『先生』を愛した赤龍帝 (女騎士)
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一話

あらすじ長くなってすみません


四苦八苦しながらも何とか周りの助けを借りて今まで生き延びて来たグレイフィアはその日、自分が現在、教師として所属している中学校に在籍しているとある生徒に呼び出され、西日が辺りを照らす中、一人屋上へと来ていた。

 

「・・・ハァ...」

 

溜息を吐いた彼女は昼間、手渡された手紙に書いてある文面に目を通し瞼を閉じる。

 

(前にもあったけど、今回はどうやって断ろうかしら...?)

 

自分がいた前の学校やその前の職場など人間界に来てから現在に及ぶまでに自分の内面を見ず、外面で決めて告白してくる者や自分の性格も見てくれた者から三桁にも及ぶ告白を受けてその都度、相手に失礼のないよう丁重な言葉を紡ぎ、断ってきた彼女は頭を悩ませていた。

何故、ここまで彼女が悩んでいるかというと自身が悪魔という千年、一万年単位で生きる種族に生まれたからだ。

人間界にやってきた当初、自身の美しさ、人柄に見惚れた男性に求婚され結婚してみたものの最期は看取る事になり深く悲しんだ。

そして、その悲しみを何年もかけて乗り越えたグレイフィアはその時、決心した。

もう、自分は一生独身のままでいよう、と。

深く考えず、「好きだ」というだけで結婚してしまってあれほど悲しまなければいけないのならばもう自分は人を愛さず、好きにならなければ悲しむ事はない、とそう結論づけたグレイフィアはそれから様々な男性に求婚を受けたが全て断り続けている。

 

自分の過去を振り返り、今回も断ろうと呼び出した生徒を待っていると、グレイフィアの背後にある扉が勢いよく開かれ、中から制服を着崩した茶髪の男子生徒が現れた。

 

「ま、待たせてしまってすみません...ハァ、ハァ」

 

息遣いが荒い彼の額からは汗がダラダラと出ている。

彼の姿を見たグレイフィアは少しの間唖然とした後、クスリと笑って問いかけた。

 

「また、誰か助けてたの?兵藤君」

「え?・・あ、まぁ、はい、そうです。すみません...」

 

普段と変わらぬ口調で問いかけているのに怒っていると思ったのかグレイフィアの問いに兵藤と呼ばれた男子生徒は荒くなっている息を整えながら返答するも段々と声が小さくなっていく。

 

「あ、決して怒ってるわけじゃないのよ?その優しさは貴方の美点だと私は思っている。寧ろ、褒めてるわ。目の前で困ってる人がいたら出来る限り助けるなんてそうそう出来るものではないからね」

「そ、そうですか?」

「そうよ」

 

グレイフィアの考えに頬を赤らめながら兵藤が問い返すとグレイフィアはコクリと頷き、フフッと笑みをこぼした。

西日に照らされるグレイフィアの微笑みに顔を更に一層赤くした兵藤はバクバクと脈打つ心臓に手をやり、落ち着こうと努力する。

数秒の間、手をやって漸く落ち着いた兵藤は、意を決し本題へと踏み込んだ。

 

「あ、あの、グレイフィア先生...」

「ん?」

「そ、その、手紙...読んでもらえましたか...?」

「・・・ええ...そして、ごめんなさい」

「ッ!」

 

グレイフィアから文面に対する返答を貰った兵藤はビクッと身体を震わせ、俯く。

数秒の間、静かな空間が流れた後、兵藤は口を開いた。

 

「・・良かったら、理由を教えて貰えませんか?自分に何が足りないのか知りたいです」

 

震える声を必死に保ちながら、目の前で申し訳なさそうに下を見つめているグレイフィアに兵藤が問いかけると、グレイフィアはパッと顔を上げ、ブンブンと首を振り、兵藤の問いを否定する。

 

「それは違うわ。貴方には勇気があって優しさがあって正義感があって...偶に凄い性欲が強いのがキズだけどそれはまぁ、男子中学生だから仕方ないとして...私が何を言いたいのかというと貴方はとても魅力的な男性よ。兵藤君。交際を受け入れられないのは先生と生徒という立場もあるのだけれど、もっと重大な事があるの」

「重大な事...ですか?」

「・・ゴメンね。それは言えない...だけど、これだけは信じて。兵藤君、貴方はとても魅力のある男性って事だけは、ね」

 

兵藤にそう言って手紙を返したグレイフィアは辛そうな表情をしながら、その場で立ち尽くす兵藤の目の前から去っていったのだった。




グレイフィアが先生だったら?と考えて思いつきで書きました


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二話

グレイフィアに告白を断られた次の日、兵藤は机に頬杖をついてボーッと窓から見える景色に視線を向けていた。

 

「兵藤君」

 

教室の前方で教鞭を執る教科担当の教師から呼びかけられてもトロンとした表情で窓の外に映る風景に視線を向けて心ここに在らずの様な状態の兵藤。

 

「兵藤君、大丈夫?」

 

何時もはしっかりと授業を聞いている兵藤に「何故?」と思い訝しみながら教鞭を執っていた教師が話しかけると兵藤は慌てて立ち上がり、机に置いておいた教科書を取った。

 

「は、はい!話を聞いてませんでした!すみません!」

「い、いや、私は、何も『授業を聞いてますか?』とは聞いていませんよ?」

「・・・え?」

 

兵藤の行動に少し驚きつつ、謝る兵藤に自分は怒っていないと説明する教師の言葉に呆然としてしまう兵藤だった。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

「・・ハァ...今日は散々だったぜ...。まぁ、理由はわかるんけどな」

 

昨日の事を思い出し、再び「ハァ...」と溜息をついた兵藤は本日までに提出しなければいけない課題を先程終わらせたばかりの疲れた身体を引きずりながら校舎を出て校門へと向かっていた。

 

「でも、何だろうな?グレイフィア先生の話せない事って...?」

 

昨日、グレイフィアに言われた言葉を思い出しながら兵藤がトボトボと歩いているとドルンッとバイクなど二輪車特有の唸る様な排気音が聞こえてきた。

排気音に驚いた兵藤が慌てて視線を向けると、そこにはまだ少し肌寒さが残っているからだろうか髪と同じ銀色のレザースーツを着たグレイフィアがCB400SFに跨っていた。

 

「せ、先生!」

「? ! ひょ、兵藤君⁉︎」

 

突然、予想外の人物に名前を呼ばれた為、ヘルメットを被ろうとしていたグレイフィアは驚いてしまい、こけてしまいそうになる。

 

「キャ⁉︎」

「ッ!」

 

このままではグレイフィアの脚がバイクの下敷きになってしまう、と瞬間的に感じ取った兵藤は持っていた鞄を投げだし全速力で駆ける。

 

(間に合え...間に合え!)

 

奥歯を噛み締め、腕を振り、脚を動かす。

自分の所為で初めて恋をしてしまった人を傷つけさせる訳にはいかない。

兵藤は一瞬、最悪の未来を考えてしまうがブンブンと頭を振り邪念を振り払う。

 

すると、兵藤の全力の行動は実を結び、グレイフィアの脚がバイクと地面の間に挟まるという最悪の未来を回避する事が出来た。

ムニュッとした女性特有の柔らかさが体の上半身と腕に当たりシャンプーのいい匂いが兵藤の鼻腔をくすぐる。

 

「・・・」

「・・・」

 

視線を交錯させて互いを見つめ合う兵藤とグレイフィア。

流麗な銀髪とまるでお伽話や創作物語に出てくるヒロインの様なまるで人間ではない美しいグレイフィアの顔が目の前に来て兵藤の心臓はドクンドクンと早鐘を打つ。

そして現在、兵藤に身体を支えられているグレイフィアの心臓も早鐘を打っていた。

先程まで一瞬の事でよく分からなかったが自分が現在置かれている状況を確認した彼女は昨日、告白されたという事もあるだろうが、悪くいけば自身にも危険が及ぶかもしれないというのに何の迷いもなく飛び込んで自分を守ってくれた兵藤の行動に頬を赤く染めて、兵藤の顔を見つめていた。

 

「・・あ、有難う。兵藤君」

「・・い、いえ。何ともなくて良かったです」

 

しばらくの間沈黙していたグレイフィアは兵藤に礼を言い、落としてしまったヘルメットを取ろうとサイドスタンドを立てる。

 

「あ、取りますよ。はい、どうぞ」

「ありがとう。ごめんなさいね?」

「いえ。先生の普段見られない姿見られて眼福ですよ」

「え?・・・あ」

 

ニコリと笑みを浮かべて話す兵藤の視線を見てクスッと笑ったグレイフィアは胸元まで開いていたジッパーを首元まで上げ、兵藤から受け取ったヘルメットを被った。

 

「全く、もう。Hな生徒さんね。・・でも、さっきは本当にありがとう。じゃあ、また明日ね。兵藤君」

「・・あ、あの、先生!」

「ん?どうしたの?」

「俺、頑張ります!」

「え?」

「せ、先生が何を思ってあんな悲しそうな顔したのか分からないけど、絶対先生を振り向かせてみせます...!」

「ッ! ・・・」

 

決意を固めた兵藤がそう言い放つと、ヘルメットを被っている為、どういう表情をしたか分からないが一瞬、ピクリと反応したグレイフィアは無言のままその場から去って行ったのだった。




グレイフィアがライダーだったらカッコいいなと思って書いてみました。
次で原作に入れたら良いなと思ってます


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三話

兵藤と別れたグレイフィアは学校からバイクで20分程かかる自宅へと帰り、乗ってきたバイクを駐輪場へと置いた。

ヘルメットをバイクの上へと置いた彼女は、片手を目元にやり体を震わせる。

 

「私の事が好き...?私も好きよ...でも、また悲しい思いをするだけじゃない」

 

昨日、今日と兵藤から言われた言葉を思い出した瞬間、過去に経験した体験を思い出すグレイフィア。

凄く性欲が強く、少しバカだけど、とても他人にも人じゃない植物や学校で飼われている動物達にも優しい兵藤に好感を持っている自分がいる。しかし、自分の気持ちを抑えないと悲しんでしまうであろう自分がいる。

心の中に住まう二つの感情が自分を支配していく事を感じたグレイフィアは、頭を左右に振り、バイクから鍵を引き抜いた。

 

ー○●○ー

 

その翌日から、グレイフィアは少し変わった。

いつも凛々しい姿で時々可愛らしい微笑みを見せていた彼女が頻繁に考え事をするようになり、その都度悲しそうな顔をするようになったのだ。

数日が経ち、クラスの何人かがグレイフィアの機微に気付き始めた中、グレイフィアの事が好きでそれに学校中の誰よりも早く気付いた兵藤がグレイフィアに問いかけようと近づくと慌てて立ち止まり、その場から逃げ出すようになった。

 

「せんせ...」

「! ご、ごめんなさいね、桐生さん。私、急用を思い出しちゃって今すぐ行かないといけないからその話は今度でもいい?」

「あ、はい...ん?兵藤どうしたの?」

「・・いや、何でもない」

 

同じクラスの女子生徒とは話すのに自分とは話してくれず自分が姿を見せると、その場から逃げ出すように立ち去るグレイフィアに、「自分の行動がいけなかったのか」と悔いた兵藤はその女子生徒と共に自分のクラスへと戻っていった。

その日から兵藤とグレイフィアは話さなくなった。

 

 

兵藤とグレイフィアが話さなくなった日から二年と少しの日にちが経った。

 

 

中学を卒業した兵藤は、小学校時代から腐れ縁である松田、元浜という男の子と共に三年ほど前まで女子校だった駒王学園へと入学し、学園生活を送っていた。

 

「おーい、イッセー、元浜ー」

「ん?」

「今度ゲーセン行かね?」

「おお、そだな」

「おう、行こうぜ」

 

授業が終わり、放課後となった現在。

一足早く帰る準備を終えた松田が教科書をカバンに入れていた兵藤をあだ名のイッセーと呼びながら、イッセーの近くで共に教科書をカバンに入れていた元浜に問う。

すると、松田の意見に賛成した二人は忘れ物がないかと机の中を確認し、カバンのチャックを閉めるとイッセーの背後から突然声が聞こえてきた。

 

「なぁに〜?三バカトリオがエロトーク?」

「おわっ⁉︎ ・・な、何だ。桐生か」

「愛華」

「ちげぇよ。ただ、今度ゲーセン行こうって話ししてただけだ」

 

突然の声にイッセーが驚くと、元浜が桐生の問いを否定し、先ほど話していた事を話す。

すると、桐生は「私も行くっ」と勢いよく挙手をする。

 

「はいはい!私も行くから!」

「え"っ⁉︎」

「『え"っ⁉︎』とは何よ。なぁに?私だけ仲間外れにする気?」

「い、いやぁ、お前超強いじゃん?だからボロ負けするだろうなって...」

「大丈夫大丈夫。ちゃんと手加減するから」

「だ、だけど...」

「あ、そう。・・・じゃあ...おーい!桃ちゃ〜ん!」

「ん?どしたの?愛華」

「今日の朝ね、この三バカがね...」

 

自分を仲間に入れないイッセー達に悪い笑みを浮かべた桐生は近くで話していたクラスメイトに声をかける。

すると、イッセー達は慌てて桐生の口に手をやり、桐生を止める。

 

「わぁー!!!かったよ。桐生。お前も来ていいから!」

「・・そう?じゃあ、よろしく〜。あ、ごめんね。桃ちゃん何でもないの」

「・・・?」

 

桐生の言葉を怪訝に思った女子生徒だったが桐生がすぐ帰ろうとしていたので問う事をやめたのだった。

 

ー○●○ー

 

あの子が此処を卒業して一年が経った。

彼はどうしているだろう?

ちゃんと勉強についていけてるかな?

本当にとても優しい彼だけど女の子ばかりにちょっかいかけて嫌がられてないかな?

とても心配だ...。

 

私が去年卒業した兵藤君の事を思い出していると、肩をポンポンと叩かれた。

 

「へ?」

「もう、ちゃんと聞いてましたか?グレイフィア先生。今度の休みに校長先生の発案で教員達で飲み会があるんですよ?」

「あ、そ、そうなの。ごめんなさい。ボーッとしてしまってちゃんと聞けてなかったわ」

 

突然の事で現在何がどうなっているのか分からなくなっていると、隣にいた一色先生が教えてくれた。

兵藤君の事を思い出して全然聞いてなかった為、「ありがとう」と私が謝辞を述べると「いえいえ」と言ってくれた。

 

時間が進み、夜の八時ごろとなった。

 

職員室を施錠した私が鍵を警備の担当者がいる部屋へと戻し、駐輪場へ行くと、私のバイクのシートに軽く腰をかけて、携帯端末を操作している一色先生がいた。

それもそのはず。

何故ならば、最近彼女とは共に帰っているからだ。

 

「ごめんなさいね、待たせちゃって」

「いえいえ。送ってもらう身ですから当たり前です」

 

夜に若い女性を一人で歩かせる訳にはいかないと思っていた私は先日、何気なくどの辺に住んでいるのかと聞くと家が同じ方面だった為、彼女が赴任してきた四月から共に帰ることになった。

バイクをふらつかせないように足をしっかりと地面につけ固定させると一色さんは出っ張りに足をかけ私の後ろに座る。

 

「じゃあ、発進するからいつも通りしっかり掴まっといてね」

「はい」

 

キーを回し、エンジンを回転させた私は念入りに左右をチェックした後、学校を出たのだった。

 

ー○●○ー

 

松田、元浜、桐生とゲーセンで遊んだ俺は現在、一人帰路についていた。

ああ、何処かに可愛い子いねぇかなぁ...

初めて恋した女性には話しかけて貰えなくなったし、執拗に迫ってしまったのが悪かったのかな...?

中学の時、初めて恋をしたグレイフィア先生がまだ自分が嫌われる前に見せてくれていた笑顔をふと思い出して歩いているといつのまにか駅前に来ていた。

 

「・・・いつのまに」

 

家がある方とは全然、違う方向に来てしまっていた俺が急いで家がある方向へと戻ろうとすると、「ハイ」と勢いよく目の前にポケットティッシュを差し出された。

 

「え?」

「裏面見てください」

 

突然の事で訳がわからなかったが取りあえず、見てみると其処には何か絵のような物と『あなたのお望み何でも叶えて差し上げます』という文字が書かれていた。

 

「これ一体...綺麗だ...」

「は?」

 

渡されたポケットティッシュの裏面に書かれていた文字の意味が分からずつい問いかけようとし、頭を上げた瞬間、自然と口にしてしまった言葉を聞かれてしまい慌ててしまう俺。

 

「・・⁉︎ あ、いや、何でもないです」

「そう?じゃあ、何か願いがあったらその紙に願ってね。もしかしたら助けてくれるかもしれないから」

「?」

「それじゃあまたね」

 

「どういう意味ですか?」と目の前でポケットティッシュを配っていた美女に問おうとした瞬間、話を打ち切ってその場から去っていく美女。

あのカッターシャツから見える谷間。

スラっと長い脚。

そして、綺麗な顔立ち。

グレイフィア先生を最初見た時と同じ衝撃を受けてしまった俺だったが、ティッシュ配りの仕事を邪魔しては悪いのでその場から立ち去る俺だった。

今朝、母親に醤油を買ってくるよう頼まれた俺はスーパーで、いつも使ってる醤油を買って、近道をする為に公園へと立ち寄った。

公園の近くにある自販機で買った缶コーヒーを片手に先ほど出会った美女を思い出していた俺がふと周りを見渡してみると、かけっこをしたり、ブランコで遊んだり、木に登ったりして遊んでいた筈の子供達や仲良さそうに話す老人達が居なくなっていた。

 

「・・あれ?」

 

何時もとは違う風景に一瞬の間、戸惑った俺だったが「まぁ、そんな日もあるか」と思いその場で再度、缶コーヒーを呷っていると、何か風切り音が右方向から聞こえてきた俺はその場から前方に跳躍する。

すると、左側にあった木に見たことない槍の様な物が刺さっている。

 

「光る槍?」

 

鈍色に輝くのではなく、本当に光を放っている槍に驚いていると、飛んできた方向から笑い声が聞こえてくる。

 

「ハハハッ!アレ避けるんだ。人間の癖してやるのね、アンタ!」

「・・・⁉︎」

 

声が聞こえてきた方向に視線を向けて見ると、公共の場だというのにボンテージ姿の黒髪の美女が木に刺さっている槍と同じ槍を手に携えて、一歩一歩歩いてきた。

 

「あーあ、今ので殺したかったんだけどなー」

 

ケラケラと笑いながらクルクルと手首を支点に槍を回転させる美女が、恐怖で体が震え、その場で立ち竦んでいる俺の真ん前まで歩いてくると、先程まで笑みを見せていた彼女の表情が一転する。

 

「・・ま、いっか。じゃあ、君には死んでもらうわよ。兵藤一誠クン」

「⁉︎ な、なんで俺の名前を...?」

「ん?調べたからだよ?君が神器を持ってるって確証した時から」

「神器...?」

「それはねー...! チッ、悪魔に気づかれたか...」

 

初対面の美女の口から自分の名前が出るなんて思ってもみなかった俺が驚いていると、舌打ちをした美女が槍を振りかぶる。

 

「じゃあね、兵藤くん。・・恨むんならそんなモノを持って産まれた自身の運命を恨みなさい」

 

シュッと空気を切る音が聞こえた瞬間、美女から放たれた槍は俺の腹に大きな風穴を開けて背後にあった木に突き刺さっていた。

 

「グォッ⁉︎」

 

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!

一瞬の出来事で訳が分からなかったものの段々と痛みが全身に走り、口から大量の血を吐き出してしまう。

倒れ臥す俺を見て恍惚な笑みを浮かべた彼女は更に槍を手元に作り出した。

死ぬ...?

彼女の作り出した槍を見て自身の未来を直感した俺は必死に逃げようと手に力を入れる。

 

「・・・」

「ッ!人間の癖にしぶといわねッ!」

「ガッ⁉︎」

 

全身に走る痛みに必死に堪えながら腕立て伏せをする要領で上半身を上げようとする俺に怒気を孕ませた声音で叫んだ彼女はどうやったか分からないが手元に作り出した槍で俺の両手を突き刺した。それも何度も何度も。

 

「ほら!さっさと死になさいよ!」

 

グサッ、グサッ、グサッと突き刺しては引き抜かれること十回程。彼女からの一方的な蹂躙を受けた俺にはもう体に力を入れる事は出来なかった。

そして、動かなくなった俺を確認した彼女はガッと俺の横腹を蹴り、仰向けにさせた。

 

「じゃあ、今度こそバイバ...えっ?」

 

先程よりも少し大きめに創られた槍が俺を確実に殺そうと心臓に向かって突き刺そうとした瞬間だった。

彼女の腕が何かに切断されたかの様に綺麗な切り口で真っ二つになっていたのだ。

 

「ぎゃあああああ⁉︎⁉︎⁉︎」

「ごめんなさい、遅れてしまって」

 

飛んでいった彼女の腕と頭にガンガン響く様な声を上げる彼女の姿に呆然となってしまった俺の耳に声が聞こえてきた。それは忘れたくても忘れられない声だった。

体が動かない為、目を動かして声が聞こえてきた方へ視線を向けると其処には、慌てて来たのか額に汗を浮かべたグレイフィア先生が居た。

 

「・・・先生...?」

 

人生の中で最初で最後に恋をした人の顔が見れて安堵したのか俺の意識はそこで途絶えたのだった。

 

 




原作とは違う殺され方のイッセーでした。
後、ハーレムじゃなくグレイフィアを一途に愛するイッセーも良いかなと思ったのですが、読んでくれてる人はどう思いますか?感想頂けると嬉しいです。


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四話

感想で多数のグレイフィア一筋の意見が多かったので、グレイフィア一筋の話にさせていただきます。
なので、原作沿いのタグは消しておきます。
あと、今回は前回より少し少ないです。


イッセーが公園のベンチに座りながら、ボーッと地面を見つめていた時と同時刻。

グレイフィアは、職員室で先日出題した小テストの丸つけをしていた。

シュッ、シュッと赤ペンの小気味良い音が鳴っていく。

 

「ふぅ...」

 

自分が担任をしているクラスの他に3つのクラスの生徒達の丸つけをしていたグレイフィアは思わず溜息をつき、肩に手をやる。

 

「よし、あともう少し」

 

気合いを入れ直して再度丸つけを始めようとしたグレイフィア。その瞬間ピクンと何かを感じ取ったかのように彼女は体を震わせた。

 

・・だ、堕天使のオーラ...?

 

自分と同じ人間とは違う種族のオーラを感じたグレイフィアは昨年の今頃あった『とある事』を思い出していた。

 

ー○●○ー

 

確か、あれは...そう。その日は確か、寝坊をしてしまって慌てて身支度を整えて、朝食を済ませ、バイクで急ぎめに通勤していた時の事だった。

自分よりも全然弱い微弱なオーラだったが確かに自分と同じ悪魔のオーラを感じ取った私は、急いでオーラが発せられた方向へバイクを急がせると目の前に真紅の髪の毛がとても綺麗な女子高生と長い黒髪をポニーテールにした女子高生が談笑しながら歩いていた。

 

「アレは駒王学園の...」

 

目の前で歩く二人の制服を見てふと思い出した私が呟くと、彼女が振り向く。

咄嗟にシールドで目元を隠すと彼女達は去って行った。

彼女達から感じられる魔力の量で自分を排除しに来た者ではないと確信した私はアクセルを回し、発進した。

 

ー○●○ー

 

昨年の事を思い出した私は慌てて階段を駆け上った私は周りに誰もいない事を確認し、背中に力を込める。

ググッと服の上に生えた漆黒の蝙蝠の翼を広げ、羽ばたいた私は堕天使がいる方へと急いだ。

数分後、堕天使を見つけた私は地上に降り立ち、何をしているのかと物陰に隠れて様子を伺う。

 

「ッ!人間の癖にしぶといわね!」

「ガッ⁉︎」

 

後ろ姿しか分からないがどうやら、声を聞いていると女性の堕天使が人間の男性を痛ぶってるみたいだ。

魔力を出し、昨年こちらの世界に来たのであろうあの赤髪の女子高生に感づかれて魔界に連絡されるかもしれない事を危惧した私が、どうしようかと悩んでいると、先程まで堕天使の姿で見えなかった男性の顔が見えた。

 

「・・ッ⁉︎」

 

驚きのあまり声を出しそうになったのを咄嗟に防ぎ、慌てて再度確認すると...間違いない。堕天使に光の槍で何度も刺されているのは、兵藤君だった。

 

その時、私の中で何かがプツリと切れた。

 

ドス黒い何かが腹の底から湧き出てくる感じがする。

 

許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない!!

 

怨嗟の声が私の脳内で響き、心を黒く染める。

両手に魔法陣を作り出した私は、風を固まらせて死神が持つ鎌の様に背を逸らす。

ビュッと放った風の鎌は更に兵藤君の身体を突き刺そうとしていた彼女の腕を切断し、宙に飛ばした。

 

「ぎゃあああああ⁉︎⁉︎⁉︎」

 

彼女から悲鳴が聞こえるがそんな事知ったこっちゃない。

私の大切な人が窮地に立たされているのだ。

慌てて駆け寄り、声を掛けると微かな声だったが確かに「先生」という言葉が聞こえて来た。

 

「ごめんなさい!遅れてしまって」

 

言葉が聞こえて、一瞬安堵したもののまだ安心は出来ない。何故なら、人間は血が一定量以上失血してしまうと死んでしまうからだ。

 

・・・そうだ。兵藤君の救命の前にこいつを殺そう。

 

兵藤君の救命中に邪魔されたのでは堪ったものではない為、目の前で涙を流しながら、必死に「命ばかりは...!」と自己保身する彼女を睨みつける。

普段の私だったら、自分よりも弱い相手を殺す時は必要以上な力を加えずに最小限の力で殺す。

だが、私も今回ばかりは彼女の事が許せない。

こんなに心優しい少年を何度も串刺しにした事を。そして、私の事を愛してくれる少年を殺そうとしてる事を。

私から発せられる殺気で彼女は震え上がり、涙目で必死に私に懇願する。「お願いします...!命ばかりは...!」と。

 

「それは無理な相談よ。貴女は此処で殺すわ」

「・・ッ!」

「・・本当は苦しんで死んでいってもらいところなんだけど、兵藤君を助ける為に迅速に済ませるわ。感謝しなさい。楽に逝けるんだから」

 

意識を失った兵藤君に「ゴメン」と謝った私は、素早く彼女に近づき、逃げない様に首に手を回す。そして、もう片方の手で魔法陣を作り、跡形が残らない様、火炎魔法で殺した。

 

よし...治るかな?・・ううん、治してみせるわ!絶対に。

 

自分が施せる最高の回復魔法で兵藤君を治す。

死なないで...!死なないで...!と懸命に治癒していたその時だった。

 

「・・貴女、何者?」

「ッ!」

 

兵藤君の治癒に全神経を注いでいたからか周りの状況があまり把握できていなかった。

急いで、声が聞こえて来た背後に視線を向けると其処には、昨年出会った赤髪と黒髪の女子高生、金髪の兵藤君と同じぐらいの年齢であろう男の子、そして白髪の小さな女の子がいた。

 

・・全員、同じね。それにあの紋章は確か...『グレモリー』だったかしら?

 

一方的に知人である赤髪と黒髪の女子高生は置いといて、金髪の男の子と白髪の女の子のオーラを探った私は自分と同じ悪魔だと確信した。

それに足元に落ちていた紙に描かれた魔法陣から昔の記憶を辿り、この五人の中で一番強い赤髪の女子高生の出身家名が分かった。

 

「・・ビックリした...また敵かと思ったわ」

「私の質問に...って、血だらけじゃない⁉︎」

 

私が抱えている兵藤君を見た彼女は驚き、私よりも弱いが同じ系統の回復魔法をかけ始める。そして彼女に続き、黒髪の彼女も同じ魔法をかけ始めた。

数分後、兵藤君の傷は塞がり、「スー、スー」と吐息が溢れてきた。

兵藤君の吐息が聞こえてきて安堵した私は、「もう隠し通せない」と確信し、これから来るであろう目の前の少女からの質問に正直に答えることを決めたのだった。




レイナーレ結構、アッサリと逝って貰いました。
レイナーレファンの方すみません。


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五話

二週間も空いてすみません


堕天使に傷つけられた兵藤君を癒し終えた私は現在、中学校へと戻り、出来るだけ早く仕事を終わらせていた。

 

急がないと、急がないと

 

普段の倍のスピードで仕事を終わらせていく私を怪訝に思ったのか、隣の席で同じく仕事をこなしていた一色先生に話しかけられた。

 

「あの、グレイフィア先生。何か急を要する事があるなら代わりに仕事やっておきましょうか?」

 

え、ホントに⁉︎...ってダメよ。後輩に仕事押し付けるなんて出来るわけないでしょ。

一瞬、甘い誘惑になってしまいそうになってしまった私は頭を振って、自分に「ダメだ」と言い聞かせ、首を振った。

 

「・・いえ、大丈夫よ。ありがとう、一色先生」

「・・そうですか?それなら良いんですけど...」

 

心配そうにこちらを見つめる一色先生に笑みを見せた私は再度、仕事に取り掛かり、仕事を終わらせた私は一色先生に「今日は送ってあげられない」と断りを入れ、赤髪の女子高生が待つ先程、兵藤君が襲われた公園へとバイクを飛ばして向かったのだった。

 

ー○●○ー

 

公園内へと入ると、先程とは別の人払いの魔法が公園全体に展開してある事が認知できた。

流石、元・72柱の家の出ね。あの歳でこれだけの魔法を張れるなんて。

自分が彼女と同じ歳の頃よりも数段、彼女の方が優秀である事に感嘆した私が彼女達の待つ場所へ駆けると、兵藤君はベンチに横になっており、彼の頭の部分を寝やすい様に自分の太ももの上に乗せた彼女がいた。

世間一般的に『膝枕』と呼ばれる状態で兵藤君は眠っていた。

 

「あ、あの」

「・・可愛いわね。彼」

「へ?」

「何時もは性欲が強くて学校の問題児の一人にあげられてるけど、こうしている時は年相応のあどけなさがあるわ」

 

髪を撫でて微笑む彼女の言葉を聞き、内心で彼が通う駒王学園の先生方に謝辞を述べていると、「ん...」と声を上げた兵藤君が瞼を薄っすらと開けた。

 

「⁉︎ リ、リアス先輩...?」

「あら、私のこと知ってくれてるの?」

 

彼女が兵藤君の問いに問いで返すと、後頭部に違和感を覚えたのか、頭を回転させて、現在の状況を確認する。

 

「へ...⁉︎あ、あの、リアス先輩。一つ宜しいですか?」

「ええ。良いわよ」

「俺は、何故に先輩に膝枕されてるのでしょうか?」

「あら、嫌だったかしら?」

 

兵藤君の質問に揶揄い混じりで返答するリアスさん。

リアスさんの返答に兵藤君は慌てて、彼女の言葉を否定し言葉を選ぶ。

 

「え⁉︎あ、いや、全然嫌じゃないです...むしろ、有り難いというかなんというか...」

 

顔を赤くして段々と言葉のボリュームが小さくなっていく兵藤君。

・・むぅ...何でだろう?兵藤君が起きたのは喜ばしい事なのに何かモヤモヤする...。

リアスさんに揶揄われ、照れる兵藤君の姿を見て、モヤモヤした私は、その感情を片隅に置き、兵藤君に話しかけた。

 

「そろそろ気づいて欲しいな、兵藤君?」

「え...グ、グレイフィア先生⁉︎ど、どうしたんですか?こんな所で」

 

慌ててリアスさんの太ももから頭を上げる兵藤君。

あれ?何か怯えてない?

私、そんなに怖い表情してない筈なんだけど...。

私が両頬を手で擦っていると、兵藤君を膝枕していたリアスさんの表情が変わっていく。

 

「グレイフィア⁉︎ひょ、兵藤君、彼女はグレイフィアって言うの?」

「え?ええ。あの人は、俺の中学時代の先生ですけどそれがどうかしたんですか?」

 

リアスさんの驚きぶりに困惑しながら兵藤君は私との関係を簡潔に答える。

兵藤君の言葉を聞いたリアスさんは再度驚き、数秒の間、顎に手を当てブツブツと呟いた後、私の方へ鋭い視線を送った。

 

「・・どうして貴女がここにいるか事細かく説明をお願いできますか?グレイフィアさん」

「・・良いわよ。そう来る事はさっき、貴女に見つかった時から分かっていたから...」

 

彼女は自分の過去の事を訊いているのだろう。

彼女から送られる視線に「継戦派に属していた貴女がどうしてこんな人間界にいてひっそりと暮らしているの?」という意味が含まれている事を悟った私は、私達が現在醸し出しているただならぬ雰囲気に先程よりも更に困惑した表情をしている兵藤君に私は問いかけた。

 

「ねぇ、兵藤君」

「は、はい!」

「君は『悪魔』っていう存在をどう考えてる?」

「あ、悪魔ですか?テレビとか見ている限りでは、人間の要望に応え、対価を支払わせ、それを糧に生きる存在でしょうか?後は、そうですね...実際にいるとは思えません」

 

突然、私に問われ、困った顔を見せた兵藤君だったがそこは高校生。自分が見た過去の経験を元に、自分の考えを言葉を選んで答えてくれる兵藤君に「そう」と相槌を打った私は「ありがとう」と謝辞を述べ、次の話に移る。

 

「じゃあ、兵藤君。もう一個質問させてもらうわね。君は何故、どういう過程で先程までリアスさんの太ももの上に寝かされていたか覚えている?」

「え、それは勿論... ッ⁉︎」

 

私が続いてもう一つ質問を投げかけると、再度、自分の過去を振り返った兵藤君は先程、自分の身に起こった事を思い出したのか表情を豹変させ、素早く自分の腹部に手を当てる。

 

「穴が空いて、あんだけ血が出てたのに塞がって...⁉︎」

 

私の質問を聞き、素早く自分の腹部へ手をやった兵藤君は自分に何があったのか全て思い出したのか私の質問に答えてくれた。

 

「・・・というわけなんです」

「・・」

 

兵藤君に私が駆けつけるまでの話を聞いた私は憤慨と共に驚愕した。

何故なら、彼の話の中に『神器』という言葉があったからだ。

私が彼の教師をしてた頃にそんなオーラは感じられなかった。

高校に入って宿ったのだろうか?

私が考えに耽っていると、ふと私に視線が送られている事に気がついた。

 

「あ、ごめんなさい。ありがとう、兵藤君。・・あと、最後にもう一つこれは質問じゃなく、兵藤君にね伝えておかないといけない事があるの」

 

兵藤君に謝辞を述べた私は、リアスさんに目配せし、とうとう自分が悪魔である事を明かすのだった。




ちょっとずつですみません。


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六話

評価がオレンジバーになっていてお気に入り件数もすごく上がっていて驚いてる女騎士です。
皆さん本当に評価とお気に入りにしていただいてありがとうございます!



彼は私を怒るだろうか?

失望するだろうか?

軽蔑されるだろうか?

こんな私の正体を明かしても好きでいてくれるだろうか?

 

ドキドキと心臓が早鐘を打つ中、自分の正体を明かす決心をした私は遂に兵藤君に話した。

 

「・・あのね、兵藤君。私...いや、私と彼女はね、その『悪魔』と呼ばれる種族なの」

 

彼に嫌われる恐怖で今にも崩れてしまいそうな両脚に力を入れ、必死にその場で立っていると、彼は「は?」と狐につままれたかのような表情をし、私の方を呆然と見上げてくる。

彼の表情から「信じてもらえてないな」と結論づけた私は、リアスさんにも促し、背中に力を込め漆黒の翼を出した。

 

「そ、その証拠としてほら。翼があるのよ」

 

二人で自分の翼を指差し、自分が悪魔である事を証明する私達。

数秒の間、私達の翼を呆然と見ていた兵藤君はハッと我に帰り、動揺を見せる。

 

「え、えと、しゅみましぇん。いきなりのこと過ぎてまだあんまり理解出来てないのですが、取り敢えず先生と先輩は悪魔って事なんですよね?」

 

しゅみましぇん... ⁉︎・・言葉足らずな兵藤君...良いわね。

中学時代見た事がなかった舌足らずな感じに話す兵藤君の姿に兵藤君の事を静かながら想っている私はテンションが上がり、クスッと笑みをこぼしそうになった私だったが、持ち前のポーカーフェイスで彼に悟られないようにする。

 

「ええ。その理解をしてもらえると助かるわ」

 

内心でクスクス笑いながら、兵藤君の姿を見ていると、彼は驚きが強過ぎたのか、何度も「先生が悪魔...先生が悪魔...」と呟きながら、終いには鼻血を出し始めた。

・・あれ?この顔、すごく見覚えがあるわね...。

既視感を感じた私が脳内の記憶を探っていると、思い出した。

 

ー○●○ー

 

あれは確か彼がまだ中学1年の春から夏にかけて段々と暑くなる六月頃の事だった。

その日は確か、昼頃に私がたまたま自分のクラスに用があるのを思い出して向かってみると、室内で兵藤君と松田君が元浜君の席に集まっていて、何かを見ながら「おお!」や「スッゲェ!」などと騒いで目を輝かせながら喜んでいたので、何か嬉しいことでもあったのかと近づいて覗き込んでみると、驚く事に彼等は何処から購入してきたのか成人向けの本やDVDを学校という公衆の場で堂々と机の上に広げていて本の表紙やDVDのパッケージをみて「やっぱ女医だな」とか「いや、ロリに決まってる!」や「んなわけあるか。お姉さんに決まってるだろ!」などと公衆の面前で普通は憚れるような言葉を結構大きな声を出して話していた。

その時は、私がそれらを取り上げて放課後に返したのだった。

 

ー○●○ー

 

そう。確か、あの時見た彼の顔と一緒の顔をしている。あの、俗に言う『エロ本』を見てる時と同じ顔を。

しかも現に、前と同じように鼻血を出してる。

 

「先生が悪魔...先生が悪魔...先生が悪魔...」

「兵藤君、何を考えてるのかしら?」

「先生が... ⁉︎ いえ!何も!」

「宜しい。じゃあ、話を再開するわよ」

 

衝撃的な事実を告げて、嫌われても良い筈なのにこんな私で興奮してくれてる彼の姿を見て一瞬、嬉しくなったものの今日中に話を終わらせたかったので少し、プレッシャーを出しながら兵藤君に問いかけると、彼は妄想をやめて、すぐ様、私の話に耳を傾けた。

 

「兵藤君、この世界には私達『悪魔』の他にも、異形の種族がいるの。神や妖怪なんかもいるんだけど、多分1番貴方と関わりが深くなってくると思われるのは『天使』と呼ばれる種族と『堕天使』と呼ばれる種族よ。

この二つの違いはね、とても分かりやすいんだけど兵藤君。分かる?勘でもいいから言ってみて」

 

人間がこの二つの単語を聞いてどう思うのか興味を持った私が問いかけると、兵藤君は迷いながら、答えてくれた。

 

「うーん...堕天使には『堕』って文字がついてるぐらいだから、天使は見本のような善の心を持っていて、堕天使というのは悪の心を持っている事でしょうか?」

「! そう!凄い!」

 

一発で正解を言い当てた兵藤君に賞賛を浮かべた私は先程、彼を滅多刺しにし、殺しかけた彼女を例にしながら簡単に天使と堕天使の違いを説明し、次の話に繋げるため、私が知っている悪魔の歴史も簡単に説明した。

そして、この時、私は自分の話を頷きながら聞いてくれていた兵藤君に内心で賞賛していた。

何故なら、先程まで、悪魔の「あ」の字も知らず、普通の人間として生きてきて普通ならば、未だに混乱している筈なのに彼は、あまり混乱せず、真摯に聞いていたからだ。

 

兵藤君に大体の、自分が現在置かれている状況を説明し終えた私は次に、隣にいたリアスさんが気になっている私の過去を話し始めた。

 

「次にリアスさん。コレは兵藤君にも聞いておいて欲しいのだけれど私は貴女がさっき言っていた通り、『継戦派』と呼ばれる派閥に属していたわ」

 

まだ、悪魔に関わって数時間しか経ってない兵藤君が『継戦派』を理解出来ているのか不安だった私だが、先程の説明が功を奏したのか、兵藤君は理解しており、その上「属していた...?」と呟き、過去形の部分に疑問符を浮かべた表情をしている。

 

「私は魔王ルシファーに仕える六家の一つである『ルキフグス』の家の出なのよ。だから、継戦派の一人として長い間戦って沢山の命も奪ってきたわ。

でも、ある日の事だった。

その日、一つの隊を任されていた私は隊員達を率いながら山に入り、敵戦闘部隊と戦っていたのだけれど、敵部隊を倒して、山の中を散策していると一人の悪魔がボロボロになりながら倒れているのを私は見つけたの。・・その悪魔とは何度も戦いを繰り広げた仲で、一方的だっただろうけど私は親近感を覚えていたわ。でも、戦闘時にそんな感情は不必要。だから...私は...いえ、あの時の世間から見れば間違いを起こしたの」

「間違い...?」

「・・ええ。私は、その悪魔を見逃して、隊員達にその場から離れるよう指示を出したわ。けど、それを見ていた誰かに家へ連絡され、家を裏切った私は見放され、どちらの派閥にも殺される理由がある私は冥界に居られるはずもなくこの世界に来て、隠れながら密かに生活を送っていたのよ。生活は大変だったけど後悔はしてないわ」

 

私の話を聞いていたリアスさんは驚きを露わにし、兵藤君は俯いていた。

まぁ、そうなるわよね。こんな手が血で染まってる様な女嫌っても仕方ないわよね。

私が「しょうがないか...」と落ち込んでいると、兵藤君は顔を上げ、微笑みを浮かべながらこう言った。

 

「先生はとても優しい悪魔ですね。もし、自分が先生の立場ならば、その何度も戦った相手から殺される前に自分が殺そうとすると思います。しかし、先生はその手負いの悪魔を見逃して罰を受けた。それに、俺は先生と出会う事が出来たのでその間違いに感謝を述べたいです」

 

兵藤君の言葉に段々と顔が火照っていくのを感じた私がそっぽを向くと兵藤君は慌てた様子で謝ってくる。

 

「あ、す、すみません。前に嫌な気分にさせてしまったのにまたこんな事を言ってしまって...」

 

え、嫌な気分?そんな事あったかしら?

脳内にある記憶を探るが、全然思い出せなかった為、私は兵藤君に訊いた。

 

「ねぇ、兵藤君。それっていつの事?」

「え、覚えてないんですか?」

「ええ」

 

逆に聞き返された為、私が返答すると、兵藤君が顔を赤くしてリアスさんに視線を向けた。

・・あ、成る程。私に告白してくれた日の近くなのね。

兵藤君の考えてる事が分かった私はリアスさんに断りを入れ、兵藤君と一旦、その場から少し離れる。

 

「俺が、先生に振られた後日、先生がバイクで帰る際、未練がましく『振り向かせてみせます』って宣言してしまって、それで俺の事嫌いになったんじゃなかったんですか?」

「? 嫌いになんてならないけど?むしろ嬉しかったわよ」

 

確か、あの時は兵藤君に好きって言われて嬉しかったけど自分の気持ちに正直になれば、また好きな人が先に逝って悲しくなるだけだって自分の気持ちを押し殺して泣いてしまったわね。

兵藤君が言った日の事を思い出していると、兵藤君が驚いて聞いてくる。

 

「じ、じゃあ、何で俺が話しかけたら逃げる様に何処か行ってたんですか?こんな未練がましく話しかける俺が嫌になったんじゃ...」

「⁉︎ それは違う!私が悪魔だって事が分かってもらえた今だから言うけど、あの時、私は嬉しかったの。優しい兵藤君に愛してもらえて、本当に嬉しくて私も貴方の事が好きですって伝えたかった...!・・でも、ほらさっき説明したでしょ?悪魔って長い年月を生きるって」

 

兵藤君の言葉を全力で否定した為、大声が出てしまい、リアスさんを驚かせてしまった。

けど、今はそんな事どうでもいい。

私は、兵藤君の勘違いを直すため、必死にあの時、私が思っていた事を彼に説明した。

 

「先に謝っとくわね。私を好いてくれてるのにこんな話をしてしまってごめんなさい。・・私、昔ね、一回だけ結婚した事があったのよ」

「え?結婚ですか?」

「ええ。その彼も貴方と同じ様に優しい人でね。彼といる時間が楽しかったわ。でも、そんな楽しい日はあまり続かなかったの」

 

初めて人前で話す私の過去に、兵藤君は驚愕した表情をみせる。

当たり前よね。こんな私を好きでいてくれたのに実は一回結婚していたなんて。

酷い女で本当にごめんなさいね、兵藤君。

静かに謝った私は話を続けた。

 

「元々体が弱かったその彼が病気で死んでしまったの。取り残された私は何日も泣いて、自分の技術不足を呪ったわ。もっと私に力があれば彼は死ななかったんじゃないか?って。そして、その時思ったの。もしまた、私の事を好きになってくれて私もその人がすきでも、付き合わないでおこう。付き合ったらその人が死んだ時、悪魔である私の方が必ず見とる側になるのだからまた悲しい思いをしてしまうってね。だから、兵藤君と私は付き合えな...」

 

私は自分の過去を振り返りながら、胸が張り裂けそうな気持ちで何故、兵藤君の気持ちに応えてあげられないか語った。

そして最後に「付き合えない」と言おうとしたその時だった。

いつのまにか私たちの隣に立っていたリアスさんに「あの...」と話を遮られた。

話を遮られた私が少し眉間に皺を寄せながら、リアスさんの方に視線を送ると、一瞬ビクッと身体を跳ねさせたリアスさんは衝撃的な言葉を紡いだ。

 

「付き合えますよ?」

「は?」

「すみません。人の恋路を盗み聞きするつもりはなかったのですが、耳に入って来てしまった上、あまりにも二人が相手の事を想っていたので邪魔をさせていただきました」

 

何を言っているの?この娘は?

リアスさんが話した言葉に、呆然としていると人の話を盗み聞きしていた事を詫びたリアスさんは小さな転移用魔法陣を手元に顕現させ、一つの小さな箱を手の上に乗せた。

そして、「昔はよく知りませんが...」と前置きした後、箱を開けて、その中に入っていた赤い...いや、綺麗な紅色をしたチェスで使われるポーンの駒の形をした物体を一つ取り出した。

 

「これは、現魔王アジュカ・ベルゼブブ様がお造りになられた物で名を『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』と言います。そして、これは人間や妖怪などをその所有者の眷属として悪魔に転生させる事が出来る代物です」

「ッ⁉︎」

 

悪魔に...転生出来る...?

リアスさんの言葉に耳を疑った私が再度、呆然としてしまっているとリアスさんは微笑みを浮かべた。

 

「あ、あの、リアス先輩。それを使えば、俺は悪魔になれるって事ですか?」

「ええ。これからもグレイフィアさんと愛し合えるわ」

「ッ!」

 

ギュッ

 

先程、リアスさんの方に視線を送り、恥ずかしがっていた兵藤君はどこへ行ったのか?

先程、顔を赤くしていた兵藤君は現在、リアスさんが見てる前で私の手を握り、私と視線を合わせこう言った。

 

「先生、俺が悪魔に転生したら、結婚を前提に付き合ってくれますか?」

「はい、喜んで」

 

スッと口から出る言葉。

自分の口から出る言葉のスムーズさに自分自身が驚いてると、「よっし!」っとガッツポーズをしたのだった。




最後の方、急展開過ぎたかなと反省してる女騎士です。
あと、月3回を目標に更新していけたらいいかなと思ってます。


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七話

前話の最後の方を少し書き加えたのでそちらから見ていただけたら幸いです。
あと、評価してくださった方々、誠にありがとうございます。


リアスさんが持つ『悪魔の駒』で人間から悪魔になれる事を知った兵藤君はすぐ様、リアスさんに「自分をリアス先輩の眷属にして下さい」と頼み込んだ。

その言葉でどれだけ自分の事を愛してくれているのか分かり、言葉にならない程幸せな気持ちでいっぱいになった私だったが、心の中に残されていた『理性』がここで待ったをかけるよう私に警告した。

しかし、この時の私にはチクリと胸のあたりで痛みが走っただけで特に違和感を感じなかった為、理性の警告を頭の隅に追いやった。

しかし、隅に追いやった警告が頭の中を支配し始め、グルグルと頭の中をかき乱していく。

この時、目の前にいたリアスさんは兵藤君の頼みを聞き、ベンチに横になるよう促していた。

 

「じゃあ、兵藤君。いくわね」

「はい、お願いします」

 

兵藤君が自分の言葉に従い、ベンチに横になった事を確認したリアスさんは先程、小箱から出して手に持っていた『悪魔の駒』を兵藤君の胸の上に置こうとしたその瞬間だった。

私は、自分の頭の中をグルグルとかき乱し、支配していた正体を突き止めた。

 

「ちょ、ちょっと待って!ひょ、兵藤君」

「・・?」

「私は、私の事を愛してくれて悪魔に転生までしようとしてくれいる兵藤君をとっても愛してる。けど、私はこの感情と同等レベルで貴方のことをとっても心配しているわ」

「し、心配ですか...?」

 

「何を心配する必要があるのか?」と疑問を含んだ視線を受けた私は、先程、理解に至った考えを兵藤君に話す。

 

「転生したら、私とは少し違うけど、何十年か先に兵藤君も私と同じように自分にとって『大切な人』を看取る側の立場になるわよ」

「・・・!」

 

私が先程、説明した事を思い出したのか、私の言葉に「ハッ!」とした彼は、手で目元を隠す。

私が言ってる意味を理解し、これから先、自分の身に起こるであろう事象を想像したのか彼はツッと一筋の涙を流した。

 

「・・・」

 

兵藤君が涙を流し、それを見た私とリアスさんが黙っていると兵藤君は、目元から手を離し、数分かけて判断した考えを口にした。

 

「リアス先輩、俺を悪魔にして下さい。お願いします。・・・俺、考えました。数分の間だったけど、必死に考えて考えて決断しました。先程、先生が助言してくれたように悪魔になったら親父や母さん、そして友人達が、死んでいく様を何度も見届けることになるでしょう。・・でも、俺は先生が...初めて好きになった人の側にいれるなら耐えられます」

「・・・とても立派な決断だと思うわ」

 

兵藤君の決断を聞き、顔に熱が登っていく事を感じ取った私がリアスさんの言葉にすごく同意していると、一瞬区切っていたのかリアスさんは言葉を続けていく。

 

「愛する人の為に自分を変えようとするなんて、私は貴方を心の底から尊敬するわ。イッセー」

「⁉︎ い、今なんて...」

「・・ ⁉︎あ、いや、学校の廊下歩いてた時に偶々、貴方の近くを通った時に聞こえたのよ。・・嫌だったかしら?」

「全然!むしろ、光栄です。リアス先輩にイッセーと呼んでいただけるなんて嬉しいです!」

「そ、そう?なら、これから宜しくね。イッセー」

「はい!此方こそ宜しくおねがいします。リアス先輩」

 

イッセー...そういえば、私が彼の担任していた時も時々聞いたわね。その愛称。・・私も今度そう呼んでみようっと。

昔、彼とよく話していた松田君や元浜君が言っていた言葉を思い出していると、いつのまにか兵藤君がリアスさんに促され、ベンチに俯せの状態で横になっていた。

 

「じゃあ、初めていくわね」

 

兵藤君に一声かけたリアスさんは彼が神器持ちという事も考慮したのか、チェスで用いられるポーンの様な形をした『悪魔の駒』を小箱から三つ出して兵藤君の背中の上に置いてみる。

すると、一瞬煌びやかに紅く光った駒だったが、直ぐに光は失われ、元の状態へと戻った。

・・何も起きない事から察するに『失敗』なのだろう...。

しかし、リアスさんはそれを予想していたのか顔色を変えず、次々に駒を足していく。

四つ、五つ、六つ、七つ...駒が足されていく毎に段々とリアスさんの顔色が変わっていく。

 

「そ、そんな...。七つ目でもダメだなんて...」

 

先程とは打って変わり狼狽した表情を見せているリアスさんは「お願い...!」と呟きながら、小箱に入っている八つ目の駒を取り出し、彼の背中へと置いた。

すると再び、背中に置かれた駒は全て煌びやかに光り、それらは彼の背中に入り込んでいった。

「ふぅ...」と安堵したのか息を吐いたリアスさんはイッセー君に「背中に力入れてみて」と促した。

リアスさんから促され、背中に力を入れたイッセー君の背中からは私達と同じ、黒い蝙蝠の様な翼が生えてきた。

 

「うおっ⁉︎」

 

改めて、自分が悪魔になった事を感じたのか嬉しそうにイッセー君が嬉しそうに微笑んでいると、イッセー君に視線を向けていたリアスさんが急に私の方へ視線を向けてきて私に言った。

 

「彼は私の眷属となりましたが、『恋人』である貴女と共にいれる方が嬉しいでしょう。ですので、出来るだけ彼と一緒にいてあげてください。あ、あと、彼を鍛えてあげてください」

「鍛える?」

「はい。最近、堕天使が何人かこの駒王町に入ったという情報を小耳に挟んだのでもしかしたら、襲われるかもしれませんので」

「!分かったわ。出来るだけ彼と一緒にいるし、彼も鍛えるわ」

 

言いたい事を伝え終えたのか、私が彼を鍛えると約束すると、リアスさんはぺこりと頭を下げて、人払いの結界を解くと同時に、転移用魔法陣でその場から去っていったのだった。




次は、いよいよ金髪聖女さんが出てくると思います。
それでは失礼します。


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八話

とあるアニメの美少女の声に起こされて、重い瞼をゆっくりと開けた俺の視界に人生で初めて本気で恋に落ちた女性の顔があった。

凛々しい顔立ちに反して、赤くてふっくらとした艶やかさを醸し出す唇...って、は⁉︎

 

ちょ、ちょっと待て!何でこの人が俺の横で寝てる⁉︎

 

起きて間もなかった所為か少しの間、いつもとは全然違う朝を迎えても反応しなかった俺だが、起きてから時間が経って段々と意識が覚醒してきた現在、俺は目の前で寝ていらっしゃる俺が現在進行形で恋い焦がれている女性がいる事に驚いた。

 

「・・いや、コレは夢だ。夢なはずだ」

 

目の前で起こってる現在の状況についていけなくなってしまった俺は、自分の理想が見えているんだと思い、「ハァ...」と溜息をついた後、目を瞑ってもう一度開ければ現実に戻れているだろうと考えて再度目を瞑った。

 

「・・・」

 

そろそろ良いか?

数秒目を瞑り、現実に戻れている事を願いながら目を開けると、目の前には目を開けてこちらに視線を送っている彼女の顔があった。

 

「おはよう、・・イ、イッセー君」

「え?」

「!ご、ごめんなさい。私もリアスさんと同じように愛称で呼んでみようかなって...」

「い、いえ、全然!呼んで頂いて光栄って言うか、なんと言うか」

 

愛称で俺の事を呼ぶ先生は俺を自分の方へと引き寄せ、抱き枕感覚で俺の胸に顔を埋めた。

 

むにゅっと俺のお腹に当たり、広がる彼女の胸ッ!

 

柔らかいっ!柔らかすぎるっ!

 

彼女の豊満な肢体が全身に伝わり、質問しようとしていた事を忘れて何も考えられずに楽しんでいると、突然コンコンと扉がノックされた。

これから起こるであろう未来が目に見えた為、素早くベッドから降りようとするともう遅く母さんは入ってきていた。

 

「イッセー、早く起きなさ...え?」

「お、おはよう、母さん」

「・・・ごゆっくり」

 

俺の隣で上半身裸で熟睡してる先生と、先生と同じく上半身裸の俺を見て固まっていた母さんは何を勘違いしたのかそのままで寝てる事を促して扉を閉めた後、「父さーん!!孫ができるかもしれないわ!!」と訳の分からない言葉を叫びながら降りていったのだった。

 

「孫?・・・あ!いや、ちゃんと履いてるからね⁉︎」

 

母さんの不可解な言葉に戸惑いながら下半身を見た俺は母さんがとてつもない勘違いをしてる事に気付き、慌てて母さんが誤解してる事を釈明しに一階へ降りるのだった。

 

ー○●○ー

 

「・・じゃあ、イッセー。何故、ここに先生がいるのか聞かせてもらおうか」

 

何とか誤解を解き、両親に話す機会を作ってもらった俺は先生を起こしてリビングまで連れてきた。

隣に座るよう先生に促した俺は、嘘のように現実離れした昨日あった出来事を全て話し、自身が悪魔である事を翼を出して証明した。

実の息子だが、人間でなくなった自分を受け入れてくれるのか不安で不安で震えが止まらなかった俺だが、隣で座っていた先生が励ますように手を握ってくれて勇気が出て震えは次第に止まっていた。

 

「・・イッセー」

「ッ!は、はい」

「父さんには悪魔とか天使とかの話はよく分からないが、お前は俺の...」

「お父さん、『俺達』でしょ?」

「・・俺達の息子だ。それはお前が何者になったって変わりはしないよ。だから、そんなに怯えないで欲しい」

「そうよ、イッセー。私も最初はお父さんと同じで戸惑ったけど、いや、今も信じられないんだけど、今感じている事はお父さんと同じだわ。だから、何も心配する事無いわよ?」

「ッ⁉︎」

 

フフッと微笑んで俺の頭に手を乗せる両親の言葉に感極まった俺は人がいるにも関わらず大粒の涙を溢れさせて泣いてしまい、結果両親を困らせた。

それから、数分が経った後俺が泣き止んだのを見計らったのか母さんが先生の方に視線を移し、爆弾発言を投下した。

 

「それにしてもイッセーも先生と付き合っちゃうなんてやるわね。ね?お父さん」

「ああ、そうだな。これぞ『愛に年の差なんて関係ない』ってやつだな」

「ええ。・・あ、そうだ。グレイフィアさん」

「は、はい!」

「早く孫の顔見せてね」

「ブフッ⁉︎」

「ブハッ⁉︎」

 

ちょ、ちょっと、母さん!何言っちゃってんの⁉︎

子供なんて...俺まだ17なんですけど...。

まだ法律上結婚できない上、まだそんな話先生と全然してないし...!

母さんの発言に色々なツッコミを心の中で入れていると、顔を真っ赤にさせてプルプルと震えていた先生が俺の手を先程握った時よりも強く握る。

 

「せ、先生?どうしま...」

「お義母さん、わ、私も彼との子ども、ほ、欲しいです。けど、後、少し...彼が高校卒業するまで待ってて下さい」

 

先生⁉︎

チラチラとこちらを見ながら母さんに応える先生。

・・ヤバい。滅茶可愛い...!

 

「まぁまぁ!イッセー、あんた早く高校卒業しなさい。そして早く孫の顔見せるのよ」

 

先生の応えに盛り上がる両親。

・・って、早く孫の顔っていうのは可能だけど、早く卒業ってのは無理だからね?

盛り上がる両親に心の中でツッコミを入れる俺だった。




原作より随分と早い親への告白にしました。
理由は、別にルシファーに連れ去られた後じゃなくても良いんじゃないかなぁって思ったからです。
あと、書いててグレイフィアのキャラってこんなんじゃなかったような感じがしたんですが、可愛く書けたら良いかなって思ったんでそのまま投稿させて貰いました。


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九話

朝からひと騒動あったが、何とか登校した俺は現在、周囲から痛い視線を送られていた。

・・それもそのはずだ。普段なら、絶対話す事なんてないはずの二人が向かい合っているからだ。しかも、人の往来が激しい学校の下駄箱が置いてある所で、だ。

 

「・・なぁ」

「ん?」

「場所移さねぇか?」

「・・アハハ、それもそうだね」

 

居心地の悪さを感じながら、目の前にいるイケメンの優男に別のところへ行こうと促した俺はグラウンドのど真ん中へとやって来た。

 

「・・よし、ここなら誰もいねぇな。っていうか、驚いたぜ。まさか、本当のお前が『悪魔』だったなんてな」

 

会った時に気づいた事を述べると、苦笑いした目の前の優男は言葉を返した。

 

「うん、まぁね。じゃあ、本題に入らせて貰うんだけど、今日の夕方旧校舎のオカルト研究部の部室に来て欲しいんだ」

「オカルト研究部?」

「うん。表向きは河童やUFOや幽霊とか、この『人間』の世界では超常の現象とされている事を調べて纏めてレポートにしたりする部活って事になってるんだけど、本当はねリアス先輩の眷属である僕達が集まる場所になってるんだ」

「へー、成る程な。じゃあ、俺は取り敢えず放課後その旧校舎のオカルト研究部の部室に行けばいいんだな?」

「うん。そうしてくれると助かるよ」

 

目の前にいる学園一のイケメンである木場裕斗に確認をとった俺は、周りから受ける視線(主に女子から)に耐えながら放課後までやり過ごした後、何時もはつるむ松田と元浜に断りを入れ、オカルト研究部の部室がある旧校舎へと向かったのだった。

旧校舎へ入り、階段を登っていくと、木製のドアの隣に墨汁で『オカルト研究部』と書かれた古い看板が立てかけられていた。

 

「ココ...みたいだな」

 

今朝、先生に教えてもらったように扉の向こうにある何人かの気配を感じ取り、朝に木場から言われたオカルト研究部の部室に間違い無いと目星をつけた俺は呼び出されたとはいえ、一応礼節を重んじて扉をノックし、入って良いか確認した。

すると、扉が開いたと思ったら小さな白髪の女の子が現れた。

 

「はい。・・兵藤先輩...?」

「え、知ってるの?俺の事」

「はい、一年生の中で『とても』有名ですよ。この学校には性欲の権化の様な人物が三人もいる、と」

「・・・」

 

・・期待した俺が馬鹿だった...。

後、「とても」ってところが凄い強く言われた気がする...。

目の前の女の子の言葉に言葉を失った俺が立ち尽くしていると、部屋の奥から声が聞こえてきた。

 

「あら、来たのね。小猫席に案内してあげて」

「・・裕斗先輩お願いします」

 

リアス先輩の声がシャワーカーテンの奥から聞こえたと思ったら、途端に白髪の女の子は嫌そうな顔で此方に視線を送った後、身震いして、部室の中にいた木場を呼んだ。

と、そこで俺はさっきから気になっていた事を目の前の女の子に尋ねた。

 

「あ、あのー」

「・・・何ですか?」

「さっきから気になってたんだけど、何でそんなに距離置かれてるの?」

「・・噂でその三人に近づいたら孕まされると聞いたので」

 

よし、殴ろう。今すぐにその噂を流した奴を殴ろう。

リアス先輩に『小猫』と呼ばれた女の子の話を聞き、拳を震わせていると、小猫さんに呼ばれた木場が苦笑しながらこちらに来て、部室へと迎え入れてくれたのだった。

・・勿論、小猫さんは俺がいる場所には近づかず、部室の壁際に立ち、静かにリアス先輩が来るのを待っているのであった。

 




・・あれ?アーシアが出ていない...
学校の合間に書いてるので話がちょっとずつしか進みませんが宜しくお願いします。


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十話

気づいたら赤バーになっていて、お気に入りも沢山来ていたので驚いた女騎士です。


木場に促され部室内にあった豪奢なソファに座って、リアス先輩がシャワー室から出てくるのを待つ事数分。

制服に着替えたリアス先輩と少し湿り気があるバスタオルを抱えた黒髪ロングを後頭部で束ねた所謂、ポニーテールと呼ばれる髪型にした女性が現れた。

俺の視線に気づき、微笑んだポニーテールの女性は姫島朱乃先輩。

この駒王学園の有名人の一人でよくリアス先輩の隣に並んで歩いているので大概の学園の生徒はリアス先輩派と姫島先輩派でよく言い争っている。

・・まぁ、俺はグレイフィアさんに惚れた瞬間からグレイフィアさん一筋なので派閥に属してないが、二人とも絶世の美女ということには変わりない。

俺の前方にあったソファに座ったリアス先輩にリアス先輩の背後で従者のように直立する姫島先輩。

 

「お待たせしてごめんなさい」

「いえ、大丈夫ですよ」

「ありがとう。・・じゃあ、イッセー君。今日、貴方を呼び出した理由を話すわね。私の眷属に入った貴方には『仕事』をして貰います。」

「・・仕事ですか...?」

 

高校生に仕事という事から何かしらのアルバイトでもする事になるのかなと想像していると、リアス先輩は懐から一枚の紙を取り出した。

それは何の変哲もない柄と文様が描かれた一枚の紙。

しかし、自分はそれが視界に入ってとても驚いた。

何故なら、先日、堕天使に攻撃される前に俺がティッシュ配りならぬ紙配りをしていた美女から頂いた紙にそっくりだったからだ。

 

「! そ、それ!」

「ええ。これは、イッセー君。貴方が、仕事をしていた私の使い魔から偶然、貰った紙と一緒の物よ」

「使い魔?」

 

聞き慣れない単語に思わず聞き返すと、リアス先輩は静かに床に手を向けた。

すると、綺麗なサークル状の紋様が写し出されて、そこから一匹の蝙蝠の様な生き物が現れた。

 

「この子が私の使い魔よ」

 

今まで生きてきて見た事がない生き物だった為、驚いているとリアス先輩の背後にいる姫島先輩が「冥界の生き物なのよ」と教えてくれた。

使い魔を見せてくれたリアス先輩は使い魔を消して、話の続きをしてくれた。

 

「それで、話を戻すんだけど、イッセー君にはこの紙を配る仕事をして貰うわ」

 

「はい」っと紙の束を俺の方へ手渡しながら、簡単に仕事の説明をしてくれるリアス先輩。

この紙は利用者と自分達悪魔を繋ぐ経路みたいなもの。

利用者が使うと、自分達は喚びだされ利用者の元へ向かうことになる。

そして、利用者の希望を叶えて対価を頂き、それを自分の糧にして悪魔としての力量を強くしていく。

ついでに悪魔には中級、上級、最上級、魔王という位に分類する事が出来てリアス先輩のお兄さんは魔王として冥界と呼ばれる悪魔と堕天使が暮らす世界の政治を行なっている事も教えてくれた。

リアス先輩がお兄さんの事について教えてくれていると、いつ取りに行ったか分からないがお茶とお菓子をお盆に乗せて運んできてくれた姫島先輩が口元を押さえて、クスクスと笑いながらリアス先輩の話に加えてお兄さんの事について話してくれた。

何でも、このオカルト研究部でリアス先輩と一番長い関わりを持つ姫島先輩は何度も冥界にあるリアス先輩の実家に行った事があるらしく、ここ数年はお兄さんも成長したのか無くなったが昔はリアス先輩が実家に帰る度にお兄さんは魔王の仕事をほったらかしにしてリアス先輩に会っていたらしい。

そしえ、その都度、リアス先輩とリアス先輩のお母さんとお兄さんのお嫁さんの三者から囲まれながら怒られて、怒り終えたお嫁さんに魔王城まで引っ張って行かれる始末だったそうだ。

 

・・お兄さん、何やってるの⁉︎あんた、魔王でしょう⁉︎

 

姫島先輩に教えられてつい、会ったこともなく敬う存在であるべきの魔王様に心中でツッコミをいれてしまった俺は笑いながら話す姫島先輩と姫島先輩の隣で「ハァ...」と額に手をやりながらため息を吐くリアス先輩に苦笑を返した。

すると、部屋の隅で姫島先輩の話を聞いて俺と同じく苦笑していた木場がこちらにやって来た。

 

「部長、そろそろ自己紹介でもしませんか?」

「・・そうね、そうしましょう」

 

お兄さんの事を思い出していたのだろうか、項垂れていたリアス先輩は両膝に手を当てて立ち上がり、姫島先輩と木場、そして先程から一言も喋らず黙々と姫島先輩が持って来てくれたお菓子を食べていた白髪の少女を自分の隣に順番に並ばせた。

 

「先日、会って知り合いみたいなものだけど一応、自己紹介しておくわね。私はリアス・グレモリー。グレモリー家の次期当主よ」

 

簡単に自己紹介をしてくれたリアス先輩が「改めて、よろしくね」と言って締めくくると、隣にいた姫島先輩が声をあげた。

 

「では、次は私ですわね。私は、姫島朱乃。リアスの女王をしてますわ。よろしくね、兵藤君」

 

フフッと微笑みを浮かべた姫島先輩に一瞬、見惚れてしまうがブンブンと頭を振り、「こちらこそよろしくお願いします」と返す俺だった。

姫島先輩に続き、木場、塔城さんと恙なく自己紹介は終わりを迎えた。

・・塔城さんが少し、此方を睨んでいたのは気のせいだろう...気のせいであってほしい。

そう願いながら手短に自分の自己紹介を終えた俺がふと、部室の窓の外を見てみると、オレンジ色の陽の光が窓を照らしていた。

 

「・・じゃあ、そろそろ俺は帰っても良いですか?グレイフィアさんがウチに来るみたいなので」

「あら、そうなの?良いわよ。じゃあ、明日また放課後に会いましょう」

「はい。では、失礼します」

 

鞄を持ち、ぺこりと頭を下げた俺が部室のドアノブに手をかけ、出ようとしたその時だった。

 

「あ、そうそう。イッセー君」

 

リアス先輩に背後から呼び止められた。

 

「はい?」

「分かってると思うけど、一応言っておくわね。貴方は悪魔になったんだから、教会や神社に近づいちゃダメよ」

「はい、グレイフィアさんに今朝教えてもらったので大丈夫ですよ」

「そう?なら良いわ。お疲れ様」

「お疲れ様でした」

 

再度、ぺこりと頭を下げた俺は部室を出て、帰路に着いたのだった。

 




やっと、次の話でアーシアが出せそうです。


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十一話

『オカルト研究部』の部室を出た俺は帰路についていた。

校門を通り過ぎ、商店街を通り過ぎた俺は先日、堕天使に襲われた公園の前を歩いていた。

 

「・・この一週間色々ありすぎたな...」

 

過去を思い出し、苦笑していると「はうっ」という声が、自宅がある方向から聞こえてきた。

声が聞こえてきた方向へ目を向けると、金髪の少女が倒れていた。

 

「!だ、大丈夫ですか⁉︎」

 

慌てて少女の方へ駆けて、様子を見に行くと、こちらに気づいたのか少し涙目でこちらを見上げてきた。

 

「ッ..!」

 

道端を歩いている人の中でも明らかに可愛い部類に入るであろう彼女の顔を見て一瞬、息を呑んだ俺は辺りに散らばってしまった荷物を拾い集めた。

彼女も俺に続いて拾い、見える範囲に落ちているものがない事を確認した俺が拾い集めた荷物を彼女に渡そうとしたその時だった。

 

「・・え?」

「あ、ありがとうございます...え?きゃっ⁉︎」

 

彼女が首にかけている「あるもの」に驚いた俺が目を引き寄せられていると、俺の視線から何かを感じたのかパッと片腕で胸元を隠した目の前の彼女が頬を染めた。

 

「?・・あ、違う違う!その、ネックレスに驚いただけです!」

 

彼女が何故、頬を赤く染めているのか彼女の小さい叫び声で理由を理解した俺は慌てて彼女が思っている事を訂正する。

しかし...。

 

「・・・」

 

あれ?気のせいか睨んでるような..。

・・気のせいだよな?

・・気のせいですよね?

 

「・・・」

 

・・気のせいじゃなかった!超怪しまれてるよ!

胸元を見られまいと片腕で胸を隠していた彼女は、恐る恐る俺から荷物を受け取り、少し大きめの鞄へとしまった。

少しの間が空いた後、俺を警戒していた彼女は口を静かに開いた。

 

「・・ありがとうございます。拾うのを手伝って頂いて」

「え、あ、いえ。当然の事をしたまでですから」

「・・・」

「・・・」

 

必要最低限の話は出来たなと思った俺は、悪魔と敵対している天使関係者であろう目の前の彼女に会釈だけして、再び帰路についた。

しかし、俺は気になった。

何故、首に十字架を掛けていていかにも天使の関係者であろう彼女がこんな力もない悪魔を即座に殺さないのだろうか、と。

一応、グレイフィアさんに天使や堕天使が発するとされる聖なるオーラを感じ取れる様に教えて貰ったのだが、全然出来ない。

 

もしかして、油断したところで首を刎ねられるのかと不安に思った俺が慌てて振り向くと、彼女は周辺の地図が表示されている掲示板を注視していた。

 

「・・・ッ!」

 

ハッ!

危ない危ない。

また、攻撃されるかもしれないってのに、何助けに行こうとしたんだ俺は。

いつも、困ってる人がいたら出来るだけ助ける事を心がけてる事が仇となりつい、いつもの様に助けに行こうとした俺はブンブンっと頭を振り再び帰路に着いた。

しかし...。

 

「・・勘弁してくれよ...」

 

ちゃんと、目的地を探せ出せたのか気になった俺が振り向くと方向音痴なのかまだ彼女は手元にあるメモ用紙と地図に視線を何度も移動させていた。

 

「・・ハァ...」

 

自分の性格に溜息を吐いた俺は、踵を返して今来た道を戻った。

 

「んー...」

「・・あの」

「!」

「何処行きたいんですか?」

「・・見ず知らずの私の為なんかに案内して頂けるんですか?」

「だって、困ってる様に見えたから」

「・・ありがとうございます」

 

ぺこりと頭をこちらに下げた彼女は自分が持っていたメモ用紙をこちらに渡してきた。

なになに...。

彼女に渡されたメモ用紙を受け取り、メモ用紙に書かれていた文面を読んだ後、掲示板を確認すると彼女が行こうとしていたのは教会だった。

先程、リアス先輩から言われた事を思い出し、道順だけ教えようと思い簡単に彼女に教えた。

 

「そこの道を左に行って、突き当たりの十字路を右に曲がって、その十字路から三つ目の道を左に曲がる。そして、その左に曲がった道に繋がってる五つ目の道を右に曲がれば左側に見えてきますよ」

「・・?」

 

掲示板にあった通りに教会の場所を伝えた俺だったが、彼女の反応が今ひとつ芳しくない。

・・これ、俺が送ってあげた方が早くねぇか?

説明するよりも自分が付いて行って教えた方が早い事に気付いた俺は、彼女に少し断りを入れ、今朝教えてもらったグレイフィアさんの電話番号へ連絡した。

すると、ワンコール目でグレイフィアさんの何処か嬉しそうな声が聞こえてきた。

 

『もしもし、イッセー君。どうしたの?』

「あ、突然すみません。グレイフィアさん。・・何かいい事でもありましたか?」

『え?だって、イッセー君からの電話だから嬉しくて...!』

「⁉︎ グレイフィアさん可愛すぎです」

『ッ!そ、そんな事ないわよ...!』

 

グレイフィアさんからの予想外の返答に驚いて思った事を率直に述べる俺にグレイフィアさんは驚き、俺の言葉を否定する。

好きな人との通話が嬉しくて一瞬言葉が出なくなってしまう俺だったが、電話をかけた目的を思い出し、現在、自分がいる状況を伝えた。

 

『・・分かったわ。私も一緒に行くからそこで待ってて。良いわね?』

「すみません。俺が弱いばかりにグレイフィアさんに迷惑かけてしまって」

『そんな事ないわ。イッセー君が強くなったらこうやって一緒に家に帰る事なんて無くなっちゃうと思うわ。だから、イッセー君には強くならないでほしい..私ったらダメね。イッセー君には私が居ない時に襲われても大丈夫な様に、自分の身を守れる位強くなって欲しいのにこんな事を言ってしまうなんて』

「全然、ダメじゃありません!俺はグレイフィアさんにそう言ってもらえて嬉しいです。それに、グレイフィアさんが一緒に帰りたいって連絡してくれたらいつでもグレイフィアさんの仕事終わるまで古本屋とかゲームセンターで時間潰して待ってるんで一緒に帰りましょう!」

『そんな事言っちゃったら毎日待たせてしまうかもしれないわよ?それでも良いの?』

「はい、喜んで」

『フフッ、ありがと。イッセー君。・・じゃあ、イッセー君達がいるところに急いで行くから待っててね』

「分かりました」

 

プツッ

 

・・・グレイフィアさん、ヤバい。

語彙力が無く、グレイフィアさんの可愛さを表現する言葉が出てこない自分に溜息を吐きそうになった俺だったが、こちらに視線を向けている彼女に気づき、少し此処で待ってる様に言われたと伝え、グレイフィアさんが到着するまでの少しの間、言葉を交わすこともなく待つ俺たちだった。




グレイフィアだけをヒロインにする為、原作と結構違うアーシアにしてみました。
気に入らない方がおられたらすみません。


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十二話

彼女の隣でグレイフィアさんを待つ事十分少々。

自分たちが立ってる大きな道に繋がってる脇道からグレイフィアさんが出てきた。

 

「あ、グレイフィアさん」

「お待たせ、イッセー君」

 

こちらに手を振ってくれるグレイフィアさんに急に呼び出してしまった事を謝ると、首を横に振ってくれて「大丈夫よ」と応えてくれた。

 

「イッセー君がこのまま教会に行って襲われでもしたら大変だからね。・・それで、イッセー君の隣にいるのがさっき電話で話してくれた女の子?」

「あ、はい」

 

グレイフィアさんの問いかけに肯定した俺は隣でグレイフィアさんを見つめてる彼女に今から教会へ行く事を伝えた。

 

ー○●○ー

 

グレイフィアさんに来てもらった俺は、先程、隣にいた彼女に教えた通りの道順を歩いていると、同性だから話しやすかったのかグレイフィアさんと話していた彼女に呼び止められた。

 

「あ、あの!」

「ん?」

「さ、先程は...ごめんなさい!」

「へ?」

「・・グレイフィアさんに教えてもらいました。兵藤さんはその...Hな事が大好きな人だけどそれ以上に優しさで満ち溢れてる人なんだって。・・だ、だから、先程はモノを拾って頂いたのに睨んでしまってすみません」

「え、あ、いや、アレは、俺も悪かったので...別に謝って頂かなくても大丈夫ですよ」

 

頭をこちらに下げる彼女にたじろいでいると、俺と彼女の会話を静観していたグレイフィアさんがこちらに顔を向けて寄せてきた。

 

「イッセー君、彼女と話してみたら?気さくで良い娘よ」

 

目の前で俺と目が合うと気まずそうに視線を地面に落とすアーシアさん。

そんな彼女に俺は、手を差し伸べた。

 

「・・じゃあ、俺を睨んだ代わりとして、俺と友達になりませんか?」

「と、友達ですか?」

「はい。こうやって知り合ったのも何かの縁だと思うので...ダメでしたか?」

「いや、全然!全然、ダメじゃないです!こちらこそよろしくお願いします!」

 

服の裾で手を素早くゴシゴシと拭いた彼女は俺の手を取った。

・・しかし、握手してから十数秒は立っているはずなのに一向に俺の手を離そうとしてくれない彼女を怪訝に思った俺はそっと俯いていた彼女の顔を覗き見ると、泣いていた。

 

「ッ!」

 

どうして彼女が泣いているか理由が気になったものの他人のプライバシーにおいそれと立ち入るわけにもいかないので、共に困っているグレイフィアさんとどうしたものかと次の行動を迷っていると、震えた声で彼女は呟いた。

 

「・・兵藤さん、グレイフィアさん。すみません。もう少しこのまま居させて貰っても良いですか?本当にすみません」

 

立ち止まらされている俺とグレイフィアさんに謝った彼女は自分が何故、泣いているのか震える声で途切れ途切れだったが話してくれた。

自分は特別な力を持つ子供として他の子と隔離され、ずっと自分より年上の人達と暮らして友人と呼べる存在が居なくて、寂しかった事。

そして、そんなある日、自分が生まれた場所に一人の男が血塗れになって木に背中を預けて倒れていたので自分の特別な力を行使して治癒すると、今迄、自分を見てくれていた歳上の人達が態度を急変させ、蔑視する様になり、独りになってしまった事。

泣いてる理由を説明する為に自分の過去を離してくれた彼女は最後にこう付け足した。

 

「だから、兵藤さんと友人になれて独りじゃないって思って安心したら、涙が出てきました」

 

目尻から溢れる涙とは対照的に口元で笑みを浮かべた彼女は、繋いでいた俺の手を離し、足元に置いていたバッグからハンカチを取り出し、涙を拭いた。

 

「あ、そういえば、まだ兵藤さんには名乗っていませんでしたよね?私、アーシア・アルジェントっていいます」

「アーシアさんか、宜しくね。あと、グレイフィアさんが言ったみたいですけど俺も一応、自己紹介しておきますね。俺は兵藤一誠です。友達にはイッセーって呼ばれてるから、そう呼んでくれたら嬉しいです」

「分かりました、では、イッセーさんとお呼びしますね」

 

涙を拭き終えた彼女に自己紹介された俺は、先程話してる時グレイフィアさんに聞いたのだろうが、一応、自己紹介をしておいた。

まずはじめにするべきであっただろう自己紹介をし終えた俺が再び、教会への道を歩き出すと、アーシアさんはグレイフィアさんの隣へと行き、会話を再開させたのだった。

教会までの道のりもあと半分というところで俺はアーシアさんが言った先程の言葉を思い出していた。

 

(さっきのアーシアさんからの話から察するにアーシアさんは何か回復させる系統の『神器』を持っていて、大切に...いや、言い方を変えれば彼女の能力を利用する目的で彼女に優しくし、自分達、天使側の戦力にしようとしていたが、彼女が誤って堕天使か悪魔であった話の最後に出てきた人物を回復させた為に、敵側も回復させる事が出来ると分かったその大人達が争いになった際に、敵側までも回復されては敵わないと考えて彼女を蔑ろに扱ったのだろうな...ホント、組織の為とは言え、女の子に対して、酷い事するぜ)

 

先日、グレイフィアさんに教えてもらった『神器』に関する知識を思い出しながら、アーシアさんが持つ能力について考えを巡らせていると前方からつい1時間ほど前にも聞こえた声が聞こえてきた。

 

(ん...?)

 

声が聞こえてきた方向へ視線を向けると其処には、1組の兄妹がいた。

 

「うわぁぁああんん!!痛い、痛いよ!お姉ちゃぁああん!!」

「ど、どうしよう...と、とりあえず、傷口を洗わないと...!」

 

段差にでもつまづいたのか、こけて膝を擦りむいている弟と泣き喚く弟見てオロオロしている姉。

何かあった時のために一応、絆創膏を持ち歩いている俺が姉弟達のところへ向かおうとすると、グレイフィアさんと話していたアーシアさんが俺よりも早く駆け寄り、泣き喚く男の子の擦りむいているところへ手を翳した。

すると、薄い緑色をした光が男の子の患部に宿りどんどん傷が治っていく。

 

「男の子がこれくらいの傷で泣いてはダメですよ?」

 

優しく男の子に語りかけるアーシアさん。

 

「グレイフィアさん、今のが...」

「ええ。イッセー君が考えている事であっていると思うわ」

「じゃあ、アレがアーシアさんの『神器』の能力...」

 

アーシアさんが持つ能力に驚かされていると、男の子を直し終えて姉弟達に手を振ったアーシアさんがこちらの方はやってきた。

 

「す、すみません。突然話を遮ってしまって」

「ううん、それは大丈夫なんだけど今のがアーシアちゃんの言ってた...」

「・・はい。この能力は主から頂いた能力なんです。凄いですよね...」

「アーシアちゃん...」

 

過去を思い出しているのか、哀しそうな表情を浮かべたアーシアさんに何か言えるはずもなく俺は口を噤み、グレイフィアさんはアーシアさんの気分を少しでも改善させようと話を再開させたのだった。

 

ー○●○ー

 

「あそこが教会ですよ」

 

前方に見える壁が白く塗られた建造物を指差すと、アーシアさんは表情をパァッと明るくし、ペコペコと頭を下げてきた。

 

「ありがとうございます!ありがとうございます!このお礼と言ってはなんですけど紅茶をご馳走させていただきたいのですが宜しいでしょうか?」

 

鞄から元いた場所から直接日本へ持ってきたのか、日本語ではない文字が書かれた紙袋を取り出すアーシアさん。

悪魔になった事によって世界中のどの国の言葉も日本語で読めて聞ける様になった俺はアーシアさんが差し出す紙袋に書かれた文章を読んでいると、頭の中に痛みが走った。

 

(あ、そっか。教会は悪魔の俺には敵地も同然だからか)

 

頭に痛みが走った俺はこれ以上、長居するのは良くないなと思い、アーシアさんからの誘いをアーシアさんが不快な気分にならない様に丁重にお断りして、グレイフィアさんと共にその場を後にしたのだった。

まだ仕事が残っているグレイフィアさんと中学校の校門辺りで別れた俺は家へと帰り、ベッドに寝転がりながら天井を見つめていると、ポケットに入っていた携帯が振動した。

 

(リアス先輩...?)

 

誰からの連絡か見てみると自分がつい先日、入部した『オカルト研究部』の部長であり、死の間際だった自分を助けてくれた女性からの連絡だった。

通話ボタンを押すと、低い声音で「伝えたい事があるからすぐ部室に来て」と言われ、切られた。

 

(・・あれ?俺、何かしたっけ?)

 

自分の行動を思い出そうとしたが怒気が含まれた口調だった為、即座に思い出す事を辞め、家を出て、学校へとんぼ返りするのだった。




前話を少し書き直しました。


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十三話

キッチンで晩ご飯の用意をしていた母さんに断りを入れて自転車で急いで駒王学園へと向かった俺は駐輪場に自転車を停め、夕陽が沈んで辺りが暗くなってきている中、旧校舎の階段を登って、部室の扉をノックした。

 

「入りなさい、イッセー」

「はい、失礼します」

 

先程、携帯越しに聞こえた声でも伝わったが、明らかに怒りが込められたそのリアス先輩の声に内心、ビビりながら室内へ入ると、リアス先輩と姫島先輩がいた。

目を吊り上げるリアス先輩とニコニコと微笑む姫島先輩。

・・笑ってる方が恐怖を感じるのは何故だろう?

姫島先輩の微笑みに安堵より恐怖を覚えていると、リアス先輩は姫島先輩を連れて目の前までやってきた。

 

「イッセー」

「は、はい」

「貴方、私との約束守らなかったわね?」

「や、約束ですか?」

 

身に覚えのない事を問われた俺が思わず問い返してしまうと、リアス先輩の隣に控えていた姫島先輩から自己紹介が終わって部室を出る前の事を思い出してみればいいと助言を頂いたので思い返すと、確かにリアス先輩と教会や神社には近づかないと約束していた。

姫島先輩の助言により思い出せた俺が思い出せた事をリアス先輩に報告しようとすると、思い出した事が表情で伝わったのか俺に視線を向けていたリアス先輩は「ハァ...」と溜息を吐いた。

 

「良い?イッセー。さっき、グレイフィアさんに聞いたって言ってたけど私からも言っておくわね。教会や神社は私達、悪魔にとって敵地。踏み込めば、神側と悪魔側で問題が起こるわ。だから、絶対...ぜぇったいに!踏み込んじゃ駄目よ。あと、これは、グレイフィアさんと一緒にいるとしても駄目よ。良いわね?」

「は、はい!」

 

ビシッと此方を指差して注意するリアス先輩の怒り具合に圧倒されてしまった俺はつい、背筋をピンッと張り敬礼してしまった。

俺の姿を見て、「ん、分かったなら良いわ」と呟いたリアス先輩に帰宅の許しを得た俺は「失礼しました」と言って部室を後にした。

帰宅して、晩ご飯を食べ、風呂から上がった俺は自室のベッドに横になっていた。

特にする事もなかった為、今日学校で勉強した範囲を復習していると、ポケットに入れておいた携帯が鳴った。

通話機能をオンにし、電話に出てみると、グレイフィアさんだった。

 

『もしもし、イッセー君?』

「はい、グレイフィアさん。どうかしましたか?」

『んー、ううん。声聞きたかったから掛けちゃった』

「掛けちゃったって...俺も聞きたかったですよ」

『そう?良かった。・・フフッ』

 

グレイフィアさんが微笑む姿を思い浮かべて、自分も自然と微笑みを浮かべていると携帯越しにポチャンっと水滴が水面に落ちる音が聞こえてきた。

その音を聞いて、まさかとは思ったが一応聞いてみることにした俺はグレイフィアさんに問いかけた。

 

「あ、あの、グレイフィアさん」

『ん?何?』

「い、今って、な、何しておられますかね?」

 

つい、いつもより丁寧な言葉遣いで問いかけてしまうと、少しの間が置かれた後、問い返された。

 

『・・聞きたい?』

「は、はい。それは是非!」

『・・イッセー君が想像してる通りにお風呂よ。お・ふ・ろ。正確に言えば、湯船に浸かってるわ』

「お、お風呂!やっぱり!・・あ...」

 

興奮してしまって、つい指でビデオ通話のボタンを押してしまった俺。すると、スピーカーモードにしてたのか、画面上に湯船に浸かるグレイフィアさんの肢体が映った。

突然の事に驚き、思わず片腕で胸元を隠すグレイフィアさんだったが押しつぶされるその豊満な胸を見て遂に、鼻血を出してしまった俺はティッシュを鼻に詰めた。

グレイフィアさんにジト目で視線を送られる俺が視線を逸らしていると少しの間を置いて「・・H」と言われてしまった。

蕩けるような甘い声に脳内がクラクラしていると、グレイフィアさんは此方の方へ身体を身体を動かし、間を置いて甘い声で言われてしまった。

 

『・・同棲したら一緒に入りましょうね?』

 

画面越しで頬を赤く染めながらニコッと微笑むグレイフィアさんの姿にクリティカルヒットを喰らった俺は、最早、言葉が出てこずコクコクと頷くばかりだった。

すると、誘ったグレイフィアさんも相当に恥ずかしかったのか「じゃ、じゃあ、明日から前言ってた特訓始めるからおやすみなさい』と早口で捲し立てて通話が切られた。

・・ギュって潰れて腕からはみ出てる胸...エロ過ぎだろ。

先程まで画面に映っていた恋人のあられもない姿を思い浮かべた俺は、煩悩を消し去る為とグレイフィアさんが言っていた特訓に遅れないように、充電器のコードの先端を携帯に差して、部屋の電気を消して、早めに眠る事にした。

翌朝、昨晩セットした携帯のアラームが鳴った。

アラームを止め、動きやすいようにジャージに着替えると五時だった。

「ふぁ...」とつい欠伸が出てしまった俺だったが、冷たい水で洗顔をして眠気を吹き飛ばした。

先日、グレイフィアさんに教えて貰った時刻になった事を携帯のロック画面で確認した俺は静かに門扉の外に出た。

顔を右往左往させて、どちらから来るのか待っていると右側からバイクの音が聞こえてきた。聞き覚えのある音に顔をそちらの方へ向けてみると、フルフェイスのヘルメットで顔まで分からないが、グレイフィアさんらしき人物が市販されているグレーのジャージを着て此方にやって来た。

その人は俺の目の前で停車し、ヘルメットのシールドを開けた。

 

「待たせてごめんなさい」

「いえ、自分も今出て来たところです」

「そうなの?良かったわ」

 

俺の言葉に安堵したグレイフィアさんにタンデムする人様に持っているのかバイクの側面に取り付けてあったジェットヘルメットを渡された俺はそれを被り、バイクに跨った。

近くの公園へとやってきた俺たちはバイクを降り、公園内へと入った。

 

「そういえば、どうしてバイクで来たんですか?この距離ならランニングがてら来ても大丈夫かなって思ったんですけど」

「それはね、私が考えたトレーニングがつい先日まで普通の人間だったイッセー君には結構ハードだと思ったからよ。それに、恐らくだけどトレーニングをした帰りは走れないと思うわ」

 

魔法でバイクを隠しながら説明してくれているグレイフィアさんの説明内容に冷や汗をかいていると、バイクを隠し終えたのか公園内に入ってきたグレイフィアさんに一枚のルーズリーフを渡された。

事細かく書かれたトレーニング内容の量に卒倒しかけた俺だったが、何とか持ち堪えて、トレーニングを始めた。

トレーニングを始めて一時間程が経過した頃、俺は「ゼー、ハー」と荒い息遣いをたてながらその場に寝転がっていた。

き、きっつい...!

予想していた以上のトレーニングのキツさに「俺、大丈夫か...?」と弱音を吐きそうになってしまうが、口には出さず、此方を心配そうに見つめているグレイフィアさんを見て、「頑張ってこの人を守れるくらい強くなるんだ」と新たに決意を固め、立ち上がった。

二十分ほどかけてストレッチとクールダウンを行った俺はトレーニング中にグレイフィアさんから貰ったプロテイン入りの飲料水を煽り、その容器を公園内にあった水道で洗った。

 

「ありがとうございました」

「ううん、私がサポートしてあげられるのってこれくらいだから」

「いやいや、そんな事ないです!グレイフィアさんには効率が良いトレーニングの仕方を教えて貰ってる上、人が来ない様に結界とか貼って貰っていて滅茶ありがたいです!」

 

バイクに既に跨っているグレイフィアさんに洗った容器を渡して礼を述べた俺。

すると、容器を背負っていたリュックにしまったグレイフィアさんは軽く口角を上げて微笑んだ。

 

「そう?そう言って貰えたら嬉しいわ。・・それじゃ、家まで送るから乗って」

「はい!」

 

来た時と同様、グレイフィアさんのお腹に手を回してタンデムを行った俺はグレイフィアさんの体の柔らかさに癒された。




グレイフィアとのビデオ電話のシーンを書いててR-15のタグも貼っとくべきかと考えさせられました。


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十四話

グレイフィアさんとのトレーニングを始めて一週間。

徐々に、グレイフィアさんから課されたトレーニングメニューに慣れてきた俺は現在、グレイフィアさんに手伝って貰いながらストレッチを行っていた。

 

「はい、1、2、3、4、5」

「ふぅ〜...」

「1、2、3、4、5」

 

息を吐きながらゆっくりと前屈を行っていき、五秒かけてゆっくりと身体を戻していく。

背中に乗り掛かって貰っているグレイフィアさんの掛け声に合わせながらストレッチを行なっていると、地面に膝をつけて俺の肩の上に腋を乗せて顔を首元に寄せていたグレイフィアさんに問われた。

 

「あ、そういえばこの前話してくれてたビラ配りの仕事は順調にこなせているの?」

「はい。魔力が少なくて未だにチャリで街中を走り回りながらですが何とか」

「自転車で...?あ、もしかしてトレーニングの一環?」

「はい、微々たるものでしょうけど仕事にも取り入れたらその分強くなれる気がして」

「凄い。よく頑張ってるね」

 

褒め言葉を述べたグレイフィアさんは俺の背中から退いて立ち上がり膝についた砂を払った。

 

「よいしょ」

 

立ち上がって、お尻についている砂を払った俺は、先程、グレイフィアさんから頂いた水に溶けているプロテインが入った容器を手に取り、呷った。

水道水で容器を洗い、公園を出るとグレイフィアさんがバイクに腰を預けながら俺が出てくるのを待ってくれていた為、礼を言って、先程、洗った容器を返した。

 

「今日もありがとうございました。コレ」

「ううん、気にしないで。私が好きでやってる事だから」

 

俺から受け取った容器を肩にかけている小さな鞄にしまったグレイフィアさんはその鞄を身体の前方にやり、バイクに跨った。

グレイフィアさんがバイクに跨った事を確認した俺はタンデムをする要領でバイクに跨り、グレイフィアの腹部に腕を回した。

俺を家に送り届ける為に、兵藤宅へと向かっている最中、偶然、バイクに付いているミラーでヘルメット越しにグレイフィアさんのキリッとしているがどことなく優しそうな目が見えた俺は、「やはりこの人が俺にとって一番だ」という幸せな感情が心を満たして先程よりも少し腕に力が入ってしまった。

 

「ん?どうしたの?イッセー君」

 

腹部にかかる俺の力が強まった事を感じ取ったのか、赤信号で停車した際に俺に声を掛けてきたグレイフィアさんに力が強まった理由を話すと、「そっかそっか」と嬉しそうに呟きながら右手で俺の腕と手を撫でて、此方に顔を向けた。

 

「ありがと、イッセー君。私も今、凄く幸せよ」

 

ヘルメットで口元は分からないが、嬉しそうな声音と目元を見て、更に幸せになる俺だった。

 

早朝トレーニングからの学校での授業...怒涛の勢いで迫ってくる睡魔に何とか耐えながら放課後を迎えた俺が部室に向かうと、

 

「イッセー、そろそろ次のステップに進んでみない?」

 

と声を掛けられた。

 

「・・へ?」

 

リアス先輩の問いかけについ、素っ頓狂な声をあげてしまうと、リアス先輩は自身が考えていた事を説明してくれた。

紙を配る仕事もそろそろ慣れてきた頃だろうから、今日からは契約というものを取ってくるようにそしてそれに先当たって今この場にいない子猫ちゃんの代わりに契約を取ってくるようリアス先輩から聞いた俺は了承し魔法陣が描かれている場所に立った。

転移用魔法陣の中に入った俺を確認したリアス先輩が魔法を発動させようと詠唱を始めた。

 

うおっ⁉︎ま、眩しい...!

 

リアス先輩の詠唱と共に輝きだす魔法陣に驚き、思わず目を閉じてしまっていると次第に輝きが収まっていく。

 

「・・・」

「・・・」

「・・・」

 

・・あれ?

目の前に立つリアス先輩と姫島先輩と木場の三人と視線を交えた俺が混乱しているとこの現状を理解したのかリアス先輩より魔力の扱いに長けている姫島先輩が口を開いた。

 

「お、恐らくですけれど、イッセー君の魔力量が足りていなくて転移が不可能だと思われますわ。部長」

 

おずおずと話しだす姫島先輩の考えを聞き、驚いたリアス先輩は「え、そんな事ある?」と言いたげな表情を浮かべながら姫島先輩を見た後、少しの間、考えを巡らして口を開いた。

 

「しょうがないわ...。イッセー、自転車で赴き、契約を取ってくるのよ」

 

室内にある自身の文机からある機械を取り出したリアス先輩に機械の画面を見ながら、依頼人の元へ赴いて契約を取ってくるように言われた俺は機械を受け取り、学校の外に出た。

夕陽が沈み、街灯が点灯していく中、依頼人の元へ赴いた俺はそこが偶々、アパートだった為、併設された駐輪場に自転車を停め、依頼人が住んでいる部屋へと向かった。

 

「お、ここだな」

 

リアス先輩に渡された紙を見ながら苗字を探して歩いていると紙に書かれた苗字と同じ苗字が書かれた扉を発見した俺は、扉の隣についているインターホンを押した。

すると、少し痩せ気味の自分より少し歳上だと思われる男が出てきた。

 

「どちら様ですか?」

「あ、先程、ご依頼いただいた悪魔の者です」

「悪魔がインターホン押して来るか⁉︎帰ってくれ!」

「ま、待って下さい!」

 

ごもっとも!依頼人...森沢さんの正論に何も言い返せないが契約を取らないのは不味い...。

どうしたものかと悩んでいると、どうしたことか森沢さんが扉を閉めようとする力を緩めてくれた。

 

「・・ハァ...。取り敢えず、悪魔だって証拠見せてくれたら話を聞くよ」

「あ、ありがとうございます!じゃ、じゃあ少し待って下さいね」

 

悩んでいる俺を同情してくれたのか森沢さんに自分が悪魔である証拠を見せるよう促された俺は、周辺に誰もいないか確認した後、背中に力を入れて翼を出した。

悪魔特有の漆黒の蝙蝠の翼を見た森沢さんは納得して、部屋の中へと入れてくれた。

何とか、森沢さんに話す場を設けて貰った俺は森沢さんに何をして貰いたいのか聞いた。

すると、逆に何が出来るのか問われ、再び、答えに困ってしまった。

 

「・・あ、ドラグ・ソボール...」

「ん?好きなの?ドラグ・ソボール」

「はい、単行本全巻持ってます」

「・・ほほう?だったらドラグ・ソボールの話でもするか」

 

子猫ちゃんにも用事くらいあるだろうしドラグ・ソボールの話をするだけで契約を行ってくれた森沢さんの優しさに触れて、若干、泣きそうになってしまった俺は涙を流すわけにはいかないと思い、森沢さんに感謝を述べた後、ドラグ・ソボール談議に花を咲かせたのだった。




次回ははぐれ悪魔討伐、フリードとの出会いを書こうと思っています。


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十五話

森沢さんとドラグ・ソボールの談議をした翌日。

俺は、昨日に引き続いて契約を取りに、とあるお宅へと赴いていた。

表札を頼りに依頼してきた人物を探し当てた俺は目の前にあるインターホンを指で押した。

すると、少し時間が経過した後、反応があった。

 

『開いています。どうぞにょ』

 

野太い声。男か。

インターホン越しに聞こえてくる声を頼りに依頼主の性別を判断していると俺の心の中で違和感が芽生えた。

・・あれ?今、何か変な声が聞こえなかったか?「にょ」って。

・・いやいや、まさか、そんな語尾あるわけないだろ...そうか。きっと、俺、疲れてんだ。

悪魔に転生して日が浅い上、連日で「契約を取る」って仕事してるから疲れてんだ。そうだ、そうに違いない。

心の中で芽生えた違和感を無理矢理片付けた俺はノブを握って回し、扉を開けた。

すると、其処には、世紀末覇者がいた...。

 

「・・・」

 

鍛え上げられて丸太の様に太くなった腕と脚に近寄りがたい厳しい顔つき。

そして、ゴスロリの服。

・・ゴスロリ...え⁉︎

圧倒的な強者の風格を持った目の前の男性とその男性が着ている服のミスマッチさに驚き、唖然としていると大きな胸筋のせいで今にも千切れそうだったボタンが千切れ、すごい速さで俺の方へと向かってきた。

 

「い"っ!」

 

悪魔になったおかげで視力が良くなった筈なのに、それでも見切れない速さで飛んできたボタンが俺のおでこに当たると、ボタンはおでこに若干、めり込んだ。

シュー、と煙を出しておでこにめり込んで止まったボタンをやっとの思いで外し、おでこをさすりながら目の前にいる男性へ返すと、「ありがとにょ」と礼を述べられた。

・・「にょ」って聞き間違いじゃなかったんだね....。

 

「ミルたんを魔法少女にして欲しいにょ」

「・・へ?」

 

目の前の世紀ま...じゃなくて、ミルたんさんに連れられて、リビングまでやってきた俺が望みを問うとミルたんさんは真顔でそう言ってきた。

ミルたんさんから発せられた言葉に思わず呆けてしまっているとーー。

 

「悪魔さん!!」

 

うぉ⁉︎

 

ピシビシピシッ!

 

「ッ⁉︎」

 

目の前にいるミルたんさんから発せられた先程より少し大きめの声で、俺が驚いていると壁にヒビが入り、ポロポロと微かに壁を作る際に使われたであろう土がフローリングに落ちる。

先程のボタンの件といい、今の声だけで壁に亀裂が走ることといい、人生で体験した事がなかった経験を一日で二回も経験した俺が唖然としていると、ミルたんさんは自分を指差して言った。

 

「ミルたんを魔法少女にして欲しいによ」

「魔法少女ですか?」

「そうにょ」

「・・分かりました。因みに、ミルたんさんが宜しければ魔法少女になりたいと思った経緯など教えて頂けたら幸いなのですが...」

 

自分とミルたんさんの圧倒的な力量差に戦きながら問うと、ミルたんさんはスッと椅子から立ち上がり、俺がいる方向に歩いてきた。

ヒッ!

身体中から迸る闘気の様な何かに反応し、全身の毛穴から汗が噴き出ていると俺の隣を通ったミルたんさんは戸棚を開けてそこから一組のブルーレイBOXを出した。

そして、ブルーレイBOXを持ったミルたんさんは恐怖で足がガクガクと震えだした俺の隣を通り、元いた俺の目の前に置かれた椅子に座った。

・・すっげぇ、あの椅子が何で出来てるか知りたいんだけど....。

自分が座ってる椅子と色や形が違う椅子を見て苦笑していると、ミルたんさんは机にブルーレイBOXを置いた。

 

「これにょ」

「魔法少女ミルキースパイラル7オルタナティブですか。懐かしいですね」

「知ってるにょ⁉︎」

 

ぶぉん!

 

机に置かれたブルーレイBOXのパッケージを見て、つい感想を漏らしてしまうと、俺が知ってると思ってなかったのかミルたんさんが顔を有り得ない速さで此方に顔を近づけてきた。

厳つい男性...最早、漢と呼べるであろうミルたんさんが此方に顔を近づけた事により生じる風が壁に掛けられていたカレンダーを揺らす中、俺がミルたんさんの問いに頷いて答えると、ミルたんさんはパァっと顔を輝かせてブルーレイBOXからブルーレイ・ディスクを取り出し、ブルーレイ・ディスクを読み込む機械にセットした。

そして、そこから始まる魔法少女ミルキースパイラル7オルタナティブの鑑賞会。ーーー俺の長い長い夜が始まったのだった。

 

ー○●○ー

 

「・・それで、契約は取れたの?」

「はい、なんとか頂きました」

 

俺の肩に腕を乗せて背中に寄りかかっているグレイフィアさんの問いになんとか答えた俺は、立ち上がり、眉間を親指と人差し指で挟んで揉んだ。

いやぁ、地獄だった。

なんせ、六時間ぶっ通しでアニメ見てたからなぁ。

アニメを見た後、そのままグレイフィアさんとの修練だった為、眠いったらありゃしない。

ふわぁ、と出そうになる欠伸をなんとか噛み殺していると、いつもならバイクにまっすぐ向かうグレイフィアさんがベンチへと腰掛け、手招きした。

グレイフィアさんの行動に疑問を持ちながら彼女の方へと歩くと、彼女は自分の隣の席を軽くポンポンと叩いた。

「ここに来て」という事なのだろうか自身の考えに不安になりながらもグレイフィアさんにされた様に隣の席へ座ると、グレイフィアさんは俺の左肩に手をあてて自分の方へ引いた。

ポフッ

グレイフィアさんに引かれた事により俺の上半身はグレイフィアさんの太ももの上に乗った。

や、柔らかい...。

上半身の右半分に当たるグレイフィアさんの太もも。

太すぎず細すぎず、ムチッとした大人の女性特有の柔らかさに興奮していると髪の上から頭を撫でられた。

・・これって、もしかして膝枕?寝てていいよって事なのか...?

過去に一度体験した事があり、グレイフィアさんの行動の意図に気付いた俺は体を動かし、ベンチに足を乗せ、頭だけをグレイフィアさんの太ももの上に乗せさせてもらった。

 

「ありがとうございます。ふわぁ」

「ん」

 

恋人の太ももの上という最高の枕に頭を置かせて貰っている俺はあまりの気持ちよさに一分も経たないうちに夢の中へと旅立っていった。

 

ー○●○ー

 

今朝、グレイフィアさんの太ももで眠れた俺は現在、リアス先輩達と共に、町の郊外にある廃屋へと赴いていた。

ここへ、訪れた理由は先程、姫島先輩の元に大公という爵位を持つ悪魔の方から、はぐれ悪魔の討伐命令が出されたからだ。

この、「はぐれ悪魔」というのは爵位持ちの悪魔に下僕にしてもらったのだが、その主人を裏切る又は、殺して主人無しの状態になり、自分が悪魔になった事によって授かった力を行使して各地で暴れ回る者の事だ。

リアス先輩にここへ来る前に教えて貰ったことを反芻していると、何か姫島先輩と話していたリアス先輩が俺に話しかけた。

 

「イッセー、いい機会だから悪魔の戦いというものを経験しておきなさい」

「え⁉︎毎朝、グレイフィアさんに稽古つけて貰ってますけど俺なんてまだ全然弱いと思いますけど」

「そうね。初めて会った時より結構強くなったけど、まだはぐれ悪魔の戦闘を任せられる程、貴方は強くないわ」

 

うぐっ、自分で言っといてなんだけど結構、心が痛むぜ。

リアス先輩のはっきりとした言葉にへこんでいると「でも、」と言って話を続ける。

 

「悪魔の戦いというものは見れる。それに、『悪魔の駒』の特性も見れるわ」

「『悪魔の駒』の特性ですか?」

「そう。じゃあ、見せてあげ...と、向こうから来てくれたわね」

 

『悪魔の駒』の説明を行なってくれていたリアス先輩が向けた方向へ顔を向けると其処には、上半身は女性の身体なのに下半身は言い表す事が難しい異形の存在がいた。

 

「不味そうな匂いがするぞ?でもうまそうな匂いもするぞ?」

 

アイツか。

ここへ訪れた時から感じていた殺気の様な威圧感を放っていた存在を漸く視認できた俺は気持ちの悪い声色で話すアイツを睨む。

すると、隣にいたリアス先輩がアイツの名前を述べた後で殺すと宣言した。

その言葉を聞き、激昂したアイツは両手に槍を携えながら此方に向かってきた。

中々のスピードで此方に向かってくるアイツに俺が驚いていると、リアス先輩は木場を呼び、戦う様指示した。そして、木場へ授けた『騎士』の駒がどういったものなのか説明してくれた。

 

「『騎士』の駒が与えられた者の特性はスピード。『騎士』になった者は敏捷性が格段に上がるの」

 

リアス先輩からの説明を確認すると、木場の速さはどんどん上がっていき終いには目で追えないスピードとなっていた。

す、凄ぇ...!

木場の動きについていけず、やられっぱなしのアイツ。

すると、やられっぱなしだったアイツは木場から視線を外して、近くにいた子猫ちゃんに手を出した。

 

「危ない!」

「近づいてはダメよ、イッセー。ここで見ておきなさい」

「で、でも、小猫ちゃんが...!」

 

アイツの攻撃を受け、制服が裂け、身体に裂傷を負う小猫ちゃんを見て堪らず、助けに駆け出してしまいそうになるがリアス先輩に腕を掴まれ、諭される。

 

「大丈夫だから、ね?」

「・・分かりました」

 

リアス先輩の言葉を信じ、小猫ちゃんの戦いを見ていると、アイツからの攻撃を受け止め、耐えて、拳を捻じ込む小さな女の子らしからぬ姿があった...。

 

ヒュン!

 

っぶねー!

此方に向かって飛んでくる手のひらサイズの廃材を避けると、次々に廃材が飛んでくる。

 

「ちょ、小猫ちゃん⁉︎」

「・・小さくないです」

 

何で声に出てなかった筈なのにわかってるの⁉︎

つい、ツッコミを入れそうになるが、取り敢えず、これ以上廃材を投げられたくないので謝る事にした。

 

「ゴメン!小猫ちゃん。小猫ちゃんは小さくなんかないね」

「・・分かれば良いんです」

 

謝ると、次に投げようとしていた廃材を地面に下ろし、木場と交戦中のアイツの方へと向かった。

 

「見ていて分かったでしょうけど、小猫にあげた『戦車』の駒の特性は馬鹿げた力と屈強な防御力よ。だから、あんな悪魔に遅れをとる事なんてあり得ないのよ」

 

廃材を投げられる俺を苦笑して見ていたリアス先輩の説明により何故、先輩が落ち着いていたのか理解した俺は、姫島先輩の方を見た。

すると、その視線に気づいたのか姫島先輩が俺の方に微笑みを向けてくれた。

 

「じゃあ、最後に朱乃。貴女の力をイッセーに見せてあげなさい」

「分かりましたわ。部長」

 

ウフフと笑みを浮かべ、リアス先輩の隣からアイツの元へと向かった姫島先輩は手元に魔力を込めつつ木場と子猫ちゃんにその場から退くように告げ、放った。

 

バリバリバリッ!!

 

「アアアアアアッ!!!」

 

息も絶え絶えになっていたアイツに襲い掛かる電流の嵐。

姫島先輩から放たれた電流を受け、叫び声をあげながら苦悶の表情を浮かべつつも何とか耐えたアイツに姫島先輩は再度、電流を放つ。

それが、二、三度。

笑みを浮かべながらもアイツを追い詰めていく姫島先輩の姿に戦いていると、俺の表情を見て苦笑したリアス先輩が説明してくれた。

 

「朱乃は『女王』。私の次に強い存在で『兵士』、『騎士』、『戦車』、『僧侶』の能力を併せ持った最強の副部長なの」

「成る程、そうだったんですね。・・あれ、でも、リアス先輩」

「何かしら?」

「『僧侶』っていましたっけ?」

「いる事にはいるんだけどちょっと事情があって、連れてきてないのよ。今度紹介するわね」

「分かりました。ありがとうございます」

 

リアス先輩に質問していると、アイツを攻撃していた姫島先輩が俺達の元へと歩いてきた。

 

「部長、終わりましたわ」

「分かったわ」

 

姫島先輩から報告を受けたリアス先輩は最後、アイツに何か問いかけ、一言二言、言葉を交わした後、手元に作っていたドス黒い魔力の弾をアイツに放出し、アイツは消滅した。

 

これにて、俺の初めてのはぐれ悪魔討伐は終わったのだった。



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