山椒魚、右往左往の雨隠れ生存記 (流浪 猿人)
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そいつの名は半蔵

 原作は終わってしまいましたが、NARUTOの二次創作を盛り上げて行きたくて、書いてみました!!
 


 

吾輩は半蔵である。名前も半蔵である。

代々、大陸中央の雨に恵まれた肥沃な地に根差す魚雨《うおさめ》一族の跡取り(予定)であり、里の長としてふさわしい忍となるため絶賛修行中である。

 

 本来、忍を束ねる者は忍術、体術、武器の扱いに至るまで正当派な流派を修め、皆の手本となるものだが、生来、言われるがまま生きるのを嫌悪する俺はあえて外道の流派を進んで学んでいる。好きな武器を選べと言われれば、刀やクナイなどのイケメン武器(私は個人的にこう呼ぶ)には目もくれず即行で鎖鎌を選んだ。これには父も困惑の色を隠せずイケメン武器を勧めてきたが、私は一言

 

「忍として皆の上に立つのに必要なのは流儀や血筋などでは無く強さだ、使う武器や忍術にふさわしいなどは無く、強くあるということが重要なのだ」

 

と言った。完全に決まった!と思った。

 案の定、父はいたく感激した様子で鎖鎌の扱いを教授してくれた。

 

 またある日は、代々一族が受ける儀式として里の外れにある猛毒の山椒魚達の住む湿地帯へ行き、毒袋を体内に移植するという洗礼も喜んで受けた。というのもこの儀式は、毒袋を移植することによってあらゆる毒に対する免疫を得るためのものなのだが、先々代の当主になるはずだった男がこの儀式によって中毒となって死亡しており、その存続が疑問視されているのだ。しかし、セオリーにあえて反していくのが我が忍道(忍道って言いたかっただけ)

 

 儀式は俺の天の邪鬼に見事に応え、毒の効かぬ体を手に入れた。その上うまく体に適合した、否、し過ぎたせいで吐く息すべてに毒素が混じるようになってしまった。このままでは日常生活を送ることもままならないため、ガスマスクのような物を常に装着することとなった。

でも結構キャラが立って来たので実は満足していたりする。

 

 後、帰り道で小さな山椒魚の子供を見つけた。まさかとは思うが儀式のために私達が腹を裂いた山椒魚の子供だろうか。父は無視して里へ帰ろうとしたが、俺は放っておけず責任を持って育てることにした。というかめっちゃ可愛くて育てたかった。

 

 名前はどうしよう……俺が好きな作家忍者の作品に山椒魚の話があったな、それでは名前を頂戴して[イブセ]にしよう、そうしよう。私はイブセを肩に乗せ(可愛い)すっかり暗くなった湿地帯を抜けていった。途中、雨が降ってきて水を浴びたイブセは嬉しそうにしていた(可愛い)。

 

 世は戦乱の真っ只中でありながら俺は、本来ならあり得ぬ程大切に育てられている。やはり、禄に実力も身に付いていないまま戦場に出して次期当主に死なれてはたまらないという事なのだろう。俺はその期待に応えるべく、性質変化の修行を開始した。

 

 まずは、最近開発されたチャクラ感応紙を使い、自らの性質を調べてみると何と紙がドス黒い色となって溶けた。父が困った顔をして、溶けて地面に垂れた液体を突っつくと、触れた瞬間痙攣してぶっ倒れた。

 戦時中に経験豊富な当主を死なせてはならぬと里が総力を挙げて治療に当たり、なんとか一命を取り留めた。何となく、というか間違い無くこれは毒の性質変化だろう。

 父によると、元々俺が持っていた性質変化に体内の毒袋が影響を与え、毒の性質変化となったのだ。とのことで私は毒と非常に馴染む体だったので、偶然生まれた性質なのだろう。

俺はこれを[死遁]と名付け、使いこなすべく修行をするのであった。

 

 尚、最近でかくなってきたイブセは床の猛毒をおいしそうに舐めていたので、一生の相棒に巡り会えたと改めて感じる今日この頃である。(父にはあの後めっちゃ謝った。ホントにめっちゃ謝った)

 

 

  ―――1年後―――

 

 鎖鎌も死遁もかなり使いこなす事ができるようになった私はついに父から一人前と認められ、戦場へ出陣する事となった。

 場所は長年の宿敵同士でもある一族、七草一族との主戦場である。俺は半年前、口寄せ契約を結んだくそでかい(でもやっぱ可愛い)イブセに乗って戦場へ向かった。

 

 

 

 

 視点――魚雨一族三代目当主 魚雨 十蔵――

 

 我が子は奇妙な男であった。

 

 

[魚雨一族]侍の時代より続く名門。

 

 千手やうちはにはとうてい及ばないものの、近隣ではそれなりに知られる名前である。

 儂は魚雨一族の三代目当主として、長年の宿敵、七草一族と血で血を洗う戦いを続けて来た。何時死んでもおかしくは無い戦いの連続、しかし、儂はそれでも幸せであった。

 

 先祖代々受け継いで来た美しい大地、守るべき一族とこの地の農民達、毎年実る多くの作物の旨さは大陸中を探しても二つと無いだろう。

 (千手やうちはの地も非常に質の良い作物が穫れるが、生まれ育った場所は良く感じてしまうものである)

 

 更に極め付きは今年の春生まれて来た息子だ。このまますくすくと元気に過ごし、一族の名に恥じぬ男となって欲しい。

 

 

 半月が、やけに明るい、夜に生まれた

 

  [半蔵]

 

 

 元気に育って欲しいと言っていたが、息子は非常に物静かな少年であった。かといって体が弱い訳では無く、忍の才能も親の贔屓目を抜きにしても儂を遥かに超えている。

 

 しかし、選んだ武器は鎖鎌などという邪道、ここは一つ当主として叱ってやろうとしたが……。 

 

 ふふっ、当主としての心構えなど教えるまでも無いようだ。なんと儂には過ぎた子よ。

 

 

 そんな儂でも、一族の儀式を受けることには反対した。長年続いて来たとは言え、既に前時代的な悪習の類、儂は自分の代で終わらせようとさえ思っていた。

 

 しかし、息子の希望は強く、渋々ながら儀式を行うこととした。息子は「きゃらを立たせる」とか良く分からない事を言っていたが、ともかく意思は固い様なので儀式を慎重に終わらせた。

 

 それが原因で、まさか儂があんな目に遭うとは……。

 

 迂闊だった。息子に現れた新たな血継限界に好奇心を抑え切れず、黒い液体に触れてしまった。 

 いや、恐らく毒であろうとは予想してはいたが、肌にかすかにつくだけで昏倒する程の毒など、生まれてこの方五十年聞いた事が無い。目の前が暗くなって行くと共に「人間五十年」何処かで聞いた言葉が聞こえた様な気がした――

 

 

 

 生きてた。一族や土地に暮らす者達の尽力により、どうにか生き永らえたらしい。この後、息子が寝床に来た。

 

 「本当にすんませんっした!!」

 「いや、もう良いって」

 「本っ当にすんませんっした!!!」

 

 無口な息子の見たことも無い姿であった。

 

 それから時は過ぎて―――

 

 息子は一人前と呼べる腕になった。認めたくは無いが、既に実力は儂を超えているだろう。何より恐ろしいのは、忍の歴史上右に出る者はない程の殺傷力を誇る息子独自の忍術、[死遁]。

 

 初陣が終われば、家督を譲ろうと考えている。息子ならば七草一族とこれからも互角に戦って行けるだろう。いや、あるいはその程度で収まる器では無いかもしれん、何にせよ楽しみだ。

 

 

 



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七草 ソウジの戦い

 シリアスは難しいですね。


 視点―七草一族 七草 ソウジ―

  

 神も仏もいない、俺の持論である。

だが今になって死神はいるかも知れないと感じている。

 

 そう、丁度今目の前にいるような。

 

 話はつい数時間前、己が忍の歴史に名を残すと信じて疑わなかった青年の話―――

 

 

 七草 ソウジは戦場にいた。辺りから、血の匂いがする。

隣の死体は一昨日、食事を共にした男のようだ。人懐っこい笑顔を良く覚えている。

 

 常人なら、話に聞く英雄的な戦場という幻想を裏切られちまうだろうな。だが俺は忍だ、覚悟はできてる。ましてや長年の宿敵、魚雨一族が相手だ。殺された仲間を見るとむしろ戦意が高揚してくる。

 

 「魚雨一族……許すまじ!!」

 その身に流れる血が、怒らざるにはいられないのだ。

 

 俺は態勢を整えるべく一旦退却し、後詰めの仲間達と合流した。味方の被害状況を伝えると彼らは涙を流し、味方の死を悼んだ。魚雨一族との死闘は幾度と無く繰り広げてきたが、やはり今回で終わらせる必要があるだろう。東で千手とうちはの戦いが終わったと聞いた。事実ならば、千手・うちは同盟に対抗するため各地で同盟が結ばれ忍界大戦はひとまずの終着を迎えるだろう。

 

 平和な時代に水を差す一族同士の争いには、すぐに大国から圧力が掛かり、許されない時代となる。そうなると今回の戦いが魚雨一族を滅ぼす最後の機会!!逃すわけにはいかん!!

 

 彼は七草一族宗家の人間として、幼き頃より才能に溢れ、一族の期待を一心に背負う青年であった。本人も己が偉大な忍になると疑わなかった。事実、実力もあった。油断も無かった。

 

 しかし天は時として英雄すら無様に殺すこともある――

 

 それは彼の磨き抜かれた聴覚が捉えた一言、 

 

 

 

 

 

 

   ――「死遁 八咫烏」――

 

 

 

 

 

 その瞬間、背筋が凍りついたかのような感覚に襲われる、それでも彼は力強く叫んだ。

 

「避けろおおおおぉぉぉぉ!!!!」

 

 彼の叫びと同時に、十時の方向から無数の漆黒の影が彼らに襲いかかる。彼らは七草一族の最精鋭、咄嗟に回避行動をとる。

 

 しかし、如何せん放たれた数が多過ぎる。漆黒の八咫烏の群れが彼らを飲み込んだ。

 

 

 

 

 黒の波が晴れた。何が起こった!?いや、何が起こったじゃ無いだろう!!尾行られたのだ。俺が仲間達と合流するのを待ってから攻撃に移ったのだ!!つまり…俺のせいで…

 

 周りを見渡せば更に深い絶望が彼を襲った。一族の最精鋭達が完全に壊滅している。

 

 ある者は、全身が黒く焼け爛れたような状態で絶命している。

 

 またある者はまるで風船のように赤く、体が何倍にも膨れ上がって激痛に悶え苦しんでいる。

 

 ソウジ以外は再起不能だろう。なら何故ソウジだけが助かったのか?

それは彼の周りを守るが如く、仁王立ちする者達、

 

 それは彼の兄弟達であった。躱すことは不可能と悟った彼らはソウジの盾となる事を選んだのだ。未来に一族の種子を残す、彼らが最後に選んだ余りに勇敢な決断。ソウジも彼らの意思を瞬時に理解した。

 

 目は、逸らさなかった。

 

 仁王立ちの亡骸は原形すら留めていないというのに、彼にとってはただ、ただ美しかったから

 

 涙は、流さなかった。

 

 涙は戦いに邪魔だから、

 

 目の前の、男との戦いに邪魔だから!!

 

 目の前に現れた一族の仇、髪は獅子が如く、口元のマスクから発せられる不気味な呼吸音、手に持つは異形の武器鎖鎌、

 

 魚雨一族、次期当主[魚雨 半蔵]

 

 皆殺しの、死神がそこにいた。

 

 

 「お前が…仲間達をッ……」

 「……」

 ソウジが睨み付け刀を抜くと、半蔵は何も言わず分銅を繰り出した。先に無数の刃物が付いた分銅がソウジ目がけて不規則な軌道で放たれる。

 

 ソウジは何とか刀で弾き、相手の武器について考察する。

 

 (鎖鎌ッ!!あんなものは文献でしかお目に掛かった事が無いぞ。しかも、致命傷では無くかすり傷程度しか与えられないであろう無数の小さな刃、十中八九、毒だろう。)

 

 更にリーチの差を生かした一方的な攻撃が加えられる。先程のように分銅で、時には鎌の方を飛ばして来ることもあったが、ソウジはかすり傷程度すら許されぬ攻撃を辛くも全て躱しきっていた。

 

 「なかなか、できるな。だが何時まで持つか……。」

 

 半蔵のひどく底冷えした声、しかし、ソウジはあくまで冷静であった。

 

 (このままでは近づく事さえ出来ない!!だが、俺には分かっているぞ。このまま鎖鎌で攻め続けるかのような口振りはフェイク!!本命は俺が決定的に体勢を崩した時に放たれる先程の漆黒の忍術!!それを逆に利用してやる!!)

 

 鎖鎌の攻撃をギリギリで躱しソウジの体勢が崩れた。

 

 否、崩れたふりをした!!

 

 ソウジの体勢が崩れた所に半蔵はすかさず印を結び術を放つ

 

 「死遁 黒薔薇」

 

 体勢を崩したソウジ目がけて漆黒の薔薇の茎が一本、高速でソウジに向かって伸びる。

 

 しかし、ソウジは体勢を崩してなどいない、むしろ全身が相手を刈り取るための準備を終わらせていた。ソウジは即座に体勢を立て直し、黒薔薇をくぐり抜け術を放った無防備な半蔵に接近する。勝った!!

 

 そう思い半蔵と目が合う。しかし、半蔵はまったく焦ってはいなかった。

 

 「悪いな、本命はこっちだ」

 

 その時、ソウジの足下の地面がにわかに盛り上がり、巨大な山椒魚が姿を現しソウジを飲み込んだ―――

 

 

 

 神も仏もいない、だが死神はいる。

 イブセの体内で神経毒をくらい身動きが取れなくなったソウジは、半蔵の前に吐き出された。

 

 目の前の自らを倒した男は俺の事など気にも止めていない様で、巨大な山椒魚の頭を撫でながら、手のひらに新たに生み出した猛毒を舐めさせ餌付けしている。

 

 「ここ…まで…か……」

 

 自由の利かない体で、どうにか口を開く。目の前の男は俺を一瞥し、興味無さげに俺に聞く。

 

 「何か言い残す事はあるか?」

 「伝えたい奴らは…お前が全員…殺しただろうが……」

 「そうだったか」

 

 何も悪びれず男は言う、死神め…。

 

 「俺は、死ぬのか…何も、この世に残す事が出来ず…仲間達の仇も討てなかった…俺の人生には、何の意味も無かったのか…誰の記憶にも残らず、死んでいくのか……」

 「それは違う」

 「…?」

 

 「お前が流した血も、お前との戦いも、お前達一族も、俺は忘れるつもりは無い、全て背負って俺は生きよう。そして、お前達の屍を越えてまで生きる人生に、悔いを残すつもりは無い。」

 

 「そう…か……」

 

 死神にも、心はあるのだと知った。山椒魚の神経毒がいよいよ全身に回って来た。

 

 そうして、死神に看取られながら七草 ソウジは死んで行くのだった。

 

 その後、七草一族の里を魚雨一族が襲撃。既に主力を壊滅させられた七草一族はなすすべも無く、七草一族はここに滅亡の憂き目を見る事となった。

 

 



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毒は強いよね、卑劣だけど

 文字数があまりに少ない気がする……。


 視点――魚雨 半蔵――

 

 初陣は順調に進んだ。鎖鎌の練習がてらできるだけ死遁を使わずに敵の頭数を減らし(半蔵、頑張った)戦場を捜索していると、敵の生き残りを見つけた。しかし、身に付けている装備がカッチョイイしイケメンだしで、恐らく下っ端では無いだろうと思い、尾行することにした。

 

 隠密行動は結構得意だが、内心ビクビクしながらイケメンが入って行った森林をよく見ると、どうやら敵の基地のようだった。ビンゴ!!

 

 さっそく気配を消しながら死遁がいい感じに決まる距離まで接近。なんか敵は仲間の死を悲しみ泣いている様だが、俺はそういうの割とドライな方なので遠慮無くぶちかまさしていただきやした!!

 

 使うのはここ一年で開発した死遁の中でも、気に入っている[死遁 八咫烏]だ。

八咫烏の形をした小さな毒液を、それはもう大量に飛ばす術で、死遁は触れただけで即、戦闘不能にできるので散弾系の術はかなり凶悪だ。

 

 尚、八咫烏の形をしているのは格好いいからである。敢えてもう一度言おう、格好いいからである。後、――「死遁 八咫烏」――という語感が良い。

 

 ポイントは「死遁!!八咫烏!!」では無く――「死遁 八咫烏」――と冷静に言うこと、我ながら格好良ぎてこれだけでご飯三杯はいける……

 

 

 何の話をしてたっけ?

そうだ攻撃するんだった。はい、それでは皆さんご一緒に

 

 

  ―――「死遁 八咫烏」―――

 

 

 さて、俺の攻撃で敵の残りはイケメン一人となったのでそろそろ出て行こうかな。

 

 俺の一撃でほぼ壊滅したにも関わらず、彼はまだ諦めていない様だ。彼は俺を睨み付けるが、勝負は先手必勝!!実戦様に魔改造した鎖鎌で攻撃を仕掛ける。更に追撃!追撃!!追撃!!!

ふはは、一方的では無いか!!

 

 ちょっと格好つけたセリフを言いながら攻撃しているとイケメンが体勢を崩す。

 

 そこにすかさず死遁!!勝った!!

 

 

 

 と思ったら躱された。

 

 だが、もしもの時のために保険はかけてある

 喰らえやああああぁぁぁぁ!!!!

 

 俺の合図と同時に、ソウジの足下が盛り上がり地面から飛び出したイブセがソウジを丸呑みにした。そして口内に充満した神経毒を喰らわせ、ペッと吐き出した。(ちなみに合図は悪いな、本命はこっちだ。というセリフである。これにより予想外の事態でも初めから読んでたみたいになる)

 

 満身創痍のイケメンは、なんかボロボロでも格好いい事を言っていたので、空気を読んで俺もあくまでシリアスで会話した。最後のセリフは特に決まったと思う。

 

 その後、勢いのまま七草一族の里を襲撃した。残酷に思えるかも知れ無いが、こちらも既に一族を多数失っている。しぬがよい。

 

 

 

 家に着くと父から家督を譲りたいと相談があった。いや、相談というか一方的に押し付けられただけだが……。まぁでも父ももう年だし、変わってあげた方がいいよね。

 

 こうして、魚雨一族四代目当主 魚雨 半蔵が誕生したのであった。

 

 後日、七草一族の庇護下にあった民達が魚雨一族の里に大挙して押し寄せ、魚雨一族の庇護下に置いて欲しいと直訴してきた。俺は快く了承し、七草一族の土地を得る事となった。

 

 

 

 




 七草一族は後に草隠れの里を作る予定でした。


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これ詰んだ?否、まだだ!!

 状況説明の方が筆が進みますね。


 戦いが、終わった。

 

 事の発端は大陸東部、忍の中でも最大の勢力であった千手一族とうちは一族が突然和解、同盟を結んだ。そして、東を拠点とする猿飛一族や奈良一族、秋道一族、山中一族など有力な一族が次々と同盟に参加、大陸東部に突如巨大な勢力が現れたのだ。

 

 これを見た各地の忍達はこの勢力に対抗するため、千手とうちはの様に有力な一族達が同盟を結び、各地に巨大勢力が誕生、巨大勢力は有名無実と化していた大名達を神輿として各地に国が誕生、様々な危険性を孕みながらもここに一応の平和が生まれることとなった。

 

 さて、そこで問題です。大陸中央に魚雨一族、七草一族の土地、二カ国分の土地を持つ我が一族はどの勢力に入ったでしょうか!!

 

 正解は……

 

 

 

 

 どこにも入れてもらえませんでした!!

 

 いや、これには訳があるのだ。サボってて時代に乗り遅れた訳じゃないよ?

 

 七草一族との戦いの後、大戦の終結に先駆けて一早く戦争が終わった魚雨一族は、さっそく戦後の復興に乗り出した。引退した父をこき使いながら、復興はかなりの速度で進んだ。戦争の無い地ということで、他国から難民が流入して人口が増え、持て余し気味だった肥沃な大地の開墾も進み、返って戦前より豊かになっているくらいであった。

 

 俺が当主になってから幸運が続き、神に愛されているのだー!!と浮かれていた所で大戦が終結、勢力図の変化を高見の見物と決め込んでいたところ、徐々に不穏な空気が流れ始める。東に火の国、南西に風の国、北西に土の国と見事に我が国を取り囲む様に大国が誕生。大事な時にいらないミラクルを発揮してしまったのだ。

 

 (ちなみに建国ブームに乗って我らが土地も、雨の国の雨隠れの里と名乗る事にした)

 

 三つの大国はお互いの全面戦争を避けるため、我が国を緩衝地帯として放置するという暗黙の了解が広まっていた。とは言え今の平和はあまりにも危ういバランスの上で成り立っている。いずれそれは崩れ去り、我が土地は三大国が雌雄を決する地獄の戦場と化すだろう。

 これにより俺は大国に組み入れて貰うため各国に必死の交渉を行うことになり、手紙を送りまくるも色よい返事は貰えなかった。

 

 どの国も出来たばかりで、内部の問題に注力したいのだろう。わざわざ他の大国と国境線を接し余計な問題を抱え込みたく無いのだ。

 

 こうなれば恥も外聞も捨て手紙では無く、直接乗り込むしかない。そして、組み入れて貰えずとも、せめて同盟は結んで貰う。これならば一応緩衝国として機能するため、受け入れられない事も無いだろう、何より直接訴えかけるというのは予想以上に効果を発揮するものだ。

 

 そして俺が直接出向く国は当然、最大の国力を誇る火の国。

 

 中でも忍の里には最近、特別に名前が付いたんだったな。何だったか…。

 

 

 

 

 そうだ[木の葉隠れの里]だったかな。

 

 

 

 

 

――おまけ――

 

 俺は火の国へ出向くに当たって支度をしていた。特に舐められ無い様にファッションにはこだわった。特にお気に入りは山椒魚の図柄が大きく背中に入った羽織だ。モデルは当然、俺の相棒イブセである。

 

 鏡の前でニヤニヤしていたその時、背後から声がした。

 

 「何やそのカッコ、だっさいなー」

 

 振り向くと、そこには真っ赤な髪を後ろで一纏めにした、やけに露出の多い忍装束を着た快活そうな女が立っていた。

 

 「半蔵サマ、そんなんで火の国行く気なん?かなわんわー隣歩きと無いわー」

 

 仮にも自分の国の長に向かって、失礼な事をぶちまけるこの女は[秋風 モミジ]という。

 

 他の国に先駆け平和になった我が国には、難民だけで無く、いくつかの忍一族も居場所を求めて魚雨一族に臣従しに来ていた。秋風一族もその一つで、彼女は秋風一族と魚雨一族の関係の証として、俺の側近として働いてもらっているのだ。

 

 なかなかに美人ではあるものの見ての通り竹を割った様な性格で、あまり女として見る事が出来ず、今では気の置けない友人といった感じになっている。

 

 「オレはこれが気に入っている。お前こそ随分と寒そうな格好をしているな?」

 「あぁっ!半蔵サマどこ見てんねん!この悪趣味マスク!!」

 「このガスマスクは格好いいし山椒魚は可愛いだろう。お前こそ趣味が悪いのでは無いか?」

 「何やと!?ウチ程趣味が良い女は国中探してもおらへんやろ!!」

 「あぁそうだ。火の国に行く件だが付き添いはお前になったぞ」

 「無視か!!」

 

 などといつもの様に口喧嘩をしながら、何だかんだで仲が良い俺達なのであった。

 

 

 

 

 モミジと一旦別れた後、火の国への付き添いにモミジ以外にもう一人付いてきて貰おうと(忍はやっぱりスリーマンセルでしょ)何人かに頼んでみると、魚雨一族分家で歴戦の[魚雨 伊蔵]殿が必要とあらば付き添うと了承してくれた。  

 

 「若!!ご立派になられましたな!!」

 「いや、つい二日前にも会っただろ」

 「おおっ!若が言葉を!!」

 「ねえ、もしかして馬鹿にしてる?」

 

 と会う度に俺の何かに感動している癖の強い御仁だが、実力は折り紙付きでその上、経験豊富なこのおっさんが居てくれるだけで何かと心強い。

 

 「まあ、とりあえずよろしく頼む」

 「おおっ、若!!ご立派になられて!!」

 「いや、数秒前にも言ってたよね?」

 

 心強い、のか?

 

 

 こうして一癖も二癖もある仲間達と、俺は火の国へ行く準備を進めていくのであった。

 

 



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山椒魚は可愛い

 BORUTOも結構面白いですね。


 「それじゃ行って来る」

 「ああ、気を付けてな」

 

 火の国への旅の準備を終えた俺は、里の門の前で父の見送りを受けていた。

 

 「親父こそ俺が留守中の国を頼んだぞ」

 「ガッハッハ!!言うようになったのう!!」

 

 まだ隠居して無いんだからちょっとは働け。マジで。

 

 「先代サマ、半蔵サマはウチらが守るから安心しいや」

 「当然!!儂らに任せて大船に乗った気で居てくだされ。所で若!!ご立派にry」

 

 モミジが自分の胸をポンと叩いて心強い事を言ってくれる。伊蔵のいつものは適当に聞き流しておく。

 

 それじゃ行こうか。

 

 「それでは出発!!」

 「「応!!」」

 

 と応え、モミジと伊蔵が走り出した。俺は歩き出した。

 

 するとモミジと伊蔵は盛大にずっこける。

 

 「何で歩いてるんや!!忍やったらここは走るとこやろ!!」

 「若!!忍とは常に拙速を尊ぶものです、立派になられなられてご立派に!!」

 

 伊蔵落ち着け、バグって新言語生み出してるぞ。

 

 「せっかく平和なのだから、ゆっくり歩いて行けば良いだろう」

 

 と賑やかな一行は、まだ見ぬ火の国に向かって出発した。…歩きで。

 

 

 

 里を出た俺達は、復興が進み豊かになり始めた雨の国のあちこちで歓待を受けた。雨の国の復興具合は書類上でしか知らなかったため、実際に目にし、人々から感謝の言葉を受けると、心に来る物がある。やってて良かった国の長!!OSA!!OSA!!OSA!!

 

 そうして暖かい気持ちになりながら、東へ東へと進んでいくのだった。

 

 

 

 俺達一行は特に問題も無く、とうとう火の国の領土へと入っていった。火の国の自然はどちらかと言うと湿っぽい我が国とはまた、違った顔を見せてくれた。これでも風の国や水の国よりは、似たような所もあるのだが生粋の雨もん(大陸中央に暮らす人々の通称、滋賀作みたいな感じで田舎もん的意味合いも含まれている。何でや!!滋賀県関係無いやろ!!)にとってはカルチャーショックで、見たことも無い様な色の花や森林の間からこちらの様子を窺う鹿などに、俺と伊蔵は一喜一憂していた。尚、雨の国でも栽培出来そうで、金になりそうな産物はしっかり仕入れていたりする。大人になるって…悲しい事なの……。

 

 尚、モミジは雨の国に行きつくまで諸国を放浪していたため、割と冷静だった。冷めた女だ、ヤダー。

 

 口には出していない筈だが顔には出ていた様で、俺と伊蔵は尻を蹴られた。

 

 

 

 小腹が空いたので街道沿いの茶屋に入り、火の国のうまい茶や菓子に舌鼓を打っていると(ちなみに俺のマスクはつけたままでも飯が食える様になっている)、俺の隣に行商人風の男が座って来た。

 

 「よう、隣借りるぜ」

 「何だ貴様は!!敵の刺客か!!はっ!まさか既に若の茶と菓子に毒を!!そんな…儂は若がいなくなれば何に縋って生きて行けば良いのだ…」

 

 伊蔵落ち着け、縋ってとか俺は神か、そもそも俺毒効かねーし、そもそも敵って何だよ。

 

 「わー!!ごめんなさい!!このおっさんアホなんや、気にせんでええから!!」

 「お、おう。何か苦労してるみたいだな…」

 

 モミジナイスフォロー、まさか常識人枠だったとは。

 

 「それで、何か用か?」

 

 気を取り直して俺が聞くと。

 

 「ああ、あんたら見た所、西から来たみたいだからな。俺はこれから西の雨の国に拠点を置いて商売をするつもりでな。向こうの様子を聞かせてくれねぇか?」

 「それはまた何であんな小さな国で?」

 

 男はためらう様なそぶりを見せたが、小さな声で

 

 「ここだけの話、俺はあそこがこれから重要な場所になると踏んでる。平和な時代になった事で人と物の動きが活発になり、火、風、土の三大国に囲まれたあそこは交通の要所となり、大きく発展していくだろう。俺は一足先にあそこに拠点を構えて、商売敵達に差をつけるつもりだ」

 

 なる程、農業に適した土地なので商業の可能性に気付いていなかった。三大国に囲まれた地は軍事的には悪夢だが、商業にとっては無限の可能性があるのか。

 

 国へ帰ったら、街道の整備をしよう。増え過ぎた傾向にある難民達の食い扶持のためにも公共事業は理想的だろう。かつて、侍の時代では街道を整備するのは敵に攻め込まれ易くなるため愚策とされていたが、戦争の主役が忍となってからは、戦場がより広範囲で立体的となり街道の重要性も薄れている。軍事的には大して問題は無いが、商業にとっては強い後押しとなるだろう―――

 

 

 「ブツブツブツブツ」

 「おい、考え事は終わったか?俺は自分の事話したんだから、雨の国について教えてくれよ」

 「はっ!そうだったなモミジ、伊蔵、教えてやれ」

 

 せっかくなので二人が雨の国についてどう思っているのか、試してみることにした。

 

 「はあ!?ウチらかい!?まあええけど、えっとなー飯うまくてー、ダサいマスクつけた変人がいてー、ジメジメしててー、でもええとこやで!!後、山椒魚っていうキモい固有種がおるなー、でもええとこやで!!」

 「け、結局良いのか?悪いのか?」

 「ぼちぼちでんなぁ」

 

 聞き捨てならない俺とイブセへの誹謗中傷が聞こえた気がしたが、気のせいだろうか。続いて伊蔵

 

 「神話の舞台の如く美しい豊穣の大地!!忍界最強の魚雨一族!!そしてそれらを束ねるはやはり忍界最強の男である魚雨 半蔵様だ!!」

 

 こちらは盛りすぎである。今のところド田舎で、忍界良くて中堅の魚雨一族、ある人曰くダサいマスクつけた変人の俺だぞ。

 

 「そ、そうか色々言いたい事はあるが悪い所じゃ無さそうだな。マスクのあんちゃんはどう思ってんだ?」 

 

 俺か、そうだな自分の国の事褒めちぎるのも何か嫌だしな

 

 

 

 「山椒魚は可愛い」

 「へ!?」

 

 こうして三人仲良く残念な人認定を受ける一行なのであった。

 

 

 



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断ってくれても構わんぞ?(震え声)

 かなり原作より昔の話なので、原作キャラが登場しにくいですね。


 視点――千手 扉間――

 

 戦い以外で、初めて命の危機を感じていた。

 

 

 忙しいのである。千手一族は昨年、うちは一族と和解し、周辺の一族もそれに賛同、ここに忍界初の大国たる火の国・木の葉隠れの里が誕生した。長きに渡る戦乱が終わり、平和な時代が訪れた。

 

 しかし、それは史書に華々しく書かれるであろう言葉でしかない。当事者であるオレは実の兄である千手 柱間とその友(オレは絶対に信用しないが)うちは マダラの理想を一方的に押し付けられ、実務能力が皆無に近い二人に代わり、仕事に忙殺される日々を送っていた。

 

 忙殺の殺という字は、決して比喩では無いのだと知った。

 

 「扉間!!マダラと遊びに行って来るから後は頼んだぞ!!」

 「兄者…、あんたという人は……」

 

 兄者は今日も元気良く出掛けていった。

 

 木の葉隠れに賛同した一族の中には、まだ殺し合いを続けていた一族もいた。その一族が揃って入って来るなどカオスな状況が頻繁にあり、その度にオレが折衝役として仲を取り持たなければならなかった。

 

 せめて白黒つけてから来て欲しい。敵対する一族を一人残らず葬り去った、隣国の魚雨一族を少しでも見習って欲しいものである。我々に先んじて国を纏め始めた雨の国のやり方は、国を運営するにあたっても非常に参考になっている。自国の人間より他国の人間の方が役に立つとは、世も末だ…。

 

 

 

「扉間様!!」

 

 オレが自分の置かれた状況を嘆いていると伝令が戸を開け、跪いた。

 

 「今度はどうしたー?どこのどいつが殺し合いを始めたー?はっはっは扉間様に任せろー、いっぱい仕事してやろー」

 

 あまりの心労により、キャラが崩壊し始めている上司に同情しつつ、伝令の忍は要件を伝える。

 

 「雨の国より使者が参られました!!三人組でその中の一人は魚雨 半蔵と名乗り、責任者との交渉を希望しておられます!!」

 「何だと!?」

 

 このタイミングで突然…。手紙では雨の国は大名を持たぬため、木の葉へ帰属したいと書かれていたが、オレは他の大国との緩衝地帯とするためそれを断っていた。となると何を要求してくるか…。

 

 「話し合いの席を整えろ!!」―――

 

 

 

 交渉の席に座り待っていると、部屋に一人の男が護衛と思わしき二人を伴って入った来た。男は席に着くと口を開く。

 

 「魚雨一族当主の魚雨 半蔵だ。火影殿にはこの様な場を設けてくださり、有難く思う」

 

 若い…!!猿飛一族のヒルゼンより少し上だろうか。しかし油断してはならぬ、相手は大陸中央の七草一族を皆殺しにし、我々に先んじて国を作り上げた傑物だ。

 

 「オレは火影では無い、だが同等の権限は与えられているので気にせず話してくれ。本日は遠路遥々よく来てくださった」

 「前置きはいい、率直に言う。我が国と同盟を結んで頂きたい」

 

 余計な作法は無しで、実の部分を重視するか。オレとしては好ましい性格をしている様だ。だがしかし、同盟については話が別だ。火の国の一部とするよりは、他国との関係もましだろうがそれでも岩と風にとっては面白く無いだろう。ここはやんわりと断る方向に持って行くべきだな。

 

 「ああ、それと」

 

 そこで半蔵が一言付け加える。

 

 「断られたら雷の国と水の国に同盟を打診するつもりだから、別に断ってくれても構わんぞ?」

 「!?」

 

 何だと!!盲点だった!!雨の国との位置関係から土と風にばかり目が行っていた。雨、雷、水が同盟を結べば逆に火が包囲されてしまう。土と風にとっても最大の国力を誇る火の国が包囲されるのは願っても無い状況、雨の後背を突く様な事はしないだろう。

 

 火の国が最強の力を持つからこその、弱み。そこを突かれた!!国同士の外交的駆け引きについてはオレもまだまだだったということか…。

 

 「ああ、あともう一つ」 

 「まだあるのか…」

 「火影代理殿は非常にお疲れの様だ。各地で仕入れた精の付く生薬などがあるため譲ろう、何なら国へ帰るまでの間、仕事も少し手伝おうか?」

 「!?」

 

 この最後の一言で元々同盟締結に傾いていた扉間の意思は、完全に固まった。むしろ最後の一言が大きかった様な気もしないでも無い。

 

 

 

 視点 ――魚雨 半蔵――

 

 木の葉隠れの里についた俺達は、見事、同盟を結ぶ事に成功した。ここに来るまでにめっちゃ考えたもんね。これが外交じゃ!!

 

 そして、出迎えてくれた火影代理殿(千手 扉間という名前で火影殿の弟らしい)の目の下のクマが半端なかったため。心配になり、色々と気を付かってあげたら。何故かめちゃくちゃ信頼してくれるようになった。

 

 そして現在、モミジと伊蔵には先に宿に帰ってもらい、扉間殿の私室で様々な相談に乗っている。

 

 「半蔵殿はその歳でどの様に、政務をあれ程まで完璧に行っておられるのだ?」

 「扉間殿はなまじ優秀なせいで、自分が全てやろうとしてしてしまうのだろう。ある程度は人に任せるのも大事かと思う」

 「なる程……」

 

 

 

 「いずれ、忍を養成するための機関を設立しようと思うのだが、それについて半蔵はどう思う」

 「当然、必要だろう。火の国の様に巨大な国ならばいつの時代も強く無くてはならない、優秀な忍を安定して輩出する。これが力であり、力を持つ事こそが大国の責任だ」

 「教育方針については?」

 「木の葉隠れは忍になる人間が多いので、ある程度緩くしていかなければ全員に十分な教育が行えないだろう。その中で玉と言える者を集中して育てる。これでは優秀な忍が少なくなってしまう様に思えるが、そこはさすがの木の葉、忍になろうとする母数が多いため優秀な忍も十分に数を揃えられよう」

 「木の葉隠れの場合はそうか…雨隠れはどうするつもりなのだ?」

 「我が国の場合は忍になろうとする人間が少ないため、玉を探すのではなく、全員をしっかり育てるつもりだ。忍刀やスタンダードな忍術などこれといった対策が無い能力を全員が持てる様にする。そちらの国の千手 柱間様やうちは マダラ様といった英雄たる忍はいなくとも全員が束になれば英雄を殺せる集団を作り上げようと思っている」

 「半蔵は刀では無く鎖鎌を使っているようだが?」

 「俺は良いんだよ、長だから」

 「何かお前、クーデターで死にそうだな」

 「失敬な」

 

 「半蔵、良い酒があるんだ、一緒に飲んでもう少し話そう」

 「良いな、頂こう」―――

 

 

 

 「だからぁ!!俺の親父は勝手過ぎるんだよ!!自分はさっさと引退して俺に国なんてもん任せやがって!!」

 「分かるぞ半蔵!!兄者も面倒くさい物は全部オレ任せだ!!」

 「「人任せはんたーい!!」」

 

 こうして、友好を深める管理職二人なのであった。

 

 



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マスクとトカゲと、時々火影。


 予想以上の高評価に戸惑っています。


 

 頭が痛い、飲み過ぎた様だ。

 

 俺こと魚雨 半蔵は昨日、雨の国と火の国の同盟を結ぶ事に成功し、そして更に火影殿の弟である千手 扉間殿と友好を深めた。そしてその過程で酒を飲み始めてしまったのが間違いだった。予想以上に話が盛り上がり酒も進んだため、せっかくの木の葉滞在の最後の日を、二日酔いと共に過ごさ無くてはならないのだ。

 

 「半蔵サマどうしたん?調子悪そうやけど、はっ!まさかあの後扉間サンに襲われてアッー!!な関係に…!!」

 「なわけあるか」

 「ならなぜ調子が悪そうなのですか若、はっ!まさかあの後、ワシとアッー!!な関係に…!!」

 「脳が膿んでいるのか?」

 

 俺は木の葉隠れで一日、自由に過ごす様二人に言い渡し、自分は気分転換に里の外れの森へ向かった。久しぶりにイブセと遊びたくなってきた所だしな。

 

 

 

 木の葉は戦後間も無いというのに既に賑やかで、そこかしこに笑顔が溢れていた。これはその内、今以上に素晴らしい場所になって行くのだと容易に想像出来る。この人々に加え扉間がいるのだから、それは確実だろう。(昨日、扉間はいつの間にか俺の事を呼び捨てにしていた。俺は相手が年上という事もあって遠慮していたのだが、酒の勢いで呼び捨てにしてしまった所、正式に許可してもらえた)

 

 里の門を抜け、里の外れの森を散策しているとつくづく自分は会議室に合っていないと感じる。俺は世界の隅の、あの薄暗い雨の国の沼地で、山椒魚達とイブセと静かに過ごす事が最も幸せなのだ。

 

 「口寄せの術!!」

 

 俺が術を発動すると、相変わらず何で発生するのかイマイチ不明な煙と共に、俺の数倍はある巨大な影が現れる。

 

 「イブセ、しばらくぶりだな」

 「うきゅ~!!」

 

 煙が晴れると、イブセが俺に向かって嬉しそうに飛びかかり、顔を舐めて来た。イブセは毒を吐くので俺以外の人間では死んでしまうだろうが、だからこその相棒と言える存在だ。

 

 「死遁 毒溜まり!!」

 

 これは相手の足元に毒池を作り出す術で、イブセに餌をやるのにも使える。というか死遁は危険過ぎて使う機会が少ないため、最近では専らこちらの使い方しかしていない。

 

 毒池のほとりでくつろぐ巨大生物と怪しいマスクの男という絵的には凄まじい事になっている一匹と一人なのであった。

 

 

 

 俺とイブセが静かな時間を過ごしていると、どこかから声が聞こえて来た。

 

 「な、何じゃこのトカゲは~!!」

 

 俺が声のする方を見ると、黒い長髪の男がいた。俺は咄嗟に返す。

 

 「トカゲでは無い、イブセだ」

 「うおっ、人が居たのか。何だお前は?」

 「うきゅきゅ~」訳(お前では無い半蔵だ)

 

 「俺は雨の国の忍で名を半蔵という、訳あって木の葉へ来たのだが、用件を済ませたのでこの山椒魚のイブセとくつろいでいたのだ」

 「おおっ雨の国から遥々と!!遥々と言っても隣だったか!!ガッハッハ!!」

 

 どうやら、あまり細かいことは気にしない性格をしているようだが、只者では無いことは

分かる。だと言うのに声を聞いていると安心してしまう一種のカリスマの様な物もひしひしと感じられた。

 

 「で、どうだ我が国と木の葉隠れの里は?素晴らしいだろう!!そうだよな!!何せオレと親友の悲願だったからな!!」 

 「まだ何も言っていないぞ…。まあ、良い場所なのは認めるが」

 

 あっ、駄目だ、この人苦手。でも醸し出すカリスマに心惹かれる自分もいる。悔しいっ…!!ビクンビクン

 

 「あんたこそこんな場所で何してるんだ?」

 「いや、何だ…。先程言っていた親友に用事が出来てな。何でも里でガキの喧嘩が発端となって、ある一族同士が一触即発となっているそうだ。」

 「あんたは行かなくていいのか?」

 「オレはよく弟に、人という物を分かっていないと言われるからな。それに親友が行くのだから安心だ!!」

 

 この人が行ったら解決しそうな感じもするが、それに気づいていない所が人という物が分かっていないと言われる所以であり、人徳でもあるのだろう。

 

 「その友を信頼しているのだな」

 「当然だ!!全て任せてこんな風に森へ遊びに来るぐらいだからな!!」

 「大人が森へ遊びに来るものか?」

 「ああ、オレの場合はな。木が好きなんだ。見ているだけで様々な思い出が蘇ってくる。しかし、今日は違う!!森へ来たおかげで巨大トカゲと半蔵に会う事が出来た」

 

 パーソナルスペース狭いなこの人、もう呼び捨てにしてるし、あとトカゲじゃないって。

 

 こうしてまったりと他愛も無い話が続く。

 

 

 

 「半蔵、そのマスクは何なんだ?」

 「これを取ると、毒ガスを撒き散らしちまう体質なんだよ」

 「何だと!!かっこいいな!!」

 「どんだけいい奴なんだよ、あんた」

 

 

 

 「半蔵、このトカゲってうまいのか?」

 「しばくぞ」

 「ぶぎゅ~」訳(しばくぞ)

 

 

 

 「半蔵、雨の国に陸地ってあるのか?」

 「あるに決まってんだろ、雨で水没した湖、国って言ってる奴いたらそれもう駄目だろ、近づきたくねーよ」

 「でも漁師のオッサン、俺は河童に育てられたって言ってたぞ?」

 「何の話だそれ…」

 

 

 

 「半蔵、もうそろそろ夜だ。うまいラーメン屋知ってるから一緒に行かないか?」

 「やっとまともな事言ったな」

 「二人でトカゲに乗って行かないか?」

 「前言撤回この人おかしい……」

 

 こうして二人は夕食を共にするため、里へ帰って行ったのだった。(イブセは乗られる前に地面に潜って行った)

 

 



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喧嘩する程仲が良い。大人には当てはまらないよね。

 
 ほのぼのパート


 

 視点 ――秋風 モミジ――

 

 半蔵から暇を貰ったモミジは、木の葉滞在の最後の一日を満喫していた。

 

 「おばちゃん!!そこの饅頭一つ!!」

 「まいど!!」

 

 

 「おおっ、このお茶うまいなぁ!!」

 「はっはっは!!そうだろう!!雨の国から取り寄せたんだ」

 「ええっ!?じゃあいつも飲んでるやつやん、驚いて損した!!」

 

 

 「あれが火影サマの顔岩かあ、ウチの里でも同じ物を…。ぶはっ!!半蔵サマの顔岩とか考え

ただけでも笑てまうわ!!」

 

 モミジは一人でも十分楽しんでいたが、何か更に面白い事が起こらないかとも、内心期待していた。その時、大通りの真ん中で口喧嘩をしている同い年くらいの二人の少年を見つける。

 

 「だから猿飛一族の方が上に決まってんだろ!!」

 「馬鹿な事を言うな!!志村一族が猿共に負けるか!!」

 

 「何だと~!!」

 

 志村一族の少年、ダンゾウと、言い争う猿飛一族の少年、ヒルゼンであった。

 

 一族の誇りが掛かった言い争いは、互いに一歩も譲らず睨み合う。しかし、そこでヒルゼンが急に驚いた様な顔をした。

 

 「ああ?どうしたヒルゼン」

 「いや、志村後ろ」

 

 ダンゾウが振り向くと、そこには満面の笑みを浮かべる女がどアップでこちらを見ていた。

無論、モミジである。

 

 「何や面白そうな事やっとるやないか。どうしたん?」

 「うおっ、何だあんた」

 

 モミジは胸を張って答える。

 

 「あんたとは何や!!ウチは雨隠れ一の美人忍者、モミジちゃんやで!!それでどうしたん?お姉さんに相談してみ?」

 「お姉さんつったって大して歳、変わんねえだろ。まあいいが聞いてくれよ。このサルが自分の一族の方が俺の一族より上だって言ってんだぜ?」

 

 「はあ~、一族馬鹿にすんのはあかんわ、まあどっかの毒マスクみたいな例外もいるけど」

 

 するとヒルゼンが言い返す。

 

 「一族を馬鹿にしたのはそっちも同じだ!!いつも猿呼ばわりしやがって!!」

 

 「猿呼ばわりはあかんやろ~、どことなく似てるけど」

 

 「「あんたどっちの味方なんだ!!」」

 

 まさに喧嘩する程、仲が良いといった二人の様子にほっこりしていると。忍の集団がこちらに向かって来るのが見えた。男達は三人の前で立ち止まる。

 

 「ヒルゼン!!そろそろ一族の集会の時間だぞ!!こんな所で何を油を売っている!!」

 「げっ、親父!!」

 

 丁度その時、新たな忍の集団が三人の前に現れる。

 

 「ダンゾウ!!猿飛一族なぞのガキとまたつるんでいたのか!!」

 「お、親父。これには訳があってだな」

 

 「訳だと、何があったんだ?」

 

 経過を見ていたモミジは猛烈な悪戯心に襲われ、つい口走ってしまった。

 

 「そこのダンゾウ君とヒルゼン君が自分の一族の方が上やって譲らんのや~」

 

 場の空気が凍りつく、ヒルゼンとダンゾウは口をあんぐりと開けてモミジの方を見つめている。

 

 「ばっ、馬鹿!!親父達にそんな事言ったら!!」

 「お、親父。嘘だからな?」

 

 二人が必死に弁解するも時既に遅し。双方の忍達は拳を強く握りしめ、プルプルと震えている。

 

 「志村ぁ、貴様らまだそんな世迷い言を…!!」

 「貴様らこそついにボケたか?猿飛ぃ。猿飛が志村より上などありえん!!」

 

 「ごめん……、まずいことしてもーた?」

 

 事態が今一理解出来ていないモミジに二人が詰め寄る。

 

 「まずい何てもんじゃねーよ!!あの人らはつい数年前まで殺し合ってたんだぞ!?」

 「仲の悪さなんて俺らの比じゃねーよ!!ちょっとでも刺激したらすぐに戦いが―」

 

 三人が騒いでいると、先頭の男二人が素速く印を結ぶ。

 

 「火遁 猿火吹雪!!」

 「風遁 真空連波!!」

 

 「戦いが…、始まっちまうだろうが…」

 

 当主同士の術のぶつけ合いと同時に、あちこちで戦いが始まった。

 

 

 

 「やはり火遁と風遁では相性が悪いか!!」

 「関係無いわ!!火遁をぶつけ合ってもワシが勝つ!!」

 

 術をぶつけ合った猿飛一族と志村一族の当主二人は、三年ぶり六回目の斬り合いを開始した。

 

 「腕が落ちたのでは無いか?」

 「抜かせ!!」

 

 当主だけで無く、他の者達の争いもやはり拮抗している。木の葉隠れにはまだ戦乱の気分が抜け切っていない荒くれ者も多く、里の中心で起きた戦いを喜んで見ている者も少なく無い。かく言うモミジも、興味深く見守っていた。

 

 「かっ~、えらい事になってもたなあ~」

 「「お前のせいだよ!!」」

 「あんたらは仲ええんやな」

 「「良くねぇよ!!何でこんな奴と!!」」

 

 余計に怒りそうな気がするのでやっぱ仲ええやん。とは言わなかった。

 

 「おっ。でもそろそろ終わりそうやで」

 「何で分かんだよ?」

 

 「東の方から半端無いチャクラ持った人、近づいて来てるもん。多分止めに来た偉いさんやろ」

 「お前、感知タイプだったのかよ。半端無いチャクラって事はあの人かあの人だな」

 

 ヒルゼンとダンゾウがモミジの意外な特技に驚いていると、次の瞬間戦っていた両者の動きが止まった。

 

 「これは幻術…!!という事はあの人か!!」

 「ああ」

 

 

 「「マダラ様が来たんだ!!」」

 

 

 

 幻術で動きを縛られた忍達はやって来たその忍に恐れを抱く。

 

 「マダラ様!!何故止めたのですか!?」

 「そうです!!今日こそ木の葉に不要なこいつらを!!」

 

 「木の葉に不要…か。何故それをお前らが決める?それを決めるのは柱間だ、思い上がるな…!!」

 

 やって来た木の葉の立役者の一人であり、圧倒的実力者であるうちは マダラに凄まれ猿飛一族と志村一族は双方、何も言えなかった。

 

 「本来、里の中央で諍いを起こすなど許せる物では無いが、一度目だ。今日の所は許して置いてやろう。だが二度目は無い…!!」

 

 幻術から解放された忍達は、すごすごと帰っていった。モミジら三人はこれにて一件落着、と思っていると、何とマダラがこちらに近づいて来たでは無いか。モミジが逃げようとするとヒルゼンとダンゾウに襟首を掴まれる。死ぬ時は道連れとでも言うつもりかこいつら。

 

 「先程、幻術の中で話を聞いた。どうやらお前らが原因の様だな」

 「ごめんなさい…」

 「ごめんなさい…」

 「お腹減ってきたから、ラーメンでも食べに行かへん?」

 「「ちょっとは反省しろ!!」」

 

 「…いや、構わん、行こうか」

 「「マダラ様!?」」

 

 うちは マダラ、死んだ弟と同年代の子供には強く当たれないという弱点もあったのだった。

 

 

 



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孤独のグルメ(偽)

 
 三つの話の中で、一番出来が良くね?


 

 視点 ――魚雨 伊蔵――

 

 ご立派になられましたな!!訳(皆さま、ご機嫌よう)

 

 若がご立派にもワシとモミジに最後の一日を自由に過ごす様、命じてくださった。何と慈悲深い、これならば若がいつ家督を継いでも安心ですな!!

 

 そういえばもう継いでたか…。 

 

 ワシが木の葉で最後にする事と言えば、ズバリご当地グルメ巡りである。今回、雨の国から火の国を旅する中で深く感銘を受けた事とは、各地に根付くその地ならではの味という物だ。

 

 ワシが今まで、雨の国周辺のどれ程狭い世界で生きてきたかを痛感し、深く恥じた。

 

 里の若い世代の中には、この平和が永遠に続くと思い込んでいる者も多いが、ワシはそうは思わない。ワシの長年の勘では後二、三回は大きな戦争が起こると確信している。

 

 それまでにできるだけ多くの味を楽しまなくてはな。

 

 魚雨 伊蔵、言動に反して実は頼りになる大人の男である。伊蔵はまず、里中で旨いと評判のラーメン屋に向かう事にした。

 

 

 

 そこは、理想的であった。店の外観は里中の注目を集めるホットスポットとは思えず、お高く止まらない、庶民的な風情が漂っている。店に掛かった看板は古びた看板は曇りがちな今日の太陽に照らされ、何とも言えない雰囲気を演出していた。中から、人が出てきた。出て来た男は客の様で、満足そうな表情で腹をさすっている。

 

 やはり噂通り良い店の様だ。良く見てみると、お昼時は少し過ぎているので割かし空いている。更に先程からたまらなく良い匂いがするので、その香りに誘われる様に伊蔵は店内へと入っていった。

 

 「へい、らっしゃい!」

 「店長が一番、自信のあるラーメンを頼む」

 

 しばらく待って出て来たのは、薄い白色をした、濃厚な香りが漂うラーメンだった。

 

 「店主、これは?」

 「おう、新作でな、豚の骨を煮込んで出汁を摂ってある。まあ一口食べてみてくれ」

 

 聞き慣れない材料に訝しげな表情を浮かべながら、一口食べてみる。その瞬間、未知の味が口の中に広がった。これはやられた、今までの物とは全く違う新たな味。これは、良い。夢中になって食べ進める。

 

 喉が渇いたな。おもむろに冷たい麦茶を手に取る。未知の味に酔いしれる今のワシには、別の物を口に入れる事はおろか、手にした湯呑みの冷たさですら煩わしかったが、いざ飲んでみるとこれがまた良かった。喉の油を流しながら体に一本芯が通る様な感覚は悪く無いもので、また、一旦口の中がリセットされた事で、改めてその味を落ち着いて味わう事ができた。

 

 ああ、様するにこういう事なんだな。全部、必要なのだ。店の雰囲気から始まり、食べ物も飲み物も。五感で感じる全てが意識せずとも、一つになっている。

 

 国も、里も、同じだろう。町が村が人が一つになっている。物事の良し悪しを少数が決めて、不要な物を切り捨てる、それでいくら強いから平和だから豊かだからと言おうともそんな物は国では無い。良いと言われる物も悪いと言われる物も深い懐でもって内包していく、それが国と里の本来あるべき姿では無いだろうか。

 

 雨の国は、上手く出来ているだろうか?いや、若の国なのだ。愚問だったか。豪雨に豪雪、喧嘩っ早い民衆、危険な動物、一般に言って悪いと言われる物は多くあるが、若が強権的にどうこうしようとした事は無いし、何より雨の人間は、よく笑う。変わらずにありたい物だ。

 

 

 

 食事を終えると、店内はいつの間にか伊蔵一人となっていた。夢中になっていたので気が付かなかった様だ。

 

 客がいないのだったら、丁度良い。店主にありったけの賛辞の言葉を送りたい。ラーメンという、果てしなき味の追求の一つの完成型を確かに味わったのだから。

 

 「店主!!お主の新作のラーメンだがな、本当に素晴らしかったぞ!!」

 「当然だ!!自信作だからな!!」

 

 「ああ、完璧なラーメンだった…」

 

 店主はそれ見たかと言わんばかりの態度だったが、伊蔵が完璧だと口にした途端少し表情を曇らせた。

 

 「完璧…完璧か…」

 「どうしたのだ?」

 「いや、な~んか足りねぇんだよな。いや、何が足りないかは分かんねぇけどよ…」

 

 どうやら店主はまだ味に満足していないらしい。ワシには完璧に思えるが、まだ上があると言うことか…。そんな事、そんな事言われれば…

 

 

  是非食べてみたいでは無いか!!

 

 「良し、店主。しばし待っていろ」

 「えっ、ど、どうしたんだよ?」

 

 「お主の言う何かをワシは持っているかもしれん」

 

 

 

 しばらくして伊蔵が持って来たのは、雨の国から火の国にかけて各地で仕入れた産物だった。これだけあれば店主の琴線に触れる物もあるかもしれない。

 

 「店主!!どうだ何か思い付いたか?」

 「むう、少し待っていろ…」

 

 店主は先程までの人当たりの良い表情とは打って変わって、歴戦の忍達の様な迫力を出していた。これが、ラーメン屋の本気…、ワシの言葉など不要の様だ。やがて店主はいくつかの産物を手に取り、厨房へと入っていく。その背中に、神を見た気がした。

 

 

 

 「う」

 「う?」

 

 「旨過ぎる!!」

 

 ワシは猛烈に感動していた。まさか、これ程とは…。ふと、店主の方を見るとニヤリと笑みを浮かべていた。

 

 「いやあ、ありがとよ。あんたのおかげで理想の一品を作る事が出来た」

 「ワシは大した事はしていない。全て店主の腕だ」

 「ははっ、そこで提案なんだよ。このラーメンが出来た事はウチの新たな門出となる。きっかけをくれたあんたから店の名前を送ってくれねぇか?」

 

 むむっ、責任重大である。何が良いだろう、伊蔵はやや考えて口を開いた。

 

 「ワシの座右の銘なのだが、百戦は一楽より出づる、という言葉がある。一つの楽を知ってしまった人間はそれを奪い合って百の戦を起こすという意味なのだが、ワシの解釈は違う。忍達は機械では無い、人だ。戦いを繰り広げる忍達が心を強く保つには、一つの楽が必要なのだ。人それぞれの楽を、人それぞれの平和を守るために、誰にも理解されずとも戦う英雄達にこの店で一つの楽を与えてやって欲しい」

 「…」

 

 「店の名前は、一楽でどうだろうか?」

 

 断る理由は、無かった。店主がまさに理想として来た事だった。

 

 「分かった。一楽、だな?戦う者達に、誰であろうと、たとえ里中の人間がそいつを殺したがっていても、俺の店だけは一つの楽を与えてやる。良い、名前じゃねえか…」

 「店主、今日はありがとう。またいつか会おう…」

 

 二人の間にもう言葉は不要だった。

 

 伊蔵が店を去ろうとしたその時、何やら店の前が騒がしくなった。

 

 

 

 「ああ~っ、半蔵サマこんなとこで何してるん?」

 「お前こそ何やってんだ」

 

 「おおっ、マダラ!!奇遇だな!!」

 「はあ…、貴様こそ今まで何をやっていたのだ。柱間」

 

 「げえっ!!柱間様まで!!」

 「何かガスマスクの人連れてるし、濃いメンツどころじゃねーぞ!?」

 

 聞き慣れた声が混じっている気がする…。何はともあれ[一楽]の客、第一号。新たな門出である。

 

 

 

 「「「「「「旨っ!!!!」」」」」」

 

 



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金は天下の回りもの、部下も天下の回り物

 ちょっと先まで書き溜めてあるのですが、展開が無理矢理になって来ています。あまり期待せずお待ち下さい。


 視点 ――魚雨 半蔵――

 

 ラーメンの旨さにも驚いたが、何よりあの男が千手 柱間殿だったとは…。うちは マダラ殿にも意図せず会えたし、木の葉滞在は割と運が良かった様だ。

 

 帰り際に門の前まで扉間と柱間殿が見送りに来てくれた。同盟国の長である俺に気を遣う様子も見せず、一人の友人として扱ってくれるのは、正直嬉しかった。国同士の関係と言えども、最終的には私情が、個人的な人間関係が重要なものだ。

 

 俺はお互いの国の更なる発展を願いつつ、木の葉隠れの里を発った。

 

 

 

 視点 ――秋風 モミジ――

 

 木の葉かぁ、ええとこやったなぁ。こんだけでかい国の忍里なんや、これから益々ええとこになっていくやろな。ウチらの雨の国と雨隠れの里も負けてられんな!!

 

 ヒルゼンとダンゾウも喧嘩してばっかやけど、賑やかでええ奴らや。これから木の葉を背負う者として、二人揃ってまさに光に当たる木の葉みたいな存在になっていってくれたらええなぁ。

 

 んじゃ、帰ろか。

 

 

 

 視点 ――魚雨 伊蔵――

 

 巨大な火の国の、強力な忍里。ここと同盟を結べたのはまさに福音じゃ。柱間殿も噂に違わぬお人であった。

 

 そして、何より旨いラーメンに出会えたしな!!また会おう、木の葉!!

 出発じゃ!!

 

 

 ――しばらくして――

 

 俺達が国へ帰った後はとにかく忙しくなった。いくら木の葉との同盟があっても、雨の国自身が強いに越した事は無い。勝てなくとも、手を出したら無傷では済まないと言うのが大事なのだ。

 

 俺は親父と協力して忍者アカデミーを創設する事にした。木の葉で扉間に語った様に、忍び刀の扱いを覚えるのを全員の義務とし、更に別の武器を実戦に使うのには、十分な実力を身に付けた事を示す段位が必要な様にした。(半蔵の影響で鎖鎌も人気が上がって来ている)

 

 忍術については分身に変化など基本的な物はもちろん、人それぞれの性質に合わせて、各性質変化の中でこれといった対策の無い扱い易い術をリストにまとめて、最低限それらの習得を推奨した。(リストの中には半蔵が使えない術もあったので、こっそり練習したのはヒミツだ!!)

 

 これにより、雨隠れは大国からしても侮れ無い戦力を持つ様になり、更にその戦力を安定して持てるシステムが完成した。忍里への依頼も増えて来ている。

 

 がらり、と執務室の戸が開く音がして一人の男が入って来た。 

 

 「おい半蔵、商人が増えて税収も順調に上がっているぞ。インフラ整備の効果が出て来たな」

 「おお、それは良かった。角都さんが色々手を尽くしてくれたおかげだな」

 

 半蔵に負けず劣らず怪しいこの男は角都と言い、金にうるさいので様々な里で疎まれ、たらい回しにされていた所をスカウトした。雨の国には経済に明るい人間が少ないため、本当に頼りになる。(あまりに頼りになるのでさん付けしなくてはならない暗黙の了解がある)

 

 文官畑の人間かと思いきや、めちゃくちゃ武闘派で他人の心臓を奪うその秘伝忍術は賛否両論だが、別に敵や死刑囚から奪うのだったら俺としては別に何とも思っていない。そもそも相手の体をグズグズにする俺の死遁の方がまずい気がする。

 

 「角都さん、忙しいだろうけど頑張ってな」

 「よせ、気持ち悪い。お前こそ忙しいだろう」

 「いやいや角都さんこそ」

 「お前こそ」

 

 悪人面仲間であり、悪人技仲間でもあるので結構気が合う二人なのであった。

 

 

 

 火の国への道中で仕入れた産物は、雨の国でも順調に収穫する事ができる様になって来た。最近ではこういった物を手に入れる為に土や風や滝、果ては雷まで様々な国の商人が雨の国を訪れていた。特に風の国は砂漠ばかりなので多くの取引をしており、できるだけ良い関係を保つため、安く作物や薬草を売っている。滝とは元々小国同士なので仲が良かったが、風の国とは割と良い関係を築けるかも知れない。木の葉とは同盟関係なので、ここに来て仮想敵国は土と雷と水の国という状態になって来た。

 

 当然、風の国がまだ豊かな地を諦め切れず、我が国に攻め込んで来る可能性も無くは無いがな。

 

 何だかんだでどこの国も、今のところ平和を求めている様だ。まあ、数十年も戦乱が続いたんだ、当然と言えば当然か。

 

 と思っていたらさっそく、大荒れの予感を感じる一報が届いた。千手 柱間殿とうちは マダラ殿が仲違いし、マダラ殿が里を抜けてしまったらしい。柱間殿とマダラ殿、二人の最強の忍によって忍界は今の安定があったのだ。何か起きるな……、どこが最初だろうか。

 

 

 

 おまけ ――角都の憂鬱――

 

 雨の国の雨隠れの里、それがオレの今の居場所だ。ここに辿り着くまで、金の重要性が分かっていない馬鹿共に散々、邪険にされて来た。忍里など、稼げなくてはひたすら国にとっての金食い虫になるしか無いと言うのに。

 

 オレはかつて諸国を旅していた。これから力の時代が終わり、金の時代が訪れるとオレは確信していた。しかし、今まで戦いしかして来なかった人々にとって、そんな事は思いもしなかった様だ。

 

 誰にも理解されぬ旅の途中で、ある事に気付いた。大陸中の金の流れが一点に向かっていると言う事だ。商人達が言う所によると、皆揃って雨の国に向かっているらしい。これは面白い、雨の国など今まで注目して来なかったが…。

 

 雨の国に向かってみると道が完全に整備されており、忍で無くとも容易く通行できる様になっていた。雨の長である魚雨 半蔵の指示で積極的に商業を推奨しているらしい。事実、大量の荷物を持った様々な国の人間が雨の国を目指している様だった。

 

 魚雨 半蔵、噂に聞いた事がある。大陸中央の敵対する一族を滅ぼし、雨の国を作り上げた新進気鋭の忍、彼ならばオレの事も…。  

 

 

 

 大当たりであった。彼は国を運営するに当たって、まさにオレの様な人材を必要としていた様だ。オレはスカウトを受けてから、あっという間に経済部門の責任者を任せられ、素性も知れないオレに信頼を置いてくれている。また、オレの異端な秘伝忍術についても理解を示してくれる。彼自身、異端と言える死遁なる忍術を使うので大して気にしていない様だ。

 

 半蔵は三つの大国に挟まれた雨の国を豊かな国にしたいと言っていた。オレはできるだけ力になってやろうと思っている。誰よりオレの考えを分かってくれた唯一の友と言える存在だからな。

 

 さん付けは正直やめてもらいたいが…。あいつが言うせいで里中で言われる様になって来ちまった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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戦争前夜はオシャレに決める物

 作者はキャラを動かすのが苦手みたいです。
 君の名は……、尊い……!!


 

 

 長らく平和が続いていた世界に激震が走った。きっかけは俺の執務室に届けられた第一報、伝令が息を切らしながら俺に報告する。

 

 「風の国が豊かな土地を求めて、我が国に宣戦布告しました!!更に兼ねてより大陸領土を狙っていた水の国が、火の国へ宣戦布告!!火の国の強大過ぎる国力に不満を持っていた雷の国が

水の国に追従し、火の国に宣戦布告!!土の国でも何かを狙い、総動員を開始した様です!!」

 

 第一次忍界大戦の幕開けである。この大戦は火の国の成立に伴い、ろくな準備も無いまま雪崩式に建国してしまった各国と、それによって出来たいびつなパワーバランスが発端となって起きた戦争だと言われている。

 

 この大戦によって、初期忍界の抱える全ての矛盾を解決させる[戦争を終わらせるための戦争]だと当時は言われていた。しかしこの大戦はこの後、百年に渡り忍界に暗い影を落とす事となる……。

 

 

 

 「雨隠れ里長、魚雨 半蔵の名の下に雨の国へ命じる。雨の国、雨隠れの里はマニュアルに従い戦時体制へと迅速に移行せよ。戦乱の時代は終わってはいなかった、強きが正義の忍界の現状に置いて小国、雨の国の興廃はこの一戦にあり!!戦え、祖国を守るため!!」

 

 俺は雨の国へ号令する。ついに国同士で行われる大戦争が始まってしまったのだ。雨の国の現状の敵は雨の国へ侵攻をかけて来る風の国だが、土の国の動きも気にしなくてはならない。

 

 火の国との同盟はあるが、火の国はマダラ殿が最近里を抜けた事もあり、おそらく水と雷の国との戦いで手一杯だろう。こちらに増援を寄越してくれる保証は無い。俺は今後の相談のため幹部達を部屋に集める事にした。

 

 

 

 「これからの戦争、特に風の国との防衛戦について意見を聞かせてくれ」

 「いや~ついに始まってもたなあ」

 

 いつも呑気なモミジも流石に緊張している様だ。

 

 「モミジよ、時間が無いのだ無駄な話は止せ」

 「そうですぞ、若も何か言ってやってくだされ」

 

 親父と伊蔵は既にいつもとは面構えが違う。やはり、いざという時は頼りになる二人だ。

 

 「雨の国は金も戦力も十分に整えて来た。しかし仮にも相手は大国、厳しい戦いになりそうだな……」

 

 角都さんは既に戦略を考えてくれている様だ。いざという時もそうで無い時も頼りになるなこの人は。

 

 皆で話を詰めていくと、やはりある結論に辿り着いた。風の国国境の大湿林を使ったゲリラ戦を行う。地の利は明らかにこちらにあり、乾いた大地に暮らす砂隠れの忍は慣れない戦いになるだろう。また、季節が良い。しばらくするとあれの季節になるからな。

 

 風の国の本当の目的は、雨の国の奥にある火の国の領土だ。雨の国は通り道くらいにしか思われていない、その油断を突くことも出来る。俺達は話を纏め、風の国国境と念のため土の国国境にも防衛線を築いていった。

 

 

 

 ――その晩――

 

 戦争前夜、逸る気持ちを抑え切れず、俺はなかなか寝付けずにいた。

 

 里で一、二を争う高さの建物の最上階で、大きく開いた窓から里を、国を眺める。ここからの眺めは好きだ。いつもは曇りがちな雨隠れの里だが、今晩は珍しく月が出ていた。里が出来て随分と変わったが、湿った風が頬を撫ぜる度に、ここは俺が生まれ育った場所なのだと実感する。

 

 月明かりに照らされる里は、美しい。俺の立場が里の長じゃ無かったら、どれ程穏やかな気持ちでこの夜を過ごせただろうか?俺が、守るのだ。この里を、この国を、人々を、守らなくてはならないのだ。

 

 今回の戦争は綺麗なままでは居られ無いだろう、どんな手でも容赦なく使わなければならない。柱間殿の様に圧倒的な強さがあれば違うのだろうが…、扉間の方が気が合うと感じるのはつまり、そういう事か。あいつも必要な時に鬼になれる男だ。

 

 俺達に対しても例外では無い。雷の国と水の国との戦争に集中するため、雨の国は見捨てるという行動を取ってもおかしくは無いだろう。俺達はせいぜい時間稼ぎに利用されるだけで、旨い所は全部持って行く。小国が大国に意見を言えるはずも無く、そのまま泣き寝入りなんて事になったら目も当てられない。

 

 場合によっては裏切る事も、視野に入れておかなくてはな。考えたくは無いが……。

 

 

 

 俺が考え事をしていると、後ろに二人分の気配を感じた。

 

 「半蔵、何をしているんだ?」

 「らしくも無く黄昏ているな…」

 

 振り向くとオッサン二人、親父と角都さんという珍しい組み合わせが立っていた。

 

 「戦争だからな…、色々思う所はある」

 「……、もう前線では接敵間近だ。総大将がそんな調子でどうする」

 「親父があんなに早く楽隠居しなければ、総大将なんてやらなくても良かったんだがな」

 「うっ、それを言うか……」

 

 親父も厄介な時代を押し付けてくれた物だ。角都さんみたいな人と知り合えたのも、この立場のおかげかもしれないが。角都さんの方に目を向けると何やら難しい顔をしている。

 

 「どうした、角都さん?」

 「いや、戦争について少しな…」

 「正直、勝てるか?」

 「ああ、勝てはしないだろうが泥沼の長期戦へ引きずり込んでやる、その算段は出来てる。それにいざって時はこっちにも奥の手がある」

 「奥の手?」

 

 そんな物聞いた事も無い、角都さんは一呼吸置いて答える。

 

 「オレとお前だ。常識では考えられない力を持つ忍、まさか自覚が無かったのか?」

 

 どうやら嬉しい誤算があった様だ。戦いを目前に控え、三人で他愛も無い話をしながら夜は更けていった。

 

 

 



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歴史書からも地図からも見えない戦争

 
 感想欄で様々な指摘を貰っています。
 自分では気付かなかった甘い所だらけですね。
 誤字も多くて恥ずかしい(*_*)!!
 


 

 雨の国と風の国の戦い、後に[風雨湿林戦争]と呼ばれる戦争は砂隠れのアカデミーでは悪夢の出来事として語り継がれている。

 

 ただの農耕地を求めて、小国を一瞬で踏みつぶすだけの戦争。しかし、忍界全体で国同士の戦いの仕方がまだ未成熟だったゆえ、戦いは思わぬ苦戦を強いられた。何より、悪夢と呼ばれるまでに至った主な理由は、地図の上からでは見えない現場の忍達の悲惨さだった。

 

 第一次忍界大戦で最初に始まった戦線、風雨湿林戦争を紐解く。

 

 

 

 ―砂隠れの里 戦争の始まりを見たある忍の日記―

 

 戦争だ!!長らく続いたぬるま湯の様な日常は今日、終わった。

 

 古来より[ひとすまず]とまで言われる、乾き切った大地。風の国はほとんどがこの様な土地で占められている。

 

 大国と呼ばれてはいるものの、この場所に豊かさは無い。なれば、豊かな大地を持つ雨の国や火の国からそれを奪い取る事、これこそが風の国が大国として存続するための急務である。我が国の大名様はそう望んでおられるし、風影様も同じ意見の様だ。

 

 そしてついに今日、雨の国へ宣戦布告。雨の国は作物などを安値で売ってくれているので、本来なら道理に反する事だが、飢えに苦しむ民達が少なく無い現状、背に腹はかえられない。

 

 同盟条項に従い、火の国が本格的に参戦する前に雨の国を電撃的に占領し、ひとまず防衛線を固める。その後は雷、水と協力して過分な火の国の国力を削っていくというのが先日通達された作戦だ。土の国は内部がまとまり切っていないため、今回は日和見だと考えられる。

 

 オレはもう既に平和な時代の人間では無い。これこそが忍の生き方であり、誉れとなる。どうやら召集が掛かった様だ、他の忍達も皆、誇らしげな表情で整列して行く。

 

 前の壇上で風影様がついに指示を出した。雨の国侵攻作戦を開始する。と一言だけだったが未だかつて感じた事もない程の、この大地よりも熱い、感情が湧き上がって来る。

 

 オレを含めた忍達は、雨の国へ向けて整然と侵攻を開始した。

 

 

 

 ―砂隠れの里 最前線で戦うある忍の日記―

 

 参ったね、どうも…。現在、容易く陥落させるはずの雨の国に苦戦を強いられている。

 

 戦場となっているのは国境の大湿林、湿林の中には大量のブービートラップが仕掛けられており、そのトラップには必ず毒が塗られていた。更に雨隠れの忍達に散発的に奇襲を仕掛けられ、トラップと同じく毒を使って来るのでかすり傷でもまず助からない。

 

 雨隠れの忍達はオレ達が直接戦闘の態勢を整えると、すぐに撤退してしまう。たまに取り残された忍と直接戦う事になるが、全員が必ず侮れない実力を持っており、楽な戦いにはならない。捕らえた忍を拷問しようとしたら奥歯に仕込んだ毒で自決してしまう。それはまるで無機質な機械の集団の様で、オレ達は得体の知れない恐怖を感じていた。

 

 苦戦の原因にはオレ達の準備不足もある。雨の国を小国だと舐めて掛かってしまったつけが回って来た。砂漠で活動する砂隠れの装備は湿林での戦闘に向かず、秘密兵器の傀儡部隊は湿気と泥で傀儡に不具合が続出していた。

 

 後方の兵糧部隊が襲われ、ただでさえ乏しい食料が限界に近づいている。更に、敵の残していく食料庫にはこれまた毒が入れられていて、現地での捕獲を当てにしていた分の食料が、全く手に入れられていない。そこに冷たい雨が降って来て、体力を奪っていく。

 

 疲れ切った所にも容赦なく奇襲が続き、砂隠れの第一陣から第三陣までは、ほぼ壊滅状態となっていた。運良く生き残った者も、肉体的にも精神的にも限界を迎えており、戦線復帰は望めない。一旦、後続の部隊に合流して情報を持ち帰るしか無さそうだ。―――

 

 

 

 

 最初の侵攻部隊の惨状を見た後続の部隊は念入りに準備を整えるが、雨隠れの忍達もまた新たに罠を仕掛け直す事が出来た上に、何より実戦での経験を得る事が出来たのが大きかった。

 

 後続の部隊が再び侵攻を開始する、湿林を突破するために準備を整えた部隊だ。しかし、そこでまた環境が大きく変化する。半蔵達の読み通り、季節が良かった。

 

 空から戦場へ白い物体が降り注ぐ、雪である。雨の国では一年を通して頻繁に降る雨が、この時期、雪へと変わるのだ。当然、砂隠れもその程度は情報として知っていたため、耐寒装備も持って来ていたが、経験した事が無い環境に戸惑いを隠せない。

 

 雪の中の戦闘は当然、毎年この雪を経験する雨隠れの忍達に有利となって行った。

 

 

 

 [風雨湿林戦争]は、風の国にとっても雨の国にとっても、忘れられぬ戦いとなった。一方は恐ろしい悪夢として、もう一方は大国を退け、その存在を世界に示した歴史的な戦いとして。

 

 

 

 ――ある雨隠れの忍の日記――

 

 ついに戦争が始まっちまった!!

 

 オレは雨の国の農家に生まれた。半蔵様のおかげで雨の国は、皆が本当に豊かな暮らしをしている。しかし、やはり男と生まれたからには、刺激のある人生を送りたい。そんな一心で最近創設された忍者アカデミーに入って忍になる事にした。

 

 アカデミーは忍の家系では無い者も積極的に受け入れる方針で、オレもすんなり入る事が出来た。アカデミーは厳しかったが、自分が成長している事を実感できるため、何とか落第せずにいられた。また、里の戦力を安定させるため、忍の家系の者とそうでは無い者の格差を無くす教育方針もオレにとって都合が良かった。

 

 しかし、アカデミーを卒業した途端、戦争が始まるとはな……。

 

 大国との戦争は皆不安だったが、里へ下された自信に溢れた半蔵様の号令で、士気が一気に高まった。まったく、すげぇ人だ…。

 

 戦争が始まって最初の作業は、森に罠を仕掛ける事だった。激しい戦闘を覚悟していたので少し戸惑ったが、オレも他の皆も半蔵様の命令は確かだと信頼している。罠にも武器にも致死毒を塗るのは、さすがに容赦ないと感じたが忘れてはいけない、大国との戦争なのだ。考えうる全ての手を使わねば、まともにやり合える訳がない。奥歯に仕込んだコイツの出番もあるかも知れない。

 

 オレは来たる開戦に向けて、改めて気を引き締め直す。他でもないオレが、国を、里を、人々を守るのだ。ああ、柄でもないが、オレはこの国が、こんなにも好きだったんだな……。

 

 

 

 

 



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それは血か涙か、雨がひどい日だった。

 タグでは[強い]ですが、半蔵がチートに片足を突っ込んでいる気がします。
 それと話の都合上、岩隠れを悪者にしてしまいました。
 お気を悪くしたら、申し訳ありません。


 戦争は思いがけず、優勢に推移していた。

 

 砂隠れの攻勢が湿林で完全に止まっているのだ。原因としては砂隠れの準備不足、まともに当たるのを避ける雨隠れの戦略、様々な要因が考えられるが、雨隠れの忍達の決死の奮闘が何より大きかった。

 

 国を守るためそこまで戦ってくれるとは、里長冥利に尽きるという物だ。しかし、それでも全ての戦力を一つの戦線に投入して、何とか敵の攻勢を食い止めている所だ。日和見を決め込んでいる土の国が、漁夫の利を狙い今にも宣戦布告してくる可能性もあるのだ。

 

 何より腹が立つのは火の国だ、これだけ雨の国が粘っているのに助けを寄越す気配がない。俺の個人的な親交があるため決定的に仲違いはしていないが、雨の国の人々は違う。現在進行形で火の国への不信感を募らせている。

 

 火の国は、やはり雷の国と水の国との戦いで手一杯だと言うのか?いつまでも助けが来ないならば、俺も魚雨 半蔵としてでは無く雨の国の長として、しかるべき措置をしなくてはならない。

 

 柱間殿、扉間、一体何があったのだ……?

 

 

 

 俺が苛立ちを募らせていると、角都さんが部屋に飛び込んで来た。冷静な角都さんがこれ程焦るとは……、嫌な予感がする。

 

 「半蔵!!土の国が風の国と我が国に宣戦布告した!!既に念のため張り付けて置いた国境の部隊が壊滅した様だ!!」

 「何だと!?すぐに防衛線を張り直せるか!?」

 「すぐには無理だ。土の国との戦争のため風の国の攻勢は弱まるだろうが、時間も戦力も足りない……、国境付近の住民達は徹底的に略奪、虐殺、何でもありの状態だ……」

 

 略奪?虐殺?俺の国の、雨の国の人々が?突然、宣戦布告前に奇襲してきて置いて?俺は話を聞く度に、己の中に飼う暗い物が溢れ出すのを感じた。

 

 「……半蔵?」

 「角都さん……、あの夜話した事、覚えてるか?」

 「お前…!まさか……!!」

 

 「ああ……、俺が出る。付き合え角都」

 

 死神が、目を覚ました。

 

 

 

 風の国との戦争の指揮を親父達に任せて、俺は角都さんと土の国との国境へ向かう。親父達に反対されるかと思ったが、いや、実際モミジと伊蔵には反対されたが親父が送り出してくれた。ホントに、親子揃って馬鹿だよな……。

 

 走りながら角都さんに話し掛ける。

 

 「角都さん、これで勝ったら俺達、伝説だな。本でも書こうぜ?」

 「ふふふ、それは良いなきっと金になる」

 「あんた、本当にそればっかりだな」

 

 「始まる前にちょっとお互いの事を確認しとこうか、角都さんもどうせ何か隠してんだろ?」

 「オレは奪った心臓五個の性質変化を使える。元々の性質は土遁だ。滝隠れの長が何というか馬鹿真面目な奴でな、オレの心臓を奪う秘伝忍術が気に食わなかったらしく、追放された。健全な里を目指すんだと……」

 「ぶははっ、何だそりゃ!!自分から抜けたみたいに言ってたじゃねーか!!追い出されたのかよ!!」

 「結果的には雨隠れに辿り着いて、金を見てられるんだから感謝してるよ……」

 

 「でも自分の術については嘘なんて無かったんだな」

 「馬鹿野郎、それも就職活動のためだよ。怪しいマスク付けたお前なんて、始めは信用してなかった」

 「今は?」

 「言わすな、馬鹿」

 

 

 

 「お前は何か無いのか?半蔵」

 

 「そうだな、まずは俺の死遁の解毒薬を渡しておく」

 「出発する前に渡せ……」

 

 「それと、俺はヌメヌメ系の生き物が可愛くてしょうがない」

 「何を言っているんだ?」

 

 「実は、里の長を辞めたい」

 「ふざけるな、雨の国の人々がお前を求めている。今更辞めさせるか」

 「良い後継者が見つかったら、すぐ辞めてやるよ」

 

 「それからな……」

 「それから?」

 

 「実はこの戦いにそれ程、不安を感じていない。俺が本気で殺そうとして殺せなかった奴は居ないからな……」

 「頼もしい限りだ。まあ、オレだとてお前相手ではあっという間に、五回殺されるだろうからな……、それ程までにお前の術は恐ろしい」

 「それはどうも」

 

 「さあてそろそろ国境だ、角都さんはこの辺で待っといてくれ、連絡係を頼む」

 「おい、一人で行くのかよ、死ぬ気か?」

 

 「国の為に死ぬなんて御免だな、俺は国の為に殺す忍だ。待っといて欲しい理由は他にある」

 「?」

 「俺が本気でやればあんたを巻き込んじまう、それともう一つ」

 

 俺は指を噛み切り地面に掌を押し当て、口寄せを発動する。そして現れたその巨体に乗った。

 

 「あいにく、背中を任す相棒ならもう決めてある」

 

 そうだよな…、イブセ……!!

 

 

 

 この日、忍界に後世まで語り継がれる伝説が起こった。

 

 第一次忍界大戦、雨の国を奇襲した土の国は不測の事態に襲われ、多くの命を失う事になる。雨の国侵攻のための大部隊が、たった一人の忍によって皆殺しにされたのだ。

 

 雨の国はこれ以来、その名に守られる事になる。曰く、戦場の死神。曰く、雨隠れの鬼。

 

 

 

 雨の国・雨隠れの里 里長 魚雨 半蔵 

 通称[死雨の半蔵] 

 

 

 

 ――視点 岩隠れの里 雨隠れ侵攻部隊

       部隊長 無 

 

 完璧なタイミングでの作戦だった。

 

 第一次忍界大戦、中立と見せかけておいて戦闘中の風の国と雨の国の後背を突く。少し卑怯な様だがこれは戦争だ、油断した者が悪いのだ。

 

 オレの隠密の術での索敵も入念に行い、雨隠れの国境警備隊を瞬時に壊滅させる事に成功した。何人か獲り逃してしまったため、雨の国本国に情報が知らされるだろうがもう遅い。雨隠れが大部隊を送って来る頃には、相当深くまで切り込む事ができるだろう。

 

 想定外と言えば、一部の部隊が雨の国の一般人に対して、非道な行いを働いてしまった事だけだ。久しぶりの大きな戦争に気が高ぶってしまった者達が、命令を無視してしまった。あいつらは後で、開発中の塵遁の実験体にしてやろう。

 

 

 

 オレ達が明日以降の侵攻作戦に備えて、拠点を設置していた時、不穏な空気を表すかの様に雨が降り出す、すると部下達が小高い丘の上を指差し何やらざわついていた。丘の上を見ると、大きな何かの上に乗った人影が見える。

 

 それは暗い空と雨を纏いまるで泣いているようで、いやに様になっていた。ゆっくりとこちらに近づいて来る。どうやらトカゲ?に乗っている様だ。明らかに不審だが、オレ達は何故かその異様な姿に見入ってしまった。やがて、オレ達から少し離れた所で立ち止まり、口を開く。

 

 「あんたらは岩隠れの忍、で合ってるかな?」

 

 やはり敵か?しかし、意外にも穏やかな声色に戸惑い、オレ達は何も言えないでいた。やがて少し間を置いて、血気盛んな若手の忍が返答する。

 

 「いかにもオレ達が岩隠れの忍だ!!何だテメエは?のこのこと出てきやがって!!」

 

 「そうか、それじゃあそっちにある死体は何かな?」

 「さっきあっちの村でオレ達に逆らいやがったから、殺してやったんだ!!何か文句あんのかよ!!」

 

 「いや、もう十分だ……、文句なんて無い。殺したのか、そうか……。

 

     もう十分だ……!!」

 

 その時、にわかに辺りに恐ろしいまでの怒気が充満した。これは……!!明らかにマズい!!逃げろ、と言う暇も無く、先程まで目の前の男と会話をしていた若い忍の首と胴体が離れる。

 

 あれは……、鎌!?オレの目でも一瞬しか捉えられなかったぞ!?

 

 息つく暇も無く、男が素早く印を結び同時にトカゲも息を吸い込んだ。

 

 「死遁 獄門の溜息」

 

 トカゲの口から出た霧と男の出した禍々しい色の液体が混ざり、部隊に襲いかかる。前の方に居た忍達がその術に当たった瞬間、全身が腐り落ち、この世の物とは思えぬ絶叫を上げて倒れていく。オレはすぐ様距離を取る。

 

 何人生き残った!?周りを確認すると回避出来た者がそれなりにいる様だ。しかし少し掠っただけの者も、掠った部分からじわじわと腐っていき、死んでしまった。

 

 オレ達が仲間達の異常な死に様に動揺していると、すかさず男が凄まじい速さで飛び込んで来て、鎖分銅と鎌が一体となった異形の武器で、更に犠牲者を増やして行く。

 

 トカゲも口から毒の霧を吐き出し攻撃を仕掛けて来ている。男を巻き込んでいるが効かない様で、何事も無かったかの様に惨殺を続けている。

 

 「ひ、ひい、逃げろおおおぉぉぉ!!」

 

 部隊は既に恐慌状態に陥り壊乱している、命令はもう伝わらないだろう。このままではオレも不味いな、何とか逃げきれるか……!!

 

 オレ達が散りぢりに逃げると、男とトカゲはその場で止まり再び印を結ぶ。感知した所、相当な量のチャクラを練っている、先程の術を優に超える術を繰り出して来るというのか!!

 

 「雨がひどいな…、全部、見てくれているのか、殺されて行った者達よ……。もう少しで終わるよ……、こんなに怒ったのは初めてだし、こんなに悲しいのも初めてだ。せめて、安らかに……

 

  

 

      ――死遁 雨隠れの涙――」

 

 

 

 半蔵の繰り出した術は、空に登り戦場を濡らす雨雲と混ざり合い、岩隠れの忍達に雨となって降り注いだ。雨に当たった者がどうなったかは、語るまでもないだろう。死の間際で開発中だった塵遁を完成させ、傘代わりに使い生き延びた一人の男を除いて……。

 

 これ以降雨の国への侵攻は、岩隠れの里では忌避され、雨の国を通らず火の国へ入れる様に、神無毘橋と呼ばれる橋が造られる事になる。

 

 

 

 



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終わりは意外とあっけないもので

 作者がいちいち返信するから、感想欄に気軽に書き込みづらいんですかね?


 

 「今、戻ったぞ」

 

 岩隠れの部隊を壊滅させた俺は、里へ戻り国境の防衛線を張り直す様に指示を出す。無傷で帰って来た俺に、部下達は驚いていたが一段と俺に対する信頼を深めてくれた様だ。

 

 角都さんと共に執務室に戻ると、モミジ達がこちらへ駆け寄って来る。

 

 「半蔵サマ、無事やったんか!!心配してたんやで!!」

 「若!!よくぞご無事で!!」

 「心配を掛けたな、とりあえず岩隠れの先遣隊は全滅させて来たぞ」

 

 涙目の二人をよそに、壁にもたれ掛かる親父は、何の心配もしていなかったかの様に笑みを浮かべている。何だかんだ言って、俺に期待してくれているんだな……。

 

 「本当に大変だったぞ、一人で突っ込みやがって…。まあ、オレも大技に巻き込まれたから解毒薬が無ければ、心臓を二つか三つ潰されていた所だったがな。毒で汚れた土壌を洗浄する金も馬鹿にならん……」

 

 角都さんにも迷惑を掛けた様だ。あんな術を実際に使ったのは初めてだから、力加減が分からん……。

 

 

 

 話が終わり少ししたら、親父が木の葉の額当てをした男を連れて来た。

 

 「半蔵、お前が居ない間に来た火の国からの使者だ。火影殿より伝言があるらしい」

 「火影様より半蔵様へ伝言を預かっております」

 

 「やっとか、木の葉から雨へ増援が無いのは、それなりの理由があるんだろうな?」

 

 俺が少しの怒気を含めて尋ねると、使者は顔を真っ青にしながら口を開く。

 

 「はい…、火の国の大名様が、自分を守る戦力を減らしてまで他国を救援する事を渋られまして……、火の国はあくまで大名様の元にできた国なのです。火影様も扉間様も怒っておられますが、軍事力が政権に逆らうなど火影様は望んでおられません。雨の国を見捨てる様な形になってしまい、本当に申し訳ありませんでした」

 

 なるほど、雨の国は大名制では無いから、そんな理由を思い付きもしなかった。しかし俺個人としてはともかく、雨の国の民達はもう取り返しがつかない程、怒っている。同盟もここまでだろうな……。

 

 理由が何であれ、結果としては小国が大国に見捨てられたというだけなのだ……。まさか、一度も共に戦う事が叶わないとは……。

 

 「分かった、もう帰っていい。魚雨 半蔵個人としては納得できると伝えて置いてくれ…」

 「それは、雨の国としては駄目だと?同盟は終わりですか?」

 「わざわざ言わすな、扉間なら分かってくれるだろう」

 

 また新たな同盟相手を探さ無くてはな……。

 

 

 

 第一次忍界大戦は各戦線で膠着状態に陥っていた。雨、風、土は三すくみとなり、決定的な攻勢に出る事が出来ず、火・滝同盟(同盟と言っても別々に同じ敵と戦っているだけだが)と雷の戦う戦線では、雷の国の奮戦により、柱間殿の圧倒的な力を以てしてもなかなか突破出来ずにいる。火の国が水との戦いに戦力を分散させられているのも原因となっていた。

 

 各国でひたすら疲れと不満だけが溜まっていき、内戦の危険性も出てきた頃事件は起こる。姿を消していたマダラ殿が、九尾の狐と共に木の葉隠れの里を襲撃したのだ。柱間殿との激闘の結果、勝者は柱間殿だった。

 

 火の国の内乱を絶好の機会と捉えた雷の国と水の国は、大攻勢を仕掛けようとするが、ここまで疲弊し切ってなお、戦火を広げようとする指導部に反対して、こちらでも内乱が勃発。

 

 三カ国の惨状を見た雨、風、土は明日は我が身と言うように、あっと言う間に停戦に合意した。忍界初の大戦争は多くの火種を残したまま、自然に収束して行く事となった。

 

 

 

 「木材も鋼材も増産だ!!戦後の復興需要に乗るぞ!!」

 

 指導者の仕事は当然、戦争が終われば何も無くなる訳では無い。雨の国は本国をほとんど脅かされていないため、戦後に他国へ売れる物が大量にある。稼げる時に稼いで置かなくてはな。何だか思考回路が角都さんに似てきてしまったな……。

 

 雷の国と水の国の内乱にも、勝ちそうな方の勢力に支援して恩を売って置く事にする。いずれ各国が集まり、戦後の話し合いが行われるだろう。その時に、火の国に代わる新たな同盟相手として、その二大国が同盟を結んでくれたら幸いだ。事実、内乱が思った以上に早く終結しそうなので、感謝の手紙が送られて来ている。

 

 次の大戦では火の国と事を構える状況になるかも知れない。まったく、せっかく木の葉まで行ったというのに、結果的に無駄足になるとはな……。

 

 今回の戦争の戦利品と言えば、雨の国に手を出せば大国であろうとも、無傷では済まないというのを各国に示せた事だ。確かな力を持つ国として、今後の各国との交渉でもあまり舐められる事が無くなって行けば良いと思う。

 

 もう既に成果が出ていて、西の隣国である匠の国が庇護を求めて併合を申し出て来た。もちろん快く引き受ける。匠の国としては風や土に完全な属国扱いをされるより、同じ小国である雨の国に併合を頼んだ方がマシだと言う事なのだろう。これも弱小国の悲しみか……。

 

 更に直接的な戦果として、風の国との戦争で、敵の新兵器である傀儡をいくつか鹵獲する事が出来た。今、部下達に命じて研究させている。というか、個人的に格好いいと思うのだ。俺はヌメヌメな生き物とメカが好きな様だ。休日にはイブセと遊ぶ他に、傀儡をいじるという趣味が出来た。金の掛かる趣味だが、里のトップなだけあって俺は金持ってんだぞ、ホント。

 

 いずれ我が国でも、傀儡が広まって行ったら良いな。そうしたら、俺の趣味に文句を言う奴も居なくなるだろう……。

 

 

 

 

 

 

 ――おまけ 傀儡作り日和――

 

 

 ふっふっふ、ついに第一号が完成したぜ。

 

 俺は壁に架けられたそれを見て、大きな達成感を感じていた。思えばここまで長かった、何せ完全な素人だった上に、雨隠れに傀儡のノウハウを持っている者なんて居ないからな…。戦争の戦利品である砂隠れの傀儡を、見よう見真似で作って行くしか無かったのだ。

 

 だが好きこそ物の上手なれ、傀儡いじりが楽しく、何度も挑戦しては失敗している内に、苦労の甲斐あって、自分なりのオリジナリティを加えた傀儡を作れるまでになったのだ。里長を引退しても傀儡職人として食って行けるかも知れない。ていうか引退したい、忙し過ぎる。

 

 第一号はその名も[太鼓腹]という傀儡だ。俺の作る傀儡の傾向としては、人間に近づけるのを目的とせず、より機械機械とした武骨な傀儡を好んでいる。

 

 太鼓腹はその名の通り大きな腹を持っており、その腹の中に様々な武装を搭載した戦闘用傀儡だ。くないや千本を飛ばす機構を作るのには苦労した。六本の腕からそれぞれ腹の中に収納した武装をばらばらに出し、人間では有り得ない戦い方をする事が出来る。

 

 体重を支えるため、足も四本という重量級傀儡になった。

 

 デザインも動物などをモチーフとせず、角張っていて、まさに機械といった外見だ。俺に取っては格好いいと感じるが、常人に取っては戦場でこれが近づいて来たらかなりの恐怖だろう。

 

 見れば見る程良いな……、よし、玄関に飾っておこう。

 

 

 

 第二号、降臨!!

 

 その名も[雨蜘蛛]。

 

 太鼓腹の動きが遅すぎた為、雨蜘蛛は機動力を重視している。今回のモチーフは勿論、蜘蛛だが、顔を人間風にして不気味なデザインにしてある。八本の強靭な足回りで、凄まじい速度で大地を駆ける事が出来る。

 

 極細のワイヤーを使った仕込み武器が特徴で、更に背中に乗って移動するのにも使える。お買い物にも便利である。

 

 試しに夜中、里の中を駆け回らせていたら誰かに目撃されていた様で、その余りに不気味な姿から、翌朝には里中の噂になってしまった。都市伝説、蜘蛛男の誕生である。

 

 格好いいな……、よし、玄関にry

 

 里長の居城が傀儡倉庫と揶揄される様になるのは、随分と先の話。しかし確かにその一歩を踏み出す今日この頃であった。

 

 

 

 



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五影会談!!(七人)

 書き溜め分に追い付きつつある……!!
 何とかこのままのペースで頑張りたいです。


 

 どうしてこうなった。

 

 五影会談、いや、正式には滝の長と俺が加わって七人居るのだが、やはり巨大な力を持つのは火、風、土、雷、水の五大国である事から便宜上、五影会談という名称になっていた。

 

 この度、忍界の安定を目指して初の五影会談が開かれる事となった。これにていよいよ真の平和が訪れる、と誰もがお祝いムードになっている中、俺はと言うと気が気でなかった。

 

 何と、柱間殿が会談の場所に雨の国、雨隠れの里を指定して来たのだ。手紙が届いた時、俺はびっくらこいてすぐに断りの返事を入れようと思った。そんな重大なイベントが我が里で起こるとなったら、何かと大変な事になるに決まっている。何たって、今回は八匹の尾獣を配分するための場でもあるのだ。

 

 柱間殿は先日のマダラ殿との戦いで、古来より天災と呼ばれて来た九尾の狐を捕獲したのをきっかけに、砂隠れの保有する一尾以外の尾獣も、その木遁の力で全て手元に置く事に成功した様だ。しかし柱間殿は尾獣を木の葉で独占するのを良しとせず、有力な各国に配分する様だ。(扉間は反対したんだろうな…)

 

 五大国は当然として、滝の国と我が国にも、尾獣を与える事を検討してくれているらしい。

 

 しばらくして、扉間殿の手紙が少し遅れる様にして届いた。

 

 「拝啓 木の葉にも美しい色がつき始めたこの頃、半蔵殿はいかがお過ごしでしょうか。

 半蔵、久しぶりだな。先の大戦では本当に済まなかった。雨の国を五影会談の会場としたいといった旨の手紙、お前の事だ、断りの返事をしようと思っている事だろう。しかし、落ち着いて考えてくれ五大国のどこかで開催するとなったら当然、敵の懐に潜り込んで行く事なので各国が了承しない。となると残りは滝と雨になる訳だが、兄者が雨の国に行きたいと言って聞かないのだ。半蔵が火の国まで来たのだから、今度は自分が半蔵の国へ行きたいと言っている。雨の国を見てみたいのはオレも同じだし、尾獣の護送は木の葉が責任を持って行うので、大変だとは思うがどうか受けて欲しい。

  追伸 最近、穢土転生って術を作った。こんなに素晴らしい術は無いぞ、自爆用の起爆札も絶賛開発中だ。里の忍達はドン引きしているが何故だろうか?敬具」

 

 旅行気分で来るとか無茶苦茶だが、我が国を見てみたいと言ってくれるのは嬉しい事だ。良し、この際盛大に我が国を他国へ見せ付けてやろう。五影会談in雨隠れ、開催だ!!

 

 

 

 俺は五影会談を祭りの様に宣伝して、里中を歓迎モードに変えていった。そしてあわよくば祭りによる特需景気を狙う(これは角都さんの言葉の受け売りだが)。

 

 「モミジ、伊蔵、お前達はアカデミーの仕事は全部、親父に任せて警備体制を整えてくれ」

 「了解!!けど先代サマ大丈夫なん?」

 「本当に全部任せますぞ?」

 

 「構わん、やれ」

 「鬼や、鬼がおる」

 

 「若!!ご立派になられましたな!!」

 「「時間差!?」」

 

 

 

 「角都さん、祭りの準備は進んでいるか?」

 「余裕だ、後は里の住民達次第だな」

 「さすがだな」

 

 「所で半蔵、他国の忍達が来ると思うがめぼしい心臓を獲って来ていいか?」

 「止めてくれ角都、それは里の信用に効く、止めてくれ」

 「ならせめて、他国の忍からボッタクろう」

 「やめろめろめろ角都めろ!!」

 

 

 

 モミジ達に仕事を任せて、オレは各国とのやり取りを繰り返していた。自国で開催したいと言って渋る者達も多い中、火影殿の希望だ、と言って無理矢理黙らせる。火の国とやり合う事など誰も望んでいないのだ。各国は快く?納得してくれた。会談はやはり、柱間殿の匙加減次第でどうとでもなりそうだ。滝と我が国にも尾獣を一匹づつ買わせてくれるみたいだし、会談とは名ばかりだな。

 

 そんなこんなで会談の準備は着々と進んで行った。五影達と滝の長も準備万端といった所だろう。しかし、尾獣を護送しなくてはならないため、他国に先んじて木の葉の一行が我が国に来る事になった。交渉の内容について直接顔を合わせて相談できるため、俺としても願ったり叶ったりだ。

 

 そして、雨の国の国民達が火の国に怒っているので、同盟を続けるのが難しい事もしっかり伝えなくてはな……。

 

 

 

 視点 ――千手 扉間――

 

 火の国は雨の国に負けず劣らず、大忙しであった。

 

 何たって前代未聞の[天災]の護送。兄者の木遁があるとは言え危険なのは間違いない。まさか、旅行するためだけにこんな事になるとは。万が一何かあってはならないため、雨の国への護衛には里の半数にも上る忍が随伴する事となった。

 

 「ガッハッハ!!賑やかで良いな!!」

 「賑やかどころでは無いぞ、兄者。この一行だけで国すら落とせるだろう」

 

 「まあ、大所帯にはなったが、より多くの忍達が他国に行く経験ができるのだ!!良しとしようでは無いか!!」

 「まあ、雨の国に行くのはオレも賛成したしな」

 

 凄まじい戦力の一行の中央には、尾獣達を封印した忍具が保管されている。壺や茶釜など一見、何の変哲も無い物だが非常に希少な物ばかりで全てが国宝級である。中の尾獣付きでこれを巡って交渉するのだ。

 

 「それにしても、尾獣は火の国だけで独占する事も出来たと言うのにな……」

 「扉間、まだ納得しておらんかったのか。オレはタダでやろうと思っていたのに、少しはお前に譲歩したでは無いか」

 「本当に少しだけがな、あんな端金で尾獣を譲る事になるとは」

 

 まったく、兄者は甘い。滝と雨にも一匹ずつ渡せるだけましか、それにコントロールするのは生半可では無いため、実は大して抑止力とは言えないのでは無いかと思っている。

 

 半蔵なら何とかするだろうと思っているが…、我が里ですら御し切れるか分からん代物だ。いつかマダラの様に圧倒的な力で尾獣を屈服させる人柱力が現れるのだろうか、いや、それ以外に尾獣をコントロールする方法など無いのだ。現れてくれねば困る…。

 

 扉間は今後の事に一抹の不安を覚えながら、雨の国へ入っていった。

 

 

 

 雨の国の国境を越えてから、一行は衝撃を受けた。

 

 それまで片田舎の小国だと思っていたが、完全に舗装された街道は行き交う人々で賑わっている。当然、情報としては知っていたがここまでとは思っていなかった。

 

 途中、寄った宿場町で宿屋の主人や商人達に話を聞くと皆、半蔵の事を口々に褒め称える。曰く、街道の整備や関所の廃止など全て半蔵の元で行われた物で、特に最近は次々と大胆な政策を打ち出し(これは角都さんによる物だが一般人は得てしてトップの顔しか覚えていない物である)、雨の国各地が空前の大発展を遂げているらしい。

 

 最近では木の葉と同じく忍者アカデミーが作られ、忍の一族では無い者も一旗挙げようと入学して行く事が多いそうだ。

 

 更に、先の大戦で国土に殆ど手を出させなかった事で、半蔵に対する信頼は完全に極まっている。

 

 

 

 道を順調に進んで行くと、多くの商人達が同じ場所へと向かっているのが分かる。そしてそれは、背の高い建物が乱立しており遠目からでも良く見えた。

 

 雨の国の中心、雨隠れの里である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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国は俺の物?否、俺が国の物なのだ。

 五影会談は巻きぎみで終わらせます。
 第四次の穢土転組の掛け合いなどを期待していた方は、すみませんでした。
 その辺りが作者の技量の限界です。


 

 雨隠れの里は、遥か彼方からでもはっきりと目視できた。なぜなら里の中央に当たる部分に、背の高い建物が、まるで森の木の様に乱立しているのだ。その上、昨夜より天気が悪くなり空が曇っているせいで、それらは得体の知れない雰囲気を放っている。

 

 「ありゃあ、鬼の住処か何かかよ…」

 

 誰かが呟いた。他の者も低い灰色の雲に食らい付くかの様なその建物群に圧倒されていた。扉間までもが同様に驚愕している様だ。唯一、柱間だけが目を輝かせて感嘆の声を挙げた。

 

 「おお!あれが半蔵の里か!!まっこと凄まじい物よのう!!」

 

 そう言って自然、歩くスピードが上がっていく。一行も火影だけを先に行かせる訳にもいかないので、少し早足で巨大なそれらに向かって進んで行った。

 

 

 

 道なりに進んで行くと段々と道幅が大きくなって来た、多くの街道が一点に集中しているのだ。様々な道から合流して来る商人達で道はごった返しており、更にその商人達に物を売ろうとする現地の人々で恐ろしいまでの喧騒となっていた。

 

 無論、良い身なりをした木の葉の忍達も例外では無く物を売ろうと人々が集まって来る。

 

 「お客さん忍だろ、なら赤星草買わねーか?良い薬ができるぜ!!」

 「雨隠れ特製クナイはどうだ?今なら安くしとくよ」  

 「長旅の後に甘い物はいかが?」

 

 「お、おう。今は護衛任務中だから後にしてくれ」

 

 何とか断る者もいたにはいたが、人々のあまりの熱気に何人かはつい物を買ってしまった様だ。

 

 一行は人混みに揉まれながら、何とか雨隠れの里の正門に辿り着いた。これからの忍界を左右する五影会談、彼らは覚悟を新たにし巨大な門を抜けていった。

 

 

 

 里へ入ると、門の外より賑やかさが一層上で、道の両脇には所々に何かのパイプが張り巡らされた、木の葉とは意匠の違った建物が建ち並んでいる。建物の背もそれほど高く無く、小さな店や住宅などはこの辺りになる。

 

 里の中心に向かう程、門の外から見えた大きな建物が増えていき、それを使っているのは一部の大商人や行政機関などである。

 

 木の葉の一行はここから尾獣護送と半蔵への挨拶に行く者や、あらかじめ指定された宿に向かう者などに分かれた。後者はほぼ自由時間の様な物で、様々な経験をして貰いたい里の若手が多い、彼らは張り切ってそれぞれの行きたい場所へ散らばって行った。

 

 そして、尾獣を護送する者達は柱間と扉間に連れられ、半蔵の待つ里の中心にある五影会談の会場へ向かって行った。

 

 

 

 視点 ――魚雨 半蔵――

 

 木の葉の忍達が我が里に到着した様だ。

 

 早速、俺は会談場の建物の前に出て、腕を組み堂々として大物感を出しながら待つ事にした

(親しき仲にも舐められてはいかん)。やがて、尾獣が封印されていると思われる道具を運びながら、こちらに向かって来る一行が見えた。先頭は柱間殿と扉間だな。彼らも俺の姿を認識した様なので声をかける。

 

 「雨隠れにようこそ、里長の魚雨 半蔵だ」

 

 先頭の二人は当然知った仲だが、その後ろの忍達はいきなりの大物(俺だけど)の登場に驚いている。

 

 「知っとるわ、久しぶりだな半蔵」

 

 柱間が答え、扉間以外の忍達に解散の合図をする。

 

 「当然ここからは極秘の話だ、三人だけで話そう、案内してくれ」

 「ああ、こっちだ」

 

 

 

 オレは二人を中に案内し、そして改めて軽い挨拶を交わすと、本題に入った。

 

 「まず同盟の事なんだが、俺はともかく、里の忍達や国民達の火の国に対する不満が、想像以上に大きい。同盟を破棄しなければ我が国でも内乱が起こってしまうかも知れん……、本当に残念だが、俺は国を預かる者として同盟を破棄させて頂く」

 「そうか……、今回ばかりはこちらの落ち度だ。すまなかった……」

 「次会う時は敵かも知れないんだ。謝っちゃいかんよ、柱間殿。それで、尾獣をウチにも一匹くれるそうだが各国でどういう配分にしようと考えているんだ?」

 「まあ落ち着け半蔵、まずは尾獣について詳しく説明しよう」

 

 扉間は、早く話を進めようとする俺にそう言って、冊子を渡す。中には尾獣がイラスト付きで説明されていた。

 

 「尾獣は一尾から九尾まで居て、それぞれが凄まじい力を持ったチャクラの化け物だ。九尾は他より少し強いが、それ以外の尾獣はほとんど同等の力を持っている」

 

 なるほど、尻尾の数で強さが違う訳では無いのか、これなら思っていたより配分もスムーズに進みそうだな。

 

 「方法は後々話すが、ここだけの話コントロールするのは非常に難しいため、多く尾獣を持っていれば良いという訳では無いと思っている」 

 「ほう?」

 

 「よって尾獣の配分だが、木の葉は九尾一匹を貰う」 

 「いくらコントロールが難しいと言っても、木の葉なら二匹が妥当では無いか?」

 「半蔵もそう思うか…しかし兄者がな……」

 

 扉間が柱間殿の方に目配せする。細かい説明を扉間に任せていた柱間殿が口を開いた。

 

 「それではいかん、火の国はただでさえ広大で豊かな領土を持っているのだ。その上に尾獣まで複数保有すれば、平和が力でねじ伏せる偽りの平和となってしまう。オレはそんな事を望んで尾獣を集めたのでは無い」

 

 「あんた本当に良い人だな」

 

 俺は柱間殿の良い人具合に感動しながらも、最強の九尾を持つという部分は扉間に譲歩した結果なのだろうなと感じていた。扉間が続きを話す。

 

 「二匹の尾獣を与える国は土と雷にしようと思っている。風と水はこう言っては何だが、少し他の五大国と比べれば国力が劣るからな。一匹で納得して貰うしか無い」

 

 「ウチと滝も一匹貰って良いのか?」

 「ああ、雨も滝も先の大戦で大国相手に十分に力を示した。表立って反対出来ないだろう」

 

 

 

 話が纏まった所で、俺はそれぞれの尾獣達のイラストに目を移す。

 

 ……、六尾が欲しい。何だこの俺のツボに来る感じは、その、何だ…可愛い……。イブセと同じエッセンスを感じる、ヌメヌメしてるし…。六尾欲しい…六尾欲しい……。

 

 俺がスイーツな思考をしていると、扉間が声をかけた。

 

 「半蔵、何か希望はあるか?」

 「六尾が欲しい」

 

 俺は反射的に答えた。扉間と柱間殿が訝しげな表情で俺を見る。

 

 「六尾?それはまた何故だ?」

 

 どうしよう…、見た目が可愛いからとか恥ずかしくて言えない……。

 

 「ウチの地域に伝わっている、伝承の守り神と姿が似ているから、何と無くな」

 「なる程、それならば尾獣もひどい扱いを受ける事も無いだろう!!尾獣の事をそこまで考えてくれるとは、集めた甲斐があったな!!」

 

 苦しい言い分だったが、柱間殿が良い感じに締めてくれた。ともかく、俺は希望通りの尾獣を手に入れる事に成功した。可愛いけど凶暴だったら嫌だな……。一応、冊子には気さくな性格と書かれていたので信じよう。

 

 

 

 この極秘の話し合いからしばらくして、各里の長達が雨隠れに集結し、ついに第一回五影会談が開催された。

 

 話し合いはまず五大国だけで行われ、途中、風の国より出された他国への過分な要求

により、会談は少し荒れた様だが、あくまで平和を目指す柱間殿が大幅に譲歩し、最終的には

柱間殿の出した協定に同意するために次の様に話が纏まった。

 

 火の国・木の葉隠れの里 保有する尾獣は九尾、他の尾獣は金で買ってもらう。ただし既に尾獣を保有する風の国には、尾獣に加え火の国の領土を一部割譲する。

 

 風の国・砂隠れの里 保有する尾獣は元々持っていた一尾、火の国の領土を一部割譲してもらう。更に他の四大国から尾獣を購入した額の三割を支払ってもらう。

 

 土の国・岩隠れの里 保有する尾獣は四尾と五尾、火の国から買い取る。

 

 雷の国・雲隠れの里 保有する尾獣は二尾と八尾、火の国から買い取る。

 

 水の国・霧隠れの里 保有する尾獣は三尾、火の国から買い取る。

 

 更にその後行われた滝、雨、火の話し合いによって、

 

 滝の国・滝隠れの里 保有する尾獣は七尾、火の国から買い取る。

 

 雨の国・雨隠れの里 保有する尾獣は六尾、火の国から買い取る。

 

 という事になった。その後、柱間殿より各里に向けて尾獣をコントロールする有力な方法である、[人柱力]について説明があった。凶暴な性格の尾獣の場合、この方法によって抑え付けなければならないそうだ。

 

 五影会談は今後の忍界にとって、非常に重要な場となった。多くの危険性を孕みながらも、五影が一堂に会したという事実は間違い無く、後世へと残るだろう。

 

 

 

 

 ――新たな同盟のための密会――

 

 俺を含めて三人の男が、暗い部屋に集まっていた。

 

 一人は俺こと雨の国のトップ、半蔵。もう二人はそれぞれ、雷影のエー殿(代々、雷影が受け継いで行く名らしい)と水影の白蓮殿だ(護衛のチョビ髭の人の方が話し易そうだったから、あの人が良かったな)。

 

 「本日は急な呼び出しながら、集まって下さり感謝する」

 

 雷影殿が俺の方を見て、口を開く。

 

 「あんたが死雨の半蔵か。噂は聞いてるぜ」

 「噂?」

 

 俺が聞くと、水影殿も話に加わって来る。

 

 「今では忍界にその名を知らん者の方が少ないじゃろう。岩隠れの大部隊をたった一人で壊滅させた雨隠れの鬼、付いた名が[死雨]の半蔵」

 

 そんなに有名になってたのか…、恥ずいな。さっさと話を切り替えよう。

 

 「呼んだ理由は大体分かってくれてるだろう、木の葉包囲網についてだ」

 

 雨の国としては、大国との繋がりが欲しいだけなのだが、雷と水に取ってはこの言い方の方が気に入るだろう。実際、木の葉包囲網という言葉を聞いた瞬間、二人がピクリと反応するのが分かった。

 

 「火の国か……。ウチと水で挟み撃ちにしたってのに、ちっとも堪えてやしねえ……」

 「結局、国力の疲弊した我らが内乱にまで発展してしまった始末……、半蔵殿の支援のおかげで早くに終わらせる事が出来たがのう……」

 

 「そこまでの国力を誇って置きながら、同盟国であった雨の国には何の助けも寄越さない。あまりに横暴だ」

 

 良い感じの空気になって来たので、俺も燃料を投下して置く。

 

 「そうか、雨の国も裏切られたんだったな」

 「ああ、そもそも一人で大部隊と戦うハメになったのも、そのせいだしな」

 

 「そもそも忍界が現在の形になったのは火の国が発端じゃ、思えば始めから彼奴等が絶対の主導権を持つ様に仕組まれておったのかも知れんな」

 「火の国一強体制を崩す、その為の同盟という訳だな雨影殿」

 

 「その通り、この同盟は誰か一人欠けても火の国に対抗するのは難しい為、裏切りの心配も少ない」

 

 「同盟か…、それしか無さそうだな」

 「ワシもそれで構わんぞ」

 

 ここに雨、雷、水の三国同盟、俗に言う木の葉包囲網が完成した。俺も火の国と戦う事を覚悟しなくてはならないだろう。それが俺の、国を預かる者としての仕事だ。

 

 火の国との、木の葉との決別、悲しくない訳ではない。しかし俺はもう魚雨 半蔵では無く、雨の国の長、死雨の半蔵なのだ。

 

 忍の長に、なってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 



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ヌメヌメパラダイス

 ほのぼの話、犀犬の口調は色々な方言が適当にミックスされています。


 

 五影会談が終わり、しばらくした雨隠れの里では今、ある物が空前の大ブームを迎えていた。まさかの[尾獣]ブームである。話は少し前に遡る―――

 

 

 

 半蔵は六尾の封印された壺を見ながら、どうしようも無い衝動に駆られていた。

 

 開けてみたいのである。あのイラストで見た可愛らしい姿を、見てみたくてしょうが無いのだ。しかし尾獣とは未知の代物、人柱力の用意も出来ていないのに封印を解いて良い物か……、でも気さくな性格って書いてあったしなぁ~。

 

 できるだけ尾獣の待遇を良くするというのも一つの手かも知れない、里の外れの方に住処を用意して、そこで神様扱いをする。国の中で六尾に対する信仰の様な物が出来れば、六尾自身も悪い気はしないだろうし、いざというときは里の力になってくれる可能性もある。

 

 何より本物が見たい……、よし、やってみるか。

 

 「モミジ、伊蔵、角都さん、かくかくしかじかという訳なんだが、六尾と仲良くなりましょう作戦に協力してくれるか?」

 

 「ウチはええよ」

 「若が言うなら!!」

 「オレも人柱力ってのは気に入らねぇ、どうせ他と違うからなんて理由で迫害されるだろうからな……」

 

 皆賛成してくれる様だ。ただ角都さんが遠い目をして、悲しそうな顔をしていたのは気にかかった。昔、彼にも色々あったのだろう……。

 

 

 

 作業は急ピッチで進んだ。里からそう遠くない場所にある広大な森に巨大な社を建てて六尾の住処とし、更に里の中に様々な噂を流す。ここ最近、雨隠れが発展したのはすべて六尾のおかげという事にして、里の守り神の様な存在だと信仰を集めていったのだ。

 

 

 

 六尾を迎える準備が出来たので、ついに件の社で封印を解く事になった。友好関係を築くため供え物を大量に用意し、万が一暴れ出しても再び抑え付けるため、封印部隊も厳重に配置されている。そして、皆が固唾を呑んで見守る中、ついにオレは封印を解いた。

 

 ボフンッ!!

 

 謎の音と煙と共に、ついに六尾が姿を現した。

 

 おお、思ったより大きめだが他は想像していた通りだ。ぬるぬるの白い肌に六本の太めの尻尾、短い手足とナメクジ的な顔。

 

 「初めましてだな、尾獣の六尾で間違いないか?」

 「おう、オレやよ、六尾の犀犬ってんだ」

 

 図体に似合わず甲高い声で犀犬が答える。

 

 「長い間、閉じ込めてすまんかったな、犀犬殿を迎えるための準備をしていたんだ」

 「準備?てかここはどこなんじゃ、随分でかい建物みたいやけどよ」

 

 「そういやまだ言って無かったか、ここは雨隠れの里で俺は里長の半蔵と言う。それで準備と言うのは、この犀犬の屋敷の事だ。この屋敷の周りの森も自由に使ってくれて良い」

 「ふおっ!?この建物がオレのモンか!?」

 

 おっ、なかなか好感触だ。

 

 「ああ、その代わり里の者達がお祈りに来るから、適当に相手してやってくれ」

 「任せとき!その程度ならお安い御用やけん!!」

 

 「皆は里の守り神だと思ってるから、下手な事しないでくれよ?」

 「溶解液分泌させて遊ぶのは駄目かあ?」

 「アウトだ」

 

 「尾獣玉でお手玉するのは?」

 「完全にアウトだ」

 

 「体を四倍くらいの長さに伸ばすのは?」

 「それは俺が見てみたいからオーケーだ」

 

 尾獣は凶暴だと言うが、犀犬はなかなか話が分かる奴みたいだ。更に話を進めていく。

 

 「出来ればいざって時に里の力になって欲しい、他の尾獣に比べてここまで待遇が良いんだ。頼むぞ守り神サマ」

 「承知じゃけん、守り神の犀犬様の門出じゃ!!」

 

 「それと後もう一つ」

 「まだ何かあんのかあ?」

 「お腹触って良いか?」

 「何でじゃ!?」

 「柔らかそうだからだ」

 「理由になっとらんけん!!」 

 「断れば封印部隊にちょっとお仕事ができるなぁ~」 

 「悪い大人じゃ…悪い大人がおるけん……」

 

 こうして六尾の犀犬との出会いは素晴らしい物となった。(お腹は柔らかかった。枕にしたい……)

 

 

 

 ―― 一ヶ月後 ――

 

 犀犬に守り神をさせるのは失敗だったようだ。

 

 いや、暴れ出したりした訳では無いのだが…。犀犬も始めは真面目に守り神を演じていたのだが、途中で飽きたのだろう。いつの間にか祈りに来た人々の相談に乗ったり(恋愛相談もするらしい、何が嬉しくてあの謎生物に恋愛の話をするのだろうか?)、供え物の食べ物や酒を使って宴を開いたりする様になってしまった(たまにお金もねだりに来る)。

 

 やはりあの軽い性格では威厳もクソも無かったか、守り神サマって呼び方もあだ名みたいになってるし……。今ではすっかり皆に親しまれ、一種のブームが到来していた。犀犬グッズの売れ行きも好調らしい。

 

 今日も宴があるそうだ、里の者達の間で噂になっている。守り神作戦は失敗でも、ここまで里に馴染んでくれたんだったら、結果オーライだろう。俺も良い酒を持って、宴に行ってみるか……。

 

 宴には里中の人間が集まり、大盛況となっていた。中心でそれを眺める犀犬も心無しか、笑っている様な気がした。いつまでもこんな何気ない平和が続けば良いのだが…、そう上手くは行かないだろう。どんな手を使ってでも、この国を守る。俺は決意を新たにした。

 

 犀犬もそれに協力してくれるだろうか?いや、食ったメシ分は絶対に働かせてやる。俺はもう一つ決意を新たにした。

 

 

 

 

 

 

 ――おまけ 守り神サマに会いに行こう――

 

 

 金が、欲しい。

 

 突然で済まなかったな、オレは雨隠れの里の商人をやっている者だ。名前?そんなのどうでも良いだろう。

 

 発展著しい雨の国は、多くの成功者を生んでいる。火、土、風の三大国を行き来するための交通の要所、そこで一度商売が軌道に乗ると、それはもう恐ろしい程の金が懐に転がり込む事になる。かねてより心配されていた安全保障上の問題点も、半蔵様がその強さでもって何の心配も無い事を先の大戦で証明した。

 

 レインドリーム…、最近商人達の間で広まり出した言葉だ。惚れ惚れする響きだぜ。

 

 オレはレインドリームを追い求め雨隠れの里にやって来たものの、案の定鳴かず飛ばずで、背の低い建物に住むうだつの上がらない生活を送っていた。それでも食うに困る程では無いのが、雨の国の恐ろしい所ではあるのだが、通りを大手を振って歩く大商人達を見ると、やはり、心にこみ上げて来る物がある。

 

 金が、欲しい。莫大な資産と豊かな生活、同業者からの羨望の眼差し、憧れずにはいられない……!!それを掴むためにここへ来たのだから。

 

 一発逆転、新たな商売に挑戦しよう、狙いは服だ。戦争が終わった事で、服を着飾る様な贅沢も十分許されるムードが漂っている。これは来るぞ、布を大量に買い付けておこう。そして、どれだけ理論を積み重ねても最後は運が重要だ。これこそが今までオレに足りなかった物……!!

 

 運を味方につけるため、最近里の外れに出来た神社に行こう、何でも御神体が生きているそうだ。ていうか御神体が生きてるって、冷静に考えたらおかしいだろ、それ……。とにかく行ってみるか。

 

 

 

 「兄ちゃん、どうしたけん?見るからに不幸なチャクラ出とるよ?」

 「これが…、神……」

 

 オレは人生最大の衝撃を受けていた。明らかに人ならざる者が、当たり前の様に酒を樽で飲みながら、オレに話し掛けて来ているのだ。参拝客が社の中を見た瞬間、逃げ出していたのはこういう訳だったか……。

 

 「なんや悩んでるみたいね、酒でも飲みながら話そうや」

 「お、おう」

 

 正直、逃げ出したいが、オレには運が必要なのだ。この神から直接、幸運を得る…!!

 

 「実は商売が上手く行っていないんだ。何がなんでも、オレは金が欲しいってのに」

 「兄ちゃん、金は手段や。目的にしたらいかんよ」

 

 「手段?」

 「そうね、金は愛でも命ですらも買える事があるけんど、兄ちゃんは何が欲しいんか?目的が無い奴に運なんて回ってこんとね」

 「目的か……、そういえば使い道なんて考えてないな」

 

 「なら、いっちばん簡単なモン教えてやるけん」

 「?」

 

 「家族じゃ、愛する人を見つけて、そして家族の為に金を稼ぐ。オレは六道のとっちゃんに何もしてやれんかった……、兄ちゃんは同じ目に遭ってほしない、頑張って欲しいけん」

 「……オレ、少し勘違いしてたみたいだなあ……」

 「まだ若いんやから、これからや」

 

 「今日は、ありがとな守り神サマ」

 「こそばゆい、その呼び方止めて欲しいけん……」

 

 社を出たオレは、外の明かりと共に心も晴れて行く様な感覚を感じた。今日は良い事を聞いた。里へ戻るか、オレなりのレインドリームを探しに!!

 

 あっ、大量に買った布はどうしよう……。

 

 

 

 ―― 一ヶ月後 ――

 

 

 「さあ、買った買った!!最近、大人気の[守り神サマ]ぬいぐるみだ!!良い布つかってるぜ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 



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こんなにちっぽけな惑星の上

 第二次忍界大戦の展開も、オリジナルで考えさせて頂きます。


 

 大きな戦争の気配は、全くと言って良い程しなかった。

 

 国境での小競り合いや、任務先で他国の忍との戦闘になる事はあるのだが、それでも第一次

忍界大戦と比べれば拍子抜けする程度の物だ。

 

 雨隠れの忍は、アカデミーの方針もあって当たり外れが少ないので、依頼主から大国並の信用を貰える様になって来た。最近では、同盟国として友好を深めるため、雷の国や水の国と協力して任務に当たる事もある。

 

 雲隠れの情に厚い所と、霧隠れの忍らしく容赦がない所は、お互いにバランス良く、いい刺激になっているらしい。むしろ我が国の忍の方が能力が一定なので、よく機械の様だと言われて怖がられている。

 

 俺が必死に振興してきた傀儡も最近、流行り出して来た。ただ傀儡を製作できる者が少なく、何と俺が里一番の腕を持っているらしい。この状況は嬉しいと共に不味いので、たまに傀儡製作のセミナーを開催している。トップが直接教えてくれるという事で、毎回大盛況となっており、すぐに定員に達してしまう。

 

 この前も売りに出した太鼓腹と雨蜘蛛に、凄まじい値段が付いてしまった。made in 里長というのは一種のブランドになってしまった様だ。

 

 雨蜘蛛が売りに出された時に、[都市伝説の正体判明!!]という号外記事が出て騒ぎになったのは、また別のお話。

 

 

 

 俺が相変わらず地下室で傀儡をいじっていると、珍しく角都さんが降りて来た。角都さんがここに来るのは初めてなので、小一時間傀儡の素晴らしさについて語ろうとすると、先に角都さんが話し始めてしまった。くそっ、もう少しで角都さんも傀儡の事しか考えられない様にしてやれたのに……。

 

 「半蔵、経済成長はそろそろ限界だ。これ以上は海が無いと難しい」

 

 ついに来たか、前から気にしていた事だ。海が無い事によって、何もかもが制限されてしまう。商業はもちろん、雷と水との同盟も港無しでは最大限の効果を発揮しない。薄々勘づいていたが、港の確保は雨の国の当面の軍事目標なのだ。

 

 港を得る手段について整理しよう。まずは北の滝の国を侵略する方針、これは雷の国と共同で当たればそう難しく無いが、それは有り得ない。何故かと言うと滝の国は既に木の葉包囲網に入ってしまったのだ。五影会談の後、忍界は強大過ぎる火の国を包囲して行く方針になった。

 

 滝の国にも交渉が行われ、雨の国と同じく、火の国から直接的な支援を受けられなかった滝の国も、火の国に対する不満を持っていたため、交渉は円滑に進んだ。

 

 滝の国には、制限付きで港の使用を許可してもらったが、やはりそれでは雨の国の商人達が納得しない。

 

 すると残された道は、南の火の国と風の国の国境の地域。風の国が火の国から領土を貰った辺りだ。長らく所有者の無い空白となっていた地域のため、住民達もどこかの国の人間だとはっきりとした意識を持っている訳ではない、獲るには恰好の地域だ。

 

 

 「半蔵、南の港を獲ろうとしているんだろうが、それを火影が許しはしないぞ」

 「柱間殿か……、柱間殿はマダラ殿との戦いで大きな傷を負い、また親友を殺めた事で意気消沈していると聞いたが?」

 「その上、最近孫が出来て、思い残す事が無いとまで言っているらしい。しかし、それでも強大な力を持っているのは確かだ。さっさと往生して貰うまで準備するしか無いな……」

 

 こうして、雷の国と水の国と相談しつつ、港を奪取する機会を虎視眈々と窺うという、長期間に渡る計画が始まった。大国からしたら卑怯と言われても仕方が無いが、小国である雨の国は、なり振り構ってはいられないのだ。扉間には悪いが南は貰う。

 

 

 

 

 

  ―― 十年後 ――

 

 

 各国は平和を謳歌していた。かつての里のトップ達は俺以外は既に引退して、世代交代が始まっている。しかし、平和とは表向きの話、戦争が無いというだけであって、元匠の国の忍具等の鉄器産業のおかげで何とかなっているが、海の無い雨の国は緩やかだが確実に衰退を始めている。五年前、火の国との制海権を巡る争いに負けた雷の国と水の国もそれは同じで、戦わずして火の国とその他の国との軍事、経済、あらゆる分野での格差は広がって行くばかりであった。最近では海を使うのに雨の国も、莫大な通行料を取られている。

 

 最大の国力を持つ事によって、火の国は傲慢な振る舞いが増えて来ていた。

 

 風の国は第一回五影会談で得た領土を、膨大な対外債務のかたとして要求され、手放す事になった。

 

 土の国も以前から検討されていた所に火の国からの圧力もあり、最短ルートである神無毘橋を造ったものの、そこから流れ込んで来る安価で質の高い製品によって、国内の産業が壊滅しているらしい。

 

 制海権を取られ、航海を制限されている雷と水も、国民達の不満がピークに達している。陸で繋がる雷はともかく、海に孤立した水はより悲惨な状況だ。水の国からは再三、戦争の要請が来ている。

 

 誰もが口にはしたがらなかったが、火の国の国民達を除いて皆気付いていた。戦争しかないと、自分達がこの先、火の国の属国に落ちるのを食い止めるには、[奪う]しか無いのだと……。

 

 火の国包囲網は既に水面下で全世界に広がっていた。

 

 

 

 

 

 きっかけは突然、訪れる。木の葉の里でまたもや暴れ出した九尾を封印するために、柱間殿が犠牲となったそうだ。柱間殿は既に全盛期の力が出せず、九尾と相打ちになってしまった。

 

 偉大な忍の死に、敵である筈の各国が少なからず衝撃を受ける!!……事は無かった。

 

 この時を待っていたのだ。かねてより周到に準備を重ねて来た各国は、全世界に及んだ包囲網でついに最強の国を絡め取る。

 

 超大国とそれ以外と言う世界の、不条理と不均衡に対する鬱憤。輝きを強める火の国に対して出来た、各国に落ちる暗い影。抑止力と成り得なかった不安定な尾獣達。

 

 戦争の原因、言葉はいくらでもある。しかし、敢えて一言で言わせて貰う。

 

 

 

 

  [弱者達は、もう、限界だった]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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忍界決壊、新たな戦い

 ヤバイ、そろそろ書き溜め分の最新話に追いつかれてしまう……!!
 作者に毎日投稿など無理だったと言うのか……!!


 

 

 作戦がいよいよ始まろうとしていた。火の国を除く全世界が、第一の作戦を固唾を呑んで見守っていた。

 

 第一の作戦、雷の国による火影暗殺。航海の制限を無くす代わりに同盟を結ぶという、嘘の情報で火影を釣り出し殺害する。そして火影暗殺による混乱に乗じて、各地で第二の作戦を電撃的に行う。

 

 どうして共に歩めなかったのだろうな……扉間、さすがに少しやり過ぎだ。俺は国を預かる者としてこれ以上、国民に負担を強いる訳には行かないのだ。この戦争、勝たせてもらう……!!

 

 

 

 

 

 ――雷の国 火影暗殺作戦――

 

 

 雷の国では長年の悲願が果たされようとしていた。このワシ、カタイ(後の三代目雷影)は火影殺害の大役を任されている。千手 柱間程では無いにしても、弟の扉間も凄まじい実力者。ワシと金閣と銀閣という雲隠れ最強の布陣で望むのが、やはり得策だろう。

 

 扉間を殺した後は、各国で協力して火の国の力を削り取っていく手筈になっている。そうまでしないと、火の国とは互角の戦いにすらならない。これは国の未来を賭けた戦いなのだ。里の子供達の代まで、この国力の不均衡を持ち込ませる訳にはいかん!!

 

 ワシ達の作戦の成否によって、戦争の状況が変わる。暗殺、騙し討ちと言えば聞こえは悪いが、木の葉包囲網全ての国の期待を一身に背負っているのだ。失敗は許されない。

 

 「金閣、銀閣、準備は出来ているか?」

 「こっちのセリフだ。オッサンの方が心配だぜ」

 「オッサンという歳じゃないと言っとるだろうが!!」 

 「あんま怒ると皺が増えるぞ、オッサン」

 

 こいつらは金閣と銀閣、ワシと同等クラスの実力者で、性格に多少の難があり里の嫌われ者だが、背に腹はかえられん。火影を殺すにはこいつらの忍具と九尾の力が必要だ。

 

 待っていろ、千手 扉間!!窮鼠猫を噛む、いずれ火の国に滅ぼされるであろう国々の、決死の反抗じゃ!!

 

 

 

 

 陰謀渦巻く雲隠れの里、そこについに火の国の一行が辿り着く。この日、火影暗殺作戦は成功に終わった。完全な合理主義者である扉間は、損得を無視した他国の意思を見抜く事が出来なかった。しかし木の葉にも希望が一つ、扉間の遺した最後の言葉によって、新たな火影を迅速に選び出す事が出来たのだ。

 

 火影暗殺成功の知らせと共に、各国はかねてよりの計画を世界中で同時に開始する。

 

 火の国一強となった忍界の、積もりに積もった不満を清算する戦争。第二次忍界大戦の幕開けである。

 

 

 

 

 

 ――木の葉隠れの里 猿飛 ヒルゼン――

 

 何という事だ!!

 

 永久に続く物だと思っていた平和が、こうもあっけ無く崩れ去るとは……。扉間様が敵を食い止めて下さったお陰で、何とか生きて里へ戻る事が出来たが、恐らくもう、扉間様の命は……。

 

 「皆、扉間様の遺言だが、オレが火影で本当に良いのか……?」

 

 共に命からがら木の葉まで逃げ切ったダンゾウ、ホムラ、コハル、カガミ、トリフの面々を見渡す。すると突然ダンゾウが激怒した。

 

 「扉間様がお前が火影だって言ったんだから、そうに決まってるだろうが!!お前がウジウジしてたら、火影の椅子争って里で内乱が起こっちまうぞ!!クソが!!」

 

 ダンゾウの機嫌がいつに増して悪い。それはオレの質問のせいだろう、扉間様に任せられたと言うのに、まだ火影になる覚悟が出来ていなかったのだ。ダンゾウが怒るのも仕方が無い。

 

 「ダンゾウの言う通りだ、お前が火影をやれ。既に忍界は戦争状態に入ったと見て良いだろう。早くお前の元に里をまとめなければ、初代様と二代目様が作り上げたこの国が危険に晒される事となる」

 

 ホムラが言う、他の皆も同意してくれている様だ。ダンゾウはまだ怒りが収まらない様で、こちらを睨み付けている。

 

 そうだ、オレがやらなくてはならないのだ。初代様が、二代目様が、皆が築き上げて来たこの国を、里を守る。

 

 猿飛一族当主 猿飛 ヒルゼン

 

 オレが

 

 

       

        三代目火影だ―――

 

 

 

 

 初代火影 千手 柱間が初めて火影となってから、実に三十二回目の春、ここに三代目火影が誕生した。そして就任早々、火の国が各国の集中攻撃を受けた二回目の大戦争に、否応なく飲み込まれて行く事となる。

 

 

 

 

 ――南の海上――

 

 

 海上に突如発生した霧に紛れて進む船団の船首に、怪しい恰好の男が立っていた。

 

 「ま~さか水影自ら出向くたあ、火の国も考えてねえだろうなあ!!」

 「水影様、半蔵殿は信頼できる方なんですか?」

 「半蔵殿か、昔五影会談で見たな。そん時オレはまだ下っ端だったけどよ」

 

 「どんな方だったんですか?」

 「そうさなあ」

 

 男は少し間を置いて答える。

 

 「真面目に見せかけて、内側はオレと同じ様なもんだろうな、半蔵殿は」

 「貴方みたいなのが増えたら、私はどうすれば良いんですか……、水影様」

 

 「ああっ?どういう意味だそれ!!」

 「実力は信頼してますよ、実力は」

 「お前なあ~!!」

 

 「お喋りはここまでです。そろそろ陸が見えて来ますよ」

 「おっ、そうか。そんじゃ改めて

 

        

   水、雨、風連合軍

    火の国南海岸制圧作戦、開始だ!!」――  

 

 

 

 ――土の国――

 

 

 「オオノキ、火の国進行部隊はお前に任せるぞ…。神無毘橋を使った正面突破だ。」 

 「はっ!!しかし、無様はどちらへ?」

 「オレは雨の国へ行き、雨の国と共同して裏を掻く部隊を指揮する」

 「何を言っておられるのですか!?雨の国はかつての敵です、信用してはいけませぬ!!」

 「こちらを信用していないのは雨の国も同じだ…。オレは同盟国として信頼して貰うための人質としての役割も果たす。仮にオレが裏切られて死んだらお前が土影だぞ、オオノキ……」

 「そこまで考えておられるなら……」

 

 

 

 ――風の国――

 

 

 ついにこの機会が回って来たか!!我が国は先の大戦から常に厳しい状況に置かれて来た。せっかく得た火の国の領土も、膨れ上がる債務の返済のため、再び火の国に持っていかれてしまった。

 

 状況は悪くなるばかりで、風影への不信任による解任が既に二度繰り返され、オレは三代目になる。オレの代でこの負の循環を終わらせなくてはならない。

 

 かつての敵である雨と土の国と手を組んででも、火の国の領土を狙って行く。まず初めに雨と水と共同で、火の国の南の海岸を制圧する!!

 

 「チヨ様、南海岸侵攻部隊の指揮をお願いします」

 「それは分かったが、お前はどうするつもりなのじゃ?」

 「オレは里に残らなくてはいけません、砂隠れは風影が何度も代わった事もあり、里が纏まり切っていません。オレは里にいておかなくては…」

 「そうか……、ここまで追い詰められたのはワシらの代の責任じゃ…、すまん」

 「お任せください、チヨ様。風の国はこれが一世一代の大勝負です。チヨ様も部隊を頼みます」

 「分かっておる、勝たなくてはならぬ。あの子のためにものう……」

 

 

 

 

 忍界に再び訪れた大戦争に向けて、各国の思いが交差する。

 

 

 

 

 

 

 ――木の葉へ還る者――

 

 

 辺りが暗い、ここはどこだ。

 

 オレの名前は何だった?重い体を何とか動かし周りを見渡すと、暗黒の世界に明かりの差し込む窓の様な物が見える。

 

 不思議に思っていると、いつの間にか窓の傍まで来てしまっていた。窓を覗き込む。

 

 誰かが必死に逃げているのが空から見える。誰か?オレは何を言っているんだ。何度も見た顔だ、あれはヒルゼン、ダンゾウ、ホムラ、コハル、カガミ、トリフだ。

 

 そうだオレは千手 扉間、二代目火影だ。オレはこいつらを逃がすために雲隠れの追っ手と戦って……、そうか……オレは死んだのか……。

 

 雷の国が裏切るとはな、我が国と組んだ方が絶対に奴らのためになったはず……、馬鹿ばかりだな……。という事は雷の国と同盟を結ぶ雨の国も裏切ったのだろう。

 

 半蔵も、友も裏切ったのだ……。

 

 ふふっ、兄者には他人の心が分かっていないなどと言っていたが、本当に分かっていなかったのは……、オレだったのかもな……。

 

 

 

 短い、人生だった。オレのこの人生は満足の行く物だったか?

 

 兄者には迷惑を掛けられてばかりだったな。馬鹿で、お人好しで、それなのに強い、オレはそんな兄者が大嫌いだった。

 

 ……いや、もう誰にも聞かれる事は無いのだから、取り繕う必要など無いか。嫌いではないのだ、本当は、オレはただ、羨ましかったのだ。馬鹿で、お人好しで、それなのに強い、そんな兄者は

 

 

 

  

 

  

 

   兄者は、オレの憧れだった……。

 

 

 

 

 マダラは結局、オレを許してはくれなかったな。

 ヒルゼンに、里の忍達に教えたい事がまだ山程ある。

 半蔵と酒を酌み交わした夜、懐かしくて仕方が無い。

 

 オレの人生はやはり、後悔ばかりだ。

 

 いや、人ならば誰もがそうか……。

 

 再び窓に目を落とす、するとヒルゼン達の表情は、オレとは反対に生きて戻るという決意に満ち溢れていた。

 

 火の意志を、確かに受け取ってくれた様だ。それだけでオレの人生も救い様があるという物だ。

 

 帰ろう。

 

 兄者が、先に逝った皆が待つ木の葉へ

 

 

 

 

 

 オレが、愛した里へ。

 

 

 

 

 



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そこの醤油取ってくれ

 少し先まで書き溜めてあるのですが、何だか出来が微妙です……。
 あまり期待し過ぎず、お待ち下さい。

 


  

 

 ――雨隠れ 忍者アカデミーのとある一幕――

 

 

 「お~い、お前らあ!!」

 

 最上級生が卒業を間近に控えたこの時期、一人の少年が部屋に駆け込んで来た。中で寛いでいた僕と一人の少女は、はしゃぐ友人の姿を見て首をかしげる。

 

 「どうしたの?そんなに慌てて」

 「始まったんだよ!!戦争が!!」

 「ええっ!?もうそろそろ卒業だって言うこの時期に限ってそんな……」

 

 卒業したらすぐに戦場に行かなくてはならないとは、不運にも程がある。

 

 「何だよ、戦いこそ忍の本懐だぜ?ビビってんのかよ」

 「そりゃ怖いよ。君はどうなの?」

 

 「怖くねえよ!!むしろ誇らしい気分だ、何たって半蔵様の下で戦えるんだぜ?」

 「また君は半蔵様の事ばっかり……、君の誘いに乗って忍者になろうとしたのは間違いだったかな……」

 

 僕が恨みがましいといった風に友人を睨むと、隣の少女も話に入って来る。

 

 「もうホントにそうよ!!三人でずっと商店のおじさんの所で働いてたら良かったのに」

 

 「お前らなあ……、オレ達みたいな孤児があんな風にちゃんと働き口があって、まともな暮らしが出来るなんて雨の国だけだ。そしてそれは全部、半蔵様のおかげなんだから、忍になって半蔵様に少しでも恩を返すのが当たり前だろうが」

 「うっ、確かにそうかも知れないけど……」

 

 そう、元々働いていた商店を辞めてアカデミーに入ったのは、小国である雨の国をここまで豊かにした半蔵様の役に立ちたかったからだ。その気持ちは三人とも同じだ。

 

 「ともかく、こうしちゃいられねえ!!戦争に向けて三人で修行だ!!行くぞ長門、小南!!」

 「ああっ、待ってよ弥彦。……行っちゃった」

 「どうせいつもの場所でしょ、追いかけるわよ」

 

 雨の国の人々は半蔵に絶対の信頼を置いている。半蔵が未だに引退出来ないのは、こう言った理由があった。

 

 

 

 

 ――木の葉隠れの里 火影室――

 

  

 「火影様!!水、風、雨の連合軍が火の国南海岸に攻勢を仕掛けて来ています!!戦況は劣勢で、南海岸は次々と占領されています!!本格的な防衛線を構築するまでに、どれだけ押し込まれるか……」

 「火影様!!土、雨、滝連合軍が神無毘橋方面から正面突破を仕掛けて来ています!!こちらもやや劣勢といった所です!!」

 「火影様!!雷、水連合軍との北の戦線は、依然互角の戦いが続いています!!」

 

 火影室には引っ切り無しに戦況が伝えられていた。まさかここまで各国から恨みを買っていたとは……、二代目様はオレに知らせず裏でどんな事をしていたのだ?

 それにしてもこの状況でもある程度戦えている事から、改めて自国の強さを思い知らされている。劣勢の戦況にも、まだまだ増援を送る余裕が十分にあった。

 

 当面の心配事といえば、教え子達が明日から戦場に向かう事だ。いくつか伝えておかなくてはな……。

 

 

 

 「来たか自来也、綱手、大蛇丸」

 「おう、先生。何か言いたい事があるらしいな?」

 

 火影室に入って来たのは、オレの教え子達。全員、天才と言っていい才能を持つ、火の意志を継ぐ者達、だからこそ伝えておかなくてはならない。

 

 「ああ、お主らは強くなった。それでも忍の中には今のお主らでは、到底敵わぬ相手もおる。戦場で出会うかも知れない、注意するべき忍を教えておく―――」

 

 

 ――最前線――

 

 

 「何だこいつは、でかくなってる!?」

 「また幻術なのか!?」

 

 「おっと~、気を付けた方が良いぜ。そいつぁ幻術じゃねえ」

 

 劣勢でも必死に奮戦する木の葉の忍達に、丸く膨れ上がる人型の物体が接近する。

 

 「ぼっか~ん」

 

 その男の気の抜けた掛け声と共に、人型の物体が大爆発を起こした。

 

 「ぐああああぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 蜃気楼の爆弾魔 二代目水影 鬼灯 幻月―――

 

 

 

 「婆さん、一人で良いのか?」

 「こっちは五人だぜ、へっへっへ」

 

 「構わんよ?」

 

 おおよそ戦いの場にふさわしいと思えない老婆が、巻物を開封する。お馴染みの音と煙を纏って、それは現れた。  

 

 「これで十対五じゃ」

 「なっ!?」

 

 

 

 砂隠れの傀儡使い[白秘技]初代操演者 チヨ―――

 

 

 

 「やはり、コソコソと鼠が入り込んでいたな?」

 

 本陣に入り込んだ木の葉のスパイの目の前に、全身に包帯を纏った男が現れる。

 

 「なっ!?今どこから現れた!?」

 「塵遁 限界剥離の術」

 

 スパイは男が放った術により、声を出す間も無く塵と化した。

 

 

 

 無人 二代目土影 無―――

 

 

 

 「ふんぬああああぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 「こ、こいつ攻撃が効かねえ!!それにっ、速っ!!」

 

 ドス、と鈍い音を立てて木の葉の忍の体が貫かれる。その男に既に百人以上殺されているが、男には掠り傷一つ付いていない。

 

 

 

 雲隠れ最高戦力 次期雷影 死なずのカタイ―――

 

 

 

 「誰か~、そこの醤油取ってくれ」

 「ほいっ」

 「ありがとな、未婚おばさん」

 「あ~!!それ言うたらあかんて、何回も言うとるやろ!!半蔵サマこそどうなんや?」

 「オレに子供がいたら、里長の後継者争いがややこしくなるだろうが」

 「この童貞!!」

 「どっ!!どどどどどっ!!童貞ちゃうわっ!!」

 「動揺し過ぎやろ……」

 

 「ゲェフ」

 「うおっ、イブセ。お前のゲップ毒含んでるんだから気を付けろよ?」

 

 「ああっ、伊蔵のオッサンがイブセのゲップで泡吹いて倒れてもた!!」

 「伊蔵~~~!!死ぬな~~~!!」

 「わ、若。ワシは本望ですぞ……」

 「ゲップ死だぞ!?ゲップ死が本望なのか!?」

 

 「やかましい……、こんな事なら前線で心臓を集めていれば良かった……」

 

 

 

 雨隠れ最高戦力 傀儡職人 里長 ぬめぬめ&ロボ好き毒吐き鎖鎌ガスマスクマン 死雨の半蔵――

 

 

 

 

 

 

 



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このくそったれの世界で人として

第二次忍界大戦は、展開が難しいです。少し雑になってしまったかも。


 

 戦況を整理しよう。

 

 雷の国での火影暗殺と共に、各国は火の国に宣戦布告。雷の国はそのまま報復に来た火の国と戦争に突入した。そしてその戦線に水の国も雷側で参戦。

 

 先の大戦では雷、水の二カ国で掛かってもびくともしなかった火の国だが、今回は違う。火の国は別の戦線を抱えており、戦力を集中出来ない。

 

 まず水、風、雨が共同で火の国南海岸に攻撃を仕掛けて来ている。裏を掻かれた火の国は既にかなりの領土を失陥してしまっていた。南海岸のほとんどを獲られた今になってやっと、防衛線が完成し、互角の睨み合いになっているが、既に南の戦略目標は達成されてしまった形だ。

 

 次に土、滝、雨連合軍による神無毘橋方面からの正面突破作戦。土の国の経済を脅かしたこの橋が、今度は逆に火の国の脅威となっている。火の国は何とか持ち堪えているが、元々火の国の戦力を分散させるための意味合いが大きい戦いで、そういう意味ではこちらも戦略目標を達成されていると言える。

 

 これだけの複数の戦線を抱えて、まともに戦って行けるのが火の国の圧倒的国力であり、皮肉な事にその強大な力が今回の戦争の原因でもある。

 

 

 

 ―雨隠れの里会議室

 (神無毘橋方面軍及び南海岸方面軍統合指令室)―

 

  

 会議室は気まずい空気が流れていた。

 

 「何でテメエがここに居るんだよ、無!!」

 「幻月、貴様こそ何故本国からここまで離れた所にいる」

 「顔も見たくない二人と同時に会うとはのう……」

 

 雨隠れに滞在している水影殿と土影殿とチヨ殿という指揮官の御三方の仲が、めっちゃ悪いのだ。恐るべし即席連合軍……。ともかく俺が仲介しなくては。

 

 「三人共落ち着け、今はお互い同盟国だろう」  

 

 「っ!!」

 「半蔵殿……」

 

 思った以上に黙ってしまった。やはり俺の名は第一次忍界大戦の戦いぶりから、かなり売れている様だ。しかし女は強い、チヨ殿だけが構わず話し続ける。

 

 「半蔵、お主に聞きたい事があったのじゃ。雨隠れの忍が使っているあのダサい傀儡は何じゃ?」

 「ダサいだと!?」

 「何じゃ、その様子じゃとお主の作品か。安心しろ、ダサいが性能は評価しておる。むしろ傀儡使いの力量が足りず、お主の作品の性能を発揮し切れていない程じゃった」

 

 「チヨ殿…、やはり分かっているな!!そうだ、俺の作品は素晴らしいだろう!!」

 「ダサいがな」

 「ぐっ、駄目だ。女は機械的な武骨さの良さが分かっていない……」

 

 その後も傀儡談義に花を咲かせていると、土影殿が話を変える。

 

 「半蔵殿、火の国はどこで折れると思う?」

 「最後に大攻勢を仕掛けて来て、それを凌ぎ切られたら、交渉のテーブルに着かざるを得ないだろう。その時は南海岸、神無毘橋を越えた辺りの土地、雷の国方面の一部の土地、それらは俺達連合軍の物だ。そこまで貰っても、まだ火の国が少し他国より強いがな……」

 

 「火の国の反抗の成否次第で落とし所を決めなくてはな…、欲を出して長続きさせると、かつての雷と水の様に内乱になる」

 

 「後は火影殿の性格次第か、一度会った事はあるが詳しい人柄までは知らん」

 「どこで会ったのだ?」

 「ラーメン屋」

 「どういう状況だ……」

 

 「ともかくいずれ、火の国はどこかの戦線で一点突破の大攻勢を仕掛けてくる。それと同時に、攻勢を受ける戦線以外の二つの戦線が攻勢を強めれば、戦力は再び分散せざるを得なくなる。強大な力を持つ火の国と交渉まで持って行くには、三つの戦線を保ち、そしてその戦力のバランスをコントロールして行かなくてはならない。こちらも楽な戦いにはならんな……」

 

 

 

 ――数カ月後――

 

 戦線の動きが停滞していた頃、ついに火の国の大攻勢が始まる。攻勢を掛けられたのは水、風、雨が守る南海岸戦線。しかし、連合軍にとって最悪のタイミングであった。

 

 連合の一角を担う砂隠れの忍達が数日前、戦線を離脱したのだ。

 

 原因は砂隠れの里に居たはずの三代目風影が突如、行方不明となった事。幼き頃より難易度の高い任務を易々と達成し、その磁遁の血継限界で歴代最強と謳われた三代目風影の失踪は、砂隠れの忍達に里で何か起こっているのでは?と不安を抱かせ、一旦戦線を離脱するには十分な理由であった。

 

 しかし俺が最後に見たチヨ殿は、何か別の事に動揺している様だった。孫がどうとか言っていたが…、何があったのだろうか?

 

 悪い要素がもう一つ、南海岸戦線が安定したのを見て、土影殿と水影殿がそれぞれ神無毘橋方面と雷の国方面へ移動してしまったのだ。

 

 もう二つの戦線が攻勢を強めるまで、一つの戦線はある程度持ち堪える手筈だったが、これは非常にマズい。何より今、前線で指揮を執る伊蔵が心配だ。居ても立ってもいられず俺は会議室を飛び出そうとすると、角都さんに引き止められた。

 

 「総大将が前線へ行ってどうする。その隙に火の国は雨の国本国も狙って来るかも知れないんだぞ?」

 「だが……」

 「安心しろ、オレが出る。間に合うかは分からないがな」

 「角都さん……、分かった。任せたぞ」

 「確かに任された、里長殿」

 

 そう言って角都さんは出て行ったが、それでも退却戦は多数の被害を覚悟しなくてはならないだろう。当然、近しい人々の死も……。

 

 

 

 ――視点 魚雨 伊蔵――

 

 

 「伊蔵様……、これではもう……!!」

 

 押し寄せる火の国の大攻勢を受けて不安げに話し掛けて来るのは、最近この戦線に配属されて来た長門、まだアカデミーを卒業したばかりだが、幼き頃の若を彷彿とさせる才能に溢れた忍だ。

 

 「うむ、南海岸の占領を維持し続けるのは、もう難しいだろう」

 「それではすぐに撤退して、防衛線を下げましょう!!」

 

 長門が捲し立てる。確かにこの状況では退却して態勢を立て直さなくては、下手すれば全軍が総崩れとなってしまう。だが誰もが分かっていて、敢えて言わない事がある。

 

 誰かが殿軍を務めなくては、退却は難しいという事だ。

 

 殿とは即ち、死。誰かが死ななくては逃げ切れない。

 

 「伊蔵様、殿なら僕が…、弥彦や小南に比べたら元々、忍なんか向いていないし……」

 「ならぬ……!!」

 「!?」

 

 時が、来たのかも知れんな。

 

 「これからの時代を担う若き忍達のために、死んでゆく……。何という誉れよ!!皆の者、静聴!!殿は当然ワシが務める!!」

 

 元よりワシは第一次忍界大戦より前から戦い続け、既に老いた身。何の未練も無い!!

 

 「伊蔵、ワシも行こう」

 「ワシもだ」

 

 ワシに続いて、長きを共に過ごした顔見知り達も志願して来た。霧隠れの忍の中からも高齢の者を中心に志願してくる。

 

 全ては若き芽を次代に残すため、命を賭けた退却戦が始まった―――

 

 

 

 魚雨 伊蔵は追撃する木の葉の大軍と戦いながら、自身の生涯を思う。

 

 大陸中央、魚雨一族の分家に生まれ、分家は宗家のために死ぬ、そう教えられて育った。

 

 しかし主君には恵まれていた、宗家の当主魚雨 十蔵、笑顔の似合う男だ。十蔵は自分のために死ぬ事は無い、何に殉じるかは自分で決めろと言ってくれた。ワシはその人柄を愛し、かえってこの人のために死のうと思った。

 

 木の葉の忍の投げたクナイが体中に刺さる。

 

 結局十蔵はもう隠居し、それは叶わなかったがな。次の主君は十蔵の息子、半蔵。控えめに言って天才だった。顔付きも性格も十蔵に良く似て、十蔵のために死ぬと誓った若き日を思い出した程だ。

 

 増える傷をものともせず、木の葉の忍達に今まで何千回と繰り返して来た水遁を放つ。

 

 若は初陣で七草一族を壊滅させ、大陸中央に小さな国を創った。雨の国、ワシにやっと出来た祖国。年老いてゆく体に新たな目的が生まれた。若のこの国を守ろう、そう思った。

 

 豊かになって行く国と、立派に成長して行く若。宗家のために死ぬだけだった命、分家は宗家のただの道具、十蔵と若のこの国がそんなワシを人にしてくれた。

 

 木の葉の忍の刀が、ついに体に致命傷を与える。傷口から血が噴き出す、ここまでか……、もう若者達は逃げ切ってくれただろうか。

 

 ワシの名など、後世には残らないだろう。しかし、悔いなど無い。ワシは自分の意思で逝けるから、雨隠れの忍として逝けるから……。

 

 

 

 

 ――「伊蔵!!オレのために死ぬなんて駄目だ!!お前は誰かに言われるんじゃ無く、自分で死に場所を見つけろ!!」

 「しかし十蔵様、私は分家の人間です。宗家の十蔵様のために死ぬのが私の役目です」

 「うるせえ!!」

 「!?」

 

 

 

 「これは命令だ、伊蔵。誰にも縛られず、お前がお前で決めた死に場所で死ななかったら、オレが殺してやるからな!!」

 

 「……っ!!承知、致しました……」――

 

 

 

 雨降る大地に燃える魂。

 

 心を捧げた魚雨家二代。

 

 戦い続けた生涯の中、手に入れた物は[人]としての死に様。

 

 殺し殺され忍の世界、これ程まで満たされながら逝った者が、どれだけいただろうか。

 

 

 

   魚雨 伊蔵 死亡

 

 

 



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生きねば

 少しだけ原作のイベントに絡めておきます。


 ――視点 弥彦――

 

 

 くそっ、さすが火の国だ!!やりやがるな!!

 

 水、雨の連合軍は火の国の全力の攻勢の前に、一旦の撤退を余儀なくされた。かく言うオレも雨隠れの部隊の一員として、指示された防衛線まで全力で撤退している所だ。

 

 遠くに走る顔見知り達の姿が見えた。走りながら声を掛ける。

 

 「長門、小南!!無事だったか!!」

 「弥彦!!小南とは合流出来たんだけど、弥彦も無事だったんだね!!」

 

 オレとは別の部隊に配置されていた長門と小南だ。二人共、特に長門は最前線に近かったから心配していたが、無事だった様だ。

 

 「長門、お前あんな前線から、よく逃げられたな!!」

 「……、伊蔵様達が殿を引き受けてくれたんだ……」

 

 「何だと!?殿って事は……!!」

 「うん、死ぬ気だろうね……」

 「お前見捨てて逃げて来たのかよ!!」

 

 オレが詰め寄ると、今まで黙っていた小南が叫んだ。

 

 「弥彦!!この馬鹿!!」

 「小南!?」

 

 「私達若い忍を逃がすために、伊蔵様は殿を引き受けてくれたのよ!!あんたはその意志が、覚悟が分からないの!?」

 

 「っ……!!そうだよな…すまねえ長門……」

 「別に怒ってないよ、そういうのが弥彦の良い所だし」

 

 そうか伊蔵様が…この戦争、益々勝たなくちゃならねえ!!

 

 話しながらしばらく逃げていると、どこかから悲鳴が上がった。

 

 やはりあちらは大軍、殿の数十人だけでは食い止め切れず、漏らしてしまった敵が迫って来ている様だ。それに今の悲鳴はそう遠く無かった!!という事はオレ達の近くにも!!

 

 その時、森の陰から強力な火遁がオレ達を襲った―――

 

 

 

 

 

 ―――くっ、目の前が暗いし、体も重てえ……!!

 

 一体どうなった!?次第に視界が明るくなって行く。どうやら炎は回避出来たが、その時に木の幹に体を打ちつけてしまった様だ。

 

 いや、そんな事はどうでも良い。今オレはその木の幹にもたれ掛かり、木の葉の忍から刀の切っ先を向けられている所だった。

 

 「まだ子供ですよ!?本当に殺すんですか!?」

 「ダン、お前は黙っておけ、今はオレが部隊長だ。」

 

 数人の木の葉の忍が話し込んでいる。しかし部隊長と自分で言った男は、オレを生かす気は無いという事はその目を見れば分かった。

 

 「んっ?目が覚めたか。悪いなボウズこれは戦争だ。子供だからと言って、忍として戦場へ出て来た者を生かしておく訳にはいかない」

 

 オレは…死ぬのか?まだ何も成し遂げられていないのに……。誰か…、誰か助――

 

 

 

 

 「弥彦おおおおぉぉぉぉ!!!!」

 

 

 

 

 聞き慣れた声がした瞬間、オレに刀を突き付けていた男の体が吹き飛んだ。

 

 あれは……長門!?生きてたのか!!くそっ、また意識が遠のいて行く……!!オレが最後に見たのは、今まで見た事も無い様な術で、木の葉の忍達を蹴散らす親友の姿だった。

 

 

 

 

 ――視点 角都。じゃなかった角都さん――

 

 

 前線に辿り着いたオレは、敵に支援放火を浴びせながら撤退を完了させ、防衛線を下げる事に成功した。

 

 これで他二つの戦線が攻勢を強めるまで、何とか持ち堪える事が出来るだろう。やっと一息つけると言った所だろうか。

 

 しかしその時、感知部隊から報告があった。

 

 森の奥に逃げ遅れた忍がいる……、しかも膨大なチャクラを出しながら戦闘をしている様だ。

 

 前までのオレなら見捨てる所だが……ハア、そうだよな。半蔵はオレに殿のオッサン達以外を、全員生きて逃がす事を任せたのだ。死なせる訳にはいかない。

 

 よし、行くか。

 

 

 

  

 それは異常な光景だった。オレが現場で見た物は、雨隠れの額当てを付けた赤髪のガキが、見た事も無い術で木の葉の忍達を蹴散らす姿だった。それにあのガキの目…、あれは……!!

 

 「輪廻眼……!!」

 

 胡散臭え作り話だと思ってたぜ。ウチの国は一匹と二人も化け物を飼っていたのか……。

 

 ますます死なす訳には行かねえな。今は優勢だが、あの目を使うのは初めてなのだろう、赤髪のガキはもう限界に近い。

 

 木の葉の長髪の男は、それなりに良い勝負をしているし、地面に横たわるもう二人のガキ共も心配だ。

 

 案の定、ガキはまだ数人の敵を残したまま力を使い果たし、地面に倒れ臥した。

 

 「くそっ、こんなガキ一人に何人殺られた?ダン!!またこんなガキを生かすなんて言うんじゃねえだろうな!?」 

 「くっ、それでもだな…」

 「オレは分かってんだぞ、お前はこのガキと縄樹を重ねてんだろ?こいつは敵国のガキで、しかも仲間を殺した!!縄樹とは違う!!」

 

 

 

 「お取り込み中済まないな…、そいつらはウチの里のガキなんだ。手を出したら殺すぞ……?」

 「!?」

 

 

 

 運命を分けたのは微かな迷い。子供を殺す事をためらい、悩んだ事でその男の接近に気付かなかった。

 

 「お前は…、顔写真を見た事がある。まさか角都!?雨の国の事実上NO2!!」

 「そんな事はどうでも良い、そのオレの上に一人だけいる男に頼まれたんでな……。命令は二つ、殿以外を絶対に無事に撤退させる事、そしてもう一つは……」

 

 角都の体から黒い糸と五つの仮面が飛び出す。

 

 「それの邪魔をする者を…、一人残らず殺す事だ……!!」

 

 本気の戦いなど、いつ以来だろうか。一言で言えば、

 

 相手が、悪かったな。

 

 

 

 「水遁 刻苦」

 

 それは一生の間、その性質を磨き抜いてやっと出せる威力。凄まじい威力の水遁が木の葉の忍達を飲み込んだ――― 

 

 

 

 木の葉の忍び達を壊滅させたオレは、気を失う三人のガキを抱えて帰途に就く。

 

 軽いな……、雨隠れの次代を担う者達か……。中でも輪廻眼を持つ赤髪のガキ、こいつは遂に見つけたかも知れんな……。

 

 圧倒的な強さで

 

 大国相手に決して引かず、媚びず、屈さず

 

 雨の国を守り抜く

 

 

 

 

 

 半蔵の、後を継ぐ者……!!

 

 

 

 

 

 

 ――ある木の葉の忍――

 

 「おい…、嘘だろダン……!!少し離れた隙に何があったって言うんだ!!絶対に死なせないからな!!私が、絶対に……」

 

 

 

 

 

 



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犠牲と英雄

 なかなか、筆が進みません……。
 とりあえず一話投稿しておきます。


  

 

 ――神無毘橋方面 視点 はたけ サクモ――

 

 南海岸への大攻勢が始まった様だな。これで占領されている領土を取り返せれば良いが……。いや、今は仲間達を信じるしか無い、オレはこちらの戦線に集中しなくてはな。

 

 それにしても忍界全体が敵だと言うのに、ウチの国はまだまだ余裕があるのか…。補給物資は常に潤沢で、人も途切れる事が無い。

 

 そうか、今やっと気付いた、つまる所これが戦争の原因なのか…。火の国の人間からするとなかなかに気付けないものだな……。

 

 強大な国力で、戦争などせずとも覇権を握らんと迫る火の国に対する、他国の生き残りを賭けた決死の戦い。

 

 大名様や火影様を始めとする指導部は、何の正義も無く侵略を仕掛けて来たと宣伝しているが、他国の側から見れば一目瞭然だな。そもそも一国が[正義]などと言う物を定義する事が、余りにも傲慢で一方的な行いだ。

 

 雷、土、水、風、雨、滝、彼らの正義は火の国と戦う事なのだ。

 

 しかし、ならオレにも正義がある。この戦争に勝利し、無事に帰らなくてはならない、なぜなら

 

 

 

 

 里で、妻が待っている。

 

 

 

 

 火の国が巨大な国力を持っているとはいえ、南海岸に戦力を傾けている以上、他二つの戦線は楽とは言えない。

 

 各地で厳しい戦闘が続いている。オレは遊撃隊として、様々な場所で戦いを続けていた。

 

 「サクモさん!!皆、サクモさんが来てくれたぞ!!」

 「すげえ!!白い牙と一緒に戦えるんだ!!」

 

 「サクモさんが居てくれたら、百人力だ!!」

 

 数多くの任務をこなして来たオレを、仲間達は良く慕ってくれる。しかし、しばらくした頃、神無毘橋戦線には不穏な空気が流れ始めた。

 

 戦場に出ている部隊数が、明らかに減少しているのだ。ちょうどこの頃、敵が攻勢を強めて来るという情報が入った所だと言うのに、一体どうなっているのだ?

 

 オレが疑問に思っていると、神無毘橋方面軍のトップであるダンゾウ様に呼び出された。

 

 

 

 「はたけ サクモ遊撃部隊に特別任務を言い渡す。今こちらの防衛線を薄くしているのはわざとだ。敵が攻勢を強める事によって最前線は壊乱するだろうが、同時に敵がその勢いに乗って深入りして来るだろう。そこで貴様らの出番だ、サクモ。敵が深入りして来るのを見計らい、神無毘橋を破壊してこい、敵の補給路を潰し退路を断つのだ、分かったな?」

 「なっ!?」

 「どうした?」

 

 「確かに成功すれば敵は袋の鼠で、大きな損害を与えられますが、余りに不確実です!!わざわざそんな策を弄さずとも、まともに当たってもまだまだ十分に戦える戦力があります!!すぐに防衛戦を厚く張り直して下さい!!」

 「異論は認めん」

 

 「考え直して下さい!!そもそも最前線の忍達はどうなるんですか?」

 「当然、囮として死ぬな……」

 「なら!!」

 「異論は認めんと言ったはずだ!!侵略行為を行った敵国には、圧倒的な絶望を味わってもらわねばならん。そしてそれは防衛線を厚く張り、チマチマと戦っているだけでは成し遂げられんのだ!!命令に従え、はたけ サクモ!!」

 

 駄目だ…、これでは断れば里の妻がどうなるか分からない……。

 

 「……承知、…致しました……」―――

 

 戦争か…、まともな訳が無かった。世界は、狂っている……。―――

 

 

 

 五月の神無毘橋戦線、火の国が南海岸に戦力を傾ける隙を狙い、土、雨、滝連合軍は攻勢を強めた。しかしその時、火の国神無毘橋方面軍指揮官、志村 ダンゾウの策略により、神無毘橋破壊作戦が実施され、任務を担当したはたけ サクモらの活躍もあって破壊に成功した。

 神無毘橋を破壊され補給と退路を断たれた連合軍は大きな損害を出す事となった。

 

 

 

 ―――遊撃部隊はオレ以外は全滅したが、何とか橋の破壊に成功した。予定通り深入りした敵は、包囲され大損害を受けた様だ。橋を破壊した後、少し身を潜めてから戦場の跡を通って、帰途につく。

 

 すると敵の死体に混ざって、どこかで見た事のある顔が目に入った。どこかで、か…本当ははっきりと覚えている……。こいつらは以前、共に戦いオレを慕ってくれていた木の葉の忍達だ。この作戦の囮となって死んだのだ。志願した訳では無い、自分達が囮で、死ぬ事が決まっているなど知らずに、律儀に上からの命令に従って死んで行ったのだ。

 

 そしてオレは仲間達を見捨て、任務を選んだのだ。

 

 英雄、木の葉の白い牙か……、笑えるな。

 

 「サクモさん!!皆、サクモさんが来てくれたぞ!!」

 「すげえ!!白い牙と一緒に戦えるんだ!!」

 

 「サクモさんが居てくれたら、百人力だ!!」―――

 

 皆、オレが自分達を救う英雄だと死ぬまで、信じてくれていたのだ……。

 

 何が、英雄だ……。オレは分かっていながら、自分の身可愛さに最前線の忍達を見捨てたというのに……。

 

 

 

 「良くやった、サクモ。お前は戦争の英雄として、木の葉の歴史に名を刻むだろう」

 「ありがとうございます。ダンゾウ様……」

 

 世界が、狂っている……? 

 

 何だ、そんなのはただ他の事のせいにして、自分が許されたかっただけ……。

 

 

 

 本当は、狂っていたのはオレの方だった……。

 

 

 

 オレは、もう二度と、仲間を見捨てない……!!

 

 はたけ サクモは戦争の後、ある任務で再び世界の悪意に遭遇する事となる。この時の決意が無ければ、結果は変わっていたかも知れない。

 

 

 

 

 

 ――視点 魚雨 半蔵――

 

 神無毘橋方面は思いもしないハプニングがあった様だが、土の国は仮にも大国、まだまだ継戦能力は残っているだろう。それにしても火の国のとった作戦は少々、博打に過ぎたきらいがあるが…。まあ、そのせいで予測が出来なかったのだがな……。

 

 雷の国方面は順調だ。火の国の戦力が手薄になったタイミングで上手く攻勢を強め、更に占領地を広げている。二代目雷影殿は強さよりも、知略や政治力に長けた方だ。そのため、あまり表舞台に出て来る事は無いが、こういうのはお手の物だろう。

 

 脳筋ぎみな雲隠れの忍の中では貴重な人材で、そもそも雲隠れの内乱が早期に治まったのは、この人の力が大きかった。なので直接戦闘は腹心のカタイ殿という方が最強らしい。

 

 今回の戦争は味方に恵まれているな…。

 

 あくまで仲間じゃ無くて、味方というだけだがな……。その辺りは状況次第だ。

 

 

 

 オレが思案していると、南海岸方面で撤退戦を指揮した角都さんが帰って来た様だ。伊蔵も一緒かな?色々と話し合いたい事もあるしな、玄関まで迎えに行こう。

 

 

 

 

 

 



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仕事はちゃんとしよう!!

 長らくお待たせしたのに、温かい反応ありがとうございます。


 

 

 伊蔵が、逝ったか。

 

 この戦争が最後の仕事、終わればゆっくりと余生を楽しんで欲しいと思っていたのだが……。部下を、親しい間柄の人間ですら、生きるか死ぬかの戦場に送る。改めて嫌な仕事だな。

 

 しかも今回はどんな事情があったとは言え、客観的に見ればただの侵略戦争。

 

 罪深い人間だ…、俺は……。俺は国のために鬼になると覚悟した筈なのに、今更、こんな風に後悔しているのが更に救えない。

 

 ふふっ、死雨の半蔵か……、やはり俺にぴったりの異名だ。

 

 

 

 「半蔵、大丈夫か?」

 「ああ、すまないな角都さん。それで、何か言いたい事があったんだったか?」

 

 「ああ、オレが連れて帰って来た赤髪のガキ。ついに見つかったかも知れんぞ」

 「?」

 

 

 

 

 「雨の国を預かる者、お前の後継者だ、半蔵」

 

 失った物は大きい、しかし運には見放されていなかった様だ。俺は角都さんの話に耳を傾け、今後の雨の国の展望に思いを馳せる―――

 

 

 

 第二次忍界大戦は終盤に差し掛かっていた。南海岸方面に大攻勢を仕掛けていた火の国は、奪われていた領土を三分の一程取り返す事に成功したが、ここに来て連合軍に一旦戦線を離脱していた砂隠れの忍達が復帰。火の国の侵攻はそこまでとなった。

 

 神無毘橋方面は、大損害から回復した土の国が勢いを取り戻し、再び互角の戦闘となっている。

 

 雷の国方面は、火の国寄りの国境付近の領土を取り合い、相変わらず一進一退の攻防が繰り返されていた。大きな動きが無い分注目されにくいが、何気にこの戦線が一番の激戦だったりする。

 

 各国に疲れが見え始めた頃、ついに最後の戦線が出現した。

 

 それは南海岸と神無毘橋の間、雨の国本国だ。火の国が雨の国に直接攻め込んで来たのだ。三つの戦線で戦い続けて来た火の国には、さすがにもうそれ程余裕が無い。

 

 小さな国土に反して、大量の物質を戦線に送り続ける雨の国に、イチかバチか残った力を振り絞った、火の国の正真正銘最後の攻勢。

 

 この戦線は連合軍の大国にも余力が無いため、雨の国独力で当たる事となる。だが半蔵は焦ってはいなかった。奥の手を使えば防衛はそう難しく無いし、長い目で戦後の体制を見据えてみれば、これは絶好のデモンストレーションとなる。

 

 

 

 第二次忍界大戦、最後の戦い。雨火戦争の火蓋が切られた。

 

 

 

 

 ――視点 雨の国侵攻部隊 ある忍――

 

 

 ついに火影様より最終作戦が通達された。目標は、戦争当初より各戦線に大量の物資を送り続け、小国でありながら今回の戦争に大きく貢献している雨の国だ。攻略の容易さと重要性を兼ね備えた国はここしか無い。

 

 今までは三つの戦線に対抗するだけで、さすがの火の国でも手一杯だったが、神無毘橋方面の大勝により、一時的に戦力に余裕が出来たのだ。

 

 これが成功に終わっても、失敗に終わったとしても、火影様は各国から以前より勧告されている停戦条約を了承するつもりの様だ。

 

 成功すれば、今占領されている領土を一部取り返せる。失敗すれば、盗られた領土は全部敵側の物、こんな感じか…。どっちにしろ完敗とまでは行かないものの、火の国にとっては悪い結果になる。

 

 しかし、大多数の火の国の民や火影様は一刻も早く戦争を終わらせたがっている、一部の過激派や大名は反対するだろうがな……。

 

 この戦線に参加する忍の中で有名なのは、味方側で言うと、今回の戦争で一気に名を上げた火影様の弟子、自来也、綱手、大蛇丸の三人だろう。

 

 万年中忍のオレにとっては彼らですら雲の上の存在だ。だが、しかし、上には上がいる。それも敵側に……。

 

 

 

 雨の国を目指し進軍を続けるオレ達は雨の国の領土手前の平原に差し掛かる。戦争の舞台となる場所、背中に雨隠れの軍勢を従え、そいつは現れた。

 

 白い髪は獅子の如く、異様なマスクで顔を覆い、手にした得物は鎖鎌、その男が現れた瞬間、味方側に動揺が走った。間違い無い。

 

 

 

 あれが、死雨の半蔵。

 

 

 

 伝説の忍であると同時に、雨の国の独裁者。今回の戦争を引き起こした主要な人間の一人だ。なる程…、悪そうなツラしてやがる……。

 

 戦力は…、少しこちらが上と言った所か。ウチの国は他三つの戦線と同時に、良くこれだけ揃えた物だ……。

 

 じわじわと両軍の距離が縮まる。平原での戦闘、隠れる場所は無い。真っ向から殴り合いか…、激しい雨の中、その時間は何故かに静かに思える。

 

 その時、敵軍の先頭を歩いていた半蔵に動きがあった。

 

 あれは……、口寄せ!?一体何を!!

 

 戦場に声が響き渡る。

 

 「口寄せの術!!」

 

 

 

 ――視点 魚雨 半蔵――

 

 

 「口寄せの術!!」

 

 この戦いは戦後を見据えて、雨の国の力を世界に見せ付けておく必要がある。要するに一度くらいはコイツをお披露目しなければな……。

 

 

 

 

 

 

 頼むぞ、犀犬……!!

 

 

 

 両軍の接触間近、平原に突然巨大な生物が出現する。

 

 「やっと役に立てるけん!!もうタダ飯喰らいとは言わせんよ!!」

 「うきゅ~!!」

 「犀犬…気にしてたのか……。イブセも一緒に戦うのは久しぶりだな」

 

 犀犬、その上にイブセ、ぬめぬめタワーの一番上に俺。呆然とする敵軍に向けてまず一発。犀犬の口元に漆黒の玉が形成される。

 

 「尾獣玉!!」

 

 漆黒の玉が敵軍に向かって疾駆し、大爆発を起こした。

 

 大きな被害を与えたものの、土遁で壁を作り何とか防ぎ切れた者もいる様だ。やはり簡単には全滅とはいかんな……。

 

 まあ、全滅するまで撃ち込むだけなのだが。という訳で更にもう一発!!

 

 「犀犬、もう一発頼む」

 「確かに頼まれたよ!!やったるね~!!」

 

 犀犬が再び尾獣玉を形成しようとしたその時、敵軍の中から三人の忍が歩み出て、俺と同様に口寄せの術を繰り出す。

 

 例によって独特の音と煙と共に、犀犬に勝るとも劣らない巨体が戦場に現れた。

 

 

 

 「ブン太!!突然呼び出してスマねえな!!あの尾獣の相手を頼む!!」

 「なんじゃ!?あの力ツユみてえな奴か!?」

 

 「力ツユ、話は分かったな?」

 「蛞蝓対決ですか…!!負けられませんね」

 

 「マンダ、頼んだわよ」

 「オレに指図すんじゃねえ!!だが相手は大分調子こいてるみてえだな」

 

 

 

 現れたのは蛙、蛞蝓、蛇の三匹。

 

 遠距離で一方的に終わらせるつもりだったが、そうは行かなそうだな。

 

 「犀犬、お前はあの三匹の相手をしてくれ。出来るだけ敵軍を巻き込んで戦えよ?」

 「やっぱり悪い大人や……。半蔵はどうするね?」

 

 「俺はイブセと一緒にあの三匹を呼び出したあいつらとやる。野放しにしておいても、こちらの被害が増えるだけだ」

 

 俺は手を頭上に挙げて、合図をする。

 

 

 

 

 「雨の国本国防衛作戦、開始!!」

 

 

 



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お嬢ちゃん

 投稿遅れて申し訳ありません。
 戦闘シーンを色々考えていたのですが、どうやっても三忍が死んでしまうので、飛ばさせて頂きました。


 ――視点 綱手――

 

 

 まさかここまで、手も足も出ないとは……。

 

 毒に侵され、動けなくなった体の重さと共に、降りしきる雨の冷たさを感じていた。共に戦っていた自来也と大蛇丸も、既に動けなくなっていた。周りの戦況も六尾の力によって、次第に劣勢になっている。

 

 雨隠れが好んで使う毒への対策は十分にしてきた。今まで戦場で大いに活躍してきたという自負もあった。それでも、この男には届かなかったか……。

 

 目の前にいるのはダンを殺した雨隠れ、その元凶である死雨の半蔵。おじい様の時代から戦い続けてきた伝説の忍。巨大なトカゲの上に乗り、こちらを見下ろしている。

 

 師である三代目火影、ヒルゼンはこの男とだけは絶対に戦ってはいけないと言っていた。忠告を破り本気で戦った今になって、その意味が嫌という程分かる。

 

 

 

 この男にとって戦いは、殺すか殺されるかでは無いのだ。ただ、殺すか殺さないか……。今もまさにその状況であった。

 

 

 

 私と同じく毒を喰らい満身創痍の自来也が口を開いた。

 

 「半蔵、頼む!!オレが死ぬから、こいつら二人は見逃してくれ!!」

 

 自来也…、本当に馬鹿な奴だな……。自来也の頼みに半蔵が答える。

 

 「……お前ら、名前は?」

 

 その声は穏やかで、とても先程まで鬼の様な強さで私達を蹂躙した男と同じ人物だとは思えなかった。

  

 「……自来也」

 「綱手だ」

 「大蛇丸」

 

 私達が答える。すると半蔵が言った。

 

 「綱手か……、柱間と扉間が何度か手紙に書いていたな……、ハア……」

 

 そう言って、半蔵がきびすを返して去っていく。

 

 「殺さねえのか?」

 

 自来也が帰って行く半蔵に問いかけた。

 

 「この戦線は雨隠れの勝利だ。わざわざ若く、才能のある忍がこれ以上無駄に死んで行く事は無い」

 

 ……認めたくは無いが、その通りだろう。他三つの戦線に気を回しながら何とか抽出した戦力、それも予想外の尾獣の出現で完全に崩壊してしまった。力ツユ達もやられ、もう帰ってしまった様だ。半蔵は言葉を続ける。

 

 「お前達三人は強い……、俺を前にしてここまで生き残った奴は初めてだ…。

 

 

 

 これよりお前達を天才忍者 天才傀儡造形士 超絶イケメンの死雨の半蔵公認 木の葉の三忍と呼び讃えよう」

 

 この日、私達は[木の葉の三忍]になった。前半の呼び方はまったく広まらなかったが……。

 

 「それにな……」

 

 去っていく半蔵は最後に少し立ち止まり、雨雲に覆われた空を見上げてこう言った。

 

 「そっちのお嬢ちゃん殺したら、あっちにいる柱間殿と扉間に怒られちまう」

 

 それは死雨の半蔵と恐れられる男とは思えない、とても頼りなく、悲しい姿に見えた。

 

 

 

 

 

 

 第二次忍界大戦、終結。

 

 火の国最後の攻勢、雨火戦争は尾獣をコントロール下に置いた雨の国の勝利となった。各国でコントロール不能と早々に決め付けられていた尾獣。それを実戦に投入し、勝利したという報告は各国を驚愕させ、後に尾獣を何とかコントロール下におこうと苦心する事になる。

 

 雨火戦争の終結と共に、火影より終戦の申し出が送られた。戦争では負けているものの、まだ余力を残す火の国からの提案、他国も戦争を長引かせたい訳では無いため、快く受け取る事となった。

 

 戦争終結時の各国の占領地は、雷の国と水の国が取った火の国北部の一部、土、滝、雨が取った土と火の国境付近の領土、そして最も大きい風、雨、水で取った火の国南海岸の領土。戦争中盤の火の国の大攻勢により、元々占領していた中の三分の二程まで減ったが、それでもかなり大きい。 

 

 これらを巡って終戦の条件を細かく策定する第二回五影会談が行われる事となった。開催場所は雨の国、第一回の前例があるものの、火の国にとってはこの戦争の主要な敵国の一つ、渋りに渋ったが、各国がこぞって雨の国を指定したため火の国も同意せざるを得なかった。

 

 各国の代表は、かつて同じ道を通った先代達に思いを馳せながら、再び雨の国に集結する事となる―――

 

 

 

 

 

 ――視点 猿飛 ヒルゼン――

 

 

 やっと戦争が終わったか……!!

 

 火の国の中には徹底的な抗戦を唱える者もいたが、里の忍達が死んで行くのはこれ以上我慢出来ない。そして後日、各国は第一回もそうだったという名目で、五影会談の開催場所に雨の国を指定五影会談は雨の国で行われる事が決まった。

 

 交渉のため雷の国に行った扉間様が暗殺されてしまった前例があるので、どうかと思ったが、戦争を終わらせたいと最初に言ったのはこちら、各国はまだ戦争を続けても別に構わないのだ。

 

 戦争をここで終わらせるためには、雨の国での開催を受け入れるしかない。それに一見、こちらに有利な交渉材料など何も無い様に見えるが、敵の連合軍は扉間様の暗殺や宣戦布告前の奇襲など、道理に反した行為が多かったため、こちらはそこを突いて行く事が出来る。

 

 オレは微かな希望と共に、かつて柱間様が通った道に思いを馳せながら、五影会談へ赴く。

 

 

 

 



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会議室より

 書き溜めが底を尽きた……!!


 ――五影会談 視点 猿飛ヒルゼン――

 

 

 窓の外は激しい雨が降っていた。

 

 忍界の運命を左右する五影会談、開催場所となった雨の国の会議室には、当然と言えば当然だが、そうそうたる面子が集まっていた。

 

 五大国の影を始めとし、今回は五影会談と称しながらも様々な小国のトップが、一堂に会して話し合いをする事となっている。問題はその各国の要人達の視線が、火の国の代表であるオレに集まっている事だ。

 

 今回の戦争は殆どの国にとって、火の国との戦いだったのだから当然か……。

 

 

 

 空気の冷え切った空間に居心地の悪さを感じていると、部屋の外の廊下から声が聞こえて来た。

 

 「だから僕達なんかが行って良い場所じゃ無いでしょ!!」

 「長門の言う通りですよ!!半蔵様、角都様!!考え直して下さい!!」

 

 「だってよ半蔵。どうする?」

 「却下、さっさと色々経験積んで俺の仕事を減らしてくれ」

 

 「長門も小南もびびってんなあ、こんな機会滅多にねえんだから勿体ねえぞ?それに何より半蔵様が直々に誘ってくれたんだ!!」

 「「弥彦は黙ってて!!」」

 

 「ほら、ゴネてる内に会場に着いたぞ。俺以外もう揃ってんだ、さっさと入ろう」

 「「半蔵様~!!」」

 

 声の主が部屋に入って来た途端、各国の代表に緊張が走る。無理も無い、入って来たのは雨の国の長、死雨の半蔵。忍界でその名を知らぬ者はいない伝説の忍。この男がその気になれば、この場にいる全員を一瞬で殺す事も可能だ。

 

 オレに向いていた視線が半蔵に集まる、半蔵は何食わぬ顔で言った。

 

 「遅刻してしまって悪いな。それと後ろの四人は護衛だから気にしないでくれ。そんじゃ始めようか」

 

 半蔵が席に着くと同時に、会談が始まった。

 

 

 

 「今回の大戦は激しい物となってしまいましたな」

 「ええ、まったくです」

 「ウチの国にも貴国の様に才能溢れる忍が欲しい物です」

 「いえいえ、やはり我々も五大国や雨の国には遠く及びませんよ」

 「木の葉は特に素晴らしいですね、羨ましい限りです」

 

 まずは所々で他愛の無い世間話が始まった。しかし、誰もが話している内容とは裏腹にその目は他国の隙を窺い、ギラギラと鈍く光っている様に感じる。

 

 話を続ける小国の長達と違って、火の国以外の大国の影達と半蔵は何も言わず、こちらをじっと見ている。

 

 その時、不意に半蔵と目が合う、半蔵とは話したい事があったから丁度良い、オレは半蔵に話しかけた。

 

 「半蔵殿、オレの弟子達を見逃してくれたそうですな」

 

 半蔵は首を傾げる。

 

 「弟子?」

 「自来也、綱手、大蛇丸の三人ですよ」

 

 「ああ、天才忍者 天才傀儡造形士 超絶イケメンの死雨の半蔵公認木の葉の三忍の事か。柱間殿と扉間の義理で生かしてやっただけだ、二度目は無い」

 

 衝撃的なネーミングが聞こえた気がするが、気のせいだろう。半蔵は話を続ける。

 

 「それに火影殿の弟子より、こいつの方が可愛いし凄いぞ」

 「わわっ!!」

 

 半蔵は傍にいた赤髪の少年の頭を乱暴に撫でる。少年は驚いて大きくバランスを崩してしまっていた。

 

 「なんたってこいつはりんn…、おっとこれ以上は機密だったな。角都が今一瞬、俺を殺したそうな目で見てたし……」

 

 子供を可愛がる姿は、死雨の半蔵と恐れられる忍だとは思えない。昔会った時はあまり話さなかったが、半蔵殿はやはり話の分かる方かも知れないな。

 

 「それは素晴らしい!!若い世代が育つと言うのは良い物ですな」 

 

 

 

 

 「そうか?オレだったら敵国の若い世代が育つなんて、最悪の気分だが?」

 

 

 

 

 部屋の空気が凍りついた。世間話で盛り上がっている空間で、話している相手を[敵国]だと明言したのだ。半蔵は続けて言う。

 

 「ああ、そうだ。話は変わるが、こちらの連合軍が今占領している火の国の領土は、全て割譲して貰うぞ?」

 「なっ!?」

 

 立て続けに畳みかける半蔵に、オレだけで無く各国も動揺している。いや、オレ以外の影達は冷静に事を見ているか……。

 

 「火影殿?何も言わないという事は、それで良いのだな?」

 

 問い掛ける半蔵に、オレはすぐさま言い返す。

 

 「そんな物が認められる訳無いだろう!!そもそも扉間様の暗殺から宣戦布告前の奇襲まで、全て人としての道理に反した行動ではないか!!」

 

 半蔵は少年の頭から手を離しながら、またもや首を傾げる。そしてその口から紡がれた言葉は、余りにも衝撃的な物だった。

 

 

 

 

 「何の話だ?各国は正々堂々戦っていたと思うが…」

 

 

 

 この男……!!オレは他の国の代表達に、救いを求める様に目を向ける。しかし、意味が無かった。まずは雷影が口を開く。

 

 「火影殿、おかしな言い掛かりはよして欲しいですな。半蔵殿の言う通り、我が国も正々堂々戦いましたが?」

 

 こいつもか…!!扉間様を暗殺した張本人が……!!

 

 「扉間様が暗殺されたと言うのは、誰もが知っている筈です!!捕虜達も皆そう証言していましたぞ!!」

 「そんな物、拷問するなり何なりして都合の良い証言を引き出しただけでしょう。木の葉には山中一族を始めとした、そう言った事に長けている忍達が居ますし…」

 「まったくです」

 「他者の精神を弄ぶなど、卑劣な……」

 

 他国も皆、口を揃えてしらを切る。こいつら……!!

 

 「あなた方はまだ戦争を続けたいのですか!!」

 

 オレの訴えも空しく、半蔵が口を開く。

 

 「我が国は一向に構わんが?そもそも戦争を終わらせたいと言い出したのは、火影殿ではないですか。俺達は戦争をまだまだ続ける気があるにも関わらず、慈悲深くも火影殿の提案に乗ってあげているのだぞ?」

 「くっ!!」

 

 

 

 オレはその後も懸命に訴え続けたが、その全てが空回りに終わった。ここに来てやっと理解出来た、世界を敵に回すと言う事が……。オレは項垂れながら、最後に問い掛ける。

 

 「何故ですか…?戦争の悲劇は去り、世界中の人々が皆、平和を享受していたではないですか……、幸せだったではないですか……!!」

 

 その時、誰も声には出さないものの、各国から今までで最も激しい怒りを感じる。始めは水影だった。

 

 「平和だと?幸せだと?あんたら、本気でそう思ってんのか?火の国に海上封鎖されたウチの国で何人、餓死者が出たと思う……!!」

 

 他の国も静かだが確かに怒りを孕んだ声色で言う。

 

 「我が国で商人や職人が何人首を吊ったか、資料があるんだが、見せてやろうか?」

 

 「ウチの里は依頼なんてここ最近、まともに来ていないぞ?どこの里に依頼が集まっているんだろうな?」

 

 最後に様子を黙って見ていた半蔵が、口を開いた。

 

 「雨の国は蓄えがあったからまだマシなもんだが、そう遠くない内に同じ状況になるだろうな。

 まあ……なんだ……。俺達は、火の国が平和で幸せだと呼んだこの世界に、この世界の自分達がたまらなく愛する国に里に、その未来に

 

 

 

 

 

 

 その未来に、そこらで野垂れ死ぬ子供達の姿が見えた。それだけだよ……」

 

 

 

 

 彼らに、オレは何も言えなかった。

 

 

 

 



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山椒魚は悲しんだ

 なかなかモチベーションが上がらず、時間が空いてしまいました。

 何とか頑張ります。

 

 


 

 ――視点 長門――

 

 

 廊下には降り続く雨の音と足音だけが響き渡っていた。相変わらずいやに冷える季節だ。

 

 廊下を歩くのは半蔵様、角都様、弥彦、小南、そして僕の五人。普段は騒がしい弥彦もいつに無く静かに、半蔵様の大きな背中を見つめている。そんな弥彦が考えている事が、僕には大体分かった。

 

 先程の五影会談で見た半蔵様の姿の事だろう。あれは里の皆に慕われるいつもの優しい半蔵様では無かった。火の国に容赦なく厳しい要求を突き付けたあの時、あの場で半蔵様は[死雨の半蔵]だったのだ。

 

 僕の頭を撫でていた温かい手の持ち主と、火影様に向けていた酷く冷えきった声と目の持ち主、僕らの中でその二つはどうしても同じ人物の物だとは結びつかなかった。

 

 

 

 誰も一言も発さないまましばらく歩いていると、半蔵様が不意に口を開いた。

 

 「幻滅したか?」

 

 半蔵様はこちらを振り返る事無く、僕らの返答を待つ。弥彦がすぐさま答える。

 

 「幻滅なんて……!!半蔵様に対してそんな事思う訳――」

 「やはり納得は出来ていない様だな?声で分かる」

 「ッ!!」

 

 弥彦は俯いて黙り込んでしまった。それに構わず半蔵様は言葉を続ける。

 

 「お前らは俺が会談で他国と結託して、火の国を出し抜いた事が気に食わないのだろう?我ながらあれは卑怯だったものな……」

 「……」

 

 半蔵様は廊下の途中の窓の前で立ち止まり、外に目を向けた。窓からは高い建物が立ち並ぶ雨隠れの里が見渡せる。

 

 「そうだな…、何から話そうか……。お前らはこの国が好きか?」

 「もちろんです!!」

 

 どこか遠い目をしながら問い掛ける半蔵様に僕は即答する、これは本心だ。孤児だった僕らをここまで育ててくれたこの国に、本当に感謝している。

 

 「そうか…、そう言って貰えると嬉しいな……。

 

 俺もこの国が大好きだ。

 

 この国を守るために、今までかなり頑張ったしなあ……。女より国を愛するとは…、馬鹿な男だ。馬鹿にも程がある。でもな……

 

 

 

 

 この国は俺の夢だから……、俺の人生そのものだから……」

 

 

 

 

 窓の外を見つめる半蔵様の表情は、僕らからは窺えない。

 

 少しの間、沈黙が辺りを包む。しばらくすると半蔵様がこちらを振り返り、窓の外から僕らに視線を移した。先程までの様子とは打って変わって、雨の国を率いる頼りになるいつもの半蔵様の目だ。

 

 「今回の戦争の結果次第では雨の国は多分滅びてたぞ?」

 「……!?滅びるって…!!まさかそんな……!!」

 「冗談じゃ無い。雨の国だけでは無く、今回の戦争は各国共に瀬戸際だった……。あのまま未来をじっくりと見据えてみるとな、どの国も火の国に潰される運命にあった。俺は雨の国を潰されたくない。よって卑怯だろうが何だろうが多少の強硬手段を取らせてもらった」

 

 「でも火影様は、そんな事する人にはとても…!!」

 「あれか……、あれは優しいってより怖いんだろうな。恨まれるのが怖いんだ、臆病に近い。神無毘橋方面でとった作戦の情報で警戒してたんだがな…。あの手の優しさはそいつが優しくあるために誰かを犠牲にする。

 

 優しくあるためには、強くなければならない。強くあるためには、非情でなければならない。矛盾していると思うか?俺に取っては簡単な事だ。お前らに、雨の国の民に幸せに生きてもらって、敵国の人間には出来るだけ苦しんで死んでもらう、これが死雨の半蔵だ。

 

 お前らに俺の真似をしろとは言わん、いずれ別のやり方を見つけても良い。だが同じく祖国を愛する者として、真の意味で優しさを、強さを見つけるんだ…!!」

 「半蔵様……」

 

 それは、いやに冷える季節の、熱い約束だった。

 

 ああ、弥彦を馬鹿に出来ないな…、僕は…僕らは……

 

 

 

 この人に魅せられ、そして、この人に憧れた。

 

 

 

 話を終えた僕らは、階段を降りて玄関へ向かう。角都様は気を利かせてくれたのだろう。先に玄関へ行った様だ。僕は先程の半蔵様の話を思い出し、この先の事を考えていた。僕と同じく弥彦と小南も何か感じる所があった様で、何も言わずに思案している。

 

 もうすぐ玄関だという所で、何だか気恥ずかしそうに半蔵様が再び話し始めた。

 

 「さっきは話さなかったんだが、火の国の領土をあれだけ分捕った理由が他にもある。実はな…、俺ももう年だ、お前らに何か残してやりたいと思ったのだ。だが俺は本当に、この国以外に何も持っていない男だからな……。ちょっとは良い状態でこの国をやろうと思って、少し張り切ってしまった……。

 

 お前らが俺の事を慕ってくれるのは、正直本当に嬉しい。この全てが毒の体だ、諦めていた子供が出来たみたいでな……、ああっ!!もう!!何言ってんだ俺は!!らしく無い……!!」

 

 そう言って頭を掻く半蔵様を見て、僕らは三人で顔を見合わせて笑ってしまった。本当に、優しい人だ。

 

 「半蔵様っ、孫の間違いじゃ無いんですか?」

 「ぐはっ!!この小娘…!!俺より強力な毒を吐くとは……!!」

 

 「半蔵様!!まだまだ教えてもらいたい事いっぱいあるんだから、長生きしてくれよ!!」

 「言ったな、俺はしぶといぞ……!!マジで長生きしてやるからな!!角都とどっちが先に死ぬか賭けてくれて良いぞ!!」 

 「いや…、それはさすがに相手が悪いだろ……」

 

 半蔵様と思い思いに話す弥彦と小南は、見ているだけで面白かった。そしてそんな半蔵様は、孤児だった僕らに確かに親という物を感じさせてくれる。僕らは玄関に着くまでの少しの間に、沢山くだらない話をして、そして沢山笑った。

 

 

 

 

 ――視点 魚雨 半蔵――

 

 

 玄関では角都さんが待ちくたびれたといった様子で、腕を組み壁にもたれ掛かって待っていた。こちらの気配に気が付いたのだろう、閉じていた目を開きこちらを見る。

 

 「随分と仲良くなった様だな…、ジジイ一人混ざってても違和感無しだぞ……」

 「角都さんまで俺を年寄り扱いか……、それより三人を見送るぞ」

 

 外に出て深呼吸をしてみると、いやな物が全て出て行く様な感覚がした。会談も終わったし長門、弥彦、小南の三人ともじっくり腹を割って話せたしな。久しぶりに本当の呼吸をした気がする。体を濡らす雨すら返って気持ちがいい、

 

 「それじゃ三人ともまたな。歯、磨いて寝ろよ」

 「半蔵…、やっぱ言動がジジイじゃねーか……。三人とも、金は大事にしろよ」

 「言動が角都さんじゃねーか、あっ本当に角都さんだったか…」

 

 「「「ありがとうございました!!」」」

 

 三人は元気良く返事をする。そういえばさっき長門とはあまり話さなかったな、一応何か無いか聞いておくか。

 

 「長門は何か俺に言いたい事無いのか?」

 「……半蔵様」

 「んっ、何だ?」

 

 「半蔵様!!僕は半蔵様の作ったこの国が大好きです!!半蔵様自身も小さい時からずっと憧れでした!!雨の国はこれからも絶対に守り抜きます!!半蔵様が僕達に残してくれるみたいに、半蔵様の夢を、半蔵様の人生を、この国を後の世代に繋ぐ!!

 

 僕は、そんな風に生きたいです!!そんな人生にしたいです!!

 

 今日は本当にありがとうございました!!」

 

 「うおっ、待てよ長門!!お前今まで三人で過ごして来て、一番でかい声だったじゃねーか!!」

 「半蔵様!!私と弥彦も長門と一緒に雨の国を守るから安心してね!!じゃあね!!」

 

 

 

 三人は駆け出して行った。若いなあ……。

 

 「三人とも傘くらい差せよ、まったく…」

 「そういうお前もな、半蔵」

 「俺は少し濡れたいんだよ……」

 「雨のせいにして、それを隠したいからか?」

 「それって何だよ……」

 「死雨の半蔵なら絶対に見せないそれだよ……」

 

 

 

 

 

 

 「グスッ ホントにヒクッ ひでえ雨だなあ……グスッ」

  

 

 

 



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教えて!!半えもん!!

 かなり遅れてしまいました…。こんな風に少しずつですが、何とか更新して行きたいです。


 

 

 ―第二次忍界大戦後の世界の状況まとめ―

 

 火の国は大幅に領土を失陥。各国はあまりに厳しく締め上げ過ぎて火の国に暴走されたら困るので、せめてもの情けとして、取られた領土にあった資産などを移動させる事を許可した。移動不可能な資産は本来の価値の半分以下の値段で買い叩かれる事になったが、タダで奪われるよりかは幾分かマシなので、火の国はこれに頷くしか無かった。

 

 それでも火の国の国民達の不満はやはり大きく、火影殿はしばらくの間、様々な問題解決のため奔走する事になったらしい。

 

 雷の国は領土の面積としては多少広がった程度だが、火の国の港町をいくつか抑える事が出来たので、これからは火の国一強だった制海権が揺らぐ事になるだろう。

 

 土の国は大戦後半で一度大敗してしまった事もあり、領土は戦前と変わらなかった。しかし火の国の力を削ぐという目的は達成されたので、結果的には負けとは言えない。

 

 続いて最大の問題となったのが風、雨、水の獲得した南海岸の領土だった。本来なら小国である雨の国が涙を飲む状況だが、半蔵と角都の長年の地道な努力によって、雨の国は小国でありながら風と水にも劣らない国力を持っていた。三国の実力は拮抗しており戦争となったら三国が共倒れなんて事にも成りかねない。よって話し合いでの解決が求められた。長きに渡る折衝の末、三国共に均等な面積を飛び地で獲得するという事で合意が成された。なお防衛は三国が協力して行う事になっている。

 

 

 ―今更各国の紹介―

 

 火の国 木の葉隠れの里

 

 巨大で温暖な領土に大量の資源と人口、多様な秘伝忍術や血継限界を持つ名門一族、第二次忍界大戦で力を削がれたものの、まだまだ強い。穏健派の三代目はあまり強硬的な手段は好まないのが、他国に取っての救い。

 

 ―教えて!!半蔵様!!―

 「五大国なんて言われてるが、火の国だけが突出してんだよ。それが原因で戦争が起こっちまった…。ウチの国とは昔は仲良かったんだけどな…、どうしてこうなった。最後に一つ言わせて貰うと、一番強いってだけで別に火の国が正義って訳じゃないぞ?この世に絶対の正義など無いからな。おっと、ぬめぬめだけは絶対正義だ」

 

 

 

 雷の国 雲隠れの里

 

 火の国に次ぐ国力を持つ北方に位置する国。人口は厳しい気候のせいでそれ程でも無い。大名も国民もイケイケな性格で積極的に軍拡したり、強い酒飲んで川に飛び込んで死んだりしてる。独特の文化も特徴的。雷影の椅子争いが激しく内乱に近い状況になったりする。

 

 ―教えて!!半蔵様!!―

 「火の国が化け物過ぎるだけで、雷の国もめちゃくちゃ強い。第一次忍界大戦後の内乱の時に支援したり、土の国と火の国と仲が悪いから、ウチの国とはかなり仲が良い。雷の国から来た商人が俺のサインを欲しがったりするので、俺個人も尊敬されているらしい。強い人間を尊ぶお国柄なんだろうな。地理的にも近過ぎないので、これからも仲良くやって行けるだろう。後、雷の国発祥のラップやプロレス、あれは良いな。でもこの前真似して角都さんに鼓舞羅墜巣戸したら結構強めに殴られた」

 

 

 

 水の国 霧隠れの里

 

 海の中に孤立した謎多き国。国力はそこまで大きくないが、攻めるには海を越えなくてはならないため難攻不落。海に囲まれた事が仇となり火の国に制海権を抑えられ困窮していたが、

今回の大戦で状況が良くなった。建国当初から暗い噂が絶えない、しかし二代目水影の意向で改善傾向にあるらしい。これからの代の水影も二代目の様な人物であればいいが…。

 

 ―教えて!!半蔵様―

 「水と雨って微妙に名前被ってるよね…?まあそれは置いといて、霧隠れの忍は容赦ない事で有名だな、一番忍らしい忍と言える。雷の国と同じく第一次忍界大戦後の内乱の時に支援したから、ウチと仲が良い。でもなんかあの国コエーから関わりたく無いんだよな…。水影殿からの手紙も凄いエグイ内容なのに、半蔵殿なら分かってくれるだろう!!みたいな態度なんだもん。俺を何だと思ってんだ?鼓舞羅墜巣戸してやろうか?」

 

 

 

 風の国 砂隠れの里

 

 領土は割と広いが、乾いた土地が農業に向いていない。資金難のため大名は軍縮を進めているが、砂隠れの忍達は納得出来ない様子、そのせいで風影が何度も替わってしまっている。歴代最強として期待されていた三代目も行方不明となっており、色々と不憫な国である。今回の大戦で火の国南海岸の領土を得たため、多少はマシな状況になると思われる。

 原作でも心配になるくらい戦力不足だった。

 

 ―教えて!!半蔵様!!―

 「五大国というのは忍界に初めて生まれた確かな秩序を象徴する存在だ。風の国の力が明らかに衰えている現状でも、四大国なんて呼び方にはならない。人々は皆、心の奥底で五大国という響きを大事に思っているのだろうな。しかし俺からしてみれば、大国は大国であろうとする事に縛られてしまっている様にしか見えない。国民達は本当に大国の無茶な軍拡などに賛成しているのだろうか…」

 

 

 

 土の国 岩隠れの里

 

 雷の国に匹敵する国力を持つ。建国以来狡猾に忍界の覇権を狙っている。岩隠れの忍個人としては割と正々堂々の戦いを好むが、上からの命令なら卑怯な手でも使う。良くも悪くもリアリストな所があり、第二次忍界大戦では火の国の力を削ぐために仲が悪い雷と雨とも手を組んだ。

 

 ―教えて!!半蔵様!!―

 「商人達も旅行者も良く来てくれるし民間レベルではウチと仲が良いんだが、いつも俺みたいな政府の人間の事情で関係がこじれてしまう。今回の大戦で最後まで味方だったのは本当にレアケース。ただ今の土影の無殿は俺の事を尊敬していると言ってくれた。以前に会った事があっただろうか?今回の大戦がきっかけでこれからも仲良くやって行ければ良いのだが…、雷と土の仲を取り持つのが雨の国の重大な仕事になって行くだろう」

 

 

 

 滝の国 滝隠れの里

 

 火の国北部に位置する小国、雨の国よりかは立地に恵まれている。かなり豊かな国でその国土の小ささを生かして上手く激動の時代の中を立ち回っている。第二次忍界大戦では世の中の流れに乗って火の国と敵対。下手に火の国の側に立っても雷と土に挟み撃ちにされるだけなので、仕方が無かったとも言える。かつての大戦で雨の国が火の国に見捨てられたのもしっかり覚えていた様だ。新たな領土獲得とはならなかったが、元々形だけの参戦で本腰を入れていなかったので戦費は痛くもかゆくも無い。

 

 ―教えて!!半蔵様!!―

 「間違い無くウチの最大の友好国。小国同士悲しみを分かち合って来た仲で、里長のイブキ殿とも良く手紙のやり取りをしている。ただ息子の自慢をされるのは凄い悔しい、その内孫の話とかし出したら雨隠れの涙降らせてやる…!!角都さんも滝隠れ出身であり、角都さんは抜け忍だがウチで重要なポストに就いていると言ったら、角都さんへのお祝いの品物が届いた時はびっくりしたな。抜け忍に対してもその扱いって、どんだけ良い奴らなんだ。その時の角都さんの嬉しそうな顔の写真を撮ったんだが、後日燃やされた。そして結構強めに殴られた」

 

 

 

 雨の国 雨隠れの里

 

 大陸の中央に位置する小国。国土の小ささに反して経済力は化け物。カメラやラジオなどの精密機器は雨の国でしか作れない。隠れ里の依頼達成率が高い事も有名。魚雨 半蔵の強力な指導の下、国力を年々増加させているが独裁的だとして非難される事も多い。今回の大戦で海を得たので、益々荒稼ぎするつもりだろう。

 

 ―教えて!!半蔵様!!―

「匠の国の技術や傀儡作りの技術によって、素晴らしい製品を作ってる国があるらしいけど、どこだったっけなあ…、チラッ。

 優秀な忍達によって難依頼を次々こなしてる里があるらしいなあ…、チラッ。

 国のトップは凄いイケメンで国民は皆幸せに暮らしているそんな夢みたいな国がどこかにあるとか…、チラッ

 

 

 

 そう!!それこそは我が祖国!!あm」

―本日の教えて!!半蔵様!!はここまでとなります。―

 

 

 

 

 



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永遠も随分と過ぎて

 投稿遅れてる理由?
 モンハンのせいや!!

 


 

 ―視点 魚雨 十蔵―

 

 

 人間五十年と謳われたのもかつての話。

 

 息子に家督を譲り後は死ぬだけと、そう思ったのも遥か前。

 

 戦乱が終わり、平和な時代になるとそう思っていたのに、大きな戦がまた二回。

 

 伊蔵も何一つ言い残す事無く先に逝ってしまった。

 

 

 ああ、随分と長く、生き過ぎたのかも知れない。

 

 

 数日前まで何も問題は無かったのに、今は布団の上からもまともに動けない。

 

 窓から差し込む日の光、照らされる雨の国、今のワシには眩しくて良く見えない。

 

 窓の外から子供達の遊ぶ声がする、病院の前は公園になっているのだったな。何を話しているのかは良く聞こえない。

 

 ただ、間違い無く、これからの時代を担う子供達。

 

 

 ああ、随分と長く、生きたな。

 

 

 しばらくすると病室の扉を開ける音がした。誰かが傍らに近づいて来る。

 

 「よう、親父。ようやく元気じゃ無さそうだな」

 

 この声は半蔵か、声の主に顔を向ける。

 

 「相変わらず礼儀がなっていない奴じゃな…」

 「悪いな、こういう性分なんだ。勘弁してくれ」

 「ふんっ」

 「何だよ、最近の若い者はってか?残念ながら、オレももう若くねえぞ」

 「若くない者がその様とは…、本当に残念な事じゃな」

 「何時に無く辛辣だな、親父」

 

 思えば此奴には重荷を背負わせてしまったな。それなのに良くやってくれた。

 

 「半蔵、仕事を抜け出して来ていいのか?」

 「構わねえさ、角都さんもモミジもいるし。新しい世代も大勢育って来てる。俺ももうそろそろ引退するべきかもな」

 「お前は仕事したくないだけじゃろ」

 「うっ、そんな訳無いだろ!!ハンゾウサマ、シゴトダイスキデスヨ」

 「図星じゃないか」

 

 全く此奴は…、多くの才能に恵まれているにも関わらず…。

 

 すぐに怠けて、ふざけてばかりで、だけど

 

 

 

 

 

 

 ワシの、自慢の息子じゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 「半蔵、良い天気じゃな」

 

 「ああ、この季節に雨が降っていないのは珍しいな」

 

 「半蔵、少し眠くなって来た。わざわざ来てもらったのに悪いの」

 

 「いやいや、俺が来たかったから来たんだよ」

 

 「そうか…、少し…眠る事にするよ……」

 

 「ああ、おやすみ」

 

 「半蔵…、お前には色々な物を見せてもらった……」

 

 「まだ寝ないのかよ」

 

 「半蔵…、ワシの元に生まれて来てくれて…ありがとう……。この…、ただ死んで行くだけだった老いた男に…、お前は良い夢を見させてくれた……。本当にありがとう」

 

 「親父……」

 

 「何だ…、泣いているのか…。良い大人が…情けないのう……」

 

 

 

 

 

 「あなたが俺の父親で良かったです。今までありがとうございました。父上」

 

 

 

 

 

 ああ、随分と良い、人生だった――

 

 

 

 

 

 

 

 ―視点 長門―

 

 

 半蔵様の父である十蔵様が、先日亡くなられた。この時期には珍しい晴れた日の朝の事だった。

 

 半蔵様はその時間仕事を抜け出していて皆に文句を言われていたのだが、恐らく父の死期を悟りお見舞いに行っていたのだろう。葬儀は本人の遺言に従い、親族だけでひっそりと行われたらしい。

 

 問題は十蔵様が亡くなって以来、明らかに半蔵様に元気が無い事だ。里の皆からしてみればいつも喧嘩しているイメージだったが、やはり何だかんだ言ってショックだったのだろう。

 

 伊蔵様に十蔵様と長い付き合いの二人を立て続けに失ったの事で急に不安になってきたのか、ボク達やモミジ様や角都様に急に抱き付いて来たりして、小南とモミジ様と角都様には殴られていたりする。あの年齢じゃ無かったら逮捕されている所だ。

 

 

 

 「――と言う訳で半蔵様を励ましてあげたいんだけど、どうするべきかな?犀犬」

 「何でオレなんじゃあ」

 「人生(なめくじ生)経験豊富だろうと思って」

 

 「おっ、分かっとるやないか。しょうが無いなあ、この犀犬に任しとくけん!!」

 (チョロい…)

 

 「まず半蔵は話を聞いた限りやと最近、外に出かけてないやろ?」

 「ああ、最近は部屋でゴロゴロしてるなあ」

 「それがいかんのじゃ、生き物は日の光を浴びんとやる気が起きなくなって来るけん。家の中でモンハンばっかしとったら、どっかの誰かみたいになってまうけん」

 「モンハン?何それ?」

 「何やろ?どっかから急に電波が…」

 

 「外に出かけるのは気分転換にもなるしな、色んな所に連れて行ったらええけん。長門の勉強にもなるしなあ」

 「色んな所かあ、弥彦と小南と一緒に少し調べてみるよ」

 「お土産よろしくなあ」

 「うん分かった。ありがとね犀犬」

 

 (何やこのええ子は…、もし半蔵やったらお土産のくだりで切れてるけん……)

 

 

 

 ―当日―

 

 

 「半蔵様!!こっちこっち!!」

 「遅いぜ半蔵様~!!」

 「待ってくれよ…、ジジイを置いてかないで…」

 「そうよ、半蔵様も年なんだから合わせてあげましょうよ」

 「ぐはっ、その優しさはかえって傷つくぞ」――

 

 

 「半蔵様!!これ買って!!」

 「実はオレも欲しい物が…」

 「実はボクも…」

 「お前ら俺を財布だと思ってるだろ…、まあ買ってやるけどよ」――

 

 

 「半蔵様、何かの集会やってますよ。しかも凄い盛り上がってるみたいです」

 「皆、壇上にいる奴の演説を聞いてるみたいだな」

 

 

 

 「労働者諸君!!この国の現状をどう思う!!」

 

 \ナントモオモワネーヨ/  \コエデケーウルセ-/

     \ヒッコメハゲー/

 

 「何とも嘆かわしい事にこの国は多くの労働者が少数の金持ちに搾取されている!!」

 

 \ホカノクニカラミタラゼンインカネモチダゾ-/ \ヒッコメハゲー/

         \テメーモイイフクキテンジャネーカ/

 

 「皆の者!!この私、あかはた テツオの元へ集え!!革命だ!! 」

 

 \ヒッコメハゲー/ \ヒッコメハゲー/ \ヒッコメハゲー/

    \フザケンナー/  

  \ツドウトカハンゾウサマイガイカンガエラレネ-/

 

 「あかはた テツオ語録も絶賛発売中だ!!是非とも読んでみて欲しい!!」

 

 \イラネー/ \ダメミタイデスネ/

   \アノサア…/

 

 

 「半蔵様!!革命とか言ってますよ!!」

 「まあ誰も賛同してないし良いんじゃねーか?せっかくだし語録も買っとくか?」

 「それで良いんですか半蔵様…」――

 

 

 「そろそろ最後になります」

 「おいおい最後って言ってもこの方向にある建物はあれしか無いだろ…」

 

 

 

 「長門!!弥彦!!小南!!待ってたけんね!!」

 「やっぱり犀犬神社しか無いよな…」

 

 「はい犀犬、お土産。結構おいしいお菓子だよ」

 「何や、酒やないんか…」

 

 「おい、俺の金だぞ…」

 「堅いこと言うなや、おかげで良い気晴らしになったやろ?」

 「!!お前の差し金だったのか」

 「半蔵、お前が元気無いって言うて皆心配してたんやけん」

 「…そうか、気を遣わせてしまったな…」

 「ふふん、半蔵。感謝するけんね!!半蔵からもオレに何かくれてもええんやで?」

 「なら今日買った物の中で一番高い物をやるよ…」

 「おおっ!!期待大や!!」

 

 

 

 

 

 「このあかはた テツオ語録をやるよ」

 「多分一番のゴミやんけ!!」

 

 

 



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大怪獣襲来!!

 何とか少しずつ投稿。


 

 ―視点 魚雨 半蔵―

 

 

 長く生きる事の何が良いかと聞かれると、技術の進歩を直接目にする事が出来るという事だろう。少なくとも俺はそう答える。

 

 そして現在、その技術の進歩の中心は間違い無くここ雨の国だろう。俺や商人達からの多額の研究への投資と匠の国の日々進化する技術力によって、雨の国ではラジオやカメラといった最先端の製品を生み出す事に成功した。

 

 今までの様に陸路で運ぶだけでは無く、南の港から世界中に向けてより効率的にこれらの製品を輸出している。その結果莫大な利益が生まれ、角都さんの機嫌も良くなって行く一方だ。

 

 

 

 ある日の午後、最近機嫌の良い角都さんから誘いを受けた。

 

 「半蔵、モミジ、研究所で面白い物が完成したらしい。仕事の休憩がてら見に行かないか?」

 「おお!!遂に頼んでおいた究極傀儡 頑○無が完成したと言うのか!!」

 「何やと~~!!」

 

 「頑○無は作らないし、作れないと言っただろうが…。お前の下らない夢に回す予算は無い」

 「ああついにはっきり言われてしまった…。そんな気持ちを一曲 夢破れて――」

 「歌わんでええから…。ほっといてさっさと行こ、角都さん」

 

 「シュコー I dreamed a dream シュコー in times a gone by~♪シュコー」

 「ガスマスクうるさっ!!」

 

 

 

 半蔵達が研究所に入ると、中にはカメラの化け物とでも呼ぶべき妙な形の巨大なカメラが、部屋の中心に鎮座していた。

 

 「ふおぉぉ~~!!ほぼ頑○無じゃ無いか!!」

 「いやいや大分ちゃうやろ…」

 

 「所長、こいつの説明を頼む」

 「お待ちしておりました角都様、半蔵様とモミジ様もご一緒の様で。これはビデオカメラと言って映像と呼ばれる動く写真を撮るカメラでございます」

 

 「映像?」

 

 「おや半蔵様、興味を持って頂けた様で何よりです。映像についてですが百聞は一見に如かず、と言う事で実際に見て頂いた方が早いかと」

 「勿体ぶらないで早く見せてくれよ」

 「はい、それでは前のスクリーンをご覧下さい」

 

 カメラとはまた別の機械が動き出し、光がスクリーンに投射される。

 

 「大通りの写真?むっ!!こ、これは…、動いてるだと!?」

 「これが映像です」

 「はえ~凄いもんやなあ」

 「これは金になりそうだな…」

 

 そこには雨の国で最も賑わう大通りの様子が、生き生きと映し出されていた。各々感心している様子だ。

 

 「このビデオカメラの素晴らしさが分かって頂けましたかな?」

 「でもお高いんでしょ?」

 「お高いですねえ…、一個人で買える物ではありません」

 「そこまで金を出しても今のところ大した使い道は無いしなあ…、売れねえかな…」

 

 半蔵が少し残念そうにしていると、所長が不意に口を開いた。

 

 「そこで提案があります」

 「?」

 

 

 

 

 「宣伝のために映画を撮ってみませんか?」

 

 聞き馴染みの無い単語が部屋に響いた。半蔵達は所長の話に耳を傾ける――

 

 

 

 

 ―脚本―

 

 

 「怪獣映画だ!!雨の国へ襲来した大怪獣!!それに立ち向かう主人公達を描いた超大作だ!!弥彦もそう思うだろ!?」

 「おお!!さすが半蔵様だ!!男の世界を分かってる!!」

 

 「そんなださいのより恋愛映画やろ!!女の思いに気付かない男!!すれ違う思い!!それでも最後には!!最後には…、小南もそう思うやろ!?」

 「は、はい!!半蔵様ごめんなさい」

 

 「当然サスペンスだ。雨の国で起きた猟奇事件、それを追う主人公、金とエロとグロを搦めて人の心を抉り出す。半蔵のバカ映画とは訳が違う。長門もそう思うだろ?」

 「良いですね。脚本次第で幾らでも面白くなるし、予算も抑えられそうです」

 

 「怪獣だ!!」

 「恋愛や!!」

 「サスペンスだ」

 

 

 

 

 「里長命令だ」

 

 「ひ、ひどい!!」

 「これが独裁者か…」

 

 

 ―配役―

 

 

 「やっぱり若い方が良いよな。弥彦、長門、小南頼んだぞ」

 「ええ!!」

 「ボク達で良いんですか!?」

 

 「この作品をより良い物にしたいんだよ…、それに色々な経験させてやるって約束してるだろ?」

 「半蔵サマ…、やっぱ何だかんだ言ってええ人やなあ…」

 

 

 

 

 「ちなみに俺はお前らに劇中でアドバイスを与える謎の科学者役だ」

 「重要な役貰う気満々やんけ!!」

 

 

 ―予算―

 

 

 「角都さん、単刀直入に言おう。幾ら出せる?」

 「…耳を貸せ」

 

 「……っ!!それ程の額を!!」

 「別に大した事じゃない」

 「嘘をつけ、興味無い感じでクールに装っておいて実は楽しみなんだろう」

 「違う」

 「またまた」 

 「……ふんっ!!」

 「うおっやめろ!!結構強めに殴るな!!照れんなよ!!」

 「ふんっ!!」

 「ちょっとホントに痛い!!やめて!!」

 

 

 ―最も重要な会議―

 

 

 「ふう、遂にこの時がやって来たか…」

 「来てもーたな…」

 「予算は全く関係無いがな…」

 

 「み、見ろよ半蔵様達凄え雰囲気だ…!!」

 「会談の時より凄い…!!」

 「これが独裁者…!!」

 

 

 

 

 「怪獣の名前を決めるぞ!!」

 

 半蔵が高らかに宣言する。これから壮絶な討論が始まる…!!誰もがそう思った所で角都が手を挙げた。

 

 「半蔵がいるのだからいくら話し合っても譲らないだろう。ここは大人になって子供達に任せないか?」

 「……しょうがないか…」

 「……そうやな。ウチらは大人になろか…」

 

 「もうめんどくさいのボク達に任せてるだけでしょ!!」

 

 

 

 「三人でじゃんけんして勝った奴が決めたら良いだろ」

 「私も弥彦のやり方で良いよ」

 「じゃあボクもそれで良いよ」

 

 「「「じゃーんけーんポン!!」」」

 

 「ぼ、ボクの勝ちか…」

 「早く決めろよ」

 「弥彦、あんまり急かさないの!!長門、ゆっくり決めて良いからね?」

 

 「う~ん」

 「長門」

 「半蔵様?」

 

 「俺はお前を信じている、お前の決めた名前なら何も文句は言わないから、自信を持て!!」

 「半蔵様…、分かりました……。怪獣の…名前は……!!」

 「行け…!!長門!!」

 

 

 

 

 「大怪獣ペインです!!」

 「長門…、お前……」

 

 中二病は誰の心にも存在する――

 

 

 

 

 

 ―遥か未来のとある一幕―

 

 

 「ボルト、映画館で面白そうな事やってるぜ。行ってみねーか?」

 「面白そうな事?何がだよ?シカダイ」

 

 「何でも昔の映画を再上映するらしい、更に再上映する映画はじいさんばあさんがやたら絶賛してる[大怪獣 ペイン]だぜ」

 「ああ!!聞いた事あるってばさ!!雨の国で撮られた世界最古の映画!!」

 「あの長門様も子供の時に出てるらしいぜ!!」

 「長門様の子供時代!?ますます気になるな!!」

 「行ってみようぜ!!」

 

 

 

 「おお!!ポスターも当時の奴を再現してあるのか!!」

 「何か思ったより気合入れてるみたいだな!!」

 

 「うわ!!もう始まる直前みたいだ!!すぐに行こうぜ!!」

 「おう!!」――

 

 

 

 「いや~すげえ迫力だったな」

 「怪獣のデザインがぶっ飛んでたな、尻尾が六本のナメクジって…」

 「本当に、あんな昔に作られた映画とは思えねえな」

 「特に怪獣が町を破壊するシーンは怪獣が本当にいる様にしか思えなかったな。あれどうやって撮ったんだろうな」

 「まさか本物の町を作る程予算があると思えねえしな…」

 

 「主人公の長門様達の演技も上手かったな」

 「でもただ一つだけ残念な所がなあ」

 「ああ、残念な所があるよな……」

 

 

 

 

 

 「「あの謎の科学者役演技下手過ぎだろ」」

 

 

 



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三角定規達の肝臓を!!

 随分と待たせてしまい申し訳ありませんでした…(待ってる人なんていないか…)。

 ちょっとストーリー作りの練習がてら書いた話ですので、あまり面白くは無いかもしれませんがご容赦下さい。
 書き溜めていた訳では無く、ただ単にモチベが上がらなかっただけなので、続き物にも関わらずこの一話しかまだ書けていません…。出来るだけ次の後編も早くうpしたいです。



 それは静かな夜だった。ちらほらとした雲に覆われた空、その隙間から一つ、二つと星が顔を覗かせる。生憎とその夜は新月、月明かりは全くと言っていい程無かったが、大通りには数ヶ月前から世界に先駆けて電灯が設置され、路地裏にも微かに光を差し込ませている。

 

 路地裏に足音が響き渡る。

 

 「くそっ、まだ追いかけてきやがる!!」

 

 男は必死に逃げ続けていた。地元の勝手知ったる薄汚れた路地を駆け抜けてゆく。忍には及ばずともかなりの速度で走っているが、それでも[追っ手]との距離は段々と縮まってしまっている。

 

 「はあっはあっ、すまねえオジギ、オレはもうここまでかも知れねえ…」

 

 男が体力の限界と共に動きが鈍る。その時、男の背後からクナイが飛来し、足に深々と突き刺さった。男は勢い良く転倒し地面に仰向けになる。 

 

 倒れた男の傍に追っ手が歩み寄る。

 

 「はあっはあっ、クナイとは…。やっぱりカタギじゃ無かったか…」

 

 息を切らせながら男は追っ手を睨み付けるがその表情は伺えない。追っ手は背負った刀を抜き倒れた男に向けて――

 

 

 

 ―視点 弥彦―

 

 

 「どうしたんですか半蔵様?こんな朝から」

 「弥彦、ちょっと付いてこい。良い勉強になるぞ」

 

 ある朝、半蔵様から突然そう言って誘われた。勉強か…、あんま好きじゃねえけど半蔵様がわざわざ誘ってくれたんだ。行くっきゃないよな。

 

 半蔵様と共に里をしばらく歩く。通りは準備で忙しそうにする様々な店の人々で朝から既に賑わっていた。最近知った事だが、みやげ物屋の表に飾られた五十分の一サイズの犀犬ぬいぐるみは何と売り物らしい。でか過ぎるだろ…あんな物誰が買うんだ?(ただし半蔵様が欲しがって里長室の天井を高くしようとして角都様に殴られた事は既に里中の周知の事実である)

 

 巨大ぬいぐるみに熱い視線を向ける半蔵様を見ると、本当に変わった人だと改めて感じる。しかしそんな所も含めて半蔵様の魅力だ。オレが忍になろうとした理由も半蔵様の様になりたかったからだ。

 

 幼い頃に見た夢、忍として半蔵様の跡を継ぐ…、継ぎたかったんだけどな……。

 

 

 

 半蔵様の跡を継ぐのはきっとオレじゃなくて長門だろう……。

 

 

 

 長門は天才だ、いつも一緒にいるからこそより確かにそうだと感じる。アカデミーの頃からその忍としての才能を否応無く見せ付けられた。その上戦争でオレを助けてくれた時に見せたあの目…、角都様によると輪廻眼と呼ばれる伝説の目だという。

 

 正直言って悔しい…。しかし長門が嫌いな訳では決して無い。誰よりも出来るのに、誰よりも優しい奴だ。半蔵様の後継者としてあいつ以上にふさわしい奴はいないだろう。

 

 でもなあ…、オレも男だ……。なかなか割り切れるもんじゃねえよなあ……。

 

 どうしてオレじゃないんだろう…?誰よりも半蔵様に憧れ、誰よりも努力して来たのに……、オレじゃ半蔵様みたいに完璧な忍になれないのだろうか?長門だったらなれるのにオレじゃなれないのだろうか……。

 

 

 

 そんな風に考えている内に半蔵様が立ち止まる。目的地に着いた様だ。ここは確か…賭博場だったか…?こんな所に半蔵様が用事?

 

 中に入ると明らかにカタギじゃ無い空気を持つ人間に奥へ案内された。勿論半蔵達と一緒なら何も問題は起こらないだろうが…。

 

 「おう半蔵、待ってたぜ」

 

 中では顔に無数の傷痕をつけた老人が座って待っていた。

 

 「一応、様を付けろよ…。久しぶりだな組長、話があるって聞いたが?」

 「まあ落ち着けや、そっちの子は?」

 「こいつは弥彦って言うんだ、ちょっと色々な場を経験させてやりたくてな。ほら弥彦、挨拶しとけ」

 

 急に話を振られて焦ったが急いで挨拶する。

 

 「あっ、初めまして弥彦って言います。半蔵様にはいつもお世話になってます。半蔵様、この人は?」

 「雨の国の侠客を取り仕切ってる鬼瓦さんだ。まあ組長って呼んどけば良い」

 「よろしくな、ボウズ」

 

 侠客?良いイメージは無いが、半蔵様はそんな人達とも繋がりがあるのか。

 

 「それで話ってのは何だ?」

 「ああ、それについてだがな――」

 

 

 

 ―視点 角都―

 

 

 「角都様、半蔵様と弥彦は?朝どこかへ出掛けて行ったみたいだけど…」

 「さあな」

 

 先程までしていた仕事が一段落したオレは長門を連れて近くの茶屋で休憩していた。甘い物は嫌いでは無い、最近気付いた事だがな。

 

 「角都様、この前教わった経済論についてもう一度詳しく教えて頂きたいのですが…」

 「ああ、それならな」

 

 静かに時間が過ぎて行く。平和など柄じゃないと思っていたのだがな…。半蔵とも長い付き合いだ。思った以上に感化されてしまっているのかもな、

 

 平和な時間も嫌いでは無い。

 

 

 

 「うわあああぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 静寂が突然破られた。何事かと叫び声のした方向に目を向けると、向かいの店で血だらけになって倒れる男と、その傍に佇む刃物を持った男が目に入った。

 

 「角都様!!」

 「分かっている…!!」

 

 長門が叫ぶと同時に体は向かいの店へ向かっていた。血の付いた刃物を持った男の前に立つ。

 

 「何をしている…!!」

 

 少しの怒りを込めた声で問いかける。しかしよく見ると男の目は虚ろで焦点も定まっておらず、足取りもおぼつかない様だ。

 

 「ボ、ボクはオ、オレは殺さなくちゃならない!!そいつがへそから蛇にそっくりの薔薇をオレに向けて伸ばし来てっ!!それで神様が葉っぱの日記を食べようとしないから、心臓は砂漠達の悲しみの代弁者のふりをしているふりをしたアヒルが素敵な奴隷制を定めるのに反対していて!!」

 

 明らかに正気では無い。男は震えながらオレに斬りかかって来る、すかさず刃物を持つ手を取り地面に叩きつけ、背中から解留愚々の触手を出し拘束した。

 

 しばらく拘束していると男は気を失い、そのままやって来た警務部隊に連行されていった。

 

 「刺された男の方は何とか助かりそうです。角都様は大丈夫でしたか?」

 「長門、オレが素人に遅れをとる訳無いだろう…」

 「それもそうですね…、愚問でした。…角都様、それは?」

 

 「さっきの奴の懐から取り出した…。粉…だな。というよりさっきの奴の状態から察するに…麻薬…だろうな」

 「!?」

 

 こういうのは、最悪に嫌いだ。

 

 

 

 ―半蔵様side―

 

 

 「最近、かなり強力なヤクが出回ってる。あそこまでやばいのは既存のどのヤクの症状にも無い」

 「…出所は?」

 「問題はそこだ」

 「?」

 

 

 

 「調査に行かせた組の者が全員帰って来ていない…、ウチの人間はヤワな鍛え方はしてねえ、それこそ忍にしか負けねえくらいにな……」

 「流通に忍が関わってるって事か…確かに俺らの管轄だな」

 

 「何か分かっている事は無いんですか?」

 

 「ふふふ、ボウズ。オレ達も馬鹿じゃねえ、売人が現れるポイントをいくつか抑えてある」

 「そこで俺達の出番という訳だな」

 「そういうこった」

 

 組長はそう言うと部屋の隅に待機していた若者に合図を出す。若者はそそくさと部屋を出て行ったかと思えば、すぐに戻って来た。その手には地図が握られている。地図を広げ組長は指でいくつかの場所を指し示す。

 

 「明日だ、この場所に明日売人が現れる。一晩に複数の場所で行う場合がある事からヤクの流通は組織的なものだろう」

 「組織…、こっちも人数を出さなくてはな…」

 

 半蔵様は少しの間地図を眺めた後、素早く立ち上がり出口へ歩き出した。

 

 「じゃあな、組長。後は俺に任せておけ。弥彦もさっさと帰るぞ、時間が惜しい」

 「ああっ、ちょっと待ってくれよ半蔵様!!」

 

 歩き出した半蔵様を追い掛ける。その時、後ろから声がした。

 

 「オレは侠客なんてやってる身だが、ヤクだけは許せねえ。やり方はどうあれあくまでもオレ達は社会を裏から支えなくちゃならねえんだ…。本当はオレ達だけで解決してやりたかったが…、半蔵様……頼みます……!!」

 

 半蔵様が顔だけ振り返る。

 

 

 

 「何だ、ちゃんと様付けで呼べるんじゃねえか……」

 

 

 

 勝負は明日の夜――

 

 

 

 ―角都side―

 

 

 「吐いたか?」

 「ええ、拷問するまでも無くしらふに戻ったら全部話してくれたそうです。麻薬の売り場はあの人が知っているだけでも複数あるみたいです」

 「とりあえずそこを狙うか…、数人捕まえたら芋づる式に残りの手掛かりも得られるだろう」

 「しかし妙な点が…」

 「?」

 

 「麻薬はどうやって国内に運び込まれたのでしょう?雨の国では南の港は勿論、陸路でも厳重に荷物を調べられます…」

 「……確かに不自然だがそれも売人達に聞くことで分かって来るだろう」

 

 確かに雨の国には幻覚などの諸症状を引き起こす様な植物やキノコは無い…。国外から持ち込まれた物の筈だが……。

 

 

 

 

 「ただいま~、角都さ~ん。里長室の天井は高くしてくれたか~?」

 

 聞き馴染みのある声が建物に響き渡る。あの馬鹿は…、麻薬の事なんざ何も知らないのだろうな……。オレと長門は帰って来た里長に事の次第を伝える為に玄関に向かった。

 

 



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本日は晴れときどき苦悩と刃物

 大変お待たせしました。最近忙しいしモチベも上がらないしでこんなに遅れちゃいました。

 どうか許して……。


 

 

 ―作戦会議―

 

 「決行は明日の夜だ」

 

 進行役の角都がそう告げる。

 

 半蔵達と角都達が情報を得たその日の夜、里長室で作戦会議が行われていた。メンバーは半蔵、弥彦、角都、長門の情報を持って来た四人に雨隠れの中でも選りすぐりの忍を加えた少数精鋭である。

 

 角都は言葉を続ける。

 

 「情報を集めたところ新種の麻薬は週末の夜、要するに明日の夜に流通する。いくつかのポイントに売人が現れるらしい、相手は他里の者かフリーかは知らんがどうやら忍の様だ。あまり大々的に動いては勘付かれる可能性があるのでこの場にいる少数精鋭だけで作戦を行う」

 「角都さん」

 「どうした?半蔵」

 

 

 

 「売人の生死は…?」

 

 ジャラリ、と懐に忍ばせた鎖鎌を鳴らしながら半蔵がそう聞いた。

 

 最近では聞くことの無かった里長の冷たい声色に角都以外のメンバーが気圧される。半蔵は己の国に麻薬をバラ撒かれている事に少なからず怒りを感じていた。

 

 「……出来れば生かして捕らえてもらいたいが、まあ最悪どちらでも構わん」

 

 角都は半蔵のそんな様子を見て絶対に捕らえて来い、とは言えなかった――

 

 

 

 ―視点 弥彦―

 

  

 どうしてだ…?

 

 きっかけは先程の会議で告げられた売人の現れるポイントへの配置。編成はスリーマンセルでそれぞれの地点の隊長が任命されて行く。(ちなみに半蔵は周りを巻き込む可能性があるため一人である)

 

 「魚雨 林蔵はA地点」

 「御意!!」

 「さみだれ カゲロウはDを頼む」

 「はっ!!」

 

 半蔵様の分家のベテランや新進気鋭の若手などがそれぞれ角都様から配置を言い渡される。オレと長門は流石にまだまだ隊長は任されないだろう、そう思っていたその時。

 

 

 

 「長門はBだ」

 「はいっ!!」

 

 ……長門は隊長?幼い頃からの親友がどこか遠くへ行ってしまう様な感覚がした。

 

 「角都様…、オレは……?」

 「弥彦はオレの班だ」

 「……」

 「不服か…?」

 

「……いいえ、…何でも…無いです……」

「そうか…半蔵、最後に一言頼む」

 

 

「ええ~本日は晴天なり~」

「…雨降ってるだろうが……もういい、解散だ」

 

 

 ……どうしてだ?どうして認めてくれないんだ…!?オレだって強くなってるのに…!!半蔵様みたいに、角都様みたいになりたくて努力して来たのに……!!

 

くそっ!!オレだって!!

 

 

「……」

「どうした?半蔵」

「…いや、何でも無い」

 

足早に部屋を後にする弥彦の背中を、半蔵だけが見つめていた。

 

 

 

 ―半蔵達の作戦決行当日 視点 ?―

 

 

 人間は一度楽を知ってしまうともう以前には戻れないという。しかしそれはそこまで悪い事だろうか?

 

 回って来るのは危険な任務ばかり…、まともな任務は名門の一族が完全に囲っちまってる。命懸けで任務をこなしても里の上層部にピンハネされその労力には到底見合わない額を受け取る…、それにも関わらず次の仕事を回してもらう為、頭を下げ感謝の言葉を繰り返す…。

 

 反吐が出る……!!

 

 オレこと葉桜 コウジが木の葉隠れを抜け、ヤクの売人なんてやっているのは楽がしたかっただけだと蔑むことが誰に出来る?

 

 ヤクを売り捌く自分が間違ってないとは言わない、ただ、それでも…

 

 

 

 「オレはあいつらよりはまともな人間だ…」

 

 自分に言い訳をする様に、薄暗い倉庫の中でオレは[商品]を整理していた―

 

 

 

 数刻ほど経っただろうか?今日は客の入りが少ない、場所が悪いか…、他の売人連中の方に客が流れちまってる様だ…。

 

 売人は全員何らかの理由で里を抜けて来た抜け忍だ。捕まる様なヘマはしない。

 

 

 

 「オレだってそんなヘマはしねえよ……気付いてるぜ?」

 「!?」

 

 男が背後から素早く飛んできた火遁を軽々と躱す。

 

 「何の用だ?ボクちゃん」――

 

 

 

 ―視点 魚雨 半蔵―

 

 

 「ヤクの売人皆殺し日和だな」

 「口だけでも捕まえるって言うつもりは無いか…?」

 

 

 作戦決行間近、いつも通り俺は角都さんと軽口を叩き合いながら皆が集まるのを待っていた。

 

 「眠いし腰痛いし最悪の気分だ…」

 「里長室で待ってても良かったのに、お前が自分も行くと言ったんだからな…」

 「分かってるよ…。そうだ、話は変わるんだがな、角都さん」

 「どうした?」

 

 「弥彦は大丈夫なのか?大分悩んでいるみたいだが…、心配だ…。」

 「…そうか?何も問題無い様に見えたが…」

 「やっぱりひじきに人の心は理解出来ないのか…、悲しきモンスターよ…」

 「モンスター…、どの口が言う…」

 

 

 

 角都さんと話をしている間に少しづつメンバーが集合していく。早めに来たメンバーと作戦を再確認していたその時だった。

 「皆さん!!大変です!!」

 

 長門が珍しく大声を出して部屋に飛び込んで来た。

 

 「どうした?長門」

 

 

 

 「弥彦を部屋まで迎えに行ったら書き置きが!!一人で先に行ってしまったみたいです!!」

 

 「!?何だと!?」

 「なぜだ!?」

 

 皆が矢継ぎ早に驚きの声を上げる中、長門は言葉を続けた。

 

 

 

 「書き置きには…、長門みたいに皆に…半蔵様に認めてもらいたいと…!!」―

 

 

 

 ―弥彦side―

 

 

 奇襲は失敗したか…!!

 

 相手と一旦距離を取る、半蔵様の武器でもある鎖鎌は間合いが何より重要だ。

 

 十分に距離をとり攻撃を加えていく。

 

 「死雨のジジイの猿真似か?こんなモン当たるかよ!!」

 

 男は鎖鎌の軌道を見切りまたもや攻撃を躱す。しかし躱す事は出来ても接近する事は用意では無い。

 

 (接近するチャンスはある!!あのガキが次に術を放って来た時、そこが勝負だ!!)

 

 リーチの差を生かして弥彦は攻撃を続ける。それを男は時に躱し、時に手に持ったクナイで弾きながら機会を待つ。

 

 (なかなか来ねえな…、ならこっちから誘ってやるか…!!)

 

 一際速く放たれた一撃を男はギリギリで躱す、無理な体勢で躱したため男に大きな隙が出来た。

 

 否、出来たふりをした!!

 

 すかさず弥彦は印を結ぶ。

 

 「火遁 串火!!」

 

 相対する男に奇襲の時に使った烏の形をした炎では無く、狙い撃つ様な一直線の炎が襲いかかる。

 

 「掛かったな!!」

 

 その瞬間、男は瞬時に体勢を立て直し放たれた術をかいくぐりながら、弥彦の懐に潜り込んだ。

 

 「貰った!!」

 

 男がクナイを突き立てようとした刹那、男の耳に声が届いた。

 

 

 

 「悪いな、本命はこっちだ」

 

 弥彦の懐から傀儡の腕が飛び出した。その腕に仕込まれた刃物が男を斬り付ける。

 

 「なん…だと…」

 

 傷は浅かった、しかし刃物に塗られた強力な神経毒によって男は地面に倒れ伏した。

 

 

 

 



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こころ

 長らくお待たせしてしまい申し訳ありません。

 長めの話の完結編だけ書き終える事が出来たので投稿させて頂きます。

 昨晩は奇跡のようにモチベーションが上がりました。一体あれは何だったのか…。


 ―視点 弥彦―

 

 街灯の明かりがごく僅かに届く、薄暗い倉庫街。地に伏す者と傍に立つ者、二つの人影は何も知らぬ人間が見れば先程まで激しい戦い繰り広げていたとは思えぬほど静かだ。

 

 しかし、肩で息をする[立っている方]の男の心中は穏やかとは程遠いものだった。

 

 

 オレの勝ちだ……。

 

 半蔵様の考案した仕込み傀儡が無かったら危なかったかも知れない。

 

 

 ……半蔵様?

 

 戦いが終わり随分と久しぶりに冷静になったような、そんな頭がある事を否が応にも思い出させる。

 

 

 そうだ…オレは……、命令を無視して…勝手に一人でここへ来たんだ……。半蔵様の命令を無視して……。

 

 急速に血の気が引いてゆくのを感じる。命令違反、オレがしたのは忍として最低の行為では無いか……。

 

 月の、街灯の明かり遠く離れて行く。夜が、いつもより暗い、そんな気がした。

 

 

 「やるじゃねえか…、クソガキ……」

 「!!」

 

 すぐ傍から声がした。声の主は目の前で倒れ伏す男、目を向ける。

 

 「忍界の死神魚雨 半蔵の膝元、雨の国でこんな事やってる以上、覚悟はしていたが…、まさかこんなガキに一杯食わされちまうとは…、オレもヤキが回ったかな……」

 「……お前もなかなか強かったじゃねえか…、何であんなくだらない事やってたんだ?」

 

 男は少しの間考える様な素振りを見せた後口を開いた。

 

 「生きるため…かな……。抜け忍だからなぁ、食い扶持が要る……」

 「だからって他のやり方は無かったのかよ!!」

 

 「……もうどうでも良いんだよ…、オレは……」

 「どうでも良い?」

 

 

 

 「昔の話だ。オレの忍道は終わった…、オレの忍道は世界に否定されちまったんだよ……!!もうそれが何だったかは忘れちまったがな…、忘れなきゃ頭がおかしくなっちまいそうだったから忘れた、だがな否定されちまった事だけは忘れられねえんだよ……!!」

 

 悲痛な面持ちで男は心中を吐露する。この男にも理由があるのだろう、ここまで世界に絶望するだけの理由が、だがオレは雨隠れの忍だ。命令を破ったオレだが、だからこそせめてやり遂げなければならない事がある。

 

 「すまねえな、勝ったのはオレだ。オレにも事情がある。勝たせてもらうぜ……」

 

 懐からクナイを取り出す。

 

 そして倒れる男に向かって――

 

 

 

 

 ―しばらく血の海の中に佇んでいると、倉庫街の入口の門の辺りがにわかに騒がしくなって来た。話し声が聞こえる…、この声は長門と小南、角都様、そして…半蔵様だ……。

 

 

 「弥彦ぉぉぉ!!無事かぁ!!」

 

 やがで半蔵様がとてつもない速度で滑り込んで来た。服が血だらけだけど……。

 

 「半蔵様、大丈夫ですか!?血が!!」

 「全部返り血だ、問題無い」

 

 遅れて長門と小南がやって来た。

 

 「弥彦!!心配したよ!!」

 「弥彦がどのポイントに向かったのか分からなかったから半蔵様と大急ぎで全部のポイント回って来たのよ!!」

 

 二人が半蔵様に続いてオレの元へ駆けて来る。その時、確かな怒気を孕んだ声が響く。

 

 

 「弥彦ぉ…、貴様は何をしている?」

 

 ゆっくりと近付いて来た角都だ。ギリギリと拳を握り締める角都、しかしそれを半蔵が手で制す。

 

 「角都さん、言いたい事は分かるがそれは俺に任せてくれ。先に片付けなくちゃならない事もあるしな……」

 

 半蔵様はそう言うと懐から何枚かの紙を取り出す。

 

 「他のポイントの売人が隠していた資料だ…、クスリの出所が分かった。少し[お話]もさせてもらったから信憑性は高いだろう。問題は…、その出所がな……

 

 

 ウチの国内だって事だ、最悪の地産地消だよ――」

 

 

 

 ―雨の国 北西 農耕地帯―

 

 雨の国の北西、土の国との国境方面は工業や商業の発達した中央部や南部と違い旧態依然の農耕地帯となっており、[置いて行かれた場所]と呼ばれる事も少なくは無い。そんな地域の一つの家屋に国の最高権力者が数人の護衛を伴って訪れていた。

 

 「この辺りの畑はあんたの物、って事で合ってるよな」

 「…ええ」

 

 半蔵の問い掛けに一人の老人が答える。老人は目を細めながら湯気の立つ茶を啜る。

 

 「クスリを作ってたのはあんた、って事で良いんだな」

 「……」

 

 老人は一つ溜め息を吐いてから口を開いた。

 

 「話を…、聞いて頂けますか……?」

 「…遺言になるかも知れんぞ?」

 「…ええ、分かっております――」

 

 

 老人は語った。ここ数年の雨の国の過剰なまでの商工業重視の政策から来る、国内に蔓延する農業従事者への軽視、日々の生活の苦しさ。時代が変わり己が[必要とされていない人間]だとされる屈辱。それに何より――

 

 「半蔵様は覚えていますか?かつて川の水がそのまま飲めた事を、今や工場の立ち並ぶ場所にはかつて美しい森があった事を、星空や蛍を最後に見たのはいつだったでしょう、そして

 

 

 この国に降る雨はこんなに黒かったでしょうか?」

 

 「……」

 

 それは恐らくもう戻ってこない遠き日の故郷の姿――。

 

 「だけど、戻って来たのです…。あの薬が作り出す幻の世界……、それはまさに…あの景色でした……。皆にも見てもらいたいたかった……、そしてあわよくばあの景色を取り戻そうと皆にそう思って欲しかった……」

 

 老人が語り終え、俯く。その目には涙が溢れていた。

 

 「ご老人…、何故もっと早く言ってくれなかった…、オレはあんたを殺さなくて済んだかも知れないのに……」 

 

 半蔵も涙を浮かべていた。ゆっくりと鎖鎌を取り出し、老人の後ろに立つ。

 

 「言い残す事は?」

 

 「…黒い雲の上を見に、お先に逝きます」

 「……すまない」一一

 

 死神の心に微かな景色を残して、長い長い夜が明けた。

 

 

 一後日談一

 

 

 魚雨 半蔵は悩んでいた。

 

 謹慎中の弥彦にどんな言葉を掛けてやればいいか…。自分をあそこまで慕ってくれているからこそ、起こしてしまった事。ならば自分が立ち直らせてやる必要があるだろう。

 

 そわそわして里長室の中を動きまわり、護衛の忍から「遂にボケたか…」と思われていると、部屋に何やら資料の束を持った角都が入って来た。

 

「半蔵、件の新種の麻薬だが研究の結果が出たぞ」

「おおっ‼︎やっとか‼︎」

 

「結論から言うと何処にでもある雑草の突然変異だ」

「突然変異?そんな都合の良い事がそうそう起こるか?」

 

「それが偶然って訳じゃ無さそうだ。ここまでの変異が起こるという事は外から相当なストレスが掛かったのだろう」

「つ、つまりどういう事だってばよ?」

 

「一つ心当たりがある筈だ…、雨の国の北西部、植物に突然変異が起こる程に強烈な刺激を与えた出来事…、

 

 

 

そう、例えば[猛毒]とかな……」

「……?………‼︎」

「気付いたか?」

「何てこった…、まさか……」

「恐らくそのまさかだ、雨の国北西部…、第一次忍界大戦の主戦場の一つ、そこでお前は何をしたか…覚えているだろう?」

 

「ああ、俺は岩隠れの大部隊に[雨隠れの涙]を使った……」

 

 

 

一弥彦宅にて一

 

「弥彦、居るか〜?」

「そりゃ謹慎中なんだから居るでしょう…」

 

半蔵は長門と共に弥彦の様子を見に家を訪ねていた。少し待つと玄関が開く。

 

「お早う、長門と……半蔵様⁉︎」

「ふふっ、元気そうだね。それじゃ半蔵様、ボクはこれで」

「おう、案内してくれてありがとな」

 

「お、おい待てよ長門、どういう事だよ‼︎」

「いや、俺から弥彦に言いたい事があったんだ長門は案内してくれただけだよ。さて、ちょっと近くの公園でも行こうか」

「いや、半蔵様。オレ今謹慎中で…」

「良いんだよ、別に」

「半蔵様は良くても角都様に見つかりでもしたら…」

「角都さんのスケジュールなんてオレが宇宙で一番知ってるよ(仕事から逃げる為)、今は大丈夫だ」

 

弥彦を無理矢理連行して来た半蔵は公園の椅子に腰掛け話を始める。

 

「弥彦、書き置き見たぞ…。皆に認めて欲しいんだってな」

「……」

 

「お前は誰よりも俺に憧れてくれてる。それは嬉しい、でもな、だからこそここではっきり言って置くよ、

 

俺になろうとするな、俺にならなくて良い」

「⁉︎」

「人なんて皆違って当たり前だ、長門には長門の良さが弥彦には弥彦の良さが、もちろん俺だって同じだ」

「だけど皆違うって言っても、長門や半蔵様みたいに何でも出来る奴とオレみたいにダメな奴に分かれるだけじゃ無いんですか‼︎」

「……あのなぁ、何でも出来る訳無いだろ。例えば俺は傀儡を操る才能はさっぱりだ、作るのは得意なんだがな…、それに比べて弥彦はすごい上手いじゃねーか」

「だけどオレは失敗してばっかりだし…」

「俺だって失敗だらけだっつーの、こないだの一件に関しても、元を正せば全部俺が原因だったんだぜ?」

「長門はどうなんですか‼︎ずっと一緒だと思ってたのにオレ、急に置いて行かれたみたいで…」

「長門にだってこれから出来ない事が見えてくるさ、長門に足りない所、小南に足りない所、それをお前が補ってやるんだ。お前の足りない所は逆に補って貰え、俺だってそうして来た。お前は俺の事を完璧だと思っているみたいだが、そんな事は無い。皆で支え合って生きて行くんだ。それが人間ってもんだよ」

「半蔵様……」

 

「まあ、納得出来ないならこれから自分なりに答えを見つけてみろよ。そうしたら、きっと良い人生になるぜ‼︎」

「ふふっはははっ!!半蔵様、ありがとうございます。何だか悩んでたのが馬鹿みたいです」

「そうだろう。最後にもう一つ良い事を教えてやろう」

「?」

 

 

「人という字はな支え合っていると見せ掛けて、デカイ方がチビにとてつも無い負担をかけていて一一」

「さっきまでの話は何だったんですか⁉︎」

 

 

 

雨のち雨の雨の国、時代も景色も変わるけど、人の弱さは変わらない、変わらないから面白い一一

 

 

 



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山椒魚、右往左往の雨隠れ生存記

 一応最終話になります。
 遅れに遅れて申し訳ありませんでした。


  

 

 空は宝石を叩いて伸ばしたかの様に真っ青に晴れ渡っていた。

 

 通りを行く人々の顔も、どこか明るい。何だかんだと言って人は雨に濡れるのが好きではないのだ。先日までいつもの様に雨が降っていたので、良く舗装された路面は湿り気を残しており、きらきらと光をちらつかせ里に住む人々の目を喜ばせた。

 

 近年盛んになった観光の目玉の一つである、特有の建築様式を持った背の高い建物には、巨大な横断幕が掲げられている。それが幾つも連なっているものだからそれは圧巻、この一言に尽きるであろう。

 

 横断幕にはそれぞれ少しの違いはあるものの、内容は一様にこう書かれていた。

 

 

 [木の葉隠れ開催、合同中忍試験に雨隠れが初参加]

 

 

 大人達も子供達もそれを指差しながらそれぞれ噂話が絶えなかった。

 

 これは良く晴れたある日の雨の国。第三次忍界大戦終結から七年、そして――

 

 

 

 ―独裁者、魚雨 半蔵の失脚から十二年後のある日の一幕である――

 

 

 

 

 ―視点 傀儡狂老人卍 一番弟子 アジサイ―

 

 もうもうと煙を吐き出す里の外れの工場街を、紫の髪を頭の上で束ねた少女が駆けて行く。少女は山椒魚の模様が入った動き易そうな着物に身を包み、一体何に使うのであろうか、工具のはみ出した大きな風呂敷を背負っていた。

 

 少女はまだ五歳かそこらといった所で、小さな体にその大きな風呂敷はあまりに不釣り合いに見える。何とも言えず微笑ましいその姿は、工場で働く人々にはお馴染みの光景で、日々のささやかな癒しになっていた。

 

 人々の視線にも目もくれずそのまま里を抜けると大きな森に辿り着く。それ程離れてはいないというのに、森の空気は工場街に比べ爽やかで、少女は立ち止まり一つ大きな深呼吸をしてからまた森の奥へと駆け出した。

 

 森の中をしばらく進むと、目的地であるこじんまりとした建物が見えてきた。

 

 「ちょっとおくれちゃったな」

 

 少女はそう言って一息つくといつもの様に建物に入って行った。

 

 一階は傀儡やその部品、また何に使うのかいまいち分からない道具が散乱しており、整理だとかそういった事が苦手な人物が住んでいる事が分かる。しかし、少女はそんな部屋の雰囲気が嫌いでは無かった。何より部屋に散乱しているそれは、普通の人間が見ればガラクタにしか見えないが、見る人が見れば宝の山と言って差し支えない物の数々であり、少女はそれが分かる側の人間だった。

 

 少女はそれらの持ち主である建物の主を探す。

 

 「おししょうさま~どこですか~?あじさいが来ましたよ~」

 

 そう呼びかけながら一階の部屋を一つ一つ見ていく。

 

 「おかしいな、いないのかな?」

 

 少女は不思議に思いながら二階に上がると、突き当たりにある寝室の扉が開いているのが目に入った。少女が部屋を覗き込むと一人の男が布団の上で窓の外を眺めていた。

 

 髪の長い、痩せた老人である。しかし何処にでもいるとは言えないであろう、何故なら老人は見ているだけで鬱陶しそうな、仰々しいガスマスクを身に着けていた。

 

 端から見れば完全に変質者、しかし少女はその老人を見てぱあっと顔を輝かせにわかに飛び付く。

 

 「おししょうさまっ!!」

 「うおっ!?」

 

 少女の存在にやっと気付いた老人は驚きの声を上げた。老人は抱き付いて来た少女を見てしばらく呆然としていたが、落ち着いてきたのか少女の頭を撫でると離れる様に促した。

 

 「突然飛び掛かって来んでくれ、驚くだろう…」

 「おししょうさまのことなんかいもよんだもん」

 「そうか…、最近耳が遠くてな」

 

 少女は頬を膨らませ非難する様な視線を向ける。老人は頭を掻きながら困ったように笑った。

 

 老人は傀儡狂老人卍と名乗り里の近くの森に住む変人で、その名(絶対に偽名だが)の通り傀儡職人をやっている。訪ねて来た少女、アジサイは昔、森で迷子になっている所を彼に助けられ、その時見た傀儡に憧れ、今では弟子として毎日の様に彼の家に通って傀儡の手ほどきを受けている(親は反対している)。

 

 「おししょうさまったらねぼすけなんだから!!すぐしたにいこ!!きょうもいろいろおしえて!!」

 「俺って一応、師匠だよな…?」

 

 嵐の様にやって来てからのあんまりな物言いに老人はげんなりとするものの

 

 「……?そうだよ、おししょうさまだよ?」

 「……ハア…」

 

 結局彼女の頼みは断る事は出来ない。無邪気な邪気とはこういうものか、と老人は嘆息するのであった――

 

 

 

 

 ――その日の分の作業を一通り終えると菓子と茶で休憩するのがお馴染みになっている。老人は、自分より遙かに年下の少女と他愛もない話をするこの時間が、言い様もなく好きだった。

 

 「きょうもたのしかったね!!」

 「ああ、そうだな…」

 

 その日の作業の話から始まり、少女が言いたい事を全て吐き出す様に次々話題を変えていくのも、これもまたお馴染みであった。

 

 「それでね、おかあさまったらまたおししょうさまのところにいくなって!!」

 「良い母上だなあ」

 「も~~!!おししょうさまもおこってよ!!」

 

 

 「ちゅうにんしけんってなんなの?みんなうわさしてる、ながとさまのおかげだとか」

 「木の葉でやるってのが大事なんだよ、昔の里長はそれはそれは悪~い奴で木の葉に嫌われてたから」

 「わるいひとだったの…?」

 「そりゃもうそれはそれは飛びっきりなあ…」

 「ふ~ん……」

 「どうした?」

 「わたしなんかそのひときらいじゃないかも。あったことないのに、なにもしらないのに…、なんでだろ、へんだなあ……」

 「……変だよ、それは」

 「……むう~」

 

 

 一回りも二回りも年の離れた二人は、多くの事を話して何度も笑った。家族の話、里の噂、傀儡の話。しばらくすると話題も無くなったのか、二人の間には茶を啜る音だけが響くようになった。茶と菓子が尽きると少女は少し俯きながら再び口を開く。

 

 「……おとうさまったらまだかえってこないの…、せんそうがおわったらかえってくるっていってたのに」

 「……」 

 「おししょうさまはどこにもいかないよね?」

 「……アジサイ、ごめんな」

 「おししょうさま?」

 「ちょっと行かなきゃいけない所があってな…」

 「どこ?すぐにかえってくるよね?」

 「……そうさな、アジサイが良い子にしてたらな…」

 「うん!いいこにしてるから!!すぐかえってきてね!!」

 

 「……アジサイ…、ごめんな…もっと色々教えてやりたかったんだが…」

 

 「……おししょうさま?へんだよ?」

 

 「……そろそろ行かなきゃな…」

 

 「……おししょうさま?だからどこへいくの?」

 

 「…この国を濡らす、降り注ぐ雨の…、そのふるさとの方だ……。皆が待ってる方へ……」

 

 「おししょうさま?なにいってるの?ねむいの?」

 

 

 

 「……ありがとう、国よ…里よ…、そして俺の愛した人々よ…。死雨はこんなにも人として昇って逝くぞ……、ありがとう……」

 

 「おししょうさま?おししょうさまっ!?」――

 

 

 

 

 

 

 常雨(とこさめ)の 故郷を駆ける 不如帰(ほととぎす) 浮世の月の 半分を残して

 

 

 

 

 傀儡狂老人卍、改め[魚雨 半蔵] 享年八十八

 

 良く晴れたある日の昼下がりの事であった。

 

 

 

 

 




[山椒魚、右往左往の雨隠れ生存記]これにて完結となります!!

 今まで応援して下さりありがとうございました。
 本作品は初めての投稿で、途中から投稿ペースが大幅に遅れてしまったにも関わらず、多くの高い評価、感想をいただき読者の皆様には本当に感謝の気持ちしかございません。

 原作が終わってしまってもNARUTOのssは不滅です!!作者も元々読み専なのでこれからも面白いNARUTOのssに出会える事を願っております。

 また感想欄で半蔵が第四次忍界大戦で穢土転生されたら、という話がありましたが正直な話、作者はリアルが忙しくなってしまい書けそうにありません……。原作キャラが沢山出てくるので作者の実力的にも難しそうです……。
 どなたかが書いていただけるなら作者の許可は全くいりませんので、ご自由に創作してもらって構いません。また何人かの読者様に書いていただけたとしても、どれが正当かなどは一切決める事は無いので、気軽に書いて頂けたらなと思っております。

 長くなってしまいましたが、応援本当にありがとうございました。もしかしたら次回作を書く暇が出来たり、どこか別の作品の感想欄に現れるかもしれませんので、その時はまたよろしくお願いします。

 


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番外編 金は天下を回った挙げ句、家に帰って歯 磨いて寝る

角都さんの話はもう一話続きを書くつもりです。
だから今回は内容薄め。


 

 

 永遠の命——

 

有り余る富——

 

己を慕う人間達——

 

 

 

 

 嗚呼、なんて不幸。ただ

 

 

 

 お前が此処にいないから——

 

 

 

 

 —視点 角都—

 

 目が覚めて、心の臓が相も変わらず五倍鳴った。

 

体は生まれたての赤子よりも健康と言えるだろう。しかし最近は寝床から出て行くのに時間がかかる。

心が体を引き止める。そんな言葉がぴたりと合っているここ最近であった。

 

 喉が渇いた、枕元の茶を一口飲む。昨晩煎れたものだ、寝起きの体に冷たさが心地良い。思えば茶も、あいつに勧められてから良く飲むようになったのだったな。以来、こいつは人間以上に頼もしい仕事仲間といった所だ。

 

 「仕事…、仕事か……」

 

 体を起こす。外行きの服装に着替え、今日も仕事場である里長塔へ、玄関を出た所でふとある事に気付いた。

 

 「……仕事は…、辞めたんだったな…」

 

 まったく…、自分で決めた事だろうに…。すっかり習慣になっちまってる……。

 

 最近の事だ。あいつの死から程なくして、オレは里長の補佐を辞めた。元々、あいつとの約束でやってた事だし、長門もとっくに一人前だ。いざとなったら弥彦と小南もいる…。

 

 ……そう、もうオレがいなくても良いのだ…。

 

 オレは何とも言えない精神的な倦怠感を体に纏わり付かせたまま、ますます巨大で豊かになって行く雨隠れの里を歩き出した。

 

 「全く…、今のオレは世にも珍しい用事の無い角都様…、いや角都さん…か……」

 

 通りのやかましさに当てられて、柄でも無い軽口を叩いてしまう。今のオレはその程度には無駄に気楽であり、また心地良く退屈であった。

 

 さて、何をしようか。最近では珍しくもなく暇だぞ。屋台で菓子でも買おうか?それとも暇人らしく明るい内から酒でも飲むか?

 

何をするにしてもオレは顔が売れ過ぎている様で、周りから少なくはない視線を感じる。もう地位も名誉も全て置いて来たというのに…、全く…、煩わしいものだ……。

 

視線を避ける様に通りを少し外れた場所に腰掛ける。しかし参った事に、そこかしこから聞こえる阿呆な話し声がオレの周りから無くなりはしなかった。第三次忍界大戦が終わってからはどうも世界全体に平和な空気が漂っている様に感じる。オレの様な古い人間は平和ボケ、とも感じてしまうのだが、この里の人間に限っては安心し切ってしまうのも無理はないだろう。

 

もとより評判は良かったが、今の里長である長門が確固たる支持を獲得しつつあるからだ。第三次忍界大戦で見せた手腕も人々の記憶に強く残っているのだろう。もっともオレもかなり協力した訳だが。

 

オレはまだ早いと反対していたが、あいつは分かっていたのだろうな…、誰よりも人を殺せた死雨は、誰よりも人の弱さを愛し、誰よりも人を信じていた……。

 

「ハァ…、敵わねえな……」

 

思わず溜息が出た。らしくもない、疲れているのだろう。何かやる事は無いものか…、少し前まで自らの経験を元に政治や経済についての本を書いていたが、それも最初の数冊で飽きてしまった。評判はなかなか良かったがな……。

 

そんな事を考えながらしばらく歩いていると、段々と行き交う人の数が増えて来る。

 

失敗だ……。人混みは苦手だというのに、どうやら里の繁華街に辿り着いてしまったらしい。余りに人が多く、今更流れに逆らって抜け出す事も難しそうだ。

げんなりとした顔で流れに身を任せ歩いて行くと、にわかに足元に衝撃を感じた。足元に目を落とす。

 

「痛った〜、ごめんなさい…どなたか存じませんが当たっちゃったみたいで…」

 

 

足元で転んでいたのは年端もいかない小さな少女、見た目に似合わない丁寧な言葉遣いでそう言い、ぺこりと頭を下げて来る。

 

「オレは大丈夫だが…、お前こそ足を擦りむいてるじゃ無いか…、見せてみろ」

「はわっ⁉︎だ、大丈夫です…。私なんかに構わなくても……」

「何を言ってるんだか…、っ‼︎お前…まさか……」

 

顔を上げた少女、幼さを感じさせる可愛らしい表情。しかし、目を開けようとしない事以外は……。少女はすぐ側に落ちている杖を手探りで探している。

 

「目が…、見えないのか……」

「……」

盲目な人間というのは数多く見てきたが、本当の意味で見えないというのは珍しい。何故なら今この時代に至るまでそういった者は口減らしに殺してしまうのが、半ば常識と化していたからだ。

 

「はわわ、杖はどこ?」

「…ほらよ」

 

地面に手を這わせ落とした杖を探す少女に杖を渡してやる、無視して行っても良かったのだが、何故だが放っておけなかった。

 

役に立たん人間に情けを掛けるな、と今までは口を酸っぱくして言っていたのはオレだというのにな……。

 

「はわっ⁉︎あ、ありがとうございます」

「…それは構わん、いいから足を見せてみろ」

 

「そんなっ‼︎本当に私なんかに構っていただかなくても良いんです‼︎」

「…足の手当てはしてやる。だが一つだけ約束しろ、オレの前で私なんか、とか二度と言うな…、吐き気がする」

 

あいつが一番嫌いな言葉だ。あくまであいつがな……。

 

「っ…、分かりました。」

「ふん…、良いから足を出せ。全く…、こんな状態でどこへ行く気だったのだ?」

「お、お母さんに頼まれてお花屋さんに行くところだったんです」

「目が見えないのにか?」

「道は感覚で覚えてますから、いつもは何事も無く来れるんです。でも、おじさんは何故か気配がしなかったからぶつかっちゃいました……」

「…まあ良い、乗りかけた船だ。着いて行ってやる」

「いいえ‼︎本当に良いんです‼︎私なんk」

「あぁ…?」

「うっ、ごめんなさい…」

 手当てを終えて花屋へ向かう。我ながら似合わない場所だと思いながら、少女を連れ店ののれんをくぐっていった。

 

「ここにはよく来るのか?」

「はい、色は見えなくても香りなら楽しめますから」

 そう言いながら花を選ぶ少女、それは本当に[見えている]様でただ驚くばかりだ。

 

 「おじさんはどうして気配がしないんですか?」

 「…昔は忍をやっていた。その時からのクセだろうな……」

 「忍!!凄い!!」

 「凄くは無いだろう、忍はいくらでもいる。それにオレは金でしか動かん最低の部類だ」

 「いいえ、私はこんな体だから絶対に忍にはなれませんから。もちろん目が見えたからって誰でもなれる程、簡単な物じゃないってのも分かってますけど……」

 「……花は選び終わったのか?」

 「あっ、はい」

 「寄こせ、オレが買ってやる」

 「そんなにお世話になる訳には……」

 「…買ってやるからもう一度約束しろ。私なんかって絶対言うな、それともう一つ、すぐ卑屈になるのも控えろ」

 「……はい、分かり…ました……」

 

 そう言って店主のもとへ向かう。予想外の出費だな…、まあ金なら腐る程あるが……。代金を払うその時、なんとなく店の隅にある一本の花が目を引いた。緑色の花弁を飾る様に黒色の

葉が生えている。

 

 「……店主、あれも貰えるか?」

 「おお、お客さんお目が高いねえ。あの花は」

 「いや、なんとなく気になっただけだ。説明は別に良い」

 

 

 少女に花を渡し店を出る。少女はどこか嬉しそうな表情で、手に持った花束の香りを嗅いでいた。

 

 「おじさん、ありがとうございました」

 「約束を守るなら構わん」

 「はい、絶対に約束します。それと一本嗅いだ事の無い匂いがあるんですけど、これは?」

 「……サービスだ。それよりこれから時間あるか?」

 「えっ、ありますけど…」

 「ちょっと知り合いの所へ行く、そいつならお前の力になってくれる筈だ」

 「?」

 

 まったく…、オレはどれだけ暇なんだか……。

 

 

 少女と共に騒がしい町中を抜けて行く。しばらく歩くと目的地の一軒の民家に辿り着いた。

 

 「モミジ、いるか?」

 「お~う、って角都さん!?なんや珍しいな。しかもそんな小さい子連れて…、寂し過ぎてついに他所の子誘拐して来たんか?」

 「相変わらず馬鹿で安心したぞ。突然だが、こいつに感知忍術を教えてやってくれ。才能はある」

 「はあ?ホンマに突然やなあ…、まあウチも暇やから構わんけど」

 「はわっ、おじさん…どういう事?」 

 「……まあ、なんだ…

 

 

 

 サービスだよ……」

 

 

 

 

 ハア……、いつから金以外でも動く人間になっちまったんだか。

 

 

 

 笑えるよな…、半蔵……。

 

 

 

 

 



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金は天下を回った挙げ句、家に帰って歯 磨いて寝る その二

何とかもう一つも書き終わったのでどうぞ。


—視点 角都—

 

「感知の調子はどうだ?」

「ううっ、何となくは分かるけど5メートルくらいだし、すぐ疲れちゃうよ」

「まあ、今の段階でそれだけ分かれば上出来だ」

 

オレは先日出会った少女と偶然遭遇し、共に里を散歩していた。もっとも少女はこの後モミジの家に行くらしいので、相変わらず暇なのはオレ一人だが…。

 

「でもね、私絶対に頑張るよ。おじさんが折角あんなにお世話してくれたんだし」

「いや、止めたくなれば止めれば良い。そっちの約束はしていないからな……」

「……おじさんは凄い忍なんでしょ?モミジさんが言ってたよ?」

「…いや、大した事は無い。もっと凄い奴を何人も見てきたからな…。それに今はもう忍じゃ無い、ただのズレた老人だよ……」

「……」

 

オレと少女の間に沈黙が流れる。モミジの家に着くから、そろそろお別れだな。そう考えていると沈黙を裂く様に少女が口を開いた。

 

 

「……おじさんは変じゃないよ」

「…?」

 

「お金でしか動かないっていうのも嘘、おじさんからしたら助けてくれたのもただの気紛れなのかもしれないけど、目が見えない私にしか分からない事もある。おじさんはとっても優しい人だって事だよ……」

「よせ、オレなんか…」

「止めて‼︎」

「っ‼︎」

 

 

 

「私とも約束して…、オレなんか、って二度と言わないで…、これ以上……

 

 

 

 

私の大好きな人の事、悪く言わないで……」

 

「……」

 

「初めて会った時、花を手渡してくれたよね?その時少しだけ手が触れたの…、おじさんの手…温かかった……」

 

 

少女の涙。永遠とも感じる時間が流れる。一つ息を呑み込んでからオレはそれを言葉にした。

 

「……分かった。約束するよ」

 

 

「……うんっ‼︎」

 

少女はそう笑いながら言うと、そのまま振り返る事無くモミジの家へ駆け出して行った——

 

 

 

 

 

——少女と別れた後、オレは歩いて里の門を出た。そのまま森の中を進んで行く。朝からオレの後を尾けている[何者か]と話すために…。

 

「…ここなら良いだろう。そろそろ出て来たらどうだ?」

「…やはり分かっていたか…」

 

そう言って姿を見せたのは雲の模様が入った外套を着た、渦巻き模様の仮面を付けた人物、只者では無いな…。

 

「オレの名はうちは マダラ…、お前なら良く知っている名だろう……」

「っ⁉︎」

 

どういう事だ?うちは マダラはとうの昔に死んだ筈…。動揺を抑えながらあくまで冷静に聞き返す。

「お前が本物だったとしたなら聞きたい事は多くあるが…、とりあえず用件は何だ?」

「前置きはいらんか…、まあいい角都、オレの計画に協力しろ」

「計画……?」

 

ぴりぴりとしたプレッシャーを感じる。恐らく…、オレではこいつに勝てないだろう……。

「こちらも何も明かさぬままお前を協力させられるとは思っていない…、聞かせてやろう……。オレの

 

 

 

月の眼計画をな……」

うちは マダラを名乗った男はにわかには信じ難いその計画の全容を語り始めた——

 

 

 

 

 

——「角都、お前もこの腑抜けた世界にはうんざりしているのだろう?」

「全ての人間が…、夢の中で生きる……」

「そうだ、金も無限に生み出せるし、死雨の半蔵にもまた会える。お前にとっても理想の世界だろう」

 

 

  あいつと…また……。

 

 オレは静かに目を閉じる。

 

 

 

―「角都、角都っていうのか‼︎かっこいい名前だな‼︎俺は半蔵っていうんだ‼︎これからよろしくな‼︎」

「……それよりこの国が行っている政策について聞きたい。本当にお前が考えたものなのか?」

「あぁ~!!遠回しに馬鹿っぽく見えるって言ったな!?」―

 

 

 ―「角都さ~ん、仕事が終わらないよ~!!」

 「いちいちオレに言いに来るな…。それに角都さんて…、何故急にさん付けになった?」

 「滅茶苦茶頼りになるから角都さんだ!!異論は認めん!!」

 「……ハア」

 「ねえ、角都さんてもしかして俺の事嫌い?」―

 

 

 ―「半蔵、遂に戦争だぞ」

 「……」

 「おい、半蔵。聞いているのか?」

 「……国を作ると決めてからこの日の事を考えなかった日は無い。角都さん、俺に任せろ」

 「っ……!!」―

 

 

 ―「角都さん、やっぱりそろそろ引退するよ、俺は少し恨みを買い過ぎてる…。これからの雨の国にとって俺は邪魔だ……」

 「……そうか」

 「辞めさせられたって形にしないとな…。辞めるのも大変だな…」

 「お前の後は…、長門で良いんだよな?」

 「ああ、もう決めた事だ。そこで角都さん、一つ頼みがあるんだが……」

 「?」

 「角都さんは辞めずに、しばらく長門を支えてやってくれないか?」

 「ハア、本当に勝手な奴だな…」

 「まあ今に始まった事じゃ無いだろう」

 「偉そうに言うな」

 「うおっ!!止めて、強めに殴らないで!!」―

 

 

 ―「角都さん、久しぶり……」

 「元気…、じゃ無さそうだな……」

 「ははっ、多分もう長くないだろうな。角都さんは元気そうだな」

 「羨ましいか?」

 「いいや、全然」

 「フン……」

 「なあ角都さん…、俺はこの世に何を残せただろうか…。最近はそんな事ばかり考える……」

 「……」

 「でもな、皆はどう思ってるか知らないが、俺は割と満足してるんだ」

 「?」

 

 

 「親父、伊蔵、モミジ、イブセ、犀犬、長門、弥彦、小南、扉間、色んな人と出会えたから……、そして何より

 

 

 

 

 角都さん、あんたっていう最高の相棒に出会えたから、後悔は無い」

 

 

 

 「……イブセが相棒じゃ無かったのか?」

 「うっ、確かに良く考えたらイブセの方が……!!」

 「台無しだ…、馬鹿……」―

 

 

 

 

 目を開け、再び男を見据える。

 

 「返答は決まったか?まあいいえは無いというのはお前なら良く分かっているだろうが……」

 「ああ、考えるまでも無かったよ…」

 「それで?協力するか?死ぬか?」

 

 

 

 

 「断る」

 「!?……何故だ。永遠の夢を捨てるのか?」

 「フン……、オレはな

 

 

 

 

 金でしか動かん男なんでね……」

 

 

 

 

 

 夢はもう、此処にある。

 

 

 

 夢の様な、時を生きた――

 

 

 

 

 

 

 ―「あぁ~~!!」

 「どうしたの?そんな大声出して」

 「おじさんに…、おじさんに貰った花が枯れちゃったの……」

 

 

 



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