ハリエット・ポッターと優しい世界 (スターダスト)
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ハリエット・ポッターと賢者の石
1話 ハロー、聞こえますか



初投稿(仮)です!
めちゃくそ駄文ですが、お手柔らかに!



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ___ハリエット

 

 

 

 ___それがお前の名前だよ

 

 

 

 ___生き、て、愛おし、い、私の___

 

 

 

 

 

 

 記憶の彼方で誰かが泣きながら笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を開ける。

 視界に映る天井は見慣れたもので、ヒビやシミの目立つ木目はこの()()()の古さを物語っていた。

 

「.........あれは、誰だろう」

 

 未だ覚醒しない脳とはっきりしない視界に目を細めながら呟く。

 口にしたのは、ここ数日見る夢についてだった。

 それは、悲しい時もあれば楽しい時もある。場面は違えど、いつも同じ声がするのだ。柔らかな女の人と、朗らかな男の人の声。彼らは、決まって私の名前を愛おしそうに呼ぶ。噛みしめるように呼ぶ。それに、私はいつも泣きたくなるのはなぜだろうか。愛に飢えているが故の羨望か、真偽も分からぬ記憶への懐古か。

 どちらにしろ、私には関係ないことだ。幻想への憧れも、無くしてしまったものへの執着など、何の役にも立たない。

 それは、私がまだ希望を胸に抱いていたときに思い知ったはずなのだ、きっと今日の昼ごろにはこの夢のことも忘れているに違いない。

 

 寝起きの倦怠感を振り払い、一つ大きな伸びをする。ようやく働き始めた脳は胃に空腹の信号を送っている。

 

 ___トントントン

 

 軽やかなノック音に私は小さく息を吐いた。()()()()

 

「はい」

「もう時間よ、下に早く来なさい」

「すぐ行耳きます」

 

 短いやり取りの中の意図一つでも汲み取れなければここではやってけない。シスターの言葉には注意深く耳を傾けなければならず、精神が削られる。なんとも生きにくい社会である。

 

 階段を降り、厨房のドアを開けてその奥の食材庫に向かう。今日の朝食は何にしようか。ああそろそろケビンの誕生日のはずだからあの子の好きなものを入れてあげるのもいいかもしれない。

 

 そんなことを考えながらも手は休まず、着々と準備を進めていく。

 やがておよそ20人分の朝食を作り終え、それぞれが個別に取っていけるよう長机にセッティングする。やることが終わると途端に暇になってしまったが、シスターが一番最初に食べるのがルールである。本でも持って来ればよかったかもしれない。

 

 

 

 ────

 

 

「ハリー。今日は貴女にお客様よ。きちんと身だしなみを整えておきなさい」

「はいシスター」

 

 朝から機嫌が良かったのはこれのことか、と密かに納得した。

 引き取りの話だといいが、そう上手く事が進むはずがない。この孤児院に捨てられてから10年間、養子の話が出てくることは何度かあったがどれも直前に破棄になってしまっている。おかげでここの最年長になってしまったため、今更引き取るなどの話があがることはそうない。厄介払いをしたくて仕方ないシスターたちのことだ、用意される服も普段なら絶対着させてもらえない上等なものだろう。

 

 

 

「──まさかここまでされるとは」

 

 白のワンピースは、やはり予想通り普段着がボロ布に見えるくらいには綺麗で、形も流行りのものなのだろう、フリルが所々に付随しており肌触りも柔らかい。ここまでは大方予想通りであったのだが、まさか髪のセットまでされるとは思わなかった。

 ()()()()()()は丁寧に編みこみされていて見ていて複雑だ。鏡を覗く翠の目が、不思議そうにまんまるく見開いている。

 

「上流階級の人なのかな」

 

 そうでなければこんなめかしこんだりはしないだろう。今までの養子縁組の話でもこんな格好をしたことがない。

 

 ───コンコン

 

 控えめな音を合図に息を1つ吸い、鏡の翠を見つめ返した。

 

 

 

 

 

 

 困惑した様子のシスターの後を首を傾げながらもついて行くと、通された部屋にいた人物に、私はなるほど、と思った。

 

「こんにちは、ハリエット」

 

 朗らかに笑う目の前の老人は、サンタクロースもビックリな髭を生やしており、時代錯誤も甚だしい紫のローブを床に引きずっている。

 

 確かに見た目は怪しいが、眼鏡の奥に光るキラキラしたブルーの瞳が、私には海にも星にも見えた。まるでなんでも見透かしてしまいそうな瞳だが、暖かい色をしている。

 冷え切った色しかないここでは、それは何より綺麗に見えたのだ。

 

「こんにちは」

「こんにちは。随分立派に育ったようじゃの、ハリエット」

 

 この老人はどうやら私を知ってるらしい。

 

 それにしたって、懐かしく思える声音である。ハリエットと呼ぶ声は、最近よく見る夢と似ても似つかないが、それに近しい何かを感じた。

 

「ハリエット・ポッター、です。…貴方は?」

「おおいかんの、老人にもなると順序を忘れてしまう。わしはアルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドア。ホグワーツ魔法魔術学校の校長をしておる」

 

 名前が長すぎてよく頭に入ってこなかったが、なんとなく魅力的な単語が聞こえた気がする。

 

「今、なんて?魔法って聞こえた気が…いや気のせいか」

「気のせいではない、ハリエット。君は立派な魔女の卵じゃよ。それも学べば偉大な魔女になること間違いない」

「そんな、何かの間違いだ。私が魔女だなんて、いつか夢で見た空飛ぶ車並みに馬鹿げてる」

 

 ここのシスターはおかしなことが大嫌いだ。それはもう嫌いすぎて魔法なんて言葉が出た日には折檻が確定である。何よりも普通を重んじるシスターなのだ。

 それなのに、私が魔女だなんて言ったらシスターは発狂してひっくり返ってしまうに違いない。

 

「嘘ではない。君は今までに周りで不思議なことが起きなかったか?」

「数えきれないほど。切られた髪が翌日には元通りの長さになってたり、さっきまで中庭を走ってたのに気付いたらガーゴイルの上にいたり」

「それら全部君に魔力がある証拠じゃよ。まだ子供で魔力の操作がうまく扱えない君は思いがけない場面で魔法を使ってしまっておるようじゃがの」

 

 先程から日常ではあり得ない会話ばかりしていて、これが夢か現実かわからなくなりそうだった。もしこれが白昼夢であったら、私はショックで2、3日は寝込むことだろう。

 

「なら、…あー、ダンブルドア、先生。私はその魔法を学ぶためにそのホグなんたらとやらに行くんですか?」

「その通りじゃ。それにホグワーツでは魔法を学ぶだけではない。君のご両親についてもたくさん知れることがあるじゃろう」

「え…」

 

 "両親"。それはなんとも言えない響きを持つ言葉だ。

 そもそも、私はその両親に捨てられてこの孤児院にいる。物心つく前にシスターから教わったそれは、幼い頃の自分には大きな傷跡を残したが、今では縁遠く感じた。

 

「でも、私の両親は…」

「君は捨てられたと聞いておるようじゃが、君のご両親は君を捨てたわけじゃない」

 

 なら、何故。何故10年間も迎えに来てくれないのだろうか。

 そんな猜疑が、首を擡げる。

 

 だけど、私はそれをどこか否定していた。

 

 

「しかし、君のご両親────ジェームズとリリーは、どちらももうこの世にはいない」

 

 

 なんてことない、ただそれだけの話だっただけ。それ以下でも以上もない、そんなありきたりな話で、どこか分かっていた現実だった。

 先程思い出された夢の声は、今でも愛おしげに私の名前を呼ぶ。宝物を呼ぶように。

 

「そう、ですか。…うん、なんとなく分かってました」

 

 黙ってこちらを見つめるブルーの瞳は悲痛そうな色を滲ませ、まるで私の心情をすべて汲み取っているようだった。

 

「きっとこれは…どこにでもあることで、物語では、散々使い古された話なんだ」

 

 先生に言っているのか自分に言い聞かせているのか。

 今の私には、分からなかった。

 

「それでも、君は確かにジェームズとリリーの最愛の子じゃ。彼らの愛は、決してどこにでもある話ではない。ほんの少しの奇跡と、無償の愛情が、今の君を君たらしめている」

「どういうことですか?」

「彼らは、よく戦った。魔法界のため、そして──君のために。彼らほど勇敢な者もそういない」

 

 抽象的な先生の話に少しだけじれったさを感じたけれど、それでも私は先を促した。

 

「そうじゃのう。まずは君に、魔法界の話をしなければならん。それは、遠く昔のような話だが、いまだ魔法界に大きな爪痕を残している。冷酷で、残忍な──1人の闇の魔法使いによって」

 

 それから先生はたくさんのことを私に話した。

 闇の魔法使い──ヴォルデモートのこと。その魔法使いによって集められた死喰人。光と闇の戦い。両親の活躍。そして──両親の最期。

 本当にたくさんのことを話した。途中、何度も悲しそうな目をして遠くを見つめた。

 先生はとてもすごそうな魔法使いに見えるけど、きっと多くを先生も失い、後悔があるのだろう。その混乱の時代を私は知らないが、話を聞くだけでも悲惨な時代だったのがうかがえる。実際はもっと残酷で非情だったに違いない。

 でも何より私が耳を傾けた話は、両親の話だった。

 

「先生。私は、本当に愛されてましたか」

 

 散々両親の話を聞いて分かっていた。分かっていたが、あまりにも唐突で実感が湧かない話だったのでつい、聞いてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうか、覚めないで。

 

 

 

「もちろん」

 

 

 

 この夢が永遠に続かなくたとしても、私はきっと永遠に覚えてるから。

 

 

 

「ジェームズとリリーは確かに」

 

 

 

 いつまでも、忘れたくない。

 

 

 

「君を愛していたよ」

 

 

 

 それが過去のものだったとしても、私は歓喜に涙してしまうのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 "確かに私は、愛されていたんだ"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





正直途中から何書きたいのか分かんなくなった。


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2話 家族と、優しさ

何書いてるのか自分でもわからない。
誰得?俺得な展開。



 

 小さなキャリーバッグに少ない荷物を詰めて、ハリエットは一息ついた。

 

 

 

 鼻歌を歌い、かつてないほどご機嫌な様子のハリエット。

 それも仕方ない、なにせ今日は彼女にとって最高の日だ。(ダンブルドアにはまだ早いと言われたが、よく分からなかった)

 格好つけて言うのなら、終わりの日であり始まりの日でもあった。

 

 7月31日、今日をもってハリエット・ポッターは10年間過ごした孤児院を離れ、新たな生活をスタートするのだ。

 11歳の誕生日でもある今日に苦い思いしかなかったこの10年を振り返り、ハリエットは新しい日々に心躍らせていた。

 ある人物と共に暮らすとダンブルドアから聞かされているが、果たしてその"ある人物"とは仲良くやっていけるのだろうか。

 人見知りするタイプではないハリエットは、初対面の人物との共同生活に抵抗はあまりないが、それでもやはり、新しいことや初めてのことには緊張する。

 

 ハリエットはほんのちょっとの不安と恐怖、それから心の大半を占める喜びと期待を感じながらも、あの日を思い返した。

 

 

 

 

 

 

 ──────

 

 

 

「──その、魔法学校はとっても魅力的です。両親のことだって知りたい。けど、お金が…」

「なに、心配するでない。君のご両親は実に立派な魔法使いであった。君のためにと遺した物は想いだけではない」

 

 

 子供であるハリエットに、私財などあるわけがなく、学費を払えないことを懸念したが、ダンブルドアの返答にハリエットは安堵の息をついた。

 つまり、ハリエットの両親は彼女に、ホグワーツに通う分の遺産を遺したということである。

 

「それからホグワーツは全寮制じゃ。ここから通うにはあまりにも気が遠い」

「全、寮制…」

 

 なんと甘美な響きだろうか。

 この息苦しい孤児院から少しでも離れられると思うだけで、舞い上がってしまうほどには。

 そんなハリエットの様子を感じとったのか否か、ダンブルドアは彼女の歓喜に水を差すように「しかし、」と言葉を続けた。

 

「君にはこの孤児院を出てもらう」

 

 路頭に迷えと?

 ハリエットは突飛なダンブルドアに思わずそう悪態づきそうになった。

 

「えっと、それはどういう…」

「簡単なことじゃよ、君にこの夏から"ある人物"と暮らしてもらいたい」

「ある人物?」

「それは明日のお楽しみじゃよ。入学準備もその人物と買いに行ってもらうよう頼んである。孤児院のシスターと既に引き取り手続きは済ませてある」

 

 ハリエットは、随分急だな、と思った。そんなことならもっと早く知らせてほしかった。

 頭に自らの少ない私物を描きながら、ハリエットはダンブルドアの「明日の朝迎えに行く」という言葉に小さく頷いた。

 

 

 

 ──────

 

 

 

 

 

 

 澄み渡る青空、汗の滲む夏の暑さ。

 なんとも陳腐な天気ではあるが、ハリエットにとって、とても素晴らしい天気だった。まさに、始まりにはぴったりの日である。

 

「さあ、ハリエット。準備はもうできておるかな?」

「はい!」

「元気がよくて何より。では行くとするかの」

 

 朗らかな笑い声と共に差し出される腕を掴んで、キラキラ光るブルーを、空の青と重ねた。

 

 

 

 バチン!という音だけを残して、老人と少女は姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 ───バチン!!

 

 大きな乾いた音と共に、ハリエットは瞼を開けた。

 視界は揺れ、吐き気が込み上げてくるが、そんなことがどうでもよくなってしまうほどには、ハリエットは今目の前の景色に呆然とした。

 

「さっきまで、孤児院にいたのに…」

 

 全く知らない場所だ。

 

 そう、先程までハリエットはダンブルドアと孤児院にいたはずなのに、彼女の眼前には見知らぬ──近くの標識にグリモールド・プレイスと書いてあった──景色が広がっている。

 

「驚くのも無理はない。今のは姿現しという移動魔法じゃよ。ただしこの魔法には1つ欠点があってな。ハリエット、気分はどうじゃ?」

「ぅ、ちょっと目眩がするだけなので、大丈夫、です」

「上出来じゃ。これは初めてだと吐いてしまう者もいるからな」

 

 そうならそうと始めから言ってほしい、とハリエットは思った。

 驚きに気をとられていた分後から来る吐き気や目眩を抑えながらも、ハリエットはダンブルドアに疑問を投げかけた。

 

「でも、いきなりどうしてここに?」

「なに、君の新しい"家族"を紹介するだけじゃよ」

 

 どうやらここがハリエットの新居地となるらしい。

 

「では、行こうか」

 

 ダンブルドアの掛け声の一瞬後、地響きのような音がハリエットの耳に飛び込む。

 ハリエットは困惑を隠しきれずにあたふたし、ダンブルドアを見る。

 しかし彼はハリエットの戸惑いなど気にもせず、ただ一点を見つめていた。

 

 やがて音が止むと、ハリエットは本日二度目の不思議を目の当たりにする。

 なんと、11番地と13番地の間に新たな"12番地"があるのだ。

 まるで、先程まで認識できなかったものが見えるようになった感覚だ。

 

「マグルには見えないよう魔法がかかっておるんじゃよ」

 

 ハリエットの驚きを見透かしたような言い方だった。

 実際、彼女はなんでも顔に出てしまう性質なのでダンブルドアにも彼女の心情は手にとるようにわかったことだろう。

 

 

 

 ダンブルドアの後をついて中に入ると、そこは不思議な魔法の世界が──広がってるわけではなかった。

 ただ、魔法使いらしいと感じる薄暗さと黒の多さを感じる内装だった。

 床も壁も天井も黒一色に塗られており、上から吊り下がるシャンデリアは等間隔に銀の煌めきを放っている。高級そうな深緑の絨毯が敷かれており、靴の裏から柔らかな感触が伝わった。

 少しの不気味さと新居への興奮で心臓は大きく鼓動した。

 

「坊っちゃま!ダンブルドア様がいらっしゃいました!!」

「ひょえ」

 

 緊張でドキドキしていたハリエットの体を揺らすほどの大声が屋敷内に響いた。

 心臓が飛び出るのではないかと思うほど、ハリエットは驚きで飛び上がった。

 恐る恐るダンブルドアの前を覗くと、そこには不気味な小人がいた。

 瞼を重々しそうに開けたような細い眼、大きな耳は垂れ下がり、皺だらけの明らかに健康ではない色をした肌をしている。おまけにその小さな身体を覆うのはボロボロの薄汚れた布だ。

 

(なんてみすぼらしい格好をしてるんだろう)

 

 ハリエットはその小人を不気味に思うより哀れに思った。

 

「──こんにちは」

 

 ハリエットに向けた柔らかい男性の声に、ハリエットは体を僅かにビクつかせた。

 哀れな小人にばかり目がいってその後ろの男性に気づかなかったようだ。

 

「こ、こんにちは」

「そんな緊張しなくても取って食べはしないよ」

 

 そんな子供騙しのような冗談を言って男性は緩く微笑んだ。

 

(ずいぶん、…儚く笑う人だなぁ…)

 

 それがハリエットの、男性に対する第一印象だった。

 紺碧の夜空を思わせる黒髪はサラサラとしており、銀色にも見えるグレーブルーの瞳は優しそうに細められている。目鼻立ちは整っており、あどけなく見えた。

 

「僕はレギュラス・アークタルス・ブラック。これからは君の"家族"だ」

 

 その言葉に言いようのない充足感を感じ、視界は歪んでいった。

 それでも──

 

 それでも、ハリエットは優しく笑んだ。

 

「ハリエット・ポッター、11歳。これから、よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

 ──そうすれば、世界も優しくなってくれる気がしたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──哀れな子供だと、思った。

 

 

 

 生まれて1年で両親を殺され、預けられたはずの親からは捨てられ、世界から隔離された。

 いくら悪の手から逃れるためとはいえ、悲劇の連続に同情を禁じ得ない。

 

 そんな悲劇の主人公も、()()では英雄扱いされているのだから皮肉なものである。

 彼らが死をもってして彼女を守ったのは必然だったのか偶然だったのか。

 運命も因果も、結局は後付けの結果論でしかない。

 彼らの死は果たして本当に防げなかったのだろうかと、今になって思う。

 

 もし、彼らが生き残っていたら。

 

 きっと、闇の帝王は倒されることはなかっただろうし、ぬるま湯のような今の平穏も訪れることはなかったことだろう。

 でも、それでも。たった1人の子供の幸せはあっただろうに。

 そう思わずにはいられなかった。

 

 母親そっくりなエメラルドグリーンの瞳は少しの寂しさと、虚しさが映っていた。

 無造作に伸ばされた赤毛は父親と同じようにクルクルとカールしている。

 顔立ちは…母親似だろうか、でも、父親も思わせるような顔であった。

 そこかしこにある2人の面影に、涙がこみ上げてくる。

 尊敬する優秀な魔法使いと魔女であった2人は、付き合い始めからとても仲が良かった。

 彼らに子供ができたと聞いた時はとても喜ばしかったが、当時は暗黒時代、表立って祝福することはついに叶わなかった。

 おめでとうございます、きっと先輩たちに似た優秀な魔女になりますねって言って。彼らがそうだろう、なんていったって僕らの子供だからね!と自慢げに言って。

 そんな、何の変哲もない会話をしたかった。

 また笑い合って、先輩がお得意のイタズラで場を明るくして。暗くなってちゃなんもできやしない!って笑い飛ばす。

 

 そんな"彼らとの"普通の平和が、どうしようもなく欲しかった。

 

 

 数年学び舎を共にした僕と違い、あの子は僅かな思い出すら時間に奪われてしまった。

 何も、ないのだ。

 愛も、思い出も、家族も。

 

 だから、どうしても知ってほしかった。

 彼らがどんなに君を愛してたか、彼らとの短い思い出や、家族とはどんなものなのかも。

 それが、僕が家族になることで君が知れるのなら、喜んで僕は彼──ダンブルドアの頼みを引き受けた。

 

「ではレギュラス。よろしく頼む」

「はい。ご心配なく」

 

 彼のことはあまり好きではなかった。

 何を考えているのか分からないのに、向こうはこちらを見透かしたようなところが。

 すべて分かっているかのように振舞っているくせに、大切なものは零れ落ちたことにするところが。

 

 きっとこれも、これからも、あの子の運命は彼の掌の上の物語だ。

 

 それでも、あの子の幸せがその──零れ落ちやすい──狭い掌の上にあるのなら。

 僕はその掌に君がいることを望む。

 

 

 

 どうか、どうか立ち止まらないでくれ。

 

 先輩たちの死を無駄にしないためにも。

 この世界のためにも。

 

 きっと君に用意された道が最善だから。

 その道に"僕"がいるのなら、

 

 

 

 どうか、拒まないでくれ。

 

 

 

「今日から僕は君の家族だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




完璧捏造。
最早捏造純度100%でしかない独自展開。



"もしレギュラス・ブラックが味方だったら"
解釈としては、ヴォルデモートの分霊箱に誰よりも──ダンブルドアはわかんねぇけど──気づいていたから、ハリエットの魂に闇の帝王の魂が混じってることも気づいてて、ハリエットが死ななきゃいけないことも分かってんじゃないかなぁ…という妄想。
だから、死んでも家族でいることを許してほしいという懺悔的独白。
本当は最後の方に語る予定だったんだけど、今後の展開的に早めにしたかった(この判断がいかされることは多分ない)。




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3話 魔法の横丁

久しぶりです、スターダストです!
遅くなってほんとにすみません!!(待っててくれた人がいればの話)
いやぁ〜学校が忙しくて全然更新できませんでした!(言い訳)

今回の話も何が書きたいんだろう?と自分で首を傾げる内容です。
早く自分の書きたい内容だけ書きたい。展開が決まらないィ…ギリィッ
とまあ情緒不安定な駄作者ですが、ご容赦ください。

前回との文字数差に死にそう。
頑張った。私はよく頑張った。




 

 ハリエットがグリモールド・プレイスのブラック邸に越してきた翌日。

 今日はダイアゴン横丁という場所で入学準備をするらしい。

 確か入学許可証と同封されていたリストには聞いたこともない単語だらけで、ハリエットはとても興奮したのを覚えている。

 思い出すだけでいてもたってもいられず、朝からソワソワしっぱなしだ。

 

「おはよう、ハリー。落ち着かない様子だね」

「あ、おはよう。そうなんだよ、とても楽しみすぎて昨日はあまり眠れなかったんだ。魔女になるための準備だなんて、一昨日まで普通の女の子だったのに考えられないよ!」

 

 寝癖もそのままにハリエットは力強く言った。

 レギュラスはピョコピョコとはねる赤毛を見てクスクス笑っていた。

 

「あそこはいつも人で溢れかえっているんだ。いろんな店があってたくさん歩くだろうから朝ごはんはしっかり食べなよ」

「はい!」

「敬語」

「あ、うん!」

 

 まだどうしても敬語が抜けきらないハリエットだが、少しずつレギュラスにも慣れてきていた。

 

(最初は物静かな人っぽいなって思ってたけど、案外話しやすくてフレンドリーだ)

 

 ハリエットはレギュラスの親しみやすさに安堵していた。

 

「朝食の準備が整っております」

「いつも助かるよ、クリーチャー」

「あ、ありがとう!」

 

 少し捻くれているが、──屋敷しもべ妖精というらしい──クリーチャーにも大分慣れてきた。

 かなりみすぼらしくてアレな容姿だが、会話を試みれば主人想いで優秀な妖精であった。

 レギュラスやハリエットが感謝を述べれば、そっけない態度でも少し柔らかくなって照れているようだった。

 

(レギュラスもいい人だし、クリーチャーとだってうまくやれそうだ。2人はもちろん、ダンブルドアにも感謝しなきゃ)

 

 そう思いながら、ハリエットは朝食のサラダにフォークを突き刺した。

 

 

 

 

 

 

「──それじゃあハリー。今からダイアゴン横丁へ行くわけだけど、姿現しは知ってるかい?」

 

 朝食も食べ終わり、準備ができたところでレギュラスはハリエットに尋ねた。

 ハリエットはダンブルドアとのあの不思議瞬間移動を思い出しながら引き攣った笑みで返した。

 

「い、一応は…」

「慣れないと気分悪くなるかもだけどごめんね、今他の手段は使えなくてね」

 

 他にも移動手段があることに驚きだが、姿現しなんていうなんとも不便な移動手段を常に使う魔法使いのことだ、どうせ碌なものではない。

 

「大丈夫!…だと思うけど不安だよ。でも、ダンブルドア先生には私、酔いに強い方だって言われた」

「なら安心だ。じゃあ捕まって」

 

 何一つ安心要素はなかったが、ハリエットは意を決してレギュラスの腕を強く掴んだ。

 

「ちゃんと捕まらないとバラけるから、気をつけてね」

 

 なんと不穏な言葉を今言うのか。

 ハリエットは魔法使いはみんはこうなのか!と心の中で叫び、バチン!という乾いた音を耳にした。

 

 

 

 

 

 

「さあ、目を開いてごらん」

 

 レギュラスの柔らかい声と共に目を開けば、そこには不思議な光景が広がっていた。

 

「ダイアゴン横丁にようこそ」

「わぁ…!!」

 

 行き交う人々は皆古びたローブを纏い、中にはとんがり帽子を被っている人もいた。立ち並ぶ店は、ハリエットにはそれが何に使われるのか想像もつかないような物ばかり並べられている。目に映る物すべてに目を奪われ、感嘆の声がこぼれた。

 感動と興奮に言葉も出ないが、出てきたとしてもそれはどれも陳腐なものでしかないだろう。

 とにかく、ハリエットはその光景に心奪われたのだ。

 

「ふふ、分かるよ。僕も最初来たときは感動したからね」

「え、レギュラスも?」

 

 彼は生粋の魔法使いの一族出身であり、幼い頃から魔法に触れていたと聞いたのだが、それでもやはりこの光景は幼子には魅力的に映るのだろうか。

 

「もちろん。父や母が魔法を使うのは散々見ていたけど、それでも最初はこの光景に目を輝かせた。ちょうど今の君みたいにね」

 

 ハリエットは自身の興奮を見透かされ、少し恥ずかしげに笑った。

 

「さ、まずはお金をおろそう。君の両親の金庫の鍵はダンブルドアから預かってるからね」

「銀行があるの?」

「もちろん。銀行といえばグリンゴッツだ」

 

 どうやら魔法界にはマグルの世界と違って銀行は一つしかないらしい。

 

 レギュラスの言うグリンゴッツは、小さな店の立ち並ぶ中、ひときわ高くそびえる真っ白な建物だった。磨き上げられたブロンズの扉の両脇には真紅と金色の制服を着て立っている──クリーチャーとは別物の──小人がいた。

 

「あれは小鬼(ゴブリン)って言うんだ」

 

 小さな声でレギュラスが言った。

 ハリエットは興味深そうに小鬼を眺めた。ハリエットよりも頭一つ分小さく、賢そうな顔つきで、手の指と足の先が長い。

 なんと長いんだろう、とハリエットが見つめていると、小鬼と目が合ってしまい、慌てて目線を逸らした。

 逸らした先には何か言葉が刻まれていた。

 

 ──見知らぬ者よ 入るがよい

 ──欲のむくいを 知るがよい

 ──奪うばかりで 稼がぬものは

 ──やがてはつけを 払うべし

 ──おのれのものに あらざる宝

 ──わが床下に 求める者よ

 ──盗人よ 気をつけよ

 ──宝のほかに 潜むものあり

 

「ここから盗もうとする魔法使いなんていないんだ」

 

 なんともぞっとする言葉だった。

 

 

「あれ、ハグリッドじゃないですか」

 

 急に立ち止まり、レギュラスは──小鬼と比べると余計大きく見えた──大男に話しかけた。

 

「おおレギュラス!夏休みに入って以来だな!どうだ、元気にやってるか、ん?」

「はは、ええまあ。そちらは?」

「いやなに、少しダンブルドア先生から頼まれごとをな。お前さんはどうした」

「この子の付き添いでして。ハリー、こちらはルビウス・ハグリッド。ホグワーツで働いていて、森の番人なんだ」

「ハグリッドって呼んでおくれ。みんなそう呼ぶんだ」

「わかった。私はハリエット・ポッター。よろしくね」

「ハリエット?お前さん、あのハリエットか!」

 

 急に鬼気迫る勢いで訊かれたハリエットは気圧されながらも頷いた。どのハリエットかは分からないけど、と付け加えて。

 

「随分大きくなったなあ!俺が初めて会ったときはボウトラックル並みだったってのに」

「なんて?」

 

 そのボウなんとかやらは知らないが、この大男からすればハリエットの小さい頃など豆粒みたいだったのかもしれないと思った。

 

「いやあそれにしても、お前さん傷以外は両親によく似とる!赤毛と瞳はリリー、くせっ毛はジェームズにそっくりだ。いや、ジェームズの方が暴れてたな」

「それって髪のこと?」

「どっちもだ」

 

 ハリエットは両親の顔など知らなかったが、似てると言われて嫌な気分ではなかった。傷のことは少し気にしてるのでそっとしといてほしかったが。

 

「そうだハグリッド、一緒にどうです?これから僕たちもあれに乗るんで」

「そりゃあいい。だが俺はどうもあれが好かん。お前さんに取ってきてほしいくらいだ」

「まぁまぁ。ダンブルドアの頼みなんですから」

 

 レギュラスが窘めてハグリッドは渋々付いてきた。

 しかしそれにしても、とハリエットは思う。

 

("あれ"って何だろう?)

 

 その答えはすぐに分かった。

 

 

 

「わー楽しい!楽しいねレギュラス!」

「よかったね。だけどあまり乗り出さないで。落ちてしまうよ」

 

 クネクネ曲がる迷路をトロッコは凄い勢いで走った。巨漢に遠心力は辛かったようで、ハグリッドは真っ青を通り越して真っ白な顔色で唸っていた。彼にはジェットコースターも無理だろうな、とハリエットは密かに思った。

 

 やがて小さな扉の前でトロッコはやっと止まり、ハグリッドは膝が震えたまま壁にもたれかかっていた。今にも吐きそうな顔色である。

 それを気にもとめず小鬼──グリップフックというらしい──は扉の鍵を開けた。緑の煙が吹き出してきたが、それが消えると、ハリエットはあっと息をのんだ。中には金貨の山があったからだ。奥には高く積まれた銀貨や銅貨の山もあった。

 それらをレギュラスは杖一振りで集めていく。必要な額だけ鞄に詰め込んでからレギュラスは言った。

 

「全部君の両親が遺した物だ。金貨はガリオン、銀貨がシックルで銅貨はクヌート。17シックルが1ガリオン、1シックルは29クヌートだから覚えといてね」

 

 なんて微妙なんだろうとハリエットは思った。姿現しといい、魔法使いは微妙に不便だと思う。

 

「次は713番金庫を頼む。ところでもうちーっとゆっくりは行けんのか?」

 

 大分顔色が良くなってきたハグリッドがグリップフックに問うた。

 しかし、グリップフックは無愛想にただ決まり文句のように淡々と言った。

 

「速度は一定となっております」

 

 

 

 これは一定ではないんじゃないか。

 

 ハリエットはさらにスピードを増して急降下を続けるトロッコの中で愚痴をもらした。後ろのハグリッドなんか気絶寸前である。

 地下渓谷の上を走るトロッコは、風だけではないだろうが、どんどん冷えびえとしてきた。

 ようやっと着いた713番金庫の前で、ハグリッドは瀕死の状態だった。

 

「下がってください」

 

 もったいぶるようにグリップフックが言い、長い指の一本でなでると、扉は溶けるように消え去った。

 

「グリンゴッツの小鬼以外がこれをやりますと、扉に吸い込まれて中に閉じ込められてしまいます」

「中に誰か閉じ込められていないかどうか、調べたりはするの?」

「10年に一度ぐらいでございます」

 

 グリップフックは意地悪げにニヤリと笑った。

 これだけ厳重に警護されてるんだもの、中にはきっと特別なすごいものがあるに違いない。

 ハリエットは期待して身を乗り出したが、すぐになんだ、とガッカリした。

 空っぽと思えるほど何もない。あるのは茶色の紙でくるまれた薄汚れた小さな包みだけだ。

 ハグリッドはそれを拾い上げ、コートの奥深くに用心深くしまいこんだ。

 ハリエットはハグリッドがそんなに大切そうにしてるそれが、一体何なのか好奇心が湧いたが、聞くことはなかった。

 

「俺の用は終わった。さ、地獄のトロッコに行くぞ。帰りの道は話しかけないでくれよ。口を閉じてるのが俺にとってもお前さんらにとっても一番だ」

「そのようですね」

 

 苦笑いでレギュラスが答えた。

 

 また猛烈なトロッコを乗りこなした後、陽の光にパチクリしながら三人はグリンゴッツの外に出た。

 なんだか数年ぶりに地上に出た気分だ、と思いながら、レギュラスの「さて、」と言う声に他2人は振り返る。

 

「買う物はたくさんあるし、ハグリッドもいるから二手に別れましょう。僕は大鍋などを揃えるのでハグリッドとハリーは先に制服を買ってきてください」

「わかった」

「選りすぐりの物を揃えるのでご心配なく。ああそれとハリー、普段着とかも買っておいで。これが必要な分だから」

 

 レギュラスから服代と思われる額を受け取り、そこでハグリッドと共にレギュラスと別れた。

 

「制服ならここだな」

 

 ハグリッドは"マダムマルキンの洋装店"の看板をあごでさした。

 

「なあ、ハリー。"漏れ鍋"でちょっとだけ元気薬をひっかけてきてもいいか?グリンゴッツのトロッコにはもう散々だ」

 

 "漏れ鍋"も"元気薬"もよく分からなかったが、すぐ戻るという声にハリエットは頷いた。青い顔をしていたので心配ではあったが、ハリエットはその"元気薬"とやらをひっかければ良くなるだろうと思いマダム・マルキンの店に1人で入っていった。

 

「お嬢ちゃん、ホグワーツかい?」

 

 マダム・マルキンは、藤色ずくめの服を着た、ずんぐりした、愛想のよい魔女だった。

 

「全部ここで揃いますよ…もう1人お若い方が丈を合わせているところよ」

 

 店の奥の方では、青白くあごのとがった男の子が踏み台に立ち、もう1人の魔女が黒いローブをピンで留めていた。

 

「あの、普段着の方も頼みたいのですが…」

「まあまあ可愛らしいお嬢さんのお洋服を選べるなんて光栄ね。ささ、踏み台に立って。まずは制服から」

 

 そう言ってマダム・マルキンはハリエットをもう一つの踏み台に立たせ、頭から長いローブを着せかけ、素早く丈を合わせてピンで留めはじめた。

 

「やあ、君もホグワーツかい?」

 

 隣の男の子が声をかけてきた。

 とがったあごを上に反らし、見下すような目線で、ハリエットは少し居心地悪く感じた。

 

「うん。そうだよ」

 

 それを感じさせないよう、つとめて落ち着いた声音で答えた。

 

「僕の父は隣で教科書を買ってるし、母はどこかその先で杖を見てる」

 

 誰もそんなこと訊いてないと思いながらハリエットは適当に相槌をうった。

 

「これから2人を引っぱって競技用の箒を見に行くんだ。1年生が自分の箒を持っちゃいけないなんて、理由が分からないね。父を脅して一本買わせてこっそり持ち込んでやる」

 

 ハリエットには、隣の男の子の言う箒なんて掃除用しか思い浮かばなかったが、競技と言うほどだから箒を使ったスポーツが魔法界にはあるのだろうと解釈した。

 

「君は自分の箒を持ってるのかい?」

「ううん」

「クィディッチはやるの?」

「わかんない」

 

 そのクィディッチとやらが何なのかは分からないが、ハリエットは一刻も早くこの場から立ち去りたかった。

 

「僕はやるよ。父は僕が代表選手に選ばれなかったらそれこそ犯罪だって言うんだ。僕もそう思うね。君はどの寮に入るかもう知ってるの?」

「ううん」

 

 確か、レギュラスがスリザリンだったとは聞いている。

 他にどんな寮があるのか知らないが。

 

「まあ、ほんとのところは行ってみないとわからないけど。だけど僕はスリザリンに決まってるよ。僕の家族はみんなそうだったんだから…ハッフルパフなんかに入れられてみろよ、僕なら退学するな。そうだろう?」

「うーん」

 

 ちっともましな答えもできないハリエットだったが、男の子は気にしてないないようだ。

 

「ほら、あの男を見てごらん!」

 

 急に男の子は窓の方を顎でしゃくった。ハリエットもそちらを見やると、ハグリッドが店の外に立っていた。どうやら具合も良くなったらしい。ハリエットの方を見てニッコリしながら手に持った二本の大きなアイスクリームをかかげて見せた。

 

「ハグリッドだ」

 

 ハリエットは男の子の知らないことを自分が知っている、と少しうれしくなった。先程からついていけない話題ばかりでうんざりしていたのだ。

 

「ホグワーツで働いているんだ」

「ああ、聞いたことがある。一種の召使だろ?」

「ハグリッドは森の番人だよ」

 

 語尾を強めながらハリエットは言った。

 

「そう、それだ。言うなれば野蛮人だって聞いたよ…。学校の領地内のほったて小屋に住んでいて、しょっちゅう酔っ払って、魔法を使おうとして自分のベッドに火をつけるんだそうだ」

「彼は最高だと思うよ」

「へぇ?」

 

 男の子は鼻先でせせら笑った。

 

「どうして君と一緒なの?君の両親は?」

「死んだよ」

「おや、ごめんなさい」

 

 まったく謝っているような口振りではなかったが、ハリエットはそれが気にならないほど気分がよくなかった。

 こういった人種は孤児院にいたときのプライマリースクールにもいた。ズケズケと土足で踏み込んで人のことを言ってくる奴が、ハリエットは大の苦手だった。

 

「でも、君の両親も僕らと同族なんだろう?」

「魔法使いと魔女だよ。そういう意味で聞いているんなら」

「他の連中は入学させるべきじゃないと思うよ。そう思わないかい?──」

 

 それからも男の子はしゃべり続けたが、ハリエットは聞く価値もないと聞き流していた。

 少しした後、──相変わらず男の子はしゃべり続けていたが──男の子の方についていた魔女が「さあ、終わりましたよ、坊ちゃん」と言ってくれたのを幸いに、ハリエットはこれ以上男の子の"くだらない話"を聞かずに済むことになった。

 

「じゃ、ホグワーツでまた会おう。たぶんね」

 

 本当に気にくわない奴だと思いながら、ハリエットは返事をしなかった。

 

 やがて普段着の採寸も終わり、マダム・マルキンの着せ替え人形になった後、代金を払い終わって店の外に出た。

 ハグリッドにもらったアイスを食べて、その冷たさに少し気持ちを落ち着かせた。ナッツ入りのチョコレートとラズベリーアイスはとても美味しかった。

 

「そうだ、忘れるところだった。ほんのちょっと待っててくれ」

「うん」

 

 溶けるのを心配する暇もなく3口でアイスを食べ終えたハグリッドは、何かを思い出したように言った。

 その入れ替わりのように人混みの中からレギュラスが戻ってきた。

 

「遅くなってごめん、偶然同僚に会ってしまって」

「大丈夫。ちょうどハグリッドがどっか行っちゃったからよかった」

「おや、そうだったんだ。まったく、ハグリッドはどこに行ったのかな?」

 

 慌ててたようだから急ぎなんじゃないか、と適当にレギュラスと雑談を交えながら、ハリエットはアイスを消費することにした。

 

「一口いる?」

「おや、いいのかい?じゃあお言葉に甘えて」

 

 やや溶け始めているベリーのアイスをペロリと舐め、レギュラスは美味しいと笑った。

 

 ──なんだか本当の親子みたいだ。

 

 それを言うのはなんだかレギュラスを困らせるような気がして、ハリエットはそんな思いを胸に留めるだけにした。

 

 

「ハリー!レギュラス!ちと遅くなってすまんな」

「ううん大丈夫。何してたの?」

「これを買いに行ってたんだ」

 

 ほれ、と大きな背中から出てきた──ハグリッドと比べて──小さな籠をハグリッドは手渡してきた。

 不思議に思いながら中を覗くと、なんと雪のように白い梟が一羽凛々しく佇んでいた。

 確か、ホグワーツでは梟や猫なんかのペットが許可されている。

 ハリエットはそのことを思い出した。

 魔法使いの伝達方法が梟であることも。

 

「え、なんで、急に…」

「お前さんの誕生日だろうが。子供はおとなしく受け取っとけ」

「誕生日は昨日でしたが」

 

 そんなことはわかってる、なんて豪快に笑うハグリッド。

 ハリエットは不安だった。

 今まで祝ってもらうことがなく、嫌な思い出しかない誕生日に、急に家族ができ、こうして誕生日プレゼントを貰う。それはハリエットにとってとても大きなことだった。

 抑えようのない興奮と、ムズムズした嬉しさがハリエットの幸せを人生最高潮に攫っていき、しかしそれと同時に壊れてしまう不安と恐怖が湧く。

 一度味わってしまえば、もう戻れない。

 それがわかってるからこそ、ハリエットはいつかこの幸せが終わってしまうんじゃないかと、恐る恐るハグリッドのプレゼントを受け取った。

 

「ありがとう、ハグリッド。でも、ほんとにいいの?」

「何度も言わすな。ハリー、誕生日おめでとう!!」

「、うん。ありがとう!」

「ハグリッドに先越されてしまいましたね」

「え?」

 

 もったいぶるように笑ったレギュラスは、杖を軽くヒョイと振った。

 パッと現れた小さな箱を、ハリエットは戸惑いながら掌の上で恐る恐る受け取り、レギュラスに問うた。

 

「誕生日プレゼントですよ。これを受け取りに行ってたんだ」

 

 上質なワインレッドのリボンを解き箱を開けると、そこにはエメラルドグリーンの石がたくさん散りばめられていた金のバレッタだった。

 

「わぁ…!綺麗…」

「それはリリーがつけてた髪飾りじゃないか!」

 

 ハグリッドの言葉に驚き、ハリエットはレギュラスを見上げた。

 

「学生時代につけてたんだよ。あの日に壊れてしまってね………この前から修理に出していたんだけど、誕生日に間に合わないとは思ってなかったんだ」

「ああ、その髪飾りにはジェームズが魔法をかけてたからな。修復には時間がかかるんだろう」

「魔法?」

 

 まだ姿現ししか知らないハリエットからすれば、魔法はいまだ慣れ親しむようなものではなく、ついハグリッドの言葉に反応してしまう。

 懐かしむように笑うハグリッドは、ハリエットを見て目尻に皺をつくる笑みで言った。

 

 

 

「なあに。()()()()()()()()()()()()()

 

 ──そして、()()()()()()()()()()

 

 

 

 後に続いた言葉の意味を、ハリエットはまだ知ることはない。

 

 

 

 

 

 




意味わからなすぎて死ねるorz

途中から買い物そっちのけだし杖買い忘れたけど(めっちゃ大事)、ホグワーツ特急内での回想で出すから許して。

ハグリッドの言葉はもっともっと後になって分かる。(きっと。多分)
本音を言うと、おっちょこちょいでチョロいハグリッドに意味深な言葉を言わせたかった勢いで書いた。←


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