虚が目指す平穏 (itigo_miruku121)
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フリード・リヒという最上級大虚 1

 書き終わって一言。
一話目なのに書きすぎた…どうしよう。



色々拙い点はあるかと思いますが、一読していただけたら幸いです。



 俺の世界は何時も変わらなかった。見渡す限り大地は砂が大海のように広がり、所々に浮島のように、葉一枚すらない枯れ木が点在している。

 

 

 首を上に向けると、そんな砂漠に生きる俺たちを嘲笑うかのように三日月が一度も上がったことのない漆黒の帳の中央に鎮座し、それにはやし立てられ煽られたかのように、星々が下界を見下す。

 

 

フリード「いつみてもこの荒廃しきった世界に相応しい哀愁と嘲りと絶望にまみれたいい月だ。これで酒の一杯でもあれば文句がないんだが…」

 

 

 そんな世界にある葉のない枯れ木の中でも一二を争う高さと丈夫さを兼ね備えた木の幹にもたれかかり、俺は空に浮かぶ月を睨む。月は俺如きは気にも留めてないのか俺を皮肉るようにその輝きを枯渇した大地に降ろす

 

 

フリード「・・・虚閃(セロ)

 

 

 酒の肴に最適な三日月と静寂が支配した世界。という一献やるには最適のシチュエーションなのに肝心の酒どころか、水分らしいものが一切ないというどうしようもなく残酷な事実に腹が立ち、月に向けて紅い虚閃(セロ)を放つ。月の野郎にそれが届くことはもちろんなく、俺が撃った虚閃(セロ)は俺の意思に反する結果を生み出すことしかできなかった。

 

 

ギーグ「頭!大変でさぁ!!」

 

 

フリード「どうした、名も顔も知りたくねぇ矮小な屑!俺の生き様(平穏)が崩壊する音が聞こえてきたか?それともお前のか??もしくは、世界のか??」

 

 

 木の根から俺を見上げて俺と月の。いやこの枯れ果てた世界との()()を妨げたのは、いつからか俺の跡を金魚の糞みたいについてきた中級大虚(アジューカス)の一人だった。そいつらは俺の許可なしに俺を頭だのボスだのと囃し立て、フリード軍団などと設立した覚えのない軍団を名乗っている。軍団を名乗っていることはともかく、そうすることがあいつらの生き様(平穏)らしいのでそのままにしている。

 

 

 それとどうでもいいが、ギーグというのは俺があいつらに内密でつけている名前というか記号のようなものだ。本人たちには言わないが、説明を求められれば適当な理由をでっちあげるつもりだ。アイツらもそう深くは詮索してこないだろうし、自分の頭だと思っている奴に名前を覚えてもらっていると喜ぶだろう。多分だが

 

 

フリード「バラガン?あの老王がどうした。まさかまたいつものアレか?」

 

 

ギーグ「へ、へい!頭を自分の配下にすると」

 

 

フリード「何度も言ってんだろ。俺はお前の()()に惚れてねぇからお前の下にはつかねぇって。暇つぶしの話し相手になってやってんだからそれで満足しろ」

 

 

???「珍しく放浪せず一か所に留まっておると思ったら、その口は相変わらずのようじゃな小童。この虚圏(ウェコムンド)の神であるバラガン・ルイゼンバーンを前にして」

 

 

フリード「おうおう、第二刃宮殿(自分の家)に籠らずお散歩かよ、健康意識が高いのは素晴らしいね。俺も同伴したいが相方があんたなら遠慮しておくよ」

 

 

 ギーグと同じく下から聴こえてきた老齢だが十分すぎるほどの威圧と覇気と畏れを持つ声の主は、破面・No.02(アランカル・セグンダ)であり、虚圏(ウェコムンド)の王を名乗りそれに相応しい能力と力を持った老人。バラガン・ルイゼンバーンその人である。黒人のように黒い肌に覆われた顔には幾つのも傷があり、額には彼の穢された栄誉を象徴するかのように(ホロウ)時代の仮面の名残が王冠のような形をしている。

 

 

 俺が知り得る限り、この老王は今の虚圏(ウェコムンド)の王からの招集以外は基本自分に割りあてられた宮殿に立て籠りそこで、かつての自分の臣下たちを戦わせたりして過ごしているらしいが、今日はどういうかぜの吹きまわしか、先代の王は遊び人である俺に会いに来たらしい。随分と暇な事だ。こんな枯れ木のそばよりは、自分の宮殿内の方が時間を潰せるだろうに

 

 

バラガン「小僧、単刀直入に言う。儂の配下になれ」

 

 

フリード「今の台詞、藍染様とやらに聞かれたらまずいんじゃねーか?あの人も俺のことを引き入れようとしてるの知ってんだろ」

 

 

バラガン「儂ら十刃(エスパーダ)にはボスから直々に従属官(フラシオン)を何人つけてもよいという許可を戴いている。儂はただ、貴様が破面化(番号持ち)になったときに備え先約を付けようとしているだけじゃ」

 

 

フリード「流石は老王、伊達に気が遠くなるくらいの歳食ってねぇ。口がよく回るもんだ」

 

 

バラガン「貴様に言われとうないわ。儂やハリベルと変わらんじゃろうが」

 

 

フリード「聞かれていると知ってて今の言葉を堂々と言うお前の胆力には及ばねぇよ。さすがは()王様だ」

 

 

 元の部分をワザと強調すると、老王は無言のまま霊圧をあげ己の怒りを虚圏(世界)に押し付ける。それはまるで重力のように重く広く、また彼の力を象徴するかのように不可避なものだった。そうなるように仕向けた俺が言うのもなんだが、俺が腰を落ち着けている枯れ木が今にも崩れ落ちそうにキリキリと悲鳴をあげている。ふと、下に目を向けると先程までいたはずのグリードの姿が消えている...

 

 

フリード(中級大虚(アジューカス)のくせに枯れ木に負けるかよ。この重力の中でも折れずに俺を支えている枯れ木よ、今日からお前がグリードだ。喜べ。ともあれ、このままだと折角の新生グリードが死んじまう。何とかあの老王を遠ざけねぇとな)

 

 

フリード「悪かった悪かった、謝るからそう圧を広げんじゃねーよ。藍染様とやらが来たら面倒だろうが」

 

 

バラガン「フン、身分をわきまえず儂の隣に立っておったあの餓鬼に憐憫の情でも感じたか」

 

 

フリード「認知症発症はまだ早いぞジジイ。俺はお前ら十刃(エスパーダ)みたいに従属官(フラシオン)は持ってねぇよ。俺は最上級大虚(ヴァストローデ)だが破面(アランカル)じゃないんだからな」

 

 

バラガン「・・・物好きな奴だ」

 

 

フリード「そんな奴を熱心に勧誘するお前もな。ともかく、第二刃宮殿(自分の家)に帰れ。いつまでもこんなとこにいたんじゃ、認知症だと疑われても仕方ねぇぞ。話の続きはそこでしてやる」

 

 

バラガン「よかろう。歓迎してやるぞ、虚圏(ウェコムンド)の神がな」

 

 

フリード「お構いなく」

 

 

 それだけ言い残し、響転(ソニード)で老王の宮殿へと急ぐ。先程の世界全体の存在を脅かすほどの霊圧からも計り知れるように、あの老人の実力は見た目とは裏腹に途轍もなく、最上級大虚(ヴァストローデ)だろうと彼の近くにいて、無事に生き延びれるやつはそういるものじゃない。破面(アランカル)になっていないのならば尚更である。俺がその稀な例であることが、老王の気を引き続けてやまない一因でもあるのだが…

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 新生グリードの座り心地の良さと新生早々に分かれる羽目になったことを脳内で嘆きながら響転(ソニード)虚夜宮(ラス・ノーチェス)を移動する。老王とは違い、虚圏(ウェコムンド)を誕生からずっと支配してきていたあの月から逃げ隠れるようにあるこの宮殿は、今は二代目の王とでも言うべき人物の私物と化しており、バラガンや彼の話に出たハリベルなどはその駒に成り下がっている。俺はハリベルとも知らない仲ではないが、バラガンほど頻繁に出会っていないので、破面(アランカル)となった彼女が今どのような格好でいるのかは知らない。

 

 

バラガン「遅いぞ小童」

 

 

フリード「主役は遅れてくるものだってグリードが言ってたんだ」

 

 

 第二刃宮殿(バラガンの宮)についた俺を真っ先に迎えたのは、姦しい女の声でもなければ、若々しく希望にあふれた若者の声でもない。年季と老輩と老いを二十分に感じさせるむさ苦しいとはまた違った嫌な声だった。さすがは№2、響転(ソニード)の速さも一流である

 

 

バラガン「さて、小童。今日はもう貴様に配下になれとは言わん」

 

 

フリード「願わくば金輪際二度と言わないで欲しいんだがな」

 

 

バラガン「…だがな。貴様のその口ぶり。儂を前にしても何一つ変わらないその減らず口を儂の従属官(フラシオン)共は見過ごすことができんようでのぉ」

 

 

 骸骨で出来た玉座に腰を掛け、肘置きに肘を立て頬杖をついている眼前のクソッたれジジイの口角がわずかだがあがった。このジジイが暇だからと自分たちの従属官(フラシオン)を戦わせる戦闘狂だという事は知っているが、この戦闘大好きな老いぼれはそれに俺を巻き込むつもりらしい。

 

 

フリード「またかよ。つーか、破面(アランカル)化してるお前の部下になんか勝てる分けねぇだろ。それ以前でも何度も死にかけたってのに」

 

 

バラガン「今の儂の霊圧に眉一つ動かさずに耐えた貴様が言えたことではない」

 

 

フリード「ですよねー」

 

 

 その場限りの言い逃れのための軽い嘘をさも当然なように見せかけて戦闘狂にぶつけるが、正論で跳ね返される。暴君は俺の返答を了承と捉えたのか側近の一人に耳打ちをし、闘技場(舞台)をあっという間に完成させた。そして、俺が初めて見る暴君の従属官(フラシオン)が俺をその舞台に押し上げたのを確認すると、観衆の中から一人の破面(アランカル)が表れた。

 

 

???「破面(アランカル)になる前に一度会っているかもしれないが、敢えてこう言わせてもらうとしよう。お初にお目にかかる最上級大虚(ヴァストローデ)。私はバラガン陛下の従属官(フラシオン)の一人。名をフィンドール・キャリアスという。よければ、君の名を聞かせてもらえないかい?」

 

 

 どうやら俺の対戦相手らしいその破面(アランカル)は俺に向かってそう挨拶をした。だが、俺はこの時そいつの言葉など何一つ耳に入っていなかった。というのも、そいつの格好と俺に何かと共通する部分があり、俺はそいつに親近感のような感情を抱いていたからだ。

 

 

 破面(アランカル)化はどうやっているのかは知らないが、それ以前と以後では姿に多少なりとも差異が出る。それは個人差があり、なる以前の姿を基本として変化するのでそこまで大きな差がないのが大半だが、俺の記憶に残っているような奴はどいつもこいつも、破面(アランカル)になると、俺が折角覚えていた特徴が軒並み消えているのだ。バラガンやハリベル、スタークといったように力などで秀でていた点があれば別だが、そういったものがなければ、俺の記憶からそいつらの存在は消えてしまう。

 

 

 だが、目の前の破面(アランカル)は違った。俺はそいつのなる以前の姿を知らないが、少なくとも目の前にいる格好には大いに好感が持てた。俺と同じく金髪の髪。俺はそいつみたいに長くなければストレートでもない。もっと言えば金一色という訳でもない。それでも、同じ色の髪をした破面(アランカル)がいるというのはやはりうれしい。

 

 

 次に、そいつの仮面の位置。これが最も大きい理由であり、俺がそいつを()()()()()()()一番の原因だ。そいつは俺と同じように顔半分が仮面に覆われていた。俺のように左半分ではく、鼻から上。つまり上半分だったが、仮面の位置までこれほど近いのは広大な虚圏(ウェコムンド)を探してもおそらくこいつだけだろう。

 

 

 

フィンドール「おや、どうやら聴こえていないようだね。最上級大虚(ヴァストローデ)なのに闘いの前に相手に注意すら向けないとはいただけないな。不正解(ノ・エス・サクタ)だ」

 

 

バラガン「……」

 

 

バラガン「フィンドール」

 

 

フィンドール「はっ!」

 

 

バラガン「あれは()()()()()()()のではない、()()()()()()だけじゃ。あやつは暗にお前如き雑魚の妄言など聞き流すに限ると言っておるのじゃよ」

 

 

フィンドール「…なるほど。破面(アランカル)にもなれていない落ちこぼれだが、その傲慢と慢心加減だけは一級品という訳だね。バラガン陛下への数々の失言に加え、その従属官(フラシオン)である僕をも舐め腐ったその態度。実に不愉快だよ」

 

 

バラガン「フィンドール」

 

 

フィンドール「はっ!」

 

 

バラガン「・・・期待しているぞ」

 

 

フィンドール「仰せのままに!すぐさま完全な勝利をご覧に見せましょう!!」

 

 

バラガン「ん。さて、小童。いつまで呆けておる、はやいこと構えぬと…死ぬぞ」

 

 

フリード「・・・。んあぁ!…は?何言ってフィンドール「死ねぇ!」

 

 

 腹の底に響くほどの低い声が俺を現実へと引き戻す。それと同時に、俺との最大の共通点である顔半分を隠す程の仮面のうち左下四分の一程度を剥ぎ取ったあの破面(アランカル)が俺の眼前に迫っていた。

その手には彼のものと思われる刀が握られていて、()()()()()()()俺とは違って彼からは殺気と霊圧が遠慮なく放たれていた。咄嗟に能力を用いて拵えた刃で顔を守っていなければ、今頃は首と胴体が分離していただろう。

 

 

フリード「っぶねぇな、何しやがんだ!!ってか、なに仮面剥がしてんだ!!せっかくの俺との共通点を失くす真似すんじゃねーよ破面(アランカル)!」

 

 

フィンドール「フィンドールだ!やはり先程の自己紹介は聴いていなかったようだね!まったく、君のような無礼の極みのような奴が最上級大虚(ヴァストローデ)なんて世も末だ!」

 

 

フリード「何言ってるかよくわかんねぇけどだからって本気で斬りかかることないだろ!老人にいい所見せて遺産でも貰うつもりか?」

 

 

フィンドール「この状況でもバラガン陛下を老人と謗るのか。なるほど、その口ぶりは演技でもなければ伊達でも酔狂でもないという訳だね。ますます気に入らないよ」

 

 

フリード「そりゃ悲しいね。俺はお前の事が()()()()ってのにな!」

 

 

 鍔迫り合いは結構だが、向こうが俺のことを殺したいほどに憎んでいるのなら少し冷静になってもらう必要がある。少し煽って俺に注意を向け、隙だらけになった下腹部に少し霊力を込めた蹴りを放ち距離を確保する。蹴られたフィンドールは少し苦痛に歪んだ顔を浮かべたが、すぐさま俺に顔を向けた。

 

 

フリード「虚閃(セロ)

 

 

フィンドール「チッ」

 

 

 顔を上げたフィンドールの胸元に向け小指ほど細く圧縮した紅い閃光を放つ。この状況なら普通に圧縮したりせず放てばいいのだが、それでは()()()が俺の手によって消えてしまうため仕方なく圧縮する。

フィンドールはその閃光を避けようともせずに、迎え撃った。いや、()()()()()()()()()()()()。なぜなら、自分の背後には己が王と崇拝するあのお方が居られたのだから…。

 

 

フィンドール「舐めるなぁ!」

 

 

 フィンドールも刀の先から藍色がかった虚閃(セロ)を放つ。結果二つの虚閃(セロ)が真正面からぶつかり合うことになり、それにより生まれた爆発で戦場と観客席の区切りは消え去り、観客だった破面(アランカル)の幾つかはその爆発に巻き込まれ、宮殿の四方に散った。

 

 

―――――――――

 

 

 

 己の視界に漂う塵屑とは裏腹に、フィンドール・キャリアスの脳はとても聡明に動いていた。

 

 

フィンドール「へぇ、()()()()()()()を剥ぎ取った僕と同等の虚閃(セロ)の威力か。非破面(アランカル)にしては随分とやるみたいだね」

 

 

 フィンドールの心中は今もなおあのいけ好かない非破面(アランカル)に煮えくり返っているが、頭は今置かれている現状とこの戦いにのみ専念し、その怒りは雑念として排されていた。

 

 

フィンドール「彼の実力については今の虚閃(セロ)で大方予想がついた。ある程度の誤差はあれど、今のを基本に考えればおくれを取るようなことはないだろう。問題は、彼の能力だ」

 

 

 フィンドールの明晰な頭脳を以てしてもそれだけは未だ謎のままだった。先程自分は先手必勝と言わんばかりに、自己最速の響転(ソニード)で彼に肉迫しその首を狙った。しかし彼は、先まで自分に一切の注意を払っていなかったにも拘らず、その一撃を容易く防ぎさらには自分を煽り、戦場をこの宮殿全体へと拡大させた。フィンドール自身も、あの一撃で全てが終わるとは思っていなかったが、それでもある程度の傷。ないしこちらに有利になる要因の一つでも作りだせると踏んでいたが、実際は全てを振り出しに戻されただけだった。

 

 

フリード「おお、いたいた。なに悩んでんだ、戦闘中だぞ今は。集中しろよ」

 

 

フィンドール「ッ!」

 

 

 不意に背後から肩を叩かれた彼はすぐさま探査回路(ペスキス)を働かせ、自分の後ろに立つ者の正体を知り、手にした刀を振り払った。しかし、その刀は漂う塵芥を切り裂き彼の眼前の視界を晴れさせただけだった。

 

 

フリード「おお、こわい。何に悩んでるか大体予想つくからネタバレしてやろうか?」

 

 

フィンドール「キミはどこまで僕を馬鹿にすれば気が済むんだァ!」

 

 

フリード「そうカッカするな。戦いは先に熱くなった方が負けだってグリードが言ってたからそれを試してるだけだ」

 

 

フィンドール「黙れ!」

 

 

 響転(ソニード)で近づき奴に手にした刀と仮面を剥ぐ際に使っているサーベルで奴を切り刻む。刀で右から左へと大きく切りかかると奴は体を逸らしを躱す。すぐさまサーベルで左から薙ぎ払うが、奴はのばした俺の腕を支点に空へと跳ね上がりまた躱す。逃げ場のない空中に囚われた奴に虚弾(バラ)を放つが奴は響転(ソニード)で逃げることをせず、空中に逆さまに立ち、最初の一撃の時のように腕に作った刃で全て逸らしてみせた。

 

 

フィンドール「小細工だけは一流だね。だが、それだけで最上級大虚(ヴァストローデ)にのし上がれる程、あの生存競争は甘くなかったと思うが?」

 

 

フリード「年季の差だ、年数重ねれば色々と悪知恵が付くんだよ。それに人間も(ホロウ)も関係ない」

 

 

フィンドール「なるほど、それはまた一つ勉強になったよ。そして、今のを見て君の能力の大体の予想ができた。君は…霊圧を形にできるんだね」

 

 

フリード「正解(エサクタ)っであってるか?」

 

 

フィンドール「ああ、()()()()()()()()

 

 

フリード「そか。まぁ、アンタの推察通りだ。俺は霊圧を形にできる。正確には固形状にできると言った方が正しいがな。アンタのそのサーベルみたいなものから、その刀。()()()()()()()()()なら何でもありだ」

 

 

フィンドール「それはまた随分と恐ろしい能力だね。その口ぶりだとこの虚夜宮(ラス・ノーチェス)を切り裂ける大刀だって創造可能だと言っているように聞こえるよ」

 

 

フリード「実際可能だぞ。やったらほぼ間違いなく殺されるからやらないがな」

 

 

フィンドール「・・・バラガン陛下が君を欲しがる理由が分かったよ。だが、それだけ巨大な能力には弱点もある」

 

 

フリード「…」

 

 

フィンドール「それは、()()()使()()()()()()()()()という事だ。君の能力は確かに脅威だ。それは認めよう。だが、それ故に君は一つ一つの創造に使用する霊圧の量を制限せざるを得ない。全力を注げば虚夜宮(ラス・ノーチェス)を切り裂けることも可能だろう。だが、それをしてしまえば君は霊圧が尽き死んでしまう。だからといって小さいものを創り、それに全霊圧を込めればいいのかと言われればそれもまた違う。戦いはそんな単純なものじゃないからね」

 

 

フィンドール「君は見た通り破面(アランカル)ではないから刀を持っていないし、鋼皮(イエロ)もない。そんな君は常に己の体を守る装甲と、一定の敵の攻撃に耐えることができ、尚且つ鋼皮(イエロ)を切り裂けるほどの威力を持った武器を創り出す必要がある。この虚圏(ウェコムンド)で武器なしでバラガン陛下や藍染様に会って無事で済むとは思えないからね」

 

 

フリード「何が言いたい」

 

 

フィンドール「()()()()()()()()()()()()()()()()()ということさ。それは現世では優しさなどと言われるだろうが、生憎とここは虚圏(ウェコムンド)だ。それは甘さにしかならない。そういう意味で言えば僕は君の天敵と言えるだろう」

 

 

フリード「あぁ?」

 

 

フィンドール「おっと、凄まないでくれるかい?僕はただ君に一つ質問がしたいだけさ」

 

 

フリード「質問だ?」

 

 

フィンドール「そうとも。一つ疑問なのだが…。君、まさか今のこの霊圧が()()()()だとは思ってないだろうね?」

 

 

フリード「…まさか。その仮面」

 

 

フィンドール「正解(エサクタ)だよ、最上級大虚(ヴァストローデ)

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

フィンドール「正解(エサクタ)だ、最上級大虚(ヴァストローデ)

 

 

 

 いつの間にか冷静さを取り戻していた破面(アランカル)が主に似た皮肉と嘲りを多分に含んだ笑みを浮かべる。何か嫌な予感が体をひた奔り響転(ソニード)破面(アランカル)に迫るが、それよりも早く破面(アランカル)は俺との最大の共通点を半分にした。

 

 

フィンドール「フハハハハハハハハ!行くぞォ最上級大虚(ヴァストローデ)!!」

 

 

___消えた。何かの例えでもなく誇張表現でもなく、先刻までそこにあったはずの奴の霊圧が俺の探査回路(ペスキス)から忽然と消えた。

 

 

フィンドール「こっちだ!」

 

 

 声がした下を向いたはずが俺の視界は宮の天井を映していた。混乱する頭をさらに混迷に窮しようと今実際に起きている現実に置き去りにされた感覚が遅れて俺の体を襲う。衝撃が伝わって初めて俺はその時()()()()()()()のだという事を理解した。しかし、俺の眼球はその蹴りあげた人物を映すことはできず、探査回路(ペスキス)は何も変わらず観客共の反応しか示していなかった。

 

 

フィンドール「どうしたどうした?こんなものなのか!バラガン陛下が気にかけた最上級大虚(ヴァストローデ)は!!」

 

 

 上下左右前後・四方八方。ありとあらゆる方向からありとあらゆる攻撃をされる。刀による切り裂き、突き、薙ぎ。虚閃(セロ)虚弾(バラ)も当然のように織り込まれ、俺の体を纏う霊圧の装甲はその意味をなさず、俺の肉体にその攻撃をただ素通ししていた。反撃しようと俺の脳から体の神経に電流が走り、それに肉体が全力で応えるも、その速度よりもやつの攻撃が何倍も速いので俺はただ逃げ場のない空中で甚振られるだけだった。

 

 

フィンドール「トドメだぁ!」

 

 

 ようやく敵の姿を捕らえたと思った刹那、奴の渾身の蹴りが俺の横腹を直撃した。俺は臓器がいくつもぐちゃぐちゃになる音を頭に響かせながら受け身も取れずに宮の床に神速の如き速度で叩きつけられた。

体を動かそうと脳が放つ電気信号に返ってくるのは体の節々からの損害を訴える痛みだけだった。肋骨や大腿骨などの骨が何本も折れ、それらが臓器に突き刺さっているのが身に染みてわかる。体内の血の量も随所からの出血でみるみる減っているようだ。先程から視界が覚束ない。

 

 

フィンドール「オイオイオイ、随分とあっけないじゃないか最上級大虚(ヴァストローデ)。いくら全力を出せないからとはいえ、この程度で終わるのかい?」

 

 

 クレーターが形成された宮の床に仰向けで倒れ伏す俺に馬乗りになるようにして、奴が表れそんなことを口にする。そして、俺が動けないように四肢の関節と健を切り裂いた。これで俺はこいつに生殺与奪を完全に握られたことになる。

 

 

フリード「ハァ…ハァ…ハァ…」

 

 

フィンドール「ほらほら、得意の減らず口はどうした?何か言ってみろよ、ホラ!ホラ!」

 

 

フリード「ハァ…ゴホッゴホゴホ…。ハァ・・・」

 

 

フィンドール「どうやらこれで詰み(チェックメイト)のようだね。そして君の能力に対して僕が建てた仮説も間違いではなかったと証明されたわけだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という仮説がね」

 

 

 奴の言う通りだった。俺の探査回路(ペスキス)からやつが消えたのも。これほどまでに奴に弄ばれたのも…。総ては今の奴の霊圧が今の俺を超える霊圧を放っているという事が原因だった。そして、奴のあの仮面は、云わばやつの力量メーターとでも言うべきものだったらしい。あの仮面が剥がされる程奴の霊圧は増大する。それが、この破面(アランカル)の能力だったのだ。まだあいつの仮面は()()()()()()()()というのに…

 

 

 

フィンドール「悲しいよ最上級大虚(ヴァストローデ)。君が最初に僕の一撃を防いだ時、正直に言って僕は心が躍った。完全に気を逸らしていたのに、間違いなく不意を狙ったのにいとも簡単に君はアレを防いで見せた。その事実に僕は驚愕をすると同時に期待のような感情を抱いた。()()()()()()()()()()()()()()()というね」

 

 

フィンドール「しかし、ふたを開けてみればなんてことはなかった。君は僕の半分ほどの実力しかなかったんだ。まったく…失望させてくれるよ!!」

 

 

フリード「あああぁぁぁァぁああぁぁぁぁああ˝!!」

 

 

 奴が俺の胸に刀を刺したてる。新たな深い傷口が刻まれたことでそこから多量の血が流れる。だが…奴はそこから刀を抜かずに、またサーベルを自分の仮面に近づけた。

 

 

 

フィンドール「そう言えば君はこの戦いの最初に、絶対に赦されないことをしたね。覚えているかい?」

 

 

フリード「…」

 

 

 首を横に振る体力もない俺は俺の命を握っている奴を光の消えた目で見つめる。

 

 

フィンドール「虚閃(セロ)だよ。君は最初に僕を蹴り飛ばした後虚閃(セロ)を放った。ご丁寧に拡大しないよう圧縮された紅いやつをね。だが、その方向がいけなかった。君が放った虚閃(セロ)はあろうことかバラガン陛下の玉座に向けられていた。当然僕が相殺したし、もし仮に僕が避けていたとしても君程度が放つ虚閃(セロ)じゃ陛下は傷つかない。だが…その()()は決して許されない。赦されてはいけない!」

 

 

フリード「……」

 

 

フィンドール「だから、これは君に対する刑罰だ。かの大帝に無礼千万な、不遜な態度を貫き通し、あまつさえ牙を向いた。その罪状は死罪に相応しい。否、それでは生温い」

 

 

 胸に刺されている刀から奴の虚閃(セロ)と同じ光が淡く発光する。間違いない。奴は・・・フィンドール・キャリアスは。俺の体内でそれを暴発させるつもりだ。

 

 

フィンドール「君の死体は塵一つ残さない。霊子一つ、その顔半分を覆い隠している仮面の欠片一つ消し去る。さぁ、この仮面が全て取れた時が、君の最期だ。精々死ぬまでの刹那の時をゆっくりと味わうがいい」

 

 

 奴のサーベルが残った仮面にじわりじわりと近づいていく。それは時間にしてみれば一瞬だったかもしれないが、おれにとっては途方もなく長い。今まで過ごしてきた何千年よりも長い一瞬だった。

 

 

フリード(おれの命も…あと一秒足らずで終わる、ああ、最期にもう一度…グリードに座りたかったなぁ…)

 

 

フィンドール「さようなら、名前の知らない最上級大虚(ヴァストローデ)

 

 

 その台詞を最後に俺の意識は堕ちた。




~主人公の簡単な容姿説明等~


名前:フリード・リヒ
破面ではなく最上級大虚なので番号や帰刃等はない。


スターク、ハリベル、バラガンの三人と同じように藍染がくる以前から虚圏にいる最上級大虚。そのため三人とは遠慮なしに口をきける関係。
白い肌に顔の左半分を隠す仮面と右半分が金色、左半分が黒色と二分されている髪が特徴。



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フリード・リヒという最上級大虚 2

フリードの能力の名前がまだ決まっていない今日この頃


追記:誤字脱字の訂正及び機能していなかったスクリプトを機能するように修正しました。 2017/12/22


フィンドール「さようなら、名前の知らない最上級大虚(ヴァストローデ)

 

 

 フィンドールの内心は目の前の男のように二分していた。一つは大いなる失望。

目の前に倒れ伏す半仮面の虚は、己の神であり虚圏(ウェコムンド)の神でもあるバラガン・ルイゼンバーンに対し考えられない程の軽口をたたき、あまつさえクソジジイとまで形容した。それ以外にも、彼直々による再三の命令(スカウト)にも背き続け、今日に至っては一度自分の居場所まで自ずから足を運んだ(バラガン)を再びこの第二刃宮まで移動させたという。

 

 

そんな彼に対する憎悪と怒りの一部は先程彼に直接ぶつけた。本来ならば、あれ以上をぶつけたいが下手に時間を費やしているうちに挽回の一手をこうじられては困るため、程々にして勝負の決着を優先した。

 

 

 二つ目は絶頂するほどの歓喜だった。この戦は云わば自分たち従属官(フラシオン)の堪えきれない苛立ちなどが主に認められた結果用意された場である。つまり、それはこの戦いは単なるいつも通り(日常)ではなく、従属官(フラシオン)の総意が結集した戦であり、自分という存在をバラガン()に誇示できる千載一遇のチャンスなのだ。

 

 

 実際、この戦に従属官(フラシオン)代表として出たいとバラガンに主張した者たちは彼以外にもいる。シャルロッテ・クールホーン、アビラマ・レッダー、ポウなどは数ある従属官(フラシオン)の中でも屈指の実力の持ち主だったが、今回の戦は他の誰でもないバラガンの指名でフィンドール・キャリアスに決まった。

 

 

 そんな経緯と開始前の期待を寄せているという言葉。そして、そんな重要な戦で勝利を目前にしているというこの状況。今この瞬間の彼はまさに天にも昇るほどの狂喜を味わっている。もちろん、それは表に出さないが、観客である従属官(フラシオン)たちを見る視線にはそれが痛いほど感じ取れる程に含まれていた。

 

 

フィンドール「僕の…勝ちだァァ!」

 

 

???「それはどうかなぁ~」

 

 

フィンドール「なにっ!」

 

 

 絶対の勝利を確信しそれを現実にするため仮面にあてていたサーベルを振るおうとする。しかし、フィンドールの四肢はピクリとも動かず、己の顔面についている仮面はまだ半分ほどその白い面を残したままだった。なぜならフィンドールの両腕には霊圧で出来たしめ縄のようなものが幾重にも巻き付けられており、それが自分の刀が刺さっている空の人形に絡みついていた。さらには、首元には何者かの足が後ろから絞めるように撒きついていて、首一つまともに動かすことすらできなくなっていた。

 

 

フィンドール「なぜだ!なぜ動かない!!」

 

 

???「悪いけどそれ以上俺との共通点(その仮面)を剥がさせるわけにはいかないなぁ~」

 

 

フィンドール「誰だ!僕の戦いを誰が邪魔している!!」

 

 

???「誰とはずいぶんなご挨拶だな、だが許そう。確かに俺はお前に名乗ってなどいなかった。故にお前が俺の名前を知らないのは当然というもんだ」

 

 

フィンドール「姿を現せ!」

 

 

???「自己紹介が遅れたことを詫びさせてもらおう。俺の名はフリード・リヒ。この虚圏(世界)でただ一人、破面(アランカル)になっていない最上級大虚(ヴァストローデ)だ」

 

 

フィンドール「な、貴様はッ!」

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

フリード「オイオイオイ、何もそこまで驚くことはないだろう。同じ半仮面どうし、金髪どうし、仲良くしようぜ?俺はお前に親近感を抱いてるんだから」

 

 

 フィンドールの首に巻き付き、フィンドールの露わになっている眼球に自分の眼球をぶつけるのではないかと思うほど肉迫したその男の正体は、つい先刻まで自分が圧倒し、今もなお自分の刀に刺され、四肢の動きも封じられ、ただ殺されるのを待つだけだったあの最上級大虚(ヴァストローデ)と全く同じ姿格好をしていたのだ

 

 

フリード「フーム、なぜお前がそこにいるんだって顔だな。俺もお前のその謎に答えてやりたい!解答を、お前でいうところの正解(エサクタ)を教えてやりたいがな?それはできないんだ。なぜなら、俺は既にお前に正解(エサクタ)を教えているからなぁ」

 

 

フィンドール「どういう・・・ことだ!?」

 

 

フリード「それじゃあ復習問題だ。俺の能力はなんだったか言ってみな」

 

 

フィンドール「貴様の霊圧を元に…それを固形化すること」

 

 

フリード「はい大正解!まったくもって素晴らしい回答だ。教科書どころか歴史書にでも載せたいほどの・・・これ以上ない素晴らしく的を射た回答だ。そんな優等生君にアドバイスだ。いいか?ここで肝心なのは()()()()()()()という点ではなく()()()()()()()()という点だ。具象化ではなくて、俺ができるのは()()()()()()()だ。この意味が分かるか?」

 

 

フィンドール「つまり…」

 

 

フリード「つまりだ、優等生のフィンドール。俺の能力をもってすれば()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を創ることも容易というわけだ!アハハハハハ!!」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

__自分と同じ姿をした分身体を創造可能。最上級大虚(ヴァストローデ)はそう言った。なんだそれは、闘いの根底が覆される。そんなことがあっていいものか。そんな能力があっていいものか…。

もし、この男の言う事が事実なら、俺はいったい何時から眼前で狂笑をしている男に少し劣る分身体を相手にしていたのだ。

 

 

いや、そんな事ではない。それが重要なのではない。いや、確かにそれも恐るべきことだが、なによりも畏れるべきことは・・・破面(自分)と同等の威力を持つ虚閃(セロ)最上級大虚(ヴァストローデ)の分身体。それも、本来よりも力が劣る分身体が放ったという点だ。

 

 

__勝てない。本能的にそう悟った。自分もいまだ全力ではないが、先程から俺の腕と首を絞めつける力は指一本どころか筋肉一つすら動かすことができない。まるで締め付けられた先からは機能が壊死しているかのように、一切の電気信号を許さない。そんな男相手にはたとえ全力になろうとも勝てる見込みがない…。

 

 

 自分は、バラガン陛下が彼をそこまで欲しがる理由はその応用がききすぎる能力だと思っていた。()()()()()()()()()()()。しかし、実際はそうではなかった。フィンドールはそのことをこの後すぐに身を以て体感することになる。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

フリード「さて、フィンドール。さっきも言ったが俺はお前に()()()()()()()()()。その理由は至極単純だ。俺とお前には見た目の共通点が多い。顔の半分を隠す仮面、金髪。特に仮面に関しては大きな共通点だ。まるで親子みたいにな」

 

 

 

 フィンドールの首に両足を掛け、猿のようにぶら下がりしばらく遊んだ後、フリードは腹筋で起き上がり、フィンドールの残った仮面に片方の手をかけ、もう片方の手に己の能力で創造した刃こぼれが酷い一つの刀を手にもち、その柄をフィンドールの仮面に割れない程度の力加減であてながら話をつづけた

 

 

フリード「お前の神が俺と同じ最上級大虚(ヴァストローデ)だった頃の姿を知っている俺だから言うが、破面(アランカル)になる前と以前ではその見た目に多少の差異が出る。しかもそれは個人差がある。云われなきゃ気づかねぇほどの変化しかしない奴もいれば、バラガンみてぇに別人じゃねーの?ってレベルで変わるやつもいる。つまり、俺が何を言いたいかわかるか?」

 

 

フリード「つまりだな?それだけ俺とお前の共通点は奇跡的って訳だ。俺たち(ホロウ)が人間のころの記憶を思い出すみてぇに。天文学的数値と言ってもいいくらいに。だが、お前はそんな数値の奇跡に対し何の有難みも感じず、かといってそれを尊ぼうという気概もなく、ただ単に俺がお祝いに拵えた特製人形を散々痛めつけた」

 

 

フリード「その一部始終を見ていて、俺はとても心が痛んだ。今もなおお前の刀が突き刺さっているそこの人形が殴られてるってのに、俺の体にはそいつが感じた以上の傷みが、他の誰でもないお前から浴びせられていた。俺の心は外の空よりも暗く、お前の主の声よりも重く、お前の蚊にも劣る攻撃の何万倍の攻撃よりも痛かった。」

 

 

フリード「でも、その痛みが、苦しみが、俺に一つの昔話を思い出させた。だからこれはお前から俺へのプレゼントだと思うことにした。だがな、プレゼントってことはつまりは贈り物だ。俺はお前からこれで二つも贈り物をされたことになる。一つはこの天文学的数値の奇跡。外の砂漠から一粒の砂粒を救い出すよりも高難易度な出会い。何度も言うがこれはお前に感謝しかない、ありがとう」

 

 

フリード「そしてもう一つがこの昔話だ。これだけ貰っておいてなんだが、おれには何もお前に返すべき物はない。これだけの恩人の命を狙う訳にもいかないし、なにより俺はこの出会いの奇跡をみすみす失うような真似を俺からはしたくない。だから…こんなものをお返しとするのはおかしな話だが、お前にその昔話をすることにした」

 

 

フリード「昔々…と言っても俺たちみたいな奴から比べたらごく最近だが、人間基準で考えるとそりゃあもう気が遠くなるようなほど昔の話だ。あるところにガラスの職人がいた。ああ、この宮にもいくつかあるあのガラスだ。あれを作るのがべらぼうに上手い奴がいた。そいつの腕は世界中。いや、宇宙にすら名を轟かすと言われるほどだった」

 

 

フリード「光沢、艶、輝かしさ、透明度、強度。その他様々な点で、そいつの作ったガラスは他の職人の追随を許さなかった。そいつが作っただけで一枚百円のガラスが云百万にもなるとかならないとかいう噂が立つほどだ。金に換算するってのはいいな、俺らみたいなド素人でもその驚愕さが理解できる」

 

 

フリード「そんなある日、そいつ以外のガラス職人の奴らがそいつの製造工程を見に行くことになった。技を盗んで殆ど市場を寡占されていた状況をどうにかしようって魂胆だ、建前上はな。当然真意は製造中の事故に見せかけてそいつを殺しちまおうって腹さ」

 

 

フリード「その天才職人様はそんなことは毛ほども知らねぇから、そいつらを自分の工房に招き入れていつも通りの仕事を見せてやった。その天才様は勝手は知らねぇがガラスを釜で創っててな、多少なりとも霊力とかそういう特別な力が使えたのか、鉄の棒に液体を塗って、それを釜に突っ込んで熱すれば何百万のガラスが出来上がるっていう工程だったそうだ。その工程を知る人間の一部はそいつの事を魔法使いと呼ぶ奴もいたらしい」

 

 

フリード「だが、そんな事よりもその殺人犯集団が驚いたのが、窯に棒を突っ込んでいる時の天才様の様子だ。普通は膝を折るなりして屈んで中の様子を見るってもんだが、その天才様は常人とは違った方法で窯の中を覗き見ていたらしい。どうやってたかわかるか?」

 

 

フィンドール「しった・・・ことか」

 

 

フリード「なんとその天才様は、鉄も溶かす程の高温の釜の中に突っ込まれた棒を自分の顔の上に持っていったそうだ。つまり、その棒を見上げるように自分の顔を窯に近づけたってことだ!ハッハ!狂ってやがる。そんな方法で作ってちゃあ、そりゃあ常人には真似できない一品ができるってもんだな」

 

 

 

フリード「その殺人集団も最初は驚いたが、その狂気に中てられたのか、殺人衝動がムクムクと…。発情期の猿の性欲みたいに沸いたらしい」

 

 

フリード「その殺人集団は、下から舐めまわすように鉄の棒を魅入る天才様の顔を窯に押し込んで顔を焼き焦がした後、保冷剤代わりと称して完成して球体になったまだ冷え切っていないドロドロのガラスを、天才様の顔半分に塗り付けたって話だ!ハーッハッハハ!!最高にクールな話だろ?」

 

 

 

フリード「ま、当然その天才様は死んだんだが、この話が面白いのはこっからさ。その天才様の顔に塗りたくられたガラスは、その天才様のどんな作品よりも高く値が付き、一説では億の値がついたとも云われてる。そして、天才様を殺したその殺人集団もまた相次いで不審死を遂げた。死因も犯人も殺害方法も、何一つ原因解明につながるもんは分かってないが…。一つだけ、殺人集団の死体全てに当てはまる()()()がある。それはなんだと思う?当ててみな、フィンドール・キャリアス」

 

 

 

 そこまで長々と狂った硝子の小話を話したフリードは、首の締め付けを少し緩め、フィンドールがまともにしゃべれるように取り計らった。フィンドールは数回咳き込んだ後、死を回避するためその頭を今まで以上に働かせたが、終ぞ答えがその口から出ることはなかった。彼は目の前の最上級大虚(ヴァストローデ)に、その瞳に映る破面(自分)に対し、ただ沈黙しか返すことができなかった

 

 

フィンドール「……」

 

 

フリード「不正解(ノ・エス・サクタ)。沈黙が正解になるのは期間限定だぞ?まぁ、いい。お前は俺の恩人だからな、その特例を認めよう」

 

 

フリード「では、正解発表だ。それらの死体にはな、顔にあるあるモノが欠けていたんだ」

 

 

フリード「それは、(俺たち)にも、死神にも、人間にも。どいつにもこいつにもあるモノで、ガラスのように綺麗で美しく、透明で周囲の風景を映し、世界を作るもの__」

 

 

フリード「欠けていたのは、眼球だよ。フィンドールくん」

 

 

 その台詞と共に、フリードは刃こぼれした刀をフィンドールの仮面の上。丁度眼があるであろう場所に立て、黒板をひっかいた時とのようなあの嫌な音を立てながら、その仮面を()()()()()()

 

 

フィンドール「・・・やめろ」

 

 

フリード「しかも、その抉りとられた眼は死体のそばに置かれたガラスのコップに、さも宝石のように置いてあったそうだ。それを知ったガラス職人共は皆口を揃えてこう言った。『天才様が今度は眼を使って作品を作るつもりだ』ってな。それ以来、その天才様がいた町ではガラス職人が消え、ガラス産業は衰退の一途を辿り、最後にはなくなったそうだ。どうだ、面白れぇだろ?」

 

 

フィンドール「・・・やめろ。私はその殺人集団ではない」

 

 

フリード「その一連の事件から数十年立ったある日、その街の近くではこんなうわさが流布したそうだ。例の天才様の死体は顔半分が跡形が消えるほどに黒く焼けおち、もう半分はガラスの液体と髪の毛と血が乱雑に入り混じってそれはそれは美しい金色をしていた。ってな」

 

 

 

フィンドール「まさか。貴様…が!やめろ…やめろォォォぉ!!」

 

 

フリード「・・・ところで、今ここまで肉迫して初めて気が付いたんだけどよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フリード「お前の眼…宝石みたいに綺麗だよな」

 

 

 

フィンドール「ヤメロォォォォォォォォォオオォオォォオッォオオオオ!!」

 

 

 

 その日。第二刃宮殿で行われた殺し合い(日常)従属官(フラシオン)たちにとっては非日常だった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フリード『アハッ♪アハハハハハッ!アハッアハツアハハハハハ!!アッハッハアハハハァハッハハ!!!』

 

 

 

 映像に映る最上級大虚(ヴァストローデ)はこれまで聞いたことのない狂嗤をあげている。普段、表情をあまり表に出さない自分でもさすがに今行われた狂劇にはその面相を崩すほかない。

 

 

 

市丸「うっわ、えげつな。動けんようにしてから眼の上の仮面を刃こぼれした刀で削って、最後に眼球サイズの穴開けてそこからこぼれた刃だけ見せてあのセリフ言うとか…。あれが最上級大虚(ヴァストローデ)のやることかいな。フィンドールは泡吹いて倒れてるし、バラガンの従属官(フラシオン)全員引いてるやん」

 

 

藍染「あれが彼の本性だよ、ギン。彼がああであるからこそ、僕は彼を欲しているし、バラガンもまた彼を欲している」

 

 

市丸「せやかて藍染隊長?あれはあきません。危険すぎます。そもそも、あの子。いつから分身体やったんです?」

 

 

藍染「最初からさ、バラガンが彼に話しかけてからフィンドールに殺されかかるまで。その全てが分身体を使ったブラフさ」

 

 

市丸「そんな前から…。バラガンはきづいてたんですか?」

 

 

藍染「当然だろう。故に彼は、彼のスカウトを辞め彼の言う通りに行動した。そうしなければ、本体である彼自身に出会えないからね」

 

 

市丸「でも、性格はともかく能力は確かに便利そうですわな。自分の霊圧を形にする。フィンドールと渡り合えるほどの戦闘力を持った分身体も作れる。ええことづくめですわ」

 

 

藍染「彼のほどの霊圧の持ち主ならおそらく、フィンドールレベルの分身体ならあと千体ほどは余裕で創造可能だろう」

 

 

市丸「千体って…。それ本気で言うてますの?」

 

 

藍染「無論だ、彼はこの虚圏(ウェコムンド)にいる(ホロウ)、そして十刃(エスパーダ)を含む破面(アランカル)の中で一番の霊圧の所持量を誇るのだから」

 

 

市丸「そんな子を破面(アランカル)にしたらえらいことになりそうですね」

 

 

藍染「全くだ。そして、それをしてしまえば彼は彼の生き様に反してしまう。故に彼は未だ最上級大虚(ヴァストローデ)のままでいる」

 

 

市丸「生き様?あの子にそんなもんがあるなんて初めて知りましたわ」

 

 

藍染「これはもはや()()()なんてれべるではないがね。彼の場合、それはもはや十刃(エスパーダ)たちが司る()()()と同等のものだろう」

 

 

市丸「なんですの?藍染隊長がそこまで言う()()()()()って」

 

 

藍染「彼の生き様は『平穏』だよ。彼は純粋にそれを求め、それを受け入れ、それを許容し、それを強奪し、それを習得し、それを用いて殺すのさ」

 

 

市丸「なんですの、平穏って。そんなん死とは正反対と言ってもいいもんやないですか」

 

 

藍染「その通りだ。それは死とは対極の方面に位置する概念だ。だが、彼の場合はそれが最もふさわしい。彼のそれに対する愛憎は本物さ」

 

 

市丸「……ねぇ、藍染隊長」

 

 

藍染「なんだい、ギン」

 

 

市丸「…さっき彼が話してたガラス職人の話。あれってホンマですの?」

 

 

藍染「まさか。作り話だよ。彼はあの素晴らしい能力も、自分の名前も、全てが遊び道具に過ぎない」

 

 

市丸「なんや、嘘かいな。せやがて、名前まで遊び道具ってことは、言葉遊びかなんかってことですか?」

 

 

藍染「その通りだ。彼は平穏にだけは真摯だが、それ以外は何もかもいい加減な最上級大虚(ヴァストローデ)だ」

 

 

市丸「そうですか…。僕もあの子の事少し気になりましたわ」

 

 

藍染「覚えていて損はないだろう、ギン。さ、そろそろザエルアポロ君の実験結果が出る頃だ。お茶を淹れて迎えようではないか」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

フリード「あー楽しかった。これほどまでに笑ったのは久しぶりだ」

 

 

バラガン「フン、相変わらず歪んだ性格をしておる」

 

 

フリード「こうなることを知っててそのまま黙認したお前に言われたくないわ」

 

 

バラガン「あの程度の分身を見抜けぬ程度では、こ奴らも貴様と同じ小童じゃということだ」

 

 

フリード「俺を試験管にするなよ…。第二刃宮殿出てきてまで会いに来たから何か妙だとは思ったが」

 

 

バラガン「毎日放浪しているヨリはよほど有意義じゃろう」

 

 

フリード「決まった場所から動かずにいたら違う()()を知れないだろうが」

 

 

バラガン「…そこまでして儂やボスの下につきたくないというか」

 

 

フリード「生憎、俺は平穏に関してだけは独占したくてね。誰かの下について分け前を貰って満足するような男じゃないんだわ」

 

 

バラガン「...」

 

 

フリード「だが、俺はそうだと知っていてもやり方を変えないお前らは好きだぞ。それもまた虚圏(ウェコムンド)の平穏の一部だからな」

 

 

バラガン「…貴様は何を考えている。貴様はそこまでして何がしたいのだ」

 

 

フリード「オイオイ、何度も言わせるなよ」

 

 

フリード「俺は平穏()に殺されたいのさ。俺は()()を探し、()()の中で生き、()()の中で死にたい。それだけだ」

 

 

バラガン「…貴様のような狂人にそんなものがくるものか」

 

 

フリード「()()かどうかじゃない、()()()()んだ。じゃ、そういう訳でまたな老王。もう二度とお前の殺し合い(暇つぶし)に巻き込むんじゃねーぞ。」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 響転(ソニード)で第二刃宮殿から虚夜宮(ラス・ノーチェス)の廊下に出て、適当に練り歩く。勝手知りたる城という訳ではないが、適当にぶらつく。

俺が知る中で最も多くの従属官(フラシオン)を持つバラガンのところで、その配下全員の心に()を知らしめてやったので、道に迷ってもすれ違う破面(アランカル)達が畏怖し、俺に()()()()()()()()()()()()()。それくらいの有名人にはなっている・・・はずだ。

 

 

 そして運よくこの予想はすぐに的中することになった。というのも、俺が知る数少ない奴の一人に早速出くわしたのだ。うん、やはり善行は積むものだ

 

 

 

???「げ。嫌な奴にあった」

 

 

フリード「リリネット・・・。いいところにいたぁ…」

 

 

 そいつはさっきまでいたバラガンよりも強いとされている破面・No.1(アランカル・プリメーラ)コヨーテ・スタークの従属官(フラシオン)(のような何か)というちょっと特殊な立ち位置にいる奴だ。

いうなればそいつは俺と同じように虚圏(ウェコムンド)において唯一無二の存在であり、そういう点で俺はこいつを何かと気に入っている。本人にその気がないのは少し不満だが、それがリリネットの()()なのだから、仕方ない。それならば、俺はそれを受け入れるしかない

 

 

リリネット「やめろ、その不気味な笑みを今すぐやめろ。その如何にも悪戯を考えているような不気味な顔をやめろ。そんな顔はアタシみたいな女の子が遣るからいいもんで、お前みたいな半分マスクの変態がやっても、怪しさが三倍増になるだけだからやめろ。そして、今すぐ回れ右をして帰れ。いや、虚夜宮(ラス・ノーチェス)から出ていけ!」

 

 

 

フリード「三秒間待ってやる」

 

 

リリネット「少な!相変わらずスタークより大人げないな、フリード!!」

 

 

フリード「1、2・・・」

 

 

リリネット「ぬわーっ!ちょっと待て!ちょっと待って!!今逃げるから!!」

 

 

フリード「3!」

 

 

リリネット「スタークーーーーーッ!!」

 

 

フリード「逃がさないぞォ…。リリネェットォォオオオ」

 

 

リリネット「無駄にねっとりと私の名前を言うな!!助けてスターク!変態に犯される!!」

 

 

 もちろん俺に本気で彼女を捕まえる気はない。ただ、こうすれば彼女は必ずスタークの元へと逃げるので、それを追いかければスタークのいる第一刃宮殿に辿り着くという寸法だ。

決して、リリネットの反応が面白いからなどという失礼極まりない理由はない。

 

 

 

 

 

 

 

 




憐れなりフィンドールさん。
ちなみに、彼の剥がれた部分の素顔はフリードの能力により創られた仮面により再び隠されました。
霊圧?…PTSDかなんか発症してフリードの仮面付けてる限り自ら抑え込むでしょ(適当


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