大空を陰から支える蜃気楼 (itigo_miruku121)
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プロローグ
大空を陰から支える蜃気楼 プロローグ


暇つぶしになれば僥倖です



俺は殺し屋だ。でも名前はない…

 

 

「……」

 

 

目の前には俺が今さっき殺した人間が臓物をぶちまけながら倒れている。その腹部からは赤黒い血がとめどなく溢れ出て、照明の光を受けて眩い光を反射する白いタイルの色を塗り替えていく。

 

 

一方の俺は目前にある汚らわしい人だったものとは正反対に、綺麗なままでこのままパーティー会場に赴いても恥ずかしくない清潔さだった。

 

 

「…依頼終了・・帰るか」

 

 

俺は醜い死体を一瞥した後、偽名と偽物の戸籍で宿泊している安宿へと歩みを進める。

俺はまだ成人を迎えていない。だが、自分の手で人を殺めることに何の後悔も躊躇いもない。

その理由は、やはり俺の出生だろう。

 

 

俺の生まれた世界には一つの常識があった。それは…

 

 

『殺した奴が正義、殺されたならそいつが悪』

 

 

というものだった。

 

 

こんな常識がまかり通る世界に住む人間はどいつもこいつも頭のおかしな連中だった。

 

 

毎日新しい死体の山が上がっては、その死体の山から一つの死体を取り出し「こいつを殺したのはこの俺だ!」と高らかに宣言する奴

 

 

それを聴いて羨望の眼差しでそいつを見つめる奴

 

 

宣言した奴を称賛し、賞状を進呈する役人

 

 

宣言した奴に嫉妬し、後日そいつを殺すやつ

 

 

ただ単に殺しを楽しんでいる奴

 

 

他にも色々とどうしようもない屑が集っていた。そしてそれは、俺の両親にも当てはまった。

 

 

俺の両親は「俺を殺すため」に俺を産んだ。生まれた子供がこの世界の常識を理解した瞬間、母親と父親が全力でその子供の息の根を止めに来る。理由はさっき並べた屑どもと同じだ。

 

 

その場合、その子どもが助かるには二つの方法しかない。

 

 

一つは、子どもを殺したという「実績」を得るために両親が争い相打ちになること。

だが、これは確率が低いうえに、相打ちになることは殺されるよりも馬鹿な事とされているこの世界では誰しもが避けることだった。

 

 

そして、もう一つは……子が親を殺すことだ。

この世界ではとどめを刺した者が称賛される。例え九割を第三者がやっていようと、残り一割を自分の手で行えばそれはそいつの手柄になる。

 

 

つまり、本能を頼りに両親を互いに消耗させて、最期のトドメを自分の手で刺せばいいのである。だがこれは一つ目の方法よりも可能性が低く、成功例がないと言ってもいいほどだ。

 

 

俺は運が良かったのか前者で切り抜けられたが、一難去ってまた一難というのだろうか。次の危機はすぐさま訪れた。屑どもの一人が俺を殺そうとしたのだ。「相打ちする親の子なんて死んだほうがマシ」という理由と共に…

 

 

俺は必死に逃げた、文字通り命懸けで。子供でも通れないような裏路地をたくさん通り何とかその屑から逃げ切った。その後の俺は生きるために文字通りなんでもした。

 

 

飢えをしのぐために道端に転がる人の死肉や臓物を喰らい、喉の渇きを潤すため血やドブ水、下水をたらふく飲んだ。当然、感染症や変な病気を何回も患ったが次第に体に抵抗ができたのか、しばらくするとそういった類のものを食べても何も異常をきたさないようになった。

 

 

餓死することを防いだ俺が次に覚えたのは、人を殺す方法だった。

幸い、見本は毎日そこら中で見ることができる。俺は町を駆けずり回り、いろんな奴のいろんな殺し方を見てきた。そしてスポンジが水を吸うように次々とその技術を自分の物にしていった。

 

 

そうして俺はいつしか、町でも有名な殺し屋になっていた。貴族や豪族、女子供はもちろん場合によれば依頼主まで誰でも殺す殺し屋だと。

 

 

確かに俺は過去に依頼主を何回か殺したことはあるが、それはどいつも依頼金を踏み倒すために俺を殺そうとした奴だ。所謂正当防衛ってやつなんだがな…噂に尾ひれがついて気が付いたらこのありさまだ。

 

 

そんな俺を当初、人々は「殺し屋」と呼んだ。俺はその呼び名が嫌いだ、それは職業の名前で会って俺個人の名前じゃないからな。まぁ、俺の名前を付ける前に両親が死んじまったから仕方ないんだが、やはり名前がないってのは腑に落ちないものだ

 

 

俺はそれ以降、「名前」を欲した。仕事の依頼者にも、標的にも必ず『あんた・・俺の名前を知ってるか?』と尋ねるようにもなった。無論、親でもない他人が俺の名前など知る由もなく、誰も彼もまともに相手をしなかった。

 

 

それが悔しくて哀しくなった俺はさらに仕事に没頭するようになった。

 

 

名前がない苦しみから逃れるために仕事をする、仕事をしているときはその苦しみから逃れられる、だが仕事お終えた途端苦しみが倍になって襲ってくる、それから逃れるために仕事をする……

 

 

その無限ループを繰り返すうちに俺は最終的に「名前のない怪物」と呼ばれた。俺はいよいよ「人間」でも「殺し屋」という職業でもなく、ただの「怪物」になり果てたのだ。

 

 

そんな怪物の凶行を止めたのは一人の胡散臭い男だった・・・

 

 

「待っていたぞ、調停を乱すものよ」

 

 

「……誰だ、お前」

 

 

その日の仕事を終え、安宿に戻った俺を待っていたのは古びた木造で、壁や天井には所々に穴が開き、そこから隙間風が絶え間なく吹き抜ける宿泊部屋には似合わない、それはそれは大層豪華な宝石や貴金属などといった装飾品や貴族同士の宴で主賓が着ていそうな服を身にまとい、右手には金色に輝く天秤を持った男だった。

 

 

「私はこの世界の調停者。お前はそれを乱すもの。私はお前をこの世界から追放するために来た」

 

 

「……俺は神とか信じてねぇぞ。つーか調停者だから天秤持ってるって安直だな」

 

 

「お前がこれ以上殺めてはこの世界だけではない・・平行世界の調停が取れなくなってしまう」

 

 

「……この世界で人殺してるのは俺だけじゃねーだろ。文句があるならかかってこい」

 

 

そういって俺は殺気を針のように研ぎ澄ませ、目の前の胡散臭い男に向けた。しかし、男は身構えるでもなくそのままの姿勢で話をつづけた。

 

 

「愛を知らぬ哀しき男よ。せめてお前を包むことができる者がいる世界に送ってやろう」

 

 

「上等だよ・・何ならそいつが俺に名前を付けてくれるとなお有り難いね」

 

 

俺は皮肉と自虐の意を込めてそう口にした。すると男は「案ずるな」とだけ口にして天秤を揺らし始めた

 

 

「なにしてんだ・・・お前……」

 

 

天秤の揺れが大きくなるにつれ俺の意識は遠のいていった。

 

 

「お前の願いは聞き届けてやった。お前に名前を与える者をお前が支える限り、そのものはお前の唯一の味方になってくれるであろう」

 

 

その後はぱたりと意識が途絶え、視界は暗い闇が支配し、男の最後のセリフがその闇の世界に木霊した

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

???「くん」

 

 

誰だ・・

 

 

???「…くん!」

 

 

誰の声だ・・・

 

 

???「くんってば!!」

 

 

誰を呼んでる・・・

 

 

???「みず君ってば!!!」

 

 

俺は先程から響く声がだんだん大きくなっていくにつれ、途切れていた意識も取り戻していった。

 

 

「頭いてぇ……ってかさっきから誰だ・・誰が誰を呼んでやがる」

 

 

???「俺だよ・・俺が君を呼んでるんだよ。清水君!」

 

 

「お前は・・・誰だ?。ってか清水って誰だ??」

 

 

目を覚ました俺に飛び込んできたのは、学校のとある教室内の光景だった。そして先ほどから響いていた声は俺の目の前の席に座っているツンツン頭の男の声だった。

 

 

???「えっ!?俺の名前忘れたの…名簿君の前なのに……。というか今自分の名前すら誰って言ったよね!?」

 

 

「……わりぃ・・忘れた。でもさっきの文脈から察するに清水ってのが俺の名前なのか?」

 

 

???「そうだよ!それじゃあ改めて自己紹介するね。俺は沢田綱吉、通称ツナ。(以下ツナ)よろしく」

 

 

???「全テストの平均点17.5。跳び箱は三段まで。何をやってもダメダメのダメツナだ。」

 

 

綱吉と名乗る目の前のツンツン男は初対面の俺に、まるで友達のように話しかけ自己紹介をした。そして、それに続く形で俺の机からスーツ姿の赤ん坊が現れ、補足しなくていい情報を補足してきた。

 

 

ツナ「リボーン!またそんなところから現れて!!っていうか、俺の恥ずかしい情報暴露するのやめろ!!」

 

 

リボーン「うるせぇダメツナ。悔しかったらちったぁ成長しやがれ!!」

 

 

リボーンと呼ばれた赤ん坊は俺の頭に乗っかり、ツナの頭頂部にかかと落としを決めた。ツナの反応と足を振り下ろす際の勢いから見るに加減はほとんどないようだった。

 

 

清水「……とりあえず人の頭に勝手に乗るのはやめろ」

 

 

リボーン「わりぃ。ちょうどいい高さだったんでな」

 

 

清水「……で、今は何の時間だ?」

 

 

リボーン「ん?今はただの休み時間だぞ。清水が朝から寝っぱなしだったんで心配したツナが声をかけただけだ」

 

 

清水「そうか…そりゃ心配かけたな」

 

 

ツナ「イテテテテ……別になんともないならそれでいいんだけどね。朝からずっと倒れ伏したままだったから心配で…」

 

 

清水「別に何でもない……昨日ちょっと徹夜しただけだ」

 

 

リボーン「にしても清水…お前なかなか肝が据わった奴だな。俺が急に表れても驚きもしねぇとは」

 

 

清水「………別にそうでもねぇよ。寝起きで頭が動いてねぇのと、元来感情を表に出すのが苦手なだけだ」

 

 

リボーン「……」

 

 

リボーンは黙って俺の目を見つめてくる。俺は目前に立つ赤ん坊から目を逸らせなかった。

 

 

耐えきれなくなった俺は口を開き思い出したかのように話をつづけた。

 

 

清水「さっきツナが言ってたが、清水ってのが俺の名前なんだな?」

 

 

ツナ「うん、清水。清水健人ってのが清水君のフルネームだよ」

 

 

清水「・・・・・そうか・・・そりゃあ・・いいな」

 

 

清水(名前がある…俺だけの・・自分だけの名前が…ほかの誰でもない…俺の名前が‥‥

転生前はどれだけ欲しても手に入れられなかったものが・・この世界では最初からある。)

 

 

俺はあまりの嬉しさに目頭が熱くなるのを感じた。涙をこらえている顔を見られたくない俺は再び、顔を伏せた。

 

 

清水「ありがとうな…ツナ。・・・本当に・・ありがとう」

 

 

俺は涙声にならないように気を付けながらツナに礼を言った。

 

 

リボーンがコイツ本当にどうしちまったんだ?とツナにきく声が聞こえたが俺は気にせず心の中で伝えきれないツナに対する感謝の気持ちを言葉にしていた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

俺はいつの間にかまた眠ってしまっていたのだろう。目を覚ますと先程までいたツナとリボーンの姿は消え、教室内に残っているのは俺一人だった。

 

 

清水「……帰るか。授業も終わったぽいしな」

 

 

時計と授業時間帯表を確認した俺は既に一日の授業時刻が終了していることを確認し、荷物をまとめて帰り支度を進めた。

 

 

清水「・・・でも、俺ってこの世界だとどこに帰ればいいんだ?」

 

 

帰り支度を進める中で肝心なことに気が付いた俺は鞄の中にあった財布の中身を確認した。

財布の中にはそれなりの金銭が入っていた。おそらく、転生前と同じように宿を転々としろと言う意味だろう。

 

 

清水「中学生が家無しって…大丈夫なのか?……まぁ、いいや。飯でも食ってから考えるか」

 

 

そう決意した俺は財布を鞄の中に入れ、適当に商店街をぶらつくことにした。幸いホテルはすぐに見つかり、チェックインも簡単に済ますことができた。服装は制服のままなのだが…まぁ、そこはあの天秤を持った男がうまいこと行くようにしたのだろう。

 

 

清水「さーてと・・何食うかなー」

 

 

ドンッ

 

 

不良A「おい、兄ちゃん。ちょっと待てや」

 

 

チェックインを済ませた俺は財布だけを鞄に入れ、商店街へ繰り出した。

その道中、反対側から歩いてきた不良の集団に肩がぶつかり、その不良たちに呼び止められた。

 

 

清水「あー・・悪い。ぶつかった。怪我ないよな?んじゃあ俺、急いでるから行くわ」

 

 

不良A「待てっつってんだろ!!」

 

 

不良B「おい、兄ちゃん・・人にぶつかってスマンで済むわけないやろ!」

 

 

不良C「その制服…並中やな?風紀委員が強いからって調子乗ってんじゃねーぞ!!」

 

 

清水「へー・・俺の中学は並中って言うのか。そんで、風紀委員が強いのか……」

 

 

不良D「何一人でぶつくさ言うてんねん!!」

 

 

不良E「こっちはぶつかったこと謝れ言うてんねん!!」

 

 

清水「先程はぶつかってしまって申し訳ありませんでした。お怪我はありませんか?…見たところ特にないみたいなので安心しました。では、すみませんが自分は急ぎの用があるのでこれで失礼します。今後はお互いに気をつけましょうね」

 

 

不良A「丁寧な言い方に直しただけやろ!!」

 

 

不良B「おい、兄ちゃん。あんま俺ら舐めてたら痛い目見るで?」

 

 

清水「……チッ」

 

 

不良C「おい、今舌打ちしたか?したよな!」

 

 

不良D「……もう我慢の限界や!謝っても遅いで!!」

 

 

不良たちは一斉に殴りかかってきた。前世の身体能力がどの程度落ちているのかを試すためにした挑発にまんまと乗っかってくれたのはありがたい。それに自分がいる学校の情報も知れたのは大きい

 

 

清水「さて・・実験開s・・・・なんだ・・これ」

 

 

俺が体を動かそうとした瞬間、俺は体が全身藍色の炎に包まれたような感覚にとらわれた。

だが、その炎のイメージは俺を攻撃するのではなく、むしろ俺自身から発生し俺を覆うかのようにして燃え盛っていた。

 

 

そしてその炎のイメージはやがて、俺の意のままに操れるようになった。

試しに俺はその炎のイメージを小鳥の形にして、向かってくる不良たちの上空数メートルを飛ばせてみた。

すると…

 

 

ボコォ!!

 

 

清水「グハッ!」

 

 

俺は殴りかかってきた一人の不良の拳をもろに受け、ふっ飛ばされた。殴った不良はこいつ全然大したことないなどと調子図いていたが、俺は飛ばされる最中確かに見た。

 

 

イメージの中で作り上げた小鳥と全く同じ形の鳥が不良たちの上空を飛んでいたことを

 

 

その後も俺はこの不思議な炎の実態を知るべく、炎を様々な形にへと変形させた。

 

 

小鳥、犬、猫、車、バイク、自転車、店の看板、通行人……

 

 

そのたびに不良に殴り飛ばされたが、俺がイメージで作り上げたものは全て現実に現れていた。

 

 

清水(通行人が出現できたということは…人を出現させることができるということ!)

 

 

清水「ハァ・・ハァ・・・・ハァ・・・」

 

 

俺は肩で息をしながらも、頭の中にある事実に限りなく近い推測に口角が上がるのを抑えきれなかった。

 

 

清水(次は最終確認……こいつらのうちだれかをこいつらの前に出してやる……)

 

 

不良A「おいおい、あれだけ大口叩いてこんなもんかよ。拍子抜けだな!」

 

 

清水(来い!)

 

 

俺は勢いよく殴り掛かってきた不良を、先程よりも強くイメージして作り上げた。すると……

 

 

不良B「お・・おい…なんだよ・・あれ」

 

 

不良A「あぁ?どうしたんだよ」

 

 

不良C「なんで‥お前が・・・二人いるんだよ」

 

 

不良A「何言ってんだお前ら・・そんなことあるわけねーだろ」

 

 

不良D「だ、だったら!あれはどう説明するんだよ!!」

 

 

不良A「だから・・なにを説明するんだってn‥‥…」

 

 

不良A?「‥‥‥‥」

 

 

不良が振り返った先には自分と全く同じ顔をした自分の姿だった。それはまるで鏡に映った自分が実体化して目の前に現れたようだった。

 

 

清水(やっぱりそうか!俺は幻術能力が使えるのか!!)

 

 

俺は自分の中で建てた推論が事実そのものだったことに、内心ガッツポーズをした。

そして、もう一度自分が作りだした幻覚を見つめなおした。幻覚の不良はじっとこちらを見つめて視線どころか指一本動かさず瞬きすらもしなかった。

それはまるで創造主である俺の命令を今か今かと待ち望んでいるかのようにも見えた。

 

 

不良A「て、てめぇ!?な、な、な・・なにやりやがった!!」

 

 

目の前に自分と瓜二つの存在が現れた不良は、顔面蒼白で体をぶるぶると震えさせながら俺につかみかかってきた。

 

 

清水「知らねーよ……。というかさっきまでさんざん殴ってたのに・・急に態度変わってるな……どうした?目の前に何かいるのか?」

 

 

俺は見えている幻覚をあえて見えていないかのように装った。すると不良の顔はさらに青白くなっていき、俺の胸倉から手を放し、自分の幻覚を震える体と瞳で再度見つめた。

 

 

清水(今ので『見えているのはお前たちだけ』という暗示をかけた。次は…出てこい…そのほかの不良たちよ)

 

 

俺が頭の中でそう念じると、それに応えるかのように次々と目の前にいる不良たちの幻覚が現れた。

 

 

不良たち「「「うわぁああああぁぁぁぁぁぁアアアぁぁぁぁぁぁあ!」」」

 

 

不良たちは一斉に悲鳴を上げ、おのが正気を疑った。誰しも目の前に自分とそっくりな人物が現れるとそうならざるを得ないだろう。

 

 

次々と現れた不良たちも、最初に出てきた不良と同様、俺をじっと見つめて動かなかった。

だが、それが逆に不良たちに底知れぬ恐怖を与えていた…

 

 

清水(幻覚たちよ・・目の前にいる自分と同じ顔をした人間を攻撃しろ)

その瞬間、幻覚たちは今まで一ミリも動かさなかった視線を自分のオリジナルにむけ、そしてオリジナルに向け走り出した。

 

 

不良たち「「来たぞォォォぉおおぉォぉおおおぉォォオオオ!!」」

 

 

すっかり錯乱し、標的を絞ることができなくなった不良たちは自分に近づくすべての物に対し攻撃し始めた。それは迫りくる幻覚だけではなく、一か所に集まろうとする本能に逆らえないオリジナルも例外ではなかった。

 

 

清水「これは…すごいな……」

 

 

俺はただその乱闘を見守っていた。幻覚は正確無比に自分のオリジナルを攻撃するのに対し、彼らオリジナルは自分以外の全てが敵だとでも思っているのだろうか…近づく人間すべてに攻撃をしていた。それはまさに地獄絵図と呼ぶに相応しいものだった。

 

 

清水(そうだ…できるかどうかわからないけど…やってみよう)

 

 

俺はふと頭に思い浮かんだことを再び念じ始めた。これがもしできるのならこの力はとてつもなく応用が利く。それと同時にとても恐ろしいものになる。

 

 

清水(幻覚たちよ…‥できるのなら自分のオリジナルと同じ声で喋るのです。喋る言葉はそうですね……『馬鹿野郎!俺は本物だ!!』など・・この状況でさらなる混乱を招くことができる類の言葉にしなさい。そしてもう一つ、これもできればでいいのですが実体を持つのです。)

 

 

その瞬間、来るな!近寄るな!触るな!という声しか発せられていなかった地獄絵図から『馬鹿野郎!幻覚はあいつだ!!』や『いい加減沈め!幻覚が!!』などの声が聞こえ始めた。さらに、幻覚たちの攻撃が実体化したからだろうか。静止のセリフしか吐かなかったオリジナルたちが混乱により、言語能力を失くし悲鳴しか上げなくなっていた。

 

 

その地獄絵図はその後オリジナル全員が気絶するまで続いた。

俺は不良たちの幻覚を消え去り、これ以上の騒動を起こさないため学校内のポスターで見かけた風紀委員の幻覚を発生させた。

 

 

幻覚の風紀委員を見た商店街の人々は皆、面倒事に巻き込まれるのを避けるかのように、散り散りに散っていった。ほかの中学の生徒が知っているほど有名なのだから有効だと思ったがこれ以上だとは思わなかった。どうやら、うちの風紀委員の影響力は想像以上らしい。

 

 

俺は幻覚の風紀委員に気絶した不良たちを人気のない場所へと運ばせた後、当初の目的通り飯を食べに商店街へと消えていった。

 

 

 

だが、この時。散り散りになっていく人ごみの中に不穏の陰が確かに忍び込んでいたことを俺はまだ知らなかった

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

???「あれが……並中の風紀委員……。喧嘩ランキングでも上位に入る強さを持つ」

 

 

???「でも……俺たちが探している奴とは無関係」

 

 

???「とりあえず・・骸様に報告しないと。……シャワー浴びたい」

 

 

そう言って眼鏡をかけ、緑色の制服に身を包んだ男は商店街を抜け、道のはずれへと消えていった。

 

 

そして男の背後の壁には並盛中の制服を着た男が、全身を麻酔針のようなもので滅多刺しにされていた。

 

 

???「うぅぅ……逃げろ…………」バタッ

 

 

そう呟くと男は気を失ったのか道端に倒れた。そしてその男の胸ポケットからは、その男の生徒手帳が転げ落ちた。そこにはこう書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は殺し屋だ。でも名前はない…

 

 

「……」

 

 

目の前には俺が今さっき殺した人間が臓物をぶちまけながら倒れている。その腹部からは赤黒い血がとめどなく溢れ出て、照明の光を受けて眩い光を反射する白いタイルの色を塗り替えていく。

 

 

一方の俺は目前にある汚らわしい人だったものとは正反対に、綺麗なままでこのままパーティー会場に赴いても恥ずかしくない清潔さだった。

 

 

「…依頼終了・・帰るか」

 

 

俺は醜い死体を一瞥した後、偽名と偽物の戸籍で宿泊している安宿へと歩みを進める。

俺はまだ成人を迎えていない。だが、自分の手で人を殺めることに何の後悔も躊躇いもない。

その理由は、やはり俺の出生だろう。

 

 

俺の生まれた世界には一つの常識があった。それは…

 

 

『殺した奴が正義、殺されたならそいつが悪』

 

 

というものだった。

 

 

こんな常識がまかり通る世界に住む人間はどいつもこいつも頭のおかしな連中だった。

 

 

毎日新しい死体の山が上がっては、その死体の山から一つの死体を取り出し「こいつを殺したのはこの俺だ!」と高らかに宣言する奴

 

 

それを聴いて羨望の眼差しでそいつを見つめる奴

 

 

宣言した奴を称賛し、賞状を進呈する役人

 

 

宣言した奴に嫉妬し、後日そいつを殺すやつ

 

 

ただ単に殺しを楽しんでいる奴

 

 

他にも色々とどうしようもない屑が集っていた。そしてそれは、俺の両親にも当てはまった。

 

 

俺の両親は「俺を殺すため」に俺を産んだ。生まれた子供がこの世界の常識を理解した瞬間、母親と父親が全力でその子供の息の根を止めに来る。理由はさっき並べた屑どもと同じだ。

 

 

その場合、その子どもが助かるには二つの方法しかない。

 

 

一つは、子どもを殺したという「実績」を得るために両親が争い相打ちになること。

だが、これは確率が低いうえに、相打ちになることは殺されるよりも馬鹿な事とされているこの世界では誰しもが避けることだった。

 

 

そして、もう一つは……子が親を殺すことだ。

この世界ではとどめを刺した者が称賛される。例え九割を第三者がやっていようと、残り一割を自分の手で行えばそれはそいつの手柄になる。

 

 

つまり、本能を頼りに両親を互いに消耗させて、最期のトドメを自分の手で刺せばいいのである。だがこれは一つ目の方法よりも可能性が低く、成功例がないと言ってもいいほどだ。

 

 

俺は運が良かったのか前者で切り抜けられたが、一難去ってまた一難というのだろうか。次の危機はすぐさま訪れた。屑どもの一人が俺を殺そうとしたのだ。「相打ちする親の子なんて死んだほうがマシ」という理由と共に…

 

 

俺は必死に逃げた、文字通り命懸けで。子供でも通れないような裏路地をたくさん通り何とかその屑から逃げ切った。その後の俺は生きるために文字通りなんでもした。

 

 

飢えをしのぐために道端に転がる人の死肉や臓物を喰らい、喉の渇きを潤すため血やドブ水、下水をたらふく飲んだ。当然、感染症や変な病気を何回も患ったが次第に体に抵抗ができたのか、しばらくするとそういった類のものを食べても何も異常をきたさないようになった。

 

 

餓死することを防いだ俺が次に覚えたのは、人を殺す方法だった。

幸い、見本は毎日そこら中で見ることができる。俺は町を駆けずり回り、いろんな奴のいろんな殺し方を見てきた。そしてスポンジが水を吸うように次々とその技術を自分の物にしていった。

 

 

そうして俺はいつしか、町でも有名な殺し屋になっていた。貴族や豪族、女子供はもちろん場合によれば依頼主まで誰でも殺す殺し屋だと。

 

 

確かに俺は過去に依頼主を何回か殺したことはあるが、それはどいつも依頼金を踏み倒すために俺を殺そうとした奴だ。所謂正当防衛ってやつなんだがな…噂に尾ひれがついて気が付いたらこのありさまだ。

 

 

そんな俺を当初、人々は「殺し屋」と呼んだ。俺はその呼び名が嫌いだ、それは職業の名前で会って俺個人の名前じゃないからな。まぁ、俺の名前を付ける前に両親が死んじまったから仕方ないんだが、やはり名前がないってのは腑に落ちないものだ

 

 

俺はそれ以降、「名前」を欲した。仕事の依頼者にも、標的にも必ず『あんた・・俺の名前を知ってるか?』と尋ねるようにもなった。無論、親でもない他人が俺の名前など知る由もなく、誰も彼もまともに相手をしなかった。

 

 

それが悔しくて哀しくなった俺はさらに仕事に没頭するようになった。

 

 

名前がない苦しみから逃れるために仕事をする、仕事をしているときはその苦しみから逃れられる、だが仕事お終えた途端苦しみが倍になって襲ってくる、それから逃れるために仕事をする……

 

 

その無限ループを繰り返すうちに俺は最終的に「名前のない怪物」と呼ばれた。俺はいよいよ「人間」でも「殺し屋」という職業でもなく、ただの「怪物」になり果てたのだ。

 

 

そんな怪物の凶行を止めたのは一人の胡散臭い男だった・・・

 

 

「待っていたぞ、調停を乱すものよ」

 

 

「……誰だ、お前」

 

 

その日の仕事を終え、安宿に戻った俺を待っていたのは古びた木造で、壁や天井には所々に穴が開き、そこから隙間風が絶え間なく吹き抜ける宿泊部屋には似合わない、それはそれは大層豪華な宝石や貴金属などといった装飾品や貴族同士の宴で主賓が着ていそうな服を身にまとい、右手には金色に輝く天秤を持った男だった。

 

 

「私はこの世界の調停者。お前はそれを乱すもの。私はお前をこの世界から追放するために来た」

 

 

「……俺は神とか信じてねぇぞ。つーか・・調停者だから天秤持ってるって安直だな」

 

 

「お前がこれ以上殺めてはこの世界だけではない・・平行世界の調停が取れなくなってしまう」

 

 

「……この世界で人殺してるのは俺だけじゃねーだろ。文句があるならかかってこい」

 

 

そういって俺は殺気を針のように研ぎ澄ませ、目の前の胡散臭い男に向けた。しかし、男は身構えるでもなくそのままの姿勢で話をつづけた。

 

 

「愛を知らぬ哀しき男よ。せめてお前を包むことができる者がいる世界に送ってやろう」

 

 

「上等だよ・・何ならそいつが俺に名前を付けてくれるとなお有り難いね」

 

 

俺は皮肉と自虐の意を込めてそう口にした。すると男は「案ずるな」とだけ口にして天秤を揺らし始めた

 

 

「なにしてんだ・・・お前……」

 

 

天秤の揺れが大きくなるにつれ俺の意識は遠のいていった。

 

 

「お前の願いは聞き届けてやった。お前に名前を与える者をお前が支える限り、そのものはお前の唯一の味方になってくれるであろう」

 

 

その後はぱたりと意識が途絶え、視界は暗い闇が支配し、男の最後のセリフがその闇の世界に木霊した

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

???「くん」

 

 

誰だ・・

 

 

???「…くん!」

 

 

誰の声だ・・・

 

 

???「くんってば!!」

 

 

誰を呼んでる・・・

 

 

???「みず君ってば!!!」

 

 

俺は先程から響く声がだんだん大きくなっていくにつれ、途切れていた意識も取り戻していった。

 

 

「頭いてぇ……ってかさっきから誰だ・・誰が誰を呼んでやがる」

 

 

???「俺だよ・・俺が君を呼んでるんだよ。清水君!」

 

 

「お前は・・・誰だ?。ってか清水って誰だ??」

 

 

目を覚ました俺に飛び込んできたのは、学校のとある教室内の光景だった。そして先ほどから響いていた声は俺の目の前の席に座っているツンツン頭の男の声だった。

 

 

???「えっ!?俺の名前忘れたの…名簿君の前なのに……。というか今自分の名前すら誰って言ったよね!?」

 

 

「……わりぃ・・忘れた。でもさっきの文脈から察するに清水ってのが俺の名前なのか?」

 

 

???「そうだよ!それじゃあ改めて自己紹介するね。俺は沢田綱吉、通称ツナ。(以下ツナ)よろしく」

 

 

???「全テストの平均点17.5。跳び箱は三段まで。何をやってもダメダメのダメツナだ。」

 

 

綱吉と名乗る目の前のツンツン男は初対面の俺に、まるで友達のように話しかけ自己紹介をした。そして、それに続く形で俺の机からスーツ姿の赤ん坊が現れ、補足しなくていい情報を補足してきた。

 

 

ツナ「リボーン!またそんなところから現れて!!っていうか、俺の恥ずかしい情報暴露するのやめろ!!」

 

 

リボーン「うるせぇダメツナ。悔しかったらちったぁ成長しやがれ!!」

 

 

リボーンと呼ばれた赤ん坊は俺の頭に乗っかり、ツナの頭頂部にかかと落としを決めた。ツナの反応と足を振り下ろす際の勢いから見るに加減はほとんどないようだった。

 

 

清水「……とりあえず人の頭に勝手に乗るのはやめろ」

 

 

リボーン「わりぃ。ちょうどいい高さだったんでな」

 

 

清水「……で、今は何の時間だ?」

 

 

リボーン「ん?今はただの休み時間だぞ。清水が朝から寝っぱなしだったんで心配したツナが声をかけただけだ」

 

 

清水「そうか…そりゃ心配かけたな」

 

 

ツナ「イテテテテ……別になんともないならそれでいいんだけどね。朝からずっと倒れ伏したままだったから心配で…」

 

 

清水「別に何でもない……昨日ちょっと徹夜しただけだ」

 

 

リボーン「にしても清水…お前なかなか肝が据わった奴だな。俺が急に表れても驚きもしねぇとは」

 

 

清水「………別にそうでもねぇよ。寝起きで頭が動いてねぇのと、元来感情を表に出すのが苦手なだけだ」

 

 

リボーン「……」

 

 

リボーンは黙って俺の目を見つめてくる。俺は目前に立つ赤ん坊から目を逸らせなかった。

 

 

耐えきれなくなった俺は口を開き思い出したかのように話をつづけた。

 

 

清水「さっきツナが言ってたが、清水ってのが俺の名前なんだな?」

 

 

ツナ「うん、清水。清水健人ってのが清水君のフルネームだよ」

 

 

清水「・・・・・そうか・・・そりゃあ・・いいな」

 

 

清水(名前がある…俺だけの・・自分だけの名前が…ほかの誰でもない…俺の名前が‥‥

転生前はどれだけ欲しても手に入れられなかったものが・・この世界では最初からある。)

 

 

俺はあまりの嬉しさに目頭が熱くなるのを感じた。涙をこらえている顔を見られたくない俺は再び、顔を伏せた。

 

 

清水「ありがとうな…ツナ。・・・本当に・・ありがとう」

 

 

俺は涙声にならないように気を付けながらツナに礼を言った。

 

 

リボーンがコイツ本当にどうしちまったんだ?とツナにきく声が聞こえたが俺は気にせず心の中で伝えきれないツナに対する感謝の気持ちを言葉にしていた。

[newpage]

俺はいつの間にかまた眠ってしまっていたのだろう。目を覚ますと先程までいたツナとリボーンの姿は消え、教室内に残っているのは俺一人だった。

 

 

清水「……帰るか。授業も終わったぽいしな」

 

 

時計と授業時間帯表を確認した俺は既に一日の授業時刻が終了していることを確認し、荷物をまとめて帰り支度を進めた。

 

 

清水「・・・でも、俺ってこの世界だとどこに帰ればいいんだ?」

 

 

帰り支度を進める中で肝心なことに気が付いた俺は鞄の中にあった財布の中身を確認した。

財布の中にはそれなりの金銭が入っていた。おそらく、転生前と同じように宿を転々としろと言う意味だろう。

 

 

清水「中学生が家無しって…大丈夫なのか?……まぁ、いいや。飯でも食ってから考えるか」

 

 

そう決意した俺は財布を鞄の中に入れ、適当に商店街をぶらつくことにした。幸いホテルはすぐに見つかり、チェックインも簡単に済ますことができた。服装は制服のままなのだが…まぁ、そこはあの天秤を持った男がうまいこと行くようにしたのだろう。

 

 

清水「さーてと・・何食うかなー」

 

 

ドンッ

 

 

不良A「おい、兄ちゃん。ちょっと待てや」

 

 

チェックインを済ませた俺は財布だけを鞄に入れ、商店街へ繰り出した。

その道中、反対側から歩いてきた不良の集団に肩がぶつかり、その不良たちに呼び止められた。

 

 

清水「あー・・悪い。ぶつかった。怪我ないよな?んじゃあ俺、急いでるから行くわ」

 

 

不良A「待てっつってんだろ!!」

 

 

不良B「おい、兄ちゃん・・人にぶつかってスマンで済むわけないやろ!」

 

 

不良C「その制服…並中やな?風紀委員が強いからって調子乗ってんじゃねーぞ!!」

 

 

清水「へー・・俺の中学は並中って言うのか。そんで、風紀委員が強いのか……」

 

 

不良D「何一人でぶつくさ言うてんねん!!」

 

 

不良E「こっちはぶつかったこと謝れ言うてんねん!!」

 

 

清水「先程はぶつかってしまって申し訳ありませんでした。お怪我はありませんか?…見たところ特にないみたいなので安心しました。では、すみませんが自分は急ぎの用があるのでこれで失礼します。今後はお互いに気をつけましょうね」

 

 

不良A「丁寧な言い方に直しただけやろ!!」

 

 

不良B「おい、兄ちゃん。あんま俺ら舐めてたら痛い目見るで?」

 

 

清水「……チッ」

 

 

不良C「おい、今舌打ちしたか?したよな!」

 

 

不良D「……もう我慢の限界や!謝っても遅いで!!」

 

 

不良たちは一斉に殴りかかってきた。前世の身体能力がどの程度落ちているのかを試すためにした挑発にまんまと乗っかってくれたのはありがたい。それに自分がいる学校の情報も知れたのは大きい

 

 

清水「さて・・実験開s・・・・なんだ・・これ」

 

 

俺が体を動かそうとした瞬間、俺は体が全身藍色の炎に包まれたような感覚にとらわれた。

だが、その炎のイメージは俺を攻撃するのではなく、むしろ俺自身から発生し俺を覆うかのようにして燃え盛っていた。

 

 

そしてその炎のイメージはやがて、俺の意のままに操れるようになった。

試しに俺はその炎のイメージを小鳥の形にして、向かってくる不良たちの上空数メートルを飛ばせてみた。

すると…

 

 

ボコォ!!

 

 

清水「グハッ!」

 

 

俺は殴りかかってきた一人の不良の拳をもろに受け、ふっ飛ばされた。殴った不良はこいつ全然大したことないなどと調子図いていたが、俺は飛ばされる最中確かに見た。

 

 

イメージの中で作り上げた小鳥と全く同じ形の鳥が不良たちの上空を飛んでいたことを

 

 

その後も俺はこの不思議な炎の実態を知るべく、炎を様々な形にへと変形させた。

 

 

小鳥、犬、猫、車、バイク、自転車、店の看板、通行人……

 

 

そのたびに不良に殴り飛ばされたが、俺がイメージで作り上げたものは全て現実に現れていた。

 

 

清水(通行人が出現できたということは…人を出現させることができるということ!)

 

 

清水「ハァ・・ハァ・・・・ハァ・・・」

 

 

俺は肩で息をしながらも、頭の中にある事実に限りなく近い推測に口角が上がるのを抑えきれなかった。

 

 

清水(次は最終確認……こいつらのうちだれかをこいつらの前に出してやる……)

 

 

不良A「おいおい、あれだけ大口叩いてこんなもんかよ。拍子抜けだな!」

 

 

清水(来い!)

 

 

俺は勢いよく殴り掛かってきた不良を、先程よりも強くイメージして作り上げた。すると……

 

 

不良B「お・・おい…なんだよ・・あれ」

 

 

不良A「あぁ?どうしたんだよ」

 

 

不良C「なんで‥お前が・・・二人いるんだよ」

 

 

不良A「何言ってんだお前ら・・そんなことあるわけねーだろ」

 

 

不良D「だ、だったら!あれはどう説明するんだよ!!」

 

 

不良A「だから・・なにを説明するんだってn‥‥…」

 

 

不良A?「‥‥‥‥」

 

 

不良が振り返った先には自分と全く同じ顔をした自分の姿だった。それはまるで鏡に映った自分が実体化して目の前に現れたようだった。

 

 

清水(やっぱりそうか!俺は幻術能力が使えるのか!!)

 

 

俺は自分の中で建てた推論が事実そのものだったことに、内心ガッツポーズをした。

そして、もう一度自分が作りだした幻覚を見つめなおした。幻覚の不良はじっとこちらを見つめて視線どころか指一本動かさず瞬きすらもしなかった。

それはまるで創造主である俺の命令を今か今かと待ち望んでいるかのようにも見えた。

 

 

不良A「て、てめぇ!?な、な、な・・なにやりやがった!!」

 

 

目の前に自分と瓜二つの存在が現れた不良は、顔面蒼白で体をぶるぶると震えさせながら俺につかみかかってきた。

 

 

清水「知らねーよ……。というかさっきまでさんざん殴ってたのに・・急に態度変わってるな……どうした?目の前に何かいるのか?」

 

 

俺は見えている幻覚をあえて見えていないかのように装った。すると不良の顔はさらに青白くなっていき、俺の胸倉から手を放し、自分の幻覚を震える体と瞳で再度見つめた。

 

 

清水(今ので『見えているのはお前たちだけ』という暗示をかけた。次は…出てこい…そのほかの不良たちよ)

 

 

俺が頭の中でそう念じると、それに応えるかのように次々と目の前にいる不良たちの幻覚が現れた。

 

 

不良たち「「「うわぁああああぁぁぁぁぁぁアアアぁぁぁぁぁぁあ!」」」

 

 

不良たちは一斉に悲鳴を上げ、おのが正気を疑った。誰しも目の前に自分とそっくりな人物が現れるとそうならざるを得ないだろう。

 

 

次々と現れた不良たちも、最初に出てきた不良と同様、俺をじっと見つめて動かなかった。

だが、それが逆に不良たちに底知れぬ恐怖を与えていた…

 

 

清水(幻覚たちよ・・目の前にいる自分と同じ顔をした人間を攻撃しろ)

その瞬間、幻覚たちは今まで一ミリも動かさなかった視線を自分のオリジナルにむけ、そしてオリジナルに向け走り出した。

 

 

不良たち「「来たぞォォォぉおおぉォぉおおおぉォォオオオ!!」」

 

 

すっかり錯乱し、標的を絞ることができなくなった不良たちは自分に近づくすべての物に対し攻撃し始めた。それは迫りくる幻覚だけではなく、一か所に集まろうとする本能に逆らえないオリジナルも例外ではなかった。

 

 

清水「これは…すごいな……」

 

 

俺はただその乱闘を見守っていた。幻覚は正確無比に自分のオリジナルを攻撃するのに対し、彼らオリジナルは自分以外の全てが敵だとでも思っているのだろうか…近づく人間すべてに攻撃をしていた。それはまさに地獄絵図と呼ぶに相応しいものだった。

 

 

清水(そうだ…できるかどうかわからないけど…やってみよう)

 

 

俺はふと頭に思い浮かんだことを再び念じ始めた。これがもしできるのならこの力はとてつもなく応用が利く。それと同時にとても恐ろしいものになる。

 

 

清水(幻覚たちよ…‥できるのなら自分のオリジナルと同じ声で喋るのです。喋る言葉はそうですね……『馬鹿野郎!俺は本物だ!!』など・・この状況でさらなる混乱を招くことができる類の言葉にしなさい。そしてもう一つ、これもできればでいいのですが実体を持つのです。)

 

 

その瞬間、来るな!近寄るな!触るな!という声しか発せられていなかった地獄絵図から『馬鹿野郎!幻覚はあいつだ!!』や『いい加減沈め!幻覚が!!』などの声が聞こえ始めた。さらに、幻覚たちの攻撃が実体化したからだろうか。静止のセリフしか吐かなかったオリジナルたちが混乱により、言語能力を失くし悲鳴しか上げなくなっていた。

 

 

その地獄絵図はその後オリジナル全員が気絶するまで続いた。

俺は不良たちの幻覚を消え去り、これ以上の騒動を起こさないため学校内のポスターで見かけた風紀委員の幻覚を発生させた。

 

 

幻覚の風紀委員を見た商店街の人々は皆、面倒事に巻き込まれるのを避けるかのように、散り散りに散っていった。ほかの中学の生徒が知っているほど有名なのだから有効だと思ったがこれ以上だとは思わなかった。どうやら、うちの風紀委員の影響力は想像以上らしい。

 

 

俺は幻覚の風紀委員に気絶した不良たちを人気のない場所へと運ばせた後、当初の目的通り飯を食べに商店街へと消えていった。

 

 

 

だが、この時。散り散りになっていく人ごみの中に不穏の陰が確かに忍び込んでいたことを俺はまだ知らなかった

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

???「あれが……並中の風紀委員……。喧嘩ランキングでも上位に入る強さを持つ」

 

 

???「でも……俺たちが探している奴とは無関係」

 

 

???「とりあえず・・骸様に報告しないと。……シャワー浴びたい」

 

 

そう言って眼鏡をかけ、緑色の制服に身を包んだ男は商店街を抜け、道のはずれへと消えていった。

 

 

そして男の背後の壁には並盛中の制服を着た男が、全身を麻酔針のようなもので滅多刺しにされていた。

 

 

???「うぅぅ……逃げろ…………」バタッ

 

 

そう呟くと男は気を失ったのか道端に倒れた。そしてその男の胸ポケットからは、その男の生徒手帳が転げ落ちた。そこにはこう書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     並盛中学校二年

 

     ―持田 剣介―




死肉を食っても血や下水を飲んでも無事になった彼を怪物と呼ばないなら何と呼べばいいんだろう…


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黒曜編
大空を陰から支える蜃気楼 黒曜編 ~1話~


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幻覚能力で不良どもを対峙してから一週間が経過した。

その一週間は俺やツナの周囲の環境に大きな変化をもたらした

 

まずは俺、清水健人のことについて語ろう。

俺はその間にこの能力をいろんなところで実験し、この能力についての理解を深めることができた。そして、練度も上がったのか無機物を幻覚で作り上げたり、新たに三つのことができるようにもなっていた。

 

 

まず一つはその幻覚に実体や言語能力を持たせ、人間と違和感なく会話させること。

これは学校の教師を相手に、実体と言語能力を持たせた俺自身の幻覚を会話させる実験を何度も繰り返し行うことで習得した。

この実態を持った幻覚を俺は「有幻覚」と名付けた。

 

 

そして、もう一つは俺以外の人間に俺を俺以外の誰かだと誤認させること。これは体格や性別が違う人間に擬態しても誤認させることができた。中学生にもなって、公園で遊ぶ小学生の群れに混じるのは少し恥ずかしかったが、それに相応しい収穫は得ることができた。

 

 

そして三つめは、自分が作った幻覚と視覚や嗅覚、聴覚といった感覚を共有したり、幻覚に嵌った相手の感覚を奪い、別の何かにリンクさせたり共有すること。

これはホテルの一室に置いてきた幻覚と視覚を共有したり、空を飛ぶ鳥の視界を川を泳ぐ魚にリンクさせたりして実験をした。さすがに自分以外の人間の感覚を奪ったりする非道な実験は行っていないが、自分の視覚を空を飛ぶ鳥とリンクすることができたので、おそらくできるのだろう。

 

 

清水「あの胡散臭い男は確か・・『俺に名前を与える者を俺が支える限り、そのものは俺の唯一の味方になってくれるであろう』とか言ってたよな……。つまりこれはそのための力ってことか」

 

 

清水(俺に名前を与えた人物……すなわち俺に名前を教えてくれた人物。前世で繰り返したあの不毛な問いに明確な答えを返した人物)

 

 

清水「・・・ツナ・・か」

 

 

あの胡散臭い男の言う通りだとするなら、この力はツナを支える限り無くならないということなのだろう。それ以外に使用した場合どうなるかは考えないことにした。

 

 

清水「まぁ、俺は本来この世界に存在しない人物だからな。この世界で富を得ても意味がない。それなら、俺の恩人のために使った方が何倍もマシだろう」

 

 

俺はそう結論づけると、早速ツナの周囲で起きているある問題を調べるためにホテルの部屋を出た。

 

 

次に、ツナのことについて語ろう。ツナの周囲には個性的な人物が多々集まるようになり、あいつの周りは常に賑やかになっていた

 

 

ある日、あいつの家の近くを通り過ぎた時は、いかにも高級そうな外車が数台家の前に駐車されていて、玄関の前には黒いスーツを身にまとい、屈強な肉体と厳つい顔をした男たちが大勢立っていた。

 

 

俺はそんな男の中にいた、メガネをかけ口ひげがある一人の男と目が合ってしまった。

男は俺に話しかけてきたが、俺がリボーンを知っていることと、ツナのクラスメイトであることを知ると、厳格な表情をやわらげ、歯を白く輝かせて笑いながら、『ほう・・ボンゴレのクラスメイトか。こんな厳つい顔したおっさんどもが並んでて怖がらせちまったな。』と初対面の俺に対し頭を下げた。

 

 

この他にも時折、ツナの家がある方向から爆発音が聞こえたり、パンツ一丁のツナが牛柄のシャツの男を抱えながら屋根の上を全力疾走したり、ツナの家の敷地に落ちている落ち葉や木の枝だけ、まるでそこが無重力であるかのようにフワフワ浮いていたり……

 

 

なんとも不思議なことが頻発していた。このことをツナに尋ねると慌てた顔で「な、何でもないから!大丈夫!!心配しなくていいから!!」と返された。その後、疲れ切った表情で視線を斜め下に逸らすあたり、とても疲れることが起きているのだろう。

 

 

そんな最中だった。俺やツナ達並中の生徒全員を不安の渦に引きずり込む事件が発覚したのは。

 

 

清水「また並中生がやられたのか…。これで何人目だ?並中生徒連続襲撃事件の被害者」

 

 

数日前から並盛市内の病院に何者かの手によって重傷を負わされた並中の生徒が立て続けに搬送されるという事件が起きていた。その被害は次々と拡大していき、ついには並中生徒を守る最後の砦である風紀委員にまで及んだ。

 

 

ツナ「やばいよやばいよ!風紀委員までやられちゃったよ!!どうすんだよ!!」

 

 

清水「あの風紀委員が手も足も出なかったって聞いたぜ?よっぽど強いんだろうな、犯人は」

 

 

ツナ「俺は狙われないよな?…強くもないし、そもそも誰かに恨まれる理由もないし…」

 

 

清水「でも一般生徒から風紀委員まで並中の生徒が無差別に襲われてるんだろ?ないとは言い切れないんじゃないか?」

 

 

リボーン「人間、どこで恨みを買ってるか。わかんねぇからな」

 

 

ツナ「ヒィィィィ!怖いこと言うなって二人とも!!」

 

 

清水「でも、雲雀さんはもう犯人を突き止めたらしいぜ?」

 

 

ツナ「さすが雲雀さんだ!後は頼みます!!神様!仏様!雲雀様!!」

 

 

手を重ね合わせ必死に懇願するツナをよそに、俺とリボーンはお互いに何かを考えているのか黙っていた。リボーンが何を考えているか俺には読めなかったが、俺は天秤の男が言ったことを思い出し、行動に出た

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

俺は翌日、ホテルをチェックアウトすると一人で街に出た。

目的地はないが、目的はある。それは「襲撃犯に俺を襲わせること」だ。

襲撃犯の狙いが何なのか特定はできないが、並中の生徒ばかりが襲われていることから狙いが並中の生徒の誰かであることは間違いないだろう。

 

 

そして、並中の生徒に危害を加える場合最も大きな障害となるのが風紀委員の存在だ。

委員長である雲雀恭弥はもちろん、風紀委員が守ってくれるだけで並中の生徒は安心して学校生活を送ることができる。また、先日の不良の一件から考えて、風紀委員の存在は学校内以外にも影響を及ぼすほど有名なことが分かる。

 

 

清水「とりあえず風紀委員に擬態するか・・。で、日が暮れても出歩いていればいずれ向こうからくるだろう」

 

 

俺は自分の幻覚能力で自分を風紀委員に擬態し、まるで町内の見回りをしているように出歩いた。厳格な顔つきをするのは苦手だが、前にツナの家で見たあの眼鏡と口髭の男の顔を思い出しそれに近づけるよう努力した。

 

 

それから数時間が経過しただろう・・太陽は沈み町は月明りと電灯の光に包まれた。

俺は敢えて光源が多い繁華街から、光源と人通りの少ない道に外れ獲物を待った。

 

 

???「ねぇ、あんたって並中の風紀委員?」

 

 

光源が少ない道を歩いて十数分、ついに餌に獲物が掛かった。

 

 

清水「そうだが・・誰だ?お前は」

 

 

???「俺?俺はねぇ…隣町の喧嘩好きな中学生れーっす」

 

 

俺の前に現れた男は緑色の制服を着用し、獣のような顔をしていた。その男はどこか犬を彷彿とさせる雰囲気をしていたが、同時に転生前で嫌になるほど体感した冷たくて鋭い殺気も放っていた。少なくともそれは普通の喧嘩が好きな中学生が放てるものではなかった。

 

 

清水「俺はお前みたいなのを相手にしているほど暇じゃないんだ。わかったら帰れ」

 

 

???「そんなつれないころ言わずにさ喧嘩しようよー」

 

 

清水「うるさい、どうしてもやりあいたかったら、俺をそうさせるだけの理由を言ってみせろ!!」

 

 

???「はーい、それじゃあ正直に白状しまーす」

 

 

???「俺は今あんたの中学を騒がせている連続襲撃事件の犯人の一人れーっす!」

 

 

清水(早速当たりか幸先がいいな。でもいきなりってことは犯人グループは少人数なのか?)

 

 

???「あれれ?どうしちゃったの?もしかして、怒り心頭で何も言えなくなったとか?」

 

 

清水(コイツ・・もう少し泳がせればもっと情報を吐かせられるな)

 

 

清水「……わかった。その喧嘩買ってやる。だが始める前に一つ聞かせろ…なぜ並中生徒ばかりを狙う」

 

 

???「本当の狙いは別にあるんだけどねー…それに辿り着くには並中が一番手っ取り早いってだけ。所謂通過点ってやつ?」

 

 

???「それじゃあ今度は俺から質問!…‥今からやられるあんたがそんなこと聞いてどうすんの?」

 

 

清水「フっ・・俺を倒せたら教えてやる・・・・・いくぞっ!」

 

 

???「うっひょー!俺っちそういうの大好き!!あんた気に入ったよ!!」

 

 

清水(コイツ・・やっぱり普通の学生じゃねぇ…殺気といい、今の攻撃といい・・プロの殺し屋(ヒットマン)だ。はぁ・・なんで俺は転生してまで殺し屋(ヒットマン)を相手にしなきゃいけねぇんだろうな)

 

 

その後俺は当初の予定通りわざと負けた。その男の攻撃の一撃一撃は風を切る音がするほど速く、鋭く狙いも正確で常人ではまず認識すらできないものだった。

だが俺は転生前の世界で培った様々な「経験」があったので、致命傷になりそうなものだけを避けた。

 

 

???「弱ぇ~弱ぇ~…あれだけ大口叩いたから少しはやるかと思ったのに…。これがうわさに名高い並盛中の風紀委員かよ……おそるるにたらぁ」

 

 

獣風の男は俺が手を抜いたとは露ほどにも考えず、壊れた懐中時計を仰向けに倒れこむ俺の胸板に置き何処かへと去っていった。

 

 

男の気配が消えた後、俺は有幻覚に救急車を呼ばせ病院へと搬送された。様々な検査をされたが、それは自分の体を幻覚で騙し、実際に症状がでたと体に誤認させることでやり過ごし、しばらくの間安静が言い渡された。

致命傷になりかねない攻撃は全て避けたので、そんなに重症ではないのだが…

 

 

搬送されてから数時間後、検査の休憩時間に飛ばしておいた視覚だけを共有した鳥の幻覚が、昨日あの男が着ていた制服と同じ制服を着た人間が集結している場所を発見した。

俺はすぐさま今の自分と同じ姿の有幻覚を代わりにベットの上に寝かせ、自分は姿を消し窓から病院外へと飛び出した。

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

そこは黒曜ヘルシーランドという既に廃墟と化した娯楽施設だった。錆びれて殆ど読めなくなった案内板から読み取れる部分を読み取ると、ここは昔、植物庭園やガラス張りの当時としては全く新しい建物が建っており、とても人気を博したという。

だが今はそんな面影はなく、誰も近寄ろうとしない忘れ去られた娯楽施設となっていた。

 

 

柵を乗り越え中に侵入した俺は、一番大きな建物に続く道にいたヤモリを幻覚で操り、視覚と聴覚を共有しその建物に侵入させた。

 

 

その建物の最上階、窓際の部屋には三人の男がいた。

 

 

一人目は三人用のソファに座り目の前で跪く男を、不気味で怪しく嗤いながら見つめる男

 

 

二人目はソファに座る男を恨めしい目で睨みながら、動けないのか跪き細かく震える男

 

 

そして、三人目は部屋の片隅で背丈に似合わぬ大きな本を抱えながら、光の消えた目でその二人を見つめる男の子

 

 

清水(跪いているのは…雲雀さんか……。まぁ、相手はプロの殺し屋(ヒットマン)グループのボスだからな…一般の学生じゃ勝てねぇよ。雲雀さんなら経験を積めば何とかなるだろうが、今じゃ無理だ。で、ソファに座っている男が今回の黒幕か…あの様子だと雲雀さんが来るのも計画のうちだな。そしてその計画の目的は雲雀さんでもなさそうだ。)

 

 

清水(そして一番気になるのはあの男の子だ。背丈に似合わない本を持っているのもそうだが、雲雀さんの味方でもなさそうだし、かといって黒幕の仲間でもなさそうだしな……。一番可能性が高いとこで人質ってところだろうが……彼を攫ったとして、困るのは誰だ?)

 

 

雲雀「‥‥…クッ」

 

 

黒幕「君が喧嘩を売ったあの男の正体はトライデント・シャマル。僕も驚きました、まさか超一流の殺し屋(ヒットマン)と呼ばれる男がこちらに来ているなんてねぇ」

 

 

雲雀「……何のこと」

 

 

黒幕「彼の得意技はね?不治の病原菌を持つ蚊を操り敵を病死させる。『トライデント・モスキート』」

 

 

雲雀「ッ!?」

 

 

黒幕「君が『トライデント・モスキート』で感染したのは桜クラ病。桜に囲まれると立っていられなくなるという病。君のために急いで用意したんですよ?この・・美しい桜をね…」

 

 

雲雀「ッッ!!?」

 

 

清水(桜なんてどこにもない。でも雲雀さんの様子を見るに、黒幕の言うことは真実で、雲雀さんには桜が見えている……。俺と同じ術師か……しかも[[rb:殺し屋 > ヒットマン]]という経歴まで同じ…)

 

 

俺はヤモリのとの間隔共有を解除し、幻覚で空間を作り出し、そこに一人で立て籠もり考えを整理することにした。

 

 

清水(ああいうタイプは人を嬲り殺すのが好きなタイプだ。そう考えるとあの男の子の人質の用途も同じだろう……。あの子で誰かを釣り、つられた人物を嬲り殺す。ああいう子供を人質にした場合一番効果があるのはその子の親だ。だが、一般家庭なら基本的には殺し屋(ヒットマン)に狙われることはない。誰かに依頼されれば別だが・・あの男は自分の意志で人を殺すタイプの人間だ。誰かの指図に則り人を殺すくらいなら、まずそいつを殺すだろう。)

 

 

清水(となると、あの男の子も特別な事情を抱えているという事。黒幕が殺し屋事情に精通していることから、あの子も裏社会の人間だろう。そして、この平和な並盛町で殺し屋事情に精通している人物…または家庭といえば………)

 

 

清水「狙いは・・・ツナか・・・。」

 

 

清水(ツナの横にいたあのスーツを着た赤ん坊・眼鏡をかけた口ひげのおっさんを中心に屈強な体格で荘厳な連中・そのおっさん連中に慕われるあの赤ん坊……。恐らくあの赤ん坊とおっさん連中は十中八九裏社会の住人だな。そしてツナは……裏社会のどこぞの組織の次期後継者……またはその候補ってところか)

 

 

清水「ツナの詳しい事情は今度あの赤ん坊か、ツナ本人から直接聞けばいい。次は標的がツナとして『黒幕がどうやってツナを苛め愉しむか』だが…」

 

 

清水(ツナを精神的に追い詰める場合、まず一番有効なのはあいつの家族を狙うことだ。父親は今不在らしいから、母親だな。だが、それはまずしないだろう。母親はツナとは違い『完全なる一般人』だ。そして裏社会的に見ても『後継者、または候補の母親』だからな。もし消息不明になれば、組織が全力を挙げて探すだろう。最悪『ツナが後継者争いから降りる』なんてことになりかねない。そうなれば組織的には大問題だ。それに黒幕も裏社会の組織に喧嘩を売っているが、いきなり組織全体を相手にするような暴挙はしないだろう。もし俺がアイツなら、少しずつ瓦解させていく。)

 

 

清水(では、両親以外でツナが多大な精神的ダメージを負う人物は誰だ?それも殺すのが比較的簡単な人物………。)

 

 

清水(あの赤ん坊の知り合いはダメだ。あのかかと落としの威力から考えて彼を含む全員が一定以上の戦闘能力を持っているだろう。となると…ツナ個人と『あの赤ん坊が来る前から繋がり』を持っていた人物。・・ダメだ・・・思いつかねぇ……)

 

 

ピリリリピリリリ!!

 

 

清水「!!」

 

 

その時、ポケットにしまっていた携帯が着信を受け、着信音がけたたましく鳴り響いた。

その画面に映し出されていた番号は、俺が今最も連絡を取りたいと望んでいた沢田綱吉その人だった―――

 

 

ツナ『もしもし!清水君!?今、電話大丈夫??』

 

 

清水「ツナか、ちょうどよかった。俺もお前にききたいこt」

 

 

ツナ『京子ちゃんが!京子ちゃんのお兄さんがやられちゃったよ!!』

 

 

清水「ちょ、ちょっと落ち着け。冷静にならねぇと伝えたいことも伝えられないぞ?」

 

 

ツナ『ああ‥うん…ごめん。』

 

 

清水「とりあえず、お前の話からだな。深呼吸を二、三回して落ち着いてから話せ。聞き終わるまで切らねぇから」

 

 

ツナ『すぅ・・はぁ・・・。スゥ・・・ハァ・・・。よし、えっとね__』

 

 

ツナの話を要約するとこういう事だった。

今日の学校を終え、帰路に着く途中で血相を変えて走る笹川京子を発見。事情をきくと自分の兄が例の襲撃事件の被害に遭ったとのこと。

彼女を落ち着かせるため、共に笹川兄の病室へとついていき安否を確認する。

その後は、泣きじゃくる笹川京子を自分と兄の二人で慰め、気絶した彼女を兄と同じ病室のソファに寝かせ、自分は院内の公衆電話から急いで俺に電話をかけてきた。

 

 

清水「……なぁ、ツナ。お前にききたいことがあるんだ」

 

 

ツナ『何かな清水君』

 

 

清水「その笹川京子って女とお前の二人に共通してる友人っているか?」

 

 

ツナ『いるよ』

 

 

清水「誰だ」

 

 

ツナ『ハル・・三浦ハル。名門緑中の生徒でよく京子ちゃんと一緒にケーキを買いに行ってる』

 

 

清水「そうか・・わかった。ありがとう」

 

 

ツナ『別にいいけど・・そんなこと聞いてどうしたの?』

 

 

清水「いや、何でもない。気にするな。また明日、学校で会おうな。ツナ」ピッ

 

 

俺はそう伝えると通話を切り、今の電話を踏まえての考えを整理し、結論を出した。

 

 

清水(今のでハッキリした。黒幕の狙いはツナだ。そして黒幕・またはその仲間が狙う可能性のある、ツナに多大な精神ダメージを負わせることができる戦闘能力を持たない人間は『笹川京子』と『三浦ハル』この二人だ。三浦ハルは赤ん坊と出会ってから知り合った人物みたいだが、『笹川京子と一番仲がいい』という事が重要だ。彼女自身に被害が及ばなくてもさっきの慌てようだからな。これがもし、『彼女本人に危害が及び』なおかつ『彼女の大親友』も被害を受ければそのダメージは計り知れないものになる)

 

 

清水(加害者が京子に『ツナのせいでこうなった。あなたやあなたの友人が傷ついたのは全て沢田綱吉が悪いのですよ』なんて言えば…俺や赤ん坊みたいな裏社会の住人ならともかく、表社会に住む普通の女子中学生には耐えきれない。必ず狂人になるか、自殺する。最悪の場合、ツナを殺し、笹川京子の一族が孫の代まで『ツナを後継者にしようとしている組織に消されてしまう』場合もある。そうなれば誰も救われない。裏社会の闇に呑まれた被害者が増えるだけだ)

 

 

清水(そうはさせねぇ…。笹川京子も、三浦ハルも、…ツナの大切なものは…俺が守る。例え俺の存在が嘘偽りの物だとしても、『ツナの大切なものを守った』という事実だけは遺す!!)

 

 

結論を出し終わると同時に、俺の体内では不思議な現象が起きた。

 

 

右半身は初めて幻覚能力を使用した時と同じ、あの藍色の炎がすべてを燃やし尽くす勢いで燃え盛り、汗腺からは多量の汗が排出されていた。

 

 

一方、左半身は右半身とは逆に、氷のように冷たくそこはまるで絶対零度の環境下で、在るものすべてを凍らせるかのようだった。その感覚は転生前の世界で人を殺していくうちに味わった、極寒の冬の海溝に身を投じ、沈んでいく感覚に似ていた。

 

 

清水(どんな事情かしらねぇが、俺に名前を付けてくれた恩人・・ツナの大切なものを蔑ろにするやつはたとえ神でも赦さねえ……)

 

 

清水「かかってこい[[rb:ヒットマン > 殺し屋]]。[[rb:殺し屋 > ヒットマン]]の本当の恐ろしさってやつ…教えてやるよ」

 

 

黒曜編 第一話

 

   終




語彙力の乏しさとそれからくる表現力の貧しさが恨めしい今日この頃


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大空を陰から支える蜃気楼 黒曜編 ~2話~

今回で黒曜編は半分が終わりました。


幻術を解除し幻術空間を消した俺は、黒曜ランドから笹川京子の兄が運ばれたという病院に向かった。

 

 

清水「ツナから運ばれた病院が何処かはきいていないが、今朝いたあの病院でほぼ間違いないだろう」

 

 

受付で笹川京子の兄がいる病室の番号を知り、その病室のドアを叩くと中から男の声で開いているぞと返事が返ってきた。

 

 

清水「失礼します」

 

 

笹川兄「ん?・・見ない顔だな。誰だ?」

 

 

清水「初めまして笹川先輩。俺はツナと・・沢田綱吉と同じクラスの清水健人といいます」

 

 

笹川兄「おお、沢田のクラスメイトか!!」

 

 

ツナの名前を出すと笹川兄は見るからに興奮した。どうやらツナは彼とも何かあったようだ。

 

 

清水「動かなくていいですよ先輩、傷口が開きます。一応聞きますけど、大丈夫でしたか?」

 

 

笹川兄「ああ、骨を何本かやられたがな。あの黒曜中の制服を着た男は恐ろしく強かった・・この程度で済んだのは不幸中の幸いというものだろう」

 

 

清水「先輩……」

 

 

笹川兄「しかし……あのパンチは我が部に欲しかったぁぁぁぁ!」

 

 

清水(それほど酷くやられても落ち込む様子はあまりないか……こいつは強いな)

 

 

清水「ハァ……。ツナから電話である程度は聞きましたが妹さんは大丈夫でしたか?」

 

 

笹川兄「京子は……」

 

 

俺が笹川京子のことを話に出すと、笹川兄は先程までの明るい表情と声はどこへやら。陰鬱な顔つきになり、その声も元気がなくなっていた。それはまるで神に自らの罪を懺悔しているかのようだった。

 

 

笹川兄「京子には……このことを伝えていないんだ」

 

 

清水「誰かにやられたってことをですか?……どうして」

 

 

笹川兄「昔、俺はとある事件で大怪我を負ってな。それ以来、京子は俺が怪我をすることを極端に嫌うのだ」

 

 

清水「それじゃあ…適当に誤魔化したってことですか、妹さんには」

 

 

笹川兄「ああ、心苦しいがな。だが、それでいいんだ」

 

 

清水「それは・・なぜですか?」

 

 

笹川兄「沢田から聞いたかもしれんが、俺は並中ボクシング部の部長だ。これまでいろんな他校のボクシング部を倒してきた。そんな俺は当然いろんな奴から恨みをかっているだろう、今回のこともそれが原因の可能性もある。」

 

 

清水「もしそうなら・・なぜ先輩個人ではなく並中生徒全員を標的に…」

 

 

笹川兄「俺に適わないとわかっているから別の方法で俺を攻撃することにしたんだろう。俺だってボクシング馬鹿とはいえ並中生徒が無差別に傷つけられて頭に来ない程薄情な男でもないからな。雲雀は奴らを倒しに行ったらしいが、あの男は雲雀と同等かそれ以上の腕の持ち主だった。おそらく一筋縄ではいかないだろう。」

 

 

清水「自分を鍛えてリベンジするのではなく、誰かの力を借りて先輩に報復しに来たというわけですか…」

 

 

笹川兄「ああ、全くもって卑劣だ。同じ競技に身を投じていたとは思えん程にな。」

 

 

笹川兄「おっと、話が逸れてしまったな。どこまで話していた?」

 

 

清水「妹さんに真実を教えず、適当に誤魔化した。というところまでです」

 

 

笹川兄「そうだったな。ともかく京子が真実を知れば十中八九相手の事を知ろうとするだろう。そうすれば今度は京子が標的になってしまう……」

 

 

笹川兄「それだけは断じてあってはならない!!そんなことが万が一、たとえ那由他の彼方の一に匹敵する確率で会ったとしても、あってしまったとしたら…

 

 

清水「あったとしたら…どうしますか?」

 

 

笹川兄「俺はその男に対する怨嗟の念を抑えきれずに、たとえこの身が地獄の悪鬼に堕ちようとも必ずこの拳で殴殺してやる!!」

 

 

そう断言した笹川兄からは病床に伏す人間が発しているとは思えぬ気迫と殺気があり、その一言一句からは、それが嘘偽りのない宣言であることを悟らせる覚悟が感じ取れた。

 

 

清水(この気迫に殺気、それにこの覚悟。あの地獄でもこの年で放てる奴は限られていたぞ…。それほどまでに妹が大事か……羨ましいな。)

 

 

俺は妹のために・・俺にはいなかった家族のためにそこまでの殺気と覚悟ができる笹川兄を羨望の眼差しで見つめ、その気を悟らせまいと努めて押し殺して言葉を紡いだ

 

 

清水「そんなことをすれば…妹さんが悲しみますよ」

 

 

笹川兄「そうだ、そうなれば京子は必ず悲しみに暮れ、泣いてしまう。たとえ自分がどんなにひどい重傷を負っていようとも。自分より俺の身を案じて悲泣する」

 

 

清水「やさしいんですね…」

 

 

笹川兄「ああ、自慢の妹だ」

 

 

笹川兄「だがもしもそうなれば、俺は愚かな行動を愚直な思考で行ってしまった俺に対して・・何より京子を…二度と泣かせぬと誓った妹をまた泣かせてしまったことに対する悔悟に耐え切れず自ら命を絶ってしまうだろう」

 

 

清水「そんなことをすれば余計に妹さんが哀しむだけです!」

 

 

笹川兄「ああ、そうだ。そうすれば俺は自らの勝手な都合で永遠に京子を泣かせてしまうことになる。これは地獄に行っても償えない罪だろう」

 

 

そう話す笹川兄はどこか悟ったような遠い目をしていた。俺はそんな笹川兄にかける言葉見つからなかった。病室は暫くの間沈黙が支配した。

 

 

笹川兄「いかん、湿っぽい空気になってしまった。これでは治るものも治らないな。清水もすまんかったな、こんなくらい話に付き合わせてしまって」

 

 

清水「いえ・・元はといえば俺から切り出した話ですし。すみませんでした・・大怪我をされているのにこんな話をさせてしまって」

 

 

笹川兄「いいんだ、途中でやめようとしなかった俺にも非はある。ともかく気をつけろよ。あの連中は恐ろしく強いぞ。用心をした方がいい」

 

 

清水「はい、肝に銘じておきます」

 

 

笹川兄「それと……沢田のことを頼んだぞ」

 

 

清水「ツナのことですか?それはまたなぜ」

 

 

笹川兄「お前もそうだが、あいつは京子と同じクラスだ。それにあいつもお前も京子にとって大切な人だ。お前らが今回の一件で傷つくようなことになれば、京子はまた悲しんでしまう」

 

 

清水「…」

 

 

笹川兄「だから沢田が何かあいつができること以上の危険なことに首を突っ込みそうだったら、お前が止めてくれ」

 

 

清水「‥‥‥なぜ、俺にそれを頼むんですか?俺より強くてツナとも仲がいい人なら他にもいるでしょう」

 

 

笹川兄「確かにな、山本もタコヘッドも頼りになるが・・どうしてだろうな。これはお前にしか頼めないことだと俺は思うんだ」

 

 

清水「…」

 

 

笹川兄「タコヘッド…獄寺は沢田に付き従うことを第一と考えていることが多いからな。沢田を止めるというより、沢田がアイツを止めることの方が多いだろう」

 

 

清水「じゃあ山本は…」

 

 

笹川兄「あいつは能天気な性格でな、大抵のことをごっこ遊びだと思っている節がある。そんな奴には沢田を止めるなんて考えもしないだろう」

 

 

清水「‥‥」

 

 

笹川兄「それに、二人とも沢田のためなら自分の身を顧みないところがある。獄寺は特にそれが著しいが、山本も沢田のためなら野球を暫くできない体になることを厭わないだろう」

 

 

笹川兄「だから、お前しかいないんだ。沢田と関りがありなおかつ、あいつの言う事に対して反対の意見を述べられるお前しか…」

 

 

清水「……わかりました、その役目引き受けます。でもツナが俺の言う事に耳を貸さない場合もあるでしょうけどね」

 

 

笹川兄「それでも構わない。反対意見を言える人物。がいることが重要だからな。警告の意味を持つ道路標識になってくれればいい。沢田という運転手に注意喚起をする存在に」

 

 

清水「それではツナの様子を見てきますので、これにて失礼します。先輩、お大事に」

 

 

笹川兄「清水…頼んだぞ」

 

 

清水「はい」

 

 

そういって俺は笹川兄からの眼差しを背に受けながら、病室の扉を閉めた。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

病院を後にした俺はツナの家に向かったが、生憎ツナは不在だった。母親曰く「獄寺君たちとどこかに出かけた」とのことだがおそらくは黒曜ランドだろう。大方、あの赤ん坊が黒幕の狙いに気づきツナを向かわせたに違いない。

 

 

清水「さて、俺はどうするかな‥‥。ツナを見張り、笹川京子と三浦ハルを黒幕の手先の魔の手から守ることは簡単だ。問題は本体である俺が誰に付くかだが…」

 

 

清水「ツナに関してはあの赤ん坊にほぼ一任しよう。あの赤ん坊はスパルタだが、イエスマンではないからな。最初にこの能力で出した鳥、アレの有幻覚でいいだろう。後の二人だが…[[rb:俺>本体]]は三浦ハルに付こう。俺は三浦ハルの顔を一度も見ていないからな、いろいろと応用が利いた方がいいだろう。笹川京子には俺の有幻覚に尾行させる」

 

 

俺は自分と鳥の有幻覚がそれぞれ自分の保護(または監視)対象の元へ向かったのを確認し、自分は三浦ハルの所在をきくためにツナの家に戻った。

 

 

清水「何度もすいません、ツナのお母さん。先程聞き忘れていたことがありまして…」

 

 

沢田母「別にいいのよ清水君。それより聞き忘れてたことって何かしら?」

 

 

清水「ツナの友達の三浦ハルはご存知ですか?」

 

 

沢田母「ハルちゃん?ええ、知ってるわよ。彼女がどうかしたの?」

 

 

清水「実は彼女に直接伝えなければならないことがあったのを失念していまして…今どこにいるかご存知ですか?」

 

 

沢田母「それは知らないわねぇ~」

 

 

清水「そうですか・・では、彼女が向かいそうな場所に心当たりはありますか?」

 

 

沢田母「ケーキ屋さんとかかしらねぇ……。ハルちゃん、行きつけのケーキ屋さんがあるらしいわ」

 

 

清水「その店の場所を教えてもらえないでしょうか?」

 

 

沢田母「ええ、いいわよ。えっと、ここからね____」

 

 

ツナの母から店の場所を教えてもらった俺は彼女に一礼し、店へと急いだ。だが、そのケーキ屋に彼女はいなかった。

 

 

清水「クソ!早く見つけないと……」

 

 

苛立ちを隠せないままに来た道とは別の道を歩き、その道中にある公園のベンチに腰を掛けた俺は幻覚で自分の姿を消し、ツナたちの様子を知るために有幻覚と視覚と聴覚を共有した。

 

 

清水(まずはツナだな)

 

 

鳥の有幻覚と五感を共有した俺に飛び込んできたのは、建物の壁をスクリーンに二つの画面にそれぞれ映し出されている二人の女と、その前に立つ帽子をかぶり、眼鏡をかけ、肩と帽子のつばにそれぞれ一羽ずつ黄色い小鳥をのせた年老いた男。そして、その男に手出しをしないツナ達の姿だった。

 

 

ツナ『京子ちゃん!ハル!!』

 

 

清水(右側に映し出されているのは笹川京子だ。という事は左側に映っている女が三浦ハルか……。それにしても・・やはりいたか。ツナの精神を殺す[[rb:ヒットマン>殺し屋]])

 

 

清水(ツナ達の中にいる赤い髪の女はこちら側の人間(ヒットマン)か?だが、彼女すら手が出せないという事は、あの映像はリアルタイムで送られている。そして、笹川京子にも三浦ハルにも既に刺客は送り込まれているという事だろう)

 

 

清水(だがあの赤ん坊が寝ているという事は、おそらく俺と同じくあの赤ん坊も想定して対策済みなのだろう。過信するわけではないが、もうしばらくはこのままでもいいだろう。それに、今動いてはツナ達が不審に思う。せめてあの映像が遮断されるか、ツナ達があの老人を倒し、次に進まない限りは手が出せない)

 

 

清水(だが、ここまでは俺の想定内だ。…さぁ年老いた老人よ、お前の殺害方法(凶器)を見せてくれ)

 

 

老人『そ、う、だ、なぁ~。・・では、お仲間でボンゴレ10代目をボコ殴りにしてください』

 

 

ツナ『え、えぇ~!!』

 

 

不良風の男『なんだとテメェ!』

 

 

何かを背負った男『獄寺!』

 

 

不良風の男『クッ』

 

 

老人『そこの沢田君を殴れと言ったんですよ?』

 

 

ツナ『!!』

 

 

清水(‥‥‥小さい男だ。自分が絶対有利な状況でしか動かない矮小な男。あれでよく[[rb:ヒットマン>殺し屋]]などと胸を張って公言できる。俺が奴ならその恥ずかしさのあまり、送り込んだ刺客にまず俺を殺させる)

 

 

老人『私のもう一つの趣味は人を驚かせることでしてねぇ。驚いた時の無防備で、無知で、無能な人間の顔を見るとそれだけで興奮して!!』

 

 

清水(矮小なくせに、一人前に快楽殺人鬼を語るか・・恥を知れ。お前なぞ、そんな大層なものではない。お前など自分がいるところが砂の城だと気づかぬまま、自分はこの城の王だと慢心する哀れな変態だ。)

 

 

清水(お前よりは、あの地獄のような世界にいた変態の快楽殺人鬼の方がよっぽどマシだ。)

 

 

清水(マザコンが度を過ぎた結果、若い人妻ばかりを狙い、両の乳房と子宮だけを取り除いてから殺していたあの変態…そんな殺しを繰り返すうちに、取り除く際の女の絶望に満ちた顔と肉が抉られ、様々な器官や血管が切れる音に快楽を見出していったあの快楽殺人鬼の方がな)

 

 

清水「とにかく、この男はもう見る価値がない。三浦ハルの顔と現在位置が分かっただけで十分だ。次は笹川京子だが…」

 

 

 

次に俺は、笹川京子を尾行させていた俺の有幻覚と五感を共有させた。

 

 

笹川京子を尾行していた俺の有幻覚は傍から見ても不審に思われない適度な距離をとって彼女を尾行していた。

 

 

清水(さっきからまさに骸骨が服を着た何かが、彼女の周りを飛び回っているが・・アレがあの変態が送り込んだ刺客か……)

 

 

清水(あの矮小な男に合って、醜い格好でビュンビュンと…まさに蠅だな。あの長い爪が凶器だろうが、俺から見れば蠅の手足にある爪にしか見えないぞ)

 

 

俺がそんなことを思っていると笹川京子がバス停に止まり、黒い髪をした彼女の友達と談話を繰り広げ始めた。俺は彼女が止まっているバス停の一つ先のバス停に止まり不審に思われないように注意を払いつつ、横目で彼女を観察し続けた。

 

 

ツナ達があの男の言いなりになっているのか、それともただ単にあの男がツナ達を使って愉しんでいるのか数分が経過しても彼女に蠅が手を下すことはなかった。

だが、そんな時間もすぐに終わりを告げ、ついに笹川京子に蠅の爪が襲い掛かろうとした…その時だった

 

 

刺客「Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 

 

突然、笹川京子に今にも襲い掛かろうとしていた蠅が呻き声を上げ、痙攣しながら地面に倒れ伏したのだ

そして、その刺客を尻目に一人の白衣を着た中年の男が笹川京子を庇うようにしてその前に立った。

 

 

???「はぁ~い京子ちゃん、助けに来ちゃったよぉ~?おじさんカワイ子ちゃんのためなら・・次の日の筋肉痛も厭わないぜ」

 

 

清水(あの男…一見ふざけている様にみえるがその実、プロだな。しかもかなりのベテランだ。一切の隙がねぇ)

 

 

俺がその男に注意を払っていると、今度は身近で人体を強く殴打した音が鳴った。

俺は慌てて五感共有を解除し、姿を消したまま周囲の様子を探った。

そこには、中華風の衣装を纏った拳法家と思わしき女と、以前ツナに抱えられ運ばれていた牛柄のシャツの男がどこからか現れており、俺の隣には三浦ハルその人がいた。

 

 

清水(三浦ハルがいた公園ってのはここだったのか…というか隣にいたのに気づかない俺って……。だが、そんなことより・・あの拳法家風の女が今目の前で蠅の片割れに放っている蹴りや突き…相当な威力だ。的確に急所を狙い当てている)

 

 

拳法家風の女「許せないな、女性を狙うなんて」

 

 

牛柄のシャツの男「やれやれ。ハルさん、もう大丈夫です」

 

 

ハル「ハヒ?」

 

 

清水(あの中年男といい、この二人といいタイミングが良すぎる……あの赤ん坊がしてた対策ってのはこれか。確かに、あの男の隙の無さや、拳法家の相当な腕を知っていれば不安要素は皆無に等しい…。あの赤ん坊はどこまで人脈があるんだ?)

 

 

ハル「ハヒ!何の騒ぎですか?」

 

 

拳法家風の女「ランボ、ハルさんをお願いね」

 

 

牛柄のシャツの男「OK。さ、ハルさん」

 

 

ハル「ハヒ!?」

 

 

牛柄のシャツの男「ここはイーピンに任せましょう」

 

 

ランボと呼ばれた牛柄のシャツの男が三浦ハルを連れて安全なところに退避した途端、蠅の片割れが三浦ハルの後を追うように動き出した。

 

 

しかし、それをイーピンと呼ばれた拳法家風の女が難なくいなし、顎下を掌底で打つ。そして、がら空きになった鳩尾に突きを繰り出し、最後に捻じれた体形を戻す回転に合わせ回し蹴りを顔面側部にくらわせた。

 

 

清水(完全に動きを見切っている……これほど一方的な戦いは久しぶりに見た。あの地獄ではこんなに一方的な展開だと、すでに片方の命はないからな)

 

 

だが、蹴られた蠅も衝撃を体を回転させることで逃がし、さらにその回転に乗せて攻撃を繰り出してきた。

 

 

清水(蠅も少しはやるな。だが目の前の女には遠く及ばない…もしあいつがあの世界に降り立ったとしたら…降り立った十数分後には死体となっているだろう。あの世界にいる連中の大半は理由もなく人を殺すからな。だからこそ、あんな馬鹿げたことが常識化されている)

 

 

回転に合わせて女の胸を刈り取るようにして出された攻撃は難無く躱され、続く第二撃は女が素早く動いたことで空を突き、その隙に女から脇腹にカウンターを喰らっていた。

 

 

清水(一方で、あの女の方は数日は通用するだろう。あの世界における殺し合いを肉体戦闘に限れば数ヶ月に延命できるな。それほどの腕だ。そして、完全に見切っていても油断せずに隙を見逃さない観察眼、敵に空を突かせるほどの俊敏さ……素晴らしい)

 

 

三撃目からは蠅も目の前の敵に対し容赦がなくなったのか、首を集中的に狙い始めた。しかし、三撃目は女に防がれ、四撃目はまた難無く躱されてしまった。

 

 

そして蠅が体制を直す前に女は蠅の膝と肩を踏み台にして電柱にいったん飛び移り、蠅の方へ向き直り飛びかかった。

女は蠅の首に片方の足を掛けながら背広に座り、蠅の左手にもう一方の足を絡め、自分の腕を自分の背に回し蠅の右手を背と腕の間に通し蠅の右手に対し仰向けになるように倒れた。

 

 

イーピン「高三元(ハイサンゲン)!!」

 

 

女はその声と共に体を起こし、蠅の首は掛けていた足と背に回していない方の腕で曲げ、蠅の両手はそれぞれ掛けていた自分の体の部位で圧をかけた。

 

 

絞められていくうちに気絶したのか、蠅は全身の力が抜けたように崩れ落ちた。それに伴い上に乗っていた女も地面に降り、先程の牛柄のシャツの男を追いかけていった。

俺は透明化を解除し、倒れ伏し一切動かなくなった蠅に近づいた。

 

 

清水「体中の骨という骨が折れている…が、まだ生きている。ならばいい。お前の主に恐怖を与えるにはお前の存在が不可欠だからな。とりあえず、お前ら蠅は幻術空間に隔離さしてもらう。安心しろ、主もすぐにお前らに会いに行くから」

 

 

俺は笹川京子の方に残した有幻覚にも幻術空間に蠅を放り込むよう命令を出し、本体であるあの男がいる黒曜ランドに向かった。

そこでは、あの矮小な男が気絶したまま放置されていた。

 

 

清水「ツナ達は…先に行ったか。良かった。これから俺がすることを見られたくはなかったからな……。」

 

 

清水「地獄から来たりし名前のない怪物による惨殺演劇いざ開演……ってね」

 

 

俺はそう呟きながら老人の後を追うように幻術空間へと消えていった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

バーズ「痛ッ…。ここは・・どこです?私は生きているのですか??」

 

 

気が付いた私は、顔に走る痛みに耐えながら状況の把握を試みた。しかし、視界は一面が暗黒に包まれており、何も聞こえない無の世界が広がっていた。

 

 

バーズ「にしても、おのれシャマルに小娘!私の大事なブラッディツインズ(以下ツインズ)を…」

 

 

顔面を走る痛みが治まった私は、脳裏に焼き付いたシャマルと小娘が私のかわいい双子を撃退するシーンに対する小言を口にしながら前に進むことにした。

私が前に進むたびに、地面からは砂利の上を歩いているかのような音が聞こえた。

 

 

バーズ「砂利の上…?ここは、黒曜ランドではないのですか??」

 

 

???「ああ、そうだ。ここは名もなき地獄の悪鬼が創り出した空間」

 

 

バーズ「誰です!姿を見せなさい!!」

 

 

???「初めまして自称快楽殺人鬼。本来ならここで私の名を明かすべきだろうが、先ほど言ったように俺に名前はない。好きに呼べ。」

 

 

先程まで私が砂利道を進む音しか聞こえなかった世界に突如、機械のように無機質な声が響きました。

その声はどこから聞こえてくるのか正確にはわかりませんでしたが、なんとなく私の行く手を塞ぐかのように前方から聞こえてきた気がしました。

 

 

バーズ「地獄の悪鬼を名乗るものの声がするという事は…ここは地獄というわけですかな?」

 

 

私は先程まで昂っていた気持ちを何とか静め冷静であるように努め心中の激昂を悟られないようにしながら、少しでも情報を手に入れるため地獄の悪鬼とやらに話しました。

 

 

???「いや、まだ地獄ではない。だが近いうちにそうなる。バーズ、お前にとってのな」

 

 

バーズ「それは・・どういう意味ですかな?」

 

 

???「そう早まらなくてもすぐに体験することになる。百聞は一験に如かずってやつだ。ただし、この場合の一見は見物の見ではなく経験の験だがな」

 

 

バーズ「おやおや・・ずいぶんと余裕ですね。私にはツインズが」

 

 

???「あの蠅のように汚らわしい双子のことか?」

 

 

バーズ「そ、そうです!今にでも貴様を八つ裂きに」

 

 

???「あの双子ならすでに仮死状態だ。俺の術中にいるから完全に死ぬことはできないがな」

 

 

バーズ「なっ!う、嘘をつくな!!」

 

 

???「嘘ではない。その証拠も今見せてやる」

 

 

すると私の脳裏にある映像が浮かび上がってきました。

シャマルに倒されてしまった私のかわいい双子の一人は、あの映像で最後に見た倒れたまま動きませんでした。

 

 

???「こいつが罹った病気は【振動シンドローム】その症状については言及しないがあの映像を見ていたお前ならわかるだろう。早い話が動けば死ぬってやつだ。」

 

 

視界は脳裏に浮かび上がってきた映像に支配されながら、両耳からはあの無機質な声が木霊し続けています。

 

 

???「俺がこいつにやったのは治療だ、正確に言うと症状により破壊された体内の器官を俺の力で補っている。治療というより延命行為だな」

 

 

バーズ「では・・これはまだ…」

 

 

???「ああ、生きている。辛うじてだがな」

 

 

耳を澄ますと確かに消えてしまいそうな音量ですが、確かに呼吸音が聞こえ映像を凝視すると肩で呼吸しているのも確認ができます。最も、その動作で症状を引き起こしているらしく激痛は絶え間なく私のかわいい双子を襲っているようですが

 

 

???「話は変わるが、お前…黒ひげ危機〇髪って知ってるか?」

 

 

映像が雑にブツ切りされたかと思うと、あの無機質な声はふざけているかのようにこんな問いをかけてきました

 

 

バーズ「急に何の話だ!ふざけているのか!!」

 

 

???「知らないなら教えてやる。黒〇げ危機一髪ってのはな、この国にあるおもちゃだ。穴の空いた樽に剣を順番に差し込み、当たりの穴に剣が差し込まれると樽の真ん中にいる黒ひげが吹き飛びって仕組みだ」

 

 

バーズ「それがどうしたというのだ!!」

 

 

???「俺はそのおもちゃを初めて見た時これは何と残酷なものだと衝撃を受けたよ。玩具とはいえこんなものを開発し、あまつさえ平然と売っているのかってな」

 

 

バーズ「だからそれがどうしたというのだ!!」

 

 

???「でもな、殺し屋の性ってやつなのかね。こうも考えてしまった‥‥。これを生きた人間にやればどうなるんだろう・・ってな」

 

 

バーズ「まさか・・・貴様……」

 

 

???「そのまさか。実験台としてお前のかわいい双子を使わせてもらった。これがその時の映像だ、じっくりと鑑賞しろ」

 

 

バーズ「貴様ァァァァァァァ!」

 

 

私の叫びを無視するかのように再び私の脳裏にある映像が映し出された。

そこには、あのチャイナ娘が暴れていた公園と、そこに無残に倒れる私の双子。

そして、チャイナ娘に連れて行かれたはずのあの制服姿の小娘が映っていた。

 

 

???「言わなくてもわかっていると思うが、映っている三浦ハルは俺が擬態したものだ」

 

 

その機械音声の補足が切れるのと同時に映像内の三浦ハルはしゃべりだした

 

 

ハル?『自称快楽殺人鬼の変態さん、見てますかー。これよりあなたのためにとってもデンジャラスなことをお見せしたいと思いまーす!!』

 

 

ハル?『そこで倒れている蠅のように醜い殺人鬼さん、お名前をヂヂさんと仰るそうです。彼は今は眠っていますが、実は体の中は既にデンジャラスなことになっております!!』

 

 

映像内の地獄の悪鬼が擬態したという三浦ハルは、ヂヂを指さして話をつづけた

 

 

ハル?『具体的に言ってしまうと先程大人イーピンさんに折られた骨をさらに細かく、みじん切りされた玉ねぎのように極小に砕いて、その砕いたすべての骨の両端を鋭利な刃物状にしてから元のように繋ぎ止めてあります!!おー・・聞いただけでも背筋が凍るようなデンジャラスさです!!』

 

 

バーズ「なん・・だと・・・!!?!?」

 

 

ハル?『この骨が黒ひげ危〇一髪でいう剣になるわけです!えっ・・それじゃあ樽はなにになるんだ・・・ですか?フッフッフ…』

 

 

バーズ「まさか・・貴様・・おい・・やめろ・・・」

 

 

ハル?『樽はズバリ!ヂヂさんの臓器です!!』

 

 

バーズ「やめろオオオォォォ!!」

 

 

ハル?『私、つくづく不思議に思っていたんです。当たり以外の穴に剣が刺さっているとき、黒ひげさんの見えていない部分はどうなっているんだろうって。当たりに刺さると飛び出すという事はそれ以外の穴は当たっていないという事なのでしょう。でも、もしあれが…』

 

 

映像の女はそこで言葉を一度きり、口角を口が裂けるのではないかと思うほど上げて嗤い口を開いた。

 

 

ハル?『あの当たり以外に突き刺される剣。あれが…()()()()()()()()()()()()()()()と仮定したなら……どうなるのでしょうね』

 

 

バーズ「……悪魔め」

 

 

ハル?『という訳で今回はこんな企画をお送りします!題して!!

【ハルのハルハルエクスペリメントデンジャラス!!黒ひげ危機一〇の秘密を探れ!!】』

 

 

私の脳裏に映し出されている映像なのに、なぜかテロップまで表示されていた。だが、私にはテロップが表示されていることは理解したが、それが何と書かれているかを理解することはできなかった。

私には、映像に出ている女が悪魔が化けているのか手先のようなそれに準ずる者のようにしか思えず、映し出されているテロップも悪魔の呪文にしか見えなかった

 

 

ハル?『とまぁ、それらしいタイトルを宣言したのはいいんですが‥ここで一つ問題が発生します。‘‘それは剣を刺す人がいない’’という問題です。私自ら刺せばいいのですが、私は今回、カメラマンに徹したいのでダメです。ですから!黒ひげさん自身に刺していただきましょう!!』

 

 

バーズ「なんだ・・この悪魔は……さっきから‥なにを言っているんだ」

 

 

ハル?『ヂヂさーん、起きてくださーい。あなたの()()がここにいますよー。殺るなら今がチャンスですよー』

 

 

ヂヂ『ヴ・・ヴヴヴ・・ヴァ』

 

 

ハル?『あ、起きましたね。さぁ、ヂヂさん。あなたの標的は目の前にいます!先程の恨みを晴らすためにも一切の躊躇なしに私を殺してしまいましょう!!』

 

 

バーズ「やめろ!ヂヂ!!そいつの口車にのるんじゃない!!!死ぬぞ!!!」

 

 

私の忠告を無視し、ヂヂは女の姿をとらえると一切の遠慮なしに女の命を刈り取るには十分すぎる攻撃を繰り出した。

女はまた薄気味悪い笑みを浮かべ、腹部から首めがけ常軌を逸した速さで繰り出される攻撃をただただ見ていた。

そのままヂヂの長く鋭利な爪が女の喉を引き裂き、赤い鮮血を多量に放出されるかと思われた瞬間、女はただ一つの言葉を発した。その口角が上がり歪んだ口から白い犬歯を見せながら

 

 

ハル?『実験開始』

 

 

女がそういった刹那、今まさに首の動脈に深く刺さり抉ろうとしていた爪が、手が、腕が止まった。そして、それまで健康的とは言えないがどこか底知れぬ恐怖を感じさせていた要因の一つであるヂヂの灰色ががった肌が多量の内出血で青黒くなっていった。

その青黒い痣は心臓を除いた全身に広がり、ヂヂは痛さのあまり声も出せないのか口を堅く閉ざしたままその場に倒れこみ、のた打ち回った。

 

 

バーズ「ヂヂ!しっかりしろ!!ヂヂ!!」

 

 

私が荒げた声に対しヂヂは返事をせず、のた打ち回り続けた。地面にそうしていると骨がどこか別の臓器や肉に刺さるのだろうか、その動きは収まるどころかだんだんと激しくなっていった

だが、そんなヂヂの声にもならない悲鳴をよそに私の耳を暗く冷たい声が支配した

 

 

???「無駄だ。言ったはずだ、()()()仮死状態だと」

 

 

???「これは既に行われたものだ。今お前が見ているのは俺の有幻覚というカメラに録画された映像だ。だが、安心しろ。双子はどちらもまだ生きている。お前の殺害に加担するためにな」

 

 

バーズ「ど、どういうことだ!!」

 

 

???「まぁ、見てれば分かる」

 

 

暗く冷たい声が切れるとそれまで停止されていた脳裏の映像が再び再生し、女は依然もがき苦しみ、体の色がすっかり変色してしまったヂヂに近寄り膝を抱えて座り、優しくどこか狂気を感じさせるように語りかけた

 

 

ハル?『フフフ…死にたいですか?ダメですよ…あなた達双子はまだ死ぬ(退場)にはまだ早すぎます。最後の大仕事が残っていますから・・主役を殺すという大仕事がね…』

 

 

ハル?『という訳で、【ハルのハルハルエクスペリメントデンジャラス!!黒ひげ危機一〇の秘密を探れ!!】はここまでとなります!一旦カメラと役者の皆さんをそちらにお返しします!!後は頼みましたよ……俺』

 

 

女のいう番組が終了に近づいたからか、脳裏に浮かんだ映像はだんだん蜃気楼のように霞んでいき、最後には消えた。消える間際映っていた女はボンゴレ十代目と同い年の男に変わっていたような気がするのは気のせいだろうか

 

 

???「任された。さぁ、待たせたな。いよいよ主役(お前)の出番だ」

 

 

脳裏の映像が完全に消えると、それまで暗闇に包まれていた空間にはどこからか僅かな光が照らされ、それまで聞こえていた声の主が姿を現した。

 

 

 

目の前の男はあの映像が消える前にかすかに見えた男と全く同じ背丈格好をしており、光が照らされているというのにその眼には一切の光がなく周囲の暗闇よりもさらに暗くて深い闇を宿していた。

 

 

バーズ「お前が・・・私のツインズを……」

 

 

???「ああ、そうだ。お前のツインズを半殺しにした。そして、今からはお前を殺す」

 

 

バーズ「なぜだ!なぜ私を狙う!!理由は何だ!!誰かに頼まれたのか!!」

 

 

???「違う、俺がお前を殺す理由は誰に頼まれたからでもない。俺の意志だ」

 

 

バーズ「意志だと!殺し屋の貴様が!?誰に頼まれたわけでもなく自分の身勝手な意志で殺すだと!!?」

 

 

???「ああそうだ。俺はお前が殺したい。だから殺す。それ以外の理由などない」

 

 

バーズ「ふざけるな!自分が殺したいから殺すだと!?そんな傲慢で身勝手な理由が許されるか!!」

 

 

???「お前にそれを言う資格はない。お前も自分のくだらない性癖のためにあの双子を使い幾人も葬ってきただろう。自分は許されて他人がやるのは許さない。傲慢極まりないのはお前の方だ」

 

 

バーズ「くだらないだと!?お前がただ私の趣味嗜好を好まないだけではないか!!お前は趣味嗜好が気に入らないから私を殺すのか!!」

 

 

???「見くびるな、変態。俺は別にお前の性癖など興味もない。たとえお前が死体にしか興奮しないやつでも、四肢が欠けている人間にしかそそられない人間だろうとどうでもいい」

 

 

バーズ「ではなぜだ!なぜ私に殺意を抱いた!!」

 

 

???「至極簡単だ。お前は俺の・・‘‘清水健人’’の恩人の一番大切なものに手を出した。だから殺す。それだけだ」

 

 

バーズ「恩人だと!?貴様のような人道を外れた外道に恩人などいるものか!!お前のいう恩人とやらが誰だかは知らんがなこれだけは言ってやる!!私たちのような殺し屋には恩人などいない!!お前が勝手にそう思っているだけだ!!!」

 

 

清水「……」

 

 

バーズ「お前の恩人もお前の正体を知れば手のひらを返したようにお前への態度を変える!!お前のことなど最初から知らなかったかのようにふるまう!!恩人とやらが表の世界の人間なら尚更な!!裏の世界の住人なら散々利用された挙句に殺されるのがオチだ!!」

 

 

清水「……」

 

 

バーズ「だから私たちに‘‘恩人’’などというものは存在しない!そんなものはお前が抱いている幻想だ!!!私たちにあるのは()()()だけだ!!わかったか!!」

 

 

清水「…ご高説大変痛み入る。お礼に俺からもお前に一つ()()を教えてやる。

お前はこれからその()()に殺される」

 

 

バーズ「何!?どういうことだ!説明しろ!!!」

 

 

清水「これ以上語ることはない。ではさらばだ、自称快楽殺人鬼。もし次あの世界であったなら本当の()()()()ってのを教えてやる。()()()の先輩としてな」

 

 

清水と名乗った男が闇に消えた瞬間、私の足元が耳を劈くほどの轟音を轟かせ崩れた。それはまるで大震災に見舞われた高層ビルのように一気に根元から崩れ落ちるようだった。

 

 

足元が崩落し、何も見えない奈落の底へと落下していく。落下中は一切の物音が聴こえず、視界は暗闇に支配されたまま、ただただ()()()()()()という事だけが理解できた。

暫くして何か固い地盤のようなものに足を強打した私は、両足を折ってしまい立てなくなってったものの落ちているという浮遊感からは解放された。

 

 

バーズ「クソ・・両足を折ってしまいましたか……これでは歩いて移動はできませんねぇ。しかし、先程あの清水という男が言っていたことはどういうことなのでしょう。私は‘‘幻想’’に殺されるというのは……」

 

 

そんな思考を巡らせていた私の頭にはどこからやってきたのか、私のかわいい小鳥ちゃんたちが止まっていました。

 

 

バーズ「おや、小鳥ちゃん達ではないですか。ツインズ達はあの男にやられてしまったようですがあなた達は無事だったのですねぇ」

 

 

小鳥「「…」」

 

 

バーズ「小鳥ちゃんたちがどこから入ってきたのかはわかりませんが、少なくとも出口はあるという事ですね。では、すみませんが小鳥ちゃんたち、私を出口まで案内してください。あ、できるだけゆっくりお願いしますよ。なにぶん両足を折ってしまい、歩くことができませんので…」

 

 

小鳥「「……」」

 

 

バーズ「……おや?どうしました?・・ああ、お腹が空いているのですか?仕方ないですねぇ…ほら餌ならここにありますからいっぱい食べてください。」

 

 

私は胸ポケットからハンカチを取り出すと、それを広げ小鳥ちゃん達のえさをその上に出しました。ですが、小鳥ちゃん達は一切の反応を見せずに黙って私の頭から動こうとしません。

 

 

バーズ「おや・・お腹が空いているのではないのですね。では一体なぜ動かないのですか?」

 

 

私は小鳥ちゃん達を手に乗せようと小鳥ちゃん達を触ろうとした瞬間、それまで黙り続けていた小鳥ちゃん達が声をあげました

 

 

小鳥「「……ス」」

 

 

バーズ「おや、どうしましたか?」

 

 

小鳥「「…ズ……ス」」

 

 

バーズ「鈴?鈴が欲しいのですか?」

 

 

小鳥「「コロス!コロス!バーズ、コロス!!」」

 

 

バーズ「な!なんですって!?」

 

 

小鳥ちゃん達はそういうと私の頭から飛び立ち、頭上数メートルから私の頭頂部めがけて急降下をしてきました。それはまるで地表に向け真っ逆さまに落下する隕石のように…

 

 

バーズ「や、やめなさい!小鳥ちゃん達!!やめるのです!!」

 

 

私の注意など聞く耳を持たず小鳥ちゃん達は落下の勢いに任せ私の頭頂部を啄木鳥のように啄んできます。いや、それはもはや、私の頭という木に穴を開けんと何度も啄む啄木鳥そのものでした。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

小鳥が男の頭を啄み始めてもうどれくらいの時間が経過しただろう。

 

 

男の頭は既にいくつもの穴が空き、髪の毛は全て抜け、空いている穴に頭皮と共に入り込んでいる。脳は何度も啄まれた結果、前頭葉・側頭葉・後頭葉はそれぞれサイコロレベルまでに分解され脳内の血管や頭皮や毛髪と乱雑に絡み合っている。また頭頂葉は海馬が見えるようにまで穴が貫通しており、そのほかの脳の部位は頭皮や毛髪、脳や顔の血管などと絡み合い煩雑を極めている。

目は内側から突き破られ、両頬には小鳥がギリギリ通れる程度の穴が開けられ、耳は外から引きちぎられ、口からは引きちぎられた口蓋垂が見え隠れしている。

また、顔や首周りの筋肉は繊維の一本一本に至るまで引き裂かれており、外からは痛々しい裂傷痕がいくつも見えている。

そして胸部から腹部にかけては今も中であの小鳥たちが啄み続けているのだろうか、何かが体内を縦横無尽に動き回っており、時折体内からギギギギギギといった呻き声が聴こえてくる

 

 

既にバーズという男は心臓も停止し、呼吸がとまり、完全に事切れている。しかし小鳥たちは・・ツインズ達は男の体内を蹂躙するのをやめない…否()()()()()()。なぜなら、男の体内の蹂躙をやめるという事は自分たちの死を意味するのだから

 

 

 

 

 

 

大空を陰から支える蜃気楼

 ~黒曜編 第二話~

    終わり




書きたいシーンはあれどそれを簡潔かつ単純にできないので毎回これだけ長くなってます。
すいません


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大空を陰から支える蜃気楼 黒曜編 ~3話~

次回で黒曜編が終わります


ツナ「この先に・・本物の六道骸が…」

 

 

俺は廃墟と化した黒曜ランドの本館内を歩きながらそう呟く。

 

 

六道骸・・マフィアを追放された脱獄囚でフゥ太のランキングを利用し風紀委員の人や雲雀さん、京子ちゃんのお兄さんや獄寺君の襲撃を画策した張本人。

さらに、俺たちがここに乗り込んできても多数の刺客を差し向けみんなを殺そうとした。そして‥その牙はマフィアに一切の関係がない京子ちゃんやハルにまで…

 

 

ビアンキ「ツナ。何を考えているのか大体想像は付くけど程々にしておきなさい。気負いすぎるのは逆効果よ」

 

 

ツナ「ビアンキ……うん、わかった。ありがとう」

 

 

一緒に本館内を歩く赤い長髪をしたビアンキにそう声を掛けられる。考えること自体を咎めないところを見ると彼女も六道骸に対して俺と同じ感情を抱いているのだろう。

だが、それも当然だ。彼女は京子ちゃんたちと仲が良かったし、Dr.シャマルの治療の副作用が残っている獄寺君に敵の一人を任せているのだから…そしてその獄寺君は彼女の実弟なのだ。六道骸はもちろんそんな彼に任せざるを得なかった自分に対しても怒りを感じているだろう

 

ツナ「獄寺君…大丈夫かなぁ」

 

 

俺はこれまで通った道を振り返り、隣を歩く彼女の実弟であり俺の友達でもある獄寺君の事を想う。

 

 

ビアンキ「隼人の事が心配なのもわかるけど今は先を急ぐ方が先決よ。六道骸を倒さない限りまたランチアみたいな被害者が出続けるわ。それに…あの子もガキじゃないのよ。自分のことくらい自分で何とかするはずよ」

 

 

先程よりも強い口調で彼女に咎められる。これ以上はまた彼女に殴られてしまいそうだったので先を急ぐことにした。

三階に続く階段をのぼりしばらく進むと一つの部屋に続く扉が見えてきた。その扉を開けるとそこには…

 

 

???「また会えて嬉しいですよ」

 

 

室内はどこからか差し込む外の光以外は光源の一切がなく、その声の主もまるで俺たちを待ち構えるかのようにドアの真正面にあるソファに腰かけていた。

 

 

ツナ「えっ…」

 

 

ビアンキ「ッ!!」

 

 

その男の姿を確認すると隣にいたビアンキが表情を変え目の前の男に敵意を向けながら俺を庇うようにして前に立った

 

 

ツナ「き、君は…!」

 

 

ビアンキに敵意をむき出しにされても表情一つ変えないその男は少し前に森で会った人質の黒曜中の子だった。

 

 

ツナ「君もここに捕まっているの?あっ、この子はさっき森であった黒曜生の人質なんだよ」

 

 

ビアンキとリボーンは彼と初めて会うことになるので彼は敵ではないと証明するために、軽く紹介をする。でも彼がここにいるという事は本物の六道骸はいったいどこにいるんだろう…さっきのビアンキの反応といい…なんだか嫌な予感がする。

 

 

学生?「クフフ・・ゆっくりしていってください。君とは長い付き合いになる…ボンゴレ10代目」

 

 

ツナ「えっ…なんで君がボンゴレを知っているの?」

 

 

リボーン「待て、ツナ」

 

 

ビアンキ「違うわツナ。コイツ‥…」

 

 

その言葉で確信を得たのかずっと黙っていたリボーンが口を開き、ビアンキも彼を敵と確信したのかさらに俺の前に出る

 

 

学生?「クフフ……僕が本物の‥‥六道骸です」

 

 

ツナ「なっ‥‥ハァ!??」

 

 

目の前の学生はプロのヒットマンであるビアンキとマフィアのボスによって派遣され本人も凄まじい実力を持つリボーンに敵だと判断されても、一切臆することなく自分から敵だと自分の正体を明かした。

 

 

バタン!!

 

 

ツナたち「「「!!」」」

 

 

彼の宣言がまるで合図だったかのようにこの室内唯一の入り口が大きな音を立てて閉まった。俺たちは慌てて振り返ったが扉は確かに固く閉ざされていて、その前には見覚えのある人物がその先へ行かせないようにして立っていた。

 

 

ツナ「フゥ太!お、脅かすなよ・・」

 

 

ビアンキ「無事みたいね」

 

 

扉の前に立っていたのは数日前から行方不明だったフゥ太だった。見る限りではどこも怪我などはしていようだったが、どこか違和感を感じる…骸から感じる嫌な気配とはまた違った…これはいったい何なんだ?

 

 

ツナ「いったいどこ行ってたんだ?あの後ずいぶん探したんだぞ・・みんなも心配してた。」

 

 

リボーン「…」

 

 

骸「クフフ…」

 

 

ビアンキ「危険だから下がってなさい・・フゥ太」

 

 

ビアンキがフゥ太を庇うようにしながら近づくとフゥ太の手には三本槍の穂先の部分だけがいつの間にか握られていて、フゥ太は何の躊躇いもなくそれをビアンキの腹部に突き刺した。

 

 

ツナ「ビアンキ!ビアンキしっかりして!!」

 

 

倒れこんだビアンキに呼びかけるが一切の反応はない。一応リボーンが持ってきていた救急セットで応急処置を施してくれているが目を覚ます気配はない。

 

 

ツナ「フゥ太何やってんだよ!!」

 

 

ビアンキを刺したフゥ太は三本槍の穂先を以前まで持っていたランキングブックのように大切に抱え込み、獣の唸り声のような声をあげて俺を睨んでいた。

 

 

フゥ太?「ッ!」

 

 

ツナ「おい、フゥ太!!」

 

 

フゥ太は抱え込んでいた穂先で俺に向かって攻撃してきた。その攻撃は辛うじて回避できたがフゥ太は槍を再び構えて今にも俺に攻撃してきそうだった。その穂先がどこからか入っていた外の光を受け、その反射光で初めてフゥ太の顔を明確に見ることができた。

 

 

フゥ太?「……」

 

 

その眼には一切の光がなく、暗い闇が広がっていた。しかしその闇しかない瞳の中で俺への殺意という炎だけがメラメラと燃え盛っていた。

 

 

リボーン「フゥ太のやつ、自意識ってやつがねぇな。マインドコントロールされてんのか?」

 

 

俺の後ろでビアンキに応急処置を施しているリボーンがそう呟く。だが俺の意見は彼とは違う。

 

 

ツナ(違う‥これは骸にマインドコントロールされているんじゃない…それどころかフゥ太ですらない……誰だ、目の前にいるフゥ太の格好をした奴は)

 

 

俺がそんな違和感を感じているとフゥ太は俺に再び攻撃を浴びせてきた。俺は繰り出されてきた突きと薙ぎ払いを紙一重のタイミングで躱す。その後も続けて攻撃はされてきたがその全てを何とか回避することができた。そして、その攻撃の度に俺の違和感も増大していった

 

 

ツナ(やっぱりおかしい……このフゥ太が出す攻撃は‘‘俺が少しでも動けば当たらないもの’’ばかりだ。ビアンキを躊躇いもなく刺しておきながら俺に対してはそんな攻撃ばかり…まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()みたいだ)

 

 

そんな中、不意に俺の体が後ろから鞭で縛られ倒された。その鞭の取っ手を握っていたのはリボーンだった。

 

 

リボーン「前にディーノの奴にもらった鞭を持ってきてやったぞ」

 

 

ツナ(コイツがスパルタだってことは随分前からわかっていたが改めて思う。こいつには慈悲の精神なんて欠片もないんじゃないかって……。俺は仮にもお前の生徒だぞ?)

 

 

なんてことを思うが口には出さない。なぜなら、出せばどんなひどいことをされるか分かったものじゃないから…

 

 

ツナ「こんなもん渡されてどうしろって言うんだよ!」

 

 

拘束を解除され投げ渡された鞭を持ちながらリボーンに抗議する。だがリボーンは俺の抗議など気にも介さず「やらねぇとお前が殺られるぞ」と正論を振りかざしてきた。

 

 

骸「クフフ…さぁ、どうします?ボンゴレ十代目」

 

 

ツナ「ッ!」

 

 

骸は頬杖をつきながら俺たちをずっと見ていた。その言動や態度からはあいも変わらず余裕が見て取れ、俺たちがもがき苦しむさまを楽しんでいるようだった。

 

 

ツナ(フゥ太の違和感はまだ続いているけど・・骸に危険が迫ればこの状況は打破できるはず!)

 

 

俺は渡された鞭を構えながら骸の方へと走った。後ろから誰かが追いかけてくる足音が聞こえる。走りながら一瞬だけ振り返り、後ろを見てみるとそこにはフゥ太が俺を狙って追いかけていた。

 

 

ツナ(骸に操られているわけでもなければ、俺を殺す気もない。なのに俺を執拗に狙うのはなぜだ!?)

 

 

俺はフゥ太に対する違和感をさらに強めながら骸の方へと向き直り鞭を振るう。しかし鞭は弧を描きながら俺の方へとしなり顔面に直撃した。

 

 

ツナ「痛ぇ!!」

 

 

骸「クッハッハ!君にはいつも驚かされる。ホラホラうしろ、危ないですよ?」

 

 

骸は先程までよりは大きな声で笑いながら俺に注意喚起をした。敵である俺に向かってアドバイスをするとはよほど自信があるようだ。

骸のアドバイスに倣うのは癪だが言われた通り後ろを見てみると、俺が振るった鞭に絡まり身動きが取れないフゥ太がいた。

 

 

フゥ太?「……」

 

 

フゥ太は絡んで転倒した際に手から離れてしまったのか、俺の近くにある三本槍の穂先を取り戻そうと匍匐前進をしていた。

 

 

ツナ「おい、フゥ太!やめr」

 

 

フゥ太の顔をもう一度正面から見た俺は、フゥ太の眼が先程とはまた違っていたのに気づいた。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

ツナ(炎が…消えてる‥‥)

 

 

フゥ太の眼には先程まですべてを灰燼に帰するかのように燃え盛っていた炎が消え、完全な闇に染まっていた。その闇の暗さは今いる室内などとは比べ物にならない程で、もしその闇の中に放り込まれたのなら俺や山本といった常人はもちろん、ビアンキや骸といったプロのヒットマンですら孤独と自分の存在を認識することさえ阻害するほどの暗闇からくる絶望で自ら命を絶ってしまうのではないかと思わせるほどだった。

 

 

ツナ(コイツ・・やっぱりフゥ太じゃない。今までは確信が持てなかったけどこの眼を見てはっきりと分かった。これはマインドコントロールされている人の眼じゃない…もっと悍ましくて暗い暗黒しかない世界からやってきた人の眼だ)

 

 

フゥ太は穂先を取り戻し、再び俺に向け今にも振り下ろさんとしてきた。だが、俺はフゥ太の姿をしてそんな演技を続ける謎の人物に底知れぬ怒りを感じ、怒気を含んだ口調で目の前の人物に言葉を放った

 

 

ツナ「お前は誰だ!」

 

 

骸・リボーン・フゥ太「「「!!」」」

 

 

リボーン「おい、どうした。ツナ」

 

 

骸「これは不思議なことを言いますね。ボンゴレの目の前にいるのはフゥ太君ですよ。正真正銘本m「違うッ!」

 

 

俺は骸の言葉を遮ってそれを否定した。そうだこれは・・今俺の目の前にいるのはフゥ太なんかじゃない。別の何かだ。その証拠にフゥ太の姿をした目の前にいる何かは動きを止めている

 

 

骸「いったい何が違うというのです?そんなにも主張するのには何か証拠でもあるのですか?」

 

 

ツナ「物的証拠はないし、核心に至れる証拠もない」

 

 

骸「ならばボンゴレの妄言ですか?それとも勘が証拠とでもいうつもりですか?クッハッハ!ボンゴレはマフィアのボス以外にもコメディアンとしての才能もあるのですね」

 

 

ツナ「そうだ…今から言うのは全て俺の主観だ。直感と言ってもいい。でも・・それでも俺は声を大にして言う。こいつはフゥ太じゃない…ましてや骸・・お前にマインドコントロールもされていない」

 

 

リボーン・骸「「なに」」

 

 

リボーン「おいツナ!それはどう骸「どういう意味です!!」

 

 

大口を開けて笑っていた骸がその言葉で驚愕した表情を浮かべ、リボーンの言葉を遮って俺とフゥ太を睨みつけてくる。

 

 

ツナ「おかしいと思ったんだ。ビアンキを刺しておきながら俺には俺でも躱せる攻撃しかしてこない。いや、正確に言うと‘‘俺が少しでも動けば躱せる攻撃’’しかしてこなかった」

 

 

リボーン「死ぬ気モードじゃないお前が…か?」

 

 

ツナ「うん。骸も見ただろ?今の俺は鞭もまともに振るえない程戦闘に関しては全然ダメだ。その俺がこう言うってことはそれだけ当てる気がなかったってことだ。骸に操られているのならそんな攻撃はしてこないだろうし、お前もさせないだろ?」

 

 

骸「ばかばかしい!彼の本来の意識がまだ僅かに残っていてそれが攻撃を鈍らせただけのこと!!彼の君に対する感情は凄まじかった!![[rb:沈黙の掟 >オメルタ]]を貫き通し僕の支配下に置かれるまで一切口を開かないほどに!!」

 

 

ツナ「それでもだ。ランチアさんほどの人を絶望の淵に叩き落したお前が出来なかったとは考えられないんだ」

 

 

激昂する骸に対し俺は冷静に言葉を続ける。フゥ太の姿を何かはそんな会話の中でも指一つ動かさずに俺を光のない眼でじっと見つめていた。

 

 

ツナ「そして、これが一番の理由だけど…今とビアンキを刺した時だとコイツの眼が違うんだ」

 

 

リボーン「眼が違う?それはどういう意味だ?」

 

 

リボーンは疑問を投げかけてきた。骸は何か言いたげだったが俺に話を続けさせるために黙ったままフゥ太の姿をした何かを睨んでいた

 

 

ツナ「ビアンキを刺した時の眼は確かに今みたいに光がなかったんだ。でも、何か固い決意みたいなのが瞳孔の奥で炎みたいに激しく燃え盛っていたのを感じた」

 

 

リボーン「決意?何の決意だ?」

 

 

ツナ「それはわからない。でも確かにあの時にはそう感じた。でも今は違うんだ」

 

 

リボーン「どう違うってんだ?」

 

 

ツナ「今はその決意の炎が消えて何もない暗闇しかない気がするんだ。さっき絡まった後襲われる前にこのフゥ太の眼を見たんだけど、そこには炎が消えて何もない真っ暗闇だったんだ。常人だろうとビアンキみたいな裏社会の住人だろうと、その中に放り込まれたなら自殺しそうなほどに…」

 

 

リボーン「………そうか」

 

 

ツナ「リボーン?」

 

 

リボーンは少しの間黙考し、その後このフゥ太が俺たちが知っているフゥ太じゃないことを確認すると、また思考の海へと潜っていった。

 

 

一方、骸の方は何かに気づいたのか怒りと羞恥と驚きが入り混じった複雑な表情をして声を荒げた

 

 

骸「ふざけるなァァ!!!たかが中坊の風紀委員風情がァァァ!!私の計画を…私の復讐劇を踏みにじりやがってェェェ!!」

 

 

ツナ「おい、骸!どうした!!」

 

 

骸「お前だけはゆるさん!許さんぞォォ!!必ずこの手で殺し、貴様が六道のどこに行こうとも追いかけてもう一度殺してやる!!」

 

 

ツナ「骸!おい!!何に気づいたんだよ!!風紀委員がどうした!!!」

 

 

激昂し一種の錯乱状態に陥った骸が騒ぎ、今までと態度が急変した骸に困惑する俺の背後でとてつもなく冷たく暗い声が聞こえてきた

 

 

???「黙れ、自分で手は下せぬ臆病なパイン頭」

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

ツナ&リボーン「「ッ!!」」

 

 

その声は絶対零度のような冷たさとフゥ太の眼の暗闇にも負けないほどの暗さを持ち、聴いただけの俺でも息ができなくなるような圧迫感、迫ってくる絶望と恐怖に耐えられない程だった。あのリボーンでも黙考をやめ冷や汗を額から頬に流し、声の主をじっと凝視していた。

 

 

ツナ「い、今の声は……」

 

 

リボーン「ツナ、お前の後ろの奴からだ。お前の直感は当たっていたぞ」

 

 

リボーンは俺の後ろを鬼の形相で睨み、警戒しながら何かの格闘技の型を取っていた。

 

 

リボーン「振り向くのなら細心の注意をはらえ。一瞬でも気を抜けば…死ぬぞ」

 

 

リボーンは今までのふざけた態度や赤ん坊を想起させる口調とは違い、凄腕のヒットマンとしての口調でそう言った。リボーンが死ぬと明言したほどの相手が後ろにいるという事に更なる恐怖と絶望を感じたが、俺は恐る恐る振り返った。

 

 

フゥ太?「この世界を世界大戦という純粋な闇で塗りつぶすなんて掲げておきながら自分は直接的に手を下さず、やった事と言えば人道を外れた外道どもを皆殺しにし、収監された監獄を脱獄した後は、自分もかつて自分が殺した外道どもと同じ道を歩んだだけ…。小さい男だ」

 

 

骸「黙れ!貴様に僕たちの苦しみが分かるものか!!」

 

 

フゥ太?「お前はただ我儘を言ってダダをこねているだけだ。」

 

 

骸「貴様・・それ以上口を開いてみろ……六道巡りをその身をもって体験させてやる……」

 

 

フゥ太?「だが、それでいい!俺達(裏社会の住人)はどいつもこいつも駄々をこねるクソガキだ!!私利私欲や自分の感情だけで他人の命や意志をいとも容易く踏みにじる」

 

 

フゥ太?以外「「「何を言っているんだコイツは??」」」

 

 

フゥ太?「自分から進んでこっち(裏社会)に来た連中はどいつも救いようもねぇ屑共だ!!この男(ツナ)みたいなやつは滅多にいないだろう…だからこそ俺はこいつに…沢田綱吉に懸ける!!このどこまでも甘い男がこの先どこまで行き、どうするのか!!それを見てみたい!!」

 

 

ツナ「俺の名前…なんで知ってるんだ……」

 

 

フゥ太?「だからな、脱獄囚。お前にはこいつ(ツナ)の踏み台になってもらう。安心しろ、お前はこの男に負けるが死にはしない。こいつはそういう男だ。だからこそあの爆弾男や野球バカ、そこに寝ている女が命を張り、その赤ん坊が派遣された」

 

 

骸「僕が負ける…ボンゴレ十代目に?鞭一つまともに振るえないこの中学生に??どなたかは存じませんが‥実力差というものを御存知ですか?

フゥ太?「言ってろ。お前は能ある鷹だが、こいつはお前以上に能ある鷹だ。そしてその爪はもうすぐお前の喉元に突き刺さる」

 

 

骸「クッハッハ!言うは簡単ですがいったいどうやって勝つのです?あなたが加勢するとでもいうのですか!!」

 

 

フゥ太?「いや、俺は加勢しない。しなくても勝てるからな。それじゃあ俺はお前が再収監された後の用意があるから失礼する。精々油断しないことだ、南国フルーツ」

 

 

フゥ太がそういうとそれまではっきりしていた姿は蜃気楼のように薄くぼやけていった。

だが、そんな体を気にもせずにフゥ太は俺と目線を合わした。

 

 

フゥ太?「ツナ…俺の幻覚を見破るとは流石だ。流石はボス候補といったところだな」

 

 

ツナ「君は…誰なんだ?俺の名前やあだ名を知っているようだけど…」

 

 

フゥ太?「怪物()に名前はない。俺の親は二人とも俺に名前を付ける前に俺を殺そうとして死んだからな」

 

 

ツナ「えっ!?…それじゃあ君は……」

 

 

フゥ太?「ツナ‥お前は優しいやつだ。俺や俺の両親などといったあの地獄を体現したような世界の住人にまで包容しようと情をかける」

 

 

ツナ「そんなつもりはないよ!だけど・・親がいないっていうのは‥寂しいと思うから」

 

 

フゥ太?「そんなものこの世界だと珍しくもない。お前は人間だ、無理にすべてを包み込もうとするな」 

 

 

ツナ「でも!俺の周りでそういう人が増えるのは嫌なんだ!!そしてそういう人が俺の周りにいたのなら少しでも支えになってあげたい・・それだけなんだ!!!」

 

 

フゥ太?「正に大空そのもの・・だな。だがそれなら尚更だ‥蜃気楼なんていう一時的な現象のことは放っておけ」

 

 

ツナ「嫌だ!俺はまだ君が誰だか知らない・・でも君は俺を知っている!!つまり俺と君は知り合いの可能性があるんだ!!知っている誰かを放っておくなんて真似俺にはできないよ!!!」

 

 

フゥ太?「俺みたいな朧気なやつより、俺が今姿を借りてるこの子供のことを心配してやれ」

 

 

ツナ「そうだ!フゥ太!!フゥ太はどこに!!」

 

 

フゥ太?「心配するな‥この子供は今頃お前の部屋で眠っている。面倒になったら困るから姿は俺が見えないようにしているがな。当然、負っていた精神的負傷や身体的負傷も完治して、マインドコントロールも解除してある。これがその証拠だ」

 

 

そう言って目の前のフゥ太は俺の部屋のベットで眠っているフゥ太の映像を、手の上に出したスクリーンのようなものに映し出した。そこには確かにフゥ太が俺の部屋で安らかに眠っていた。

 

 

ツナ「よかった……本当に‥よかった。」

 

 

フゥ太?「さ、見せるべきものも見せたし俺はこれでさようならだ」

 

 

ツナ「ま、待って!まだ話したいことはいっぱいあるんだ!!」

 

 

フゥ太?「泣きそうな顔をするな、次期ボンゴレボス十代目候補。ボスがそんなんだとファミリー全体が舐められるぞ」

 

 

ツナ「待って!せめて君の名前だけでも!!」

 

 

フゥ太?「言ったはずだ、怪物()に名前はないと。だがお前は俺の名前を知っているはずだ」

 

 

ツナ「えっ・・それってどういう……」

 

 

フゥ太?「俺に名前を付けたのは紛れもないお前だ。あの時・・並中で寝ていた俺にな」

 

 

ツナ「!!君は・・まさか!!」

 

 

フゥ太?「じゃあな、ツナ。健闘を祈る。また縁があったらどこかで会おう。お前が俺を覚えているのならな」

 

 

ツナ「待って!清水君!!君は!!!」

 

 

そんな俺の呼びとめも虚しく、目の前のフゥ太の姿をした男……僕の友達の一人だった清水君は完全に消えてしまった。そしてそれと同時に頭を鈍器のようなもので激しく殴打されたような衝撃が襲い気を失ってしまった。

 

 

ツナ「し・・みず‥‥くん」

 

 

眩暈でまともにみれない視界の中でリボーンと骸も同じようにして気を失い倒れていくのが気を失う前に最後に見たものだった。

 

 

 

大空を陰から支える蜃気楼

 ~黒曜編 第三話~

    終わり




超直感とかいう公式チートならこの時点で有幻覚を見破っても何もおかしいところはない(暴論)


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大空を陰から支える蜃気楼 黒曜編 ~4話~

黒曜編最終話です、次回からリング争奪戦編に参ります。
あと、少し原作のネタバレのようなものがあります。


時は少し遡りツナを除いた一行がランチアと戦い、ツナが骸と出会い話をしていたころ

 

 

清水「自分の本拠地に留守番を任せる番犬も置かずに自分も外出とは…慢心極まりないな」

 

 

バーズとブラッディツインズを幻術空間で虐殺した俺はツナ達より一足早く黒曜ランドの本館に足を踏み入れていた。[[rb:ツナ達>標的]]の中にもいない男が突然侵入してきたことで、慌てて数人かは撃退に来るだろうと危惧したがそんな事はなく俺は廃墟と化した夢の施設の内部を一人でぶらついていた。

 

 

清水「笹川の兄にはツナが危険なことに首を突っ込まないように頼まれているが‥それは果たせそうにないな。すみません笹川先輩…今度会ったら気が済むまでスパーリングの相手してあげますから」

 

 

笹川の兄から託されていることを果たせそうにないことに多少の罪悪感を負いながら荒廃した建物内を歩いていく。そしてある扉を開けた先にある室内で俺はこの建物内に入って初めて人の姿を見た。

 

 

清水「お前は確か…雲雀がボコられてた時にいた」

 

 

???「……」

 

 

俺の前にいたのは以前雲雀が今回の黒幕に一方的にされていた時、表情一つ変えずにその場にいた身の丈に合わない大きさの本を抱えた男の子供だった

 

 

清水「・・・・なるほど。今のお前には自意識がないんだな。あの紫頭は俺と同じ幻覚能力に加えて人を操れるわけだ・・・[[rb:蜃気楼>俺]]より俺らしいじゃねぇか」

 

 

俺もこの能力を使えるようになってから知ったことだが…通常、幻覚を見せるや物体を御認識させるなどといったように人間に幻術をかける際にはかけた側に何らかの症状がある。例えば幻視なら術者の眼に僅かな痛みが走り、物体の誤認識なら指先の感覚が数秒鈍くなるなどといったように。それらは ()()()()()()()()とでも言うべきなのか…

ともかく、そういった抵抗は十人十色でかける術の強さなどによって違ってくる。

 

 

清水「今、お前に軽く幻を見せようとしたが俺に対する一切の反応がなかった。つまり‘‘俺に抵抗する自意識がハナからない’’ってことになる。そうなると考えられるのは誰かの操り人形になってるか、死んでいるかのどちらかだ」

 

 

目の前の誰かの操り人形になっている子は相も変わらず光を奪われた虚空な目でじっと俺を見つめている。まるで主から待機命令が出されているロボットのように

 

 

清水「名前も知らない坊主。今お前に聞こえているかは知らねえが言っておく。今から[[rb:お前の自意識>お前]]を取り戻してやる。目が覚めるとそこはありとあらゆる光源が失われた世界みたいに真っ暗だが決して振り返らずに進め。そうすりゃじきにお前のよく知る光景が見えて隣にはツナがいる。お前の罪はツナが赦してくれる。それじゃ行くぞ」

 

 

???「あり……が・・とう…」

 

 

俺がその子どもの前に立ち頭に手を置くと、今まで黙秘を続けていた口から途切れ途切れだが謝礼の言葉が漏れ、空虚の瞳からは一筋の光る筋が頬下にかかっていた。

 

 

清水(礼を言われるような人間じゃねぇよ‥俺は)

 

 

自己嫌悪に陥りながらも俺は俺とその子どもを包み込むように黒い層の球状の幻術空間を作り出した

 

 

数分後さっきの子供に擬態した俺は幻術空間から姿を現し、あの子供が抱えていた本と三本槍の穂先のようなものを宝物のように抱えながらあの男が現れるのを待った

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

そして時は進み‥ツナたちが本物の六道骸と顔を合わせた。

 

 

ツナ「フゥ太!お、脅かすなよ・・」

 

 

清水(ツナ…無事にここまで来たのか…さすがだ。ボス候補は伊達じゃないってことだな)

 

 

ツナ「いったいどこ行ってたんだ?あの後ずいぶん探したんだぞ・・みんなも心配してた」

 

 

清水(しかし‥あまり感傷にも浸っていられないな、あいつにバレる。だからすまないな赤髪の女‥お前に恨みはないがこれも俺があの男に操られた子供であるために必要なことだ)

 

 

ツナ「フゥ太何やってんだよ!!」

 

 

清水(ツナ‥悪いな。その女にはこの子供にかかっていた支配に俺のアレンジを加えて譲渡した。だが‥この程度では済ませないだろうな‥あの男は)

 

 

ツナ「ビアンキ!ビアンキしっかりして!!」

 

 

清水(俺のせいでツナが辛い目に合っている……ああ・・胸が引き裂かれそうだ。俺に名前をくれた恩人を他でもない俺が傷つけている…クソ‥気に入らねぇ……。なのに俺は‥これからツナを・・・殺そうとするなんて)

 

 

ツナ「おい、フゥ太!!」

 

 

清水(俺がツナを攻撃する…これだけはしたくなかった……。ツナの前では俺を‥清水健人を…[[rb:転生前の世界 >地獄]]に住む怪物を出したくはなかった…。クソ‥クソ‥クソッ!!)

 

 

骸「クフフ…さぁ、どうします?ボンゴレ十代目」

 

 

清水(ツナ‥すまねぇ!!恩人であるお前を殺そうとするなんて…何が大空を支える蜃気楼だ!!支えるどころか失くそうとしてんじゃねぇか!!クソがっ!)

 

 

骸「ほう・・彼ではなく僕に向かってきますか・・さすがはボンゴレの次期後継者候補ですね」

 

 

清水(ツナ‥こんな状況でもお前は元凶を叩こうとするのか…感服したよ。お前はすごいやつだ・・やっぱり)

 

 

ツナ「痛ぇ!!」

 

 

骸「クッハッハ!君にはいつも驚かされる。ホラホラうしろ、危ないですよ?」

 

 

清水(恩人に牙を向けた以上、おれはもうお前の近くにいられない。ツナ‥お前が友達だといった清水健人はここで消える。地獄の怪物が名前をもらって人間の真似事をするなんて烏滸がましい事だったんだ。じゃあな‥ツナ。お前がこの闇に満ちた世界を出られないというのなら、お前はこの世界ごと包み込む大空になれ)

 

 

ツナ「お前は誰だ!!」

 

 

清水(ッ!!)

 

 

ツナ「そうだ…今から言うのは全て俺の主観だ。直感と言ってもいい。でも・・それでも俺は声を大にして言う。こいつはフゥ太じゃない…ましてや骸・・お前にマインドコントロールもされていない」

 

 

清水(お前‥まさか…)

 

 

ツナ「おかしいと思ったんだ。ビアンキを刺しておきながら俺には俺でも躱せる攻撃しかしてこない。いや、正確に言うと‘‘俺が少しでも動けば躱せる攻撃’’しかしてこなかった」

 

 

清水(それは俺の…清水健人としてのせめてもの気持ちだ。せめて恩人を殺さないようにと)

 

 

ツナ「ビアンキを刺した時の眼は確かに今みたいに光がなかったんだ。でも、何か固い決意みたいなのが瞳孔の奥で炎みたいに激しく燃え盛っていたのを感じた」

 

 

清水(ツナ…やっぱりお前‥俺の幻覚を)

 

 

ツナ「今はその決意の炎が消えて何もない暗闇しかない気がするんだ。さっき絡まった後襲われる前にこのフゥ太の眼を見たんだけど、そこには炎が消えて何もない真っ暗闇だったんだ。常人だろうとビアンキみたいな裏社会の住人だろうと、その中に放り込まれたなら自殺しそうなほどに…」

 

 

清水(確信は持ってない‥が俺の幻覚を見破るか。フフ‥お前はどこまですごいやつなんだ…初めてだよ‥俺の幻覚を見破ったのはそしてそんなお前に敬意を表し、あの男に意趣返しだ)

 

 

俺は部屋の奥にいる男に幻覚をかけ、俺があの犬のような男にやられた際の風紀委員の姿を映した。すると男の顔色は急激に変わりマグマのように赤く煮えついていた。

その男は先程までの冷静さをかなぐり捨て、憤怒に包まれながら何かわめいていたが俺の耳には入らなかった。だが、その声は[[rb:地獄に住む怪物>俺]]にも耳障りだったのか[[rb:清水健人>俺]]が口を開くと同時に、あの世界で誰もが常に出していた殺気と深い絶望に陥らせる暗さを放出していた。

 

 

清水「黙れ、自分で手は下せぬ臆病なパイン頭」

 

 

その声とそれに含まれていたものはこの世界の裏社会の住人でも味わったことのないものだったのか、それを向けられた男だけでなくツナの近くにいる赤ん坊までもが殺気を放ちながら俺を鬼の形相で睨んでいた。そして俺の足元でツナは今にも漏らしそうな顔と心底から恐怖に怯え震えが止まらない体で俺に振り返った。

 

 

清水(ある意味死ぬより怖い事を体験させてしまったな…悪い、ツナ。あと少しで消えるから耐えてくれ。できる限り抑えるから…だから、そんな今にも赤ん坊のように泣きわめきそうな顔をしないでくれ)

 

 

俺は目の前のツナの顔に身も心も粉々になる思いになりながら、なんとかそれを匂わせないようにしながら言葉を続ける。[[rb:地獄に住む怪物>俺]]はあの男の慄然とした表情に満足したのか殺気と絶望感を収めていた。

 

 

清水「お前はただ我儘を言ってダダをこねているだけの餓鬼だ」

 

 

骸「貴様・・それ以上口を開いてみろ……六道巡りをその身をもって体験させてやる……」

 

 

男は先程の殺気や暗い絶望が自分に向けられたものという恐怖から何とか立ち直ったようで、俺に六道がどうのと言っていたが良くきこえなかった

 

 

清水(六道…並中の図書室にある本に書いてあったな。人間が死ぬと行くとされる六つの世界…だったか?その中に地獄道ってのがあったが……。その地獄から来た俺が死ねばいったいどの世界に連れて行かれるんだ?…少し楽しみだな)

 

 

などとまるで遊園地のアトラクションに乗るかのような気持ちを心の片隅におこしながら俺はその後も言葉を並べた

 

 

清水「だが、それでいい!裏社会の住人(俺たち)はどいつもこいつも駄々をこねるクソガキだ!!私利私欲や自分の感情だけで他人の命や意志をいとも容易く踏みにじる」

 

 

突如口調を変え、意見も変えた俺に三人は先程までの態度から一変して変人を見る目でこちらを見ていたが、俺は向けられる奇異の視線を気にしなかった

 

 

清水(俺がそこに寝ている赤髪の女を()()利用している様にな…)

 

 

清水「自分から進んでこっち(裏社会)に来た連中はどいつも救いようもねぇ屑共だ!!この男(ツナ)みたいなやつは滅多にいないだろう…だからこそ俺はこいつに…沢田綱吉に懸ける!!このどこまでも甘い男がこの先どこまで行き、どうするのか!!それを見てみたい!!」

 

 

ツナ「俺の名前…なんで知っているんだ」

 

 

清水「だからな、脱獄囚。お前にはこいつ(ツナ)の踏み台になってもらう。安心しろ、お前はこの男に負けるが死にはしない。こいつはそういう男だ。だからこそあの爆弾男や野球バカ、そこに寝ている女が命を張り、その赤ん坊が派遣された」

 

 

その後、俺は少しあの男と言葉を交わす。途中ツナが何かをぼやいていた気がするが気のせいだろう。そしてその男との会話を終えると同時に俺はあの女に仕込んだ()()()()を作動させ自分の姿を陽炎のようにぼやけさせながらツナに目線を合わせる。

 

 

清水「ツナ…俺の幻覚を見破るとは流石だ。流石はボス候補といったところだな」

 

 

ツナ「君は…誰なんだ?俺の名前やあだ名を知っているようだけど…」

 

 

清水「怪物()に名前はない。俺の親は二人とも俺に名前を付ける前に俺を殺そうとして死んだからな」

 

 

ツナ「えっ!?…それじゃあ君は……」

 

 

清水「ツナ‥お前は優しいやつだ。俺や俺の両親などといったあの地獄を体現したような世界の住人にまで包容しようと情をかける」

 

 

ツナ「そんなつもりはないよ!だけど・・親がいないっていうのは‥寂しいと思うから」

 

 

清水「そんなものこの世界だと珍しくもない。お前は人間だ、無理にすべてを包み込もうとするな」

 

 

さりげなく笹川兄から頼まれていたことを果たす。笹川兄は俺にずっとツナの隣にいて、ツナに何かが起こる度に警告を発してほしかったのだろう。だがそれは叶わず、まるで遺言のような形でその警告はツナに向けた。これ以上‥大空を蜃気楼が傷つけるわけにはいかないから

 

 

ツナ「でも!俺の周りでそういう人が増えるのは嫌なんだ!!そしてそういう人が俺の周りにいたのなら少しでも支えになってあげたい・・それだけなんだ!!!」

 

 

清水「正に大空そのもの・・だな。だがそれなら尚更だ‥蜃気楼なんていう一時的な現象のことは放っておけ」

 

 

ツナ「嫌だ!俺はまだ君が誰だか知らない・・でも君は俺を知っている!!つまり俺と君は知り合いの可能性があるんだ!!知っている誰かを放っておくなんて真似俺にはできないよ!!!」

 

 

ツナの眼の端に滴が貯まってきている。ああ・・ツナ。お前は俺みたいなやつのためにそこまで思って、涙まで流してくれるのか……。だがその恩恵に‥包容に甘えるわけにはいかない。二度も大空を曇らせてあまつさえ雨を降らせてしまったのだから

 

 

清水「俺みたいな朧気なやつより、俺が今姿を借りてるこの子供のことを心配してやれ」

 

 

ツナ「そうだ!フゥ太!!フゥ太はどこに!!」

 

 

清水「心配するな‥この子供は今頃お前の部屋で眠っている。面倒になったら困るから姿は俺が見えないようにしているがな。当然、負っていた精神的負傷や身体的負傷も完治して、マインドコントロールも解除してある。これがその証拠だ」

 

 

そう言ってあの子供がツナの部屋で健やかに眠っている姿を見せる。この一件が終わったら透明化を解除してやればいいだろう。それで今回の俺の仕事は完遂する。

 

 

ツナ「よかった……本当に‥よかった。」

 

 

清水「さ、見せるべきものも見せたし俺はこれでさようならだ」

 

 

ツナ「ま、待って!まだ話したいことはいっぱいあるんだ!!」

 

 

清水「泣きそうな顔をするな、次期ボンゴレボス十代目候補。ボスがそんなんだとファミリー全体が舐められるぞ」

 

 

悲しくても、哀しくても、今は泣くな。その眼の端にモノが溜まっている顔を俺に見せないでくれ。俺が死ぬ。お前は帰ってから泣け。お前にはお前の帰りを待っている奴が大勢いる…お前にはお前を受け入れてくれる奴が…その雫を分かち合ってくれる人たちが

 

 

ツナ「待って!せめて君の名前だけでも!!」

 

 

清水「言ったはずだ、怪物()に名前はないと。だがお前は俺の名前を知っているはずだ」

 

 

ツナ「えっ・・それってどういう……」

 

 

清水「俺に名前を付けたのは紛れもないお前だ。あの時・・並中で寝ていた俺にな」

 

 

ツナ「!!君は・・まさか!!」

 

 

清水「じゃあな、ツナ。健闘を祈る。また縁があったらどこかで会おう。お前が俺を覚えているのならな」

 

 

ツナ「待って!清水君!!君は!!!」

 

 

ツナが俺の名前を呼ぶ声に応えたくなる心を殺し、ツナ達三人にあの子供を救出した人物などといった記憶の一部置換と置換した部分以外での俺に関わる記憶を消去した。

 

 

ツナ「し・・みず‥‥くん」

 

 

ツナに見られないように自分の姿を消し、ツナが俺の名前をつぶやきながら気を失うのを静観する。

 

 

ありがとう‥ツナ。お前は[[rb:清水健人>俺]]の、そして[[rb:俺>地獄の悪鬼]]の唯一にして最大の親友だった

 

 

清水「さぁ‥これで俺はそこに眠るボンゴレファミリ―十代目ボス候補とは何の関係もないただの幻覚だ」

 

 

そう自分に言い聞かせるように呟くと俺は赤髪の女に仕掛けた()()()()によりその女の体内に吸い込まれるようにして消えた。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

ズドォォォォォォン!!

 

 

暗く閉ざされ静寂に包まれた空間に突如、快刀乱麻を断つようにして轟音が轟く。その轟音と同時に床に大きな凹みができ、そこには学生服を着た一人の男が気を失っているのか倒れていた。そしてその男の隣にはグローブと額から橙色の炎をだしている男とスーツを着た赤ん坊が立っていた。

 

 

リボーン「終わったな」

 

 

その赤ん坊の台詞と共に燃え盛っていた橙色の炎は消え、それを灯していた男は温和な雰囲気を匂わせながら答えた

 

 

ツナ「うん…あっ!ランチアさんの毒は?」

 

 

リボーン「心配ねぇぞ、ボンゴレの医療班が到着した。ランチアの毒も用意した解毒剤で間に合ったそうだ」

 

 

ツナ「よかったぁ…。骸‥!し、死んでないよな?無事だよな!?」

 

 

リボーン「ったく甘いなお前は」

 

 

その時、倒れこむ男と同じ服を着た二人の男が這いずりながらもその男に近づいていった。

 

 

温和な雰囲気の男は自分に憑依し、利用していた男になぜそこまで忠義を果たせるのかと問いただす。

 

 

一方、赤ん坊は制服を着た男三人がなぜそこまでマフィアを恨むのか。その理由を問う

 

 

その問いに対し這いつくばる二人の男は自分たちの壮絶で悲惨な過去を語る。

 

 

自分たちはかつて所属していた組織がとある理由により壊滅の危機に陥り、その事態の打破が急務となった上層部に人体実験のモルモットにされ、逃げ出すことも許されず人道を外れた実験ばかり行われていたこと。そして、そんな状況を文字通りぶち壊したその男についていくと決め、自分たちをそんな目に合わせたマフィアというものに対し復讐を誓ったと

 

 

その話を聞いた温和な男はどこか悲し気な表情を浮かべながらも

「自分も仲間が‥自分の居場所が傷つくのを黙ってみていられない」

と事情を理解しつつもそうはっきりと答える

 

 

その男の宣言の直後、その部屋の非常口から黒いロングコートと黒いシルクハット、顔や服の隙間など本来肌が見えるべき場所は包帯で巻かれているという何とも異様な格好をした人物が三人現れ、制服の男たちを首輪付きの鎖で拘束し、連行していった。

 

 

ツナ「誰‥今の人たち」

 

 

リボーン「復讐者(ヴィンディチェ)。マフィア界の掟の番人で、法で裁けないやつらを裁くんだ。そしてツナ、あいつらには逆らうな。逆らうと面倒だ」

 

 

ツナ「でも…。それじゃあ骸たちはいったいどうなるの!?」

 

 

リボーン「さあな‥だが甘くはねぇぞ。俺達の世界(マフィア界)は甘くねーからな」

 

 

ツナ「……。いッ!イテテテテテ!!ナニコレ!?体中が筋肉痛!!」

 

 

リボーン「小言弾のハイパー死ぬ気モードは凄まじく全身を酷使するからな。その反動が痛みとなって帰ってきたんだぞ」

 

 

ツナ「なんじゃ!!そりゃあ!!……‥」

 

 

リボーン「あまりの痛さに気を失ったか。まだまだみっちり鍛えねぇとな。でもこれで、九代目からの指令はクリアだぞ。よくやったな。俺も鼻がたk…」スピー

 

 

言葉を言いきる前に赤ん坊は先に気絶して倒れてしまった温和な男を枕にするかのようにして眠った。しかし・・その部屋には未だあの全身包帯と黒ずくめの異様な者たちが残っていた。その部屋に横たわる赤い髪の女の方をじっと見つめながら…

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

復讐者「ボンゴレ・アルコバレーノ。両者トモ眠ッタ。ソロソロ姿ヲ現セ…侵入者」

 

 

???「侵入者って…まぁ、その通りだけどさ。俺だって来たくて来たわけじゃないし…むしろ無理やり連行されたから被害者だぞ?」

 

 

赤い髪の女から声が室内に響き渡ると同時に、その体から湯気のようなものが舞い上がり、やがて一人の人の形を形成して包帯男たちの前に現れた。

 

 

復讐者「御託ハイイ。単刀直入ニ訊ク。貴様ハ何ダ」

 

 

???「俺は…‥。いや、いい。俺に名前はない。前の世界だと親は俺の名前つけずに死んでいつの間にか名前のない怪物なんて通り名がついてた。だから呼ぶならそう呼んでくれ」

 

 

男は口を開き始めたが、横で安らかに眠る温和な男をどこか羨望と感謝が入り混じった目で見つめると、言葉を改めそう語った。

 

 

復讐者「我々ガ訊イテイルノハソウイウ事デハナイ。今ノ貴様ガ何ナノカト訊イテイル」

 

 

男は包帯男たちのその問いに対しどこか困惑した表情を浮かべ、頬を片方の指で搔きながら言った

 

 

???「それに関しては俺もいまいちよくわからねぇんだ。なんとなくだがあんたたちとは同じ感じがするけど・・ちょっとばかり違うみたいだし……。」

 

 

男がそういった瞬間、包帯男たちから針のように鋭く氷のように冷たい殺気がその男に向けられていた。だが、その男は表情を変えるどころか汗一つかかずに変わらぬ態度であり続けた

 

 

復讐者「貴様…我々ノ正体ヲ知ッテイルノカ…」

 

 

???「知らねえし興味もない、ただ何となく似た感じがするってだけだ。それよりもだ…あんたらよく気づいたね。俺がとっくに気づいているってことに。一度完全に俺を失くしたんだけどなぁ…なんでわかったの?」

 

 

復讐者「笑ワセルナ。ボンゴレガ、コノ男ドモニ『自分ノ居場所ガ傷ツクノヲ黙ッテミテイラレナイ』トイッタ時、貴様ハ静カニ笑ッタダロウ。ソレニ気ヅカナイ我々デハナイ」

 

 

???「あちゃー…やっぱりバレちゃってた?あの赤ん坊も気づかなかったみたいだからいけるかなーとか思ったんだけどな。やっぱこの世界にもすげぇ奴はいるもんなんだな」

 

 

復讐者「貴様・・フザケルノモイイ加減ニシロッ!」

 

 

男の飄々とした態度に業を煮やした包帯男の一人がコートの袖から鎖を出し、殺気を先程よりも強め男に向けると、その男はまるでそれを待っていたかのように嘲笑うかのような笑みを浮かべ再び自分を湯気のようにゆらめかせた

 

 

復讐者「貴様ッ!逃ゲルノカ!!」

 

 

???「逃げる?馬鹿言っちゃいけない。俺はそこに眠っているボンゴレの手助けをするためにここに来た。そして今回の一件はもう終わっている。故に、俺はお前らと戦う理由はない。それだけの話だ。これは逃走ではなく帰還だ。お前らも帰った方がいいぞ、もうすぐここにマフィアの医療班が来る。顔を合わせたくはないんだろう?」

 

 

復讐者「フッ…。帰還ダト?妄言ヲホザクナ。貴様ノヨウナ蜃気楼()ガイッタイ何処に帰ルトイウノダ」

 

 

興奮する包帯男とは反対にどこまでも冷静沈着な包帯男が皮肉を込めてそう呟くと、今にも消えかけている男はこう返した

 

 

???「確かに。俺はそこの大空を陰から支えるのが仕事だ。つまりその男が歩みを止めない限り帰還はあり得ない。だからこれは帰還というよりは…出発だな。またその男に災難が降りかかったときに支えられる場所へと出発するんだ。」

 

 

復讐者「貴様ニハ、ボンゴレガコノ先歩ム道ガ見エテイルト?」

 

 

???「ま、今のツナはあくまで‘‘ボス候補’’だしな。候補ってことは他にも一人は候補がいるってことだろ?それなら次にマフィア共がやることと言えば決まってる。どっちがボスに相応しいか競わせでもするんだろ。今のボスはツナみてぇな穏健派かもしれんが、マフィアのボス争いが無血で終わるわけがねぇ。必ず一悶着ある。」

 

 

復讐者「……」

 

 

???「ああ、それと。そこの興奮冷めやらぬ包帯男。俺と戦いたいなら真ん中にいる男みたいにとまではいわないがもう少し冷静になれ。術師相手に冷静さを欠いたらその時点で負けだぞ。じゃあな、もう二度と会わないことを祈ってるよ……自動人形(オートマタ)

 

 

復讐者「「「死ネッ!!」」」

 

 

男の言葉が終わる刹那、男が立っていた場所を一斉に鎖鎌が三方から襲ったがその攻撃が男を穿つことはなく、ただ床の埃を巻き上げながら虚しく虚空を突くだけだった。

 

 

 

大空を陰から支える蜃気楼

 ~黒曜編 第四話~

    終わり




復讐者のキャラ崩壊がすごい…。こんなにすぐ頭に血がのぼるキャラじゃないのに


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リング争奪戦
大空を陰から支える蜃気楼 リング争奪戦編 ~1話~


いきなり嵐戦です。


 突然だが、俺は今まで夢というものを見たことがない。もちろん寝ている最中に見るとされる夢の方だ。

以前の世界では()()がなく誰も俺にそれを与えてくれないことに対する

悔しさと哀しさに常日頃から襲われていたが、れでも悪夢などを見ることはなかった。

 

 

 ただただ、眠ると視界が暗闇に支配され、目を覚ませば地獄のような世界が現実としてそこにあるだけだった。

なぜこのような話をしたかというと、この日俺は初めて()と呼べるものを見たからだ。

 

 

 骸の一件が片付いてから数日・・俺はチェルベッロとかいう名前の機関に所属する

常に変声機を通して会話をし、肌を一部も見せない服装をしたミラッジョという名の

一人の術師として機関から伝えられる多種多様な仕事をこなす毎日を送っていた。

 

 

 その日の仕事を終えた俺は術師を取り仕切る覆面をした褐色の女にその日の成果報告を済ませ、

術師専用の宿舎の自分の部屋に戻り特に何をするでもなく眠りについた。

 

 

 俺が目を閉じてからどれくらいの時間が経ったのだろう…暗闇が広がっていた世界に突如眩いばかりの閃光と共にあの天秤を持った胡散臭い爺が現れた。

 

 

清水「……よぉ、久しぶりだな。天秤のジジイ」

 

 

天秤ジジイ「貴様、どういうつもりだ」

 

 

清水「あ?何がだ」

 

 

天秤ジジイ「私はあの時言ったはずだぞ。お前に名を与えた者を支える限り、そ奴は[[rb:貴様>怪物]]の味方になると」

 

 

清水「ああ、だから俺はツナの知り合いだったあの人質のボウズを解放した。それがどうかしたか」

 

 

天秤ジジイ「私が腹を立てているのはそれではない」

 

 

清水「じゃああれか?あの自称快楽変態殺人鬼を虐殺したことか?」

 

 

天秤ジジイ「そうだ。なぜそのようなことをした」

 

 

清水「あいつらはツナが大切にしている平穏。その象徴ともいえる奴らに手を出したからだ」

 

 

天秤ジジイ「あの刺客共はあの赤ん坊が事前に用意した対策により撃退され、殺害する必要はなかったであろう。なぜ殺った」

 

 

清水「なにもこうもねぇ。ただ単に俺があいつらを気に入らなかった。それだけだ」

 

 

天秤ジジイ「では貴様は、沢田綱吉を大義名分に、自身の感情だけであの者どもを殺害したと?」

 

 

清水「ああそうだ。特段不思議なことでもないだろう。俺は【殺した奴が正義、殺されたならそいつが悪】なんていう

馬鹿げた道理が通用する世界の住人だぜ?それもその世界でトップレベルの[[rb:殺し屋>屑]]だ。お前に別世界に飛ばされるほどにな」

 

 

天秤ジジイ「では貴様は‥この世界でもあくまでも()()()()ではなく、ただの()()であるというのだな?」

 

 

「ああそうだ。例え俺の年齢・容姿・声・体形・体内構造といったすべてがテメェによって変えられていようがそれだけは変わらない。なぜなら…俺は、()()()()()()()は死んでいないからだ」

 

 

天秤ジジイ「…」

 

 

怪物()は一度死んでからではなく、そのまま体の至る所を弄られてこの世界に来た。

つまりだ、怪物は一度死んで別個体としてこの世界に新たに生まれたのではなく、世界と世界の間にあるトンネルを通ってこの世界に来ただけだ。通行料として体を弄られてな」

 

 

天秤ジジイ「貴様は‥この世界に確立した一個の存在としていたいとは思わぬのか…。貴様に名を与えた者がいる、この世界に」

 

 

「馬鹿言っちゃいけない。俺はあの包帯男共の言う通りただの侵入者だ。例えツナが清水健人()の存在を許容してもこの世界そのものは清水健人(侵入者)の存在を赦さない。いずれ必ず排除しようとする」

 

 

天秤ジジイ「貴様はわかっているのか?この世界で貴様が消え去れば‥貴様は元の世界にも戻れずに…何もない虚無空間に永劫に囚われるのだぞ!それを理解しているのか!!」

 

 

「さっきまで俺に腹を立てていたってのに随分な変わりようじゃねーか。どうした?今さら慈悲の心でも芽生えたか??」

 

 

天秤ジジイ「黙れ!貴様は元の世界で名を欲していた。それは確立した己を欲しているという何よりの証拠ではないか!!」

 

 

「その通りだ」

 

 

天秤ジジイ「そしてこの世界では貴様にそれがある!ではなぜ!それを守ろうとしない!!固定化しようとしない!!」

 

 

「それは簡単だ。俺はこの世界を…ツナがいて、あいつを守る守護者共がいて……あいつが大切にしている‘‘平穏’’があるこの世界を壊したくないからだ」

 

 

天秤ジジイ「どういう意味だ・・それは」

 

 

「さっきも言ったが、この世界は俺を決して赦さずどんな手を使ってでも俺を排斥するだろう。その場合俺がこの世界に留まるには‘‘この世界’’と戦う必要がある」

 

 

 

天秤ジジイ「貴様は‥世界と戦えるというのか」

 

 

「善戦して相打ちだがな。この世界と俺が戦う…つまり俺の敵は()()()()()()()()()ということだ。それにはツナやその守護者たちはもちろんあいつが大切にする平穏やそれを象徴する奴らも含まれる。そして当然、その戦闘が発生すればこの世界にも俺にも甚大な被害が出る」

 

 

天秤ジジイ「貴様がいた世界のようになる…とでもいうつもりか」

 

 

「ま、世界側の被害というか結果としてはそれもあり得る、()()を殺す方法は一つだけじゃねぇからな。まぁともかくだ、そんなことになるのは避けたい。俺個人の欲とツナをこの世界をお前が持っているモノと同じものにかけたって訳だ」

 

 

天秤ジジイ「貴様にとって…あの者はそれほどまでに恩義のある者か」

 

 

「そうだ。名前のない怪物()が変わらない以上、清水健人()がしてやれる恩返しなんてこれくらいだ。例えその結果()()()()が消えようとも、あいつの大切なものを守れるならそれでいい」

 

 

天秤ジジイ「・・よかろう。では精々足掻いて見せよ、世界が貴様を滅ぼすその日まで。私はその一部始終を傍観させてもらうぞ…清水健人」

 

 

清水「おう、人間になりたい怪物が織りなす破滅への戯劇。特等席で見せてやる、精々愉しんでいけ」

 

 

天秤ジジイ「ではさらばだ…愚かな怪物よ。無意味に、そして無益に」

 

 

清水「テメェもな。胡散臭ぇジジイ。無様に、そして虚しく」

 

 

清水&天秤ジジイ「「死ね」」

 

 

 天秤ジジイと俺がそう言い切ると天秤ジジイの姿は消え、俺も眠りから覚めた。俺が目覚めて5分程度経過したころ、宿舎全体に女の声で招集が響き術者一同は講堂に集められた。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

覆面女「これから自分の名前を呼ばれたものは私と共に特別任務に当たる者だ。心して聞け」

 

 

 女がそう言うと術者一同は黙って首を縦に振り、それを確認した女は名前を読み上げていく

 

 

清水(しかし…こうして名前を呼ばれるのは並中を思い出す。まるで教師にあてられているみたいだ)

 

 

覆面女「次、ミラッジョ」

 

 

 並中の事を回顧していた俺は危うく声を上げ返事しそうになるが何とか抑え、女と目を合わせ首を縦に動かした。

女はそれを確認すると手元の紙に一瞬だけ目を移し、番号の読み上げを終えた。どうやら、俺が最後だったようだ。

 

 

覆面女「以上だ。該当した者は追って詳細を説明する。該当しなかった者は後日それぞれに任務が伝達されるので、それまで待機。では解散」

 

 

 女の解散という一言を合図に集められた術師は一斉にその場を後にした。俺もそれに倣い部屋を後にしようとするが女から呼び止められた。

 

 

覆面女「ミラッジョ。待ちなさい」

 

 

ミラッジョ『はい』

 

 

覆面女「ミラッジョ。貴様にはここで任務の詳細を伝える」

 

 

ミラッジョ『了解しました』

 

 

 女から手渡された一つの封筒を受け取り、女に許可を取ってから開封する。

中には仕事の詳細が書かれた数枚の紙がホッチキスのようなもので止められており、俺はそれを黙読していく。

 

 

清水(ボンゴレファミリ―正統後継者決定戦……ついに来たか。場所は並中でツナの相手はボンゴレ特殊暗殺部隊…その名もヴァリアー)

 

 

 資料によると、対戦は各守護者毎が自身の属性のリングを賭け毎晩並中で真剣勝負によるデスマッチを行い、最終的に勝利数の多い方の勝ち。

そして、俺たち術師の仕事は戦闘により破壊された校舎の修繕・戦闘時の騒音等を敷地外に漏らさないこと・修繕が間に合わなかった際の幻術によるカバーなどといったのが主な仕事だ。

 

 

清水(これは…何か仕組んでるのがバレバレだな、おそらくこいつら覆面女とヴァリアーとかいう連中は協力関係にある。つまり、ツナ達は実質出来レースをやらされるようなものか)

 

 

資料を読了した俺は女に視線を戻し、仕組まれていることなど全く気付いていないように装いながら女が話すのを待った

 

 

覆面女「読み終わりましたか。それではミラッジョ、貴様は現時刻より任務を開始、我々より一足早く現地にたちなさい」

 

 

ミラッジョ『了解』

 

 

覆面女「言わずとも承知でしょうが、くれぐれも沢田綱吉氏側に悟られぬように。いいですね?」

 

 

ミラッジョ『無論です』

 

 

 俺は機械音声が堂内に響き渡る間に姿を消し、戦場である並盛中学校がある日本へ向かった。

 

 

ミラッジョが姿を消して十数分後…

 

 

覆面女「行きましたか。…ミラッジョ・・相も変わらず実体の掴めない男です」

 

 

 ミラッジョ…あの男はまるで嵐のように何の前触れもなく我々の前に現れた。

 

 

『今日から三日間、私の素顔をこの機関に所属する誰にも見られなかったら私をこの機関の術師にしてくれ』

 

 

 という挑戦という名の売り込みを我々に叩き込み、宣言通り誰にも見せることなく術師になった男。

そして、術師になった今でも本人が自ら明かした名前と性別以外のすべての情報を誰も知らないという謎に包まれた男。

 

 

覆面女「ミラッジョ…イタリア語で蜃気楼という意味。名は体を表すとはこのことですか」

 

 

 謎に包まれた男ではあるが、その幻術能力が卓越しているのも確かである。今回の争奪戦で密かに企てられた計画も

彼の幻術能力でいくらかスムーズに進むだろう。

 

 

覆面女「精々利用させてもらいますよ…ミラッジョ」

 

 

 女は誰にも聞こえないように呟き、講堂を後にする。それと同時に講堂の窓では一匹の蛙が窓ぶちから飛び跳ねていった

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 ミラッジョが日本に飛んでから一週間ほど経過した。リング争奪戦は無事に開戦され第一戦の晴れのリング争奪戦では、笹川了平が勝利。

第二戦の雷のリング争奪戦はランボが10年バズーカで惜しいところまで行くも、レヴィ・ア・タンに敗北。

さらにランボを助ける際に戦いに介入したとして大空のリングまでもがヴァリアー側に渡ってしまう。

 

 

 そして今日は第三戦目、嵐のリング争奪戦が行われていた。

既に戦場となった校舎棟三階は、獄寺隼人のダイナマイトによる爆破やギミックとして設置されたハリケーンタービーの風や爆発などにより損壊が激しく、元の形は見る影もなかった。

 

 

 そんな校舎棟をミラッジョは屋上から事前に監視カメラに細工して仕掛けた盗聴器で戦況をラジオのように聞きながらじっと見つめていた

 

 

清水(リングの数ではツナ達の不利、さらに嵐戦に敗北すれば背水の陣。これは獄寺の奴…命を犠牲にしてでも勝つつもりだな)

 

 

 ミラッジョの予測通り、盗聴器から聞こえてくるのは命を捨ててでも勝とうとする獄寺と負けてもいいから戻れと叫ぶ守護者たちの言い争いだった

 

 

獄寺『1勝3敗じゃあもう後がねぇ‥致命的敗北なんだ!』

 

 

シャマル『お前の相手は壊れちまってんだ。もはや勝負になっちゃいねぇ…戻るんだ!!』

 

 

獄寺『手ぶらで戻れるかよッ!これで戻ったら、10代目の右腕の名が廃るんだよッ!!』

 

 

獄寺『十代目!俺が勝てば流れは変わります。任せてください…これくらい・・俺が』

 

 

山本『獄寺!』

 

 

了平『タコヘッド戻ってこい!!』

 

 

 耳元からそんな応酬が聞こえる中、ハリケーンタービーの爆発は今獄寺とその対戦相手がいる図書室に近づいていき、図書室が吹き飛ぶまであと数十秒足らずというところだった

 

 

清水「獄寺のやつ・・馬鹿か。テメェがそのくだらねープライドを厳守してここで文字通り果てたら、誰が一番悲しむと思ってんだ」

 

 

 俺は図書室に入り、膠着状態になってから変わらぬ獄寺の主張に嫌気がさし、つい悪態を変声機を通さずに口に出してしまう。

幸い、爆音とハリケーンタービーからする警報音にかき消され誰にも聞こえず、漏らされた悪態は火薬と消炎の匂いが漂う大気に流された。

 

 

シャマル『隼人!修行に入る前に教えたことを忘れたのか!!』

 

 

獄寺『忘れるかよ。忘れてねぇからこそ‥一番大切なところで使うんじゃねぇかよ!ここは死んでも引き下がれねぇ!!』

 

 

清水(もう聞いていられねぇ。あの獄寺(バカ)を助けに行く。ツナを悲しませたくはないからな)

 

 

俺が姿を消し、図書室の入り口前の廊下の窓から校舎内に侵入した瞬間、耳元からある人物の怒号が聞こえてきた

 

 

???『ふざけるな!』

 

 

清水(この声…ツナか!?)

 

 

ツナ『なんのために戦ってると思ってるんだよ!』

 

 

獄寺『!!』

 

 

ツナ『またみんなで雪合戦するんだ、花火見るんだ…だから戦うんだ!だから強くなるんだ!』

 

 

ツナ『またみんなで笑いたいのに‥君が死んだら意味がないじゃないか!!』

 

 

獄寺「・・・・・・十代目」

 

 

清水(少し涙声だが‥今の獄寺隼人(バカ)には何よりも効く薬だな。お前の仕事は終わった‥次は俺の仕事だ)

 

 

俺はツナの恫喝が終わると同時に盗聴器の電源を切り、姿を消したまま獄寺に近づき耳元で囁いた

 

 

清水「ボスの元へ帰してやる。右腕を名乗るのならボスが戦う理由はくらいは理解しておけ」

 

 

獄寺「!!?d」

 

 

ピーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 獄寺が何かを言っていたがそれはタービーの爆発を知らせるアラームにかき消された。恐らく言った本人にも自分が何を言ったかは聞こえていないだろう

 

 

ドガァァァァァァァァァン

 

 

 アラーム音が切れると同時に図書室を軽く吹き飛ばすほどの爆発が発生した。その爆発により、図書室に仕掛けられていたカメラは跡形もなく消し飛び、図書室があった場所は黒煙と火薬の匂いが充満していた。

 

 

ツナ「そんな‥なんで・・・獄寺君が…」

 

 

 図書室は跡形もなく消し飛んだ。爆発する寸前まで監視カメラの映像を映していたモニターから目を離さなかったけど、獄寺君は俺の恫喝のあとも図書室から出ようとはしなかった。

 

 

了平「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 

シャマル「あのバカ…」

 

 

 みんな最悪の事態を想定しているのか、それとも一抹の希望に賭けているのか…それぞれ顔を伏せたり、叫んで悲しみを紛らわせたりしている。

 

 

リボーン「…」

 

 

 いつもは飄々としているリボーンも黙ってうつむいたまま何も言わない。まさか…本当に獄寺君は‥‥‥

 

 

???「顔をあげろ、ツナ」

 

 

 一瞬、誰かが俺に優しく語りかけた気がした。急いで顔をあげた俺の視界に飛び込んできたのは…

 

 

獄寺「すみません・・十代目。リング取られるってのに、花火見たさに…戻ってきちまいました……。」

 

 

 俺の視界に飛び込んできたのは全身切り傷を負い、満身創痍になりながらも、確かに俺たちの元に帰ってきた獄寺君だった

 

 

シャマル「赤外線センサー止まってるぞ」

 

 

ツナ「獄寺君!」

 

 

山本「獄寺!」

 

 

了平「タコヘッド!」

 

 

 俺たちは急いで倒れこんだ獄寺君の元に駆け寄る

 

 

ツナ「獄寺君…よかった・・本当に…よかったぁ!」

 

 

獄寺「俺、負けてんすよ!?」

 

 

 確かに獄寺君の言う通り勝負には負けたけど今はそんな事より獄寺君が無事に生還してくれたことの方が嬉しい。

これでまた・・みんなと一緒に笑いあえるから…

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

ベル「しっし。リング…I'm winner」

 

 

清水(爆発の威力抑えるために急いで防壁を張ったが、それでこいつも生き残ったか…。まぁ、いい。ツナはこいつも死んでほしくないと考えているだろうからな)

 

 

爆発によりあらゆるものが四散した図書室で途切れる寸前の意識を保ちながら怪しく嗤うヴァリアーの金髪野郎を放置し、俺は他の幹部がこいつを救助しに来る前に再び屋上へと戻っていった。

 

 

  大空を陰から支える蜃気楼

 ~リング争奪戦編 第一話~

       終わり




今だからこそ思う。
リング争奪戦の時メインで仕切ってたあの髪の長いチェルベッロ機関の女。
エッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!

というか、チェルベッロ機関の女全員エロk(文字はここで途切れている…。


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大空を陰から支える蜃気楼 リング争奪戦編 ~2話~

雨戦の描写に力入れ過ぎた…。
それでも乏しい表現力だけど、自分なりに頑張ったつもりです




 嵐のボンゴレリング争奪戦が行われた翌日の深夜、並盛中学校の校舎B棟では雨のリング争奪戦が行われている。

前日の嵐戦とは戦場もかなり違っており、校舎はまるでシェルターのように外と完全に遮断され、窓には何枚もの厚い鉄板がはめ込められている。そして、校舎に映し出されたスクリーンには校舎内の様子が見て取れた。

 

 

 校舎内はまるで大きな地震が起きた後のように床や天井、柱の数本などが粉々になっており、屋上に設置された貯水タンクから激しい轟音とともに大量の水が毎秒注がれていた。覆面女の説明では、この水は特殊な装置により海水と同じ成分にされ、一定の水位に達すると獰猛な海洋生物が解き放たれる・・・・ということらしい。

 

 

ミラッジョ『あそこまで閉鎖されて、校舎内で戦われるなら術師の仕事は決着がついてからだな。・・・それまではじっくりと見物させてもらおう』

 

 

 俺はスクリーンに映し出される山本とスクアーロという名前の白髪のロン毛剣士の戦いを見ながら、特に意味もないのに宙に浮いていた。

 

 

スクアーロ『ヴぉおおおおおおい!刀の小僧!!貴様この短期間でなにがあった!!前の戦いとはまるで別人じゃねぇか!!気に入ったぞぉ!』

 

 

山本『ははっ、アンタにそう言われるってことは確かに強くなってんだな。でもまだまだこんなもんじゃねぇぞ・・・俺はアンタを倒せるくらい強くなってるつもりだからな』

 

 

スクアーロ『ハッ!言うじゃねぇか刀の小僧!!だったらその証拠を…見せてみろぉ!!』

 

 

スクアーロというロン毛剣士はその名の通りまるで鮫のごとく獰猛に目の前の獲物(山本)に襲い掛かりその鋭い牙を山本の骨肉につきたてようとする。対する山本もそんなスクアーロの攻撃をいなし、僅かな隙を見つけてはそれを縫うようにして目の前の(スクアーロ)に堅実に一撃一撃を加えていく。

 

 

ミラッジョ『スクアーロとかいう奴…遊んでやがるのか?プロにしては動きに無駄な動きが多すぎる…。山本の攻撃を受けているのがその証拠だ・・何を考えてる?それに・・なんだ?この妙な違和感は…』

 

 

 俺がスクアーロの動きになんとも言えない違和感を感じている最中も試合は進行し、校舎内の水位もアキレス腱の少し上程度まで上がっていた。

 

 

山本『時雨蒼燕流、攻式五の型。五月雨ッ!』

 

 

 山本が中斬りを放ちながらすばやく刀の持ち手を変え、タイミングをずらしスクアーロに斬りかかる。しかし、スクアーロはその一連の行動を待っていたかのように斬撃に己の剣を合わせた。まるで罠にかかった獲物を見るような不敵な笑みを浮かべながら…

 

 

ガキィィン!!

 

 

山本とスクアーロの剣戟が合わさった時、鼓膜が破れるほどの金属音が鳴り響いた。そして、山本の手がまるで麻痺しているかのように一切動かず、スクアーロがあることを高らかに宣言した。それは、俺が感じていた違和感を説明するには十分なものだった。

 

 

スクアーロ『お前が使っているその剣。時雨蒼燕流はな…その昔!俺がこの手で捻り潰した流派の一つだ!!つまり!この戦いでお前がその流派を使い続ける限り!俺には勝てないってことだ!!わかったか!刀の小僧!!』

 

 

山本『ッ!時雨蒼燕流を・・・潰した?』

 

 

ミラッジョ『なるほど・・違和感の正体が分かった。山本の使う技は全部ばれてたってわけだな』

 

 

 スクアーロはその後、そのときの詳細を誇るように語りだした。この世界の剣帝といわれたテュールという男を倒し、己の剣を完成させた。そして彼はその剣を試すために世界各国の様々な流派の後継者を相手に戦い潰していった。そのうちの一つに山本が使っている時雨蒼燕流があった・・・というわけである。

 

 

スクアーロ『分かったか刀の小僧!お前には最初から敗北しか用意されてなかったんだよ!!分かったら……死ねぇ!!』

 

 

 山本に最後の一撃を与えるスクアーロ。山本は動かぬ片腕をもう一方の腕で殴って無理やりに動かし、何とかそれを回避する。そして体勢を立て直すためスクアーロから逃げる。

 

 

ミラッジョ『山本の奴。獄寺よりもその場の状況判断が長けている。だが・・これからどうする?』

 

 

 山本はスクアーロがいる階層より一つ上の階層で麻痺が取れぬ腕を冷やすが、スクアーロは山本がいる階層の床ごと自分の剣で壊し、山本の命を齧り取ろうとする。

そうして落ちてきた山本の首をスクアーロは掴み、喉に剣先をあてながら山本を挑発する。

 

 

スクアーロ『ヴぉおい!刀の小僧!!最初の威勢はどうしたぁ!?それとも…その足りねぇ頭でも敵わねぇと悟ったか??……だが俺は知ってるぜ?まだ一つ・・出していない型があるってな?』

 

 

山本『・・・』

 

 

スクアーロ『時雨蒼燕流、攻式八の型。その名を秋雨。俺が倒した継承者が最期に出した技だ!』

 

 

山本『あき、さめ・・・?』

 

 

スクアーロ『ああ、そうだ!あの老いぼれたカスが最期に放ち、俺に見切られ、三枚におろされた秋雨だ!!お前も時雨蒼燕流を使うなら…伝承者と同じ最期をたどりやがれ!!』

 

 

 そういってスクアーロは山本を蹴り飛ばす。言葉の通りに秋雨をうって来いといわんばかりに…。そして、実際その顔は、眼は、両端が上がった口角は、そう告げていた。

 

 

山本『そういうことかよ…親父』

 

 

ミラッジョ『山本の表情が変わって、目に光が宿った。何かに気づいたな』

 

 

 蹴り飛ばされた山本は大海に浮かぶ浮島のように、徐々に上がる水位の中何とか一角を水面上に出している瓦礫の上で立ち上がり、スクアーロのほうに向き直り、剣を構えた。

 

 

スクアーロ『その両手で柄を持ち、居合いのような独特の構え……知っているぞ!さぁ、打て!秋雨ォォ!!』

 

 

スクアーロの言葉が終わると同時に両者は駆け出した。一方は余裕を感じさせる不敵な笑みを浮かべながら、もう一方は何かを信じ、それ以外の一切を考えていないような真っ直ぐで明確な意志を宿した眼を向けながら

 

 

スクアーロ(終わりだ…)

 

 

山本(時雨蒼燕流、攻式八の型・・・)

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 両者が交差したその刹那、二人の周りに銀色の閃光が煌いた。そしてその閃光とともに刀の峰で思いっきり殴られる音が数回聞こえ、ある一人が少しはなれた場所飛ばされ沈んだ。

 

 

山本『あははっ・・やっぱりな』

 

 

白いロン毛を己が剣で斬り飛ばした男__山本武は自分が考えていたことが正しかったという結果に軽い笑いを飛ばし、男が沈んだ水面を見つめた。

 

 

スクアーロ『貴様ァ!時雨蒼燕流以外の流派を使えるのか!?』

 

 

飛ばされた男__スペルビ・スクアーロは己を斬り飛ばし、自身の予測とはまるで違う技を繰り出した男を見つめ、騙されたような表情を浮かべ言った。

 

 

山本『いいや、今のも時雨蒼燕流だぜ。あんたが知らない技だったってだけだ』

 

 

スクアーロ『何だと!』

 

 

山本『八の型、篠突く雨は親父が作った型だ!』

 

 

 親父が作った型。目の前の刀小僧は確かにそう言った。その言葉は自分の中にあった剣豪としてのプライドを揺るがし、かつてある男に誓った負けないという誓いの根底を覆しかねないものだった…。

 

 

スクアーロ(同じ流派を名乗っておきながら違う型を作る……。まさか!時雨蒼燕流は継承者の弟子がそれぞれ違う型を編み出すのか!!同じ流派を名乗って!!)

 

 

 男にとってそれは信じがたい事だった。男が己の剣を試す相手として時雨蒼燕流を選んだ理由は、完全無欠最強無敵を謳っているという事だけではなく、継承は一度きりという噂が流れていた事もその一因だった。

自分がそれまで相手してきた流派はそのほとんどが継承の機会は複数回あり、たとえ一度継承に失敗しても、また次の機会に成功すればよい・・というものだった。

 

 

しかし、その流派は一度継承に失敗すれば二度とその流派を名乗ることもできず、流派自体が途絶えてしまうという狂気じみた継承方法と、そんな方法の中でまるで自分を追い込むように完全無欠最強無敵を謳う…。そんな修羅道を自ら歩む流派……その名を時雨蒼燕流

そんな流派の存在を知っては一人の剣士として昂る自分の血を抑えられなかったのである。

 

 

スクアーロ『まさか貴様がここまでやるとはな…。だが!すでに一度くらった篠突く雨は既に見切った!!さっきみてぇな奇跡はもう二度と起きねぇぞ!刀の小僧!!』

 

 

 自分の知識不足が原因とは言え、自分に確かに一撃を加えた男に心からの称賛を送る。本来なら、目の前の才ある男に剣技を教え、自分と同じ剣の道を進んでもらいたいが…これは真剣勝負。そんなことを口に出すのは相手に対し失礼であり、なにより自分のプライドが赦さないのだ。

 

 

山本『流石だぜ・・そうこなくっちゃな。んじゃ、いってみっか・・時雨蒼燕流、九の型!』

 

 

 目の前の刀小僧はまるで野球のバッターのような構えをとる。自分に一撃を加えたほどの男がそのようなふざけた構えを取る。本人は野球しか取り柄がないと言っていたが…ふざけるな・・貴様はそれほどまでに才を持ちながら・・何処まで俺を…世の剣士を侮辱するッ!

 

 

スクアーロ『図に乗るなガキィ!俺の剣の真の力を思い知れぇ!!』

 

 

 我が魂の咆哮とでも言わんばかりに声をあげ、己が剣技の最大にして最強の技を出す。これは貴様に対する俺からの最大の称賛であり、怒りであり、哀しみであり…最高の[[rb:殺意>敬意]]だ。

 

 

 鮫特攻(スコントロ・ディ・スクアーロ)。かつて剣豪と謳われたテュールを倒したスクアーロ最強の剣技にして、最強絶対の技。目にも止まらぬ速さで空を連続で切りながら標的に向かっていき、標的は勿論、その周囲にあるすべてを切り刻む。その速さは足元の水面を抉り、標的までの道のりの水をモーゼの如く割りながら突進していく。その様は正に、海で暴れる暴虐な鮫、そのものだった

 

 

山本『ふんっ!』

 

 

[[rb:刀小僧>標的]]は刀で水しぶきをあげ、自分の姿をくらませる。だが、その程度の小細工でこの技は、俺のこの憤慨は、失望は静まらない。獲物の血の匂いを嗅ぎ追跡する鮫のように標的に向かっていく。

 

 

山本『くっ、ちっ、くそっ・・!』

 

 

スクアーロ『で?どうした!ここまでか!!刀小僧!!』

 

 

 高速で繰り出す剣劇を刀小僧は全て自分の刀で防ぐ。初見でこの速さに追いつけている…やはりこの餓鬼は剣士としての才能がある。なのに・・なぜ・・・その才能をみすみすドブに捨てるような真似をする!

自分のそんな抑えきれない激情は、剣技をより獰猛に、暴虐にさせる。刀小僧はわずかな隙を見つけてまたどこかに姿を消してしまった。

 

 

スクアーロ『どこに消えても無駄だ!潔く死ねぇ!』

 

 

 戦場である校舎そのものを壊すほどの勢いで縦横無尽に駆け巡る。辺りの物を切りつけながら…。その時、自分の目の前の水面に後ろから刀小僧が今にも切りかからんとしているのが映って見えた。

 

 

スクアーロ(逆!?ここまでやるとはな…だが、俺の剣に…死角はない!)

 

 

 俺は自分の肘を逆に向け、後ろの刀小僧の腹に自分の剣を突き刺す。テュールの剣技を自身に取り込むために俺は自分の手を捨て、義手に改造してあるのだ。そのため俺の剣には死角がなく後ろから斬りかかれても何の問題もない。しかし・・俺が刺した刀小僧は一切の血流を流さなかった…

 

 

スクアーロ(この感覚!まさか・・俺が斬ったのは…水面に映った影かッ!)

 

 

 俺の剣で決壊したかのように俺の体全身に水が濁流のような勢いで降りかかる。流石の俺もまるで決壊したダムのように強い勢いの水に襲われては身動き一つとれない…

___そして、その水流が去ったとき、俺は頭に強い衝撃を覚え、視界は足元の水たまりを映していた。

 

 

山本『時雨蒼燕流、攻式九の型。うつし雨』

 

 

 それが俺の耳が水中に入る前に拾った音声だった…。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 山本がスクアーロを下し、勝利を収めた後。覆面女の宣言通り戦場に獰猛な海洋生物が解き放たれた。それは皮肉なことに人喰い鮫だった。

山本はスクアーロの助命を覆面女に訴えるが、女共は『勝敗は既に決したのでこれ以降は我々の管轄外』と言い放ち、他のヴァリアーの面々と共に闇夜の中へ消えていった。

 

 

山本はそれでもスクアーロを助けようとしたがスクアーロ自身がそれを拒み、山本に『剣の腕は悪くないから、あとはその甘さを捨てろ』と言い残し鮫に呑まれていった。

そして、そのスクアーロは今…俺の目の前に気を失い、全身包帯まみれの状態で眠っている。

 

 

 というのも、あの戦場にはキャバッローネファミリーとか言う連中が待機しており、山本が負けた際は彼を助けるために手配されていたのだ。だが、実際はスクアーロが敗北し救出されたという訳である。

余談だがスクアーロを飲み込んだ鮫は俺により刺身にされ、あの地獄で使用していた様々な偽名を使い並盛市中の寿司屋や魚屋に届けられている。

 

 

 で、今の俺はスクアーロが搬送された病院の看護師の一人という事になっており、担当医やディーノとかいうキャバッローネファミリーのボスを幻覚で騙し、こうして密室空間に二人だけという状況を作り出している。

 

 

清水「スペルビ・スクアーロ……お前ほどの男がなぜあんな男に忠を尽くしている。お前はヴァリアーのボス候補だった男だろ?そんな男がなぜ・・ボスの座を他人に譲り、一守護者にまで成り下がっている……。お前の大空には…何がある?」

 

 

 俺は目の前の男に語りかける。当然、返答はなく、心電図の機械音が定期的なリズムを刻みながら部屋に鳴り響くのみ。

 

 

清水「……すこし・・お前を覗かせてもらうぞ。お前の大空が抱える秘密…この争奪戦に隠された真実……その全てを」

 

 

そう言って俺はスクアーロの頭に手を置き、手のひらに意識を集中させる。やがて、蜃気楼()はその姿を消していき、目の前の男に吸われるようにして消えていった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

壁や床、その部屋を支えるすべての柱までもが大理石で出来ている荘厳な造りの一室。壁にはいかにも高級そうな絵画や彫刻が幾つも飾られていた。それらに隠れるように、黒く冷たい黒鉄の銃口が部屋の全方位を狙えるように点在している。

 

 

その部屋は正に裏世界の組織に相応しい部屋で、組織が誇る発足以来から現在に渡り続く繁栄と華やかな歴史という光。そしてその組織を長年に渡り力が全てを支配する裏社会で存続させる所以の一つとなった絶対的力とそれにより手に入れた莫大な金と権力という闇。その二つを象徴していた。

 

 

 しかし、今はそんな豪華絢爛な部屋の面影は消えていた。大理石の壁や床、柱は戦闘の余波により破損や完全に破壊され、中には風化しているものもあった。当然、さぞかし著名な画家や彫刻家がその技術の全てを捧げ、マニアが喉から手が出るほど欲しがるだろう名作の数々は元の形を失くし、絵画は燃え尽き灰の山に姿を変え、彫刻は無残に破壊されただの醜い石の塊となっていた。

 

 

清水「この惨状…あの世界を思い出す。どこの世界でも戦闘が起きればこんな風になるんだな」

 

 

 俺は懐古し懐かしき地獄に思いを馳せながら、目の前に座る傷だらけの若きスクアーロ()に目線を落とす。今の俺はこの男の精神に潜っているだけなので、触れることも会話をすることも叶わないが、それでいい。過去に実際あった事実を知ることができればそれでいい。

 

 

清水「ここがどこかは大体想像つく。で、今お前の後ろで戦っているのが誰なのかも大方予想できる。お前たちは」

 

 

 一度そこで言葉を切り、男から視線を外す。男が倒れかかっている折れた大理石の柱の近くには中心に銃弾が描かれ、その上を交差するように狩猟用の銃とよく似た銃があり、交差する銃口の上には二枚貝に翼が生えている・・そんな紋章が刻まれた一枚の石板がある。今にもひび割れそうな程深い亀裂が入っているそれは、まるでこの組織がこの男の組織に受けた被害を表しているようだった。

 

 

その石板から目線を、染みる傷口とは別の何かに苦悩するようなそぶりを見せる男に戻す。

 

 

清水「お前たちは……()()()()()()()()()()()()()のか」

 

 

 詳しい理由や経緯は知らないが、男が所属する組織は自分たちのボスにその刃を向け、この男とそのボスは自分たちの飼い主(大空)と直接対決をしている…という訳である。

大方、この男は力及ばずに倒れ今は大空どうしで戦っているのだろう。

 

 

???『なぜだ!なぜだ老いぼれ!!答えろ!!』

 

 

 二つの大空が戦闘で発する炎の灯り以外一切の光源がなく、暗く、重く、冷たい空間に荒々しく少し若い声がこだまする。まるで、大空に向かって一匹の肉食獣が遠吠えをするかのように…。

 

 

???『なぜお前は俺に嘘をついた!なぜ正直に言わず俺を裏切った!!』

 

 

 その肉食獣は己が魂の咆哮を叫びながら、相対する大空に喰らいつく。相対する大空は同程度の力をぶつけることでその勢いを相殺するだけで、一切の手を出さなかった。しかし、その包容が、行為が、善意が、肉食獣の精神をより逆撫ですることになった。

 

 

???『それだ、その無駄な善意が…他人を見下し、哀れむような吐き気のする程気持ち悪ィ偽善が!それがムカつくんだよ!穏健派だなんだとほざいていながら、テメェの本性は欺瞞に満ちたカスだ!!テメェも!テメェの守護者も!!外で戦ってるテメェの手下も!!どいつもこいつもクズでカスで使えねぇゴミだ!!』

 

 

???『哀しい男だ。お前は・・なぜ?』

 

 

 あらん限りの罵倒を受けた男が初めてその口を開く。その声は年老いた老人そのものであり、とても業界最強と謳われた暗殺組織のナンバー2を倒し、連戦でボスと戦い、ましてやその攻撃の一切を相殺し、疲弊させるほどの戦闘技術を持っている男の声とは思えなかった。

 

 

清水「状況から見て、この声の男がボンゴレファミリーの現ボスか。年老いているとはいえ、この巨大な組織をまとめ上げるだけのカリスマと戦闘力…裏世界最強は伊達じゃないな」

 

 

???『うるせぇ!それはテメエが一番よく知ってんだろうが!』

 

 

 肉食獣の雄叫びは未だ続く。目の前の老人に対する憎悪はまだまだ収まらないのだ。

 

 

???『なぜお前は俺が自分の本当の息子ではないことを黙っていた!|超直感()()()()()()()()()()()()がなくてはボンゴレのボスになれねぇってことを!!俺がボンゴレのボスにはなれねぇってことを!楽しかったか?愉快だったか?真実を知らねぇ[[rb:ガキ>俺]]がテメェの嘘に見事に騙され、長年に渡りその掌の上で操り人形みてぇに踊るさまは!!』

 

 

 ボンゴレのボスに自分はなれない。そう魂からの咆吼をあげる。その叫びには目の前の男に、大空に裏切られた悲痛と憤怒が、哀れで愚かな自分に対する憤りと嘲りが含まれていた。

 

 

清水「なるほど…これで納得がいった。ブラッド・オブ・ボンゴレってのが何なのかはわからねぇけど、今回の争奪戦は全て仕組まれたことだったわけだ。となれば・・やることもおのずと決まっている」

 

 

 俺は悲哀と憤慨に満ちた叫びが轟き続ける暗闇からその存在を消し、元いた病室に戻る。備え付けの時計を見ると時刻は丑三つ時を指し示していた。

 

 

清水「丑三つ時か…|俺()()が動き出すにはちょうどいい。()()()()()()()よ、とくとみてろ。これが、お前たちの()。|名もなき怪物()()()の実力だ。」

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

スクアーロが負けた。あの耳障りな声をもう耳にしなくて良いと思うと幾分か気分が良い。だが完全に気分爽快であるかと言われれば、首を横に振る。なぜなら、この街に来てから微かに感じていた悪寒が、つい数時間前からさらに強くなっていたからだ。

 

 

???「ったく、この僕にまで寒気を生じさせるなんてね。この街にはいったい何がいるというんだい?」

 

 

 自分に割り当てられたホテルの一室の窓を開け、漆黒の帳が降りた住宅街を睨む。そんな僕を嘲笑うかのように、少し強い風が窓から室内へと入ってくる。

‘‘お前では俺は捕らえられない’’まるで正体不明の何かがそう言っているかのように

 

 

 

コンコン

 

 

???「マーモン、いるか?」

 

 

 その風が止むと同時に部屋の扉が叩かれ、一人の男が入ってくる。男の名はレヴィ・アタン。雷の守護者であり、今回の争奪戦では一時は敗北しかけるが、逆転勝利を収めた悪運の強いやつだ。僕はこの男の顔があまり好きじゃないけど、扱いやすい性格をしているから嫌いではない。

 

 

マーモン「やぁ、レヴィ。どうしたんだい?」

 

 

レヴィ「マーモン、お前も感じているか?この何とも言えない重圧感。ボスとはまた違った…」

 

 

 驚いた。この悪寒は術師である僕しか感じていないと思ったけどそうじゃなかったのか。ヴァリアーの幹部の中でもこいつは一番気づかないと思っていたのに…。

それとも、()()()()()()()()()()()()強くなったのか?

 

 

マーモン「無論だよ、なんなんだろうね全く。この街に来てから微かに感じてはいたけど、つい数時間前から急に強くなったよ。怒ったときのボスを目の前にしている時と似た気分だよ」

 

 

レヴィ「まさか・・・あのガキ共が何かをしているのか?」

 

 

マーモン「まさか。あいつらは守護者すらまともに集められないんだ、そんな余裕はないと思うよ」

 

 

 などと口では言っておきながら内心は不安を隠せない。なぜなら、あいつらにはリボーンがいるんだ‥昔から破天荒な奴で何をしてくるか分からない。何をしてくるか分からないのなら用心をするにこしたことはない。

 

 

レヴィ「マーモン。念のために念写を頼めるか?いつもの倍の金額でもいい」

 

 

マーモン「今の言葉、忘れないでよ」

 

 

 レヴィは生理的に嫌いだけど、こういう気前のいいところや即時即決ができるところは気にいっている。イタリアに帰ったらどうやってふんだくってやろうか…。

 

 

マーモン「それじゃあ行くよ、念写」ズビー

 

 

この街に来てやった様に念写をする。あの時レヴィは汚いなんて言っていたけど、今回は相手が謎の存在ってこともあるのか何も言ってこない。いつもそうやって無駄口をたたかないでくれると嬉しいんだけど…

 

 

レヴィ「どうだ?」

 

 

マーモン「待って、そんなにすぐには浮かび上がってこないよ」

 

 

 しばらくして、目の前の紙に何かが浮かび上がってくる。さぁ‥正体を明かしてもらうよ…この街に棲む謎の化物。

 

 

マーモン「な!なんだこれは!!」

 

 

レヴィ「どうした、何があった!」

 

 

マーモン「クソ!どこまでも僕を馬鹿にして!!ふざけるな!」

 

 

レヴィ「落ち着け!何が浮かび上がったんだ!」

 

 

マーモン「これだよ…。まったくもってふざけてる。ここまで侮辱されたのは久しぶりだよ」

 

 

 沸き立つ怒りを抑え紙をレヴィに見せる。レヴィはそれを見て首を傾げている…。当たり前だ‥こんなものが浮かび上がってきたら、その意味を理解しなかったら謎でしかない。

 

 

レヴィ「『Thank you baby』だと?…どういう意味だ?」

 

 

マーモン「さぁね、僕もその真意はわからないよ。でも、一つだけ言えることがある」

 

 

レヴィ「なんだ?」

 

 

マーモン「さっきから感じているこの嫌な重圧感と悪寒。これは[[rb:ヴァリアー>ぼくたち]]に。いや、僕に念写をさせるためにわざと発していたんだよ」

 

 

レヴィ「意図的にだと?なぜそんなことをする…。」

 

 

 ああ、もうこのタコは何で今ので理解しないんだ。この理解力のなさがあるから僕はこいつが嫌いなんだ。

 

 

マーモン「知らないよ。ただ‥()()()()()()()()()()()()()()()()()()それだけは事実だよ。そして僕たちは、その怪物の思惑通りの行動をとったって訳さ」

 

 

レヴィ「俺たちに警戒態勢を取らせるほどの威圧が‥ブラフだと!?」

 

 

マーモン「そうだよ。全く…文字通りの怪物でも棲みついてるのか?この街は」

 

 

 そんな悪態をつきながら再び窓から見える街の景観を睨む。しかし、今度は無風でただ静かに一定のリズムを刻む時計の秒針の音が淋しくぼくの鼓膜に入ってくるだけだ。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 場所は変わり、並盛神社の裏手にある山の山岳部。

 

 

清水「術師が幹部にいるだろうと あの世界で仕事前に集中する感じを思い出して、その気概を町全体に飛ばしてみたが、案の定探ってきたな。」

 

 

 草木も眠り、月明りも町の街頭も星明りも、何も差し込まない完全なる暗闇の中で俺は計画を開始する。先程、あの剣士の精神世界で見た戦いがどうなったかは知らないが、あの時の叫んでいた男の言葉から、今回の争奪戦が正式なものではないことを知った俺は頭を巡らせ一つの計画を立てた。

 

 

清水「今回の争奪戦は云わばあの剣士の大空が織りなす復讐劇の一つだ。恐らくそれはもう始まっていて、ツナを倒せば完遂するのだろう。となれば‥考えることは一つだ。それは…」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。精神世界できいた通り、ボンゴレファミリーのボスになるためには、ブラッド・オブ・ボンゴレというのが必須である。しかし、あの剣士の大空にはそれがない。ならば、その理由を覆すほどの何かをあの男が成し遂げればいいのだ。例えば……

 

 

清水「例えば、現在のボスをツナに殺させ、その弔いとしてツナを殺す。とかな」

 

 

 今もなお、あの戦いできいた老人の男がボスを務めており、あの叫んでいた男がその老人の息子だという事が信じられていたとすれば…。

それは全ての者を納得させ、ボスになるのに異を唱える者はいなくなるだろう。それどころか、組織の歴史に英雄として名を残すことも可能になる。

 

 

清水「この狙いが仮に当たっていたとしたら、あいつらは現在のボスを何らかの方法でこの戦いに参加させているはずだ。本部には影武者でもおいてな。で、さっきの探りであいつらの拠点と人員構成が分かった。その中でまず怪しいのはあの機械だ。ゴーラ・モスカなんて名前だったが、おそらくあの中だな」

 

 

 わざと(怪物)の存在を匂わせて探らせ、それを逆手に取り敵の内情を知る。相手が精巧な術師であればあるほど、知れる情報も多く、正確なものになる。探ってきた術師は何か特別な存在だったようで、必要以上の情報を知れた。だからそのお礼としてあんなメッセージを残した。

 

 

清水「今、俺が動力源(今のボス)を救ってもいいが‥それだとあいつらにバレる。連中はどうせ暴走でもさせて、アレにツナの守護者の誰かを狙わせる腹積もりだろう。だから俺は敢えて、ツナにあれを破壊させる。ツナにとっては文字通り心が痛む出来事だろうが‥俺はアイツが乗り越えるべき事象まで消してやるつもりはない」

 

 

清水「だから…今、俺がするべきことは俺の隠れ蓑の用意と…連中(ヴァリアー)()()()()()()全員の顔と所在を知ることだ」

 

 

 太陽が昇り、朝霧がまだ少し生じている町の中を、下半身から徐々にその霧に同化させながら進む。

数分後、朝日が雲に隠れ、町を薄暗さが襲う。そして再び朝日が雲からその姿を現した時、すでに街の霧は晴れ、二匹の雀が大空へと飛び立った。

 

 

リボーン「……」

 

 

 その飛び立つ雀をじっと眺める一人の男。このとき彼が何を考えていたか…それを理解できるのは彼と、その雀のみだった。

 

  大空を陰から支える蜃気楼

 ~リング争奪戦編 第二話~

       終わり




アルコバレーノを手玉に取る清水さんマジ化物


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大空を陰から支える蜃気楼 リング争奪戦編 ~3話~

霧・雲戦です。



マーモン「ふぎゃああああああああああああ」

 

 

骸「君の敗因はただ一つ。僕が相手だったことです」

 

 

 並中の体育館は正に地獄そのものと呼べるものに変容していた。重力は乱れ、床の中心には大穴が空き、壁には次元の切れ目のようなものがいくつも見られ、その様はもはや‥争奪戦というよりは地獄に住まうものが、地上の罪人を引きずり込んでいるようだった。

 

 

ドガァァン

 

 

 やがて、大穴の中心で膨らんでいた()()()が、水素に火を近づけた時のように激しい音と衝撃を放ちながら爆発した。その()()と六道骸との戦いを観戦していたものは皆、その光景に驚きを隠せず、表情を変えなかったのは荘厳な造りの椅子に座る、顔に古傷をつけた男のみだった。

 

 

骸「これで‥いいですか?」

 

 

 ()()が爆発し、消え去るとそれまで異界そのものだった体育館は元に戻り、今までの光景が幻影のように影も形もなかった。冥府へと罪人を誘った男は、覆面をつけた女二人に見せるよう手を開く。その掌には霧の紋様が刻まれた一つの指輪が完成されていた。

 

 

チェルベッロ「霧のリングはクローム・髑髏の物となりましたので、霧のリング争奪戦は沢田綱吉氏側の勝利とします」

 

 

 指輪を確認した覆面の女がそう宣言する。それを聞いた男は後ろに待つ自分と同じ制服を着た二人の男の元へと帰る。

 

 

犬「うっひょー!やっぱ骸様つれー!!」

 

 

千種「流石です、骸様」

 

 

 同じ制服に身を包んだ二人の男…。己と同じ施設にいた頃からついてきた二人の部下が、真っ先に自分の勝利を褒めたたえる。

 

 

獄寺「テメェどの面下げてきやがった!」

 

 

ツナ「待って獄寺君!骸、その・・・ありがとう」

 

 

 部下の称賛と共に、かつて自分と敵対し、自分を打ち負かした者たちがかみついてくる。

しかし、真に自分を打ち負かした者は、この場の誰よりも自分に尋ねたいことがあるにもかかわらず、先に礼を述べた。

 

 

ツナ「でも…何もあそこまでやる必要はなかったんじゃ」

 

 

骸「クフフ。どこまでも甘い男ですね、沢田綱吉。心配ご無用、と言っておきましょう。あの赤ん坊は逃げましたよ。彼は最初から逃走用の力は使わないでとっておいた。抜け目のない[[rb:赤ん坊>アルコバレーノ]]だ」

 

 

古傷の男「…ゴーラモスカ。争奪戦後、マーモンを消せ」

 

 

骸「こちらの大空とは違って、そちらの大空はとても荒々しいのですねXANXUS。まるで嵐のようです。それに…貴方は僕ですら畏怖するほどの計画を企てている」

 

 

XANXUS「ッ!」

 

 

 XANXUSと呼ばれた古傷の男が、その者…六道骸に鋭く冷たい殺気を向ける。しかし、彼は気にする素振りを一切見せず、話をつづけた

 

 

骸「おっと、僕はそれに関与するつもりはありませんよ。あまりいい人ではないのでね。ただ一つ・・・君より弱く、小さいもう一人の後継者候補をあまり甘く見ないことです。先人からの忠告と思ってください」

 

 

ツナ「えっ?」

 

 

骸「それと、沢田綱吉。君も気をつけた方がいい。このリング争奪戦には我々(味方)側でも、ヴァリアー()側でも、チェルベッロ機関(審判)側でもない…第三勢力とも言うべき存在が暗躍しています。その者は今は我々に有利になるように動いていますが、いつ刃の先が向くとも限りませんからね」

 

 

ツナ「それって…」

 

 

獄寺「テメェ‥適当なこと言って十代目を混乱させんじゃねーよ!」

 

 

骸「おや、あなたは僕の言う事が一番理解できるのではないですか?獄寺隼人。なぜなら君は、その乱入者から唯一物理的な接触をこの争奪戦で受けた人物なのですから」

 

 

獄寺「何を言ってやがる…」

 

 

骸「獄寺隼人。あなたはあの最後の図書室での戦闘時に、これまで聞いたことのない声を聴いているはずです。そしてあなたはその声と沢田綱吉の恫喝のおかげで、勝負より命を取った。違いますか?」

 

 

ツナ「本当!?獄寺君!!」

 

 

獄寺「!!……あの声!」

 

 

 そう告げて六道骸はその場に倒れ伏す。次第に男を霧が包みその霧が晴れる頃には男の姿はどこにもなく、髑髏があしらわれた眼帯を付けた女が寝息を立てていた。

 

 

犬「こいつすぐに倒れるぴょん、これだから人間は・・・」

 

 

千種「行こう、犬」

 

 

綱吉「ちょ、この子放置ですか!?」

 

 

犬「起きりゃ自分で歩けんだろ。そいつをチヤホヤするつもりもねーし、それにそいつは骸さんじゃねーからな」

 

 

 そう言い残し制服の男二人組は体育館を後にして、漆黒の闇の中に消えた。それと同時に閉口していたスーツ姿の赤ん坊が口を開き、置き去りにされた女を病院に搬送し、そのついでに獄寺から詳細を聞き出すこととなった。

 

 

リボーン「獄寺、骸が言ってたことは本当か?」

 

 

 並盛市内のとある病院、そこのとある一室に集まった沢田綱吉とその守護者たち。部屋の外や建物の外に誰もいないことを確認し、カーテンを閉めるとスーツ姿の赤ん坊が一人の守護者に問いただす。

 

 

獄寺「ええ、事実ですリボーンさん。確かに俺はあの嵐戦の時、今まで聞いたことのない野郎の声を聴きました。タイミングも骸の野郎が言っていた通り、十代目のあの有り難い恫喝があってすぐの事です」

 

 

リボーン「それだけか?後ろ姿とかは見なかったのか?」

 

 

獄寺「そのあとすぐにタービンが爆発したので…すみません」

 

 

山本「ちなみに、そいつはなんて言ったんだ?」

 

 

獄寺「確か…『ボスの元へ帰してやる。右腕を名乗るのならボスが戦う理由はくらいは理解しておけ』と」

 

 

リボーン「ボスの戦う理由…か。ってことはそいつはツナの知り合いかもしれねーな」

 

 

ツナ「え、えぇーー!俺、そんな不気味な人知らないよ!?」

 

 

リボーン「お前が知らないだけで無効だけが一方的に知ってる場合もあるがな、もしくはそこの間抜けが忘れているだけとかな」

 

 

ツナ「こ、こえー」

 

 

リボーン「とにかくだ。そいつは誰かはわからねぇが俺たちに近い人間であることは確かだぞ」

 

 

了平「どういうことだ?」

 

 

リボーン「そいつはこの争奪戦の存在を知っていた。つまり、俺たち(マフィア)側の人間だ。ここまでは解るな?」

 

 

山本「ああ」

 

 

リボーン「骸が言っていたが、そいつはこの争奪戦中は少なくとも俺たちが有利になるように動いている。さらに、そいつはツナがボンゴレファミリ―の後継者候補であることと、獄寺がツナの右腕を自称していることを知っているってことだ。恐らく今ここにいる連中全員と面識があると考えていいだろう」

 

 

ツナ達「「「「!!」」」」

 

 

リボーン「つーことで、オメェら。何か引っかかることとかねーのか?どんな些細な事でもいい」

 

 

 赤ん坊がその場にいるツナと獄寺・山本・笹川に顔をやる。四人はそれぞれ考えるそぶりを見せ、唸る。

 

 

リボーン「今回と関係あるかは知らねぇが、了平以外の三人は黒曜に殴り込みに行ったときにいたバーズってやつを覚えてるか?あの、帽子をかぶった変態野郎だ」

 

 

獄寺「ああ、あのクラリネット女の後にいた野郎ですか」

 

 

ツナ「京子ちゃんとハルを狙って、シャマルと大人イーピンに返り討ちにあった…」

 

 

山本「そいつがどうかしたのか?」

 

 

リボーン「実はな、あの黒曜の一件があってから、そいつが消息不明になっている」

 

 

獄寺「どういうことですかリボーンさん!」

 

 

リボーン「落ち着け。あの一件で骸に加担した連中はそのバーズってやつとそいつが操っていた双子を除いては全員が復讐者(ヴィンディチェ)に一度捕まっている。だが、そいつらだけは捕まらず、どこにいるかもわかってねぇ」

 

 

ツナ「死んだ・・・ってこと?」

 

 

リボーン「おそらくな。だが、死体があがってないうえに、ボンゴレガ確かめた限りだと殺ったやつも出てきてねぇんだ」

 

 

獄寺「それじゃあ…」

 

 

リボーン「ああ、文字通り消えちまってんだ。無論、ボンゴレをはじめとした巨大マフィアが総力を挙げてバーズの消息を追っているが、今のところ何一つ情報がねぇ。こんなことは俺も初めてだ」

 

 

リボーン「それにな、今思えば黒曜の件にはいくつか不可解な点がある」

 

 

山本「その、バーズってやつの消息以外にもか?」

 

 

リボーン「ああ。不可解というよりは、なんかしっくりこねぇんだ。霧の中にいるみてぇに」

 

 

了平「実は…俺も一つ極限に腑に落ちないことがある」

 

 

 それまで黙っていた了平が、リボーンの話に促されたかのようにその重い口を開く

 

 

了平「沢田、お前は俺が倒されたときに俺の病室に来たよな?」

 

 

ツナ「ええ、お兄さんが倒れたと聞いてすぐに…」

 

 

了平「実は、あの後お前たち以外の誰かが俺の病室を訪れたような気がしていたのだ。並盛中の制服を着たやつに…。そして、俺はそいつに何かを頼んだような気がするんだ…その内容は思い出せないが」

 

 

リボーン「!!了平、それは本当か?」

 

 

了平「確証はないがな。だが、そうだと俺の頭のどこかが叫び続けている」

 

 

獄寺「ボクシング部の後輩でもねーのか?」

 

 

了平「いや、後輩ではない。後輩たちも確かに来たが、ツナと同じ日ではない」

 

 

山本「ボクシング部の後輩と俺たち以外で先輩と面識がある並中の生徒…っすか」

 

 

了平「クラスの奴でもなかった。いくらボクシング馬鹿な俺でも、クラスメイトの顔を覚えないほど薄情ではないからな。それにしても・・・うがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!極限にモヤモヤするぞぉぉ!!」

 

 

ツナ「ちょ、お兄さん!声が大きいですよ!!」

 

 

了平「ああ、すまん。いつもの癖が出てしまった」

 

 

獄寺「体力バカの芝生頭は放っておいて・・・。クラスの連中でもボクシング部の後輩でもない、芝生頭と面識がある並中の生徒・・・か」

 

 

山本「なんか、雲をつかむような話だな」

 

 

獄寺「お気楽に言ってんじゃねえぞ野球バカ!つーか、オメェは何かねえのかよ」

 

 

山本「__それが、生憎何もなくてな。俺は獄寺があの眼鏡に襲撃されるまで事実知らなかったし、乗り込んだ後でもあの鉄球使いのところで気を失ったからな」

 

 

獄寺「チッ、使えねぇな」

 

 

山本「ハハッ、だな」

 

 

ツナ「……」

 

 

 山本はいつものようにお気楽に獄寺の小言に返す。了平は靄がかかった真実に対するストレスを大声で発散させる。そしてツナは何か物耽るように黙りこくり、下を向く。

 

 

リボーン「…これ以上は考えても無駄だな。お前ら、とりあえず用心だけはしておけ。この争奪戦、何か得体のしれねぇもんが関与しているのは事実だからな」

 

 

全員「「「おう」」」

 

 

 その場はそれで解散になり、それぞれ帰路へとついた。だが、病院内で黙り込んでいたツナが就寝前、こんなことを言ってきた

 

 

ツナ「なぁ、リボーン」

 

 

リボーン「どうした」

 

 

ツナ「骸と戦った時、フゥ太って骸に操られてたんだよな?」

 

 

リボーン「ああ。ビアンキを刺してお前にも襲い掛かったな」

 

 

ツナ「…あれって本当に俺たちの知ってるフゥ太だったのかな?」

 

 

リボーン「どういうことだ?」

 

 

ツナ「あくまで直感なんだけど、あの時のフゥ太は本物じゃなかった気がするんだ。別の誰かがフゥ太に化けていただけで、本物のフゥ太はあの時、あの場にいなかった・・・・・・と思う」

 

 

リボーン「まさか…その正体が了平の見舞いに来た奴だって言うのか?」

 

 

ツナ「わからない。あとそれともう一つ気になってることがあるんだ」

 

 

リボーン「なんだ、はっきり言え」

 

 

ツナ「これも確証はないんだけど、お兄さんの見舞いに来たって言う並中の生徒は俺と同じクラスだと思う」

 

 

リボーン「なんだと?」

 

 

ツナ「お兄さんの話を聞いて思い出したんだ。俺、黒曜の連中が並中の生徒を襲撃し始めた時、並中の制服を着た誰かと親し気に話していたことを……」

 

 

リボーン「……そいつはどんなことを言ってたんだ?」

 

 

ツナ「あんまりはっきりとは覚えてないんだけど…。俺みたいに怯えてはなかった気がする・・・」

 

 

リボーン「・・・そいつはヒットマンだったのか?」

 

 

ツナ「ううん、覚えてる限りだと俺と同じ一般生徒だったはず。でも、今考えてみれば変だった。あの時俺みたいな一般生徒は皆だいたい同じように怯えていたのに、怯えるそぶりすら見せないで冷静に状況を判断してたから…」

 

 

リボーン「ボンゴレ(俺たち)以外にもお前の周りに潜入している奴がいるってことか」

 

 

ツナ「なぁ、リボーン。お前はボンゴレは何か他に知らないのか?」

 

 

リボーン「・・・実はな、これはまだ未確認の情報だが、今回の争奪戦で審判をしてるチェルベッロの連中にこの争奪戦の直前、怪しいやつが所属したって噂があるんだ」

 

 

ツナ「怪しいって・・・どんなやつだよ」

 

 

リボーン「それが…所属するときにそいつが名乗ったという名前と性別以外の一切が不明な奴でな。常にフードを被り変声機で声を変えてるから顔も肉声もわからねぇんだ」

 

 

ツナ「なんだよソレ…聞くだけで胡散臭いやつじゃん」

 

 

リボーン「ああ、こうも露骨に怪しいから俺もあんまり信じちゃいねぇんだが。ちなみに、そいつの名はミラッジョって言うらしい。イタリア語で蜃気楼って意味だ」

 

 

ツナ「蜃気楼…。なにそれ、意味わかんないよ」

 

 

リボーン「とにかくだ。現状コイツに関しては謎だらけだが、この蜃気楼野郎が了平やお前の言っていた並中の生徒と同一人物だとすると、ほぼ全ての辻褄が合うんだ」

 

 

ツナ「それってどういうこと……」

 

 

リボーン「蜃気楼野郎は黒曜の時はオメェのクラスメイトとしてお前や了平に接触し、俺たちの事情を知った。そこで何らかの方法で骸の支配下にあったフゥ太を助け自分が成り代わることで骸とも接点を持った。そして、その後争奪戦の事を知ったそいつは審判として動く裏で獄寺を救ったんだ」

 

 

ツナ「なんでそんな事…」

 

 

リボーン「さあな、そればっかりは本人にきかねぇと分かんねぇ」

 

 

ツナ「ああもう!XANXUSだけでも怖いのに、そんな不気味な人まで絡んでるとか死ぬほど怖いよ!!」

 

 

リボーン(だが、そうだとしても…。何故、そいつはバーズを殺したんだ?あの時ツナを狙った刺客は他にもいた。だが、そいつはバーズだけを殺し死体を消した。骸たちとバーズの違いは何だ?そいつの中でバーズと骸を区別化させた理由ってのは…いったいなんだ?)

 

 

 赤ん坊や大空の心中に陰りが見えながらも、夜は明けていく。大空は未だ習得できぬ大技の習得に向け文字通り死ぬ気で奮励し、その守護者たちもそんな彼にこれ以上用余計な不安をかけないようにと、各々がそれぞれ考え、話し合い、できることをしていく。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 そして、守護者戦最終日、雲のリング争奪戦の開戦時刻。ぶつかり合うのは互いに最強と謳われる守護者たち。そして、戦場も地面には数多の地雷、四隅には動体に反応して射撃するガトリングが置かれるなど、そんな強者に相応しい過酷で悲惨で無常なものになっていた。

 

 

 長髪の女「それでは、雲のリング。ゴーラモスカVS雲雀恭弥・・・バトル開始!」

 

 

 長髪の女による開戦宣言がなされると同時に、黒いロングコートに身を包んだモスカがロケットエンジンを噴射し、指に仕込まれた小型ガトリングを雲雀に向け撃ち続けながら、高速で接近する。

 

 

雲雀「……」

 

 

 対する雲雀は銃撃を難無く躱しながら、蛇行してその照準を絞らせない。だが、その蛇行で地雷のいくつかが反応し、甲高い警告音の後耳を劈くほどの轟音を立てて破裂する。

 

 

 黒煙がたちのぼる中、冷徹な機械の肌がそれを突き破り、雲雀をその視界に捕らえ息の根を止めに来る。

 

 

雲雀「……!」ブンッ

 

 

 雲雀は待ち望んでいたかのようにそれを迎撃し、モスカの腕を自慢のトンファーで粉砕し、さらに数発を動きのとまった金属の塊に見舞う。それらすべては数多の殺戮兵器を搭載した[[rb:殺人兵器>キリングマシーン]]を動かないガラクタに変えるには十分だった。

 

 

 地雷の爆裂音とは比べ物にならない衝撃音と衝撃波、そして倍の黒煙を一斉に放出しながら、モスカは稼働を止めた。雲雀はそんな巨大な爆発の中、リングを完成させるとそれを長髪の女へ放り投げ、その戦場で唯一座している男を挑発する。

 

 

雲雀「さぁ、降りておいでよ。そこの座ってるキミ。猿山のボス猿を噛み殺さないと帰れないなぁ」

 

 

レヴィ「なぬ!」

 

 

ベル「なぬじゃねーよ、タコ」

 

 

レヴィ「タコぉ!?」

 

 

ベル「この争奪戦、俺らの負け越しじゃん。どうすんだよ、ボース」

 

 

XANXUS「フン、モスカが一撃でやられたんじゃ何も言えねぇ。俺たちの負けだ」

 

 

雲雀「そういう顔には見えないよ」

 

 

XANXUS「向かってくるのは勝手だが、俺は手を出さねぇぞ。そこのガラクタを回収しに行くだけだからな」

 

 

 玉座に坐した男はその場で跳躍をし、雲雀の前に降り立つ。それと同時に雲雀は愛用のトンファーを目にも止まらぬ速さで振るうが、男はその悉くを躱す。

 

 

また、二人が移動するにあたり設置されたガトリングが火を噴き、地面の各所に埋まっている地雷が次々を爆発するが、二人はそれらを気にする素振りを見せずに激しい攻防を繰り広げる。

 

 

雲雀「いつまでそうしてるつもり?」

 

 

XANXUS「言ったはずだ、手は出さねぇと」

 

 

雲雀「好きにしなよ、どの道君は噛み殺される。それに変わりはないんだから…」

 

 

レヴィ「おのれ、たかが中学生のガキがボスを愚弄しおって…」

 

 

ベル「待てよムッツリ」

 

 

レヴィ「ん?ムッツリ?」

 

 

ベル「勝負に負けた俺らが手を出してみな。次期十代目への反逆とみなされて、ボス共々全員即打ち首じゃん」

 

 

レヴィ「では、あの生意気なガキの蛮行を黙ってみていろというのか」

 

 

ベル「さぁね。でも、なんか企んでるぜうちのボス。何企んでるかは知らねぇけどな」

 

 

 天才と謳われた王子の言う通り、雲雀に今なお攻撃されているXANXUSには先程から不敵な笑みが絶えず、その口角は歪んでいた。そしてその視線は、目の前の雲雀ではなくその奥に放置されている[[rb:ガラクタ>モスカ]]に注がれていた。

 

 

XANXUS『チェルベッロ』

 

 

覆面女『はい、XANXUS様』

 

 

 チェルベッロの女にXANXUSからの通信が入る。

 

 

XANXUS『この一部始終を忘れるな。俺は攻撃してねぇとな』

 

 

覆面女『?』

 

 

XANXUSからの不可解な通信に明確な答えを返さず、ただ眼前で繰り広げられる戦いを傍観し続ける。だが、その通信の真意はすぐにその場にいる全員が理解することとなった。

 

 

バシュン!!

 

 

 不意に戦場を一筋の光線が奔り、空を無数のミサイルが渡る。それは雲雀の背後から放たれ、激しく動いていた二人の動きを止めた。さらに、観覧席にいたヴァリアー、綱吉の両陣営をも戦場に強制的に誘致した。

 

 

獄寺「ゲホ、ゲッホ・・・ゲホ。いったい何が起きてやがる。野球バカに芝生頭!お前ら無事か!?」

 

 

山本「ゴッホ・・・。ああ、何とか。先輩、大丈夫っすか?」

 

 

了平「なにが起きているのだ・・・いったい」

 

 

獄寺「俺にもなにがなんだかさっぱり…。なっ、あれは!」

 

 

 黒煙が晴れ視界の靄と籠っていた熱が消えた獄寺の視界に叩きつけられるようにして飛び込んできたのは、指に仕込まれた小銃から絶え間なく鉛球をまき散らし、背中からは矢継ぎ早にミサイルををでたらめな昇順で発射し、胸の孔からは波動砲のように太いレーザーを辺り一帯に放ちながら、ロケットエンジンを噴射し高速で戦場を駆ける[[rb:モスカ>ガラクタ]]の姿だった。

 

 

XANXUS「言わんこっちゃねぇ。俺はこうならないように一刻も早く、そのガラクタを回収しようとしが、それを向こうの守護者が阻んだ。そのせいで、モスカの制御が利かなくなっちまった」

 

 

獄寺「暴走してるってのか」

 

 

 これを唯一予見できた男がざまあみろとでも言わんばかりの顔でそう言い放つ。この事態がこの男によって仕組まれていることは、その表情からも明らかだが、それと同時に男の言葉は、仕草は、その顔つきは、今戦場を架空している制御不能な殺戮兵器はもはやこの男にもそう簡単には止められないという事を暗に示していた。

 

 

ズドドドドォォォン!

 

 

 モスカの暴走でグラウンドだけでなく校舎全体が破壊の限りを尽くされていく。野球部のボールが校舎に当たらないように設置されたネットは消失し、それを支える支柱はいともたやすく折られ、崩れていく。本来ならばこのような光景を誰よりもこの学校を愛している雲雀恭弥が赦すはずはないのだが、彼はこの暴走の中で負傷したのか、思うように動けずにいた。

 

 

クローム「……」タッタッタ

 

 

 モスカの暴走により戦場と観覧席との敷居が無くなり、倒れた敷居の残骸を飛び越え、黒曜の制服を着た女が、暴走による無差別攻撃の合間を縫って戦場を渡る。

 

 

ピーー

 

 

クローム「!」

 

 

 女が踏んだ地雷が傾国音を響かせた後爆音と共に破裂する。女は同じ制服を着た男二人に間一髪救われるが、泣きっ面に蜂とでもいうのだろうか。三人が倒れ込んだ位置は、ガトリングの射程範囲内であり、その銃口が三人に向けられる。さらに、レーザーをその胸に光らせながら、黒煙と燃え盛る炎の中からモスカが破壊神のように、三人を挟む形で現れた。

 

 

山本「やべぇ、囲まれちまった!!」

 

 

 今まさに、ガトリングと破壊神の巨砲が火を噴くその瞬間、頭を抱え伏す三人を護る盾のように、橙色の炎が優しく巨大に拡がった。

 

 

獄寺「あれはっ!」

 

 

XANXUS「あの炎…きやがったか」

 

 

 波動砲が消え、ガトリングが全ての弾を打ち尽くした時、そこにいたのは、額と両腕に先程と同じ炎を灯し、瞳はその炎と同じ色を宿し、戦場に立つ覚悟を決めた沢田綱吉その人であった。

 

 

了平「あれは」

 

 

獄寺「十代目!」

 

 

山本「フン」

 

 

 自分たちのボスの登場と仲間の無事が確認できた男たちは一様にその表情を明るくさせる。だが、ボスの周囲に漂う蒸気が晴れるにつれ、その顔つきは再び険しいものへと変わっていった。なぜなら…

 

 

ツナ「……誰かは知らないが感謝する。ありがとう」

 

 

???『礼には及ばない。これは我々(審判)の仕事だ』

 

 

 なぜなら、自分たちのボスの背後。伏せた三人組の眼前には、ヴァリアーの制服のように黒いフードを深くかぶった、いかにも不審な男がまるで長年の相棒のような雰囲気を醸しながら、その場に立っていたからだ。

 

 

XANXUS「……誰だ、テメェ」

 

 

レヴィ「何者だ、あいつ」

 

 

ベル「さぁ?」

 

 

犬「何者びょん?こいつ・・・」

 

 

千種「……」

 

 

クローム「この人……まさか」

 

 

 不審な男の登場は各陣営の守護者を驚かせただけでなく、この暴走を企てた男の顔すらも歪ませた。だが、この場において唯一、その男の存在に別の反応を示した者たちがいた。

そう、あの覆面女たちである。彼女たちはその男に見覚えがあったのだ

 

 

長髪の覆面女「ミラッジョ!あなたはこんなところで何をしているのです!?」

 

 

短髪の覆面女「あなたの仕事は損壊した校舎の修繕などのはずです!」

 

 

ミラッジョ『ああ、俺も最初はそれに徹するつもりでした。ですが、あなた達が審判(私たち)の仕事を一向に遂行しないので、仕方なくこうして持ち場を離れてきたのです』

 

 

 不審な男は変声機を通した声で、自らの上司に淡々と告げる。古傷を顔に持った男は、先程まで暴走していた殺戮機械に目をやるが、あれは今眼前に現れた二人の人物を調べているのか、いつでも撃てるよう胸の孔を光らせたまま動かなかった。

 

 

長髪の覆面女「我々の仕事?私たちがいつ我々の仕事を放棄したというのです!」

 

 

ミラッジョ『今現在、こうしている最中です。勝利条件である雲のリングは沢田綱吉氏側の守護者によって完成された。つまり、もうすでに雲のリング争奪戦の勝敗は決している。なのに、あなた方は勝負を終わらせずにこのような惨劇を繰り広げている』

 

 

短髪の覆面女「しかし!ヴァリアー側の守護者は今暴走状態にあり、とても制御できる状態ではありません!」

 

 

 

ミラッジョ『それも、あなた方がすぐに試合を終了させていれば未然に防げた話です。今この惨状は、そこの古傷の男による計略によって引き起こされたのではなく、あなた達の職務怠慢が引き起こした現実です。いうなれば、これらは全て・・・あなた達が原因で起こった事という訳です』

 

 

長髪の女「そんな詭弁がまかり通りますか!第一、今はとにかくヴァリアー側の守護者をどうにかしなければ、収集も尽きません!!」

 

 

ミラッジョ『・・・わかりました。では、ヴァリアー側の守護者は沢田綱吉氏に一任しましょう。私が対処してもいいのですが、先程あなた達が言ったように私の本来の職務は、戦闘により破損した校舎の修繕や、戦闘の騒音を外部に漏れないようにすることですから』

 

 

 ミラッジョは暫しの沈黙の後、そう告げて戦場を後にしようとする。しかし、それをある一人の男が呼び止めた。

 

 

XANXUS「待て。テメェはチェルベッロの奴か…。ふざけた真似してくれたな…」

 

 

 片手に炎を宿し、今にもそれを解き放たんとしているヴァリアーのボスの恫喝に対し、ミラッジョは、少し喉元に手をやってからこう答える

 

 

ミラッジョ『黙れ、反抗期の不良息子が。お前のようなただ粋がってるだけの奴など、その辺のチンピラ以下だ。さっさと失せろ』

 

 

XANXUS以外「「ッ!!?」」

 

 

XANXUS「アァん?」

 

 

 その声はまるで魔界に住む悪魔のように低く、重く、そして暗い声だった。死という概念そのものを体現したような声は、歴戦のヴァリアーの幹部に冷汗をかかせ、幾度か死線を乗り越えてきた沢田綱吉側の守護者を心底震え上がらせ、常に鉄仮面を被っているような覆面の女たちの顔を容易く変えた。

 

 

XANXUS「ドカスが。この俺にそんなふざけたこと抜かして…ただで済むと思うなよ」

 

 

 ヴァリアーのボスは手の炎をより煌かせ、本格的な戦闘隊形に入る。だが、ミラッジョはそんな男を一瞥するだけで、男に背を向けてその歩みを再開する。

 

 

XANXUS「消えて灰になりやがれ、クズ」

 

 

 その炎が目の前のいけ好かない男ごと、全てを灰燼に帰さんとしたその刹那、二人の顔面をかすれるほどの至近距離をあの殺戮機械の巨砲が貫いた。

 

 

XANXUS「チッ。運のいい野郎だ」

 

 

ミラッジョ『さぁ、沢田綱吉。聞いた通りです。虫のいい話だという事は重々理解していますが、改めてお願いします。どうか、あのポンコツを止めてください。我々は、先程の理由で手が出せませんので』

 

 

 不機嫌の頂点に達しそうな男を無視して、ミラッジョは冷酷に沢田綱吉に頭を下げる。しかし、その男のそれは、一見すると懇願のようであるが、その実は脅しに近かった。なぜなら、先の言葉の後に、このような文句が続いたからである。

 

 

ミラッジョ『一刻も早くあの鉄くずの塊を鎮静化させなければ、あなたの戦う理由が失われてしまいますよ?先程のようにね。あれは今、あらゆるリミッターが解除されているので、あなた達が守りたいと思うものを、跡形も残さず消滅するなど赤子の手をひねる様なものでしょうね。さぁ、沢田綱吉。平和を真に願うのなら、それを恒久に享受したいと思うのなら、迷っている暇などありません。あれと戦い、命を危険に晒し、それを護りなさい』

 

 

バジル「なっ・・・!なんだと!?それはもう願いではなく脅しではないですか!!」

 

 

リボーン「XANXUSに喧嘩を売ったのは伊達じゃねぇってことだな」

 

 

ツナ「………それがボンゴレか」

 

 

ミラッジョ『ええ。それが、あなたや九代目がなろうとした誰よりも|恐ろしい()()()()ボスです』

 

 

ツナ「・・・」

 

 

 沢田綱吉はミラッジョを一睨みして、暴走する機械を止めに行く。モスカもまずは自分に向かってくる沢田綱吉を排除するため、彼に攻撃を集中する。二人の戦場はやがて、空へと移り、地上は二人がぶつかり合うことで起きる轟音や眩い光が降り注いだ。

 

 

ツナ「これで終わりだ」

 

 

 二人の力量の差は圧倒的で、終始ツナが暴走するモスカを翻弄する展開となった。そして、両腕をもがれ、大砲も放つことができなくなった機械の最後の突貫をも、ツナは片手で易々と受け止め、もう片方の手で両断する。

 

 

 焼き割れた機械の中からは腕や足をゴムのようなもので何重にも縛られ、今にも息絶えそうなほどに衰弱した一人の老人が地面に倒れた。

 

 

獄寺「なっ、中から人が!」

 

 

ツナ「この人……九代目ッ!」

 

 

 いつの間にか橙色の炎が消えうせ、本来の気弱な学生に戻っていたツナはハイライトを失った目で、目の前の非情な真実に言葉を失くしていた。すぐさま、リボーンが救急箱をもって近寄るが、反応はなく、リボーンの言葉から九代目はモスカの動力源になっていた可能性を示唆される。

 

 

XANXUS「よくもやってくれたな」

 

 

 先程まで不機嫌だった男が、この状況を待ってましたとでも言わんばかりに口を開く。その顔はまさに、目の前で親父を殺され、憎悪と哀しみに暮れる息子の顔だった。

 

 

XANXUS「誰だ、ジジイを容赦なくぶん殴ったのは…。誰だ、モスカごとジジイを真っ二つに焼き切ったのはよぉ!」

 

 

 XANXUSの言葉が中学生の心の奥深くに突き刺さる。それらはすべて紛れもない事実であり、その少年が自ら行った行動でもある。それ故に、その言葉は今まで受けたどんな仕打ちよりも深く、強くその心に突き刺さり到底癒えぬ傷跡を遺す

 

 

???「違う…。悪いのは綱吉君じゃない……私だ」

 

 

ツナ「!?」

 

 

 だが、そんな少年を救う神の啓示のように、弱々しい声が少年の耳に入る。その声は、足元に倒れ伏す、衰弱した老人が発しているものだった。

 

 

九代目「XANXUSの時間は……八年前から止まっていた。だが、私の弱さが・・・彼を永い眠りから目覚めさせ……ゆりかごよりの時よりもさらに積もっていた憎悪と怒りを……爆発させてしまった」

 

 

ツナ「ゆりかごって?」

 

 

リボーン「八年前に起きた、ボンゴレの歴史上最大ともいわれるクーデターの事だ。その首謀者は九代目の息子、XANXUSであると言われ、その悍ましい事実は極秘扱いにされた。知るのは、ボンゴレの上層部と当時戦ったボンゴレの精鋭だけだ」

 

 

九代目「綱吉君、私はいつも…君の事をリボーンから聞いていた。好きな女の子の事や、学校の事……。君がこれまで一度だって・・・喜んで戦っていないことも……。いつも眉間にしわを寄せ、祈るように拳を振るう。そんな君だからこそ……。マフィアのボスには到底ふさわしくない考えを持つ、キミだからこそ…私は君をボンゴレ十代目に選んだ…。」

 

 

ツナ「そんな!九代目はXANXUSを選んだんじゃあ…」

 

 

九代目「だが、これだけははっきりといえる。間違いばかりしてきた私だったが…君をボンゴレ十代目にしたことは……間違って、なかった」

 

 

 少年を救う声はそこで途切れ、少年の眉間にかざされていた炎も次第に小さくなり、やがて消えた。そして、その炎が消えると同時に、ボンゴレと同盟を組んでいるキャバッローネファミリーの救護班が、ボスであるディーノと共に現れ、九代目を病院へと搬送していった。

 

 

XANXUS「お前だけは許さねぇ」

 

 

ツナ「!?」

 

 

XANXUS「九代目へのこの卑劣な仕打ちは、実子であるXANXUSへの。そして、崇高なるボンゴレの精神への挑戦と受け取った」

 

 

ツナ「なっ!」

 

 

XANXUS「しらばっくれんな。九代目のあの胸の焼き傷が動かぬ証拠だ。 お前がしたことの前ではリング争奪戦など無意味! 俺はボスである我が父のため。そしてボンゴレの未来のために貴様を倒し、仇を討つ」

 

 

 九代目が担架に乗せられ搬送されていくのを見届けたXANXUSが怒りに燃える声で宣戦布告する。だが、それは自分が十代目になるため、十代目に就任した後独裁体制を敷きやすくするための大義名分であり、九代目はあくまでもそのための道具に過ぎなかった。

 

 

リボーン「これが狙いか。ゆりかごの一件を知る連中を黙らせ、尚且つ自分が真に十代目に相応しいと認めさせることができ、就任後に圧政を敷きやすくする一番の方法は、ツナに九代目を殺させることで悪役に陥れ、弔い合戦としてリング争奪戦を起こし、そこで九代目の仇をとることだからな」

 

 

バジル「つまり、このリング争奪戦自体が仕組まれた罠だったという事ですか!」

 

 

リボーン「ああ。そう考えれば守護者の命も、リングも度外視してきた理由にも説明がつく」

 

 

 涙を流し、震える少年が弱々しくも立ち上がり、悲嘆に襲われ、体を振動させながらXANXUSに告げる。

 

 

ツナ「XANXUS、そのリングは返してもらう。お前に・・・お前に九代目の後は継がせない!」

 

 

 その瞳には光と覚悟が戻り、それにあてられるようにして、各守護者たちも各々の理由で戦闘準備をとる。対するヴァリアー側も同じように、これから訪れる戦いを愉しむかのような不遜な笑みを浮かべながらおのれの武具を取り出す。並中のグラウンドは緊迫した空気に包まれるが、それを快刀乱麻を断つようにしてある声が響く。

 

 

ミラッジョ『はい、そこまで。何度も言わせるなよお前ら。今宵はあくまでも雲のリング争奪戦。守護者全員参加(ボス戦)じゃねえんだよ』

 

 

リボーン「テメェ、ふざけんのもいい加減にしやがれ!こんな事されて俺たち(ボンゴレ)が黙ってると思ってんのか?」

 

 

ミラッジョ『頭にきてんのはわかるけどさ、人の話は最後まで聞いた方がいいよ?ボク』

 

 

リボーン「んだと?」

 

 

ミラッジョ『言ったろ。()()()()()()()って。つまり、ボス戦があるってこと。今回の戦はあくまでも前哨戦で、真に雌雄を決する戦いは別にあんの。というか守護者戦だけやって、ボス戦はやらないなんてことあるわけねーだろうが』

 

 

獄寺「なに適当なこと言ってやがる!だいたい、テメェらヴァリアー側と繋がってた連中にそんな権限ある分けねえだろうが!」

 

 

ミラッジョ『それがあんだよ、爆弾男。そうだろ?俺の上司さん方』

 

 

覆面女「え、ええ。我々チェルベッロ機関は正式にこのリング争奪戦を取り締まる許可を九代目より授かっております。これは一度、皆様にお見せしたと思いますが、お忘れでしょうか?」

 

 

 そう言って覆面女が、橙色の炎が宿った格式ばった文書を見せる。そこにはイタリア語でこの争奪戦の開戦を認めること。その管理をチェルベッロ機関に一任することが記されており、九代目直筆と思われるサインもされていた。

 

 

バジル「何を調子のいいことを!それは九代目に無理やり押させたものだろ!!」

 

 

 しかし、その書面に反発する声が上がる。後継者選びにおいて、ボスと同等の権利を持つ門外顧問である沢田家光。その下で働くバジルだ。しかし、ミラッジョはそのままの態度で真っ向から対立する。

 

 

ミラッジョ『無理やりでも何でも、本物が押したものに変わりはねえだろうが。あんたの上司が認めたのが何よりの証拠だ。それとも、あんたは自分のお館様を信じれないってのか?』

 

 

バジル「屁理屈を叩くな!とにかく!自分はそんなもの認めないぞ!!」

 

 

ミラッジョ『だったら、今からもう一度押してもらうか?あの文字通り死にかけの老体に鞭打って。お前も見たろ?九代目の炎が弱くなって、最後には消えたのを。棺桶に片足どころかほぼ全身浸かってて、這い出られるかどうかもわからねぇ状態の人にそんな無理強いするなんざ、お前らの方がよっぽど極悪非道だよ』

 

 

バジル「貴様ァァァ!」

 

 

ミラッジョ『とにかくだ。新しく押してもらうことが不可能である以上、お互いの主義主張を通したければこれに従え。嫌なら嫌でも構わん。その代わりこの街が一夜にして地獄と化すがな』

 

 

獄寺「何を言ってやがる!」

 

 

ミラッジョ『だってそうだろ?XANXUS率いるヴァリアー側はこの街がどうなろうと、お前らを消すために全力を注ぐ。実際、これまでの争奪戦でも校舎を出来得る限り破壊してきたからな。だが、お前らはそうはいかない。この街が消えれば、お前たちが守りたいものが消える。たとえお前たちが勝っても、お前たちは負ける。・・・違うか?後継者候補(沢田綱吉)さんよ』

 

 

ツナ「……」

 

 

ミラッジョ『沈黙は肯定と受け取るぜ。つまりだ。お前らの街を守りつつ、お前らの正当性を主張したいなら、[[rb:チェルベッロ機関>俺]]に従え。それ以外に、お前らが勝つ方法などない』

 

 

ツナ「……わかった、それでいい」

 

 

獄寺「十代目!」

 

 

山本「ツナ!」

 

 

了平「沢田!」

 

 

クローム「ボス…」

 

 

ミラッジョ『流石ボス、その断腸の思いで下した苦渋の決断に敬意を表しざるを得ないね』

 

 

獄寺「何をいけしゃあしゃあといってやがる……。ほとんど脅してたじゃねーか」

 

 

ミラッジョ『それじゃ、早速準備に取り掛かろう。まず、ヴァリアー側も沢田綱吉側も、共に持ってるリングを渡せ。あ、沢田側の雲の守護者は別にいいぞ、既に預かってるからな』

 

 

了平「な、なぜ死に物狂いでとったリングを返さにゃならんのだ!!」

 

 

ミラッジョ『ボスの指示に従えねえのかお前は。お前んとこのボスは俺らに従うって明言したんだぞ?ボスがそうするのなら、守護者もそうしろよ』

 

 

ベル「しっし、嫌だね。なんでお前みたいな奴の言うことに従わないとダメなわけ?」

 

 

ミラッジョ『嫌ならそれでもいいぞ?腕引きちぎってでも、取るだけだから』

 

 

 そう言ってミラッジョがベルの腕の関節部分を掴む。ベルはもう片方の手にナイフを握り抵抗しようとしたが、難無くいなされ、無理矢理脱臼させられた。

 

 

ベル「いってえええええ!こいつ……王子の俺の肩を脱臼させやがった!!」

 

 

ミラッジョ『リングをよこすのならはめ直してやる。断るのなら、今度は腕ごと貰う。さぁ、選べ。二者択一だ』

 

 

ベル「渡す!渡すから戻せ!!」

 

 

ミラッジョ『流石王子、下々の者の意見に耳を貸すとは寛大だ』

 

 

 ゴリッという鈍い音共に、外された関節が戻され、リングがミラッジョの手に渡る。受け取ったミラッジョはリングを嵌めていた方の手首にある機械を取り付けた後、それを長髪の覆面の女に渡し、次の争奪戦勝者の元へ向かった。

 

 

ミラッジョ『さぁ、次はお前の番だムッツリタコ。さっさと渡せ、茹蛸にしてやろうか』

 

 

レヴィ「それよりまず俺の質問に答えろ。ベルの手にはめたあの機械は何だ?」

 

 

ミラッジョ『ボス戦に参加する生存している守護者全員に配られるモニター付き小型通信機だ。どうせお前ら全員、つけろって言って素直につける連中じゃないからリングと交換で俺が強制的につける』

 

 

レヴィ「お前は何者だ?」

 

 

ミラッジョ『俺はチェルベッロ機関に所属する一人の術師だ。質問タイムはこれで終わり。さ、次は沢田側だ』

 

 

ツナ「ま、待って!」

 

 

ミラッジョ『なんだ、まだなんかあんのか?』

 

 

ツナ「さっき生きてる守護者全員って言ったけど…それってまさかランボも入るの!?」

 

 

ミラッジョ『当たり前だ、お前のとこの子牛だけじゃない。ヴァリアー側のムエタイグラサンも召集対象だ』

 

 

了平「それって…ルッスーリアのことか!」

 

 

ツナ「生きてるからな、当然だ。招集されねぇのはそこのガラクタ(モスカ)と生存が確認できてないスクアーロ、あとは霧戦で出てきたそっちの男とかだな」

 

 

 沢田綱吉側のリングを回収しながらミラッジョが答える。感情が読み取れない機械音声で告げられるそれは、この世のなによりも冷たく冷酷だったが、絶対不変の事実であることもまた証明していた。

 

 

ミラッジョ『大空以外のリングも回収したし、これで事前準備は整った。さぁ、それじゃあ記念すべきボス戦の名前と、開戦日時は……』

 

 

覆面女たち「「大空。我々は勝利者が名実ともに正当な次期ボンゴレボスとなるこの戦いを大空のリング戦と位置づけます。開戦は明日、午後22時に並盛中にお集まりください。それでは皆様、明晩にお会いしましょう」

 

 

XANXUS「明日でこの喜劇とテメェらの人生も幕引きだ。それまでせいぜい無駄な努力でもして足掻け、ドカス共」

 

 

 手に紅焔を揺らめかせながらXANXUSがツナ達に告げる。そして、ミラッジョの方に視線を変え、睨みながら告げる。

 

 

XANXUS「コイツらを始末したら次はテメェだ。首を洗って待ってやがれ」

 

 

ミラッジョ『粋がるなっつてんだろ、親殺しが。テメェは強い言葉習うよりも先に[[rb:並盛中>ここ]]の演劇部にでも入って演技力を身につけんのが先だ』

 

 

 ミラッジョの声と共に、彼以外のチェルベッロ機関の女たちとヴァリアーが姿を消す。残されたミラッジョにツナが声を掛けようとした瞬間、大勢の大人たちが駆け込む足音が聞こえてきた。

 

 

ディーノ「遅かったか!」

 

 

ツナ「えっ、ディーノさん!?」

 

 

リボーン「お前、何しに来たんだ?九代目はどうした?」

 

 

ディーノ「何言ってんだリボーン。俺はさっき家光から連絡を受けて、急いで車飛ばして今並中に着いたぞ?それより、九代目はどこだ?風前の灯火って聞いたが…」

 

 

獄寺「なっ、適当なこと言ってんじゃねぇぞ!テメェさっき九代目を運んでいったじゃねーか!」

 

 

ディーノ「ハリケーンボムこそ何言ってんだ?俺が九代目を運んだだと?」

 

 

ツナ「あのですね、ディーノさん。ホンの十分くらい前なんですけど、ディーノさんとその部下の人たちが九代目を担架に乗せて搬送していったんです。」

 

 

ディーノ「なっ…。それ、本当か!?リボーン・・・」

 

 

リボーン「__ああ、本当だ。お前とお前の部下の連中が確かに九代目を搬送していった」

 

 

ディーノ「なんだよソレ。十分前だと俺はまだ家光から連絡を受けてた最中だぞ!?」

 

 

ツナ「えっ!?それじゃあ、俺たちがさっき見たディーノさんは…」

 

 

リボーン「クソッ!九代目がやべぇぞ!!ディーノ!!」

 

 

ディーノ「ああ、わかってる。おい、お前ら!九代目が俺に擬態した何者かに攫われた!全力で探せ!!そう遠くへは行ってねぇ筈だ!」

 

 

部下「「はい!」」

 

 

 ディーノの令を受け、部下たちが散開していく。ツナとその守護者たちも、それぞれ捜索に駆り出され、夜の並中の騒ぎは日が昇る一時間前まで収まることはなかった。そして、その騒ぎの中、ミラッジョは疲労困憊になりながらも慌てふためく沢田綱吉をじっと見つめていた。

[newpage]

 場所は変わって並盛市のとある病院内。そこの病室に九代目と清水健人の姿はあった。そう、あの時ディーノに擬態し、九代目を救ったのは清水健人だったのだ。あの場のミラッジョはあくまでも有幻覚で創りだし、ミスディレクションのために利用したに過ぎない。

 

 

 清水の前世の知識によって治療を施された九代目は、清水が創り出した幻術空間に閉じ込められていた。九代目が意識が回復し目を覚ますと、そこには人の形に燃える藍色の炎が

自分をじっと見つめていた。

 

 

清水「起きたか、敬語を使わない無礼は許せよ?ボンゴレ[[rb: IX世>ノーノ]]」

 

 

九代目「君は…誰だい?」

 

 

清水「この世界での[[rb:正体>俺]]を見ても、あんたは俺を人だと認識するのかい」

 

 

九代目「私とこうして会話をしている以上人だと私は認識するよ」

 

 

清水「そうかい。なら、人でいい。俺は、この世界での俺はツナのクラスメイトだ」

 

 

九代目「そうか…綱吉君の。もう一つききたい、ここの外はどこかね?」

 

 

清水「並盛町のとある病院だ。あんたはツナによってモスカの中から救出された」

 

 

九代目「そうか、つまり…綱吉君は真実を知ってしまったんだね?」

 

 

清水「全部じゃないがな。それと、あんたに一つ謝ることがある。あんたとツナを戦うよう強制したのは俺だ」

 

 

九代目「ちがう、彼をこんな悲劇に巻き込んでしまったのは私だ。君のせいじゃない」

 

 

清水「違う。俺は雨戦が行われたくらいから、あんたがあの中にいた事も知っていた。そして、あんたを救う事も出来た。だがそれをしなかった。何故だと思う?」

 

 

九代目「……綱吉君を鍛えるためかい?」

 

 

清水「そうだ。正確にはアイツを支えるためだ。俺がもし、その時にあんたを助けていたら、あいつはただ現実を知らない、闇の部分を知らないままボスになっていた。それでは意味がない。あいつには裏世界の[[rb:日常>闇]]を知ったまま、今の性格のままボスになってほしかった。だから、俺は敢えてアンタを助けず、あいつにあんたを焼き切らせた」

 

 

九代目「君は……何者なんだい?」

 

 

「俺はこの世界とは違う、別の世界にいた殺し屋だ。女子供は勿論、赤ん坊からあんたみたいな老人。だれかの恩師や師匠、命の恩人。果ては実の親まで。ありとあらゆる人をありとあらゆる方法で殺してきた。」

 

 

九代目「そんな君が、なぜ綱吉君を鍛えるような真似をするんだい?」

 

 

「俺には名前がなかった。名前を貰う前に親を殺したからだ。だから、前世の俺は何よりもまず己を指す名前を欲した。殺すべき標的、俺に殺しを依頼してくる依頼人、標的の情報を俺に伝える情報屋、殺した奴の遺体を処理する掃除屋、人を殺した俺を讃える役人、俺を殺しに来た殺し屋…。とにかく会う奴全員に俺の名前を問うた。でも、誰も答えなかった。答えてくれなかった。そればかりか、いつしか俺には名前のない怪物なんていう渾名ができ、それが俺を指す名詞になった」

 

 

清水「でも、あいつは…ツナは違った。あいつは、会った俺にすぐに名前をくれた。この世界での俺の唯一無二の名を。だから俺は、俺が心から宿願して欲したものをくれたあいつを、立派な奴にする。それだけだ。例え、この世界そのものを敵に回し、いずれ俺が消え去るとしても」

 

 

九代目「君は……なんと哀しいんだ」

 

 

「同情はいらん、そんなものは何の足しにもならないからな。ただし、その代わり。この争奪戦が終わるまで、この幻術空間から出ないでくれ。今頃、キャバッローネのディーノとかいう奴らが総出でアンタを探してる。それは俺があんたに擬態して上手くやり過ごすから、大人しくしておいてくれ。あんたの贖罪はツナが争奪戦に勝った後にある」

 

 

九代目「ああ、わかった。すまないね」

 

 

「じゃあな。動こうとしなければ争奪戦が終わる頃にこの空間は消えて、あんたは現実世界に戻れる。その際、記憶は弄らせてもらうがな」

 

 

九代目「君はこれから…どうするんだい?」

 

 

清水「俺は…。俺は俺の贖罪をするだけだ。それが今、俺にできる唯一の恩返しだからな」

 

 

 その声が空間内に響き、人型の炎はその激しさを衰えさせやがて消えた。現実世界に戻った清水は幻術空間の出口を閉じ、自身を九代目に擬態させた後、病室全体にかけていた不可視の幻術を解き、ディーノと家光の部下を病室に入れた。

 

 

 そして、記憶喪失のふりをしてそれらをやり過ごすと、有幻覚に九代目のふりをさせ、自身は、以前赤ん坊の術師を覗き見た時に見た、ヴァリアーの次期幹部候補の一人に化け、病院を後にした。

 

 

 そして数時間後……。

 

 

覆面女「それでは、大空のリング争奪戦。XANXUS vs 沢田綱吉、バトル開始!」

 

 

 覆面女の開戦の合図がグラウンドに木霊する。この日、いよいよ長きにわたるリング争奪戦に終止符が打たれる。これに勝つことは即ち、名実ともにボンゴレ十代目となり、その血塗られた宿業を受け継ぐことになる。

 

 

しかし、参加者の思惑は全く違っていた。一方は、暴政を敷き、自分がまさに裏社会を統べる覇王にならんとする、憤怒と積年の恨みによって目覚めた悪鬼。

 

 

 もう一方は、そんな暴君の誕生を阻止し、己が善とする平和を血と権力と金が支配する裏社会にも持ち込もうとする少年。その少年はそのためならば、今ある秩序を壊すのをも厭わない覚悟が、若年ながらも既に身についていた。

 

 

 そんな争奪戦に陰る一つの暗雲。それは果たして何を考えなにを成すのか。そしてそれから何が生まれるのか。それらすべての答えが、この日、出ることになる。

 

 

大空のリング争奪戦。いよいよ開戦!

 

 

大空を陰から支える蜃気楼

リング争奪戦編 ~3話~

   ~完~




次回でリング争奪戦編が終わります。

未来編が長すぎて泣きそう


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