PMC探偵・ケビン菊地 鉛の刻印 (MP5)
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1話 最悪の再会
民間人を救う義務がある
内閣及び防衛相の厳しい審査のもと、合格して初めて営業許可と殺しのライセンスを得る
「異動ですか?」
トライデント・アウトカムズのCEO、ロバート・ハミルトンから直接言い渡された異動命令。なんでも、東京周辺が平和になり、兵士も多いため、東海地方に事務所を置くのが理由らしい。言い渡された褐色肌の男、ケビン菊地は日本支部長を務めている。
「あぁ。この前のアナコンダ一味による一件で関東の守りだけじゃなくて、東海も固めたいって防衛省の頼みもあってね」
アナコンダ事件。東南アジアの麻薬王、アナコンダが起こした事件。世間知らずな学生をはじめとした連中に試験薬を渡し、暴動を起こさせ、効果を研究していた。薬を飲んだ人間は眠ったような感覚に陥り、どんなに大人しい人間でも一瞬にして犯罪者に変え、効果が切れれば一切の記憶が消えるという悪魔の薬の実験。最終段階に彼らに武器を持たせ沼津で銃撃戦を繰り広げたがケビン率いる作戦部隊によって鎮圧され、彼もまた逮捕された。しかし、何者かによって狙撃され、事件は被疑者死亡で幕を閉じた。
「もう事務所あるから宏美ちゃんと一緒によろしくね」
「彼女もですか?」
「奥さん置いて転勤なんてできないでしょ?陸軍時代にもそんな人いたの忘れた?」
「た、確かにいましたが・・・」
「弾薬移送と引っ越し屋の手配は終わったから、まぁ気にしないでね」
「・・・失礼します」
異動先は、アナコンダ事件が起きた沼津。寒い雨の中、銃撃戦が繰り広げられていた街はすっかり元に戻り、日常に戻っていた。駅から南に向かって歩いた先に8階建てのビルがある。中は以前の事務所と内装は変わっておらず、地下には射撃場と訓練場があった。
「3階には俺の部屋、4階は宏美の、それ以上は空き部屋か。窓も防弾仕様に耐震バッチリ・・・」
「もう驚かないわよ。それよりもケビン、仕事は来るのかしら?」
小柄ながらスタイルの良い女性、菊地宏美。旧姓は小畠で彼女とは夜の音ノ木坂学園で出会った。現在は結婚し仕事のサポートをしてくれる。
「最初は猫探しのようなものからだろう。まっ、俺は近所に挨拶してくるよ」
そう言うと引っ越し屋からもらった蕎麦を手に外を出た。
(こんな感じで事件に遭遇したことあったっけか)
近所の挨拶を終え、事務所に戻ると、懐かしい面子が事務所を訪れていた。
「おやいらっしゃい。俺の事務所の場所、よくわかったな」
「ロバートっておじさんが教えてくれたんです、探偵さん」
オレンジのショートカットが似合う少女、高海千歌がさっそく事務所のソファでくつろいでいる。
「千歌ちゃん、探偵さんも困ってるんだし、もう帰ろ」
「アポ取ってないのに、よく来ようと思ったよね」
彼女と同い年の渡辺曜と桜内梨子が呆れた様子で連れて帰ろうとしていた。
「まぁ初日で仕事なんて来ないから別にいてもいいよ。せっかくだし、何か飲むかい?」
3人ともオレンジジュースが欲しいらしく、ケビンは3個あるグラスと冷蔵庫からオレンジジュースを取り出した。
「おまたせ、その後はどうだ?」
「はい、ラブライブの本戦まで行きました!」
「結構進んだよね」
和気あいあいの様子からかなり充実した高校生活だというのがわかる。
「楽しそうで結構。素晴らしい青春のようだな。俺の高校時代なんて、剣道だけだったんだけどな」
「探偵さん剣道してたんですか?ボクシングとかだと思ってました」
「ひどいな千歌ちゃん。ボクシング部なんてなかったし、本格的な剣道家目指してたことがあったんだぞ」
「でもどうして探偵になったんですか?」
「・・・話せば長くなるな。だから代わりに陸軍時代の話でもいいか?」
「陸軍?」
「元々アメリカ陸軍特殊部隊75レンジャー連隊の伍長だった。って言ったら信じる?」
「軍人だったってことは想像できますけど、アメリカに渡ってたなんて初耳です」
「国籍が違う両親を持つ場合、子は18を境に自分で戸籍を決めるんだ。俺は高校時代のある事件で無力感を覚えて、アメリカに渡って軍に入ろうと考えた。反対した親父に思いっきりぶん殴られて吹っ飛んで殴り返して・・・どうにか認めてもらった。今思えば最初で最後の喧嘩だ」
彼の父親がどういう人物か知らない彼女達はケビンをさらにゴツくした姿を想像する。
「事件っていうのを後日聞くとして、最初はどこに配属されたんですか?」
「ジョージア州のフォート・ベニングって場所だ。そこで空挺資格とレンジャーとしての基礎を覚え、中東に派遣され任務に就いた。敵の要所の偵察や背後から空挺降下し有利な展開を作るのが任務だ」
「「「うわぁ・・・」」」
想像以上に過酷な任務に就いていたことを容易に想像できる。自分達が思っている以上に目の前の男は戦線を潜り抜けているのだ。
「まぁいろいろあるんだよ。親父と母さんが死んでから除隊して荒んでた時に叔父貴にPMCにスカウトされ、アフリカの前線だったり南アメリカの要人護衛、アトランタに事務所を置くチャイニーズマフィアの殲滅作戦・・・軍の頃より忙しかったと思う」
「ず、随分とハードな・・・」
左手に付けてある腕時計の時間を見て穏やかに帰るよう諭す。
「もう時間だ。これから仕事があるんだ、続きはまたね」
夕方。依頼人の所有するヨットがある港までセダンを走らせる。そこには宏美が一足早く待機していた。
「ケビン、まずはこの記事を読んで」
手渡されたゴシップ誌の記事に赤い丸で囲んである箇所を見つけ、その内容を見る。ショートヘアの女の写真が載っている。
「か・・・カズ・・・」
その内容は太田一美という殺人の前科持ちの女性が持っていた拳銃で自殺というものだった。場所は水神社付近の川沿いで深夜3時ごろだったため目撃者はいなかったらしい。
「俺の同級生だ、まさかその依頼人って」
「私だ菊地君」
ヨットから白髪の目立つ壮年の男性が現れる。
「カズのお父さん」
「罪を償うよう彼女を導いた君がこの町にやってきたって聞いてな。彼女は拳銃自殺をしたって話なんだが、腑に落ちんのだ。何故って彼女は出所後、真面目に働いて婚約者もいたからだ。その彼も事件を追ってる。婿だけに苦労はさせたくない、しかし身体も昔より不自由だ。だから頼む、真実を見つけて欲しい」
「・・・わかりました、その依頼を受けます」
ケビンは宏美と共に自殺現場まで向かった。
現場に着くころには既に暗く、月も出ていたが、窓の明かりがあるため人がいることがわかる。
「物音が聞こえたって話だったな。一つはバンっと明らかな銃声、もう一つはプシュってくぐもった音。連続で聞こえたって記事には書いてあったっけか?」
「そうね。ケビン、どう見る?」
「検死体も見れれば見たいが、捜査資料も見たい。だが、もしゴシップ誌が本当なら少なくとも銃が2丁あったってことは確かだ」
「え?」
「もし1丁だけだといちいちサプレッサーを付けたり外したりしないとダメだからさ。意外と時間掛かるんだアレ」
「でもケビン、それだと複数人いるってこと?」
「普通なら、2人以上犯人がいないと不自然に見えるが、そうじゃない。西部劇を見たことない?2丁拳銃なら一人でも反抗が可能だ。だから人数だけは確定できない。もっとも、2丁拳銃は非現実的要素だけどな」
「・・・もうここで捜査するのは無理ね。事務所に戻りましょ?」
車を走らせ事務所に戻るとレディーススーツ姿の若い女性が玄関前に立っていることが見えた。
「あの、トライデント・アウトカムズの事務所はこちらでしょうか?」
「そうだが貴女は?」
「沼津署の川中蛍と申します、アナコンダ事件での活躍は伺っております」
「・・・俺としては、あまり関心出来ん事件だ。賑わう街を戦場にしたことは詫びる」
「あなたのおかげで死傷者が一人も出なかったのですから、むしろ一市民として感謝しています。それよりも、仕事の話をしませんか?」
「?」
「太田一美の自殺について」
事務所に通し、事件について聞いた。なんでも、上の人間が自殺として処理したいらしいが川中だけは納得がいかず、第三者の協力が必要と独断で決めケビンを訪ねたのだという。
「これが資料です。私がデータをコピーして奥様にもわかるように書き直しました」
「見せてもらう」
死因は心臓に9mmに1発のみ。他に目立った外傷はない。弾丸のライフルマークから太田の持っていたCz75と別のものだと判明済み。近所の人間によると銃声が2回聞こえ、くぐもった音が聞こえた後、5秒後通常の発砲音が聞こえたと書いてあった。
「なるほどね」
「こう書かれると自殺にしか見えないわ」
「・・・すいません」
「銃の写真はないか?」
「これが、写真です」
写真に写ったCz75を見る。ゲームやアニメで見られるごく普通のデザインに、違和感を覚えた。
「この銃が凶器か・・・そうかもしれんがおかしいんだ」
「え?」
「やはり銃が2丁ある。なくなったもう一方が凶器だ」
「サプレッサーって、つけるのに時間かかるって話よね?」
「あぁ。カズは思ったよりヤバイ道を歩いてたかもな」
「どゆことよ?」
「おそらく、裏の人間かもな。彼女は暗殺者として生きてたかもしれない」
「え!?」
「こんなに閑静で人が多い場所で音のデカイ銃使うことはない。仮に使うならサプレッサー付きを使う。彼女の銃が奪われて、次の殺しが来る」
「どうすんのよいったい!?」
「川中さん。敵の目星は?」
「それがまだ、顔が割れてなくて」
「・・・とにかくだ、宏美は俺とツーマンで行動。川中さんは署に戻って普段通り捜査してくれ」
ケビンと宏美は太田一美を徹底的に調べた。彼女は出所後、スナック等で働き、普通の生活を送っていたがスナックのママが変死、その直後に婚約者になる男と出会い、ほぼ毎日深夜になってから出かけ朝に帰るようになったらしい。
「別の店で働いているのかしら?」
「彼女がどんな行動したかによって、だ。まずはスナックに行こう」
繁華街に足を運び、彼女の足取りを調べた。華僑系マフィアが巣食っているエリアの蜃気楼というホストクラブに向かっていたと話を聞けた。危険を予想し、宏美を安全な場所に移動させ、ケビン一人で店に入った。店内は黒いスーツを纏った若い男達がたむろしていた。
「おい、外人さんの来る店じゃねぇぞ」
金髪のホストがケビンの胸倉を掴もうとした瞬間、左ストレートが炸裂し気絶。異様さを感じた連中は声が出ず戸惑っていた。
「太田一美について聞きたい。誰と会っていたかだ」
「し、知らねぇよそんな女!」
「お前らじゃ話にならん。オーナーか店長を出せ。さもなくば」
コートの下に隠していたレミントンR5を取り出し、それを構えた。
「ここで戦争を起こす」
騒ぎを聞きつけたのか、奥の部屋から落ち着いた雰囲気の男が現れた。
「若いのがご無礼をおかけしました。ケビン菊地さん」
「どうして俺の名を?」
「この町であなたの名前は有名ですよ。そんな事より一美さんについて話を聞きたいのでしたね、彼女は確かにこの店に来てました。しかし、遊びに来たわけじゃないんです。オーナーから仕事をもらいに来たんです」
「仕事だと?」
「はい、取り立ての仕事です」
「つまり、彼女は客のツケを回収する仕事をしていた。殺されたあの日も?」
「えぇ。ですが、あの日は少し事情が違っていました。それは」
今度は玄関からケビンより頭一つ分大柄な男が現れた。
「南村姫乃はこの町一の悪女。踏み倒すためなら殺しすらする危険人物、だからワシは銃を持たせた」
「お、オーナー!?」
「カズミは殺しをしたことがあるって耳に挟んだんでな、大丈夫だと思ったんや」
「・・・お前は許浄。上海で巣食っているマフィア、黒蛇の幹部だな」
「流石はケビン菊地。ワシを知っとったか」
「大鳳と称されたアンタほどの剛腕が、どうして南村に苦戦してんだ?」
「それなんじゃがな・・・相手の方が上手だった。彼奴は元外人部隊の手練れ、そう簡単には顔を明さん。店に来るときも仮面を取らなんだ。だが電話番号だけは明かしたからそれであの場所に呼び出したんや」
仮面。写真の情報があまり意味を成さないという暗示には十分だった。だが、疑問があった。何故彼女は金に終着があったのか。外人部隊となると稼ぎも良かったハズである。何より、仮面をつける意味が分からなかった。
「その銃、サプレッサー付きか?」
「あぁ。それしか持っとらんでな・・・まさか、あの女に持ってかれたか?」
「そのまさかだ」
許浄の顔に憂いが見える。
「浅はかやった。またワシは無駄な血を流してもうたわ」
「・・・この町に飛ばされたのはそれが理由か」
「ただの恥さらしや」
「何も恥とは言ってない。この一件、俺に任せてくれないか」
「任せたで、アイツはワシらの敵やからな」
敵は銃を持っている。元外人部隊となると一筋縄ではないと判断したケビンは事務所に戻り、Px4からM629リボルバーに持ち替え、UMP-9も取り出した。相手も完全武装している可能性を見据えてのことだった。
「ず、随分と重装備ね」
「敵が殺しに掛かるなら、こっちもそれ相応にするもんさ。っで、何か収穫あったか?」
「そうね。仮面の下を見たって目撃者がいたわ」
「聞かせてくれ」
「あの蜃気楼って店を離れて、近くにホームレスのたまり場があるんだけど、そこで仮面を外して何食わぬ顔でどっか行ったって」
「どんな顔だったんだ?」
「・・・それが、妙なのよ」
「妙?」
「太田一美そっくりって話よ」
「どういうことだ?」
「わかんない。仮設なんだけど、ホントに彼女死んだのかしら?」
「・・・そういや、検死の結果がまだだな。この前の大学生殺人のように歯形が違ったってケースかもな」
宏美はPCで外人部隊経験者を検索する。しかし、個人の情報となるとセキュリティーが複雑になり、いくら彼女でも突破は不可能だった。
「ダメね、とてもじゃないけど私の力じゃ」
「・・・それがダメなら他力本願だ」
ロバートに電話する。内容を伝えると、すぐさま培ったツテに探させた。すると、該当人物のデータが載っている電子メールが受信する。
「コードネーム・クマノミ。元フランス外人部隊。強姦の罪で不名誉除隊後、性別を変えフリーの用心棒をしていたが、現在は日本の沼津に潜伏し詐欺師として暗躍。彼女と関わった人間の多くが不審死しており、接触の際は武装するように・・・彼女、ということは元男で整形手術でカズに似た顔になったってわけか」
「接触方法はないのにどうするのよ?」
「ふぅ・・・あぁ、考えがある。携帯番号あるんだろ、俺達以外の人間に掛けさせて釣り上げる」
「変わってるかもしれないわよ」
「カズが生きてる時まで使われていた。もう変わってる可能性もあるかもだが、面白いことも書いてるぞ」
「?電子機器の扱いに難有りな模様・・・何と言うか、その、珍しいわね」
作戦当日。黒澤金剛の秘書、三上を借り、彼に電話してもらい呼び出すことに成功。陰で張っていた宏美の合図でケビンがT62スタンガンを手に背後から忍び寄りクマノミの首筋に電流を流し気絶させることに成功。捕縛し、彼女を警察に引き渡す。その頃には証拠資料が集まっており、クマノミは観念するしかなかった。殺害理由、それは未だ完済していない手術代のため、そして取り立ての女が自分に似ていて恐ろしくなって撃ったと証言した。それを知ったケビンは怒りを押し殺し、警察署を後にした。
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2話 灯が消える前に
特別警備会社は重火器(グレネードランチャーやロケットランチャー等)を所持してはいけない
特別警備会社は他業種も運営する場合、別に許可が必要
ナイフ等、殺傷力の高い刃物は原則禁止
夜の19時。ケビンは事務所でストレートティーを飲みながらテレビを見ていた。『未来は高校で決まる!熱血講師・赤尾功男の教育論』という、彼が独自の教育論をゲストに熱く語る番組だった。彼によると不登校の原因は自分自身に隙が生じるため、何かに熱中して取り組めば外部からの批判は聞こえずらくなるというものだった。ゲストからの質問にも応じ、持論を熱く語った。番組の最後に赤尾自身が運営する、全寮制の高校、昇学園の宣伝をし、番組が終わるとテレビを切ってソファーに寝っ転がる。
(くだらね。全員が全員、集中して一つのことに取り組めるわけがない。昇学園って噂だが何人も自殺者が出てるって話じゃないか。校門には被害者の会って連中が待ち構えているって話だし・・・こんな連中とは、関わりたくないな)
事務所のドアが開く音が聞こえる。気だるそうに身体を起こし、客人を通す。
「開いてるぞ、入れ・・・な!?」
その客人はボロボロのブレザー制服に身を包み、顔や手先が真っ赤に腫れあがっていて今にも倒れそうになっていた17歳ぐらいの男子高校生。ケビンは3階の自室に担ぎ込み、ベッドに寝かせた。
「おい、しっかりしろ。何があった!?」
「た・・・助けて・・・殺される・・・」
「殺される、どういうことだ!?」
彼は意識を失うように眠りについた。ケビンは棚にあった軍用栄養剤入り注射を彼の首元に打ち込み、他にも外傷がないか調べてみる。腹部や胸部に痣があり、明らかに階段から落ちたものではなく、誰かに殴られたような痕だった。首にも誰かに絞められた手痕が残っている。
(彼の身体付きからして、お世辞にも喧嘩慣れはしていない。まるで拷問を受けていたみたいだ・・・とりあえず、身分証がないか見るか)
ポケットから財布を抜き、健康保険証を見る。名前は津島煉と書かれていた。保険証と財布を戻し、制服のズボンに記されてある刺繍を見る。
(これは・・・昇学園・・・だと!?逃げ出してきたのか。傷からして、このまま返したら危険だな、しばらく俺のところで泊めるか)
下から呼び鈴が聞こえる。ここから動くなとメモを残し、3階のドアの鍵を閉め、下の事務所に降りた。
「やぶ遅くすいません。昇学園で教師をやってます、水戸島と申します」
水戸島と名乗る、作り笑いをする中年ハゲの男が立っていた。
「ご用件は?」
「実は生徒を探してほしいのですがね、彼です」
水戸島は写真を取り出し、ケビンに見せる。津島の写真だった。
「最近どっかに消えてしまってですね、困ってるんですよ。真面目な生徒だったのに」
「心当たりはありますか?」
「いやですね、実家にも問い合わせたのですが帰っていなくってですね、心配なんです。早く見つけないと安心出来ないというか」
ケビンは不信感を募らせる。この男は全く彼の心配をしていない、むしろ見つけ出したら彼に危害を加えるのでないか。そう思いながら依頼内容を聞く。
「報酬は50万あります。探していただけませんか?」
「・・・残念ですが、他の依頼を受けておりまして、受けることが出来ません。プロは基本、依頼を二つ同時に受けませんので」
すると、先ほどまでの低姿勢から一転して激しい激昂をみせた。
「この私が仕事をくれてやるんだ!縦に首を振れ!・・・って」
冷静にPx4を抜き、彼の眉間に突きつけると再び大人しくなった。
「癇癪持ちに仕事もらえるほど困っちゃいないんでね。さっさと失せろ、さもなくば」
恐怖のあまりに事務所から勢いよく出て行く水戸島。消えたことを確認すると、Px4をしまう。
(自分より弱い相手にはさっきの態度だろう。クズが)
しばらくして宏美が買い物から帰ってきた。先ほどまでのことを話す。
「津島って子がこの事務所に来て、今匿ってるってこと?ケガの状態は?」
「入院してもおかしくないレベルだが、病院に担ぎ込めば間違いなく学園の連中が動く。彼の命が危ない」
「そうね、昇学園って確か、不登校とかヤンキーだった子が入る学校よね?なんだか気味悪いわ、ホームページ見てくれる?」
ホームページを見ると、人里離れた場所にある、東京の下町と呼ばれる地域よりも広い土地に綺麗気な校舎に笑顔を見せる学生の写真、理事長の赤尾の挨拶などが見られる。
「もしも本当にホームページ通りの学校なら、彼のようにボロ雑巾みたいな事にはならないハズだ。あの癇癪持ち、少々気になるし」
「明日オープンスクールみたいね。駅でバスが出てるみたいだから取材ってことで潜入してみるわ」
「そうしてくれ。俺は彼から話を聞く」
自室から何か動いた音が聞こえる。ケビンはドアを開け、中を確かめる。
「おい、大丈夫か?」
「・・・ここは?」
「トライデント・アウトカムズ。一応、近所じゃ有名な特別警備会社だ」
「何ですかその、特別警備会社って?」
「いわば、民間軍事会社さ。アナコンダ事件は知ってるか?」
津島は首を横に振る。
「高校1年の頃からあの学校に入ってて、隔離されたような生活を送ってきました。テレビも、新聞も、インターネットすら取り上げられます。あそこは監獄です、暴力と権力が支配する、地獄そのものなんです」
「・・・そうか、しばらく俺達が君を匿おう。俺はケビン菊地。よろしくな」
手を差し出すと、怯えるようにベッドの隅に逃げる。よっぽど心身にダメージがあるようだ。
「す、すいません・・・」
「なに、気にするな。明日知り合いの医者を呼んで診てもらう、心配するな、口の堅い男だ」
翌日、宏美はフリーの記者としてオープンスクールに参加する。バスに乗り込み、校門の前に着くと、大勢の生徒が大声で出迎えてくれた。
(ば、バスに乗ってても聞こえるほど大きな声ね・・・これじゃ逆に迷惑よ。これがこの学校の普通っていうなら、世間じゃ異常ね)
バスが停まり、熊谷と名乗るガタイの良い先生が校舎内を案内する。掃除が徹底しており、チリ一つない。しかし、窓の向こうに見える寮について伺っても無視してガイドを続けていた。
(質問に答えない・・・益々怪しいわ。グラウンドの野球部の子なんて、よく見ると足を引きずってたし、女の子は口が笑ってても目が笑ってない。何よりも廊下や教室に必ず赤尾氏の写真と熱血って大きな文字が飾られてあった。気味悪いわね)
一通りオープンスクールのカリキュラムが終わり、宏美は案内役の熊谷に呼び出された。
「どうですかウチの学園は。みんないい笑顔でしょ?」
「えぇ綺麗な学校ですこと(まるで宗教団体じゃないのよ)」
「柔道、空手、放送で賞をもらってますし、生徒もみんな真面目です。最初こそクセがありましたが、朝の掃除でみんな心が磨かれ、授業では集中し部活は全員参加。自然に良い子に育ちますよ」
「素晴らしいことですわ(洗脳レベルねこりゃ・・・)」
「記事も良いものを書いてください。いつでも生徒募集中です」
「わかりました。私からもいいですか?寮の中もお見せいただけません?」
すると、表情が曇った。
「プライベートまで覗くのですか?」
「いや、その、学生の話も聞こうかと」
「ボクが話したことが全てですよ。取材しても同じことが返ってくると思いますので」
「そ、そうですわね(何かあることは確かね)」
帰る前に近隣の住民に学園の事を取材する。返ってきたのは近所迷惑レベルの大きな声と怒号が一日中聞こえ、時折、脱走する生徒もいるというものだった。しかも多くが連れ戻されていくという。
(先生の写真を見せても、やっぱりいい顔してないわね。異常としか言えないわ)
持参していた隠しカメラの映像をケビンと津島と共に見る。
「ぐ、グリズリーが案内を!?」
「あの先生の名前か?」
「あだ名です。アイツ、授業中に気に入らないことがあると、女子でも構わず柔道技掛けてくるんです。外面だけですよ良いのは」
「そう言えば困ったことがあったら相談してもいいって威勢よく言ってたけど、結局のところ、そんなことしなさそう?」
「はい。テキトーに丸く収めて、問題をもみ消すんです。卒業生の多くが洗脳されてて、今も俺を探してると思います。見つかったら最後、殴られて蹴られて、気を失っても続けます、親と俺達の前で」
「・・・CIAの拷問なんてカワイイレベルだな。っで、君は一人で脱走を?」
「友人もいましたが、見つかってしまって身を挺して俺を逃がしたんです。必死に逃げて逃げて・・・路地裏で隠れてたら外国人が俺に話しかけてきて、ここを紹介されました」
「外国人?」
「僕がここを紹介したんだ」
黒人の男が現れた。彼はロバート・ハミルトン、ケビンの叔父にしてトライデント・アウトカムズのCEOである。
「別件があったから一緒に行けなかったけど、無事辿り着いたんだね」
「はい、ありがとうございました」
「もう知っていると思うけど、あの学園は異常だ。ハッカーチームの報告によると、教員免許がない連中が教鞭をとっているのが確認できた。そして、赤尾は心理学のスペシャリストで掌握術の天才。脱走を経験した一部の卒業生が未だに彼の命令を受け動いている。それと、君に残念なお知らせだ。友人が学園近辺の山奥で遺体で発見された。死後二日だから君を逃がしたその日に亡くなったってことだ」
津島は糸の切れた操り人形のように力無くうなだれ、大粒の涙を流した。宏美はティッシュを渡し、鼻をかませる。
「(人を殺しといて何が教育だ、何が熱中だ。テロリストと変わらないじゃないか。だがどうすれば敵に引導を渡せるのか・・・)CEO、一緒に動画を見ていきません?」
最初から映像を観察する。すると、創立者の銅像の床を映したところでストップする。
「床に擦れた跡がある。妙だな」
「ケビン、この銅像の下に何かがあるかもね。どうする?」
「作戦を決行しましょう。CEOは彼を頼みます、宏美はいつも通り運転を。俺は学園に潜入する」
移動中の車内で学園の地図を頭に叩き込み、R5とサイガ12、Px4を装備する。
「ケビン、もし何もなかったらどうするの?ただの不法侵入よ」
「銅像プラス台座は非常に重い。そんなものがちょっとやそっとじゃ動かない。絶対にある」
「信じるわよ、その言葉。でもどうやって動かすの?」
「学園関係者に聞けばいい、何か仕掛けがある。津島君の情報だと泊まりの先生もいるって話だ」
「まっ、まさか・・・危ないと思ったら逃げるのよ」
「そうヘマはしないさ」
車が停まり、ケビンはR5を手に学校の壁を登って潜入する。サプレッサー付きPx4に持ち替え、身を低くし隠れながら生徒のいる寮付近まで移動する。怒号と悲鳴が聞こえ、しばらくすると電気が消えた。足音が聞こえなくなったと同時に開いてる窓から潜入し、寮を管理する先生のいる部屋まで移動した。
(この部屋だけ電気がついてる)
そっと引き戸を開け、中を覗く。そこにはグリズリーと呼ばれた熊谷の姿があったが、他に誰もいなかった。
(さてと、やるか)
背後から忍び寄り、右のコメカミに銃口を突きつけ左腕で首を絞める。
「騒ぐな、騒いだら撃つ。銅像の動かし方を教えろ」
「お、お前のような不審者に」
左腕に力を入れ、強く絞めながら撃鉄を降ろす。
「わ、わかった話す。教員カードとパスワードがいるんだ、俺のを教えるから助けて・・・」
「嘘だったら真っ先に殺す。最後だ、嘘じゃないな?」
「い、イエス・・・」
パスワードを覚えた直後、グリップで後頭部殴り、気絶させた。銅像まで戻り、差込口らしき場所に教員カードを入れると画面とキーボードが出てくる。そこに先ほどのパスワードを入力すると、銅像が後ろに動き、地下への階段が現れた。R5に持ち替え、アタッチメントとしてハンドガードの右レールに取り付けたタクティカルライトを点け、地下室へと進む。
「宏美、やはり地下があった。奥に部屋がある」
「カメラの映像もバッチリよ。でもどうしてそんなものが?」
「さぁな。言えるのは由緒正しいってのは上っ面だけで、ホントはヤバい連中ってことだ」
「そうね・・・ケビン、私はいつでも突入可能よ」
「突入なんてさせないさ」
ドアの前に到着し、耳をすませる。水戸島の声が聞こえる。
「津島と只川にここの秘密を知られました。バレるのは時間の問題かと」
「津島はどこだ?あのクソが、地面を這ってでも見つけ出せ!」
「場所はわかったのですが・・・少々厄介な連中のところでして・・・トライデント・アウトカムズの事務所に逃げ込みました」
「クッ、あのPMCか。金を積んで渡してもらえ!」
声に聞き覚えがあった。あの赤尾の声だったのだ。ケビンはフラッシュバンを手に取り、ドアを少し開けそれを転がす。光ったと同時に突入、警備兵全員を射殺し、クリアリングをし安全を確保した。
「俺達は金では動かんぞ。特に悪党のじゃな」
「き、貴様は!?」
「よう先生。この地下畑は何だい?」
部屋には農業施設でよく見るプランターに足をつけたものがあり、土にはキノコが生えている。その形状をみたケビンは怒りを覚える。
「ヨーロッパ産の毒性の強いマジックマッシュルームか・・・とんでもねぇ野郎だぜ」
「ど、どうやってここが!?」
「先生脅したら素直に教えてくれたさ。もう、お前らは教壇に立てない。残念だったな」
「くっ、死ね!」
水戸島が懐からトカレフを抜いたがすぐに狙い撃ち、水戸島の脳天も撃ち抜いた。
「な・・・なんなんだいったい!?下っ端教師も役に立たんしここはバレるし殺されそうになってるし・・・た、助けてくれ!死にたくない!」
「お前が殺してきた生徒達も同じこと思っていたんだ。だがな、お前はそれを無視し続け何食わぬ顔で命の火を消してきた。お前のような奴が教鞭なんて取るんじゃねぇ!」
土下座した赤尾の顔面を勢いよく蹴飛ばし気絶させた。
「こちらケビン、首尾は?」
「警察に映像を送ったら動いてくれたわ。あとは任せていいんじゃない?」
「一応、正当防衛だよな?」
「当たり前でしょ。相手は極悪人なんだから」
朝刊には赤尾の逮捕が1面を飾った。その後の調査により、多くの教師が教員免許無しで教鞭を取っていたことが発覚、生徒及び卒業生の一部がマジックマッシュルームを摂取していたこともわかった。外部に売り出す目的と指導に使っていたことも明るみに出た。これにより事実上廃校が決定し、被害者家族達による集団訴訟が行われた。生徒達は自宅近辺の公立高校に転入し、暴力の無い平和な時間を過ごしているという。
「学校経営よりもキノコ栽培で稼いでいたそうよ。芋づる式に検挙されるわね」
「津島君も治ったし、もう誰も彼を襲いはしないさ」
事務所に客人が訪れる。津島と見たことがある小柄な少女の二人だった。
「この間はありがとうございました。何と言うかその」
「良いんだよ。俺は仕事をしただけさ」
「さっすが探偵さんズラ。でも、疲れてますね?」
「俺は人間殺して平気な奴が嫌いなんだよ」
少女こと国木田花丸は、名物のっぽパンをケビンに差し入れる。
「あぁありがと。おやつに食べるよ・・・っで、どんな関係だ?」
「マルは喜子ちゃんの代わりに来たズラ。煉君は喜子ちゃんの従兄弟なんです」
「・・・喜子?」
「津島喜子。Aqoursのメンバーであり、俺の従姉妹なんですが、その、彼女は恥ずかしがり屋でして」
「ふーん・・・そろそろ昼だし、飯食いに行くか?」
4人で昼食を食べに行くことにした。その時の津島の顔はどこか楽しそうだった。
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3話 何をもって正義とするか
深夜、沼津の高速道路で事件が起きた。先の事件の判決で終身刑を言い渡された赤尾功男の乗る護送車が何者かに襲撃され、随伴する警察官も攻撃された事件が起きた。任務に就いていた全員が死亡し、襲撃者の一人も交戦中に死亡した。この事はケビンの耳にも入っており、銃器のスペシャリストとして、川中から事件の資料を渡された。
「犯人側死傷者は国籍不明の東洋人の女性。左手にPPKが握られていており、発砲した痕跡がない・・・」
「菊地さん、彼女は何故赤尾を襲ったのでしょうか?」
「おい、俺は魔法使いじゃないぞ。証拠写真を見るとだが、右利き用の銃を左手に握ってるなんて、緊急時か素人しかしない。彼女は一番下っ端だったってことがわかる」
「?右利き用?」
「今でこそ左利きの兵士向けに作られたものがあるけど、基本的に銃は右手で使用するんだ。銃口を左に向けたこの証拠写真のPPK、赤い点の部分がセーフティーになんだ。だから右手で使う」
「左手だといちいち持ち替えなきゃいけませんよね?」
「・・・お前さ、一応刑事だろ?多少知識入れとけ」
呆れた顔で資料を机の隅に置き、Px4のメンテナンスを始める。
「っで、どうして俺を雇ったんだ?無しでも調べればどんな相手かわかるだろう」
「5.56NATO弾のライフル銃を使用してることが分かっています。ただ、変なんです。パーキングエリアに捨てられていた銃のライフルマークを調べたんですが、どれも一致してないんです」
返事をせず黙々とPx4のメンテナンスを終える。
「武器はなんだ?」
「FAMASです。科研の話ですが、外見は汚れてはいたけど、どれも撃ったことない新品同様だと」
「・・・お前刑事辞めた方がいい。そのFAMASは予め泥とか付けてあたかも使ってきたって見せかけて捨てたダミーだ。敵はまだ持ってるし、野外での襲撃、俺ならM16かサブマシンガンを使う。ヤクザも旧式なら持ってるからな」
「!?」
「Nシステムは調べたんだろ?不審車両は?」
「犯人の乗るバンとクラウンが映っていました。ですが、盗難されたものだと判明しています」
(車盗んで武器を持っている組織。何故5.56NATOを?AKの方が安上がりだし、警官相手ならサブマシンガンでもいいハズ。この襲撃事件、何かおかしい)
テレビを点け、ニュースを見ると、今度は機動隊の武器が紛失していることが話題になっていた。あまり気に留めず、今の事件に集中することにした。
(おかしい点を整理しよう。まず、襲撃する理由がわかっていない。赤尾は確かに海外マフィアや麻薬カルテルと繋がっていたが、別口に供給を切り替えれば問題は解決。彼にこだわる必要はない。よって、救出が目的ではない、では何が目的か。おそらく口封じのために派遣したんだろう。それについては情報が入り次第、考察するとして・・・次に使用した武器だ。わざわざ手に入りにくい西側武器を使っている・・・これは潤沢な資金があり、整備された環境があるという証拠になる。金のない連中なら、たった2ドルのAKを使うだろうし、相手もバカじゃないから襲撃には慎重になる。第3に、素人が混じっていたこと。彼女が誰なのかによっては事情が違ってくる。まずは調べるしかないな)
許可を得るために捜査一課に連絡をする。しかし、調査許可が下りない。なんでも、上の人間が自分達を警戒しているらしく、合同捜査が許されないらしい。
「(・・・川中は下っ端だし、どうにかしたいな。勝手に動くわけにはいかんし・・・よし)おい、俺に情報横流ししろ」
「え?でも、私の立つ瀬が」
「いいのか、武装した連中が街で暴れたりしたら、示しもクソもねぇ。それともう一つ、この事件を担当する捜査チームのリーダーは?」
「元警視庁の村岡警視正です、アナコンダ搬送任務でSATの指揮していた」
「なんだと!?」
彼とは会ったことがある。エリート出身でアナコンダ搬送任務を指揮した男だった。性格も嫌味一色で搬送任務失敗を自分達に擦り付けようとした、人間としても下の下の存在だ。
「(ってことは、私情で俺に捜査させない気だな)署長は?」
「現在、ロサンゼルス出張中です」
「いつ帰れそう?」
「明日帰ってきますが・・・ただ・・・」
「ただ?」
「時間が23時ぐらいになるそうです」
「マジかよ!?って、どうして細かく知ってんだ?」
「実はその、署長とは仲が良くって、プライベートでは一緒に買い物行ったりしますんで」
「叔母様~!?」
今度は川中が驚き、お茶を入れてきた宏美も驚く。
「えぇ!?お、叔母様!?」
「どゆことよケビン!沼津署の署長が叔母様!?」
「実はその、母さんの妹で、こっちに暮らしてんだよ」
「ハミルトン家もだけど、菊地家もすっごいわね」
家事情が少々わかったところで、ケビンは改めて川中に情報を流すよう指示、宏美には記者として別口での操作を命じた。
「俺は駅や港の監視カメラ映像をもらってくる。各国の指名手配犯を照らし合わせてみよう」
早速行動し、カメラ映像をもらい、事務所で見る。しかし目ぼしい人物がいない。
(特にいないな。あの外国人女性はいったい何者だ?)
川中から電話が掛かってきた。射殺された女性はソ・ヨンファという韓国人で不法入国していたことがわかった。兵役の経験はなく、貧しい家庭で育ったこともわかった。
(不法入国ねぇ。銃を握った経験がなかったとすると、彼女は雇われた可能性がある。襲撃者達は何者なんだ?)
では誰が彼女を雇ったのか、ケビンは2通り考えた。ひとつはヤクザ者が雇ったパターン、この場合、不法入国を手助けした代償で雇われたこととして説明がつくが、わざわざダミーの銃を置くほど金をかける必要はない。しかも警察車両を襲撃するのは非常にリスクが高い。よってヤクザではない。もうひとつは赤尾と交流があった金持ちによるもの。彼が法廷で自分達の不利な発言をされたら困るため襲撃し、あたかも外国人が襲撃したと見せかければ火の粉が飛んでこない。現在のところ、後者の説が有力であると考えたが。
「警察の目を金で買えそうだな。だが、俺達を襲撃したり罠を張ったりしてもいいんじゃないか?むしろ俺達が一番厄介だからな」
前回の事件で、自分達は金では買えないことがわかっている。だとしたら次に狙われるのは自分達のハズ、しかし今のところ攻撃はおろか罠すら仕掛けられていない。
(可能性・・・まだありそうだな)
宏美から電話が掛かってきた。
「ケビン、どうそっちは?」
「収穫無し。そっちは?」
「ダメね。警察に行っても質問は受けないって一点張りよ。途中で川中さんに会ったんだけど、こんな話を聞いたわ。パトカーのカメラ映像がいじってあるみたいなの」
「え?」
カメラをいじっていある。つまり、それを調べた人間を問い詰めればボロが出ると確信する。
「っで、川中さんに何とか出来ないか相談したら、鑑識に友達がいるって言うから明日、ケビンも来てくれる?」
指定された場所、沼津駅北口に向かうと、宏美と川中、そして眼鏡をかけた女性がそこにいた。
「あ、あの、その」
「この子は防人コウ、あがり症で菊地さんみたいな軍人気質が苦手なんです」
「おいおい、なら俺じゃ話が聞けないじゃないか」
防人が首を横に振る。
「き、菊地さん、そそそその、カメラをいじったのは、わ、私」
「?いじるのに理由があるのか?」
「じじじ実は、むむむ村岡警視正からメールで指示されて」
「なんだと!?」
村岡が彼女に指示して証拠をいじる。これは明らかに自分が犯人と言わんばかりだ。
「映像はどこに?」
「こここここに」
ケビンはSDカードを受け取る。
「質問いいか?ライフルマークが調べられていない可能性は?」
「ああああると思います・・・あそこは警視正の息が掛かってて信用が」
途端、セダンが停まったかと思ったら後部座席にいた男が窓を開け、防人にP99を向けた。それに気がついたケビンは左腕で彼女を押し、素早くPx4を抜き、P99を撃ち落とす。セダンが急発進し一目散に逃げた。防人はひどく怯えている。
「大丈夫か?」
「ケガはないわね。奴らはいったい・・・」
「村岡の刺客だろうな。プライドは無駄に高いし、金あるって話だし・・・事務所に来て映像を見るぞ」
P99も回収し、事務所に帰ることにした。
映像を見て納得がいった。襲撃者の持っているライフルが89式であった。ヨンファがまるで映画の登場人物みたいな振る舞いをしたかと思えば、すぐ警官に撃たれて殺される。
(そういや、ニュースで武器がどうこうって・・・89式が奪われていたのか・・・あれは?)
トレンチコートの男がクラウンから降りて来た。護送車のドアを開け、突入を指示、銃声が響いたと思えばすぐに止む。ライトが男の顔を照らすと、そこには黒髪の30後半ぐらいの男が見えた。
(間違いない、村岡だ。奴がリーダーだったのか、しかし赤尾を殺した理由がわからん。よし)
ケビンは地下に向かい、R5とUMP-9を手にする。そして、フラググレネードも取り出し装備した。事務所に戻ると川中が驚き、防人は怯え、宏美は呆れていた。
「き、菊地さんその格好は」
「あぁ気にすんな。ちょっと散歩に行って来る」
「違うでしょ!村岡を殺しに行く格好よそれ!」
「バレた?」
「もう下手な嘘はいいから、落ち着きなさい」
無理矢理椅子に座らされる。
「居場所もわからないのにどこ攻撃するのよ?」
「・・・自宅を襲撃する」
「さっきので自分達が動いたの気づいてるハズだから、向こうから来るんじゃないかしら?」
外から車が事務所前に停まる音が聞こえ、複数の足音も近づいてきた。
「3人とも、上に避難してくれ。俺が全員始末する」
ドアが乱暴に開いたかと思ったら、天井に設置した自動機銃が作動し入ってきた連中がハチの巣になる。遺体を盾に機銃を破壊し、玄関を突破。玄関に入った瞬間、ドアに仕掛けたワイヤートラップが作動しフラググレネードのピンが外れ、パニックに陥った敵は一網打尽になった。
(修理代、コイツらに請求だな)
事務机から身を乗り出し安全を確認すると、今度はフラッシュバンを手に取り、開いた玄関に向かって投げた。ハリセンのような音が聞こえた瞬間、勢いよく走りだし、辺りをクリアリングし武装した敵を排除する。
「やっぱり現れたな、能無しめ」
MP5KA1を右手に握ったままのたうち回る男、村岡がいた。右手を踏みつけ無理矢理武装と解く。
「ぐ・・・貴様さえいなければ、太田一美の事件も赤尾の事件も自殺と被疑者死亡で終わらせたのに・・・」
「明らかな殺人も自殺と被疑者死亡だと?もみ消そうとしたのか!」
「私は本来、こんなチンケな田舎に飛ばされるような人間ではないエリートだ。事件を終わらせ実績を積み、本庁に戻るためなら、手を汚すこ」
聞き飽きたと言わんばかりに頭を踏みつけ黙らせた。ケビンの目には怒りが込み上げていた。
(勝手な理由で殺しをし、身内の銃盗んどいて何がエリートだ。てめぇがしたことは、ただの殺戮と泥棒だ。罪のない外国人雇って自分達に捜査の目を向けさせないようにしたのが失敗だったな)
騒ぎに気づいた住人が電話したのか、パトカーが複数台駆けつけた。ケビンは事情を説明するために沼津署に赴くのだった。
容疑が晴れ、今度は署長室に呼ばれる。そこには中年ではあるが凛々しい表情で座る女性がいた。
「叔母様」
「ケビンちゃん、今回はごめんなさい。村岡をもっと監視していれば、こんなことには」
「いいんです。あとでアイツから事務所の修理代請求しますので」
「これは警察の失態、私達で出すわ」
小切手にケビンの言う金額を書く。
「それにしても、姉さんに似たわね。特に目の感じが」
「母さんに?」
「昔っから行動的だったわ、就職先見つける時も、結婚相手選ぶ時も・・・でも、まさかアメリカ陸軍の大将を選ぶなんて考えられなかったけど」
「まぁアグネッシブでしたね。親父も困ってたし」
「そういうケビンちゃんも、陸軍に就職って聞いたときはビックリよ。その後にあの事故が起きるなんて・・・」
「叔母様、俺は逮捕って形で仇を打ちました。もう言わないでもいいでしょう」
「そうね。思い出話で忘れてたけど、これを受け取って?」
渡されたのは二つのお守り。
「宏美ちゃんとペアで持っとくの。中には厚めの金属板が入ってるわ」
「あ、ありがとうございます」
「ケビンちゃん、もう一人の身体じゃないんだから、無理はダメよ」
「大丈夫ですよ、問題ないですから」
そう言って警察署を後にした。翌日のニュースで村岡の汚職が放送され、彼は実家からも見放された。既に何もかも失った彼は大人しく罪を認め、法の裁きに掛けられることになった。事務所の修繕が完了するまで休みにする方針にした。
ちょっとした伏線回収?
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4話 厄介事
民間人に危害を意図的に加えた場合、罰金等厳しい罰が下る
村岡の汚職の詳細が事務所に届く。赤尾からは多額の現金を受け取る代わりに住所と顔写真が載った非行少年の名簿を渡し、太田には前科持ちでもできる仕事を紹介する傍ら、許から多額の賄賂を受け取っていたことが発覚、しかし、首が回らなくなった許から賄賂が入らないとわかった彼は南村を雇い、日を分けて二人を排除しようとしたことが発覚した。
「頭おかしいんじゃねぇか?」
「それにしてもよく警察官になれたわね」
「高校以降は全部裏口入学だってよ。バカだけど親父さんの威光でOKが出たんだって」
「大丈夫かしらこの国?」
さあなと返事し、R5を手に構える。
「でもまともな人間がいれば、意外にまわるもんさ」
「そうね。事務所も直ったし、営業再開といきましょ」
そう言いながらPCで事務仕事に戻る宏美。
「お客さん来ないわね。必要あったのかしら私達?」
「どうだか。南村や赤尾みたいなのがいたんだ、行政に頼るより俺達の方が執行力があると思うぞ」
「物理的に?」
「それもあるけど、俺達の扱う案件って血生臭かったり、大規模な部隊が必要だったりって、金が掛かる。少しでも節約して一般人に金払わせようって考えもあるんだろう。まぁ戦闘なんて起きない方がいいけどな」
「そうね。・・・ねぇ話変わるけど、人員増やしてもいいんじゃない?ここには警察系の人間がいないわ」
「なるべくアメリカ人は控えてくれ。損害賠償額が報奨金を大きく上回る刑事を知ってる」
「ど、どんな人よ?」
「その男はモップや柱時計といった身の回りの物を武器に使って、数多くの敵を倒してきたんだ。人間だけじゃなくて大蛸やロボットも」
「何それこわい」
「彼はひと呼んでダイナマイト刑事。この業界では関わってはいけない人物の一人だ」
宏美は野蛮な怪物を思い浮かべるが、見た目はハゲかかった普通の中年である。しかし、女房や娘に逃げられたことによって荒んでいたり、任務中しょっちゅう爆発を受け服が焼ける等不運の塊であることはケビンはあえて言わなかった。
ケビンは身体を伸ばすと釣竿ケースにR5をしまい、それを持って外の空気を吸いに出る。先日銃撃戦があったにもかかわらず平和に日々を過ごしている人々が通勤通学等、様々な理由で行きかっていた。
(もし全員こんなに平和なら、俺達も必要なかろうに)
気晴らしに駅前まで歩くことにする。バスターミナルがあり、忙しそうに乗り降りする様はどこの国も似たような雰囲気だった。もっとも、ロサンゼルスでは窓から入ろうとする変な輩がいたのだが。駅を通り、向かったのは戦場になった北口周辺。冷たい雨が降っていたこの地は現在、暖かい日の下で嘘のように人でいっぱいになった。
(この町に銃声は似合わん)
事務所に帰ろうとしたその時、東京で会ったA-RISEの3人組に会う。
「あれ、どうしたんだ君達?」
「あ!探偵さんだ!」
「ホント!?あ、ホントだ!」
「お久しぶりです、探偵さん。私達プロのアイドルになって初めてのロケでして、ちょっと下見を」
「元気で何より。俺はこの町に異動になったんだ、まあ大人の事情ってやつだ」
ちょっとした昔話をしていると、マネージャーらしき男性が現れる。
「あのぉ、プライベートの彼女達と話すのは」
「マネージャー。この人、スクールアイドル時代の恩人なんだよ」
「恩人?」
「俺はトライデント・アウトカムズ日本支部長、ケビン菊地だ。よろしく」
名刺を取り出し、それを彼に渡す。
「?こんなゴッツイ人と仲良かったなんて、初耳だ。どんな会社です?」
「アナコンダ事件を解決に導いた特別警備会社って言ったらわかるか?」
「・・・あ、もしかして前線で指揮を執ってた」
「それが俺だ、あの後結構大変だったけどな」
ケビンは爽やかな笑みを浮かべるが、内心不審に思っていた。現れるタイミングが良すぎるからだ。
「俺からもいいか、マネージャーはこの子達のプライベートも見るのか?」
「い、いえそんなことは」
「ならいい。アンタも他の用事があるんだろ?」
「・・・先方との会議がありました!失礼します」
男は北へ走り去る。見えなくなったところで3人に目線を戻す。
「すまんが事務所に来てくれ、気になることがある」
3人を連れて帰り、事務所にあった探知機を取り出す。
「これってなんですか?」
「すぐに終わる」
彼女達に触れないかギリギリの位置で隅々までかざすと、ツバサの腕時計に反応する。
「これは誰からもらったんだ?」
「ファンのプレゼントです、ちょっと大きいと思ったんですがデザイン気に入っちゃって」
「すまんがそれを外して俺に渡してくれ、この機械は発信機を見つけ出す探知機だ」
ツバサは驚いた様子で時計を外し、ケビンに渡す。事務机に置き、小さめの工具を取り出し時計を裏向きにする。すると、時計の裏ブタが何かで開けられた痕跡を見つけ、それをマイナスドライバーで開けると、部品とは関係ないパーツを見つけ、ピンセットで取り出し蓋を閉じた。形状から盗聴機能があることがわかった。
「秋葉原の裏電気街で売ってそうな発信機だ。誰がつけたかは断定できないがこれで大丈夫だ」
3人とも顔面蒼白になっている。
「この時計どうする?安全は保障するよ」
「・・・」
「怖いのはわかってる、重々承知だ。だが疑心暗鬼じゃファンのみんなが心配する」
「わかりました」
腕時計を手に取り左手につける。
「探偵さん、こんな形でなんですが、私達の警護を依頼していいですか?事務所だと面倒なことになりそうなので個人で依頼します」
「・・・わかった、報酬はあとで計算するとして契約書にサインしてくれ」
セダンで彼女達が泊まっているホテルに送ることにした。ロビーで焦りを生じているマネージャーを見つける。
「どうしよう、腕時計に発信機入れたのはいいけど心配だ。守らないといけないのに・・・」
「おい説明してもらおうか。これについて」
小さなビニール袋に入れた発信機を見せ、鬼の形相でマネージャーを尋問する。
「あ、アンタ、これって!?」
「ツバサちゃんの腕時計に仕掛けた発信機だ。どうして仕掛けた?」
「しゃ、社長が命じたんだ!事務所の方針で見えないように発信機つけて、いつでも駆けつけられるようにって」
「プライベートは邪魔しちゃダメだろ、特に女の子はデリケートだ、ノイローゼになってもいいってのか?」
鬼気迫る彼を前に降伏することにした。
「彼女達は稼ぎ頭です、そんな金のなる木を野放しにできない!」
「だったらもっと大事にしてやれ。彼女達を金のなる木と呼ぶな、人間なんだぞ。俺達と違って泣いてくれる人がいるんだ」
「じゃあどうやって守ったらいいんですか!?」
「こればっかりは俺達がいても限度がある。最後は自分の身は自分で守らなくてはいけない、それも忘れたのか?」
思った以上に冷静に答えるケビン。殺伐した空気にツバサが口を開く。
「探偵さんの言う通りです、守られてばかりじゃダメだと思います。この仕事が終わったら社長に直訴しようと思います」
「な、何を言うんだい!?そんなこと認められるはずがない!」
「私もツバサに賛成です、アイドル以前に一人の女の子なんですよ」
「同感だ。監視されてるようで気味が悪い」
3人の目はまっすぐマネージャーを見ている。
「・・・わかった、止めはしない。ただし、僕は協力しないよ」
「お前はいてもいなくても一緒だろ。俺も一緒に話に行くぜ、あの類の連中は嫌いだが交渉方法はわかってる」
番組のロケが終わり、一緒に東京の芸能事務所に向かった。
事務所に着き、その足で社長室へ向かう。眼鏡を掛け、威厳のある女性とボディーガードなのかハゲかかった頭の中年アメリカ人男性がいた。ケビンはその男の顔を見て驚きを隠せなかった。
「き、貴様は!?」
「よぉサンフランシスコで会ったなケビンボーイ。いやぁカワイ子ちゃん連れてきて何があったんだ?」
「ミスターブルーノ、彼女達を忘れたの?ウチの事務所の子達よ」
この男はブルーノ・デリンジャー。通称ダイナマイト刑事と呼ばれた伝説的かつ危険人物である。そんな男が何故、この日本にいるのか疑問に思ったが、まずはツバサ達の案件を伝えることにした。
「俺はトライデント・アウトカムズの菊地と申します。早速ですがここに発信機兼盗聴器があります。何故彼女に仕掛けたのか聞きたい」
「・・・確かに、私が命じて取り付けさせたものです。ですが卑しい理由があって仕掛けたわけではありません。綺羅さん、探偵さんに数日前の事件を話したかしら?」
「実は、ロケの数日前、帰宅途中に変態に襲われたんです。幸い通行人に助けられたんですが、翌朝にはポストに盗まれてた下着が入ってたんです」
「まさか、犯人の声を聴くために発信機を?」
「不覚でした。綺羅さんに相談を受けた私はマネージャーを呼び出して、すぐに取り付けを命じました。おかげで変態は襲い掛かって来なくなり、通常運行になったんです。それに気がついてしまったのなら、方法を変えるしかなさそうですね。探偵さん、そこにいるブルーノと組んで彼女の警護を」
「警護は受けますが、彼とは到底組めません。彼が何者かご存知です?」
「アメリカで刑事をしてて検挙率が一番だった方でしょ?」
「・・・なるほど、ご存知なさそうなので説明します。彼が関わった事件は100%報奨金よりも損害賠償額が上回るんです。行政ならともかく、一企業が払える額ではありませんよ」
「具体的にどのくらいですの?」
「1回の捜査で被害額140億ドルです」
その額を聞いて失神してしまった。ケビンはブルーノを見る。
「この国にアンタがいるのが不思議だよ、アメリカに帰ったらどうだ?」
「女房と子供に逃げられて、定年退職。なのに撃たれて殴られて吹っ飛ぶ・・・最悪だよ」
「・・・もはや突っ込む気も起きんが、アメリカから追い出されたみたいだな」
「使えるものは何でも使っただけなのによぉ、何でそんなに掛かるんだよ」
「アンタが手あたり次第武器に使うからだろうが!」
結局、被害額を考えてブルーノはこの仕事に参加しないことになった。ひと安心したケビンは宏美に連絡し、彼女達を事務所上の空き部屋に避難させることにした。
さすがにブルーノだけはレギュラー登場無しの方針です
次回、新隊員登場
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5話 迷惑
本社にいるロバートから連絡が来た。なんでも、イギリス支部から1名異動してくるとのことだった。話によると元スコットランドヤードで警部補だった男らしく、それなりに戦闘も経験しているらしい。いくらケビンとはいえ1人で3人を同時に守れない。人員が来るのは非常に大歓迎だった。間に合うかはわからないが。
「明後日の昼間に来るって言うが本当か?」
時計を見ると夜の2時になっていた。少し心配そうな顔をする。
(そういや、直接話したことあんまりなかったな。あの学校だけあって肝が据わってるというか恐れ知らずというか)
当時からあの人気ぶりで、今まで被害が少なかったことに驚く。もっとも、事件の時はμ’sを通じて自分達を頼ってきたのが大きいと思われるが。
(オマルは大丈夫だろうか。過激だからちょっと心配なんだが)
階段を上る音がしたため、恐る恐る移動し音が止まった地点である屋上のドアを開ける。そこにはツバサがど真ん中の位置で体育座りをしていた。
「眠れないのか?」
「はい。強がってみたけど、みんなが襲われると思うと怖くて」
ケビンも近くに座る。
「怖い、か。レンジャー時代の友人も似たような事を俺に漏らしてたっけな」
「軍人さんも怖いって思うことあるんですか?」
「普通の人よりは少ないがな、死を前にしたら誰だってそうなる。ソマリアのテロリスト達を襲撃する任務の時、部下がヘマをして爆弾を起爆させてしまったんだ。近くにいたソイツは即死、離れた場所にいた友人は腹から血を流して俺に助けを求めたんだ。俺も腕をやられてて、片手で治療をしたことを今でも覚えてる」
「その方はどうなったのですか?」
「レンジャーの通信担当になって支援に回ったんだ。俺は傷が癒えると、すぐに復帰したが」
「探偵さん、私達より辛い思いを・・・」
「いいんだ、君達にはこんな恐ろしい思いをさせたくない。そんなことより子供は寝る時間だ」
「す、すいません。もう大丈夫です」
部屋に戻ったことを確認すると、ケビンも自室に戻ることにした。
彼女達の次の仕事は横浜中華街での食レポだった。ケビンもそれに同行し平静を装いながら目を光らせる。
(昨日の彼女の話に出て来た変態の行動だが、何か変だな。襲ったその日に事件現場周辺にいるものなのか?ポピュラーだがツバサちゃんに危害を加えたのが二人いる可能性が高い。最近知ったが、彼女の自宅近辺は街灯が増えてるし、やぶ遅くまで起きてる人間もいる。夜の闇に紛れてなんてできない。複数いるとなると、場合によっては捌ききれないか)
街道を歩いていると、横から上半身裸の男が英玲奈目掛けて突撃し手を掴んだ。とっさにケビンが動き、男を取っ組み合いになるがどうにか取り押さえる。
「何のつもりだ、言え!」
「お、俺雇われたんです。3万円でこの子の手を握れって!」
「なんだと!?」
男を拘束し、番組スタッフに託す。ケビンはある異変に気がついた。
「あんじゅちゃん、ツバサちゃんは?」
「あ、そういえばいない!」
「マネージャーもだ!まさか彼が」
「可能性はあるな。とりあえず車に戻ろう」
連絡を受け、運転席で待機していた宏美は、彼女達から許可を得て服の裏に取り付けたGPSを探知する。
「ケビン、ツバサちゃんは北西に向かってるわ。今現在あんまり離れてないから急ぐわよ」
全員の乗車を確認するとケビンがハンドルを握り、追跡を始めた。助手席に移動した宏美はノートPCで位置を確認する。次第に差がつけられていく。
「え?」
角を曲がり、少し移動したかと思ったら突如、画面から反応が消える。
「大変、反応が消えたわ。遮りそうにないのにどうして・・・」
「金属に囲まれたらGPSは意味を成さない。とにかくそこまで進もう」
近くに駐車し、ケビンは降りるとR5を取り出し探索する。辺りは住宅と空き地がありレンタルコンテナがあった。広さはそこそこあり、8個並んで置いてある。
「南京錠が掛かってるか。むやみに壊せないな」
電話しマネージャーの名義で借りているコンテナを教えてもらう。
(よしここか)
ストックで南京錠を壊し、コンテナのドアを開ける。中には手足を拘束されたツバサと手首を切られ、こと切れたマネージャーがいた。しかし出血量が少ない。
「もう大丈夫だ、ケガは?」
「な、何がどうなってるの!?マネージャーが死んでるし!?」
「ここから脱出だ、説明はそれからだ」
車内まで連れて行き、落ち着いてから話を聞く。マネージャーに誘拐され車のトランクに押し込められ、薬で眠らされ、目を覚ましたらコンテナに押し込められていて彼の遺体も一緒にあったという。
「私はやってませんホントに!」
「落ち着け、たとえやっても正当防衛の可能性が大だ。それに、あの浅い傷じゃ脈を切ってないから死なん。だから出血量がすごく少なかった。彼は別の方法で殺されたんだ、見てみろ」
タクティカルライトで遺体を照らすと手首以外に外傷はない。彼は毒で殺されたのがわかる。
「こんな偽装工作、マヌケが見てもわかる。事情聴取には正確に答えるんだぞ」
容疑が晴れ、事務所に帰るころには暗くなり、3人とも疲れて眠っていた。世間ではカリスマと呼ばれていても、彼女達の寝顔を見れば普通の女の子なのだとわかる。
「ほら、着いたよ」
目を擦りながらゆっくり起きる。
「これから、どうすればいいんでしょうか。またこんな事が起こるのではと思うと、なんだか怖いです」
「引き続き仕事をするさ。今度はヘマをしない」
「それに、近日新しい人が来るのよ。安心してもいいわ」
宏美が奮発して元気が出る料理を振る舞う。
「美味しそうなムニエルですね!」
「へへん、これでも奥さんですからね?」
「どなたかとご結婚を?」
あんじゅが目を光らせている。しかし、ケビンは頭を抱えている。
「俺が彼女の夫だ」
「え?」
「ケビンと結婚したのよ。薬指にリングあるでしょ?」
「あ、今さらですけどホントだ!・・・でも探偵さんはつけてないですよ?」
「この仕事だ、家族が人質に取られない工夫だよ。もちろん俺もリングを持ってる、今は手元にないけどね」
一見、興味のなさそうな顔をしている英玲奈だが、実は一番興味を持っていた。
(旦那様になる男性か・・・やっぱり、探偵さんみたいに動けてカッコイイ人だな。ミコトが惚れるのも無理はない)
「どうしたの?あ、さては新婚さんの妄想してたでしょ?」
「そ、そんなことはないぞ!?わ、私はだな、男性を選ぶのは慎重になった方がいいと思ったんだ。探偵さんみたいな男性って珍しいだろ?」
「確かにね~硬派で一途な感じだもん。仕事に熱心だし優しいし、やっぱカッコイイし」
少々照れくさそうなケビン。
「おいおい、そういうのは本人がいないときに話すもんだよ。照れくさいったらありゃしない」
「あら、ケビンも照れるんだ?」
「俺だって照れるもんさ。母さんはよく人前で熱い抱擁をしてくれたし、親父は軍の仲間に俺の事を自慢してたみたいだし」
久々の大勢での食事にご満悦になり、無事に一日を過ごしたのだった。
真夜中0時。なかなか寝付けないケビンは散歩に出かけることにした。深夜となるとさすがに人通りがほとんどなく、街灯だけが闇を照らしている。駅まで歩くことにしたケビン。
(胸騒ぎ・・・彼女達は安心しているが、どうも引っ掛かる)
「ちょっといいか、そこのハーフジャパニーズ?」
街灯の光に照らされ姿を現す。黒髪のイギリス人にしては少々低い174センチほどの白人男性が声をかけてきた。
「トライデント・アウトカムズの事務所の場所、わかるか?」
「もう営業時間外だ、依頼ならまた今度にしろエドワーズ」
「ひどいな、アフリカ・リビアで俺がお前を救ったの忘れたのか?」
「それには感謝している・・・まさかお前が異動してきたのか!?」
「あぁ。CEOの指示でな」
この男、デビット・エドワーズは元スコットランドヤードの刑事で実戦経験もケビン程ではないがある。彼は大学時代、日本語学部に所属していたため日本語が達者だ。
「昼に来るはずじゃなかったのか?」
「それはロンドンの時刻でだ」
ケビンは本気でエドワーズの顔を殴りダウンを奪う。しかし、何事もなかったかのように立ち上がった。
「迷惑レベルが高いってもんじゃないぞ!深夜に来るバカがいるか、もっと考えろ!」
「すまなかった。時差ボケがまだ残ってるみたいだ」
「カプセルホテルの場所教えてやるから、また朝来てくれ。早速仕事があるんでな」
男二人はここで別れた。
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6話 1回転すればなんとやら
イメージCV 松本保典
元スコットランドヤードのイギリス人。特技スコーン作り
PMC探偵シリーズ初の警察出身者。
朝の9時。来日したエドワーズを4人に紹介する。
「コイツはデビット・エドワーズ。元スコットランドヤードの刑事だ。今日付けでこの事務所に赴任する」
「はじめまして、デビットです。よろしく」
宏美に真っ先に握手を求めるが、彼女は無視して自己紹介をする。
「私は菊地宏美。よろしくね、エドワーズさん」
「よ、よろしく(既婚者かよ)」
「エドワーズ。ここは日本だ、握手はないぞ。っでだ、早速だが3人の少女達の護衛任務に加わってくれ。今は銃が無いから俺のPx4とUMP-9を貸してやる。質問は?」
「朝食とティータイムは?」
「好きにしろ、ただイギリス文化を強要するなよ」
この日はオハラグループが経営するホテルの宴会場を借りて3週間の休業を発表する。大勢のマスコミが彼女達の前で質問し写真を撮っていた。ケビンとエドワーズは彼女達の両サイドを守るように立ち、目を光らせている。会見を切り上げ、帰ろうとしたその時、記者に扮した何者かがナイフを手にあんじゅに襲い掛かる。彼女の近くにいたエドワーズが彼女の前に立ち、襲撃者を組み伏せた。ケビンはM629を抜き、周囲を警戒しながら3人を退場させた。
「誰だ貴様、誰の指示で動いた!」
「ケッ言わねえよ」
「場合によってはここで社会的に殺すことも可能だが?」
髪を掴みカメラに顔を向ける。一斉にシャッターを切り始めた。
「み、ミックって野郎に頼まれたんだ!炎天下ってサイトでできたチャット仲間だから顔は知らねぇ、ほ、ホントだ!」
持っていた手錠で拘束し、駆けつけた警察官に引き渡すと、ケビンと合流する。
「ケビン。宏美さんに探させよう」
「そうだな。一旦事務所に戻ろう」
夕方、ガンスミスのジョセフが事務所を訪れる。
「おいデビットの若造。新調してやるから来い」
大型トラックの荷台に乗り、商品の銃を見る。AKシリーズはもちろん、SAR21といったブルバップ式まで様々置いてある。
「じいさんSA80無いのか?」
「あの不良品銃はさすがにないな、イギリス人は見栄えで銃を選ぶのか?」
「そういうわけじゃないが」
「だったらこれでどうだ?」
持ってきたのはドイツ製アサルトライフル、G36C。ドイツ軍の正式採用されている銃のカービンモデルだ。
「ほぅ、いくらだ?」
「950ドルだ」
「買った。他にないか?」
「箱の中にあるから自由に選べ。チューンアップしてやるぞ、別料金だがな」
「銃に糸目はつけないさ」
リフレックスサイトにタクティカルライトを取り付け、ハンドガンにジェリコ941を購入。結果、1480ドル払うことになり、終始複雑な表情をしていた。
(・・・金なくてショットガン買えなかった)
翌朝、凶報が届く。ツバサと一緒に閉じ込められていた遺体はマネージャーとは違う人間だと判明したのだ。報告書によれば歯形が違ったらしい。
「遺体が入れ替わった、ケビンはどう考える?」
「自分が死んだことにしておいて、法の裁きから逃れるのが目的だ。おそらく顔も変えているハズだ」
「まさか近寄ってくる人間全員を攻撃ってオチはないよね?」
「弾の無駄だ、それはしない。俺達が出来ることは奴の家を急襲し情報を集めること。俺が行くから宏美は彼女達と待機、帰ってくるまで鍵は開けるな。エドワーズは念のため事務所近辺の警備を任せる」
「了解した」
社長から住所を教えてもらい、それを手掛かりに付近までセダンを走らせる。そこは閑静な住宅地にある古い2階建てアパートで、手摺りには錆がこびりついていた。周囲に誰もいないことを確認すると、Px4を抜く。
(確か1階だったな)
表札を確認し、ケビンはドアノブに手を掛け、回し、勢いよく開けた。警戒しながら入ろうとするが違和感を覚えた。
(不用心すぎる。いくら何もないと言っても住宅地だ、空き巣のことを考えても鍵をかけるハズだ。だが開いていた。つまりどこかに伏せている可能性が高いな)
足元の少し先を見ると黄色い糸が向かい合う壁を繋ぐように張られている。糸の先を見るとプラスチック爆弾が仕掛けられていた。
「なんじゃそりゃ」
玄関を出て庭に回る。鍵が開いており、こちらには罠がない。堂々と開け押入れを調べてみると所狭しと小さくなりながら隠れている男を見つけた。
「さっさと出て来い、殺さんから」
「い、嫌だ!海苔田から出るなって言われてんだ!」
「海苔田?」
「この部屋の主だ、もしかしたら武装した探偵が来るかもって言われて言われるがまま爆弾をあそこに」
「(そういやそんな苗字だったっけか)・・・よし決めた。俺がお前を保護するから来い、海苔野郎よりも安全だぞ」
男は渋々押入れから出て来た。ケビンは警察に連絡しマネージャーこと海苔田を指名手配するように進言した。その後、男は手錠を掛けられ引っ張られていく。
「ちょっと、保護は嘘か!?」
「嘘はついてない、直接とは言ってないだけだ」
「そんな~」
ケビンは彼の部屋の調査に戻る。机に置かれたノートPCにはA-RISEのスケジュールや健康状態、果ては着替え中の覗き写真まで保存されていた。特に多いのはツバサの写真で、100枚中60枚は彼女のものだった。
(今度の相手は変態か、アイドルのマネージャーは変態しかいないのか?)
押入れを徹底的に調べると床の仕掛けを発見し、それを解除すると女性ものの下着類がしまわれていた。サイズは3人分あることから誰の物か予想がついた。
「あとは整形した医者を探るだけだな。正式に整形なんて出来ないだろうから、許に聞けばわかるかもしれない」
許に電話し闇医者の情報を得る。整形手術で一番の闇医者は沼津にいることを知ったケビンは証拠品を車に積んで急いで帰還することにした。
証拠品を一度事務所に降ろし、教えられた場所にエドワーズと共に徒歩で向かう。路地裏にある薄暗い古いビルの中に入り、闇医者と面を合わせた。
「アンタが海苔田の顔をいじった医者だな?」
「患者の事は一切話さん」
「聞いたぜ、許から資金援助してもらって営んでるんだろ?昔の奴の顔写真を通行人に見せたら、数か月前ここに入るところを見たって言ってるぜ、営業したいなら今の海苔田の顔写真を見せろ」
「・・・仕方あるまい」
医者は机のPCをいじりプリントアウトしてくれた。どこにでもいそうな地味な印象から一転して遊び人風の整った顔の男が映っていた。
「コイツがねぇ。書類上は死んだ人間なんだし、殺しても構わんだろう」
「待て。ここは逮捕するべきだ」
「お前わかってんのか、ここで争っている間にもこちらの動きを読んで先手を打ってくるかもしれない。だったら被害を抑えるために始末した方がいい」
「彼はまだ若い、ちゃんと償わせるべきだ」
「書類上は死んだのにか?俺の経験則じゃ、ああいう連中は更生プログラムを実施しても再犯して反省はしない。だったら本当に死んだことにすれば問題ない!」
「捕まえて申請すればいいだろ!」
「時間がないって言ってんだろう!」
言い争っていると電話が鳴る。ケビンは冷静になり電話に出る。
「どうしたんだ?」
「進展はあったの?」
「顔が割れた。あとは居場所を探すだけ」
「事務所に男性が来てるんだけど戻ってくれる?」
落ち着きが戻った二人は事務所に戻り、客の顔を見る。そこには整形した海苔田がいた。頭悪そうに喋り方も変えている。
「アンタが探偵さんっすか、ちょっとそうだ・・・」
ケビンとエドワーズは同時にハンドガンを抜き黙らせる。海苔田は額に汗を浮かべ硬直する。
「お前バカだろ」
「まさかウチに依頼するって発想はなかったぞ・・・」
「え?ふ、二人ともどしたの?」
「コイツが例のマネージャーだ。整形手術して別人に化け、声も変えればバレないと思っただろうが、遅すぎるぜ」
ハンズアップし、素の声に戻る。
「す、すんませんした・・・」
「どうする?コイツもう死んだことになってるし、でも事務所で殺したくないし」
「CEOに相談してアフリカに飛ばすってのはどうだ?」
「そりゃいい」
意見が一致し、海苔田を拘束し尋問した。彼は元々ツバサのファンでありサイドビジネスとして女性もの下着を盗み高値で売っていたこと、整形後、双子の弟と入れ替わっていたこと、手を引こうとした弟を殺したのは自分であることと仲間のアジトの場所を自供した。後日、ロサンゼルス本社から派遣された輸送部隊に連行され、アフリカに旅立っていった。その様子を見ていた3人の少女は終始複雑な表情だった。
「えっっと、マネージャー、入れ替わってたんだ・・・」
奇想天外な展開にツバサ達もタジタジになる。
「そうなるな。営業再開するか?」
「も、もう少し様子見てもいいですか?」
「落ち着いてから活動した方がいいわね。また困ったことがあったらウチに来てもいいわよ」
「は、ハイ。時間が取れたらまた来ます」
駅まで3人を送り、改札を通ったところを確認すると、再び日常勤務に戻ったのだった。
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7話 印象は大事
合計人数400名のうち
軍関係70%
警察関係20%
その他10%
その他の内訳。多い順に、教師・記者・整備士がいる
ケビンは役所に海苔田弟の死亡届を提出し、事務所に帰ると自分のテーブルの上にチョコチップが練り込んであるスコーンが置かれていたを発見する。
「帰ったかケビン。俺特性のスコーンでも食ってくれ」
「ありがと、そういやお前どうすんだ家?」
「近くにアパート借りて通勤するんだ。おかげで帰ってきたら早速大家さんに心配されてね」
「そっか。早々すまなんだな」
少し昔のことを思い出していた。東京時代もこうやって少しづつメンバーが増えていって、4人で仕事することが多かったことを。
「そうだケビン、紅茶は切らさないでくれ。ロンドンじゃ欠かさなかったからな」
「安心しろ、俺も紅茶派だ。専門の店で買って美味しく淹れてる・・・どうして大家さんはお前の顔知ってんだ?」
「実は大学時代、大家さんのところにホームステイしたんだ。だからその好でね」
ものの数分後、例にもよって見覚えある女子高生3人が事務所に入ってきてくつろぎ始めた。
「あ、あの、お嬢さん達?」
初めてみるエドワーズは困惑し、あたふたする。
「?なんですか?」
「ここってさ、特別警備会社の事務所だって知っててやってんの?」
「知ってますよ?探偵さんも問題なさそうですし」
「そうじゃなくってさ、そう、他の依頼人のこと考えたことある?」
「まあまあそう言ってやるな。彼女達もわかってるだろうしさ」
女子高生3人組のリーダー格の千歌は遠慮なくテーブルのみかんに手を伸ばした。
「あ!そういえばお兄さん誰?」
「・・・デビット・エドワーズ、ここの職員だ。君達は高海千歌・桜内梨子・渡辺曜、だったね」
「すごいよ!有名になったんだね私達!」
「雑誌の表紙になってるのに知らないわけがないだろ。それはいい、くつろぐついでだ、スコーンでも食っていけ」
持ってきたスコーンを振る舞い、3人に食べさせる。とてもご満悦な顔を見たエドワーズは思わず安心したのだった。
ドアが開く音が聞こえる。若い日本人男性だ。
「ここがトライデント・アウトカムズの事務所でしょうか?」
来客に気がついた3人組は気を利かせ外に出る。
「そうですが?」
「ここはなんでもしてくれる事務所ですよね?」
「我々ができる範囲なら」
「彼を見つけていただきたい」
懐から写真を取り出す。人混みの中を歩く、眼鏡を掛けた真面目な雰囲気の男がいた。
「尾田和人。テールファイナンスの社長で裏では多くの不法労働を斡旋しているクズです、高校生だった妹は奴の毒牙にかかりレストランでバイトを始めてから3ヶ月後行方不明になった・・・」
「妹さんの写真はあります?」
黒のセミロングで笑顔の似合う制服姿の少女が写っている。
「尾田さん、この依頼引き受けます。ですが、望むような結果にならない可能性が高い仕事です。報酬は後払いで結構。これにサインをお願いします」
契約書にサインする。名前を見てケビンは落ち着いた口調で質問した。
「本藤充彦、ですか。職業は法学部の学生25歳。証明のため学生証の提示を」
学生証カードを見せ、顔写真と照らし合わせる。
「これをお返しいたします。ちなみにどなたから尾田の写真を手に入れたのですか?」
「写真が好きでして、ビル前で待ち伏せして撮ったんです。カメラも持ってます」
肩に掛けていた銀色の専用ケースを開け、一眼レフカメラを見せる。
「・・・わかりました、あとのことは我々に任せてください」
本藤は納得した顔で事務所をあとにする。
「さて仕事だ、駅前のバス停付近にあるようだな」
「しかしケビン、俺はどうも気に入らん。本当に学生か?」
「違うだろうよ。カードは薄いがカメラは本格的、おそらく記者だな」
時間差で宏美が帰ってくる。
「ただいまケビン、さっき事務所から出てくる知り合いとすれ違ったんだけど?」
「彼は記者か?」
「そ、そうだけどどうしたの?」
先ほどの経緯を話す。
「本藤ちゃんがウチにねぇ・・・妹がいるのは本当よ、彼女は確か浦の星女学院に通ってるって話」
「え?・・・外で待ってる3人に聞いてみよう」
3人組の話によれば彼女は同級生らしいが最近姿を見ないらしい。特に変わった様子はなく、突然休学が知らされ驚いたらしい。
「(休学、か。それも気になるが)ねぇ、変なアルバイトを紹介してくる人、見たことない?」
「うーん・・・確か、喜子ちゃんが眼鏡の男性に声掛けられて、怖くなって逃げたって話聞いたことあるような・・・」
「ふむ。その喜子ちゃんをここに呼べる?」
「ダメだと思いますよ、怖がっちゃうから」
仕方なく津島邸に宏美を派遣することにした。幸いなことに梨子も同伴してくれるらしく、アポを取って情報を集めることにした。彼女の母親らしい女性に案内され、自室前に立つ。
「喜子、入るわよ」
ドアを開けると黒い悪魔をモチーフにした衣装を着た少女が現在進行形で動画を撮っていた。自分達に気がついたのか大急ぎで閉めようとするが母親はそれを阻む。
「ちょっと開けなさいよ!」
「ヨハネ!」
「喜子ちゃん、話があってきたのよ。変なアルバイトを紹介する男の人の話」
宏美が目的を告げると嘘のようにドアを開けてくれる。
「紹介が遅れたわね。菊地宏美、トライデント・アウトカムズの情報収集担当よ」
「つ、津島喜子です」
目が泳いでいる。
「あぁでもね、銃は持ってないの。だから安心して、ね?」
「あ、はい。・・・先日、バスに乗って帰っていたら、黒のスーツ姿の男性が座ってきて、気さくに話しかけて来たんです。ちょっとした雑談だったんですが降りようとしたら手を掴んできて、折られたA4の紙を握らされたんです、怖くなって急いで帰って・・・」
「その紙、まだあるかしら?」
机の引き出しを開け、それを宏美に見せる。書いてあったのはアルバイトの求人票で内容は倉庫の掃除だった。畳8畳分の広さで1棟6万円という、なかなか良い稼ぎに見える。
「場所は・・・伊豆の別荘地か。確かアクセスが悪いし、今は春だから人は来ないわね。急いで逃げ出してよかったわ」
「でもどうして人が避けるような宣伝をしたんでしょう。普通、勧めるなら連絡先を聞くとかもっと甘い言葉使って推してくると思うんですが」
「うーん。ちょっと不思議よね、確かに。こういう行動したら普通、寄って来ないと思うんだけど」
愛用のカメラを手にふと窓の外を見る。すると、路地裏にスーツ姿の男がこちらを見ていた。風景を撮るフリをして男を撮ると、気がついたのか急いで逃げていく。
「マヌケね。こちらに戦闘員配置するよう頼むから安心していいわよ」
「あ、ありがとうございます・・・でも写真撮れてます?」
画像を見るとフェイクで急に動かしながら撮ったためかかなりブレている。
「・・・やっちゃった・・・」
一旦事務所に帰り、画像の処理をすることにする。
「追っ手がいたのか?とりあえずエドワーズ派遣したけど、何があった?」
「スーツ姿の男がいたの。撮ったのはいいけどしくじっちゃって」
「直せそうか?」
「えぇ。PCは任せて」
「俺は心配だ。エドワーズが上手くやってるといいけどな」
ところ変わって津島邸にて護衛任務に就いたエドワーズ。家族とは仲良くやっていたが肝心の喜子とはうまくいっていない。
「えぇっと、俺はどうすればいいの?」
「あ、あまり近づかないでほしいです・・・」
「勘違いされちゃ困るよ、俺達全員が粗暴ってわけじゃないんだ。君が以前頼んだ時に来たオマルがちょっと乱暴だっただけで」
「ででででででも銃持ってんじゃないですか!」
「仕事道具だよ、元警官だからそんなに撃たないって」
一般的な感覚なら、元工作兵だったオマルより、警官だったエドワーズの方が安心できると言っていい。故に彼女の怯えようは異常に感じる。
「ね、俺も宏美さんも君の味方だ、絶対に裏切らない。必要以上に近づかない」
「ほ、ホント?」
「あぁホントだ。だから安心してほしい」
外から大きな物音が聞こえ、外へ出る。ジェリコを抜き狭めの庭から裏側まで探すが何もない。
「何もないな、気のせいか?」
気を取り直し喜子のもとに戻る。
「ひとつ質問していいかい?アルバイトの内容はこの内容だけかな、他の人のは知らないかい?」
「ほ、他にもあったかもしれない。わかりません!」
「そっか。ケビン達に知らせよう」
高額バイトの種類を調査するため、ケビンはあえてバスで浦の星女学院に向かった。怪しい人物が乗っている可能性があるからだ。
(特に問題ないようだが・・・釣竿ケースにR5入れてきて正解だった。違和感がない)
最寄りのバス停に降り、登校中の生徒に聞き込みをする。得られた情報はバス通学してくる子に声を掛けていたこと、内容は清掃から荷分けまで様々だがどれも伊豆の別荘地に向かっていること、声をかけてきたのは男性だけでなく女性もいたこと、常に単独ではなくペアでいたことだった。
(エドワーズの話によると相手は一人だった。つまり、尾田とは関係はあるが敵対する人間の可能性が高い。だったら何者か。まだわからないが、現時点では本藤の可能性がある。それに)
バス停にスーツ姿の男女が待っている。女の手にはA4サイズ紙を挟む大きさのファイルがある。
「ちょっといいか?」
「?なんでしょうか」
「オタクらは何者なんだ?こんな片田舎にはふさわしくない格好だが?」
「伊豆にある、瓜輪広告の者ですが」
「瓜輪・・・知らないな。ここに求人票を出しにきたのか?」
「えぇ、終わりましたから帰ろうと」
ケビンは男の懐を見て大きく出た。
「その求人ってのは伊豆の別荘地で倉庫の掃除やウエイトレスのバイト求人じゃないのか?」
具体的な内容を聞いた男は懐に手を入れ、サバイバルナイフを取り出した。
「少なくともカタギじゃなさそうだな。来いよ、遊んでやる」
ケビンもファイティングポーズをし、厳戒態勢をとる。鋭い突きや横切りを躱し、右腕を掴んだかと思えば投げ飛ばし、倒れた相手を勢い良く蹴飛ばした。男の口から汚物を噴き出している。
「説明してもらおうか。拒否権はない」
「えぇっとその、あの・・・」
宏美に迎えに来てもらい、女から事情を聴く。瓜輪広告は最近できた企業らしく、社長の尾田の正体もわからないという。しかし、ガムテープを口に巻かれ手足を拘束されトランクに積まれた同僚の男はカタギではなかったらしい。
「出入りしている人間の特徴は?」
「なんて言ったらいいんでしょう、とても品の良い人間ではなかったですね。マフィアみたいな人達、でしょうか?」
「・・・伊豆は観光地だ、外国人がいてもおかしい話じゃないが頻繁にとなると別だな。アンタは消えた方がいい、危険なにおいがする」
「え、で、でもやっと就職できた」
「いいのか、スケープゴートにされて二度とシャバに出れなくなっても?」
「とんずらします」
会社の場所を教えてもらい、そこで張り込みを行うことにした。結果、観光客に扮したマフィア連中が出入りしていることが確認され、その日の晩に突入作戦が実行されることとなった。敵戦闘員は全滅、主要人物は尾田を除く数名死亡、残り全員は逮捕された。ちなみに津島喜子は特別警備会社に対しての印象が変わったとか変わらなかったとか。
今年もよろしくお願いします。
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8話 残党
元ネイビーシールズのトライデント・アウトカムズCEO
ロサンゼルスの古いアパートで独り暮らしを満喫している
経営の幅を広めるためか、某女学園に多額の出資をするだけでなく、補助金として高校受験を援助する活動を始めた。結果、廃校を撤回させるまでに至るミラクルを引き起こしたのだった
この日、特に案件がないため、朝の日課である訓練を終え、ようやく業務に移る。書類仕事に掃除、紅茶などの消耗品の買い出し、暇さえあれば銃のメンテナンスをし、1日が終わろうとしたその時、依頼人が事務所を訪れた。
「あのぅ、少しよろしいでしょうか?」
「?き、君は確か」
異動前に何度か会ったことのある黒髪ロングが非常に似合う少女、黒澤ダイヤがいた。
「あの事件以来、家族一同お世話になりました。探偵さんには感謝しかありませんわ」
「あぁあの蔵爆発の件からだったね。今日はなんの用?」
「三上さんはご存知ですよね?」
「彼がどうした?」
「事故に遭いましたの。何者かに跳ねられたのです」
「なんだと!?」
南村の件で世話になった人物が、今度は何者かによって重傷を負わされいた。
「何時なんだ?」
「昨日の23時ですわ。帰宅途中、左から」
「左か・・・」
彼女から続きを聞くと、無灯火の車が突っ込んできて交差点を渡ろうとした三上が跳ねられたらしい。ブレーキ痕がないことから端から殺すつもりだったことがうかがえる。
「見た人間はいないのか?」
「夜ランニングされている方が発見しまして、その方が通報して下さったそうです。すいませんそういうことしか」
「そうか。三上さんに家族は?」
「独身です。両親もいらっしゃらないとか」
「・・・法律事務所の場所は?」
「駅の南口にあるビルにありますわ。そこから、黒澤家に通ってますの」
(通いだったのか・・・さぞかし大変だろうな)
翌日。入院中の三上から鍵と許可を得て事務所を訪れ、彼が請け負っていた案件を調べてみる。机に置いてあった資料から、昇学園被害者の会の弁護士として動いていたことがわかる。
(まだあったんだなこの案件。まだ学校法人あるのかが微妙だが)
ふと足音が複数聞こえる。机に身を隠し、スーツに隠していたUMP-9を取り出す。
「ここが赤尾先生の顔に泥を塗らんとする輩を弁護する人間の事務所か・・・証拠を探せ。そして足跡を残すな」
「その必要はない」
UMP-9を構えながら現れ、清掃員姿の男達を無発砲で抑える。
「全員手を上げ壁に張り付け。さもなくば撃つ」
「き、貴様はケビン菊地!?」
「何故そこまでこの件に首を突っ込むんだ?もう赤尾はいない、元警官に殺されたんだぞ」
他のメンバーはそそくさと壁に張り付いたがリーダー格の男はせず、ケビンを前に堂々と振る舞う。
「あの方は絶望した若者に未来を与え、日本の行く末を憂いていた。だからこそ泥を塗る輩に天誅を下す。それがカラスの役目だ!」
「(カラス・・・神の使いって言いたいのか?)じゃあ廃人になり得るマジックマッシュルームを栽培し大儲けしたことも導いたって言いたいのか?」
「それは・・・」
黙りこんだ。都合が悪くなったのと同義語と捉え、尋問を続ける。
「この任務もアレを吸うなり飲むなりして挑んでんのか?」
「アレはなくなったさ。前ので使い切った」
「(前だと?)何時無くなった?」
「それは言えない」
男の右肩と左足を撃つ。
「もう一度言う。最後は何を成すために使った?」
「し、処理任務だ。三上を消すために使ったんだ!」
都合が良すぎる。そう脳裏に横切るが、今一度冷静になる。
「最後だ、お前ら仕事は何してんだ?まさかカタギの仕事して真っ当に働いてるって言うんじゃないだろうな」
またしてもだんまり。あの男の元で育ったのだから当たり前とも言える。
「まぁいい、この会話はウチの事務所に転送されて証拠になる。切り札を失ったな」
数分後、警察が到着し連行されていく。ふとリーダー格の男が笑みを浮かべるのが見えたが見ていないフリをした。
(今度は俺にターゲットを絞ったってか?)
必要な資料と証拠をダンボール箱に入れ、自分の事務所に持ち帰った。
箱の中身を確認していると、ケビンにとって興味深い資料を発見した。
「昇学園、否、赤尾を守る部隊は複数いる模様。ひとつはカラス、彼らは街に紛れて諜報を担当。フクロウはネットなどで誹謗中傷する書き込みを監視、時にサイバーテロを行う。現在解散した模様。最後にハゲタカ、彼らが最も危険と言っていい部隊だ。常にカラスと共に行動し敵対した人間及び脱走した生徒の確保や拷問、果ては暗殺も担当している。・・・この資料からして、三上さんはハゲタカって連中に襲われたらしい。エドワーズ」
「奴らもカタギに化けて三上氏を襲撃する。入院先に向かって護衛をしよう、病院関係者の学歴資料を頼みます宏美さん」
「問い合わせるわ。ケビンは?」
「俺も俺で調査してみる。各自で動いてくれ、宏美は特に気をつけるんだぞ」
それぞれ任務に戻り、ケビンはM629に持ち替え昇学園跡地まで向かった。
地元民によると、今までと違って静かになり過ごしやすくなったものの、時々ではあるが夜中にスーツ姿の連中が昇学園を悪く言うな、赤尾を評価しろと忠告してくるらしい。写真は無いため住人の協力を得て、ホームステイの学生と受け入れ先の家族という設定にして待ち伏せすることにした。太陽が沈みきり、星が良く見える深夜。何者かが激しくノックする。
「はーいどちらさま?」
「お前だれじゃ、ここに住んでる婆さんはいるんか?」
とても礼儀正しいとはいえないガラの悪そうな男が玄関に入る。ケビンはとぼけた声で答えた。
「今寝てますよ、もう日付変わる時間なんですけど・・・」
「わかっとるわ!タレコミがあったから来たんじゃ!赤尾先生が亡くなられてせいせいしたって言った婆さん家がここって聞いて来たんじゃ、どかんかボケ!」
「まぁ大変ですねぇ。訪問時間を考えない人間を育てた教育者を悪く言うなと・・・そりゃ無茶ですね?」
途中から普段の口調に戻りM629を抜き、男の眉間に向ける。当然男は腰を抜かしてしまう。
「おおおおおお前だれじゃ、何もんじゃワレ!」
「ただの学生だ。アメリカのライターはすごいぞ、火も着くし頭も吹き飛ばせる。さっきからうるさいその頭、ザクロにしてやろうか?」
悲鳴とともに男は逃走、乗ってきた車を走らせ逃げようとするが44マグナム弾に似せた発信機を車のバンパーに撃ち、弾を通常弾に入れ直した。
「さっき銃声が聞こえたけど大丈夫か?」
「ごめんね婆ちゃん、俺の方が近所迷惑だったみたい。これ、息子さんやお孫さんに使ってください」
謝礼として100万円の金額が書かれた小切手を手渡し、男を追跡することにした。
発信機から発せられる情報をもとに追跡すると内浦にある、今は使われていない廃倉庫で停まったのがわかる。少し離れた場所で止め、R5にサイガ12を装備し徒歩で向かう。入り口にはCR21アサルトライフルを装備した兵士がいるのが見える。
「あの方は何故亡くなられたのだ、マジックマッシュルームなぞ嘘に決まってる、誰かの陰謀だ!」
「先生に恨みがある人間は多いぞ。どうする気だ」
「決まってるさ、囲って刷り込ませる」
今回、サプレッサー付き装備を持っていないため、木の陰から動くか否か観察する。一人が裏の方へ向かったためトレンチコートを羽織って武器を隠し、酔っぱらったフリをして兵士に近づく。油断した隙に豹変し気絶させ、身を低くして裏に続く道へ進む。腰ほど草木が生い茂っていたため匍匐で進む。先ほどの兵士が帰ってきたのを確認すると背後から忍び寄り拘束する。
「言え、お前らはハゲタカか?」
「それを知ってどうする・・・」
「コリをほぐしてやるから言え」
「い、今はいない。○○病院へ向かった」
用済みと判断し首のコリと人生のコリをほぐしてあげた。倉庫へ入り、警戒しながら進んでいくと先ほどの不審車両や弾薬箱、暗殺に使われるであろう薬剤が保管されていた。休憩室らしき部屋にフラッシュバンを投げ、雪崩れ込み一気に制圧してみせた。
「こちらエドワーズ、謎の武装集団に襲われたが鎮圧した。三上氏は無事だ」
「主犯格はどうした?」
「逮捕した、あとは尋問だけだ」
「了解。任務完了だ」
こうして、赤尾の置き土産は全て消滅することとなった。彼は死してなお、一般人を苦しめていたがそれも終わりを告げる。裁判は被害者の会側の完全勝利となり、昇学園は倒産するのだった。その様子をテレビで見ていたケビンは昼飯のうどんを啜った。
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9話 心配事
日本の市場ではトライデント・アウトカムズの1強
(ただし、東京・沼津・北海道のみ事務所があり人員が割けないため、全国展開はできない)
この町もロスと似たようなものなのか。ケビンは射撃訓練中に考えていた。最初に赴任したロサンゼルスでは繁華街以外の場所ではしょっちゅうサイレンが鳴り、バイクのエンジンが唸り、銃声も響いていた。無論、これには理由がある。当時、ロスを二分するマフィア勢力同士の抗争があり、どちらの勢力も市街地を縄張りにしていたため、とてもじゃないが住人は大手を振って歩けなかった。手を焼いた市長と州知事はトライデント・アウトカムズに彼らの駆逐を依頼。半年後にようやく鎮圧し多額の報酬をもらった思い出がある。しかし同時に戦争とはまた違う命の奪い合いに衝撃を覚えたのは言うまでもなかった。
(もっとも、この町じゃヤクザよりもカタギの方が怖いが)
沼津では金を持った法人が不法な施設部隊を所持し多くの人間の人生を狂わせようとしたり、でっち上げの勲功のために事件を起こす元エリート等ロスのマフィアよりも性質が悪かった。そんな連中にもうろたえない自分の大概だと冷静に思う。訓練を終え、事務所に上がると、予想通り千歌が遊びに来ていた。
「・・・今日もいるんじゃないかなって思ってたけど、やっぱりいたのね千歌ちゃん」
「梨子ちゃんと曜ちゃんとで行こうと思ってたんですけど、用事があるからって」
「来るのはいいけど、電話の一本は入れなさい。時間取ってあげるから」
呆れた顔でエドワーズ特製スコーンと淹れたての紅茶を置く。
「っで、今日もだらける気?」
「ん~実は、疑問がありまして」
「何の?」
「いろいろあるんですけど、どうして迷彩柄の服を着てないんですか?だって軍隊系の基本ですよ基本!」
「民間軍事会社はプライベートはともかく、任務中は着てはダメなんだ。正規軍と勘違いされてしまうからね。国際法で禁止されている。だから普段着にボディーアーマーってのがポピュラーになってんだ」
「へぇ・・・それと、トライデント・アウトカムズの求人ってあります?」
「無い。必要になったらヘッドハンティングが基本だ、陸軍辞めて、ここに来たのもCEOのヘッドハンティングからなんだ」
「優秀な人って声が掛かるって言うけど、ホントなんですね」
「俺からもいい?千歌ちゃんはもう3年生でしょ、あの3人が卒業して時間があるからって、ここでダラダラしてていいのか?」
「えへへ・・・実は、英語も教えてもらおうと」
「なんだろう、このデジャヴ」
出された大量の宿題を応接机に広げる。ケビンは依頼が無いため、仕方なく引き受けることにした。
夕方。宏美が近所の店での取材を終え事務所に帰ってくる。
「あら千歌ちゃんいらっしゃい。何してたの?」
「宏美さん。実は宿題を手伝ってもらってて」
「今終わったんだ・・・全く、スクールアイドルやるくらい勉強も頑張ってほしいよ」
満面の笑みの千歌と違い、ケビンは少し疲れた顔をしていた。なんでも、ほとんどケビンが指示したとおりに写しただけという、もはややる気がないのが見え見えな方法で宿題を終わらせたのだ。
「あ・・・まっまあそんなこと言わないでさ、取材先で干物もらったの、今晩これ食べましょ?」
「そうだな。よし千歌ちゃん、そろそろ帰らないとお姉さん達が心配するから帰んな」
千歌を見送り、二人は事務所を閉める。夕飯の途中、宏美の口から気になるキーワードが告げられた。
「読者モデル?雑誌のアレか?」
「東京じゃ結構あるんだけど、Aqoursの人気上昇でここ最近、沼津でもスカウトが来てんのよ。どこも有名雑誌の名前上げて雑居ビルに入ろうとするのよ」
「でも大抵は騙しなんだろ?ビデオ撮って売って人生破壊しようとするクソッタレ共」
「記者ってさ、雑誌には顔載らないからわからないじゃない。だからそれを利用して若い子達騙して金づるにするってどう思う?はっきり言って冒涜よ」
「そうだな。地方雑誌に載ってる宏美の記事読むけど本質を書いてるし、読んでてスッキリした気分になれる。そんな記者もいるんだからやめて欲しいよな」
片づけの途中、インターフォンが鳴る。警戒したケビンはPx4を握り、カメラの映像を見て誰かを確認する。
「どちらさん?」
『すいません、まだ開いてますか?』
玄関を映した映像からスーツ姿の男が見える。ケビンはPx4をしまい、警戒しながら下に降りた。
「もう営業時間が終わってますが急用です?」
「娘がいなくなったんです。探していただけませんか?」
彼は菅野元春と名乗った。高校入学して以来、素行不良になった娘が夜遅くに帰るようになった。昨日も深夜に帰るだろうと寝ずに待っていたが朝になっても帰ってきていない。それどころか主婦をしている妻に帰ってるか聞いても帰って来ないという。行方不明になっていないか心配になった彼は友人である黒澤金剛に相談したところ、ここを紹介してもらったらしい。
「(金剛のジジイからかよ)お嬢さんの顔写真、ありますか?」
写真を見せてもらう。初々しいセーラー服姿のベリーショートの少女がカメラから顔を背けている。
「(だいたい162ぐらいか、少し細身でまるでモデルのような顔立ち)浦の星の制服ですね」
「はい。ウチの家内がそこの卒業生でして、これまた金剛から紹介してもらったオウル・プログラムっていう、入学支援を受けました。勉強苦手なあの子も無事、合格して嬉しいかったです」
「(叔父貴が始めたアレ、やる子いたんだ)そうですか・・・最後にお聞きしたいのですが、彼女を大事におもってますか?」
「はい。私も一緒に探します、無事であってもなくても彼女を抱きしめてあげたい」
「・・・もしそれが偽りなら・・・っと、野暮ですね。今から探しますか?」
「ありがとうございます!」
宏美に事情を話し、3人で聞き込みを始めた。
不良少年達のたむろ場や駅前、風俗街にも足を運んだが彼女の姿を見たものはいなかった。ビルの谷間を歩きながら質問する。
「(変だな、チンピラ達が素直すぎる)菅野さん、ひとついいか?仕事は何をしてる」
「建築屋です。そう、ただの建築屋」
ケビンは足を止める。
「本当か?だったらレッグホルスターにある拳銃はどう説明するんだ」
「・・・バレてましたか。そう、私は元は付きますが国家諜報員でしてね、今でも銃は持ってんですよ。あ、建築屋は本当ですよ」
「さっきの連中はお前の子飼いってところか」
「えぇ。ですが、彼らも知らないとなると、あの子はどうやって姿を消したのでしょうか。娘の顔を忘れたことはないんですがね」
「化粧で顔なんて変えられる。それに、本当に消えたのか?」
「どういうことですか?」
「簡単な話だ、思ったより身近にいる可能性」
ケビンの電話が鳴る。
「失礼・・・俺だ、見つかったか?そうか、今行く・・・お嬢さんの居場所がわかった。十千万っていう旅館に泊まってるみたいだ」
「え?」
「あそこを経営してる方々の下にいるなら安心だ。車で行こう」
市街地から車で十千万に向かう。入り口に宏美と金髪ベリーショートの少女がいた。
「芙美・・・心配したぞ、母さんも待ってる、さぁ帰ろう」
「父ちゃん、母さんから話聞いてなかったんだ。友達と一緒に十千万に泊まるって言って出かけたんだよ?」
「・・・あ」
ケビンは呆れた顔で質問する。
「アンタ、早とちりでウチに依頼したのか?」
あまりにも予想外の真実に呆然とする。
「ほんのり思い出したんだが、アンタのカミさん、帰って来ないって言ってたよな?あれは泊まりだから帰ってないって意味だったんじゃ」
「そ、そのようですね。でもどうして私に一言声を掛けてくれなかったんだ!?」
「アタシの話、聞いてくれそうにないから。いつも仕事って言って取り合ってくれなかったし、モデルの仕事したいって言っても反対だったし・・・だからプチ家出することにしたんだ」
「そうだったのか。すまなかったな、寂しい思いさせて」
「いいの、読モの撮影、ここでするって決まったから」
彼女によれば一週間前、駅前を歩いていたら某雑誌のカメラマンを名乗る男から十千万の取材をするらしく、読者モデルを探していたらしい。その雑誌を愛読しており且つ、モデルへの夢の一歩として承諾したとのこと。それを聞いた三人は真剣な顔になる。
「ねぇ芙美ちゃん、その男の名刺って持ってる?」
ポケットから名刺を取り出し、宏美に渡す。
「待ってて、ちょっと聞いてみる」
本藤に電話し、名刺に書かれた名前を教える。
「え、ホントそれ?そんなカメラマンは存在しない!?わかったわ」
「答えは出たようだな。どうする、お父さん?」
「相手が嘘をついてるんだ、家に帰ろう。母さんも心配してる」
「・・・」
「芙美ちゃん。悪い事は言わないわ、お父さんと一緒に帰った方がいいわ。もし仮に撮影でアクシデントに巻き込まれたら・・・」
「あの、宏美さん。運の悪さをどうにか出来ませんか?このままじゃモデルなんて出来そうにないんです」
「そうね、とりあえず開運のお守りでも買いましょ」
翌日。何も知らない偽撮影陣は十千万に入場した瞬間、アサルトライフルを装備したケビンとエドワーズに拘束され二度と悪さ出来ないよう、丸腰の状態で中東の戦地へ飛ばされるのであった。その一方で菅野家は家族団欒の時間が今までよりも増えたのだという。
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10話 奇怪
CEO「やっぱり高い買い物だったよ、思って思い切って正解だった」
エドワーズはジョセフのトラックの中で品物を見ながら悩んでいた。メインアームをもう1丁買うためである。行き当たりバッタリで見たは良かったが、いかんせん思いのほか高かった。
「おい若造。さっさと選びやがれ」
「貧乏人が迷う時間ぐらいくれ」
「4時間眺めて何言ってやがる、北海道のドミニクより時間掛かりすぎだ。俺が選んでやる」
見かねたジョセフは適当に選んだ。スイスB&T社のMP9サブマシンガン、イタリアフランキ社のPA8ショットガンを渡す。
「マケてやるからさっさと降りやがれ」
2か月分の報酬が飛んでいき、エドワーズは渋い顔をしながら事務所に戻っていった。
「戻ったか。お前が選んでる間に仕事が入ったぞ」
「犬探しの仕事よ。黒柴のわたあめちゃん、これ写真ね」
写真を渡され、準備を始めるエドワーズ。
「俺は密入国した麻薬カルテルの捜査任務があるから、エドワーズだけでやってくれ」
「私は記者の仕事で事務所を開けるわ。何かあったら連絡してね」
「了解した、ところで依頼人は?」
「有名喫茶店の主人だ。依頼内容を確認したいなら、店に寄ってくれ」
エドワーズは写真の裏に記してある住所をもとに移動。詳細を聞く。普段、人なつっこい性格なのだが、白人男性の客が来た際、珍しく店の裏に隠れ、帰るまでずっと震えていた。今朝散歩に行こうと思ったらいなくなっていたという。
「その客の写真、もしくは映像はありますか?」
「カメラはないんです。申し訳ない」
「他のお客さんはいましたか?」
「常連の、確か曜ちゃんもいたから彼女にも聞いてみたらどうでしょう?」
聞き込みを終えると、今度は渡辺邸に足を運ぶ。その門の前に見たことある犬がお座りして待っていた。
(あれは、わたあめ・・・どうして彼女の家で待ってんだ?)
門から曜が出てくる。
「わたあめちゃんだ、どうしてここにいるのかな?迷子になったの?」
彼女がわたあめを抱き上げたのを確認して声を掛ける。
「やぁ曜ちゃん、覚えてる?デビット・エドワーズだ」
「今度はデビットさんだ。何かありました?」
「実はその子を捜索してたんだ。今から依頼人の家まで一緒に来て欲しい」
「いいですよ?」
犬探しの仕事が想像以上に早く終わり、曜に失踪理由を話す。
「怖いお客さんがいたから逃げたって言うけど、何で私の家に行ったんでしょう?」
「それが判ればいいんだが・・・怖い客の特徴、覚えてる?」
「あの白人男性でしょ?金髪角刈りでスーツ着てたビジネスマン風の方でした、結構爽やかそうでしたよ?」
特徴を聞き出すとペンとメモ用紙を取り出し、似顔絵を書く。警察時代に似顔絵の訓練を受け、それをもとに事件解決へ導いたことが複数回あった。
「こんな感じ?」
「・・・そんな感じそんな感じ、似てますねぇ」
「スコットランドヤードで培った技術だ。忘れられんよ」
依頼人から報酬を受け取り、事務所に戻ることにした。
任務完了を報告し、似顔絵をケビンに見せる。
「これは?」
「わたあめの失踪した理由だ。なんでも、彼が帰るまで隠れてたって話だ」
「また来るんじゃないかって怯えてたんだな。かわいそうに」
ブラックリスト名鑑を開き、ひとりひとり照らし合わせる。
「二人似たような奴がいるな、パリ麻薬元締めのカルナックにブルガリアの裏商人のジュール。元締めが失踪したって情報は入って来ていないから、ジュールがこの町に来てる可能性が高い」
「そうと決まればアサルトライフルもしくはサブマシンガン携帯、宏美は引き続き警戒。警察にも知らせておこう」
「この街を火の海にする気か?」
「えっと・・・何の話してんの?」
宏美がタイミングよく帰ってくる。
「ちょうどいい、ジュールについて話しておくか。彼はブルガリアに巣くってる裏世界の商人、売り物は臓器・麻薬・武器はもちろん、誘拐してきた生きてる人間、ワケ有りの戸籍も売るクソッタレだ。しかもカリブに別荘立ててるイヤミな金持ち仕様ときた。ちなみに懸賞金3000万ドル、デカイ仕事だ。逮捕できなくても無力化すればブルガリア政府から報奨金がもらえるかもだ」
「なんかとんでもない奴が入国してきたわね。この国の入国審査は大丈夫かしら?」
「密入国なんて、やろうと思えばできるさ。っでだエドワーズ、何買ったんだ?」
PA8とMP9を見せる。
「いいもん買ってるな。・・・そういや、ロンドンで何してたんだ?」
「向こうじゃ銃携帯禁止だったから持ってなかった」
「UKより治安悪いのかよ日本って」
ジュールは内浦の田舎を歩いていた。もちろん、商品を入荷するためだ。しかし
(ここまで人間いないんじゃダメか。噂じゃとびっきりの美少女達が登校する学校があるって話なんだが・・・)
スマホを見てうなだれる。日曜日と表示されているからだ。
「当たり前か、日曜に学校行くことなんてないしな」
バスに乗り、駅前に移動する。アイドルショップを覗き見ると、赤い髪の少女を見つける。
(高級品発見。チビだし肉付きはいまいちだが素材がいい。さてと)
何食わぬ顔で入店し、少女に声を掛けた。
「こんにちはお嬢さん。ちょっとい」
少女は泣きそうな顔になり、ジュールの至近距離で特大級の悲鳴を上げ、物凄い速さで逃げ出した。両耳を塞ぎながら走って追いかける。
「(なんだと・・・人間にそんな声が出るのか!?別の意味でも逸材だ)話だけでもいいかな!ねぇ!」
聞く耳持たず少女は走っていく。10分ぐらいの追いかけっこをし、彼は諦めた。
(俺も齢ってか?こ、ここまで厳しい入荷は初めてだぜ)
周りも見渡し、気まずい空気になったことがわかると拠点の小さなホテルへと戻って行った。戻ってみると部下達が数名を人質にし、完全に占拠していた。
「ボス。潜入捜査の奴が混じってまして」
「ソイツをどっかに閉じ込めとけ、敵が突入するだろうから交戦準備」
部下からAKMを渡され、いつでも撃てるようにした。
事務所のドアをけたたましく叩く音が聞こえる。ジェリコを握りドアを開ける。
「ピギャ!」
入ってきたのは赤髪の少女だった。
「?君は」
「ルビィちゃんじゃない、どうしたの?」
宏美を見るなり彼女に抱き着いた。身体が震えているのがわかる。
「怖い外人さんに声掛けられた・・・追いかけられました」
「その人はどんな人?こんな人かしら?」
似顔絵を彼女に見せる。すると、思わず耳を塞いでしまうぐらい大きい悲鳴を上げる。鍛えられたメンバーですらめまいを覚えた。
「ビンゴだな」
「こりゃまずいが、さすがのジュールもこれには驚いただろう」
「もう大丈夫よ、怖いおじさんは絶対に捕まるわ」
優しく抱きしめ、ルビィを安心させる。
「・・・ごめんなさい」
「いいのよ、私もちょっと頭痛いけど平気だから。それよりもお母さんとお姉ちゃんに電話して、ここで泊っていって」
「気にすんなよ。奴は俺らが捕まえてやる」
警察から電話が掛かってきた。どうやらジュールの居場所がわかったらしい。ケビンとエドワーズはそれぞれの得物を握り、セダンを走らせた。
予想を超えた事態になっていた。交渉は難航しSATが突入したが、張り巡らされた罠によって殲滅し再突入が難しくなっている。ホテルは2ヶ所侵入ポイントの正面と裏口あるが、正面はもちろん裏口はすでに使用されたため入ることができない。だが、ケビンは地図と構造図を見て方法を思いついた。
「西側のトイレの窓が手動で開けられる。ちょうどビルの谷間だし、奴らの盲点だろうな」
「狭そうだがそこしかないな」
エドワーズをポイントマンに、ケビンが続く。事務所待機の宏美から連絡が来た。
「カメラはもうハックしたわ。セキュリティーの関係で数十分しか持たないけど、大丈夫よね?」
「あぁ。敵の数と人質は?」
「敵20に5人の人質。人質には一般人とブルガリアの捜査官がいるわ、気をつけて」
足音に気をつけて歩く。すると、ロビーの方から足音が聞こえる。エドワーズはPA8を向け、ケビンは彼の背中を守るようにR5を構えた。案の定、敵数名がケビンの向いている方向から現れ、R5の餌食になる。
「4人やった、そっちは?」
「こっちも3人。思ったより賢い連中だ」
エレベーターではなく階段で移動する。待ち伏せされたら危険なためだ。
15人倒したところで再び宏美からの連絡。
「ジュールは4階の413号室。このホテルがこじんまりしててよかったわね」
「大方片づけた、さぁメインディッシュといくか」
413号室の前で待機し、持ってきたC4をドアに貼り付ける。スイッチを押し、ドアが破られ、エドワーズはフラッシュバンを投げ入れたと同時に突入。待ち構えていた敵が眩しそうにしながら銃口を向けるが一瞬で撃ち抜かれ、制圧してみせる。ソファに足が引っ掛かり派手にコケたジュールは撃たれずに済んだがPA8によってAKMが破壊された。
「お前がジュールだな。一緒に来てもらおうか」
「き、貴様らは何者だ!?」
「・・・ただの傭兵だ、ちょっと強いけどな」
ジュールを捕らえその日のうちに強制帰国に成功し、トライデント・アウトカムズはブルガリア政府から多額の懸賞金を受け取り、今まで買えなかった装備や訓練施設建設に当てることになった。ケビン達も普段より多くの報酬を受け取るのだった。
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11話 ゆっくりしよう
浦の星女学院に新しい理事長が就任した。まだ全校生徒に挨拶していないらしく、我先にと千歌と曜、梨子は理事長室をノックする。
「はーいどうぞ」
男性の声だった。3人はそろって入室する。齢は食ってるが無駄な脂肪のない身体の黒人男性が笑顔を見せて迎えてくれた。
「ハーイ。僕が新しい理事長、ロバート・ハミルトンだ。よろしくね」
「あ!この前のおじさん!」
「あ・・・あぁ~君らはケビンのとこに入り浸ってる、千歌ちゃん達Aqoursのメンバーじゃないか」
「え、えへへ・・・でもどうして理事長に?」
「いやね、ブローノの営んでる学校がピンチって聞いて出資したらさ、理事長してくれって頼まれちゃって」
「ブローノ?」
「ブローノ・ルチアーノ。今は小原ブローノって言ったらわかるかな?小原鞠莉のお父上だよ、僕の部下だった男でもあるんだ」
「「・・・え!?」」」
ロバートは感慨深く思い出話をしてくれた。
「シールズの現役だった頃、ソマリアで仕事があったんだ。僕が観測手で彼がスナイパーの2人制の狙撃任務があってね、アイツさ外して位置がバレた時はホント死ぬかと思った。彼らは鉛玉はもちろん、爆弾やロケットランチャーをぶっ放してきて、もう生きた心地はしなかったよ。帰ってきたらもう上官がカンカンでさ、減給されちゃったんだ」
(((げ、減給で済んだんだ・・・)))
「他にもいろいろあったけどさ、彼は何故か小原のお嬢様と結婚して資産家として生き、僕はPMCを立ち上げて業界でも1,2を争う規模にまで成長させた。娘のボディーガードには元シールズばかりなのは、そんな出自が理由なんだ」
聞いてもないのに他人の家事情を話すロバート。一息つき机に座るとシグP226を懐から取り出し、メンテナンスを始めた。
「なんか探偵さんも急に銃のメンテナンスするけど、理事長もするんですね?」
「あぁ。本職はこれがなけりゃやってられないからね。君達もアナコンダ事件を忘れたわけじゃないよね?」
「あれは・・・」
「この国にもああいった危険な連中が不法入国する時代だ。君達はああなってはいけないよ、もちろん、僕達みたいな連中にもなっちゃダメだ」
メンテナンスを終え、懐にしまう。
「さて、そろそろ授業じゃないのかな?急ぎなさい」
「そうでした!理事長先生、また今度!」
笑顔で見送ると経営者の目に戻り、予算案及び新事業の計画書に目を通すのだった。
その頃、宏美は自分の部屋で買ってきたアニメDVDを見ていた。
(友達のところで見てたんだけど、やっぱいいわね。7人の個性豊かな男に囲まれて一緒に戦っていく少女。最初はなかなか馴染めなかったけど、過ごすうちに深まる絆・・・アァ~ン、カ・イ・カ・ン)
旦那のケビンは自分の部屋で新しく買ったレースゲームを楽しんでいた。
(前作販売から13年ずっと待っていた、音速超えたレースゲーム・・・動体視力が鍛えられるな)
何故このようなことをしているのか、久々に休みにしたからである。事件の頻度も東京時代より少ないかつスピーディーに解決できるためだ。
「いけ、ブーストファイヤー!」
「ちょっとケビンうるさい!いいところだったのに!」
今までではありえない、和気あいあいの空気。この日はこのような感じで時間が過ぎていった。
仕事を終え、帰ろうとしようとしたその時、何者かがドアをノックする。
「理事長先生、いいですか?」
「どうぞ入りなさい」
「えへへ、来ちゃいました。早速ですけど、シールズって何?」
「それなのにわかったみたいに頷いちゃったのか・・・アメリカ海軍の特殊部隊で、世界最高峰の実力を有したエリートだ。僕達は上陸任務が多くてね、そこから人質救出から敵への襲撃、破壊工作等を行う。訓練も厳しかったのなんの」
「えぇっと・・・物凄いって言うのはわかりました。理事長先生も軍人さんだったんだ」
「僕の最終階級は大将。すごく偉い人だったんだけどさ、オフィスに座って書類を見つめるのが嫌になってね、名誉除隊してPMC立ち上げたんだ。もう歳だけどトレーニングは続けてんだよ」
「なんかすごいなぁ。Aqoursで頑張ってたのが小さく感じる」
「そんなことない。僕と違って君達は人々に勇気と笑顔を歌とダンスで届けているじゃないか。とてもじゃないけど真似できないよ。・・・おっと、もう時間だ。明日来てくれたらちょっとした昔話をしてあげよう」
ロバートは学院をあとにし、ケビン達に重要書類を手渡し用事を済ませた。
一番短い話、だと思う
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12話 金色の始まり
金と薬で餌付けしたのだ
外は豪雨であった。行き交う人々が傘を差し、それぞれ目的地へ急ぐ。そんななか、傘はおろか合羽すら来ていないみすぼらしい格好の男が人々をかき分けるかのように走って行く。彼の5メートル先には黒スーツの男二人が追いかける。男が派手にこけたかと思えば黒スーツが力づくで押さえこみ、迎えの車に入り、何処かへ去ってしまった。
数日後、水路に土座衛門になった男が発見され、地方新聞のトップニュースになった。
「この記事は?」
「公には借金まみれのサラリーマンだけど、本当の姿は内閣府が派遣した諜報員よ。多くの通行人が連れ込まれたのを見て、犯人達の身元がわかったのはいいんだけど、拘置所で服毒自殺。被疑者死亡で書類送検よ」
沼津署の菊地署長とケビンが署内の署長室で仕事の話をしていた。
「っで、どこの連中だったんです?」
「ドラード・ティブロン。マレーシアに本部がある、かのアナコンダの隷属下だった組織よ。元老院の一人が彼らの手に掛かって始末されたって情報もあるわ。任務はドラード・ティブロンのアジトの捜索及びメンバーの逮捕、不可能なら射殺しても構わないと政府から許可が出てる。任せたわよ」
「了解。生きてたらまた」
部屋を出て帰路の途中、宏美から電話がかかる。
「どうした?」
「夕ご飯のおかずは買ってきた?そろそろ作んないとないわよ」
「あぁすまん、これから買って帰る」
夕食後、宏美に依頼のことを話す。
「ドラード・ティブロン?っていうのが新聞に載ってた犯人グループの正体ってホント?」
「俺の知っている限りだと、日本語に訳すと金のサメ。元は石油を狙う海賊で、アナコンダは彼らを買収する形で隷属させた。奴が乗りつけて来た船もドラード・ティブロンが手配したって話だ。ボスのハンマーヘッドはマレーシアにはあまり帰国せず、何処かの国にいるらしい。顔も幹部の一部しか知らない」
「うーんなんだか手強そうね。でも不思議な点もあるわ、どうしてアナコンダが入ってきたのがわかって、ハンマーヘッドが入国したって情報がないのかしら?」
「確かに不可思議だ。これからの調査で発覚するだろう」
「そうね。明日、エドワーズにも伝えるわ」
「そうしてくれ」
テレビをつけると薄い白髪の老人が自分の持論を展開し、司会を困惑させていた。精神を鍛えるためには極限状態に追い込む必要があり、そのためには周りの人間がどんな手段を行使しても構わないというものだった。
「リンチにしか聞こえんな。レンジャー精神と大違いだ」
「仲間を見捨てない、死んでも祖国に連れて帰る。きれいごとだけど私は好きよ」
「なんだか赤尾に似てる。こいつも有事には隅っこに隠れて震えてるんだろうな」
「あの老人、群島旅人って人ね。平塚で全寮制フリースクールを営んでいる教育者よ。近所じゃ評判なんだけど自殺者が毎年現れてる。でも行政からは注意だけ。問題を抱えている子が復帰してる事実があるからなの」
「・・・調べてみたいが、今はティブロンが優先だ」
翌日9時。捜査のため宏美とともに近所の聞き込みをしていると、非常に機嫌の良さそうな主婦に会う。こちらが挨拶すると、まるで作ったかのようなハイテンションで返してきた。聞き込みが出来そうにないので、近所の人に聞いてみたところ、かなり荒れてた不良息子が群島のフリースクールに入ったかららしい。しかし、何時引っ越したかは知らないようだ。
「ケビン・・・」
「ここじゃもう仕事にならない、一回帰ろう」
一旦事務所に戻り、諜報員の集めた資料のコピーを読み直す。群島が経営している、深島海洋スクールに取材と称し潜入していたのを発見した。教員こそ全員免許を持っているものの、教育者というよりも拷問者の目に近かったと記されていた。
「何故そこに?」
「ケビン、私が取材で行ってみるわ。警護を任せていい?」
「あぁ。任せてくれ」
取材の許可を電話で取り、明日することになった。取材用のカメラに紙とペン、護身用にT62スタンガンと催涙スプレー、通信用タブレットをカバンに入れた。
深夜、二人は車で近辺まで行く。有料駐車場に車を止め、徒歩で入り口付近まで行き死角で張っていると、殺人事件で使われた同じ車種のバンが大急ぎで西に向かって走って行くのが見えた。すれ違う瞬間、ケビンが隠し持っていたカメラ付き発信機を、相手から見えないように投げて取り付ける。
「車に戻って見てみましょ」
映像を見ると、民家の前に停まり黒装束の男が数人降りて玄関を開け、侵入したかと思えば布団に巻かれた人間を担ぎこんでいくのだ。それを無造作に投げ入れ、家の主人であろう女性に一礼し、車を走らせた。女性は胸をなでおろしている。
「・・・なんてこと、誘拐!?」
「これが奴のやり方か。その諜報員は確か最初、スクールの実態を探るために派遣されたんだよな」
「でもどうして沼津で?」
「潜伏していたが、見つかって殺された。おっそろし」
「何を見たのかしら・・・臭いのはわかったけど」
「ロンドンより治安が悪いのがわかるような気がする」
翌日昼。宏美が取材から帰ってくる。予想通り浮かない顔をした。
「ケビン、今まで取材してきた人で最も恐ろしいかも」
「何があった?」
「彼は教育と暴力は同義語って思ってるみたい。殴られた側は殴った側よりも強くなれるって本気で思ってる・・・ねぇケビン、あなたはどう思う?」
「暴力か。要は飲んだくれクソ親父でも親は親だから子供ぶん殴ってOKって屁理屈に似てるな。彼は随分と臆病なのがわかる」
「それって?」
「ある将軍は戦地に派遣された。そこでは、味方劣勢にもかかわらず精神論しか言わない曹官による理不尽な暴力がまかり通っていて士気が非常に低かった。彼はまず曹官連中に精神論だけでは絶対に勝てないことを説明し合理的に考える方法を教えた。兵士にはどんな質問も良しとし、必ず疑問に答え、成果を正当に評価した。すると軍は纏まりだし劣勢を跳ね除けるほどになった。しかし、将軍を気にくわない連中は戦が終わると勝手に離れて行って、他のところで暴虐の限りを尽くしたが誰一人として尊敬する者はいなかったと言う」
「暴力では成長しないって例え話ね」
「上に立つ人間は部下のことをしっかり見なくてはいけない、思考停止になってはいけない、怒りに飲まれてはいけない。それを理解しているのか甚だ疑問だな」
「取材って意味じゃ失敗だけど、調査って意味じゃ成功ね。この後どうする?」
「一度事務所に戻ろう。ここの卒業生を調べ聞き込みをする」
尾行に注意を払いながら帰還し、著名なフリースクール卒業生にアポを取ろうとするが誰一人として取材に応じない姿勢だった。他の線も探るが浮かんでこない。
「どうするのよ、ここで行き詰ったら沼津の大惨事が再び起こるかもしれないわ」
「スクールの卒業生がダメか・・・なら、宏美の他にスクールを取材した記者を当たろう。何か知ってるかもしれない」
数時間後、一人のルポライターがケビンと会って話したいと名乗り出た。
「明日11時に十千万で会う・・・か。宏美も行こう」
時間通りに車で向かう。しかし、予想だにしない事態が起こっていた。3階にある部屋から轟々と燃える炎を消防が放水し消そうとし、救急隊はせわしく動き、旅館の主である女性陣は呆然と見ていた。
「な、なによこれ!?」
「火災か、都合が良すぎる。高海さん達に宿泊名簿を見せてもらうか」
ケビンは名簿に目を通す。日本人しか宿泊しておらず、かつ今日チェックアウトしてる人間はいないようだ。
「ルポライターを名乗る客はいたか?」
「はい、金城様のことですね。実は、出火元が金城様が泊まっていた部屋からでして・・・どうしよう・・・」
「(俺達と話しようとするタイミングに火災か。不自然だな)監視カメラの映像は生きてるか?」
「それが・・・どさくさに紛れてサラのディスクにすり替えられてたみたいでして」
「カメラ映像を盗む、ねぇ・・・高海さん、不審な人を見てない?」
「うーん・・・そういえば、異様な雰囲気のお客様がチェックインしてました。確か、10時20分にチェックインした平塚様・・・見当たりませんね」
「手持ちはなんだったか覚えてるか?」
「ジェラルミンケースを握ってました。でも、目つきが営業マンには見えなくって」
ケビンは彼が放火犯と確信。カメラ映像は別に待機していた人間が逃げる客に紛れて盗んだと推理する。
「鎮火したみたいだな。金城氏は今どこに?」
「見当たりません・・・まさか」
突然、スマホが鳴りだした。非通知であったが、一応出ることにする。
「なんだ?」
「お前が会おうとした金城、彼はもう黒こげだ。一足遅かったな」
「誰だ?」
「ハンマーヘッドっと名乗っておこう」
変声機を使っているのか、性別がわからない。
「貴様は何が目的だ、アナコンダの復讐か!?」
「ボスの復讐?いやいや、美しい世界にするのが目的だ。力が支配する世界をね」
「・・・脆いな」
「な!?」
「仮にアンタが支配して、他の連中が貴様を殺したら、納得するか?」
返事が返って来ない。
「NOと受け取らせてもらう、さっさとこの国から消えろ。忠告だ、アナコンダのように甘くはないぞ」
電話を切り、高海に視線を戻す。
「高海さん、旅館を焼いたのはドラード・ティブロンっていう犯罪組織だ。彼らがこの町に来たってことは、またしても街が火の海になる。もし彼らかもと思ったら俺達に連絡をよこしてくれ、対処する」
こうして、ドラード・ティブロン事件が幕を開けた。
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13話 影が消えた日
深島海洋スクールに新たな自殺者が出た。にもかかわらず、群島はなんのリアクションもせず書類作りに没頭していた。
(また死んだか。情けない、日本人はもっと正面から立ち向かい魂だけでも生きていける。自殺は逃げだ、この国からゴミがまた消えたのだから喜ばしいが)
彼の背後にいる群島の秘書に当たる大男も、彼と同じことを考えていた。
「旅人様、授業のお時間です」
「そうかそうか。今日も頑張るとするか」
キーボードを打つのをやめ、授業をしに向かった。もっとも、授業と言う名の弱い者いじめではあるが。
ケビンはスクールの周辺情報を調べていた。スクール付近の浜辺は群島の私有地で授業で専ら使うらしく、生徒が殴られる様が時折見られるらしい。防波堤を登って授業風景を見ると、大勢の目の前で手足を縛られた少年が教師に蹴られながら海に入らされ、溺れていくのが見える。とっさに走り出し、少年を助けに行く。
「おい、部外者は出てい」
「黙れ!」
サプレッサー付きPx4を抜き両足に数発撃ち込むと海に飛び込み、少年を抱えて陸に上がる。気を失ってはいるが、幸い海水はあまり飲んでいなかった。
「困りますね、乱入どころか出来損ないを救い出し神聖なる教師に銃を向けるとは」
秘書の男と一緒に群島が現れる。
「彼は悪い事をしたから罰を受けていた。問題ないでしょ?」
「やりすぎだ。てめぇがやられたらどう思うか考えたか?」
「さぁ、文句を言わず受けていたでしょう。もっとも、罰を受ける必要がない良い子ですので」
本能がささやいた。彼は自己愛が非常に強い危険人物、否、獣だと。
「俺の経験じゃあ喚き散らして無様な姿をさらすのが常だがな」
「名前は?初対面の人間に対しては名乗るが礼儀ですよ?」
「生憎だが、貴様に名乗るほど安っぽくはない」
少年を抱え、セダンに戻って行った。
「日野下。奴を調べろ、それとこの役立たずを退職処分にする」
「承知」
夜。少年をトライデント・アウトカムズの息のかかった病院に連れて行き、事務所に戻ることにした。
(あれが群島か、何人もの人間を殺してきた野郎なのはわかった。秘書みたいな男、奴は確か日系キューバ人のサンズ・ヒノシタだ。元キューバ軍人の彼が何故・・・)
ケビンはバックミラーを見ると数台の車に尾行されている。
(さしずめ俺の調査だな。周りに何もないし、やるか)
他に誰もいないことを確認すると、懐からM67グレネードを取り出し、クリップを抜きレバーを押さえ込みピンを抜いて3秒ほど数えてから窓から塵を捨てるように投げる。2秒後に爆発し全ての車を走行不能にした。
「甘いんだよ」
ケビンが走り去ってから数分後、追っ手は別の誰かに狙撃され車両も爆破されていた。そのうえドライブレコーダーも回収され未解決事件になったのは言うまでもない。
事務所に戻り、記録をまとめる。
(まさか目の前で殺人未遂現場を見るとは・・・それよりもサンズは生粋の軍人肌人間だから合理的に考える脳みそを持ってるハズなんだが・・・戦時中の日本軍教育を賛同するとは思えない)
本社から送られたサンズの経歴を見る。現在37歳の日系キューバ人。元キューバ陸軍で最終階級は大尉。除隊後は用心棒をしながら観光ガイドをしていたが観光に来ていた群島にスカウトされ彼の秘書になった。口数が少なく理性的な性格で、部下からは慕われていた。
(ますますわからない、彼が何故自分と真逆で危険な男と一緒にいるのか)
時計を見ると深夜になっていた。ひとまず書類を机にしまい、鍵を閉めようとしたその時、インターフォンがなった。追っ手かもしれないと思いR5を持ち、ドアを思いっきり開けクリアリングする。
「わわっ、ちょっとケビンちゃん!」
「叔母様・・・こんな深夜になんですか?」
とりあえず事務所に入れ鍵を閉める。
「いい知らせと悪い知らせ、どっちが先がいい?」
「悪い知らせから」
「先日、あのスナイパーが入国したわ。目的は不明だけど、ハンマーヘッドに関係していると思ってもいいわね。前回と一緒で調査妨害もあり得るから気をつけて」
「っで、いい知らせは?」
「ウチの刑事課の人間を応援に回したわ、沼津市での調査に力になってくれるハズよ」
「・・・悪い知らせが強すぎる」
「それはそうと、今日はここに泊まるわね。空き部屋使わせてもらうわよ」
翌日。早々に車で再び平塚に向かう。ケビンは海洋スクールの前を通った時、違和感を覚えた。今までいなかった見張りが二人も立っており、服の下に拳銃を隠し持っているからだ。
(少し遠くに停めるか。爆弾仕掛けられたら困るし)
少し離れた駐車場に停め、釣竿ケースに竿とR5をしまいサングラスを掛け、波止場まで歩いて行く。風がそこまで強く吹いていないにも関わらず釣り人が不機嫌そうな老人1人しかいない。
「釣れてますか?」
「・・・いや、なにも」
「もし良ければ隣よろしいです?」
「あぁ。構わんよ」
のんびり釣りをしながら海洋スクールを視察していると老人が話しかけてくる。
「兄ちゃんよぉ、あそこが気になるか?」
「えぇ。悪い意味で」
「そうかワシと一緒だな・・・一昨日孫が自殺したんだ。あの子が亡くなったって聞いてあそこまで来たのはいいが何があったのか教えてくれなんだ。おかしいと思ったワシはコネを使ってあそこに預けていた親御さん達を訪ねてみた。全て任せっきりでな、責任なんて感じなかった。だが、預けていた子供が死んだって親もいた、案の定学校側は教えてくれなかった」
「じいさんは孫を愛してたましたか?」
「あぁ。未成年だが夜遊びする少しやんちゃな子だったが、ワシにだけは懐いていて毎日遊びに来ていた。2日も来なかったから息子夫婦を訪ねたらあそこに預けたって聞いて驚いたよ・・・しかも上機嫌に返事しおって」
「遺体の確認は?」
「ワシがした。息子夫婦はいなかったから勘当したわい」
「なるほど」
「なぁ兄ちゃん、表向き真面目だが裏では悪事ばかりする黒い人間とやんちゃだが本質が優しい人間、どっちがいいか?」
「・・・人を見る目を試されますね。無論、俺は後者が良いです」
「気をつかったか?」
「いえ、本心です」
先っぽが小刻みに振るえ、竿を立ててリールを巻く。引きが強く、老人が急いでたも網を用意してくれた。
「おぉ良いタイだ。孫がタイ好きだったのを思い出したよ」
「・・・よろしければ差し上げますが」
内心安心した。彼の狂気に嘔吐感を覚えるマトモな感性を抱いている人間がいることに。これ以上、被害者を出さないためにも事件を解決することを胸に誓った。その時だった、どこからか銃声が響いたのだ。とっさに伏せ、辺りを警戒するが発砲音が聞こえない。数分後、サイレンの音が鳴り響く。持ってきた双眼鏡で様子を見ると、警官たちがスクール内に入って行くのが見える。
(スクール内で事件か・・・お、死体袋発見。誰かやられたか?職員達の様子がおかしいな、変に泣いてやがる
。死人が出ても無関心な連中が泣くのは、おそらく)
群島が撃たれた。そう確信したケビンは宏美に電話する。
「奴が撃たれた。これから調査に入るため、君も平塚に来てくれ」
ケビンは依頼先である内閣府を通じて捜査に加わった。資料によると真正面から撃たれたらしく、自殺とは考えにくいらしい。遺体の解剖結果から、使用されたのは9mmだとわかった。
(用心深そうなのに校長室には監視カメラもない・・・あっさり撃たれることから、もしかしたらハンマーヘッドではないかも)
内閣府スパイを殺した時と近い事情があるのでは、ケビンはそう考えた。単刀直入に言えばハンマーヘッド自らが手を下した。
(彼がやられたとなると、一番疑われるのは軍歴のあるサンズだ。彼がわざわざ疑われるようなことをするとは思えないが)
サンズが職員に呼ばれて側を離れた時に撃たれたことが分かっており、他に出入りしていた職員が4名いることがわかった。
(最初に訪れたのは炊事番の北上、食費削減案を提出しに校長室を出入りしていた。次にやってきたのは事務員の栗森、元プロのヨット乗りだったらしい。給与向上を訴えに行った・・・次が浜竹でコイツは船の整備士か、新しい船購入の見積書を提出・・・そして筑前っていう生徒。叱責を受けるって話だったらしいが、部屋を訪れたら死んでいたって話か)
時計を見て次の仕事に取り掛かることにした。所有する船を調べてみるのだが、整備士の浜竹は事件に関係ないからと拒否する。
「この船に変なモン隠してってことはないのか?」
「それはない、俺の管理してる船に文句あるのか!?」
「ここの生徒を閉じ込めてリンチしてる可能性もある。それともなんだ、都合が悪いものでもあるのか?」
「くっ・・・あぁ体罰は認めるよ、校長先生は気を失うまで殴って飛沫を拭いてたのも事実だし。だがな、アンタが想像してるものは積んでない。旭先生を退職に追いやったアンタにこれ以上喋らない」
「そうか。ここからは個人の話だ、船を拷問部屋に使われて悔しいと思ったことはないのか?」
「あるよ。でも意識が戻った生徒は生まれ変わったかのような清々しい表情になるんだ、それを見ると文句なんて言えないさ」
「なんだと?」
「先生の愛の鞭は荒れた心を潤す何かがある、ここの卒業生はみんな社会復帰してるのが何よりの証拠だ」
ケビンは呆れた顔でリストを見せた。
「これに書かれているのは、ここを出た奴らの現在だ。200人中、180人が自殺し、残った連中は裏の世界に踏み入れている。それでも愛の鞭って言えるのか?」
浜竹は信じられない顔でケビンを見る。
「俺の仲間が生き残った連中の尿を採取して科捜研にて調べてもらったらな、クスリの反応が出ている。つまり、更生なんてしてないしむしろ危険になっている。一部の連中は襲撃しようって話もあった。アンタは騙されてたんだよ」
「そんな・・・嘘だろ」
信じられない事実に驚愕し固まってしまった。
「おい、そんな暇があったら深夜、ここに来い。俺と一緒に船を調べるぞ」
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14話 調査は捗った
深夜。浜竹と共にクルーザーを調べることにした。彼を先に行かせ、R5を装備し辺りを警戒する。
「(異臭がひどいな。まだ体液が残ってんじゃないか)誰にも言ってないよな?」
「当たり前だ、一番勘の鋭い日野下さんは警察に連れてかれたから問題ないよ」
「言ったらアンタもやられるぞ。このクルーザーごとドカンだ」
「その・・・銃なんて簡単に手に入るのか?」
「拳銃なら簡単なルートで手に入る。ライフルやマシンガンは難しいがな」
ラウンジの箱を開ける。中には食品と共に、ケースに入った弾薬が大量に入っていた。
「え!?ど、どうして」
「見せろ。これは45ACPだな」
「そうか凶器の弾がここに」
「早とちりだ、弾の種類が違う(45ACPか、好んで使うのはアメリカ人ぐらいだ。サンズが使うとは思えん)」
普通食品と共に入れないハズのものがそこにある。弾を入れた人間は素人か真犯人しかいない、ケビンはそう思いながら捜査を続行した。しかし目ぼしい証拠は何一つ出なかった。
夜が明けてケビンは車の隅々まで確認し爆弾が仕掛けられていないことがわかると、宏美から電話が入る。
「ケビンどうかしら?」
「容疑者以外の生徒は実家に帰ってるらしいし、邪魔こそいないからな。まぁ時間が掛かりそうだ」
「そう。あ、そうだ、十千万の放火事件が少し進展したの。板前さんがスポーツバック持って出てきたの千歌ちゃんが見てたんだって」
「ソイツの顔は?」
「残念ながら見てないわ」
「そうか。エドワーズは?」
「武装して警戒に当たりながら調査してる。ティブロンの斥候を逮捕したわ」
「何か吐いたか?」
「CEOが尋問したおかげで、面白いことがわかったわ。あのスクールを拠点にしてるってことをね」
「やはりか。実はな、クルーザーの中に45ACPが見つかった。確実にハンマーヘッドはいる」
「わかったわ、頑張ってね」
電話を切り、M629に持ち替える。
「おいおい大丈夫か?」
「日本人の尋問は直線的でいい気分になれる」
正面からサンズが現れた。かなりやつれていることから、相当事情聴取が長かったと思われる。
「どうしてアンタほどの男が、あんな奴の下についたんだ?」
「・・・車内で話は出来るか?」
サンズを助手席に座らせ、話を聞くことにした。
「さて、アンタが聞きたいことなんだがな。私は軍を退役後、ガイドの仕事をして稼いでいたんだが、同時に秘密諜報員としてテロを警戒していたんだ。ハンマーヘッド候補の群島が俺に近づいてきたのはチャンスと思ったさ、なにせ指令が来たからね」
「アンタはキューバのスパイってところか」
「まぁ007とはいかない。多くの青少年を見殺しにしてきたんだ、罪悪感が無いと言ったらウソになる。私と組んでハンマーヘッドを捕まえて欲しい。祖国のためだ」
「・・・いいだろう。だが、ゴーストが入国してるから気をつけろ、表立って動くのも禁止」
「よし、成立だな」
「最後に質問だ、どのように武器を新調してるかわかるか?」
「私もわからん。張り込んでみるしかない」
調査3日目。北上と栗森に聞き取り調査を行う。
「まず栗森さん、群島に提出した意見書は、給与向上のものと言っていましたが?」
スーツを纏ったあごひげが目立つ男が豪快に答える。
「おうよ。群島先生は教育に熱心な割には金銭感覚が非常にケチで、残業手当含めて20万しかもらってない。これじゃ職員もやる気なくして指導できん。だから意見書を出したんだが、内容も見ずにゴミ箱へ捨てられたよ」
実際にゴミ箱から彼の書いた意見書が発見されている。
「北上さんは炊事番みたいですが、どんなものを食わせてんのです?」
身体の太い男が答えた。
「みなさんの食べているものと同じものです。しかし、教員全員は高級品を召し上がっていましてね、おかげで不健康でした。彼にも健康的なものを食べてもらおうと質素で栄養価の高い食材をピックアップした書類を提出したんです」
(しかし、よく腹立たないで続けたな)
評判とは裏腹にえげつない行為をしてきたのが見えた。栗森が意味ありげな証言をする。
「そう言えば筑前の野郎、実家はどこなんだ?」
「え?」
「以前、元々住んでいた住所が気になって訪ねたはいいんだ、そこはよぉ更地になってんだ」
「何時ぐらいから更地になったか知ってます?」
「10年前に更地になって買い手がいないって近所の婆さんが言ってたな。貧弱なくせに先生に意見するし他の職員からも不評だった。3年前は真面目な生徒だったんだがな」
住所不明の筑前という少年。彼が何故、豹変したのか興味を抱いた。
「きっかけはありましたか?」
「知らん。特別親しい生徒もいないって話だしな」
ケビンは彼に会うため捜索に向かおうとすると、背後に長袖を着た細身の16歳ぐらいの青年がいた。
「筑前!お前脱走を謀ったな!」
「僕の住んでた場所はもうないんでここの寮にいましたよ。どうします?」
本当に16とは思えないほど冷静な少年。右手が血色ないことに気がついた。
「右手は動いてないけど、どうしたんだい?」
「この前、海上訓練の授業で脱臼しまして。動かないんです」
「本当かい?明らかに作り物の右手なんだけど?」
「・・・探偵さんの言う通り、これは義手です。ですが腕は本物ですよ」
見せびらかすように右手を外した。ネジ式になっており、外そうと思えば外せるようになっている。
「しかし、あのじいさんより賢明そうな方だ。他の方は盲目に信仰してるのに」
「貴様何言って!?」
「栗森さん、落ち着きましょう。どうやら君に殺しは出来そうにない、本質が臆病だ。だからこうやってわざわざ俺の目の前に現れたんだろ?」
「・・・ちっ、これだから大人は。もういいさ、僕は寮で寝るよ。じゃ」
堂々と立ち去って行く彼を見送った。ケビンは彼に対して違和感を覚える。袖から尾びれの刺青が見えたからだ。
(彼に違和感がある。それは、彼が非常に臆していないこと。普通、人を殺めたのならすぐに逃げ出して姿をくらますが、彼はそんなことをしていない。このパターンは逃げきれる自信があるからだ、拳銃も見つかっていないしな。だが彼は持っていないだろう、どこかに捨てたんだからな。だとしたら何処が一番隠しやすいか)
ケビンは北上に質問した。
「事件のあった日、仕込みは終わってましたか?」
「校長先生の部屋を出て、すぐに調理を始めたんですが・・・なぜか既に献立が出来ていたんです」
「心当たりは?」
「そう言えば、筑前君が率先して手伝ってくれます。入校からすぐに手伝いを進んでしてくれて助かっていますので」
「調理場へ案内してもらっても?」
北上に案内され、調査を始める。鍋の中や排水溝、果ては冷蔵庫も開けて調べた。先生用と書かれた冷蔵庫を調べると、長さ70センチ・厚み10センチほどのローストビーフを見つけた。
「教員用の献立です。事件のあった日に作ったものです」
不自然な切れ込みに気づいたケビンは、冷蔵庫から取り出して切れ込みに手を入れた。すると、サプレッサー付きのPPKが出てきた。
「な!?」
「え!?」
「とんだ宝が出て来たな」
ケビンは確信した。誰が実行犯で誰がハンマーヘッドかを。
次回、対決
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15話 サメの最後
数日後、サンズを除く主要人物を職員室に集めた。
「みなさん、よく集まってくれました。犯人がわかったんです」
「ほぅ・・・」
「さっさと話せ!」
「落ち着いてください。群島と殺ったは筑前君、君だ。あのPPKは左手用に改造してあるオーダーメイドだってわかった。グリップから君の指紋も見つかってる」
「やはりか!さっさと連行しろ!」
「ですが、不可解なんですよ。彼のように冷静な判断を下す人間が、疑われやすいにも関わらず、わざわざ証拠を身近なところには隠すことが」
「何をおっしゃっているのか?」
挑発的に話す筑前。
「逆に言えばそうせざるえなかった。指示役の注意を自分に向けるためにね」
「!?」
「この事件には二人殺人に関与していた。筑前君は華僑の血が入ってるマレーシア人じゃないのかな?ここのどこの空港、港に問い合わせても君の顔がなかった。つまり、密入国をしているってことだ。理由は君の腕にあるんじゃないのかな?」
「ふっ」
彼は上着を脱ぐ。腕にはサメのタトゥーが彫られていた。
「このタトゥーはとある海賊に所属している証です、かのアナコンダの隷下組織のね。連行される途中で護送車を襲い君ごと殺しに掛かるって寸法じゃないのかな?」
「御名答です。僕が何故、そこの組織に所属していると?」
「袖から見えたんだ、尾ヒレが。だが同時にそれすらも陽動かなって思ったんだよ。そして、残った中で指示役が出来る人間、それはアンタだ!」
ケビンは栗森を鋭く指差した。
「な!?デタラメを言うな!」
「アンタはこの前、彼の実家の住所に疑問を持っていたって言った。俺も気になって調べたんだが、そこの地主がアンタになっていたんだよ10年前にね。薄給な事務員が土地を買うのは難しいにもかかわらずだ」
「・・・」
「元ヨット乗りも嘘、本当はドラード・ティブロンの海賊だ。クルーザーを買ったのは沖合に停泊している輸送船から武器を運び出すためなんじゃないか?クルーザーから45ACPが見つかってるしな」
「グググ・・・」
「まだある、群島の身体にサメのタトゥーが見つかっている。内閣府が彼をリーダーと見て調査したのだが、彼が殺されてもなお勢力が生きている。つまり、彼は影武者じゃないのかって話だ。リーダーのハンマーヘッドが入国したって情報も入っていない」
「それはマレーシアから指示を出したんじゃ」
「群島のケータイにボスって書かれた相手の番号があってな、それを鳴らしてみるぞ」
袋に入れられたケータイで電話を掛ける。すると、彼のケータイが鳴り響いた。
「入国情報がない。当たり前だ、日本にいたのだから。顔がわからないのは普段、事務員という地味な仕事をしているから。暴君の崇拝者こそが海賊のリーダーだったってことさ。もう逃げられんぞ」
Px4を抜き、栗森に向けた。彼は逃亡を図ったため発砲しようとするが筑前がケビンに飛び掛かり、逃がそうとする。取っ組み合いの末、筑前を射殺、栗森を追うが外からバタバタと不穏な音が聞こえる。
「冗談だろ?」
ケビンが見たもの、それは旧ソ連の戦闘ヘリ、ハインドDだった。とっさに室内に戻りR5に持ち替えた。別任務で海辺の倉庫にいるサンズから連絡が来た。
「ケビン、学校の所有する倉庫からハインドが飛んでこっちに向かってるぞ!」
「今来た遅い!」
「こっちは敵を制圧した、急いで合流する!」
屋上に上がり、室外機や排気口に身を隠しながらハインドの機銃を避け、コックピットに撃ち込む。長い戦いになる覚悟はあったが、弾数が心もとない数字になった。
(くそ、このままじゃ)
その時だった、爆発音が聞こえたと同時に回転しながら墜落していった。ケビンは海を見ると、揺れる船からスティンガーを撃つ男を見つける。
「ケビン、ハインドが撃ち落とされたぞ。誰だアレは!?」
「おそらくゴーストだな。にくい奴め」
「それはそうと、ハンマーヘッドを確保したぞ。浜辺にいるから来てくれ」
サンズと合流し、ハンズアップした栗森も発見した。
「まさか日野下さんが・・・運が悪い。俺をどうするつもりだ?」
「お前は国際裁判所で裁きを受ける。その間キューバ政府が身元を預かるがよろしいか?」
「日本で起きた事件だが、そちらに任せる。好きにしろ」
「たがよ探偵さん、これで終わりじゃないんだ。これからもお前は俺達の仲間と戦い続ける、どういう意味かわかるか?」
「望むところだ。俺はお前らのような輩を許すわけにはいかない」
刹那。ケビン達の顔ギリギリに何かが掠めたかと思えば、栗森の眉間に穴が開いた。
「!?狙撃だ!」
「伏せろ!」
浜に伏せ状況を把握すると、ゆっくり起き上がる。即死を確認すると駆けつけた警察官に遺体を明け渡し、クライアントに報告した。
「短い間だったが良い仕事だった。俺は国に帰ってガイドに仕事に戻るとするよ、もしキューバに来るのなら俺に連絡をよこしてくれ、いい案内をしてやろう」
「そうする。これでしばらく流血沙汰を見なくて済む」
深夜、書類仕事中、スマホにニュースが入ってきた。ソウル駅構内で殺人事件、身元は韓国国立中央博物館の学芸員。静岡・伊豆の倉庫爆破事件、犯罪組織ドラード・ティブロンの手によるものか。
(もう終わりだろうな、ドラード・ティブロン)
速報が入る。マレーシアの小島にあるドラード・ティブロンのアジトが襲撃され地獄絵図となったという情報だった。
(早すぎるな)
今度はメールが入った。送り主は不明だが、ウイルスの類は無いようだ。
『今回のショーはどうだったかね?お前にはクラウンとして動いてもらったおかげで最高のものだったと思うが?』
そのメッセージに怒りを覚えるが、冷静になって返さなかった。
「遭う機会があったら首根っこを掴ませてもらおう、そのまま三途の川を渡ってくれ」
書類を書き終え、自分の寝室へと戻って行った。途中、再びスマホが鳴ったがあえて見ないフリをした。画面のメッセージには
CIA長官オズワルト・フリューゲル、クリーブランドの公園にて射殺体で発見される。後任は未定。
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16話 その後の展開
事件から数日後、浦の星女学院は平穏だった。今回の事件とは全く接触がないためだ。ロバートはケビンから送られた報告書を読み終え一息ついた。ドアのノックを聞き、客を通した。
「理事長先生、遊びに来ました!」
「やぁ。受験勉強は捗ってる?」
「う・・・ぜ、全然」
「まぁ予想通りさ、僕が君の歳の頃は身体を鍛えてたしね。もちろん、軍に入るためさ」
「そうだった!今日は先生の昔話を聞きに来たんだった!」
「その約束は覚えてるよ。そうだね、僕がまだ中佐だった頃、アフリカ・ソマリアで墜落したアメリカ軍人救出作戦の話をしようか」
2000年代初頭の冬。非公式の作戦が実行された。内容は敵に撃墜されたヘリのパイロット、ローガン軍曹を救うものだった。非公式のため支援はほとんどなく、ナイフ以外の武器は現地調達だった。最低限の装備で敵地に深夜の海から潜入した。仲間はたった3人、ロバートと冷静なゴーギャン、そしてサバイバルが得意だったJF。
「?先生、JFって?」
「あぁすまない、JFっていうのは頭文字から取った呼び名だ。ジャック・フランカーって名前だったからJFさ、アメリカじゃよくある話さ」
いるであろう、敵陣地の明かりはドラム缶に入れられた焚火だけでそこまで明るくなく、見張りも欠伸をしており、一人になった時を見計らい仕留め、装備を奪う。遺体をドラム缶に入れ捜索に戻った。
「先生って何が得意だったの?JFって人はサバイバルが得意って話でしたし」
「僕は尋問と隠密行動。ゴーギャンは狙撃、ロバートは投擲が得意だった。実際にポイントマンは僕だったし」
陣地を制圧し、一軒一軒調べる。壺に頭だけ出ていたローガン軍曹を発見し確保した時には身体は既にボロボロで歩くのがやっとの状態だった。JFが肩を貸し、他のメンバーが護衛する。気づかれたのか、外からハインドの飛行する音が聞こえる。身を低くし、安全を確認するとハンドサインで指示を送るの繰り返しで回収ポイントの海岸へ着く。しかし、大勢の敵が待ち伏せしており、こちらに向かって乱射してきたのだ。
「どうして気づかれたんですか?」
「僕が思うに、生き残ったのがいたんだと思うんだ。冷静な判断を下したことで僕達を追い詰めたんだ、基本がなってるよ」
敵の攻撃はすぐに終わる。迎えに来たモーターボートに装備してあったM2ブローニングの掃射で敵は総崩れ、生き残った敵を始末して無事ボートに乗った。急いで撤退し、沖に停泊してあった空母に帰還した。
「詳しくは話せないけど、こんなことがあったよ。あの後二日休暇をもらって仕事に戻ったんだ。いやぁ上陸作戦なんて久しくやってないよ」
「ローガン軍曹はそのどうなったんですか?」
「彼は病院に運ばれて1ヶ月で復帰した。今は確かシールズの教官してるはずだよ」
「すごーい先生!映画みたい」
「映画のようにカッコよくないよ、その間に何人の人間を始末したか・・・」
暗い表情をするロバートを見て気まずくなる。
「ご、ごめんなさい」
「もうそろそろ下校時刻だ、早く帰らないとお姉さん方に怒られるよ」
「・・・あ!先生失礼します!」
元気よく飛び立ちたのを確認すると、本業の資料を確認する。それにはドラード・ティブロンの末路を記した報告書もあった。
(もうこれでアナコンダ派は事実上消え失せた。あの子達には申し訳ないことをしたな)
机に飾られている入隊の際、兄弟で撮った写真を見る。
(彼はもう大丈夫、安心して眠っておくれ)
その頃、ケビンはR5をいじっていた。暗い青の迷彩を塗装しかと思えばストックの素材を以前よりも少し重いものを使用し反動制御しやすくする。試しに数十発撃ち込み、感覚を確かめるとマガジンを外しコッキングして弾を抜いた。
「ケビン、客人だ。お前に話があるらしい」
エドワーズに呼ばれて事務所に行くと、千歌をより小さくしたような少女がソファに座って待っていた。
「ここの支部長を務めています、菊地です」
「はじめまして~高海千歌の母です」
場は静まりかえっていた。あまりにも衝撃的な事実に、メンバー三人は同じタイミングで驚いた。
「「「え!?」」」
「?どうしました?」
「え、えぇ。十千万の修繕費はウチが払うことになってますが」
「いえ、そうではなくて~七月に千歌達が海の家を手伝ってくれるんですよ~でも、この前の件で危ない予感がするから~雇おうと思いまして~」
「それはボディーガードってことで引き受けてよろしいですか?」
カレンダーを見るが七月まで二か月ぐらい先である。まさか事前予約してくるとは思いもしなかったが、ケビンは冷静に返す。
「その件については七月入ってからお伺いしてもよろしいですか?まだ時間がありますので」
「はい。そのつもりですので・・・そう言えば~ひとつよろしいですか?監視カメラの映像を盗んだのは、ドラード・ティブロンの一味だったのですか?」
「奴らの倉庫にDVDを見つけました。今現在、警察が押さえて解析中です」
「そうですか~ではこれで」
高海母はさっさと事務所を去って行った。
「こりゃ・・・衝撃だな」
「えぇ。遺伝子ってすごいわね」
「それよりも、麻薬ルートを潰せたのは大きかったな。しばらく大仕事はないだろうよ」
「まぁ確かに大仕事はないだろう。だが、護衛や人物捜索、浮気調査といった探偵業があるから油断はしないように。そういやエドワーズ、月輪氏の浮気調査はどうなった?」
「・・・あ、いけね!行って来る!」
エドワーズは急いで飛び出していく。
「ふぅ。俺が非番に近いのが不思議だ」
ポストを開け、手紙が無いか見る。一通の便箋が入っていた。北海道函館から手紙が届いていた。鹿角理亞からだった。札幌から元々住んでいた函館に帰って学校生活を満喫しており、姉の聖良は地元の大学へ進学し、血生臭い事件の渦中にいたとは思えないほど平穏に暮らしているらしい。変わったことはドミニクも引っ越してきており、時折遊びに来るらしい。
(ドミニクが越した理由が彼女達の監視だなんて口が裂けても言えないな)
手紙を机の引き出しにしまい、椅子に寄りかかると電話がなった。それを宏美が出る。
「はい、トライデントアウトカムズ。菊地ですか?」
「代わりました菊地です。・・・はい、はい・・・詳細は事務所を訪れてから伺います。では失礼」
「?男性の声だったけど、どなた?」
「地方開発支援委員会の会長さん。講演会で警護してほしいってさ、今から行って来る」
「ここ最近物騒だし、武器持っていけば?」
「リボルバーだけは持って行くよ」
こうしてまた、悩める依頼人のもとへ向かっていく。己の信念を胸に。
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17話 本性
ドラード・ティブロン事件から2週間。犬探しや祭りの警備、千歌への英語の授業といった平和的な仕事ばかりで戦闘がない日々が続いた。とても喜ばしいことではあるが、エドワーズは刺激が足りない様子だった。
「おい。今日の仕事は?」
「事務処理だよ、今日依頼ないし」
「安い仕事バッカリじゃ、飯食えねえよ」
「大型の仕事なんてあんまり来ないもんだ。そんなのバッカリだったら身体持たないぞ、弾薬代高いし」
「・・・しゃあねぇ、寿司でも食いに行きますか」
昼飯として寿司を食いに出かけたエドワーズ。近くの回転寿司店に入ろうとするが定休日で、仕方なく小さな食堂に入る。ケビンが出歩いているときに一緒に入ったことが一度だけある、馴染みがあるわけじゃない店だ。しかし、そこの主と40終盤ぐらいのレジのおばちゃんは彼をよく覚えており、時々おかずをサービスしてくれる。
「あらエドワーズちゃんじゃないのよ、お父ちゃん!」
「よぅエドちゃん!俺が勝手に作っていいか!」
彼には選ぶ権利はない。そのため、食べなれない漬物や生卵が置かれていることもある。もっとも、その二つはおばちゃんが勝手に食べてしまうので気にしてはいない。
「あの、俺に選ばせ」
「今日美味そうなアジ手に入ったからアジフライでいいか!」
「は、はぁ・・・」
出来立てのアジフライ定食を食べ終えた時、店の電話が鳴る。おばちゃんが電話に出て応対していると、いつもの元気が消え、絶望を味わったかのような表情で受話器を置いた。
「おいなんだよ」
「み、美鈴が、重傷で病院に・・・」
膝をつき大人げなく泣き出した。その様子を見ていたエドワーズはごはん茶碗を置き、おばちゃんに近づく。
「いつもじゃないとはいえ、飯を食わせてもらってる身。よかったら俺に話していただけませんか?」
電話の相手は総合病院の医師。彼によると全身に暴行を加えられ意識不明の重体らしい。発見された場所は繁華街の路上で通報者曰く、ボロ雑巾同然の格好だったそうだ。
「内容はわかりました。次に美鈴さんのことについて」
「娘はよぉ、年頃らしく学校で友達と一緒にいることが多かった。俺はもちろん、母ちゃんにすら不愛想になっちまって・・・髪も染めて派手な化粧に露出の多い服、文句言えねぇよ」
「なるほど。夜遊びもしてたってことですね」
「朝帰りもざらだったよ。エドワーズちゃん、お願いよぉ娘の無念を晴らしてくれよ!」
「わかりました。お嬢さんの無念は晴らします」
律儀に会計を済ませ、事務所にいるメンバーに事情を話した。
「年頃の少女が何者かに襲われ病院送りか。よし、宏美は病院に行って状態把握、俺とエドワーズで聞き込みをする。念のためハンドガンを携帯する。あぁ、宏美はスタンガンな」
二人は繁華街に入ると別れて捜査した。その結果、彼女は友人数名と行動しており、ホストクラブの梯子をしては踏み倒していたらしい。最近ではブラックリストに載り入れなくなったかと思えば小遣い稼ぎのため、美人局をして詐欺同然の行為を繰り返していたという。
「ここまでやられりゃ殴られて当然だが、意識不明になるまで襲うか?」
「さぁな。それより、友人とやらの行方がわかっていないのが不思議だ、ホストクラブで顔写真を見せてもらうか」
顔写真を受け取ると、今度は彼女達が通っている高校へ向かう。ちょうど下校時間になっており帰宅中の生徒に聞き込みをする。テストの成績と態度が悪い不良グループではあったが決して喧嘩やカツアゲをするようなことはしておらず、濡れ衣を着せられることが多かったという。
「濡れ衣?」
「ここだけの話なんですけど、ウチの生徒会長って真面目そうに見えて裏では結構えげつないって話です。この前なんか、レッテル貼られた1年女子を73のじいさんとラブホで寝かせたって話もあるんですよ」
信憑性は低い話だが、美鈴のスマホが見つかれば証拠になり得る。しかし警察の情報によると、彼女の持ち金とスマホが持ち去られており、データは絶望的だった。
「なぁケビン、他のメンツのもないのか?」
「ないってさ。一度、被害者の容態を見に行くか」
搬送された病院へ足を運ぶ。病室の前の椅子に座っていた宏美によると回復傾向にあるらしく、3日あれば意識が回復する見込みらしい。
「なぁ、彼女は何故、美人局なんてしたんだろう?そんなことしてりゃ、いつかこうなるかもって予想できるともうんだが」
「スマホ使って写真収めてりゃそりゃね」
「何か知ってそうな男達はどうなんだ?」
「一部は出頭して事情聴取受けたけど、アリバイ有りよ。ホスト連中も全員シロって」
「ん、誰か来たようだ」
学ランを着た眼鏡を掛けた少年が紙袋を持って彼女のいる病室に行こうとしていた。ケビンは彼に声を掛けた。
「今ちょっと疲れて眠ってる。荷物は預かっておくぞ」
「僕、偶然彼女のスマホを拾ったんで届けに行こうと。申し遅れました、武藤です、彼女と同じ学校に通う生徒会長をやっております」
ケビンは改めて彼を見る。確かに背も真っ直ぐに伸びこちらを真っ直ぐ見ている。しかし、違和感もあった。何故彼が行方不明のスマホを持っているのか。そして、袋を持っている右手が緊張しているのか。
「もういいでしょうか。直接届けたくて」
「だめだ、女の病室に入って何するかわからん。渡しておいてやるから帰れ」
「そこをなんとか」
目で合図すると、エドワーズは背後からの手刀で気絶させた。紙袋の中を調べてみると、スマホを括り付けた簡易爆弾が見つかった。近くを通った医師にハサミを借り、爆弾を解体する。
「バイブレーションで起爆するタイプだな。このガキ、取り調べが必要だ」
「このスマホ、彼女のものよ。友達と家族の宛先があるし、母親とのやる取りもあるわ」
「今頃バイブレーション機能があるスマホねぇ。珍しい」
「さて、コイツを事務所に連れ帰る。尋問内容を転送しておくように」
武藤は目を覚ますと、手足を縛れ暗い場所にいることに気がついた。闇から何者かの声が聞こえる。
「これから質問する内容に全ていいえで答えろ。答えたら帰してやる」
ボイスチェンジャーで声を変えたケビンが落ち着いた声で質問した。
「美鈴という生徒を妬ましいと思っていた」
「いいえ」
「模範的な生徒で注目の的だ」
「いいえ」
「夜の繁華街を歩いたことがある」
「いいえ」
「スマホは偶然拾った」
「いいえ」
「売春斡旋をしたことがある」
「いいえ」
「・・・これで最後だ、人を殺したことがある」
「いいえ」
しばらくの沈黙が場を支配する。武藤は縛られたまま動けず、数分経たないまま狼狽しはじめた。
「おいさっさと解放しろよ!お前俺が誰だかわかってんのか!市議会議員の武藤の息子だぞ!父さんの力があればお前達なんかイチコロだ!そうかわかったぞ、お前ら食堂に雇われた殺し屋だな、なぁそうなんだろ!娘を殺そうとした俺が憎いか!爆弾も売春も襲撃も俺がホストやチンピラといった仲間作ってやったんだ!いい気味だぜ、俺のテリトリーに入ったのが悪いんだ!」
明かりが点き、目を瞑る。目をゆっくり開けると、サイガ12を持ったケビンが武藤の足に狙いを定めて立っていた。手で合図してから口を開けた。
「お前、議員の息子だからといって無罪になると思ったか?親父さんにはもう報告しておいた。そうしたらな、更生させてほしいってな。返答次第じゃあ足が吹き飛ぶことになる、全てを捨てて大人しく刑期を全うするか、この場で失血死するか選べ」
「けっ、そんな脅し」
左肩に照準を移し、戸惑いなく発砲した。轟音と共に大きい風穴が空き、悶え苦しむ。傷口を踏みつけ抑え込んだ。
「次は狙う。悪いな肩撃って」
「ひ、ヒヒヒヒヒヒヒ・・・」
声が出ない状態で頷いた。ケビンは医療用モルヒネを打ち痛みを抑え簡易処置を施した。
「よかったなスラッグ弾で。通常の散弾なら腕が吹っ飛んでた・・・って聞こえないか」
恐怖のあまりに気絶した彼を担ぎ上げ、待機させていた輸送車に放り込んだ。
(さて、どうしたものか。許に頼むか、仕方ない)
二日後、事件は解決に向け大きく前進した。意識が戻った美鈴からの証言と街の監視カメラの情報、嘘発見器のデータを元に武藤の仲間達全員を逮捕、その中に彼女の友人も含まれていたのだ。この事件を機に未成年による犯罪でも減刑されることはなくなったという。
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18話 伏線
探偵(浮気調査・ペット探し・証拠探し等)
特別警備(護衛・凶悪犯の無力化・未成年者の更生等)
宏美はこの日、本屋に入り女性週刊誌を立ち読みしていた。自分の記事とライバルの地元出身の記者の記事を見比べている。
「同じ祭りを題材にした記事でも、地元とよそ者じゃあ見る箇所が違うわね。私のようなよそ者の場合、どうしても全体を見てしまうし、地元民オススメの露店をピックアップするってことは想像しないわ。でも、逆に言えば大まかに他県から来た人々に伝える技術じゃ勝ったわね」
笑みがこぼれ、ケビンに頼まれた小説を手に取り会計を済ませる。道中、前回の事件を思い出す。
(主犯がいくら外道でも縛りつけてショットガンはないわ・・・お咎めはなかったけど、ヒヤヒヤものだったわ・・・)
ケビンの尋問は違法スレスレだったが、大量検挙と治安維持に大いに貢献したためお咎めはなかった。だが、宏美は涙ぐみながら彼の頬に平手打ちし、顔を彼の胸に埋め泣き出した。さすがに申し訳なさを感じ、彼女を優しく抱きしめ、もうしないと誓った。
「ホント、不器用な人ね」
背後から男性が声を掛けてくる。振り向くと髪を金色に染め、胸元が開いた服を着、ファッション目的なのか金色の鎖を身に着けている。
「ねぇお姉さんちょっと遊ばない?」
「なによ、暇じゃないのよね」
背後から二人分の足音が聞こえる。仲間を用意していたようだ。
「女一人に卑怯じゃない?」
「この後楽しいことだからいーのいーの」
ズボンのポケットからT62スタンガンを取り出し威嚇する。
「寄らないで。痺れるわよ」
「え、それって」
手を伸ばした瞬間、はだけている部分を狙ってスタンガンを撃つ。真っ直ぐ硬直したかと思えば地面にキスするように倒れた。
「言わんこっちゃないわ」
「「このクソアマ!・・・ぐ!?」」
男達の怒りの拳は届かなかった。彼らの後ろに屈強な男二人がおり、呆気なく組み伏せられたためだ。
「無事か?」
「ちょっとケビン、もう少し遅かったら美人が台無しになってたわ」
「すまん」
「まあまあ、こいつら女騙して金巻き上げてから裸の写真と動画をネットに晒す常習犯だったし警察に引き渡して帰ろうぜ」
「だな」
小物を捕まえ警察に引き渡すと事務所に戻る途中、勤務時間が終わったと言ってエドワーズは家に帰っていった。
「ねぇケビン、仕事は来たの?」
「いや、今日も事務処理に追われてた。ちょっと遅いなって思って本屋に足を運ぼうと思ったのさ」
「そう。そう言えば高海家のボディーガードの件は?」
「それは一週間後だ。宏美も水着用意しとけよ、売り子で働くんだからな」
「大丈夫、短大時代に水着コンテストで優勝したのよ?つまりね、プロポーション維持も女のたしなみってこと」
「そ、そうか、なら良いんだ」
事務所を閉めようと思った矢先、黒服姿のケビンと同じくらいの背丈の男が事務所を訪れる。彼から殺気が漂っていた。目で合図すると宏美はお茶を淹れに行く。
「アンタ、ウチの従業員に何してんだ?」
「・・・は?」
「俺の部下を警察に突き出したって聞いてな。ビジネスの邪魔、しないでくれませんかねぇ?」
「ビジネス・・・あぁはいはい、犯罪ビジネスね。アンタらも不幸だったね、俺らのしっぽ踏んづけてさ」
短気な連中をあえて怒らせて暴れさせることでコントロールを得ようとする。
「なめとんのかボケ!」
窓ガラスに向かって拳を振るうが非常に硬かったのか、男の方が痛がる。RPGー7の攻撃も耐える防弾ガラスなので非常に硬い。戦車の砲撃でようやく割れる代物だ。
「あーあー防弾ガラス殴ったらケガしますって。それに、そんな甘っちょろいパンチじゃミミズも殺せない」
「な、なんじゃここは!?」
「トライデント・アウトカムズって言ったら?」
「!?よ、傭兵事務所だと」
「今までの蛮行も証拠に残ってる。ここにはカメラはもちろん、自動機銃付きだから侵入者対策もばっちりさ」
天井を見ると機銃が男を狙っているのがわかる。年甲斐なく腰を抜かし、その表情は怯えていた。
「今起こったことは黙っておく。その代わり、詐欺紛いな商売をやめて真っ当な仕事をしてもらう。おっと勘違いするな、仕事は俺が決める・・・そうだな、チベットに行って暴徒鎮圧をしてもらおうか。すごいぞ、標高高いから酸素薄いし中国政府・チベット仏教、両陣営危険な奴らばっかりでいつ殺されてもおかしくない。まぁ安心しろ、死んだら墓は作っとく」
こうしてまた危ない連中が日本を離れていく。荷馬車の子牛を見届けて終わると、今度こそ事務所の鍵を閉め居住スペースに移動する。くたびれた様子でソファに寝そべった。
「ふぁ・・・宏美、お茶」
「もう、子供じゃあるまいしだらしないわよ」
呆れながらも冷蔵庫に入ってある麦茶をグラスに注ぎ、それをケビンに渡す。
「すまんな。あんなイレギュラーいなきゃもっと気楽なんだがな」
「こんな時に悪いんだけど、海の家の警備ってどうやるの?まさかライフル携帯してお店歩くつもり?」
「いや、それじゃ客がビビッて逃げる。そこで、カメラを複数設置してなるべく死角を減らし、裏口にはセンサーを設置する。俺はマグナムとPx4だけ持って巡回って手筈だ。エドワーズは別件でいないけどな」
「な、ならいいわ。女の子が多い場所にライフル携帯してる男が巡回してるって構図はちょっとね・・・」
確かに想像したくない光景だ。話によると美少女達が運営する海の家という評判だったらしいが、その中に陸軍上がりのムキムキお兄さんがライフル持って警備に当たる姿を想像するとシュール通り越して恐怖を感じてしまう。
「・・・ビキニウェアのケビンか・・・マッスルよね」
「少なくとも贅肉は無い」
スマホが鳴っている。相手は趙からだった。
「なんだよ、営業時間終わってんぞ」
「仕事の話じゃないんだ、ノーマンズ・セキュリティ・カンパニーってわかるか?」
「あぁドイツ・ベルリンのPMCだな。ウチと同じくらい成長してる企業だったはずだ」
「そこがだな、ウチの競合になるかもしれん。大阪に事務所構える許可を得たって話だ」
「大阪に?」
「関東・東北・中部圏はウチが押さえてるからだ。っで、俺らを恐れた闇金やマフィア連中がそっちに流れてるって話。なんかあると思わんか?」
「まるで小説みたいな話だが、大阪国ってやつを建てようってか?」
「その可能性もあるって話だ。ノーマンズの事務所にウクライナ系とリビア系の連中が出入りしてるって情報もある」
「・・・マジ?」
趙からの情報によると、FBI・CIAも大きく動いており、犠牲者も比例して多いらしい。
「なんだかキナ臭い」
「長官の跡目争いの舞台が大阪になるって話だ、ケビンもそんな案件が来たら香港支部にも連絡をくれ」
「あぁ。そうさせてもらう」
電話を切り、再びソファに身を投げる。
「FBIにCIA・・・あの連中が庶民の町に何の用事が?」
「さぁ。どちらも主導権欲しいからね」
「そして彼らの共通の敵は・・・育ち過ぎた狂犬」
「どういうことよ?」
「ゴースト達も大阪に来るかもな。CIA長官も撃たれて奴も追われる身だ、邪魔だてするならなんとやらってか」
「はぁ・・・警護任務とダブらないといいわね」
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19話 ウチウラストーム
夏真っただ中、高海家の依頼で海の家の手伝い兼警備任務に就くケビンと宏美。集客状況や満足気な表情から想像以上に好評らしい。千歌によると今年は男性客が大幅に増えているとのこと。男性客の目線が、千歌達よりも集めている存在を見る。
「確かに、これは注目するな」
笑顔で接客する、オレンジ色のビキニ姿の妻。華奢な体格にわがままな曲線美、足も長めのスタイルの良い美人がそこにいた。普段の格好も好きだったが肌を露出した姿にケビンも目を奪われる。
「だが、男共の目線が気に入らん」
これは夫としての嫉妬なのか、男共の目線に対しての警戒なのか、ケビン本人すらわからなかった。
「おっと、料理運ばんとな」
わざとらしく客の目線に入り焼きそばを提供する。当然、男性客は不服そうにする。しかしケビンは気にせず仕事に戻ろうとしたその時、宏美の腕を掴む客がいたため間に入って離させる。
「ちょっとお兄さんさぁ、接客しないでくれる?楽しみの邪魔なんだけど」
「これは申し訳ありません。ですが、従業員の仕事の邪魔はご遠慮願います」
「あぁ?俺は手繋いだだけじゃん」
「ここはデートクラブではありません。料金はいりませんからご退場願います」
途端、男は立ち上がりケビンを殴る。しかし、少し腫れただけでダメージは少なかった。
「ここからは実力行使ってことで」
左ボディーブロウで怯ませ、顔面への膝蹴りでのけぞらせると、必殺の回し蹴りでトドメを差した。男は勢いよく吹っ飛び気を失う。ナンパ目的で来た男達は全員、顔面蒼白になった。
「いやぁ失礼、当店ではウエイトレスに手を繋いだりナンパする等の行為は禁止です。それが目的なら他のビーチに行ってください。では、食事を楽しんでください」
気絶した男を店の外に放り投げ、ウエイターの仕事に戻って行った。ツイスターでこの事が話題になり、後日アウトローな客が減り、他の客層が増えたのは別の話である。
夕方になり店じまいを終え、売り上げを計算する。額を聞いた千歌達は大喜びな様子で跳ねる。
「すごい!前より売り上げ上がったよ!」
「そうだな。君達も変な男に絡まれなくってよかったよ」
「ですが、アレはやり過ぎなんじゃ」
心配そうな様子の梨子。
「まぁ良いお灸さ。妻が絡まれてたら夫が助けるもんだしな」
「ケビン」
ちょっと照れくさそうな宏美。
「ところで、明日で最後になるんだが」
「お母さんも明日来てくれるって話だし、大丈夫かなって」
「・・・子供と間違えられそうな気がする」
和やかなムードは外からの爆発音で一気に破壊される。Px4を抜き全員の姿勢を低くさせ外の様子を伺う。そこで思わぬ光景を目にするのだった。
(!?他所の海の家が燃えてる)
数十メートル離れた別の海の家が轟々と燃えている。消防を呼び、鎮火作業が終わると共同で出火原因を探ることにした。出火原因は裏口にある、背の低いプロパンガスボンベから漏れ出したガスが引火したことだった。しかし、運営者側の話によると、ちゃんとのバルブは閉め火種になるものは置いていないと供述している。ガスボンベ付近に砕け散った使い捨てライターが落ちてあったが、これは明らかにミスリードだとわかる。
「消防さん、仏は?」
「はい、ボンベから数メートル先で女性の遺体が発見されました。傷がひどく特定できません」
「検死が必要だな」
「あのぅ、あなたは?」
「俺はケビン菊地。トライデント・アウトカムズの所長だ、一応通報者だし協力は惜しまない」
ふとケビンは破裂した箇所を見る。ちょうど真ん中から破裂していた。直勘で重たいボンベを持ち上げ穴のある方を下に向けると、黒ずんだ弾が落ちてきた。
「これは・・・大変なことになったぞ」
「何ですかそれ?」
「これは徹甲焼夷弾だ。物を貫通して内側から燃やす危険な弾で、大きさからして大口径狙撃銃が使われたものだな、もっとも、使用した銃はライフルマーク調べないとわからんが」
この事件を機にケビンは捜査に加わることになり、沼津署からも依頼を受けた。これが、沼津に事務所を設けて最大の仕事になろうとは、誰も予想だにしなかった。そして、依頼を受ける前から歯車が動いていようとおもいもしなかった。その晩、エドワーズが何者かに背後から撃たれ救急搬送された。摘出された40SW弾、アメリカ人が使ったことがわかる。
(私物でも40SW使う人間は限られる。だいたいが若い世代だ、1989年に作られたこの弾は45ACP好きなベテランには少々不満があるし、かと言って装填数が少なくサイズの大きい45ACPはサプレッサーあっても反動のデカさで使いにくい。9mmはサプレッサー使う場合初速の速さを減らした減装弾を使うから、どうしても急所狙わないと相手を殺せない。外したら反撃されるのがオチだ、俺も昔経験がある)
うつ伏せのエドワーズは爽やかな寝顔で寝息を立てていた。不意打ちとはいえ彼を襲えるだけの技術を有していることがわかったケビンは宏美とコンビを組み、エドワーズの護衛を趙に頼むことにした。
次回作の構成を練っています
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黙示録
黙示録1 ゴースト再び
18:10:11
インド洋沖北西200キロ地点
一人の男が運輸タンカーのコンテナの上で煙草を吸っている。
ベージュ系のキャップを被り紺色のTシャツにカーキ色のカーゴパンツ、その上に軍用のベストを身に着けたスタイルの軽装備姿だった。
「教官、すべて処理し終えました。あとは部隊が1チーム、こちらに向かっています」
ヤンキースのロゴ入りキャップを被り男と同じように防弾ベストを身に着け、スリングでMP5を吊るしている女性が声を掛ける。
ライダーグローブの下から覗く新たらしく刻み込んだタトゥーに男は満足したような表情を向けると
「ここでは教官と呼ぶな。我々がいたという証拠は全て消したか?」
彼女は頷くと、彼女によく似たニューヨークメッツのキャップを被りSIX12を抱えた女が走ってくる。
「教官、完了です。後はヘリが迎えに来るそうです」
「二人とも、俺を教官と呼ぶなよ。お前ら双子だからか?」
二人がほぼ同時に笑う姿を見て、男は少し呆れる。
はぁと男がため息を着いた瞬間、ものすごい音とともにゆっくりと背後から輸送ヘリが現れる。
「ハインド!」
双子はコンテナの後ろに急いで隠れるが、男は煙をくゆらせ腰のホルスターから銃を抜く。
ホルスターに刺さった拳銃は、M629Vコンプ。
普通なら銀色の銃身が艶消しの黒で染められたカスタムガンを右手で保持し狙いをつける。
「さあ、撃たせろ。やれよ、楽しませてくれ」
男はにやりと笑いトリガーを引く。
44マグナムの拳銃とは思えない程の爆音が鳴り響く。
ハインドの防弾ガラスを使用したコクピットに穴が開く。
「面白かったな」
M629Vコンプをホルスターにしまい込むと新しい煙草を取り出し、口に咥える。
戻ってきた双子に
「次やったら、地獄の門(CIAの工作員用の訓練施設にて一番難易度が高く実弾使用が認められている。もっとも訓練中に死者が出ることでも有名)四周させるぞ」
ドスの利いた声が双子を震え上がらせる。甲高い一定のリズムの電子音が旧式の二つ折りの携帯から鳴る。パカリと二つ折りの携帯を開きメールの内容を確認する。
「お前ら喜べ、日本に行くぞ。残業手当は出ないがな」
きょとんと彼の言葉に双子は全く同じ反応をする。
「「日本?」」
双子を指さしながら鋭く
「あと俺のことは教官と呼ぶな、エイト、ナイン」
「ちゃんとゴーストと呼べ」
ブラックホークに全員が乗り込むとゴーストはどこかに電話する。
「こちらゴースト、任務に必要な武器を揃えてくれ。ああ、今回は嫌な予感がする」
「スティンガーを一丁、それとXMー25を手に入れてくれ。金は積むから、頼む」
「ゴーストは任務を受けましたか、そうですか」
紺色のスーツ姿に白髪頭の男は電話を片手に誰かと話している。
「大丈夫です。あいつも教官になれるくらいのベテランになりましたから、俺も年を取ったものです。
はい、グランドマスター。了解です」
彼は電話を切る、ワシントンのFBI本部の前にて
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黙示録2 オペレーション・フルトリガー
「こちらエイト、準備完了。配線に侵入、作戦区域を停電させる」
『こちらゴースト、確認した。船はある意味陽動だ。船を奴らが捜している間に残った戦力を減らす』
『こちらナイン、ゴースト、敵勢力が港に向かった。残りの戦力もなかなかだけど』
「確認している。ナイン、エイト。俺が先陣を切る。スナイプだけじゃないことを見せてやる」
ゴーストはバリスティックマスクをつけた姿で敵がアジトにしている倉庫の目の間に立っていた
「この場所での戦闘には俺一人が介入する。お前らは手出しするなよ」
黒づくめの衣服にはブラジル陸軍の多機能ベストに大型の弾薬ポーチ、腰には短く銃身をカットした12ゲージのショットガン、足にはマジックテープで固定されたホルスターにM629が差し込まれ背中からは大型のボストンバックを背負っていた。
「突入する」
ボストンバックを腰に下ろすと中からXM25を取り出し、特殊弾倉に切り替える。
用意した弾は三発、なかなか高価な弾のためなかなか用意できなかった。
ボルトを引き弾を装填。
腰だめに倉庫のドアに向けて撃つ。
ドアが爆発したのを視認するとXM25をバックに仕舞うと中からP90を取り出し構える。
敵の姿を確認すると、タップ撃ちで精密に撃ち込む。
「敵襲、敵襲!」
「遅い」
叫んでいる敵に銃弾を叩き込み、行動不能にさせると横に置かれたコカインの山にピンを抜いたグレネードを放り投げる。
P90の弾が切れるとバックに仕舞い中からミニミを取り出し撃ち始める。
軽機関銃とは思えない程、単発にして撃ち始める。
タンタンという乾いた発砲音が響き敵側からの銃声はないに等しい。
これが戦争の素人と熟練の違い、そのことが簡単に言えるような戦いだった。
警察車両は通行止めで入ることが出来ない。
戦闘ではなく、ゴーストは虐殺をしていた。
敵の姿がなくなったのを確認すると腰に付けた軍用の無線機で連絡。
「こちらゴースト、敵戦力の殲滅を終了。撤退を開始する」
『こちらエイト、敵が陽動から気付いて戻ってきてる。こちらは警察無線をかく乱させてSWATを呼んだ。撤退して大丈夫だよ』
「よくやった。証拠に地雷を仕掛けてから撤収する」
銃声が近づいてくるのを確認するとバリスティックマスクの下で不敵に笑う。
マスクを外し、バイクに荷物を全て載せて猛スピードで発進させる。
横に機動隊のバンが通っていくのを見ながらセーフハウスへの帰還に目標を定める。
セーフハウスで彼は煙草を吸い終わると、電話を掛ける。
『こちらゴースト、確認コード3・3・5・7・7・1・2・1』
「コードを確認、ハンマーヘッドのファイル一式送ります、確認してください」
『了解、あと聞いているであろうグランドマスターに伝言。伝えればわかるはずだ。これが終われば、太古の魔術師は本を開く、錬金術師は竈に火をくべた』
ワシントンの最重要指令室の真ん中で彼はステッキで支えながらその音声を聞いていた。
「は、ハハハハハ。はっはっはっ!」
白髪をきれいに撫でつけアルマーニのスーツを着こなした老人は高笑いを始める。
周りのオペレーターは視点を老人に向ける。
「どうしたのですか、グランドマスター」
「嫌、何。最高傑作に手を噛まれただけさ」
彼は不敵に笑う。
「オペレーション・フルトリガーの起動の準備を。アナコンダの麻薬ルート経由で資金を調達しておけ」
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黙示録3 覚めない夢
『続いてのニュースです。先日ソウル駅構内にて発見された死体の身元が判明しました。』
『被害者の名前はト・ハジュンさん、韓国国立中央博物館にて学芸員を務めており、数日前から無断欠勤していたことから警察は何らかの事件に巻き込まれたのではないかと捜索を開始し始めています。』
「おい、どうなっちまってるんだよ。この事態はよ。」
様々な格好の男たちがコンテナ内に積まれていたコカインとマネーロンダリング用の資金が消え、空っぽになった倉庫の一室をみて驚く
最後の生産ラインを警察と運輸局による合同捜査でつぶされ、ハンマーヘッドからの指示も受けられないまま残りの部下たちは最後の生命線とも呼ぶべき予備倉庫には何もなかったのだ。
「どうなっているんだよ。」
廃墟の中に残された生産ラインの中を歩き回り残った資金の箱がないかと探し回る。
その瞬間、倉庫のドアが錆びついた音を立ててガチャンと閉まる。
更には中の照明が音を立てて逃走のせいで薄汚くなった姿を照らし出す。
「なんだぁ?」
『皆様、こんばんわ。あなた方をエンターテインメントにご招待いたします。演目はこちら。』
『あなた方の虐殺ショーを始めたいと思います。』
そういった瞬間に元々は豚の加工処理場だった施設の装備がギラリと鈍い光を帯びて動き始めるのを見て、男たちの背中に冷たいものが走った。
施設の仕掛けが全て動作したことを示す緑のランプを確認し、ゴーストは無線に呼びかける
「エイト、ナイン。これが俺からの最後の試験だ。これが終われば俺はお前たちを生徒とは思わない。お前たち一人一人を仲間として扱い、これからの計画に参加するメンバーの一員として認めることになる。いいな?」
『『了解。』』
「ならよし。容赦はするな。ためらわずに殺せ。」
そういうと無線機のチャンネルを変えドイツ語で話し始める。
『合言葉をどうぞ。』
「錬金術師に水銀を与えてはならない」
『確認した、ゴースト守備はどうだい?』
「ああグリム、まずは仲間は拾えたか?」
『何とか、昔のメンバーは揃えた、お前の同期の第二世代組のブルー、ラーチャー、バルトにルーカス。
第三世代はサージにニコラス率いるハンターパック計18名とサンドマンにブリザードのチームアヴァランチ計8名にサム。
第四世代のハウンドチーム三人組、ガンビットとサマリの三つ子にネイビー・エッジから精鋭組の五人。それぐらいかな?
最後に第一世代からセオ、ガブリエル、ボルトにゴーシュ。伝説のメンバーまで乗ってきた』
「他のリストに挙げたメンバーは?」
『ベクターとワンは死亡が確認された。シュガー、ラック、アドラーは生死不明。連絡すらつかないから死亡した可能性は高い。』
「わかった。俺が率いるチームのメンバーをあげるから俺のところに寄こしてくれ。まずブルー、ラーチャーにサンドマン、ボルト、ガンビットとゴーシュ。このメンバーで道具の準備は後で連絡してくれ揃えられる奴呼んでくる。」
そういってゴーストは無線を切るとタバコを口に咥え手に持っていたリストをなぞる。
「誰だ、だれがいるんだ?」
時折、空気を震わせるように絶叫が響き渡る。
さっきまで後ろにいた仲間の姿が見えなくなり、代わりにポツリ、ポツリと血の跡が残されている。
最悪の状況だとわかっているはずなのに、体に落ち着けと命令しても拳銃を持った手の震えは止まらない
ふっと目の前が暗くなった瞬間に足にワイヤーがひっかけられ自分の肉体が吊り下げられたことがわかる。
「おい、誰か!」
目の前に少女の顔がぼんやりと見えてくる。
男が必死に助けを求める様子を見て、にやりと笑った彼女の後ろ手にはボウイナイフが握りしめられていた。
「どうすればいいんだよ。クソが!」
また絶叫が響き渡る。
「おいっ!島!」
島と呼ばれた男の首には細長いワイヤーが引っ掛かり引きずられていく。
喉が絞まり、悲鳴も出せずただひたすら助けを求めようともがく男は容赦なくダストシュートに引きずり込まれる。
気づけば物言わぬオブジェとなってしまった仲間の死体が天井から吊り下げられている。
どうすればいい?どうすればいい?
頭の中にはその言葉が渦巻いていた、その瞬間。
「ゴブリ。」
自分の喉から出た音とは思わず手で口を覆い、血まみれになった手に声を出せず驚く。
喉からは10センチ近くの長さの針が突き出し、肉体からは数本の旧式の銃剣が飛び出ていることを脳が酸素を失いながら確認すると地面に倒れこむ。
「俺なんで、こんなことしてるんだろう。」
最後に彼が感じた意識の言葉だった。
全員始末し終えたことを確認し死体袋に全員分詰め込み終えると、ナインとエイトはゴーストの前に立つ。
「うん、的確に急所を突いてる。仕掛けにはあまり頼らず自分たちでしっかりととどめを刺している。」
キャップを脱ぎ傷ついた左目を撫でながら
「合格だ。」
彼はにやりと笑う。
彼は二人を引き連れてとある倉庫に向かう。
古びた倉庫の扉に貼り付けられたカバーをゴーストは剥がすと中から最新式のセキュリティ装置がむき出しになる。
そこに数字を打ち込み扉とセキュリティをすべて解除すると錆びだらけのドアがゆっくりと開き中から大量の奪った資金と武器、装備が詰め込まれていた。
ゴーストはキャップを脱ぐとにゃりと笑う。
「さあ、反乱の始まりだ。」
数時間前
滑走路に長身の男がフラリと降り立つ。
男は海兵隊が採用している青みを帯びた迷彩服を身に着け両腕をまくり上げ、くたびれた軍用のブーツを履きこなしている。
紙煙草を口に咥えて、腰から取り出したライターで火をつける。
「あーあ、めんどくせえ」
その背後には一個中隊規模の兵士が倒れていた。
彼のコードネームは「オーガ」
ゴーストがこのためだけに施設から脱走の手引きをした
最強最悪の戦闘中毒者(ルビ)ウォーホリック)である。
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黙示録4 舞台裏
ドイツ連邦共和国ベルリン
ノーマンズ・セキュリティ・カンパニー
『こちら本部、全チームに通達。敵は白人男性、三十代。左目の下に傷、バイカージャケットにジーンズ。現時点では武器を所持している。 しかし、ターゲットは数発の銃弾を腹部に受け負傷中の模様』
『こちらチーム2、3名が重傷。2名が死亡。』
『こちらチーム3、俺しか残っていない。至急応援を求む。至急求む!しきゅ……』
『どうした、チーム4。本部、ターゲットに対しての情報をもっとくれ。手出しができない。』
『今入った情報だ。影のように潜み、一瞬で消えるその戦術から、工作員としての奴のコールサインは……
ゴーストと呼ばれていたそうだ。』
二か月前
オーストラリア グレートビクトリア砂漠南 ナラボー平原
トランスコンティネンタル鉄道路線まで3kmの辺り
三台の軍用6tトラックが砂漠の埃と砂が混ざった風の中、走り抜けていく。
荷台には複数人の重装備の男たちが乗っている。
「グリム、用意は出来たか?」
ゴーストは右耳に装着したイヤホンを確認すると鼻まで被せたシュマグを下すと、ベストにつけられた暴風の中、無線機に向かって大声で話しかける。
『こっちは大丈夫だ。ジャミング装置を起動させたから三時間以内にはオーストラリア軍は飛んでこない。』
「了解だ。こちらはチーム全員、大丈夫だ。」
他のトラックも含め荷台に乗っている全員が風塵対策にAK系列のライフルを装備している。
一番前を走るトラック。
スイスのFSKp17出身のレフやドイツ陸軍のKSK出身のアクセル、それにアフガンにて山岳戦経験者のレティ
山岳戦を専門とするメンバー六人で構成されたチームアバランチは全員がカスタマイズしたAKS74に共通のロシア式の砂漠用迷彩服を用意している。
二番手には俺と三脚に腰掛けAK-74Mをスリングで吊るしたルーカスそれにMTS-255に軍用ベストを着たゴーシュ。
一番後ろのトラックに何も乗せずにサムが運転するのみ
「作戦通りにいくぞ!」
右手を振り上げ、全員に指示すると線路のすぐそばにまで近付いていく。
鉄道に並行して一番前にいたトラックが貨物室に横付けした瞬間、アンカーランチャーを撃ち込む。
「行くぞ。」
ガスバーナーのボンベを背負ったルーがゴーグルを掛け、貨物用のカーゴに穴を開けていく。
その横ではボブも同じように専用のマスク姿で穴を開けると数人がかりで鉄板を取り外す。
更にトラックの横にサムが乗ったトラックが横付けする。
中から出てきたのは大型のサーバー、ワイヤーでしっかりと慎重に扱いながら運んでいく。
ガッチリとワイヤーでサムのトラックに固定すると、了解のサインを出しチームアバランチの三人が乗りこむ
『ゴースト!、ゴースト!』
「どうした、グリム。こっちは積み込み終えたぞ。」
『敵さんが気づいたみたいだ。タイムアップだぜ。』
「了解だ!、全員引き上げだ!」
その言葉を言った瞬間に敵の黒服が窓から乗り出すのが見える。
トラックの連結した金具をMP443で弾き飛ばし、サムに指示を出して逃がしながら、トラックごとその車両に向かう。
ルーカスがAK-74Mで牽制のために撃ち始めると運転席のラーチャーに指示し、位置を移動させると三脚に被せている布を取る。
ゴーストは中から出てきた6P49のボルトを引き装填すると照準を軽く確定させ、トリガーに指を掛ける。
毎分750発、敵に対して銃弾による豪雨が降り注ぐ。
弾薬が詰まったボックスマガジンがどんどん減っていく。
ゴーシュがMTS-255を数発撃ち、反撃させないように二人は銃声のオーケストラを奏でていく。
『こちら、チームアバランチ。撤収完了だ。』
「了解、こちらも撤退だ!」
一気に方向転換しながら、全弾を貨車に叩き込み猛スピードで離れる。
三時間後……
サーバーを先に回収し終えたアバランチと港にて合流する。
「荷物ごと、クレーンで積み込んだ。後はメンバーが全員乗り込むだけだ。」
「了解した。」
ゴーストは煙草を咥えると、貨物船の中に乗り込む。
中は元はCIAが使用していた偽装貨物船を奪ったもの。
内部は司令部に銃貨物室、他にも離脱してきたゴーストの意思に賛同するメンバーが乗り込んでいる部屋などに別れている。
「何かわかったか?ブルー。」
ラフな姿でサーバーの解析を行っていた彼女は、くるりと振り返る。
「いろいろと、グランドマスター自体はオペレーションフルトリガーを始めて出したみたい。
後はほかのメンバーからの報告ね。
モロッコの支部はサマリの三つ子が吹き飛ばしたとセオから報告が。
バルトとガンビットが数名追跡チームを排除したそうよ。サンドマンとサージのチームはウクライナ系マフィアに潜入中だそうよ。」
「了解だ。次は台湾に向かう。」
「了解、なぜに?」
「ナイン、エイトを回収してそれに戦力の補充を行う。日本での基地を襲うために使い捨ての戦力を用意しなければな。」
「了解。オーガには連絡を取るのですか?」
「そうだな、こちらから連絡しておく。連絡をとるなら
賽に……連絡を取ることだな。」
ゴーストは煙草を咥えなおすとにやりと笑う。
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