶対に負けないという闘志を燃やしている。

 

 リーグ1回戦は試合数が多いので3日に渡る。わたし達マサラ組はみんな初日。シショーには最後に話をした時に応援に来てほしいと言いそびれてしまったけど、やっぱりもう会うことはないのかな。

 

 ……だんだんシショーがわたしから遠のいていく。控室にまで来てもそればかり考えていると、不意に肩を叩かれた。振り返ると久々のシショーがいた。ここには普通入れないのに……テレポートね。みゅーちゃんの能力ってホントにヤバイ。

 

「何を考え込んでいるんだ? お前は悩むと碌なことにならない。いつも通り気楽にやれよ。初戦なら楽に勝てるはずだ。俺は客席で見ているからな」

「来てくれたんだ。わたし……」

「今はバトルに集中しろ。あれこれ考えるのは勝負が終わった後でいい」

 

 それだけ言ってすぐにみゅーちゃんのテレポートで帰って行った。ほんの短い時間の出来事で幻を見ていたみたいだったけど、ホントに来てくれたんだ。わたしのために……。

 

「やるわよ! 1回戦は絶対余裕で勝ってやる!」

 

 ◆

 

『さぁいよいよ大詰め、両者最後の1体を残すのみとなりました。ここまで倒し倒されの互角の攻防。果たしてどちらが先に勝負を決めるのか? ブルー選手の最後のポケモンはなんだぁ?』

 

 思いのほか接戦になってしまったわね。フーちゃんは倒されてしまったけど、わたしにはまだ最後の砦が残っている。

 

「いくわよラーちゃん!」

『あーっと、ここでみずタイプッ! 水のフィールドにうってつけのポケモンを最後まで残していた! ここは基本通りの選出! パルシェンはハイドロポンプを使っていたがこうかはないようだ! これはラプラスの特性かぁ?』

 

 今日は水のフィールド。フィールドがつくとそのタイプの技は威力が増す。半減されるタイプなどはない。なので同じタイプを持っていれば普通最低でも1体は入れておく。特に水フィールドは水辺も付くから水タイプを使うには絶好のフィールド。ラーちゃんを入れない理由はない。

 

 相手はフィールド補正を狙って最高火力のハイドロポンプを使ってきた。でも残念だったわね。ラーちゃんは特性が“ちょすい”。一方的にみずタイプ威力上昇の恩恵を受けられるから、まさにこのフィールドでは無敵なのよ。

 

「なんだ、みずタイプも持っていたのか。新人にしてはいいポケモンを持っているな。だが俺のパルシェンは鉄壁だ。相手が悪かったな。やれ、必殺のつららばりぃ!」

「話にならないわね。受け止めてハイドロポンプをお返ししちゃって!」

 

 “つららばり”の効果は1/4。ラーちゃんは気にした様子もなく“ハイドロポンプ”を放った。やわなパルシェンの耐久では凌ぐことはできない。わたしの勝ちね。やっぱり最後にラーちゃんを残すのはいいわね。最後がドッシリと安心感があるのは大事だって思えた。前のポケモンで思い切って攻められるから。これからもこの形でいこう。

 

「バカな! フィールド補正だけでここまで……」

「まずは1勝ね。シショー、見てるー! 勝ったわよー!」

 

 会場を出ると、シショーが待っていた。手を振って呼びかけると笑っていた。

 

「……さすがだな。ブルーが勝たなきゃ誰が勝つんだって話だし当然ではあるが。最初一度不利になりながらも貫禄の勝利だったな」

「えへへ、最初はものすごく緊張したけど、始まって見たら全然強くなくて、なんかシショーが相手じゃないだけマシだと思ったら安心しちゃった」

「俺と比較してたのか……まぁ俺との対戦もムダじゃなかったな」

「これでわたしが一歩リードよ。シショーもせいぜい頑張りなさーい」

 

 とにかく初めて勝てたのが、しかもシショーより先に勝てたので嬉しくって有頂天になっていた。

 

「ブルーは応援してくれるのか?」

「そうね。見に行かないとかわいそうだから、仕方ないから応援ぐらいはしてあげるわ」

「それじゃあ俺も頑張ろうかね。じゃ、俺はもう行くから」

「あっ、ちょっと!」

 

 もう行ったの? 久々だからゆっくり話をしたかったのに。つい調子に乗って怒らせたかしら。……余計な事言い過ぎたかも。はぁー、なんでわたしってこんな……。

 

(ブルー、勝負のことよりもお師匠様のことの方が大事みたいですね。あまり余計なことに心を乱していると足元をすくわれますよ。先程フーちゃんが無理に攻撃しようとして“こおりのつぶて”であっさり倒れたことも油断の現れです。補助技ならまだ当てられたはず。緊張で動けなくなるよりはマシですが、緊張感がなさ過ぎることも良くありませんよ。気を引き締め直して集中して下さい)

「わかってるわよ。ちょっと勝てると思って勝ち急いじゃったの。あの攻撃思ったよりも威力が高かったし。……もちろん反省はしてます。でも、なんか最近シショーがさ、わたしと距離を置いている気がして不安になるの。わたしの家にいた頃から、たまにシショーとの間に壁を感じるというか……」

(それは本人が言っていたように自分達もライバルだからでは? あとはみゅーさんの修行のためとか言ってましたし。それに応援にはちゃんと来ましたよ? ブルーに対する態度はそんなに変わってないように見えますが。あくまで私から見てですが)

「たしかにそうなんだけど、でも漠然と……なんか不安な気持ちになるの。少し前から、なんかシショーが遠く……いや、なんでもない。そうね、やっぱり気にしないようにするわね。次も頑張りましょう。今日は大事なところで頑張ってくれてありがとうね」

(私がいる限りブルーには負けさせませんよ。一緒に頑張りましょう)

 

 気のせいだったらいいけど、わたしの考え過ぎかなぁ。

 




リーグのルールとかはゲームとは全然違う感じなのでアニメとか参考にしています
フィールドのタイプが謎セレクトなのはアニメそのままという安直な理由だったはずです、たぶん
細かく微妙に色々いじったのである種別物の競技と思った方がいいかもしれません

きのみダメというのは先々別の地方との文化の差を出せるかなという狙いで封印しました
これが活きるかは自分もわかりません

ルールをやたら気にしていたのは本当は破るのが怖いからではなくて抜け穴がないか探すためです
さすがですね()

バトルビデオはゲームにあるやつみたいなものです
本来最初に承諾云々とかあるはずですがレインは最初に全部スタートボタン連打してしまったので聞き逃したんでしょうね

サラッと死に出しできないってありますがこれはヤバ過ぎですね
思考時間無限というのもおかしいので思考時間は相手の行動時間になるものとして、そのため死に出しの場合も行動できることにしたわけです
余計な事せん方がいいんじゃ……とも思いますが戦闘不能の度に試合中断して審判がよーいドンの開始コールするのもテンポ悪そうですし書くのも面倒やなって思いまして

ちなみに今までは大胆にずぼらしてました
その辺はものすごく雑でしたね

このルール認めると素早さが負けていると確2以下は出すことも許されないことに
りゅうまいしんそくカイリューみたいな大エースがいるやつが圧倒的に強い……
ホントに強い……

持ち物は明記していないですがなんとなくわかったでしょうか

ブルーは基本的に「しあわせタマゴ」です
対シショーに照準を合わせるならそれまではタマゴ一択ですね
ジュエルはカントーでは違法アイテムです、残念ながら
1人だけ知らない道具使うのはさすがにズルいかなって思ったので

相手のパルシェンは「とけないこおり」ですね
殻の中に隠し持っていたんでしょうね

「つららばりぃ」に既視感ありますがテレビ見てたんでしょうね


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9.呼べよその名を 高らかに

すぐ言い訳するのはダメですね


 3日目、この日はシショーの初戦。どんなバトルをするのか楽しみ。わたしはあの2人も誘って観戦に来ている。というのも、以前シショーは対策もマネもできない戦法をすると言っていた。だからそれが気になったので2人にも聞いてみようと思ったからだ。観客席でレッドとグリーンを見つけて横に腰掛け、さっそくシショーの言っていたことについて聞いてみた。

 

「ねぇ、あんた達はわかる?」

「そんなの聞いたことねぇな。ハッタリじゃないのか?」

「ブルーにハッタリを言う意味がない。何かする気だろう。おれもわからないが」

 

 この2人でもわからないか。そもそも、シショー自身、ポケモンに絶対はないって言ったことがある。それなのに今回はどういう意味なの? グリーンも同じ考えをしたようだ。

 

「そもそも、どんな強いポケモンにも弱点はある。マネはともかく、対策できないってことはありえねぇだろ。もちろん控えのポケモンで弱点を補うとかはできるが、そういう話じゃないだろうしな。ホントにわかんねぇなぁ。オレ達とは違う世界の奴の言うことだしなぁ」

「いずれにせよ、もうすぐ始まる。じっくり見せてもらえばいい。あの人は必ず勝ち上がって来る。おれ達の最大の壁になるはずだ。見て損はないだろう」

 

 もうすぐ始まる。あと5分、3分、1分……まだなの? どこ?

 

 なんと、シショーは試合開始の時間になっても現れなかった。確か遅刻は15分まで。周りもざわざわし始めた。

 

「はは、ひよっこルーキーめ! 俺に恐れをなして逃げたか。俺も有名になったもんだ。どうやら土壇場になって無様に負けるのが怖くなったと見える。たしかに、どうせ負けるならボロボロになるより不戦敗の方が見栄えはいい。頭のいい奴だ」

 

 あのハゲ頭のおっさん、何言ってんのよ! シショーが敵前逃亡とかするわけないでしょ!! 本人がいないからって好き放題言って!! わたしが対戦したらボコボコにしてやる!!

 

ー普通ルーキーなら他の試合は見るはずだよな。今日の最後の試合に遅れるなんて、ホントに棄権なんじゃないか?ー

ーだよなぁ。噂じゃジム戦では強かったらしいが、今回も毎年恒例の過大評価だったみたいだな。ポジり過ぎなんだよいっつも。毎度毎度新人を持ち上げるのも飽きないよなぁー

 

 何よ何よ、なんなのよこの空気は! 対戦相手だけじゃなく観客の人達も好き勝手言って! 何も知らないくせに! あーもう、さっさとシショー出て来なさいよ!

 

「もう! どいつもこいつもデタラメ言って! シショーの凄さも知らないクセに!」

「けどこのままじゃ本当にマズイぞ。オレ達で急いで探しに行くか? バトルできなきゃいくら強かろうが意味ねぇぞ」

「ムダだ。おれ達が見つけても間に合わない。あれだけ強いトレーナーがこんなところでつまらない負け方をするとは思えないし、心配しなくても直に来る」

「ほーう。レッド、やけに肩入れするな」

「お前はここで負けると思うのか?」

「まさか。お忘れかもしんねーが、オレだってあん時シルフにいたんだぜ? わかってるさ、あれに勝てるのはオレ達3人のうちの誰かしかいないってな。そう言いたいんだろ?」

 

 レッドは黙って頷いた。そうよね、わかる人はちゃんとわかっているんだから、シショー、わたしをがっかりさせないでよ。本当に来るわよね?!

 

「そうよね。やっぱそう思うわよね。もう……シショーッッ!! いいからさっさと、焦らさないで早く来なさーーいっっ!」

 

 来ると信じていても心配なものはやっぱり心配で、ヤキモキしながら待ち続た。

 

 とうとうタイムリミットまで残り1分!

 

『あーー!! あれはもしやレイン選手か!?』

「えっ、どこどこどこ!?」

 

 ようやく現れた! 観客がどっとどよめく。身を乗り出してフィールドを見るとたしかに本人がいた。おっそーい! でもナイス!!

 

「君! 大遅刻だ! もっと早く来るようにしなさい!!」

「すいません。ここなんか広くって道に迷ってたんですよ。なんせここに来るのも初めてですし、新人ということで大目に見て下さい。ホントにすみません」

「なっ!? てめぇ、ポケモンリーグなめてんのか!」

 

 うわぁ、審判の人と対戦相手からめっちゃ怒られてる。シショーは発言内容とは裏腹にどこ吹く風だけどわたしの方がなんかハラハラするじゃない。

 

「まさか。本当に迷ったんですよ。会場が3つもあるなんて夢にも思っていない。それで間違えて隣に行ってたんですよ、冗談抜きで。ホントすいません。もう理解したので次からこんなに遅れたりしません」

「てめぇ……そりゃ、俺達リーグランカー全員に喧嘩売ってるってわかってるのか? ああ?」

「だから謝っているでしょう。さっきからしつこいなぁ。何? はっきり言えばいいの? あんたらじゃ相手になんないから試合なんて見るまでもなかったんだよ。一々相手の対策しなきゃ勝てないような連中じゃ、絶対俺には勝てないから」

「てんめぇ……! タダで済むとは思うなよ?」

 

 えっ、何々、これどういう流れ!? なんでこんな険悪な空気になってるの!?

 

「ねぇグリーン、これどういうことなの?」

「お前わかんねーのかよ。まさかお前まで試合見に行ってないんじゃねーよな?」

「シショーのしか見に行かないけど」

「なんの話なんだ?」

「レッド、お前もかよ!? はぁーっ、やっぱ常識人はマサラじゃオレだけかよ。仕方ねぇな。常識知らずなお前らに教えといてやる。いいか、普通オレらみたいな新人はリーグのトレーナーのこともこの大会のことも何も知らねーからとにかく最初は慣れるために試合を多く見に行っとくもんだ。そのためにこうして席が用意されてるんだよ」

「あ、だから簡単に取れたんだ」

「……」

「あ、じゃねぇだろ。だからな、自分の試合の直前ならともかく、それ以外は普通は全部見に行く。なのに道に迷ったって発言は一度も見てないと自白するようなもんだ。これは舐めてると思われても仕方ないし、実際舐めてるとしか言えねぇな。……お前らも含めて!」

「ふーん。だってそんなこと初めて聞いたんだもん。ねー?」

「……」

 

 レッドも黙ったままコクコクと頷いた。やっぱそうよね。

 

「その発想がおかしいんだが、言ってもムダだな。とにかくあれはやべぇな。一瞬で選手全部敵に回しただろ。新人相手だと出し惜しみして手加減する奴も中にはいるらしいが、あれは容赦なく攻められるな」

 

 そう言われたら心配になるかも。大丈夫かしら。

 

『おおーっと、早くもヒートアップ! ルーキーながら遅れて登場し、いきなり相手を挑発した! なんてふてぶてしいルーキーだ! 怖いもの知らずはルーキーの特権だがこれは度が過ぎているぅー!』

「2人とも、それ以上は侮辱とみなしますよ」

 

 なんか審判に注意されているわね。もう、悪目立ちし過ぎ! 目立ってやるとか言ってたけどこれ狙ってたんじゃないわよね!?

 

「へいへい、わかったよ。それならさっさと始めようか」

「俺がリーグの洗礼をくれてやろう」

「洗礼を受けるのはどっちかな」

 

 きたきたきた! とうとう始まる始まる! やっぱりシショーはちょっとやり過ぎぐらいでもいっか。自分の勝ちを疑っていなくて、有言実行で、ぶっとんでるところが見たかったの!

 

ーおいルーキー、バッジの数ちゃんと数えてるかー。ここはポケモンジムじゃねーぞ!ー

ー明日から試合見やへんのやったらずっと暇やろ、どっか飯食いに連れていったろか!ー

ー二度と来なくていいからもう迷う心配はないぞっ!ー

 

 うわぁヤジがすごい。普通ルーキーには優し目でしょうに……自業自得ではあるけど。これじゃわたし達まで火の粉が飛んできそう。

 

「おいおい、一瞬で観客まで周り全部敵だらけだな」

「おれらまで巻き添えなんてことは勘弁してほしいな」

「さあ、両者最初の1体を出してください」

 

 しゃべっていると審判の掛け声でお互いの先鋒が出てきた。相手はプテラ。これは岩のフィールドだし妥当ね。プテラって珍しいはずなのにさすがにリーグランカーだけあるわね。シショーは何かしら。

 

「ふあぁ~んみゅんみゅ。んっ、モンモンー!」

 

 あれは……メタモン?! いきなり!! というか今なんか寝ぼけてなかった? 気のせい? ずっと特訓していたのは知っていたけど、最初からいきなり出すつもりだったのね。それなら急いでいたのもわかるけど、なんでわざわざ最初に……。

 

『さぁ両者のポケモンが出てきます。まずは岩のフィールドに相応しい化石ポケモンのプテラ。そして……あーっと! あれはメタモンかぁ!? これは面白いポケモンが出てきたぞ!?』

 

「もしかして、シショーがやろうとしていることって……」

「へぇー、“へんしん”か。だが相手はリーグに出る程の実力者。副業トレーナーならともかく、リーグランカー相手にただの劣化にしかならないへんしんではかなり分が悪いな。何か考えはあるんだろうが……」

 

 対策もマネもできないっていうのはやっぱり“へんしん”するからなのかな。たしかに一見すればそう見えるけど、その実あの技には弱点がものすごく多い。事実今までみゅーちゃんが負けるところは何度も見ている。そんなに安直なことだったの?

 

 でも、シショーがわたしでもわかることをわかっていないはずはない。対策できないって言っていたわけだし、自信満々で最初に出したってことはもう完成させたのでしょうね。今までとは同じようにはいかないか。

 

「ブルー、お前はどう見る?」

「シショーのへんしんはそこらのやつとは全然違う。公式戦では一度だけ見たことあるけど、簡単にその時は1体倒していたし、今は当時よりも格段に上手くなっているはず。多分すごいバトルが見られるわ。よく見ておいた方がいい」

 

 フィールドのシショーは笑っている。プテラをじっと見ながら。もう相手のポケモンのことわかったのかしら。なんか不気味ね。全部見透かされてそうなイヤな感じ。

 

「メタモンだと? たいそうなことをほざいてたが、とんだ期待外れだ。おおかた育てが足りないのをへんしんで補うつもりだろうが、そんなぬるい考えはここでは通用しねぇんだよ」

「まさか。勝手な事言うなよ。これはハンデだよ。普通にやったら簡単に勝ててしまうから、せめてこれぐらいはしないと勝負にならない。わざわざそっちの土俵で戦ってやるっていう意思表示だよ。優しいでしょ?」

「なんにもわかってないようだな。一度叩き潰していかに甘い考えかわからせてやる!」

「両者位置について。では、試合……開始!」

 

 始まった! 相手は即座に飛ぶように指示を出す。シショーはまだ動かない。最初が肝心なのに、ボーっとしていて大丈夫なの!?

 

「プテラ、ドラゴンクロー!」

「直接攻撃からか……。下をくぐって躱しながらへんしん! 最初の相手がプテラとは、肩慣らしには丁度いい」

 

 まずは“へんしん”成功。相変わらず素早い。滑空して突っ込んできたプテラの攻撃を体を引き延ばして地面に張り付くようにして躱し、そのまま流れるようにへんしんした。

 

 何気ないけど見事な動きね。動きが滑らかだし、避けるのも下以外に動けば躱しきれなかったでしょうね。でも滑空しているから地面には追撃できない。一瞬でここまで……。

 

 “へんしん”使いにとって最大の難関をあっさり突破したわね。なのに全くその大変さを感じさせない。次はどう来る?

 

「さぁ、レイン選手はまさかのメタモンです。このポケモンは非常に扱いが難しくリーグでの使用者は現在他におりません。最初の関門、ひとまず“へんしん”には成功しましたが、能力は劣る上、試合中の技の確認は当然できません。いったいどんなバトルを繰り広げるんでしょうか?」

「ドラゴンクローだ! 打ち合いに持ち込め!」

「わざわざ正面から向かってくるとはたまげたなぁ。げんしのちから」

 

 あっさりと見ていない技を使って返り討ちにした。“げんしのちから”は遠距離技だから当然先にヒット。しかも効果は抜群! フィールドの補正も乗る。まさかまさかの正面からの奇襲を受ける形になり相手の人はわずかに動揺した。その隙にシショーは“はがねのつばさ”を使って近距離に来ていたプテラに追撃、見事に決まった。 

 

 ここまでムダが全くない。それに技の指示に淀みがない。たまげたなんてうそぶいているけど、相手の動きもおそらく予測している。わたしは練習で散々戦ったからよくわかる。“へんしん”使い相手には余り技を見せたくないから同じ技を続けやすい。その心理を見切っている。

 

「なんと! いきなり見ていない技を使ったぞ! 手の内は把握済みか?! ドラゴンクローは完全に読まれていたのか!? さらに連続でこれも未使用の“はがねのつばさ”が炸裂! たまらずプテラは地面に激突した!」

「げんしのちから連打!」

 

 あくまで近づかず遠距離から攻撃か。油断もないわね。それともあのプテラの近距離技に何かあってそれを警戒しているのかしら。どこまで読み切っているの?

 

「プテラ戦闘不能!」

「くそっ!」

「これはすごい! 圧倒的な素早さを誇り、今までの大会で数々のポケモンを何もさせずに葬ってきたプテラが逆に自らの速さで何もできずに倒れてしまった! これは大番狂わせだ!」

 

 まさに自分の強さが跳ね返ってきて負けたって感じね。強いから負けるってホントにもどかしいわよねぇ。これで強力なプテラをコピーできたし、シショーの勝ちは堅いでしょうね。すごいなぁ。“へんしん”は最初の対峙で勝つのが難しいけど、一度勝ってそこをクリアすれば倒した相手のポケモンを自分の手駒にできるのが強いってことなのね。あの言葉はそういうことだったのかな?

 

「メタモン、元の姿に戻れ」

「な! てめっ、何のマネだ!」

『あーーっっとぉ!? これはダメだっ! へんしんを解いてしまった! へんしんは残さないといけないっ! どうしたんだレイン! 何のためのへんしんだ! これはいけませーん!! せっかくノーダメージでへんしんできたのに、これではまた最初からやり直しだぞ!?』

 

 ええぇー!? ホントにそうよ! まさに実況の人の言う通りじゃない! シショー何考えてんのよっ! バカバカアンポンタン!

 

「だからさっき言ったでしょ。これはハンデなんだから、プテラのままじゃ意味ないだろ。能力を一緒にしなきゃわからないだろ、実力が違うってことがさぁ。次を出しなよ?」

「なんだとっ!? 1体倒しただけだってのにえらく余裕だな。いいぜ、今のうちにほざいておけ。必ず後悔させてやる! いけ、ウツボット!」

「へんしん!」

 

 今度はウツボットね。岩のフィールドだからそれに相性がいいポケモンは選んでいるわね。さすがに誰でも考えるわよね。“へんしん”する時シショーはイヤそうな顔だったけど、見た目以上に厄介なポケモンなのかしら。もう、プテラ残してたら相性良かったのに! 本当にバカね。何考えてるのやら。

 

 まずは相手が“へんしん”中に無償で出られた隙をついて先制の“はっぱカッター”。でもこれはそのまま受けて、シショーはその場で“ヘドロばくだん”を使った。ダメージが段違いね。相手はやむを得ず“ヘドロばくだん”に切り替えて来た。“はっぱカッター”はわざとダメージが低い技を選んでいたようね。完全に裏目だけど。

 

「かげぶんしん、ヘドロばくだん」

「なぜそれを! くっ!」

 

 相手の高火力技は躱しに来たわね。一瞬で相手の攻撃を避けながら背後に回った。やっぱり受けるか避けるかはしっかり見極めてるなぁ。後ろを取ったら素早く攻撃に切り替えて“ヘドロばくだん”を使った。一連の動作全てにおいて練度がすごく高い。普通のメタモンならあのレベルの動きは絶対無理でしょうね。ウツボットは大技を受け過ぎてさすがに倒れた。

 

「ウツボット戦闘不能!」

「ウソだろ!? メタモン、ごときに……俺のウツボットまで……!」

「メタモンいいぞ、よくやった。また戻っておけ。さ、3匹目をどうぞ。それともこれ以上恥をさらす前に降参?」

「バカ言え! 俺のエースでサンタテしてやる! いけ!」

「へんしん」

 

 出て来たポケモンはサイドン。地面が弱点だから自分で自分に弱点をつける。しかも鈍足だから技の撃ち合いは必至か……。これは面白いわね。どうするのかしら。

 

「じしん!」

「じしん!」

 

 ほぼ同時。全く同じタイミングで、同じ威力。そりゃ“じしん”しか使う技ないもんね。シショーに出し惜しみ戦法が通用しないのはもうわかっているし。これじゃ決着がつかないんじゃないかしら? 膠着したらどうなるんだろ。

 

 威力は当然全く同じ。互いに相殺し合っている。このまま均衡すると思われた2つの衝撃は、しかしゆっくりとシショーの優位に傾いた。なんで、どういうこと?……あっ、ちょっとみゅーちゃんの方が技の出が早い! だからだんだんぶつかる場所がズレているんだ! これすごいことよね!? 

 

 そもそもメタモンが弱いのは能力も技の練度も相手を超えられないから。なのにみゅーちゃんは元々の能力が高い上、おそらく千年単位で培った洗練された技もある。これじゃ劣化どころか完全に上位互換。相手を超えてしまっている……!

 

 だから対策できないんだ。どうやっても必ず自分を上回る敵と対峙することになる。最善の行動をとり続けられたら理論上絶対に勝てない! みゅーちゃんとシショーの特別な能力が合わさった奇跡の戦術ね。これじゃ対策もマネもできっこない!

 

「どうしてコピーのサイドンに負けているんだっ?! 冗談だろっ!? しっかりしろ!!」

「やってることはまぁ悪くないんだけどね。ただ、元々きまぐれな奴だからな。残念ながら案外物理技もいけるんだよね、この子」

「チッ! 訳の分からないことを……サイドン、負けるな! 気合を入れろ!」

「なるほど、気合いときたか。それで何とかなるなら苦労しないけどねぇ。これじゃ勝負は見えたな。このままいけば楽に勝てそうだ。せいぜいムダなこと言ってろ」

「……サイドン、ロックブラスト!」

「ラッキー」

 

 苦し紛れで別の技を使うが効果はいまひとつ。最後のあれだけは本心からの言葉ね。“じしん”の撃ち合いが面倒になって意図的に別の技を使うように誘導したのね。そんなことしようと思うのがもう……たしかに同じ技しか使わないからトレーナーは暇だったでしょうけど……。

 

 結局シショーがサンタテしちゃった。ほとんどダメージも受けていない。完勝といってもいい。でも本当にシショーに隙はなかったのかしら。

 

 あっ! よく考えたら毎回“へんしん”を解いたのってもしかして好判断だったんじゃないかしら。さっきはバカって思ったけど、サイドンはプテラには圧倒的に有利。“へんしん”を解かなかったら2体目に出て来たはず。そうなればサンタテは厳しい。

 

 そもそも自分のポケモンの弱点はトレーナー自身が1番良く分かっている。だから後から出すポケモンで対策することは難しくない。それこそが“へんしん”の真の弱点。それをわかっていたからこそ、あえて一見奇行とも思えた毎回のへんしん解除を続けたのね。

 

 プテラ、サイドン、ウツボット。どこで止めても後続に弱点を突かれる。こうして並べて見ると、そもそも相手の方もメンバー選出はかなり練られていると感じる。

 

 いわタイプに弱点がつけるポケモンが2匹いて、プテラも弱点を突く“はがねのつばさ”を持っている。いわタイプに弱点を突く「みず」「くさ」「じめん」「はがね」「かくとう」へ有利なポケモンも全て揃えつつ、自分もいわタイプはしっかり2匹も組み込んでいる。これ凄いわね。そりゃわたしみたいに手持ち6匹で行き当たりばったりなんてそういないわよね……。

 

『なんとなんとおおぉぉ! なんということでしょうか!! おそらく、いや、間違いなく、セキエイリーグ史上初! メタモンによる鮮烈なサンタテショーでレイン選手が華々しい初勝利を飾った! まさにポケモンの可能性を感じさせる洗練されたバトル! ルーキーながら今大会のダークホースとなるのか?!』

 

 固唾を飲んで黙って見ていたわたし達の口から思わず感嘆の言葉が漏れる。手品でも見せられていたような気分で、心の中で盛大な拍手を送っていた。

 

「くぅーー! よくやったわ! さっすがわたしのシショー!」

「これはやべぇ。十分納得したぜ。たしかにこれは絶対対策できないし、マネもできねぇ。毎回へんしんをかけ直すなんて思いついても普通やんねーよ。そもそもどうやってあんなに的確な指示を出してるんだ? 技は確認できないだろ? まさか参加者全員の手持ちを調べたのか?」

「まさか。それどころか1つも見てないと思うわ。見るだけムダって言ってたし。そもそも試合も見てないような人よ?」

「そうだったな。とすると、一目見て持ち主より数段上手くポケモンを操ったことになるな。対戦相手にとってはトレーナーとしての格の違いを残酷なまでに見せつけられる勝ち方だぜ、これは」

「そうね。シショーはメタモン6匹集めればいつでもチャンピオンだって倒せると思うわ。昔からポケモンを見る目は抜群だし、見たことのないような戦術を当たり前のように次々仕掛けてくるし」

「マジかよ……こりゃ、オレらもウカウカしてらんねーな。不戦敗どころか、大本命だぜ。それにブーイングしてた観客もみんなレインコールだ。大した連中だな」

 

 ――レインッッ、レインッッ!――

 

 シショーが手を挙げると歓声が大きくなった。まるでもうリーグのスターね。ここに来るトレーナーは皆多かれ少なかれ憧れの的になるけど、ルーキーで初戦からここまで沸くなんてすごい。

 

 客席を降りて会場のエントランスに向かう途中シショーとばったり出くわした。フィールドからここまで来るには早過ぎるから、きっとみゅーちゃんのテレポートね。

 

「あれ、なんであんたこんなところにいるんだ? さっき終わったばかりなのにいくらなんでも速過ぎるだろ」

「そんなことより、お前ら一緒に見ていたんだろ、3人仲良く。楽しめたか?」

 

 案の定グリーンはそれを指摘するけど、シショーはやんわり話を逸らした。いっつも話を変えるの上手よね。有無を言わせないっていうか……すぐ話を変えるってわたしのことばっか言えないじゃない。

 

「相手の技……初めから知っていたのか?」

「そんなわけないだろ。対戦相手すら確認しなかったぐらいだ。顔見ても知らない奴しかいないからどうせ何もわからないし、メタモンなら誰が相手でもやることは同じだから必要ないんでな」

「おいおい、だからって確認もしないってマジかよ。とんでもねー自信だな。じゃあどうやってわかったんだよ?」

「ポケモンが覚えられる技は基本的に全て把握している。よく使われる技も予想はつく。ちょっとしゃべれば相手の性格もわかるし、状況や手持ちの構成、もろもろ込みで予測自体は難しくはないだろ」

 

 そばにいるみゅーちゃんは反応なし。ウソは言ってないのかな。本当に予想なんて簡単にできるものなの?

 

「だけど絶対じゃないはずだろ。なんであんな自信満々なんだよ?」

「緑の方はよく質問するな。自信のないトレーナーの言うことをポケモンが聞くわけない。いちいちビビってたら、メタモンのパートナーは務まらない。つまり、確かな知識と、自分を信じる心がトレーナーには必要なんだよ。メタモンだけに限ったことでもないけど」

「ホントかよ? じゃあオレのカメックスの技を全部当ててみろよ?」

「ふふ、全く信じてないってツラだな。ま、それは戦うことになればな。それまでに覚えさせる技はよく考えておくことだ。自分の技で己の身を滅ぼすことになるかもしれないからな」

 

 そう言い残してヒラヒラと手を振って去っていった。シショーカッコいい! わたしも活躍して、絶対シショーにも勝って期待に応えて褒めてもらうわ! そしてわたしも大歓声の中であんな感じで……。

 

 期待に夢が膨らむ!

 




連チャン更新はないよと言いつつすぐに連チャンする奴
りんごうさぎの言うことを信じてはいけない(戒め)

いや、ホントに書き直したりして時間はかかりますよ
辻褄は気づいたら後から合わせればいいやっていう開き直りとペース配分考えるのを放棄して書けたら間を置かず投げるようにしただけです
完璧主義はホントにダメ
遅いならともかく早くなる分はセーフ

今回は敢えてブルー視点で観客席から見ましたがレイン視点だと全然違う印象になったでしょうね
同じ話の繰り返しになるのでレインサイドを改めて書くことはしないつもりですがなんでこんなことになったのかはどっかで触れると思います

ポケモンに限らず試合風景ってまぁこんな感じですよね(偏見)
ヤジがあったり実況がいたり

対戦相手を確認してないとレインは言いましたが、対戦相手が発表されたときブルーが後ろ姿を見かけたのは試合がいつあるか確認するためですね
一見矛盾してるように思えるので一応の補足です

対戦相手はサンタテされましたがトレーナーレベルとしては強いですよね
構築も悪くないし、いきなり出たメタモンへの対応も定石みたいな攻め方でポケモンわかってるな、という感じなんですが定石通り過ぎて読まれたわけですね

持ち物はプテラとサイドンが岩フィールド補正を活かす「かたいいし」
ウツボットは「きせきのタネ」です
もちろんみゅーちゃんは「しあわせタマゴ」です

最初から少し振り返るとまずなんでドラゴンクロ―なんやということですが……。
技は自由になんでも覚えさせれるわけでもなく、そもそも覚えられることを知らなければ三色キバやアイヘ、アクテも覚えようがないわけです。
その点ドラクロはわざマシンなのがデカい。あとドラゴンは通りがいいので技スぺ無限なら使うかなと思いました。
レートでは抜群取れないと指数足んないので使う場面はないです

「直接攻撃からか……」というのは先の展開が楽になったな……みたいな意味合いの発言です
同じ技を連打しやすいので次の攻防で遠距離技で楽に反撃できるなというのを見越していたわけですね

遠距離技から入られたら撃ち合いの展開になるのでいかに相手の上や背後を取るかという壮絶な陣取り合戦が始まって大変になります

相手のウツボットの草技の意図は同じ技の撃ち合いになれば道具の補正で優位になるという計算です
道具による差別化はメタモン攻略の王道手ですので逆にレインはこの行動は可能性として頭にありました

へんしん解除の真の理由は不利対面を確実に回避して完全な体力勝負に持ち込むためです
解除しないと対策が簡単にできてしまいますから

最後にレインが質問攻めされる際にみゅーは無言ですが、本当にウソは言ってません
予想は難しくないと言っただけで予想して技の指示を出したとは言ってませんからね
レインはギリギリウソじゃないラインをすり抜けるのが上手


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10.あとは任せて 信じて待って

 初戦を終えてからわたし達は順調に勝ち上がった。わたし自身は手持ちのバランスと耐久力を生かして交換を繰り返して勝ち上がり、レッド達はレベルの高さを前面に押し出した力勝負で勝っていた。手持ちがほとんど50台なのはさすがよねぇ。それに切り札はまだ見せていない。このトーナメントじゃ敵なしってぐらいの快進撃。

 

 シショーの方は相変わらずメタモン1体で全て勝っている。毎回“へんしん”を解除するので、ほのおタイプを出してから次にみずタイプ、なんてベタなメタモン攻略方法が使えない。しかも異様にタフなので対戦者は皆攻めあぐねていた。

 

 強いポケモン……カイリューとかなら1匹で全部倒して勝ち上がる例も過去にあったみたいだけど、誰でも育てられるようなメタモンで連勝するのはホントにすごい。今カントーではメタモンの人気が急上昇して注目を集めている。自分のシショーが人気になるのは嬉しいけど、凄さを知っているのが自分だけじゃなくなるのはなんか寂しい感じもする。

 

 わたしは4回戦、これも難なく勝ち上がり次へ進んだ。段々慣れて来て今は余裕がある。頭では次の試合……ではなくこのあとのシショーの試合のことを考えていた。ラーちゃんには自分のことに集中しろって言われたけどいいのよ。レベル的にもシショー以外にはもう負ける気はしないし、これは敵情視察も兼ねているからトレーナーとしての務めを果たしているだけ。3回戦は見れなかったし、今からもう待ちきれない。

 

 シショーのメタモンのバトルはとっても参考になる。様々なポケモンの正しい戦い方のお手本をシショーがわたしに見せてくれているようだった。だから毎回自分と被らなければ見に行くことにした。

 

 急いで隣の会場に向かったけどもう終盤ね。あれは水のフィールドか。相手はなぜかサイドンを出しているわね。みずタイプには相性が悪いけど……でんきタイプ対策?

 

「メタモンなみのり!」

「なぜその技を?!」

「サイドン戦闘不能!」

 

 “なみのり”使えるの!? 今までだいたい全部見ているけどシショーの指示は一度も不発になっていない。サイドンが“なみのり”を覚えるなんてわたしは今初めて知ったのに。やっぱり知識とかでは遠く及ばない。小手先の小細工はムダのようね。このメタモン対策も空振りして自滅する結果だし。

 

「もしかしてこの技切り札だった? 先に使わせてもらってごめんね。助かったよ」

「バカな、こんなことはありえない! これはひでんマシンで昨日覚えたばかり! しかも絶対誰にもバレないように……お前が知るわけが……どうしてこんなことが……」

「技を変えたことなんか知らない。今までも、事前に調べて知っていたからわかったんじゃないし。だいたい、前日までランダムなんだぞ? ルーキーが200人以上の参加者の手持ち全部把握できるわけないでしょ」

「そんなバカな! まさかお前、とんでもない豪運の持ち主なのか?!」

「……」

 

 シショー豪運ギャンブラー説爆誕! いや、どう考えても実力でしょ。技なんていくらでも種類があるのに運だけでノーミスは無理じゃない? エスパーなら勘でいけるのかな。

 

『さぁ、これで今日の全試合が終了しましたっ! 次は5回戦。当初237人いた参加者も数を減らし、熾烈な競争を勝ち抜き残ったのは僅か16名。注目は破竹の勢いで勝ち続ける今年のルーキー4人! そして優勝候補には毎年実績を重ねてきたサオリ選手を始めとして……』

 

 会場を離れ、実況の声が遠のいていく。またメタモンの独壇場か。みゅーちゃんはこの前会った時とっても幸せそうだった。バトルで大活躍できてシショーにたくさん褒められているらしい。バトルできること自体も楽しそうだしいいこと尽くめね。毎日リーグ戦がいいとまでみゅーちゃんは言っていたけど、この連勝記録、どこまで伸ばすのかしら。

 

 カイリューは氷フィールドで途中1回負けたらしいから、全部みゅーちゃんで勝てれば新記録になる。そんなことになったら大変なことになるわね。

 

 ◆

 

「ねぇ、ホントに大丈夫なの?」

「心配するな。ちゃんと勝つから。俺のこと信じられない?」

「ううん。レインは強いから、みゅー信じてる」

「ありがとね。やっぱりみゅーはいい子だな」

 

 今日は5回戦。“あれ”以来一応試合には定刻通り来ている。毎回着くのはギリギリだが、これは余裕がないわけではなくテレポートしているからだ。だがもちろん相手からはわからないことなのでこれも調子乗っている扱いされることになった。観客目線だと「連勝中のヤベー奴」だが選手からは「舐めてるけど気づいたら勝ってる謎ルーキー」というのが俺の今の評価みたい。……観客の方が俺の凄さを理解しているな!

 

 あの時は前日張り切り過ぎてみゅーがなかなか寝付かなかったのがそもそもの始まりだった。バタバタしているところに不運も重なった。まさか会場が複数あるなんて夢にも思わなかったのだ。そんなこと誰にも言われなかったが俺以外にとっては常識らしい。まさか過ぎた。

 

 そもそも今は試合を見たりするより少しでもみゅーの技の練習に時間を当てたいから自分の出番まで会場に行くつもりもなかった。そこで思いついたのがブルーを利用する手だ。回復のためブルー自身にマーキングを付けているから直接ブルーの横に飛んで試合前の応援ついでに控室にマーキングをしておこうという天才の発想。しかしこれが罠だった。

 

 行ってみればなぜか自分以外の選手がいるし何もかもがなぜかおかしくて、会場が複数あることに気づく頃には時間が大変なことになっていた。寝ぼけているみゅーを渾身の“めざましビンタ”で起こして自分の会場に着く頃には時間ギリギリ。「みゅーのせいです」とは言えないし結果的に相手を挑発する結果になるし散々だった。目立ったからいいけど。

 

 できるだけポーカーフェイスに徹したけど内心は決して穏やかではなかった。やたらヤジが迷子扱いしてくるし、実況も好き勝手煽り、みゅーは出て来ても寝ぼけている。あいつ最初メタモンのまま「んみゅんみゅ」っていつも通りしゃべってたの聞こえたからな。鳴き声は自分で作っていたとか衝撃の事実なんだけど。テレパシーを使い、“ご褒美”でやる気を引き出すと目を覚ましてくれたから良かったが、最初から手持ちが半分眠り状態とかこっちは叫びたくなっていた。

 

「今日は頼むぞ……」

 

 モンスターボールをそっと撫でてリングに向かった。もうみゅーの練習は区切りがついたからゆっくり早めに来た。今日の相手はどんな奴かな。

 

「あら、珍しく早いわね。噂のダークホース君」

「早く来ても結局言われるのか。ホントにしつこいなぁ。こっちにもちゃんと事情はあるんだよ」

 

 エリートトレーナーか。また精神攻撃? いっつも“あれ”について言われるけど新人いじめて楽しいの? 自分も人の事言えないけどいい趣味してるよな。

 

「ルーキーのくせに生意気ね。一応言っとくけど、もうあんたはうちらのマークの対象になっている。ここからは簡単には勝てないわよ?」

「どうぞどうぞ、好きなだけ対策してきなよ。あんたらが必死に研究してくるのを、俺は鼻で笑いながら見てやるよ。ムダなことやってるぞってな」

「それはあたしじゃ勝てないって言いたいのかい?」

「そもそも眼中にないよ」

「言ってくれるわね。いい? あたしは今年こそ必ずマスターへ上がって、カスミを倒してジムリーダーの座を奪う! あんたはその踏み台になるのよ!!」

 

 ジムリーダーになりたいっていうのは意外だな。そんな人もいるんだな。ジムリーダーが変わることは確かにゲームでもあった。カントーだと道場破りのナツメみたいな感じ。

 

『まずは赤コーナー、サオリ選手っ!! 優雅なる水使い! 相手を翻弄する華麗な技と、試合を常に掌握するような見事な策略でここまで勝ち上がった今年の優勝候補筆頭だぁ!! 対して、緑コーナーはメタモン使いのレイン選手! その連勝記録をいったいどこまで伸ばすのか?!』

「いくわよ、スターミー!」

「イナズマ、思いっきり暴れてこい!」

 

 スターミー Lv48

 技 なみのり

   サイコキネシス

   10まんボルト

   でんじは

   こごえるかぜ

    ……

 

 イナズマ Lv52

 実 140-64-69-166-115-207

 

 技 110まんボルト

   2めざめるパワー

   3あくび

   4バトンタッチ

   5まもる 

   6みがわり

   7こうそくいどう

   8チャージビーム

   9かみなり

  10あまごい

  11ボルトチェンジ 

 

 会場がどよめいた。先頭、まさかのサンダース。相手も驚きを隠せない。

 

「ええっ! メタモンじゃないのっ!?」

「そのスターミー、メタモン対策で色々覚えているな。怖い怖い。けどお生憎様。さっき策略家とか言われていたが、策士策に溺れるか?」

「はじめっ!」

 

 相手は悔しそうに顔をゆがめるが試合は待ってくれない。相手は渋々という感じでいきなり交代してきた。

 

「クッ、やむを得ない……戻りなさい!」

「いきなり温存か。やっぱりメタモンへの役割重視のようだな。6,7!……そこまで警戒されてるんだなぁ。まぁ好きにするがいい。メタモンを倒しても、こっちは4体も残っているからな」

 

 今までの試合の感じだと相手にしゃべりかけるのはギリギリルール違反ではないみたいなので、カモフラージュと時間稼ぎも兼ねてわざと話しかけてメタモンを意識させた。“みがわり”はよく見ていないと技の使用を見落とすこともある。そうなれば後から気づくのは難しい。“こうそくいどう”に注意が向いてくれたらもうけものだがどうだ?

 

「言ってなさいよ。この程度の奇襲なら問題じゃない。いけ、ウツボット!」

「またウツボットかよ。リーグって同じポケモンよく見るよな。やっぱ流行りとかあるのか? それ強いから流行ってるの? 勘弁してくれよ」

「(しめた! くさタイプはでんきタイプには有利、みずタイプ以外は想定外のようね)ねむりごな!」

「またくさタイプのひとつ覚えで初手催眠かよ。他に覚えてる技ないの? 8! ウツボットまでそんなことするのか」

 

 俺はただ“チャージビーム”の指示を出すだけ。相手は最初のうちは得意気だったがすぐにイナズマが眠らないことに戸惑い、懲りずにまた同じ指示を出すが当然また失敗。残念ながら良いカモだ。試合前はメタモンのことしか考えてなかったんだな。ポケモンは1匹勝負じゃないのに。マークが偏ると選出も歪になるんだよ。

 

 “ねむりごな”を頑なに続けるのでこちらも“チャージビーム”を使い続けた。使えば追加効果の特攻上昇判定は発生するのでこちらは大して攻撃を当てる気はない。なのでこっちの攻撃が緩く余裕があるため“ねむりごな”で動きを止めようと躍起になっているようだ。

 

 もしかするとサンダースが素早いことぐらいはあちらさんも知っているのかもしれない。実際相手からは“ねむりごな”自体は当たっているように見えるわけだし、余計諦めきれないんだろう。

 

『あーーっと、これはまた失敗だ! またしてもお互い決定打に至らない! ウツボットには攻めの姿勢が感じられません! これでは何度やっても同じだ! なぜ攻撃技を使わない。使えないのか。使いたくないのか。使う度胸もないのか!』

「そろそろいいか。イナズマ、めざめるパワー使っていいよ」

「めざめるパワーですって!? 運任せな技でわるあがきのつもり?」

「でんきにはこおりが似合うと思わない?」

 

 もちろん相手はわけがわからないという顔だがすぐに結果は出た。こうかはばつぐん。一撃で倒した。

 

「めざめるパワーこおり……!」

『これは珍しい! 今のはめざめるパワーか!? こうかはばつぐんだ! ウツボットたまらずダウン! ポケモンごとに技のタイプがバラバラで使いにくく、ポケモンリーグではまず見ることはない技だが、レイン選手土壇場で幸運にもそのデタラメな技の特性に救われたようだ! ようやく試合が動きました。サオリ選手、でんきタイプを倒し損ねたのはやや痛手になるか!?』

 

「もうっ、どうなっているの?! よりによってめざめるパワーで弱点をつかれるなんて運が無さ過ぎるっ」

 

 運じゃないんだけど……でんき半減タイプに通りがいいから覚えているわけだし。あんまり見ない技だとそういう認識になるのか……。

 

「次は? もうみずタイプしか残ってない?」

「そんなわけないでしょ? みずポケモン使いとして、でんきタイプ1体にやられるわけにはいかない! ここから目に物言わせてやるから覚悟しな。いけ!」

「10まんボルト」

 

 出て来たのはオコリザル。格闘か。そいつじゃ耐久がたんないなぁ。そもそも考えてみればカビゴン・ラッキー辺りの数値受けがいないとカントーだとイナズマをタイプで受けれそうなのはいないのか。特攻が上がるとイナズマも大エースに早変わりするわけだ。

 

 そのまま“10まんボルト”を続けてオコリザルを倒した。

 

『これはいけない! 連続の攻撃であっけなくオコリザル戦闘不能! これでは全くの無駄死にだ! オコリザルが泣いているぞ!?』

「うそっ! そんな……」

「今のがダメだったら、あんたにまだ残ってるのかな? 2回の攻撃を耐えられるポケモンが? それとも降参? ジムリーダーならそんなことしないだろうけど、もう勝負見えてるもんなぁ」

「諦めたりするわけない……お願い、なんとか耐えて!」

 

 結局残りはみずタイプしかおらず快勝。あっけなく勝利した。この辺りのトレーナーだとレベルが高いから5体も倒すと少しは経験値になるみたいだ。

 

「スターミー戦闘不能! よって勝者レイン選手!」

「ありがとうございました」

「……でんきタイプゥゥーーッ!!」

 

 物凄い形相でイナズマを睨んでいる。で、でんきタイプは一貫性作る奴が悪いって昔から決まってるんだよっ。……勉強になったな。いつもより“はやあし”で戻って来たイナズマを抱き上げ、今日だけカメラ目線で手を振った。特性は“ちくでん”だけどね

 

「イナズマ、ポケモンリーグで初勝利おめでとう。ほら、お前もカメラに手、振っとけよ」

 

 ゆっくり会場を出るとすごい勢いで3人組に囲まれた。どっから現れたんだ。全員また見ていたのか。こいつらよっぽどヒマなんだなぁ。今回はたまたまみゅーじゃないが、毎回似たような展開なのによく飽きないな。

 

「お前らの試合はもう終わっていたんだったな。ベスト8おめでとさん」

「あ、わたし達のことも知ってるんだ。ありがとね……ってそうじゃなくてよっ!」

「なんでメタモンじゃないんだよ! 連続出場連勝記録かかっていたんだぞ! まさか知らねぇわけでもねーだろ!?」

「おれ達で理由を考えたがわからないんで直接聞きに来た」

「それにみゅーちゃんが試合開始直前にわたしのとこに来たのよ! 何聞いても2人がいるせいかなんにもしゃべってくれないし! メタモンで十分勝てたでしょ!」

 

 ブルーが最後は小声で話してきた。みゅーは俺が行かせたんだよ。今日は使わないって決めていたから。試合見るならブルーの近くが1番いいだろうと思って。ここでは言わないけど。

 

「やっぱなんかの作戦なのか? あるいは仙人の勘で何か予知していたってのか?」

「このタイミングでしたことに何か意味があるのか?」

 

 怒涛の質問攻めだな。少しは落ち着けよ、俺は逃げないっていうのに。あとグリーン、まだ仙人言うか。

 

「別に理由は簡単だ。イナズマはマサキさんから貰ったポケモンで、そのときに絶対リーグで活躍させるって約束したからな。そろそろ出しとかないと心配されるだろ。今日は5体倒したし、一応これで面目は保てただろ」

「はぁ!? そんなささいな理由かよ! つうか、それは連勝記録よりも大事なのか?!」

「そんな記録、作ろうと思えばいくらでも作れるんだから大した意味はない。そもそも優勝すればその過程は関係ないはずだ」

「なんかわたしはスッキリ納得したわ。シショーらしいわね。約束は大事にするし、興味ないことには無頓着だもん」

「ダーッス!」

 

 出番があってイナズマは大満足みたいだな。活躍できて嬉しいみたい。さっきから俺にくっついたまま離れない。このチクチクだけどビリビリした感じ、やっぱりいいなぁ。

 

「もう聞きたいことはないだろ。今からけづくろいするからまたな」

「みゅー、じゃあね」

 

 ブルーといる間、みゅーがしゃべったのはこの一言だけだったらしい。試合前は心配そうに何度も俺に話しかけてきたのにな。試合中はちゃんと信じていてくれたのかな。本人曰くずっとおとなしくしていたようだ。

 

「じゃあみゅーもけづくろいしようか」

「いいの? でもみゅー今日はなんにもしてないの。いい子だったご褒美ってこと?」

「んー、俺がしてあげたいからっていう理由じゃダメ?」

「みゅ!? ホント? いいよ、嬉しいの!」

 

 以前はバトルの際、他の仲間に任せて勝負を見守るのは苦手なようだった。グレンジムがいい例で、あの時はみゅーの負け=レインの負けと思っている節があった。仲間を信用してないとまで言わないが、多少そういう面もあったのかもしれない。野生の頃はずっと独りで勝ってきただろうから気持ちはわかる。

 

 でも、ようやくみゅーにも信頼関係ができ始めている。それが嬉しい。リーグでは仲間に任せて勝負を見守ることも立派なチームプレー。みゅーは確実に成長している。もう立派な仲間だ。

 

「レイン、嬉しいことあったの? オーラ嬉しそう」

「そう? みゅーには隠せないな。でもなんでかは教えてあげない」

「みゅ!? 教えてよっ」

「気になるならエスパーで当ててごらん?」

「みゅぅぅ……レインはいじわる」

 

 少しぐらいは隠し事してもいいよね?

 




イナズマ強ポケ疑惑が……
交換する場合ボールに戻す間に時間ができるので技を選び直せますよね
するとボルチェンがささるささる
技の効果のチェンジは1ターン経過しないので無償降臨かつ有利対面維持
このアドを思考停止で取れます
ボルチェンカットのために地面タイプを出せばめざ氷で返り討ち
かなり不利な読みを相手に強いれます
サンダース自身は電気無効ですので相手のボルチェンは許さないのもグッド
素早いだけでも恩恵が多いのにタイプ面でも優秀だと手が付けられませんね
もしかしてイナズマさん、強過ぎ……?

ちなみにタイトルはイナズマがみゅーちゃんに言ったセリフというイメージです
イナズマはこんな感じの口調でどうでしょう
そんなに変ではないはず……


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11.待ちこがれた(とき) 歓喜の予感

準決勝前半戦


 ポケモンリーグもいよいよ終盤戦。俺達4人は見事に6回戦を勝ち抜き、4人揃ってベスト4、晴れて7回戦へと駒を進めた。ここで初めて4人同士がぶつかることになる。勝ち残りが今年のルーキーだけ、しかも全員圧勝でここまで勝ち進んできて、リーグは史上まれにみる大盛り上がり……らしい。比較対象を見てないから実感はないけど。気になる対戦カードはどうなのか組み合わせを見にいこう。

 

 1 ブルーvsレイン

 2 レッドvsグリーン

 

 いきなりブルーか……。決勝かなと思っていたが少し早かったな。とうとうブルーと向き合う時が来たのか。弟子にした時から、この瞬間が訪れることはわかっていた。ブルーも全力で向かってくるはず。そしてもう1つも好カード。激戦になることだけは間違いない。

 

 ……それぞれの思いを胸に、その時は来た。こんな時だけ時間が過ぎるのは早い。バトルフィールド入口前。試合にはまだ時間がある。いつもと違いかなり早めに来てブルーを先に待っていた。

 

「あっ……」

「来たか、ブルー」

 

 声がして顔を向けるとやはりブルーがいた。ここには対戦者しか来ないから当然だが。

 

「何も言わずに試合になるのかと思ってた。最近わたしとは離れていて会ってもあんまりしゃべってくれないし」

「最初に言っただろう。俺は面倒見が良くないって」

「……そんな昔のこと、覚えてないわよ。でも、なんか懐かしいわね」

 

 たしかに、あの時のことがもう遥か昔のことのように思える。1年も経っちゃいないのに。今回の対戦相手が決まってから、ブルーとは一言もしゃべっていない。ここは弟子でなく、ライバルとして、戦いにはケジメをつけるべきだと思っていた。勝負で馴れ合いをする気はない。

 

「もう俺もお前もあの頃とは違う。1人のトレーナーとして、ブルーとは真剣勝負をしたい。どこまでやれるか俺に見せてみな。先にリングで待ってるから」

「シショー……」

「今はシショーはナシだ。わかってるだろうが弟子だからって手加減して花を持たせるようなことはしないし、情けないバトルをすれば容赦なく叩き潰すからな。とにかく、お前はお前にできる全力で来いよ」

「ええ。わたしだって今まで色々教えてもらったからって遠慮はしないから。どんな形であれ絶対に勝って、わたしをここまで強くしてしまったことを後悔させてあげる」

 

 なんというか、ブルーらしい。変に遠慮しないのはいいところだ。最初に会った頃そのまま。でも実力は違う。油断はできない。最善を尽くして必ず勝つ。

 

 心底楽しくて、今までで1番純粋な気持ちでバトルを心待ちにして舞台に上がった。勝たなきゃいけない勝負を必死にしていた頃とは違う。でも絶対に勝ちたい気持ちだけは変わらない。

 

 それに自分も変わったなと感じる。思えば、自分の勝ち負け以上に誰かの成長を喜ぶようになるなんて想像もしなかった。きっともし負けてしまっても、悔しさよりも嬉しさが勝ってしまうんだろうな。

 

 …………

 

『さぁ皆さんお待たせ致しました! 今回も実況はわたくし、うさぎりんごがお送りします! まもなく両選手リングへ上がります。レイン選手、今回は初めて十分な余裕を持っての登場! 近頃は冷え込みますしヒョウでも降ってきそうです。それだけ強敵が相手ということでありましょうか。勝負の命運を握るバトルフィールドは悪。カントー地方ではあまり見ることのないあくタイプのフィールドです。バトルに大きな影響を与えることはなさそうだ。さぁ勝負が始まります。最初のポケモンはどうだ?』

 

 人の行動を異常気象扱いすな!……お互いあくタイプの技は使わないからフィールドはほぼ関係なしと見ていいだろう。お互いにボールを構える。フルバトルだから手持ちはわかっている。だからブルーの考えることは何通りも想定して研究してきている。

 

 まず自分のポケモンを熟知しているブルーには“へんしん”は効果が薄い。さすがにみゅーは今までと同じく毎回解除戦法は厳しい。“へんしん”はできるだけ残していきたい。ポケモンの数と体力が削れた終盤でこそ活きる。そもそも耐久が売りのやつが多いから“へんしん”自体に旨みが少ないしブルーには何も考えないで使える技ではなくなる。

 

 ブルーの先鋒は、もろもろ考えれば交代技もあるレアコイルかピジョットに限定できる。鈍足で切り札の2体とソーナンスは初手にくることはないだろうし、ハクリューは天候を変えたりできる上、ブルー唯一の強力な積み技“りゅうのまい”もある。温存しそうだ。なら残りの両方に強く出られるイナズマが有力なわけだが……。

 

 さぁ、お前の最初のポケモン見せて見ろよ。最初に何を選ぶかでもブルーの考えがずいぶんわかってくる。

 

『現れた! 両者最初の一投! 先鋒はハッサムとレアコイルだ! これは珍しい鋼ポケモン対決! レイン選手がメタモン以外を使うのは5回戦以来、しかもハッサムはカントーでは珍しいポケモンだ! あのメタモンを差し置いて先発するということは実力も相当に違いない! これには俄然期待も高まって来るっ!』

 

 レアコイル 47 148-067-099-177-83-069 @メタルコート

 アカサビ  47 137-188-110-060-91-106 @しあわせタマゴ

 

 技 1バレットパンチ

   2でんこうせっか

   3むしくい

   4つるぎのまい

   5まもる

   6みがわり

   7とんぼがえり

   8つばめがえし

   9バトンタッチ

  10かわらわり

  11ちょうはつ

 

「いきなり! アハハッ、ホントに本気なのね。ゾクゾクする」

「さーて、最初はどうしようかなっと」

「バトル開始!」

 

 審判から開始の合図。それと同時に飛ぶように指示を出す。

 

「9」

「ほうでん!」

 

 ブルーはまず“ほうでん”か。“つるぎのまい”の怖さをあいつはよく知っている。だから悠長な攻めはできない。でんき技で来るだろうとは思ったがわざわざ“ほうでん”を使う辺り警戒心が見え隠れするな。レアコイルから入ることといい、相当慎重になっている。それは逃げや守りの姿勢とも表裏一体。怖いもの知らずならできることも怖さを知ればこそできなくなる。そういうやつの考えは読みやすい。

 

 最初のでんき技を見越していた俺はまず“バトンタッチ”を使った。こちらは素早さで勝る上に“バトンタッチ”は補助技かつ自分にかける技なので余裕で先出しできる。しかも技の効果によるチェンジなので相手に技を選び直す暇を与えず交換できる。なので……。

 

「ダーッス!」

「しまった! ちくでん……!」

『おおっ?! これはちくでんが発動している! ほぼバトルで発動機会はないムダな特性になりがちだが、まさかサンダース相手にでんき技を使う場面がこんなところで見られるとは驚きだ!』

 

 イナズマ Lv52 @とけないこおり

 実 140-64-69-166-115-207

 

 技 110まんボルト

   2めざめるパワー

   3あくび

   4バトンタッチ

   5まもる 

   6みがわり

   7こうそくいどう

   8チャージビーム

   9かみなり

  10あまごい 

 

 交代なら技は避けられるが、“バトンタッチ”されたポケモンはそのまま相手の攻撃を受ける。そのデメリットを逆に生かす。ゲームと異なり、“ちくでん”はHPを回復するだけじゃない。文字通り電気を蓄えるので電気技の調子も当然上がる。それはリーグ前の練習試合によって俺もブルーも把握していた。

 

 そしてレアコイルはイナズマに有効打は全くない。逆にこっちは“ちくでん”のおかげで半減でもでんきタイプの技はいいダメージになる。なら相手は交換一択。そして交換先はほぼフシギバナかハクリューで堅い。今でんき技を等倍以上で2発受けるのは厳しいからだ。そうなると交換読みめざパが刺さる。

 

 だがフシギバナだと受けきられて次のターンで後続が手痛いダメージを受ける。そこまでふまえれば、まずは“あくび”。交換先の筆頭候補を一度流す。……今のところはシュミレーション通り。

 

「戻って! 交代よ!」

「バーナ!」

 

 フシギバナ Lv52 194-85-101-170-121-99 @おおきなねっこ

 

 出てきたのはフシギバナ。そこに“あくび”が決まる。この技の効果はもうブルーもわかっている。だからみすみす眠ったりはしない。眠るのも構わず攻撃すれば最悪イナズマを残したまま“バトンタッチ”されてアカサビ降臨という最悪の負け筋に繋がるからだ。

 

「あーもう、面倒ね。交代よ!」

 

 ここで“めざめるパワー”! ここで“めざめるパワー”を読まれてソーナンスがくるとほぼ無償で出られるが、イナズマに当てて来た場合ソーナンスの突破方法は確立している。逆にアド。それにブルーは今“あくび”とでんき技を意識している。両方見ようとするならば今度は……やはりハクリューが出て来たか。だっぴと電気半減だからな。さあダメージはどうだ? 半分はいくはずだが。

 

 ハクリュー 47 38/128-140-73-67-80-112 @りゅうのウロコ

 

 効果抜群で90か。そんなもんだろうな。素早さも勝っている以上完全に縛った。死に出しも交代も同じだから交代してくるな。

 

「読まれてる……さすがね、交代よ!」

 

 やはり交代か。普通はフシギバナだろうが、めざ氷読みならラプラスもなくはないか。もう少し“あくび”連打でいじめてもいいがとりあえず“ボルトチェンジ”でいいか。相手は行き詰まっているから何かしら仕掛けて来てもおかしくない場面だし、“ボルトチェンジ”は絶対対面有利にできる。様子見も兼ねてイナズマはいったん引かせるか。ラプラスがいるからそいつを引っ張り出す前にイナズマを消耗したくないし。

 

『やややっ! また交代です。いったいなぜ交代ばかり繰り返すのか。その行為にどんな意図があるのか。皆目見当もつきませんっ。これではジリ貧だぞー。またダメージだけが刻々と蓄積していく。どーしたんでしょうか』

 

 よっぽど呆れたのか実況は最後脱力しきった声で言った。まぁ気持ちはわかるけど……。

 

「ナンスッ!」

 

 ソーナンス 44 234-40-97-31-106-44 @しあわせタマゴ

 

「ソーナンス!? ラッキー、いただきっ!」

「うそっ、ボルトチェンジ!?」

 

 “ボルトチェンジ”はこうやって使うんだよ。ブルーは“ちくでん”持ちが後ろにいて通りが悪いのにレアコイルを初手に出すから失敗する。

 

 こっちが出すのは当然アカサビだ。ここは“ちょうはつ”一択だがそれはブルーもわかっている。ならそのとき唯一動けるのは自軍にかけるので相手にかける補助技よりも速めに決まる“しんぴのまもり”。どうせ“ちょうはつ”されると交換はしなきゃいけないが交換するならそれを使った後でもいい。それを見越せば初手に“とんぼがえり”も面白い。

 

「7」

「……! 攻撃か、油断したわね。カウンターよ!」

「げっ! 攻撃待ち!? ……なんてな。まっ、問題ない。ユーレイ、出てくれ」

 

 “ちょうはつ”を決められる前に動くにはハッサムの出方を見てからでは間に合わない。だが“カウンター”などの場合は受け身な技である分、見てからでも間に合ってしまう。攻撃技を待たれたら反射技の使用は止められない。今のは完全に読まれたか。ここからは完全に想定外の戦いになるな。

 

 “とんぼがえり”への“カウンター”が決まる前に強制的にポケモンは変わる。その辺は“ボルトチェンジ”で一応実験済みだ。これはとても大事なことだ。先に交換されるということは“カウンター”も“ミラーコート”も相性で無効にできることを意味するから。

 

 どうでもいいけど、相手の攻撃技聞いてから“カウンター”と“ミラーコート”と“アンコール”を使い分けれるのはズルイ気がする。強過ぎるんだけど。

 

「ゲエエン!」

 

 ユーレイ 48 129-78-74-190-70-155 @のろいのおふだ

 

 技 1シャドーボール

   210まんボルト

   3きあいだま

   4さいみんじゅつ

   5まもる

   6みがわり

   7あやしいひかり

   8みちづれ

   9ゆめくい

   10ちょうはつ

   11のろい

   12いたみわけ

 

『あーダメだ! またしても攻撃は通らず! ブルー選手先程から翻弄され続けてなかなか攻勢に回れない! まるで全て見透かされているような、何もかもわかっていたかのような立ち回り! 場にいるのはメタモンではありませんが相手の行動をあざ笑うかのようなポケモン捌きは健在か!? その上出て来たのは幽霊ポケモンのゲンガーだ! かなり手強い相手だぞ!?』

「うっそでしょ!? なんでカウンターが効いてないのよ!」

「おっと、ユーレイ10」

「みちづれ!」

 

 怖いことするなぁ。“みちづれ”は相手の攻撃開始より先に発動できればほぼ決まる。最悪でも相打ちに持ち込める強力な技だ。だからブルーは俺の指示を聞いて即これを使ってきたわけだ。

 

 ただし、俺もその辺はよくわかっているからあと一息で倒せる状況でもソーナンスにだけは絶対攻撃しない。必ず“ちょうはつ”から入らせてもらう。“ちょうはつ”を使う限りは絶対に“アンコール”で縛られることもないし。

 

「手堅い……戻って!」

「6,7」

 

 ソーナンスはもう場に出せる程体力は残ってない。上々だな。考える暇を与えないために続けて技を指示した。ブルーは悩む時間も十分にはとれず次を出してきた。

 

 “みがわり”から“あやしいひかり”。いわゆる「あやみが」。先手を取れる場合これだけでも少ないリスクでリターンを得やすい優秀な組み合わせだが、ゲームではない現実ではここにあれを絡めると恐るべき戦術と化す。

 

「お願い、流れを変えて!」

「ラーァァ!!」

『おおっっ! キタッ、ブルー選手の切り札ラプラスだ! 今大会では毎回エース級の活躍で何度も凄まじい耐久力を披露しました。これは目が離せません!』

 

 ラプラス 53 250-96-105-111-170-82 @とけないこおり

 

 やっぱりラプラスか。レアコイルとピジョットにはユーレイが抜群をとれる。受けられるのはラプラスかフシギバナだがフシギバナはこっちに有効打がない。無難だな。……さて、こいつをゆっくり料理しようか。

 

 最初は“あやしいひかり”から。混乱するが何とか“れいとうビーム”を使ってきた。ユーレイは余裕を持ってこれを躱す。

 

「4」

「ゲエエッゲッゲッ!」

『出たっ! あれはゲンガーの得意技、敵を深き眠りへと誘う掟破りのさいみんじゅつ! 一度決まってしまえばひとたまりもありません! しかし躱そうにもラプラスは混乱していて避けるどころではない! 万事休すか、ここで終わりなのか?!』

 

 必中と化した“さいみんじゅつ”から抗う術はない。終わったな。

 

「お願い、れいとうビーム! 先にあれを壊して!」

「コックリコックリ……ラァァーッ」

 

 チッ! 眠気を堪えて寝る前に“れいとうビーム”には成功したか。さっき使っておいた“みがわり”は壊れたが“さいみんじゅつ”は決まった。とりあえず良しとするか。

 

 俺も昔された経験があるのでわかるがこのコンボは強い。……あの人やっぱ強かったんだろうな。ブルーはイナズマの起点作りの催眠だけ警戒していたようだが、催眠に関してはユーレイの方が何倍も上手いんだよ。

 

 “こうそくいどう”とかがないし素では命中難もあるからエースに繋ぐにはちょっとターンが足りないが、自分で倒していく分には問題ない。上手くいけばこいつ1体で勝てるかもな。あとは運次第か。あまり運頼みの勝負は好まないが圧倒的に自分が有利なら話は別。8割以上勝てるならしない理由がない。

 

「6,11」

「起きて! お願い起きてっ! ンン……聞こえる? 起きてー!」

『ゲンガー様子がおかしいぞ? あれは何をしているんだ? 自分の体力を削っているように見えますが……』

 

 起きない起きない。たとえテレパシーしてもムダなこと。この展開は入念に練習したから動きに淀みはない。わざわざレベルと努力値を調整していたから“みがわり”と“のろい”でユーレイのHPはきっちり1になり、ラプラスに“のろい”がかかる。ブルーにはまだ“のろい”は見せていないし、仮に交換されてもまた“あやしいひかり”で起点にするだけ。ポケモンって簡単だよなぁ。

 




レイン
1.アカサビ   @しあわせタマゴ 137/137
2.イナズマ   @とけないこおり 140/140
3.ユーレイ   @のろいのおふだ 001/129 みがわり有り

ブルー
1.レーちゃん  @メタルコート  148/148
2.フーちゃん  @おおきなねっこ 194/194
3.リューちゃん @りゅうのウロコ 038/128
4.ソーちゃん  @しあわせタマゴ 011/234
5.ラーちゃん  @とけないこおり 250/250 ねむり・のろい状態 のろい効果は発動前


ユーレイ、恐ろしい子……
とんでもないループが始まっちゃってるんですがそれは……

途中経過の確認も兼ねてここで一旦レポート書きます
この章は終わりまで仕上げたので残りもすぐのはず
「最初なんでそのポケモン選んだの?」とか疑問はあると思います
最後に反省会(感想戦みたいなもの)を予定していますのでそこで色々補足したいです

あと、出し際に1ターンできるのはやっぱりヤバ過ぎと気づいたのでマスターは変える可能性大ですね……
剣舞持ちが相手倒す度に攻撃2段階上昇というUBもびっくりの性能になることに気づきました
過剰晴れのスカーフマンダは使ったことあるので頭草タイプな作者でもヤバイことがわかりました

作者は悔い改めて!

持ち物に関しては
「りゅうのウロコ」はハクリューがまれに持っているのでそこから
「とけないこおり」はふたごじまから
「おおきなねっこ」とかその他はリーグで購入です
道具ゲットについては思いつく度に「のろいのおふだ」のように本編に追加するかもしれません

ちなみに「とけないこおり」はめざ氷に適用されたはずです

なお仕様変更されてたら知りません
最近勝手にポンポン変わり過ぎでもう……おじいちゃんの作者には難しいですよ
“まもる”に“ほえる”貫通など勝手に仕様変更されると実際に体験しない限りはどこにも説明書きがないので気づきようがないと思うんですが(名推理)
そういうのは知ら管で一貫しますね


最近エアプでポケモン二次とか片腹痛いわって思ったんでいいバトルを書くために(もとい書いてるうちにレートしたくなったので)USUMやってたら楽しくってもうね……
0話のヘルプで取り上げたメガルカもちゃんと使ってみましたよ
めっちゃ強くて笑いますね
格闘なのに鋼ついてるのは偉いと思いました(小並感)

なお、完全にゼロスタートで大したポケモンがいない上相手のパーティーのメンツに半分程毎回カプUB系の未知のポケモンがいる初心者プレイなんで恐ろしいほど勝てませんが

パーティーもなかなか決まらずじまい
せめて全盛期仕様のカバドリュとか使えたらこんなに困らないのにと思わずにはいられない……
それ以外は回すの下手過ぎてもう涙が出ちゃう
ポケモンって難しいね

うわっ……私のレート、低すぎ……?

やけくそでレインパでも作ろかな……

ストーリーはとりあえず毎回毎回戦闘中にポケマメのことで頭がいっぱいになるアシレーヌちゃん(オス)がみゅーちゃんみたいで可愛くって笑いました

ニックネームは「マメジャン(キー)」に変更ですね(畜生スマイル)
まぁアシレーヌにはポケマメをひとかけらすら与えたことはないですが

最後に一言だけ、更新遅れたのはゲームしてたからやろというコメントはダメですよ(笑)
対戦は創作過程の一環ですからね(察し)


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12.来たるべきとき 目指すべき場所

準決勝後半


 ポケモンリーグ準決勝、ブルーとの一戦。序盤は“バトンタッチ”“ボルトチェンジ”“とんぼがえり”といった交代技を駆使しながら有利な対面を維持することに努め、中盤では一転、ソーナンスを起点にしてユーレイの催眠ループコンボを仕掛けた。

 

 こんらん状態の相手は攻撃を避ける動作が難しいので催眠攻撃を確実に当てることが可能となり、ねむりターンの時間を利用してさらに“のろい”による削りを試みた。

 

 ユーレイ Lv48 129-78-74-190-70-155 @のろいのおふだ みがわり状態

 

 技 1シャドーボール

   210まんボルト

   3きあいだま

   4さいみんじゅつ

   5まもる

   6みがわり

   7あやしいひかり

   8みちづれ

   9ゆめくい

   10ちょうはつ

   11のろい

   12いたみわけ

 

 ラプラス Lv53 250-96-105-111-170-82 @とけないこおり 眠り・呪い状態

 

「ラァッ!? ラーーッ!」

 

 何かに驚くようにしてラプラスが跳ね起きた。やけに早いな……。

 

「もう起きたか……12」

「よっしゃ反撃よっ! れいとうビーム!……ってまだ混乱してるの!? ラーちゃん頑張って動いて! しかも12って何よ、そんな番号初めて聞いたけど!?」

 

 “れいとうビーム”はまた決められたか。“みがわり”は剥がされた。だがこっちの“いたみわけ”も通った。“のろい”は最初の発動までに少し間が空くからその前に“いたみわけ”を打てばHPは最大限に奪える。これで125まで回復。相手は126。さらにラプラスは続けて“のろい”の効果も受ける。残り64だ。しかもユーレイならここから攻撃を凌ぐのは容易い。

 

「HPが吸われてる!? これ、“いたみわけ”ね! “みちづれ”以外にもこんな隠し玉があったの!?」

「とっておきだ」

「あれ、まだ体力がどんどん減ってる……? ラーちゃんどうしたの!?」

「ラァッ??(わかりません。私が混乱している隙に何かされたんだと思います。体力が急激に減っていく!)」

 

 ブルーの奴、起こすのに必死で“のろい”の間に目を離してたな。これは面白い。

 

「……くぅ、れいとうビーム!」

「地中に隠れろ」

「はぁ!? ちょっと何してんのよっ!!」

『なんとっ! ゲンガー地中へ! 絶対不可侵の領域に足を踏み入れた! 形振り構わぬ掟破りの絶対防御! だがこれではゲンガーからも攻撃はできない。いったい何を企んでいるのでしょうか?』

 

 そもそもゴーストタイプなら「まもみが」でリスクを負う必要もない。だってすり抜けられるから。一応地中もリングアウトではないことは確認している。当然掟破りではない。

 

「ラァッ!?」

「うそっ、ラーちゃん!!」

『あーーー! 負けるな! 負けるな! 倒れるなーっ! あー倒れてしまった! どういうことでしょうか!? ゲンガーが何か技を使っていたようです。全く以て悪夢のようなポケモンだ!』

 

 戦闘不能。まずは1体……。最も厄介な敵を倒せた。まともに戦うと中々倒れないからこういう手合いは定数ダメージで倒すに限る。実況はちゃんと中立にやってね。ブルーのファンなのか? それともレインアンチさんなのか?

 

「出て来て6,7」

「最初からまた同じ指示!?……あんまりなめないでよっ! 出て来てピーちゃん! つばめがえし!」

 

 ピジョット Lv52 160-136-95-76-85-171 @シルクのスカーフ

 

 交代時に“みがわり”を使い先に“あやしいひかり”を当てるがまたしても混乱をもろともせず“つばめがえし”が決まり“みがわり”は剥がされた。さっきからやたらと調子がいいな。一度でもミスすれば“みがわり”が残るんだがなかなか残せない。

 

「4」

「つばめがえし!」

 

 同時に動くが先にこちらの“さいみんじゅつ”が当たってまた無抵抗に眠った。ブルーのやつまだわかってないな。こっちは2ターンあれば確実に“さいみんじゅつ”があたるんだよ。そして眠れば2ターンは基本眠る。だからその時点で“のろい”と“いたみわけ”が決まる。適当に“みがわり”を挟みながら体力調整すれば延々このループは続くんだよ。

 

『またしても無慈悲な“さいみんじゅつ”だっ! まさに悪夢のような催眠攻勢! とてもルーキーとは思えない恐ろしい戦術にブルー選手も天を仰いだ! そしてレイン選手この表情! 恐ろしい! ポケモンリーグはレインのためにあるのか!?』

「11,12」

「起きてぇぇぇ!」

『ブルー選手必死の叫びっ! 目覚めを待つトレーナーに許される行動はただ天に祈ることのみ! この瞬間は誰もが天に祈ることしかできません! しかしブルー選手これはけたたましい鳴き声だ! まさか直接ポケモンを起こそうとしているのかぁ!?』

 

 好きなだけ叫ぶがいい。そんなことで起きてくれるなら誰も苦労しないんだよ。もちろんこの“のろい”を絡めたハメ殺しは初見殺しの戦法ではあるけど、だからといって遠慮する気はない。これが最善なんだ。ブルーは見たことない戦術には苦手意識が極端に強い。弱点は容赦なく攻める。

 

「ジョットーッ!」

「キタッ! つばめがえし!」

「早っ!?」

 

 “いたみわけ”を使うために接近していたところに“つばめがえし”! これは避けられないか。最短で起きる場合ならギリギリループを崩せるのか……。ねむり状態の時間はしっかり検証したことはないがバラつきがかなりあるようだ。視れば混乱も治っている。呆れた強運だな。

 

 体力は“いたみわけ”で回復して94、今のダメージが80で残り14か。思ったよりもダメージが大きい。不意を突かれたし乱数1超えてるだろこれ……耐えたから問題はないけど。

 

「もう1回!」

「潜って」

「ですよねーっ! 戻って!」

「ユーレイ、出て来ていいぞ」

 

 ほう、戻したか。どうせ倒れるぐらいならってことだろうが、これで気づくかもしれないな。

 

『これでは手も足もでない! こんなことがあっていいのか。だが焦りは禁物! 焦りは禁物! ここは冷静に対処したい!』

 

 ピジョットも2回行動して“のろい”で80削れて残り14になった。2発確実に耐えるのはフシギバナだけだがユーレイへの有効な技がないからブルーは出したくはないだろうな。なら後押ししてやろうかね。

 

「出て来るのに合わせて7,4」

「ちょ、こっちは何出すか決めてもないのに指示出すの!? くぅぅ! 出てレーちゃん、でんげきは!」

 

 レアコイル Lv47 148-067-099-177-83-069 @メタルコート

 

 舐められてると思ってか悔しそうな顔してるなぁ。実際こっちは余裕綽々ではあるが、これは誘導。あとレアコイルを削れば全て終わる。案の定交換読みの“きあいだま”が100%ないとわかったら飛びついてきやがった。悔しそうにしていても内心じゃ助かったと思ってるはずだ。

 

『“さいみんじゅつ”が決まりました。またこの終わらない連鎖が続きます。 会場は皆立てよ起きろよと必死でレアコイルへとエールを送ります。負けるなレアコイル! こんなところで手こずるわけにはいかないぞ! 生き返れレアコッ!』

 

 ―がんばってーレアコイルー!―

 ―さいみんじゅつに負けないでー!―

 

 “あやしいひかり”が出し際に決まりさらに上から“さいみんじゅつ”が決まる。レアコイルはただの一度も技を出せずに沈黙を余儀なくされる。何もさせはしない。眠らされてもがくトレーナーを見るのは楽しいなぁ。

 

「12,11」

「起ぉぉきてぇぇぇ!!」

『またしても雄叫びを上げた! 力ずくの開けゴマ! その思いは果たして届くのか? この無間地獄から脱出することはできるのか? さぁ必死に祈る! もがく! 叫ぶ!』

 

 “いたみわけ”でお互いのHPを81ずつにしてユーレイを回復させてから三度“のろい”。あとは地中に潜って終了……と思いきやブルーは奇跡を起こした。レアコイルの唐突な目覚め。ブルーの声に応えるかのようにすぐに飛び起きて“のろい”使用直後の無防備なユーレイを“10まんボルト”で倒した。

 

「やったぁぁぁーーっっ!! さすがよ! 天才! レーチャンアイシテル!」

『起きた! 起きた! やりました! 生き返ったぞレアコッ! ブルー選手ついにこじ開けたっ! 堅牢な金庫のような、恐るべき催眠地獄をかいくぐり、わずかな突破口から活路を見出した! 勝負は一転、逆にレイン選手は切り札を失ってしまった! これは痛恨の一撃であります!』

 

 嬉しそうだな。ブルーも、実況も、これを見ている観客も。ブルーも“のろい”の解除方法には気づいたみたいだし。

 

 だが全員うまく削ってびっくり乱数のラプラスもいない。フシギバナは相性的に有利。お膳立てはこの辺でいいか。あくまでゲンガーによるハメ殺しは数ある勝ち筋の1つに過ぎない。むしろこれは次への布石。ここからがこのパーティーの本当の恐ろしさだ。

 

「頼むぞ!」

「ラスターカノン!」

『レイン選手今度はサンダースを繰り出した! またしても序盤と同じ状況が再現されたが、ブルー選手これは読んでいた! “10まんボルト”ではなく“ラスターカノン”を選択! 少しずつ、だが確実にっ! 勝負の流れが変わり始めたか?!』

 

 イナズマ Lv52 @とけないこおり

 実 100/140-64-69-166-115-207

 

 技 110まんボルト

   2めざめるパワー

   3あくび

   4バトンタッチ

   5まもる 

   6みがわり

   7こうそくいどう

   8チャージビーム

   9かみなり

  10あまごい 

 

 イナズマへの交換読み……。“10まんボルト”を撃たなかったことが誇らしいのかブルーはドヤ顔だ。交換が確定している以上そこまで凄いことではないんだが。むしろなんで“トライアタック”を覚えてないのかあいつに問い詰めたいところ。

 

 そもそも半減なので40しか効いていない。半分以下。まぁこれで勝ちだな。後はゆっくり詰めていくだけ。こちらの方が圧倒的に速く、そして有利な対面なのだから最初は様子見していればいい。

 

「交代よ」

「ならこっちも」

『おおーっと!? レイン選手どうした!? せっかく場に出したサンダースをすぐさま引っこめたぞ! 両者ともにポケモンを引っ込めるのはかなりのレアケースだ! 何か考えがあるのか?! 実に不気味だぞ!』

 

「なんのつもり? 悪いけど付け入らせてもらうわ。出て来なさい!」

「いけアカサビ!」

「アカサビさん!? なんで……」

 

 フシギバナ Lv52 194-85-101-170-121-99 @おおきなねっこ

 アカサビ  Lv47 137-188-110-60-91-106 @しあわせタマゴ

 

 技 1バレットパンチ

   2でんこうせっか

   3むしくい

   4つるぎのまい

   5まもる

   6みがわり

   7とんぼがえり

   8つばめがえし

   9バトンタッチ

  10かわらわり

  11ちょうはつ

 

「ラッキー、偶然有利な対面になったぜ。11」

「くっ、白々しい……戻って! 今の技は“ちょうはつ”……ホント、油断も隙もありゃしないわね。出て来て!」

「4」

 

 戻してくれたか。さすがブルーさん。ちゃんと役割の意識があるようで助かる。だが残りの手持ちじゃアカサビは受からないことを忘れてないか? “のろい”でHP管理を誤っている可能性は高いな。どれぐらいの減りか感覚がつかめてないはずだし。レアコイルは表情とかに出にくいが“のろい”の効果をしっかり受けているのは確認している。もう倒すなら対面のフシギバナに賭けるしかないのに。

 

「つるぎのっ……もぉぉ!」

「6」

「でんじは!」

 

 出たな禁断の奥義、絶対勝ち筋残すマン! 俺の指示と同時に使ってきた。最後までしっかりイヤなところをついてくる。お前ならきっとそこまで考えて来ると思ったよ。今喜び勇んで攻撃しようものなら間違いなく餌食だった。あれは決められると“バレットパンチ”連打でも負け筋が残ってしまう恐ろしい技。

 

 だがなブルー、俺がそれを許すとでも思ったのか? こちとらレアコイルが“でんじは”持ってるのは最初の最初、アカサビと対面した時から視えてんだよ。

 

「ありがとブルー。1」

「そんな! ここに来て“でんじは”が読まれるなんて……ずっと気をつけてたのに……」

『ん?! レアコイルの放った“でんじは”は失敗か!? レアコイル無念の戦闘不能! それに対してハッサムは“つるぎのまい”で攻撃力を上げている。これは少々厄介なポケモンが残ってしまったか?』

 

 少々どころではないんだよなぁ。もう止まらねぇよ。これを見ている全ての者の目にその強さを焼き付けてやれ!

 

「次は? ゆっくり待ってやるよ」

「くぅぅ……どうせなら今の間に“つるぎのまい”すればいいのに……お願い! 頑張って!」

「8」

 

 こっちの選択は当然フシギバナ意識で“つばめがえし”だ。その他の残りは“バレットパンチ”1発で倒せる。

 

「うそっ、効果抜群の技……ここまで読まれ……ありえない!」

 

 いきなりフシギバナだったか。別にこれは読みじゃない。ただもう全員圏内だから読む必要がなくなっただけ。フシギバナはそのまま倒れて、ブルーは諦めることはせずに最後まで戦うが残りのポケモンも全て一撃で倒れた。

 

 最後まで諦めるなといつもブルーに言い聞かせてきたが、それは急所でも痺れでも勝つ可能性があるのにそれを捨てるなということ。ゼロはどれだけ集めようともゼロ。ムダなんだよ。

 

『猛攻に次ぐ猛攻! 次々とバトルフィールドにひんしポケモンを並べた! 止まらない止まらない止まらないィィーーッッ!! まさしく天下無双! 圧倒的な強さ! とうとう最後の1体も倒れてしまった! レイン選手、圧倒的な力を見せつけて危なげなく決勝進出ッ!!』

 

 ―つええぇぇ!!―

 ―えっ、これもう終わっちゃったの?―

 ―レインのやつウインディは出さねーのかよ!―

 

「気を付けていたのに、負けるなんて。くっ、隙が無さ過ぎる。一度好きにされるとやっぱりすぐに負ける。途中まではなんとかなりそうではあったのに……」

『勝者ァ、レイン選手ゥ! 最後はハッサムの独壇場ォォ! 途中までは粘りを見せて接戦を繰り広げましたが、残念ながらブルー選手はここで敗退となってしまいました』

 

 ブルーは相当ショックだったのか、膝をついて動かない。……負けた者に勝った者がかける言葉なんてないと思っていたが、いざ目の当たりにすると放っておくのは気が引けて、ゆっくり傍に歩み寄った。……ちょっとやり過ぎたかなぁ。

 

「いい勝負だったよ。ブルーの全力が感じられて嬉しかった。終わってしまったのが惜しいと思うぐらいな。お前を弟子にして本当に良かった」

「シショーッ……わたしは!」

 

 手を差し出してブルーを引き上げて、力強くグッと手を握った。

 

「俺もブルーもこれで終わりじゃない。ここはまだ通過点に過ぎない。今度はマスターでリベンジに来いよ」

「マスター、か……。ふふ、いいわ。その時まで絶対わたし以外に負けないでよ! 3位決定戦、必ず勝ってマスターに行く。そしてシショーに最初に勝つのは絶対わたしだから!」

 

 ぴょんと駆け出し、俺を置いて先にリングを出てしまった。落ち込んでいるかと思ってみれば、案外ケロッとしているな。バトルだけでなく、いくつもの試練を越えて心まで強くなったようだ。

 

 さて、俺もヒマだし、少しは敵情視察にいくか。まだ試合しているかもしれないし。そのまま会場を離れ、みゅーの“テレポート”でもう1つの会場へ向かった。レッドとグリーンの試合がある場所だ。着いた時はまさに最後の一騎打ち、そのラストだった。リザードンとカメックスの対面。「もうかブラストバーン」で勝負アリだな。

 

『ついに、つぅぅぅいにぃぃぃ、決着ぅぅ――! 勝者はぁ、レッッッド選手ですっっ! 壮絶な、本当に死闘と言っていい戦いを、最後は絶体絶命のリザードンが、相性の悪いカメックスを下しての大大、大逆転勝利です!』

 

 レッドが勝ったか。途中を見てはないが、おそらくグリーンは最後の対面までは計算通りだったのだろう。唯ひとつリザードンの力だけが誤算だったということか。なんか凄まじい底力だな。乱数がとんでもないことになっている気がするが計算違いではないよな?

 

 紙一重の勝負だった。あと少し威力が足りなければ反動で動けず負けていたのはレッドの方。あの2人、現状の実力はほぼ互角だな。

 

 そのあと、リングから戻るレッドを見つけて声をかけにいった。向こうもこっちに気づいていたようで、立ち止まっていつもと違う鋭い視線を浴びせてくる。完全に敵としてロックされているな。

 

「おつかれさん」

「どうも。ここにいるってことは、あんたが勝ったんだな」

「そういうことだ。最後しか見られなかったが、よく勝ったな」

「……まわりくどい話はいい。おれはあんたを倒して最強になる。覚悟してもらう」

「本性現したな。大したオーラ、とでも言うべきなのかね。そうこなくっちゃ面白くない。明日は楽しみにしている。その表情が見られただけでもここに来た甲斐があった」

 

 闘志剥き出しのレッドの気迫は凄まじいものがあった。明日は楽しめそうだ。せっかくだし明日は先にあるブルーの試合からゆっくり見させてもらうか。今日は2試合同時だったが明日はどっちも大事な試合だから同じ会場で順番に行われる。控室にはモニターもあるらしいし。

 

 楽しみが尽きないなぁ。

  




レイン
1.アカサビ   @しあわせタマゴ 
2.イナズマ   @とけないこおり 
3.ユーレイ   @のろいのおふだ 

ブルー
1.レーちゃん  @メタルコート  
2.フーちゃん  @おおきなねっこ 
3.リューちゃん @りゅうのウロコ 
4.ソーちゃん  @しあわせタマゴ 
5.ラーちゃん  @とけないこおり 
6.ピーちゃん  @シルクのスカーフ


たった3匹で回された挙句1体しか倒せないとか酷過ぎない?
……と言いたいのはわかりますが、ブルーは本格的なサイクル戦はほとんどしたことないので仕方ないですよ
ゲームで言う入れ替えありの状態で勝負して以前練習では互角だったわけですしいきなり勝てるわけないですよね
眠れる獅子ユーレイも目覚めて本気出しちゃってますし

ブルーは立ち回りと技と道具がまだ甘いのでそこは反省ですね
要するにほとんどですが

ラプラスが跳ね起きたのはテレパシーの効果です
何を言われたのかは想像に任せます

初めてレインのポケモンを1体とはいえ戦闘不能に追い込んだのは評価してもいいと思います
何気に今まで全ての試合でポケモンの数は無傷のストレート勝ちでしたので

今更ですが開会式のセレモニーとか試合と試合の合間とか内容薄いとこはスタートボタン連打してますがいいですよね
校長先生の話的なものをゆっくり聞きたい方はそんなにいないでしょうし必要ない場合は面倒なところは基本どんどんパスします

とにかく今はバトル!
バトルを書きたい!


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13.カンナンシンクを乗り越えて 

3位決定戦


(そうですか。負けてしまったのですね。ブルー、ごめんなさい。私が不甲斐ないばっかりに……)

「ラーちゃん気にしないで! 皆で全力を尽くしたんだから、誰のせいなんてないわよ。それより、今は次の試合に向けてしっかり休んで気持ちを切り替えましょう」

 

 手持ちの皆を回復させ、自分の部屋に戻ったわたしはラーちゃんを出してさっきの試合のことを話していた。あの敗北はわたし達みんなの力不足。今は素直にそれを受け止めるしかない。

 

(ブルー、たくましくなりましたね。そうですね、次は必ず勝ちましょう。私も名誉挽回をかけて死力を尽くします)

「ラーちゃんはホントに命がけで頑張るからシャレにならないわよ。あんまり無茶したらダメ。ラーちゃんは絶対わたしが無理させないからね」

 

 準決勝、わたしはシショー相手にあっさりと負けてしまった。一度は偶然にもユーレイを倒して手応えを掴み、根拠もなく勝てると思ってしまった。でも、それすらもあの人の掌の上。終わってみればたった1体しか倒せなかった。

 

 文句なしの完敗。燃え尽きて、目標を失いかけた。だけどそこからもう一度立ち上がる力をくれたのもシショーだった。絶対に勝ってリベンジする。何度でも戦って、勝つまで挑み続けてやる!

 

 そのために次は負けられない。例年上に行けるのはだいたい3人が目安と言われている。そのためにこの3位決定戦が設けられている。相手はレッドに惜敗したグリーン。

 

「……」

(ブルー、どうかしましたか?)

「ちょっと旅立ちの頃を思い出していたのよ。わたしってさ、最初はダメダメで1つ目のジムですら何回も負けて、一緒に旅に出たあいつらにも置いていかれて……今のわたしだけしか知らないからラーちゃんには想像できないかもしれないけど、一時はトレーナーを諦めかけたこともあったのよ」

(そうですか。だからといってブルーの評価は変わりませんし、別に恥じる必要もありません。誰でも最初は初心者。上達の速さも人によって違います)

「あっ、別に自虐してるわけじゃないのよ? ただ昔グリーンとはちょっとあって……」

(次の相手の方ですか)

「うん。わたし最初はフーちゃんと旅に出たんだけど、最初は相性の悪いポケモンばかりでレベルが上がんなくてさ。むしタイプとかひこうタイプとか。なぜかそういうのばっかり相手になったのよね」

(そんなことが。今のブルーの豪運からすると考えにくいですね)

 

 ホントにイヤになるぐらいそんなのばっかり。トレーナーまで図ったかのように見事にむし・ひこうタイプばかりときた。今のわたしでもあの状況じゃ簡単にフシギダネのレベルは上げられない。他のポケモンを捕まえればいい話なんだけど、それに気づくまで長かったわね。

 

「それにたいあたりとつるのムチばっかりしていたからいわタイプにも勝てなくてさぁ。フーちゃんは攻撃力が低いのに、イワークみたいな防御のお化けに物理で挑んで勝てるわけないわよね。グリーンには散々笑われたわ。レッドはヒトカゲでも勝てたのにお前はくさタイプで負けるのか、ってね。レッドは特殊メインだったからなぁ。今思えばわたしは負けるべくして負けていたんだけど、当時はそんなことわかんないでしょ? 『お前には才能がまるでない、トレーナーなんかやめちまえ』って言われて、真に受けちゃってさ。いつもフーちゃんは傷だらけで負けてばかりだったし、それもわたしのせいだって思ったら情けなくて……あの頃は辛かったなぁ」

 

 あれが全部ムダだったとは言わないけど、もう二度とあんな思いはしたくない。昔の苦労を思い出していると突然寒気がした。いや、本当に寒いわね。部屋の温度が下がってない? ふとラーちゃんの方を見ると白い冷気が漏れている。この冷気っ、本気で怒ってる時のやつ?!

 

(勝負の後でその人間は氷漬けにした方が良さそうですね……)

「待って待って! 違うから! もう何の遺恨もないわよ! グリーンは大事な幼馴染だから絶対に手を上げたりしないで! ちゃんと謝ってくれたし、照れ屋だけどホントはいいやつなんだから!」

(……冗談ですよ。ブルー、明日はその方に自分の実力を見せつけられるので楽しみというわけですね。任せて下さい。二度とブルーにそんな口はきけないように完膚なきまでに叩きのめします)

「頼もしいわね。どさくさに紛れてトレーナーに攻撃とかしちゃダメよ?」

「ラー」

 

 あ、鳴き声でかわした! ホント、都合が悪くなるとすぐそれするんだから! さすがに本当に氷漬けにするようなことはないでしょうけど、ラーちゃんの気合いが入ったのは間違いないわね。ラーちゃんは強いけどだからこそ警戒されて満足に動かせてもらえないことが多い。次こそはしっかり力を発揮できるようにしたいなぁ。

 

 ◆

 

『会場の皆様、いよいよ試合開始です。赤コーナーは鍛え上げられたポケモンと巧みな交換戦術でここまで圧倒的な実力を見せつけてきたブルー選手! 緑コーナーはリーグ史上最高といっても過言ではない激戦を繰り広げあわやというところまでレッド選手を追い詰めたグリーン選手!』

「オレだけ負け試合の紹介かよ。テンション下がるなぁ、おい」

「グリーン、来たわね。あんたとレッドには今までずっとリードされっぱなしで毎度毎度後塵を拝してきたけど、それもここまでよ。わたしは今日あんたを超える! わたしが弱いなんて二度と言えなくしてあげるからね」

 

 これはわたしなりの宣戦布告。あんたに勝たなきゃ、昔の自分を振り切れない。この先に見据える目標へ向かって進むためにも、勝って今までの努力はムダじゃなかったって見せてやる! 見ていてね……。

 

「ハッ! おもしれぇじゃねーの。いまさらお前のことを侮るつもりはねーが、オレに勝てると思うのは思い上がりってもんだぜ? レッドにはギリギリ負けはしたが、お前にまで負けるわけにはいかねぇ。絶対に勝ってレッドの野郎をマスターで叩き潰す!」

「わたしだって倒したい人がいる。あんたとはいつか白黒つけておきたいと思ってた。負けても恨みっこなしよ。全力でいくからね」

「望むところだ。どれほど強くなったか見てやるよ」

 

『今日のフィールドは“上手く育てりゃ強さは天下一品”のドラゴンタイプです。さぁ両者注目の一投目!』

 

「出番よ!」

「頼んだぜ!」

「「ジョットッ!!」」

『おっとぉ、これは面白い! いきなりのミラーマッチ! 同じポケモン同士の対面だ! 育て方とトレーナーの力量が直に試されます。互いにひこうタイプも持ち合わせ非常に難しいバトルになりそうだ!』

 

 違う。あくまでバトルは手持ちのポケモン全てで行う総力戦。難しい相手と無理に戦う必要はない。昨日、シショーは交代を繰り返し常に有利な状況を作り続けていた。あれを思い出すのよ。あれこそがわたしの目指すべき理想。交換を繰り返して耐久力を活かす戦い方をする以上、相手の行動を読み切る力は絶対に必要! 絶対に100%読み切って見せる! それぐらいの気迫がなければ絶対シショーには追いつけない!

 

「とんぼがえり!」

「おいかぜ!」

 

 まずは先制の“とんぼがえり”。こっちが速いだろうから先に逃げられると思っていたけど、グリーンは攻撃しないでいきなり“おいかぜ”か。あれは自軍の素早さを永続的に上げる技。一応ピーちゃんも使えるからよく知っている。

 

 この場合、先手を取られ続けるのは痛いかと言われると案外そうでもない。わたしにはあまり効果はないわよ?

 

「いきなさい!」

「ジリリ!!」

『ミラーマッチかと思われたがいきなりブルー選手はボールに引っ込めてしまった! 出て来たのはカントー地方では唯一はがねタイプを併せ持つレアコイル! 昨日の準決勝、ねむり状態から目覚めた起死回生の一撃はまだ記憶に新しいところ。今日はどんな活躍をみせるのか!』

「チッ! 戻れ!」

「あらら、とんぼがえりも持ってないなんてびっくりね。特殊攻めなの?」

 

 まずはこちらが有利な対面をとれた。ここから慎重に回せば優勢をキープできる。まずは迷わず“ボルトチェンジ”……といきたいのは山々だけど、ここで電撃は打てない。相手のメンツが割れてない以上、じめんタイプや“ちくでん”持ちで前みたいに止められる可能性がある。そうなればこっちがとんでもなく不利になる。もう二の轍は踏まない。無効タイプがなくて通りがいい“ラスターカノン”を選ぶのが無難ね。

 

「こい!」

「ラスターカノン!」

「ギャオギャーオ!」

『出たっ!? あれはドサイドン! 先日はわたくしめの勉強不足により満足に実況できませんでしたが、あれは遠くシンオウ地方に生息するポケモンのようです! さて、レアコイルはラスターカノンを使った! これは効いている! こうかはばつぐんだ!』

 

 あれはサカキが使っていたポケモンね。グリーンもゲットしたのか。たぶんサイドンを進化させたのでしょうね。サイドンが元だから能力もそれに近いはず。“ラスターカノン”はかなり効くだろうし、これで倒せなくてもあと一歩まで追い詰められたらグリーンは最後に一撃入れようと考えて攻撃することしか考えられなくなるはず。少しかき回してあげましょうか。

 

「はがねタイプの技だと!? 電撃じゃねぇのか! クソッ、とんでもないダメージだな」

「いいドサイドンね。レーちゃんの抜群技を受けて耐えられるポケモンなんてそういないわ。でもさすがに限界は近そうね。もう一押しかしら?」

「この程度でやられるかよ! じしん!」

 

 乗ってきた。男の子ってホントに単純ね。最後のあがきとばかりに威勢よく攻撃してきた。

 

 “おいかぜ”のターンには限りがあるし、ポケモンの体力も少ない。思った通り前のめりになって目の前の相手を倒すことしか考えていない。

 

「甘いわよ」

『ドサイドンは容赦なくレアコイルの弱点をつくじしん攻撃! しかしブルー選手その指示の直前にポケモンを交代! 出て来たのは再びピジョットだ! さすがにこの攻撃は読んでいた! 効果は全くないぞ! グリーン選手なかなか思うように攻撃が出来ていない!』

「くっ……だがムダだ! ひこうタイプもこいつは倒せるんだよ! ストーンエッジ!」

「まもる!」

「おまっ!? まさか……!」

 

 さすがに気づいたかしら。交代を繰り返して時間を稼ぐ。そして“おいかぜ”の時間切れを狙う。気づけばあいつならさらに焦るはず。“まもる”は連続で使えないから次も攻撃してくる。

 

「ストーンエッジ!」

『あーーっと!! これも速い! ブルー選手相手の技を確認する前に素早く交代! 出て来たのは先程ドサイドン相手に引っこめたはずのレアコイルだ! こうかはいまひとつのようだ。これは時間稼ぎなのか? 一度でも読み外せば大ダメージは必至! 綱渡りのような交換連打に見ているわたしも思わず冷や汗だ!』

「なめやがって! 次は外さねえ!」

「悪いけど、次はもうないのよ。0時の鐘の音が聞こえてくるわ。もう魔法が解ける時間よ。レーちゃん、ラスターカノン!」

「だったらこっちはじしんだ! ……何!? 風が止んだ!?」

『守備に徹していたブルー選手が一転、攻撃に打って出た! それを見計らったかのように突如グリーン選手を取り巻いていた奇妙な風も消えてしまった! 天はブルー選手に味方したのか?!』

 

 あの人は“おいかぜ”を知らないようね。ポケモンごとに持続時間は違うものだけど、わたしには何となくそのタイミングがわかる。攻撃するならこの瞬間をおいて他にないと直感したわ。今は外す気が全くしなかった。これで数の上でまず一歩リード。

 

 次はどうしようかしら。さすがにもうじめんタイプがいるとは思えない。素直に“ボルトチェンジ”で様子を見ましょう。もし次がまたじめんタイプなら、悪いけどラーちゃんに交代して任せることになるわね。ラーちゃんならなんとかしてくれるはず。

 

「お前にはこいつだ!」

「ボルトチェンジ!」

『ブルー選手またまた交代か!? 電撃が迸ったと思う間もなく素早くレアコイルは引っ込んだ! グリーン選手のウインディに対してブルー選手は即座にラプラスをぶつけて来たぞ。またもや相性はブルー選手に有利っ!』

 

 ほのおタイプにはみずタイプで攻めるのがセオリーだもんね。グリーンはかなり不利な対面を迎えたけど交代するかどうか見ものね。

 

「チョロチョロめんどくせーな。けどあのポケモンは簡単には倒せねぇからな。さすがに交代するだろ」

「あら、変えちゃうのね。次はだれなのかなー?」

 

 グリーンはたしかナッシーを持っていたはず。代えるならそいつでしょうね。カメックスでもいいけど、あっちのメインのみず技はラーちゃんには効果がないから積極的には出しにくい。完全にラーちゃんを相手に出来るポケモンはそうはいないでしょうし、変に裏をかきにいくよりも真っすぐみずタイプ半減を読んで“れいとうビーム”をナッシーに当てにいくべきね。

 

「くっ……お前で止めてくれ!」

「れいとうビーム!」

「うっそだろおい!?」

『決まった! 渾身のれいとうビームがナッシーを直撃! これはさすがに効いている! こうかはばつぐんだ! グリーン選手苦しい! なんとかここをこらえて望みを繋いでくれ!』

「戻れ!」

 

 どう見ても2発は耐えられないと見て交代か。いい流れね。もうあっちは余裕がないはず。来るならこのタイミングね。ここで狙う!

 

「ぜったいれいど!」

「何!? 避けろカメックス!」

 

 やっぱりカメックスで来たわね。一撃必殺は狙ってもなかなか当たらない。だけど一度放ったことでラーちゃんなら距離感やコントロールを掴めたはず。交代からなら二度チャンスがある。次は外さない!

 

「いい調子よっ! 次で微調整して!」

「あの技は使った後に隙ができる。躱してから接近してかわらわりだ!」

 

 ピキピキピキ……

 

「……!」

「カメックス!?」

 

 当たった! カメックスは声も上げられずに倒れた。これで早くも2体目! かなりリード!

 

『あーーーっ!! 決まってしまったぁ! 問答無用の一撃必殺! 二度目はきっちり照準を定めて見事に命中させた! 恐るべしラプラス!』

「イエースッ! オッケー、ラーちゃんいいわよ! さすがね」

「ラーーッッ!!」

「あーくそっ! 一撃必殺だけはどうしようもねぇ! なんでオレのカメックスはいつもこればっかなんだよ! だったらこいつだ!」

「ぜったいれいど!」

 

 今は調子がいいこの技で押し切るべきね。交代際から連打されると受けるプレッシャーも半端ないでしょうし。

 

「出てこい!……お前っ、またぜったいれいどかよ! 無茶苦茶しやがってこのヤロッ!」

「わたしは野郎じゃないわよ。ラーちゃんガンガンいっていいわよ!」

 

 やっぱり1回目で当てるのは相当難しいようね。さすがに外れたか。次は当ててちょうだい!

 

「そう何度もホイホイ撃たれてたまるか! トリック!」

「トリック? どっかで聞いたことあるような……何だったっけ……」

「ラー!?(ブルー!? 重いですっ! 急に体が鉛のように重い! どうしても上手く動けません)」

 

 え、何が起きたの? 見たところ何も変化はないけど。

 

「なんだよこれ。チッ、しけてんなぁ。フーディンあれだ!」

「シェェェイイ!」

「ラーちゃん、ぜったいれいど!」

「ラー?!(ブルー、技が出せません!)」

 

 ええっ!? どうしたの? 技が出せないってどういうことよ! 技の使い過ぎ? でも今までこんなことなかったはず。あーもうどうしろってのよ!

 

『どうしたラプラス! 先程から様子がおかしいぞ? 何か技を受けているようでしたが動きが緩慢だ! これでは格好の的にしかならないぞ?』

「よっしゃ、交代だ! そのままリーフストーム!」

「リーフストーム!? なんて技! 1発耐えて!」

「ラーッッ!」

 

 こっちが動けないからって余裕かまして交代してきた! さっきのナッシーが出て来てくさタイプの大技“リーフストーム”を使ってきた。威力は絶大。ラーちゃんを仕留めにきている!

 

「耐えて!」

「なっ! マジで耐えやがった!? どうなってんだそいつ!?」

 

 ラーちゃんは執念で耐えきった! 一致抜群でしかも大技の“リーフストーム”なのに耐えるのね。しかもまだ余力を感じる。やっぱりラーちゃんはすごい!

 

「れいとうビーム!」

「躱してもう1発かましてやれ!」

 

 うそっ!? 簡単に躱された上に追撃まで!? 2発目もくらってしまった。相手はそんなに速くないのに! ラーちゃんの動きがかなりにぶい。そういえば重いって言ってたけど……あっ! 思い出した!

 

「あんた持ち物入れ替えたわねっ! あっ! これ、なんてもん押しつけてんのよ!」

「やっと気づいたか。けどもうおせーよ! いくら打たれ強くても3発目なら……」

 

 なんとか2回は耐えてくれたけど、さすがにもうきつそうね。これ以上無理はさせられない。潔く引くべきね。というかもっと早く“ぜったいれいど”が使えなくなった時点で交代すれば良かった。パニクって冷静じゃなかったわね。うう、落ち着かないと!

 

「みすみす見殺しにはしないわ! 出て来てソーちゃん!」

「ナンスッ!」

「なんだそのポケモン!?」

『ん!? んんっ!?』

 

 さすがのグリーンでも知らないようね。一度も見せてないし。ものすごく育てるのが難しいって言ってたしあんまり有名ではないんでしょうね。でもソーちゃんはすっごい強いから見ときなさいよ!

 

 今ナッシーはラーちゃんに大ダメージを与えるのと引き換えに大幅にその能力を落としてしまっている。安易に能力を落とせば恰好の起点になる。そのことを身を以てわからせてあげましょうか。

 

「アンコール!」

「アンコールー? 何がしたいんだ?」

『はぁ……ブルー選手のポケモンは何やら手を叩いていますがこれは何か意図があってのものなのかぁ?』

「ずいぶんと余裕ね」

 

 呑気に“リーフストーム”を連打しているけどすでに能力は下がっているのだから大したダメージにはならない。いつまで笑っていられるかしらね。

 

「アンコールなんて同じ技を繰り返させるだけで大した脅威には……ハッ! しまった! 能力ダウン狙いか! めんどくさいことしやがって! けど能力が下がればいったん戻せばいいだけのことなんだよ。そこまでは知らなかったらしいな。ナッシー戻れ!」

「ナシ」

「ん!? おい、どうした、戻れよ! なんで戻んねーんだよ!」

「ナッシ!」

「おいっっ!? お前今ふざけてる場合か!? 頼むから戻ってくれ!」

「ナシ!」

「ソーナンッス!」

「フフフ……悩みなさい、悩みなさい」

『グリーン選手わけもわからず何もできなかった! その隙にブルー選手ポケモンを交代! おお、出ました! 満を持して現れたのはこのフィールドにはうってつけのドラゴンポケモンのハクリュー! すぐにりゅうのまいを始めた! 実に優雅で美しい舞にわたくしも惚れ惚れしております! だがその効果は強力。グリーン選手、黙って見とれているわけにはいきません!』

 

 よっしゃ決まった! これでこの勝負いただきよ! ここでスパートかけて相手のポケモンを壊滅させてやる! 一気に畳み掛けるわよ~!

 

「りゅうまいりゅうまいっ!」

「くそっ、いい加減戻れよ! あれ、戻った!?」

「やっとね。次出さないとどんどん強くなっちゃうわよ?」

「出てこい! サイコキネシス!」

「げきりんげきりん!」

 

 もう2回積んでる。一致りゅうまいフィールドウロコで5.4倍! 相手は即ひんし!

 

「フーディン戦闘不能!」

「そんなバカな!?」

「げきりんげきりん!」

「チッ……ウインディ! なんとか耐えてげきりんで反撃しろ!」

 

 もう後は押せ押せよ! “いかく”をされながらもウインディを倒した。

 

「頼む……ピジョット!」

「げきりんで仕留めて!」

 

 そろそろ“げきりん”の反動でこんらん状態になってしまう。攻撃力は下がっちゃったけどなんとか1発で仕留めて!

 

「よっし! よく耐えてくれた! おいかぜだ!」

「なっ、おいかぜ!? リューちゃん、この隙に倒すのよ! もう1回げきりん!」

「リュ~?」

 

 ピジョットは交代際の一撃だけではレベルが高くて倒しきれなかった。しかもやっぱりリューちゃんがこんらん状態になってる。そのまますぐに“おいかぜ”をされた。攻撃せず“おいかぜ”でじっくり来るなんて……。あいつ頭いいわね。

 

 どうせあと一撃受ければどのみちピジョットは倒れる。だからリューちゃんがこんらんで自滅する前提で動いてる。自滅するなら素早さを逆転させてから攻撃する方が“おいかぜ”が残る分有利になる。面倒なことしてくれるわね。これだと運が悪ければリューちゃんがやられるかもしれない。もし倒されたらこのまま“おいかぜ”中のピジョットは止まんない……!

 

 ううー! こんらんの僅かな隙を突かれた! この流れちょっとヤバイ! ここまで来て負けなんてイヤよ?! リューちゃんなんとかして! お願いだから攻撃してよっ!

 

「リュリュ~?」

「くっ、自滅……」

「よっしゃ、おいかぜも成功! このまま届いてくれ……!」

 

 “おいかぜ”を使っている隙に倒したかったけどリューちゃんは自滅して攻撃できなかった。目を回してミニリュウみたいなかわいい声を出しちゃってる。うぅ、かわいい……じゃなくてちゃんと攻撃してよ! ホントにヤバイのよっ! 

 

 次の攻防は相手の方が速くなる。でも相手の体力だってもう残り僅かなのよ。リューちゃんのとっておきの切り札見せてあげる。グレンちゃん仕込みの“しんそく”でケリをつける!

 

「諦めないでリューちゃん、しんそくよ!」

「エアスラッシュ!」

 

 動いた! 攻撃成功! 技さえ発動すれば“しんそく”は絶対に先制できる。そのままピジョットを倒した。

 

「なんでここで自滅しねぇんだよ! こいつの悪運を舐め過ぎたか……ナッシー! まぐれでもなんでもいいからサイコキネシスで倒してくれ!」

「ムダよ! リューちゃんはもうこんらん解けてるわ! げきりんげきりん!」

「リュー!」

「ナッシ……」

「ナッシー!? ここまでか……」

 

 よっしゃ! 最後も“げきりん”で決めて圧巻の4タテ! リューちゃんってばホントにサイコー!!

 




ブルー
1.ピジョット シルクのスカーフ
2.レアコイル メタルコート
3.ラプラス  とけないこおり
4.ソーナンス しあわせタマゴ
5.ハクリュー りゅうのウロコ

グリーン
1.ピジョット するどいくちばし
2.ドサイドン やわらかいすな
3.ウインディ たつじんのおび
4.ナッシー  ひかりのねんど
5.カメックス しんぴのしずく
6.フーディン くろいてっきゅう


ブルーは準決勝のバトルでトレーナーとしてのレベルを上げてますね
参考にすべきところはマネして反省すべきところは直してます
相手の心理の考察もレベルアップ

グリーンは持ち物がひとクセある感じにしてみました
留学してたらしいので色々持ってそう

道具はどこまで開放するか悩んでます
月日が経てば道具は増えていくのでどこかで区切りをつけるしかないわけですが、それなら国内(4世代)までがキリよく済むかなと考えてます

なのでマスターは拘り系とかいのちのたま等も使うかもしれません
しんぴのしずくとかだと面白くないなぁと思い始めて早くも心変わり……


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14.戦略必勝 麻痺強運 

決勝戦


 ポケモンリーグ決勝、その最後の勝負を前に控室のモニターからブルーの試合を見ていた。シルフの事件の際は3人の実力は伯仲していたとラプラスから聞いている。おそらく接戦になるだろうと思いながら観戦していたが、予想に反して一方的な試合展開となっていた。

 

「げきりんげきりん!」

「リュー!」

「ナッシ……」

「ナッシー!? ここまでか……」

『決まったぁぁぁぁ!! なんということだぁぁッッ!! 準決勝では史上最高といってもいい激戦を繰り広げたグリーン選手だが、今回は圧倒的なハクリューの力の前になすすべもなく屈してしまった! ブルー選手、恐るべし!!』

 

 あれがブルーなのか。格段に強くなっている。最初から安易に“ほうでん”を使っていた昨日とは違う。最初の受け回しも、ラプラスが“れいとうビーム”と“ぜったいれいど”を打ち分けたことも、全て正確な読みの上に成り立っている。たった1日でこれだけ変わるものなのか?

 

 自分は初心者の頃どうだったか。あんな速さで成長できただろうか? おそらくブルーはまだ持っている才能の大部分を眠らせたままでいる。このままマスターでも勝ち上がってくればどれだけ強くなっているか……次相見える時は心して挑むべきだろうな。

 

 とはいえ依然として粗も目立つ。まだ詰めが甘い。最後はバタバタしたな。ブルーはまだまだ発展途上。今はまだ負けてやれねぇなぁ。

 

「このオレが1匹も倒せないで負けただとっ。悪い冗談だぜ。いったいぜんたい昨日からどうなってんだ? ましてや相手はあのブルーだってのに。みとめたかねーが、いつの間にかオレ達が追い抜かれていたってことか……」

「やったわ。これならまだチャンスはある!」

 

 ブルーが冴えていたのもたしかにあるが、グリーンは負けるべくして負けたな。簡単に“りゅうのまい”を何回も決められていては話にならない。フィールドの効果があったことは不運ではあるが、だからこそ最初からドラゴンには注意しておくべきだった。警戒心が薄過ぎる。

 

 自分自身いつもブルーと練習していたから感覚が麻痺していたが、最強クラスのこいつでさえこれほど隙だらけなら、レッドも案外すんなりと勝ててしまうかもしれない。

 

 ブルーは積み技とかそういう危ない空気に対する嗅覚がかなり鋭くなった。練習ではブルーが隙を見せる度に徹底的にそこを咎めて起点にしてきた。ある意味何度も負けてきたからこそ危険への対処方法が染みついている。今俺が狙っても「あくびバトン」が決められないのはブルーだけなのかもしれない。

 

 3位決定戦はブルーが勝ち、今から決勝の試合まで時間があるので2人へのインタビューが始まる。一応興行だからそういうこともするようだ。何をしゃべるのか少し気になるな。

 

『ベスト4進出のお2人にインタビューを始めたいと思います! まずはグリーン選手、惜しくも4位で入賞となりましたが、いかがですか』

「負けたオレが言うことなんかねーよ。完全な負けだ、くやしーけどな。ブルーは幼馴染で昔から知っているが、あんなに強くなるとは思わなかった。ここまできたらマスターへ行って勝ちまくってもらいたいな」

『そうですか。熱い言葉をありがとうございます。では、ブルー選手にもうかがってみましょう。3位という結果ですが、どうでしょうか』

「あ、これカメラね。ねぇわたし映ってるー? 見えてるー? おかーさーん、マサラのみんなー、わたしここまできたわよー!」

『ちょっと、勝手に私のマイクとらないでください!』

 

 いきなり何をしているんだあいつは……! あーもう、こっちが恥ずかしい。テレビを見ている名前を呼ばれた人達も苦笑いだろうな。

 

「え、あはは、ごめんなさい」

「たく、強くなっても中身は変わんねーな。テレビの前で全員呆れてるぜ。お前はそういうところがガキっぽいんだよ」

「ちょっと、今カメラ回ってんだから変なこと言わないでよ! 自分はいっつも調子乗り過ぎて負けるくせに」

『あの、とりあえず一言……』

「あ、そうね。もちろん3位は嬉しいけど、まだまだってところね、今の時点では。わたしは絶対に勝ちたい人がいるから、それまでは絶対に負けないで勝ち続けるわ」

『負けたくない人ですか、それは気になりますね。チャンピオンのワタルさんとかですか』

「それはひみつー!」

「お前、ひみつって言いたかっただけだろ」

「はぁ!? 違うわよ!」

 

 また喧嘩し始めたな。あの2人いっつもこんな感じで本当に喧嘩友達なんだな。インタビュアーはそういう人達だと悟ったのか何も突っ込まない。……プロだ。

 

『ひみつですか、残念ですね』

「あ、ごめんね。マスターへ行けばきっと戦えるから、その時教えてもいいわよ」

『おっと、これは大胆発言ですね。これはマスターでの勝利宣言と見ても構いませんか?』

「あったりまえよ。相手が四天王でも負ける気しないわ。わたしだけじゃなくて、グリーンもバンバン勝つわよ」

『おっとグリーン選手、ブルー選手はこのようにおっしゃってますが、このエールどうですか?』

「さて、どうかな。オレは3決でこんな負け方したんじゃマスターへ上がるのも厳しいだろうが、もし行けたら今年のルーキー以外なら負ける気しねぇな」

 

 こういうところはちゃっかりしている。グリーンも選ばれるようにわざとアピールしているんじゃないか。……ブルーの方は本当に思ったことをそのまま言っただけということもあり得るか。そんなこと気にする奴でもなかったし。

 

『大胆不敵! 今年のルーキーは一味も二味も違います。ルーキー全員がそろってベスト4という史上初の快挙ですが、これはマスターズリーグでもそろっての活躍が期待できるかもしれません。それではインタビューを終わります』

 

 ブルーは相変わらずの内容だったな。さて、そろそろこっちも気合入れるか。あいつの目標である俺がこんなところで負けたんじゃ示しがつかない。シショーの威厳ってやつを見せておかないとな。

 

 次の試合、何があろうと、どれだけ相手が強かろうと、何としてでも勝つ。これまでは漠然とした感覚だったが、今はブルーが背中を追いかけてきてるのをハッキリと感じる。もうすぐそこまで来ている。俺だってこんなところで負けて足踏みしている時間はないんだ。

 

 ◆

 

 あふれんばかりの大歓声。熱狂するスタジアムの中心に今、俺はいる。いずれ最強になるトレーナーとの真剣勝負。お互い手持ちの情報はほとんどない。俺はまだ6回戦まででは手の内を晒すほどの敵に対してないし、7回戦はお互いほぼ見れてないからな。

 

『さぁ、ポケモンリーグセキエイ大会もいよいよ大詰め! 決勝の舞台はノーマルタイプのフィールド! 互いに実力が真っ向からぶつかり合う好カードにはうってつけのシンプルなフィールドだ! はたして名誉あるリーグ優勝旗を掲げるのはどちらなのかぁぁ! 今両者ボールを構えて、最初の1匹が出てきた!』

 

 レッドと一瞬視線が交錯し、火花をぶつけあいながら最初の1体を出しあった。俺はヒリュー、相手はエーフィか。ブイズは補助技が面倒。やや不利か?

 

 ヒリュー  Lv51 157-160-81-069-093-203 @かたいいし

 エーフィー Lv52 143-085-87-186-127-144 @まがったスプーン

 

 特性“マジックミラー”持ちなら恐ろしく厄介だが、もちろん特性は普通のシンクロ。夢特性は見たことないしこの地方にはいなさそうだった。

 

 パッと見、案外技もたいしたことなさそうだな。なら俺は予定通り動くだけ。最初にプテラが出て来ることがどういうことを意味するのか、その恐ろしさをしっかり教え込んでやらないとな。

 

「やれ」

「躱してサイコキネシス」

 

 打ち合わせどおり“ステルスロック”を使い、そのまますぐに“ストーンエッジ”を繰り出した。

 

 攻撃技だと思ったのか最初に躱しに来たが残念それは攻撃技じゃない。一瞬怪訝そうにするがすぐに攻撃に移った。互いの攻撃が当たる。

 

 どちらもダメージは100ぐらいか。相手はレベルで勝ることもあってか、素直に攻撃してきたな。補助技スタートも警戒していたがいらぬ心配だったか。

 

「ヒリュー、次3分の1ね」

「サイコキネシス!」

 

 この後2発目でヒリューは倒れたが、さらにエーフィを削った。仕事は十分にやった。生かさず殺さずの絶妙な仕上がり。この間に技も確認できた。こいつはもう完全に起点にできる。いきなり決めてしまうのも面白いか。

 

「いけ、アカサビ」

 

 アカサビ Lv48 140-191-113-62-92-109 @しあわせタマゴ

 

 技 1バレットパンチ

   2でんこうせっか

   3むしくい

   4つるぎのまい

   5まもる

   6みがわり

   7とんぼがえり

   8つばめがえし

   9バトンタッチ

  10かわらわり

  11ちょうはつ

 

 

「サイコキネシス!」

 

 とりあえず何が来るかわからないので最初は威力の高い技を使ったか。ハッサム読みのめざ炎なんて食らった日には即サレまであるが、ここではさすがにありえない想定だ。そもそも「めざパ厳選」なんてしていないだろうし技自体覚えてない。

 

 アカサビは出し際、無抵抗に“サイコキネシス”を受けるがエーフィが弱っていることもあり威力はたいしてない。さらに耐性でこうかはいまひとつ。ダメージは50。もう1回耐えられるな。しかもブイズながら補助技はあまり覚えていないのはさっき確認した。こういうエーフィーは対処しやすい。

 

「4」

「戻れ!」

 

 交換してきたか。こっちは先制技でいつでも倒せるので強欲に積めるだけ積んでおこうと思ったがそこまで腑抜けた行為はしないか。分が悪いと見て即座に交代の判断が下せるのはそれなりに経験を積んでいる証だ。

 

 だが、どっちにしろここで1ターンは時間が生まれる。予定では最初のポケモンを先制技で倒し次が出てくる前にすぐに“つるぎのまい”を使い無理やり起点にする手筈だったが、まぁ同じことだ。

 

「こい!」

『おおーー!! 出たぞ、リザードン! 昨日の熱戦はまだ記憶に新しい! 試合早々に今大会最高の好カードが実現した! この決勝ではどんな……ああー!? なんということだ! 先ほどから漂っていた奇妙な岩がリザードンを襲っているぞ! こうかはばつぐんだ!!』

 

 リザードン Lv58 せっかち C252 87/174-150-94-185-117-158 @もくたん

 

「どういうことだ!? ……まさか最初の技、あのプテラの技の効果なのか」

「今考える暇はないんじゃないか? 2」

「かえんほうしゃ!」

 

 “でんこうせっか”は相手の攻撃を許さない。元々相手の近くに陣取らせていたこともあり、先にアカサビの攻撃が決まりゆっくりとリザードンは崩れ落ちた。

 

「リザードン戦闘不能!」

『痛烈! 一閃! なんとなんと、昨日に続いてまたしても一撃! ハッサム強し! 恐るべき攻撃力! リザードンは手も足も出なかった! 恐るべし、恐るべし!』

「くっ! まさか一撃で……! もうかを発動する隙すら与えてくれないか」

 

 互いに手持ちは割れていないが、レッドにも言ったように昨日の試合、俺は最後、このリザードンだけは見た。それはつまり耐久も、どれだけの火力で倒せるかも、すでに計算しているということ。

 

 191*60*2*0.42/94

 

 だいたい102、最低乱数でも87、丁度HPの半分以上を削れる。 “つるぎのまい”さえ決まれば、余程のことがなければステロ込みで確定一発。絶対アカサビには最初にほのおタイプのリザードンをぶつけると思っていた。あいつも俺を警戒して多少は手持ちを研究してくるはずだから。

 

 正直アカサビだけでは全員倒せるかは未知数。手持ちが何か全くわからないから当然だ。だから厳しければ無理に全抜きは狙わない。きついのが出てきたらみゅーにスイッチできる。大事なのはアカサビでリザードンを釣りだして“でんこうせっか”で早めに倒してしまうこと。そうすればまず最難関のリザードンは確実に落とせる。これが俺の戦略。

 

 晴れて相手エースのほのおタイプを倒せたが、これでアカサビを捕まえた時の言葉は本当になったかな。いや、アカサビはステロありきじゃ納得しないか。

 

『これはすごい! 7回戦でも猛威を振るったハッサム、その強さは本物だ! 聞くところ、ハッサムはほのおタイプが唯一の弱点だそうですが、これだともうこの勢いを止められるポケモンはいないか?! レッド選手も長考です』

 

 長考すれば変化技を使われることもあるが、これはわざと誘っているな。長考しているわけではない。積み技は一度始めれば中断はできない。その隙に無償降臨を狙っているわけだ。

 

「……仕方ない。いけ!」

「ようやくか、3! あんまり遅いんで待ちくたびれた」

 

 出てきたのはラプラス。大した耐久力だが、もう遅い。こいつを止めるにはタイプで受けるしかない。ギャラドス辺りなら特性もあって面倒だったが、この分だと居なさそうだ。数値では受からないんだよ。繰り出し際の“むしくい”の削りは驚異的だ。

 

 ラプラス Lv53 166/221-121-115-124-127-98 @フォーカスレンズ

 

「ラァッ!?」

「ここまで効くのか?! ……むしくいで一撃か。あの岩のダメージも大きかったか」

『なんということだ。満を持して登場したラプラスはあっけなく倒れてしまった! このまま決勝で奇跡の6タテなら現チャンピオンワタル以来の快挙だ!』

「簡単にはさせない!」

「3」

 

 エビワラー Lv50 126-170-94-40-158-92 @たつじんのおび

 

 半減で“むしくい”は耐えたか。読みはいいけど“バレットパンチ”をお忘れか?

 

「マッハパンチ!」

「1」

 

 悪いけどアカサビはS振りなんだよ。最初は元々ストライクだったからな。だから当然素早さもこっちが上。先制技をあわよくばなんて甘い。

 

「終わりだな。もう打つ手がないなら降参する?」

「おれはどんな時でも、諦めて降参することだけは絶対にしない。そう決めている。こいつで逆転する……!」

 

 ピカチュウ Lv60 @でんきだま

 

 出てきたのはピカチュウ。レベル60か。ここはまだマスターじゃないってのに、馬鹿げたレベルだな。しかもあれ、“でんきだま”じゃないのか? おっそろしいことしてくれるな。確定3発じゃないと受からない仕様だからピカチュウが“こうそくいどう”を積めば止められなくなる。

 

『あーーっと! これはいけない! ピカチュウ攻撃を耐え切れず一撃でノックアウト! 強い! もう誰もあのハッサムを止められないのか!?』

 

 もちろん今は逆だ。あっちが2発受けきれるまでこの攻撃は終わらない。“むしくい”が決まり、いくらレベルが高かろうがしょせんピカチュウの耐久なので当然一撃。だが、そこでレッドが奇跡を引き起こした。

 

「ッサムゥ」

「バグ……! なるほど、見事にまひ狙いが的中ってわけだ。さすがにレジェンド。悪運つきねぇやつだな」

『なんとなんと! これはピカチュウの特性せいでんきだ! 素晴らしい! レッド選手もしやこれを狙っていたのか?! 何とか次のポケモンへ望みを繋いだ!』

 

 ピカチュウを見た瞬間から内心頼むから引いてくれるなよと祈ってはいたが、本当に引くとはなぁ。最後の悪あがきの3割接触。あいつは間違いなく狙っていた。可能性に賭けたといえばそうだが、こういう特性はキライだ。戦略で勝ろうとも、圧倒的に優位だろうと、容赦なく確率という無限の闇に引きずり込まれる。

 

 ……ここでアカサビが倒れるわけにはいかない。6タテがかかっているんだ! 最初からダメなら諦めもつくが現状レッドが手詰まりなのは明白。こんな形で突破されたくはない。できるなら6タテで勝ちたい。

 

 よりによって決勝でこんな勝負をすることになるとは……。己の運の悪さにはうんざりする。脳裏をよぎるのは悪夢のような五連続麻痺。電磁波テロからスカーフマンダやテクニガッサが闇に葬られた事件を忘れはしない。一撃叩けば勝てる状況。だがS228のマンダのスピードも先制技の“マッハパンチ”でさえも“でんじは”には屈した。

 

「ピカチュウ、お前の働き、ムダにはしない。いけ、カビゴン!」

「ここで動いてくれ! あの悪夢を再現してはいけない。二度と麻痺に負けるな、動け、意地でも動け!」

 

 カビゴン Lv52 224/256-135-84-133-148-45 @きあいのハチマキ

 

 交代時の攻撃は失敗か! 動けぇ、とにかく動いてくれ! 動けば余裕で確1なんだ!

 

「むしくい!」

「ふぶき!」

 

 また失敗か……。あいつ特殊カビゴンかよ。特攻高過ぎだろ。“サイコキネシス”と“ふぶき”ぐらいしかないみたいなのが救いか。“かえんほうしゃ”があったらもうやられている。

 

「1回当てれば倒せる。落ち着いてむしくいだ!」

「ッサム!」

「こらえろ! のしかかり!」

 

 よっし動いた! “こらえろ”って技の指示ではないようだな。覚えてもないし。技でもないのにそんな無茶な指示をするなよ。これで勝ったな。

 

「カンビッ!」

『おおっと! カビゴン気合いでこれを耐えた! 見事な気合いだっ!』

「はぁっ!?」

「よし! もう一度のしかかり!」

「バレットパンチ!」

 

 しまった、ハチマキ10%……! 無意識に思考から外してしまっていた。こいつ、いい加減にしとけよ……! まさか「こらえろ!」の指示で確定発動とかいうぶっこわれでもあるまいよな。こっちはまた失敗だしどうすんだよ! そういえばフィールドは一応ノーマルだったのか! カビゴンが邪魔でボールにも戻しづらいしヤバくないか!?

 

 次は動いてくれ! もう残りの体力がない!

 

「パレパン使ってくれ! 頼むアカサビ! いっぱいけづくろいしてピカピカにしてあげるから!」

「サム!」

「よっし! 動いた! アカサビが動いた!」

「あと1歩だったが……ツキに見放されたか」

『ここでカビゴンたまらずダウン! 驚異の粘りを見せるもあと1歩及ばず!』

 

 お前は十分過ぎる程ツキまくってたわ! がめるのも大概にしとけよ! いったい何を求めてんの? 強欲過ぎない?

 

 “パレットパンチ”が決まってカビゴンを倒した。その次のポケモン、ラストの手負いのエーフィはステロダメであっさり倒れた。

 

「フィー」

「エーフィ戦闘不能! 勝者レイン選手!」

「決まったぁ!! とうとう決着! 優勝はぁぁぁ、圧倒的な力を見せつけ6タテを飾った……ハッサムとレインだぁぁぁ!!」

 

 やっぱアカサビさん大エース。麻痺にも負けなかったのは物凄く偉い。周りから見られていることも忘れてアカサビに駆け寄って思いっきり抱き着いた。

 

「!?」

「アカサビ、ほんっとにありがとう。お前は偉い! よくがんばったな。麻痺に負けなかったのはホントにすごい!」

 

 こんなことしたのアカサビには初めてかも。

 




レイン
1.ヒリュー @かたいいし
2.アカサビ @しあわせタマゴ

レッド
1.エーフィ  @まがったスプーン
2.リザードン @もくたん 
3.ラプラス  @フォーカスレンズ
4.エビワラー @たつじんのおび
5.ピカチュウ @でんきだま
6.カビゴン  @きあいのハチマキ

繰り出す度に攻撃に晒されるのはやっぱりいけませんね
レッドのメンツ自体もリザードンが倒れるとアカサビ無双が始まるのでステロ剣舞が刺さり過ぎです

そもそもフルバトルでステロ使わないのは敗退行為ですからね
マスターはちゃんとバランス調整しますので……(震え)

あとは反省会して終わりです


すぐ更新とか言いつつ最近ちょっと目を離していたんですが、気づいたら急にお気に入りが1000件の壁突破していましたね

びっくりしましたが多くの方に読んでもらえているようで嬉しい限りです
本当にありがとうございます

前のバブルを思い出すとレッド達が登場してバトルメインで書いている時が一番伸びている気がするんですが、やっぱりポケモンはバトルが面白いということなんでしょうか


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15.ポケモン勝利の方程式 戦術 戦略 時の運

感想戦その1


 アカサビの頭を撫でていると放送が入ってきてこれからなんやかんや始まるらしいことが告げられた。

 

 興奮冷めやらぬ雰囲気の中、まず試合後のインタビューが始まった。勝利インタビューってやつね。会場のボルテージは最高潮。アカサビのアピールはいい感じ。

 

『いやぁ、すごかったですね。レイン選手、実に素晴らしい勝利でした。我々には圧勝したように思えましたが、実際どうだったんですか?』

 

 何その引っかかる物言いは。ど、どう見ても圧勝に決まってるやろうに。こっちは作戦通りなわけやし。……麻痺とかはもう振り返りたくもないなぁ。触れないでおこう。

 

「今回はアカサ……ハッサムの力で圧勝しましたね。準決勝、決勝と強敵が続きましたが共にハッサムのおかげで勝てたのでもうハッサムには感謝しかないです。本当に強くていつも助けられています」

『最後はハッサムと抱擁を交わすシーンもありましたよね。これまでは淡々とクールに勝ち進んでいた印象だったんですが優勝して何かこみ上げてくるものがあったんですか』

「……あのときは思わず体が動きましたね。プライベートではいつもあんな感じですよ。別にクールな性格とかではないですし」

『意外な一面ですね。ハッサムと言えばカントーでは珍しいポケモンですがジョウト地方に行かれたことがあるんでしょうか』

「あれ、最近話題なのにご存じない? ハッサムはカントーで捕まえられるストライクから進化するんですよ。メタルコートを持たせて通信交換すると進化します」

『え!? ジョウトのポケモンに進化するんですか!? 初めて知りました。やはり日頃からポケモンのことには余念がないんですか』

「それはもう。ハッサムは捕獲が難しいですがストライクにメタルコートを持たせれば簡単に進化するんですから大変なことですよ。サファリゾーンに行くと簡単に両方手に入るそうですし、簡単に捕まえられて強力となればこれからハッサムを使うトレーナーは急増するかもしれませんね。ご覧のようにリーグであってもハッサム1体いるだけで6タテも狙えますから。尤も、マスターではこうはいかないでしょうね。そこでのバトルが本当の勝負になりますよ」

『というと、どういうことなんでしょうか?』

「今回は勝てましたが次にマスターで戦うときにはレッド、ブルー、グリーンは格段に強くなっているでしょうし、同じ手は二度と食わないはずです。次の対戦が楽しみですね」

『早くもマスターでのバトルについて考えているのですね。その意気込みはどうでしょうか』

「ルーキーの自分が勝つのは難しいでしょうし、先輩方にはお手柔らかにお願いしたいです……というのは建前で、俺相手にマスターのトレーナーがどれぐらいついてこられるのか、お手並み拝見というところでしょうか。まあ大した敵はいないでしょうが」

『え……あ、はい。それでは、今回の優勝について、今どんな気持ちでしょうか』

「ここまでは予想通りですね。なので特に思うことはないです。侮りはしませんでしたが、今の実力からいえば順当でしょうし。問題はマスターでどれくらいあの3人が強くなってくるか。それだけです」

『……マスターには四天王がいますが?』

「四天王の方は来年も同じ座についていたければ俺達4人のことはよく研究しておいた方がいい。軽い気持ちでいれば全員引きずり落とされるでしょうね」

『なんと大胆不敵! 早くも最強の四天王軍団に宣戦布告です! それでは、次はレッドさんにも話を伺いましょう。まず、今回の結果のついてはどうですか?』

「次は負けない。倒すべき敵の強さはもうわかった。マスターでは負けることはない」

『こちらもすでにマスターリーグにむけて闘志全開ですね。では四天王については』

「……まず倒すべきなのは今おれの横にいる奴。今日確信した。それさえ倒せれば最強に手が届く」

『……あ、ありがとうございました』

 

 このインタビューは当然マスターの面々の耳にも入ることになり……。

 

 ◆

 

 ポケモンリーグが終了して閉会式とやらも恙なく終わり、トロフィーやら賞金やらも進呈された。思ったより奮発されていたが、それだけこの大会が盛り上がっているということだろう。そして俺達は束の間の休息を迎えることになる。

 

 閉会式の次の日、ポケモンを休めることも兼ねてこの日は1人でゆっくりセキエイ高原の周りを見ておこうと思い散歩していると、突然ブルーに呼ばれて祝勝会なるものに連れてこられた。すでに先客が待っているらしい。

 

「やっと来たな。おせーよ、ブルー」

「……」

 

 打ち上げをする店には先にあの2人、グリーンとレッドが来ていたようだ。俺達4人で祝勝会ってことか。それならマサラ3人組だけでやればいいのになぜ俺まで呼ばれた? 俺がいても邪魔にしかならない気がするがどういうつもりなんだ? ブルーに引っ張られて1番奥の席についた。

 

「仕方ないでしょ、こっちもシショー捕まえるの大変だったのよ。ちょっと目を離すとすぐにふらふらーっとどっかへいっちゃうから。じゃ、気を取り直して……えー、おほん! それじゃ、今日はわたし達同期が揃ってマスターランクに上がったお祝いとして、焼き肉パーティーを始めます。お代は全部シショー持ちだからじゃんじゃん食べていいわよ!」

「ちょ、おい! 聞いてな…」

「よっ、さすが太っ腹! 気前いいなー!」

「ごちになります」

「優勝賞金たんまりもらっておいて、まさかここにきてケチ臭いこと言わないでしょ?」

「はぁ~ホントに調子のいい奴らだなもうっ! しゃーないな。わかったよ、好きにしろ」

 

 しょせん俺は財布目的か。最初からどうせそんなことだろうと思ってたよ、ブルーだし。

 

「やった! さすがね(ね、やっぱりチョロイでしょ?)」

「よっしゃ、今日は食うぜ!(だな。ずっと一緒だっただけあってよくわかってるぜ。さすがブルー)」

「……(ブルー、ナイス)」

 

 こいつら、まさか3人でグルか……? 今の示し合わせたかのような表情、怪しい。ちなみに昇格メンバーの発表は閉会式で一緒に行われて、俺達4人全員が選ばれてマスターランクに昇格している。

 

 選考理由はあのレッドとグリーンの激戦の高評価と、それぞれに勝った俺とブルーは評価に値するという判断からだった。あんまり内容を見てなさそうな理由で思うところはあるが、選出自体は妥当なところだし文句もない。

 

 箸も進み、いったん休憩モードかという頃にブルーが真剣な表情で話を切り出した。

 

「さて、そろそろ本題に入るわ」

「本題?」

「そう。今日集まったのは祝勝目的もあるけど、1番はシショーに聞きたいことがあったからなの。それを聞けるまでは今日は帰さないわ」

 

 ブルーのこういう発言は女の子的にはいいけど、ストーカー的には完全にアウトなんだよなぁ。

 

 ……まさか始めに奥の席に押し込まれたのもそこまで考えて……俺は出口に最も遠い場所。あらかじめ赤と緑の座っていた位置からしてもう作戦のうちか。この3人ムダに連携力高い。

 

「なるほど。全部3人で協力して事に当たっていたわけか。打ち上げに俺まで誘うなんて変だとは思ったが、やっぱりどこまで行ってもお前らはバトルのことしか考えてないんだな。聞きたいことってのは当然リーグ戦の内容についてなんだろ?」

「話が早くて助かるわ。今日はおいしいものでも食べながら感想戦をしようってことなの。ほら、将棋とか囲碁の試合だとよくやるじゃない?」

 

 さすがに財布目的だけで人を呼ばないか。そこは安心した。しかし感想戦とはポケモンでは斬新だな。あんまりそういうことするのは聞かない。面白そうではあるが……。ただ問題はその提案を素直に受け取るかということだ。

 

「それは名案……とでも言うと思った? 俺にとっては特に得るものもなく、むしろ1番の強敵になるだろうお前達にむざむざ種明かしをするだけ。リーグ期間に限っては弟子のブルーの誘いでもお断りだな。このままいけば同じ手でまた6タテできるんだから、こんなに楽なことはない。だろ?」

 

 思ったことをバカ正直に言ってみると、みるみるブルーの表情が変わった。

 

「な……なんですって!? シショーッ、見損なったわっ! わたし達がなんにもわかんないからって初見殺しみたいな勝ち方で何度も勝って嬉しいの? 自分の誇りは傷つかないの? ねぇどうなの?!」

「お前は俺が勝ち方に拘る人間に見える?」

「……見えないわね」

 

 すぐに表情は元に戻ってしまった。自分に正直なブルー、キライじゃない。

 

「おい! そこはウソでも否定しとけよ! ……レイン、オレはあんたのことは一応尊敬していたのに、そんなしょーもないこと言うんじゃがっかりだぜっ!……レッド、お前も何か言え! とりあえずなんかよぉーっ!」

「心配いらない。この人はしゃべる気満々だ」

「え? レッド何言ってるのよ。今断るって言ったじゃない」

「レッド、あのな? お前は面白いこと言ったつもりなんだろうが、全くボケになってねーんだよ」

 

 グリーンは生暖かい目でレッドを見ているが俺には驚きだった。つい直接訳を聞きたくなった。

 

「ふーん、なんでそう思ったんだ?」

「見るからに話したそうにしている。あんたは強い相手と戦う時楽しそうなのが顔に出ている。つまらない相手だと興味もなさそうだから余計際立つ。そのあんたが今楽しそうに話している。今断って見せたのは建前……いや、ブルーをからかってみただけか。本当はバトルについてしゃべってみたいんじゃないか?」

「え……それマジ? というかわたしからかわれてるの?」

「お前、ボケじゃなかったのか……!?」

「ホント、かわいくねぇやつだな。ま、そこまで言うならそういうことにしてもいい。勝手にかけられた期待とはいえ失望されるのも心外だし。それじゃ、何を話す? 最初は俺とブルーの試合から検討するのか?」

「え、ホントにいいの? いやー、やっぱりシショーならそう言うと思ったわ。実は今日さっそく売り出されたBVを買ってきて用意してあるからこれを見ながらお互いの考えを確認してそれを全員で検討していきましょう。じゃあさっそく……まずは最初の選出ね。わたしはレーちゃんシショーがアカサビさんだったわね。あれはどういう意図なのかしら」

 

 早口でまくしたてるように言い切り質問をぶつけてきた。急ぎ過ぎだろ、いくらなんでも。なんとしても俺から話を聞きたいんだろうな。

 

「そんなに焦らんでも急に気が変わったりしないって。あの試合はまず前提としてブルーと俺は互いに手持ちを熟知していた。だから俺は最初にフシギバナとラプラス、そしてソーナンスは絶対にないと思っていた。ハクリューも温存する可能性が高い。だから残り2匹に対応できるアカサビにした」

「なんでそいつらはないんだよ?」

 

 すかさずグリーンが指摘してきた。この3人だとこういう役回りはだいたいグリーンだな。1番饒舌だし。

 

「こいつらは耐久力が取り柄。だから交換先に残したい。ブルーにとっては切り札的な3体でもある。ハクリューはお前がやられたように“りゅうのまい”からの突破力が凄まじいから、あわよくば俺から隙を作れた時のためにとっておきたい。天候変えたり“でんじは”まいたり何かと器用にこなせるし。あと、おそらくこれが最も大きかっただろうが、残りのピジョットとレアコイルは控えと交換できる“とんぼがえり”と“ボルトチェンジ”を各々使える。俺相手に不利になればすぐ逃げられる保険があるという安心感は捨て難いだろう。大事な試合なだけに余計な。もちろん俺がそう考えるのを見越して裏をかく可能性はあるが、大事な一戦だと思えば思う程、より無難で安全な選択肢を選びがちになる。ブルーはうかつな行為がどれだけ自分の首を絞めるかイヤと言う程わかっているからなおさらだ。だからピジョットかレアコイルのどちらかになるのは堅い」

「うう、全く以てその通りだわ。最後にそのどっちにするかで悩んだんだけど、ピーちゃんは練習でよく先頭にしたからやめたのよ。読まれそうな気がしたのよね。レーちゃんならいつも耐性を生かすために後ろにすることが多いし、ボルトチェンジの威力も高いから」

 

 ブルーが渋い表情でそう言うと、ここでレッドが待ったをかけた。

 

「ちょっと待て。それならなぜレインは先頭をサンダースにしなかった? その方がピジョットとレアコイルの両方に相性はいいし、そもそもハッサムはいうほどその2体に相性がいいか?」

「……言われてみればたしかにそうだな。やいレインよぉ。まさかウソこいてオレらを攪乱する気じゃないだろうな? あんたならやりかねないよなぁ?」

 

 鋭いな、レッド。大事なところは聞き逃さない。特に指摘されなければ言うつもりはなかったがちゃんと説明しておくか。グリーンも半眼で俺の方に疑いのまなざしを向けているし。

 

「くく、いやー悪い悪い。さすがに気づいたか。まぁその通りだな、サンダースの方がいい。だけど実際にはハッサムの方が俺にとってさらに有利になる。この辺が経験の浅いやつの考えなんだよな」

「ど、どういうことなのよ」

 

 こういうのは実際にシュミレーションして見ればわかりやすいだろう。ブルーにどうなるか考えさせてみた。

 

「お前、最初にピジョット出して、俺がイナズマならどうするよ?」

「か、代えるわよ。んー、とんぼがえりで。最初が10まんボルトだったら痛いけど後ろを無償降臨できたら大きい。ピーちゃんは一発じゃやられないし」

「そうだな。あるいは普通に入れかえてもいい。その後フシギバナなりが出て今度は俺が不利。後攻とんぼなら後続は無償降臨だから、なおさらどうしようもない。結果、形勢はまだイーブンに近い。これがもしアカサビならどうする?」

「メインの虫技は半減。相性は悪くない。最初はつばめがえしで様子見ね」

「だろうな。俺はバレットパンチ。お互い被弾するだろうが、体力が半分を割るのはそっちだけ。そして次の攻防でピジョットは倒れる。バレットパンチは先制技だから当然こっちは最初の1発しか受けない。この時点で俺は1つリード。しかも、次出すやつにはとんぼがえりを使う。アカサビの強力なとんぼがえりでダメージを与えながら、また有利な対面を作れる。この時点で形勢は俺が圧倒的に有利だと思わないか?」

 

 ミソは後者のパターンでは相手のポケモンを倒せるところにある。単に受け回す立ち回りより倒せるなら倒せるところでそうできれば大きなアドバンテージになるということ。死に出しがないのがここで効いてくる。

 

 ブルーはどの技をどれだけ受けたら倒れるか正確に把握できないのも重要だ。体力のゲージが半分を割るようなことがあれば必ず交代するだろうがここじゃそんなゲージは存在しない。まず間違いなく見誤ってピジョットはそのまま倒される。まさか先制技2回で倒れるとは普通思わない。

 

 同じことをグリーンも思ったのか、2回で倒れると断言したことについて疑問を呈した。

 

「おいおい、ちょっと待て。たしかにその通りなら有利になりそうだが、そもそも本当に2発で倒せるのか? そんなことやってみないと……」

「必ずだ。必ず倒せる。俺は常に後どれほどでトドメを刺せるか注意して見ている。それを見ることがトレーナーの役割だと思っているから。今までこの目測を間違えたことはない。ましてやブルーの手持ちなら何度も対戦しているしバトルの前から十分わかっている」

「ま、マジかよ。じゃあ何か、あんたはポケモンの体力の残りとか正確にわかるのか」

「それだけでなくどの技がどれぐらいダメージを与えるのか、とかも全て。信じられないなら、なんなら今試すか?」

「いや、やめとくぜ。あんたやっぱり仙人じゃねえのか」

「そういう意味じゃ、あながちまちがってないかもな」

「え?」

 

 グリーンは置いといてブルーが質問を続けてきた。

 

「シショー、肝心のレーちゃんの場合がまだよ」

「それなら説明するまでもないだろう。実際にやって見せたはずだ。最初にイナズマを出す時と比較すると、お前の初手がでんき技になることを読んでバトンタッチした方が“ちくでん”できる分優勢になる。あれは回復だけでなく調子を上げる効果もあるから」

「この映像か。これは技で交代しているのか……。バトンタッチはどんな技なんだ? 単に交代するだけなのか? それだとほとんど無意味な技に思えるが」

 

 レッドが映像を見ながら尋ねてきた。確かにもっともな質問だし、一般の認識もそれに近いはず。本当にこの辺りは研究が遅れている。

 

「いや、その通りだぜ。オレは覚える奴がいて使ってみたことあるが全く使えない技だった。交代先にそのまま相手の攻撃が当たるから、1ターンムダにするのと同じだ」

「ま、お前ら含め、世間のトレーナーのレベルじゃそんなもんだろう。バトンタッチの真骨頂はそこじゃない。現に役に立っているし。最も大きいのはバトンタッチは能力変化を引き継ぐ効果がある点だ」

「能力変化?」

「シショーがたまにやっているやつね。素早さを上げたイナズマちゃんにバトンさせて後続のすばやさを上げるってやつ」

「それは面白い発見だな。でもそんなまわりくどいことしてもたいして意味ねえと思うがなぁ。直接交換先のポケモンが自分で能力を上げればいい話だろ」

 

 言いたいことはわかる。だが、能力を上げやすい特性“かそく”持ちのバトンや、起点を作れるポケモンからのバトン、さらに言えば“かるわざ”で先制して“ちいさくなる”を何度も積むバトンを知ればそんなこと言えなくなるだろう。そもそも本来能力を上げられない強力なポケモンでも無理矢理上げられるから強いんだ。そこに気づくかだな。脱線するからこれ以上深入りしないが。

 

「まぁそれはおいておこう。それで、“ちくでん”したイナズマとレアコイルの対面だな。ブルーから見ると有効打は全くないからイナズマに面倒な補助技使われる前にさっさと交換の一択。ここからチェンジならフシギバナかハクリューが出て来るのは間違いないだろう。残りは出しても俺が有利だから考える必要もないし。当然俺としてはこの場面こおりタイプの技である“めざめるパワー”を選択するのがセオリーだが、フシギバナの場合俺にとってやや不満な形。だから1回“あくび”を挟んでハクリューを呼びこんだ。“あくび”ならブルーから見て俺が交換先を読み切れてないようにも見えるだろ?」

 

 今までの練習ではブルーの行動が読めている時には明確な有効打を打つようにしていた。だが本当に読めている人間には読めてないように見せることもできる。余裕があるからな。

 

「そんなことまであの状況で考えてたのかよ」

「にわかには信じがたいな……」

「でも実際その通りね。いけそうだと思って安易にリューちゃんを出したらまんまとめざ氷を受けちゃった」

「めざ氷?」

 

 グリーンがなぜか俺の方を見て聞いてきた。俺はわざとわかりにくい言い方は避けていたがブルーはそういうことまで気にしないからな。

 

「こおりタイプのめざめるパワーのことだ。俺がいつもそうやって言うからブルーもマネしてそう言うんだよ」

「えへへ……何かいいじゃない、このめざ氷って響き」

「めざめるパワーを略して言うのかあんたらは……」

「使い慣れている……!」

 

 グリーンには呆れられ、レッドからは鋭い眼差しを向けられた。レッドは露骨に警戒心を出しているな。どのタイプになるかわからないような技を日頃から使っているなんてレッドやグリーンの感性でいえば変人の類なのかもしれない。

 

 ……話を戻そうか。

 

「このとき、ハクリューへの交換を読んでいたのはもちろん、俺はハクリューの方ならめざパ2発で倒せると踏んでいた。だからここでまたブルーは縛られる。早々にハクリューを諦めるわけにはいかない。倒れても交代でも同じだから諦めてくれるなら俺はむしろ歓迎だが、さすがにこの場面ブルーなら交換しようとする。ブルーはまた交代を強いられる。しかも“あくび”を考慮するとまた安易にフシギバナを出せばいいという考えはできない。ブルーも何か考えて来ると思った。正直ここはどうくるか予想がつかなかったから、とりあえず“ボルトチェンジ”を使うことにした。何が来ても絶対に有利な対面を維持できるから」

「それであくびやめざ氷じゃなかったのね。別にそれでいいじゃないっ!」

 

 ブルーもその辺の技はやはり意識していたのだろう。表情を見るとよくわかる。もどかしくて悔しい感じが見て取れる。

 

「ま、お前がそうしてほしかった時点で最善ではないな、その辺の技は。そうするだろう、そうなればいいと思うんじゃなくて、最悪を想定して立ち回らないとな」

「そんな細かいこと試合中の短い時間で考えるのはレインだけじゃないか? 選択や交換は基本的にノータイムで行うはず」

「だよな。やっぱりレッドでもそうか。もしかしたらなんかオレがおかしいのかと思ったぜ」

 

 もちろんこの全てをあの時考えていたわけではない。ブルーは手持ちが分かっている上、努力値の配分まで俺が手伝ったんだ。戦う前にあらゆる状況を想定してかつ最善手の模索まで済ませていた。事前に研究済みということだ。ここまでは想定していた。

 

「で、わたしはソーちゃんを出したんだけど、あれはあくびのループを切りたかったの。しんぴのまもりでそれさえ阻止すれば交代でフーちゃんを出せば何とかできるから」

「なるほど。ラプラスもできるが電気が抜群だからそっちにしたのか。なかなか冴えている作戦だな。ただ“あくび”を意識し過ぎた。むろん俺がそう仕向けたんだが、1つに意識し過ぎると他の行動への対処が疎かになる」

 

 相手の行動の誘導だ。今回はあまりに“ボルトチェンジ”が刺さっていたから思考停止気味にそれを使ったがその前にまず“あくび”を意識させて相手の行動を曲げたわけだ。

 

「んなこといってもこれは仕方ねーだろ。あくびはほっとくと眠るんだろ?」

「よく知っているな。ブルーから教わったのか? まぁこの場合悪いのは判断というよりブルーの手持ちの構成だな。そもそもブルーは全員イナズマみたいなでんきタイプとか催眠技持ちに弱過ぎる。だからそれを意識せざるを得なくなる。レッドならサンダースはカビゴンで簡単に倒せる。グリーンならサイドン。ブルーにはフシギバナがいるがあくびを踏まえるとやや分が悪い。交代時に“ボルトチェンジ”と“あくび”どっちも受けたらアウトだからだ。“あくび”は仕方ないとしても、せめて片方、でんき技だけでも無効にして消せるやつがいるとこっちも迂闊な行動はできないから五分の読みあいに持ち込めるがこれでは勝負にもならない」

 

 ブルーは読み間違いが即負けになるからかなり不利だ。イナズマに対してソーナンスでは対面からでも“バトンタッチ”から“ちょうはつ”持ちにチェンジで負け。ピジョットとレアコイルは論外。ハクリューはめざパで確2。フシギバナはめざパなら受かるが“ボルチェン”と“あくび”がきつい。ラプラスもめざパなら受かるが10まんボルトとボルチェンとあくびがきつい。

 

 あくびで対面操作して抜群技を当てるだけで簡単に全員確2圏内に持ち込んで射程に入る。これではさすがになぁ。

 

「……つまりどうころんでも“ボルトチェンジ”で簡単に有利な対面にされるし、“あくび”も止められないから厳しいってことね。じゃあ“ボルトチェンジ”を意識すると手持ちに1体はでんきタイプを無効にできるじめんタイプとかがいないとダメなんだ」

「おお、理解できたのか。そういうことだな」

「……もう何を言ってるかオレにはわからねぇんだが……」

「……」

 

 グリーンは渋顔だな。レッドは恐ろしいまでに無表情。

 

「それじゃ、ソーちゃんとアカサビさんの対面でなぜいきなり“とんぼがえり”をしたの? まぁわたしの考えは素直に“ちょうはつ”は何となくなさそうな気がして、少し様子を見てたんだけど」

「その勘の通りだな。ちょうはつがソーナンスには強烈に刺さっているし、“とんぼがえり”があるから交代もしにくい。だからソーナンスとしては“しんぴのまもり”をするぐらいしかない。それを読んで“とんぼがえり”をしてみたんだよ。あんまりわかりやすい行動ばかりだと俺の行動もブルーに読まれるから一度裏をかいてみたわけだ。こういう行動を挟むと後々の読みを複雑にするし、万一カウンターをされてもダメージは回避できる算段があった」

 

 そう言うと急にブルーが身を乗り出して俺に問い詰めて来た。俺の方は逃げ場ないんだぞ、こっちは角だから。

 

「それよ! それがわたしのどうしてもわかんなかったことの1つ! せっかくあの時は裏の裏をかく形になったのにどうしてカウンターがユーレイに効かなかったのよ! シショーをギャフンと言わせられそうだったのに! “とんぼがえり”は物理技だし“カウンター”できるわよね? できないの? 今この映像を見返すとカウンターの技そのものは出ているみたいだけど」

「何を言っている? “カウンター”はかくとうタイプの技だからユーレイに効くわけないだろ。相性の基本だ」

「え、ええっ!? それホントなの?! 知らないわよそんなの!! そもそも“カウンター”ってタイプとかそういう問題なのっ!? 攻撃技だけど、タイプとかそういうのはないものだと思っていたわ」

「オレも技については詳しいつもりだったが初めて知ったな」

「……そもそもゴーストタイプに“カウンター”を使う状況がなかなかない。これは仕方ない。知っているやつがおかしい」

 

 レッド、それは遠回しに俺がおかしいって言いたいんだよな? 言ってることは正論だけどさぁ、あんまりな物言いだな。

 

「それじゃ次にいこう」

「そうね。ここでにっくきユーレイが出て来て恐怖の催眠地獄が始まったのよね。シショーって催眠かける時に獲物をじわじわいたぶるのを楽しんでる感じがしてほんっとヤダ」

「はぁ? 別に楽しんではない。ここで聞きたいのは体力が減っていった技の事だろ?」

「そうよ。あれ何?」

 

 ものすごく不機嫌な声色でブルーが言った。散々苦しめられたしユーレイだけ呼び捨てな辺り本当にユーレイのことは畜生認定してそう。

 

「あれは“のろい”と言う技で、自分の体力を半分削る代わりに時間経過と共に相手の体力を減らしていく技。ゴーストタイプ以外だと効果は似ても似つかぬものになるが、今そのことはいいだろう。要するに“のろい”を受けた後4回程攻撃すれば体力満タンからでも倒れてしまう。リスクはかなり大きいがリターンも絶大。ただし交代すると効果が切れるという致命的な弱点がある」

「そんな技あるんだ。ゴーストタイプってとんでもない技使うわよね。交代で解除できるのは途中で気づいたけどホントに初見殺しよ! ラーちゃんなんにもできなかったってショック受けてたんだからっ!」

「それは悪かったな。後でラプラスには教えてあげなよ。何でも知っていそうなあのポケモンにもわからないことってあるんだな」

「いやいや待てよ! おかしいだろ! なんで半分も体力が減る技を3回も使ってるんだ?!」

 

 何を言っているんだ? 本当にわからないのか? 

 

「なんだ知らないのか? それは“いたみわけ”の効果で相手から体力を奪ったからだ。ほら、ここ見ろ。“いたみわけ”は使うと相手と自分の体力を同じになるようにやりとりする。要するに自分の体力が少ないほど多く体力を奪えるわけだ。“のろい”で自傷した直後や、“のろい”の体力が足りないときはその前に使っている」

「たしかにゲンガーが相手に触って何かしているな……。ゲンガーってそんないくつもヤバイ技覚えるのか。そもそもゴースト使いでもなきゃこんなの知りようがねぇしきたねーよ」

 

 たしかに使用者が限られるポケモンの技だから知る機会は自ずと限定される。“あくび”を知っていて“いたみわけ”を知らないのはどうかとも思うが。

 

「大事なのは相手の体力は増やせないが自分の体力なら能動的に減らせる点。だから“いたみわけ”は自ら体力を削る技と相性がいい。“みがわり”や“のろい”で体力が1/4以下になるように調整して催眠で時間を稼ぐ間に“いたみわけ”も使い体力回復。一度“のろいが決まれば相手は勝手に倒れるから自分は地中に隠れるだけでいい。交換されたらまた繰り出し際に“あやしいひかりを当て確実に催眠を決めて同じループに入る。相手が一度も自傷せず2ターンで起きなければ延々とループが続く。ブルーはあっさりと破ってしまったが普通は抜け出せないだろう」

「ま、運も実力のうちだから。シショーはその辺が甘いのよねー。とにかく運の絡む要素に持ち込めればなんとかなること多いし」

 

 それが必死こいて「起きてー!」を連呼していた人間の言葉か? 涼しい顔で得意げに言っているがブルーだって内心は穏やかではなかったはずだ。あんなにおっきな叫び声ずっと一緒にいた俺でも初めて聞いたし。

 

「ま、お前の数少ない取り柄の1つなのは確かだな。オレん時もドラゴンフィールドじゃなきゃわかんなかったし」

「あれは実力ですぅー! 勝手なこと言わないでっ!」

 

 グリーンとブルーのいがみ合いが始まった。隙あらば喧嘩始めるよな。ホントに仲がいい。

 

「それより今はこの試合の検討だ。このループを脱出したのはいいがおれにはあっさりし過ぎているようにも見える。その後の展開も踏まえるとゲンガーには実は最初から別の狙いがあったんじゃないか? ブルーはこのとき難敵のゲンガーを倒して浮かれているがあんたの方はうっすら笑ってないか?」

「ここか……あっ!……これが裏の顔か。本性現したな」

「え……うわ、ホントだっ!? これまさに“計画通り!”って思ってる時のシショーの顔だ。どういうこと、ユーレイのループで全抜き狙いじゃなかったの?」

 

 こいつら……。

 

「お前ら真顔で好き勝手言うな! まぁ確かに狙いはあったさ。最初から俺はアカサビの先制技の圏内まで手持ち全ての体力を削るのが目的だった。そもそも先制技で倒せるなら無傷で勝てるわけだから始めから体力をゼロにしなきゃいけない理由はない。そう考えるとユーレイでブルーの手持ちを万遍なく削り切った時点で勝ちは決まっていた。あの時俺が警戒していたのは唯一体力が丸々残っていた“フシギバナ”だけ。体力が残っているあいつにアカサビが負けることだけ危惧していた」

「ウソつけ! あんたフシギバナと対峙してラッキーって言ってるじゃねぇか!」

「そもそもなんでサンダースからハッサムへ交代した?」

 

 矢継ぎ早の質問攻勢だな。ツッコミの速さが尋常じゃない。対戦相手だったわけでもないのによく見ている。

 

「1つずつ順番に答えよう。まずアカサビへの交代はダメージの負担をなくすため。序盤はイナズマでの全抜きとか色々バリエーションがあるから違うが、この時点だとアカサビがほとんど全員を射程圏内に入れているからこいつの体力温存は重要度がかなり高くなる。怖いのは不意の“きゅうしょ”とかでいきなり倒れてしまうことだけだから当然だろ? そして1体倒すことさえできれば後続はさらに倒しやすくなる。もし出て来たポケモンに素早さが負けていても先制技でトドメを刺せるから。あるいは隙を見て交代際につるぎのまいを使って攻撃を上げることもできる。上手くいけば倒す度にどんどん攻撃力が増していく。これがどれだけ恐ろしいかわかる?」

「能力変化って上限ないのか?!」

「上限はあるがお前らが思っているよりもっと上だ。そしてこの場合大事なのは最初の1体を倒すこと。なので最初は体力の少ないやつが来てほしかった。だからフシギバナが来た時内心は運がないと思っていたわけだ。だけどブルーから見ると話は違う。俺はずっとブルーには有利な相手と戦うようにすることが大事だと散々教えたし、そのことを十分理解している。だからこのときもそれに従って交換してしまった。普通ならフシギバナはハッサムに対して圧倒的に不利だから。実はこれは明確なミス。この時はフシギバナは突っ張ってアカサビを倒しにいかないといけない。もちろんダメ元には違いないが確率がゼロか低いかの問題だから」

 

 結局こっちがしているのは負け筋を1つずつ消す作業。最初に大幅にリードしたから中盤ですでに大勢は決していた。このときブルーは数少ない勝ち筋を取りこぼしたわけだ。

 

「ここか。つまり、あんたにとっては唯一負ける可能性があるやつが出て来たが有利なフリをした……ブルーは完全に乗せられていたのか。ホントにくえねぇなぁ。こんときもわりぃ顔してるぜ」

「あの白々しいセリフがハッタリだったの!? 演技上手過ぎ……」

「これが人を騙すときの表情か」

「さっきから冗談か本気かわかりにくいコメントをするな。特に赤と緑。とにかく、ここでアカサビがレアコイルを倒した時点で勝負アリだ」

「でもこんときまだワンチャンはあったでしょ!? ここなんで最初“みがわり”なのよ!」

 

 お前は実際に“でんじは”を使っていたんだから自分が1番よくわかっているだろ。まさにそれを危惧していたんだよ。

 

「説明いるか? 逆に俺がここから負けるとすれば攻撃技より先に使えて状態異常にできる“でんじは”を受ける以外にある? お前のレアコイルが“でんじは”を覚えているのは最初に見た時からわかっていた。ちなみにフシギバナへの“つばめがえし”は他の奴はもう簡単に倒せたから考慮する必要がなかっただけ。読みとかじゃない。さて、これでもう聞きたいことはないだろ?」

「あ、そっか……。聞きたいことはまだあるわ。なんでこことかこのときとか何回もフライングして指示をしたのよ? わたしはだいぶ助かった面もあるからいいけど、それでもちょっと屈辱的よ」

 

 フライング? 言われてBVを見ればブルーがポケモンを出す前にユーレイへ同じ指示をしたり出すのに合わせて行う技を先に指示して使わせたりしたところを指していた。

 

「これも1つずつ見よう。最初のこれ、ずっと同じパターンのみがわりとあやしいひかりから入っていたのはバレていても特に問題はないから。ユーレイの行動が早ければ早い程いいのでそれを優先したまでのこと。実際お前はわかっていてもどうしようもなかったろう?」

「たしかにそうね。逆に焦ったり腹が立ったりしたかも。どうせそういうのも織り込み済みなんでしょ?」

「そういうこと。で、レアコイルを出す前にみがわり以外の技を相手の繰り出しに合わせて使うように言ったこの場面。そもそも、レアコイルを出す前お前はフシギバナかレアコイルかで迷っていただろ?」

「んー……あっ、そうね。この時はもう体力が残っていて攻撃を2回耐えられるのはその2体だけだった。シショーならいきなり“きあいだま”とかも使ってきそうで怖いから迷ったのよ。出した直後は避けにくいからシショーは出し際にきあいだま当てるのすっごく好きだし」

 

 “きあいだま”は命中に難アリだからな。できるだけ当てやすい場面で使いたくなる。そこまで考えていたのか。慎重になっているブルーなら催眠ループ中でもゲンガーの攻撃技まで気を配るとは思っていたが、俺のクセまで考慮しているとは思わなかったな。こっちも読まれないように気をつけないと。

 

「ここで俺はレアコイルの方を出してほしかった。アカサビで全員倒すことを考えた時、より厄介なのはレアコイルの方だ。だからそっちを出したくなるようにわざと先に指示を出した。これできあいだまの可能性は消える。フシギバナは有効打がないので出しにくいから喜んでレアコイルを選ぶはずだ」

「レーちゃんを出すように仕向けられていたなんて……」

「このときにはもうすでにハッサムで全抜きする展開を見越していたのか。なんでそんな先のことまで考えてるんだよ……」

「……計画的犯行」

 

 レッド、ボソッと言っても俺には聞こえているからな。いや、わざと聞こえるように言っている気もする。

 

「結局わたしはなんにもわからないままずっといいようにされっぱなしだったのね。頭ではそうなんだろうなって思っていたけど、全部はっきり言われるとちょっと堪えるかも」

「それじゃ、とにもかくにも、全部ブルーが甘かったから負けたってことか。ちゃんと全部読み切っていれば案外簡単に勝てたんじゃねぇの?」

「はぁーっ!? 無茶言わないでよ! ここまで徹底して負け筋消してくる人をどうやって欺けってのよ! だいたいあんたはわたし相手に簡単にりゅうまい決められて全抜きされたくせに、りゅうまいされたあんたにだけは言われたくないわよ! わたしはシショーとの試合では能力変化はずっと警戒してたんだからっ! 実際最後以外はされてないし。あっさりりゅうまいのあんたとは違うのよっ!」

「うっせーっ!! 黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって! りゅうまいりゅうまい言うな!」

「りゅうまいりゅうまいりゅうまいっ!!」

 

 子供かよお前は……そういえば立派な子供だった。じゃ仕方ないな。

 




なんだかんだと付け足したりしているうちに長くなって分割しました

最近だいぶ間隔が空いているので察しているかもしれませんが、今後はかなり遅くなりそうな気がします
次話はともかくとして、次の章は始めるのが半年後とかになりそうな気も……(弱気)



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16.弟子は師に似る 師に染まる

感想戦その2


「とにかく次にいこう。丁度りゅうまいの話になったしブルーとグリーンの試合も見ておくか? 俺は関係ない試合だけど」

「わたしこの試合はめっちゃ調子良かったのよねー。すっごく冴えてた」

 

 さっきまでとは表情が一転、笑顔がこぼれた。この試合は終始ブルーのペースだった。自分の力が最大限に発揮できていたし、実力そのものまで底上げされているように俺の目には見えた。バトルを通じて高みに昇っていくような感覚。自分にも心当たりはある。

 

 BVを立ち上げるとレッドはじっくりと見ていた。俺はリアルタイムでも見ていたが、レッドは見てなかったのかもしれない。考えてみれば普通自分の決勝戦の前にのんびり他人の試合なんて見ないか。

 

「最初はどちらもピジョットか……」

「なんだ、レッドは見てなかったのかよ? オレはピジョットにはかなり自信があったからこいつで最初においかぜを使って最初から全力で畳み掛けるつもりだった。この場面なら同じピジョット同士なら素早くなれば確実に勝てるし、なおさらおいかぜを使おうと思ったわけだ。交代ばっかりされて結局おいかぜはあんまり意味なかったけどな」

「わたしは前の試合と同じね。この技、とんぼがえりですぐ逃げられてしかもピーちゃんはすっごく速いから先発にはピッタリなのよ。グリーンなら読まれないし。ピーちゃんはこんなところで体力ムダにできないから当然わたしはとんぼがえりで引いて圧倒的に有利なレーちゃんにチェンジね」

 

 ブルーの思考が完全に役割意識だな。すっかりそういう考え方が染みついている。

 

 役割というのが何かじっくりと考えてみよう。

 

 ピジョットはむし・くさ・かくとうなどに有利で、ブルーの手持ちだとそいつらはピジョットで倒すことが前提になっている。だからその辺がいるかもしれないうちは有利でも不利でもない相手、いわゆる役割関係にない相手と不必要に戦って体力を浪費できない。

 

 理由は簡単。仮にその役割のない相手、この場合だとグリーンのピジョットをブルーのピジョットで倒せたとしも、そこで体力を大幅に消耗してしまう。その結果本来倒せるはずだったむしタイプなどにピジョットが負けてしまうと、そのむしポケモンは残りのポケモンでは対処しにくくなってしまう。ブルーはバランスが良くてタイプとかのダブりがないから必然的にそうなる。

 

 例えばグリーンはFRLGだとヘラクロスとか使っていたが、ピジョットが倒れるとブルーの残りの手持ちでは止められない。だからそういうことを最初から想定するとピジョットは温存、ひこうタイプはでんきタイプのレアコイルで勝負することになる。

 

 これに則ればお互いに交換を繰り返すこととなり、その延長がよく言うサイクル戦になるわけだ。だから役割を意識すると必然的にサイクル戦になってしまう。

 

「2人の考え方の違いが出ているな……」

「グリーンは素早さ重視でとにかく目の前の敵をタイマンで倒すことが中心で、ブルーは交換で相性を活かして手持ち全員で戦うスタイルだな。対極といってもいい」

「交換なんて基本ムダだろ? タイプの弱点を技で補うことも多いから読まれたりすると1発余計に受けるだけになって不利なはずだぜ?」

「でもあんたこの試合ではどんどん不利になっていったじゃない。そういうのはトレーナーの腕次第なの」

「ぐ……たしかにそうだけどよぉ、なんかこの試合納得いかねーな」

 

 ブルーとは打って変わってグリーンは不完全燃焼だな。ほとんど自分の思うようにいかず、実力を出し切る前にブルーに押し切られた形だ。モヤモヤするのはわかる。

 

「とにかく順番に見ていけばわかる。この後はどうだ?」

「オレは交代だ。さすがにレアコイルには何もできねーし」

「わたしは交代先にどの技使うかちょっと迷ったわ。ボルトチェンジを使いたいけどじめんタイプに止められて相性まで不利になったら最悪だから無効にされないラスターカノンを選んだの」

 

 ブルーはたった1戦でホントに変わった。もし電気技を使っていれば負けたのはブルーだった可能性も高い。ここでミスしなかっただけでもブルーの実力の程がうかがえる。

 

 俺は黙って聞きに回っていると3人でどんどん話を進めていった。

 

「ブルーの判断が良かったな。しかもこの技は大ダメージだったように見える。ドサイドンはかなり防御も高かった気がするが相性が大きいか」

「オレはこの後が全然わかんねぇ。お前なんでいきなりピジョットに入れ替えた? ドサイドンに相性最悪じゃねーか」

「あんたが何にも考えずにじしんを使ってくると思ったから入れ替えたのよ。ダメージゼロなら時間だけ稼げるでしょ?」

「そりゃたしかに時間は稼げるがリスクがデカ過ぎだろ!」

「それだけ自信があったんだろ。この後のまもるとかもおいかぜが切れるのを待っているのか?」

 

 映像を見ながらレッドが尋ねるとブルーは得意げに答えた。

 

「そうよ。わたし効果が持続する技の継続時間は感覚でわかるのよね。だから“おいかぜ”がなくなる瞬間を狙って逆襲してやろうと思って狙っていたのよ。まもるでタイミングを調整して効果が切れる瞬間にレーちゃんと鉢合わせるようにしたのよ」

「ブルーがそこまで考えてたのか!? うっそだろおい……ホントは偶然だったんじゃねーのか?」

 

 グリーンはブルーがそこまでしたのが信じられないのか疑わし気だが、注意してブルーを見ていればイヤでも気づくことはある。

 

「それはない。まず偶然なら魔法が解けるとか言わないし……自信たっぷりの表情から見ても狙っていたのは間違いない。それにラスターカノンを使った後わざと声に出して“もう一押し”なんて言っておいて、しゃあしゃあと自分はすぐに交代している。明らかにじしんを誘った上で安全に交代しようとしている。その後のまもるは焦りを誘ったり時間稼ぎ目的もあるだろうが、グリーンの様子見も兼ねていたはずだ。一度裏をかかれると次から変にその裏をかこうとする奴もいるからな。相手の性格を分析してグリーンの行動を読み切った上で交代に踏み切っている。これはただ危ない橋を渡っているのではなく、最大限勝つ可能性を高めた上での賭けだ」

「あーあ、全部お見通しか。シショーにはかなわないなぁ。なんでわたしの考えがそこまでわかるの?」

「……ブルーは自覚ないのか?」

「どういうこと?」

 

 やり口というか、性格的な部分でもどことなくブルーは俺に似てきている。自分ならどうするか考えればそれがそのままブルーの考えることになる。一応シショーだし目標になるのはいいけど、この感じだとブルーの性格まで変わりそうで微妙な気分になる。自覚はないみたいだから余計染まりやすそう。

 

「魔法が解けるっていうのはなんのことだ?」

「え? あー、それは今度シショーに聞いて。次はわたしがボルトチェンジで逃げてまた有利な対面になったわね」

「このボルトチェンジとかとんぼがえりってのは威力は大したことねーがチョロチョロ手持ちに戻って交換されるのがウザ過ぎるんだよ! オレだけ一方的に不利なままじゃねーか! どうしたら良かったんだよっ!」

 

 話が変わって今度はグリーンが“ボルトチェンジ”へ文句を言った。まぁじめんタイプがいないと対処しにくいよな。今回はともかく、この技は読みで相手の交換先に合わせて行動できさえすれば基本的には互角以上に戦える。ただし“ボルトチェンジ”自体に火力がないし、交換は強制だから下手に使うと後続が攻撃を受けきれないこともありえる。思考停止で使える程甘い技ではないし、結局なんとかしたければ読みのレベルを上げるしかない。

 

「さぁねー。どうしようもないんじゃない? この後はラーちゃんが出てきてグリーンは渋々交代ね」

「……なんだこれは。一撃必殺を連発してないか?」

 

 ポチポチ早送りをしながらレッドは先を見ている。常に倍速で試合を見ているがそれで内容が頭に入るのか?

 

「どう思うレッド? こいつふざけてるとしか思えねーよなっ! こんなむちゃくちゃな戦法が許されていいのかよ?!」

「……なまじブルーが強運なだけに始末に悪い」

「ちょっと! これは運任せじゃないわよ!」

「ホントかよ?」

「……これはひどい」

「シショーッ!」

 

 2人から責められて黙っていた俺の方に助けを求めてきた。自分で説明すればいいだろ。別にいいけどさ。

 

「俺が説明するのか? まずブルーがグリーンの出すポケモンを正確に見切っていたのは間違いないだろう。くさタイプが来ることを読んで最初は効果抜群のれいとうビームで削り、次にグリーンが苦しくなってやむを得ずカメックスを使おうとすればブルーはそこへ付け込むようにぜったいれいどに切り替えている。完全にカメックスが出て来るタイミングを見計らっている」

「そうそう! そういうこと!」

「……容赦ないな」

「なんでオレのカメックスはいつも一撃必殺ばかり受けるんだよ!」

「耐久力が高いポケモンは一撃必殺とか補助技を絡めて倒すのがセオリー。まともに正面から攻撃して崩そうとはしない。逆にそうした手段で崩されるのは目に見えているわけだからそれらへの対策をグリーンも用意しておくべきだな。ちなみに“みがわり”なら両方対策できる。回復技がないのがネックだけど」

「みがわり……?」

「あっ、たしかにそうね。そう考えると案外便利ねー。ラーちゃんにも覚えさせよっかなー」

 

 その感想を持つのはずいぶんと遅過ぎない? 今まで俺と一緒にいてブルーは何を見ていたのやら。散々何度も見てきたはずなんだけど。

 

「……その後は?」

「その次、フーディンまでぜったいれいどでいったのは調子に乗ったようにも見えるが、ラプラスがぜったいれいどの調子がいいと判断して上手くリードしているともとれる。一撃必殺は使う回数が重要だからラプラスとはマッチしているし悪くない戦術ではある」

「やっぱシショーはわかってるわね」

 

 ブルーはうんうんと頷いているがここからはダメ出しもあるからな。

 

「ただし、この後フーディンのトリックを受けてオロオロしていたのはいただけないな。たしかセキチク辺りで俺が教えたはずだが」

「それは……ちょっとドわすれしてたのよ」

「お前はヤドンなのか?」

「ぶーっ! シショーひっどーい! だってあんな重くていらない道具押し付けるような使い方初めて見たんだもん!」

 

 “くろいてっきゅう”は投げつけてくる奴は見たことある気がするが“トリック”するのは意外と見ないな。デメリットが重いから仕方ないが。補助技なら割と素早さ関係なくすぐ使えるこっちの世界ではマッチしているのかもしれない。

 

「くろいてっきゅう、か」

「オレが考えた戦法なんだぜ? けっこう効果的だろ? 相手の動きを半減させつつ道具も取れるから一石二鳥なんだなこれが」

「それもいいが、よくあるのは拘り系の道具のトリック。あれは同じ技しか出せなくなるから持っていると基本的に攻撃技しか使えなくなる。補助技メインのポケモンなどに押し付ければメリットは生かせず重い枷だけ残る。トリックしなくてもフーディンならこだわりメガネを持たせれば恩恵を受けることもできるから無理にトリックを最初に狙わなくてもいいという利点もある」

「ああっ! こだわりスカーフとか色々あるあれのことか。たしかにデメリットはポケモンによってはかなり重くなるが自分はメリットだけを活かせる……なるほどなぁ」

 

 グリーンは今の説明でわかったのか。理解するのが速いなぁ。道具や技の使い方は3人の中でグリーンが1番上手い。

 

「……他には?」

「かえんだまとかを押し付けるのも面白い。カントーにはいないが、ほのおタイプでトリックを覚える場合、自分はやけどにならず相手だけトリックしてやけどにできる。おにびと違い確実に当てられるのがいい。あるいはわざと自らやけどになることでまひやねむりにならないようにすることもできる。フーディンならやけどしてもほぼデメリットはない。逆にやけどになればねむりごなを恐れずフシギバナとかを倒せる」

「ああっ!」

「……他には?」

「特性が“ぶきよう”だと道具の効果を一切受けない。最初に補助技を使った後こだわりスカーフなどを相手に押し付ければ意表をつくことができ、そこからバトンタッチ等につなげれば相手の対応が遅れて一気に有利になるかもしれない」

「はぁっ!? なんだそりゃ!? つか、そんなことできるポケモンいるのか?」

「知ってる範囲だとシンオウにはいたな。あと国外にもいる」

 

 ミミロップが“すりかえ”を覚えるんだよな。ここなら技の上限はない。“こうそくいどう”で先手を取れるようにしてからタイミングを見計らって相手の技を固定し、“コスモパワー”や“みがわり”を“バトンタッチ”すればいい。

 

 イッシュではココロモリが“トリック”を使えて“おいかぜ”もある。最初に“おいかぜ”で素早さを上げ、同様に“トリック”を使った直後に相手の攻撃で倒れたら理想的な展開だな。

 

「なんで他の地方のポケモンのことまで知ってるんだ?」

「あれ? そういえばシショーってたしか……」

「……他には?」

 

 レッド、さっきから合いの手ばかり入れてくるが言ったら言っただけ俺が答えると思ってないよな?

 

「今はもう思いつかないな。ねらいのまとやきょうせいギブスなど露骨にデメリットだけの道具はいくらでもあるが、トリックできなかった場合を想定すると積極的に持たせたくはない。自分が持つとメリットにできて相手にはデメリットを押し付けられるのが理想だな」

「あー、そういえばそんなことを昔ポケセンでシショーから聞いたかも」

「ブルー、よくこんなこと聞いて忘れてたな。オレならすぐに試してみたくなるぜ、こんな面白い話聞いたらよぉ」

「……馬の耳に念仏」

 

 ヤドンじゃなくてポニータなのか。レッドって意外と毒舌なところがある気がする。一言で急所を突くから怖い。

 

「ぐぅぅ……仕方ないじゃない。それより、その次の技は何? なんで急に技が出なくなったの?」

「これは“かなしばり”っていうれっきとしたポケモンの技の効果だぜ? 直前に相手が出した技を出せなくするんだよ。1つしか封じられないから使いにくそうに思えるが、使いようによっちゃけっこういけてるんだなぁ、これが。ま、オレぐらいの天才じゃねーと使いこなせねーが……」

「あ! そういえばシショーがユーレイに使わせていたわね。あれかぁ」

「……ブルー、また忘れてたのか」

「別に大した戦術でもないと思うけど」

 

 レッドと俺はつい思ったままを口に出してしまった。

 

「……」

「……」

 

 グリーンとブルーが意気消沈。

 

「ブルーはもう少しお勉強した方がいいな」

「は……反省してます。でも、その次にソーちゃんでナッシーをキャッチしたところは上手かったでしょ?」

「たしかにあれは俺から見ても惚れ惚れする手際だった」

「あれはいったいなんていうポケモンなんだ? オレは見たことなかったんだが」

「……おれもない」

「無理もないな。使われること自体ほとんどないだろうし、まともな育て方しているやつに至ってはブルーぐらいのはずだ。全国的に見てもな」

「ブルーってけっこう育成も上手いんだな。意外だぜ」

 

 グリーンの感心した声に気を良くしてブルーは自慢げな表情に変わった。

 

「まーねー。ソーちゃんはね、攻撃技を覚えなくてカウンターとか攻撃を跳ね返す技で相手を倒すポケモンなの。そのために技を固定するアンコールとかも覚えるのよ。特性のかげふみで交換できなくするから決まれば確実に相手を倒せるわ」

「おいおいっ! 今サラッと言ったが交換できないってマジか!? やべーだろ! だいたい知らないとわかんねーし!」

 

 やけに驚いているがさっきの検討でソーナンスが出た時は話を理解してなかったのか?

 

「耐久力もありそうだし厄介だな。鉢合わせた時点で逃れる術ナシか」

「それが案外そうでもない。攻撃技がないからちょうはつで何もできなくなるし、攻撃しなければ反射もできないから絶対にダメージを受けない」

「あーっ!! 勝手に弱点バラさないでよ! 次も同じ手で罠に嵌めようと思ってたのに!」

 

 さすがにこの発言には耳を疑った。あのさぁ……。

 

「お前、ついさっき俺に対して自分が言ったこと忘れたのか?」

「そうだぜブルー。そもそも今は検討する時間なんだから弱点も考える必要があるだろ」

「あんたは都合いいからって便乗すんな!」

「それはいいが、まだ疑問がある。なんでブルーはすぐにカウンターを使わなかった?」

 

 言いたいことはわかるがそこは“ミラーコート”ね。物理技とかの認識がないと大変だな。むしろカウンターとミラーコートを使えば簡単に物理と特殊の分別ができるのか。研究が進んで学術的に定義をはっきりさせるようになればその定義に使われそうだな。『物理技:カウンターが適用される技の総称』みたいな感じになるのだろうか。

 

「あ、リーフストームはカウンターじゃなくてミラーコートじゃないと反射できないわよ」

「お前、使い分けとかしてるのか。使い分けがあることも驚きだが」

「当然でしょ。で、わたしがそのミラーコートを使わなかった理由だけど、それは簡単。せっかく自分から能力を下げてくれているのだから、倒さずに生かしておいてりゅうまいを積む時間を稼ぐ方がわたしにとってプラスでしょ? ナッシー1体倒すことよりリューちゃんの能力を上げて一気に全員倒す方がいいもの」

 

 “アンコール”まで使いこなせるのは現時点では間違いなくブルーだけだろう。起点にできたらとことん付け込んでいじめ倒すのはトレーナーなら当然のことだ。

 

「生かさず殺さずか……」

「こりゃ完全に悪の手口だな。たしかに言われてみればそうかもしれねーが、そんな考え方することがもう悪の組織の一員だよな。普通は目の前の敵を早く倒すことしか考えられないぜ? とんでもないワルの発想だな」

「えーーっっ!? 違う違うっ! わたしまでシショーと一緒にしないでよ!」

「……」

 

 必死に首振ってそんなにイヤなのかよ。俺が悪の組織なのは大前提なんだな。これに関しては相手のミスや隙は見逃さないというだけのこと。むろん悪の手口とかは全く関係ない。言ったら余計何か言い返されそうだから黙っているが。

 

「こん時のりゅうまいしてるお前の顔、バトル中は気づかなかったが活き活きとしてるよな。これは完全にレインと同じだな」

「……すでに染まっている」

「冗談よね!?」

 

 もう俺にもどこまで冗談なのかわからない。

 




この前実際にミミロップにとつげきチョッキを渡されてびっくりしました
“すりかえ”自体が補助技やないかいっ!
一見矛盾しているので驚きますよ
ゴツメカバで受けに行って見事に嵌りました

ちなみにヤドンは“ドわすれ”を覚えます


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17.次の舞台へ

感想戦その3


「あとはレッド戦だな。最初に結論を言えばレッド戦はブルーの時よりかなり楽だった。アカサビの6タテもブルーの時よりさらに意識して最初から狙っていた。実戦ではあっさりその通りになったし」

「レッド相手にそれ本気で言ってるのか?!」

「そりゃそうよ。あんたら見ていてわかったけど、変化技への警戒心が薄過ぎるわ。簡単に“りゅうのまい”とか“つるぎのまい”みたいな強力な積み技を使えて、それで能力上げて全抜き出来るもの。あんたらがあっさり負けたのはそれが原因よ」

「そういうことだな。お前らポケモンバトルはいかに強力なポケモンを並べて強力な技を使うかだけ考えているだろ。そうではなくていかに相手の隙を作り、そしてそれを咎められるかが大事なんだよ。そういう意味ではお前らは隙だらけ。ブルーは散々負けて少しはわかってきているが、お前らはまだ脇が甘い」

 

 どう考えても能力を上げて倒していく方が効率はいいわけだしな。積んで即引くことになると悲惨だから何も考えなくていいわけではないが。

 

「そうはいうが、おれはそんな隙なんか見せた覚えはない」

 

 弱点というのはプレイングよりも、むしろ手持ちの編成にあることが多い。こういう見せ合いのない世界じゃ仕方ないが、万遍なくカバーできる組み合わせを追及しないとな。逆に言えば相手が何をしてくるかわからないのだから強力な展開を押し付けるような構築が1番このリーグでは効果的なのかもしれない。

 

「別に大きな隙はいらない。俺はワンターンあれば十分だったから。最初のポケモンの見せ合いでもう8割方勝ちを確信していた。“ステルスロック”は簡単に使えたし、アカサビも“つるぎのまい”を使えた。お前はその時点でほぼ負けていた。戦略的に」

 

 ハッサムに簡単に手持ち全員が縛られていること自体がそもそもおかしい。普通はそんなことはまずない。“ステルスロック”を知らなかったとはいえ止められるのがリザードンだけではな。いつもはカビゴンやラプラスがストッパーだったのだろう。

 

「じゃあどうすれば良かったんだ」

「さぁなぁ。エアームドとかが手持ちにいればなんとか。いなければ無理だな。要するに試合をする前からお前は負けていた。俺は綿密に準備して挑んでいた。エーフィが最初に出てこなくても1体ひんし間際に追い込んでやればそいつを倒して1ターン必ずできるから」

「つまりハッサムへの対抗手段がないから負けたということか。だがこうなると最初からわかっていないとどうしようもない」

「だが次は知っている。大事なのは次だ。今回の負けは、いわば授業料。ちょっと高かったかもしれないが、今後のことを思えば安かったと思えるだろうさ」

 

 一度負けないと学べないこともある。学んだことを次にどう活かすか。その先にこそ本当の勝負はある。

 

「シショーって悪徳よね」

「やっぱり悪の組織の……」

「ブルー、グリーン、いい加減被せ過ぎだからそれ以上はやめろ」

「じゃあ、ついでにあの奇妙な岩のことも教えてくれ。これがなければ本来リザードンでハッサムを倒せていたはずだ。……授業料は払っただろ?」

「1回の授業料でここまでサービスさせるのか? どっちが悪徳なのやら。まぁ知っている奴は知っているだろうし調べればわかるだろうから教えてやってもいい。タケシとかなら良く知っているのかなぁ。あれはステルスロックといういわタイプの技。特殊な技で、交代する度に永続的に相手に少しダメージを与える。フィールドにずっと残る技だ。お前らでも知ってそうな技だと“まきびし”とかに近い。ただ、ダメージは相性に依存して、いわタイプが弱点なら多く、抵抗があれば少なくなる。“まきびし”との大きな違いとしていわタイプが基準だから無効タイプは存在しない点が挙げられる。だから何かとそっちより便利。ちなみに当然リザードンは岩弱点で大ダメージだ。あれで体力の半分ぐらいもっていったな」

「な、そんなにかよ!」

「強過ぎないか?」

 

 それは同感だ。実際フルバトルなら“ステルスロック”はほぼ必須。使わないのは敗退行為といってもいいし、岩4倍弱点持ちは“ステルスロック”の存在、それだけで弱い。

 

 とはいえ、仕掛ける側も簡単にこの技を使えるかというとそういうわけでもない。そもそも使えるポケモンが限られる上、戦略的にも読まれやすいことこの上ない。いちいちそんなことまであえて言わないが。

 

「相性普通なら“ステルスロック”はほとんどダメージがないから。その代わり交代の度に毎回だから2回交代すればリザードンなら攻撃されてなくても倒れるか、その寸前に追い込まれるな。交代が多くなる展開では有効になる技だ」

「でもあの試合だと交代は少なかったし、ほとんど1回ずつしか出てないじゃねぇか。まさかリザードン対策だったのか?」

「そういうこと。怖いのはリザードンだけだからそいつを早めに倒しておきたかった。そのためにリザードンをなんとかハッサムの先制技で倒せる圏内に減らしたかった。そうすればほのおタイプはいなくなり、ハッサムは止められない。俺は“ステルスロック”とアカサビの“でんこうせっか”1回でちょうどリザードンを倒せることが分かっていた。だからリザードンをハッサムで誘い出してそのタイミングで確実に倒し、あわよくばそのまま全抜きに入りたいと思っていた。このステルスロック戦法は切り札。ブルーにも見せていなかったが、お前にはこうでもしないと驚いた顔を引き出せないと思ってな。ブルーには戦術で、レッドには戦略で、それぞれ勝っていたから俺は勝てた」

「じゃあアカサビさんでリザードンを倒すのは始まる前から狙ってたんだ」

「だいたいは理解した。どうせなら対策方法も教えてもらいたいんだが」

「あ、わたしも聞いておきたい! こんなのいきなりされたら困るし」

「3対1だぜ?」

 

 あんまりしゃべる気はなかったんだけど言わないと収まりそうもないな。ウソでごまかしが効く連中でもないし。どうしたものか。

 

「なんでもかんでも聞いてばかりじゃ新しい戦法に出くわす度に翻弄されるぞ? せっかくだし今3人で考えればいい」

「そうはいっても取っ掛かりがないと何も始まらない」

「たしかに。何かヒントちょーだい! お助けシショーみたいに」

 

 お助けシショーって何? ブルーのセレクト画面にはそんな項目が備わってんの? ニュー機能?

 

「……少しだけな。まずステルスロックはいわタイプの補助技で、覚えるポケモンはいわタイプやじめんタイプが多い。プテラとかダグトリオなどだ。そして当然だが交換が多くなるほど、つまり試合が長くなる程有効になる」

 

 しばらく3人で悩んでいたが、映像を見返していたグリーンが突然顔を上げて叫んだ。

 

「……わかったぜ! つまりその技は最初に使うことが多いんだな! あんたこの映像ではあらかじめ示し合わせたかのような指示だし、始まる前から1番最初に使うつもりだったんだろ!」

「その上ステルスロックを覚えるのはあんたならプテラだけ。つまり最初にプテラを出して初っ端にそれを使う可能性が高いわけか」

「あとはそれを見越してこっちはみずタイプとかちょうはつ持ちとかを最初に出せばいいのね。簡単じゃない!」

 

 息ぴったりの連携だな。3人寄ればって言うけどこいつらにはまさにぴったりだ。もし俺と持っている知識に差がなければどうなるんだろうか。サーチやアナライズがあるとはいえそれでも危ういかもしれない。

 

「そういうことだな。お前ら情報やるとすぐに対策考えるな。怖い怖い……」

「……で、実際にはあんたはサンダースを出して返り討ちにするつもりなんだろ」

「なるほど、裏をかいてみずタイプを返り討ちか」

「うわ、ホントにやりそう。あっさり教えたのも最初からそれ狙いの可能性が高いわね。しかも最初はボルトチェンジで逃げてその後安全なところでプテラを出すのよ」

「……」

 

 さすがにここまで自分の考えを先取りされると笑えない。実はちょっと狙っていた。

 

「図星って顔だな。怖い怖いってよぉ、怖いのはあんたの方じゃねーかよ。ホント、油断ならねーな」

「油断も隙もない」

「ラーちゃんやみゅーちゃんが聞いてたら人間不信になるわね」

 

 みゅーがけづくろい後で休んでいて良かった。いたら本当に面倒なことになっていたな。

 

 “ステルスロック”を最初に使うかどうかは完全に読み合いになる。あんまり安直な行動に出ると自分の首を絞めて自滅しかねない。次は読みのレベルを上げておいた方が良さそうだ。

 

 これでもう基本的な考えはだいたい全部把握しただろう。もうこの3人には簡単には勝てない。もっとも、「定石を 覚えて二目 弱くなり」って言葉も世の中にはあるけど。

 

「次は簡単に思い通りにはさせない。必ず勝つ」

「ねぇ、シショーってどうやって短い時間でここまで考えているの? いつもポケモンの調子とかもよく見ているし、考える時間がほとんどないリーグ戦でそこまでできる余裕があるとは思えないわ」

「それは簡単。毎回一から戦術を組み立てるわけじゃないからだ。ある程度定石といっていい考え方があって、それを元にしているから考えることはそんなにない。ポケモンの体力とかはパッと見るだけですぐわかるから手間は取らないし」

 

 あえてさらに加えれば慣れもある。時間無制限に慣れていれば当然しっかり考えるクセがつくからこうはいかない。だが、俺は路地裏にぶっ倒れていた頃からルール無用の実戦が多く、時間に区切りなどがあるジム戦より先にそっちに慣れていた。だから反射的に技選択をするのが染みついていた。

 

「じゃあ何に時間をとられるんだ?」

「最も時間を割くのは相手の考えや心理をそれまでの行動やクセなどから予測することかな。お前らは最善を尽くすことに夢中なんだろうが、それだけじゃ対人戦では勝てない。もちろん簡単に人の考えなんてわからないし、力押しで勝てるならそれにこしたことはないけど、今の俺にはそこまで圧倒的な力はないからやむなしだな」

 

 相手が慎重なタイプか、思い切りのいい奴なのか。運任せなのか堅実なのか。そして相手の力量の見極めも重要。結局読みって二者択一だから絶対はない。あるとすれば勝つ可能性を引き上げる何かだが、簡単には見つけられない。読みに明らかな不正解はあるが絶対の正解は存在しえない。

 

「はぇー。そんなもんなんだ。ありがとシショー、参考になったわ。いや、なり過ぎたぐらい。徹底的に研究して倒し方を編み出してやるから楽しみにしていてね」

「……」

 

 レッドの無言も何を考えているのかわからなくて名状しがたい不気味さがあるが、ブルーのこの性格も大概だな。むしろはっきりしていて逆に清々しいか。

 

「人の話聞くだけ聞いて大した言い草だな」

「この師匠にしてこの弟子ありってところだな。ま、参考になったのは確かだぜ。直接レインとは対決していないオレにとってもな。マスターの連中もオレ達にとっちゃ敵じゃねぇ。オレとしてはお前らだけを見据えさせてもらうぜ。今回は負けてばっかだったから特にな」

「そういうことだな。おれも次はレインに勝つ」

 

 そこは普通に四天王さんとかマークしとけよ。えらく警戒されているな。おそらくそれが正解なんだろうけど。

 

 リーグではマスターのことまではあまり意識していなかった。その場でベストを尽くして遊びなしだったから一方的に勝ち過ぎたかな。

 

「別に気合入れてくるのは大いにけっこうだが、足元すくわれて初戦敗退とかしたらカッコ悪いぞ。俺と当たるまでに油断するなよ。特にグリーン?」

「しねーよっ! つかなんでオレだけなんだよ!」

「ブルーがいっつも言ってたぞ。グリーンは大事なところでいっつも油断するってな。実際そうなんだろ?」

「ブルー、てめっ! 好き勝手なこと言ってんじゃねーよ!!」

「あはは、ごめんちゃい! でも本当のことを言っただけでしょ?」

「おまっ、そこになおれ!」

 

 通路側に座っていたブルーとグリーンはとうとう立ち上がって言い合いを始めた。放っておくとここでポケモンバトルを始めそうな勢いだな。ブルーも吹っ掛けられると売り言葉に買い言葉な強気な性格だから収拾がつかない。

 

「また始まったか。飽きないなぁ、お前ら」

「……昔からだ」

 

 ◆

 

 反省会は終了。これから俺達はそれぞれマスターズリーグに向けて動き始めることになる。当然様々な選択肢があるが、自分自身はもう何をするかは決めてある。

 

 今後の行動、グリーンはやり残したことを片付けるためにナナシマに行き、ポケモンをゲットしたり育てたりするらしい。目を付けているポケモンや育成中のポケモンがいるらしい。ある程度次のトーナメントまで時間が空いているのでレベル上げをする時間はいくらでもある。

 

 ナナシマはカントーの外なのでジョウトとかのポケモンもいたりする。メンバーや戦術がガラッと変わる可能性もあるな。

 

 自分の予定を話し終えたグリーンが俺達にも何をするか聞いてきた。

 

「オレはそんな感じだ。お前らはどうする?」

「わたしはシショーと一緒にいるわ。その方が勉強になりそうだし」

 

 ブルーがこっちを見てそう答えたので次は俺が答えた。

 

「俺はリーグに残る。マスターの連中の顔を拝んでおきたいからな」

「まぁそれが1番普通だな。レインだとなんか無難な選択は意外だが。レッド、お前はどうすんだ? なんならオレと一緒にナナシマに来るか?」

「……おれは行きたいところがある」

 

 レッドのやつおかしなことを言うなぁ。セキエイ近辺やナナシマ以外だとあんまり経験値を稼げる場所はない。野生のポケモンはもちろん、全国の猛者もセキエイに集まるからここ以上のトレーナーはカントーにはいなくなるはずだ。それとも自分のポケモン同士で戦わせたりするのか、はたまた新しくポケモンを育てる気なのか、あるいは……。

 

「なんだよ、つれねぇなー。そんじゃ、オレ達はバラバラか。レイン大好きっ子を除いてな」

「グリーン! あんたふざけてるとまたあれやるわよ!」

「ちょ、小粋な冗談じゃねえか! ともかく、オレ達は次に会うときはリングの上ってことだ。この中の誰が優勝しても恨みっこなしだ。全員悔いのないように、マスターでも暴れてやろうぜ!」

「おーっ!!」

「おぉ」

「……」

「ノリわりぃーなぁー。ブルーは子供だからおいとくとして、せっかくオレがまとめてやったのに少しは合わせろよ。お前ららしいけどな。じゃ、オレは少しの時間もムダにできねぇし、さっさとナナシマにいくぜ。バイビー」

 

 まずグリーンがいなくなり、次にレッドも無言で出ていって俺とブルーだけが残った。当然支払いは全て本当に俺になった。

 

「あいつら……勝手に先々いきやがって」

「置いていかれたわたしの気持ちもわかるでしょ?」

「今回に限ればブルーもあいつらとグルになった側だろ。とにかく、俺らも遅れをとれない。さっさと次に進もう」

 

 とうとう次の舞台はカントーの頂点が集まるマスターズリーグ。俺の旅もいよいよ最終章ってわけか。

 

 寄り道もあったが、とにかく頂点だけを一心に目指して進み続け、とうとうここまで来た。当然勝つ。勝って自分に形あるものを残すんだ。ここまでしてきたことを無にはしない。

 




無にはしたくないですね(意味深)

次回はいつになるか本当にわかりません

今までは下書きがあって基本それをベースにしていたのでやたらペースが速かったですが本質的にはあんまり筆の進みは速くないです(予防線)

ただし最低でも完結はします
下手でも何でもいいからとにかく最後までは走り切りたい
細かいことは後からでも直せますからね(開き直り)

気長に待ってもらえると嬉しいです


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8章まとめ

1.ブルーvsカツラ

懐かしのグレン島に戻ったレイン達はジム戦に挑んだ。

ジャンケンの末先に挑んだブルーは灼熱のフィールドに苦戦する。

ブルーは激しい天候の奪い合いを繰り広げ、ギリギリの勝利を収めた。

 

2.レインvsカツラ

レインは危なげなくカツラに勝利するが、戦闘不能になったみゅーはショックを受け、ボックス送りを危惧して泣いてしまう。

レインはみゅーを安心させ、ずっと一緒にいることを約束する。

みゅーを温泉へ誘うレインだが、約束を盾にされ一緒に入ることになってしまうのだった。

 

3.温泉

みゅーと一緒に入ったレインはその無知っぷりに振り回され天国と地獄を一度に味わった。

楽しい思い出を作り、みゅーにとっては最高の気分転換になった。

 

4.ブルーの実家

久々にカントー本土に上陸しマサラへついたレイン達はブルーの実家へ向かった。

レインは既に事情を知るブルーのお母さんに歓迎され、旅の話に花を咲かせた。

ブルーはシショー頼みの自堕落な状態を叱られるが、レインの取り成しで難を逃れ、レインとブルーはオーキド研究所へ向かうのだった。

 

5.オーキド研究所

研究所で博士と進化について語り合ったレインは再びブルーの家へ戻った。

ブルーはお母さんに背中を押され、レインへ自分の本当の想いを伝える。

しかしレインはそれを知ってか知らずか気づくそぶりもなく、ブルーの想いは空回りする。

レインの憂いに満ちた表情を見たブルーはその奥に隠れた気持ちを理解し始める。

眠りにつくブルーはせめて今だけでもと届かぬ想いを両手に込めるのだった。

 

6.トキワジム

マサラを発ちトキワへ向かうレイン達は道中マルチバトルを挑まれる。

ブルーは慣れない対戦形式に戸惑うがレインの助けもあり勝利を収める。

そのままトキワジムへ向かうレイン達だが、ジムリーダーサカキ不在により不戦勝となる。

モヤモヤするブルーとは対照的にロケット団解散を悟ったレインはひと安心するのだった。

 

7.ポケモンリーグへの調整期間

トキワのポケセンでリーグの参加登録を済ませその説明を受けるレイン達。

レインはリーグについて初めて知る内容に驚きの連続だった。

その後みゅーに言われるがまま北へ進みながらトレーニングを重ねるレインとブルー。

辿り着いたニビでロケット団の残党を始末し、いよいよ本戦の時が近づくのだった。

 

8.ポケモンリーグ開幕

ポケモンリーグについて理解を深めたレインはそれに向け特訓を始める。

ブルーもレッド達と特訓を重ね、満を持して本戦を迎えた。

ブルーは初戦、不安定な立ち上がりで劣勢になるも、緊張がほぐれると尻上がりに調子を戻し、貫禄の強さできっちりと緒戦を勝ち抜いた。

しかしブルーはレインとの距離感の変化に不安を感じるのだった。

 

9.レイン1回戦

1回戦、レインはいきなり遅刻して観戦するブルー達をハラハラさせるがギリギリ不戦敗を免れる。

バトルが始まるとバタバタした試合前とは打って変わり見事なへんしん戦術で華麗な勝利を決める。

レインは相手との力の差を見せつける前代未聞の戦い方で観衆の心を掴んでしまうのだった。

 

10.イナズマ活躍

トーナメントを順調に勝ち進んでいくブルーとレイン。

メタモンで連勝を続けるレインだが、マサキとの約束を果たすためイナズマに勝負を託す。

イナズマはレインやリングの外で待つみゅーの信頼に圧倒的な勝利で応えた。

レインはみゅーに芽生え始めた仲間との信頼関係に嬉しくなるのだった。

 

11.準決 ブルーvsレイン(前半)

弟子としてこれまでレインに憧れ追い続けるだけだったブルーは初めて同じ舞台に立って勝負を挑む。

レインの抜かりない戦術を前に後手を取り続けブルーにとって苦しい展開が続いていた。

ユーレイの催眠攻勢の毒牙にかかりブルーは窮地を迎えるのだった。

 

12.準決 ブルーvsレイン(後半)

一時はユーレイを倒し盛り返すブルーだが、最後は力及ばずレインに敗れてしまう。

決定的な力の差を痛感し茫然とするが、ブルーはマスターでのリベンジを心に誓い前を向いて進み始める。

一方レッドとグリーンは死闘の末レッドが勝ち上がったのだった。

 

13.3決 ブルーvsグリーン

3位決定戦、ブルーは過去に因縁のあるグリーンと対戦することとなる。

レインとの勝負でトレーナーとして成長したブルーは、巧みに有利な状況に持ち込むことでグリーンに勝利しポケモンリーグ3位に輝いた。

 

14.決勝 レッドvsレイン

長い戦いを勝ち抜きとうとう決勝の舞台に立ったレッドとレイン。

真っ向からぶつかった両者は意外にも一方的な展開となる。

麻痺によるあがきで驚異的な粘りを見せるレッドだが、悪運尽き敗北を喫する。

レインはアカサビを抱きしめ大いに喜ぶのだった。

 

15.感想戦その1

ポケモンリーグを優勝という最高の結果で終えたレイン。

その後ブルーに祝勝会という名目で感想戦に付き合わせられ、これまでの戦いを振り返ることとなる。

まずはブルーとレインのバトルを振り返り、マサラ3人組はレインの考えをじっくりと理解するのだった。

 

16.感想戦その2

検討を続けブルーとグリーンの試合について話し合う4人。

じっくり検討し未知の戦術について各々が理解を深めていくのだった。

 

17.感想戦その3

最後の決勝戦の検討を終え、感想戦は幕を閉じる。

すぐさまマスターズリーグへ向けて4人はそれぞれ自分の道を歩み出した。

グリーンレッドと別れ、レインとブルーは経験値を稼ぐためセキエイ高原へ向かうのだった。

 

 

 

 

<レッド>

エーフィ  52

リザードン 58

ラプラス  53

エビワラー 50

ピカチュウ 60

カビゴン  52

 

<レイン>

プテラ   51

ハッサム  48

サンダース 52

ゲンガー  48

ウインディ 50

ミュウ   52

 

<ブルー>

レアコイル 47

フシギバナ 52

ハクリュー 47

ソーナンス 44

ラプラス  53

ピジョット 52

 




9章はオマケなのでまとめはなしにします


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みゅーのきもち編
1.夢幻の誘い


息抜き編です
場面が飛んでいたり書き方が変わったりしています
この章は全部三人称です
要するに今までと毛色が違うので注意

内容も重たい展開の上恋愛要素しかないです
つまり“ヤ”から始まるあれですね
耐性がない場合は読まない方がいいでしょうね
一応この章だけ読まなくても差し障りはないです

わかりやすく言い直すとギアナ編よりも重症だから注意してね



 気持ちのいい朝にはついついうたた寝をしてしまう。疲れてウトウトしていると、知らないうちにイタズラされて……。

 

 

 幻のポケモン、ミュウ。愛称はみゅーちゃん。エスパータイプのイタズラっ子。トレーナーのレインが大好きで、ずっと一緒に旅をしている。遊んであげたりけづくろいしてあげると目を輝かせて喜ぶ。レインが好き過ぎて寝ている間にこっそりイタズラすることもある。

 

 みゅーはエスパーだから何でもできる。心が読めたり、予知ができたり、へんしんして人間になったり……とにかく何でもできる。エスパーにできないことはない。想像できれば、願う気持ちがあれば、思うことでそれが現実になる。エスパーとは思いの力。だから不可能はない。

 

 でも、みゅーにも調子の悪い日もある。たまにはそれがずっと続くこともある。

 

 何でもできるけど、みゅーのこころはとっても繊細。ちょっとしたきっかけで脆く崩れてしまう。それは大きく運命を変えてしまう可能性を秘めている。

 

 ――おもしろいユメ、みぃつけた――

 

 これはみゅーとレインに起きた夢のようなもしものお話。

 

 ――落ちて……深い眠りへ――

 

 ◆

 

 ある時には落石に押しつぶされ……

 

「みゅぶっ!」

 

 またある時は泡に囚われ……

 

「ぶくぶく」

 

 時には火炎にも飲まれ……

 

「アツツ」

 

 またまたある時にはグルグルになる。

 

「みゅ~~?」

 

 フラフラと歩いた先にはお皿が山積みの食器棚。

 

 ガラガラガッシャン!!

 

「みゅぅぅーー!!??」

 

 こっくりこっくり……ウトウトとうたた寝していたレイン。耳をつんざく悲鳴とお皿の壊れる音で意識を覚醒させた。

 

「みゅーの声?」

 

 慌てて駆けつけるとみゅーが割れた食器と一緒に転がっていた。みゅーは完全に混乱状態で目を回している。ここはどこでこれはどういう状況なのか。

 

「あぁ、そうだ……」

 

 レインはゆっくりと自分のことを思い出した。

 

 地下の洞窟のようなこの場所はシンオウの秘密基地。長い旅を経てレインはシンオウに辿り着き、みゅーと一緒に2人旅をしていた。

 

 みゅーはいつも1人で勝手にドンチャン騒ぎ……この程度はいつものこと。おそらくみゅーがまた勝手に罠に触ってイタズラしたのだろう。

 

 人が気持ち良くうたた寝している時にイタズラなんて、ホントに困った奴だ。レインはそう思って慣れた手つきで後始末を始めた。

 

 まずはみゅーの救出。このままだと周りにお皿の破片が散らばっていて危ない。見たところケガはないようだ。レインはみゅーをこのままボールに戻しておくことにした。

 

「みゅー、戻っておとなしくしてて」

 

 カチッ!

 カタカタ……

 

 混乱は解けたのだろう。みゅーは外に出たいのかボールを揺らすが、今出てこられてもジャマになる。そのままボールごと出られないように小さなポシェットにしまった。ベルトに引っ掛けず物の中に入れると簡単には出てこれない。

 

 今、レインは初めての地下探検で模様替えの真っ最中。朝早くから1人で作業をしていたが、みゅーが起きてからは何度もじゃれついてきて思うようには進まない。

 

 ふとした時に一息ついてウトウトまどろむと、寝ている間に勝手に基地内を歩き回られ罠が作動し現在に至る。みゅーはイタズラするのが好きだからなんでもかんでもすぐに触ってしまう。

 

 これまでも何度もドジッ子を発動されて秘密基地をメチャクチャにされていた。少し目を離すと、すぐにみゅーはトラップを踏み抜き体を張って解除したあげく置物の類はことごとく破壊する。

 

 レインはうかつにもみゅーから目を離したことを反省するしかなかった。

 

 ようやく後始末を終える頃にはもうお昼時。何も食べさせないわけにもいかないのでみゅーもボールから出してあげた。

 

「レイン……ごめん」

「いいからさっさと食べて」

「……やっぱり怒ってる?」

 

 みゅーがこんなにドジなのは今に始まったことではない。昔は違ったが、最近は何をやらせてもヘマばかり。それなのに特にここ数日は妙になんでも自分でやろうとして、余計にやる気が空回りしている。

 

 レインが休んでいていいと言ったのも一度や二度ではないが、聞く耳を持たず勝手に動き回る。そして一度落ち着いたと思って油断したら今度は罠を片っ端から触って解除してしまう。なまじ悪気は全くないことがわかっているだけにレインも強く言えずにいた。

 

 そういうわけでレインとしてはもうこんなことは慣れたものだし、手がかかるのは仲間にした時からわかっていたのでいまさら怒るようなことではない。

 

「別に怒ってない」

「レイン……みゅぅぅ……」

「みゅー? どうした?」

 

 みゅーはいきなり泣き出してしまった。本心からの言葉だから怒っていないことは伝わったはずなのにだ。レインが目を合わせようとしてもみゅーは下を向いてレインを見ようとしない。

 

「レイン、ものすごく冷たくなった。昔はいっつもみゅーに優しかった。いっぱい頭撫でたり抱っこしたりしてくれた。でも最近は全然構ってくれない。そっけなくて、みゅーのことはもうどうでもいいみたい」

「いきなりそんな話してホントにどうした?」

「だって、この頃かわいいポケモンいっぱい増えて、みゅーよりその子達とばかり遊んでる。もうみゅーはレインの1番じゃないんでしょ? だからもうすぐレインは……こんなはずじゃなかったの。レインは約束したのに忘れてる。忘れちゃダメなのにっ」

「約束って何のことさ。それだけじゃわかるわけ……」

「やっぱりそうなんだ。もうみゅーのこと……。みゅぐっ。ぐひゅっ!」

「あっ、待って!……あっ!! そっちは本当にマズイからっ!!」

 

 大粒の涙を浮かべて勢いよくみゅーは外に飛び出した。だが外には防犯も兼ねてすでに張り直し終えた罠がズラリと並んでいる。みゅーはそれに吸い寄せられるかのように見事に踏み抜いた。

 

「アツッ! チメタッ! うみゅぅ、目が回る……あっ、地面が勝手にうごい……ぐへっ!」

 

 慌ててみゅーを止めに行ったが時すでに遅し。レインが見たのはみゅーが無惨に散る様子。炎に焼かれ、水に沈んで宙を舞い、グルグル回って岩の下敷き。ニョロトノの潰れるような音と共に気絶していた。気絶して罠は止まってしまったようだ。これを見てレインが考えたことは1つ。

 

「今度は気絶できないようにして嫌がらせ重視にしようかな」

 

 実験はやっぱり大切なのだった。

 

 ◆

 

 ベッドに運んだみゅーが目を覚ましたのは30分程してからだった。今し方我が身に降り注いだ災難を思い出し、みゅーはガタガタと体を震わせていた。

 

(いきなり罠、避けても罠、逃げても罠、安心したらまた罠、どこにいっても罠、全部周りは罠・罠・罠……レイン怖いぃぃ。こんな獲物をいたぶるような何重にも張り巡らせた罠、みゅーの逃げる心理を全部見抜いてる。最近レインは何考えてるかわからないの。怒らせたらやっぱり怖い……)

 

 みゅーはしっかりトラウマを刻まれていた。しかもさっきの罠解除は間違いなく失敗に分類される行為。レインに会ったら何をされるかわからない。恐怖ゆえに反射的にレインを探して周りをキョロキョロ見渡すと、すぐそばで椅子に腰かけるレインを見つけた。

 

「っゅ!」

 

 ドキッとして声が出そうになるがレインは目を閉じており、どうやら眠っているようだ。それを見てホッと胸をなでおろし、念のため恐る恐る声をかけた。

 

「みゅぅ……レイン、寝てるの?」

「起きてるよ」

「みゅっ!?」

 

 片目だけ開けてレインが答えると、驚きのあまり今度こそ声を上げてしまった。みゅーはすぐさま自分にかけられていた毛布の中に潜り頭を抱えて隠れた。

 

「人の顔見てその反応はヒドくない?」

「レイン……もう岩とか落とさない?」

 

 毛布の中からくぐもった声が聞こえる。レインは呆れながら答えた。

 

「あれはお前が勝手に罠の中に突っ込むからだろ。俺の意志じゃない。そもそも昔なら危険を察知して全部避けられたはずだよな? 好奇心で色々触っても危険予知ができたから失敗だけはしなかったのに……なんか最近ドジだけど調子悪いの? あの頃はトラップとか攻撃とか全部見切っていて頼りになったのになぁ」

「レイン……やっぱりみゅーのこと足手まといだと思ってるのね」

 

 ひょっこり毛布から顔を半分だけ出しながらみゅーは言った。

 

「あっ、ごめん。そんなつもりではなかったんだけど……」

「いいの。みゅーだってわかってるの。だんだんみゅーはおかしくなってるってわかってる。みゅーだって以前みたいに頼られたくて頑張ってたの。でも上手くいかない。前はこんなに思う通りにいかないこと絶対なかったのに……」

「……」

 

 みゅーも苦しんでいる。こういう時に最も辛くもどかしいのは本人なのだ。レインにはそれがはっきりわかり言葉が詰まってしまった。

 

「ねぇ、みゅーはジャマ?」

「ジャマって……いきなりどうしたの?」

「お願い、本当のことを言って。レインにとってみゅーはジャマなの? いな……」

 

 “いない方がマシ?”……そこまではとても言えなかった。言えば自分で自分を否定することになる、そう思えたからだ。

 

 みゅーのらしくもない弱々しい尋ね方にレインは疑問を持った。最近のパターンではこういう時感情を爆発させて怒ったり飛び出したりしてまたドジをやらかす。そんなみゅーが今日、珍しくネガティブになって弱みを見せている。

 

「不安なの?」

「えっ」

「みゅー、何かあった?」

「みゅぅぅー……」

 

 レインはみゅーが本気で何か悩んでいるのは察せられた。直接聞いてもみゅーは黙ったまま。口にも出せないようだ。レインは自分で答えを考えた。今までのみゅーの行動、その全てがこれに繋がっている気がした。

 

 みゅーは無性に役に立ちたがっている。最近は無理にでも何でも手伝おうとするし、レインに必要以上に絡む。これは間違いないと思えた。今日は2回も大失敗してさすがに落ち込んで自信をなくしたのかもしれない。そういえば以前もこんなことがあった。仲間になってすぐの頃、まだ“へんしん”にも慣れていなかった時、バトル中無理に続投して負けたことがあった。あの時に似ている。

 

「ねぇレイン、やっぱりみゅーのことジャマなの? みゅうみゅぅー」

「あぁ、ごめん。そういやお前が聞いていたのか」

 

 考え込んでいたのでみゅーの不安を煽ったようだ。毛布に隠れていたみゅーが身を乗り出してきた。こういう場合悩むのはいい返事ではないからと考えれば不安になるのは当然だった。みゅーは伏し目がちにゆっくりと話した。

 

「レインッ。もし、もしもみゅーがジャマなら、みゅーのこと無理に連れて行かなくてもいいの。ボックス……とかに預けても構わないから。だから本当のこと教えてほしいの」

 

 これにはレインも驚いた。これまで長く旅をしてきたが、みゅーが自分からボックス送りを認めたのは初めてだ。いつもならそれを匂わせただけでもすぐに涙目になって縋り付いてきた。そうなったら安心させるまで絶対に体から離れなかった。そのみゅーが、今ボックスでもいいと言ったのだ。これは何かある、レインの直感がそう告げていた。

 

(こんな突然の心変わりには理由がある。ボックスに行きたい? 何かメリットがある? ただ俺に迷惑をかけたくないだけ? そもそもみゅーは今失敗続きで弱気になっている。弱気になれば考えることは単純、逃げ腰一辺倒。なら、これは最悪を見据えての……保険? そうか、ボックス行きは迷惑かけないための譲歩ではなく保険。今まではボックス送りが最悪だと思っていた。でも今は違う。今のみゅーにとっての最悪はそう、捨てられること。それが最悪だと思っている)

 

「レイン、なんでなんにも言わないの? なんでもいいからしゃべってよ」

「なんでかなーって考えてたんだよ。みゅーがこんなこと言うなんてらしくないから。でもわかったよ、お前の考えてること」

「えっ! べ、別にみゅーは何も……」

「要するに、愛想付かされるのが怖かったんだろ?」

「んみゅっ!?」

 

 ひょっこり出ていた首筋に手を添えながら言うとビクッと体が跳ねた。瞳孔が揺れ、脈も速い。図星だとすぐにわかった。

 

「よっぽど心配だったんだな、捨てられるんじゃないかって」

「あ……ダメ……」

「譲歩したように見せかけて、実は保険を打っていたわけだ。最悪でもボックス行きで済むように、これ以上悪くなる前にそこに逃げようって思ったんだろ?」

「そんなことは……」

 

 言葉とは裏腹に口が大きく開いて息遣いは荒く、顔色もどんどん悪くなっている。

 

「ごまかしてもわかる。みゅーの考えはオミトオシ。何年一緒にいると思ってるんだ?」

「みゅぐぅぅ、ごめんっ、なんでもするの。なんでもするから、捨てるのはやめてほしいの。見捨てないで……」

 

 しまった、とレインが思った時にはみゅーは泣いてしまっていた。余程別れが怖いのか体は震え、後悔・恐怖・絶望、様々な感情がごちゃ混ぜになり酷い精神状態になっていた。レインは思ったことをそのまま口にしただけだったが言い方が悪く、追い詰めるような形になってしまった。

 

「みゅー、聞いて」

「ひっ!」

 

 触れただけでも過剰に驚いてしまうみゅーをゆっくり抱き留め、みゅーがしゃべれないようにして顔を抱き寄せてからレインは言いたいことを全て言い切った。

 

「安心して。みゅーのこと捨てないし、この先もずっと一緒。昔の約束、ちゃんと覚えてる。ずっと大事にしてあげる。みゅーは手のかかるところも含めてかわいくて好きだから」

「うみゅっ?! 覚えてたんだ……」

 

 やっぱりか、とレインは内心安堵した。みゅーが執心した約束を考えて会った時のことを思い出した。まだこんなことを覚えているということは、みゅーにとってはよほど大切なことだったのだろう。

 

「ごめんな。こんなに思い詰めているとは思わなかった。別に怖がらせようと思ってるわけじゃないんだ。ただね、最近やっぱり変だからみゅーは何かあったんじゃないかと思ってさ。それで……良かったら1人で抱え込まないで俺にも教えてくれない?」

「レインありがとう、嬉しい。でもね……やっぱり言うのは怖いの」

 

 何か捨てられると思う程の出来事があったに違いない。昔の約束にすがらないと不安になるほどみゅーを追い詰める何かがあったんだ。レインはそう考え、安心させるためにみゅーを後押しした。

 

「大丈夫。ずっと一緒だから。俺の事信じられない?」

「……ううん、信じてる。みゅぅ、わかった。話してみるの。あのね、実はね、少し前からみゅーはイヤな夢を見るの」

「夢?」

「うん。みゅーがひとりぼっちになって、知らないところで……その……怖いことしてる夢」

「怖いこと? 怖いことってどんなこと?」

「そ、それは……聞かないで」

 

 レインは要領を得ない話に困惑するが、続きを促した。

 

「まぁいいけど、それで?」

「それで、みゅーはもうすぐひとりぼっちになる気がして、怖くて、離れたくなくて、それでレインにもっと好きになってほしくて……」

 

 重苦しい声色で絞り出すようにみゅーは胸の内を語った。みゅーが本気で夢の事を気にしているのはレインにも感じられた。みゅーにとっては重要なことなのだろう。だが、レインにとっては夢はしょせん夢でしかない。だから夢なんて意味のないものだと思って軽く答えた。

 

「そんなのただの夢、幻みたいなもんだから気にすることないよ。みゅーとはずっと一緒だし、いい子のお前が悪いことなんかするわけないだろ?」

「そうかな……」

「そうだって。心配せんでいい。そういうのは意識してそうなるそうなると思い込むから本当にそうなるんだ。気にしなければ何も起きない」

「ふーん、そうなんだ。みゅふっ、良かった。みゅーはね、しゃべっちゃったらホントになりそうな気がして怖くて言えなかったの」

「そっか。ずっと気づいてやれなくてごめんな。みゅーだって大切な仲間だから」

「みゅー、あったかい。……んみゅぅ、レインー、レインー……みゅーー!! みゅーー!!」

 

 みゅーが飛び出す前に言っていたことを思い出し、レインが抱っこしながら頭を撫でてあげるとみゅーは甲高い声を上げてよろこんだ。最近みゅーは話に出てきた夢のせいか暗い顔のことが多かった。だから笑顔を見るのはとても久しぶりに思えた。

 

 しかし、このときレインはエスパーについて何も理解できていなかった。エスパーとは思いの力。思うことで現実となる。夢とは思いの見せる幻。決して例外ではない。

 




※みゅーのきもち編が終了してからこの後書きを書き直しています

この章はあまり伝えたいことが伝わっていないように感じました
なので解釈の説明をここでしようと思ったのですが……それってものすごく野暮ですよね
小説の面白さを損なう気がしたのでやめます
そもそも最近作者が後書きでいらんことをしゃべりすぎかなと思い始めました
沈黙は金って言いますし、寡黙な人間になります……できるだけ



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2.みゅーのきもち

 久方ぶりのみゅーの笑顔を見てレインは嬉しくなり、こんな笑顔を見たのはいつ以来かなと思い返していた。

 

「なんか懐かしいなぁ。昔に戻ったみたい。前はけづくろいとかするといつもこんな風になったよね。そうだっ! 久しぶりにけづくろいしてやろうか? 今日だけ特別にさ」

「けづくろいっ!! いいの!?」

「もちろん。あっち向いて座って」

 

 最近レインはみゅーにはけづくろいを全くしなくなった。レインはみゅーが人間姿をしていて成長もしているからだと説明したが、みゅーは内心納得していなかった。オーラに乱れはなくても、どうもはぐらかされている気がしていた。

 

 実際のところこの直感は正しかった。レインはある程度オーラをコントロールする術を会得し、それを利用してみゅーをわざと避けていた。これもみゅーの不安材料の1つ。レインもみゅーが不満を持っていることを薄々感じていたので、今回に限りけづくろいをしてあげた。みゅーは爛々と目を輝かせた。

 

「の・う・りょーっく、あ・が・るーっよ、ぜ・ん・ぶーっが、あ・が・るーっよ、ギ・ガ・ドーッレ、し・な・いーっで、ラ・グ・ラーッジ、し・ん・じゃーっう」

 

 やっぱりけづくろいは楽しい。知らず知らずのうちにレインもみゅーの気持ちに引っ張られていた。レインがゴキゲンで鼻歌交じりに髪をといているとみゅーがレインに話しかけた。

 

「ねぇレイン、さっきからとっても嬉しそう。なんで?」

「ん? そう?」

「だってずっとなんか歌ってるもん」

「そうだなー、たしかに嬉しいかもなー。さっきのみゅーはかわいかったから、ちょっとラッキーって思ったし」

「ん?! んみゅみゅ!! それ……みゅーが泣いてたから? それともまさか怖がってたから?! そんなところ見てかわいいと思ってたの!?」

「あー、どっちかなー(両方かわいかったとは言えない)」

 

 みゅ~と一声うなってからじたばたして、その後もブツブツ何か言って歩き回った後バンッとテーブルに手を置いて勢いよく言った

 

「ずるい! みゅーだけ恥ずかしいところ見られてふこーへーなの! みゅーにもレインの恥ずかしいところ見せて!」

「はっ!? いきなりむちゃくちゃ過ぎない? まさか俺に泣いて見せろとでも?」

「んー……それはかわいそうだから許してあげる。みゅみゅっ! じゃあその代わりみゅーの質問に答えるの。拒否は拒否するからね」

 

 首をかしげて悩んだ後、ポンと手を叩いて嬉しそうに宣言。とんでもないわがままっぷりにレインは呆れ顔で答えた。

 

「なんだそりゃ。わがまま姫様には敵わんなぁ。まぁいい、1回だけな」

「んみゅ、十分なの。じゃ、ゴホン! ズバリ、レインの好きな女の子のタイプを教えてほしいの」

「ぶっ!? ばっかっ!! なんでそんな脈絡のないことを……チェンジ!」

「ダメ。1回いいって言った」

「くっ、謀られた」

「さっ、はやく!」

 

 早くと言われても急にこんなことを答えられるわけがない。レインは少し考えてからぽつぽつとしゃべり始めた

 

「……仕方ないなぁ。んーそうだなぁ。やっぱり女の子と言えばアウトドアで明るく元気がいいかな。それで、ちょっとドジだけど目標に向かって真っ直ぐひたむきに頑張る……そんな感じの子がいいなぁ。目標が俺と同じチャンピオンになることならなおのこと良し」

「レイン、ウソついてるの」

「ぐっ!」

 

 久方ぶりに『ウソついてるの』を言われてレインは渋い表情。みゅーのお決まりのセリフだ。

 

「わざとなの。狙ったようにブルーの特徴ばっかり。みゅーじゃなかったら騙されたかもね。だけどいくら調子が悪くってもこれだけオーラが乱れたらバレバレなの」

 

 レインは動揺し過ぎてオーラをコントロールできていなかったようだ。

 

「そんなこといってもみゅーさんよぉ、下手なこと言ったらブルーに報告する気だろ? 無理言って引っぺがしたのに他に好きな人がいるみたいに捉えられたら殺される。間違って“おしとやかで上品で生け花とくさタイプが好きなお嬢様”……けっ! とかがいいって答えたら一体どうなるか」

 

 ブルーはくっついてくるのを無理やり引き離して今がある。みゅーなら一瞬で連絡をとれそうなだけにレインも下手なこと言えない。

 

「みゅ。とりあえずそういうのがキライなのはわかったの。でもね、みゅーはブルーに告げ口とかしないから。むしろそんな邪推するなんてレインの神経を疑うの」

 

 これにはレイン、何も言えない。結局レインの性格の悪さが露呈しただけだった。

 

「わかったよ。降参降参。でも急にそんなこと聞かれてもなんて答えるべきかわからないし」

「今は関係ないこと考えないでとにかく本心で言って。別に本当は恥ずかしい思いをさせたいわけじゃないし」

「え、話が違わない? じゃあなんでなんだ?」

「みゅーのこと大事にするって言ったけど、でもやっぱり心配だし、もっとみゅーのこと見てほしいし、どんな子がいいか聞けば少しは……ゴニョゴニョ」

「え……マジ?」

 

 悪意100%だと思っていた質問は好意100%でレインは面食らってしまった。

 

「んー、いいから早く答えて!」

 

 この気持ちには真摯に答えてあげよう。そう思うだけで自然とレインはスラスラ答えられた。

 

「俺はさ、別に傾国美人とか、才色兼備とか、そういうのがいいとは思ってないんだ。むしろちょっと抜けてたり、世話が焼けるぐらいの方がかわいくて好き。今まで旅した経験から言うと、クールで美人って感じよりも、親しみやすくてかわいい女の子の方が肩肘張らないし楽しいと思うんだよな。昔は真逆だったし、他人の面倒見るなんてまっぴら御免って感じだったけど、誰かさん達のせいですっかり変わってしまった」

「ドジだったら嫌われそうなのに……ヘンなの」

「たしかにヘンかもな。でもそれが嘘偽りのない本心だから。やっぱりさ、俺はみゅーみたいな子が1番好きなんだよ。油断してると本気で惚れちゃいそう」

「ふみゅっ!!?」

「もちろん、お前が人間だったら……の話だけど。みゅーのそういう反応するところもいいと思うよ?」

「んんーーっ!! みゅーのことからかわないで! 今のもぜったいう……」

 

 絶対ウソなの、と続けようとして固まってしまった。みゅーには視えてしまっていた。さっきまでグチャグチャに乱れていたはずのオーラが見たことがないぐらいキレイな形になっていた。その上、ほんの僅かながらレインの気持ちの一端を感じられた。

 

 みゅーは思わずまじまじとレインの瞳を凝視していた。

 

「さ、もうけづくろいはおしまい。それだけ元気にはしゃぎ回るならもう十分だろ。さーて、俺は罠を補充するためにまた交換用のタマ集めをしてこないと。みゅー、今の話はブルーには内緒にしとけよ」

 

 後ろを向いてさっさと基地から出て行ったレイン。みゅーからは見えなかったがその顔は真っ赤になっていた。

 

 レインがいなくなって1人になったみゅーは大騒ぎだった。

 

「好きって言われた! 好きって言われた! それに寝起きのも合わせて正面から2回も! しかも本気! 冗談めかした雰囲気だったけど、あれは照れ隠しね。オーラはウソついてなかった! みゅっふー!! 人の心が視えてイヤなことばっかりだったけど、やっぱりエスパーで良かったの。きっと今日このためにエスパーとして生まれたのね……」

 

 誰も話す相手がおらずみゅーの考えは加速する。

 

「お互い好き同士ならホントのキスしたいなぁ。まだほっぺ止まり……。人間はキスしたらケッコンできる……レインもきっと望んでる。んみゅ、もしかしたらずっと待っているの? そういえばみゅーが泣いた時や悲しい時、いつも撫でたり抱っこしたり……ブルーにはあんまりしないのにみゅーには……。ずっと昔からみゅーのこと好きだったんだ。そうとしか思えないの。最近ドジばかりだったけど、実は前よりもっとかわいいと思われてたのかな。さっき見たレインはとっても照れているみたいだった。今までも照れていただけなのかも。みゅぅぅぅ、良かったぁ。みゅーみゅふみゅふーっ!」

 

 みゅーは随分長いこと1人で盛り上がっていたのでレインが帰ってきてしまった。元々大した用もなかったのですぐ帰ったのは必然だった。

 

「みゅー、何はしゃいでんの?」

「みゅがっ!? んっ、レインっ!? い、いつからそこにっ!」

「いつって別に今帰って来たんだけど何してたの? えらく楽しそうだけど」

「レインは気にしなくていいの!」

 

 みゅーにとっては好きな者同士ならすぐにケッコンするのが当然のこと。何も知らないみゅーは昔レインから聞いた話を鵜呑みにしてキスがその条件だと信じ切っており、この日以来昼夜問わずレインにキスすることだけを考えるようになった。

 

「みゅー、おやすみー」

「あっ、レイン! あの、今日はみゅーも一緒がいい」

 

 疲れたレインはあくびをしながらさっさと横になるが、みゅーが待ったをかけた。

 

「え? 珍しいな。昔は一緒だったこともあるけど、みゅーさん寂しくなったとか?」

「……う、うん。そうなの」

「本当はもうダメなんだけどな……。みゅーは本当に甘えん坊になってしまったよなぁ。仕方ない奴だ」

 

 言葉とは裏腹にレインの表情は僅かに緩んでいる。注意深く観察していたみゅーはそのことに気づいた。やはりレインの言葉は本当だったと確信した。みゅーが気づいてなかっただけで今までもずっとそうだったのかもしれない。みゅーは内心でガッツポーズをして喜んだ。あとはどうやって本題を切り出すかだけ。

 

「ほら、ここに寝て。こうやってゆっくり頭を撫でてやるから目をつむって早く寝てしまえよ」

「んみゅ? いや、ちょっとまっ…」

「先に寝ていいから遠慮しないで。なんならマッサージもつけようか? ん、お客さん凝ってますねー」

「ううーー、みゅぅぅぅーー」

「どう? 効くでしょ?」

「ふーーっ、ふみゅぅぅ」

 

 強弱をつけて体をほぐされ、今までのストレスや疲れが抜けて気持ち良くなりすぐにぐっすりと眠ってしまった。

 

 ―みゅー、好きだよ―

 ―みゅーも、みゅーもなの!―

 ―じゃあ、誓いのキスを―

 ―んーー!!―

 

「んみゅぅぅっっ!! んはっ!? はぁ……あれ? レインは? そんな……夢だったの? みゅー寝ちゃったんだ……」

 

 しょんぼりしたままみゅーはご飯を食べに行った。

 

「みゅーどうした? なんか元気ないな。昨日寝心地悪くて寝れなかった?」

 

 ご飯の時はいつも勢いよくおいしそうに食べるので気になってレインが声をかけた。

 

「ちがうのっ! マッサージ良かったの!」

「そう。じゃあまた怖い夢でも見た?」

「ぐっ! うみゅぅぅ、違うから! もう気にしないで! はむはむ、むしゃむしゃ!!」

「しょんぼりしたり元気になったり忙しいなぁ」

 

 みゅーにはすでにレインの声は聞こえてない。次の作戦のことを必死で考えていた。

 

(さすがに手強いの。こうなったらこっそり練習していたあの技を使うしかないみたいね。みゅみゅ……楽しみ)

 

 その夜、意を決してみゅーは行動に出た。

 

「ねぇレイン」

「なに? 今日は1人で寝ろよ」

「寝る前にお願い……」

「お願い? まぁいいけどさ」

 

 ゆっくり間をおいてから小さな声で、しかしはっきりとみゅーは言い切った

 

「みゅーとキスして」

「キッ……! 待って、なんでそうなる?」

「レイン、みゅーのこと好きなんでしょ? みゅーもレインが好きなんだよ。だから、ね? どっちも好きだからいいでしょ? レインとずっと一緒になりたい……!」

(こいつ、本気か! 目を見ればわかる! いくらへっぽこエスパーの俺でもわかる! あぁ、もちろん本当はわかってた。みゅーの考えてることぐらいわからない俺じゃない。昔からみゅーの気持ちが本気なことは知っていた。目を背けていただけ。仲良くし過ぎてこうなるのが怖かったんだ……!)

「レイン、いいでしょ? いいよね?」

 

 レインは真剣に考えこんでしまった。歓喜と後悔が渦のようになってレインの心の中で交互に暴れ回っていた。

 

(みゅーは本気だったからこそ、俺のことを極端に意識して普段から何もかもおかしくなっていたのかも。この前相談された変な夢も好きな気持ち故、かな。不安にさせたくなくて無理させないためにも本人を前にして好きだなんて言ってしまったけど、やっぱり黙っていた方が良かった。嬉しかったのは事実。でもなんであんなこと言ったんだっ! どうかしていた……もう二度と言わない。言えば毒になる。毒にしかならないとわかっていたのに、なのにあの時はつい嬉しくて……。すぐに顔を背けたのにバッチリオーラまで見られていたのか……)

 

「レインー。黙ってないで何か言ってよぉ……。んみゅぅぅ、んー! んーー!!」

「みゅー、いいかよく聞いて! お前は勘違いしている。そもそも愛してるのと好きなのは全く違う。俺とお前はあくまでポケモンとトレーナー、パートナー同士に過ぎない。わかるな?」

「だったらみゅー生涯のパートナーになる! それならいいでしょ?」

「なっ! このバカ……! なにが『いいでしょ?』だ! いいわけないでしょ! 俺は絶対認めないから!」

「みゅっ!? なんで、なんでそんなこというの? みゅーはレインを好きになっちゃダメなの?」

「ダメだ!」

「!!」

「人とポケモンは言うなれば水と油。全然違う者同士、決して交わることはない。いい加減理解して。ホウエンにいた頃にも何度か教えたでしょ! どうしても相手がほしいならちゃんとポケモンの相手を探してあげる。だから俺の言うことは聞いてくれ。いいな?」

「わかった。……諦める」

「ふぅ」

 

 一安心、と思ってレインが油断したのがいけなかった。みゅーがそう簡単に考えを改めるわけがない。その思いは本物なのだから。

 

「この技を使わないことを、諦めるの!」

「!? お前何する気ッ!?」

「ごめんね……レイン、メロメロ!」

「んっ! んはぁ……くぅ、待って」

「んっみゅぅぅ、さすが波動使い、簡単には堕ちないの。ならもう一度、メロメロ!」

「これ以上はホントにやめっ、んっ!?」

「メロメロ! メロメロ! メロメロ!……はぁ、はぁ」

 

 連続で技を使い、さすがに疲れて息を荒げるみゅー。うつむきじっとして急に動かなくなったレインに恐る恐る近づき、下から顔を覗き込んだ。口が開いたままで目の焦点は合っておらず正気には見えない。しかしみゅーにはどういう状態かわかってなかった。

 

「あれ、おかしいの。これしたらすぐみゅーが好きになってキスしたくなるはずなのに。レインー? レインメロメロになったー? みゅー? ちゃんとかかってるの? も、もし失敗してても急に怒ったりしないでね。レイン、ねぇなんか言って? ううみゅ、やっぱりなんにも言わなくていいからみゅーとキスして!」

「はぁー、はぁー」

 

 息を荒げるだけで身動き1つせず全くみゅーには反応しない。しびれを切らし、みゅーは顔をつかんで強引に唇を奪おうとした。

 

「何にも言わないなら勝手にするからね。いいよね? イヤなら抵抗すればいいの。……しないってことは……みゅへへ、やっぱり。そのままじっとしてて。さぁ、顔上げて……」

「ああっっ!! みゅー!!!」

「ふぎゅ!?」

 

 みゅーの手が触れた瞬間、レインは突然大声を上げた。みゅーが驚く間もなく、レインはみゅーを乱暴に抱き寄せて強引に口づけをした。みゅーにとって直接口づけを交わすのは初めてのことだった。わけもわからないまま、みゅーは幸福感に包まれて意識が溶けそうになっていた。

 

「みゅみゅ~~??」

「ぷはぁ」

 

 あまりの衝撃でみゅーはこんらん状態に陥り、そのままわけもわからず気絶してしまった。同時に、ようやく“メロメロ”の効果が切れてレインは正気に戻った。

 

「しまった! 最初は何も考えないようにして耐えていたが触られてオーラを感じた瞬間理性が飛んでいた! みゅー、大丈夫?!」

 

 床に倒れるみゅーを起こして持ち上げるがぐったりして死んだように動かない。まさかと思い慌ててアナライズするとHPが0になっていた。体力が尽きているだけのようだ。

 

「……なんかごめん」

 

 これを境にみゅーのきもちは大きく揺れ動き始めた。

 




レイン“メロメロ”暴走回
“メロメロ”ってそういう技じゃねーからっていうのは目をつぶって下さい
みゅーが改造したんです

みゅーのきもちがテーマなのにレインがヒロインに見えてくる……


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3.リアライズ

「んみゅぅぅ……あれぇ?」

 

 ベッドに寝かされていたみゅーは目が覚めると傍にいたレインと目が合った。

 

「おきた? 大丈夫?」

「レイン? ひゃぁぁ……みゅぅ」

 

 心配するレインの顔を見るとみゅーは真っ赤になって顔を背けるが、すぐにまたレインを振り返って何か言いたそうな表情を見せた。何か大事なことを思い出したようだ。

 

「本当はこっちの方が言いたいことが山ほどあるんだけど、言いたいことがあるならみゅーの方からお先にどうぞ」

「レイン、さっき……みゅぅ、覚えてる? ここに……」

 

 唇に指を当て消え入るような声でみゅーは言った。恥ずかしい……というよりレインが覚えているか不安な気持ちの現れ。みゅーの言わんとすることはレインにも察せられた。

 

「この大バカ! はっきり覚えてるからな! トレーナー相手にあんな技使ったらダメだろ!」

「みゅふぅー! ちゃんと覚えてるのね。良かった」

「良くない! なんで俺が覚えてるだけで嬉しそうなんだ!?」

 

 レインはみゅーが気絶した直後こそ申し訳ない気持ちになったが、よく考えればみゅーの自業自得であり、時間を経るにつれむしろ怒りが増していた。

 

「だって、これでレインとみゅーは人間で言うケッコンをしたことになるんでしょ?」

「はぁぁ!? なんねーよ!! バカだろお前?」

 

 とんでもない勘違いだった。当然レインは全力で否定。照れ隠しなのかレインの言葉遣いは荒くなっている。みゅーはレインの発言にウソがないことをオーラで知り、ショックで泣いてしまった。

 

「えっ!? なんで……違うの? そんなぁ……みゅぐっ」

「あぁ、ごめんごめん。別に泣かなくてもいいでしょ? みゅー、そもそもなんでそんなこと思ったの?」

 

 レインはみゅーを泣かせてしまったので口調を優しく改めた。もっとも、みゅーが泣いたのは自分の考えが勘違いだと気づいたからだがレインにそれを知る術はなかった。

 

「みゅぐっ。だって、レインが前に言ってたもん。……お話で。それにケッコンするときキスするのみゅー知ってるもん。みゅー見たもん!」

 

 みゅーはレインに尋ねられ、自分の正しさを主張するように何度も「見たもん! 見たもん!」と叫び続け、ベッドから身を乗り出してレインに迫った。

 

「わかったわかった。それって結婚式でする誓いのキスのこと?」

「みゅ!? やっぱり合ってるのね! みゅーうーっ! レイン、すぐにそれして!」

「ダメ。それはお互い真剣な気持ちじゃないとできないの! それにみゅーにはまだ早いからね。みゅーみたいな子供は結婚できない。最低でも……そうだなぁ……今の俺と同じぐらい大きくならないとダメ」

 

 レインの言葉に対しみゅーは不満そうに口を尖らせた。

 

「みゅー子供じゃないの」

「じゃあずいぶん甘えん坊な大人なんだね、みゅーちゃんは」

「みゅみゅぅ……レイン、すっごくいじわる。体はすぐにおっきくなんないもん。どうしたらいいの?」

 

 みゅーの体格と同じく小ぶりなワンピースをつまみながら寂しそうな声でみゅーは言った。だが、レインは素っ気ない返事を返した。

 

「へんしんできないんだろ? どっちにしろ俺にはそんな気ないし諦めな」

 

 みゅーは一瞬悲しそうな表情を見せるが、すぐに笑みを浮かべてみせた。

 

「レイン、そんなこと言ってもムダなの。レインのことはみゅーにはオミトオシだからね。これはオーラを読んだわけじゃないから確実なの」

「……どういうこと?」

「レインならわかるかな。すごいトレーナーだもんね。メロメロって効く相手と効かない相手がいるのは知ってる?」

「同性なら効かないってこと?」

「みゅみゅみゅ。ちょっと違うの。正確にはね、少しでもかけられた方がかけた相手に恋愛感情を持つ可能性があれば発動するの。だからポケモン同士は絶対異性限定ってことね」

「へぇー、そういう理屈なのか。でも、それがどうした?」

 

 みゅーは内心ほくそえんでいた。技の考察ならレインは必ず乗ってくる。そしてみゅーの話を信じている。ある程度の辻褄さえ合っていればレインはみゅーのことなら信用する。みゅーはあらゆる技を覚えられる力があるからだ。ここまでみゅーの予想通りだった。

 

「わかんないの? つまりね、普通は人間に対しても効果がないの。ポケモンを好きになる人間はいないから。同性を好きになるポケモンがいないのと同じ。つまり……みゅふっ」

「お、俺がみゅーのことを……」

「愛していたの。少なくとも心の奥ではね。だから発動しないはずのメロメロに引っかかった。みゅみゅ、隠そうとしてもムダなの」

「くっ……」

 

 目を逸らして唇を噛みながら額に手を当て、見るからに悔しそうな表情になるレイン。それを見てみゅーの心に歓喜の渦が沸き上がった。

 

(やった……やっっったぁぁぁ!! カマかけ成功! 上手くいったの! やっぱりレインはみゅーのこと本気で愛してる! みゅぅぅぅ、幸せ過ぎて脳ミソ溶けちゃうの~)

 

 みゅーは放心状態になってしまい、レインも反応のないみゅーの様子に気づいた。そしてすぐにダマされたことに気がついた。

 

 みゅーはとんでもなく幸せそうな表情をしているが、今急にこんなふうになるのはおかしい。今の話が本当ならレインの気持ちはメロメロをかけた時点で判明していたのだから今改めてわかることは何もない。なら急にみゅーが豹変した理由は簡単。この話がウソで、今のは全部レインを試していたのだ。

 

「みゅーっ! お前ダマしたな!」

「みゅっ!? んみゅぅぅ、みゅーのバカッ! バレちゃった……。で、でも、もう遅いもん。レインのことはもうわかってるもん」

「今のでみゅーのことキライになった」

「みゅ!? ヒドイ……なんでずっといじわるばっかりするの? みゅーの気持ちもわかってよ!」

「わかってないのはお前の方だよ……」

「え?」

 

 レインは僅かにしんみりした表情を見せるが、すぐにいつもの表情に戻り幼子を諭すようにしてみゅーに言い聞かせた。

 

「あのな、誰もすきこのんで意地悪してるわけじゃないの。今自分で言っただろ? ポケモンを好きになる人間はいない。みゅーと俺では絶対結婚とかはできないの。だからみゅーはちゃんとポケモンを好きになって。……できたら早くちゃんとしたみゅーのタマゴも見たいんだけど…」

「じゃ、レインのっ!」

「俺はタマゴなんかできないに決まってるでしょ」

「え?」

「みゅーが凄過ぎるからぴったりの相手を見つけるのは大変だけど、それでも俺がちゃんと高個……つまりいい相手を探してあげるから、ね?」

「……ウソ、ウソ言ってる。そんなのウソに決まってる。だって、おかしいもん。みゅーはこんなにレインが好きなのに、タマゴはできないなんて……ねぇ、ウソなんでしょ? ねぇ」

「もう何も言うな」

 

 いきなりの突き放すような冷たい言葉にみゅーは我慢の限界を超えた。

 

「なんでなのっ!? ウソって言ってよ!」

「……ウソじゃない。お前の相手はポケモン。そんなことは最初から決まっていたこと」

「みゅぐっ! うぅぅぅぅ! いやいやいやぁ。なんでそんなこというの? みゅーはウソじゃなくてもウソだよって言ってほしかった。よりによってレインにそんなこと言われたくない。絶対にイヤ……レイン以外イヤ!」

「なんでそんなこと……! みゅー、一生不幸せになるよ? お前の人生はこれからだろうにそれでもいいの?」

「なんないもん。レインがいたら不幸になんかなんないはずなの。同じ波長の相手を見つけたら幸せになるって、みゅーでもなれるってそう言ってたのに……!」

 

 頭を抱えてうわ言のようにぶつぶつと呟き続けるみゅー。レインが少し心配して様子を見ようと腰を屈めた。

 

「なんのこと? それは誰に……」

「もういいの。レイン昔言ってた。手段なんか選んでたらダメだって。だからこうする。みゅーは自分の力で絶対幸せになる。力ずくでレインを骨抜きにしてみゅーの虜にしてあげる……メロメロ!」

「またっ!?」

 

 中腰の姿勢で油断していたので避けられず、レインは至近距離でダイレクトに技を受けた。そのままみゅーとは反対側に倒れこみ、しばらくして自力でフラフラと立ち上がった。正気を失ったようなレインの動きを見て、みゅーは歓喜の予感にゾクリと身を震わせた。

 

「あ……かかったのね。みゅへへっ。またすごいキス、来るの。今度は1回で堕ちちゃったみたいね。レイン、エスパーとしてはよわっちぃのね……へーなちょーこさんっ。みゅー、みゅうみゅうみゅー! レイン……たっぷりしてあげるから……。んー!」

「……」

 

 目をつぶって唇を突き出すみゅー。しかしその思いが届くことはなかった。

 

「みゅぶぅ!? ぶぇいん、ぶぁんで!?」

「お前……本当にドジになったな。詰めが甘いんだよ。俺がトレーナーだってこと忘れてるだろ?」

 

 レインは正気だった。みゅーの両サイドのほっぺを片手でつかんで、感触を確かめるようにぐにぐにと押し潰しながら相手を見下すような表情で冷たく言った。

 

「これふぁなしへ……ぷはっ! みゅぅぅ、なんで効いてないの!」

「メロメロ状態なんてこれさえあればすぐ治るんだよ」

「なにそれ……草?」

「ボケたか? これはメンタルハーブ。他ならぬお前の故郷で集めた道具。お前は性懲りもなくまた同じことをすると思ったから、さっき寝ている間にあらかじめすぐ使えるように準備しておいたんだよ。……さて、これでお前は二度もトレーナーに対して刃を向けたわけだ。しかも意図的に。これは厳罰に値する」

「みゅっ……でも、みゅーは悪くないもん。レインが悪いの」

「お前の意見は聞いてない。いいわるいは俺が決めること。どうせみゅーは逆らえないから」

 

 レインは低い声で高圧的な態度を取った。仲間になってから今までみゅー相手には決して見せなかったレインの姿にみゅーは少なからぬ恐怖を感じた。

 

「え……レイン、なんか急に怖いの。どうしたの? いつもはみゅーが失敗とかしても優しいのに」

「こうでもしないとみゅーは言うことを聞かない。だから仕方ない。もうキスだの結婚だのみたいな話はうんざり。これからは二度と結婚してとか俺の前で言うな。これが1つ。みゅーの方からキスすることも禁止。これで2つ。そして最後にもう1つ、今後一切俺に向かって技を使うことも許さない。この3つを守れ。みゅー、わかったな?」

「イヤ……そんなのイヤッ。イヤなものはイヤだもん」

「そう。俺の言うことは聞けないってことだな。いいよ、じゃあ勝手にすれば?」

「みゅ? いいの?」

「いいよ。その代わり破ったらもうお前の面倒は見ない。ギアナへ帰れ」

 

 レインはびっくりするほど冷たい声で言い放った。みゅーはまるで心臓に氷柱を突き刺されたようなショックを受けた。

 

「え……レイン、どういうことなの」

「約束を守る気がないならお前とは絶交するってこと」

「……レイン、ウソでしょ? 今の、みゅーの聞き間違いだよね?」

「ウソじゃない。俺の言うことを聞かないポケモンなんて要らない。どこへでもいけばいい」

 

 あんまりにもショックな言葉に涙が出そうになるが、泣けば嫌われると思い必死でみゅーは堪えた。それでも絞り出した声は震えてしまっていた。

 

「そんな……ずっと一緒じゃないの?」

「もちろん一緒だ。お前がいい子ならばな。俺だってみゅーとはずっと一緒にいたい。でもお前が悪い子なら話は別。お前が約束を守ってくれさえすればずっと一緒にいられるんだから問題ないだろ?」

「でも、みゅーのこと追いだしたら……レイン、ウソついたことになるの!」

「追い出す時点で先にみゅーが約束を破っているのだから文句は言えないはずだ」

 

 レインの言葉を受けてみゅーは一瞬押し隠せない激しい怒りをあらわにするが、すぐに脱力して人生を諦観するような悟りきった表情になっていた。

 

「みゅっ! みゅぐぅぅぅ。ふーっ……。レイン、本気なのね。みゅーのことやっぱりうっとうしいんだ。みゅーだってわかってるの。いっつもレインにつきまとって、迷惑ばっかりかけて、みゅーはわがままだからレインいっつも困ってるの。それぐらいみゅーだってわかってる。オーラ感じてた……みゅー、エスパーだから。それでも優しくしてくれるところが嬉くて好きだった……。でもね、わかってほしいの。みゅーはこうすることしかできないんだよ。みゅーは何にもわかんないから、レインに甘えて、頼って、迷惑かけないと自分の気持ちを伝えられないの。みゅぅ、みゅーは“へんしん”と同じ。相手がいればなんでもできるけど、独りではなんにもできない。みゅーはレインがいないと生きてる意味ないんだよ」

「そこまでは言ってないよ」

 

 みゅーの重い言葉に対して返す言葉が見つからず、レインは満足な返事はできなかった。

 

「レインー、みゅーはどうしたらいいの? みゅーフラれちゃったよ? たった1人の同じ波長の運命の相手、ようやく見つけたのに。みゅーはやっぱり幸せにはなれないんだね。いっそ嫌われていれば好きになってもらえるかもって思えるのにね。相思相愛で拒絶されちゃった。もう絶対に変わんないね。今はっきりわかっちゃった。みゅーがミュウである限り、みゅーは不幸なままなのね」

「……」

 

 他人事のように淡々と語る姿が痛ましい。レインは黙り込んでしまった。

 

「ねぇレイン、みゅーどうすればいいの? みゅーはなんのためにここにいるんだろう。もうなんにもしなくていいのかな。もう辛いことしかない。これならいっそ……」

 

 みゅーの姿に危うさを感じてレインは割って入って口を挟んだ。

 

「みゅー、落ち着いて。深刻に考え過ぎ。別に今まで通りで問題ないでしょ? な、たまにはこうやって頭撫でたりしてあげるから」

 

 とっさに思い浮かんだのはみゅーが大好きなこと。頭を撫でて落ち着かせようとしたがそれはこの場に限っては逆効果だった。

 

「みゅぅぅぅ! やめてよ、やめてっ! そんなことしないでよ! こんなの感じたらみゅーまたおかしくなる! 諦められなくなるっ!」

「ごめん……」

「謝らないでよ! それだったらみゅーのことずっと大切にして!」

「これは全部お前のためなんだ。だから落ち着いて。俺の気持ちをわかってくれ」

「わかってないのはレインでしょ?! どうしてっ!? どうしてこんなに思ってるのにみゅーを拒むの!? みゅーがポケモンだからなの? みゅーが人間だったら愛してもらえたのに、ポケモンとして生まれたからみゅーを拒むの?……ねぇ、みゅーは一体誰を恨めばいいの?」

 

 みゅーの瞳にすでにレインは映っていない。レインにはとても正気とは思えなかった。感じるオーラは原型を留めずぐちゃぐちゃ。にわかにバランスを失い始め脆く崩れ去ろうとしている。さっきまでたしかにみゅーから感じられた愛情は段々と真っ黒で恐ろしい別の感情に成り代わっていた。

 

「みゅー、落ち着いて!」

「こんなのおかしい。イヤイヤイヤイヤ!! うぅぅ……なんで思い通りにいかないの……レインはこんなことしないはずなのに、みゅーには優しいはずなのに……なのになのに、レインどうしてっ!」

「ぐっ!?」

 

 エスパーの力が暴走しているようだ。自分の周りを手当たり次第に攻撃し始めた。レインは攻撃がほんの少し掠っただけで吹っ飛ばされそうになった。

 

 以前にもこんなことがあった。みゅーの感情が我慢の限界に達したのだろう。こうなれば力ずくで止めるしかないが今のレインの力では到底太刀打ちできそうにない。策を講じるしかない。

 

「攻撃がダメなら……出てきてくれユ―レイ、さいみんじゅつ!」

「ゲェェン」

「みゅぅぅぅ……スースー」

 

 レインはみゅーを強制的に眠らせた。眠って落ち着きを取り戻したのかオーラは安定している。穏やかな寝息を立てるみゅーの姿を見てレインは胸をなでおろした。

 

 しかしそれは束の間の安息。霞のようにぼやけていた夢が徐々に形を成し、悪夢は現実になろうとしていた。

 

 とうとう運命の歯車が狂い始めてしまった。

 




いい雰囲気の前回とは一転して悪夢のような展開に
簡単にパッピーになれるほど甘くないですね

レインが冷酷に見えるかもしれませんが無意味にみゅーを遠ざけているわけではありません
気持ちがすれ違っているような感じですね


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4.さよなら……

 破滅を予感させるようなみゅーの狂気は眠りと共に消え去っていた。だがこの日を境にみゅーは一切の生きる気力を失ってしまった。レインが何をしても無反応。食事もまともにとらず、みるみるとやつれ果てていった。

 

「みゅー、もういい加減何か食べて」

「もういいの。おなか、へってない」

「……」

 

 これで丸三日何も食べようとしていない。エスパーだから寝ていても喉を詰まらせることはない。なので寝ている間にレインがお粥などを少しずつ食べさせてなんとか生きながらえているが、今の状態では衰弱死するのも時間の問題だった。

 

 まさかここまで酷くなるとは思わずレインは困り果てていた。レインは後悔と共にどうすることがみゅーにとって最善だったのか何度も考えた。しかし今のみゅーの姿を見るとどうすべきなのかますますわからなくなり自信を失いかけていた。

 

 レインはもう万策尽きていた。

 

「ねぇレイン」

「みゅー!? どうした、何かあった?」

 

 久々にみゅーが口を利いた。レインはそれだけで大喜びするが次にみゅーが言った言葉は予想を遥かに超えていた。

 

「みゅーね、もうすぐ死んじゃうと思うの。最後まで迷惑かけっぱなしでごめんね」

「なっ……! 縁起でもないこと言うな! みゅーが死ぬわけないだろっ!」

「みゅーにはわかるの。エスパーだから自分の最後ぐらいわかる。理由までは予知できないけど、もう長くないの」

 

 どう考えても餓死だろうとレインは思うが、みゅーにはそれすらもわからないほど弱り果てたようだ。

 

「みゅー、そんなものまやかしだ。予知なんてなんの意味もない。みゅーは絶対に俺が死なさない! だから安心しろ!」

「レイン…………ありがと。でも運命だから変わらないと思うの。だからね、死ぬ前に最後にお願い。1回でいいから……本当に1回でいいから、みゅーにお別れのキスして」

 

 表情は全く変わらないが、礼を口にした際にだけ僅かに笑みを浮かべ、みゅーの瞳からはゆっくりと一筋の涙が流れていた。

 

「それはできないな」

 

 レインはみゅーの要求にきっぱりとした拒否を返した。みゅーは自嘲気味に笑った。

 

「……みゅー、やっぱりダメなのね。レインってホントに意地っ張りな性格なの。……みゅーね、それでもレイン好きだよ」

「お前、やっぱりバカだよ」

「……そうかもね」

「最後っていうのは却下だ。みゅーは死なせないってたった今言っただろ」

「んっ!?」

 

 みゅーにとっては二度目の口づけ。突然のことでみゅーは身じろぎもできず、至福の時間は刹那の内に終わってしまった。しかし、みゅーはしっかりとレインの気持ちを全身を通して感じ取っていた。絶対に死なさないというギリギリの思いがレインの本心を剥き出しにして全て伝えていた。

 

 口づけはエスパーにとって最もオーラを感じ取りやすい方法の1つ。レインの思いを受けてみゅーの顔にみるみると生気が戻ってきた。“じこさいせい”だ。

 

「どう、ご所望のキスのお味は?」

「みゅー? キスって味するの?……みゅーさっき頭真っ白になっててわかんなかった。でも、嬉しくて幸せだったの。みゅーすっごい幸せ。……ねぇレイン」

「なに?」

「さっきはあんなこと言ったけど、あの……みゅーね、やっぱり死なない気がするの」

「……だから言ったでしょ、俺が死なさないって」

「みゅっ、みゅへへ、みゅー生き返っちゃった。みゅー、なんか今までずっと眠ってたみたいな気分」

「灰かぶり姫の次は眠り姫?」

「そうね。みゅーが眠り姫。眠りを覚ます、魔法の口づけ……なの」

「お寝坊さんはこれっきりにしてね」

「みゅー、レインがそうしてほしいならそうしてあげる。みゅぅぅみゅふーっ! ……やっぱりキスすごい……」

 

 それからみゅーは元通りになるが、これを契機にしてレインへの思いは臨界点を超えて天井知らずに昇り詰めていった。元々みゅーはレインに対し依存するような形で生活を共にしていたが、それがより顕著になり、酷い日には温もりとオーラを求めて1日中レインにくっついたままのこともあった。だが、当然のことながらオーラを感じるのはみゅーだけではない。心の奥底を揺さぶられるようなみゅーの熱烈さにレインは困り果てていた。

 

 レインはみゅーのことを考えてこの依存関係には危機感を持っていた。だが先日無気力になって危険な状態になったばかり。レインはみゅーを強く叱ることができず半ば黙認していた。それでも極力甘えさせず、キスもさせないようには努めていた。

 

「ねぇ、みゅーはいつになったらちゃんとキスできるの? ねぇ答えて」

 

 みゅーはレインの腕を引っ張って強引に尋ねた。レインは渋々振り返って引かれるままに膝をついて答えた。みゅーがより近くになって同じ目線で見つめ合う。レインはプイっと横を向いてしまった。みゅーの瞳はレインにはまぶし過ぎた。

 

「みゅーはまず大人になれ」

「なったらいいの?」

「……ポケモンだから俺に対してはダメ」

「みゅぅぅ……」

 

 レインの言葉はそっけない。みゅーは恨めしそうにレインを睨んだ後、うんうん唸ってから再び口を開いた。

 

「じゃあ、みゅーがレインと同じ人間になれて、ちゃんと大人にもなって……望むべき姿にへんしんできる、そんな日がもしも来たら……みゅーのこと、今度こそ受け入れてくれる?」

「……ずいぶんと都合がいいな」

「もしもなんだからいいでしょっ。ねぇ、レインはそれでもダメなの? お願い、ちゃんと答えて」

 

 レインは呆れ顔だがみゅーは至って真面目なようだ。レインは仕方なく正面から向き合ってみゅーの話に付き合うことにした。

 

「そうだなぁ。もし本当にそんなことがあったら……みゅーの全部を受け入れてあげるよ」

「レイン……あなたのその気持ちにウソはない? みゅーに誓える?」

 

 レインは一瞬みゅーの顔が歪んで見えた気がした。瞬きのうちに突然みゅーから子供らしさが消え去り、悠久の時を思わせる厳かな口調に変わった。思わずみゅーを見て目が合ったレインは瞳の奥の深淵に引きずり込まれるような錯覚を覚えた。今この一瞬だけ明らかにみゅーの雰囲気が一変していた。

 

「自分の全てをかけてもいい。全て受け入れるとみゅーに誓える」

「ホントなのっ!? みゅーでいいの?! やったー! 約束だからねっ!」

 

 レインは心が体から離れるような浮遊感に包まれ、気づけば無意識に口が動いていた。しかし無意識だからこそ、それはレインの心の真実だった。

 

 なぜ自分がこんなことを言ったのかわからずにレインは混乱する。すでにみゅーはすっかり元通りに戻っていて、子供のように喜んでピョンピョンと飛び跳ねている

 

 レインは自分の言葉を取り消そうとした。

 

「……約束なんかしても意味ないよ」

「えっ?」

「そんなありもしない仮定の約束なんてするだけムダ。現実を見ろ」

「でも……もしかしたら上手くいくかもしれないの」

「いいや無理だ! ありえない! 不可能だ!!」

「ひぅぅ……そこまで言わなくてもいいのに……」

 

 レインは思わずキツイ言い方になってしまった。どうしようもなくイライラした気持ちを落ち着け、冷静になってから静かに謝った。

 

「ごめん、言い過ぎた」

「レイン……うぐぅ……」

 

 苦しそうなみゅー。レインから離れて顔を背け、トボトボと歩き出した。復活後のみゅーが自分から離れようとするのは初めての事だった。見えないはずのみゅーの表情が容易に想像できて、考える前にレインは思わず引き留めていた。

 

「待って!」

「……」

 

 みゅーは黙ったままだが足を止めた。

 

「今はこれで我慢して」

「あっ」

 

 みゅーは優しい感触を得て、じんわりと暖かいものが心の中に広がっていくのを感じた。みゅーはレインのことがわからなくなり、気づけば涙が出ていた。自分でも何に対する涙なのかわからず、みゅーはそのまま走り去ってしまった。

 

 その後顔を合わせることはなかった。

 

 ◆

 

 ……チューチュー、ちゅーちゅー

 ……チューチュー、ちゅーちゅー

 

「んぅ……? なに……?」

「みぅっ! みぅっ! みぅっ! えぅ……んっ! みぅっ! みぅっ!……」

 

 次の日、目を覚ませばみゅーがレインの寝床に忍び込んでいた。見れば何かに憑りつかれたかのような表情で甲高い鳴き声を漏らしながら一心不乱にレインの指を吸っている。レインは慌てて手を引っ込めた。

 

「こらっ! みゅーっ!! これはどういうこと?! まさか約束を忘れたわけじゃないよな?!」

「みゅっ!? あ……レインッ。ち、違うの! みゅーはお口にキスはしてないよ? だから約束は守ってる」

「お前、だから代わりに顔以外で直接触れる指を……げっ! これは……!?」

 

 いったいどれだけの時間しゃぶられ続けたのだろうか。指がふやけてぐちゃぐちゃになって、その上、表現しにくいほど皮がえぐれている。ちょっとグロい。何時間吸っていればこんなことになるのだろう。レインの考えの中に一晩中舐め回されていた可能性も浮上していた。

 

「みゅ……ごめん」

「……これからは舐めるのも禁止」

「そんなっ! でもみゅーもうがまんできない」

「どうしてもしたいならポケモンにすればいい。ボールから自分で呼べるでしょ。人間にこんなことしたらダメ。いいな?」

「レインー、レインー」

「そんなせつなそうな声を出してもダメなものはダメ。約束は覚えてるな?」

「……みゅぅぅ」

 

 だが人の気持ちというものは抑えてどうにかなるものではない。それはポケモンであるみゅーも同じ。何日かはみゅーも辛抱を続けたが、何気ないことがきっかけでそれは限界を迎えた。

 

「やった! 特大の“こんごうダマ”と“しらタマ”ゲット! でもこれだと大き過ぎてトレードするには勿体ないなぁ。んー、せっかくだしこの2つはブルーにあげようかなぁ。この前はサファイアあげたらすっごい喜んでたし。ブルーの顔見るのが楽しみだなぁ」

「っ!」

「なぁ、みゅーも楽しみだろ?」

 

 レインは何となくみゅーに話しかけるが反応はなかった。

 

「……」

「ん? みゅーどうしたの?」

「ねぇ、みゅーといるのは楽しくないの?」

「え? 急に何?」

「みゅーは人間じゃないからどうでもいいんでしょ」

「みゅーさん、もしかしてヤキモチ?」

 

 レインはみゅーの心情を読み取って思ったままに発言してしまった。しかしこの不用意な一言がみゅーの逆鱗に触れた。

 

「みゅっ!? ……んん……んみゅぅぅーーっっ!! みゅーーっっ!!」

「ぐっ?! 待ってみゅー、これは何のつもり?!」

 

 いきなり“ねんりき”で縛られレインは完全に身動きできなくなりそのまま突き倒された。みゅーは馬乗りになってレインに大声で叫んだ!

 

「ヤキモチ焼くに決まってるでしょっ!! ポケモンのみゅーにはなんにもくれないで、人間のブルーにはどっちもあげてっ!! いっつもブルーにばっかり宝石送って、やっぱりレインはブルーが好きで、ブルーとケッコンしたいんでしょっ?! だからみゅーとはイヤなんだっ!! レインは無神経で、みゅーにブルーの話を楽しそうに言って、いつもみゅーがどんな気持ちだったかわかる?! 悔しくて悔しくていっつも口の中血塗れだった! 苦くって不味くって、何より敗北の味がたっぷりした! 惨めで辛くて……でもみゅーはじこさいせいで治るから、レインは気づきもしないっ……! ブルーを見る度に変な気起こさないように堪えるの大変で、頭おかしくなりそうだった! みゅーの苦しみがレインにわかる?! ねぇっ、わかるの?!」

「わかった。お前の気持ちは本当によくわかったから」

「お前って言わないで!! みゅーって言ってよ!!」

「……みゅーの気持ちはわかった。無神経で本当にごめん。でも、宝石は一緒に旅できないブルーのためにお土産として渡すだけで深い意味はないし、差別したつもりもない。みゅーもほしいなら言ってくれればいくらでもあげる」

「みゅーは宝石がほしいわけじゃないっ! レインに選んでほしくて……」

 

 レインにはそれがケッコンしてほしいという意味だとわかった。なのできっぱりとその言葉を跳ねつけた。

 

「……それはダメ。約束しただろ。その話はするな。それにこれも約束違反だよな? 俺に技使ったらダメって約束しただろ。今回は俺も悪かったと思うから、すぐにやめたら今日は大目に見てあげる。だからこれを解いてくれる?」

「……イヤ」

「みゅーっ!?」

「イヤなものは……イヤーーッッ!! みゅぅぅぅ、んーっ!!」

「!?」

 

 みゅーは約束を破り、“ねんりき”をかけ続けた上にとうとうキスまでしてしまった。みゅーは約束を3つトリプルで破ったことになる。当然レインは尋常ではなく怒った。

 

 ――今すぐそこをどけ!――

 ――ひぅっ!?――

 

 情緒不安定になっており、かつ元々調子の悪いみゅーの拘束はあっさりと解けた。

 

「この……大バカッ!!」

 

 バチン!

 

 一瞬何が起きたのかみゅーにはわからなかった。徐々に自分の頬が熱を帯びて痛みが広がり、思いっきり平手打ちをされたのだとわかった。熱を持った頬に手を当て、信じられないという様子でみゅーはレインを見た。そして突然レインの姿がグニャリと歪んだ。いや違う。涙で歪んで見えたのだ。ひりつく痛みから、レインのハッキリした拒絶が心の奥底まで突き刺さるように感じられ、みゅーは心が痛くなり苦しみ始めた。

 

「あぐぅ、はぁーっ、はっ、はっ、ぐぅぅぅ、ううっ、うぐぅっ」

 

 みゅーにとってレインから直接手をあげられたのは初めてのこと。そのショックは甚大で精神的に異常をきたしていた。体を上下にゆすって必死に苦しみを耐えており、相当な痛みであることは見て取れた。

 

「みゅー、だい…」

「ヤァァァッッッ!! 言わないでっ!! 聞きたくない聞きたくないっ!!」

 

 “大嫌い”……ではなく“大丈夫か”と続けようとしたレインの言葉は勘違いしたみゅーに遮られてしまった。レインから逃げるようにしてフラフラと飛んでいき、最後にチラリとレインを振り返った。レインの元まで届かないほど小さな声で何かつぶやいた後、みゅーはテレポートを使って消えてしまった。

 

 その日を境にみゅーは姿を消してしまった。

 




またこの展開かよとか言わないでくださいね

4話が今後の重要な伏線になります
この先で見覚えがあるなぁという言葉が出てきたらここに戻ってくるといいですよ
色々と繋がってくる……はずです


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5.運命の選択

 レインは後悔していた。みゅーが姿を消したあの日、当初はいつもの家出だと思いレインは深刻に考えていなかった。しかしいつまで経っても帰ってこず、翌日になってようやくみゅーが絶交という言葉を真に受けたのだと悟った。レインは手を尽くしてシンオウ中を探したが見つからず、みゅーはギアナへ帰ったのだと判断して諦めた。

 

 レインは激しく後悔した。たとえ許されるものではなくても、みゅーの愛は本物で、レインは唯一の心の支えだった。その支えを失ったみゅーの心中は推し量れないが、想像を絶する痛みを伴ったことは確かだろう。

 

 レインにとって絶交というのは脅し文句のつもりで本気ではなかった。もし破ってもそれを盾にして次はないぞと言うつもりだったのだ。だがみゅーはそれを重く受け止めてしまった。

 

 レインが思い出すのは一度見た狂気をはらんだあの瞳。いつかみゅーが自分を殺しにやってくるのではないか、そんな恐ろしい考えまで浮かんでいた。逆に自殺する心配はそれほどしていなかった。今のみゅーには執着するものがある……その間は死ぬことはない。レインの直感だった。

 

 問題はみゅーの持つ力が絶大であること。みゅーがそれを濫用すればどうなるか……。最悪の場合、レイン自身の手でケリをつけることも考えていた。

 

 シンオウの旅を終えるまでレインは後悔し続け、自らを責め続けた。口数はめっきり減り、ポケモン達からは心配されたが旅の中で気が晴れる時間は一度もなかった。だが、準備は怠らなかった。いつみゅーが現れてもいいようにできることだけはやるようにしていた。

 

 旅の最後、シンオウチャンピオンであるシロナから耳寄りな情報を得た。

 

「レイン君、あなたイッシュ地方って知っているかしら? 実は相談があるの。これは私の友人から聞いた話なのだけど……」

 

 遠く異国の地、イッシュ地方で謎のエスパーポケモンによる凶行の頻発。各地で無差別に野生のポケモンが襲われ、変わり果てた姿となって発見されていた。確認されていないものも考慮すればとんでもない数の被害。当然四天王やジムリーダー、果ては時のチャンピオンまでが解決に乗り出すがことごとく惨敗。手が付けられなくなっていた。

 

 レインはシロナから解決を任され、すぐにこれを引き受けた。野生のポケモンでここまで強いとなればもうみゅーの仕業としか考えられない。恐れていたことが起きてしまった。これ以上野放しにしておくわけにはいかない。

 

  レインはすぐにイッシュへ向かうことにした。ブルーには毎年顔見せをする約束があったので、ブルーは乗り継ぎを行うクチバに呼び出して待ち合わせ、すぐに船に乗った。

 

 船に乗り込み、カントーまでの船旅の間、レインは以前みゅーが話していた夢の内容を思い出していた。知らない場所で怖いことをする夢……イッシュでの大量殺戮……偶然とは思えなかった。

 

 ギアナはイッシュとは距離がありみゅーの知らない場所というのは十分符合する。大量殺戮は言わずもがな。レインが内容を尋ねてもみゅーが口を濁したことにも納得がいく。当時、夢はしょせん夢と軽く見ていたが結局その通りになってしまった……。もっと真剣に考えるべきだったのではないか。レインは後悔が募る一方だった。

 

「何とかまずは話し合いで説得。どうしてもダメならこいつの出番か……」

 

 手にしているそれはマスターボール。究極の捕獲アイテム。これさえあれば相手が幻のポケモンであろうと簡単にゲットできる。悪の組織と戦って得た戦利品だ。レインはそれをカバンではなくポケットにしまった。

 

「できればこれは使いたくないが、状況によってはこいつで封印してしまうことも考えないといけない。封印する可能性がある以上、このことはブルーには黙っておくしかないか。みゅーをどうしたか聞かれるとマズイ。封印しなかったとしてもあいつは何かと多忙だし、変な心配かけて迷惑はかけられないな」

 

 レインはブルーやみゅーと共に旅をした頃を思い出した。あの時はそれが当たり前だったが、今となってはもう傍に2人はいない。バラバラになって初めてあの時間がかけがえのないものだったと気づいた。

 

「みゅー……」

 

 何気なく取り出したのはみゅーがかつて入っていたモンスターボール。レインは大事そうにそれを手に取った。

 

 これはたった1つだけ残ったみゅーの忘れ形見。みゅーと別れ、結局形あるものは何も残らなかったことにレインは気づかされた。本当に幻のように、何も残さずにみゅーは消えた。ただのモンスターボール1つに執着する自分の姿を顧みて、レインはそのみっともなさに自嘲的な笑みを浮かべた。

 

 未練の現れだろうか。無意味なことと知りつつ、よせばいいのにと思いながらも、レインはそのボールをマスターボールと同じポケットにしまった。レインは自分自身に呆れ果てていた。

 

 らしくもなく、レインは意味のないことだとは知りつつも、どうしても願わずにはいられなかった。

 

「戻りたいなぁ……あの頃に」

 

 コンコン

 

 もの思いに耽っているとドアをノックする音が聞こえた。無情にも現実に引き戻され、レインはため息をついて応えた。

 

「スチュワーデスさんか? 何の用?」

「……お客様に直接うかがいたいことがあります。お時間よろしいですか?」

「……? 中に入るならカギは空いてるけど?」

「そうですか。ふふ」

 

 不気味な笑みと共に入ってきたのはレインと同じ年頃の女の子だった。派手な服装で露出もそれなり、アクセサリーの類もつけていてよりチャラくなったカントーの大人のおねえさんという感じだった。髪は美しい青髪でサングラスをかけている。あまり品が良いとは言えない恰好にレインは顔をしかめる。少なくとも乗務員には見えない。

 

 レインは最初から変だとは感じていた。騙し討ちのようにして人の客室に入るとはどういうことだとレインが口を開こうとした。だが相手の顔を見た際、僅かに引っかかりを感じた。初めて見る相手なのに妙に既視感がある。デジャブというやつだろうか。それに相手の表情……サングラスをかけていてはっきりはわからないが、何か訳知り顔とでもいうのかそんな表情で、直感的にただのイタズラ客ではないと察せられた。注意深く観察すれば相手からただならぬオーラを感じる。今まで相対してきたチャンピオン達にも決して劣らない。危険な空気が漂っている。

 

「お前……何者? 騙すような入り方をしてきて、何が目的?」

 

「へぇ、さすがね。もう警戒されちゃったか。相変わらず良い殺気ね。あぁ、うっとりしちゃう」

 

 チッ、不気味な奴め! と、レインは内心で毒づきながら警戒度をさらに上げた。レインは相手の容量を測りかねていた。

 

「悪いけどさっさと出ていってもらえるか? 俺は今虫の居所が悪い。痛い目見たくなければ出ていく方が賢明だ」

「あーあ、つれないのね。ふふ、でもそれはウソ。脅そうとしてもムダよ。今あなたは手持ちのポケモンを持っていない。本当は焦ってるんでしょ?」

 

 これにはさすがに驚きが顔に出てしまった。図星だった。レインは船にいる間はいつも手持ちは全てボックスに預けるのが習慣になっていた。だがそのことを知る者は自分しかいないはずだった。レインは激しく混乱した。

 

「……何者だ? いい加減名乗るぐらいしたらどう? あんたは俺のこと知ってるみたいだし、そっちも名乗ったらどうだ?」

「やっぱり私のこと気づいてないんだ。仕方ないか。私は生まれ変わったから。……それとも、あなたは捨てた奴のことなんかすぐに忘れるのかな。まっ、覚えてないならそれはそれで構わない。今度は二度と忘れないように心の芯にまで刻み付けてあげるから……ねぇ、愛しいレイン?」

 

 その言葉と共にサングラスを外した。その目を見てようやくレインは全て理解し、驚きの声を上げた。

 

「まさか……! もしかしてお前はみゅーなのか。なんでこんなところにいるっ! ずっとイッシュにいたはずじゃ……」

「あっ! 覚えていてくれたんだ! イッシュにいたことも知ってるなんて……やっぱりあなたは私から逃れられない。引かれ合う運命。そう、私はみゅー。あなたに捨てられたみゅーよ」

 

 以前の清楚な服装からはかけ離れたケバケバしい見た目に惑わされていたが、体の1つ1つをとってじっくり見てゆくとびっくりするほど色濃くかつての面影が残っていた。見れば見るほど瓜二つ。年を考えれば“へんしん”をかけ直したと考えるべきだろうが、そう思うよりむしろ以前の姿から成長したと考える方がレインはしっくりきた。

 

「みゅー、帰ってきたのか……」

「レイン……」

 

 どうして今ここでみゅーが現れたのかはわからない。だがレインにはそんなことはもうどうでも良かった。気づけば全身から力が抜けていき、そのまま膝をついてみゅーに謝っていた。

 

「すまなかった! もう遅いだろうが謝らせてくれ。本当にごめん。ずっと後悔していた。お前を追い込み過ぎたこと、何度も何度も反省した。みゅーのことを考えなかった日は1日もない。お願いだからもう一度戻ってきてくれ。そしてこれからはもうあんな恐ろしいことはやめよう」

 

 レインの真剣な謝罪にみゅーは顔を歪めた。だがみゅーにとってレインがここまで真剣に謝っているのを見たのは初めてのこと。その事実に思い当たり、みゅーの顔に徐々に歓喜が広がった。

 

「そう……。レイン、後悔してくれたんだ。私はまだ必要なのね。……レイン、顔上げて。じゃあ1つ聞かせてよ。あのとき、私が最後にしてしまったこと。約束を全て破ったことはもう怒ってないの?」

「それは……」

「ウソはすぐにわかる」

 

 言いづらそうなレインを見て間髪入れずにみゅーが言った。かつてとはもう違う。エスパーとしての力は本来の力を取り戻しているように思えた。レインは慎重に言葉を選んだ。

 

「もちろんまだ怒っている。みゅーには約束も信用も裏切られたと思っている。だけどあのとき本気で絶交する気なんてなかった。お前に約束を守らせるために仕方なく引き合いに出しただけ。あの時のみゅーは俺と一緒にいることに躍起になっていたから必ず守ってくれると思っていた。今は本気ではなかったとしても安易にあんなこと言うべきじゃなかったと反省している」

「えっ! そうだったんだ。あの時はショックでどうにかなりだったから……。すぐに飛び出してしまって、その後は怖くて顔を見る勇気すらみゅーにはなかった。そんなことなら勇気出して戻ってれば良かった……」

 

 これを聞いてレインはさらに続けて言った。

 

「だったらまた一緒に旅をしよう。次はジョウト地方とかどう? まだ行ってないだろ?」

「レイン……嬉しい、本当に嬉しい。じゃあね、みゅーからもお願い」

「なに?」

「私のこと……愛してほしい。今度こそ私を受け入れて!」

「っ……それは……」

 

 レインにはわかっていた。この言葉への返事の仕方によって、今後の2人の運命は大きく変わってしまうと。

 

 レインはとっくにわかっていた。みゅーに会う前から全てわかっていたのだ。どんなに上手く説得しても、どんなに仲直りしようとも、結局最後にはこの壁に突き当たる。人とポケモンの種族の壁がある限り問題は決して解決しないのだとわかっていた。

 

 だが、わかっていても難しいことはある。次の一言……さすがのレインといえど、運命を握った次の選択の重圧を前にしてどうしても口が重くなり、何度も口を開きかけては閉じてを繰り返していた。

 

「レイン……」

 

 まっすぐレインを見つめるみゅー、その姿を目にして、レインはようやく覚悟を決めた……己を捨てる覚悟を。

 

「ダメだ! みゅーを受け入れることはできない」

 

 言い終えた瞬間レインに凄まじい衝撃が襲い掛かった。火花が飛び、視界が真っ白に染まってそのままレインは意識を失った。レインはめのまえがまっくらになった。

 

 ◆

 

 どれほど時間が経ったのだろうか。レインが目を覚ますと体の自由が利かなくなっていることに気づき、視界が戻ると周りの景色も一変していた。

 

「ここはっ!? まさかっ……ぐぅっ!!」

 

 体が締め付けられる感覚を前にレインはうめき声をあげることしかできない。みゅーの“ねんりき”だ。

 

「おはよう寝坊助さん。よく眠れた?」

「ねんりきか……くそっ、力が強過ぎる!」

「ねぇ、さっきみゅーはよく聞こえなかったの。もう一度、よーく考えて答えて。レインはみゅーが好き。だからレインは一生みゅーのモノになると誓う。そうよね?」

「何回も言わせるな。みゅー、いつまで現実から目を背ける気?」

「黙れっっ!!」

「ガハッッ!?」

 

 拒否した瞬間、またしても衝撃を受け、今度は壁と激突して息が詰まった。今度はさすがに何をされたのかわかった。とんでもない速さの“サイコキネシス”を受けたのだ。今まで見たこともないような恐るべき攻撃だった。

 

「なんでっ! どうしてなのっ!? 私の何がいけないの? どうすれば良かったの? どうしたら正解だったの!? こんなのおかしいっ! なんで私を受け入れてくれないのっ!? 種族の差が、私達を全て否定しているのっ!? あああぁぁぁっっっ!!!」

 

 みゅーはヒステリックに大声で叫んだ後、レインからバッグを“ねんりき”で取り上げ、渾身の力を込めてレインに“10まんボルト”を浴びせた。

 

「ぐぁぁぁっっっ!?」

「はぁ……はぁ……あぁ、ふぅー、少し落ち着いた。レイン、これが最後ね。もう一度…」

「ダメだっ」

 

 みゅーが言い終わる前にレインは言い切った。みゅーはピクリと眉を動かすが、今度は無表情になって淡々とした調子でレインに語り掛けた。

 

「ねぇ、知っているでしょ? 私がイッシュで何をしてきたのか。あれはね、全部この日のためにやってきたの。あなたへの恐怖を克服し、そして自分の手を血に染める覚悟を決めるために練習してきたの。もう私は優しいみゅーちゃんじゃない。立派な殺戮ポケモン。今私の機嫌を損ねるとどうなるか、賢いあなたならわかるよね、レイン?」

 

 ――殺すよ――

 

 最後に小さく、だがハッキリと聞こえる声でみゅーは言った。同時に黒く怪しい色合いに変わった眼差しで睨まれ、魂が縛られるような感覚に襲われた。

 

「くろい……まなざしっ!!」

「もう逃がさないからね……アハァ……でも、念には念を入れてこっちもしておこうかな。あなただけは油断ならないものね」

「これは……ふういん!?」

「獲物を捕まえるときの鉄則。あらゆる自由を奪ってからじっくりと追い詰める。あなたが教えてくれたのよ? これでレインは全ての技が使えない。つまり攻撃することができないってこと。ふふふ……すごいでしょ? これが私の負けない秘密。私を倒せる者なんてこの世にいないのよ。たとえチャンピオンだろうが私は片手間で倒せてしまう。それはレイン、あなたが相手でも同じ。さぁ、覚悟はいい? 徹底的にいたぶってあげる」

 

 みゅーは“ふういん”をした後さらに“ねんりき”でレインの体を縛った。優越感に浸りながらジュルリと舌なめずりをするみゅー。レインは追い詰められていた。みゅーの言う通り、レインは一切の攻撃手段を失い、さらに逃げることもままならない状態になっていた。当然ボールはパソコンの中なのでポケモンもいない。

 

 “ふういん”は特殊な効果を持つ技。自分が覚えている技を相手は使えなくなる。普通はポケモン毎に覚える技はバラバラでありこの技の実用性は低いと言わざるを得ない。特にシングルバトルではダブルバトルにおける“まもる”のような必須といえる技もないのでなおさらだ。

 

 だがこれをみゅーが使えば一転して凶悪な技に化けてしまう。ミュウはあらゆる技を習得可能なポケモン。その特性を活かし、ゲームでは習得機会のない技も含めてみゅーは全ての技を会得していた。それは全ての技を“ふういん”できることを意味する。相手は一切の技の使用が禁じられる。

 

 その上レインは“くろいまなざし”の効果で逃げる行動も封じられた。残された行動は僅かとなった。

 

 ひりつくようなプレッシャーがレインの肌を撫ぜる。みゅーが容赦する気がないこと、そして状況によっては殺しも辞さない心積もりであること、これらはレインとて言われるまでもなくわかっていた。イッシュの事件を聞いた時から、レインはこの状況を想定していた。

 

 みゅーの犯罪はレインを殺すための準備であることは薄々察していたし、今はっきりと憎しみを抱かれていることもわかった。

 

 そしてこの場所にもレインは見覚えがあった。グレン島、ポケモン屋敷の地下にあるひみつのへや。ここは外部から特殊な隔離をされていてたとえエスパー人間だろうが生半可な力では絶対に助けには来れない。わざわざこんな場所を用意していることを踏まえれば計画的な行動であることは明白だった。

 

「いっつぅー、きっつい縛り方しやがって……1ミリも動けなくする気? 容赦のかけらもないな。でもな、みゅー。俺が何年お前と一緒にいたと思う? お前の考えなんざ全てオミトオシ。殺す気なのは言われなくてもわかってる。むしろわかってないのはみゅー、お前の方だ」

 

 ピクッとまた眉が動くが、みゅーは努めて冷静に答えた。

 

「わかってるなら、らしくないのはレインだよ。いつものあなたならウソでも、いや、自分の気持ちを曲げてでもいったんは私に従って、一時的に私を満足させてから殺そうとするはず。違う?」

 

 物騒だなぁ、と呟きながらレインは笑った。

 

「わかってるじゃないか。御慧眼」

「っ!! だったら、おとなしく私の言うことに黙って頷いていればいいのよ! それをなぜっ!」

 

 とうとうみゅーは沸点を超えた。対照的にレインは静かに答えた。

 

「どうでもいい奴が相手ならそうするさ。でも、お前にはウソをつきたくないし、自分の信念を偽る気もない。きっとお前は真っ赤なウソだとわかっていても満足したんだろうが……へへ、悪いな?」

「んっく、こんのォ……なんでそんなに頑固なのっ! どうあっても私を否定しないと気が済まないの?! ぐぅぅぅ、ニクイニクイニクイッ! レイン、あなたが憎くて仕方ないっ!」

「っし! 解けた!」

「しまった!? これが狙い!?」

 

 精神的に乱れたことでレインでも“ねんりき”を外せるようになった。拘束されてからレインはずっとこれを待っていた。しゃべりながらも頭は打開策を考え続けていたのだ。常人ならとっくに気絶しているはずの攻撃を耐えながら僅かな活路に勝機を見出す。レインの恐るべき力にみゅーは戦慄した。

 

「くらえっ!」

「みゅっ! けむりだま!?」

 

 なぜけむりだまを持っているのか……レインは緊急時に備えて常に護身用としてすぐ取り出せる場所に戦闘用の道具を仕込んでいた。特に今回は上着まで取られなかったことが幸いした。みゅーは完全に不意を突かれて動けず、精神の乱れで探知能力も落ちていた。

 

 みゅーは選択を誤った。レイン相手に“ふういん”は失敗だ。みゅーは“さしおさえ”を使うべきだった。

 

 “さしおさえ”は相手のあらゆる道具の使用を禁ずる。レインの強みは道具を駆使した戦い方。“さしおさえ”ならこれを完全に封じ込める。

 

 しょせん人間の力ではたいそうな攻撃などできようはずもない。ましてやみゅーとレインでは力の差は歴然。ならば警戒すべきは道具の使用だったのだ。

 

 けむりだまの効果でみゅーは攻撃できない。みゅーが動けないうちにレインは素早く態勢を整えた。レインはサーチを使ってみゅーの位置を正確に把握している。

 

「くっ、なんでレインは動け……みゅぅぅ、視てるのね」

「……ここだ!」

 

 みゅーが立ち往生している間にポケットに忍ばせたボールに手を伸ばした。手に触れたのは2つのボール。みゅー捕獲の最終兵器マスターボールと、かつてみゅーが入っていた思い出のモンスターボール。一瞬レインの手が止まった。だがみゅー相手に悠長なことはできない。レインが選んだのは……。

 




いよいよ最終ステージに突入!
申し訳程度のバトル要素を挟んだ話でした

レイン……バトルとかでは思い切りがいいのに女の子には未練たらたら……
悲しき人の性ですね
この状態で正しい判断ができるのかどうか
うーん……


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6.憎しみの果てに

 コロコロ……ポンッ!

 

 レインが投じた渾身の一投……選んだのはみゅーの入っていたモンスターボール。みゅーの力の前にあっさりと弾かれ、勢いよく出てきたみゅーはそのまま“ねっぷう”を飛ばして煙幕を振り払いその姿を現した。

 

「フフフ……何をするのかと思ってみれば拍子抜けね、おバカさん。私はもう完全に野生に戻っている。1年も経てば効力を失うのは当たり前でしょ? この私がおとなしくその忌々しいボールに収まると思った?」

 

 バキバキッ!!

 

 みゅーは“サイコキネシス”でモンスターボールを破壊してしまった。レインは顔を歪め、悲痛な表情を浮かべた。

 

「やはりお前はもう俺をトレーナーとしては認めてくれないのか……」

「ウフ、アッハッハッハ! なぁにー? もしかしてまだ私のトレーナー気取りだったわけ? まだ私と一緒に旅したいとか呑気な事思ってるんだ。……バカじゃないの?」

「くっ……」

 

 心底見下した表情で嘲笑されるがレインは何も言い返せなかった。調子に乗ったみゅーの言葉責めはさらにエスカレートする。

 

「笑っちゃうわね。ウフフ、これで万策尽きたみたいだし覚悟してね? あなたは一生ここに閉じ込められて二度と日の光を浴びることはないのよ。ずぅぅぅっっっと私と一緒。私のお人形さんになるのよ」

「人形……?」

「拒否は認めない。もうあがいてもムダ。ここに連れられた時点であなたは逃れられない!」

 

 デデンッ! ピコン……ピコン……ピコン……

 

 その時、レインのバッグから不安を掻き立てるような着信音が鳴り響いた。

 

「どこの誰がこんなときにっ」

「電話? 丁度いいわ。不運な電話の向こうの相手に泣き叫ぶレインのスクリームを聞かせてあげようかしら」

 

 ねんりきでバッグを引き寄せ、悪ふざけで電話に応じようとしたみゅーは通信相手の名前を見て顔を歪めた。その後黙って連絡を繋げた。

 

「繋がった!? シショー、シショー! ねぇどこにいるの?! わたしの声聞こえてるシショー? ねぇどこにいるのっ?!」

「ブルッむぐぅ!?」

(あなたは黙ってなさい)

 

 ブルーの声にレインが応えようとするがみゅーの“ねんりき”に阻まれた。そのままみゅーは通信を続けさせた。

 

「シショー、わたしそこら中探し回ったのよ! 船で行方不明になったって聞いて、すごい音がしたって言ってたし、とっても心配したんだから! 電話に出られる距離ならさっさと帰ってきなさいよ!」

「レインは帰らないわ……永遠にねっ!」

「えっ!? 誰っ!?」

 

 レインではなくみゅーが出て来てブルーは混乱しているようだ。電話越しでは声の主がみゅーであることには気づけないのだろう。ブルーはただ単純にレインでないことに驚いている。

 

「私はあなたのことキライじゃなかったんだけど……やっぱりダメ。あなたも殺すことにするわ。あなたがいけないのよ? 私とレインは惹かれ合う運命。なのにあなたがジャマをした。あなたは私の敵。運命に歯向かった愚か者には死んでもらう」

「ひっ!?」

 

 グシャバキッ……ギギギ……

 

 みゅーはそのまま電話を握り潰し、通信を強制終了させた。みゅーの小さな手に機械の部品が突き刺さり鮮血が滴るが、みゅーは気にも留めずありったけの力を込めてより強く握りしめた。

 

「みゅー、やめろ! 破片が血管の中に入ったら危ない! すぐにやめろ!」

「……フンッ! あなたと一緒にしないで。これぐらいねんりきを使えば……」

 

 破片はキレイに抜け落ち、傷口は“じこさいせい”によって一瞬で塞がった。圧倒的な力にレインは驚愕した。

 

「ここまで強くなっていたのか……」

「私が怖い? 誰を相手にしてるかいまさら気づいたの?」

「……みゅー、ブルーは関係ない。あいつは殺さないでやってくれ」

「っ!……黙って。レインがそんなことを言うならブルーは殺す。絶対に殺す。あれさえいなければレインは……」

 

 得意気な表情から一変、みゅーはレインを射殺さんばかりに睨みつけた。

 

「お前らあんなに仲が良かったじゃないか! あれは全部ウソだったのか? みゅー、どこまで堕ちるつもり?」

「それはっ……だって、レインが悪いんでしょっ!……あんただけには言われたくない!! あんたはブルーを庇うな!!……きーめた。これからレインはブルーのこと忘れるまで痛めつけてあげる。あなたは私だけ見ていればいい。早くあの忌々しい人間のことなんか忘れてね」

「がはっっ!?」

 

 再び“サイコキネシス”がレインを強襲。壁際に追い詰められた。みゅーは徹底的にレインを痛めつけた。

 

 “サイコキネシス”を何度も放ち、気絶すれば“10まんボルト”で強制的に叩き起こされる。みゅーの攻撃は苛烈を極めレインは限界を超えたダメージを受けていた。

 

「ひゅーっ、ひゅーっ……あぐっ、はぁ……はぁ……ふーっ」

「アハァ……レインみっともないね。床に這いつくばってヒューヒュー惨めな呼吸して完全敗北。簡単にみゅーに負けちゃってもう降参? よわっちぃね。ねぇレイン、どう? いたい? いたいよねぇ? でもね、私の味わった苦しみはこの程度じゃない。こんなもんじゃ済まさないからね。これから一生かけて償うのよ」

「くっ……ぐぅぅ!」

「イヒッ! あぁー、楽しぃー。レインいじめるの楽しくておかしくなりそぉー。あーあ、かわいそう。ねぇ、痛くってなんにもしゃべれないの? しゃべらないのはつまんないね。……あ、そうだ! ねぇレイン? 私も鬼じゃない。レインのこと助けてあげましょうか?……レイン、みゅー忘れてないよ。レインにはたくさん恩があるの。だから恩返ししてあげる。ねぇ、手当てしてほしい?」

 

 心配そうに優しく尋ねるみゅー。ハッとするほど昔と似ていた。やはりみゅーはみゅーなんだと感じられ、レインは思わずそれに縋り付いた。

 

「みゅー、やっぱり昔のままなんだな。良かった、戻って来たんだ……。みゅー、助けて」

 

 とうに限界を遥かに超えて、常人ならとっくに死んでいるほどの猛攻。みゅーの本気の攻撃を何度も受けて心も体もボロボロだった。そんなレインがありし日のみゅーの姿に縋ったとて誰が責められようか。

 

「いいよ。治してあげる。ごめんね、いたかったよね、許してほしいの」

 

 みゅーの手から波動のようなものがレインに出て、みるみる傷が治った。たった少しの介抱で何事もなかったかのようにレインの体は元通りになった。

 

「いいんだ。俺が悪かったから。昔のみゅーが戻るだけでいい」

 

 滅多に見せない涙を僅かながら浮かべ、笑ってレインは言った。そしてみゅーへ手を伸ばそうとするが、それは叶わなかった。

 

 グサッ!! グチュグチュ

 

 じんわりと下腹部が熱を帯び、しばらくしてそれは激痛に変わった。

 

「あがぁぁぁ!?」

「アハハハハハッ! バァーカッ! 許すわけないでしょ? それに言ったよね? あんたは一生ここで罪を償って、永遠に私の人形になるのよ。レインは私のオモチャなの!」

 

 みゅーは狂気に染まった笑い声を上げながら何度も何度もグサグサとレインに包丁を突き刺して、その上から何度も何度も先程と同じ技、“いやしのはどう”をかけ続けた。終わらない痛みの連鎖。これはみゅーなりの報復。みゅーがレインを追い詰める様は、レインがかつてみゅーに行った仕打ちと似通っていた。

 

「いぎぃぃ、いっ……うぶっ、ごはぁっっ!? はぁーっ、はぁーっ」

「あーあ、お口から血が漏れちゃった。内臓破れてるね。こんなにいっぱいみゅーにかけちゃってどういうつもり? ジュル……んみゅ、おいし。あぁ、レインの味がする。1年ぶりのレインの味、おいし過ぎておかしくなりそぉーっ」

 

 バタン!

 

 血を吐いて倒れこんだレインの口からはまだボタボタと血が流れている。いくら傷は治っても失った血液までは戻らない。意識は朦朧とし、精神的にもレインは苦しいはずだった。

 

 逆にみゅーは生き生きとこの行為を楽しんでいた。全身を返り血に染めながら、その血を甘美な蜜を吸うようにじっくりと嘗め回し、恍惚とした表情を浮かべた。

 

「みゅー……」

「ん? なに? 怒ってるの? それとも恐怖? ねぇいまどんな気持ち? ねぇ言ってみなよ。ほらっ、ほらほらほら! ふーっ……レイン、今とっても後悔してるんでしょ? 恩を仇で返されたんだもんね。悔しいよね。後悔するよね。ギアナでみゅーのこと封印しとけば良かったって思ったんでしょ? ねぇ、そうなんでしょ? なんか言いなよ。もしかしてもう口もきけないの?」

 

 みゅーはありったけの憎しみをぶつけた。みゅーにとって、レインは唯一の心の支えだった。その支えを失ってからみゅーを突き動かしたのはレインへの復讐心。憎しみの炎を燃やし続けることで生きる意味を見出していた。だからみゅーはひたすら憎み続ける。もう引き返せないほど深く墜ちてしまったみゅーはレインへの憎しみを貫き通すしかない。だから言わずにはいられなかった。

 

 ここでレインから恨みの言葉を聞けば、ますますみゅーは心置きなく復讐を遂行できる。みゅーはそれを期待していた。だがレインはみゅーの考えもしないことを言った。

 

「悪いけどな、俺は今の今までお前を仲間にして後悔したことはタダの一度もない。むしろ後悔しているのはお前の方だろ、みゅー?」

 

 憐れみを込めた目で静かに問い返した。間違ってもそれは裏切られ、痛み付けられ、這いつくばっている敗者の目ではない。遥か上から見下ろすような達観した眼差し。レインの行動はみゅーを激しく苛立たせた。

 

「違う! 違う違う違うっ! 後悔なんかしてない! ウソ……ウソばっかり言うな!」

 

 ドカッッ!! ビチャビチャッ!!

 

 みゅーに蹴り上げられて体を壁に強打しレインは再び大量の血反吐を吐いた。だがそれでもレインは屈しなかった。

 

「ウソか、ホントかなんて……わかってんだろ? 何をそんなに……焦っている?」

「あんた、まだそんな無駄口叩く余裕があるのね。十分痛めつけたと思っていたけど、まだ足りないみたい。頭おかしくなって気が狂うまでこの包丁で刺してあげよっか。これだといっぱい血が出て先に死ぬ方が早いかな。ジュルッ、あぁおいしぃー。どう、まだ痛めつけられたい?」

 

 ぺろりと包丁を舐めながら脅しをかけるが、レインは軽くいなした。

 

「好きにすれば。どうせ俺はお人形なんだろ?」

「ぐっ! 調子に乗らないでね。私、これでも気が触れそうになるぐらい頭に来てる。次舐めた口利いたらこの細首へし折ってうめき声も出せないまま即死させるよ?」

 

 レインの首を凄まじい握力で握りながらみゅーは冷たく宣言するが、レインは意に介さなかった。

 

「したけりゃ、勝手に、しろっ。する気もないクセに、そんなやっすい脅し文句を使うな」

「くぅぅぅ、こんのォーっ! 黙れ! 黙れ!」

 

 みゅーは怒り狂ってレインを蹴り飛ばし、そこから馬乗りになって自らの拳で何度も殴りつけた。顔の形が変わる程全力の“れんぞくパンチ”。何度もそうして、ようやく落ち着きを取り戻す頃にはみゅーの方まで息を切らせていた。

 

「ぎは……ずんだ?」

「フッ、ウフハハッ! そう、あくまでそんな態度を貫くつもりなんだ。抵抗する気はないのね。エヘッ、エへへへ。だったら好きにさせてもらおっかなぁ。ほら、顔も治してあげる。このままじゃせっかくのカッコイイ顔が台無しだもんね」

 

 再びキズを治し、さらに自分の体を密着させて押しつけるようにしてレインに擦り寄った。

 

「なんのつもり?」

「ふーっ。どう? この体もう大人になってるでしょ? 実はね、私のこのへんしんってあくまで人間になるためのものだからこの姿以外にはなれないの。だからこれは言うなれば第二のみゅー。この人間の私の体が、心の成長に合わせてそれに応えるように大きくなった。レインに好きになってもらうためにここまで大きく育ったんだよ? あの時あなたは子供だからダメだと言ったけど、これならケッコンもできるでしょ? 丁度あなたと同じぐらいの背丈だし、これなら文句ないよね?」

「人間の……第二のみゅー?」

 

 ミュウは人間とは違う。時間ではなく精神の成長に合わせて肉体も成長する。それは“へんしん”した人間の姿でも同じ。老いない体……生きることに飽いて成長を止めたみゅーは悠久の歳月を過ごすことになった。幼いまま凍り付いていたみゅーの心は燃えるようなレインとの出会いを通じて融かされ、その瞬間から再び時を刻み始めたのだ。

 

 永遠を生き運命を待つ幻の存在、それがミュウ。

 

「ねぇ、どうなの? 大人のみゅー、抱き着かれて興奮した?」

「……」

「あれれ? なんで黙ってるの? 本当に興奮してるの? こんなに痛めつけられて死にそうになっているのに?……フフ、みゅー知ってるよ。死にそうだから興奮するんでしょ? 死の間際、最後の命の輝き。みんな最後は必死になるからね。人間もポケモンと変わらないでしょ?」

「なっ!? それってまさかお前……」

「レインはどんな輝きを見せてくれるの?」

 

 レインはみゅーの急激な成長の理由を悟った。しかしレインは悲しむことはなかった。

 

「それで急に……。ならもうわかっただろ? やり方はどうであれ、これでもう理解できたはずだ。みゅーに必要なのは俺じゃなかった、ただそれだけのこと。これでもう心配いらないな……。みゅー、俺の事はもう忘れて自分の本当の家族を大切にしてあげて。みゅーは優しくて愛情深いから、みゅーの子もきっと同じようになってくれるよ……」

「ちょっと! いきなり何言ってんの?! 余計なお世話! というかなんで泣いてんのよっ! ぐぅ……うぅぅ、みゅーだってもちろんタマゴは欲しかった。いや、どうしても欲しかった! でもね、1つたりともそんなのできなかった! ホントは最初からわかってた。みゅーは……どうせみゅーはっ、出来損ないのっ、クズポケモンなんでしょっ!!」

「え、なんで? みゅーはへんしんが使えるはず……」

「理由がわかれば苦労しないっ! レインには拒絶されて、ポケモンからも相手にされない。私はこの世界から呪われてるのよっ!! この体も、せっかく成長してもただの持ち腐れ。だからせめて、レインとは結ばれて私は幸せになるの。みゅっ、みゅへへ……レイン、覚悟はいい?」

「どうせ俺は何もできない。好きにしろ」

「何よそれ。もっと喜んでよ。本当はみゅーが好きなんでしょ? ねぇ、やめて。そんな悲しそうな目をしないで。やめてよ……。うっ、うぅ……」

 

 とってつけたような楽し気な表情はすぐに消え去り、みゅーは泣き顔になってしまった。レインは静かにその様子を見つめていた。

 

「……」

「あっ、そうだっ。いいこと思いついた。レイン、取引しましょう? 力ずくでレインを服従させてもいいけど、それだとレインがかわいそうよね。私もレインに認めてほしい。だからレインが自主的に私のことを愛してくれるならずっと殺さないで優しくしてあげる。ちゃんと一生面倒も見てあげる。ね、悪い話じゃないでしょう?」

「悪いけど断る。別に無理して俺の面倒なんか見なくていいよ。もう俺に縛られるな」

「……じゃあ私なんでもしてあげる。お料理とか、けづくろいとか……ほらっ、レインがしてくれたこと……みゅーも、みゅーも全部するから。ダメなの? じゃあ欲しいものもなんでもあげる。レインの望みは全部叶えるから、何でもしてあげるから、それならいいよね?」

「聞こえなかったのか? もう俺に縛られるな。自由になれ」

「なんで? なんで、どうしてなの? わかんない。私がダメなのかなぁ。ミュウだから? ポケモンだから? それともミュウとしても出来損ないだから? こんなのウソよ、ありえない。こんなの、レインじゃない。いらないっ。いらないいらないいらない! もういい! 死んでっ! あんたなんか、生きてる価値もない! もう二度としゃべらないで!」

「ぐっ、がはっ!」

 

 “サイコキネシス”と“10まんボルト”がレインに襲い掛かる。意識が飛びそうになるのをなんとか堪えた。

 

「しぶとい人間。だったらこの包丁であんたの首をかっさばいて確実に殺してやる」

「!!」

 

 みゅーはレインを見下ろしながら包丁を振り上げた。いよいよという時になってレインの両目から涙があふれてきた。

 

「あ……アハッ、アハハッ! 泣いてるの? ねぇ今泣いてるの? 土壇場で怖くなったの? 私が本気になったのがわかったんだ。あーあ、あんなに強くて3つの地方を渡り歩いたのに、死ぬ前は惨めなもんね。ウフハハッ、やっぱりしょせん人間ね。この恐怖には抗えない。いくら強がってみてもいざとなれば体がすくむ! さいっこうにおもしろい。ねぇ、最後に言ってみなよ。死ぬのは怖い? 怖いんでしょ? ほら、言ってよ、早くさぁっ!」

「……あぁ、怖いよ。怖くて仕方ない」

「!?」

 

 みゅーは驚いて声も出なかった。恐ろしいものを見るような目でレインを見た。

 

「ウソでしょ? 怖くないの? なんで、あなた人間じゃないの? どうなってるの?」

 

 みゅーはレインが意地を張って最後までウソを言って強がりな姿勢を崩さないと思っていた。だからこそ念入りにオーラを見ていた。そのオーラが今はっきりと乱れた。怖いと口にしたにも関わらずだ。それはつまり恐怖を感じていないということ。みゅーは戦慄した。

 

 みゅーは今まで何度もポケモンを手にかけた。その全てが生の崖っぷちで見せる感情はたった1つ。例外はない。そのはずなのにレインはそれを破った。

 

「お前……視ていたのか。ごめんね、最後にウソついて」

「んなっ! そんなのどうでもいいでしょ!? なんで怖くないのっ!」

 

 みゅーは乱暴にレインを掴んで体を激しく上下に揺すった。あまりに強くしたため、レインのズボンのポケットから何かが落ちた。

 

 気になったみゅーが手に取るとそれは究極のモンスターボール、通称……

 

「まっ、マスターボール! そんなっ、なんで?! なんでこんなもの持っているの?! なんでずっとこれ使わなかったの! これなら確実に私を捕まえて、レインの言う封印ってやつができたはずでしょっ! 自分が死にそうな時に何を考えて……あっ、そういえばさっき一度ボールを投げられた。考えてみればレインがあのボールじゃダメなことぐらいわからないはずがない。だからマスターボールがここにある。ならなんで出し惜しみなんかしたの? ねぇ、どういうこと!?」

「出し惜しみじゃない。ハナっからそれを使う気はなかった」

「えっ、ホント……なのね。じゃあなんで用意していたの」

「正確には使うのをやめたと言うべきか。もちろんそのボールはお前を封印するため。計画した時はそのつもりだった。不意を突いて一発で仕留める予定のはずだったんだけどな」

「!」

 

 さすがに面と向かってはっきり言われるとみゅーも冷や汗をかいた。今みゅーは封印されていてもおかしくはなかった。いや、本来みゅーは封印されているはずだった。みゅーは内心レインのとんでもない隠し玉に感服していた。

 

「でも、いざみゅーの姿を見たら簡単に決心が揺らいでしまった。どうしてもお前を閉じ込めることはできなかった。最後にはわかってくれるって気がして……いや、そうやって願って希望に縋り付いていたんだ。甘過ぎるよな。お前の言う通り、俺は大バカだ。こんな情けないことをしたのは初めて。これで死んでも自業自得だ。諦めもつく」

「そんな……でもわかってたよね。私が本気だって」

「あぁ、わかってた。最初に見たときから薄々な。船でお前の頼みを断ったとき、俺はもう覚悟は決めていた。死ぬ覚悟を」

「みゅっ! ありえない……」

 

 一度死ぬ覚悟を決めた者は強い。全てを失う覚悟を決めれば、もう恐れるものは何もない。野心に満ちた頃なら絶対こんなことはできなかっただろう。だがみゅーと会ってその気持ちは変わってしまった。

 

「もういいだろ。殺せよ。憎いんでしょ?」

「まだよ! 先に聞きたいことには答えてもらう。いい? さっきウソついて後悔してるなら今度は正直に全部答えて。レイン、死ぬことは……怖い?」

「怖くないよ」

「ひぅっ! こんなことって……」

「俺は怖くないし、お前を恨んだりもしない。自分のせいだと思ってる。だからみゅーが罪悪感を覚える必要もない。俺の覚悟は決まってるから、もう殺していいよ」

「違う! 罪悪感を減らすためにこんなこと尋ねたわけじゃない!」

「何をためらってる? ひとおもいにすればいいだろ? このために今まで何度も同じことをしてきたんだろ?」

 

 しかしみゅーはふと思った。いくら死ぬのが怖くないとしても、それが早く死にたいということにはならないはずだ。生を諦めヤケになっているようにも見えない。むしろ焦っているようにみゅーは感じた。よく考えるとさっきウソをついた理由もわからず、泣いていた理由もはっきりしない。……死人に口なし? ハッとしてみゅーは気づいた。

 

「ねぇ、なんでそんなに早く死にたいの?」

「……」

「それにさっきウソついたのはなぜ? レイン、何か言いたくないことがあるんでしょ? なんで泣いてたの? 答えて!」

 

 レインが目を逸らしたのでみゅーはぐっと近づきレインの心臓に手を当てながらストレートに訳を尋ねた。みゅーはオーラの乱れを僅かに感じた。これは図星だという兆候。レインも心を読まれていることには気づき、逆に開き直った。

 

「……イヤだ。答えたくない」

「本当になんでなの? 死ぬのが怖くないなら何に対する涙なの? まさか……私?」

「!」

 

 ピクリと今度は体が反応した。間違いない……みゅーは確信した。

 

「私なのね。じゃあなんで? お願い、これであなたとは一生離れ離れになる。最後に何を思ったのか……みゅーに教えて?」

 

 みゅーの瞳にギアナにいた頃の面影を感じ、走馬灯のように今までの思い出が蘇る。とめどなく涙があふれてきた。レインにとっても辛い選択だった。レインは己を捨て、心までも捨てる覚悟だった。だが最後の最後、レインは自分を捨てきれなかった。

 

「最後に……本当は言いたかった。言っちゃダメだってわかってた。言えば永遠にみゅーを孤独にしてしまうから、もうみゅーを独りにはしたくなかったから、自分じゃみゅーと、うぅっ、一緒に……いてあげられないから、みゅーのために何もしてあげられないから……だから、みゅーの幸せのためだって言い聞かせて、ずっと我慢してきた。でも……ごめんね。昔のみゅーを思い出したらね、思い出しちゃいけないのに、わかってるのに、忘れようとしてた気持ちまで思い出しちゃって……もうみゅーと二度と会えないと思ったら、みゅーの顔が見れないって思っただけで、なぜか涙まであふれちゃって……。俺にはこんなこと言う資格ないんだけど、許して……。本当はずっとずっと言いたかった。……みゅー大好き。ずっと一緒にいたい。もうどこにもいかないで。本当はね……みゅーのこと、世界で一番愛してるよ」

「あ……あぅぅ……ううっ、みゅぅ、みぅ、ゅっ……!!」

 

 カランカラン……

 

 みゅーは包丁を投げ捨ててレインを抱きしめた。レインもゆっくりと抱き返した。みゅーに伝わるオーラは底なしの愛情。みゅーは目頭が熱くなるのを両手で抑えて必死に堪えようとしたが溢れる感情が止まらない。心の底から泣いていた。

 

 感情が爆発して、みゅーは涙が止まらない。嗚咽を漏らしながら延々と泣き続けた。2つの波が重なってシンクロする感情の揺れ幅は際限なく大きくなる。レインもみゅーも自分の気持ちを抑えられなかった。

 

 深過ぎた。レインの愛情はあまりにも深過ぎたのだ。自らの感情も命も、全てを犠牲にしてもなお、最後の瞬間までみゅーのことを思い、自らの死と引き換えに口を閉ざそうとした。ありあまる気持ちを抑えて苦しんでいたのはみゅーだけではなく、むしろレインの方こそより大きな苦悩を抱えていた。

 

 人には避けられない寿命がある。だがみゅーにはそれがない。愛ゆえにレインしか見えなくなればみゅーに未来はない。本当にみゅーを孤独から救うこと、それは絶滅したとされる同族のミュウにしかできない。レインはみゅーに本当の家族、ミュウの子供が生まれることを望んでいた。

 

 だが……すでにみゅーの運命は決した。

 

 真実の愛を得て、みゅーの気持ちはすでに愛を捧げるべき相手を決めてしまったのだから。

 




やっと分かり合えた!
でもまだ終わりません
問題の解決にはなってませんからね

みゅーの思いは報われるのか
この章の着地点はどうなるのか
色々楽しみながら続きを楽しんでください


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7.エスパー少女の願い

 みゅーは気持ちが落ち着いたのか、名残惜しそうにしながらも少し距離を置いてレインと向かい合った。

 

「みゅー……ごめんな、お前のこと不幸にしてしまって。みゅーには本当に幸せになってほしかったのに、俺が……こんなこと……」

「いいの! みゅー嬉しかった! みゅーに冷たかったこともケッコンしてくれなかったことも全部怒ってないよ」

 

 みゅーはブンブン首を振って答えるがレインは悲痛な表情を浮かべた。

 

「違う、そうじゃない。みゅー……わかってないんだな、お前がこれから背負う運命の重さが。これまでは辛い思いをさせてしまうと思ってどうしても言えなかった。でもこれ以上先延ばしにはできない。今はっきり伝えておく」

「え……どういうこと?」

「俺がみゅーとケッコンできないのはね、倫理の問題でもなければ、俺がポケモンと結婚したくないからでもない。お前にはそう思われるような言い方をしたけど、本当はもっと重い理由がある」

「なんでなの?」

 

 一度レインは言いずらそうに表情を曇らせるが、すぐにみゅーにしっかりと向き直ってしゃべり始めた。

 

「人とミュウでは寿命が違う。お前はこれからずっと生き続けるけど、俺は100年経てばもういない。そのうえお前にはもうミュウの家族はいないだろう? 絶滅したはず……だからな」

「うみゅぅ……」

 

 みゅーはうつむいて表情はうかがえないが悲しみのオーラをレインは感じとった。

 

「こんなこと思い出させてごめんね。……だからみゅーが独りにならないためにはミュウのタマゴを産むしかない。幸いみゅーは女の子だから同族のミュウが産まれるはずだ」

「それでみゅーにポケモンと一緒になれって……でも、レインだって100年は一緒なんでしょ?」

「……」

 

 レインは返答に窮した。みゅーが心配そうにレインを見ている。余計に返す言葉が見つからなくなる。レインはしばらく何も言えなかった。

 

「ねぇ、ちゃんと答えてよ。なんで黙るの? レインがそんな顔で黙ってるとみゅーすごく怖くて不安な気持ちになるの。お願いだから黙らないで」

「ごめん。……みゅー、落ち着いて聞いてくれ。実はな、俺はすぐにいなくなるかもしれなかったんだ」

「え……?」

 

 この時点ですでにみゅーは泣きそうな顔になっていた。

 

「シンオウでケリをつけるつもりだった。……本当はお前も薄々察してたんじゃない?」

「……イヤ。レインがいなくなるなんて絶対にイヤッ! ウソだよね? そうでしょ? レインー、レインー。みゅーやっぱりレインにいてほしい。死んでほしくないよぉ……ずっといてほしい……」

 

 レインはゆっくり深呼吸してからみゅーに応えた。

 

「なぁ、そういえばみゅーは人間になりたいって言ってたよな」

「ぐひゅ。……うん。だって、そうしたらレインと一緒に……」

 

 優しくみゅーの涙を拭いながらレインは話し続けた。

 

「実はね、俺も本当はポケモンになりたいって思ってたんだ。ずっとお前と同じミュウになりたかった」

「えっ」

「みゅーが好きで、幸せになってほしいから、できれば自分がそうしてあげたいと思ってた。ミュウになれたらずっと一緒にいてあげられる。だからミュウになって自分がみゅーのために傍にいてあげたかった。でもわかってしまったんだ。そんなことできはしないって。いつか自分が先にいなくなる。だからずっとはいられない。きっとみゅーにとっては一緒にいれる時間なんてほんの僅かなものだと思う」

 

 レインは表情こそ明るいがその目には大粒の涙が浮かんでいた。心臓が締め付けられるような気持になり、みゅーは叫んだ。

 

「そんなことない! みゅーが死なせないから! 絶対死なせない! レインはみゅーのこと死なせなかった。だから今度はみゅーがレインを助ける! レインはずっと一緒なの!」

「ありがとう。本気で言ってるのはわかる。嬉しいよ。でもどうしようもないことなんだ。本当は俺だってイヤなんだから……」

「レイン……」

 

 涙をこらえ、しばらくして落ち着いてからまたレインは言った。

 

「だからみゅーには同族の仲間が必要なんだ。ミュウにはミュウが必要。もし俺と一緒にいれば家族はできない。お前はバカだから俺のことが好きになれば他の誰も目に映らなくなる。俺が居なくなったらそれだけで辛く苦しい思いをすることになる。後にはひとりぼっちのみゅーだけが残る。そしたらみゅーはどうなるか……心配で」

「そこまで考えてたんだ。みゅぅぅ」

「別れっていうのは絆が深い程辛くなる。シンオウに渡った頃からずっと、実は俺もみゅーと離れ離れになることばかり意識してしまっていた。よくお前は何の気なしに俺に抱き着いたりするけどな、それが一番辛かった。お前の気持ちが全部はっきり伝わって、それなのに自分は全くその気持ちに応えられない。歯がゆいなんてもんじゃない……」

「レインを苦しませてたのはみゅーだったの? 全然気づかなかった」

「好きな子を不安にさせるわけないでしょ」

「レイン……全部、私の……みゅーのためだったの? みゅーのことだけ考えて……あっ」

 

 みゅーはようやく悟った。今までの行動全ての意味が理解できた。

 

(みゅーから嫌われようとしたのも、死んでしまおうとしたのも、全部みゅーの幸せのためなんだ。みゅーを人間のレインに囚われないようにするために、自分は死ぬつもりでみゅーを怒らせるような言い方をしたんだ。自分の心も命も全部みゅーに捧げて……本当はレインも一緒にいたいと思ってくれていたのにっ!

 みゅーが殺すって言った時も、みゅーに戻って来てほしくて、みゅーに幸せになってほしくて、みゅーを信じて危ないことをしたんだ。みゅーなんか倒すこともできたのにっ!

 レインがマスターボールを使わなかったのは、どれだけ悪いことをしても、やっぱりみゅーを不幸にはしたくなかったからなんだ。それなのにみゅーはレインに何度もヒドイことをしてしまった。レインは愛してくれたのにっ!

 みゅーが恩知らずなヒドイことしても、レインは一言も責めなかった。後悔してないって言った。レインは本当にみゅーを愛していた! どこまでもみゅーに愛情を捧げてくれた。みゅーは気づけなかったのにっ!

 レインは憐れむような表情をしていた。きっとみゅーの気持ち全部わかってた。最後までみゅーのことを気遣って心配していた。でもみゅーは気づけなかった。愛情を向けられていたのにっ!

 みゅーにタマゴができたら、レインは喜んでくれる。本当はみゅーを好きなのに、それでも喜んでくれる。みゅーはレインがブルーと仲良くするだけで嫉妬したのに、レインは笑って祝福してくれる。でもみゅーはわからなかった。レインの気持ち、理解できていなかった。本当にみゅーの幸せだけを祈っていてくれたのにっ!

 みゅーがどれだけ痛いことをしてもレインは全部耐えてくれた。みゅーのためならどんなことも受け入れてくれる。本当は悲しい気持ちでいっぱいのはずなのにっ!

 なんで自分が死ぬときに、殺そうとしてるみゅーのために泣いているの。どうして悲しくて仕方ないのに、最後までみゅーのために泣いてくれるの。レイン、レイン……そんなに思っていてくれたのね。みゅーは気づかなかったのに、世界で一番みゅーのこと……なのに、なのになのになのにっ!)

「わぁぁぁんんん!! ごえんなざい!! ごえんなざい!! みゅー知らなかったの! あぁぁぁぁ、なんてごとっ……」

「みゅー、いいよ。みゅーの全部が好きだから」

「レイン……うぐぅ、なんで、なんでなの。……ごめんね、ごめんね。一番苦しんでたのはレインなのに、レインの方が真剣に愛してくれたのにっ! ひうっ……うぅ、みゅぐっ。みゅー、バカだからなんにもわかんなくて、ずっと困らせてばかりで、それだけじゃなくて、最後には、レインのこと、ごっ、ごろそーとするなんてっ……ごえんなざい!!」

 

 泣き暮れてしゃくりあげるようになりながら、時々声も裏返ってみっともない有り様だった。でもレインには視えていた。まっすぐキレイなみゅーの気持ち。レインは愛おしそうにみゅーを抱きしめた。

 

「全部許すよ。オーラで伝わってくるこの気持ち……みゅーが今でも好きでいてくれて良かった。ありがとう」

「レイン……みゅーやっぱりレインのこと忘れられない。殺すことなんて絶対できない。レインのことしか考えられない……レイン、レインー」

「みゅー……そんなに泣かないで。ずっとそんな顔してたらせっかくの美人が台無しでしょ。ふいてあげるからじっとして」

「みゅ」

 

 そういうとじっと目をつむって動かずに待ってくれた。子供の頃と同じ反応。懐かしくなってレインはついお願いをしたくなった。

 

「よし、もういいよ」

「みゅふっ! ねぇレイン、なんか昔に戻ったみたいだね」

「……なぁ、お願いがあるんだ。ちょっと昔と同じような恰好に戻ってみてくれない? やっぱりみゅーにはワンピースが似合うと思うから」

「……レイン、本当にみゅーが好きだったんだね。みゅーね、これ全部レインに好きになってほしくてしたの。しゃべり方も無理してた。でも本当はみゅーもこの恰好あんまり好きじゃないんだ。ちょっと待ってね……ん、これでどう? レイン、みゅーかわいい?」

 

 レインが瞬きする間にみゅーは“へんしん”した。余計なものを全て取っ払い、以前と同じ服装に戻った。サラサラとキレイな青い髪がなびいてキラキラと光を反射させた。レインは嬉しさで心がいっぱいになった。

 

「あっ、すごい……やっぱりみゅーはみゅーだな。嬉しい……みゅー、すっごいかわいいよ」

「なにそれ、みゅーなんだから当たり前でしょ。みゅふっ、喜んでくれてみゅーも嬉しい。たくさん悩んでたのに、レインはいつものみゅーが一番好きだったなんて……それなら最初からそう言ってよ」

「今度からそうしようかな。あっ! なぁみゅー、ちょっと俺のバッグ持ってきてくれない?」

「いいけど、何するの?」

 

 テレポートしたバッグからレインはプラチナの指輪を取り出した。

 

「はっきんダマを見つけたから、指輪にしてもらったんだ。みゅーにあげる」

「えっ……えぇっっ!? ホントにみゅーでいいの? でもなんで? みゅーは家出してたのに指輪を用意してたの? あっ……これ、本当はブルーのなんじゃ……」

「そんなわけないでしょ? 正真

正銘みゅーのだよ。仲直りできたらあげようと思ってたんだ。自分が死んだらグレン達に渡してもらうつもりだったけど、直接渡せて良かった。左手出して。つけてあげる」

 

 レインの手の中にすっぽり収まってしまうみゅーの小さな手をとって、レインは指輪をみゅーの薬指にはめた。

 

「あっ! そこは……」

「イヤ?」

「でも、レインにはブルーが……」

「何回でも言う。一番はみゅーだよ。ブルーよりもみゅーの方が何倍も好き」

「そんな……こんなの嬉し過ぎる。みゅーは悪いことばっかりしてたのに、本当にみゅーを選んでいいの? すぐに怒って包丁突き刺しちゃうような悪いポケモンなんだよ? いいの?」

「そうだな。包丁グサリはできればもうしないでほしいな」

 

 レインがおどけるがみゅーは真剣な面持ちのまま尋ねた。

 

「みゅーがかわいいから、だから好きなの? レインいっつもかわいいよって言ってくれるよね。……本当はなんでなの?」

「なんでなの、か。正直かわいさはブルーと同じぐらいだと思うよ。どっちもかわいい。でも、みゅーの方が好き。みゅーはいつも受け止めきれないぐらいたくさんの気持ちを伝えてくれた。深い愛情を感じたから、それが嬉しかった。だからみゅーが好きになった。お忘れかもしれないけど、俺も一応エスパーなんだよ? みゅーの気持ちは一番よく知っている」

「みゅーぅ、エスパーで良かった。みゅーがエスパーだったのは、人の心を視るためじゃなくて、みゅーの大事な気持ちを伝えるためだったのね」

 

 みゅーの頬から涙が落ちる。でも表情は笑顔だった。

 

「みゅー、じつは提案があるんだけど、聞いてくれる?」

「なぁに?」

「今日は大変だったよね。みゅーが元に戻ってくれて良かったけど、お互い一筋縄じゃなかった。まず俺はみゅーに殺されかけて死ぬ覚悟もした。つまり、この命はもう拾い物だ」

「うみゅぅ、ごめんね」

「……いいよ。そして、みゅーも俺に封印されかけた。つまりみゅーも一度死にかけたようなもの。そうだな、みゅー?」

「でも、レインは始めからそんなつもりなかったよね?」

「いいから話を合わせて」

「みゅ?」

 

 ひそひそ声でレインが言うと首をかしげながらもみゅーも言うことを聞いた。

 

「とにかく、これでお互い捨てた命を拾ったも同然だ。そうだな?」

「う、うん」

「フフ……よろしい。ところで、人とポケモンじゃ結婚できないっていったの覚えてるよな?」

「う……わかってる。約束だってちゃんと覚えてる。でも……」

「一度死にかけた身だしハッキリ言うけど、俺がここでさ、例えばもし……お前なんか大っ嫌いだ!……って言ったら」

「……し、心臓止まりそうになった」

 

 レインの叫び声でみゅーはビクッと飛び上がった。冗談にしてはキツ過ぎるがレインはイタズラに成功した子供のように笑っていた。驚くべき神経の太さだ。

 

「おそらくお前は今度こそ大暴れで、最後には俺と一緒に水の都に心中自殺、ぐらいはやらかしそうだが、そこんとこ本人さんとしてはどう思う?」

「正直その通りね。次拒絶されたら耐えられない。でも、みゅーはもうレインのこと疑ったりしない。命をかけてみゅーを助けてくれたから、今度はみゅーが命を懸けてレインを守るの」

「頼もしいな。ありがとうね。それで、やっぱりもうみゅーを受け入れてあげないのはマズイよね。先のことを考えて今死んだら元も子もない。俺もできる限り長く一緒にいてあげるって決心もした。さっきはいなくなるかもって言ったけど、やっと決心がついたよ。絶対にいなくならない。長生きもしてあげる。イヤでもみゅーとはずっと一緒にいてやるからな」

「レイン、レイン……。ホント……なのね。みゅーどうしよう。嬉しくてまた涙出そう」

「ホントにバカな話だよな。結局一番大事なことに死にかけるまで気づけないなんて。先の事より、今を幸せに生きる方がよっぽど大事だってわかった。その思い出こそ先々の支えになる。そう思わない?」

「もしかしてレインの考えてることって……」

「これから先俺はしがらみを捨てて自由に生きるつもりだけど、みゅーはどうする?」

「みゅーも自由になる。もう好きにしたい!」

 

 飛びつきそうな勢いでみゅーはレインに詰め寄った。レインもみゅーを抱き留めた。

 

「俺の全部、みゅーにあげる。結婚しよう」

「あ……あぅあっ」

 

 みゅーは信じられない言葉を贈られ、頭が真っ白になった。みゅーの目からはとうとう我慢しきれず涙が溢れている。返事をしようと一生懸命頑張るが、パクパク口を開けるのが精一杯で言葉にならなかった。

 

「みゅー、この気持ち……受けてくれる?」

「みゅーー!! みゅーー!!」

 

 なんと言えばいいかわからなくなり、本能的に鳴き声でみゅーは答えた。歓喜に満ちた甲高い鳴き声。レインにはそれで十分。力一杯みゅーを抱きしめた。みゅーが落ち着くまでレインはそうしていた。

 

 顔を上げたみゅーは恥じらいながらも嬉しさをこらえきれない表情をしていた。

 

「レイン……あの、結婚するならしてほしいことがあるの。ずっとできなかったから…」

「いいよ。やっとできるね……誓いのキス」

「レイン……!」

 

 みゅーが言う前にレインが応えた。お互いゆっくりと近づき合い、そして……

 

「みゅー、好きだよ」

「みゅーも、みゅーもなの!」

「じゃあ、誓いのキスを」

「んーー!!」

 

 それは奇しくもかつてみゅーが“夢見た”光景。小さな蕾に過ぎなかったエスパー少女の夢が現実となって花開こうとしていた。

 

 徐々に近づいていく2人の距離。あと5センチ。ほら、もうあと少し……。

 

 5……

 

 お互いの吐息が重なる。目と目が合う。

 

 4……

 

 ギュッと目を瞑る。待ち焦がれた歓喜の瞬間に胸が高鳴る。

 

 3……

 

 暖かいオーラが重なり合う。同じリズムを刻み始める。

 

 2……

 

 奇跡の波長が重なり合う。2人だけの世界へ。

 

 1……

 

 とうとう1つになる。心も体も1つに……。

 

 0………………

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「もうっ! シショーやっと起きたの? いくらなんでも寝過ぎよ? しっかりしてよね! 今日はマスターズリーグの本部に行くんでしょ?」

「………………ブルー? なんで……ここは……?」

「まーだ寝ぼけてるの? もうっ、わたし先に行くからね」

「あっ、待って! ……ここはどこ? さっきまで俺は……」

 

 ブルーはレインの真上からしゃべりかけてきた。どうやらレインは横になって寝そべっていたようだ。ブルーは言い終わると本当にどこかへ行ってしまった。レインは混乱しながらも辺りを見渡した。上体だけ起こして辺りをよく観察すると、どうやらトキワにある池のほとりにいるようだ。ここで自分は寝転がっていたらしい。なんでこんなところに?

 

「眠りを覚ます、魔法の口づけ」

 

 背後からの声に驚いて振り返ると意味深な笑みを浮かべたみゅーがいた。子供姿のみゅー。……レインにはひどく懐かしく思えた。

 

 不思議なことに、みゅーの姿を見た瞬間レインは自然と自分のことを思い出し始めた。レインは今カントーにいて、ようやくポケモンリーグを終えたばかりなのだった。次はいよいよマスターズリーグと意気込んでいたところだ。

 

 なら、今までの出来事は全てユメ……?

 

「なぁみゅー、俺はずっと寝てたのか? ここでうたた寝していたみたいだけど」

「クスクス……お寝坊さん。長い長―い夢を見ていたようね」

「そうか……やっぱり夢だったのか」

 

 レインにとってあの日々は全て幻だったということになる。大変だったが嬉しいこともあった。残念なような、これで良かったような……レインは複雑な気持ちになった。

 

「レインはなかったことにするの?」

「え?」

「レインはなかったことにするの?……今見たその夢を」

「そりゃ、夢なんて何の意味もないだろう?」

 

 レインがそう答えるとみゅーはあからさまにがっかりした様子でため息をついた。

 

「はぁ~。レイン、エスパーのことなーんにもわかってないのね」

「ん? どういうこと?」

「エスパーの力は思いの力。思うことは現実になる。夢は思いを具現化したもの。だからムダな夢なんて1つもないの」

「思いの力……」

「そう。だから願うことが力になり、現実になるの。ほら、よく言うでしょ。夢見ることが全てのハジマリって。何の志もなければ何もなすことはできない。夢見ることが大事な第一歩……そうよね?」

 

 みゅーは時々ハッとするようなことを言う。レインは夢のことを思い出した。ミュウは長生きポケモンだと他ならぬ自分、レインが言っていた。それを信じれば意外とみゅーは大人なのかもしれない。もっとも、自分の夢が情報源なのでレインはたいして真剣には考えなかったが。

 

「わかったような、わからんような……だな。じゃあさ、お前がさっき言ったのは何だったんだ」

「なんのこと?」

「魔法の……口づけ」

 

 夢の最後が最後だっただけにどうしても意識してしまっていた。尋ねられたみゅーは嬉しそうな声を上げて、薄く微笑みながらレインの傍に歩み寄った。

 

「みゅうみゅー!……ねぇレイン、それって本当に夢だったのかな」

「え?」

 

 唐突な話にレインは驚くがみゅーは表情を変えずに話し続ける。

 

「レインのお話ではいつも現実で王子様が魔法の口づけをする。そしたらお姫様が眠りから覚める。そうよね?」

「まぁ、だいたいそうだな」

「みゅ。だから夢の中で口づけをされても眠りからは覚めない。まだ夢は終わらない。現実のキスがないとダメ……」

「どういうこと? 現実じゃないとダメって……じゃあ夢じゃないってこと? まさかっ! お前今ここでっ……」

 

 思わず口に手を当てるとみゅーにクスクスと笑われた。

 

「どうしたのレイン? これはあなたが聞かせてくれた作り話でしょ。みゅみゅ……顔、赤くなってるよ」

 

 みゅーの表情はイタズラに成功した子供のそれだった。レインはみゅーにからかわれていただけのようだ。

 

「なっ!?……みゅーーっっ!!」

「クスクス……でもね、願いが現実になるのは本当だよ。だから1つだけ、ちゃんと言っておきたいことがあるの」

「あっそう。なに?」

 

 恥ずかしさからぶっきらぼうに答えるレイン。それとは対照的にみゅーは真剣な表情でゆっくりとレインの心に刻み込むように言い聞かせた。

 

「思いの力はエスパーの源。だから願いは思うことで必ず現実になる。……エスパーの女の子にはね、不可能はないの。たとえそれがどれだけ困難で、レインが無理だ! ありえない! 不可能だ!……と思ったことであっても」

「それ……!」

「エスパー少女はどんな姿にも“へんしん”できる。なんにでもなれる。だからできないことはないの。だからお願い。……少しだけ、ほんの少しだけでいいから、みゅーのこと待っていてほしいの。今はまだレインに何もできなかった。でもいつか必ず叶う。だから待っていて……望むべき姿にへんしんできる、その日まで」

 

 頭が混乱していてまだ理解が追いつかない。レインが呆然としていると、そっとみゅーが寄り添って、ほっぺに柔らかい感触がした。

 

「約束……忘れないでね。大事な大事な約束。それまではこれで我慢しておいてあげるの。みゅみゅみゅ」

 

 レインの唇にちょこんと指を当て笑うみゅー。引きずり込まれそうになる魅惑のオーラ。レインは恥ずかしさをごまかすように立ち上がってふーっと息をついた。

 

 結局この夢は何だったのだろうか。ただの夢? エスパーの幻? それとも……みゅーのきまぐれ?

 

 なんとなくアナライズしてみたレイン。いつも通りのみゅーのステータス……。

 

 ミュウ Lv.55 きまぐれ

 

「えっ?!」

 

 見間違い? レインはゴシゴシと目をこすってもう一度発動し直した。

 

 ミュウ Lv.55 おくびょう

 

「なんだ……良かった」

「みゅみゅ……レイン嬉しそうね。ふーん……嬉しいんだ」

「あっ」

 

 レインは不覚にもミュウにアナライズすれば能力の使用がバレることを忘れていた。しまったと思ったがみゅーは二言三言小さく呟いただけで特に怒ったりはしていないようだ。レインはホッとして今見たことは気にしないでおくことにした。

 

「シショー、なにしてるのーっ」

「レイン、ブルーが呼んでる。早く行ってあげたら?」

 

 ずっと話し込んでいたせいかブルーが戻ってきた。いつもなら人の事はほっといてどこまでも先に行くが今回は違うようだ。レインは有難迷惑だと思った。

 

 みゅーは何気ない様子で早く行けと言うが、みゅーの本性……実はとんでもなく嫉妬深い一面がレインの脳裏をよぎる。レインは恐る恐るみゅーの様子をうかがいながら尋ねてみた。

 

「……俺がみゅーから離れて怒ったりしないの?」

「なんで怒るの?」

「それは、だってさぁ……」

 

 レインはあんまりにもあっさりした返事に戸惑ってしまう。みゅーは本当にどうしてかわからないという表情だ。少なくとも表面上はそう見える。

 

「みゅーはみゅーだよ? 今のみゅーがみゅーの全て。みゅーは離れただけで怒ったりしないでしょ?」

「……それ、さっきと言ってること違うくない?」

「みゅ~? 何のことを言ってるの? みゅーにはわかんないの。まだお寝坊さん?」

 

 みゅーは夢の内容を知っているとレインは思っていたが、この反応はわざとはぐらかしているのだろうか。夢が現実になるならみゅーの性格もそうなるはず。だが今の発言からは現実のみゅーがみゅーの全てであって、夢のみゅーがそこに入り込む余地はないというニュアンスに聞こえる。

 

「夢のみゅーと今のみゅー、どっちがホントなんだ?」

「みゅー? さぁ、レインが決めたらいいと思うの。みゅーには難しいことわかんない」

「本当にわからないのか?」

「知らないものは知らないの。何度言われても同じ。いくら言ってもムダなの」

 

 レインはすぐに気づいた。今の言い回しはレインがみゅーにこの世界に来た真相を問うたあの時と全く同じ。あの時は確かにみゅーは本当に何も知らなかったわけだが……狙って言ってる? だが偶然ということも十分ありえる。みゅーの言い回しは独特だから偶然似ただけかもしれない。

 

 レインはもっと追及したかったがこれ以上言い合っても水掛け論にしかならないだろう。

 

「もぉーっ!! シショーッ、まだなのーっ!!」

「ブルーはいつも元気ね。レインが行かないならみゅーが先に行くの。レイン、今からおいかけっこね。みゅみゅっ! はやくおいで」

 

 おいでおいでと手招きしながらみゅーが走り出した。みゅーはブルーと一緒になって仲良く一緒に駆けてゆく。みゅーはブルーと笑い合って満面の笑みを浮かべていた。……どうしてかレインはその光景を見て嬉しい気持ちでいっぱいになった。

 

 結局考えても答えはわからない。この幻さんには何を聞いてもはぐらかされそうだ……なら、今できるのは今日一日を精一杯生きること。……みゅーがいなくなるような、あんな悔いを残さないように。レインはそう思った。

 

「もぉーっ! ホントにまだぁー?」

「今いくよ」

 

 エスパーの力は誰にでも眠っている。だから夢は必ず叶う。それを願う気持ちがある限り……いつか、きっと。

 




みゅーのきもち編はこれで終了です
読後に爽快感を残してふーっと息をついてしまうような仕上がりを目指しました
上手くまとめたつもりですがどうでしょう
ベタといえばベタですけどね
ストンと気持ちよくオチがついていればいいなぁと思います

伏線がいっぱいあるので時間をおいてもう一度見返すと面白いかもしれません
色々なテーマを詰め込んだ章でもあります
その辺を感じて……感じない?




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マスターズリーグ編
1.エスパー少女は突然に


いきなりくると怖いですよね(意味深)


 突然始まった追いかけっこのせいでぜぇぜぇと息を切らせ、2人の少女の前で膝をついていた。不思議な夢に誘われ、現実から遠のいていくような夢見心地はすでにすっかり消えていた。

 

「お前ら、少しは加減しろ。大人気ないぞ」

「わたし子供だしぃ? それにちゃんと手加減してこうして待ってあげたじゃない。むしろシショーの方が体力なさ過ぎじゃない?」

「レインお疲れ?」

「違う! お前らがおかしいんだよ! どっからそんな体力が湧いてくるんだ。みゅーはともかく、ブルーは本当になんなんだ。スペックだけはムダに高いよな」

 

 ブルーは謎の腕力といいこの体力といい、この体のどこにこんな……ただでさえ手に負えなかったのが成長期でさらに進化しているようだ。もしかしていっつもバカみたいに食べるのはこのせいなのか?

 

「はいはい。褒めてもなんにもでないからねー。じゃ、早く行きましょう。まだ半分ぐらいの距離でしょ?」

 

 一度打ち上げのためにトキワに戻っていたのでセキエイ高原までそれなりに距離がある。まさかランニングすることになるとは思わなかった。

 

「ヒリューに乗るのは?」

「ダメよ。シショーは体力つけないと」

「みゅーも一緒に歩きたい」

「鬼か……」

 

 思わず嫌がらせかと勘ぐってしまうが、歩き出してからも表情は明るく2人とも楽しそうだ。案外ただの構ってちゃんだったのか。

 

 歩いている間はブルーと駄弁りながらヒマを潰した。最近あんまりしゃべらなかったからかブルーは嬉しそうだ。

 

「ねぇ、これから本部に行って何するの?」

「大したことはしない。まずは参加登録と、あとはルール確認だな。参加人数が違ったりするから微妙に異なる可能性がある」

「なんかすごい技とか作戦とか編み出したりしないの? シショーだったらさ、なんかポケモンの能力を上げる“すごいとっくん”とか知ってそう」

「んなもんあったら誰も苦労しないんだよ。だいたいなんでお前はいつもすぐにそういう裏技的なものに走ろうとする? もうするべきことはリーグ前に全部済ませたはずだ。いまさら新しくすることなんかない。やることなんてレベルアップさせるぐらいのもんだ」

「えぇー。そんなんで大丈夫? なんか特別なこともした方が良くない? マスターズリーグとっておきの連携技みたいな」

「ブルー……はぁー。わかってないな」

 

 思わずため息が漏れた。考えが子供っぽいな。実際子供なんだけどね。

 

「どういうことよ? わたしダメなこと言った?」

「大事な場面こそ基本が大切なんだよ。特別なことをしようと思えば余計にプレッシャーがかかったりするもんだ。あまり慣れないことはするもんじゃない。土壇場で秘められた力が目覚めたりすることは滅多にないんだから」

「えー。なんかシショーが基本とか言うの似合わない。いっつも変なことばっかりさせるクセに」

「アホウ! あれが基本なんだよ。世のトレーナーが基本すらできてないだけ。変な気を起こさないで、とにかく今はレベルアップに集中した方がいい」

「でもっ、なんかすごいことしないとバトルで勝てないじゃない!」

 

 なんだそりゃ。お前は毎回すごいことをして勝ってきたのか? ブルーだといきなり覚醒イベントとかないとは言い切れないのが恐ろしい所だが。

 

「逆だな。すごいことしないと勝てないようじゃその時点で負け。本番で100%力を発揮するだけでも難しいことなんだ。お前はいっつも実力以上の結果を欲しがって背伸びして空回りする。そのクセは直した方がいい」

「そんなこと言われてもさぁ。あーあぁー、シショーは難しいことばっかでわたしなんかにはわっかんないわねー」

「……わかった、いい機会だからちゃんと教えてやるよ」

「さっすが、そうこなくっちゃ!」

 

 一瞬で顔色を変えて調子のいいことをのたまいやがった。人を乗せるのが上手くなったな。乗せられる自分も大概だけど。

 

「お前はよく気負い過ぎて緊張するが、いつも緊張することに対してどうやって向き合っているんだ?」

「ん? 別になんにも考えないわよ?」

 

 ケロッとした顔で言われて頭が痛くなった。

 

「じゃあ今考えて。リーグ初戦も緊張してたのがバレバレだったぞ? そんなんじゃマスターに行ったら足元すくわれる」

「……でも、緊張しない方法なんてわかんない!」

「なら、なぜ緊張するか考えてごらん。そしたらその原因を取り除く方法を考えればいいよな」

「うーん……勝ちたいって思うから? でもなくすことなんてできるの?」

「俺は緊張するなとは言ってない。そもそも緊張しない人間はいないし、緊張っていうのは必ずしも悪いもんじゃないから」

「どういうこと?」

「ブルーの言ったのは正解だ。緊張ってのは勝ちたいから起きるもの。だから勝負に真剣な証でもあるからそれ自体は悪くない。ただ、その気持ちが負けたらどうしようとか、勝てるわけがないとか、後ろ向きな気持ちに変わると体がすくんで動かなくなる。だからそういうネガティブな気持ちを消せばいい。お前の場合なら『勝ちたい』が『負けられない』、『いいカッコ見せたい』が『カッコ悪いとこ見せられない』に変わって気負いになりダメになる」

「なるほど。で、どうしたらいいの?」

 

 思わず盛大にずっこけてしまった。今自分で考えろって言ったでしょ! ブルーって自立する気あるのか時々疑わしくなる。

 

「お前は自分で考えることも覚えろ」

「それって……シショーはもう教えてくれないってこと?」

 

 急に暗い表情になるブルー。なんでそんな顔になる?

 

「俺より強くなったら誰が教えてくれるんだ? 俺より強くなるって豪語したのは誰だっけ?」

「あ、そういうこと? あ、あははー! いやぁ、そんなこといわれると照れるわね!」

 

 今度は急に嬉しそうな顔に。表情豊かで楽しそうだな。

 

「緊張との向き合い方は人それぞれ違う。誰かのマネをすればいいという単純なことでもない。人により根本の原因が違うから当然だな。参考のために例を挙げれば、例えば負けるのが怖くて緊張するなら、割り切りを覚えればいい」

「割り切り?」

「どんなに勝ちたくても負けるときは負ける。だから負けは仕方のないものとして受け入れる。もちろん投げやりになるわけじゃない。最善を尽くしての負けは仕方ないと考えるんだ。だから余計なことは忘れてベストを尽くすことに全力を注ぐようにする」

「……」

「あと負けることを恐れないこと。結局負けたらどうしようって思うから手がすくむんだろ? そんなもん、負けてもどうもしないに決まってる。命取られるわけじゃないんだからヘッチャラだろ?」

「そりゃそうだけど、極端な考え方ね。それにわたしは負けたら死ぬ状況が何回かあったわよ」

「それなら負けても死ぬだけと思えばいい。要は気を楽に持てれば勝ちなんだよ。お前の場合はだいたい高望みし過ぎて負けるから、最初から負けて元々ぐらいで気楽に挑んで、負けたら全部シショーである俺のせいにでもすればいい。これなら気が楽でしょ?」

「ら、楽だけどさすがにシショーのせいにするのって弟子としてどうかと思うわね」

 

 さすがのブルーでも少しは良識があったんだな。なんだかんだ尊敬はしてくれてるみたいだし。

 

「思うだけならタダなんだから構わないさ。本人前にして口に出すのはバカだけどな。それぐらいの気持ちの奴の方が普段通りの実力を出せる」

「シショーって図太そうだもんね……それじゃあさ、シショーはどうやってるの? みんな緊張するって言ったんだからシショーも緊張したりするのよね?」

 

 興味津々でお耳ダ○ボのブルー。そんなに気になる?

 

「俺は単純だ。とにかく自信をつけること。自信っていうのはここぞの時に1番頼りになる。小手先の技術や精神論なんかよりよっぽど信頼できる」

「えー、なんか普通ね。もっとすごい方法とかないの?」

「ブルー、お前はこれまで様々な困難を乗り越えてきただろう。そのときお前を助けたのはなんだったんだ?」

「急に何よ。そんなこと考えたことない」

 

 今日初めて気づいたが、ブルーって自分のメンタル管理とか全く考えてないんだな。子供だし仕方ないけど、これからはプロとしてリーグトレーナーになるのだからその辺もしっかりしないといけない。

 

 元々強気なのに気分の浮き沈みが激しいのも気持ちの揺れを抑える術を知らないからなのだろう。いまさらになってブルーが心配になる。

 

「ブルーはどうにも土壇場で気負ったり、緊張したり、精神的に弱いのだと思っていたけど、案外メンタルコントロールが下手くそなだけなのかもな。もっと早く教えれば良かった」

「下手くそって……言い方ってもんがあるでしょ」

「お前さ、ギアナに飛ばされた時、真っ先に出したポケモンはなんだった? 最も付き合いが長くて強さに自信のあるポケモンを選んだんじゃないか? 違う?」

「そういえば……」

 

 ブルーはこの1年、場数だけは踏んできている。だからその経験は活かすべきだ。特にギアナを1人で生き抜いた経験は大きな財産になる。

 

「思い当たる節はありそうだな。人間最後に頼るのは自分の力、特にその中で最も自信のあるものと決まってる。土壇場になれば頭は真っ白、危なっかしい小技なんか使えない。自信がなければ失敗しそうで怖くなって臆した気持ちに負けてしまう。ここぞの勝負強さを支えるのは自分の力への信頼だけ。自信が持てれば負けることなんて考えないから変な緊張だってしない」

「……たしかにそうね。あの時は本当に極限状態だった。何も考えられなかったわ。たしかに、なんとなくわかったかも。でもどうやったら自信がつくの?」

「それは簡単。とにかく努力すること。努力に努力を重ねて、これで負けたらもう仕方ないと思えるぐらいに努力する。そしたら負けないよ。自信と表現すれば形のないものに思えるけど、結局人は形のあるものにしか縋れない。なんとなく自信があるみたいな曖昧な状態じゃ、生死を別つような場面じゃ紙切れみたいに飛んでいってしまう。努力と言うはっきりした証がお前の自信になり糧となる」

「シショーってやっぱりタマムシの頃からハードな人生送ってるのね」

「ほっといて。とにかくそういうわけだから、今はとにかく自信をつける意味でもレベル上げが重要なの。できることは全てやったと思えるまで徹底的にレベルを上げるのが今の最善の行動だ。わかった?」

「なるほど、これで上手く最初の話に戻ってくるわけね。シショーっておしゃべり上手よね」

「どうも」

 

 こんな調子でしゃべっているとみゅーが背中に乗っかってきた。顔を見ると眠そうにしている。

 

「レイン、みゅー眠くなったからここで休憩させて。何かあったら起きるから」

「ボールに戻る?」

「ここがいい」

 

 みゅーには興味のない話だったのだろう。なんかごめん。

 

 眠くても俺にはくっついていたいところはさすがのかわいさだ。みゅーの体重なんてほとんど感じないので好きにさせてあげた。ほどなくしてすぐにスヤスヤ眠り始めた。だが大して時間も経たないうちに目的地が近づいてきた。

 

「あ、そろそろ着くわね。みゅーちゃん間が悪かったわね」

「仕方ない。このまま寝かしておこう」

 

 セキエイ高原の頂、そこにそびえたつマスターズリーグ最高機関、リーグ運営本部。そこに俺達は足を踏み入れた。エントランスは吹き抜けになっており、そこには歴代の名立たるトレーナーの絵画や彫像が飾られている。厳かな雰囲気に思わず姿勢も正してしまうその場所は、トレーナーにとってはまさに聖地といっても過言ではない。

 

「なのにシショーって全然いつもと変わんないわね。もう少し感動とか、すごいなーとか、なんかそういう感想ないわけ?」

「来年になったら俺も飾られているのかなー。……ってのは冗談で、べつに自然体でいるようにしているだけで、けっこう雰囲気は出ていてさすがに総本山なだけはあるなーとは思ってるぞ。ほんとほんと」

「冗談の件がマジで、後半がウソくさく聞こえる。みゅーちゃんが寝てるし、オーラ読まれないからって祝勝会の時からウソばっかり言ってるんじゃないでしょうね」

「それは聞き捨てならないの」

 

 ガバリと背中のみゅーが起きた。いきなり耳元で声を出されてビクッとして驚いてしまった。

 

「みゅー!? いつの間に起きてたんだお前。起きるの早くない? そういやボールに戻らなくていいのか? バトルできないけど」

「今起きたの。みゅーは早起きだよ。ボールの中つまんないからレインといる。全然バトルしないし」

 

 お前はいつ特性が変わったんだ? いや、本当に“はやおき”なら助かるけどさ。

 

「別にいいけど、ボールの中にいないならみゅーはバトルがあっても絶対出れないからな」

「……いいもーん」

「言質とったり」

「え、何? ゲンチってなんなの?」

「シショー、大人気ないわよー。こんな子供相手に言質とか言わない」

 

 あんまりムダ話ばかりしているわけにもいかない。ブルーとみゅーは適当にあしらい、とりあえず受付に行くことにした。

 

「ようこそ、ここはリーグ本部受付です。本日のご用件は?」

「参加登録とルールの確認ってところですね。お願いできますか」

「では登録を行う間にご説明させて頂きます」

 

 登録は滞りなく終わり、説明も聞き終わった。多少ポケモンリーグとは異なる部分があったので整理しよう。

 

 ルールは同じ『公式ルール』が適用され、違うのはバトルの方式だ。

 

 まず参加人数がポケモンリーグの約半分、100人ちょいというところ。なので試合数は減った人数と同じ数減るので100程少なくなる。そのため日程は割とゆったりしていて、全部で7回勝てば優勝ということになる。

 

 トーナメント方式は同じだが毎回のシャッフルはなし。つまり事前に相手は把握できる。

 

 さらに大きな違いとしてマスターではフィールドを選べるらしい。具体的には選手は全員参加する時点で1つフィールドを決めて申請し、バトルフィールドは互いに選んだフィールドが両方反映される。例えば炎使いと水使いなら炎と水の2つの性質を併せ持つフィールドになる。なおトーナメント中に自分のフィールドを変えることはできない。

 

 ルールがここまで違うのは恐らく求めている能力が違うのだろう。参加者の顔ぶれの入れ替わりがより激しいポケモンリーグではあらゆる状況、相手に対応する普遍的な強さが追及される。一方マスターズリーグでは人数も入れ替えも少なく互いに手の内を知り尽くされた中で勝利する強さが求められる。再戦の機会が多くなり研究して対策を立てる重要度は跳ね上がっているだろう。

 

 俺にとって最も頭を悩まされる問題はフィールドの選択だ。タマムシでワタルがドラゴンタイプばかり使ってチャンピオンになっていると聞いた時からずっと不思議だった。だがここに来てなぜタイプ統一がメジャーなのかがようやくわかった。やっと謎が解けた気分だ。

 

 タイプがバラけているとフィールドの選択はかなり難しく、上手に恩恵を受けにくい。例えば自分の場合、グレンに合わせてほのおタイプを選べばアカサビの弱点が重くなる。途中で変えられないので対策もされやすい。俺にとってはかなり厳しい。

 

 悩ましいので一旦フィールドの選択は保留して、まずは別件で確認したいことを尋ねた。

 

「ここの設備はバトルフィールドを含め自由に使えるんですよね?」

「ええ。今あなた方のトレーナーカードはマスターランクに更新されています。それをご提示頂ければ自由にご利用頂けますよ」

「ならここでフリーの対戦をしてもいいんですね? 外と同じようにバトルできて、特に制限もないですよね?」

「ええ、構いません」

 

 ……よし、勝った。

 

「シショー、何する気?」

「大したことじゃない。ちょっとした余興をするだけ」

 

 にんまりと笑みを浮かべると聞き覚えのある声が背後から耳に入った。非常に心当たりのある声だ。

 

「おもしろそうな話をしているわね。私にも聞かせてくれないかしら、レインくん?」

「人間マルマイン……!」

 

 背後から感じる圧倒的なオーラと受付の人の口から漏れた不吉なワードで心当たりは確信へと変わる。イヤイヤながら振り向けば、予想通りの人物が長い髪をかきあげながら立っていた。顔から笑顔が消え去り、自分でも表情筋が引きつるのがわかった。

 

「ナツメ……! どうしてここにっ!」

「優勝したから祝辞の1つでもくれてやろうっていう私の配慮がわからないの?」

「そんな気はさらさらないって顔に書いてあるぞ」

「あら、ちゃんとあなたが約束を守るか心配してリーグを見守っていてあげたのに、その私に対して随分な言い草なんじゃない? レインくん、一応聞くけど約束……まさか忘れたわけじゃないわよね? 本気で忘れているなら……」

 

 俺がお前の行動なんて知るわけないだろ! 見守ってくれと頼んだ覚えもない! だがそれよりもナツメが怪しい動きを見せたので慌てて約束について答えた。

 

「いや覚えてる覚えてるっ!」

「なら久方ぶりに私と再会したのだからもっと喜びなさい」

 

 相変わらずの高飛車っぷりだ。そのくせ、きっちり『くん』呼びは継続されていて逆に怖い。本気過ぎだろ。あーもう突然過ぎて頭が混乱する。

 

 いや待て冷静になれ。そうだ、よく考えればおかしいじゃないか。ナツメはなぜここにいる? ありえないはずだ。あいつは俺のことは予知できないと言っていた。油断したところを不意打ちするのが当たり前の感覚になっていたがこれは明らかにヘンじゃないか?

 

「ナツメ、なんで俺の居場所がわかった? 予知はできないはずだろ?」

「別に難しいことじゃない。確かにあなたのことはわからないわ。でもね、あなたの横にいる子の未来は簡単にわかる。それに参加登録のために一度は必ず受付に来るはずでしょう? だから予測は難しくないわ。……それでも予知できないということがこんなに不安だなんて思いもしなかったけどね。全く、あなたは罪な人」

 

 予知できないから対戦する時まで安全と高を括っていたが甘過ぎたな。フルアタノーキンのイメージが強過ぎてナツメを舐めていた。なんで俺に関することにはよく頭が回るんだっ。

 

「じゃあ未来が変わらないように俺とは関わらなければいいんじゃないか?」

「イヤ! 絶対に友達にする。言っておくけど、逃げようなんて思わないでね。そうなれば実力行使も辞さない。……こんな風にね!」

「待て! 早まるなっ! この流れはやばいいいいだだだだだだ!!!!」

 

 ナツメ十八番の“ねんりき”攻撃! エスパータイプにはこうかはいまひとつになるんじゃなかったのか?! 俺ってエスパータイプってことでいいんだよな?! それとも半減してこれなのかっ。ならエスパーじゃなければ耐えられないわけだ……こんな時にイヤな事実に気づいてしまった。

 

 こいつは攻撃を耐えている俺のことをいじめがいがある人間だとか思ってそうだ。友達になる気が本当にあるのか疑わしい。

 

 このままだと前回の焼き直しだ。またもやエスパー地獄の幕開け……そう諦めた俺に救いの手が差し伸べられた。……救世の美神みゅーちゃんっ!

 

「みゅみゅ、やめてっ」

 

 パリン!

 

 超能力が解除された。力ずくで攻撃を相殺したようだ。みゅーの“ねんりき”も負けていない!

 

「私のねんりきを破った……?  あなた何者?」

「みゅーっ!!  助かったぁ」

 

 みゅーはナツメとの間に割って入って俺を守るように立ちはだかった。この時のみゅーの頼もしさは筆舌に尽くしがたいものがあった。もはやみゅーの後ろ姿が輝いて見えた。

 

「レインをいじめないで……これ以上するならみゅーが相手。レインはみゅーが守るの」

「みゅー、俺のために……でも相手はあのナツメだぞ、大丈夫か?」

「みゅ、任せて。みゅーはあれより数段強いの。それに誰が相手でも全力で守ってあげる。レインはいつも優しくしてくれるから」

「みゅー……ありがとッ!」

「うみゅーっっ!? し、幸せ……」

 

 感極まって反射的にみゅーを後ろから全力で抱きしめていた。それ以外の行動が選択肢から消えていた。ナツメの態度が酷過ぎるのでみゅーの優しさが際立って輝いて感じられる。

 

「大げさね。今のはほんの挨拶代わりよ。本気で手首を折ろうってわけじゃないわ。……レインくん、いつまでそうやって抱きついているつもり? いい加減見苦しいわよ。あなたは誰にでもすぐに抱きつく変態なの?」

「うるさい! これは仲がいい友達同士のスキンシップなんだよっ。……あっ、ごめん。ナツメが知るわけなかったか」

「はぁ?」

 

 プルプル少し体が震えたが“ねんりき”はかけてこない。みゅーちゃんガードがかなり効いているようだ。

 

「あれ? ホントにみゅーには勝てないみたいだな。お得意のねんりきはかけないのか、ナツメ?」

「覚えてなさい……!」

「シショー、みゅーちゃんがいると急に強気ね……」

 

 みゅーとの抱擁に水を差されてとっさに言い返したが、思いのほかナツメの弱点を突いていたようだ。他人……というか俺が誰かとくっついているのは腹が立つらしい。仕返ししたい気持ちとナツメを出し抜いた優越感で少し調子に乗ってしまった。

 

「おっかしぃなぁ。見苦しいとか言ってた奴がマジマジとこっちを見てる気がするなぁ」

「嫌味な人間ね。何が言いたいの?」

「つんけんしちゃって。本当はもっと見たいんだろう? 自分もこんなふうにされたいなぁーって思ってるんだろ?」

「レインくんは一度死んでみたい、そういうことかしら?」

「素直じゃないなぁ。本心ではこうやって肌をぴったり合わせて全身で幸せなオーラを感じてみたいんでしょ?」

 

 ギューッとみゅーを抱きしめながら顔もぴったりと寄せ、全身くっつけて仲の良さを最大限アピール。そしてみゅーにはお礼も込めてありったけの愛情を込めた。

 

 こっちを見るナツメの表情は全く変わらないがそのオーラをなんとなく感じ取れ、驚くべき程の凄まじい怒気を感じる。へへーん、それでも怖くないもんねー。

 

「みゅぅぅぅ~~」

「え?」

 

 顔が真っ赤になりグルグル目を回してみゅーは気絶していた。

 

 (。´・ω・)ん?

 

「覚悟はいいかしら?」

「あの、ナツメもおんなじように抱っこしてあげるからそれで手打ちって言うのは?」

 

 まさに起死回生の一手。自分でも冴えていると思った。

 

「死ねっ!! 変態死ね!!」

「シショー、ご愁傷様」

 

 レインは みぎてが うごかなくなった

 




バトルに関するところはややテコ入れがあります
具体的には攻撃を交換先で受けられ、死に出しは無償降臨できるようにしました
つまりゲーム通り!
なのでそれに合わせて辻褄合わせで一部本編の内容が変わってます
そんなに気にする方はいないと思いますが念のためここに記しておきます


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2.気をつけろ うまい話にゃ 裏がある

「それで結局ナツメは何をしにきたんだ?」

「シショー、今の全部なかったことにするんだ。ある意味すごいわね」

 

 気絶したみゅーを回復させて動かなくなった右手を治してもらい、不幸な事故の記憶は闇に葬り去った。

 

「最初に言ったでしょ。おもしろそうな話が聞こえたから来たのよ。たしか余興と言っていたかしら?」

 

 俺を探してここに来たってさっき自白したよな? まともに答える気がないらしい。

 

「よく言う……。さっき俺が言ったのは大したことじゃない。本戦までまだ時間があるだろ? その間にマスターの先輩方に遊んでもらおうと思っただけだ。そうだ、丁度いいし今から俺とバトルするか? 俺が相手でも不足はないだろ?」

「お誘いは嬉しいけど遠慮しておくわ。楽しみはとっておく主義だから。せっかく未知の相手とバトルできるのだから今戦ってしまったらもったいないでしょう?」

 

 意外だな。二つ返事で乗ってくると思ったのに。約束の方が大事ってことか。

 

「つまみ食いはしないと。ま、別にいいけど。それじゃあ俺はバトルに行くから失礼する」

「待ちなさい。それなら私もついていくわ。あなたのバトルを見させてもらう」

「お前、今楽しみはとっておくって言わなかったか? どっちなんだよ?」

 

 呆れている俺に対してナツメは淡々と答えた。

 

「バカじゃないの? リーグを見ていたからレインくんの手持ちはすでに知っている。自分の手の内を見せたくないだけ。私は一方的に有利になるのだから見ない理由がないわ」

「ぐっ、たしかにそれはそうだけどさ……」

 

 したり顔で見下ろしてくるナツメ。無表情なのに腹立つ顔に見えてくるなぁ。正論なのはわかるがなんか釈然としない。それにむざむざ偵察すると公言してる奴を連れていきたくないな。

 

「早く向かわないの、レインくん?」

「はっきり言ってナツメには来ないでほしいんだけど」

「私がどうしようと勝手でしょ? とやかく言われる筋合いはない。その子にも私の行動まで止める権利はないわ」

 

 何も言い返せない。みゅーもさっきので好戦的な態度は消え去っているし余程のことがなければ助けてくれなさそうだ。みゅーはさっきから恥ずかしいのか怒ってるのか嬉しいのか何とも言えないよくわからん表情で黙ってこっちをじーっと見ている。

 

「くっ……だったら好きにしろっ」

「シショー、ナツメさんの前だといいとこなしね」

 

 うるさい!

 

 ◆

 

 建物の奥へ進むと屋外のバトルフィールドに繋がっているようだ。着いたらそこではすでに大勢のトレーナーが集まってトレーニングや技の練習などに勤しんでいた。アスレチックやサンドバッグみたいなものとか育成に使えそうな道具などが色々置いてある。バトルを行う者もちらほらいた。

 

 リーグでは手持ちを晒す者はいなかったがここでは平気で外に出している。おそらく見られても問題ないほどに研究が進んでいるのだろう。

 

 ついでとばかりにレベルをチェックしてみた。レベル50超えもゴロゴロいる。ポケモンリーグではほとんど見なかったが、さすがにマスタークラスだと格が違うようだ。だが、こうなるとジムリーダーは50未満しか使わないのはかなり弱いな。どうなっているんだ?

 

「驚いたかしら? 優勝して大見得切っていたけどさすがにレベルの違いに気づいたようね」

「……それもあるがジムリーダーってレベル低かったんだなと思って。基本50以下だろ?」

「バカなの? ジム戦は手加減しているに決まってるでしょう? 全力なら手持ちはほぼ全員50以上よ」

「ホントかよ? でもたしかに……あれ?」

 

 そういえばランク8が全力だなんて誰が言ったんだ? なぜかずっと思い込んでいたがよくよく考えると情報源は人から聞いただけで確証はないような。たしか言ってたのはゴウゾウ……いや違うな……。

 

「頭エリカ……!」

 

 とんでもない勘違いに気づき呆然としていると周りが騒がしくなってきた。何事かと思うがその視線は全て自分達のいる方へ注がれているようだ。

 

「もしかしてわたしってけっこう有名人?」

 

 ブルーが調子に乗って謎のポーズを決め始めるがナツメの言葉ですぐにうなだれた。

 

「あぁ、そういえば私がここに来るのは5年ぶりぐらいだったかしら」

「お前かよ……」

「わたしじゃないのね……」

 

 ランクの話の時、ゴウゾウがマスターランカーでもリーグに出ない奴がいると言っていたがよく考えるとナツメのことを言っていたんだな。

 

 よく耳を澄ませばさっきも聞いた人間マルマインとかいう不穏な言葉が聞こえてくる。ナツメ、お前は昔ここで何をしでかしたんだ。

 

「いつまでボケーッとしているつもり?」

「……それもそうだ。おい、誰でもいいからここで俺とバトルしないか?」

 

 またざわつきだした。なんなんだ? 様子を見ているとエリートっぽいのが出てきた。

 

「君、顔は覚えているよ。今年優勝したルーキーだろ? 勘違いした口をきいていたが、どうやら本気で言っていたようだね。ここには君より弱いトレーナーはいない。格下のトレーナーと練習する者もいない。練習相手が欲しければここで実績を残してからにしたまえ」

 

 言ってくれるねぇ。予想しなかったわけじゃないけどな。リーグの時もこんな感じだったからこうなるのは最初からわかっていたし。むしろあの発言はここの連中を焚きつけるのが目的。こうなってもらわないと困る。

 

「そうか。俺じゃ弱過ぎて練習相手も務まらないと? そこまで腕に自信があるなら話は早い。要はバトルする理由があれば勝負するんだろ? あんたらは負けないんだから」

「どういうことかな?」

「これで足りる?」

 

 腰のホルスターから100万円の札束を取り出して見せた。あらかじめ用意しておいたものだ。

 

「……賞金か」

「そういうこと」

「ここじゃ冗談でしたは通じない。わかっているのか?」

「もちろん。こうでもしないとバトルしないでしょ? これはほんの気持ち。あんたらからすれば新人相手じゃ経験値も少ない上に無知な相手に戦術を晒すだけ損。でも賞金があれば断る理由はないはずだ。必ず勝てる勝負なんてそうそうない。世間知らずのルーキーを倒すだけで賞金ゲット。これを逃すのはあまりにもバカげている。そうは思わない? あんたらにとったら端金かもしれないが、1回の授業料としては十分だろ? 後輩のためと思って、1つ手合わせ願えますか、セ・ン・パ・イ?」

「負けて後悔するなよ。いいだろう、受けてあげるよ」

「勝てるなんて最初から思ってませんよ。ただ、もし俺が勝ったらちゃんと同額払ってくださいよ? 一応賞金という形でバトルしますからね」

「何度も言わせないでくれ。……調子に乗るな!」

 

 オッケーイ。言質もしっかり取れた。ポケモンバトルなら合法的に賭博オッケーの国だからな。これを利用しない手はない。ここにいる奴ら全員毟れるだけ毟ってやる。

 

 ざわざわ……

 

 ギャラリーが集まってきたな。どうやら俺はかなり悪名を広げていたらしい。こんなこと半分ゲームだと思ってヤケにでもなれなきゃとてもじゃないができないな。

 

 ナツメ達は遠巻きにこっちを眺めながら何かをしている。ナツメの周りはやけに人が集まっているな。あいつら何をしているんだ? マルマインだかなんだかでさっきまで敬遠されていたはずだが……。

 

「レイン、みゅーは?」

「お前は俺の後ろで応援していてくれ。バトルはなしって言ったよな?」

「ぶー」

 

 不満そうだが仕方ない。みゅーには大事な仕事があるからメタモンにするわけにはいかない。

 

「じゃあ始めようか。ルールは?」

「3体勝負、入れかえアリでどう? 6体は多いでしょ?」

 

 相手は二つ返事で了承し、すぐに戦いの火ぶたが切って落とされた。

 

「いいだろう。ここでその鼻っ柱をへし折ってマスターランクの洗礼をくれてやる。いけっ」

「グレン!」

「コココケッコー」

「ヴォウ!!」

 

 ドードリオ Lv.48 130-137-87-69-77-125  @するどいくちばし A−1

 グレン   Lv.50 163-178-96-104-94-147 @しあわせタマゴ

 

 技 1かえんほうしゃ 

   2フレアドライブ 

   3しんそく 

   4かみなりのキバ 

   5まもる

   6みがわり 

   7オーバーヒート 

   8こうそくいどう 

   9かえんぐるま 

  10おにび

 

 ―でたっ! ハヤブサのタイゾウの十八番、速さ自慢のドードリオ! ルーキーじゃあいつの速さには敵わないな―

 

 なんとなく聞き覚えのあるヤジだな。だが能力は大したことない。“オーバーヒート”と“しんそく”でもっていけるな。

 

「先手は貰った! まずは最速のみだれづき!」

「ラッキー、7!」

 

 よほどその技に自信があるのだろうがリーチに差があるからグレンが有利。相手の攻撃が届く前に“オーバーヒート”が決まって相手は吹っ飛んだ。爆炎がフィールドもろとも焼き焦がす。さすがの威力だ。

 

 普通ならこっちの指示を聞いて行動を変えてもおかしくないが、あいにく番号じゃ判断できない。想像以上に楽に勝てそうだ。……余裕だな。

 

「トライアタックを飛ばせ!」

「トドメだ。3」

 

 攻撃を軽やかに躱して“しんそく”が決まる。相手はグレンのスピードに全くついてこれていない。やっぱりサシで戦うなら“しんそく”持ちのグレンが安定する。だが能力を下げたままでは戦いにくい。一旦下げてユーレイで繋ぐか。

 

「よし、もど…」

「いけ! げんしのちから!」

 

 あいつ、いつの間に次のポケモンを!? 気を抜いていて出すところが見えなかった。しかも弱点タイプ持ちのプテラか。入れ替えが尋常でなく速い。……速さ自慢の意味はき違えてないか?!

 

「5」

「ゴォォォウウウ!」

 

 げっ! “まもる”で防いだのはいいが相手の能力が全部上昇した!! 見るからにプテラに力がみなぎっている。“まもる”しても追加効果は発動するのか!? 話が違うぞ!! これじゃ余裕どころか暗雲垂れこめてるじゃねぇか。余裕だと思ってからまだ1分と経ってないぞ。

 

 この手際の良さでは相手の能力をゆっくり見るヒマもないし、あー次から次へと……。

 

「追撃だ! じしん!」

「ユーレイ!」

 

 ユーレイ Lv48 129-78-74-190-70-155 @しあわせタマゴ

 

 技 1シャドーボール

   210まんボルト

   3きあいだま

   4さいみんじゅつ

   5まもる

   6みがわり

   7あやしいひかり

   8みちづれ

   9ゆめくい

  10ちょうはつ

  11のろい

  12いたみわけ

 

 相手を真似て急いで交代したおかげで“じしん”を特性の“ふゆう”で透かしながら交代できた。今の俺、案外サマになってないか? ……いや、“じしん”が範囲攻撃で攻撃時間が長かっただけか。まだ相手に比べるとかなり遅かったな。

 

「ここでチェンジね……ゲンガーか。だったら“かみくだく”だ!」

「潜って7」

 

 相手の攻撃は地面へのすり抜けで躱して素早く背後に出現、そして“あやしいひかり”を放った。点滅する光のタマが相手の頭の周りをグルグルと回る。完璧に決まったな。

 

「グオオゥゥゥ~?」

「4、2」

「これはさいみんじゅつ……くっ、面倒なことを!」

 

 本当にユーレイ様様だ。プテラがわけもわからず自爆してくれたのでループに入った。自爆しなければ潔く“みちづれ”で処理するつもりだったが生き残ったなら儲けもの。このまま押し切る。

 

 “さいみんじゅつ”で眠らせた後、“10まんボルト”が直撃するが能力上昇のせいでこっちの攻撃の効きは悪い。確定3発ぐらいか。微妙だな……一応“みがわり”も使うか。

 

「6,2」

「起きろ! かみくだくだ!」

「!!……ゴゴウッ」

「チッ」

 

 起きたか。3ターン目で目覚めた。まぁやっぱりこんなものなのか。混乱しながらも攻撃されるが“みがわり”が盾になりダメージはない。

 

 相手がまだ混乱しているうちに“さいみんじゅつ”をもう一度使わせ再び眠らせた。今度も“みがわり”を使ってから“10まんボルト”で倒した。

 

 次のポケモンが出てくる。今度はしっかり目を凝らしていると、相手は手品のようにボールを持ち換えながら素早くポケモンを交換した。熟練の手並み。だが今度ははっきり見えた。ああやってボールを出し入れしているのか。

 

「こいドンカラス、つじぎり!」

「そいつはたしか……2!」

 

 これは珍しい。シンオウのポケモンだ。ステータスを見るヒマがないので確認はできないがドンカラスは特性の1つに“ふみん”があったはずだ。

 

 “ふみん”は名前の通りねむり状態にならない。出て来るタイミングを考えればこれは“ふみん”持ちと考えるべき。とすると催眠が無効の上にあくタイプでゴーストも通りが悪い。どこでこんなポケモン手に入れたのやら。

 

 だがドンカラスは素早さが遅い。あっちが2回目の攻撃をする前にこっちが2回攻撃できる。ユーレイは特攻特化。鳥畜生なら“10まんボルト”2発で倒せる。

 

 “みがわり”を盾にして“つじぎり”を受けることでこっちの攻撃を通し、そのまま近くに接近しているドンカラスに2発目の“10まんボルト”をお見舞いした。

 

「トドメ、2!」

「オエー!」

「ドンカラス!? くそぉ……なぜ“さいみんじゅつ”をしない!? ボクの負けなのか……」

「別に気分だよ。さっさと倒して勝ちたくなっただけ。でもとにかく勝ちは勝ちだ。約束通り賞金をもらおうか。たしかここじゃ冗談はナシなんだよな?」

「くっ、よもやこんな奴に負けるとは……ほらよっ、持っていけ! これで先月の稼ぎはパーだ。やってられないね」

 

 あっさり出したな、100万。マスターランカーってもしかしなくてもかなりお金を持っていそうだ。カモがネギしょって箸まで持ってらぁ。

 

「みゅー、ユーレイを回復させといてくれ」

「……最初からそのつもりだったのね。レインはポケモン使いが荒いの」

「けづくろい」

「みゅみゅ。ユーレイ、みゅーに任せてね」

 

 これで回復源確保。やっぱみゅーってチョロ……いい子だな。

 

「さて、次は誰が相手になる? 俺は自分が全滅するまで相手してやるぜ? まさかルーキー相手に負けっぱなしで引き下がれないよな? 度胸のある奴はいないのか?」

「よし、今度はおれが相手してやるよ」

 

 今度はすごい悪そうなやつが来たな。サングラスの感じが草トレーナーにいた火事場泥棒みたいだ。

 

「見てたんだろ? ルールは全部一緒でいいな」

「1つ変えてもらおう。賞金は300万にしな。これが飲めないなら勝負はナシだ」

 

 こいつ……俺にプレッシャーをかけにきているな。おそらくさっき100万が出せる上限だったと思ったのだろう。つまり今俺は200万だけで、300万は払えないと考えた。なら勝負には負けられなくなるからプレッシャーがかかる。……面白い。

 

「いいよ。これで300万だ」

 

 さらに100万を追加して乗せた。相手はサングラスがずれる程驚くがすぐに黙ってフィールドに立った。やろうってわけか。……何か勝つ策でもあるのか?

 

 お互い同時にポケモンを出して勝負が始まった。

 

「いけっピジョン!」

「グレン!」

 

 なんだこいつ? わざわざ名前を言って出した上に進化前のポケモンだと? こいつふざけてんのか?……いや、何かあるな。何の勝算もなく賭け金を増やすはずはない。

 

 相手が何か企んでいるにせよ、起点にしやすいのは確かなんだ。“ふきとばし”なんて使わないだろうし“みがわり”を張って様子を見ておくのが定石か。

 

「6」

「よし、がむしゃら!」

 

 こいつ……! よく見りゃ体に巻いているあれは“きあいのタスキ”! 技に……あった“でんこうせっか”! 初見殺しか。舐めたことしてくれるじゃねぇか。だがこっちは“みがわり”だから最初の狙いは上手く外した。

 

 “きあいのタスキ”ありきの「がむせっか」……“きあいのタスキ”は体力満タン時に一撃で倒れる攻撃を受けたらHPを1残す道具。そして“がむしゃら”はお互いの体力の差の分だけダメージを与える。但し自分の方が体力が多いと不発だ。基本的にはお互いの体力を同じにすることになる。

 

 つまりこうだ。攻撃を受けるとレベルが低いので必ずタスキが発動しHPが「1」になる。そしてレベルが低ければ後攻になるのでHPが減った後に“がむしゃら”を使え、相手のHPも1まで減らせる。次のターン“でんこうせっか”で先制すれば必ず最低でも「1」はダメージを与えられるので確実に相手を倒せる。

 

 使い古された戦法だがここでお目にかかれるとは思わなかった。レベルが中途半端に高いのは何度か成功させて経験値を獲得してしまったのだろう。

 

「動かない? 攻撃じゃないのか?」

「6」

「くっ、あー何があったか……かぜおこし!」

 

 グレンが何をしたのか理解できてないな。一応体力差が十分にあれば“がむしゃら”で“みがわり”を破壊することはできる。体力が減るまで“みがわり”を続ける予定だったが自滅してくれるならありがたい。おそらくまともに育ててないだろうから簡単に倒せる。

 

「1」

「がむしゃら!」

 

 残念“がむしゃら”は直接攻撃。“かえんほうしゃ”を受けてまともにこっちまで近づけていない。

 

「あさのひざし」

「ガウ?」

「間違いないよ。グレン回復して」

 

 番号の付いている技自体は少ないが使える技はかなり多い。使うことは滅多にないが変な相手が来ればこんなこともある。グレンは振り返って確認してきたので俺は頷いてみせた。ひざしを浴びてグレンの体力が回復する。

 

「がむしゃら」

「壊されたか。グレン、決めるぞ……6!」

「でんこうせっか!」

 

 やっぱりこいつ雰囲気で直感的に行動を予測してるな。そうとわかれば引っ掛けるのはたやすい。

 

 素早さに差があり過ぎるので指示が遅れると先制技といえど攻撃は遅れてしまう。だから番号を解釈するヒマはなく反射的に動くしかない。だから裏の裏をかくような行動はできない。あっさりと引っかかってくれた。

 

 先制技を使ってきたがグレンが使ったのは“みがわり”だ。相手の攻撃力は実質ゼロだから1ターン貰ったのと同じだ。

 

「攻撃しない!? てめっ、ダマしたな!」

「別に攻撃するなんて言ってないけど? 勝手にあんたが勘違いしたんでしょ? 1!」

 

 “かえんほうしゃ”で軽く倒した。回復できて“みがわり”も残った。3タテかな?

 

「よくもまぁシャアシャアと……いけっゴースト!」

 

 今度はゴーストか。またレベルが低そう。最初から“みちづれ”狙いだな。

 

「グレン、10」

「みちづれ!」

 

 ホントにこのおじさん素直だねぇ。キライじゃないけどね。

 

「今度はおにびか!? なんでこうも上手くいかんのだっ!」

「バレバレだからだとは思わないの? 7」

「こうなりゃ“のろい”だ!」

 

 相手は“のろい”を使うがこっちは“オーバーヒート”、つまり攻撃技。バレバレだと言われて“みちづれ”を使う程バカじゃないと思ったがとことん予想通りだな。

 

 補助技が先に決まるので“みちづれ”の効果は切れている。“みちづれ”の持続時間は次に自分が行動するまでだ。なので当然ゴーストだけが倒れた。念のために番号を変えるためとはいえ特攻が下がったのはもったいなかったかな。“のろい”が“みがわり”を貫通するのも面倒……少し揺さぶってみるか。

 

「ここで攻撃……!」

「これで3対1だな。あんたは最後のポケモンで全抜きするアテがあるのか?」

 

 ここまで相打ちを基本にしてきた以上最後も確実に1体を倒せるポケモンを用意しているはず。だが、逆に2体以上は倒せないからこそこれまで確実に1体ずつ数を削ろうとしていたわけだ。

 

 早い話が相手はすでに詰んでいる。それを指摘した。

 

「へへへ……こりゃ参ったな。降参だ」

「どうも」

 

 たったこれだけの勝負で300万か……。なんかアホらしくなってきた。この気持ち、いったいなんなんだろうな。

 




青天井の雑なポーカーをする時は決まってわざと手が弱いフリをします
すると相手が強気に突っ込んできてベットが持ち金を超えるところまであがっていき一発で自爆してくれて試合終了になります

強いフリよりも弱いフリをする方が有効なこともありますよね
上の例は相手がアンポンタンだっただけかもしれませんが

レインの気持ちは不毛なポーカーに勝った時のむなしさと同じ感じだと思います


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3.抑えても 抑えきれない 人の性

 簡単に連勝した俺はブルー達のことが気になったので休憩がてら1度フィールドを離れて様子を見に行った。

 

「それじゃあこれも私の総取りのようね。あなた達哀れね」

「イエーイ! ナツメちゃんわたしはアタリだからね!」

「わかってるわよ」

 

 何だこれ。ナツメがマスターの連中からお金を巻き上げているようにしか見えない。もしかしてナツメの奴俺が勝つか負けるかで賭けを始めていたのか。お前は自由かっ! ついてきたのは俺のバトルを見るためじゃなかったのか?! 勝手に人のバトルで儲けようとするな!!……3割よこせっ!

 

「あっ、シショーやっほー。勝ってくれてありがとねー」

「ナツメ、分け前を要求する」

「遅いわ。もう回収し終わった。あなたが簡単に勝ち過ぎてもう儲からないだろうし、これからは観戦に回ることにするわ。だからムダよ」

「てめぇ……」

 

 ふざけやがって。だいたいここにいた連中はなんでナツメ相手に賭けなんてしようと思ったんだ? こいつは予知が使えるのに勝てるわけないだろう?

 

「自分で選ばせたのよ。当たったら2倍。負けたら賭け金は没収。私は黙ってそれを受け入れるだけ。これなら私の力は関係ない。シンプルでしょう?」

 

 なるほど。あとは全員が俺じゃない方に賭けて自爆か。だがこれからは賭ける相手がバラけるから儲からないと。……こいつ頭いいな。

 

「ねーシショー、わたしもバトルしたいから100万円貸して? 今いっぱい儲けたんだしいいでしょ?」

「カモを取られるからヤダ」

「えー、お願い! ケチケチしないでよ、ね?」

 

 こいつに渡したらすぐに何倍にも増やしてくるだろうな。自分だけでは同じ相手から何度もカモれないわけだしブルーも利用するか。いまさら緊張して負けたりはしないだろう。

 

「今は高いぞ。絶好のチャンスだからな」

「高いって……ど、どれくらいなのよ」

「10分で利子1割の複利計算なら考えてもいいかなぁ」

「えっ!? たった1割でいいの!? やった、太っ腹! じゃ、これ借りていくわねー」

 

 ブルーは手拍子で快諾し100万円を抱えてすぐに別の場所へ対戦相手を探しに行った。あいつドのつくアホだ……。

 

「あなたの方がよっぽどアコギなことをしているわよね」

「さすがに今のは冗談のつもりだった。本気で言った条件じゃない。今回に限ってはブルーがアホ過ぎる」

 

 あいつ、将来お金関連で身を滅ぼしそうだな。

 

 ◆

 

 その後ブルーは調子よく連勝しているようでなかなか帰ってこず、自分の方も順調に勝利を重ねていた。

 

「どうしたどうした、もうおしまいか? ルーキーだなんだと見下しておいてこのザマじゃしまらねぇな」

「勝てねぇもんは勝てねぇ。もう勝負はしない。他の奴も一緒だ」

「がっかりだな。そこまで腑抜けだったとは……わかったよ。だったらお前らが満足するだけのハンデをつけてやる。どれだけハンデがあれば満足するんだ? そうだな……なら、お前らはこれから手持ちの数を倍にしなよ。つまりこれからは6vs3だ。賞金も俺だけ倍の200万払うことにしよう。お前らは100万のままでいい。これならどうだ?」

「お前正気か?! そんなことしたら……」

「これなら勝つ自信があるんだろ? なら勝負しなよ。いいだろ?」

「よし、なら俺が相手だ!」

「……そうこなくっちゃ」

 

 イナズマの“バトンタッチ”を解禁してさらに連勝を伸ばした。ここまでくるといかに相手にバトルさせるかという別の次元の勝負になる。勝てそうに思わせてギリギリで負けさせるのがコツだ。

 

「あーあ、さすがにもう誰も戦わないか。ポケモンが先に尽きたらしいな」

「店仕舞いかしら?」

 

 俺の独り言にナツメが言葉を返した。そういやナツメはずっといたのか。

 

「そういうことだな」

「私もまぁまぁ楽しめたわ。あなたのお得意の戦術も理解できたし、リーグ戦が楽しみね。それじゃ、私はお暇するわ。また明日ね」

「あんたが楽しんだのは賭け事の方だろ」

 

 ナツメを責めるように言うと全く関係ない話を返された。

 

「レインくん、あなたも私のことはナツメちゃんと呼びなさい」

「え……」

「いいでしょ?……イヤなの?」

 

 その動きは……ちょっと待って!

 

「いいいいいだだだだだイヤじゃないです!」

「なら問題ないわね」

「鬼畜……」

「ん? 何か言った?」

「何もないよナツメ……ちゃん」

「ならいいわ」

 

 危ない。呼び捨てにしようとしたらまた“ねんりき”をされかけた。ナツメ……ちゃんは上機嫌で帰っていった。あいつの中の友達って一体どんなイメージなんだ。発想が幼児レベルでストップしている気がする。

 

 ポケモンを休ませないといけないし、自分自身もやたらと気疲れしたのでポケセンに向かった。しかしマスターズリーグの回復設備はフル回転で満員状態だった。……こんな日もあるだろうな。やむを得ずヒリューに乗ってトキワまで戻ることになった。

 

 ポケモンを全て預け、回復を待つ間1人でくつろぎながら待っていると何となく聞き覚えのある声に呼ばれた。

 

「おっ! やっぱり間違いねぇな! 久しぶりだなレインッ!」

「ん? お前はたしか……」

「おうそうだ。さすがにまだ覚えてたか」

「……えーっと誰だっけ?」

「おい! 手紙の頼みもちゃんと守ってやったのにそりゃねぇだろ!」

「……あぁ、ゴウゾウか。そういやそんな顔だったな。今思い出した」

「お前、ホントは覚えてたんじゃないだろうな?」

「さぁな」

 

 昔懐かしのゴウゾウだ。俺が最初に戦った実力者。暴走族のリーダーで、こいつとはタマムシで色々あった。ブルーからも多少はどんな様子かは話を聞いていた。

 

「なんでここに?」

「お前がポケモンリーグを勝ち抜いたから見に来たに決まってるだろーがっ! 俺はリーグも見に行ってたんだぜ? もう興奮が収まらなくてよ、マスターまで来るつもりはなかったんだが居ても立っても居られなくてなぁ。ホントに優勝するんだからお前も大したもんだ」

 

 すごい熱狂っぷりだな。まず直前期にマスターズリーグの席を取れたのが驚きだがこいつは色んな伝手とかありそうだしな。

 

 ここにゴウゾウがいたのはサプライズだったが応援に来てくれたのは正直嬉しい。こうしたリーグ戦ともなれば、もうバトルの勝ち負けは自分1人の問題じゃないんだな。ファンの期待も一身に背負っている。

 

「ありがとさん。お前本当にバトルが好きなんだな」

「俺は昔っからリーグ中継を見るのが楽しみなんだよ。おーそうそう、お前の知り合いの3人組も後から見に来るぞ」

 

 クリムガン3人組か。そういえば結局名前は知らないままだったな。“かえんほうしゃ”は覚えられたのだろうか。……やっぱり覚えない気がするんだよなぁ。

 

「そうか。お前らとはまた会うとは思ってなかったから話すことなんて考えてないな。とりあえずよろしく言っといてくれ。元気でやってるってな」

「お前だから素直に再会を喜ぶとは思ってなかったが、相変わらずそっけねぇよなぁ。普通もっと久しぶりに会ったら何か込み上げてくるもんとかあるだろ? 俺にもなんか言うことないのか?」

「そうだなぁ……暴走族の恰好じゃなければ意外と普通のトレーナーって感じだな」

「そこじゃねぇだろ!?」

 

 ゴウゾウは髪形こそリーゼントのままだがその他は普通の私服だ。あの恰好では入れないだろうから当たり前ではあるが。

 

 ゴウゾウの予想通りのリアクションに満足したところでひとまず話を戻した。

 

「お前、結局なんでここにいたんだ? 観戦にはまだ時期が早過ぎるだろ?」

「お前わかってねぇな。こういうのは早めに見に行って試合前の期間の様子とか見るのがいいんだよ。この辺ならたまに選手がいたりするし運良くサインとか貰えたりもするしな。お前を見つけたのは偶然だったが結果的に良かっただろ? 滅多に会わねぇんだし今日は付き合えよ」

 

 積もる話……というほどのものはないが、それでも色々しゃべっていると時間はすぐに過ぎた。

 

「……だから、な? 頼むぜレイン? どうしても欲しいんだって! 俺じゃ本部の中まではいけねぇからホントにマジで頼む! 一生の頼みだ!」

「お前……たしか一生の頼みってのは前にも言ってなかったか? お前は一度死んだのか?」

 

 本部でタイゾウというエリートに会ったと話をすると猛烈な勢いでサインをくれと拝み倒された。ゴウゾウは熱烈なファンだったらしい。ファンとかそういうのって贔屓の話になると目の色変わるのはどの世界でも同じなんだな。

 

「なんで人の顔を忘れておいてそんなことはしっかり覚えてんだ?!」

「あー、その態度だといらないんだな」

「違う違う! だったら後生の頼みだ! な? 俺とお前の仲じゃねぇか!」

「何の仲だ。俺だって簡単じゃないんで気は進まないんだがなぁ。さっきかっぱいでやったばかりだし」

「かっぱぐ?」

 

 あんまり突っ込まれると面倒だし、サインぐらい引き受けてやるか。

 

「……仕方ないな。貸しだぞ」

「レインッ! やっぱりさすがだぜ! 恩に着る!」

 

 面倒な頼みを押し付けられ、日が傾く頃になってブルーがやってきた。

 

「あーっ! いたー! もうっ、探したわよ? ねぇ見てシショー、わたしいっぱい稼いじゃった!……あっ!! ゴウゾウじゃないのっ!? 元気してた?」

 

 何気に呼び捨てなところにしっかり格付けが終わっていることを感じた。ブルーとゴウゾウは親し気に会話を交わし始める。しばらくしてふと俺に話を振られた。

 

「あ、そうそう借りたお金返しておくわね。えっと1割だから……」

「おっと、10分につき1割と言っただろう? しかも複利だ」

「あー、そういえばそんなこといってたっけ。複利ってなんなの?」

「いっ!? 10分1割だと!? お前らまさか2人がかりで俺をからかってんじゃないよなぁ?!」

 

 ゴウゾウは真っ青だがそれも当然。これはとんでもない暴利だ。

 

「簡単に言えば10分おきに1.1倍になる。お前がいない間に計算しておいた。これが利息表。俺を探すのに時間がかかったみたいだから多少まけてやるとしても3時間は経過しているはずだ。1.1の18乗……約5.56。つまりだいたい556万だな」

「ぶーーっ!! 100万も借りてたのか!? 100万をトイチ!? しかも分で!? おいブルー、お前何やってんだ!? レイン、これはむちゃくちゃだろ!?」

「はぁぁぁ!? わたしの稼ぎ44万しか残らないじゃない!!」

「ぶふっ、残るのかよ!? お前ら今日何をしてた!?」

 

 俺達を恐ろしい犯罪者でも見るかのような目つきだ。俺がロケット団にケンカ売ってたのをゴウゾウは知っているから今回もヤバイことだとでも思ってそうだ。

 

「なんでもいいだろ。ブルーにはちょいと大金過ぎるから俺が回収しておかないとな。とはいえ全部持っていくのはかわいそうか。オマケで100万は残しといてやるよ。それ以外はもらっておこう」

「レイン容赦ねぇな」

「ものすごい温情だと思うけど? そもそもこれだけ稼げたのは俺のおかげなんだから感謝してもらわないと」

「悪徳シショー……」

「きこえねぇな」

 

 ◆

 

 翌日以降もバトルは続けた。さすがに賞金アリでは相手が見つからないのでこっちが負けた時に限って賞金を払うという条件にした。つまり相手はノーリスク。すると負けた分を取り返そうとして何度も戦ってくれた。ギャンブルは負けが込んでいるとなかなか止められない。リスクがないならなおさらだ。

 

 最初にがめつく賞金を回収したのはこのためでもある。あとは放っておいても相手の方から勝負を挑んでくる。しかも勝つためにベストに近い編成で戦ってくれるから経験値も多くなる。

 

 今日もバトルは絶好調。レベルが上がるのはもちろんだが、自分自身もマスターズリーグの戦い方を少しずつ学び、段々とここでのやり方にも慣れてきた。より自分が磨かれる感覚。まだまだ上を目指せる。

 

 ここではトレーナーのレベルがリーグと比べてやはり高い。感心したのはフィールドを選択できることを最大限に活かしたパーティー構成。例えば水使いが水に弱い岩タイプのイワークなどを使うことはほぼない。だが氷や地面はしっかり混ぜて弱点は補っている。

 

 最も驚いたのはトレーナーの判断の早さ。今までは度々助けられたが、相手の行動に驚いて1ターンムダにするようなポカはほとんどなかった。そして普段の思考時間もより短い。さらに厄介なのは交代の速さ。

 

 ひこうタイプ使いのエリートだけずば抜けているのかと思いきやここでは全員速い。戦闘不能の判断、次の一手の思考時間、そして交代する動作、全てが極限まで高められている。

 

 そしてその指示は全て理にかなっている。技を受けるときタイプ相性を踏まえた交換を一瞬で行う。不利な状況では交換を積極的に行う。ある程度相手の交換を予測する。頭を動かしながら手を動かす。慣れないとすぐにはできない。

 

 そのおかげでここではほぼゲーム通りのバトルが繰り広げられていた。つまり……自分が最も慣れ親しんだバトルだ。

 

「グレン、4」

「チッ、交代だ!」

 

 この勝負、すでに相手は4体のポケモンを失い終盤戦に差し掛かっている。相手はこちらが攻撃を繰り出す前に別のポケモンを出す。ナッシーからギャラドスに交代した。相手の特性“いかく”が発動する。しかしグレンの繰り出した攻撃は“かみなりのキバ”……4倍弱点だ。

 

「ガブゥゥ!」

「ヤァァラッッ!?」

「読まれた!? くっ、ナッシーでなんとか……」

 

 相手は最後のポケモン、ナッシーをくり出して“サイコキネシス”を選択するが、グレンは余裕を持ってこれを躱してから“オーバーヒート”を正確に決めた。

 

 上手くいったな。丁度ドンピシャで“かみなりのキバ”が交代先に当たった。ここでは技の練度やトレーナーのスキルが洗練されていてほぼターン制に近い進行になる。つまり相手の行動中にこっちだけ二度行動というのは難しくなっている。

 

 交代の間に技の指示を変更するのは困難で、死に出しの間に行動することも厳しい。下手なことをすると単に行動が筒抜けになるだけで余計に不利になる感じだ。最初は試合のスピード感についていけず戸惑う部分もあり技術の高さに感服していた。だが一度慣れてしまうと大したことはない。今ではこのスピードが当たり前だ。

 

「どう? どんな技が来るかわからないのはスリルがあるだろ?」

「……技名を言わないのはわざとか」

 

 今回あっさり交換読みを決めたがこれにはカラクリがある。一言でいえば相手の読みのレベルが低いのだ。

 

 理由は普段読み合いをしたことがないから。技名を聞いてから交換するのだから、当然そこに読み合いは生じない。つまり交換は必ず半減以下で受けられる。普段しないことを一瞬の判断の中でこなせというのは酷な話だ。

 

 これがマスターズリーグのトレーナーにとって大きな影響を与えていることがこれまでのバトルで強く感じられた。

 

 まずは今言った読み合いの放棄による力押しのプレイスタイル。読み合いのようなトレーナーのスキルよりもポケモンが強くなることが重視される。なのでマスターには戦い上手より育て上手が多い。戦い上手であるジムリーダーは少数派。レベル至上主義にも繋がっていそうだ。

 

 そして威力重視の技の選択。弱点を突くために覚えさせる技のバリエーション自体は豊富だが実践では火力重視で同じ技を選びやすい。理由は交換を意識するからだ。交換されそうなら1番威力が高く自信のある攻撃を選ぶ。結局半減になるなら威力が高い方がいい。

 

 そしてもうひとつ、育て方が攻撃偏重気味であること。理由は相手の攻撃を必ず半減で受けられるからだ。

 

 本来バトルにおいて耐久力が低く攻撃力が高いポケモンというのは扱い辛い。なぜなら場に出すには一度相手の攻撃を受ける必要があるからだ。なので交換を軸にしたサイクル戦を意識するなら必然的に耐久に努力値を割く必要がある。

 

 耐久調整という言葉がある。それは最低限の行動回数を確保するために想定される攻撃を1回あるいはそれ以上の回数確実に耐えることを目的としている。それだけ攻撃を耐えることは重要だ。

 

 だが必ず攻撃を半減にできるなら話は変わる。その耐久に回す分の努力値を全て攻撃に注げる。結果マスターズリーグには攻撃偏重でタイプが偏ったとんでもないパーティーが完成する。

 

 ポケモンのタイプは1つの弱点につき1体ぐらいは補完要員がいるケースが多いが逆に言えば1体しかいない。ある程度同じタイプで固めるから仕方のないことだ。

 

 結論を言えば……あまりに脆い。脆過ぎる。下手をうてば一度読み外すだけで簡単にパーティーは崩壊する。これはとんでもないことだ。

 

「ポケモン回復させたらまた来なよ。何回でも相手になるから」

「……覚えとけよ。次はこうはいかないからな」

 

 賞金はなし。だから相手はすぐに帰っていく。しかし確実に成果は上がっている。主力の3体にしあわせタマゴを持たせ何度も戦った。今はお金より経験値の方が貴重だ。順調そのものだな。だいぶ上がってきたしそろそろ戦うメンバーを変えてもいいか。

 

「さて、次は誰が相手をしてくれるんだ?」

「次はこのボク。前回の借りを返させてもらう」

 

 出てきたのは最初に戦ったエリートのタイゾウ。そういえば……どう見てもとりつかいのクセに恰好はエリートだな。まさか草トレーナーは進化したらみんなこうなるのか?

 

「あんたか。もうバトルしないものだと思っていたよ。これまで何をしてた? 俺を倒すために何かしていたのか?」

「……勝負を受けるか受けないか、どっちかはっきりさせてもらおうか」

「もちろん受けて立つ。ただし条件付きだ。基本的に全てさっきまでと同じだが、俺が勝ったら1つ頼まれごとをしてもらう。イヤなら勝負しないだけ。どうする?」

「……いいだろう。勝てばいい話だ」

「そうでないとな」

 

 頼みというのはなんのことはない、ゴウゾウに頼まれたサインだ。

 

 しかし……よく考えると俺もマスターランクなんだよな。目の前にマスターランカーの俺がいるにも関わらず、その俺を別のトレーナーのサインを貰うための使いっ走りにするのはどうなんだ? 今となってはもう引き受けてしまったし、ブルーの件で世話になったのも事実。あんまり考えないようにしよう。

 

「なら勝負開始といこうか」

「そう慌てなさんな。その前に道具の入れ替えをさせてもらう」

 

 目の前でグレンとイナズマを出してグレンにもくたん、イナズマにグレンが持っていたしあわせタマゴを持たせた。ついでに番号を確認しておいた。

 

 イナズマ Lv52 @しあわせタマゴ

 

 技 110まんボルト

   2めざめるパワー

   3あくび

   4バトンタッチ

   5まもる 

   6みがわり

   7こうそくいどう

   8チャージビーム

   9かみなり

  10あまごい 

 

「それはサンダースを使うという宣言かい?」

「バレていようが関係ないからな。とりポケモンなんて電撃でイチコロさ。先鋒はこいつでいい」

 

 グレンだけをボールに戻した俺を見て相手は少なからず怒りを見せた。

 

「ひこうタイプをなめるなよ! 世間じゃ電撃でイチコロだと言われているが、俺はでんきタイプだけには負けない! いけっ、ドードリオ!」

「そいつ……」

「気づいたか。こいつは前のとは違う。レベルは格段に上だ」

 

 そういうことじゃないんだがな。

 

 アナライズを使ってはいるが、ここでのバトルでは相手の能力をしっかり見る時間はない。理由は自分のポケモンの技の番号確認を優先しているからだ。

 

 ここの試合スピードではどちらも見ながらは厳しいし、番号確認を疎かにすれば間違うこともあるので見ながら指示を出す方が好ましい。実際見ないで試すと多少間違えることがあった。だから相手の能力はハナから見るのを諦めている。

 

 今思ったことは試合に全く関係ない。こいつのポケモンがゴウゾウの使用ポケモンと同じドードリオだと気づいただけ。ファンというのは本当らしい。最速の“みだれづき”というのも同じセリフを聞いたな。

 

「先攻は譲ってやるよ」

「なら遠慮なくいかせてもらう! トライアタック!」

「なるほど、ノーマルなら等倍ってわけね。躱して1」

 

 イナズマは130族。レベル50の時点で素早さは実数値で200になる。ドードリオごときでは話にならない。軽く躱して素早い一撃を繰り出した。

 

「ギェェェ!」

 

 “10まんボルト”がしっかりヒットしたな。しかしあのポケモンとんでもない鳴き声だな。ゴウゾウのドードリオはこんな感じではなかったと思うが個体差というのはあるものなのか。

 

「速い……! なら最速の“みだれづき”!」

「迎え撃て。1」

 

 わざわざこっちに向かって的が走ってくるのだから当てるのはより簡単だ。耐える算段だったのかもしれないが一致抜群を2回も受けて耐えるわけがない。

 

 特に、まともなトレーニングをしているおかげか、こいつらはある程度努力値が攻撃面に偏る傾向にある。耐久値は極めて低い。

 

 ……もっとも、攻撃面というのは特攻にも振り分けられているのでムダは多いが。

 

「戦闘不能でいいな?」

「くっ……素早さ勝負なら……クロバット!」

「ほう、いいポケモン持ってるじゃん」

 

 ちょくちょくカントー以外のポケモンも見かける。基本的に進化前が近くにいるものに限られるが予想外のポケモンが来る可能性があるのはそれなりに厄介だ。

 

「ヘドロばくだん!」

「……躱して」

「エアスラッシュ!」

「これも躱せ」

 

 まさかの特殊技で少し悩んだがまともに受けるのは自重した。追加効果が厄介だからだ。クロバットなら補助技がないはずはない。もう少し焦らせば相手が痺れを切らすはず。

 

「くそっ、こいつよりも早いのか……」

「6」

「クロバット、あやしいひかりで動きを止めろ」

 

 かかった! 最高のタイミングだ。一瞬“みがわり”が早く決まった。混乱したと思って大胆に攻撃してくるはず。

 

「どくどくのキバ!」

「1」

 

 相手が攻撃し始めるよりも早くこっちが動く。その上“どくどくのキバ”は直接攻撃。距離があるこの状況で使えばこちらの攻撃の餌食だ。“10まんボルト”がクロバットへまともに直撃した。相手の攻撃はリーチが足りず届いていない。

 

「クロバッ!?」

「動きに淀みがない……? 一旦体勢を立て直せ!」

「ひこうタイプだけじゃ交換したくても交換できないだろ? 遠慮なく攻めさせてもらうぜ。2」

「本当にそう思ってるのかい? だったら交代だ! 驚け!」

「ガーギー」

 

 出てきたのはひこうタイプを持たないニドキング。やっぱり持ってんじゃん、じめんタイプ。なんで今まで出してこなかったのかねぇ。

 

「わざと言ったに決まってるだろ?」

「これは……電撃じゃない。めざめるパワーか!……効果抜群?!」

 

 別に交換されなくても弱ったクロバットを倒すには十分だったが本当にじめんタイプが出てくるとはな。さっきまではひこうタイプを使ってでんきタイプを倒すことに意地になっていたのかもしれない。今の行動も挑発に乗ったわけだし。エリートトレーナーになっても根っこの性分は変えられないようだ。

 

「2」

「だいちのちから!」

 

 お互いに攻撃が当たり差し違える形になった。だがさっき相手は“どくどくのキバ”を当てられず“みがわり”は残ったまま。相手のニドキングのみが倒れた。

 

 クロバットが“10まんボルト”を耐えていたことを踏まえるとこっちの方がレベルは低めだったのかもな。一致“10まんボルト”の方がめざパ2発より威力は上だ。ニドキングはひこうタイプではないし育てる優先度が低かったのだろう。

 

「じめんタイプならジョウトのハガネールとかイノムーにした方がいいよ。でんき、いわ、こおりの全部に有利なポケモンだから」

「余計なお世話だっ! クロバット!」

「1」

「かげぶんしん!」

 

 小細工か。けどそいつは俺には通用しない。……サーチ!

 

「真後ろ、1」

「!……ヘドロばくだんっ」

 

 “10まんボルト”と“ヘドロばくだん”の威力はほぼ同じ。だが特攻はイナズマが上。敵の攻撃もろともクロバットを倒してしまった。あと3体。

 

「げんしのちから」

「来るか。1、本体へ」

 

 技名と共に出てきたのは予想通りプテラ。ひこうタイプでこの技を使えるのはプテラぐらいだ。“げんしのちから”は特殊技で大した痛手ではないので下手に能力を上げられる前に速攻をしかけた。こいつも耐久力はないようで一撃で倒れた。

 

「ドリルライナー!」

「ユーレイ!」

 

 一瞬まさかのドリュウズかと思ったが何のことはない、オニドリルだ。

 

 交換は上手くいった。自分のボール捌きもずいぶん上手くなったと思う。修練のおかげもあるが、何より動体視力が良かったおかげで簡単に技術を盗めたのが大きいだろうな。俺も同じ土俵で戦える。

 

「チィ……つばめがえし!」

「受けて4」

 

 相手の攻撃を受けるが“さいみんじゅつ”が決まった。後はお決まりだ。“いたみわけ”でダメージを回復してから“10まんボルト”でサクッと倒した。

 

「ブラストバーン!」

「お前が使うの? 5」

 

 ヤケになったのか大技をいきなり使ってきた。当然出てきたのはリザードンだ。問題なく“まもる”で流し、反動の間に“さいみんじゅつ”を楽に決めてこれも倒した。しかも“みがわり”つきだ。相手はもう負の連鎖に嵌り始めている。やることが全て裏目だ。

 

「つばめがえし」

「2……相変わらずポケモン出すのだけは早いな」

 

 出てきたのはストライク。よくこれだけひこうタイプばかり集めたな。まだピジョットとかバタフリーとかもいるからひこうタイプってのは本当に多い。

 

 最後は関係ないことを考えていたが“みがわり”を盾にしながら至近距離で簡単に“10まんボルト”を当てて勝負がついた。相手の6匹全てひんし状態だ。

 

「このメンバーで1体も倒せないとは……大言には根拠があったというわけか」

「そういうこと。じゃ、約束通り1つ……いいな?」

「ハンデまでもらって負けたんだ。仕方ない……あまり無茶は言うなよ?」

「大したことじゃない……お前のサインをくれ」

 

 …………

 

「まさかボクのファンだったのか? 案外かわいいところもあるね」

「違う!」

 

 誤解されかけたがとりあえずサインはもらえた。本格的なサインだった。普段から書き慣れているようだ。俺も練習した方が……いや、バカバカしいな。

 




ゴウゾウ再登場
誰か忘れたら1章を見てください

レインはゲームコーナーに始まりギャンブルばっかに見えますが別に好きなわけではありません
ただ確実に勝てるからするだけです

トイチは年利365%のアレです
複利だともっと酷いですね
レインは無茶を言った後分け前を半々で折半しようと言うつもりでした
もうけをウソでちょろまかすのはできないからこその提案ですね

特定の友達に会うと無性にボケてみたくなることってありますよね
ツッコミがいいと延々ボケ続ける
レインはそれです

サインは案がないわけではないんですよね
カントーで使う気はないですがこの世界にはアンノーン文字というのがありまして……


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4.見えない本心 いいたい言葉

 翌朝サインを持ってトキワに戻ると行儀の良い格好でゴウゾウが待っていた。犬かお前は。

 

「いやーありがてぇ! ほしかったんだよなぁーこれっ!」

「良かったな。お前そいつに憧れてポケモン始めたのか?」

「おーやっぱりわかるか? そうなんだよな。俺はポケモンリーグにいた頃から応援しててな、マスターズリーグに上がったときは感動したぜ。もう1人リーグに好きなトレーナーがいるんだが今年は1回戦で負けたからな。レインの弟子が相手だから仕方ねぇが残念だった」

 

 ブルーの1回戦は俺も見たはずだな。たしかブルーが油断して“こおりのつぶて”でフシギバナを倒された試合だったか。

 

「……あいつか。そういやパルシェンを使っていたな」

「でもこのサインがあれば帳消しだぜ!」

「どこがいいんだ? 別に普通のトレーナーにしか見えなかったが」

 

 思ったままのことを言うとゴウゾウが熱く語り始めた。こっちに体ごと寄ってきていて暑苦しい。

 

「わかってねぇなぁ。ゴッドバード使うときなんかスゲーんだぞ? 威力は半端ねぇし、よくわからん特殊な道具を使っていきなりドカーンとくるんだぜ? あれで電気ポケモンを倒した時は神がかってたな。ドードリオの“みだれづき”も最高だし、それに名前も俺に似てるだろ? そこも親近感が湧くというかさぁ、なっ? わかるだろ?」

「2文字だけだろ」

 

 その後もゴウゾウの話に付き合っているとどうやって嗅ぎつけたのかブルーも押しかけてきた。

 

「またここにいた! シショーってゴウゾウと仲いいのね。ねぇ、今日は一緒に行きましょうよ。なんだったらわたしとバトルしてもいいわよ?」

「ついてこんでいい。いまさら俺にくっついてきても仕方ないだろ」

「……なんでよっ! もう、たまにはわたしだって一緒でもいいでしょ!? やっぱりシショーって最近わたしにそっけないわよね? なんでなの!」

「別に。大げさ過ぎなんだよお前は」

 

 ブルーと問答しているとまた客が来た。俺のいるところにはよく人が集まるな。しかも今この状況で最も来てほしくなかった奴だ。

 

「こんなところで油を売っていたのね。それに朝から賑やかね」

「げっ! なんで人間マルマインがここに!? あんたはリーグ戦には出ないはずじゃ……」

 

 ナツメを見てゴウゾウが驚いた。いきなりで驚く気持ちはよくわかる。俺はもう慣れた。

 

「私が出たらいけない理由でもあるのかしら? 力ずくでわからせてあげましょうか」

「いえいえいえ文句ありません!」

 

 暴走族リーダーの肩書きが泣いてるぞ。やっぱりナツメは全国的に恐れられているようだな。普段からこの態度じゃ仕方ないか。本人はどこ吹く風だが……ん?

 

「ナツメ……お前……」

「何かしら?」

 

 自覚はないのか? いやでも間違いない。表情は変わらないがこいつのオーラはなんとなくわかる。本心では周りから恐れられていることを悲しんでいる。表情や態度とは全然違うが……これはどういうことだ?

 

 ブルーを見てもオーラは読めない。まだ俺が半端なせいかオーラがはっきり見えるのは力が強いエスパー限定みたいだな。

 

「アハハッ! ゴウゾウビビり過ぎよー! ナツメちゃんってけっこう良い人よ? 本気で人を傷つけようなんて思わないから安心して大丈夫」

「おいおい本当かよ? というかお前はずっとその呼び方なのか? ちゃんって……」

「ちゃんは友達の証だってさ。ねー」

 

 ゴウゾウはブルーの言葉に懐疑的だがきっとあれはブルーの本心だ。ブルーの奴いつの間にかナツメと仲良くなったな。ナツメはブルーの言葉にかなり喜んでいる。ブルーの言葉に偽りはないのだろう。……未来が変わるっていうのはこういうことか。

 

 ただ、友達の証を俺にまで強制してるのはどうかと思うけどな。約束と違う気がするがそこんところはどうなんだ、ナツメ?

 

「レインもブルーも交友関係が凄まじいな。暴走族の俺が言うことじゃねぇだろうが」

「ホントにお前が言うことじゃねぇな。それでナツメ」

「ちゃんをつけなさいデコ助野郎」

 

 デコ助って……いきなりなんなんだ? なんか俺には怒ってる? やっぱりこいつ全部読心してるんじゃ……。

 

「ナツメちゃん、お前は何の用だ? 邪魔になるからついてこないでほしいんだけど」

「あら、せっかく大事なことを教えてあげようと思って来たのにひどい言い草ね。じゃあ帰ろうかしら」

「はぁ……悪かった。教えてくれ」

 

 手土産を用意していたのか。エスパー相手に問答しようというのが間違いだったな。

 

「じゃあ今日は一緒にいてもらおうかしら」

「くぅぅぅ……お前実は頭いいだろ。もう好きにしろっ」

「じゃあ教えてあげるわ。今日急遽予定が変更されたわ。今年は選手の集まりが早かった上にマスターランクのトレーナーは全員が参加するそうよ。私ですら参加しているわけだから今年は何かあるのかもね。シードが確定している四天王以外の全員がすでに集まったから今日トーナメントの組み合わせが発表されるわ。見に行くでしょ?」

 

 四天王は来ないのか。高みの見物ってやつか? 今は姿すら見えなくてもいずれ勝ち進めば戦うことにはなる。その時までのお楽しみだな。

 

「なんでお前は現時点で知っている?」

「私はエスパー少女よ? 愚問ね。あと“ナツメちゃん”と言いなさい。でないと……」

「わかりましたナツメちゃん」

 

 エスパーで全て片づけてしまっていいのか。それに心なしかナツメ……ちゃんにはバカにされてることが多い気がする。

 

 そういえば今全員と言ったよな? まさかあいつも……。

 

「それじゃさっさと見に行っとくか。早く見ておくに越したことはない」

「待って! シショー1つ答えて!」

「……後にしろ」

 

 ブルーは並々ならぬ思いを秘めた表情をしている。言って聞くような感じではないな。

 

「今答えて。シショーはわたしのこと避けてるの?」

「つまらんことを一々聞くな」

「答えられないの?」

「……なるほど、私がいるから下手なことが言えないのね」

 

 沈黙が続く。ブルーは答えるまで納得しないだろう。仕方ない。満足のいく答えを用意してやろうか。

 

「お前のことは避けていない。今後敵になるから近づかないだけ。ここまで弟子として面倒見てきたのに、なんでいまさらそんなことしなきゃいけないんだ?」

「……ナツメちゃんっ」

「ウソ……には見えない。少なくともオーラを見た限りは」

「えっ、本当に?……なーんだ、良かった。じゃあラーちゃんの言う通りだったのか。シショーもそれならそうと言ってくれればいいのに。このこのーっ」

「人を試すようなやり方が気に入らなかっただけ。さっさとトーナメント表を見に行こう」

「うん、そうね。早くいきましょう。駆け足駆け足!」

「走っていくわけないだろ」

 

 ひとまずブルーの機嫌は直ったらしい。試合が始まれば余計なことは考えられないだろうし、今だけの辛抱か。話もまとまり、俺はゴウゾウと別れてナツメとブルーをつれてセキエイの本部へ向かうことにした。

 

「ナツメ」

「本部にテレポートはできない」

「なら」

「ポケモンには乗らない」

「俺は」

「女の子を置いていく気?」

「……」

 

 ナツメの移動手段が無い上に本人がポケモンに乗りたくないと言い出し、置いていくこともできず本当に駆け足になった。しかもナツメにまで足で遅れを取ってしまった。聞けばどうもエスパーで体を浮かせていたらしい。ずるい。

 

「やっとついた。なぁ、ナツメちゃんは毎回ここまで歩きか? 今朝もトキワまで来るのに歩きだったなら疲れないか?」

「数回のテレポートで着く」

「は? じゃあなんでさっき移動できないって……」

「直接1回では行けないと言っただけ」

「……なんか倍疲れた」

 

 本部の受付に向かうとその近くの掲示板にデカデカとトーナメント表が張り出されていた。歩きで時間がかなり経っていたのですでに大勢のトレーナーが集まっている。結局ナツメはあまり役に立ってないな。とりあえず自分の名前を探した。

 

「さて、レインレインっと……げっ!」

「シショーどうしたの? どれどれ……あっ」

 

 ブルーは察したようだ。そう、俺の1回戦の相手は今隣でほくそ笑んでいる奴だ。

 

「レインくん、私とバトルする時は遅れてきたら許さないわよ? マスターの会場は4つあってリーグよりも多いから注意することね」

「くだらんことはよく覚えてるな」

「なんですって?」

「ご忠告どうも」

 

 いきなりナツメか。ノーキンとわかっていてもやはり怖さはある。最初ぐらい楽な相手が良かったが経験値が多いし悪くはないか。

 

 にしてもなんで会場がいくつもあるんだ? 1つにまとめた方がお客さんも全部見れるし選手も迷わないしどっちにもいいと思うが。

 

「バカね、日程を考えなさい。3月中には終われるように組んでいるのよ? 新年度にチャンピオンが未定では締まらないでしょう? それに4つなのは試合を同時に行うためでもあるのよ。時間差があると不平等になるから」

「どういうことだ?」

 

 ナチュラルに思考を読まれたがいまさら気にしたりしない。先を促した。

 

「バトルは毎日連戦になるわ。だからあなたみたいなバカでなければパーティーメンバーは普通ローテーションを組む。どの選手が勝ち抜けるか先にわかるとそれを見てから編成を変える輩が出てくるでしょう? だから選手が絞られる最後の方は同時に試合をするのよ」

「そこまでする程のことか?」

「実際にそういうことがあったんじゃないの? 詳しくは知らないわよ。私には関係ないし」

 

 そういえば自分に関係ないことには無頓着なクセにマスターズリーグのことは意外と色々知ってるよな。割と親切に教えてくれるし。……なんでだ?

 

「……」

「……」

 

 これは読心しないのか。あるいはわかっていて無視しているのかも。……なんでナツメが1回戦の相手なのだろうか? どうせなら決勝とかまでとっておけばいいのに。

 

「当然でしょ? 私とバトルする前に負けられると困る。だからわざわざ1回戦にしてあげたの。感謝しなさい」

 

 ……黒だったな。

 

「なんでお前に感謝しなきゃならんのか。お前が操作して決めたわけでもあるまいし……だよな?」

 

 冗談で言いかけてから十分その可能性があることに気づいた。恐る恐るナツメの答えを待った。

 

「レインくんはどっちだと思う?」

「それはやった奴の発言だ! ナツメッ! これは不正だろっ! つか、なんか俺の当たりそうなメンツにやたらジムリーダーとか実力者が密集してるのも俺への嫌がらせか?!」

「さぁ。私は1回戦しか興味ないわ。無理やりねじ込んだから多少バランスが崩れたのかもね。あとちゃんをつけなさい」

「やっぱお前か……どうやったんだ? 関係者丸ごと洗脳とかか?」

 

 ナツメならやりかねないと思ったが違ったようだ。

 

「そんなことするわけないでしょ? この組み合わせはビンゴマシーンみたいな機械で決まるの。ルーキー同士や四天王同士はすぐに鉢合わないように必ず4ブロックに振り分けるというようないくつかの制限はあるけど、それ以外は自由な可能性がある。私はその自由な可能性の中から自分の望む1つの未来だけを選び取った。それだけよ」

 

 一見何を言っているのかわからないような内容だが、殊更ポケモンというゲームをしていた身としては妙に心当たりのある発言だった。

 

「乱調したのか……!」

「らん……? シショーそれ何?」

「お前は気にするな」

 

 こいつ、エスパー使えば何でもアリか。まさかこんな直接的な手段を取るとは思わなかった。まだこいつのこと舐めていたらしい。ここまでやるか。

 

 乱調……つまり乱数調整とは、ポケモンに限らず本来確率的に極めて起こりにくい事象を必然的に人の手で引き起こす技術のこと。改造やバグとは違うので合法と言えなくもないが、やってることは積み込みのようなものだから人によっては許せない人もいるだろう。

 

 乱数とはゲームの偶然性を決定する要素。それを調整して自分の望む結果を得ることを乱数調整という。ナツメの言うことはかなりこれに近そうだ。

 

 トーナメントを改めて見た。さっきナツメは4つに振り分けると言っていた。たしかに確認すると準決勝まで当たらないように振り分けられている。

 

 俺がいるそのブロックには本当に猛者揃いだ。ナツメを筆頭にジムリーダーが5人、四天王が1人。罰ゲームか?

 

 ナツメを睨んでやってもこっちの視線に全く気づいた素振りも見せない。……ただ、オーラは乱れておどおどした気配を感じた。俺が怒ったから悪いことをしたとは思ってるようだ。本当は謝りたいのかもしれない。意外と繊細なんだな。

 

 さらにナツメは居たたまれなくなったのか俺の傍からは離れていった。心が読めなければ我関せずで勝手にどこかに行ったようにしか思えなかっただろう。最初に会った時からずっと俺はナツメのことを勘違いしていたのかもしれない。エスパーってのは損な人種だな。

 

 運が悪ければ……いや、運が良ければか? このままだと準決勝に行く前に最大4回ヤバイのと戦う可能性がある。いくつかは俺と当たる前に必ず潰し合うからな。俺と当たる可能性のある四天王はキクコ。おそらくナツメを唯一倒したトレーナーだ。正直1番面倒そうな相手だ。ジムリーダーはナツメ、タケシ、キョウ、マチス、そして……エリカ。

 

「ごきげんよう。会うのはずいぶん久しぶりですわね」

「……噂をすれば、か。丁度今お前の名前を見つけたところだ……エリカ」

 

 振り返って確認するまでもない。忘れるはずもない声。まさかそっちから話しかけてくるとは思わなかった。今年はここには来ないと思っていた。だがナツメから全員来ていると聞き、もしやとは思っていたがこんなに早く出てくるとは。……今、ブルーは自分の対戦相手を確認しており近くにはいない。

 

「あなたにはいいたい言葉があります」

「フン、少しはバトルの腕を上げたのか? ここはお前のような三流が来る場所ではなかったはずだ」

「口の悪さは相変わらずですね。以前のように勝てると考えるのはよして頂きましょうか。わたくしはあなたに勝つためにあらゆる努力をしてきました。あなたがわたくしに勝つことはありません」

「その前に4回戦まで勝ち抜く心配をした方がいいと思うけどなぁ。途中お前はジムリーダーと当たるようだし。まっ、わざわざ俺に負けるためにここまで来た根性は買ってやるよ。二度と俺に勝てるなんて夢は見れないように全国の人々の前で無様でみっともない負け方をさせてやるよ。これでお前はトレーナー失格だってことが全国に知れ渡るわけだ。楽しみだよな?」

「つまらないことを言うのですね。あなたこそ自分の心配をした方がよろしいですわ。小細工だけで勝ち抜けるほどここは甘い場所ではないのですよ」

 

 へぇ。少し揺らしてみたが逆にこっちを煽り返すぐらいの余裕はあるのか。本当に何かしてきたらしいな。自信が戻っている。それにこいつ小細工といったが……まさか“みがわり”に気づいたのか? そういえば映像があったか。売り出してなくても自分達は必ず持っているはずだからな。……簡単に倒せるわけじゃないのは本当のようだ。

 

「シショー、見終わったでしょ? そろそろバトルしに……げぇっ!?」

「タマムシのジムリーダーがどうかしたの?」

 

 ナツメとブルーか。ナツメは本当に友達がいないんだな。エリカ相手ですらよそよそしい。

 

「ブルーさんにナツメさんですか。今、師匠とおっしゃったのですか? まさかこのレインが?」

「どうだっていいだろう。お前を見ていると気分が悪い。ブルー、今日は帰らせてもらうからな。気が乗らん」

「えぇー!? あーあ、やっぱりこうなっちゃった……」

 

 口で言ったことは建前だ。いくらなんでも気分で行動を変えたりしない。

 

 目下この場所にはジムリーダーなどが集結している。さすがにこいつらにまで自分の戦い方を教えるわけにはいかない。今日は技の練習と道具の買い出しに時間を充てよう。

 

 マスターランクに上がったことで利用できる設備は増えた。バトルフィールド以外にもマスターランクのバトルビデオや道具屋も開放される。少しは見ておきたい。

 




役者が揃ってきました
いよいよトーナメント開始です
もうちょっと前夜イベントをあれこれしてもいいですが、すでに4話使ってますからね
描写する試合数も多くなりそうなのでサクサクっと進みたいですね
Aボタン連打!




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5.約束の時 静かな幕開け

 組み合わせが発表されてからは練習スタイルを変えてギアナ中心でレベルを上げた。手持ちが6体だけなので少しでも周りに見せないようにするためだ。気休め程度ではあるが。

 

 想定すべき対戦相手のタイプはエスパー、いわ、どく、でんき、くさ、ゴーストとなる。だがエスパーとくさはあまり心配していない。ノーキンと頭エリカなら苦戦はしないだろう。問題は天敵の岩使いタケシとすり抜けゴースト使いのキクコ。できれば対戦したくなかった。……いずれもアカサビがキーマンになりそうだ。

 

 特にゴーストタイプはカントーではあくタイプがいないので厄介だ。ミラーマッチは同じ条件の戦いになることを踏まえると実質弱点なし。どくタイプの弱点であるエスパーなら抜群を取れるがエスパーはゴーストが弱点。結局完全に有利に戦えるポケモンはいない。俺としてはみゅーやユーレイでミラーマッチに勝つしかないだろう。

 

 ブルーは俺がいなくなってレッド達が来たのでそっちと一緒にバトルして鍛えているようだ。ナツメはギアナに行くことで捲いた。もうこいつらとも敵同士だから仕方ない。勝負になれば情けは無用だ。

 

 ◆

 

 練習期間は終わって本戦開始。開会式のようなものがあり、それが終わった後にブルーを久しぶりに見かけた。ついでなので声をかけた。

 

「いよいよだな。ブルー、調子はどう?」

「あー! 今頃出てきてっ! んもぉー!」

「そう言うなよ。ちゃんとこうやって顔見せはしてるだろ? で、調子は?」

 

 文句を垂れてはいるが本気で怒ってはいない。表情は明るい。

 

「絶好調よ。自信満々だからあんまり緊張もしないわ。今ならシショーにも負ける気がしない。あの話本当だったのね」

「悪いけど俺にも師匠としてのプライドがある。お前にだけは絶対負けないからな。……ブルー、絶好調は結構なことだが油断はするなよ? 調子に乗りやすいからな、お前は」

「シショーこそ初戦敗退とかしてガッカリさせないでね? ナツメちゃんが相手だともしかしたら簡単に負けちゃうかもしれないし」

 

 言ってくれる。俺の心配をする余裕があるとはな。

 

「俺が負けるわけないだろ。ナツメごときには負けてやれねぇな」

「それは聞き捨てならないわね」

 

 なぜいつも俺の死角から現れる。自分から見えない位置なのですごく居心地が悪い。

 

「その声は……誰かと思えば泣き虫ナツメちゃんじゃないか。今日は負けても泣くなよ?」

「今ここで試合に出られない体にしてあげましょうか?」

 

 現状ナツメは死角にいるのでオーラは見えない。……この冷たい声色に淡々とした口調だと本気にしか聞こえないが、たぶん冗談のつもりなんだろうな。本心がわからない状態だと本当に怖い。

 

「……冗談だ。ナツメちゃん、出場するのは久しぶりなんだろ? 見てる奴にちゃんと強くなったところを見せろよ。俺も全力で戦うから」

「当たり前よ。レインくん、私のこと楽しませてちょうだいね。待っているから」

 

 自信はありそうだな。なんとなくキクコとの対戦が近いのは偶然ではない気がしている。ナツメはキクコにも勝ってリベンジする気に違いない。

 

 普通負けた相手とは対戦したくないと思うが、前回俺に負けたことも引きずる様子がないし、ナツメにも策があるということか。あまり油断しないように気をつけよう。

 

 ◆

 

『さぁ次の試合に参りましょう! 今年4人目のルーキー、リーグ優勝者のレインと、それに対するは5年ぶりとなるリーグ出場で注目を集めているエスパー少女ナツメだ! これは1回戦から見ごたえのあるマッチアップとなった!!』

 

 ナツメは無言でこっちを睨んでいる。いや、あれは集中しているだけか。無表情だから睨まれているような気になるだけ。……なんかだんだんナツメのことがわかってきたな。別に嬉しくもないことだが。

 

 おそらくテレパシーを使うだろうから一言もしゃべる気はないだろう。ナツメ以外の相手は偵察に行って自分の目で見れば技構成の傾向などをある程度調べられるが、初戦の相手だけはどうしても全くわからない。また以前のように“サイコキネシス”の一本調子なら助かるが……。

 

『フィールドはレイン選手が“はがねタイプ”、ナツメ選手が“エスパータイプ”だ。この2つのタイプのポケモンにも注目だ!』

 

 俺が選んだのは結局はがねタイプのフィールド。理由はこのタイプがカントーにレアコイルしかいないからだ。できるだけ相手を助けずにこちらの重要な技の威力を上げるとなれば全抜きに関わる“バレットパンチ”を強化するのが1番いい。少なくともジムリーダーと四天王が使うフィールドは避けるべきだ。

 

 フィールドの効果は事前に把握している。計算するとだいたい1.5倍というところ。補正としてはやはり大きい。なお有利タイプを半減などの効果はない。同タイプに1.5倍だけだ。

 

 敢えて付け足すならみずタイプのフィールドには特別に水場がついている。水中のポケモンを使うならみずのフィールドを使いたいところ。実際ブルーはくさタイプではなくみずタイプを選んだようだ。特にあいつはラプラスが“ちょすい”持ちである上にみずタイプに有利なポケモンが多いから妥当なところだろう。

 

「では両者ボールを構えて」

 

 さて、いよいよだな。入念に準備をしてきてし、想定される状況はある程度シュミレーションしている。不意を突かれるようなポカはしない。

 

「よーい……はじめっ!」

 

 始まった。審判の掛け声で同時にボールを投げる。出てきたのはヒリューとフーディン。俺はパチンと指を鳴らして素早くフーディンを調べた。

 

 フーディン Lv58 ひかえめ

 

 実 140-61-63-237-169-162

 

 いきなりかまして来やがった。初手に切り札投入かよ。たしかにそれも悪くはないが大勝負でずいぶん思い切ったことをする……出会い頭で倒されたりとかは怖くないのか?

 

「……」

「ゴウ!」

『両者無言の牽制か? 互いに攻撃せず静かな立ち上がりとなった!』

 

 こちらは“ステルスロック”を使うが相手はじっとしたまま動かない。なんだ? いきなり“サイコキネシス”で倒しに来ると思ったが違うのか? 不気味だな。

 

「攻撃」

「……」

 

 単に攻撃と指示する時は必ず“ストーンエッジ”と決めてある。エスパー相手にはこれ以外の攻撃技を使う状況は考えにくいからだ。遠距離技で威力が最も高いこの技が1番有効になる。

 

 まずはこっちの攻撃が先に決まる。ヒリューが石の礫を創り出し一直線にフーディンめがけて解き放った。こっちが技を出し切った後で相手の目が光り攻撃が飛んでくる。……このタイミングなら不可視の攻撃といえども十分躱せる!

 

「右へそれて」

「ゴゴゥ!?」

 

 しかし見えない攻撃がヒリューに直撃したようだ。そのままバランスを崩して地面に墜落……気絶している。

 

「プテラ戦闘不能!」

『先に1本取ったのはナツメ選手だ! やはりその実力は本物っ! ブランクを感じさせない素早い攻撃! その強さは微塵も衰えてはいないようだ!』

 

 避け損ねたのか? しかも一撃。思ったより威力が高い。プテラは配分を変えてHS振りにしてある。いくら特攻が高くてフィールドの補正があるとはいえクリーンヒットではない以上等倍技で倒れるはずはないんだが……。

 

 そもそも今の攻撃、確実にフーディンの視線の先からは外れていた。にも関わらず被弾している。以前のバトルではこの方法なら確実に回避できたのだが……何かあるな。

 

「アカサビ」

「サム!」

『あれはハッサムだ! はがねタイプのポケモンです! レイン選手、早くも切り札投入か?!』

 

 アカサビ Lv54 @しあわせタマゴ

 

 実 156-215-126-69-103-122

 

 技 1バレットパンチ

   2でんこうせっか

   3むしくい

   4つるぎのまい

   5まもる

   6みがわり

   7とんぼがえり

   8つばめがえし

   9バトンタッチ

  10かわらわり

  11ちょうはつ

 

「……」

「1」

『両者無言、技の指示が先程から全くありません。これは実に奇妙な戦いとなった! いったいこの両選手は何を考えながら戦っているのか、私には想像もつきません!』

 

 ここは考える必要もない。フーディンには“ストーンエッジ”がしっかり当たっている。残り体力は少ない。余裕で圏内だ。相手が行動する前に先制技の“バレットパンチ”が決まった。

 

「フーディン戦闘不能!」

『出たぞバレットパンチ! ルーキーのレイン、あの技でいったい何体のポケモンを倒してきたのでしょうかっ!』

 

 アカサビが相手を倒す間、自分に時間的余裕ができたので能力変化を確認した。そこでようやくナツメの行動に気づいた。

 

「めいそうを使わせていたのか。お前がこんな技を使うとは」

「……」

 

 ナツメは黙ったままだがオーラは少し喜んでいる。成長したところを見せられて嬉しいらしい。微笑ましいというか、わかりやすい性格をしているな。

 

 実際これは大きな進歩だろう。能力を上げる行動というのは何も考えずにできることではない。その間に倒されては元も子もないからだ。間違いなくナツメは最初の“ステルスロック”を読んでいた。俺の戦術はさすがにバレバレ過ぎたようだ。ナツメに簡単に読まれるようではダメだな。

 

『今度はレイン選手が倒した! 互いに譲らない展開となりました。ナツメ選手は黙って次のポケモンを投じた! 次はいったい誰だ?』

「バリバリッ!」

 

 ナツメの次のポケモンはバリヤード。あいつにしては珍しくおしゃべりなポケモンだ。ナツメはハッサムにバリヤードをぶつけてきたわけだが……何を考えているのやら。

 

『あーっと! 周りを浮遊する岩がバリヤードに直撃! 先ほどプテラが使った技の効果のようだ!』

 

 バリヤードは特防が高い反面、防御はかなり低い。物理主体のアカサビには恰好のカモ。そのまま押せそうなので再び“バレットパンチ”を選択。一致テクニフィールドで威力135の先制技……乱数1発ぐらいだろう。これで吹っ飛ばしてやれば万一耐えても追撃して仕留められる。

 

 しかし攻撃が決まる直前何かがアカサビを遮った。バリヤード特有のパントマイムの動き……。

 

「壁か……」

「……」

 

 今のも判断ミスだったか。おそらく使ったのは“リフレクター”だろう。5ターンの間こちらの物理攻撃の威力を半減する。フィールドにかけるタイプの技だ。物理防御の低いエスパーにはおあつらえ向きの技ではある。だがナツメがここまで補助技を使いこなすとは思わなかった。バリヤード投入は最初からこれが狙いか。

 

 俺はバリヤードが攻撃してくれば先にアカサビの攻撃が決まって倒しきれる計算だった。だが補助技なら話は別。こちらの攻撃より先に決まり、吹っ飛ばすどころか完全に受け切られた。しかも先制技の技後硬直でアカサビはすぐには動けない。至近距離で“サイコキネシス”を受けた。

 

「7」

「ンバリー!」

「バリヤード戦闘不能!」

 

 “とんぼがえり”で相手を倒しながら交代。“リフレクター”が残っている間は特殊技で攻めるしかない。みゅーは試合後の回復要因なので実質使うことはできないしユーレイは“みちづれ”用に残したい。となればここはイナズマ一択。

 

「ダースッ!」

「……」

「ボンキアーッ」

『おおっ!? おおおっっ!! 両者可愛らしい鳴き声のポケモンだっ!! 戦いですさんだ心が癒されるようです!!』

 

「面白いな。同族対決ね。予知でもしたか? 1」

「……」

 

 相手のポケモンはエーフィ。図らずもブイズ対決。とりあえずは無難に“バトンタッチ”を目指すか。

 

「近づいて3」

「……」

 

 ん? どうした? イナズマが……ではない。ナツメが変だ。なぜか急に攻撃をやめた。その上この感じ……笑っている? そんな感情が伝わってくる。

 

「イナズマ、中断して離れろ!」

 

 イヤな感じがしたので即座に離れさせた。また“めいそう”を使っているようで動きはない。その間に敵を観察して驚くべき事実に辿り着いた。

 

 エーフィ Lv58 マジックミラー @たつじんのおび

 

 実 150-73-75-231-169-148 C1↑ D1↑

 

 夢特性か! ブルーのレアコイル以来じゃないか? たまに夢特性持ちがいるのはわかっていたがエーフィの夢特性は特に厄介だ。

 

 “マジックミラー”は変化技を跳ね返す効果がある。複数体に効果が及ぶ技なら有効だったりと抜け道は割とあるが、とはいえ変化技が効かないのは恐るべき強さだ。

 

 しかもナツメがその効果を熟知しているのは間違いない。こっちが近づいて“あくび”を使おうとしたのを分かった上であえてそれを受けようとしていた。隙を見てきっちり能力も上げてくるし厄介だ。

 

 さっきからうまく勝ちパターンにもっていけない。毎度毎度こちらの動きを殺すような立ち回り。偶然とは思えないな。考えてみれば前回ナツメと戦った際にも俺は“バトンタッチ”で勝ったし、ここに来てからも何度も見せてしまっている。当然意識はするか。……わかっていても対策できないと思っていたのにうまく対応されてしまった。

 

 “マジックミラー”なんて完全に“あくび”対策で用意したのだろうな。だから“ステルスロック”の時は敢えてエーフィには交代せずに温存したのだろう。それだけイナズマが警戒されているということか。

 

「1」

「……」

 

 仕方ない。やりたくないが正攻法で攻めるしかないな。

 

「ダァァァッ!?」

「フィィィッ!?」

 

 互いに攻撃を受けて五分の勝負。……いや、“めいそう”された分こっちが劣勢か。速さでは圧倒的な差をつけているがイマイチ相手の攻撃を躱しきれない。しかも掠っただけでも大ダメージ。どうにかあの攻撃を躱したいが……もしや視線の先だけでなく曲げることもできるのか? 

 

 あ、そういえば……。たしかジム戦の後あれこれ教えさせられて、その時に攻撃の仕方を工夫しろとか助言をしたような気もする。言った俺自身あまり覚えてないのにナツメはちゃんと聞いていたのか。

 

 こうなると避けるのは諦めて1体ずつ差し違えるつもりで倒していくしかないな。

 

「まっすぐ1」

「……」

 

 まっすぐ繰り出した“10まんボルト”は突然相手の分身が現れて回避された。紙一重、絶妙なタイミング。分身はイナズマを中心にしてその周りを円を描くようにして回っている。……サーチ!

 

「右に…」

 

 右に1、と言い切れなかった。すぐにサーチで本体を探して指示を出すが俺が言い終わる前にイナズマが攻撃を受けて倒れてしまった。どうしても指示を出すまでにラグができる。普通のトレーナーが相手なら誤差のようなものだがナツメ相手だと致命的だ。

 

 ……正直厳しい。規格外の指示伝達速度もさることながら、こっちの行動を読まれているのも厄介だ。予知はできないと言っていたし、おそらく直感的なものなのだろう。だがナツメはそれがズバ抜けている。そしてその強みを最大限に活かしている。

 

 ナツメはとうとう自分の資質に目覚めたらしい。

 




相手の手持ちはゲーム内で使ったポケモンなどを調べて参考にしています
具体的にはHGSSの再戦パーティーやPWTなどです

鉢巻バレパンはフーディン、バリヤード程度なら満タンでも1発みたいです
サイキネ半減で先制技確1は天敵過ぎますね

レインのアナライズに使用制限が加わった関係上本編中の能力表示機会は減ると思います
一応ちゃんと番号は考えながらしてますし計算もざっくりはしてますので……
決して面倒くさいわけでは……

イナズマは今までと同じ番号です 
10まん めざパ あくび バトン ですね
プテラは何気に今まで一度も技が出ていないですね
もう少し先で出ます


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6.移ろう未来に変わらぬ友あり

 現在こちらはヒリューとイナズマが倒れ、ナツメはフーディンとバリヤードがひんし。手持ちの数はイーブン。“リフレクター”もそろそろ消えるはずだ。そのはずなのだが……。

 

「まだ消えないのか。ユーレイ! すり抜け!」

「……」

『出た! 掟破りのすり抜け作戦だ! ゲンガーは息を潜めてじっくりと攻撃チャンスをうかがっているようだ!』

 

 ユーレイ Lv52 @しあわせタマゴ

 

 実 137-85-79-171-76-135

 

 技 1シャドーボール

   210まんボルト

   3きあいだま

   4さいみんじゅつ

   5まもる

   6みがわり

   7あやしいひかり

   8みちづれ

   9ゆめくい

  10ちょうはつ

  11のろい

  12いたみわけ

 

 エーフィのことはしっかり観察しているが“めいそう”を使う気配はない。使えば攻撃の餌食になることはわかっているらしい。

 

 すり抜けは無制限にずっとできるものではない。実は制限がある。連続ですり抜けていられる時間やその合計時間はある程度限られている。その上すり抜けている間は攻撃できない。

 

 その辺りを踏まえると“リフレクター”が切れたらすぐに仕掛けるのが無難だ。もう少し辛抱してくれ……。

 

「よし、7」

「……」

 

 ようやく“リフレクター”が切れた! やけに長かったな。ユーレイには“あやしいひかり”を使わせて混乱を狙った。

 

「ゲゲッ!?」

「狙い撃ち……!」

 

 しかしこれを先読みされ、地面から出た瞬間に“サイコキネシス”をくらってしまった。一致抜群瞑想帯フィールドで8.1倍……文句なく確1。

 

『ゲンガー破れたり! エスパー少女ナツメッ、弱点のゴースト対策は万全だ!』

 

 うっかりしていた。ナツメなら出現ポイントの予測ぐらい容易だったか。最悪でも相打ちにと思っていたのに“みちづれ”すらできないとは……。

 

「まっ、問題ないけど。頼むぜ、1」

 

 アカサビ Lv54 @しあわせタマゴ

 

 実 67/156-215-126-69-103-122

 

 技 1バレットパンチ

   2でんこうせっか

   3むしくい

   4つるぎのまい

   5まもる

   6みがわり

   7とんぼがえり

   8つばめがえし

   9バトンタッチ

  10かわらわり

  11ちょうはつ

 

 相手も“サイコキネシス”で応戦するが、アカサビは一瞬で相手の真横まで移動し、攻撃体勢で無防備な相手に弾丸のような拳を叩き込んだ。

 

「フィフィー……」

「……」

「エーフィ戦闘不能!」

『ここでレイン選手が再び五分に戻した! ハッサムだけで3体目! 奇妙な岩の効果も持続しており、レイン選手やや優勢か?』

 

 先制技が強力過ぎるからな。指数で約13600……乱数0.85を考慮して11600程。だいたいHP150防御80ぐらいのラインが一撃で飛ぶ。“ステルスロック”があればさらに1割増しだ。

 

「……」

「ソォォーーナンスッ!」

『あれはっ! たしかソーナンスです! 今年のルーキー、ブルー選手も使っていました。エスパータイプなのでしょうか』

 

 しめた! なんでナツメがソーナンスを持っているのかはわからないがこれはチャンス。そういえばまだアカサビは1度もこの技を見せてなかったか。まさか攻撃だけしかしなかったナツメ相手に使う日が来るとはな。

 

「11」

「……!」

 

 おお、驚いてる驚いてる。やっぱりオーラでナツメの考えが読める。“ちょうはつ”の効果で技が出せないことに気づいたようだ。なら交換してくるだろう。俺は考えることもなく余裕もあるし、次に出てくる奴の能力を拝ませてもらおうか。

 

「4」

「……」

 

 アカサビは“つるぎのまい”を始め、ナツメはボールを出した。さぁ何が出てくる?

 

『これはどういうことだ!? ナツメ選手、ポケモンを出して早々にまた引っ込めてしまった! 判断ミスか?』

「シェェェイ」

 

 出てきたのは……フーディン!? 

 

 フーディン Lv60 ひかえめ @まがったスプーン

 

 実 150-58-59-245-175-168

 

 もう1体奥の手を隠してやがったか。それで最初にレベル58を出したんだな。こいつ全体的にレベルが高過ぎないか? ゲームで言えば完全に四天王クラスなんだが。ジムリーダー全員こうなのか?

 

「……」

「1」

「サム!」

 

 強烈な“バレットパンチ”が決まった。一致剣舞テクニフィールド……威力270でオーバーキル。“つるぎのまい”なしでも余裕で倒せていた。おそらくナツメもわかっていたはず。だからこそ先にソーナンスを出したのだろう。

 

「シェェェイ……」

「フーディン戦闘不能!」

『あぁーっと! これはいけません! フーディン出会い頭の攻撃で倒れてしまった! これはナツメ選手には厳しい展開! 痛恨の一撃となった!』

 

 さて、次は誰だ? 出てきたポケモンの並び、その意味を考えていけばおのずとナツメの考えは透けてくる。

 

 最初にステロを起点にフーディンを暴れさせ、次は壁を使って瞑想の起点作り。しかしアカサビを倒しきれず渋々隠し玉のソーナンスを使うことになり、それも失敗して最後の切り札も倒れた。

 

 アカサビを倒す確率が高いポケモンはもう使いきっている。最後の1体はおそらく6体の中で最もアカサビと相性が悪いポケモンが残っているはず。

 

「……」

『ナツメ選手次のポケモンはルージュラだ! しかし岩が刺さって効果は抜群だ!』

 

 手持ちが割れた。残りはこいつとソーナンスのみ。よりによってはがねタイプが弱点か。おそらくレベルを考慮してベストメンバーを連れてきたのだろうが、こおりタイプにしたのは失敗だったな。

 

「1」

 

 効果抜群の“バレットパンチ”が炸裂。ルージュラは吹っ飛んだ。これで終わりだ!

 

「ルージュラ戦闘不能!」

「くっ……!」

『エスパー少女ナツメ、次が最後のポケモンだ! ここからどんな反撃を…』

 

 初めて声を漏らしたな。ソーナンスではアカサビには絶対勝てない。勝負はついた。

 

「降参する? 俺も無抵抗の相手をいたぶるのは趣味じゃないし」

「…………ええ、私の負けよ」

「ナツメ選手、サレンダーでよろしいですか?」

 

 審判の言葉にナツメは黙って頷いた。潔し。

 

『決着だーーっっ!! 勝者はメタモン使いのレイン! メタモンを使わずに勝利ッ!』

 

 勝利宣言してくれるのはいいが俺はメタモン使いを名乗った覚えはないぞ?

 

「…………くぅぅ!」

 

 ナツメは俺には何も言わずに去っていった。序盤は押され気味だったがやはりアカサビが強かった。これで約束通りストーカーからは解放されるわけだが……去り際のナツメのオーラが視えてしまった。……なんか後味が悪いな。

 

 ◆

 

「レインー、みゅーの出番はいつなの?」

「そのうちな」

「それっていつなの? 次は最初からみゅーにバトルさせてよ」

「わがまま言うな。それに……切り札はとっておくものだろ?」

「ぶー。本当はみゅーのこと便利な回復屋さんだと思ってるでしょ?」

 

 確信を持った口調だったのでおとなしく白状した。

 

「……ダメ?」

「じゃ、けづくろいにマッサージもつけてね。いたみわけって自分がダメージを受けるからしんどくて大変なの。だからいいよね? みゅみゅみゅ」

「……みゅーはしっかりしてるよな、俺に自分の要求を突きつけるなんて。わかった、つけてやるよ。どうせ今日は1日ヒマだしな。全く、誰に似たのやら」

「レインじゃないの? みゅーはレインのポケモンだよ?」

「わかってるからはっきり言わないでくれ……嬉しそうな顔をするな!」

 

 ナツメに勝った俺は暫しの休息を得ていた。今日は2回戦の日程初日。だが俺は2回戦も最後の方だからまだまだ先なのでみゅーと一緒に試合観戦をしていた。たくましくなるみゅーに頭を抱えるが、自分のせいなのでどうしようもなかった。

 

 観戦を終えてみゅーと一緒に宿舎に帰るとナツメが待ち構えていた。……話を聞かないと道を開けてくれそうにないな。

 

「何の用……ナツメ?」

「くぅぅ、もうナツメちゃんとは言わないのね」

「そういう約束だからな」

「んみゅ? レイン、ナツメと何か約束してたの?」

「もう終わった話だ。ナツメ、用がないならもういいな。お前の試合はもう終わったんだ。早くジムへ帰ったらどう?」

 

 ナツメの表情は全く変わらない。だがそのオーラはどんどん変わっていった。俺はとにかくこの場を早く離れようとして足早に歩き出す。しかしすれ違う瞬間にナツメが口を開いて思わず足を止めてしまった。

 

「……あーあ、なぜでしょうね。今私はこれ以上ないぐらい悲しんでいるのに、この顔は全く表情を変えてくれない。どうしてこんな風になったのかしら。レインくん、あなたはこんなこと言っても信じないだろうけどね」

「……わかってるなら構わないでくれない?」

「……そう。いいわ、引き留めて悪かったわね」

 

 軽くあしらってそのまま先に行こうとすると俺の前に誰かが立ちふさがった。……みゅーだ。

 

「レイン待って。ナツメはウソついてないの」

「みゅー?」

「あなた……なぜ私をかばうの? 以前は私のことあんなに……」

「この前はレインを助けようとしただけ。みゅーもナツメの気持ちわかるよ。同じエスパーだし、みゅーもよくレインにこんな顔されたもん。でもレインしか頼れないから一緒にいたいんだよね……わかるよ。だからあなたのそんな悲しそうなところ見たくない。ねぇレイン……なんとかしてあげて」

 

 みゅーは真剣そのものだ。ブルーがいないから簡単に追い払えると思って油断したな。

 

「俺に頼られても困る。どうせ俺はナツメにとっては仮初の友達にしかなれない。根本的な解決にはならないよ。第一俺はそんなに人間できてないんだ。自分以外がどうなろうと知ったこっちゃない。何度も手首を折られた相手ならなおさらな」

「それは、別に私は……」

 

 ナツメの言葉には耳を貸さずに無視を決め込んだ。しかしみゅーがそれを許さなかった。

 

「レイン、ナツメのオーラわかんないの? ナツメのことキライなの?」

「どうだっていいだろ」

「レイン……ねぇ、ホントにナツメをひとりぼっちにしていいの? レインはみゅーのことは助けてくれたのに、ナツメのことは見捨てるの? 見損なったの」

 

 みゅー、お前……。

 

「お前もグレンと同じこと言うんだな。弱ったなぁ……。おい、ナツメ」

「……何かしら」

 

 困っているなら少しぐらいは助けてやってもいいか。ナツメなら少しのきっかけで変わることができるだろうし。

 

「お前さ、自然に表情が変わることはなくても、意図的に表情を作るのは得意なんだろ? 今だってやろうと思えばまた泣き顔の1つでも作れたはず。なのになんで無表情のままだったんだ?」

「別に……面倒だからよ」

「本当にそれだけか? ウソではないにせよ真実でもないな。本当は作られた表情がキライなんじゃないの? エスパーってウソとかそういうのに敏感だから、自分で自分の表情を偽るのは許せないんでしょ?」

「だったらどうなの?」

 

 ナツメはこの話を続けたくないのか下を向いたまま返事が芳しくない。らしくないなぁ。今のやりとりだけでかなり悩んでいたことがうかがえた。

 

「ナツメ、お前女優になったら?」

「!」

 

 ナツメが顔を上げた。“かみなり”に打たれたような表情。女優になるなんてナツメにとってはまさに青天の霹靂だっただろう。でもナツメなら絶対に上手くいく。だから俺は自信を持って話を続けた。

 

「ナツメが本当は感情豊かな奴だってことは知ってる。いっつも自分の気持ちとは真逆の行動ばかりして、心の奥で誰にも気づかれないで泣いてたんだろ。お前は表情こそ変わらないけど、それ以外の部分では感情を隠すのが下手過ぎる。丸わかりだった」

「ウソ……じゃないのね。私の気持ちに気づける人がいるなんて驚きね。でもやっぱり……」

 

 ナツメは心底驚いているようだ。でも今この時でさえも無表情のまま。難儀だなぁ。

 

「作り物だからって気にし過ぎだ。もうそういうのはやめちまえ。無理して押し殺さなくていい。悲しければ大勢のファンの前で泣けばいい。嬉しければ堂々と笑っていればいい。自分の感情を表現して女優になれよ」

「……ウソっぽくない?」

「お前の表情は全然ウソっぽくない。しっかりとナツメの本当の感情がこもっていた。少なくとも俺はすごくいいと思ったよ。心を揺さぶられた」

「そこまで……。でもあなたは特別。他の……」

「きっと俺以外の大勢の人からも愛されるようになる。作った表情だからって罪悪感を持つ必要なんてない。自分のことはまず自分が好きにならないと周りから好かれるわけないだろ? もう自由になれば?」

「本当にいいの? そうすれば私は……」

「これまでずっと独りでジムに閉じこもって自分から出ていくことをしなかったんだろ? それじゃ独りのままなのは当たり前。友達がほしければ自分から動いてみなよ」

「じゃあまずは……」

「それはダメ」

「……まだ何も言ってないけど?」

 

 思ったままをしゃべっていたが、気づいたらけっこうナツメの考えを先取りしていた気がする。エスパーってこういう感覚の延長なのかもな。ナツメとずっといたら本当のエスパー人間になれたかもしれない。

 

「約束だから友達はダメだけど、ファンぐらいならなってもいいよ。お前が女優になったらファン1号は俺だな。お前が有名になって俺の耳にも届くようになれば、そんときはサインでも貰いに来ることにする。どう?」

「……あなたもあなたで意固地だし不器用よね。言い方が素直じゃないわ。どうして応援するからガンバレって言えないのかしら」

「……伝わってるなら問題ないだろ」

 

 いまさらそんなことナツメに言えるはずもない。だからつい顔を隠すようにそっぽを向いた。しかし顔を向けた方向にいたみゅーにバッチリ見られていた。

 

「みゅ? レイン、顔まっかっかだよ? 大丈夫?」

「あっ! みゅー!!」

「みゅふふ。ごめんね」

 

 そう言いつつみゅーは嬉しそう。怒りにくい。

 

「意外と照れ屋なのね。まぁ話はわかったわ。つまり私が大成して有名になればあなたを友達にしてしまえるということなんでしょう? 仕方ないから有名になってあげるわ」

「違うからな」

「……ふふ、悪くないわね。やっぱりあなたがいると私の未来は変わっていく。たった少しの言葉でこんなにも私は……。レインくん、決めたわ。私は女優になる。だから必ずサインを貰いに来なさい。いいわね」

 

 今のは……! これも演技なのか、はたまた自然に出たものなのか。やっぱりわからないなぁ。今の笑顔は本当に嬉しそうだった。……視えたんだろうな。

 

 ナツメの未来は明るそうだ。このナツメの表情を見る限り女優はどうやら天職だったらしい。

 

「その様子だともう友達の心配は不要か?」

「レインくん、今なら黒髪美人ですごく強いスター女優と簡単に友達になるチャンスよ? 私は寛大だから約束と違ってもいつでも友達になってあげるけど?」

「スター女優にまでなるのか。わかるのが早いな。……友達は気が向いたらな」

「遠慮深いのね。まぁ今はいいわ、今はね。どうやらカントーにポケウッドのスカウトがいるようね。私を探しているわ」

「……色々とすごい発言だな」

「私は忙しくなるからこれで帰るわ。ブルーちゃんにはよろしくね」

「ああ、言っておくよ」

 

 ナツメは最後まで笑顔のままだった。女優として様々な感情を演じればいずれ自然に表情が変わるようになるだろう。無表情のナツメとは今日でおさらばだな。なんとなくそれはそれで寂しい気もする。感傷に浸っていると服をグッと引っ張られた。

 

「レインやっぱりすごいね。最初からどうしたらいいかわかってたの?」

「一応俺もエスパーだぞ? なんならみゅーも女優さんになる?」

「みゅーはレインと一緒にいなきゃダメだからやめておくの」

「そう。みゅーも上手くいきそうだけどな」

 

 みゅーは本気で言ってそうで怖い。

 

「レインー、約束だからマッサージも忘れたらダメだよ?」

「ちゃんと覚えてるよ」

 

 こうしてエスパー少女は突然去っていった。

 




※手持ちリスト(倒れた順)
レイン
1.ヒリュー Lv53 @かたいいし
2.イナズマ Lv53 @しあわせタマゴ
3.ユーレイ Lv52 @しあわせタマゴ
4.アカサビ Lv54 @しあわせタマゴ 

◆持ち物がナツメを舐めてますね
◆1年でジムリーダーに追いつく方がおかしいのでレベル低め

ナツメ
1.フーディン Lv58 @まがったスプーン
2.バリヤード Lv56 @ひかりのねんど
3.エーフィ  Lv58 @たつじんのおび
4.フーディン Lv60 @まがったスプーン
5.ルージュラ Lv54 @きあいのタスキ
6.ソーナンス Lv53 @きあいのタスキ

◆HGSS再戦時のエルレイド→フーディンで残り同じ
◆回復アイテムなしがキツイ……(ソーナンス)



ジュジュベ爆誕!
エスパーの力は思いの力
想像して願うことができればそれが現実になり未来予知に繋がるわけですね
レインにやってみようと思わされただけでその未来がはっきりと浮かび上がる……
楽しいでしょうね
当初はみゅーに愚か者呼ばわりされていた未来予知……
でもエスパーにムダな能力なんてないんですよ
この場この時のための未来予知です


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7.毒を盛ったら自滅 空へ逃げれば無抵抗 

 時は流れ2回戦。勝てばどんどん先へ進んでいく。ブルー達はみんな勝ちあがって次へコマを進めた。俺だけ置いて行かれるわけにはいかない。

 

 リングへ上がると見慣れた顔が立っていた。ニビジム、ジムリーダータケシ。依頼関連では何度も共闘して窮地を救われたこともあったが今度は敵同士。戦うとなると厄介なことこの上ない。

 

「とうとうここまで来たな、レイン君」

「正直あんたとは当たりたくなかったよ。いわタイプはやりづらい」

「おや、戦う前から弱気とは君らしくもないな。ここにきて怖気づいたか?」

「そんなんじゃない。苦手ではあるが、それでも負けるつもりはない。攻略法が全くないわけでもないからな」

「お手並み拝見だな」

 

 互いにボールを構える。審判のフラッグが上がった!

 

「……はじめ!」

 

 互いに最初の1体が出てくる。俺はユーレイ。相手のポケモンは……ハガネールか。いきなりいわタイプがないけど先鋒にはうってつけのポケモンだな。

 

 ユーレイ Lv52 @きあいのタスキ

 

 技 1シャドーボール

   210まんボルト

   3きあいだま

   4さいみんじゅつ

   5まもる

   6みがわり

   7あやしいひかり

   8みちづれ

   9ゆめくい

  10ちょうはつ

  11のろい

  12いたみわけ

 

『最初のポケモンはゲンガーとハガネール! どちらも強力なポケモンだ! まず先手を取るのはどちらだ!?』

 

 んなもん素早さで圧倒的に勝るユーレイに決まってるだろ?

 

「ステルスロック!」

「10!」

 

 ほぼ同時の指示。しかしユーレイの“ちょうはつ”が先に決まった。タケシ相手には“ステルスロック”を使うことより使わせないことが重要。いわ系には効果が薄い。

 

「かみくだく!」

「いらっしゃいませ。4」

 

 接近する敵には逆らわずに“さいみんじゅつ”を狙うのが定石。不一致抜群程度なら素で耐えられるので万一攻撃を受けても保険が利く。最悪タスキもある。

 

「潜れ!」

「6」

 

 今の“さいみんじゅつ”によく反応したな。接近しながらの体勢から避け切られるとは思わなかった。どうもこっちの動きが読まれていた感じがする。俺のことをよく研究しているのかもしれない。

 

 とりあえずサーチを使って位置を確認。ユーレイは“みがわり”を使って万全の状態だ。さて、いつ出てくる?

 

「出てこい! ヘビーボンバー!」

「上へ逃げろ」

 

 なるほどね。たしか“ヘビーボンバー”は鋼タイプの技。こいつをメンツに入れたのは“ステルスロック”のためだけじゃない。俺が選んだタイプのフィールドを利用することまで織り込み済みか。

 

 その上この技は体重差があるほど威力が増す。ゲンガーは進化前に比べれば格段に重いとはいえハガネールとは比ぶべくもない。“ヘビーボンバー”は凄まじい威力と化す。

 

 当然まともに受けるわけにはいかない。いったんリーチから外れるために上空へ逃がした。こっちは遠距離攻撃ができるので不利にはならないはずだ。

 

「ストーンエッジ」

「3、撃ち落とせ!」

 

 一直線に進んできた石の礫は全て撃ち落とし、ハガネールまでこっちの攻撃が届いた。大したダメージではないが威力で勝っていた事実は大きい。これを続ければ相手はジリ貧になる。

 

 やはり“きあいだま”が有効のようだ。これで相手は安易に“ストーンエッジ”は使えなくなったはず。どう反撃する?

 

「もう一度だ! やるぞハガネール」

「……3!」

 

 何の策もなく同じことをするとは思えないがこっちは“みがわり”がある。それで保険は十分。ひとまずここも“きあいだま”だな。

 

「ゲェェ!」

「やはりひと癖あるな」

『ハガネールのストーンエッジは見事なコントロールで軌道を曲げてゲンガーに直撃した! しかし“きあいだま”もしっかり当たっており双方痛み分けとなったぞ』

 

 まぁそんなところだとは思ったが攻撃を曲げるのはもはや当たり前のようだな。どう動くかの読みも必要になるか。お互いにあと1発で戦闘不能ってところ……攻撃を受ける余裕はないな。

 

「もう一度だ!」

「動かないで6」

 

 これでどうだ? 曲がれば逸れていくはず。

 

「ゲェェ!」

 

 当てられた。“みがわり”なのでやられはしないが……。

 

「自動追尾と見るべきか。命中80ってのは何だったんだろうな」

 

 さて、どうする? ユーレイは遥か上空にいる。“さいみんじゅつ”は届かない可能性が高い。他の補助技も同様。……“きあいだま”で相打ち狙いしかないか。

 

「3」

「ストーンエッジ」

 

 タケシもハナっから相打ち覚悟か。ハガネールでユーレイを倒すのが狙いってわけね。

 

「ゲンガー、ハガネール、戦闘不能!」

『ダブルノックアウト! 両者戦闘不能だ!』

 

 やられたな。最初から上空へ追い立てるのが作戦だったのだろう。思えば最初の“かみくだく”から全て布石だったのか。

 

 最初安直に接近戦を仕掛けたようにみせ、止むを得ず地中へ逃げたように思わせる。その後地中からの攻撃で自然に上空へ逃げるように仕向けた。これでこちらのすり抜けが封じられ空中丸裸。そうなれば抜群のコントロールの“ストーンエッジ”の的になる。あの攻撃を躱しながら下へ降りるのは厳しい。

 

 厄介なのはなまじ距離があるせいで中距離技の“さいみんじゅつ”や“あやしいひかり”が使えないこと。“きあいだま”で倒せると判断した俺のミスか。いや、相手の“ストーンエッジ”が予想を上回っていた。

 

「両者ボールを構えて」

 

 同時ノックアウトだとまた一斉に投げるのか。さて、次はどうするか……。やはりまだ“ちょうはつ”が必要だな。いわタイプ使いなら“ステルスロック”要員は複数いるだろう。考えをまとめてボールを投げた。

 

 アカサビ Lv55 @メタルコート

  

 技 1バレットパンチ

   2でんこうせっか

   3むしくい

   4つるぎのまい

   5まもる

   6みがわり

   7とんぼがえり

   8つばめがえし

   9バトンタッチ

  10かわらわり

  11ちょうはつ

 

『出ました! ゴローニャとハッサムです! さぁここから仕切り直しだ!』

「そいつはたしか……ロックブラスト!」

「大きく右へ」

 

 とりあえず何発出てくるか見ておくか。1,2……。

 

『今日のゴローニャは絶好調だ! 5連続のロックブラスト! ハッサム何とか避けきった!』

 

 最悪だな。強引に受けて能力アップはきついか。特性“がんじょう”を考慮すれば3発攻撃を受けることになる。幸い“ロックブラスト”が曲がってくることはなさそうだ。連続技であることが関係するのかもな。真っ直ぐなら回避しやすい。

 

「まるくなる!」

「ん? 1!」

 

 “まるくなる”? トチ狂ったか? 先制技の“バレットパンチ”が先に決まりダメージは半分ちょい。さすがに防御は素でも堅いな。

 

「ころがる!」

「そういうこと……。アカサビ、大きく左へ」

 

 躱したがギリギリだ。やっぱり曲がってくるな。余裕を持たせて良かった。

 

 ゴローニャは高速で動きながら正確にアカサビのいる場所に狙いをつけている。よくあの速さで敵の位置を把握できるな。

 

 “まるくなる”後の“ころがる”は全て威力2倍。防御を上げながら当たるたびに加速する“ころがる”を最初から威力2倍で打ちだす。下手に攻撃しても弾かれそうだ。ある意味BS振りを活かした戦術か。

 

「逃がすなゴローニャ!」

「少し左、大きく後ろ、今度は右へ飛び込んで!」

 

 全方位から来る攻撃をなんとか躱している状況。1発でも受ければそこから避けきれなくなる。ミスは許されない。

 

「サム!?」

『あっと! ハッサム後ろはリングの壁だ! これでは動けない!』

「よし、追い詰めた! やれゴローニャ!」

 

 罠にかかったのはそっちだ!

 

「飛べ!」

「何!?」

『ハッサム飛んだ!? ゴローニャは勢い余って壁と激突した!』

「重力を乗せて全力のバレットパンチだ!」

 

 ドゴォォォン!!

 

 アカサビはジャンプで緊急回避。さらにめり込んで動けなかったゴローニャが吹き飛ぶ程の一撃を放った。そのまま相手は気絶。乱数が1.0を超えたな。

 

「ゴローニャ戦闘不能!」

「ならこいつだ!」

「キーキー」

『これは珍しいポケモンだ! 化石ポケモンのオムスター! いわタイプながら、はがねタイプを弱点にもちません!』

 

 なるほどね。相性がマシなオムスターをさっき出さずに今ってことは先に出したゴローニャは“ステルスロック”要員か。とするとアカサビの“ちょうはつ”を警戒されていたことになる。よく研究してやがる。

 

 だが逆に言えばこいつは“ステルスロック”を使ってこない可能性が高いわけだ。“バレットパンチ”が抜群で通らない奴は相手にしたくないしさっさと交代するか。

 

「オムスターッ!」

「7!」

 

 タケシが掛け声をするとオムスターは天に祈りを捧げた。なんだこの動き? 辺りが暗くなり気づけば上空に雨雲が発生している。もしかしなくても“あまごい”か。文字通りの雨乞いだな。すぐに“あめ”が降り出した。

 

 やってくれる。今の掛け声はおそらく“ちょうはつ”対策。あらかじめ示し合わせていたな。エフェクトで判断すると“ちょうはつ”はどうしても間に合わない。技がわからないのは敵にして改めて厄介だと感じた。

 

 特性は“すいすい”で間違いないだろう。この特性は天候が“あめ”の時、素早さを2倍にする。たしかに強力な効果だが、“あめ”はいわタイプにはマッチしないだろ?

 

『ハッサム攻撃後に素早く控えに戻った! すぐさまサンダースが登場。みずタイプにはうってつけのでんきタイプだ!』

 

 アカサビは“とんぼがえり”で戻ってくる。普通に交換しなかったのは正解だったな。ここからはイナズマの独壇場だ。

 

 イナズマ Lv53 @とけないこおり

 

 技 110まんボルト

   2めざめるパワー

   3あくび

   4バトンタッチ

   5まもる 

   6みがわり

   7こうそくいどう

   8チャージビーム

   9かみなり

  10あまごい 

 

「いくら速かろうが今のオムスターには勝てない! つのドリル!」

「おっそろしいことするなぁ。9」

「躱せ!」

 

 それは無理な相談だ。イナズマの選んだ技は“かみなり”。天候が“あめ”のとき必ず命中する。オムスターが一撃必殺を覚えるのは初耳だったが結局脅威にはならない。

 

「オムスター戦闘不能!」

『まるで敵に吸い込まれるような攻撃! オムスターにこうかはばつぐんだ!』

「みずタイプは出せない……サイドン!」

「ギャオギャーオ!」

 

 普通のサイドンか。そういやドサイドンは通信交換だから野生を捕まえるしかないんだったな。こりゃラッキー。

 

「じしん!」

「ヒリュー!」

 

 プテラ Lv.53 @かたいいし

 

 個 029-031-020-022-024-031

 実 189-133-091-072-097-211

 努 196-004-056-000-000-252

 

 技 1ストーンエッジ

   2つばめがえし

   3じしん

   4おいうち

   5まもる

   6みがわり

   7ほえる

   8ちょうはつ

   9どくどく

  10こうそくいどう

  11ステルスロック

 

 じめんタイプの技は扱いが難しい。技名を言う関係上効果がないタイプを持つ攻撃は無効にされやすい。特にじめんタイプは“ふゆう”や“ふうせん”などでも無効にされるのが辛いところ。まぁわかっていても使わないわけにもいかないのだろうが……。

 

「ロックブラスト!」

「少し右へ、そのまま9」

 

 ヒリューをただの“ステルスロック”要員と思うことなかれ。恐るべき戦術を見せてやる。

 

 ヒリューは元々攻撃力が高く本人も攻めっ気が強い。だが俺はここに来て努力値の変更と共に育成方針を大きく変更した。それに伴い攻撃技も4つに絞った。いわひこうじめんの組み合わせだけでかなりの広範囲を等倍以上でカバーできている。抜群範囲を気にするなら三色キバなどもほしいが最低限の火力しか期待していない。あくまでメインは補助技だ。

 

「どく状態か。がんせきふうじで捕まえろ!」

「上空へ、10」

『あぁー!! プテラは遥か上空へ! これではお互い攻撃が届かないぞ!?』

「くっ……ハナから戦う気はないというわけか。ならこっちもプテラだ!」

 

 勝ち目なしと見て交代したか。お利口だがそれはもちろん想定済み。

 

「そうこないとな。少し降りてこい! 上から1」

 

 速さにものを言わせて毒を盛り、その後はひたすら回避。相手に対空手段がなければ上空で“こうそくいどう”を使い放題。あっても“ちょうはつ”で攻撃を強制し、素早さの能力上昇には“こうそくいどう”で対抗、必中技は威力が低いのでヒリューの攻撃力の高さを活かしてこっちも攻撃を当てて相殺。あるいは“みがわり”でやり過ごす。

 

 隙のない技構成。困るのは飛べるポケモンの連続技だがそんなやついやしない。少なくとも実践レベルには到達しない。これはこれまで温存していたが、いわタイプ相手じゃそうもいってられないからな。

 

『プテラ同士の壮絶な空中戦が始まった! しかしあらかじめ上空に陣取っていたレイン選手が圧倒的に有利だ! その上飛行速度にも大きな差がありそうだ! これは一方的な展開になりつつあるぞっ』

「こうも速いと簡単に上は取れないか」

「あーあーずいぶん高いところまでいっちゃって……これじゃもう声は届かないな。たまには好きに暴れさせてやるか」

 

 これまで先発で補助の役回りばかりだったからな。暴れたりなかったんだろう。少しは見逃してやるか。負けないだろうし。

 

『上空からプテラが落ちてきたぞ! どっちだ!?』

「……ぷ、プテラ戦闘不能!」

 

 どっちの、とは言わないんだな。審判に分かれという方が酷だろうがよくみれば大きさの違いに気づくはずなんだが。タケシはやはりわかっているようだし。

 

「負けたか」

「ヒリュー、戻ってこーい!」

 

 さて、あとは手負いのサイドンと未知のポケモン一体。オムスターと“あまごい”を踏まえると“すいすい”持ちのカブトプスがいると読んでいたんだがどうかな?

 

「いけっ、カブトプス!」

「9」

 

 やっぱりだな。天候は空中戦の間にとっくに元に戻っている。なすすべもなくカブトプスはどく状態となった。当然ヒリューは空へ向かう。

 

「……審判、降参するよ。これ以上はポケモンを苦しめるだけだ」

「わかりました。タケシ選手が負けを認めたので、勝者レイン選手!」

『ここで決着か!? レイン選手、またしても途中降参により勝負を決めた! 相手に絶望を与える恐ろしいトレーナーだ!』

 

 ヒリューが本気を出せばこんなものだろうな。対策がないと詰む戦術は本当に怖い。

 

 同じことはイナズマでもできるが“あくび”と“どくどく”がミスマッチなことに加え飛べないのを踏まえてヒリューの役割になった。この戦術も以後マークされるだろう。今後飛行能力のあるポケモンが相手に増えるだろうな。

 




ヒリューの努力値が半端な振り方でしたね
理由を簡潔に言うと能力が高くなるように効率よく振り分けたからです
「HP」と「防御と特防の和」が近いほど指数が高くなります
理屈が知りたい場合は一応プロローグの準備に記してあります

理想配分とかは最善を尽くすべき内容なのでどうしても避けられません
でもバトルの本筋には全然絡まないので気にならなければスルーで全く問題ないです
ただ単に作者が気になってしまう人間というだけです

大空フライアウェイはいつぞやの毒盛って“でんこうせっか”連打云々の応用です
悪用って怖いですね
アイデア自体は子供みたいなしょーもない感じですが、案外隙のない初見殺しです
特定の技かポケモンがいないと即詰みですよね
先発でも“みがわり”4つで4体倒せますし、かくとう統一パなどでひこうタイプを炙り出した後最後にプテラを召喚して詰みに持ち込むのも恐ろしいですよね

やっぱり考えるほど毒でんこうせっかをしない理由がわからないですね
サートシくん、ピカチュウに“どくどく”を覚えさせよう
攻撃せずに勝てるぞ(マジキチスマイル)


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8.轟く咆哮 反撃の嚆矢

『シャドーボールが決まったぁぁ!! 眠ったままベトベトン戦闘不能!! 勝者は四天王のキクコだっっ!!』

 

 3回戦、すでに人数は大幅に絞られてきた。実力者同士もぶつかりしのぎを削っている。俺の次の相手は以前経験値稼ぎをした時に手合わせしたトレーナー。大した敵じゃない。なので後々の敵の視察に集中することにした。

 

 まず四天王。ジムリーダーとはまた格が違うようだ。カスミがカンナに、そして今キョウがキクコに負けた。四天王はやはり四天王というところか。

 

 ただ、キョウに関してはツキに見放されたな。キクコはゴーストタイプ使いだが実はどくタイプの方が多い。そしてどくタイプにはキョウお得意の“どくどく”が無効。しかも“だいばくはつ”も効かない。天敵と言ってもいいだろうな。それでも気づいたら最後の1体までキクコを追い込んでいたから驚いたが。

 

 キョウがナツメと引き分けた時もおそらく次戦にはナツメが進んだはずだ。ナツメはマスターズリーグで1敗しているからな。実力はあってもなかなか勝ち進んでいけないところにキョウがまだジムリーダーに甘んじている理由があるのだろう。……3年後にはその2人はいなくなるだろうから昇格チャンスだな。

 

 ジムリーダーはあと3人。カツラとエリカとマチス。そのうち俺のいるブロックに2人。そしてブルー達も特に苦も無く勝ち上がっていた。……俺だけがハードだ。

 

 今はまだ各々が実力を隠している、そんな気配がする。本当の勝負はもう少し先だな。

 

 ◆

 

 軽く3回戦を突破して次の試合の相手を確認した。次に当たる組の試合は自分の直前にあったので見れていない。試合の間隔は詰まってきている。4回戦は試合数が少ないので翌日に全てまとめて行う。さぁ、次の相手は…………!!

 

「エリカ!? 勝ち上がったのか!? たしか相手はマチスだったんじゃ……」

 

 自分の試合の直前だったので見れなかったが本当にマチス相手に勝ったのか? 驚いていると服をクイッと引っ張られた。

 

「レインー、みゅー疲れたの。もういたみわけ使えないよ」

「え!?」

 

 唐突な発言に戸惑う。今日はかなりの消耗戦だった。相手が自爆技などをお構いなしに使い負けて元々というような無茶苦茶な攻撃をしてきたからだ。おかげで勝つことは楽だったが4体も倒れてしまい残ったのはグレンとみゅーだけだった。

 

 現状みゅーの“いたみわけ”がないとかなり厳しい……。大事なことなので部屋に戻ってから必死でみゅーにお願いした。

 

「みゅー、頼むよ。俺達最後の試合だったからもうポケセンは埋まっているだろうし回復しないと代わりもいないだろ?」

「みゅぅ。そう言われてもみゅーホントに疲れたの。レインの頼みだからこれまでずっと頑張ったけどもう限界だよ。それに全然バトルしないからつまんない。明日はみゅーがバトルするの」

「わかったわかった。じゃあ明日のために今日は休んどいて。アカサビ達は道具で回復させとく」

「うみゅーっ! レインありがとう! 約束ね」

「……ガウンッ! ガウガッ!」

 

 みゅーの頭を撫でて頷いているとグレンがボールから出てきた。何か言いたげな表情だ。

 

「どうしたグレン?……なぁ、ちょっとその視線やめてくれよ。もしかして俺のこと責めてる?」

「ガウゥゥーン」

「……グレンもバトルで使ってほしいみたい。あんまり……というか1回もリーグ戦に出てないもんね」

 

 お前もか。ポケモンって本当にバトルするのが好きなんだな。本能? 俺だったらラクできるからなるべく戦いたくないけど。……俺はナマケロかっ!

 

「この前も言ったでしょ? お前は最も強力な先制技があるから最後の詰めのとっておきなんだよ。サポートなしのサシ勝負では1番信用できるし、全員倒れた時の最後の切り札はお前にしか頼めない。わかるな?」

「ガウガ?」

「で、レイン本当の理由は?」

「いやぁ、ほのおタイプ単一だとなかなか役割を持ちづらいんだよなぁ。半減できるタイプがマイナーどころばかりだとやっぱり交換して使う機会は減っちゃうよね。補助技もあんまりないし攻撃も自分の身を削りながらするから消耗しやすくて長期的なトーナメントには向いてないし」

 

 ついノリで本音まで言ってしまった。

 

「ガウガウガァァーー!!!」

「いぎぎぎぎやめろっ、ダメかむなっ! あああぁぁぁっっっ!!」

 

 思いっきり頭をかじられた。めり込んでるよっ! 鋭い犬歯が頭にめり込んでるっ!

 

「レイン……反省して」

「ガブゥゥ!」

「こらっ!? かみなりのキバはダメ! トレーナーにするのはダメ! 俺が死んじゃうからホントにやめて!!」

 

 体がマヒして動かなくなったところでようやく解放された。みゅー、見てないで助けてくれよ。

 

「まひなおし使ってくれる?」

「レイン、反省した?」

「……よーく反省しました」

「みゅみゅ。じゃあグレンもいいよね?」

「ガウ」

 

 なんとか体は動くようになった。少しは気を鎮めてくれたようだ。グレンの話をみゅーを交えてよく聞くと相当フラストレーションがたまっていたらしい。

 

「ガウガウガー」

「グレンは自分が最初の仲間だから自分が皆を引っ張っていきたいんだって。レインと一緒にレベルが低かった時から頑張ってきたから1番大事なところで見てるだけはイヤって言ってるの」

「グレン……」

「ガウガー」

「これからはもっと自分を信用してたくさん戦わせてくれって」

 

 ポケモンのことを考えて気持ち良く戦わせてやるのもトレーナーの仕事のうちか。やっぱり俺もまだまだなんだな。

 

「グレン、明日はくさタイプが相手だ。ほのおタイプのお前がキーマンになる。頼んだぜ? カッコイイところみせてくれよ?」

「ガァァーーウン!!」

 

 嬉しそうに俺のお腹のあたりに顔をうずめてすり寄ってきた。ガーディみたいなじゃれつき方をされて無性に嬉しくなった。

 

「よーしこい! だっこしてあげよう」

「ガウッ!」

 

 ドシン!!

 

「おもっ!?」

 

 あっけなく下敷きになった。後で知ったことだがウインディの重さは約155㎏。とんでもない暴挙だった。

 

「レインって嬉しくなるとすぐにバカなことしちゃうよね」

「みゅー、冷静にコメントするヒマがあったら助けて」

「楽しそうなのにジャマしちゃ悪いの」

 

 いいながら口元が笑ってる。こいつ確信犯だ!

 

「くっ……グレン、もうそろそろ十分と思わない?」

「ガウ?」

 

 こっちはこっちで全然意図が伝わっていない。

 

 ……つぶれる!

 

 ◆

 

 第4回戦。リングにはすでに相手が待っていた。因縁の相手……エリカ。今となっては昔のことだしもうこいつをどうこうする気はないけど、くさタイプの敵はエリカ抜きにしてもキライだ。徹底的に叩き潰してやる。

 

「ごきげんよう。昨日はよく眠れましたか?」

「心配しなくても俺はお前みたいに昼寝したりしない」

「そうですか。今日はいいお天気ですからポケモン達も活き活きとしていますわ。ついウトウトしますわね」

「どうやらおめでたい脳ミソは変わってないらしいな……」

 

 わかっていてもエリカのこのマイペースな話し方には慣れない。わざとこっちのペースを崩しているのか?

 

「今日は後悔しないように全力で戦うことをオススメ致しますわ。あとで全力じゃなかったと言われても困りますから」

「……ご忠告どうも。だがまさか俺に勝てる気でいるんじゃないよな?」

「少なくともお天道様はわたくしに味方していますわね」

「大した自信だな。そこまで言うなら見せてもらおうか。がっかりさせるなよ?」

「いいでしょう。くさポケモンの本当の恐ろしさをとくと味わってくださいまし」

『両者激しく火花を散らす! 緊迫した空気の中共にボールを構えた』

「……はじめっ!」

 

 互いにボールを投げた。1体目はイナズマとウツボットだ。

 

 “バトンタッチ”でさっさと決めてやる。

 

「6!」

「ヘドロばくだん!」

 

 最初はお得意の状態異常をかけに来ると思ったがいきなり攻撃か。“みがわり”はムダになったが大した威力じゃない。これなら強引に眠らせられる。

 

「3」

「ねむりごなで追い払いなさい」

「何っ!? 下がれ!」

『エリカ選手上手く立ち回って敵を全く寄せ付けません! 見事な手際だ!』

 

 どういうことだ? こっちの行動が読まれた? “ねむりごな”を自分の周りに展開して盾にしやがった。明らかにこっちが接近することを読んでいる。なら……。

 

「2」

「優雅に避けてしまいなさい」

「イナズマの速さを舐めるなよ?」

「あなたこそくさポケモンを侮り過ぎです」

 

 “めざめるパワー”は一直線に相手に向かって飛んでいく。しかしウツボットはこちらに接近しながらヒラリとこれを躱し、そのまま流れるようにイナズマへ“ねむりごな”を放った。

 

『お見事! 見事な体捌きで技を避けつつ上手く距離を詰めた! サンダースはすでにねむりごなのリーチに入っている! これは決まったぁぁ!!』

 

 信じられない光景だった。間合いの取り合いでイナズマが完敗するなんて初めてだ。さっきの華麗な身のこなし……おそらくあのウツボット、イナズマよりも速い。どういうことだ?

 

「眠ってしまえば怖くありません。あなたもマチス同様何もさせずに倒してさしあげましょう」

 

 そうか! こいつマチスにどうやって勝ったのか気になっていたが催眠で倒したのか。あのクレイジーガイは催眠を殊更嫌う。術中にはまっただろうな。

 

「いきますよ、ソーラービーム!」

「ソーラービームだと!? ハッ、まさかっ!!」

 

 天を見上げれば空は雲一つない快晴。……ひざしがつよい!

 

『出ました! あれはくさポケモンの最終奥義ソーラービーム! ジムリーダーエリカ、なんと吸収時間なしでいきなりフルパワーのソーラービームを放った! くさのフィールドも相俟って凄まじい破壊力だ!』

 

 ためなしで発射された太陽光線がイナズマに直撃。恐るべきダメージだ。これで速攻のカラクリはわかった。この天候がエリカに味方していたのだ。

 

 考えてみればエリカを舐め過ぎていた。どく専門のキョウですら“にほんばれ”を絡めてきたのに、くさタイプのエキスパートであるエリカがこれを知らないわけがない。

 

「天候まで計算づくか。ようりょくそにソーラービーム……本当の力とはこのことか」

「ええ。わたくしお天気のいい日はついウトウトしてしまいますの。……あまりにも簡単に勝ててしまうものですから」

 

 こいつ……!

 

「起きろイナズマ! いつまで寝てる気だっ!」

「ムダですわ。こんなよいお天気でお昼寝をするなという方が無粋です。ウツボット、ソーラービームでトドメを!」

「キシャーー!」

 

 イナズマは一度も起きなかった。

 

「サンダース戦闘不能!」

『先手を取ったのはエリカ選手だ! 流れるような攻撃で見事にサンダースを翻弄! 無傷で倒してしまった!』

「ヒリュー!」

 

 今は切り替えだ。すぐさま次のポケモンを繰り出した。

 

「プテラですか。わたくしも交代しましょう」

『おっとぉ? 出だし好調のエリカ選手ポケモンを交代するのか?』

「11!」

 

 交代時間を使ってひとまず無難に“ステルスロック”を使ったが次は何が出てくる? くさポケモンでひこうに有利なポケモンはいないはず。でんきタイプ辺りを持っていたのか?

 

 現れたのは海百合のようなポケモン。黙ったまま触腕をユラユラと揺らしている。

 

『あれはエリカ選手の切り札だ! 生息地は遥か彼方海の向こうのホウエン地方、その名は……』

「ユレイドル?!」

「あら、よくご存じですわね。でしたら厄介さもわかるでしょう? のろい!」

「8!」

 

 “のろい”や“たくわえる”だけは絶対にさせない。あれは舐めてると手が付けられなくなる。カントーでお目にかかるとは思わなかったが、たしかにくさタイプの弱点を補うにはうってつけだ。いわタイプは攻撃面でかなり相性補完がいい。くさタイプの弱点にことごとく抜群をとれる。

 

「ストーンエッジ!」

「躱して9!」

 

 得意の戦法に持ち込むために“どくどく”を使うが巧みに岩を操り上手く相殺された。こっちの攻撃に狙いをつけている。素早さは遅いので一歩も動かないが撃ちだされる砲弾は素早く強力。まるで要塞だ。素早さ勝負をしかけるのは無謀だな。自分だけを守ればいい相手に攻撃を通すのは難しい。力勝負でいくか、範囲攻撃で問答無用で当てるか、ガードも許さない先制技を使うか……。ここはあいつに任せるか。

 

「戻れ! 1!」

「ッサム!」

 

 勢いよく飛び出したアカサビは素早くユレイドルに向かって拳を突き出した。先制の“バレットパンチ”。

 

『レイン選手形勢が不利と見るやすぐに交代! しかしエリカ選手も即座にこれに応じてポケモンを入れ替えた! 目まぐるしい攻防が繰り広げられている!』

「ウツボット、受け切りなさい!」

 

 バシン!

 

 攻撃はしっかりウツボットに当たった。しかし思った以上にダメージが小さくウツボットはその場で耐えきった。

 

「こいつ、自分の空洞を利用して受け身をとったのか! 衝撃が和らいでいる……!」

「これでその子はおしまいです。ウェザーボール!」

「ウェザーボールだとっ!? しまった!! 天候は晴れ!?」

「燃え尽きなさい」

 

 これが決まれば全てが終わる。こんなむちゃくちゃな攻撃でアカサビを失うわけにはいかない。早く指示を出して逃げないと!

 

「でんこうせっかで逃げろ!」

「ッサムゥ……」

 

 やられた……。そうだ、先制技の後は連続で動けない。いつもは敵を吹っ飛ばすほどの威力があるから気にならなかったがこの隙が命取りになったか。これでは至近距離であれを受けることになる。

 

 小さなエネルギー弾が天高く放たれ、それはつよいひざしを浴びて大きく、そして真っ赤に染まった。アカサビが接触した瞬間、爆炎がはじけた。直撃したアカサビは大の字に倒れ気絶していた。

 

「ハッサム戦闘不能!」

「俺のアカサビがよりによってくさタイプに負けるなんて……」

『見事な切り替えし! くさタイプにとってやっかいなポケモンをいとも容易く倒してしまった! さすが、くさタイプポケモンのエキスパートだ!』

 

 さすがにこれはショックが大きい。アカサビだけは負けないと思っていたのに……。

 

「何もかも思い通りにいくのは少々退屈ですわね。ウトウトしそうでしたわ」

 

 余裕のつもりなのか知らないがこっちを煽るだけで行動は何もしない。“せいちょう”でも使ってくれば即座にユーレイに入れ替えて催眠地獄を見せてやろうと思ったがこれすら読まれているフシがある。

 

 “ウェザーボール”は天候でタイプが変わり威力が2倍になる。晴れならほのおタイプとなり威力は天候の補正も加わって150となる。4倍弱点をつかれたのでアカサビには600だ。耐えられるわけがない。

 

 ウツボットを一度引っ込めたのはおそらく“バレットパンチ”を受ける体力を温存するため。アカサビ対策の秘密兵器だったのだろう。

 

 逆にウツボットを先頭へ持ってきていたのはイナズマを倒すためだろう。いくら“ようりょくそ”持ちでも元々鈍足のくさタイプでは追いつけない。他は鈍足しかおらずやむを得なかったとすれば筋は通る。

 

 イナズマに対して唯一素早さが勝るウツボットなら天候に気づかず油断している状況の最初の一太刀だけは確実に“ねむりごな”を決められる。無傷で倒せば後々の役割にも支障は出ない。全てエリカの狙い通りだろうな。

 

 つまり……ここまでほとんど俺の行動は読み切られている。最初の“みがわり”のタイミングもバレていたのだろう。どうやら俺は手の内を明かし過ぎたらしい。

 

「ユーレイ! 6!」

「ウェザーボール」

 

 まただ。数ある補助技を警戒すべき場面で安易に攻撃? “みがわり”は潰れてしまった。どうしてここまで完璧に行動が読まれる?……まさか!

 

「シャドーボール」

「あら、数字遊びは終わりのようですね。躱してウェザーボール!」

 

 こいつ……。おそらく番号は記憶されている。それも俺のポケモン全ての番号を正確に覚えるだけでなく反射的に対応できるレベルにまで訓練されている。

 

 そんなこと普通できるわけない。覚えるだけでも難しいがそもそも俺が使った場面を1つずつ検証して相当な時間をかけて分析しないと覚える作業すらできない。覚えたとしても実践で活かせるレベルまで訓練するのはさらに大変だ。一瞬で技を把握し自分も指示を出す必要がある。そこまでして俺を倒したいのか……。

 

 これからは番号を見るのをやめて相手の能力の分析をした方がいいだろうな。

 

「ゲェェ!」

『ウェザーボールが再び炸裂! 相手の攻撃を難なく躱して見事な反撃だ! ゲンガー成す術もなく膝をついた!』

「ユーレイ! 膝をつくな! この程度の攻撃すぐ回復できる! 地面に潜れ!」

「ウツボットッ!」

「キシャーー!」

 

 なんだ? 何か合図を送った? まぁなんでもいい。地中から奇襲をかければ相手は避けられない。催眠ループで全抜きだ。

 

「あやしいひかり!」

「ウェザーボール!」

 

 俺の指示を聞いてユーレイが浮上。即座に攻撃に移るがそれよりも速く地表に出た瞬間を狙いすましたようにウツボットが攻撃を仕掛けた。

 

「ゲゲェッ!」

「攻撃場所を読まれた?!」

 

 “ウェザーボール”がモロに当たって倒れた。戦闘不能だ。

 

「ゲンガー戦闘不能!」

「たわいもないですわね」

『すごい、すごいぞ! エリカの勢いが止まらない! 厄介なゴーストタイプと弱点のどくタイプを併せ持つゲンガーをあっさりと倒してしまった! これがジムリーダーの実力か!? ルーキーとの格の違いを見せつけた!』

 

 どうやって場所をつかんだ? 確信を持った動き……ユーレイの出現タイミングだけを計っていたように見えた。きっと場所は最初からわかっていたんだ。今のは何かしらの探知手段があったとしか考えられない。エリカには当然そんな手段はない。さっきの合図でウツボットが何かしたのか?

 

 シュルシュル……

 

 さりげなくウツボットが何かをしまっている。あれは……?

 

「ねっこ? あれはウツボットのねっこか? それが引いていく……? まさか“ねをはる”で地中の探知を!?」

「あら、よくわかりましたね。もっとも気づくのが遅過ぎたようですが。おかげで養分を吸い取って体力満タン、絶好調です。感謝しますよ」

 

 驚いた。そんな奇想天外な方法ですり抜け対策をしてくるとは。俺のことを全て研究しつくしている。あぁ、なんてザマだ……!

 

「チッ……だが不意を突かれたとはいえあの程度の攻撃でなぜ……」

「あなたはポケモンのことを何もわかってないようですわね」

「なんだと?」

「あなたはずっと6匹だけで戦っていたのでしょう? 丸わかりです。だからここにきてあなたのポケモン達は疲労のピークに達しているのですよ」

 

 そうか……よく考えれば最近は連戦続きだ。リーグの頃はレベル上げでも戦闘不能になる回数はしれていたし、本戦はほとんどみゅーだけで勝てた。だが最近は経験値稼ぎでマスターの連中相手にハードな戦いを続けていたし、トーナメントでも総力戦が続いた。体力は回復できても気力までは戻らないということか。その上昨日はみゅーが疲れて回復は道具で済ませた。それも関係したのかもしれない。

 

「表に出さずとも疲れを感じていたのか。それで乱数が悪く……」

 

 そういう疲れは数値的な部分では全く反映されていなかった。だから今の今まで大丈夫だと思い込んでいた。“目”に頼り過ぎたツケ、“能力”に甘え過ぎた代償か。

 

 思えばみゅーの限界だというあの言葉、きっと俺に対して警鐘を鳴らしていたんだ……酷使は破滅を呼ぶと。

 

「あなたはまだちゃんとポケモンを見ていない。だから無茶ばかりさせる。そんなことではチャンピオンになどなれはしません。己を省みて出直してくることです」

「くっ……」

 

 まさかエリカにこんなことを言われるとはな。これじゃ俺の面目も丸潰れだ。

 

 ……まるで以前のバトルとはそっくりそのまま立場が逆転したように思える。言葉の端々に記憶に引っかかるものがあるし、このクソッタレな状況も何もできなかった以前のエリカそのものだ。

 

 いや、今はそれよりもバトルが重要。この状況……かなりマズイ。

 

「何を考えているか手に取るようにわかります。これまで酷使したポケモンはここでは使えない。だから残るはプテラを除いて2匹だけ。ですが手の内を全て読まれるこの状況ではメタモンも使えない。相手は6匹全て残っているにも関わらず自分は1匹だけ。勝てるわけがない」

「……」

「降参なさい。それがポケモンへの優しさです」

 

 ……ここで諦めしかないのか。ブルーとも戦えず、四天王にすら挑めず、こんなつまらないところで終わる、その程度だったのか。

 

 カタカタッ!!

 

 ボールが激しく揺れる。このボールは……!

 

「そうか、そうだよな。……エリカ、どうやらこいつにとっては諦めず戦わせてやることが1番の優しさらしいぜ?」

「負けるとわかっていてするバトルに何の意味があるのですか?」

「負けねぇよ。ここからが俺達の見せ場だ」

 

 天高くボールを投じる。俺の手を離れ高々と舞い上がったボールから真っ赤な炎が飛び出した。強烈な“いかく”が大気を震わせる。

 

「ヴォオオォォウ!!」

「今こそ切り札登場の時! さぁ、反撃開始だ!」

 




エリカ様大暴れ!!
無傷の6匹を残し実質残り1体までレインを追い詰めました

手持ち全てくさタイプアンチのレインにどうやって勝つのかなぁと考えてましたが意外と造作もないですね
エリカはレインから弱いと思われていますがその根拠って実はないですよね
あれは初見殺しと相性による敗北で、育て方云々もジム戦用なので特訓とかしてませんしある程度雑になるのはやむを得ない部分があります

フルメンバーで全力かつ有利な条件下ならこれぐらいはできます!
できるといったらできます!(ゴリ押し)


グレン怒り爆発!
フレアドライブは勘弁してかみなりのキバで許してあげる優しさ
自傷系のインファイトやワイルドボルトのような技をあまり使わないのはレインの好みだったようですね
……愛着の現れです


あ、今回はエリカ視点も味わうために番号のカンペなしにしました
正味この方がリアルでいいとは思うんですよね
何より一々リストの貼り付けするのがめんどゲフンゲフン!
もういい加減覚えてきましたよね?


最後のグレンは限界まで引き絞られた真っ赤な弓矢が勢いよく飛び出すようなイメージです
……グレンの弓矢!


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9.迷いを捨てて 信じる先に

「ついに出てきましたか……あの時のウインディ」

『レイン選手のポケモンはほのおタイプのウインディ! くさタイプには有利なポケモンだ!』

 

 エリカは苦々しげにグレンを見つめている。あいつにとっては顔も見たくないポケモンだろうな。だが俺にとっては希望そのもの。もう負ける気がしない。

 

「グレン、今回もちっとばかし数が多いが俺達にとってはいつものこと。お前なら余裕だな?」

「ガウ!」

 

 任せとけ……か。はりきってやがるな。

 

「そんなことを言って……まだ懲りないのですね。無茶をさせてもポケモンが傷つくだけだとなぜわからないのですか?」

「違うな。これは信頼だ。こいつならお前のポケモン全て倒すぐらいわけないという絶対の信頼。お互いにお互いを信頼してこそ実力をフルに発揮できる。負けると思ってれば勝てるもんも勝てないだろ?」

「よろしい……ならばわたくしが現実を見せてさしあげましょう」

「6!」

「ヘドロばくだん!」

 

 短い指示の応酬。エリカは“みがわり”を読んで即座に攻撃を仕掛けてきた。だがグレンは真っ赤な炎を纏い攻撃を避けながら凄まじい速度で敵に接近! 完全に予想外のことで相手の対応が大幅に遅れ、見事に攻撃が命中した。

 

「確定1発」

「ウツボット戦闘不能!」

『渾身の一撃が決まったぁぁ! 追い詰められた状況で流れを変える活躍! レイン選手ここにきてとんでもない隠し玉を用意していた! ウインディは大会初出場でいきなりその強さを存分に見せつけた!』

 

 ウインディ Lv57 むじゃき

 

 実 184-183-109-131-95-182

 

 ウツボット Lv56 ひかえめ 

 

 実 0/173-125-95-171-101-123

 

 グレンは失いつつあった流れを一気に引き戻してくれた。たった1ターンの攻防でここまでやるとは……まさに千両役者。グレンはやっぱりサイコーの相棒だな。

 

「今のはフレアドライブ!?」

「いいや違う。ウツボットのようなやわなポケモンに大技は必要ない。これはただの“かえんぐるま”だ」

「今の威力で……信じられませんわね」

「わかってないな。なにも天候を利用するのはお前だけの専売特許じゃない」

「……なるほど、そういうことでしたか。わたくしとしたことが迂闊でしたわ」

「強いひざしは元来ほのおタイプの味方でありくさタイプの敵だ。今のグレンは簡単には倒せない」

 

 さっきの“かえんぐるま”……一致抜群天候で4.5倍。威力にして270だ。やつの耐久値はずっとアナライズして見ていた。余裕の確定1発。計算に狂いはない。

 

「次は誰で来る?」

「決まってますわ! 行きなさい! のろい!」

「ユレイドルか。ならこっちも交代しようか」

 

 いくらグレンの調子が良くても無理な相手には突っ張れない。恐らくユレイドル自体グレン対策で用意したポケモンだろう。ここは一度引くしかない。ゆっくり相手の分析をして能力を上げた直後に交代。俺が繰り出したのはメタモンのみゅー。だが今回は今までとは一味違う。

 

「出た途端にへんしん!?」

「こいつの特性の効果だ。そしてこいつには恐ろしい道具を持たせてある。ストーンエッジ!」

「こちらもストーンエッジで応戦しなさい!」

 

 しかしこっちの攻撃が相手の放つものよりも先に決まり完全に押し切った。威力が同じでも勢いが違う。

 

 今の攻防、完全にみゅーの攻撃がワンテンポ速かった。……まるで先制技を使ったかのように。

 

『どうなっているんだ!? メタモンがいきなりへんしんした上に元のユレイドルよりも圧倒的に速いように見えるぞ!? 何が起こっているんだ?!』

 

 みゅーも“へんしん”戦術に磨きをかけている。夢特性を獲得させ持ち物に“せんせいのツメ”を用意した。

 

 特性“かわりもの”は場に出た瞬間“へんしん”する効果がある。これで最初のターンを浪費せずに済む。そして“せんせいのツメ”は一定の確率で技の優先度を1上げる。この効果で同速勝負に終止符を打つ。

 

「速い! へんしんしたなら能力は完全に同じはずなのにどうして……」

「それがそうとは限らないんだよな。もう一度!」

「仕方ありません……交代、ねむりごな!」

 

 先程エリカは“ストーンエッジ”で“どくどく”を相殺してみせたがさすがに岩では“ねむりごな”は防げない。そのまま相手に攻撃を飛ばすが出てきたラフレシアはこっちの攻撃を躱しながら見事に催眠を決めた。みゅーは眠ってしまったか。

 

「せいちょう!」

「戻れメタモン!」

 

 その技が使えるのは視えている。相手の分析に集中しているから技はだいたいわかってきた。

 

 眠ったままではマズイので当然すぐに交代だ。能力アップは痛いが考えようによってはユレイドルに交代されにくくなる分ラッキーともいえる。眠ったみゅーはもう戦力にはならないだろうしユレイドルもグレンで突破するしかない。

 

 状況はまだ厳しいがここを上手く起点にできれば活路が見えてくる。逆に言えばこの能力が上がったラフレシア相手に起点にできるほどの圧勝が求められる。倒すだけではダメだ。……無茶でもやるしかない。

 

「今このラフレシアは全ての能力が飛躍的に向上しています。いかにウインディ相手といえど負けはしません。ねむりごな!」

「そういいつつ最初は催眠か。ずいぶん慎重だな。グレン、かえんほうしゃを周りに展開しろ! ほのおの壁を作れ」

 

 グレンは見事なコントロールで炎を操って見せた。グレンの体より一回り大きい炎が前方に半円状で展開される。“ねむりごな”は全て焼かれてグレンにまで届くことはない。

 

 エリカ、お前が“あくび”対策をしていたようにこっちも催眠対策ぐらいあるんだよ。といってもこんな曲芸みたいなこと俺のパーティーじゃグレンにしかできないが……。やはりグレンが頼りだ。

 

「なら丁度いいですわ。攻撃する気がないなら……ラフレシア、さらにせいちょうして能力を高めなさい」

「グレン」

「ガウッ」

 

 催眠が通じないと見るやすぐに方針転換。さっそく能力を上げてきたか。さすがジムリーダー様、油断も隙もありゃしねぇ。ムダがない。

 

 そう、たしかに悪くない。実際炎越しに攻撃を決めるのはラフレシアでは難しいだろう。距離もそこそこ開いている。ここは“せいちょう”を使うのが無難。だがそれが正解だとは限らない。

 

 ……グレンはわかっている。俺の意図を汲んでくれた。

 

 エリカが慎重に立ち回るのはけっこうだ。けどな、今あんたは圧倒的な優位にいる。だからこっちはもっと大胆に攻められる方が怖いんだ。その辺をまだわかってないな。ここが絶好の起点!

 

「ラフッ!」

「2回のせいちょうが完了……お天気も踏まえればもう十分ですね」

 

 “せいちょう”は晴れだと2段階アップだったか。すでに攻撃特攻共に3倍……相手も仕掛ける頃か。

 

 炎の壁がゆっくりと消えていき敵の姿が肉眼で見えた。エリカは2体を隔てる障害が消えて笑みを浮かべている。

 

「これ以上は能力を上げてもムダでしょうね。そろそろ最後の仕上げといきましょうか。ラフレシア、ソーラービーム!」

「グレン暴れるぞ! 一気に詰めろ!」

「!」

 

 グレンは小さく頷いた。“ソーラービーム”を避けつつ勢いよく飛び出し一気にラフレシアに向かって駆け出した。猛然とダッシュしてみるみる距離を詰める。

 

「4!」

「向かってくるなら好都合。ねむりごな!」

 

 思わずニヤリと口角が釣りあがる。かかったな。

 

 いかにもこれから攻撃するぞという姿勢はブラフ。4は“こうそくいどう”の指示だ。グレンはまっすぐラフレシアに向かって走っていきその目の前で“こうそくいどう”をした。“ねむりごな”が舞う中、グレンはその場でグルグルと回り続ける。

 

「どういうこと?! 眠らない?! しかも攻撃もしない?! 何がどうなって……まさかまたっ!?」

「さすがに前回で懲りたか。今回は気づくのが早いな?」

「わたくしの状態異常を全て無効にしてしまうこの技、間違いない……みがわりぃぃ!」

「そう……みがわりだ!」

 

 苦々しげに技の名を吐き捨てるエリカを見て笑みを深める。一矢報いたな。

 

「常に細心の注意を払っていたのにどうしてっ!? わたくしは一度も目を離しては……あっ!」

「気づいたか。たった一度だけお前はグレンを見ていなかった。いや、見れなかったというべきか」

「“かえんほうしゃ”の壁! あのときからすでに……!」

 

 タネは簡単。壁で死角を作った間にグレンは“みがわり”を使って待機。そして“ねむりごな”をもらうためにわざと敵に突っ込ませその目の前で堂々と能力を上げたわけだ。

 

 お互いに無条件に信じあえるからこその連携。俺とグレンだからこそできるエスパー顔負けのコンビネーション!

 

「ですがそれではおかしいはず……“みがわり”にはある程度時間がかかることは知っています。なのに技が完了するまで炎が消えないなんて……」

「普通ならな。だが燃料があれば話は別。皮肉にもそれはあんたのくれたものだぜ?」

「……!! 最初からわたくしのねむりごなを利用する気でっ!」

 

 そう、全て“ねむりごな”を徹底的に利用することを前提としている。ぶっつけ本番の連携だったが失敗する気はしなかった。

 

 エリカは慎重になればなるほど眠らせてから確実に仕留めようとする。その傾向はこのバトルの中ではっきりと感じていた。そしてエリカは俺に対して何度も眠らせることに成功している。だからこそ頼り続ける。ましてや相手の方から接近してくればもう選択の余地はなかったはずだ。そこを狙い撃ち。

 

「ラフゥ……」

 

 ラフレシアは攻撃しないグレンを不気味に感じたのか後ろへジャンプして距離を取った。エリカもイヤな空気を感じているのか表情は険しい。さっきまでは読まれっぱなしだったがここから場を支配するのは俺の方だ。

 

「ガウッ」

「よし……さぁ、今度こそ本当の仕上げだ。この距離ならグレンは絶対に外さない。……覚悟はいいな?」

 

 グレンから能力を上げ終わった合図。素早さはこれで2倍だ。これでもうするべきことは全て終わったがエリカの方にも探りを入れておこうか。これに対してどう反応するかであいつの考えが透けて見える。

 

「……! いいえ、素早さならラフレシアの方が上! 先にラフレシアの攻撃が決まるはずです! くさタイプの攻撃だけだと思ったら大間違いですよ! ドレインパンチ」

 

 お前は“こうそくいどう”には気づいてないようだな。やっぱり案外わからないものらしい。もう勝敗は決した。

 

 “せいちょう”で大幅に攻撃力を高められた“ドレインパンチ”が“ようりょくそ”による圧倒的な素早さから繰り出される。当たれば即ひんしの高速の拳。当然グレンが倒れたらそこで敗北は決定的。しかし俺には何の気負いも不安もなく悠然と構えたまま一言だけ口にした。

 

「十分に引き付けて躱せ」

「過信しましたわね。これで終わりです!」

 

 ラフレシアは体の内側から巻き込むようにして拳を突き出した。しかしそれは空を切る。

 

「ラフッ!?」

「この間合いでこの速さの攻撃を避けきりなお余裕があるのですか!? まさかそこまでの素早さをっ!?」

 

 俺はたとえ味方でも決して過信することはない。数字は淡々と事実のみを伝える。そこに主観が入り込む余地はない。

 

 グレンは今素早さ上昇は2倍で“ようりょくそ”とイーブン。そして種族値は95と50。相手も最速だったとしても格が違う。

 

 ラフレシア Lv60 おくびょう @くろおび

 

 実 177-103-121-184-127-133

 

 ギリギリで躱したので攻撃直後で動けない相手がグレンのすぐそばにいる。グレンは俺の指示を待ちながらもすでに大きく息を吸っていた。

 

「無防備な背中が丸見えだな。かえんほうしゃ!」

「ヴォウッ」

 

 ステロ込み確定1発。背後からの攻撃にはいかに素早かろうと成す術もない。

 

「……ラフレシア戦闘不能!」

「ラフレシアまで!?」

『ウインディ、勢いが止まらない! 完全に攻撃を見切って貫禄の勝利だ!』

「エリカ……お前はまだポケモンの全てを知っているわけじゃない。能力を上げるのだってお前だけの専売特許じゃないはずだろ?」

「まさか素早さを上げていたのですか!? そんなタイミングは……ええい、そんなことを考えても仕方ない! いきなさい! ストーンエッジ!」

 

 出てきて早々に攻撃か。さすがに能力を上げられたと知って焦ってきたな。今度は攻め急いでいる。さっきまでの慎重さが消えた。

 

「走って振り切れ!」

 

 まずはあの邪魔な岩をなんとかしないとな。グレンは右に左に走り続けるが“ストーンエッジ”はずっとその後ろをぴったりくっついてくる。まるで“でんげきは”のようだな。幸いなのは“でんげきは”と違いオート追尾ではなさそうなことか。集中するユレイドルが別の技を使ってくる気配はない。

 

「ずっとおいかけっこを続けるつもりですか? いつまで持ちこたえられるのでしょうね」

「なら本体を狙うまで。グレン、いけ! 1!」

「……まさかそのまま突っ込んでくる気!? くっ、構いません! ユレイドル、敵への攻撃を優先しなさい!」

 

 ドゴォォォン!!

 

 グレンが“フレアドライブ”で突っ込み、そこに“ストーンエッジ”も加わった。炎と岩の衝撃で砂塵が辺り一面に広がる。目視では何も見えないが俺には特別な目がある。

 

「8」

「みがわりで凌ぎましたか……ユレイドル、全方位にげんしのちから!」

 

 ムダだ。今立っているのは1体だけ。凄まじい威力の“フレアドライブ”をまともに食らった上に“ストーンエッジ”も半分は自分に当たっている。“ステルスロック”のダメージも重なりユレイドルにもう体力は残っていない。耐久に振っていないせいで思ったよりかなり脆いな。

 

「んんっ!! ユレイドル、戦闘不能!」

「ユレイドルだけ!? くぅ……」

『ユレイドルも戦闘不能だ! しかしこれはウインディにとっても大きなダメージになってしまったか?』

 

 それはどうかなぁ。今は砂塵に隠れているがそれが晴れれば……。

 

「ヴォオオーーウ!」

 

 砂塵の中から現れたグレンは強い日差しを浴びながら大きく吠えた。傷は癒えてみるみる体力を回復する。それを見てようやくエリカも事の次第を理解する。

 

「さきほどの指示は攻撃ではなく回復の指示! それもつよいひざしを受けてのあさのひざしっ!」

「おかげさまでゆっくり日光浴ができたよ。体力満タン絶好調だ。感謝するぜ?」

「“ねをはる”と同じようにやり返したというわけですか……」

 

 “あさのひざし”は天候が味方すれば体力を2/3回復できる。“みがわり”と“フレアドライブ”の反動の分はきっちり回復できた。

 

 今エリカが数の優位を活かしてとにかく相打ち覚悟の攻めをしているのは明白。だからこそ回復だ。もうこうなったらグレンは止まらない。

 

「いきなさい、ナッシー!」

「高らかに宣言ねぇ……3」

「ねむりごな!」

 

 くだらねぇなぁ。お前の考えはもう全部見切った。“ねむりごな”で眠らせることしか頭にないのはバレバレだ。いよいよ追い詰めたな。

 

「今の番号がみがわりなのですね。やはり全て変わっている……」

「よくわかったな。わかったところで意味はないが……2!」

 

 グレンから最大火力の“オーバーヒート”が放たれた。ナッシーはやや耐久力が高めなので念のためだ。能力を見る暇がなかったからな。これを食らえばひとたまりもないはず。

 

「ナッシー戦闘不能!」

「わたくしの裏をかいて……やはりその子をこれまで使ってこなかったのは番号でひっかけるためですか」

「そうだ。そもそもお前は俺の行動を読んでいたわけではない。俺の指示する番号を聞いてから行動していただけ。こんなこともあろうかと切り札のグレンだけは番号を変えていたわけだ」

 

 相手が番号を分析してこっちの行動を読んでくる可能性は当然考えていた。これまで全く並びに細工をしてこなかったからな。ならば逆にそれを利用する。

 

 そしてこうした裏をかく行動を見せれば今後の勝負においても少なからず影響を及ぼす。これまで信用してきたデータも軒並み保証を失うわけだ。

 

「それでも今あなたが使ったのは紛れもなくオーバーヒート。見間違えるはずもありません。なら能力が下がっている今がチャンス!」

『エリカ選手次のポケモンはモジャンボ! モンジャラの進化系だ!』

 

 ほう、今モジャンボを出したということは少なからず防御と特防の違いには気づいたのか。特にモンジャラは直々に教えてやったしなぁ。

 

 モジャンボは無振りで比べれば防御に関してはスイクン以上。だが特防はフーディン以下。極端な差がある。だから特攻が下がったところを狙うのはいい判断ではある。

 

 ……能力が下がったままならば、の話だが。

 

「グレン」

「ガブッ」

 

 グレンは“しろいハーブ”を使ってステータスを戻した。

 

「かえんほうしゃ!」

「げんしのちから!」

 

 技がぶつかり合うが威力が桁違いだ。グレンの攻撃は相性を跳ねのけて相手の攻撃を打ち消し、それでもなおモジャンボに大ダメージを与えるほどの威力を兼ね備えていた。半分以上持って行ったな。

 

「威力が衰えていない!? ならじしん!」

「チッ、ヒリューは使えないか……かえんほうしゃ!」

「モジャモジャ……」

「モジャンボ戦闘不能!」

 

 モジャンボも戦闘不能。相殺しにくい“じしん”を使って確実に“みがわり”を壊しにきたか。確実に消耗させられはしたが相手も数を減らしている。その上エリカはグレンに対しては有利なポケモンから順に出していたはず。ならエリカはグレンに最も相性が悪いのであろう最後のポケモンを残すのみ。

 

「5」

「あと少しです! 頑張って! フラフラダンス!」

「くっ、ここで混乱か」

『追い込まれたエリカ選手、最後のポケモンはキレイハナだ! ウインディを倒し、なんとか望みを繋げることはできるか?!』

 

 草単一か。やはり相性は圧倒的にこちらが有利。だが問題は苦し紛れの“フラフラダンス”、これが面倒だな。

 

 ずっと“ねむりごな”系列を警戒しグレンには相手から距離を置かせていた。攻撃も遠距離中心だ。だから状態異常にかけられることはないと思っていたがここにきて視覚で訴えかけるタイプの技が来た。これでは距離は関係ない。

 

 エリカめ……“みがわり”で散々苦渋を舐めたくせによく平然とこんな指示を出せたな。大した度胸だ。

 

「グレン、踊りにつられるな! まっすぐ敵へ攻撃しろ!」

「ガウ……!」

 

 グレンは混乱を振り切りしっかりと攻撃モーションに入った。よし、いける!

 

「終わったな」

「それはどうでしょうね」

 

 グレンはしっかり狙いを定めて俺の指示通りまっすぐ“かえんほうしゃ”を放った。しかしダメージがない。……攻撃が外れた!? ちゃんとまっすぐ攻撃は決まっていた。どういうことだ?

 

「これは……ひかりのこな!!」

「ソーラービーム」

 

 こいつ最後の最後にめちゃくちゃなポケモン使いやがって! あの踊りの動きと合わせて幻惑されて当てづらくなっているのか。こんにゃろっ……こんな無法がまかり通るのか!?

 

「グレン、あさのひざし!」

「ガウ~~?」

『あーーっとわけもわからずじぶんをこうげきした! 畳み掛けるようにソーラービームも直撃! レイン選手思うように攻撃ができていない! 万事休すか!?』

 

 マズイな……。半減でも威力は一致半減フィールドで135になる。体力の約半分を持っていかれた。次自滅したら負け。かといって交代して混乱を外しても再びグレンを出すタイミングで“せいちょう”を使われたら“あさのひざし”でも受け切れなくなる。ここまできて負けるのか。

 

「ガウン!」

「……!」

 

 名前を呼ばれてグレンに目をやった。よく見ると混乱が治っている?! 自力で解いたか! 痛みで正気に戻ったのかもしれない。

 

 グレンが俺を見つめている。グレンの目……まるで自分を信じろと俺に訴えかけているようだ。そういえば試合前にも同じことを……。

 

 あぁそうだった。一度グレンに任せると決めたんだよな。なのに中途半端な“かえんほうしゃ”で一度様子を見たり、慌てて“あさのひざし”で回復しようとしたり、俺は一体何をしていたんだ! 相手は最後のポケモンで、こっちはエース出してんだぞ? 今ここで勝負にいかなくてどうするっ!

 

 思えば仲間が増えた頃からそうだった。最初はグレンの負担を減らすためのはずが、気づいたらアカサビやイナズマの強さに頼るようになり、グレンのことを信じてあげられなくなっていた。そんな俺の心中をあいつは見透かしていたのかも……。

 

「もう一度フラフラダンス!」

 

 もう迷わない。お前を信じるよ。

 

「グレン、決めちまえ!」

「ガウガッ」

 

 豪火一閃。この日最高の一撃。一致抜群天候、さらに急所を乗せた。もう計算するのも面倒な威力だ。グレンは混乱状態をものともせず見事に技を成功させた。技が発動する瞬間心が1つになるような一体感に包まれた。

 

 キレイハナは特防が高め。“かえんほうしゃ”なら乱数1発というところ。だが“オーバーヒート”なら文句なく一撃。急所に当たればオーバーキル。これで勝負アリだ。

 

「キレイハナ戦闘不能! 勝者レイン!」

『決まったぁぁ!! 驚くべき逆転劇でレイン選手……』

 

 勝った。あの状況からやったんだ……。もう実況の声も騒がしい歓声も耳に入らない。この勝利に酔いしれていた。ふと意識を戻せばこっちを見るグレンと目が合った。自然と感謝が口をついて……。

 

「グレン、ありが…んんっ!?」

「ガウガー!」

 

 グレンはよっぽどすぐに抱き着きたかったのか試合中に使いもしなかった“しんそく”で俺に突っ込んできた。そのまま見事に“のしかかり”……お前“のしかかり”なんか覚えないだろ! 実は覚えたりするのか?

 

「ギブギブ、グレンさんすぐにのいて……ぶべっ!?」

「ガゥゥーーン!」

 

 今何人が試合見てると思ってんだよ!? さすがにポケモンに押し潰されているところなんか見られるのはみっともなくて恥ずかしいんだけどっ!

 

「あなたとその子……グレンと言いましたか。ずいぶん仲がよろしいようですね」

「げっ、エリカ!」

 

 こいついつの間にこっちにきたんだ! 気配なかったぞ!

 

「女性の顔を見てそのような反応をするものではありません。気をつけた方が良いですよ」

「そりゃご親切にどうも」

 

 売り言葉に買い言葉。つい喧嘩腰になってしまう。こいつ俺に何の用だ?

 

「あなたにはいいたい言葉がありました」

「は? いいたい言葉? そういえば……」

 

 この前見かけた時もそんなことを言っていた気がする。

 

「わたくしはあなたに負けてから色々とありました。一時は本気でトレーナーをやめることも考えましたが、どうしてもあなたが許せなかった。だから見返してやるためにあなたに勝つことを目標になんとかトレーナーを続けて修練を積みました」

「そう。やめなくて良かったな」

「皮肉で返すとは冷たいですね」

「へぇ、通じるとは思わなかった」

 

 こいつ今までもわかっていてとぼけたフリをしていたのか? いつも昼寝をしてるとかいう件もさすがに冗談なのかもしれない。意外と常識ってもんがあったのか。

 

「……もちろん不純な動機だとはわかっていました。ですがそうでもしないと己を見失ってしまいそうだった。あなたはわたくしにとってわかりやすい目標になりました。そしてあなたを倒すために徹底的にあなたのことは調べました。バトルはもちろんあなたの関わった事件などもです」

「ストーカー?」

 

 何人目だ?

 

「些細なことでも勝つために情報が欲しかった。結果、わたくしはあなたを調べるうちにあなたの為人についても多くを知るところとなりました。ニビにも行きましたしマサキさんからイナズマさんについても聞きました。その他にもたくさん……」

「はぁ!? ちょっと待て! お前聞き込みまでしたのか!? ジムリーダーしてるのに出張し過ぎだろ!! ……ジムは?」

 

 ストーカーはスルーしながらとんでもないカミングアウトをしやがった! 何考えてんだ!?

 

「あれだけ手酷い敗北をすれば突然胸が苦しくなることもあります。頭も。そういう時は気分転換でお外に出かけるのがよろしい」

「おまえ……まさか仮病か!」

「さて、なんのことやら」

 

 この顔はぜってー仮病だ! やっぱりこいつ自己中じゃねぇか! 許せんなぁ。

 

「ジムリーダーってのは自由でいいな?」

「調子が悪かったのは事実です。それにわたくしが言いたいのはそこではありません。あなたをよく知ったからこそ言っておきたいことがあります。イナズマさんを始め、ずいぶんポケモンから懐かれているようですね」

「……それが?」

「あなたほどポケモンから好かれるトレーナーはそうはいないでしょう。わたくしはあなたの一面だけしか知らなかった。ですがポケモンを見ればあなたの本当の人柄はうかがえます。あなたを倒すためにしたことが結局あなたを見直すきっかけになるなんて皮肉ですよね」

「……何が言いたい?」

「町であなたをないがしろにしていたこと、諸々含めてここで謝罪させてください。これで許されるとは思っていませんがこれがわたくしの気持ちです」

 

 そう言ってエリカは本当に頭を下げた。こんなところで……タマムシの住人も含めてカントー中が見ている中でこんなこと……だいいちなんでいまさらっ。

 

「何が目的? 俺を引き込んで何かさせようと企んでいるのか?」

「謝罪に打算などありません。あなたを見て、わたくしがそうしようと思っただけです」

「まさかこのためだけに俺を研究してここまで勝ち上がってきたのか?」

「本当はわたくしが勝つはずだったのですけどね」

 

 呆れたな。バカなんじゃないの? こんなくだらないことのためにここまでやるなんて。アホらしくて付き合ってられない。グレンはエリカが来た後頃合いを見てどいていたので俺は起き上がって立ち去ろうとした。

 

「ガウッ!」

「イダッ! ちょっとグレンッ! なんだよいきなり!」

「ガウガ」

 

 本当に無視して帰ろうと思ったがどうやらグレンがそうさせてくれないらしい。頭を噛まれてエリカの方に向き直された。わかったよ、ちゃんと話をつければいいんだろ。

 

「ポケモンに面倒を見られるようではまだまだ半人前ですわね」

「試合中に愛想つかされるよりはマシでしょ」

「……」

「あっ」

 

 さすがに言い過ぎたか。エリカは黙ってしまった。グレンにも小突かれた。

 

「たしかにそうですね。わたくしは何もわかってなかった。でも悪いことばかりではありませんでした。長くバトルをしてきましたがなかなかいい発見ができたと思ってます。あなたの言うことも少しはわかりましたし。でも、あなたはまだわたくしが憎いようですね。これ以上は迷惑になるだけでしょう。わたくしは帰らせていただきますね」

 

 そのとき初めてエリカと目が合った。オーラだけでなく言葉の端々からもエリカの気持ちが感じられ、つい引き留めてしまった。

 

「待って」

「……なんでしょうか」

「あんた……弱くなかったよ。いや、これまで戦ったトレーナーの中で1番強かった。ずっと過小評価していたと思う。過去の発言は撤回させてくれ。悪かったな」

「……やっとトレーナーになれた気がしました。ありがとう」

「礼を言われる筋合いはない。もうこれで俺が言うことはないし、謝ったんだからこれでチャラ。さっさと帰れば」

「あらあら、素直じゃありませんこと」

「はぁ? なんかいったか?」

 

 こいつ、こっちが下手に出れば調子に乗りやがって! 思いっきり睨んでやったがいつぞやのように全く気にするそぶりもない。調子狂うなぁ。

 

「レイン、グレン、ここからは四天王達があなたに立ちはだかります。四天王はわたくしなどより桁違いに強い。その本当の強さはわたくしでは測りきれぬほど底なしです。弱ったままのポケモンでは絶対に勝てませんよ。どうするつもりですか?」

「……頑張ってけづくろいとかマッサージとかしてやって疲れをとる。やれることは全てやるつもりだ」

 

 いいながら自分でも苦しいことはわかっていた。だがなんとかするしかない。自分にできることは全てやるつもりだ。

 

「ブリーダーのようなことをするのですね。なるほど、戦った後癒してくれる人がいるからポケモン達は頑張れるのかもしれませんね。これはいいことを知りました。……レイン、こっちに来なさい」

「なんで俺がお前の指図を」

「いいから」

「ガウッ」

 

 グレンに無理やり引っ張られた。こっちに来いと言ってもいったいなにをするつもりだ?

 

「これをさしあげます」

「これは……ハーブ?」

「わたくしの家系に代々伝わるひでんのくすりです」

「ひでんのくすり?」

 

 なんか聞いたことあるような……思い出せないな。家系ってもしかしてエリカは名家の跡取り的な何かなのか? そういえばお嬢様っていってたがそういうことだったのか……。

 

「心地よいアロマが傍にいるだけで感じられるでしょう? これを使えばたまっていた疲れなどすぐに吹き飛びます」

「本当か? 今までのは芝居で本当はとんでもない劇薬でしたとかじゃないのか?」

 

 話が上手過ぎる。罠か?

 

「……」

 

 エリカは黙ったままじっと俺を見つめている。はぁ……わかってるよ。まぁ道具に罪はないからな。

 

「冗談だよ。ありがたく頂戴する。……いつか礼は必ずするから」

「礼などいりませんよ。あなたは次の試合に向けて集中してください。ささやかながら健闘を祈っています」

 

 それだけ言うとエリカは去っていった。大きな貸しを作ってしまったな。でも不思議と悪い気はしない。

 

 胸のつかえが1つ、なくなった気がした。

 




仲直りルートが待っていた……
もう何回目やねんという話ですがやっぱりお約束の展開に
いつのまにかこうなってますよね

毎度誰かが隣にいてエスパーが発動してツンデレになる
親の顔より見た光景
気づいたら誰か横にいますよね、フシギー

エリカは別格な悪役感でしたがやっぱり根は善人、殺人未遂のみゅーとも和解できたわけですし、最後はいつも和解してしまうところがレインなのかなって思ったのでこのような締め方になりました

もう少し話の展開は練り直すかもしれませんが大筋は変えないと思います
えぇーってなった方はごめんなさい


・グレンのレベル
マスターズリーグでも中心的に育て、さらにギアナでは炎4倍弱点がたくさんいて効率よくレベルが上がりました。
ポケじゃらしとピッピにんぎょうとみゅーで追い込み漁的なものをしたとかしてないとか

・ウツボットの性格
ランク7とは別個体ですね
こっちがひかえめだったのでいじっぱりの方も同じ育て方をしてしまったようです
性格と種族値を区別して認識できないので仕方ないですね

・試合中の会話
説明してもらうためにやむなしです
色々都合もあるのでそういうところは目をつぶってください

・豪火
造語みたいです
ゴウカザルがいるのでずっとあると思ってました
業火猿なのか……?

・仮病
ジムの休業理由がジムリーダー不在だったとは……
仮病かどうかは受け取り方次第です

・ひでんのくすり
効き目が強過ぎてどうのこうのというあれですね
名前を同じにしただけで関連性はないです
あながち劇薬っていうのは的外れでもない気がしますね

・信じるって?
レインは混乱麻痺眠り恐怖症
一度自爆したのを見てさらに弱気になり色々悩んでしまいました
ですがグレンを見て一か八か命運を託すふんぎりがついたわけですね
4割で勝てていたのに考えすぎて変なことをすれば負けていたでしょうね


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10.現る強敵 隠れる本心

 試合後エリカからもらったひでんのくすりとやらを試しにみゅーに使ってみた。みゅーがくれくれとせがんだのもあるが、もしも変なアイテムだったとしてもみゅーなら自己再生してなんとかなりそうという計算も少しある。ごめんなみゅー。

 

「みゅっ!? みゅぐぅぅぅ」

 

 使った途端うずくまって苦しそうな感じの声を漏らした。……回復しているようには見えないぞ。まさか毒とか入ってたんじゃないよな?! くさポケモンはどくタイプ付きが多いし!

 

「げ!? やっぱりあいつだましたのか! 大丈夫かみゅーっ!!」

「みゅぅぅぅ……」

「みゅー、返事しろ!」

 

 声も出ないのか? 技も使えないなら俺が治療するしかない。こんなとき何を使えばいい? かいふくのくすりか?

 

「……ふっかぁぁーーつ、なの!! みゅふふっ」

「……はぁ!? お前なんともないのか! じゃあなんだよ今のは?!」

「みゅ? レインみゅーのこと心配してくれたの? みゅふーっ」

「喜ぶな!」

 

 こいつ、わざと演技したんじゃなかろうな。薬の効果はてきめんだったようで他のポケモン達もたちまち完全復活した。これで万全を期して四天王に挑める。この効果を見るにかなりの代物だったようだな。

 

「みゅみゅー! ねぇレイン、これすごいの。体の奥から全身が癒されてるっ! みゅみゅ、あの人間いい人なのね」

「……そうだな」

 

 帰る道すがら、会場を出たところでブルー達と出くわした。……いや、3人お揃いだし待たれていたようだ。俺は最後だったから仲良く見学していたのだろう。

 

「あら、シッショ~? ずいぶん遅かったじゃないの。さっきの試合はやけに苦戦していたようねぇ。危なかったじゃない。わたし負けちゃうかと思ったわ。それにレッド達もびっくりしてたわよ。エリカさん見直したって」

 

 このストーカーめ! 人が負けそうになったからって活き活きとしやがって! ホント腹立つ声しやがるなぁ~!!

 

「まぁたしかにお前らよりは手強かったな」

「ウソつけ! どさくさに紛れてオレ達が弱かったことにしてんじゃねーよ! どう見たってあんたが油断し過ぎなんだよ」

「なっ!? 油断っ!?」

「手持ちのほとんどがくさタイプに有利なポケモンだったのに普通あんなに追い込まれるか? ハッサムなんてあっさり一撃でやられてよぉ」

 

 くそっ、こいつも敵か。なんでバトルで負けそうになっただけで俺がこんなに責められるんだよ。俺は戦犯か?

 

「あれは、言わば予想外というか、まぁ実質的に事故……そう、交通事故みたいなもんだし……」

「ハッ! おうおうレインよぉ、あんた焼きが回ったな。オレ様ならあの状況、なんかあると踏んで即座に炎タイプ辺りに交換して相手の使ってくる技を確認してたぜ。事故だとか温いこと言ってるようじゃまだまだだなぁ」

 

 こいつもこいつで小憎らしい顔しやがって! 結果論でドヤ顔してんじゃねぇ! そもそもお前は重度の突っ張り厨だっただろうがっ!! このヤンキーッ!

 

「お前こそウソつけよ?! そんな悟りを開いたような変態読みを咄嗟にできるわけねーだろ! 技確認交換とか異星人かっ!」

「そうかぁ? 相手は倒せると思って交換してきてるんだぜ? 1番倒しにくいやつが来ていると考えればあんたの話だとこっちも引くのが正解なんじゃねーのかよ」

「うっ……それは……」

 

 確かに1番相手しにくいポケモンを繰り出すはずだから、相手のプレイングを信じるなら引いて別の奴にぶつけるのが正解か。何も有効打がないならそもそも勝ちだから引いても問題はないわけだし……。だがエリカがあそこまでするとは思わなかったし全部の技を考慮するなんて一瞬の判断では無理だし……エリカを過小評価したのは、まぁ認めなくもないけど……。

 

「第一あんたは相手のポケモンの技は全部わかるんじゃなかったのかよ? なんで事故なんて起きるんだ? ほら、なんか言ってみろよお師匠様よぉ。ほらほらほらっ!」

「ぐ……このツンツン小僧がぁ」

「……論破」

「ぷふーーっ!! シショーが言い返せないで負けセリフ吐いたっ! でもツンツンには同意ねー。超お似合いって感じ。性格的にもそうだし……シショーもたまにはいいこと言うじゃない?」

 

 レッドとブルーの反応からして3人でさっきの試合について話し合っていたな? それで俺を論破してやろうとここで待ち構えていたってわけか。相当自信があったんだろう。劣勢になっていた以上何かしらミスがあったのは確実なわけだし言い負かすチャンスと踏んだわけね。道理でこいつら最初からイヤな笑顔を浮かべていたわけだ。

 

「おいコラッ! 誰がお似合いだと!?」

「だってそうじゃない? 今はツンツンだけどさっきまではシショーの応援してたもんねー。俺以外に勝手に負けんじゃねぇーって」

「あっ、コラ! デタラメ言うんじゃねぇ!」

 

 なんじゃそりゃ。俺を応援してどうする? 四天王を倒せば俺はグリーンと当たる。俺のことは自分で倒したいとでも? 大した自信だ。

 

 だが、事故回避で一度引くような考えまで思いつくということは、できるかどうかは別にしてポケモンの役割についての理解は深まっているわけだ。あながちただの慢心ってわけでもなさそうか。……そういやまだ聞いてないし、一応確認しておくか。

 

「お前らも勝ったのか」

「当り前だろ?」

「……」

「イエーイ! ピースピース!」

 

 こいつらなら当然か。レッド達はどうやったのか知らないが全員レベルが格段に上がっている。相当ヘマしなきゃ力業で勝ててしまうだろう。

 

 一方で気になることもある。そもそも経験値ってのはその仕様上倒す相手より上のレベルまでアップさせるのは難しい。なのにこいつらはどう考えてもカントーで最高レベルであるはずのマスターの連中を超えている。どうやったんだ?

 

 ともあれ、久々に全員揃ったのであれこれ話し込んでしまった。

 

「でさー、シショーがなんて言ったと思う? 『無抵抗の相手をいたぶるのは趣味じゃない』って抜かしたのよ? どの口が言ってんのよ!」

「はいはい俺は悪の組織と関係ないから」

「先読みか……」

「これはあれだ、本人に自覚がある証拠だな」

「わたしは適当にあしらわれただけな気がするんだけど……」

 

 その通りだよ。察しが良いなブルー。

 

 バカ話はほどほどに気づけば話題はトーナメントへと移っていた。

 

「ねぇ、次はいよいよ全員四天王と当たるでしょ? これでもし4人揃って勝っちゃったりしたら大事件だと思わない?」

「そうだな。チャンピオン含め四天王全員準準決勝止まりなんて史上初だろうぜ。でも俺らなら十分狙えるはずだ。だろ?」

 

 ウキウキしながらグリーンがレッドに話しかけるがレッドは冷静に答えた。

 

「相手は関係ない。おれ達は全力を尽くすだけだ」

「ま、あんたならそう答えるわよね」

「んなこと聞いてねぇだろ……おめーに振ったのが間違いだったな」

 

 たしかにそんなことになればとんでもないが、さすがに四天王ともなれば今までとはわけが違う。エリカも言っていた。

 

 ――四天王はわたくしなどより桁違いに強い。その本当の強さはわたくしでは測りきれぬほど底なしです――

 

 事実これまでの試合ではかなり手加減をしているようだった。試合を見れば内容以上にかなり余裕があるのが傍からでも見て取れた。正直観戦で見れた戦術などは全く参考にならないだろう。四天王との勝負がどんな展開になるかは実際に戦ってみないと想像もつかない。

 

「おい緑、あの連中はまだ全然本気じゃない。油断はしない方がいい」

「なんだ、あんたにしちゃやけに弱気だな。このオレに限ってあんたみたいに油断なんてしねーから心配いらねーよ」

「あ゛?」

「ちょっとっ! 見るからにこれシショーマジでキレてそうなんだけど……」

 

 ブルーがボソッと何か言ったがどうでもいい。三日天下のお前こそどの口だって話なんだよ。このツンツン緑はただじゃおかねぇ……。

 

「ん? ブルーなんか言ったか? まさかお前まで心配症じゃねぇよな?」

「いや、実際不気味ではある。そもそも奴らはおれ達の前にその姿すら見せていない」

 

 レッドの疑問にブルーが答えた。

 

「あ、それ毎年らしいわよ。あんまり人前には出てこないんだってさ。サインとかも激レアなんだって。マスターの準備期間の時に四天王に腕試しがしたいってナツメさんに言ったら、まず会えないから探すだけムダだって言われたわ。ナツメさんなら見つけられそうだけどそのときは大人しく諦めたのよね」

「アホブルー、言いたいことは色々あるけどよぉ……やっぱお前大バカだな」

「なんでそうなんのよ!? 張っ倒すわよ!!」

「……ともかく、おれ達全員で四天王に勝つ。そういうことだろ?」

 

 レッドが喧嘩腰の2人を見て上手く収めようとしたがムダだった。まずブルーが騒ぎ始める。

 

「当ったり前よ! 四天王は軽くやっつけてあんたらも華麗に倒してわたしがチャンピオンになるから! いや、わたしはチャンピオンになんなきゃいけないの! どうしても……絶対に!」

 

 ん? ブルーのやつ今こっちを見たか?

 

「言ってな! ブルーじゃ無理だな。お前は子供過ぎるんだよ。あらゆるコンビネーションを追及して最強の組み合わせを見つけたオレこそがチャンピオンにふさわしいぜ」

「言ったわね? じゃあ先にあんたと白黒つけてやるわよ!!」

「上等だぜ! 負けて泣くんじゃねーぞ?」

「またか。これはもう止まらないな」

「……処置なし」

 

 ブルーとグリーンがやいやい言い合っていると聞き慣れない声の持ち主が現れた。

 

「威勢がいいのはけっこうなことだが時と場所ぐらいは弁えてもらおうか。君達はもうただのトレーナーではない。こんなところで騒ぎを起こせば只事では済まないだろう」

 

 マント姿に良く知っているその顔。間違いないな。

 

「まさか……チャンピオンのワタルか!?」

「え、ウソ!? 本物っ!? 生チャンピオン……!! わたしチャンピオンに話しかけられた!! うはぁぁーーっ!! お母さんに自慢できるっ!!」

「……!」

 

 突然の王者の登場に驚く3人。だがこの場に居合わせたのはワタルだけじゃないようだ。

 

「あなた達はまだ私達四天王の本当の怖さを知らない。チャンピオンになるだのと夢を語れるのは今のうちよ」

「あっ! わたしの相手!……四天王のカンナ!」

 

 何が只事では済まないだろう、だ。あんたらが来ただけですでに俺達の周りはちょっとした人だかりができている。丁度試合も全部終わってこの辺りも観客さん達が通りかかる時間だ。ブルーみたいなミーハーが多いんだろうな。

 

「いきなりだな……」

「全くだ。他にもシバとキクコもいるな。4人揃ってお散歩かい?」

 

 俺の言葉にはキクコが答えた。

 

「あたしの相手はたしかあんただったね。あんたには言っておきたいこともあったからねぇ。最近ジジイと一緒にポケモン研究をやっているようだが、ポケモン図鑑なんか作ってるようじゃだめだ。ポケモンは戦わせるものさ。あんたにもホントの戦いってものを教えてやる」

 

 なんかよくわからんが目の敵にされてるな。別に俺がどこで何をしようが勝手だろ。オーキド博士がバトルしないのが気に入らないだけなんだろうけどさ。

 

「あんたらこそ、俺らのことなめんなよ? ロケット団をぶっ潰してリーグをぶっちぎりで勝ち上がってきたんだ。実はあんたらの方が内心ヤベェと思ってんじゃねぇの?」

「何も知らないからそんな口が叩けるのだ。男なら黙って拳で語れ」

「……上等だぜ。次の勝負、全力で挑んでやらぁ!」

 

 グリーンの言う通り、少しは脅威に感じてもおかしくないはずだが。実際、俺はともかくこの3人はレベルだけならすでに奴らを凌いでいる。FRLGでは四天王の手持ちはだいたいマックスでレベル60前後というところ。これまでの試合でもそれを超えることはなかった。平均的なレベルの水準自体はたしかに高いがレッド達もすでにその域に到達している。

 

 ……やはりまだ実力を隠しているのか?

 

「俺達はどうやらお邪魔だったようだな。ま、これは軽い顔見せ……ここまで勝ち上がってきた君達へのご褒美だ。リングで戦うのを楽しみにしている」

「……」

 

 ワタルは最後にレッドの方を一瞥し、レッドも目でそれに応えていた。ワタルに続いて他の四天王もあっという間に去っていった。気づけば辺りの人だかりも散開している。本当にレアな人物なんだな。レッド達は闘志を燃やして奴らの後ろ姿を睨みつけていた。

 

「おい、お前らっ。次の試合絶対勝つぞ! お前らもこのオレがいずれ倒すが、まずはあいつらの鼻っ柱を叩き折ってやるのが先だ!」

「今までチャンピオンにはずっと憧れていたけど、もうわたしだってマスターランクのトレーナーなのよね。相手がワタルさんだったとしても絶対負けてやらないわ!」

「……自分の強さは結果で示す」

 

 鼻息荒くレッドとブルーも走り去って行った。なんか走らずにはいられなかったんだろうな。気持ちはなんとなくわかるよ。

 

「お前も走っていかなくていいのか? あいつらには負けたくないんだろ?」

 

 なぜか残っていたグリーンに冗談半分で問いかけると真剣な声色で返答された。

 

「あんたとはレッド達よりも先に当たることになるから言っておく。たしかまだトレーナーに負けたことがないんだってな? ブルーから聞いたぜ。俺が最初に黒星をつけてやるから、ちゃんと俺に倒されるために勝ち上がってこいよな」

「ブルーのやつ余計なことを……。本当に俺のことは応援していたようだな。せっかく望み通りになったところ悪いが、次の四天王戦……俺はお前には負けてほしいと思っている」

「はぁっ!? なんでだよ?! あと別に応援してたわけじゃねぇ!」

 

 こいつもあのメンツに混ざっているだけあって変な奴だ。こんなにわかりやすいツンデレはみたことがないなぁ。

 

「お前がどう思ったとしても俺には関係ないからなぁ」

「おいおい……仮にも同期で、年もそんなに変わらねぇってのにそりゃ冷たくねーか? ひっでぇーなぁ。あぁ、あれか。オレ様の余りの強さに恐れをなしたか」

「まぁ実力は認めている。それにお前らは開けてびっくり玉手箱だからな」

「たまて……?」

「手の内もいくらかバレてるし、四天王相手の方が幾分戦いやすい」

「マジだ……こいつマジで言ってやがる……」

 

 グリーンと話していると急に背後に気配を感じた。みゅーはボールの中だ。誰か来たな?

 

「あんたは……!」

「あっ! オレの対戦相手! なんだ、まだこのオレに言い足りねぇことでもあんのかよ?」

 

 格闘使いのシバが気難しそうな顔でこっちを見ていた。こういうタイプは表情から感情を読み取りにくいんだよな。表情と感情の因果関係が未知数だ。

 

「個人的な用があって来た。……が、相手はお前ではない」

「はぁ? じゃあレインの方か? あんたらどんなつながりなんだよ?」

 

 シバの目線は完全に俺の方を向いている。たしかに用があるのは俺のようだ。だが四天王とは完全に初対面のはず。これはどういうことだ?

 

「俺はある道具を探している。メタルコートという名だ。お前は知っているか?」

「メタルコート! なるほど、合点がいった」

「どういうことだよ!? 1人で納得するんじゃねぇ!」

「簡単なことだ。シバはたしかイワークを使うはず。だからメタルコートでハガネールに進化させたいんだろ? 進化できることは最近判明したから未進化でも不思議じゃない」

「察しがいいな。やはり噂通り……メタルコート売りの少年というのはお前のことだな」

「おい! なんかその幸薄そうな呼び方やめろ! いや、たしかに世間にバラ撒いてんのは俺だけどさぁ」

 

 不本意な呼ばれ方に異議を唱えるといきなりグリーンが笑い出した。今の呼び名を笑ったならこいつの手首は消し飛ぶ。

 

「ハーハッハッハ! バカな四天王もいたもんだぜ。準備期間ならともかく、これから戦おうって相手を好きこのんで強くする奴なんざいねーよ。絶対に進化に使うことがわかってるならなおさらだぜ」

「……事情があるのだ。見つけるのに手間取った。自分で探す時間がなかった」

 

 あぁ、なんとなく言わんとすることはわかる。見た目不器用そうだもんな。誰かに代わりに買ってきてもらうとかしそうなタイプには見えない。狡猾そうなマスターの連中とは真逆だ。

 

 さて、これでひとまずグリーンの手首は難を逃れたわけだが……よくよく考えればこいつへの怒りはまだ収まってない。さっきは散々油断だの、慢心だの、怠慢だのと好き放題言いやがって……。準決勝のバトルで直接わからせてやっても良かったが、今回は都合がいい。

 

 グリーンの言う通りここでメタルコートをホイホイ売ってしまうのは普通ならありえない。暴挙とも言える。だが殊更次の試合に限って言えばシバと戦うのは俺じゃない……グリーンだ。

 

「あんた、トーナメントの途中でこれまで調整してきたポケモンをいきなり進化なんかさせてもちゃんとバトルで扱いきれるのか?」

「俺はバトル中に進化したバルキーを使いこなしたことがある。無用な心配だ」

「なるほど、さすが四天王。ポケモンの知識も十分か。たしかにあんたはバルキー系統の使い手だったな」

 

 これなら進化して戦力ダウンすることもなさそうか。……これでもうほぼ決まりだ。あとは交渉次第だがどう出るかねぇ、四天王さん。

 

「おいおいおい! 何勝手に話進めてんだよ! あんたまさか乗り気になってんじゃないよなぁ?! そもそもなんでそのバルキーを使いこなしただけで納得してんだよ!」

「勝手も何も俺とシバの話し合いだからな。バルキーはジョウトのポケモンで、進化すると鍛え方によってエビワラー、サワムラー、カポエラーの3種類に進化する。基本的にどれになるかは進化させてみるまでわからない。それを使いこなしたということは進化先についても熟知していたということだ」

 

 シバが心なしか感心したという表情になっている気がする。ちょっと鼻高々。

 

「おいレイン、冷静になれ! よーく考えてみろ! シバはあんたの相手になる可能性だって十分にある! むしろ進化させたら可能性アップだ! な? 賢いあんたならわかるよなっ?」

「金はもちろん払う……言い値で買おう」

「ちょ! 余計なこと言うんじゃねぇ! ……レインッ!!」

「……誠意は言葉でなく金額!!!」

「レインてめぇーーっ!!!」

 

 世界の真理だ。

 

「交渉成立だな」

「あぁ。進化には交換が必要だが、なんなら俺が手伝おうか? すぐに終わる」

「気が利くな。お願いしよう」

「やいレイン! てめぇまさかさっきのこと根に持ってんじゃねぇよな?!」

「因果応報ってやつだな。まぁ戦略的な意味もなくはない」

「チッ、認めやがった。敵を強くして戦略も何もねぇだろうが」

 

 説明しろってツラだが……こいつもいい加減学ばねぇな。俺のことをウソつき呼ばわりしたこともあるくせにまだ俺の言うことを信じている。特に今はみゅーもいないし。子供らしいところはキライじゃないけどな。

 

「単純な話だ。さっきも言っただろう。お前やレッド、それにブルーは面倒な相手だからな。当たらないならそれに越したことはない」

「あれはやっぱり本気で言ってたのか?!」

「俺をさしおいて……この坊主がそれほどの実力だと?」

「実力とかレベルとか、そういうことを言っているわけじゃない。ときたまいるんだよな……。あんたも戦えばわかるだろうよ。そんなことよりさっさと交換してしまおう。あんたもヒマじゃないだろ?」

 

 立ち話が長くなった。俺も次へ向けて準備が必要。みゅー達とも打ち合わせがあるからな。

 

「結局お得意のわけわかんねぇ発言ではぐらかすのかよ! いいぜ、だったら進化上等! それさえ超えてお前を叩きのめしに行くからな! 覚悟しろよレイン!!」

「別に来なくていいよ」

 

 思わず笑みを浮かべてしまいそうになる。予想通りというか……だから面白いんだよな、こいつらは。試合は翌日。すぐそこに迫っている。もう既に次の試合が待ち遠しい。

 

 ◆

 

 準々決勝……レッド達は時を同じくして四天王と相見えていた。

 

 ワタルとレッド、ドラゴンと炎のフィールド。

 

「よく来たな。改めて名乗っておこう。俺は四天王の大将! ドラゴン使いのワタルだ!」

「……」

「なんだ、挨拶もなしか? 礼儀のなってない子供だ。それとも緊張で声も出ないか」

「……勝負の前に馴れ合いはしない」

「まぁいいだろう。どうやら君は勝つつもりでいるようだが、運が悪かったな」

「……?」

「最初に戦う四天王が最強のチャンピオン……つまり、君はここでマスターズリーグの真の恐ろしさを思い知ることになる。尤も、他の四天王が相手でも勝てやしなかっただろうが」

「やってみなければわからない」

「お前はわかっていない。俺達は負けない! 負けないからこの座に就いている! 圧倒的な勝利を重ねてきたからこそ今の俺がある! 何も積み上げていないお前達とはわけが違うのさ」

「最初は誰でもゼロから始まる。だがそれで実力までゼロということにはならない」

「ほう、言うじゃないか。そうでないと面白くない。ウォーミングアップ程度にはなってくれよ……マサラタウンのレッド!」

 

 シバとグリーン、格闘と水のフィールド

 

「そんな肩書なんざ関係ねぇ! オレ達だって何度も修羅場を乗り越えてここまで来たんだ! 同じ土俵に立った時点ですでにお前らに並んでんだよっ!」

「たしかにお前達は強い。俺達も勝負の世界に長くいる。相手の力量ぐらいはわかる。だがお前達じゃ勝てはしない。俺達にここで……準々決勝でぶつかってしまったからな」

「やってみなきゃわかんねーだろ」

「どうやら本当にわからないらしいな。やはり知らないのか。ルーキーのお前達が今絶望的な状況にいることが。バトルでわからせるしかないようだ」

「なにぃ……?」

「この準々決勝でルーキー全員が俺達と対戦することになってしまった。それがお前達の命運を決した」

 

 キクコとレイン、ゴーストと鋼のフィールド。

 

「どういうことだ?」

「そういえばお前は手持ちを変えないんだったね。今年のルーキーの中でも飛び切りのバカってわけかい」

「バッ!?」

「先輩として教えといてやる。あんたは6匹で勝ち上がってきたが、あたしら四天王はパーティーを2つ以上組んでいる。はっきり言えばトーナメントの序盤はウォーミングアップさ。ベスト16に絞られてからは2つのパーティーをローテーションで使う。1つは最強のバトルパーティー。もう1つは2番手の予備戦力。この2つを必ず交互に使う。これが四天王の間では暗黙の了解になっているのさ。お互いの表と裏が当たるのを避けるためにね」

「……そうか! 順番を考えれば今日はあんたらの表ローテってわけか!」

「物わかりのいい坊やはキライじゃないよ。もうわかるだろう? しょせんあんたはあたしにとってのただの肩慣らしさ」

「くっ……だが俺は最初から全力の四天王を想定してここに立っている」

「ふぅ……。あんた、まさか本気で勝てるとでも思ってんのかい? 気力の充実したあたしの最強のゴーストポケモンに、満身創痍のあんたのポケモンが勝つって?」

「なるほど、今まで全く本気に見えなかったのはそういうカラクリか。つまりあんたらはこの大会において、今日初めて実力の全てを出す。対して俺達はここまで全力の戦いを強いられてきた……圧倒的に不利」

「それが歴然とした強者と弱者の差だよ。それにあんたらはまだ十分にこのフィールドを活かせていない。あたしもあの雪女程には使いこなせていないけどね」

「雪女?……カンナか。ブルー……大丈夫か?」

 

 カンナとブルー、水のフィールド

 

「あなた、たしか『氷使い』のカンナさんよね? なぜわたしと同じ水のフィールドなの?」

「あら、そんなこともわからないままここまで来てしまったの? いいわ教えてあげる。水は氷の引き立て役。あえて水タイプを選ぶことで氷の弱点の炎に強くなる。それにあなたも水のフィールド使いならその1番のメリットには気づいているでしょう?」

「水のフィールドには……唯一水場がある」

「フフ……それだけじゃないわ。わたしのフィールドはあなたの思いもよらない形で牙をむく。このフィールドの恐ろしさをこれから存分に味わってもらうわ」

 




ア、アローラ(震え)
レートの闇に飲まれて南国かぶれしたりんごうさぎです

しっくりくる構築が決まらないまま期間が終わったので諦めて続きに取り掛かろうと思います
とっかえひっかえで試し運転が多いせいでレートが下がり過ぎ、結果相手の行動や選出が多様化していてほぼ運ゲと化すんですよね
本編でも似た内容をとりあげたZ技読みのバック
基本的にZ、スカーフ、めざパなどで有利不利逆転する類はこっちが引けばなんともない上にそれらが相手になければ向こうが引いてくるので有利対面を維持しやすい……はずなんですよね
頼むから不利対面ヤンキー突っ張すんな!
そしてゲコがクサZのときだけバックする癖に同じ並びでミズZにしたときだけヤンキーすな! レヒレ、おめーのことだよ!
……ハイ、ここまで異星人のボヤキでした


本編の内容は、本文やら感想やらを見返して色々面白かったのでちょっとメタい内容にしちゃいました
電波受信ですね
誰か(わかりにくいボケに)ツッコミ入れてあげてーと思ってたこともブルーにしゃべってもらいました

ずっと更新が遅かったのはどうしてもレート2000を達成したくて粘ってたとか、もとい先の展開を考えていたからですね
近くでどう見ても無理筋な構築で2000達成してるやつがいたんでね……

あと、これが丁度100話目なのでオマケ編にするのもアリかなと考えていたんですが、オマケで1章使ってたのでなんだかなーと思ったり

今後については、話の展開はまぁ当然ある程度固まってるとしてバトル内容をどうするかは考え中なので進行はそれ次第です

先の文章を全く書きあげてないので後々前後のつながりを考えて細かい部分は結構変更する可能性があるのでその辺はご了承ください
完成形ではないということですね……
あんまり先々を見据える能力とかもないので
じゃあなんで更新したのってそれはほぼ生存報告のためですね

最後に、後書きの活動報告っぽい本編に関係ないような内容はあとで編集するときに消すと思います
まぁこれは今までもそうでしたが……
理由は個人的にあんまり刹那的な内容を残したくないからです
リアルタイムで見ていない人には意味を成さないですからね


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11.交代の流儀

シバ 戦1
カンナ戦1


~格闘と水のフィールド~

 

「御託を並べてオレ達に負けた奴は五万といるぜ。たとえどんなに強かろうが、俺はあんたを超えていく!」

「ほう、恐れはなさそうだな。いい顔をしている。それでこそ戦うにふさわしい。いくぞ! グリーンとやら、俺達のハイパーパワー、受けてみるがいい! ウー! ハーッ!」

 

 四天王のシバ、あんたのことはじっくり研究させてもらったぜ?

 

 こいつは徹底的に鍛え上げた肉体による接近戦を好む格闘ポケモン使いだ。これまでの試合を見た様子じゃ、守りを捨てたような思い切った攻撃で相手を圧倒するスタイルみたいだった。だからこそそこが弱点ってわけだ。

 

 近距離中心で守りが薄いなら、弱点のひこう・エスパーでリーチを空けて戦えばいい!

 

「頼んだぜ!」

「ジョーッ!」

「ピジョットか……甘いな」

 

 まさか格闘ポケモンじゃないのか?! 出てきたのはメタルコートに身を包んだいわへび……いやてつへびポケモン。こいつは間違いねぇ!

 

「出たなハガネール! 進化させたばかりでいきなり先発かよ!? 今までは必ず格闘ポケモンが最初だったはず……」

「これが俺本来の戦い方だ。ハガネール!」

「チッ、引くか。ピジョットッ! 戻ってこい!」

 

 ピジョットは“とんぼがえり”で相手に一撃くらわしてからボールの中へ戻ってきた。ブルーから教わっておいたこの技、思いのほか使い勝手がいい。あいつにも感謝してやらねぇこともねぇな。

 

「ドサイッ!!」

「ガーネッ」

 

 シャリンシャリン

 

 ハガネールの相手は最初から決まっている。出てくることがわかっていたからな。格闘には不利だからドサイドンはここでぶつける! 天才の俺に抜かりはないぜ。だけどこの技面倒だな。

 

「ピジョットが動きづらくなったか。読まれたっぽいな。四天王までステルスロックを使うのかよ」

「最近はあの少年も使うようだが、先に使い始めたのは俺だ。じしん!」

「負けんなドサイドン! こっちもじしんだ!」

 

俺のドサイドンは防御だけでなく攻撃も高い。“じしん”の撃ち合いには負けねぇ……!?

 

「押されてる!?」

「ハガネール、続けろ!」

「ならアームハンマーを叩き込め!」

 

 巨大な体躯を揺らして一気に接近した。フィールドの恩恵ってのはお互いに及ぶからな。いいダメージになるぜぇ? 

 

 相手の“じしん”も直撃するがドサイドンは弱点でも一撃ではやられない。敵の脳天に渾身の一撃を振り下ろした。

 

「ギィィィ!」

「ドッサイッ!?」

「効いてない!?」

 

 ドサイドンのパワーを押し切って頭を振り上げ、力任せにドサイドンの腕を跳ね飛ばした! なんてやつだ、ピンピンしてやがる!

 

「俺達は限界まで己を鍛え上げている。その程度の攻撃はきかん! アイアンテール!」

「撃ち合い上等! ほのおのパンチ!」

 

 何度も攻撃を打ち合うがいかんせんタイプが悪い。“じしん”は同じように対応されて不利になる。“ほのおのパンチ”なら抜群はとれるがタイプ一致がない。シバはタイプが一致すれば威力が増すことはわかっているらしい。でなきゃ“アイアンテール”なんざイワークが使うはずねぇ。おそらくわざマシンで昨日覚えさせたに違いない。

 

「ドサイドン戦闘不能!」

「俺に接近戦を挑むとは……格闘タイプ以外には勝てるとでも思ったか。俺もなめられたものだ」

「ぐっ……だったら見せてやる! いくぜ、みずのはどう!」

「じしん!」

 

 オレのポケモンは切り札のカメックス。“ステルスロック”もあるし、こんなところで消耗はしたくなかったが仕方ねぇ。出し惜しみが通用する相手でもねぇしな。

 

「ハガネール戦闘不能」

「ハガネール、十分だ。よくやった」

「これでイーブンだぜ!」

 

 相手は同数に戻されたのにえらく余裕だな。まだ想定内ってか?

 

「なら次はこいつだ! かみなりパンチ!」

「エッビー!」

「カメックス対策は万全ってわけかよ。戻れ!」

 

 交代先はウインディ。電気技には地面で受けたいところだが生憎さっきやられたところだ。最初からカメックスで倒すべきだったか。じめんタイプを倒した途端悠々と電気技を使いやがって……!

 

 だがこいつなら“いかく”で攻撃を弱められる。多少はマシなはずだ。

 

 案の定攻撃のダメージは大したことない。十分やれそうだぜ!

 

「上手く交換したか。だがステルスロックを忘れちゃいないだろうな? ほのおタイプにはよく効く」

「……しまっ!」

「ガゥゥ」

 

 くっそぉぉ~! やりづれぇ!!

 

「戻れ! 出てこい、そのままインファイト」

「出たなインファイト! ここだ! みがわりで受けてオーバーヒート!」

「ヴォウッッ」

 

 “インファイト”……これがこいつらの得意技。防御が下がる代わりに捨て身の攻撃はとんでもない威力を叩き出す。強力でダメージは厳しいがなんとか一撃凌げばこっちの攻撃も大ダメージになる。その答えが“みがわり”だ。レイン、あんたの技使わせてもらうぜ?

 

 “いかく”で能力が下がればシバはポケモンを一度手持ちに戻す。その交換の間に“みがわり”を使い、接近してきた相手の攻撃を受け止めて至近距離で“オーバーヒート”をぶち当てる! これでジ・エンドだ!

 

「ハリーテッ」

「効いてねぇだと!? つか、そいつはハリテヤマか?! なんでそんなやつが!!」

 

 出てきたのは関取みてーな見た目の格闘ポケモン。ハリテヤマはたしか別地方が主な生息地だった。カントーにはいねぇはずだ。

 

「俺には古い友人がいてな」

「レインみたいな意味わかんねー答えすんな! しかもハリテヤマはかくとうタイプだけだったはずなのにどうみても効果はいまひとつじゃねーか! チキショー!」

「インファイト!」

「戻れ! 格闘にはエスパーって相場が決まってんだよ!」

「ナッシーッ」

 

 ハリテヤマはそんなに速くねぇはず。ナッシーでも先手をとれる可能性は高い!

 

「サイコキネシス!」

「こらえる! きしかいせい!」

「もう一度っ…」

 

 ここで“こらえる”だと!? まさか何度も能力を下げていたのは……!

 

「決まったな」

「ナッシー戦闘不能!」

 

 チッ、間に合わねぇか。こっちより速いのか。

 

「効果はいまひとつでこの威力かよ。しかも技の連携が尋常じゃねぇな。流れるような動き。こっちの行動が全く間に合ってねぇ。チッ、さすがにナッシーじゃレベル不足だったか」

 

 さっきはてっきり丁度いい岩技がないのかと思ったが……ウインディへの“インファイト”からすでに布石だったのか。あの連携相当練度が高そうだ。お得意戦法ってやつだな。

 

 ナッシーのダメージ的に攻撃力はなめない方がいい。こいつに“いかく”は使いたくねぇが先制技で仕留めた方が無難だな。ここでリスクはとれねぇ。

 

「いくぞ! ウインディ!」

「……バレットパンチ!」

「よし、しんそく!」

 

 さすがにこっちの“しんそく”にあわせて“こらえる”をされたら負けだからな。技を使った後の隙は“しんそく”の方が大きい。先制技を使う時はイヤでも慎重になるぜ。

 

「ハリテヤマ戦闘不能!」

「意外と冷静だな。いけっ!」

「ッビー!」

「能力はリセットしたし、あれでいくか。ウインディ!」

「インファイト!」

 

 そうくると思ったぜ。最初はこれまでとは戦い方が変わって面食らったが、既にその戦略は見切ったぜ。“ステルスロック”なんて使うからそんな気はしてたが……。

 

「あんた、レインと一緒で交換しながら戦うタイプなんだろ?」

「……!」

 

 “インファイト”のデメリットは交換によって帳消しにできる。そして弱点はひこうタイプ。交換合戦を有利にしながらひこうタイプを牽制でき、弱点のひこうエスパーに強いハガネールの“ステルスロック”はまさにうってつけ。さすが四天王、オレ様ほどではないが少しは楽しませてくれるじゃねーか。

 

『ん!? ウインディが……消えたぁ!? いや、後ろに回り込んでいる!!』

「インファイトのデメリットは外しても有効だ。くらっとけ!」

「ヴォウ!!」

 

 相手の攻撃をギリギリまで引きつけ、相手が攻撃を当てる瞬間“しんそく”の超速移動で後ろを取り、無防備な背後から最大火力の“オーバーヒート”で奇襲を仕掛ける。ウインディ必殺のコンボだぜ。

 

「エビワラー戦闘不能!」

「よっし!」

「やられたな……これで半分か」

 

 レインの対策をしているうちに気づいたらオレもできるようになってしまった“しんそく”による連携攻撃! やっぱりオレは才能の塊らしいな。

 

 さぁ四天王! 怖い顔していても内心ビビッってんだろ?

 

「俺もわかった……お前のポケモン」

「なんだって? わかったぁ?」

「5匹見た。そして残りはフーディン」

「……!」

「貰った。メガトンキック!」

「あ、コラ! フレアドライブ!」

 

 いきなり仕掛けてきやがった! サワムラーか! あれはキックが得意な奴だったな。

 

 さすがにもう戻せねぇ。“ステロ”2回に“みがわり”1回……ウインディ、こいつは見た目にゃ出さねぇタフなやつだが実際は限界が近いはずだ。これ以上“ステルスロック”を貰っちゃもたねぇ。“フレアドライブ”も反動が厳しいが、なんとか耐えてくれ。

 

『お互い凄まじい威力! しかしややウインディが優勢か?』

 

威力はやや勝ったが反動ダメージもバカにならねぇ。“インファイト”が来たら厳しいが一度耐えれば“しんそく”で削れる! ウインディならギリ耐えれる! これまでもオレ達はギリギリを耐えてきた。オレは信じる!

 

「フレアドライブ!」

「……とびひざげり!」

「なにっ!?」

 

 “インファイト”じゃねーのかよ!? これはマズったか! くぅぅ、今のは“インファイト”なら耐えてた!

 

「ウインディ戦闘不能!」

「チッ……」

「これで後は手負いが3体か。形勢逆転だな」

 

 言いやがったなこのヤロー! たしかに俺が有利とは言いにくいが、はっきり不利ってわけでもねぇはずだ。勝負はこっからなんだよ!

 

「ハンッ! つえーやつってのは後半に力をためておくんだよ! こっからが本番だぜ!」

「たしかに……実は俺も同じことを思っていた。これから四天王の底力を見せてやる」

 

 

 

 

 

~水のフィールド~

 

「準備はよろしくて? お姉さんがマスターの戦い方をじっくり教えてあげるわ……おチビちゃん」

「むっ! バカにしないで! バトルの強さに年齢は関係ないわ!……おばさんっ!」

「……凍りつかせてあげる」

 

 互いに1体目を出し合う。最初の対面、ここがまず序盤のキーポイント。どんなポケモンで来る?

 

「パルパルパル」

「ジリリ」

 

 思わずニヤリとしてしまった。パルシェンとレアコイルの対面。パルシェンは電気に弱い上に特防がかなり低い。その上相手の主力であるこおりタイプには電気技が通る……圧倒的に有利な状況!

 

 みずのフィールドを選ぶほどカンナさんにはみずタイプポケモンも多い。そしてみずタイプが多いからこそ炎や岩で攻めるよりでんきタイプの方が効果的。それにじめんタイプを持つこおりポケモンはいないから少なくとも不利になることはない。本当に最高のタイプね。

 

「いくわよ10まんボルト!」

「浅いわね」

 

 戻したか。レーちゃんの特攻を甘くみないでよ? こおりタイプやみずタイプなら“10まんボルト”と“ラスターカノン”の2発で倒せるわ。

 

「ムゥーバァー」

 

 ドシンとフィールドに現れたのはマンモスみたいな大きなポケモン。見たことない……“10まんボルト”が全く効いてない!?

 

『カンナ選手見事に10まんボルトを受け切った! こうかは全くないぞ!』

「うそぉ!? じめん!?」

「はぁ……興醒めねぇ。私が電気技だけで倒されるやわなトレーナーに見えたかしら?」

「くっ……でもタイプはこおり・じめんってところでしょ? 鋼は抜群、こっちは浮いてるからじしんは効かない。有利には変わらないわ! ラスターカノンよ!!」

「分析はしっかりしているわね。でも経験不足は隠しきれない。マッドショット!」

「なにそれ!?」

「ジジジ!?」

 

 めっちゃ効いてる!? 浮いてる相手に当てられるじめん技なんてあるの!? あのポケモンやばい! ここで倒さないと! 

 

 “ラスターカノン”のダメージは悪くなかった。しかも今の攻防はこっちが先に攻撃できていた。なら一瞬先手を取って倒せる!

 

「ラスターカノン!」

「マッドショット!」

 

 どう?!

 

「……レアコイル戦闘不能!」

「耐えられた……いや、少し狙いを躱された? レーちゃんの動きが……さっきの技の効果ってことか」

 

 レーちゃんの動きが少し緩慢で相手に僅かだけど避ける隙を与えたわね。少しだけ体力を残されちゃった。こっちが遅くなるとしたらさっきの技の効果としか考えられない。

 

「無知であってもバカじゃないようね。そうよ、マッドショットは泥で確実に相手の素早さを下げる攻防一体の技。面白いでしょう?」

 

 ムダがないわね。出だし有利だと思ったらあっという間に不利になっちゃった。シショーとのバトルで散々やられたことをまた……軽率だったわ。

 

 今まで見せなかったポケモンが出てくることもあると思った方が良さそうね。そうなると可能性は色々あるけど……いや、今更迷っても仕方ない。ひとまず目の前の敵に集中ね。

 

「ピーちゃん! でんこうせっか!」

「こおりのつぶて」

 

 相手も先制技。でもこっちの方が速く相手の攻撃は上手く躱しながら攻撃した。

 

「マンムー戦闘不能!」

「マンムーっていうんだ……」

「審判さんの方がものしりね」

「フン! いいからさっさと出してよ。おいかぜとか使っちゃうわよ?」

「使いたいなら黙って使えばいいのよ? さ、いくわよパルシェン!」

 

 防御は高いから正面突破は無理。一旦バックね。

 

「ピーちゃん!」

「まきびし!」

 

 シャリンシャリン

 

 ピーちゃんは“とんぼがえり”で戻るけど相手は“まきびし”? 実際に使う人は初めて見たかも。面倒だけどこの技は弱点がある。

 

「じめんに足をつけなければ問題ない……ならリューちゃん!」

「あら、こおりタイプにドラゴンで勝負するの? それで勝てるのはあの男ぐらいのものよ。つららばり!」

 

 連続技で倒しに来た。まずは避けないとダメね。

 

「連続攻撃が来るわ! 全て躱してちょうだい!」

「ふぅん。ならまきびしよ」

「……りゅうのまい!」

「もっとよ。まきびし」

「好き勝手し過ぎよ! げきりん!」

「パルゥゥゥ」

 

 3回目の“まきびし”をさせる前に“げきりん”で吹っ飛ばした。どんどんすごいことになっているわね。1回踏んだらどれぐらいダメージが入るんだろう。速攻でケリをつけた方がいいわ。

 

「リューちゃん、押せ押せよ!」

「パルシェン、潜って」

「パル」

「リュ~??」

 

 ここで引いちゃうの?! 最悪……さすがに“げきりん”の隙を見逃してはくれないか。上手いわね。あと1発で倒せそうだったんだけどなぁ。

 

「あられ」

「え!? それ、水中で使えるの!?」

 

 ものすごくイヤな感じ……カンナさん、わたしがイヤだと思うことを徹底的にやってくる。じめんへの交換。素早さダウン。攻撃せず“まきびし”。“げきりん”中の時間稼ぎ。

 

 わたしとは本当に経験の差がある。戦い方が上手い。

 

「リューちゃん、技が決まる前に攻撃よ」

「そういえばハクリューは水中もいけるんだったわね。でも混乱したまま簡単に動けるかしら」

「リュ~リュ~」

 

 かわいい声と一緒に自爆しちゃった。もう~!!

 

「リューちゃん、かわいいのは寝る時だけにしてよ! 次動いて! げきりん!」

「リュッ!」

「まもるよ」

 

 リューちゃんは水中に突っ込んで攻撃してくれたけど上手くガードされちゃった。“げきりん”を捌きながらパルシェンは地上へ上がった。“あられ”を活かそうってことかしら。地上ではこおりポケモン以外“あられ”のダメージを受ける。でもいいわ、地上の方が技を当てやすいし乗ってやろうじゃない!

 

「もう1度よ! げきりん!」

「つららばり!」

「しまっ!?」

 

 正面から攻撃したので相手の“つららばり”が直撃。相手も攻撃が当てやすくなる……なんで考えなかったの! しかも5回連続……さすがにこれは耐えられない。

 

 わざわざ“まもる”を挟んだのはこっちの動きを見て確実に倒すためか。真っ向から攻撃するとみて地上に誘い出してきた……ホントにヤね!

 

「ハクリュー戦闘不能!」

「言ったでしょ。ドラゴンじゃ勝てないわよ」

「ならお願い。ラーちゃん!」

「ラァァーー!!」

 

 水中に繰り出すことで“まきびし”には当たっていない。フィールドを上手く使えた!

 

「水ポケモンならまきびしは効かないわよ」

「あら、いいポケモンね。すごくなついてるし……強い」

「ふふん、あっという間に終わらせちゃうわよ? 10まんボルト!」

「ロックブラスト!」

「しまっ」

 

 パルシェンっていわタイプの技も覚えるの!? 焦るけどラーちゃんは用心深く相手の行動を見ていたようで“10まんボルト”を使う前に先に回避して水中に逃げ込んだ。危機一髪。ラーちゃんにテレパシーで軽くお礼した。

 

 (サンキューラーちゃん。ナイス回避よ)

 (この者……かなりの手練れです。慎重に行動してください)

 

 そうね。もっと感覚を研ぎ澄まさないとダメ。よく考えないと。

 

 今の攻撃も5回出てきた。偶然とは思えないから恐らく以前見た“スキルリンク”ってやつね。きっと連続技が主な攻撃手段になる。次も“ロックブラスト”かしら?

 

「あれを避けるなんて……厄介ね。だったらこっちも見せましょうか。さ、いくわよ?」

 

 ぞわぞわとイヤな感じが体中を駆け巡る。……くる!

 

「ラァー……」

 

 ズシンとフィールドの上に出てきたのは大きなラプラス。凍てつく冷気に包まれ、鋭い眼光をこちらに向けている。

 

「うずしお」

「なにそれ!?……ラーちゃん戻って!」

 (近くに行きます)

 

 よし、上手く先にボールには戻れた。水中は大荒れ……とてもあの中には居れそうもないわね。

 

「あら、もう戻しちゃうの? つまらないわね」

 

 そう言ってカンナさんもラプラスをボールに戻してしまった。そうか……あくまでラプラスはラプラスで倒すつもりなのね。それにわたしには水場を使わせる気がない。マークされてる。……かなり面倒ね。

 

 “まきびし”は厄介だけど仕方ない。任せるわ。

 

「フーちゃん!」

「ジュゴン!」

 

 今度はまた水中戦!? うぅ……ほんっとめんどくさい!

 

「ふぶき!」

「あっ、さっきのあられを利用するつもりね! にほんばれ!」

 

 天候のことはもうわかっている。“ふぶき”は“あられ”の発動中は必中だけど、晴れなら逆に命中させにくくなる。

 

「上手く躱しながら水技も封じてきたわね。れいとうビーム!」

「ヘドロばくだんで相殺して!」

 

 素早さが低くて躱せないのは持ち前の火力でカバー。これがフーちゃんの戦い方!

 

「あられ」

「にほんばれ!」

「れいとうビーム」

「ヘドロばくだん!」

 

 ケリがつかない。何が狙い?

 

「あられ」

「にほんばれ」

 

 ここでいきなりカンナさんはすごい速さでジュゴンを引っ込めた。とんでもない早業!

 

「あくまのキッス!」

「あ、いきなり交代!? ちょっとっ! 協定違反よ!? 裏切りだわ!! 戻って!」

「あなたと同盟なんて組んだかしら。……今度はあなたが水中ね。同じポケモンを使うトレーナーは面倒ね」

 

 相手はルージュラに入れ替えて“あくまのキッス”による催眠を狙ってきた。わたしは水中にラーちゃんを出して催眠技の届かない場所に避難した。ルージュラはやっぱりどこかで使ってくると思ったわ。催眠技が強いもんね。

 

「ラプラス!」

「ラァー……」

 

 またさっきのやつね。だったらとるべき行動は同じよ。

 

「戻って!」

「なら私も」

「??……あ、そうか! うぅぅ~まきびしィィ!!」

「そういうことよ。いらっしゃい。わたしのステージに」

 

 “まきびし”はダメージ狙いかと思っていたけど、もしかしたらわたしが交代できないようにするためだったの? ジリ貧になっちゃうから、これがある限りもうわたしは同じことばかり繰り返すわけにはいかない。

 

 あーもう! こうなったらジュゴンと撃ち合うしかない!

 

「ヘドロばくだん! ジュゴンを倒して!」

「れいとうビームで凍らせなさい!」

 

 技同士で相殺させず互いの攻撃が当たる。効果抜群だからわたしの方がやはり不利ね。でも相手の技の威力は大したことない。

 

「接近してギガドレイン!」

「水中へ逃げて」

「こうごうせい!」

「あられ」

「ぐぐ……にほんばれ!」

「れいとうビーム!」

 

 やられた! 上手過ぎる! 回復量を抑えられた上に“れいとうビーム”を受けてしまった。回復できないしジュゴンを無理やり倒すしかない。

 

「こうなったら……ソーラービーム!」

「あら? トレーナーが自棄になったらおしまいよ。あられ」

 

 “ソーラービーム”が決まるより先に天候が変わってしまう。でもそんなことはわかってるのよ。

 

「あなたの方こそ、わたしをなめないでよ?」

「何か考えがあるのかしら? まさかタメなしで……!?」

「やっちゃえフーちゃん!」

「……ジュゴン戦闘不能!」

 

 やっと2体か。この四天王の相手をするのは大変過ぎる。

 

「ジュゴンがくさタイプに負けるなんてね。そろそろ私もギアを上げていこうかしら」

「……そんなハッタリでいちいち驚いたりしないわ。そもそも本気じゃないなら今まで手を抜いてたっていうの? 負けたら敗退行為じゃない」

「あなた本当に私のこと知らないのね。最近の子はワタルにしか興味ないのかしら」

「むぅぅ! そーいうのは今関係ないでしょ!」

「あら図星? かわいい子」

「かわっ!?」

 

 何言ってるのよ!? だいたい今はバトル中なのよ!……なんかちょっと悔しい!

 

「ウフフ……さぁ出てきなさい、ユキノオー!!」

「!!」

「ブルー、覚悟はよろしくて? ここからが氷使いの見せ場よ。よく見ておきなさい」

 




<シバ>
ハガネール@やわらかいすな  戦闘不能
エビワラー@たつじんのおび  戦闘不能
ハリテヤマ@くろおび     戦闘不能
サワムラー@???      少し消耗

<グリーン>
ピジョット@するどいクチバシ まんたん
ドサイドン@たつじんのおび  戦闘不能
カメックス@しんぴのしずく  やや消耗
ウインディ@もくたん     戦闘不能
ナッシー @ひかりのねんど  戦闘不能
 ※ステルスロック状態


<カンナ>
パルシェン@つめたいいわ   結構消耗
マンムー @きあいのタスキ  戦闘不能
ラプラス @とけないこおり  まんたん
ジュゴン @しんぴのしずく  戦闘不能
ルージュラ@まがったスプーン まんたん
ユキノオー@???      まんたん

<ブルー>
レアコイル@じしゃく     戦闘不能
ピジョット@シルクのスカーフ まんたん
ハクリュー@りゅうのウロコ  戦闘不能
ラプラス @しんぴのしずく  まんたん
フシギバナ@パワフルハーブ  結構消耗
 ※まきびし(2回)状態、あられ状態


雑談ですがなにげにピカブイ発売日でしたね。平日なのに
最近ピカブイ(カントー)とかスマブラ(リーフ登場)でカントー押しが来てますね
現地で捕まえるとか投げる動作とかがウケてる感じをみるとやっぱりみんなトレーナーになりたいんだなぁって思いますね
心は永遠に少年少女!
ポケモンに年齢は関係ねぇぜ!
純粋なポケモン愛が感じられていいですね
きっと廃人って思ったより少ないんでしょうね
なおレート対戦しか興味のないりんごうさぎ

真面目な話をすると、これから編集作業をしながら要約を作ろうと思います
各章のラストにその章のまとめをくっつけます
小説書くのは苦手なんですけど、間違い探しと文章短くするのは得意なのでいけるんじゃないかなと思います

要約があれば見返すのが簡単になって読みたいところだけ読み返したりもできますし、もっと早くやればよかったなと思いました
一応差し替えでなければセーフっぽいのでバンもされないと思います

編集の変更点として、ややこしい優先度云々の設定を簡潔化したのと、めんどくさい指数計算とかのくだりを端折りました
くどくど長い説明文もたぶん消すか短くして、状況説明とか描写説明的なものを増やそうと思います
  
少し本文の補足
対策や見通しが甘く感じますが、ブルー達は四天王の過去のバトル内容については知らず、今大会で観戦した内容を元に対策しています
そもそもトーナメントの連戦の中、時間がたっぷりあるわけではないので仕方ないですね

サワムラーとユキノオーの持ち物は続きで明らかにします

ハリテヤマは友情出演で、ユキノオーは個人的に霰パには必須なので入れない選択肢はありませんでした

たつじんのおびはダメージを与えるときに効果が発揮するものとし、じしんの撃ち合いはやわらかいすなの効果のみ適用です

グリーンが計算ガバガバなところなどありますが、本人は大真面目です
実際このぐらいのガバガバ計算を通すぐらいの乱数を引けなければサカキとかは倒せませんからね


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12.対面の極意

キクコ戦1


 ~ゴーストと鋼のフィールド~

 

「ばあさん、バトルの前に聞いておきたいことがある」

「年上をばあさん呼ばわりとは礼儀がなっちゃいないねぇ」

「親からしつけられたことなんてないんでな。俺が気になったのはその杖だ」

「杖?」

 

 この前見かけたときから気になっていた。なぜ杖なんて持っているのか。この人の同世代で杖なんて使う人はいなかったはず。性格のイメージからしてこの杖、人を叩く道具とかにしてそうだ。

 

「あんたにその杖は似合わないだろ? あんたが老いぼれだのなんだのと言ってるオーキドのじいさんですら杖なんて使ってねぇのに、現役のあんたがなぜそんなもの持っている?」

「老いぼれとは言ってないけどねぇ。確かに杖なんて持ってるとあのジジイより老いぼれて見えるかもしれない。だがね小僧、杖ってのは持ってりゃ何かと便利なものなのさ」

 

 そういってキクコはコンコンと杖で地面を叩いた。なんだ、今の仕草? わかんねぇな。

 

「俺にはさっぱりだな」

「しょせん子供だね」

『両者位置に着きました! いよいよバトル開始です!』

 

 ひとまず集中するか。ゴーストタイプはすり抜けできることを活かせる地上戦が得意。つまり空中戦を嫌うはず。上に逃げて“ステルスロック”やら“みがわり”やらで戦闘準備を整える。

 

 ……互いに最初のポケモンを投じた!

 

「ゴォォーウ!」

「ゲエエン」

 

 俺は当然ヒリュー。相手はいきなりゲンガーから入ってくるのか。どんな構成なのかは知らないがゲンガーは主力だろ? 

 

 ……まずは相手の分析だな。空中へ向かう間にゆっくり調べる。

 

「上がれ!」

「逃がすんじゃないよ」

 

 ゲンガー Lv66 168-102-90-203-121-233 @きあいのタスキ

 ヒリュー Lv53 189-133-91-072-097-211 @かたいいし

 1.ストーンエッジ

 2.かみくだく

 3.ステルスロック

 4.おいうち

 5.まもる

 6.みがわり

 7.ほえる

 8.ちょうはつ

 

 レベル66……!

 

 圧倒的に高い! ジムリーダーが60とかだしやっぱそうなるか。俺はレベルではかなり遅れを取っている。素早さすら負けたか。

 

 真っ直ぐ戦っていけば確実に負ける。なんとか乱戦に紛れを求めて誤魔化していくしかない。空中戦は望むところ。

 

 ゲンガーは上昇するヒリューを追ってきた。すんなり誘いに乗ってくるのは怪しいな。あっさりゴーストタイプの長所を捨ててきたことになる。空中戦に自信があるのか、あるいは……。

 

「もっと距離を離せ! 飛行スピードなら負けてない!」

「まわりこみな」

 

 あくまで追いかけっこを続けるつもりか。このタイミングなら……。

 

「……1!」

「ちょうはつ」

 

 やっぱり思った通り。俺の手の内を相手はしっかりわかっている。ヒリューがステロ撒き要員ってことも。だから甘い判断はしない。補助技を先に封じてきた。

 

 だがヒリューの技は“ストーンエッジ”。94入ったな。半分以上削れたのは大きい。これで一気に有利になった。

 

『プテラのストーンエッジが命中! ゲンガーのちょうはつは空振りか?!』

 

 そもそもいきなり空中戦に乗ってきた時点でイヤな感じがした。俺の“ステルスロック”を警戒して、“ちょうはつ”の届く距離をキープするために上がってきたなら納得がいく。

 

 さらに確信を持ったのは奴の持っている道具、“きあいのタスキ”。おそらく後続も同じ道具を持っている。だから“ステルスロック”は歓迎できないのだろう。

 

 念を入れて先に一旦逃げるそぶりを見せたのは“ちょうはつ”が来るとは思ったが最初の行動だけは何をしてくるかわからないから。逃げてあからさまに“ステルスロック”をにおわせば確実に警戒してくれる。

 

 さて、ゲンガーは体力的に2確だが受けるのは難しいし引いてこないはず。まず1体目……。

 

「1」

「おにび」

「やけどか……」

 

『ゲンガーのおにびでプテラはやけど状態! ゲンガーはかろうじてプテラの攻撃を耐えきった!』

 

 今度は攻撃力を下げてきたか。相手が近かったから先に上手く当てられた。めんどうだがあのゲンガーを倒すには十分な火力は残っているし、あれを倒しているうちに“ちょうはつ”もきれるはず。

 

「ヒリュー、もっかい!」

「戻れゲンガー!」

「ゲェェーン」

「!?」

 

 交代!? 解せねぇな。さっきのゲンガーは虫の息。後出しには使えない。序盤だから念のためにとっておいたのか?

 

「まぁいい。5」

「シャドーボール」

 

 こっちは“まもる”で時間稼ぎ。大事なのはこの次だ。そろそろ“ちょうはつ”は切れるはずだからな。

 

「2」

「シャドーボール」

 

『互いに正面から攻撃! かみくだくとシャドーボールが決まった!』

 

 チッ……なんで攻撃から入る? “まもる”で時間を稼いで明らかに“ちょうはつ”を解除しにいって、ここで新手の番号だぞ? 普通疑うだろ、“ステルスロック”を……! お前は1回ミスしたら終わりなんだぞ?

 

 2体目のゲンガーもレベル66で似たような能力。まさか手持ち全部ゲンガーじゃないだろうな? 持ち物も案の定一緒だし。ダメージはヒリューが150で相手は“ストーンエッジ”と“かみくだく”合わせて87か。ヒリューはもう次は耐えない。相手もそれぐらいはわかるはずだ。

 

 ……ここなら通るか?

 

「3」

「ちょうはつ」

 

『あーーっと今度はちょうはつ! プテラ、ちょうはつされて技が出せない!』

 

 裏目か! こいつ……! 番号は変えてある。間違いない。読みで行動してやがる!

 

 最初上手く読みが決まったから相手は焦ると思ったが全くそんなことない。なんてやつだ。しかも相手としては絶対に“ステルスロック”を撒かれてはいけないはずなのに強気な読み。普段なら技名がわかるからキクコは読みで行動なんてしないはずなのに! 最初こそ読み勝って削りは入れたが結局肝心の“ステロ”を通せていない……!

 

 こっちはイライラしてるのに相手は涼しい顔で表情を全く変えない。……一旦落ち着こう。とりあえずヒリューは“ちょうはつ”で今は縛られてるから引くしかない。

 

「シャドーボール!」

「アカサビ!」

「ッサム!」

 

 アカサビ Lv55 @いのちのたま

 実 58/159-218-128-70-140-90

 努 0-252-0-0-252-4

 1.バレットパンチ

 2.とんぼがえり

 3.はたきおとす

 4.つるぎのまい

 5.まもる

 6.みがわり

 7.はねやすめ

 8.おいうち

 9.ちょうはつ

 

 ん? 威力80技の半減でD振りハッサムが半分以上持っていかれるのか? 急所?

 

 なんか変だったがとりあえず“バレットパンチ”で相手は縛れている。ただ倒し際にまた“おにび”とかくらうと面倒だし余裕があるうちに先に手を打つか。

 

「9」

「さいみんじゅつ」

 

 催眠は“ちょうはつ”で阻止できた。もし攻撃技がきても“はねやすめ”が間に合いそうだしここは安定行動だな。炎技はないだろうし起点にできそうだ。

 

「7」

「戻りなゲンガー」

 

 やっぱりチェンジだよな。キクコのポケモンは基本特殊寄りだからD振りが刺さる。“はねやすめ”で受かるな。アカサビの残りHPは重要だから念のため先に回復しておく。138/159か。

 

「カァー!」

「ヤミカラス……!」

 

 ヤミカラス Lv65 わんぱく いたずらごころ @しんかのきせき

 201-136-105-110-75-164

 

 最恐の特性“いたずらごころ”に“しんかのきせき”! こいつガチだ! 

 

 前者は補助技を先制して使えるという恐るべき特性。後者は進化前のポケモンにしか効果がないという重い縛りがあるが耐久を1.5倍にするという超強力な効果がある。進化前と思って侮ることはできない。

 

 とりあえず“でんじは”とかされたら最悪だから引くしかない。

 

「戻れ」

「ダァーッス!」

 

 イナズマ Lv53 @じしゃく

 143-65-70-169-117-211

 1.10まんボルト

 2.ボルトチェンジ

 3.あくび

 4.バトンタッチ

 5.まもる

 6.みがわり

 7.でんじは

 8.チャージビーム

 9.こうそくいどう

 

 コンコンッ!

 

『レイン選手サンダースに交代、ヤミカラスはほろびのうたを使った!』

 

 シャレた技使うじゃんか。変化技読みだろうな。滅び状態で“バトンタッチ”はできないし“くろいまなざし”辺りをケアしつつ様子見の“ボルトチェンジ”かな。ゴルーグとか適当なじめんタイプが来たら普通にヒリューにバックする。

 

「2」

「まもる!」

 

 相手も様子見か。素直に交代はしないと思われたのか。このばあさんとの読み合いめんどくさいな。

 

「もう1回!」

「逃げな」

 

 あ! 空中に逃げやがった! それは反則だろ!

 

 その後はリミットが近いのでお互いにボールに戻しあった。互いにノーダメージで同時に交代するなんてかなりレアだな。ヒリューを無償で出せるからありがたいけど。

 

『再びプテラとゲンガーの対面だ! 両者次はどう出る?』

 

 また似たようなレベル66のゲンガーだが……体力が満タンだな。見た目には同じポケモンを3回出しているようだが一度引っ込めたポケモンは二度出てきていない。ゲンガーの使い分けとかあったりするのか?

 

「……」

「なんだい、技を使ってこないのかい?」

 

 あんたが“ちょうはつ”なりなんなり使ってくるのを待ってんだよ! こっちの番号は割れてるから後出しの行動で防がれてしまう。Sが負けてなければ……。

 

「上へ」

「ついていきな」

 

 やけどに急かされこっちが先に動く形になってしまった。相手は“どくどく”が効かないし手詰まりだな。

 

「ヒリュー!! 頼む!!」

「ゴォォウウ!」

「ちょうはつ」

 

 イチかバチかでヒリューに自分の気持ちが伝わることにかけた。見事にヒリューは俺の考えを汲み取って“ステルスロック”をサイレントで使ったがあえなく失敗した。ここまでしてダメだともう打つ手なしだ。

 

「シャドーボール!」

「1!」

 

 せめてものあがき。しかし相手が速過ぎる。避けられてこっちだけ攻撃を受けてしまった。“ストーンエッジ”は命中難だからなぁ。襷が残ってしまうからここで外したのは痛いか。遠距離技が他にないんだよなぁ。

 

「プテラ戦闘不能!」

「ククク……やっと倒れたねぇ。これでとうとう5匹になったわけだ」

 

 これまで読みの当たり外れに一喜一憂することもなくポーカーフェイスを貫いていたキクコがここにきて笑みを浮かべた。プテラを倒せば確かにもう“ステルスロック”は使えないが、そこまで喜ぶほどか?

 

「わかってないようだね。この1体の差が重くのしかかるのさ。ここまで勝ち上がってくるのによっぽど必死だったのか、あたしのことはじっくり調べるヒマもなかったようだね」

 

 この余裕……なんかあるな。アカサビで突っ込むのは危ない。別のポケモンで様子見するか。ゴーストにはゴースト……こいつでどうだ?

 

「みゅー、頼むぜ?」

 

 小声で名前を呼ばれ、みゅーは自分から出てきた。すぐさま“かわりもの”でゲンガーへと姿を変える。

 

「メタモン、さいみんじゅつ!」

「よけな」

 

 スッとゲンガーは地中へ隠れてしまった。だったら構わない。地中じゃ技は使えないからな。

 

「メタモン、出てきた瞬間に倒すぞ」

「真っ向勝負かい? いい度胸だ」

 

 地中のゲンガーはゆっくり隙を伺っている。じわじわ距離が近づいている。

 

「……来る! 右だ!」

「ゲーン!」

「ゲェェ!?」

「ほう、少しはやるようだね。あたしのゲンガーの動きについてくるかい」

 

 “シャドーボール”がしっかり命中。すり抜けってのはどこから来るかわからないから強いんであって、わかってりゃ的にしかならねぇからな。俺には効果がない。

 

「その戦法、俺には通用しない。道具で首の皮一枚つながったがそいつはもう終わりだな」

「首の皮一枚でもとにかく倒れないことが肝心なのさ」

「メタモン!」

 

 俺の掛け声で即座にみゅーは攻撃に移る。完全に先手を取った。

 

 コンコンッ

 

「ゲーーッ」

「みゅ!?」

 

 なんだ!? 突然みゅーの体が黒い瘴気に包まれて……戦闘不能!?

 

「両者戦闘不能!」

 

 今のはなんだ? いきなり体力満タンからひんしなんて……もしかして“みちづれ”か? 

 

「どうだい? これで5vs4だね、坊や? そろそろわかってきたかい?」

「……まさか!」

 

 俺はもしかするととんでもない状況に追い込まれたんじゃないのか?

 

『さぁレイン選手メタモンが倒れてしまいました! とうとう幕を開けた四天王キクコのみちづれ地獄! すでに数の差がついたレイン選手に逃れるすべはありません!』

 

 やはり今の技は“みちづれ”か。たしかカスミはポケモンごとにエフェクトが違うとか言っていたし、ユーレイとは感じが違うがそういうことだろう。

 

 それより気になるのは技の指示がなかったこと。そして数の差がついてしまったと言った、これの意味するところだ。数の方は薄々イヤな仮説が脳裏をよぎっているが……

 

「今悩むヒマはないか……ユーレイ!」

「いけ! ゲンガー!」

「「ゲェェン」」

 

 ゲンガー Lv66 17/168-102-90-203-121-233 @きあいのタスキ

 ユーレイ Lv52 138-85-79-207-76-168    @きあいのタスキ

 

 1.シャドーボール

 2.きあいだま

 3.あやしいひかり

 4.さいみんじゅつ

 5.まもる

 6.みがわり

 7.ちょうはつ

 

 こいつ最初のゲンガーか! 舐めやがって!

 

 やはりキクコの狙いは“みちづれ”による1:1交換か。だからわざわざ残していたんだ。なんてシンプルな戦術だ。とにかくひんしになる直前まで戦わせてギリギリで交代。その繰り返しで1体倒し、有利になったらそのまま数の差を押し付けるようにして“みちづれ”で勝ちにいく。そういうことだな?

 

 だがな、タネがわかっていればそう簡単にはやられねぇよ。その戦い方には穴が多過ぎる!

 

「7」

「シャドーボール」

 

 ここで攻撃!? 強気だ。とはいえここは問題ない。“きあいのタスキ”で一度は耐える。“ちょうはつ”で攻撃しかできなくしたからもう“みちづれ”はできない。これで勝った。すり抜けで相手の攻撃は躱せるし……。

 

「わかってないねぇ。そんな小細工はムダなのさ。ゲンガー、わかってるね?」

「ガーッ」

『ちょうはつされたゲンガーはキクコの言葉で怒りを抑えて地中に潜り回避に徹した! 掟破りのすり抜けだ!』

「こいつ……!」

 

 しまった! 時間稼ぎをされるとお手上げだ! ゴースト同士でも地中では技が使えない以上相手には干渉できずどうしようもない。“ちょうはつ”は悪手か。自分がすり抜けることを考えておいてなんで相手が同じことするのを考えてないんだ! アホ!!

 

 しかも最初の“シャドーボール”……こっちが下手をうつことを見越して攻撃されたことになる。こっちの力量を見極められているのか。最善の動きを想定すれば“みちづれ”しか使えなかったはずなのに! 小細工で自爆する読み……。

 

「ゲンガー!」

 

 キクコが呼びかけるがゲンガーに動きはない。これはフェイクだ!

 

「まだだっ! まだこない。ユーレイ落ち着けよ……今だ! 後ろ!」

「ゲェェン」

 

 コンコンッ

 

「今の仕草……まさか!」

 

 地中から出たゲンガーは即座に“みちづれ”を使った。ユーレイは俺の言葉に従って完璧に相手の動きに対応した。また先手を取れていたはず。それなのに相手の技が決まってしまった。

 

「両者戦闘不能!」

「ようやくわかった。……その杖が合図か」

「そういうことさ。あんたの指示もそれなりに速いが、あたしには及ばない。この技は昔からの十八番でねぇ。失敗したことは一度もないのさ」

 

 究極まで極めた技はとにかく速い。ジムリーダー達と同じか。それに“みちづれ”の弱点もかなり研究して対策も練っているようだ。これがナツメを倒したキクコの戦略か。

 

「先攻逃げ切りってやつか。だがヤミカラスはみちづれを覚えないだろう?」

「6vs5があたしの戦略の肝。なら最悪みちづれは5回できればいい」

「……そういうことか」

 

 全部読めてきた。基本的にキクコは対面戦術に特化していて、みちづれを覚えるゴーストタイプで固められている。ヤミカラス以外は全員“みちづれ”持ちで間違いないだろう。

 

 つまりゴーストタイプで固めることになるから必然的に受けまわしは難しく、特にゴーストタイプの技は受けづらい。それに加え努力値や技も攻撃的だから絡め手に対し不安が残りそうな印象を受けた。その両方をヤミカラスで見ているわけだ。“みちづれ”は攻撃してこない敵を倒せない。だからそういうやつは“ほろびのうた”で相打ちにするわけだな。

 

 “みちづれ”できないで倒されるのが最悪だから、出オチを防ぐため“みちづれ”持ちは全員襷装備。技の出の速さは杖で補い確実に決められるようにしたと。しかも相手がトドメを刺しにいくタイミングをキクコが完璧に読み切っているからタチが悪い。

 

 思えば“みちづれ”や“ほろびのうた”のような相打ち技を使う時だけ杖を使っていた。なんですぐに気づかなかったんだ!

 

「やっとわかったってツラだね」

「……」

「あんたはすでにあたしの仕掛けた罠に嵌ってんのさ。もうあがくこともできやしないだろう。こう見えてあたしは優しい性格でね。降参したいなら快く受け入れてやるよ」

「冗談。俺はすでに見えたぜ、みちづれの攻略法が」

「言うねぇ。だったら見せてもらおうか」

 

 ハッタリなんかじゃない。タネさえわかれば倒せない敵はいない。そう信じてずっと戦ってきた。俺は自信を込めてモンスターボールを投じた!

 




<キクコ>
ゲンガー1 戦闘不能 @襷
ゲンガー2 やや消耗 @襷
ヤミカラス まんたん @きせき
ゲンガー3 戦闘不能 @襷

<レイン>
プテラ   戦闘不能 @かたいいし
ハッサム  少し消耗 @珠
サンダース まんたん @じしゃく
メタモン  戦闘不能 @せんせいのツメ
ゲンガー  戦闘不能 @襷

現在4vs3


レインの知識は5世代ストップです(再確認)
設定を合わせるか悩んだ末こうなりました
これが限界

ハッサムの振り方はAぶっぱして余りをHDが最大になる(つまりH=Dに近づく)ように振り分けています
端数はHPの10n-1を意識してSです(ついでに16n-1も満たす)

ヤミカラスを使ったのは表の理由はレインの予想通りです
裏の理由はFRLGにおいてヤミカラスがムウマの対になっているからです
各々片方のバージョンでしか出現しません
なおムウマは強化版キクコが使用します
アーボックとかはコンセプトの都合上入れられませんでした


レッド戦はまだ考えてるので後回しにしようかとおもいます
つまり残りの3人を先に進める展開にします
迷走してますね

どうでもいいですがみゅーの鳴き声とかレインへの呼び方の変化などはわざとです


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13.ピンチのあとにはチャンスあり

シバ戦2

11話の続きです
途中経過は11話の後書きにまとめてあります


~格闘と水のフィールド~

 

「ハンッ! つえーやつってのは後半に力をためておくんだよ! こっからが本番だぜ!」

「たしかに……実は俺も同じことを思っていた。これから四天王の底力を見せてやる」

 

 この言い草、後半にとっておきでもあるってのか? たしかに今までは様子見があったようにも思える。“メガトンキック”なんて完全にフーディンへの交換を意識してのことだろうし。

 

 現状切り札を先に消耗したのはオレの方だ。その上“ステルスロック”もついてやがる。……思ったよりピンチか。

 

 だがやることは変わらねぇ。まずは目の前のこいつを倒さねーとな。サワムラーは蹴り技が中心。変な技はねぇはず。ならここで警戒されていて後出しが難しいフーディンを先に出してしまうのも悪くねぇか。蹴り技に対して遠距離攻撃なら安心だしな。

 

「出番だぜ! サイコキネシス!」

「潮時か。なげつける」

「んなっ!? なげつけるだと?! おまっ、そりゃハンドだろーが! 1発レッドだ!」

「蹴りしか使わないと言った覚えはない」

「レッドみたいなこと言うんじゃねぇ!」

 

 あぁぁーーっ!! オレは何言ってんだ?! あいつ、何を“なげつけて”きやがった? なんか見覚えあるぞあの道具。

 

「サワァァァ」

「シェェイ」

「サワムラー戦闘不能!」

『ん、どうした? サワムラーを見事撃破したフーディンが膝をついたぞ!? ダメージはそれほどのようだがこれは……』

 

 麻痺しやがった! ありゃ“でんきだま”か! レッドはピカチュウ専用っぽいことを言ってたがこんな使い方があるのかよ!? くそ、しかも特性シンクロもムダ撃ちか。

 

「サワムラーは倒れたが厄介なポケモンを足止めできた。十分だ」

『シバ選手5匹目はカポエラーだ!』

「たしかバルキーとかいう奴の進化系か。どうせエビワラーとかと同じ感じだろ、サイコキネシス!」

「ねこだまし」

 

 フーディンは動けない。めんどくせぇ技使いやがって! しかもかなりの攻撃力なのかダメージが先制技のそれじゃねぇな。ステロ、抜群の“なげつける”、“ねこだまし”……防御が弱点のフーディンじゃもうあと1発も持たねぇな。

 

 あのポケモン、“マッハパンチ”とかそういう先制技は絶対持ってるに違いねぇ。ここでむざむざ倒されるわけにはいかねーし、交代するしかない。

 

「カポエラーやるぞ!」

「技名を隠そうがどうせ先制技だろ。バレバレだぜ。ここは迷わず引いて……はぁ!? 故障か!?」

『ああぁーーっ!! グリーン選手痛恨のアクシデントかぁ!? フーディン戻れない!! ボールに戻れずカポエラーの攻撃に捕まった! こうかはばつぐんだ! たまらずダウン!』

「フーディン戦闘不能!」

 

 効果抜群? あくタイプの技か?……そうか、“おいうち”か!!……ってことは裏をかいたつもりがその裏をかかれたのか! “サイコキネシス”を使ってりゃ倒せたじゃねーか!

 

 あのポケモン、エビワラーやサワムラーとはまるで違うな。小技を駆使して戦うタイプか。だったら力勝負に持ち込んでやる!

 

「真っ向勝負だ! いくぜ! 撃て、渾身のエアスラッシュ! 怯め……怯めぇぇ!!」

 

 出したのは当然ピジョット! こいつは生半可なレベルじゃない。ここからは怯ませて何もさせねぇ!

 

「ならマッハパンチ」

「てめっ!」

 

 先制されたら怯みもクソもねぇ! しかも効果抜群の“エアスラッシュ”を耐えやがった! 攻撃も耐久も隙がねぇ……弱点は素早さってことか。しかもそれは技で補ってやがる。厄介だな……。

 

「連打だ! 敵が倒れるまでやれ!」

「マッハパンチ」

「……カポエラー戦闘不能!」

 

 だいぶピジョットの体力を持っていかれたがレベル差があったおかげでなんとか耐えたな。そしてこのカポエラーの撃破はオレにとって少なくない意味を持つ!

 

「色々ありはしたが、結局気づけばこのオレ様の優位。さぁ逆転したぜ? 2対1……追い詰めたな」

「ここがふんばりどころ……だが数の不利は即ち形勢の不利とはならん」

「へっ。負け惜しみか?」

「……人もポケモンも戦い鍛えればどこまでも強くなる。俺は格闘ポケモンの持つ可能性を信じて限界を超えて鍛えている。そしてその可能性を存分に発揮させることがトレーナーである俺の役目。すでに障害は除かれた。なぜ俺が四天王と呼ばれ恐れられているか、その目で確かめるがいい」

 

 シバの目は死んでねぇな。それどころか自信に満ちてやがる。なるほど……来るな。

 

「切り札登場ってか? どんなやつが出てくるってんだ?」

「さあ、倒れた者の分まで存分に戦え! ゆけ、カイリキー!」

「カイカイ……」

 

 カイリキーか。こいつならその辺のトレーナーでも持っているはずだ。ラプラス、ゲンガー、カイリューみたいな他の四天王の強力で珍しいポケモンと比べれば見劣りするぜ?

 

「意外と普通なポケモンだな。冷静に対処すれば怖くねぇ。ピジョット! まずは距離をとって上空から遠距離技で……ピジョット、どうした?!」

『ピジョット、いきなり自ら敵に接近していったか? いーや違う! これはシバの十八番だぁ!』

「あいつの意思じゃねぇってのか?! くそっ、エアスラッシュ!」

「バレットパンチ!」

 

 カイリキーが先制技覚えんのかよ!? これはヤベェ!!

 

「躱せ! とにかく離れろ! チッ、攻撃に吸い寄せられてんのか!?」

『出たぞ回避不能の攻撃! 接近戦なら四天王最強と呼ばれたシバに対し肉弾戦を余儀なくされる掟破りの特性だ! ひこうタイプは格好の餌食だぞ!』

「勝手にしゃべられちゃかなわないな。まぁ四天王相手に無知のまま対戦するのは今年のルーキーぐらいのもの。ここは目を瞑るか」

「まさかあれか! 回避不能といえば……噂に聞く“ノーガード”か! まさかカイリキーの特性だったのか!」

 

 なんて強力な特性なんだよ、全く。これは相当つえーぜ。オレも1体ぐらいこんな特性のポケモンを使ってみたいもんだぜ。

 

「ここらではカイリキーの特性はほとんど“こんじょう”だったな。……さぁ見せてみろ、お前の全力! エスパーもひこうも倒した。後は手負いのカメックスのみ。逆王手だ。最後に男なら……黙って拳で語れ」

 

 ニヤリと初めてシバが笑った。そうか……拳で語れとか前に言ってたのはこういうことか。正々堂々、“ノーガード”で殴り合えってわけか。あれはやっと気づいたかって顔だな。こいつ、いい性格してやがる。

 

「ここまであんたの計算通りってわけか。なるほどねぇ。上手く俺の出すポケモン、技、それらを誘導してここまで追い詰めた……これがあんたの戦略。そういうことだろ?」

「何がおかしい? 負けを悟ってヘラヘラ笑うようなやつだったなら、とんだ見込み違いだ」

 

 これが笑わずにいられるかよ。この状況はまるで……あの時そのものじゃねぇか。

 

「大先輩のあんたに、オレがポケモンリーグで学んだことを1つ教えてやるよ」

「ポケモンリーグで学んだことだと?」

「オレが身をもって知ったことだ。……どんなに完璧な作戦を立てても、最後の1体の力でそれを覆すことだってあるんだぜ?」

 

 なぁ、そうだろレッド?

 

「……まだ戦う気力はあるらしいな」

「たりめーだ! いくぜカメックス! お前に全部任せたぜ!」

「ガメーーーッ!!」

 

 カメックス、お前が最後にいるだけで負ける気がしねぇぜ! ようやくオレ達の本領発揮だ! オレは狙いを定めてカメックスを繰り出した。

 

「一撃くらえばタダでは済まんぞ。ばくれつパンチ!」

「ノーガードってのはお互いに効果があるんだぜ? 逃げられないのはお前もだ! カメックス、まもる! そのまま後退!」

 

 相手は必ず攻撃のためにカメックスのいる場所まで近づいてくる。オレ達はそれをじっくり待っていればいい。カメックスはオレに相槌を返した。ちゃんとわかってるな。さすがだぜ。

 

「時間稼ぎか? ムダだ! その技は連続で使えるような代物ではない」

「んなことわかってんだよ。あんた、今までずっとオレが使ってなかったから忘れてんだろ? カメックスの足元をよく見な」

「……水のフィールド! そうか狙いは……!」

 

 フィールドってのはこうやって使うんだよ。要は使いようなのさ。

 

「ガメッ」

「カイッ?!」

 

 カメックスは不敵に笑い、カイリキーの方を見たまま地面を蹴って後方へ跳び、その身を宙に預けた。当然カメックスは背中から重力に従って落ちていく。だがそこは堅い地面じゃない。あいつのホーム、水のフィールドだ!

 

 水の中を深く沈んでゆくカメックスに引き寄せられるようにしてカイリキーもまた水中に引き込まれていく。最初から水に入るとわかっているのと、いきなり飛びこむのではまるで違う。息も吸わせねぇぜ。

 

「カイリキー、慌てるな!」

「そりゃ無理ってもんだぜ。カメックス、みずのはどう!」

 

 先手を取って攻撃が決まった。“みずのはどう”は波だから水中であっても水圧に妨げられない。しかもカメックスの得意技だ。容赦なくガンガンいくぜ?

 

「落ち着け! お前の攻撃は目を瞑っていようが必ず当たる! ちきゅうなげで地上に放り出してやれ!」

「投げ技だと!?」

 

 格闘戦はなんでもできるってわけか。強引に投げ飛ばされカメックスは地上に出てしまった。おっそろしい腕力だ。

 

 そして投げた本人であるカイリキーもカメックスに引き寄せられて浮き上がってくる。いくら“ノーガード”でも空中を飛んだりはできないが、水中だと浮力とかを使えるからな。

 

「これで水場とカメックスの間にカイリキーが陣取った。ここから先は水中には行かせん」

「かまわねぇさ。こっちも準備はできたしな。もう水中に逃げる必要もねぇ」

 

 できることなら水中で有利なまま戦いたかったが、すでに敵に手傷は負わせた。ダメージの感じからしてもういけるはずだ。二度と目測を誤るようなことはしねぇ。今度は絶対に倒す! 

 

「みがわり!」

「ばくれつパンチ!」

 

 カイリキーは間近に迫りカメックスの体力は残り僅か。絶体絶命のピンチはお膳立てしてやったぜ?  

 

「なんのつもりだ?」

「へっ……オレなりの演出さ。劇的な勝利にはピンチが必要なんだよ。ピンチの後にはチャンスありってな。ぶちかませ! ハイドロカノン!!」

「……!! 耐えろカイリキー! 肉体の限界を超えろ!」

「ガメェェーーッッ!!」

「カイッ!?」

 

 カイリキーは殴り合いには強いがそれ以外には弱い。自分の土俵で戦うのがバトルのセオリーだぜ。

 

 “ハイドロカノン”は当然命中。お膳立てした特性“げきりゅう”の効果とフィールドによる補正で凄まじい威力になる。カイリキーは吹っ飛んでいった。

 

「いっちょあがりっ!」

「カイリキー戦闘不能! 勝者グリーン!」

「「おおぉぉーーッッ!!」」

「どうしたことだ! 俺が……俺達が負けるとは!」

 

 吹っ飛んだカイリキーは水中に落ちてしまい気絶したまま沈んでいったが、反動が解けたあとカメックスが助けにいって無事にシバのボールに戻れた。

 

 オレのところに戻ってきてカメックスがこっちを向いた。今のお前、最高だぜ。

 

「やっぱオレ達天才だな?」

「ガーメッ!!」

 

 言葉はこれだけで十分。グータッチで勝利を喜び合った。

 

「済まないな。水中は苦手でな……カイリキーを助けて貰って助かった」

「あんたいつのまにこっちに。まっ、いいってことよ。バトルが終われば敵も味方もねーからな」

 

 真剣勝負に手は抜かねぇが、終わった後は別だからな。礼を言った後シバはさらに言葉を続けた。

 

「まるでカンナのような戦いぶり……見事な立ち回りだ」

「別に女に例えられても嬉しかねーよ。誉め言葉は素直に受け取っておくけどな」

「……勝負とはわからないものだ」

「……」

「あの少年が言わんとしていたことも今ならなんとなくわかる。……負けた俺に何も言う資格はない。次へ進むがいい」

 

 シバは背を向けたが、これだけは言っておかないといけない気がした。

 

「言われなくてもそうするぜ。そんでもって、あんたの代わりにレインの野郎もぶっとばしてやるよ」

「……!」

「キクコのばあさんが負けるわけねぇってか? でもな、オレ達に限界なんてねぇんだよ」

「……」

「人もポケモンも限界なんてねぇ。あんたが教えてくれたことだぜ。レインだけじゃねぇ。レッドもブルーも……あいつらなら勝つぜ、必ずな」

「なら、出番の終わった俺はゆっくり見させてもらおうか。お前達が限界を超えてどこまでいけるのかをな」

 

 あぁ見せてやるさ。とんでもねぇもんを見せてやるよ。

 

 けど、オレはまず反省だな。今回は上手くいかなかったことも多い。相手に完璧に対応しようとして逆に相手のペースに乗せられちまった。今度は自分で主導権を握れるような戦い方を考えた方がいいかもな……。

 




ハイドロカノンは一致フィールド激流で威力約500です
Cぶっぱ比較前提だと激流ゲッコウガのミズZぐらいでしょうか
きせきポリ2が受からないのでカイリキーはいわずもがなですね

カポエラーはテクニシャンです
ねこだましとか全て威力がアップしています

“ノーガード”はどうやって効果を反映させるか悩みました
そんなにわるくはない……と思いたい


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14.信じる言葉とちょっぴりいじわる

カンナ戦2


~水のフィールド~

 

 カンナさんが口にしたユキノオーというポケモン……またしてもわたしが知らない名前だった。また何か仕掛けてくるつもりね!

 

「名前を聞いてその反応……やっぱり知らないようね。ユキノオー、頼むわよ」

「!?」

 

 天候が……急に“あられ”の勢いが増した。あのポケモンは特に行動してないのになんでなの? あのポケモンって出てくるだけでこんなことできるの!?

 

「条件は整ったわ。アイスフィールド!!」

「これはヤバイッ! なんかわかるっ! 絶対阻止しないとっ! ハードプラ…」

 

 ――慎重に行動してください――

 

 刹那脳裏に蘇るラーちゃんの言葉。わたしを戒める大切な訓示。そうだったわ……ラーちゃんサンキュー!

 

「…ヘドロばくだん!」

 

 これで間違っていても悔いはない! 女は度胸!!

 

「なんですって!?」

「ノオォォォーー!?」

「効いてる!? やった、効果抜群だっ! いっけぇぇーっ! 倒しちゃえぇーーっ!!」

 

 ありったけの思いを込めて叫んだ。フーちゃんの攻撃なら一撃で持っていくのも不可能じゃない!

 

「でも……」

「えっ」

「そう簡単には倒れないわ」

「……!!」

 

 ウソでしょ!? フーちゃんの一致抜群技で倒れないの!? あのポケモン耐久寄りだった!? ん? 違う?……一瞬何か見えたような?

 

「ユキノオー、アイスフィールドよ!」

「あっ!! 全部が氷になって……水も凍ってる!?」

『出ましたアイスフィールド!! 出れば確実に仕事をこなすユキノオー、今回もしっかり攻撃を耐えて役割を全うした! 現れたのは凍てつく氷が対戦者の身も心も凍り付かせる魔性のフィールド!! ここからはこおりタイプの威力が倍増だ!!』

「うそでしょ!? そんなのアリ!?」

 

 フィールドが変わっちゃうなんて反則よ! 相手の選んだフィールドまで消しちゃうんでしょ?! 今回はたまたま一緒だったけど、これってすっごくズルいわよね?!

 

「ノォォ……」

「ユキノオー戦闘不能!」

「え、うそ、なんでこのタイミング? もしかして技の反動とか?」

「あなた……強運ね」

「へ?」

「バナバーナー」

 

 あっ! フーちゃんに言われてわかった。相手は“どく”にかかってたのね。フィールドが変わって見逃していたわ。“ヘドロばくだん”の追加効果までキッチリ決めるなんて……サンキューフーちゃん!

 

「あなた、まさか自分のポケモンの特性を知らないわけじゃないわよね? わたしは水タイプを好むのに、なんでハードプラントを使わなかったの?」

 

 たしかに威力は圧倒的に“ハードプラント”が上。反動は痛いけど絶対に敵を倒したい場面だった。わたしも考えた結果はカンナさんと同じ結論だったわ。

 

 でもね、長考して出した答えより直感に従った方がいいことってあるのよ。わたしが窮地で学んできたことの1つね。

 

「……カン!」

「なるほどね。最も納得がいく解答だわ」

 

 自信満々で答えたのに何よその返事~!

 

「……バカにされてる気がする」

「ウフフ、お礼にいいこと教えてあげる。気づいているでしょうけどユキノオーは天候を操る強力な特性“ゆきふらし”を持っているの。そのユキノオーだからこそこんな荒業ができるのよ。誰でも簡単にフィールドを変えられるわけじゃないの」

 

 え、そうなの!? そんなすごい特性があるのね。……もちろん気づいてたわよっ! 

 

 ということは“あられ”は重ね掛けされていたのね。カンナさんはさっき条件とか言ってたけどこのことかしら。そしてこのフィールドの変化が目的だったなら……

 

「それを確実に行うためにきあいのタスキを持たせたってわけね」

「ふぅん。道具もわかったのね。それも…」

「カンじゃないわ。さっきのポケモンはこおり・くさタイプでしょう? どくが抜群なのはくさタイプだけ。こおり・くさタイプなら弱点は多いだろうからきあいのタスキを持たせることにも納得がいく」

 

 わたしの推測にカンナさんは嬉しそうな笑みを浮かべて答えた。

 

「かわいいだけでなくお利口さんなのね」

「かわいい言うな!!」

 

 なんか調子狂う! カンナさん、さっきからかわいい、かわいいって……どこまで本気なの? 大人の余裕を見せつけられてる気分。わたしのこと子供だからってぬいぐるみかなんかと一緒にしてない?

 

 でも四天王から褒められたのはやっぱり嬉しいかも。もじゃもじゃの体毛の隙間からちょっぴり“きあいのタスキ”が見えちゃったのはナイショね。

 

「ブルー、かわいくってもそれと勝負は別よ。覚悟なさい!」

「望むところよ!」

 

 手加減なんかされたら許さないわ! そんなことされて勝っても意味ないもの。全力の四天王を倒してみせる! フィールドが変わって状況は悪いけど、この程度じゃ全然わたし達はへこたれないからっ!

 

「出番よ! 三度出てきなさい!」

「ってことは……」

「パルパルパル!」

「バナッ!」

 

 フーちゃんはわたしに警告するようにひと鳴き……ありがとね。

 

「もちろんわかってるわよ。さぁ、フーちゃんやっちゃって!」

「こおりのつぶて!」

『フィールドを味方につけた先制攻撃! 先制技と侮るなかれ、その威力はカイリューをも倒すほど強力だ!!』

 

 カキンッ!

 

 威勢よく声をかけたのはちょっとしたフェイク。わたし達が選択した技は“まもる”よ。どれだけ威力が高くても当たらなきゃ意味ないわ。

 

「ガード……“まもる”を使ったのね」

「何回もやられてたまるもんですか。フーちゃん、ギガドレインで体力貰っときましょう」

「バナッ!」

 

 先制技っていうのは便利で強力だけど使った後の隙が大きい。もちろん“まもる”も同じだけど、フーちゃんは自分で判断して早めに使った分次の攻防で少し先手をとれた。素早さも負けてなかったみたいだしね。

 

 先制技って読まれてしっかり対応されると逆にピンチになりやすいから難しい。こんなこと今まで気づかなかったけど……アホグリーンに少しだけ感謝ね。

 

「パルパルゥ……」

「パルシェン戦闘不能!」

 

 よっしゃ! 回復しながら4体目を倒した! フィールドで強くなったパルシェンを倒せたのはかなり大きい!

 

 できれば氷のフィールドの効果が活きる前に速攻で相手を倒していきたいわね。このフィールドの効果を十二分に使われるようならおそらくわたしの負け。なんとか阻止しないと。

 

 あの時……ポケモンリーグ初戦では思いっきり失敗しちゃったけど、それがこんな場面で活きるなんてね。今日はラーちゃんに叱られないで済みそうかな。

 

「あなたは自由に行動させると厄介ね。しばらくの間……眠ってもらおうかしら」

「!」

「あくまのキッス!」

「くっ……ヘドロばくだん! 当てて!」

「ジュラァ~」

「十分耐えられるわ」

「フッジィィィ……zzz」

 

 いきなりやられた! 水場がなくなったから前回のような回避ができない。接近されると避ける方法がないわ。手傷を負わせるのが精一杯ね。戻しても眠るポケモンが変わるだけだし。

 

 ルージュラは特防だと意外と堅いし、考えてみればフーちゃんに繰り出すのがぴったりね。完全にやられた。想定しておくべきだったか。シショーなら“みがわり”してたんでしょうね。

 

「いっそまたどく状態になって!……なんないわよねぇー」

「ゆめくい!」

「はぁ!? ちょっとウソでしょ!? もうっ!!」

 

 1回でごっそり体力持っていかれた。せっかく回復したのに! 逆に相手は回復するし……うぅぅ!!

 

「ルージュラ!」

「どうせやられるなら……ピーちゃん!」

 

 “ゆめくい”は眠ってなければ効かない。交換すればダメージはないわ! それに時間が経って“あられ”もやみ始めた。まだなんとかなる!

 

「これは……“ゆめくい”じゃない。まさか“あられ”?! 読まれたの……!」

「ジョッ!?」

「そんなことだろうと思ったわ。ふぶき!」

「まもる!」

「ムダよ。天候を味方につければ確実に連続で当てられる。ルージュラ、トドメのふぶき!」

 

 くっ……ごめんピーちゃん。わたしの読みが甘かった。

 

「ピジョット戦闘不能!」

 

 何なのよこれ。こんなに簡単にポケモンって倒れるの? 威力が凄まじい。おそらく半端な耐久では効果抜群じゃなくても倒される。ラーちゃんを出したいけど一撃で倒せないほど回復されただろうからまた眠らされてしまう。そしたら“ゆめくい”されて延々倒せない。しかもラーちゃんのねむりはその後の展開も考えていくと即敗北級の痛手。……こうなったらあなたに全てかけるわ。

 

「体力はいいかんじのはず。あとはなんとか……」

「……どう来るのかしら?」

 

 お願い、わたしの気持ちに……応えて!!

 

「フーちゃん、ハードプラント!!」

「……!! ふぶきで凍らせて!」

「ハッ……バナァーー!!」

 

 起きた!? 偉い!! 天才!! やっちゃえ!!

 

 全力の“ハードプラント”は荒れ狂う“ふぶき”を一閃してルージュラに直撃した。“しんりょく”は発動している。威力は十分!

 

「両者戦闘不能!」

「え、フーちゃんも!?」

「凍りついたわね。これがふぶきの恐ろしさよ。攻撃で相殺することは事実上不可能。そのうえ相手を凍らせる追加効果がある。もっとも、今回は先に体力が尽きているけどね」

「そうか。こおり状態……なんて恐ろしいの」

 

 フフッ。びっくりはしたけど問題はない。これでカンナさんはあと1体。チェックメイトね。

 

「まぐれは続かないわ。いきなさいラプラス」

「ラァー……」

「ラーちゃん!……フフ」

「……」

「出たわね。その子が切り札でしょう? 氷使いとしてラプラスで負けるわけにはいかないわね。わたしのラプラスはこのフィールドではサシで負けたことはないわ。あなたのポケモン全部動けなくして…」

「クスクス……ウフフッ、アハハ!!」

 

 だ、ダメよ……まだ笑うな……堪えるのよ。勝負は最後までわからないのだから。

 

「何がおかしいの?」

「ごっ……ごめんなさいっ。あの、実はわたし、最初からあなたのラプラスと勝負する気はなかったの」

「ん? 何を言って……」

「ラーちゃん、作戦通りよ」

(そういうのは性格が悪いですよ)

「ラァーーラァーー」

 

 よし決まった! ソーちゃんもスタンバイしてたけど使わなくて済みそうね。カンナさん、悪く思わないでね? 勝負の世界って非情なの。

 

「ほろびのうた!? でもそんなことすれば自分も……!! ラプラス、急いで10まんボルト!」

「まもる」

「ラッ!」

「…………戻ってラプラス。参ったわ。降参よ」

「カンナ選手を降参とみなし、勝者ブルー選手!」

「んん~~~いよっしゃああぁぁーーーっ!!!」

 

 勝つまで油断するな、まだ油断するなって抑えていたけどもう限界!

 

「イエイイエイイエーーイ!!! もうサイッコーだったわ! フーちゃん強過ぎ! 何体倒したの?! ほとんどフーちゃんよね?! ヤッホーい!!」

(ブルー、みっともないですよ。観衆の前です!)

「堅いこと言わないでよー。もちろんラーちゃんにも感謝してるわ。チュー!」

「ラァアアッ?!」

 

 あっ! そっぽ向いてボールに戻っちゃった! せっかくキスしてあげようと思ったのに。もう、照れすぎでしょ。

 

 ……テレパシーでいじめちゃおっ!

 

(なんで逃げるのよ~)

(それは……あっ、ほろびのうたの効果をリセットするためです)

(ほんとぉ~? 上手いこと言っちゃって。別に倒れたら倒れたでわたしが優しく介抱してあげたのに。まぁラーちゃんが言うならそういうことにしておくわ)

(ブルーのいじわる!)

 

 えへへ。それはお互い様よ。

 

 そういえばカンナさんは……あっ、帰っちゃう!

 

「待ってカンナさん!」

「あら、何かしら?」

「あの、ごめんなさい。その……さっきは急に試合中に笑っちゃって」

 

 さすがに悪いことをしちゃったと思う。さっきは目前の勝利に浮かれて相手のことを考えてなかった。わたしが負けたらきっと立ち直れないぐらいショックを受けるだろうし、このままカンナさんを傷つけたままサヨナラになったら絶対わたしは後悔する。だから夢中で引き留めていた。

 

「そんなこと気にしていたの? やっぱりかわいいわね。別にそんなこといちいち気にしたりしないわ。負けて悔しい気持ちはあるし、敗北っていうのは簡単に受け入れられるものじゃないけどね」

「えっ……四天王でもそうなんだ」

 

 わたしの素朴な感想に、カンナさんは真剣な、でも優しい表情で答えた。

 

「あなたも覚えておきなさい。人生にムダなことなんてないの。負けたことでさえ、次の勝利への糧となる。そんなふうに思えたら、どんなときも前を向いて進んでいけるでしょう?」

「ムダなことなんてない……か」

「ねぇブルーちゃん、あなたチャンピオンになるのが夢なんでしょう? その夢、私も応援させてもらうわ。あなたならきっとなれると思う。頑張ってね」

 

 温かい言葉を贈られ、心の中にじんわりと歓喜が広がっていった。なぜか言葉で言い表せないほど嬉しくなって、返す言葉に詰まってしまった。

 

「えっと、あの、カンナさんっ、ありがとう!」

「お礼を言うのは私の方よ。きっと私は限界を決めつけて諦めてしまっていた。でも諦めなければ不可能はないことをあなたに教えてもらえた。あなたがチャンピオンになったら、今度はわたしがチャレンジャーになろうかしら」

「えっ?!」

「冗談よ。そういう顔になると思った。かわいい」

「むぅぅーー!! いじわるっ!!」

「あら、ごめんなさい」

 

 それまで真剣な顔だったから本気にしちゃったじゃない! たぶんわたし顔赤くなっちゃってる。

 

 ……なんか悔しい! とっても悔しい! でも……この感じ、キライじゃないかも。

 

「……やっぱり」

「ん? どうしたの?」

「やっぱり、カンナさんってラーちゃんみたい。ラプラスのラーちゃんに似てる」

「あら? そんなこと初めて言われたわ。どこが似てるのかしら」

「えへへ……それはひみつー! じゃあまたね……おねーちゃんっ!!」

 

 大人で、厳しくて、でも優しい。そういうふうになりたいなぁ。

 

 わたしっておねーちゃんっ子なのかも。

 




フィールドチェンジ!
やってみたかったことなので満足です
あんまり活躍しませんでしたけどね
ネーミングはこれが限界でした()

カンナさんのかわいい連呼な性格はめいぐるみ好きからの連想です
ブルーが気に入ったみたいですね
やたら親切な感じもブルーがかわいいからです


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15.そっとひとまき世界が変わる

キクコ戦2


「ダァァース!」

「ムゥーマァー」

『両者共にポケモンを繰り出しての仕切り直し、出てきたのはムウマとサンダースだ!』

 

 ムウマ Lv65 ずぶとい 210-82-157-123-134-130 @しんかのきせき

 

 また“しんかのきせき”か。四天王はいい道具持ってやがる。

 

「イナズマ、シャドーボール!」

「大した威力じゃない。気にせず“ふういん”!」

 

 なるほど、“シャドーボール”を封じにきたか。面白い戦い方だな。けど“シャドーボール”は攻撃が目的じゃないんだよな。イナズマは前方にダッシュしながら“シャドーボール”を地面に向かって放った。

 

『シャドーボールは狙いがそれて地面に当たったようだ! 辺りが砂塵に包まれてしまった!』

 

「もうちょい左!」

「チッ……ムウマ! 一旦上昇して砂煙から出ておきな」

「上に出るなら好都合。8!」

「スキルスワップ!」

 

 “スキルスワップ”!? 初めて使われた。地中に潜らなかったのはこれを使うためか。“ちくでん”を取られて“チャージビーム”は無効化された。

 

 このムウマ、まさかブイズメタじゃないだろうな? “シャドーボール”とメイン技が封殺されるからほぼ有効打がなくなる。こんなピンポイントの対策まであるのか。しかもイナズマから出すことも読まれていたことになる。俺ってそんなに読みやすいか?

 

「それでも勝つけど」

「ムゥー……zzz」

「ねむり状態!?」

 

 クイズおやじ、あんたの戦術使わせてもらったぜ。

 

『サンダース、砂塵に紛れてすでに仕掛けていたか!? 砂塵は晴れましたがムウマは眠って動けません! その間にレイン選手はハッサムを繰り出した!』

「ッサム!」

 

 ムウマが“ふういん”を使った直後すぐに接近して“あくび”を仕掛けていた。俺には煙幕なんて関係ないからこそできる力技。これで無理やり眠らせて、動けないターンで倒してしまうのが狙いだ。

 

 要は相手に行動させれば確実に“みちづれ”をされる。なら眠らせればいい。最初はイナズマの能力を上げて“みがわり”を絡めながら倒すつもりだったがさすがに有効打なしでは交代一択だ。

 

「つるぎのまい」

「さっさと起きな!」

「そう焦んなよ。はたきおとす」

 

 眠って無抵抗なので今は敢えて番号は伏せておいた。アカサビには当然キクコ戦を見越してゴーストタイプへの打点を用意してある。ついでにムウマは道具さえはたけば簡単に倒せるから一石二鳥ってやつだ。

 

「はたきおとす……」

「対策してるのはお互い様ってこと。しんかのきせきを使われるとは思ってなかったけどな。これでそいつの耐久は一気に落ちる」

「そこまでわかってたのかい……気に食わないねぇ」

 

 こっちの技を見て鋭く目を細めるキクコ。天敵のあくタイプの技だしよく知っているのだろう。

 

 “はたきおとす”の威力はあまり覚えてなかったが実験した感じだと60ぐらいだった。ただみゅーと比較した時“テクニシャン”が発動していないようだったので威力は65なんじゃないかと思っている。今は抜群だから130になるか。

 

 ダメージは203……!? 計算より1.5倍ぐらいダメージが多い気がするが……これならもう1回“つるぎのまい”をしておきたかった。肝心なところで計算ミスったか。済んだことは仕方ない。切り替えだ。

 

「ムゥゥーー!!」

「衝撃で起きたか。4ターン目だしなぁ。“はたきおとす”はだいぶ効いたな。HPは残り僅か、“しんかのきせき”も落ちた。9」

「シャドーボール!」

 

 “ちょうはつ”には当然“シャドーボール”を合わされたか。安い誘導には乗ってこないな。だがこいつも“みちづれ”を使えるから仕方ない。1ターンはくれてやる。

 

 今の攻撃、意外とダメージが入ったが、それでも“みちづれ”を封じてムウマは先制技で縛っているからこっちが有利。

 

「潜りな」

「だよね。7」

「……! すり抜け勝負にはあくまで自信があるってわけかい」

 

 そういうこと。そもそも“ちょうはつ”を時間稼ぎでやりすごせるのはあくまでこっちから仕掛ける手がないときのみ。アカサビには通じない。この間に“はねやすめ”を使った。残り34だから反動3回で死ぬし、ヤミカラスはA+2フィールドテクニバレパンで縛れているから火力は足りている。今回復して114/159だ。

 

 奇襲は通じないし、アカサビに上手く当てたとしても急所じゃなきゃ50弱のダメージ。“ちょうはつ”が切れるまでずるずる待っていればその間にさらに能力を上げるなり回復するなりしてこっちが有利になるから相手は引くしかない。

 

「ムウマ!」

「8!」

『キクコ選手ムウマを地中から呼び戻してポケモンを引っ込める……あーっと失敗した!? ボールに戻す前にハッサムが追撃! こうかはばつぐんだ! たまらずムウマダウン!』

「おいうち……! 目障りだねぇ」

「言ったろ、対策は万全なんだよ。ハッサムって器用だからこういう小技は得意なんだよな」

 

 “テクニシャン”の補正が乗って威力240、余裕で倒せる。これで3vs3のイーブンに戻した。

 

「確か残りのポケモンの数が大切なんだろ? 同数になったら形勢は五分ってことでいいのか?」

「フンッ! 確実な負けがなくなったってだけの話さ。あたしの優位は変わらないよ。ヤミカラス!」

「ちょっと舐めてない? 1!」

「くろいきり!」

 

 “バレパン”確1なのにどうするのかと思えば、なるほどそう来るか。いい技持ってやがる。攻撃力が戻って“バレットパンチ”の威力半減。で、次こそ倒せると思って突っ込むと“フェザーダンス”に切り替えてくるわけね。1度目はどちらを使っても同じ結果になるが敢えて“フェザーダンス”を伏せているように思えてならない。絶対持ってそうだ。

 

「2!」

「フェザーダンス」

 

 そうだよね。こっちは“とんぼがえり”でイナズマとチェンジ。ヤミカラスは残り1/4ってところか。

 

「ダダァーッス!」

「7」

「はねやすめ」

 

 先に“はねやすめ”でひこうタイプが消える都合上イナズマの攻撃では完全に受け切られる。だが“でんじは”で麻痺さえ入れればダメージの期待値が回復を上回る。

 

「1」

「こっちの戦い方をよくわかってるじゃないか。おいかぜ!」

 

 ダメージは抜群だと180ぐらいだから耐えるにはここで“はねやすめ”を使うしかないが、それを連打しても結局1ターン猶予を作ることは不可能(“10まんボルト”の1.5耐えが不可)なので潔く切ってきたな。

 

「ヤミカラス戦闘不能!」

「……ゲンガー、シャドーボール!」

『キクコ選手、おいかぜを活かして速攻を仕掛ける! レイン選手これを凌げるか?』

「5」

 

 一旦は“まもる”で凌げるが次は無理だ。“でんじは”を当てたいが相手がやや遠い。自分にかける技なら間に合うか?……あれを使うか。

 

「イナズマ、急いで“ねがいごと”!」

「ゲンガー、させるんじゃないよ!」

 

 間に合え……!

 

「ダァァ……」

「サンダース戦闘不能!」

『サンダース倒れた! しかし倒れ際のねがいごとはギリギリ間に合ったァ!!』

「よっし! でかした! 後は頼んだぞアカサビ! 5」

「シャドーボール!」

 

 最初の攻撃は“まもる”でやりすごす。相手はわかっていても他にやることがない。アカサビのHPは攻撃3回で消耗していたがイナズマのHPの半分に相当する分回復して140になった。

 

「8」

「シャドーボール」

「アカサビ、しっかり耐えてくれ」

 

 また100ぐらいダメージを受けた。ダメージが重い! “みちづれ”の税金が重過ぎる! でも“ちょうはつ”しないわけにはいかないからな。

 

「次は厳しい……が、お前は確実に倒す! アカサビ!」

「ッサム!!」

 

 “バレットパンチ”で3体目、2番目に出てきたゲンガーを倒した。これで2vs1、キクコの残るポケモンはまだ見せてない切り札であろうポケモン。間違いなくゲンガーだろうが、問題はレベルだ。いったいいくつだ?

 

「ほっほう、たいしたもんだよ。あたしが2vs1にされるなんていつ以来だろうねぇ。レベルの低い弱いポケモンだけでよくここまでやれたもんだ」

「レベルは低かろうが俺のポケモンは弱くない」

「なんだい気に障ったかい? 意外とすぐ熱くなるらしいね」

「……」

「あたしは褒めてるつもりさ、大したトレーナーだってね。ただ、それでもレベルの差ってのは簡単には覆らないのさ。こればっかりはいかに腕のあるトレーナーだろうとどうしようもない。結局バトルは力がものを言うのさ」

「今のマスターズリーグを象徴するような言葉だな」

「レイン……あんたにほんとの戦いってものを見せてやる。出てきな、ゲンガー!」

「ガァァ……」

 

 ゲンガー Lv70 ひかえめ @きあいのタスキ

 184-99-107-277-130-224

 

「2V……他もほぼV……サカキ以来のレベル70でここまでの能力か……」

「あんたのやわなポケモンじゃ一撃も耐えられないよ。始末しな、ゲンガー」

「……バレットパンチ」

 

 指数的に等倍なら耐えるのは絶望的。速さも全員負けている。たしかに恐ろしいところだよ、マスターズリーグは。

 

「ハッサム戦闘不能!」

「最後はウインディだろう? 勝負あったね」

『ゲンガー僅かに余裕を持ってハッサムの攻撃を受け切った! 反撃のシャドーボールでハッサムついに戦闘不能! レイン選手もあと1体を残すのみとなりました』

 

 ゲンガーはHPが残り20弱か。襷なしでも耐えられたのはやはりレベル差を感じてしまうな。

 

 相手の攻撃は確定1発。Sも負けている。先制技の“しんそく”は運悪くゴーストには無効。たしかに勝てない。勝てないはずだ。けどポケモンにはそれぞれ無限の可能性がある。その組み合わせを模索するのがトレーナーの役割。ただ強いポケモンを並べるだけなら誰でもできる。

 

「たしかほんとの戦いってもんを教えてくれるって言ったよな?」

「ん?」

「逆に俺が教えてやるよ。能力や相性の有利不利ってのは簡単にひっくり返せる。それがポケモン、本当のバトルだってな……グレン! 1!」

「ヴォウ!!」

「ゲンガー、シャドーボールで終わらせな」

 

 ボールから飛び出したグレンは素早く攻撃に移る。互いの攻撃が交差してすれ違い、“かえんほうしゃ”がゲンガーに、“シャドーボール”がグレンに命中する。……グレンも技を受けた!?

 

 ドサ、ドサッ……

 

 共に致命傷となる一撃。違いはどちらが先に倒れるか、それだけだった。ゆっくりと2体は倒れ、なんと勝負は判定に委ねられた。

 

『ダブルノックアウトです!! マスターズリーグに引き分けは存在しません! 同時ノックアウトであろうと自爆技であろうと全て倒れるタイミングを比べての判定勝負となります。さぁ判定はっ!?』

 

 判定勝負……!? どうなるんだ!? 頼む、わかるよな? 審判さん、わかるよな? イメージで判断したらダメだぞ? ちゃんと結果を見て……わかるよな、なっ?

 

「……ゲンガーが先に倒れたものとみなし、勝者レイン選手」

「っぶねー!? シャオラーッ!! 審判よく見たっ!! えらいっ! ほんっとにえらい!!」

 

 精神がギリギリ過ぎてなぜかグレンでなく審判を褒めていた。

 

 ラスのゲンガーを見た時点で内心勝利を確信していたのに判定までの間心臓が潰れそうな程緊張した。完全に終わったと思ったわ!

 

「あたしの負けだって!? あたしのゲンガーがレベル50そこそこのポケモンに遅れをとったってのかい!?」

「よーく見てみなよ。グレンがつけているものをさ」

「なんだって? それは……こだわりスカーフ!?」

 

 内心の動揺は押し隠し、キクコにタネ明かしをした。ポケモンってのはスカーフ巻くだけで世界が変わるんだよ。グレンを出してから技が交差するまで一瞬だったから“こだわりスカーフ”に気づく時間は全くなかっただろう。道具ってのは使い方1つなんだよな。

 

「そのポケモン……わざと最後まで残してたってわけかい。なるほど、たしかにそれじゃ勝てないねぇ……あたしも焼きが回ったか。年はとりたくないもんだよ」

 

 スカーフ奇襲に年は関係ないだろう。俺でもやられたら引っかかる自信があるし。

 

 グレンのスカーフ、本当は“ステロ”とセットで使って“フレアドライブ”で全抜きするのが狙いだった。けど布石で失敗した上に襷持ち“みちづれ”軍団だったから2タテ以上は諦めて、作戦変更でラス1タイマン用に残したんだよな。上手く決まって良かった。

 

 ただ反省点も多い。アカサビへの“シャドーボール”は要検討だし、“いのちのたま”はダメージ管理が必要で難しい。自分には“こだわりスカーフ”みたいなアイテムの方が性に合ってる気がする。

 

「坊や」

「ん? 俺か? なんだ、言いたいことでも? もしかして激励とかくれたり?」

 

 反省する俺にキクコの方から話しかけてきた。戦い終わった後は「さっさと次へ進みな!」とか言いそうなイメージなのに。

 

「そんなんじゃないよ。ただ悔しいがあんたの腕は本物だ。認めてやるよ、たいした坊やだってね」

「どうも。でもいきなりストレートに褒められると照れるな」

「何言ってんだい。気持ち悪いこと言うんじゃないよ」

 

 えぇ……傷つくなぁ。ってのは冗談だけどさ……。

 

「……あんた本当はどくタイプ使いじゃないの? 毒舌だし」

「うるさいよ。あたしゃもういくよ」

 

 背を向けるキクコを見て俺も少し思うことがあったので呼び止めた。

 

「あ、待ってくれ! 俺も聞きたいことがある」

「聞きたいことの多い坊やだね。杖の次はなんだい?」

「あんたも強かったよ、驚くほどにな。だからこそ疑問が残る。あんた、なんでチャンピオンじゃないんだ?」

「……」

「あの戦術はかなり厄介だ。あんたの読みの深さも相まって簡単には崩せない。俺以外にあれを破れるとは思えないし、俺だってもう一度戦って絶対に勝つ自信はない。なのになんでチャンピオンになってないんだ?」

 

 今ならわかる。ナツメじゃゲンガーで簡単に1:2交換されるから絶対に勝てない。ヤミカラスは“サイコキネシス”無効だし。他のトレーナーに関してもキクコを突破するビジョンは想像できない。

 

「なるほどねぇ。顔に似合わずかわいいこと言うねぇ。理由としちゃそうだねぇ、あたしがチャンピオンになるにはあのドラゴン坊やを倒す必要があるからね」

「ワタルはあんたに勝てるのか?」

「……坊や、判定勝負になったのは初めてかい?」

「え? まぁそうだけど」

 

 いきなり全然関係ない話に飛んだな。ナツメみたいな電波じゃないだろうし何か関係があるのだろう。

 

「教えといてやるよ。判定にも色々基準があってね。今回のように単純な素早さ比べなら何もないけどね、“じばく”のような相打ち前提の技には明確な取り決めがある。当然“みちづれ”にも決まりがあるのさ」

「……まさか!」

 

 俺が言わんとすることを悟るとキクコは薄く笑みを浮かべた。

 

「みちづれってのはね、使った方が負けなのさ。自分が倒れてから効果が発動するからね」

 

 なんてこったい……。

 

「それじゃ、ワタルは途中全て1:1で手持ちを減らしていって最後の1体勝負に持ち込んだ上で毎回勝ったってことか」

「恐ろしい男さ。あいつのカイリューは別格。あんたでも勝てるかどうかは五分五分だろうさ。まっ、せいぜい頑張ることだね」

「いや……わからないぜ」

「ん? 坊やが勝つってかい? たいそうな自信だね」

「違う。ワタルはここまでかもしれないぜ? なんせ相手はレッドだからな」

「おもしろいこと言うねぇ。なら結果を見に行こうかね。そろそろあっちも終わる頃だ」

 

 レッドの試合を見た後も笑っていられるのか、キクコ? 別格って言うならそれこそレッドは異次元だ。いったいどうなることか……。

 

 さすがに俺も限界かな。レッド、グリーン、ブルー……マサラ組が四天王を倒して勝ち上がってくるようなことになればいよいよだな。

 

 奥の手を使うことも考えるべきか……。

 




レインの変な思考は無知の弊害です
今回は乱数とかもかなりきわどい……

本編関係ないですが相棒ピカチュウの火力を計算したら強過ぎてビビりました
先制技で指数15000はおかしいよね……(H振りレヒレ一撃でお亡くなり)
そしたらやっぱり本当におかしくてピカブイは道具なしでしたね
あっ……


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16.頂に待つ者

ワタル戦

レッドの語りが難しくて迷走しました
改行多め
状況説明含め地の文少なめ


 ~ドラゴンと炎のフィールド~

 

 今、おれの目の前にいるのが現チャンピオン、ドラゴン使いのワタル。マスターズリーグの頂点に位置するトレーナー。

 

 だが、このトレーナーを前にしてもおれにはまだ霞んでいる。目指すべき頂はまだ見えてこない。

 

 思い返される……四天王達の余裕の表情、挑発的なセリフ。これらは全て不安の裏返し。

 

 本当におれ達を脅威に感じていないなら何も言わなかっただろうし、姿を見せることもなかったはず。

 

 だがおれ達に恐れがあったからこそ自分達の優位を見せつけずにはいられなかった。

 

 四天王は予感している。自分達を倒しうる存在の到来を。

 

 すでに四天王とおれ達は対等じゃない。力の均衡はすでに傾いている。

 

 ……本当に厄介なのは恐れを持たず勝負を心底楽しんでいるあの人間か。

 

『睨み合いが続く準準決勝、ドラゴンと炎のフィールド! 両者ゆっくりとボールを構えた!』

 

「いけキングドラ!」

「……」

「ピッカーッ!」

 

 キングドラ Lv66 @しろいハーブ

 ピカチュウ Lv75 @でんきだま

 

 キングドラ。弱点がドラゴンのみ……安全にきたか。レベルは低い。でんきタイプで倒せる。

 

「りゅうせいぐん!」

「ボルテッカー」

 

 こいつには……何もさせない。

 

「キングドラ戦闘不能!」

「強い……! レベルも能力もケタ違い。そのうえこのレベルか……」

「……」

「相変わらず無口な奴だ。少しは褒めてやろうと思ったんだがな。いけっ、カイリュー!」

「ビーリュー」

 

 カイリュー レベル66 @りゅうのキバ

 

「りゅうのまい」

「ボルテッカー」

 

 その程度のポケモンを並べても“ボルテッカー”は耐えられない。反動ダメージを稼ぐしか術がないのか?

 

「ピィカッ!?」

「……!」

 

『恐るべしカイリュー! キングドラを一撃で倒したボルテッカーを楽々受け止めた!』

「げきりん!」

「戻れ!」

 

 カイリューとキングドラに耐久力の差があるとは考えにくい。何かあるな。

 

 “りゅうのまい”をしたカイリューの“げきりん”はまともには受け切れない。あいつの“きあい”にかけるしかない。

 

「カンビッ!」

 

 カビゴン Lv65 @きあいのハチマキ

 

『レッド選手2体目はカビゴンだ! しかし強烈なげきりんを受けて早くも大ダメージ! なんとか“きあい”で持ちこたえた!』

 

「じばく!」

「戻れ!」

 

 交代か! “げきりん”のデメリットを無理やり消したか。上手く躱された。

 

「ゴォォウウ!」

 

 プテラ Lv70 @たつじんのおび

 

「カビゴン戦闘不能!」

 

 ノーマルは半減……仕留め損ねたか。だがプテラはでんきタイプが弱点。この瞬間甘い。

 

「いけ」

「ピッカー」

「じしん!」

 

 プテラはピカチュウよりも速い。だが“じしん”を使うためにはプテラが地表へ降りる必要がある。その瞬間を先制技で捉える。

 

「ばちばちアクセル」

「速い! 先制技か!? 見たことのない技……楽しませてくれる」

「プテラ戦闘不能!」

『なんとピカチュウ、プテラを出し抜いて先制攻撃! そのうえ“きゅうしょにあたった”ようだ! これでチャンピオン相手にレッド選手が再びリードを奪った!』

 

 次のポケモン、ピカチュウにはカイリューで来る。一撃では仕留めきれない。“ボルトチェンジ”で戻しながら徐々に削っていくか。

 

「カイリュー!」

 

 カイリュー Lv66 @こだわりハチマキ

 

 ここで別個体! 罠か……“ボルトチェンジ”は危ない!

 

「戻れ!」

「しんそく!」

「ラァァーー」

 

 ラプラス Lv65 @たつじんのおび

 

「れいとうビーム!」

「続けて攻撃!」

 

 やはり先制技。そのままラプラスに突っ張ってきたか。引っ込めてもラプラスに有利なポケモンはいないのだろう。キングドラを倒したのが大きい。

 

『効果抜群のれいとうビームが炸裂! しかしカイリュー倒れない! これが最強のポケモンの力か!?』

「しぶとい……!」

「トドメだ!」

「ラプラス戦闘不能!」

 

 たしか威力は6倍のはず。それを耐えたのか? 育て方でどうこうできる範囲を超えている。あいつのカイリューが何か特別としか考えられない。

 

「フシギそうな顔だな、レッド。この程度か?」

「……」

 

 ラプラスが3発で倒れたということは“しんそく”のダメージは相当だ。今の体力ではピカチュウじゃ耐えられない。

 

『レッド選手、有利なこおりタイプが倒されても表情を全く変えません! ここまではまだ想定内ということか?』

「いけっ」

「シャァァーッ」

 

 ブラッキー Lv60 @ゴツゴツメット

 

「カイリュー、やれ!」

「ねがいごと」

『カイリュー怒涛の連続攻撃! レッド選手防戦一方、苦しい展開となっ……ん!? カイリューが苦しそうだ。あーーっと倒れてしまった!?』

「両者戦闘不能!」

「その道具の効果か」

 

 ゴツゴツメットのダメージ2回で倒れたか。耐えたとはいえさすがに “れいとうビーム”は大ダメ―ジだったらしいな。

 

「ピカチュウ!」

「これ以上好きにはさせない。こいつで仕留める! いけ、カイリュー!」

 

 カイリュー Lv72 @しろいハーブ

 

 これも別個体。レベルからして切り札。ピカチュウで倒すのは厳しいか。どうする?

 

「ピッカ! ピカチュー!」

 

 きたか……。

 

「りゅうせいぐん!」

「ピカピカサンダー!」

『大技同士のぶつかりあい! 形勢は互角か?!』

 

 完璧に相殺した。互いにダメージはない。

 

「これを凌ぐか……だがこれほどの技、連続では使えまい! もう一度りゅうせいぐん!」

「しろいハーブか。ひとまず10まんボルトで相殺しろ!」

 

 威力が違い過ぎる。相殺しきれずけっこうダメージを受けた。だがこれでもう“りゅうせいぐん”は弱体化したはず。

 

「ボルテッカー!」

「はねやすめ」

 

 回復技……! しまった!

 

『カイリュー自慢の耐久力でボルテッカーを完全に受け切った! そのうえはねやすめで一気に回復! 対するピカチュウは反動でやや消耗気味か?』

 

「でんじは」

「しんぴのまもり」

 

 対策済みか。ならあいつで決める

 

「ピカチュウッ!」

「ピッカ!」

「はねやすめ」

 

 “ボルトチェンジ”でピカチュウは控えに戻る。相手は再び回復して体力満タンを維持か。

 

「こい、リザードン!」

 

 リザードン Lv70 @りゅうのキバ

 

「切り札をぶつけてきたか。俺のカイリューとどっちが強いか試してみるか、レッド?」

「そのつもりだ」

「「りゅうのまい!」」

 

 勝負は一撃で決まる!

 

「「げきりん!!」」

『全く同じ技!! 真っ向勝負だっ!! 純粋な力比べ、立っているのはどっちだ!?』

「リザードン戦闘不能!」

「……!」

「カイリューは最強のドラゴン。リザードンごときには負けられないな」

 

 リザードン……わかってる。本当はこんなもんじゃない。だけど今はこれでいい。これで十分だ。お前は役目をしっかりと果たした。

 

 リーグでおれは思い知らされた。戦術で勝ろうとも戦略で負けては意味がない。

 

「たしかにそいつは強い。最強に最も近いポケモンだ。だけど勝負は1体で決まらない」

「ピッカー!」

 

 おれはピカチュウを出すがまだ動かない。相手に合わせる。

 

「なるほどな。最初から弱らせて先制技で倒すのが目的か。なら……」

「「戻れ!」」

『三度同じ行動!? いったいどんな思惑が隠されているんだ!?』

「なぜ交代を……なんの意味がある?」

 

 カイリューを引っ込めてげきりん状態をリセットした後“しんそく”でピカチュウを倒しにくるのはわかりきっている。

 

 だったら残りのポケモンを使いきってあのカイリューを倒す。

 

 一度戻したポケモンをそのまま出すのは反則行為。カイリューとピカチュウは出せない。だからこのタイミングで必ずギャラドスが来る。

 

「ギャーーオ」

「フィー」

『同時交代で仕切り直し! フィールドに現れたのはギャラドスとエーフィだ!』

 

 ギャラドス Lv68 @いのちのたま

 エーフィ  Lv63 @ひかりのねんど

 

 最初は“りゅうのまい”、攻撃はその次にくるはず。

 

「ねがいごと」

「りゅうのまい!」

 

 これで素早さは相手が上。“バトンタッチ”なら相手が攻撃しようと“りゅうのまい”をしようと安全にピカチュウへ“ねがいごと”を託せる。

 

「かみくだく」

「バトンタッチ」

 

 相手の攻撃が先。エーフィは倒れた。

 

「エーフィ戦闘不能!」

「ピカチュウ!」

「ピィカ」

 

 エーフィのHPの半分だけピカチュウが回復。これで万全。あのカイリューを倒せる。

 

「そうか、最初からピカチュウで俺のポケモン全てを倒すつもりだったのか。切り札はリザードンだと思っていたが……」

「切り札がリザードンだと言った覚えはない。ばちばちアクセル!」

「戻れ!」

「ビーリュー!?」

「カイリュー戦闘不能!」

 

 生贄。あれは1体目のカイリュー……なるほど、あいつは先制技を覚えていないのか。だから交代先として使ったのだろう。狙いは“いかく”か。抜け目ないな。

 

「いけ、ギャラドス!」

「ギャーー!!」

「チャァァ」

 

 “いかく”でピカチュウの攻撃力が下がる。

 

「能力上昇を捨ててまで“いかく”を使うか」

(カイリュー)を守るためには成りこんだ龍(竜舞ギャラドス)を捨てることもある」

「……あんたはすでに詰みだ。その玉は必至、もう助からない。ばちばちアクセル」

「ギャラァァ」

「ギャラドス戦闘不能!」

 

 再び攻撃が“きゅうしょにあたった”。

 

「まさか……これはっ!」

「ばちばちアクセルは必ずきゅうしょに当たる。能力ダウンは通用しない」

「必ずきゅうしょに当たる先制技……。なら最後は俺のカイリューのしんそくを耐えるかどうかで決まる。そのための“ねがいごと”か。だが、こっちもきゅうしょに当てれば勝負はわからない。そうだろう、レッド?」

「試してみるか?」

「当然だ。カイリュー、しんそく!」

「ピィ~カァ~ッ!」

 

 おれにはわかる。ピカチュウは必ず耐えきる。そして反撃の“ばちばちアクセル”で勝負は決まる。

 

 勝者は勝つべくして勝つ。チャンピオンは圧倒的な勝利を収めるからこそチャンピオンたりえる。

 

 運頼みのきゅうしょにすがった時点で勝負はあった。

 

「ピカチュウ……反撃だ!」

「ピッカ!!」

「ビーリュー……」

 

 カイリューは一瞬踏みとどまったかに見えたが、直後気絶して倒れ伏した。最強の座にいた者のプライドを見せたか。

 

「カイリュー!!」

「か……カイリュー、戦闘不能ッ! 勝者、レッド選手!!」

『勝った!? 勝ったのか!? や……やりましたぁーーっ!! 弱冠13歳の少年が、見事にチャンピオンを破って準決勝進出!! なんてことだっ。わたし達は歴史的瞬間に立ち会ってしまった!!』

 

 これでおれは次へ進む。あと2戦……。

 

「うう……ドラゴン軍団が負けるなんて……」

「信じられないか?」

 

 ワタル。あんたは強かった。リーグの頃のおれなら絶対に勝てなかったはずだ。けれどもおれは強くなり過ぎた。もうあんたじゃ相手にならない。

 

「いや、悔しいがきみの腕は本物だ。俺もいつかはこんな日が来ることはわかっていた」

「……」

「レッド! これからはきみがマスターズリーグチャンピオンだ!……といいたいところだが、まだきみはあと2回戦わなければいけない」

「わかっている。俺は最初から決勝だけを見据えている」

 

 決勝で最高の勝負をする。そのためにまだ全力では戦っていない。ここはあくまで通過点に過ぎない。

 

「チャンピオンの俺を差し置いてか?」

「……」

「冗談だ。正直言ってきみ達のことは最初から要注意だと思っていた。きみ以外の3人も侮れないのはよくわかる。キクコさんでも見たことがないような成長速度だったらしいからな」

「それは最初から感じていた。あんたらは余裕が無さ過ぎた」

「きみにはかなわないな。1つ聞くが、準々決勝、四天王は何人残ると思う?」

 

 おそらくゼロ。だが確実に言い切れるわけじゃない。

 

「勝負事に絶対はない。それでも敢えて言うなら……多くて2人」

「ほう。誰が当確なんだ?」

「それは最後までこの大会を見ればわかる」

「……たしかにその通りだ。レッド、最後に1つ言っておく」

「……」

「俺以外の奴に負けるなよ」

「……そのつもりだ」

 

 短く返事をしてリングを去った。

 

 おれはいつも勝つためにバトルをしている。勝負の前から負けることを考えたことは1度もない。

 

 …………

 

 早めに勝負がついた以上、これからすることは1つしかない。リーグではおれが苦戦してレインに先を越されたが、今度はこっちから出向いてやろう。

 

 リザードンを回復させて隣の会場へ飛んだ。レインは相当苦戦しているようでまだ試合は続いている。

 

『ダブルノックアウト…』

 

 レイン、ギリギリもいいとこだな。判定勝負か。だが結局勝ってしまった。

 

 これを見てレインへの評価は下がらなかった。むしろ逆。この勝利には大きな意味がある。

 

 バトルは大差で勝つより僅差で勝つことの方が難しい。そこで本当の勝負強さが問われる。

 

 頂に待つ者の姿がはっきりと見えてきた気がした。

 




まず今更ですが、なぜチャンピオンがトーナメントを勝ち抜かないといけないのか
それはUSUMでチャンピオンでも四天王を倒さないとチャンピオンの椅子には座れないよー的なセリフがあったからです
これは蓋し至言、ということで採用しました
もう1つは、決勝制した後の相手がワタルさんでは役不足かなって……
割合は2:8ですかね(どっちが8とは言ってない)

ピカチュウについては相棒種族値に努力値入れる鬼強化で計算しました
そしてこの場合ピカチュウを過労死させるのが1番強いと考えてレッドの戦術が定まりました

レッドはシンボル系だけで手持ちを固めてるので6匹目はエビワラー、ポリゴンなどが候補でしたがしっくりこないのでブラッキーに

ゴツメはたぶんボンジュールさんから貰ったんだと思います

持ち物が判明しているのはレッドのセンサーです

げきりんは技固定されますがボールに戻せないのは不自然そうなのでアリに
同じ理屈で破壊光線も反動を踏み倒せますが自然に破壊光線を使うべき状況を作れませんでした
特殊技っていうのが弱過ぎますね

カイリューの特性は全部マルチスケイルです

必至は将棋用語です
ポケモンで言えば玉がラス1ほろびで後がないような状態を指します
カウントが尽きる前に相手を全滅させないと負け

ホントは玉じゃなくて王が正しいでしょうが「おうを」は言いにくいのでキライました
精神的に劣勢でもありましたし


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最後の戦い編
1.おいしいアメはいかが?


最終章!


 キクコを倒し、俺に残された試合はあと2つ。明日は小休止で休みがあり、明後日に試合がある。その後も1日インターバルを挟んでから決勝が行われる。

 

 四天王対策でアカサビを始め能力や技を調整したポケモンが多いから、次の相手を確認して休みの間に努力値の振り直しに取り掛からないといけない。今日からアカサビは“ウブのみ”漬けだ。おいしいから嫌がりはしないだろう。

 

 まずは次の相手……シバとグリーンの結果を見に行くか。グレン達には悪いが回復はその後だな。

 

「今度はおれの方が早かったな」

 

 会場内で声をかけられ振り返るとレッドがいた。こいつ、もうこんなところに……!? 

 内心レッドが勝つだろうとは思っていたが、よもや先に待たれているとは想像だにしなかった。

 

「……まさかワタル相手に圧勝したのか?」

「じっくり見させてもらった」

 

 へっ、レッドの奴言うねぇ。移動にも時間がかかったはずだ。暗にワタルじゃ相手にならなかったと言っているわけだ。

 

 しかも“今度は”ってことは、レッドが俺のとこへわざわざ来たのは前回の意趣返しか。それに前とは立場が逆転している。だから次は結果も逆転するって言いたいのか?

 

 グリーンの様子を見ようと思っていたのに、とんでもないやつが先に来てしまったな。

 

 癪だから少しからかってやるか。

 

「無口無表情のお前でもさすがにチャンピオンに勝てて嬉しさを隠せないようだな。そんな笑顔初めて見たぞ?」

「見えなかったものが見えるようになった。それだけだ」

 ……何を言ってるのかさっぱりわからん。ワタルに勝って嬉しいというわけでもないのか? レッドは強くなり過ぎてよくわからん境地にいるのかもしれない。こいつは修行僧だしな。

 

 とりあえずレッドをいじっても面白くないのはわかった。

 

「俺はグリーンの方の結果を見に行きたいんだが、お前もブルーの方を見に行かなくていいのか? 俺なんかと構ってるヒマないだろう?」

「それなら見るまでもない」

「お前にはどっちが勝つかわかるのか?」

「見当ぐらいあんたもついてるはずだ。クチではなんと言おうとな。それにこっちから見に行く必要はない」

 

 お見通しって顔だな。ブルーと違ってかわいげのない奴。ただ、見に行く必要がないってのはわからないなぁ。

 

「必要ないのはオレ達が先に来ちまってるからだぜ、レイン」

「シショーが遅過ぎるのよ」

 

 まさか……あいつらも俺より先に勝っていたのか?! またまた背後を振り返るとブルーとグリーンの2人がいた。

 

 おもしろいじゃねぇか。こうでないとな。予想通りじゃつまらない。想像を超えたこいつらを倒してこそ価値がある。

 

「いたのなら声をかければいいのに。隠れて驚かすことないだろう」

「オレらはたった今着いたんだよ。レッドは来ることがわかってたみたいだけどな」

「絶対全員ここに来ると思ったわ。シショーが1番遅そうだし」

 

 ニヤリと笑うブルー。言ってくれる。こいつらだって勝つまでは一筋縄ではいかなかったはずなんだ。それでもケロっとした顔でここまで来た。たくましくなったもんだ。

 

「たしか4人揃って勝ったら史上初とか言ってたが、これは大事件ってことでいいのか?」

「何言ってんのよ? まだまだここからでしょ?」

「そうだぜ? レイン、まさかあんたがここで満足するわけねーよな?」

「ほう。これは失礼した」

 

 もう次を見据えて切り替えているか。普通のトレーナーだと四天王なんかに勝ってしまったら舞い上がって緊張の糸が切れたりしそうだが、ブルー達は志の高さがまるで違う。口だけじゃない。心の底から、掛け値なしで、チャンピオンの座だけを取りにきている。

 

「あんた、ずいぶん嬉しそうな顔だな」

「ん? 俺が?」

 

 いきなりレッドから予想外の言葉が来た。

 

「たしかに……そんな感じね」

「ブルーまでよせよ。まぁ自信満々のトレーナーはイジメがいがありそうだしな。最高の愉悦には違いない」

「ハイ、うそ!! S振り自慢はしなくていいからホントのこといいなさいシショー!」

「そうかみつくなよ。俺はやることがあるからもう遊んでやる時間はない。お前らとの勝負、楽しみにしてるよ」

 

 最近表情筋が緩くなってるのかもしれない。こいつらにあっさり看破されているようじゃまだまだか。でも楽しみで楽しみで仕方ない。この舞台で戦う相手があいつらで本当に良かった。

 

 ◆

 

「みゅーちゃん、ちょっとこっちにおいで」

「みゅ? なにー?」

「みゅーはアメちゃんは好きかな? みて、このアメはとっても貴重で素晴らしいアイテムなんだよ。なんと食べたポケモンのレベルを上げちゃう効果があるんだ。すごいでしょー? だから、ねっ、どう? おいしいアメはいかが?」

「みゅ!? それ……みゅーから絞り出したやつ!! なんでみゅーから取ったものをみゅーに食べさせるの?!」

 

 あ、バレてるか。気づいてるとなるとちょっと面倒だな。

 

 これは“ふしぎなアメ”。どうしてもレベルが足りないからいよいよこれに頼る時がきた。さすがに20もレベルが違うとあいつら相手には勝てないからね。

 

 そして俺は思いついてしまった。恐るべき“ふしぎなアメ”活用法を!

 

「その件はごめんね。それでじつは頼みがあって、みゅーにはたくさんこのアメを食べてほしいんだ」

「みゅぅぅ、レインなんかわるいこと考えてる顔なの。それにしゃべり方がなんか変で気持ち悪い」

「ちょっと! どっちも違う! これは画期的! すごいことだから! ただそのためにはみゅーの協力が不可欠なんだ。お願い! 俺を助けるためだと思って、どうか頼む」

 

 みゅーは気持ちを込めたオーラに弱い。みゅーが気絶して起きた不幸な事故……あの「手首ぶっとび事件」(レイン命名)で証明されている。あのときのようにしてぴったりくっついて抱きしめた。

 

「みゅぅぅぅ……レイン! なんのつもりっ!!」

「あれ? なんか怒ってる?」

「レイン、頼みごとのためにしてるのまるわかり。見損なったの」

「ぐっ……」

 

 なかなか手強い。顔を真っ赤にして怒ってる。かなりマズイかも。

 

「みゅーに何させる気かはっきり言って。でないとこれ撃つよ」

「はかいこうせん人に撃ったらダメだよ。……うんわかった、話すからね!」

 

 やめさせようとしたらさらに接近された。みゅーってたまに驚くほど暴力的だよね。

 

「ごまかしたらダメだからね」

「くっ、本当にやってほしいことはレベルを上げた後にある。レベルの高いポケモンは経験値を稼ぎやすいし、みゅーは“へんしん”も使える。だからハピナスになってもらってわざと負けてもらう役目をしてほしかった」

「それって……みゅーのこと『みねうちバンッバンッ!!』みたいにサンドバッグにするの? レインひどい……」

 

 やっぱりそれ思い出すよね。それを引き合いに出されると強く言いにくい。

 

「いや、まぁ結果的にそうなるけど別に痛めつけたいわけじゃなくてどうしても必要なことで……」

「レインこわい。優しいフリしてそんなもの食べさせようとしてこっそり悪いこと考えてる。子供を誘拐する悪い人間みたい」

「ガチ誘拐犯のお前がいうな! なぁみゅーちゃん……やっぱりダメか?」

「みゅみゅ、レインはみゅーのことキライなのね」

「よし、今のはナシで。アカサビ出てこい!」

 

 みゅーはやっぱりダメか。どーせこうなると思ってた。儚いユメだった。すごいこと思いついても絵に描いた餅ではな。

 

 みゅー以外でレベルが高いのはアカサビとグレン。丁度キクコ戦でレベルも上がった。今アカサビには“ウブのみ”をあげて懐き度合が天井知らず。懐柔するならまずここからか。

 

「アカサビおいで。きのみだよ」

「ッサム!」

 

 キンキンと鋏を叩いて喜んでいる。よしよし!

 

「じゃあこっちも一緒に食べてくれ。いいな?」

「??…………ッサム」

「よし、ありがとう。さすがアカサビさんだな」

「レイン……悪い顔なの」

 

 さて、なんのことやら。

 

 どんどんレベルを上げて……とりあえず1体レベル100にしとけば勝てるかな。ん?

 

「上がらない?……まさかの獲得経験値固定パターン? ウソだろ……はぁ~全部考え直しかよ。どうすんのこれ」

 

 アクシデントはあったがアメ投与はほどほどで終了。そして努力値は効率を考えてHAベースで調整だな。Sは“バレットパンチ”メインだから不要と。ドーピングしてこれで完了。

 

 技の番号も多少変えるしかない。ポケモンには重い負担をかけるが1日あればこいつらならマスターしてくれるはず。

 

「アカサビ、次はお前がエースだ! キレキレのバレットパンチを期待してるぜ?」

 

 キンキンッ!

 

 気合十分。次はとにかくアカサビの活躍が明暗を分けることになる。……要するに今まで通りだな。

 

「レインはアカサビばっかり頼ってるね。みゅーだって頑張ってあげるのに」

「みゅーは決勝でしっかり頼むよ。もちろん明日も頑張ってね。いつも頼りにしてるから」

「みゅふふ。レインのためだから頑張ってあげるの」

「じゃあアメちゃんも……」

「ヤダ」

 

 即答……。

 

 ◆

 

 準決勝当日。グリーンとの一戦。水と鋼のフィールド。

 

「よおーッ! レイン来たか!……はッはッうれしいぜ! ようやくあんたと戦えるからな! オレは図鑑集めながら完璧なポケモンを探した! いろんなタイプのポケモンに勝ちまくるようなコンビネーションを探した!……そして今! オレはあんたの前にいる! レイン! この意味がわかるか?……………………分かった! 教えてやる! 無敗のあんたの天下は、ここまでってことなんだよ!」

 

 グリーンは俺の手持ちを熟知しているが、俺はあいつの手持ちを全て把握しているわけではない。情報戦の見地からいえば大きくハンデがある状態でバトルを開始することになる。

 

 あいつもバカじゃない。このアドバンテージはしっかり活かしてくる。最初、俺がどのポケモンから出そうと明確な対処法を考えた上でこの戦いに臨んでいるはず。俺の取るであろう行動もしっかりと前もって読んできているだろう。

 

 なら俺はまず真っ直ぐいく。読み合いすべき場面はまだ先。不利な序盤は辛抱。こっちの準備を整えながら相手の戦略を見極めていく。

 

『試合開始! 両者最初のポケモンはーっ!?』

「シェェイ」

「ゴォォウウ」

 

 フーディン Lv66 @きあいのタスキ

 ヒリュー  Lv53 @きあいのタスキ

 1.ストーンエッジ

 2.かみくだく

 3.ステルスロック

 4.おいうち

 5.まもる

 6.みがわり

 7.ほえる

 8.ちょうはつ

 9.どくどく

 

 フーディンは“ちょうはつ”が使えてタイマン性能が高い。広く対応できる。唯一弱点のアカサビに対しては引き先を十分に確保しているだろう。おそらくそのポケモンは……カメックスとウインディ。

 

「……」

「戻れ!」

「ッサム!」

 

 アカサビ 167/239 @いのちのたま

 

 1.バレットパンチ

 2.とんぼがえり

 3.でんこうせっか

 4.つるぎのまい

 5.まもる

 6.みがわり

 7.はねやすめ

 8.どくどく

 9.ちょうはつ

 

 グリーンが無言のままフーディンは“シャドーボール”を使った。示し合わせていたようだ。俺は“ちょうはつ”を考慮しつつ安定行動でアカサビにチェンジ。ダメージはそこそこだが十分やっていける。

 

 次の攻防は“とんぼがえり”で確実にこっちが優勢になる。まず1回目、アカサビをどう受けるか見させてもらおう。

 

「よっし! 戻れフーディン!」

「2」

 

 グリーンはウインディに交代してアカサビに“いかく”を入れながら“とんぼがえり”を上手く受けた。やっぱりほのおタイプはいたな。こっちはそれに合わせてヒリューを再び繰り出す。空へ逃げれば相手は有効な手立てがない。引いてくるはず。

 

 ウインディ Lv66 @しろいハーブ

 

「戻れウインディ!」

「3」

「バンギラァーーッ!」

 

 シャリンシャリン

 

 バンギラス Lv68 @たつじんのおび

 

『レイン選手ここでステルスロック! 対するグリーン選手はバンギラスを繰り出し、フィールドが砂嵐に覆われた! これは特性すなおこしか!?』

 

 やはりナナシマで新戦力を整えていたか。バンギラスじゃシバ戦には使いにくいし、隠していたというよりは偶然もあるか。

 

 ヒリューの上空への逃避には“りゅうのまい”と“ほえる”で有利という読みだろうか。パッと思いつく対策はそれぐらいか。タケシ戦とかも見て研究しているだろうし、無策ってことはありえないな。 

 

 いわタイプは受けづらいし“たつじんのおび”持ちってことは交代先に弱点を突いてくる可能性も高い。ヒリューの仕事は終わっているし突っ張りか。まずは削りを入れて後続に託す。

 

「どくどく」

「いわなだれ」

 

 こっちが先に動いて怯みはない。バンギラスの攻撃は“きあいのタスキ”で耐えた。無論のこといわタイプのあるヒリューは“すなあらし”のダメージもない。

 

「上空へ」

「りゅうのまい!」

 

 “ほえる”は必中、どこにいても効果がある。それはお互い同じ条件。

 

「「ほえる!」」

 

 さすがに“りゅうのまい”から入るのはあからさまに怪しい。そんな小細工を通す程甘くないんだよ。

 

 優先度が同じなら純粋な素早さ勝負。バンギラスのみが控えに戻る。そして次のポケモンはランダムに選ばれる。

 

「同時ほえる!? しかもカメックスが勝手に!?」

「ガメーッ」

 

 カメックス Lv70 @しんぴのしずく

 

「9」

「チッ、みずのはどう!」

 

 今の指示は“どくどく”……グリーンは完全に攻撃技だと思ったようだ。

 

 グリーンは俺を信用し過ぎだ。“ほえる”や“どくどく”の番号を伏せたのはわざと。番号のない技は技名を言うことがあるのをグリーンは知っていたのだろう。思った通り研究されている。今回はそれを利用できたな。

 

「さっきはわざとか。セコイ真似しやがるぜ」

「プテラ戦闘不能!」

 

 ここでカメックスを引き釣り出したのは俺にとって千載一遇の好機。素早くユーレイを繰り出して捕獲を目指す。ユーレイとはすり抜けを自己判断で使えと言ってあるし上手くやってくれるはず。決まればカメックスを倒せるがどうだ?

 

「8」

「ゲェェン」

「……戻れ!」

 

 カメックスは温存ね。簡単には倒せないか。毒逃げで完封できたのにな。こっちの技が決まる前に交代された。

 

 ユーレイ Lv52 138/138 @きあいのタスキ

 

『グリーン選手ドサイドンへ交代! ゲンガーはくろいまなざしを使った!』

 

 ドサイドン Lv66 280/280 @やわらかいすな

 

「おっそろしーな。ストーンエッジ!」

「5」

 

 一旦“まもる”で時間稼ぎ。気を引き締め直してよく考えないと。カメックスを倒せると思ってやや選択が甘くなってしまった。ここで気を抜くわけにはいかない。

 

 ネックは今もなお吹き荒れる“すなあらし”。特性による天候変化は永続効果。もう一度天候を変えない限りこの砂嵐は止まないわけだ。どうしても襷が剥がされるから無理やり行動するパターンに入れなくなった。かなり厄介だな。ユーレイは諦めるしかないか。

 

 なんせドサイドンの攻撃は俺には受けなしだ。持ち物でメタモン対策もされているようだし、ここはユーレイで無理やり削っていくしかない。本当はユーレイでカメックス辺りを倒したかったが、こいつ自身何回も場に出せるポケモンじゃないし仕方ない。

 

 スゥゥゥ

 

「やんだ!?」

「ストーンエッジ!」

「みがわりっ」

 

 天候が元に戻った。技の“すなあらし”のように勝手に収まったってことか? 原因はそれしか考えられない。なら当然話は変わってくる。上手くやればタスキも復活できるか?

 

「ロックブラスト!」

「まもる」

 

 “みがわり”対策も用意しているか。おそらく上空へ逃げるのもダメ。どう対処するかはわからないが“うちおとす”で攻撃できるとかなんでもありそうだ。

 

「もう1回だ!」

「かなしばり」

「しまった……!」

 

 “ロックブラスト”を封じ、その後ドサイドンは“ストーンエッジ”を連打。命中不安だが3回目の“みがわり”もしっかり当てられた。もう“みがわり”はできない。

 

「よし! トドメだ!」

「いたみわけ」

「回復してもムダだ! いや、まさか!?」

「レベル差があり過ぎるってのも考えものだな」

 

 ユーレイは全快して襷復活。これはかなり大きい。“ストーンエッジ”を“きあいのタスキ”で耐えきり、相手のHPは154に減らした。これで最低限のダメージは残せた。その上今ユーレイとドサイドンは急接近している。これは6割チャレンジのリーチ!

 

「さいみんじゅつ」

「シャドークロー!」

 

 ……ドシィィン!!

 

 眠った! “シャドークロー”の前に“さいみんじゅつ”が決まった!

 

『ドサイドン、大きな音を立てて倒れてしまった! いや、これは眠っている!?』

 

 当然俺は素早くポケモンを入れ替える。催眠はドサイドンを倒すことが目的ではない。倒すだけなら“みちづれ”で良かった。催眠の恐ろしさは対面勝利ではなくバトルの勝利を呼び込めること。

 

「8」

「ハッサム!? やばい戻れ!」

 

 “くろいまなざし”の効果が切れたのでグリーンは当然ウインディへ交換。こっちは交換読みの“どくどく”だ。

 

 アカサビ Lv70 144/239 @いのちのたま

 

「また毒か。……なんだそのハッサム!? レベル70!? どうやって1日2日でレベルを上げやがった?!」

「企業秘密」

 

 ポケモンの出入りが激しかったから今気づいたようだ。ある程度集中しないとわからないらしい。

 

「上がっちまったもんは仕方ねぇ。かえんほうしゃ!」

「5」

「オーバーヒート! ハーブは使うな!」

「戻れ」

「モンモン!」

 

 メタモン Lv60 @せんせいのツメ

 

 “まもる”で時間稼ぎしてからメタモンへ繋いだ。グリーンもそれは織り込み済みで交代のタイミングに合わせて“オーバーヒート”を使ってきた。

 

 なお“まもる”に合わせて“みがわり”を使うのは無理だ。先に相手の技を確認するように注意しているので“みがわり”は逆に毒で寿命を縮めるだけ。

 

 もちろん相手の出方を見てからの“まもる”は間に合うとはいえ次の攻防で一歩出遅れやすくなる。だがこの場合は交代すると決めているのでその辺は帳消しにできる。

 

 さぁウインディvsウインディの対面になった。アカサビを倒すためにここは消耗を嫌って交換するだろう。控えを意識して技選択をすることになる。

 

 フーディン・ウインディ(毒)・バンギラス(毒)・カメックス(毒)・ドサイドン(眠)……見えていないラストはレベルの高いピジョット辺りだろう。一巡である程度見れたし毒の回りもいい感じだ。

 

 バンギラスへ交代されると面倒だからここは格闘技を使っておくか。

 

「インファイト!」

「戻れ!」

 

 これでバンギラスは出させない。他なら問題ない。グリーンは“インファイト”を半減できるフーディンで受けてきた。

 

「シェェェイ」

「しんそく!」

「耐えろ! トリックルーム!」

 

 フーディンで“トリックルーム”!? 正気か!? 

 

『フーディンきあいで耐えたーっ!! “きあいのタスキ”による効果ではありません! 本物の気合で耐えた! トリックルームの発動で辺りは不思議な空間に包まれます』

 

 今はこっちの方が速くなっているが、しばらくは敢えて時間を稼ぐか。ここで下手にフーディンを倒してバンギラスに繋げられてしまうと最悪だ。

 

「アンコール!」

「みがわりっ……!?」

 

 しまった! “みがわり”をアンコールされるならまだ良かった。だがこれは最悪! “みがわり”が遅い分アンコールが先に入って“しんそく”を縛られた。元々“みがわり”はやや遅いから補助技には先手を打たれやすい。番号じゃないからいつもより遅いし……。

 

「フーディン戦闘不能!」

 

 やっぱり倒れてしまうよな。これで即座に後続に繋がれる。フーディンでここまで上手く展開されるとは、悔しがるよりむしろその手腕に感心してしまう。

 

「グリーン、トリックルームなんていつ覚えたんだ?」

「へへ、さぁな。あんたならこの後どうなるかわかるよな?」

 

 完全にやられたな。そういえばグリーンはジムリーダーになったらくれるわざマシンがこの“トリックルーム”だったっけ? 3年先取りしてないか? 誰のせいでこんなに早く強化されたんだろうな。

 

 ……文句を言っても仕方ない。なんとかするか。

 




<グリーン>
フーディン 戦闘不能 @襷
ウインディ 毒と消耗 @しろいハーブ
バンギラス どく状態 @たつじんのおび
カメックス どく状態 @しんぴのしずく
ドサイドン 眠り消耗 @やわらかいすな

※ステルスロック
※トリックルーム

<レイン>
プテラ   戦闘不能 @襷
アカサビ  やや消耗 @珠
ゲンガー  わずか1 @襷
メタモン  やや消耗 @せんせいのツメ



今度こそ本当に最後の章です
あと10話ぐらいでたぶん終わりそう?

アメは設定変えました。本編では明言してなかったしセーフ!
レインがブルーにウソ言ったことになりますがまぁ実験しないレインが悪い(暴論)
元のままだとレインがイージーモードになるので仕方なしにです

よくよく思えばアメ温存の時点でやっぱりレインは舐めプなのでした
でも実際迷いますよね。ゲームクリアのためにはいつアメを使うべきか
自分はだいたいカンナの前で使います。最善は調べたことがないので知りません

ものすごい蛇足ですが顔真っ赤は怒ってるからでなく嬉しいからです
威圧行為は隠し事をしているときにそれを気取られないためにしてます

トリックルームはできればナッシーに使わせたかったですが相性悪すぎて手持ちから外れました
なのでフーディンしかいないですね

3年先取りしたのは言うまでもなくレインのせいです
自覚もありますね


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2.進む者 退く者

グリーンvsレイン続きとレッドvsブルー
2戦目は前半カットで途中からです


 序盤、悪くない滑り出しで試合を進めていたがフーディンの仕掛けにより状況は一変、形勢はグリーンに傾いていた。

 

 フーディンの使った“トリックルーム”……これはフィールドにかける技で、5ターンのあいだ素早さの上下関係を反転させ、遅いポケモンほど先に行動できるようにする。基本的に速めのポケモンで固めている俺には弱点となる技だ。

 

 さらに“アンコール”により、ウインディに“へんしん”しているメタモンは技を“しんそく”で縛られている。

 

 この状況で出てくると最悪なポケモンは素早さが遅く、積み技があり、“しんそく”が半減以下のポケモン。

 

「いくぜ、出てこいバンギラス!!」

「まぁそいつだよな」

 

 やはり出てきたのは俺にとって1番ネックになるバンギラス。いわタイプ鈍足をトリルで展開されるという最も俺がやられてはいけないことをグリーンにされてしまった。ナッシーとかなら“トリックルーム”の警戒もしただろうがフーディンでされると思わないから仕方ない。

 

 こっちは“しんそく”で縛られている以上本来は引くしかない。だがこのバンギラスに受けは効かない。……みゅーを諦めるしかない。

 

 幸いといっていいかわからないが縛られた技は“しんそく”だから相手の出方を見てからで回避は間に合う。積み技を使われるならそのターンにアカサビに引いて“バレットパンチ”で倒せるからそれはおそらくされないだろう。

 

「ストーンエッジ!」

「“しんそく”で避けろ!」

「連続では使えねぇ! バンギラス、追撃しろ!」

「モン~」

「メタモン戦闘不能!」

 

 ごめんなみゅー。メタモンをあっさり失うことになったのは痛いが、1体で清算は済んだ。これで勝ちだ。

 

「アカサビ!」

「ッサム!」

「バレットパンチ」

「かえん……戻れ! 出てこいウインディ! なんとか耐えてくれ!」

 

 グリーンは思いとどまってウインディへ交代したか。今ステータスを見て概算した感じだとやはりバンギラスのままなら倒せていた。“ステルスロック”と毒がかさんだな。カンだけで正しい判断ができているのはさすがだ。

 

「ウインディ戦闘不能!」

『ハッサム恐るべし! 苦手なはずのほのおタイプを鎧袖一触! そしてここでトリックルームの効果も切れてしまった!』

「いかくがあってもダメなのか。だが能力が下がったこの瞬間が甘い! 次はお前だ! ねっぷう!」

 

 ピジョット Lv70 @いのちのたま

 

 ほのおタイプは4倍。考えるまでもなく交代だ。ピジョットはでんきタイプで相手する。ピジョットを読んで温存していたイナズマの出番だ。

 

「1」

「チッ! ならこっちも交代だ!」

 

 イナズマ Lv53 @じしゃく

 143-65-70-169-117-211

 1.10まんボルト

 2.ボルトチェンジ

 3.あくび

 4.バトンタッチ

 5.まもる

 6.みがわり

 7.でんじは

 8.めざめるパワー

 9.こうそくいどう

 

 相手も不利な対面を嫌って交代。俺は読みはなしでここは素直に“10まんボルト”を使い、グリーンはそれをドサイドンで受けた。

 

 この場面、“10まんボルト”を読むのはそこまで難しくない。めざ氷なら裏のドサイドンにも一貫するが威力が足りず、ピジョットを倒せない。しかもドサイドンはねむり状態。交換読みはしにくい。

 

 ただ、読めたからといってじめんタイプで受けるのが最善とは限らない。“10まんボルト”が読めていてもここはおとなしくピジョットを捨てておくのが無難だろう。

 

「……zzz」

「6,4」

 

 無効にして受けたのはいいがもちろんまだ眠っている。“みがわり”と“バトンタッチ”が決まりアカサビが出てきたところでドサイドンが目覚めた。

 

「ギャオギャーオ」

「よく起きた! ロックブラストでみがわりごとぶっ潰せ!」

「アカサビさんを舐め過ぎだ。1」

 

 飛び上がったアカサビに“バレットパンチ”で横っ面を殴られたドサイドンは地面に叩きつけられ気絶した。“ハードロック”ってのはあくまで弱点を和らげるだけ。弱点は弱点だ。自分のポケモンを過信している。

 

 無効にできるからといってドサイドンに交代したのは悪手。眠ったまま引くに引けなくなりアカサビに繋げられるのが最悪なんだ。ピジョットはおとなしく“おいかぜ”でも使って退場すればよかった。切り捨てるには惜しい戦力だったのはわかるけどな。

 

「……カメックス、頼む!」

「5」

 

 やっぱりカメックスだな。もうそいつしかアカサビを止められないから当然想定通り。まずは“まもる”で時間稼ぎだ。カメックスは“みずのはどう”を使ってきた。

 

「チッ……もっかいみずのはどうだ!」

「2」

 

 “まもる”が来ると読めていてもカメックスでは攻撃しか手がないのはわかっている。当然しない理由はない。グリーンはイライラしている。いい兆候。

 

 次は“みがわり”を盾にして“とんぼがえり”を当てながら控えと交代する。後攻とんぼを活かしてユーレイを召喚。ダメージよりもユーレイ召喚が重要だ。

 

「ゲェーンガ」

「さぁ、どうくる?」

 

 ゲンガーは体を少し地中に潜めている。攻撃と回避どちらにも対応できる状態。それに……地面についていれば音に反応しやすくなる。

 

「戻れ!」

「ならこっちも」

「……と見せかけてアクアジェット!」

 

トントンッ

 

「ガァー」

「ガメッ!?」

 

 ユーレイの影が伸びてカメックスにまとわりついた。一夜漬けにしては上出来だな。

 

「両者戦闘不能!」

『これはゲンガーの“みちづれ”か?! まるで四天王キクコのような見事な技運び!! カメックスとゲンガーダブルノックアウト!!』

「バカな!? こっちは先制技なのに先に“みちづれ”をきめられたのか!? しょ、初見殺しじゃねーか!」

 

 だから何だっていうの? そういうこと言う奴は注意が足りてないだけ。俺は見てなくてもキクコに先制技使ってアカサビ爆死なんてことはしなかったし、勝つべくして勝つトレーナーは引っかからないんだよ。……口には出さないけど。

 

「イヤになるだろ? キクコには散々苦しめられたがいい勉強になったよ」

「四天王の特技を盗んだのか。この短期間で……」

 

 本来先制技で倒せる相手も一々“ちょうはつ”してからでないと倒せなかったから本当に厄介だった。しかもバグが発生してるのか知らないがはがねタイプにゴーストタイプが半減じゃなくなっているようだし。さすがにゴーストタイプ強過ぎない? 

 

「さぁ、仕切り直しだな。それとも降参?」

 

 相手は残りがピジョットとバンギラスのみ。こっちはアカサビ、イナズマ、グレンの3体。そして数の差以上にグリーンは消耗が厳しい。全てアカサビの圏内にある。すでに勝負あった。

 

「冗談言うな! トレーナーがポケモンより先に諦めるわけにはいかねぇだろ! バンギラス!」

「アカサビ、ケリをつけろ!」

「まもる!」

 

 なるほどね。“いのちのたま”が弱点と見たのか。反動ダメージはガードされようが避けられようが発動する。だが先制技はそうそう避けられないし、“まもる”を連続で使うことも……

 

「まもるを続けろ! 成功すると思いこめ! そしてきめろ!」

「げっ、こいつ……平気で犯罪行為をっ!」

 

 2連続“まもる”……おいおい急にマズイことになってきたぞ?

 

「7」

「戻れ!」

「ジョットー!」

 

 グリーン、ここで交代か。勝ち筋を拾いに来たな。ピジョットとアカサビが相打ちもしくはその後の“まもる”で戦闘不能になりバンギラスが残れば俺はイナズマとグレンではほぼ勝てない。この状況で最も勝つ可能性の高い選択だ。

 

 ファサッ……

 

「回復技!?」

『ハッサム、ここで“はねやすめ”を使い擦り減った体力を回復した!』

「いのちのたまを使うからって回復技を使わないとは限らないだろう? 今かえんほうしゃでもくらったらヤバかったよ」

「ふぅーーっ。やっぱりあんたと読み比べするのは分が悪いな」

 

 重々しく息を吐くグリーン。もちろんここで“かえんほうしゃ”を選ぶのは難しかっただろう。アカサビがあと何回攻撃できるかグリーンにはわからない。“まもる”の直後は攻撃されやすいし、それをわかっていたからこそ交代したはずだ。

 

だがはっきり勝てる道筋があったと見せつけられるとショックを受けてしまうもの。だからわざわざ教えてあげた。俺って親切だな。グリーンはまだ戦えるかどうか……。

 

「バレットパンチ」

「耐えろ! 耐えてねっぷう!」

 

 アホめ。ピジョットは何回“ステルスロック”を受けた? フィールド補正がついてんだ、残り半分の体力では耐えねぇよ。折れずに最後まで戦い抜く姿勢は評価するけど、最後の一手がただ祈るだけとはね。ちょっとがっかりだな。

 

「ジョォォーーッ!!」

「ハッ……ッサム!?」

「えっ……耐えた!?」

「キタッ!! オレは信じてたぜ! そいつは今動けねぇ! ねっぷうぶち当てろ!」

 

 おい!? どう計算しても確1なんだが!? んん??

 

「ハッサム戦闘不能!」

「きたっ! キタキタキタキターーッッ!! レイン、あんたの悪運もここまでだな!」

『ハッサム倒れた! いよいよこれでお互い2匹を残すのみ! さぁこれでどっちが勝ってもおかしくありません!』

 

 そういやこいつはサカキを倒したんだったな。その時も乱数が上手く噛み合ったのかもしれない。こういうことが起きてしまいそうだから怖いんだよな。

 

ただ、四天王と違い俺はこの事態をあらかじめ予測できた。念には念を……グリーン対策は万全を期して臨んでいる。

 

「アカサビご苦労さん」

「さぁレインよぉ、あんたも年貢の納め時だな? サンダースとウインディじゃどうやったってピジョットとバンギラスは倒せねぇよ。観念しやがれ!」

 

 そう、俺にとってバンギラスはかなりネックになる。特殊技はほぼ効かない。グレンは“インファイト”がないから弱点をつけず物理技も半減され有効打なし。さすがに“インファイト”がないのはマズかったか。トーナメント期間中では覚える時間がなかった。グリーンにはやっぱりバレてるし。

 

「トレーナーってのは諦めたらダメなんだろ? なら最後までやってやるさ。イナズマ!」

「おもしれぇ。6体倒して参ったさせてやる! さわぐ!」

「催眠対策か。2」

 

 イナズマはもう残りHPは少ないが何か起きて“あくび”でも受けようもんなら最悪だからな。まさに今の逆になる。それを避けたのだろう。どのみちピジョットは反動で倒れるし。あるいは死に出しでバンギラスを出すことも織り込み済みか。

 

「ピジョット戦闘不能!」

 

 “ボルトチェンジ”が先に決まりピジョットが倒れ、イナズマは帰ってくる。

 

 さて、最後の大仕事は任せたぜ。出てきな、マスターズリーグ最強のポケモン。

 

「ヴゥゥ……」

 

 ウインディ Lv80 @パワフルハーブ

 

 “いかく”はもちろん不発。だがその矛先はトレーナーの方へ向いたようだ。珍しく低い唸り声を出している。

 

「見間違いか……!?」

「張り切り過ぎて、つい奮発しちゃったんだよな。だいぶ減ったよ」

「わけのわからねぇことを! とんでもねぇ誤算だが、レベルだけで勝負が決まるわけじゃねぇ。それは他ならぬあんたが証明してる! その上相性は圧倒的に有利! 負けるわけねぇ! いけバンギラス、ストーンエッジ!」

 

 空元気だな。グリーンは今グレンを恐れた。最も威力の高い技で攻めるのは基本だが、状況が頭に入っているかは怪しいな。鈍足の上命中難とくれば回避は難しくない。グリーンが痺れを切らすまで待つ。

 

「じっくり見てとにかく躱せ」

「なんとか隙を見つけて当てろ! とにかくストーンエッジ!」

「グレン、相手は遅い。お前なら余裕で躱せる」

 

 これだと勝負がつかない?……いいや、条件は対等ではない。相手はどく状態……悠長なことはできない。

 

 グリーンが平常心なら最初の攻防ですぐ方針を改めただろうが、今のグリーンはレベルに恐れるあまり勝ち急いでしまっている。この試合初めて隙らしい隙を見せた。

 

「くっ……ならじしん!」

「まもる!」

「ならここだ! ストーンエッジ!」

「戻れ!」

 

 毒ダメージに気づいてようやく攻めを変えてきたが甘い。こっちはイナズマが残っている。“まもる”後の隙を狙ってもまだ時間はかかる。

 

「サンダース戦闘不能」

「ダァァ……」

「あとでけづくろいするから許してくれ。さ、グレン、仕上げだ」

「ヴォウ!!」

 

 “すなあらし”は時間経過により収まった。“いかく”もある。毒ダメージも十分過ぎるほど入っている。今度こそ終わりだ。何もできないからといって安易にピジョットを切り捨てたのは甘かったな。

 

「ストーンエッジ!」

「ソーラービーム!」

「ソーラービーム!? しまった、パワフルハーブか!」

 

 道具は懐に隠してあるから気づかないのは無理ないし、予測も難しいだろう。“ソーラービーム”は対みずタイプ・いわタイプのための切り札。互いの技が交差し、各々にぶつかる。今回はダブルノックアウトじゃない。

 

「バンギラス戦闘不能! 勝者レイン!」

『決着ゥゥ!!』

 

 完璧。今回は危なげなく勝てた。

 

「ガウガーッ!」

「おっとっと。ありがとさん」

 

 勝利と同時にグレンが“しんそく”でこっちにきた。レベルが上がってもかわいいまんまだな。感謝を込めて頭を撫でてあげた。

 

 まずは1勝。残すは決勝のみ。やっとここまで来たか。あっという間だったようにも思えるが、長かったような気もする。

 

「レインッ!」

「ん? どうした緑」

 

 こっちまで走ってきて、息乱れてるぞ? どうかしたのか?

 

「ありえねーだろ!? どんな天変地異がありゃ1日でレベルを20や30も上げられるんだよ?! しかも10や20から上げるんじゃなくて50台からだぞ? わけぐらい教えやがれ!!」

 

 なんだ反省会か? もう次を見据えて……いや、悔しいだけだろうな。

 

「企業秘密だってさっき言っただろ? 別に俺はトーナメントの最初からレベル80にもできたんだけどな。でもいきなり上げた方がびっくりするだろ?」

「ったく最後まで本気かどうかわかんねぇようなこと言いやがって! くっそーっ! ピジョットでハッサム倒して勝ったと思ったのによ! なんで後から出てくるのがレベル80もあるんだよ!」

 

 切り札っていうのはギリギリまでとっておくもんだからな。

 

「お前だってバンギラスなんか隠し持ってたじゃないか。レベル68なんて新たにどうやって育てた?」

「あいつは7のしまのぬしだ。元々レベルが60以上だった。じゃあソーラービームはなんなんだ? あんなの元々覚えてねーだろ! 新しく覚える時間なんてなかったはずだ。どうしていきなり……」

「わざマシンってご存知ない?」

 

 練習不要、一瞬で覚えて即戦力。“パワフルハーブ”と合わせて上手く不意をつけたな。

 

「あっ、その手があったか! じゃあやっぱオレ対策ってことか。くっ……いや、ここまであんたにさせたこと自体進歩ではあるか。なぁ、これで最後だが、あんたまだ奥の手はあんのかよ? もうウソつく必要はねーよな?」

 

 そうだな。ウソつき認定は心外だし、グリーンには敬意を込めてちゃんと答えてやろう。

 

「あと少しレベルを上げる余地はあるにはあるが、もうこの大会で上げるつもりはない。今の俺が掛け値なしの全力だ。四天王と違って、お前には油断できないからな。実際出し惜しみしていれば負けていたわけだし」

「……へへ。あんたとの勝負、なんだかんだ悪くなかったぜ。一応言っとくが勝ち逃げはなしだ。わかってるよな?」

「そうか。俺も楽しかったよ、ありがとう。……いい思い出になった」

「え? 今なんて……」

 

 グリーンに返事はせず背を向けて立ち去った。

 

 ◆

 

『一進一退の攻防が続くブルー選手とレッド選手! 互いに残りは3匹、先手を取るのはどちらだ?』

「ばちばちアクセル!」

「ソォォォナンッ!?」

「ソーナンス戦闘不能!」

 

 “みちづれ”が間に合わない! どうやら先制技みたいね。せっかく“かげふみ”で捕まえたのに……。

 

 レッドのやつ、リーグの頃と比べて見違えるほど強くなった。先制技なのに確定きゅうしょなんて聞いたことない。とんでもない技編み出してくれたわね。

 

「頼んだわよ!」

「バナァァーッ」

「ボルテッカー!」

「引きつけてギガドレイン!」

 

 あのピカチュウの恐ろしい火力が仇になったわね。“しんりょく”圏内に入った。ピカチュウは持ち物が“でんきだま”だから“きあいのタスキ”とかはないし1発で倒せる。

 

「ピカチュウ戦闘不能!」

「よっし! レッド、あんたらしくもない無謀な攻めね。いくら強いからってむちゃし過ぎよ」

「……」

『レッド選手無言でリザードンを繰り出した! すでに体力は残り僅かです!』

 

 あのリザードンの特殊火力は舐めない方がいい。控えにあとラーちゃんがいるけど受けだしは危険。ラーちゃんは万全の状態でリザードンと勝負したい。

 

「ヘドロばくだん!」

「……ブラストバーン!」

 

 え!? そんな無茶よ!? 本気で言ってるの?! こっちの攻撃ごと飲み込んで倒された!

 

「フシギバナ戦闘不能!」

「……ラーちゃん! れいとうビーム!」

「リザードン戦闘不能!」

 

 反動で動けないリザードンをあっさり倒せた。なんなの? なにかヘンだわ。

 

「あんたなに企んでるのよ?」

「交換する必要がない。むしろ交換して隙を作る方が負ける可能性が高まる」

 

 わからないわね。いつにも増してレッドの発言は謎に包まれてる。でも勝つためにしていることだけは間違いない。

 

「あんたはピカチュウとリザードンが切り札でしょ? その2体を差し置いてそれより強いポケモンがいるとでも言うの?」

「ブルーかグリーンと戦うまで温存していた。とっておきってやつだ」

 

 レッドが笑ってる。本当にまだ何かいるの? 今までそんなのいなかったはず。少なくともレベルは大したことないに決まってる。新たにポケモンを用意して、あの2体を超えるような強さまで育てるヒマは絶対にない。

 

(ブルー、私がついてます。負けませんよ)

(ラーちゃんありがと。わかってるわよ)

 

 わたしは最強のポケモンが残っているんだ。しかも体力満タン。ラーちゃんには全幅の信頼を置いている。負けることはありえない!

 

「……」

 

 レッドがゆっくりとボールを投げる。ドキドキして思わず呼吸が荒くなり、放物線を描くボールがひどくスローモーションに見える。そこから出てきたポケモンは……

 

「ミュゥゥーーッ」

「……ポケモン屋敷の銅像!?」

「伝説のポケモン……ミュウツーだ」

『なんだあれは!? 見たことのないポケモンです!! 離れた場所にいても凄まじいプレッシャーを感じます!』

 

 あれがミュウをオリジナルにして造り出されたっていう最強の遺伝子ポケモン……でもみゅーちゃんほど強くはないはず!

 

「れいとうビーム!」

「ラァーッ!」

 

 素早く強烈な一撃。しかしミュウツーは一瞬で移動して回避し、いきなりラーちゃんの真横まで来ていた。テレポートか! 驚く間もなくレッドは非情に攻撃指示を下す。

 

「サイコブレイク」

「ラァァ?!」

 

 吹き飛んだラーちゃんは一撃で致命傷を負った。技の威力がみゅーちゃんの比じゃない! 特防なら絶対的な数値のラーちゃんをここまで……化け物過ぎる。

 

「ハイドロポンプ!」

「ねんりき」

 

 現時点で出せる最大火力の攻撃。それを超能力で捻じ曲げて何事もなかったかのようにいなされた。攻撃力比べでは勝てない……だったらっ!

 

「ぜったいれいど!」

 

 ピキピキピキ……

 

「当たった!?」

 

 勝った! これでシショーをわたしが……。

 

 バキバキ、パキンッ!!

 

「ミュゥゥーーッ」

「出てきた!?」

「ララァッ!?」

「伝説のポケモンにレベルが格下のポケモンの一撃必殺は通用しない」

「うそ……」

 

 それじゃどうしようもない。これじゃあの時と同じ。みゅーちゃんに成す術もなく倒されたあの時と……

 

「ラッ!!」

「サイコブレイク!」

「……ラァァッ」

 

 ラーちゃんは独断で“れいとうビーム”を放つもののあっさりとそれ以上の攻撃で反撃されダメージを受けた。体はもう限界のはず。でもラーちゃんは倒れなかった。震える体に鞭打って必死に耐えていた。

 

「ラーちゃん!」

「次でトドメだ。サイコ……」

「待って! 降参よ! もうラーちゃんは戦えない!」

「ラーーッ!!」

 

 ラーちゃんは鳴き声で反対した。でもこれ以上はできない。絶対に負けたくなかったけど、それでもわかってる。これは負け勝負。ギアナの時のような光景を繰り返すわけにはいかない。

 

「いいの……戻って」

「ブルー選手の降参により、勝者レッド!」

 

 負けた……完全に負けた。本当にあっけなかった。ここまでなんとか勝って来たのに、なんとか勝ち続けて、ようやくあと1歩、すぐそこまで見えていたのに、わたしからシショーが遠のいていく。こんなやつ相手に勝てっこない。こんな幕切れなんてあんまり過ぎる。

 

 何もかも終わってしまった。もう取り返しがつかない。絶対に負けちゃいけなかったのに、なんで……どうして……

 

 

 めのまえがまっくらになった……

 

 




ミュウツー……カントー編としては出さないわけにはいかないですよね
殿堂入り前にフライングの上レッドが使うのは暴挙という説はあります

ある程度、育成・戦術・技構成というような基礎が完成されてきた時、次にどこで相手と差別化するか
1つはレベルであり、もう1つは種族値ですね
そういうことです

“ぜったいれいど”については仕様変更で、「ぜんぜんきいてない!」は伝説だけとしました
理由は伝説ポケモンに箔をつけたかったから……
はい、うそです
ホントはラーちゃんが零度でカメックスを倒しちゃったからです
レベルは明記してませんがカメックスが上という体で書いてました
バグです

グリーンとレッドはどうやってレベル上げたか一応書いておきます
グリーンはバンギラス大量発生で2章のようにがっつりレベル上げ
レッドはミュウツーから大量のアメをかっぱらってレベル上げ
これなら破格のレベルアップにも納得ですよね


あと今更ですが仕様の統一に関して、流星群とかの威力は昔のままですとか言ってた時期もありますが、最近は130とかで合わせてます
といっても、そもそもダメ計をするときはツールに入力が面倒なので電卓で手計算なんですよね
なので概算で一致流星200×特攻……みたいな扱いなのでそんなに支障はないという感じでした
レインは乱数の誤差と思ってる感じでセーフ?
レアコイル麻痺させた件とかは修正しにくいので悩み中です
可能な範囲で最新に合わせて、無理なところは目を瞑る感じにして貰えるとありがたいです


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3.せつなるおもいを力にかえて

「伝説のポケモンが現れてブルーが負けた!?」

「みたいなの。みゅーが探ってきた感じだとみんなそう言ってた。ちょっと騒ぎになってる」

 

 試合の後、結果を見に行くとブルー達の会場は異様な喧騒で何かあったとすぐに悟った。先にポケモンを回復させて、復活したみゅーに探りを入れてもらうとすぐに状況はつかめた。

 

 さて、これはどういうことだろうか。伝説ってミュウツーだよな? レッドがミュウツーを使ったのか? そんなことあるわけが……

 

 ――おれは行きたいところがある――

 

 そういえば……ポケモンリーグの後、グリーンはナナシマ、俺達は本部へ向かったがレッドがただ1人謎だった。ミュウツーをつかまえたとすればその謎がようやく解けた気がする。

 

 はぁ~。伝説級の使用は一応規制されてないし、ルール上問題ないとはいえこんなのアリか? 元々伝説ポケモンなんて手持ちになかったはずだし、もしこの事態に原因があるとすれば俺なのかもしれない。レッド……ここまでやるか。

 

「ハナダのどうくつか」

「レインわかったの?」

「あぁ。どうやら本当にミュウツーを捕まえたらしい」

 

 ミュウツーがいるのはゲームでは殿堂入り後にいけるようになるハナダのどうくつしかない。たしかにあそこならレベル70弱の野生ポケモンも出てくるから65ぐらいまでは自然にレベルを上げられる。あいつならミュウツーの捕獲も難しくないだろう。

 

「あっ、あの子のことね。ハナダにいたんだ」

「そういえばお前って実験のオリジナルだったっけ。面識はあって当然か。じゃあバトルしたこともあったりするのか?」

「挑まれたことはあるの」

「素の状態でバトルしたら勝てる?」

「みゅー? あれ、言わなかった? みゅーはレイン以外に負けたことないの」

「……さすが幻さん」

 

 伝説なんてズルいと思ったが、幻使ってる俺もあんまり人のこと言えないな。

 

「おいレイン、ちょっといいか?」

「その声は……グリーン? なんだ?」

 

 ミュウツーについて考えているとグリーンが来た。大事な話があるらしい。

 

 ゆっくり聞くとどうやらブルーが大変な状態になっているらしい。負けたショックで引きこもって寝込んでいるようだ。

 

「別に負けて悔しいのは当たり前だ。お前みたいに人の心配する余裕のあるやつばかりじゃないだろう。いや、完敗で悔しがる余地もなかったか?」

「オレのことはほっとけ! つか完敗もしてねぇ!! 途中勝てそうだっただろーが!……バトルの後、やることもなかったからオレがあいつを見に行ったんだよ。そしたら自分の部屋に閉じこもって大泣きしてたぜ。くぐもった声だったから布団の中とかで泣いてたんだろうな。あの感じは尋常じゃねーよ。オレじゃ声かけらんねーし、あんた一応ブルーのシショーとかなんとか言ってただろ? 決勝を控えてるとこ悪いが見てやってくれよ」

「……わかった。様子は見ておく。しっかし普段喧嘩ばっかりのくせにこういうときは優しいんだな。お前が心配してたって言っておこうか?」

「ちょっ、言わなくていいっつーの!」

 

 グリーンに頼まれたし仕方ない。だが俺がいきなり押しかけても泣いてるところなんか見られたくないかもしれない。事態を悪化させたら何しに行ったかわからないし、先にみゅーを偵察させよう。

 

「みゅー、悪いけどテレポートでブルーのとこにいってきてくれ。俺からブルーに話があるけど、行っていいかわからないから先に確認してきてくれ。ブルーがイヤだって言ったら俺は行かないってあいつには伝えておいて」

「わかった。待っててね」

 

 みゅーはテレポートで消えた。

 

 ブルー……どうしたんだろうな。昔のあいつなら泣き虫だなぁで話は終わるが、今のブルーは負けたぐらいで泣くようなやわなトレーナーじゃない。おそらく何か理由はあるだろう。ブルーが大泣きする理由……。よくよく考えれば心当たりはないでもないが、考えても仕方ないか。

 

 ◆

 

「シショー……シショー……やだやだぁ……やだぁ……わああああああシショーッッッ!!!」

「ラー! ラー! ラァ……」

(ブルーッ! いつまでも泣いてないで返事をしなさい!!)

「ひうっ!? はい! ごめんなさい!」

 

 ラーちゃん!? 凄みのある声に思わず背筋を正して正座していた。……テレパシーだからイメージだけど、ラーちゃんに言われるとつい体が反応してしまう。

 

(ブルー、悔しくてたまらないのはわかります。でも後悔だけはしないで。あなたは全力を尽くしていた。最善の立ち回りをして負けたんです。これはもう相手を讃えるしかありません。……ブルー、先日相手になった方の言葉を覚えていますか?)

「え?」

(私を差し置いておねーちゃん呼びしていた人です)

 

 ラーちゃんはちょっと不服そうな顔。あのときボールに引っ込んでいたはずだけど会話はしっかり聞いていたのね。

 

「あっ、カンナさんのこと? ラーちゃんもおねーちゃん呼びが良かった?」

(……!! 大変魅力的な提案ですが今は置いておきましょう。彼の者は言いました。人生にムダなことなんてない。負けたことでさえ、次の勝利への糧となると。そしてどんなときも前を向いて進んでいけと。そうでしたね?)

「あっ……。そうだったわね。こんなところ見られたら失望されるかな」

 

 カンナさんのくれた言葉、さっそく役に立っちゃったわね。応援してくれていたのにいきなり負けちゃったな。もちろんカンナさんはよく頑張ったって言ってくれるだろうし、内心はそこまで気に病んではいないけど。

 

(むしろかわいいとかなんとか言って喜びそうだと思います。私のカンでは)

 

 ラーちゃんも同じ意見みたいね。自虐的なこと言ったけど、本気じゃないことぐらいラーちゃんもわかってたみたい。

 

「ふふっ、たしかに。ラーちゃん、ありがとね。少し元気が出たわ。でもね、わたしは負けたから悔しいとか、そんなんじゃないの」

(そうですか。私もちょっと引っかかっていました。大事な勝負だったからかなとも思いましたが、やっぱり負け1つでここまで泣くブルーじゃありませんよね。それではなぜ?)

「それは……わたしがチャンピオンになれなかったら、止められなかったら……うぅぅ、うわぁぁぁんん!! ヤダヤダァァーーッ!!」

(ブルー!? 落ち着いてっ! ごめんなさい、無理には聞きませんから!)

 

 大泣きするわたしとおろおろするラーちゃん。そこにみゅみゅっとテレポートする者がいた。

 

「みゅみゅっと。みゅ!? ブルー大丈夫!?」

「ぐすっ……あれ? みゅーちゃん?」

 

 どうしてみゅーちゃんがここに?

 

「勝手に入っちゃってごめんね。みゅーはレインに頼まれてここに来たの。レインがブルーの様子を見に行きたいけど、いきなり押しかけちゃ悪いから行ってもいいか先に聞いてきてくれって。ブルーがイヤならレインは来ないって」

「シショー、決勝前なのにわたしの心配を……。うぅぅ、シショー……」

 

 ささいなことだけど猛烈にわたしへの愛情が感じられてまた涙が出てきてしまった。ちょっと落ち着いてもう大泣きはしないけど、涙は全然止まらない。

 

「ブルー、泣きたいときは泣いたらいいと思うの。みゅーは待ってあげるから」

「んぐっ。ありがと、大丈夫」

「無理しないで。本当に悲しいのは伝わってくるから。ブルー、もしみゅーにできることがあれば助けてあげる。ブルーの力にもなってあげたいの」

「大丈夫よ。みゅーちゃん気を遣わなくても……あ、待って。やっぱり協力してほしいことがあるかも」

「何をすればいいの?」

「シショーに尋ねてほしいことがあるの。そうね……シショーが今旅行とかに行くとしたらどんなところに行きたいか。どんな地方かでも構わない。それを知りたいの」

「みゅ? なんでそんなこと?」

(もしやそれがブルーの泣いていたことに関係するのですか?)

 

 鋭い。このことは黙って1人で解決しようと思っていたけど、一応ラーちゃんにも話しておこうかな。わたしより賢いからヒントをくれるかもしれないし。

 

「ラーちゃんには隠し事できないわね。ええ、そうよ。ここまで来たら全部話すわ。実はね、わたしは前々からある危機感を持っていたの」

「……それって、レインがどっか行っちゃうってこと?」

「え!? なんでわかったの!? まさかみゅーちゃんにはもう話を?!」

 

 いきなりあっさりと言い当てられて仰天してしまった。エスパーのカンというよりは最初から知っていたかのような口ぶりだった。みゅーちゃんは何か知っている?

 

「……説明しにくいけど、うみゅぅ、レインは色んな所に行くのが好きみたいだったから。ブルーはそのとき……ううん、なんでもない。みゅーはレインからは何も聞いてないの。旅のことは全部レイン任せだからみゅーはなんにも知らないの」

 

 みゅーちゃんからは申し訳なさそうな気持ちを感じる。でも聞かされてないのはみゅーちゃんが悪いわけではないし、どうして? 今言いにくそうだったことに何かあるの? 気になるけど一旦忘れましょうか。

 

「そっか。でもみゅーちゃんもそう感じるってことはやっぱり間違いないのかな」

(ブルー、あなたは確信を持っているんですよね? だからそこまで泣いて……その根拠は?)

「そうね、一から話すわ。ちょっと長くなるかもしれないけどね。ラーちゃんには以前にも話したわよね。わたしの家にいた頃からシショーとはずっと心の距離に壁を感じていたの」

「あっ、みゅーも同じこと思った。あの日一緒に寝たときレインすっごく冷たかった。説明しにくいんだけど、みゅー達に対して無関心な感じのオーラになっていたの。……まるで壊れたおもちゃを見るような冷たいオーラにね。寝ながらぎゅーってしてあげたら次の日はまたあったかいレインだったからあんまり気にしなかったけど、ブルーも感じたのね。やっぱり気のせいじゃなかったのかな」

 

 壊れたおもちゃって……さすがにシショーに限ってそんなこと思わないでしょうけど、でも変な感じはたしかにした。

 

「あの時シショーは無理していたと思うわ。悲しそうに見えたし。その後、一時はラーちゃんの言うように気にし過ぎだって思うようにして我慢してたの。でもね、わたし気づいたの。シショーはわたしにウソついてるって。マスターズリーグ開催前の時、トキワのポケセンでシショーがわたしのこと避けてるのか尋ねた時、ナツメさんはオーラの乱れはないって言った。でもわたしはわかるの。ずっと一緒にいたから……あれはウソなんだって」

「え……オーラは絶対なの。ナツメが見間違えるなんて……」

 

 みゅーちゃんは全然信じられないって顔ね。みゅーちゃんのウソホント判別の凄さはよく知っている。でも完全なわけじゃない。

 

(それにブルーはあのとき信じていましたよね?)

「ラーちゃん見てたのね。……でもさ、まず前提としてシショーはエスパーなんでしょ? それに人を出し抜くのは得意中の得意。色々できそうだし、オーラだって過信はできない。あの時はわたし、シショーが嘘ついてまで自分のこと避けてるんだって思ったら涙が出そうになって、咄嗟に何もなかったように振舞ってしまったの。あれ以外にも気になることはたくさんあったし、とにかくわたしを避けていたのは間違いない」

 

 シショーにはちょっとしたクセがある。旅の中でそれがわかってきた。だから確信が持てる。シショーは本気でわたしを遠ざけようとしている。

 

(だとしてもなぜそんなことを?)

「きっとわたしとはサヨナラする気なんだと思う」

「!」

(どうやって? それにどうして?)

「わかんない。でもそんな気がする。わたしを置いてどこか遠くへ行っちゃうんだと思うの」

「……」

「わたしやっぱりヤなの。ずっと一緒にいたい。どこにもいかないでほしい。わたしまだ何にもしてない。何もできてない。だから考えた。どうやったらシショーを引き留められるか」

「どうするの?」

「シショーはチャンピオンになるまでカントーにはいると思うの。負けたまま終わるような性格じゃない。だからわたしがシショーに勝って、わたしがシショーの目標になれれば、きっとここに残ってくれるはず。もし負けたら、もうシショーは手の届かないところに行って会えなくなっちゃう。そう思ってたのに……それなのにわたし、なんで負けちゃったの。シショー、シショー……」

 

 だからわたしはチャンピオンにならなきゃいけなかった。夢だからじゃない。大切なものを失わないために。

 

(ブルー、あなたがそこまで悲壮な覚悟でバトルに臨んでいたなんて……すみません)

「ぐすっ。いいの。もう終わったことだから。でもこれからどうしたらいいかわからないから……せめて、せめてあの人の行き先だけでもわかればなんとかなると思って」

 

 もう正攻法ではダメ。だったら意地でもくっついていく! 簡単に撒かれる可能性が高いから望みは薄いけど、でも行き先がわかっていれば上手くいく可能性も十分ある。だからこそみゅーちゃんにお願いするの。

 

「そういうことなのね。わかった、上手に聞き出してくる」

「あっ、わたしのことは」

「ブルーに聞かれたことは言わないの」

 

 さすがね。もうみゅーちゃんは以前のようにわたしとの内緒話を漏らしちゃうことはない。信頼できる。

 

「ありがとう。お願いね。もうそれしか希望がないの」

「わかった。任せて」

 

 みゅーちゃんはテレポートで行ってしまった。ラーちゃんはわたしの計画に気づいたようで直接訊かれた。

 

(お師匠様についていくのですか?)

「いざとなったらね。一応説得はしようと思ってる。意地っ張りだから意味ないでしょうけど」

(それならお師匠様を引き留めるいい方法がありますよ)

 

 ん?

 

「えっと……今なんて言ったのラーちゃん?」

(だから、お師匠様を引き留めたいのですよね? それなら策があります)

「……ええええっっ!!??」

 

 わたし期待するわよ? 期待しちゃうからね?!

 

(フフ……ブルー、諦めるのはまだ早いです。勝負は最後の最後までわからない。他ならぬあなたが教えてくれたことです)

 

 じっくり話を聞いていくと、ラーちゃんの作戦は見事なもので、思わずわたしも唸ってしまった。シショーの弱点をよくわかってる。100%成功するようなものじゃないけど、これなら五分五分ぐらいはチャンスがある。もしかして上手くいくんじゃ……。

 

「ありがとラーちゃん! わたしまだ諦めずに済みそう! 絶対逃がさないわ!!」

(そのいきです! やっぱりムダなことなんてないんですよ)

「そうね。希望が見えた!」

 

 ラーちゃんと喜び合っていると丁度みゅーちゃんが戻ってきた。

 

「みゅみゅみゅ!」

「みゅーちゃん! ご苦労様! どうだった?」

「みゅ……それが……」

 

 ◆

 

 みゅーを偵察に向かわせたのはいいが、なかなか帰ってこない。

 

「レイン」

「おわっ! みゅーか、びっくりさせるなよ」

 

 ユーレイとにらめっこするのも飽きてきたし、アカサビとジャンケンでもしてボコボコにしてやろうかと思ったらいきなりみゅーが出てきた。びっくりしたせいでにらめっこには負けてしまった。すぐ笑う奴だから絶対勝てると思ってたのに!

 

「ガガガガ!!」

「ぐっ! くそぉ……今度リベンジしてボコボコにしてやるからな」

「ゲゲー」

 

 とりあえずユーレイをボールに戻すとみゅーが呆れ顔だった。

 

「またおバカな遊びをしてたのね。みゅーは一生懸命頑張ってたのに」

「んなこと言ってもやたらめったら遅かったんだからしょうがないだろ」

「……」

 

 みゅーの視線が胸に痛い。抵抗虚しく、無言の圧力に屈してあっさり降参してしまった。俺ってすっごく立場が弱い気がする。なんでだろう。

 

「わかった、俺が悪かったよ。それでどうだった? ブルーのやつ話はできる状態?」

「んー、もう少し」

「そうか。ホントに大泣きだったのか?」

「うん。それでね、待ってる間レインに聞きたいことがあるの。レインはどこか行きたいところってある? これから行きたい地方とか、あったら教えて」

 

 いきなりな質問だな。それにみゅーの返事がやけに短い。この感じは怪しい……。

 

「あぁ……そうだなぁ。みゅーにはまだ話してなかったけど、実は今後のことはすでにある程度考えてあるんだ。ちょっと行きたいところがあるからカントーからは出ていくつもりだ」

「どこに行くの?」

「リーグ戦が終わったら俺はシンオウ地方へ行くつもりだ」

「えっ…………」

 

 みゅーのオーラが豹変した。かなりショックを受けているように思える。どうしたのだろうか。出ていくことにはさしたる反応がなかった。シンオウ地方に対して何かあるのか?

 

「もうカントーにいても仕方ないし、みゅーも他の地方とか見てみたいだろ?」

「……みゅーはヤダ。シンオウ地方は行きたくない」

「珍しいな、そこまではっきりイヤだなんて。そもそもお前シンオウなんか行ったこともないだろう? なんでイヤなんだ?」

「えっ、それは……みゅぅぅ」

 

 言いにくいことみたいだな。触れないでやる方がいいか。とりあえずは様子見だな。

 

「あっ、そういえばみゅーは南国育ちだから寒いのは苦手だったりするのかな? 雪とか降るし気候が合わないか」

「そ、そうね。寒いのはよくないの。あったかいところがいい!」

「じゃあとりあえずホウエン地方にでも遊びにいこうかな」

「あ、それ賛成!」

「ホウエンは自然いっぱいだしみゅーは好きだろうな。うん、そうだな。次はホウエンにしよう」

 

 ホウエンは別にいいってことはシンオウがピンポイントでイヤなのか……。本当の理由はなんだったのか、もう聞くことはできないけど、敢えて聞く必要もないか。俺が納得したように言うとみゅーは話を変えた。

 

「あ、みゅーそろそろブルーの様子見てくるの」

「……そうだな。頼んだぞ」

「任せて」

 

 エスパーというのは普段ウソを言わないから隠し事が下手らしい。ウソを言う人間はオーラが乱れるとみゅーは言った。だが変わるのはそれだけじゃない。大抵は態度にも表れる。

 

 俺の経験則だと大抵はおよそ2通り……普段より寡黙になるか、饒舌になるか。エスパーはウソをつきたくないが故に寡黙になりやすいように思える。

 

 みゅーの行動、糸を引くのはブルーだろう。最後の最後、すんなりとは終われないようだ。

 

 ◆

 

「やっぱり出ていく気だったみたい。しかもシンオウに行きたいって」

「シンオウ? どこかで聞いたような名前ね。そこだとマズイことあるの?」

「シンオウはダメ。レインはそこに行ったら死んじゃうかもしれないから」

「死んじゃうですって!? なんで?!」

 

 まず人が死ぬような場所になんで行きたいのよ!? 死ぬ理由も謎だし! 

 

「わかんない。でもシンオウはダメ。だから変えさせておいた。みゅーが行きたくないって言ったからホウエンってところに変わったの」

「良かった。みゅーちゃんナイス!」

 

 わたしが褒めるとみゅーちゃんは嬉しそうに笑った。かわいい。すごく絵になる。

 

「みゅふふ。ねぇ、それでレインとお話するのはどうするの? 来てもらう?」

「あ、それはいいわ。来ないでって言っておいて。わたし色々やることできちゃったから」

「わかった。みゅみゅ、ブルーものすごく元気になったね。前向きなオーラになってる」

「そんなのもわかるんだ。わたしね、また目標ができたの。打倒シショーっていう目標がね。みゅーちゃん、わたしに遠慮しないで決勝では全力で戦ってね。本当はシショーには負けてほしい。でもわたしのためにみゅーちゃんやシショーに迷惑かけたくないから……」

「うん。じゃあレインにはブルーは元気になったから心配いらないって伝えておくね。みゅーは戻るから」

 

 みゅーちゃんは消えてしまった。一瞬ね。

 

(ブルー、それではさっそく……)

「善は急げね。でも慌てるのはダメ。まずは何からすべきかしら。ちょっと考えるわ」

(さすがブルー、落ち着いてますね)

 

 あれが上手くいくとき、上手くいかないとき。こうなったときこうして……読めたわ!!

 

「まずはシショーのリーグ限定グッズを買い漁るわよ!」

(ブルー……)

 

 ラーちゃんの目が……待って! きっと誤解よ!

 

「いや、これは欲望に負けたとかそういうわけじゃないの。だってよく考えたら今しか買えないかもしれないんだもん。先に買っとかないと心配で他のことに集中できないわよ。あ、買わない選択肢はないからね。シショー成分なくなったら地獄だから」

(言い訳がましいですが……まぁ仕方ありませんね)

「えへへ」

 

 憂いをなくした後シショーを引き留めるための準備に取り掛かった。わたし自身まだ整理しきれないこともある。じっくり考えた。

 

 




願う気持ちが行動に繋がる!

これまでずっと連戦連戦なのに最後だけインターバルを設けたのはブルーにゆっくりと時間をあげるためです(メタい)

ブルーとみゅーの密談に危険な香りがしますね
つまりすごいワクワク感!
ここから新章突入で禁じられたシショーの正体の探求編が始まりそうですね(始まらない)

ちょっと夢の内容を使ってしまいました
本編に絡めるつもりはなかったんですけど思いのほか使いやすいなって……
なおレインはまどろみの記憶なので3日でほぼ忘れています
夢の内容って覚えとこうと思っていてもなぜかすぐ忘れますよね


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4.果てなき夢

 ブルーは元気を取り戻したようなので俺も決勝に集中することにした。大事な最後の1戦だ。今俺が考えるべきことは3つある。

 

 恐るべき強化をされてレベルも上がったピカチュウ。しぶとさと“もうか”が厄介なリザードン。そして突如現れたミュウツー。

 

 レッドはこれまで切り札を温存していた。どうやらピカチュウはみたことない技を使ったらしいし、ミュウツーを使ったのも当然ブルーの時が初めて。問題は俺にもまだ何か残しているかだが……。

 

「さすがにミュウツーが本当の切り札だろうな。あれは別格。俺が勝つ方法は1つしかない」

「みゅーの出番?」

「そういうことだ。本当は素の状態で戦ってほしいが、メタモンだから勝てるかは五分五分。そこで1つ提案がある。おそらくミュウツーに化ければエスパーの力は復活するよな?」

「うん。たぶん」

「だったら……」

 

 ミュウツーはみゅーでなんとかなる。あとはピカチュウとリザードンを俺が倒せばいい。見てろよレッド。ぶっ倒してやる! そしてチャンピオンになった時、俺のやるべきことは終わる。もうやり残したことはない。全てを終わらせる時が来たんだ……。

 

 ◆

 

 決勝の舞台へいよいよやってきた。セキエイリーグはこの国の中心でありリーグの歴史も最も長い。故に全国で1番格式の高いトーナメントと言われている。事実上の全国最強決定戦。全てのトレーナーの憧れの舞台。

 

 だが今日は普段より静かに思える。実況は四天王の解説がつくので俺達には聞こえないようになるらしい。それが原因? それとも変わったのは俺の方?

 

「……」

「待ってたぜ、レッド。最後に俺とお前、どっちが最強かケリをつけようか」

「望むところ」

 

 互いに最初のポケモンが現れる。気の抜けないこの勝負で、どうしても先手を取りたいのはどちらも同じ。互いに最高のポケモンを投じていた。

 

「ピィカッ!」

「ッサム!」

 

 ピカチュウ Lv75 @でんきだま

 アカサビ  Lv70 @いのちのたま

 239-277-162-88-137-112

 

「ばちばちアクセル!」

「戻れ!」

「ダーッス!」

 

 バチバチッ!

 

 イナズマ Lv53 @じしゃく

 143-65-70-169-117-211

 

 当然イナズマへ交代。初めて聞く技名だがでんき技だったようで“ちくでん”が発動した。かなりのスピードだし先制技っぽいな。電気を蓄えてイナズマの調子が上がる。この状況、レッドは交換する場面。じめんタイプは使わないし、ボルトチェンジが安定!

 

「2」

「でんこうせっか」

「突っ張り……んん!?」

 

 “でんこうせっか”……ノーマルタイプ、威力40の先制技。間違っても体力を削るための技ではないはずが、イナズマはひんし寸前のダメージを受けていた。逆にピカチュウへのダメージは半分もない。威力はこっちの方が上なのに!

 

「アカサビ!」

「ばちばちアクセル!」

「2」

 

 先制技であがいてきたか。ならどうせ先手は取れない。ここはおとなしく手持ちに戻してリザードンに繋げられるのは避けておこう。俺は“とんぼがえり”を選択。

 

「きゅうしょか……なんて火力」

「ピカチュウ戦闘不能」

 

 バカなのかこのピカチュウ? 威力がおかしい。とりあえず倒せたのはいいが、なんでレベル70のアカサビがやられかけてんだ。先制技でこれ……アカサビはあと反動3回で倒れる。

 

「ゴゴォォゥ」

「ラプラス!」

 

 “とんぼがえり”でヒリューを展開して“ステルスロック”を狙う。ピカチュウがいなくなった今がチャンスだ。

 

「ステルスロック!」

「れいとうビーム!」

 

 “こおりのつぶて”を意識して先に“ステルスロック”を使った。レッドは撒かれるのは防げないと考えてヒリューを倒すことを優先したようだ。

 

 あいつは“ちょうはつ”とかでチマチマするタイプではなさそうだし、選出も“ステルスロック”はやむなしと考えて攻撃+先制技でヒリューに最低限“ステルスロック”以外はさせないという意図が見える。

 

「こおりのつぶて!」

「戻れ!」

 

 再びアカサビにチェンジ。ポケモンが強過ぎるというのも考えものだな。攻めが単調になっている。

 

「ハイドロポンプ!」

「2」

 

 攻撃はこっちが先に決まりアカサビを戻してヒリューに交代。ラプラスは半分ちょい削った。これならまた“とんぼがえり”で倒せる。

 

「プテラ戦闘不能」

「アカサビ、2」

「しんぴのまもり」

 

 状態異常対策!? やはり先制技持ちはもういないらしい。よくこっちの考えをわかって行動している。

 

 “とんぼがえり”の引き先はイナズマにしようと思っていた。体力は少ないが先制技がなければ“あくび”ができるからだ。全員“まもる”で時間稼ぎできるので確実に1ターン得する。ここまで一瞬で読まれたな。

 

 ラプラスは倒れ際に“しんぴのまもり”をしっかり発動させてから倒れた。

 

「ラプラス戦闘不能!」

「いけっ」

「ガァー」

 

 ユーレイ Lv52 138-85-79-207-76-168    @きあいのタスキ

 

 “しんぴのまもり”は時間経過で消える。ならここは時間稼ぎ狙い。さてレッド、ユーレイにはどう出る?

 

「……」

「シャァァーー」

 

 ブラッキー Lv60 @ゴツゴツメット

 イカサマ おいうち ねがいごと つきのひかり いやしのすず……

 

 あくタイプのブラッキーか。こっちのユーレイを上手く倒せるやつが来たな。しかもブラッキーは“のろい”などで能力を上げられるから時間を稼げばいいという問題ではなくなる。こうなると“しんぴのまもり”が激痛だ。レッドめ、考えたな。

 

 チッ……引きたいのは山々だが俺にはあのブラッキーの“おいうち”が視えている。なんでもわかってしまうのも難儀だな。

 

「7」

「イカサマ」

 

 しっかり攻撃してきたか。“ちょうはつ”も織り込み済みらしい。ここは欲張らずに“みちづれ”だな。ユーレイはしっかりと決めてくれた。

 

「両者戦闘不能!」

 

 相手があとリザードン、ミュウツーと何か。こっちはアカサビとグレンとみゅーあとはイナズマ。まだ不安が残る。おそらく最弱であろうブラッキーとユーレイが相打ちになったのは痛過ぎる。

 

 こっちはアカサビとイナズマが虫の息。対して相手は“ステルスロック”がありリザードンは実質体力が半分。どっちが有利と見るか……まだ微妙なところか。

 

 レッドは次に何を出す? ここで読みを通せば勝負はわからない。

 

 ミュウツーはメタモンの存在を踏まえれば最後に出すのが1番いい。それまでにメタモンを俺が先に出せばダメージを与えられるし、ミュウツーの消耗も避けられる。こいつの性格的にも強いやつは最後に残しそうだ。

 

 つまり残りの何かが来る可能性が高い。そのはずだと頭ではそう思う。だが……

 

 俺の直感は今ここでみゅーを出すべきだと告げている。ならここはあえてそれに従う。

 

「ミュー!!」

「モンモンッ」

「……!」

 

 やっぱり裏をかいてきたな、レッド!

 

 ミュウツーvsミュウツー。決勝にふさわしい最強ポケモン同士の対決。さぁ、舞台は整えてやったぜ? 存分に暴れてくれよ、みゅー!

 

 HPもほぼ同じ。全く互角の能力を持つ2体がぶつかりあう。

 

 ミュウツー Lv70 せっかち  @たつじんのおび

 みゅー   Lv60 おくびょう @せんせいのツメ

 

オリジナル(ミュウ)を基にしたコピーポケモン(ミュウツー)コピーポケモン(ミュウツー)に化けたオリジナル(ミュウ)。なんとも皮肉な巡りあわせ。これじゃどっちが本物なのかわからないな」

「……?」

「レッド、お前ではエスパーポケモンは操りきれない。能力が同じなら俺は負けない」

「何も考えてなかったわけじゃない。シャドーボール!」

「みゅみゅ」

 

 ビュン! 

 

 みゅーは“テレポート”で躱して逆に“シャドーボール”を仕掛けた。ミュウツーはギリギリで避けるがみゅーに比べると余裕がない。

 

 クスクス笑うみゅーと表情を硬くするミュウツー。会場が異様な雰囲気に包まれる中、両者の睨み合いが続く。

 

 俺の立てた作戦は至ってシンプル。とにかく全てみゅーに任せる、ただそれだけ。エスパーの戦い方はみゅーが1番上手い。俺は相手を分析して気づいたことをテレパシーでアドバイスするだけに留める。

 

 ミュウツーはまだ捕まえて日が浅いのだろう。努力値は上限に達していない。ならレッドがミュウツーを使いこなすことはないだろう。

 

「ミュー!!」

「みゅみゅ」

 

 やはり先に動いたのはミュウツーだった。“テレポート”を駆使してフィールド内を縦横無尽に駆け巡る。それに呼応してみゅーも瞬間移動を繰り返した。

 

 互いに攻撃せずただ“テレポート”を繰り返すだけ。どちらも次々とバラバラの場所に移動しているが、俺にはわかる。これは無作為に移動しているのではない。あいつらはエスパーの力を使って相手の動きを読み合っている。

 

 一手先を読めばそれに対応し、二手先を読まれたらさらにその先をゆく。先に予知能力の限界を迎えた方が負けることになる。

 

「ミュ!?」

「みゅふふ」

 

 段々ミュウツーは死角に移動されることが多くなってきた。レッドもそれには気づいたようだ。

 

「なぜ……」

「お前はエスパーについて理解が浅い」

「……どういうことだ」

 

 どうせ今の俺にはやることもない。話に乗ってやろう。わかったところで何かできるわけでもないしな

 

「エスパーの力は誰にでもある。だから潜在能力の大小というのはあまり問題にならない。大事なのはどれだけその力を引き出せるか。同じ姿になった今、ミュウツーが劣勢なのはメタモンよりそれが劣っていた、ただそれだけのこと」

「伝説のエスパーポケモンがメタモンに劣る?」

「見えるものが全てじゃない。自分だけが特別だと思うなよ」

「……なんであんたはエスパーのことがわかる?」

 

 全部みゅーからの受け売りだよ。みゅーには色々教えてもらったし、身近にいればわかることもある。

 

「ん? そういえば言ったことなかったっけ? 俺もエスパーなんだぜ?」

「あんたの冗談はわかりにくい」

 

 本当なんだけどなぁ。

 

「……めいそう!」

「ミュ……」

(レイン?)

(ダメージ優先でいい)

(わかった)

「みゅっ!!」

 

 みゅーは“シャドーボール”でダメージを加算する。あまりダメージにはならないが、それでもこれでいい。圧倒的に劣勢である以上レッドは“めいそう”に頼らざるをえない。

 

「さらにめいそう!」

(じこあんじを使え。それで相手の能力変化をコピーできる)

(あっ、その手があったの! レインさすがね)

 

 みゅーは“じこあんじ”で能力をコピー。これで全く同じ能力に逆戻り。

 

「……! メタモンの自己判断?! いや、それはありえない……テレパシー? あんた伝説ポケモンの技構成を把握してるのか」

「メタモン使いにわからないことはないんだよ」

「……」

 

 どうしたレッド? 声も出ないか?

 

「さぁ、次はどうする?」

「じこさいせい」

「シャドーボール」

「みゅ」

 

 ギリギリ受かっているが“シャドーボール”には追加効果がある。きゅうしょの確率もバカにならない。こちらが完全に有利。

 

「近づいて接近戦だ! 殴り合いに持ち込め!」

「かわせ」

「みゅみゅー」

 

 “ほのおのパンチ”“かみなりパンチ”“れいとうパンチ”……色とりどりの攻撃を仕掛けてくるがみゅーはその全てを軽やかに躱していく。みゅーにはある程度先読みする力があるのだからそんな攻撃では意味がない。レッドはいったい何を考えている? 苦し紛れか?

 

「ミュッ!?」

「今だ! シャドーボール!」

 

 ミュウツーは攻撃が空振りしみゅーに完全に後ろを取られた。これを待っていた。みゅーはやや距離を空けて“シャドーボール”を打つには絶好の距離にいる。ここぞとばかりに畳み掛けた。

 

「ここだ!」

「ミュー!」

「みゅ!?」

 

 ミュウツーは振り向きざまに素早くこちらと同じ“シャドーボール”を繰り出す。互いに相手の攻撃をまともに受ける形になった。こっちだけダメージがかなり割り増しだがきゅうしょという感じではない。とすれば技の効果か。

 

「わざと隙を作ったフリをしたのか。空振りしたのはブラフ……しかも今のは“さきどり”……味な真似を!」

「スピードスター!」

「同じ技だ」

 

 今度は必中技か。あの手この手って感じだな。だが相手もこれで動けない。“シャドーボール”2発に“ステルスロック”で残り体力はもう僅か。こっちも9割弱削れ、お互い能力を上げるヒマはない。もう迂闊に動けない。

 

「シャドーボール!」

(無理せず相手に合わせていけ)

「みゅっ!」

 

 互いに激しく技を撃ち合うが互角の勝負が続く。だがこれでいい。俺の狙いはただ待つこと。その時を辛抱強く待つだけでいい。

 

(レインッ!)

「サイコキネシス!」

「……!」

 

 みゅーの最も得意とする最高の技。それが先制で発動する。相手は躱すことはおろか、満足に受け身もとれず倒れてしまった。

 

「ミュウツー戦闘不能!」

「せんせいのツメ……あんたにはわかったのか、そのタイミングまで。どうやって?」

「だからさ、エスパーだって言ってるだろ?」

「……」

 

 みゅーはミュウとしての力がある時は“せんせいのツメ”の発動タイミングがわかる。ミュウツーになってもこれが同じかどうか確証はないが、俺はできると信じていた。ずいぶん時間はかかってヒヤヒヤさせられたが、やっぱりみゅーはやってくれた。みゅーは珍しく勝利の雄叫びを上げた。

 

「みゅーーっ!!」

「伝説のポケモンは諸刃の剣。お前も重々承知だったはずだ。これで終わりではないよな? 最後にどんなバトルを見せてくれるんだ?」

 

 メタモンを使うことがわかっていた以上、レッドは自分のポケモンが己にキバをむく可能性を考えていたはずだ。

 

 しかもミュウツーを最後でなくわざわざここで出しているんだ。その可能性を考慮してないはずがない。なら、レッドはまだ何かあるはずなんだ。俺の見込んだ通りなら、何か……!

 

 もし、レッドが本物なら、伝説に頼るだけのトレーナーでなければ、まだ俺を楽しませてくれるはず!

 

「……いけっ」

「フィーッ!」

「エーフィか……」

 

 急激に熱が引いていき、落胆と失望が俺の心を支配する。いかにも苦し紛れという感じのポケモン。ミュウツーがいながら同じエスパータイプ、しかもほぼ劣化のエーフィ……どう見ても数合わせだ。

 

 いやでも悟ってしまった。すでにこの勝負は終わってしまったのだ。マスターズリーグ最後の戦いは実にあっけなく終わってしまった。

 

「ひかりのかべ!」

「……シャドーボール」

「みゅっ」

 

 耐えるわけないだろう? 自分のポケモンの力を把握してないのか?

 

「フィィッ!」

「耐えた?」

 

 エーフィ  Lv63 @きあいのハチマキ

 

 確認を怠っていた。壁張りなら“ひかりのねんど”辺りだろうと思っていたがまさか“きあいのタスキ”ですらなく“きあいのハチマキ”の方だったか。

 

 “ステルスロック”がある以上タスキならエーフィは倒れていた。ここまで見越して……? だがあまりに運任せな無謀な戦術であることには変わりない。唯一褒められるのは悪運の強さだけだな。

 

 だが、“ひかりのねんど”なしでも“ひかりのかべ”を使ったのはまぁわかる。エーフィの“シャドーボール”程度では能力の上がったミュウツーには“じこさいせい”で受け切られる。さすがにこいつもミュウツーの能力ぐらいは理解していたということか。

 

 だが、それでも“ひかりのかべ”では結局苦し紛れには変わらない。リザードンは既に“ステルスロック”で死人も同然。最後のポケモンがエーフィだった時点で勝負はついてしまった。決勝戦、このマスターズリーグで最もつまらない勝負だった……。

 

「シャドーボール」

「ねがいごと」

 

 “ねがいごと”……! そうか、最初からこのエーフィはそういう役割か。壁と“ねがいごと”によるリザードンの再生。思えばブラッキーも“ねがいごと”を覚えていた。エース3体とそれを蘇生するカードが2つ。そしてプテラ意識の先制技持ちのラプラス。そういう構成だったのか。

 

「エーフィ戦闘不能」

「よくやった。……これで舞台は整った」

「フン……リザードンはたしかに蘇る。だがミュウツーはすでに能力を2段階上げている。その上こっちは4体のポケモン。いくらレベルが高かろうが所詮リザードンはリザードン。ミュウツーには能力で見劣りする。どうにもならねぇよ」

 

 “ステルスロック”のダメージは“ねがいごと”でほぼチャラになる。だが、仮にリザードンがミュウツーの“サイコブレイク”を壁の効果で耐えたとして、アカサビの“バレットパンチ”まではどうしようもない。さらに奇跡が起きてそれも耐えたとして、まだグレンの攻撃が残っている。

 

 もう終わっている。相手は攻撃するヒマがなく、戦闘不能が約束されている。リザードンがレベル100とかならまだわかるが、ピカチュウ以上ということはあり得ない。ミュウツーも70だった。もう何もない。

 

「あんた、さっきわからないことはないって言ったよな」

「ん? それがどうした?」

「たしかにあんたは伝説のポケモンについてまでよく理解している。おれよりも上手くミュウツーを使いこなした」

「……」

 

 やけにおしゃべりだな。負けを認めて諦めたようには見えない……妙な胸騒ぎがする。

 

「けど、おれは思う。あんたにもわからないことはある」

「根拠は?」

「あんたが今勝利を確信しているからだ」

「……」

 

 やっぱりそうだ。こいつは勝つ気でいる。もう手持ちはリザードンだけ。いったい何がある?

 

「ポケモンバトルに終わりはない……いけっリザードン!」

「バァァウアアァァー!!」

「は!?」

 

 リザードン Lv70 @???

 実 104/208-180-113-223-140-190

 

 なんだこの持ち物欄?! バグか!? なんかおかしい……圧倒的な違和感。こいつ何をするつもりだ?!

 

「おれとリザードンの絆が2つの石の秘めたる力を呼び覚ます」

 

 ……!!

 

 レッドがおもむろにこちらに向けてかざした腕に見慣れない道具がついている。トレーナーの装飾なんて気にもしてなかった。あれはなんだ?!

 

「あんたに見せてやるよ。終わりのないポケモンの進化、その序章だ! 今、リザードンはリザードンを超える!」

「リザードンを超える? まさか今ここでさらに進化するとでも?」

「進化じゃない……進化を超えたその先、いくぞ! メガシンカ!!」

 

 虹色の光に包まれたリザードンはその姿を変え、未知のポケモンへと進化、いやメガシンカしていた。

 

「グルゥゥゥ………」

 

 体は漆黒に変化し蒼い炎を纏っている。外見がまるで変わってしまったが、それ以上に内に秘めた力もパワーアップしたように感じる。威圧感が以前とはまるで別物だ。

 

「進化の先……俺の未知のポケモン! リザードンが進化するなんて……」

「レイン……1つだけ教えてやろうか」

「……なんだ」

「こいつはミュウツーよりも強い」

 

 レッドの自信に満ちた表情……やっぱり俺の見込みは間違ってなかった。レッド、お前って奴はどこまでも俺を楽しませてくれる!

 

 俺はもう全てを終わらせたつもりでいた。チャンピオンになれさえすればもう何もないと、ポケモンを極めることができると、そう思っていた。

 

 信じられない。なんて馬鹿だったんだ。ポケモンってのは殿堂入りしてからが本番。バトルに終わりはない。そんな当たり前のことを忘れてしまっていたようだ。

 

 リザードンを見た時、渇き切った心に熱い情熱が蘇った。まだこんなに知らないものがある。見たことない世界がある。そこに自分が存在する奇跡。

 

 今の俺の状況……絶対の勝利は消え、未知のポケモンにより戦いは五分に戻ってしまった。それなのにこの勝負が楽しくて仕方なくなり、今までで最高の気分になった。

 

「まずは伝説ポケモンにどう立ち向かうのか、お手並み拝見といこうか」

「おれは必ずあんたに勝つ!」

 

 さぁ、このポケモン……どうやって倒してやろうか。

 




<レッド>
ピカチュウ 戦闘不能 @でんきだま
ラプラス  戦闘不能 @とけないこおり
ブラッキー 戦闘不能 @ゴツゴツメット
ミュウツー 戦闘不能 @たつじんのおび
エーフィ  戦闘不能 @きあいのハチマキ
リザードン 残り半分 @リザードナイトX

※ねがいごと
※ステルスロック
※ひかりのかべ

<レイン>
ハッサム  残り僅か @いのちのたま
サンダース 残り僅か @じしゃく
プテラ   戦闘不能 @きあいのタスキ
ゲンガー  戦闘不能 @きあいのタスキ
ミュウ   残り僅か @せんせいのツメ


みんな知ってたメガシンカのお時間です
過半数の人が予想してそうですね

レインは道具確認怠るとか例によってアレなことしてますが、1番のミスはエーフィをすぐに倒したことですね
瞑想、自己再生で起点にしておけばなぁ
これでは迷走してますね()

次は回想を挟んでみます


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5.メガシンカへ至る道

レッド回想その1


 レイン、あんたは強かった。特訓で強くなったピカチュウも、伝説のポケモンも倒してみせた。

 

 やはりおれの思った通り……あんたこそがおれの倒すべき最後の敵。

 

 目の前にいるレインは普段の澄まし顔とは一変している。

 

 口を開けてこんなに驚いた顔……初めて見たな。

 

 ポケモンリーグで負けた悔しさは片時も忘れたことはない。

 

 ただレインに勝つために、そのことだけを考えて決勝まで戦ってきた。

 

 四天王戦まではとにかくピカチュウで勝ち上がりミュウツーとリザードンを伏せておく。

 

 準決勝でミュウツーを解禁し、メタモンのマークをミュウツーに向ける。

 

 そして決勝、メガリザードンであいつの首を取る!

 

 この勝負、リザードンに全てをかけた。あの時見せたこいつの強さを、俺は信じている。

 

 ◆

 

「オレは少しの時間もムダにできねぇし、さっさとナナシマにいくぜ。バイビー」

「……」

 

 ポケモンリーグ……惨敗に終わったおれは大きな変化を求められている。このままでは何回勝負を挑んでも勝てない。

 

 レインは常におれの想像を超えてくる。ならおれはさらにその上をゆく。

 

 限界を超えてポケモンを鍛えるには普通の場所では足りない。

 

 噂に聞くあの場所へ……それしか勝つ可能性はない。勝つためなら命も惜しくない。

 

「リザードン」

「ボォォォ!!」

「いくぞ!」

 

 マスターズリーグの受付を済ませ、“そらをとぶ”でハナダシティに向かった。すぐに目的の場所へ到着。一般人は立ち入りを禁止されているハナダのどうくつへやってきた。

 

 以前この町に来たときは通行止めされておとなしく諦めた。だが今のおれには力がある。多少の危険を冒してでも中に入る価値はある。

 

 リーグのトレーナーでも危険過ぎるという最強の野生ポケモン達……どれほどのものか見極めてやる。

 

「……」

 

 どうくつの入り口には何重にも防護柵のようなものがあり人はもちろんポケモンも間違って入ることのないようにしてあった。とんでもなく厳重なバリケードだ。

 

 この辺りのポケモンは弱いし、すきこのんで中に入ろうとするポケモンもいないはずだが、ここまで厳重にする必要があるのか?

 

 厄介なのは入り口の周りをうろついている門番。あれさえなんとかすれば空から侵入できる。

 

「でてこい」

「フィフィーー」

「フリィィ~」

「エーフィ、バタフリー、いいか、これから言うことをよく聞いてくれ」

 

 まずバタフリーを門番の上に飛ばせて上空に注意を向ける。

 

「ん? バタフリー……こんなところで珍しいな」

 

 次にエーフィの“ねんりき”で遠くのくさむらを揺らし、ついでにエーフィの鳴き声を出して複数個所に警戒を分散させる。

 

 ガサガサッ

 

「フィフィ~~」

「野生のポケモンか? こっちからも聞いたことのない鳴き声……1度にくると面倒だな。先にポケじゃらしを撒いておくか」

 

 仕上げは上空からの“ねむりごな”。すでにただのバタフリーへの注意はゼロのはず。

 

「ん? んぐぅぅ……」

 

 眠りに堕ちたか。

 

「よし、戻ってこい」

「フィーフィー」

「フリィィ」

 

 甘える2匹の頭を撫でてやり、モンスターボールに戻した。

 

 どうくつの中は薄暗いが明かりが必要なほどではなさそうだ。先へ進んだ。

 

「ゴーゴー」

「……」

 

 野生のポケモンが飛び出してきた。ゴーリキーとゴルバット、レベルは共に46か。まずは歓迎の挨拶ってところか。

 

「ピカチュウ、10まんボルト! エーフィ、サイコキネシス!」

 

 各々弱点をついて一撃で倒した。この辺りはまだ余裕。だが最奥までどれほどの道のりかわからない。慎重にいくべきか。

 

「エーフィ戻れ」

「――」

「?」

「ピィカ!」

 

 なんだ? 音はしなかった。……超音波? 

 

「――!!」

 

 ゴルバットの群れ! 仲間を呼んだのか!

 

「ほうでん!」

「ピッカ!」

 

 何割かは倒せ、何割かは痺れた。だがそれでもかなりの数が攻撃を耐えきりこちらに襲いかかってきた。

 

「全員攻撃したせいで的になってしまったか。……出てこいバタフリー、ねむりごなをばらまけ! ピカチュウ、逃げるぞ」

「ピィィカッ!?」

「回り込まれた……」

 

 数が多過ぎる。ゴルバットに囲まれたか。こいつらやたらとしつこくおれ達を狙ってくる。

 

 ノッケから大ピンチだな。さすがにこんな入口付近からいきなり総力戦はできない。

 

 門番に気づかれても不味いしおれ達の体力も浪費したくない。どうする? 必死に辺りを見渡す。

 

「あれは……みず?」

 

 どうくつ内に水場があるようだ。入口近くに水場があったのはツイてる。これを使う!

 

「ピカチュウ、おれに向かってたたきつける!」

「ピッカ!」

 

 狙い通りピカチュウはおれをみずのある方へ叩き飛ばした。空中を飛びながらボールを出してピカチュウを戻し、勢いに身を任せて水中へダイブした。

 

 ひとまず難を逃れたが水中にもポケモンがいたようだ。新手がやって来た。ゴルダックレベル44

 

「ゴーッダーッ」

「……!」

 

 ラプラスを水中に繰り出し反撃。指示を出せないおれに代わり自己判断で攻撃した。

 

「ラァァー」

「ゴダッ!? ゴォォ~?」

 

 “みずのはどう”が命中。混乱したようだ。

 

 相手をせずラプラスにつかまって先を急いだ。

 

 水面にあがり、陸へ降りた。その先にもやはりポケモンが待っていた。

 

 おれを見るや否や即戦闘を仕掛けてきた。

 

「パーラセクッ」

「ジリリ……」

「ナンスッ!」

 

 パラセクト49、レアコイル49、ソーナンス55……おかしな組み合わせだな。なんでこんなポケモン達が洞窟にいる?

 

 3体同時だがソーナンスの“かげふみ”で逃げれない。やるしかないか。

 

「ラプラスれいとうビーム! リザードンかえんほうしゃ! バタフリーねむりごな!」

 

 パラセクトが“れいとうビーム”を耐えて“キノコのほうし”を使ってきたが後は無力化した。

 

 ソーナンスはダメージさえ与えなければ怖くない。

 

 眠ったラプラスを戻してピカチュウに交代し総攻撃。なんなく勝利した。

 

「ラプラスは起こしておくか。……起きろ!」

「ラッ!?」

 

 レベルも上がった。ここなら修行場として申し分ない。それに奥にいくほどまだ強くなりそうだ。

 

 さっそく奥に……いや、速く先へ進みたいがまずはこの階層で地力をつけるべきか。

 

 どこか拠点を探して一度落ち着こう。

 

 ◆

 

 しばらくの間はレベルの底上げに時間を費やし、さらに奥へと進んでいった。いよいよ最下層とおぼしき場所についた。

 

「シェェェイ」

「……リザードン、かえんほうしゃ!」

 

 ユンゲラーレベル67か。レベルアップしたピカチュウよりもさらにレベルが高い。最初の攻撃は完全に相殺された。威力は同じ……なら今度は本体を狙う!

 

「グゥゥ……シェェェイ!!」

 

 反撃の“サイコキネシス”……リザードンは紙一重で耐えた。

 

「ブラストバーン!」

「シェェェ……」

 

 トドメをさしてなんとか勝った。さすがにバトル続きで疲労が蓄積し過ぎている。技にもキレがない。

 

 どういうわけかここのポケモンはやたらと凶暴だ。こっちの気配を感じるとどこからでも襲い掛かってくる。

 

 連戦による疲労は大きい。一度出直してくるべきか? いや、往復の時間がムダか。

 

 強くなるためには限界を超えてこそ意味がある……さらに戦うか。

 

 回復道具には限りがあるのでダメージは構わず先へ進んだ。どうくつの最深部、大きな湖に孤島を見つけた。

 

「何かいる……?」

 

 ラプラスに乗って進んでゆくにつれ、そのポケモンの姿がはっきりと映る。見たことのないポケモン。これは……

 

(こっちへこい……)

 

 頭の中に直接語りかける声、瞬間感じる凄まじいプレッシャー。なるほど、こいつがここの主か。

 

 ただ者ではない。これまで相対してきた猛者達と変わらぬ手応え。傷ついた状態で戦うのは危険か?

 

 ドバァァァァンンンン!!

 

 撤退を意識したタイミングで後方に水柱。退路を断たれた。もう進むしかない。

 

 相手は孤島の中央にて悠然とおれを待ち構えている。さっきの水柱を見るにエスパータイプ。それも伝説級。

 

 ゆっくりと中央へ向かって歩いて行くと、突然体が動かせなくなり中央のポケモンのいる方へ吸い寄せられた。

 

「ぐっ!?」

「ミュー」

 

 受け身も取れず堅い地面に投げ出され、無防備になったおれに“スピードスター”による攻撃が飛んできた。必中攻撃! 耐えるしかないか!?

 

「ピッカ!」

 

 ボールから出てきたピカチュウが“たたきつける”で“スピードスター”を弾いて相殺した。ナイス! このまま畳み掛ける!

 

「ねむりごな、ひかりのかべ、10まんボルト!」

 

 バタフリー、エーフィ、ピカチュウを繰り出し先手をとった。伝説のポケモンは慌てるでもなくじっと“しんぴのまもり”を使いこちらの出方を窺っていた。

 

 バチバチッ!

 

 “10まんボルト”がクリーンヒットするがあまり効いていない。それどころか笑みを浮かべている。少しは楽しめそうだとでも言いたげな表情だ。

 

「むしのさざめき! シャドーボール! ボルテッカー!」

 

 ビュン!

 

 こちらの攻撃は寸分違わず敵のいた場所で交差するが、敵は一瞬で移動しこちらの背後をとられた。

 

「ミューーッ」

「ビカッ……チャアァァ」

「ピカチュウ……!」

 

 一撃でやられた。たぶん“ひかりのかべ”は適用されている。なんて威力だ。

 

「のしかかり! シャドーボール!」

「カンビ!」

 

 ミュウツーの頭上からカビゴンを投入。決まれば大ダメージは必至だが“サイコキネシス”に阻まれた。

 

「フリッ!?」

 

 軌道を変えられカビゴンはバタフリーの上に落ちた。下敷きのバタフリーに意識はない。

 

 “シャドーボール”は命中したが気にするそぶりもない。攻守に隙が無い。

 

「戻れバタフリー! エーフィ、こっちでまもる! カビゴンじばく!」

 

 おれもエーフィの傍に駆け寄りカビゴンの“じばく”で相打ちを狙った。カビゴンは遅すぎてまともに攻撃してもダメージは通せないだろう。これしかない。

 

「カンビッ!」

 

 ドカン!

 

「……いない?」

 

 爆発の後には伝説ポケモンの影も形もない。吹き飛んだか?

 

「フィーッ!」

「……上か!」

 

 エーフィの声でようやく気づいた。やつは“ねんりき”で逆さになり天井に張り付いている。

 

 しかも“シャドーボール”と“10まんボルト”による傷が高速で治っていく。“じこさいせい”が使えるのか!

 

「ミュ……」

「今度は後ろ!?」

「フィッ!!」

 

 エーフィがいきなり吹っ飛んだ。相手の“シャドーボール”か! 一瞬で移動して、かつ壁越しに一撃で倒せるほどの攻撃を……強過ぎる。

 

「かえんほうしゃ! れいとうビーム!」

 

 右手にリザードン、左手にラプラスを繰り出す。

 

 両サイドから挟み撃ちにしたが今度は“ねんりき”で軌道を曲げられお互いの技で同士討ちになった。

 

「フレアドライブ!」

 

 ここにきて遠距離攻撃ではダメだと悟り、近距離から攻めた。

 

 バシッ!

 

 なんと敵は真っ向から受け止めて反撃してきた。

 

「ミュ……」

 

 これはピカチュウを倒した時と同じ技。“サイコキネシス”に似ているが決定的に何か違う。見たことない技だ。

 

「グルゥゥゥ」

 

 リザードンは岩に叩きつけられ完全に気を失った。

 

 今の“フレアドライブ”は“もうか”が発動していた。最初からダメージがあったからだ。生半可な威力ではなかったはずなのに……だが、余裕を見せたこの攻防が命取りになる。

 

 リザードンは……囮だ!

 

「ラッ!」

 

 ピキピキピキ……

 

「終わりだ!」

 

 “ぜったいれいど”命中……一撃必殺!

 

(そのような小細工は通じぬ)

 

「……!」

 

 氷漬けにされた敵が出てきた! 一撃必殺でも勝てない……これでは万事休すか!

 

「ハイドロポンプ!」

 

 ……避けない!?

 

 最後のあがきだったが、敵は微動だにしない。技を使う気配もない……!!

 

「……回復している!? まさかずっと! 勝手に再生する能力があるのか?!」

 

 ようやく理解した。おれのポケモンではサシで致命傷に至る攻撃は不可能だ。

 

 だから“ハイドロポンプ”を避けないのか。圧倒的な力の差……気づくのが遅過ぎた!

 

 ラプラスをボールに戻す。もう逃げることもできない。逃げるつもりもない。

 

 どうせ死ぬなら背は向けない。おれは前のめりに倒れて死ぬ!

 

(力が足りぬ……出直してこい)

 

 一瞬激しい痛みを感じ、そこで意識が途絶えた。

 

 ◆

 

「起きて! 起きてください!」

「……」

 

 河原……ここはどこだ? なぜこんなところに?

 

「やっと起きた! あなたレッドさんよね? どうしてこんなところで寝っ転がっていたの? 真冬だよ? 私が通りかからなかったら風邪引いてますよー」

「……誰?」

「うっ……私はあなたがカスミに挑戦した時に審判してた女の子ですぅ!」

「あぁ……なぜこんなところに?」

 

 覚えてはないが黙っていよう。

 

「暖かい季節はここらで特訓したりもするんだけどね、今回は別件よ。どうやらハナダのどうくつで異変が起きているようで、様子を見てこいってカスミに言われたの。わたしがこの辺によく来ていることがバレてたみたいで……。リーグの関係者まで来るしなんか色々やらされて大変だったわ」

「そうか」

 

 異変……おれのせいか。さすがに門番を眠らせて入ったのは強引過ぎたか。侵入したことがバレていたかもしれない。

 

 ここにはおそらくあのポケモンに飛ばされたのだろうが、逆にラッキーだったな。門番の目を掻い潜って外に出られた。

 

 すぐにリベンジしたいのは山々だが、今のままでは力不足。レベルはあの洞窟以外では上げられないし、技を磨くしかないか。

 

 あとはあのポケモンの情報……丁度いい、この子に聞こう。情報はとにかく人から話を聞いて回るのが1番いい。

 

「洞窟のポケモンについて何か知っているか?」

「えっ、私が? さすがに知らないわ。とっても狂暴らしいけど、その生態はあまり知られていないの。入る人がいないからね。入った人も帰ってこないし……」

「誰なら知っている?」

「うーん。そう言われてもなぁ……あ、リーグ関係者と一緒に様子を見に来たおじいちゃんはなんか訳知り顔だったわね。ここに詳しいから呼ばれたのなら納得だし」

 

 有力そうだな。今はその人物にかけるしかない。

 

「誰だ? 名前は?」

「名前は忘れちゃったかな……博士とか言ってたような……頭ツルツルで、眉が太いおじいちゃん。とっても優しそうな人だったわ」

「……フジ?」

「あっ! そうそう、そういえばフジ博士って言ってた!」

 

 あの人か。博士ってことは昔に研究者とかだったのか?

 

 他に手掛かりはない。一度行ってみよう。

 

「おれはその人に会いに行く」

「あ、ちょっと! いっちゃうの!?」

 

 そういえばリザードンはひんしか。歩いてまずはポケセンに……ん? ここはどこだ??

 

 歩き出した足を止めて女の子の方に向き直った。情報は人に聞くのが基本。

 

「ポケセンはどこだ?」

「……バカ」

 

 呆れられたが丁寧にポケモンセンターまで案内してくれた。

 




レッド、無事護送される()

本編の味付けが薄いということで外伝っぽいのを入れてみました
こういう話を今後も続けるかは様子をみながら考えます

次はミュウツーに関する設定をしゃべる回です
もちろんいわゆる独自設定ですけどね

最新作でポケモン屋敷の地下にミュウツーの実験施設があったり、初代女主人公の名前がブルーだったりでそんなに的外れではなかったので調子に乗ってます

ブルーについてはリーフにしなかったことを内心結構気にしてましたが今は心置きなく呼んであげれますね



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6.強さを求める者

レッド回想その2


 フジ博士がポケモンハウスのフジ老人だと当たりをつけ、シオンタウンにやってきた。フジ老人はおれのことを覚えていた。

 

「レッド君じゃないか! マスターズリーグ進出おめでとう!」

「どうも」

「君は今大事な時期じゃないのかい? こんなところへなんのようかな?」

「おれはあなたに用があったんだ……フジ博士」

「!」

 

 この一言で全て悟ったようで、自分から話を進めてくれた。

 

「その名でわしのもとを訪ねる者が聞くことは1つしかない。あのポケモンについて知りたいことがあるのだな?」

「おれはハナダのどうくつで見たことのないポケモンに遭遇した。フジ博士は何か知っているんだな?」

 

 フジ博士は大げさなリアクションを取って驚いた。

 

「なんとっ! まさか騒ぎの原因は君か! 道理で洞窟のポケモン達がおかしくなるわけだ。またミュウツーが暴れたな? ということは、君は惨敗したのだろう? よく生きて戻ってこられたものだ」

「ミュウツー……それが奴の名か」

「わしが名付けた呼び名だ。幻のポケモンにあやかってな。そっちも名付け親は私だが」

 

 話が見えないな……。

 

「おれには何のことか全然わからない。迷惑をかけたことは謝る。1から説明してくれ」

「ふぅ……。君の話、本当であるならば罪に問われるべき案件だ。しかし君には大きな恩があるからね。わしが君のことは伏せて上手く処理しておこう」

「……助かる」

 

 軽く頭を下げた。

 

「単身ロケット団と戦うような君のことだ。止められてやめるような性格はしていないだろう? わしも男だ、野暮なことはせん。さて、1から知りたいんだったね。ゆっくり説明しようか」

「お願いします」

 

 フジ博士はミュウツーについて説明を始めた。奴を倒す手がかりが見つかればいいが……。

 

「あれは研究によって人工的に作られたポケモンでね。わしがその研究のチーフだった。実験は成功し、目的通り強力なポケモンが誕生したが、それは我々には手の余る強さと凶暴性を秘めていた。私以外の職員は死んでしまったよ」

「1人だけ生き残ったってことはミュウツーを止める術があったのか?」

 

 いきなり活路が見えたか?

 

「非力な人間であるわしにそんなものはない。ただ幻のポケモンのきまぐれで助かったのさ。ミュウツーはオリジナルになるポケモンがいてね。そのポケモンはわしを助け、本能のままに暴れるミュウツーをも倒してしまった」

「……」

 

 あれを倒すポケモン……幻のポケモンか。どんなポケモンなんだ。

 

「わしはそれで気づいたのだよ。自分は生かされているに過ぎなかったのだと。生かすも殺すもきまぐれ次第。人がポケモンを支配し、ましてや創造することなど以ての外。勘違いも甚だしい。酷く愚かな行いだった」

「……」

 

 普段の性格からは想像できない、吐き捨てるような言い方だった。これだけで自分の過去をどれだけ悔いているのかは十分察せられた。

 

「多くの犠牲を払い、人が生きるには力でなく愛に頼るべきだとようやく悟った。力に頼るものは力により滅ぶ。わしにできるのは幻のポケモンへの感謝を忘れずこうして受けた恩を別のポケモンに返すこと。それが私にできる最善の行動なのだよ」

「だからこのポケモンハウスを……あなたの底なしの博愛は、己の失敗があってこそのものだったのか」

「人とは失敗からしか学べないのだよ。それはあのポケモンから見れば酷く愚かに見えたのだろう。……すまないね。少し余計なことをしゃべってしまった」

 

 フジ博士の言葉には重みがあった。死人が出たんだ、きっと壮絶な体験をしたに違いない。

 

 おそらくその幻のポケモンとも何かあったのだろう。それに……妙に幻のポケモンに対してコンプレックスがあるように思える。気のせいか?

 

 ……今はどうでもいいか。

 

「構わない。幻というのはどういう意味だ?」

「これは便宜的なポケモンの分類だ。ポケモンの強さについて研究する過程で我々は特別な呼び方を設けるようにした。極めて希少かつ強い力を持ったポケモンを伝説のポケモン、そしてそれ以上に希少なポケモンを幻のポケモンと呼んだ」

「明確な基準は?」

「これは難しいものでね。ポケモンの強さを測ることは難しいし、個体差もある。一般のポケモンにもカイリューのような伝説級の力を示すポケモンも存在する。そもそも伝説クラスはサンプル数が少ないから十分なデータもない。そこで私はその生態に注目した」

「生態? 住んでいる場所とかそういうことか?」

「正確には住み着いた場所の環境だ。伝説のポケモンには共通の特徴があった。住み着いた場所を自分にとって都合の良い環境に変えてしまうのだ。強力な力があってこそなせる所業だ」

「天候を変えるポケモンなどもいるが、あれも?」

「そんな一時的なものではない。それにもっと劇的だ。例えばサンダーというポケモンなら周りを自分のタイプと同じでんきで充満した環境に変えてしまう。その結果でんきタイプの技は威力が倍増する。さらにそこにいるだけで自動的に体力を回復することも確認されている」

「……! ミュウツーもそうだった。勝手に回復していた。それに特定の……エスパータイプの技は威力がケタ違いだった」

 

 思わぬところから有力な情報。少しずつわかってきた。

 

「そうか。やはりミュウツーは伝説のポケモンと呼ぶべき存在になっているようだな。今までもそうだろうとは推測されていたが、これではっきりした」

「じゃあ幻のポケモンは?」

「わからん。そもそもあれは未知の存在だ。幻というのはあるいみ謎多きポケモンに対する称号でもある。わしでは測りきれなかった……。幻のポケモンの謎は直接本人に尋ねる以外知るすべはないだろう。人間相手に親切にしゃべってはくれんだろうが」

「……」

 

 意思疎通ができ、かつ友好的な関係になれないとダメなのか。現実的ではない想定だな。

 

「さっきミュウツーは幻のポケモンに負けたと言っただろう? それはミュウツーにとって途方もなくショックな出来事だったようでね。おそらく力で屈したことは人工ポケモンにとっては己の存在意義を揺さぶられるほどの衝撃なのだろう。ミュウツーはとにかく強さを求めるようになった。そして最強のポケモンになるためひたすらに戦いを求めた。そんなミュウツーが辿り着いたのが君の行ったハナダのどうくつだ。それからだ、あの洞窟が凶暴なポケモンで溢れかえるようになったのは」

「元々違ったのか?」

「今じゃ知る者は少ない。最初はレベルも40前後、飛びぬけて高いわけではなかった。しかしミュウツーが来てから恐ろしい場所に変わってしまった」

「どういうことだ?」

 

 話がしっかり繋がってこない。

 

「ミュウツーは我々の研究成果を持ち帰ったようで、その洞窟で実験を続けていたのだ」

「どういうことだ?」

「なんと言えば良いか……蟲毒という言葉はわかるかね?」

「いや……」

「何種類もの蟲を集め一ヶ所に留めこれらを競わせる。その中で勝ち残った者が最も強い毒を持つ。古来よりある呪術の1つだ」

 

 弱肉強食による自然淘汰を繰り返し強い者を残すという感じか? まぁ要するに……

 

「……厳選か。つまりあの洞窟で行われているのは強者の厳選!」

「そういうことだ。それに我々の研究結果も取り入れ、“はかいのいでんし”がポケモンに組み込まれているようなんだよ」

「……?」

「簡単に言えばポケモンが狂暴かつ強くなるように遺伝子操作されている。その結果、長い年月をかけ、より強いポケモンだけが生き残り、そして戦いに明け暮れる日々の中でポケモンのレベルは底なしに上がっていった」

「なぜそんなことを?」

「わからんか? 自分に匹敵するような強敵を探しておるのだ。あれは戦いに飢えている。負けたくないから強くなりたいのだ。そのためにあの洞窟には様々なポケモンが連れてこられた。おかしなポケモンがいただろう?」

「……いた。でんきタイプやくさタイプも生息していた」

 

 レアコイルやパラセクト、果てはユンゲラーなども……あれらは全て蟲毒の一環だったのか。

 

「ミュウツーが連れてきたポケモンの生き残りだろうな。あの洞窟はまさしく蟲毒。あそこには狂暴で素質があり高レベルなポケモンしか住めなくなってしまった。そのポケモン達ですらミュウツーには恐れを抱いておる」

「そういえばあの孤島には他のポケモンがいなかったな……」

 

 あの時はいきなりバトルが始まって気にする余裕はなかったが、おそらくあそこが伝説ポケモンの空間だったのだろう。そこでは無類の強さを誇るわけか。

 

「最近は比較的落ち着いておるが、ふとした拍子に破壊衝動に駆られ洞窟のポケモンに片っ端から攻撃を仕掛けることがある。そうなると内部から凶暴なポケモンが表の世界へ溢れてくる」

「まさかあの厳重な警備はその抑止? 外からでなく内からの脅威を見越して」

 

 あの過剰とも思えた設備はそういうことか。

 

 だがフジ博士は首を振って話を続けた。

 

「本来はあの程度の設備でどうにかなるものではない。あの中のポケモンが一斉に飛び出せば抑えは効かん。一瞬でハナダの町など無に帰す」

「……まずくないか?」

 

 なぜこんなに平然としている?

 

「人間不思議なものでな。目の前に脅威が迫っていても直接自分の瞳に映らぬものには危機感を抱きにくい。ましてや今までずっと安全な日々が続いていたのだから、これからも大丈夫だろうと思ってしまうのだよ。君は呑気な話だと思うかい?」

「……」

 

 フジ博士1人がいくら警鐘を鳴らそうとも、来るかもわからない脅威のために備えをしようとは思わないのだろうな。

 

 おそらくこの人はすでに警告し、説得を試みたのだろう。そして諦めた。だからこんな言い方をするんだろう。

 

 だから研究者をやめた今でもハナダの洞窟に関することだけは協力を惜しまないのかもしれない。

 

 だとするとあの町は大丈夫なのか?

 

「そう案ずるな、大丈夫だ。いざとなればジムリーダーがいる。あの町にみずタイプの使い手が選ばれたのは抑止力として期待されているからだ。洞窟の周りに川があるだろう? あれは人工的に引かれた川だ。ポケモンの進軍を留め、みずポケモンで迎撃するための最後の砦になっている」

 

 ……!

 

「そういうことだったのか。それもあんたの進言か?」

「せめてもの罪滅ぼしだよ」

「……今回ミュウツーが暴れたのはなぜだ?」

「お前との戦いが物足りなかったのだ。一度戦い始めると収まりがつかなくなる。だから普段はじっとめいそうしておるのだ。お前が侵入したことでその集中が途切れたのだろう。そういえば君はどうやって逃げ帰った?」

「わからない。たぶんミュウツーにテレポートで外に飛ばされた」

「自力で逃げたわけではないのか! ふむ、だとすると案外お主との勝負を楽しんだのかもしれんな。ミュウツーは容赦などしない。気に入らなければ殺していただろう。あそこで死んだ者は数知れん。今回暴れたのは興奮を抑えるためか?」

 

 フジ博士が思案するがおれにはわかる。あの時の“声”……きっと空耳なんかじゃない。

 

「おれとの再戦を待っているんだ」

「再戦? なぜそう思う?」

「立ち去れとも、二度と来るなとも言わなかった。最後……出直してこいと言った。強くなったおれと再戦したいんだ」

「テレパシーを聴いたのか! レッド君……やはり君は只者ではないな。あのミュウツーに認められたトレーナーは初めて見た。ミュウツーは今や落ち着きを覚え、精神はある程度成熟し安定している。君ならミュウツーを従えることもできるかもしれない」

「……」

「もちろん死ぬ可能性もある。次こそは君を殺すかもしれん。全てを知った今、君はどうする?」

 

 死にそうなことなんてこれまでだって何度でもあった。選択肢は最初から1つしかない。

 

 あのポケモンを倒して強くなるためなら自分の命ぐらい喜んで賭けてやる。

 

「おれはあのポケモンに勝つためにここへ来た。仮に止められても行くつもりだ」

「勝機はあるのか?」

「……まだない。何か弱点を知らないか?」

「あれは強過ぎて親である私にも測りかねる。弱点はわからない。だが、君を強くしてあげることはできる」

「強く……?」

「君はピカチュウを相棒にしておるだろう。少し私に預けてくれるか? 必ず強くしてみせよう」

「……お願いします」

「任せてくれ」

 

 ◆

 

 ミュウツーを倒す策を考えながら待つことしばらく、どこかへ行っていたフジ博士が戻ってきた。

 

「完成だ。私の研究も少しは人の役に立てたよ。とっておきの技を教えておいた。思う存分使ってくれ。技名は特に決めていない。好きに決めるといい」

「ピカチュウ、見せてくれ」

「ピカピカッ」

 

 これは……! 

 

 パワーも底上げされている。心強い。

 

 ピカチュウの強化が完了し、洞窟へ向かう時がきた。

 

「待ってくれ! もう1つ渡すものがある」

「……これは?」

 

 フジ博士から渡されたのは2つの石。見たことないアイテムだ。

 

「これはメガストーンと言ってな。トレーナーの持つキーストーン……こっちの石に反応してポケモンをメガシンカさせる」

「メガシンカ?」

「詳しいことはまだわしにもわからん。謎の多い分野なのだ。1つ言えるのは、メガシンカは誰でもできるものではないし、カギとなる条件もあるようだ」

「条件……」

「わしは君なら使いこなせると信じておる。一度試してみなさい。君が本当にミュウツーを凌ぐようなトレーナーならば、リザードンは君に応えメガシンカを果たすだろう」

 

 メガストーンをリザードンに持たせ、自分もキーストーンを身に着けた。

 

「リザードン、メガシンカ……!」

「おおっ! 成功じゃ! いきなり上手くいくとは!!」

 

 眩い光に包まれリザードンの姿が変わっていく。

 

 この姿は……!?

 

「これがメガリザードンだよ。変わったのは見た目だけではない。能力も飛躍的に上昇しているはずだ。やはり君には素質があったな。メガシンカの力は君のものだ」

「これがメガシンカ……」

「ハナダのどうくつにあるゲートは通れるようにしておいた。あぁ、あとマスターズリーグでもメガシンカを使えるように話は通しておくから、どんどん使って実戦に慣れておくといい」

「恩に着る。ありがとうございます」

 

 グズグズしてる時間はない。今度こそミュウツーを倒す!

 

 ◆

 

「……」

「なんだ君は? ここは立ち入り禁止だ」

 

 おれはメガストーンを受け取り、再びハナダのどうくつへ戻ってきた。

 

「フジ博士から話は聞いているはずだが」

「君が!? まだ子供じゃないか!」

「強さと年齢は関係ない」

 

 門番を押しのけて中に入ると、さっそくお出迎えが来た。

 

「――!!」

「ばちばちアクセル!」

「ピッカ!」

 

 ゴルバット……こいつは鳴き声を出さないように思えるが、実は人間に聞こえない音域の音波を出している。仲間を呼ばれる前に完全に気絶させた。

 

「ゴーゴー」

「サイコキネシス!」

 

 今度はゴーリキー。次から次へと……たしかに普通より狂暴だ。だがおれ達の障害にはならない。

 

「シェェェイ」

「肩慣らしだ。リザードン、メガシンカ! かえんほうしゃ!」

 

 現れたユンゲラーの攻撃を“かえんほうしゃ”で相殺し、さらに貫通してダメージを与えた。前より強くなっている。

 

「フレアドライブ!」

「シェェェ……」

 

 今度はさっき以上の威力! 接近戦の方が得意になっている。これをメインにして戦う方がいいか。

 

 格段に強くなったおれ達はあっというまに最奥まで辿り着いた。

 

「ピッカ」

「ああ。来たな」

 

 あの孤島へと続く湖。前はラプラスに乗って先手を取られた。今度は空から攻める。回復道具を使い万全の状態にしてリザードンに乗り込んだ。

 

(臆さずに戻ってきたか)

 

 見えた! 今度は前とは違う。こっちから先手を取る!

 

「ミュー!!」

 

 降り注ぐ超能力攻撃を右へ左へと旋回して掻い潜り、至近距離まで近づいた!

 

「フレアドライブ!」

 

 自分はジャンプして飛び降り、リザードンは突っ込んだ。

 

「ミュ」

 

 ミュウツーも攻撃して応戦、やや力負けしている。だが足は止めれた。

 

「ピカピカッ!」

 

 俺が言う前にピカチュウがボールから飛び出し“ボルテッカー”を繰り出した。ミュウツーはまともに受けたな。

 

「みゅぐっ!?」

「ここだ、リザードン、メガシンカ!!」

 

 体が黒く変化し蒼い炎を纏った。

 

「りゅうのまい!」

「ミュー」

「ブラッキー!」

 

 相手の攻撃はブラッキーを盾にして防いだ。いかに強力なエスパー技でもあくタイプがいれば怖くない。

 

 これでリザードンは最強のポケモンへと変わった。手負いのミュウツーを倒すには十分過ぎる。

 

「フレアドライブ!」

「ミュー!!」

 

 敵の攻撃を貫通! ミュウツーは岩盤に叩きつけられた。

 

 圧倒的……これがメガシンカか。

 

「ミュー!!」

「まもる」

 

 “テレポート”で死角を突いてリザードンを狙ってきたがそれは読んでいる。“まもる”でガードし、攻撃中のミュウツーにピカチュウとブラッキーで反撃した。

 

「くろいまなざし、ばちばちアクセル!」

 

 “くろいまなざし”でテレポートを封殺、さらにピカチュウの新技が炸裂した。

 

「みゅぐっ……」

 

 膝をついた。だがこの瞬間も回復し続けている。生半可な攻撃では決定打に至らない。

 

「ねこだまし!」

「エッビー」

「ミュ!?」

 

 ナイスアシスト! ここで決めろ!

 

「全力のフレアドライブ!」

「バァァウアアーー!!」

 

 蒼い炎を纏った強烈な突進攻撃が身動きできないミュウツーにクリーンヒットした。勝負あった!

 

「ピッカ!」

「焦るな。まだゲットはできない」

 

 ここで気を緩めては全て水の泡だ。この場所ではミュウツーはすぐに回復するからまだボールで捕まえることはできない。なら奴の抵抗する気が失せるまで何度でも倒す!

 

「でんじは! かえんほうしゃ! あくのはどう! シャドーボール! ハイドロポンプ! エビワラーは戻れ!」

「ミュー!? ミュミュー!?」

「お前はバトルが好きなんだろ? いつまでもつきあってやる」

「ミュ……!」

 

 ◆

 

 コンコンッ

 

「フジ博士」

 

 戦果を見せるためポケモンハウスの扉を叩いた。フジ博士はすぐに出てきた。

 

「レッド君!? やはり帰ってきたか! ミュウツーは!?」

「……」

 

 ポンッ

 

 黙ってボールを投げた。

 

「ミュー」

「捕獲できたのか!? たまげた……」

 

 ボールから出たミュウツーはフジ博士に対し険しい表情を崩さない。

 

「ずいぶんと嫌われているな」

「仕方のないことだ。まさか再びこの目でお前を見る時が来るとはな、ミュウツー」

「こいつ、俺の手持ちにしても構わないか?」

「今のミュウツーからは破滅的な雰囲気が消えている。わしには完全にレッド君に従っているように思えるな。いったい何をすればここまで従順になるのか……君はいつもわしの想像などたやすく超えていくな」

「……」

 

 さすがにバトルの過程は言えない。黙っていよう。

 

「よろしい。ミュウツーは君のものだ。大事にしてやってくれ。おっと、そういえば大切なことを言い忘れていた。レッドくん、実はわしへ連絡があってな。今年はすでにトーナメント表が発表されているらしい。見に行ってはどうだい?」

「そうする。何から何までありがとうございます」

「頑張りなさい。応援させてもらうよ」

 

 頷いてポケモンハウスをあとにした。

 

 いよいよマスターズリーグが近づいてきたな。

 

 念には念を入れて、切り札はギリギリまで隠しておこう。対策を考えるのが好きな人間もいるからな。

 

 おれは必ず……

 

「あんたに勝つ!」

 




これで回想終わりです
みゅーについても絡めながらミュウツーについてあれこれ書いてみました
ミュウツーの倒し方が例によって数の暴力ですがそれはおおめにみてください


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7.絶無の勝ち筋 無限の勇気

決勝ラスト!

※レッドとレインがどんな技を使うか予想しながら読んでみよう!


 メガシンカしたリザードン……さしずめメガリザードンとでも呼んでおくか。いつまでも見とれているわけにはいかない。俺は勝つために勝負をしているんだ!

 

 今俺がすべきことはアナライズであいつを見極めること!

 

 アナライズ……!? 

 

 ??? @???

 実数値 xx-xx-xx-xx-xx-xx

 

 アホたれっ!!

 

 仕方ない。幸いみゅーはオートで戦える。メガリザードンの能力は俺自身が見極める!

 

(みゅー、しばらくはお前に任せて俺は分析に専念する。とりあえず無理に攻めずに確実にダメージを……)

「りゅうのまい!」

「グガァァ!!」

「……なんて悠長なこと言ってらんねぇか。全力でサイコブレイク!」

「みゅっ!」

 

 やっぱり“ひかりのかべ”が効いているうちに仕掛けてきたな。だがそれは“めいそう”で上がった分がチャラになるだけ。ミュウツーの攻撃を耐えようなんて甘く見過ぎだろ?

 

「グゥゥ……」

「……耐えた!?」

 

 あいつの体力は今残り半分だった。なのにミュウツーの“サイコブレイク”を耐えきった。“まもる”もなしで“りゅうのまい”から入ったのはやはり耐えきる自信があったということだろう。メガシンカ前なら倒せていたはずだから防御が飛躍的に上がったとみるべきか。特殊攻めの方がいいのかもしれない。

 

 ここでリザードンは“ねがいごと”の効果で体力を回復。つまり今、メガリザは能力上昇かつ体力も残った状態だ。

 

「これで準備は整った。いくぞリザードン!」

「テレポートで攪乱しろ」

 

 あちこちを移動するみゅー。メガリザではこれについてこれないはず。これで手詰まりのはずだが意外にも落ち着いている。じっとしたままメガリザは目を瞑った。なんのつもり? 念のため指示はテレパシーにするか。

 

(サイコキネシス!)

「今だ!」

 

 レッドの掛け声と共にリザードンが動いた。両翼で力強くはばたき見事に回避した。レッドのやつ、ミュウツーの予備動作を研究している! どうやらここまであいつの計算通りらしいな……。

 

 そもそも今は無理に倒しに行く必要はないんだ。なら確実な方法で削る!

 

(接近戦なら簡単には避けられない! かみなりパンチで攻めろ!)

「みゅ……」

 

 バチバチ……

 

 空中に留まるリザードンの背後へテレポートで瞬時に移動した。敵はすぐ気づいたが攻撃は避けられないはず!

 

 かみなりをまとった拳をリザードンへ突き出した!

 

「グルゥゥ」

「こうかいまひとつ……!? まさか!!」

「リザードンはでんきタイプに弱い……そんな常識は通用しない」

 

 リザードンはすでに攻撃態勢に入っている。これはヤバイ!

 

「下がれ!」

 

 このタイミングでテレポートはできない。せめて身をそらせば……

 

 ズバッ!!

 

 煌めく剣先。まるで刀で斬られたような感覚。今のは“つばめがえし”か。

 

「みゅうう……」

 

 地面に墜落し、みゅーは気絶した。みゅーの体力は元々残り僅かではあったが、おそらくリザードンにひこうタイプはない。不一致でありながらかなりの威力を感じた……攻撃力はケタ違いに上がっている。

 

 だが得られた情報は大きい。みゅー、お前の働きはムダじゃない。あとは先制技で倒せるはず。

 

 見た目に蒼い炎があるし、ほのおタイプは絶対に入っている。でんき半減はくさ・でんき・ドラゴンのみ。つまりあいつのタイプはほのお・ドラゴンだ。ちょうど“げきりん”とかも覚えるし1番ありえる。

 

「いけグレン」

「ヴォウ!」

「……レベル80!!」

 

 レベルは高くてもグレンは相性最悪だ。炎は1/4、電気も半減、1番効くのは先制技の“しんそく”か。“たつじんのおび”は完全に空回りだな。覚える技の数が無制限なのに有効打がありませんなんてとんでもない失態だな。とはいえまさかタイプが変わるとは思ってないし、よりによって固有タイプっぽいから想定のしようもない。

 

 フレアドライブ かえんほうしゃ ドラゴンダイブ りゅうのまい……

 

 なんとかメガリザードンの技は見られるらしい。“はねやすめ”はないな……。しんそく

 でゆっくり削るだけで十分か。

 

「しんそく」

「バァウアー!」

 

 リザードンは勝手に行動した。“まもる”か? 行動がかなり速い! だがなんで勝手に……

 

「ドラゴンダイブ!」

「かわして」

「ガウッ!?」

 

 動けない!? 先制技の隙をついたのか? だが“まもる”にも隙はあるはず。

 

「あんたの悪いクセだな」

「……リザードンが行動したのは計画的? まさか先制技はまもるでケアできるのか!」

 

 理解しがたいが無理やり理解するとすれば“まもる”は無敵時間が長いからということか? 技の直後の隙は先制技の方が大きいが、無敵時間が長いせいで結果的に無防備な状態が解けるのは先制技の方が先というのが従来だったが、その無敵時間を早めにずらしたから“まもる”側が先に動けたのがレッド式か?

 

「有効打はないはず。体力も残り僅か。どうくる?」

「なに!?」

 

 慌ててグレンの体力を視れば残り約1割というところ。動けなかったことに気を取られ過ぎた。余計なこと考えたな。

 

 “いかく”は発動していたし急所もなかったはず。これがメガリザの素の強さなのか。レベル差が10もありながら素の能力で負けている……。

 

 今できる最善はとにかくアカサビへ繋ぐこと!

 

「グレン、先走るなよ?」

「さすがにもう無謀な攻撃はしないか。ドラゴンダイブ!」

「しんそく!」

 

 要は先んじて先制技を使うからそれに合わせて行動されるんだ。ならこっちが相手に合わせればいい。体力が少ないのは相手も同じ。もう悠長に能力を上げる余裕はない。すでに能力を上げる意味も薄いしなおさらだ。そこは警戒する必要はない。

 

 メガリザに一矢報いてからグレンは倒れた。このマスターズリーグ最高レベルのポケモンが“しんそく”1回しか行動できずに倒されるとはね。恐ろしいやつ。

 

「ウインディ戦闘不能!」

「イナズマ!」

「ダース!」

 

 こうなるとイナズマが残っていたのはかなり大きい。アカサビはもう攻撃1回の反動で倒れる。“まもる”をケアするためには“ねがいごと”で回復する必要がある。

 

「ドラゴンダイブ!」

「ねがいごと!」

 

 上空に流れ星がかかる。間に合った!

 

「クゥゥーン」

「サンダース戦闘不能!」

 

 奇しくもリザードンを復活させたレッドと同じ展開。こっちも第三のエース、真打ち登場だ。

 

「考えることは同じか。これであんたも次のポケモンが回復……サシ勝負だ」

「4対1からここまでこぎつけたのはさすがだと褒めてやる。だがここからどういう勝負になるか、わかるよな?」

「……」

 

 そう、ここからはこれまでと全く別次元の戦いになる。レッドが先制技を見事に捌いたことで勝負の内容が変わった。だからこそあの時俺は驚いたんだ。

 

 新たな勝負を目前にしてバトルは小康を得た。レッドはここで何をしてもムダだとわかっているようだ。じっくりとアカサビでなく俺の方へ注意を向けている。

 

 どうせ攻撃しても“まもる”し、“りゅうのまい”なんてすれば1ターン与えるだけだからな。俺がどんな反応をするか見とく方が得ってわけだ。

 

 俺も黙って“ねがいごと”が発動するのを見届け、頭の中ではめまぐるしく思考を巡らせた。

 

 まずリザードンはせっかちな性格だった。だからこれまでの攻撃もある程度はダメージになっているはず。“バレットパンチ”を耐えるのは難しいと考えるのが自然。

 

 だから普通なら俺は“バレットパンチ”を連打して相手の失敗を待つだけで勝てるはずだった。しかし“バレットパンチ”を上手く“まもら”れた場合反撃でこっちが倒される可能性もあることがさっきのグレンのやりとりでわかった。

 

 とはいえ反撃はリザードンが自己判断するぐらいの先出しが必要だろうから最初の1回こっきりだろう。おそらく技を使った後の動き出しは五分……少なくともこっちが“まもる”の隙を突く展開はなくなったわけだ。

 

 アカサビが初見殺しで犬死しなかったのは先に戦ったあいつらのおかげだ。数は減らされたがしっかりと情報は残してくれた。

 

 ここからの勝負、まず選択肢としてレッドには“かえんほうしゃ”と“まもる”があり、俺には“バレットパンチ”と“みがわり”がある。

 

 レッドは先読みで“バレットパンチ”に“まもる”を合わせれば“いのちのたま”の反動分だけ体力を減らせる。そして当然“まもる”に対し“みがわり”が入れば勝負アリ。“みがわり”は“かえんほうしゃ”されると体力を損する。“かえんほうしゃ”に“バレットパンチ”を合わせれば当然俺の勝ち。

 

 簡単に言えばこれはジャンケン。複雑そうに見えて単純な話だ。

 

 まもる>バレパン

 バレパン>かえんほうしゃ

 かえんほうしゃ>みがわり

 みがわり>まもる

 

 但し条件は俺が圧倒的に有利。レッドは一度もミスが許されない。俺は全てミスしなければ勝ち。こんなところだろうな。

 

 だがレッドはこうなることも計算に入れて、そして勝ちきる自信があるのだろう。面白いじゃねぇか。ただの運任せのジャンケンはキライだが、これは条件が付加されている分読みが効く。こういうのはキライじゃない。

 

 作戦はすぐに決めた。俺には戦略の起点になるとっかかりが見えた。あとはそれに沿って組み立てていくだけ。

 

 さぁ、アカサビが回復した。いよいよ開戦だな。

 

 まずは……

 

「かえんほうしゃ!」

「みがわり」

 

 ほぼ同時の指示。相手は“まもる”場合に遅れを取れば致命傷になりかねないから様子見はできない。先出しの指示だ。ここは読みを通してきたか。

 

 実はアカサビの体力はあまり余裕がない。“みがわり”はもう使えない。つまりここから俺は攻撃しかできなくなる。

 

 これは致命的。ジャンケンで言えばグーが使えなくなるようなもの。だがジャンケンと違いこれはポケモンバトル。グーチョキパーのゲームじゃない。だからこそ初手“みがわり”。これは次の攻撃への布石だ。

 

 当然次の俺の選択は攻撃。一見相手の“まもる”連打で詰んでいるように思えるが……実は“まもる”のタイミングで“はねやすめ”する選択肢がある。だからここで攻撃を読まれても即負けにはならない。まだ2択の攻防は続いている。

 

 ここは様子見も兼ねて相手の無謀な攻撃による自滅を待つ“バレットパンチ”が無難。まだ勝負手を切る場面じゃない。逆にレッドは変にリスクを取る必要もないし、もう“みがわり”はほぼほぼないだろうという状況。一度強気に攻撃したところも見せている。おとなしく“まもる”をする一択。

 

 なら攻撃せず“はねやすめ”をしろと思うのが世の情けだが……次はタダの攻撃じゃない。ここは先に攻撃だ。

 

「まもる!」

「フェイント」

「……!?」

 

 やはりこれはグーチョキパーだけじゃない。覚えている技は全て使える。“フェイント”は知らなかったのか驚いているな。

 

「まもるが突破された!?」

「これで選択肢が増えたな、レッド。楽しいのはここからだぜ?」

 

 “フェイント”は万能な選択肢に見えるが実はそうでもない。最初に使わなかったのがその証。威力が低すぎる上、技の後反動もしっかりあるので耐えられた場合反撃を食らう。

 

 だから最初から狙いは“まもる”に“フェイント”を合わせること。だが最初は攻撃を見越して“みがわり”とした。読んでいたなら“バレットパンチ”はどうしたという話だが、使わなかった理由は単純、倒せる自信がなかったから。

 

 勝ち負けがはっきりしていれば話は早い。だがあいにくと現実では乱数ってやつがイタズラをする。さっきは“みがわり”以外なら負けていたという考えだ。さすがにレッドはそんなこと思ってないだろうが……。

 

 最初の条件だと俺が有利のはずだが、実は俺が圧倒的に不利な可能性もあるわけだ。簡単に言えば不等号が1つ入れ替わる。能力がはっきりしないとはいえリザードンのときのしぶとさを踏まえるとまず耐えただろうな。今、アナライズでメガリザの残り体力を視ることはできないし、レッド相手に甘い読みはできない。

 

 “フェイント”の弱点にはおそらくレッドも気づく。だがそれでいい。大事なのはあいつが想定していた読み合いをぶち壊してやったこと。おそらくレッドはこのジャンケンの最善手は事前に考えているはず。行動に迷いがなかった。だがここから先はそんなもの無意味。純粋な読み比べ勝負だ。

 

「かえんほうしゃ」

「まもる」

「今度はまもるか……」

 

 レッドの目……変な技ばっかり使うなって顔だな。別にさっきの“かえんほうしゃ”に合わせても良かったが“みがわり”を見せれば体力の兼ね合いで次の“まもる”を呼び込みやすくなるからな。

 

 レッド渾身、強気の“かえんほうしゃ”……これを見るにやっぱり気づいているな、“フェイント”の弱点に。そしてレッドは“フェイント”を耐えられると考えたことになる。勝負はここだな。

 

「まもる」

「はねやすめ」

 

 ニヤリと笑ってしまった。引いたな。甘いぜレッド。これで振り出しだ。俺はずっとどうしても体力の回復がしたかった。だが回復は“フェイント”の後でもできるから一度だけわざと先延ばしにした。それにひっかかったな。レッドは苦々しい表情だ。

 

 おそらくだがレッドはハッサムの残りHPがどれほどかちゃんと計算している。イナズマで回復せざるを得なかった時点で残り僅かと読め、“ねがいごと”の回復量がしょっぱいのもわかっているはず。だから“みがわり”をしているアカサビに残された体力は僅かとわかる。

 

 最悪“フェイント”を耐えていけば反動で倒せるかもしれない。なら“まもる”連打が安定。ただ露骨過ぎると“はねやすめ”などをされる可能性が増して読みが複雑になるから“フェイント”をする確率がより高い最初は一発K.O.も含みに“かえんほうしゃ”から入った。こういうことだろう。

 

 そもそも“はねやすめ”をするならさっきの“フェイント”のタイミングでも良かった。あの時も明らかに“まもる”を読んでいたから“はねやすめ”も使えたことになる。むしろ結局回復するなら普通順序は逆。なぜならその方がより安全かつ選択肢を増やすことにもなるからだ。

 

 そのチャンスを棒に振ってわざわざ危険な道を選んでまで攻めていた。ならこの時点で回復の意思がないとしか考えられない。攻め急いでいるように見えたはず。この微妙な感覚を敏感に察知する嗅覚をあいつは持ってる。だからこそここで“はねやすめ”はおかしい、ありえないと考え“まもる”を使う後押しとなった。俺がここで回復に走るとは夢にも思わなかっただろう。

 

 実際にはもうアカサビの体力がないから“まもる”か“はねやすめ”の2択だったんだけどな。それでもここは回復を通せると思っていた。そうなるよう仕向けたから。

 

「くっ……」

「意外と臆病だな。まもるだけで俺に勝てると本気で思ったのか?」

「……」

 

 目の色が変わった。余計なこと言ったかな。

 

「かえんほうしゃ!」

「みがわり」

 

 ここで攻撃するか……やっぱりやるねぇ。この状況“フェイント”に“はねやすめ”と“まもる”は通しづらいイメージを植え付けられたはずだ。その上俺に舐められた発言もされた。勢いに任せて“かえんほうしゃ”を使いたくなるのが人の常。

 

 だがそれではあまりに単調、俺の思うツボ。ここは一度冷静になって“まもる”を使っておくのが大人の一着。ある程度頭の回る奴なら普通そうする。逆にここで“かえんほうしゃ”を使うのはあからさま過ぎて怖いと思うはずだ。そうなれば“みがわり”でゲームエンド級だった。

 

 ギリギリの読み合いっていうのはお互いに相手の首に手を掛け合って絞めつけ合うようなもの。我慢できず手を緩めて自分の首を守ろうとした瞬間、先に楽になった相手に全力で絞め殺される。命がけの根競べだ。

 

 楽な選択に流れることはすなわち敗北。より苦しい選択へ進むことこそが勝利への活路。それが鉄則。

 

 “フェイント”を使えば相手に攻撃されると即負ける。だから負け筋がなくて体力消費が“みがわり”よりも少ない“バレットパンチ”を使おうと考える。そうなればムダに体力を浪費して結局追い詰められてからヤケクソの無理攻めで自爆する。

 

 勝ちたければ今勝負だ。ここはもう引く場面ではない。負けが怖いからああしようこうしようと技を決めるんじゃない。相手が“まもる”から“フェイント”を使う。勝つための行動をとる。1回1回の自分の選択に己の全てを込めるんだ。

 

 さっきはレッドが魅せてくれた。今度は俺が勝負だ!

 

「まもる」

「フェイント」

 

 ……通ったぜ。自分の寿命が削られるようだ。それを楽しいと思う自分に呆れてしまう。

 

 もちろん適当に考えて無茶な一点読みをしたわけじゃない。連続で攻撃はしないだろうという考えだ。

 

 これまでは攻撃と“まもる”が交互だった。“まもる”の連続使用を嫌っていると予測すれば同じように2度は続けないだろうと思うのが自然。

 

 苦しい読み合いだ。少しでも頼りになるものがあれば縋ってしまうのが人情。

 

 だがそれではあまりにレッドの思うつぼ。それはこちらがレッドに行動を縛られることを意味する。ならそれは避けておきたい。相手の思惑を外して“バレットパンチ”でも使っておけば安パイだ。これならひとまず大丈夫だろう。

 

 それこそが楽な選択へ逃げるということだ。

 

 敢えて危険に飛び込むんだ。相手の作った罠に飛び込んでみる。その勇気は相手の予想を超える。そこに勝利への道筋が見えてくる。

 

 単純に考えてみても、裏をかいて連続で攻撃なんてのは浅はかな思考だ。規則性に気づいた上でその裏をかくのが俺だ。それをレッドはわかっている。ならその裏をかくのがレッドだ。冷静なら一度“まもる”を挟んでくる。思った通りの人間だな。

 

 頭空っぽにすれば逆に続けて攻撃できるんだけど、さすがにレッドにはできないよな。

 

 リザードンはこれも耐えた。とんでもないな。“フェイント”2発は合計で威力90、フィールド効果を受ける“バレットパンチ”は半減で67.5だ。これだから油断ならない。だがいくらなんでもこれでもう限界のはず。攻撃しようが“まもる”しようが“フェイント”で勝負アリ……勝利は目前の状況……。

 

 目を閉じて最後の指示を出した。

 

「かえんほうしゃ!!」

「バレットパンチ!!」

 

 終わった……やっと終わったか。

 

「フェイントじゃない!?」

「アカサビさんだぜ? 最後はバレットパンチじゃないと締まらないだろ?」

「……よくいう」

 

 唸る拳が突き刺さる。さすがのメガリザもこれには成す術なしだ。

 

 バタン!

 

 メガシンカが解けて元のリザードンに戻った。一時的なものなのか。

 

「リザードン……進化したリザードン戦闘不能! チャンピオンはレイン……レイン選手!」

 

 最後のレッドの狙いはここでもう一度“フェイント”を耐えたあと反撃でアカサビを焼き尽くすことだろう。グリーンと戦ったからよくわかる。こいつらのポケモンは土壇場で耐えるはずない攻撃を当然のように耐えるし、トレーナーもそれを当たり前のように信じている。

 

 “まもる”で攻撃を受けたことすら含みにしようと思ったのかもしれない。あいつはすぐ先制技を使うのは俺の悪いクセだと言った。無口なあいつにしては珍しく失言だったな。

 

 どの選択肢に対しても通る確実な勝利。それが見えたらすぐ行動に移す。だから俺はすぐ先制技を使う。いつもの俺なら迷わず即決で“フェイント”を使ったかもしれない。そういう性格を逆手にとってここで逆襲するつもりだったのだろうな。レッドはここで勝ち筋ゼロからの奇跡を起こすはずだったんだ。

 

 まぁ俺も焚きつけるようなこと言ったし人のこと言えないが、敵に塩送っちゃダメだな。

 

 “フェイント”2回と“バレットパンチ”1回が最初に考えた俺の確定ライン。見事にクリアした。

 

 不意に大きな音声が流れた。実況席?

 

『おめでとう! 新しいチャンピオンの誕生だ。まさか俺を倒したレッドより強いやつがいるとは思わなかったよ』

「ワタル……」

 

 激しい喜びはない。込み上げる感情もない。勝つべくして勝った、そんな気分だった。どう考えても綱渡りのような攻防だったはずなのに、なぜか負ける気がしなかった。こんな感覚は生まれて初めてだ。きっとポケモン達のおかげなんだろうな。自信と勇気をくれてありがとう……。

 

「ッサム」

「アカサビ……いつもありがとうな」

「ッサム!!」

 

 ん? こっちこそ? あぁそうか……。

 

「ほのおタイプにも真っ向勝負で勝ったな」

 

 キンキンッ!

 

 嬉しそうな表情。アカサビが仲間で良かったよ。

 

「……」

「ん!? なに? なんだその目!」

 

 いつのまにかレッドが隣に来ていた。ニヤけてるところ見られたか? なんか言いたげな表情だし。

 

「……勝ち逃げはなしだ」

「え」

 

 それだけ言うとさっさとどこかへ行ってしまった。どこへ行くんだ準優勝? 最後まであいつらしいな。あのせっかちめ、このあとまだごちゃごちゃ表彰とかあるのに……グリーン辺りに連れ戻されるんだろうな。

 




行動リスト 
いくつ予想があたったか数えてみよう!
全部当てたらチャンピオン!

レッド レイン
攻撃  みがわり
まもる フェイント
攻撃  まもる
まもる はねやすめ
攻撃  みがわり
まもる フェイント
攻撃  バレットパンチ


ありのまま今起こった事を話すぜ
おれはポケモンバトルをしていたと思ったらいつの間にかEカードをしていた
何を言っているのか(ry

というわけでマスターズリーグ終了ですね
アカサビは二度刺す!
第三部完!
……ではなくもう少し続きます

決勝ラストなのでゲームでは絶対に起きないような読み合いにしてみました
地の文の解説がごちゃごちゃした上に言うことが二転三転しててわかりにくいかもしれません
乱数があるのがミソで2人とも甘い読みができないのでレッドはバレパンを耐えない、レインは耐えると思って行動します
レッドの粘りはもうかと同じで後がないピンチの時しか発揮できないので最初は読み勝ちを目指すわけですね
腹をくくってフェイント3回耐えるしかないと覚悟を決めるとリザードンにもそれが伝播して根性で耐えるみたいなイメージです

レインは勝ちましたがこれは凄まじい勝利です
かえんほうしゃにはみがわり以外負けという恐ろしい状況ですからね

実は攻撃が3回必要ということは体力の余裕が全然ありません
あと1回かえんほうしゃが多いか、あと1回(相打ちの判定勝ちを考えれば2回)アカサビの攻撃が空振るかすると負けていました
まもるで1回稼ぐファインプレーがなければ実戦でも足りてなかったわけですし

何度かレッドが読み勝ちのように見せましたが実は全てレインが読み勝ちしてます
この事情を理解した上で読み直すと見方が変わるかも?
ありえない行動を連発し過ぎ!的な感じになりそうです

これまで色んな感想がありましたが、意外とバトルの内容にツッコむ方はいなかったように思います
あそこは先にグレンを出して攻撃力を下げとくべき、ここは突っ張らずに交換やろ、みたいな

ですが、今回は絶対ツッコミが入ると思うので、先にね、最後に一言だけ言わせて下さい
次にお前は『かえんほうしゃ連打すれば勝てたんじゃね』と言う!



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8.知り過ぎた代償

 どんなことにも終わりがある。長かったマスターズリーグも無事に幕を閉じた。ベスト4に入賞した俺達4人の表彰を行うため会場の準備が整い4人全員が集まった。

 

「おはようレッドさん、お久しぶり」

「……」

 

 颯爽と去っていったレッドとは数分で再会した。バツが悪そうにレッドは下を向いている。レッドはやはりグリーンに呼び戻されて一緒に現れた。意外とわかりやすい性格をしている。

 

 逆にいつもと違うのはブルーだ。一度だけ目が合ったが、そのときのブルーの視線は意味深だった。俺には内なる闘志がはっきりと感じられる。少なくとも俺の優勝を祝う気はないらしいな。

 

 あのストーカーさんは何を考えているのやら。いよいよあいつと向き合う時がきたのかもしれない。

 

「これから新チャンピオンの殿堂入りを行います。旧チャンピオンワタル、そして新チャンピオンレイン、前へ」

 

 殿堂入り……それはトレーナーの夢。激しい戦いを勝ち抜いたトレーナーとポケモンがここで永遠に記録される。

 

 式はつつがなく執り行われた。グレン、アカサビ、イナズマ、ユーレイ、ヒリュー、みゅー、全員で殿堂入りだ。

 

 そして今度は俺が何かしゃべることになっているらしい。インタビュアーっぽい人にあれこれ聞かれた。

 

「では新チャンピオン、改めて優勝した今の心境などをお話してもらえますか」

「まだ実感は湧きませんね」

「ではこれからどこまで防衛記録を…」

 

 そこから先は何をしゃべったか覚えていない。守る気のない地位について語れと言われても熱がこもった話はできない。かといってここでチャンピオンを放棄するわけにもいかないし。

 

 この世界では、チャンピオンになることはもちろん名誉なことだが、さらにそれを防衛することに重い価値を見出している。つまり1年で陥落したまぐれのチャンピオンの評価は低い。だからマスター以上のトレーナーは必ず同じ地方で戦い続けることとなる。

 

 だが俺にはそんなことに興味はないし、それがあるべき姿だとも思わない。色んな場所でチャンピオンを目指す在り方にも意味はあるはずだ。元より俺はこの世界の外の人間、ここのやり方に縛られなきゃいけない理由もない。

 

 そもそもチャンピオンを目指したのはただ頂点を目指したかったから。それで俺のトレーナーとしてのケジメをつける……そのつもりだった。

 

 だがこのトーナメントの中で俺は何度もとんでもない体験をした。自分の価値観がひっくり返るようなこともあった。ここから自分は何を成すのだろうか。今俺は揺れている。まだ答えは見つからない。

 

 抜け殻のような状態で会話を続け、気づけば全て終わっていた。だがその後も大変だった。リーグの仕事がどうの、広告の仕事へどうか、テレビの特集に出て云々、とにかく様々な話を一度に持ちかけられた。だが全て断ってしまった。

 

「レイン、浮かない顔だな?」

「ワタル?」

 

 俺を探してここまで来たのか?

 

「チャンピオンもラクじゃないだろ? けどな、いくらなんでも頼みを全部突っぱねるのは感心しないな。一応経験者として言っておくが、チャンピオンっていうのは全てのトレーナーの目標であり憧れでもある。だからそれに伴う責任ってものがあるんだ」

「チャンピオンの責任か。なるほどな」

「ぶっちゃけた話をすれば、全てのチャンピオンがそれを果たしているわけではない。義務ではないからな。だが俺は大事な務めだと思ってる。お前はどうするんだ? どこかへ行ってしまう気か?」

 

 ホントにぶっちゃけてるな。でもこれはワタルなりの気遣いか。俺の選択を尊重するということだろう。人間のできたトレーナーだな。チャンピオンには人格も必要なのかもしれない。

 

「……あんたはやっぱりチャンピオンの似合う男だな。俺やレッドよりよっぽどチャンピオンらしい」

「……」

「たしかに責任はあるだろう。俺にも理解できる。けど、それに関しては問題ない。俺は既にその責任は果たしているから」

「すでに? どういうことだ?」

 

 果たすべき役割はすでに全うした。俺のやるべき仕事はここまでだ。

 

「何事にも向き不向きがある。俺は一所に留まるのは性に合わない。もっとふさわしいやつに任せるよ」

「俺に丸投げする気か?」

「いいや。いずれわかるだろうさ」

 

 ようやくあらゆることから解放された俺は自分の部屋に戻り荷物をまとめた。ここともおさらばだ。

 

「レイン……ホントなの?」

「あぁ。心配するな。お前達はゆっくり休んでいてくれ。次の出番が来るまでな」

「うん」

 

 みゅー達をボールに戻した後バッグの中にしまい、俺は外へ出た。

 

 すでに日が沈んでからずいぶんと経つ。辺りは薄暗いが月明かりがあるだけで俺にとっては十分だった。

 

 外を歩き始めてすぐ、セキエイ高原を静かに歩く俺を何者かがつけてきた。気配を殺してゆっくりとついてくるが、最初から注意を払っていた俺はすぐに気づいた。

 

 ジャリ!

 

「――ッ!!」

「おっと。こんな夜更けに俺をつけてるストーカーがいるな。どちらのストーカーさんかな?」

 

 ドジっ子なのかもしれないな。尾行中に音を出すなんて下の下だ。

 

「だからストーカー違う! あっ!?」

「ずいぶん可愛らしい声だな。お名前は?」

 

 声からして女の子。それにストーカー呼びはお気に召さないらしい。

 

「ぐっ……まさか最初から気づいてたの? 夜目が効くからわたしのことばっちり見えてるクセに、からかわないで!」

 

 振り返ればそこには見知った顔。もちろんこの顔を見間違えるはずもない。ブルーだ。

 

「よく俺の場所がわかったな」

「……ヒドイじゃない! ずっと一緒だったのに、別れの言葉もなしに行っちゃうの?! わたしのこと……置いていくの?!」

「バカ正直にお前に伝えれば意地でもくっついてきただろう?」

 

 遠回しに肯定で返すとブルーは大声で怒った。

 

「――ッ! やっぱり、本気なんだっ。わたしとはもう一緒にいる気はないのね。ひどい、酷過ぎる! 鬼、悪魔、外道……レインッ!」

「だからレインは悪の代名詞かっつーの。わかったわかった。悪かったよ。でも俺はわかってたんだよ。お前が自分から会いに来るって。本気になったら俺を探すことに関してはエスパー顔負けの探知力だもんな」

 

 実績があるからな。エスパーより怖いストーカーなんてブルーぐらいだ。とうとうブルーは否定もしなかった。

 

「……たしかにホントにわかってたみたいだけど、じゃあわたしにはなんて言うつもりだったの?」

 

 ……とうとうブルーに言うべき時が来たな。

 

「お前が弟子入りした時、最初にした約束を覚えているか?」

「あっ」

「……お前はもう俺が見込んだ以上のトレーナーになった。ブルーは今この瞬間を以て弟子を卒業とする」

「そんな……シショー」

「もうシショーはなしだ。少し寂しいけど」

「ヤダッ、シショーはシショーよ! ずっとわたしの、わたしの超えるべき……」

 

 ブルーのこの気持ち、この上なく嬉しかった。でもここで甘えさせては意味がない。

 

「この世にずっとなんてことはない。いつか終わりが来る。それが今だ」

「うぅぅ……こんな、こんなことになると思ってなかった。こんな悲しい卒業なんてしたくなかった」

「だったらご褒美もあげようか」

「ご褒美?」

「せっかくベスト4になって、弟子も卒業するんだからな」

「え……何かくれるの!?」

 

 現金なものでブルーはちょっと期待した表情に変わった。このご褒美を聞いたらどんな反応をするんだろう。

 

「お前、今いくら借金してる?」

「あっ」

 

 今の今まで忘れてましたって顔だ。最近は言わないようにしていたからな。

 

「ごめんなさい。わたし、シショーにたくさん教えて貰ったのに勝てなくて……でも、4位でもお金は稼げると思うし、絶対返してみせるから!」

「その必要はない。借金は今を以て白紙とする。それがご褒美だ。そもそも借金といっても借用書も何もないのに取り立てようがないし、正直言って俺は金額すら把握してない」

「え……そんな。ウソでしょ? シショー、まさか最初からそのつもりで……なんで? とんでもない額のはずよ? あのときはただの見ず知らずだったのに、なんでよ! こんな、こんなことされたら、わたし絶対に返せない。あなたから受けた恩が大き過ぎて、わたしもう……」

 

 そう思う気持ちはわかる。俺も最初は見返りなしで面倒事なんてしたくないって思ってたし。でも今は考え方が変わった。しょうもない理屈だけが人間の全てじゃない。

 

「勘違いするなよ? 俺は恩返ししてほしいから弟子にしたわけじゃないからな」

「えっ?」

「ギアナで話したこと、覚えてるか? お前の話……人には役割があり、導くべき誰かがいるって。それを聞いて俺は目の覚めるような思いがした。自分の運命とかまどろっこしいことに悩んでたのがウソみたいに心が晴れやかになった。あのときからお前は本当に成長したと思っていたよ」

 

 あの時もうブルーは弟子卒業でも良かったけど、今日までシショーのままでいてあげた。いや、そうありたかったのは俺の方か。もうケジメをつけないとな。

 

「あ……ありがとう」

「どういたしまして。だから、俺がお前を導いたように、お前にも導くべき誰かがいる。だから受けた恩はその誰かに返してあげてほしい。そうやって人は繋がっていくと思うから。できるな?」

「うん……」

 

 これで最も大事なことは伝えられた。俺はここでお役御免かな。あっ、まだ言わないといけないことがあったか。

 

「あとお前はなんで俺が師匠を引き受けたか気になっていたよな? 言いたいこともあるから教えておく」

「えっ! いいの!? 教えてほしい!!」

「あのとき、俺はお前の心が視えたんだ。一片の曇りもない純粋な気持ちがたまらなく嬉しかった。俺にとって、それはどんな宝石や名誉よりも尊いものだった。だから改めてここで言わせてほしい。弟子になってくれて……ありがとう」

「……そんなっ、ズルイ! そんなこといきなり言われたら……もう十分泣いたのに……」

 

 口元を抑え涙をこぼすブルー。ブルーの気持ちは本物だ。それは俺が1番よくわかっている。でもこれからブルーにすることは必要なことだ。たとえどんなにつらいことになっても……必ず……。

 

「言いたいことはそれだけだ。じゃあな。俺はもう行くよ」

「えっ!? 待って! そこまでわたしのこと想ってくれてるのに、ホントにサヨナラしちゃうの!?」

「何度も言わせるな。もうお前との縁は切れた。弟子じゃないなら連れて行く理由はない。借金もないしな」

「そういうことなのね……でも、だったら別に離れなきゃいけない理由もないじゃない!」

 

 やっぱり強情だな。全部言わなきゃ納得しないか。

 

「理由がないわけないだろ。なら訊くが、お前はなんで俺に弟子入りしたんだ?」

「そりゃあチャンピオンになりたいからよ」

「それはずっと俺と一緒にいて叶うものなのか?」

「えっ?……あっ!」

 

 気づいたって顔だな。

 

「俺といれば永遠にお前は2番手止まりだ。まずはカントーでチャンピオンを目指せ。それがお前の夢であり目標だろ?」

「それはそうだけど……でもっ」

「それに一緒にいたくないのは俺の方にも理由がある」

「……!」

「お前とはどのみち別れる運命だった。ただタイミングの問題だ」

 

 永遠なんてものはないからな……。

 

「またそうやってわたしの元から去っていくのね。シショーはいっつも上手いこと言って……わたしの気持ちも考えてよ!」

「考えてるよ」

「むっ! それって……シショーが死んじゃうからってこと?」

「!?」

 

 今ブルーは何て言った?

 

「やっぱりそうなの? ねぇ答えてよ」

「なんでそう思った?……まさか」

 

 今の一言はさすがに見過ごせないな。丁度2人っきりになるためにみゅー達は会話が聞こえない場所に移している。探っておくか。

 

「図星なのね? だから答えないんだ。わたしシショーに死んでほしくない。何かわたしに手伝えることなら……」

「お前も一緒についてくる?」

「……は?」

「次はシンオウ地方へ向かうつもりだけど、それでいいなら来るか?」

「えっ、えっ!? やった!!……シンオウ?」

 

 この反応……やっぱりか。あのときのみゅーの違和感のある行動はやはりブルーの差し金だったんだな。

 

「ホウエンに行くと思ったか?」

「ええ、てっきりそうだと……あっ!」

 

 初歩的な誘導尋問だ。会話の中に犯人しか知りえない情報をさりげなく混ぜておく。その反応で白黒つけるわけだ。

 

「みゅーとまた良からぬ話し合いをしていたようだな」

「やっぱり急におかしいと思ったら……今の全部罠ね! 弟子にこんなことする?!」

「もう弟子じゃない。けどな、シンオウへ行くのは本当だ。みゅーにはウソを言った」

「そんなぁ……! じゃあ本当に死んじゃうじゃない! しかもやっぱりみゅーちゃんにウソが言えるんだ。トキワのあれも……やっぱりウソなのね。それじゃあずっと……おそらくわたしの家に来た頃から、わたしとはバイバイするつもりだったのね」

 

 こいつ、時期を正確に言い当てた。たしかに意識し始めたのはその頃だ。俺の予想以上にブルーは俺のことをよく見ていたのかもしれない。

 

「すごいな……なんでそんなことまでわかったんだ?」

「わたしだって、身近でシショーのこと見てきたからたいていのことはわかるもん。たまにエスパー相手にウソつくのも、わたしのことずっと避けてたのも、それに色々変なところがあることも……」

 

 さながら名探偵ブルーだな。

 

「名探偵さんには隠し事できないな。俺はお前に正直な気持ちを打ち明けたんだ。お前も聞かせてくれよ。俺のこと……どこまでわかった?」

 

 俺が頼めば何の警戒もなく話し始めた。自分が約束を破った度合いを事細かに説明していることに気づいてないらしいな。

 

「そうね……わかったわ。全部話す。最初に違和感を覚えたのは星座の話をしたとき。シショーは『星座なんか教わったこともないし知る機会もなかった』って言ったけど、これってポケモンについても当てはまるわよね?」

「どうして?」

「シショーって……その、親がいないんでしょ? だから1人きりでずっと大変な生活だったはず。なのにしっかり勉強したカントーの誰よりもポケモンに詳しい。それに、誰も知らないことまでなんでも知ってる。そんなこと知る機会なんてあるはずないのに」

「なるほどね。他には?」

 

 ゴウゾウは次会ったら“10まんボルト”だな。

 

「シショーってたまに突然この世に絶望したような表情になるわよね。カラオケの時とか、わたしの家で急に寝ようって言いだした時とか……」

「それで?」

「変だなって思って考えてみたら、すっごく変なことがまだあったって気づいたの。ポケモン屋敷でみゅーちゃんと初めて会ったとき……こっちへ呼んだとか、掃きだめに落としたとかよくわからないことを言ってたわよね」

「……」

 

 しまった……。みゅーの件を忘れていた。あのときは感情的になって後先考えず行動していた。何を口走ったかも覚えていない。それに尋問のときみゅーにかなりマズイことを色々言ってしまった。みゅーとこっそり話し合いをする中でそれを聞いているとしたらヤバイな。

 

「シショーはサカキを倒したときも意味深なことを言ってた。変えられないものもあるって……」

「お前、よくそんなことまで覚えてたな。それで、その情報を合わせた結果、お前はどういう結論に至ったんだ?」

 

 問題はここだ。荒唐無稽なこれらの情報をどこまで整合性を保って1つにまとめられるか……ブルーならもしかするかもしれない。

 

「えっと、突拍子もないんだけど……実はシショーは未来からきた人なんじゃないかって思ったの」

「……」

 

 まさかのシショー未来人説か。黙って聞いていよう。

 

「人類が滅びかけてる未来から何かの力でこの時代に来てしまって、人類を救うために戻る方法を探していて、だから未来の知識で色々知っているし、たまにこの世界で未来の人類が滅ぶ予兆を感じてたまに絶望する……みたいな」

 

 カラオケに人類滅亡の兆しが隠されているのか? 初めて聞いたよ。恐ろしいところだな。一応会話は合わせておこう。

 

「だから変えられないものもあるって言ったと」

「そうそう! それだと全部辻褄があうでしょ!? 秘密を知ったらこの世界がどうとかいうのも未来が変わっちゃう的なことならわかるし!」

 

 無邪気に喜ぶブルー。ただ、俺は的外れだと笑って見過ごすことはできなかった。こいつは本質にかなり近づいている。ここが限界だな。

 

 俺はゆっくりと辺りを見渡した。何もない場所だ。辺りに人やポケモンの気配はない。そして真っ暗な夜だ。状況は整っている。

 

「え、どうしたのシショー? 急に周りなんか気にして」

「別に。お前、ここに来ることは誰かに言ってあるのか?」

「ん? 別に誰にも。なんでそんなこと聞くの? あ、また周りを見た! ねぇ、何かあるの?」

「いや……。今夜は月が綺麗……だったね」

「え……どうしたの。なんからしくない。それ、どういう意味なの?」

 

 ゆっくりとブルーの元へ歩いて行った。ブルーは後ずさりしようとするが金縛りにあったように動けずにいた。

 

 俺は傍に立つとブルーだけに聞こえるように耳元でゆっくりとささやいた。

 

「知り過ぎたな」

「!?」

「約束はしたはずだ、詮索はするなと。それを破ればどういうことになるかも教えた」

「んぐっ……! 待って、ウソでしょ?」

 

 生唾を飲み込み、ようやく慌て始めたブルー。だが遅い。

 

「絶対に探らない、絶対に邪魔しない……そんなその場凌ぎの言葉を信じてしまった俺がバカだったよ。お前が強くなり過ぎる前にケリをつけておかないとな」

「ひっ……ごっ、ごめんっ。ごめんなさい……。まさか、本気じゃないよね? わたしのこと、何度も助けてくれて」

「お前にはここで死んでもらう」

 

 俺は一切の感情を込めずに死刑宣告を下した。

 




シショー未来人説がどっかに吹っ飛ぶまさかのラストでした
今までのパターンだとグレンかみゅー辺りが助けますがそれは不可能
ラーちゃん達は声が聞こえてません

レインの行動については物申したい方もおられるでしょうが、今後の展開も含め変更する気はありません、あしからず

完結までひとまず書き終わったのであとはちょっとした手直しだけです
残りもすぐ更新したいと思います
ちょうど10話で終わります


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9.最後の戦い

 殺される……!!

 

 シショーのさっきの仕草、完全にわたしをここで殺すつもりだ。誰にも見つからないよう入念に周辺を確認していた。

 

 ボールにはラーちゃん達が万全の状態で待機している。でも、もしラーちゃん達に助けを求めれば大切なポケモンまで殺されてしまう気がする。それに……そもそもわたしは恐怖で体が全く動かなかった。

 

 わたしは本気で後悔した。なんでこんなことしゃべってしまったのだろう。わたしが勘づいたことに気づいてすぐ、シショーの雰囲気が変わったことはわかっていた。でも、シショーは絶対にわたしのことだけは大切にしてくれるって、わたしには甘いからってあぐらをかいていた。レインという人の本質を見誤っていた。

 

 きっと命より重い約束だったんだ。そのためなら誰であろうと容赦しない。わたしは絶対に助からない。許しを乞うのはもうムダだ。

 

 でも、それでもやっぱり割り切れない。まだ死にたくない。頭でもうダメだとわかっていてもあがきたい。わたしの最後が、よりによってシショーに殺されて終わりだなんて……。こんなことってない……。

 

「覚悟はいいな」

「……わたしはどうなっても、シショーのことは好きだから。わたしは、シショーが好きで、それでもっとシショーのこと知りたくなって、色々わかってきちゃって、それで、わたしにできることがあればシショーのために何かしてあげたくて……」

「言いたいのはそれだけ?」

「くぅ……そ、それでも殺すの? 悪意なんかあるわけないっ。秘密なら絶対誰にもしゃべらない! だから……許してください! まさかこんなに大事な約束だったとは思わなくて、軽はずみなことしたって反省してる!」

 

 必死に叫んだがわたしの言葉はシショーの心には届かなかった。

 

「気づくのが遅過ぎた。もう取り返しはつかない。約束ってのは大事かどうか決めるのはお前じゃない。だから絶対破っちゃいけないんだ。なぁ、わかってんだろ? 俺がどういう人間かはさぁ。自分なら許してくれるとでも思った?」

「……」

 

 バッグから何かを取り出した。あれは刃物!? あれでわたしを刺し殺すつもり!?

 

「相手がお前でも関係ない。……死ね!」

 

 グサッ!

 

「うっ……」

 

 いきなりお腹に刃物を突き付けられた。瞬間わたしは頭の中が本当にまっしろになってしまった。なんにもわかんない。なんにも考えられない。覚悟した痛みもまだ感じられない。

 

 もうわたしは死んじゃったの? 血が出てるの?

 

「ブルー、気分はどう?」

「あ……あぐ……」

「まだ意識がはっきりしない? ショックでおかしくなったか?」

「え……なんで、なんでそんな、わたしに普通に話しかけてるの?」

「お前こそどうしたんだ? そんな刃物で腹を刺されたみたいなツラして、死にそうな顔になってるぞ?」

「……えっ?」

 

 少し落ち着いてきた。やっぱりおかしい。痛く……痛くない。刺された、いや何かが触れた感触はあった。どういうこと?

 

 シショーから少し離れて自分のお腹を確認した。なんともない……。

 

 すると目の前でシショーは刃物を自分の手のひらに突き刺した。

 

「あっ!……あれ?」

「ニセモンだ。刃は柄の中に納まるようになってる。ただのプラスチックだ」

「なんで……わたしのこと、殺すんじゃないの?」

「ん? 本気にした? 今更そんなことするわけないじゃん。お前を殺すつもりなら絶対最初から弟子になんかしない。自分で育てて結局殺すなんてそんなバカなことするわけないだろ?」

「あ……あ……」

 

 膝からわたしは崩れ落ちた。助かった……。ただただ安堵する気持ちでいっぱいだった。

 

「効果はあったみたいだな」

「……でも、ホントに許してくれるの? やっぱり殺すとかはないわよね? さっきは完全にわたしのこと殺そうとしてたでしょ? 周りを見たりして人がいないか確認してたし」

「そうしないとお前が本気にしないでしょ? 俺は演技には形から入るタイプなんだよね」

「えぇ……」

 

 あれが演技なの? 冗談でしょ? なんでこんなに上手いのよ……迫真だったわ。完全に殺人犯になりきってた。

 

 ほ、本当に怖かった……。

 

「そもそも言っておくけど、俺はバカなロケット団みたいなのとは違う。本気で殺すつもりなら一々殺します、なんて宣言したりしない。殺す前にベラベラしゃべるのもそう。確実に殺せなくなるだけだ」

「それは……たしかに。だったら、もし本気で殺す気だったら……どうしてたの?」

「たった今死にかけたのにそんなこと知りたくなったのか? お前はどうしようもない奴だな」

「うぅ……」

 

 気になってつい条件反射で聞いてしまった。我ながらこれは重症ね。でも気になったんだもん。

 

「もし殺すなら簡単だ。油断させて近づいて簡単に不意をつける方法がある。特にお前には」

「そんなことができるの?」

「ブルー……大好きだよ」

「えっ!?」

 

 耳がトロけそうな甘~い声。なにこれなにこれ! ご褒美!? ヤバイ! こんなの想像のシショーでも聞いたことない! ヤバイ! マジヤバイ!!

 

「2人きりでこんなふうに言われたら本気にするでしょ? 今も嬉しそうな顔になってる」

「え」

 

 急に普通に戻った……。がっかり。なんで? どういうこと?

 

「それからキスしようってお願いして近づけばいい。そうすれば簡単にさっきの距離が作れて、しかもお前はキスで頭が一杯になって隙だらけになる。わけもわからないまま死ぬことになるだろうね」

 

 なっ……なによそれ! 乙女心をなんだと思ってるのっ!!

 

「さっ、サイテーッ!! ひっどーい!! 見損なった!! わたし、シショーのこと見損なったわ!! そんなことする人だと思わなかった!! なんでそんなこと思いつくの!? もう絶対にシショーとはキスしてあげない! ベーーッ!!」

 

 わたし、今日はここでシショーにキスとかしてもいいって思って、こっそり覚悟を決めてたのに! さすがに怒った! 意地でも絶対キスなんかしてやんない! おバカバカバカ、バカシショー!!

 

「そう。それは残念」

「うぐぐ……せめてもっと残念そうに言いなさいよ! 形から入るとかなんとか言ってたのはどうしたのよ!」

「さてね。ブルーこそ元気が戻ったようでなにより」

 

 ぐぬぬ……シショーめ! もう、なんでこんな性格なのよ! もっと普通に優しい感じの性格だったら良かったのに!

 

 わたしは立ち上がって怒りをぶちまけた。

 

「もうホントにアッタマきた! だいたいね、冗談でもやっていいことと悪いことがあるわ! こんなこと許されないわよ!」

「これか? 伊達や酔狂でこんな殺人ドッキリかますわけないだろ」

「え、違うの?」

 

 ナイフを器用にクルクルと回しながらシショーは答えた。なんかナイフの回し方が手馴れてる気が……。

 

「言っとくけど、これはただの冗談じゃない。さっきは反省したとか言っておいて……その性格は死ぬまで治らないらしいな」

「うえっ……どういうことよ」

 

 ちょっと痛いところを突かれた。なんとなくなら先は読めた。喉元過ぎればって言うしやっぱりこれは人間の性だと思うの。ダメ?

 

「俺のことを詮索したのが見ず知らずの他人なら本当に殺していたかもな。殺さないにしてもギアナに隔離して置いてけぼりぐらいはしただろう。さっきの出来事は現実になりえたIFだ。お前がやったことに対する俺の怒りは尋常ではないと知れ」

「ぐっ……ごめんなさい」

 

 ヤバイ……これはガチで怒ってるやつだ。やっぱり本当にマズイことしちゃったんだ。怒ったら何するかわからないしやっぱり怖い。

 

「ただな、これに関しては覚悟していた部分もある。お前が弟子になった時点で遅かれ早かれこうなると思っていた。弟子入りを渋っていたのはこうなるのがイヤで悩んでたってことだ」

「……」

 

 やっぱりそういうことだったのね……。

 

「こうなったのは弟子入りに折れた俺の責任でもある。それは認める。俺自身、こうなるリスクを背負う価値がお前にはあると思ったから弟子にしたのは間違いない。それに、ずっと一緒にいれば情も移る……」

「シショー……」

「だから今回は……今回だけは許す。覚悟してた分怒りもマシだしな。ブルー、お前さっき刺されるまでの時間、生きた心地がしなかっただろ? そして後悔したはず。絶対にその気持ちを忘れるなよ。次はないから」

「わかった。あの……本当にごめんなさい」

「わかればいいよ」

 

 本当はさっきのわたしの予想が当たっているのか問い質して反応を見たかったけど……今それをしちゃったら冗談抜きで殺されるわね。

 

「それじゃあな。今度こそ行くから。こっちには気が向いたら顔を見に来るよ」

「そうだった! 待って待って! わたしも連れてってよ!」

「まだ俺のこと探りたいの? 死にたい?」

「そんなんじゃない! それにシショーは怖いフリしてるけど自衛以外で人を傷つけたりしない! わたしわかってるんだから! あとね、たしかにわたしは約束を破ったし、弟子も卒業した。でもそれとこれとは話が別! シショーはさっきの今ならわたしが気後れすると思ってて、それも計算のうちなんでしょ? でもわたしにはこうかないからっ!」

 

 シショーの考えそうなことは全部わかる! よく考えればシショーはああいうだいそれたことを無意味にする人じゃない。色んな意味があるのよ。それがわかっていれば対処はできる!

 

「清々しいまでの割り切りだな。俺がいっつも上手いこと言ってどっか行くみたいなこと言ってたが、お前もたいがい強引にわがままを押し通してくるよな。もっと遠慮しろ」

「だって一緒がいいんだもん!」

 

 執念が足りないってわたしに言ったのはあなたでしょ? 一緒にいるためならなんでもする! そのためなら遠慮してるヒマなんてない!

 

 シショーは観念したみたいにため息をついた。

 

「はぁ……。ブルーさんよ、どうにもこのままじゃ俺達の意見は平行線を辿りそうだな」

「そうね。だったらわたしから言いたいこと言わせてちょうだい」

 

 シショーが一歩引いた! ここで主導権を握ってやる!

 

「ふーん。どうぞ?」

「要するにシショーは詮索されることとわたしがチャンピオンになれないことが気がかりなんでしょ?」

「よくわかってるじゃないか」

「で、詮索に関してはもう罰は受けた。それに今まで黙認したことから考えて、それはわたしを遠ざける理由としては弱い。違う?」

「……」

 

 否定はなし。今さらっとわかったけど、やっぱりわたしがシショーのこと探っていたことには気づいていたみたいね。恐るべし……。

 

「沈黙は肯定と受け取っておくわ。だから結局シショーはわたしにカントーのチャンピオンになってほしい。そういうことでしょ? わたしの夢を本気で信じて心の底から応援してくれてたのはわかってる。だからわたしのために、シショーもわたしのことを、その、憎からず思ってるけど、泣く泣く別れるってことなのよね」

「だったら?」

 

 あっ! 合ってるんだ! シショーってやっぱりわたしが……。

 

「だったらわたしがシショーより強ければ問題ない。そういうことでいいわよね?」

「!!」

 

 シショーは心底驚いた表情を見せたけど、すぐに嬉しそうな、ちょっと獰猛にも見える笑みを浮かべた。釣れたわね。

 

「たしかに。言ってることにスジは通ってる。卒業してすぐ俺に挑戦状を叩きつけてくるとはブルーらしい。なるほど、それでお前はあんなに好戦的な目をしてたのか」

「えっ……わたしそんなに表情に出てた?」

「それを見て俺を探しに来そうだと思ったからな。それじゃ、最初からお前は俺にバトルを吹っかけて、勝ったら自分の言い分を聞いてもらおうって作戦だったのか」

「それだけじゃないわ。ちゃんと約束もして! わたしが勝ったら、わたしがシショーと一緒にいてもいいって」

 

 そう、これがラーちゃんと考えた作戦のハジマリよ。シショーはとにかく約束に弱い。普段悪いことばっかりするけど曲がったことはキライというか、約束破ったりとかそういうことは絶対にしない。わたしの弟子入りの約束も結局ちゃんと果たしてくれた。だからこれだけは何があっても絶対に信頼できる。

 

 ここで言質を取って、あとはバトルに勝てばいい。ちゃんと勝つための作戦も考えてる。絶対勝てるわけじゃないけど五分の勝負はできる。問題はすんなりとこの要求を飲んでくれるかどうか……。

 

「ちなみに、俺がそれを断ったらどうするんだ?」

 

 やっぱりきた!

 

「だったら……ホントのストーカーになって、毎晩化けて出てやる!」

「生き霊でも飛ばせるのか、お前は。なんだ、そこはなんにも考えてないのか? お前の作戦ってのは穴だらけだな」

「し、仕方ないじゃない! ここは思いつかなかったんだもん!」

「ふーん。ここは、か。じゃあ約束させて勝負さえできれば勝てると思ってるんだ。仮にも俺はチャンピオンだぜ? 全力を出してなかったレッドの足元にも及ばなかったお前が、この俺に勝てると本気で思うのか?」

 

 わかるわ。試してるんでしょ? わたしが勝負に勝つ自信があるのかどうか。たしかに不利なのはわかってる。でもね、そんなことで諦めてたらトレーナーなんてやってらんないのよ! わたしはただ勝つことだけを信じて、そのために最善を尽くす! そして勝つ! 何があっても勝って見せる! さぁ、奮い立つのよブルー!

 

「勝つわ! 絶対勝って、あなたを超える! 今がそのときよ!」

「そうか……フフ、いいな。本当にお前は最高だよ。なんでこんなにもワクワクしてしまうんだろうな。正直、俺は優勝してから気が抜けてしまって頭の中がぼんやりしてたんだ。けど、お前とバトルすれば何か掴めそうな気がする。……いいぜ、約束してやる。俺に勝てたら好きにさせてやるよ。チャンピオンのレインとして……ブルー! お前の挑戦受けて立つ! この勝負がマスターズリーグ、本当の最後の戦いだ!!」

「よっしゃ! もうあなたは単なる目標じゃない。ここで夢を現実にしてみせるわ!」

 

 第一関門突破! やっぱりシショーってバトルを挑まれるとなんだかんだ断れないのよね。思った通り。このバトルでわたしの想いを全てぶつける!

 

「それで、ただバトルするわけじゃないんだろ? 先に言っておくことは?」

「……やけに察しがいいわね」

「はっきり言って正攻法ならお前に勝ち目はないからな。なんか考えてきたんだろ?」

 

 この感じ……もういつものシショーじゃない。完全にわたしを敵とみなしている。自信満々で少しも自分の力を疑ってなくて、それでいて相手を見下すようなあの冷たい視線……ゾクゾクする。

 

「はっきり言ってくれるわね。ええそうよ。しゃくだけど、たしかにわたしにも考えがあるわ。この勝負は公式戦とは違う。だからルールを変えようと思うの。時間は取らせないわ。互いの最高のポケモンを出し合っての1vs1の真剣勝負でどう?」

「なるほど、そうきたか。物は言いようだな。悪いがさすがにその条件では戦えないな。むしろ公式戦のルールで戦う方がフェアだろ?」

「ぐっ……それじゃどうやってルールを決めるのよ!」

「だったら間を取るってのはどうだ?」

「間?」

 

 いったい何をしようって言うの?

 

「1vs1ではほぼその1体の相性だけで決まってしまって面白みがない。お前としてはそこに実力差の紛れを求めたのだろうが、さすがにジャンケンみたいなことして勝っても仕方ないだろ?」

「それは……」

「かといってフルバトルだと長過ぎる。なら3体で戦えばいい」

「3体?」

「但し使うポケモンはバトルが始まる前に先に決めておくものとする。途中で入れ替えるのは禁止。これだとただ使う数が真ん中というだけではなくなる。使うポケモンの選び方も重要になるからだ」

「あっ、そっか! じゃあすっごく難しい勝負になるんじゃ……」

「そういうこと。その方が面白いだろ? お前がどんな戦い方をするのか、見せてごらんよ」

「……いいわ。その辺が落としどころね」

 

 くぅぅ、一発勝負で勝つ作戦はダメか。でも3体だとしても勝機はある。上手くシショーを出し抜いてやれば……。

 

「じゃあ選出時間は今から2分でいいな」

「えっ……」

 

 ヤバイ! すぐ考えないと! まずはラーちゃんが絶対必要であとは強いのはフーちゃんでしょ、それと……

 

「クク……お前ってわかりやすいな。必死こいて考えこんじゃって。冗談だよ。時間は無制限。お前の準備ができたらバトル開始だ」

「うそ、いいの? じゃあ今始めてもいいのね?」

「構わないぜ。俺は3体を決めてある。先に置いておこうか?」

 

 そう言ってバッグからボールを3つ取り出した。本当にもう決めてるの!? 早過ぎない?! だってずっとしゃべってたし考えるヒマなんてなかったわよね?!

 

「それでブルー、お前もう一度じっくり考え直さなくていいのか?」

「あっ、やっぱりもっとよく考えてみるわ!」

「じっくり考えな。俺はいつまでも待っていてやる。さすがにビギナーのお前に選出勝ちで勝利を拾ってやろうなんて思ってないから」

「え? どういうこと?」

 

 ビギナー? 初心者ってこと? たしかにこんな変なルール初めてだけど、シショーだってずっとフルバトルばっかりしていたはずよね。

 

「ブルー、簡単に相手の土俵に乗っかるのは下の下だ。俺は互いに6体のポケモンを見せ合ってから3体選んで勝負するっていう形式が1番得意なんだよ」

「え……しかもマジなんだ。ウソではなさそうね。なんでそんな変なルールが得意なのよ!」

「さぁ? 未来ではよくあるルールなんじゃない?」

 

 くっ……あの余裕の表情許さん! 参ったって言わせてやる!

 

「決めたわ!」

「そうか。じゃあバトルを始める前に少し余興をしようか」

「余興?」

「当ててやるよ。お前のポケモン。フシギバナ、ラプラス、ハクリュー、この3体だろ」

「えっ?!」

 

 そんな!? 20通りあるのよ!? なんでわかったのよ!? メンバーは一致してる……。

 

「なんでって顔だが別に強そうなのから順番に名前を挙げただけだ。お前もそういう選び方をしたんだろ?」

「ぐっ……」

「ボールを戻しな。そんなアホな選び方されて勝っても嬉しくない」

 

 くっ、耐えるのよ。バカにされてもここは恥を忍んで教えを乞うべきだわ。

 

「じゃあどうやって選ぶのよ」

「見せ合い勝負ってのは単にレベルの高い強いポケモンを使えばいいってもんじゃない。相手のポケモンがわかってることを活かせ。自分の都合だけでなく相手の都合も考えるんだ」

「相手の?」

 

 シショー、なんだかんだやっぱり優しいわよね。さっきはゾクゾクするような厳しい表情も見せたけど、でも根っこは変わんない。恥を忍ぶどころか、内心こうして教えて貰えるのは嬉しいかったりするかも。

 

「例えば俺から見れば1番厄介なのはラプラスだ。こいつはほぼ出てくると見て間違いない。ならそいつに有利なポケモンで固めてしまえば実質3vs2の勝負ができる」

「あっ……なるほど」

 

 そっか。見せ合いの時点で相性関係は発生しているのね。じゃあお互いに選出は縛られているわけか。

 

「逆にお前のフシギバナは俺のほとんどのポケモンに相性が悪いから選びにくい。だから唯一分が悪いサンダースもあまりフシギバナを意識せずに選出できる」

「あっ……そういうふうに考えていくんだ」

 

 そんなふうにも考えていけるんだ。すごく応用の幅が広い。シショー……結構このルールを極めて色々考えているわね。自分で得意とか言うだけはある。

 

「あとは読み合いだ。どれを出してどれを控えにするか。一点読みで有利なポケモンを選んでも良し、幅広い選出に対応できるようにバランスよく選ぶも良し、そこはトレーナーの判断が問われる。少なくとも何か1体に全滅させられるような選び方はしたくないから、俺はある程度全体のケアをしたくなるタイプだけどな。経験を積めば自分のパーティーにどういうポケモンが出されやすいか統計的にわかってくるから一点読みもできるようになるが、お前には難しいだろう」

「そっか。……なんか駆け出しの頃を思い出すわね。わたしにこうやっていつも教えてくれたよね」

「シショー面されるのは迷惑だった?」

「ううん。すっごく嬉しかった。でも、懐かしいのはここまで。これで勝手はわかってきた。段々あなたを倒す方法もわかってきたわ……レインッ!」

「そうでないとな。楽しませろよ?」

 

 わたしのポケモンは……あなた達で決まりよ!

 




というわけでレインのドッキリでした
誰もブルーがお亡くなりになると思ってない感じの感想で正直びっくりしました
とりあえず助かる感じで考えてますよね
なんででしょうね
「ブルーちゃんお亡くなりとか失望しました! みゅーちゃん派に乗り換えます!」ぐらいは覚悟してたんですが杞憂でしたね

なんでレインがこういうことする展開になるのか、作者に問いたい人もいるでしょう
毎回誰ぞが死にかけたり、好いた惚れたの話が出たりするのは、そういう生死に関わる内容が1番素の感情が出るというか、心情を扱うものとして面白いからですね
あくまでね、題材として良くて書きやすいからということであって、りんごうさぎがサイコ(トレーナー)というわけではないですからね


次回は最終回、レインvsブルーで幕引きとさせて頂きます
何気にこれでマサラ組3人とはマスターズリーグで1回ずつ戦ったことになりますね
なんとなく感じた方もいるでしょうが、この話はORASの初回エンディングの雰囲気を参考にしてます
これがね、ルビサファ時代のオープニングを上手く含みにしていて、ラストが冒頭の伏線回収になる感じがヤバイなぁってことで印象に残ったので参考にしました




ここからは雑談裏話的な感じで、興味がある人だけ

とりあえず完結したので、ちょっと昔書いたときのノート(当時タイピングがヤバかった)を見たら全然違うんですよね
正味、めちゃくちゃ進歩したと思うんですよね
ここに最初に投稿した時と比べてもだいぶ進歩したと思います
そのときのは、ひらがな多いとかは別にして、まず地の文が少ない。セリフだけのプロットレベル
しかも話の内容もだいぶ短くて、けっこう後付けで増えたんだなぁって思いました

特にびっくりしたのはギアナ編が14ページだけで、行ってこらしめて仲直りして帰るみたいなね、はやっ!って感じでした
当然みゅーいじめは2ページぐらいでブルーの隔離もなく、グレンに諭されてすぐ仲直りし、さらには2人きりになって自分の境遇とか秘密も全部しゃべってみゅーも元の姿になって秘密共有……と全然違いますね
なぜああなった()

主人公が最初は個体値カリキュレーターをいじって廃人してるシーン(アナライズへの伏線にするつもりだったがボツ)とか、ナツメの生い立ち(孤独設定があったから)とか、意外とそういうのも書いてる部分も短いですがありました(なおボツ)

でも上達に関してはね、建前抜きでホントにここで投稿することにしたおかげかなと思ってます
見てもらうとあんまり下手な文章は書けないということと、やっぱり0時で締め切りも大きかったですね
駆け込み人間なので、とにかく期限ギリは“げきりゅう”が発動するんですよね
感想ほしいというのがあったので、ギリギリになるとここまできて1日待つのはないなってことで0時ジャスト投稿がけっこうありました
そういう感じでけっこう背中を押してもらえたと思います()

1番見違えたと思うのはバトルがとにかくバトンのワンパターンとか、表現とかセリフがワンパターンとかがすごい変わりましたね
バトルはホントによく全部かけたなとは思います
それまではもうイヤになって四天王戦とか全部飛ばしたりしてたので(続編はバトルの飛ばし過ぎで断念していた)
書き方についても自分が書きやすき文体、書き方を見つけてしっくりくるようになってから内容も量も変わったと思います

変わってないのは登場人物のしゃべりと性格ぐらいですね。みゅーの1人称だけ私からみゅーに変更しました(あらすじはその名残)

というわけで、レインだけでなく自分も色々成長できましたし、なによりアナトレがカントー編だけですけれど完結まで漕ぎつけられて感無量、夢心地です
一生無理なんじゃないかって思うほど手詰まりを感じていたこともあったのでそのときから考えるとキセキですね

まだ最終回じゃないんですが、アナトレにお付き合い頂き本当にありがとうございました!


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10.夢にむかって

最終回!
レインvsブルー!
最後の戦い!!


「決まったわ。この3体で勝つ!」

「いい顔だ。だがブルー、最初の1体はちゃんと考えたか? 最初に相性が不利だと一気に厳しくなる」

「そんなことわかってる。何を言われてもこれで決まりよ」

 

 これ以上は揺さぶりをかけてもムダか。ただ選んだだけのさっきとは手応えが違う。ちゃんと勝つための策を用意して、それに沿ってポケモンを選択しているな。

 

「よし。道具は当然持たせるものだけ。交代自由、ジャッジはセルフ。これでいいな」

「ええ」

 

 さぁ面白くなってきた。俺にもプライドがある。面倒な約束事とか色々あるが、今この瞬間はもうどうでもいい。ただ自分のために勝つ!

 

 ブルーの選出。これはもう何度も考えた。ずっと一緒にいたから、もしこのルールで戦うとしたらどうなるか、ふとした拍子に考えたことはあった。だから考える時間は不要だった。

 

 まず確定がラプラス。絶対にないのがフシギバナ。これは間違いない。逆にここの予想は外れてもそれは俺が有利になるだけ。だから予想通りの場合だけ考えればいい。

 

 あとの2体は残り4体から選ぶわけだが、ソーナンスもほぼないだろう。こいつはマークしていないとあっさり負けることにもなりかねないが、こっちが“ちょうはつ”持ちで固めていれば全く怖くないポケモンでもある。イナズマはバトンで逃げられるし、困るのは実質グレンだけ。

 

 つまりピジョット、レアコイル、ハクリューの中で誰を外すのかという問題になるが、相性的にピジョットが格落ち感がある。弱点を突かれやすく耐性を活かしにくい。ブルーは見せ合いに慣れてないわけだからここは素直な読みで十分だ。

 

 結局選ぶのはラプラス、レアコイル、ハクリューの3体。

 

 そして問題は先発だが……可能性としてはラプラス6、レアコイル3、ハクリュー1ってところか。なら……。

 

「ぶちかませ!」

「いくわよ!」

「ッサム!!」

「ラーッ!!」

 

 出たなラプラス。やっぱり最初か。

 

「いきなり勝負手!?」

「そりゃお互い様だろ?」

 

 ブルーが1番考えるのはどうやってラプラスを活かすかということ。さっき俺はラプラスが厄介と自分で言ったし、それはブルーだって最初からわかっている。使うことはほぼバレてるが、出さないわけにもいかない。

 

 ならせめてタイミングで裏をかきたい。ラプラスは先発しないという先入観が強い。だから敢えて最初に出してみる。そういうことだ。

 

 ブルーのラプラスには物理技か補助技で攻めるのが定石。アカサビかユーレイで倒すのがセオリーだ。

 

 だがこいつは“しんぴのまもり”を使えるし、タネがバレてる“のろい”はリスキー。それに交代まで考えると“とんぼがえり”が使えるアカサビが最も厳しくなるはず。

 

 さらにアカサビならレアコイルにも有利だ。リーグでイナズマとのコンビでレアコイルを手玉に取られたことは忘れたくても忘れられないはず。それも含みだ。

 

 交代はさせない。ここでラプラスは仕留める!

 

「ハイドロポンプ!」

「むしくい!」

 

 フィールドがないので最大威力は“むしくい”の135だ。相手の出方を見るため技名を聞いてから動いたがラプラスはすぐには行動しない。どういうわけだ? “むしくい”がクリーンヒットしたが、それをがっしりと受け止めてから反撃に移った。

 

 ……確実に狙いをつけたのか! 何か仕掛けてくる!

 

「今よ!」

「ラーッ!」

 

 ゴッゴッ!!

 

 この光はまさか!?

 

「ジュエルドロポンくらっときなさい!」

「やってくれたな……!」

 

 確認するヒマがなかったな。相手の動きに集中していた。交代か突っ張りか一応両方ケアしていたからな。まんまとやられたか。

 

 ブルーめ、いきなりかましてくれたな。あいつの考えは読めた。

 

 おそらくサシの勝負になっていれば俺は結局グレンかアカサビを使うと読んだのだろう。そしてこの水ジュエル付きの“ハイドロポンプ”で奇襲し勝つ算段だった。

 

 だがな、アカサビはブルーの想像以上にレベルが上がっていた。耐えきったぜ、ジュエルドロポン!

 

「公式戦じゃないってわたし言ったわよね?」

「わかってるさ。これは真剣勝負。卑怯なんて言葉ねぇよ」

「さっすが。みずのはどう!」

「1!」

 

 甘い甘い。さすがに今度は体力を見ている。すでに先制技圏内。相手の行動も確認した。“バレットパンチ”で決めろ!

 

「ラッ」

「……まもる!?」

 

 “いのちのたま”の反動狙い? いや違う! ヤバイッ! 自己判断で“まもる”を使うパターンと言えばっ!

 

「みずのはどう!」

「戻れ!」

「あーーっ!! 戻んな!!」

「ゲーッ!?」

 

 いきなりビショビショになってイヤそうな声を出すユーレイ。それぐらいは我慢してくれ。

 

 不幸中の幸いだな。“みずのはどう”はぬるかった。確実重視だったんだろうがこれはサシ勝負とは違うんだぜ? 交代の選択肢は常に頭に入れておかないとな。

 

 ……逆に言えば、今の一連の攻め、サシ勝負だったならば完全に決まっていた。俺が負けて……いや、今はそんなことは関係ない。

 

「交代……しかもまためんどうなのが来たわね」

「ラーッ」

 

 またしても指示がない。まさかしゃべりながらのテレパシーなのか? 今度は“れいとうビーム”。ユーレイは地中へ逃げて回避した。

 

 さっきの“まもる”はかなりの高等プレイだな。声でそれらしい指示をしながらテレパシーで本当の指示を出していたのだろう。強い信頼関係と訓練の賜物だ。

 

 しかも“バレットパンチ”はわからないようにしたのに思いっきり読まれていたわけだ。ほぼ“バレットパンチ”一択の状況とはいえ迷いがない。少しでも躊躇すればタイミングが間に合わないことをわかっていて、この作戦に全てをかける覚悟をしていた。

 

 このバトルにかけるブルーの想いが伝わってきた気がする。

 

 さて、厄介なことになってきたな。大したやつだよ、お前は。もうブルーの声は頼りにできない。ラプラスはここで強引にでも倒させてもらう!

 

「2」

「れいとうビーム!」

 

 今度は指示通り“れいとうビーム”か。ブルーは特殊耐久の堅さを盾にして殴り合いを挑んできたな。こっちが補助技を打てないこともわかっている。

 

 ゴッゴッ!

 

「うそ!? 今度はそっちが!?」

「当然卑怯とは言わせないぜ?」

 

 考えることは同じだな、ブルーよ。もしバトルになったらこれで奇襲してやろうと思っていた。

 

 格闘ジュエルが発動! “きあいだま”が直撃した。予想外のダメージに踏ん張りが効かなかったのかラプラスは倒れた。

 

「ラー……」

「ゲェェー」

「おっと……ダブルノックアウトか。ここできゅうしょに当ててくるとは参ったな」

 

 これは本当に参ったな。さすがに耐えるか耐えないかは全然違う。キツ過ぎるな。ここで耐えて次の催眠“いたみわけ”に繋ぐ予定だったんだけどなぁ。ラプラス相手だしこれぐらいは仕方ないか。

 

「ずいぶんと荒らし回ってくれたな」

「わたしは見せてない2体、シショーはかなり消耗したアカサビさんと1体。先手は取ったわよ」

 

 情報の価値もよくわかってる。だとするとここで俺がアカサビを出したくなることもわかってそうだな。いや、今のはアカサビを出させないためにわざと誘導を?

 

 なーんて、悩んでも俺の選択は最初から1択だけどな。

 

「お願い!」

「頼むぜ」

「ソォォォーナンス!」

「ッサム!」

 

 !?

 

「ソーナンス?! しかもここでか?! 9!」

「アンコール!」

 

 こっちは当然“ちょうはつ”だ。そのまま戦うつもりか?

 

「ナンスー」

「サム?!」

 

 効いてない!? いや、回復した? まさかあいつ道具を……ああっ! 持ってる、メンタルハーブ!! わざと使い方を黙ってたのに!!

 

 この状況はかなりマズイ!! ハクリュー降臨でほぼ詰み……!!

 

「みゅーちゃんにお礼言っといてくれる?」

「使い方に気づいたのか!」

「そういうこと。戻って! いくわよリューちゃん!」

「ビーリュー!!」

「カイリュー!?」

 

 進化している。レベルは55を大幅に超えている。意図的に進化キャンセルを……。そういやカンナ戦を控えていたから進化させないのは戦略的になくはないか。そのあと俺のあげた“ふしぎなアメ”辺りで進化させたんだろうな。

 

 さて、今アカサビが動くわけにはいかない。適当に驚いたフリでもしておくか。

 

「すごいでしょ」

「ラプラスにカイリューか。たまげたなぁ。四天王と戦っているみたいだ」

「りゅうのまい!」

「……1!」

 

 俺は引っ込めることすらせずに様子を見ていた。“バレットパンチ”は当然失敗だ。交代時も“ちょうはつ”はわざと使わなかった。

 

 ブルーの狙いは俺の出方を見て交代を確認してから交代先へ攻撃技を使うこと。“ちょうはつ”を縛る以上“りゅうのまい”はできない。アカサビは攻撃できないので居座っても仕方ない。

 

 だが隙を見ればつけ込みたくなるのがトレーナーの性。俺が“ちょうはつ”しないのを見て目聡く“りゅうのまい”を仕掛けてきた。ラストがグレンだと攻撃力は下がるからな。

 

 これは苦肉の策。現状俺はかなり苦しい。ここで素直に交代して一貫する“げきりん”を打たれても負け。“ちょうはつ”を当てて居座っても結局負け。勝つ可能性があるならこれだ。敢えて何もしない! そのまま居座る! ヤンキーの極みだな。か細い勝ち筋だが拾ってみせる!

 

 カイリューの道具はドラゴンジュエル。これなら問題ない。

 

 まだだ、まだ動くな……。あと2回、2回積んだら交代を宣言しよう。

 

「え? もう交代はできるわよ? そのまま出せもしない技を失敗しているならありがたくりゅうまいさせてもらうわ」

 

 まだ気づいてない? さすがにそろそろおかしいと気づいてもいい頃だが……もしかしてブルーは理解してないのか? 自分がどれほど危険な行動をとっているか。それともやはり罠にかかっているのか? 俺はすでに罠を仕掛けている。

 

 そんな俺の思惑をよそにカイリューはさらに能力を上げてゆく。

 

「ッサム!」

「きたか」

「ほのおのパンチ!」

 

 “アンコール”が解けたがブルーもすぐに対応してきた。けど“ほのおのパンチ”なら好都合。すでに3回積んでいる。もう追加効果を引こうが急所に当たろうが俺の勝ちだ。微妙にあった負け筋も消えた。

 

 この勝負……俺の勝ちだ!

 

「交代だ! 戻れ!」

「もうリューちゃんは止まんないわ!!」

 

 俺のボールから飛び出した影は瞬く間に姿を変え激しい拳を同じ右手で受け止めた。

 

「びーりゅー!」

「えっ!? なんで!? みゅーちゃんはいないはず!?」

 

 ブルー……やっぱり気づいてたか。ラプラスからアカサビを引っ込めた時、みゅーがいるなら必ずみゅーに交代するべき場面だった。だからみゅーはいないはずだという読みが効く。ブルーならそう考えてくれると思ったよ。

 

 敵を騙すには相手がありえないと思うことをしないとな。自分の身を切るからこそ相手を騙すことができる。ユーレイを失ったのは痛かったが結果オーライだな。

 

 みゅーがいなければ“りゅうのまい”を使いまくってくれる。

 

 カイリューはほのおタイプの技が使える対アカサビの切り札であると同時に“りゅうのまい”による最後のエースにもなれる。全抜きを狙うなら出すのは当然こっちのダメージが蓄積している最後。そして必ずどうにかして“りゅうのまい”を決めてくる。

 

 だから俺は最初からそれをコピーして逆に全抜きすることを考えていた。だからラプラスを確実に倒しておきたかったんだ。

 

「お前知らないのか? へんしんすれば能力変化もコピーできるって」

「わかってるわよ! でもこんなのおかしい! さっきラーちゃんに出せば良かったのに!」

「さっきは慌ててたからな」

 

 なるほど。やっぱ理解した上で自分の読みを信じたんだな。見せ合いで勝負するのは初めてだがさすが、ブルーは俺の見込んだ通り……やっぱり面白い。そうやって読み間違えると思ったから俺も咄嗟に罠を張ったんだけどね。元々みゅーは積み技のケアで最後までとっておくつもりだったし。

 

「うそばっかり! でもね、それでも結局能力は五分に過ぎないのよ! だからみゅーちゃんは怖くないわ! ここで同速勝負を制して私が勝ってやる!」

 

 そうか……最悪でも五分、そういう考えがあったんだな。だから自信満々でこんな恐ろしいことをできたのか。果たしてそうかな?

 

「事実上これが最後の攻防だ。先に技を決めた方が勝者になる」

「いっけぇぇリューちゃん!」

「みゅー、決めちまえっ!」

「「げきりん!!」」

 

 勝負の天秤はあっさりと傾いた。初速がまるで違う。みゅーの首元にはあの道具が巻かれていた。

 

「りゅーーー!!」

「リュ……」

「カイリュー戦闘不能……おれにはアカサビも残ってる。勝負あったな」

「そんな……あっ、それはこだわりスカーフ!! せんせいのツメじゃないの!?」

 

 顔に隠れて見にくいがみゅーにはたしかに“こだわりスカーフ”が巻かれている。勝負がついたのでみゅーが見えやすいように角度を変えてブルーに見せていた。

 

「このルールだと本来メタモンには“きあいのタスキ”か“こだわりスカーフ”を持たせるのが王道。確実にミラーマッチに勝てるようになるからな。“せんせいのツメ”は邪道だ。これが本来の戦い方なんだよ。相手のエースをコピーして、同速に勝ってそのまま逆に全抜きするってのがこいつの得意戦法だ」

「それじゃ、それをわかっていなかったわたしの……トレーナーの実力不足なのね。……負けたわ。シショーの……勝ちよ」

 

 ブルーは泣いている。少し前までは勝利を確信していた。それだけにこの敗北はより悔しいだろう。だけどこれでいいんだ。この悔しさがブルーの糧となるはずだから。

 

 慰めの言葉は必要ない。

 

「ブルー、戦ったポケモンを見せな。みゅーに回復させてもらうから」

「え、今?」

「全員で、最後のお別れぐらいはしておきたいだろ」

「……! わかってる。わかってるわよ。約束は……守る」

 

 ブルーは倒れたポケモンを出した。俺のポケモンと合わせてみゅーがそれを回復させ終える頃にはブルーも泣き止んでいた。

 

(ブルー……)

「いいのいいの。仕方ないわ。わたしの完敗だもん。真剣勝負なんだから約束は守らないとね」

(……)

「ダァー! ダァー!」

「どうしたのイナズマちゃん? わっ! ちょっと、くすぐったいわよ?」

 

 悲しそうな声で鳴き、ブルーの腕に飛び込んで甘えている。別れることは部屋でさっき話していたから駄々をこねたりはしないが、なんとも胸が締めつけられる声だ。

 

「クゥゥーー」

「うぅっ……だ、大丈夫よ! きっとまた会えるから! 今度会ったらまた一緒に歌ったりして遊びましょう!」

「ダーッ!」

 

 全員で言葉を交わし合い、ポケモン達の別れも済んだ。もう出発の時だ。これ以上先延ばしにはできない。ポケモン達は自分からボールに戻った。

 

「さぁ、これでもうやり残したことも言い残したこともない。本当のお別れだ」

「うん……」

「ブルーに最後なんて言うか、色々考えたけどやっぱりわかんないな。もう何も言わないでおくよ」

「……シショー」

 

 そのまま立ち去ろうとしたがその前にそっと手を掴まれた。暖かい気持ちが伝わってきて、ちょっと頭がボーっとしてきた。熱に浮かされたように気づけば言葉がついて出てきた。

 

「ただ、最後に1つだけ」

「……なぁに?」

「ブルー、お前のこと……好きだよ」

「……!」

 

 背を向けて手を振った。もう振り返ることはしない。ブルーの目を視たら俺の方が離れられなくなってしまうから。

 

 今日は眠れそうにない。星はあんまり見えないけど、夜空でも眺めながらゆっくり散歩しようかな。

 

「待って……待って! いがないで!」

「えっ!?」

「ごめんなざい、やっぱりヤダ! わだしも行く! 一緒に行く!」

 

 いきなり背中から抱き着かれた。ブルー!?

 

「おまっ、バカ! バトルしてケリはついただろ! それにポケモン達も含めてお別れも済ませた! ここまで来て全部ナシにする気か?!」

「ひぅぅ、ごめん、ごめんなさい。わたし約束もなんにも、うぐっ、守れないの! バトルに負けだけど、やっぱり耐えられなくなったの! わたし、もうどうしようもない人間なの! でもシショーは…………やっばり好ぎなのっ! ごべん、ごべんっ!!」

 

 ブルーは子供みたいにワンワンと泣きじゃくっている。さっきまでの取り繕った控え目な泣き方とは全然違う。なんとなくわかる。自分の中の何もかもが崩れ去って、怖くて不安で押しつぶされそうな、そんな感じ。ここまでお別れもしてしっかり納得もさせて、さっきまで元気そうな顔に戻っていたのに、今はもう完全に理性のタガが外れている。

 

「ブルー、わかったから一旦ちょっと落ち着いて。一度手を離してくれる?」

「ヤァァッ!! もう離せない! どっかいっちゃう! シショーはわたしの知らないところでいなくなっちゃう!」

「……」

「もう無理! 離さない! 絶対離さない! ぅぅ……」

 

 これだけがっしりくっついているとイヤでもわかる。ブルーはわがままでこんなことしてるんじゃない。本当に耐えられなくなって、自分でもどうしようもないんだ。弱気で臆病になって、辛くて苦しくて、それで俺に縋るしかないんだ。

 

 こうなった以上もう理屈で説得することは不可能だ。どうしたものか。

 

「わかった。そのままでいいから。なんで急に我慢できなくなったの?」

「シショーが好きって、わたしのこと好きなんだって、なのにわたしのために、辛いのに別れて、わたしのために、いつも応援してくれて、いっぱい優しくされて、こんなに愛されてるのに、愛情を感じて、お別れするなんて、もうお別れなんだって、思ったら……もういなくなるって、耐えれなくて、そんなのって、もうわたし、生きていけないの。チャンピオンなんてどうでもいい。シショーといる方がいい。ずっと弱くてもいい。弱いままがいい。弱いままでずっとシショーの弟子のままがいい! ずっとこのままがいい!」

 

 ブルー……。

 

 それを聞いて思ったのはやっぱり一緒に連れていこうかということだった。ブルーがそれを望むなら、断る理由はないんじゃないか? 俺だって一緒の方がいい。今が幸せなら、それで……。

 

 ――わたしすぐにシショーなんか追い越してやるからっ!!――

 

 あぁ、そういえばいつもこんなこと言ってたな。最初の頃から俺に向かってこんな大言を吐いて、やっぱりこいつは大物だった。でも、こういうことを言うブルーを見ていると嬉しくて……そうだ、大事なことを思い出した。

 

 俺はただブルーが好きなんじゃない。夢にむかって進み続けているブルーが好きで、ずっとそんなブルーを見ていたかったんだ!

 

 今ここでブルーを連れて行ったら、もう大好きだったブルーは消えてしまう。このままがいいなんて言葉はブルーには似合わない。まだブルーには前を向いて進み続けてほしい。

 

 ブルーとの勝負、楽しかった。初めて試すルール……バトルはどこまでも変わり続ける。そしてあのメガシンカ……ポケモンにだって終わりはない。だからポケモンバトルにゴールはないんだ。この先には何があるのだろうか。自分の目で見てみたい……さらに強くなったブルー、そしてさらに強くなった自分を。

 

 俺の元を離れることはブルーが強くなるうえで必要なこと。自分で考えて強くなるプロセスは絶対に必要だ。そしてチャンピオンになってほしい。ブルーがチャンピオンになるのはもう俺の夢でもあるから。

 

 もう一度……ブルーには立ち上がって貰わないとな。そして俺自身も迷いは切れた!

 

「ブルー!」

「えっ!?」

 

 震える手でしがみついているブルーを力任せに引き離した。そして驚くヒマも与えず正面から抱きしめてあげた。

 

「あうっ……」

「こっちむいて」

 

 本当はこういうことをしないためにあんなこと言ったんだけどなぁ。

 

「ん!?……これ……」

「落ち着くでしょ?」

「うん……」

 

 さっきまでぐちゃぐちゃだったオーラは安定している。もうおかしくなることはないだろう。

 

「俺の話を聞いてくれる?」

「うん」

「俺さ、決めたよ。やっぱりホウエンに行こうと思う。お前やレッドと戦ってわかったんだ。俺はまだまだ弱いって」

「えっ……チャンピオンになったのに?」

「全然だ。俺はまだまだ強くなるし、まだまだ色んな冒険やバトルが待ってると思う。この世界は知らないことだらけだってようやく気づいたんだ。遅過ぎるよな」

「……」

 

 ブルーは黙って聞いている。かわいい顔を撫でながら、ブルーの気持ちを感じながら、俺はゆっくりと話を続けた。

 

「だから俺は世界を見てくるよ。俺の旅路はいっつも寄り道ばっかりだから、少し道のりが増えても変わらないし」

「……そうね」

「それから、新しい夢も聞いてくれる?」

「うん」

「俺はさ、全部の地方でチャンピオンになろうと思うんだ」

「全部……!」

「そう。あらゆるマスターズリーグで優勝して、ポケモンマスターになる。それが次の目標」

「ポケモンマスターか。フシギな響き。たしかにそう呼ぶにふさわしいわね」

「そういう言葉はないの?」

「初めて聞いたわ」

「そうか……じゃあ俺が初代だな。それともう1つ夢がある」

「まだあるの?」

 

 俺は欲張りだからな。もっと大切な夢が増えてしまった。

 

「それは……お前がカントーのチャンピオンになること」

「!!」

「今気づいたんだ。俺はずっと夢にむかってがむしゃらに走り続けるブルーが好きだ。お前にはずっと前を向いていてほしい。だからもう弱いままでいいなんて言わないでくれ」

「ごめん。さっきはおかしくなってて……」

「わかってる。お前には辛いことをした。お前だって頭ではわかってるんだよな」

「……」

「だからもう1つ、俺とブルーで秘密の約束をしよう」

「約束?」

 

 この約束がきっとブルーをもう一度立ち上がらせてくれるはず。ブルーは絶対こんなところで終わらない。

 

「ブルーがチャンピオンになったら、俺は必ずお前に会いに行く。それまで絶対勝手にいなくなったりとか、もちろん死んだりもしない」

「……!」

「そしてまた会ったら、今度はチャンピオンの座をかけて俺と本当の決勝戦をしてもらう。俺に勝つまではカントーチャンピオンは名乗らせないから」

「シショー……」

「そしてもしお前が勝ったら、俺からご褒美がある」

「ご褒美?」

「バトルに勝ったら、お前の願いを1つ、なんでも叶えてあげる」

「……なんでもっ!?」

 

 さすがにちょっと気前が良すぎたかな。

 

「ああ。お前の言うことならなんでも聞いてやるよ。俺にできることならね。死んでくれと言われれば死んであげるよ」

「そんなこと言うわけないでしょ! でも、それじゃホントになんでもいいのね?」

「嘘偽りなく。約束は守るよ」

「……」

「その代わり……ブルーも必ず約束を守ること。俺なんか追っかけてないで、ここでしっかり強くなってチャンピオンになれよ。約束な? 俺を探してホウエンに来たら『なんでも』っていうのはナシだから」

「あっ! ずるーい!」

「ありがと」

「褒めてない!」

 

 ブルーは嬉しそうだな。どんなこと頼むつもりだ?

 

「お願いはいつ決めてもいいし、勝ってから考えてもいいけど、その顔だともう決まってそうだな。なんて言うつもりなんだ?」

「えっ!? ま、まだ考え中よ! こんなチャンス二度とないもん、じ~っくり考えさせてもらうから!」

「決まってるクセに。ケチだな。どんな恐ろしいことを言うつもりなのやら」

「ケチでいいもーん。そうと決まったらわたしもウカウカしてらんない。シショーはゆっくりホウエンでバカンスを楽しんでね。わたしは鍛えまくっておくから。絶対に勝ってやるわ!!」

 

 ブルーは抱きしめていた俺から離れて、ビシッと俺を指さしながら宣言した。その姿を見て無性に嬉しくなる。

 

「そうさせてもらうよ」

「じゃあね! 今の約束、ぜぇぇぇっっったい!!! 忘れちゃダメだからねーーっっ!!!」

「わかってるわかってる」

 

 そんなおっきな声で念押ししなくても聞こえてるから。

 

「じゃあ1年後会いましょう! 楽しみにしてるわ! すっぽかしたらホウエンまで探しに行くからね!」

「絶対に会いに行くよ」

 

 なんとブルーの方が先にカイリューに乗って去っていった。俺を見送ろうって気は皆無なんだな。さっきまで離れたくないってしがみついてたのがウソみたいだ。

 

 全く……締まらない別れ方だったな。でも、こういう方がブルーらしいかな。

 

「いっちゃったね」

「みゅー? もしかしてボールの中から見てたのか? 野暮じゃない?」

 

 音もなくボールから出てきていた。どうやったんだ……。暗いからちょっと声にびっくりした。さすがにずっとボールの外にいたわけじゃないよね?

 

「みゅふふ。レインかっこよかったよ」

「え、そう?」

「みゅーにはしてくれないの? ブルーばっかり羨ましいなぁ」

「あ、いや、それはその……」

「くすくす……。レイン慌て過ぎ……冗談なの」

「うっ……」

 

 みゅーの言葉に一喜一憂させられる。気づいたらみゅーがどうやって現れたのかについては忘却の彼方だった。

 

「レインはブルーの心を癒してあげたんだよね。わかってる。ねぇ、ブルーがチャンピオンになったかどうか、どうやって調べるの? 1年後かどうかはわかんないよね? みゅーのテレポートに頼るつもり?」

 

 それが聞きたかったのか? 簡単なことだ。

 

「あれ? みゅーさんわかんなかった? ブルーが本気になったのに負けると思う?」

「あっ……みゅふふ。思わないの。レインって罪な人間ね」

「さて、なんのことやら」

 

 ブルー、また会う日までお前はお前の道を走り続けてくれ。俺も俺の道をずっと進み続けるから……果てなき夢にむかって。

 




これにてカントー編は完結です!
やったぜ!

行き当たりばったりで書いてましたが意外とちゃんとまとまりましたね
なんでもとりあえずやってみたらなんとかなるもんですね

とりあえずブルーの秘密探求から殺されかける流れとかみゅーのきもち編とか書きたかったことも全部詰め込めたので満足です

一応バトルの補足だけ
流れの都合上みゅーが登場してすぐ決着なので説明を書く余地がありませんでした
要するにこういうことです

まず前提として
+0げきりんでカイリュー確1で交代不可
+2げきりんでソーナンス乱1で3回積めば倒せる
と仮定するとアカサビの行動は
Ⅰ)ちょうはつする場合
レインの行動を見てから後出しで技を決めれるので
1.交代
アカサビ以外に一貫するげきりんを使うのでみゅー戦闘不能
残りHPが僅かなのでアカサビもげきりんでダウン
2.居座り
ほのおのパンチでアカサビダウン
カイリューミラーはげきりんでみゅーが勝ちますがソーナンスにカウンターを貰って負け

Ⅱ)ちょうはつしない場合
1.ブルーがりゅうまいしない場合
上のⅠと同様に負け
2.ブルーがりゅうまいする場合
みゅーが能力アップをコピーすればワンチャンス

こういう感じの場合分けの結果ちょうはつしないでりゅうまいして貰う場合だけ勝つ可能性があるということです

ちなみに3回積んだあとレインは勝ち宣言してましたが
ほのおのパンチの後
1.火傷する
火力1.25倍なのでカイリュー確1は変わらず、アカサビでソーナンスを倒せるので勝ち

2.火傷しない
当然カイリュー確1なのでソーナンスに交代してもこっちも“げきりん”で確1なのでみちづれ不可で勝ち

というガバガバな場合分けをしてレインは新世界の神になった気でいますが

3.火傷してソーナンスに交代される
ソーナンスに引いて耐えられ補助技なので2回目のげきりん前にみちづれをされ相打ち
カイリューにほのおのパンチをされアカサビ焼死

という筋を見逃しノートをすり替えられて負けです()
レインはソーナンスがげきりんの確定ラインに入ったら即勝ちという思考に陥ってました

たぶんバトルにミスはないと信じたいですがなんかおかしかったらこっそり教えてください()

ブルーはりゅうまいを狙い過ぎ感ありますが、元々5割で勝てれば御の字という感覚なので同速勝負は歓迎ということと、スカーフを持たせることは知らなかったということが致命的で負け筋が読めず敗着になりました

ただ、正味レインもりゅうまいコピーを最初から狙い過ぎではありますね
ユーレイ切って手持ちの情報をひっかけるプレイングがしたかったんですが1歩間違うとただの奇行ですね()
レインは反省して(みゅーちゃん並感)


次の話なんですが、ホウエン編への橋渡しの部分をどうするかまだ考えてないんですよね
エクストラみたいな感じで続きを書くとか、あと後日談っぽいのをつけるのもアリかなとか
ちょっと小考入ります

一応公約通りとりあえず完結は先に済ませたので万々歳ではありますが、まだ手直しが必要なところはあるので自分でたまに読み返すときなどに多少いじることはあると思うので内容は変わったりするのはあしからず
投稿するときに何回も読んでるクセに飽きずに読み返してますからね
自分自身が最大の読者(真顔)

あとオマケっぽい話とか回想とかも増やすかもしれません
レッドの話(カラクリとかサカキとか)は書こうとしたこともあったんですがレッドの語りがイメージできず断念してましたが今ならできそう?
内容を思いついたらなのでやるかはわかりませんが()

みゅーの過去とかみゅーvsミュウツーとかブルーの旅立ちとかエピソードっぽくできそうな要素は他にもばら撒いてるのでやろうと思えばってところではあるんですよね
面白くないとあれなんでボツ状態ですが

最後に、作者はなんかやりきったぜみたいな感じを出してますが実際には単に区切りがついただけなので話は普通に続きます
実は特に変わることはなく今まで通りですね()


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EXTRA

 ここはカントーの玄関口、クチバシティ。俺は船に乗るためにここに来た。

 

「次の便は明日ですね。予約なさいますか?」

「じゃあそれでお願いします」

 

 船にはすぐ乗れそうだが今日はヒマだな。どうしようか。

 

「なんで船なの? ヒリューがいるのに」

「普通の船旅もしてみたいでしょ? ヒリューに乗るのってやっぱしんどいし」

「ギアナのときは1週間乗ってなかった?」

「あの時はおかしかったからな」

 

 今思い返せば正気の沙汰ではない。たまにはのんびり船に乗ってもいいじゃん。着くまでゆっくり昼寝でもしていたい。

 

「レイン、今ヒマなんだよね? いきなりなんだけどごほーびほしーの。みゅーにもごほーび!」

「ホントにいきなりだな。でもそうか、お前達頑張ったもんな。なんかおいしいものでも食べに行く?」

「みゅみゅ! グレン達も一緒ね」

 

 急遽打ち上げをすることになった。丁度ヒマだし、みゅー達は本当によく頑張ったもんな。しっかりねぎらってあげよう。ウルトラだかメガだかよくわからん外国っぽいお店に入ると、席に着くなりみゅーが暴挙に出た。

 

「じゃ、メニューの上から順番に全部ね。お腹減ったから早くして」

「え、全部……ですか!?」

「ちょい待てちょい待て! 上から持って来いしたいだけだろ! そんなに食べれないでしょ! 無茶苦茶するな!」

「えー、仕方ないなぁ。じゃあスパーキングギガボルトデラックスと、アルティメットドラゴンバーンのフルコースとあとは……」

「くっ……高いのから順番に……ぜ、全部よりはマシか」

 

 注文が来てからも好き放題だった。

 

「レイン、みゅーバトルで疲れてるから食べさせて」

「えっ!? もうしょーがないなぁ」

「ガウガー」

「ダーッ」

「ん!? まさかお前らも!?」

「ゲゲ!」

「こら! 飲み物混ぜるな! ……俺を実験台にする気か?!」

「グルルル」

「そこの肉食獣、お客は餌じゃないからな。お肉追加していいから自重してね」

 

 お前ら好き勝手し過ぎだ。アカサビさんを見習え!……でも今日ぐらいはいいか。

 

「デザートはウルトラオレンパフェZとメガ盛りオレンアイスね」

「鬼!!」

 

 慈悲の心が欠片もないな。

 

 一通り腹を満たしてくつろいでいると妙な噂が聞こえた。

 

「船乗りが相次いで失踪……」

「荷物も紛失……」

 

 なんだ今の? まぁどうでもいいか。

 

「レインどうしたの?」

「いや別に」

「お会計です」

「……!? け、ケタ……」

 

 代金はパソコンから引っ張り出すはめになった。

 

 とりあえず1日パーッと盛り上がった後、翌日船に乗った。

 

 でもラッキーだな。なんでか知らないが前日に来て予約が取れたし、けっこうおっきな船だし。なんか意外と客が少ないが、そのせいか?

 

「チケットを拝見します。……お客さん、くれぐれも荷物などはしっかり自己管理してなくさないようにしてください。なぜか荷物が一時的になくなる事件がいくつも起きてますので」

「そうなんですか。わかりました」

 

 俺は部屋に引きこもるつもりだし盗まれる心配はないだろう。

 

 自分の部屋についた俺はボールをおいてベッドで横になろうとした。

 

「待って。モンスターボールは持っておいた方がいいの。良くないことが起きるかもしれない。レイン不用心」

 

 みゅーの警告……エスパーの言うことだし従っておくのが無難か。

 

「そう? カギはかけるけど……まぁそうだな。一応持っておくか。じゃ、おやすみ」

「みゅ!? レイン寝るの!? 船内を探検しようよっ! レイン、起きて!」

「いいじゃんたまにはぐーたらしてもさぁ。いきたきゃ1人でいってきていいよ」

「みゅぅぅぅ!! レインと一緒がいい! 遊んで遊んで!!」

 

 みゅー、最近落ち着いてきたかと思ったがやっぱり遊びたい盛りには変わらないんだな。でも相手するのは面倒くさい。

 

「あーもう仕方ないなぁ。じゃんけんぽん!」

「みゅっ! あっ、負けちゃった……」

「じゃ、そういうことで。起こすなよ、俺、起こされるとイライラするから。言ったからな」

「あー!? もうっ! レインずるい!」

 

 惰眠をむさぼっているとけたたましい音と共に船室のドアが蹴破られた。

 

「んあ?」

「この船は我々ロケット団が乗っ取った! おとなしくポケモンを全て渡せ」

「てめぇ……言ったよな?」

「は?」

「中途半端に起こされると気分よく目が覚めねぇからイラつくんだよ! くたばれ! イナズマほうでん!」

「うぎゃぎゃ!?」

 

 ロケット団の下っ端らしき奴らをまとめて倒した。なにがどうなってこんなことになった?

 

「レインやっと起きたのね」

「みゅー!? お前起きてたならこいつら止めろよ!」

「だって起きてほしかったんだもーん」

 

 レインが悪いんだよ、とでも言いたげな表情。ちょっと怒ってる気がする。

 

「……悪かったよ。で、どういう状況?」

「最近船乗りと荷物が姿を消したのはロケット団が団員とすり替えていたのね。船乗りに化けた団員が手引きして荷物に紛れたロケット団がいっぱい乗り込んでる。どうする?」

 

 荷物に紛れてって……そんなことできるのか? 40人の盗賊さんかな?

 

「決まってるだろ? 安眠のために全員ぶっ倒す」

「ダメ」

「はぁ? なんで?」

「全員倒したらみゅーと船内巡りね」

「……わかったよ。その代わり手伝えよ?」

「わかったの。みゅふふ」

 

 さて、敵はどこだ? サーチ!

 

 ポケモンの反応は甲板か。ドククラゲがいっぱい。さっさと始末するか。

 

 現場に向かうとそこでは乗客が数名、人質になっていた。どうも何人かのトレーナーがロケット団に立ち向かったようだが、バトルを挑んだものの人質を盾にされ身動きとれずにいる。

 

 俺はイナズマの特攻を上げてから現場に突入した。すぐにロケット団に見つかり命令された。

 

「まだトレーナーがいたか。お前、この人質が見えるな? 動くとどうなうげっ!!」

「お前ふざっ!?」

 

 近くにいた敵が突然吹っ飛び海に投げ出される。船は止まってるみたいだし後で回収すればいい。少々寒いが頭を冷やすにはもってこいだろう。ここにいられるとジャマだ。

 

「こうなりゃ1人みせしめだ! 人質はいくらでもいる!」

「マズイ! きみ、むちゃはよせ!」

 

 団員の1人がヤケを起こすが当然それぐらいはわかってる。1番最初に手は打っておいた。

 

「人質ならもう安全だけど、それでも攻撃はよした方がいい?」

「えっ!?」

「ドククラゲが寝てる!?」

「ゲッゲッゲッ」

 

 当然ユーレイは先行させてある。ドククラゲはもれなく催眠の餌食だ。

 

「みゅみゅっと」

 

 仕上げはみゅーが人質をこっちに移動させて終わり。今、敵と味方で完全に二分された。これで心置きなく攻撃できる。

 

「ほうでん」

「シャァァ!」

「うぎゃぎゃ!?」

 

 ロケット団は一網打尽。これで終わり……いや、まだいるな。

 

「みゅー」

「わかってる」

 

 物陰に隠れていたロケット団を摘まみだして気絶させ、船を動かす操舵室みたいな場所を占拠している輩も排除した。これで一件落着かな。

 

「きみ……ちょっといいかね? もしかしてきみは……」

「あ、船長さんですか?」

「いかにもそうだが……」

 

 やっぱりか。なんか見た目が“いあいぎり”とかしそうな出で立ちだもんな。

 

「ちょっと船内を見て回ってもいいですか? この子が探検したいってうるさくて。ついでに異常がないか調べときますから」

「あ、あぁお願いするよ」

 

 これで心置きなく探検できる。最初は船を冒険なんて子供過ぎると思っていたけど、まんざら興味がないわけじゃないからな。できたら沈みかけの船とかの方が面白そうだけど、それはホウエンのお楽しみってところかな。

 

「ねぇ、厨房とかみたい!」

「なんでだよ!? 普通エンジンのとことか、もっとメカニックな場所じゃないのか? なんか秘密の部屋とか通路とか、そういうのでもいい」

「えー。だって厨房ならオレンのみとか落ちてそう」

「落ちてるもん拾うな!」

 

 ホウエンまであとどれぐらいだろうな……

 

 少なくとも、みゅーと一緒なら退屈はしないだろう。

 

 ◆

 

「よかったじゃない! グリーンおめでとー」

「何がおめでとーだ! お前が断ったから俺が押し付けられたんだろうが!」

「あれ、そうだっけ?」

 

 マスターズリーグが無事終わってしばらく、大会の熱は冷め、いつもの日常が戻ったある日。今日はグリーンのジムリーダー就任のお祝いでグリーンの家に来ていた。

 

「全くお前らときたら……レッドは強いポケモンを探してどっかいっちまうし、レインもふらっといなくなって、お前はちゃらんぽらんだもんな。やっぱ俺がやるしかねぇか」

「わたしはしっかり者ですよーだ。あんたが選ばれたのはお似合いだからでしょ? グリーンのグリーンバッジ……ぷふーっ!」

 

 ダメッ、何回聞いてもウケるんですけど! 自分でグリーンバッジ渡すのってどんな気分なの? ねぇどんな気分?

 

「笑うな!! それを言うならお前だってブルーのブルーバッジになるじゃねぇか! ハナダジムやれ!」

「ヤーよ。ジムリーダーとかするヒマないし、ハナダジムって最近カスミさんに変わったところじゃない」

「あっ! やっぱてめぇ仕事がイヤで拒否ったのか! ズリーぞ!」

 

 あっ、この流れはマズイわね。適当に誤魔化しましょう。

 

「何を言ってるのかわかんないわねぇ。そもそも、わたしはチャンピオンになるからあんたにジムリーダーの肩書きを譲ったまでだけど? あんたもジムリーダーの方が箔がついていいと思うでしょ?」

「言ったな!? そりゃオレがお前に勝てねぇって言いたいんだよなぁ?! いいぜ、その喧嘩買ってやらぁっ! 今すぐ表に出ろ! オレと勝負しやがれ!」

「ハッ! 望むところよ! ボコボコにしてやるわ!」

 

 バンッと机を叩き本気で表に出るつもりで席を立った。でもそこで見事に止められてしまった。

 

「はい、そこまでね。グリーンやめなさい」

「げっ! ねえちゃん!」

「ナナミさんっ!」

「ごめんね、ホントはブルーちゃんが来てくれて嬉しいんだけど、照れ屋だからついなまいき言うのよ、この子」

 

 さすがおねーさん、グリーンのことよくわかってるわね。生意気なところって実は照れ隠しみたいなもんなのよね。

 

「大丈夫、わかってます。長い付き合いですから」

「そうだったわね。うふふ」

「ちがっ! ねえちゃん! どこをどう見たら今の流れでそうなるんだよ!? オレが喧嘩売られたの見てただろ?!」

「口答えしない!」

「そりゃねーぜ……」

 

 ふふっ。余計なことは口に出して言わないけど、やっぱグリーンって身内からの扱いが厳しいわよね。どんまい!

 

「それよりブルーちゃんこれ見た? 今朝の一面」

「えっ? ふむふむどれどれ……あっ! シショー!」

「レインか!? あいつまだ生きてたのか! いでっ!?」

 

 グリーンにゲンコツを落として新聞に目を通すとシショーが何か事件を解決したことが書かれていた。やっぱり悪事は見過ごせない性格なのよね、シショーって。あっという間に解決かぁ。やっぱこうでなくっちゃ! 

 

「チャンピオンがさっさとカントーの外へ出て行くなんて珍しいと思って持ってきたのよ」

「しかも速攻でバレて記事にされてるしな。これじゃ世間に対して大っぴらにチャンピオンの仕事をする気がねぇって宣言したようなもんだぜ。この有り様じゃ下手すると信用問題に関わるんじゃねーの? もしかしてブルーがだらしないのもレインのせいがはっ!?」

「シショーを悪く言うな! なんにも知らないクセに! この頭パッパラパー!」

 

 シショーは夢のためにカントーを出たのよ! ポケモンマスターになるっていうとんでもない目標に向かって自分の道を進んでいるんだから、それをグリーンなんかにとやかく言う資格なんてない!

 

 もしカントーでシショーのことを悪く言う奴がいたらわたしがみんな張っ倒してやる!

 

「え、エルボーは反則だろ……」

「完全に入ったみたいね。グリーン、反省しなさい」

「おぉう……」

 

 記事の日付的にもうシショーはホウエンに着いたのかな。だったらわたしもこうしちゃいられない!

 

「よーし! やる気出てきた! ありがとナナミさん! わたしちょっと出かけるわ!」

「いってらっしゃい」

「たくよぉ、なんでお前は頭より先に体が動くんだろうな。特にレインのことになると見境がねぇ」

 

 それはあんたも同じでしょーが! いっつも人のこと置きざりにして先へ先へいってたのは誰? でもね、今度はわたしが先に走ってやる! もう誰も追いつけないぐらい全力で走ってやるんだから! 

 

「グリーン、あんた足踏みしてたら置いていくわよ。あんたも来年には強くなってなさいよ」

「ブルー……へっ、お前なんかに先を越されてたまるかっての」

 

 グリーンの家を飛び出し、自宅に戻って旅の準備をしていると誰かがうちを訪ねてきた。誰だろう?

 

 ピン……ポーーン

 

 いつもとはインターホンの音の感じが違う気がする。珍しいお客さんかな?

 

「はーい、今でまーす」

 

 ガチャリ、と。

 

「こんにちはブルーちゃん。マスターズリーグ以来ね。元気にしてたかしら?」

「あーーっ!! おねーちゃんっ!?」

 

 カンナさんだ! どうしてわたしの家まで?!

 

「ずっとおねーちゃんって呼んでくれるの? 嬉しいわね。ここに来たのはあなたをトレーニングに誘いに来たの。来年に向けてわたしと一緒にどうかしら?」

 

 ついつい、おねーちゃんって言っちゃった。でも喜んでそうだから甘えさせてもらおうかな。しかも一緒にトレーニングのお誘い! なんかいきなりすごいことになってきた!

 

「いいの!? でもわたしなんかいてもジャマになっちゃうんじゃ……」

「私に勝っておいて何を言ってるのよ。あなたの都合が悪くなければ私は歓迎よ。それに言ったでしょ? あなたの夢、応援させてもらうってね」

「あっ……よーし! じゃあ一緒にしましょう! そうと決まったらさっそくバリバリ特訓ね! 燃えてきたわ!」

「……ブルーちゃん、張り切るのはいいけどやり過ぎはかえって毒なのよ?」

「え、そうなの?」

「もちろん人によりペースは違うけど……そういうことも含め、色んな人と一緒にトレーニングするのはいいことよ。たくさん違った考え方を学べるから」

「そっか。もしかして……」

 

 シショーがわたしを置いていった理由、なんとなくわかった気がする。こうやって自分自身で色んなことを学ぶ機会をくれたのね。カンナさんのいいところ、しっかり勉強させてもらおう。

 

「それじゃ、行きましょうか。準備はいい?」

「準備は丁度今できたところだけど、どこへ行くの?」

「とってもいいところよ。ラプラス使いのあなたなら気に入ると思うわ。目的地はいてだきの洞窟……わたしの故郷よ」

 




今回の繋ぎで本当にカントーラスト
次から新章です
ブルーの方はまだ中途半端な幕切れですが、続くかどうかは未定です

ちなみに今回を11話にして最終回にしなかったのは前回の区切りがいいからです
ちょうど対になってますよね
でもホウエン編に組み込むには舞台がカントーなので特別編ということでエクストラにしました

※ちょっとした諸注意
ここからはリーグ編と同様に終わりまで書き上げてない状態です
当時も似たことを書きましたが、話の流れとか内容を書き直す……かもしれないのでそこだけは本当に許してください

結果的にカントーでは上手く収まって大々的な書き直しはなしで大丈夫でしたが、終わりまで書き上げてない状態だとすごい不安なんですよね()

あと、個人的にカントー編は出来過ぎ感(自分の限界迎えてる感)があるのでホウエンでクオリティが下がらないかも不安は不安なんです
いや、もちろんちゃんと伸びしろというか、発展の余地は残してあるので大丈夫だとは思いますけどね!

ほなら先最後まで書けばええやん、という話ですが、全部書き終えてからホウエンスタートにすると誰の記憶にも残ってない状態になりそうなので1話ずつ進めます
とりあえず手を動かせばなんとかなるやろう的な思考も込みです()

一応書いておきますが、だから悪いところには目を瞑ってくれということではないです
むしろ直していきたいので、そういうのは遠慮なく教えてもらえると参考になるので助かります
直すべきところがあるとか展開が良くないときに、リセットして書き直すのを許してねということです

書き直しはなければないで結構なことなんですけどね
あとから書き直せるっていう保険がないと伸び伸び進めていけないんですよ
自分の気持ちの問題です


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ホウエン開幕編
1.旅立つ君へ


新たなる大地へ!

メガシンカが既出なのでORASベースです
でも展開はエメラルドにしたいなぁ(欲張り)
どうするんでしょうか()


 広大な未知の大地、遥か彼方の水平線、新しいポケモン達。希望に満ちた俺達の新しい旅が始まりを告げ、高まる期待に胸の鼓動も速くなり……

 

「なんてことは別にないんだけどな。でもまぁちょっと改まった気分にはなる」

「みゅ。レインはそういうガラじゃないの」

 

 クチバからここへ来るまでロケット団のせいでゴタゴタしたが、この地方にはあの連中はいないしようやく落ち着いて旅路につける。悪いやつがいない土地っていいなぁ。

 

 やってきたのはミシロタウン、どんな色にも染まらない町。ホウエン地方始まりの場所だ。

 

「にしてもこの町はけっこう大きいな。ものすごく小さな田舎町だと思ってたのに、人も建物もけっこうあるし何か全然イメージと違う」

「レイン、港の近くには人や物が集まるから周りの町も大きくなるんだよ」

 

 みゅー、物知りさんになったな。得意げに語る姿はかわいらしいが、さすがにそれぐらいは俺でもわかる。

 

「いや、それはわかってるんだけどさ、なんかイメージで……」

「イメージ? へんなのー。それでレイン、最初はどこにいくの?」

「とりあえずミシロに来た以上オダマキ博士の研究所には行っておきたいし、のんびりそこへ向かうかな」

 

 ゲームのイメージですとは言えないからな。みゅーとまったり会話していると何者かに声をかけられた。

 

「やぁきみ、研究所に興味があるのかい?」

 

 噂をすればなんとやら。振り返ると良く知る顔の人物がそこにいた。

 

「ん?……あっ! オダマキ博士!」

「ぼくのことは知ってるみたいだね。他の地方から来たんだろう? なんか嬉しいなぁ」

 

 他の地方でも名が売れてるからってことだろうが、俺は話に聞いたとかではないんだよな。でも言わぬが花か。

 

「あなたがなんでこんなところに?」

「今は新人トレーナー用のポケモンを取りにきた帰り道さ。わたしの研究所から2人見送ることになっていて、それが今日なんだ」

「たしかにそろそろ新人さんが旅に出る時期ではあるか。まさか……」

 

 タイミングが良すぎる上、出来過ぎたエンカウント。状況が出来過ぎだな……。

 

「わたしの研究所は来るものは拒まずだ。新人トレーナーの見送りはすぐに終わるし、見学したいなら歓迎するよ。車で一緒に送っていこう」

「ホントですか?! これはラッキー、助かるなぁ。ありがとうございます。しっかり勉強させてもらいます」

「いやぁ、そうはいっても研究所には大したものはないけどね。いつもフィールドワークへ出かけていて研究所にいることの方が珍しいぐらいだから」

 

 そう、この人はフィールドワークが専門みたいな感じだった。ジョウトがタマゴで、シンオウは進化の分野というふうに博士によって専攻が違う。

 

「フィールドワークの権威にもなるとすごいですね」

「ありがとう、でも権威というほどでもないよ。さ、立ち話もなんだし、車に乗ってしまってくれ。そんなに時間はかからないよ」

 

 後部座席にみゅーと並んで座ると、じーっと俺の方を見つめて物言いたげにしていた。居心地が悪くなってしまい、みゅーに一声かけた。

 

「どうした? 退屈だった?」

「レイン、ちょっとオーラ乱れてる。ウソついた?」

 

 お見通しか……。

 

「ウソってほどでもないけど、多少は誇張もあったかな。こういうのは必要なウソだから。お願いだから何も言わないでくれよ?」

「納得いかないけど……乱れも少しだったし許してあげる」

「ありがと」

 

 気が変わらない内に話を切り上げて頭を撫でてあげた。それを見てか、運転席のオダマキ博士が尋ねた。

 

「その子とは仲がいいみたいだね。兄妹かな?」

「まぁ血縁はないですけどそんな感じです。そういえばまだ名乗っていませんでしたね。俺がレインで、こっちがみゅーです」

「レイン君にみゅーちゃんか。君達は船でこっちに来たんだろう? トレーナー修行かい?」

「そうですね。カントーのバッジはもう集め終えたので」

「カントーから遥々来たのか! ずいぶん遠くから……すごい向上心だね。しかもバッジを集め終えたのならかなりの腕利きのようだね。良かったら見学ついでに今日旅立つ2人にアドバイスをしてくれないかい?」

「自分で良ければもちろん構いませんよ。その2人っていうのはどんな子達なんですか?」

 

 ラッキー。自然に新人さんのことを聞ける。

 

「いやぁ、実はそのうち1人は何を隠そう、うちの息子でね。研究の手伝いをしながらスクールにも通っていて、ポケモンのことはなかなか詳しいんだよ。親の贔屓目抜きにしても才能はあると思うんだ」

「お名前は?」

「ユウキだよ」

 

 これは“当たり”っぽいな。

 

 さっき話に出たスクールってのはカントーでも聞いたがホウエンにはゲームでもあったはず。カナズミのスクール以外にもあるのかどうかはわからないが、たぶんそこに通っていたのだろうな。

 

「通ってたのはもしかしてカナズミのスクールですか?」

「えっ?! 知ってるのかい?! カントーから来たなら知らないと思っていたよ」

「カナズミのスクール出身にはジムリーダーもいたはずですし、多少は知ってますよ」

「そうなのかい!? いやぁ~じつはそうなんだ。ユウキは全国でも名門のカナズミスクール出身で、成績も抜群でね。親としては鼻高々で……」

 

 いいことが聞けたな。スクールはたくさんあって名門とか格付けもあるらしい。どこの世界も大変だな……。今は自分に関係ないからどうでもいいけど。

 

 あとオダマキ博士……ユウキ君の話になると長いな。

 

「もう1人は?」

「あぁ、新人トレーナーの話だったね。もう1人の子はハルカと言ってうちのご近所さんで、ジムリーダーのセンリさんの娘さんだ。センリさんはハルカちゃんをホウエンで旅に出してあげたいってことで最近ジョウトからご家族を呼んでこっちで一緒に暮らすようになったんだよ。センリさんは凄腕のトレーナーだからね、ハルカちゃんもきっとお父さん以上の素晴らしいトレーナーになると思うよ」

 

 これで決まりか。偶然にもドンピシャでホウエンに来てしまったようだな。面倒な悪の組織とは関わりたくなかったからあんまり嬉しくないが、旅立ちを見送ってやれる機会はそうないだろう。せっかくだしじっくり見定めてやろう。

 

「話は変わりますけど、フィールドワークってどんなことをするものなんですか?」

「興味があるかい? いつもはこの車で外へ出て直接この目でポケモンの生態や分布などを調べているんだけど、最近はあるポケモンの生態について集中して研究していてね。現状その生息地や進化方法が謎に包まれていて今ホウエンで最も熱い話題なんだよ」

「へぇ……。一応ホウエンのポケモンも1通りは知っています。なんていうポケモンなんですか?」

 

 大方ヌケニンだろうな。対抗でミロカロス。大穴はパールル系統かな。

 

「じつはミロカロスというんだが、まだ野生で見つかった報告がないんだ。でもね、なぜか進化前のヒンバスというポケモンは至る所で目撃されている。フシギだろ? 似たポケモンにギャラドスとコイキングがいるが、こっちは進化系のギャラドスもそこそこ目撃されていて、なおさら謎なんだよ」

「ミロカロスは見つかってないのか……」

「トレーナーが進化させた例はけっこうあるんだけど、肝心の進化条件がまちまちで不規則だから明確な進化条件はまだわからないんだよ。レベルは5以下から40以上まで、道具による進化でもない。しかも他の地方に連れて行ったトレーナーが進化させた例もまだないんだ。ぼく達にはさっぱりお手上げさ」

「……」

「ごめんね、こんなこと言ってもレイン君を困らせるだけだったね。はっはっは、あまり気にしないでくれ。学者の悪いクセなんだ」

 

 当たりはミロだったか。なるほど、確かにレベルや道具みたいなところに注目していてはデタラメにしか見えないだろう。こういうときは別のものさしが必要だ。別の観点から視れば辻褄はあう。

 

 ここじゃコンテストとかバトル以外の要素はどうなっているか全くわからなかったが、この事実からすると“うつくしさ”のパラメーターはあると見ていいだろう。コンディションの数値はありそうだな。

 

 アナライズしても視えなかったから存在しないかもしれないと思ってたが、単に俺が望んでなかったから視えなかったのかもしれない。あれは俺の望みの具現化らしいから。

 

 あとはこの考えをオダマキ博士に伝えるかどうかだが、親切にして貰ったし少し教えるぐらいは構わないかな。この人なら悪いようにはしないだろう。

 

 しばらく考え込んでいたので不思議に思った博士に呼びかけられた。

 

「おーい! レイン君、どうしたんだい?」

「ひとつ聞きますけど、その進化に成功した例は全てコーディネーターのヒンバスだったんじゃないですか?」

「えっ! 確かにそうだけど、よくそんなことわかったね。だから世間じゃエレガントなトレーナーとヒンバスだけがミロカロスに進化できるって考える人も多くて、それを真に受けてトレーナー自ら豪華に着飾ったり、ポケモンにオシャレさせたりするトレーナーもいるぐらいだ」

 

 これで決まりだな。やっぱり進化条件はコンテスト。なら“うつくしさ”しかないな。

 

「やっぱりか。博士、ヒンバスの進化基準はデタラメなんかじゃない。ちゃんと1つの基準がありそうですね」

「おっと……なにか思いついたのかい?」

 

 ハンドルを切りながら俺に問いかけるオダマキ博士。今ちょっと危なかったぞ。

 

「この地方でのみ進化できて、かつトレーナーの存在が不可欠、それもコーディネーターに限る。ここまでくればヒントは十分でしょう。カギはコンテストですね」

「コンテスト? それが進化と関係するのかい?」

「この地方はコンテストが盛んでコーディネーターはポケモンにポロックなどを与えてコンディションを上げますよね。ミロカロスならおそらく“うつくしさ”……これを限界まで高めたヒンバスだけが進化できる。だから優秀でエレガントなコーディネーターだけ進化できたんでしょう」

「なるほど、たしかに……突拍子もない仮説だが順当な推理ではあるか。あれもこれも……うん、たしかにありえるな。あとは実際にそれを確かめてコンディションにより進化することが一般的に再現できれば……」

「ああっ!? ちょっと博士博士っ!! 前見て前っ!」

「ん? うああぁーーっ?! ぶつかるぶつかる!!……ふぅ、危ない危ない。セーフだね」

 

 あっぶな! 完全に歩道へ乗り上げたぞ今! 建物に激突寸前! 「セーフだね」じゃねぇよ! アウツ! これは完全にアウツ! 運よく誰もいなかっただけ!

 

 この人のこと舐めてた。自分の研究とかについて何か思いついてしまうと他のことが目に入らなくなるタイプの人間だ。絶対そうだ。

 

「前見て運転! これ絶対!」

「安全第一、大事なの」

「あっはは、あっはは、ごめんごめん。次からしっかり前見るよ」

「……」

 

 スリリングなドライブを楽しみ、俺達は研究所へ辿り着いた。案内された部屋ではすでに新人さん達が待っており、オダマキ博士を見て期待に満ちた表情に変わった。

 

「おっ! きたね君達。ずいぶん張り切ってそうだね」

「あれ? 新人トレーナーってもう1人いたのかよ?」

「でも私達よりちょっと年上っぽいかも」

 

 俺を見て怪訝そうな表情を浮かべる2人にオダマキ博士が事情を説明してくれた。

 

「紹介するよ。この人はレイン君。カントーから来た腕利きのトレーナーで、君達にアドバイスをしてもらおうと思って連れてきたんだ。きっといい勉強になるよ」

「よろしくお2人さん。やっぱりそうか……君らなかなかいいね。すぐに俺のいるところまで駆け上がってきそう。いいトレーナーになると思うよ」

「えっ! やっぱり私ってすごい? レイン君って見る目あるかも」

「……本当かよ? なんか胡散臭いなぁ。しかもカントー出身って……大丈夫か? あ、そうだ! それなら丁度オレ達これから最初のポケモン選びをするからそれぞれどういうポケモンなのかとか教えてくれよ」

「それいいかも!」

 

 こっちのユウキは俺のことまるで信用してないな。今教えてくれと言ったのも俺がどの程度か見定めるためだろう。たぶんユウキは御三家のことはすでに知っている。だがカントー出身の俺がホウエンのポケモンをどれほど知っているか試したのだろう。

 

 あっちのハルカは……単純なだけだろうな。

 

「それじゃ、お待ちかねのご対面といこうか。出ておいで」

 

 ポンポンポンッ!!

 

「チャモチャモッ!」

「キャモー!」

「ゴロゴロッ!」

 

 モンスターボールから可愛らしいポケモンが3体出てきた。ハルカは目を輝かせ、ユウキもちょっと表情が柔らかくなった。

 

 俺もこっそりアナライズ……どれも優秀だな。よくこんなポケモンを3体も用意できたものだ。こっちが羨ましいぐらい素晴らしい。やっぱこの2人はもってるなぁ。

 

「えー! すっごいかわいい! いいないいな! どれにしよう!」

「そう慌てんなよ。大事な選択だし、俺は先にレインの話を聞くぜ」

 

 呼び捨てだな。レッド達ですら短い期間だが最初ぐらいはさん付けだったのに。別に呼び方なんて飾りみたいなもんだしなんでもいいけどさ。

 

「そうだな。最初の1体ってのは一生のパートナーになるから誰しも迷うものだ。少しずつどんなポケモンか説明しようか。どれからがいい?」

「よーし。じゃあこの緑のやつからだ」

 

 迷いなくユウキが指さしたのは緑のトカゲのようなポケモン。気になるのかな?

 

「こいつはくさタイプのキモリだ。ジュプトル、ジュカインと進化していく。タイプは最後までくさタイプ単一のまま。能力は素早さに大きく秀でていて、攻撃面も能力・技共に充実している。覚える技は“しびれごな”や“リフレクター”みたいな補助技よりも“リーフブレード”“でんこうせっか”みたいな攻撃技が多く、シンプルな戦闘が得意だ。“すいとる”のような体力を回復する技も覚えるし、おそらく初心者にとっては最も扱いやすく頼りになるだろう。ただし、タイプ上弱点が多く、防御面はあまり優秀ではないので過信は禁物。仲間をしっかり育てるとか、色んなタイプの技を覚えさせるとか、トレーナーのフォローは必要だ」

「へぇ……とうさんが見込んだだけあって少しはわかってるみたいだな」

「そうなんだー。じゃあ次、この子は?」

 

 ハルカはあんまり話を聞いてない。この感じはブルーと反応が似てる。指差したのは赤いひよこのようなポケモンだ。

 

「そいつはほのおタイプのアチャモ。ワカシャモ、バシャーモと進化していく。最終タイプにはかくとうタイプも加わる。能力は攻撃面がハイレベルで揃っていて優秀な攻撃技も覚える上、タイプ的にも弱点を突ける機会は多い。素早さはそこそこという感じ。苦手なタイプも多く防御面には不安が残るが、それを補って余りある攻撃力がある。自分の弱点を補える技もある程度覚えられるし、とにかく単純に攻める戦い方が好みならぴったりなんじゃないか?」

「ふーん。単純な戦い方ならわたしにもできそうかも……」

「弱点を補うってのはどういうことだ?」

 

 ユウキからの質問。技の覚えさせ方で初心者が最初に考えることだけど、スクールではやらないのかもしれない。

 

「例えばバシャーモならみずが弱点だろ? だからでんきタイプの“かみなりパンチ”を覚えておけばみずタイプとの戦闘で一方的に不利にならずに済む。あるいはゴーストタイプには弱点は突かれないがこっちの格闘技が効かない。だから“はたきおとす”みたいなあくタイプの技があると便利だ。ついでに弱点のエスパータイプにも効果は抜群だし」

「ジュカインならどうすればいいんだよ?」

「ん? ほのお、ひこう、こおり、どく、むしが弱点だから“じしん”とか“いわなだれ”でだいたいカバーできるだろう。実際には浮いてるどくタイプとか相手にしたくないポケモンも出てくるだろうけど」

「ふーん……いわタイプの技は使えそうだな」

「へーそうなんだー」

 

 ユウキはちゃんと聞いてそうだがハルカはさっきからなんなんだ? ここまではっきり語尾に(棒)が付くセリフも珍しい。

 

「さて、それじゃあ最後はこの子だねレイン君」

「そうですね。最後はみずタイプのミズゴロウ。ヌマクロー、ラグラージと進化して最終タイプはみず・じめんタイプ。能力は攻守を高水準に揃えるものの素早さが遅いのが唯一のネック。とにかくラグラージはタイプが優秀で弱点がくさタイプだけに対し耐性が多くみずタイプの弱点であるでんきを無効にできるのは特に大きい。しかも覚える技も攻撃技と補助技どちらも優秀で育て方次第で様々な役割をこなすことができる。どちらかと言えば玄人好みの性能かもしれない。けれども優秀なスペックがあるから旅のお供にもパーティーの穴埋めにも持ってこいの逸材なのは間違いない」

「説明を聞くと良さげだけど、やっぱりミズゴロウはパスかな……」

「だな。うーん、どっちも悩ましいけど、どうすっかな~」

 

 ……?

 

 なんかナチュラルにミズゴロウは候補から除外されたがどういうことだ? 一応全て平等にいいところをピックアップしたつもりだけど? 偶然かな?

 

「ずいぶん悩んでるね。ここはひとつ、センパイに自分はどうやって選んだかきいてみたらどうだい?」

 

 オダマキ博士がそういうと2人もすぐに乗っかった。

 

「あ、それ気になる!」

「興味あるな」

 

 この世界では最初は自力で捕まえたからこういうのはしてないんだけど、一応ゲームのときの経験で答えておこうか。

 

「俺からアドバイスするなら1つしかない。……自分の直感に従え」

「え? 直感? でもこれって大事な選択なんでしょ? そんなのでいいの?」

「そうだぜ、わざわざ色々説明してもらったし、よく考えた方が……」

「なんにもわかってないようだな。お前らはトレーナー歴数十年のベテランなのか? 初心者が背伸びしてベストな選択を考えようなんて思うな。最初のポケモンと出会う時、トレーナーはみな、まっさらな状態でパートナーを選ぶんだ」

「あっ」

「それは……そうだけどさぁ」

 

 特に自分の場合はなかなかにヒドかった。オダマキ博士を救出するため最初に3つのボールからポケモンを選ぶわけだが、その当時はそれが一時的な借り受けだと思い、まさか最初の1匹になってしまうとは夢にも思わずとっさに最初に見たポケモンを選んでしまった。

 

 そういうことなら他のポケモンも見てみたかったし、友達の持ってるバシャーモはすごくカッコよく見えたもんだ。その当時は正直言ってミズゴロウを選んだことはすごく後悔した。

 

 けど……今は最高の選択をしたと思っている。おそらくラグラージ以外では自力のでんどういりはできなかったと思う。そうなればそこでポケモンをやめていたかもしれない。

 

「何もわからないのが当たり前なんだ。君らはこれから選ぶポケモンと共に成長するんだろう? だから今大切なのはあとで後悔しない選択をすること。そのために自分の直感に従うんだ。そうすれば少なくとも悔いは残らない。……俺のカンだと、君らは最初に見たときから目を付けてるポケモンがいただろう?」

「!」

「なんでそれをっ!」

 

 明らかに目線が1つのポケモンに釘付けになっていた。しかも真っ先にそのポケモンの説明を求めていた。意識している証拠だ。

 

「目を見ればわかる。さぁ、選ぶのは同時でいいな。被ったらその時考えることにしよう」

「……ええ、私決まったわ」

「オレもだ。こいつしかありえない!」

 

 いい目になった。迷いが消えたな。オダマキ博士もその様子を微笑ましそうに見守っている。おそらく被ることはないだろう。俺の声掛けで2人は同時にポケモンを手に取った。

 

「さぁ、選んで」

「オレはコイツだ! よろしくキモリ!」

「キャーモ!」

「私はこの子! 一緒に頑張ろうね」

「チャモチャ!」

「……ゴロロッ!?」

 

 トレーナーに抱かれて幸せそうな2体とは対照的に、ミズゴロウはこっちまで悲しくなるような悲壮な表情をしている。どうしても誰か余ってしまうのは仕方ない。次選ばれるように頑張ろうな。とりあえず2人には祝いの言葉を贈った。

 

「これで君達は晴れてトレーナーになったわけだ。おめでとさん」

「……」

「よっしゃ! これからバンバンジムリーダーを倒してチャンピオンになってやるぜ」

 

 威勢がいいのは結構だがアチャモには少し忠告が必要だろうな。

 

「君らの最初のジムはおそらくカナズミになるだろうが、それについて忠告がある」

「ジムはトウカにもあるけど?」

「そっちはおそらく後回しになるだろう……問題はカナズミジムの使用タイプがいわタイプってことだ。キモリなら楽に勝てるがアチャモなら大苦戦。進化させれば有利に戦えるからアチャモをしっかり育てるか、あるいはいわタイプに有利なキノココや次点でキャモメ辺りを捕まえて育てるなりしておいた方がいい」

「えぇー!! うそーっ!? そんなのってあんまりかも!! なんで最初に言っておいてくれないの!? だったらもっとポケモン選びも慎重に考えたのにーっ!」

「チャモ……」

 

 今の言葉がどういう意味かわかったのだろう。アチャモの悲しそうな気持ちが伝わってくる。さすがに黙って見過ごせない。

 

「間違ってもポケモンの前でそんなことを言うな! アチャモが不安になるだろ! トレーナーになるならポケモンの気持ちも考えろ!」

「えっ!? で、でも……」

「最初に言えばお前は選ぶポケモンを変えたのか? まさか最初のジムとの相性で一生のパートナーを決めるとでも?」

「むぅぅ……レイン君なんか怖いかも」

「……」

 

 今のは何? 小声のつもりなのかもしれないがばっちり聞こえてるけど。ユウキも今ばかりは神妙な顔つきで沈黙している。

 

 ちょっと言い方はきつかったかもしれないが、ポケモンを蔑ろにする最低のトレーナーにはなってほしくない。むしろこれぐらいの方がいいだろう。

 

 なお、なぜかオダマキ博士は笑っていた。

 

「はっはっは! これも新人トレーナーが通る最初の試練ってやつだ。がんばりたまえハルカちゃん!」

「はぁーい。あーあ、どうしてこんなに大変になっちゃうのかなぁ。ラクに進みたかったのになぁ。バトルなんて興味ないんだけどなぁ」

 

 おいおい、全部俺には丸聞こえだけどわざとなのか? それともただの天然? まさかこいつもブルーみたいに表舞台からフェードアウトしていくクチなのだろうか。

 

 だとすると放っておくとヒドイことになるのは確実。あんまり気は進まないけど、黙って見過ごすのは寝覚めが悪いし一応話だけ聞いておくか。

 

 研究所を出て旅立つ前にハルカだけ呼び止めて今の発言の真意を問い質した。

 

「えっ!? 聞こえてたの!? いや、さっきのはなんというか、ほら、ね? 別に大した意味はなくて……」

「バトルがイヤってことはコンテストの方に興味があるのか?」

「うそ!? なんでわかったの!? あっ……」

 

 なるほど。そういうことなら心配いらないか。ブルーの二の舞にはならなさそうだ。立派な目標があるなら別にそれがバトルである必要はない。

 

「やけに隠そうとしているが俺は別にコンテストを咎めるつもりはない。むしろコーディネーターになることも立派な道だと思うよ」

「え、ホント? でもみんな私のことすごいトレーナーになるって……お父さんとかもみんなそう言うし……」

「すごいトレーナー? いっちゃ悪いがお前はバトルのことはさっぱりだろ?」

「うげっ!? はっきり言い過ぎかも。たしかにそうだけど……だって、バトルには興味ないから頭に入らないかも。でもお父さんがすごいトレーナーだから同じ目で見られちゃうのよね……」

 

 なるほど読めたぞ。本当はコンテストが好きだが周りからの期待を裏切れず成り行きでトレーナー修行の旅に出ることになったと。最初は旅に出たらあとは勝手にコーディネーターになろうとか企んでいたんだろうが、どんどん後に引けなくなり仕方なくジムバッジを先に集めてからコンテストに参加するとかそんな計画を立てていたのだろう。だからジムは楽に勝ちたいんじゃないか?

 

 このままだといずれとんでもない失敗をしそうだな。コンテストだけなら上手くいくだろうがバトルと両立できるほど器用には見えない。ハルカはコンテストに専念させた方がいい。このまま埋もれさせるのは忍びない。

 

「コンテストのことは詳しいのか? 言っておくがコンテストもラクなもんじゃないぞ。舞台の華やかさは確かに見るものを引き付けるが、それには地道な努力の継続が必要不可欠。パフォーマンスは準備が8割だ。ポロックをあげて毎日コンディションを整えて地道に技の組み合わせを模索してそれを練習する。ポケモンのために自分の全てを捧げるぐらいの覚悟がなきゃこんな大変な道は到底進めない。バトルがイヤだからコンテストというような安易な考えなら改めるべきだ。引き返すなら今だがどうする?」

 

 あえて厳しい言葉で試してみたがさっきまでとは打って変わって強い口調で自分の情熱をぶつけてきた。

 

「私……本気なの! コンテストが大変だってことぐらい私だって勉強してるからわかってる! それでもそんな苦労を感じさせないでポケモンと一緒に輝いているコーディネーターを見て心を動かされたの! 私も見る人に夢を与えられるようなコーディネーターになりたい! 私のやり方でポケモンを輝かせてあげたい! そのためならなんだってできる! ポケモンのアピールの仕方、ポロックの作り方、コンディションの整え方、全部私なりに勉強してきた。自信もある! 諦められない! 私は絶対にトップコーディネーターになるの!」

 

 これなら文句なしで合格かな。

 

「そうか。だったら俺も応援する。ハルカならトップコーディネーターになれるよ」

「ホントォ?! あ、でもお父さんが……」

「それ、センリさんに直接言ったことある?」

「あるわけない! 反対されるに決まってる!」

 

 今度は泣きそうな辛い表情。いや、オーラのせいでそう視えるだけなのかな……。

 

「やっぱりか。俺はそんなことないと思うけど」

「そんなっ、テキトーなこと言わないで!」

「適当じゃない。ジムリーダーセンリと言えばバトルを極めんとする者。何事でも1つのことに打ち込み極めた者はその素晴らしさを知っている。お前のその本気の熱意を見せればきっと理解して貰えるはずだ。どうせトウカには寄っていくんだろ? そのときゆっくり話せばいい。あぁそうだ、コーディネーターになるならポロック作りのためにきのみが必要だろ? ちょっと分けてあげるよ」

「そうかなぁ……え!? ザロクにネコブに……これ全部高級きのみかも! いいのこんなに!?」

 

 努力値下げ用のきのみは保存して大量にストックしてある。6種類を1つずつ譲った。

 

「一流のコーディネーターならきのみもいいものを使わないと。それが何かすぐわかったなら勉強したのは本当みたいだし、それならなおさらあげて良かったと思うよ。それは旅立ちの餞別としてあげよう。俺はコンテストのことは詳しくないから何も教えてあげられないけど、応援だけさせてもらう。がんばれよ」

「あ……ありがとうございます! この御恩は忘れないかも!」

「旅を続ければまた会うことになるだろう。それまで達者でな」

 

 手を振るとむこうも手を振り返してくれた。かわいいとこもあるじゃん。あのきのみにはなつき度を上げる効果もある。怖い人状態は脱却したかな。

 

 ハルカが研究所を出て見えなくなり、2人きりになるとようやくみゅーが口を開いた。

 

「レインってブルー達みたいな新人トレーナーには優しいよね。あの2人のためにわざわざ嫌われ役までするなんて相当優しいの。なんでなの?」

「さぁねー。きまぐれじゃないの? さーて、俺達も目的を果たすとしよう。研究所を見に来たんだからな」

「みゅふふ……オーラは正直ね」

 

 やっぱりみゅーちゃんは全部お見通しか。

 

 自分の頬に手を当ててみる……ほんのりと熱くなっていた。

  

 




いきなり主人公登場!
とりあえず引き伸ばしに入ると一生終わらないのでテンポよく進めたいですね

でも遊び心は入れつつ……
途中セリフが韻を踏んでる箇所があるので探してみよう()

女主人公の口調はゲームと違いますが許してください
“かも”なしだとブルーと差別化しにくいんです(無能)
ただし不自然に語尾を変えることはしません

オダマキ博士の1人称は「ぼく」「わたし」混ざってますがゲームが混ざってたのでセーフ
統一すると違和感出てくるんでORAS見てなるほどでした


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2.鬼より怖い二枚舌

 みゅーの言葉はほっといてさっき御三家がいた部屋に戻った。中はなぜかジメッとしていてミズゴロウの姿もなかった。

 

「どうしたんですか?」

「あっ、レイン君! 実はちょっと困ったことになっていてね」

 

 ハルカとしゃべっていた間に何があったのか詳しく聞いた。

 

 話をまとめると2人が去った後選ばれなかったミズゴロウが悲しさからか寂しさからかはわからないが不貞腐れて暴れたらしく、その際に“みずでっぽう”を乱射したらしい。

 

 ジメッとしたのは本当に湿っていたんだな。ミズゴロウ本人は研究机の下に隠れて引きこもっているらしい。近づくと攻撃されたそうだ。

 

 もちろん無理やり引き釣り出すことは簡単だがそれでは余計に心の傷を広げてしまう。それでどうしたものかと困っていたわけだ。

 

「どうしてここまで悲観的になってるんですか? 基本的に選ばれることの方が少ないことぐらいミズゴロウもわかってますよね?」

「それがね、レイン君。この子はこれが1回目ではなく、もう5回目なんだよ」

「え……」

 

 思わず絶句してしまった。そりゃグレもする。

 

「みゅ……かわいそう」

「なんでそんなに人気ないの!? さっきは一応公平に説明したけど、個人的な意見を言えば最初の1体はミズゴロウが1番いいと思ってます。むしろカントーのヒトカゲ・ゼニガメ・フシギダネとか、他の地方の最初の3体と見比べてもミズゴロウ……つまりラグラージが1番優秀ですよ!」

「そこまで評価してるのかい?」

「タイプが優秀過ぎます。ホウエンならラグラージ1体でもジムや四天王戦で困らない。そもそもみずタイプは初心者にも使いやすいはずです」

 

 自分は最初の1周目はどの地方でも必ずみずタイプを選ぶようにしていた。1番タイプが優秀だからハズレはない。それぐらいに信頼している。

 

「そうなんだけどねぇ……なぜかとんでもなく不人気になっていてね。最近はみんなスクールで勉強しているから最終進化形も知ってるし、たぶんそれが原因かなぁ? バシャーモやジュカインはカッコいいからね」

 

 はぁ?! それは遠回しにラグラージのことディスってんの?! たしかに……たしかにバシャーモやジュカインはカッコイイ! そこは認める、ラグラージが後れを取っていると。でもさぁ、シンプルにラグラージは強いじゃん! 御三家で1番合計種族値が高いポケモンを言ってみろよ? なぁ? ラグラージだよなぁ?! 

 

「1番強いのは?」

「え?」

「1番強いのは?」

「ら、ラグラージかなぁ……」

 

 ほらぁーっ!!

 

「でしょー!? ラグラージが最強ですって! そうでなくっちゃ! ホウエンなんてラグラージ1体いれば余裕! パーティー組むなら先発で起点作って良し、電気カットに砂対策もバッチリ! 意表をついてカウンターミラコの役割破壊もアリ! なんなら輝石ヌマクローも可! ね、なんでもできるでしょう? エースじゃないってだけでだいたいなんでもできる! ね?」

「そうだね。まったくラグラージはすばらしい」

「レイン……」

 

 さすがだなぁ、この人はやっぱりわかってる! わかる人はわかってるんだよなぁ。新人トレーナーは修業が足りてない。

 

「ホントにそうなんですよねっ! カバルドンには安定性で勝りますし、ギャラドスにもタイプで差別化してますし、ガブリアスにも……そう、タイプで勝ってますから!」

 

 全く、ラグラージは最高だぜ!

 

「たしかにラグラージは優秀なんだけど、君の言うようにやや玄人向けなところもあるだろう? 速くて強いというようなシンプルな強さではないからね。そういうこともあって、最近は最初の初心者用ポケモンの候補から外そうかという意見もあるんだよ」

「はぁ!? そんなこと許されるわけないでしょう?!」

 

 こんなことは許されない……絶対におかしい!

 

 どいつもこいつもわかってねぇなぁ……ならわからせてやろうか。

 

 俺が……この俺が変えてやる! この狂った価値観を叩き直してやる!

 

 取るべき選択は決まった。もう決心した。必ず押し通す!

 

 サーチでミズゴロウの場所を特定。あっちか。チラッと目を向けるとこっちの話に興味があったのかこちらの様子を伺っているミズゴロウと目が合った。しかし俺を見てすぐ奥へ引っ込んでしまった。

 

「みゅーちゃん!」

「あの子と話したいの?」

「そういうこと。通訳して」

 

 ゆっくりとミズゴロウに近づくと容赦なく“みずでっぽう”をかけてきた。

 

「危ない!」

「大丈夫」

 

 オダマキ博士が慌てて声を上げるがその制止を振り切り敢えて正面から攻撃を受け切った。

 

 バシャァーッ!

 

「レイン君!?」

「……躱せばいいのに、強引ね」

 

 この程度の攻撃なんでもない。避けていたらずっと攻撃されて話ができない。ミズゴロウの全てを受け切ってあげないとダメなんだ。

 

「ゴロッ!?」

「この程度? 博士には効いても俺には通用しない」

「ゴロロ……ゴロゴロッ」

「どーせおれは弱い。だから誰にも相手されないんだ。ほっとけよって」

「え?! みゅーちゃんはポケモンの言葉がわかるのかい?!」

 

 みゅーはポケモンだからな。でも一々今取り合うつもりはない。そっちはほっておいてミズゴロウへ話しかけた。

 

「何言ってんの? 別に弱いなんて言ってない。むしろ眠ってる才能は誰よりもある。それを誰もわかってないだけ」

「ゴロッ、ゴロッ!」

「でまかせいうな。おれのことはなんにも知らないくせに!」

「わかるよ、全部。本当は“さみしがり”で、トレーナーと一緒に早く旅に出たいんだろ」

「!!」

「……図星ね」

 

 少しこっちの話に耳を貸すようになってきたかな。

 

「君もそんなことわかるのかい!? ブリーダーなのか!?」

「ただのトレーナーですよ。なぁ、ミズゴロウ? お前にお願いがあるんだけど」

 

 ミズゴロウは静かに耳を傾けている。

 

「……」

「俺と一緒に来てくれない?」

 

 ミズゴロウは仲間にして連れて行く。拒否はさせない!

 

「ゴロッ!?」

「やっぱり……バカ」

 

 ボソッとみゅーが何か呟いたが俺には聞こえなかった。

 

「アチャモや、特にキモリには絶対負けないように強く育てるからさ、どう? 一緒に外の世界を冒険しにいかない?」

「ゴロォ……ゴロッ、ゴロロ!」

「同情はいらない! おれのことバカにしてんのか! どっかいけって」

「はぁ? おいおい……なんでだよ? まぁそうだな、仲間になる前に教えとくけど、俺はそんなお人好しじゃないから。むしろ悪い人間だからね。ポケモンを育てるのは好きだけど、基本めんどくさがりだし」

「え? レイン君さっきえらく親切だったような……」

「本気で思ってるのね。呆れたの」

「ゴロ!?」

 

 外野が何かしゃべっているが俺は説得に集中した。

 

「同情だけでお前の面倒見てやろうなんて思うわけないでしょ? アホらしい。俺は頼んでるんだ。お前に仲間になってほしい。たしかに元々ミズゴロウは1番好きなポケモンだし、ミズゴロウを探してホウエンに来た。でもね、ミズゴロウならなんでもいいわけじゃない。俺はお前と強くならなきゃいけないと強く思った。だからお前が一緒に来てくれないと意味がない! 今この瞬間から、俺の目標はホウエン中にお前が1番強いポケモンだって知らしめることだ! そのために……一緒にいこう!」

「ゴロロ……ゴロ」

「でも、自分は初心者用として連れられたからダメだろうって」

 

 くわっと目を見開いてオダマキ博士の方へ向き直った。

 

「れ、レイン君?」

「お願いします! ミズゴロウを譲ってください!」

「や、やめてくれレイン君!」

「ゴロッ……!」

 

 90度のお辞儀。ミズゴロウのためならこの程度安い。ミズゴロウはもうその気になっている。あとは博士を説得するだけ!

 

「お願いします!」

「そうはいっても決まりだからね……もちろん君のことはトレーナーとして信頼できると思っているけど……」

 

 わかってるさ。正攻法で頼んでもダメだ。誠意を見せるために頭は下げたけど、それだけで「はい、どうぞ」となるわけはない。だからちゃんと手順は考えてある。交渉っていうのは等価交換でないとね。

 

 ゆっくり頭を上げて博士の目を見て問いかけた。

 

「博士、あなたは1つお困りのことがあるはずですね」

「……なんのことかな?」

 

 この感じ……いけそうだな。

 

「とぼけないで下さいよ。ずっと考えているんでしょう? どうやってヒンバスを進化させるか?」

「!!」

「職業病ってやつですよね。でも人の能力には限りがある。あなたにそれは無理だ。それに簡単に協力を頼めることでもない。進化方法を先に誰かに漏らすことになれば意味がない」

「……」

「その点俺ならバレるものもない。一応コンテストはかじったことがあります。……協力できますよ。もちろん手柄は全てあなたのものです。進化方法の情報料も込みにしましょう」

「なるほど。たしかにただのお人好しではないね。悪い人間だ」

「ありがとうございます」

「さすがに褒めてないよ」

 

 話のわかる人はキライじゃない。別にオダマキ博士自体は悪い人ってわけじゃないけど、殊更断る必要もないはずだ。それに研究したい欲求には逆らえないだろう。

 

「博士、ギブアンドテイクです。俺はコンディションの上げ方を教える。あなたは上手くミズゴロウの便宜を図る。互いにできることをして助け合う。素晴らしいじゃないですか」

「……賄賂なの」

「みゅー、黙ってて」

 

 人聞きの悪い。お金のやり取りはしてないからギリギリセーフの計算だ。このチビッ子はいったいどこでそんな邪悪な単語覚えたんだ。

 

 オダマキ博士の返答を待つとポツポツと話し始めた。

 

「実はね、このミズゴロウはぼく自ら目利きしたんだ」

「えっ」

「最初の3体は特別な場所でブリーダーが育てていてね。ぼくが毎年そこへ赴いて直接見て選ぶようにしているんだ。旅立つトレーナーにいいポケモンを渡してあげたいからね」

「パソコンで送っていなかったのはそれで……」

 

 少し最初から引っかかってはいた。この地方のことをよく知るわけではないから、ボックス機能の使用感がカントーとは違うのかもというぐらいにしか思わなかったけど、それなら話はわかる。

 

「だからね、この子のことは余計にずっと心配だったんだ。親心って感じかな? 能力はあるはずなのに選んでもらえなくて、仕方ないから今年でもうこの子は最後にするつもりだったんだ。あまり育ち過ぎると最初のポケモンとして不向きになるだろう? この子にもそう伝えていた」

「……!」

「ゴロ……」

 

 あの表情はそういうことだったのか。俺が思っていたよりずっと深刻だったわけか。

 

「レイン君、改めて聞くけど本当にこの子でいいのかい?」

「博士、あなたも相当な目利きだってことはわかります。3体とも素晴らしかったですから。それも揃いも揃ってかわいい性格ばっかり。むじゃきなアチャモ、おくびょうなキモリ、さみしがりのミズゴロウ。博士も憎いですね。でも、俺はポケモンを見る目だけは誰よりも自信があるんです。何匹ミズゴロウを連れてきても、俺はこいつしか選びませんから」

 

 だって、ほぼ5Vだもの。

 

 ミズゴロウ ♂ Lv10 さみしがり げきりゅう

 31-31-21-29-30-31

 

「……たいしたトレーナーだね。ミズゴロウ、幸せになっておくれ」

「じゃあ……!」

「その子は君に任せる。大事に育ててやってくれ」

「よっし! ミズゴロウ、よろしく!」

「ゴロ! ゴロォ……」

 

 ミズゴロウを抱き上げて一緒に喜んだ。ミズゴロウは俺に寄りかかり、顔をうずめるようにして黙ってしまった。

 

 そっか……さみしがりでも男の子だもんな。涙はみせられないよな。

 

 何も言わず頭を撫でてあげた。

 

「あっ……すごいあったかそう。いいなぁ」

「博士、ありがとうございます!」

 

 しんみりした空気を吹き飛ばすようにあえて明るく礼を述べた。博士もいつもの笑顔で答えた。

 

「いやいや、ミズゴロウにとっても大切に育ててくれるトレーナーと会えて良かったよ。ぼくとしてもようやく肩の荷が降りた気持ちだ。こちらこそありがとう」

「ゴロゴロ!」

「あっ、ミズゴロウもお礼が言いたいみたい。博士に……毎年ここに連れてきてくれて、面倒見てくれてありがとうって言ってる。迷惑かけてお部屋ビショビショにしたのもごめんなさいって」

「何言ってるんだ、いいんだよ。君の気持ちはよくわかってるから。この部屋のことは気にしなくていい。やっと旅に出られるんだから、いっぱいレイン君に甘えさせてもらいなさい。でもそうだね、ぼくのこと忘れないでくれるなら、たまには元気な姿を見せてほしいかな」

 

 ミズゴロウ、本当にオダマキ博士から大切に思われていたんだな。幸せ者め。

 

「もちろんまた来ますよ。なっミズゴロウ?」

「ゴロロ!」

「絶対来るって」

「そうか。これはいい楽しみができたね。そうそうレイン君、手伝いもしっかりしてもらうからね。ぼくはこれから研究に取り掛かるから今から始めよう」

「え、今から!?」

 

 たしかに協力を申し出たけど、この人遠慮がないな。そうでなきゃ研究者なんてできないのかねぇ。

 

「思い立ったらすぐ旅立てだよ。わたしの研究の実体験ができたら、うちの研究を見に来たっていう君の目的も最高の形で達成できるじゃないか」

「ポジティブですね。まぁいいや、とことん付き合いますよ。じゃあミズゴロウにはボールに入ってもらって……」

「レイン待って!」

「どうしたみゅー?」

「それ、7つ目だよね?」

「あっ!」

 

 そうだ忘れてた。このままじゃミズゴロウはボックス行きか。しばらくはそばでじっくり一緒にいてあげたい。でも急に誰かボックスに送るわけにもいかないし……ここは一時保留が最善だな。しばらくボールには入れないでおこう。

 

 これで大丈夫と思いみゅーを見ると俺を咎めるような厳しい表情をしていた。

 

「みゅぅぅ……」

「げっ」

 

 みゅーのオーラ、なんかそこはかとなく怒りを感じるような。俺で感じられるってことは相当怒ってるのかも。

 

 そういえばボックス絡みは一度喧嘩したことがあったっけ。むしろ今までよく文句を言わなかったな。逆にびっくりだ。

 

「ミズゴロウ、ボールに入るのは仲間を紹介した後にしたいから、しばらくは俺の頭にでも乗っかってて」

「ゴンロッ!」

「ぐっ!?」

 

 ピョンと飛び乗って頭の上でゴロンと寝そべった。ズンと頭部に重みが加わる。首が……予想の何倍も重い。けれど自分で言ってしまった以上耐えるしかない。

 

 直接触れ合える場所の方がお互い馴染みやすいと思っての発言だったが軽率だったかもしれない。せめて肩ならこの程度の重みならたいしたことなかったんだが……。

 

「レイン、反省して。それとあとで家族会議だから。わかった?」

「えっ、あ、はい」

 

 そこまでの案件なのか。家族だと言ってくれたのは嬉しいし、悪い気はしないけど。

 

 実験はとりあえず特攻アップの性格のヒンバスを俺が目利きして、しぶいきのみで作ったものを中心にポロックを大量に用意させた。しぶ味は色が青いのが特徴だ。

 

「ゴロロ!」

「ん? どうした? お前も食べたい?」

「ゴロ!」

「お前にはこっちがオススメかな。ほら、からいポロックだよ? あーん」

「ゴンロ。ゴロゴロ? ゴンロォーッ!! ゴロゴロッ! ゴロゴロッ!」

「んー? おいしかった? お腹すいたらまたあげるからね」

「みゅぅ……」

 

 ミズゴロウとじゃれながら実験を進めること数日、無事に成功を収めてようやくゴールできた。これで心置きなく研究所を発てる。

 

「ありがとうレイン君。ミズゴロウをよろしく頼むよ」

「任せてください」

「7匹目はまずボックスを開設しないと捕まえられない。一度ポケモンセンターのあるコトキタウンに寄っていくといいよ」

 

 いいことを教えてもらった。やっぱりここじゃ自分の常識は当てにならないな。

 

「わかりました。じゃあお元気で」

「ゴローッ!」

 

 ミズゴロウと一緒に元気よく手を振り、いよいよ出発だ。目指すはコトキタウン。

 

「あ、そうだ。みゅーさん、ここの研究所マーキングしといて。顔みせで来るときテレポートできれば便利だから」

「はいはい。レイン、しっかりこれから反省して貰うからね。家族会議するから」

「はい……」

「レインはウソついたの。手持ちは6体って言ってたのに、簡単に浮気してホイホイ好きな子を増やして! みゅーのことほったらかしでミズゴロウにばっかり好き好きーって……バカみたいで見てられないの」

 

 そこまでは言ってない、とかみゅーに口答えすれば逆鱗に触れそうだな。

 

「……」

「そうやってウソつく人間をなんて言うか知ってる? 二枚舌っていうの。きっと余計なベロがくっついてるんだね。みゅーが引っこ抜いてあげよっか?」

「みゅーはいつからえんまさんになったの? ベロとられたら死んじゃうからやめてね」

「じゃあ反省して」

「はい……」

 

 みゅーは将来怖いママさんになりそう。なんとなく。

 

 ◆

 

 マーキング後、自転車に乗って一気にコトキタウンまで駆け抜けた。怒気に満ちたオーラをまとうみゅーのせいか野生のポケモンは寄り付かなかった。

 

 ポケセンでボックスを作り、いよいよ誰をボックスに置くかという会議が始まった。

 

「あれ? なんか皆さん表情が怖くない? 明るくいこう、明るく?」

「なんで誰かがいなくなるのに明るくなるの? バカなの? ふざけてると怒るよ?」

 

 バチバチボウボウ……!

 

 右手に“10まんボルト”左手に“かえんほうしゃ”……怖いね。

 

「ミズゴロウ、ちょっと離れてて。巻き添えはイヤでしょ?」

「ゴロ?」

「ん? お前のせいじゃないよ。気にしないで」

「そうね。悪いのは全部レイン。ミズゴロウはかわいそうだったし、レインがほっとけなかったのはわかるからミズゴロウは仲間として歓迎する。でも約束を破ったことは別の話。落とし前が必要ね」

「……なんでもします」

「みゅ? なんでもって言った?」

「言いました」

「ねぇグレン。どうする?」

「ガウガ」

「ふーん。あなた達は許しちゃうんだ。優しいね」

 

 ん? なんかわからんが助かりそうか?

 

「じゃあみんなの意見をまとめるね。実はテレパシーでもう相談済みなの」

「え?」

「オダマキ博士に作らせてたお菓子……余分に作ってたよね。それを全部渡すこと。そして全員が満足するまでマッサージとけづくろい、それからおしゃべりもしてよしよしって頭も撫でてほしい。あとちゃんと好きだよって言うこと」

「……ホントに相談したの?」

 

 それ全部みゅーの願望なんじゃ……。

 

「なんでもするんでしょ? わかった? 返事!」

「はい……。それで、ボックスにいってもらう話なんだけど」

「それも決めたの。有志を募ったらヒリューが行ってくれたの」

「は!? いや、俺の意志はどうした?! そらをとぶ要員いなくなると困るんだけど!! お忘れか? トレーナーは お・れ !!」

「言うこときくんでしょ?」

「はい……」

「ヒリューはね、その乗り物要員がヤだって。疲れるしめんどいって。あと今度手持ちに入れるときはおいしいお肉をたっぷり用意しろって。用意しなかったらたぶんレインかじられるよ」

「えぇ……お、俺って人望ないの? たしか俺のこと一応認めてくれてたよね? なついてる……よね?」

「ゴォォ~ン」

 

 あくびで返された。おいこれ大丈夫か? もっとお肉でご機嫌とっておいた方が良かったか。過剰戦力だからアカサビかグレンを預けようと思ってたんだけどな……仕方ないか。

 

 1日ポケモンに尽くして怒りを鎮めた後、ヒリューはボックス、残りはボールに戻ってもらい、ようやくミズゴロウと向かい合う時が来た。

 

 ……といってもグレン達はそんなに怒ってなかったので実質大変なのはみゅーちゃんだけだったけど。

 

「みゅんみゅん! レイン~! レイン~!」

「あー、ありがとうみゅーちゃん。大好きだよ」

「みゅーー!! みゅーー!!」

「ゴロォ……」

 

 ミズゴロウは困惑しながら距離をとっている。みゅーには少しやり過ぎたかな。今のみゅーをミズゴロウはどんな気持ちで見てるんだろうか。いきなりキャラ崩壊してるもんな。

 

 みゅーはおんぶしてひとまずジャマにならないようにした。

 

「みゅふーー!! ちゅっちゅ! レイン~、ちゅーちゅー!」

 

 ほっぺを激しく吸われているが無視して好きにさせた。

 

「じゃあ改めて、これからよろしくね」

「ゴロッ!」

 

 ポン! コロコロ……カチッ!! ポン!

 

 ミズゴロウゲット! すぐに本人は外に出てきた。

 

「さ、待ってました! ここでニックネームのお時間です!」

「みゅがっ!?」

「ゴロロ?」

「うちは仲間になった子には必ずニックネームをつけてるんだよね。実はねぇ、ミズゴロウだけは絶対にゲットしたいポケモンだったからずーっと前から名前は決めてたんだよね」

「イヤな予感しかしないの」

「その名も……ジャジャーン! スイレン(水蓮)くんだ!」

 

 やった! とうとうこの名前が日の目を見る時がっ!

 

「……はぁ~。レインって本当にバカなの」

「え、なんでだよ! めっちゃいい名前だろ?」

 

 さっきまでのメロメロはどうした! どうせなるなら今なれよ! そして俺を褒め称えろ! 百年の恋も冷めたみたいな顔すんな!

 

 みゅーは背中から離れてしまった……。

 

「レイン……考えてることわかるけど、水蓮は間違いで睡蓮ね。水は入んないから」

「え!? うそでしょ!?」

「しかもスイレンって女の子みたいなの。ミズゴロウは男の子だよ?」

「うっ……女の子みたいとか、そんなこと別にないよな?」

「ゴロ……」

 

 おまっ、目をそらすな! その微妙に気を遣ってる反応やめろ! なんかこっちがいたたまれなくなるから!

 

「1年考えてたんだよ? 俺の苦労はどうなるの? 本当にダメ? お願い!」

「ダメね。レインの苦労とかどうでもいいの。この子が女の子みたいって言われたらかわいそう。そっちの方が重要なの」

「それを言われると……」

 

 名前でレッテルついちゃうのは1番かわいそうだもんな。俺のわがままでそんなことはできないか。

 

「ちゃんと考えて」

「はい……」

 

 どうするんだ……絶対喜ばれると思ってた。代案は全くない。想定外過ぎる……。

 

 よし、まずラグラージの特徴とか生態とかをよく考えろ。みずタイプ。沼とか池とかそんな感じの場所に住んでる。カッコイイ(1番重要)……さて、どうするか。

 

 ……!! キタッ! 今キタぞ! 天才的閃きが降りてきた!

 

「じゃあさ、シスイ(止水)でどう? 水が入ってて、水が止まってる場所に住んでて、で、名前の響きがカッコイイ! ハイ文句なしの天才!」

「うえっ……とんでもない変化球がきたの。レインの性格みたい」

 

 おまっ、ダイレクトに失礼なやつだな! お前の中の俺ってマジでどういう人間なの? 本当に俺のこと好きなんだよな?

 

「ゴロロ!」

「あっ。それでいいって。まぁさっきよりはマシだもんね」

「コラァ! なんじゃその消極的な言い方! 気に入ったから言ってるに決まってるだろ? なっ?」

「ゴロロ!」

 

 ほらぁ!! うんうんって言ってるじゃんか!!

 

「オーラ乱れてる。ウソね」

「ゴロ?!」

「マジか……」

 

 やっぱりウソ良くないね……。1番怖い。

 

 でもミズゴロウのニックネームは結局シスイに収まった。ごたごたしたけど、これでミズゴロウの仲間入りは完了。さて、次は育成に取り掛かろうかな。

 




鬼より怖い(目に遭う)二枚舌
はい、鬼より怖いが言いたかっただけです(飛車厨)

ミズゴロウの重さは7.6kgです
3体の中では1番重いですね
この数字をどう思うかは人それぞれでしょう

とりあえずホウエンに来た目的は達成されました
2話で完結()

ニックネームはSMが出る前からずっと考えてました
スイレンになるはずだったんですけどね
みゅーちゃんのいうことが全てです


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3.いつになっても わからないもの

「グレン、フレアドライブ! ユーレイ、みちづれ!」

「ヴォウ!」

「ゲーン!」

 

 これで相討ち! 同時ノックアウト! そして経験値は近くにいるものへ還元される!

 

「ゴンロォォォォ!!」

 

 ミズゴロウ、進化ァーー!! ヌマクロー!!

 

 ヌマクローは マッドショットを おぼえた!!

 

 シスイ Lv32 @しあわせタマゴ

 1.マッドショット

 2.みずでっぽう

 3.どろかけ

 ……

 

「やったー! シスイおめでとう! こんなに立派な姿になって、よくここまで……」

「つい最近研究所を出たばっかりなの。おおげさね」

「いいじゃんか! 進化は1回こっきりなんだからさぁ」

「ミズゴロウに戻れないけど良かったの?」

「いいのいいの。ヌマクローもかわいいから。ねー?」

「マークロ!」

 

 うんうん。この表情、すっごい癒される。ミズゴロウは最高だけど、ヌマクローも最高だな。

 

 努力値と経験値はこれで完了。あとは実戦あるのみ!

 

「ここからはちょっと技の練習もしていこうか。野生のポケモンとバトルして練習しよう。みゅーは見てて」

「はいはい。レイン、あっちから来てるよ」

「もちろんわかってる。シスイ、初陣だ! あの毛虫を懲らしめてやれ!」

「マー!」

 

 この辺のポケモンのレベルは低め。だから当然シスイの連戦連勝だ。

 

「よし、よく頑張ったな」

「マー!」

「今度は俺のポケモンと勝負しよう。次は攻撃を躱す練習だ。いいな?」

「マッ!」

「じゃあ構えて。出てこいイナズマ! 10まんボルト!」

「ダァーーッ」

「マックロ!?」

 

 突然の素早い攻撃に全く反応できず直撃してしまった。でもダメージはない。シスイはキョトンとしている。

 

「これが相性だ。お前はみずタイプだけど、進化してじめんタイプを獲得した。だからもうでんきタイプの技は全く効果がない。これなら当たっても平気だから練習しやすいだろ?」

「マークロ!」

「大事なのは相手の動きを予測すること。見てから動いていたら間に合わなかっただろう? 相手の攻撃へ移るタイミング、狙っている方向、注意深く観察してごらん。さぁいくぞ」

 

 それから長いこと練習に明け暮れた。色々試して、そして反省と検討をして……このサイクルをずっと続けて、シスイは必死に練習した。グレンやアカサビは元々センスがあったからこんなことはしなかった。でも普通はこうやって苦労するのが当たり前なんだよな。

 

「今日はここまで。よく頑張ったよ。ご苦労さん」

「マァァ……」

 

 疲れ切った表情を見せるシスイ。でもこれでいい。限界まで体を動かすことで限界は限界ではなくなる。毎日少しずつ自分の限界の壁を超えていけば日々成長していける。

 

 もちろんそれだけでは続けられないから、休ませてあげることも必要だけど。

 

「もう歩けない? 俺がおぶってあげるから乗りなよ」

「マッ!? マックロ!!」

「ずるい……」

 

 もちろんみゅーだけ寂しい思いはさせない。ちゃんと考えてある。

 

「みゅーは手を繋ごう」

「みゅ……! みゅふふ」

「ダーッダーッ」

「おおっと! 重い重い! ごめんごめん、イナズマもありがと、忘れてないから!」

 

 ポケモン達に寄りかかられて、大変だけど幸せな時間だな。すぐ近くまで来ていたのでそのままトウカシティまで歩みを進め、ポケセンでみんなのけづくろいをした。もう時間も遅いから今日はジム戦はなしでゆっくりしよう。

 

「グレン、ユーレイ、お前達もありがとね」

「ガーウ」

「ゲッゲッゲ」

 

 気にすんなって感じのグレンと愉快に笑うユーレイ。相変わらずだな。

 

 そういえば俺はだいたいポケモンの言わんとすることがわかるけど、みゅーほど正確にはわからない。どうやって翻訳しているのだろう? 聞けば真髄がわかるかもしれない。

 

 レベル鑑定の真髄はブルーの説明が下手過ぎてわからなかったが、みゅーならあるいは……。

 

「そこんとこどうなの?」

「レイン、自分もエスパーでしょ? なのになんにもわかんないの? しょーがない人間ね」

「みゅーちゃんがすごすぎなんだって。ね、教えて?」

 

 持ち上げると嬉しそうになるみゅー。狙い通り答えてくれた。

 

「まず言っておくけど、ポケモンの声には人間みたいなめんどくさい“ぶんぽー”とか“こーぶん”とかそういうのはないの。声に感情を込めて、それで意志を伝えるの。わかる?」

「はぁ……まぁなんとなく」

 

 正直言えばあんまりわかりません。わかるとは言ってないからウソではないね。

 

「だから音そのものよりも込められた感情を読み取ってあげることの方が大事。レインもそうやって理解してるの。無意識みたいだけど。レインはエスパーだから最初からなんでもわかってあげられたのね。ただし波長の近い相手に限るの」

 

 あぁ、それで最初ポッポはわからなくてもグレンは言わんとすることがわかったのか。今更になって理由がはっきりしたな。

 

 ん? じゃあブルーは?

 

「ブルーはなんでグレンやイナズマの言うことがわかったんだ?」

「それは経験ね。ブルーはポケモンに対する愛情が誰よりも深かった。だからいつもポケモンと同じ目線に立って、仕草や声色を注意深く真剣に見聞きしていたの。だからポケモンの感情の機微に対してすぐに敏感になれたのね。ポケモンときちんと向かい合う人間ならみんなある程度言葉はわかるようになるの」

「じゃあブルーはやっぱりすごい奴だったんだな。言うなれば俺は天才型で、ブルーは秀才型って感じ?」

「バカの天才だけどね」

「ぐっ……」

 

 最近みゅーの言葉が刺々しい。反抗期かな?

 

「もう気は済んだ?」

「あ、もうちょい待って! 1番聞きたいことが残ってるから! 俺はみゅーが完璧に翻訳してたのが気になってさ。ちゃんと文章になってただろ?」

「みゅ? あれはみゅーが考えたの」

「……は?」

 

 何を言ってるのかさっぱり理解できない。

 

「だからね、だいたい人間の言葉にすればこんな感じかなってみゅーがその場で文章にしてあげたの」

「えぇーーっ!! そんなのアリ!? いかんでしょ!?」

「でもシスイは文句言わなかったの。問題ない証拠」

「あっ、そういえばそうか」

「レイン、意訳って言葉知らないの? そもそも言葉っていうのは全く別の言語に本当の意味で完璧に翻訳することは無理なの。ぼくとわたしはどっちもI(アイ)でしょう?」

「みゅーさん、外国語も達者?」

「今のはエスパー。だからね、大事なのは1番言いたいことをしっかり相手に伝えることなんだよ。だから伝わりやすいように言葉を選んであげることは悪いことじゃないの」

「ほおーー。みゅーちゃんの説明は為になるなぁ」

 

 こうしてまた1つポケモンの謎が解き明かされた。

 

 ◆

 

 みゅーちゃん理論はあまりに難解で結局俺にはマスターできなかった。「考えるな、感じろ!」って感じの説明だったし、やっぱ言語の習得は理屈で考える俺には向いてない。わからん。

 

 気を取り直し、日を改めてジム戦へ向かうことにした。トウカに来たのだから当然だな。その前に一応ルールをポケセンでジョーイに尋ねた。

 

「トウカジムはランク5以上でしか受け付けてないの。センリさんはフルバトルが基本という考えの持ち主だからレベルの低いランクはどうしてもできないのよ。だからジムバッジが4つはないと挑戦できないわ」

「なるほど、そういう感じか……」

 

 フルバトルに拘るのは何か理由があるのだろう。その場合ランクが低いとレベルが低い分、レベルアップしやすくなり6体維持することが難しい。それなら4以下のランクがないのも頷ける。

 

「ここからならまずはカナズミシティへ向かってツツジさんに挑戦するといいわ。この辺りでトレーナーになる子はみんなそうしているし、始めは焦ってジムリーダーに挑むよりしっかりとポケモンを育てた方がいいわよ。その方が結局早くジムバッジを増やせるわ」

「はは……ありがとうございます」

「みゅ……失礼なの」

 

 みゅーは大きな声ではないが苦言を呈している。ジムのルールなんて聞いてる時点で初心者丸出しだし、そう思うのは仕方ない。むしろアドバイスまでしてくれて親切な部類だろう。

 

「あの、バッジは別の地方のものを持っていれば挑戦できたりしませんか?」

「え? 別にランク5でいいならバッジがなくても挑戦はできるわ。でもフルバトルでただでさえ大変だからセンリさんに勝つのは大変よ。ホウエンでは基本的に5番目か6番目にトウカに来るトレーナーが多いけど、ここで躓く例は少なくないもの」

 

 そうか。センリ戦はフルバトル確定で難易度が上がるからできるだけ低いランクで戦いたい。だからできればランク5がいい。でもそこは一気にレベルが上がってチャレンジャーにとってヤマになるランクでもあるから一旦は避けて6にすることもある、そういうことか。

 

「だったら今からでも挑戦できるか。確認もとれたしジム戦だな」

「あなた他の地方から来たの? ならトレーナーカードが新たに必要になるわよ。まだ別々の地方のトレーナーカードには互換性がないから」

「え!? それは参ったな……」

 

 詳しく身元とかを調査されるとちょっと自信ないな。急に面倒なことになってきた。

 

「大丈夫、元々カードがあるならそれを読み込めばデータを移すだけですぐに新しく作れるわ。良ければ今ここで手続きしましょうか?」

「本当にっ!? 助かります!」

 

 嬉々としてトレーナーカードを渡した。再審査とかなくて良かった。ジョーイはトレーナーカードを持って奥へ消えていった。これで一安心。

 

 ……そう思った矢先、叫び声のようなものが響き渡った。

 

「ええーーーっ!!??」

「わっ!? 何事!?」

「さっきの人の声ね」

 

 おいおい、まさか何かマズイことがバレたとか?

 

 ……どうする?

 

「なぁみゅー、きお…」

「あのっ、すみません! 大変失礼しました!」

「えっ」

 

 電光石火で戻ってきたジョーイは恭しく2つのトレーナーカードを差し出した。ありがたく受け取る俺。とりあえず問題なく作れたみたいだけど、何があった?

 

「すみませんでした! 私まだこの仕事は始めたばかりで、他の地方のことなど何も存じ上げておらず、チャンピオンの方だとは知らず失礼なことを……」

「あっ!? まさか!!」

 

 トレーナーカードを見ればしっかりとカントー地方チャンピオンの称号が刻み込まれていた。そうだ、俺でんどういりしたんだよな。そのときのこと全然覚えてないけど、トレーナーカードも渡して更新されたような気がしなくもない。

 

 変な目立ち方したくないし黙っていてもらおう。

 

「失礼なことしたからいんがおーほーね」

「すみません、反省しました。これからはきちんとお客様には必ず年下にも丁寧語で話しますから、どうかお許しくださいっ!」

「いや、構いませんよ。気にしてないので。……ジョーイだと丁寧語でとか決まりでもあるんですか?」

「はい……一応」

 

 たぶん研修とかあるんだな。顔が同じだからって簡単になれるものでもないのか。

 

 でもなんでこんなに過剰に謝るんだろうな。たいしたことじゃないのに。

 

「知らない場所の1番力の強い人間に失礼なことしたらそりゃ怖いの。全くどんな性格かわからないもん。実際レインはさっき物騒なこと考えてたし」

「あー、なるほど。しかもバレてるのね」

 

 外国のボクシングの王者に喧嘩売ったような気分なのかな。たしかに怖いかも。

 

「ジョーイさん、とりあえず俺のことは他人に吹聴しないでもらえますか? それで今回の件は不問ってことで」

「あっ、はい! わかりました!」

「じゃあ俺はジム戦にいくんで」

「いってらっしゃいませ!」

 

 それはそれで何かがおかしくない?

 

 ◆

 

 トウカシティ ポケモンジム リーダー センリ 強さを追い求める漢

 

 ここだな。さぁ、いこうか。

 

「たのもう!」

 

 道場っぽい雰囲気だったのでそれらしい感じにしてみた。中には誰かいそうな気がする。

 

「入りなさい」

「……失礼します」

 

 見習いって感じの声じゃない。いきなりジムリーダー登場か?

 

 中に入ればやはりセンリ本人が腕を組んで立っていた。

 

「君がレイン君かな?」

「……そうですね。なぜ名前を?」

「わたしの娘にコンテストを勧めたのは君だろう」

 

 えっ……もしかしてご立腹なパターンか。さっきからいかめしいオーラが放たれているような。もしかするとジムを継がせたいとかあったのかもしれない。そうだとするとこの人にとっては余計なことをされたわけか。

 

 だけど俺は本人のためを考えて最善の道を示したまでのこと。いまさら前言をひるがえすようなことは……。

 

「その節は大変失礼致しました」

 

 すぐさま謝罪の構えに入った。

 

「レイン、それはヘタレなの。カッコ悪いよ」

 

 うるさい! これが大人の対応なんだよ! ……心がすさんでいく。

 

「いやいや、とんでもない。たしかに驚きはしたが君には感謝しているよ」

「へ?」

「いつも不貞腐れたような顔だったハルカが活き活きとした表情で夢を語っていた。もちろんわたしからコーディネーターを目指すように言ったよ」

「本当に!? そうか、良かったな……」

 

 ちゃんと自分のしたいことを言えたみたいだな。案外しっかり者だ。

 

「言い訳がましいが、わたしはジムの仕事に時間を取られてあまり面倒を見てやれなかった。君には心から礼を言うよ。……ありがとう」

「いえいえ、いいですよ。……ちなみになんで俺がレインだってわかったんですか? 話を聞いたからっていうのはわかりますが、俺がレインだとは限らないはず」

 

 さっき名前を確認された時にとっさにとぼけてみせようか迷ったが、有無を言わさない確信を持ったような雰囲気だった。何か特徴を聞いたのかもしれない。

 

「君の話も色々聞いたよ。目つきの悪い“こわいおじさん”だと言ってたな」

「あんにゃろ……」

 

 おじさん……。あいつ頭の中では相当失礼なこと考えてるタイプだな。最後に「忘れない“かも”」とは言ってたがそのままの意味だったらしい。

 

「すまんすまん。きっと冗談だろう。本当は不思議な雰囲気の小さい女の子と一緒だと言っていたからわかったんだ」

「発言したこと自体は否定しないんですね。次会ったらどうしてくれようか……まぁこの話はこの辺でいいでしょう。俺が来た目的はわかってますよね」

「むろんだ。ランクはいくつがいい?」

 

 当然目的はジム戦。バッジは持ってないがこっちの実力は話を聞いてわかっているのだろう。黙ってランクだけ尋ねられた。

 

「景気よくマックスにしてもいいんですけどね。少し考えがあってランクは5にしておきます」

「いいだろう。たとえ実力があろうとジム戦に勝てなければバッジは渡さない。心しておきなさい」

 

 規則はしっかり守るってことか。真面目っていうのもあるだろうけど、ちょっと試されてる気もする。言われっぱなしにはできないな。

 

「わかってます。ちなみに俺はここがホウエン最初のジム戦……ホウエンのジムリーダーの実力、見させてもらうぜ。当然期待してもいいんでしょ?」

「……もちろん。そうだレイン君、わたしの専門タイプは知っているかい?」

「ノーマルですよね」

「よく知っているね。わたしがノーマルタイプを使うのはポケモンバトルをより深く知るためだ。ノーマルタイプを極めることはポケモンバトルそのものを極めることになる。ポケモンバトルの奥深さ、君にも味わってもらおう。ついてきなさい」

 

 そういえば入り口でずっと立ち話だったな。迷路のように続く部屋をいくつも通って道場の奥へ進みバトルフィールドへ着いた。審判はエリートトレーナー。ホウエンだと衣装が違うな……ちょっと新鮮。

 

「フルバトル、ジムリーダーのみ勝ち抜き戦、道具はポケモンに持たせたもののみ許可する。いいかい?」

「はい。じゃあ始めましょうか」

「それでは両者位置についてください。バトル開始!」

「頼むぜシスイ!」

「カクレオン!」

 

 カクレオン Lv33 @たつじんのおび *へんげんじざい

 シスイ   Lv32 @オボンのみ   *げきりゅう

 実 116-97-50-52-59-47

 

 なんだあの特性? 変幻自在? “へんしょく”なら“マッドショット”から入って効果抜群が狙えたのに。

 

「ベロベロー」

「マッ!?」

 

 “ねこだまし”が決まって体力を削られた。が、カクレオンに大した技はない。ここから先、大した攻めは続かないはず。

 

「マッドショット!」

「つばめがえし」

 

 必中だがダメージは相手の方が大きくなる。単純に撃ち合っても十分こっちが有利だ。

 

「シャーーッ」

「マッ!?」

 

 効いてない?! どういうこと?!

 

「くさむすび」

「まもる」

 

 ……!!

 

「タイプが変わった! まるで能動的になった“へんしょく”……これが“へんげんじざい”ってことか」

「よく見ている。面白い特性だろう?」

「単純に全ての技を一致で使えるだけで相当な脅威。しかも防御にも活用されるとなると……カクレオンは先制技の種類は多かったはずだし面倒だな。持ち物がたつじんのおびなのは様々なタイプの技を使うからか」

「わかっていても防げないのがバトルだ。くさむすび!」

「戻れ」

 

 相手が悪過ぎた。よりによってくさタイプを一致で使えるノーマルポケモンがいたとは。ヌマクローでは絶対に勝てない。6体全てシスイで倒すことが今回の目標だったが、その予定が早くも頓挫だな。

 

「うん、いい判断だ。不利になっても交代すれば対処できる。基本だね。さて、次は……」

「ダダーッス!」

「……強い!」

 

 無言で俺はイナズマを繰り出し、それを見てセンリは警戒を強めた。さすがに何度もいいようにやられていてはカントーチャンピオンの名が泣く。きっちり一撃で倒す。

 

「イナズマ、2」

「どろかけ!」

 

 じめんタイプの技も当然持っていると思ったが“どろかけ”だったか。威力が低い分技の出が速いし確かにぴったりだな。

 

「ケェェ!!」

「カクレオン戦闘不能」

「今のはめざめるパワー! そうか、トリックプレーか。見事な連携……。いつもはカクレオンが使って相手を驚かせるんだがな。じめんタイプに変わることを読んだわけだな。こんなに速く見切られるとは」

 

 サラッとすごい発言が……。

 

「めざめるパワーを使う人がいたのか……。イナズマはこおりタイプです。そっちは?」

「こいつはどくタイプだ。持っているカクレオンごとにバラバラだが、ほとんどのタイプの技を覚えてしまうから有用なタイプは限られていて使わないやつもいる」

 

 なるほど。どくタイプは一応有用なわけか。“どくどく”はあるだろうからどくタイプにはなれるはずだが、攻撃技ではないからな。覚えないタイプって逆に何タイプ? むしタイプ(れんぞくぎり)とかはがねタイプ(アイアンテール)もあるし……まぁいいか。

 

「次はこいつだ。バクオング!」

 

 レベル32……今度こそ大したことはないだろう。

 

「ねがいごと!」

「ばくおんぱ!」

 

 はぁ!? また知らないやつ!?

 

 威力がヤバイ……なんだこれ、反動技?

 

「後攻でバトンタッチ」

「ばくおんぱ!」

 

 連打……特に目立ったデメリットはなさそうに見える。2回で半分近く削れた。ここまでのダメージは想定外だな。

 

「シスイ! マッドショットで畳み掛けろ!」

「ばくおんぱ!」

 

 げっ!? 70ぐらい効いた! オボン込みで耐えるかどうか乱数圏内か! シスイは持たせたきのみをかじりながら突っ込んだ。

 

 相手の素早さが下がったことを利用して連続して攻撃を放ち攻め立てる。2発目の“マッドショット”も命中。これがシスイお得意の攻め方。あわよくば相手の反撃を躱せれば最高だが……。

 

「マッ!」

「グオオォォーー!」

 

 そうか、音による攻撃だから避けるのは厳しいわけか。だがシスイはしっかり耐えきった。特性が発動する。これで決めろ!

 

「たきのぼり!」

「マーーッ!」

 

 滝を登るエネルギーを攻撃に転換する。水しぶきを上げながら渾身のアッパーショットが決まった。

 

 “マッドショット”と“たきのぼり”はエフェクトが好きで最初の頃はラグラージで良く使っていた。その夢のコラボだ。

 

「バクオング戦闘不能!」

「次はこいつだ!」

「スバーッ」

 

 オオスバメか。ノーマルは格闘が弱点だからひこうタイプを混ぜるのは当然ではあるか。持ち物は“かえんだま”……よくあるあれか。

 

「でんこうせっか」

「戻れ」

 

 使える技に“まもる”はあるようだがこの状況では使う意味がない。しっかりシスイを倒しにきたな。俺は交代で再びイナズマ投入だ。

 

「ダダーッス」

「スッバ!!」

 

 持ち物の“かえんだま”の効果でやけど状態になり、特性の“こんじょう”が発動。さらに技の“からげんき”は状態異常の時威力が2倍になり140となる。タイプ一致も込みでしめて約300だ。

 

「ねがいごと、ボルトチェンジ」

「からげんき」

 

 凄まじい火力。致命傷だな。もうこの1回が限度か。イナズマは仕事をこなし“ボルトチェンジ”で相手を倒しながら戻ってきた。シスイが三度現れる。

 

「オオスバメ戦闘不能!」

「そうか……君の狙いはそのヌマクローを育てることか」

「真剣勝負の実戦をさせたかったんです。練習に使ってすみませんね」

「構わないよ。元々ジムとはそういう場所だ。それにやみくもに戦っているわけではないだろう? ゆけ、マッスグマ!」

「マッドショット!」

 

 今回も得意の連携で攻めに出たがマッスグマはとんでもない技を繰り出した。

 

「はらだいこ」

「なに!?」

 

 ポンポコ踊り始めたマッスグマだが様子がおかしい。すぐにきのみを食べて一気に超回復してしまった。

 

 特性くいしんぼうの効果か? しかも今食べたフィラのみ……体力が半分も回復した。このきのみ、まさかこんな優秀な効果があったのか。たしか大したきのみじゃなかったはずだが……今まで全く気づかなかった。どうなってる? また今度検証か……。

 

 マッスグマは素早さこそ下がっているが攻撃は4倍になった。しかも“しんそく”を連打してくるので素早さはほぼ関係ない。またしても引く一手か。なかなかヌマクローを活躍させられない。

 

 とりあえず“しんそく”を受けるには無効にするしかない。ゴーストタイプの出番だ。

 

「戻れ!」

「ゲェェン!」

「マッ!?」

 

 ちょい! お前もその鳴き声か! ヌマクローと同じじゃねぇか!

 

 “しんそく”はユーレイで受けて無効化。これでもう何もできまい?

 

「じごくづき!」

「なっ!? まもって!」

「ゲェ……」

 

 なんだあの技! この人まさか新技とか開発してるわけじゃないよな? 知らない技ばっかポンポン使いやがって! ユーレイの表情を見るにあれはあくタイプの技っぽいな。

 

「きあいだま! 当てろよ!」

「しんそく、じごくづき」

 

 なにぃぃーーっ!?

 

「しんそく連携……!?」

「ゲゲッ!」

 

 背後からモロにくらってしまった。しかしユーレイは残りHP1でなんとか踏みとどまる。“きあいのタスキ”がなければ倒れていた。

 

 ゴーストタイプの利点を活かしてもっと壁抜けを絡めてじっくり攻めるべきだったか。ノーマルタイプを侮り過ぎた。

 

「シャレになんねぇ。ユーレイ、今度こそ“きあいだま”を当ててくれ!」

「ゲン」

 

 動けないでいるマッスグマにしっかり命中。これで倒せた。

 

「マッスグマ戦闘不能!」

「きあいのタスキか。道具の選択も非常にいい。これではさすがに倒せないな。次はこいつだ!」

「ブアアーーッ!」

 

 意外とやる気のありそうな声で出てきたのはケッキング。センリといえばこのポケモンだ。必ず使ってくると思っていた。

 

「こっちも交代だ!」

「マァーッ!」

 

 こいつこそが最大のチャンス。能力は伝説にも劣らないが致命的な弱点があるから簡単に倒せる。これを倒して弾みをつけたい。

 

「シスイ、今度こそ快勝するぞ!」

「かたきうち」

「まもる!」

「そうきたか」

 

 センリも俺の狙いに気づいたな。ケッキングの特性は“なまけ”……1ターンおきに怠けて行動不能になる。つまり攻撃してくるときだけ“まもる”を合わせれば一方的にこちらの攻撃だけ通ることになる。知らない技だろうがこの戦法なら関係ない。

 

 攻撃した後、ケッキングは特性が発動したのか微動だにしなくなった。ここがチャンス!

 

「貰った! シスイ、相手は今動けない! 思いっきり攻めろ! たきのぼり!」

「油断したな」

「は?」

 

 シスイが大振りで“たきのぼり”を繰り出すがケッキングは少し身を引いて軽く受け流し、さらに反撃までしてきた。この技は……!

 

「きあいパンチだ!」

「シスイ!!」

 

 マズイと思ったが全く想定していない事態に対応できない。いや、たとえ指示を出してもあの体勢では避けられない。シスイは完全に攻撃が空振りして前のめり。集中力を高め終わったケッキングはすぐ傍にいる。

 

「ブゴォォ!」

「ヌマッ!!」

「くっ……ごめん」

「ヌマクロー戦闘不能!」

「ようやく1本とれたな」

 

 このケッキング……よく見ると特性が“やるき”だ。ヤルキモノの時のままじゃねぇか! なにこれ、新手のバグ?

 

 センリのあの表情……してやったりってツラだな。“まもる”の一声でこっちの意図を見抜いて“きあいパンチ”でひっかけにきたのか。集中力を高めている状態が“なまけ”状態と初見では見分けにくい。確信犯だ!

 

「……特性がヤルキモノの時のままですね。どういうことですか?」

「ほう、特性が“やるき”になっていることに気づいたか。ちょっと特別な育て方をしたんだよ。進化で真逆の性格になるその逆を突いた」

 

 この世界の住人の言うことはいつになってもわからないことだらけだ。

 

「……戻ってシスイ。まさかここまで苦戦するとは。でも遊びは終わり。残りは速攻で終わらせる。ユーレイ!」

「ゲン!」

「だましうち!」

「きあいだま!」

 

 いくら強かろうがレベル差があり過ぎる。ユーレイじゃ苦戦することもありえない。先にこちらの攻撃が当たってケッキングは倒れた。

 

「ケッキング戦闘不能!」

 

 俺はみゅーが人間のままだから手持ちは5体。グレンとアカサビは記録に残るジム戦で使いたくない。だから実質3vs6のバトル。ユーレイとイナズマの体力は残り僅かだから意外とギリギリだった。

 

「ヤルキモノ!」

「ガーッ!」

「10まんボルト」

 

 これで十分。ヤルキモノはすぐに倒れ……ない?! あれは“きあいのハチマキ”か!? これじゃユーレイも……!

 

「おいうち!」

「ゲンガー戦闘不能!」

 

 勝負はすでについているとはいえ今のは余計な犠牲だった。反省しよう。

 

「……イナズマ!」

「ダッ!」

 

 もう一度“10まんボルト”今度こそ倒れた。

 

「倒れたか。調子のいい日は2回以上発動するんだが、今日は不発か」

「……」

「ヤルキモノ戦闘不能! 勝者レイン!」

 

 発動したのに不発なわけあるかい!……とツッコむ気力すら湧かない。何も言えねぇ。

 

 まさかイナズマまで戦闘不能になる可能性があったってこと? ヤルキがあるから発動しやすい的な? シスイを軸にする縛りがあったとはいえ、レベル30台のポケモンだけで50台を2体も倒されたらさすがに自信なくすよなぁ……。

 




またこのゲームバグってるよ()

働くケッキングは思いつきではありません
たしかアニメかなんかで特性が仕事してなかったんですよね
センセー、なまけがなまけしてます!
もうこれわけわかんねぇな()

昔それを見てナマケロを育ててケッキングにしましたがあんまりな特性に失望しました()
新手の詐欺




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4.次への課題は期待の気持ち

「レイン、今日は反省ね」

「わかってるから言わないで」

 

 ジム戦には勝ったものの締まらないまま終わった。ホウエンはバッジを集めるだけなら3時間で十分、なーんて気楽に考えていたけど……知らないことだらけで案外大変かもしれない。

 

 バッジは奥の部屋にはないようで、ジムの入り口まで戻りバッジを受け取った。

 

「レイン君、見事な勝利だったよ。これがバランスバッジだ。受け取りなさい」

「どうも」

 

 ホウエン最初のバッジゲットだ。バランスバッジ……こんな形なのか。すごく独特な形だけどあんまり覚えてなかった。

 

「君はカントーのバッジはいくつある?」

「8つです」

「通りで。それだけ強いのにどうしてホウエンへ?」

「育てたいポケモンがいたので。さっきのヌマクローです」

「こっちに来て間もないだろうにもうあんなに育てたのか。ハルカよりも来るのが遅かったのはそのポケモンを育てていたからだね」

「まぁそんなところです」

 

 実際はオダマキ博士の手伝いがほとんどだけど、一応育てる時間もあったからセーフ。でもなんやかんや聞かれるとみゅー辺りが「ウソなの」っていいそうでマズイ。そろそろ帰ろうかと思った時ジムの扉を叩く音がした。

 

「おっと、次の挑戦者か。……入りなさい」

 

 おずおずと扉を開けて入ってきたのは緑色の髪の少年。雰囲気がなんとなく違う気はするけど、この子はもしかして……。

 

「あの……ぼく……ポケモンがほしいんですけど……」

「ん? きみは……たしかミツル君と言ったよね」

 

 やっぱり! 将来チャンピオンロードの警備員と化し、最後まで誰からも忘れられていた悲しき少年!……ごめん、俺も今の今まで存在を忘れてたよ。

 

 センリの言い方からすると見ず知らずってわけではないみたいだな。近所だし知り合いでもおかしくはないか。

 

「……あ、はっ、はい! ぼく今日からシダケタウンの親戚のうちにいくんですけど、ひとりじゃ寂しいからポケモンを連れて行こうかと思って……でも今まで自分でポケモンを捕まえたことがないからどうやったらいいのか……」

「……ふむ、なるほど。話はわかったが、ポケモンがほしいならポケモンセンターでトレーナーの申請をすればどうだい? もちろんトレーナーにならなくてもポケモンを捕まえるのは自由だが、それが1番手っ取り早いだろう」

「ぼく、体が弱くてあんまり外に出ちゃダメでトレーナーになれなくて、シダケタウンに行くのも静養のためで……」

 

 いきなり家族と離れて全く違う環境の場所で暮らすというのはやはり心細いものなんだろうな。表情を見ているとよく伝わってくる。

 

 正直ミツルにはいい思い出はない。いつもいつもトウカで面倒なイベントを起こして時間を取るし、チャンピオンロードでは満身創痍ながらあと一歩のところまで辿り着いたのに強制送還されたこともある。手伝った恩も忘れやがって!……ってなもんだ。

 

 でも……

 

「みゅ? レイン?」

「なぁみゅー、ちょっと寄り道してもいい?」

「みゅふふ。レインの冒険でしょ。自分で決めればいいの。みゅーはどこにでもついていくから」

 

 ありがとね。心の中でお礼を言った。

 

「話は聞きました。センリさんはジムの仕事もあるでしょうし、俺でよければ手伝いますよ」

「レイン君! 本当に? 助かるよ。わたしはここを離れられないから困ってたんだ。トレーナー同士、助け合いの精神だね」

「あの……いいんですか? ジム戦にきたんですよね?」

「ジム戦はもう済ませてバッジは貰ったよ。ボールとかポケモンは貸してあげる。引っ越しまで時間もないんでしょ? 早く行こう」

「あ、はい。センリさん、ありがとうございました」

「こっちに戻ったらまた元気な姿を見せてくれ。成功を祈っているよ」

「じゃあ俺達はこれで。センリさん、できたら今度はお互い本気のバトルがしたいですね。マスターズリーグでまた勝負しましょう」

「君は心配するだけムダのようだな。よい旅を! ミツル君は任せたよ」

 

 ちょっと苦笑いされたけど、最後はいい笑顔で送り出してくれた。

 

 トウカジムに別れを告げ、ミツルと一緒に一旦ポケモンセンターへ向かった。先に聞くべきことがあるのでそわそわしているミツルに声をかけた。

 

「時間はいつまである? 今から急がないとダメか? できたらポケモンの回復をしたいんだけど」

「えっと、夕方にはうちに戻ってねって……」

「じゃあ結構余裕はあるな。今後のためにも、せっかくだし自力で捕まえられるようにやり方を教えようか。時間がやばくなったら俺が手伝うけど、最初は自分の力でやってみよう」

「はい、がんばります」

 

 なんか態度とか表情が堅い……やりづらいな。大事なゲットがかかっているし緊張しているのかもしれない。

 

 ちょっと頭を悩ませながらポケセンへ入った。

 

「あっ! おかえりなさいませ!」

「!?」

「みゅ? ご主人様?」

「違う違う! やめんかい! それアウトだから!」

 

 何考えてんのこの人!? 新手の嫌がらせ!?

 

「いや、これは私の気持ちです」

「そんな気持ちいりません」

「レイン、そう言いつつちょっと嬉しそうね……こういうの好きなんだ」

「うぐ……」

 

 だって! 新ジャンルじゃん、ジョーイさんがするのはさぁ! 込み上げるものはあると思います。

 

 なお、ミツルくんは無言ながら「なんなんこいつ?」って感じの視線を俺に向けている。バカでごめんね。でも今のやり取りのおかげで表情とかは若干柔らかくなったかもしれない。ね、狙い通り!

 

 これ以上自分の株価を暴落させたくないのでシスイ達を無言で預け、その間にミツルに捕まえ方を教えることにした。ここで名誉挽回だ!

 

「最初にとりあえず自己紹介を。俺はレイン。夢とロマンを求めてカントーからやって来たさすらいのポケモントレーナー。こっちはみゅー。不思議な不思議な女の子」

「ぼくはミツルです。うーん……ポケモンが好き、です」

 

 今改めて見て思ったが顔とか雰囲気が知ってるのと違う気がする。なんというか、より幼くてかわいい……ミツルってこんなだった?

 

「みゅー? ふーん」

「うえっ!? なに!?」

「ぶふっ! みゅー何してんの」

 

 みゅーがしげしげとミツルを眺めた後今度はペタペタと体を触り始めた。他人に自分から触ろうとするなんて珍しい……というか初めて見た。面白いから黙って静観しよう。

 

 ミツルは助けを求めて俺に目で救援サインを送るがこれを笑って受け流した。ものすごく困った表情のミツル……かわいいね。

 

「珍しいなぁ。こんなに立て続けに会えるなんて。んみゅー、どうしようかなぁ」

「もう許してよぉ」

「みゅぅー、じゃあミツルは弟にしてあげる」

「えーっ?!」

「はぁーっ!? なんでだよみゅー!」

 

 こだまする2人分の叫び声。脈絡無さ過ぎるのはエスパーの特権なのか? 勝手に家族を増やすな!

 

「あれ? レイン急に慌ててどうしたの?」

「いやだってさ……それよりこの子、もしかして近いのか?」

「みゅふふ。大丈夫、みゅーの1番はずっとレインだから。心配しなくていいよ」

「ちょっと! 違うから!」

「えっと……あの……」

 

 ミツルが置いてけぼりになっている。いい加減話を進めないと。

 

「大丈夫、冗談だから。今のは気にしないで」

「レイン冷たいね。くすくす」

 

 なんだその笑い方! みゅーの勘違いだからな! 俺は大人の対応で軽く受け流した。

 

「はいはい、今は立て込んでるから。さっそくポケモンゲットの話だけど、ミツルはどれぐらいわかってる? まずポケモンはどんなところに出てくるか知ってる?」

 

 強引に話を切り出すとちゃんと答えてくれた。

 

「たしか草むらとか水辺とか洞窟とか色んなところにいますよね」

「そのとおり。よく知ってるね。ポケモンの生息地は様々で、場所により生息するポケモンは変わる。だから目当てのポケモンがいる場合はちゃんとその生息地にいかないとダメなわけだ。ちなみにお目当ては?」

「特にはないです。仲良くなれそうなポケモンならなんでも……」

「じゃあコトキ方面へ向かったところの草むらに行こう。あっちは生息するポケモンの種類が多いから。次は肝心の捕まえ方だけど、モンスターボールを投げるのはわかるよね? でもそれだけじゃダメ。どうするかわかる?」

「バトルして弱らせるんですよね。倒すことができれば確実に捕まえられる」

「よく勉強してるね。準備万端だな」

「えへへ……ぼくずーっと前からポケモンと一緒に過ごせる時を待って勉強していたんです」

 

 これは感心。性格的にはしっかり者っぽいな。俺なんか倒してもゲットできるとか知らなかったし。そう考えると自分は勉強不足だったんだなぁ。

 

「でも、難しいのはここからだ。ゲットにはバトルに勝たないといけない。相性とかわかる?」

「もちろん! 技を使ったりするのも知ってます」

「それは頼もしい。じゃあポケモンの特徴とかはわかる? ジグザグマは素早いとか、ポチエナは攻撃力が高いとか」

「え? それは……」

 

 考えたこともないって顔だ。こういうのは勉強だけではどうにもならないから当然だけど。

 

「知ってると便利だよ。素早い相手には攻撃を当てるのが難しいから工夫が必要だったり、攻撃力が高い相手には回避を上手く使うようにとか、戦い方も柔軟になる」

「あっ……」

「自分のポケモンが使える技、そして相手が覚えているであろう技もわかるといいよね。例えば“かみつく”とか“たいあたり”しか技がない相手なら遠距離から攻めれば戦いやすくなるでしょ?」

「……」

「そういうことはバトルしながら一緒に確認していこう。どんなポケモンがバトルに強いとかもわかってくるし、ゲットしたいポケモンも出てくるかもね」

 

 ミツルは真剣そのものという表情に変わった。かわいいだけかと思いきやこんな顔にもなるんだな。

 

「レインさん、回復終了致しました!」

 

 はやっ! もう!? このジョーイ人が変わったな。

 

 ならさっそく今回ミツルにレンタルするポケモンのお披露目といこうか。

 

「出てこい!」

「わぁ……ポケモンだぁ……」

「マー」

 

 キラキラした眼差しにシスイもまんざらでもなさそうだ。これなら上手くいくかな。

 

「かわいい……触ってもいいですか?」

「シスイ、どう?」

「マックロ!」

「褒められて嬉しいみたい。もちろんいいよって言ってる」

「ほんと!? やった!……なんでポケモンの言葉がわかるの?!」

「それはまぁみゅーだから当然だな」

「みゅ、当然なの」

「そうなんだ……」

 

 やけくそでさも当たり前みたいに言ったら信じた。……ミツル、純粋な子。

 

「ミツル、これをシスイにあげてみて。喜ぶから」

「これ、きのみ? シスイ……どうぞ」

「マァ? もぐもぐ……マァーーッ!」

「すごい! 喜んでる! やったやった!」

 

 渡したのは“ロメのみ”だ。スキンシップで親睦を深め、いよいよ実戦。ミツルにはタイプや能力、使える技をざっくりと教えて草むらへ向かった。

 

「シスイ、このお兄ちゃんは初心者だから俺みたいな指示はできないけど、お前が引っ張ってあげるつもりで頑張ってくれ。頼むよ?」

「マー! マックロ!」

「初心者と旅するつもりで研究所にいたから構わないって。任せろってやる気マンマンね。むしろレインが強くてびっくりだったとも言ってるの」

「あれ、そうだったのか。言われてみればそうだな」

「……」

 

 ミツルは神妙な顔つきで黙っている。会話が呑気過ぎたな。

 

「さぁ着いた。ミツル、シスイは強いからどれだけ失敗しても倒れることはない。最初から上手くいくなんて思ってないし、失敗から学ぶぐらいのつもりでいろよ」

「はい! シスイ、よろしくね」

「マッ!」

 

 ポンと胸を叩いて頼れる兄貴って感じのシスイ。ミツルがみんなの弟分になってゆく。なぜなんだ。雰囲気のせい?

 

「ボールはとりあえず10個渡そう。追加もあるからどんどん使っていいよ。ポケモンはすぐに出てこないから根気よく探そう」

「よーーし! やるぞ!」

 

 気合を込めた矢先、辺りにポケモンの鳴き声が響いた。

 

「バウバウ!」

 

 野生のポチエナが飛び出してきた!

 

 突然のことにパニックになったのかミツルは何もできない。

 

「え!? いきなり!」

「バウ!」

「ヌマッ!?」

「あっ! ごめんシスイ! なんでこんな急に……」

 

 “たいあたり”でダメージを受け、シスイはミツルに声をかけた。

 

「マッ!」

 

 しかし混乱の渦中にいるミツルの耳には届いていない。無為に時間だけが過ぎてゆく。

 

「バウ!」

「グゥ……マークロ!」

 

 またしてもミツルはおろおろするだけだが、みゅーの一声が救いになった。

 

「ミツル、シスイが技を使わせろって言ってるよ。このままじゃ防戦一方なの」

「あっ、そっか! じゃあこっちも同じように“たいあたり”! 思いっきりやって!」

 

 ようやくまともな指示を出すが単調な攻撃は躱されてしまった。指示がちょっと呑気だしこれでは当たらない。

 

「アオーーン!」

「ん? なんだこれは?」

「あっ、これマズイかも。レイン、どうするの?」

 

 えっ? みゅーは今の声を俺が理解していると思ってそうだ。けど俺にはさっぱりわからない。今のは“とおぼえ”とも感じが違うしなんだ?

 

「わ! 数が増えた!」

「なんじゃこれ!?」

 

 いきなりダブルバトル!? とんでもない展開になってきた。シスイはダメージこそ少ないが完全に防戦一方になり手も足もでなくなっていた。しかもさらに増えていく!

 

「れ、レインさんどうしよう!」

「仕方ない。シスイ、ミツルと一緒に“まもる”イナズマ出てきて“ほうでん”」

 

 ポケモンをせんめつしてバトルを終わらせた。俺は素早くシスイの手当てをした。

 

「たくさん増えたのに一撃で……すごい」

「ごめんごめん。こんなことカントーじゃなかったから俺もびっくりしたよ。こっちだとだいぶゲットは大変そうだな」

「レインまたわかんなかったの? もう……もっとしっかりして」

「面目ないです」

 

 ホウエンでは仲間を呼ばれることもあるのか。これはかなり厳しいな。いつぞやブルーにも言ったけど、初心者にとっては相手が複数になる時が1番難しい。それが最初から強制的に試練としてぶつかることになると旅は厳しいものになりそうだ。

 

「レインさん、どうしよう……ぼくもう自信ないです」

「大丈夫。相手が多ければ難しいのは当たり前。一緒に考えていこう」

 

 ついでだし今色々実験しよう。相手が複数の時にボールを投げた場合。

 

「ううっ、どこに投げれば……」

 

 攻撃が入り乱れていて狙いをつけるのは難しそうだ。俺ならできるかもしれないが全滅させた方が結局早いかもしれない。

 

「ああっ……弾かれちゃった」

 

 狙いの相手だけ気絶させると仲間にボールを弾いて妨害され失敗。1体動けなくしても結局周りは元気だもんな。

 

「ヴォウ!!」

「キャウン!?」

 

 グレンが“ほえる”を使うと全員逃げて行った。退場技は全体に効果があるんだな。数を減らす使い方はできないか。

 

「声なんだから当たり前なの。みんな聞こえるもん。今のでポケモンいなくなったよ? どうするの?」

「レインさん、もう時間が……」

「そうだな……仕方ないし、次は俺がまた全部倒すから、好きなのを1体ゲットしてくれ」

「……はい」

 

 ミツルは少し浮かない表情だったがうなづいた。自分でゲットしたい気持ちもあったのかも。とはいえこれで万事解決。あとはちょちょいのパー……と思いきや、今度は俺自身がゲットに苦戦することになった。

 

「全然寄り付いてこないな」

「ガウ……」

「仕方ないの。グレンじゃ強過ぎ。怖くて近づけないの」

 

 こんなことになるとは。グレンに弱そうになってとか言ってみるが首を傾げられるだけで事態は好転せず。ゲットってこんなに複雑で難解なイベントだったっけ? こうなれば最終手段だ。俺の自慢の能力でズルして見つけてやる!

 

 サーチ!……おっと、さっそくいたいたっ!

 

 ラルトス ♂ ……

 

 後ろの木の影にいる。意外と近くだ。

 

 振り返ってさっそくアカサビのボールを握るが少しその表情が気になった。似たようなのを以前見たような……そう、昔のみゅーみたいな、好きな誰かを見つけてこっそり様子を伺っている、そんな感じ。もしかしてこのラルトス、ミツルに惹かれて?

 

「ポケモン……友達……」

「マーッ!」

 

 半ば諦めて悲しそうな声を漏らし座り込むミツル。それを見かねてシスイが懸命に励まし、みゅーも傍に向かい声をかけた。

 

「ミツル、シスイが元気出せって言ってるの。俺に任せろって。みゅーも今度は上手くいくと思うの。もう1回頑張ってみよう?」

「でも……」

「ミツル、もう一度だけ言うからね。諦めないで! 最後まで頑張って!」

「!」

 

 ミツルの目の色が変わった。みゅーがこんなことするのは初めて見たけど、よっぽどミツルが気に入ったんだろうな。

 

「自分でダメとか決めたら本当にダメになるの。失敗したら全部レインのせいなんだから、ミツルは気負わず自分にできることを最後までして」

「おーい、みゅーさん?」

「なに? ブルーにおんなじこと言ってたの。それに今回は本当にレインのせいだし」

「ぐっ……」

 

 鬼かこの子? いいとこあるじゃんと見直したらこれか。俺はいったいどんな責任の取り方を強いられるんだろう。ネガティブになる俺とは対照的に、激励によって元気づけられたミツルは大きな声を出して立ち上がった。

 

「よーし! もう1回やってみよう! 当たって砕けろだ! 後悔はしない! シスイ、お願い! もう一度手伝って!」

「マーッ!」

 

 そのときはっきりと流れが変わったのを感じた。何の流れ? 風向き? いや、これは……

 

「やっと出てきたの。恥ずかしがり屋なのね」

「ラルー! ラルラル!」

「あっ! 見たことないポケモン! レインさん!」

 

 説明を求められたので素早く簡潔に返答した。

 

「ラルトスだ。エスパータイプ。進化前のポケモンで能力は高くないし、偏りもあまりない」

「よし、まずは“マッドショット”で……」

「待って。ラルトスはミツルに話しかけてるの。わからないの?」

「ぼくに? なんて言ってるの?」

「みゅふふ……ミツルのこと気に入ったのね。ミツルと一緒にいたいみたい。仲間にしてほしいって」

「えっ!? きみ、本当にぼくでいいの?」

「ラルー!」

 

 すごい……そうか、気持ちの流れが変わったんだ。ラルトスはたしかきもちポケモン。滅多に人前には姿を見せないが、トレーナーの気持ちに呼応して現れることがあるとか。きっと前向きなミツルの気持ちに惹かれたんだろう。

 

「仲良くなれそうな相手を探してたみたい。レインは怖そうで暗い気持ちになってるからヤだけど、ミツルは優しそうで明るい気持ちだからいいんだって」

「うがっ!?」

 

 俺の評価、ボロボロ!?

 

「え、どうしよう。でも、ポケモンってバトルしなきゃダメなんじゃ……」

「そんなことないよ。レインはボール投げて捕まえた数の方が少ないぐらいだし、絶対なんてこと何もないよ。ラルトスはずっと待ってる。不安になる前にボールを投げてあげて」

「うん……いけっ、モンスターボール!」

「ラル!」

 

 コトン! コロコロ……カチッ!

 

「あっ! レインさん、これ!」

「おめでとう、ラルトスゲットだ」

「や……や……やったーーー!!」

 

 ぴょんぴょん飛び跳ねてすごい喜びようだ。失敗も多かったし喜びもひとしおだな。これならきっとラルトスを大切に育てるだろう。時間ギリギリだけど上手くいって良かった。結局最後は俺の知る通りラルトスゲットで収まったな。

 

「ちょっとボールから出してみたら?」

「あ、そうしよう。出てきてラルトス!」

「ラルー。ラルゥーー!」

「ああっ! わぁぁぁ……」

 

 嬉しそうにミツルに寄りかかるラルトス。そのままぎゅーっとミツルに抱き着き、ミツルの方は身動きできずになされるがままになっている。

 

 ラルトスといえば特性はみゅーと同じ“シンクロ”だったはず。ミツルは暖かい気持ちを共有して、嬉しさに言葉も出ないんだろう。自分も経験があるからわかる。

 

「じゃ、少し失礼して……」

 

 アナライズ!

 

 外に出して貰ったのは能力を見るため。さっきはサーチだけだったから今のうちに見ておこう。あ、これは……!

 

 ミツルにとってはかなりマズイ。先に言っておくべきか。

 

「ラル?」

「げ!」

 

 がっつり目が合った。完全にバレてる。みゅーといいこのラルトスといい、エスパーにはバレちゃうな。

 

「あっ! レインまたやってる! 勝手に大事なところ覗いて……趣味悪いの。ヘンタイ」

「ちがっ! ヘンタイ言うな!」

「ホントにヘンタイだもん。ラルトスも同じ気持ちのはずなの」

「ほざけ! どうせさっきの翻訳もお前が都合よく改変したんだろ! じゃなきゃポケモンにはモテモテの俺が嫌われるわけない!」

「愚かなウヌボレね。はぁ~。いつかきっと痛い目見るの。絶対ね」

「そんな適当言われても怖くないし」

「みゅみゅみゅぅ……」

「ぐぬぬぅ……」

「あの、2人共落ち着いてよ。ケンカとか良くないよ……」

 

 ミツルとラルトスが見事なシンクロで両手を広げてまぁまぁと俺達を落ち着かせようと同じポーズをとった。もう息ぴったりだな。

 

「ごめんごめん。それよりも1つ伝えておきたいことが……」

「え、伝えること?」

 

 俺が大事な要件を言いかけた時、遠くからミツルを呼ぶ声が聞こえた。

 

「ミツルー! どこなのー! いるならすぐに出てきてー!」

「あっ! お母さん! ぼく呼ばれてる! レインさん、ぼくもう行かなきゃ!」

「えっ」

 

 まだ話がっ! でもみゅー達はすでにお別れモードだった。

 

「ミツル、元気でね。また会えると思うからそのときまで少しお別れね。みゅふふ」

「マーッ」

「上手くいって良かったってシスイも喜んでるの。それとまた会おうねって」

「みゅーちゃん、シスイ……本当にありがとう! ラルトスと友達になれたのは君達のおかげだよ! ぼくのラルトス……ずっとずっとたいせつにするね! きっとまた会おうね! じゃあねー、バイバイ!」

 

 ミツルはお礼を述べ、とびきり嬉しそうな表情でラルトスを抱きしめると駆け足で消えていった。

 

 あーあ……俺もうどうなっても知らないからな。とりあえずミツルの目的は果たせたし、上々ってことでいいか。

 

「レイン、そんな顔してたらエスパーから嫌われるよ。また心配事? それともあの子がいなくなって寂しい?」

「さみしがりはシスイだけで十分でしょ。俺が気になってたのはあのラルトスの使える技のこと」

「技? 攻撃技がないとか?」

「なぜわかった?!」

「エスパーだもん」

 

 みゅーって本当にどこまでわかっているのだろうか。ほんっと、不思議な女の子だね。

 

 俺の唯一の気掛かりがラルトスの技構成。まさかの“なきごえ”と“テレポート”のみ。どないすんねん! 俺でも育てるのは大変だ。……無理とは言わないけど。

 

「大丈夫。ミツルは心配いらないの」

「本当? ま、みゅーが言うなら大丈夫か」

 

 エスパーの言うことは本当にそうなるからな。実際心配しても仕方ないし俺は気にせずにいよっと。

 

「それよりレイン、忘れてないよね? 反省会」

「……そうでした」

「おんなじ失敗しないよーに、次までにしっかりと悪かったところは直すこと。……また同じ失敗したら許さないから」

 

 みゅーちゃん厳しいね。なんかまた初心者に戻された気分。初心者何回目? こういうのって期待の現れだからありがたいけどさ。さっきのミツルへの叱咤激励といい、みゅーはグッと大人になったね。かっこいい。

 

「レイン」

「なに?」

「楽しみだね」

「反省会が?」

「もう、わかってるクセに。素直じゃないの」

 

 男の子はそういうもんだからいいんだよ。さて、次はいつになるんだろうか。

 

 ミツル、ラルトスのことしっかり育ててやれよ? 変な育て方してたらおしおきだからな!

 




レインはラルトスのフェアリータイプにはまだ気づいてません
わかりきっているタイプなんて確認しないですよね

わるあがきはどうやっても使えません(PPがないため)
レインはズルしてレベルを上げる方法を思い浮かべています

トレーナー申請の件は細かく設定をほじくり返すとややこしいのでそっとしとく感じで
トレーナー手帳絡みはザル説明で一瞬マズイかなって思いましたが見返すと破綻レベルではないと思いったので結局そのままにしました()
そもそもなんでこんなややこしいシステムにしたの?(自業自得)


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5.今日は何の日?

今回の話はミュウと言えばの“あのイベント”をします!
1話からずっとおいでおいでして遊んでほしそうだったみゅーの願いがやっと叶います!
正直みゅーの発言ずっと忘れて(ry

あんまり本編の本筋に絡まないので(ごめんなさい)あらすじ忘れてる方もたぶんセーフです!
短編っぽく読んでみゅーちゃんに癒されてね!
あと、重大事件があったのでみゅーちゃん好きな方は後書きも見て下さい!
(ただしバグ技とか乱数がキライな方は見ない方がいいです)



「レイン、わかった?」

「はいはい、わかったから」

「みゅ! 『はい』は1回なの!」

 

 うげぇ……。ミツルを送り出した翌日、トウカの森へ向かって歩く道すがらみゅーからありがたい説教を受けていた。いつにもまして厳しい表情だ。ものすごく不満げな表情にも見える。どうにかしてこの状況を打破できないか? なんかいないかな……

 

「あっ!? 見ろ!! あれボーマンダじゃないか!? 森の方にほらさぁ! なんでこんなところに!?」

「もうっ! レイン、みゅーの話聞きたくないからって変なこと言わないの」

「いや、ホントだって! 見ろよこの目を!」

 

 まばたきもせず全力で見つめる……が、みゅーはバッサリ。

 

「……でも、そんなのどうでもいいの」

 

 心底つまらないという声色のみゅー。こうなったら意地でも盛り上げて……

 

「どうでもよくない! ドラゴンだぞドラゴン! トウカの森に暴竜現る! スクープだ! 今すぐ見に行こう! ドラゴンの巣とかあるかも! ドラゴンゲットだ! “りゅうせいぐん”だ! “りゅうのまい”だ!」

「あ~っ! ……もうっ。すぐはしゃいで……まるで子供なの」

「そうゆーなって。自転車に乗っていこう。みゅーも乗るだろ? 俺の前か後ろ、どっちがいい?」

「……うしろ」

「よっし! じゃあしっかりつかまってろよ? さぁ乗った乗った!」

 

 これで誘導成功! 自分の話術が恐ろしい……。自然な流れでここを脱出だ! 

 

 しかし、浮かれていた俺に冷や水を浴びせるようなみゅーの一言が突き刺さる。

 

「むかしはこんなんじゃなかったのに……」

「!」

 

 かぼそく小さな声。恐らく誰かに向けて言ったわけではないだろう。しかしなぜか俺の耳にはハッキリと届いてしまい、その意味するところもわかってしまった。一瞬にして全身が縮みあがる。

 

 なんだろうこの感じ……今対応を間違えたら説教が面倒とかいうレベルじゃない、もっと大変なことになる気がする。完全に失望されかけている気が……。

 

 チラッとみゅーをうかがうと向こうもこっちを見ていた。値踏みするような冷たい目……ヤバイね。

 

 いますぐ何か気の利いたセリフでも言って挽回したいところだが、何を言っても悪手になる未来しか見えない。逆にここはじっと我慢……沈黙は金か。

 

 浮ついた気分は引っ込めて自転車に乗り、黙ったまま手招きでみゅーを呼んだ。みゅーはこの対応がお気に召したのか、誘われるまま後ろにちょこんと飛び乗った。

 

 ギュッ

 

「ん!? みゅー……ちゃん?」

「速く進んで」

「えっ?」

「ポケモンつかまえられなくなるよ」

「そう……だな」

 

 黙っていようと思った矢先、思わぬ行動につい声が出てしまった。すごく安心できるこの感じ……理由はわからないがなんとかピンチは乗り切ったらしい。ふざけるのはやめたから許された? 

 

 注意すればじんわりと背中越しにみゅーの複雑な心境が伝わってくる。好きだけどがっかりして、甘えたいけど甘えられなくて……そういえば最近甘えさせてあげる機会がなかったような……。さっきは自分の話術が~とかなんとか思っていたけど、みゅーがあっさり「うしろ」を選んでくれたのは、案外堂々と後ろから俺に……

 

「みゅーっ!! レインッ!!」

「あ、ごめんごめん。しっかりつかまってろよ?」

「……おそいよ」

 

 最後のみゅーのつぶやきは何に対しての言葉なのだろうか。これからは気をつけよう。

 

 晴れやかな気分で漕ぎ出した自転車は追い風に乗ってグングン進んでいった。さっきまで風はなかったし、みゅーの技だったりするのだろうか。目的地のトウカの森はもうすぐだ。

 

「レイン」

「あ、なんか食べる? ポロックは……もうないから、きのみで我慢して」

 

 みゅーにはオレンを投げ渡し、自分はチーゴを取り出した。みゅーはもちろん“ねんりき”で上手にキャッチしている。

 

「んーー! きのみって案外おいしいよな。みゅーはどう?」

「ねぇ、それちょうだい」

「チーゴのこと? みゅーはオレンが好きじゃなかったっけ?」

「別に、気分。早くして」

「……ちょっとまって、今新しいのを」

「早くちょうだい!」

「あ!」

 

 みゅーは“トリック”で強引にチーゴとオレンを入れ替えてしまった。俺の手元にはオレンのみ。

 

 カプッ! 

 

 みゅーがおいしそうにチーゴをかじる音が聞こえる……にしてもここまでする? 

 

 みゅーの考えることは“きまぐれ”だし考えてもムダか。そう思い直し自分もオレンを食べることに。ふと見るとみゅーのオレンは手つかずだったが、気にせず食べ始めた。

 

「ぷはー。ん~、まだお腹空いてるからそれもちょうだい」

「あっ!!」

 

 もっていかれた! 今度はオレンまで! こいつ……さっきオレンは全然食べてなかっただろ! みゅーはわざわざ俺が食べているきのみばかり盗っていく。この甘えん坊め、まさか……

 

「みゅーちゃん、イタズラして楽しい?」

「みゅ? みゅーは楽しいよ?」

 

 みゅーも俺が気づいているのはわかっていて乗っかっているみたいだ。もうみゅーの怒りはしずまり上機嫌。ここ最近ゴキゲンナナメだった理由もなんとなくわかった気がする。ちょっと嬉しくなった。

 

 ◆

 

「……」

「で? なんにもないよ?」

 

 トウカの森に入り、さきほど見たボーマンダの手掛かりを探すが何も見つからなかった。ドラゴンのドの字もない。

 

「いや、もっと探せば足跡とか痕跡ぐらいは……」

「あるわけないよ」

「もう……いじわる」

 

 みゅーの非情な言葉に早くも心が折れそうだ。単なる見間違いとかだったのか? 

 

「レイン、そんなにドラゴン欲しいの? ミニリュウも欲しがってたよね」

「そりゃなぁ。ドラゴンは最強のタイプだし、持っていれば箔が付くだろ? しかもボーマンダともなれば……やっぱり諦めきれない!」

「あーあ、レインやっぱりバカになってるね」

「は?!」

 

 非情なみゅーの口撃は続く。

 

「そもそもそのポケモンってどんなところに生息してるの? レインならわかるでしょ?」

「それは……まぁ洞窟とか」

 

 タツベイの分布がりゅうせいのたきだったから親もその辺にいるだろうな。昔は小部屋でしか出ないのを知らなくて何時間も探し回ったっけ。超低確率なんだと勘違いして……あれはわからん。

 

 

「じゃあこんな場所にいるわけないの。いい加減気づいて」

「ぐっ、言われてみれば……でもホントに見たから!」

「どうせトレーナーのポケモンでしょ。野生なわけないの」

「いやでもこの辺りにボーマンダ使いなんて……でもそうか、たしかにボーマンダ使いが1人なわけないしなぁ……ごめん」

 

 なんかまた機嫌悪くない? ピンチ再来? なぜかこうして冒険する立場になると珍しいポケモンとか欲しくなるんだよな。弱くてもケーシィ・バルビートみたいな珍しいポケモンはとりあえず捕まえとこって思っちゃう。バトル脳の時は見ても何も思わないのに、野生で現れたら『出たーーっ!!』ってなってつい、我を忘れて冷静さを失う……まだまだ自分も子供なのかも。

 

「わかったらさっさと諦めて。あーあ、なんか退屈なの。面白いことがしたいなー」

「え?」

「レイン、ここまでみゅーはレインの言う通りにしたのに、なんにもしてくれないの?」

 

 もしかして遊んでほしいのか? 遠回しな言い方だけどそんな気がする。たしかに最近は散々振り回したし、ここはひとつ、お姫様のご機嫌取りでもしておこうか。

 

「よっし、じゃあ俺と“おにごっこ”でもする? フィールドはこの森の中!」

「みゅーーっ! みゅーそれ好き! じゃあレインがオニ! レインが勝ったら頑張ったねって頭撫でてあげる」

「は?」

「レインが負けたら“ねんりき”でポキッてするね」

「はっ?!」

「じゃあ今からスタートなの! 途中でやめても負けだからね。たまにはカッコいいところも見せてよ。……みゅみゅみゅ」

「それは……ああもう、わかったよ、やりゃいいんだろ!」

「おいで」

 

 それだけ言い残してみゅーは消えてしまった。“テレポート”まで使う気かよ! しかも罰ゲームも本気で実行する気だ! 絶対そうだ! みゅーこそ本当の“鬼”だ! 

 

 けどな……あんなこと言われたら引けねぇよ。あるいみこれはチャンスだ。名誉挽回、起死回生のチャンス。……絶対頭撫でさせてやる! 

 

 まずみゅーは致命的なミスをした。あいつは肝心の時間制限を指定していない。かつ鬼を俺にした。だから俺に負けはない! もしみゅーが鬼なら瞬殺されただろうが、これなら勝てる! 

 

 ま、いきなり本気を出してあっさり勝ってしまってもいいが、少しはみゅーにも遊ばせてやらないと機嫌を直してもらえないし、まずは小手調べからか。

 

「みゅーちゃん出ておいで!」

「みゅー? 呼んだ?」

 

 すっとぼけた顔でノコノコ出てきやがった。舐めやがって! とっ捕まえてやる! 

 

「タァーーーーッチ!」

「みゅぅー、あぶなーい! 今のはセーフなの」

「まて!」

「みゅうー」

「このっ!」

「みゅふー!」

 

 何度挑んでも全てギリギリで躱される。ギリギリであることが逆に力の差を如実に表していた。まともには勝てないか。

 

「レイン、もう終わり? みゅみゅー、逃げちゃおっと」

「消えた……あっちか」

 

 今度は“テレポート”で追いかけっこか。いいぜ、つきあってやるよ! みゅーは次々移動していくが俺は“サーチ”で視てしっかりついていった。

 

「おらおらどけどけ!」

「バウッ!?」

「スバッ!?」

 

 飛び出してくる野生ポケモンを蹴散らしながら最短距離でみゅーを追う! また追いついた! 

 

「レインすごいね。どうしてみゅーの場所わかるの?」

「そろそろ観念して諦めてくれない?」

「んー、まだたりないかなぁ。おいでおいで」

 

 しゃべりながらも思考は続ける。“おにごっこ”を続ける中で少し“テレポート”について発見があった。みゅーの特別な“テレポート”はどういうわけか発動前に俺のサーチの表示にゆがみを生む。“みゅー”の表示が僅かに揺れていた。

 

 もしかすると何かエスパー絡みの理由とかがあるのかも。波動が乱れるとかそんなのが。理屈は不明だがこれは利用できるはずだ。あいつが移動する時、俺は一瞬早くそれを察知できる。問題はタイミングがわかっても出現ポイントまでは絞れないことだが……今はとにかく近づくことだ。

 

「まてみゅー!」

「こっちこっち」

 

 どんどん森の奥へ逃げていくみゅー。ポケモンも増えてきた。今度はキノココか。

 

「どけぃ!」

「キノーッ!」

 

 キノココは蹴り一発で簡単に吹き飛んだが、追いかけることに夢中で大事なことを失念していた。そう、キノココの特性……“ほうし”だ! 

 

「うえっ……気分が……どく状態か!」

「あーあ、油断したね。レイン大丈夫?」

 

 うずくまる俺を見てフラフラっとみゅーが寄ってきた。俺の周りを軽やかに移動している。……油断しているのはどっちの方だ? 

 

「みゅー、“いやしのすず”で治して」

「ダメ。勝負中だもん」

 

 その返事は予想通り。本当の狙いは……

 

「そんなケチなこと言うなよ……!」

「みゅぅーーっ! レインこわーい!」

 

 近づいてきたみゅーにしゃべりながら不意をついてタッチを試みるが、完全に読まれていた。やっぱりエスパーを出し抜こうってのがそもそも無理があるか。動きを制限しないと厳しいな。

 

 仕切り直してバッグから取り出したモモンをかじりながら作戦を考えた。毒はこれで治る。

 

「あっ、おいしそう」

「ん? ……ははぁ~その手があったか」

 

 みゅーがまたもやフラフラと俺の方に近づいてきた。その視線の先には食べかけのモモンのみ。かなり気になるようだ。相手のほしいものを利用するのは基本中の基本。これならやりようはある。ちょっと心苦しい気持ちもあるが、勝負の世界は非情だ。許せよ、みゅー。

 

 さて、いきなり“エサ”を使ってフィッシュ作戦は少しリスキーだ。まずは別の角度から攻めて様子を見よう。まずはみゅーの心を揺さぶる! 

 

「みゅーちゃん、今ならありったけの気持ちを込めて抱きしめてあげるよ」

「みゅ? レインもうお手上げ?」

「こっちおいで」

 

 今度はこっちがおいでおいでの時間だ。ずっとフラフラ、ユラユラしていたみゅーは動けなくなっている。表情こそ変わらないが効果は抜群のようだ。ゆっくりキョリを詰めていった。今なら案外あっさりということも……

 

 そろりそろり……ここで焦っちゃダメダメ。俺が飛びついて届く距離、2mぐらいなら一瞬先手を取ってタッチが届くはず! もちろんそこまで至近距離に近づくのは難しいから一工夫必要だろう。

 

「みゅ……」

「入った!」

 

 思い描いていたラインに入った。距離はまだ4mほどあるがこれ以上はみゅーに逃げられる。そこで秘策その1の出番だ! 自分とみゅーの真ん中に向かって“ピッピにんぎょう”を投げた! これでみゅーの方から近づいて距離は半分になる! 

 

「とどけっ!」

 

 ザザ……

 

 揺れた!? ……と思った時には既にみゅーはピッピにんぎょうを手にして消えていた。なんて早業! この間合いでもダメか……。

 

「ピッピ~」

 

 後ろからみゅーの声。ピッピの鳴き真似とはコケにしてくれるじゃねぇかみゅーさんよぉ? 

 

 だがこれで“テレポート”のタイミングはつかんだ。次は外さない。この次が本当の勝負! おもむろにバッグからオレンを取り出してひとかじり。美味しそうに頬張りながらゆっくりみゅーから離れるように歩いた。

 

「やっぱりオレンはうまいなー」

「みゅみゅぅ……」

 

 釣れたな。食い入るような視線が背中越しに突き刺さる。ほしい気持ちが駄々洩れだ。くいしん坊め! 

 

 モンスターボールを投げるようにして軽くオレンを右手の上で投げ上げて遊ばせる。これみよがしにみゅーに見せつけてやった。

 

 そして左手には追加の“ピッピにんぎょう”を用意。二度同じ手は食わない。道具を2つ持っていれば“トリック”は効かない。みゅーは“テレポート”で奪いに来るしかなくなるわけだ。

 

 焦らしながらゆっくり目的の場所へと歩いているがみゅーはテレポートしてこない。すぐにでもオレンが食べたいはずなのにだ。それはなぜか? 

 

 やはり“テレポート”直後の隙を気にしている。つまり俺の勝機はそこにある。これで確信できた! 

 

 それでもスキを見てみゅーは必ず飛んでくる。それも一目散にオレンめがけて突っ込むはずだ。その瞬間、俺の勝利が決まる! さぁ、そろそろ勝たせてもらうぜ? 

 

 とうとう着いた。目をつけていた足場にしやすそうな木、そのそばに近づいたタイミングでオレンを頭上に投げつけた! ギリギリ俺がジャンプしても届かない距離、自画自賛したくなる絶妙のコントロールだ。

 

 みゅーはオレンに夢中で周りの木なんぞ眼中にないはず。これ幸いとばかりにテレポートするだろう。この木を足場にして、オレンへ一目散に飛んできたみゅーを動けない瞬間に捕まえてやる! 

 

 ザザ……

 

 きた! 今だ! すぐさま渾身の力をこめてジャンプ! さらにもう一度木を蹴り上げて三角飛びの要領で投げ上げたオレン目がけて右手を伸ばした! 

 

「発想は悪くないの。でもやっぱり足りない」

「げっ!」

 

 声が下から!! まさか読まれた!? オレン目がけて一直線にテレポートするはずのみゅーは俺の下で笑っている。

 

「ウヌボレはダメっていったでしょ?」

「まだ終わってない!」

 

 オレンは命綱! 渡すわけにはいかない! ピッピにんぎょうを手放し、残っていた左手で落下するオレンを再びキャッチ! そのまま着地点にいるみゅーに向かって右手を振り下ろす! あいつはまだ移動の反動で動けないはず! これでタッチアウトだ! 

 

「みゅっ」

「ねんりき?!」

 

 みゅーは自分に“ねんりき”をかけてタッチを躱した。こしゃくな! “ピッピにんぎょう”もすでにみゅーが持っているせいか効力が薄いようだ。でもオレンだけは死守できている……これさえあれば……

 

「ごくろうさま」

「あ!」

 

 “トリック”でオレンはきのみの花らしきものと交換されてしまった。やられた……とっさのことで“トリック”まで頭が回らなかった。

 

「さっき見つけたの。キレイでしょ? レインの負けだけど頑張ったからそれあげる。残念賞ね。みゅふふ」

 

 カプッ

 

「まだだ! まだ決着はついてない!」

 

 オレンをかじりながらもう勝負はついたかのような言い草。みゅーの発言に対し即座にこっちも言い返すが、あっさりと俺の本心は看破されてしまった。

 

「オーラ乱れた。心が認めてしまっている……レインの負けだよ」

「俺が……負けるわけが……」

 

 鬼で“おにごっこ”に負ける奴があるか! こんなはずでは……。だがもう策はない。ここまでか。

 

「レイン、約束。わかってるよね?」

 

 みゅーの審判が下る。もう抗えない。ならせめて“ねんりき”だけは回避せねばっ! 

 

「……ものは相談なんだが、せめて“ねんりき”じゃなくて違うことに変えるっていうのはダメ? さすがにポキッてするのはヒドイと思わない?」

「レインわがままだね。じゃあどうしてもっていうなら変えてもいいよ」

「よし! やっぱりみゅーちゃんはやさし……」

「じゃ、レインは今日一日みゅーの言うことに絶対従うこと。破ったら“ねんりき”ね」

「え……」

「イヤなの?」

 

 そう言いながら攻撃態勢に入るみゅー。選択の余地はなかった。

 

「わかりました……」

「みゅみゅ。よろしい。じゃあ早くお外に行こう。お日様の当たるところまでレインがおんぶで運んで」

 

 言い終えた時には既にみゅーは俺の背中に飛び乗っていた。まさか全部最初からこれが目当て? 今の待ちきれんと言わんばかりの嬉しそうな飛びつき方を見るとそんな気がする。

 

「しょーがないなぁ。しっかりつかまってろよ?」

「はいはーい」

 

 あれ、『はい』は1回じゃなかったの? でもいっか、みゅーが嬉しそうだし。

 

 とっても暖かくて、幸せな感じ。こんな感覚いつ以来だろう。なんか久々な気がする。みゅーも同じ気持ちなのだろうか。

 

「ありがとな」

 

 気づけばそんな言葉がこぼれていた。普通ならこれだけじゃ伝わらないけど、みゅーには十分伝わるはずだ。今はオーラが通じてる。

 

「レイン、覚えてるよね。今日は大事な日」

「え?」

 

 いきなりな質問に戸惑ってしまう。……やっぱ俺、まだまだエスパーとしちゃはんちくだな。みゅーと違って何でもはわかんねぇ。

 

「みゅーぅ、折っちゃうよ……」

 

 それは勘弁して下さい! 急いで何の日か考えた。

 

 何の日かっていうのはつまり、1年前に何があったかってことだ。それもみゅー関連。1年前は春、たしか俺が“こっち”で目覚めた頃か? その頃みゅーはまだいな……

 

 ──おいで──

 

 あっ! そうだ! 

 

 脳裏によぎるあの後ろ姿。あぁ……間違いない! 

 

 たしかに俺は会っていた。全てのハジマリの日、それが今日だ! 

 

 ずっと遊んでほしかったんだ……やっと2人になれたから。ずっと待っていてくれたんだ。

 

 何やってんだ俺。女の子を待たせちゃダメだろ? 

 

「遅くなってごめんな」

「いいよ。待つのは慣れっこだから」

 

 さすがの俺でも今みゅーがどんな表情をしているかは見なくたってわかる。いや、これは誰でもわかっちゃうか。

 

 みゅーが笑ってくれたから、今日はみゅーの日、みゅーちゃん記念日。

 




いきなり本題です!
なんと! なんとですよ!! とうとうゲームでみゅーちゃんに会えます!!
ミュウじゃありません。“みゅーちゃん”に会えます!

これまで親が自分でニックネームをつけれる色違いのブロックルーチンのないミュウは限定配信の“ふるびたかいず”があり、かつミュウを捕獲していない中古のエメラルドを引き当てるしかありませんでした。

まぁ普通に考えたらあるわけないので引き当てても改造ですね(未捕獲で売るのは不自然)

実質入手不可でしたが、最近すごいバグが見つかって、簡単にエメラルドでミュウがいる“さいはてのことう”にテレポートできるようになりました!
エスパーの力ってスゲー!!

というわけでわたくし、りんごうさぎは新作そっちのけでエメラルドを買いに走り、バグ技習得に勤しんでいました。
エメループ(エメラルドの乱数システム)もいまさら勉強しましたよ()

結論から申し上げますと行けました。しかも1日で成功!
わりと簡単でした!
とりま通常色のおくびょうなみゅーちゃんを粘ってコピーバグで量産! 
手持ち全部みゅーちゃんのみゅーちゃんハーレムだ!!(あほ)
昇天しましたね(あへ)

現在真のみゅーちゃんに会うべくカナシダトンネルで色違い探してます。
70程溶かしてまだ会えません(血涙)
先にポケルスが出ました(察し)
そもそも色乱数に自然遭遇の色違いがいるってこれもうわかんねぇな?
一見乱数意味ねぇですが性格練るためです(真顔)

ということでみゅーちゃんに会いたい方はエメラルドとダブルスロットできるDSliteとかを用意しましょう。最新作に送るにはDSは二台いりますが2DSか3DSあればいけるはずです。
あ、ミュウは内定もらってるので安心してください(ニッコリ)

エメラルドは地味に高くなってて、昔は500円とかもありましたが今は3000円とかですね。
自分は安いの見つけて2000弱で買いました。
Liteは1万弱するかもしれません。
自分は上画面死んでますが昔のがあったのでそれ使いました。
パルパークはミュウだけなら目隠しでも攻略出来ます()
送る時しか必要ないので基本的には目隠しプレイはしないですけどね。

肝心のやり方は“さいはてのことう”とかで検索すれば色々出ると思います。
Youtubeにアップされてる解説動画が個人的には一番わかりやすかったですね。
やる方はしっかり調べてからしましょう。

ということで新作発売日にエメラルドの宣伝乙でした。

なお、バグ技の話なのでそういうのがキライな方はすいませんでした。
ちなみに自分はバグ技・乱数大好きです(廃人)


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6.新たな道 新たな出会い

あけおめ投稿です!
お年玉プレゼントは終了しました


 トウカの森を抜け、燦々と輝く太陽の下に帰ってきた。まるで別世界に来たかのようなのどかな景色が眼の前に広がる。キラキラと陽光が反射する湖を見つけてみゅーが走り出した! 

 

「あーーっ! キラキラしてるの!」

 

 嬉しそうに駆け出すとそのほとりでしゃがみこんで水底を覗き込んだ。そのあと靴を脱いでチャプチャプと足を水につけて楽しそうに遊ぶみゅー。その姿を見ているとこっちまで心が和やかになる。

 

「みゅーみゅー♪」

「楽しそうだな」

「うん。レインこっちきて」

「俺も? 別にいいけど」

「えいっ」

 

 バシャ! 

 

「あっ! やったな!」

「みゅふー!」

 

 水をかけて嬉しそうなみゅー。すぐさま反撃といきたいが正攻法では倍返しされる未来しか見えない。ちょっと周りに利用できるものがないか探してみよう。

 

 サーチしてみると意外と近くに反応があった。これは……。

 

「あっ……」

「みゅー?」

「ゴッゴッ!」

 

 バシャバシャ!! 

 

「みゅっ!?」

「あちゃー」

 

 いきなりコイキングが水面で“はねた”せいで水しぶきがみゅーに飛んだ。俺に気を取られていたみゅーは驚いてひっくり返ってしまった。服がビショビショだしすごい格好になっている。

 

「もぅーーっ! 今からいいところだったのに!! 許さない……」

 

 プンプン怒ったみゅーの体がピタッと静止。次の瞬間凄まじい力でコイキングの体がひしゃげた。それはアカンやつ! 

 

「ゴゴ、ゴゴッ……」

「みゅー、落ち着け!」

「みゅぅっ!」

 

 俺が肩に触ると“ねんりき”が止まりみゅーは振り返って俺の方を見た。間に合った……。汚い花火は勘弁な。

 

「悪気はなかっただろうし、今回はこのぐらいにしておこう」

「レイン! みゅ~、レインがそういうなら……あ、今度はあっちの方に行こう! きのみがいっぱいありそうなの!」

「あっ、ちょっと待って!」

 

 体をすぐに乾かし、またもや1人駆け出すみゅー。あっちこっち忙しいやつだ。

 

「はやくきてきて! レインみて! すごいたくさんオレンのみ! どこもかしこもおいしそう!」

 

 みゅーに誘われてやってきた場所は大きな果樹園だった。広大な土地においしそうなきのみがたくさん実っている。一目で人の手が加わっていることはわかった。

 

「こんなところでいったい誰が……」

「そういえばお腹減ってたの。ひとつ食べよっと」

 

 お前さっきまで散々俺から巻き上げてただろ! まだ食うの?! いや、それよりも、だ。

 

「ちょっと待て! ここはたぶん誰かの育てたものだ! 勝手に食べるのはまずい!」

「みゅ? それは人間の都合でしょ? みゅーはポケモンだから知らないもん。きのみはみんなのものなの。独り占めは悪いことなの。あむ……んみゅんみゅ。んふーっ! おいひいー!」

 

 あーあ、食べちゃった。よっぽどおいしいのか飛び跳ねながら食べている。ここまで喜ぶってことは相当なお味なんだろう。

 

 しかしご満悦中のみゅーに向かっていきなり“みずでっぽう”が飛んできた。無防備な状態のみゅーは正面から直撃してしまった。……俺も油断していた。いったい誰だ? 

 

 ホウエンでみずタイプの技といえば……まさかアクア団!? そういえばこの辺りから出てくるようになったっけ。俺の中に緊張が走る……! 

 

「ダメッ! おねーちゃんが育てたきのみ勝手に盗らないで! ドロボー!!」

「ボーッ!!」

 

 現れたのは5才ぐらいの子供とハスボー。……ただの子供かよ! 心配して損した。いや、マズイ状況には変わりないか。悪いことしているのは俺達だ。

 

「君がこの果樹園の持ち主? ごめんね、お腹が減ってたからつい食べてしまって。ちゃんとお金は払うよ」

「じゃあ100万円ね!」

「えっ!? ……高過ぎない?」

「大事なきのみなんだから当たり前! それにバレなかったらお金も払わないつもりだったんでしょ? だから罰金」

「ぐっ……こいつ……」

 

 生意気5才児め! 舐めたマネを……。思わず怒りをぶつけそうになるがその前に沸点を超えた人物がいた。

 

「きのみはみんなのものってことぐらい子供でも知ってる。欲張って独り占めした上にまたみゅーの邪魔して、しかもまたビショビショにされた。もう限界……許さない……」

 

 みゅーの体がピタッと止まった。これ、ついさっき見たやつだ……! さすがに人間相手にみゅーが本気の怒りをぶつけたら只事では済まない。自分の怒りはどこへやら、慌ててみゅーを止めに入った。

 

「待って! 落ち着けみゅー!」

「みゅぅぅぅ! どうして? レインはこの子とみゅー、どっちの味方なの?」

「もちろんみゅーちゃんの味方です! みゅーちゃんが全て正しい!」

 

 当然だ! みゅーの言葉は世界の真理! ……決して言いなりになっているわけではない。

 

「ちょっと!? 何言ってるのよ!? ドロボーはドロボーでしょ! 早く100万円払って! 逃げたら通報するから! 絶対逃がさないからね!」

「みゅ!? 強欲で傲慢! やっぱり許せない!」

「あーもうっ! これじゃパラスに“オーバーヒート”じゃんか! 日照り手助け大炎上! どうすりゃいいの!?」

 

 この女の子がコイキングのように捻じ曲がる未来がみえかけたその時、救いの声がかかった。

 

「あら? なんだか騒がしいけど……チフユ、どうしたの?」

「あっ! チハルねーちゃん! この子が勝手にきのみ食べてたの! ドロボーだよ!」

「あ、すいません。勝手に食べてしまって……」

「あら、それはオレンのみね。どう? おいしかった?」

 

 食べかけのオレンを見て、優しく微笑みながらみゅーに問いかけるチハルと呼ばれた大人の女性。少なくとも怒っているようには見えない。みゅーも落ち着きを取り戻して問いかけに答えた。

 

「みゅ? これ? とってもおいしかったよ。あなたが育てたの?」

「ええ。喜んでもらえたなら良かったわ。おいしく食べてもらえればそれで構いません。そのきのみはどうぞめしあがって」

「えっ!?」

「ふーん……あなた良い人ね。ありがとう」

「ちょっとおねーちゃん! また勝手なことして! そういうのはダメっていつも言ってるでしょ!」

「あなたこそ、あの子に攻撃したでしょ? ダメじゃない」

「えっ……なんのことぉ?」

「みゅ! ウソついたの!」

「むっ! あなたに言われたくない!」

「こらこら、喧嘩しないの。あの子は攻撃されてもずっと大事そうにきのみを持っていたわ。私はそれだけでとっても嬉しかったから十分満足しているの。もう怒らないであげて」

 

 そんなところまで見ていたのか。この人、ここに来て一目で……。おっとりした印象の人だけど、たぶんこの人がこのきのみ畑を仕切っているリーダーだろうな。

 

 じっと見ていると俺の視線に気づいて話しかけてきた。

 

「よろしければあなたもどうですか? きっとお口に合うと思うんですが」

「……いいんですか?」

 

 チラッと妹と思われる子の方を見ながら言うと、手慣れた動作できのみを取りながら笑って答えた。

 

「今は丁度刈り入れ時ですから。おひとつどうぞ?」

 

 とても色つやの良いオレンを渡された。自分のいる周りを見る限り、この辺りで実っている中では1番おいしそうなきのみだ。いいやつを選んでくれたのか? 

 

 感心しつつ、渡されるままに一口食べてみた。

 

「……うまい。変な言い方かもしれないが、まるでオレンなのにオレンじゃないみたいな味だ。普通とは全然違う」

「あったりまえよ! おねーちゃんは世界一のきのみ名人なんだから!」

「ウフフフ……それは良かった。私達は姉妹できのみを育てていて、ホウエンでもっときのみを広められたらいいなって思っているの。世界中をお花でいっぱいにすることが私の夢なんです。あなたのなまえは……」

「俺はレイン。こっちはみゅーです」

「レインくんとみゅーちゃんね! とってもいい名前! レインくんきのみのこと知りたい? もし興味があるならうちのお店へ寄っていきませんか? きのみについてならなんでも教えて差し上げますよ?」

「お店?」

「おねーちゃん達は姉妹でこの『フラワーショップ サン・トウカ』を経営しているの! あたしもおねーちゃん達を見習って頑張ってお花を育てているの」

「へぇ……ここがサン・トウカだったのか。こんなおっきなきのみ畑があるとは」

 

 これはいいところへやって来たな。こっちではきのみは大事になりそうだし、めぼしいものがあれば補充したい。なにより美味しいし……寄っていく価値はありそうか。

 

「レイン、ここのきのみおいしいから一緒に見てまわろうよ! みゅーもっとほしい!」

「そうだな。みゅーも気に入ったみたいだし、ぜひお願いします」

「ええもちろん。それではこっちへどうぞ」

 

 案内された先にはかわいらしい見た目のお店があった。なんか知ってるのよりもオシャレだな。元のやつは飾りっけがなかったもんな。

 

 カランカラン

 

 店内に入るといい香り……こういうのってわざといい香りの植物を選んで置いてあるのかな? 

 

「ただいまおねーちゃん!」

「おかえりチフユー。おっと、そっちの方々はお客さん? いらっしゃい! ゆっくりしていってね」

「……トレーナーさんかしら? ここにあるきのみはどれも自慢の一品だからぜひ見ていってね」

 

 明るく声をかけてきたのはいかにも夏って感じのイメージの受付の女の子。店内の花の様子を見ていた女の子は落ち着いた物腰で秋って感じの雰囲気。もしかして4姉妹で春夏秋冬とか? 

 

「あの2人はチナツとチアキ……チナツはなんでもできるから経理や受け付けの仕事がメインで、チアキは私の手伝いをしてお花や木の状態管理を任せているの」

 

 俺があの2人を気にしたのを見越しての発言だろうか。本当によく見ている。

 

「きのみはあなたが?」

「ええ。チフユにも手伝ってもらいますけどね」

「えっへん!」

 

 普通なら「威張るな!」って言いたいところだが、本当に見惚れるぐらいすごく良いきのみが並んでいる。このちっさい子の腕もいいのだろう。この店……本当にすごい。もしかしたら高級なブランド品を扱う店だったりするのかも? いや、それにしては立地が変な気もするな。

 

「ここのきのみはどれもすごいですね。普通のきのみとは別格。逆にこれだけのものがそろっているのに町から外れたところでひっそりと店を構えているのが不思議なぐらい。何でこんなところにあるんですか?」

「あんた、はっきり言うタイプやねんな。普通少しは遠慮せん?」

 

 チナツから苦言を呈されたが、本当に変だからな。ブランドが付きそうなきのみがこんなこじんまりしたところでたたき売り状態なんてはっきり言って異常だ。

 

「立地は私が決めたんです。この土地がホウエンで2番目に良い土壌だったので」

「なるほど……そういう制約があるなら場所は移せないのか。ちなみに1番は?」

「おじいちゃんのお庭です」

「おじいちゃん?」

「きのみ名人よ……知ってるわよね?」

 

 今度はチアキ……そうか、この4人ってきのみ名人のお孫さん達か! そりゃ道理ですごいわけだ。やっぱりここって……。

 

 きのみを手に取ってじっくり観察してみた。やっぱりいい。値段はみたところ普通よりかなり高いが、モノが違うのを踏まえれば格安だろうな。

 

「すごくきのみに興味があるみたいね。よければ外に出て収穫とかも一緒に見ていきますか?」

「いいんですか?」

「なんやったらウチもおしえたろか? どーせ会計なんてヒマなだけやし」

「え? お客さんとか来ないの?」

 

 ピキッ! 瞬間凍り付く空気。慌ててチナツは前言を訂正した。

 

「いや、なんちゅうか、まぁ会計ぐらいチアキがしてくれるし……」

「おい! こっちまで火の粉を振りかけるな!」

「あはは……堪忍な……」

 

 なんか変だな。今のツッコミも無理に空気を変えようとしている感じがするし……もしかしてこの店、全然もうかってないとか? 

 

 さすがに言葉に出して聴けないので視線でチハルさんに尋ねると、観念したのかポツポツとしゃべり出した。

 

「お客さんはほとんど来ないんです。きのみなんてただのエサなのに大金使えるかーって、特にトレーナーさんは高くても効果が変わらないなら安い方がいいという方が多くて」

 

 なるほどな。たしかにその通りだ。俺だって味とか度外視で“おいしいみず”ばっかり使うし。

 

「おねーちゃんのきのみはみんなを幸せにしてくれるのに、みんなわかってくれないの!」

「ほんま世知辛い世の中やで」

 

 そうか、そういうふうに思ってるのか。それは大きな過ちだ。これはあくまで商売なんだ。大事なのはきのみの良し悪しじゃない。そのきのみが必要とされるかどうかだ。

 

 この店、実はかなりもったいない状態なんじゃないか? 化けるかもしれないな……。

 

 それから外に出てきのみ畑にむかった。結局会計をほったらかしにしてついてきたチナツと一緒にチハルさんにきのみについてあれこれ教わった。

 

「どう? すごいやろ? こんだけ質も量もすごいのには実はワケがあるんやで」

「……肥料か?」

「そうそう肥料や肥料……ってなんでわかんねん!」

「すごいですね。なぜわかったんですか」

「普通きのみに対しては使わないが寒い土地では育てる工夫として肥料を用いる地域もあったはずだ。それをこっちで試してみたんじゃないか?」

「それ、実はウチのアイデアなんやで。あったかいとこで肥料使ったらアカン道理はないからな」

 

 それだけじゃない。たぶん肥料の成分はオリジナルだろうな。こっちの土壌に合わせる必要があったはずだ。聞いても教えてくれないだろうから探ったりはしないが、きのみにかけてる情熱は本物だな。

 

「ねぇレイン、あっちにキレイなお花があるよ」

「あれは……観賞用の花かな」

「そうです。見た目だけじゃなくて枯れにくいのもいいところなんですよ」

「少々のことでは枯れへんからどんなとこにも置いとけるんやで」

 

 何気にすごいこと言ってるが、それは逆にマイナスになるかもしれない。枯れないってことはあんまり売れてないはずだ。買い替える頻度が減ると実は店にとってはマイナスなんだよな。

 

「うーん。なんかちょっと足りてないなぁ。何が足りないのか……」

「すみません。お気に召しませんでしたか? 精一杯教えたつもりなのですが……」

「え!? いや、そういうわけでは」

 

 びっくりした。いたのかチハルさん。急に後ろから声がして驚いた。独り言聞かれたな。

 

 しかし、やっぱりこの店、何かあれば爆発しそうな感じはするが今の段階では絶望的にかみ合っていない。何が足りないんだろうか。

 

 それにおかしいよな。これだけ人が来ないのにきのみ畑のあのデカさはなんだ? とんでもない赤字になるんじゃないか? 

 

 モヤモヤしながらも店に戻ってくると例の子、チフユと呼ばれていた子が寄ってきた。

 

「ねぇ、それで何を買ってくれるの? ここまでしたんだから何か買っていくよね?」

「え、あぁ、いやどうしようかな」

「コラ! チフユ! それはお客さんが決めることなんだから何も言わないの!」

「でもっ! おねーちゃんだってお店のために一杯教えてあげたりして頑張ってるんでしょ! わかってるもん! だからあたしが言わなきゃ……おねーちゃんは自分から言えないもん」

「チフユ……」

「儲かってない店の性やな」

「そうね」

 

 一瞬でどんよりした空気になる店内。なんか俺、このチフユって子のこと誤解してたかもしれない。自分から損な役回りを買って出て、本当はお姉ちゃん思いのいい子だったんだな。よし! ここは1つ、俺が奮発しよう! 

 

「よし決めた! みゅー、ほしいきのみなんでも買ってやるよ。どれほしい?」

「ほんとにいいの?」

「当たり前だろ。男に二言はない。みゅーのためならなんでも買ってあげるよ」

「みゅふふ、実はずっといいにおいが気になってたの。あれがほしい」

「ん? どれどれ……ヴェッ!?」

 

 高級ロメ 10万円……! いくらなんでもこれは……! 

 

「レイン……やっぱりこれはダメなの? 今日はみゅーの日なのに」

「いえまさか! 買わせて頂きます!」

「ハイッまいどあり!」

「やったー! 1番高いの売れた!」

「「イエーイ!」」

 

 パンとハイタッチするチナツとチフユ。あれ? なんかさっきとムード変わってない? 

 

 チハルさんは苦笑い。チアキは俺から目をそらした。こいつらわかってたんだ……罠だったのか! まさか今の全部芝居?! 

 

「だましたな!」

「へへーん、だまされる方が悪いんやでー」

「子供か、お前は! じゃあせめて別の……」

「おっと! 男に二言は……ないんやったな? よっ! 大統領っ! 男前っ!」

「張り倒すぞてめぇ!」

 

 5才児と一緒にはしゃぐチナツを見て同じことを思った人物がいた。

 

「その人は精神年齢だけ子供のままだから許してね。でもそのロメのみ、味は保証するわよ。一度は食べてみる価値があるわ」

「レイン、“はんぶんこ”してあげる」

「みゅーちゃん……お前は本当に優しいよな。ありがとね」

 

 仕方ないからお金を払って俺も一口食べてみた。

 

「あっ!」

「みゅー!! 甘くってとろとろ! すぐとけるの!」

 

 なにこれ、本当にきのみなのか!? 

 

「すっごい美味いやろ? 一回食べてもうたら最後、もう病みつきやで」

「それも罠か! でもマジで病みつきになるな……あ、わかった!」

「みゅ? 何がわかったの? もしかしてみゅーが黙って……」

 

 みゅーが何か言いかけたがそんなことはどうでもいい。さっきまでのモヤモヤが今晴れた! 

 

「あんたら、さてはこれでもうけてるんだろ?」

「あ、バレた? 実はこれがウチらの切り札なんや」

「この辺はカモがたくさんいるからねー」

「みゅ? カモ? カモネギ?」

 

 この5才児どこでそんな言葉覚えたんだ。末恐ろしいな。みゅーの純粋さだけが癒しだ。

 

「実はここを選んだのはもう1つ理由がありまして……この辺りは有名な別荘地でお金持ちの方が多いんです」

「金持ち?」

「この辺おぼっちゃまとか多いやろ? ああいうのは金遣い荒いからか知らんけど値段が高いほど逆に売れるようになんねん。フシギやろ?」

 

 なるほど、確かに覚えがある。この辺りはホウエンで唯一おぼっちゃまとおじょうさまがいる地域だ。たしかにこの辺は別荘地にはうってつけの環境。だからここに集まっていたのか。

 

 自分も昔そいつらを金づるにしていた記憶がある。“かいふくのくすり”を使ってくるのはうざかったがお小遣いをくれるありがたい存在だった。そういう認識は世界共通なのかもしれない。

 

「このきのみだけ割高っぽいのはターゲットが金持ちだからなのか」

「本当はこういうのはイヤなんですが……きのみをたくさん育てるためなんです」

「ハル姉が鬼になった瞬間やな。実際これなかったらウチらとっくに破産しとるで」

 

 こいつらもやることはやってるんだな。だがこのことはやり方さえ間違えなければこの店で儲けることも不可能じゃないと証明してくれた。この方法、もっと応用できるんじゃないか? この美味さと品質は他じゃマネできない唯一無二のものだ。欲しい人間にとってはどれだけ高くてもここで買うしかない。ホウエンでここだけなんだ。

 

 ホウエン、ホウエン……ホウエン!? 

 

 ホウエンといえばカントーにはないアレがある! そうだ、それだ! 

 

「レイン、どうしたの?」

「みゅー、また寄り道だ」

「またなの? みゅー退屈しちゃうかもしれないよ?」

「心配すんな、退屈はさせない。みゅーも絶対喜ぶから」

「やっと決心ついたのね。いいよ、見ててあげる」

 

 みゅーの許しも出た。これから忙しくなりそうだ。にんまり笑みを浮かべていると下の方から視線を感じた。みゅーとは反対側だ。

 

「なんか悪そうな顔してる。あなた、なんか企んでない?」

「え? 何言ってるのチフユちゃん?」

「怪しい……もしかして他のフラワーショップから来たスパイとかだったりしないよね」

「はい?」

 

 ピシッと凍り付くお姉さん方。見事なシンクロ……って感心している場合じゃない。なんか変な容疑にかけられてしまった。これから大事な話があるのに! 

 

「確かになんでもかんでも詳し過ぎるし、やけに熱心にきのみを見とるからおかしいと思ってたんや」

「トレーナーにしては知り過ぎている……」

 

 これでもかというほど疑いの眼差しを向けられるが、1人チハルさんだけは違った。

 

「そんなことどっちでも構いません。あなたが私達の育て方を見てきのみのことをもっと知ってもらえたなら、きのみ好きの1人としてこれ以上嬉しいことはありません。たとえ商売敵だったとしてもこの方のきのみを愛する気持ちは本物です」

 

「チハル姉さん……」

「あんたはきのみ好きである前にこの店の店長ちゃうの? ま、終わったことをあれこれ言うても仕方ないけど」

「ねぇ、本当はどっちなの?」

 

 この人は本当にきのみ大好きお姉さんだな。後先考えずに至れり尽くせりだったのは本当は愚かな行為だったんだろうが、それでもなぜか自分自身この言葉に共感できる。なぜだろうか。

 

「クスクス、この人レインと一緒ね。おバカさん」

「は? 何言ってんだみゅー」

「レインは強いトレーナーを見つけたらすぐバトルのこと教えちゃう。この人もきのみが好きな人がいたら何でも教えちゃう。どっちも自分の損得考えずに行動しちゃうおバカさんなの」

 

 言われてみれば……ごもっともでございます。俺も知らず知らず同じことしていたんだな。

 

「ってことは普通のトレーナーなのね。だったら悪い顔しないでよ」

「一応バッジもあるし、これでもマジメにトレーナー修行の旅をしているつもりだ」

「みゅ? マジメ?」

 

 チフユに文句を言われたのでトウカのバッジを取り出した。意外にもこのバッジのことはよく知られていたようで、すぐに反応が返ってきた。

 

「それはトウカジムの……ランク5以上の実力者しかクリアできないはず。意外と強いのね」

「知ってるのか。まぁ少しは腕に覚えがある。これで潔白は示せたかな?」

「せやな。トレーナーが本職で間違いなさそうや。ほんま人騒がせやな。でもハル姉がおバカさんっていうのは納得やったわ。いっつも苦労すんのはウチらやから」

「チナツ! もう、全く心外ね。まさかそんな風に思われてたなんて。それにおバカっていうならあなた達だって一緒でしょ?」

 

 えへへと笑うチナツ達。みんな根っこの気持ちは同じか。軽口を言い合ってる様子からは姉妹の仲の良さが伝わってきた。こういうのも悪くないな。

 

 ……さて、なんて切り出そうかな。

 

「チハルさん、あなたに話がある」

「お話、ですか?」

 

 さっと4姉妹がこっちを振り返る。これからこの4人の命運は俺が預かるんだ。

 

「この店さ、俺に預けてみない?」

 



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7.ウソとホントは紙一重

1.タイトルのためにわざと更新を今日まで止めていました!
2.今年でホウエン編を終わらせます!
3.レイン、ウソつかない!

ホントはどれだ?!


「預ける、というと?」

「俺をこのお店のオーナーにしてみない? お金ならいくらでも出すし、悪いようにはしないからさ」

 

 ええーっ!?……と驚く4姉妹。そりゃそうだ。いきなりこんな大事になるとは思ってないだろう。だが俺は大真面目だ。

 

「本気……ですか?」

「さすがに冗談でこんなことはいわない。もちろん自信はある。俺の力でここの売り上げを何倍にもしてみせるよ」

「ほんまに? その自信はどっからくんの? 第一あんた子供やろ? お金なんてあるわけないやん」

 

 普通の子供ならね。カントーではあくどいことを色々やってかなり儲けている。儲け話は絶対に逃さない。もちろん今回も同様だ。この4姉妹はお人好しな上に自分らの技術をもてあましている。上手く丸め込めば9割ぐらい搾取できる可能性も……

 

「じぃ~~」

「……」

 

 左隣からの視線が厳しい。たぶんオーラを読まれてる。こういうときオーラってどんな風に変わってるんだろうな。

 

……邪魔だな。今だけ追い払いたいがこのタイミングでは露骨すぎるか。いや、逆に俺の方から離脱すれば自然を装うことができるんじゃないか?

 

「私もこの店の長として軽はずみな判断はできません。もっと具体的な話をして頂かないとなんとも言えないですね」

「当然ですね。こっちとしてもそんな軽率な人は信用できないですし。では一度2人だけ(・・)で真剣に話し合いませんか? 俺は本気なんです。絶対にこの店を変えてみせる! こんなところで埋もれさせるなんて勿体ない! きのみを広めたいというあなたの夢、ぜひとも手伝わせてもらえませんか?」

 

 言っていて自分で恥ずかしくなるが表情には出さない。みゅーも何してんのこいつって感じの呆れた視線を向けてくるができるだけ意識しないようにした。

 

「いいでしょう。では奥の部屋に来てください。あなた達はそこで待っていて」

「みゅーは?」

「みゅーもちょっとだけ待っていてくれ」

 

 頭を軽く撫でて待つように言うとみゅーはイヤイヤと首を横に振った。

 

「みゅーも一緒にいる!」

「いや、でもみゅーには退屈だと思うけどなぁ」

「んみゅう……ポキッてするよ」

「連れていきます!!」

 

 みゅーも来てしまった。

 

「ふーん。意外と尻にひかれるタイプなのね」

「お仲がよろしいねぇ! よっ、色男!」

 

 こいつら他人事だと思って面白がりやがって!

 

 チハルさんについていくと倉庫のような場所でテーブルとイスを用意され2人で向かい合って対面する形になった。みゅーは離されるのがよっぽどイヤだったのか、部屋に入ると俺にくっついて離れなくなった。今日は甘えん坊に戻ったようだ。

 

俺がイスに座るとみゅーは正面から抱きかかえられる格好になった。一応チハルさんもいるんだけど気にならないのだろうか。

 

「すみませんがこのままでお許しください」

「かまいませんよ。ではまずあなたはオーナーになるとおっしゃいましたが、具体的にどのようなことをするおつもりですか?」

「詳しい内容は言えませんが、あなた達は扱っている商品は一級品ですがその商売の方法がよくない。だから俺がそれをちゃんと売れるようにする方法を教え、それを実行するために必要な資金も全て用意します。なので、実際にはアドバイザー兼スポンサーみたいな感じでしょうか。もちろん主体となるのはあなた達ですので、お互いに話し合って新しい事業を進めていくことになります。すでにいくつか案がありますが、内容は契約が成立した後にお教えましょう」

「話が旨すぎますね……なぜそこまで援助しようと思われたのですか? ホウエンだけで考えても他にも企業はたくさんあったはずです」

「無礼を承知で言えば、あなた達の経営状態がよくないからです」

「どういう意味でしょうか」

 

 この人、あまり感情は表に出さないな。極めて冷静。大黒柱としてやっていると自然にこうなるのだろうか。わざと失礼な言い方をして試してみたが、反応は期待以上か。

 

「勝ち馬に加勢してもそれを記憶するものはいませんよね。でも負け馬に加勢し、あまつさえ大勝利をもたらしたとなれば……多大なる恩を売れます」

「たしかに。とはいえリスクも大きいはずです」

「俺は自分の眼力を信じています。負け戦はしない」

 

 戦とかに限らず投資とかも同じだね。弱い方に味方すれば上がり目は大きいが負ければゼロになる。ハイリスクハイリターンってやつだ。

 

「なるほど……あんなに僅かな時間で私達のことを見極めたというのですね。わかりました。あなたが後援に立つ理由、私達を選んだことにも納得できました。私としてはあなたの能力にも掛けてみるだけのものがあると判断しています」

「……では、後は信用、といったところでしょうか?」

「ふふ……。えぇ、その通りです。私達からはあなたを信用する材料がありません。私からすればどこの馬の骨とも知れない輩に大切な妹達を預けられませんので」

 

 お店じゃなくて妹達、か。兄弟想いなことで。

 

この人のさっきの甘い言葉……あれはもう“ほぼ決まり”という風に聞こえたが、すぐに飛びついてじゃあすぐにでも契約を! といかなかったのはある程度好感を持たれたようだ。何事も先走るのは下策だから避けて正解だね。

 

 どこの馬の骨っていうのはさっきの意趣返しだろうか。失礼なこと言って俺も試されているのかな。なら逆に驚かせてあげよう。あれはここで使わなきゃいつ使うんだって話だし。

 

「申し訳ないのですが、俺はトレーナーなので身分を証明するものはトレーナーカードぐらいしかありませんが……」

「そうですか。ではそれで構いません」

「助かります。あと、これは現在俺が自由に使える資金です。参考までにこれもご確認を」

 

 そういって俺はホウエンじゃない方(・・・・・)のトレーナーカードと持てる資金の額を記したものを渡した。その両方に目を通したチハルさんの顔色がサッと変わる。

 

「なぜ!? あなたどうしてこんなところで商人の真似事なんか!」

「お忍びなんです。今更変な距離感ができても困るので、他の3人には内密に。とりあえず俺が大それたことはできない立場なのは理解してもらえますか?」

「えぇ、それはもちろん。こんなにすごい方が後ろ盾になるなんて、夢でも見てるようだわ」

 

 公にポストのある俺は悪事を働けばその名に傷をつけることになる。殿堂入り剥奪なんてことになったら一生の恥だ。だから普通に考えて罠にかけられるような心配はかなり減る。つまり信用につながる。

 

それに資金の多さにツッコミを入れられることもなかった。先にそれだけ提示すればあれこれ出所を尋ねられただろうが、トレーナーカードがあれば勝手にあっちが都合よく解釈してくれる。敢えて説明しなかったが上手くいったな。

 

 もっとも、犯罪に手を染めるつもりはないが、犯罪じゃなければなんでもするつもりではある。なんせここは金の生る木……

 

「みゅ~~」

「……」

 

 俺の胸板に顔をうずめていたのに急にこっちを向いた。今の思考はみゅーちゃんレーダーに引っかかるみたいだ。やりにくい。

 

「わかりました。こんな嬉しい申し出、私達にとっては千載一遇のチャンスです。断るなんてとんでもない。是非今後ともよろしくお願いいたします」

「こちらこそよろしくお願いします」

 

 よっし! とりあえず上手くいった! まずは第一関門突破だ!

 

 肩書というのは存外便利なものだな。なんとなく取ったような面もあったけどあって良かった。チハルさんの態度は明らかにさっきので一変している。

 

 まずは一安心。けど大事なのはここからだ。ここまでは最初から上手くいくと思っていた。この先はみゅーさえいなければ簡単なんだけどなぁ。

 

「あの……それで、資金の援助に対する見返りとして私達はどうお返しをすればよいのでしょうか」

「俺としては得られた利益を直接分配するようにして頂きたいです」

「直接分配……」

 

 これだ。つまるところ大事なのは利益の分配。ここが一番大事。俺が圧倒的に有利なのは相手が自分の価値を理解していないこと。しかも貧乏生活が長そうだから少しいい目を見せればそれで満足してしまうはず。できるだけ買い叩いて大儲けしてやる!

 

「みゅ! レインちょっと……みゅぎゅ!?」

「よしよし、退屈だったよな。ごめんね」

 

 やっぱりな。予想通り余計なことを言いそうになったので手際よくみゅーの口を塞いだ。みゅーの頭を抱きかかえ自分の体に押し付けることでなんとか発言を中断させた。

 

「そうじゃな……みゅっ!?」

「こっち向いたら今度はお口にしちゃおうかなぁ」

「みゅぅぅ~~!!」

 

 体をよじって再びいらんことを抜かそうとするので今度はメンタル攻撃を仕掛けた。ビクッと体を震わせて今度こそみゅーはおとなしくなった。力では絶対にみゅーには勝てない以上これは必要なことだ。

 

「あらぁ……」

「あ、すみません。利益の分配についてですよね。もちろんこちらもそれなりの見返りは要求しますが、安心してください。このお店はこれからが大切。現在はいわば発展途上なので、しばらくは無償で援助する形にしますよ」

「え……そんな、いいんですか?」

「もちろん! まずはサン・トウカが大きくなってもらうことが最優先です」

「ではどれだけの期間待って頂けるのでしょうか?」

「それは伸びしろ次第にはなりますね。ちなみに現在の純粋な利益はどれほどでしょうか? 諸経費を差っ引いた後の利益です」

「それは……月によりバラバラですが、私達4人が暮らしていくので手一杯程度でしかありません」

「なるほど。まぁとりあえず現在の利益は年間の平均で考えるとして……ではその利益がもし2倍になるとしたらどうですか?」

「えっ!? 倍増なんて夢のまた夢です」

 

 それだ。そういう反応を期待していた。今の会話のくだりはこの反応を引き出すためのものだ。その他の意味は特にない。

 

「ならこんなのはどうでしょう? これからあなた達には現在の2倍の利益を保証します。つまり、売り上げが伸びず利益が2倍以下であれば10:0の折半。2倍以上伸びれば2倍を超えた分だけ俺に分けて頂き、残りは全てあなた達のものとします。例えば利益が2.5倍なら8:2になるわけですね」

「えっ!? そんな分け方をするのですか?!」

 

 普通はこんなことするわけがない。実際にこの世界でどんな風にするものなのか知らないが、自然に考えれば歩合制にすべきところだ。あなたと私、5:5でわけましょうとか。だがそんなこと、きのみ一筋の世間知らずには考える由もないだろう。

 

「これは俺からの誠意だと思ってください。この分け方であれば俺はこのお店をちゃんと大きく育てないと利益はゼロです。頑張らざるを得ない。そして利益が増えない最初のうちはあなた達にかかる負担はゼロということになる。待つと言ったのはそういう意味です」

「面白い考えですが……たしかにそうですね。ですがこんな、これではまるでおんぶにだっこです。本当によろしいのですか?」

「さっき言った通りです。男に二言はありません」

 

 なんか俺がかなり譲歩したような言い方だが、もちろんそんなわけがない。たしかに最初こそ俺が丸損だが、軌道に乗れば俺の方が分け前が多くなる。俺としては20倍はゆうに超える利益を出せるとみている。そうなれば9割以上俺が頂ける計算だ。しかも直接自分が何かしなくても自動で勝手に儲けが増えていく。笑いをこらえるのも大変だ。

 

「では提供していただく資金に関しては……」

「ご心配なさらず。借金するようなマネはさせません。全てこちらの負担で事業は進めますし、どんどんお金は使ってもらって構わないですよ。例えば肥料の調合とか、品種改良とか、そういうのも好きなだけ自由に研究してもらって大丈夫ですよ」

「やりましょう!! すぐにでも始めましょう!!」

 

 食い気味に返事して椅子から立ち上がった。どうした? 好きなことをできるのが嬉しいのか? まぁ上手くいって良かった。想像より遥かにチョロかったな。みゅーには後でもう1つロメのみでもあげておけば大丈夫だろう。3人への説明はチハルさん自らしてもらうとして、俺は一応書類でも作るか。といってもそのためには色々必要だな……。今後のこともあるし事務処理用の備品も集めないと。

 

 周りへの根回しと今後すべきことを頭の中で整理し、チハルさんに指示を出した。

 

「正式な書類は後日備品を整えて行いましょう。今はお互いに一筆添える形で契約完了ということにしてよいですか? 細かい内容についても後日準備ができたときに詰めていきましょう」

「わかりました。内容についてのすり合わせなどはあまり詳しいことはわからないので妹達とも相談してみます」

「承知しました。ではこれにサインしてください」

 

 サイン完了。完璧だ。今夜はごちそうだな。ハンバーグかな?

 

「ではお戻りになってもらって大丈夫ですよ。俺は今後するべきことを突き詰めて考えておきたいのでしばらくここで待っています」

「よろしくお願いします」

 

 よしよし出ていったな。あとはみゅーを懐柔するだけ。

 

「レイン! さっきのは強引過ぎるよ!」

「ごめんね。さっきのはお気に召さなかった?」

「んん~~! あんまり悪いことしちゃダメなの!」

「大丈夫! みゅーちゃんにはおいしいきのみをたくさん食べさせてあげるからね。さっき食べたロメのみ、おいしかったよね。もう1つ買って今度はシスイ達と一緒に食べない?」

「みゅ!! 食べる!!」

 

 チョロすぎっ!! やっぱり俺は天才だったようだ。子供の扱いなんざ慣れたものよ。そもそも論理的に会話に付き合う必要などないのだ。相手の欲しいものさえ与えておけば俺の味方になる。ならざるを得ない!

 

 バッチリみゅーをこちら側に引きずり込み、店頭のさっきの場所に戻った。

 

「ダメ!! 絶対にダメよ!! そんな話いくらなんでもおかしいわ! 裏がある!」

「でもウチは別にいいと思うけどなぁ。タダやったら怖いけどちゃんと相手の取り分もあるやん」

「いくらでもお金くれるんでしょ? だったらたんまりもらっちゃおうよ、ハル姉ちゃん! もっとお庭も増やせるよ!」

「うーん。そうねぇ……」

 

 あれ、なんか揉めてるみたいだな。内容的にチアキだけがなぜか反対しているようだ。どうして?

 

「あっ、あんた!! あんたねぇ、うちのハル姉を騙そうとしてるでしょ!!」

「聞き捨てならないね。話は聞いただろ? 何か不満でも?」

「不満? 不満なら……あるわ! あなたの利益の分け方、あれがおかしいわ!」

 

 こいつ、かなり警戒してるな。けど具体的に何が不満、というわけではなさそうだ。少し変な間があった。おそらく話が旨すぎて警戒してる程度のものだろう。なんとか説得するしかない。

 

「どこが?」

「それは……利益の保証よ! あなたは保証と言ったけど、本当に保証されたわけではないわ! 利益が減った場合について考えていないもの!」

 

 ほう、今思いつきましたって感じのしゃべり方だが内容は筋が通ってる。変ではない。

 

「つまり?」

「あなたのせいで売り上げが落ちたらどう責任をとるの? 私としてはあなたがこの店を潰そうとしてるスパイの線もまだあるとおもっているわ。その可能性を消してもらわないと安心できない!」

「チアキ!! 失礼よ!!」

「ハル姉は黙ってて! 交渉は全部私がするっていったでしょ!」

 

 たぶん頭が1番回るのはこのチアキなんだろうな。スパイ云々は本人も本気で思っちゃいないだろうが話を優位に持っていくために持ち出したのだろう。詭弁だが一応乗っかってあげるか。大した痛手ではないし。譲歩したという形も残せる。

 

「では2倍の利益を常に保証し、それを下回った場合は俺が利益の補填をするものとしましょう。売り上げが10万円下がったら俺が10万円払って補います」

「え……」

 

 マジか……っていう顔だな。あっさり譲歩したので戸惑ったか? わざともっとじらした方が良かったかもしれない。

 

「これであなた達のお店が潰れることは100パーセントありません。もっとも、このシステムにあぐらをかいてあなた達がナマケロのように怠け始めれば契約は打ち切りますが」

「……構わないわ」

「ではこれで……」

「まだよ! まだ納得してない!」

「まだ?」

「分け前よ! 分け前が少ないわ!」

「2倍は破格でしょう?」

「うぅ……いや、でもあなたはそうは思ってないはず。そうでしょ? 本当はもっと儲かるんじゃないの!?」

「あのさぁ……俺はここを潰そうとしてたんじゃないの?」

「それは、それも可能性の話よ。どっちもありえるわ!」

「どっちもって……」

 

 なんか無茶苦茶になってきたな。ちょうどいいしちょっと渋る演技でもしようかな。

 

「ここまで至れり尽くせりってことは、あなたにとっても勝算が高く、利益もかなり見込めると考えたわけでしょう? そうでなきゃおかしい。あなた、本当は何倍ぐらいに増えると思ってるのよ! ハッキリ言いなさい!」

 

 墓穴を掘ったね、お嬢ちゃん。それは自分ではわからないと言ってしまったのと同然。完全な悪手だ。しかも俺の言うことを信じるつもりでいる。ある程度納得できる数字を出せば信じるな。

 

「さて、何倍になるか、それは君たち次第なところもあるしなぁ」

「もったいぶらずに言いなさい!」

「まぁ……5倍ぐらいかな」

 

 最低最悪のケースを想定すれば、と心の中で付け加えた。だからウソじゃないよ。

 

「5倍!? そんなに!? あんたねぇ、やっぱりぼったくりじゃない!! じゃあこっちの取り分3倍にしなさいよ!」

「3倍? それは欲張り過ぎでしょう? さっき最低保証までさせられて……失敗すれば俺は大赤字なんだけど?」

「……じゃあ最低保証はなしでいい。その代わり3倍にして!」

 

 なるほどね。こいつは自分の方が持ってる情報が少ないことを理解しているようだ。そのハンデをカバーするために相手の反応を見て何が重要なことなのかしっかり考えているらしい。これだけ頭の回る人材がいるのは心強い。後々役に立ちそうだ。

 

 この短時間で最低保証より分け前アップの方が重要だと気付き、自信を持って取捨選択をした。そこは評価するよ。相手の言葉を鵜吞みにしたことはマイナスだけどね。

 

「それじゃ6:4になる。持っていきすぎだ。よくて2.5倍かな」

「ダメよ! 3倍にして!」

「それは困ったな……」

 

 全然困ってないが困ったフリをしておく。こんなもの誤差程度の差なので即決で了承してもいいがそれだとさらにチアキに追及されるので困った演技をした。

 

「始めから2.5倍にしておかなかったんだからこれは罰よ! 甘んじて受け入れなさい!」

 

 チアキは勝ち誇った顔をしている。やっと満足したか。いちいち相手するのも疲れるよ。内心勝利を確信し、ほくそ笑んでいると思わぬ追撃をくらってしまった。

 

「んみゅ? レイン全然困ってないの?」

「っぐ!?」

 

 しまった……!

 




答え……全部ウソ!!

エイプリルフールだから仕方ないね()



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8.はんぶんこの恩返し

週1ペースは難しい(悟り)


 背後からみゅーの声。素朴な疑問がつい口をついて出てしまったという感じの声だ。

 

 迂闊だった……今のはウソをついた部類に入るのか。ここまで細心の注意を払っていたのに! ギリギリ引っかかってしまったか。

 

「困ってないやて? どういうことや?」

「レインさん、もしかして困ったフリだったとか?」

「……際限なく値段を吊り上げられそうだったので少々誇張しただけです」

「みゅうぅぅ」

 

 後ろを振り返る勇気はないが、今の声は『誇張なんかじゃあねぇ、はっきりとウソの匂いを嗅ぎつけたぜ! 承太郎!』って感じの声色だった。機嫌を損ねたな。ちょっと旗色が悪い。

 

「そうか……そうよ、わかったわ! ようやく何がおかしいのかわかった! この利益の2倍を分け前で固定するっていうのがそもそも罠なのよ! この状態ならいくら私達の分け前を増やしてもあんたは痛くもかゆくもないと思っているに違いない! なぜならどれだけ利益が増えても儲けが増えるのはあんただけ! 私達は働き損だわ!」

「あれ、ほんまやん!! じゃあこやつはもっと儲かるとふんでるわけか?」

「もしかして10倍とか? いやもっと?」

 

 チッ! 余計なことに気づきやがって! これじゃ情報戦でウソを絡める作戦はもう通用しない。別の切り口で落とすか。

 

「はぁ……そんなもの俺だってわかりゃしないよ。やってみなきゃ誰もわからないだろ?」

「だったら分け前は割合で決めましょう! いいわよね?」

「もちろん。ただその場合は2:8でお願いします」

「はぁ!? あんたが8割ってこと!? 多過ぎよっ! 多めに言っておいてゴネ得とか考えてないでしょうね!?」

 

 大げさに驚かれるがこれでいい。別にこっちもこの条件を本気で吞ませたいわけじゃない。厳しい条件を見せておいて最終的にはなんとか歩合での分配を回避するのが狙いだ。

 

「いいえ。これは常識的な提案です。こういう時一番手取りが多くなるのは普通お金を出す人間です。一番リスクが大きいですからね」

「リスクって……それは私達だって」

「いいえ、あなた方にはありません。現実的に、売り上げがこれ以上さがることはない。潤沢な資金を使えるわけですし。となれば十分儲からなかったとき損をするのはこちらだけ。なのでこちらからも条件があります」

「条件?」

 

 甘え過ぎなんだよお前らは。本来事業拡大にリスクはつきもの。これ以上を望むのであれば君らにも相応のリスクを背負ってもらわないとね。自分らだけ高みの見物なんてことは絶対にさせない。

 

「資金提供は全額負担といいましたが、この分配の仕方であれば何割かはそちらで負担してもらいます」

「えっ!? それじゃあなたの意味が!」

「アイデアだけでお金をとってもいいぐらい自信があるんだけどね。まぁ負担は2割ぐらいでいいし、当然利子もゼロ。普通に借金するよりお得でしょ? ただ、使う金額は1万2万なんてもんじゃない。何百万、何千万という単位になる。そうなれば万が一利益が横ばいだったとしても、借金は返せず店を畳むしかなくなるでしょうね」

「店が、なくなる!?」

「ちょっと待ちぃな! そんなん認められへんで!」

「そうですよ! レインさん話が違います!」

「話を変えたのはそっちでしょう? ねぇ?」

「……」

 

 チアキの方をみながらお前のせいだぞという視線を送る。今彼女の肩には凄まじいプレッシャーがかかっているはず。自分のせいで大切なサン・トウカがなくなるかもしれない。それを一度意識してしまえば恐ろしくて手足が震えるのも仕方のないことだろう。……あぁ、かわいそうに。

 

「チハルさん、言いましたよね。こちらの提示した条件、あれは最大限の誠意です。絶対にお店に損をさせない形で、ノーリスクで利益だけ増やしてあげようというこちらの善意なのです。ですがチアキさんはそれを拒んだ。であればあなた方にもそれ相応のリスクを負ってもらうことになる。もしさらに分け前の増加を要求するのであれば、その分前貸しする資金の負担も増やしてください」

「そんなっ!」

「分け前が半分なら借金も半分。1000万借りれば500万。よろしいですか?」

「500……万……!!」

 

 もはや眩暈すら感じる金額のはずだ。どうする? わざと数字は誇張しておおげさに言ったが、この様子ではそれに気づくこともできないだろう。

 

 さぁ、悩め悩め! わざわざ苦労して茨の道を進むことはない。俺はしっかりと楽な道のりも示してあげている。心が弱気に流れれば……飛びつくのも時間の問題だ。

 

「レインさん! やっぱり最初の条件のままにするのはダメでしょうか? 分け前も最初に決めたように現在の利益の2倍で構いません」

「ハル姉!!」

 

 おっと! そっちから来たか。思わず口元を緩めてしまいそうになるがなんとかポーカーフェイスを貫いた。

 

 チハルはちらりと末っ子の方を一瞥してから重々しく口を開いた。

 

「チアキ、みんなを危険な目に合わせることはできないわ。絶対にそんな冒険はできないの。でも最初の条件なら確実に利益倍増が見込める。これだけでも上出来じゃない」

「それは……そうだけど」

 

 ここで貧乏性が祟ったな。2倍でもこいつらにとっては破格。満足できる数字なんだ。一度地獄を覗いてみた後ならなおさらそれで満足するだろう。

 

 一時はかなり劣勢になったが、結局2倍で抑えられたし言うことなし。完璧だ。今回はあの末っ子、あれが4姉妹の弱点になってしまった。チハルさんはさっきから心配そうな表情であの末っ子を見ている。あの子を路頭に迷わすことなんて姉としてできるわけがない。チアキもおそらく同じ気持ちのはずだ。

 

「すぐに決断できなければ考える時間をとってもいい。どうします?」

「……少し考えさせてください」

 

 時間を与えたのも理由がある。じっくり悩めば悩むほど、結局人というのは安全な道をとりたがる。これは2択に見えるが実は最初から1択なんだ。チアキは頭こそいいがそれだけだ。覚悟がない。度胸がない。信念がない。だから負けるんだよ。

 

 4姉妹は相談のため外に出て畑のほうに行った。ヒマだしみゅーと遊んでやるか。

 

「あれ? いない……」

 

 さっきまで一緒にいたみゅーがなぜかいない。いつもくっついてくるがいなくなる時は突然フラッと消えてしまうことが多い。

 

 あいつはホウエンにきてからは夜になるといつもどこかに行方をくらませている。ただの子供なら危険だが、みゅーに限っては誘拐することも不可能なので黙って好きなようにさせている。

 

 なのでいなくなるのはいつものことだし、サーチすればすぐ見つかるだろうが……今は放っておくか。

 

 どれほど時間が経っただろうか。チアキ達はかなり悩んでいたがようやく俺の元に戻ってきた。さて、どうするんだ?

 

「あの、条件なんだけど、2:8でいいから資金の負担をなしにはできない?」

「はぁ……どうやら話を聞いていなかったようだ」

「……」

「なんのリスクも代償も支払わず、ただ対価だけを得ようだなんて……強欲なんじゃないの?」

 

 この発言には呆れてしまった。強欲だからじゃない。

 

 2:8で歩合を選んだということは利益が10倍以上になると判断したことになる。それ以下なら利益の2倍確保の方が良くなるからだ。つまりこれは大成功を収めるとあいつらは判断したわけだ。ならば多少の借金など問題にはならない。

 

 なのに資金の負担を気にしているということは、こいつらは無用なリスクを恐れていることになる。破産することなど99%ないと考えているのに、それを恐れている!

 

 この根性なし共め! 腑抜け腰抜け臆病者! と罵ってやりたい気分だ。咄嗟に喉元まで出かかった言葉を飲み込み、上手く悟られないように内容をごまかしたが、吐き気がするほどの愚か者だ。なまじ途中の判断までは正しいだけになおさら愚かしい。

 

 成功することが確信できたのなら、その時点でどこまで分け前を増やして良いか尋ねるべきなのだ。半々にでもできれば万々歳。借金などすぐに返せる。自分の考えを信じることができないのなら、それは宝の持ち腐れだ。何の意味もない。

 

 ここで一度俺が根性を叩き直した方がいいだろうか。大事なところで二の足を踏まれては今後に差し障る。ついでにもっと絞りとってやろうか……勉強料だと思えばこれも安いだろう。

 

「ダメか。……やっぱりそうよね」

「そうやって後からなんやかんやで条件を変えるのは決定後はなしにしてくれよ。キリがないからな。なんでもかんでも要求すれば叶えてくれると思って甘えてんじゃねぇの?」

「そんなことは……」

 

 チアキはしまったという表情。俺が急に機嫌が悪くなったのを感じたのだろう。事態の悪化に顔面蒼白だ。

 

「レイン! もうやめて!」

 

 この声は……みゅー? いきなりどうしたんだ?

 

「みゅーか? お前どこいってたんだ?」

 

 いきなりみゅーちゃん登場。話し合いの最中にこんなにはっきりと割り込むなんて珍しい。基本的に見守る姿勢は崩さないのに。本当にどうしたんだ?

 

「レイン、今弱い者いじめするときの顔になってるよ。それにすごく怒ってる。ちょっと怖いよ。これじゃこの人達逃げちゃうの」

 

 ビクッと肩が動いたのは俺の方だ。そうだ、今はあくまで俺は交渉させてもらう立場。何をしていたんだ! あんまり追い詰めすぎると全てパーになる。少し冷静さを欠いていた。

 

「大丈夫、もう落ち着いたよ」

「本当みたいね。ねぇレイン、どうしてさっきからずっと意地悪なことばっかりするの? その人達困ってるよ。その子なんて今にも泣いちゃいそう」

「意地悪じゃないよ。お仕事の話をしてるだけ。みゅーちゃんには難しいでしょ」

「わかるよ。今のレインとその子の顔をみれば誰でもわかるの」

 

 チラッとチアキの顔を見るとたしかに今にも泣きそうだ。よく考えればこの子はまだ子供。自分とは違う。そんな年端もいかない子に重責を背負わせて厳しい決断を迫ったのは俺だ。罪悪感が芽生え始める。この流れ、デジャブか? 懺悔タイムか?

 

「情けは必要ないよ。ビジネスだからな」

 

 バカな考えを振り払い冷徹な判断を下す。しかしみゅーには通じない。

 

「情けは不要でも、義理を通さないのはおかしいでしょ?」

「義理?」

 

 みゅーの口から難しめの単語が出てきて少し戸惑った。変なところで語彙力のある子だ。

 

「レイン、今日オレンをもらったよね。お礼言った?」

「うっ……」

「恩のある人に対して仇で返すなんて、みゅーの知ってるレインじゃない。あなたは誰?」

 

 まさかの誰呼ばわり。そこまで言う?

 

「確かに親切にはされた。だから俺もこのお店を盛り立てようと思ってこうやって話し合いをしているわけだけど」

「それは自分のためでしょ。都合のいいことばっかり言うんだから……自分のことばっかり考えてるのに恩返しなんかできっこないの」

「お互いにとって有益な話だ。その2つは相反するものではない」

「両立なんてできないよ。だってレインはこの人達の取り分を減らそうとしてたでしょ?」

「それはこの人達が選んだことだ」

「違うよ。レインが選ばせたの」

 

 みゅー……お前どこまでこの話を理解していたんだ? 最後にみゅーが放った一言、このたった一言の中にこれまでの全てが詰まっている。

 

 信じられない。口喧嘩で負けた記憶なんてほとんどないのに。まさか木の実を1つもらったというそれだけのことで言い負かされるなんて。

 

 ……ありえない

 

 この子、まさか俺よりも賢い? どうもこれは分が悪いな。

 

「……どうすればいい?」

 

 それは事実上の投了。降参の合図だ。

 

「みゅ? そんな簡単なこともわかんないの? みんなで手に入れたものなんだから“はんぶんこ”すればいいの」

「はんぶん!? 5割か!?」

「みゅーーっ!! レインッ!! さっきもみゅーが“はんぶんこ”してあげたでしょ! あの時あんなに喜んでくれてたのに、どうして自分は同じことをしてあげられないの! おかしいよ!」

「それは……まぁたしかに嬉しかったけどさ。じゃあ資金の負担は?」

「全部レインが出すって自分で言ったでしょ! 後から変えちゃダメ!」

「えええぇぇ!?」

 

 なんで俺に対してだけやたらと厳しいんだよ! あっちも条件変えとるやん! ねぇ!? そこはいいの!?

 

「レイン、わかった?」

「ぐぎぎ……でもさすがに5割は多い。せめて4割……」

「はぁ~~。レインってホントにバカね」

「……どうして?」

 

 みゅーは芝居がかった仕草で大げさにため息をついてみせた。相手を話に乗せるのが上手いね。理由を訊いたらダメなのはわかっているけど俺はすでに諦めの境地だった。

 

「レイン、どうしてみんな1つのものを分ける時、必ず“はんぶんこ”にするのか、わかる?」

「理由? 同じになるように分けただけだろ?」

「そうね。量の多い少ないじゃないの。一緒になることに意味があるんだよ」

「一緒?」

「平等なら、争いは起きない」

「!!」

 

 憂いを残すその瞳を見て、俺は全てを悟った。つまりみゅーはこう伝えたかったのだ。平等でなければ真の信頼は得られないと。

 

 平等でなければどこかで不満が残り、争いが起きる。だからお互いに信頼しあうためには平等であることが必要不可欠なんだ。みゅーは偏りを残すことで信頼に亀裂が生じ、争いが生まれることを憂いていたんだ。

 

 俺はみゅーに救われた。みゅーは救世主だったのだ!

 

「わかった。決めたよ。チハルさん、分け前は“はんぶんこ”にしよう。もちろん資金は全て俺が持つ。その他必要なサポートも惜しみなくしよう。この条件でいい?」

「えぇ、それはありがたいですけど、本当によろしいのですか? あの、その子は……」

 

 みゅーは4姉妹を守るようにその4人に背を向けて俺に対峙している。みゅーの瞳が見えない4人はみゅーの言葉の真意をくみ取れなかったようだ。まだ事態を飲み込めず、突然俺が前言を翻したことに戸惑っている。

 

「みゅーが何か?」

「いえ……」

 

 どことなく心配そうな表情。何を案じているのだろうか。

 

「本当にいいの? 私、あなたを、その、怒らせちゃったと思うんだけど……」

「ん? あぁ、怒ったのは別に条件についてとかじゃない。お前が思ってるのとは別件だから。これからは腹を割って話ができそうだし、その辺もおいおい話すかもね」

 

 商談はまとまった。予定じゃ儲けは9割以上のはずだったがだいぶ減った。だけど案外みゅーの言うとおりにした方が結局プラスになる可能性もあるかもしれない。売り上げそのものが飛躍的にあがれば分け前のダウンなんて関係ない。やっぱりこれで良かったんだ。

 

「みゅふふ。レイン嬉しそうね」

「そうだな。それと……今度はちゃんとお礼を言わないとね。みゅー、教えてくれてありがとう」

「みゅふふ。みゅーも言わなきゃ。レインありがとう」

「え? それは何のお礼? ロメのみ?」

「んー、ないしょ」

 

 みゅーも嬉しそうだな。“ひみつ”じゃなくて“ないしょ”か……。

 

「みゅーちゃん……」

「あ、チフユちゃん」

 

 チフユがひょっこり出てきてみゅーのもとへ来た。あの子がみゅーに話しかけるなんて珍しい組み合わせだな。どうしたんだ?

 

「お姉ちゃん達のこと助けてくれてありがとう」

「いいよ。きのみの恩返しだから」

「え? みゅー、お前いつもと違うと思ったらその子に頼まれて?」

「あ……違う! これは……みゅーちゃんは悪くなくて、だから……」

 

 ピシィィィッッ!!

 

 そのとき部屋の空気が張りつめたのを感じた。俺が末っ子のチフユの方を見た瞬間、その視線を遮るようにお姉さん3人が間に入った。

 

「いや、これはチフユにも悪気はないとおもうんや」

「悪いのは全部私で……」

「レインさん! 妹は見逃してください!」

 

 え? なにその反応?

 

「自業自得なの……」

「そういやみゅー、お前いないと思ったらあの子と一緒にいたんだな。あの子と仲悪そうだから心配してたけど、仲直りしたのか?」

 

 4姉妹のよくわからない反応は置いておき、みゅーにチフユについて尋ねると満天の笑顔でそれに答えてくれた。

 

「うん。あの子そんなに悪い子じゃなかったの」

「これからはあんまり人間相手に喰わず嫌いするなよ。人間も食べ物と一緒だ」

「みゅ~~いじわるっ!」

 

 口を尖らせるみゅーを思いっきり抱きしめてからチハルさんに向き直り、右手を差し出した。

 

「改めてよろしく」

「……取り越し苦労だったようですね。こちらこそよろしくお願いします。あなたのこと、少しわかった気がいたします」

 

 取り越し苦労?と疑問は残るがとりあえずチハルさんと握手を交わした。これでようやく4姉妹と俺達は分かり合うことができた気がした。

 




1章終了!

みゅーの夜遊び先を書くか2章を進めるか悩んでましたが
2章を先にします

同時並行で進める書き方は自分には難しいと気付きました()
ブルーごめんね




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未来からのSOS編
1.謎のSOS


ホウエン2章開始!


「よし、それじゃあ作戦会議を始めよう! 気合入れて~~! 全員集合!!」

 

 明るく声出しこれ大事! ということで元気に声をかけてみたがあんまり好評ではなかったようだ。

 

「ちょっと! あんたさっきとしゃべり方とか雰囲気が全然違うじゃない!」

「温度差ヤッバイな。それが素?」

「いや、もうイジメ倒す意味もないし、いいかなって」

「イジメられ損!?」

 

 チアキは納得いかない表情で怒るが今のはもちろんジョークだ。ギスギスした空気で作戦会議するわけにもいくまい。

 

「冗談だって。これからはフレンドリーな関係を目指そうと思ったからビジネスライクなのはもうおしまいってこと」

「それで? もうボケんでいいからご自慢の作戦とやらを教えてくれへん? こんだけ焦らしてショボいこというたらシバキ回すからな」

 

 穏やかじゃないね。心なしか八つ当たり気味な感じもする。これもみゅーの言うところの自業自得?

 

「ちゃんと全員が理解しないと意味がないから丁寧に順を追って説明しよう。まず商売において1番大切なことは何か? チナツ、わかる?」

 

 先生っぽく指さしてチナツに答えさせてみた。

 

「そんなんできるだけイイモン作って売ることに決まってるやん」

「ブブーッ」

「はぁ!? なんでやねん!!」

「良い商品を作りさえすれば売れるっていうなら君ら苦労してないでしょ? ここにあるのは最高級品に違いないんだから」

「むぅ!!」

「で、あなたは何が大事だって言いたいのよ?」

 

 チアキは話の流れをわかっているようだ。これこそが俺が1番言いたかったことだ。

 

「商品を売るにはお客さんから必要とされなければいけない。つまり需要に合わせたものを売ることが大切なんだ」

「ハル姉ちゃん、どういうこと?」

「うーん、説明は難しいわね」

 

 チフユには難しいみたいだ。逆にみゅーはよく見ると知性の灯った目で俺を見ている気がする。お前は何者なんだ?

 

「例で考えよう。例えばカナズミで水を売ろうとしたとしよう。仮にどれだけ美味しかったとしても水が豊富な場所ではたいして売れやしない。けど砂漠ならどうだ? ただの水道水でも高値で売りさばける」

「つまりこの辺りを砂漠にすればいいってこと?」

「……」

 

 そうきたか。子供の頭脳は柔軟で羨ましい。ある意味それも真理だ。

 

「つまりみんなが持っていないものを売ればいい、ということよ。逆にもうみんなが持っているものは買ってもらえないの。必要ないからね」

「そういうことなのね! お姉ちゃんわかりやすい!」

「あんたの説明は下手やったみたいやな。ウシシ」

 

 さっき不正解だった腹いせなのか、ここぞとばかりにバカにしてくるチナツ。ムカついたが無視した。

 

「つまり商売においては需要があるもの、すなわち相手が求める物を考えてそれを満たしてやる必要がある。そして幸いにも、この地方ではきのみに関する大きな需要がある。それが今回の作戦のカギだ」

「ほんまにそんな都合のいいもんある? なんなん?」

 

 ここは焦らしても仕方ない。あっさり答えを教えた。

 

「コンテストだよ」

「コンテストォ?」

「コンテスト……そうか、ポロックね!」

 

 チナツはピンときていないがチアキはわかったようだ。チハルさんはよくわかっていないサイドのようで首を傾げていた。

 

「ポロックってなんなの?」

「ハル姉は何にも知らないんだから。ポロックはポケモンのコンディションを高める食べ物できのみを調合して作られるのよ」

 

 チアキの説明は的確だが少し付け加えた。

 

「重要なのはコンテストが競技だってこと。より美しく、よりたくましく、とライバルに差をつけたければより良いポロック、引いてはより良いきのみを求めることになる。コンテストではバトルと違ってきのみに品質の高さが求められるんだ」

「あっ!! そうか……それも大事なのね。今まではトレーナーに売ろうとしていたから高級品であることが裏目だったけど、コーディネーターに売るならそれがプラスになる! そうなれば私達のきのみの独壇場ね!!」

 

 やっとわかってきたか。この世界はポケモンが全ての中心。その競技に関わることなら際限なく高騰する。マスターランクなどになってくれば勝つために金は惜しまないはず。しかも最高品質のものはここでしか手に入らないから競争相手もいない。……儲けを独占できる!

 

 独占……なんていい響きなんだ!! 誰もマネできないから技術の流出にさえ気を配れば邪魔するものは何もない。

 

「儲けはウチの独占だ。これからは顧客のターゲットをコーディネーター中心とし、是が非でもここに呼び込む。一度認知されてしまえば後はあっちの方から勝手にやってくるはずだ。だから考えるべきは最初の客をどうやってここに呼び込むか、それだけ!」

「あんたは何か考えあるん? まさかなーんもないんとちゃうやろな?」

「実際ここは最寄りの町であるカナズミやトウカからも少し遠いし、コンテスト会場がある町からはさらに離れてしまっているわ。普通こんなところにコーディネーターは来ないのよ。だから今まで誰も見向きもしなかったわけだし……どうするつもり?」

 

 チナツとチアキの2人は懐疑的な眼差しを向けるが俺に抜かりはない。作戦は考えてある。

 

「まずは広告だ。張り紙でもなんでもいいからとにかく作りまくって各地に張りまくる。俺は各地を転々としているし丁度いいだろう。あと将来有望なコーディネーターに心当たりがある。そいつも利用できるだろう。優勝コーディネーターの秘密アイテムなんて気になる響きだろ? あと、ここでコーディネーターのためのイベントをする」

「めっちゃ力技やん……」

「イベントって何よ」

 

 ツテはもちろんハルカのことだ。こうなるとあいつにきのみをあげておいて良かった。悪くは思われてないだろうし交渉はしやすいはずだ。

 

「ポロックって実は作るのが難しいんだよな。だから俺らですごいポロックを作れるようになって、それをコーディネーターに教える」

「はぁ!? そんなのできないわよ!?」

「心配するな、俺ができる。俺の目押し力舐めんな? お前らもすぐできるようになる。というかなれ。特訓させる」

「……最悪や」

「同感」

 

 テンション低いな。まぁなんだかんだ言ってもきのみに関することならなんとかするだろう。

 

「練習の過程で作ったポロックも商品として売れば一石二鳥だろ? 完成品を買う方が手っ取り早いってことで買う奴も少なくないだろうし」

「なるほど、それやったらちょっとやる気でるな」

 

 やっぱり金になるとやる気も湧くよな。どうせ商品様にポロックの生産もする必要があるし丁度いい作戦だ。

 

「じゃあそのイベントをするためにはポロックを作る機械も必要なんじゃない?」

「そういうことだ。だからこれから俺は備品の買い出しに行く」

「どこへ?」

「デボンなら何でも売ってくれるだろ?」

「なるほどね」

 

 チアキも納得の表情。近くにあの会社があったことは幸運と言わざるを得ない。全てが嚙み合っている。

 

「ウチらはどうすんの?」

「俺が戻るまでは宣伝ポスターの内容でも考えておいてくれ。印刷機とかも買ってくる」

「どんなかんじにすればええの?」

「コンテストをとにかく全面にプッシュして『コーディネーターよ来たれ!』的なものがいい」

「他にすることは?」

「コンテスト以外にも考えてることはあるが、今はいいだろう。まずは1つずつ確実にいこう。現状はコンテストの企画に集中してくれ」

「わかりました! あなた達、頑張るわよ!」

「もちろんよハル姉!」

「よっしゃやったるでー!」

「私も頑張る!」

 

 全員目標がハッキリしてやる気に満ちている。みゅーは黙ったままだが笑顔で頷いていた。

 

「じゃあ俺はさっそくカナズミへ行く。あっ! あと店の拡張も必要になるからその間取りとかも考えておいてくれ。店のことはお前らに任せた方がいいだろ? かなりおっきくしてもらった方がいいからそのつもりでな」

「え……でもそれだと失敗したら……」

 

 チアキは不安そうだがここで足踏みされては困る。売れ行きに合わせて小刻みに増築するのはさすがに効率が悪い。改装中は商売できないし、最初に全て済ませておきたい。

 

「失敗を恐れるな!」

「!」

「失敗を恐れてちゃ成功はない。俺を信じろ!」

「……」

「チアキ、頼んだぞ」

「……わかったわ。あなたを信じる! 失敗したら承知しないからね!」

「任せとけ」

 

 手を振って店を出ようとするとチハルに呼び止められた。

 

「レインさん、出発なさる前にポケナビを登録しておきましょう。離れて行動するなら登録した方が便利です」

「あっ……実はこっちには来たばかりでポケナビはないんだよね」

「え? あぁ、そういえばカントーの方でしたね。ではポケナビもデボンで買っておくと良いですよ。ホウエンでは必需品です」

「たしかに。用意しとく。できるだけ早く戻るから」

「はい。お待ちしています」

 

 ◆

 

 サン・トウカを後にし、デボンコーポレーションへ向かうためカナズミシティを目指した。あと少しのはずだが日を跨いでも街には到着できていない。

 

「みゅみゅ~~! なんか楽しくなりそうだね。寄り道して良かった」

「そうだな。ジム戦をシスイでサクッと終わらせて用事を済ましたらすぐに戻ろう」

「え~~やだ」

「なんでだよ」

「レイン……ふたりっきりでデートしたいなぁ」

 

 ドキッとしてみゅーの方を振り返った。せつなげな表情、うるんだ瞳……気づけばその顔から目が離せなくなっていた。

 

 立ち止まってしまった俺に対し、みゅーは俺とつかず離れず微妙な距離を保ちながらゆらゆらと浮かび上がった。動きは緩やかなのにその目はじっと俺を捉えていて、まるで獲物を逃がさないように追い詰めるハンターのよう。

 

 時間だけがどんどん過ぎていく。あるいはそう感じただけ? 自分の感覚が遠く薄れていくようだ。どうしたことか、金縛りにあったかのように体は全く動かない。

 

 そして、それは突然だった。みゅーは瞬きする一瞬の間にテレポートで姿を消してしまう。

 

「ふぅ……」

 

 移動した場所はすぐにわかった。自分のすぐ後ろ、みゅーの吐く息が感じられるぐらいの至近距離。今もなお意味深な笑みを浮かべて俺を見つめ続けているのだろう。

 

 ひんやりと冷たい手が頬を撫でる。みゅーは少し嬉しそうな声をもらした

 

「ふふ……」

 

 その声でようやく金縛りが解けたかのように俺の口が動き始めた。

 

「急にどうしたの?」

「レインになら……教えてもいいかも」

「教える?」

「みゅーの秘密……教えてあげるよ」

 

 ……鳥肌が立った。

 

 全身が逆立つような感覚。なんとなくわかる。これはきっとすごいことだ。あのみゅーが、自分からこんなことを言うなんて……

 

 秘密ってなんだ? なぜ今なんだ? いや、もうそんなことはどうでもいい! すぐにも「デートすれば教えてくれる?」なんてバカなセリフをいいそうになるが、喉まで出かかったそれを必死にこらえ、なんとか自分の心を殺し、自制して、無難な言葉を絞り出した。

 

「どうして、デート?」

「こっちではゆっくりできなかったもん」

 

 たしかにホウエンに来てからゆっくり散策した記憶がない。今回はみゅーと2人で街を回る貴重な機会というわけか。だが、それにしても急に雰囲気が変わったのはどういう……最近みゅーの様子が変な気がする。

 

「じゃあ約束だ。カナズミに着いたらデートしよう。あんまり早く戻りすぎても作業が終わってないだろうし」

「みゅふふ。約束ね」

 

 笑顔になったみゅーはくるっと回って足取り軽やかに先へ進んでいく。ようやくプレッシャーから解放された。

 

 結局みゅーって何者なんだ。本当は全てにおいて自分よりもみゅーの方が上なんじゃないのか? みゅーはそれを感じさせないようにしているだけなんじゃ? さっきは完全に飲まれていた。いとも簡単に……

 

 それがみゅーの秘密なのだろうか。あるいは別のこと? 気になる。でも自分から覗こうとしてはいけない。それを知ることができるのはみゅーが自分から口を開いた時だけ。自然にそのときが来るのを、今は待つしかないんだ。

 

 俺がそこまでわかってしまうことすら、みゅーはわかっていたりして。

 

「レイン、はやくおいで! デートの時間減っちゃうの!」

「走るなよ! 俺は飛べないんだから!」

「みゅふふ! レインなら飛べるよ」

「飛べねぇよ!?」

 

 やっぱり普通の女の子な気もしてきた。

 

 みゅーを追いかけてしばらく、カナズミまではそう遠くはなかったが、やはり人間の足なのでそれなりの時間はかかってしまった。ようやく街を視界に収めた頃にはすでに辺りは暗くなりつつあった。

 

「やっと着いたな」

「みゅふふ。夜デート♪」

「おいおい……」

 

 そのときだ。いきなり頭の中に未知なるイメージが流れてこんできた。

 

 ――たすけて――

 

 何か視える。これはなんだ?

 

 誰かが悪党に襲われて……助けを求めている? これはテレパシー……なのか?

 

「みゅ? どうしたの?」

 

 この反応……送ってきたのはみゅーではない。きっと知らない誰かなんだ。今の俺にはやることがある。面倒事もゴメンだ。他人のことなんかどうでもいい。でもなぜか今はどうしても助けなくてはいけない気がした。

 

「みゅー、SOSだ。助けにいくぞ」

「……」

 

 俺はすぐに走り出すがなぜかみゅーはついてこない。静かな佇まいのまま悲しみに満ちた目で俺の方を見ている。こんなときに何をしているんだ?

 

「みゅー! 時間がない!」

「……みゅーはしらない。勝手にすれば?」

「はぁ!?」

 

 いきなりテレポートで消えた。え? なぜ? 唐突過ぎる。理由がわからない。さっきまで上機嫌だったと記憶しているがあれは気のせいか? 

 

 こんな態度をとるのはデートの約束より救助を優先したからだろうか? けどそれは助けた後でもできるし、みゅーはこんなに短気なやつじゃない。話せばわかってくれる子だ。じゃあなぜ?

 

 さっぱりわからん。謎だ。こんなこと考えてもムダ、俺にわかるはずもない。今は先にやるべきことがある以上そっちを優先すべきだ。急ごう!

 

 カナズミシティに入り、まずは何か異常がないか様子を探った。悪事を働くならポケモンを使うと相場は決まっている。なのでサーチを使って近くにポケモンがいないか探すことにした。

 

「いた! あれは……学校!?」

 

 カナズミの中でも一際大きな建物だ。そういえばオダマキ博士がカナズミのトレーナーズスクールは名門みたいなことを言っていた。おそらくそれだな。

 

 しかし塾というより学校っぽい感じだ。野良トレーナーにいる“じゅくがえり”はスクールと関係ないのか? それはどうでもいいか。

 

 ともかくあれがスクールならポケモンがいること自体は不自然ではない。だが問題はその種族。調べた結果はグラエナ……アヤシイ。

 

 入口を探すと裏門は閉ざされており正門には教師らしき人物が立っていた。裏門からも強引に入れそうだが一応正門から行こう。

 

「君、ここに何の用?」

 

 正門に近づくと先に声をかけられた。なんだこの人? 眼鏡をかけた、いかにも先生って感じの女性だが、やたらとピリピリしている。俺の一挙手一投足に注意を払い、目を光らせている。ただの通りすがり相手にそこまでするか? いかにもアヤシイ。

 

「妹の帰りが遅くて心配で見に来ました。中へ迎えにいってもいいでしょうか?」

 

 内容は適当だ。妹の名前を尋ねられたら大人しく裏門へ行こう。弟にしなかったのは……なんとなくだ。

 

「ダメよ! 今は入らないで! 生徒はちゃんと私が責任を持って送り届けるから帰ってちょうだい! 勝手に入ったりしないでね!」

 

 変だな。頭ごなしに突っぱねてとっとと帰れときたか。これは中に何かを隠しているやつの態度だ。なら無理やり入ってみるか。

 

「でも急いでるから……」

「やめて!!」

「おわっ!?」

 

 腕をつかまれいきなり力任せに投げ飛ばされた。突然のことで受け身もとれない。こいつ女だぞ? どこにそんな力が?

 

「勝手に入らないでって言ったでしょう!! どうしてそんなことするの!?」

 

 ものすごい剣幕で怒られた。尋常ではない。この人は悪党の一味なのかと思っていたがどうも変だな。怒りの中に怯えも混じっているようだ。そしてロケット団のような賊特有の欲にまみれた感じを受けない。となるとこの人は本物の先生? なのにこんなことする理由として考えられる線は……

 

 ……人質か。

 

「すみません。軽率でした」

 

 90度おじぎをする。今は少しでもこの人の警戒を解かないといけない。

 

「わかったなら早く帰って!!」

「最後に1つだけ。ここに入学すればポケモンのことを教わるんですよね? ボールを投げてポケモンをだしたりとかも習うわけですか?」

「もちろんよ」

「ポケモンはボールに入るんですか?」

「ポケモンを捕まえたことがないの? ボールに入れておくのは常識よ」

「恥ずかしながら……。ではスクールのポケモンもみんなボールにしまっているんですね。すごい」

「……あたりまえでしょ。そのまま出しっぱなしにしていたら管理しにくいもの。……もう、いいから早く帰って!!」

 

 これ以上は本気で怒られそうなので速やかにその場を去った。でも必要なことはしっかりと聞けた。あのグラエナはこのスクールのポケモンではない。

 

 そしておそらくこの場所はその持ち主に監視されている。さっきの教師は中に人を入れないための追い返し役。生徒が残っているのはさっき確認できたし、その保護者を追い返しているのだろう。

 

 さらにあの教師は監視されている可能性が高い。さっきこっそり助けを呼ぶチャンスはいくらでもあったのにそれをしなかった。子供の命がかかっていればチャンスがあっても勇気はでないだろう。そして誰かを中に入れると人質が危ないことになるに違いない。だから必死に止めたんだ。

 

 これからどうすべきか。普通ならジュンサーに知らせるべきだ。だが1つ気がかりになるのは時間だ。この事件、実はもう時間の猶予がない。

 

 生徒を人質にとればどう考えても保護者が異変に気付く。追い返し役がいても誤魔化せるのは最初だけ。つまりこの悪党は少し時間が稼げれば十分なのだ。それがなぜかはわからないがとにかく時間がない可能性は高いと判断した方がいい。

 

 ジュンサーに伝えるとすると、まずネックになるのは俺がポケナビを持っていないこと。ホウエン地方では電話一本で通報というわけにはいかない。ジュンサーがどこにいるのかもまだわからない。なので知らせるためにはかなり時間がかかる可能性もある。

 

 さらにこの状況をどうやって俺が知りえたのか説明することもできない。信じてもらえたらいいが、そうでなかったら押し問答になるかもしれない。

 

 そもそも今この町で1番強いのは俺だ。ジムリーダーを探してきてもいいがロスする時間とアップする戦力を比べると必要性は感じない。機動力も下がってしまう。ジュンサーにせよジムリーダーにせよ、俺に加勢しても大した足しにはなるまいよ。

 

 保護者の足止めができる限界を考えるに、リミットはよくて日没までってところか。あともう少し。迷っているヒマはない。

 

 やることは決まったな。

 

「ユーレイ」

「ゲン!!」

 

 潜入はこいつの十八番だ。なんせゴーストタイプ、止める術はない。

 

「すぐにあの建物の内部を探ってくれ。おそらく子供を人質にしている悪党がいるはず。まずは敵の人数と人質の場所を割り出せ。絶対に見つかるなよ? 戦闘もご法度だ」

「ゲンガー!」

 

 ラジャー! と元気よく返事してスクールに向かった。頼りにしてるぞ?

 

 みゅーがいればこんな回りくどいことをしなくてもエスパーの力で全部すぐにわかったのになぁ。ないものを考えても仕方ないか。

 

 




きのみ作戦は現状まだ穴だらけですね
本人は完璧だと思ってますが……

日数の経過具合は適当なので深く考えないでください
かなり都合よくいじくってます

みゅーちゃんはめんどくさい感じですね……
誰にでもこういうときはありますよね
かわいいので許しましょう!


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2.ききいっぱつレインがかいけつ

ギリギリですけどウソは言ってない計算です


 偵察に向かわせたユーレイはすぐに戻ってきた。有能な奴だ。

 

「1人? 2人?」

「ゲンゲン」

 

 2回首を振る。

 

「もっと? 10人以上か?」

「ゲン!」

 

 大きく頷いた。

 

「11,12,13,14,15,16」

「ゲン!」

「16か」

 

 確認できたのは16人だそうだ。そして人質は広い視聴覚室に集められているようだ。具体的にどのあたりにある教室かは聞き取れなかった。YES,NOでわかる質問以外はどうしてもわかりにくい。今は通訳のみゅーがいないので教室、トイレ、体育館、図書室、などを全て聞いて確かめた。

 

「監視方法は? カメラ? 盗聴器?」

「ゲン!」

「盗聴か。そういえばさっきの女教師は長い髪が耳にかかっていた。辺りにアヤシイ機械は見当たらなかったし、それで通信手段を隠してたのかも」

 

 だから男でなく女だったのかもしれない。実際監視カメラをこっそり設置するのは大変だろうし、案外即興の作戦なのかもしれない。じゃあなぜ監視されてないのにさっきの女教師が人の目を気にしていたかが疑問に残るが、おそらく「監視もしているぞ」とでも脅されていたのだろう。あの人に監視の有無を判断する術はない。

 

 結果的には強行して押し入った方が速かったがあの時点では監視の目がある可能性の方が高かった。リスクを踏む場面じゃないしこれは仕方ないだろう。

 

 ついでに会話を犯人が聞いていたなら俺がトレーナーじゃないと思った可能性も高くなるはず。念のため素人を装ったし敵も変な警戒はしてないはずだ。

 

「安全確認はできたし、これで心置きなく侵入できる。一応お前が先行して人がいないか見てくれ。いたら戻って知らせろ」

「ゲンガー!」

 

 裏門を乗り越えて中に侵入した。一応サーチでポケモンの有無をチェックしながらグラウンドの周りを建物の影に隠れながら進み、悪党が徘徊する校舎に入った。

 

 校舎に入るとサーチでポケモンがかなり探知できた。16体……人間の数と同じだ。おそらく全員が1体ずつ出しているのだろう。偶然一致したとは考えにくい。ユーレイの報告の信憑性も高まった。やはり16人で間違いなさそうだ。

 

 視聴覚室には中央に集められた人質の周りを取り囲むようにして4人、さらにその周りで控えているのが4人、別の部屋で休んでいるのも4人いて、残り4人は校舎内を見回って巡回しているようだ。

 

 見回りなんて必要ないと思うが……何かにそなえているのだろうか。対抗組織とか?

 

 それはともかくどうやって敵を無力化するか考えないと。視聴覚まとまっている8人が少しきついな。手持ちは5体。先制攻撃しても3人残る計算だ。

 

 まずはバラバラになっている4人を始末しよう。視聴覚のやつらをどうするかは後で考えればいい。

 

 巡回してる奴らは全員同じ規則で動いているようだ。サーチでポケモンの動きを追いルートはすぐに把握できた。ならこちらから動いて気配を悟られるリスクを冒さずとも待ち伏せでことは足りる。敵さんは用心のためにポケモンを出していたことが仇となったな。

 

 さて、後はどうやって仕留めるかだ。グラエナとトレーナーはどちらを仕留め損ねても仲間を呼ばれそうだ。グラエナは群れで行動するポケモンだから鳴き声で仲間を呼べるし、人間はもちろん通信手段があるはず。同時攻撃がマストだ。ここはアカサビとグレンに頼ろう。

 

「階段を降りて角を曲がってきたらアカサビがグラエナにバレットパンチ、グレンがトレーナーにしんそくだ。音を立てないように加減しろよ?」

 

 ポケモンと一緒に敵が角を曲がった。その先には俺が1人で立っている。

 

「お仕事ご苦労様です」

「なに!?」

 

 驚いた瞬間にボールから2匹が飛び出す。打合せ通りの動き。相手が行動を起こす前に一瞬でケリはついた。楽勝だ。気絶させた敵は“あなぬけのヒモ”で縛ってサイコキネシスで運んだ。

 

 これを4回繰り返し4人を無力化。その後別室で休憩する4人に奇襲をかけた。やはり人数の少ないところから攻めるのがセオリーだ。

 

 ギギィィィ……

 

 まずはサイコキネシスで扉を手で触れずに開いた。

 

「なんだ!?」

「誰だ!?」

 

 4人全員が警戒をあらわにし扉に注目するがそこには誰もいない。そして壁をつたって背後に回ったユーレイが無防備な背中に向かってこごえるかぜを放った。“こおりのジュエル”が発動し威力がアップする。しかもこの技は全体攻撃だ。

 

「「ぎゃぁぁ!!」」

 

 まず人間4人が倒れて動けなくなる。そしてグラエナ達は攻撃を耐えきったものの動きが鈍くなり、なにより扉に対して背を向けてしまっていた。

 

「ほうでん!」

 

 ビリビリビリ!!

 

 今度は扉のある方から奇襲をかけた。背後からイナズマの攻撃を受けて抵抗することもできず4匹のグラエナも倒れてしまった。

 

 まわりくどいものの、正面から攻撃すると先に仲間を呼ばれる可能性があったので念のため背後から奇襲する形をとった。案外簡単に制圧できたが、これはレベルの差が大きいのだろう。

 

「あとは本丸だけか。もう仲間に知らされる心配はしなくていい。次もユーレイと俺で挟み撃ちにする作戦でいこう」

「ゲン!」

 

 視聴覚室。まだ味方が倒れたことに気づいた様子はない。チャンスだ。問題になるのは人質をいかにして守るか、そこに尽きる。1人でも敵につかまれば終わりだ。

 

 人間とポケモン、どちらを先に狙うかがポイントになる。トレーナーは次々とポケモンを出す可能性があるが手持ちが一体ならポケモンを先に狙うべきだ。これまでは調べたところ2人が2体もっていた。

 

「……人間よりポケモンを先に倒す方が無難か。あるいは人質を守りながら“ほうでん”で全体攻撃する手も一応あるか」

 

 悩ましいが……全体攻撃するべきか。上手くいったときのリターンがデカ過ぎる。タイプ一致の“ほうでん”なら威力も十分ある。一応ジュエルも持たせておけば準備万端だ。

 

 バンッ!!

 

 今度は俺自らハデにドアを蹴り破った。

 

「なんだお前!! ……ギャッ!?」

 

 ユーレイが中央の人質の真上から現れ“あくのはどう”で周りにいた敵勢力をまとめて吹き飛ばした。ユーレイは俺がドアが開いた瞬間人質を守れる場所にいた方がいいので今回は少し手順を変えてみた。

 

ユーレイが上手く人質の傍の位置を確保できたので俺もすぐに指示を飛ばした。

 

「グレン、アカサビ!」

 

 “しんそく”に“でんこうせっか”……打ち合せ通り2体が人質を守るように敵と人質の間に割り込む。今の技は攻撃ではなく移動のための一手だ。

 

「ほうでん!!」

 

 バリバリ!

 

 今度はジュエルでさっきの5割増しだ。とはいえ部屋がさっきより広いので届く威力は同じぐらいかもしれない。“ほうでん”がグラエナ達を蹴散らすがユーレイ、グレン、アカサビの3体が“まもる”を使ってバリアを展開し人質を見事に守った。“ほうでん”を完全にシャットアウトしている。

 

「いけっ、バグータ!」

「ブモォォォ!!」

 

 敵トレーナーの声。さっきの攻撃の生き残りか。“ほうでん”を耐えられるはずはない……さては自分のポケモンを盾にしたな? トレーナーを名乗る資格もないようなクズだな。だがおかげで厄介なことになった。

 

 バクーダはでんきタイプを無効化するじめんタイプを持っている。守りに回した3体は“まもる”の反動で動けないしシスイに頼るしかない。あいつはまだ頼りないしできれば使いたくなかったがこの状況では四の五の言ってられない。

 

「シスイ! たきのぼり!」

「マッ!?」

「シスイ! 聞いてるか!? あのバクーダに向かってたきのぼり!!」

「マッ!!」

 

 動きが緩慢だ。誰を攻撃するか言わなかったので少し戸惑ったのだろう。動ける敵のポケモンは1体だけなので必要ないと思ったが……シスイの経験不足が祟った。

 

「ふんえん!」

「グレン!」

 

 その一言で意図を理解したグレンは人質とバクーダの間に立ちはだかり、攻撃から人質をその身を呈して守った。しかしシスイは正面から直撃だ。もちろん俺に対しても攻撃は及ぶ。“ふんえん”も“ほうでん”と同じく全体攻撃。耐えるしかない。

 

「ダース!」

「イナズマ! かばってくれたのか!? サンキュー!!」

 

 自己判断でイナズマが盾になってくれた。これはかなり助かった。

 

「クアッ……マークロ……」

 

 しかし残念ながらシスイは直撃の上“やけど”を負ったようだ。しかも“たきのぼり”は届く前に中断されてしまった。火傷状態のシスイはもはや戦力にはならない。即座にボールに戻しながらアカサビに指示を出した。

 

「でんこうせっか!」

「……!」

「グゥタッ!」

 

 無言で頷きアカサビが鋭い一撃を放ち勝負あった。ただの先制技で耐久力のあるバクーダを一撃。さすがだ。それに俺の意図をしっかり汲み取ってくれる。さっきのグレンといい、こいつらはやっぱりシスイとは大違い……と言ってしまうのはさすがに酷か。

 

「なんだこいつ!? つ……強すぎる!! どうなってんだ!?」

「お前も眠ってろ!」

 

 トレーナーもアカサビがシバいて無事制圧完了。

 

「よし、気絶した奴はユーレイがサイコキネシスで隅に集めておいてくれ。起きたやつはさいみんじゅつで再び眠らせろ。念のためグレンも一緒にみておいてくれ。アカサビ達はこの人達の手と口を縛ってる縄を解くのを手伝ってくれ」

 

 人質も15,16人ぐらいか。小学生ぐらいの子供だけでなく高校生ぐらいの人も1名混ざっている。……ん?

 

「あんたジムリーダー!?」

「ぷはぁ!? ありがとうございます! 助かりました!」

 

 縄を解くと礼を述べたのはカナズミシティのジムリーダー、ツツジだ。この程度の連中に後れを取るはずはない。

 

「あんたどうして戦わない?」

「人質を盾にされてボールをとられてしまい……不覚でした。この子達には本当に悪いことをしました。今日は本来休校日で、ポケモンバトルの特別練習に来ていたこの子達だけ運悪く……」

「そういうことか。たしかに人質が多過ぎても邪魔か……。こいつらもわかった上で狙っていたのでしょうね。ちなみにもう一人の先生はなぜ学校に?」

「会ったんですか? 彼女がこの子達を教える先生で、私はバトルの仕方を教える手伝いとして来ただけなんです。すみませんが彼女も助けてもらえますか?」

「そうだな。人質が解放されたことを伝えとこう。ユーレイ、これを持っていって」

 

 パパッと手紙をしたためてユーレイに持っていかせた。ひとまずこれで落ち着いたか。

 

「ツツジお姉ちゃん、おトイレ……」

「あぁ、そうね。ずっと縛られていたし……すみません、あの者達に他の仲間は?」

 

 落ち着いた雰囲気を感じ取ったのだろう。人質の女の子が申し訳なさそうにツツジに耳打ちするのが聞こえた。まぁ実際仕方ない。

 

「敵の人数は割れています。残りは8人。全て無力化して縛ってあります。そっちもポケモンを向かわせておきましょう。アカサビ、イナズマ、見張っておいてくれ」

「なら大丈夫ね。暗いけど1人で大丈夫?」

「うん」

 

 これで一件落着。後はさっきの先生にジュンサーさんに通報するように書いておいたからそのご到着を待つだけだ。……俺は自分で通報できないからな。

 

 さて、それまでヒマだな。少しこの悪党共の素性を探っておくか。

 

 おそらくバクーダを持っていたのがこの中で1番えらいやつだろう。所持品を漁るとマグマ団のマークが入ったアイテムを見つけた。薄々勘付いていたがやっぱりマグマ団か。恰好がいかにもだったし。このアイテムは一応貰っておこう。

 

 自分のバックに押収したものをしまうといきなり大声が響いた。

 

「両手をあげろ!」

「なんだ!?」

 

 さっきトイレに行った子が今日初めて見る顔の男に連行されていた。

 

「ミキエ!」

「お姉ちゃん……」

 

 新手?! まだ仲間がいたのか! 状況は一転して最悪だ。俺は現在戦力を分散させてしまっている。“しんそく”持ちのグレンがこの場にいることが幸いか。

 

 アイコンタクトで合図を出し、グレンにグラエナを狙って攻撃させた。しかしそれは失敗してしまった。

 

「ヴォウ!!」

「バクゥッ!!」

 

 また新手?! いや、違う!! こいつが2匹目のポケモンを出したんだ!! タイミングよく出てきたバクーダが盾になり“しんそく”を受けられた。敵の手元は見てなかったがなんて早業だ。攻撃を読まれたのか? ほぼ予備動作はなかったはずだが……。

 

 2匹目を持っていたことといい、このボールさばきといい、いなかったのが幹部クラスの強者だったのは間違いない。見通しが甘かったか……。

 

「ごめん……俺のミスだ」

「動くな!! 両手をあげろと言ったんだ! 従わなければこいつの首を嚙み切るぞ!」

「グルルルル!!」

「痛っ!? たすけて……」

 

 グラエナが喉元に牙をかけた。真っ赤な血が滴っている。こいつ本気か。あれではどう攻撃しても先に嚙まれる。奇襲するにしても警戒されたこの状況では厳しい。

 

「手をあげました! だからその子は離して下さい!」

「ダメだ! そっちのトレーナーはポケモンもしまえ! おい、バクーダ起きろ!」

 

 ツツジの言葉に対して安心せずに抜け目なく俺を無力化してくる。その上“げんきのかけら”を使ってバクーダを復活させてきた。2匹動ける奴がいるとやはり隙を突くのは格段に難しくなる。用心深いタイプはかなり面倒だ。

 

「これでいいだろう?」

「ボールをバックにしまえ」

 

 どこまで用心深いのやら。グレンは掛け声1つですぐボールから出れるだけにこれは本当に痛い。

 

「たすけて……」

「……!!」

 

 今、目の前の少女と目が合った。同時に少しだけ何かが噛み合うような感覚がした。もしかして助けを求めたのはこの子? 今までの経験則だとほぼ間違いない気がする。悪党に襲われるこの状況もさっきのイメージと合う。ならこの子はきっちり助けなければいけない!

 

 こんな状況だと人質を見捨てて敵を制圧するのが無難な選択なのだろうが、どれだけ困難でも人質を生かすしかなくなった。さて、どうしたものか。

 

 何か手はないか? せめてユーレイが戻ってくればなんとかなる。一旦時間を稼いで……だがそうするとあっちの仲間が目を覚ますかもしれない。博打は打てない……どうする?

 

 とりあえず困ったらなんか探せ! それがこれまでの俺の生き方だ!

 

 サーチ!!

 

 ……あれは!?

 

 視界に見えた1つの影。それに全てを託せばあるいは全員が助かる可能性も視えてくる。だがそのためには自分が……。ゆっくりと目の前の人質を見た。視線がハッキリと交差する。迷いは消えた。

 

「どうした!? お前が1番危ないんだ! おとなしくしろ! こっちはこいつが後でどうなろうが構わねぇ。いったん半殺しにしておいても構わないんだぜ?」

「ひぃぃ……」

「やめてください!!」

 

 人質の子は恐怖で声も出ないようだ。無理もない。こんな何をしでかすかわからない奴に生殺与奪を握られたら生きた心地はしないだろう。早く解放しなくては!

 

「わかった。なら人質を交換しよう。その子の代わりに俺を使うといい。危険なやつは手元に置く方がいいだろう?」

「人質は弱いから人質として使えるんだよ!」

「とんだ臆病者だな」

「なにぃ……!」

「なら好きなだけ俺を弱らせればいい。足腰立たなくなるまで。そっちの仲間を全部倒したのは俺だ。お前も本望だろ?」

「ダメです!! 人質なら私が!!」

 

 ツツジはわざと俺が挑発していることがわかったのだろう。だけどこの役は俺がやらないと意味がない。ツツジにいかせるわけにはいかないんだ。

 

「へへへ……よし! 乗ったぜ! やいジムリーダー! お前は下がってろ! ポケモンのねぇジムリーダーなんざ放っておいても怖くねぇんだよ。お前はこっちきて頭に手をおけ」

「……」

 

 黙っていうとおりにすると敵はバクーダに攻撃命令を下した。

 

「へへ、話がわかるじゃねーか。……連続でいわなだれ!!」

「……」

「なんてことをっ……!? ダメッ!! やめなさい!!」

 

 ツツジは真っ青になるが俺はむしろこれを望んでいた。今はとにかく耐えればいい。黙ってバクーダの攻撃を受け続けた。

 

「「きゃーーっ!?」」

「やめてぇぇーー!!! こんなことしたらこの人が死んでしまいます!!!」

 

 目の前で人が攻撃される光景に悲鳴が上がる。けどそれでいい。それを待ってた。逆に敵はこの悲鳴に気をよくしたようでとんでもないことを言い始めた。

 

「いいんだよ! 死んでもらうためにやってるんだからな!」

「なんですって!? 約束が違いますわ!」

「はぁ? なんのことだ? 人質はこのガキだけで十分だ。反抗的なトレーナーには死んでもらうとしよう! 俺にとっちゃそれが1番安全なんだよ! バクーダ、ストーンエッジ!」

 

 これまでの中で1番強烈な技が飛んできた。まともに受けてしまい激しい攻撃で視界が赤く染まる。頭部にクリティカルしたらしい。他にもあちこち体中裂傷だらけで床には血だまりができていた。

 

 不意に頭がクラッとしてとうとう俺はその場に倒れてしまった。それを見てとうとう我慢できなくなったツツジが行動に出た。

 

「もう黙って見ていられません!」

「余計なマネすんな! 女はすっこんでろ!」

 

 朦朧とする意識の中、気絶しそうになる自分を鞭打って大声でツツジを制止した。乱暴な言葉にツツジも黙っていない。

 

「なっ!? 何を言ってるかわかっていますの!? こんな状況で男も女もありません!」

「いいから黙って見てろ。あんたの出る幕じゃない」

 

 とっさに止めたのでかなり乱暴な言葉遣いになったが許してくれ。もうほとんど頭が回らない。

 

「そんなボロボロの体で何を言ってるんですか!! 本当に死にますよ!!!」

 

 俺より先にツツジが狙われれば取り返しのつかないことになる。矛先は俺に向いていなくてはいけない。

 

「掠り傷だ。この程度、大したことはない」

 

 もちろんウソだ。このまま放っておかれるだけでも数時間であの世逝きだろう。しかし余裕を見せるためにない力を振り絞って起き上がった。

 

「ならお望み通りトドメをさしてやろうか。バクーダ、今度はかえんほうしゃで燃やしてやれ! 跡形もなく消し飛ばしてやる!」

「ほのお技!? これはマズイです!! どうかよけてっ!! おねがい!!」

「それは無理だ。もう……一歩も動けない」

「……!」

 

 悲惨な未来を悟り言葉を失うツツジ。俺にとっては最初からわかっていたことだ。人質の交換を要求すれば俺は殺される。そうなるような言い方をした。でもこれでいい。あの人質の子が死にそうになっても意味はない。俺だからいいんだ。ちょっと虫が良過ぎるけど。

 

「バクゥッ!!」

 

 “かえんほうしゃ”が放たれた。眼前に炎の塊が近づいてくる。当たれば無事では済まないだろう。死と隣り合わせの感覚。しかし恐怖は全くない。なぜなら俺は確信していたからだ。“あいつ”は必ず俺を助ける!

 

「ギャウンッ!!」

「グラエナ? なんだ?」

 

 異変はグラエナの鳴き声から。そして“かえんほうしゃ”を切り裂くようにして突如現れた水の波がそのまま攻撃を打ち消し、その先にいるバクーダもろとも吹っ飛ばした。バクーダは戦闘不能だ。

 

「バクゥ……」

「何事だ!?」

「グレン!」

「ガウガ!」

 

 グラエナの声を聞いた瞬間、俺はバックからモンスターボールを取り出しグレンに指示を出していた。グレンは待ってましたとばかりにボールから飛び出し、俺の期待に応えて“しんそく”を放った。何が起きているか理解できないまま敵トレーナーは倒れてしまった。

 

「何が起きて? ……うげっ!?」

「なんとかなったか。ぐっ……」

 

 さすがにもう限界か。膝をついてしまうがそれでも意地で倒れることはしなかった。

 

 グラエナを仕留めた攻撃はおそらく“はどうだん”。死角からとんできた正確無比なあの攻撃は時間差で前もって発動しておき当たるタイミングを調節したのだろう。必中技だから外れることもないしコントロール抜群だ。

 

 “かえんほうしゃ”を破ったのは“みずのはどう”で間違いない。小回りが利いて使いやすい技だ。威力が低いのがネックだが、そんなことは感じさせないあの破壊力。こんな芸当ができるのはあいつだけだ。

 

「もう助けてくれないのかと思ったよ」

「ウソつき。わかってたクセに」

「そうだな。お前の優しさには助けられっぱなしだ。恩に着るよ」

「ふん」

 

 さっきサーチで見つけたのがこの最強幻ポケモン、みゅーちゃんだ。俺のこと、見殺しにはしないと思ったよ。周りの人質達はまだ何が起こったかわかっていない。とはいえ一難去ったのは確かなのでもう緊迫した表情を浮かべる者はいなかった。

 

「何が起こって……? と、とにかく手当てをしなくては!」

「大丈夫です。みゅー?」

「ヤダ」

「おいおい……まぁ見られてるところではダメか。うん、このぐらいたいしたことじゃないし、いっか。とにかくありがとうな、みゅー」

 

 さっき周りがまだ驚いて右往左往している間に、会話しながら実はこっそり少し回復させてくれていた。ツンとそっぽを向きながらも俺に手を添えていたのだ。

 

 やっぱりみゅーはミュウなんだな。さっきの技の連携にしてもそうだ。“はどうだん”と“みずのはどう”の波状攻撃は見事だった。技を使うことに関しては右に出る者はいない。手際の良さはさすがの一言だ。

 

 俺の方は岩の連続攻撃で全身切り刻まれてあちこち出血していたが、みゅーのおかげで出血は止まり、もう歩ける程度には回復している。見た目はまだグロッキーだがもう大したことはない。

 

「……」

「みゅーちゃん?」

 

 みゅーは全然俺と目を合わせようとしない。いつもじっと見つめられることに慣れていたから少し寂しい気分だ。気に障ることは何もしてないはずだけど……。

 




こういう潜入系書くのはしんどいですね
時間がかかるのもやむなしです()

関係ないですけど久々にランクマやったら静電気つのドリルで3割パチンコするのが楽し過ぎて脳ミソ溶けましたね

関係はないですけどね

一応補足すると最後にみゅーが拒否したのは回復してあげることです
人間姿でポケモンの技を使う瞬間を見せれないということですね



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