佐藤太郎は勇者である/桐生戦兎は仮面ライダーである (鮭愊毘)
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一章 佐藤太郎は勇者である
信頼


乃木園子 鷲尾須美 三ノ輪銀
この名前を聞いた時俺は、ああ 俺は●されるのかなと思った。
いやだってこの三人の家系ってすごく偉くて下手したら消され(この先は見てもいられないほど悲観的になっているので省略)

勇者後記298.●.●●



「んーん~」

 

「何唸ってんだよ」

 

あること(・・・・)を考えて唸っている俺の名は"桐生戦兎"。それに突っ込みを入れているやつが、冤罪で投獄され脱走してきた元格闘家"万丈龍我"。衝突も多いけどなんだかんだでうまいことやってきた関係だ。

 

「いつまでたっても思い出せないんだ」

 

「前言ってた"一年前から今に至る記憶"……だっけ」

 

「そう。一年前まで俺は"佐藤太郎"で、女の子三人とでっかい化け物と戦って……」

 

「進歩なしじゃねぇか。……で、そのあとマスターに拾われて今の名前と」

 

万丈は俺の手元にある物体に目を移す。

 

「そいつを貰ったのか。…………ん?今思ったけど、なんでお前は桐生戦兎なんだ?」

 

「は?」

 

「名前の由来」

 

「戦兎はウサギと戦車」

 

「まんまだな。桐生は?」

 

「……マスター行きつけの床屋の名前」

 

「……」

 

「……なんか、悪かったな」

 

結局、今日も進展なし。完全に頭から抜けてるな。……それにしても不思議だ。中学生の体を大人の体にするなんて。

 

 

 

 

 

これは、俺がまだ佐藤太郎として生きていた頃の話―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神世紀298年

 

 

俺の名は佐藤太郎。名前も容姿も特徴がないのが特徴……?である。今日は休日だが行かなければいけない場所がある。

 

「行ってくる」

 

「行ってらっしゃい。今夜は焼肉だからね!」

 

母のこの言葉に心が躍った。昔は「夜は焼肉っしょ!」と奇声を上げながら家ではしゃいだことがある。それに父がノり、母に怒られる……といったことがあった。今はしていない。怖いから。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「お、来たか」

 

「それより話って?」

 

俺が行く場所……それは大赦。神樹様を祀っている機関。父はそこの技術開発部の次期部長候補。俺は大赦の図書館のような部屋で勉強をしている。独学ってやつ。

 

「勇者システムのアップデートについてだ」

 

現在、勇者として戦っているのは四人。女子三人と俺。

 

「バーテックスもバカじゃない。俺たちの知らないところでお前たちの戦い方を学習しているかもしれない。攻撃も激しくなるだろう。そこで、"精霊"というモンを追加することにした」

 

「することにしたって……」

 

ちなみに、俺がほかの勇者と顔を合わせたのは彼女らが二回目に戦うことになった時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が勇者になって1回目の戦いが終わった。

 

 

「まったく、どうして俺が言ったとおりにやらなかった!」

 

「すいません……」

 

俺は絶賛父親から説教中である。理由は一つ。戦いのとき正規の勇者三人とコンタクトを取らなかったから。

 

「しょうがない。……行くぞ」

 

「どこに」

 

何故だろう、悪寒がする。

 

――――――――――――

 

~乃木家~

 

俺は大きな家を前にした時回れ右をしてその家を視界から外して、

 

「帰る」

 

「待て待て待て!」

 

「だって考えてもみてよ!俺たち佐藤家は大赦に属せるか属せないかわかんないほどの地位だぞ!?その真逆のここに来てみろ……

 

緊張する→俺は緊張すると目つきが悪くなる→睨んだと勘違いされる→一族郎党消される」

 

「……」

 

「バッドエンドじゃねーか!これが本当の最悪ってやつだよ!」

 

しかし俺の言い訳は通じるわけもなく

 

「いいからさっさと歩け」

 

「……」

 

――――――

 

「いいか、まずは当主のお二人に挨拶をするんだ」

 

つまりあの時いた三人のうちの一人の両親に会え、と。

 

「俺だけな」

 

……はい?

 

「太郎はあっち」

 

親が指をさした場所には大きな戸があり、その裏で誰かが騒いでいた。

 

「まさか……」

 

「しばらくそこで待ってろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は戸の前に立つ。しかし開けることはできない。こんな戸、バーテックスに比べたら……と思うが神聖な乃木家とあんな怪物を並べてはいけない。そう思うと……

 

「あれ~? お客さん~?」

 

「あ……」

 

なんてこった……

 

 

 

 

 

三ノ輪銀SIDE

 

 

今日は須美と一緒に園子の家に遊びに来ている。祝勝会の二次会とのこと。

すると突然、園子がその戸の裏に誰かがいると言い出した。すると須美は

 

「泥棒!?それとも……誰かの怨念!?」

 

「違うと思うよ~」

 

……とにかく、開けようとする園子。それを阻止しようとする須美。あたしはどうすればいいかわからなかったのでその場に座っていた。

 

園子が戸を開ける。すると、

 

「あれ~? お客さん~?」

 

男が一人立っていた。ん?なーんかどっかで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佐藤SIDE

 

 

「な~んだそんな事か!気にしなくていいよ!な、須美、園子」

 

「ええ」

 

「うん」

 

「そうだな」

 

「切り替え早っ!?」

 

「というわけでよろしくね!"さっとん"!」

 

家の地位は気にしなくていい こう言われ俺はそれを承諾した。この判断は間違ってなかった。にしても"さっとん"か~。

 

「あ、そのっちはこういうあだ名つけるの好きだから……」

 

「そっか。……ありがとう」

 

「えへへ~」

 

園子は喜んでいる。これだけ純粋な人は珍しい。どうやら神世紀に入ってから道徳の教え方が変わったらしく、それ以前のものより人への接し方、物事の考え方が重視されるようになり、表では仲が良くても裏では嫌っている、こういう人はほぼなくなったらしい。それでも、無垢な人はレアだとか。

 

「これで勇者四人が揃いました。というわけで……」

 

 

「戦術会議をしましょう」

「遊ぼう!」

 

「「……」」

 

「会議か~。わっしーらしいね~」

 

「先に行っておくけど、俺将棋とかトランプとかめんことかカルタとかやったことないからな」

 

「須美!今は祝勝会の二次会だろ?遊ぶしかないでしょ!」

 

「銀!勇者がそろった今こそ、会議をするべきよ!佐藤さんは大赦勤めで忙しいんだから」

 

おお、そこまで調べられてるのか。

 

「大赦勤め!?すごいな佐藤!何してるんだ?」

 

「端末のアップデートにカスタマイズってところかなー」

 

「かすたま……え?」

 

「使いやすいように改良するって事」

 

「ごめんなさい。私、横文字は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだそんなに時間は経ってないけど懐かしいという思いがこみ上げてくる。

 

「……何ニヤニヤしてるのよ」

 

「夏凜か。丁度いいところに。はい、煮干し」

 

偶然会ったトレーニング仲間の夏凜に好物のにぼし(一袋)を渡す。こいつとはよく二人で行う鍛錬の相手をしてもらってる。

 

「ありがと……」

 

煮干しの袋を抱き立ち去ろうとする彼女の背中に

 

「信頼してるからな」

 

こうつぶやいた。深い意味は無い。同じ鍛錬を重ねる者どうし交流を深めたほうがいいと思ったからな。

 

「な……何言ってんのよ!」

 

今の俺の言葉をどう受け取ったらそういう返事になるのか。それはわからないが少なくとも悪い意味ではなさそうだ。

 




一章(わすゆ編)は巻きで行きます。仮面ライダー要素は二章から。


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友情

PROJECT●●●●●
これは無限の可能性を秘めている。


嗚呼 君子Bは杖を撃て

葛城巧


三人の勇者とコンタクトをとってから数日後、家に"安芸"と名乗る人物から俺宛に電話があった。内容は、

 

・勇者四人をまとめるリーダーが園子になったこと

・三人の武器が弓(後方)、斧(近接)、槍(近・中)であること

・彼女たちが命知らずな戦法を取ること、連携がなってないこと、俺との接点が無さすぎることを理由に後日合宿を行うこと

 

だった。確かにこれはいい機会だ。……ただし問題が一つ。

 

―――――――――――――――――

 

~大赦 技術開発部~

 

「三人の武器が弓、斧、槍だってよ。近接俺とかぶってるじゃん。それに斧の方が一発一発の攻撃強いし……」

 

「「うん知ってた」」

 

父親に相談したはいいものの、一蹴されてしまった。……ん?

 

「初めまして。君が太郎君かな?」

 

「はい……」

 

さっき父さんに混じって一蹴してた人だ。

 

「俺は"葛城巧"。開発部部長だ」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

「お父さんにはお世話になってるよ」

 

「この人は家の事情で中々顔を出してくれなかったんだ。いい機会だ。話でも聞いてみたらどうだ」

 

すると葛城さんは俺をパソコンのところへ誘導する。

 

「君はネビュラガスというものを知っているかい?」

 

「あー……確か、数年前……」

 

「正確には十年前。ある洞窟で発見された黄色いガスのことだ」

 

「……」

 

「俺はこれを使ったプロジェクトを始めていてね、君の勇者システムはそれの試作品と言っていい。……おっと!もうこんな時間か」

 

 

「もうそんな時間ですか?」

 

「ああ。太郎君の事、頼んだよ。次期部長」

 

「はい!」

 

「じゃあね太郎君。お役目はこれからも過酷になっていく。でも諦めちゃだめだよ。世界のため以前に自分を弱くしてしまうからね。ではこれで。See you!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハザードレベル2.4……もう少しってとこか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~合宿当日~

 

「遅い……」

 

目的地へはバスで向かう。俺、須美、園子は既に乗車済みだが、銀はまだ来ていない。

 

「あ、悪い悪い!遅くなった!」

 

「10分遅刻!……もしかして、今日も?」

 

「実はそうなんだよねー。今日も銀さんは困っている人のため張り切っちゃうよー!って」

 

「?」

 

「あっごめんなさい。銀はこう見えて問題に巻き込まれやすくて……」

 

「!?」

 

俺は思わず立ち上がって叫んでしまった。

 

「も、問題って言ってもお年寄りの荷物をもってあげたり泣いてる子を慰めたりすることですから……」

 

「そ、そうか……」

 

「何々~?もしかして心配してくれてんの?」

 

「いざという時何かあったら困るだろう……」

 

過剰に反応した自分が恥ずかしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お役目が本格的に始まったことにより、大赦は全面的にあなたたち勇者をバックアップします」

 

目的地に到着後、すぐに訓練は始まった。勇者服に身を包み、武器を手に取る。俺の武器は剣……ではなくて刀というものらしい。大昔日本にいた人たちが持ってたものと親から聞いている。それと俺はネイビーブルーの勇者服なのだが、本来あるはずのモチーフとなった花が無い。男に花は似合わないということなのか、葛城さんのプロジェクトの試作品だからなのか……

 

「今から行う訓練は精霊が実装される前にバーテックスの襲撃があったとき専用のものです」

 

「はいはーい!」

 

銀が手を上げる。

 

「三ノ輪さん、何かわからないことでもありましたか?」

 

「精霊ってなんですか?」

 

「……佐藤さん」

 

安芸先生がこちらを見つめている。……俺が言えってか

 

「精霊ってのは勇者のサポートを行う……何か」

 

「何かってなんなのさ」

 

「致命的なダメージを完全無効化するバリアを張る……何か」

 

「バリア……障壁ですか?そんなことが……」

 

「いやだから何かってなんなのさ」

 

「……神樹様がくれたペット…………みたいな?」

 

 

「「……」」

 

「ペットか~ 可愛いのかな~?」

 

「た、多分」

 

「勇者をサポートするペット的な何か……?私には知らされてない……」

 

俺は安芸先生の今の言葉を聞き逃さなかった。

 

「え?何だって?……まさか先生、知らないから俺に説明を擦り付けて……」

 

「ルールは簡単。目の前にある装置からボールが飛んでくるので、三ノ輪さんをここから上の道のバスまでボールから守るだけ。鷲尾さんはその位置で固定。佐藤さんは三ノ輪さんの前、乃木さんは後方を」

 

図星か。にしても俺が前とは予想外だった。

 

「頼むぞ!佐藤!園子!」

 

「任せて~!」

 

「……了解」

 

要するに眼中のボール斬って進めばいいだろう

 

こう思っていた自分がバカだった……

 



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ナイスマッチな四人

勇者ってのはそこまでしてこの世界を守りたいのか?
何故?
価値はあるのか?
奴らは何度でも襲い掛かってくる。終わりは無い。
それと、これ以上の技術の進歩はやめた方がいい。ただでさえアレがあるんだ。


技術は人を狂わせる


俺はゲームメーカーだ。あらゆる状況を鑑みて、最上の戦術を考える。すべては計画通りだ。


訓練が始まった。目標のバスまで銀を護衛する。

こういえば簡単に思えるが、飛んでくるボールがかなり厄介だ。避けるなら容易いが今回は護衛対象がいる。

 

前方の俺がボールを斬る。俺の武器が届かない方向・高さから飛んできたものは後方の園子が対処する。

 

「あと少し……」

 

1回目にしてはかなり順調だ。この調子なら……

 

「いてっ!」

 

後ろから銀の声が聞こえる。ボールに当たってしまったか。

 

「……すまない」

 

「銀!ごめんなさい!」

 

「もう一回!ゴールできるまでやるわよ!」

 

二分休んで二回目。戦いでは一秒も休めないので二分がとても長く感じた。

 

フォーメーションは変わらないが園子の提案で役割が変わった。園子が銀の防衛、俺がボールが射出されている機械の数を減らすというもの。機械に攻撃を当てるとボールが射出されなくなる。……壊しているわけではない多分。

 

ボールの飛び方は真っすぐこちらに向かってくるものと放物線を描いて飛んでくるもの。俺は前者を、園子は複数の刃先を操れる槍の特性を生かし後者を対処する。

 

「佐藤!横に避けて!」

 

「ああ!」

 

この距離ならバスまで届く。銀ならやってくれるはずだ。

 

「よーし!行くぞ~! ってあれ? とっとっと……」

 

バスのところまで飛ぼうとした銀だったが、バランスを崩し転倒しかける。そこに……

 

「あうっ!」

 

死角からのボールに当たってしまった。

 

 

 

 

 

今日の訓練は終わった。愚問だが、合宿というのは訓練だけ行うものではない。まずは食事。

 

「~ってことがあったんだよ」

 

「ミノさんらしいね~」

 

「……」

 

さすが大赦の用意した合宿。食事もうまい。

 

「……」

 

やってしまった。気まずい。ほかの三人より先に完食してしまった。俺はさっきから相手からふられた話題に「そーだねー」「いいと思う」と軽く流している。

 

「おっ、佐藤さんちの太郎は食べんの早いね~!」

 

「久しぶりの和食だったからな……」

 

「ふ~ん……」

 

須美の目が光ったような気がしたけど気にしない。

 

 

――――――――――――

 

翌日

 

軽く授業を受けた後訓練が再開された。

 

銀の走るスピードが若干上がっている。慣れであろうか。かくいう俺も武器の刀を片手で扱えるようになった。

空いている左手で飛んでくるボールを殴って軌道を逸らしているがボールのスピードもあってかなかなか痛い。

 

 

俺は左から飛んでくるボールを退けるため、左腰の鞘を使った。当たった時の振動が慣れない。

 

須美も矢を撃つスピードが上がっている。

 

 

「後は任せて!」

 

銀が大きくジャンプしバスを破壊する。その後着地した彼女の顔はとても清々しいものだった。

 

 

 

 

「やったな!」

 

「ああ!」

 

俺と銀がハイタッチする。

 

 

「あの二人、前から思ってたけど仲良しね……」

 

「私も~」

 

 

 

 

 

銀と喜びを分かち合っていると、園子が近づいてくる。

 

「さっとんもすごかったね~」

 

「そうか……? 園子もありがとな」

 

 

 

「えーっと……あの……その…………」

 

「ほれほれ~わっしーも構ってほしいみたいだよ~?」

 

「わ、私は……」

 

「そうか。サポートありがとう。これからもよろしくな」

 

こういった後園子が俺の左手を持って須美の頭へもっていく。

 

「わっしーはこうされるの好きなんだよ~」

 

「別にそんな事は……」

 

ここでいうのも何だが園子以外の女性、いや人を撫でたのは今が初めてだ。女性は髪を触られることを体のそれより嫌うって聞いたんだが……?

 

「さっとんは考えが下向きなんだね~」

 

……心読まれてるとかそういう場合じゃない。確かにそうだ。俺が考えるような人は勇者に選ばれるはずが無い。親にもよく言われたものだ

 

 

「悪かった。もう俺たちは友達……だもんな」

 

自分ができる限りの笑顔をしてみる。

 

「佐藤の口からそんな言葉が出てくるとは……あたしは嬉しいよ」

 

「これからは前向きに頑張ろうね~、さっとん~」

 

「こ、こちらこそ、仲良くしてください!…………ところで」

 

「ん?」

 

「あなたの家庭ってちゃんとした和食が少ないんですか?」

 

「須美、お前まさか……」

 

「こうなったわっしーは誰にも止められないよ~」

 

二人が何かを察したようだ。

 

「近日中、お邪魔しますね」

 

え?

 

 

――――――――――――

 

その夜、俺たちは温泉に入ることになった。もちろん男女別である。

 

隣の女風呂ではにぎやかな声が聞こえる。

と、その時、俺のマナーモードの携帯が振動を始める。

 

(知らない番号だ)

 

時間もまだあるので一応出ることに。

 

「はい、佐藤です……」

 

『太郎君?葛城巧だ』

 

「葛城さん?」

 

『お父さんからは精霊について聞いてる?』

 

「はい」

 

『アップデートの準備が完了した。三ノ輪銀ちゃんのものを優先してこちらへ持ってきてくれ』

 

「なぜ銀を?」

 

『神託さ。その子、かなり取り回しの悪い近接武器使ってるでしょ?』

 

本人は軽そうに振り回しているがあれはれっきとした斧である。しかも二丁。

 

『このままだとあの子は二度と帰ってこれなくなる。精霊の実装が早まったのはこれのせいだ』

 

「それってどういう……」

 

『勇者服は装着者の防御・治癒力を上げる。でも風穴を開けられたとしたら? さっきも言ったとおり、神託で近いうちに蠍座のバーテックスが攻めてくることが確定した』

 

「確定?どうして言い切れるんですか?」

 

『今までサソリの尻尾のようなものがついたものとの遭遇は?』

 

「ありません。銀たちも」

 

『やっぱりね。それともう一つ』

 

「……」

 

『バーテックスは12"体"じゃない。12"種類"だ』

 

「え?」

 

『……ともかく、誰も死なせたくないなら、君が前に出るしかない。危険なのは承知しているだろう。でも――』

 

「わかってますよ。じゃあ、この辺で」

 

『そうだね。おやすみなさい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………………ハザードレベル2.2……? 下がっている……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この後大した問題もなく合宿は終わった。

 

しかしあの人の言葉が気にかかる。

 

 

 

 



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あなたに同意

今日は学生も社会人も休みの日である。

といっても俺は正確には学生ではないので休もうと思えばいつでも休める。

しかし、そうした場合夏凜が家に乗り込んで(親の承諾済)きて自分を連行する。

 

――――――

~大赦~

 

「あら?太郎じゃない。今日は休んでいい日よ?」

 

「ああ、休むさ」

 

「そこは『せっかくここまで来たから勉強でもしますかー』って言ってほしかった……」

 

「そんなことより、これ」

 

俺は乾燥剤が入った煮干し二日分(二袋)を渡す。

 

「ま、毎度毎度悪いわね……」

 

これは俺なりの彼女への感謝である。当時ぐーたらしていた自分をここへ連行して鍛錬をさせた。夏凜と関わっていなければ今も俺はぐーたら人間だっただろう。

 

そして彼女の煮干し好きは大赦内でもかなり有名である。……サプリ服用者であることも。

 

お前その年からサプリとか寂しくないの?もっとおいしいもの食ってもいいんじゃね?

と聞いても『贅沢してる場合じゃない』とのこと。

 

夏凜が一番接している年の近い男として彼女の兄である春信さんとも会話する機会があった。

彼から夏凜がこうなった自分なりの考えを聞き、それからというもの、俺は彼女の誕生日にちょっと値の張る料理等を渡している。

 

最初の頃は、『私は忙しいの。それを食べる時間は無い』と断られたが、退かずに

 

「といってもこれ傷みやすいんだよなー。俺腹の調子悪いから食えないわー」

 

と言ったら

 

「…………しょうがないわね!全く……人に何かあげるときは断られることも想定しておきなさいよね!」

 

と、貰ってくれた。

 

……日記かな? 話を戻そう。

 

 

「じゃ、頑張って」

 

「もう行っちゃうの?」

 

「ああ」

 

「……昔のぐーたらが嘘みたいね。誰が矯正したのかしら」

 

「お前だよお前」

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

やることを終えた佐藤が大赦の施設から出てくる。

そしてその後ろには二つの影があった。

 

 

須美SIDE

 

 

「こんなところまで来てるのね」

 

「ねぇわっしー、わっしーは何がやりたいの~?」

 

「見ての通り尾行よ、尾行。ここまでついてきたそのっちも一緒よ」

 

「でもなんでさっとんを尾行するの~?」

 

「あの人は年齢的に中学生。でも学校に行ってる痕跡は無いからよ」

 

「?」

 

「そのっちと合流する前、家にお邪魔させてもらったのよ。いいご両親だったわ」

 

この時冷蔵庫の食材を和食関連のものに入れ替えたのは内緒。

 

「へぇ~」

 

「静かに。対象が動き出したわ」

 

佐藤さんがタクシーに乗る姿が見える。私たちはそのタクシーが出発した後、自分たちが乗ってきたそのっちの手配した車に乗る。

 

―――――――――――

 

「ここがあの男のハウスね」※二回目

 

私たちは家の前に到着した。

 

「でもここからどうするの?わっし~。ピンポンダッシュ?」

 

「そんな恐ろしいことはダメ!……これよ」

 

「なにそれ~」

 

「潜望鏡よ。壁に隠れながら壁の向こうを視認したりできる道具」

 

さっそく覗いてみると、彼が寝ているのが見える。まだ午前なのに……

 

「うへへ~。窓がガラ空きだぜ~!」

 

「和室……いい趣味ね。そして換気を行っているのね。流石」

 

でも肝心の勉強道具は見つからない。ほかの部屋にあるのか元々ないのか……

 

 

 

 

「なーにやってんのよアンタら」

 

 

 

「「……え?」」

 

観察に夢中で背後の存在に気づけなかった。無念

 

 

――――――――――

 

「なるほど。そういうことね」

 

背後の存在こと三好夏凜さんは佐藤さんの知り合いらしい。勉強も大赦で行っていると教えてくれた。

 

「それで、三好さんはどのようなご用事でここへ?」

 

「煮干しのお礼をね……いつも貰ってばっかだから」

 

「お礼を直接言うなんて、にぼしさんは偉いね~」

 

「三好ね! み・よ・し! …………偉いも何も、そういう風に育てられたからね……

 

それより、あいつに用があるんでしょ?行くわよ!」

 

「行くって、ちょっと待っ……」

 

 

「どーん!入るわよー!」

 

三好さんが思い切り扉を開ける。

 

 

 

佐藤SIDE

 

部屋で気持ちよく寝ているといきなりしたから音がした。

 

「佐藤!いるなら出てきなさい!」

 

え?あいつ?あいつなの? ……きっと寝ぼけてるんだ。そうに違いない。もう一回寝よう

 

「佐藤!」

 

「……」

 

「佐藤さん?」

 

……あれ?

 

「さっとん~」

 

……ん?

 

「……」

 

なんであの二人が俺の住所を?と思っていると突然部屋の入口の戸が開く。

 

「客よ」

 

「あ、はい……」

 

「それと、ありがとね。いつも……」

 

「にぼしさんはね、さっとんにお礼を言いにここまで来たんだよ~」

 

「に、にぼしさんって言うな!」

 

突っ込むとこはそこなのか……

 

「とにかく、私はここまでよ。帰りは自分で……ん?」

 

帰ろうと背を向けた夏凜が二人のほうを振り向いて固まる。

 

「アンタたち、名前……」

 

「名前~?私は乃木園子だよ~」

 

「鷲尾須美です」

 

「乃木……鷲尾……!?」

 

なんてこった!とでも言ってそうな顔をして固まる。

 

「……」

 

にしても固まりすぎじゃないか?軽くつっついてみると

 

「これは……」

 

固まっていたのはこいつだけじゃなかったようだ。

 

――――――――――

 

「ビジュアル系のルックスしてんな」

 

四足のバーテックスを見て銀がつぶやく。

バーテックスは十二星座を模しているらしいが、どれがどれだか正直わからない。

 

「まずは私が!」

 

須美が先手を打とうとしたが、バーテックスの起こした地震で姿勢が崩れ、射撃ができなかった。

 

(次こそ……次こそ……!)

 

心なしか焦っているように見える。

 

「落ち着けって須美」

 

「一人で抱え込むもんじゃねぇぞ」

 

「私たちと一緒に、だよ」

 

「みんな……」

 

 

ここで俺は葛城さんの言葉を思い出す。みんなを死なせたくないなら俺が前に出るしかない……か。

 

 

「銀、お前の武器を貸してくれ」

 

「えっ?」

 

「俺のと交換だ。お前は下がってろ」

 

俺だって考えはある。

すると、バーテックスが上空に飛び上がり、何かを仕掛けてくる。

 

俺は自分の武器を捨て、銀の斧二丁を取り上げる。

 

そして素早く三人から距離を取り、飛び上がったバーテックスの真下につく。

 

 

「何考えてんだよ!」

 

「1分だ!1分の間に蹴りをつけろ!」

 

バーテックスが四本の足の先を尖らせ、ドリルのように迫る。

俺は二丁の斧でそれを受け止める。

 

 

「まずいぞ!このままじゃ……」

 

「……やりましょう」

 

「須美!」

 

「今しかない!」

 

「……だな。園子、どうすればいい?」

 

 

銀SIDE

 

園子が現状を理解し案を出すのが早い。早速案を出してくれた。

 

 

 

「作戦開始~!」

 

まず園子の槍の刃先で階段を作り、須美がバーテックスの上部へ攻撃。

そのあとあたしが佐藤の武器を自分の体の前で防御するように構え、それを踏み台にして園子が突撃というもの。

 

 

こちらの準備は万全。佐藤、もうちょい踏ん張ってくれよ……

 

 

 

 

 

佐藤SIDE

 

これが自殺行為なのはわかってる。それにあいつらはやってくれるはず……

 

早速やってくれたか。回転が遅くなってきている。

 

さらに紫色の閃光がバーテックスを貫き、回転が止まる。

 

その隙をつき俺はバーテックスの下から退避。

 

「やってくれたじゃねぇか。まずはお前から血祭りにあげてやるぜェェ!!」

 

こいつらには血が無いとかそういう細かいことは無しとして、二丁の斧を振り回しバーテックスを切り刻む。初めて使う武器にしては中々だと思う。

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

戦いが終わり、帰宅する。

途中三人に、

 

「何か相談したいことは無いか?」

 

「お悩み解決するよ~」

 

「力になれるようなことがあれば……!」

 

と言われた。今のとこストレスは無い。バーテックス斬ってたときも笑ったし。

 

 

 

 

「突然消えたと思ったら……。お疲れ様」

 

「まぁな。それより夏凜」

 

「な、なによ」

 

「笑顔になった後に『お前悩みとかない?』とか聞かれるのどう思う?」

 

「どうって……どんな笑顔したの?」

 

「こんなの」

 

あの時の顔をできるだけ再現する。

 

「ヒィ……!」

 

「おま、人が笑ってるのにヒィとは何だヒィとは!」

 

「あの……そのー、私は味方だからね?」

 

「お、おう。ありがとう……」

 

何だ?どいつもこいつも。

 

「あっ!佐藤からも言っておいて!」

 

「……なにを」

 

「ほら、あの二人に私、失礼な態度を……」

 

「あいつらなら大丈夫だよ。じゃあな。気をつけて帰れよ」

 

帰れよと言ったはいいものの、もう夕方だ。夏凜が帰るころには日が完全に沈んでいるだろう。

 

と、その時、家の中から父親が出てくる

 

 

「太郎!こんな夕方に一人で友達を帰すとかお前は鬼か!」

 

えぇ……

 

「じゃあどうしろと」

 

「……佐藤、今夜お前はリビングで寝ろ」

 

「「は?」」

 

結局、俺の部屋で夏凜が、俺はリビングで夜を凌いだ。

 

後日、春信さんに羨望のまなざしで見られたのは言うまでもない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハザードレベル3.0…………! ついに覚醒したか……!』

 




今年中には一章を完結させます。



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淡白

バーテックスに勝つには●●を使うほかない。しかしそれには代償が付きまとう。
神樹のことを●●したいと思うこともあった。
犠牲が無ければ力は手に入らないのか?
俺は認めない。
そのためにも PROJECT●●●●●を完成させる。
例え俺が俺でなくなったとしても


葛城巧




あの三人は今日、学校でオリエンテーションを行っているらしい。

 

俺には『しばらく休暇を取るように』とメッセージが来た。

 

大赦のほうでは現在、精霊実装の準備が完了している。しかしこれを実装するにはいったんあいつらの端末をここへ預けなければならない。もちろん俺も。

 

 

「……」

 

そして俺は今大赦の技術開発部にいる。将来ここで働くことが決まっているため何をやっているのか学ぶ必要がある。……が

 

「葛城さん……」

 

「ん?」

 

俺はさっきから宙に浮いている白い牛のようなものと丸っこい烏みたいのと赤い武士みたいなのと卵っぽいのを指さす。

 

「これは……?」

 

「精霊だよ」

 

「これが?」

 

「そう」

 

名前もちゃんとあるらしく、牛っぽいのは"牛鬼"、烏っぽいのは"烏天狗"、武士っぽいのは"義輝"、卵っぽいのは"青坊主"というらしい。

 

「太郎君の精霊は牛鬼だからね。今のうちに仲良くなっておくといいよ」

 

どうやら精霊は勇者の色に揃えてあるらしく、憶測ではあるが烏天狗は園子、義輝は銀、青坊主は須美だろう。

 

だとしたらパーソナルカラーがネイビーブルーの俺が白とピンクの精霊……?

 

「あの、何かおかしくないですか?いろいろ」

 

ビーフジャーキーをかじる牛鬼を見る。

 

「いやー、実は神樹様に精霊貰う時巫女が、『勇者は四人』って言っちゃったらしくてね。

それ信じてほんとに四体くれたんだって。………………ああそうだよ作り話だよ

 

あ、言い忘れてたけど、君の勇者システムは勇者システムの発展型として計画している

"PROJECT BUILD"

の試作型だよ。君のおかげでデータは九割集まった。ありがとうね」

 

俺の勇者システムが葛城さん製だってのは前に聞いたけど、こんなことになってたとは。

 

「……で、牛鬼はどうするんです?」

 

「牛鬼は本来次の世代の勇者の精霊。でもさっき言ったことがあって早くこちらに来てしまった。

 

だから、次の世代が戦いやすくなるよう、君が指導してほしい」

 

「指導?」

 

「ああ。こいつは中々くせ者で……あっ!」

 

「ん?」

 

葛城さんが珍しく驚愕の表情をしている。

そこへ自分も目を移すと

 

「外道メ」

 

義輝の頭に牛鬼が噛みついている。それと……

 

「今、喋りました?」

 

「こいつは驚いた。すごいね」

 

 

―――――――――――――

 

 

「……で、これが精霊?」

 

「ああ、陰に隠れて煮干し食ってるお前ぐらいかわいいよな」

 

「なっ!?なんでそれを……」

 

「まあまあ」

 

「まあまあじゃない!」

 

「そうカッカするなよ。次期勇者有力候補さん」

 

「有力候補……。任せなさい!私が勇者になった暁には、アンタ以上に活躍して見せるわ!だから安心して引退しなさい!」

 

「お、おう」

 

正直不安である

 

 




今回はアニメ三話分の話でした。
主人公が小学生ではないので三人との絡みは少なかったです。……少ないどころか全くないやん!

次回例の四話やってくからお兄さん許して


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OVERFLOW

「で、大丈夫なの?」

 

「何が」

 

大赦内の訓練所の床に転がっている牛鬼をつっついている夏凜から疑問が飛んでくる。

 

「ほかの勇者についてよ。ろくに会ってないみたいだけど……」

 

「あいつら小学生だし……」

 

「休みの日とか」

 

「そういう日って俺抜きの方が楽しいかなーって」

 

「……あんた、いつも心配してるじゃない。『あいつらが変な奴に絡まれたらどうしよう』って。あんたが守ってやりなさい。勇者なんでしょ?」

 

「ごめんな。まだ下向きの考えが抜けてないみたいだ」

 

「焦る必要はないわ。誰に何といわれようと、自分を変えられるのは自分だけ」

 

「…………」

 

「ど、どうしたのよ黙り込んで」

 

「ありがとな。いつもいつも。助けられっぱなしで……

 

お前に煮干しをあげることでしか感謝の意を表せない……」

 

「……あのね、私はにぼし以外も食べれるわよ?…………あの時の料理みたいに手作りだったらなおさら……」

 

「あれそんなに良かったのか。また作ってやるよ」

 

「うぐっ!聞こえてたか……」

 

 

 

―――――――

 

 

「あたしらの町、あっちか?大橋やイネスは……流石に見えないか」

 

「ミノさんは本当にイネス大好きだね~」

 

「佐藤にも見せてやりたかったなー」

 

「今頃何やってんだろうね~」

 

銀とそのっちは相変わらずである。

銀は「友達ができた」

そのっちは「兄ができたみたい」

 

と言っているが私は彼に対する思いはそのっち寄りだと思う。

 

「わっしー?何考えてるの~?」

 

「そのっち前言ってたでしょ?佐藤さんの事、兄ができたみたいだって」

 

「うんうん。年齢的に考えたらそうなるよね~」

 

「え?」

 

「私、心配なんだ~」

 

「……うん?」

 

「さっとんに変な虫がついてないかなーって」

 

「……」

 

 

「確かに!変な虫がついてたら怖いよな!」

 

「だよね~」

 

 

銀は"変な虫"の意味をわかっていない様子。そのっちもわかってないよね?そういう言葉知らないよね?

きっと私の考えすぎだ

こう落ち着かせる

 

「そ、そのっち?佐藤さんは大丈夫よ。きっと……」

 

「ハチとかに刺されたら痛そうだもんね~」

 

「園子の家かなりデカいけどそういう対策はとってるの?」

 

あ、ほんとに虫の話だったのね……

 

―――――――――

 

もうすっかり日は暮れ、俺は帰る支度を整えていた。

 

「太郎?携帯なってるわよ?」

 

俺の携帯から音が鳴っている。しかし様子が変だ。

画面には"樹海化警報"と表示され電源を切ることができなくなていた。

 

「太郎?」

 

「俺はまだ帰れないみたいだ」

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

「だんだんこの景色にも慣れてきたな」

 

「気を付けて銀。そういうときが―――」

 

「一番危ない、でしょ?大丈夫!あたしの服は接近戦用に丈夫にできてるから!」

 

この戦いを切り抜ければ三人には俺と同じ精霊が実装されるはず。

 

「あれ?佐藤ってそんな服だったっけ?」

 

「そんなに違うか?」

 

俺の服は色こそ変わっていなかったが、全体的に強くなったという感じが出ている。それと、左腕の甲に何やらゲージのようなものがあった。

 

 

「サソリ……あいつは、俺がやる」

 

俺は視認した二体のバーテックスのうち尻尾のあるほうへ駆ける。あれが葛城さんが言ってた蠍座のバーテックスだろう。

 

 

「じゃああたしらはもう片方だ!」

 

 

俺はサソリまでたどり着くと抜刀し逆手持ちした刀を突き刺す。

バーテックスはそれに抵抗して尻尾を振り回す。

 

 

それの直撃を食らってしまい、地面に叩きつけられてしまう。

しかし、たたきつけられた時の衝撃がほとんどなく、体にも傷は少なかった

どうやらバリアが張られているようだ

 

「これが精霊の力……」

 

こうつぶやいている間にもサソリは尻尾の先端の針で刺してくる。

高く飛び上がり、上空から拳による一撃をお見舞いする。

 

「……慣れないことはやるもんじゃねぇな」

 

パンチと同時にサソリの頭に着地したので刺さっている刀を回収し一度地面に降りる。

 

 

「佐藤!上!」

 

「あ?」

 

銀が上空を指さしている。

何だと思った次の瞬間、大量の針のようなものが降ってくる。

 

「ちっ!」

 

まずは目の前のサソリを何とかしなければ。

刀でサソリの尻尾を切断、顔のようなところへ左腕でパンチをお見舞いする。

 

「銀!そっちは大丈夫か!」

 

俺は精霊の張るバリアのおかげで大丈夫だったが、あっちはそれが実装されていない。

 

「ああ!大丈夫!それよりも!」

 

「三体目……か」

 

隠れていた三体目が姿を現す。

さっきの針はあいつの仕業か

 

 

「三人とも下がってろ。分が悪い」

 

「何言ってんだよ! あたしらは―――」

 

正常な判断ができていなかった俺は銀の肩を思い切りつかむ

 

「さっきも見ただろ。精霊のバリアが無いお前らが突っ込んでみろ。死ぬぞ」

 

「……」

 

「俺は大丈夫だって。またな」

 

 

――――――

 

 

「……」

 

あれからどれだけ時間が経ったかわからない。

わかっているのは二つ。

 

一つは三体のバーテックスの撃退に成功、三人は無事だったこと

 

もう一つは、戦いの途中から服に変化、そして背部から巨大な腕が現れ、これを用いた格闘戦を行っていたこと。

力も増幅していた。

 

こんなこと、大赦からは伝えられていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「通常時が3.0、オーバーフロー時が3.8……

 

満開には二回まで代償がないよう細工はしておいた。俺にできることはここまでか…………」

 




わすゆ編は後一話で〆ます

この話だけはどう考えてもこうなってしまいました。雑ですみません。


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あなたに微笑む

十年前発見されたガスには人の身体能力向上や死んだ部位の蘇生が可能である。
実際、俺がそうだ。●●で失われた体の機能が回復している。
ただ、リスクが大きすぎる。
体の弱いものがこのガスを注入されると怪物になってしまう。

そしてこれの元凶である●●●●ボックス。
これの出土は――――――





あの戦いの後、三人には精霊が実装された。それに伴い、武器の強化・変更もあったらしい。

 

俺がいつものように大赦の技術開発部に行くと、そこはいつも以上に殺風景であった。

誰もいなかった。

そして、

 

『君たち勇者には"満開"と"オーバーフロー"が精霊とともに実装された。

このことは俺も知らされていない。何か知られたくないことがあるのだろう。

満開はその名の通り花が咲き誇った状態の事、オーバーフローは「容器から液体があふれること」という意味。"限界突破"という解釈をしてくれ。

先日の戦いで君に起きた変化はこれだ。オーバーフローという名前は俺がつけた名。花の意匠のない君の満開を表す言葉だ――――

 

「続きがある。前の文よりも新しい……」

 

 

『PROJECTBUILDが完成した。君のおかげだよ。ありがとう

君の端末からデータ収集機能を削除しておいた。

これで君は本当の意味で勇者だ。意匠となっている花は"ヤマザクラ"

花言葉は「高尚」「あなたに微笑む」

君にはこういう人間になってほしくてね。

 

最後に、佐藤太郎

君にはこのことを伝えておかなければいけない。

満開には"散華"と呼ばれる代償が存在する

 

 

「なんだよ、それ……」

 

 

満開が解除された後、体の機能が一つ奪われる。いや、供物にされるって言い方が正しい。

ただ、最初の二回までは大丈夫だ。二回までは……

 

このことを三人に伝えて一人で戦うか、秘密にして全員で戦うか。それは君に任せるよ。

ここまで付き合ってくれてありがとう。今を大切にね。

 

葛城巧

 

 

 

―――――――また、"俺"に会えるといいね

 

 

 

 

「……」

 

言葉が出なかった。まるで、もう二度と会えないと言っているみたいじゃないか

 

 

 

「太郎?」

 

散華、体の機能を供物に……

 

「太郎!」

 

「!…………夏凜」

 

「どうしたのよ」

 

「ちょっとな……そうだ、鍛錬しないか?二刀流で」

 

「いいわよ!受けて立つ!」

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「ハッ……ハハハ…………」

 

自分からふっかけた勝負だったが、負けてしまった。

 

「利き手とその反対の手の握力の差が大きすぎるわ。もうすこし落ち着いて」

 

「そっか。昔っから上手だよな。二刀流」

 

「そうかしら。だったら勇者になっても私は二刀流を使い続けるわ!」

 

「勇者……か。お前は、お前は、勇者になることで何かを失くしてしまうことがあったらどうする?」

 

「愚問ね。私は……アンタたちがここまで守ってきてくれたこの国を守るため勇者になる。……その言い方だと、まるで勇者に代償があるみたいじゃない」

 

「………………何で分かった?」

 

「アンタと出会って三年。顔で分かる」

 

「マジか。……といっても、勇者になるだけでは何も失わないさ」

 

「満開ね。大赦からは単なる強化・レベルアップとしか教えられてないわ」

 

「本当のことを言うとビビッて戦わなくなるかもしれない。こう考えてるのかもな」

 

「確かに、言ったら怖いと思って戦わなくなる勇者が出てくるかもしれない。

でも私は―――」

 

「私は違う。だろ?」

 

「よくわかってるじゃない。

 

……頑張ってね。アンタの、太郎の遺志は、私が継ぐから」

 

「……勝手に殺さないでくれる?」

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

「かぼちゃだかぼちゃだー!外国のお祭りだー!」

 

「我が国の懐が広いからこそなせる業よね」

 

「そんな固いことは言わずに、楽しもうぜ!」

 

今日はハロウィン。町の各所に出店やかぼちゃが置かれている。

俺はそこに来ている三人に声をかける

 

「よ、よう。元気にしてるか?」

 

「さっとん!」

 

「佐藤!そっちこそ元気か?」

 

「佐藤さん……お体のほうは大丈夫ですか?」

 

そうだった。あの戦い以降、俺はほとんどこいつらに顔出してなかったけな。

 

「俺は大丈夫だよ。にしてもハロウィンか。時間がたつのは早いな」

 

「今年は色々忙しかったからなー。来年こそは静かに暮らしていきたいよ」

 

「わっ!勝手に出てきちゃダメだよセバスチャン!」

 

園子が烏天狗をしまおうとする

 

「セバスチャン?」

 

「ミドルネームつけてみたんよ~」

 

セバスチャンは主の言うことを聞かずにかぼちゃを被って浮遊している。

 

と、その時、セバスチャンが遠くの親子に見つかってしまう。

 

「ママー!かぼちゃがお空飛んでるよ!」

 

「あら!」

 

 

「ど、どうする……?」

 

「あ、α波で浮かんでいます……」

 

須美が機転を利かせ親子が立ち去るまでずっと手でαをつくっていた。

 

「わっしーすげー!」

 

「わっしーすげー!じゃない!気をつけてよね!」

 

 

「ところで佐藤~、……散華って本当?」

 

「は?お前なんで」

 

銀が園子と須美から離れ俺にこっそり話す。

 

「夏凜から教えてもらったんだよ。須美と園子もな」

 

「……二回までだ。いいな」

 

「わかってるって。……でも」

 

「なんだ?」

 

「園子は、事によってはそれ以上使っちゃうかも」

 

「……代償を受けるのは俺だけで十分だ」

 

「それだよ。『さっとん一人に背負わせたくない』って」

 

「何だよそれ。一緒に背負えば怖くないってか?これは遊びじゃ――」

 

「初めてできた異性の友達に、全部背負わせたくないんだよ」

 

確かに園子も満開をすれば、一人当たりの散華は少なくなる。でもそれは何の解決にもなっていない。

 

 

――――端末に『樹海化警報』の文字が現れアラームが鳴る。

 

 

「全く、頑固だな。俺が一人で背負おうって言ってんのに」

 

「頑固なさっとんに言われたくないかな~」

 

 

 

世界が樹海と化し、俺たちは勇者になる。

 

アップデートに当たって、三人の装束が変化していたり、須美は狙撃銃、園子はリーチが長くできる槍、銀は取り回し重視の中型の斧で握り手の外側にはグリップガードがついている。

 

 

「まーた三体か」

 

「油断は禁物よ。銀」

 

「わかってますよって」

 

バーテックスが接近したと同時に三回。

須美が狙撃でバーテックスの動きを一時的に止め、

 

「てやーっ!!」

 

園子が槍でそのバーテックスを仕留める。

 

「やるじゃねぇか隊長!俺も負けてられねぇな!」

 

俺は電撃を放とうとしていたヤツに接近し、拳を叩き込む。

 

「あぁ……?効いてんのか?これ」

 

自分がまだ格闘戦に慣れていないせいで手ごたえがほとんどない。

 

 

「佐藤!いったん退いて!ここはあたしが!」

 

まずは銀が1回目……か

 

 

「満開!」

 

 

これが銀の満開。背部から四つの刀を持った腕が現れる。これは銀の腕の動きに追従しているようだ

 

 

「おらおらおらー!!」

 

あっという間に一体を倒してしまう。と同時に満開が解除され、地面に着地する

 

「あと一体……」

 

すると、最後の一体が火球をこちらに雨のように降らせてくる

 

 

「これは……かなり厄介ね……」

 

最後の一体の後ろからは大量に白い小さなバーテックスが迫る。

 

「ここはタフなこの三ノ輪銀が相手をしてやるよ!」

 

「強化されたといっても一人では流石に対処しきれないでしょ?後ろは任せて」

 

「わっしー、ミノさん、ここは頼むね。さっとん!行くよ~!」

 

「了解!」

 

 

「「満開!!」」

 

 

俺と園子は満開をし、最後の一体との距離を詰める。

 

この一体はかなり上を浮遊しているため、飛行能力を持つ園子の満開時に現れる箱舟に乗せてもらう。

 

ある程度まで接近すると俺は箱舟から飛び降り、バーテックスの背後へ回る。

 

試しに殴ってみるが、あまり効いていない。力以前の問題だとすぐに悟った。

 

前の戦いで使ったせいで学習でもされたか……?

 

「だったら……」

 

手を手刀の形にしてみると大きい方の腕も手刀になる。

 

これでバーテックスの胴体を突き、園子も箱舟のオールのような役割をしていた刃を正面から突きさす。

 

 

「終わった……か?」

 

その直後、俺たちの満開が解除される。俺は崖のような高い場所に着地。園子もそれに続こうとするが間に合わず、転落しかけるが腕をつかみそれを阻止した。

 

「ずいぶん高いね~」

 

「……つーか、バーテックスってここら辺から出てきてるよな」

 

「カチコミってやつをやるんだね!」

 

「そんな言葉いつ覚えたんだよ……園子は下がってろよ?俺が守ってやっから」

 

崖……というより壁だな。俺たちはこれの奥へ向かう。

 

「今のはプロポーズと受け取っていいのかな?でも……」

 

「……ああ」

 

「守るとかそういう状況じゃないよね……」

 

俺たちの前に広がっていたのは赤。どこを見ても溶岩のような赤。

 

それに奥にバーテックスがうじゃうじゃいるのがわかる。

 

……これが、葛城さんの言っていたこと

 

 

 

『バーテックスは12"体"じゃない。12"種類"だ』

 

 

 

「それによ、こっちにきてないか?」

 

さっき倒したものと同型のものを含め、たくさんのバーテックスがこちらを認識し向かってくる。

 

「これも人類の未来のため……か。怖いなら逃げていいんだぞ?後は俺がやる」

 

「いや~、こんな時にプロポーズされたもんだから緊張がどっか飛んじゃったよ~」

 

「それは…………そうだな。そういう受け取り方でいいよ」

 

園子は端末を取り出し、須美たちに連絡を取る。

 

「わっしー、ミノさん、私たち、行ってくるから」

 

『……そう。もう、そうするしかないのね……』

 

『園子!佐藤も一緒か!? こっちは片付いた!でも……』

 

「精神的に参ったか?」

 

『ごめん……』

 

「いいってことよ。装備はいくらでも強くできても、心には限界があるからな」

 

『そのっち、佐藤さん、絶対……帰ってきてね。約束』

 

「うん!約束!」

 

『あ、もし帰ってこなかったら佐藤のパソコンのデータ全部消すからな』

 

「おいおいおいおい待てや」

 

『またね。二人とも』

 

「またね~」

 

「またな」

 

 

 

 

「「満開!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――大橋の半壊という被害を出し、この戦いは終わった。

 

鷲尾須美は役目を終え、東郷美森として平穏な生活を取り戻した。

三ノ輪銀も同じく、役目を果たした。

 

 

一方、乃木園子は10回もの満開をしたことによる散華で四肢や心臓の機能が停止し、大赦に回収され祀られた。

 

 

前代未聞の勇者 佐藤太郎は

 

 

 

 

 

大赦が全力を挙げて捜索したが発見できず。

 

死亡と判断された

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~佐藤太郎は勇者である

 

 




何とかわすゆ編が終わりました。次回から主人公が桐生戦兎に変わります。


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二章 桐生戦兎は仮面ライダーである
第一話 エキセントリックな物理学者


―――10年前、徳島と高知の境にある洞窟から"パンドラボックス"が発見された。

 

その展覧会の最中、一人の男がこれに触れてしまい、周囲に光が放たれる。

 

その光を浴びたものは攻撃的になったほか、"スマッシュ"と呼ばれる怪人へと姿を変えた。

 

人間が持てる武器ではほとんど歯がたたない……

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん、部活のほうはどう?」

 

「バッチグーよ!アタシの女子力のおかげかも」

 

「それは無いと思うな」

 

「えー!」

 

 

「警察だ!動くな!」

 

 

「……お姉ちゃん、今」

 

「何かしら……」

 

 

「助けてくれぇー!!」

 

 

「いつもと外の様子がおかしいよ……」

 

 

――――しかし、対抗手段が一つだけ存在する

 

 

「なに……あれ…………」

 

「か、怪人ってやつ……?」

 

 

 

 

 

 

「何だこいつは……」

 

「逃げろ!殺されるぞ!!」

 

 

 

 

「――――――ちょっと待った」

 

「―――――――――」

 

「ハァ!」

 

 

〔READY GO!〕

〔VOLTEC BREAK!〕

 

 

――――二色の装甲を身に纏い、怪人と戦う謎の戦士。

 

 

「あれが、仮面……ライダー……」

 

 

―――――人はそれを"仮面ライダー"と呼んだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌日~

 

神世紀299年末

 

 

「うーん……慣れないな。やっぱ」

 

俺こと、天才物理学者の"桐生戦兎"の朝は早い。

 

「"あれ"、できてるかな…………おおっ!?」

 

先日採取した成分を基にした"フルボトル"が出来上がった!

 

「流石俺の発明……!最ッ高だ……」

 

俺は今、喫茶店nascita(ナシタ)の地下にある自室にいる。

螺旋階段をのぼり、1階の喫茶店へ顔を出す

 

「戦兎!」

 

「うぉっ」

 

今俺に声をかけたのはnascitaのマスター"石動惣一"。

倒れていた俺を助けてくれた恩人だ。

 

「昨日のアレ、できたのか?」

 

「どうよ!」

 

「ブラボー!!これは……ハリネズミか!

これで有機物系が……いくつだっけ」

 

「ラビット、ゴリラ、ライオンに海賊……そして今日のハリネズミ

計5つか」

 

「もうそんなだったか!……あ、 戦兎」

 

「うん?」

 

マスターは俺に紙の束を押し付ける。

 

「請求……書?なんの」

 

「ここの」

 

「はぁ!?」

 

「はぁじゃねぇよお前~!俺だってな?こんなの出したくて出してるわけじゃねーんだよ!厳しいの!今月!俺のバイト!」

 

「あ、そういえばあんた喫茶店全然売れないからその分バイトやってんのか。忘れてたわ」

 

「その言い方やめてくれない?てかお前も働けや!」

 

「日々仮め――」

 

「仮面ライダーとして活躍してるから、なんて通じないからな?」

 

「うっそ~ん……」

 

「あ、もうこんな時間じゃん。戦兎、いいか?佐藤太郎なんて名乗るんじゃねぇぞ?

混乱を招くからな」

 

「いっそ混乱したほうが面白―――」

 

「そういうのいいから!走れ!ラビットフルボトル振って走れ!」

 

フルボトルは振って中に入っている物質に刺激を与えれば与えるほど出力が上がる。どのボトルでどうなるか調べるのも、俺の趣味の一つ。

 

「――――と、お急ぎのあなたに」

 

俺は懐から自分のスマートフォンを出す。

 

「なにそれ、携帯?にしては後ろがごついような……

 

あ、あれか、初日から仮病使って休む気だな?」

 

「そうそう。あ、もしもし?風邪ひいたんで、今日は休みまーす。なわけねぇだろ」

 

先ほど出した携帯"ビルドフォン"の後ろの出っ張っているところにライオンフルボトルを挿す。

すると

 

 

〔BUILD change!〕

 

 

変形・肥大化してバイク"マシンビルダー"へと姿を変える。

 

「おおー」

 

「ヘルメットも出せちゃう!」

 

「おお~!」

 

「かなり頑丈!」

 

「おお~!!」

 

「ナンバープレートも付いてるから公道も安心!」

 

「おお~!!!」

 

「メーターの所の画面で地図見たり通信したり音楽も聴けちゃう!」

 

「すげー!!

やっぱお前は最高だよ戦兎!……物理学から逸脱してるけど

 

 

あ!お前!免許はどこだ!」

 

「ここ」

 

「FOOO!! 素晴らしい!」

 

「まあ?それほどでも?ありますけど~!なんつって!

 

さあ!俺の新たな職場へレッツ……」

 

「ゴーしないでね。ここ、お店の中だから」

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

~先端物質学研究所~

 

 

「君が、桐生戦兎か」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

「私は、"氷室幻徳"。所長だ。

…………ただ、気になることが一つ」

 

「何でしょう」

 

「君の経歴欄……『たぶん物理学者』としか書いていないんだが?

 

しかも字が汚い

 

「記憶喪失ってやつなんです。俺」

 

「ホントかよ……。だが、君の知識と頭脳は本物だ。あの難しい問題を全問正解だって?すごいじゃないか」

 

俺はここに来る前、マスターに無理やりテストをやらされた。一体何事かと思っていたが、このためだったんだな。

 

「そんな君には、パンドラボックスの解析班に配属してもらいたい」

 

「え!ほんとですか!」

 

「あ、ああ……。最近この班の人数が減ってきてね。その補充も兼ねて」

 

 

『ここで、臨時ニュースをお伝えいたします。

葛城巧さんを殺害した容疑で逮捕・収監されていた"万丈龍我"受刑者が刑務所から脱走しました』

 

 

「神樹様の道徳があっても、こんな犯罪って起こるもんなんですね」

 

……ん?葛城巧?

 

「万丈龍我……」

 

「所長、この犯罪者、葛城さんを殺したって今……」

 

「ああ。うちの優秀な研究員だった。その様子だと、君も彼を知っているようだが」

 

「……実は、父が葛城さんの同僚だったんです」

 

「なるほど。確かに彼は二足の草鞋を履いていたな」

 

俺はニュースの映像を見る。そこには、警備用ロボット ガーディアンが破壊されている様子が映っていた。

 

「人間業じゃない……」

 

「鋼鉄を殴ってるんだぞ?」

 

周りの人の言うとおりだ。これは人のなせる……ん?

 

「スマッシュの反応……?」

 

ビルドフォンに入っているアプリの一つに、スマッシュを探知できるものが入っている。

それに万丈が引っかかっていたのだ。

 

「戦兎、今日のところは帰っていい。明日から頑張ってくれ」

 

ちょうどいい。俺があいつを捕まえてやる

 



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第二話 ベストマッチになりそうな奴ら

ハナコトバ/勇者たちのララバイのCDが届きました。
MONACAの人が対になる様に作ったって言ってたけどまさにそんな感じでした。
でも、(BADエンドは)やだぁ……!やだぁ…!(人類全体から見てハッピーでも勇者部から見てBADも)いやだぁぁぁぁ!!


研究所から出た俺は万丈のもとへマシンビルダーで駆ける。

 

バイクに乗っている万丈の真後ろまで付くと、先日活躍した武器(はつめいひん) ドリルクラッシャーのガンモードを構え、万丈の進路にあったドラム缶の山を打ち抜く。

 

そのドラム缶にバイクがぶつかり、万丈は前へ吹き飛んでしまう。

 

 

「がぁ……!何だよ一体……!」

 

「あんたが万丈龍我か」

 

「誰だテメェ!」

 

「殺人犯のyouを捕獲しに来たんだよ。聞きたいこともある」

 

「俺は誰も殺してねぇ!これは罠だ!俺はハメられたんだ!」

 

「……脱獄なんてするヤツの言うことなんて、説得力ないんだよ」

 

「別に逃げたくて逃げたわけじゃねぇ!」

 

「だったら戻ればいいだろ」

 

「ダメだ!戻ったら……また"奴ら"に……!」

 

「奴ら……?」

 

「どうせ言っても信じねぇだろ!」

 

万丈がいきなり俺に殴りかかってくる。

とっさに腕で防いだがかなりの力だ。

 

「やるじゃねえか。元格闘家。でも、これはどうかな?」

 

俺はラビットフルボトルを手にし、シェイク。

 

「!?どこに消えやがった……」

 

「後ろだよ」

 

「なっ―――」

 

そのまま脇に蹴りをかます。

なるほど。このボトルには足が早くなるだけじゃなくて足技まで強くなるのか。兎らしい

 

「これでおあいこだ」

 

「何だよ、その力……。まさか、お前も人体実験を!?」

 

「人体実験……」

 

一つ思い当たる節がある。

棺桶のような箱に入れられ、何かを吸わされた記憶。

でも抵抗はできなかった。おそらく散華の影響……

 

「コウモリみたいなヤツはいたか?」

 

「コウモリ?」

 

「ああ。顔と胸の部分に金色のコウモリの意匠のある……」

 

「……俺も見た。ガスマスクの連中もたくさん」

 

「その話が本当なら、決まりだな」

 

「何が」

 

「俺とお前は、人体実験を―――」

 

その時、近くに止めてあった自動車が吹き飛ばされ、その後ろには

 

「―――――」

 

「スマッシュ!」

 

「スマッシュ? いいぜ、やってやるよ!」

 

「止せ!」

 

「フンッ!」

 

万丈が思い切りスマッシュへ殴りかるが、その体には傷一つつかない。

逆に万丈が拳にダメージを負ってしまう

 

「まだまだァ!!」

 

「――――」

 

「ぐあぁ!」

 

それでもなお抵抗する万丈に迫るスマッシュ。

これ以上は放って―――

 

「やるじゃねぇか。スマッシュとか言ったか?」

 

「万丈!後ろだ!」

 

「あぁ?―――クソッ!」

 

万丈の後ろに翼をもったスマッシュが現れる。

 

「二体なんて聞いてねぇぞ……」

 

「俺もだよ。でも、後は任せな」

 

 

俺は"ビルドドライバー"を腰に装着、さらにタンクフルボトルを右手、ラビットフルボトルを左手に持ち、

 

 

「さあ、実験を始めようか」

 

 

振ってトランジェルソリッドを活性化させ、ドライバーのスロットに挿す。

 

 

〔RABBIT!〕

〔TANK!〕

〔BESTMATCH!〕

 

そして右側にあるボルテックレバーを回すと自分を中心にスナップライドビルダーが出現。有機物側のボディーが前方、無機物側のが後方に形成され、

 

 

〔Are you ready?〕

 

 

「変身!」

 

二つのハーフボディーが組み合わさり、スーツが完成する。

 

 

〔鋼のムーンサルト!ラビットタンク!Yeah!〕

 

これが、兎と戦車の力を持った戦士、仮面ライダービルド。

 

 

「何なんだよ……」

 

「勝利の法則は決まった」

 

もはや俺のキメ台詞になった言葉を放ったと同時に左足でジャンプ。スマッシュとの距離を一気に詰める。

 

「ハァ!」

 

衝撃波により内部からダメージを入れられる左拳で殴り、

ドライバーのボトルを二本引き抜く。

 

「次はこいつだ」

 

 

〔HARINEZUMI!〕

〔GATLING!〕

〔Are you ready?〕

 

 

「ビルドアップ」

 

ベストマッチではない組み合わせである"トライアルフォーム(以下TF)"の一つ、ハリネズミガトリングに姿を変え、右拳のハリネズミで鳥型のスマッシュを叩き落す。

 

さらにグローブに火薬が仕込まれた左拳で追撃。

着地と同時にボルテックレバーを回転。

 

 

〔READY GO!〕

〔VOLTEC ATTACK!〕

 

必殺技とは少し違うTF専用の技、ボルテックアタック。

これで1体目は処理完了。

 

 

「これでフィニッシュだ」

 

〔ラビットタンク! YEAH!〕

 

〔READY GO!〕

 

スマッシュを挟み込むように両側から斜方投射のグラフが現れ、スマッシュを点xに拘束。

俺はラビットの跳躍力で勢いよく飛び上がり、グラフをなぞるように加速する。

 

〔VOLTEC FINISH! YEAH!〕

 

 

派手、という理由で中々使う機会のなかった必殺技だったが、使ってみた感想としては

 

 

エグい

 

 

敵を拘束してキックならエグイなんて言わなかった。しかし今やったこれは敵を拘束してかつ右足が敵に接触すると足裏の無限軌道でガリガリ削るというものだった。

 

学者の考えることって怖いね

 

 

「よしっ、成分も回収したし、そろそろ――――」

 

倒したスマッシュの成分をエンプティボトルで回収し、変身を解除する。

そしてバイクにまたがって気づく。

脱獄犯いるじゃねえか と。

 

「うぅ……」

 

「こ、ここは……?」

 

スマッシュにされていた二人が目を覚ました。

 

「おい!これはどういうことだ!」

 

「し、知らないよ……」

 

「ガスマスクの連中にされたことだよ!覚えてるだろ!」

 

「何の話だよ……」

 

「くそっ……!」

 

「……」

 

「なんで……!なんで、皆して俺のことを……!

俺はどうしようもねぇクズでバカだ……。でも、でも!

人殺しなんて絶対にしない!どうして誰も信じてくれねえんだよ!」

 

 

(……警察か)

 

今の騒ぎを聞きつけたのかパトカーのサイレンが聞こえる。

だからやりたくなかったんだ

 

それに、万丈の今の言葉、演技とは思えなかった。人体実験の件についても、

俺の記憶と合致(ベストマッチ)する。

 

 

「あ~、最ッ悪だ。今日という日を俺はきっと後悔する。

 

 

 

乗れよ」

 

「は?」

 

「だから、乗れって!」

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

「どうして俺を助けた」

 

「別に」

 

「え?」

 

「君は悪い人じゃなさそうだって思っただけさ」

 

「……開けっ広げな性格してんな、お前」

 

「お前のズボンのチャックほどじゃないよ」

 

「マジか!あっホントだ!」

 

「『俺は誰も殺してねぇ』のあたりから全開だったぞ?」

 

「だったら言えよ!」

 

「いや~、こういうのは気づくまでそっとしとくのが礼儀だと思って。まさかここまでバカだったとは

 

「あん?言いたいことがあったらはっきり大きく言えよ!」

 

バカだろお前

 

「んだとぉ!!」

 

「おいおいおい揺らすな揺らすな!」

 

こうして、俺の生活に脱獄犯が加わった。

面白くなりそうだ

 

 



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第三話 イノセントの脱獄犯

神世紀298年 ハロウィン

空白

神世紀299年末 天才物理学者爆誕

せんとくん「一年前まで戦ってたのは覚えてる」

…………改めて見ると全然記憶失ってねーじゃねーか!
あらすじのアレは誇張しすぎました。申し訳ありません。

戦兎が気にしているのは当時中学生だった自分の体をわずか一年足らずでどうやって大人にしたか、なぜ自分は学者レベルの頭脳を得たのか の二つです。



「戦兎、お前何しでかしたかわかってんの?」

 

「あいつも人体実験の被害者みたいなんだ」

 

「お前と一緒の?」

 

「そうみたいだ。……とりあえず、お前の話を聞きたい」

 

俺は自室をうろちょろする万丈に声をかける

 

「話って何」

 

「全部だ」

 

「……わかった。話そう。

 

俺が生まれたのは、香川の産婦人科だった――――」

 

「ちょっと待て!ちょっと待てぇい!」

 

「何しやがる!」

 

「そこから話す必要、ある?」

 

マスターが万丈の話を妨害する。

 

「全部って言われたから最初から話しただけだ」

 

「まぁ、さっきのは俺の言い方が悪かった。あの事件について教えてくれ」

 

「……八百長が発覚して、俺は格闘技界から追放された。そしてある時、『葛城巧の助手』の仕事を紹介され、そいつがいるであろうマンションの一室に行った。

 

いくらインターホンを押しても出てこない。それに鍵がかかってなかったからそのまま入った。

そしたら、葛城はすでに死んでてその後すぐに警察が押し寄せてきて捕まった」

 

「異議あり!」

 

「はいマスター」

 

「それ、ちょっと出来すぎてんじゃないのぉ?」

 

「だよな。そう思うよな!」

 

「……にしても戦兎、よくこいつを信用したな」

 

「今度は信じよう こう思っただけだよ」

 

「今度?俺たちは初対面だろ」

 

「まぁまぁ」

 

この話は置いといて。先日のボトルは……

 

「お~」

 

オレンジとグリーンの色をしたボトルが完成した。

 

「オレンジのは鷹っぽいな。こっちのは……何だ?」

 

「そういう時は、これでしょ」

 

ビルドドライバーを取り出す。

こいつは腰に巻かずにボトルを挿すとそのボトルがどんなボトルか判断するうえ、ベストマッチまで見つけてくれる優れもの。

 

 

〔SOJIKI!〕

 

「……」

 

「そ、掃除機ぃ?」

 

「スマッシュがどうしたらそんなもんになるんだよ……ん?」

 

 

―――――――――

 

龍我SIDE

 

 

俺の携帯が鳴っている。相手は……

 

「香澄!香澄なのか!?」

 

『万丈龍我か』

 

「誰だ!香澄はどこだ!」

 

電話に出たのは聞いたこともない男の声だった。

 

『女に会いたいか? いいだろう。

今から言う場所に来い』

 

「……」

 

 

「万丈、どうした?」

 

「……何でもねぇよ。外行ってくる」

 

「おい!」

 

 

――――――――

 

 

「ここか……?」

 

「ようやく来たな。万丈龍我」

 

「誰だテメェ!」

 

「ナイトローグ」

 

「香澄はどこだ!」

 

「せっかちだな。ここだ」

 

謎の男の言う場所に付くと、そこで待っていたのは"ナイトローグ"とかいうヤツと、スマッシュが一体。

 

「スマッシュ!?」

 

「ああ。君の女のな」

 

「――――」

 

スマッシュが何やら唸っている。その声はとても聞きなれたものだった。

 

「香澄……?本当に……」

 

「―――――」

 

「うぁあ!」

 

スマッシュが俺に火の玉を放ってくる。

 

「やめてくれ!香澄!」

 

足が動かない。本当に心を許せていた人が異形の怪物になって俺を殺そうとするなんて……

 

「―――!」

 

「――全く。そんなに死にたいか」

 

突如スマッシュに浴びせられる銃撃。その正体は、アイツだった。

 

 

―――――――――――

 

 

戦兎SIDE

 

 

外に出た万丈を追いかけるとそこには、スマッシュと俺の記憶に微かにある男の姿

 

 

「コウモリ男……」

 

「ナイトローグだ」

 

「どっちでもいいそんなもん!」

 

 

〔LION!〕

〔TANK!〕

 

〔Are you ready?〕

 

 

「変身!」

 

 

俺はビルド TF(ライオンタンク)に変身し、先制攻撃をする。

 

「俺の体に何をした!人体実験したんだろ!」

 

「モルモットなど、いちいち覚えていない。闇雲に選んだボトルで私に勝てると思うな」

 

「ふざけんなぁ!」

 

初めて実戦で使うボトルなだけあり、使い勝手が悪い。

 

すると、スマッシュが動けない万丈へ追撃を仕掛けようとし、とっさにナイトローグから離れ、スマッシュを蹴り飛ばす。

 

 

「やめろ!そいつは香澄なんだ!俺の……女なんだ!」

 

「倒して成分を抜き取れば元の姿に―――――」

 

 

「そんなことをしてみろ。女は消えてなくなるぞ」

 

 

「何?」

 

「ハザードレベル1。体の弱い人間はガスを注入された時点で死に至る。スマッシュの成分を抜き取れば、魂とともに肉体も消滅する。助かる道は無い」

 

「そんな……」

 

落胆する万丈に再度攻撃を仕掛けようとするスマッシュ。

しかし

 

「―――!!」

 

「どうなってやがる」

 

「どうして……自分に攻撃を……」

 

スマッシュは火の玉を無理やり自分に向かって放ち、火だるまになって転がり苦しむ

 

「……本当に戻せないのか?」

 

「仮面ライダー、お前の力でもこれはどうにもできない。さぁ、どうする」

 

ナイトローグはこう言い残し、霧に紛れ消えてしまった。

 

「…………少しでいい。元の姿に戻してやってくれ!頼む……!」

 

「ああ。やれるだけのことはやってみるさ」

 

 

〔RABBIT!〕

〔SOJIKI!〕

 

〔Are you ready?〕

 

 

「ビルドアップ!」

 

左腕が青緑色の掃除機になったラビットソウジキフォームでスマッシュとその周りの炎を吸引。それを竜巻にして頭上に待機させ、

 

 

〔GORILLA!〕

〔DIAMOND!〕

〔BESTMATCH!〕

 

〔Are you ready?〕

 

 

「ビルドアップ」

 

 

〔輝きのデストロイヤー!ゴリラモンド!Yeah!〕

 

 

〔READY GO!〕

〔VOLTEC FINISH! YEAH!〕

 

炎の竜巻をダイアモンドの力でダイヤの竜巻に変え、右拳でそれを殴り飛ばす。

 

スマッシュ本体と香澄さんが一時的に分離された。

ゴリラの右腕でスマッシュが香澄さんに戻るのを阻止する。

 

 

「万丈!俺にできることは、ここまでだ」

 

「香澄!」

 

「龍……我?」

 

「もういい!喋るな!」

 

「ごめんなさい。私……あなたを騙して……」

 

「鍋島って男に……頼まれたの。あなたを格闘家に復帰させてくれるって言うから……」

 

「……」

 

「私と出会わなければ、もっと幸せな人生があったはずなのに……ごめんね……」

 

「ふざけるな!これ以上の人生があってたまるかよ!俺は……お前に会えて……本当に幸せだった……!」

 

 

香澄さんの体が完全に消滅した。

スマッシュを投げ飛ばし、成分を回収。やはり、肉体は戻ってこなかった

 

 

「ぁ、あぁ…………」

 

「万丈?」

 

「……ありがとう。俺のわがまま聞いてくれて。でももういいんだ……」

 

「何がだよ!刑務所に戻ってもいいってか?そんなで香澄さんが喜ぶと思ってんのか!」

 

「……」

 

「このまま戻ったらお前は一生殺人犯のままだ!それでもいいのかよ!」

 

「……」

 

「…………はぁ。好きにしろ。あの人の思いを踏みにじらないよう生きるんだな」

 

「俺は……」

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

「で、結局ここに戻ってきたと」

 

「あのナイトローグとかいうのには借りがある」

 

「そっか」

 

俺は浄化装置の浄化したてのボトルを手に取る。

外装には龍の意匠があり、色も青。まるであいつみたいな

 

 

「ほら」

 

「あ?」

 

「あのスマッシュの成分を基にした、ドラゴンフルボトルだ。お前が持ってろ」

 

「……」

 

「にしても……女ねぇ」

 

「ん?」

 

「あ、悪い。不謹慎だよな」

 

「お前にも、いるのか?」

 

「まぁ……ね。一年近く会えてないけど」

 

「行けよ。悔いを残すことだけはするんじゃねぇぞ」

 

 

―――――――――

 

 

とはいうものの、彼女の居場所はわかっていない。手掛かりになるのは……

 

あそこしかないか

 

 

 

 



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第四話 正義と私利私欲のボーダーライン

樹ちゃん誕生日おめでとう!


12/8
展開を変更しました。色々ガバガバやんけ!(自己批判)
夜のテンションこわい


俺は真っすぐ大赦へ向かった。

一年ぶりだ。葛城さんがこの世を去った今、父さんは技術開発部の部長になっているのだろうか。

 

―――それ以前に怒りの感情が沸いてくる。

どうして散華を教えてくれなかった?

教えたらビビッて戦えなくなるから?

俺たちのことを信用していないのか?

俺たちは信用してたのに―――――

 

 

いかんいかん。と赤信号のときに深呼吸をし、自分を落ち着かせる。

 

信号が青になった。皆交通ルールを守っている。もはや当然のことだが、青信号というものは

 

進め

 

ではなく、

 

周りの状況を見て直進・右折・左折してもいい

 

である。だから俺はいつも左右確認を怠らずやっている。

 

 

「……最悪だ」

 

俺はタッチパネルになっているメーターを操作し、例のアプリを起動させる。

 

うん、俺の目に嘘はないみたいだ。あれはスマッシュだ

 

逆に考えろ。この状況、新しく見つかったベストマッチを試すのに最適じゃないかと。

 

 

 

〔鋼のムーンサルト!ラビットタンク!Yeah!〕

 

 

一応ラビットタンクで様子見。

 

 

「こいつは生身で敵う相手じゃない!逃げろ!」

 

友人を守ろうとしているのかスマッシュにファイティングポーズをとっている赤い髪の女の子に声をかける。

 

「は、はい!」

 

その女の子は後ろの黒髪の女の子の手を取って岩陰に隠れる。

でも今、黒髪の子を「トウゴウさん」って言ってなかった?

 

なーんか知り合いの本名でそんなのあった気が……まぁいいや

 

 

再びスマッシュに注目すると、

 

「えっ」

 

おかしい。二体に増えている。と思ったら三体、四体……

 

「分身の術ってわけか……」

 

"分身"だったら本体は一つ。残りは残像か幻影。"増殖"だったらすべてが本体。

どれか一体でも漏らせば被害は広がるばかり。

 

スマッシュが前者か後者か、正直よくわからない。

 

 

「だったら、全部倒せばいい」

 

 

と、その時、スマッシュが勢いよく飛び上がり、俺を見下す態勢になった。

 

「飛行能力……?いや、滑空か?忍者みたいだな」

 

分身に滑空。面白い。

 

 

 

 

〔TAKA!〕

〔GATLING!〕

〔BESTMATCH!〕

 

 

 

スナップライドビルダーにタカの橙色のハーフボディーとガトリングのガンメタリックのハーフボディーが形成される。

 

 

〔Are you ready?〕

 

 

「ビルドアップ」

 

 

 

〔天空の暴れん坊!ホークガトリング!Yeah!〕

 

 

ここに来る前、万丈が第六感で見つけたベストマッチ。

背中のソレスタルウィングで飛行もできるようだ。

 

 

〔HAWK GATLINGER!〕

 

このベストマッチが判明したと同時に完成させた機関銃型武器"ホークガトリンガー"を召喚・装備する。

 

 

「勝利の法則は決まった」

 

ソレスタルウィングを展開し、スマッシュと同じ高度まで上昇。

 

リボルマガジンを回転させる。

 

 

〔TEN!〕

〔TWENTY!〕

〔THIRTY!〕

〔FORTY!〕

〔FIFTY!〕

 

1回転ごとに弾が10発装てんされる仕組みだ

 

〔SIXTY!〕

〔SEVENTY!〕

〔EIGHTY!〕

〔NINETY!〕

 

〔ONE HUNDRED! FULL BULLET!〕

 

最大装填数の100に達し、周囲への被害を抑えるための球状のフィールドが展開される。

 

「行ッけー!!」

 

トリガーを引き、100連射。

 

スマッシュの分身はせいぜい20~30程度。

こちらは100連射な上、一発一発が計算された速度・タイミングで発射されるため、

分身の一体一体に数発ずつ命中し、最後の一体が地面に落下する。

 

俺も着地し、エンプティボトルに成分を回収する。

 

スマッシュにされていた人が倒れている。

起こそうと近づくが

 

「あ、あんたは……!」

 

ここに来る前、俺はある男の写真をマスターに見せてもらった。

 

その男の名は鍋島。

刑務所にいたころの万丈を拉致し、人体実験の場まで運んだとされる人。

 

「なぁ、あんた鍋島だろ?」

 

「ぅ……」

 

「なんでこんなことに―――」

 

謎の気配がした。

気のせいか、こう思い鍋島を見ると、もうそこに彼はいなかった。

 

代わりにいたのが、水色のヘビ。コブラといったほうがいいか

 

そいつに射撃を試みるがまるで効いていない。実体がないかのように弾がすり抜ける。

 

「はぁ……」

 

最悪だ。こう言おうとしたがそういう言葉はあまり口に出さないほうがいい。

 

「あ、あの!」

 

さっきまで隠れていた女の子二人が近づいてくる。

 

「ありがとうございました!」

 

「いいのいいの。俺だって好きでこういうことやってるわけだし」

 

「……もしかして、仮面ライダーさんですか!?」

 

赤い髪の子の目が輝いて見える。にしてもさん付けとは珍しい

 

「ああ。俺は仮面ライダービルド。『作る・形成する』って意味のBUILDだ。

以後、お見知りおきを」

 

「――――私、讃州中学勇者部の結城友奈っていいます!」

 

「友奈ちゃんね。よろしく」

 

「こちらこそよろしくお願いします!……最後に、お写真いいですか?」

 

「え、はい……どうぞ」

 

別に撮られて拡散されても困るもんじゃないし。

 

黒髪の子が「フウ先輩が言ってたのと違う……」とつぶやきながら俺を撮影する

 

「……ねぇ、友奈ちゃん」

 

「はい、何ですか?」

 

「よく俺が仮面ライダーだってわかったね」

 

「少なくとも讃州中学では有名ですよ!」

 

「そっか」

 

この後も友奈ちゃんの話を聞いていたが、どうやら依頼で俺のことを探していたらしい。

 

全部はさすがに言えないけど、自分がなぜ戦っているかは話せる。

 

「……くしゃっとなるんだよ」

 

「え?」

 

「誰かの力になれた こう感じると心の底から嬉しくなって、くしゃってなるんだよ。俺の顔。マスクで見えないけどね。

 

見返りなんていらない。役に立てればいい。私利私欲ではなく、自分の信じる正義のため戦う。……いや、これもある意味私利私欲かな」

 

正義と私利私欲、その境界線がわからなくなることがある。正義も私利私欲も、決まっているわけではない。人それぞれだからだ

 

 

二人に手を振りマシンビルダーのもとまで戻る。

……にしてもトウゴウさんってあの東郷さんなのかなぁ。

別人の東剛さんって可能性もある

 

 

 

 

 

 

 

「次は、讃州中学で会いましょう。佐藤さん?」

 

 

 

 

 

 

「…………はい」

 

あの鷲尾さんちの須美さんの方の東郷さんだった。

 

世界は案外狭い―――

あ、四国以外火の海だから実質狭いか

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

ずいぶん寄り道したが本当の目的を果たしに行こう。

 

 

 

――――――――――――

 

~大赦~

 

「ついたはいいが、どうするか……」

 

問題はここからである。

 

 

俺が今いる大赦。ここはかなり広く、複雑な内装である。

 

自分の今の職場でもある研究所は一応大赦と繋がってるから行けるかも……

 

「……」

 

入り口付近でバイクのメンテのふりをしながら考える。

 

「――――うした」

 

「……どうしよっかな…………」

 

「おい」

 

肩を強く叩かれる

 

「所長……?どうしてここに」

 

「君もここに用事があるのか?」

 

「はい」

 

「だったら一緒にどうだ」

 

――――――――

 

「君はここでも通じるだろう。どうだ?葛城君のようにここでも働くというのは」

 

「それはちょっと……」

 

「じゃあこうしよう。ここで研究所の仕事に励む」

 

「……何か俺を引き離そうとしてません?」

 

「そんな事はない」

 

こう言って所長は大赦の見取り図をくれた。

技術開発部は近寄らないようにしよう。

 

 

それにしてもおかしい。

俺がここに来ることは誰も知らないはず。

 

 

結局、色々迷ってやけに禍々しい雰囲気を漂わしている部屋の入り口についた

 

 

「何がどうなって……」

 

 

扉を開け、中に入る。

 

 

「何だよ……ここ……!」

 

壁が血のように赤く、札が何枚も貼られている。

園子を何だと思って―――

 

 

さらに奥へ進むと、鳥居とベッドが一つずつ。そしてそのベッドには―――

 

 

何と言っていいかわからなかった。

右目を隠すように巻かれた包帯、紫色の着物の首元から見える包帯……

 

それに部屋の内装。

 

祀っているようにしか感じなかった。

 

 

「そ、園子……」

 

なんて声をかけていいかわからなかった。

 

大丈夫か!?でもない。久しぶり でもない。

 

「うん、園子だよ~。さっとん、ずいぶん大きくなったね~」

 

いきなりそこを突いてくるか

 

「よく、俺だってわかったな」

 

「わかるよ~」

 

一年前と変わらないな。

と言いたいが、よくよく見ると結構違うことがわかる。

 

「……」

 

俺は園子に寄り、

 

「寂しかった……んだな。ごめん。『守ってやる』って言ったのに……」

 

「さっとん……さみしかった……本当に…………死んじゃったって思ってたから……!」

 

寄るというより抱きしめると言ったほうが正しい体勢でよしよしと泣いている彼女を慰める。……だけど

 

「ちょっと待って?死んじゃったって何?俺死んだことになってんの?」

 

一旦園子から離れ、考える。

……わからない

 

「大赦が、けーあいえー?みたいなこと言ってさっとんを探すのをやめたの。1週間探したんだよ?」

 

園子が言いたいのは「KIA」のことだろう。

Killed In Action の略で意味は「戦死」

 

「…………園子」

 

勝手に死んだことにされた俺を癒して と言おうとしたがさすがに気持ち悪いのでやめた。

 

「私がこんな風に祀られて、1か月くらい……かな?そんな時にさっとんが死んだって大赦の人が…… 告別式もやって……」

 

「え?もうそこまでいったの?じゃあ、俺のPCは……!」

 

「ミノさんとそんな約束してたね~。本当に消しちゃったみたいだよ?」

 

「……まぁ、別にいいし。けしからん画像とか映像とか入ってなかったし」

 

「本当に?」

 

「本当にって何よ」

 

「なんか、女の人のにおいがするから」

 

「確かに、今日ここに来る途中で女の子を助けた。ただそれだけなの!」

 

「浮気なんてしたらずがーんだよ~」

 

「わ、わかってるよ……。それにしても、においなんてするか?抱き合ったとかそういうのしてないし」

 

「さっとん、人間の体っていうのはね、よくできてるものなんだよ~」

 

自分は散華で色々な体の機能を失ったから、その分残ってる感覚が鋭くなったとでもいいたいのか……?

 

「この状況をどうにかできないものか……」

 

つい口に出てしまった。

 

「できたらいいよね~。でも、『勇者に変身できない状態になったら供物が~』とか聞いたよ」

 

「……例えば」

 

「端末を壊されるとか?」

 

「きっとダメだな」

 

いや、一つだけあるかもしれない。試してみる価値はある

 

「さっとん~」

 

「んー?」

 

「そんな暗い話はやめて、もっと他の事しようよ~」

 

「ほかの事?」

 

てぇんさい物理学者(たぶん)として働いてます!とでも……

 

「ほら、恋人同士なんだからさ~」

 

「といってもなー」

 

「じゃあ私から。仮面ライダーって知ってる~?」

 

「あ、それ俺だわ」

 

こう言って証拠のビルドドライバーとフルボトルを出す。

 

「世のため人のため園子のため戦ってるわけですよ」

 

「へ~」

 

どうも話が続かない。いつもだったら

 

てぇ↑んさいですから!

 

で済むが、こんなこと言ったら悲しい人だと思われるかもしれない。

 

そしてやることがないのでつい園子の頭を撫でてしまう。

 

 

「この世界にはバーテックス以外の脅威も存在する。それから守ってやんないとな」

 

「……ってことは、毎日来るって言うのは―――」

 

「出来ないな。でも大丈夫。運命に縛られたお前を、いつか必ず救ってみせる」

 

「……さっとん、愛しているからね」

 

「ありがとう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そういう事言うまで発展したっけ?まぁ違いないんだけど」

 

「恋に早い遅いは関係ないよ~」

 

「園子らしいな。じゃ、またな」

 

こう言って俺は部屋を後にした。

正直、このまま朝までいてもいいのだが、やりたいことがある。

 

 

「大赦も神樹もそこまで鬼ではないだろう」

 

俺はスマッシュのものではない成分の入った浄化前のボトルを手に、nascitaに帰った

 




勇者の章一話を見直しました。

そして、英霊の一人に「桐生」って苗字の人いるじゃねーか!と気づきました。

…イチャイチャって書いたことないからこれでいいのかよくわかりません

12/8
展開を変更しました。色々ガバガバやんけ!(自己批判)
夜のテンションこわい


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第五話 怒りのチェッキングアンサーズ

「ねぇマスター」

 

「んー?」

 

「あの時やらされたテストが研究所の入社試験だったわけだけれども」

 

「おう」

 

「追い出された」

 

「はぁ!?」

 

「……あ、違うな。『大赦で仕事しろ』って言われた」

 

「大赦で研究所の仕事をしろだぁ? まぁ、よかったじゃないか。俺が連絡してなかったら本当に追い出されてたかもしれないし」

 

「大赦に連絡?どうして?てかなんでそんな事―――」

 

「まぁまぁまぁ!いいじゃないそんな事!大赦味方につけておけばさ、万丈の冤罪もはらしやすいんじゃないかなって」

 

「……マスター、あんたのバイトって、ホントにバイト?」

 

「なっ、俺を疑ってるのか!?

戦兎、考えてみろ。こ~んなイケてる悪者がいるわけないだろ?」

 

こう言ってマスターはコーヒーをこちらに出してくる。

 

別に悪者なんて言ってないのに……うわまずっ!」

 

「お前……!人がせっかく淹れてやったのに―――

 

うわまじぃ!」

 

「「……」」

 

「わかった。この話はやめだ。このボトルあげるから水に流して」

 

「俺もこんなコーヒー胸張って出してきた勇気に免じて今の事は忘れるよ

 

で、何このボトル」

 

「コミックだ。洗濯物の中に入ってた」

 

「へー」

 

マスターから新しいボトルを受け取ると、地下室への入り口から万丈が顔を出す。

 

「戦兎!何か爆発したぞ!」

 

――――――――

 

「なぁんだよ。ボトル出来ただけじゃん。驚かすなよ」

 

浄化装置にいれたボトルは完成すると煙を出しながら爆発……とまではいかないほどのボカンという音を出す。

 

完成したのは紫と薄紫色の二本。

 

 

「これは……なんじゃ?」

 

「忍者?」

 

「こっちの色が薄い方は……」

 

「パスパス。今はそれやってる場合じゃない」

 

「だったら何だよ」

 

「決まってんだろ?ベストマッチ探しだよ。マスター?パネル出して」

 

「あいよ!」

 

マスターから一枚のパネルを渡される。これはボトルを10本セットすることが可能で、同じものがもう一枚あり、これらにすべてのベストマッチを入れると凄いことが起こる……らしい

 

「コミックに合いそうなのは……海賊かな?」

 

「いや忍者試せよ」

 

万丈が勝手に忍者ボトルをセットする。

するとパネルの中央に『N/C』という文字が現れ、ベストマッチであることを証明した。

 

「うそーん……」

 

「見たか俺の! 第・六・感 !」

 

今の『N/C』は忍者とコミックのボトルのキャップにラベルとしてあるのだが、最初は何の頭文字かわからない。

 

ちなみに、薄紫色のボトルには『Y/R・L』と描かれている。

 

これを頭の片隅に入れつつ、早速武器の設計を開始する。素手では心もとないだろうし

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

「できた!名付けて、4コマ忍法刀!」

 

剣先がGペンの形状をし、刀身に鍔側から、分身・火遁の術・風遁の術・隠れ身の術 を模したコマが描かれている。

 

「試したい……はやく試―――」

 

携帯からスマッシュの反応を知らせる着信音が響く。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

「どこだ……?」

 

目的地に来たはいいものの、肝心のスマッシュが見当たらない。

 

 

「よぉ!仮面ライダー!」

 

「誰だ」

 

深紅の体をした男が現れる。

 

「あの戦い、見てたぞ。初めて使うボトルにしてはなかなか良い動きだったじゃないか」

 

「……まさか、お前が鍋島を!」

 

「鍋島……こいつのことか」

 

「!」

 

「まぁ見てな」

 

 

〔DEVIL STEAM!〕

 

 

男の持つ短剣からガスが発生し、鍋島を覆う。

 

「あ……あああアアアアア!!」

 

「そんな……スマッシュに……!」

 

「どうだ?こいつを使えば、お前も体験したあの装置を使わずとも、人間をスマッシュにすることができる」

 

「俺も……?」

 

「ここで答え合わせをしてもいいんだが……俺と遊んでからだ!」

 

男が短剣で斬りかかってきた。

俺はそれをドリルクラッシャーで受け止める。

 

男は一度後ろへ下がり、再度突撃してくる。

ドリルクラッシャーを左手に持ち替え、右手でボトルを交換する。

 

〔NINJA!〕

 

〔Are you ready?〕

 

「ビルドアップ!」

 

TF(ニンジャタンク)になり、ドリルクラッシャーと4コマ忍法刀の二刀流で攻める。

 

「何でもかんでも武器を増やせばいいってもんじゃない」

 

こう言って男は短剣を持ち手と刀身の二つに分離させ、右手に持った銃にこれらを連結させる

 

〔RIFLE MODE〕

 

「お前はあの時からそうだ。何も変わっちゃいない。重心が傾いている」

 

「くッ!」

 

ドリルクラッシャーと忍法刀ではドリルのほうが重い。その分、それを持っている右側に体が傾いてしまう。

 

「だったら……!」

 

〔COMIC!〕

 

〔BESTMATCH!〕

 

〔Are you ready?〕

 

 

〔忍びのエンターテイナー!ニンニンコミック!Yeah!〕

 

 

「ほう……」

 

忍法刀のトリガーを1回引く。

 

〔分身の術!〕

 

もう一度引き、分身の術を発動。

 

〔火遁の術!〕

 

忍法刀に炎が宿り、男を取り囲むように陣形を整える。

 

〔火炎斬り!〕

 

地上と空中、双方から男を斬撃。

その後、分身が消える。

 

 

「ハザードレベル3.4……まだまだいけるな」

 

 

「……」

 

「中々面白いものを見せてもらったよ。俺は"ブラッドスターク"。

佐藤太郎とかいうガキを大赦より先に回収したのが俺だ」

 

「何だって……?」

 

「俺は今、ネビュラガスを使って生き物の体を変化させる実験をしてるんだ。今のところ失敗なしだ」

 

「……」

 

「流石にこれで判っただろう」

 

「――――ぁ」

 

「お前の記憶にない一年。これはお前が散華の影響で動けないことを良いことにファウストにひたすら実験を重ねられていた時間」

 

「―――るな」

 

「頭からすっぽ抜けてたのは、何度もネビュラガスを体に入れられた後遺症だろう。にしてもよく生きてたな。よく記憶の欠損が一年で済んだな。

 

そんな体だから、仮面ライダーとかいう軍事兵器を扱えるんだよ。

考えてもみろ。ラビットタンクは兎と戦車。戦車は兵器。兎は実験動物の一つ。

 

さあ、俺は約束通り答え合わせをしてやったぞ。スッキリしただろう?

じゃ、俺はこの辺で―――」

 

「ふざけるなァァァ!!」

 

「おっと」

 

「ァアアアア!!」

 

「ハザードレベル3.6、3.8 どんどん上がっていくぞ!ハハハ!それでいい!」

 

「何がオカシイ!!」

 

「――――」

 

「……あーあ。これじゃあスマッシュ退治どころじゃねぇなこいつは。仕方ない」

 

〔STEAM BREAK! COBRA……!〕

 

 

――――――――――

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

「今度こそじゃあな。鍋島はくれてやるよ!クソガキ。せっかく体を動かせるようにしてやったのに、お前はどうして戦う道を選んだんだか……

 

 



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第六話 正義のマッドサイエンティスト

こいつは驚いた。
"仮面ライダー"という存在が過去にも存在していたとは……
彼らも、人類の平和と未来のため戦っていた。
この意志を無駄にするわけにはいかない


葛城巧


「―――と!」

 

「――んと!」

 

「戦兎ー!」

 

「いってぇー!!」

 

俺の空白の一年が判明した。しかしそのあと俺がどうしたかは覚えていない。

 

覚えているのは、今マスターに頬をつねられていること。

 

「よぉし!」

 

「いきなり何すんだよ……!」

 

「戦兎!よくやった!よく鍋島を奴らから取り戻してくれた!」

 

「え?ぁあ……」

 

「実はな、既に鍋島の家族を呼んである」

 

「は?何してんの?」

 

「別にここ俺の家だからいーじゃん!

鍋島を保護してもらいたくてな。快く承諾してくれたよ」

 

 

「うぅ……」

 

鍋島が目を覚ます。

 

「おい鍋島!」

 

「……」

 

「俺の顔知ってるだろ?万丈龍我だよ!」

 

「……誰だ」

 

「ギャグだとしたら笑えねぇぞ!」

 

「……誰なんだよ!俺も……お前も!」

 

「まさか、あんた……」

 

 

「スマッシュにされたせいで記憶がなくなっちまったか」

 

 

「パパ?あたしたちのこと覚えてないの?」

 

鍋島の娘が問いかける。

 

「……誰なんだよ…………」

 

娘が鍋島にあやとりを披露する。

仕事でめったに会えない彼に見せたくて今まで練習してきたらしい。

 

「どう?すごい?」

 

「……俺は、お前が誰なのか……」

 

「――――じゃねぇよ

 

お前が誰かわからないじゃねぇよ!」

 

「万丈!」

 

「見てやれよ!褒めてやれよ!『パパ』って言ってるの聞こえるだろ!お前の娘なんだよこの子は!」

 

「……」

 

「これから先、記憶がなくなった分……いや、それ以上の思い出作っていけばいい。

 

俺の冤罪については……記憶が戻ったらでいい。戻ったら教えてくれよ」

 

「……ああ」

 

 

 

―――――――――――

 

 

翌日、俺は研究所に顔を出した。

 

 

「ん?桐生じゃないか。どうした」

 

「ちょっと調べたいことが。葛城さんの事で」

 

「ふーん……」

 

研究所の日誌を漁っていくと、氏名が『葛城巧』の日誌を見つけることに成功した。

 

 

彼が書いた日誌の最後にはこう書かれていた。

 

 

 

 

 

PROJECTBUILD

これは無限の可能性を秘めている。

 

 

嗚呼、君子Bは杖を撃て

 

葛城巧

 

 

 

 

 

 

「葛城について何か知りたいようだな」

 

「所長」

 

「……彼は、タブーを犯してしまった」

 

「え?」

 

「『ネビュラガスを使った人体実験をしたい』こう申請してきた。この研究所ではこういう思想を抱くものを危険人物としてここから追放している」

 

「……」

 

 

 

――――――――――――

 

 

「これはアナグラムだ」

 

「はぁ?」

 

「葛城の真相に近づけると思う。

 

まず、『嗚呼、君子Bは杖を撃て』をローマ字にする」

 

 

「AA KUNSHIBHA TSUEWOUTE か?」

 

「そ。これを並び替えると……

 

 

 

全てを母に託す(SUBETE WO HAHANI TAKUSU)

 

 

になる」

 

「おぉ……」

 

「葛城の母親のもとへ行けば、何か情報が手に入るはずだ」

 

「だとしたら、香川を出るしかないな」

 

「……何でマスター知ってるの?」

 

「い、いや~?べっつに~」

 

「で?バイクだとガソリンがもたねぇぞ」

 

「俺のマシンビルダーでもなぁ……」

 

「え?戦兎なんで俺の事見てるの?万丈まで!?」

 

「「金……」」

 

「あるわけないだろバカチンがぁ!」

 

結局、俺の給料から旅費を出すことに。

まだボーナスじゃねぇんだよオラァ!

 

「戦兎、こいつを持ってけ」

 

マスターが白いフルボトルを投げる。

 

「パンダフルボトルだ。少しでも癒しになればいいんだが」

 

前からそうだけど、なんでマスターがボトルを持ってるんだ?

 

―――――――――――――――

 

 

 

「桐生戦兎が例の場所へ向かった」

 

「何?」

 

とある場所の地下。ここで二人の男が対談をしていた。

 

「さぁ、お前ならどう動く? あ、俺はパスで」

 

「……」

 

一人の男がバットフルボトルを拳銃型の武器に装填する

 

〔BAT!〕

 

「蒸血」

 

〔MIST……MATCH……!〕

〔BAT……BA BA BAT……! FIRE!〕

 

男はナイトローグへと姿を変え、もう一人の男 ブラッドスタークに肉薄し、短剣 スチームブレードを彼の首に構える。

 

「……まぁまぁそんなに慌てなさんな。ついていけばいいんだろ?」

 

 

―――――――――――――

 

 

「おい戦兎」

 

「あ?」

 

「これ、何だよ」

 

龍我が四足の小さなドラゴンを指さす。

 

「クローズドラゴン。お前は何するかわかんないからなぁ。お前用のペット兼監視役だ」

 

「こいつが監視役?できるわけねぇよこんなチビに―――

 

あっちぃ!」

 

クローズドラゴンにちょっかいを出した万丈がドラゴンの吐いた炎で軽いやけどをする

 

 

「そこまでだ」

 

 

「ナイトローグ……」

 

「ここから先は通さんぞ」

 

「いや、強引にでも突破する!」

 

〔NINJA!〕

〔COMIC!〕

〔BESTMATCH!〕

 

〔忍びのエンターテイナー!ニンニンコミック!Yeah!〕

 

 

〔風遁の術!〕

 

〔竜巻斬り!〕

 

この隙にナイトローグを突破。目的地へ向かう。

 

「スターク!」

 

「はいはい……人使いの粗い人だこと」

 

〔FULLBOTTLE!〕

〔STEAM ATTACK!〕

 

 

「うお、やばっ!」

 

俺たちの後ろをミサイルのような弾が追いかけてくる。

 

「えっ!?」

 

と思った矢先、弾はUの字に曲がり、地面に着弾する。

 

 

 

 

 

 

「スターク……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここか」

 

「そうみたいだ」

 

葛城さんの母の家へついた。

そこでは子供たちが何やら勉強を教わっていた。

 

「じゃあね先生!」

 

「じゃあね」

 

「おい、あんた葛城の母ちゃんか?ちょっと聞きたいことが……あっ」

 

万丈が自分の今の状況を思い出し黙り込む。

 

「万丈龍我……帰って!今すぐここから消えて!」

 

「……」

 

今聞くのはまずい。

 

「退くぞ」

 

―――――――――

 

「……」

 

「ねぇ、おじさんたち」

 

「あ?」

 

「葛城お兄ちゃんの知り合い?」

 

先ほどまで葛城さんの母の授業を受けていた子供たちだ。

 

「まぁ、そんなかんじ」

 

おじさんじゃねぇだろ。お兄さんだろ……

 

「先生、今でも兄ちゃんが好きだった卵焼き、焼いてるんだって。

 

変でしょ?もう兄ちゃんは帰ってこないのに」

 

「みんな!早く帰りなさ…… まだいるの?どこまで私を苦しめれば―――」

 

「待ってください!こいつは、冤罪なんです」

 

「冤罪?」

 

「はい。真犯人は他にいま―――」

 

 

「うわぁぁぁぁ!!」

 

 

突如、子供の叫び声がする。

方角からするに、さっきの子たちだ。

 

 

 

「よぉ!また会ったな!」

 

「スターク!」

 

スタークが子供に短剣を向けている。……まさか!

 

「やめろ!」

 

 

〔DEVIL STEAM!〕

 

 

「ぁアアア!!」

 

子供がスマッシュになり、辺りを暴れまわっている。

 

「どうだ?お前には一度言ったが、これならいつでもどこでもスマッシュを生み出すことができる。すばらしい発明だと思わないか?」

 

「そんなもん……発明なんて言わねぇんだよ!変身!」

 

 

〔ニンニンコミック! Yeah!〕

 

〔火遁の術!〕

〔火炎斬り!〕

 

これでスマッシュをダウンさせる。倒さなくても動けなくすればいい。

 

「今だ万丈!成分を採れ!」

 

万丈が成分を回収し、その子供のもとへ駆ける。

 

「大丈夫か?」

 

「おじさん……ぼく、死んじゃうの?先生みたいになりたかったのに……」

 

「そんなことない!……もし先生になれたら、俺にも勉強教えてくれよ。約束だ」

 

子供を葛城さんの母に預け、ドラゴンフルボトルを手に戦線に加わる。

 

 

 

〔PANDA!〕

〔GATLING!〕

 

「ビルドアップ」

 

パンダの右腕の爪とホークガトリンガーで遠近の対処を可能にし、スタークに射撃。

 

「なるほど。良い組み合わせだ。だが……」

 

〔FULLBOTTLE!〕

 

スタークが青いボトルを装填する。

 

「これはどうかな?」

 

〔STEAM ATTACK!〕

 

真っすぐこちらへ向かってくる、と思いきやいきなり旋回する銃弾。

 

「誘導弾!?」

 

ホークガトリンガーで狙おうとするが命中せず、急上昇し俺のもとへ急降下する。

 

「ぐあぁぁ!!

 

し、しまった……!」

 

変身が解除され、ガトリングボトルが自分の手の届かない場所へ飛んでしまった。

 

それに近づくスターク。

 

 

〔CROSS-Z FLAME!〕

 

 

しかし先にクローズドラゴンが回収。背中に装填し小さな銃弾のような炎をまき散らす。

 

「あのチビ、やるじゃねぇか!俺も!」

 

万丈がスタークに殴りかかる。しかし

 

「あっつ!熱い!あっちぃ!!」

 

クローズドラゴンの吐く炎に当たってしまい、熱さを紛らわすように暴れながら格闘する万丈。

 

その最中にスタークの武器にセットされたボトルを奪う。

 

「使え!」

 

俺にそのボトルが投げられ、キャッチする。

 

 

〔PANDA!〕

〔ROCKET!〕

 

〔BESTMATCH!〕

 

「ベストマッチか!」

 

〔Are you ready?〕

 

「変身!」

 

 

〔ぶっ飛びモノトーン!ロケットパンダ!Yeah!〕

 

 

強靭な爪とロケットを模した左腕を備えるロケットパンダフォームに変身。

 

左腕の外装をロケットとして発射。スタークに命中。

 

「キャッチ!」

 

外装をキャッチし、ボルテックレバーを回す。

 

 

〔READY GO!〕

〔VOLTEC FINISH! YEAH!〕

 

惑星軌道のグラフにそるように、さらにスイングバイのように加速。

スタークを爪で切り裂く。

 

 

「―――っと。ハハ、また強くなったな。

 

そうだ、一つ教えておこう。葛城巧とファウストについてだ」

 

「……」

 

「葛城の"体"は生きている。そして、ファウストは……大赦が作り上げた組織だ!!」

 

「な、何……!?」

 

「お前は戦う道を選んだ。さぁ、どう動く?」

 

 



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第七話 メモリーの謎

「あー腹減った」

 

「お前人の家入って一言目がそれなの?」

 

スタークを退けた後、俺たちは葛城さんの母の家にお邪魔している。今日はここで夜をしのぐ。

 

「……あなたたちはあの事件の真相を求めてここへやってきたのね?」

 

「はい。葛城さんの日誌から、『全てを母に託す』という文章が見つかりました。何か心当たりは」

 

「…………もしかして」

 

「! 何かあるんですか?」

 

「ええ。ある時、突然巧がここに帰ってきた。やけに大きいアタッシュケースを持って。

そして、USBメモリとそのケースを渡された」

 

「どこにあるんですか?」

 

「……難波重工総合科学研究所」

 

「でもそこはもう……」

 

「廃墟と化している。そのどこか」

 

「わかりました。……おい万丈、さっきから何腹抱えてんだよ。トイレ?」

 

「ちげぇよ。腹減ってんだよ」

 

「おなか、すいてるの?」

 

「ああ」

 

こう言って葛城さんの母は卵焼きを出してきた。

 

「いっただき~!

 

甘!甘すぎだろこれ」

 

「バカ!お前にはデリカシーってもんがねぇのか!……いただきます」

 

卵焼きを口に入れる。

確かに甘い。でもそれ以上に……

 

「旨……!」

 

「無理しなくていいのよ?」

 

おふくろの味……というものだろうか。

懐かしい。美味しい。この甘さが好きだったんだ

 

もう一口。

やっぱりだ。俺はこれを以前にも食ったことがある。

 

懐かしいなぁ……

 

「な、何泣いてんだよ気持ち悪い」

 

「え?」

 

俺は知らないうちに涙を流していたようだ

 

 

―――――――――――

 

 

「ほんとにこんなんで大丈夫なのか―――

 

甘い!お前のゲップ甘い!」

 

翌日、俺たちは葛城さんの母の車で香川へ戻ることに。

所持金が尽きたこと、バイクだとガソリンが足りても万丈が万丈だとばれてしまう事が理由に挙げられる。

 

「……あれ?止まった?」

 

「赤信号なんじゃないの?」

 

「……いや違う!これは――――」

 

 

「キャアアアァァァァ!!」

 

 

「葛城さん!」

 

「くそっ!開かねぇ!」

 

「こうなったら……」

 

「おい!何か腹に当たってる!何だこれ!?」

 

「それ俺のドライバーのレバー。回すからスペース開けて」

 

「おいおいおいまさか……!」

 

「変身!」

 

 

〔ぶっ飛びモノトーン!ロケットパンダ!Yeah!〕

 

ロケットパンダフォームで強引に外に出ることに成功。

 

「……いない」

 

「チッ!」

 

 

 

――――――――――――――

 

 

「ここは……?」

 

「お気づきになりましたか。私は氷室幻徳。葛城君の上司に当たっていた者です」

 

「……」

 

「ここは、ファウストのアジトです。単刀直入に言いましょう。息子さんの研究データをこちらに渡していただきたい。渡していただけたら……この手紙を差し上げましょう」

 

「…………3405。コインロッカー」

 

「わかりました。どうぞ」

 

「……何よこれ、白紙じゃない!」

 

「息子さんが、母に感謝する人間だとお思いで?

彼は残忍で、冷酷で、屑だ」

 

「巧はそんな子じゃな―――」

 

「話は終わりだ。ネビュラガスを投与してお帰り頂こう」

 

「――――嫌!離して!!」

 

 

―――――――――――――――

 

 

何とかnascitaに戻ることができた。しかし葛城さんがまだ……

 

「……」

 

「何を考えても無駄だ戦兎。……何だよそのボトル」

 

俺がいじっていた薄紫のボトルを万丈が指摘する。

 

「勇者だよ」

 

「?」

 

「ドラゴンボトルが出来た後、俺ちょっと出かけただろ」

 

「ああ。女がどうこう……」

 

「え?何?お前勇者といえば……お役目がどうこうとかいう女の子か!

お前勇者と付き合ってんのか?!やるぅー!」

 

「……もはや生贄だよ」

 

「え?」

 

「でも、それも終わる」

 

そして、ボトルの浄化も終わったようだ。

 

「消防車?」

 

ラベルは『H/S』。やっぱりか。

 

「もう出かけるのか?」

 

「ああ」

 

「万丈!忘れ物!」

 

「おお、サンキュー……えぇっ!?」

 

マスターの言う万丈の忘れ物。それは変装用の服だった。

 

 

―――――――――――

 

 

「あー、今日も暑いっすね~!」

 

万丈は工事現場の人の服を着て本職の人に混じっていた

 

「こんなやついたか?」

 

「さぁ……」

 

「!」

 

万丈の目にスマッシュが映る。

 

「逃げろ!」

 

「お前さんは!?」

 

「いいから行け!――――いってぇ……」

 

スマッシュが投げたパイプに頭をぶつける万丈。

 

「あー言わんこっちゃない!」

 

俺はホークガトリンガーでけん制。

 

「……あのスマッシュ前に見たことあるな。俺がやる」

 

確かに、色は違えど以前あったことのあるスマッシュだった。

 

 

〔HARINEZUMI!〕

 

SYOUBOUSYA(消防車)!〕

 

〔BESTMATCH!〕

 

〔Are you ready?〕

 

 

「変身!」

 

 

〔レスキュー剣山!ファイアーヘッジホッグ!Yeah!〕

 

 

「万丈!しゃがめ!」

 

左腕の梯子消防車のはしごをモチーフにした放水銃 マルチデリュージガン から水を発射する。

 

「冷たっ!」

 

そして右腕のハリネズミの針を伸ばしてパンチ。

万丈からスマッシュを離すと火炎放射を開始する。

 

「熱っ!?」

 

 

「勝利の法則は決まった!」

 

〔READY GO!〕

〔VOLTEC FINISH!――〕

 

マルチデリュージガンを伸ばしスマッシュに内部から水を飲ませ膨らませる。

そしてスマッシュの真上までジャンプし、真下に落下しながら伸ばした針で刺す。

 

〔――YEAH!〕

 

「……こいつも中々のエグさだな」

 

変身を解除し、スマッシュの成分を回収。

スマッシュにされていたのは葛城さんだった。

 

 

――――――――――――――――

 

 

「コインロッカー3405番……ここか」

 

葛城の母から受け取った情報の元へたどり着いた幻徳。しかし、

 

そこにあったのは、『残念だけど、あなたは信用できない』と書かれた紙一枚だけであった。

 

「まんまとはめられたか」

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

「おい、ここで合ってんのか?」

 

「ああ。ここ掘れワンワン」

 

「犬じゃねぇよ」

 

難波重工へたどり着いた俺たち。

今は万丈にスコップで地面を掘ってほらっている。

葛城さんからは『難波重工にある』しか言われていない。

だけど、俺には正確な位置がわかった気がした。

 

 

「ほんとに大丈夫か?……おっ」

 

スコップから何か固いものに当たった音がする。

 

「これだ!」

 

万丈が掘ってくれた穴から大きいアタッシュケースと小さな箱に入ったUSBメモリを回収する。

 

「それが目的のブツか。早く帰ろうぜ」

 

 

 

 

「そんなところにあったのか。俺……葛城巧の隠しものってのは」

 

 

 

「くそっ!返せこの野郎!」

 

突如現れたスタークにメモリを奪われてしまう。

 

「そのアタッシュケースも頂こうか」

 

 

〔TAKA!〕

〔GATLING!〕

〔BESTMATCH!〕

 

〔Are you ready?〕

 

 

「変身!」

 

 

〔ホークガトリング!Yeah!〕

 

 

「そのメモリを返せ!」

 

スタークに銃口を向ける。

だが、それ以上の殺気を感じ、そちらに銃口を向けなおす

 

「ビルド。お前の相手は私だ」

 

「ナイトローグ……」

 

こちらにはアタッシュケースがある。

長期戦は困難だ

 

 

〔READY GO!〕

 

左足から鷹の爪が展開し、翼も大型化する。

 

〔VOLTEC FINISH! YEAH!〕

 

翼で宙に舞い、左足で切り裂くような蹴りをかます。

 

 

「……やるじゃないか」

 

 

 

 

「オラぁ!」

 

「フハハハハ……!ハザードレベル2.5!生身のくせにやるじゃないか」

 

「舐めんじゃねぇぇぇ!!」

 

「ハザードレベル2.7!」

 

「俺だって……やる時はやるんだよ!」

 

「2.9!」

 

「ぅおりゃァァァァ!!」

 

「んッ!? ハザードレベル3.0!

 

ついに覚醒したか!万丈ォ!!

 

お前の成長を見込んで、こいつはくれてやる。大切にしろよ」

 

ブラッドスタークが龍我に自らが奪ったUSBメモリを指で弾く。

 

「えっ!?」

 

 

「スタークゥゥゥ!!」

 

激昂したナイトローグがスタークに迫る。

 

「おいおいおい!もうお前さんも年なんだからそんなに怒るなって!血管切れるぞ!」

 

 

「ローグとスタークが戦ってる……?よくわからんが、撤退は今しかない!」

 

 

〔ロケットパンダ!Yeah!〕

 

 

「万丈!しっかり捕まってろよ!」

 

「お、おい!俺生身!そういうのは…………ああああ!!」

 

右腕で万丈を捕らえ、急上昇。撤退する。

 

 

 

 

 

 

 

「貴様……どういうつもりだ」

 

ナイトローグがスタークに銃口を向ける。

 

「まぁまぁ、深呼吸でもしろよ。お前がほしいのはアレじゃない。アレに入ってるデータで作ったモノだろ?

桐生戦兎ならそれが作れる。万丈龍我ならそれが使える」

 

「なぜ言い切れる?」

 

「桐生戦兎は俺の……いや、単純に機械いじりが好きそうなヤツだと思ったからだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは、あなたが持ってて」

 

「……いいんですか?」

 

撤退に成功した俺たちは葛城さんとnascitaに帰り、メモリとアタッシュケースを見せる。

 

「あなたなら、それを悪いようには使わないだろうって信じてるから」

 

 

 

――――――――――

 

 

「これで、葛城さんの謎が……」

 

俺は自室に行くとメモリをパソコンに刺そうとする。

 

「いいのか?お前の知りたくないものかもしれねぇぞ」

 

「……俺の記憶の空白は埋まった。恐れるものは何もない」

 

メモリを挿す。

すると、ディスプレイに

 

 

PROJECT BUILD

 

 

REBOOT OF LEGEND KAMENRIDER

 

 

という画面が表示された。

 

 



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第八話 葛城巧のプロット

「何だよこれ……」

 

『PROJECT BUILD』と『REBOOT OF LEGEND KAMENRIDER』はそれぞれクリックできるようで、まず俺は前者をクリックする。

 

すると、一本の動画が流れ始める。

 

 

『俺は、葛城巧。これから話すPROJECT BUILDとは、勇者システムを発展させた究極の防衛を目的としたライダーシステムの事だ。

これは、それの源となるビルドドライバー。

ハザードレベル3以上の者が使用することで、仮面ライダービルドに変身することができる!

 

これが、ビルド。『作る・形成する』って意味の、BUILDだ。

 

ビルドは、ドライバーに刺すボトルによって姿や能力が変わる。

使うボトルは二本。ボトルはパンドラボックスが発見された洞窟から噴出するネビュラガスをベースにしていて、組み合わせ次第で必殺技「ボルテックフィニッシュ」を放てる。

 

先ほど言ったようにビルドにはフォームチェンジ機能が存在する。

例えば、ウルフボトルとスマホボトルで、「スマホウルフフォーム」

勇者ボトルとライフルボトルで「ブレイブスナイパーフォーム」

に変身が可能だ。

 

これらはほんの一部に過ぎない。ビルドは無限の可能性を秘めている!

以後、お見知りおきを。See you !』

 

映像が終わった。

 

「防衛……、ライダーシステム……」

 

それより気に障るのは、勇者フルボトルについて触れていたこと。

これは俺が園子から勇者の力をはく奪し、供物を返してもらおうとして生まれたもの。

nascitaに出入りする俺、万丈、マスター以外は知らないはず。

 

これは最後に編集した日を調べてわかったことだが、やはり葛城さんは生きている。

でもスタークは"体が"と魂が死んだかのごとく言及していた……

 

 

 

次に、『REBOOT OF~』とクリックする。

 

 

「未知の脅威 バーテックスから世界を守る勇者。それと同じように、仮面ライダーも過去に存在していた。

新しいもので300年前。"エグゼイド"というライダーが活躍していた。

 

究極の救済(EXTREME-AID)と書いてEX-AID(エグゼイド)

 

これは、その源のゲーマドライバー。そして、ライダーガシャット。

 

〔MIGHTY ACTION X!〕

 

今起動したこれは、エグゼイドのプロトタイプにあたる"仮面ライダーゲンム"のガシャットであるプロトマイティアクションXガシャットオリジン。

本来これはバグスターウイルスというウイルスの抗体が必須だが、改良によりハザードレベル4.5以上で使用ができるようにした。

 

他にも、マキシマムマイティX、ハイパームテキなどが存在する。

特にハイパームテキは名の通り無敵になることができ、マキシマムマイティXと接続することで真価を発揮する。

 

 

ここまで聞いたならもうお分かりだろう。『REBOOT OF LEGEND KAMENRIDER』とは、過去の仮面ライダーの力をお借りし、彼らの意志を受け継ぐ計画である』

 

映像はここで終わった。

すると、画面の左下に検索エンジンのようなものが出現する。

試しに俺は、先ほど出たライダーガシャットを検索してみる。

 

以下のような文章が出てきた

 

 

修理及び運用テストが完了したもの

 

・GAMERDRIVER

・PROTO MIGHTY ACTION X ORIGIN(HLV4.5以上)

・DANGEROUS ZOMBIE(HLV4.5以上)

・MAXIMUM MIGHTY X(HLV4.7以上)

・HYPER MUTEKI(HLV6.0以上)

 

デンジャラスゾンビはバグスターウイルス抑制の力を持つオリジンガシャットと併用しないと身体にかなりのダメージを負う。そして、

298年のバーテックス侵攻はハイパームテキの修復が天の神に察知されたことが理由の一つだ。

使用するときは用心してくれ

 

 

 

「すげぇ……」

 

「戦兎、それもそうだがこのケースも開けてみようぜ」

 

「そうだな」

 

アタッシュケースのロックを外し、開ける。

 

「これは……!」

 

中に入っていたのは、ローグやスタークが使う銃と短剣。そして、ゲーマドライバーにガシャット4本、ボトル三本だった。

 

「錠前にドクターにゲーム!?最ッ高だぁ……!」

 

「葛城の奴、何を企んでやがる……

 

 

あ!一つ気になってる事あんだけどさ」

 

「どうした?」

 

「スタークが言ってたんだ。俺のハザードレベルが3超えたって」

 

「おお」

 

「ってことはー……俺もビルドに――」

 

「なれません」

 

「はぁ!?変身できないってどういうことだよ!さっきの動画でも説明あったじゃねぇか!」

 

「……別に変身できないなんて言ってないだろ。お前のドラゴンフルボトル、そしてクローズドラゴン。これを使う」

 

俺の元にドラゴンが飛んできて、首と尻尾をたたみ、胴体の左側をドライバーのスロットにセットできるように変化させる。

 

「こんな風に、ガジェットに変形して、ボトルを挿す」

 

「なるほど。じゃあ早速……」

 

「あ!まだお前は―――」

 

「行くぞ!」

 

万丈がドラゴンボトルをクローズドラゴンの背中に挿そうとする。

しかしそれをドラゴンが拒み、ガジェットから元の姿に戻り火を噴く。

 

「何でだよ!」

 

「……あのな、そのドラゴンはお前の大脳辺縁系とシンクロしてんだよ。そして、お前の強い思いの閾値が一定以上になると、変身できるようになるの」

 

「…………何言ってんのかさっぱりわかんねー」

 

「『誰かを助けたい』『誰かの力になりたい』って思いが必要ってこと。自分のためだけで変身されて暴れたらそれこそ人殺しだからな」

 

「俺はそんなことしねぇ!」

 

「一応。一応だから」

 

「そうか。そうしちまったもんはしょうがないもんな」

 

万丈のやつ、相当ピリピリしてるな

 

「どうだ?ちょっと外歩かないか」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

龍我SIDE

 

 

『外行こう』

こう言われついていくと、あいつは大赦に足を運んだ。

 

「ここ……か?」

 

「ああ」

 

そして俺たちはある部屋へ向かった。

そこはとても気味が悪かったが、何故か女が一人、立っていた。

 

「園子!もうそこまで回復したのか!」

 

「あ、さっとん!」

 

さっとん?ああ確かこいつ一年前まで佐藤太郎って名前だったってマスターが言ってたな

 

「回復?あんた、病気か何かなのか?」

 

「ちょっと違うかな~」

 

「じゃあ何」

 

「それは―――――」

 

話を聞くうちにわかった。

この子は前戦兎が言ってた勇者ってやつか。

 

どうやら勇者ってのは必殺技みたいのを使うたび体の一部が動かなくなるらしい。

 

「ふざけんなよ……!」

 

「万丈?」

 

「何で俺たちは何も出来ないんだよ……!なんで、こんな子供が……」

 

「神の力を授かることができるのはいつだって無垢な存在だけ。こう決まっちゃってるみたいだからね」

 

「……ってことは、戦兎は一年前までむく……?ってやつだったのか?」

 

「それは違うかな」

 

「ひどくなぁい!?

 

……それより園子、俺の使ってた端末はどこだ?ここに回収されてるのか?」

 

「精霊の数を4体まで減らして、結城友奈って子のものになったんだって」

 

「次世代の勇者……か」

 

「それとさっとんの刀の事なんだけど、三好さんに継がれたんだって」

 

「……遺志継ぐとか言ってたもんなぁ」

 

正直、この二人の会話は知らない単語ばっかでよくわかんねぇ。

でも……俺が役に立てないことだけは確かだ。

 

「俺には、何も出来ないのか……」

 

「どうした?お前が他人の助けになりたいだなんて――――」

 

「どうしたもこうしたもねぇよ!何で将来の明るいガキがこんなひどい目に遭って、俺たち大人が指をくわえているしかない!こんなのおかしいだろ!」

 

「お前にだってできることはあるさ。今わからないだけで」

 

「そうだよ~。……えーっと」

 

「悪い。名前、言ってなかったな。万丈龍我だ。一十百千万の万に、大丈夫の丈、書くのが面倒な方のドラゴン(龍)に、我って書く」

 

「う~ん……あとで考えておくね」

 

「?」

 

「園子はあだ名つけるの大好きだからな」

 

「えへへ~褒められた~!」

 

「……」

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

「どうだ?何か見つけたか?」

 

「ああ。大赦がクソだってことはわかった」

 

「お、おう……」

 

「なぁ、勇者って他にもいるんだろ?」

 

「ああ。確か――――」

 

 

 

「五人」

 

 

 

「そうそう!五人……え?」

 

俺は何も言ってないぞ

 

「ここだよここ!」

 

「スターク!!」

 

「おい待てよ。今は戦いに来たわけじゃないんだ。話をしに来た」

 

「ファウストの奴の言うことなんか聞きたくもねぇ!」

 

「あ?俺はファウストじゃない。訳あって奴らに雇われた傭兵さ。

それより桐生戦兎、あのアタッシュケース開けてみたか?トランスチームガンとスチームブレードが入っていたはずだ」

 

「何故それを……」

 

「トランスチームガンには、ネビュラガスを一定時間だけ抑制するガスを噴射することができる。

例えば、手足が動かないガキがネビュラガス浴びて身体が大人になっちゃって五体満足になりましたと。そこに、さっき言ったガスを使うと……五体満足のまま、ガキの姿に戻れるってことだ」

 

「何が言いたい!」

 

「怒るなよ。あと数分で年越しだぞ?落ち着け」

 

「……」

 

「つまりだ、お前が乃木園子から採取した成分を基にしたボトルをトランスチームガンで使えば、あの時のお前に戻れるかも……と言ってるんだ。

それで親を驚かすもよし、バーテックスと戦うもよし。

 

別に混乱を恐れる必要はないぞ。『行方不明の子供が一年未満で大人になって返ってきました』なんて案件、多すぎてニュースにもならない。

 

なぜなら、それをやっているのは俺だからだ。

最後に一つ。プロジェクトビルドの裏の顔は、『勇者システムを強化しつつ、散華をなくすこと』つまり、神の力を一切頼らないでバーテックスに対抗できるシステムを作ること。お前にはそれができるかな? じゃ、よいお年を」

 

「待て!」

 

「……最悪だ」

 

この数分後、年が明け、神世紀は300年に突入した。

 

 



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第九話 戦慄のニューイヤー

「新年、あけましておめでとう。これからもスマッシュ退治に……」

 

「「あぁ~、最悪だ」」

 

「退治に……」

 

「「……」」

 

「退治……」

 

「あ?るせぇな黙ってろよ」

 

「新年からあのまずいコーヒー飲みたくねぇんだよ」

 

「ど、どうしたんだ二人とも?」

 

「……299年に見た最後の顔がスタークだったなんて」

 

「あのコブラ野郎……」

 

「まぁそうイライラすんなよ。ほら、お年玉替わりのプレゼントだ。戦兎にはこれを」

 

こう言ってマスターは俺の目の前に赤い鳥とロボットのデザインが入ったボトル二本を置き、

 

「万丈にはこれを」

 

万丈にはある紙を渡した。

 

「何、これ」

 

「フェニックスとロボットだ。手に入れるの大変だったんだぞ~?」

 

「で、この"スクラッシュ"ってのは?」

 

「そのうちわかるさ」

 

「はぁ?」

 

「じゃ、俺バイト行ってくるから。出かける時は鍵してくれよ!」

 

 

 

 

 

 

 

「……なぁ、正直、最近のマスター怪しくね?」

 

「どこが」

 

「ボトル持ってたとこだよ。ファウストもボトル使ってただろ?つまり……」

 

「マスターが?ないない」

 

「……考えすぎで済んでほしいけど」

 

俺はこう言い残して職場へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「桐生戦兎さんですか?」

 

「はい」

 

職場につくと、普段話しかけてこない同僚が話しかけてきた。

 

「とても申しづらいのですが…………

研究所がファウストの襲撃を受けたと報告が」

 

「えっ?!」

 

あそこにはパンドラボックスが保管されている。

 

「すぐに行きます!」

 

「危険です!」

 

「大丈夫!友人でそういうの慣れてるやついるんで」

 

 

――――――――――――

 

 

「万丈!万丈!」

 

『うるせぇな聞こえてるよ』

 

「研究所の制服、どこにあるかわかるか?」

 

『ああ、お前が着る予定だったやつだろ?』

 

「そう!それ着て俺の指定する場所に来い!」

 

『は?』

 

「研究所がファウストの襲撃を受けた!」

 

『……そういうことか。任せろ』

 

通話で今の状況を伝える。

 

 

「桐生さん、本当にいくつもりですか?」

 

「ああ」

 

「……そうですか。行かせませんよ」

 

「何だって?」

 

すると、その同僚は手に持ったボトルの成分を自分にふりかけ、スマッシュへと変貌する。

 

「くそっ!」

 

 

〔TAKA!〕

〔GATLING!〕

〔BESTMATCH!〕

 

「変身!」

 

〔ホークガトリング!Yeah!〕

 

飛行するスマッシュを追跡する。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「お疲れ様でーす」

 

一方、龍我は研究所へ到着。

研究員の格好をし潜入を試みていた。

 

「すいません。危険ですので……」

 

「あの、忘れ物しちゃって……」

 

「危険です」

 

「じゃあ、ちょっとこっちに来てくれませんか?ホント五分でいいんで。はい」

 

警備員を人気のない場所へ誘い、その服をはぎ取る。

 

「よし」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

〔FIFTY!〕

 

「新年早々こんな破目に陥るなんてな!」

 

空中戦闘が不慣れなせいでとても戦える状況ではない。

 

しかし、地上に広い空き地があったことを見逃さなかった。

 

〔READY GO!〕

〔VOLTEC FINISH!YEAH!〕

 

「―――!」

 

スマッシュをキックでそこへ落とし、地上で決着をつける。

 

 

 

 

 

「さあ、実験を始めようか」

 

〔LION!〕

〔SOJIKI!〕

〔BESTMATCH!〕

 

〔Are you ready?〕

 

「ビルドアップ!」

 

 

〔たてがみサイクロン!ライオンクリーナー!Yeah!〕

 

 

新しいベストマッチ ライオンクリーナーフォームで近接戦を挑……みたいところだがここはあくまで町の一部。騒ぎを聞きつけられたら厄介だ。

 

〔READY GO!〕

〔VOLTEC FINISH! YEAH!〕

 

左腕の掃除機でスマッシュの動きを抑制し、右手からライオン状のエネルギー弾でとどめを刺す。

 

「うぅ……」

 

「何が目的だ」

 

「これで……私の役目は終わった」

 

「何?」

 

「私の役目は、君を……仮面ライダーを研究所から離すこと!」

 

「おい!」

 

ボトルをもう一本だし、自分に振りかけようとする。

 

「止せ!」

 

「見事引っかかってくれた君に教えてあげよう。葛城巧は、君のそばにいる!」

 

「それはどういう―――」

 

「――――」

 

その男は、そう言い残し消滅した。

 

「葛城さんが……俺の近くに…………?」

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

「お勤めご苦労さんっと」

 

「おい待てよ!」

 

研究所に突入し、ブラッドスタークの元へたどり着いた龍我。

スタークの腕にはパンドラボックスが抱えられていた

 

「? ……脱獄犯が政府以上の権力を持つ組織の施設に乗り込んでくるとは」

 

「そういうお前らこそ、どうしてここを襲撃したんだ!」

 

「ファウストは大赦が作った。それは確かだ。でもな、仲良くしてるとは言ってない。あんな老害と一緒にするなよ」

 

「へっ、そうかよ。じゃあ思い切り暴れられるぜ!」

 

「待て、お前の相手はこいつだ」

 

龍我の前に研究員の一人が立ちふさがり、スタークのデビルスチームでスマッシュに変化する。

 

「一々邪魔すんじゃねェェェ!!」

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

「どうした?ルートが計画と違うじゃないか」

 

「……道に迷ったんだよ」

 

屋上に立っているスタークと幻徳。

 

だが、幻徳の手にはバットフルボトルが握られていた。

 

〔BAT〕

 

「そんなウソが通じると思うなよ。蒸血」

 

〔MIST……MATCH!〕

〔BAT……BA BA BAT! FIRE!〕

 

「ありゃま。ばれちったか。で、逆らったらどうするつもりだ?」

 

「……」

 

ナイトローグがスタークに斬りかかる。

 

「相変わらず暴力的だねぇ……」

 

「貴様……」

 

「おいおい、考えてもみろよ。俺は会社でいう派遣社員みたいなもんだ。それにこんな重役を任せるほうがどうかしてるんじゃないか?」

 

〔ICE STEAM!〕

 

「……聞く耳持てよ」

 

戦闘を続ける二人。

そこに一人の男がぼろぼろの状態で現れる。

 

「間に合った」

 

万丈龍我だ。

 

「スマッシュはどうした!」

 

「ぶっ倒した!成分は抜き取ってねぇけどな!」

 

「バカな……、生身でスマッシュを……?」

 

「ハハハハ!大した男だ!」

 

「さあ、第二ラウンド、始めようかァ!」

 

 

 

 

 

「そんなダメージで俺に勝つ気か?」

 

「かはっ……! まだまだ、これから―――」

 

と、その時、空から銃弾が降り注ぎ、スタークが後退する。

 

「クライマックスには間に合ったようだな!」

 

「遅ぇんだよ!」

 

「贅沢言うな! ほら、立てよ」

 

「……」

 

「あとは任せ―――」

 

「なんて、言わせるかよ」

 

「勝手にしろ」

 

 

 

 

 

 

 

〔HARINEZUMI!〕

〔SYOUBOUSYA!〕

〔BESTMATCH!〕

 

〔Are you ready?〕

 

〔ファイアーヘッジホッグ!Yeah!〕

 

万丈はスターク、俺はローグを攻める。

右腕の針を飛ばし、壁際まで追い込み。

さらに左腕のラダーを伸ばし完全に動きを止め、

必殺技を放とうとするが、

 

 

「覚醒したとはいえ、生身であることに変わりはない!」

 

万丈がスタークに押されている。

 

「万丈!」

 

ラダーをローグから離し、スタークへの火炎放射で万丈から遠ざける。

 

その隙にローグが接近戦を仕掛けてくる。

 

 

〔STEAM SHOT! COBRA!〕

 

 

「ぐあぁ!」

 

スタークがローグごと俺をふきとばし、変身が解除されてしまった。

 

「じゃあな!ボックスはもらってくぜ」

 

「スターク……!」

 

飛び降りるスタークを眺めながら苛立ちを隠せずにいるローグ。

しかしそいつはすぐに別の場所に視線を向ける。

変身解除の衝撃で飛び散った俺のボトルだ。

 

「させるか!」

 

奪わせるかとローグにしがみつくが、すぐに払われてしまう。

生身では無理があった。

 

 

「ボトルは全て回収させてもらう」

 

忍者、コミック、ハリネズミ……

次々と盗られていくが、俺には何も出来ない。

 

 

 

 

「……くそっ」

 

戦兎のボトルが奪われていく。

俺もあいつもボロボロ。

何もすることが出来ない自分を恨みたい。

 

こんな時でも、お前はあんなこと思ってるのか?

 

 

 

 

 

 

 

『どうだ、万丈。そのドラゴンとの仲は』

 

『良くはないな』

 

『そっか。そいつはな、戦兎がお前のために作ったものなんだぞ?』

 

『監視役って言ってたな』

 

『そんな事言ってたのかあいつは……。間違ってはないけどさ。

本当は、「万丈が正しい道へ進めるように」って思いで作ったんだよ』

 

『え?』

 

『「俺がしなきゃいけないことは、万丈の冤罪を晴らすことだけじゃない。あいつを正しい道に進ませてやらないと」だってさ』

 

『何だよ……それ』

 

『それが、香澄さんを死なせてしまった自分の贖罪だって』

 

『……』

 

 

 

 

 

 

あいつだって……被害者じゃねぇか……!

あいつだって、モルモットにされて……かつての仲間と別れさせられて……!

 

「ふざけんな……」

 

クローズドラゴンが寄ってくる。

相変わらずうるさい鳴き声だが、『ボトルをよこせ』って言ってるのか?

 

「これを……頼む!」

 

ドラゴンボトルを落とす。

ドラゴンはそれを銜え、自分の背中に挿す。

 

 

〔CROSS-Z FLAME!〕

 

 

 

 

 

 

 

クローズドラゴンが青い炎を身にまとい、ローグに体当たりする。

そして、背中から二本のボトルを射出する。

ドラゴンとロックボトルだ。

 

「後は任せた!」

 

そういうことか。

だったら、ここでくたばってちゃいられない!

 

 

〔DRAGON!〕

〔LOCK!〕

〔BESTMATCH!〕

 

〔Are you ready?〕

 

「変身!」

 

 

〔封印のファンタジスタ!キードラゴン!Yeah!〕

 

 

右上半身と左足がネイビーブルー、左上半身と右足がシャンパンゴールドになり、

左腕には鍵を模した武装がついている。

 

「勝利の法則は、決まった!」

 

右拳に力を入れ、思い切りローグを殴る。

攻撃が当たる直前に拳に青い炎が纏われる。

 

「何だこの力は……!」

 

「あいつに託されちまったからには、負けるわけにはいかねぇんだよ!」

 

〔READY GO!〕

 

左腕の武装からチェーンを発射し、ローグを拘束、

 

〔VOLTEC FINISH! YEAH!〕

 

さらに右手から火球を発生させ、放つ。

 

「この借りは必ず返す……!」

 

ローグが撤退する。

 

が、その時

 

「がぁっ!ぐぅ……!」

 

立ってもいられないほどの圧のようなものがかかる。

とっさにボトルをドライバーから抜き、変身を解除する。

 

「とんでもない力だ……」

 

ロックフルボトルの力でも制御できていなかった。

やっぱりこれは、俺が使うものじゃない

 

……ん?このボトルの『L』ってまさか…………

 

「……行けよ。まだやることがあんだろ。

科学がどうとか、俺にはわからねぇけど!……俺はお前の事なら、信じられる」

 

「…………俺も同じ事思っちまったよ」

 

残っているボトルは4本。

どう取り返すか

 

 

 

 

 

「――――――」

 

「ん?」

 

地上に降り、撤退をしようとしたスターク。

しかし、ボロボロになったスマッシュを目にして足を止める。

 

「なぁんだ。まだ生きてたのか」

 

そのスマッシュに銃口を向ける。

 

〔STEAM BREAK! COBRA……!〕

 

スマッシュにとどめを刺し、成分を回収する。

 

「――――か、葛城さん……ですよね」

 

スマッシュになっていた研究員がスタークを呼び止める。

 

「誰が、葛城巧だって?」

 

「あなた……ですよ! あなたは、あんな事件で死ぬような人じゃない!考えがあってそんな姿でいるんですよね?!」

 

「……こいつは厄介だな」

 

「葛城さんなら、今のテクノロジーを駆使して、死体の偽装くらいできるはず!」

 

「…………こんな風にか?」

 

研究員の顔に手をかざすスターク。

すると、手のひらから煙が発生する。

 

 

そこに戦兎が到着する。

 

「これは……!」

 

倒れている研究員が別人の顔になる瞬間を目撃してしまう。

 

「驚いたか?これが、俺の力だ。もっと知りたかったら、お前がもってるデータに俺の名前を打ってみろ」

 

「……あんた、何が目的なんだよ」

 

「目的……? 聞きたいことはそんなことか、天才物理学者。いいだろう

 

俺は、これ以上勇者を増やしたくない。ネビュラガスを打ち込めば、もうその時点で無垢とは遠ざかる身体になる。つまり、勇者にはなれない。

だがそれには欠点があった。子供にガスを注入すると、身体が大きくなっちまうんだよ。お前みたいに。

 

ガキはガキらしく、自由に生きてほしいんだよ。

――――といっても、もう遅いか」

 

「何が言いたいんだよ」

 

「結城友奈、東郷美森、三ノ輪銀、犬吠埼風・樹、三好夏澟が次の勇者だ。ファウストはそいつらを狙ってる」

 

「どうして……」

 

「さぁな。ファウストは何を考えているのか俺にもわからない。精霊がいる以上、殺されることはないはずだ」

 

「……」

 

「長々と話しちまったが、もう一つ言っておこう。奉火祭という行事を知ってるか?

簡単に言うと、バーテックスの親玉に対して『巫女6人あげるから勘弁して』って許しを請うものだ。東郷美森は勇者であると同時に、巫女の素質を備えている。そのうち、これに巻き込まれるかもな」

 

「……」

 

 

 

「話はそこまでだ。スターク」

 

 

戦兎の背後にナイトローグが現れ、トランスチームガンを構える。

 

「残りのボトルも回収させてもらう」

 

ラビット、タンク、ライオンが奪われ、最後の一つである勇者フルボトルに手を出したその時

 

「おい、それは使えない。返してやれ」

 

「何だと?」

 

「いいから返せ。さもないと……パンドラボックスを破壊する」

 

〔COBRA……!〕

 

ボックスを放り投げ、銃口を向けるスターク。

 

「……いいだろう。こいつは取らないでやる」

 

「またな戦兎!」

 

「……」

 

自らの非力さとスタークの読めない考えに頭を支配され、立ちすくむ戦兎だった――

 



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第十話 仮面ライダーの戦う意味

ドラゴン、ロック、勇者以外の全てのフルボトルを奪われてしまった戦兎。

 

「こうなったら―――」

 

「俺の出番……と言いたいところだけど、いかんせん戦う理由がな」

 

「難しいな……」

 

でも、一応作っとくかと言い立ち上がる戦兎。

何をだよと尋ねる龍我。

 

「お前が変身する予定の"仮面ライダークローズ"はビルドドライバーにクローズドラゴンを通じてドラゴンボトル一本で変身するライダーだ。フォームチェンジができない分、格闘戦では現時点のビルドをはるかに凌駕する」

 

「俺タイプってか」

 

「だからと言って素手で戦えってのも酷だろう」

 

「そうか?」

 

使うにしろ使わないにしろ一応専用武器を作る。

だからボトルを貸せという戦兎。

 

「早めにな」

 

「わかってる」

 

「……ちょっと、風当たってくるわ」

 

「ちゃんと変装して、夕飯までには帰ってきなさいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰かのために戦う……か」

 

道をぶらぶら歩く万丈。

すると彼の耳に、自らを讃州中学勇者部と名乗る六人組が子猫を預かってくれる人を探している声が入る。

 

「猫?それより、あいつって……」

 

万丈の目に入ったのは猫ではなく、その近くのロングの金髪の少女。

去年まであんな部屋にいたのにもう出れるまで回復したんだな。すげぇな

と口に出す。

 

「あれ~?ジョーさんだ~!」

 

金髪の少女 乃木園子が万丈を指さしてこう言う。

 

「なになに?乃木の知り合い?」

 

「佐藤……ではないな」

 

他の勇者部の面子が彼女の発言に飛びつく。

 

「……え?俺?」

 

「そうですよ~、万丈龍我さ……あっ」

 

「万丈龍我!?」

 

「その人って、あの……!?」

 

園子が口を滑らし、それを聞いた一同が動揺する。

 

「俺は誰も殺してねぇ!それにあの事件は誰も死んでねぇ!」

 

ほら、自分から『殺す』って単語出してきた

やっぱり脱獄犯だ

 

ひそひそしだす勇者部。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦兎、万丈外に出して大丈夫なのか?」

 

「マスター、俺が何もしていないとお思いで?はいパスタ」

 

「やっぱお前はすごいけどそのパスタはパスタ嫌いの俺に対する嫌がらせかな?」

 

 

 

 

 

 

 

「ほ、ほら、これ見ろよ!」

 

万丈は一枚のカードを勇者部に見せる。

これは大赦の関係者しか持てない代物で、

自分は犯罪者じゃないことを示そうとする。

 

 

もちろんこれは自分の顔写真を切り抜いて貼り付けた戦兎のものである

 

「あ、ホントだ」

 

「ということは、あの事件は……」

 

「そうだ!葛城巧は生きてる!」

 

「「「「「……」」」」」

 

「最近のマスコミは情報かく乱が大好きだからね~。仕方ないよ。さっとんもこの人が冤罪だって信じてるし」

 

「おい園子、今さっとんって言ったか!?

やっぱり須美の言うことは正しかったんだ!」

 

「そうよ。万丈さん、あの人の居場所、わかりますか?」

 

「……」

 

答えるか、答えまいか。どうするか

うるうるした瞳をした少女が教えてと訴えてくる。

 

 

 

「nascita」

 

 

 

「ありがとうございます!さあ銀!行くわよ!」

 

「お、おい!子猫どうするんだよ!」

 

「あ、それはアタシのほうでやっとくからー」

 

龍我の良心が働いてしまい、あっさり吐いてしまった。

これのせいで部員の東郷美森・三ノ輪銀(と結城友奈)が走ってnascitaへ向かう。

 

「戦兎…………許せ!

 

 

 

ところで、ジョーさんってのは……」

 

「前に考えとくって言ってたあだ名ですよ~

他にもバンバンとかドラドラとかジョードラとか

ジョーリュー拳とかありますけど~」

 

「ジョーさんで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おじゃましまーす!!」

 

「うぉああ!!」

 

一方nascitaでは、

本店の扉を思いきり開けた少女に惣一が驚き尻もちをつく。

 

「いらっしゃ~い!どうぞ、お座りくださ―――」

 

「佐藤太郎って人、知りませんか?」

 

「シ、シラナイ。シラナイヨ」

 

「本当に?」

 

「ホントダヨ。オジサンウソツカナイ」

 

「nascita、売り上げ、閉店……」

 

「嘘つきましたごめんなさい佐藤太郎もとい桐生戦兎はこの地下にいますだからどうか閉店の話はチャラにしてお願いします」

 

美森のだした単語に恐れて戦兎の居場所をばらす惣一。

 

 

 

 

 

 

 

「――――藤太郎もとい桐生戦兎はこの地下にいますだからどうか閉店の話はチャラにしてお願いします」

 

「マスターァァァァァァ!!」

 

地下への入り口で聞き耳を立てていた戦兎。

惣一があっさりばらした怒りとショックで叫んでしまう。

 

 

「あっ!ホントにいた!」

 

「……」

 

もう逃げ場はない。腹をくくろう。

こうつぶやき彼は入り口のロックを外し、

仮面ライダークローズ専用の武器の開発を再開した。

 

 

「お邪魔しまーす!」

 

「落ち着いて。友奈ちゃん」

 

「だってだって!仮面ライダーさんの秘密基地だよ!」

 

「あはは……友奈は相変わらずだなぁ」

 

三人が地下室へ入ってくる。

戦兎はどういう顔をして彼女たちのほうを向けばいいかわからない。

 

「……」

 

戦兎のはんだごてを持つ手が震える。

 

これでは作業どころの話ではない。

といってもはんだづけはもう終わるし

後はあいつのドリルクラッシャーを用いた戦闘データを入れれば完成だし

 

こう思い続けた。

 

「あの、顔白くなってますけどどうかしましたか?」

 

一番乗りの友奈が戦兎の顔をのぞく。

 

「大丈夫……うん」

 

こうしている間にもクローズ専用武器 ビートクローザー が完成した。

そして彼は美森と銀のほうを向き、今までの事を砕いて説明した。

 

『讃州中学で会いましょう』と聞いた時はてっきり説教でもされるのかと思っていたがそんなことは全くなく、二人は口をそろえて「約束したもんね。あとずいぶん大きくなったね(なりましたね)」と言った。

 

「それと……その、パソコンの事なんだけどさ、ホントは冗談だったんだよ。でも―――」

 

「私がやりました」

 

やっぱりお前か須美ぃぃぃ!!

 

心の中で叫ぶ戦兎

 

「それにしてもつまらないですね。いかがわしい画像が一枚も入ってなかったなんて」

 

「お前は何を言っているんだ……?!」

 

と、そこに龍我が到着する

 

「俺は悪くねぇ」

 

「園子もいるんだぜ~!」

 

さっきからヘラヘラしながら謝る龍我と相変わらずの園子。

 

ずいぶん賑やかになってきたな

とその時

 

「ちょっと乃木に万丈さん!歩くの早……あーー!!」

 

「お姉ちゃん、人の家なんだから落ち着いて……」

 

勇者部の部長である犬吠埼風とその妹の樹が顔を出す。

風が転びそうな勢いで螺旋階段を下り、ビルドドライバーに触れる。

 

「これって、仮面ライダーの……!」

 

「それ人のものだよお姉ちゃん」

 

 

「……万丈、こっち」

 

戦兎が万丈だけを自分に引き寄せる。

 

「お前が連れてきたの?」

 

「違う。ついてきたんだ。別にいいだろ」

 

その後、勇者部から質問攻めを受ける。

数々くる質問を答えていると同時に、彼は初めてビルドになった頃の自分を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ここは……』

 

『お、目が覚めたか』

 

『あんたは』

 

『俺は石動惣一。雨の中倒れてるお前をここに運んだんだよ。

寒くないか?』

 

 

~数日後

 

 

『おはよう!それと今日からお前は桐生戦兎だ!』

 

『え?俺は佐藤太―――』

 

『その名前はしばらく捨てろ。訳があるんだ』

 

『はぁ』

 

『それと、体術に自身は?』

 

『まあまあ』

 

『なら、決まりだな』

 

『これは?』

 

『ビルドドライバー。これを使って怪人を倒してほしい』

 

 

 

 

 

 

 

桐生戦兎という名前とビルドドライバーをもらった佐藤太郎。

彼は後にスマッシュと呼ばれる怪人と対峙していた。

 

『……こうか?』

 

ビルドドライバーを腰につけ、赤と青のフルボトルを振る。

すると彼は何かを思い出したかのように立ち上がり、

 

『さあ……実験を始めようか』

 

〔RABBIT!〕

〔TANK!〕

 

ドライバーに二本のボトルをセット。

そしてレバーを回すと自分の前後に赤と青の半身が成形され

 

〔Are you ready?〕

 

『えっ? へ、変身』

 

ドライバーのシステムボイスに応えると、成形された二つの半身が自分に迫り

変身が完了する。

 

〔RABBITTANK!〕

 

『いってぇ……

すごい……ホントに変身しちゃったよ……!』

 

迫りくる怪人にパンチしてみる。

力の入っていないパンチだったものの、スマッシュはよろめく。

 

これならいける

こう思った彼は、前にも変身したことがあるようなないような……

と悩む部分もあったものの、勝利をつかんだ。

 

 

 

 

 

 

『ただいま』

 

『おかえり』

 

これが、神世紀で最初の仮面ライダーの始まり。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――?さっと~ん?」

 

「―――――――はっ!?……あれ」

 

「途中から寝てましたよ」

 

「マジか……」

 

過去を思い出しているうちに寝てしまった戦兎。

彼が寝ていた間も

 

小さくて可愛いもの(クローズドラゴン)を観察する者

辺りの写真を撮る者

写真を撮る者を落ち着かせようとする者

戦兎の寝顔を初めて見る者

それを撮ろうとする者

一緒に寝ようとしたけど起こした者

戦う理由に悩む者

 

がいたため、戦兎の自室はいつも以上に賑やかだった。

 

 

「う~ん、どの写真使おうかな……あ、もうこんな時間!

勇者部、帰るわよー」

 

「し、失礼しました」

 

「近いうちにまた来るから!じゃあね!」

 

「次来る時はぼた餅持ってくるので、食べてくださいね。有無は言わせない」

 

「さっとんまたね~」

 

「おう。気をつけろよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

勇者部が帰り、部屋は再び静寂に包まれた。

 

戦兎は現存しているドラゴン以外のボトルをドライバーに挿す。

 

〔YUUSYA!〕

〔LOCK!〕

〔BESTMATCH!〕

 

「やっぱりね」

 

戦兎が先ほど採取した成分の入ったボトルを手の中で転がせながら呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦兎と万丈のやつ、俺に見せたことのない顔しやがって。

 

…………いいんだよ。それで」

 

 

 

 

 

 



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第十一話 龍のウェイクアップ

勇者部が帰り、スマッシュの反応もないまま数日が過ぎた。

戦兎は暇つぶしもかねて

PROJECTBUILD&REBOOT OF LEGEND KAMENRIDER(以下 PB&ROLK)

に『ブラッドスターク』と打ち込む。

 

すると、一本の動画が見つかった。

 

『これは、ブラッドスターク。

ビルドのハザードレベルを上げるライバルってとこだ。

声も自由に変えられ、手のひらから蒸気を出し、物を変形させることもできる』

 

「なんだよ、スタークまでそいつが作ってたのかよ!」

 

『その源が、トランスチームシステム。

ライダーシステムと違い、ハザードレベルは固定されている』

 

ここで動画が終わる。

 

「俺もあいつらも力の根源は同じ。戦う意味はあるのかねぇ……」

 

「あるに決まってんだろ!ファウストは罪のない人々を散々玩具にしてきたんだぞ!」

 

「そういうと思った」

 

戦兎は先ほど入手した浄化前のボトルを機械に入る。

そして横になるとした瞬間、彼の携帯が鳴る。

スマッシュを探知した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何してんだよ」

 

「何ってバードウォッチャーに扮して敵をいち早く見つけ――――」

 

「どう見ても怪しいのはここだろ」

 

早速現場へ行く二人。

万丈がバカやってる間にずんずん廃工場へ入る戦兎。

 

「待っていたぞ。さあ、ボトルを差し出せ」

 

そこにいたのはタコのようなスマッシュとナイトローグだった。

 

「そういうことか」

 

「そういうことかじゃねぇよ待ってましただよ。来い!」

 

万丈が叫ぶと、それに呼応するようにクローズドラゴンがガジェットに変形し彼の手に落ちる。

 

そしてボトルをセットしようとするとドラゴンがそれを拒否した。

 

「またかよ!」

 

「万丈、お前は下がってろ」

 

〔YUUSYA!〕

〔LOCK!〕

〔BESTMATCH!〕

 

「あ?……ああそういうことか。スマッシュは任せろ」

 

〔Are you ready?〕

 

戦兎のスナップライドビルダーには、

前方に薄紫、後方にシャンパンゴールドの半身が形成される。

 

「変身!」

 

〔縛られた運命!フィクシング(FIXING)ブレイバー! Yeah!〕

 

その二つが合わさり、彼はビルド フィクシングブレイバーフォームへと姿を変える。

 

「ッしゃあ!」

 

龍我がドラゴンフルボトルをシェイクし、スマッシュに殴りかかる。

戦兎もローグに格闘戦を仕掛ける。

 

「ん……?」

 

身体に力が入らない。

キードラゴンとは別のわけでコントロールが難しいと悟る。

 

「ロックボトルのせいか……!」

 

現時点での勇者フルボトルの力はドラゴンほど強くはない。

逆にロックのせいで必要以上に抑えられてしまっている。

 

「戦兎!これ使え!」

 

ローグに劣勢の戦兎に龍我からドラゴンボトルが渡される。

 

〔DRAGON!〕

〔BESTMATCH!〕

 

〔キードラゴン!Yeah!〕

 

このフォームになった途端、身体のバランスが急激に変わる。

フィクシングブレイバーは悪い意味で軽く、

キードラゴンは重過ぎる。

まともに戦えない。

 

「身体が……!くっ!」

 

ついに変身解除に陥る。

 

「ボトルを渡せば、命だけは助けてやる」

 

「戦兎!」

 

「―――――俺に内緒でボトルの回収とは精が出るねぇ」

 

「スターク……」

 

「スタークゥゥゥ!!」

 

ドラゴンボトルを回収し、現れたスタークに殴りかかろうとする龍我。

 

「無茶だ!」

 

龍我の腕をつかみ制止させる戦兎

 

「離せ!あいつはファウストの関係者なんだぞ!」

 

「おいおい、それでも俺はかなりマシな方だと思うぞ?」

 

「ふざけんな!俺の冤罪のことも全部、てめぇがやったんだろ!」

 

「はぁ?ちげえよ!それはこの――――」

 

「スターク!!」

 

何かを言いかけたスタークにスチームブレードで斬りかかるローグ。

スタークはそれを軽く受け流し

 

「ほら、今のうちだ!早く行け」

 

 

「させるか!」

 

ローグは撤退する二人の背中に銃口を向けるが、

スタークの投げたパイプ椅子により射撃のタイミングを失い、二人を逃がしてしまう

 

「何をする!」

 

「なんだよ、お前はあいつが持ってるデータで作った物欲しいんだろ?

今殺したら何もかもパーだぞ?」

 

「……」

 

「所詮、俺たちはプロジェクトビルドの試作品。どれだけ戦ってもハザードレベルは上がらない。下がることもない。いつかあいつらに抜かれ、倒される」

 

「何が言いたい」

 

「お前は権力におぼれた哀れなワンちゃんってこと。吠えるだけ吠えといて成長の見込みもない。

 

なぁ、ファウストはこんなことする為につくられた訳じゃないってこと、知ってるだろ?」

 

「……」

 

「お前が計画してる『勇者暗殺計画』、俺は絶対認めない」

 

 

 

 

 

 

 

 

〔You got a mail……〕

 

翌日、ローグへの対抗策が思いつかない戦兎。

そこに一通のメールが入る。

 

『コウモリと怪人がお呼びだ。行ってやれ』

 

送り主はブラッドスタークだった。

 

 

 

 

 

「変身!」

 

〔キードラゴン!Yeah!〕

 

現場に到着した戦兎はキードラゴンフォームに変身。

短期決戦を狙う。

 

〔READY GO!〕

〔VOLTEC FINISH! YEAH!〕

 

スマッシュにチェーンを飛ばし、動きを拘束するはずであったが、

横からの銃撃で中断されてしまった。

 

「懲りずにまだその姿で戦うか」

 

「余計な……お世話だ!」

 

目標をスマッシュからローグに切り替え、拳をたたきつけようとするが、

その直前にドラゴンボトルの力が制御不能になり、ロックボトルの力で強制的に変身が解除される。

 

戦兎は倒れた自分を盾にするようにボトルを守る姿勢をとる。

だがローグにそれは通用しなかった。

 

「大人しくボトルを渡せ」

 

戦兎はドラゴンとロックを身体の下から出す。

 

「そうだ。その二本だ」

 

「戦兎!ボトルとドライバーをよこせ!」

 

ローグの腕を振り払い、

二本のボトルとビルドドライバーを龍我に投げ渡す。

 

 

龍我が受け取ったドライバーを身に着け、

ボトルを握りしめ、ローグに迫る。

 

「オラぁ!」

 

「迷いのあるお前に、私は倒せない」

 

「……今の俺に迷いはない!

人のため力を使う。これをしてる奴の考えはわからない。

でも……」

 

「ッ! ハザードレベルが上がっている……!」

 

「それが無駄じゃないってことはわかる!

俺はもう、力を私利私欲のためだけに使う人間じゃない!」

 

龍我がローグを殴り飛ばす。

そしてクローズドラゴンがガジェットに変形し、それにドラゴンボトルを挿す。

 

〔WAKE UP!〕

 

「力を貸してくれ……!」

 

さらにこれをドライバーにセットする。

 

〔CROSS-Z DRAGON!〕

 

ボルテックレバーを回し、スナップライドビルダーを展開する。

 

〔Are you ready?〕

 

「変身ッ!」

 

形成された半身が合わさり、さらにその上から龍の頭と翼を模したアーマーが被さる。

 

〔WAKE UP BURNING!

GET CROSS-Z DRAGON!YEAH!〕

 

 

「あのバカ、やりやがった……!」

 

「ハァ!!」

 

龍我が変身を遂げた仮面ライダークローズがスマッシュを一撃で殴り飛ばす。

 

「オラオラオラオラ!!」

 

その直後、乱暴にレバーを回し必殺技を放つ。

 

〔READY GO!〕

〔DRAGONIC FINISH!〕

 

クローズの背後に青龍が現れ、それの吐く炎の勢いに乗りながら回し蹴りをかます。

スマッシュを一撃で戦闘不能にさせる。

 

「一撃だと……?」

 

〔BEAT CLOSER!〕

 

専用武器 ビートクローザーを召喚し、グリップエンドを引っ張る。

 

〔ヒッパレェー!〕

〔SMASH HIT!〕

 

地面に攻撃し、煙が上がったとともにローグに急接近。

 

〔ヒッパレェー!ヒッパレェー!〕

〔MILLION HIT!〕

 

「どこからそんな力が……!」

 

「強いのは、俺だけの力じゃねぇからな!」

 

腰のホルダーにストックされているロックボトルをクローザーのスロットに挿し、グリップエンドを二回引っ張る。

 

「今の俺は――――」

 

〔SPECIAL TUNE!〕

〔ヒッパレェー!ヒッパレェー!〕

〔MILLION SLASH!〕

 

「――負ける気がしねぇ!!」

 

フルボトルを装填し、強化されたクローザーでローグを振り払う。

 

「――――――こんなはずでは……」

 

ローグが撤退する。

 

 

「香澄、戦兎……サンキュー」

 

「万丈!スマッシュ!スマッシュ!」

 

「あっ!忘れてた!」

 

 

 

 

 

 

 

「これはこれは。惨敗したようだな」

 

「……油断していただけだ。新しい仮面ライダーごときに…………!」

 

「新しい仮面ライダー?

ビルドドライバーで変身できるライダーはビルドだけのはず……

ああ、あいつか。

それより、後三か月だ。後三か月でヤツらの侵攻が再開される」

 

「その隙に奴らを……」

 

「だから言ってんだろ?あの二人を、勇者を、殺させはしない。

 

 

 

 

 

 

葛城巧の名に懸けて」

 



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第十二話 ファウストの謎

「葛城巧だと?奴はすでに死んだはず」

 

「俺は全てを知っている。お前がファウストを指揮し、大赦と敵対した理由

そして……万丈龍我を殺人犯に仕立て上げた理由―――」

 

「それ以上言うな!ファウストは、私のものだ」

 

「……ふざけるんじゃねぇよ。ファウストはお前の好きに動かせる玩具じゃない」

 

「勝手にほざいてろ。悪魔め」

 

「仲間から見放されて一人ぼっちになっても知らないぞ?クソジジイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかわり!」

 

「またですか?」

 

「うめぇんだから仕方ねぇだろ」

 

1月の第二月曜日

ほとんどの学校が再開される時期。

讃州中学もその一つで、放課後の現在、nascitaに足を運んでいる人物が6人

 

勇者部である。

彼女たちから見ればnascitaという場所は

静かで勉強の場に使え、(コーヒー以外の)飲み物や料理が安く美味である

という点から非常に好かれている。

 

しかし、そのメニューが少なすぎる。

まず惣一製コーヒーである『nascitaで何シタ?』だが、評価は最悪。

『まずい』『まじぃ』『泥水』『トイレに流せ』

とボロクソ言われているが、つくった本人は

 

お前らの舌がおこちゃまなだけだよ!これが大人の味ってもんだ

 

と言及し、周りに『もう一回自分で飲んでみろ』と言われその通りにすると

 

まじぃ!

 

と叫び残りを捨てた。

ちなみに、自分以外の8人のうち一人がこれをギブアップせずに涙目になりながら飲み干し、こちらに『淹れてくれてありがとう』と笑顔を見せたことは彼のトラウマである

 

次のメニューは戦兎製の『〇〇は焼肉っしょ!』だが、こちらは一定の評価を得ている。

〇〇にはこれを注文した時点の時間帯(朝・昼・今夜)を入れる。

料理としては単なる中辛のたれを使った焼肉だが、生焼け、焼き過ぎが全くない。

 

最後に龍我製の『卵かけごはん(醤油増し増し)』は、単なる卵かけごはんである。

 

『もはや料理ですらないからぁ!』『でもコーヒーよりマシ』

 

という評価をもらい、本人は歓喜している。

だが、名前の通り醤油が増し増しで若干卵が黒くなっている。

 

 

メニューは以上。nascitaの未来は暗い。

石動惣一のマスターとしての未来も暗い。

 

 

話を戻すと

今勇者部と仮面ライダーの8人は美森と風の料理を堪能している。

例に漏れず惣一はバイトである。

 

 

「なぁ戦兎、ボトル、どうすんだよ」

 

「問題はそこなんだよなぁ……。どう取り返すか」

 

「えっ、奪われたんですか!?」

 

「ああ。ファウストって聞いたことある?」

 

「んー……ないです」

 

「さっとん、それってスペルわかる?」

 

「スペルか。確か、FAUST」

 

「……Task Force Advance Support Unfold

っていうのならあるけど」

 

「なにそれ」

 

「略してTFASU。大赦がつくった警備会社だよ。

でも、お金の問題でつぶれちゃったんだって」

 

「…………どういう意味?」

 

園子の言う単語に困惑する龍我。

そこに戦兎が手を差し伸べる

 

「タスクフォースは機動部隊

アドバンスは前進・進歩

サポートは支援・援助・補助

アンフォールドは広げる

 

だから、『進歩したサポートを広い範囲で行う機動部隊』ってとこか」

 

「へー。なんか後付けした感じだな」

 

「後付け……TFASU…………なるほどね」

 

「?」

 

「潰れた時期はわかるか?」

 

「三年前だね~。でも、そんなこと知ってどうするの?」

 

「まぁ、こいつの冤罪晴らしの材料になると思って」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日もありがとうございましたー!」

 

「気を付けてね。クローズドラゴンつかせようか」

 

何が終わるかわからないしと戦兎が彼女たちの帰り際に提案するが

大丈夫と返された。

 

「あ、ちょっとこっち」

 

戦兎が美森、銀、園子に残るように手でサインを出す

 

「どうかしました?」

 

「はは~ん、さては園子とまだいたいからか?」

 

「そうしたいところだが……今は違う。

また、選ばれちまったみたいだな」

 

「「……」」

 

「まだ続いてるって方が正しいか。

俺と園子が壁へ行った後、満開はしたか?」

 

「はい。私は二回」

 

「あたしはあの後もう一回……」

 

「じゃあもう猶予はないってことか。

次満開したら……」

 

「で、でも!そのっちはもうこんなに元気になりました!

散華は一時的なものでは―――」

 

「いや違うね。あれは、園子の勇者としての資格を剥奪したから神樹が気を利かせてなのかは知らないけど、戻ってきただけだ。

 

新しいものを付け加えたわけじゃない。帰ってきたんだ。

だから回復が非常に早かった。

 

だったら『散華したら資格を剥奪してもらって~』と言いたいが、たぶん無理だろ。

とにかく、また戦う機会があっても満開はするなってこと」

 

「わ、わかったよ」

 

気をつけて帰れよと言って帰る三人の背を見守る戦兎。

 

あと三か月と数十日。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ!大赦のみなさん!」

 

「なっ……!?」

 

ここは大赦

開発部にある人物が訪れていた。

 

「どうしたんだよ。そんな顔して」

 

「……そ、その声………………葛城さん!?

何ですかその姿!生きていたんですか?!」

 

「俺はブラッドスターク。BLOODは『血』、STALKは『茎』とか『忍び寄る』って意味だ。

繋げると血管ってとこかな。それより、乃木園子の端末はどこだ」

 

「何が目的なんですか!」

 

「いいから答えろよ。少なくともお前らよりはうまく扱うからさ」

 

「……」

 

「いいのか?黙り込んで

ここに来る前出くわした奴らみたいに眠ることになるぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「素直に従えばいいものを……

ブツは回収した。後は…………」

 



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第十三話 陰謀のトゥルース

「パンドラボックスと、ボトルの方はどうかね?」

 

「現在、ボックスとボトル21本はスタークが所持しています。難波会長」

 

「ご苦労。……ん?それでは、ボックスを開けることができるのではないか?」

 

「いえ、それはできません」

 

「何故だ」

 

「21本の内のフェニックス、ロボット、ドクター、ゲーム

以上の四つに関してはパンドラボックスを開けることに使えないことがわかりました」

 

「そうか……」

 

ここはファウストのアジト

彼らはここで人間をスマッシュに変化させ、町に放っている。

 

「会長」

 

「どうしたのかね、氷室君」

 

「今まで、ありがとうございました」

 

〔MIST……MATCH!〕

〔BAT…… BA BA BAT……!〕

 

〔RIFLE MODE!〕

 

幻徳はナイトローグに姿を変え、

上司にしてファウスト創設者の難波重三郎に銃口を向ける。

 

「貴様は、もう用済みだ」

 

〔STEAM SHOT!――――〕

 

「待て!自分が何をしているのかわかっ―――」

 

〔―――BAT!〕

 

放たれた弾丸は真っすぐ重三郎の頭部を打ち抜く。

無論、即死である

 

 

 

「朝からうるせぇな…………あーあ。殺っちまったか」

 

「これでわかっただろう。ファウストの、本当のリーダーが」

 

「はいはいわかりましたよ。お前がリーダーだよ。

 

なんて、認めると思ってんのか?」

 

ローグが今の状況を目撃したスタークと対峙する

 

「貴様!ファウストに背く気か!」

 

「ファウストはお前のものでも、人殺しの組織でもない!」

 

「貴様も人体実験を行っていただろう!」

 

「一緒にすんじゃねぇよ。お前とは目的が違う」

 

「そんなことはどうでもいい!」

 

「どうでもよくはねぇだろ。

そうかそうか。お前もパンドラボックスの光にやられちまったんだな?」

 

「貴様も同じだろう!石動!」

 

「……」

 

先ほどから激昂するローグの攻撃を交わしてばかりのスタークだったが

トランスチームガン ライフルモードを手にし攻めに入る。

 

「どうした?その程度か?」

 

「スターク……」

 

「弱い犬ほどよく吠える。

お前はこれを体現しちまってるな」

 

ローグの武器を叩き落とし

至近距離で装甲の少ない個所に射撃。

 

ついに変身が解除されてしまう。

 

「全く、ファウストの新しい親玉がその程度かよ。呆れるぜ」

 

「戯言を……」

 

「スクラッシュ」

 

「今、なんて……!?」

 

「何でもねぇよ」

 

 

 

 

 

 

「バカな……!葛城はこの俺が…………」

 

 

 

 

 

 

 

「おい、ホントにここにあんのか?」

 

一方、戦兎と龍我は以前訪れた難波重工跡地に足を運んでいた。

 

そしてここに来る前、スタークからボックスの在りかをメールで伝えられていた。

 

「手がかりがない以上、メールを信じるしかねぇだろ」

 

エレベーターをこじ開ける戦兎。

その時の揺れで彼の手荷物からビルドドライバーが落ちる。

 

「ドライバー落ちたぞ!気をつけろ」

 

「お前用だ。クローザーと一緒に作ってた」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「残念だが、お引き取り願おうか」

 

目的地の地下三階に到着した。

しかし、そこにはナイトローグとガーディアンが待ち構えていた。

 

「せっかく来たんだ。楽しませてくれよ?」

 

「変身できねぇくせに何言ってんだよ。今日の主役は俺だ」

 

「嘘……!?」

 

〔WAKE UP!〕

〔CROSS-Z DRAGON!〕

 

〔Are you ready?〕

 

「変身ッ!」

 

〔WAKE UP BURNING! GET CROSS-Z DRAGON! YEAH!〕

 

龍我がクローズに変身し、ナイトローグへ、

戦兎はドリルクラッシャーでガーディアンに迫る。

 

「仮面ライダーになれたところで、ハザードレベルは私の方が上だ」

 

〔ICE STEAM!〕

 

「ぐわぁ!」

 

剣を交えたところでアイススチームを放ちクローズの動きを制限。

たたみかけるところだったが、

 

そこに招かれざる客が現れる。

 

「これはこれは皆さんお揃いで」

 

「スターク!」

 

「何しに来た」

 

スタークは階段を滑るように降り

ローグの前に立つ。

 

「決まってんだろ。倒しに来たんだよ。

 

お前をなッ!」

 

後ろを振り向き、ローグを斬る。

さらに得物を逆手持ちして刺すように追撃する。

 

そしてローグと対峙しながらある壁を見つめ、

 

「ここかぁ?」

 

その壁まで退くとスチームブレードを突き刺し、穴をあける。

 

そこには、パンドラボックスとボトルが隠されていた。

 

「ビンゴ!パネルまであるじゃねぇか!置き場所変えやがって……」

 

いただき~と手を伸ばすが、ローグに阻止される。

 

「おい戦兎!ボトル全部ここにあるぞ!

パネルごと回収しちまえ!」

 

ボックスとボトルのある場所からローグを離すように肉薄し、

戦兎がそこを覗く。

すると、見慣れない緑色のボトルを発見する。

 

「ああー!これ、電車ボトルじゃん!

俺の計算からすると……」

 

戦兎は海賊ボトルを手に取り

 

〔KAIZOKU!〕

〔DENSYA!〕

〔BESTMATCH!〕

 

「ベストマッチきたぁぁぁ!フォー!!」

 

〔Are you ready?〕

 

「変身!」

 

 

〔定刻の反逆者!海賊レッシャー!Yeah!〕

 

 

ビルドの新しいフォームを発見し、ローグに接近。

クローズはスタークと戦う。

 

「今日こそお前の化けの皮、剥がしてやるよ!」

 

「その声、万丈か!いいぞ。来い!」

 

ビートクローザーで斬りかかるが、スタークは受け身のまま反撃してこない。

クローズを試しているかのように

 

〔ヒッパレェー!ヒッパレェー!ヒッパレェー!〕

〔MEGA HIT!〕

 

グリップエンドを三回引っ張って発動する特殊攻撃を放つ。

流石のスタークも受け止めきれず、姿勢が崩れる。

 

「中々やるじゃないか。だが、俺の目的はこいつだ!」

 

「させるか!」

 

パンドラボックスを手にし去ろうとするスターク。

二回も連続で盗られるわけにはいかないとスタークを追いかけようとするローグ。

 

「どこ見てんだよ!」

 

〔VOLTEC BREAK!〕

 

しかしビルドにその隙を突かれ攻められる。

 

「ボトル、忘れるなよ!」

 

「この私が、撤退だと……?」

 

身体から霧を出し姿を消す。

 

「お前、サブ主役のくせにやるじゃねぇか」

 

「お前も、ど素人にしてはよくやったほうだと思うよ?」

 

「うるせぇよ」

 



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第十四話 最悪のリユーニオン

「おー!!ボトルちゃん!ファウストから取り返したのか!」

 

ファウストからパネルごとボトルを全て取り戻した戦兎たち。

バイトから帰ってきた惣一が歓喜する。

 

「あ!俺のあげたボトルまであるじゃねぇか!まさかこれも奪われ―――」

 

「できた!!名付けて、カイゾクハッシャー!」

 

戦兎は前々から予想していたベストマッチである海賊レッシャーを見つけた勢いで新しい武器を制作していた。

海賊船・電車・錨をモチーフにした弓型の武器である

 

「攻撃は……各駅電車~、急行電車~、快速電車~、海賊電車の

四・段・階!」

 

「ぅわあ!そんなもん人に向けるな!」

 

4コマ忍法刀と同じように完成したての武器を振り回す戦兎。

非戦闘時にはセーフティがかかっているとはいえ、鈍器であることに変わりはない。

 

このようにはしゃぐ彼だったが、そこに一通の電話が入る。

 

 

『……あの時は世話になった』

 

「鍋島さん?」

 

『万丈龍我もそこにいるのか』

 

「ああ」

 

『記憶が完全に戻った。俺を使ってそいつをこんなことにした犯人を今から言う』

 

「……」

 

『ナイトローグだ』

 

「……そうか」

 

『そして、その隣にいた奴のことも』

 

「スターク……」

 

『奴はファウストではない。奴は、―――だ』

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「おい戦兎!出て来いよ!」

 

「……最悪だ」

 

鍋島からの電話でついにスタークの正体を知った戦兎。

彼は今地下室の入り口を閉め、うずくまっている

 

 

 

 

「マスター、どうする?」

 

「こういう時は、アレだろ?」

 

「アレ……? ああそういうことか!」

 

万丈と惣一は七輪を持ってきてそこでアジを焼き始める

 

「戦兎ー、早く来いよー。食っちまうぞ~」

 

戦兎からの反応はない

 

「食うぞ食うからな!」

 

反応はない

 

「あーっ、こんなところにお前の彼女の手料理が――――」

 

戦兎が入り口から体を出す

 

「…………嘘だよ」

 

再び閉じこもろうとする戦兎だったが、惣一に腕をつかまれて拘束される。

 

「悪かった!俺が悪かった!代わりにこれ!」

 

惣一が一つの端末を戦兎の手に持たせる。

 

「…………なんでこんなの持ってるの」

 

「色々あるんだよ。あ、俺バイトの時間だから」

 

鍵よろしくと出ていく惣一。

 

 

 

 

 

 

 

戦兎は自室に戻り、浄化装置を覗く。

そこにはスカイブルーのフルボトルが一本、浄化されてないボトルが一本あり、

それを回収。新たにもう一本ボトルの浄化を開始する。

 

「何こそこそしてんだよ。鍋島から何か言われたのか?」

 

「お前の冤罪を晴らす証人になってくれるだってよ」

 

「マジか!」

 

先ほど回収したフルボトルに目を移す。

ラベルには『Y/R・L』の文字。

 

そして、狙ったかのように一通のメールが届く。

『難波重工のここで待ってるぜ』

送り主はブラッドスターク。地図も添付されている。

 

戦兎のメールアドレスを知っているものは二人。

 

 

龍我と惣一だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは潜入はきつそうだな」

 

三度難波重工にやってきた二人。

前回までと違い警備が大勢配備されている

 

「俺たちには、これがあるだろ?」

 

ビルドドライバーを取り出す。

 

「正面突破か。おもしれぇ!」

 

 

〔KAIZOKU!〕

〔DENSYA!〕

〔BESTMATCH!〕

 

〔CROSS-Z DRAGON!〕

 

 

〔〔Are you ready?〕〕

 

 

「変身!」

「変身ッ!」

 

 

〔海賊レッシャー!Yeah!〕

〔GET CROSS-Z DRAGON! YEAH!〕

 

二人は変身し、龍我が戦兎の前に立つ。

 

「邪魔」

 

「行くぞサブ主役!後ろは任せた!」

 

「あ?まだそれ引きずってんの?俺もう変身できるから主役は俺に戻るの!」

 

「変身以前に俺の方が最近目立ってるじゃねぇかよ!」

 

「それはお前のキャラが濃いだけであって―――」

 

「じゃあ俺主役でいいじゃん」

 

「駄目に決まってんだろ!」

 

「いや、もうお前驚くようなイベントやっただろ?

『実は俺葛城でしたー』って言っても驚かねぇからな!」

 

「わかったわかった。お前主役なんだろ?先行けよ」

 

「……」

 

「はい、突撃ー!」

 

龍我の背中を押し無理やり走らせ、警備員が銃撃してくる中突っ走る。

警備員は人間のため、下手をしなくても殺してしまう可能性がある。

 

銃撃が当たり警備員を斬ろうとする龍我を抑えながら第一関門は突破。

 

 

施設内に侵入。そこにはロボットであるガーディアンが立ちはだかる。

 

〔各駅電車~ 急行電車~〕

〔出発!〕

 

戦兎はカイゾクハッシャーの二段階目の攻撃を放つ。

電車の形をした矢がガーディアンを次々貫き、最後に龍我と対峙していたガーディアンを打ち抜く。

 

「危ねぇぇぇ!!」

 

「お先~」

 

「あっ!」

 

 

 

目的地が見えてきた。

戦兎はガーディアンを龍我に任せ、入り口のパスワードを解きに行く。

 

「……」

 

「どうした?早くしろ!」

 

「指が太くて押しづらいんだよ!」

 

「小指使え!小指!」

 

「……あ、そっか」

 

入力画面に小指でメールに書いてあったパスワードを入力する。

しかし、〔ERROR〕と表示され、扉があくことはなかった

 

「あれ?」

 

「こういうのは壊すに限る!」

 

「何でも力で解決しようとするんじゃないよ」

 

龍我の顔を手で押さえる戦兎

 

「うわっ!前が見えねぇ!

ここ誰も使ってないんだからぶっ壊してもいいだろ!」

 

「お前はもうちょっと事を穏便に済ますよう努力しなさいよ」

 

「うるせぇサブ主や―――」

 

と、次の瞬間、扉のロックが外れる音とともに〔OPEN〕と画面に表示される

 

「「あ」」

 

「おぺんだってよ!」

 

「オープンな」

 

こいつ学校通ってたのか?と頭を抱える戦兎。

 

それはともかく扉を開ける。

最初に目に入ったのはパンドラボックス。

そして

 

 

「この部屋のパスワードは三時間ごとに変わる」

 

 

優雅に椅子に座っていたスターク。

 

「それを教えるために開けてくれたのか」

 

「礼には及ばん。さあかかってこい。俺に負けるようでは……

バーテックスには勝てないぞ」

 

「バーテックス……?」

 

「おっと、万丈は知らなかったか?

俺たちが戦うべき本当の敵だよ」

 

「この野郎ォォ!!」

 

スタークに肉薄する龍我。

 

戦兎もホークガトリングにフォームチェンジし、空中から攻めに入る。

 

しかし、スタークは龍我を盾にするよう立ち回り、まともに射撃が不可能。

 

「いい的だな!」

 

〔RIFLE MODE!〕

 

「ぉああ!」

 

スタークの攻撃を受け、地上に落とされる。

 

〔ニンニンコミック!〕

 

〔分身の術!〕

 

すぐさまフォームチェンジし、相手のかく乱を狙う。

 

スタークは分身したビルド一人ひとりを正確に狙い撃ち、

最後に本体も狙い撃つ。

 

「無駄だ。貴様の攻撃は既に把握している」

 

「ああそうかよ。だったら、これはどうかな?」

 

 

〔OCTOPUS!〕

〔Light!〕

〔BESTMATCH!〕

 

「オクトパス……?」

 

〔Are you ready?〕

 

「ビルドアップ」

 

〔稲妻テクニシャン!オクトパスライト!Yeah~!〕

 

ビルドはさらなるフォームチェンジをし、右肩にタコ、左肩に電球がついた

相手の視界を遮ることに特化したオクトパスライトフォームになる。

 

スタークが知らないフルボトルに疑問を抱いている隙に左肩の電球を光らせ、

距離を詰める。

 

さらに肉薄したと同時に左手首の外側につけられた発光装置でまたしても目くらまし。

 

それと同時に距離を再び取り、右肩のタコの足を伸ばしスタークを拘束。

思い切り振り回し壁にたたきつける。

 

「万丈!行くぞ!」

 

「お、おう!」

 

〔SPECIAL TUNE!〕

〔ヒッパレェー!ヒッパレェー!ヒッパレェー!〕

 

〔READY GO!〕

 

態勢を立て直し接近してくるスタークにタコ炭型の粉末を発射。

 

〔VOLTEC FINISH! YEAH!〕

〔MEGA SLASH!〕

 

そこに二つの発光装置を作動させた状態で左拳でスタークをたたく。

すると、電球の熱で粉塵爆発が発生し、スタークの復帰を妨害。

 

最後に龍我の斬撃が決まる

 

 

「また……強くなりやがって…………」

 

「あんたにこの攻撃は読めないと思ってね」

 

「まさか、奥の手を用意していたとはな……流石、俺の見込んだ勇者……いや、仮面ライダー

これで、全てのボトルを浄化できたか。

この際だ、一つ教えてやろう。ファウストについて

 

十年前のパンドラボックス展覧会を知っているか」

 

「ああ。行きたかったけどな」

 

「そこである男がボックスに触れてしまった。

触れた途端ボックスは光を放ち、その光が止んだころには……

性格が攻撃的になった人間と怪人がうじゃうじゃしていた。これが、スマッシュ。

 

俺もその一人でね。性格が荒くなっちまった。

 

そして、このことを受けて大赦はある警備会社を設立する。それは―――」

 

「Task Force Advance Support Unfold」

 

「正解だ。それを略してアナグラムしてみろ」

 

「えっと、タスクだからT、フォースは―――」

 

「TFASU。FAUST」

 

「お見事。その通りだ。

で、それが潰れたのはいつだ」

 

「三年前」

 

「完璧だ。表向きではTFASUは潰れたことになったが、裏ではファウストと改名し大赦と縁を切っていた。

ファウストが今のようになったのは二年前、バーテックスの進行が停止した後、ある男が暴走したからだ。その名は氷室幻徳。ナイトローグだ」

 

「……」

 

「なぁ、一ついいか」

 

「どうぞ」

 

「お前、前に言いかけたことあったよな」

 

 

『ふざけんな!俺の冤罪の事も全部、てめぇがやったんだろ!』

 

『はぁ?ちげぇよ!それはこの――――――』

 

 

「ああ、あれか。

あいつに邪魔されて言えなかったが、当時心臓病で入院していた小倉香澄を誘拐・人体実験し、万丈龍我を無実の罪で投獄させたのは、ナイトローグだ」

 

「あいつだったのか……!」

 

「万丈、今のお前ではあいつには勝てない。

一月一日、お前はスクラッシュと書かれた紙を受け取ったはずだ」

 

「あ、ああ。でも何でお前が―――」

 

「まぁ聞けよ。

葛城の研究データにその単語を入れてみろ。"アレ"の設計データが閲覧できるまずだ。

未完成だがな。

でも、俺の頭脳の一部が入ってる戦兎ならそれが作れる。

万丈龍我ならそれが使える」

 

「スタークの…………頭脳……?」

 

「あ、この声じゃわかんねぇか」

 

スタークは軽く咳払いし、再び二人のほうを向く。

 

 

 

 

「久しぶりだね。太郎君」

 

 

 

その声は、戦兎にとって聞き覚えのある声だった。

 

 

「葛城……さん?」

 




「なぜSがVなのクワァ!」が檀黎斗構文って言われてハイパー大草原


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第十五話 知りたくないミステリー

「おい、こいつが葛城ってどういうことなんだよ!」

 

「……勇者ボトルの存在の認知、スタークの能力、そして俺のメールアドレスを知っているのは―――」

 

「万丈と俺だけ。他にも葛城と石動の共通点はある」

 

「…………あんた、どっちが本当のあんたなんだよ」

 

「葛城巧が本当の姿さ。訳あって変装してただけで」

 

「あれのどこが変装なんだよ」

 

「あ、言い方が悪かったね。俺の研究データのブラッドスタークの項目、

見てくれたか?あれ、本当はスタークじゃなくて変身者の俺自身の力なんだよ。

君以上にガスを吸いすぎてね。色々あったのさ」

 

「じゃあ、今までの行動は……」

 

「君たちのハザードレベルを上げるため」

 

この言葉と同時に変身を解除するスターク。

声の主である葛城が姿を現す

 

「ふざけんなよ!何であんなことをした!どうして子供をスマッシュなんかにした!

死ぬところだったんだぞ!」

 

「……本当は最初から味方として特訓してやりたかったさ。

でもこれでは効率が悪い。バーテックス襲撃に間に合わない。

 

あの子供の件だって、ちゃんと考えてたさ」

 

「そういう問題じゃねぇだろ!」

 

「けどそのおかげで、ファウストの情報も手に入った。

 

大赦にいたスパイの事も」

 

「……」

 

「君の両親だよ」

 

「え……?」

 

「君の家柄は本来大赦に属せない。けど属すことができた。

それはどうしてか

 

答えは簡単。ファウストが手を回していたからさ。

ファウストの長は乃木・上里家と肩を並べる家柄の人物。誰も逆らえない。

 

三好夏澟が君を家から引きずり出したのは君がファウストの戦闘員として訓練される前にこちら側へ引き込むため。全ては俺の計画通り」

 

「じゃあ……俺と笑った父さんは何なんだよ……!

俺に『生まれてきてくれてありがとう』って言ってくれた母さんは……!

全部嘘だって言うのかよ!!」

 

「全てが嘘というわけじゃない。君は親に我儘をたくさん聞いてもらっていたそうだね。

これは『〇〇をすれば〇〇してあげる』という精神を植え付けさせ、将来人殺しさえためらわず首を縦に振って行う人間に育てるため」

 

「てめぇ、何が目的なんだよ」

 

「少なくとも、君たちの味方…………と言っても理解してくれないよね。

わかっているさ。

 

太郎君、いや桐生戦兎。君は今の事を聞いても腑に落ちていないだろう」

 

「……」

 

「ブラッドスタークを、恨んでいるだろう。君をそんな体にしたのは俺だから」

 

「……」

 

「決着をつけよう。惣一(おれ)戦兎(きみ)が初めて出会った場所で。

神世紀300年で初めてのバーテックス襲来の一週間後、待ってるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スタークがマスターでマスターが葛城で葛城がスターク……

あーもうわけわかんねぇ!!」

 

「わかってるじゃねぇか……」

 

葛城がおいていったパンドラボックスを回収しnascitaへ帰ってきた二人。

戦兎は帰ってくると同時に部屋にあった器具の調整に入る

 

「何やってんだよ」

 

龍我が聞くと、彼はボックスを使って既存のボトルの強化を行うと答えた。

パンドラボックスをテーブルに置き、エンプティボトルを向ける戦兎。

するとボックスから成分が排出され、ボトルに吸収される。

 

「ボックスにも成分ってあるんだな」

 

その後もこの作業を続け、パンドラボックスの成分入りボトルを数十本生成。

 

「さあ、ここからはお前の出番だ」

 

ボックスと相性の良さそうなベストマッチを第六感で探してくれ。

後で失敗した数×2の量のプロテイン買ってやるからと言う戦兎。

 

それにしょうがねぇなと付き合う龍我。

 

「まずは、パンダとロケット!」

 

器具にパンダとロケットのフルボトルをセット。

 

すると、

 

 

「うわああぁぁぁぁ!!」

 

 

突如大爆発を起こし、龍我が吹き飛ばされる。

 

「ロケットパンダは駄目……と」

 

それを呑気に鉄板を加工した盾に隠れてメモする戦兎

 

「次はゴリラとダイヤモンド!」

 

ボトルをセットしたと同時にダイヤモンドが部屋一帯に溢れ出す。

 

「ゴリラモンドもダメー

……後で売りに出そうっと

 

「次!」

 

龍我は負けじとライオンと掃除機のボトルをセット。

―――と同時に彼に電流が流れ、ダウンする

 

「ライオンクリーナーもダメー」

 

「次……次だあああ!!」

 

タカとガトリングのボトルをセット。結果は

 

「あっちぃ!熱い!熱い熱い熱い!!」

 

龍我の頭上から排出されたての熱い薬莢が降ってきた。

 

「ホークガトリングもダメー」

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

満身創痍の龍我。

しかし彼は『失敗した数の二倍のプロテイン』という約束を思い出し立ち上がる。

そしてハリネズミと消防車のボトルをセット。

 

 

「あああ!熱ッ!あっちぃ!!外出てぇ―――

 

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

 

結果はまたもや失敗。

被害は突然彼の体が発火し、その直後に消火剤が撒かれるというものだった。

 

「ファイアーヘッジホッグもダメー。万丈、もうやめるか?」

 

「まだだ……!これで、決める!」

 

力を振り絞り、ラビットとタンクのボトルをセット。

するとボトルの反対側に設置された成分の溜まるフラスコが爆発せずに光を放っていた。

 

「おお!これだ!よくやった万丈!プロテイン二倍じゃなくて三倍にしてやる!

だから立て!生きるんだ!」

 

この言葉に文字通り真っ白に燃え尽きた龍我が反応する。

 

「よっ……しゃあ…………!どうよ……俺の……第ろっか――――」

 

「万丈?万丈ォォ!!」

 

その後、起きた龍我に15本のプロテインを贈呈した戦兎だった。

 



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第十六話 完成するシステム

 時間。それは評価が綺麗に分かれるものの一つではないだろうか。

過ぎるのが早いと思う人もいれば、遅いと思う人もいる。

 

 神世紀は寒い季節を超え、ついに春になった。

 ファウストやスマッシュの活動は無く、彼らも静かに冬を越すことができた。

 

 

「戦兎~、何か炭酸無いか?」

 

 起床と同時に冷蔵庫を漁ろうとする龍我。

すると、彼の目に銀色の炭酸飲料の缶のような物体が入る。

 それには仮面ライダービルドの紋章と『RABBITTANK SPARKLING!!』という文字が刻まれていた。

 

 裏を見るとビルドドライバーに刺せそうな形状をしていた。

 以前戦兎は強化アイテムを作ると言っていた。これがそうなのか。

と納得すると同時に飲み物じゃないのかとがっかりする龍我。

 

「炭酸モチーフなのか……」

 

 これを作るときに随分痛い目遭ったなぁと思う。

 以前の彼なら「ふざけやがって!」と戦兎に殴りかかっていたかもしれない。

 しかし今の彼は報酬を貰ったこともあるかもしれないが、パンドラボックスと相性のいいベストマッチが判明した時、彼は戦兎と一緒に喜んでいた。負の感情は一切なかった。

 

 これで、いいのかもしれない。

 

 

「……起きるの遅いな」

 

 現在時刻は9:30。世間は仕事をしない日とはいえ、生活リズムを崩すことは体に悪い。

 格闘家であった彼はそれを痛感している。

 

「おじゃましまーす!!」

 

 そこに元気な少女の声が響く。

 それに5人の少女も続く。勇者部だ。

 

「いや~、暖まるわ~」

 

「お姉ちゃん……」

 

 来て早々ぐてーっとする風とそれを直そうとする妹の樹。

 

「あれ?佐藤は?佐藤はどこ行ったんですか?」

 

 龍我に戦兎の居場所を尋ねる銀。

 

「あいつは寝てる。起こしに行ってやんな」

 

 銀は園子の背中を押し、地下室への入口へ行かせる。

 

「…………銀、恋って何か知ってるか?」

 

「え?……したことないからな~……お互い仲良くして心の支えになるとか?」

 

「園子もそう思ってるのか?」

 

「っぽいです」

 

「そうか。……それ、恋とは違うな」

 

「え~?でも愛してるって言ったらしいですよ?」

 

「ほほ~」

 

 この話に口角が上がりっぱなしの風。

 

「まだ恋をわかってないな。その愛、配偶者というより親へのそれと混ざってる」

 

「へ~!恋って奥が深いんですねー!」

 

「おはよ~ござい……」

 

 そこにようやく起きた戦兎が現れる。まだ意識がはっきりしていない。

 

「さっとんは朝弱いんだね~。今度から毎日来ようかな」

 

「頼む……」

 

 最近徹夜ばかりとはいえだらしない。

 "新しいライダーシステム"の開発に専念しすぎだと思う龍我。

 

 ◇

 

『EXCELLENT!!ついにプロジェクトビルドの集大成にアクセスしたね。

 これは、ボトルの成分をゲル状にして出力を上げた、スクラッシュゼリーだ。

 しかし、このシステムはまだ完成していない。……後は君に任せるよ』

 

 ひと月前、葛城の研究データに「スクラッシュ」と入力した戦兎。

 葛城の映る映像と設計データが表示され、それの欠けた部分を埋めるべく作業を始める。しかし

 

『なんだよこの部屋!?』

 

 龍我がいない間に部屋の壁には数式が書かれていた。書かれていない範囲を探すのが困難なほどに。

 

『あー!これじゃない!これでもない!』

 

 数式をあいているスペースに書いては悩み書いては悩み……を繰り返す戦兎。

 龍我はその日から一階の床で眠ることにしたのだった―――

 

 ◇

 

「―――あ、風ちゃん、これ」

 

  戦兎が厚い冊子を風の前に置く。以前彼女に頼まれた数学に関する事が書かれたものだ。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

  粒子学やベクトル解析など中学生には早すぎる公式の書かれた冊子を見ながら苦笑いする風。

  彼女は端末を取り出し、それについて調べだす。それを終え、端末をテーブルに置こうとした時、くしゃみをしてしまい手から落ちてしまう。

 戦兎はそれを見逃さず、地面に着く前にキャッチする。

 

  重さに異常はなかった。勇者を排除したがっているファウストのことだ。スパイを使って端末に細工をしていたかもしれない。こう思っていたが、ただの考えすぎだったようで安心する戦兎。

 

 ◇

 

 勇者部がnascitaを去った後、龍我は一階でくつろぎ、戦兎は自室である地下室へ戻る。

 

 ◇

 

「できた……!やったぞー!!」

 

  戦兎が歓声を上げる。システムが完成したのだ。

 そしてベッドにダイブし眠りにつく。

 

 ―――彼が就寝している間、何故かパソコンはひとりでに動き、

 

 KAMENRIDER CROSS-Z NEXT-GENERATION という項目が追加された。

 

 

 

 



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第十七話 ブレイバーキラー作戦 始動

 仮面ライダービルドこと桐生戦兎。

 彼は本名を佐藤太郎という。男で無垢でも無いのに勇者になった者。

 彼は瀬戸大橋跡地の合戦直後にブラッドスターク(=葛城巧)にネビュラガスを使用した実験を受け、散華で失った身体能力が回復したと同時に体が成人になってしまった。

 さらに葛城の記憶の一部を移植され、天才物理学者としての頭脳を手に入れた。

 今、戦兎が戦兎と名乗っている理由、それは戸籍上すでに『佐藤太郎』は死んでいるため。そして、カッコいいため。

 

そんなナルシストで子供っぽい彼は――――――

 

 ◇

 

「ヒャッホホホホヒャッホイ!!ヒョ~!ウヘヘヘヘ……」

 

  これまでにないほどはしゃいでいた。傍から見ればただの異常者である。

 

「ど、どうした……?」

 

  龍我が引いている。

 

「ついに完成したぞ!」

 

 戦兎は手に持っている物体を見せる。

 名前は"スクラッシュドライバー"といい、仮面ライダーの新しい変身道具であるとのこと。

 装着者から見て右側にはスパナを模したレバーが付いており、中央に同じく開発したスクラッシュゼリーを装填するスペースがある。

 

「お、おう。良かった、な……」

 

「ほれ。やるよ」

 

 龍我にドライバーとドラゴンスクラッシュゼリーを渡す。

 このスクラッシュゼリーはドラゴンフルボトルの成分を半分移植したものだ。

 フルボトルは振って内部の物質に刺激を与えれば活性化し力が増す。中身を半分移植しても振る時間を長くすればこれまで通り使用が可能だ。

 

「……今のままじゃローグには勝てない。スタークにこう言われた」

 

「でもそれなら、お前の役に立つ。もっと強くなれる」

 

「これ以上……被害者を増やさないために」

 

「これからもよろしく頼むよ?"仮面ライダークローズチャージ"」

 

 クローズチャージ。これが龍我が新しく変身する仮面ライダーの名。

 

「クローズチャージ…………いいぜ!やってやる!」

 

 武器の開発も完了したと付け足す戦兎。

 彼は色々な機材が転がっている机に戻る。

そこには、パソコンと接続された乃木園子の端末が置かれていた―――

 

 

「風先輩、ちょっといいですか」

 

「何?」

 

「……ここが、お役目に選ばれるんですよね」

 

「なんで……そんなことを……」

 

 ここは讃州中学勇者部。美森が風と二人きりで話をしている。

 

「二年前もこうだったんです。銀とそのっちも」

 

「そう、だったのね」

 

「佐藤さんの話によると、選ばれたのは先輩、私、友奈ちゃん、銀、そのっち、三好さん、そして……」

 

「―――樹……?」

 

「はい」

 

「そんな……!アタシは聞いてない!」

 

「私と銀、そのっちは覚悟を決めました。先輩はどうしますか?」

 

「決まってる。アタシも戦う。親の命を奪いかけたあいつらを……!」

 

 風の両親は瀬戸大橋の決戦の時、大橋に出向いていた。決戦の後、現実世界では大橋の崩落という大災害が発生した。しかし、崩落したのは半分であり、巻き込まれはしたものの、風の両親は命を取り留めた。

 だが、二人は二年たった今でも入院している。かなりの重傷を負った。

 

「友奈ちゃんと樹ちゃんは……」

 

「巻き込むわけにはいかないわ」

 

 すると、突然彼女たちの携帯が鳴り始める。画面には《樹海化警報》と表示され、周りの時間が停止する。

 

「……来た」

 

 風にとっては初めて、美森にとっては二度目のお役目が始まる。

 

 ◇

 

「ついに、奴らが攻めてきたか」

 

「"猿渡"、君の出番だ。勇者を、バーテックスごと排除しろ」

 

「……」

 

 ファウストのアジト。ここで幻徳に猿渡と呼ばれた男はスクラッシュドライバーを手にしていた。

 

「聞こえなかったか?勇者を殺せ」

 

「断る」

 

「何故だ。君のライダーシステムは勇者のバリアを貫通できる。やれるはずだ」

 

「断る」

 

「素直に従え!!」

 

「断る。……やはり貴様は、生かしてはおけない人間だ。俺が排除する」

 

 猿渡はスクラッシュドライバーを装着し、中央のスペースにロボットスクラッシュゼリーを装填。

 

〔ROBOT JELLY!〕

 

「変身」

 

 



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第十八話 金色のソルジャー

「お~、ここが樹海か!」

 

 男性はあたりを見回す。そこは一面植物のようなものが広がり、平らな地面がほとんど見当たらない。

 

「これからどーすっかな……」

 

 ファウストが佐藤太郎の両親をスパイとして大赦に送り込んだのと同じように、大赦もファウストにスパイを送っていた。

 それが彼、猿渡一海(さわたり・かずみ)である。

 大赦の命でファウストに仮配属した彼は目的を達成した。そして最後に彼らを一蹴しようとした時に世界が樹海と化した。そして今に至る。

 

 

「ここ……どこ?」

 

 突然の出来事に戸惑う友奈。

 端末を見てもアプリがほとんどロックされている。そんな中、彼女の後ろから何者かが近づく音がする。

 

「友奈!」

 

「友奈ちゃん!」

 

「友奈さん!」

 

「ああ良かった。そこにいたんだな」

 

 風、美森、樹、銀が駆けつける。

 この状況に混乱する友奈に落ち着くよう促す風。

 

「友奈、樹、落ち着いて聞いて。ここは神樹様が作った結界よ」

 

「神樹様が?」

 

「でも、何で私たちだけなんですか?それに結界って……」

 

「あれ、見える?」

 

 風が遠くに指をさす。そこには異形の存在であるバーテックスがゆっくりとこちらに向かって来ている様子が見えた。

 

「大きい……」

 

「あれから神樹様を守る。それが私たち勇者の役目」

 

 

「戦兎!ここどこだよ!」

 

「詳しいことは後だ!」

 

 一方、戦兎らは風達を視認しそこへ向かう。一度来たことのある場所のためすいすい進む戦兎と慣れない場所のため体の色々な場所をぶつけながら進む龍我。

 

「あー!最悪だ!あのドライバー置いてきちまった!」

 

「はぁ!?」

 

 風達のもとに到着した戦兎ら。

 そこには変身を終えた風と美森、銀と混乱している友奈と樹の姿があった。

 

「佐藤!」

 

「万丈さんまで!?」

 

 勇者とその素質を持つ者ではない二人を見て驚く一同。

 

「ライダーシステムは元々、ファウストやスマッシュと戦うものじゃない。本命はあいつらだ」

 

〔TAKA!〕

〔GATLING!〕

〔BESTMATCH!〕

 

「なんだかよくわかんねぇけど……」

 

〔WAKE UP!〕

〔CROSS-Z DRAGON!〕

 

 

〔〔Are you ready?〕〕

 

 

「変身!」

「変身ッ!」

 

 

〔天空の暴れん坊!ホークガトリング!Yeah!〕

〔WAKE UP BURNING! GET CROSS-Z DRAGON!YEAH!〕

 

 

「それじゃあ、あの子たちは任せる!」

 

「おい!…………俺にも羽付けてくれよ……」

 

 変身し、バーテックスの元へ飛翔する戦兎。それを見送り勇者へ視線を移す龍我。

 

「おぉ……」

 

「仮面ライダーって二人目いたんだ……」

 

「な、何だよ。今はそれどころじゃねぇだろ」

 

「そうですね。東郷はここで援護、銀はアタシと行くわよ!」

 

「了解!」

 

 凄まじい跳躍力でバーテックスへ接近する風と銀。美森は狙撃銃を構えて待機している。

 

「友奈ちゃん、樹ちゃん」

 

「東郷さん……?」

 

「これは国の運命を左右する戦い。無理しなくてもいいのよ」

 

「でも……」

 

「……戦います」

 

「私も、ただ見てるだけなんてできない!」

 

 陰に隠れていた樹と友奈が陰から体を出し、勇者へと姿を変える。今の彼女たちの顔に恐怖の表情はなかった。

 

「二人とも……」

 

 美森は二人を止めなかった。満開を使わなければ安全だから。どうかこの先使わないでほしい。こう願いながら。

 

「お姉ちゃんを置いてはいけません!」

 

「讃州中学勇者部 結城友奈!行きます!」

 

 友奈は思い切り地面を蹴りバーテックスに接近しようとするが、そこに白い小型のバーテックスである星屑が出現。

 

 〔ヒッパレェー!ヒッパレェー!〕

 

 龍我はビートクローザーのグリップエンドを二回引っ張り広範囲攻撃の待機状態に入る。

 

 〔MILLION HIT!〕

 

 クローザーを横に薙ぎ払い、視界内の星屑を殲滅し活路を開く。

 

「気持ち悪ぃ!まだいんのかよ!」

 

 樹が武器であるワイヤーで星屑を刺すように攻撃し、それの漏らしを美森が打ち抜く。

 

 

〔COMIC!〕

 

「ビルドアップ!」

 

 戦兎はガトリングボトルをコミックに入れ替え、タカコミックフォームになる。

 

〔火遁の術!〕

〔火炎斬り!〕

 

 左手に装備した4コマ忍法刀でバーテックスの足にあたる部分を斬る。

その直後、風と銀、友奈は封印の儀を行う。これはこの時代の勇者から実装された機能で、心臓部の御霊を引きずり出すことができる。

 

「私が行きます!」

 

 友奈が御霊に拳を叩き付ける。ヒビが少し入ったものの、破壊には至らず。

 どうしようと焦る彼女だったが、

 

 

 

 

 

「退け!お嬢ちゃん!」

 

 

 

 

 

「えっ?」

 

 突如彼女の頭上から男の声が聞こえる。戦兎や龍我のものではない。友奈はとっさに御霊から離れる。

 

〔SINGLE BREAK!〕

 

「おらぁ!」

 

 すると、金色の閃光とともに御霊が真っ二つに割れる。

 

「もう倒したのか!やるじゃねぇか戦兎!」

 

 星屑を殲滅した龍我、美森、樹が合流する。

 

「いや、俺じゃない」

 

「え?じゃあ……」

 

 龍我はきょとんとしている友奈を指さす。

 

「私じゃないです」

 

「――――何だ、もう終わりか」

 

 真っ二つになり消滅する御霊の真下から人影が見える。

 龍我は友奈の前に立ち武器を構える。

 

「その武器を下ろせ」

 

「てめぇ、誰だ!」

 

 金色の装甲を身にまとった男が龍我に向かって戦う意思がないことを示しながら近づく。

 そして龍我を指さし

 

「お前が……仮面ライダークローズ?」

 

「それがどうした」

 

 次に戦兎を指さし

 

「お前がビルド?」

 

「ああ」

 

「成程……」

 

「さっきから何なんだよ!てめぇはよ!ファウストの刺客か!」

 

「万丈!」

 

 高圧的な龍我を抑えようとする戦兎。

 

「もし俺がファウストだったら、さっき御霊の上にいたお嬢ちゃんに退けなんて言わなかったぞ?」

 

「じゃあ何だよ」

 

「俺は大赦から派遣された"仮面ライダーグリス"。これからもちょくちょく顔出すから」

 

 こう言うとグリスは立ち去った。

 

 ◇

 

「佐藤さん、さっきの人って知り合いかなんかですか?」

 

「……いや、初対面だ」

 

 三人目の仮面ライダーの存在、それと誰も自分の事を桐生戦兎と呼んでくれないことに悩み悲しみながらグリスの立ち去った方向を見つめていた戦兎。

その直後、樹海化が解除された。

 

 



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第十九話 偽りのブレイバー

 神世紀300年初のバーテックス戦から一週間後、戦兎は

 

『葛城さんとの決着をつけに行く』

 

 と言い残し姿を消した。

 

 

「……」

 

 桐生戦兎と石動惣一が初めて出会った場所。戦兎はそこにいた。雨の中一人で。

 しかし、葛城の姿は見えない。

 

「―――随分早いんだな」

 

 葛城が石動の姿で現れる。

 

「あんた、いつまで自分を偽っているつもりだ」

 

「この格好の方がお前とタメ口で話せると思ったからな」

 

「……」

 

「正直、こんなことになったことを申し訳なく思ってる。満開の代償である散華も、元々実装される予定はなかった。しかし、実装を許し乃木園子をあんな目に遭わせてしまったことも許されることではない」

 

「……ふざけるな……!」

 

〔RABBIT〕

〔TANK〕

 

〔COBRA……〕

 

 

 

 

 

「蒸血」

 

「変身」

 

 

 

 

 

 ビルドとスタークがお互い地面を蹴り、迫る。

 ビルドの戦法はスタークに読まれている。だからといって負けるわけにはいかない。

 

 

『雨の中倒れてるお前をここに運んだんだよ。寒くないか?』

 

 

「どうした?動きが止まっているぞ」

 

 戦いの最中なのに思い出してしまう。惣一に拾われ、優しくしてもらったことを。

 全て嘘というわけではない。彼の言葉を信じるなら、自分を拾った行為は仕組んだことなのか優しさなのか―――

 

『おかえり』

 

 惣一が得物を自分の首筋に刺そうとするが、ドリルクラッシャーを召喚しそれを何とか止める。

 

 思うように武器を振れない。拳をぶつけられない。

 

〔READY GO!〕

〔VOLTEC BREAK!〕

 

〔STEAM BREAK! COBRA……!〕

 

 惣一がトランスチームガンを構え、戦兎はドリルクラッシャーを構える。

 

「ぐぁああああ!!」

 

 しかし、心に迷いが生じてしまった戦兎は思うように攻撃を与えられず、銃撃をまともに食らってしまった。

 

「……もう終わりか」

 

 変身解除の衝撃で吹き飛んだラビットとタンクのフルボトルを拾う惣一。

 

「お前は、今も自分が勇者だったと思っているか?」

 

「……」

 

「男なのに勇者の適性があったと思っているか?」

 

「……」

 

「無垢でもない、女でも無い、そんなお前が勇者になれるとでも?」

 

「……」

 

「満開を25回行った勇者と畏れられる佐藤太郎。

 正義のヒーローだと敬われる仮面ライダービルド・桐生戦兎。

 しかし実際のお前は、そんなんじゃない。ただの勇者ごっこをしていたガキだ。

 

 ……さっき、散華は元々実装される予定はなかったと言ったな。これは事実。

 神世紀の勇者は、最初から満開をした状態と同じスペックを発揮するよう設定されていた。だがそれでは使用者への負担が大きすぎる。そのため、あのようなものに落ち着いた。

 要するに満開ってのはパワーアップじゃなくて制限解除ってことだ」

 

「じゃあ何で……」

 

「満開の出力をさらに上げるためだ。今のままでも十分だという意見が多数出たが、結果、出力を上げることで決定。上がった分代償がついてきた。それが散華。

 この裏にはファウストがいた。こいつらは結構前からある組織でな、さっき言った『出力を上げろ』と言ったのはその一人だ」

 

「……」

 

「その場にいた俺は一人でそれの解決策を開発しようとしていた。それがプロジェクトビルド。お前の勇者システムはBUILD αという勇者システムの模造品。神の力は授かっていない。そして満開の模造であるオーバーフロー。お前はそれで俺の予想以上に戦ってくれた。

 この戦闘データを元にしたのが今お前が使っているそれだ」

 

「……」

 

「ざっくり言うとこんな感じだ。お前は勇者ではない。モルモットだ。

 俺はこれから、勇者全員にネビュラガスを投与する」

 

「!」

 

「そうすればもう戦える体ではなくなる。お前も見ただろ?バーテックスは無限に湧いてくる。そんな奴を相手して世界を守るぐらいなら、短い時間を友達や家族と一緒に費やすほうが幸せだ」

 

「……」

 

「さあ、わかったのならさっさと帰れ。ドライバーを置いてな」

 

「……」

 

「あの時、断ってくれてもよかったのによ」

 

 昔の思い出に浸って帰れと言う惣一。しかし戦兎は帰ろうとはしなかった。

 

「最ッ悪だ。あんたに言われた通り昔を思い出してみたけどよ――――」

 

 

『ぜぇ……はぁ……』

 

『こら!その程度でへこたれない!』

 

 

『やった……!』

 

『中々やるようになったじゃない。ほら、にぼし』

 

『え?』

 

『ビタミン、ミネラル、カルシウム、タウリン、EPAにDHAが入ってるわ。食べなさい』

 

 

『夏澟、誕生日おめでとう』

 

『……ありがと。でも、それは受け取れないわ』

 

『どうして』

 

『あんたと同じよ。忙しいの』

 

『……といってもこれ傷みやすいんだよなー。俺腹壊してるから食えないわー』

 

『…………しょうがないわね!受け取ってあげる』

 

 

『勇者に選ばれたんだって?おめでとう』

 

『ありがとう』

 

『……最初の頃のアレが嘘みたい……成長したわね……!』

 

『お前はおかんか』

 

 

『……頑張ってね。アンタの、太郎の遺志は、私が継ぐから』

 

『……勝手に殺さないでくれる?』

 

 

「―――親のことが思い出せないや。これもアンタの仕業なのか?」

 

「ネビュラガスでの記憶の損失は一時的なものだ」

 

「……そうか」

 

 戦兎はビルドドライバーを手に立ち上がる。

 

「俺はあんたのことを『薄情者でクズだ』って言おうとしたけど、俺にもその節があるみたいだ」

 

「……」

 

「家より大赦にいた時間が多かったとはいえ、生みの親との思い出を忘れてる」

 

「それでいいんだよ。あいつらは本当のクズだ。ファウストの幹部なんだ」

 

「こんな俺でも、やれることはある。勇者でなくたって、正義のヒーローでもなくたって、やれることが。それに約束したからな。守ってやるって」

 

「戦兎……いや、佐藤太郎、お前は何故戦う?痛いだろう、苦しいだろう、誰も理解してくれないだろう。

 バーテックスと戦って、こんな世界を長引かせるよりも、残された短い時間を大切な人と一緒に過ごすほうが―――」

 

「だったら、あんたが自分の記憶の一部を俺に入れた理由はなんだよ」

 

「パンドラボックスの光のせいで俺は攻撃的な性格になりつつある―――」

 

「光を浴びてない俺に継いでほしいってことか。だったらなおさらじゃねぇか。

 俺は戦う。自分の信じる正義と未来のために……あんたを倒す」

 

「……ん?」

 

 覚悟を決めた戦兎。そんな彼の手には銀色のガジェット ラビットタンクスパークリングが握られていた。

 

 

〔RABBITTANK SPARKLING!〕

 

〔Are you ready?〕

 

「変身!」

 

 

〔シュワっと弾ける!ラビットタンクスパークリング! YEAH!YEAHHH!!〕

 

 

 戦兎はラビットタンクの強化フォームにあたるラビットタンクスパークリングフォームに変身。その装甲には気泡を思わせる白の斑点とラインが刻まれていた。

 

 RTから強化された左足のバネでスタークに瞬間移動とも見える速さで前方にジャンプし接近。そのまま右足でスタークの装甲の薄いところに蹴りを入れる。

 

 さらにドリルクラッシャーと4コマ忍法刀を召喚し斬りかかる。

 

「バカな!こんなビルド……俺の想定に無い!」

 

 戦兎は忍法刀と投げ捨て、ドリルクラッシャーを左手に持ち帰る。

 そして得物の先端を外し上へ放り投げる。

 

 ドリル先端が宙を舞っている間、腕の外側につけられたブレードでスタークの得物を捕まえ、払う。その直後、ドリルが武器本体に先ほどとは別の場所に接続され、ガンモードに変形。銃口をスタークの右腕に押し付け射撃。

 

「チッ!……やるじゃないか。なら、これはどうだァ!」

 

 スタークは水色の巨大なコブラを二匹召喚。

 戦兎は迫るコブラを回避し、得物を投げ捨て一匹の尻尾を掴む。

 

 それを上空に振り上げ、もう一匹もスタークを巻き込みながら振り上げる。

 

 

〔READY GO!〕

 

 戦兎自身も上空に飛び、空中でボルテックレバーを回す。すると、赤と青の二色が混じり合うワームホールが出現し、コブラとスタークを拘束する。

 

〔SPARKLING FINISH!〕

 

 それに戦兎がキックを叩き込む。

 今までで一番の出力のキックをエネルギーの逃げ場のないワームホール内で行う。

 

 ワームホールが消滅し、スタークが落下。戦兎は着地する。

 

 

「この……俺が……」

 

 スタークの変身が解除され、姿が元に戻った葛城が姿を現す。

 

「―――――俺の中で葛城巧は死んだ」

 

「……言ってくれるじゃないか。お前なら、"アレ"を完成させられるかもな……この世界を救う……最後の砦を……」

 

 葛城はコブラフルボトルが装填されたトランスチームガンを見せ、

ボトルを抜いてそれを"あるもの"と一緒に戦兎に渡す。

 

「俺からの最後のプレゼントだ。そして一つ忠告しておこう。人間の生存区域をこれ以上広げるな」

 

「何でだよ」

 

「この四国という狭い空間では神樹の教えが行きわたっている。そのため、治安はかなり安定している。だがこれ以上広げると下手をしなくても戦争が起こる。人間が人間を殺す時代がやってくる。

 こういうものなんだよ。人間ってのは。勇者へのガス投与はチャラにする。そして、お前にもう会うこともないだろう」

 

「それはどういう―――」

 

「じゃあな。

……あ、友奈ちゃんに言っておいてくれ。

『あんなコーヒー飲んでくれてありがとう。そしてごめんね』って。

後の事を考えるのもいいが、今を大切にな」

 

 雨の中葛城は傘もささずにラビットとタンクのボトルを置いて立ち去った。戦兎もボトルを拾って傘を差さずにnascitaへ帰る。

 

 

―――――銃声が響いたことを知らずに

 

 

 

 



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第二十話 スナイパーの隠し事

 nascitaから石動惣一が消えた。

 

 この次の日からnascitaでは三つの出来事があった。

 一つ、

 

Bom dia(ボン・ヂア)(ポルトガル語で"おはよう")!どうよ!俺の豆・収・穫 !」

 

「あーはいはいよくできましたね」

 

 龍我が二代目店主となり近所の承諾を得、コーヒー豆栽培を始めたこと。

 

 二つ、ここが完全に勇者部だけの憩いの場として定着してしまったこと。最初から店と言っていいのかわからなかったが、これでもう店と言い張ることは不可能になった。

 

 三つ、

 

「店主、コーヒー何とかできない?」

 

「うるせぇな。タダで淹れてやってんだから我慢しろ」

 

 仮面ライダーグリスこと猿渡一海が当店に入り浸っていること。

 

 以上の三つ。

 ちなみに、生活費等は以前ラビットタンクスパークリング制作中に噴き出したダイヤモンドを売却した金でやりくりしている。

 

 そしてこの一か月、バーテックスとファウストに動きはなかった

 

 

 世界が樹海と化した。

 

 勇者の目の前にはカプリコーン・バーテックスが一体。

 

「銀……」

 

 美森が不安そうな顔をして声をかける。

 

「どうした?あいつなら一度戦ったことあるじゃん」

 

「それよ。大赦から『「バーテックスは十二体』と言われているけど、実際は十二種類。散華の事も知らされていない。この事をどう説明すれば……」

 

「確かに…………あれっ?」

 

「どうかした?」

 

 銀が自分の近くを浮遊している精霊を見て驚く。

 

「義輝……じゃない!?」

 

「今更?」

 

 

「相変わらずの方向音痴か。猿渡」

 

 バーテックスと勇者から遠く離れた地点で二人の男が対峙していた。

 ファウストの長とスパイである。

 

「葛城と連絡が取れなくなった。お前の仕業か」

 

「ご名答。葛城は死んだ」

 

「そうか。でもこれでお前の嫉妬先が消えた。これで満足だろ」

 

〔BAT〕

 

「蒸血」

 

〔MIST……MATCH! BAT! BA BA BAT……! FIRE!〕

 

「今のお前は勇者にも勝ってこないぞ」

 

〔ROBOT JELLY!〕

 

「変身」

 

〔ツブレル!ナガレル!アフレデル! ROBOT IN GREASE! ブルァァァァ!!〕

 

 一海が仮面ライダーグリスへ、幻徳がナイトローグへ姿を変え、得物を構える。

 

「"大赦製のボトル"は我々が回収する」

 

「いや、俺たちだ」

 

 

 バーテックスが美森の狙撃銃の射程内に入る。

 引き金に指をかけ、タイミングを窺っていると、次の瞬間、バーテックスを中心に衝撃波が発生する。

 

 バーテックスが姿勢を崩す。つまり、今の衝撃波は第三者は発生させたものと推測する戦兎。

 美森が今の事を探るためスコープを覗く。するとそこには小振りの刀を二本持ち、左腰に大振りの刀を携えた少女を視認する。

 

「あれって……三好さん?」

 

 

「封印開始!」

 

 

 少女が着地し単独で封印の儀を開始した。これにより御霊が出現。しかしその御霊は紫色のガスを噴射して抵抗を始める。

 視界を奪われた少女だが、彼女は手持ちの刀を放り投げ、左腰の刀を抜く。そして御霊を見事両断。

 

 

「何かどっかで会ったような、会わなかったような……」

 

「あの声、やっぱり……」

 

「え?あの子知り合い?」

 

「戦兎、話についていけない」

 

「俺も」

 

 変身しただけで何もできなかったじゃねぇかと愚痴をこぼしながら変身を解除する戦兎と龍我。

 

 そんな彼らの元に少女が近づいてくる。

 

「揃いも揃ってぼーっとした顔してんのね。こんなのが勇者…………」

 

 友奈たちを見回しながらこう言う少女だったが、美森と銀の顔を見てしばらく硬直した後、こう言いだす。

 

「あんたってもしかして……」

 

「あ!思い出した!久しぶり!にぼしさん!」

 

 銀が笑顔を見せる。

 

「三好よ!み・よ・し !」

 

「ああ、やっぱり貴女だったんですね。三好さ……にぼしさん」

 

「言い直さなくていいから!三好で合ってるから!」

 

「冗談ですよ」

 

 

「随分仲いいわね……」

 

「お友達なのかな?」

 

 

「そ、それよりあんた達!」

 

 少女、三好夏澟が友奈たちに指をさす。

 

「精霊がついているからってこの戦いを甘く見ないことね。バーテックスは無限に――」

 

 美森と銀が夏澟の口を塞ぐ。

 

「無限?」

 

「そそそそ、そうなのよ友奈ちゃん!バーテックスって御霊壊さないとすぐに傷が治っちゃうのよ!そう言いたかったんですよね三好さん!」

 

「~!」

 

 口を塞いでいる手を退けろと抵抗する夏澟。

 

「でもそれだと『無限に』に繋がらないと思うんだけど……」

 

「『無限に傷が治る』!こうすれば、ね?」

 

「なるほど~!」

 

 友奈の疑問が解けたところで二人は手を退ける。

 

「ぷはぁ!な、何すんのよいきなり……まぁ精霊がいるから死ぬことは―――」

 

 再び口を塞ぐ二人。

 

「確かに、攻撃防いでくれるもんね!」

 

「流石ね友奈ちゃん!もうそこまで覚えたのね!」

 

「えへへ~、この一か月で予習したんだー」

 

「偉いわね友奈ちゃん!この調子で勉強も頑張りましょう!」

 

「……東郷さん、何か隠そうとしてない?」

 

 友奈のこの言葉に美森と銀の肩が跳ねる。

 

「そんなことないよ!なぁ須美!」

 

「え、ええ。私、こう見えて隠し事すると顔に出やすいの!してないのわかるでしょう?」

 

「絶対してる」

 

 風が言い切る。

 

「……わ、私と一緒に戦ったことのあるあなたならわかるでしょう!?佐藤さん!」

 

「俺?」

 

 嫌な汗をダラダラ流しながらこちらを見つける美森に何て対応すればいいかわからない戦兎。

 すると、ようやく拘束から逃れた夏澟が叫ぶ。

 

「あんたら……いい加減にしなさいよぉぉ!!」

 

 

「すみません……」

 

 その後、放課後に他の面子より早めに部室に来て風の前で正座する美森。

 

「どうしたのよ。今日様子変よ?」

 

「わ、私だって……はっちゃけたい時もあるんです」

 

「何かを隠そうとしてたけど」

 

「……」

 

「図星か」

 

 

「うわ……何だこれ」

 

 nascitaに帰ってきた龍我。彼の前には『完全無敵』と書かれた紙が壁に貼ってあり、戦兎がその近くでパソコンを操作していた。

 

「満開の力を低下させずに散華を発動させない、さらに精霊バリアなしでもダメージを無効化できる完全無敵の勇者システムを作る」

 

「はぁ?」

 

 パソコンには二つの機器が接続されており、一つは惣一が託した園子の端末、もう一つは修理しただけで天神の逆鱗に触れた代物"ハイパームテキガシャット"である。

 

 神の力を借りずともバーテックスに対抗できるシステム。

これを実現する事が、葛城の遺志を継いだ彼の新たな使命。

 

「まぁ……頑張れよ」

 

 龍我はさっきからメール着信音がうるさい戦兎の携帯を少しいじってみる。

 そこには何十通ものメールが溜まっていた。送り主は乃木園子。

 

「…………グッドラック」

 

 恋の経験者である彼はこれから戦兎に起こる事態を察し、幸運を祈った。

 



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第二十一話 桐生戦兎の勇者システム

今年最後の投稿となります。良いお年を


「邪魔するぞぉ」

 

 nascitaの常連客である一海が地下室に入ってくる。

 

「そうだ、サル、あんたに聞きたいことがある」

 

「猿渡な」

 

「あんた、大赦から派遣されたんだよな?」

 

「何でそのドライバー持ってるんだよ」

 

「ぁあ、これか? これはそこの……戦兎が設計データを完成させた夜、ハッキングさせてもらった。お詫びに仮面ライダークローズチャージのデータを入れたけどな」

 

「おお。わかった」

 

「と言ってもハッキングしたのは俺じゃない。葛城だ」

 

「……マスター……相変わらず何を考えてるのかわかんねぇ奴だった」

 

「それで話を変えるが……、お前ら、フルボトル何本所有してる?」

 

「ドラゴンにロックに……後何だっけ」

 

 戦兎に助けを求める龍我だったが、先に口を開いたのは一海だった。

 

「ラビットタンク、ゴリラモンド、ホークガトリング、ニンニンコミック、ロケットパンダ、ライオンクリーナー、ファイアーヘッジホッグ、キードラゴン、海賊レッシャ―、オクトパスライト、フェニックスロボ、ブレイブスナイパー、エグゼイド……

 26本か」

 

「27本だ」

 

 戦兎がコブラフルボトルを見せる。

 

「ほうほう……香川のボトルは全部揃ってるのか」

 

「香川?」

 

「四国の一つの―――」

 

「そうじゃねぇよ!」

 

「ラビットタンクからオクトパスライトまでの20本はスマッシュから採取した成分だろ?ブレイブスナイパーは想定外、エグゼイドは想定内だけどナンバリングからは外す。フェニックスロボは大赦製だ」

 

「大赦までボトル作ってんのか!?」

 

「スマッシュはパンドラボックス展覧会の行われた香川だけで出現。これで20本、葛城が大赦で作ってた物も同じく20本、そしてファウスト製の20本で計60本存在すると聞いている」

 

「……何言ってんのかさっぱりわかんねぇ」

 

 一海の言うことが理解できない龍我。

 

「戦兎、さっきから何やってんだ」

 

 一海が戦兎の作業風景を覗く。

 

「システムは完成した。元からあったものに重ねる感じで。でも……」

 

「でも?」

 

「チャットとインターネットとカメラ使えなくなっ―――」

 

「はいやり直し」

 

「うそーん……」

 

 既存のシステムにデータを書き加え、

『攻撃・バリア使用でゲージが溜まり、溜まると半自動的に満開が発動』

 から

『満開の使用はできないがゲージは最初から溜まっており、バリアを使うごと減っていく(ゲージが0になっても仰け反りこそ大きくなるもののダメージは避けられる)』

 に改変したが、CPUに負荷がかかりすぎる上に排熱が酷い。

 その上端末の一部機能の使用不可に陥るなど素人の目から見ても突貫工事の出来だった。

 

 理想は、

 

・精霊バリアを貫通する存在に対処できるよう、ムテキガシャットのデータ(物理・特殊攻撃の無効化)を組み込む(普段は精霊バリアのみ)

・代償なしの満開

 

 以上の二つ。

 

 戦兎は気晴らしに携帯を触ることに。

 

「……」

 

 しかし彼は絶句する。何故ならそこに、『私の事嫌いになったの?(意訳)』と書かれたメールが溜まっていたからだ。

 色々あって接する時間が少なかったのは確か。でもそれはただの言い訳に過ぎないことも自覚している。

 

 龍我の言った『グッドラック』の意味がようやく分かった

 戦兎は陳謝のメールを送った。戦いがこれから激化していく中、約束した通りお前を守ってやると。

 

 

「戦兎!触ったら何か全部消えたぞ!」

 

 

「……」

 

 そして、葛城の言う通り、未来を考えることも大事だが今を疎かにしてはいけない。こう痛感した戦兎であった―――

 

「これが戦兎の作ったスクラッシュドライバー…………?」

 

「どうした?」

 

「俺のと、重さが違う……」

 

 

「猿渡一海が仮面ライダーと接触しています」

 

「構わない。泳がせておけ」

 

「しかし……」

 

「泳がせておけと言ったんだ!佐藤ォ!」

 

「……」

 

「例の計画と"カイザーシステム"の開発を急げ!

これで大赦は、世界は…………私のものだ」



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第二十二話 桐生戦兎のエンゲージメント?

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
ゆゆゆいで晴れ着そのっち実装ヤッター!


 神世紀300年六月の休日。

 梅雨が酷い中、桐生戦兎が姿を消した。

 

 彼は改良した勇者システムを持ち乃木家へ向かう。nascitaからゲーマドライバーとガシャット二本が消えたことを不思議がりながら。

 

 

「猿渡から聞いているよ。今の君は『桐生戦兎』こう呼べばいいんだね?」

 

「はい」

 

 到着した彼は当主の案内の元、一つの部屋にたどり着く。この部屋の主の名を呼ぼうとした瞬間、当主に肩をたたかれる。

 

「その端末……例のシステムか」

 

「はい。これを使えとは言いません。ただ、精霊の加護が必要なだけです」

 

 精霊は勇者を致命傷から保護する存在。悪く言えば、お役目や世界がどんな過酷なものになっても自殺という手段を許してくれない悪魔。

 そしてこれは勇者にしか与えられないもの。つまり、勇者システムを扱えると判断された人間にのみ加護を受けさせる。

 

「ファウストが勇者を狙っています」

 

「何……?まさか奴ら……」

 

「天神の味方ではないみたいです」

 

「どういうことだ」

 

「自分も何が何だか……。確実なのは、俺の両親がファウストの……」

 

「クソッ!……わかった。二人の事はこちらで対処する。後は任せてくれ」

 

 こう言って当主、園子の父が彼女に客が来たことを知らせる。すると、

 

「わかってるよ~」

 

 と、声が返ってくる。

 そして彼はこう呟く。

 

 

「乃木戦兎……悪くないじゃないか」

 

 

「~ッ!?」

 

 ファウストについての話からいきなり切り替わって困惑する戦兎。飲み物を口に入れていたら噴き出していただろう。

 

「い、いきなりどうしたんですか!」

 

「暗い話ばかりしてもどうかと思って。それと、大赦には既に桐生家が存在してね。

 彼らから批判はされてないんだけど紛らわしいかなって」

 

「……」

 

「それに、君は園子を捨てるような人間ではないだろう」

 

「勿論」

 

「ここまで言えば……わかるよな?」

 

「……あー、はい。もう籍入れることも視野に入れてると…………はい?」

 

「わかってるじゃないか」

 

「いやいやいやいや!」

 

「嫌?」

 

「その『いや』じゃないですよ!早すぎません?」

 

 恋、そして配偶者への愛をいうものをもう少し理解してからの方が……

 再び困惑する戦兎。

 

 彼は目の前の戸をほんの少し開ける。すると、戸の向こうの目と自分の目が合う。

 

「続けて続けて~」

 

「……」

 

「まぁ、突然のことで驚いてると思うけど、こちらが一番言いたいのは……

 いつでも待ってるよってことで」

 

「何か途中から段々砕けてきましたね」

 

「長々と悪かった。ごゆっくり」

 

 こう言って父は立ち去った。ごゆっくりといっても戦兎がここまで来るのにかなりの時間がかかっている。

 もう日没である。

 

 

「お前との時間、作れなくて……ごめん」

 

 部屋に入って早々謝罪をする戦兎。

 

「名前で呼んでほしいな~」

 

「園子」

 

「は~い」

 

 ◇

 

「戦兎のやつ、今何やってんだろうな」

 

「さぁな。月曜まで顔出さない可能性が高い」

 

「彼女からのメール覗いたけど、ありゃ苦労するぞ」

 

「軽いよりはいいだろ」

 

「確かに。メールを打つのが早くなるっていう利点はある」

 

「それ利点か?」

 

 

 結局、戦兎は乃木家に泊まることになった。自分が夜間走行に不安を感じていたこととそれ以前に帰してくれなかった。

 

 入浴後の着替えは持参した浴衣。

 当主に案内された部屋が数時間前と同じだったことをもう気にしないことにした。

 

 部屋には布団一つに枕が二つ。これも気にしないことにした。

 それよりも気になっていることが一つ。

 

「紫……か」

 

「どうかな~」

 

「似合ってるよ」

 

 園子が紫色の浴衣を着ていたことだ。似合っていることに変わりはないが、どうも自分だけだろうか。彼女が祀られていた時を思い出してしまう。

 

 そんな中、戦兎の携帯にメールが入る。園子も後ろから覗く。

 

 

『もっと行けや意気地なし』龍我

 

 

「……」

 

 経験者は違うなーと感心に似た感情を覚える。

 すぐに今のメールを削除し布団に入る。

 照明を消すと、外側に寄せた自分の枕が精霊の烏天狗により園子の方に寄せられ、離してもすぐに直しにきたので諦めて寝ることに。

 彼はここで園子の送ってきたメールを思い出す。

 

 桐生戦兎は乃木園子が好きだ。

 ただ、それをどう表現するかわからない。

 そんな自分でも、わかることが一つ。

 後へは戻れない。前へ進むだけ。

 

 

 

――――――彼は寝苦しかったのか朝起きた頃には烏天狗をその腕に抱いていた。

 その日から園子は精霊を端末からほとんど出さないようになった事を戦兎は知らない。

 

 

 数日後、スクラッシュドライバーのデータが盗まれたことが明らかになった。

 



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第二十三話 ミスアンダースタンドが加速する

「一海、お前あの話聞いたか?」

 

「あの話?」

 

「"国防仮面"だよ!突如として現れた軍服の戦士!」

 

 仮面ライダーグリスであり、大赦に所属している猿渡一海は同僚から噂話を聞かされていた。

 

 国防仮面。

 西暦の初代勇者より前に存在していた軍人と類似した装束を身にまとい、ひったくりの確保から歯医者に行きたがらない子供の説得、荷物持ちなどを行う人物。

 

 町の人々からは『仮面ライダーが町を守り、国防仮面が身近を守る』とかなり敬われている。

 

「変わった格好する子もいるもんだねぇ……」

 

「あ?カッコいいだろ!……それで―――」

 

「正体を暴いてほしい。こうだろ」

 

「……自分から言っておいて何だけど悪いな。ドライバーの発信機にも気づけなくて」

 

「犯人は見当がついている。後はこっちで何とかする」

 

 一海のスクラッシュドライバーに仕込まれていたデータ発信機。送信先はファウスト。

 ビルドらと接触した彼をファウストが泳がせていたのは、このドライバーの戦闘データを盗るためだった。

 

「それより」

 

「!」

 

「"アレ"の開発はどうなってる」

 

「……あの設計図は虫食いだらけだ。データが足りない。でも、それが解決すれば開発は可能だ。半年あれば」

 

「わかった。こっちに天神と真正面から殴り合える(ムテキ)があるとはいえ、あの炎には勝てない……」

 

「壁の外は……異常なしみたいだ」

 

 同僚がパソコンに送られた文章を確認する。

 

「防人……ろくに加護を受けてないのに死傷者0。できれば俺も行きたいんだけどなぁ」

 

「この年の女の子口説くとか警察沙汰だぞ」

 

 防人(さきもり)とは、勇者に選ばれなかった勇者候補生たちが壁の外の調査を行うため変身する、いわば量産型勇者である。

 勇者に比べて耐熱性に優れており、壁の外の溶岩の上を歩行できる。

 本来これは秋に実装される予定だったが、ファウストやスマッシュなどの想定外の事態を重く見た大赦によって実装が早まった。

 

 彼女たちは雑草だ。一人一人の力は弱い。

 

 だからこそ、大勢で力を合わせて戦う。武装は盾と銃剣の二種だけだが人によって扱い方が違う。

 この十人十色な武器の扱いの短所を補い合い、生きる。勝つことよりもみんなで欠けずに生きて帰る。

 

 隊長の楠芽吹はこれをモットーに今日も戦場に駆けている。

 

「あ、また来た」

 

「スパムか?消しとけ消しとけ」

 

「いや……ゴールドタワーの改装中だって」

 

「それはもう終わっただろ」

 

「二回目だって。……へー。飛ばすんだー」

 

「はぁ?飛ばす!?タワーを?!宇宙開発でもする気か!?」

 

「天神用の迎撃ミサイルとして使うみたい」

 

「…………とても効くとは思えない」

 

 

「須美ー」

 

「……」

 

「東郷先輩?」

 

「……」

 

「わっしー、起きて~」

 

「……」

 

「結城友奈、ただいま到着しましたー!」

 

「はっ!?」

 

「どうしたのよ東郷。疲れてるの?」

 

「いえ……」

 

「最近、日本史の時も静かだよな。いつもは『お前が教えろよ』って言われるぐらいはしゃいでるのに」

 

「き、気を付けるわ……」

 

 最近、睡眠不足が続く美森。

 

「先輩、依頼ですよ」

 

「んー何々?『国防仮面の調査をお願いします』」

 

「……」

 

 S.Kという人物から送られたメール。それには動画のURLが張られており、これを検索すると国防仮面の姿を映した動画が再生された。

 

「「……」」

 

 動画を最後まで見終わった彼女らは国防仮面の手がかりを探すべく行動を始めようとしたが、銀と夏澟は動画をもう一度再生し、絶句する。

 

「この髪型って……」

 

「……ええ」

 

「このリボンって……」

 

「……ええ」

 

 

「須美じゃん……」

「東郷……」

 

 国防仮面の正体を誰よりも早く突き止め、そのリボンが大切なものなのはわかるけど正体隠したかったら仕舞えと思いながらみんなにはまだ内緒にしておくことにした二人。

 

 

「あああ、あの……犬吠埼風様がどこにいらっしゃるか……ご存知でしょうか……?

 そ、それか、結城友奈様、東郷美森様、犬吠埼樹様、三好夏澟様、三ノ輪銀様、乃木園子様でも……」

 

 讃州中学の校門では、一人の少女が生徒に話しかけていた。

 名は加賀城雀。防人の一人だ。

 

 勇者がこの学校にいると聞いた彼女は午後の鍛錬をサボり、わざわざここまでやって来た。

 

「それって勇者部の事だよね?」

 

「え……?」

 

 雀はこの生徒を恐れた。

 何故この人は勇者様を友達感覚で呼んでいるのか?何故恐れないのか?

 

―――彼女は勇者の事を戦闘民族と解釈してしまっている。

 

 そのため、先ほどから顔を白くして震えているのだ。

 

「依頼持って来たの?風ー!勇者部あてのお客だよー」

 

「はいはーい!」

 

「ほら、この人が部長の……ってあれ?」

 

 遠方で風の姿を見かけた生徒は大声で彼女を呼ぶ。

 しかし、風が来た頃には雀はどこかに消えていた。

 

 

(これは罠だ!油断させといて背後から……)

 

 雀は学校への侵入に成功。そして考えを膨らませる。

 勇者様は表ではただの部活として動いているが裏では何か恐ろしい事を……

 

 

「国防仮面?」

 

「今さっとんとジョーさんと同じくらい噂になってる人だよ~」

 

「マジか!……でもよ、俺たちがここにいていいのかよ」

 

「大丈夫。俺たちは今『人手不足で雇われた運動場の慣らし係』だから」

 

「そうには見えねぇけどな―――――ん?」

 

 龍我が一定の方向を見つめる。

 

「あれ……他所の学校のやつみたいだな」

 

 本人は忍んでいるつもりだが、どう見ても忍んでいない。目立っている。

 

「ちょっくら行ってくるわ」

 

「え?」

 

 ◇

 

「そこのお前!」

 

「ヒィ!」

 

 龍我が雀を制止させる。

 

「どこから来た!ファウストのスパイか!」

 

「ちちちち、違います!」

 

「じゃあ何だ!」

 

「そ、それは――――」

 

 

「バカバカバカバカ!何やってんだお前は!」

 

 そこに戦兎と園子が駆けつける。

 

「仮にこの子がスパイだったとしても、『スパイですか』って聞いても『はいそうです』って答えるわけないだろ!」

 

「……あ、そっか」

 

「驚かしちゃってごめんね~」

 

「の、乃木園子様……」

 

「様?」

 

「い……」

 

「「「い?」」」

 

「命だけは勘弁してくださいー!」

 

 勇者の一人である園子を見て逃げ出した雀。しかしスパイでも何でもなかったため放っておくことにした。

 

 



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第二十四話 復活するゴッド

 加賀城雀はこれまで以上に困惑していた。

 花壇の雑草を抜いたり、学校に迷い込んだ猫を捜索したりする勇者たちの姿を今、目に焼き付けているからだ。

 

 あれ?勇者って普通の人?

 

 彼女はようやく分かり始めた。ここに来る前、仲間から『勇者は普通の人。ただサプリメントと煮干しが好きすぎるだけ』と聞いていたがそれは三好夏澟のこと。ほかの勇者の事は知らなかった。

 でも、夏澟が普通なだけで他は普通ではないのでは?

 こう思うとキリがない。

 

 と、次の瞬間、

 

「あんた」

 

「!!」

 

 ツインテールの少女に肩をたたかれる。夏澟だ。

 

「私たちのことつけ回してるけど、どういうつもり?」

 

 彼女の単刀直入な問いに雀は

 

「あ、え、……」

 

 言葉が思うように出ない。

 

「何?もっとはっきり言って頂戴」

 

 今すぐ反転して逃げたい。でも体が言うことを聞かない。

 雀を問いただしている夏澟の後頭部に風がチョップを入れる。

 

「痛っ!」

 

「こらこら、人を脅さない」

 

 

 雀は風と夏澟に部室へと連行された。

 そこにはすでに活動を終えた友奈、美森、銀、樹、園子が戻ってきており、二人の連れてきた雀を見て不思議そうな顔をしていた。

 

 部室に入って早々、彼女は勇者の前で正座をする。椅子を用意されたにも関わらず。

 

「あの、ここは和室ではないのですが……」

 

「お、お構いなく!」

 

「それこっちのセリフ」

 

 雀は目だけ動かして部屋を見回す。血生臭さもしなかったし、物騒なものも置いてはいなかった。

 

 そして彼女は勇者部に自分の事を防人のこと以外包み隠さず言った。

 

「愛媛から来たのね。ご苦労様」

 

 先ほどとは違って優しい声をする夏澟に目を丸くする雀。

 

「む~」

 

「な、何よ」

 

 友奈が夏澟に向かって頬を膨らませた表情をする。

 

「にぼっしーちゃんって何で私たちには冷たいの?」

 

「えっ!?それは……」

 

 現在、夏澟は勇者部には監視という名目で所属している。その上、訓練をしていない友奈をちんちくりん呼ばわりしたこともあった。

 

「……悪かったわね。ちんちくりん呼ばわりなんかして。それと、にぼっしーちゃんってやめてくれる?」

 

「じゃあ夏澟ちゃん!」

 

「それでいいわよ」

 

「これからは私もそう呼びますね」

 

「好きにして」

 

「夏澟ちゃ~ん、アタシもこう呼んでいいかし―――」

 

「あー煮干し無くなりそうだなー買ってこなきゃなー」

 

 風を受け流す夏澟。

 

「ほら、樹も」

 

「先輩だよ……?」

 

 姉に促され、夏澟をちゃん付けしようとする樹。

 

 

「かり……ん、ちゃ……」

 

 

「樹」

 

「は、はいぃ!」

 

「よかったらうちの妹にならない?」

 

「ええっ!?」

 

「樹ぃぃぃぃ!!行っちゃダメぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

「それよりも、まずは加賀城さんの依頼を聞きましょうか」

 

 美森が話を戻す。

 依頼なんてない雀は困惑した。そのため、即席で考えた事を話してみることに。

 

「私……昔からずっと臆病で!す、少しでいいから勇気のある人間になりたいんです!」

 

「よし、わかった!」

 

 風が黒板に、

『加賀城さんが勇気を持てるようにする』

 と書く。勇者部の新たな活動が始まった。

 

「まずは煮干しを食べなさい」

 

 煮干しには不安感をやわらげたり気分を高揚させる成分が入っていると言って自らの煮干しを差し出す。

 

 その後に園子と友奈に連れられて屋上に行くことに。

 

 

「人目を気にせずぼーっとするんよ~」

 

「ぼーっと?」

 

「……」

 

 雀が隣の園子の方をみると、彼女は既に熟睡していた。

 そんな園子を見て過剰に緊張している自分が馬鹿馬鹿しくなってきた。

 

「猫も気持ちよさそうですね」

 

「え、猫?」

 

 雀が柵の外にいる猫を指さす。

 

「あ!お手柄だよ雀ちゃん!」

 

「え……?」

 

 友奈は猫を捕まえようと柵を乗り越える。

 それを雀は不安そうに眺めていた。

 

 と、次の瞬間、突風が吹き、彼女の不安が現実のものとなってしまった。

 

 

「なあ」

 

「ん?」

 

「あれ」

 

 運動場を慣らしていた戦兎と龍我は校舎の屋上の柵の外にいる友奈を発見する。

 

 

「何やってんだあいつ!」

 

「落ち着け万丈!」

 

 せっかく慣らした運動場に足跡を残しながら友奈の下まで駆ける。

 

「クッションとかないか?」

 

「あったとしてもこの高さだ。複雑骨折は免れない……あ、そうだ」

 

 戦兎はビルドドライバーを装着し、忍者とコミックのフルボトルを装填する。

 

「変身!」

 

〔忍びのエンターテイナー!ニンニンコミック!Yeah!〕

 

 ビルド ニンニンコミックフォームに姿を変え、4コマ忍法刀を召喚。

 この武器の先端はGペンの形状をしており、刺突ができるほか、空中に絵を描くことが可能。さらにこの絵は描いた者のイメージ通りの効果や能力を発揮する。

 

 戦兎はこれで大きなトランポリンを描く。

 その直後に突風が吹き、友奈と先ほど見かけた少女が落下する。

 

 4コマ忍法刀で描いたトランポリンはしっかりとその役目を果たし、二人を受け止める。

 

「よっしゃぁ!」

 

 龍我が自分のやったことのように声を上げる。

 

「さっすが俺の発明品!最高だ……!」

 

 

 その後帰宅した戦兎は難波重工の土地に埋まっていた大きなアタッシュケースの中のトランスチームガンを取り出す。

 

 ゲーマドライバーとガシャット二本は未だに見つかっていない。

 しかし、それの使用条件はハザードレベル4.5以上。

 3以上がただでさえレアなのにそれを超える人材などいるはずがない。

 

 こう信じてトランスチームガンの解析に移る。

 引き金を引いたら爆発する、といったプログラムも見つからない。

 

「ん?」

 

 戦兎はとあるプログラムを発見する。

 それは勇者の武器に関するものだった。

 

 彼が佐藤太郎だった頃の武器は刀。しかしこのプログラムには武器が鎌と設定されていた。

 仮面ライダーとしての力を手にした今、勇者のような姿になっても意味がないのでは?

 こう自問してみた。

 

 数分後に『仮面ライダーに変身できない時に使えるかも』という答えを出す。

 

 今ネビュラガスを投与される直前の状態に戻っても弱いだけ。このプログラムはこう考えた葛城が内蔵したものだと確信した。

 

 

 戦兎は立ち上がり、トランスチームガンに勇者フルボトルを装填し、引き金を引く。

 

〔MIST……MATCH……!〕

 

 

「これは……使える……!」

 

 

 

 

「猿渡さん!こちらへ!」

 

 大赦では人が今まで以上に慌てふためいていた。

 それも当然。

 

「……クソッ!遅かったか……」

 

 技術開発部が荒らされ、機材や人――――だったものが散乱していたからだ。

 一海が駆けつけたものの、時すでに遅し。

 

「生存者は!」

 

「……いません」

 

 大赦所属の白いガーディアンが出動する事態になった。

 ガーディアンが開発部室内に突入。しかし犯人はすでに逃亡していた。

 

「一海!一海ぃぃぃ!!」

 

 そこへ一海の同僚が息を切らしながら到着する。

 

「落ち着け。何があった」

 

「はぁ……はぁ……!

 

 

 ぼ、ボトルとアレの設計図が盗まれた!」

 

「何だって!?」

 

 

「大赦から追放されたか」

 

「……」

 

「いずれこうなることはわかっていた」

 

 幻徳の前で跪く男女のうち一人が口を開く。

 

「……ナイトローグ様。こちらを」

 

 男が幻徳にUSBメモリとフルボトル数本を差し出す。

 

「よくやった。そんな君達にこれをプレゼントしよう」

 

 幻徳は二つのアタッシュケースを男女に渡す。

 その中には、紫色の拳銃が入っていた。細部こそ違うが、全体はトランスチームガンに酷似している。

 

「近いうちに息子と戦うことになる」

 

 

 

 

「そんなデータを手にして、親子を殺しあおうとさせる……

 

 哀れだな。氷室幻徳氏」

 

 

 

 

 幻徳の背後に先ほどまでいなかった男が現れる。

 それに男女は銃を構える。

 

「そんなおもちゃで私を殺すことはできない」

 

「……ついに蘇ったか。バグスター」

 

「私はただのバグスターではない。人間の遺伝子を持ったバグスターだ」

 

「……成程。しかし、この時代は君の知っている世界ではない」

 

「"神"である私が、そんなことを知らないとでも?」

 

「失せろ!」

 

 男女が発砲する。男はそれを避けることはしなかった。

 銃弾は男の体を通過し、壁に埋まる。

 

「貴様……!何者だ!」

 

 

「私は仮面ライダーゲンム。

 

 

 

 

 

 

 

 

 "檀黎斗神"だ」

 



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第二十五話 幻夢のオピニオン

「檀黎斗神だと?ふざけたことを……」

 

「君に言われたくないな」

 

〔MIGHTY ACTION X!〕

 

「グレード0、変身」

 

 黎斗は自らが開発したガジェットであるプロトマイティアクションXガシャットオリジンをゲーマドライバーのスロットに挿入。さらにレバーを開く。

 

〔GASHAT!〕

CLICK TO OPEN(ガッチャーン)! LEVEL UP!〕

〔MIGHTY JUMP! MIGHTY KICK! MIGHTY ACTION……X!〕

 

 黒地に紫の色が入り、ゲームキャラを等身大にしたような姿。

 300年前、勇者とともにバーテックスに戦いを挑んだ戦士……

 仮面ライダーゲンム レベル0が姿を現す。

 

 幻徳もナイトローグに変身し、発砲する。

 武器も何も持たない黎斗はそれを避けようともせず、正面から銃撃を食らってしまう。

 ゲンムの胸部にはライダーゲージと呼ばれるゲージが存在し、それが少し減る。

 

 ライダーゲージの残量と変身者のバグスターウイルスの抗体は比例しており、ゲージがなくなるとバグスターウイルスに体を蝕まれ、死に至る。

 

「所詮は旧式中の旧式のライダーシステム。現代の技術に勝てるわけがない」

 

 トランスチームガンを投げ捨て、スチームブレードでの接近戦に切り替える幻徳。

 

 武器が設定されているはずなのにそれを使おうとしない黎斗。

 そんな彼は幻徳の左腕を拘束し、勝ち誇ったかのように笑い出す。

 

「ハハハハハ!!取ったァ!」

 

「何……?」

 

 その時、幻徳の体に異常が発生する。体が重い。

 

「レベル0は無の力……。私に触れられた者は徐々にハザードレベルが下がる!」

 

「貴様の時代ではハザードレベルという概念は……!」

 

「私が対策をしていないとでも思ったかァ!!」

 

 しびれを切らした幻徳は自由な右腕で黎斗の腹にパンチを入れ離脱。トランスチームガンを拾い、

 

〔STEAM BREAK! BAT!〕

 

「グァァアアアアア!!」

 

 至近距離で放たれた強力な銃撃により黎斗はおろか自分も反動により吹き飛ぶ。

 幻徳は勝利を確信した。

 

 黎斗はライダーゲージが0になった事を視認した直後、変身が解除され、身体がバグスターウイルスによって消滅する。

 

〔GAME OVER……〕

 

「……無様な最期だったな」

 

 部下とともにこの施設を放棄することを決めた幻徳。

 

 

「フハハハハ!ハーッハッハッハァァ!!」

 

 

 先ほど聞いたような笑い声を耳にする幻徳。彼が声のした方向を見ると、そこには紫色の土管が立っており、土管から黎斗が復活した。

 

「残りライフ98……」

 

 だが、彼が復活を果たしたころには既に幻徳の姿は消えていた。

 

「待て!まだゲームは終わってないぞ!」

 

 怒号を発するが何も返ってはこなかった。

 

 

「お前さ」

 

「いきなりどうした?」

 

 暇そうに椅子に逆向きで座る龍我。

 

「あいつらの事何て呼んでる?」

 

「勇者部の事か?基本ちゃん付―――」

 

「そこ。あのさ、何か出来上がると『ヒャホホホヒャッホイ』とか奇声上げたり振り回したりする奴がちゃん付けとか完全に通報案件だからやめとけ」

 

「そこまで、そこまで言うか!?……わかった」

 

「あと一つ聞くけどよ、お前、何のために戦ってんだよ」

 

「そりゃもちろん、Love & Peaceのためよ」

 

「よくそんな恥ずかしいこと言えるよな……」

 

「まぁこれは置いといて……ん?」

 

 戦兎の端末がスマッシュの反応を示す。

 

 

 二人が現場に着くと、そこには黒の身体に橙色の頭部、青と紫の身体に白の頭部をした怪人、バグスターとネビュラバグスターが出現していた。

 

「俺が先陣を切る。お前は遠くの奴を頼む!」

 

「狙撃しろってか。いいよ」

 

〔WAKE UP!〕

〔CROSS-Z DRAGON!〕

 

〔TAKA!〕

〔RIFLE!〕

 

〔〔Are you ready?〕〕

 

「変身ッ!」

「変身!」

 

〔GET CROSS-Z DRAGON!YEAH!〕

 

 龍我はクローズへ、戦兎はビルドのTFに変身。使ったボトルはタカとライフル。即席で作り上げた後方支援専用のフォーム。

 

「ッしゃあ!行くぜェ!」

 

 龍我がバグスターの群れに突撃する。戦兎はタカの力で高所に移動し、ライフルボトルの力で召喚された狙撃銃を構える。この得物は美森の使うそれと形状は全く同じである。

 

〔MILLION HIT!〕

 

 ビートクローザーで薙ぎ払いをする龍我。これを行った直後、土煙が発生する。

 戦兎も群れに中心に突撃した龍我の後方のバグスターを射る。

 

 しかし、

 

「万丈!後ろだ!」

 

「あぁ?」

 

 龍我が後ろを振り向くと戦兎に任せたはずのバグスターが健在でこちらに槍で襲い掛かってくる。その遠くには一瞬ではあったが、後ろの敵によって高所から落下する戦兎の姿が映った。

 

「戦兎!」

 

「かはっ……効いてないっぽいぞこれ!」

 

「じゃあどうすんだよ!」

 

 戦兎ははっと思い出す。葛城のデータで調べ物をしていた際、目の前の怪人についての情報を流し見したことがあると。

 ちゃんと見なかった自分を悔やみながら彼は二つのボトルを取り出す。

 

〔DOCTOR!〕

〔GAME!〕

〔BESTMATCH!〕

 

〔Are you ready?〕

 

「ビルドアップ」

 

〔EX-AID!〕

〔MIGHTY JUMP! MIGHTY KICK! MIGHTY MIGHTY ACTION X!〕

 

「ぉ……おぅ……」

 

 龍我はビルドの新しいフォームを見て言葉を失った。

 その姿はゲームキャラのような頭部や胸部、そして何より、全身がピンク色になっていた。葛城巧のデータにもあった300年前の仮面ライダー。

 その一人であるエグゼイドと腰のドライバー以外全く同じ。

 

 ビルド エグゼイドフォームとなった戦兎はドリルクラッシャーでバグスターに対抗する。

 すると、バグスターがこれまでとは違い怯む。

 

「そんな身なりでよくやるよ」

 

「何だよ、別に奇抜でも何でもないだろ!多分」

 

「鏡持ってこようか?」

 

 バグスターの数が減り劣勢から一気に優勢になる。だが、そこに黒い影が接近しつつあった。

 

 

「ファウストめ、バグスターまで利用するとは……!」

 

 黒い影、ゲンムは接近した自らに歯向かってくるバグスターを見て歯を食いしばり、

 得物であるガシャコンブレイカーを手に視界に移るバグスターを切り捨てる。

 

 レベル0の能力であるアンチバグスターエリアによって弱体化したバグスターにとどめを刺すべく、彼は得物の手前に存在するスロットに白いガシャットを装填する。

 

〔GASHAT!〕

〔キメワザ!〕

 

「消え失せろ」

 

〔DANGEROUS CRITICAL FINISH!〕

 

 白と黒の不気味なエネルギーをまとった刀身を斜めに振り落とし、地面に溝を作りながらバグスターの残党を一掃する。

 

「……」

 

 彼は拳を握り締め静かに怒りを募らせた。

 

『ウイルスは使い方によっては薬にもなる。バグスターウイルスだって同じだ』

 彼は何度も何度もこう提唱してきた一人の戦士を思い出す。

 結果、その夢は幻となった。バーテックスの襲来によって……

 

 そんな存在を仕方がないとはいえ殺めてしまった自分に怒りを募らせ、拳を握り締める。

 

 そんな彼の視線の先に、見慣れた姿の男を発見する。

 

「永夢……?」

 

 

「全部倒した……ぽいな」

 

「そんなことより変身解除しろよ。目立って仕方がねぇ」

 

 ドライバーのボトルを抜こうとした瞬間、男の声が響く。

 

「待て!」

 

「ん?」

 

「え、は?どういう……関係?」

 

 声の主であるゲンムとエグゼイドフォームのビルドを交互に見て何が何だか分からなくなってきた龍我。

 

「永夢、なのか?」

 

「エム?あんたの知り合いか何か?」

 

 自分の知る人物ではない事を確信したゲンムはビルドドライバーの二本のボトルに手をかける。

 

「それを回収させてもらう」

 

「何すんだよ!」

 

 変身が解除された戦兎がボトルを取り返そうとするが、それは叶わなかった。

 

「……いや、これだけ渡しておこう」

 

 ゲンムは二本のうち一本であるゲームフルボトルを戦兎に返す。

 

「バグスターウイルスはバグスターウイルスでしか攻略できない。これを忘れるな」

 

「……」

 

 放心状態の龍我と唖然とする戦兎を尻目にゲンムは姿を消した。

 



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第二十六話 人型兵器のプロジェクト

「珍しい組み合わせじゃないか」

 

 幻徳が所長をしている研究所の地下駐車場。ここに幻徳、そして戦兎と一海が向かい合っていた。

 

「そろそろ面を合わせて話したほうがいいと思って」

 

「……」

 

「もちろん、タダで話してもらえるなんて思っちゃいない」

 

 一海は自分の後ろに隠していた台車を手前に出す。そこにはパンドラボックスが鎮座していた。

 

「正しい情報とこいつを交換だ」

 

 

『先ほど、ファウストが声明を発表しました。スマッシュと呼称された怪人から人々を守るため、仮面ライダーを軍事兵器に指定し運用する予定とのことです』

 

 ファウストが表舞台に出た。これは深刻な事態であり、大赦も頭を悩ませている。

 今テレビで報道された声明についても大赦は抗議の声明を出している。

 

「俺たちは人間ですらなくなっちまったのかよ!」

 

 龍我が壁に怒りをぶつける。

 

「大赦が後ろ盾になってくれる。だから―――」

 

「戦った代償で動けなくなった女を崇め奉ってきたあいつらを信用しろって言うのかよ!ファウストもあいつらの一部が作った!どうして気づけなかったんだよ!気づいていれば香澄も死ななかったしお前も静かに暮らしていけたはず!」

 

「万丈」

 

「あいつらが有能だったら俺は今も格闘家だったのかもしれねぇ!それに勇者システムとかいうものも最初から代償のない仕様にできた!」

 

「万丈」

 

「お前はどうなんだよ!友達が、自分の女が何があっても死なない身体になって戦わされてきたことについてを!自分だって同じ目に遭ったんだろ?こうなったのは全て大赦が……!大赦のせいなんだ!ローグと一緒に潰してやる!腐った現実と一緒に―――」

 

「龍我!」

 

「ッ……」

 

「信用しろなんて言わない。でも今は睨み合ってる場合じゃないだろ。大赦も悪気があったわけじゃない。実際、代償を必要とするあの力がなければあの時の戦いは勝てなかった」

 

「……」

 

「身体についてはもう慣れた。慣れるしかないんだよ。今の俺たちは、過酷なことがあってもそれを認めて、それと向き合って、生きるしかないんだよ」

 

「……悪い。少し、風に当たってくる」

 

 

「―――それをするのはもう少し後だ」

 

 一海の声が聞こえた。

 

 

 一海が来た理由、それは遊びではない。仮面ライダーを軍事兵器にしようとするファウストの長、幻徳を問い詰め真相を探る。

 一海と戦兎がそれをやっている間、龍我はnascita防衛に務める。

 

「……」

 

 龍我はドラゴンスクラッシュゼリーを手に思い出す。

 

『それは対スマッシュ・ライダーシステム専用だ。バーテックスには無力だと考えてくれ。……もし使う事態になったら…………5分だ。5分で決着をつけろ』

 

 正直、この言葉の意味は理解できなかった。それほど危ない代物なのだろうか。

 

 

 戦兎と一海は幻徳を呼び出した。

 

「珍しい組み合わせじゃないか」

 

「そろそろ面を合わせて話したほうがいいと思って」

 

「……」

 

「もちろん、タダで話してもらえるなんて思っちゃいない」

 

 一海は台車に乗せたパンドラボックスを見せる。

 

「正しい情報とこいつを交換だ」

 

 幻徳が口を開く。

 

「土着神の力の断片……それの力を使って天神の力をも超える兵器を作り、世界を……人間の在り方というものを0からやり直す」

 

 幻徳は右手で合図をする。すると、戦兎らの後ろからガーディアンが現れ、一斉に銃を構える。

 

「さあ、約束通りボックスを渡してもらおうか」

 

 一海は台車を遠ざけ、レンチ型のレバーがついたバックルとパウチ型のガジェットを取り出す。

 

「君たちは貴重な戦力だ。穏便に事を済ませよう」

 

「―――って思ってるのなら銃を下げてもらえないか?それと、俺たちはあんたの言いなりになるつもりはない」

 

 戦兎は回転式のレバーのついたバックルと缶型のガジェットを取り出す。

 

〔ROBOT JELLY!〕

〔RABBITTANK SPARKLING!〕

 

 

 nascitaの前にガーディアン数体とスマッシュ一体が現れる。そのスマッシュは赤い城のような強靭な上半身を有していた。

 

「ここから先は通さねぇ。変身ッ!」

 

〔GET CROSS-Z DRAGON! YEAH!〕

 

 

〔ROBOT IN GREASE! ブルァアアア!!〕

〔シュワっと弾ける!ラビットタンクスパークリング! YEAH!YEAHHH!!〕

 

 ビルドはガーディアンと、グリスは幻徳と対峙する。

 

「一度こうしてみたかったんだ」

 

「そう軽口を叩けるのは今のうちだ」

 

 

「あーもう!勝利の法則が滅茶苦茶だ……」

 

 次々と湧いてくるガーディアン相手にカイゾクハッシャーで対処する戦兎。

 彼はガーディアン相手に自分の戦い方を崩され、苛立ちを見せていた。

 

 ガーディアンが二体前方から迫る。この二体の武器をカイゾクハッシャーの弓で言う姫反と下姫反の部分で受け止め、

 

〔各駅電車~〕

〔出発!〕

 

 その間から来るガーディアンを射撃で仕留め一時後退。武器をホークガトリンガーとドリルクラッシャー(ガンモード)に持ち替え、先ほどの二体も仕留める。

 

「戦兎!無機物のボトル貸してくれ!」

 

 ホークガトリンガーを放棄し、ドリルクラッシャーのドリルの接続の仕方を変え、ブレードモードにしてガーディアンの得物を受け止め、ライトフルボトルを投げる。

 

「サンキュー」

 

 ボトルを受け取った一海はスクラッシュドライバーに装填されているスクラッシュゼリーを外し、そのボトルと入れ替える。

 

〔DISCHARGE BOTTLE!〕

 

 レバーを下げ、ボトルの成分をドライバーに流し込む。

 

〔ツブレナーイ! DISCHARGE CLASH!〕

 

 ライトボトルの力である電気を右足に纏わせ、幻徳に左から右に薙ぎ払うような回し蹴りを食らわせる。

 

 食らった衝撃で後ずさったものの、姿勢を崩すことはなかった。

 しかし煙が酷い。停めてある車を巻き込んだのだろうか。

 

 煙が晴れたその先に、ビルドとグリスの姿はなかった。

 

「逃げたか……」

 

 パンドラボックスを置いて逃げた二人を嘲笑し、ボックスに触れようとする。だがそのボックスはホログラムで、本物ではなかった。

 

「アアアアア!!小癪な真似をォォォ!!」

 

 台車を蹴り飛ばし叫ぶ。

 

 

「オルァアアア!」

 

〔MEGA HIT!〕

 

 残る敵は一体。ビートクローザーを振るう龍我。

 しかし、城のような身体をした"キャッスルハードスマッシュ"には通じなかった。

 

 クローザーは刃こぼれを起こし、剣どころか刃物としてすら使えないものになってしまった。

 

「だったら――――」

 

 ボルテックレバーを回し、右拳に神経を集中させる。

 

〔RE――Y G――!〕

〔DRAGONIC F―NI―――〕

 

「―――これで……」

 

 ドライバーの様子がおかしい。その上、必殺技が発動しなかった。

 

 その隙をついてスマッシュは龍我に砲撃を行った。防御力だけでなく、攻撃力も高い。城というよりも要塞のようだ。

 

 クローザーを盾にした龍我だったが、この衝撃でクローザーが破壊され、ドライバーにも砲撃が命中してしまった。

 

「チッ……」

 

 もう一度必殺技を放とうとするが、レバーがうまく回らない。歯車がかみ合っていないのに無理やり回しているような音を響かせながら、強引に回す。

 それでも、必殺技が発動しないどころか、変身が解除された。

 

「何でだよ……!」

 

 落ちたドライバーの正面を見る。すると、外側から見えるギア3つにヒビが入り、所々が欠けていた。

 その近くには、無傷のボトルを残してバラバラに砕け散ったクローズドラゴンが落ちていた。

 今まで乱暴に扱ってきたツケが回ってきたと後悔する龍我。

 

「でも、ここでくたばってはいられねぇんだよ!」

 

 立ち上がり、スクラッシュドライバーを手にする龍我。

 

「パンドラボックスを、俺たちの家を、あいつらが憩いの場所だと思ってくれたここを!

てめぇなんかに奪わせはしない!」

 



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第二十七話 5分のリミッター

 戦兎から受け取ったスクラッシュドライバーとスクラッシュゼリー。

 レンチと何かを溜めるタンクがついたこれを装着。そして中央のスロットにスクラッシュゼリーを装填する。

 

〔DRAGON JELLY!〕

 

「……変身ッ!」

 

 レンチ型のレバー(アクティベイトレンチ)を下げる。これと連動してスクラッシュゼリーがプレスされ、アクティベイトレンチ反対側の装填したゼリーやボトルの成分を溜めるゼリータンクにドラゴンスクラッシュゼリーの成分が送り込まれる。

 

〔ツブレル!ナガレル!―――〕

 

「ウァァアアアア!!」

 

 龍我の身体に液体状になったゼリーの成分が被さり、銀色の素体を形成。

 

〔―――アフレデル!〕

 

 その上からさらに成分が重なり、シルバーとクリアブルーの装甲を形成する。

 

〔DRAGON IN CROSS-Z CHARGE! ブルァアアア!!〕

 

 これまでの仮面ライダーとは違い、対スマッシュ・ライダーシステムの力を極限まで高め、クローズとは似て非なる戦士。仮面ライダークローズチャージがここに誕生した。

 

 

 nascitaを破壊して中に入ろうとするスマッシュに拳を叩き込む。

 

「うぉおおお!!――――――抜けねぇ!」

 

 思うように腕が動かず、目標から外れ、nascitaの壁に腕がめり込む。

 

「あぁクッソ!」

 

 必死に抜こうとするが、抜けない。左腕と脚だけでスマッシュに抵抗する。

 

「そういえば、武器あるって言ってたような……」

 

 こう呟くと、クローズチャージの左腕に二つの砲撃装置の付いた武器(ツインブレイカー)が召喚される。

 

〔TWIN BREAKER!〕

 

「おお!」

 

 龍我はツインブレイカーの銃口をnascitaの壁に向け射撃。

 壁が崩壊すると同時に腕が抜ける。

 

「……やっべぇ」

 

 nascitaの正面の壁が半分ほど消し飛んだ。内装にも被害が加わっているが、今はそれどころではない。

 

 スマッシュが砲撃を行った。それをツインブレイカーで防御し、殴る。

 するとツインブレイカーの二つの砲撃装置が外側に可動。

 さらに外側に動かすと、

 

〔ATTACK MODE!〕

 

 中央から金色の打撃装置(レイジングパイル)が出現。近接戦用の形態に変形した。

 

「フンッ!オラオラァ!」

 

 先端のとがったレイジングパイルをスマッシュに何度も突き刺し、nascitaから離す。

 そしてツインブレイカーの砲身を二本が平行になるように稼働させ、

 

〔BEAM MODE!〕

 

 ドラゴンフルボトルを装填。

 

〔SINGLE!〕

〔SINGLE FINISH!〕

 

 真上に砲撃を行い、スマッシュを宙に浮かせる。

 さらに得物を再度アタックモードに変形させ、スクラッシュゼリーを装填。

 

〔TWIN!〕

 

 レイジングパイルがボトルとゼリーから作られたエネルギーを纏って高速で回転。

 

〔TWIN BREAK!〕

 

「オラァアアアア!!」

 

 自由落下するスマッシュを貫く。成分を抜こうとした龍我だったが―――

 

「っ……がっ……!ァァアアア!」

 

 膝から崩れ落ち悶える。

 クローズチャージはその戦闘力と引き換えに濃いネビュラガスの影響を受けやすいうえ、長時間の活動は変身者や力の源となる成分を溜めこんでいるゼリータンクの崩壊の危険性のあるライダー。

 戦兎の『5分で決着をつけろ』という言葉の意味を今初めて理解した。

 

「俺は……こんなところ…………で……くたばるわけ……に、は―――」

 

 薄れゆく意識の中、スクラッシュゼリーを外し、変身を解除する。

 気を失う直前に彼が見たのは、それは先ほどのスマッシュが爆散し、跡形も残らなかった光景だった。

 

「……おい」

 

 龍我が目を覚ます。その近くには、戦兎と一海、それと勇者部の姿があった。

 

「あっ!気がついたんですね!」

 

 眩しい笑顔の友奈が視界に移る。

 そして頭の下の何かを引っ張り出す。

 

「何だこれ」

 

 薄い桃色の牛の顔をつねる。

 

「牛鬼っていうんですよ!」

 

「……へぇー」

 

 

「相当無茶したみたいだな」

 

「……ああ」

 

 彼は半壊したビルドドライバーと完全に破壊されたクローズドラゴンに目を向ける。

 

「…………悪いが、今修理することはできない。資材が底を尽きた」

 

「おまけに、資材の搬入元である大赦もこの前色々あってな……」

 

「修理が終わるまでこれで我慢しろ」

 

 戦兎は自分のビルドドライバーとボトルを数本渡す。

 

「お前はどうすんだよ」

 

「ちゃんと考えてある」

 

「……」

 

 戦兎は自身のパソコンの前に座り、端末7つを接続する。

 既に一人アップデートは完了しているが、それにビルド、クローズ、グリスの戦闘データを加える。例を挙げると、接近戦主体の友奈、風、銀、夏澟にはクローズのデータを加えることになる。

 これで自分の、葛城の理想に近づけると確信した。

 

「佐藤、何やってんの?」

 

 銀と園子がウインドウを覗く。

 

「うげぇ……知らない単語がいっぱい……あたしらの勇者システムってこんな風になってたのか……」

 

「そうみたいだよ~」

 

「あたしの精霊も義輝じゃなくなってるし」

 

 銀の今の精霊は鈴鹿御前。はるか昔の日本の物語に登場する女性と同名である。

 そして現在義輝は夏澟の精霊となっている。

 勇者システムはその構造上、新造・量産が難しい。それでも勇者の数を増やすべく大赦は『既存のシステムのコピー』の制作を行った。

 このコピー元が銀のシステムであり、その後の夏澟の要望により武器が斧から刀へ変更となった。

 

 なお、2年前に満開を2回した銀・美森は精霊が3体存在する。銀の精霊は全て武士をモチーフにしたものだが、名前は判明していない。

 美森の精霊は青坊主に加え、刑部狸、不知火で、この二体のおかげで彼女は狙撃銃だけでなく、銃身がグリップの下にある特殊な形状の二丁拳銃(中距離)、短銃を扱うことが可能になった。

 

「なんか……ごめんなさい」

 

「ゲドウメ」

 

「……」

 

 アップデートに夢中で戦兎は忘れていたが、龍我と一海はこう思った。

 

 店、どうしよう

 

 と。

 夕方、龍我の騒ぎ声をBGMに一人でブルーシートを張る一海であった。

 

 



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第二十八話 狂うナックル

「おい一海!ホントにここにあんのかよ!外れてたら俺たちただの変人だぞ!」

 

「まぁ落ち着けよ。どこかにある…………はずだ」

 

「何だよ今の間」

 

 龍我と一海は今、讃州中学の体育館に訪れている。

 先日起きた大赦での事件。それで大赦製のフルボトルが数本、奪われてしまった。

 大赦製は全部で20本。

 大赦は奪取されることを想定してか、その20本を分散させていた。

 一部は猿渡一海・桐生戦兎に、一部は大赦に、そして……

 

「大の大人が何やってるんですか」

 

「悪い。探しもんなんだよ。大赦に関わる―――」

 

 ここ、讃州中学の体育館の床下にそのボトルの一部が隠されているらしい。

 

 

「あった!」

 

 龍我が二本のボトルを発見する。一本はレリーフが銀色、一本は青のものだ。

 

「こっちは無かった。ってことは――――」

 

 

「既に残りは我々が回収させてもらった」

 

 

「―――へぇ。親玉が直々に計画を実行するとは」

 

 ナイトローグが姿を表す。

 

「てめぇ一人か?」

 

 しかし、ガーディアンの姿はなく、一人だった。

 

「貴様らなど私一人で十分だ」

 

「ハザードレベルの上がらないシステム、それに加えて同じシステム使った葛城に負けたお前が?」

 

 一海が対峙する中、龍我は生徒の避難誘導を行う。

 

〔ROBOT JELLY!〕

〔BAT〕

 

 その時、世界の時間が止まった。

 

「変身」

「蒸血」

 

 

「総動員……か。でも――」

 

 夏澟が端末でバーテックスを確認する。

 画面には獅子座、水瓶座、天秤座、牡牛座、双子座、牡羊座、魚座と表示される。

 

「やるしかないか」

 

「夏澟ちゃーん!」

 

「ひゃぁ!」

 

 友奈が彼女の両肩を後ろからたたく。

 

「そんなに緊張しちゃダメだよ?」

 

「わ、わかってるわよ。あ、サプリいる?」

 

 友奈が首を横に振る。

 

「東郷は―――」

 

「……」

 

「銀は―――」

 

「もらっちゃおっかな~」

 

 銀がもらった錠剤を口に入れかみ砕く。

 

「苦ぁい……」

 

「ラムネじゃないっての!……樹はどうする?キメる?」

 

「その言い方はちょっと……」

 

 風と園子にも遠慮される。

 ここでふと思い出す。

 

「あいつはどこ行ったのよ……」

 

 

〔DRAGON!〕

〔LOCK!〕

〔BESTMATCH!〕

 

〔Are you ready?〕

 

「変身ッ!」

 

〔封印のファンタジスタ!キードラゴン!Yeah!〕

 

 龍我は戦兎から借りたドライバーでビルド キードラゴンフォームに変身。

 仮面ライダーの変身条件は全てハザードレベル3以上。

 そのため、条件をクリアしている彼はビルドにも変身が可能。

 

 ただ、ビルドはクローズと違い性質の違うフルボトルを二本使って変身する。

 このため、腕や足の左右で出せる力、重さが異なる。

 

 自分のドライバーとクローズドラゴンが修理され、スクラッシュドライバーを使いこなせるまでしばらく借りることになるだろう。

 

 

 龍我が前衛、一海が後衛になる。

 体のバランスに振り回されながらも何とか立ち向かえているといったところだ。

 

「戦兎は何やってんだよ!」

 

 後ろでは多数の大型バーテックスと7人の勇者が見える。

 

「人の心配より自分の心配をしたらどうだ」

 

〔ICE STEAM!〕

 

 幻徳は冷気が混じった蒸気をスチームブレードから噴射しながら龍我の装甲に傷をつける。

 

〔STEAM SHOT! BAT!〕

 

 さらにブレードをスチームガンと合体させ、至近距離で追撃。

 

「うわああ!! ――――――なんてな」

 

 右拳でスチームガンを殴り飛ばす。

 本来なら変身解除まで陥るはずの先ほどの攻撃は、ロックフルボトルの成分から生成したハーフボディの『致命的な攻撃を二回まで防ぐ』という能力のおかげで持ちこたえられた。

 

 だが、本調子が出せない。クローズじゃないからもあるが、何よりロックフルボトルの力でドラゴンボトルの力が制御されているからだ。

 戦兎はこの状態でも使いこなせなかったが、龍我は違った。

 

 ロックフルボトルを抜き、戦兎がやっていたことを真似する。

 

〔GATLING!〕

〔Are you ready?〕

 

「ビルドアップ!」

 

 無機物側のハーフボディがガトリングのものに入れ替えられ、ドラゴンガトリングフォームに姿を変える。

 ロックボトルの制御を離れたドラゴンのハーフボディは力を増す。

 

〔READY GO!〕

〔VOLTEC ATTACK!〕

 

 両腕に力を集中させ、拳を連続で叩きこむ。

 ドラゴンの炎とガトリングの火薬仕込みの拳が文字通り爆発的な火力を生んだ。

 

「そうだ……!もっとだ!怒り、憎しみ、悲しみ……全てをぶつけろ!

 貴様の女を殺した人間がここにいるぞ!!」

 

「うるせぇぇぇええええ!!」

 

 

「ん?」

 

 この様子に一海は違和感を覚える。

 幻徳はあきらかに手を抜いている。そして龍我を煽り、殴られている。

 

「まさか……」

 

 今のこいつの目的は勇者暗殺ではない――――

 

「龍我!」

 

「てめぇを今ここで――――」

 

 龍我はビルドドライバーを外し、スクラッシュドライバーに装着し直す。

 

〔DRAGON JELLY!〕

〔ツブレル!ナガレル!アフレデル!〕

〔DRAGON IN CROSS-Z CHARGE! ブルァアアア!!〕

 

「―――潰してやるよ!」

 

「龍我……龍我ァ!」

 

「退けよ!」

 

 立ちふさがる一海を肘打ちで視界から外し、幻徳に馬乗りになる。

 

「てめぇがいなければ!てめぇがこんなことしなければ!

 香澄は死ななかった!香澄以外もたくさん殺してきたんだろ!この人でなしがァ!

 消え失せろ!!ァァァァァァアアアアアアア!!」

 

「人でなし……?何を今更……」

 

 あざ笑う幻徳。

 

「そうやって笑っていればいいさ! 今すぐにバーテックスの餌にしてや――――」

 

「ハハハハハ…………!殺人?人でなし?結構!でも、人でなしは―――」

 

 龍我たちの前に一体の大型バーテックスが出現する。

 

「――――君たちも同じだろう?」

 

 そのバーテックスは火球を作り出し、標準を定める。

 

「これが目的か……」

 

「最新のライダーシステムといえどこれをまともに食らいでもすれば―――」

 

 しかし、火球が放たれることはなかった。

 火球を生み出していたレオ・バーテックスを黒い光が貫通する。

 光の道筋には御霊が存在し、御霊が破壊されていた。

 

 御霊が消滅し、レオの胴体が崩れる中、こちらに黒……正確には黒に近い紺の装束を身に纏った人間が歩いてくる。

 

 幻徳が二発発砲するも、その弾はバリアによって無効化されていた。

 

「誰だ?」

 

「……おいおい……!冗談だろ?」

 

 顔が視認出来た。右目が完全に開いていない上に少し笑っているように見える。

 歩く姿もまるで疲弊しているよう。

 

 そんな彼に星屑が数体接近する。

 

「いいねぇ……」

 

 彼は背中から畳まれた武器を取り出す。

 展開すると鎌になり、それを星屑の方をゆっくり振り向き、振るう。

 

 

「「「満開!!」」」

 

 銀、夏澟、風が勇者の切り札を発動させる。

 装束が白を中心にしたものに変わり、武装が強化される。

 銀、風は大幅な追加装備はないものの、基礎能力が底上げされ、夏澟は巨大な四本の腕とそれに握られた刀が装備された。

 

「銀、行くわよーー!!」

 

 風が神樹を目指す双子座の前に立ち剣を巨大化させ、双子座を斬るのではなく叩くようにして銀の元へ飛ばす。

 

「根性ぉぉぉー!!」

 

 銀は炎を纏った斧を握り、双子座を切刻んだ。

 封印の儀をやるまでもなく、双子座は消滅した。

 

 

 夏澟はリブラ・バーテックスの天秤を模した箇所に左右二本ずつ巨大な刀を突き刺し、回転を止める。

 その後、その状態のまま自身を満開の追加武装から切り離し、

 

「そこ!」

 

 御霊の位置を胴体ごと貫く。

 

「あー!それ前まであたし使ってたのに!」

 

 夏澟の追加武装を指さす銀。

 

「斧使いのあんたより私のほうが合ってるのよ」

 

「う~ん、そういうものかな?」

 

「そういうものよ」

 

 風、銀と合流した夏澟。

 一瞬力が抜け、満開が解除される。

 

「あー、あー」

 

 銀が発声する。問題はない。

 

「……」

 

 夏澟が肩を回したり脚を動かしてみる。問題はない。

 

「夏澟、あんたの好きなものは?」

 

「にぼし」

 

「あだ名は?」

 

「……」

 

「っ……」

 

『にぼっしー』と答えてほしかった風が絶句する。

 

「大丈夫!?もしかして記憶が―――」

 

「にぼっしー!言いたくなかっただけよ!」

 

「なぁんだ。脅かさないでよー」

 

「それより、残りのバーテックスは?」

 

 端末を開く。残りは水瓶座、牡羊座、牡牛座

 

「あれ?獅子座って倒したっけ……」

 

「友奈たちがやったんじゃない?」

 

 友奈に連絡を入れる。

 

『夏澟ちゃん?そっちの方は大丈夫?』

 

「ええ、今からそっちに―――」

 

 突如、耳が痛くなる音量の鐘が鳴る……が、それはすぐに止んだ。

 

 

 爆音の鐘を鳴らした牡牛座のバーテックス。

 そこに黒く巨大な拳が突き刺さった。

 その拳を操る人物は獅子座を葬った者と同一。

 

「え……?」

 

 園子が見覚えのある姿に驚愕する。

 

 紺から黒に変わった装束を纏った人物の外見は色以外結城友奈のそれと酷似していた。

 それも当然。彼女の勇者システムはこの人物のものの改良型だから―――

 

「さっとん?何で……」

 

「これだよ。これこそ、俺が望んだ戦いなんだよォォォォォ!!」

 

 勇者の端末に『桐生戦兎』と表示されている黒い勇者は、確かに笑っている。

 



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第二十九話 怒り狂うドラゴン

「ヘッ」

 

 身体を酷使したせいか先ほどまで笑っていた顔が引きつる戦兎。

 今の彼の右の手の甲には勇者でいう満開ゲージ、左には制限時間を占めるゲージが存在。どちらも五節に分かれている棒状のゲージだ。

 

 この姿を長くは維持できない。維持できたとしても、供物としてささげた場所の大半が機能していないため生活に支障が出るだろう。

 

 その時、バーテックスが体を動かし彼を振り払おうとする。

 自分のことに集中していた彼は姿勢を崩し落下。この衝撃で追加武装である黒い巨大な腕が配線を剝き出しにして崩壊。追加武装が無くなっても、彼自身がまだオーバーフロー(疑似満開)を発動した状態だった。

 

「さっとん!」

 

 園子が駆け寄る。

 

「ぁあ……最悪だ―――」

 

 体から力が抜け、元の姿に戻り気を失う。

 

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

「そうだ!それこそが、兵器としてあるべき姿だ!!」

 

 正常な思考が失われ、幻徳を殴り続ける龍我。

 

「どっちだ!香澄や大勢の人を殺す機械を動かした腕は……どっちだァァァァ!!」

 

「貴様に俺は殺せない」

 

 幻徳が龍我の左拳を止め、それを握りつぶすように力を入れる。

 

「そうかよ。だったら」

 

〔TWIN BREAKER!〕

〔ATTACK MODE!〕

 

 ツインブレイカーを召喚し、レイジングパイルを幻徳の左腕に突き刺す。

 

「龍我!それ以上はよせ!そいつの目的はスクラッシュドライバーを使ったデータの―――」

 

「――――黙れよ」

 

 龍我は地面に刺さったツインブレイカーを手放し、ドライバーのレバーを倒す。

 ドラゴンスクラッシュゼリーの成分がさらに絞り出され、そのエネルギーが右足に集中する。

 

「テメェは引っ込んでろォオオオオオオオオオ!!!!」

 

〔SCRAP BREAK!〕

 

 一海も黙っているはずがなかった。

 自身のツインブレイカーにガトリングフルボトルと樹海化する前に回収したウルフフルボトルを装填。

 

〔TWIN BREAK!〕

 

「ウオォォォォオオオオ!!」

「うらぁぁぁ!!」

 

 ツインブレイカーのパイルとクローズチャージの脚部が激突する。

 

「ウワアァァアアアア!!」

「がはっ……」

 

 双方が吹き飛ばされ、変身が解除される。

 その後、バーテックスが全て倒され樹海化が解除された。

 

 

「早く倒さないと被害が反映されるだろ?だから――」

 

「言い訳はいいから」

 

 勇者とともに祠に戻され、先ほどについての説明を七人から求められた戦兎。

 

 先ほど彼が使っていたのは葛城巧の研究データと共に回収したトランスチームシステムと、二年前の乃木園子から回収したモノを基にした勇者フルボトル。

 

 一部が改変されているが、一定時間だけ勇者の姿に戻ることができる。そして色々なものが不安定になる。

 このシステムが何のためにあるものなのか。これはわからない。

 彼がドライバーを喪失した際の保険なのか、それとも―――

 

「バーテックスに、ファウストに対抗するにはこれしかないんだよ」

 

「……」

 

「これしか―――」

 

「――ふざけないでよ。自分のことを守れない人がそんなこと出来るわけ無いでしょ!」

 

「でも俺は戦わなくちゃいけねぇんだよ!万丈の冤罪を晴らすため、ファウストの被害に遭った人のため、今生きている人のため!」

 

 戦兎の顔には焦りにも似た何かが浮かんでいた。

 後遺症が無いとはいえ変身している間、ネビュラガスに体を侵されるクローズチャージのシステムを龍我に渡した事、葛城巧が死んだ事、自分が桐生戦兎となって園子と再会した時、まともに謝罪ができなかった事。全てを抱え込んでいる。

 

 そんな彼を園子はそっと抱きしめる。

 

「もう一人で抱え込まなくてもいいんだよ。私がついてるから」

 

「園子……ごめん」

 

 すると、彼女は小指をフック状に曲げて戦兎の前に出す。

 

「指切り?」

 

「うん」

 

 戦兎も小指を出し、園子の指と絡ませる。

 

「「ゆーび切り拳万 嘘ついたら針千本飲ーます、指切った―――」」

「―――死んだら御免」

 

「!?」

 

 指切りの『指切った』には続きがある。

 これが今園子が言った『死んだら御免』である。

 これには『死んで約束が守れなかったらごめんね』以外にも『(嘘ついたら)死んで詫びろ』という解釈がある。

 園子はどちらの意味で言ったのか。それはわからないが、お互いが無茶をしないことを約束したことに変わりはない。

 

「えへへ~。これからもよろしくね! さっとん♪」

 

「よろしくな、園子」

 

 

「え、何?この二人どういう関係?」

 

「あわわわわ……」

 

「Oh……乃木さんちの園子って意外と大胆……」

 

「どっかの誰かさんがうるさくなるからやめとけって言おうとしたのに……」

 

「なにおぅ!?」

 

「『風』とは言ってないでしょうが!」

 

 

「……」

 

 nascitaの地下室。龍我はそこにいた。

 近くの机には首と尻尾のないクローズドラゴン、そしてパーツが散乱している分解途中のビルドドライバーがあった。

 

『怒り、憎しみ、悲しみ……全てをぶつけろ!』

『人でなしは―――』

 

『君たちも同じだろう?』

 

 

「チッ!」

 

 あの時の自分はまるでスマッシュだった。理性がほとんどなく、ただひたすら視界に移った動くものを殴る。

 それに幻徳をあそこで殺せていたとしても、誰も返ってはこない。

 

「……」

 

「万丈」

 

 戦兎が帰ってきた。彼は部品の散乱したドライバーを組み直し、

 AIと自立稼働をオミットしたクローズドラゴンを龍我に渡す。

 

「俺と戦え」

 

 

 壁の外。神樹の結果外を指すここに一人の戦士が立っていた。

 仮面ライダーゲンム。

 彼は星座の名を冠したバーテックスが組みあがっていく光景とともに、あるものを目撃していた。

 

「バカな!あり得ない……」

 

 この光景を認めたくない彼は結界の内側に戻る。

 

 彼は一つの結論を見出す。ネビュラバグスター、もといバグスターの復活はファウストの仕業ではない。

 

「ゲムデウス……データが残留していたとは……」

 

 

「こんなことをして解決するとは思っていない」

 

「……」

 

「でも、お前には迷いがある。それを今直してやるよ」

 

 戦兎が先ほど修理したドライバーを装着する。

 修理したといっても完全には至っていないため変身は一回だけ。その上、必殺技発動には耐えられないだろう。

 

〔KAIZOKU!〕

〔GATLING!〕

 

〔Are you ready?〕

 

「変身」

 

 戦兎はビルド 海賊ガトリングフォームに変身。

 

〔WAKE UP!〕

 

 ただのガジェットと化したクローズドラゴンにドラゴンフルボトルを装填。

 

〔CROSS-Z DRAGON!〕

 

〔Are you ready?〕

 

「……」

 

〔WAKE UP BURNING! GET CROSS-Z DRAGON!〕



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第三十話 正義のファイター

「来いよ」

 

「……どうなっても知らねぇぞ!」

 

 龍我が戦兎を殴る。

 だが腕への殴打は流し、頭部への殴打は防御もせず食らう戦兎。

 

「俺はッ……理性を失いかけてた……!」

 

 信じられるのは自分だけ。拳に力を入れ思い切り突き出す。

 

「……」

 

 防御も何もしていない戦兎。

 ビルド 海賊ガトリングフォームは装甲を軟化・振動させて敵の攻撃を受け流すハーフボディと足と拳に火薬が仕込まれ、文字通り爆発的な力を出せるハーフボディの組み合わせ。

 トライアルフォームはこういったベストマッチでは発揮できない力を出すことができる。その組み合わせは現在、143通り(ドラゴンフルボトルを含む)。

 

 ひたすら殴ることしか考えていない龍我の拳を受け止め、突き放す。

 

「本気出せよ!」

 

「……」

 

 ボルテックレバーを回す龍我。

 

〔READY GO!〕

〔DRAGONIC FINISH!〕

 

 青い炎をまとった拳を戦兎の装甲の厚い箇所にぶつける。

 

「んぐっ…………はぁ」

 

 流石にこれは受け流せず、変身が解除され、応急処置されたドライバーは再び破損した。

 

「俺はもう、スマッシュみたいなもんなんだ。最初からな。だから冤罪に遭ったんだ」

 

 龍我はこう言い残し去っていった。

 

 

「う~っす、遊びに来たぞー」

 

 nascitaに一海が入店する。

 

「悪いが、店主は留守だ」

 

「そうか……。悪い知らせだ。氷室幻徳が新しい仮面ライダーを―――」

 

『速報です!ファウストが声明を発表しました!』

 

「あーあ」

 

『皆さん、ファウスト最高責任者の氷室幻徳です。我々は以前、仮面ライダーを軍事兵器にするとお伝えしました。

 今回は、それの完成を発表します。

 

 

 "ローグ"。これが、新しい仮面ライダーにして最強の兵器……

 これを使い、我々は腐った世の中をリセットする。この言葉が何を意味しているかは、あなたの解釈次第―――――』

 

「仮面ライダーローグ……」

 

「ナイトローグの改良型か」

 

 

「……はぁ」

 

 龍我は町のあたりが見回せる草むらでため息をついていた。

 

「最悪だ。俺はこれからどう生きてけばいいんだよ……」

 

 彼はまぶたを閉じるが、人の気配がしたためすぐに開けた。

 

「何やってるんですか?」

 

「それはこっちのセリフだ。友奈」

 

「悩み事でも―――」

 

「―――関係ない。帰れ」

 

「と言われても……用事がありますから」

 

「……部活か?」

 

「はい!猫ちゃん探してるんですよ!」

 

 友奈は猫の絵が描かれた紙を見せる……が、絵が独特すぎた。

 

「…………新手のスマッシュ?」

 

「なっ……失礼なー!」

 

「冗談だよ。それとさ」

 

「?」

 

「猫がこんなところに来ると思うか?」

 

「…………はい」

 

「さては、迷子だな?」

 

「うぅ……そ、そんなことより、悩んだら相談ですよ!万丈さん!」

 

「何それ」

 

「勇者部7か条の一つです!」

 

「……俺は勇者部員でも勇者でもねぇよ」

 

 龍我は立ち上がり、帰る支度をする。

 

「そんなことないですよ」

 

「……どうしてそう言い切れる」

 

「だって佐藤さん言ってましたよ?『万丈はバカでアホで義務教育やり直して来いってぐらいの馬鹿だけどすごく良い奴だ。主役の座を取られちまうほどの、正義のヒーローだ』って!それに、今まで人のために戦ってきたんですよね?立派な勇者ですよ!」

 

「それ慰めになってねぇし。でも、ありがとな」

 

 友奈の頭をなでようとした龍我だったが、それは直前で止められた。

 

「?」

 

「俺はまだ死にたくねぇ。狙撃なんてごめんだよ……」

 

「?」

 

 

「スクラッシュドライバーにはスクラッシュドライバーしかない。でもお前は―――」

 

「――ある」

 

「え?」

 

「対抗策はある」

 

 戦兎はプロジェクトビルドのデータを一海に見せる。

 

「プロジェクトビルドにはまだ、続きがある」

 

 戦兎はパソコンに葛城からもらったUSBメモリを刺す。

 すると、『PROJECT BUILD UNFINISHED DATA』という言葉とともにあるデータが表示される。

 

「これは―――」

 

 

「何だよこれ……」

 

 友奈と別れた後、龍我は目撃してしまっていた。ガーディアンとスマッシュが群れを成している光景を。

 

「止めるしかねぇ……。変身ッ!」

 

〔GET CROSS-Z DRAGON!〕

 

「逃げろ!早く逃げろォ!!」

 

 近くにいた民間人にこう呼びかけながら戦う。

 しかし、ビートクローザーは破損しており、召喚は不可能。

 

〔DRAGON!〕

〔SHOUBOUSHA!〕

 

〔Are you ready?〕

 

「ビルドアップ!」

 

 ドライバーのクローズドラゴンを外し、ドラゴンと消防車のボトルに入れ替える。

 遠距離の敵には火炎放射・放水、近距離は格闘と、今の状況ではクローズより有効な組み合わせだが

 

『全てをぶつけろ!』

『貴様の女を殺した人間がここにいるぞ!!』

『殺人?人でなし?結構!でも、人でなしは―――

 

 

 

 

 君たちも同じだろう?』

 

「ウアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 幻徳の言葉を思い出し、苦しむ龍我。

 

「俺は人間だ!人でなしなんかじゃない!俺は約束したんだ……香澄に、冤罪を晴らすって!晴らしてお前の分まで生きるって!!」

 

 その時、堅い拳を持ったスマッシュの一撃が脇腹に直撃する。

 

「俺は人として生きる!生きたいんだァァァァァァアアアアアアアア!!!!」

 

 

「万丈……さん?」

 

 龍我と会った場所からそう遠くに離れていなかった友奈。彼女は龍我の悲鳴のような叫びを耳にしていた。

 

「でも、どうしたら……」

 

 

「やれやれ。スクラッシュドライバーには後遺症はない。伝えるべきだったかなぁ……」

 

 呆れにも焦りにも見える表情をして戦兎が歩いてくる。

 

「こっからは俺の出番だ」

 

 

「ガァァァアアア!! ゥウ……」

 

 変身が解除された龍我は地に伏してしまった。その周りをガーディアンやスマッシュが取り囲む。

 

「生キルンダ……生きるんだ!」

 

 と、その時、一つの大きなモノが炎を纏いスマッシュやガーディアンの群れを崩壊させた。

 

 

〔不死身の兵器! フェニックスロボ! YEAH……〕

 

 

「全く、なーにやってんだか」

 

「戦兎……」

 

「立てよ」

 

「……俺は―――」

 

「―――スマッシュみたいなもん、まだこんなこと言ってんのか?」

 

「……」

 

「『人のために力を使うやつは意味わかんないけど、無駄じゃないってことはわかる』

 こう言ったのはどこのどいつだっけ?」

 

「……」

 

「そのベルトを着けて、変身して、なんだかんだ言って人のために戦ってる……

 正義のヒーロー!

 それができるのは、人でなしでもスマッシュでもない……

 

 万丈龍我だけだろうが!!」

 

「!」

 

「お前もバカで仮面ライダーなんだろ?立てよ」

 

「も?お前、やっと自覚したのか!」

 

 友達を見つけたかのように龍我の顔に笑顔が戻る。

 

「うるせぇな!現実を見るようになったって言えよ!」

 

 龍我が戦兎の肩を借りて立ち上がり、クローズドラゴンをドライバーに装填する。

 

〔CROSS-Z DRAGON!〕

 

〔Are you ready?〕

 

 

「変身ッ!」

 

 

〔WAKE UP BURNING! GET CROSS-Z DRAGON! YEAH!〕

 

 

「今の俺は……負ける気がしねぇ!」

 

「勝利の法則は決まった!」

 

 戦兎が最初に駆け出し、ビルド フェニックスロボフォームの左腕でスマッシュをつかみ、龍我に投げる。

 

「ッしゃあ!」

 

 飛んできたスマッシュに膝蹴りをかまし、自分とガーディアンの間にスマッシュが到達したするとき、

 

〔DRAGONIC FINISH!〕

 

「うぉおりゃあああああ!!」

 

 ガーディアンをスマッシュごと葬り去る。

 

 

〔オクトパスライト! Yeah~!〕

 

 戦兎は形態を変え、右肩のタコの足を使いスマッシュを誘導する。

 

 その時、バキッという音がドライバーから鳴る。

 

「あっ」

 

 一瞬怯んだものの、彼はトランスチームガンと一本のボトルを取り出す。

 

〔MIST……MATCH!〕

 

 体が蒸気に包まれる。そこへガーディアンが戦兎の頭の位置に銃剣を突き刺す。

 

「戦兎!」

 

 銃剣が掴まれる。

 蒸気が晴れ、あの時と同じように勇者の姿になった戦兎が姿を表す。

 

「さあ来いよ!」

 

 

〔SCLAAASH DRIVER!〕

 

 龍我はドライバーを交換し、クローズチャージへ変身。

 

〔DRAGON IN CROSS-S CHARGE! ブルァアアア!!〕

 

 ツインブレイカーにクローズドラゴンを装填する。

 

〔READY GO!〕

 

 

「万丈ォォ!!これでフィニッシュだ!」

 

 戦兎が鎌でスマッシュを龍我の前に吹き飛ばす。

 

〔LET'S BREAK!!〕

 

「うぉぉおおおらぁぁぁ!!」

 

 パイルが思い切り突き刺さり、爆散する。

 

 

 帰還した二人。龍我は寝ころび、戦兎はパソコンを操作する。

 

「まーたドライバー壊れちまったのかよ。資材ないんだろ?」

 

「ぐうの音も出ない……」

 

 でも、こいつを使いこなすいい機会だと、トランスチームガンを持つ戦兎。

 

「それより問題なのは……」

 

「パンドラボックス……ぶっ壊せばいいんじゃね」

 

「……それだ」

 

「そうだよな、流石にぶっ壊すのはよくな――――えぇ?」

 



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第三十一話 プロジェクトビルド最終段階

「……」

 

 戦兎はノートパソコンの前で黙り込んでいた。

 トランスチームガンを使ったあのシステム……

 外見は二年前の勇者装束とほぼ同じ。ただ、使っている間は好戦的な性格になりやすい。慣れてきたとはいえ予断を許さない。

 そして、装束が黒くなっていたこと。通常時は黒と間違われるほど暗い紺、オーバーフロー時は黒。二年前とは違う。

 

 黒で狂暴といえば、スマッシュにも同じことが言える。最近出現するスマッシュは体の色が黒く、能力が強化されている。

 

 何か関係はあるのだろうか。

 

 この疑似勇者システムのスペックはスクラッシュドライバーを使用したライダーシステムと同等。つまり、現段階のビルドより強力な代物。

 ただ、弱点もある。このシステムは勇者でいう満開ゲージが右手に、制限時間を表すゲージが左手に無骨な棒状で存在する。右手のゲージは自分の攻撃が敵に当たると増えるが、致命傷になりかねない攻撃を受けたときはゲージの五分の一を消費してバリアを発生させる。

 

 戦兎がプログラムを見てみると、最後の欄に『HAZARD CS89%』と表示されていた。前に見た時には無かった。葛城はまだ何か隠しているようだ。

 

「考えるのやーめた」

 

 

 朝。龍我が手にあるものを持って頭を悩ませていた。

 彼の手にはゲンムに盗られたはずのゲーマドライバーが。

 

「あの黒い奴がさ、渡してきたんだよ」

 

「……」

 

 ゲンムとの接触後、戦兎はゲンムの情報を洗っていた。彼はあのハイパームテキの開発者であることが判明した。

 

「待てよ、万丈ってハザードレベルどれ位だ?」

 

「…………わかんねぇ。いつもはスタークが教えてくれたからな」

 

 今手元にあるガシャットはマキシマムマイティXとハイパームテキ。使用条件はそれぞれハザードレベル4.7以上、6.0以上である。

 

 スクラッシュドライバーを扱える彼は今どうなのか。

 

「ほら、新作のコーヒーだぞ――――うぉああっ!!」

 

 コーヒーを入れた龍我が戦兎に近づき、コケる。

 

「あっちぃぃいい!!」

 

 服にかかると同時に口に入る。

 

「まずい!腐ってんじゃねぇのこれ!」

 

「失礼な!実が青いうちに収穫したとれたてピッチピチの豆使っとるわ!」

 

「バカ野郎!それ早すぎるから!赤く熟してから収穫だから!」

 

「……これマスターもやってたぞ」

 

「……」

 

 

「ゲムデウス……」

 

 同時刻、結界の外ではゲンムがあるモノを見上げていた。

 名はゲムデウス。今や根絶しているバグスターの頂点に立つ存在。

 それが今、復活しようとしていた。

 

 それだけではない。本来ゲムデウスというモノは龍の首のような腕と大剣のような下半身から構成されるバグスター。しかし今ゲンムの前にあるそれは左腕が剣に、装飾として勾玉が付けられていた。この二つの形状はまるで、草薙剣(くさなぎのつるぎ)八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)のようだった。

 

 

 葛城巧が最後に託したデータを含めてもプロジェクトビルドにはまだ謎がある。

 

 四国防衛の要と書いておきながら『軍事兵器』と認めていた。そのせいなのか、彼が最後に託したデータは所々が欠けている書きかけの状態だった。ビルドドライバーの強化に関するアイテムらしく、『最強のビルドにして本プロジェクトの最終段階』と最後に書いてあった。

 

 

 が、このデータは一海に没収された。彼には思い当たる節があるらしく、それと照らし合わせてみるとのこと。

 

 

 

「ゴールドタワーの改装中止……か」

 

 一方、大赦に戻った一海は同僚からゴールドタワーの迎撃装置としての改装の中止と防人が火傷をしたことで大騒ぎになっていると同僚から報告を受けた。

 

 防人の火傷。これは些細なことに見えて由々しき事態である。

 防人の装束は勇者のそれよりも耐熱性に優れているため、結界の外の炎や溶岩をものともしない。そんな彼女たちが火傷を負ったということは、炎が勢いを増しているということになる。

 さらに、結界外で形状の違う獅子座のバーテックスと正体不明の何かを発見したと防人から報告があった。

 

「ファウストに動きはない。……叩くなら今だ」

 

「でもどうやって」

 

「俺達には、アレがあるだろ?それに、扱える奴も見つかった」

 

 

 部屋の隅で龍我はゲンムからドライバーを受け取るときに言われたことを思い出す。

 

『それを使えばゲムデウスに対抗できる。しかし、変身は一回だけ』

 

「……」

 

『失敗すれば、世界は炎に包まれる。二度と生物が繁栄することはない』

 

「…………いいぜ、やってやるよ」

 



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第三十二話 ハザードへの入り口

「―――?」

 

 最近、龍我は気になることができた。

 戦兎が自分を避けるようになったのだ。

 

「何かしたっけ……」

 

 呟きながらパンドラボックスを持ち上げる。スタークから取り返した時より軽い。

 

「ん?」

 

 彼は戦兎の使うパソコンが起動していることに気づく。

 

「全く、こんな暑ぃ時期につけっぱなしかよ」

 

 シャットダウンを試みたが、彼はそうすることはなかった。

 

 

「何だよ、話って」

 

「葛城の最後の研究データ、これがわかった」

 

 一海によって大赦に呼ばれた戦兎。

 一海はある赤いガジェットを手にしていた。中央にメータが存在し、上部には透明なカバーのついたボタンが一つ。

 

「"ハザードトリガー"。こいつだ」

 

 一海がハザードトリガーと呼ぶこれには、下部に銀色のジョイントも存在した。

 一方、ビルドドライバーにはそれと径が合う凹ジョイントが存在している。

 

「葛城巧が残した禁断の力……ビルドドライバーの強化アイテムだ」

 

「これが……」

 

「こいつはビルドを最凶の姿に変える。ドライバーに最初からジョイントがあったことから考えるに、葛城は最初から想定してたらしい。

 

 が、作ってやっと気づいたんだ。これの代償が大きすぎることに」

 

「代……償……」

 

「死ぬよりももっとタチの悪い……な。葛城はこれを無くして制御するシステムを組み込む予定だったんだが、殺された。ナイトローグに。

 

『大きな力を手に入れることと代償が付き纏うことはイコールじゃない』

 

 こんなこと言ってた。そして言いたくもないんだが、ハザードトリガーはもう一つある」

 

 一海は戦兎の手を持ち上げ、ハザードトリガーを握らせる。

 

「大赦ではもうこれ以上解析はできない。技術開発部の連中は全員殺されちまったからなぁ」

 

 

 

「……」

 

 そんな二人の会話を盗み聞きする男が一人。

 

 

 

 その後、一海は三人のハザードレベルについて話し始めた。

 戦兎が4.9、龍我が5.8、一海が5.2である。

 

「気にすんな。お前は弱くねぇよ。ビルドはパワーより様々なフォームを使い分ける。クローズはそれができない代わりにパワーが強く、グリスは両者の短所の埋め合わせ。

 しっかり役割分担できてんだから。技のビルドに力のクローズ。五分五分のグリス…………五分五分?」

 

「誰も落ち込んでないんだけど―――」

 

「そんなことよりさ」

 

「そんな事ってお前……」

 

「暗い話ばっかしてても仕方無いだろ。

 N.Sって名前聞いたことないか?」

 

「磁石?」

 

「そうじゃない。小説投稿サイトに現れた人物の名前だ」

 

「へー」

 

「298年末から299年末まで投稿がストップしてたけど再開したんだ」

 

「へ~」

 

「書いてる小説は二つあって一つは――――――」

 

 一海の話は続く。二人の会話を盗み聞きしていた人物も呆れて帰ってしまった。

 

「――――っていうことなんだよ」

 

「へー」

 

「風の便りで聞いたんだが、その人物は令嬢らしい」

 

「ふーん」

 

「讃州中学の二年生らしい」

 

「ふー…………んん!?」

 

「どうした?」

 

「いや、何でも……とりあえず、乗り込むことだけはするなよ」

 

「わかっ………………てるに決まってんだろ」

 

 

「……お姉ちゃん」

 

「ん?」

 

「いつも、ありがとう」

 

「どうしたのよ急に」

 

「夏澟さんもありがとうございます」

 

「……私、何かした?」

 

 夕方、部活を終え、犬吠埼姉妹と夏澟が下校していた。

 

「朝起こしてもらったりご飯作ってくれたり……でも、このままじゃお姉ちゃんに依存したままの人間に……うぅ」

 

「……風、あんたオカンか何か?」

 

「女子力が高いといいなさい!」

 

「せめて朝ぐらいは自力で起きられるようにしたら?本人もそういってるし」

 

「うるさいやい!アタシは樹起こすことから始めないと一日が始まったって感じしないんだい!」

 

「やっぱりオカンじゃない!」

 

 横断歩道の赤信号で騒ぐ。しかし、信号が青になったことを確認するとそれをやめわたり始める。

 

 と、その時、車両側の信号が赤になっているにもかかわらず、トラックが猛スピードで突っ込んできたからだ。

 

 端末から精霊の義輝、犬神、木霊が飛び出し主の前に出るが、遅かった。

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ。ついに勇者を殺りにきたか。ファウストには困っちゃうねぇ……」

 

 

 

 

 

 

 

 だが、彼女らが轢かれることはなかった。突如トラックの前に男が現れ、車体を止めた。

 その男は煙突のような角を持ち、全体が深紅、パイプがマフラーのように首元に巻き付いていた。

 

「怪我はないか?お嬢さん達」

 

「「「……」」」

 

 突然起きた二つの出来事に開いた口が塞がらない三人。

 

「ちょっと待ってろ」

 

 こう言って男はトラックのドアを開ける。

 

 運転手は不在だった。

 

「自動運転……?それとも――――」

 

 ドアを閉め、車体に一発蹴りを入れた後、男は風達の方を向き、

 

「世の中変な奴って多いからな。気をつけろよ」

 

「あっ、あの!」

 

 樹が呼び止める。

 

「ありがとうございました!」

 

「なぁに、当然のことをしたまでよ。愛と平和のために、な。

 

 俺はブラッドスターク。もう一度言うが、お前らみたいなお嬢さんは狙われやすい。気をつけろよ。じゃあな」

 

 自らをブラッドスタークと名乗った男は去った。

 

「何だったんだろう……」

 

「……い」

 

「というよりこのトラックはどうするのよ」

 

「樹が……!初対面の人相手に……!しっかり喋ることが出来た…………!!」

 

「そこかい!」

 

 

「俺が、ハザードレベル5.8……」

 

 戦兎が寝静まった後、龍我はこっそりパソコンを起動させ、葛城の研究データを閲覧した。

 

 やっぱりだ。彼は確信した。もう少しで、もう少しで自分はあの力を使うことが出来る。

 チャンスは一度だけ。そして、これをやれるのは自分だけ。

 

「負ける気がしねぇ」

 

 



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第三十三話 蝙蝠のホークス

『逝っていい……ってさ』

 

『ま、待ってくれ!落ち着け!偉大な私の頭脳を、この世から消してはならない!

 待て!待つんだ!!』

 

『……』

 

『ぐああああああああああ!!!』

 

『さよなら……父さん』

 

 

「やっぱ特撮はこうだよなぁ」

 

 この日、龍我は気晴らしのため借りたDVDを視聴していた。

 正義と悪ではなく、正義と正義がぶつかり合う物語。だが、今のシーンで倒された者は登場人物の目から見ても、第三者(視聴者)の目から見ても極悪人と呼ぶべき存在だった。倒した側の人物もこうする直前に仲間を殺されており、彼の未練を断ち切ることが出来ただろう。ハッピーエンドとは言えないが、彼らが救われたことに変わりはない。

 

 それはそうと、最近戦兎の様子がさらに変わった。

 今まで節約してきた資材を叩いて何やら開発を行っている。彼の机には、以前ラビットタンクスパークリングを開発した時使用した器具を再利用してドラゴンフルボトルとドラゴンスクラッシュゼリーの成分を採取していた。

 さらに、フルボトルを一本装填できるガジェットも置かれていた。

 今龍我の持っているクローズドラゴンはAIと首・尻尾が無い一見作りかけに見えるもの。

 

 そして、ビートクローザーの修理も開始したようだ。

 

「―――ぉ!万丈!いるか!」

 

「噂をすればってやつだな」

 

 汗を掻き慌てている様子の戦兎が帰宅した。

 

「テレビつけろテレビ!」

 

「? あぁ」

 

 入力切替のボタンを押して番組が見れるようにする。

 

「ああ……!最悪だ……」

 

「録画でも忘れ……」

 

 画面を見た龍我が固まる。画面には、『ファウスト掃討作戦』という緊急の生放送が始まっていた。

 

 まず最初に移ったのは、大赦が配備している白いガーディアン。本庁所属のものと違って装甲の面積が増えたタイプだ。

 

 次に移ったのは、氷室幻徳だった。

 

「はあああああああ!?」

 

 今まで散々表舞台に出てるのにどうして大赦側として顔を出せるのか。

 答えはすぐに出た。今までのファウストの声明は、画面にファウストの紋章が移され、ナイトローグの若干加工された声の声明が流されたもの。一般市民は幻徳がファウストであると知る由もなかった。

 

『これよりファウスト掃討作戦を実行する』

 

 幻徳の一声で、ガーディアンと警備兵から構成される特殊部隊がファウストの施設に侵入する。

 

 その数分後、部隊が満身創痍の状態で施設から出てくる。この後ろからナイトローグが出現し、ガーディアンを撃ち抜く。

 

 

「何であいつとローグが一緒にいるんだよ……」

 

「……ハザードトリガーか」

 

 一海はハザードトリガーは二つあり、その一つがファウストにあると言っていた。

 ―――――そして、これがビルドドライバーの強化以外の使い方もできるという事も。

 

 

『私が創ったファウストを、大赦ごときに潰されてたまるか!』

 

 ローグの声は、全くの別人だった。

 

『撃てェェェェェ!!』

 

 幻徳の叫びを打ち消すように、銃声が響く。無論、これがローグに効くはずはなかった。

 

 その時、テレビの映像が途切れる。流れ弾が当たったのだろうか。

 

 数十分後、映像が回復する。

 そこには、ローグが倒れ、変身が解除される様が移されていた。

 

『この私が……』

 

 先ほどまでローグに変身していた者が拘束され、テレビには映らないが、幻徳と目があう。

 

『嘘だ……』

 

 彼の目に映っていたのは、悪魔のような笑みを浮かべた幻徳の姿だった。

 

 こうして、ファウストは壊滅した。

 

 

 

 "表舞台から"の話だが。

 

 

 

 

「幻徳の奴、ついにトチ狂ったか?」

 

 後日、テレビで中継されたファウストのアジトの跡地、ここにブラッドスタークが現れていた。目的はボトルの回収。

 

「おー、あったあった。俺の愛しのボトルちゃん」

 

 赤いパネルにセットしてあるボトルをパネルごと回収する。

 

「―――――こうすればお前が食いつくと思ったぞ。葛城……」

 

 その背後から、銃を構えた幻徳が現れる。

 

「葛城巧は死んだ。俺はただの、喫茶店店主(収入なし)さ」

 

「……そうか。石動、お前はこの世界に失望していたはず」

 

「そーんな時もあったなぁ。でもよ、あいつらと関わって変わったんだよ。世の中にはまだ有望なやつがいる。そいつらの応援をしてやろうって。どうせ死ぬなら、嘆くよりも別の事して死にたいだろ?」

 

 スタークが幻徳に得物を向ける。

 

「残念だ。貴様の力ならこの世界など簡単に真っ新にすることが可能なはずだったのに」

 

「パンドラの箱(ボックス)に必ずしも希望が入っているとは限らない。前代未聞な程大きく、強く、手出しが出来ない絶望が入っているかもしれない。

 それでも開けるか?それとも――――」

 

 風の音が響くこの場所が一瞬で静かになった。

 そして、世界が変わった。

 

「―――天神と一緒に死ぬか?」

 

「天神だと?」

 

 

 戦兎達もまた、樹海に立っていた。ここからは見えないが、勇者達も同じだろう。

 

「さてと、今日もちゃっちゃと終わらせますか!」

 

 強気な龍我の腰には、ビルドドライバーでもスクラッシュドライバーでもなく、これらよりも派手な色をしたゲーマドライバーが装着されていた。

 

「決心がついたようだな」

 

 バグスター特有の身体をデータと化して移動する術を使って来た黎斗が龍我らと並ぶ。

 

「まだてめぇを信用したわけじゃない。でも、俺しかいないってのなら……」

 

 これにそうかと感心する黎斗。この後、戦兎にドクターフルボトルは返せなくなったことを平謝りしたが、戦兎は呆れにも怒りにも見える表情で

 

「あっそ」

 

 と言った。

 

 しかし、長々と話をしている場合ではない。

 結界の外から、二つの巨体が迫ってくる。

 一つは、獅子座(レオ)天秤座(リブラ)牡牛座(タウラス)水瓶座(アクエリアス)と融合したレオ・スタークラスター。

 

 もう一つは、300年前に倒されたはずのバグスター ゲムデウスのデータと星屑を使って誕生したモノ。左腕が剣、装飾として勾玉が点在する。

 

 

「グレードX-0……」

 

 黎斗が黒と白のライダーガシャットを起動する。

 

〔MIGHTY ACTION X!〕

〔DANGEROUS ZOMBIE!〕

 

 龍我が黎斗のものの二倍の大きさのライダーガシャットを起動。

 

〔MAXIMUM MIGHTY X!〕

 

 戦兎がレリーフだけ色の施されたフルボトルをドライバーに装填する。

 

〔PHOENIX!〕

〔ROBOT!〕

〔BESTMATCH!〕

 

 

Are you ready?

 

 

「変身」

「変身ッ!」

「変身!」

 




Hoax:ホークス(デマ、でっちあげ)


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第三十四話 神のシューティングスター

〔GASHAT!〕

〔ガッチャーン!〕

〔LEVEL UP!〕

 

〔MIGHTY JUMP! MIGHTY KICK! MIGHTY ACTION……X!

 アガッチャ!

 DANGER DANGER! DEATH THE CRISIS DANGEROUS ZOMBIE……!〕

 

 黎斗はゾンビを模した装甲を纏い、レベル0と異なった白い戦士、

 仮面ライダーゲンム ゾンビアクションゲーマー レベルX-0 に姿を変え、

 

 龍我はガシャット下部のスイッチを押し込み、ドライバーに刺す。

 本来この工程は最後に行うものだが、順番を無視しても変身は可能。

 

〔MAXIMUM GASHAT!〕

〔ガッチャーン!〕

〔LEVEL MAAAAAAAX!〕

 

〔MAXIMUM POWER X!!!〕

 

 人型のパワードスーツを装着したような戦士でスペックのすべてに『99』という数値が入っている、

 仮面ライダーエグゼイド マキシマムゲーマー レベル99 に姿を変える。

 

「行くぜェ!」

 

 変身した龍我は思い切りジャンプした後、地を駆け抜ける。

 100mを0.99秒で走る彼にとって造作もないだろう。

 

「……おいおい、俺を忘れるんじゃないよ」

 

〔不死身の兵器! フェニックスロボ! YEAH……!〕

 

 

「あれか」

 

 戦兎らと遠くない地点で、スタークと幻徳が対峙している。

 

「ああ。お前ならどうする?」

 

 幻徳はトランスチームガンにバットフルボトルを装填。

 しかし、彼はそれを樹海へ放り投げた。

 

「ほう……」

 

 そして、スクラッシュドライバーと紫色のワニが描かれたスクラッシュゼリーを取り出す。

 

〔SCLAAASH DRIVER!〕

 

「これはこれは。してやられたねぇ」

 

〔ALLIGATOR JELLY!〕

 

「変身」

 

〔ツブレル!ナガレル!アフレデル!〕

 

 ドライバーに装填されたゼリーから紫色の成分がゼリータンクに流し込まれ、

 グリスやクローズチャージとは違う、初めから装甲のついた素体にクリアパープルの装甲が装着される。

 

〔ALLIGATOR IN ROGUE! ブルァアアア!!〕

 

「仮面ライダーローグ。これが今の私だ」

 

〔TWIN BREAKER!〕

 

 左手にツインブレイカー、右手に紫のトランスチームガンことネビュラスチームガンを召喚する。

 

「死ぬのは貴様だ。石動」

 

 

「っと!」

 

 利き足を前に出し、急ブレーキをかける龍我。彼の目の前には、ゲムデウスが立ちはだかっていた。

 

≪よくぞここまでやって来た。愚かな生き物よ≫

 

 ゲムデウスが発声する。

 

「ぁんだと?」

 

≪我が直々に罰を下してやろう≫

 

 龍我はエグゼイド専用の大剣 ガシャコンキースラッシャーを召喚し、飛び上がる。

 

「偉そうなこと言ってんじゃねぇ!化け物のくせによぉ!!」

 

 空中に上がって降下する勢いで剣先を刺し縦に斬る。

 しかし、それはすぐさま修復されてしまった。

 

≪ゴッド……神だったか……貴様らが我につけた名というのは≫

 

 

「貴様もろとも、奴らを始末する」

 

 突き刺すようにツインブレイカーを振るう幻徳。

 スタークはそれを後退しながら避けるが、彼の後ろにはレオ・スタークラスターと勇者の姿が。

 

「成程成程。確かに、スクラッシュドライバーを使ったシステムならバリアを破壊できる。だが、念には念をってやつだ。戦兎が何も対策をしていない訳無いだろ?」

 

「黙れ!」

 

〔TWIN!〕

 

 幻徳はツインブレイカーにファウスト製のボトルの一つ、ジェットフルボトル。そして既存のものとは形状の異なるボトルを装填する。

 

〔TWIN BREAK!〕

 

 ツインブレイカーのパイルに溜まった二本のボトルの力がジェット機のような速さでスタークに迫る。

 

「っと!」

 

 スタークはそれをステップでかわす。

 

「ハハハハ……!血迷ったか。後ろには奴らが―――」

 

「血迷ったのはお前だろ?」

 

 

「っ……と。危ねぇ!」

 

 赤と黒の戦士が左腕で幻徳の放った攻撃を防ぐ。

 

「戦兎!どうだ、俺のお年玉は!」

 

「……それより、なんであんたが―――」

 

「話は後だ」

 

「そうかい。あんたにはやってもらわなきゃいけない事がある。覚えとけ」

 

「はいはい」

 

 こう話しながらも少し混乱する戦兎。そんな彼の死角から星屑が襲い掛かるが、

 

「何やってんのよ全く!」

 

 投げられた脇差と数十メートル以上の長さに伸びた槍の薙ぎ払いによって殲滅される。

 

「油断は禁物だよ、さっとん」

 

「悪い。……こっちも劣勢――――」

 

 

 

「樹!アレいくわよ!」

 

「ぶっつけ本番で!?」

 

「アレ……?」

 

 レオ・スタークラスターの火球や水球でまともに近づけない前衛の勇者達。

 

 しかし、風が一発逆転のアイデアを発案する。樹が拒否をし、友奈は首をかしげている。

 

 ついに折れた樹が風の身体に自身の武器であるワイヤーを巻き付け、思い切り振り回す。

 

「樹ちゃん!?何やってんの!?」

 

「これでいいんです!これが私たちの……」

 

「アタシ達の女子力よ!―――満開!!」

 

 勢いのついた状態でワイヤーがほどかれ、風がレオの方角に投げ出される。

 その時、満開を発動させ、レオの胴体にタックルをかます。

 

 するとレオは姿勢を崩し転倒。

 

あれ?何かイメージと違うんだけど…… 見たか!乙女の一撃ー!!」

 

「おぉ~」

 

 

「――――じゃねぇよな、あれ」

 

「私たちも負けてられないね、にぼっしー」

 

「そうね」

 

 

「がっ……あぁ……ちぃぃ……」

 

「おやおや、一体どうしたんだ?仮面ライダーローグさんよぉ」

 

「……イスルギィ……!!」

 

「トランスチームシステムはハザードレベルが4.8に固定される。これは知ってるよな?

 それに慣れ切ったお前がいきなりレベルが成長するシステムを使ってみろ。体が言う事聞かねぇぞ」

 

 スタークはツインブレイカーからジェットフルボトルを抜き、

 

〔COBRA!〕

 

「これはお前がやってきたことだ」

 

 スタークは疲弊しきった幻徳の胸部に銃口を突きつける。

 

「容赦はしない」

 

〔STEAM BREAK! COBRA……!〕

 

 高威力の銃撃を食らった幻徳は何度も地面に激突しながら遠くに吹き飛ばされる。

 

 だが、スタークはあいつはまたやって来ると呟いていた。

 

 

〔RABBITTANK SPARKLING!〕

 

 一方、戦兎はラビットタンクスパークリングフォームに形態を変え、ドリルクラッシャーとホークガトリンガーを召喚。

 遠方の美森の狙撃も重なり、星屑の数は減少してきた。

 

〔READY GO!〕

〔SPARKLING FINISH!〕

 

 左足のバネで高くジャンプし、レオをワームホールで固定、そこへ急降下キックをぶつける。

 

「はあぁぁぁぁあああ!!」

 

 スパークリングの名の通り、無数の泡と共にレオの胴体を貫通すると同時に泡が弾け、弾けたところからレオにダメージが蓄積されていく。

 修復の隙が無くなったところに

 

「勇者ぁぁぁぁぁ……パァァァァァァンチ!!」

 

 彼の使用していたシステムを継いだ友奈が続く。

 満開を発動し出現した白い巨大な腕に力を集中させ、戦兎が開けた風穴を広げるように突っ込む。

 その時、御霊が少しだけ露出した。

 

「勇者ぁぁあああっキィィィィック!!」

 

 そこへ友奈の、炎を纏い破壊力の増した踵落としが入る。

 御霊が一つ、消滅した。

 

 消滅したと同時にレオが水球の発射能力を失う。

 

 

 戦兎はホルダーから二本のボトルを取り出す。二本ともラベルには『Y/R・L』と記されている。

 

「さあ、実験を始めようか」

 

〔YUUSHA!〕

〔RIFLE!〕

〔BESTMATCH!〕

 

 ドライバーのレバーを回すと同時にスナップライドビルダーが展開。前方に薄紫、後方にスカイブルーのハーフボディ、側方には上半身用のパーツが成形される。

 

〔Are you ready?〕

 

「ビルドアップ」

 

 二つのハーフボディとパーツが戦兎の体に重なり、ビルドは新たな形態へと姿を変える。

 

〔BREAK DOWN DESTINY! BUILD IN BRAVESNIPER! YEAHH!!〕

 

 ブレイブスナイパーフォーム。葛城の研究データでも名前の出された勇者フルボトルの真のベストマッチ。

 

 腕部、脚部ともに造形が既存のフォームとは異なり、上半身には白い装甲と鷲の翼を模したパーツが装着されている。

 

「俺の実験は……最終段階だ」

 

 戦兎の右手に犬吠埼風の使う大剣と同型の武器が召喚される。

 この形態では専用武器が無い代わりに、勇者とライフルのボトルを作るとき採取した成分の基となった人物(299年~300年 夏澟加入前)の武器を二つまで同時に召喚することが可能。

 

「佐藤!あと少しだ!気を抜かないよう…………え?それって先輩の……」

 

 一度レオから距離を取った銀が初めて見る光景に動揺する。

 

「まぁ見てろ」

 

 大剣を一度左手に持ち替え、レバーを回転させる。

 

〔READY GO!〕

 

 再び右手に大剣を構え、左腕のガントレットから緑色のワイヤーを射出し、レオを拘束する。

 

〔GIGA VOLTEC FINISH!〕

 

 拘束されたレオに大剣を振り下ろす。振り下ろす直前に大剣は巨大化。レオを一刀両断するが、今のレオは複数のバーテックスと融合している。1体消えたとはいえ、修復能力は健在ですぐに傷を治されてしまった。

 

「見えた」

 

 戦兎はレオの御霊の位置を視認。次こそと思ったその時、レオが後方の壁に穴を開けてしまった。

 

「これは……まずいわね……」

 

 遠方でスコープを覗く美森が呟く。

 レオのほかにももう一体正体不明の敵が存在するうえ、星屑まで増やされたらキリが無い。

 

「園子、銀、合わせるぞ」

 

 新たに三ノ輪銀が使用している斧を二丁召喚。

 

「おうよ!火の玉ガールの力、見せてやる!」

 

「うんうん、一人で立ち向かうのは無謀だよね~。一人で行くなんて言ったらどうしようかと思ったよ~」

 

 槍を摩りながら戦兎に笑顔を見せる園子。だが、その笑顔はいつものほんわかしたものでは無かった。

 

〔READY―――〕

 

〔GO!〕

「ゴー!」

 

 ドライバーのシステムボイスと銀の掛け声が重なる。

 同時に園子が槍を伸ばし、縦と横の薙ぎ払いを行い、炎を纏わせた斧を構える二人が突撃する。

 

〔GIGA VOLTEC FINISH!〕

 

 銀は地を蹴ってレオの上空から、戦兎は真下からレオに斬りかかる。

 お互いがお互いの初期の位置に達した頃にはすでにレオの身体は崩壊しかかり、御霊が剥き出しになっていた。レオとそれ以外を足して計3個。

 

「もういっちょぉ!」

 

 着地した銀が牡牛座の御霊に向かって飛ぶ。

 

〔READY GO!〕

 

 戦兎は斧を放棄し、三度必殺技を発動する。

 

〔GIGA VOLTEC FINISH!〕

 

 背中の鷲の翼が展開され、紫色の鳥のようなエネルギー体を纏い、レオの御霊に向かって上空からキック。

 

 御霊はいつ崩壊しても可笑しくないほどのヒビが入るが、形をまだ保っている。

 

「園子!」

 

 御霊から飛び降り、叫ぶ戦兎。

 

「いっくよ~!」

 

 園子が槍を目いっぱい伸ばし、レオの御霊を貫く。

 今度こそ完全に破壊され、レオ・スタークラスターの体が砂のように崩壊した。

 だが、御霊はあと二つ残っている。

 

「私がやる!」

 

 星屑の攻撃を時々わざと受けながら、満開ゲージを溜めていく夏澟。

 ゲージが溜まると彼女はその力を解き放つ。

 

「満開!!」

 

 御霊二つを一閃し、瞬時にこれらを破壊した。

 

「おー、夏澟も戦績上げに必死になってるわねー。別に報酬とかないからね?」

 

「うっさい!」

 

 

≪地を這う生き物どもが、我に敵うとでも?≫

 

「うおおおぉぉぉおおお!!」

 

 龍我は物狂いになって得物を振り回す。

 こうやっても勝てない。自覚していた。でも、何もしないで終わるよりは……

 

≪"神"である我に……そのような攻撃は効かぬ!!≫

 

 ゲムデウス、正確にはゲムデウスの身体を使って降臨した天の神は、左腕の剣を龍我に向かって振り下ろす。

 防御を忘れていた彼は咄嗟に得物を盾にしようとしたが、遅かった。

 

「ぐああああああああああ!!」

 

 ダメージの蓄積により変身が解除されてしまう。

 

「やはり貴様だったか……よくも……よくも……」

 

 黎斗の得物を握る手が震える。

 

「よくも千景を殺してくれたなァァァァァアアアアア!!!」

 

 大剣のような下半身に得物を刺しながら頭部を目指す。

 

≪あの女は周りから親にさえ罵倒され続けていた。我は楽にしてやっただけだ≫

 

「貴様アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

≪あの力を失ったお前は我に傷一つつけることはできない≫

 

 体を揺らし、黎斗を放り投げ、宙に浮いた彼に下半身の大剣を振り下ろす。

 即死だった。

 

〔GAME OVER……〕

 

 

「……」」

 

≪人間は滅びる。貴様も同じだ≫

 

「そうだ。生きもんはいつか死ぬ。みんな死ぬ。でも―――」

 

 龍我の右手には、黄金のガジェットが握られていた。

 

「今じゃない」

 

〔HYPER MUTEKI!〕

〔MAXIMUM MIGHTY X!〕

 

≪それは……っ 人間が持つべき力では無い!消え失せろオオオオ!!≫

 

 天神が樹海全体に衝撃波を発声させる。

 

 

「ッ!?」

 

 成す術のない戦兎らはこれを食らい、仮面ライダーは変身解除、勇者はバリアを発生させたものの、すぐさま破壊されてしまったが大事には至らなかった。

 

「万丈……」

 

 

〔MAXIMUM GASHAT!〕

〔ガッチャーン!〕

〔LEVER MAAAAAAAX!〕

 

「神だか何だかよくわかんねぇが、失せるのはてめぇだ」

 

 ゲーマドライバーに装填したマキシマムマイティXガシャットの側面のジョイントにハイパームテキガシャットを接続する。

 

〔ドッキィィィィング!!〕

〔ムゥゥゥゥゥテェェェェェキィィィィィ!!!〕

 

 

 〔輝け!流星のごとく! 黄金の最強ゲーマー!!

 ハイパームテキ!エグゼェェェェェェイド!!〕

 

 

 龍我はエグゼイド最強の姿、ムテキゲーマーへと姿を変えた。

 




今の自分ではこれが精一杯です……



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第三十五話 掴み取るビクトリー

「す、すげぇ……」

 

 天神の衝撃波により変身を解除され膝をついた戦兎が龍我の姿を見て目を丸くする。

 流星を模した装甲は黄金の輝きを有しており、これを目の当たりにしてる天神は驚きながらも怒りを見せていた。

 

≪ウアアアアアアア!!≫

 

 天神の頭部を目指し高く飛んだ龍我を、天神は左腕の剣を突く。

 彼の身体に剣先が触れようとした瞬間、彼の体が天神の背後まで移動した。

 

「これがムテキの力…………がはっ!!」

 

 自分の意思とは関係なく発動した力に困惑する。その隙をつかれ、龍のような腕によって叩き落される。

 

 ムテキゲーマーはありとあらゆる攻撃を無効化する。だが、それは表面だけ。攻撃されれば衝撃が伝わり、疲労もたまる。

 

「はあっ!」

 

 再び高く飛び、天神の右腕を切断しながら頭部へガシャコンキースラッシャーを振るう。

 天神が姿勢を崩す。しかし、これを利用して下半身の大剣を隙だらけの龍我にぶつける。

 

「……くっ…………」

 

 咄嗟に得物を構えるが、空中で碌に力を入れられず、再び地面に落下。

 

≪勝負あったな≫

 

 右腕を再生させた天神が倒れた龍我の胸部に下半身の大剣の先を突きつける。

 

「……終わりだ、クソが」

 

≪終わるのは貴様の方だ。ゴッドである私に歯向かわなければこんなことにはならなかったものを……≫

 

〔キメワザ!〕

 

「うるせぇんだよ!ゴッドはゴッドでもてめぇは厄病神だろうが!」

 

≪何だと……?≫

 

「子供が勇者になって戦う羽目になったのも全て、てめぇが原因だろうが!!」

 

 龍我が剣先を殴り、立ち上がる。

 そして、得物を振るいながら天神を見下ろす位置まで上昇。

 

≪人間ごときが……!≫

 

「一生わからねぇだろうな!人間の、力ってもんを!!」

 

 

 〔HYPER CRITICAL SPARKING!!!〕

 

 

 金色に輝いた戦士が天神にキックをぶつける。

 最初は右足、反動を利用して左足でもう一度。これを何度も繰り返した後、胴体を貫いて着地する。

 

≪――――ハッハッハッ!!所詮、人間の力など……≫

 

 風穴の空いた胴体はすぐさま修復された。先ほどの連続キックも効いていない―――

 

 ―――かに思えた。

 

≪―――――バカな!≫

 

 天神の装飾の勾玉に亀裂が走る。先ほどのキックの攻撃判定が今になって発動したのだ。

 ムテキゲーマーは攻撃をものともしない他に、自分の与えた攻撃の判定を任意で操作し、その数も自由。

 つまり、一発でも当てればそれを十倍にも百倍にもできる。

 300年前も同じ事を行ったが、その時の相手はゲムデウス。これを天神は見ていたものの、詳細までは知らなかった。

 

≪ゴッドで……ある…………こ、の……≫

 

 修復しようとした箇所から攻撃判定が発動し、実質修復能力が無力化された。

 

≪……我…………が……っ……≫

 

 一つ、また一つと遅延性の毒のように攻撃判定が発動する。

 そしてついに、

 

≪グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!≫

 

 天神の乗っ取ったゲムデウスの体が天神ごと消滅。

 

〔究極の一発ゥ!〕

完全勝利!!

 

 

「はぁ、やった……か」

 

 龍我はドライバーからガシャットを抜き、変身を解除する。

 そこへ、戦兎らが駆けつける。

 

「やったな、筋肉バカ!」

 

「ああ、やったぞ。ムッツリバカ」

 

「誰がムッツリだこの野郎!」

 

「バカには突っ込まないんだな」

 

 

「……勝利を喜ぶのはいいが、一つ忘れてないか?」

 

 スタークが彼らに接近する。

 

「スターク!?」

 

「あ、そうだったな」

 

 戦兎はスタークに耳打ちをし、スタークはそれを若干嫌がりながら承諾する。

 

 スタークは友奈の前で頭を下げた。―――正確には、戦兎が彼の角を掴み、強引に下げさせている。

 

「すいませんでしたぁ!」

 

 声を元に戻してスタークが謝罪する。

 

「えっと…………私に……ですか?」

 

 内容は、彼、石動惣一がかつて作ったコーヒーを飲みほした事についてである。

 

「私、全然気にしてませんから!」

 

「あ、そう?」

 

 惣一が顔を上げる。が、戦兎にまた下げられる。

 

「戦兎、もうよくないか?それ折れそうだし」

 

「……そうだな」

 

 惣一は変身を解除し、戦兎のほうを向く。

 

「色々、悪かった」

 

「……」

 

「俺とお前らはやり方が違っただけで、志は同じであることをわかってほしい」

 

「……」

 

 二人の間に不穏な空気が流れる中、風が口を開いた。

 

「石動さん……だったんですね」

 

「ん?」

 

「この前、轢かれそうになった時……」

 

「え?」

 

「助けてくれましたよね。改めてお礼をさせてください」

 

「……待って。え、何?お前ら轢かれそうになったの!?」

 

「ブラッドスタークって、あなたですよね?」

 

「まあ、そうだけど……」

 

 

「なぁ戦兎、お前コブラのボトル持ってたよな。何でマスターがスタークになってるんだよ」

 

「新しく作ったんでしょ」

 

 

「そいつ、何か言ってなかったか?」

 

「愛と平和のためとか何とか……」

 

 風のこの言葉を聞いた龍我が戦兎を見つめる。

 

「愛と平和……ラブアンドピース。なーんかどっかの誰かさんが言ってたんだよなぁー」

 

「なーんの事でしょうねーーー」

 

 戦兎は、樹海化が解除されるまでずっと龍我の視線から逃げていた。

 

 

「というわけで、俺、石動惣一はnascitaに戻りまーす!」

 

 後日、惣一は何事もなかったかのように店に戻って来た。

 

「戻りますじゃねぇよ。色々問題があるだろうが!」

 

「ファウストのことか?確かめてみたが、見事に壊滅したぞ?」

 

「あのなぁ……」

 

「それよりも!」

 

 惣一はファウストから奪って来たボトルを見せる。

 

「……赤いパネルなんてあるのか」

 

「大赦にあるやつは青いぞ」

 

「へー」

 

「おい戦兎!」

 

「あ?」

 

「マスターはどうするんだよ!今まで散々やらされただろ!」

 

「あぁ、それは、友奈に謝罪したこと、そして今までの行いを洗いざらい猿渡や大赦に吐いてもらって判断した結果……許すことにした」

 

 このことを聞いた龍我が苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

「マジかよ!人が良すぎるだろ!」

 

「世の中こうじゃないと生きてけないんだよ。な、マスター」

 

「俺は誰も殺してねぇ!」

 

「わかってる」

 

「……そのセリフ、どっかで聞いたことあるな……」

 

 

 その夜、彼はパソコンを開いていた。

 あることを調べるためだ。ムテキについてではない。あの戦いの後、ゲーマドライバーとガシャットが消えた。神出鬼没なあの人物が持って行ったのだろう。

 

「……あった」

 

 彼は目的のデータを発見した。ハザードトリガーの書きかけのデータである。

 

「死ぬよりももっとタチの悪い代償……か」

 

 パソコンを閉じ、眠りにつく。

 

 

 

 

 残り11%

 

 

 




『……とんでもないもん作ってくれたな』
『そいつを使うのは止せ!』
『N.S!N.S!N.S!エブリバディセイ!』
『お前には護ると誓った女がいるんだろ!』
『もっと強くなるんだ……!』
『何で止めねぇんだよ!』

『俺は……俺は……』

次回 ~漆黒のドラゴンファイター~


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第三十六話 漆黒のドラゴンファイター

遅れてしまい申し訳ありません。


「葛城の奴、何が『これの最後のデータ完成させて☆ 後で俺も行くから』だよ……」

 

 勇者の満開に対抗して合体能力を備えたレオ・バーテックスと、ゲムデウスの身体を器にして君臨した天神を撃破した後日、猿渡一海は戦兎に渡したはずのハザードトリガーを前にしながら唸っていた。

 

 戦兎がトランスチームガンと勇者フルボトルで変身するあの姿は、ハザードトリガーの制御に必要なデータを集める試験プログラムだった。

 現在、89%。

 だが、これ以上彼に戦わせるためにもいかない。それ以前に、相手がいない。

 そのため、葛城巧改め石動惣一は残り11%を大赦で完成させることにした。

 

「よぉ、進んでるか?」

 

 一海の元に惣一が現れる。

 

「これからだ。しっかしまぁ……とんでもないもん作ってくれたな。あんたは」

 

 葛城がハザードトリガーを完成させた時期は戦兎との決着がつく一日前。戦闘が続いてより好戦的になっていた頃だった。

 

「スクラッシュといいこれといい……戦兎を見習ったどうだ」

 

「ぐうの音も出ないなぁ」

 

 桐生戦兎と葛城巧。

 二人の作るガジェットは試験なしで想定通りの性能を発揮できる完成度など、共通点が多い。しかし、違うところが一つだけ。

 

 葛城の設計したスクラッシュドライバーは使用している間、変身者のアドレナリンを過剰分泌し、冷静な判断をする前に体が動いてしまう副作用がある。

 

 戦兎の開発したラビットタンクスパークリングはラビット、タンク、パンドラボックスの成分を使用して作られた。

 土着神の力の断片であるパンドラボックス。そんなものの力を混ぜているにも関わらず、副作用や代償は一切ない。

 他にも、4コマ忍法刀やカイゾクハッシャーなどの武装も、非戦闘時にはセーフティがかかるようになっている。

 

 つまり、使用中の副作用・代償の有無だ。

 

「それと、"エニグマ"の設計図、幻徳に盗られたんだって?」

 

「正確にはその部下だ」

 

「ふーん……まぁいいや。猿渡、一つ聞かせてくれ。自分の目の前に凄い力を秘めた物体があるとする。それはとても壊れやすく、外から壊したりこじ開けようとすると中身が消滅。そして、これを敵が狙ってると。敵は目の前。自分は武器しかもっていない。どうする?」

 

「…………あんた、まさか……」

 

「そのためにも、そいつが必要なんだよ」

 

 

「……」

 

 同時刻、『本日は休校』というメールが讃州中学生の端末に送られた。

 今日は祝日でも台風でもない。疑問を抱いた勇者部が学校へ向かう。

 

 彼女らが見たもの、それは、敷地が抉られた学校だった。

 

「……東郷」

 

「…………やっぱり、そう……ですよね」

 

 この二人が思ったこと、それはあの戦いのことだった。

 樹海化した世界でバーテックスの攻撃が当たったり、同じ場所に留まられたりすると、地面が枯れた植物のように変色する。これは現実の世界に影響し、自然災害や事故として爪痕を残す。

 

 目の前のこれは、それの影響なのだろうか

 

「これに巻き込まれた人がいたら……」

 

 友奈の顔が曇る。

 その時、男が一人現れ、彼女にこう言った。

 

「予め避難させておいた。死傷者は0だ」

 

 人をあまり信用していない表情をしている男はこう言い残し、彼女たちの横を通り過ぎていった。

 

 

「あああああああ!!」

 

「どうした」

 

 パソコンとにらめっこをしていた一海が声を上げる。

 

「休憩だ休憩」

 

「勝手にしてな」

 

 惣一のこの言葉を、自分が今からしようとする行動を容認したと解釈し、彼は小説投稿サイトを開いた。

 

「ん?お前が小説読むなんて珍しいな」

 

「これは俺の一部といってもいい」

 

 一海のパソコンには、『マスクドウォーリアー』という小説が表示されていた。

 これは、N.Sという人物が執筆している小説で、彼女のもう一つの作品である『スペース・サンチョ』と並んで高い評価を貰っている。

 

 ストーリーは、突如現れた怪人 クラッシャー。これと立ち向かう戦士を描いた物語。

 この戦士は二つの形態を持っており、一つはウサギのような機動力で敵をかく乱する赤い装甲の形態、一つは戦車のような頑丈さで敵と真正面からぶつかり合う青い装甲の形態となっている。

 他にも、彼には二人の戦友が存在し、主人公を合わせて三人は名前に動物をあらわす文字が入っている。

 

「へぇ~。結構面白いじゃん」

 

 

「だろ?だろ?だろ? さすがはN.S!」

 

 

「気力も回復したみたいだし、作業を再開――――」

 

 突然一海は立ち上がり、叫ぶ。

 

「N.S!N.S!N.S!エブリバディセイ!」

 

「……はぁ?」

 

「はぁじゃねぇよ!N.Sたんへの愛はそんなものか?!」

 

「ついに『たん』が付きやがった……あ、そのさ、N.Sって、名前のイニシャル?」

 

「そうみてぇだ」

 

「……ふーーーん」

 

「な、なんだよ」

 

「先、越されちまったな」

 

「………………はああああああああああ!?」

 

 惣一の言葉を理解した一海はスクラッシュドライバーを手に部屋を出ようとする。

 

「心火を燃やしてぶっ潰す!」

 

「そいつを使うのは止せ!」

 

「放せ!葛城!」

 

「俺はもう葛城じゃない!」

 

「放せ!石動!!」

 

「やめろって!!」

 

()めるなああああ!!」

 

 

〔SAME!〕

〔BIKE!〕

〔BESTMATCH!〕

 

「どうよ!俺の、第・六・感!」

 

 暇を持て余す戦兎と龍我。

 二人は惣一がファウストのアジトから奪って来たボトルのベストマッチを探していた。

 パネルにはボトルがバラバラにセットされており、一からベストマッチを探すことになった。

 

 フルボトルのキャップには『(有機物系)/(無機物系)』のようないい相性を示すラベルがあるのだが、これを見て探すと三分もかからない。

 彼らは他にやることがないので、このラベルを極力見ずにベストマッチを探す。

 

「後は―――」

 

「これで終わりだ」

 

 龍我が戦兎のビルドドライバーにボトルを二本装填する。

 

〔ROSE!〕

〔HELICOPTER!〕

〔BESTMATCH!〕

 

「うそーん……」

 

「ヘリコプターって何?」

 

 現在所有しているボトルの最後のベストマッチを当てられてしょげた戦兎だったが、すぐ立ち直り龍我の疑問に答える。

 

「この世界がバーテックスの襲撃を受ける前、西暦の時代まで運用されていた航空機だ。メインローターという回転する翼で空を飛び、空中で静止したり、垂直離陸や複雑な運動が可能だ」

 

「へ……へぇ~。あ、自分でこんなこと聞いといて何だけどさ、今しか無いんじゃないか?」

 

「何が」

 

「これ」

 

 龍我が拳から小指だけを出す。『彼女』を意味するハンドサインだ。

 

「部活の邪魔しちゃいけないからなぁ……。メールで色々話してるよ。重い。携帯の容量的な意味とそれ以外の意味で。でもそれがいい」

 

「ああそうですか。じゃねぇよ!」

 

「!!」

 

「お前には護ると誓った女がいるんだろ!行ってやれよ!前に俺が言った事を思い出せ!」

 

「……『悔いを残すことだけはするんじゃねぇぞ』」

 

「ああ。何かあったら、パンドラボックスは俺が守る。ほら」

 

「…………いつもいつも、悪い」

 

 戦兎が部屋を出る。

 

 

「……言い過ぎちまったか……?」

 

 

「ここにいてもしょうがないし、私は帰る」

 

「待ってよにぼっしー。せっかく揃ったんだからどこか行こうよ~」

 

「そうだよ夏澟ちゃん!」

 

「そうよ夏澟ちゃん。……断ったら縛るからね

 

「三人の言う通り。奢るわよ」

 

「みんなで一緒にいると楽しいですよ」

 

「そうそう!どうせ帰ったら煮干し食べて煮干し飲んで煮干しと寝るんでしょ?」

 

「しょ、しょうがないわね。私も付き合おうかしら。それと銀!にぼしを飲んでにぼしと寝るってどういう意味だ!」

 

 夏澟を留まらせたその時、一台のバイクが彼女らの前で停車する。

 運転手がヘルメットを外すと、彼女らが見慣れた三人の男のうち一人の顔が露わになる。

 

「よっ」

 

「さっとん!」

 

「……状況は大体わかった」

 

 園子にニックネームで呼ばれた男、戦兎は愛車のマシンビルダーを携帯に戻し、懐に入れながら学校の状態を確認する。

 

「こりゃあ授業はできそうにないな。出かけるのか?」

 

「そんな感じかな~」

 

「そうか……」

 

 

「あ、やっぱ私用事あるからパスで」

 

「ちょっと夏澟!?何でアタシを押すわけ!?」

 

「はいはい、私たちはあっちに行ってましょうね」

 

「東郷さん?」

 

「チャンスは作ってやったぞ、佐藤!」

 

 

「それで、さっとんは私たちに……って、あれ~?」

 

 園子が辺りを見回すが、先ほどまでいた勇者部の面子がいない。

 

 彼女が戦兎の方に向き直った瞬間、銀が顔を出して『いけ』と口を動かす。

 戦兎はそれにサムズアップで返す。

 

「?」

 

「園子、俺はお前に用があってここに来た」

 

 

「え、やっぱりこの二人って―――」

 

「黙ってなさい!」

 

 

「俺は……俺は……

 

 

 お前とデートしたい」

 

 全く顔を赤らめずに、ストレートに放たれた言葉を陰から聞いていた銀と夏澟が心で叫び、風がショックを受ける。

 

((い、言ったぁぁぁ!!))

 

「やっぱり先を越されてたぁぁぁぁ!!!」

 

「シャラップ!」

 

 

「喜んで~」

 

「あ、ありがとう。…………」

 

 

((その先考えてなかったんかーい!!))

 

 

「何だ?今日は休業だ。帰れ」

 

 店番をしていた龍我。

 そんな彼の前に、城のような上半身の黒いスマッシュと、青い歯車を模した装甲が体の左半分につけられた戦士が現れる。

 

「パンドラボックスをこちらへ」

 

「その声……女か」

 

「……」

 

 龍我はスクラッシュドライバーを取り出そうとしたが、無い。

 あの部屋に置いてきてしまったからだ。

 

「仕方ねぇ……」

 

〔WAKE UP!〕

〔CROSS-Z DRAGON!〕

 

 所持していたビルドドライバーを装着し、クローズに変身する。

 

「変身ッ!」

 

〔WAKE UP BURNING! GET CROSS-Z DRAGON! YEAH!〕

 

〔BEAT CLOSER!〕

 

 龍我の手に、修理されたビートクローザーが召喚される。

 

「ふん!」

 

 斬撃がスマッシュに当たる。

 

「堅い……!」

 

 それでも、以前は刃こぼれしていたビートクローザーが全く刃こぼれしていない。

 龍我はそれにフェニックスボトルを装填。

 

〔SPECIAL TUNE!〕

〔ヒッパレェー!〕

〔SMASH SLASH!〕

 

 炎を帯びた刃がスマッシュと戦士に向かって振られる。

 

 戦士は少し後ずさったが、スマッシュは無傷だった。

 

「マジ……かよ」

 

 黒いスマッシュこと、キャッスルハザードスマッシュは、『ハザード』の名の通り、ハザードトリガーの力で強化されたスマッシュ。今までのそれとは格段に能力が上がっている。

 

「自分であんなこと言っておいて、情けねぇな……」

 

 龍我に戦士とスマッシュがじりじりと迫る。

 まずは自分を始末するつもりなのかと得物を構え直す。

 

 と、その時、戦士とスマッシュの背後から銃撃が浴びせられる。

 この銃声は嫌でも聞いた覚えがある。

 

「そんな格好のやつを俺の店に入れるわけにはいかないなぁ」

 

 ブラッドスタークだった。

 

「マスター!」

 

「葛城巧……」

 

「おっと、今の俺はもう葛城じゃない。仮面ライダー始まりの地、nascita店長・石動惣一さ」

 

 疑似的な家族と店の危機に現れた惣一は、赤いガジェットを龍我に向かって投げる。

 

「これって」

 

「お前たちの戦闘データを基に構築したシステムを組み込んだ、完成形のハザードトリガーだ。使え」

 

 残り11%のデータを自分や仮面ライダーの戦闘データでカバーし、制御システムを組み上げた。

 今の災厄の引き金(ハザードトリガー)に、代償や副作用は無い。

 

 龍我はハザードトリガーの上部のカバーを外し、起動スイッチを押す。

 

〔HAZARD ON!〕

 

 さらに、下部のジョイントとビルドドライバーの受けのジョイントを接続する。

 

〔CROSS-Z DRAGON!〕

〔BUILD UP!〕

 

 龍我の周辺に、縁が警告色のスナップライドビルダーが出現。

 それが今までとは違う速さで彼の身体に装着される。

 

 

〔UNCONTROL FIGHTER! DRAGON HAZARD! DANGERRRRR!!!〕

 

 

 龍の横顔を模した青い複眼と肩の追加パーツ以外が黒く染まり、肩のパーツが赤、さらに腕や足には血のような赤い線が入っている……

 

 仮面ライダークローズ ドラゴンハザードフォームへと強化された。

 

「うおぉぉぉぉおおおおおおお!!!」

 

 全身の力を奮い立たせるように叫ぶ。

 




nascita:発端・始まり(イタリア語)


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第三十七話 漆黒のコントロールファイター

「まさか、その姿は……」

 

 余剰エネルギーの放出を兼ね、黒煙を出すクローズを見て戦士は多少狼狽えた。

 ハザードトリガーはビルド専用のアイテム。同じドライバーを使っているとはいえ、ありえないと。

 

「行くぞォォォォ!!」

 

 城壁のような盾を構えるキャッスルハザードスマッシュに右拳を叩きつける。

 

 拳が盾に触れた瞬間、ドラゴンのボトルとスクラッシュゼリーの成分を溶かし込んだビートクローザーですら傷一つつけられなかった盾に亀裂が走り、何とか形を保っていられるまでになった。

 

〔READY GO!〕

〔DRAGONIC ATTACK!〕

 

 そこへドラゴンフルボトルとハザードトリガーの力を集中させた蹴りを食らわせる。

 

 スマッシュの盾を貫通し、胴体に大きな穴を開ける。

 と同時にスマッシュが爆散し、nascitaの壁も大きな風穴があいた。

 

 

「あぁ……!!俺の店が!」

 

 戦士と交戦中の惣一が車一台は平気で入れるような穴の開いた店に落胆する。

 

「悪い。またやっちまった」

 

「またぁ!?」

 

「っ……」

 

 

「あれを使える者がいたとは……」

 

 戦士はネビュラスチームガンを足元に連射。発生した煙に身を隠し、撤退した。

 

「おい待てよ!……くそっ」

 

 龍我は戦士を逃がしたことを悔やみながらドライバーからクローズドラゴンとハザードトリガーを外し、変身を解除する。

 

「いいじゃないか。パンドラボックスは守れたし、お前も自我を失うことなく戦えた。そういう意味では俺たちの勝ちだ。

 

 どうだ?それの使い心地は」

 

「あー……」

 

「ん?」

 

 龍我の足から力が抜けていくように見える。

 

「なんかだるいわ……」

 

「万丈?万丈?」

 

 倒れた龍我を惣一は店内に運び、この戦いは終わった。

 

 

「何故避難など無駄な事をした」

 

 ファウストの残党、正確には、首領と幹部のアジトでは、幹部である男に首領の氷室幻徳が苛立ちを見せていた。

 

「無駄ではありません。若者に死なれては計画に支障がでる恐れがあります。

 貴方様の計画が無事遂行されたとしても、若者がいなければ全てが無駄になる」

 

「大赦を潰し、今までの世界をリセット、新たに作り替えることが我々の―――」

 

「我々の目的。神樹の加護を当然だと思っているこの世を正し、神樹が死してなお人間が生存できる世界を構築する……しかし、これを達成するために殺生は不要です」

 

「……そうか。そう、だったな。期待しているぞ」

 

 男がこの場を去った後、幻徳はスクラッシュドライバーと紫色のフルボトル、そして握りしめているスチームブレードに視線を落とす。

 

「殺生は不要、か。だが私には……この力が必要なんだぁぁああアアアアアア!!!」

 

〔DEVIL STEAM!〕

 

 

(まさか最後までエスコートしてもらうとは……)

(情けない……)

(流石先代勇者……やるわね)

(あ、風いたんだ)

(先輩髪長いっすね)

 

「……」

 

 夕方、戦兎はベンチに座り、落ち込んでいた。

『デートしたい』と園子を誘ってみたはいいものの、その先を考えていなかった。

 結局、園子にエスコートされる形になった。彼が出来たことは、精々買い物の支払いと荷物持ちだろうか。

 

「そんなに落ち込まなくても~」

 

「いや、男として、何か……ね」

 

 

 

 

「放せクソ仮面共が!俺は潰さなきゃいけない奴を見つけちまったんだよ!!」

〔SCLAAASH DRIVER!〕

 

 

 

 

「私はとてもいい機会だったと思うよ~。さっとんの慌て方かわいかったから~」

 

「か、可愛い?」

 

「うん、とってもと~っても良かったよ~!」

 

 

 

 

「変身!!」

〔ROBOT IN GREASE! ブルァァァァアア!!〕

 

 

 

 

「そ、そっかぁ。楽しめたんだな。よかった」

 

「そう言うさっとんは?」

 

「楽しかったよ。…………ただ」

 

「?」

 

 戦兎は先ほどから視界に移っている黄色いものを指さす。

 

「あれ、何?」

 

「なんだろう~」

 

 

(!?)

(ほら、やっぱり気づかれた!あんたの髪が長いからよ!)

(……)

(ああっ!?先輩が気絶してる!)

 

 

 黄色いものの正体が気になるものの、日が沈みかけていたので帰ることに。

 

 

「明日が楽しみですね~」

 

 

「「……え?」」

 

 

「園子ー、帰るぞー」

 

「は~い!」

 

 

 

 

 

「どこだ!出てこい!俺が心火を燃やして……燃やして…………」

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

 戦兎がnascitaに帰ってきた。

 

「おっ、どうだった?N.Sとの付き合いは」

 

「N.S?……あー、Nogi Sonokoね……」

 

「猿渡に絶対このこと話すんじゃないぞ。面倒なことになりそうだから」

 

「あぁ……

 ところで、万丈は?」

 

「ハザードトリガーの使用で、疲れちまったんだ。今寝てる」

 

「万丈が……あれを?」

 

「自我を失うことも暴走もなかった。安心しろよ」

 

「……」

 

「だが、あれの力を最大限に発揮できるのは戦兎、お前しかいない。

 お前の今のハザードレベルは4.9。決して弱くはないが、決め手に欠けている状態だ。

 その上、ハザードトリガーの制御プログラムは5.0以上でないと動かない。

 

 ハザードトリガーは変身者のハザードレベルを上げつつ、より強靭な装甲を創り出す機能をドライバーに与えている。変身者のレベルが低いと、レベルを上げる機能が過剰に働いて、組み込んだ制御プログラムが機能しなくなる」

 

「だったら、上げればいい話―――」

 

「――と、思いたいよな。ハザードレベルってのは、RPGのそれと同じなんだよ。だんだん上がりにくくなる。

 万丈は格闘家として戦う事に慣れていた大人。猿渡も大体そんな感じ。

 お前は、勇者として戦っていたとはいえ子供だった。だから、お前だけ成長が遅い」

 

「……」

 

「明日、大赦に来い。俺が鍛えてやるよ。じゃ、お休み」

 

「お休み」

 



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第三十八話 ハザードレベルを上げる新たなベストマッチ(前編)

「んっ……あー」

 

 戦兎が起床した。

 今日は日曜日。この時ぐらいはだらしなくていいだろうと一階に向かう。

 

「あれ、マスター?」

 

「マスターなら出かけたぞ」

 

 カップラーメンをすする龍我が答える。そして、出入り口のドアには、手紙が貼ってあった。

 

 

『俺は先に行ってる。好きな時間に来い。

 P.S. 先週の土曜、お前がハザードトリガーをいじっていた時に行われた野球大会で勇者部がチア部の助っ人をしていました。端的に言って、最高だった。写真撮ってお前にも見せたかったけど、会場は撮影禁止でした。ドンマイ☆』

 

 

「…………」

 

 

 大赦本庁に建てられた演習場。

 ここはファウストが表に出た頃に建設され、その強度から避難所としても利用できる。

 

「来たか」

 

「ああ」

 

「お前には所有しているボトルの全てを使って俺と戦ってもらう」

 

〔COBRA!〕

 

 惣一がトランスチームガンにコブラフルボトルを装填し、引き金を引く。

 

「蒸血」

 

〔MIST……MATCH!〕

〔CO COBRA……COBRA……FIRE!〕

 

 惣一はブラッドスタークへと姿を変える。

 

「ボトルの開発をした俺なら、どのボトルがどのような力を持っているかを即座に判断できる。お前は把握できてるか?」

 

「ここ数か月全く使ってないのもあるからな――――」

 

「もう一度言うがこれは訓練だ。ボトルの出力を抑えるため、振るのは一瞬にしてくれ」

 

〔RABBIT!〕

〔TANK!〕

〔BESTMATCH!〕

 

〔Are you ready?〕

 

「変身!」

 

 〔鋼のムーンサルト!ラビットタンク!Yeah!〕

 

 戦兎はビルドを象徴する形態、ラビットタンクフォームに変身し、左足のバネで惣一との距離を詰める。

 

「ラビットタンク。最初に発見されたベストマッチ。攻防ともに安定しているが―――」

 

 惣一の話を聞かずに戦兎はドライバーに装填されたボトルを交換する。

 

〔GORILLA!〕

〔DIAMOND!〕

〔BESTMATCH!〕

 

〔輝きのデストロイヤー!ゴリラモンド!Yeah!〕

 

「――って話聞けよ……」

 

 惣一はトランスチームガンを構え、発砲。

 その直後に得物をスチームブレードに変え、地面を蹴るが、ダイヤモンドボトルの力で銃弾がダイヤに変換され、地面にばらまかれる。

 

「小さなダイヤをばらまいて相手を転倒させる……やるじゃない。

 

 ってか、お前が金持ちなのこれ売りさばいたせいだろ!!」

 

「人の通帳勝手に見るんじゃないよ!」

 

〔TAKA!〕

〔GATLING!〕

〔BESTMATCH!〕

 

〔天空の暴れん坊!ホークガトリング! Yeah!〕

 

 背中の翼を展開し、ホークガトリンガーを乱射。

 

 惣一はそれに対抗して腕に付けられた管を伸ばし、鞭のように振り回す。

 

「うぉお!?」

 

 管が翼に絡まり戦兎は落下。

 

「空中は地上より隙が生まれやすい」

 

「だったら―――」

 

〔COMIC!〕

 

 続けてタカと忍者のボトルを交換しようとした時、惣一が得物を突き刺す。

 

「その交換の仕方は的になりやすい!」

 

「っ……ビルドアップ!」

 

 左手で得物を掴み、右手でボルテックレバーを回し、タカとコミックのトライアルフォームに変身。召喚された4コマ忍法刀を構える。

 

「トライアルフォームはベストマッチでは出来ない戦法を編み出せる。二つのボトルを使うビルドならではだな」

 

〔風遁の術!〕

〔竜巻斬り!〕

 

 戦兎は4コマ忍法刀から竜巻を発生させ、惣一の動きを止める。

 トライアルフォームで行うこの技は、ベストマッチのそれより弱体化している。

 

〔TEN!〕

〔TWENTY!〕

 

 これを利用し、左手のホークガトリンガーを20連射。

 銃弾は竜巻を貫通し、惣一の装甲に命中する。

 

「ぉお……先にタカではなくガトリングを交換したのはこのためか……!」

 

〔NINJA!〕

〔BESTMATCH!〕

 

〔忍びのエンターテイナー!ニンニンコミック!Yeah!〕

 

 紫のスカーフと忍装束をモチーフにした脚部が特徴的なハーフボディが装着され、ベストマッチフォームが完成。

 

「どうだ、こいつは使いやすいだろう」

 

 得物同士が弾き合う金属音をBGMに惣一が語る。

 

〔分身の術!〕

 

 戦兎が4コマ忍法刀を振るうと、煙と共に3体の分身が出現。惣一を囲むと同時に踏むと通電するまきびしをばらまく。

 

「4対1か……」

 

 惣一は周りのビルドを見回し、スチームブレードの柄と刀身を分割。これを挟むようにトランスチームガンに接続。

 

〔RIFLE MODE!〕

 

 合体武器のスチームライフルに消しゴムフルボトルを装填し、分身に向かって放つ。

 

〔FULLBOTTLE!〕

〔STEAM ATTACK!〕

 

 垂直にジャンプ、さらに回転しながら放たれたその銃弾は一つでは無い。

 ビルドの分身たちは回避を試みたが、先ほどばらまいたまきびしが仇となって次々と消滅。消しゴムの力もあってすぐに3体とも消されてしまった。

 

「さて、本体はどこだぁ?」

 

〔READY GO!〕

 

「ん?」

 

〔VOLTEC FINISH! YEAH!〕

 

「はぁああああ!!」

 

 いつの間にか上空に姿を現した戦兎がGペンのように尖った右爪先を突き刺すように迫る。

 だが、これらの特性を知り尽くしている彼には通用しなかった。

 

「なっ!?」

 

 右足を掴まれ、放り投げられる。

 

「詰めが甘かったな。ここはキックじゃなくて刀使ったほうが良い」

 

「な、なるほど」

 

「次だ」

 

〔PANDA!〕

〔LOCKET!〕

〔BESTMATCH!〕

 

〔ぶっ飛びモノトーン!ロケットパンダ!Yeaaah!〕

 

「その形態は左右のバランスが崩れやすい―――」

 

 フォームチェンジした戦兎は左腕のロケットを使って急加速。

 惣一にひらりとかわされてしまう。

 

「どうしたぁ?お前らしくない」

 

 すると戦兎は左腕のロケット型装甲をロケットとして連結。地面に発射。

 衝撃と爆風で惣一は彼を見失ってしまった。

 

 

〔レスキュー剣山!ファイアーヘッジホッグ! Yeah!〕

 

 

 そこへ、梯子が伸びて惣一の得物を弾き飛ばす。

 

「成程。そういう使い方もあるのか。…………でもさ、せっかく作ったんだからもうちょっと活躍させてくれない?」

 

 ロケットパンダの使い方にぐだぐだ言う惣一をよそに、戦兎は左腕のラダーから水を放射しながら惣一との距離を詰め始める。

 

 スチームライフルを拾う暇が無いと悟った惣一は両腕から管を伸ばす。

 

 戦兎はラダーを伸ばし、棒高跳びのように飛び上がる。

 

「空中は隙が生まれやすいと言ったはずだ!」

 

〔LION!〕

 

 戦兎は空中でハリネズミボトルをライオンボトルと交換。

 

〔READY GO!〕

〔VOLTEC ATTACK!〕

 

 自由落下しながら右拳を地面にぶつけ、衝撃波を発生させる。

 

「エネルギーを一点に集中した衝撃波か……だが、それは全身各部からエネルギーを吸収する必要がある!」

 

 衝撃波で引き離された距離を詰め直す惣一。

 

〔SOUJIKI!〕

〔BESTMATCH!〕

 

 〔たてがみサイクロン!ライオンクリーナー! Yeah!〕

 

 即座にライオン消防車からライオンクリーナーへ形態を変更。

 ベストマッチの補正によって強化された掃除機の逆噴射による風で体力回復の時間を稼ぐ。

 

〔STEAM SHOT! COBRA!〕

 

 風を突き抜けて銃弾が迫る。

 

「ッ!―――――ぐぁあ!」

 

 膝をついていた彼に回避行動は難しく、直撃は避けれたものの肩に少し当たってしまった。

 

「実戦だったら今、お前の肩は機能しなくなった。疲労した状態でも回避行動がとれるようにしなくちゃな―――」

 

 惣一は腰や背中を叩きながらこう付け足す。

 

「腰が……年だな。お前も気をつけろよ?」

 

 変身を解除して地面に座り込む。

 

「しばらく休憩だ。昨日店壊されたストレスで眠れなくて疲れが溜まって……」

 

「は、はぁ……あ、手紙のことなんだけどさ」

 

「どっ、どうしたん?」

 

「どうして俺を呼ばなかった」

 

「せっせせせせせ戦兎の邪魔しちゃいけないかなーって」

 

「……」

 

「よ、よぉし!休憩終わり!今から海賊レッシャーとオクトパスライトの後に大赦・ファウスト製のボトルを使っていくぞ!」

 

「逃げたな」

 




『俺タコ嫌いなんだよ!』

『ヘリなのか扇風機なのかハッキリしろ』

次回~ハザードレベルを上げる新たなベストマッチ(後編)~


次回予告はこれ以降、前編後編に分ける話のみにしていきます。


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第三十八話 ハザードレベルを上げる新たなベストマッチ(後編)

 戦兎から逃げるように休憩を終えた惣一は、再びブラッドスタークへ変身する。

 

〔KAIZOKU!〕

〔DENSHA!〕

〔BESTMATCH!〕

 

〔Are you ready?〕

 

「変身!」

 

〔定刻の反逆者!海賊レッシャ―! Yeah!〕

 

 戦兎はドラゴンやタンクとは違う色合いのブルーと、ライムグリーンが目立つ海賊レッシャ―フォームに変身。専用武器のカイゾクハッシャーを召喚する。

 

 得物の姫反に付けられた刃で接近戦を図る。

 

「海賊レッシャ―は飛び道具の取り回しと命中率、海上航行能力が特徴の形態だ。接近戦ばっかやってないで撃ってみろ!」

 

 惣一は戦兎との距離をとり、コブラを一体召喚。

 

「さあ、こいつに当ててみろ」

 

「……よし」

 

 戦兎は得物を左手に持ち替え、右手で得物の矢にあたる部分を手前に引く。

 

〔各駅電車~〕

 

 コブラは地面、壁を這いながら移動する。

 

〔急行電車~〕

 

「……」

 

 だが、コブラもただ撃たれるのを待っているわけではない。時々尾で妨害をしながら移動している。

 

〔快速電車~〕

 

 ただ追っているだけでは当たらない。あと何秒でどこにいるかを予測する必要があるが、なかなか定まらない。

 

〔海賊電車〕

 

 カイゾクハッシャーの四段階目の攻撃の準備が整った。

 

「そこだ!」

 

 右手を得物から放す。

 それと同時に電車型の矢が発射され、コブラに命中した。

 

 これに惣一は厳しい感想を述べる。

 

「あー……それの誘導性能があってこそだったな。隙も大きい。もう一回やるか?」

 

「でもさ、ビルドってたくさんフォームあるじゃん」

 

「そこなんだよなぁ……」

 

 ビルドはベストマッチフォームだけでも30もの形態が存在する。

 現在は20以下までしか使用できないが、それでも多いことに変わりは無い。

 

〔OCTOPUS!〕

〔LIGHT!〕

〔BESTMATCH!〕

 

〔稲妻テクニシャン!オクトパスライト! Yeah~!〕

 

「うげぇ」

 

 毒々しさを醸し出すピンクと、長時間の直視に嫌気がさすイエローが特徴的な形態、オクトパスライトフォームに変身……と同時に惣一が拒否反応を示す。

 

「この形態は……あれだよ。タコ足で縛ったりタコ炭かけたり光放って色々できんだよ。自分で言っておいて何だけどさ、もう大赦・ファウスト製ボトルの訓練に移ろ―――」

 

 戦兎は左肩の発光装置から光を出し、惣一の視界を遮る。

 隙だらけの惣一を今度は右肩のタコ足を伸ばして彼の身体に巻き付ける。

 

「ぅおっ!? 放せ!俺タコ嫌いなんだよ!嫌いになったんだよ!」

 

「持ってるボトル全部使って戦うんだろ?」

 

「…………こんなの作らなきゃよかった」

 

 

「はい次いこうか」

 

「えっ、もう終わり?」

 

「だってあの形態、特に言うこと無いし……」

 

 これでスマッシュの成分から制作したボトル(制御が困難なキードラゴンを除く)を使用した訓練は終了した。

 今からは大赦・ファウストで作られたものでの訓練を始める。

 

〔WOLF!〕

〔SMAPHO!〕

〔BESTMATCH!〕

 

〔繋がる一匹狼!スマホウルフ! YEAH!〕

 

 狼と小型端末の組み合わせ。

 右腕には狼の爪を模した武装、左腕にはスマートフォン型の盾が装備されている。

 

「よそ見すんなよ!」

 

 惣一は腕の管を使った攻撃を仕掛ける。それに対して戦兎は左腕の盾を構え、攻撃を跳ね返した後、駆けながら右腕の爪で管を切断。

 

 しかし惣一は後退しながらスチームライフルで攻撃している。今の戦兎の攻撃手段は爪のみ。リーチが足りなかった。

 

〔ROSE!〕

 

「ビルドアップ!」

 

 ウルフをローズと交換し、右腕から植物のような鞭を出現させる。

 

「一つのベストマッチフォームで何十分も戦ってたら日が暮れちまうぞ!」

 

 惣一に急かされた戦兎はスマホボトルを緑色のボトルに入れ替える。

 

〔HELICOPTER!〕

〔BESTMATCH!〕

 

〔情熱の扇風機!ローズコプター! YEAH!〕

 

「ヘリなのか扇風機なのかハッキリしろ」

 

「最初に言うことそれぇ!?」

 

 戦兎は背中に装備されたヘリのプロペラを取り外し、薙刀のように持ち、振り回して管を切断する。

 

「それ、背中に付けたままの状態で空飛べるぞ。はい次!」

 

〔KUJIRA!〕

〔JET!〕

〔BESTMATCH!〕

 

〔天翔るビッグウェーブ!クジラジェット! YEAH!〕

 

 

「終わった……」

 

 外を見ると、既に日が落ち、夜になっていた。

 アドレナリンが出ていたせいだからか、訓練中は空腹や時間経過に気づきにくかったが、今はその反動が来ている。

 

「じゃ、明日もここ集合で」

 

「……」

 

「何だよ、不満か?」

 

「野球大会……チア部……助っ人……」

 

「許して」

 

 

「マスターも戦兎も帰ってこねぇし……一体どうしちまったんだよ」

 

 苛立ちながらnascitaで龍我は部屋を動き回る。

 机を漁ってもやけに軽くなったパンドラボックスや絡まっている配線しか出てこない。

 

「しょうがねぇ」

 

 龍我は一階へ向かい、そこで寝ることにした。

『鍵を開けろ』と惣一や戦兎がドアを叩いても聞こえるように。

 

 退屈だ。でも、それでいい。

 

 こう思って彼は目を閉じる。

 ただ、ボトルが一本装填できそうな創りかけのガジェットに『C-ZD MAX』と書かれた紙が貼ってあった事が気になった。



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第三十九話 災厄のブラックウェポン

「あらら、えらいことになっちゃったねぇ」

 

 敷地が抉られ、体育館が意味をなさなくなった讃州中学を眺めた惣一が呟く。

 

「『えらいことになっちゃったねぇ』じゃないですよ。こっちは色々困ってるんですから」

 

 これのせいで雨天時の体育やバスケットボールが出来なくなったため、生徒は『運動苦手だから嬉しい派』と『部活が出来ないしそれ以前に運動が出来なくて辛い派』に分かれてしまっただとか。

 

「ごめんごめん。あ、コーヒー一杯―――」

 

「「「いらないです」」」

 

 風、樹、美森が拒否。

 

「マスターのコーヒーは……なんだかなぁ、寝ぼけてる朝に飲むのはいいんだけどなぁ」

 

 銀がオブラートに包んだ表現で拒否する。

 

「私は用事があるのでご遠慮しますね~」

 

 笑顔で園子が拒否する。

 戦兎(アイツ)、いつもこの笑顔見てるの? ケッ!!(嫉妬)

 と思う惣一。

 

「ゆ、友奈ちゃ~ん!みんな酷いと思わな―――」

 

 君が最後の希望なんだと言わんばかりに友奈に視線を向ける。

 だが、彼女から返ってきた言葉は惣一の心に刺さるものだった。

 

 

「えっ………………い、いいですね!行きましょう!」

 

 

 最初の一瞬だけ絶望した表情を浮かべ、すぐにいつもの笑顔に戻った。

 心は受け入れようとしているのだが、体は拒否していた。

 

「ぁ……」

 

 惣一が膝から崩れ落ちる。

 

「あれ、石動さん?」

 

 

「たでーまー」

 

「あいつらはいないのか」

 

 nascitaに独り悲しく帰ってきた惣一。

 

「コーヒー―――――」

 

「あぁ、納得だわ」

 

「俺まだ『コーヒー』しか言ってないよね!?」

 

「もう一回土下座するか?」

 

「……」

 

 その時、惣一の端末に着信が入る。相手は猿渡一海。

 ハード及びハザードスマッシュの出現とのこと。

 

「万丈、出動だ。先に行ってろ」

 

「わかった」

 

 勢いよくドアを開けて飛び出す龍我を見送り、惣一は地下室へと足を運んだ。

 

 

〔ROSE!〕

〔SMAPHO!〕

 

「変身!」

 

 いち早く現場に駆け付けた―――というよりはスマッシュとばったり会ってしまった戦兎が変身する。

 

 スマッシュは合計三体。城、クワガタ、フクロウをモチーフにしたもので、

 城はキャッスルハザードスマッシュ

 クワガタはスタッグハザードスマッシュ

 フクロウはオウルハザードスマッシュ

 という名称。

 

 戦兎は初見のスマッシュを前に緊張し、左腕の盾を構え、右腕から鞭を具現化させる。

 そして何より彼を緊張させていたのは、勇者部の視線だった。

 

「何やってんだ!早く逃げ―――」

 

「さっとん!後ろ後ろ!」

 

 戦兎が後ろを振り向くと、新たなスマッシュ―――ではなく、仮面ライダーグリスが立っていた。

 

「なんだ、脅かすんじゃないよ。あいつは味方―――」

 

 彼の足元に二連のビームが放たれた。

 

「えっ」

 

「桐生戦兎……貴様ァァァアアアアアア!!!」

 

〔ATTACK MODE!〕

 

 ツインブレイカーを変形させ、バンカーを突き刺そうとするところを盾でガードする。

 

「おい猿渡!戦うのあっち!あっち!」

 

「うるせぇ!俺は全てを知った!」

 

「全て?」

 

 

「N.Sとはどういう関係だァァア!!」

 

 

「知らな―――」

 

 知らないよと口に出しかけた戦兎だったが、園子の表情が視界に入り、口をふさいだ。

 

「……これだよ」

 

 拳を作り、小指だけ出す。

 

「そう……か」

 

 一海は攻撃を止め、スマッシュへ歩いていく。

 

「激怒!」

 

〔SINGLE!〕

〔SCRAP FINISH!〕

 

 ツインブレイカーにユニコーンフルボトルを装填。

 これと同時にドライバーのレンチを下げる。

 

「嫉妬!」

 

〔TWIN!〕

 

 さらに、ロボットスクラッシュゼリーを装填。

 

「祝意!これが俺の魂だァァァァ!!」

 

〔TWIN BREAK!〕

 

 一角獣の角のように鋭利化したエネルギーがバンカーを包むように発生し、ロボットの力で勢いよくキャッスルハザードスマッシュに激突するが、当のスマッシュは後ろへのけぞっただけで、ダメージは期待できるものではなかった。

 

「ちぃ……!」

 

 スクラップフィニッシュとツインブレイクの二つを同時に使用したせいでスーツに過度な負担がかかり、変身が解除されてしまう。

 

「ビルドアップ!」

 

〔ニンニンコミック! Yeah!〕

〔分身の術!〕

 

 戦兎は形態を変え二体の分身を召喚し、一対一の状況を作り出すが、

 相手はスクラッシュですらほとんど対抗できなかった存在。そう長く保てるはずがなかった。

 

 彼の周囲を三体が取り囲み、キャッスルが姿勢を前のめりにし、スタッグがクワガタの顎を模した剣を構え、オウルが腕と一体化した羽を広げる。

 そして、同時に地面を蹴ってタックル。

 

 装甲の代わりに機動力を得ている今のビルドには、これに耐えるすべを持っていない。

 

「ぐっ…………はぁ……」

 

 変身が解除され、その拍子で懐にしまっていたハザードトリガーが落下する。

 

「さっとん!」

 

 園子が端末を取り出す。

 

「乃木!」

 

 勇者に変身させまいと風が彼女の腕をつかむ。

 

「でも……!」

 

「……わかってる。でも……」

 

 勇者という存在は極秘にしなければならない。

 それ以前に、スマッシュに通用するものなのかもわからない。でも放っておけば戦兎と一海が危険だという葛藤があった。

 

「……やっぱり、これを使うしかない、か」

 

 戦兎はハザードトリガーの上部スイッチの保護カバーを外し、再びスマッシュの前に立つ。

 

〔HAZARD ON!〕

 

 ハザードトリガーをドライバー右上部に接続。

 そして、ラビットとタンクのフルボトルを装填する。

 

〔RABBIT!〕

〔TANK!〕

〔SUPER BEST MATCH!!〕

 

 レバーを回転させることで、ハザードトリガーによって強化された二つのボトルの成分が"ハザードライドビルダー"という金型として具現化。戦兎はその間に立つ形になった。

 

 

〔Are you ready?〕

 

 

「――――――変身」

 

 一瞬で彼はハザードライドビルダーに挟まれる。

 隙間から黒い煙が漏れるこれが開くとそこには、漆黒の戦士が立っていた。

 

 

UNCONTROL SWITCH! BLACK HAZARD! ヤベェェェェイ!!〕

 

 

 葛城巧の(・・・・)創った仮面ライダービルドの最終形態であるハザードフォームに戦兎は変身した。

 

 スマッシュはそんな彼を一番の脅威だと認識し、スタッグが先手を仕掛ける。

 

「ハァ!」

 

 それを左腕で払いトリガーのスイッチを再び押す。

 

〔MAX HAZARD ON!〕

〔READY GO!〕

OVERFLOW! ヤベェェェェイ!!〕

 

 かつて、佐藤太郎が使用していた疑似満開と同じ名称の"オーバーフローモード"に突入。

 この状態では、トリガーのハザードレベル上昇機能と制御プログラムの比率を6:4から8:2にすることでさらなる強化がされる。

 

 飛び込んできたオウルを左手で捕まえ、自身の装甲から漏れる強化剤をオウルにも流し込む。

 

〔READY GO!〕

〔HAZARD FINISH!!〕

 

 明らかに心臓を狙った蹴りが炸裂し、オウルは消滅。

 同時にオーバーフローモードが解除され、戦兎の頭がガクッと下がり、腕も力を抜いたように垂れ下がる。

 

 

 

 その数秒後、顔を上げスタッグへ駆ける。

 

 

 

〔DRAGON IN CROSS-Z CHARGE!〕

 

「戦兎!!」

 

 現場に到着した龍我。彼の前には足がすくんでみえる勇者部の面々と、倒れている一海。そして、赤と青の複眼で、それ以外が真っ黒の戦士がスマッシュの首を折ろうとしているところだった。

 

〔MAX HAZARD ON!〕

〔READY GO!〕

〔OVERFLOW! ヤベェェェェイ!!〕

 

 

「ッ! まずい!」

 

 残ったキャッスルが一海と勇者部へ迫る。

 

「嫌われても……知らねぇぞ!!」

 



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第四十話 ブラックウェポンは止められない

〔READY GO!〕

〔HAZARD FINISH!!〕

 

 戦兎がスタッグハザードスマッシュの首へ数十トンもの威力を秘めた蹴りを放つ。

 オーバーフローモード時の彼からあふれ出る強化剤によってスマッシュの装甲を霧散・無力化され、彼の蹴り自体も強化されている。

 

 まさしく、必殺技だ。

 

「戦……兎?」

 

 幸い、彼がスタッグを葬った方角は勇者部とは逆の方角。

 

 首がおかしな方向へ曲がって倒れ、消滅していくスマッシュを見て一海が戦慄する。

 

 制御プログラムはどうした?

 

 まるで今の戦兎は……機械。いや、目に映る全てを壊す兵器のようだと。

 

「…………」

 

 消滅するスマッシュを見向きもせず、戦兎は機械のように体をキャッスルハザードスマッシュの方に向け、歩き出す。

 

「まずい……」

 

 制御プログラムを組み込む前のハザードトリガーは、脳が負担に耐え切れずに自我を失うというもの。

 ただ、これは『暴走』ではない。視界に映ったモノを的確に、最短の時間で排除する行動をする。その上、ボトルの交換や必殺技の発動も行える。

 

 何故かは不明だが、今、これが起こっている。

 

「龍我!使え!」

 

 このままでは龍我らにも被害が及ぶ。

 一海は龍我にクジラフルボトルを投げる。

 

〔CHARGE BOTTLE!〕

 

 龍我はそれを受け取り、スクラッシュドライバーに装填。レンチを下げる。

 

〔ツブレナァァァイ!〕

〔CHARGE CLASH!〕

 

 彼のツインブレイカーの銃口から水のようなものが発生し、前方で壁が創られる。

 

 だが、戦兎は龍我ではなく、キャッスルハザードスマッシュに目を付けた。

 

 スマッシュが砲撃を行う。

 

 これが直撃し、姿勢を崩す戦兎。

 ラビットタンクは不向きと判断してか、ドライバーからボトルを抜き、別のものと交換する。

 

〔HARINEZUMI!〕

〔SHOUBOUSHA!〕

〔SUPER BEST MATCH!!〕

 

〔Are you ready?〕

 

「…………」

 

 再び体がハザードライドビルダーに包まれ、赤熱しながらそれから解放される。

 これと同時に、右肩・右腕の外側に黒いハリネズミの針、左腕に梯子を模した火炎放射器が形成される。

 

 

CONTROL SWITCH! BLACK HAZARD! ヤベェェェェイ!〕

 

 

「ッ?!」

 

 ファイアーヘッジホッグハザードフォームになった途端、戦兎の意識が覚醒し、よろめく。

 

「…………俺は……」

 

「それは後だ!ヤツを倒せ!」

 

「……わかった」

 

 必殺技発動のため、右手をドライバーのレバーにかける(FHハザードはFHと違い、手がしっかりと出ている)。

 

 すると、あることに気づく。

 

 手が黒い。

 

 それだけじゃない。肩も、左腕も、胸も足も……

 

 やってしまった。

 彼の視界には城のような上半身を持つスマッシュと、慄然としている勇者部の姿。

 

〔READY GO!〕

〔HAZARD ATTACK!〕

 

 ハリネズミの針がスマッシュめがけて飛び、スマッシュを地面と固定。

 その後、左腕の火炎放射器が伸長し、スマッシュの上半身と下半身の境、装甲の一番薄い箇所に刺さって先端が体内に埋め込まれる。

 

 さらにこのままスマッシュの体内へ発火性の高い液体を注入。

 注入後、火炎放射器を収縮し―――

 

 ――――炎を放射。

 先ほど入れられた液体と火炎放射。中と外から浴びせられる炎に耐え切れず、スマッシュはそのまま灰のように消滅。

 

 

 これを見させられた彼らは今の戦兎をなんて思っただろうか。

 

 鬼、悪魔―――――

 

 それとも――――――

 

「…………」

 

 自分が使った時とは違う。明らかに……。

 龍我の足まですくむ。

 

「ぁあ…………」

 

 これがハザードトリガーの真価。

 変身を解除した戦兎の、トリガーを握る手が震える。

 RTハザードへの変身から数分後、そしてFHハザードに変更直後までの間、自分が何をやったかを彼は覚えていない。

 つまり、その間は自我を失っていた。

 

 今回は味方への損害は無かったが、次もこうとは限らない。

 使わなければいい。こう思いたかったが、ハザードレベルが最低なうえ成長しにくい自分には、これでしか今のスマッシュには対抗できない。

 

 戦兎は、震える手をおさえて立ち去った。

 

「戦兎……」

 

 

「……」

 

「おかえり。スマッシュは倒せたみたいだな」

 

「……俺にはまだ、こいつは使えない」

 

「……そうか」

 

 龍我を見送った後、惣一は地下室のパソコンで自分がまだ葛城だったころに書いた研究データを調べていた。

 

 そこには、仮面ライダービルドを始め、トランスチームシステムとライダーシステムの起源である佐藤太郎の勇者システムの事からベストマッチ31種類の事まで、至れり尽くせり。

 

 余談だが、ここに書かれているベストマッチフォームの情報はあくまで推測。

 太郎を回収と同時に葛城がシステムを完成・運用し、ブラッドスタークとしてファウストに配属するまでの短時間で書き上げたもののため、実際のものは多少違っている。

 

 この中から、目当ての情報を発見した。

 

 要約すると、『ラビットタンクは二・三番目に開発されたフルボトルであり、最初に発見されたベストマッチであり、パンドラボックスと一番相性が良い(二番目はブレイブスナイパー)』。

 

 今、戦兎から聞いた話と組み合わせると、

 

『ハザードトリガーには既存のフルボトルの成分を強化するパンドラボックス由来の強化剤が内蔵されている。

 戦兎が制御できなかったRTハザードはこれが原因なのでは』

 

 このようになる。

 

「……戦兎、こんな時に言い辛いんだけどさ、……幻徳がお前をご指名だ」

 

「………………行ってくる」

 

「『話がしたい』とか言ってたが、用心しろよ」

 

「わかってる」

 

 暗い表情の戦兎を見送り、彼の愛車のエンジン音が聞こえなくなった後、惣一は壁に向かって拳を叩きつけていた。

 

「クソッ!クソッ!」

 

 悔やんでも悔やみきれない思いが煮えたぎる。

 桐生戦兎。

 惣一が彼に付けた名前。

 

 戦車の『戦』に『兎』で戦兎。

 ビルドの初期ベストマッチフォームが由来。

 

 しかし、彼は気づいた。自分はなんてものを名前にしたのだろう。

 

 桐生は、桐→きり→霧 と変換して『霧(ネビュラガス)から生まれた』となることが由来。

 

 戦車はその名や見た目の通り、兵器。

 兎は今や可愛いペットだが、昔は実験動物として使われていた。

 

 

 

 

 つまり、科学の負の面のベストマッチだと。

 

 

 人気のない地下駐車場。

 ここで一人の男と、二人の戦士が立っていた。

 戦士の一人は、右上半身に赤い歯車を模した装甲が、もう一人はその逆に青い歯車を模した装甲が備えられている。

 

 そこへ、戦兎が現れる。

 

「……何の用だ」

 

「そう慌てるな。私はお前に話をしたいだけだ。危害は加えない」

 

「……」

 

「この戦いを終息させたい。お前もこう思っているだろう。

 一か月後の8月29日、大赦とファウストの代表戦を行う」

 

「代表戦……?」

 

「大赦・ファウストから一名ずつ仮面ライダー、もしくは、それと同等の力を持つ者を選出し戦わせる」

 

「……」

 

「話は以上だ。一か月後、戦場で会おう……」

 



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第四十一話 勇者の成れの果てのデッドリー

 7月の下旬―――

 学校の殆どが夏休みに入っているこの頃―――

 

 桐生戦兎が豹変した。

 

 

「まさか、生き残りがいたなんてね……」

 

 勇者部の部長である風が嘆く。

 

「あの時12体全部倒したはずだよね……?」

 

 妹の樹が続く。

 

「まっ、俺たちにかかればバーテックスの一体や二体どうってことない……」

 

「……」

 

「ん?」

 

 今、彼らの前に広がっているのは樹海。

 バーテックスが結界を越えてきたことを意味している。

 

 風や樹、友奈は『まだ生き残りがいた』と推測しているが、実際は違う。

 真実を知っているのは5人。

 

「…………銀」

 

「……わかってる。

 あ、あの、先ぱ―――」

 

 銀が重い口を開く。

 

「双子座?これって銀が切り刻んだ変態じゃない」

 

 風が端末のレーダーに写っている名前を口に出す。

 

「双子だから二体で1セットなのかな?」

 

 友奈の言葉に、美森はどう返していいかわからなかった。

 

 そうなのかもね。

 足が速いから突破されないようにしなきゃね。

 本当は……

 

 どれも違う。

 

 そして、もう一つ悩みというより疑問がある。

 彼女は以前、巫女の神託のようにバーテックスの襲来を予知できた。

 だが、ある日を境にこれが出来なくなってしまったのだ。

 何故?

 

「東郷さん?」

 

「……いえ、何でもないわ」

 

 

〔YUUSHA!〕

〔RIFLE!〕

 

「頑張ろうね~さっとん」

 

「……」

 

〔SUPER BEST MATCH!!〕

 

〔Are you ready?〕

 

「さっ―――」

 

「変身」

 

 話しかける園子をよそに、戦兎はハザードライドビルダーに挟まれ、数秒後にそれを内側から叩き割る形で変身を完了させる。

 

〔UNCONTROL SWITCH! BLACK HAZARD! ヤベェェェェイ!!〕

 

 ブレイブスナイパーフォームに装備されていた両腕のガントレット、背中の鷲の翼を模したパーツも全て、汚染されたかのように黒色になっていた。

 

 そんな戦兎は、独りバーテックスの元へ駆けだした。

 

 これをクローズチャージに変身した龍我が追いかけ、戦兎の前に出る。

 

「どうしたんだよ!」

 

「俺が戦いを終わらせる!!」

 

 戦兎は龍我を自分の視界から外し、槍を召喚する。

 蓮をモチーフにした槍は彼が握った瞬間、枯れたかのように変色した。

 

〔MAX HAZARD ON!〕

 

「俺の邪魔をするヤツは誰であろうと……容赦はしない」

 

 戦兎は得物を足元に刺し、レバーに手をかける。

 

〔READY GO!〕

〔OVERFLOW! ヤベェェェェイ!!〕

 

 自分の進路を妨害する龍我を左腕で持ち上げ、そのままオーバーフローモードに突入。

 右拳でアッパーし、

 

「かはっ……!?」

 

 踵落としで思い切り地面に叩き付け、右足で龍我の得物を払う。

 

〔READY GO!〕

〔HAZARD FINISH!!〕

 

 槍を手に取り、向かってきたジェミニ・バーテックスを貫く。

 さらに得物越しに強化剤を流し込む。

 

「何があったんだよ……戦兎……!」

 

 黒いガスにもオーラにも見える強化剤によって醜く消滅していくバーテックス。

 これを背景に、龍我は戦兎の足を掴んで抵抗する。

 

 戦兎は彼の胸倉を掴み、反対の手で拳を作る。

 だがその時、一人の少女の介入によってこの事態は収まった。

 

「止めてよ。さっとんが人を傷つけるなんて間違ってる」

 

「……」

 

 自分と同じ形状の槍、正確にはそれのオリジナルを握り、自分と龍我を遮るように突き出している少女、園子を前に戦兎は龍我を離し、変身を解除する。

 

「……俺は強くならきゃいけないんだよ」

 

「何で?さっとんは十分―――」

 

「強くないから今こうやって……やってるんだよ……」

 

 彼は懐から薄紫のボトルを取り出す。これを園子の手に握らせ、

 

「――――――ありがとう」

 

 顔を近づけた。

 その直後、世界の樹海化が終わる。

 

 

 戦兎はまだnascitaに帰って来ていない。

 

 龍我が独り寂しく地下室をふらついている。

 と、その時、机の上に置かれていたガジェットが動き出し、龍我の周りをぐるぐると飛び出した。

 

「ッ!」

 

 思わず彼はファイティングポーズをとるが、そのガジェットのシルエットを視認した途端、これを解く。

 

「クローズドラゴン……?」

 

 ネイビーブルーを基調とし、黒の差し色。クローズドラゴンのメインとサブの色が逆になっているカラーリング。

 しかし、クローズドラゴンはAIを抜いた形で自分が今所持している。

 

 龍我はガジェットの元あった場所に置いてある紙を手に取り、このガジェットの名前を口に出す。

 

「クローズドラゴンマックス……」

 

 下には、戦兎の字で『独りだと何をするかわからないお前の新しい相棒だ』と書かれていた。

 

「…………何が『独りだと何をするかわからない』だよ……。お前じゃねぇか。一番わからねぇのは」

 

 彼はnascitaを後にした。

 

 

「……」

 

 戦兎は空を見つめていた。

 思い返せば、ライダーシステムというものが作られたのも、ビルドという存在が生まれたのも全て、過去の自分がいたから。

 

 佐藤太郎の戦闘データがなければ、プロジェクトビルドは凍結し、ファウストが生まれることも、ハザードトリガーを使って自我を失い、これを見た少女たちの心を傷つけることも無かった。

 

「なに黄昏てんだよ」

 

「……万丈?」

 

「マスターから聞いたぞ。代表戦とかいうのに参加するみたいだな」

 

「…………」

 

 龍我は、自分と園子、二人だけに話した事を確認させるために語った。

 

 

 

『代表戦?』

 

『大赦とファウスト、正確には俺たちとファウストの戦いを終わらせる戦いだと』

 

『それであんなに……』

 

『それもあるが、一番大きかったのは、スクラッシュドライバーのデータが奴らに流れていたこと。あいつは、俺が途中まで作ったデータを基にあれを完成させた。平和を取り戻すためにな。だがそれが平和を乱す者に渡ってしまったとなると……』

 

『……何で…………なんで何も言ってくれなかったの……?

 せめて、せめて……! 心の支えにはなりたかったのに……!』

 

 

 

「なぁ、そんなに俺が信用できねぇか? マスターにだけ話して」

 

「そんなことは……」

 

「その上、園子まで泣かせやがって……『あれが最初の口づけなんてちっとも嬉しくない』とか言ってたぞ」

 

「……」

 

「黙ってても何もできねぇぞ。お前は何がしたいんだよ」

 

「……代表戦に勝って、戦いを終わらせる」

 

「もしそれがファウストの罠だとしたら?」

 

「……そうだとしても、奴らの戦力を削るチャンスになる」

 

「………………わかった。もう止めねぇよ。その代わり」

 

 龍我がドラゴンとロックのボトルを戦兎に渡す。

 

「絶対に勝て」

 

 

 8月29日 正午

 

「やはりお前が出ることになったか」

 

 廃墟と化した讃州中学の体育館を再築し、一対一の戦いができる場へと姿を変えた場所で、幻徳が立っていた。そして、彼の腰にはスクラッシュドライバーが装着されていた。

 

〔CROCODILE!〕

 

「変身」

 

 ドライバーにクロコダイルクラックフルボトルを装填。

 レンチを下げることで、側面が圧迫され、ボトルに亀裂が走る。

 

〔割れる!食われる!砕け散る!〕

〔CROCODILE IN ROGIE!! オォォォォラァ!!!〕

 

 仮面ライダーローグ。

 ワニを模した紫色の装甲が、日の光で怪しく光っている。

 

 対する戦兎も、ビルドドライバーを装着し、ボトルを装填する。

 

〔DRAGON!〕

〔LOCK!〕

〔BESTMATCH!〕

 

 

Are you ready?

 

 

 彼の脳裏には、ハザードトリガーを使った黒い悪魔の姿が浮かんでいた。

 

「………………変身!!」

 

〔封印のファンタジスタ! キードラゴン! Yeah!〕

 

 

「これより、大赦とファウストの代表戦を行う。敗北条件は、ライダーシステムの解除・破壊―――」

 

 ビルドとローグがお互いを睨む。

 

「始め!!」

 

 審判の一声で、代表戦が開始された。

 



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第四十二話 悪魔のビクトリー

「はぁぁぁあ!!」

 

 ドラゴンの炎を纏った戦兎の拳が幻徳にぶつかる。

 

「お前の力は、そんなものではないはずだ」

 

〔READY GO!〕

〔VOLTEC FINISH! YEAH!〕

 

 左腕から鎖を射出し、動きを止めたうえで右拳に力を集中。

 幻徳の胸部を狙って拳を突き出す。

 

「まだまだ…………ッ!」

 

 

「遅かったか……!」

 

 騒ぎを聞きつけ、一海が急行する。

 彼の眼前には、戦兎ともう一人の仮面ライダーが戦っている様が広がっていた。

 

 自分のドライバーのデータの流出先を遂に突き止め、戦兎の援護のため変身し向かおうとするが、

 

「割り込みはご遠慮いただきたい」

 

 ネビュラスチームガンを構えた男が立ちはだかった。

 

「邪魔だ!」

 

 一海はツインブレイカーで威嚇射撃を実行するが、男には通じず、なおも立ちはだかっていた。

 さらにその男は、フルボトルに形状の似たガジェット、ギアエンジンを取り出し、ネビュラスチームガンに装填。

 

〔GEAR ENGINE!〕

 

潤動(じゅんどう)

 

〔FUNKY!〕

 

 男が引き金を引くと、銃口から紫色のガスと粒子が噴出され、それが体を包む。

 

〔ENGINE RUNNING GEAR……!〕

 

 ガスが晴れ、そこから現れた男は、右上半身に赤い歯車を模した装甲を身に纏った戦士、ライトカイザーへと姿を変える。

 

「来い。我々の計画を止めたければな」

 

 

 〔天翔るビッグウェーブ! クジラジェット!〕

 

 自分のハザードレベルが上がったとはいえ、キードラゴンでの長時間戦闘は危険と判断した戦兎。

 

 彼はクジラとジェット機のベストマッチフォームに変更し、背中のウイングで空を翔る。

 

〔READY GO!〕

〔VOLTEC BREAK!〕

 

 ドリルクラッシャー(ガンモード)にジェットボトルを装填し、ジェット気流に乗せた水を発射。

 

 幻徳はそれに飲み込まれる。

 

「流石は、ファウストの作ったボトル……だが!」

 

 幻徳はドライバーのレンチを拳で叩き付けるように下げる。

 すると、ボトルにさらに亀裂が走ると同時にエネルギーが両足に集中する。

 

〔CRACK UP FINISH!!〕

 

 集中したエネルギーがワニの顎の形状となり、水流を飲み込むように戦兎に接近。

 彼の装甲を噛み砕く。

 

「ぐあぁぁぁぁあ!!」

 

 思い切り地面に激突する。

 背中のウイングは破壊されてしまったため、戦法を変える。

 

〔一角消去! ユニレイサー!〕

 

 面がダメなら点で。

 一角獣と消しゴムのベストマッチフォーム。

 右腕に一角獣の角を模したバンカーが装備されている。

 

 

〔SCRAP FINISH!〕

 

「ぅおぉぉぉらぁぁぁぁ!!」

 

 一方、ライトカイザーと交戦中の一海。

 彼はロボットスクラッシュゼリーのエネルギーを右腕に集中させ、自身の腕の二回り以上の大きさのロボットアームを形成。ライトカイザーに放つ。

 

〔FUNKY DRIVE!! GEAR ENGINE!!〕

 

 ライトカイザーも必殺技を発動。

 発動機の力でオーバーヒート寸前まで高められた出力のネビュラスチームガンから弾が放たれる。

 

 右腕でそれを受け止めながら前進する一海。彼は自分が受け止めている弾から紫色の粒子が漏れているのを目撃した。

 

「これは……バグス―――」

 

「余所見とは随分余裕なことで」

 

 右腕のロボットアームが砕かれ、弾が一海に直撃。変身が解除される。

 

「型落ちした貴様に我々を止める術はない」

 

「……何者だ……お前……」

 

「佐藤……とでも名乗っておこう」

 

 こう言い残し、ライトカイザーは姿を消した。

 

 

〔キードラゴン!〕

 

 再びキードラゴンフォームに変身。幻徳の戦法に勝つには肉弾戦しかない。

 

 二つのボトルの組み合わせにより、幅広い戦略を練れるビルド。

 だが、今の彼にそんなことを考えている余裕はなかった。

 

 ―――勝つんだ……! みんなのために! 平和のために…………!!

 

「うおぉぉぉぉおおおらぁぁぁぁ!!」

 

「ッ!!」

 

 戦兎の右拳が幻徳の胸部装甲にぶつかり、装甲にヒビが入る。

 しかし、決定打にはならない。

 

 残された手は―――

 

「……やっぱり、使うしか……」

 

 ハザードトリガーだけ。

 ハザードフォームは現在、長時間戦闘による自我喪失が発生するものとそうでないもの、その中間の三つに分けられる。

 

 自我喪失の危険があるものは、ラビットタンク。

 自我喪失の危険が無いものは、ラビットタンクとブレイブスナイパー以外。

 二つの中間がブレイブスナイパー。

 

 自我を失わないもので変身すればいいと考えたが、それで本当に勝てるのだろうか。

 力を引き出せずに負けるかもしれない。

 

〔HAZARD ON!〕

 

 彼が出した答え。それは

 

〔DRAGON!〕

〔LOCK!〕

〔SUPER BEST MATCH!!〕

 

〔Are you ready?〕

 

「ビルドアップ」

 

〔CONTROL SWITCH! BLACK HAZARD! ヤベェェェェイ!〕

 

「ッ!? がぁぁぁあああ…!ぐッ!」

 

 キードラゴンハザードフォームになった途端、戦兎の体を熱が蝕む。

 

 通常のキードラゴンでも存在した症状だが、ハザードに強化されたことでこの症状も強化されてしまったのだ。

 

 それでも彼は拳を握り締め、戦う意思を示す。

 

「刺し違えてでも……お前を!お前をォォォ!!」

 

〔READY GO!〕

〔HAZARD ATTACK!〕

 

「世界は……俺のモノだァァァァァァア!!!」

 

〔CRACK UP FINISH!!〕

 

 両者が高く飛び、戦兎はドラゴンの力が反映されている左足、幻徳は両足を突き出す。

 

 

「うおぉぉぉぉオオオ!!!」

「オォォォォォオオオオ!!」

 

 

 二つの強力なエネルギーが激突し、爆発を起こす。

 

「戦兎!」

 

 爆発の後、一海が目にしたのは、落下後に体制を整え、ハザードトリガーのスイッチに手を伸ばす戦兎の姿。

 

〔MAX HAZARD ON!〕

 

「やめろ……。今の状態だと……」

 

 止めに向かいたいが、ライトカイザーから受けたダメージのせいでまともに立つことができない一海。

 

 だが、戦兎がとった行動は彼の予想とは違うものだった。

 

「ボトルを抜いた……?」

 

 戦兎の左手には、銀色のガジェット。

 

〔RABBITTANK SPARKLING!〕

 

 ハザードトリガーとラビットタンクスパークリング。二つが接続されたドライバーを中心に、内側に液体の充填されたハザードライドビルダーが形成され、

 

〔Are you ready?〕

 

「……ビルドアップ」

 

 

〔OVERFLOW!〕

〔シュワっと弾ける! ラビットタンクスパークリング! YEAH! YEAHHHH!!〕

〔ヤベェェェェイ!!〕

 

 

 オーバーフローモードと変身の同時発動。

 複眼以外が漆黒に染まり、赤と青の複眼が禍々しく前方を睨む。

 

 ラビットタンクハザードですら自我を失ってしまった戦兎。

 これの強化版であるラビットタンクスパークリングハザードでどうなるか。

 それは火を見るよりも明らかだった。

 

「ようやく本気を出したか……」

 

 最初から自我を失っていた戦兎はドリルクラッシャーを召喚し、それにドラゴンボトルを装填しながら幻徳の元へ歩み寄る。

 

〔READY GO!〕

〔VOLTEC BREAK!〕

 

「があぁぁぁああ!!」

 

 幻徳の装甲に強化剤と共に炎が浴びせられる。

 徐々に霧散していく装甲。それでも彼は倒れない。

 

〔CRACK UP FINISH!!〕

 

 ボトルにある左右の亀裂が繋がるほど圧迫し、ボトルの成分の殆どをドライバーのゼリータンクに移動。それを右腕に集中させ、放つ。

 だが―――

 

「ちぃ……!」

 

〔READY GO!〕

 

 幻徳の腹部に蹴りを入れ、必殺技を発動。

 

〔HAZARD FINISH!!〕

〔SPARKLING FINISH!!〕

 

 右足を突き出した低空でのキックで幻徳を壁にめり込ませ、腰のスクラッシュドライバー目掛けて左拳を叩き付けた。

 

「ァアアア!!…………ガハッ……」

 

 ドライバーとボトルが破壊され、辺りに液状になったボトルの成分が飛び散る。

 

 変身が解除された幻徳は倒れ、立ち上がろうとするものの、体が言うことを聞かない状態だった。

 

 

「ライダーシステムの破壊により……勝者、大赦!!」

 

 

「……まだだ」

 

 一海が体を起こす。

 自分の所属する陣営の代表が勝った。

 しかし、喜んでいる場合ではない。

 

 まだ――――――

 

「やめろ……」

 

 ―――悪魔が動いている。

 

 戦兎が幻徳の首を掴み、右手で拳を作る。

 これを後ろに下げた時

 

「やめろォォォオ!!」

 

 一海が地面を蹴った瞬間、足に激痛が走り転倒する。

 もうダメか。こう思ったその時、

 

 銀色の龍戦士が戦兎の拳を受け止めた。

 

 

 

 

「調子良さそうじゃねぇか……! 戦兎」

 



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第四十三話 ベストマッチな奴ら

遅れました。


 銀色の龍戦士、仮面ライダークローズチャージ、万丈龍我。

 彼は戦兎の拳を受け止め、突き放すと同時に胸部に蹴りを入れる。

 

「やめろ!今のお前じゃ無理だ!」

 

 一海の叫ぶ声が聞こえる。

 

「うるせぇ、俺しかいねぇんだよ」

 

 戦兎に再び拳をぶつける。

 

「目ェ覚ませ!! この野郎ォ!!」

 

 自我を失い、眼前の龍我をただの敵と判断している戦兎は向かってきた拳を掴み、捻る。

 そして、空いている左腕、タンクフルボトルの力が反映されている左腕の拳で、龍我の鳩尾、胸部を執拗に攻める。

 

 龍我も負けじと左拳で戦兎の顔面を殴り、体に蹴りを入れて一度体制を立て直す。

 

 戦兎は再びドリルクラッシャーを手に取り、ロックフルボトルを装填。

 

〔READY GO!〕

〔VOLTEC BREAK!〕

 

 ドリルクラッシャーから鎖が出現し、龍我の右腕と胴体を束縛する。

 

〔TWIN BREAKER!〕

 

 空いている左腕にツインブレイカーを召喚し抗戦するも、慣れない腕しか使えない上、パイルを展開したアタックモードを愛用していただけに、銃口を前に向けたビームガンモードはろくに使用していなかった。

 

 そのため、うまく標準が定まらない。

 

〔READY GO!〕

 

 戦兎がドライバーのレバーに手をかけながら迫ってくる。

 

〔HAZARD FINISH!!〕

〔SPARKLING FINISH!!〕

 

 気体状の強化剤を見に纏った状態で龍我の心臓目掛けて右足を突き出す。

 

「―――――かはっ」

 

 幻徳と同じように、いやそれ以上深く壁にめり込む。

 

 だが、これで終わらなかった。

 

 戦兎は足を龍我の胸部に当てた状態で足に備えられた無限軌道を回転させる。

 

 装甲が徐々に削られていく。

 そして、肩や頭部を覆う箇所にもヒビが入り、内側の龍我の目が片方、露わになった。

 

「戦……兎ぉ! お前は……」

 

 壁に叩き付けられた衝撃で鎖から解放された右腕で戦兎の足を掴み、退ける。

 

「お前は……独りで……抱えすぎなんだよ!」

 

 拳に力を入れる。

 

「過去のお前がなんだ!」

 

 戦兎の顔を殴る。

 

「そのせいでファウストが生まれた?それがなんだ!」

 

 もう一発。

 

「それでも、お前はお前だ!いなくてもいい存在なんかじゃない!」

 

 ドライバーのレンチを下げ、ドラゴンスクラッシュゼリーの成分をドライバーを通して右腕に集中。

 

〔SCRAP BREAK!!〕

 

「お前を基にして創られた技術は、人を苦しめる事だけに存在してる訳じゃねぇだろ!!」

 

 さらに、クローズドラゴンマックスにある者から託されたボトルを装填し、パイルを展開したツインブレイカーに差し込む。

 

〔READY GO!〕

 

「その技術を使って……自分の正義を信じて、誰かのために、誰かを助けるために……

 戦ってきたのは……お前だろ!!」

 

〔LET'S BREAK!!〕

 

 ツインブレイカーからドラゴンとそれに装填されたボトルのエネルギーが、龍の形を成して戦兎に食らいつく。

 

「目を覚ませェェェェ!!」

 

 暫しの間、戦兎の動きが止まった。だが、腕で龍を振り払い、龍我に襲い掛かる。

 

戦兎ォォォォォ!!!

 

 龍我も拳で迎え撃つ。

 

 

 

 

 

 

 

 変身の解除された二人が、地に伏した。

 

「……万……丈?」

 

「勝ったんだ。お前が」

 

「……」

 

 意識を取り戻した戦兎。彼の傍には、ハザードトリガーとラビットタンクスパークリングが散乱していた。

 

「また……やっちまったんだな。お前が止めてくれたのか」

 

 龍我は少しの沈黙の後、こう答えた。

 

「俺だけじゃない」

 

 彼は戦兎に、蓮の花と槍のレリーフのあるフルボトルを渡す。

 かつて、乃木園子から採った"勇者"の力を秘めたもの。

 

 龍我はここへ来る前、彼女からこれを託されていたのだ。

 

「二度とこんな真似するんじゃねぇぞ」

 

 以前、園子に言われた『自分の事を守れない人が誰かを守ることなんてできない』という言葉と、『無茶しないで』という約束を破ったことを思い出し、自らを嘲笑する戦兎。

 

「あぁ。……ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

「っフフフフ……ハハハハハハ!! やはり、力だけでは限界があるか……」

 

 突如、幻徳が狂気に満ちた目で笑う。

 

「今回は負けを認めよう。だが――――」

 

「逃がすかァ!」

 

 龍我が落ちているドリルクラッシャーをガンモードに変形させ、銃口を幻徳に向ける。

 

「我々は止まらない。世界を、人類を、進化させるために…………!」

 

〔ICE STEAM!〕

 

 幻徳はスチームブレードから冷気を発生させ、龍我は引き金を引く。

 だが、冷気が晴れた後には、凍らされた弾が砕け散った音が響いただけだった。

 

 龍我の予想通り、ファウストは戦いを続ける方向にあった。

 

「……」

 

 歯を食いしばり、手を握り締める戦兎。

 

「でもお前は、あいつに勝った。ドライバーも使い物にならなくなったし」

 

 先程まで幻徳がいた場所には、砕けたフルボトルにスクラッシュドライバー。そして、ネビュラスチームガンが散らばっていた。

 

「大切なのは今、だろ?」

 

 葛城にも言われた言葉。

 過去の事で悩んでいたって、今という時間は決して変わらない。

 

「万丈」

 

「ん?」

 

「こんな俺と……これからも、一緒に戦ってくれるのか?」

 

 戦兎のこの言葉に、龍我は呆れてこう言った。

 

「はぁ? 当たり前だろ」

 

 龍我は戦兎に笑みを浮かべ、拳を作り前に出す。そして戦兎にも同じことやるよう促す。

 

「俺たちは―――」

 

 二人の拳が合わさる。

 

 

 

相棒(ベストマッチ)だからな」

 

 

 

 

 一方、nascitaでは惣一がパソコンを操作し、あるデータを開いていた。

 ライダーシステムのデータではない。

 

「出来れば、これはこのまま眠らせておきたかったんだけどねぇ……」

 

 以前nascitaを襲撃した戦士、レフトカイザー。

 彼女と幻徳の使用していたネビュラスチームガンは、カイザーシステムと呼ばれる次世代型のシステムであると大赦に拘束されたファウストの一員が吐いた。

 

 その上、これにはバグスターウイルスが使用されている。

 

 無限とも言える可能性を秘めたビルドでも、破られる日がくるかもしれない。

 

「さて、どうするか……」

 

 彼が今まで隠していたデータ。これはライダーシステムの前、佐藤太郎と遭遇する前から企画されていたものと同時に、

 ベストマッチの存在しない唯一のフルボトルであるコブラ。これの理由も記されていた。

 その名も―――

 

 

 

 EVOL SYSTEM。

 

 



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第四十四話 ペアレンツを信じるな

『何をしているんだ!』

 

『黙れ葛城! これは人類の―――いや、大赦に復讐するために必要なんだよ!!』

 

『そんなことのために、大勢の人にネビュラガスを―――』

 

『奴らは全て更生のしようのない刑務所の人間だ! たとえ死んだとしても誰も傷つかない!誰も悲しまない!』

 

『そういう問題じゃないだろ!』

 

『黙れ!! そういう貴様こそ、エボルシステムという兵器を設計しているじゃないか!』

 

『あれは防衛用の力だ。侵略や破壊に使うものじゃない』

 

『だとしても、兵器は兵器だ! それに俺は……貴様ら大赦のせいで両親はひどいバッシングを受け、父は自殺、母は天神というモノの意味のない生贄になった!俺にはもう復讐という道しか残されていない!』

 

『……』

 

『それでも俺に楯突こうものなら、まずは貴様から始末する!!』

 

 

 

 

 

 

 

「俺は…………バーテックス(ヤツら)の力を借りてでも……必ず……!」

 

 

 

 

 

「―――で、何しに来たんだよ」

 

「だから、大赦クビになったから今日からここで―――」

 

「ふざけんじゃねぇよ! 俺の畑や豆の費用はどうするんだよ!」

 

「知らねぇよ」

 

 nascitaに一海が遊びに来た。

 荷物をまとめて。

 

「とりあえず、寝るとこだけ用意してくれねぇか?」

 

「そこら辺」

 

「……うん?」

 

「ここの椅子退かして横になるんだよ」

 

「…………そうか。わかっ―――ん˝ん˝ん˝ん˝!?」

 

 一海の視界にある人物が移る。

 いつものように本店に訪れている7人。

 その中の一人の、腰まで伸びた金髪に、おっとりとした雰囲気。

 

「やっぱりそうだ。金髪・讃州中学生……そのたん!」

 

「「その……たん?!」」

 

 惣一と龍我が唖然とする。

 

「こうしちゃいられない……」

 

 一海は荷物を放り投げ、そのたんこと、園子の前に立つ。

 

「さっ猿渡一海29歳独身! ネットで小説を読んで、貴女のファンになりました!

 あっああああ握手してください!」

 

 いい年の男が中学生に握手を求めている。

 スクラッシュドライバーの副作用なのか、彼の素なのか。

 どちらかはわからないが、今の一海は堂々としていた。

 

「去年ぐらいから熱心に感想くれる人がいると思ったら、あなただったんだね~」

 

 園子が一海の握手に応じる。

 

「はい! カズミンって呼んでください!」

 

 

「「うわぁ……」」

 

 龍我と惣一が引く。

 一方の勇者部6人は、今の状況に混乱して引くことすらできなくなっている。

 

 

「あはは~、面白い人だね~」

 

「あっそうだ、写真!写真撮らせてください!特性の枕作りた―――」

 

 その時、これ以上はまずいと判断した龍我が動き、一海を園子から引き離す。

 

「待て待て、落ち着け。な? ひっひっふー」

 

「何で止めたんだよ。俺はそのたんを寝取ろうとしたわけでもないし、一線を越えるつもりもない。約束しよう」

 

「それとこれとは話が違うんだよ。お前恥ずかしくないの?」

 

「こんなので恥ずかしがってたら社会で生きていけねぇだろうが目玉焼きの白身みたいな肌しやがって」

 

「あ?目玉焼きのどこが悪いんだよ」

 

「別に目玉焼きが悪いとは言ってないだろ塩かけるぞ」

 

「俺は米派なんだよ。米と一緒に食う目玉焼きうまいからな」

 

「そうかそうか。今からでも遅くない。塩派になるんだ」

 

「塩を否定するわけではないけど俺は米派を貫く」

 

「「……」」

 

 二人が盛り上がる中、戦兎が地下室からようやく顔を出した。

 

「やっと来たか。仲直りしたってのにどうしたんだよ」

 

「……園子の親から連絡があった。今すぐ来いだって」

 

「今からぁ!?」

 

 代表戦の後、戦兎は園子の元へ向かい、自らの行動を謝罪した。

 後の事ばかりを考えて今を見ていなかった事、約束を破った事。

 

 すると彼女は、『二度とこんな真似しないで』と言って泣きながら抱擁してきた。

 そして、新たな約束を立てた。

 

 悩んだら相談。

 

 勇者部のメンバーが一人一人考案した『勇者部7箇条』の一つ。

 

 一、挨拶はきちんと

 一、なるべく諦めない

 一、よく寝て、よく食べる

 一、悩んだら相談!

 一、気合と根性!

 一、何でも怠ることなかれ

 一、なせば大抵なんとかなる

 

 

 

 …………尚、戦兎は本当に針を千本(細かく砕いて)飲み込もうとしたが止められている。

 

 

「それより戦兎! 米と塩、どっち派何だ!」

 

「は?」

 

「目玉焼きに合うものだ。……同じそのたん好きなら分かるはず。塩派だろ?」

 

「米!」

 

「塩!」

 

「無しって選択肢も悪くないんよ~」

 

 戦兎が出した答え。それは

 

 

 

「卵掛けご飯用醤油」

 

 

 

「……なぁ」

 

「何だよ」

 

「あんなこと言って悪かった」

 

「気にしてねぇよ。……今度買ってこよう。卵掛けご飯用醤油」

 

 龍我と一海が顔を合わせ、さっきまでの言い争いは何だったんだと悔やみ始める。

 

 塩分を含み、米や卵(目玉焼き)と相性の良い調味料を見つけ、二人は和解した。

 

「じゃあ俺、行ってくるから」

 

「うん。またね~」

 

「あぁ……あっ」

 

 戦兎が忘れていたことを思い出し、皆の方を振り向く。

 

 

「大赦を信じるな」

 

 

 こう言って、nascitaを後にした。

 

「俺がクビになった訳はやっぱりそういう事だったのか」

 

「? どういうことだよ」

 

 

「あの……マスター?」

 

 園子が恐る恐る惣一を呼ぶ。

 

「なになに?そんな真剣な顔して」

 

「……さっとんが動けるようになったのって、ネビュラガスっていうもののおかげなんですよね……?」

 

「おかげ……ね。あぁそうだ。体についても……それのせいだ」

 

 惣一の表情が暗くなる。

 そして園子はもう一つ質問をする。

 

 彼の散華で失った身体機能は返ってくるんですか?

 

 ネビュラガスで動けるとはいえ、元々の身体機能が返ってきた方がいいはずだと思って彼女はこう言ったのだろう。

 

「それは…………」

 

 惣一は絶句した。これは言っていいものなのかどうか。

 

「本当の事を教えてください」

 

「そのっち……」

 

「乃木……あんた……」

 

 頭を下げる園子を前に、惣一は重い口を開いた。

 

「怖くないのか? 知りたくも無い真実かもしれないぞ」

 

「一番怖いのは、何も知らない自分ですから」

 

「………………そうか。なら、話すよ。

 戦兎の、太郎の身体機能は――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――返ってこない」

 

 

「やあ、よく来てくれたね」

 

「何かあったんですか?」

 

 一方、戦兎は乃木家に到着した。

 太郎の時に一回、戦兎になって一回。

 これで三回目になるが、今回は何かがおかしい。

 

 まず、当主である園子の父の表情が硬い。

 前回来たときはかなり柔らかかったはずなのに。

 

 二つ目。殺気が漏れている。

 ただし、当主ではない。

 

「戦兎……頼みがある」

 

「はい……」

 

「君の持っているビルドドライバー及びフルボトルをこちらに渡していただきたい」

 

「……何ですって?」

 

「君の持っているそれは危険なものだ。我々大赦のほうで預からせてもらう」

 

 当主が急かしてくる。

 

「頼む……! このままじゃ、娘や……友達が……!」

 

「……」

 

 当主は第三者に脅されている。

 戦兎は察した。

 

「はい。ドライバーにボトルです」

 

 戦兎はフルボトル数本と、ドライバーを渡す。

 

「……ん?ビルドドライバーというのは、こんなに軽いものだったのか?」

 

「技術の発達は思っているより早いものですよ」

 

「……ありがとう。こんな時間に、すまなかった」

 

「困ったときはお互い様、でしょ?」

 

「そう……だな」

 

 帰る戦兎の背中を見つめ、玄関を閉めた。

 

 

 

 

 

 

「ご苦労。大赦もたまには役に立つじゃないか」

 

 当主の背後に、ライトカイザーが現れる。

 

「これで勇者の件は後回しにしよう」

 

「後回し……!? 話が違―――」

 

 当主がライトカイザーの襟を掴もうとするが、逆に自分が掴まれる破目に陥った。

 

「どちらにしろ、神婚は行ってもらう。

 だが、これに勇者は反対し騒ぎを起こすだろう。

 

 その前に勇者を消すか、神婚後に勇者を消すか……それは俺たち次第だ」

 



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第四十五話 決まらないプリンシプル

「最悪だ……」

 

「おいおい、どうしたんだよ。頭抱えて」

 

「どうしたもこうしたもねぇよ。今日って9月1日だろ?」

 

「そうだな」

 

「……過ぎちまった」

 

 大抵の人がうんざりするであろうこの日、戦兎は朝から落ち込んでいた。

 最愛の人の誕生日が過ぎてしまったからだ。

 今日は9月1日。園子の誕生日は8月30日。

 

 祝福のメールは一応送ったけど、顔を合わせて言いたかった。

 後悔する戦兎。

 

 代表戦が29日で、その翌日は乃木家に行っていたため時間が無かったのだ。

 

「とりあえず行動してみるしかないか」

 

「えっ、今から?」

 

「多分始業式だけだし大丈夫でしょ」

 

 戦兎が外出する。

 

「……あの事は言わない方がいい……かな」

 

 時間は先日まで遡る。

 

『返ってこない……サンゲ……どういうこと……?』

 

 風の言葉に樹や友奈も同情の意志を示す。

 同時に、園子、美森、銀、夏凜の表情が暗くなる。

 

『散華。満開を使うたびに発動する代償だ』

 

『でも……私たちは……』

 

『満開したにも関わらず散華はなかった。そうだろ?』

 

『はい……』

 

 この後も惣一は、元々勇者の満開には散華が無かった事。散華を発動させる代わりに出力が上がった事を話した。

 

 その他にも、パンドラボックスに触れスマッシュを生み出し、ネビュラガスの実験の為、龍我を冤罪で捕まえ人体実験をしたのも全て、氷室幻徳という人物が招いたことである事も話した。

 

『でも、誰が散華を……』

 

『……』

 

 園子の呟きに惣一が黙り込む。

 だが、何も知らない自分が一番怖いと言った彼女には言ったほうがいいのかもしれない。

 

『…………あいつの両親だ』

 

『え……?』

 

『あり得ない……』

 

 園子と、一度彼らと対面したことのある美森が動揺する。

 

『だけど、止められなかった俺にも責任はある』

 

 

 

「マスター、一海知らねぇか?」

 

「え? ……あ、さっきまで寝てた猿渡がいない」

 

 二人が外に出る。

 すると、遠くでこちらを見ている女が一人。

 

「あいつは……! 万丈、追いかけるぞ!」

 

「えっ?」

 

 

「よぉ、久しぶり」

 

 讃州中学へ行く途中、戦兎はある人物に止められた。

 かつての自分のような目付きをした男。

 

「……」

 

「早速だが、ボトルをこちらへ渡してもらいたい」

 

「……渡すと思うか?」

 

「だよな。偽物のドライバー掴ませるぐらいだからな」

 

〔GEAR ENGINE!〕

 

「潤動」

 

〔FUNKY!〕

〔ENGINE RUNNING GEAR!!〕

 

 ライトカイザーを前に、戦兎も変身をする。

 

〔YUUSHA!〕

〔RIFLE!〕

〔BESTMATCH!〕

 

〔Are you ready?〕

 

「変身」

 

〔BREAK DOWN DESTINY! BUILD IN BRAVESNIPER! YEAHH!!〕

 

「運命を壊す……か。お前にそれが出来るかどうか」

 

 ◇

 

「待てよ!」

 

「あぁ……! この年でダッシュはきつい…………」

 

 女を追いかけ、走る龍我と惣一。

 惣一がばて始めた頃、女は立ち止まって彼らの方を振り向き、得物を取り出す。

 

〔GEAR REMOCON!〕

 

 ネビュラスチームガンにギアリモコンを装填。

 

〔FUNKY!!〕

 

 引き金を引くと、銃口からネビュラガスと同時にバグスターウイルスが噴出され、スーツと装甲を形成する。

 

〔REMOTE CONTROL GEAR!!〕

 

 

「こいつ、あの時の……」

 

 一度龍我との交戦経験のある戦士、レフトカイザー。

 そんな彼女はフルボトルをネビュラスチームガンに装填し、引き金を引いた。

 

〔FULLBOTTLE!〕

〔FUNKY ATTACK!! FULLBOTTLE!〕

 

 すると、先程装填したボトルの性質を反映させた力を持つスマッシュが一体出現。

 これをボトルを変えてもう一度行い、3対2の状況を作りだした。

 

「こいつら……スマッシュまで!」

 

 スクラッシュドライバーを取り出す龍我。

 しかし、彼の周囲をクローズドラゴンマックスが『自分を使え』と言わんばかりに飛び回っている。

 

 彼はドライバーをビルドドライバーに変更し、首を尾を収納したクローズドラゴンマックスにドラゴンフルボトルを装填し、ドライバーにセット。

 

〔FLAME UP! DRAGON!〕

〔NEO CROSS-Z DRAGON!〕

 

〔COBRA……!〕

 

 惣一も龍我に続き、トランスチームガンにコブラフルボトルを装填。

 

〔Are you ready?〕

 

「変身ッ!」

「蒸血」

 

〔MIST……MATCH……!〕

〔CO COBRA……COBRA……FIRE!〕

 

〔BURN UP DRAGON FIGHTER! CROSS-Z NEO! YEAH!!〕

 

 惣一がブラッドスタークへ、そして龍我が

 ネイビーブルーのボディ、被さるように装備された龍の翼の形状をした追加装甲。

 複眼も銀色の縁が追加され、一回り大きくなった―――

 "仮面ライダークローズネオ"に変身。

 

「何だよこの力……! 負ける気がしねぇ!」

 

「またしても……」

 

 龍我の新しい姿を前に、レフトカイザーが苛立ちを見せる。

 

「万丈! そいつを任せる!」

 

 レフトカイザーに狙いを定める龍我。

 だが、彼女は突如逃走した。

 

「早い!」

 

 レフトカイザーは遠隔操作機の力を使うスピード重視の戦士。

 格闘戦重視の龍我とは相性が悪いと判断したためこのような行動に出た。

 

 龍我は追加装甲を展開し、翼を形成。

 クローズネオは従来のクローズとは違い、単独飛行が可能。そして――

 

〔FLAME UP! TAKA!〕

 

 クローズドラゴンマックスに装填されているボトルを交換。

 

〔READY GO!〕

〔HAWK BREAK!!〕

 

 空からレフトカイザーを追跡する。

 

 

〔READY GO!〕

〔GIGA VOLTEC FINISH!〕

 

 戦兎が召喚した大剣を巨大化させて振るう。

 叩き付けられるように振るわれたレオ・スタークラスターさえ圧倒したものだったが

 

「―――やるじゃないか。旧型の分際で」

 

「何ッ!?」

 

 ライトカイザーはそれを耐えた。

 

〔FUNKY DRIVE!! GEAR ENGINE!!〕

 

 大剣を放棄して回避を試みようとしたが間に合わず、直撃。

 変身解除と同時に所持しているボトルが散らばってしまう。

 

〔ラビットタンクスパークリング! YEAH! YEAHHHH!!〕

 

「何が目的なんだよ……!」

 

「……」

 

 ライトカイザーは回収した勇者フルボトルをネビュラスチームガンに装填。

 

〔BRAVER SYSTEM!〕

〔FUNKY ATTACK!! BRAVER SYSTEM!〕

 

 ライトカイザーの手に槍が召喚される。

 

「どうした、ハザードトリガーは使わないのか?」

 

「くっ……」

 

〔READY GO!〕

〔VOLTEC BREAK!〕

 

 ユニコーンフルボトルを使用した必殺技を発動。

 それに対しライトカイザーは槍を傘のように展開した盾で防御する。

 一点に力を集中させたこれに、流石のカイザーも身動きが取れない。

 そこへ、

 

〔SCRAP FINISH!〕

 

「うらぁぁぁああああ!!」

 

 カイザーの死角からグリスが不意打ちを仕掛ける。

 これにより防御が崩れ、カイザーに直接攻撃が当たった。

 

「猿渡!」

 

「トリガー使え! 暴走したら止めてやる!」

 

「―――わかった」

 

〔HAZARD ON!〕

 

 ハザードトリガーを起動、ドライバーに接続。

 一海の不意打ちで散らばったボトルを拾い上げ、装填する。

 

〔GORILLA!〕

〔DIAMOND!〕

〔SUPER BEST MATCH!!〕

 

〔CONTROL SWITCH! BLACK HAZARD! ヤベェェェェイ!〕

 

「……駄目だ」

 

 ◇

 

〔DRAGONIC BREAK!!〕

 

「オラァァァァア!!」

 

 龍我が上空からレフトカイザーに急降下キックを放つ。

 

 直撃はしなかったものの、余波によってレフトカイザーの装甲の一部が破裂。

 所持していたガジェットが飛び散った。

 

「ハザードトリガー? どうしてこれが―――」

 

 龍我がトリガーに気を取られている隙をつき再び姿を消そうとする。

 

「逃がすかよ!」

 

〔SMASH SLASH!!〕

 

 ビートクローザーを振り下ろす。

 だが斬られたのは、とっさに召喚したスマッシュだけ。

 

 

 一方、ハザードフォームでカイザーと交戦する戦兎。

 力だけなら負けていない。

 

〔CROCODILE!〕

〔FUNKY BREAK!!〕

 

「力に振り回されるようでは俺には勝てない」

 

〔CROCODILE!!〕

 

「ぐあぁぁぁ!!」

 

 戦兎が吹き飛ばされる中、カイザーはボトルを手に呟く。

 

「…………こいつは―――」

 

 戦兎がよろめきながら立ち上がる。

 

「フルボトルのシステムはもはや過去の産物になった。俺達にはもう、必要ない」

 

「……待てよ…………!」

 

「運が良ければまた会おう」

 

 一海を見る気もせず、カイザーは消えた。

 




今回から登場したクローズネオですが、

・カラーリングが青系と銀
・液体の入ったアイテムを装填
・「ネオ(英:新しい・復活)」という名前

<チヒルォ!!

……狙ってません。たまたまです(震え声)


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第四十六話 トゥルースは明かせない

「はっ!?」

 

 早朝、龍我が勢いよく目覚める。額からは汗が垂れ、息も荒かった。

 

「何なんだよ……あの夢……」

 

 彼は夢を見ていた。

 

 倒したはずの天神が巨大な鏡のような姿で現れ、世界を見下している様を。

 だがそれは分身に過ぎず、本体は等身大の人型で、ゆっくり迫っていく―――

 

 そんな夢を見た彼の手には、あるものが握られていた。

 

 それは、彼と勇者が初めて出会ったとき、戦兎が彼女らから採取した力を浄化したものの片割れ。

 一つはライフルフルボトル。

 もう一つはこれである。

 見た目は浄化前のボトルだが、これで浄化済らしい。

 

 これの力は悪夢を見せるものなのか。彼はもう一度ボトルを振って目を瞑る。

 

 

やったああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!

 

 

「ッ!?」

 

 一海が狂喜乱舞する様子が夢として視認できた。

 ある意味これも悪夢である。

 

「すっかり目覚めちまったじゃねぇか…………」

 

 悪夢を連続で見させられた彼は、5時半で完全に目が覚めることになった。

 

「プロテインプロテイン……あっ、あたりめもいいな……。最近の戦兎ケチだからなぁ………また何か作るの―――――」

 

 基本、彼の食事はインスタント食品や惣一が作る食事だ。

 惣一と先程の悪夢は一階でまだ就寝している。

 

 そのため今いる地下室の冷蔵庫を漁っていたところ、あり得ない光景を目撃する。

 

 ベッドで戦兎と園子が添い寝をしている。

 

「あぁ、やっと進展しやがった…………じゃねぇよ」

 

 こいつ何時入ってきたんだ。

 

「まぁいいか。どうせ泥棒が入ってきてもレジ空っぽだし」

 

 

「おはよう、マスター」

 

「万丈!今日は随分早いんだな!」

 

「……流石にこのままじゃ不味いなと思って」

 

 6時半。

 自分から一階に上がってきた龍我に惣一は、普段朝に弱い子供が自分から起きたかのように驚いた。

 

「俺はガキじゃないっての」

 

「悪い悪い。戦兎はどうした?」

 

「あいつは……」

 

 床に転がっている一海を眺めながらどう言うべきか考える。

 と、その時、戦兎とその連れが一階に現れる。

 

「…………あれっ、何で園子ちゃんいるの?」

 

「おはようございます~」

 

「マスターが鍵してなかったんでしょ」

 

「俺鍵閉めたよ!?……閉めたっけ…………」

 

「超低収入の店の店長でも流石に施錠ぐらいするでしょ」

 

「さらっと毒吐きやがったなお前……」

 

「……で、園子が入ってこれた訳は?」

 

 龍我の言葉に、戦兎と園子は口をそろえてこう言った。

 

「「愛……かな」」

 

「そっか。これからも仲良くしてけよ」

 

 龍我は戦兎の肩に手を置いて言った。

 

 結局、園子が入ってこれた理由は『精霊に開けてもらった』からであった。

 

「それじゃあさっとん、私部活あるから行くね」

 

 戦兎が返事をしようとした次の瞬間、就寝中の一海の体がピクリと動いた。

 

「いってらっ―――」

 

「そのたん!?」

 

 一海が飛び起きる。

 

「いってらっしゃい!」

 

「い、いってらっしゃい……」

 

「そっちも頑張ってね。さっとん♪」

 

 すると、一海が『俺!俺!』と自分を指さす。

 

「え~っと……」

 

 一海が期待を胸に秘め、園子を見つめる。

 

「………………かずみん?」

 

「っ……」

 

 ようやくあだ名で呼んでもらえた彼は、言われた瞬間何かを言おうとしたのを我慢し、園子が外に出るまでその状態を保ち続けた。

 

「じゃあこっちも頑張るとしますか――――」

 

 

やったああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!

 

 

 一海が我慢していたものを全て出し切って叫ぶ。

 

「うるせぇ……ん?」

 

 この光景、あのボトルの力で見た夢と似ている。いや、まったく同じだ。

 龍我は顔をしかめる。

 

「龍我、どうしたんだよそんな顔して……。目玉焼きの件に不満でもあったのか?」

 

「違う。というか、お前の方こそ何だよそれ」

 

「あだ名で呼んでもらえたから喜んでるに決まってんだろ」

 

「お前さぁ……」

 

「俺にとってそのたんは希望だったんだよ!石動のしごきという絶望に陥った俺の心を癒してくれた!」

 

 一海は大赦で葛城の元働いていた頃を思い出す。

 

「……そんな事したの?」

 

 戦兎がマスターに視線を向ける。

 

「そんな目しない!あれはグリスに慣れるための戦闘訓練だろ!?お前が志願したじゃねぇか!」

 

「ん~……」

 

 グリスという単語を聞いて、戦兎は龍我に声をかける。

 

「万丈、お前スクラッシュドライバー使う機会あるか?」

 

「スクラッシュ……無いと思うけどな」

 

 クローズチャージの『有機物系フルボトルの力を引き出す』力を継承し、基本性能もこれより上のクローズネオに変身できる以上、スクラッシュはもう必要ない。

 

 なので、龍我は自分のスクラッシュドライバーを差し出した。

 

 戦兎はそれを受け取り、一海に渡そうとする。

 

「猿渡。これと交換だ」

 

「……何考えてるかはわからねぇが……ほら」

 

 一海もドライバーを差し出し、戦兎の持っているものと交換する。

 

「なるほどねぇ……でもそれは後にしてくれないか」

 

 唯一、惣一は彼がやろうとしていることに気づき、呼び止める。

 これはビルドドライバーにも言える事だが、スクラッシュドライバーにはライダーの戦闘データが集積されるようになっている。

 龍我のものにはクローズチャージのデータが、一海のものにはグリスのデータが入っている。

 

 逆に、これ以外は一緒なので交換しても変身に支障はない。

 

「パンドラボックスについてだ」

 

「あー……そんなのあったな」

 

「そんなことよりそのたんの小説読みたいから早くしてくれない?」

 

「ぶっ壊せよそんな箱。こんな箱のために戦ってたんだろ?くだらねぇ―――」

 

「万丈、それだ」

 

「えっ」

 

 惣一は彼らに『パンドラボックスは移動させた』『9月の第二日曜日、訓練の為勇者を大赦の訓練場に連れて行く』この二つの情報を大赦に流すよう指示した。

 

「壊すって……そんな事……」

 

「出来るさ」

 

 惣一が断言する。

 

「ラビットタンクスパークリングを作った時、ボックスの成分使ったんだって?」

 

「ああ」

 

「どうやって?」

 

「空のボトルで倒したスマッシュみたいに―――」

 

「それ、一本だけじゃないだろ?」

 

「…………あっ!」

 

 戦兎は思い出した。

 パンドラボックスの力を成分として回収できた事、そしてそれを数十本作成していたことを。

 

「お前たちには『開けたらすごいことが~』とか言ってたけどな、あれは開くものじゃないんだよ。開くものだとしても開ける事は危険を伴う。パンドラの箱ってのはそういうもんなんだよ」

 

 

『猿渡、一つ聞かせてくれ。自分の目の前に凄い力を秘めた物体があるとする。それはとても壊れやすく、外から壊したりこじ開けようとすると中身が消滅。そして、これを敵が狙ってると。敵は目の前。自分は武器しかもっていない。どうする?』

 

『…………あんた、まさか……』

 

『そのためにも、そいつが必要なんだよ』

 

 

「……」

 

 一海も、以前惣一に言われたことを思い出した。

 あれは比喩でも何でも無かったのかと思う一方、破壊した際、浴びると交戦的になるあの光の放出についての不安が募る。

 

 

「戦兎」

 

 乃木家当主にメールで惣一の言った事を送信する戦兎。

 龍我と一海は先に現地へ向かった。

 

「お前は怖くないのか?」

 

「……何が」

 

「自分の体についてと両親について」

 

「……」

 

「……」

 

「俺があの時勇者に選ばれる前から、二人は『仕事だ』といってよく家を空けていた。家にいるのが珍しいぐらいに。それも全部ファウストだったから……なのか?」

 

「……そうだ。でも、あの時の俺はまだ気づけていなかった。……体の方はどうだ?」

 

「何だよ急に……」

 

「特に何もなければそれでいいんだよ。それで……」

 

 ライトとレフト、二体のカイザーの正体である戦兎の両親。

 

 彼と葛城だった頃の惣一の決着の際、戦兎は言っていた。

 

 

 

『家より大赦にいた時間が多かったとはいえ、生みの親との思い出を忘れてる』

 

 

 

 桐生戦兎となった彼からは、もう両親の顔や思い出が消えている。

『こんな感じの親がいた』程度にしか残っていない。

 

罪人ってのは、俺みたいな奴を指すのかもな

 

「マスター、何か言った?」

 

「いや。俺たちも行くか」

 



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第四十七話 漆黒のデストロイジャンパー

 大赦から情報をリークした二体のカイザー。

 ライトは勇者のいるとされる訓練場。

 レフトはパンドラボックスの移動先の廃工場に姿を現す。

 

「よう」

 

「遅かったじゃねぇか」

 

 だが、彼らの目的のものはそこには無かった。

 

 ◇

 

 ライトカイザーの所には攻撃特化型のクローズネオと、攻防のバランスと取れたグリスが。

 レフトカイザーの所には多彩なフォームチェンジや機動力を生かした戦法が得意なビルドとブラッドスタークが待ち構えていた。

 

「戦兎、辛いなら休んでてもいいんだぞ?」

 

「何言ってんだよ。そんな甘い事言ってられる場合じゃないっての」

 

 

「……」

 

 レフトカイザーは二人の後ろに転がっているパンドラボックスを発見し、得物を構えながら地面を蹴って前進。

 

 ラビットタンクスパークリングフォームに変身している戦兎は、面積の広いドリルクラッシャーとカイゾクハッシャーを召喚し、カイザーの突進を受け止める。

 

 惣一はその隙にカイザーの横へ回る。

 だがカイザーは戦兎の防御を崩し、発砲。

 

 惣一は何とかこれを回避し体制を立て直すため一旦後退する。

 

「マスター! あんたは後ろで援護を頼む!」

 

 戦兎が彼に向け、ガンモードに変形させたドリルクラッシャーを投げる。

 

「二丁拳銃か。面白い」

 

 惣一がドリルクラッシャーと、ネビュラスチームガンを構える。

 

「っ! それは……!」

 

「文句ならお前さんのボスに言うんだな」

 

 

〔FLAME UP! KAIZOKU!〕

〔READY GO!〕

〔PIRATE BREAK!!〕

 

 こちらでは龍我と一海、ライトカイザーが対峙。

 龍我が海賊フルボトルの力で水を発生させる。

 

HITPARE(ヒッパレー)! HITPARE!〕

〔MILLION HIT!〕

 

 これをビートクローザーの斬撃で水流カッターのように飛ばす。

 

〔FUNKY DRIVE!! GEAR ENGINE!〕

 

 カイザーはそれを相殺する。だが、相殺できたのはビートクローザーの斬撃とカッターと化した水だけで、そうなっていなかった水は防ぐことはできなかった。

 無論、ただ水をかぶっただけなので、ダメージは一切ない。

 

「血迷ったか……」

 

 カイザーが龍我を視線から外さない程度にあたりを見回す。

 

 グリスがいない。

 

〔TWIN BREAK!〕

 

「オラァァァァァァァ!!」

 

「!」

 

 一海が上方からツインブレイカーのパイルをカイザーの装甲めがけて振り下ろす。

 ツインブレイカーには、クジラと消防車のボトルが装填されていた。

 

 二本のボトルの共通点である放水能力がパイルに集中し、槍と化す。

 

 カイザーはそれを片手で受け止める。

 

「……」

 

 一海をそのまま投げ飛ばし、ネビュラスチームガンに〔B/E〕と書かれたラベルのボトルを装填。

 

〔EVOL SYSTEM!〕

 

「古びた油は大人しく……眠って――――」

 

 その時、得物のグリップを握るカイザーの右手が重くなる。

 さらに右上半身を覆う装甲も機能を停止。

 

「まさか……ショート…………?!」

 

「遅い!」

 

 ツインブレイカーにロボットのフルボトルとスクラッシュゼリーを装填。

 

「はあぁぁぁぁ!!」

 

〔TWIN FINISH!〕

 

 二門の銃口でナックルのようにカイザーを殴ると同時に潤滑油のような光線を発射。

 カイザーが壁に叩き付けられる。だが、ダメージは少ない。

 

 一海も壁に叩き付けられそうになるが、そうなる直前、ロボットスクラッシュゼリーをドライバーへ戻し、レンチを下げる。

 

〔SCRAP FINISH!〕

 

 両肩の横に取り付けられたゼリーパックを平らにしたような形状の装甲から黒い液体が噴出され、これをブースターにしてキックによる追撃を行う。

 

 それでも、カイザーは屈しなかった。

 

 だったらもう一度と先程より強く、長時間レンチを下げる。

 

 必殺技が発動しない。

 

「嘘だろ……」

 

 今彼が使用しているのは元々クローズチャージのもの。

 強力なドラゴンスクラッシュゼリーを何度も使用していた。

 そして今、限界が来てしまった。

 

 変身が解除される。

 

「一海!」

 

〔READY GO!〕

〔DRAGONIC BREAK!!〕

 

 龍我がネビュラスチームガンを拾い上げようとするカイザーを仕留めようとするが、この時発生した爆風を利用され、まんまと逃げられてしまう。

 

 

「くっ……」

 

 戦兎の得物を握る手の力が弱くなる。

 レフトカイザーは装甲の厚さを犠牲にした機動力で長期戦に持ち込んでいる。

 

「はぁ……はぁ……くそっ!」

 

 惣一は疲労していないのに。と自身の体力のなさを悔やむ。

 

「ぐあっ!」

 

 カイザーは疲労して反応の鈍った戦兎に狙いを定める。

 

「戦兎!」

 

 駆けつけようとする惣一だったが

 

〔FUNKY ATTACK!! FullBOTTLE!〕

 

 カイザーがフルボトルを使い、スマッシュを召喚する。

 

「……マスター」

 

「あ?」

 

「…………」

 

 疲労している今、カイザーとまともに戦うためにはハザードを使うしかない。

 戦兎がハザードトリガーを取り出す。

 

「わかった。出来れば使って欲しくなかったけどな……」

 

 

〔RABBIT!〕

〔TANK!〕

 

 右手でタンク、左手でラビットのボトルを振って装填するが、疲れが蓄積している利き手である右手ではボトルを上手く振れなかった。そのため、あまり疲れていない左手のボトルが過剰に振られている風に見えた。

 

〔SUPER BEST MATCH!!〕

 

〔Are you ready?〕

 

「―――――――――ビルドアップ」

 

〔UNCONTROL SWITCH! BLACK HAZARD! ヤベェェェェイ!!〕

 

「……」

 

 ラビットタンクハザードに変身した戦兎。

 

 戦兎が頭を抱え唸る。『やっぱり……ダメか』と呟いた直後、戦兎の動きが止まる。

 

 前方からカイザーが、後方からスマッシュが迫る。

 

 惣一がスマッシュを抑えようと前に出たその時、

 

〔MAX HAZARD ON!〕

 

 ハザードトリガーのスイッチが押される。

 

〔READY GO!〕

 

 頭が上がり、後ろのスマッシュと惣一を睨みつける。

 

〔OVERFLOW! ヤベェェェェイ!〕

 

 正確な射撃をしてくるカイザーを一蹴し、それを足場にして跳びあがる。

 

〔READY GO!〕

〔HAZARD FINISH!!〕

 

 今まで見せてきた最短かつ的確な攻撃ではなく、両手を地面につき、ウサギのようなフォルムでスマッシュと惣一に接近していく。

 

 ラビットフルボトルがタンクより活性化していたがために起こったようだ。

 

 不格好ではあるが、蹴りがスマッシュの首元に命中し一撃で葬る。

 

 次に彼が目標として定めたのは、近くにいた惣一ではなくパンドラボックス。

 

〔READY GO!〕

 

 惣一が物陰に身を隠す。

 

〔HAZARD FINISH!!〕

 

 中の力を成分として回収されたボックスはハザードの手によっていとも簡単に破壊された。

 

「こっから……どうするか―――――」

 

 物陰からどう変身を解除させるか考える惣一だったが、戦兎の様子が変わった。

 

 ドライバーからタンクボトルが抜けている。

 カイザーからの銃撃によって外れたのだろうか。

 

「……!」

 

 そして、右のタンクの複眼がラビットに書き換えられていた。

 その直後、戦兎が足から崩れ落ち、変身が解除される。

 

「戦兎!」

 

 戦兎からの返事はない。

 

「しっかりしろよ! おい!」

 



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第四十八話 創造主のエボリューション

「朝だよ~」

 

「……」

 

「起きて~」

 

「……」

 

 朝、今までと違って中々目覚めない戦兎。

 

「起きろ~!」

 

 頬をつねられる感触がした。

 痛いわけではなかったが、寝たままだとずっとやられそうだったので起きる。

 

「――――おはよう」

 

 最近、やけに疲れのたまりやすい体を起こし、自分を起こしてくれた者の名前を口に出す。

 

「園子」

 

「……うん、おはよう」

 

 彼女の特徴の一つといえる間延びした口調が聞こえなかった。

 

 

「何? 今日お前ら学校無いの?」

 

「そうよ」

 

 一階で龍我がカップラーメンをすすりながら、来店した勇者部に声をかける。

 最初に反応したのは夏凜だった。

 讃州中学には職員室以外、エアコンは存在しない。部室には古びた扇風機が一つだけ。

 そのため、彼女らは猛暑・厳寒の日はnascitaを臨時の部室として利用することがある。

 

「なるほど……祝日かぁ」

 

 

「おはようございま~……す」

 

「……俺も次から寝坊しようかな……」

 

 戦兎がノートパソコンを持って一階に上がってくる。

 パンドラボックスを破壊してから数日、彼はこうやって頭を抱えていた。

 

 グリスとビルドの強化。

 

 グリスの方のシステムは大方完成しているが、ビルドはどうしても完成しない。

 ビルドを強化するにはハザードトリガーを使うしかない。

 そして、その中で強化の可能なものはラビットタンクとブレイブスナイパーだけ。

 

 だが、ラビットタンクの強化版であるスパークリングを使ったハザードフォームは自我を一秒たりとも維持できなかった。

 

「ん~……」

 

「戦兎、パソコン使ってんのか? 使ってないなら借りるぞ」

 

「えっ」

 

 戦兎の返事を待たずに一海がパソコンを取り上げ、愛読している小説のあるサイトへとアクセスする。

 

 彼が愛読する『スペース・サンチョ』と『マスクドウォーリアー』。

 その中で、更新されたマスクドウォーリアーを開く。

 

 最新話のタイトルは『赤きスピーディージャンパー/鋼鉄の青き戦士』。

 主人公が変身する二つの姿に関する話のようだ。

 それぞれ、赤の戦士はウサギ、青の戦士は戦車をモチーフにしている。

 

「ラビット……タンク……?」

 

 後ろから小説を覗き見る戦兎が呟く。

 アイデアが浮かんだ。

 

「園子」

 

「?」

 

「ありがとう」

 

 戦兎は地下室へ戻った。

 

「二度寝はダメだよ~」

 

「おい戦兎! マスターのアイスいらねぇのかよ!」

 

 

 ようやく開発に取り組めるほどのアイデアを得た戦兎。

 

「こんな暑い時に開発か?」

 

「あぁ。一先ず、これを見てくれ」

 

 パソコンの『GREASE-DISPENSER-』というファイルを閉じ、ブラッドスタークの視覚データを表示する。

 

「……両目がラビットのハザード?」

 

「さっとん……」

 

「この時だけ、自我が戻ったんだ。つまり―――」

 

「さっとん?」

 

「……はい」

 

 いつもと違う雰囲気の園子につい敬語になる。

 

「また、使ったんだね」

 

「これは……仕方がなかったんだよ。何か最近疲れやすくてさ――」

 

 自分が動けないと相手は惣一を狙う。だが彼は相手と分が悪い。

 だからいっそ、ハザードで暴走したほうが戦える。

 暴走すれば動きが『相手を潰すためだけを考えたもの』になる。悪い言い方をすれば単調になる。

 そのため、遠方の視覚外からハザードトリガーを撃つなりして強引に外せばハザードフォームは解除される。

 こう説明した。

 

「そう、だったんだ……

 ……ねぇ、手伝えることってあるかな」

 

「戦兎は一人でやりたがる節があるからなぁ。無いって言われても手伝ってやれ」

 

「は~い!」

 

「お前俺の事をそんな風に…………、そうだな。あの時の俺はどうかしちまってたな」

 

「正直、一番どうかしてたのは天才を自称してた頃―――」

 

「黙らっしゃい。ってか、さっきから何漁ってんだよ」

 

「俺の第六感がここに何かあるって言ってんだよ。……あ、あった」

 

 龍我が、廃材の入った箱からフルボトルと同じくらいの物を見つける。

 

 形状はフルボトルと酷似しているが、中が完全に視認できない黒色の上、キャップの色が金。

 そして、中央にビルド並びにライダーシステムを表す紋章が描かれていた。

 

「いつの間にこんなの作ってたのか」

 

「……いや、初めて見るな」

 

「え?」

 

 龍我からこの黒いボトルを受け取り、間近で確認する戦兎。

 意外とずっしりとした重みがある。

 

「細かい傷が多々……。作られてからだいぶ時間が経っているか、そこに入れてたせいなのか……」

 

 試しに振ってみる。

 反応がない。

 フルボトルのようにシャカシャカと音を立てる様子も無い。

 

 それほど成分が隙間なく入っているのだろうか。

 

〔――――〕

 

 ビルドドライバーに装填しても反応がない。

『装填ができる』、『ボトルに描かれた紋章』から考えて、少なくともビルドに関係するものであることは確かである。

 

 それ以上の事は分からなかったため、ボトルを退屈そうにしている龍我に返した。

 

「園子、お前はこれを頼―――」

 

〔RIDER SYSTEM!〕

 

「……何かできた」

 

 龍我が黒いボトルを装填したドライバーを見せる。

 

「ライダーシステム……」

 

「さーて、ベストマッチは……これかぁ?」

 

〔COBRA!〕

〔EVOLUTION!〕

 

「お~」

 

 見事、黒いボトルと最も相性の良いボトルを当てた龍我。

 

 その時、焦りの表情を浮かべた惣一が駆けてきて黒いボトルを没収した。

 

「何すんだよ!」

 

「ダメダメダメ! これ使っちゃダメなやつ!」

 

「何で」

 

「何ででも!」

 

 退出する惣一。

 

「…………こんなこと言いたくないんだけどさ、マスター最近怪しくね?」

 

「そのセリフ二回目だぞ」

 

「だってよ、あれ取り上げたし、夜な夜なパソコンいじる時あるし……」

 

「気にしすぎじゃないの?」

 

「だと良いけどな」

 

 ようやく一息つける状況になったので、ビルドとグリスの強化アイテムの開発を始める戦兎。

 

 ビルドは『ハザード(オーバーフロー)の制御』

 グリスは『防御力強化』

 

 これをコンセプトにする。

 

 パンドラボックスやそれを基にしたハザードの強化剤と最も相性の良いラビットタンク。

 相性が良いがために制御プログラムを入れても力の増幅が抑えきれず、自我喪失に至る。

 

 パンドラボックスを破壊した時の戦いで、ドライバーからタンクボトルが抜けラビット単体で短時間ではあったが変身が保たれていた。

 オーバーフローによる強化剤噴出によるものだが、この時戦兎は自我を取り戻していた。

 

 これと、園子の小説に登場する戦士を参考に新たな可能性を見出す。

 

前の戦いで、タンクボトルが抜けた瞬間から自我が復活した。つまり、有機物×無機物ではなく、同成分での強化なら、自我を失わずに済むのではないか。

 

 そうなると、ビルドの特徴である『違う特性のボトルを二本使った戦法』が死んでしまうため、これを補う武器の開発も行う。

 なお、プロジェクトビルド上、ハザードはビルドの最終形態にあたるためこれ以上の発展は予想されていない。

 

 ここからは、葛城巧としてではなく、桐生戦兎としての記憶・経験が試される。

 

 

「出来た……!」

 

 二週間という時間をかけ、ビルドとグリスの強化アイテムが完成した。

 

 ビルドのフルフルラビットタンクボトルと、四本までボトルを装填でき、その力を組み合わせ、剣のバスターブレードモード、射撃のバスターキャノンモードに変形する武器 フルボトルバスター。

 

 グリスの方は、基調となる色が青から黒と橙になったスクラッシュドライバーⅡと、ロボットの力と最も相性の良いフェニックスを組み合わせたロボットネオスクラッシュゼリー。

 そして、フルボトルバスターの派生である無機物系フルボトルを三本、ネオスクラッシュゼリーを一つ装填可能なスクラッシュバスター。

 こちらもバスターブレード・バスターキャノンに変形するが、スクラッシュの方はキャノンに重点を置いた設計になっている。

 

「ここまで付き合わせてごめんな」

 

 戦兎は園子の頭を優しく撫でた。

 




この小説は最低でも週一投稿をモットーにしてきましたが、そうでなくなる可能性も出てきました。ご了承ください。


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第四十九話 ローグを止めるために

 フルフルラビットタンクボトルを始めとした強化アイテムを開発した翌日。

 日が昇り始めた4時半過ぎ―――

 

 音をたてないようにゆっくりと地下室に侵入する物が一人。

 惣一だ。

 

 日光が全く射さない部屋のため、懐中電灯片手に進む。

 

 もし光が寝ている戦兎や龍我に当たっても起きはしないだろう。

 龍我は基本寝起き悪いし、戦兎も最近になって寝起きが悪くなってきた。

 ただ、クローズドラゴンマックスには気をつけよう。こう思っていた。

 

「!」

 

 懐中電灯の光がクローズドラゴンマックスに当たってしまった。

 しかし、反応はない。

 よく見るとクローズドラゴンマックスは首と尾をたたんでおり、フルボトルが挿しこまれていた。

 挿さっていたのはウォッチフルボトル。

 

 以前、二人が自分――――葛城の母に会いに行きその時交戦、クローズドラゴンはガトリングボトルを装填して炎を弾のように連射された。

 これをマックスが受け継いでいるとしたら、今のこれは目覚まし時計のつもりなのだろう。

 

 惣一はさらに進み、パソコンを起動する。

 そして、戦兎が開発したアイテムのデータを閲覧した。

 

「俺とは技術の使い方が違う」

 

 戦兎と自分の"ビルド"は正反対だ。こう確信する。

 

 葛城(自分)はスクラッシュやハザードから分かるように、変身者へのデメリットよりも強さを求めていた。

 戦兎はこれとは違い、変身者へのデメリットが無い、もしくは今あるデメリットを無くすものを創ってきた。

 

 ビルドを生み出したのは自分だが、創ってきたのは戦兎や龍我だと。

 

 一通り閲覧した後、彼は龍我の使用しているビルドドライバーに手を伸ばす。

 

「悪く思うなよ。俺だって目的は同じなんだから」

 

 

 午前7:00

 

「そのたん……もっと踏ん―――――夢か……」

 

 一海が目を覚ます。

 

 そしてカーテンを束ねていると、勇者部の面々と目が合った。

 

「待ってろ、今開けてやる。

 石動! 起きろ! もう朝……」

 

 鍵を開け、惣一がいつも就寝に使うカウンターと食器等が仕舞ってある棚の間を覗く。

 

「いない……?」

 

「あれ? 戦兎と万丈さんはまだ寝てるんですか?」

 

 一番乗りした銀が聞く。

 

「あぁ。龍我はともかく……あいつは……な。

 それと、呼び方変えたんだな」

 

「……あの話聞いてから、佐藤呼びだと何か過去を引きずってる気分になるというか……『今より昔のお前のほうが好きだった』って気持ちがするんです」

 

「…………そうか。そのことはくれぐれも言うんじゃねぇぞ」

 

 釘を刺す一海。

 

 園子が口を開く。

 

「いつまでも隠しておくっていうのも辛いと思うよ」

 

「そうかもな」

 

「―――あっ、あの――」

 

 友奈が戦兎らが来る前にこの雰囲気をどうにかしようとしたとき、地下室から生物の咆哮のような爆音が轟いた。

 

 

「うるせぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 龍我が目を覚ました。

 

「お前か! お前なのか! あぁん?」

 

 自分の周りで浮遊するクローズドラゴンマックスを捕まえ、挿さっていたボトルを抜いた。これと同時に咆哮が止んだ。

 

「―――んだよ……朝っぱらから元気だなお前……」

 

「……あれっ、どこだ……?」

 

 

 何やら自分の就寝スペースを漁る龍我より先に一階に顔を出した戦兎。

 一海に新しいドライバーを渡したその時

 

「せっ、戦兎!―――痛っ」

 

 頭を入り口の縁にぶつけながら一階に上がってくる。

 

「俺のビルドドライバーが消えた!」

 

「……はぁ!?」

 

 

 

 

 

 

「マスターが万丈のドライバーを持ってどこかへ行った――――って事か」

 

 龍我と一海の情報を戦兎が整理。

 

「何で俺のなんだ?」

 

「うーん……」

 

 

〔RIDER SYSTEM!〕

 

〔COBRA!〕

〔EVOLUTION!〕

 

 昨晩の事を思い出す。

 あの黒いボトルは龍我の使っているドライバーでのみ反応した。

 

 今彼が使用しているビルドドライバーは元は戦兎が使っていたもの。

 キャッスルハードスマッシュとの戦いでその時龍我が使っていた二台目が破損。

 それから龍我は戦兎の使っていた一台目を受け継ぎ、戦兎は修理した二代目を使っていた。

 

 そして、『一台目』ということは惣一が持って行ったドライバーは彼自身が開発したもの。

 

「ライダーシステム……エボリューション…………"エボル"?」

 

 戦兎の脳裏に一つの単語が浮かび上がる。

 エボリューションの略、エボル(EVOL)

 

 さらに、埋め込まれた葛城の記憶が警鐘を鳴らす。

 

『これを開発してはならない』

『これから創るもので対応できない状況になったら――――――』

 

「……須美……いや、美森って呼んだ方がいいか」

 

「私はどちらでも構いませんよ?」

 

「……じゃあ須美」

 

 戦兎は端末を取り出し、ある人物の電話番号を見せる。

 

 

「暑い!」

 

「叫ぶな余計暑く感じるだろ」

 

「まぁ、そうだな。心臓冷却すれば火もまた涼しって言うし、耐えるか」

 

「そんなことわざあるわけねぇだろ死ぬぞゴラ」

 

「ゴラって何だよゴラってあぁん?」

 

「あ? お前エビフライに醤油かけんの? ソースだろ」

 

「あぁん? 俺はタルタル派だっつーの!」

 

「あ?」

 

「あぁん?」

 

 

 

「あの……止めなくていいんですか?」

 

「大丈夫大丈夫。暑さで一時的にやられてるだけだから。

 それにしてもこの暑さは異常だな……。やっぱ壁の外に関係が――――」

 

「「「壁の外?」」」

 

 口を滑らせた、と顔をそらす戦兎。

 

「……いつか話す時が来るとは思っていたけど」

 

「東郷さん? 何か知ってるの?」

 

「えぇ、バーテックスが何処から来るのかというのもね」

 

 

「バーテックス……どういう意味だっけか」

 

「バーってなるテックスだろ」

 

「お前らは静かにしてて」

 

 美森が壁の外について話そうとした矢先、勇者全員の端末に連絡が入った。

 

「『勇者システムの改修の為、一度招集されたし』……」

 

 一気にその場の空気が重くなる。

 

「皆」

 

 勇者達が戦兎の方を向く。

 

「俺に考えがある」

 

 

『お前の言い分は聞きたくない。即刻そのシステムを廃棄しろ』

 

『科学を軍事利用するのは周囲や使用者の思惑だ! 俺は人を傷つけはしない!』

 

『何故言い切れる? 人を傷つける可能性が少しでもあるものを手にした時点で、そいつは悪魔になる』

 

『……俺は、自分の信じる正義のために、この力を使う』

 

『ふざけるな! まだ猶予はある! 話し合う道を選べ!』

 

『…………猶予が無いからこういう判断をしているんだ』

 

『相手が人間だろうが神だろうが関係ない!』

 

『もし失敗したら、300年積み重なってきた想いが一瞬で無駄になる。お前は真実を知らないだけなんだよ』

 

 

 

 

 

 

 

『――――――あぁぁ……あああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

『幻徳……』

 

『ふざけるな! ふざけるなぁぁぁぁ!!!

 大赦もお前も、同じだったんだな……!』

 

『何?』

 

『権力……武力……力で全てを解決しようとする……』

 

『違う!』

 

『どこが違うって言うんだ! エボルシステムを開発しかけたお前と、勇者システムとやらを研究してきた大赦……』

 

『……お前の言いたいことも分かる。でも、今はそういうことを言ってられる状況じゃ―――』

 

『元はと言えば奴らが勇者システムの開発を続けていたことが天神に見つかったからだろう!

 それが無ければ……俺の……俺の母さんは……』

 

『………………お前の母親には巫女の血が流れていたんだよ。神の怒りを鎮めるには生贄しかない』

 

『嘘だ!』

 

『嘘じゃない』

 

『……そうか。もう、対話で平和が維持できる時代じゃ無くなったんだな』

 

『誰もそんな事は―――』

 

『俺は大赦を抜ける。そして……奴らと対抗できる組織を創る』

 

『ならず者にでもなるつもりか?』

 

 

 

 

 

 

 

「俺があいつを止める。この身を賭けても」

 




次回で二章完結です。


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第五十話 戦士たちのジャスティス(前編)

前回「二章はあと1話で終わる」と書きましたが、長すぎたため前後編に分けます。
そして更新が遅れてしまって申し訳ありません。


 戦兎が美森に頼んだ事、それは惣一の端末の位置情報の特定だった。

 彼が今いる場所は大赦。

 

 戦兎は施設に入った途端、端末にライオンフルボトルを装填し、マシンビルダーを出現させる。

 

「おぉ! 久々のバイク!」

 

「万丈、マスターを頼む」

 

 限られた資材で応急処置を施したスクラッシュドライバーを龍我に渡す。

 

「轢くんじゃねぇぞ」

 

 惣一があれを完成させようとしているのか。

 一台目のビルドドライバーを持ち出した時点で黒だと確定しているが、一応本人から話を聞く必要がある。

 

「…………わかってる」

 

「何だその間」

 

 龍我がマシンビルダーに搭乗し、GPSを頼りに惣一のもとへ向かう。

 

 

「一海」

 

 仮面をつけた神官の一人が一海を呼び止める。

 

「誰だ」

 

 神官は勇者と戦兎がある部屋へ行ったことを確認すると、仮面を取り顔を露わにした。

 

「基本、勇者様に顔を見せる行為は無礼だとされている」

 

 正体は一海の元同僚。

 

「どうして俺を解雇した? カイザーのせいか」

 

「それもあるけど―――」

 

 手に持っていたアタッシュケースを一海に渡す。

 

「これを大赦の外で保管していてほしいからだ」

 

 中に入っていたものは、黒曜石のようなフルボトルが一本、ブレスナックル型のガジェット。そして、ハザードトリガーに酷似したガジェットだった。

 

 

 マシンビルダーで駆ける龍我。

 

 本庁の奥深く、人気の全くなさそうな場所で惣一の端末のGPS反応があった。

 

「何だよここ……埃だらけじゃねぇか」

 

 マシンビルダーのヘッドライトを頼りに奥へ進んでいく。

 

「それでも暗いな……」

 

 彼は自分の周りを浮遊しているクローズドラゴンマックスにライトフルボトルを挿す。

 

〔CROSS-Z FLAME!〕

 

 すると、クローズドラゴンマックスを中心として非常に強い光が放たれる。

 

「うわぁ眩しい眩しい! お前俺の目潰すつもりか――――――え?」

 

 クローズドラゴンマックスのボトルを抜こうとしたその時、龍我の足元に一発の銃弾が命中する。

 

「おっと、ここから先へ通すわけにはいかないなぁ」

 

「……マスター?」

 

 いきなり発砲してきた惣一に対し、

 なんでこんなところにいるんだよ

 俺のドライバーで何するつもりだ

 と問うが、返答はなかった。

 

「帰れ」

 

「何でだよ」

 

「俺には創らなきゃいけないもんがあるんだよ。これが完成すれば、もうお前たちは戦わなくて済むようになる」

 

「……エボルってやつか」

 

「何処でそんな事を……あぁ、成程~。戦兎か」

 

「それと、こう見えて俺は第六感が鋭いもんでな。マスターのコーヒーがクソまずいのも、戦兎やあんたに物理学の知識がほとんどないのに何で色々作れるのか」

 

「……」

 

「あんた、元々物理学者じゃないものになりたかったんじゃないの?」

 

「知ったような口を……」

 

〔COBRA!〕

 

「あぁそうさ。世界を平和にする技術や物を一から作りたかった……

 でも、そんな甘いことを考えていた俺の血は……自身に対する怒りによって蒸発した」

 

「甘くなんかねぇよ! 立派な事じゃねぇか―――」

 

「蒸血」

 

〔MIST……MATCH!〕

〔CO CO COBRA……COBRA……FIRE!〕

 

 惣一がブラッドスタークへと姿を変える。

 これを目の当たりにした龍我は、拳を強く握りしめる。

 

「…………戦わなきゃ、分からねぇのかよ……!」

 

〔DRAGON JELLY!〕

 

 腰に付けたスクラッシュドライバーに、ドラゴンゼリーを装填する。

 

「話し合う道も……あるっていうのによ……!」

 

 ――――変身……

 

〔潰れる!流れる!溢れ出る!〕

〔DRAGON IN CROSS-Z CHARGE! ブルァァァアアアア!!〕

 

 

 神官に端末を預け、待機する勇者達。

 神官によれば、今回のアップデートで『満開ゲージを一つ消費する代わりにバリアの出力を上げる』機能を追加するとのこと。

 

 スクラッシュの登場によってほぼ無効化されたに等しいバリアを今になって改修する。

 

「本当に俺に任せてよかったのか?」

 

「何だよ」

 

 明らかに怪しい雰囲気を醸し出している部屋へ向かう戦兎を止め、一海は冗談を交えた表情で問いかける。

 

「『今度は信じる』」

 

「それ、龍我にも言ったらしいな。どういう意味だよ」

 

人間不信だったあの頃(佐藤太郎)から変わりたいって思ってるだけだよ」

 

 戦兎はあの部屋へ、一海は勇者の端末を改修している部屋へと向かった。

 

 

「ハザードレベル6.8……」

 

「戦兎に続いてマスターまで……何で一人で抱え込もうとするんだよ!理由なんてどこにも―――」

 

「どこにもない こう言いたいのか?」

 

 攻めに入らず、防御ばかりの龍我に呆れた様子で拳を叩き込む。

 

「ある。俺という存在が理由そのもの」

 

「あ……? 何言ってんだよ」

 

 惣一は龍我から一度距離を取り、ネビュラスチームガンにコブラフルボトルを装填。

 

〔LOST MATCH!〕

 

「『未来の明るい子供を勇者として戦わせる時代を終わらせたい』こう願って創ったシステムのせいで多くの悲劇を生んできた」

 

〔FUNKY ATTACK!! LOST MATCH!〕

 

 龍我はこれをツインブレイカーの射撃で相殺しようとするが、火力不足でのけ反ってしまう。

 

「お前たちが何て言おうが思おうが勝手だ。だが、最後まで贖罪を背負って戦うのは誰だと思う?」

 

「……」

 

「俺だ。俺しかいないんだよ」

 

 

 戦兎が足を踏み入れた部屋、そこには装飾等は全く無い、ただ平らな地面が広がっているだけに見えると所だった。

 

「結城友奈は何処だ」

 

 待ち構えていた二人のうちの男が口を開いた。

 

「何が目的だ」

 

「我々の主と彼女による神婚」

 

 二人のうちの女も口を開いた。

 

「同士達が228年前に果たせなかった目的を――――果たす」

 

〔GEAR ENGINE!〕

 

〔GEAR REMOCON!〕

 

「「我が主の為に」」

 

〔〔FUNKY!〕〕

 

〔ENGINE RUNNING GEAR!〕

〔REMOTE CONTROL GEAR!〕

 

 二人がカイザーに変身する中、戦兎はハザードトリガーを手に取り、スイッチのカバーを開く。

 

「また自我を失う気か?」

 

「……」

 

「仮にそれで俺たちを倒せたとしても、勢い余って殺してしまうかもしれない。

 そんな姿を見られたら……どうなるかな」

 

「……」

 

〔MAX HAZARD ON!〕

 

 戦兎はスイッチを今までと違って二回押した。

 これは変身と同時にオーバーフローモードを発動させることを意味する。

 

 ドライバーにハザードトリガーを接続し、新しいガジェット フルフルラビットタンクボトルを振る。

 

 すると、フルフルラビットタンクボトルに備わっている成分を表す発光装置が赤く発光。その状態で反対側の金色のキャップを右に120度回し、その下の表示装置の絵柄がブランクを表す緑からウサギの絵柄に変更される。

 

 そしてボトルを中央から引き伸ばしながら折り、ドライバーに挿す。

 

〔RABBIT&RABBIT!〕

〔BUILD UP!〕

 

「俺はもう、自分を見失ったりはしない」

 

 ドライバーのレバーを回すことでさらに成分が活性化され、ハザードライドビルダーが展開。この周囲に胴体と肩、両腕、両足用の追加装甲が形成される。

 

 

Are you ready?

 

 

 視界に広がるのはハザードライドビルダー。

 これを『兵器じゃない』と言い切る事は出来ないだろう。でも、人を傷つけることへは絶対に使いたくない使わない。

 こう決心し叫ぶ。

 

「変身!」

 

〔OVERFLOW!〕

 

 ハザードライドビルダーにプレスされ、強化剤を煙として放出し続けているラビットタンクハザードフォームが形成される。続いて、赤い追加装甲が装着されようとした時

 

〔FUNKY SHOT! EVOL SYSTEM!〕

 

 ライトカイザーがネビュラスチームライフルの引き金を引いた。

 追加装甲が飛び散り、戦兎も吹き飛ばされる。

 

 構造上、変身やフォームチェンジの直前直後は回避行動が不可能。

 ビルドのこの弱点を突き、追加装甲の装着を阻止――――

 

「―――ん?」

 

 したかに思われたが、追加装甲の胴体・肩用を中心に5つの装甲が一つに合わさり、ウサギの形を成した。

 

 一瞬動揺するカイザーらだったが、おそらく自我を失っているであろう戦兎を狙おうとする。

 

 戦兎はカイザーの攻撃を交わしてジャンプ。ウサギも後につき、空中で分裂。

 吸い込まれるように腕、足、胴体・肩の順で装甲が装着され、最後に禍々しい形状の仮面の上からパーツが付き、装甲がフィルターの役割を果たし強化剤の黒煙が白い蒸気として体外に放出。複眼が金色の縁のついたラビットに書き換えられた。

 

 これと同時に、同成分での干渉で生成された調整剤によって戦兎の自我が復活。

 

 

(くれない)のスピーディージャンパー! ラビットラビット! ヤベェェェイ! ハエ~イ!〕

 

 桐生戦兎が創ってきたビルドの最終形態。ラビットラビットフォーム。

 

 ただでさえ頑丈なハザードフォームの上から装甲が追加されただけでなく、重大な欠点である自我喪失を克服した形態。

 

 

 ライトカイザーがレフトへ指示を出す。

 レフトカイザーが瞬時に戦兎の背後へ回るが、戦兎に先を越されてしまう。

 

「ッ!」

 

 速さで負けたことに動揺しつつ腕を突き出すが、これも今の戦兎には当たらず、逆に拳を当てられてしまった。

 

 装甲があるにも関わらず、それが一切ないような衝撃がレフトカイザーの体に走る。

 

 戦兎が地面を強く蹴り跳躍と同時に、大剣 フルボトルバスターを召喚。

 

〔RABBIT!〕

 

 一度バスターキャノンモードに変形させ、ラビットフルボトルを装填。

 

〔FULLBOTTLE BREAK!!〕

 

 落下で勢いをつけ、ライトカイザーに向けて振り下ろす。

 

「ちぃ!」

 

 鈍足なライトカイザーは回避に間に合わず、右肩の装甲を持っていかれる。

 

「勇者などという人柱でしかない存在を護って何になる!」

 

「ふざけるな!」

 

〔UNICORN!〕

〔KUJIRA!〕

〔JUST MATCH DESU(でーす)!〕

 

 バスターキャノンモードにしたフルボトルバスターに二本のボトルを装填し、二つの力が合成された弾を打ち出す。

 

〔JUST MATCH BREAK!!〕

 

 さらに、棒状に戻したフルフルラビットタンクボトルを装填。

 

〔FULL FULL MATCH DESU!〕

 

「人々の……みんなの自由のために戦う! これが俺の正義だ!」

 

「さっきから綺麗事ばかりを並べて……! そんな甘い考えが通じるとでも思っているのか!」

 

「あぁそうだよ! だからこそ……だからこそ、現実にしたいんだ」

 

〔FULL FULL MATCH BREAK!!!〕

 

 ボトルの成分が刃に集中し、それを横に薙ぎ払う。

 

 




『さぁ、祭りの始まりだ』

『正義など……平和など……下らない……』

『てめぇの心はもう人間じゃねぇだろうがぁぁぁ!!』

『それが脆くて説得力のない事だってことは分かってる。だからこそ謳うんだ』

『これでエボルが完成する』

『俺は……クズになりきれない中途半端な人間なんだな』

『マスタァァァァァ!!!!』

二章最終話~戦士たちのジャスティス(後編)~

万丈の勘が鋭いのは伏線ではないです。


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第五十一話 戦士たちのジャスティス(後編)

 部屋の内側で戦兎が放ったフルフルマッチブレイク。

 バスターブレードモードのフルボトルバスターでフルフルラビットタンクボトルのラビットの力で大剣と思わせないほどの振りの速さ。

 

 これは壁を破壊するのには十分すぎる威力だった。

 

「おぉぉぉぉ!?」

 

 内側からの爆音と、壁が切り裂かれ崩壊する様を間近で見ていた勇者達が驚愕し、銀が声を荒げる。

 

「あの部屋って……」

 

 皆が戦兎の安否と部屋の状況を心配しながら落ち着こうとする所へ、一海が戻ってくる。

 一海は端末の入ったケースを勇者の方へ放り投げ、腰にスクラッシュドライバーⅡ、手に、ロボットと不死鳥の絵が印刷されたロボットネオスクラッシュゼリーを持つ。

 

「さぁ、祭りの始まりだ」

 

 ドライバーにスクラッシュゼリーを装填。

 

〔GREASE DISPENSER!〕

 

「変身」

 

 崩壊した壁の向こうのカイザーを挑発するように指を指し、ドライバーのレンチ型レバーを倒す。

 これによりスクラッシュゼリーが圧迫され、中の成分がレバー反対側のタンクに溜まっていく。

 さらに、一海を囲むようにビーカー型のライドビルダーが出現し、ゲルから液状になった成分が満たされ――――――

 

〔燃える!〕

 

 着火。

 

〔潰れる!〕

 

 ライドビルダー後方から二本指のロボットアームが出現し、ライドビルダーを双方から潰す。

 

〔砕け散る!〕

 

 ロボットアームの指がライドビルダー付近の地面を強く叩き、その衝撃で先ほど潰されたライドビルダーが砕け散った。

 

〔ROBOTS IN GREASE! ブルァァァアアアア!!〕

 

 そこに残ったのは、姿を変えた一海。

 黒地のスーツに黒と金の装甲。腕や足の装甲は厚くなり、腿にも追加。胸部には焼け焦げた黒色の装甲が装着されている。

 

「"仮面ライダーグリスディスペンサー" 見参」

 

 葛城によって「ビルド・クローズとの連携・援護」を目的に開発された攻防のバランスに優れたグリス。

 一方、このグリスディスペンサーは耐火耐熱、攻撃に転用も可能な装甲を重装備した防御に優れたものへと生まれ変わった。

 

 そこへ、戦兎が現れる。

 

「やっぱりクロだったか」

 

「あぁ」

 

「そっちも大丈夫だったか?」

 

「――――――うん」

 

 部屋の外の状況を園子に聞く戦兎。園子はそれに頷いた。

 

 ハザードフォームのような姿の彼を最初は警戒していたものの、声を聴いて安心する勇者達。その中、園子は皆とは違う安心感を抱いていた。

 

 今の戦兎は赤い装甲を纏い、背中には二本のウサギの耳を模したマントがたなびいている。まるで、自身が書いた小説に登場する自分の思う正義のヒーローのようだと。

 

 

 

 

「――――正義など……平和など……下らない……」

 

 室内のカイザーらが立ちあがって戦兎を追撃しようとする。

 先に動いたのはレフト。

 

 崩壊した壁の瓦礫が散らばる地点にいた戦兎に向かってスチームブレードの刃を立てるが、戦兎はフルボトルバスターを盾にして体制を整え、右足を突き出す。

 

 すると右足が伸長し、レフトカイザーを室内へ蹴り戻す。

 

 

「ここじゃあそれは不利じゃないか? どうする」

 

 そんな一海の問いに、彼はドライバーからフルフルラビットタンクボトルを抜き、棒状に戻して振る。

 

〔RABBIT!〕

 

 発光装置が赤く光る。この状態でさらに振る。

 すると選択されている成分がラビットからタンクに変更され、発光が赤から青へ。

 

 

 最後にキャップを右に120回すと、ウサギの絵柄が戦車に変更される。

 

〔TANK!〕

 

〔TANK&TANK!〕

〔BUILD UP!〕

 

 成分をタンクに選択したフルフルラビットタンクボトルを装填したドライバーのレバーを回すと、戦兎の周囲に5つのアームが出現し、アームの先には青い装甲が付けられている。

 

〔Are you ready?〕

 

「スーパービルドアップ」

 

〔OVERFLOW!〕

 

 戦兎の一声とともにラビットラビットの赤い装甲が弾け飛び、そこへ青い戦車を模した装甲が装着され、背中には履帯型のマント、仮面は金色の縁のついたタンクの複眼に書き換わった。

 

 

〔鋼鉄のブルーウォーリア! タンクタンク! ヤベェェェイ! ツエーイ!〕

 

 

 戦車のような無限軌道が四肢に装着されたビルド第二の最終形態、タンクタンクフォーム。

 ラビットラビットと同様、オーバーフローモードを自我が失われる一歩前の状態で維持している。

 尚、調整剤は常温でないと生成できない。

 

「結城友奈……貴様さえ揃えば、我々の目的が果たされる」

 

 突撃するライトカイザー。

 一海はその間に割り込み、これを止める。

 

「奴は我々の――――人類の進化の為に必要な存在だ」

 

「何だと?」

 

 一海は専用武器 スクラッシュバスターを召喚し、そこへロケットフルボトルを装填。

 

〔SINGLE!〕

 

 引き金を引く。

 

「ッ……。我が主――――貴様らの言う天神に忠誠を誓えば、これ以上我々人間がバーテックスに襲われることはない。だが、主は衰弱している。力を増幅するには――――」

 

 ライトカイザーが友奈の方を向く。

 

「貴様と主による神婚だ。結城友奈」

 

「―――えっ……?」

 

「―――――さっきから何だ! 300年ずっと俺たちを苦しめてきた天神に跪けってか! ざけんな!」

 

 レンチを下げ、ゼリータンクに溜まっている成分を濃縮させ、それを右腕に集中させる。

 

「てめぇの心はもう人間じゃねぇだろうがぁぁぁ!!!」

 

〔MEGA SCRAP BREAK!!!〕

 

 ライトカイザーに拳が触れた瞬間、彼は吹き飛ばされ、壁に激突。

 

「子供を犠牲にして自分はのうのうとするってか。人でなしが」

 

「―――愛、平和……そんな戯言を言う貴様はどうなんだ」

 

 ライトカイザーが戦兎を指す。

 

「自分が正義だと思っていることは、相手にとっては悪かもしれない。逆も然り。

 愛も平和も同じだ。そんなもの、我がままとどう違う?」

 

「……あぁ。それが脆くて説得力のない事なのは分かってる。だからこそ謳うんだ。そういうことを……現実にしたいから」

 

 戦兎はフルボトルバスターをバスターキャノンモードに変形させ、四本のフルボトルを装填。

 

〔TANK!〕

〔YUUSHA!〕

〔RIFLE!〕

〔RABBIT!〕

〔ULTIMATE MATCH DESU!〕

 

〔ULTIMATE MATCH BREAK!!!〕

 

 ボトル四本分の力が合成され、銃口から放たれる。

 

 ライトカイザーは回避を試みるが、蓄積されたダメージと元々の鈍足が相まって失敗し、直撃に終わる。

 

 続き、戦兎はレバーを回転、一海もレバーを二回下げる。

 

「俺たちはてめぇらとは違う、人らしいやり方で戦いを終わらせてやる」

 

〔READY GO!〕

 

 戦兎が腰を落とし、右足に重心をおいた体勢になり、一海は背中から重油を吹き出しそれが着火。不死鳥のような翼が展開される。

 

〔HAZARD FINISH!!〕

〔TANK TANK FINISH!!!〕

 

〔MEGA SCRAP FINISH!!!〕

 

 二人は同時に跳び、戦兎はレフト、一海はライトカイザーに向かって蹴りを入れる。

 カイザー二体はこれまでのダメージ蓄積が災いし、二人の重量級の必殺技に耐えきれなかった。

 

「ぐっ……」

 

「帝王の時代はこれまでだ」

 

 

「後は我々に御任せください」

 

 変身の解除された二人を白いガーディアンと神官が拘束。連行していく。

 この二人は天神の信者。神世紀72年に発生した大規模なテロを実行した者と同じように、天神の力を信仰の対象にしていた。

 ファウストの幹部でもあった彼らは相当な罰を受けるだろう。

 

「―――ん?」

 

 戦兎が一人の神官を凝視する。格好は他の神官と同じだが、殺気を感じた。

 

「どうした」

 

「いや、何でもない」

 

 二人はドライバーからボトルとスクラッシュゼリーを外し、変身を解除。

 

「きっつ……」

 

 戦兎の足がふらつき、倒れそうになるところを一海が支える。

 

「おっと、大丈夫かよ」

 

「まぁ……な」

 

 彼の変身したラビットラビット・タンクタンクフォームはハザードフォームの自我喪失の原因である強化剤をフルフルラビットタンクボトルの生成した調整剤で抑制して自我を永続させている。

 強化剤も調整剤も、人体にとっては毒である。

 

「なぁ、あの二人はどうなるんだろう」

 

「一応、お前の両親だからな。でも―――」

 

 

 

「さっと~ん!!」

 

 

 

「もっと大切にしなきゃいけねぇのがあるだろ?」

 

「ぐぇえ!」

 

 腰に思い切り飛び込んでくる園子。

 

「腰はやめろ腰は……」

 

「もう……あんなことにはならないよね……?」

 

 あんなこととは自我を失ったハザードフォームのことだろう。

 

「あぁ。絶対にな」

 

 戦兎は園子を落ち着かせようと、彼女の頭を撫でる。

 

「いいなーいいなー。さっとんいいなぁー」

 

 この光景に一海が嫉妬する。

 

「むぅ~」

 

 一海が園子の作ったあだ名を使うと、園子は一海に対して頬を膨らませながら見つめる。

 

「その表情も……良いっ!」

 

「ダメだこりゃ」

 

「…………それと、何か焦げ臭くねぇか?」

 

「お前だよ」

 

 戦兎に指摘された一海が自身の服を嗅ぐ。

 

「あ、ホントだ。

 

 じゃねぇだろぉぉぉ!? 後、変身するとき『燃える』って聞こえて熱い思いしたけど何で燃やした!」

 

「だって、『心火を燃やす』ってよく言うじゃない」

 

「だからってホントに燃やすなぁぁぁぁ!!」

 

「痛い痛い痛い!」

 

 一海が戦兎の頭をグリグリする。

 

「……後は龍我か。上手くいってればいいんだが」

 

 

「どうした万丈! 守ってばかりじゃ俺には勝てないぞ!」

 

「俺は勝ち負けなんかどうでもいいんだよ! あんたを止めに来たんだ!」

 

「止める?」

 

「あぁ!」

 

 惣一の拳を受け止め、じりじりと壁の方へ押していく。

 

「――――小倉香澄」

 

「!」

 

「誰のせいで彼女が亡くなったと思う?」

 

「……ローグだ! あいつは人を人として見ていない! 俺の……敵だ!」

 

「じゃあ、ローグがそうなった原因は誰が作ったと思う?」

 

「っ……」

 

「ここにいるだろ。ここによぉ!」

 

 動揺で力が弱まった龍我の拘束を破り、腹に蹴りを一発食らわせ、ネビュラスチームガンにブラッドスタークの紋章が描かれた"コブラエボルボトル"を装填。

 

〔EVOL COBRA!〕

 

〔FUNKY BREAK!!! EVOL COBRA!〕

 

 銃口を向け龍我を仕留めようとするが、これは自分のしたいことじゃない。

 その思いからか、惣一は無意識に銃口をそらして引き金を引く。

 龍我は直撃は避けたものの、余波によって吹き飛ばされ、変身が解除。

 

「ぁあ……マス……タぁ…………」

 

「データの収集は終了。これでエボルが完成する。さて……」

 

 惣一は黙々と、飛び散った龍我の所持するフルボトルを回収する。

 

「何で……マスターが、こんなことしなくちゃならねぇんだよ……!」

 

 惣一は先ほどネビュラスチームガンに装填したボトルを見せ、口を開く。

 

「―――――こいつはな、フルボトルと違って浄化を行っていない。つまり、使えばハザード以上の負担が体にかかる」

 

「あの時見つけたあれも……」

 

「あぁ。それと、俺は戦兎やお前と出会って、『こいつらなら、この戦いを終わらせることができるだろう』って思ってた。でも、そんな考えは甘かった。

 戦兎やお前らの体や人生……全てを狂わせた奴を生み出しちまった元凶は誰か……俺だったんだよ」

 

 龍我はここで、以前惣一が言っていたことを思い出す。

 

 

『戦兎の、太郎の身体機能は―――――返ってこない』

 

 

 惣一はこれの理由を『太郎は神樹に選ばれた存在ではないから』『ネビュラガスを投与され、返さなくてもいい体になったから』『一回目の園子の時は良かったが、二回目の太郎の時には神樹には力が無く、勇者の身体機能を供物として貰うことでようやく生きていられる状態だから』と説明していた。

 

「もうお前たちが苦しむ理由はない。全部俺に任せろよ」

 

 惣一が龍我の所持ボトル最後の一本、ドラゴンフルボトルに手を出そうとするが、龍我が先にこれを握りしめたうえで体全体を使って守ろうとしている。

 

 無論、スタークとなった惣一にそんなものは通用しない。

 龍我の手首を引っ張り、ゆっくり力を加えていく。

 

「―――ぁぁぁ……! やめろ……やめてくれ……!」

 

「……」

 

 もう少し力を入れれば握られたボトルは落ちる。だが、惣一はそうなる寸前でこれを中止した。

 

 ドラゴンフルボトルは、龍我の大切な人が変貌したスマッシュの成分から創られている事を思い出したのだ。

 

「俺は……俺は……クズになりきれない中途半端な人間だったんだな」

 

「何を……言って…………」

 

 惣一はドラゴンフルボトル奪取を諦め、暗い通路のさらに奥へ歩いていき

 最後にこう言い残した。

 

 

 

 

 

「チャオ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――――マスタァァァァァ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 カイザーの二人を連行する神官達。

 

「後は私に任せろ」

 

「何をするつもりだ」

 

「黙って私に従え」

 

 神官がガーディアンに指示を出す。

 すると、他の神官を拘束して遠くへ連れ出してしまった。

 

 

 

 

「その声……まさか……」

 

 二人を演習場まで連れて行く神官。

 そこで神官は仮面を取った。その顔に、二人は戦慄する。

 

「――――――――久しぶりだな。佐藤」

 

「氷室……幻徳……!」

 

「俺のいない間に好き勝手やってくれたそうじゃないか」

 

「……」

 

「黙秘か。なら」

 

 幻徳は男を殴り、ボトルを奪取する。

 

「これで全てが揃った――――」

 

 幻徳の腰にはビルドドライバーに酷似した、ビルドドライバーの原型たる"エボルドライバー"が装着されていた。

 そこへ、紫と赤、バットとエンジンのフルボトルを装填する。

 

〔コウモリ!〕

〔発動機!〕

〔EVOL MATCH!〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フハハハハハハ……! アーッハッハッハァァァァァ!!!」

 

 演習場には血が蔓延しており、その中央に、仮面ライダーが一人立っていた。

 

 名は"マッドローグ"。

 

 長い間姿を消してきた幻徳は、狂ったならず者として帰ってきた―――

 

 

 

 

 

 

~二章 桐生戦兎は仮面ライダーである ビルド編~




次回から最終章に入ります。
ライダーや登場人物の詳細は後日更新します。


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第五十二話 防衛兵器エボル

 仮面ライダーとファウストによる戦いはパンドラボックスの破壊によって幕を閉じた。

 

 だが、全てが終わった訳ではない。

 

 世界の平和の為に力を使おうとした葛城巧。

 力を拒んでいたにも関わらず、ある日を境に力に溺れてしまった氷室幻徳。

 

 この二人による、新たな戦いが始まる――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイス……ソフトクリーム……あっ、ラムネもいいな」

 

「ちょっとお客さん! 早くして下さいよ!」

 

 カイザーの死により、戦いは一旦終わりを迎えた。

 今は各々が自由な時を過ごしている。

 

「ん~…………アイス」

 

「はい600円」

 

「高くない?」

 

 戦兎は今、移動販売式のアイス屋を訪れている。

 リヤカーを利用した簡素な店であるが、イネスを始めとしたスーパーに立ち寄れない人たちからの人気は凄まじい。

 

「最近すっごく暑いだろ? だから氷を作りづらくなったうえにたくさん人が買いに来るんだよ。

 

 かみさんはこの暑さを神様の祟りとか言ってるけどよ、ここで言う神様ってのは神樹様のことだろ? 神樹様がそんなことするとは俺は思わねぇ!」

 

「そうですよね……」

 

 戦兎はアイスをリアカーのクーラーボックスから取り出す。

 

 アイスを口に入れようとしたその時、突如一瞬だけ熱風が吹きアイスを完全に溶かしてしまった。

 

「あぁぁぁぁ!!?」

 

「だから早く選べと……」

 

 念願のアイスが目の前で溶けてさらに蒸発。

 戦兎は木の棒を見つめつつ聞いた。

 

「俺、『喫茶店のマスターやってそうな人』探してるんですけど、何か心当たりあります?」

 

「喫茶店?あぁ、そんな感じの奴なら……

 

 

 何か、赤っぽい四角い物持ってたっけ」

 

「四角い……」

 

 戦兎はビルドドライバーを取り出し、アイス屋に見せる。

 

「あーそれそれ!……お客さん、もしかして――――」

 

 アイス屋が何かを言いかけた瞬間、戦兎ら付近の住宅地から悲鳴が響く。

 

「スマッシュ……?とにかく、俺行ってきます」

 

 戦兎は支払いを済ませ、ビルドドライバーを腰に装着。

 

 〔MAX HAZARD ON!〕

 

 さらにハザードトリガーを接続し、フルフルラビットタンクボトルを取り出し、調整剤生成の為に振る。

 

「……」

 

 が、今彼が振っていたのは食べ損ねたアイスの棒だった。

 気を取り直して今度こそフルフルラビットタンクボトルを取り出し、振って折って装填。

 

〔RABBIT&RABBIT!〕

〔BUILD UP!〕

 

〔Are you ready?〕

 

「変身!」

 

 〔紅のスピーディージャンパー! ラビットラビット! ヤベェェェイ! ハェーイ!〕

 

 ビルド ラビットラビットフォームに変身した戦兎は、その跳躍力を生かして現地へ急ぐ。

 

 

 

「ホントに仮面ライダーだったよ――――――あっ!」

 

 アイス屋は何かに気付き、急いで戦兎の後を追いかけた。

 

 

「結城友奈!」

 

「同じく、三ノ輪銀!」

 

「「依頼完了しましたー!」」

 

「うんうん、相変わらず元気でいいわね~」

 

 市民からの依頼を終えてきた友奈と銀がnascitaに入る。

 そこには既に他の部員も揃っており、部長の風は二人の活発さに感心する。

 

「なぁ、国防仮―――東郷はどうした」

 

 一海が聞く。

 この依頼は明るさと元気が取り柄の友奈と銀、二人のブレーキ役として美森が選抜されていた。だが、この場に美森の姿はない。

 

「用事を思い出したって言ってました!」

 

「用事……」

 

 心当たりがあるような表情をする一海。

 

 

「スマッシュはどこだ……?」

 

 現地に到着した戦兎があたりを見回す。

 

「あの、あっちに泥棒が!」

 

「泥棒!?」

 

 女性が指さした方向を見ると、走るバッグを持った男の後姿が。

 

「すぐ取り返しますよ」

 

 戦兎は地面を蹴って跳躍。

 さらにラビットラビットの力で腕を伸長し泥棒の体を掴む。

 

「うぉおおおおぁぁぁあ!!?」

 

 人の気配が無いのに突然掴まれた事に驚愕。

 戦兎の腕の収縮とともにずるずると引きずられる。

 

 腕をもとの長さに戻し、バッグを取り返して女性に渡す。

 

 これで少しはいい印象を持ってもらえればいいが。

 

 そして泥棒を引き取ってもらうために警察を呼ぼうとしたその時

 

 

「後は私にお任せを!」

 

 上から女性の声がした。

 

 その声の主である女性は旧正規の軍人のような服を纏っている。

 彼女が屋根から戦兎のいる所へ降り立ち

 

「憂国の戦士 国防仮面、見ざ――――」

 

「……」

 

 女性―――国防仮面は戦兎を見て固まった。

 戦兎も聞き覚えのある声に疑問を抱いた。

 

「「……」」

 

 二人の間に何とも言えない空気が張り詰める。

 

「……何してんの須―――――」

 

「あー!あー!誰かが助けを呼んでいる!行かねば!」

 

「誰かって誰よ」

 

「……この度はご協力ありがとう!」

 

「……」

 

 戦兎は国防仮面の今の焦り具合で正体を美森だと確信した。

 

 泥棒を縄で縛って担ぐ彼女に対し、『国防仮面は東郷美森である』という確信を持つため、戦兎は口を開く。

 

「国防仮面さんや」

 

「手短にお願いします」

 

「友奈って子が寂しがってましたよ」

 

「なっ……何ですって?!」

 

「『東郷さんいなくて寂しい』って。この子、他にも友達いるみたいだけどこういう風に個も大切にできるって優しいよね。だからその東郷さんって人を探すことも視野に入れてほしい――――」

 

 国防仮面の目の色が変わった。

 

「ごめんなさい友奈ちゃん!いくら世の為人の為と言っても友奈ちゃんとの時間を犠牲にすることなんてできなかった……!」

 

「世の為人の為にそんな恰好してたのか……」

 

 みんなのためになる事を勇んで行う部活動、勇者部。

 彼女はその一員である誇りをもってこんな事をやっていたのだが、この行為で一人の人間を悲しませていた(?)事を知り愕然となる。

 

 そんな国防仮面―――美森を慰める(?)戦兎。

 

「まぁ、こういうことやらなくてもお前は十分人の為になってるから」

 

「戦兎さん……」

 

「あれっ、呼び方変えたんだ。じゃあ俺も呼び方変えようかな」

 

「えぇ?この前須美呼びで決定したばかりじゃないですか」

 

「「……」」

 

「こう考えると、そのっちのあだ名って便利ですね」

 

「だよなぁ」

 

 この光景を見ている市民と縛られている泥棒は思った。

 

 何コレ

 

 と。

 そこへ、この気温の中先ほど戦兎が訪れたアイス屋の人が走ってきた。

 

「お客さん!」

 

「さっきはすみませんでした。アイス食べれなくて――――」

 

「一円!一円足りないよ!」

 

「……」

 

 戦兎が買ったアイスは600円。しかし彼は焦っていたこともあって599円しか払っていなかった。

 戦兎が財布の中を確認するも一円玉はなかった。

 

「5円玉で勘弁してくれませんかね?」

 

「いや~それはちょっと……」

 

 どうやらアイス屋の方も一円玉がないらしい。

 

「じゃあ1000円で」

 

「何で増えてんだよ!」

 

 一円を笑う者は一円に泣く。今の状況を指す最適な言葉だ。

 

「―――私が払いましょうか?」

 

「それは流石に……」

 

 たかが一円されど一円。

 それにしてもこの仮面ライダーは何をやっているんだと思う市民だったが、一人の市民が遠くを指さして叫んだ

 

「お、おい、あれ!」

 

 戦兎らが市民の指さす方向を向く。

 

 

 そこには、もう存在しないはずの―――

 

「スマッシュ……」

 

 戦兎はアイス屋の人に1000円を握らせ、フルボトルバスターを召喚。

 三本のフルボトルをそこへ装填する。

 

〔MAGNET!〕

〔HARINEZUMI!〕

〔TANK!〕

〔MIRACLE MATCH DESU!〕

 

 

「スマッシュの目撃情報?」

 

「はい。ですが、仮面ライダーによって撃破されたとのことです。

 その際、従来のスマッシュとは異なり素体となる人間は確認されていません」

 

「人体実験で生まれた訳ではない……ということか」

 

 ここは大赦の一室。神官達が神妙な面持ちで会議をしている。

 

「ファウストのアジト、実験装置は全て我々が回収・破棄しています」

 

「スマッシュの上位個体、ハザードスマッシュの源である装置も仮面ライダーによって回収されています」

 

「では何者が……?」

 

「私共からも報告を。エンジンブロスが完成、リモコンブロスは最終調整中となります。バイカイザー改めヘルブロスへの合体機構も再現可能です」

 

 こう、唯一仮面をつけていない者が言及した。

 この者は仮面をつけた神官と同じくらいであるにも関わらず、仮面をつけていない。

 

 これは一種の反逆行為であるが、大赦は彼らを排除できない。

 何故なら、彼らはあの葛城巧の部下。先日の勇者システムのアップデートも彼らが行っている。

 

「またしても勝手な事を……」

 

「そう言われましても、仮面ライダーが無くなって一番困るのは貴方たちでしょう?

 もし彼らがいなければ、今頃大赦はファウストやスマッシュの襲撃で目も当てられない状態になっていたでしょう」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

「そうそう。この世界はもう、勇者の力だけでは護り切れなくなった」

 

 会議室の扉が開き、男が入室する。

 

「誰だ」

 

「かつ――――石動さん!」

 

Buon giorno(ボンジョルノ)(こんにちは)」

 

 男―――石動惣一は青いグリップのレバーのついた赤い物体を手にしながらこう口を開いた。

 

「前々から俺―――葛城巧が計画していたシステムの完成を、報告しに参りました」

 

 これを聞いて神官は葛城の元部下に視線を集中させるが、彼は何も知らないと首を横に振った。

 

「馬鹿な……まさか、お前が……!?」

 

 惣一は赤い物体――――エボルドライバーを腰に装着。

 

〔EVOL DRIVER!〕

 

 そして、コブラの意匠のあるコブラエボルボトルと、nascitaで龍我が発見したライダーエボルボトルを装填。

 

〔COBRA!〕

〔RIDER SYSTEM!〕

〔EVOLUTION!〕

 

 レバーの回転によってスナップライドビルダーが展開され、惣一の前方に濁った赤色の完全に形成されていない状態のハーフボディが、後方には同じ状態の黒いハーフボディが出現。

 

〔Are you ready?〕

 

「変身」

 

 ドライバーが装着者の変身の意思を確認。

 惣一が赤と黒の中途半端に形成されたハーフボディに挟まれる形でスーツや装甲を形成。

 

 天球儀を模した装甲が形成され、複眼は横から見たコブラのシルエット。さらに額には円形の、星座の描かれた測位装置・レーダーが備えられた。

 

 

〔COBRA! COBRA! EVOL COBRA! フッハッハッハッハッハッハァァァ!!!〕

 

 

「フェーズⅠ完了。仮面ライダー……エボル」

 

 惣一はついに、自らが求めていた究極の戦士 "仮面ライダーエボル"に変身。

 

「な、何をする気だ……、大赦を乗っ取るつもりか!?」

 

「それも悪くない」

 

 惣一は腰の引けた神官と視線を合わせる。

 

「だが、俺にはやる事がある。一つ約束しろ」

 

 神官は必死に首を縦に振る。

 

「勇者並びにその関係者―――仮面ライダーも含めて、一切手を出すな。あいつらはお前たちの敵になるような存在じゃない。

 

 

 

 

 

 お前たちが何もしなければ…………の話だが」

 

「それを決めるのは……ここにいる者たちではない……」

 

「――――――だよなぁ。簡単に言うこと聞くわけねぇよな。ライダーシステムに適応した人間が何故樹海化してもなお活動できるのか……、これの理由を踏まえると合点がいく。

 

 でもこれだけは言っておく。人間の心を持っている限り、そいつは人間だってことを」

 

 顔を仮面で隠し、個を捨てている神官達。

 しかし、この神官は個を捨てることより本能が働いてしまっている。

 目の前の異質な者に対して、恐怖を覚えている。

 

「仮面ライダーは俺一人でいい。そして戦いが終わった暁には―――」

 

 部屋を退出する惣一。

 

「……」

 

 そんな彼を目撃する一人の女性神官。

 彼女は惣一がトランスチームガンから出した蒸気に紛れて姿を消すまで彼を見ていた。

 

 自分の育ててきた者が背負わなくていい物を背負い、戦うことになって傷ついた。

 自分も力になりたかったけど及ばなかった。

 そして仮面で顔を隠し、自分を否定する。

 

 自分にそっくりだと。

 

 この神官は、かつて"安芸先生"と呼ばれていた女性である。

 



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第五十三話 日常のバック

カズミンとマスターがヤベーイお話になります。



(――――――もう朝か。早いもんだな)

 

 寝床であるnascitaの床で一海が目を覚ました。

 彼は今、出入り口に密着した形で横になっている。

 

 カイザーが消えた今、全60本のフルボトルの大半がここに保管されている。

 

 無機物を中心に一海が。

 有機物を中心に龍我が。

 この二種をバランスよく二人よりも多く戦兎が所持している。

 

 ありえないとは思うが念には念を入れ、泥棒対策をしている。

 これの一環として、一海は就寝時に出入口側の壁に密着して就寝しているのだ。

 

(―――ん?)

 

 一海がこちらに向かってくる足音を耳にした。

 現在時刻は7:00

 スクラッシュドライバーⅡは下の階に置いてきてしまったのでフルボトルを一本取り出し握る。

 

 すると、一海の真上、出入り口のドアに丸い体のカラスが現れる。

 

(クソッ、ファウストめ……まだいやがったのか!)

 

 カラスに蹴りを入れる一海だが、そのカラスは風船のような軽い動きで蹴りを回避。鍵を開けた。

 

 そしてドアが開かれる。

 

「ふぁ~、さっとん起きてる~?」

 

「こらこら園子さんや、あんたが寝てどうするよ」

 

「――――ぐぇっ」

 

 外開きのドアを開けたのは園子だった。

 まだ寝ぼけている彼女を支える銀。

 

 そんな園子は、nascitaに足を踏み入れた瞬間に何かを踏んでしまった。

 

(俺を踏んだ……?ざけんな。俺を踏んでいいのはそのたんだけだ!

 スクラッシュゼリーを潰すのと同じ強さで……って)

 

 ―――――そのたんじゃねぇかぁぁあああああ!!!

 

 案の定、一海だった。

 

(落ち着け、まず今起こっている状況を確認しろ。俺は何をされている?そのたんに踏まれている。……何で?)

 

「わっ、かずみん、大丈夫~?」

 

(ローファー!?靴!?クソッ!だから俺は戦兎に頼んだんだ!『ナシタを土足禁止にしろ』って!靴の汚れが無くなることで掃除もしやすくなるうえ、俺の悲願も…………

 とにかく、ローファーなんて滅んでしまえ。あれ履きやすいけど走りにくいじゃん。もし災害が起こったらどうするよ。……やっぱり存在意義なんてないじゃないか)

 

「か~ずみ~ん」

 

(それと一瞬何かが見えたような見えなかったような気がしたが気のせいだろう!

 俺はそんな事望んでない!俺にそんな資格はない!てかもっと自分から迫っていけよ戦兎ぉ!龍我からも言われただろうがぁ!……いや、こういうのはそのたんのほうが詳しそうだな。うん)

 

「何か、一海さんの顔が凄い事になってますけど……」

 

「あのー、入り口で寝られても困るんですけどぉ」

 

「ていうか何で入り口で寝てるのよ……」

 

 nascitaに一歩も入れない状態で立ち往生する勇者部一同。

 そこへある人物がやってきた。

 

「園子、お前は下がってろ」

 

 一方、一海は目を閉じて心を落ち着かせようとしていた。

 

(色々考えたいがとりあえず落ち着け。ひっひっふー。……これ違うわ。

 とにかく俺が口にすべき言葉は――――)

 

 一海は目をくわっと開けて叫んだ。

 

「そのたん! 靴脱いでもう一回踏んでくださ――――――」

 

 

「朝から何醜態晒してんだよ」

 

 

 彼の視界には園子が消え、代わりに自分を見下す龍我の姿があった。

 

「あっ……れ? 帰省したんじゃなかったの……?」

 

「今帰ってきたところだ。それより、恥ずかしくないのか?自分の行いについて」

 

「―――――ふっ、前にも言ったはずだ。俺はもう恥を捨てた!うじうじしていても何も始まらない!失敗のないやつに成功はない!

 あの宮本武蔵は言った!」

 

「誰だよ」

 

「『我事において後悔をせず』と!いちいち失敗しない未来を考えて動くより今を見ろ!今を生きろ!――――と俺は解釈している!」

 

「……とりあえず退こうか」

 

「はい」

 

「――――今を生きろ……か」

 

 龍我がある者を思い浮かべてそう呟いた。

 

 

 ◇

 

 

「―――――風邪かな」

 

 同時刻、何処かでくしゃみをした男がいた。

 

 石動惣一だ。

 

 プロジェクトビルドの基、プロジェクトエボル。

 葛城が進めていた計画。

 これについて、彼は昔のことを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

〔COBRA!〕

 

〔Are you ready?〕

 

『変身』

 

 この時のエボルドライバーは形状こそ変わりないものの、ライダーエボルボトルが装填される外側のスロットに、反対側に装填したエボルボトルの力を二倍にする外部動力装置が付けられていた。

 ボトル二本という発想はまだ無かったのだ。

 

 スナップライドビルダーが展開され、コブラエボルボトルの成分で生成されたハーフボディが変身者に迫る――――

 

 

 

 

 

 

 ところまでは順調だったものの、

 

『ぐぁぁぁぁぁ!!』

 

 ハーフボディが完全に形成されないまま変身者である葛城に重なってしまい、変身は失敗。彼の体が悲鳴を上げた。

 

『葛城さん!』

 

 周りにいた部下が葛城の元へ駆け寄る。

 

『こんなの最初から無理だったんですよ。葛城さんの言う事も分かります。でも……』

 

『分かってくれるんだったら俺の言う事を聞け!この実験で傷つくのは俺だけだろうが!』

 

『……』

 

『――――! ……すまない』

 

 この時の彼はパンドラボックスの光の影響でかなり荒くなっていた。

 その上、完全に好戦的になった訳ではないので『自分はおかしい』という自覚がある。

 

『さぁ、実験を再開するぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果、プロジェクトエボルは技術不足、葛城の疲弊によって凍結した。

 この間に氷室幻徳が離反。フルボトルの試作型やドライバーの設計データも奪われてしまった。

 残ったのは未完成のエボルドライバー、赤と紺の二本のエボルボトル。

 そして――――

 

 

 

 

 

 

 

 接続位置を変更した外部動力装置―――――エボルトリガー。

 

 

「こんな事態になってもまだ()()は人間の味方をするか?」

 

 惣一が現実に戻される。すると目の前には

 

「……幻徳……何故……?」

 

 生気の無くなった氷室幻徳の姿。

 

「俺は天神に魂を売った。そして果たして見せる。―――――復讐を。大赦(奴ら)だけじゃない―――――人間そのものに」

 

 幻徳はバットフルボトル、エンジンフルボトルを取り出し、腰に装着されたエボルドライバーへ装填した。

 

〔コウモリ!〕

〔発動機!〕

〔EVOL MATCH!〕

 

 レバーのグリップに手を添え回す。

 

 スナップライドビルダーが展開されるが、様子がおかしい。

 

 各所に亀裂や破損している箇所が存在した。

 

 

〔Are you ready?〕

 

 

 母が一時しのぎのための生贄として死んだ――――殺された事を知らされた彼の心のように。

 

「変……身」

 

〔バットエンジン! フハハハハハハ……!〕

 

 黒と銀のナイトローグ、紫のローグ。

 どれとも似つかない白地に紫のカラーリング。それが、仮面ライダーマッドローグ。

 その上、この装甲には赤とも茶とも認識できる色の液体の付着した跡が付いていた。

 

〔COBRA!〕

〔RIDER SYSTEM!〕

〔EVOLUTION!〕

 

 マッドローグとなった幻徳のただならぬ殺気を感じた惣一も変身。

 

〔EVOL COBRA! フッハッハッハッハハハハハハ!!〕

 

 

「人間は力が少なかったが故にここまで進化できた」

 

 幻徳がスチームブレードを振りかぶる。

 

「力では他に負ける。だから知性を使って交渉という手段を生み出した」

 

 惣一も同じ得物で対抗する。

 

「しかし時代が進むにつれ、力――――技術が発展するたびに人類は、衰えていった」

 

「何だと!」

 

「科学者だったお前には分かるだろう。技術とは人間を退化させる」

 

「全員がそうって訳じゃねぇだろ!」

 

 惣一がドライバーのコブラエボルボトルをユニコーンフルボトルに交換。

 

〔一角獣!〕

〔RIDER SYSTEM!〕

〔CREATION!〕

 

〔READY GO!〕

〔一角獣 FINISH!!!〕

 

 右拳にエネルギーが集中し、それが鋭利化。

 幻徳に向けて振るうが――――当たる直前で霧のように姿を消した。

 

 この直後、惣一が膝から崩れ落ちた。

 

「まだ……慣れねぇか……!」

 

エボルボトルにはフルボトルのように浄化がされていない。さらに、ビルドドライバーに搭載されていたリミッターも非搭載。その分攻撃性を高めている。

つまり、ハザードレベルが1だろうが2だろうが変身自体は可能である。

 

 そんな彼の頭に幻徳の声が響いた。

 

 

「俺は誰の味方でもない。だが、今のお前では俺には勝てない―――――」

 

「……」

 

 ――――自分は何がしたいんだろう。

 

 戦兎たちの前から姿を消して―――――

 

 戦兎にエボルのことを話せばもっと安全なシステムになったかもしれない。

 それとも、開発を拒否するだろうか。

 

「……」

 

 今の惣一にも、仲間はいなかった。

 



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第五十四話 兎のムーン(前編)

「はぁ……はぁ……」

 

 スマッシュ出現の一報を受けた戦兎らは現場へかけていた。

 ビルドドライバーが無い上、スクラッシュドライバーの不調子により龍我は待機。

 戦兎と一海が別々の場所へ向かう。

 

「スマッシュはどこだ……?」

 

 現場に到着した戦兎。しかし、スマッシュの姿はない。

 代わりに

 

「少し遅かったなぁ」

 

 仮面ライダーがそこにいた。

 

「その声……マスターなのか?」

 

「あぁ。お前に最初に渡したビルドドライバー。それに溜まったビルドのデータと、クローズのデータによってこれを完成させられたよ。ありがとう」

 

「……それがどんな代物なのか分かって使ってるのか!」

 

「勿論」

 

「……」

 

「何か言いたそうな目だな」

 

「――――マスター、俺たちはあんたを憎んでなんかいない」

 

「……だから?」

 

「戻ってきてくれ……!あんたが全部抱え込まなくてもいいんだよ……!」

 

「抱え込むだぁ?何か勘違いしてねぇか?

 俺がお前をビルドにした理由。それはお前が俺と偶然出会ったハザードレベル3.0に達した子供だったからだ。ビルドの特徴である、二本のボトルの数百種類以上の組み合わせによる戦略の多さ。これを生かすには使用者の柔軟な発想が必要だ。

 

 お前はネビュラガスの過剰投与によって大人の体になった。そしてビルドへ……。

 俺はお前を利用しようとしたんだ」

 

「じゃあ、俺に優しくしてくれた石動惣一は何なんだよ!全部嘘だって言うのか!」

 

「…………いや、あれに嘘は微塵も無かった」

 

「だったら――――」

 

「幻徳を止められたら……な。そうなる頃、俺の体はどうなっているか……」

 

「……」

 

 戦兎がエボルに変身した惣一の腕をつかみ、叫ぶ。

 

「あんたを死なせたりはしない!今の俺……桐生戦兎にとって、あんたは父親なんだ!家族なんだ!家族を見捨てる奴がどこにいるんだよ!!」

 

「―――――――離せよ」

 

 惣一が戦兎を振り払う。

 

「そんなに俺を止めたいなら、俺を倒してみろよ。お前の言う愛、正義ってやつを、もう一度ぶつけてみろ」

 

「……」

 

 戦兎はビルドドライバーを装着し、ハザードトリガーを起動した。

 

〔HAZARD ON!〕

 

 続いて、ラビットとタンクのフルボトルを装填する。

 

〔RABBIT!〕

〔TANK!〕

〔SUPER BEST MATCH!!〕

 

 この二つのフルボトルの成分はスパークリング、フルフルラビットタンクボトルに移植され、今は三分の一しか残っていない。

 そのため、あまり活性化させない状態で変身に使えば、自我を少しでも長く保てると思ったのだ。

 

 その上、エボルは基本性能が高く、ハザードを使わざるを得ないと判断した。

 

〔Are you ready?〕

 

「変身」

 

〔UNCONTROL SWITCH! BLACK HAZARD! ヤベェェェェイ!!〕

 

「ハザード……よりによってそれを選んでくるか……!」

 

 惣一がトランスチームガンを発砲するが、戦兎はそれを回避しながら惣一に接近。

 

「はぁ!」

 

 戦兎の繰り出した拳を惣一が受け止める。

 

「ハザードレベル6.0……。俺に対する怒りのせいかぁ?」

 

 戦兎はラビットの高速移動とタンクの戦車砲に値するパンチ力を駆使し、惣一の背後に回る形で拳を叩き込む。

 惣一はこれを避けようとはせず、その場に留まっていた。

 

「やめておけ」

 

 惣一がエボルドライバーにオクトパスフルボトルを装填。

 

〔タコ!〕

〔RIDER SYSTEM!〕

〔CREATION!〕

 

〔READY GO!〕

〔タコ FINISH!!!〕

 

 惣一が腕を前に出すと、そこからタコの触手が出現。

 戦兎を突き刺すように攻撃しつつ、彼の所持するフルボトルを奪っていく。

 

 奪われたのは、ウォッチ、タカ、ガトリング、忍者、コミック。

 

 そして、オクトパスフルボトルをコミックフルボトルに交換。

 

〔漫画!〕

〔RIDER SYSTEM!〕

〔CREATION!〕

 

〔漫画 FINISH!〕

 

 惣一の手に4コマ忍法刀が召喚される。

 エボルには物体を生成する能力が存在する。そのため、今召喚した武器は本物ではない。

 

〔忍者!〕

〔RIDER SYSTEM!〕

〔CREATION!〕

 

〔忍者 FINISH!!!〕

 

 さらに、今召喚した得物に忍者の能力を付与された。

 

 〔分身の術!〕

 

 実質ビルドのニンニンコミックフォームの力を得た惣一が三体に分身。

 

「マジかよ―――――――がぁっ!?」

 

 戦兎の頭、神経に痛みが走る。

 あの時よりは長かったものの、これ以上は限界だった。

 

〔MAX HAZARD ON!〕

 

〔RABBIT&RABBIT!〕

〔BUILD UP!〕

 

〔Are you ready?〕

 

 ラビットを選択したフルフルラビットタンクボトルを装填。

 戦兎の周囲に赤い装甲、ラビットラビットアーマー付きのアームが出現し、アーマーが外れる。

 

 そのまま装甲はウサギの形を成し、惣一の分身に飛びかかる。

 

「うぉっと」

 

 思わず分身を消してしまった惣一。

 

「スーパービルドアップ!」

 

〔OVERFLOW!〕

〔ラビットラビット! ヤベェェェイ! ハェーイ!〕

 

「まだまだ、これからだ……」

 

 ラビットラビットフォームになった。

 今はスピードよりパワーが優先されるが、今の戦兎の身体の負担を考えてこちらが選ばれた。かといって、ラビットラビットのパワーが弱いというわけではない。

 

 ラビットタンクハザードを超える速さで惣一の死角に回り込み、蹴りを一発。

 

「っ……はぁ。この力……成程。葛城にできなかったハザードの完全制御を可能にしたか。

 だが、お前には大きい弱点がある」

 

「……」

 

「月が太陽の光でしか輝けないように、お前も誰かの力があって強くなれる」

 

「人は一人では成長できない!俺だって――――」

 

「お前はそれに頼りすぎている。お前だって分かってるはずだ」

 

「…………」

 

 スパークリングを始めとした強化アイテムも、自分一人の力で完成させたわけじゃない。

 精神的な意味でも、周りに散々助けられた。

 

 自分が助けた時もあったけど、それはほんの僅か。

 

「ハザードレベル5.6。勝負はついたな」

 

 惣一がレバーを回転させる。

 

「……」

 

 戦兎も続く。

 

〔〔READY GO!〕〕

 

〔HAZARD FINISH!!〕

 

 強化剤を限界まで噴出させ、蹴りを入れる。

 

 ラビットラビット・タンクタンクの必殺技は他と違い、二つの技を同時・連続で発動する。まずはハザードフォームの必殺技。

 

〔RABBIT RABBIT FINISH!!!〕

 

 硬直する惣一を目でとらえながら後ろに跳び、右足を伸長。

 元に戻る勢いで生じる力で一直線に蹴りが入った。

 

 

 

「――――――今度はこっちの番だ」

 

 だが、あまり効果はなかった。

 高気温により調整剤が完全に生成されなかった事、ハザードレベルが低下したことが重なってしまったのだ。

 

 

 惣一の右足にエネルギーが集中し、一気にそれを突き出す。

 

 

〔EVOLTECH FINISH!!! CIAO!〕

 

 

 戦兎に当たる瞬間、圧縮されたエネルギーが崩壊・爆発した。

 

 ダメージの過剰蓄積によって戦兎の変身が解除。

 惣一が飛び散った彼のガジェットを漁るも、特に何も取らずに立ち上がった。

 

「―――――――アレはナシタか」

 

「アレ……って」

 

 エボルドライバーの、ビルドドライバーでいうハザードトリガーの接続ジョイントを触りながらこう呟く惣一。

 

 戦兎には心当たりがあった。

 大赦からもらったアタッシュケース。その中の三つのアイテム。これの一つが―――

 

「っ! 本当にやめてくれ!」

 

 戦兎が惣一の足にしがみつく。

 

「……そんな事しなくても分かってるさ。

 この世界の未来を繋ぐ為に俺は戦う。お前たちの分までな」

 

 惣一は戦兎の腕を優しく退かし、ドライバーにウォッチフルボトルを装填。

 

〔READY GO!〕

〔時計 FINISH!!! CIAO!〕

 

 一瞬時が止まったと思った。

 こう思った頃にはもう惣一の姿は無かった。

 

 急いで龍我に連絡を入れるが、遅かった。

 

 



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第五十四話 兎のムーン(後編)

「……遅いな」

 

 nascitaに戻っていた一海は不振に思った。

 戦兎がいない。

 

「クソッ、俺が戦えれば……!」

 

「もう帰ってこないみたいに言わないでよ……」

 

「……悪い」

 

 その時、龍我の端末に着信が入る。戦兎からだ。

 これに出ようとした瞬間

 

 

 

「相変わらずのようで何よりだ」

 

 

 

 仮面ライダーエボルが姿を現す。

 

 天球儀と宇宙をモチーフにしたスーツと装甲は彼らに『異質』という印象を与えた。

 さらに、薄暗いnascitaの中、各所に散りばめられた惑星を模した丸い装飾が光っている。

 

 龍我はエボルの声とドライバーを見て即座に判断した。

 

「マスター!あんた自分が何やってんのか分かってんのか!勝手に出てって勝手にそんなもん完成させてェ!」

 

「エボルトリガーを出せ。ここにあるはずだ」

 

「……」

 

「出したくないのか?……エニグマが失敗に終わった今、天神を完全に葬るにはアレが必要だ。ネビュラガス、エボルシステムの真の力。時空すら歪め、どんな質量のものでも吸い込み消し去る……ブラックホールの力が」

 

「―――ざけんな……」

 

 龍我がドラゴンフルボトル片手に惣一を睨みつける。

 

「研究所の時みたいにやり合うつもりか?やめとけ」

 

 次の瞬間、惣一が姿を消した。

 

「ッ!」

 

 と思った矢先、アタッシュケース片手に戻ってくる。

 

「どうだ?これがエボルの力だ。

 …………まぁ、これでも6割程度なんだけどな」

 

 惣一がアタッシュケースを開ける。

 

 中には黒曜石のようなフルボトル、ドラゴンマグマフルボトル。

 中央にクローズの紋章が描かれたボタンが付けられた武器、クローズマグマナックル。

 

 

 そして、エボルドライバーの試験の際の外部動力装置を改造したガジェット、エボルトリガー。

 

「……やっぱり壁の外か」

 

 ドラゴンマグマフルボトルを見て呟く。

 

「こいつは正確にはフルボトルじゃない。壁の外に広がっているマグマの一部だ」

 

「どういう意味だよ」

 

「今、壁の外の温度が急激に上がっているらしい。そのせいで内側のここも気温が上がっている。その上、神樹の衰えも激しい。

 つまり、バーテックスが結界に侵入する前=神樹に樹海化させる前にバーテックスを撃破する必要がある」

 

「温度の上昇……ってまさか……」

 

 一海が過去の記憶から似た情報を引き出した。

 

 かつて同僚が、『防人が火傷を負った』と言っていたことを。

 

 そして防人は力は勇者に及ばないものの、耐熱性なら優っている。

 

「勇者で迎撃はできない……?」

 

 一海の呟きに、勇者たちは焦りと不安が混ざった表情をする。

 

 これを見た惣一は疑問を抱く。

 

 勇者は『なりたい奴がなる』ものではなく、『適合があるからやりなさい』という強制。嫌といっても拒否できない。拒否した場合は世界の心臓部といってもいい神樹が眼前で化け物に蝕まれ、世界が消える。

 

 今の言葉は『もう勇者にならなくていい』ともとれる。なのに何故そんな顔をする……?

 

「じゃあ……私たちはどうすればいいんですか?」

 

 勇者を代表して友奈が口を開いた。

 

「普段通り生活すればいい」

 

 惣一が即答する。

 

「私たちは世界がどうなっているか、全部知ってるんですよ!?なのに指をくわえて生活しろって言ってるんですか!?」

 

「―――――そんなに死にたいか」

 

 惣一がネビュラスチームガンを構える。

 

「―――――そんなに友達との時間を無くしてでも戦いたいのか」

 

「違う!友達……みんなとの時間、この世界を守るために私は戦いたい!」

 

「…………エニグマ。それさえ完成できていれば……こんなことには……」

 

 惣一はエボルトリガーを触る。

 スイッチ押しても反応なし。接続しようとしても弾かれる。

 

 しかし、これが手に入っただけでもいい収穫だと呟いて、ドライバーのコブラエボルボトルをバットフルボトル(トランスチームシステム用)を装填。

 

〔コウモリ!〕

〔RIDER SYSTEM!〕

〔CREATION!〕

 

「――――――何で」

 

「……そのっち?」

 

「何で……なんでそこまで自分の身を投げ出せるの……?貴方も自由と平和のために戦ってるんでしょ……?」

 

「いや、俺は贖罪の為……自分で植えた芽を摘みに行くだけだ」

 

「石動、今のあんたは自分で自分を苦しめてるだけだ」

 

「……」

 

〔READY GO!〕

 

「―――――本当に仮面ライダーを創ったことを罪として認識して償おうとしてるなら、俺たちと戦いを終わらせる、そして生き抜く。違うかよ」

 

〔コウモリ FINISH!!! CIAO!〕

 

「……考える時間をくれ」

 

 惣一が霧に紛れnascitaから消えた。

 

 そして、これと入れ替わりで戦兎が帰ってきた。

 

 

 

 

「――――で、何作ってんだよ」

 

 戦兎の周りには、以前龍我が回収した二つ目(ファウスト製)のハザードトリガーの部品が散乱し、赤かった外装はメタリックネイビーになり、メーターがビートクローザーと同様の赤と緑に、形状も竜の横顔の意匠がこらされているものに変更された。

 

「まぁまぁ」

 

 すると戦兎はあっ、と呟いて立ち上がり、手一杯に器具をもって一階に向かった。

 

「おい!実験ならここでやればいいだろ!」

 

「平らなスペースがもうねぇんだよ!」

 

 手が塞がってしまったので顎で机を指す戦兎。

 

「片付けろ!」

 

 

 結局、実験は一階でやる事に。

 

 平らなテーブルの上に器具を乗せ、その下側にドラゴンフルボトル、上側にはドラゴンスクラッシュゼリーが付けられた。

 

 今から行う実験と言うのは『ドラゴンフルボトルにドラゴンスクラッシュゼリーの成分を移植し、ドラゴンフルボトルの強化を行う』というもの。

 

 ゼリーのキャップが外され、細いチューブを通して徐々に成分がボトルに溜まっていく。

 

「ただ、これだけだとなぁ……何だかなぁ……」

 

「まだ何か足りねぇのか」

 

 戦兎はこれに頷いた。

 

「あれをお前用に調整しなくちゃいけない。お前と出会ってもう少しで一年経つけど、俺はまだお前の事(戦い方)を具体的にわかってない」

 

「俺の事……」

 

「俺は自分から誰かを引っ張ることが出来ない。けど、後ろから支えることはできる筈。だから教えてくれ。お前の事(戦い方)!」

 

「戦兎…………」

 

 肩をがしっと掴まれ戦兎の必死さが伝わってくる。

 

「お前――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺に告白してる?」

 

 

「ビュオオオオオ~ウ!」

 

「してねぇわ!」

 

「でもお前には……」

 

「話聞いて」

 

「いいよいいよ~!普段見せない積極的さを前に出すさっとんとそれに呆然としつつ応えるジョーさん!

 あ~……でもその積極さは私に向けてほしいなぁ~。なんて

 

 二人から何かを感じた園子。彼女は携行するメモ(ネタ)帳に二人の現状・言動を書き上げる。

 

 

「わぁ!園ちゃんって光景を文字にしてまとめるの上手なんだね!感心しちゃうな~!」

 

「そのっちは相変わらずね……」

 

「ワオ、男同士でもいけるのね―――って違うか」

 

「あはは……」

 

「ほんと、飽きないわねぇ」

 

「むしろヒートアップしてるように見えるなぁ。園子らしいや」

 

 この園子の様子に勇者部の面々は様々な表情を見せる。

 

 一方

 

「そういう手も……ありなのか。今度やってみようかな」

 

 

「その気持ち悪い発想をやめなさい」

 

 小説のネタになりたいがために戦兎と龍我の真似をしようとする者もいた。

 

「それじゃあ――――」

 

 

「格闘家時代の映像を―――」

「俺のこれまでの人生の第1章を―――」

 

 

「「ん?」」

 

 

 二人の誤解が解けた頃にはドラゴンスクラッシュゼリーの成分がすべてドラゴンフルボトルに戻された。

 

「ついでにこれも」

 

 戦兎が、パンドラボックスの力の入ったボトルを取り出す。

 ドラゴンフルボトルのように成分を別に移したボトルが後二本存在する。

 

 ラビットとタンク。

 

 この二本にそれぞれボトル二本分のパンドラボックスの力と、戦兎が使用しているハザードトリガー内の強化剤を少量入れる。

 

 そして、浄化装置に三本のフルボトルの入れる。

 

 

 数日後、三本のボトルの浄化が完了した。

 

 早速龍我が手に取ってみた。

 

「―――!」

 

 色がない。成分の色は変わらずネイビーだが、龍の顔のレリーフの入った外装の色が抜けて透明になっていたのだ。

 

 一方、ラビットとタンクは浄化に成功した。

 ラビットフルボトルはキャップのラベルが月とビルドの紋章を組み合わせたマークに変わり、ボトル外装には月の意匠が追加された"ラビットムーンフルボトル"へ、

 

 タンクフルボトルはキャップのラベルの文字が『RM/WT』に変わり、外装の色・造形は変わらないものの、戦車のレリーフの部分に青の塗装が追加された"ウォーリアタンクフルボトル"へ変化した。

 

「何で……」

 

 龍我は脱色したドラゴンフルボトルに疑問視しながら振り、柱を殴る。

 

 小爆発のような衝撃を引き起こし、柱が『く』の字に曲がった。

 

 出力そのものは変わらないどころか上昇しているようだ。

 

 

「何だぁ!」

 

 

 一海が駆けつける。

 

「万丈が屁こいただけだ!」

 

「あっそ。食物繊維もっととれ!」

 

 一海が引き返した。

 

 

「悪いな。龍我がケツからネビュラガスをドラゴニックフィニッシュしただけだった」

 

「……今なんて?」

 

 

《桐生戦兎……これが奴のナマエというものか》

 

「あぁ。人間にはそれぞれ、個の主張・区別として名前が存在する。だが、人類は多すぎるため、重複が発生する」

 

《成程……。だが今は『多すぎる』わけではないだろう?》

 

「っ。迂闊だった」

 

 パンドラボックスが破壊された場所。

 ここで幻徳が一人瓦礫の上に座っていた。

 

 彼と対話しているのは彼の体を一時的に乗っ取って人間の言葉を話す天神。

 

《ハハハハハ!人間というモノはいつも我の予想を覆す!これが笑いと驚きか!》

 

「俺だって驚いてるさ。神が実在していたなんて」

 

《奴を誘い出せ》

 

「―――何をする気だ」

 

《直に分かる》

 

「……」

 

 幻徳の表情が曇る。

 

《我が本当に神なのか信用できないか》

 

「……」

 

 すると天神は幻徳の右腕を操り、手のひらから針を発射。前にあった瓦礫に風穴が開く。

 

「!」

 

 天神の操作から解き放たれた右手を見るが、針を出した跡や傷などはない。

 

「蠍の針……。力は本物か。―――――なら、創って、いや、複製してほしいものがある」

 

《我と貴様は既にそれぞれ対価を払っている。言え》

 

 

 

 

 

 

「エボルトリガーだ」

 

 

〔FLAME UP!〕

〔NEO CROSS-Z DRAGON!〕

 

 龍我が脱色したドラゴンフルボトルを装填したクローズドラゴンマックスをビルドドライバーにセット。

 

〔Are you ready?〕

 

「変身!」

 

 〔――――――〕

 

 しかし、スナップライドビルダーすら展開することなく変身失敗に終わった。

 

「何でだよ……!戦兎、お前なら分かるだろ!?理由は何だよ―――!」

 

「もう一度だ。今度はクローズじゃなくてビルドに変身しろ」

 

 原因が龍我のハザードレベルにあるのかそれとも別にあるのか。

 

〔TAKA!〕

〔GATLING!〕

〔BESTMATCH!〕

 

〔Are you ready?〕

 

「……そういう事か」

 

 龍我の顔を見た戦兎がボトルを引き抜き、中断する。

 

「お前、何でドライバーが『覚悟はいいか?』って聞いてくるか分かってる?」

 

「そりゃあ、変身するときって身体に負担がかかるから……」

 

「――――――――今のお前は『覚悟』をそういう風にとらえてるのか」

 

「何が言いてぇんだよ」

 

「初めてクローズに変身した時の覚悟と、今のお前の覚悟は意味が違う。

 

 お前、戦えることが普通って考えてるんじゃないの?」

 

「……」

 

 龍我は立ち尽くすしかなかった。

 これには反論できないから―――

 



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第五十五話 桐生戦兎をスティールせよ

 変身できなくなった龍我。

 

 彼は四国の海の無効を遮るように存在する壁を見つめていた。

 

「……本当に大丈夫だろうな」

 

 戦兎らは今、壁の外でバーテックス撃退の任務を行っている。

 あいつらなら大丈夫と自分に言い聞かせても不安は消えない。

 

「もしこれが、未来を見せるもんだってのなら……」

 

 以前自分に悪夢を見せたボトルを手に取る。

 

「―――――!?」

 

 これを振った瞬間、頭の中に映像が流れた。

 

 エボルドライバーを装着した者が一海・勇者と戦っている。

 姿はエボルのようだが、配色や装飾は別物。

 

 それに、戦兎の姿がない。

 

「まずい……このままだと……!」

 

 龍我は駆け出した。

 

 

 

 

「勇者部~」

「「「「「「ファイトぉー!!」」」」」」

 

「待て、何でお前らついてきたんだよ」

 

「勇者は根性!暑さなんてすっとばしてやりましょう!」

 

「そんな精神論でいけたら苦労しな―――」

 

 一海の忠告を無視して銀が斧を手に結界を超える。

 

「あっつぅ!」

 

 が、すぐに引き返した。

 

「言わんこっちゃねぇ……。変身」

 

〔燃える!潰れる!砕け散る!〕

〔ROBOTS IN GREASE! ブルァァァアアアア!!〕

 

 一海はグリスディスペンサーに変身し、スクラッシュバスターにジェットフルボトルを装填。

 引き金を地面に向かって引き、ジェット噴射を利用した大ジャンプで壁に達した。

 

 そして、ずんずん壁の外へ歩いて行った。

 

「随分暑ぃなぁ。勇者が無理なわけだ」

 

「え~!」

 

 

 

「さっとん、私達に出来ることってあるかな~?」

 

「そうだな……、これ、預かっててくれないか」

 

 戦兎は園子に勇者フルボトルを渡す。

 

「壁の外で溶けるわけではなさそうだけど、一応」

 

 ビルドドライバーを装着し、一海に続くためクローズマグマナックルとドラゴンマグマフルボトルを出し、ボトルを装填。

 

〔BOTTLE BURN!〕

 

 

「せん……と! はぁ……」

 

 そこへ、龍我が走ってきた。

 

「万丈、お前は待機って言っただろ」

 

「そのボトルを使うのはやめろ」

 

「……確か壁の外のマグマ製だっけ。大丈夫だ。ライダーシステムはこれに負ける程ヤワじゃねぇよ」

 

 ナックルのグリップを前方に倒し、ドライバーに挿す。

 

〔CROSS-Z MAGMA!〕

 

 レバーを回転させると、戦兎の後方にクローズマグマナックル型の溶鉱炉 マグマライドビルダーが出現。

 

〔Are you ready?〕

 

「戦兎!やめろ!」

 

「―――万丈、俺はもう自分を犠牲にする行為はしない」

 

 戦兎は園子に目を向ける。

 

「護りたいやつもいるし」

 

 次に龍我に目を向ける。

 

「ほっとけない奴もいる」

 

「何だよそれ……」

 

「マスターは前、『人間の生存区域を広げるな』と言った。これ以上人が増えると人同士の論争が勃発すると」

 

 惣一もとい葛城は人間の負の面を警戒し、芽が少しでも出れば潰そうとするのに対し、戦兎はこれを否定せずに、人間の善の心を信じることにした。

 

 四国とそれ以外に分かれてしまった世界が再び一つになっても、愛と平和が続くように。

 

「変身」

 

 マグマライドビルダーが傾き、溜まっていたマグマ上の液体が戦兎に被さり、空気に触れて黒く固まった。

 最後に、マグマライドビルダーが前に押し出され、固まったマグマが砕かれ吹き飛んだ。

 

 

〔極熱筋肉! クローズマグマ! アーチャチャチャチャチャチャチャチャチャァァァ!!!〕

 

 

 クローズの名を冠してはいるものの、クローズとは別物の戦士、仮面ライダークローズマグマ。

 

 戦兎は背中に備えられた翼で一気に壁の外へ向かった。

 

 龍我はそれを見ているしかなかった。

 すると、忘れたくても忘れられない声が背後から聞こえた。

 

「ッ!」

 

 とっさに拳を出す龍我だが、その声の主はこれを受け止める。

 

「危険因子になりうるお前を排除させてもらう」

 

〔バットエンジン! フハハハハハハ……!〕

 

「ローグ!」

 

 声の主、幻徳はマッドローグに変身し、龍我の拳をゆっくりとひねり始める。

 

「んぐっ……」

 

「例えネビュラガスが投与されていようと、生身の人間に変わりはない」

 

 勇者が救援に入ろうとするも、距離が遠いものや近いものも牽制され今いる位置からの接近は不可能。

 そこへ、エボルが介入する。

 彼は幻徳の腕を蹴り払い、拘束を解除させる。

 

「マスター……」

 

「――――――どうやら、お前らを止めることは出来なさそうだ」

 

 惣一が龍我に手を伸ばす。

 

「気づくの遅いんだよ」

 

「俺は結構頭硬いもんでね」

 

 惣一はドライバーのコブラエボルボトルを抜き、青いエボルボトルを取り出す。

 

「全てを始めた俺なら、終わらせる事も出来る。例え出来なくても、それの支援はできるかもな」

 

 青いエボルボトル―――ドラゴンエボルボトルを装填。

 

〔DRAGON!〕

〔RIDER SYSTEM!〕

〔EVOLUTION!〕

 

 青いハーフボディが形成され、エボルに重なる。

 

 

〔DRAGON! DRAGON! EVOL DRAGON! フッハッハッハッハハハハ!!〕

 

 

 頭部がクローズの色違いになり、胸部、肩部も変化した姿、ドラゴンフォーム(フェーズⅡ)に変身した。

 

 

〔READY GO!〕

〔VOLCANIC ATTACK!!!〕

 

 戦兎が右足で迫るバーテックスを薙ぎ払う。

 

 一海もスクラッシュバスターに三本のフルボトルを装填する。

 

「最大!」

 

〔SINGLE!〕

 

 一本目に消防車フルボトル

 

「灼熱!」

 

〔TWIN!〕

 

 二本目にダイヤモンドフルボトル

 

「連撃!」

 

〔TRIPLE!〕

 

 三本目にジェットフルボトル。

 

〔READY GO!〕

 

 最後にロボットネオスクラッシュゼリーをフルボトル用スロットとは別のスロットに装填。

 

「これが俺の力だァァァァ!!」

 

〔TREBLE CRASH!!!〕

 

 銃口を大型のバーテックスに向け、引き金を引いた。

 

 ずば抜けた初速の弾が打ち出され、バーテックスを貫く。

 だが、貫通する直前に御霊を移動したらしく消滅はしていなかった。

 

 そこで一海はスクラッシュバスターのグリップをフルボトルスロットと平行になるよう変形させ、足場から飛び降りつつ破壊を免れた御霊を分断。今度こそ消滅した。

 

「残り一体――――――あ?あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 足場に戻ろうかと思った矢先、重力に逆らえず落下。

 

 

 この場にいるバーテックス最後の一体、レオを前に戦兎は立っていた。

 

 さっきから何かがおかしい。

 こう思いながら。

 

《これは報復だ。桐生戦兎……》

 

 レオ・バーテックスから声が聞こえた。

 

「うるせぇ!」

 

 戦兎はドライバーからナックルを外しグリップを握り、グリップ正面のボタンを左手の平で押す。

 

 ナックルの加熱装置が作動し、ドラゴンマグマフルボトルの力を倍増される。

 

「これで終わりだ―――」

 

 

〔VOLCANIC KNUCKLE!!! アチャァァァァッ!!〕

 

 

 レオも熱戦で対抗し、燃え盛る戦兎と熱戦が重なった。

 

 

 

 

 神樹に樹海化をさせないため、壁の外でバーテックスを撃破する戦いは終わった。

 

「…………ハハハハハハ!!」

 

 幻徳が突如そっぽを向いて笑い出した。

 その視線の先には、一海とともに帰還した戦兎の変身するクローズマグマ。

 

 二人は壁の上から龍我らのいる地点へ飛び降りる。

 

「戦兎、一海。行くぞ!」

 

「おぅ!」

 

「……」

 

〔READY GO!〕

 

〔EVOLTECH FINISH!!!〕

〔MEGA SCRAP BREAK!!!〕

 

 惣一が炎を纏わせたパンチ、一海が空中からのキック。

 幻徳は両腕でこれらを防ぐが、さすがに吹き飛ばされてしまう。

 

「……おい、戦兎?」

 

 龍我が戦兎に寄り、戦兎が彼の方を向いて変身を解除する。

 

 そこにいたのは

 

 

 

 

「よう。バンジョウ」

 

 

 

 

 髪が星屑のような白色になった戦兎の姿。

 

「戦兎……?いや違う。お前……誰だ」

 

 戦兎は懐から紺色のエボルボトルを取り出す。

 これには大赦の紋章が描かれており、コブラエボルボトルではコブラの頭部状のパーツがあった場所には青いカラスのような鳥状のパーツがつけられていた。

 

「あの時の……懐かしい」

 

 ニタッと笑ってエボルドライバーを取り出す。

 

「どういうことだ!幻徳!」

 

「神は我々人間の予想を容易く覆す」

 

 

「そして、貴様ら人間も我の予想をいとも簡単に覆す」

 

 

「神……?」

 

〔BRAVER!〕

〔RIDER SYSTEM!〕

〔EVOLUTION!〕

 

 戦兎―――彼の体の主導権を握った天神がエボルドライバーに二本のエボルボトルを装填。

 

〔Are you ready?〕

 

「変……身」

 

 

〔BRAVER! BRAVER! EVOL BRAVER! ギィェアハハハハハハ!!〕

 

 

「……あれが当たっちまった……」

 

 龍我の悪夢が的中した。

 彼が見たエボルのような戦士とはこのことだった。

 

 白を基調とし、同色のローブが腰に下がっている。

 装飾も元々の仕様なのか天神の改変なのか、やけに西暦の勇者に酷似したものになっている。

 

「素晴らしい。これがライダーシステムか……」

 

 首や腕を動かし、どう動くか、可動域の限界を確かめる天神。

 

 今の言葉で他の者たちは、戦兎が何者かに乗っ取られた事を確信した。

 

「さっとんを―――――返せ!」

 

「てめぇ……何しやがったァァァ!!」

 

 園子と一海が得物を構え、一気に距離を詰める。

 

「! よせ!二人とも!」

 

 惣一が警告するが遅かった。

 

 天神がレバーを回転させると右腕に古びたガントレットが出現。

 

〔READY GO!〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――――勇者パンチ」

 

 

〔EVOLTEH FINISH!!! CIAO!〕

 

 右拳を地面に叩きつける。

 

 一海は咄嗟に園子の前に立ち、得物を盾にしたが防御した方向とは別の所から衝撃波が襲い掛かった。

 

「ん?貴様は乃木…………そうか。そういう事か。奴は子を残していたか。『何事にも報いを』。人間らしい愚かな発想だ。ハハハハハ!」

 

 その時、彼の頭部が横から殴打される。

 

「愚かなんかじゃない!人は、助けて助けられて成り立ってる!それをバカにするなんて……許さない!」

 

 友奈だった。

 

「馬鹿は貴様らだ、人間!同族で殺しあう貴様らを馬鹿以外に何と言う!」

 

 天神はクロスボウを召喚し、矢を放つ。

 友奈はそれを回避するが、着弾した地面は凍り付く。

 

「さっきから自分は人間じゃないみたいな言い方だな。誰だ」

 

 

 

「俺は"仮面ライダーヴァーテックス"。『頂点』という意味のバーテックスだ。以後、お見知りおきを」

 

 

 

 天神は戦兎の口調を真似てこう名乗った後、姿をくらませた。




次回、万丈がパワーアップ!(クソテロップ)
クッソ雑で申し訳ない…


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第五十六話 太陽のドラゴン(前編)

 仮面ライダーヴァーテックスが姿を消し、nascitaに戻った龍我ら。

 

「まさか……あれを使われるとは……!」

 

「一瞬エボルみてぇな色だった。マスター、何なんだよアレ」

 

「…………あれは本来、フェーズⅣとして想定していたものだ」

 

 惣一が話し始める。

 

 仮面ライダーエボルにはフェーズが存在し、コブラフォームがⅠ、ドラゴンフォームがⅡ。Ⅲ用のエボルボトルも彼が所有している。

 フェーズが上がるごとにエボルドライバーの制限が解除され、基本スペックが上昇していく。

 

 そして何より、天神が戦兎を器としたことが問題である。

 

 彼は多くのフルボトルを所有しているだけでなく、ライダーシステムについての情報も葛城から受け継いでいる。

 

「―――つまり、今までの戦法が通じないってか」

 

「その上、戦兎の安否も天神の掌の上。この状態が長続きすれば―――」

 

「じゃあ―――」

 

 園子の言葉を遮るように龍我が口を開いた。

 

「―――ぉい」

 

 彼は脱力した表情をしていた。

 

「死ぬのかよ。なぁ」

 

「最悪の場合、そのような事もあり得る」

 

「……」

 

 龍我は脱色したドラゴンフルボトルを握りしめた。

 自分だけ変身できない。そんな疎外感と、いつの間にか書き替えられた『覚悟』の意味に悩みながら。

 

「とにかく、戦法を変える」

 

 惣一が地下室へ移動し、龍我と一海が続く。

 

 

 

 

 

「クローズチャージ用のツインブレイカーが余ってるだろ?それを使う」

 

 一海が地下室の端に安置されているツインブレイカーに目を向ける。

 そこには、ホークガトリンガー等のベストマッチウェポンも置かれていた。

 

 惣一が早速龍我がかつて使用していたツインブレイカーの転送先をクローズチャージからグリスディスペンサーに変更しようとするが

 

「何だ―――?」

 

「あ?問題でもあったか」

 

 既に転送先が変更されていた。

 

「―――『CROSS-Z MAXIMUM』……」

 

 "クローズマキシマム"こう書かれていた。

 それだけではない。まだ下に続いていた。

 

 

「ここは……何処だ……」

 

《以前貴様がパンドラボックスを破壊した場所だ》

 

 一方、戦兎は一時的に天神から解き放たれ、意識を取り戻した。

 そこには、パンドラボックスの残骸と二人の仮面ライダー。

 

「っ、その声は―――」

 

「持っているボトルをすべて出せ」

 

 マッドローグが戦兎の体を持ち上げ、彼の持つフルボトルを地面に落とす。

 

《……使用済みのものばかりか》

 

 ヴァーテックスがラビットムーンフルボトルを手に取る。

 

「そのボトルはパンドラボックスに対応していない……。残念だったな……」

 

《―――ケッ。まぁいい》

 

 ヴァーテックスがラビットムーンフルボトルを投げ捨て、小箱のようなものを取り出した。それにはパンドラボックスのような紋様が刻まれており、裏にはビルドドライバーのスロットに対応した形状になっている。

 

《貴様らが持つフルボトル。これの基は人間が神樹と呼ぶ離反者の集まりが創りだしたパンドラボックスの力……。奴らに出来て我に出来ない筈がない》

 

 ヴァーテックスが手のひらから数種のフルボトルを形成。中にはフェニックスやロボットも混ざっており、それはどれも戦兎の使用したことのないものだ。

 

「……」

 

《ゲントク、貴様もだ》

 

「……今の力で複製すればいいだろう」

 

《この体は不完全だ。こんな所で力を浪費したくはない》

 

「……」

 

 マッドローグがドライバーに装填されているフルボトルを抜き、戦兎に投げる。

 

「―――!」

 

「お前たちの創ってきた技術が、これを生み出した」

 

「ローグ……!」

 

 戦兎の前に姿を現した幻徳。

 

「……」

 

 《戦え。桐生戦兎―――》

 

「……そうするしかないみたいだな」

 

 戦兎はバットとエンジンのフルボトルを拾い、ビルドドライバーに装填する。

 

〔BAT!〕

〔ENGINE!〕

〔BESTMATCH!〕

 

〔Are you ready?〕

 

「変身」

 

 戦兎の体が紫と赤のハーフボディに挟まれ、一つの装甲が形成される。

 

〔暗黒の起動王! バットエンジン! YEAH〕

 

 

「クローズマキシマム?何だそれ」

 

 知らない単語に頭を抱える二人だったが、龍我だけ心当たりがあった。

 

「もしかして……」

 

 戦兎の机の引き出しを開けてみる。

 

 青いガジェットが出てきた。

 

「クローズ……トリガー」

 

 龍我がつぶやいた。

 

「これを使えば……変身できるようになるのか?」

 

 彼の心の中で、それでもダメという声がした気がした。

 

「俺……ちょっと風に当たってくる」

 

 

〔VOLTECH FINISH! YEAH!〕

 

 戦兎の変身したビルド バットエンジンフォーム。

 

 彼はその力を使い、発動機の力で蒸気を噴出させそれに紛れるように姿を消す。

 次にコウモリの鳥類にも匹敵する飛行能力で素早く死角に回り込み、体当たりを仕掛ける。

 

 ヴァーテックスはこれに対し縁に刃の付いた盾、旋刃盤を召喚し防御。

 開いている左手でドライバーのレバーを回転させる。

 

〔READY GO!〕

 

 戦兎を旋刃盤で跳ね返し、それを捨ててかつて『生太刀』と呼ばれていた武器を召還し、地面を蹴って戦兎に急接近。同時に抜刀した。

 

「一閃――――――緋那汰」

 

〔EVOLTECH FINISH!!!〕

 

 これを真正面から受けた戦兎は、装甲の一部が切断され、地面に叩きつけられる。

 

《貴様のような不十分な人間が我に勝てるとでも思ったか》

 

「なっ……何……、ッ!」

 

 戦兎は一瞬動揺しながらも、ドライバーのボトルを変更する。

 

〔OBAKE!〕

〔MAGNET!〕

〔BESTMATCH!〕

 

 《貴様は葛城巧の記憶を継いだ佐藤太郎などではない。佐藤太郎を否定し、葛城巧の記憶をモノ創りの説明書としか見ていない何でもない存在だ!》

 

「ビルドアップ!」

 

〔彷徨える超引力! マグゴースト! YEAH……〕

 

 戦兎は幽霊と磁石の力を持つ形態になり、生太刀が当たる寸前体を半透明化させ、一時的に物理的ダメージを無効にした。

 

「お前に俺の何がわかる!」

 

 戦兎は左腕に装備されたU字磁石型の武装の力で磁力を発生させ、生太刀をこちらへ引き付けようとする。

 

 ヴァーテックスは抵抗せずに生太刀を離す。

 

 そして、かつて『大葉狩』と呼ばれた大鎌を召喚。

 

《それだけではない。お前は大きな勘違いをしている》

 

 ヴァーテックスがレバーに手をかける。

 

《正義のヒーローなど、存在しない》

 

「―――そんな訳ない!」

 

〔HAZARD ON!〕

 

 戦兎はハザードトリガーを起動し、接続と同時に紫と白のフルボトルを装填。

 

〔CROCODILE!〕

〔REMOCON!〕

〔SUPER BEST MATCH!!〕

 

 

〔READY GO!〕

〔Are you ready?〕

 

 

 ヴァーテックスがかつての大葉狩の使用者が宿した精霊 七人御先の力で自身を7体に増やし、7方向から戦兎を襲撃する。

 

「――ビルドアップ」

 

 その瞬間、戦兎がハザードライドビルダーに挟まれる形で完全に姿を隠した。

 

 流石のハザードライドビルダーもこの攻撃には耐えられず、砕け散ってしまう。だが、彼のフォームチェンジは止められなかった。

 

 

〔UNCONTROL SWITCH! BLACK HAZARD! ヤベェェェェイ!!〕

 

 

《……そう来るか》

 

 

「……」

 

 龍我は一人、昔を思い出していた。

 こういう事を思い出すのは未練があったみたいで嫌だとは思ったが、何かヒントがあると彼は信じていた。

 

『ねぇ龍我』

 

『ん?』

 

『いつもありがとね。こんな私の傍にいてくれて』

 

 このころの香澄は体調を崩していた。

 ―――これが心臓病に繋がっていたとは龍我はこの時、思ってもいなかった。

 

『惚れた女の傍に男はいるもんだろ』

 

『……』

 

『香澄?』

 

『龍我って、太陽みたいだなって』

 

『俺そんなに暑いのか……』

 

『確かに熱いね。でも、私にとっては暖かい』

 

 香澄は龍我に体を預けるように寄り添った。

 そして、彼女は自分の体の事を理解していた。

 

 

 ―――私がいなくなっても、誰かを照らせる人になってね

 

 

「…………太陽……」

 

 顔を上げる龍我。

 

「覚悟……」

 

 その時、惣一からの連絡が入る。

 

「――お前の遺してくれたこれで、あいつを救ってみせる」

 

 

 ヴァーテックスがドライバーからブレイバーエボルボトルを抜き、フルボトルを装填。

 

〔狙撃銃!〕

〔RIDER SYSTEM!〕

〔CREATION!〕

 

〔READY GO!〕

〔狙撃銃 FINISH!〕

 

 ヴァーテックスの背に大剣、左手にワイヤーの発射機構の付いたガントレット、右手に狙撃銃が装備される。

 

 ヴァーテックスが戦兎とは違う方向に狙撃銃の銃口を向けた。

 

「まずい……っ!」

 

 戦兎は地面を蹴って先回りした。

 ヴァーテックスが狙撃を中断し、銃を放り捨てて大剣を振るう。

 

 戦兎がそれを受け止める。彼の後ろには、先ほど狙撃されそうになった子供。

 

 一瞬見えたその顔に既視感を覚えたものの、戦いに意識を戻しレバーを回す。

 

〔READY GO!〕

〔HAZARD ATTACK!!〕

 

 両足をワニの顎に見立て、得物を食いちぎるかのようにヴァーテックスを吹き飛ばした。

 

 だがヴァーテックスはその瞬間姿を消し、再び戦兎の体の主導権を握る。

 

「もう少し……いや、ほど遠いか。残念だったな。桐生戦兎―――」

 

 白髪の戦兎は幻徳を連れこの場を後にした。

 



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第五十六話 太陽のドラゴン(後編)

遅れました。生きてます。
その分と言うのもおかしいですが今回は長めです。(本文・後書き)


 惣一からの連絡を受け、龍我が現地に到着した。

 

「万丈!」

 

 白髪の戦兎が口を開いた。

 

「何だ、あの女たちはいないのか」

 

「戦兎を返せ」

 

「―――戦えない人間が何を言っている?」

 

「ッ……」

 

〔BRAVER!〕

〔RIDER SYSTEM!〕

〔EVOLUTION!〕

 

〔Are you ready?〕

 

「変……身」

 

〔EVOL BRAVER! ギィェアハハハハハハハ!!〕

 

 

「「―――変身!」」

 

 スクラッシュドライバーⅡを装着した一海がロボットネオスクラッシュゼリーを装填。

 

〔GREASE DISPENSER!〕

 

 エボルドライバーを装着した惣一がドラゴンとライダーシステムのエボルボトルを装填。

 

〔DRAGON!〕

〔RIDER SYSTEM!〕

〔EVOLUTION!〕

 

 

〔ROBOTS IN GREASE! ブルァァァアアアア!!〕

 

〔EVOL DRAGON!〕

 

「心火を燃やして……ぶっ潰す」

 

 一海はツインブレイカー(アタックモード)を召喚。

 

 惣一は拳を作りヴァーテックスへ走る。

 

 ヴァーテックスは旋刃盤を召喚し、惣一の拳を受け止め、一海へはボウガンの乱射を行う。

 

〔BEAM MODE!〕

 

 一海はツインブレイカーの砲身を展開し、ロボットネオスクラッシュゼリーを装填。

 

〔SINGLE FINISH!!〕

 

 装甲の薄い腰部に命中するも反応は薄い。

 

 だが、惣一の出した拳は違った。

 

 一本でも十二分な力を持つドラゴンフルボトルで変身するクローズ。

 そしてこれを葛城が発展させたクローズチャージ。

 

 この二つをさらに発展させたものがエボル ドラゴンフォーム。

 

 拳から出る熱により徐々に旋刃盤に穴が開き始める。

 

 惣一は空いている左手でレバーを回転させる。

 

〔READY GO!〕

〔EVOLTECH FINISH!!!〕

 

 拳に炎が纏い、旋刃盤が盾としての役割を失った―――その時、

 

 コウモリの翼の生えた存在が乱入し、惣一をヴァーテックスから遠ざける。

 

「幻徳……」

 

「石動……。お前はどう足掻いても葛城であることに変わりはない」

 

 突如現れたマッドローグ―――幻徳は翼を消し、惣一に迫る。

 

〔RIFLE MODE! FUNKY!〕

 

 幻徳はネビュラスチームガンとスチームブレードを合体させ、射撃で牽制しつつ接近。

 

 しかし惣一はこれを腕で防御し、彼もまた幻徳との距離を詰める。

 

「自分を石動惣一と偽って―――」

 

〔FULL BOTTLE!〕

 

 幻徳はネビュラスチームライフルにエンジンフルボトルを装填。

 

「戦いを他へ任せ―――」

 

 銃身下の刃で切り付け、銃口が惣一の体に向いた瞬間引き金を引いた。

 

〔FUNKY SHOT!! FULLBOTTLE!〕

 

「逃げてきた!」

 

「ぅぐっ……!―――あぁ。俺はあの時、逃げたんだ。そのせいで万丈を冤罪という形で巻き込み今に至った……」

 

 惣一は赤いエボルボトルを取り出した。

 

「でも……もうそんな真似はしない。俺の事を父親と言ってくれたあいつを助けるためにも……恥ずかしい恰好はもうしたくないんだよ―――!!」

 

 赤いエボルボトル――ラビットエボルボトルをエボルドライバーに、ドラゴンと交換する形で装填。

 

〔RABBIT!〕

〔RIDER SYSTEM!〕

〔EVOLUTION!〕

 

〔Are you ready?〕

 

「エボル……フェーズⅢ」

 

〔RABBIT! RABBIT! EVOL RABBIT! フッハッハッハッハハハハ!!〕

 

 頭部の複眼がラビットに変更され、全体的に曲線が目立つ様に。

 同時にエボルドライバーのロックが一段階解除され、基本性能が上昇。

 

「フッ!ハァ!」

 

 さらに戦法が跳躍力を生かした蹴りに変更。

 

〔機関砲!〕

〔RIDER SYSTEM!〕

〔CREATION!〕

 

 惣一がドライバーのラビットエボルボトルをガトリングフルボトルに変更。

 このボトルに対応した武器、ホークガトリンガーを召喚。

 

 なお、ヴァーテックスもこのボトルを複製している上、クリエーションも可能なため、この武器召喚は奪取・悪用を防ぐ役割も果たしている。

 

〔TEN!〕

〔TWENTY!〕

〔THIRTY!〕

 

 ホークガトリンガーのシリンダーを回転させ、装弾を開始。

 

 

 

 ◇

 

「大丈夫、万丈さん達が何とかしてくれるよ」

 

「……」

 

「……そのっち?」

 

「―――何か、嫌な予感がする」

 

 

〔ONE HUNDRED! FULL BULLET!〕

 

 ホークガトリンガーの装弾数が最大の100に到達。

 惣一は引き金を引き、それを一気に放つ。

 

〔READY GO!〕

〔EVOLTECH ATTACK!!!〕

 

 幻徳はそれを相殺しようとするが、出来たのは最初だけ。

 必殺技の直後、エボルドライバーの性能向上のための安全装置廃止が重なり、数十発もの弾を正面から食らう。

 

「お前の負けだ。幻徳」

 

 もう一度レバーを回そうとする幻徳の頭に銃口を向ける。

 

「―――何故気づかない」

 

「何にだ?人を殺め、破壊行為をするお前の言動は説得力がない」

 

「何もかも存在する場所から新しいものは創られない―――」

 

〔EVOLTECH FINISH!!!〕

 

 ヴァーテックスがボウガンを惣一へ放ち、数発が身体へ、数発が地面に着弾し、着弾した地面が惣一の足ごと凍る。

 

「何をしている。その男に止めを刺せ」

 

「……」

 

「聞こえなかったか?そいつを―――」

 

「余所見してんじゃねぇ!!」

 

 一海がスクラッシュバスターをバスターブレードに変形させ振るう。

 

 だが、大ぶりな得物だけあり、ヴァーテックスに止められてしまう。

 

「戦兎……少し痛ぇぞ!」

 

 一海はドライバーのレンチを下げた後、ロボットネオスクラッシュゼリーをスクラッシュバスターのフルボトルスロットの上部の専用スロットに装填。

 

〔READY GO!〕

 

〔MEGA SCRAP BREAK!!!〕

〔LET'S CRASH!!!〕

 

 ドライバー側の必殺技を腕部に集中、バスター側のものを得物の刃に集中させ一気に振り下ろす。

 

「―――痛いじゃないか」

 

「ッ!」

 

 ヴァーテックスは声を戦兎のものに戻してこう言った後、必殺技を発動。

 

「やべぇ……!」

 

 二重の必殺技発動の直後だったため、回避行動をとれそうにない。

 

「―――勇者キック」

 

〔EVOLTECH FINISH!!!〕

 

 回し蹴りが一海に直撃。

 

「グアアアアア!!」

 

 

「一海!」

 

 変身できないため、見ていることしかできない龍我。

 彼の手には脱色したドラゴンフルボトルと、戦兎の開発したガジェット。

 

「……変身できなくたって、俺は戦える」

 

 そんな彼を鼓舞するようにクローズドラゴンマックスが鳴く。

 

 

 

「――――戦場でまた会おう」

 

 幻徳が姿を消した。

 

「……石動()じゃ戦う価値もないってか―――――ッ!?」

 

 突如、体中に痛みが走る。

 慣れていないドラゴン及びラビットフォームの使用、ドライバーの安全装置撤廃が重なってしまったのだ。

 

「今は戦兎の救出に集中しろ……」

 

 惣一は形態をコブラに変更し、ヴァーテックスに向かって駆ける。

 

 そして、もう一人、ヴァーテックスに挑む者が。

 

 

 

 

「ハァァァァ!!」

 

 龍我がドラゴンフルボトルを握りしめた手でヴァーテックスを殴る。

 

「何やってんだ龍我!引っ込んでろ!」

 

 小突かれただけで良くて重症、最悪即死。

 フルボトルの力で身体能力が上がっているとはいえ限度がある。

 

「ここまで来て……黙って見てるわけにはいかねぇだろ!」

 

 ヴァーテックスの拳を避けながら腹部に向かって自分の拳をぶつける。

 

「あいつがいたから、今俺はここにいる!」

 

「―――見くびるな」

 

 ヴァーテックスが大葉刈を召喚。

 

〔EVOLTECH FINISH!!!〕

 

「!」

 

 龍我はかろうじてそれを回避するが、衝撃波までは回避できなかった。

 これは他の二人も同じ。

 そして、クローズドラゴンマックスもそれに巻き込まれ、カメラアイの光が消えた。

 

 倒れこむ三人を見てヴァーテックスは勝利を確信して高笑いする。

 そして、自らと戦兎の体を分離させ、首を掴む。

 

 龍我の目の前で戦兎を葬る。これが彼らの戦意を喪失させる方法として判断された。

 

 

「まだだ……まだだァァァァ!!」

 

「無駄な事を」

 

 ドラゴンフルボトルを振りたびに何かが吸われる感覚がするも、龍我はヴァーテックスに挑む。

 

「力を……貸してくれ……!」

 

 心で叫ぶ。

 このフルボトルの基になったスマッシュ、これにされた香澄、

 そしてこのフルボトルを作ってくれた戦兎に。

 

「何度やったところで何も変わら―――」

 

 突然、龍我の拳が当たる度蒼炎が発生し、力が増した。

 

「オラァァアアアアアアア!!!」

 

 龍我の拳がヴァーテックスの頭部に直撃し、ヴァーテックスは初めて姿勢を崩し戦兎を手放した。

 

「な、何だ……?」

 

 自分でもわからなかった。

 

 握っていたフルボトルに目を向ける。

 

 すると、透明だった外装が蒼に

 

 正面のレリーフは燃え盛る太陽を背景にした蒼い龍へ、

 

 さらにキャップの『D/L』のラベルは、ライダーシステム全般を表す紋章と太陽を組み合わせたものに変化した。

 

 戦兎が創ったラビットムーンフルボトルと対をなすように、龍我が生み出した太陽を司る―――ドラゴンサンフルボトルが生成された。

 

 

 ――――今なら出来る

 

 こう確信し、ビルドドライバーを装着。

 

 クローズトリガーを起動しドライバーに接続。

 

〔DRAGONIC EVOLUTION!!〕

 

 この時、ヴァーテックスの足元に転がっていたクローズドラゴンマックスが再起動し、惣一の使用していたガトリングフルボトルを自身の背中に装填。

 

〔CROSS-Z FLAME!〕

 

「―――!」

 

 口から小さな火球を連射しながらヴァーテックスと距離を取り、首と尾を畳んで龍我の手に収まった。

 

 龍我はクローズドラゴンマックスにドラゴンサンフルボトルを装填。

 

〔WAKE UP!〕

 

 さらに、ドライバーに装填。

 

〔MAXIMUM CROSS-Z DRAGON!!〕

 

 続いてレバーに手をかけ、一気に回転させる。

 

 

 ライドビルダーは展開していない。

 

 

 

 

Are you ready?

 

 

 

 

「―――――――――――変身ッ!!

 

 今まで忘れていた"覚悟"を胸に叫ぶ。

 

 スナップライドビルダーに酷似した"クローズライドビルダー"が展開され、龍我の体に、頭部横にハザードフォーム特有の角が付いたこと以外、クローズネオに酷似したスーツと装甲が形成され、

 

 

WAKE UP CROSS-Z!!

 

 

 その上から腕部・脚部にネイビーブルーの追加装甲が装着され、

 クローズ、クローズネオに備わっていた腕部の白いブレードが鋭利・拡大。

 

 

GET AUTHENTIC(オーセンティック) DRAGON!! YEAAAAAH!!!

 

 

 さらに、クローズライドビルダー側面に形成された、龍の翼を模したものと、角が鋭利化した龍の正面顔を模した追加装甲が装着。腰からはローブが靡く。

 最後に、龍の横顔の形をした複眼にネイビーブルーの縁が追加され―――

 

 

 

 

 

「あれが……仮面ライダー……」

 

「クローズマキシマム……」

 

「馬鹿な……!」

 

 真の"覚悟"を取り戻した龍我の新たな姿。

 

「――――やっと思い出した。戦兎の伝えたかった覚悟……俺の覚悟を!」

 

 龍我がドライバーのレバーを二回回す。

 

〔READY GO!〕

 

「もう誰にも……止められねェェエエエ!!」

 

 両拳に蒼炎を纏わせ、一気に距離を詰める。

 

〔PROMINENCE DRAGONIC ATTACK!!!〕

 

 ヴァーテックスが防御態勢を整える前に拳を繰り出す。

 

「オォォォオラオラオラオラァ!――――ハァッ!」

 

 今繰り出した拳を引くと同時に逆の拳を繰り出す。

 この連撃の後、脚で薙ぎ払った。

 

「……こんなモノを何処から―――ッ?!」

 

 ヴァーテックスは戦兎の記憶から情報を引き出そうとするが、今は戦兎と分離した状態。

 それに、今戦兎のダメージの蓄積した身体を使っても動きが鈍るだけだ。

 

 そんなヴァーテックスは腕にガントレットを召喚し、龍我の利き手の逆、左側に向かって拳を繰り出す。

 

 龍我は咄嗟の判断で左拳で対抗する。

 その時、左腕の装甲から炎が溢れ出し、それが消えると同時にツインブレイカーが召喚される。

 

 ツインブレイカーのパイルがヴァーテックスの腕とガントレットの間に食い込んだ状態で高速回転。

 この状態で左腕を外側に振り、ガントレットを引きはがした。

 

〔BEAM MODE!〕

〔READY GO!〕

 

 龍我はクローズドラゴンマックスをツインブレイカーに装填。

 二門の砲身から龍の形のエネルギー弾を放つ。

 

〔LET'S FINISH!!〕

 

 

 

 

「―――すげぇ」

 

「猿渡」

 

「あぁ。見てるだけにも……いかねぇよなぁ!」

 

 一海が得物を支えに立ち上がり、惣一も続く。

 

 

 

 

「何故だ……何故そのような力を生み出せる――――」

 

「うるせぇ!」

 

 龍我がクローズトリガーのスイッチを押し、レバーを五回回転させ、

 

〔SUPER DRAGONIC EVOLUTION!〕

〔READY GO!〕

 

 

〔BLAZE FLOW!〕

 

 この音声とともに追加装甲を翼として展開し、蒼炎を全身にまとった『ブレイズフローモード』に移行、と同時に二段階目の必殺技を発動する。

 

 

〔MEGA SCRAP FINISH!!!〕

 

 だが、一海たちの方が早かった。

 一海がエネルギーを巨大なロボットアームにし、ヴァーテックスを固定。

 

〔EVOLTECH FINISH!!! CIAO!〕

 

 そこへ惣一がヘビのように一海と龍我を掻い潜りながらヴァーテックスの真下でアッパー。

 命中した瞬間にため込んだエネルギーが爆発し、ヴァーテックスが無防備な状態で空中に投げ出される。

 

 

「龍我ァ!」

「万丈!」

 

「今の俺達は――――負ける気がしねぇ!!」

 

 龍我が高く飛び、その姿が太陽と重なる。

 

 そして、

 

 

〔PROMINENCE DRAGONIC BREAK!!!〕

 

 

 

「ハアァァァァァァ!!」

 

 キックがヴァーテックスに炸裂。

 

 《――これで終わりだとと思うな――――人間》

 

 龍我が着地すると、彼の視界に上から降ってきたものと思われる小箱が移った。

 

「何だこれ―――ってそれどころじゃねぇ!」

 

 ヴァーテックスの撃破以前の問題を思い出し、それに向かって走る。

 

「戦兎!おい戦兎!」

 

 変身を解除し、倒れている戦兎を抱え上げる。

 

 一海と惣一も変身を解除し二人のもとへ向かう。

 

「返事してくれよ……!護りたいやつとほっとけないやつがいるんだろ……?だったらこんな所でくたばるわけにはいかねぇだろ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あたたた…………あれっ」

 

 戦兎の意識が回復した。

 

「戦兎!」

 

「痛い痛い。掴むのはやめてくれ……」

 

「っと。悪い」

 

 戦兎が苦にならない姿勢になると、彼の懐から何かがポロっと落ちた。

 

「……ラビットボトル?それにドラゴンまで……」

 

 天神によって複製されたフルボトルだった。

 

「それより万丈、変身できたんだな」

 

「おうよ!クローズマックスまじ最強!イエェェェェェイ!」

 

 

 

「戦兎、体の方はどうだ?」

 

 一人で盛り上がった龍我を置き、惣一が戦兎のもとへ寄る。

 

「何か、頭がすっきりした感じがするけど……それ以外は……痛っ。

 それより、ナシタに帰って何か飲みたいな。マスターのコーヒーでもいいから」

 

「良かった」

 

 惣一が安堵の表情を見せ、こう続けた。

 

 

「おかえり」

 

 

「ただいま」

 

「家族ごっこは後にして帰るぞー」

 

 戦兎を一海と惣一が支える。

 

「ごっこじゃない。俺達は家族だ」

 

「……だな」

 

 

 

「ところでオーセンティックってどういう意味だよ変態バ一海」

 

「知るか。それとバカ呼ばわりやめろお前と被る」

 

 

 

 

「――――ほんと、お前は変わったよ。あの時から」

 

「……あの時?」

 

「太郎。佐藤太郎の頃だよ。覚えてるだろ?」

 

「……あっ、あぁ……」

 

 天神が弱まった影響か、暑さも軽減していた。

 

 そして、太陽は優しく世界を照らしていた――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サトウタロウ?一体誰のことを言っていたんだ……?」

 

 

 




簡単な解説

・AUTHENTIC
「真の」という意味。

・ドラゴンサンフルボトル
成分が半減していたドラゴンボトルにドラゴンスクラッシュゼリーの中身を加えて再び浄化したものに万丈龍我の遺伝子と太陽のエレメントの入ったフルボトル。

・クローズドラゴンマックス
破壊されたクローズドラゴンから回収したAIを移植した後継機。
クローズドラゴンのメインとサブの色が反転したカラーリングになっている。
普段はリミッターがかけられており、クローズトリガーによってそれが解除される。

・クローズトリガー
レフトカイザーから奪取した二つ目のハザードトリガーを改造したガジェット。
ビートクローザーのものに似たメーターが備わっており、レバーの回転数に応じて発光の仕方が変化。

・仮面ライダークローズマキシマム
クローズトリガーを接続したビルドドライバーにDSフルボトルを装填したクローズドラゴンマックスをセットして変身。
龍我本人は「長すぎる」と名前をクローズマックスと称している。
クローズチャージ、クローズネオから有機物ボトルの特性強化、単独飛行能力を継承。
全身に蒼炎を纏ったブレイズフローモードに移行可能。

10/24 クローズマキシマムの容姿とその必殺技、「マキシマムドラゴニックアタック(ブレイク)」のマキシマムを太陽に関連したワードであるプロミネンスに変更しました。


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第五十七話 プロジェクトビルドの終局

「あ˝~……最っ悪だ……」

 

 戦兎が虚ろな目で呟いた。

 

 いま彼がいる場所はnascitaではない。病院である。

 

 天神に身体を長時間使われたのだ。

 

 それでも、体内に何か仕込まれたり()()()()()()()といったことは無くて良かった。

 

「――って程でもないか」

 

 別に点滴をやっているわけではないので今すぐ医者を呼んで帰ろう。

 こう思ったその時、

 

 

 病室のドアが開かれた。

 

 

 

「「「……」」」

 

 一方、nascitaではライダー(無職)三人が視界に広がる光景に絶句していた。

 

「これ、どうするんだよ」

 

 彼らの前にあるものは大量のフルボトル。

 

 元から所持していたフェニックス、ロボット、バット、エンジン以外の56本、

 そして天神が複製した60本。

 

「欲しい人ー」

 

「「はーい!」」

 

「欲しいのかよ!」

 

 友奈と銀が挙手するも、惣一がそれを下げさせ、話を切り出した。

 

「まずこいつを見てほしい」

 

 惣一がエボルドライバーの外装の側面の一部を外し、そこへコードを接続。このコードの反対側にはパソコンが接続されていた。

 

 次に、天神が撤退時に落としたパンドラボックスと同じ模様が刻まれた小箱をエボルドライバーのスロットに挿す。

 

 すると、パソコンの画面の中央に赤字でDANGERと表示され、警告音が鳴り響いた。

 

「何だよこれ」

 

「パンドラボックスの残留物質。天神がかき集めたんだろう」

 

 惣一がドライバーから小箱を抜き、裏側を見せる。

 そこには、フルボトルの裏にもあるドライバー装填用のレーンが二つ存在した。

 

「……これには戦兎の力も必要だ」

 

 力だけを求め、我が身を犠牲にしようとした自分だけでは完成しないと言った。

 

「で、何すんだよ」

 

「60本のボトルの成分を注入し、究極のフルボトルを創り上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビルドαから始まったライダーシステム。

 これに終止符を打つ"ビルドΩ"を開発する」

 

 

 

「君は……」

 

 戦兎は病室に入ってきた少年に見覚えがあった。

 

 ヴァーテックスとの戦闘に巻き込まれかけた少年。

 

 しかし、それ以前にも彼とは遭遇していた。

 

「葛城さんの……」

 

「うん。あの時はありがとう」

 

 葛城巧の情報を得るため、彼の母親のもとへ訪れた時にスタークの手によってスマッシュにされたあの少年だった。

 

「久しぶり。体は大丈夫か?」

 

「それはこっちのセリフだよおじさん」

 

「おじっ……」

 

「先生に聞いたよ、あの赤いのについて。兄ちゃんが作ってたんだよね」

 

「……怖くないのか」

 

「人は見た目じゃないよ」

 

「……嬉しいこと言ってくれるねぇ」

 

「ねぇ、おじさん」

 

「……何だ」

 

「おじさんは何のために戦ってるの?誰と戦ってたの?」

 

「……俺の、戦う理由……」

 

 戦兎はそこから先を言えなかった。思いつかなかった。

 

「なんか、暗い話になっちゃったね」

 

「君みたいな子供がそんな暗い顔しちゃだめだよ」

 

 戦兎は手を伸ばし、少年の頭をなでる。

 邪気が一切ない笑顔で。

 

「―――うん!」

 

「葛城さんは元気?」

 

「うん。でも――」

 

「でも?」

 

「巧お兄ちゃんがいた頃よりは……」

 

「……そっか。今もあそこに住んでるの?」

 

「うん」

 

「近いうちに話がしたい。君の方からも言っておいてほしいな」

 

 少年は一番大きい声で返事し、ここを後にする支度を始めた。

 

「僕は信じてるよ。今も、これからも、おじさんがヒーローだって」

 

 この言葉に対し、戦兎はベッドから起きてこう返した。

 

「いいか?俺はおじさんじゃない。戦う兎と書いて、戦兎だ」

 

「せん、と……分かった!」

 

 少年は病室を後にした。

 ただ、走っているため通路にいた人物の注意を惹いてしまっている。

 

 

「よぉ~し、今のうちに脱出を……」

 

 少年が走っていった方向とは逆の方向から戦兎は病院から抜けようとする。

 

 病室に置いてあった私服に着替え退室―――

 

 

 

「さっとん、もう大丈夫なの?」

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、nascitaでは惣一がビルドΩの詳細を話した。

 

 

「長々と話したわけだが、今は戦兎の見舞いを優先だ」

 

「あぁ。もちろん持っていくのは……」

 

「アレしかねぇよなぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「うどん!!」」」」」」」

 

「蕎麦」

 

 

 

 

 

 

「やっぱりこうなるか……」

 

 勇者と龍我、一海で意見が分かれてしまった。

 惣一はこの結果に頭を抱えている。

 

「あ?何でお前ら揃いに揃ってうどんなんだよ」

 

「何でって当たり前だろ」

 

「うんうん」

 

 龍我の言葉を勇者達が肯定する。

 ただ、蕎麦を否定しているわけではないことは確か。

 

「まっ、そういう地で育ったからしょうがねぇか」

 

「……ん?」

 

「俺の先祖は諏訪出身。そこにいた奴に感化されて、今も続いてるってことだ」

 

「へぇ」

 

「でも、うどん派が多数ということで申し訳ないですが……」

 

「待った!!」

 

「落ちつけバ一海」

 

「多数決より重要なものを忘れてないか。愛だ」

 

「何でそこで愛?」

 

「悪いが、これだけは譲れない。自分で作るから、なっ?なっ?なっ?」

 

「えっ、あ、はい……」

 

 やけに威圧的な一海を前に静かになる勇者たち。

 

 

 

(待ってろ戦兎……。今すぐお前をこちら側へ引き込んでやっからよぉ……!)

 

 

 

「―――ってことがあったんよ~」

 

「園子らしいな」

 

 帰ろうとする戦兎を止め、二人きりの状況を作った園子。

 

 学校でもよく居眠りをする園子だが、最近その頻度が高いということでついに美森から直々に怒られた話をした。

 

 以前は、気をつけようねと言うレベルだったが今回は流石に……という事らしい。

 

 後、書道でまともな熟語を書かない点も。

 

「どういう語を書いたんだ……」

 

「え~っと、内角高めとか、23センチとか、円周率とかかな~」

 

「えぇ……? そういう美森は?」

 

「常在戦場」

 

「分かった」

 

「それから、我愛友奈とか」

 

「いいのかそれで……」

 

「まぁ、愛って一口で言っても色々あるからね~」

 

「流石、恋愛もの書いてる園子が言うと説得力があるよ」

 

「読んでくれてるんだ~。ありがと~」

 

 彼女の書く小説のうち、マスクドウォーリア―はつい最近完結した。

 そのため、今はもう一つの小説 スペース・サンチョに集中している。

 

「……感想欄に変な奴いるけどな」

 

「あの人は読んでて飽きない感想くれるから嬉しいんよ~。小説にチャレンジしてみてもいいって位にね~」

 

「書き込みが必ず更新から半日以内とか怖くないか?」

 

「きっと、時間に律儀な人なんだよ~」

 

「お、おぅ」

 

 

 

 

「ぶぇっくしょぉぉおおおおおいッ!」

 

「唾を出すな!」

 

「誰かが俺を呼んでいる」

 

「気持ち悪っ」

 

「んだとゴラ」

 

「やんのかオラ」

 

「そのっちに報告しますよ」

 

「すいません」

 

「……」

 

「万丈、お前もだ」

 

「……すまん」

 

 

「それにしても、居眠りは擁護できないな」

 

「ふぇ~、そこは流そうよ~」

 

「いや、ダメだ」

 

 二人の会話は続いた。

 

 

「待たせたな!見舞いで蕎麦作ってやったぞ―――あれ?」

 

「入れ違いになったんじゃねぇの?」

 

「……」

 

 蕎麦片手に呆然とする一海と、肩を叩いて同情する龍我。

 

 すると、後ろから老人が歩いてきた。

 

「ここ、今から私が入る部屋ですが」

 

「あ、邪魔でしたか」

 

「……ん?これは……蕎麦?」

 

 老人の目を見て、龍我は蕎麦を取って話を切り出した。

 

「なぁ爺さん、良かったらこれ食わねぇか?」

 

「おい龍我―――」

 

「いいんですか?では――」

 

 一海が止めようとしたが、老人は蕎麦を受け取って病室に入っていった。

 

「……せめてそのたんだろぉぉ?!」

 

「そこかよ!」

 

 後日、老人の親族から『蕎麦派になった(意訳)』と伝言を受け取った一海であった。

 

 



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第五十八話 究極のライダーシステム

戦兎が復帰し、ついにビルドΩの開発が始まった。

 

だが

 

「その前に、お前ら"ライダーシステム"って分かってんのか?」

 

惣一が龍我と一海に聞く。

 

「そりゃぁ、あれだよ。あれ」

 

「あぁ。……」

 

「……」

 

「「……」」

 

「じゃあハザードレベル」

 

次に戦兎が聞く。

 

「「戦うほど上がる数値」」

 

「下がるときもあるぞ」

 

「「えっ……」」

 

「最後に、フルボトル」

 

「振って使うボトルだからだろ?それに、満って意味のフルを掛け合わせてフルボトル!どうだ!」

 

「龍我お前たまにはやるじゃねぇか!」

 

「たまには余計だ!」

 

 

「「……マジで?」」

 

まさかの正解を当てられ、唖然となる惣一と戦兎だった。

 

 

惣一はライダーシステム、そしてこれの原型であるエボルシステム開発の経緯を話し始めた。

 

「10年前、パンドラボックスが発見された」

 

当時発見した学者らは素手では触らぬように、重機を使って回収。厳重な警備とともに施設に収められた。

 

そして、発見場所からは謎のガスが噴出していた。後のネビュラガスだ。

 

数年後、葛城巧は、助手であり友人の氷室幻徳と共にこれらの研究に取り組んでいた。

 

『幻徳、これを見てくれ』

 

『これは……』

 

幻徳が葛城の操作する機会をのぞき込む。

 

そこには頑丈なガラス越しにプレパラートが置かれ、プレパラートには葛城の皮膚の一部があった。

 

すると、機械の奥からネビュラガスが少量噴出され、葛城の皮膚の一部が包み込まれる。

 

『何てことだ……』

 

幻徳が思わず目をそらす。

 

彼の目には、ネビュラガスを吸い人間ではない何かに変異した皮膚。

 

『ネビュラガスは人体を侵食し、変化する』

 

『……』

 

『言い換えれば、これを防ぐとともにネビュラガスを体内に注入できる技術を完成させれば、人類は未知の脅威に立ち向かえる』

 

『葛城……何を……』

 

『こっちの話だ』

 

なお、この話はまだ幻徳が世界の真実を知る前の時である。

 

 

その数年後、世界の真実と葛城の計画を知った幻徳は大赦を離反した。

 

さらに時が経ち、展覧会中に事件が発生。

幻徳がパンドラボックスに触れ、力が解放されてしまった。

 

「この影響で誕生したのが――」

 

「スマッシュ……」

 

すると、あることに気づいた龍我が手を挙げる。

 

「ん?このスマッシュって、俺達が戦ったあれか?」

 

「ああ。それと、パンドラボックスの外装は二重構造になっている。外側が今ここにあるパネルだな」

 

惣一が青いパネルを手に取る。

 

「実は、ボトルは当時全て同じ形だった」

 

「―――はぁ」

 

フルボトルとは、当時は今のようなエレメントごとの色、外装のレリーフが存在しない、エンプティボトルと同様の形状だったと話を続ける。

 

しかしそれでは判別が出来ないため、今のようになった。

 

そして、惣一が戦兎に渡したラビット、タンク、スマッシュから採集した成分を浄化したものを含めた10本と、それ以外のボトルの違い。

 

ラビット~ライトの10本は外装の全体に色がついているのに対し、残り50本は透明の外装にレリーフの部分だけ色がついている。

 

これは、ボトルの出来方に由来する。

 

「6枚のパネルは同時に外れたわけじゃない。4枚はあの事件の時、2枚は、既に外れていた。空の状態で」

 

「その二枚に挿さってたのが、俺達が浄化したボトルか」

 

「あぁ。成分はボックスに移っていて、例の事件の際に解放された」

 

博覧会の最中を狙い、幻徳はパンドラボックスに『力を寄越せ』という強い思いで触れた。

そして、光が放出された。

 

ハザードレベルが2に達していない一般人はスマッシュへ変貌。その数10体。

 

幻徳と葛城は人間としての姿を保ったものの、精神は好戦的なものへと変貌していた。

 

葛城はある程度離れていたためこの症状を『自分は光に侵され好戦的になった』と自覚し、抑えることが出来た。

 

だが、幻徳は間近で光を受けたことで葛城より重傷だった。

 

数か月後、葛城はあるものを完成させた。

 

パンドラボックス回収時に手に入れた二つのパネル。これに刺さっていた二十本の容器を基に、そこへネビュラガスを人間が扱えるように浄化した"フルボトル"。

 

そして、エボルシステムを再設計し、現段階での技術で完成させたトランスチームシステム。

 

この力を使い、葛城はスマッシュと戦った。

だが、現時点で撃破できたのは二体だけ。この二体の成分は後にラビットとタンクのフルボトルになる。

 

「で、ここにある浄化装置は大赦やファウストにあったものの簡易版になる」

 

「……ってことは、あの20本は正式な方法で作られたわけではない、と」

 

「そんなとこだな」

 

そして、話は現行のライダーシステムのものへと切り替わる。

 

「まず、ビルドはドライバーに装填した二種のボトルの成分を二つのハーフボディに変換し変身する。

ハーフボディ毎で性能が違ううえ、組み合わせも多数。……その代わり、左右の重量のバランスが崩れやすいがな」

 

「あ、そうだ」

 

「何だ万丈」

 

「ラビットタンクが、マスターが葛城だった時に見つけた最初のベストマッチで『戦兎』って名前の由来だってのはわかってる。

 

 

で、タンクって何?」

 

「「「……」」」

 

龍我の言葉に三人が絶句する。

 

その数秒後、惣一が最初に口を開いた。

 

「でもまぁ、しょうがないか。タンクというのは、旧世紀まで存在していた戦闘車両の一種だ」

 

「じゃあ何でタンクって言うんだよ。タンクは水とか貯めるあれだろ?」

 

「OPEN読めなかったのにそういう事はわかるのか……」

 

「読めないけど言われると意味わかるってのは珍しくねぇぞ。……てかその話マジ?」

 

「おい」

 

「まぁまぁ」

 

惣一がタンクの由来について話し始める。

 

まとめると、戦車をタンク(貯蔵容器)と呼んで開発していたからで、今存在しない理由はバーテックスに対して無力だったから、である。

 

「さっぱりわかんねぇ」

 

「「……」」

 

この空気を何とかするため、惣一がビルドの話を再開した。

 

 

〔READY GO!〕

〔EVOLTECH ATTACK!!!〕

 

神世紀の始め頃に大赦の訓練施設として利用され、今や封鎖され廃墟と化した場所で二人の戦士が対峙していた。

 

大赦離反の際、未調整の二十本のフルボトルとともに持ち出したデータから複製したエボルドライバーを変身に使う二人の仮面ライダー、マッドローグとヴァーテックス。

 

幻徳と天神だ

 

「―――この道具は、フルボトルで変身する設計ではなかったようだな」

 

「……そうだ」

 

「それを克服するために、エボルトリガーなるモノが必要」

 

「……」

 

「だが、起動には高濃度のネビュラガスから作られるエネルギーの吸収が必要」

 

全てを見透かした天神に、幻徳は頷くしかなかった。

 

「葛城……と言ったな。奴はその力をブラックホールとして具現化した」

 

天神はクローズマキシマムに剥がされたガントレットの跡に視線を落とす。

あの時の傷は治ってはいなかった。

 

「ヴァーテックス、今のお前との戦いではこいつは何も……」

 

「今の"俺"の力では足りなかったか……?まぁいいだろう」

 

今のヴァーテックスは正確には仮面ライダーではない。

変身者はいない。

かつて、変身者として存在したものの遺伝子の一部を奪い、それで人の形を保っているに過ぎなかった。

 

 

「やっとそれに取り掛かるのか」

 

機器に繋がれ、60本のフルボトルの成分が入れられた小箱をみる龍我。

 

「ダメだ。二重にした方がいい」

 

「分かった」

 

戦兎はラビットタンクスパークリング、フルフルラビットタンクボトルに搭載されている、成分増幅装置を複製し、小箱に組み込む作業を、

一海は小箱の外装の耐久試験。

惣一は小箱に対応した新たなビルドドライバーの開発をしている。

 

龍我にはすることがなかった。

 

彼はクローズトリガーを取り出し、眺めてみた。

表面のネイビーブルーが部屋の照明で輝く。

 

戦兎の使うハザードトリガーの色と対象にしたのか?と、暇をつぶすため自問する。

 

「そういえば、クローズってどういう意味なんだ?」

 

ふと、そんな疑問が浮かんだ。

戦兎が休憩に入った時に、彼は聞いた。

 

「戦兎」

 

「どうした、お前は休んでろ」

 

「なぁ、クローズってどういう意味なんだ?」

 

「戦いを終わらせるって意味だ。『戦い』はCross、Zはアルファベットの最後と言う事で『終わらせる』『最後』と表せる。この二つを組み合わせたものだ」

 

「へぇ」

 

 

 

その時、

 

「あっ」

 

「ッ!」

 

龍の横顔を模したクローズトリガー。

それの上あご辺りを持っていた龍我だったが、この持ち方を長時間していたのに加え、動いた衝撃で上あごが斜め上にスライドし、上あごと下あごの間が赤く発光していた。

さらに、緑と赤のメーターが赤、青、赤青の混合の三色になった。

 

「やっべぇ……」

 

戦兎が黙り込んだことから、壊してしまったのかと焦り上あごのパーツを押し込む。

 

「戻った……」

 

 

 

「……」

 

 

この様子を一海は覗いていた。

そして、よく見えなかったがクローズトリガーの赤く発光した部位に字が書いてあった。

 

 

 

 

 

 

 

C■OS■-■ ■■I■D

 




失踪はしません


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第五十九話 朽ちた蝙蝠のナイトメア

「――――――酷ぇ夢だ」

 

 惣一が目覚める。彼の眼前には、完成間近のビルドドライバー。

 寝落ちをしていたのだ。

 

『復讐の先に何がある?お前は一度落ち着くべきだ』

 

『黙れ!奴等は母さんを……人を殺したんだぞ!俺達はそんな奴等の手足になるためにここにいる訳ではないだろう!』

 

 

『……』

 

『フルボトルとエボルシステム……だったか。これは俺が使う』

 

『待て!幻徳!幻徳ッ!!』

 

 

「あーあー。何でこんなタイミングで思い出しちまうんだ……」

 

 彼の傍では、パソコンの本体が唸り、戦兎と一海が力尽きたかのように寝ている。

 そろそろ掃除しなくちゃな、と思いつつ作業を再開する。

 

 量が少し減っているハザードトリガーの強化剤を小箱に注入。

 

「ここからは後にしよう。……」

 

 皆(主に龍我)を起こすにはまだ時間があるため二度寝しよう、と思ったその瞬間

 

 

〔CROSS-Z FLAME!〕

 

 

「ん?」

 

 ドラゴンサンフルボトルが装填されたクローズドラゴンマックスが、自らが吐いた炎を纏い、龍我の上を旋回する。

 

「何やってんだあいつ……」

 

「―――ん˝っ、あ˝ぁー……いい朝だ」

 

「いい朝だ、じゃないよ何やってんの万丈!」

 

「いやだって、日光に当たって目覚めたほうが健康的って言うじゃん」

 

「確かにそうだけれども!それ光じゃないから!炎だから!」

 

「まぁ……火事とかになったらまずいもんな」

 

「それ以前の問題なんだけどね」

 

「でもよ、人工的な光しかない地下でこれ以上どうするよ」

 

「うーん……」

 

 惣一は龍我の寝ていたベッドを見てあることを思い出す。

 

「このベッド、一つしかないから4人で使いまわしてる訳だけど」

 

「おう」

 

「他三人はそこらへんの適当な床で寝てるんだよね?」

 

「あぁ。あんたがいなくなった後も、もちろんその前も。どうしたんだよいきなり」

 

「そっちの方が不健康じゃない……?」

 

「いや、寝違い治せるぞ。あと猫背も」

 

「えっ」

 

「と言ってもそのままじゃ固いから、薄いマット敷いたり固い枕使ったり色々工夫すんだよ。最初は痛いかもしれねぇけど、慣れれば楽だ」

 

「へぇ……じゃあ二人も?」

 

「おぅ、特に一海はマット代わりに風呂入る前まで着てた服使ってた」

 

「何か最近汚れた服多いなって思ったらこいつかよ!」

 

 洗濯物が増加した原因に対する不満を表に出す惣一。

 龍我はそれを宥め、話を切り出した。

 

「それはどんな感じだ?」

 

「あー……やっぱ60本の力を一まとめにするのは無理があったかな……」

 

 ビルドΩは現在、外装に調整用の穴を開け、蓋が近くに転がっている形になっていた。

 龍我がそれを手に取る。

 

「……おい、何か光ってんぞ」

 

 穴からフルボトルの成分の光が漏れていた。

 活性化しているようだが、持っている龍我の身体能力に変化は無かった。

 

「活性化したんだ。振動増幅装置の導入で振動を60倍にしたからね。でも、身体能力を強化することはできない」

 

「おぉー」

 

「そして、戦兎の提案でラビットタンクスパークリング、フルフルラビットタンクボトルに搭載されてた発砲増強装置、調整剤を搭載した。俺の、ハザードトリガーの強化剤を搭載するって案に追加する形でこの案を出してきたんだ」

 

「スゲー」

 

 寝起きという事もあり、情報が頭に入らなくなり片言になる龍我。

 

「これに適応したドライバーも少しで完成する。こいつが完成した暁には―――」

 

 龍我が『あっ……』と呟き思考を停止させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――という訳だ。天才でしょ、ジーニアスでしょ?」

 

「そのセリフあんたが由来だったのか……」

 

「って、あれ?この時間帯だと園子ちゃんが来るか、モーニングコールならぬモーニングメール送ってくるはずじゃ?」

 

 時計は6時過ぎを指していた。

 

「部活で出張だってよ。にしてもメール寄越さないのは変だよなぁ……。おい、おい戦兎起きろ」

 

 転がっている戦兎の頬を軽く叩く。

 

 戦兎が目を覚ました。

 

「…………俺の恋人は万丈だった……!?」

 

「畑見てくるわ」

 

「俺が悪かった!冗談だったんだ!万丈ぉぉぉ…………園子今日まで部活だった……」

 

 戦兎が端末で連絡しようとした。

 

「あれ、繋がらないぞ」

 

 

 龍我は惣一の話でパンクした頭を落ち着かせるため、外へ出た。

 そして自身のコーヒー豆畑へ行くと、そこには複数の人影。

 

「おいお前ら!そこで何やってんだ!ここは万じょ―――」

 

 人影が龍我の方を向いた。

 

 しかしそれは、人ではなかった。

 

「スマッシュ……!」

 

 色は黒。形状も今まで散々見てきたものだ。

 

 

〔FLAME UP! DRAGON!〕

 

 龍我はビルドドライバーを装着。

 クローズドラゴンマックスにドラゴンサンフルボトルを装填し、

 

〔NEO CROSS-Z DRAGON!〕

 

 

〔Are you ready?〕

 

 

「変身ッ!」

 

〔BURN UP DRAGON FIGHTER! CROSS-Z NEO! YEAH!!〕

 

 クローズネオへ変身した龍我。

 

「……あ?」

 

 龍我が近づいてもスマッシュは彼に対して敵対行動をとらなかった。

 むしろ、声のような音を出して逃げ腰だ。

 

「何?たす……聞こえねぇよ!」

 

 

 同時刻、讃州市の住宅街。ここに幻徳がネビュラスチームガンを構え、立っていた。

 

〔FULL BOTTLE!〕

〔FUNKY ATTACK!! FULL BOTTLE!〕

 

 銃口から、霧と化した装填されたフルボトルの成分が放たれ、住宅街に流れ込む。

 

 使われたフルボトルは、完成直前で彼が強奪し、ファウストで完成させたフルボトルの一本。これの中を空にする代わりに高濃度のネビュラガスを放ったのだ。

 

「あぁぁぁあああっ!?」

 

「だ……れか…………助――――――」

 

 住民達は苦しみ、体が異質なものになっていく恐怖に苛まれながら、スマッシュに変貌してしまった―――

 

 

 

 だけだったら、まだ従来の方法で助けられたはず。

 

 

 

 

 

 

「頼む……!助けてくれ……!」

 

「――――マジかよ」

 

 このスマッシュには、自我が残っていた。

 

「体が痛い……!何故か、目の前にいる人に殴りかかりたくもなるんだ……!

 あんた、仮面ライダーなんだろ……?」

 

「……」

 

 龍我は絶句し、何もできなかった。

 

 体が痛い。自我だけでなく、痛覚までそのまま。

 もし従来通り、体内のエネルギーが爆発するまで攻撃し、成分を採る方法を取ったら――

 

「――――――最悪だ」

 

 どうすることもできない彼の背後から、新たな人影が襲い掛かる。

 

 

「……え?」

 

 勇者にも、異変が現れた。

 

 先程まで彼女たちがいた旅館はそこに無く、代わりに辺り一面の木々。

 

 樹海だった。

 

 

「何かがおかしい……」

 

 一海を叩き起こし、惣一は戦兎、一海と共に龍我を追いかける。

 

「話が全く読めねぇよ。いったい何が―――」

 

 三人の足が止まった。

 

 震え、立っているのもやっとなスマッシュ、そして、スマッシュとは違う存在が龍我に襲われていた。

 

 

 龍我を無視し、スマッシュに襲い掛かろうとする怪人を制止し、拳をぶつける。

 

「効いてる気がしねぇ……でも、確かこいつって」

 

 彼はこの怪人を以前見ている。だが思い出すのに時間がかかる。

 

 そんなことをしている矢先、怪人は一瞬オレンジ色の粒子になり、分裂した。

 

 得物を振りかざそうとする怪人。だが、それはすぐに手から離れることになった。

 

 

「万丈!」

 

 ドリルクラッシャーを手にした戦兎。彼が怪人の腕を撃ったのだ。

 

「そいつはバグスターだ!これを使え!」

 

 戦兎がゲームフルボトルを投げ、龍我が受け取った。

 

 ビートクローザーを召喚し、ゲームフルボトルを装填。

 続いてグリップエンドを二回引っ張った。

 

〔SPECIAL TUNE!〕

〔HITPARE! HITPARE!〕

 

 さらに、ドライバーのレバーを回転させ、そのエネルギーをビートクローザーへ集中させる。

 

〔READY GO!〕

〔DRAGONIC BREAK!!〕

〔MILLION SLASH!〕

 

「ハァァァッ!!」

 

 得物を薙ぎ払うとバグスターが両断され、爆発。

 

「っしゃあ!」

 

 だがそこへ、もう一体のバグスターが襲い掛かる。

 

 龍我もそれに気づき、グリップエンドに手をかけるが、

 

 現行のライダーシステムのものではない音声が一帯に響いた。

 

 

 

 

MIGHTY CRITICAL STRIKE!

 

 

 

 



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第六十話 二つのドリーム

〔MIGHTY CRITICAL STRIKE!〕

 

「ハァァッ!」

 

 突如龍我らの死角から、右足にゲームのようなエフェクトを纏った戦士が現れ、バグスターを一撃で蹴散らした。

 

 その戦士は腰の右側にあるホルダーから黒色のカセットのようなガジェットを抜き、正面の派手な配色のベルトに装填し、龍我らのほうを向いた

 

「何だ……?こいつは……」

 

「仮面ライダーゲンム……」

 

 立ちつくす一海、疑問を浮かべる惣一。

 

「お前らァァァァ!!見てないで加勢しろおおお!!」

 

 増殖を続けるバグスター。

 それに埋もれかかっている龍我が叫ぶ。

 

「倒すことはできなくてもこの場で抑えることはできるはずだ」

 

「そうだな。行くぞ」

 

 戦兎と一海、惣一はそれぞれドライバーを装着。

 

「――にしても、変わったよ。お前は」

 

「ど、どうしたんだよ急に」

 

「今のお前からは迷いが見えない。何かは知らんが、吹っ切れたか」

 

「……」

 

 戦兎は龍我たちに助けてもらったあの時から、ずっと『何かを払拭した』感じがするようになった。

 その『何か』の正体はわからない。

 

 ただ、()()()()()()()()彼に全く支障はない。

 

 戦兎は懐からまだ使用していないフルボトルを取り出した。

 

 ラビットムーンとウォーリアタンク。

 

 実戦どころか実験すら経験していないフルボトルである。

 

〔GREASE DISPENSER!〕

 

〔RABBIT!〕

〔TANK!〕

〔BEST MATCH!〕

 

〔COBRA!〕

〔RIDER SYSTEM!〕

〔EVOLUTION!〕

 

〔〔Are you ready?〕〕

 

「「「変身!」」」

 

 バグスターが群れで襲い掛かるものの、グリスディスペンサー変身時の破片飛ばしで問題なく三人の変身が完了した。

 

〔ROBOTS IN GREASE! ブルァァァアアアア!!〕

〔鋼のムーンサルト! ラビットタンク! YEAH!〕

〔COBRA! COBRA! EVOL COBRA! フッハッハッハッハハハハ!!〕

 

 ラビットとタンク、二つの強化版のフルボトルを使用して変身した戦兎だが、姿はラビットタンクフォームそのもの。

 

「ふっ!」

 

 戦兎がバグスターを左拳で殴る。

『MISS!』というエフェクトが出現しダメージが無効になってしまったが、バグスターは吹き飛ばされた。

 

「万丈!」

 

 龍我のもとへ駆ける戦兎。

 

「おりゃぁぁぁ!!」

 

 バグスター一体が吹き飛ばされた。

 

「結構使えんじゃねぇかこれ!」

 

 体制を立て直す龍我。その右手にはクローズマグマナックルが握られていた。

 

「いつの間に……」

 

「マスターから大体の事は聞いた。斬るのがダメなら―――」

 

 龍我はビートクローザーに装填していたゲームフルボトルをマグマナックルへ挿しなおす。

 

〔BOTTLE BARN!〕

 

「面で押す!」

 

 マグマナックル正面のボタンを左手のひらに押し付ける。

 

 これによりイグナイターが起動し、フルボトルの成分が熱せられる。

 

 そして

 

〔VOLCANIC KNUCKLE!! アチャァァァァッ!!〕

 

 

「樹海……?! もう戦いは終わったんじゃなかったの……?」

 

 突然の出来事に、風が動揺を見せる。

 

「……先輩、落ち着いて聞いてください。友奈ちゃん、樹ちゃんも」

 

「東郷さん……」

 

 美森の真剣な眼差しを前に三人は息を呑んだ。

 

「私たちが倒したバーテックスは全体の極一部に過ぎません」

 

「……何かおかしいとは思ってた」

 

 風が呟いた。

 

「あの時全てが終わっていたら、大赦は私たちの勇者システムを回収するはず。でも来なかった。お役目が終わったとも伝えられてなかった」

 

「でっ、でも、今までの戦いが無意味だったわけじゃないよね……?」

 

「…………それは」

 

「「……」」

 

 美森、そして彼女の動機である銀、園子も何も言えないでいた。

 

 何を言っても何も変わらないから。

 

 

 

「そうね。貴女達はよく頑張った。でも―――これが報われるかどうかは貴女達次第よ」

 

 

 

〔GASHAT!〕

〔キメワザ!〕

 

 ゲンムが黒いカセット――プロトマイティガシャットオリジンをガシャコンブレイカーに装填。

 

 刀身に黒いエネルギーが纏われ、バグスターを一刀両断した。

 

「ちゃんと止めをさせるのはあいつだけ……か」

 

「……分が悪くなってきたな」

 

 ゲンムがこう言い、もう一本の黒いガシャットを取り出す。

 

〔GEKITOTSU ROBOTS!〕

 

 黒いガシャット――プロトゲキトツロボッツガシャットが起動されると、黒い二頭身のロボットが出現し、ゲンムはドライバーのレバーを閉じてガシャットを装填。

 再度レバーを開く。

 

「グレード03」

 

〔ガッチャァーン!〕

〔LEVEL UP!〕

〔MIGHTY JUMP! MIGHTY KICK! MIGHTY MIGHTY ACTION X!

 アッガッチャ!

 ぶっ叩け! 突撃! モウレツパンチ! ゲ・キ・ト・ツ ロボッツ!〕

 

 ゲンムの上半身にロボットの腕以外がアーマーとして、腕はゲンムの左腕と一体化し、巨腕となった。

 

 仮面ライダーゲンム プロトロボットアクションゲーマーレベル0。

 

「撤退する」

 

 ゲンムはPゲキトツロボッツガシャットを抜き、横のスロットに挿す。

 

「待てよ!まだスマッシュにされた市民がいるんだぞ!見捨てろってか!?」

 

 龍我が激しく抗議する。

 

「だが策がない。そうだろう」

 

「っ……」

 

「万丈、今はこうするしかない」

 

「……」

 

 

「俺は……大丈夫、だ……」

 

 スマッシュに変異した市民が頭を抱えながら立ち上がる。

 

「あの夜からずっと……あんたを探してた。ビルド……」

 

 

 

『警察だ!動くな!』

 

 夜、突如出現したスマッシュを前に、その男は銃を構えていた。

 市民を守るため、効かなくても注意が自分に向けばいい。そう思い発砲した。

 

 銃弾が地面に落ち、転がる音がした。

 

『逃げろ!殺されるぞ!』

 

 彼は必死に叫んだ。

 

『っ……はっ……』

 

 首を掴まれた。

 銃を握っていた手から力が抜けていき、意識までもが無くなろうとしていた。

 

 

『―――――ちょっと待った』

 

 その時、スマッシュを彼から引き離し、スマッシュを撃破した者が現れた。

 

 仮面ライダービルド。今彼が目にしてる者だった。

 

 

「こんな体になっても……俺は警察官だ……。最期まで、職務を全うする……。

 あんたの……助けになるために!」

 

 その男は、遠くに見える大量のスマッシュにおぼつかない足取りで向かった。

 

「おい待てよ!」

 

 龍我が追いかけようとするが、戦兎がそれを止める。

 

「万丈、彼を助けるためにも一度戻るぞ」

 

「……分かった」

 

 

〔キメワザ!〕

 

 ゲンムが左腕にエネルギーをためる中、惣一はトランスチームガンを構える。

 

〔GEKITOTSU CRITICAL STRIKE!〕

 

 ゲンムが左腕を思い切り地面に叩きつけ、衝撃波でバグスターが消滅。

 惣一が得物から蒸気を発生させ、それに紛れて彼らは撤退した。

 

 

「……」

 

 樹海に現れた八人目の少女。

 

 彼女は勇者、特に友奈をじっと見て、呟いた。

 

「貴女、■■さんにそっくりね。……まぁ無理もないか」

 

 少女が、彼岸花の髪飾りをつけ腰まで伸びている白い髪を揺らし、視線を壁へ移した。

 

「それと、犬吠埼風さん。貴女の疑問に対する答えだけど、戦いそのものは終わりを迎える。そうね、春を迎える前位かしら」

 

 不敵な笑みを浮かべる彼女に、夏凜は痺れを切らした。

 

「あんたねぇ、何?新手のバーテックス?」

 

 すると、少女は生気のない顔で答えた。

 

「あんなモノと一緒にされては困るわ」

 

「じゃあ何なのよ」

 

「さぁ……」

 

「答えになって―――ないっ!」

 

 夏凜は勇者に変身し、刀を振るう。

 少女が鎌でこれを防ぐ。

 

 そして、夏凜の刀を持っている方の手首を掴み、刀を離すまで力を入れ続けた。

 

 これで終わる夏凜ではない。今度はこちらが手首を掴み、掴まれていた右手を振り払うが

 

「えっ……」

 

 一瞬、何かに気づき動揺を見せる。

 

 少女はそこを突き、足を払い夏凜の姿勢を崩した。

 

「貴女、本調子じゃないみたいね」

 

「そりゃそうよ……。あんた、脈が―――」

 

 少女は夏凜を無視し、友奈のもとへ歩み寄る。

 無論、周囲の人物から警戒されるも、彼女は鎌を捨て、白い彼岸花を取り出した。

 

「じゃあね。結城友奈さん」

 

 友奈が彼岸花を受け取ると、もうそこには少女の姿はなかった。

 

「……あいつ、人間じゃない」

 

「え?」

 

「変に冷たかった。それに、脈が無かっ――――」

 

 ここで、勇者達の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……ん?」

 

 夏凜が目を覚ます。

 日が射した朝。旅館だった。

 

 そして、胸と腹の間に風の頭が乗っかっていた。

 

「東郷と園子ぐらいじゃない?寝相いいの……

 ほら、起きなさいよ」

 

 風の長い髪をある程度束ね、それで顔を叩いた。

 

「―――え?何?何?」

 

「もう朝よ」

 

「あっ、ごめんね~。いい高さの枕があったと思ってつい」

 

「…………それは皮肉か!皮肉なのか!?自分がふくよかだからって!」

 

「何、怒ってるの?」

 

 夏凜は夢だとあの出来事を流そうとした。

 だが、できなかった。

 

 あの冷たい手首を掴んだ記憶がある。何より―――

 

 

 

 

 

 

 

 まだ寝ている友奈の手に、白い彼岸花が握られていたから

 

 

 

 

 

 




・グレード03(ゼロスリー)
ゲンムがレベル3用ガシャットの試作型を使用する際の掛け声。

・白い彼岸花
花言葉は「また会う日を楽しみに」


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第六十一話 純白のジオセイバー

過去最長です。


 一時nascitaに戻ってきた四人とゲンム。

 彼らは地下室へ急ぎ、惣一が周囲で起きている事態を鎮めるカギを取る。

 

 それは新たなビルドドライバーと、青色と黄色が目立つガジェット。

 

「戦兎、お前用に調整したドライバーと"ジーニアスフルボトル"だ」

 

 惣一がジーニアスフルボトルと言うガジェットは、ビルドドライバーのスロットを二つ同時に使用し、ドライバーとの接続パーツはキャップとは別に存在し、片方が起動スイッチになっている。

 

「こいつなら、スマッシュにダメージを与えずにネビュラガスを浄化し人々を助けられる」

 

「浄化……。俺たちが以前までやってた、あの?」

 

「あぁ。後、これにはパンドラボックスから生まれた60本全てのボトルの成分が入ってる。どれとどれを混ぜるか、どう使うか、加減の調整……全てお前次第だ」

 

「でも、どうして俺に……今はそんな場合じゃないか。後で聞く」

 

「助かるよ」

 

「ん?何だこれ」

 

 龍我が成分が虹色に輝くフルボトル三本に目をつける。

 

「今回の事態は戦兎一人では無理がある。だから俺たちもこいつで人々を救うんだ」

 

「そうだな。いっちょやってみるか」

 

「……」

 

 そんな中、ゲンムに変身していた男が口を開いた。

 

「私の名は檀黎斗神。バグスターはこちらで対処する」

 

 この言葉の直後、彼の体はオレンジ色の粒子となって消えた。

 

 四人も続くようにnascitaを飛び出し、各々が別の方向へと走る。

 

「戦兎!」

 

 惣一が戦兎を呼び止める。

 

「機械は無常だ。怒りや憎しみを抱いて戦い、人を傷つけても機械はそれを後押しするように強くなる。逆に、人を守りたいという思いでも強くなれる。お前は守るべきものを守れる強い人間になれ。正義のヒーローになるんだろ?」

 

「あぁ。絶対に!」

 

 

「友奈、いい加減捨てなさいよ」

 

「ダメだよ!これは人から貰ったものなんだよ!」

 

 旅館から讃州市へと帰ってきた勇者部。

 

 その一人、友奈の手には白い彼岸花が握られていた。

 

「それにヒガンバナなんて物騒よ。持ち帰ると家が燃えるだの飾ると親が早死にするだの……。今のは毒除けのための迷信だけど、出土先が出土先よ。本当に起きる可能性がある」

 

 彼岸花を捨てろという件は数回続いて今に至る。

 あの事を現実と思っているのは自分と東郷、友奈。

 

 自分と東郷は彼岸花に否定的で、友奈は一向に捨てようとしない。

 こう夏凜は思っていた。

 

「夏凜、ちょっと深呼吸したら?ほら、こうやって―――」

 

「やり方ぐらいわかるわ!それより腕組むのやめなさいよ」

 

「なんで」

 

「ある部分が目立っ……女子力が無くなるわよ」

 

「えっ」

 

「……」

 

「……えっこんだけ!?」

 

「……これだけ」

 

「何の話からこうなって……あ、ヒガンバナの事か。大丈夫よ友奈。神樹様が守ってくれる」

 

 

「神樹様ねぇ……」

 

 

「東郷今何か言った?」

 

「いえ、何も」

 

 その時、友奈の肩が優しく叩かれた。

 

「はい?」

 

「ごきげんよう。友奈さん」

 

 友奈が振り向いた先にいたのは、あの白髪の少女だった。

 

 風が彼女に指をさして叫んだ。

 

「あっ……あぁぁぁあ!!――――――誰?」

 

「昨夜の夢に出てきた女よ」

 

「友奈ちゃんに軽々しく触らないで頂戴」

 

 夏凜と美森がこう言うと少女は証拠と言わんばかりに鎌を手に取った。

 

「牛鬼?」

 

 何故か友奈の端末から牛鬼が飛び出した。

 

「……そっちも大変なのね」

 

「あの、牛鬼の事知って―――――!?」

 

 一瞬、友奈が頭痛を訴え、下を向いた。

 そして視線を戻すと、これまた一瞬、何かが見えた。

 

 牛鬼が自分の勇者としての姿と酷似した少女に、

 白髪の少女が黒髪になり、肌も血色が良くなった少女に。

 

「え、何……?わた……し……?」

 

「友奈!」

 

「ゆーゆ!」

 

 友奈が気を失い倒れる直前に、風が彼女の体を支える。

 

「あんた!バーテックスではないにしろやっぱりそっち側の―――」

 

 夏凜が少女に迫るが、彼女は夏凜の口元に人差し指を当て静かにするよう促す。

 

「悪いけど、今その話をしている暇は無い」

 

 その直後、夏凜は視線のような何かを感じそこへ振り向く。

 

 視界に白い異形が移った。

 

「バーテックス……」

 

「そういうこと。行くわよ」

 

 

 戦兎がマシンビルダーで駆ける。

 まるで人気が無い地帯が段々と騒がしくなってきた。

 

「もう少し、もう少しだけ持ちこたえてくれ―――」

 

 すると突然、マシンビルダーのエンジンが止まった。

 戦兎は一度これでビルドフォンに戻し、エンジンへエネルギーを供給する装填していたウルフフルボトルを確認する。

 

 異常は無かった。

 

「……いや、異常だらけじゃねぇか」

 

 戦兎が住宅に生えている木を見上げた。

 

 葉が止まっていた。風になびいている形で。

 

「樹海化―――――!?」

 

 戦兎の眼前を枯れた花弁が舞った。

 

 ◇

 

 少女が鎌を持ち、星屑を睨みつけるが、夏凜らが動こうとしない。

 これを疑問に持ち、問いかけた。

 

「……どうしたの?」

 

「どうしたのって……」

 

「貴女達が勇者だということは知ってる。さぁ」

 

「あのね、あんたがどうかは知らないけど、アタシらの世代は勇者という存在は知らされてないの。色々厄介だから」

 

「へぇ。でもそんな事言ってる場合かしら」

 

「……」

 

 夏凜はここらが人気が無いことを分かっていた。

 でもそれだけで完全に見られていないと判断するのは難しい。

 

 他も戦う事を渋っていた。

 

「……分かった。私だけで行く」

 

 そして、最初からこうした方が良かったと呟き、住宅の屋根を伝って星屑へ迫った。

 

 

「ここは……?」

 

 戦兎の視界をふさいでいた花弁が無くなった。

 

「樹海……いや―――」

 

 

「神樹と我々は元は同じ―――――」

 

 

「っ!」

 

 戦兎が声がしたほうへ振り向く。

 

「サトウタロウとしての記憶を失った上、実の親を消された気分はどうだ?桐生戦兎」

 

「ヴァーテックス……

 どうもこうも無い。その名前は誰の―――!?」

 

 ヴァーテックスが手のひらをかざすように上げた。

 その瞬間、戦兎の記憶に何らかの変化が起こった。

 

「俺は……どっちだ――?

 

 いや……俺は――――桐生戦兎だ!!」

 

 彼はフルフルラビットタンクボトルの成分をタンクに選択し、ドライバーに装填した。

 

〔TANK&TANK!〕

〔BUILD UP!〕

 

 突然流れ込んできた佐藤太郎時代の彼の記憶。

 

 それをかき消すようにこれまでにない乱暴さでレバーを回す。

 追加装甲より先にハザードライドビルダーを形成。

 

〔Are you ready?〕

 

「―――――――!!!」

 

〔OVER FLOW!〕

〔鋼鉄のブルーウォーリア!タンクタンク!ヤベェェェイ!ツェーイ!〕

 

 ビルド タンクタンクフォームに変身。

 肩の戦車型装甲の砲門をヴァーテックスへ向け、発射し牽制。

 

 腕でそれを防いでいるうちに接近、フルボトルバスターを振り下ろした。

 

「ゥアアアアアアア!!」

 

 さらに突くようにヴァーテックスの腹部へ押し付け、バスターキャノンモードに変形。引き金を引いた。

 

「俺は桐生戦兎だ!それ以外の何者でも――――」

 

 

『さっとん』

 

 

「!」

 

 ふとそんな単語が頭に浮かんだ。

 

「チィ!」

 

 これをかき消そうと怒りの感情を再び出し、フルボトルバスターにフルフルラビットタンクボトルを装填。

 

〔FULL FULL MATCH DESU!〕

 

 一度バスターブレードモードに戻して斬り、距離を取ってバスターキャノンモードに変形させ引き金に震える指を添えた。

 

〔FULL FULL MATCH BREAK!!!〕

 

「ッ!?」

 

「――――どこを狙っている?」

 

 狙いを定める前に引いてしまった。

 

 ヴァーテックスはクロスボウを召喚し、矢を放つ。

 

 

 自分は佐藤太郎だ。さっとんというあだ名もそんな名前だから付けられた。

 その時に出会った人物は友達へとなっていった。

 

 自分は桐生戦兎だ。仮面ライダーとして戦っているうちに頼もしい仲間が出来た。

 それだけじゃない。ネビュラガスに侵され変化した体になっても、彼女は自分の事を――――

 

「…………!」

 

「守ってばかりでは勝てる戦も勝てなくなる。結局貴様は人に助けてばかりの人間だったな」

 

 ヴァーテックスがレバーに手をかけ、回転数、速度を上げていく。

 

〔READY GO!〕

 

 

「――――――――――ハァァァァッ!!」

 

 

〔FULL FULL MATCH BREAK!!!〕

 

 

 矢をものともせずに突っ込み、もう一度引き金を引いた。

 しっかりと、今度はドライバーに向かって。

 

「――――!」

 

「ぐあぁ!」

 

 ヴァーテックスのエボルドライバーから火花が散り、戦兎は変身が解除される。

 

「俺は、過去の自分を否定していたんだ」

 

「……何?」

 

「だから、桐生戦兎となった時、不謹慎ながらこれはチャンスだと思った。

 自分の人を疑う心を、疑いから物事を考える心を変える―――」

 

 戦兎は立ちあがりながら、ドライバーのハザードトリガーを抜いた。

 

「実際変えることが出来た。でもそうなる一方、本当の自分を知る人間が減ったように感じた。正確には、戦兎としての自分だけを知っている人間が増えた。そして、

 

 佐藤太郎としての自分を完全に捨ててもいいんじゃないか。

 

 こう思い始めた」

 

 

 ――そうなったら、俺は園子の知る俺じゃなくなる。

 園子との関係が壊れるかもしれない。

 

 だから太郎と戦兎、どちらが正しいのか分からなくなっていった。

 

 

「自分のできないことを人にすることはできない。守ることも」

 

 戦兎が左手にジーニアスフルボトルを持った。

 

「俺はもう、自分を否定したりはしない。佐藤太郎も、何もかもを受け入れて―――

 

 桐生戦兎として正義を信じ、皆を……自分を!守るため戦い――――

 

 

 

 

 

 

 今を生きるッ!!」

 

 ジーニアスフルボトルの起動スイッチが押された。

 

 

〔GREAT! ALL YEAH!!〕

 

 

 ビルドドライバーに装填するとジーニアスフルボトル中央のディスプレイが発光し、ライダーシステムを表す紋章が浮かび上がる。

 

 

GENIUS(ジーニアス)!!〕

 

 

 先ほどとは違い、丁寧ではあるものの力強さのあるレバー回転に合わせ、

 戦兎の横から後ろを囲み、彼の存在を引き立てるように設置されたコンベアと、そのコンベア上を流れるフルボトルを製造するプラント上のライドビルダー、

 "プラントライドビルダーGN"が形成される。

 

 そして

 

 

〔Are you ready?〕

 

 

 

「変身!」

 

 戦兎の前に金色の紋章が描かれ、それが戦兎に重なり純白の装甲を持つ姿に変化した。

 

 

完全無欠のボトルヤロォォォ!!

 

 

 そこへ、成分が充填されたフルボトルが次々に刺さっていく。

 

 

ビルド ジィィニアァァァス!!!

 

 

 ボトルは有機物系と無機物系で暖色と寒色に分かれ、

 頭部右・右上半身・左脚に暖色が、逆に寒色のものが装填。

 

 

スゲェェイ!! モノスゲェェェイ!!!

 

 

 皆が創った守護と救済の力であり、ライダーシステムの集大成―――仮面ライダービルド ジーニアスフォームが今、誕生した。

 

 変身完了直後、マスク内にヴァーテックスや周りの状況の分析結果が表示され

 

「ハッ!」

 

 左脚で地面を蹴り、一瞬でヴァーテックスとの距離を詰めた。

 

「小癪な真似を―――!!」

 

 生太刀を振るうが、タンク、ダイヤモンドを始めとした無機物系フルボトルの力を発動させた装甲には傷一つついていなかった。

 

〔ONE SIDE!〕

 

 レバーを一回転。

 全身の有機物系フルボトルが活性化した。

 

〔READY GO!〕

 

 赤と蒼の炎に身を包み、先ほどのような跳躍をしたと思えばその姿は消失。

 

「何処だ――何処に――――」

 

〔GENIUS ATTACK!!!〕

 

 突如姿を現し、エボルドライバーに向かってパンチを繰り出した。

 

「ングゥゥゥ……アァァァァァ……何を―――」

 

 戦兎の拳に黒いモノが纏わりついた。

 しかしそれは腕を伝って胸部のフルビルドリアクターに吸収され、瞬く間に蒸気として排出された。

 

「お前のネビュラガスの一部を浄化した」

 

「浄化……」

 

 ヴァーテックスの体にノイズのようなものが走る。

 続くようにヴァーテックスが作った空間が崩れていき、再度花弁が視界を塞いだ。

 

 

「バーテックスが……消えた?」

 

 地上で少女を見ていた夏凜が呟いた。

 

「何とかなったみたいね」

 

 去ろうとする少女を風が呼び止めた。

 

「あんた一体何者!?突然七人になったり夢に出てきたり……」

 

「あんた呼ばわりもうんざりしてきたし、ちょうどよかったわ」

 

 少女は古びた端末を投げ込み、姿を消した。

 

「……何このスマホ。何年使ってたのよ」

 

 端末は全体的に傷が目立つが、カメラレンズと画面が特に酷かった。

 そして電源を入れることができ、ロックもされていなかった。

 

「…………千景?」

 

 それが彼女の名前だった。

 

 

 元の世界へ降り立った戦兎と墜ちたヴァーテックス。

 

「ビルド……!」

 

 戦兎の前に、スマッシュ数十体。

 あのスマッシュだけでは食い止めきれず、彼は満身創痍だった。

 

「我に痛手を与えただけでいい気になるな……!貴様は誰も救えない!」

 

「救う。救ってみせる!」

 

 レバーを二回回転。

 全身の無機物系フルボトルが活性化した。

 

〔ONE SIDE!〕

〔逆サイド!〕

 

〔READY GO!〕

 

 ドリルクラッシャー ガンモードを召喚。さらにこれをジーニアスの力で解析し、銃身を新たなものに作り替えた。

 

〔ジーニアス ブレェェェェイク!!!〕

 

 戦兎は天に向かって引き金を引いた。

 

 

「成分が尽きちまった……クソッ!」

 

 空になったフルボトルを地面に叩きつける一海。

 

 すると、何かが上から降ってくるのに気づく。

 

 虹色の光がスマッシュへ降り注ぎ、体内のネビュラガスを浄化した。

 

「俺は一体……?」

 

「ここは……」

 

 もうここにスマッシュはいなかった。

 

「おい、大丈夫か!」

 

「……あなたが、助けてくれたんですか……?」

 

「いや、これは俺じゃない」

 

 一海は今の戦闘が続いている地点へ向かおうとした。

 

「せめて、あなたの名前だけでも!」

 

 

「仮面ライダーグリス。覚えときな」

 

 

 

「戦兎!」

 

 戦兎の元へ龍我が合流した。

 

「それってもしかして!」

 

「あぁ。俺たちが創ったビルドだ!」

 

「さて、と」

 

〔DRAGONIC EVOLUTION!〕

 

 龍我がクローズトリガーを起動し、ドライバーと接続した。

 

〔MAXIMUM CROSS-Z DRAGON!〕

 

 クローズトリガー起動時にスロットから半分ほど外れたクローズドラゴンマックスを拳の底で叩くように再装填。

 

「ビルドアップ」

 

〔GET AUTHENTIC DRAGON!! YEAAAAAH!!!〕

 

 クローズネオの装甲が外れ、新たな装甲を纏いクローズマキシマムへと強化された。

 

「こんなことしてタダで済むと―――」

 

「タダで済むと思うなよ。天神だか何だか知らねぇが、少なくともお前は仮面ライダーなんかじゃねぇ。ただの怪人だ」

 

「一海ぃ!俺のセリフと被るんじゃねぇよ」

 

「知るか。お前がビルドアップしてるのがいけねぇだろうがやってからこっち来いバカ」

 

「せめて筋肉バカにしろ筋肉バカ!」

 

 そこへ、二人を引き離すように惣一が到着した。

 

「こっちも無事だ。戦兎、やったな」

 

 戦兎が頷いた。

 

 

「仮面ライダー!」

 

 あの警察官が叫んだ。

 

「後は……頼む!!」

 

 

 

「―――――」

 

 装甲が剥がれかけたヴァーテックスが彼らに襲い掛かった。

 

「しつけぇんだよ!」

 

 龍我自身が疲労していたこともあり、矢を防いでいるうちに姿勢が崩れてきた。

 

「このままじゃ……」

 

 辺りは殆ど荒れ地と化して、スマッシュにされていた人間も避難した――はずだった。

 

 

「仮面ライダー!」

 

 

 一人の市民が叫んだ。それに続いて他の市民も。

 

 

 ヴァーテックスが彼らに標準を変えた。

 

 戦兎が即座に反応し、ダイヤモンドの壁を生成する。

 

「頑張れぇぇぇぇ!!」

 

「負けるなぁぁ!!!」

 

 

「―――チャオ!」

 

〔EVOLTECH FINISH!!!〕

 

 最初に惣一が飛び出し、ヴァーテックスのクロスボウを破壊。

 

「心火を燃やして―――ぶっ潰す!」

 

〔MEGA SCRAP FINISH!!!〕

 

「オラオラオラオラオラァァァァ!!」

 

 一海が右腕に巨大なロボットアームを形成し、攻撃を防ぎながら直進。ヴァーテックスを掴みそのまま地面に叩きつけた。

 

「万丈、行くぞ!」

 

「おうよ!」

 

〔SUPER DRAGONIC EVOLUTION!〕

〔ALL SIDE!〕

 

 

 二人が跳んだ。

 

〔〔READY GO!〕〕

 

〔BLAZE FLOW!〕

〔PROMINENCE DRAGONIC FINISH!!!〕

 

GENIUS(ジーニアス) FINISH(フィニィィィィッシュ)!!!〕

 

 蒼炎を纏うクローズと虹色に輝くビルドによるキック。

 

 ネビュラガス浄化によってエボルシステムが徐々に停止していき、そこを炎が蝕んだ。

 

「ハアァァァァァ!!」

「オラァァァァァ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――――――――――――人間風情がァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 遂にヴァーテックスが耐えられずにエボルドライバーの崩壊とともに消滅した。

 

 

「……はぁ」

 

 ため息をつきながらヴァーテックスのドライバーの破片を蹴る少女がいた。

 

「結局、足を引っ張っただけだったわね」

 

 

「マスター、あの話の続きだけど」

 

「お前が信じた結果だよ」

 

「え?」

 

「お前が人を信じる人間だから。お前がそんな人間じゃなかったら、万丈は刑務所へ再収監、俺も……どうなっていたか。信じる心が俺たちをここまで繋いできたんだ」

 

「……まぁ、人を信じるようには心がけてた。でもそれは以前の自分の否定から来たものだった」

 

 戦兎がコーヒーを入れながらこう言った。

 

「どれだけ否定してもそれは俺だということに変わりない。だから受け入れたんだ」

 

「自分だということに変わりない……ねぇ……」

 

 惣一が戦兎のコーヒーを受け取り、一口飲んだ。

 

「負けたよ。色んな意味で」

 




・ジーニアスフルボトル
制作に60本のボトルの成分を使ったが、全部抜いた訳ではないため素のボトルは残っている。

・ジーニアスフォーム
完全無欠のボトルヤルォォ!
出力は全て戦兎の頭脳次第(サポート一切なし)なので戦兎の柔軟な発想が問われる。
単純に力だけならハザード系より下

・白ぐんちゃん
東郷と夏凜が非常に警戒。
基本「○○(名前)さん」呼び。西暦の頃とは逆。

・ヴァーテックス
太郎の記憶から人間の感情を学ぶもそれが祟って情けない最期(?)へ


よいお年を。


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第六十二話 ネガティブレガシーと向き合うために

長い間投稿が出来なくて申し訳ありません。
今回から味方勢最後の最終フォーム編になります。


GENIUS(ジーニアァァス) FINISH(フィニィィィィッシュ)!!!〕

 

 現在の自分の立ち位置、味方の位置、攻撃後の反動による周囲の被害の軽減等から算出されたグラフがスマッシュを拘束し、六十本のフルボトルの成分が虹色の翼として放出されているビルドがそのグラフに沿って加速。

 

『ネビュラガスの浄化の力』としてフルボトルの力がスマッシュに流し込まれ、スマッシュが霧散した。

 

「っと」

 

 着地したビルドが周囲を見渡し被害が無いことを確認した。

 

 

「たでぇまー」

 

「「ぅーっす」」

 

「お疲れさん」

 

「さっとん、ジョーさん、かずみんおかえり~」

 

 疲れ切った状態で戦兎、龍我、一海がnascitaに戻った。

 

「戦兎、今日もジーニアス使ったんだろ?」

 

「あぁ。だから―――」

 

 戦兎の心を読んだかのように惣一が後ろの棚からインスタントのココアを取り出した。

 

 この光景に龍我と一海は、「自分で(コーヒーを)淹れるのはやめたのか?」と疑問と安堵が混ざった表情をした。

 

「ん?ココア……?―――って戦兎お前!」

 

「えっ何カッカしてんの、あ、飲みたいの?」

 

「お前の飲みかけなんていらねぇ。せめてそのたんのを出せ―――じゃなくて」

 

 一海はゴミ箱を開け、一つのゴミを出してきた。

 

「朝、これ食っただろ」

 

「あー……砂糖菓子……」

 

「朝っぱらから甘いもん食ったらどうなるか分かってんのか?おい」

 

 戦兎は園子を手招きで呼び、一海の前にスッと立たせ、地下室に逃げようとするが、

 

「ンンンンンンンンンン!!そのたんの三十センチ手前ッ!」

 

「かずみん落ち着いて~」

 

「あれ絶対唾かかったよな」

 

「どちらにしろ神官の前でやってたら打ち首だったな」

 

「んんん――――はっ!おいゴラまて戦兎ォ!!」

 

「ジーニアスはボトルの能力調整にサポートが無いから脳疲れるんだよ!!」

 

「戦兎、ジーニアス使ったのか」

 

 惣一がエボルトリガー片手に地下室から出てきた。

 

「これだとスマッシュを爆散させることなく倒せる。周囲への被害も少なくできるし、あの時みたいに意識のある人が変化させられたスマッシュにも安全に対処―――」

 

 惣一は待ったと戦兎の言葉を遮った。

 

「確かにそうだが、まずこれを見てほしい」

 

 彼はタブレット端末を取り出し、映像を再生した。

 グリスのヘッドギアに搭載されたカメラのものだった。

 

「俺だな」

 

「やっぱクローズマックスかっけぇな」

 

「龍我お前黙ってろや」

 

 映像のビルド ジーニアスフォームがフルボトルの力を使う。

 

「ん、……何だこれ」

 

「装甲が浮いた?」

 

「いや、隙間を開けたんだ」

 

 ビルドの肩や腕の装甲が少し開き隙間が空く。

 そこから蒸気のように何かが排出されていた。

 

「内側にため込んだエネルギーを放出。戦兎への負担を軽減させた」

 

「じゃあ」

 

「一応、装甲の表面でそれを再吸収できるようにしたんだが……全部はさすがに無理だった」

 

「マスター、何が言いたいんだよ」

 

「ジーニアスフォームは使用者への負担軽減のため、エネルギーを放出しながら動いている。その上、ジーニアスボトルは僅かな振動で活性化する」

 

「下手すりゃ腹式呼吸の腹の動きですら活性化するのか」

 

「そう。で、空気を入れ続けた風船はいずれどうなると思う?」

 

「破裂……あぁ!」

 

「戦兎、天神との戦いは続く。奴は単純な力では勝てない。技も必要になってくる。そういう時に十二分に使えるように温存するんだ」

 

「分かった。そうするよ」

 

「ジョーさんジョーさん」

 

「あ?」

 

 話についていけず周囲をきょろきょろしていた園子。

 

「腕の傷……あっ、さっとんも!」

 

「まぁ、最近いろんな事が立て続けにあったからな……」

 

「すぐに治ると思う。それより万丈、園子の父さんから聞いたぞ。警察から謝罪文貰ったんだってな」

 

「不確定な情報で指名手配・逮捕――に関する、な。そういう意味でもあの警官を助けられてよかった」

 

「……」

 

 龍我の話を聞いて園子が呆気にとられていた。

 

「園子?」

 

「偉い人って、こういう事を無くすために努力していかなきゃなって。大赦も今、問題抱えてるって」

 

「あぁ。ファウストが介入していたおかげで互いが互いを信じられなくなってる。いつはち切れて崩壊してもおかしくない」

 

「……がんばろうね、さっとん!私もできる限りサポートするから!」

 

「いや、乃木の血が入ってるお前が前に出るんだぞ?サポートは俺」

 

 これを聞いた途端、園子は力が抜けたようにテーブルにへばり付いた。

 

「……」

 

「一海お前やっぱ園子関係になると気持ち悪い」

 

「まだ何も言ってねぇだろ!?」

 

「顔に出てるんだよ!」

 

「おう表出ろや」

 

「上等だ」

 

 

「妬けるなぁ」

 

「あいつは騒げる環境が今まで無かったからなぁ…万丈は分からないけど

 

 

 

 

 ん?妬けるってどういう―――」

 

 

 結界外の灼熱の空間。

 そこで白い髪をなびかせる女性が一人。

 

「やっぱり、アレは一部に過ぎなかったのね」

 

 彼女はかつて郡千景という名を持っていた。

 

 彼女が見上げる場所には、巨大な鏡のようなものが浮いていた。

 

 

「これだから過激な輩は困る」

 

 

 彼女はヴァーテックスは使用していたエボルドライバーの残骸を溶岩と化した大地へ投げ捨てた。

 

 

 

「龍我、お前が戦う理由は何だ」

 

「……そういう事か。俺は、正義だとかそういう難しい事はよく分かんねぇ。けど、誰も信じてくれない、誰も信じたくない状況で俺を信じてくれたあいつに何か返し―――ん?自分を信じてくれたあいつを信じたから?んー…………」

 

「っ、ははははははは!! 自分でも分からねぇのかよ!」

 

「ちげぇよ!どう口に出せばいいか分からねぇだけだ!」

 

「とにかく、保身のためだけじゃないってことだな」

 

「保身……ほっとんど考えたことなかったな。そういう一海はどうなんだよ」

 

「…………無い」

 

「――はぁ?」

 

「猿渡家は元々、300年前から続く農家だったらしい。だが、白鳥という家の人間と干渉したことで大赦の一部に組み込まれた。今思えば情報漏洩防止のためだったのかもな。

 

 で、そんな家の人間が大赦で役立てる機会はただ一つ、警備だ。だから俺は葛城って奴がライダーシステムなるものを作っていると聞いてグリスになった。

 

 大切な人が殺されたとかそういう過去は一切ない。『戦い力の無い猿渡の人間は役立たずの他ない』から戦っているに過ぎない」

 

「……悪い。嫌なこと思い出させちまって」

 

「いつか話そうとしてたことだ。気にすんな。大赦から蹴られて始めて見たものもある」

 

「園子か」

 

「そのたんの小説は信念を持たず力を振り回す俺にとって心の支えだった。大赦のためといいより、小説の続きを読むために生きるんだって思ってた頃もあった」

 

「マジか」

 

「でも今はそんな過去に引きずられてる時間は無い。俺は俺の戦う意味を見つける」

 

 

 

「よいしょっと」

 

 惣一は荷物をまとめたリュックを背負い、nacscitaのドア付近に『しばらく休業します』と看板を立てかけた。

 

「ちょちょ、マスター!どこ行くんだよ!」

 

「戦兎、お前の過去を否定しない姿勢でようやく決心したよ。俺も俺の過去を受け入れる。葛城巧の全てを」

 

「マスター……」

 

「いい年した大人が今更何言ってんだってなるけどな。じゃ、戸締りよろしく」

 

 最後にチャオと言って惣一はnascitaを後にした―――

 

 

 

 

「こんな看板無くても客来ないと思うけど」

 

 

 

 

「だっ、だよねぇ~!さっすが戦兎!」

 

「冗談だよ。あんたがいない間も、あんたが帰ってくる家は俺たちが守ってみせる

 

 

 それで、結局どこいくの」

 

 

 

 

 

 

 

「帰省する」

 



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第六十三話 フォービドゥンの起動は近い

石動惣一が足を踏み入れた地は、彼が葛城巧として生まれ育った地。

 

住宅の多くに規制線が張られている。スマッシュによる被害が原因だ。

 

「しけてるねぇ」

 

ファウストの毒として活動していた自分の行いのせいでもあった。

子供に手をかけたこともあった。

 

「向き合うんだ。過去に」

 

すると、惣一が背後にさっきのようなものを感じ取り、トランスチームガンを構えた。

 

「スマッシュ……あいつの仕業か。

格闘特化の個体か。だったら」

 

エボルドライバーを装着し、エボルボトルを装填。

 

〔DRAGON!〕

〔RIDER SYSTEM!〕

〔EVOLUTION!〕

 

「変身!」

 

 

「もう、貴方達が戦う必要は無くなった」

 

「……どういう意味だよ!魔王は倒してないし、あたしらの力も無くなったわけじゃない!世界だってちっとも平和になってないじゃないか!」

 

幼稚園で行われている勇者部による劇。

勇者が仲間と共に世界を脅かす魔王を討伐する話だが、終盤に差し掛かった今、美森扮する賢者が勇者達に戦いをやめるよう諭していた。

銀が扮する勇者がそれに噛みついていた。

 

「貴方達以外にも魔王に立ち向かう者がいることはご存知ですね?」

 

「まさか、そいつらに任せるっていうの!?」

 

夏凜扮する勇者も賢者の言う事に納得していない。

 

「力を得すぎた勇者はいずれ英雄ではなく悪魔として人々に恐れられる」

 

 

―――――普通の人間として生きることができなくなる。

 

 

 

〔READY GO!〕

〔EVOLTECH FINISH!! CIAO!〕

 

エボルの蒼炎を纏った蹴りによりスマッシュは爆散した。

 

「……弱い。これは明らかに変だ」

 

数を揃えれば、生身の人間ですら動きを抑制させることができるのでは。

そう感じさせるほど弱体化していた。

 

「戦兎達にも知らせ―――」

 

変身を解除し、戦兎へ電話をかけようとしたその時、惣一の端末が撃ち抜かれた。

 

「―――始まりだ」

 

「ッ!」

 

〔BAT!〕

 

惣一は声のした方へ振り向き、トランスチームガンにバットフルボトル(トランスチーム用)を装填。

 

〔STEAM BREAK! BAT!〕

 

引き金を引いた。

 

惣一が反動で大きくのけ反る中、声の主はエボルトリガーに酷似した物体を光弾に向ける。

すると、光弾が物体から放出した何かによって相殺された。

 

「幻……徳……っ」

 

「聞こえるか、破滅へのカウントダウンが」

 

「何を言って―――」

 

この瞬間、この世界のどこかに亀裂が走る。

 

 

劇が終わった。

 

途中で雰囲気がガラッと変わる場面があったものの、円満に幕を閉じることができた。

 

園児たちにありがとうと手を振る友奈達に笑顔はあったものの、心の奥から発せられたものではない。どこか迷いのような感情があった。

 

「いい劇でした」

 

幼稚園を後にする勇者部の前に、男とその側近が現れた。

 

 

~nascita~

 

「暇だああああああ!!」

 

「んじゃ、俺コーヒー畑見てくるわ」

 

「そんなああああぁぁぁぁぁ……

猿渡も出かけちまったし、万丈もこれだ」

 

戦兎が端末を操作する。

 

「おかしいな、園子からの連絡が無い。もう劇は終わってもいい時間なのに」

 

地下室に移動し、置いてあったジーニアスフルボトルを手に取る。

 

「パンドラボックスは無くなり、そこから出来たボトルの力が集まったボトルがここにある。

……ある意味これもパンドラボックスと考えていいのか?

まっさかなー…………ん?」

 

龍我が朝まで寝ていた所の近くに、見かけない物体が転がっていた。

 

「ボトル?これどこかで……どこかで……あぁっ!ライフルのボトルと一緒に出てきたドライバー非対応の――――――」

 

ボトルを持った手で指をさす仕草をしたその時、ボトルが手から滑り落ちてしまった。

 

「おっと」

 

戦兎がこれを拾った瞬間

 

「がっ!?」

 

頭痛と共に映像が頭の中に流れ込んでくる感覚がした。

 

映像にはノイズが走り、明確ではない。ただ、声だけははっきりとしていた。

 

 

『葛城、お前は物理学者という肩書きすら偽りだった!』

 

男の声。

 

『戦兎、どうにもならないのかよ!』

 

相棒の声。

 

『私は……いえ、―――――――――郡千景』

 

 

「ッ!!」

 

頭痛が止んだ。

 

「忙しい奴だな、君は」

 

そして、頭痛の際倒れそうだった身体を支えてくれた男の姿があった。

 

「檀黎斗……さん」

 

 

「確かに、あんなおいしい話のまま最後までいけるはず無いわよね」

 

帰路につく彼女らに笑顔は無くなっていた。

 

「でもこれが……本来の形、なんだよね……?」

 

「あたし達は戦いを甘く見てた所があったってことだ。いやぁ、これからも頑張らなくちゃな。ははっ、あはははは!」

 

「気味が悪いわ、この感覚。ビビッてるのかしら。こんなの見られたら太郎にどんな顔されるか」

 

「……お父さん、泣いてた」

 

「えっ?」

 

「分かるよ。ずっと一緒に暮らしてたから。でも、昔のままだったらあそこまではならなかったんじゃないかなぁって思ってる。人ってここまで変わるんだね」

 

園子のこの言葉に、美森が冗談半分でこう返す。

 

「あら?そのっちは何か変わったかしら」

 

「むぅ、そんなこと言うわっしーにはこうしてやる~!」

 

「え、ちょっと、そのっち!そこは……やめっ」

 

「須美~」

 

「何!?まさか銀も―――」

 

「友奈も混ざりたいだってさ」

 

「……」

 

「友奈も混ざりたいだってさ」

 

「……」

 

一瞬、美森の表情は何とも言えないものになっていた。

 

 

 

「あの三人、強いわね」

 

「見習ったほうが今後のためかもね。私達も頑張りましょ」

 

夏凜が風と樹の背中を励ましの意で叩いた。

 

「いったぁ!!今明らかにアタシの方が強かった!樹の方が明らかに優しかったぁ!」

 

「ね?いつもの騒がしい風に戻ったでしょ?」

 

「はい!ありがとうございます!今度試してみます!」

 

「樹ーっ!」

 

「あらあら。そんなに騒いでは女子力が薄らいでしまいますわよ?」

 

「夏凜ーっ!」

 

 

「このボトルにそんな作用が?」

 

戦兎は、黎斗にこうなった経緯を話した。

 

「……特に気になった事が一つ」

 

「何だ」

 

「コオリチカゲ……」

 

この言葉を聞いた途端、冷静な素振りだった黎斗がいきなり戦兎の肩を掴んだ。

 

「今、何て言った?!」

 

「コオリチカゲ。知ってるんですか?」

 

黎斗は、驚きを隠せなかった。



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第六十四話 親とのリユニオン

〔コウモリ!〕

〔発動機!〕

〔EVOL MATCH!〕

 

「変身」

 

〔バットエンジン!〕

 

 幻徳はマッドローグに変身し、その場から姿を消した。

 

「……あれは、エボルトリガーだったのか……?だとしたら」

 

 惣一は自身のエボルトリガーに目を向ける。

 

「使うしかない、か」

 

 

「君にも話しておくとするか。……まさか、今その名前を聞くことになろうとは」

 

 黎斗は戦兎に一枚の写真を見せた。

 

「郡千景。西暦の時代、勇者として戦った少女の一人だ」

 

「300年前の勇者の一人……。でもどうして、今その名前を」

 

「分からない。だが、そのボトルの力が本当だとすれば、近いうちに君は彼女に遭遇することになる。そうなった時は―――」

 

 突然、外から騒音と悲鳴が飛びかかる。

 

「私も同行しよう」

 

 

「これじゃあ、当初の目的は後回しに―――ッ!」

 

 惣一が人の気配を察知し、その方向を見る。

 

「っ!?」

 

 その人物も惣一を察知し、一目散に逃げだした。

 

「…………まずいなぁ…」

 

 彼の手に握られたエボルトリガーもしっかり見られただろう。

 

「行くか」

 

 不安な表情を一瞬浮かべるも、惣一はその人物を追い始めた。

 

 

「これは……」

 

「スマッシュに―――」

 

 戦兎と黎斗が現場に到着した。

 

 そこにはスマッシュ、そして

 

「なっ!? スマッシュからバグスター!?」

 

「まさか…君の言うスマッシュとやらに感染して増殖をしているのか?」

 

 

「逃げろっ!逃げるんだ!」

 

 警察官が住民を逃がすべく、スマッシュに捨て身でタックルをする。

 スマッシュは一瞬姿勢を崩したものの、

 

「ぐあッ!」

 

 反撃に出た。

 

 

「黎斗さん、行きましょう!」

 

「君を完全に信用しているわけではない。だが、人が傷つけられている以上為すべき事は一つ」

 

〔RABBIT!〕

〔TANK!〕

〔BEST MATCH!〕

 

〔MIGHTY ACTION X!〕

 

「グレード0」

 

〔Are you ready?〕

 

「「変身!」」

 

〔鋼のムーンサルト! ラビットタンク! YEAH!〕

〔MIGHTY JUMP! MIGHTY KICK! MIGHTY ACTION X!〕

 

 戦兎がビルド ラビットタンクフォーム、黎斗がゲンム アクションゲーマーレベル0に変身。

 

 ビルドは跳躍し、警察官を襲ったスマッシュへ接近、蹴りを入れてスマッシュを遠ざけた。

 

「今のうちに!」

 

「はいっ!」

 

(いくら使ってるボトルが強くなったとはいえ変じゃないか……?弱い……)

 

 一般人でも怯ませることができた。だが脅威であることは変わらない。

 

〔READY GO!〕

 

 ビルドはボルテックレバーを回し、ラビット側の左足でスマッシュを上へ蹴り上げ

 

「ハアァァァ!!」

 

〔VOLTECH FINISH!〕

 

 タンク側の右足で叩きつけるようなキックを叩きつけた。

 

 

 

「バグスターウイルスの悪用。許す訳にはいかない」

 

 ガシャコンブレイカーを召喚し、スマッシュから増殖したバグスターを切り捨てるようにして増殖の源となるスマッシュを目指す。

 

「ッ!」

 

 スマッシュがゲンムを発見し、刀を振るう。

 ゲンムはそれを受け止める。

 

「その太刀筋……カイデンか?」

 

 カイデンとは、かつてギリギリチャンバラというゲームから誕生したバグスター。

 外見は全く違うが、刀の振るい方はカイデンのそれだった。

 

「ならば」

 

〔GIRI GIRI CHAMBARA!〕

 

 ゲンムはプロトギリギリチャンバラガシャットを起動。ゲーマドライバーに装填し、レバーを再展開した。

 

〔LEVEL UP!〕

〔MIGHTY JUMP! MIGHTY KICK! MIGHTY ACTION X!

 アッガッチャ! ギリ・ギリ・バリ・バリ!チャンバラ!〕

 

 甲冑を模した装甲が装着され、プロトチャンバラアクションゲーマー レベル0に変身。

 

 そして、ガシャコンブレイカーにプロトギリギリチャンバラガシャットを装填。

 

〔キメワザ!〕

 

 ゲンムはガシャコンブレイカーを腰の鞘に収めるような構えをとる。

 

 カイデンは刀を構えゲンムに向かって走る。

 

 

 

 

 

 

 

「だが所詮は偽物。カイデンには遠く及ばない」

 

GIRI GIRI CRITICAL FINISH!

 

 ゲンムの方が早かった。

 

 爆散するスマッシュから彼は、専用のガジェットを使ってバグスターウイルスを回収した。

 

「私は先に戻る」

 

 ゲンムは変身を解除し、身体をビルドの持つ端末に転送した。

 

「えっ!?ちょっと!…………」

 

 ビルドの後ろには守り切った人たちの姿が。

 今思えば、他人の前で堂々と変身を解除するのは始めてだ、と彼は思っていた。

 

「待ってくれ」

 

 変身を解除した戦兎に、この場にいる警察官の上司にあたる人物が声をかける。

 

「私は御行寺(おんこうじ)。先程はありがとう」

 

「俺は自分からこういう事やってるんで。礼なんていりませんよ」

 

「君は…独りで戦ってるのか?」

 

「いえ」

 

 戦兎は端末にウルフフルボトルを装填。マシンビルダーを起動する。

 

「とても頼れる仲間がいます」

 

 この時の彼の顔はとても明るいものだった。

 そして、戦兎はマシンビルダーに乗ってスタンドをしまった。

 

「―――最後にっ!」

 

 

―――君の名前を聞かせてほしい

 

 

 戦兎は御行寺に振り返り

 

「桐生戦兎、仮面ライダービルド。『創る、形成する』って意味のビルド。以後、お見知りおきを」

 

 こう残してこの場を去った。

 

「……我々に出来ることを探そう。きっとある筈だ。きっと…」

 

 

「俺のコーヒー畑荒らすんじゃねぇぇぇぇぇ!!!」

 

 一方、龍我の付近にもスマッシュは出現。

 畑に足を踏み入れたスマッシュを前に思わず、

 

「おォォォォッ!!」

 

 ドラゴンサンフルボトルを握りしめ、生身で殴り―――

 

 

 一撃で撃破した。

 

「あぁぁぁ!!あっ熱い!あちぃ!あぁぁぁ…」

 

 爆風が畑に来るため、龍我はその身を挺して畑の盾となる。

 

 クローズドラゴンマックスが龍我に消防車フルボトルで放水する中、彼もスマッシュに異変を感じた。

 

「ボトルが強くなってるといっても弱すぎじゃねぇか?今までは一体一体は硬かったけど、数は大量とまではいってない。今度のこれは……?」

 

 龍我は勢いよく立ち上がりnascitaへ駆けた。

 

 

「さっとん、今いいかな?」

 

 nascitaに来た園子。返事は無い。

 

「みんな出かけちゃってるんだ。…そうだよね、ヒーローだもんね」

 

 ドアを閉めて、端末から精霊を解放する。

 

「パートナーがヒーローだなんて凄い事だよねぇ、セバスチャン」

 

 セバスチャン―――鴉天狗は園子の目を見つめたまま動こうとはしなかった。

 

「……確かに、私は悩みは相談してほしいって言った。でも…そうしたら相手が悩んじゃうような事は相談しないほうが…いいよね」

 

 セバスチャンは何も答えないまま端末に戻った。

 

 

「待てっ!!」

 

 惣一がようやく追いかけていた人物の元へたどり着いた。

 

「……誰?」

 

「――――――こんな見た目で信じがたいかもしれないけど」

 

 

―――俺はあんたの息子。葛城巧だ

 



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桐生戦兎/仮面ライダービルド


桐生戦兎/仮面ライダービルド

 

肉体年齢 26歳

 

 

神世紀初の仮面ライダー。

神世紀299年の大半の記憶が欠如しているが、それはその間にファウストによる実験を受けていたため。これにより身体機能は回復したが、肉体は大きく変わってしまった。

自分を拾って匿ってくれた惣一からビルドドライバーとフルボトルを受け取り、仮面ライダーへ。

葛城から受け継いだ知識によってビルドドライバーの複製や武器などを開発。

「身を滅ぼしてでも力を得る」葛城のシステムとは違い、戦兎の開発したライダーシステムは副作用が無くなっている。

龍我を保護してからは彼の監視兼ストッパーのような役割になり、さらには戦友になっていく。

過去の自分とは違い、初対面の人を疑う素振りは見せない。

自らのことを「天才物理学者」と言っていたが、実際はそんな知識は存在しない。ビルドの必殺技には数式をモチーフにした必殺技が存在するが、それはある理由によるもの。

前述の理由で肉体が急成長してしまったため、精神がそれに追いついていない。そのため、「愛と平和」と理由も無く言ってこともあったが、後にそれが脆くて説得力の無い事だと理解しながら「皆の自由の為に戦う」ことを自分の正義として戦う決意をする。

 

尚、ラビットラビットフォームの四肢伸長能力は太郎から戦兎になった時の体の変化した原因(ハザードレベル2以上の者へのネビュラガス過剰投与)を基にしている。

 

ラビットラビット・タンクタンクフォームに変身した結果、タンクタンクの方が負担が大きいことが判明。これは「戦兎に最も適したボトルがラビット」であることを意味する。

 

 

 

 

 

 

 

ライダー(RIDER)システム(SYSTEM)

 

葛城巧が開発した勇者システムの発展型。パンドラボックスの力で発生したネビュラガスを使用しているため、バーテックスに対抗が可能。

 

ビルド(BUILD)ドライバー(DRIVER)

 

ライダーシステムの一環。

フルボトルを二本装填することで仮面ライダーに変身可能。ただし、ハザードレベル3.0を要する。

これの原型としてエボルドライバーが存在。

 

フル(FULL)ボトル(BOTTLE)

 

ライダーシステムの一環。

振る事で振った者の身体機能強化が可能。

基本的にスマッシュの成分やネビュラガスを基に創られるが、二本だけこれに該当しない。

これの原型としてエボルボトルが存在。

 

フルボトル一覧

 

戦兎が惣一から託されたもの

 

・ラビット

・タンク

・ゴリラ

・ダイヤモンド

・ライオン

・海賊

・ライト

・ガトリング

 

スマッシュの成分を基にしたもの

 

・掃除機

・ハリネズミ

・タカ

・忍者

・ドラゴン

・消防車

・オクトパス

 

大赦で開発されたもの

 

・フェニックス

・ロボット

・ウルフ

・スマホ

・ユニコーン

・消しゴム

・ローズ

・ヘリコプター

・タートル

・ウォッチ

・クマ

・テレビ

・カブトムシ

・カメラ

・ドッグ

・マイク

・クロコダイル

・リモコン

・スパイダー

・冷蔵庫

 

ファウストで開発されたもの

 

・クジラ

・ジェット

・トラ

・UFO

・ペンギン

・スケボー

・キリン

・扇風機

・おばけ

・マグネット

・サメ

・バイク

・シカ

・ピラミッド

・バット

・エンジン

・ハチ

・潜水艦

・サイ

・ドライヤー

 

その他

 

・コミック(惣一から貰う)

・パンダ(惣一から貰う)

・ロケット(スタークが所持し、龍我が奪取)

・ロック

・勇者

・ライフル

・ドクター

・ゲーム

・コブラ(葛城が最初に開発したフルボトル)

 

 

仮面ライダービルド

 

桐生戦兎の変身する仮面ライダー。

使用するボトルやその組み合わせによって能力は大きく変動するが、基本は力よりも技で戦う戦闘方式が得意。

 

ラビットタンクフォーム

 

〔鋼のムーンサルト! ラビットタンク! Yeah!〕

 

ビルドの初期フォームにして戦兎やパンドラボックスの力と最も相性が良い。

専用武器は存在しないが、ドリルクラッシャーを運用。

 

・ドリルクラッシャー

ドリル部の接続の仕方でブレードとガンの二つに変形が可能な武器。生身の状態でも使用可能。

 

キードラゴンフォーム

 

〔封印のファンタジスタ! キードラゴン! Yeah!〕

 

ドラゴンとロックのベストマッチフォーム。

戦兎が最初に変身した時はロックフルボトルの力ですら抑えきれないドラゴンフルボトルの力に翻弄されていたが、龍我が変身した時は難なく制御していた。

 

また、代表戦の際にも戦兎が変身したが、この時のドラゴンフルボトルは成分を半分スクラッシュゼリーに移植していたため、最初ほどの翻弄はなかった。

 

ブレイブスナイパーフォーム

 

〔BREAK DOWN DESTINY! BUILD IN BRAVE SNIPER! YEAHH!!〕

 

勇者とライフルのベストマッチ

勇者フルボトルには乃木園子、ライフルフルボトルには東郷美森、結城友奈、犬吠埼風、犬吠埼樹から採取した力が入っている。

 

腕部に"Y.Yブレイバーガントレット"を装備。さらに

狙撃銃"T.Mブレイバーライフル"

大剣"I.Fブレイバーブレード"

"I.Iブレイバーエレスティックニードル"(ガントレットから射出)

斧"M.Gブレイバーアックス"

槍"N.Sブレイバーランス"を召喚可能。

 

ネビュラガスやスマッシュの成分を使用していないため基本的にスマッシュには対抗不可。その分バーテックスに対しては十二分に性能を発揮できる。

 

 

ラビットタンクスパークリングフォーム

 

〔シュワっと弾ける! ラビットタンクスパークリング! YEAH! YEAHHHH!!〕

 

ラビットとタンクの成分にパンドラボックスの成分を組み合わせて開発したガジェット"ラビットタンクスパークリング"で変身。

炭酸を彷彿とさせる白い水玉や鋭利化した装甲が特徴的。

ドリルクラッシャーやベストマッチウェポン(ホークガトリンガー等)を召喚し、使用が可能。

 

 

ハザードフォーム

 

〔UN CONTROL SWITCH! BLACK HAZARD! ヤベェェェェイ!!〕

 

葛城巧が作り上げたビルドの最終形態。

変身する際は、金型のような形状のハザードライドビルダーに前後から挟まれる形になる。

汚染されたかのような黒い装甲が特徴的。

ハザードトリガーに内蔵される強化剤"プログレスヴェイパー"を変身者とフルボトルに注入し、ベストマッチをスーパーベストマッチに強化。トライアルでも可。

ただし、これの影響に脳が耐え切れず、自我を失う弱点が存在し、この状態では敵味方関係なく動いているモノ全てを攻撃対象とする。

 

・オーバーフローモード

 

〔OVERFLOW! ヤベェェェェイ!!〕

 

ハザードフォームの性能を最大まで引き出した状態。

肩から強化剤を噴出させ、自身のハザードレベルを急上昇。さらにスマッシュの装甲を溶かすことが可能。

この状態では必ずと言っていい確率で自我を失うが、正式なフルボトルでないブレイブスナイパーでは自我を保持していた。

 

・ラビットタンクハザード

 

戦兎の体に最も適したベストマッチの強化版。

だが、その力に振り回される結果になった。

 

・ラビットタンクスパークリングハザードフォーム

 

〔OVERFLOW!〕

〔シュワっと弾ける! ラビットタンクスパークリング! YEAH! YEHHHH!!〕

〔ヤベェェェェイ!!〕

 

変身した瞬間からオーバーフローモードに移行すると同時に、ラビットタンクの上位互換といえるスパークリングを使用するため、この形態では一切自我を保つことができない。

 

 

ラビットラビットフォーム

 

〔紅のスピーディージャンパー! ラビットラビット! ヤベェェェイ! ハエーイ!〕

 

桐生戦兎が作り上げたビルドの最終形態。

ラビットタンクハザードフォームの上から赤い装甲を纏う形で変身。

フルフルラビットタンクボトルによって生成された調整剤によって強化剤を抑制。自我を保持している。

ラビットの移動力・跳躍力を最大限に引き出した形態。

乃木園子の書く小説に登場するヒーローをモチーフにしており、背中にはウサギの耳を模したマントが付けられている。

 

ハザードの装甲霧散能力が装甲貫通に変更されており、相手の装甲の厚さに関係なく一定のダメージを与えることが可能。

余剰になった強化剤は装甲をフィルターにして白い蒸気として排出。

また、四肢を伸長させ、元の長さに戻るときのエネルギーを応用した攻撃が可能。

 

 

タンクタンクフォーム

 

〔鋼鉄のブルーウォーリア! タンクタンク! ヤベェェェイ! ツエーイ!〕

 

桐生戦兎が創り上げたビルドのもう一つの最終形態。

ラビットタンクハザードフォームの上から戦車型の青い装甲を纏う形で変身。

タンクの射撃・防御能力を最大限に引き出した形態。

乃木園子が書く小説に登場するヒーローをモチーフにしており、背中には履帯を模したマントが付けられている。

 

ラビットラビットフォームと同様の装甲貫通能力を有し、装甲は余剰の強化剤を注入し、ビルド一の防御力を会得。

 

装甲に強化剤を流し込みより頑丈になった。

 

・フルフルラビットタンクボトル

ラビットとタンクの成分が二本分ずつ入っており、変身の際にはどちらかを選択。

同成分同士により調整剤が生成されるが、内部が常温でないといけない。

これによりオーバーフローモードを継続させながら自我を保持している。

 

・フルボトルバスター

ラビットラビット・タンクタンクフォーム専用武器。

この形態によって失われた「複数のフルボトルによる戦法」を補う。

バスターブレード・バスターキャノンに変形し、前者はラビットラビット、後者はタンクタンクで使用することを想定にしている。

 

 

 

エグゼイドフォーム

 

〔EX-AID!〕

〔MIGHTY JUMP! MIGHTY KICK! MIGHTY MIGHTY ACTION X!〕

 

ドクターとゲームのフルボトルで変身。

300年前に存在したエグゼイドと呼ばれる仮面ライダーの姿になる。

神世紀300年ではこのフォーム、もしくはこれの変身に使うフルボトルの力でしかバグスターに対抗できない。

 

現在、ドクターが手元にない状態である。



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