境界線上のホライゾン 理不尽壊しのリインカーネイション (橆諳髃)
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プロローグ

この度……また新しく小説を書き始めました。

あぁ……もう収集がつかない……

でもそれは仕方ないんです! 私も人……やりたい事があればすぐそっちの方に行ってしまうのです‼︎ ただ……これまでやって来た事に愛が無かったとか、飽きたとかそんなのではないんです‼︎ それだけは信じて欲しい……

という事で、物語始まります‼︎

「……この作者大丈夫か?」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今は西暦1648年の4月だ。春の時期とはいえまだ肌寒いところではある……

 

「違うでしょ? それは貴方の前世での年号。私達の世界では聖譜暦1648年よ。全く颯也は寝ぼけているのかしら?」

 

と、俺の隣で黒い長髪を持った女性が横になった姿勢のままそう言ってくる。

 

(って……俺の心の声に何故反応を?)

 

「重要と思った点を言ったまでよ? それに……()()()()()()()の間違いを正すのも、姉である私の務めなのよ?」

 

「えっ? いつから俺は貴女の弟兼恋人になったと言うのですか、成実(なるみ)さん?」

 

成「私達が初めてあった頃からよ?」

 

颯「それって10年くらい前でしょ⁉︎」

 

成「そうよ? でも思う事は自由だもの。例え貴方のことを好きだという人が私以外にいて、これから増えたとしても……貴方に対するこの想いは変わらないわ」

 

颯「そ、そんなこと言われたら……照れます」

 

成「そのようね? 貴方のルンも強く反応しているし、珍しく顔も赤くなってる。可愛い♡」

 

颯「か、からかわないで下さい‼︎」

 

成「そんなの……無理ね」

 

颯「即答⁉︎ まさかの即答ですか⁉︎」

 

フフッ、と笑いながら俺のルンを弄りながら俺の頭を撫でてくる成実さん。そして言うのが遅くなったが、今の俺も寝ている姿勢……そして成実さんも寝ている姿勢という事で、早い話今添い寝状態なのだ。

 

なんでこうなったかと言うと……昨日武蔵で夜遅くまで働いて、それで帰って寝ようと思った矢先成実さんが切羽詰まったような通神(通信)が来た。内容は簡単に、すぐ来てとの事で……。だからすぐに向かったのだが……

 

成「お帰りなさい。ご飯にする? お風呂にする? それとも……私かしら?」

 

行って早々訳が分からぬ状況で立ち尽くしていたところを、成実さんに腕を引っ張られてそのまま成実さんが住む家の中へ……そこからは、正直仕事帰りでお腹が空いていた。かといってそのままだと汗のにおいが気になるから風呂にまず入った。だがそこで予想外だった事は……成実さんも俺と一緒に入ったと言う事で、つまり何が言いたいかと言うと風呂の中では緊張しっぱなしだったと言う事だ! 成実さんはそんな俺を知ったか知らずかその状況を楽しむように笑っていて、俺の羞恥とは関係なしにスキンシップして来た。

 

で……その後は成実さんが作ってくれたご飯を食べたんだけど、執拗にアーンされた。自分で食べれるにも関わらず、しかも恥ずかしかった。そこでも成実さんは楽しそうに笑っていた。

 

そして後は歯を磨いて就寝……だったのだが、布団も1組しか用意されておらず……

 

(で後はこの状況だ……)

 

よく寝れたといえば寝れた。なにせ成実さんが俺の事をまるで赤子のように抱いて眠るのだから。抱き枕状態と言ってもおかしくはない……。正直恥ずかしくはあったものの……それでも成実さんから伝わってくる温かさと、漂ってくる良い匂いが俺の睡魔を助長させ、気が付けば夢の中だった。

 

成「もぅ……颯也は可愛いわね。ぎゅっ」

 

颯「な、成実さん⁉︎」

 

成「どう? 安心する?」

 

俺は昨日の事を思い出している隙を突かれて成実さんに抱き締められる。俺の眼前には、女性だけが持つ2つの大きな山が……それと同時に昨日と同じくまた良い匂いが鼻腔をくすぐる。

 

成「ふふっ……また照れてる」

 

颯「そんなの……当たり前です……でも」

 

成「でも?」

 

颯「もう少しだけ……こうしていたいかな?」

 

成「うん、良いわよ。颯也にならいつまでもこうさせてあげる」

 

颯也さんはその体勢のままなんと1時間も過ごしたと言います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1時間後の午前6時

 

成「もう行ってしまうの?」

 

颯「うん。今日も朝から授業、それも体育があるんだ。それに、授業とか学校には遅刻したくないから」

 

成「全く……真面目ね。でも、そこが颯也の良い所の1つよね」

 

颯「なんかそう言われると……また照れるな」

 

成「そんな貴方が見たいから褒めてるのよ」

 

颯「また即答で……ともかく、そろそろ行ってくるよ」

 

成「待って。忘れ物があるわ」

 

颯「えっ? でも俺持って来たものは全部あるし、それに何回も確認したから忘れ物なんて……」

 

成「あるわ。少しだけ目を閉じてもらえる?」

 

颯「わ、分かった」

 

颯也は成実に言われるがままに目を閉じた。それから数秒、颯也は自分の両頬を何か温かいもので優しく包まれる感触を感じた。そして……

 

成「ん……ちゅっ♡」

 

颯「っ⁉︎///」

 

颯也は成実からキスをされていた。それは短いキスではあったが、颯也からしてみれば僅かな間でも甘美なものに感じた。そして成実は颯也の唇から自分の唇を離す。

 

成「行ってらっしゃいのキスよ。気を付けて行って来てね」

 

颯「っ! うん‼︎ 行ってくるよ‼︎」

 

成「うん、じゃないでしょ?」

 

颯「あっ……そうだった。jud‼︎」

 

成「えぇ。行ってらっしゃい」

 

そして颯也は成実から離れ、成実の家の前に着陸させてステルス状態にしていた自分の愛機『ドラケンⅢ』に乗り込むと、風を起こさぬまま離陸し、少し上昇するとまたステルス状態にして颯也の本来住んでる地、武蔵に向かって飛び去って行った。

 

成「行ってらっしゃい。また貴方に会える事を楽しみにしてるから」

 

颯也を送り出したこの少女成実の本名は、伊達成実……伊達家に所属し、日本史にも実在した武将である。そして彼女はこの世界……もう1度歴史を再現しなければならなくなった世界において、日本史、ここでは極東史という歴史の中に登場する伊達成実を襲名した少女である。そして彼女は……愛護颯也がこの世界に転生して来た事を知る人物の1人である。

 

 

 

 

 

 

 




という事でプロローグ終わりました‼︎

因みにオリ主のプロフィールを簡単に説明すると、外見と声はそのまま『マクロスΔ』に登場するキース・エアロ・ウィンダミアさんを使用しております。

まぁ書いてるうちに変な設定とか盛り込んだような気がしますが……そこはまた感想で受け付けたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

ではまた次回会いましょう!


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第1章 三河編
1話 多分先生はヤクザに何かされたんだろう 前編


投稿した次の日に新しい話を投稿できるのは、とても嬉しい事です!

颯「だがそれは、今作者がこの作品を書きたくて書きたくて仕方ないと熱く内で思ってるからだろう? 大体最初の頃はそんな感じだ」

そうなんですよねぇ……いつも投稿できれば良いのに……

颯「まぁそうだな。という事でホライゾンの1話だ。読んでみてほしい」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午前6時2分 航空艦武蔵

 

 

 

伊達の教導院から武蔵に着いた。ん? 着くの早くないかと? いや、これでも遅い方だ。なにせ武蔵の周りには武神の見張りがいるものだから、それに気づかれる事なく武蔵につく必要がある。あっ、これは武蔵から出る場合も同じね? いくらステルス状態にしてるといっても、感知される可能性も少なくない。だから本来1分で辿り着ける道のりを、念には念を置いて遠回りして武蔵に着いた。

 

(まぁあの様子じゃ1ミリも気付いてなさそうだけど……)

 

俺はドラケンⅢを自分が持っている空間にステルス状態のまま格納した。既にメンテナンスは済ませてあるから、次こいつと飛ぶ時もすぐに出られる。

 

にしても武神を操る人達が少し抜けてて良かった。だってさっきまでそこにいなかった人がいきなり、しかもワープでもして来たんじゃないかってくらい何もないところから現れたのを見てしまったら、怪しく思うのは当然だ。だが武蔵の周りを飛ぶ武神は……そこにまで注意を寄せてなかったんだろう。まぁそれはそれで好都合だが……

 

とは颯也さんは思っているものの、なにも武神に乗っている人達が抜けているから颯也さんの事を見落としたわけではない。颯也さんが武神を操る操縦者の感知能力……それも術式を使ってさらに感度を良くしたものより上を行くものであるから、武神の操縦者達はそれに気付かなかったのだ。

 

「さて……授業が始まる前までにやる事は沢山あるし、まずは仕事だな」

 

颯也さんは朝からも仕事が入っていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午前7時48分

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

通りまーせ、通りまーせ……

 

歌声がこだまする。それは銀髪で白いエプロンを着た少女から発せられていた。そしてそれを傍で聞いていた……と言うよりも階段最上階で雑魚寝をしながら聞いている男がいた。その男は、肩ぐらいにまで伸ばした金髪を風に遊ばせな、瞳は完全に閉じていた。

 

「今日も……ここにいらしていたのですね」

 

「そうだね……なんだか君の歌を聴いていると、10年前のあの日々を思い出すよ」

 

「そうなのですね。ですが、その日々をp01sが歌う度に思い出すとは、正直言って飽きが来ないのですか?」

 

「いや、飽きないな。なんたってあの日々も……俺にとっては大切なものだから」

 

p01s「そうなのですね。それは理解しました。ですか……p01sにも理解出来ないことがあります」

 

「それは?」

 

p01s「それは……」

 

と言いながらp01sは男の背中に両手をつき……

 

p01s「階段の最上部でそんな雑魚寝をしていますと、この様にふざけて押してくる人もいると思うのですが?」

 

言いながらp01sは男の背中を押した。そして男は階段を転げ落ちて行った。

 

p01s「ふぅ……颯也さまは毎朝p01sに階段から落とされて懲りないのでしょうか? p01sとしては、階段の最上部手前に何かが落ちていたら押してどこまで落ちるのか試してみたくなる年頃なのです」

 

颯「でもそんなところとか、可愛げがあって良いんじゃないかな? p01sの年頃の女の子だとそう思う人ってそうそういないし、それに考え方も独特だし、俺にとっては凄く大切にして欲しいかな」

 

p01s「さっき階段から落とされたと言うのにいつのまに私の側にいるのですか? 毎回これには驚きます。それと……お怪我はありませんか?」

 

階段から突き落とした本人の筈なのだが……p01sさんはそんな事はしてないし知らないとでも言う風に、颯也さんの身体を触りながらそう言ってきたと言います。

 

颯「俺の身体は……皆よりも頑丈だから大丈夫だよ。でも、心配してくれてありがとう」

 

p01s「その笑顔……ときめきます」

 

颯「えっ? 何か言った?」

 

p01s「いえ何も……難聴系主人公とは、これまさに厄介だと判断します

 

ここに難聴系主人公がいたと言います……

 

颯「そう? それだったら良いんだけど……さて、俺もうそろそろ行かなきゃ」

 

p01s「いつもの日課ですか?」

 

颯「jud。それじゃあまたね」

 

そして颯也はp01sと別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午前8時40分武蔵アリアダスト教導院前……

 

「さーて、これから授業を始めまーす! 今日の体育は、実技よ。これから先生は品川にあるヤクザの所にしめに行くから、まずはそこまで皆付いてくる事。そこから後はさっき言った様に実技ね!」

 

「教師オリオトライ! 体育の実技とヤクザをしめに行く事となんの関係性があるんですか? もしや金ですか‼︎」

 

「シロくんシロくん、先生は高雄の一等地に住んでたんだけど、そこがヤクザによって地上げ食らって最下層行きになって、そこでお酒飲んで暴れたら教員科に叱られちゃったから、それで憂さ晴らしに行くんだよ!」

 

オ「憂さ晴らしじゃないわ。八つ当たりよ」

 

(((結局一緒だよ‼︎)))

 

教師オリオトライのその発言には、前に並んでいた生徒達のツッコミがシンクロしたと言います……

 

「でもとりあえず八つ当たりという事わぁ」

 

「えぇ、つまりは報復ね」

 

「「報復、報復!」」

 

背中に翼を持った少女達が体を寄せ合いながらそう言う。それに対してオリオトライは、自分が持っていた鞘に入った状態の剣を向けて少女達に威圧した。それを受けた少女達は、途端に寄せ合ってた体を離して降参の仕草をとった。それを確認したオリオトライは、続けて言った。

 

オ「そう言えばこの中で欠席者はいる? 東とミリアムは仕方ないとして……」

 

「確か今日はセージュンが初等科の講師として午前から入っているのと、午後から酒井学長を三河に送り届けるから……今日は自由出席の筈」

 

「後は総長と颯也ね」

 

「うふふっ、うちの愚弟の動向について知りたい? それはそうよねぇ〜? なにせ武蔵の総長兼生徒会長なんだから」

 

と、もったいぶった動きをしながら茶髪の髪を膝裏まで伸ばし、さらに大きな胸を腕で支える様な腕組みをした少女は皆の注目を集める。それに対して聞いていた皆は、その少女の答えを今か今かと待っていた……のだが

 

「でも残念! 教えなぁ〜い‼︎」

 

教えんのかい‼︎ と、多分またツッコミがシンクロしたであろう事は予想するに容易い。

 

「だって、私が8時くらいに目を覚ましたらとっくに家から出ていたんだもの! それに私の朝食を作らずにね! 全くあの愚弟、今度丸裸にして武蔵を監視している武神に投げつけてやろうかしら‼︎」

 

この少女……言う事がえげつない……

 

「それに比べて颯也はとても良い子だわ! だって、愚弟が作るはずの朝食は作っているわ、さらに私の事を優しく起こしてくれるわで!」

 

「ちょ、ちょっと喜美⁉︎ 今の発言はどういう事ですか⁉︎」

 

「そうですわ! ちゃんと説明してくださいな‼︎」

 

「そうだよ喜美ちゃん?」

 

「発言を撤回するなら今のうちだけど?」

 

と、一部の女生徒から睨まれた喜美という少女……だがこれに対しても

 

喜「発言も何もそのままの意味よ淫乱巫女「誰が淫乱ですか⁉︎」まぁそこの貧乳騎士の言うように説明すると「誰が貧乳騎士ですの⁉︎」朝私が目を覚まそうとする前に起きてと耳元で囁かれて、それで目が覚めたら目の前に颯也の顔があったものだから、キスしないと起きないとおねだりしたら、恥ずかしそうな表情はしていたけど私に優しくキスして起こしてくれたわよ? そう! これが事実‼︎ 発言の撤回なんて全くする気は無いわ‼︎」

 

「な、なんて清々しい……でも良いなぁ〜。颯くんのキスかぁ〜……」

 

「く、悔しいけど……でもこれは充分ネタにできるわ‼︎」

 

「き、キスなんて……は、はははしたなくてよ‼︎」

 

「というか喜美! また颯也くんに起こしてもらってたんですね⁉︎ なんと羨まし……いえ! 純粋な颯也くんを悪用するなんて許しませんよ‼︎」

 

喜「あら浅間? 私は颯也を悪用なんてしてないわ。ただ明日起こしに来て欲しいって言っただけよ? それにアンタだって羨ましいって顔に出てるわ。そう思うのなら自分も起こしてもらう様に頼めば良いのよ」

 

浅「そ、そんな! わ、私は羨ましいなんて……」

 

(((いや言いかけてたじゃん)))

 

「それだったらぁ〜、ナイちゃん達も起こしてもらうっていうのはどうかなガッちゃん!」

 

ナル「そうね。そして添い寝もしてもらいましょうマルゴット」

 

マル「あぁ! それ良いねぇ‼︎ また一緒に寝てもらおうよ‼︎」

 

浅「ま、マルガにマルゴット? またとはどういう……」

 

ナル、マル「「たまにしてもらってるよ(わよ)?」」

 

浅「そ、そんな……」

 

そのとき浅間さんは膝をついて気を落としていたと言います。

 

オ「はいはい! それで結局トーリは無断欠席で、颯也は……」

 

颯「申し訳ありません、遅れました」

 

そこに、階段を登りながらオリオトライに謝罪をする颯也の姿があった。

 

オ「おはよう颯也。にしても貴方が遅刻なんて珍しくない?」

 

颯「おはようございます、オリオトライ先生。さっき登校中に急に仕事が入ってしまったものですから、早めに片付けてしまおうかと……」

 

オ「ふーん……それで? 私の授業より優先するべき事って何だったのかしら?」

 

颯「jud。最下層の壊れた箇所を直しに行ってました。そのため遅れた……と言っても、単なる言い訳に過ぎません。ですから、どの様なペナルティも受ける所存で……」

 

(((そ、それって……)))

 

颯也のその発言に皆は思った。オリオトライが壊した所を直しに行ったのではと。そしてそれを聞いたオリオトライも……

 

オ「颯也の遅刻は無かったことにします‼︎」

 

颯「えっ⁉︎ でも俺は先生の授業に1分ほど遅れてしまいました! どの様な理由であれ遅刻は遅刻……ペナルティは与えられるべきだと」

 

オ「良いの良いの! だって颯也は住民の為に壊れた箇所を直したんでしょう?」

 

颯「じゃ、jud」

 

オ「なら良いの! 先生そんな優しい颯也の事許しちゃう‼︎」

 

(((り、リアルアマゾネスの機嫌が一気に良くなった⁉︎)))

 

颯「……それでも俺は、納得が出来ません」

 

オ「はぁ〜……もぅ真面目ね。分かったわ。颯也にペナルティを与えます!」

 

颯「jud! ありがたく‼︎」

 

(((えっ? そこ喜ぶところなの?)))

 

オ「さっきの授業の説明だけど、先生品川にあるヤクザの所に殴り込みに行くの。(((殴り込むってはっきり言った……)))品川に行った後は実技をするわ。そこまで私についてくる事。で、品川に着く間に私に一撃与えられる事が出来れば5点加点ね? つまり私の授業を5回サボれるって事よ! それで遅れた子は罰として朝の教室掃除ね?」

 

「先生! 攻撃を通すではなく、当てるで良いので御座るな?」

 

オ「戦闘系は細かいわね。勿論その解釈で良いわよ」

 

「なら……先生の体の箇所に触れてはダメな部分やぁ、減点部分はあるで御座るかぁ〜?」

 

「もしくは加点ボーナスはあるのだろうか?」

 

忍者姿に赤のスカーフを巻きつけた少年と、機竜殻を身に纏った少年がオリオトライにエロい視線+手でジェスチャーをしながらそう言った。のだが……

 

颯「なぁ点蔵、ウルキアガ?」

 

点・キ「「ひっ⁉︎」」

 

颯「女性に対してその嫌らしい様な目線と仕草は……やめた方が良いんじゃないかな? まぁ……それをされた本人が何とも思っていないのなら良いけど……」

 

オ「さーて、授業前に死にたい奴はいるかしら?」

 

とオリオトライが鞘剣を点蔵達に向けて怒りを露わにしていた。

 

オ「まぁそれはさておきとして……皆、これから自分達が何をしたいか分かってる?」

 

オリオトライのその発言に、皆の顔が引き締まる。特に戦闘系は戦意を目に滾らせていた。

 

オ「おっ! 良いわねぇ! 特に戦闘系はさっきので来なくっちゃ‼︎ でも……逆に何で颯也は笑顔を浮かべてるの?」

 

確かに……と、珍しくそこにいた生徒達はオリオトライの疑問に同調した。それに対して颯也は……

 

颯「いえ……ただ、皆良い顔してるなって。今年末世が訪れるかどうかなのにそうやって生き生きしている顔を見るとなんだか嬉しくてつい」

 

その笑顔に……女性陣は赤面していた者も出ていた。この中にはオリオトライも含まれていた。その時、一陣の風が颯也の髪を撫でた。その際、颯也の右目に掛かっていた髪がその風によってたなびいた。瞬間……颯也の右目が露わになった。その右目には……白い仮面の様な物が付いてあった。それを見ると、皆は一様にこう思った。あの事件から10年経つのかと……

 

オ「そういう事ね。それじゃあ早速授業を開始するわけだけど……そうねぇ……颯也のペナルティとしては、鈴を背負っていく事、先生が出て1分後に先生の事を追いかける事、また追いかける時に術式は無しね? jud?」

 

浅「えっ⁉︎ 先生! それはいくらなんでも酷なのでは⁉︎」

 

点「そ、そうで御座る! それはあまりにも颯也殿が可愛そうというか……」

 

オ「ねぇ皆……颯也の事少し、いや大分甘く見てない?」

 

「「「ひっ⁉︎」」」

 

オリオトライが颯也に対して科したペナルティを皆が批判する形なのだが……それをオリオトライは怒っていた。それは……自分が批判されたからではない。颯也が甘く見られたからだ。それが許せなかったからこそ怒ったのだ。

 

オ「それに皆知ってる? 今までの体育の授業で颯也は毎回先生に攻撃当てているのよ? 新学期に入ってからの体育も何回も攻撃当てられて、4月分の体育の単位は、5月分全部体育をサボってもおつりが来るくらいよ? だからこれくらいのペナルティがあっても私は良いと思うわ」

 

浅「で、ですがそれでは「それで構いません」颯也くん⁉︎」

 

颯「これは、俺が遅刻した事の結果だよ? だから皆気にしなくて良いよ!」

 

浅(でもその遅れた理由って……先生のせいでもあるんですよ?)

 

浅間は心の中で正直思っていた。

 

颯「という事で、先生からのペナルティを受けます!」

 

オ「よろしい! それじゃあ、早速開始ね‼︎」

 

と言いながらオリオトライは地面を蹴って、後ろ跳びで階段を一気に降りた。

 

点「なっ⁉︎」

 

オ「ほらほら! さっきので着いてこないとダメよ‼︎」

 

その発言でようやく生徒達はオリオトライを追いかけた。しかし、中にはその場から動かない者達もいた。それが颯也と鈴である。

 

鈴「あ、あの、颯也、くん。ごめん、ね」

 

颯「ん? どうして鈴さんが謝るの?」

 

鈴「だ、だって、私を背負っていくって……」

 

颯「それは気にしないで良いって言ったよ? それに遅刻した分のペナルティだから、俺はそれを甘んじて受けるよ。それより1分時間があるからそれまで世間話でもしようよ」

 

鈴「う、うん‼︎」

 

そして2人はその場で楽しく世間話をしていた。

 

 

 

 

ー●◯●ー

 

 

 

 

 

一方のオリオトライは、武蔵野に点在する商店街や家屋の屋根を伝って品川に向かっていた。そこに空からの攻撃が執拗にオリオトライを襲う。

 

シ「さぁ! ばんばんお金を使え‼︎ そらお買い上げの商品だ‼︎」

 

そう言ってシロジロは商品を買った者に通神で送り付けた。

 

マル「ありがとう! それじゃあガッちゃん行くよ!」

 

ナル「えぇ、マルゴット」

 

商品を受け取ったのは空を飛ぶ2人の魔女だ。金髪の魔女マルゴットが箒を操り、黒髪の魔女マルガが一緒に箒に乗ってオリオトライに照準を付ける。そして術式を展開してオリオトライに攻撃を仕掛けた。だがその攻撃もオリオトライには当たらない。しかしながらその攻撃は、オリオトライの速度を削いでいった。そうする事で……

 

オ「あら、一番槍はアデーレかしら?」

 

ア「jud! 私、足の速さ重視の従士なので‼︎ 武蔵の従士、アデーレバルフェット! 一番槍頂きます‼︎」

 

アデーレは加速術式を使い、自分の持つ大槍をオリオトライに突っ込ませるように構えて行く。それをオリオトライは鞘剣で弾く。アデーレは槍を弾かれても諦めずに大槍で突いた。だがオリオトライもそれを見越して鞘剣を駆使し、大槍を受け流しつつ大槍の側部に滑り込むような動作でアデーレに近付いた。アデーレはそれに驚く。その一瞬の隙を突かれてアデーレは襟首を掴まれた。だがそこに……

 

「カレー! どうですか⁉︎」

 

と、インドにあるような格好をしたハッサンという生徒が、大皿のカレーを上に持ち上げた状態でオリオトライに攻撃を仕掛ける。しかしそれも、オリオトライが掴んだアデーレをぶつけられる事でハッサンは吹き飛ばされた。

 

吹き飛ばされたハッサンは、同時に持っていたカレーも吹き飛ばされる。しかしハッサンは吹き飛ばされたカレーを一滴もこぼさず死守しリタイアした。

 

ア「す、すみませーん……」

 

オ「それ! ホームランよ‼︎」

 

ア「あ痛ぁ〜⁉︎」

 

オリオトライは、振り回された衝撃で目を回している状態のアデーレを鞘剣でケツバットして吹き飛ばした。アデーレもあえなくリタイアした。

 

「イトケンくん! ネンジくん! アデーレくん達の救助に向かって‼︎」

 

眼鏡をかけた少年、ネシンバラが通神でそう指示を飛ばす。そして救助に向かったのが……

 

イ「皆様! 朝早くから失礼します‼︎ そして私は怪しい者ではありません! 私はインキュバスの伊藤健児と申します! 朝からご迷惑をおかけする事を謝罪します‼︎」

 

と、インキュバスの伊藤健児がハッサンを助けながら元気よく挨拶するが、それを建物の窓から覗いて聞いていた市民は一応最後まで聞きはするがそのインキュバスがそう言い終わった途端に窓を急いで閉めた。その理由としては、そのインキュバスの格好が問題で……つまり全裸だったのだ。しかもこのインキュバス……いつもこの格好である。

 

ネン「アデーレ殿、今行くぞ‼︎」

 

喜「あらごめんなさぁ〜い」

 

ネ「ふぐっ⁉︎」

 

ネンジは人ではなくスライムだ。だが人と同じ意志を持ち自ら行動できる、スライムとしてはハイスペックなのだ。だが所詮はスライム……人に踏まれてしまえばそれまでなのだ。

 

「ちょっと喜美! それが人に謝る態度ですの⁉︎ あなたは淑女としての礼節を……」

 

喜「あらぁお説教女が先生にも勝てずにギャンギャン吠えてるわぁ〜」

 

「な、なんですってぇ‼︎」

 

喜「それにミトツダイラ、あなたそんなノロノロと地を這って何してるの? いつものような自慢の力で物やらなにやら投げればいいでしょう?」

 

ミ「ここは私が所有する領地でもありましてよ⁉︎ 領主としてそんな事できるはずありませんわ‼︎ それをあなた達は‼︎」

 

喜「そこの所はまた颯也が直してくれるわよぉ〜」

 

ミ「それは颯也が大変ですわ‼︎ 自分の領地の事は自分達でなんとかします‼︎」

 

喜「まぁアンタがそう主張しても、颯也はいつものように笑みを浮かべながら直すんでしょうけどね?」

 

ミ「うっ……ひ、否定できない自分が悔しいですわ……」

 

 

 

ー●◯●ー

 

 

 

 

「おっ、武蔵さんはここで掃除かい?」

 

武蔵「jud。 サガルマータ回廊も抜けましたし、三河入港の手続きも終えているため、ぶっちゃけ暇です。ーー以上」

 

「そうかい。にしてもあの子達も日々成長してるねぇ……建物の被害についてはまた武蔵さん達に迷惑かかるんだろうけどさ」

 

武蔵「jud。ですが私達が直そうとすると、私達の()である颯也さまがいつのまにか直してくださいますので、正直()である私達は、颯也さまの体調が崩れないかどうか心配です。ーー以上」

 

「ハッハッハッ……確かにねぇ〜。そういえばどこに行っても颯也を見かけてる気がするなぁ〜」

 

武蔵「ですから、酒井学長から颯也さまに働くのもいいですが程々にという事を言ってもらいたいのですが……ーー以上」

 

酒「俺もそう思ってさぁ〜……ある時に、働くのもほどほどにしなよって言ったんだよ。そしたら彼……『俺は武蔵の人達がいるお陰で今ここにいる。だから俺は恩返ししたいんだ』っつって今に至るんだよなぁ〜」

 

武蔵「酒井学長……ぶっちゃけて言いますに役立たずですね? ーー以上」

 

酒「ちょっ⁉︎ それは言い過ぎなんじゃない⁉︎ にしても……そろそろ颯也も動くからかな」

 

武蔵「確かオリオトライさまからペナルティをかされていましたね。ですがそれもオリオトライさまのせいですが……」

 

酒「ハッハッハッ……でも彼も甘んじて受けてるようだし……おっ? 見てみてよ武蔵さん」

 

武蔵「先程までいたはずの颯也さまの姿と鈴さまの姿が見受けられませんね? それも私達が一瞬目を離した隙に……術式を使った形式もありませんし……ーー以上」

 

酒「えっ? 武蔵さんなんでそんなこと分かるの?」

 

武蔵「jud。颯也さまがどこにおられて何をし、また何をなさっていたかは逐一把握する事を私達が協力して行っているので……ただし颯也さまが知られたくないと思っているプライベートな事に関して以外をですが。ーー以上」

 

酒「それって……一般的に言うストーカーじゃ?」

 

武蔵「はっ? 何を言っているのですかこのダメ学長は? ーー以上」

 

酒「ぐぇっ⁉︎」

 

酒井は武蔵に重力操作された箒の柄で頬をグリグリされていた。

 

武蔵「私達はただ単に……私達の弟が心配なだけです。ーー以上」

 

酒「わ、分かった! 分かったからその箒でグリグリするのやめてくれない⁉︎」

 

そんなやり取りがあったと言う。

 

 

 

 

 

 

ー●◯●ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は戻って武蔵野……オリオトライに近接戦闘重視の者達が追いついていた。

 

点「スタイル、忍者フォーサー点蔵! 参るでござる‼︎」

 

点蔵はオリオトライに一気に近づいていつのまにか手に持っていた忍者刀でオリオトライに斬りかかる。だがそれも鞘剣で簡単にいなされ……

 

点「ウッキー殿! 行くでござるぞ‼︎」

 

キ「おう! 拙僧突撃‼︎」

 

オ「へぇ〜、点蔵とキヨナリで同時攻撃ってわけね? それでその腰に付いている物は使わないの?」

 

キ「拙僧何分異端審問官希望なのでな……極東人にはこの異端道具は使わず拳骨をお見舞いする!」

 

オ「なるほどねぇ〜……でも!」

 

点・キ「「っ‼︎」」

 

オリオトライは瞬時に判断した。その結果、鞘剣の鞘を一時的に外して剣のリーチを伸ばし、先に突撃するであろうウルキアガの頭をそれで殴って進路を変えた。そして鞘についてある肩掛けを加えて鞘を元に戻し、点蔵の勢いも凪いだ。

 

点「ノリキ殿! 今でござる‼︎」

 

そこに、オリオトライからの位置では点蔵によって隠れて見えなかったノリキが走ってきてオリオトライに接敵する。

 

オ「トドメはノリキって事ね?」

 

ノ「分かっているのなら、言わなくてもいい‼︎」

 

ノリキは術式を右手に展開していつでも殴れる体制を作った。そして自分が攻撃できる範囲にオリオトライが入った直後殴りにかかる。だが……

 

ノ「っ⁉︎」

 

オ「まだまだね」

 

オリオトライは持っていた鞘剣を手から離し、その鞘剣をノリキが殴るであろう軌道上に置いた。その意図をノリキも察したが遅く、結果的に鞘剣だけを吹き飛ばす形になった。

 

ノ「チッ!」

 

キ「届かなかったか……」

 

点「無念でござる……後は浅間殿! 頼んだでござるぞ‼︎」

 

点蔵達の後ろから黒髪長髪をたなびかせながらかけてくる浅間がいた。そしてその後ろには頭にバケツを被った筋骨隆々の男が……

 

ネ「ペルソナくん! 浅間くんの足場になって‼︎」

 

そう指示されたバケツヘルムのペルソナは、右手を水平に上げ足場を作る。そこに浅間が飛び乗り、弓を構えた。

 

浅「浅間の神音借りを代演奉納で用います! ハナミ、射撃物の停滞と外逸と障害の三種祓いに照準添付の合計4術式を通神祈願で!」

 

ハ『神音術式だから代演4つ、いける?』

 

浅「代演として、1代演として昼食と夕食に五穀を奉納! 1代演として2時間の神楽舞い! 2代演としてハナミと私と颯也くんで、2時間お散歩とお話‼︎ これで合計4代演! ハナミ、OKだったら加護頂戴」

 

「「「な、なんだってぇー⁉︎」」」

 

ナル「浅間……なんでそこに颯也を巻き込むのよ!」

 

マル「ナイちゃんとしてはぁ〜……ジェラシー感じちゃうなぁ〜‼︎」

 

ミ「そうですわ智!」

 

喜「皆聞いたぁ〜? あの淫乱巫女ついに本性表したわよ‼︎」

 

浅間は皆からブーイングを受ける。しかし表情に揺らぎはなく、ただ集中していた。

 

ハ『ん〜……うん! 許可出たよ! 拍手‼︎』

 

浅「義眼、木の葉。合いました‼︎」

 

浅間は追尾式の矢を放った。それは例えオリオトライが矢を叩き落とそうとしても矢が避け、当たるまで追尾するというもの。オリオトライは振り向いて浅間の放った矢を鞘剣で叩き落とそうとするが、矢はそれを回避し、オリオトライの顔面に直撃しようとしていた。

 

そして直撃を示す光が矢から放出されて、その光の衝撃で少しだけオリオトライも後ろに吹き飛ばされた。

 

ネ「当たった⁉︎」

 

ネシンバラは浅間が放った矢が当たったと思った。しかし……

 

浅「いえ、手応えが軽いです! 当たっていません‼︎ でもどうして?」

 

ネ「これは……髪だ! 振り向く前に自分の剣で後ろ髪を少し切って、振り向いたと同時に自分の前にばら撒いてチャフを即興で作ったんだ‼︎」

 

浅「そ、そんな⁉︎」

 

喜「んふっ、颯也を代演に使ったバチが当たったのね! いい気味だわ‼︎」

 

ミ「これで少しは反省するといいですわ!」

 

マル「でも結局アサマチと颯くんが一緒に散歩するのには変わらないんだよねぇ……」

 

ナル「ネタには困らないけど……でも今度の同人誌は浅間をどうしてやろうかしら? ふふっ! 考えただけで筆が鳴るわ‼︎」

 

とそんな風に矢を外してからも皆からブーイングを受けていた。浅間が下を向きながらワナワナ震えていた。そして……

 

浅「わ、私だってぇ! 颯也くんと一緒に2人きりで一緒にいたいですもん‼︎」

 

「「「この巫女開き直りおった……」」」

 

浅「皆颯也くんを頼ってるから……私ぐらいは彼の負担を少しでも減らそうと我慢してきたのに……寂しくても我慢して、でも私だって颯也くんにおはようのキスされたいですよぉー‼︎」

 

「そう、思ってくれてたんだ」

 

浅「へっ?」

 

不意に隣からそんな声が聞こえて振り向くと、そこには鈴を背負った颯也がいた。

 

「「「い、いつのまに⁉︎」」」

 

浅「さ、さっきのまさか……聞いてましたか?」

 

颯「jud。聞いてたよ」

 

浅「わ、わぁーーーーーっ⁉︎ さ、さっきの事忘れて下さい‼︎ 私的に凄く恥ずかしいです! それにさっきのはただの下らない妄想で「下らなくないよ?」颯也くん?」

 

颯「下らなくなんてない。それに、俺の事を考えて何かを我慢して……それが俺にとっては凄く嬉しいよ。でももう我慢しなくても良い。寂しかったらいつでも呼んで良いから」

 

浅「ju、jud……」

 

颯「あぁそれと……」

 

颯也は浅間の耳元に顔を近づけて……

 

颯「さっきの代演の事も、喜んで行かせてもらうよ?」

 

そう言った後、颯也は浅間の頭を撫でてオリオトライに向かっていった。

 

浅「ほ、ほへぇ……///」

 

浅間さんは顔を赤くし、頭から湯気を出しながらペルソナくんの水平にしている手の上に、力なくへたり込んだといいます。

 

オ「あら! 予想よりも早かったわね? 術式使ってないのに……」

 

颯「それはもう……先生についていけない事が忍びないので……」

 

オ「ほんと真面目ねぇ〜……で、鈴を背負った状態でどう攻撃を入れるのかしら? 勿論武器は使ってOKよ?」

 

颯「いえ、俺は授業の中で武器は使わないと決めています。……自分が大切に思う人達に命に関わるような危害が加えられそうになれば話は別ですが」

 

オ「という事はいつも通り素手でやるのね。はぁ〜……颯也の武器にこの剣でぶつかり合いたいんだけど……」

 

颯「俺は……大切に思ってる人達に武器を向けるなんてできませんから……」

 

オ「あれ? 私もその中に含まれてるの?」

 

颯「jud。勿論です」

 

オ「そう微笑まれながら言われると……先生もなんか照れるわね……」

 

颯「先生の照れてるところ、俺は可愛いと思います」

 

オ「もぅ! そんなに褒めちゃダメよぉ〜!」

 

オリオトライは赤面と満面に笑みを浮かべながら颯也に対して遠慮なく鞘剣を上段から叩きつけた。だが颯也はその鞘剣を左手で外に受け流すように逸らし、鞘剣を押した反動でオリオトライの背後に回った。しかしオリオトライもそれは計算済みで、颯也に鞘剣を押された反動を使って体を180度回転……そのまま横から鞘剣を颯也におみまいする。

 

それも颯也はお見通しとばかりに、今度は少し跳躍して先生の鞘剣の上に飛び乗ろうとした。これに対しオリオトライは、先程の点蔵達にしたように鞘剣の鞘を外して刀のリーチを伸ばせるようにし、跳躍した颯也に向けて振るった。すると鞘は颯也のもとに一直線に向かった。オリオトライは正直、今回は颯也から攻撃は受けないだろうと思った。今までは教導院を下る階段、それが終わるまでには颯也から一撃を食らっていた。だが今回颯也は遅刻し、自らペナルティを受けた。その事で、今日は颯也から攻撃を与えられる事はないだろうと少なからず思った。

 

だが、それは慢心である。

 

オ「っ⁉︎」

 

オリオトライの伸ばした鞘剣の鞘は、結果的には颯也に当たった。だがそれは颯也の足裏だった。颯也はその鞘をオリオトライの方に蹴る。すると鞘は剣の刀身を伝って戻り、元の鞘剣の状態に戻した。その瞬間、オリオトライは後ろに少し吹き飛ばされる。だがそれはさっき浅間の矢を自分の髪でチャフにした時と比べると全く違う。ともかく思重い衝撃だった。その驚いた瞬間には、既に颯也から背後を取られ、そして……

 

颯「先生……いつもご苦労様です。いつも頑張って俺達に色んな事を教えてくれて……だからこれは、生意気ですけど俺からのご褒美です」

 

オリオトライは、後ろから颯也に頭を優しく撫でてもらっていた。

 

オ「ふ、ふにゃぁ〜♡」

 

一瞬オリオトライの動きは止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




プロローグからそうでしたが、初の試みで誰が何を話しているのかという事を分かりやすくしてみました!

颯「確かに似たような話し方をするキャラが大勢いれば、誰が何を話したか分からなくなるからな」

実際に私もそうですが、読者の皆様もそうだと思います。まぁまだ登場キャラの名前が出てない所では、「」の最初になにもつけないまま進めていますが……

颯「まぁそこは作者の考え方次第だろう? という事で、多分この調子だと作者は早めに2話を投稿するだろう。読者の皆は楽しみにしておいてほしい。じゃあ、また次回で会おう」


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2話 多分先生はヤクザに何かされたんだろう 後編

連日投稿ができませんでした……

「でもいつもより早いよな?」

それはそうですよ! 今とても熱が入ってますから!

「という事らしい。さて、物語はどうなってるんだろうな?」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せ、先生の動きが止まったで御座る……」

 

「今なら攻撃も当てれそうさね!」

 

「今がビッグチャンスだ! だからこっちが売りつける商品も半額にするぞ‼︎」

 

オリオトライが颯也の攻撃(頭を撫でただけなのだが……)で動きが止まった。それを見たオリオトライの生徒、梅組は今が好機とばかりにオリオトライに攻撃を仕掛ける。

 

ミトツダイラは、アデーレがリタイアした時に落とした槍を投擲し、点蔵、ウルキアガ、ノリキも1度目は失敗したがあれは自分達が考えたフォーメーションの1つでしかなく、次のものも試そうと全力で駆ける。

 

商人であるシロジロは、今がオリオトライに攻撃を当てれる絶好のチャンスとふみ、今梅組に提供している商品を半額にした。それを受け、空を飛ぶ魔女のペアは2倍の商品、つまり先程のオリオトライに向けて放っていた攻撃を2倍にして放っていた。

 

「あっ……今は授業中だったわ」

 

だがオリオトライも復帰が早く、すぐさま品川に向けて走り始める。その事で、オリオトライが一時的に停止していた所に放たれた攻撃は、結果的に全て躱された。

 

そして再び攻撃を仕掛けようとした点蔵達との距離も空く。

 

「あ、当たりませんでしたわ……」

 

「少し僕達の見立てが甘すぎたね……」

 

「まぁ私は儲ける事が出来ればそれで構わんがな!」

 

「シロくん腹黒〜」

 

「今度は当たると思ってたんだけどなぁ〜」

 

「でも品川までにはまだ距離があるわ。全速力で行けば後1回くらいチャンスがあるでしょう。マルゴット、行くわよ!」

 

「OK! ガッちゃん‼︎」

 

一部の生徒は当てれなかったことについて悔しがる者もいたが、魔女のペアは再び攻撃を仕掛けるために先回りをした。

 

一方のオリオトライと、その隣を移動する颯也は……

 

「さて、あれも私としては攻撃が当たった事にしてあるから、今日の体育も5点加点ね!」

 

「やっぱり普通に攻撃した方が良いんでしょうか?」

 

「私の体育だったらそこは気にしなくても良いわ。でも他の場合は迷わずいきなさい! 良いわね?」

 

「jud。じゃあ俺は、他の子のサポートに回ります」

 

「jud。お願いね?」

 

そう言って俺は先生から離れて、梅組の文系組と合流した。

 

「お疲れ様颯也くん。にしても今回も先生に攻撃当ててたね」

 

「だが俺は……身内に対しては酷く甘いから、攻撃といってもあの程度しか出来ないけどね……」

 

(((あの程度までに至れる過程が凄いんだよ……)))

 

「だが颯也、今回はペナルティで術式は禁止されていたはずだ。どうやって追いついた?」

 

「それは……ただ走ってだが……」

 

「走ってあのリアルアマゾネスに追いつくなんて、私らから言えば化け物じみてるにも程があるさね」

 

「しょっちゅうそう言われてる気がするから、否定する気は無いけど……でもこれは、俺にとっての大切な人達を守るための力だから、だからどう言われても気にはしないさ」

 

「ふふっ、颯也くんはいつもまっすぐだね〜」

 

「そんな事は……無いと思うよ」

 

「そう? でも貴方のルンは嬉しそうにしてるよ?」

 

「これだけは……どうあっても隠せないから。正直ハイディさんにそう言われて嬉しいよ」

 

「そうなんだぁ〜。ふふっ、じゃあこれからももっと褒めるね?」

 

「お、お手柔らかに……」

 

「今度は照れてる。可愛いね〜♡」

 

これ以上ハイディさんと話していると今度は顔に出そうだから、それは聞こえなかったふりをして文系組の前を走る。そういえば……

 

「鈴さん、気持ち悪くとかなってない?」

 

「ju、jud。だい、じょうぶ。颯也くんの背中、安心、するから」

 

「でもさっきまで結構激しく動いてたよ? それに移動する時も風当たり強かったと思うし……」

 

「それ、もだいじょ、うぶ。全然、ゆれとか感じ、なかったよ。それ、に、走ってる時、も心地いい風が、流れてたから」

 

「jud。それなら良かったよ。じゃあこのまま品川まで行くからね」

 

「ju、jud!」

 

そして俺は安全運転で鈴さんを品川まで送った。その送るまでの道中、マルゴットさんとマルガさんが先生に特大の1発を当てようとするが、逆に地上を移動するネシンバラ達が被害にあいそうになったり、先生が自分よりも大きなコンテナを片手で掴んでマルゴットさん達に投げつけて、その衝撃で壊れたコンテナの破片が直政さんに落ちてきたりと……まぁ上から色々と降ってきてはいた。それでもそれぞれで対処してたから怪我は無かったようだけど。

 

それで最後の1人、御広敷が品川に着いてノックダウンした事で、皆無事に品川まで辿り着いた。

 

(そういえばあの後サポートに回るといっても何もしてなかった様な……)

 

いいえ、颯也さんはしっかりサポートしていました。少し時間を遡ってみましょう……

 

まずネシンバラ達が被害にあいそうになった際、衝撃を文系組の前に出てどこからか取り出したかも分からない大きな盾で相殺、次に直政に降りかかるコンテナの破片も一部空間を殴りつける衝撃で粉砕または逸らしていた。

 

結果……颯也さんはサポートが出来ていました。

 

「はいはい、勝手に着いて倒れ込まない! それで? 生存者は颯也と鈴だけ?」

 

「わ、私は、は、運んでもらっただけで……」

 

「それも十分生き残った事になるわ! 途中リタイアも救護してたみたいだから2年の時より遥かに良いわね! それで加点者は颯也ね。はぁ〜……今回は攻撃を入れられないと思ったんだけど」

 

「んふっ、先生も颯也の事を結果的に甘くみてたわね? ペナルティをかすなら、今度はその倍は必要だと思うわ‼︎」

 

確かに……と心の中でオリオトライが思った瞬間、目の前の事務所から鬼、魔神族が出てきた。体長はゆうに3メートルぐらいあり、腕も4本、筋骨隆々で並の人間がいくらいても勝てないのではと、そう考えさせる存在だ。

 

「朝から騒がしいな! 一体何だテメェらは? うちの前で遠足か⁉︎」

 

「おっ! 丁度良いところでここからは実技よ! 魔神族は体内に流体炉に近い物を持っているおかげで内燃拝気の獲得量がハンパないの。肌も重装甲並みで、筋力も軽量武神と互角に渡り合えるくらいなのよね」

 

「さっきから何をいってやがる⁉︎ 遠足なら他所にいけ‼︎」

 

「いやね〜、遠足で来たわけじゃないのよ? ただ私は夜警団に頼まれててね。それと私的には高尾での地上げ覚えてる?」

 

「はぁ〜? そんなのいつもの事で覚えちゃいねぇなぁ!」

 

「あらそう? それじゃあ今から訳も分からず倒されるのって可哀想よねぇ?」

 

「っ‼︎ テメェ‼︎」

 

魔神はオリオトライにチャージを行った。いきなり目の前に、自分の身長をゆうに超える者が現れるだけでも驚きに値するところを、この魔神はそれだけでなく、はるかに自分よりも小さいオリオトライを吹き飛ばすつもりでチャージをかけて来たのだ。

 

「遅いわね!」

 

だがそれをオリオトライはひらりと余裕ある身のこなしで躱す。

 

「筋力も装甲もハンパない魔神族だけど、普通に弱点はあるの。生物には頭蓋があって、脳があるわ。頭部を揺らせば頭蓋の内側に脳がぶつかり、神経系が麻痺するの。それが脳震盪よ。それで頭蓋を揺らす効果的な方法としては、頭部に密着しているもの、頭部から遠い所を打撃して揺らす事で振動は大きく響くの。人間だと顎の先端だけど、魔神ならここね!」

 

そう言いながらオリオトライは、魔神族に付いている曲がったツノの部分に自分の鞘剣を引っ掛けるようにして打撃した。魔神族にとっては軽い打撃に等しいものだった。ところが魔神族は急に脚がよろけて膝から崩れ落ち、膝立ちの状態になったのだ。

 

「魔神族はこういう状態になると、脳の代わりに身体の各所にある神経塊が働いて回復も早いの! だからその時も焦らずに、さっき打った所の対角線上を打つ!」

 

オリオトライは膝立ち状態の魔神族に対して、先ほど打った左ツノの対角線に位置する顎の右側を鞘剣で打撃、それによって魔神族は白目を向いて仰向けに倒れた。

 

「それで補足だけど、硬く見えるところを打つのがポイントよ! その方が脳に衝撃を与えやすいからね‼︎」

 

「ほう? 内の2番手を倒すとは大した奴だ」

 

その声とともに事務所から先程の魔神よりも筋骨隆々の魔神が出てきた。

 

「あら、あなたがここの親玉?」

 

「確かに、ここ品川のヤクザをまとめてるもんだ。にしてもこれはいかんなぁ。魔神が人に簡単に負けるなど……貴様には悪いが、ここはこの魔神が受けたものよりも痛い目に合わせなければならん」

 

「仕方ないわね〜。なら……颯也、いってくれるかしら?」

 

「jud。先生の指名とあらば……ですがその前に聞いておきたかったのですが、何故先生はここに殴り込みを?」

 

「それはね〜……先生が住んでいた高尾の一等地が品川のヤクザによって地上げを食らったからだよぉ〜」

 

颯也の疑問にハイディが笑顔を浮かべながら簡潔に答えた。それに対し颯也は……

 

「それはいつだ?」

 

颯也の雰囲気が変わった。先程までは普通に笑顔を浮かべていたはずなのに、いざオリオトライがヤクザに殴り込んだ理由を聞くと、笑みは笑みだが、先程まで浮かべていた気分の良いものではなく、背後から怒りのオーラが出ているのではと錯覚させるような笑みとなっていた。それを見た梅組の生徒は一瞬ビクつく。

 

「た、確か……1週間前だったかな?」

 

「jud。ありがとうハイディさん」

 

「ううん。これくらい安い物だよ! それに……貴方のその笑みも見ていてゾクゾクするし儲けものだよ?

 

後半部分を颯也に聞こえないように呟きながら、すかさず今浮かべている颯也の笑みを写真に撮った。

 

「というわけで……だ。あんたが先生の相手をする前に俺が相手をしよう」

 

「ほぅ……ワシのこの威圧に対して物怖じせず対面するとは……気に入った!そこの女の前にお前を潰してやろう!」

 

そう言いながら魔神は颯也にチャージを喰らわそうと突進した。その勢いは先程の魔神族の並みではない。それに対して颯也はただ魔神族に合わせて両手を前に構えるだけ、正面からの衝撃に備えるようにしたのだ。

 

「い、いけません颯也くん! いくら先生に攻撃を当てれるからって魔神族相手じゃ……」

 

「まぁまぁ浅間、黙って見ていなさいな」

 

「喜美⁉︎ ですが!」

 

「あの程度に颯也が負けると思ってる? それだったら浅間は、颯也の事を信じていないって事かしら?」

 

「そ、そんな事‼︎ あるわけないじゃないですか!」

 

「そう思ってるなら見てなさいよ。自分が惚れてる男の勇姿をね?」

 

喜美にそう言われて、浅間は心の中で願った。颯也が怪我をしないようにと……

 

そんな心情を知らない颯也は、いよいよ魔神とぶつかった。ぶつかり合った事で生じた風が、梅組に届く。それも尋常ではない圧……ほとんどの梅組生徒が目を瞑るか顔を隠すかで風からの衝撃に耐える。そして風がやんだと同時に皆は颯也と魔神の方に目を向けた。

 

「「「えっ?」」」

 

皆が目にした物は……それが夢幻に見えた。その状況は……颯也は倒れてはいなかった。それどころか魔神のチャージを真正面から普通に受け止めていた。颯也の足元を見れば、床に一部はまった形跡すらなく、摩擦熱によって生じた焦げ跡もない。颯也の立つ床の上は綺麗そのままだった。

 

「な、なんでビクともしねぇ?」

 

これにも魔神族は驚愕していた。自分の目論見では、目の前に立つ男が簡単に吹き飛ばされて、次には男の後ろに立つ女の相手をしているはずだった。だが結果はどうだ? 男は倒れておらず、それどころか自分のチャージで後ろにも引いてはいない。

 

「この程度か……」

 

颯也はそう言いながら、なんと魔神を押し始めたのだ。慌てて足に力を入れる魔神……だがそれも意味は為さず床を滑っていた。

 

「き、貴様は何モンだ⁉︎」

 

ここで初めて魔神は目の前の男に恐怖した。そしていつのまにかその叫び声を上げていた。

 

「そういえばまだ名乗ってはいなかったな……」

 

颯也は涼しげな顔をしながら言った。

 

「武蔵アリアダスト教導院所属、特務師団長の愛護颯也だ。まぁ別に覚えていなくても構わないが?」

 

ま、愛護颯也だと⁉︎

 

その名前には……この魔神族も知っていたようだった。その証拠に先程から冷や汗が止まらず滝のように流れていた。

 

「それで? 先生が住んでいたところを地上げしたんだろう? その理由はなんだ?」

 

「そ、それは……」

 

「なんだ? やったのに答えられないのか?」

 

颯也の質問に対し、魔神族は答えられなかった。これには颯也も呆れ果て……

 

「そうか……ならばその罪を自分の体で受けるんだな」

 

颯也は魔神族の手を上に振り払った。そうする事で魔神族は万歳の体制となり、胴がガラ空きの状態となる。そこに颯也は少し腰を落として打撃を打つ姿勢となり、右腕を引きしぼった。そして足、腰、そして最後に右腕の順で力を伝播させて魔神族の腹に一撃を加えた。

 

スパンッ‼︎

 

その音は、日常生活を送る中でも中々聞くことができない音だった。魔神族は一瞬中に浮き、足から落ちてうつ伏せに倒れた。

 

「さて……先生、これで良いですか?」

 

「うん! 流石は颯也ね‼︎」

 

(((そこ褒めるところなの⁉︎)))

 

梅組の皆は颯也が一撃で魔神族を倒していた事に若干引いていたが、オリオトライは逆に褒めていた。

 

「そうストレートに言われると……嬉しいです」

 

(((か、可愛い‼︎)))

 

(か、可愛いです!)

 

(そ、颯也の照れたような顔なんて中々お目にかかれないのに……)

 

(これは……商売の香りがする! ハイディ‼︎)

 

(そう言うと思ってさっきから撮影中だよ‼︎)

 

(あぁもう! なんでいちいちこうも可愛いところがあるのよ⁉︎ って、それよりもネタネタ!)

 

(ナイちゃんもあの顔見てたら照れるんだけど〜)

 

颯也さんが浮かべた照れ顔に、一部の女性陣は虜になったと言います。この騒ぎを見ていた他の野次馬、特に女性陣も可愛いと漏らしつつ颯也の姿を写真に収めようとしていました。そして商人にとっては、良い商売でした。

 

一方で……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ……今この瞬間損した気がする!」

 

「成実は一体何を言っているんだ?」

 

そんな一幕があったようです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔神族が倒されたことにより、事務所の扉がロックされた。

 

「あちゃー……逆に警戒されちゃったか〜」

 

とオリオトライは言いますが、そうではなく逆にオリオトライと……愛護颯也が怖いのだ。特に愛護颯也の名を聞いてからは、事務所にいた他の魔神族も冷や汗を滝のように流していた。

 

「う〜ん……これどうしようかしら?」

 

「俺があの扉をぶち壊しましょうか?」

 

(((物騒な事を言ってる⁉︎)))

 

その時……

 

「あれー? 皆こんな所で何をやってるんだよ?」

 

そんな間の抜けた声がその場に聞こえた。その声の主人を辿ってみると、その者は茶髪で顔には笑みを浮かべ、アリアダスト教導院の制服を改造して金色の鎖をジャラジャラつけ、脇には紙袋に包まれた長方形の物を持ち、直接手に持つ小さい紙袋からはパンを加えて梅組の皆に近付いていく。

 

不可能男(インポッシブル)・葵……」

 

「総長……」

 

野次馬の中からそんな呟きが聞こえる。

 

「んー、おう! そうだよ俺俺。葵・トーリはここにいるぜ! にしても朝からこんな所で会うなんて奇遇だな! 皆もこれ並んだのかよ?」

 

皆の前にでて、脇に抱えていた包みを掲げながら言った。

 

「ちょっと葵? 大体途中からの話を端折るけど、先生の授業をサボってどこに並んだってぇ?」

 

「おっ? 先生も気になるのかよ! そんじゃお披露目だぜ‼︎ ジャジャーン! R元服指定のエロゲ()()()()()()初回限定盤だぜ! なんかこれスッゲェ泣けるらしくってぇ、今日帰ったらPCにインストールして泣いてやりながらエロい事するんだ‼︎」

 

その発言に皆ゲンナリしていた。

 

「全く……遅刻の理由がそれとか、ホントにトーリらしいな。ともかくおはよう」

 

「おう! おはよう颯也‼︎ 今日も相変わらずイケメンぶってるな! というか制服を勝手に改造しちゃダメだろう?」

 

「イケメンって……俺はイケメンじゃないよ」

 

(((いや、鏡を見ろよ⁉︎)))

 

「まぁ確かに俺は正規の学生服着てないけど、でも何でかは分からないけど許せる範囲でなら着ても良いってなってるし、何しろこれは俺が昔から着てるやつだから……」

 

颯也は葵の発言に手を振ってジェスチャーをしながら否定する。だが梅組の……特に男性陣の心の中は一致した。そして颯也の服装は……今更だが体全体を隠せるような衣装を纏っていた。しかもそれは騎士が舞踏会や正式な場で着飾るような物で、全体的に黒でまとめられていた。

 

「それで〜……君何か言う事があるんじゃないかな〜?」

 

「はぁ? そんなの当然だろ! 何たって俺と先生は以心伝心の仲じゃねぇか‼︎」

 

「へぇ〜? それだったら君今すぐ自殺しなきゃいけないんだけどぉ〜?」

 

「えっ? 何言ってんだよ先生! 俺に胸を触らせてくれるんじゃねぇのかよ⁉︎」

 

「あぁ? ちょっと何言っちゃってんのかな君? 君の目には何が映ってるのかなぁ?」

 

「はぁ? そんなの決まってる! 今はこれだな‼︎」

 

と言いながら葵は両手を怪しく動かせながら先生に近づいて……

 

「それ以上はさせないよトーリ」

 

「ほへっ? 颯也?」

 

「先生の胸を触ろうとしてただろう?」

 

「な、何で分かったんだよ颯也⁉︎」

 

「その怪しい手と指使いを見たら普通に分かるよ。ともかくトーリは今回の事を反省しt「ムニッ」ん? ムニッ?」

 

颯也は自分の右手が柔らかい物を捉える感触を感じた。だが自分の周りにそんな柔らかい物など……否、1つだけあった。それは颯也の背後……トーリが先生の胸を触ろうとした時だ。

 

颯也はオリオトライとトーリの間にすかさず入った。だが彼が入った時には既にオリオトライの胸とトーリの腕は目と鼻の先……トーリの腕がオリオトライの胸を触ることはなかったが、その代わりとして颯也の右腕がオリオトライの胸に触れてしまったのだ。

 

状況としては、すかさず間に入った颯也がオリオトライを支えるように添えた右手……支えるには支えたが、その位置が悪かった。

 

「は、はわ……」

 

オリオトライが上げたであろうその声に、何となく察した颯也は首を壊れたオモチャの様にゆっくりと、背後にいるオリオトライに向けた。それで目に入ったのは当然……

 

(お、俺は何って事を……)

 

颯也の中には……罪の意識でいっぱいだった。今日を振り返ってみれば、最初に遅刻から始まり、今は先生の胸を右手が触れている。

 

(今日は……先生に迷惑ばかりを……)

 

胸に関してはどうかは今分からないが、遅刻に関してはオリオトライは既に許している。というよりもそもそも遅れた理由はオリオトライが原因なのだ。それをオリオトライ本人が分かっているからこそ、颯也の事を許しているのだ。

 

「あぁ〜っ! 颯也が先生の胸触ってやがる‼︎ 本来俺が触る予定だったんだぞ〜‼︎」

 

「そ、颯也くん? わざとではありませんよね?」

 

「金髪の貴公子はラッキースケベかのように女性の胸に触れた……うん! これは良いものが書けそうだね‼︎」

 

「ネタ……として使えるけど……」

 

「完全にジェラシー感じちゃう〜‼︎」

 

「ハイディ! あの颯也の顔撮ったか⁉︎」

 

「勿論だよシロくん‼︎」

 

梅組の中でそんなカオスが生まれていました。そして颯也は……

 

「ご、ごめんなさい‼︎」

 

謝罪をしながら颯也はオリオトライの胸から右手を離そうとする……が

 

「い、良いの‼︎」

 

「「「えっ?」」」

 

「えぇっ⁉︎ えぇっと……今何と?」

 

「颯也なら……触っても良いの!」

 

そう言いながらオリオトライは颯也が話そうとした手を両手で掴んで自らの胸に押し付けた。

 

「ど、とう? 先生の胸……///」

 

「〜〜〜〜〜っ⁉︎ ……や、柔らかいです」

 

オリオトライは、赤面しながらそう言った。そして颯也は顔に表情は出していないながらも……ルンは赤く反応し、たどたどしくそれについても答えた。

 

 

 

 

 

 

一方……

 

 

 

 

 

 

 

「はっ……また美味しいところを持っていかれた気がするわ」

 

「さっきから成実は何を言ってるんだ? 熱でもあるんだろうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ〜マジかよそれ? 俺の見立てでは骨か筋肉で硬いイメージだったのに……」

 

だがその言葉でオリオトライは再びトーリに対しての怒りを再燃させていた。

 

「まっ、それはそれで良いとして、俺さ、皆にも前々から言ってたんだけど、明日告ろうと思うわ」

 

「「「はっ?」」」

 

「んふふ、愚弟……まさか告る相手が画面の向こう側にいるんでしょう? だったら裸になってコンセントにーー公の場なので自重ーーして感電しながら悶え苦しむと良いわぁ〜!」

 

「はぁ? ちげぇよ姉ちゃん! 明日告るためにこのエロゲを最後に卒業しようと買ってきたんだよ‼︎」

 

「んふっ、なら愚弟、今すぐこの場で告る相手を言いなさーい! さぁ‼︎」

 

「姉ちゃんだって昔から知ってるだろ? ホライゾンだよ」

 

「えっ……」

 

「ホライゾン……ね」

 

トーリの告げた相手の名前に、梅組の皆はそれぞれの顔をしていた。さっきまでカオスを作っていた雰囲気もそれで吹き飛び、中には悲しそうな顔をしている者もいた。

 

「馬鹿ね……ホライゾンは死んだじゃない。アンタの嫌いな()()()()であの時に……それでお父さん達だってお墓を建てたでしょう?」

 

「分かってるよ。でも、もう10年なんだ。ホライゾンがいなくなってから。皆は覚えてないかもしれないけど……。彼女はホライゾンじゃないのかもしれない。でも俺はこの1年間考えたら、それでも別に良いかなって。だから俺は、ホライゾンがいなくなった事からもう逃げねぇ! 決めたんだ。告りに行くって。そんでその後は……多分皆に迷惑かけると思う。だってこれは……世界に喧嘩売りに行くようなもんだもんな。俺は何にも出来ねぇけど……皆となら出来るって信じてる!」

 

「それだったら今日は色々と準備しないといけないわよね? それで愚弟、今日が普通の最後の日?」

 

「あぁ! 俺何にも出来ねぇけど、それでも高望みだけは忘れないからさ!」

 

「それでぇ? 君は結局何が言いたいのかなぁ〜?」

 

下に俯きながらワナワナ震えているオリオトライがトーリの肩をポンポンと、叩く。それに対して状況を察した梅組の皆は、一様に顔を青ざめさせていた。

 

「えぇ〜? 先生さっきの聞いてなかったのかよ〜? 俺の恥ずかしい話!」

 

「人間ねぇ〜……怒りが頂点に達すると相手が何を言ってるのか分からなくなってくるものなのよねぇ〜」

 

「おいおいマジかよ⁉︎ さっきの話聞いてなかったのかよ⁉︎ ならもう一度言うぜ?」

 

トーリは自分の発言で、オリオトライの怒りのボルテージが上限を超えそうになっている事を知らない。目の前で自分の担任教師が何やら不穏な雰囲気でワナワナと震えているのが目に映っている筈なのに……

 

そして、彼は立ててしまった。

 

「俺明日ホライゾンに告りに行くって……」

 

フラグを……

 

その瞬間オリオトライの目がキラリンッと光った。

 

「よっしゃーっ‼︎ 死亡フラグゲットーッ‼︎」

 

そう言いながら左足を軸として、回し蹴りをトーリに喰らわせようとした……が

 

「ぐっ‼︎」

 

「「「そ、颯也(くん)⁉︎」」」

 

なんと……あろう事かオリオトライはトーリではなく颯也を回し蹴りの餌食としてしまったのだ。何故そうなったか? それは簡単な話、颯也がトーリを庇ったからだ。

 

トーリの代わりに回し蹴りを喰らった颯也は、身体をくの字にして事務所に吹き飛ばされた。いとも簡単に事務所の扉は壊れ、それでは止まらず颯也は事務所を貫通……事務所の裏にあった倉庫のシャッターに激突して漸く止まった。

 

「そ、颯也⁉︎」

 

これにはオリオトライも焦りの表情+泣きそうな表情を浮かべていた。オリオトライも梅組の皆も心配して吹き飛ばされた颯也のもとに向かおうとした。だが……

 

「おい先生! 何で颯也に蹴りを喰らわせたんだよ⁉︎ 颯也が可哀想じゃねぇか‼︎」

 

ここに空気の読めない葵・トーリ(馬鹿)が1人……

 

「我が王のせいですわよ‼︎」

 

「そうです! 颯也くんに謝ってください‼︎」

 

「ごめんなさい……」

 

「えっ? って先生? 何で先生がまず謝っているんですか⁉︎ 確かに先生もやり過ぎてましたけど……」

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

(((ど、どうしてそこまで⁉︎)))

 

颯也を蹴った後のオリオトライの変わり様に……一同は何が起こったのか分からなかった。確かにオリオトライもやり過ぎてはいたかもしれない。だがそれは、トーリがオリオトライを怒らせたからこそ、いつもの調子と力以上にトーリを蹴ろうとしたに過ぎない。何せトーリは今までに何回も殴られ蹴られて壁や床、至る所に自分の型を作り出してもケロッとして笑っているのだ。

 

それを理解しているからこそ、さっきもその様にした。だがそれを、颯也が代わりに受けたのだ。トーリは加護があるからこそケロッとしているが……

 

(颯也くんには加護なんてありません‼︎)

 

浅間は、この武蔵において住民達は勿論梅組の生徒達の加護の契約も担当している。それは代々浅間家がやってきた事で、それも生業にしてきた。だが例外が1人だけ存在する。それが颯也だ。彼だけが唯一、この武蔵の中で()()()()()()()()()人間なのだ。

 

それが意味する事は、一般人が建物を貫通するほどの力で吹き飛ばすほどの蹴りをもろ喰らった事に等しいのだ。

 

そのため皆は心配していた。そしてその事を……オリオトライも分かっていた。だがこんな事は今までなかった。確かに颯也は、女性陣が何か危険な目にあいそうになると自らの体を張って庇う事は普通に見受けられていた。だが男性、しかもよりにもよってトーリを庇う事などこれまで無かったのだ。

 

だからこそ、自分がしてしまった事実が許せなくて、申し訳なくてそして……

 

(颯也に……嫌われる……)

 

その想いこそが……彼女をそこまで変える。それが示す事は……彼女、オリオトライも颯也の事が好きだという事だ。教師と生徒の立場であるが、本人としてはこの想いにその立場は関係ないと思った。

 

その想いに梅組が気づけるはずもなく……ただ今は颯也の身を案じ、一刻も早く颯也を助けようと、そうしていた。

 

「先生……どうして泣いているの?」

 

「……えっ?」

 

「「「なっ⁉︎」」」

 

その一言が誰から発せられたのか……それはオリオトライの側からだった。だがそれを発したのはトーリではない。

 

「先生……どうして泣いてるの? 何か悲しい事があったの?」

 

それは……颯也だった。

 

「ど、どうして……」

 

「どうしてって……トーリを庇った事? それは今月出した申告表の2つ目だよ。大切な誰かが俺の目の前で傷つきそうになった時は、俺が体を張って守るって」

 

そう、ただ颯也はそれをしたに過ぎなかったのだ。

 

申告表……それは授業中に先生の質問に答えれなかった時のペナルティだ。皆それぞれに自分自身にかせるペナルティを考え、毎月提出している。それは颯也も同様だ。だが颯也の場合、1つだけで良いものを2つ目を()()()()かしていた。それこそが、さっき颯也が言った事である。

 

「颯也……ごめんなさい。貴方を蹴るつもりなんて無かった。でも……私は……」

 

「そんな事……俺は気にしないよ。それより気にするのは、今先生が悲しそうな顔をしてるって事と泣いてる事。先生に泣いてる顔なんて似合わないよ」

 

そう言いながら颯也は持っていたハンカチでオリオトライの涙を優しく拭った。

 

「先生には……笑っている顔が1番似合ってるって、俺は思うよ」

 

そう言われたオリオトライは、颯也に勢い良く抱き着いた。颯也もこれには驚いて少し後ろによろける。

 

「おぉっと……先生?」

 

「……少しだけ、このまま抱きついていても良い?」

 

「……jud。良いですよ」

 

「頭も……撫でてくれる?」

 

「jud。撫でてあげます」

 

「身体……大丈夫?」

 

「jud。大丈夫ですよ。心配してくれてありがとうございます」

 

「うん……」

 

しばらくの間……オリオトライさんは颯也さんに優しく抱き締められながら頭を撫でてもらっていたと言います。一方……

 

 

 

 

 

「ぐわーっ⁉︎」

 

「うへっ⁉︎」

 

「きゃあっ⁉︎」

 

「ふ、副長‼︎ 少し激し過ぎっ! う、うわぁっ⁉︎」

 

(美味しいところをまた持っていかれた気がする……)

 

成実さんは自分の教導院の戦士団達と訓練をしていた際、表には出していませんでしたがかなり怒っていたと言います……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




私も予想外です! まさかオリオトライ先生とオリ主がこんなに絡むなんて‼︎

「他の作品だと滅多に見れないな?」

そうなんですよ〜。ホント私も不思議です! ですが先生と生徒の関係……禁断の恋に発展してしまうのでしょうか‼︎

「それは別に良いけど……でも正妻の座は譲らないわ」

「な、成実さん⁉︎」

「颯也? この事覚えておくから……」

オリ主は一体成実さんに何をされるのでしょうか……少し想像するのが怖い。

という事でまた見てください!


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3話 えっ? 俺も脱ぐの? えっ? そんなのいつの間にあったの?

やばい……投稿スピードが遅くなってる……

「おい作者……何をやっているんだ?」

だって仕方ないじゃないですか⁉︎ f○oもバ◯ドリもマ◯レコもイベント真っ最中で……

「やる事が多いな」

それに先日卒論も返却されて、とりあえず再提出はなかったんですけど、今のじゃ満足できないんで再提出しようかとか……

「本当にやる事多いな……」

まぁそんな中でもちまちま書き連ねました! という事で3話ご覧下さい‼︎


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午前7時49分 村山本多邸

 

 

 

 

 

 

 

リビングにて黒髪長髪の少女がソファーに横になって眠っていた。格好は薄着ではあったが、体にはちゃんと暖かい毛布が敷かれ、頭も枕によって支えられていた。

 

そして時計の針が50分になった時……

 

ジリリリリリリリッ‼︎

 

「ひゃぁっ⁉︎」

 

少女は飛び起きた。

 

「あれっ……私って目覚ましかけてたっけ?」

 

そう、ここはリビングで自室ではない。なので目覚まし時計があるはずがないのだ。そして少女は今もなお机の上で鳴り響く目覚まし時計に手をかけて止めた。

 

「こんな目覚まし家にあったか? ……って」

 

少女の目には目覚まし以外にも、他のものが机に置かれている事を捉えていた。それは、綺麗に畳まれた自分の制服と、そして菓子パン2つだ。

 

制服に至っては、クリーニングでもしたのだろうかというくらい綺麗になって畳まれており、菓子パンが置いてある皿の下には一切れの紙が……

 

『少しは自分の体を大事にして下さい』

 

その一言が書かれてあった。

 

(この字は……お父様の文字ではないな。誰がこんな事を?)

 

しかし少女にとってはこれが初めてではない。疲れた日の翌日の朝はいつもこんな感じである。

 

「いや、今はそれより初等部の方に行って授業をしなければ……」

 

そう呟いて彼女は、制服に袖を通して菓子パンを食べ始めた。

 

「あっ……また目覚まし時計が無くなっている」

 

これも何度目かの光景である……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー●◯●ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午前8時41分

 

「そういえば武蔵さん、颯也の術式って何か知ってる? それと契約してる神様とかさ」

 

「jud。颯也さまの術式は……少しだけ見たことがあります。ですが、どこの神を信仰及び契約しているかまでは私達も知りません。ーー以上」

 

「へぇ〜、颯也の事をいつも見てる武蔵さん達でも分からないか〜」

 

「jud。ぶっちゃけそこの辺りは誰も知らないと思います。ーー以上」

 

「えっ? 浅間くんも?」

 

「jud。颯也さまは浅間さまのところで契約はしてないと私達の元に届いています。ーー以上」

 

「ならあの速さは……」

 

「颯也さまの努力の賜物かと……姉としては大変鼻が高いです。えっへん!……ーー以上」

 

「あ、あぁ……そうなんだ」

 

酒井学長は武蔵さんのえっへんとした様な顔にその反応しか出来なかったと言います……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー●◯●ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10時48分 武蔵アリアダスト教導院梅組

 

 

 

 

 

 

「はい、それじゃあ今日の極東史は神州が暫定支配されてしまった要因、重奏統合争乱についてだけど、鈴に頼もうかしら?」

 

「は、はい⁉︎ ご、ご高説です、よね?」

 

「そうよ。鈴が知っている範囲でお願いできる?」

 

「ju、jud。む、昔……世界は地脈の制御によって、神州、側に住む神州の民と、い、異世界にコピーした重奏神州に住む世界各地の民に、わか、れて住んでいました。そうしている間は、どちらの民、とも、仲良くく、暮らして、いたとおも、うんですけど……」

 

「うんうん! それで合ってるわよ」

 

「大丈夫だよベルさん! 間違えてたとしても俺が代わりにぶん殴られてやるからさ‼︎ それと颯也も何とかしてくれるだろうし‼︎」

 

「えっ? なんか俺も巻き込まれた? ……いや、まぁ良いか」

 

トーリは授業中にも関わらず、今朝買った「ぬるはちっ!」というエロゲーの説明書を手に掲げながらそう宣言した。そして颯也については……完全にとばっちりである。

 

「大丈夫だよ! 颯也もいるし、俺も帰ってエロゲの最初の分岐点行くまでは死なねぇから!」

 

「ちょっとそこうるさいよ! それに自然と颯也を巻き込まない‼︎ 後授業中に何関係無いアンケート書いてるのよ⁉︎」

 

「何って、エロゲの限定者特典が欲しいからアンケート書いてんだよ! ほっといてくれよ‼︎」

 

「うるさいぞ馬鹿!」

 

オリオトライ以外にもトーリを注意する者がいた。商人で武蔵アリアダスト教導院会計のシロジロ・ベルトーニである。彼はオリオトライの授業中、真面目に……

 

「仕事の邪魔だ!」

 

仕事をしていました……

 

「おかしい……三河からの荷揚げがあって武蔵から三河に対する輸出がない?」

 

「シロくんシロくん、今授業中なんだけど?」

 

そしてシロジロだけでなく……

 

「ガッちゃん、ここのネームなんだけどどうかな?」

 

「ん? そこは……」

 

「全くもってうるさいよ。執筆活動ができないじゃないか」

 

他の人……特に我の強い人達も思い思いにやっていました……

 

「あっ、えと、その……」

 

そのためか先生に当てられた鈴も続きができなくなり……

 

「浅間、代わりにお願いできる」

 

「えっ? jud。鈴さん、代わりに読んでもいい?」

 

「jud」

 

そして鈴さんは通神を開き、自分の答えを浅間さんに送って、それを浅間さんが読むという形を取っていた。それで重奏統合争乱について鈴さん説明した物を簡単にまとめるとこうだ。1412年の南北朝時代、北朝が独裁を行った。そして北と南の朝廷同士が聖譜記述に則って争った所、地脈を制御していた神器が失われた。神器を失った事で、別次元にコピーしていた重奏神州側が上空に現れ、本物の神州と一部は消失、一部は統合合体する事で今の神州が誕生した。そして重奏神州に住んでいた者達はこの事を神州側の責任として武力制圧し、以後重奏神州側の民達が極東を暫定支配した。それが重奏統合争乱……なんだが

 

(本当は1413年なんだけどね?)

 

鈴の説明を心の中でフォローした。

 

(にしても、まさかあの時がそうだったとは……)

 

その説明を聞きながら颯也は昔の事を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは……この世界に初めて転生した時の事。自分の姿は、今まで活動して来た背丈と格好だった。だが神様の説明では、3歳から4歳ぐらいの年齢で転生させると言われていたのだ。

 

そしておかしいと思った直後、空に光の柱が出来た。光の柱は空に、厚くて赤い雲に飲み込まれると、厚い雲を突き破って何かが地に落ちてくるのが見えた。それは……大きな大地だった。

 

(あんな物が落ちればここに住む人達が!)

 

そう思った颯也の行動は早かった。まずは自分に、転生特典として神様から貰い、そして鍛え上げた鎧を一部纏い、そして武装を展開してなんとか落ちて来る大地を受け止めようとしたのだ。

 

だがその大地はあまりにも大き過ぎ、その時の颯也の力でも速度を削ぐことしか出来なかったのだ。しかし、その事によって異変を察知した人達が逃げる時間稼ぎくらいにはなった。

 

後は、上から落ちて来る瓦礫等を武装で消滅させ人々を守った。それをした後……颯也は今より14年前の神州に転送され、正式に転生したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(にしても愚かだ……記述通りすればまた神の道に至れるなどと。普通に争いなどせず生きる道もあっただろうに……)

 

「はーい。凄く分かりやすかったわ! また鈴にご高説を頼もうかしら?」

 

「よーし皆ちゅうもーく! 明日告る前に前夜祭を開きたいと思いまーす! 場所は……」

 

「おいバカ、金のかかる所は止めろよ?」

 

「じゃあここだな! それで肝試しやろうぜ⁉︎」

 

「トーリくん、今時分はシャレにならないかも。去年に比べて怪異の発生件数が上がってますし……」

 

「ならそれも含めて幽霊祓いってことにしようぜ⁉︎ 生徒会活動の一環として! どうよ?」

 

「そうねぇ〜。私もこの時期かなと思って今日宿直入れてたんだけど……」

 

「それなら決まりだな! 今日の夜8時にここで幽霊祓い!」

 

「えぇ良いわ。でも君、その前に厳罰ね?」

 

「はへっ?」

 

「さっきの鈴の説明だと、1412年に北朝が独裁したってあったけど、本来は1413年なの。ちょいミスね。でも後の説明でそれも挽回していたからほとんど問題ないわ。第一に私の授業では、私からの質問に答えれたら加点、答えれなかったら減点と厳罰、そして御高説では答えれたら加点で、もし間違っても減点は無しよ。鈴の説明は年代が1年ずれてただけで、後の説明で挽回していたから加点ね。でもトーリ、あなたさっき鈴がもし間違ってたら代わりに殴られるとかどうとかって言ってたわよね? だから厳罰よ」

 

オリオトライは一冊の黒手帳を取り出してめくった。それこそ、梅組の皆が月初めに出した自己申告厳罰表である。

 

「えぇっとぉー……今月のトーリの自己申告はー……とりあえず脱ぐ事と……えぇっ⁉︎」

 

「せ、先生? どうしたんですか?」

 

先生の顔色が変わった事に皆疑問を感じた。いつもであるならば、間違えて厳罰を喰らったものには容赦なく申告表を読み上げられ、対象生徒には厳罰を科せられるのだが、トーリの出した申告表には、とりあえず脱ぐには続きがあるらしく……

 

「……そ」

 

「そ?」

 

「そ、颯也も脱がせる……」

 

「「「な、なにぃーっ⁉︎」」」

 

「おっ? なんだよ皆そんなに驚いて?」

 

トーリ以外が驚いていた。まさかトーリがこんな手を使って颯也を辱めようとするとは……

 

そして一方の本人は……

 

「勝手に自分の申告表に俺の名前を書いて、しかも脱がすとか……恥ずかしいのもあるけど、俺が脱いだ姿を見ても誰も得になんてならないと思うんだが?」

 

「いや‼︎ 必ず得するぞ‼︎」

 

そう言って立ち上がりながら力説するのは、またもや商人のシロジロだ。

 

「私にとっては儲かり過ぎる商売だ! なにせ颯也の()()()だからな‼︎」

 

「えっ? そこまで脱ぐの?」

 

「当たり前だ! とにかく脱げ‼︎ 1枚だけでも‼︎」

 

「うふふ、撮影の準備もしてるよぉ〜。この最新式のカメラでちゃんと撮ってあげるからねぇ〜♡」

 

「確かに……颯也っていっつもその格好よね? 私達とたまに寝る時も……」

 

「颯くんが羽織ってるその外套の下も、ナイちゃん興味あるなぁ♡」

 

「あっ、僕も僕も! 是非とも参考資料として脱いで欲しいな!」

 

「うふっ、颯也、ここは観念して脱ぎなさい! さぁ‼︎ それとも……私に脱がしてもらいたい?」

 

「ちょ、ちょっと喜美⁉︎ それははしたなくてよ⁉︎」

 

「そうです! 颯也くんを脱がせるなんてさせません‼︎」

 

「あらぁ〜? でも本当は2人とも興味あるんじゃないのぉ? いい子ぶっちゃって」

 

「だ、誰もいい子ぶってなんていませんわ‼︎」

 

「そ、そうです! ただ颯也くんを守ってるだけです‼︎」

 

梅組が瞬く間にカオスとなりました。

 

「せ、先生……これってどうすれば良いですか?」

 

オリオトライに指示を仰ぐ颯也。だが……

 

「えっ、えぇっと〜……颯也が巻き込まれるのは流石に私としてもあれなんだけど……私も颯也の裸には興味あるし……」

 

オリオトライさんもどちらかと言えば颯也さん脱いでしまえ派でした……

 

「せ、先生もですか……」

 

「まぁまぁ! ここはもう脱いじゃえよぅ!」

 

颯也の隣には、いつのまにか全裸になっているトーリがいた。

 

「いつの間に脱いだの?」

 

「そんな事は良いからさ! 取り敢えず上に纏ってるものをスポーンッ……あれ?」

 

トーリは颯也の服を脱がそうとしたがビクともしなかった。

 

「トーリ、君ではこの外套を外すことなんて出来ないよ。俺が今着ているもの全てだけど……重量負荷の術式かけてるから、俺が着ている限り俺自身にその重量がかかる。だから、他の人が脱がそうとしてもこの服は脱げないよ。何せこれは、俺じゃないと元々外せないし」

 

颯也の着ているものには……颯也も言った通り重量負荷の術式が編み込まれてある。それは颯也にだけかかるもので、颯也が立つ床や座る椅子には全くかからない。

 

「はぁっ⁉︎ じゃあ颯也は脱がないのかよ‼︎ それは申告違反だぞ‼︎」

 

「いやいや、元々申告に勝手に書いたのトーリだし、それに違反を受けるのもトーリだよ?」

 

「えっ? マジで?」

 

「はぁ〜……まぁ何というか仕方ないような気がする。このままだと授業も進まない様だし、分かったよ。でも全身裸は流石に恥ずかしいから勘弁してほしいな。上半身裸で下は1枚も脱がないという条件のもとなら……」

 

「「「おぉっ‼︎」」」

 

颯也のその発言に梅組は歓喜の声を上げた。その中には、教師の立場であるはずのオリオトライも含まれていた。

 

そして颯也は、まず初めに外套を外し始めた。脱いだ外套の下には……

 

「ね、ねぇ颯也くん……それってもはや制服じゃないよね?」

 

ネシンバラの言う通り、颯也の着ているものはもはや武蔵アリアダスト教導院の制服ではなかった。否、この世界に住む誰もが着ている様な格好ではなかった。

 

「小生が思いますに、何だかどこかの貴族様の格好ですよねそれ」

 

「しかも物語に良く出てきそうな格好で御座るな」

 

「カレー、食べても目立たないですね!」

 

御広敷と点蔵が言うように、確かに颯也の格好は貴族が着る様なものその物。外套と同じく全体的に黒で纏められて、色合いとしては武蔵アリアダスト教導院で着る制服と類似しているが、その他にも装飾は施されもはや制服とは呼べない代物だった。

 

そして1人関係ない事を言うインド人もいた。

 

「それって俺よりも校則違反じゃん!」

 

「だがこれで行っても何も言われないんだよなぁ……酒井学長もヨシナオ教頭も……確かに制服は持ってはいるが、あれでは軽すぎて逆に動きにくい」

 

(((いやいや! 今着てる方が動きにくいよ⁉︎)))

 

「ち、因みに服にかけている負荷はどれくらいで御座るか?」

 

「そうだな……1つにつき200kg。外套に至っては300というところか……」

 

「えっと……それって下着もですか?」

 

「jud。まぁこの下にはワイシャツだけ着ているし、負荷も同じだ」

 

「なら単純計算しますに……外套も着て全部の負荷が……1t超えてますよ⁉︎」

 

「そ、それを毎日とは……あの速さも伺える」

 

「いやいやウッキー殿⁉︎ あの速さも着込んであの速さで御座るよ⁉︎」

 

「それでそれを着たまま労働も出来るか……俺も負荷をかけるべきか?」

 

「ノリキ殿、別に負荷は構わないと自分思うで御座るが颯也殿の真似は絶対にしてはいかんと思うで御座る‼︎」

 

「そんな事はどうでも良い! 早くその上を脱げ‼︎」

 

点蔵がツッコミとかす中、シロジロは自分の商売のために早く脱げと颯也を急かす。

 

「全く……分かっているよ。そう急かさなくても逃げはしないから」

 

そして颯也は上着も脱いでワイシャツ姿に……

 

「「「おぉっ‼︎」」」

 

梅組……特に女性陣から声が上がった。こんな時、女性陣の中で最もテンションハイになる喜美が颯也に対して早くワイシャツも脱げと急かして来るのだろう。他の女性陣、特にアデーレと浅間は目を手で隠している(指の隙間からチラリと視線を颯也に向けてはいるが……)し、ハイディは撮影&録画に夢中、鈴は見えてはいないが赤面し、ミトツダイラも赤面してあわあわしてるし、マルゴットもミトツダイラ同様赤面しながらモジモジ、それはオリオトライも同様だ。そしてマルガは……

 

「良い……良いわ颯也! それでも充分に良いわ‼︎」

 

と言いながら筆を走らせる。また、彼女も赤面していた。

 

残るは……こういう事に1番耐性がある喜美が颯也を脱げと急かす事は容易に想像できやすい事だろう。何せ彼女はエロとダンスの神を信仰しているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが結果はというと……

 

「さ、さぁ颯也……そ、そのワイシャツも脱ぎなさい……」

 

みんなと同様赤面して、颯也を脱がすようには言うものの、そこにいつもの勢いは全く無かった。というかさっきの勢いはどこに行ったのか……。そして視線も颯也を行ったり来たりで……それこそ、その年頃の恋した少女が見せる反応をしていた。

 

(((お前誰だよ……)))

 

喜美さんも、中身は年頃の女性でした……

 

「分かっているよ。ここまで来たら上は最後まで脱ぐよ」

 

そう言って颯也はワイシャツのボタンを上から1つずつ1つずつ外していく。しかしその脱ぎ方は……何処と無く焦らしているように見える。梅組の特に女性陣は、早くワイシャツに密着している肌を見たくてウズウズしていた。だが颯也からしてみれば焦らしているわけではなく、いつものようにボタンを外しているだけなのだ。

 

パサッ

 

最後のボタンが外れ、ワイシャツは颯也の肌から離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー●◯●ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10時48分 武蔵アリアダスト教導院廊下

 

「全く……東宮のご子息である東くんがご帰還なされたというのに、出迎えがまろ1人というのは……武蔵の住民は冷たい」

 

「仕方ないですよ。派手に出迎えられても聖連に目をつけられるだけですから」

 

「だがしかしなぁ……」

 

武蔵アリアダスト教導院の廊下を、どこからどう見ても西洋からきた王様な人で現武蔵の王であるヨシナオ教頭と、顔立ちはまだ幼さが残り、背が低い男で教導院の制服を着た東が歩いていた。そして2人は目的地である教室、()()()()()前まで辿り着いた。しかしその瞬間……

 

『『『キャァーッ‼︎』』』

 

梅組の教室から複数の女性のその様な声が聞こえた。しかもそれは悲鳴の類ではなく、歓喜のものに近かった。

 

(もしかして東くんを出迎えなかったのは、東くんを出迎える練習をして後からのサプライズで驚かせようという魂胆であったか⁉︎)

 

なるほど……それなら聖連にも睨まれる心配はない。外で武神が自分達を監視してはいるものの、屋内であるならばそれも心配はいらない。先程ヨシナオは武蔵の住民は冷たいと言ったが、それを撤回する必要があるなと思った。

 

そう思った矢先……

 

『スッゲェ! 颯也って外套を脱げば細いから痩せてんのかなって思ったけど、ちゃんと筋肉付いてるとか卑怯だぜ⁉︎』

 

……撤回は必要なさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー●◯●ー

 

 

 

 

 

「わ、私これ以上は恥ずかしくて‼︎」

 

浅間はさっきまで指の隙間から颯也の体を覗いてはいたが、ワイシャツを脱ぎ捨て10秒も経たずにリタイア、体ごと颯也から背けた。

 

「い、以外にガッシリとしてるで御座る……」

 

「うむ……だがこの筋肉量で先ほどの服の重量を支えれるのだろうか?」

 

戦闘組は颯也の筋肉についてそんな考察を話し合っていた。

 

「なんか颯也くんが脱いでるの本当に新鮮だね! 今度の執筆活動もはかどりそうだよ! はっ、こうしちゃいられない! 参考資料として詳しく書かないと‼︎」

 

ネシンバラはいつもとは違い物凄く興奮し……

 

「あんな体で抱き着かれたらナイちゃん……」

 

「あんな細い体つきで、でも繊細な感じの筋肉……本当に私好みな感じよ」

 

マルゴットは赤面させながらモジモジとし、オリオトライはブツブツと呟き、教師としては本来生徒に向けてはダメな発言を吐露……そしてマルゴットの相棒であるマルガは

 

「こ、こんな所に桃源郷があったなんて……えぐっ……えぐっ……」

 

涙を流しながら上半身裸の颯也を描写している。ここだけを切り取るとなんとも普通の(男の上半身を描写している事自体普通ではない)の光景だ。しかし……

 

「が、ガッちゃん鼻血鼻血!」

 

人とはやはり欲には忠実な様で……鼻血を垂れ流していたという。

 

「おいおい! 颯也だけじゃなくて俺も脱いでんだぜ⁉︎ 見よ! この美しき肉体美‼︎」

 

「「「……はっ」」」

 

「は、鼻で笑っただけだと……⁉︎」

 

ただトーリだけは誰も称賛せず鼻で笑われただけだったり……

 

「皆……照れ隠しとかするなら分かるけど、そんなに俺の裸を見たところで面白くもなんともないと思うんだが……」

 

「そんな事はないぞ! 現に私は颯也の裸を売りさばく事で稼げるからな‼︎」

 

「シロくんホントに腹黒〜。でもシロくんの言う通り、颯也くんの裸って今までなかったからすごく貴重なの! いくら盗撮しようとしても、颯也くんとても隙がないからそんな写真これまでに撮れなかったし……。それを私達が運営している『愛護颯也くんファンクラブ』で、今撮ってる写真を売ったら凄く利益が出るわ‼︎」

 

「えっ? なにそれ? 俺初耳なんだけど?」

 

「そぉ〜? でも多分だけど、私が知る限りでは梅組の女性陣はほとんど会員だと思うけど〜?」

 

「えっ? そうなの皆?」

 

心あたりあるは人は皆颯也さんから目を背けたと言います……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方……

 

「最新情報『遂に彼の体が明らかに⁉︎ 撮影次第愛護颯也の上半身裸写真を公開! ただし購入者限定。そして抽選で1,000名様には愛護颯也直筆サイン入り‼︎ 次報を待て!』……全く良くやるわ。それに颯也がこれに無理矢理付き合わされて無かったら良いんだけど……」

 

成実は颯也の身を案じていた。

 

「……1枚ぐらいは、買っておこうかしら」

 

案じていた割に写真は買うそうです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、それは今は良いとして……颯也、何かポーズしてよ! 史上最高に格好良く描いてあげるわ‼︎」

 

「ど、どんなポーズを取れば良いのか……」

 

マルガさんの要望に、颯也さんは真剣に悩んでいました。

 

「おっ! なら俺も格好良く描いてくれよ‼︎」

 

「総長を……カッコよく?」

 

「あぁっ! ヒッデェ‼︎ なんでそこで首傾げんだよ⁉︎」

 

「えぇいっ! 邪魔だ馬鹿‼︎ 颯也の周りに映り込むな‼︎」

 

「ごめんね総長。でも本当に邪魔だからしばらくどいててね?」

 

皆は裸の総長を無関心どころか邪魔者扱いしてました……

 

「くっそぉ〜! 颯也ばかりちやほやされやがってぇ〜‼︎ こうなったらこの格好で教導院中走り回ってやるぅ‼︎」

 

「トーリ! その格好は幾ら何でもダメだ‼︎」

 

「うるせぇ! ほっといてくれよぉ〜‼︎」

 

颯也の静止も聞かず、トーリは教室から走り去ろうとしてドアを開けた。

 

「ん? おぉっ! マロに東じゃねぇか!」

 

それに最初反応したのがオリオトライだった。オリオトライはトーリを教室の中に引きずり込む。そして開きっぱなしになっていたドアを閉めた。

 

 

 

 

 

 

ー●◯●ー

 

 

 

 

(教育上よろしくない物を見せられた様な……)

※いえ、その見解は正しいです。

 

「ヨシナオ教頭、さっきのは一体……」

 

「東くんは全く気にしなくても良いとまろは思う。いや、気にしないで欲しい」

 

「は、はぁ……」

 

どうやら納得はしてくれた様である。にしてもこの梅組は全く! どうしてこうなのだ‼︎ いや、インポッシブルがいる時点で既に授業崩壊していてもおかしくはない……

 

(あぁ〜〜〜っ‼︎ そう思っている時点で既にまろも諦めているではないか〜〜〜‼︎)

 

ヨシナオ教頭は頭の中で物凄く葛藤していました……それを知らない梅組はというと

 

『あっ? なんだよ先生いきなり引き戻して? ひょっとして先生は颯也の上半身裸よりも俺の全裸を支持してくれるんだな⁉︎ なんだよ〜、それならそうと最初から言ってくれよぉ〜!』

 

『違うわ馬鹿っ‼︎』

 

『ぐっ!』

 

『『『そ、颯也(くん)⁉︎』』』

 

どうやらトーリがオリオトライに殴られそうになったところを、また颯也が庇った様で……そして壁が破壊され隣のクラスからは

 

『と、特務師団長の愛護颯也⁉︎』

 

『どうして壁を貫通して……しかも上半身裸だと⁉︎』

 

『キャァーーーッ‼︎ 愛護さまだわ‼︎』

 

『しかも上半身裸よぉー‼︎』

 

(と、特務師団長の愛護颯也が隣のクラスに⁈ しかも上半身裸とは一体何がどうなっているのであろうか⁉︎)

 

ヨシナオ教頭も彼の事はよく耳にする。彼は……真面目な生徒の1人で、学業以外ではよく働いている姿も度々見かける。働いている姿もいたって真面目……実際に仕事ぶりも間近で見ていたから分かる。彼は武蔵のためにとてもよく働いてくれる。

 

(なのに彼が授業中に上半身裸……何か訳があるに違いないのであるな)

 

ヨシナオがそう思っていると、梅組の教室からオリオトライが慌てて出てきた。

 

「あっ、ヨシナオ教頭! すみません! うちのトーリが迷惑かけた様で……それと東ももう来てたのね。後で部屋割り教えるから。それじゃあちょっと失礼します!」

 

と言いながら隣のクラスへ……

 

『颯也! 大丈夫⁉︎ って……あれ? 颯也は⁉︎』

 

『さ、さっきまでいたはずなんですけど……っ⁉︎ あれっ⁉︎ 壁もいつのまにか直ってる⁉︎』

 

(わ、訳が分からぬのである‼︎)

 

「やぁ東、もうそろそろ来る頃だと思っていたよ」

 

「うわっ! ま、愛護くん⁉︎ いきなり後ろから現れたからビックリしたよ! 久しぶりだね」

 

「あぁ、久しぶりだ。それでヨシナオ教頭、毎度いつものごとく騒がしくて申し訳ない」

 

「あっ……いや、うむ。教室の前から聞こえていたのだが……何でも愛護くんが上半身裸だった……と聞いたものでまろも驚いたのだ。しかしながら愛護くんの事だ。何かの間違いであろう。いつのまにまろ達の後ろに立ったのか見当も付かぬが、いつもの服装であるし……」

 

「いやぁ……それが事実でしてね。なんかトーリの厳罰表に勝手に俺が脱ぐ事が書かれてて、それで皆も盛り上がって授業になりそうにないなと思ったので、上半身裸でならという条件の下脱ぎました」

 

「そ、そうであったのか……。し、しかし君は授業を止めないためにした事なのだろう? ならばそれは……ダメではあるが致し方無いのであろうな」

 

「本当に申し訳ありません」

 

「なに、君が悪いわけでは無いのだ。いつもの様に堂々としていなさい」

 

「ありがとうございます。では、俺は授業に戻らせてもらいます」

 

「うむ。今日も勉学に励むと良い」

 

「はい。じゃあ東、行こうか」

 

「う、うん!」

 

東は颯也に手を引かれて梅組の教室に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー●◯●ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午前9時頃 青雷亭(ブルーサンダー)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこではいつもの様にp01sが柄杓で水を撒いていた。そんな時……

 

〈オミズ ホシイノ オミズ プリーズ?〉

 

側溝から黒いお饅頭の様な生き物が数匹現れた。その生き物にはちゃんと2つ目もあり、意思疏通も普通に出来るようだ。

 

「お水が欲しいのですか?」

 

〈カラダ カワクノ オミズ チョウダイ?〉

 

「分かりました」

 

そのくらい饅頭の様な生物、黒藻の獣はp01sに水をかけられる。かけられたことによって体も少し潤った様だ。その調子でp01sは、側溝から出てくる黒藻に水をかけていった。

 

〈アリガトウ デモ ドウシテ?〉

 

「どうしてとは?」

 

〈ジブンタチ タスケテクレタノ ホカノヒト ミタラ イヤナカオ スルノ〉

 

黒藻達はそう言う。それにも理由がある。武蔵は航空都市艦であり、ほとんど空を進んでいる。そのため食料自給率は少なく、また生きて行くために必要な水もリサイクルしていかなくてはならない。そこで黒藻の獣が登場する。彼ら彼女らに性別があるかどうかは分からないが……ともかく汚い水を綺麗な水にしてくれる存在なのだ。そのために、あまり側溝から姿を表すことはない。そして汚い水を綺麗な水に変えるという事は……自分達が汚物を引き受けているのだ。だから臭いも凄く、住民からは好かれてはいない。

 

「jud。そういう事でしたか。ですがp01sが思いますに、あなた達は私達が出した汚物を引き受けてくれているのです。ですから、助けるのは当たり前だと思います」

 

〈アリガトウ ソウイッテクレテ〉

 

「いいえ。それにあなた達を助けるのは私だけではないと思います。特に……愛護さまはあなた達を助けるイメージがありますが」

 

〈ウン マナモリ イツモタスケテクレルノ ジブンタチ ニオイトカ スゴイトオモウノニ ソンナコトキニシナイデ タスケテクレルノ〉

 

「jud。愛護さまはそういうお方です。私p01sも胸を張れます。エッヘン」

 

〈エッヘン エッヘン〉

 

そんな、いつのまにかコントの様な雰囲気になりつつあるp01sの元に来客が……いや、p01s達の前で倒れた。

 

「うぅ……」

 

他の人の登場に黒藻達は急いで側溝に、そしてp01sは……

 

「……」

 

倒れている人を見つめた後、青雷亭の中に入り……

 

「店主さま、道端に正純さまが状況的に餓死寸前で倒れています」

 

その報告をいつもの様に普通に、淡々と報告していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちょっとここらで解説しておきたい事があります。

それは、原作にもない特務師団長という、本作でオリ主の肩書きとなっている役職の事です。まぁ特務と付いているんで、一応総長連合には入っているんですけど、ぶっちゃけ言えば雑務とかが多いですね。そのイメージで書いてます。

それと特務師団長はどこから持ってきたかと言えば、テイルズオブジアビスから持ってきました。なんか格好良いなと思って……

まぁ簡単に解説は終わらせていただきますけど、正直早くホライゾンを助けるシーンとか書きたいなと思ってます! とりあえずそこまで頑張りますんで、よろしくお願いします!


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4話 どっちが早く書けるか競争しようぜ‼︎ byトーリ →結果は惨敗

あぁ……4日ぶりに投稿できました! にしても早く戦闘シーンを入れたい‼︎

「あと少しで入れれるような気がするが……取り敢えず物語を見て欲しい」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午前10時 青雷亭

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コップの中に入った水を飲み干す。冷たい感触が乾いた体の中を駆け巡る。

 

(生き返った〜!)

 

「うん! もう大丈夫みたいだね」

 

「す、すみません……毎回助けてもらって……。このご恩は、ちゃんと良い政治家となって恩返しをさせていただきます!」

 

「あらあら、そんな事は別に構わないさ! それより正純さん、少し良い職を見つけてちゃんと食べた方が良いんじゃない?」

 

「た、確かにその通りなんですが……」

 

しかしうちには門限とかあるし、父上も今のバイトならと許してくれたのだ。だからバイトは変えようが無いし、増やす事も言語道断で許してはくれないだろう。

 

「にしても正純さん、将来政治家を目指すのに副会長だろう? どうして生徒会長にならなかったんだい?」

 

「……私はまだ武蔵に来て1年目という事もありましたし、生徒会長には葵が立候補していましたから。1年目の私よりもずっと武蔵にいる葵の方が武蔵の事は分かっているだろうと思って」

 

「いやいやそんな事ないさ! あいつは昔から馬鹿だしね。それで今日はこれからどうするんだい?」

 

「jud。午後からは酒井学長を関所まで送り届けます。その前に母の御墓参りに行こうかと」

 

「へぇ〜。やっぱり役職持ちの子達は大変だね〜。あっ、それとはいこれ。昔トーリがよく食べていた奴だよ」

 

「えっ? 良いんですか?」

 

「勿論さ。私としては正純さんにはちゃんとご飯は食べて欲しいしね!」

 

「ほ、本当にありがとうございます!」

 

「良いって事さ。そういえば正純さんってトーリ達とはどうなんだい?」

 

「えっ? そうですね……私としては、まだまだ距離が開いている感じがして」

 

「そうかい。まぁ1年前に来たばかりじゃねぇ……そういえばトーリも1年前からまたここに通いだしたね〜」

 

「トーリが、ですか?」

 

「うん。10年前はよく来てたんだけど、ある事がきっかけでパッタリとこなくなってね〜。でも1年前、武蔵の戸籍は持ってるけど迷子の自動人形を預かり始めてからまた来る様になったんだよ」

 

「p01s……の事ですよね?」

 

「そうさ。案外トーリの奴もp01sの事が気になっているのかもしれないね〜」

 

「トーリが……p01sを⁈ まーたマニアックな……」

 

「ふ〜ん? その反応を見ると、トーリの事はそこまで嫌いじゃなさそうだね?」

 

「えっ? えぇ、まぁそうですね。あいつ元気だけは良くて、それで授業中も騒いだりして……それを毎回颯也が止めたりして」

 

「あっはっはっ……全く昔と変わらないねぇ!」

 

「えっ? 昔もそんな感じだったんですか?」

 

「あぁそうだよ。トーリが何かやらかせば颯也が止めて、そして後始末も颯也がやる……幼馴染でもあったからそれがいつしか当たり前の光景になっていたねぇ」

 

「そ、そうなんですか……昔から颯也は大変だったんだな」

 

「本人からしてみれば全く大した事じゃなかったさ。そして今も昔とは変わらず、武蔵や皆の為に働いたりしてね。それで毎朝必ずうちに寄るんだよ。10年前と変わらずね」

 

「そ、颯也もここに寄っているんですか⁉︎」

 

「あぁそうさ。にしても正純さん、何だか私が思うに颯也の事を気にしているね? もしかして好きなのかい?」

 

「えっ……な、なぁっ⁉︎」

 

「あははははは! 分かりやすいねその反応は!」

 

「い、いえ違うんです! これはその……いつも颯也は私の事を助けてくれますし、それ以外にも彼は武蔵で働いてる姿や誰かを助ける姿を見かけるので……だからその……ありがたいんです。でも心配というか……」

 

「なるほどね……。ねぇ正純さん、トーリや颯也、それに皆ともっと仲良くしたいと思わないかい?」

 

「えっ? そ、それはまぁ……」

 

「なら後悔通りを調べてみると良いよ。そうすれば、彼らに一歩踏み込めるから……」

 

「は、はぁ……」

 

(後悔通りか……確かになんであんな名前が付いているのか私はまだ知らない。酒井学長を三河に送り届けたら行ってみようかな)

 

正純さんの中で今日の予定がまた1つ増えました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー●◯●ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後12時時32分 教導院前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教導院前の階段でほとんどの梅組の生徒が座りこんだりして何らかの会議をしていた。

 

「これから総長連合会議、総長の告白を成功させるぞ! 会議を始めます。それじゃあまずトーリくん」

 

生徒会の書記であるネシンバラが通神枠を開いて司会をし始める。そして振られたトーリは……

 

「う〜ん……なぁ点蔵、お前告る事だけは数こなしてるだろう? なんかアドバイスくれよ」

 

「ああれぇ〜⁉︎ なんか自分色々と否定されてござらんかぁ⁉︎」

 

「まぁまぁそんな事は良いからはよ」

 

「そ、そんな事……ま、まぁ今は良いで御座る。それでアドバイスで御座るな? そうで御座るな……やはりここは手紙作戦に御座る」

 

点蔵はいつのまにか取り出した紙冊子とペンを取り出し、トーリに渡した。

 

「ん? 紙とペンで何を?」

 

「相手の好きな長所を書き連ねるので御座るよ。そして手紙にして渡す。そうすれば万が一告った時でも手紙を渡せば自分の真意は伝わるという算段に御座る。それに告る時の心情は、ほとんどの者が緊張するもので御座ろう。大事な場面で噛んだとあっては、雰囲気は一気にただ下がりでおじゃるから……」

 

「噛んだ……」

 

「噛みましたね……」

 

「か、噛んでないで御座るぞー⁉︎」

 

「ん? それならさっきの点蔵の語尾は新しく作ったものなのか? それならこれからの格好は忍者の格好じゃなくて平安貴族の正装のような格好をしないとキャラがブレるんじゃないか?」

 

(て、天然の返しが来たで御座る……)

 

颯也さんはそれに対して真面目に答えていたといいます……。そんな颯也さんが今何をしているかというと……

 

「にしてもサイン1000枚か……」

 

先程教室で撮影された自分の写真にサインをしていました……

 

「ごめんね颯也くん。でも見てこれ! 『愛護颯也くんファンクラブ』でさっき撮った写真の予約を受け付けたらこんなに応募が来たの‼︎ 皆の為、そして私とシロくんのために力を貸して欲しいの!」

 

「ま、まぁサインするのは構わないけど……今度から相談してほしいな」

 

「うん! でもその代わりと言ってはなんだけど……私に出来る事なら出来る範囲で颯也くんのお願い聞くよ?」

 

「いやいや⁉︎ 俺は別に見返りは求めてないんだけど……」

 

「もぅ……またそんな事を言ってぇ〜。それだったら私が嫌なの!」

 

「と言われてもな……なら、ハイディさん。君が俺に対して臨む事を叶えるというのは? まぁ俺の出来る範囲でだけど」

 

「あれ? それじゃあなんか逆になってない?」

 

「別に良いさ。俺は元々見返りを求めるなんてしないし……でもハイディさんがそれじゃ嫌だと言うのなら、貴女が俺に求める事をした方が早いかなってさ」

 

「颯也くんって〜……結構頑固だよね?」

 

「そう……かな?」

 

「そうだよ? でもそうね〜……颯也くんがそう言ってくれるなら、今度私と1日一緒に過ごしてくれるかな〜、なんて」

 

そのハイディさんが放った、まるで冗談のように言った一言が梅組の、特に女性陣の耳を一斉に傾かせてしまいました。

 

(じょ、冗談ですよね?)

 

(うふふ、ハイディったら守銭奴だけじゃなくて颯也にまで手をつけようとして……いけない子だわ)

 

(でもさっきの会計補佐の発言、最後になんてって付けてますから私としては冗談で言ったと思うんですが?)

 

(颯くんと1日……)

 

(颯也と一緒にいたら……何年分でもネームがきれるわ‼︎)

 

ハイディさんのその発言が冗談だと思う人もいれば、喜美さんに至っては少し嫉妬していたようです。しかしながら……

 

「俺の都合のつく日で良いなら、構わないよ」

 

(((……えっ?)))

 

「……えっ? 良いの? 私としては、おはようからおやすみまで一緒に過ごして欲しいって意味で言ったんだよ? それでも良いの?」

 

「良いよ。それがハイディさんの求めるという事なら」

 

「あぁ〜……うん。それじゃあ都合のつく日が分かったら連絡してね?」

 

「jud。分かったよ」

 

(冗談のつもりで言ったんだけどなぁ……)

 

正直ハイディは、さっきの発言の最後に、なんてを付けたように冗談のつもりで言ったのだ。だがしかし……この男には冗談なんて通じてはいない。それどころか本気で捉えて真面目に捉えている始末……

 

(でも、颯也くんと一緒に1日過ごせるのは、私もとても嬉しいんだよねぇ〜。彼の嬉しそうな顔とか恥ずかしそうな顔とか、いつもよりいっぱい見れそうだし)

 

ふふっ、嬉しいなぁ〜

 

「ん? 何か言った?」

 

「いいやなにもぉ〜? ところでそろそろサインを書いて欲しいんだけど……」

 

「あぁ、そうだったね」

 

「おぉっ? 颯也も何か書くのかよ?」

 

「ん? まぁちょっとね」

 

「ならよ、俺が相手の好きな所を書き連ねるのと颯也の書くやつ、どっちが早く終わるか勝負しようぜ?」

 

と、トーリは颯也にいきなり早書き競争を挑んでくる。だがトーリは知らない。自分は高々数文字数行で終わるのに、颯也は漢字4文字だけだがそれを1000枚に渡って書かなければならないという事を……

 

「それで負けた方は勝った方の言う事を何でも聞くって事で!」

 

しかも無茶振りまで提示して……

 

「なら今から行くぜ! よーいスタート‼︎ う〜ん……何から書こうかなぁ〜」

 

しかも相手の承諾を得ず勝手にやり始める始末……

 

「そ、颯也殿! 自分達も何が何やらで御座るが、このままではトーリ殿の方が先に書き終わってしまうで御座る‼︎」

 

確かに点蔵の言う通りだ。俺としては承諾もしてないのに……

 

(まぁ今更なんだよなこんな事……)

 

そう、これは昔から変わらない。だから諦めていつのまにか始まった競争に付き合うしかない。

 

「まぁ付き合うなら付き合うで本気でいかせてもらおう……」

 

まずは両手をパーの状態で前に突き出し……

 

「1、2、3、4……」

 

指を右手の小指から順に次の指へ次の指へと左方向に畳んでいく。

 

「7、8、9、10……よし、準備運動終わり」

 

そしていつのまにか右手に万年筆を取り、目の前の通信枠に映る自分の写真に物凄いスピードでサインを書き込んで行く。

 

「は、はやっ⁉︎」

 

颯也の事を心配していた点蔵もその早さには驚きを隠せず……

 

「う〜ん……よし、まず1つ目は、顔のパーツがかなり好みで上手く言葉にできn「書き終わったよハイディさん」……ほへ?」

 

数秒でその競争に片がついた。

 

「え、えぇっと……か、確認するから少し待ってね?」

 

ハイディは、隣で数秒のうちに1000枚の写真にサインを書き終えた颯也に対して戦慄を覚えた。そして驚きも勿論した。その驚いた感情のままハイディは颯也から送られた通神に目を通して行く。結論……

 

「ぜ、全部……1000枚全部に颯也くんのサインがある⁉︎ しかも微妙に違うやつがあったり横とか縦とか斜めとか違う書き方があったり……な、何か術式を使ったの⁉︎」

 

ハイディさんの疑問も勿論のことでした。何せそのサインは本人が隣で書いていたのだから……しかし

 

「術式? いいや、術式などは使わずに自分の手だけで書いたよ」

 

颯也さんは笑みを浮かべながらその一言を述べたといいます……

 

「た、確かに術式を使えば何らかの効果が書かれた術式枠が出てもおかしくない……それに限定的な部分に限れば間違いなく出てくるはず。私もずっと隣で見てたから見落としなんて無いし……」

 

ハイディは頭の中で考えた。考えてはみたが……

 

「まっ、いっか! 私とシロくんが儲けることができれば」

 

この少女も結構な腹黒度合いだった……

 

「それで颯也くんにもう1つ頼みたいんだけど……ここ押してくれる?」

 

「ん? これは?」

 

「さっき颯也くんに書いてもらったサイン入り写真なんだけどね。抽選で1000名の人に当たるようにしてるの。それで颯也くんにはこのボタンを押して抽選して欲しいんだ。1回押すだけ良いから」

 

「ま、まぁそれくらいなら……」

 

颯也はハイディの通信枠で『抽選』と書かれている所を押した。すると枠の中の画面が動き出し、次々と抽選に当たった人達の情報が横読みで上から順に表示されていく。中には武蔵の教導院や住民だけでなく、他国の教導院や住民の所属まで掲載されていった。

 

「な、なんか武蔵以外に住む人達の情報まで上がってるんだけど?」

 

「それは勿論だよ! だって颯也くんとても人気だもの‼︎」

 

「人気って……そんな誰とも知らない馬の骨を……」

 

「ふふふ、颯也くんはねぇ〜……ちょっと、いや大分自分の事をおざなりにし過ぎだと思うのよね〜?」

 

「えっ? そうかな?」

 

「うん! だって、他の人のためだったら何の見返りもなく助けているけど、自分の事は犠牲にしてるし、何より他人優先だよね〜?」

 

「た、確かに俺は他の人より自分の事は後回しにしてるけど……」

 

「確かに美徳ではあるんだけど〜……それは嫌だって思う人も多くいるんだよ? 特にこのファンクラブに入ってる人はね? もっと自分の事を大事にして欲しいって思っている人達も多くいるはずなんだよ〜? 私もその内の1人だけどね?

 

「……でも俺は、この生き方に慣れちゃったからな。あの日から……」

 

「それでも皆、貴方に無理してほしくないと思ってると思う。それにね……」

 

ハイディは颯也の髪に手を伸ばす。そして髪の先……片方のルンに優しく触れた。

 

「私も、颯也くんに無理してほしくないんだよ?」

 

少し赤面しながら、ハイディは颯也のルンを撫でた。

 

「っ⁉︎///」

 

「ふふっ、照れてる照れてる。可愛い♡」

 

カシャッ……と、颯也の顔を撮影した。

 

「ま、全く……からかわないでもらいたい……」

 

「からかってないよぉ〜? さっきのは私の本音だもん!」

 

(それにこの写真は誰にもあげないもの)

 

目をスッと細めた笑顔でそう思った。

 

「そ、そんな事を率直に言われたら……照れてしまうではないですか……ん? んんっ⁉︎」

 

照れた顔が見えないようにハイディから抽選途中の通信枠に顔を向けた。その時、見知った情報が目に入った。

 

(だ、伊達教導院……不退転……って、な、成実さんもまさかファンクラブに入ってたのかよ⁉︎)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、新しい着信が来てるわ……ふふっ、当選するのは当然よね。なんって言っても、私が1番のファンだもの」

 

成実の通信枠の1番上の方……『愛護颯也ファンクラブ』の会員番号が載ってある。そして彼女の会員番号は……No.1。そして愛護颯也応援会長の役職に就いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(身近な人もいつ出来たか分からない俺のファンクラブに入ってた……)

 

「そ颯也くん? どうかしたの?」

 

「えっ? 嫌なんでもないよ」

 

「おいおい! さっきまでの真剣な競争の雰囲気はどこ行ったんだよ〜⁉︎ それに俺まだ全部書けてないんだぞ〜‼︎」

 

(((まだ書けてなかったのか……)))

 

「それにいつのまにかイチャイチャした雰囲気出しやがってぇ〜!」

 

「そんな事を言われてもな……」

 

「ともかく続けるぞ! 顔のパーツがかなり好みでよく言葉にできない。しゃがむとエプロンの裾からインナーがパンツみたいに覗けて上手く言葉にできない。ウェストからお尻にかけてのラインが好みで、上手く言葉にできない。う〜ん……中々難しいなぁ〜」

 

「む、難しいと言っておきながらスラスラ書いているで御座るよ⁉︎」

 

「それに殆どがセクハラまがいじゃないか……」

 

「待て待てぇい! その箇条書き……トーリにしては大事な事が抜け落ちているぞ?」

 

そこでウルキアガが口を挟んだ。

 

「お主オッパイ県民のくせに、肝心のオッパイの事について書いてないぞ?」

 

「「「あぁっ‼︎」」」

 

その発言に皆が確かにと同調した。

 

(でも結局はそれもセクハラ……)

 

颯也だけは手で顔を覆っていた。

 

「確かにオッパイソムリエのトーリくんがそれに言及しないなんて……」

 

「いつも誰彼構わず言ってるのに、好きな人に対してはヘタレ?」

 

「う〜ん……あっ」

 

そこでトーリは何かを思いつき、再び紙にペンを走らせる。

 

オツパイ(オッパイ)は、揉んでみないと分からない……っと」

 

「うふふっ、素晴らしいわ愚弟‼︎ オパーイに関してはいい加減はできないのね‼︎」

 

「おう! 俺こう見えても真面目だからな! 適当な事は言わないぜ‼︎」

 

「それって真面目なのか? それとも変に悩んでる俺がおかしいのか?」

 

「そ、颯也くんは真面目に受け止めなくても良いんですよぅ〜?」

 

颯也は……もはやこの議論を真面目に考え過ぎ、悩んでいた。最終的には、悩んでる自分が変なのでは? 皆と同調できてない自分が変なのでは? と思い始めていた。

 

「にしても愚弟? 視覚情報だけじゃあ好きな相手の胸が良いかなんて分からないと思わない?」

 

「確かに……でも他の方法あるかな?」

 

「そんなの簡単よ……実際に相手の胸を揉んでみれば良いのよ‼︎」

 

「おぉっ‼︎ それだったら確かに相手の胸が良いのかどうか確かめられるな‼︎ 姉ちゃん頭いいけどやっぱバカだろ⁉︎」

 

「……俺はどうすれば良いんだ」

 

颯也さんは、心の中ではノックアウト寸前でした。

 

「それで愚弟、好きな人の胸を揉む前に近似してる胸を揉んでみるのが良いわぁ〜。ほら、噂をすれば……」

 

教導院の方から酒井学長と、酒井学長の付き添いで隣を歩いていたネイト・ミトツダイラが梅組の集会に近づいて来た。

 

「おぉ、こんな所でどうしたんだい?」

 

「学長先生。いやな、明日告ろうと思ってよ!」

 

「ほぅ? 明日告るのかぁ〜。それで? 告るというその危険な行為に及ぶ相手は誰なんだい?」

 

「ホライゾンだよ!」

 

トーリの告げた相手の名前に、皆は黙った。ただ颯也だけは、変わらないなぁ〜というような感じの顔になっていた。

 

「へぇ〜……お前さんもそう思うかい?」

 

「あぁ。明日で10年目なんだ。明日ホライゾンがいなくなって10年目って考えると、自然とそう思ったんだ! 別にホライゾンとは別人だとしても、俺は別に構わねぇ‼︎」

 

「ハハッ、そうかい。そんじゃ俺は、三河の昔馴染みに呼ばれてるから行ってくるが、正純に何か伝言はあるか?」

 

「それじゃあさ! 今日の夜8時にここで告白前夜祭やるんだけど、これるかどうか聞いてみてくれねぇ?」

 

「jud jud。あぁ、それと颯也」

 

「何ですか学長先生?」

 

「昔馴染みにさ、できれば颯也も呼んで欲しいって言われてたんだけどさ。来るか?」

 

「そうですね……前夜祭の諸々の準備が済んでから合流しても良いですか?」

 

「えっ? そんな事できるの?」

 

「まぁ大分遅くなるかもしれませんし、場合によっては来れないかもしれませんけど、どちらになっても連絡はします」

 

「ju、jud。分かったよ。そんじゃ俺は行くからな」

 

酒井学長は梅組に背を向けて歩き出した。そして後ろに向いたまま片腕を上げて梅組にバイバイと手を振った。

 

「そういえば愚弟? さっきの大切な件だけど……」

 

喜美が嫌らしい目線でネイトを見る。それにもトーリは気づき……

 

「あぁっ‼︎」

 

そして喜美は行動に移した。

 

「ねぇミトツダイラ。少し相談があるの。これは愚弟が明日告るのに必要な事なのよ」

 

「総長が明日告るのに必要な事……ですか?」

 

「えぇそうよ! でも武蔵の騎士たるミトツダイラには平民の恋心なんて分からないでしょうけどねぇ⁉︎」

 

「そ、そんな事ありませんわ‼︎」

 

よしっ!

 

ネイトが乗り気になった所で、喜美は後ろを向いて小さくガッツをした。

 

「武蔵の騎士たるもの、平民が困っているのならば迷わずに手を差し出しますわ!」

 

という事で結論……

 

「このネイト・ミトツダイラ! 総長の告白が成功するためこの胸を貸しますわ‼︎」

 

「「「おぉっ‼︎」」」

 

「……なんか嫌な予感しかしない」

 

「ほ、本当に良いんだな? ネイト」

 

「? えぇ。総長の告白が成功するように、武蔵の騎士たるこの私が! 総長に胸をお貸ししますわ‼︎ でもどうすれば良いんですの?」

 

「……そのままじっとしていてくれ」

 

「えっ? えぇ」

 

そしてトーリの指使いが怪しくなり始めた。

 

「ね、ネイトさん! トーリからにg「あら颯也ぁ〜? 愚弟の邪魔をしちゃ、ダ・メ・よ?」ふぐっ⁉︎」

 

トーリがこれからやる事がわかった颯也は、すかさず止めに入ろうとしたが、そこを喜美に遮られ、そして自分の顔は喜美の豊満な胸に埋もれた。

 

「うぅっ⁉︎ ふぐぅ!」

 

「あん♡ もぅ颯也ったら……くすぐったいわよ?」

 

「んんっ! むぅ〜っ⁉︎」

 

「ちょっと喜美⁉︎ 颯也くんになんって事をしてるんですか⁉︎」

 

「むぐっ⁉︎ うぅっ〜⁉︎」

 

「んあっ♡ 珍しく激しいわねぇ〜。まさか私の胸を吸いたいの? 颯也ならいつでもウェルカムよ♡」

 

「はははははしたないですよ喜美ーッ‼︎ これ以上颯也くんを穢さないで下さいーっ‼︎」

 

「んふっ、もう少し正直になっても良いのよ淫乱巫女? 颯也をこんな風に、自分の大きなオッパイで包みたいって……」

 

「だ、誰が……」

 

(でも……颯也くんが私の胸に……)

※ここからは浅間さんの妄想モードに突入します……

 

 

 

 

 

 

『あ、浅間さん……本当に良いのかな?』

 

『えぇ、颯也くんなら……私の胸に顔を埋めても良いですよ?』

 

『だ、だがやはりというか……恥ずかしいな……』

 

『ふふっ♡ その様ですね? なら……私の方から行っちゃいますよ?』

 

浅間さんは颯也さんの頭を自分の胸に引き寄せる様に抱き締めました。

 

『っ⁉︎///』

 

『ふふっ……あぁ、颯也くんの髪はとても綺麗ですね。少し妬いてしまいます』

 

『そ、それだったら……浅間さんの髪の方がよっぽど綺麗だよ?』

 

『そ、そうですか? でもそう言われてとても悪い気はしませんね。むしろとても嬉しいです。そう言ってくれた颯也くんにご褒美をあげますね? ヨシヨシ』

 

『っ⁉︎/// そ、そんな事されたら……』

 

『眠いですか? 良いですよ? このまま私の胸の中で眠っても……』

 

『……なら』

 

そして颯也さんは浅間さんの胸の中で眠りに落ちました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(とても良いですねぇ♡)

 

目を細め、頰に掌を当てながらそんな妄想に耽っている浅間さんがいました。顔は赤面し、そして微妙にクネクネしていました……

 

「んふっ、やっぱり淫乱巫女ねぇ?」

 

「はっ! ちちち、違いますよぅ〜? 淫乱じゃないですよぅ〜? って喜美⁉︎ 颯也くんが⁉︎」

 

「えっ?」

 

浅間に言われ喜美は、自分が抱き締めている颯也を見た。すると……

 

「……」

 

手足をダラーンとさせた颯也が、喜美に抱きしめられながら気を失って(眠って)いた。

 

「あらあら……よっぽど疲れていたのね? 今だけこの賢姉の胸は……颯也の枕になってあげる♡」

 

そう言いながら喜美さんは颯也さんの頭を撫でていました。

 

そしてトーリさんは、ネイトさんの胸をモミモミしてました……

 

「はわっ⁉︎ はわわわっ……」

 

「静かにしていてくれネイト……う〜ん」

 

ネイトは顔が沸騰したかの様に赤くなり、それを知ってか知らずかトーリはネイトの胸をモミモミと揉む。

 

「んふっ、愚弟?」

 

「ど、どうで御座るか⁉︎」

 

トーリはネイトの胸を揉むのを止めて振り向き……

 

「おう! ノーブラだったぜ‼︎」

 

トーリは自信満々に言った。

 

「ありがとなネイト! これで俺明日の告白上手くできそうな気がするぜ‼︎」

 

「……の」

 

「へっ?」

 

「このバカァっ‼︎」

 

ネイトは誰から見ても怒った形相だった。そして胸を触ったトーリに対して裏拳をお見舞いしようとする。誰もが、トーリはそうされて当然と思う人もいたが、ネイトの裏拳があまりにも早かったのでほぼその場の全員が対応できなかった。しかし……その中に1人だけ対応ができる者がいた。

 

「うぐぅっ……」

 

それは、喜美の胸によって意識を無くしていた颯也だ。颯也はいつのまにか喜美から離れ、トーリを庇っていた。だが庇った颯也はその時も意識はなかった。

 

「そ、颯也っ⁉︎」

 

裏拳をかましてしまったネイトも、殴った後に我に帰ったがその時には遅く……殴られた颯也は教導院の階段を回転しながら登り……教導院の屋上あたりの壁にのめり込んだ。

 

 

 

 

 

 

その一方では……

 

「私だけの特権が勝手に奪われた感じがするわ……」

 

「成実? どうしたんだ? なんか怖いぞ?」

 

成実さんがいつもの顔ですが……内心は自分の特権が勝手に奪われた気がしてカンカンに怒っていた様です……



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5話 愛護颯也くんファンクラブは結構盛況です。

「作者よ……今回は書くまで結構かかっていたが……どうした?」

え、それはですね……

「なんだ? 言いにくいのか? いつもの様にアプリのイベントか? それにしてはf○oのイベントは陽炎の塔を踏破してなかったようだが? それにば○ドリも中途半端だったよな?」

……

「はっきり言ったらどうだ?」

仕方ないじゃ無いですか‼︎ だってモンハンが発売されてからハマってしまったんですから! いつのまにか昼の2時から深夜2時までぶっ通しでやってましたよ‼︎ 俺もビックリですよ!

「……そうか。まぁハマるのは仕方がないが、健康には気をつけるよ? という事で5話はじまります‼︎」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午前10時48分 武蔵墓所

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(こ、根拠はないがとてもおいしい場面を逃した気がする……⁉︎)

 

「どうかされましたか? 正純さま」

 

「あ、あぁ……何でもないんだ」

 

「そうですか。しかしながら、正純さまが何かを感じ取られたのでしたら奇遇ですねと思ったので……」

 

「奇遇? それは?」

 

「 jud。それは……何かおいしい瞬間を見逃してしまったような……そんな感覚に陥ったものですから、もしかしたら正純さまもp01sと同じ様な感覚があったのではと」

 

(な、なかなか勘が鋭い……)

 

正純がそう思っている中、静かな墓所にピロリンッ……といったような、この場には似つかわしくない音が響いた。

 

「ん? なんださっきの音は?」

 

「おや、どうやらお知らせが届いたようです」

 

「お知らせ?」

 

「 jud。p01sが興味を持った分野に対して、新しいお知らせが入った時は先ほどの様に音で知らせる機能を使っています」

 

「へぇ〜、p01sにも興味がある対象があるのか?」

 

「 jud。p01sは本を読む事が好きなので、新しい本が出た場合や最近になって人気になり始めた本が出た時などのためにこの機能を使っています。さて、今回は何が出たのでしょうか?」

 

そう言いながらp01sは通信枠を開く。今は墓所の手入れをしている最中だったが、p01sにとってはそれが優先事項だった様だ。それにしても正純は思った。魂から生まれる自動人形は、特に何かに対して興味を持つ事はほとんどない。自動人形にとって最善の行動を普段から取るまでで、やる事といったら掃除がほとんどだ。それが好きか嫌いかは別として……という認識だった。

 

しかし目の前にいるp01sはどうやら自分の思い浮かべていた認識とはどこか違うようで、本を読む事が好きな様だ。

 

(自動人形にも色々いるんだな……)

 

ふと正純がそう思った時だ。

 

「こ、これはっ……‼︎」

 

「な、なんだ⁉︎」

 

p01sが驚愕した様な声を上げた。正純としては、目の前の相手が急に声をあげた事に驚いた。しかしそれ以外にも驚いた事があった。それは……いつもほぼ無表情の顔のp01sが、本当に驚いている表情を浮かべていたからだ。正純はp01sが、いや自動人形が驚いた表情を浮かべているところを初めて見たのだ。

 

「悠長にはしていられません。早速予約をしましょう」

 

そしてp01sは通信枠の中にあるであるだろう表示を押した。

 

「そ、そんなに良い本が出たのか? できれば私にも見せて欲しいんだが……」

 

正純は、p01sが驚くほどのお知らせを見たくてたまらなかった。興味をそそられた。それが先ほどのp01sとの会話でもあった様に、本に対してだったらますます自分にも有益な事だ。確かに今自分が持っているお金は少ないが……それでもp01sが驚愕するほどの物だ。できれば生活費を削ってでも手に入れたいところ……だが

 

「いえ、残念ながら本についてのお知らせではありませんでした。ですがp01sにとってはとても有益なのです」

 

(ほ、本じゃない? ならp01sは何に対して驚いたんだ? ……気になる)

 

「わ、私もp01sが何に対して驚いたのか気になるんだ……だから出来れば教えて欲しい」

 

「jud。ではこれをご覧下さい」

 

p01sが正純に対して見せたお知らせ……それは

 

『遂に彼の体が明らかに⁉︎ 撮影次第愛護颯也の上半身裸写真を公開! ただし購入者限定。そして抽選で1,000名様には愛護颯也直筆サイン入り‼︎ 次報を待て!』

 

というものだった。

 

「な……なぁっ⁉︎」

 

「おや、正純さまも驚かれましたか。これは流石にp01sも驚きを隠しえません。というより赤面してしまう始末です」

 

それは『愛護颯也ファンクラブ』に関したお知らせだった。それに対して正純は……

 

(じ、自動人形であるp01sが他人を……しかも愛護に興味を持っているだと⁉︎ それになんだこれは⁉︎)

 

正純自身もこのファンクラブの存在を初めて知った。また、p01sが愛護颯也の事に対して興味を抱いている事も……

 

そして正純がp01sを見た時、驚いた。何故なら、目の前で自動人形であるはずのp01sが、本人が言った様に赤面しながら片方の手を自分の頰に当て若干モジモジしていたからだ。

 

(じ、自動人形が赤面しているだと⁉︎)

 

本日何度目の驚愕だろうか……。最初は朝起きた所から始まり、そして今では愛護颯也に関してのファンクラブの存在を知って驚き、また目の前の自動人形であるはずのp01sが赤面している……という事実を突きつけられた。

 

(ほ、本当にp01sは自動人形なのか? 私から見れば普通の人に見えるぞ⁉︎)

 

「そ、それで……そのファンクラブにはどうやって入れば良いんだ?」

 

正純さんも興味津々の様子でした……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても正純さまはよくここに来られていますね?」

 

「あぁ、これは母の墓なんだ。といっても遺骨はないから、思い出の品を遺骨の代わりとして埋葬しているが……それでp01sはいつもの様に掃除だよな?」

 

「jud。その通りです」

 

〈バレテナイ? バレテナイ?〉

 

「バレておりません。颯也さまが貸してくれた様な書物の中にもありました通り、私達の活動は完璧な隠密と言ってもいいです」

 

「いやバレてたぞ⁉︎ しかもさっきのファンクラブの下から!」

 

「な、なんと⁉︎ 完璧な隠密がバレバレだったとは⁉︎」

 

〈バレバレー バレバレー〉

 

「って、愛護から本を借りるのか?」

 

「jud。愛護さまはこの武蔵にあるかないかの書物を持っておられます」

 

「あるかないか?」

 

「jud。特にp01sが驚いたものは、それぞれ固有の能力を持った方々が多く存在する世界で、何も能力を持たないと診断されたいつも不幸人間の方が事あるごとに事件に巻き込まれてしまい、それでも諦めず熱血に生きていく……という物語です」

 

「な、何も能力も持たないのに事件に巻き込まれてしまうのか⁉︎ く、苦労人だな……」

 

「p01sもそう思います。ですがその方には、他の方には真似できない事があります」

 

「そ、それは?」

 

「どこまでも真っ直ぐで熱血なところと、他人の能力を右手で無効化できるという事です」

 

「ちゃんと能力あるじゃねぇか‼︎ しかもなんだその最強能力⁉︎」

 

「は、は、は……そうですね。ところで話は戻しますが、正純さまがよくここに来るあたりお母様の事が好きなのですね?」

 

「急にシリアスが入った⁉︎ ま、まぁいいや。そうだな……私と母は、去年まで三河で過ごしていたんだ」

 

そして正純は今まで誰にも語らなかった事を語った。父の襲名が失敗に終わり、代わりに自分がその父の襲名しようとした人物である息子の正純を襲名するために、胸を削り男として生きる手術を受けようとした事。だがその手前で今の三河の君主である松平元信公が家臣の出払いを命じ、それに該当した家臣の役割は全て自動人形が引き継いだ事による苦い経験。家族は離れ離れになり、母とは暮らしていたものの、その母も公主隠しという神隠しに遭って今現在に至る事。語るうちに正純の目からは涙が出ていた。

 

「すまない……格好悪いよな? 人前で出す涙なんて……」

 

「いいえ、特にp01sはそう思いません。特に颯也さまに至っては……『人前で泣く事の何が悪い? 悲しいから泣く。嬉しいから泣く。人には感情があるからこそ泣けるんだ。だからどこだろうと、泣きたい時は泣けば良い。それが人とし真っ当な生き方だと思うから』と、以前p01sがとある物語での出来事を質問した際に言ってました」

 

「……とても颯也らしい回答だな」

 

「jud。p01sもそう感じました。そして今p01sの中で疑問に思っていた事が解決されました」

 

「jud。それは?」

 

「正純さまは趣味で男装をしているわけでは無かったのですね?」

 

〈ヅカ? ヅカ?〉

 

(いやちょっと待て⁉︎)

 

シリアスな雰囲気がp01sさんのその一言で彼方へと吹き飛びました。それと同時に武蔵のステルス航行が解除され、本物の景色が見える様になりました。

 

因みにステルス航行とは……武蔵が地上に住んでいる方々が驚かない為に、武蔵を透明化しながら空を移動する術式の事です。これは午前10時の時点で発動されていました。そして三河が十分近くに来たので現時点でその術式は解かれました。また、この記述がここに来て初めて出たのは作者が忘れていたからではないという事をご理解下さい……

 

「いや作者‼︎ その事絶対忘れていただろ⁉︎」

 

「どうしたのですか正純さま? 急に空に向かってのツッコミは……」

 

「なんか訂正しときたい事があったから、訂正したまでだ。ん? あれは元信公の船か?」

 

そんな場面があった矢先、武蔵の上を一隻の小さな輸送艦が出迎えた。それは、三河現君主である松平元信に所属する船だった。

 

『やぁみんな! 元気にしていたかな?』

 

急に武蔵の住民の前に通信枠が開かれ、通信を開いたとされる人物が語りかけて来る。特徴は、普通の眼鏡をかけた壮年、アメリカの大学で卒業生がかぶる様な学生帽を被った人物だった。その声から発せられるのは、どこぞのダンディなおじさまの口調を元気そうな感じで発していた。

 

『今日は武蔵のみんなに素敵な花火を用意しておいたよ。今日の8時頃を予定している。とりあえず本日の授業はこれまで!」

 

かっこ良く元信がポーズをとりながらそう告げた途端、通信は閉じられた。そして武蔵の上を飛んでいた輸送艦は、武蔵と並走するのをやめて進み出した。

 

「全くあの方は……ってp01s?」

 

正純は元信のいつもの様な感じに呆れを滲み出す。しかし隣のp01sは、進みさる輸送艦に手を振っていた。

 

「観光客がやる様なことを……」

 

「船の下……あそこから私に向かって手を振って来るお方がおりましたので……」

 

「そ、そうか……」

 

それから正純は、p01sと一緒に自分の母の墓を綺麗にすると、午後から酒井を三河の関所までに送るため、そこでp01sと別れた。そして現在午後12時48分……三河関所に通じる峠道

 

「あ、あの……正純?」

 

「……jud」

 

「ど、どうしたんだい? そんなにショボくれて?」

 

「……落選したんです?」

 

「落選?」

 

正純の隣を歩く酒井は、落選という言葉を聞いて思った。何らかの正純が出した作品か何かが落選したのだと。それが政治関係のものだったならかなりショックだろうなぁ〜……と思っていた。

 

「それで……何に落選したんだい? おじさんじゃそんなに力になれないかもしれないけど、気分は晴れるかもしれないよ?」

 

と、いつもでは出さない様な先生風を吹かせて言った。だが実際の問題は……

 

「颯也の限定写真……落選したんです」

 

「……えっ?」

 

酒井にとっては予想外な回答だった。

 

「その……今日p01sから愛護颯也に関するファンクラブの存在を教えてもらって……それで今日丁度抽選会があったんで私も抽選したんですが、結果は残念で……」

 

(あぁ……あれかぁ〜)

 

それで酒井も合点がいった。というか颯也が知らない事を酒井が知っているのはどういう事なのだろうか?

 

(確か武蔵さんが言ってたやつだよなぁ〜。確か『愛護颯也くんファンクラブ』って名前の。俺が出る前に武蔵さんがやたらと興奮してたのがまさにそれってわけか〜)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

酒井回想中……

 

 

 

 

 

 

 

「皆さま、準備はよろしいでしょうか? これは誰が当たろうが外れようが文句無しです! ーー以上」

 

『『『jud! ーー以上』』』

 

「おや武蔵さんがそんなに気合を入れてるなんて珍しいね?」

 

「誰かと思えば……酒井学長でしたか。今は集中しています。少し静かに願います……ーー以上」

 

(うわぁ〜……あれは真剣な目だ〜……)

 

自動人形である武蔵は、いつも無表情故分かりにくいかもしれないが……いつになく真剣な目をしていた。

 

「それでは……参ります‼︎ ーー以上」

 

そして武蔵さんは真剣な目のまま、今出ている通信枠を押しました。すると通信枠の画面が変わり、抽選中の文字が出ていたといいます。

 

「それなに?」

 

「なに? とは? ーー以上」

 

「いやさ、武蔵さんがさっき操作してたの……」

 

「まさか……酒井学長ともあろう方がご存知無いのですか? ーー以上」

 

「えっ? 俺知ってて当然のやつなの?」

 

「はぁ〜……やっぱりダメ学長ですね。ーー以上」

 

「な、なんでそこまで言われなくちゃならないんだよ⁉︎」

 

「ともかく、先ほどの回答のヒントに対しては颯也さまに関係ある事と答えます」

 

「颯也に関係ある事?」

 

「……すぐに出ないところを判断すると、やはりダメ学長でしたね。ーー以上」

 

「なんか解せないなぁ……」

 

「そんな事はどうでも良いとして、私どもがやっていたのはこれです。ーー以上」

 

「どれどれ……えぇーっと、『愛護颯也くんファンクラブ』? へぇ〜、こんなのあったんだ」

 

「jud。数年前からあります。確か颯也さまが中等部に進学されたあたりからありますね。ーー以上」

 

「そんな時からか〜。すごいね」

 

「颯也さまの姉として、とても鼻が高いです。エッヘン‼︎ ーー以上」

 

「あぁ〜……」

 

酒井さんはそれ以上は何も言えませんでした……

 

 

 

 

 

 

 

 

そして武蔵さんの抽選の結果はというと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……した」

 

「武蔵さま……どうでしたか? ーー以上」

 

「私たちは残念ながら結果及ばず……ーー以上」

 

航空艦武蔵は、よくいえば8つの船が繋がっている。右舷は前から順に品川、多摩、高尾。左舷は浅草、村山、青梅。そして中央が武蔵野と奥多摩であり、それぞれの船には武蔵同様艦長たる自動人形達が指揮している。与えられた名前も任されている船の名前だ。その8つの船を統括で指揮する存在が武蔵なのである。

 

そして全ての自動人形は、武蔵同様『愛護颯也くんファンクラブ』の会員となっており、今日行われた抽選会にも全員が参加していた。先の会話の様に、武蔵野から青梅まで全員が抽選から外れてしまった。後は統括の武蔵の結果のみだ。してその結果が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やった! やりました‼︎ 当選しました‼︎ーー以上」

 

「「「おめでとうございます‼︎ ーー以上」」」

 

「これも皆様のおかげです! 早速共有しましょう‼︎ ーー以上」

 

「「「わーい‼︎ ーー以上」」」

 

因みに彼女達は、いつどこで何が起きたか、またそれに対する素早い対処を行うためにそれぞれの状況を共有できる。それは何から何まで様々なのだが……ともかく今は愛護颯也の上半身ヌード+サイン入りの写真が全艦に共有されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

酒井回想終わり……

 

(もし当たってたら喜ぶんだろうなぁ〜……それも見た事ない表情で)

 

「酒井学長? どうかしましたか?」

 

「ん? いや何でもないよ。でもさ、そのサイン入りじゃなくても颯也の写真は手に入るんだろ?」

 

「はい。1枚あたり銅貨100枚の価値だったので、私としては少し痛かったんですけどね……」

 

「確かに結構するね。まぁそれだけ颯也が人気って事なんだろうなぁ」

 

「そうですね。私も今日入ったんですけど、会員番号というのがありまして、私は6桁でした」

 

「高々の学生のファンクラブにそんなにいるんだねぇ〜。大したもんだ。それはそうと今日は何だか様子が変だなぁ〜」

 

「確かに、三河からの荷物ばっかりですね。逆に武蔵から三河にかけての荷が無い……なんか三河が形見分けをしてる様な感じがします」

 

「おいおい、そんな物騒な事言わないでくれよ……」

 

酒井が正純のその台詞に、冗談やめてよ〜、みたいなノリで答えた。それに正純も、まぁそんな事は無いでしょうと答える。そう答えたところで三河の関所の前にたどり着いた。

 

「はい、ここまでありがとうね。後は自由にしていいよ」

 

「jud。ありがとうございます。それと学長、この後武蔵に帰り着いたら後悔通りについて調べてみようと思います」

 

「後悔通り……ねぇ。なるほど、正純も一歩踏み込んでみるか」

 

「踏み込む?」

 

「jud。そうしたら……知らなかった事が見えてくると思うよ」

 

そう言いながら酒井は正純と別れた。

 

(後悔通り……私の知らない事……)

 

そして正純はのちに知るだろう……後悔通りで起こった事を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

14時22分多摩商店街

 

「にしても少し効いたな……」

 

「颯也くん、大丈夫ですか? まだ痛みますか?」

 

「いや、痛くは無いよ。ただなんだろうね……無意識にくらったからか、起きた時は少し痛みがあった程度だよ」

 

(あれで少し痛む程度ですか……)

 

「それにしても驚きましたよ! 颯也さんがまさか無意識で殴られかかった総長を庇うなんて」

 

「ホントさね。どんな芸当だいって思ったよ」

 

「全くですよ! 颯也くんがネイトに殴られた時は、今度こそなんらかの障害が残るって思ったんですから‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

回想……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う〜ん……ん? いつのまに俺は寝ていたんだ?」

 

「そ、颯也⁉︎ 大丈夫ですの⁉︎」

 

「ネイトさん? どうしたの? そんな泣きそうな顔して」

 

「そ、その……誤まって颯也に裏拳をしてしまって……」

 

そこで颯也は理解した。先程少しだけ頬が痛むのはそれが原因なのだと……

 

「それにしても良かったですわ……私……自分でしてしまった事ですけど心配で」

 

「なるほど……この頬の痛みはそういう事か」

 

「ご、ごめんなさい‼︎ 本当にごめんなさい‼︎ 私、罪を償えと言うのでしたらなんでmっ⁉︎」

 

ネイトは最後まで言えなかった。何故なら言葉を紡ごうとしたネイトの唇に颯也の人差し指が優しく添えられていたからだ。

 

「女の子が男に対して、そう簡単に何でもしますなんていう言葉を言っちゃいけないよ? その言葉を最後まで言ってしまったら、君の高貴さが損なわれるじゃあないか。俺はそう思う。それにこれは多分、俺が君の胸を揉んでしまったトーリを庇ったからでしょう? ならネイトさんが謝る事なんて無いよ。逆に俺が謝るべきだ。心配かけてごめんね」

 

「そ、そんな……なんで颯也が謝るんですの⁉︎ 謝るべきは私で……」

 

「トーリが誰かに殴られるべき事をしでかした。それを分かっていながらも、無意識下であったとはいえ庇って……それで心配かけてしまったからさ。だから俺が謝るべきでネイトさんは謝らなくてもいいんだよ。はい、これで終わりね?」

 

「うぅ〜……相変わらず頑固ですわね……」

 

「ははは、ごめんね」

 

「ですが……それが颯也らしいですわ。ですが私も貰いっぱなしは性に合いませんの。ですから貴方がこの事を忘れかけた時にこのお詫びは致しますわ」

 

「そういうネイトさんだって頑固な所あるじゃないか」

 

「ふふっ……おあいこでしてよ?」

 

そう言いながらネイトは颯也に微笑み、自然な形で颯也の頭を優しく撫でていたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

回想終了

 

「ははは……心配かけてごめんね」

 

「そう思うなら颯也くんが持ってる荷物を少し持たせて下さい」

 

「いや、それは出来ない相談です」

 

「そう言うと思いましたよ……もぅ、少しは頼って下さい」

 

「そうですよ! 私達そんなに力が無いって訳では無いんですから!」

 

「少しぐ、らい、頼られたいな」

 

「やめときな。コイツは何言ったって聞きやしないんだから。頑固にも程があるってもんさね」

 

「ま、まぁなんって言うか……よく言うでしょ? 女性の荷物は男が持つもんだって。だからここまで重い物を女の子に持たせるのは忍びないなって……」

 

「はぁ〜……本当に頑固なんですから」

 

浅間は呆れた顔になりながらため息をついた。颯也と一緒に歩いていた皆も同様な顔になっていた。

 

「それにしてもあれから10年ですか……何だか今考えると早いですよね」

 

「ホライゾンがいなくなって……ですね。あの時は皆気持ちが沈んでいましたよね」

 

「トーリとホライゾン、それに颯也が巻き込まれて、それで戻ってきたのが傷を負ったトーリと颯也だけ……当時は皆沈んださね」

 

10年前に起こった事件の話を皮切りに……颯也を除く皆が少し沈んだ気持ちになる。だがそんな中鈴は……腰についてある複数の鈴を片手で鳴らした。

 

「こ、これ……合図。最初にやってくれたのホライゾン、なの。私、目が見えない、から私が驚かないようにって」

 

「あぁ……確かに昔からアタシらも真似てやってたかね〜」

 

「でも、ホライゾン、がいなくなっても、この合図を変わらずにやって、くれた人がいたの。それが、トーリくんと、颯也くん、なの。2人が、1番辛かった、はずなのに、変わらずにやって、くれたの」

 

「……その話を聞くと懐かしいな」

 

「颯也くん?」

 

「思い出す度に……あの時の俺は何もできなかった事を思い知らされる。でも、あの時があったからこそ、あの時以上に強くなろうと決めた。あの時があったから、今の俺がいるんだって、そう思えるよ」

 

「辛くは……無かったですか?」

 

「勿論辛かったよ。目の前にいたのに……大切な人がいなくなるなんて、手から零れ落ちる事以上に辛い事なんて無かったさ。でも、だからこそ前を向こうと思った。これ以上、俺の手から大切なものが零れ落ちないようにってさ」

 

颯也はその言葉を、悲嘆に満ちたような表情ではなく逆に笑みを浮かべて言った。これまでの話を振り返ればそんな顔など出来ないはずなのに……特に当事者であるのなら、そんな顔は出来ないはずだ。

 

だが颯也は笑う。もう悲しまなくて良いと。沈んだ気持ちにならなくても良いと。

 

「それよりも今は、明日トーリの告白が成就できるように今日は楽しもう。そのために今準備してるんだからさ」

 

「そう、ですね。うん! 湿っぽいのはここまでにして、今できる事をしましょうか!」

 

「そうさね。それと颯也、1つ荷物をよこしな!」

 

「うぉ⁉︎ 直政さん急には危ないよ⁉︎」

 

「そうしないとアンタは荷物を他人に持たしゃしないからさ。アタシはアタシでやらせてもらうさね」

 

「強欲だよ直政さん……」

 

「アンタほど強欲じゃあないさね?」

 

「えっ? 俺って強欲かな?」

 

「自分で気付いてないあたり、ハイディが言った通り自分には無頓着さね」

 

「ホントですよ」

 

「そうかな〜?」

 

「そう、だよ?」

 

「向井さんまで⁉︎」

 

「ふふっ、鈴さんにまで言われてますよ? 颯也くん」

 

「あ、浅間さんはどう思う?」

 

「さぁ? どうでしょうねぇ〜?」

 

「そ、そこ答えないの⁉︎」

 

商店街の中を、男1人と女4人がそんな会話をしながら歩いていく。先ほどの沈んだ話がまるで無かったかのように、5人の顔は明るかった。

 

そうして歩いていると、見知った顔に会った。点蔵、ウルキアガ、それに守銭奴コンビのシロジロとハイディだった。

 

「アンタらこんな所で何やってんのさ? それにその荷物……」

 

「あぁこれで御座るか? これは今日の前夜祭で使う食材に御座る」

 

「アンタらもかい……皆どんだけ前夜祭盛り上がる気さね?」

 

「まぁそれだけ皆トーリくんの事が気になってるって事ですね。そういえばトーリくん、今どうしてるでしょうか?」

 

「確か明日の告白のために後悔通りを歩くって言ってましたよ?」

 

「アイツあの日から1回もあの場所を歩いた事がないだろう? 大丈夫さね?」

 

「確か喜美が見守ってるはずですけど……」

 

「……あれから後悔通りの前を行ったり来たりしてるな」

 

「ど、どうして分かったで御座るか⁉︎」

 

「風がそう教えてくれるからな」

 

「風……で御座るか?」

 

「あぁ。さて、それで点蔵達もそれで買い物は終わりか?」

 

「うん! このお店の魚を買ったら後は前夜祭に備えるだけだよ〜」

 

点蔵の代わりにハイディが言った。ハイディがそう言うと同時に、シロジロが料金を払い終えて商品を受け取った。

 

「jud。ならその荷物も後は俺に任せてくれないか? 下ごしらえを先に済ませておくからさ」

 

そう言って颯也は、いつのまにか直政が持っていたはずの荷物も持ち、そして点蔵達がもっている荷物までも受け取ろうとする。だがここで待ったをかけた人物がいた。

 

「颯也くん1人だけに任せてはおけません‼︎ 私も手伝いますからね‼︎ 最低でも半分はやらせて下さい‼︎」

 

「浅間さん……」

 

「嫌と言っても無理矢理手伝いますからね‼︎」

 

「……分かったよ。なら半分は任せても良いかな?」

 

「っ! はい‼︎」

 

「じゃあこの半分は任せたよ。こっちはこっちで先にやっとくから」

 

「えっ? 一緒にやらないんですか?」

 

「ま、まぁこっちにもやる事あるし……それじゃあまたね」

 

そして颯也は半分荷物を抱えてそこから颯爽と姿を消した。

 

「ちょっ……行っちゃいました」

 

半分下ごしらえを任せてもらえる事には成功したものの、それは浅間さんが予想しないものでした。ここからは浅間さんの妄想です……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『颯也くんって、手際が良いですよね?』

 

『あぁ……これは昔からやってるからね。そう言う浅間さんもとても手際良く見えるよ』

 

『わ、私も昔から家事全般はやってますし……』

 

(そ、颯也くんにいつか私の料理を食べて欲しいからなんて口が裂けても言えません‼︎)

 

『ん? どうしたの浅間さん? そんなにぼぉっとして。ひょっとして調子悪い?』

 

『えっ? い、いえ! そんな事はないですよぅ〜?』

 

『そう? でも顔が若干赤くなってるし……ちょっとごめんね』

 

『えっ? えっ⁉︎ ちょっ、颯也くん⁉︎』

 

颯也さんはその時、浅間さんの前髪を片手で抑えておでこが見える状態にすると、自分のおでこと浅間さんのおでこを密着させました。

 

『〜〜〜〜っ⁉︎///』

 

『う〜ん……熱はないようだけど……でも顔赤いし……』

 

そう颯也さんがつぶやきながら考えている中、浅間さんはと言うと……

 

(す、凄く恥ずかしいですけど……でもこれはこれで物凄く得した気分! というよりもずっとこうされていたいです‼︎ それで抱きしめて貰えればなおのこと良いです‼︎)

 

そんな妄想をしていました。そうしていた事もあり……

 

『あ、あの……浅間さん?』

 

『は、はい? なんですか颯也くん?』

 

『な、なんで俺って抱きしめられてるのかな?』

 

『えっ? えぇっ⁉︎』

 

そこで浅間さんも初めて気が付きました……最初は驚いていたものの、これはチャンスだと思い

 

『えっと……これはですね? さっき私を心配してくれた御礼ですよ』

 

『お、御礼?』

 

『はい、御礼です。颯也くんはどうせ御礼なんていらないって言うと思いますから、そう言われる前に……です』

 

そう言いながら浅間さんは颯也さんの背中をナデナデ、そして頭もナデナデしていました……

 

『っ⁉︎///』

 

『ふふっ、照れてますね? 凄く……凄く可愛いですよ♡』

 

『か、からかわないで下さい……』

 

『からかってません。本音、ですから』

 

『〜〜〜〜っ⁉︎///』

 

(ふふっ、本当に……あまり照れた顔が見れないから、私としてはとても嬉しいです♡ 叶うならずっと一緒に……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まち……聞こえてるかいアサマチ‼︎」

 

「ひゃい⁉︎」

 

「どうしたんさね? そんな変な声出して」

 

「い、いえ! 急に声をかけられたので……」

 

「さっきから呼びかけてたさね」

 

「颯也さんが去ってからずっと上の空でしたよ?」

 

「えっ……えぇっ⁉︎」

 

そこで浅間さんはさっきまで妄想していたのだと自覚しました。

 

「ふむふむ……ははぁ〜ん、さてはアサマチ颯くんで妄想してたでしょう? それに一緒に前夜祭の下ごしらえの場面を」

 

「っ⁉︎ そ、そんな事は無いですよぅ〜? ただ、颯也くんと一緒に出来なくて残念だと思っただけですよぅ〜?」

 

「浅間、さん、それほぼ認めて、るんじゃ……」

 

「……あっ」

 

その後、浅間さんはとても顔を真っ赤にし、頭からは湯気も出ていたと言います……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回こんなサブタイトルにしましたけど、あれほぼ前半だけにしか関係ないんですよねぇ〜。でもどうしようかな迷った挙句で……という事です。

次回はもう少しマシなサブタイトルつけようと思います‼︎

それではまた!


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6話 今この場で……自分のルールを破らせてもらう

15時00分颯也の住む部屋

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後悔通りには1つポツンと小さなお墓がある……それは10年前の出来事だ。

 

当時、武蔵の改修が決まった事もあり、武蔵で改修式典が催される予定だった。それに出席するために、三河君主であった松平元信は馬車でその式典に向かっている最中だった。そして馬車を通ろうとする脇には、元信を歓迎する人達が通りに沿って元信が乗った馬車を見送っていた。

 

そんな歓迎ムードの中……悲劇は起きたのである。

 

人混みの中から少女と少年が2人飛び出したのである。それもまだ初等部で言ったら1年生くらいの年齢の子らが……。少女は後ろを振り返り、悲しい顔をしながら少年から逃げようとしていた。少年は、悲しい顔で自分から離れようとする少女を引き止めようと追った。だが運が悪い事に、式典に向かう途中だった元信の馬車の前に躍り出てしまったのである。

 

そしてもう1人……飛び出した少年がいた。その少年は、不意に道の真ん中に出てしまった少女と少年とは違い、明確な意思を持って馬車と少年少女の間に躍り出たのだ。

 

そこにあったのはたった1つ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大切なものを守るためならば……もう1度もらったこの命を使ってでも守ると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがその意思は……半分しか守れない程未だ弱かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー●◯●ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、下ごしらえはこれで終わりだな。俺としては物足りないが……」

 

浅間達と別れ颯也は1人下ごしらえを終わらせていた。それも別れてそんなに時間は経っていないというのに……

 

「この下ごしらえしたやつはこの空間に収納して……」

 

ここで変な発言を颯也がした事を……皆さんはお分かりだろうか?

 

下ごしらえをするまでは至って普通だった。しかし、その後の発言が問題だ。『下ごしらえしたやつをこの空間に収納』……どういう事だろうか?

 

実際に見てみた。

 

なんと颯也は空間を歪ませて別の空間を作っていた。そしてそこに下ごしらえをしたものを持って入る。そして出てくると、颯也は何も持っていなかった。そして空間も颯也が出ると消えてしまった。

 

某有名アニメに出てくるピンク色のドアや、現実から忘れ去られた存在やものが行き着くとされる世界の管理者的妖怪の能力が思い出される。

 

「後は……トーリの背中を押しに行くかな」

 

そして颯也さんは自分の部屋から出て行きました。しかし……その部屋がどこにあるのかは、梅組の皆はおろか武蔵の住民ですら知りません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

15時2分後悔通り

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私、本多正純は今窮地に追いやられていた。酒井学長を武蔵の関所まで送り届けた後、後悔通りに赴いていた。しかしまだ武蔵に来て1年……後悔通りには隣接している休憩所を取っては来たが、少々道に迷ってようやく通りに出た所をある人に捕まったのだ。

 

それが私の父である。父は馬車に乗ってどこかに向かう途中だった。しかし私をここで見かけてわざわざ立ち止まってくれたようだった。そして父からここで何をしているのかを問われ、咄嗟に出たのが後悔通りの調査という言葉だった。調査は調査で間違いないが、後悔通り全体を調べるために来たわけではない。10年前ここで何があったのか……それを知るために来たのだ。

 

だが父から、私が通ってきた休憩所の場所はどんな所なのか分かったかと問われた。父には普通に、私が後悔通りを調査している風に捉えられたようで……私は分からなかったと素直に答えたが、まだまだだなと落胆されたようだった。

 

「それにしてもご子息、その手に持っているもの、中々に良いものですなぁ……」

 

そこで突然父とは違う声が聞こえた。その声の持ち主は、父の向かい側に座っている人物のようで……見たところ商人みたいだった。

 

「私は色々な商品を取り扱ってはいますが、そのような物も取り扱っているのですよ。良ければ譲ってほしいものですが……」

 

「ほぅ、私にはよく分からんが正純、そちらの物を渡して差し上げなさい」

 

「えっ? えぇっと……これは……」

 

本当はこれ私のじゃないんだけどなぁ〜……

 

ここに来る途中、配達中のマルゴットに会った。それで生徒会宛の荷物という事で渡されたが、品の名称を見てみるとどうやらエロゲの様で……どうやら頼んだのは葵らしい。

 

そんな訳で葵に会ったら渡してと頼まれた。

 

(私も一刻も早く手放したいんだけどなぁ〜……)

 

そうはいってもこれは他人が頼んだ物だ。例え父が世話になっている人に譲ってと頼まれても、渡すわけにはいかない……しかし

 

「どうした? 早く渡しなさい」

 

(ち、父からの圧が……)

 

そして渡すほうに気持ちが傾いた時……

 

「うわぁ〜〜〜‼︎」

 

そんな叫び声が聞こえた。その声がする方向を見ると、葵がとても疲れた様子で立っていた。

 

「トーリ、大丈夫か? って、大丈夫そうじゃないな……」

 

そして葵の後ろからは、颯也が普通に歩きながら来ていた。

 

「はぁ、はぁ……おっ……」

 

「あっ……」

 

ここで私と葵の目が合った。

 

「おぉ! セージュン奇遇だなこんな所で‼︎」

 

私を見つけた瞬間、葵は顔を真っ青にしながらいつのまにか私の目の前まで来て肩を掴んでいた。

 

「あ、葵⁉︎ 大丈夫かその顔?」

 

「あっ? おぉ、大丈夫大丈夫! それよりもこれ、届けに来てくれたんだろ⁉︎ ナイトの奴が中々届けてくれなくてよ」

 

そして私が持っていた荷物を取っていった。

 

「やぁ副会長。こんな所で奇遇だね」

 

そして颯也も私の方に近付いてきた。

 

「そ、颯也もどうしたんだ?」

 

「トーリの付き添いだよ。トーリが心配でね」

 

颯也はニコッと擬音が出るくらいの笑みでそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

15時1分 教導院前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ喜美さん、それにオリオトライ先生」

 

「あら颯也じゃない。こんな所でどうしたの? 浅間達と一緒に買い出ししてたんじゃないの?」

 

「あぁ、それならもう終わったよ。半分は浅間さんがやると言ったから半分は任せて、後の半分はさっき終わらせてね。後は……トーリがあれから動いてないようだったから後押ししようと思ってね」

 

「よく分かったわね? うちの愚弟があれから動いてないって」

 

「風がそう教えてくれたから……」

 

「ホントに颯也って普通の人と違って特殊よね? 私の攻撃とかもそうやって躱されるし……というか毎回体育の時私の動き読まれてるわよね?」

 

「まぁ先生の風は正直ですから……」

 

「風ねぇ……それって毎回どうやって読み取ってるの?」

 

「それは企業秘密です」

 

「えぇっ! ケチッ」

 

「ケチと言われましてもね……」

 

「うふっ、そう言われても当然よね? だってアンタは秘密が多過ぎるもの。別に1つくらい教えてくれてもいいでしょう?」

 

「き、喜美さんまで……」

 

「ねっ? 喜美だって知りたがってるんだし、1つくらいいいでしょう?」

 

「……仕方ないですね。あっ、その前に先生、後ろの髪はねてますよ?」

 

「えっ? あっ、ホントだ……」

 

「先生、手櫛ではダメです。俺が直してあげますから少しじっとしてて下さいね?」

 

「えっ? そ、颯也が直してくれるの⁉︎」

 

「お、俺じゃダメですか?」

 

「い、いいえ違うのよ⁉︎ ただここは同じ女性の喜美がやると思ってたから……でもここは颯也にお願いしようかしら?」

 

「畏まりました。では……」

 

そしていつのまにか颯也の手には櫛が持たれていた。それから颯也は、オリオトライの髪に自然な形で触れ、はねている髪を直しにかかった。その間オリオトライはというと……

 

「ふにゃ〜……」

 

物凄く気持ちよさそうにしていた。そして……

 

「……」

 

喜美は少し不機嫌そうにしていた。程なくして……

 

「はい、これで直りました」

 

「ふにゅ〜……って、えっ? もう終わり⁉︎」

 

「えぇ、終わりましたよ」

 

「そ、そう……もっとやって欲しかったな……

 

「えっ? 今なんて?」

 

「ううん、何でもないわ」

 

「さぁ颯也! 次は私の番よ‼︎」

 

「えっ? でも喜美さんはいつも髪は整っていると思うんだけど……」

 

「あらやだ⁉︎ 風が急に強く吹いて折角セットした髪が少し乱れてしまったわ! だから颯也? 私もお願いね?」

 

と、喜美はセットしていた髪をわざと乱し、自分も颯也に髪を直させようとする。颯也としては……今の一瞬で強い風など吹いてない事は分かっている。そして喜美が自分で自分の髪を乱している事も目の前で見ていたから知っている。

 

だが何故だろう? そんな風に男性に甘えようとするその女性の仕草は、颯也にとってはとても可愛らしいものに見えた。否、見えてしまった。

 

「ふぅ……仕方がない人ですね。分かりました」

 

そう言って颯也は喜美の髪にまずは自分の手を触れさせ、手櫛で少しとかす。そして髪が乱雑に絡まらない状態にしてから、本命の櫛で喜美の長く栗色の美しい髪をとかした。

 

「んっ⁉︎ んんっ……♡ んあっ……」

 

(す、凄く気持ちよさそう……)

 

喜美さんは颯也さんに髪を櫛でとかれている間物凄く気持ちよさそうな表情をしており、それを隣で見ていたオリオトライさんは先程髪を直してもらったにも関わらず喜美さんの方を羨ましそうに見ていました……

 

「はい、これで直りましたよ」

 

「はぁ……はぁ……もぅ、終わりかしら? もう少しされていたかったのだけど……」

 

「ど、どうしたんですか喜美さん? そんなに息を切らして……」

 

「もぅ……分からない? 貴方が私をこうさせたのよ?」

 

「た、ただ喜美さんの髪を直していただけなんですが……」

 

「……本当に無自覚というのは恐ろしいわ。でも……そんな所も私は好きよ♡」

 

「っ⁉︎/// じゃ、じゃあ俺はトーリの所に行ってくるんで!」

 

颯也は自分が照れた所を誤魔化すようにして喜美達の前から去って行った。

 

「うふふっ、可愛いんだから♡」

 

「ホントにそうねぇ。それに初心だし」

 

「そこがまた可愛いのよ! しかもあの初心さは昔から変わらないし……というか年をとるにつれて拍車がかかった感じよね? だからこそ颯也の事が好きなのだけど」

 

「はぁ〜……ライバルが多いわねぇ」

 

「あら先生? 本気で狙ってるの?」

 

「そんなの当たり前じゃない? あんなにカッコよくて、それに優しくて可愛い。前だって結構酔っ払った私を優しく介抱してくれたし……」

 

「でもキスされた事ないわよね? なら今の所私が颯也の事を好きでいる女の中で1番優位だと思うわっ‼︎」

 

「それはどうかしらねぇ? まぁ私達以外にも颯也の事を好きな子は大勢いるってことよね〜」

 

「なのに当の本人は全く自覚が無いんだから……焦れったいにもほどがあるわね」

 

「確かにそれは言えるわね〜……あっ」

 

「どうしたの先生?」

 

「颯也の秘密……何も聞けてないわよね?」

 

「……あっ」

 

喜美さん達は颯也さんの秘密を聞きそびれた事に今更気付きました……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

15時3分後悔通り

 

 

 

 

 

喜美さん達と別れた俺は、通りの前で立ち往生していたトーリを何とか励ましつつ一緒に歩いていた。トーリはとても怖かったようで、だから手を差し伸べて一緒に歩こうと言った。その時のトーリは、俺のその言葉が意外だったのかポカンとしてはいたが、でも昔と変わらない笑い顔で俺の手を取って後悔通りを歩いて行った。

 

だがやはり怖いらしく、中盤辺りまで行くと脇目も振らず叫びながら俺の手を離して走って行った。それに俺も付いて行った。

 

その付いて行った先で、武蔵アリアダスト教導院生徒会の役員で副会長の本多正純さんに会った。

 

「やぁ、副会長。こんな所で奇遇だね」

 

そう挨拶した。でもおかしな点に気付くかな? 俺は大体、誰かの名前を呼ぶ時は名前にさん付け、もしくは名前を呼び捨てで言ってる。でも本多さんだけは副会長と呼んでいる。これには訳があって、俺が彼女の事を普通に男として見なしていると、彼女が思い込んでいるからだ。本当はそんなことはないんだけど……まぁそれもいずれは崩れる。それがいつくるかは分からないけど、末世よりも先に来るんだろうなと……そう感じている。

 

そうして挨拶したら、どうしてトーリと一緒にいるのか聞かれたから、トーリが心配だからと返した。

 

それで俺の目の前には、本多さん以外に馬車が1台止まっていた。多分乗っているのは本多さんのお父さんと……

 

(この風は商人か……だから本多さんも困っていたんだな)

 

そのやり取りは遠目から見えていた。見ているに、今トーリに持っている……物を商人が欲しがったからだろう。まぁ渡してしまったらいっそのこと楽だったんだろうが……そこは真面目な本多さんだ。人の物……自分には相入れない物でも勝手に他人には渡さなかった。

 

(ここでトーリを連れて立ち去るのも良いが、挨拶ぐらいはしておこうかな)

 

そう思って俺は車輌に近付き

 

「副会長のお父様と……確か商人の小西様でしたかね? こんにちは。副会長にはいつもお世話になっております」

 

「う、うむ」

 

「わ、私の名前をご存知で⁉︎」

 

「えぇ、武蔵では他では取り扱っていない商品も幅広く扱っていると耳にしたことがありますから……先程の副会長とのやり取りも()()()()()()()()()……」

 

「な、なんと⁉︎」

 

「まぁそんな訳で、あなたの事も存じ上げていましたよ。さて、私達はそろそろ時間なのでここでお暇させて頂きます。それと副会長、今日の夜にトーリの告白前夜祭をやるんだけど来る?」

 

「えっ? あ、あぁ……それはちょっと難しいな。武蔵野に行くには村山の関所を通らないといけないし、何より門限とも被りそうだ。そこまで父上には迷惑をかけれないから……それに多分花火を見に行くだろうし」

 

「そうか……まぁそれは仕方ないよね。それじゃあ花火を楽しんできてよ。トーリ、そろそろ行こうか」

 

「あ、あぁ! 行こうぜ! じゃあなセージュン‼︎」

 

そして俺とトーリは本多さん達から離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー●◯●ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしてもこんな所で後悔通りの主人に会うとは思いもしませんでしたわ」

 

「後悔通りの主人?」

 

「あぁ、正純はまだここに来て1年目だから知らない事だったな。正純、あの石碑は見えるな?」

 

「石碑? あの小さく立っている物の事ですよね?」

 

「そうだ。その石碑は、10年前ここで亡くなった少女の石碑なのだ」

 

そして父は語ってくれた。ここで10年前、何が起きたのかを……。

 

まとめるとこうだ。10年前の武蔵改修の際、式典に参加するため元信公が馬車で向かっていた。そして後悔通りの中間辺りで悲劇が起きた。誤って馬車の前に少年と少女が飛び出したのだ。少女は少年から逃げるように、逆に少年は少女を追いかけるように……

 

それに馬車を操作していた業者は気づき、馬を止めようとしたが間に合わず、馬は少年と少女をひこうとした。だがその時、少年少女と馬車の間に割って入った1人の少年がいたのだ。その少年は、まるで少年少女を守るかのように手を大きく広げて馬車の前に立ったのだ。

 

だがそれでも結局は3人とも馬車に轢かれてしまった。そして3人とも三河にある医者の元に連れられたが、帰って来たのは少年2人だけだった。それも身体に一生残る傷跡を残してだ。その事故の後、その少女の冥福を祈って立てられたのが後悔通りにある小さな石碑……そこに彫られてあった名は、ホライゾン・アリアダストという少女の名だった。

 

それを聞いた私は……悲しみと同時に深い疑問に囚われた。それは、目の前で大切な人を亡くしたにも関わらず……

 

「それなのに……何故あの2人は未だに笑顔を浮かべて前に向かって進んで行くのでしょうか」

 

「それは私達にも計り知れない事だ。当の本人達にしかな……そろそろ時間だ。ではな、正純。出してくれ」

 

そして正純の父、正信はその場を後にした。その場に残されたのは……疑問を投げかけた正純だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー●◯●ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トーリを喜美さんの所まで送った後、俺は酒井学長に今から行きますと通神で送った。それからすぐに返信が帰って来た。場所は三河にあるお食事処で、一応地図も添付されていた。だから……

 

「お待たせしました、酒井学長」

 

すぐさま本人の目の前に来たのだが……何故か本人は目を丸くしてポカンとしている。それは酒井学長だけでなく、一緒の席に着いていた人達も同じ様に……

 

「お、オメェナニモンだ?」

 

最初に声をかけてくれたのは、白髪で一度見ただけで歴戦の猛者と思わせる様なおじさんだった。年は……まぁ酒井学長と一緒にいる時点で酒井学長と同い年だろう。

 

それで酒井学長の隣に座っている人は、所謂文系ですよってアピールしている格好をした眼鏡をかけたおじさんで、これまた酒井学長と同い年だろう。

 

そしてさっき言った歴戦の猛者おじさんの隣には、若い……俺と同い年くらいの女の子が正座していた。長い髪はポニーテールにしていて、瞳は若輩ながらもとても強そうな気配を帯びていた。そして着ているのは……多分三河にある教導院の制服だろう。

 

そして個室の入り口付近に立っている人も女性だ。この人は……気配から察するに自動人形なんだろう。そして風が教えてくれるんだが、歴戦の勇者おじさんの妻らしい。

 

おっと、長らくこの場の状況を長考してしまいそうになってしまってたな。ともかく驚かせたのは申し訳ないとして、歴戦の勇者おじさんが言った様に少し自己紹介をさせてもらおう。

 

「いきなり驚かせてしまって申し訳ありません。私は武蔵アリアダスト教導院から参りました。愛護颯也と申します。この度は酒井学長からのお誘いで馳せ参じさせていただきました」

 

とまぁ、とりあえず失礼にならない様にお辞儀をしながら自己紹介をした。そしたら……

 

「愛護颯也って……あのか⁉︎」

 

「おぉ! 彼がそうなのですね酒井くん!」

 

と、2人のおじさんは俺の自己紹介に興奮気味だった。

 

「あの……どういう事で?」

 

「なぁにとぼけてんだ? お前の事は三河にも届いているぞ、武蔵の特務師団長」

 

「何でも数年前に不届きを行なった鬼族を簡単にあしらったとか! まさかこんな所で会えるとは‼︎」

 

不届きを行なった鬼族をあしらった……あぁ、多分あれか? 確か中等部に上がる前……各地を襲撃して回る鬼族が現れた。襲撃された村は金品を巻き上げられたりして、当然の事ながら生活に困る人も現れたくらいだ。それには各国も腰を上げて鬼族の対策を立てたが……それの全てはことごとく失敗に終わってしまった。

 

何故なら、その鬼族の連中は妙に頭がきれて、各国の対応にも何故か先読みをさらる始末で……だから簡単には捕まらなかった。

 

だがここでとある少年が現れた。それも中等部にあがりたてか、もしくはギリギリ初等部の年齢の……。まぁそれが俺だったわけで……

 

ある日、その鬼族が武蔵に乗り込んできた。まぁなんで分かったかと言ったら……風が教えてくれたからで、それですぐその場に行ったら……

 

「て、テメェどこから湧いてきやがった⁉︎」

 

と、数名の鬼族達が武蔵に侵入していたので……

 

「その台詞は俺のだと思うんだけどね?」

 

と鬼族達の背後に移動してそう言った。

 

「なっ⁉︎ いつの間に……」

 

「答えろ……2度目はない」

 

そう殺気を出しながら問いつめた。

 

「こ、このガキィーッ‼︎」

 

殺気に少したじろいだものの、数名の鬼が俺に向かってきた。なので……

 

「そうか……それが貴様らの答えだな?」

 

えぇ、普通にのしましたとも。えっ? どうやったか? 素手で1発だけど?

 

まぁその後、何故かその場にいたハイディさんに写真を撮られたり、その翌日には武蔵の通信にも載ったくらいで……それも数日でほとぼりは冷めた。

 

俺としてはそれで助かる。何日もずっと注目されっぱなしというのは……なんかいたたまれないし。だからそれで正直助かった。

 

だが……まさか今この場で当時の話になるなんて……

 

「そ、それは誠に御座るか⁉︎」

 

と、ここまで話に加わらなかったポニーテールの子が、俺に興味を持ってますというぐらい目を輝かせながら俺を見ていた。

 

「あぁそうだぞ! 昔各国が手を焼いていた鬼族どもを1人で血祭りにあげた男だ‼︎」

 

「血祭りにはしてません‼︎ ただ普通に再起不能にしただけです‼︎」

 

「それも中々に凄いと思いますけど……」

 

「と、ともかくお主は強いので御座るな‼︎」

 

「あぁ強いぞぉ! 下手すりゃワシよりもな‼︎」

 

「勝手に答えないで下さい‼︎」

 

「そ、そうで御座るか! なら今からしばし手合わせ願いたいので御座るが‼︎」

 

「君も真面目に受け取らないで‼︎」

 

「まぁまぁそう言わずにさぁ〜……手合わせしてやってよ」

 

「さ、酒井学長まで……」

 

周りを見ると……何故か俺とポニーテールの子が戦う事が決定している雰囲気になっていた。

 

(これは……観念するしかないかな〜)

 

「……分かりました。どうやら一戦しないと帰れなさそうですから」

 

「か、かたじけのう御座る! では早速‼︎」

 

という事で……俺とその子で戦うことになった。戦う場所は店の前にある通りでする事に……

 

「それじゃあ一本勝負で相手に有効打を与えた方が勝ちな? それじゃあ両者構え!」

 

それで対面にいるポニーテールの子は腰に差してあった刀を抜いた。あっ……そういえば名前を聞いてなかったな〜。

 

「そう言えば君の名前はなんっていうの?」

 

「拙者で御座るか? 拙者は本多・二代に御座る」

 

「本多……まぁそれは後でもいいか」

 

「所でお主は構えないので御座るか?」

 

「ん? 構えるとは?」

 

「武器を持っていないように御座るが……」

 

「武器かぁ……ごめんね。俺は……俺にとっての大切な誰かを傷つけられそうになる時以外では武器を使わないって決めてるから……」

 

「そうで御座るか。それは高尚なものと思うで御座るが……拙者としては少々舐められたと思わずにはいられないで御座るな」

 

「そんな事は無いんだけど……」

 

二代さん……あれは間違いなく怒ってるよね……。そんなつもりはなかったけど……でもそうだな……二代さんを舐めている訳ではないという事を証明するために、自分で作ったルールを今ここで少し破る事にした。

 

「……分かりました。俺はあなたを舐めている訳ではないという事を証明するために……俺は自分で作ったルールを今少しだけ破ります」

 

「おぉ! お主の武器を見せてくれるので御座るか‼︎」

 

「へぇ〜……今まで頑なに見せなかったのに珍しいね」

 

「そ、そうなのですか?」

 

「あぁ、俺も実は見た事なかったんだよ。だからどんなものか少し楽しみなんだよなぁ……」

 

「おいおい、そんな呑気な事言ってる場合か? あの小僧……武器を使うって言った手前から雰囲気がガラリと変わったんだが……」

 

会話をしていた酒井たちがその声で颯也の方を向くと、確かに雰囲気は変わっていた。それも、そういう前までは確かに真剣だったが、宣言した後はそれ以上の目つきになっていた。そして颯也は虚空に手を伸ばした。

 

「来い……」

 

颯也がポツリそう呟くと、さっきまで何も無かった颯也の左手に一振りの刀が鞘に入れられた状態であった。

 

「さぁ……始めようか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 二代

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ふ、雰囲気が変わったで御座る……)

 

拙者の目の前に立つ男……愛護颯也という名前で御座ったか? ともかく武器を使うと宣言してから雰囲気が変わったで御座る。

 

(それもなんと静かでありながら気迫に満ちた闘気に御座ろう‼︎)

 

この者……戦慣れしてるで御座るか? しかし……

 

(それでも拙者には関係御座らん! 全力で当たるのみに御座る‼︎)

 

「よし、両者構えたな! ……始め!」

 

父の合図により、手合わせが始まったで御座る。

 

「いざ! 参る‼︎」

 

拙者は術式、『翔翼』を使い颯也殿に迫る。対して颯也殿は構えたまま動く様子はない。様子見をしているので御座ろうか? それとも……この速度が見え申しているのか……

 

(ならば相手の背後に回る!)

 

さらに『翔翼』を使って速さをあげ、相手の後方に回った。相手は拙者の動きが見えておらぬのか、前を向いたままで御座った。

 

背後に完全に回り込んで、手に持っていた刀で背中を斬りつけるように振るう。勿論寸止めで御座るが……

 

しかしながらその考えが甘かったと思い知らされたで御座る。

 

 

 

ガッ‼︎

 

 

まず先に手に衝撃を受けた後、その様な音が聞こえ申した。颯也殿が反応したので御座ろう。だが目に見えるのは、未だに拙者を背を向けたままの颯也殿だった。

 

そこで拙者もようやく気付いたので御座る。何故その音が聞こえたのかを……

 

(刀と刀同士であるならば、そんな音は聞こえないはず……一体何が……っ⁉︎)

 

ようやく手首の方を見た。すると、拙者の刀の鍔の部分に颯也殿の持っていた刀の鞘先が当たっていたので御座る。それによって先ほどの音が聞こえたので御座るか……

 

(しかも背後を振り返らずにこの芸当で御座るか……)

 

「どうしたのですか? もう攻撃はおわりですか? 見た所それが全力ではないでしょう? 本気で来ないのなら……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こちらから行かせていただきますよ?

 

(っ⁉︎ こ、これはっ⁉︎)

 

拙者はその殺気を受け、全力で相手から遠ざかった。それでようやく颯也殿もこちらを振り向いた。

 

その目を見ると……拙者を完全に討ち取るといった目をしているように見えた。

 

(……拙者の方が颯也殿を舐めていたので御座るな)

 

拙者自身その考えは持っては御座らんかったが……無意識でそう思っていたところもあるので御座ろう。その結果が今の拙者で御座るな……

 

「あい申し訳なかった。拙者、颯也殿をどこかで下にみていたのかもしれぬで御座る。だからここからは……拙者の全力を見せるで御座る‼︎」

 

『翔翼』を何重にも展開し先程よりも更に早く……

 

(いや! もっと速く‼︎)

 

拙者はその速さのまま颯也殿に幾重にも斬り付けを行なったので御座る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(さっきよりも速くなったな……)

 

二代さんを見てそんな感想しか出なかった。まぁ速さのせいで通常の人ならば二代さんが分身している様に見えるだろう。だが俺からすればその様には見えず、たださっきよりも幾分か速くなっただけで……

 

そして振られる刀も、鞘で受け流す。それも俺は刀身を抜かずに、鞘の中間部分を持って、鞘先で受け流す。それも刀の刃の部分にはぶつけず、刀身の脇部分に鞘先を当てて起動を晒しているだけに過ぎない。

 

(ただこれが槍であったならば状況は違っただろうな)

 

まぁとりあえず今は受け流す事だけをしていた。そして……

 

「ハァ……ハァ……」

 

二代さんは呼吸を乱していた。まぁ確かにあの速さのまま数十分も動きながら刀を払ったら、そうなってしまうのも無理はない。それに単調なものだけでなくフェイントもかけてきたから、相手の疲労は想像を優に超えると思う。

 

まぁ、これだったら普通に他教導院の役職持ち、戦闘系の人達に遅れは取らないと思う。それにまだまだ伸び代あるし……

 

(って、いつのまに上から目線してんだよ俺は……取り敢えずは相手も疲れている様だし、サクッと終わらせてしまおうか)

 

「それじゃあ今度は俺の番だね。といっても一太刀しか払うつもりは無いから……よく見ておいてね?」

 

そうして俺は初めて刀の持ち手を握り、鞘から静かに刀身を抜き始めた。

 

徐々に露わになる刀身からは、眩いばかり光が発せられていた。その光は、対面にいる二代も見惚れるほどのものだった。だがそれも束の間……

 

(っ⁉︎)

 

颯也の姿が消えた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

否‼︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュルシュルシュル……カチンッ

 

二代の後ろでそんな音が聞こえた。聞こえたと同時に、二代の持っていた刀が粉々に砕け散った。

 

「な、……なんと」

 

「ふぅ……それじゃあこの勝負、俺の勝ちで良いよね?」

 

ここに、愛護颯也と本多・二代の勝負は決着となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いやぁ……読者の皆様お久しぶりです!

「ホントだぞ。何やってた?」

引越しの準備とか色々とですね。今年から新社会人ですから……

「なら書くペースも今より物凄く遅くなるな……」

そうですね……とても残念な事なんですが……。でも、取り敢えずアニメ一期は終わらせたいです!

「……それ他の所でも言ってなかったか?」

ギクッ……ま、まぁそれはさておきとして……「逃げたな」今回はちょこっとだけ出た武装の説明をさせて頂きます!



解説


武装名:???
登場作品:機動戦士ガンダムSEED MSV
特徴:日本刀の形をしていて全体的な色合いは白と赤



この作品やガンダムが好きな人は大体分かる武装です! 特に演出もGジェネレーションに出ているものを起用してますので、これをやった事がある人も分かるかもしれませんね。

という事で本日はここまでとさせていただきます! 次回お会いしましょう!


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7話 いつもの日常が崩れ去る数分前

1ヶ月ぶりの更新! ちまちま書いてました‼︎ 何せ研修が土日だけでなく平日も入り始めたのでまた……終わった後はいつのまにか寝て覚めたら午前2時……っていうパターンがほぼでした……

「それってほぼ大学の時と変わらないだろ?」

……はい

「まぁでも1ヶ月に1回更新できるならまだまだ良い方だろう。数回にわたってやれた方がそれは数倍いいがな?」

うぐっ……と、ともかく始まりますよ‼︎


side 二代

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後6時21分 三河警護艦内

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(尋常では……なかったで御座る)

 

拙者は先程まで続いていた戦いを思い出して御座った。拙者のでは御座らん。拙者と颯也殿の模擬試合は最初の1回だけで御座る。では何を見ていたか……

 

(父、忠勝と颯也殿の試合に御座る)

 

拙者と颯也殿との試合を見た父が、「俺もやるぅ〜っ‼︎」と言って颯也殿に迷惑をかけて御座った。颯也殿はあからさまに困惑して御座ったな……何回断っても拙者の父が引かなかったので……

 

それが1時間ほど続いた。それで颯也殿が先に折れて、父との試合が始まったので御座る。そして父は最初から自分の獲物である蜻蛉切を持ち出して御座った。その時拙者は……本気か? と思ったほどで御座る。だが颯也殿も……

 

「……仕方がありません。では私も……」

 

拙者の時とは打って変わって、颯也殿から放たれる圧が変わったので御座る。

 

ここからその際の回想に入ります……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

回想

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ〜う、とんでもねぇ圧をかけて来るじゃねぇか? それにその目……戦慣れしてるのが一目瞭然だな。実力も……こんな事言いたかないが我かそれ以上だな。その腕前を持ちながら、何故武蔵の職につかん? 確か副長が空いていたはずだが?」

 

「それは、武蔵の副長が俺ではないからです」

 

「どういう意味だ?」

 

「さっき言った通り……武蔵の副長には俺ではない誰かがつく事になるからです」

 

「その発言と言い……さてはお主、先が見えているのか?」

 

「ある程度のある場面なら」

 

「ならば……この試合の結果も見えてあるのか?」

 

「いいえ、それは決して見えてはいません。ですが……この一帯は試合で様変わりするとは思っています」

 

「ほぅ……それほど苛烈に我と試合てくれるのか?」

 

「……本来ならば、ここで力など出したくはありません。何せこの力は本来……俺の大切な人達を護るための力ですから。ですが……」

 

そこで颯也は一旦俯いた。そして再び顔を上げると更に圧をかけた。

 

「ですが……これも致し方無いでしょう。早く終わらせるためには」

 

「早く終わらせる……だと? お主、我を舐めておらんか?」

 

「舐めているわけではありません。ただ……あなたは意図せず俺から大切な時間を奪った。1時間という大切な時間を」

 

「た、確かにしつこくしたのは悪いとは我も思っている。だがされど1時間「されどでは無い‼︎」っ⁉︎」

 

「俺にとっては……その1時間は武蔵に帰って皆と過ごせた1時間かもしれない。今日は生憎と友人の告白前夜祭……そのための他の準備も出来たかもしれない。それを……あなたはただ俺と試合がしたいがために使った‼︎ だから……少しばかり本気で行くんです」

 

この時忠勝さんは思いました。これは怒らせてはいけない人を怒らせてしまったと……

 

「忠勝様……試合の前に彼に謝ってください」

 

そう言ったのは、本多・忠勝の妻としての役割を担っている自動人形、鹿角でした。

 

「えっ? し、しかしだなぁ〜……「謝ってください」な、何で鹿角そこまで言うの?」

 

「何で? 忠勝様が颯也様に無理強いをしたからに決まっているでしょう? しかも1時間……彼の1日に過ごせる有意義な時間の24分の1を無碍にしたのです。それを忠勝様が勝手に使い、そして颯也様を困らせた挙句、このような状況になったのです。見てください、あの颯也様の表情を……とても悲しそうにしておられます」

 

「えっ? あれって悲しそうにしてるの? 我からはそんな風にはm〈チャキ〉「見えるでしょう?」……は、はい、見えます」

 

忠勝さんは鹿角さんに、いつのまにか土で作られた杭を突き付けられて脅されていました……

 

しかし……何故鹿角さんがここまで颯也さんの事を気にするのでしょう……その理由は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(颯也様を悲しませたのなら、私が忠勝様を後で絞めなくては……いえ、絞めるべきです)

 

彼女も本多・忠勝の妻という役割を持ちながら、『愛護颯也くんファンクラブ』の会員でもありました……

 

そのため、忠勝さんに謝らせようとしたのです。

 

「うぅ〜……わ、我が悪かった。お主の時間を1時間無碍に使って申し訳ない!」

 

ここで漸く忠勝は颯也に謝った。それを颯也は……

 

「いえ、もう良いですよ。過ぎた話ですし……」

 

「そ、そうか! それなら良かった‼︎ そんじゃまぁ早速s「それに……」えっ?」

 

「俺がこの試合を早く終わらせてしまえば良いですから……」

 

「……あぁっと、悪い。どういう意味だ?」

 

「そのままの意味ですが?」

 

「……えぇっとぉ、もしかして怒ってる?」

 

その忠勝さんの問いに颯也さんはというと……

 

「HA☆HA☆HA‼︎ もう過ぎてことなんですから怒ってるわけないじゃないですかぁ〜‼︎」

 

と、右手にはこれまたいつの間に握られていたのか……まるで鮮血で染まった一振りの大剣が握られていました。それも、颯也さんの顔は笑顔そのものでしたが、目は笑っていませんでした。

 

「いや! もうそれ完全に怒ってるよね⁉︎ 体から怒りのオーラ纏ってるの丸わかりだよね⁉︎ というかその右手にいつのまにか持ってる剣なに⁉︎ すっごく怖いんだけど⁉︎」

 

「それじゃあさっそく始めましょうか」

 

「jud。ではすぐさま試合を行なってください」

 

「人の話聞いてる⁉︎ それに鹿角も勝手に始めないで⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

回想終了

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして父忠勝と颯也殿の模擬戦が始まった。だが拙者から見ればもはや模擬戦ではなく……

 

(あれは……まさしく強者同士の死闘で御座った)

 

拙者は……正直目の前で何が起こっているのか理解が追いつかなかったに御座る。そもそもあれは人同士の試合と言っていいものか……両者がぶつかる毎に地には剣戟の跡が、掘り返されたかのように穴が空き、地形は簡単に変わり申した。

 

それで試合の結果は……なんと父上が降参したので御座る! 父上は、神格武装である蜻蛉切の能力も使ったのにも関わらず、相手を怯ませるどころか当たりもしなかった。逆に蜻蛉切の通常駆動が颯也殿の持つ剣の一閃だけで無効化されたりと……そこで拙者が疑問に思うことは勿論、

 

(何故颯也殿はあれだけの腕を持ちながら武蔵の副長では御座らんのか?)

 

さっきからそればかりを考え申しておる。

 

「隊長、どうかなされたのですか? さっきから何やら考え事をしているようですが……」

 

「うむ、先程とある者と模擬戦を行なったので御座るが、その事を考えて御座った」

 

「模擬戦ですか?」

 

「うむ。その相手に御座るが、愛護颯也殿と申してな。それで「ええっ⁉︎ あ、あの愛護颯也様ですか⁉︎」う、うむ……聞き間違いでなければその名前で御座るが……」

 

「そ、それ本当ですか⁉︎ 詳しく聞かせて下さい‼︎」

 

「わ、私にも是非‼︎」

 

「2人だけずるいわ! 愛護颯也様はファンクラブの共有財産! 会員の人達を全員集めなさい‼︎」

 

「「「jud‼︎」」」

 

(こ、これはどういう事に御座るか……)

 

その後、二代さんは『愛護颯也くんファンクラブ』の会員達に模擬戦の事を根掘り葉掘り聞かれました……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 立花宗茂

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回は教皇総長が乗っている栄光丸の護衛として私、八大龍王の1人である立花宗茂は護衛艦に搭乗していた。そして先程、三河の警護隊と見られる船とすれ違ったのだが……

 

「何やら騒がしい様子でしたが、何かあったのでしょうか?」

 

「気になりますか? 宗茂様」

 

その問いに、隣に立っている女の子……私の妻である誾さんが返事をしてくれた、

 

「そうですね……何かトラブルに巻き込まれているかもしれません。こちらはあくまでも教皇総長の護衛ですが、有事の際は助け合う事は必要です」

 

「流石は宗茂様、敵にも恩を売る事を考えてその後何らかがあっても有利に事が運べるようにとの事ですね」

 

「い、いえ……そういう訳ではないのですが……」

 

「なにはともあれ私も気になります。ですから今から聞いt「こ、これは⁉︎」? どうしたのですか?」

 

近くにいた女生徒が何か驚いていました。そこで誾さんがすかさず聞きに行きます。勿論私もですが……

 

「だ、第一特務に第三特務!」

 

「先程何かに驚かれていたようですが、何かあったのですか?」

 

「そ、それが……こ、これを見て下さい‼︎」

 

そして彼女が見せてくれたのは、何かの掲示板でした。そこには……

 

『掲示板速報! 愛護颯也様が三河警護隊隊長、並びに三河副長と模擬戦を行なった模様‼︎』

 

そして下に通神欄をスクロールしていくと、その模擬戦の内容が事細かに詳しく書いてありました。そして結果は……

 

「……愛護颯也が三河警護隊隊長、ならびに三河副長に勝利した……と」

 

警護隊隊長と三河副長……会った事はおろか実際に見た事もないが……

 

(三河副長といえばあの東国無双の本多忠勝……まさか彼に勝てうる存在がいようとは……)

 

「因みに愛護颯也という人物は……」

 

「は、はい。愛護颯也様は、極東武蔵の特務師団長を担っています」

 

「特務師団長……ですか? 全く聞いた事がない役職ですが……」

 

「総長連合にはかろうじて入っていると言われてはいるのですが、聞くところほぼ雑用係に近いと……」

 

「雑用……ですか」

 

雑用と聞いてしまうと……どうしてもうちの総長を思い出してしまうのですが……まさかその愛護颯也というのもかなりの苦労人でしょうか? まぁ……どこにでも苦労人はいるという事でしょう。

 

「ですがほぼ雑用と同じ様な役職を持った方がその両名に勝つという事は……」

 

「えぇ。武蔵を侮ってはいけないという事です。ただ……」

 

「ただ?」

 

「何故それ程の実力がありながら副長にはならないのでしょうか?」

 

「……確かに今の武蔵には副長は不在のはず」

 

「誾さんの言う通りです。それだったらわざわざ雑用係には入らずに副長になれば良いと思うんですがね」

 

私には分からない……何故それほどの力があるのに上に立とうとしないのか?

人の考え方は十人十色と言いますが……その愛護颯也という人物、気になりますね。

 

(それにその名前……どこかで聞いた覚えがあるのですがね……ともかく)

 

「その愛護颯也という人物の外見を知れる様なものはありませんか?」

 

「そ、それでしたらこちらに」

 

そして彼女が見せてくれたのは数枚の写真だった。特徴を簡単にあげるなら、長い金髪で右目を隠す様に前髪を垂らしている。顔立ちはよく整っており、優しそうな雰囲気を醸し出していた。だが服装は見たこともない格好をしていた。全体的に黒ですが、彼が纏う外套がどこかの貴族の出と思われるほど……

 

(それにこんな服は見たことがない……)

 

今でしたらハードポイントと呼ばれる、服を固定するものが両肩の首付け根あたりと左右の腰に存在するはずですが、この方にはそれが見当たらない。

 

そして最後に見た写真ですが……

 

「これは一体……どういう状況なのでしょうか?」

 

「何故上半身裸なのでしょう?」

 

「こ、この姿についての詳細は私にも分かりませんが、私にとってはとても眼福です‼︎」

 

「そ、そうですか……」

 

(愛護颯也……露出癖があるのでしょうか?)

 

颯也さんは、自分の知らないところであらぬ疑いを持たれていました……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「三河警護隊の体調と三河副長に勝利……ね。あの子……自分のルールを破ったのね」

 

仙台伊達教導院の副長、伊達成実は『愛護颯也くんファンクラブ』の掲示板を見ていた。そこには今日颯也が模擬戦を行なった事を詳細に書かれてある。そして彼女が発言した事を意味するに、彼女も颯也のこのルールを知っていた様だ。

 

(でもあの子が簡単に自分のルールを破る筈がないわ。考えれるとしたら……相手が颯也の事を困らせたとしか考えられないわね)

 

「……今度その模擬戦をしたという相手に会ったらどうしてくれようかしら?」

 

「な、成実? 顔が怖いぞ?」

 

成実さんは颯也さんの模擬戦相手に対しての仕打ちを考えていました……

 

「でも、あの子が勝ったのならとても嬉しいわ。ふふっ、カッコいいんだから♡」

 

「ほ、本当にどうかしたのか⁉︎ どこか体調でも悪いのか⁉︎」

 

他人に心配されるほど成実さんの顔はコロコロと変わっていたそうです……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー●◯●ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後19時45分武蔵アリアダスト教導院前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(にしてもどうにかなったな……)

 

あの模擬戦から帰った後……いつのまにかできていた俺のファンクラブの会員と思われる子たちに散々声をかけられた。それも老若男女問わず……

 

(それにしてもどっからそんな情報が……)

 

情報元は模擬戦で相手をした二代さんです……

 

(それだけだったらまだ逃げて有耶無耶にできるが、その後が問題なんだよなぁ……)

 

そう、颯也は武蔵の住人だけでなくその後に梅組にまで質問責めにあった。そして物凄く心配されたのだ。その一例が……

 

「三河の副長と戦ったって本当ですか⁉︎ なんでそんな無茶したんですか!」by浅間

 

「そ、颯也くん、だいじょ、うぶだった?」by鈴

 

「見たとき驚きましたわよ! どこか怪我はありませんでしたの⁉︎」byネイト

 

「もぅ……無茶しちゃダメだよぉ〜」byマルゴット

 

「どうして私もその場に呼んでくれなかったの⁉︎ もぅ〜颯也のカッコいい場面をネームに切りたかったのにー‼︎」byマルガ

 

「んもぅ、とりあえず賢姉たる私がお仕置きしてあげるんだから! てな訳でさぁ颯也ぁ! 私の胸にいらっしゃい‼︎」by喜美

 

「颯也くんが戦っているところの写真が欲しかったんだけど……でも颯也くんに怪我がなくて良かったよ〜」byハイディ

 

とまぁそんな風に梅組から質問ぜめと心配を同時にされ、根掘り葉掘りを聞かれた感じの颯也。それもなんとか説明し終え、心配をかけた子達には謝って今回の事は許してもらった。そして現在は教導院前で前夜祭をする準備をしていた。まぁほぼトーリ待ちだが……

 

「そういえば皆さん、前夜祭の前に1つ伝えときたいことがあります。それは怪異についてです」

 

「最近起こっている神隠しのことだね。確か最近三河でも発生してたよね?」

 

浅間の発言にネシンバラが答える。

 

「そうです。それは武蔵も例外ではないかもしれません。ですから皆さん、十分に気を「あぁぁぁぁーーーーーっ‼︎ 聞こえない! 私はそんなお化けとかそんな発言聞こえないわぁーーーっ‼︎」ちょっ、喜美! 落ち着いて下さい‼︎」

 

浅間が気をつけてた言おうと瞬間、喜美が叫び出した。そしてその反応の意味する通り、喜美は怪談の類が超が何個もつくほど苦手だ。だからそんな話になりそうな時、決まって喜美は叫んで現実逃避する。そしてそんな時も決まって……

 

「喜美さん……」

 

「っ⁉︎ そ、颯也?」

 

「こうしたら……怖い事なんて聞こえないでしょ?」

 

颯也は喜美の耳に手を当ててフタをした。これも決まって昔からみる行動だ。喜美が怖いものや事を聞いたり見たりして不安になった時、颯也は喜美のそばに行って今のように喜美の耳を両手でフタをする。

 

「ホント? 私が安心できるまで側にいてくれる?」

 

(((お前誰だよ⁉︎)))

 

「えぇ、貴女が安心できるまで……」

 

(((あっ……良いなぁ……)))

 

「……ありがと」

 

喜美は颯也に抱き着く。

 

「おっと……全く貴女は、偶に甘えん坊になりますね」

 

「た、偶になんだから良いでしょ⁉︎ とにかく今はこの賢姉を抱きしめなさい」

 

「ははは……分かりましたよ。貴女が安心するまで抱きしめてあげます」

 

そして颯也も喜美が安心できるように強く抱きしめた。

 

「あっ♡ んんっ♡ 颯也ぁ〜……もっと強くぅ♡」

 

「ははっ、本当に甘えん坊さんですね」

 

「んっ⁉︎ んんっ‼︎ そ、そこは反則よぉ〜……でも、もっとやってぇ〜♡」

 

颯也は強く抱きしめるとともに、無意識のうちか喜美の髪も撫でていた。そのために喜美は物凄く感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴッ

 

「……」

 

教導院の廊下の壁に拳を叩きつけて穴を開ける成実さんの姿がありました……

 

(また……また私の特権が取られたわ)

 

このもどかしさ……どうしたら良いかしら? 私は……今すぐにでも颯也に甘えて欲しい。私の胸に飛び込んで、それでいっぱい頭をナデナデしたい。確かに私も……颯也に強く抱き締められて頭とか色んなところを撫でられたいって思ってる。

 

(なんで1日離れただけで……こんなに胸を締め付けられるの?)

 

「私は……颯也、貴方に会いたい」

 

その呟きは、静寂に包まれた廊下に虚しく溶けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの〜……喜美さん? もうそろそろ離してもらっても……」

 

「ダ〜メ♡ 今日1日はこうしてもらうんだから♡」

 

「ちょっと喜美‼︎ 颯也くんから離れて下さい‼︎」

 

「あ〜ら何よ淫乱巫女? 本当ならアンタも颯也にこうして欲しいくせに」

 

「そ、そんな事は……」

 

「そう言いよどむ時点でして欲しい願望あるじゃない? ほら、アンタもくっ付きなさい?」

 

「そ、そう言われても……」

 

(で、でも本当に良いのだとしたら……)

 

そう思った時点で浅間は颯也に近付いていく。

 

「あ、浅間さん?」

 

「颯也くん……私も……お願いできますか? いえ、私の事も……抱き締めて下さい」

 

「……」

 

「ダメ……ですか?」

 

「……分かりました。浅間さんもやって欲しいと言うのなら、俺は拒みはしません。さぁ、こちらに」

 

颯也は左腕を広げて、浅間を抱き締めれるようにした。それを見た浅間は頰を赤く染めながらも、確かな足取りで颯也に近付く。そして颯也の腕が浅間を抱き締められる範囲に入った時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みんなおっ待たせーっ‼︎

 

と、トーリが校舎から勢いよく出てきた。そのため浅間は驚き、颯也に抱き締められかけたまま止まってしまった。それを見たトーリは……

 

「おっ! ねーちゃんが颯也に抱きついてやがる‼︎ ねーちゃんやっと颯也に告っt「あらやだ‼︎ また風が強くふいて颯也にセットしてもらった髪がまた乱れたわぁ‼︎ という事で颯也、またお願いできる?」「……ま、まぁ良いですけど」「んふふ♡ ありがと♡」……まっいっか。それで……浅間も颯也に告ったのか?」

 

「えっ? えぇー⁉︎ ちょ、ちょっとトーリくん⁉︎ 何言ってるんですか⁉︎ 私は颯也くんに告白なんてしていませんよぅ?」

 

「えっ? だったらなんで颯也の近くにいるんだ?」

 

「そ、それは……さ、さっき転びかけてしまったんで、そこを颯也くんに助けてもらったんですよぅ? 何もやましい事なんてないですよぅ?」

 

(((いや、やましい気持ちありまくりだろ……)))

 

「ふ〜ん……まぁそれはそれで良いとして、んじゃ準備できたから早速やろうぜ?」

 

「ちょっと待て馬鹿。金はかからないんだろうな! かかったとしても少なく済むんだろうな!」

 

「そこんとこは……まぁ大丈夫だ! とにかくやろうぜ!」

 

「……はぁ〜」

 

「まぁそんなに落ち込むなよシロジロ。もしもの時は俺がなんとかするから」

 

「颯也か……だがそうすると会計たる私の立場というのがな」

 

「まぁ自分の管轄内で起こったのをお金をやり繰りしてどうにかしようって気持ちは分かるよ? だけど俺からすれば……ここでお金はあんまり使って欲しくないんだ。まぁ簡単に言えば……お金は大事にした方がいいって事だよ」

 

「……すまん。いつも颯也には頼ってしまうな」

 

「謝らなくても大丈夫だよ。俺が好きでやってるんだからさ」

 

「もぅ、また颯也くんはそんなこと言って〜。無理しちゃダメなんだよ?」

 

「あぁ、無理なんてこれっぽっちもする気は無いし、それよりしないから」

 

「それが無理してるように見えるんだけどなぁ〜」

 

「ははは……でも心配してくれてありがとうね、ハイディさん」

 

「っ⁉︎/// そ、そんなの当然だよぉ〜♡」

 

と、ハイディさんはにこやかに言い返しました。

 

「まぁトーリが言うように、とりあえず行くかな」

 

そして梅組一行は夜の教導院へと入りました。そして颯也さんが今誰といるかと言うと……

 

「そ、颯也……絶対に側から離れちゃダメよ⁉︎ 絶対よ⁉︎」

 

「えぇ、それはもう分かっていますよ。急に離れたりしませんから」

 

「それ以外もダメよ‼︎ 絶対に離れないで‼︎」

 

「ははは……それで鈴さんは良いとして、浅間さんはこれ関係はとても強いと思ったんだけど……」

 

「その通りですよ? でも……颯也くんの側にいたら安心するのでこうやって近くにいるんです」

 

「近くにっていうよりもろ颯也の片腕に抱きついてるさね?」

 

「ま、まぁ良いじゃ無いですか! 私としては、抱きついた方がもっと安心するんです‼︎」

 

(というよりも、私としてはとても役得だからなんですけどね?)

 

(って、浅間さんは思ってるんでしょうねぇ〜……その気持ちは分かるんですけど)

 

「で、でも確かに、浅間、さんの言う通り、こうしていた、方が落ち着くよ?」

 

「それは分かるだけどさ……な〜んかそれだけじゃ無いと思うさね」

 

「も、もぅいいじゃないですか‼︎ とにかくここで最後です。ささっ、入る前に手を合わせましょう」

 

図書室の前で止まり、一行は浅間に合わせて一拍した。それが終わると浅間は扉をあけて中に入った。……が

 

(……何ですかあれ?)

 

既に日が落ちているのに加えて校内だから辺りが暗いのは当然のことだが……浅間は自分の視界に何やら怪しい存在を認識した。だがそれは霊などの存在ではなく、何か布になんらかのキャラクターが描かれた物を何者かが被っていた。それも全く同じ様なものが2体……

 

そして布に描かれたキャクターの目がキラリ(被っている者の目だろう……)と光り、浅間に勢い寄ってきた。

 

浅間はそれを見てすぐさま弓を構えて矢を放とうとしたが……

 

「そうする必要はないよ?」

 

「えっ? 颯也くん?」

 

それをいつのまにか前に出た颯也が止め、寄ってくる者達にはラリアットを繰り出して鎮めた。

 

「さて……ここで浅間さん達の管轄は終わり、で良かったよね?」

 

「あ……はい、そうですね」

 

「なら一足先に外に出ようか。俺はちょっと……ちょーっとやる事を思い出したからまだ残るんだけど」

 

「えっ⁉︎ 嘘よ⁉︎ この賢姉たる私の側から離れるというの⁉︎」

 

「まぁそういうと思ったから、今から喜美さんにはおまじないをかけますね?」

 

「おまじない?」

 

颯也はそういうと、自分の右手人差し指を自らの唇に当て、それを喜美のおでこに当てた。

 

「あっ……♡」

 

「これも……昔からやってましたよね? 貴女が何かに怖がって立ち止まった時、俺がこうしておまじないをするの。これで大丈夫かな?」

 

「……うん。でも早く戻って来てね?」

 

「えぇ、そのつもりです」

 

「……はっ⁉︎ いけないいけない! それじゃあ颯也くん、気をつけて下さいね? 先程言ったように怪異とかもあるかもしれませんから」

 

「分かってます。それじゃあまた合流しましょう」

 

そして颯也と浅間達は離れた。浅間達が見えなくなった頃合いを見て、颯也は未だに倒れ伏している布被りの人たちに目を向けた。

 

「さて……まぁトーリから頼まれてここにいるんでしょうけど。でもそんな姿を副会長が見たらどう思いますかね? 本多正信さん? 後小西さん?」

 

「ば、バレていたのか……」

 

「そんなもの……風で分かります」

 

「……全く君は不思議な子だな」

 

「えぇ、なにせあなたたちよりも長生きですから」

 

「そうか……はっ?」

 

「なにか?」

 

「いや……さっき私達よりも自分は長生きだと聞こえたのだが……」

 

「まさか……例え言ったとしても冗談に決まっているじゃないですか」

 

「そ、そうだな。うん、多分先程くらったダメージがまだ残っているんだろうな……」

 

「まぁさっきのはそんなに力入れてなかったし、ただ肩と肩同士がぶつかったくらいの衝撃ですよ」

 

「むぅ……その程度だったとは……年は取りたくないものだな。なぁ小西……ん? 小西?」

 

「あぁ……小西さんだったら気を失ってますよ?」

 

「えっ? こ、小西? 小西ィィィーーーッ⁉︎」

 

小西さんはあの程度で気を失っていました……

 

その後校内中で爆発が起こりその事後処理を颯也さんが片付けた事は言うまでもありません……

 

が、そんな日常は数分後に崩れるという事は……颯也以外誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side ???

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて……この日が来てしまったな。ガエリオ、アイン……準備は出来ているな?」

 

「ふん、誰にものを言っている? 一度お前に殺され、そして一度お前を殺した俺だぞ? 遅れは取らん」

 

「私も……特務3佐と同じく覚悟は出来ています」

 

「そうか。アインの覚悟はともかく……ガエリオ、あの時の勝負は確かに負けた。だが、本来存在するはずだったバエルの剣があったなら負けてはいなかったさ」

 

「ほぅ? だが俺からすれば、それはただの負け惜しみにしか聞こえないがな?」

 

「……なら今すぐ勝負するか? 今なら負けはしないが?」

 

「……良いだろう。まぁ今回も俺が勝つがな?」

 

「寝言は寝てから言った方が良いぞガエリオ?」

 

「それはこちらの台詞だマクギリス?」

 

「「ハハハハハハハハ……」」

 

黒いオーラを纏わせながら笑う2人がいました……

 

「ちょっ⁉︎ 2人とも作戦行動前に喧嘩はやめて下さい‼︎ 颯也に知られたらどうなるかなんて分かりませんよ⁉︎」

 

「……そうだな。少しどうかしていたようだ」

 

「俺もだ。すまんなアイン」

 

「ほっ……」

 

「気を取り直して……これから作戦行動に入る。颯也の守りたい世界……末世とやらから救うぞ」

 

「あぁ‼︎」「はい‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




惜しい! 何が惜しいって10,000文字行かなかったのが惜しいんです‼︎

「後5文字だろ?」

……作者文章付け加え中……

ヤッター‼︎ 10000文字達成したぞー‼︎

「……まぁ次回も見てくれると嬉しい」


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8話 三河消失? 月下からの卒業? そんな事をやらせるとでも?

更新が遅れてすみません‼︎

それで解説云々はまた後で書き足します‼︎

それでは長らくお待たせしました‼︎ ご覧下さい!


19時30分 三河関所付近の番屋

 

 

 

 

 

 

 

 

トレスエスパニアの学生が、付近で何か怪しい動きはないかと意識を張り巡らせていた。ここは三河の地、そして松平元信がおさめる国だ。大罪武装を制作した本人であり、トレスエスパニアにも2つ献上してもらってはいるものの、敵国に変わりはない。

 

そもそも大昔の重層統合騒乱を引き起こした極東側の人間だ。油断することは1ミリたりともできはしない。

 

そんな中目に付いたのは、少し離れた位置で監視をしている仲間だ。夜とはいえ、自分達は暗闇の中でも相手が今何をしているのかが細かくではないが分かる。

 

現に今、離れた所で監視している仲間が伏せた状態ではなく立っているのが見えていた。

 

「おい、今警戒中だぞ。立っていたら目立つだろ?」

 

『えっ? 俺立っては……ザザー……』

 

「おい! 応答しろ‼︎ 何があったんだ?」

 

学生の目には、監視している仲間が以前立っている姿が見えていた。さっきまで通信感度も良好……特に問題はなかったはずだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結べ……蜻蛉切

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな声が自分の背後から聞こえた気がしたのだが……気がした時にはすでに意識は刈り取られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 酒井

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

酒井は今走っていた。それはつい先程……榊原という友人の侍女人形が持ってきた束に連ねられた用紙を見たのが最初

 

(これは……白紙じゃないか?)

 

「貰ったのはこれだけか?」

 

「jud。榊原様がこの束の紙を持って行くようにと仰せつかりました」

 

そこで疑問が生じた。榊原は昔から頭の回る奴だ。そんな奴がこんな無意味な事をするか?

 

(……っ‼︎)

 

そう思ってコンマ数秒には既に駆け出していた。榊原の屋敷へと……

 

そして数分でたどり着き、榊原のいる部屋へと入った。

 

「榊原っ‼︎」

 

だがそこには誰も存在しなかった。部屋の中は整頓されており、机の上にはこれまた白紙の束があるだけだった。酒井が榊原の部屋に入ってすぐ、後ろから別の侍女人形が現れた。

 

「榊原様は作業は終了したと言っていました。ですので部屋を片付けに来たのですが……」

 

「なにっ⁉︎」

 

そこで酒井は改めて部屋を見渡した。すると……

 

「これは……⁉︎ 二経文⁉︎」

 

二経文……それは、今巷で噂をされている怪異の事だ。二経文と呼ばれる印がそこにあれば、そこにいた人物は必ず姿を消すのだ。それも髪の毛1本も残さずに……

 

(榊原……)

 

榊原は二経文の犠牲になったのだと酒井は認識し、机の上にあった白紙の束を確認した。

 

「……っ⁉︎」

 

そこには、目を凝らさなければ見えないほどの文字でこの様に書かれてあった……

 

「二経文を追え……」

 

薄っすらと表されていた言葉を、酒井は目に焼き付けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなに早く来るとはね……流石は松平四天王の1人という事か」

 

「っ⁉︎ 誰だ‼︎」

 

酒井の背後からゆっくりと近づいて来る人物がいた。その者は、パチ、パチ、パチと3回ほど手拍子をしながらゆっくりと歩いて来る。

 

近づいて来るにつれてその者の姿が月光によって明らかになっていく。上から下までビッシリと着こなした黒いスーツに、顔のところは仮面を被っていて素顔は分からない。主に金色の仮面で、それが鼻先まで覆い隠していた。またその仮面についているであろう白い長髪は、その者の肩辺りまで伸びていた。

 

「いきなりで失礼したね。私の名前はモンターク。しがない商会を経営していてね」

 

「……それで、そんなしがない商会を経営しているお前さんがどうしてこんなところにいるんだい?」

 

「フフッ、そんなに警戒はしないでもらいたい。私はあなたの敵ではないのだから」

 

「ついでに味方でも無いんだろう?」

 

「さぁ……それはどうだろうね。ところでさっきこの部屋で「貴様、まさかこの部屋にいたのか⁉︎」あぁ、確か……ここにいた初老の、確か榊原といったかな」

 

「榊原に何かしたのか……?」

 

「何も? わたしがこの場に着いたのが、榊原という男が怪異に遭っている最中だったからね?」

 

「なん、だと?」

 

「おや? まさか怪異が起きているところを見たことが無いのかい? まぁそれは当然の話だね。怪異というものは本来、人の目が触れないようなところで発生するのだから」

 

酒井は目の前の男、モンタークに威圧をかけながらそう問い詰める。だがモンタークはそれを意にも介さずさっきの口調でそう言った。

 

「だがお前さんは怪異を見た。それも……榊原が遭っている最中に」

 

「あぁ、あれは本当におぞましいものだ。まさしく、人の目に触れてはいけないものだと、見て思ったさ」

 

「……そうか」

 

「それで、君は悠長にこんな所にいてもいいのかな?」

 

「何だと?」

 

「今しがた……番屋で爆発があってね。私の予想だと……三河と武蔵は今日この日を境に戦乱の渦へと巻き込まれるだろう」

 

「な、何を根拠にっ⁉︎」

 

「そう思いたくなければ、そう思ってくれても構わない。だが私は一応言った。心の片隅に留めておいてくれればそれで良い」

 

「……そうかい。まぁお前さんの言葉は一応片隅にでも留めておく」

 

そう言い、酒井は榊原邸を後にした。そして酒井が去った後……

 

「こちらモンタークだ。酒井学長とやらは去って行った。そっちの状況はどうだ?」

 

『ヴィダールだ。俺の方は予定位置に着いた』

 

『ヴァンデッタです。こちらも所定位置に着きました』

 

「よし、私もここでの用は済んだ。これから所定位置に向かう」

 

そこでモンタークは通神を切ると、またどこかへと繋いだ。

 

「白騎士、モンタークだ。榊原殿は怪異に巻き込まれる前に助け出しておいた。それで今三河番屋で火の手が上がっているのが見えるか?」

 

『……』

 

「了解した。ならばそこで落ち合おう。通信を切る」

 

そこでようやく通神をオフにした。

 

「さぁ……停滞していた世界が動き出す。末世を覆す……“颯也”が幸ある生を送れる様に……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー●○●ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

19時時45分 武蔵アリアダスト教導院前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヨシナオ教頭? 何故先生であるあなたが、この教導院で真面目に学業を行なっているいち生徒、鈴さんを泣かせている?」

 

「い、イヤ……余はそんなつもりは……」

 

「言い訳は言わなくていい」

 

「……はい」

 

何故この様な状況になっているのだろうか? それは5分前にまで遡る……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

回想

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだこの騒ぎはぁ‼︎」

 

梅組が生徒総会の一環として幽霊払いを行なっており、それが終わりに近づいた頃だった。騒ぎを聞きつけたヨシナオ教頭は、その場に駆けつけその様を見たと同時に怒りを露わにした。そして

 

「おいそこの君! これは一体何事かね‼︎」

 

怒っていたために口調もそんな風になっていたのだ。まぁ怒っていれば誰だってその様になるだろう。だが聞く相手が悪かった。何故なら……

 

「ひっ……」

 

「むっ? どうかしたのかね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うわぁぁぁぁぁん‼︎

 

「ちょっ⁉︎ ど、どうして泣き出すのかね⁉︎」

 

聞いた相手が鈴だったからである。その鳴き声が響いた直後……

 

「鈴さん、大丈夫かい?」

 

「ひっぐ……そ、颯也、くん?」

 

「よしよし、もう大丈夫だよ。もう何も怖くないよ」

 

颯也が颯爽と鈴の前に現れ、抱き締めながら頭を優しく撫でていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃……

 

 

 

 

 

 

(また……私の特権が奪われたわね)

 

成実さんはその様に思っていた。どれほど颯也さんを独占したいと言うのだろうか……

 

「ちょっとそこ? 聞こえているわよ? 颯也を独占しようとして何が悪いの?」

 

文章も感じ取る様になっていました。というか文章にまで介入しないで欲しいです。

 

「あなたがおかしなことを言わなければ良いだけよ」

 

……

 

「あら、沈黙したわね」

 

最早この場は黙り込むしか無いのである……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして話は颯也がヨシナオ教頭を尋問……問い質している場面に戻ります。

 

「で? まだ彼女への謝罪を聞いていなかったのだが……?」

 

「っ⁉︎ む、向井くん! 今回の事は余が悪かったのである‼︎ どうかこの通り許して欲しい……」

 

「そ、そんな、わた、しはもうだいじょ、うぶです」

 

「さて……ヨシナオ教頭? 今回は鈴さんが許してくれたから良かったものの、今度こんな事があった時は……こんなものではすみませんので」

 

「う、うむ……分かったのである」

 

「はい、それじゃあ今回はこれで良いとして……」

 

そこから先の言葉が出るかと思ったら、颯也は急に三河の方に顔を向けた。

 

「俺は用事が出来たので、お先に失礼しますね」

 

「およ? 颯也どっか行くのか?」

 

「あぁ、少し用事が出来た。と言っても場合によっては明日にならないと帰れないかもしれないけどね?」

 

「う〜ん……そっか。じゃあ気をつけてな?」

 

「ありがとう、トーリ。それじゃあ皆、気を付けて帰ってね」

 

その言葉を残すと、颯也は最初からその場にいなかったかのように去っていた。

 

「相変わらず颯也殿は速いでござるなぁ〜」

 

「颯也の着ている服を脱いだ、もしくは術式を解除したのならどれくらいの速さになるのだろうな?」

 

「そんなの僕たちじゃ想像しきれないよ。そもそもあの速さの時点で僕だったら気分が悪くなるだろうね」

 

とまぁ残った梅組の面々は思い思いの事を言っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あと数分でこの日常が崩れ去るとは知らずに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

19時48分 三河番屋並びに新名古屋城分かれ道へと続く道

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 酒井

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(一体この三河で何が起ころうとしているんだ?)

 

酒井は己のうちから出る胸騒ぎを感じていた。榊原の件もそうだし、榊原邸にいたあの男の事もそうだが、それ以外に何か、途轍もなく大きなものが起きようとしている……彼はそう感じていた。

 

そう思いながら走っていた時だ。

 

「うぉっ⁉︎」

 

酒井は何かにつまずき体勢を乱した。その時に見えたのは、槍の石突部分だった。

 

「テメェも大分老いたな……さっきのをかわせないようじゃ」

 

「っ⁉︎ ダッちゃん⁉︎ 何でこんな所に⁉︎」

 

「なんでって……そりゃあ殿からの命を受けているからなぁ」

 

「殿から? それは……っ⁉︎」

 

そこで酒井が感じ取ったのは、足元……地面から伝わる振動だった。まるで地の下を巨大な大蛇が地響きをあげながら進んでいるかのようだった。

 

「こいつは……地脈からか⁉︎ にしてもこれは……暴走していないか⁉︎」

 

「暴走している、じゃない。“意図的に起こしてる”んだよ」

 

「っ⁉︎ 何でそんな事を⁉︎ 最悪三河が消失するぞ⁉︎」

 

「それが殿の命ならば、副長である我は従うまでだ」

 

「っ……ダッちゃん‼︎」

 

「おぉ? 久方ぶりにやるか?」

 

酒井は腰に刺してある短刀を抜いて構え、それを見た忠勝も槍を構えた。

 

「と言いたいところだが、生憎こっちにも時間がなくてな……てな訳でお前は武蔵に戻れ! お前はとっくの昔に三河から追放されてんだから」

 

「ダッちゃん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20時00分 新名古屋城

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 松平元信

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、これで準備は整った」

 

彼は後ろに多数の侍女人形を侍らせながら怪しげに笑う。

 

「この三河消失をキッカケに、今の世界情勢がどう変わって行くのか。末世がどうなるのか……うん。すごく楽しみだね。そして……」

 

元信は歩き出す。この出来事を一番良い特等席で見るために……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「転生者……彼はこの世界でどう動くのかな? 楽しみだよ……愛護颯也くん」

 

そんな言葉を言い残して……

 

 

 

 

 

 

 

20時丁度……新名古屋城から暴走した地脈が空に向け、1本の巨大な柱を創り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20時5分 side トレスエスパニア

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『新名古屋城にて高圧の流体反応を確認‼︎ 武神部隊は現地に赴け‼︎』

 

空から監視の命を受けていた4機の武神隊は、作戦本部からの通神で現地に向かっていた。そして新名古屋城に近付こうとした瞬間、流体の壁に阻まれた。

 

『くそっ! これじゃあ近づけない‼︎』

 

『作戦本部から武神隊へ、武神隊には地上部隊と合流して新名古屋城に突入せよと』

 

『空中装備しか携えていないぞ⁉︎ 地上用の装備への換装は可能か⁉︎』

 

『地上装備への換装は時間がないため行えませんが、追加装備の用意があります』

 

『tes! A2は俺と一緒に地上から突入する。A3は空からの監視を続行、A4は後続で待機だ! 作戦開始‼︎』

 

そこから作戦は開始される。空に張られた流体の結界はそのままだが、それは地上にまでは及んでいない。トレスエスパニアは、地上部隊と武神隊で陸路から新名古屋城へと向かう。その直ぐ後ろにはトレスエスパニアの艦が2隻、これも新名古屋城へと向かっていた。

 

だが不意に、その内の1隻に衝撃が走り高度がみるみると落ちていった。

 

『おい3番艦、高度が落ちているぞ‼︎』

 

『こ、こちら3番艦! 地上からの攻撃を受けた()()!』

 

()()? 報告は明瞭にしろ‼︎』

 

『tes!いきなり地上側から砲撃を受けました! ただ損害箇所はどこにもなく……衝撃があった途端に出力機関がほぼ停止状態です‼︎』

 

『なにっ⁉︎』

 

3番艦は最初、自艦が攻撃を受けたにもかかわらず何が起きたのか分からずそう言うしか無かった。ただ衝撃が来る前に見えたのは……地上側から自艦に向かって何かが撃ち出されたという事だけだった。

 

そして自艦を攻撃したのは……

 

『また、自艦を攻撃したのは……三河本多家に所属している自動人形、鹿角です‼︎』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 鹿角

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(先程の砲撃……完全に敵艦を撃墜する威力で放ったのですが……)

 

一方先に攻撃を仕掛けた鹿角は疑問に思っていた。何故なら先程放った攻撃が、完全に敵艦を沈める一撃だったからだ。

 

だが結果は違った。攻撃は直撃し、敵艦はそれによってか高度は下がっているものの撃墜はおろか大破もしていなかったからだ。付け加えれば火の手も上がっていない……

 

(……先程見えた術式)

 

そこで鹿角は思った。自分が放った攻撃が敵艦に当たる前、一瞬だが何かの術式が放った砲撃に付与されたのが見えた。

 

それは、砲撃が敵艦に当たる直前……それも弾の前に展開されたのだ。別の物に何らかの効果を付与する術式は確かに存在する。だがその効果範囲は精々1〜2mまでだ。そして敵艦や弾の周囲に術者の様な存在は確認していない。

 

(まさか……この戦場にあの方がいらっしゃるのでしょうか?)

 

そこで鹿角はある可能性を思い付く。そして滅多に笑わない鹿角が一瞬だけだが綺麗な笑みを浮かべたのだ。自動人形は感情をほぼ露わにしない。そして鹿角もそれに該当する。だが、それにも関わらず鹿角は笑みを浮かべたのだ。

 

(全く……あの人らしい)

 

そして鹿角は笑みを無くすと、目の前に迫っている武神と戦うためにかけて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「道路素材を使い構築します」

 

鹿角が重力制御で創り出したのは、2振りの大きな剣だった。それは武神の大きさくらいある。

 

それに対して武神も腰に刺していた剣を取り、鹿角と対峙した。人間サイズの鹿角と人間の何倍もの大きさがある武神……誰がどう見ても力の差は歴然で、武神が優位に立ち回ると思うだろう。だが結果は……

 

『ぐっ⁉︎ 手強い……』

 

なんとほぼ互角であったのだ。鹿角の重力制御で作った剣は武神を近付けさせない。だが武神も負けじと応戦し、鹿角の剣を2振りとも折ったのだ。これで少しは勝機が見えてきた、と感じた所で

 

「再構築致します」

 

今度は折られた剣を鹿角は4本に増やしたのだ。

 

『ぐっ……手数が』

 

逆に武神は4本の剣に押され始めたのだ。

 

『このっ!』

 

武神は近距離戦から一旦身を引き、持っていた銃で鹿角を撃つ。それに対して鹿角は大部分の銃撃を道路で作り上げた盾で防いだ。だが所詮は道路で作り上げたもの……最後の1発は貫通してしまった。

 

『よしっ!』

 

ここで武神は、最後の貫通した弾が鹿角に当たったと思い無意識に叫んだ。だがすぐに状況は一変した。何故なら、目の前で盾の役割をしていたものが崩れ去ると、そこには傷1つ付いていない鹿角がいたからだ。

 

さらに鹿角の手を見てみると、重力操作で浮いている自分の弾が止まった状態であった。

 

「敵の撃ってきた弾も有効活用します」

 

そして次に重力操作で作ったのは、1台の大砲だった。そこに重力操作で止めていた弾を込めた。

 

「目の前の敵を穿ちなさい」

 

大砲の発射口から自分が撃ったはずの弾が迫ってくる。回避しようとしたが、そう行動しようとした時には遅く……

 

『ぐぁぁっ⁉︎』

 

武神の右脇腹を弾が貫通した。

 

『おいっ⁉︎ 大丈夫か⁉︎』

 

そこでようやく武神のA1が到着した。

 

『うっ……撃て……』

 

そこでA2は自分の持っていた銃を託してきた。今の鹿角は丸腰の状態、勝機はあると感じたのだ。

 

『よし……』

 

すぐ様A1は銃を構え、引き金を引いた。

 

だがその瞬間は起きた。A1とA2、それに鹿角も気づいてはいなかったが、A1が引き金を引いたのと同時に、銃の銃身が綺麗に別れていたのである。

 

「結べ! 蜻蛉切‼︎」

 

その声が聞こえたのと同時に、武神2機に搭乗していたもの達の意識は刈り取られていた。

 

「忠勝様、随分遅いご到着ですね? 何を道草をしていたのですか?」

 

「オメェこそまだこんな所にいるたぁな」

 

「それは当然です。なにせ武神を相手にしていたのですよ? 時間がかかっていてもおかしくないと思われますが? それに1機戦闘不能間際まで追いやったのです。そこは良くやったと賞賛するべきでは?」

 

「そんな事、うちの自動人形なら当然だ。だから賞賛も褒める事もせんぞ?」

 

「そうですか……でしたら、会う機会があれば愛護様にでも褒めてもらいます

 

「ん? 何か言ったか?」

 

「いえ何も? それに聞こえていたとしても褒める事すらろくにしてくれない……いえ、する事が出来ない大人気ない忠勝様には関係ない事です」

 

「大人気ないとか酷くね? ただ褒めないだけでそこまで言われるの?」

 

「それはさておき、後続が来ますよ? 後は忠勝様がやって下さい」

 

「えっ? あれ全部我がやるの? めんどいなぁ〜」

 

「いやぁ、これは絶景だなぁ。ハッハッハッ」

 

「いやお前、笑ってないで手伝えよ……ってお前誰だ⁉︎」

 

「あぁ、これはお初にお目にかかるね。私はモンタークという、しがない商会を経営しているものさ」

 

「そ、そんな奴が戦場に何の用だ?」

 

「なぁに、ただの高みの見物さ」

 

「清々しく言うな! 全く……手伝わないのなら邪魔だ。去れ!」

 

「う〜む……」

 

「な、なんだ? まだ何かあるのか?」

 

「いや、条件次第では手伝ってあげても良いよ?」

 

「お前には何も得な事は無いと思うが?」

 

「あるさ。末世を覆す……その布石としてね?」

 

「っ⁉︎ ほぅ……この戦がこの世界を動かすのか?」

 

「さぁね? ただ私は、彼に従うだけさ」

 

「彼?」

 

「さて、そんな事よりも目の前まで敵が迫って来ている。ここは私が先行していくらか数を減らそう。後は……忠勝殿に任せるとしよう。では……」

 

そしてモンタークは、どこからか取り出した金色の剣を右手に持って迫り来る敵に突撃した。そしてぶつかり合った瞬間、トレスエスパニアの兵士達が吹き飛ばされた。

 

「あのモンタークという男……なかなかやりますね」

 

「そ、そうだな……」

 

(って、我はいつあいつに名前を教えた?)

 

目の前ではモンタークが無双していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side トレスエスパニア

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『A4! A1とA2がやられた。A4は現地に向かえ‼︎』

 

トレスエスパニアの作戦本部は、A4に対してその様に指示していた。だがなかなか返事が返ってこなかった。

 

『A4! 応答せよ‼︎』

 

『こちらA4! 緊急事態発生‼︎』

 

やっとA4が応答したかと思いきや、逆にA4がエマージェンシーを出していた。

 

『未確認の武神と交戦中! 特徴は〈ガシッ〉い、いつのまn〈ゴッシャーン〉ぐぁぁっ⁉︎ ーーーザザーッ』

 

『A4⁉︎ どうした⁉︎ 応答せよ‼︎』

 

そこでA4との通神が途切れたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 本多・忠勝

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結構早めに片付いたな」

 

「忠勝様はほぼ何もやっていなかったように思いますが?」

 

「ハハッ、本当だねぇ。ほとんど私がやっていたようなものだね」

 

「うっ、うるせぃやい! 鹿角、殿の元へと向かうぞ」

 

「分かりました。はぁ……愛護様に会えそうに無いですね

 

「ん? 何か言ったか?」

 

「いえ何も? ただ、忠勝様が功労者を褒めない大人気ない人だと再認識したまでです」

 

「まだ引きずってるの⁉︎ もう忘れない?」

 

「それはできません……っ‼︎」

 

そこで鹿角は何かに反応して、トレスエスパニアが攻めて来た方向を見る。それにモンタークもそちらの方を向いていた。

 

「おや、これは大きな波が来るね」

 

モンタークがそう言った瞬間、鹿角の目の前に黒い、小さな玉のような物が飛んで来た。それも一瞬だった為、鹿角は反応に遅れながらもなんとか左手を出し、飛んできた玉を重力制御で逸らそうとした。

 

だがその瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガギュインッ‼︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何か棒みたいな物が飛んできてその黒い玉を弾いたのだ。そして目の前から来るのは……黒く大きな搔きむしりだった。だがその搔きむしりは、玉の弾かれた方向へと進路を変更した。

 

「先程の攻撃は……」

 

「あれは正しく悲嘆の怠惰による搔きむしり……だね。という事は……」

 

「先程の攻撃……新名古屋城を捉えたはずですが、何故逸れたのでしょうか?」

 

そこに現れたのは、トレスエスパニアに所属する第1特務、立花・宗茂だった。

 

「逸れた? 我は何もしてはいないが?」

 

「同じく、私も重力操作で先程の玉を逸らすつもりではありましたが、私がする前には逸れていましたが?」

 

「私も何もしていないさ。正しく高みの見物の如くね?」

 

「では一体誰が……」

 

「それは……多分俺の事だろうな」

 

「っ⁉︎ あなたは……」

 

もう1人……この戦場に現れたのは、全体的に水色の服を纏い、どこかの将官みたく立派なコートを上から着ていた。そして顔はフルフェイスで隠していた。

 

「俺か? 俺の名はヴィダールという。まぁしがない……復讐者だ」

 

「復讐者……ですか?」

 

「その通り、一度コイツに殺されていてな」

 

「それを言うなら、私も君に殺されているのだが?」

 

「先にやったのはお前の方だろ?」

 

「後も先も関係ないと思うが?」

 

「そうか……ならば今この場でどちらが上かという決着を付けるか?」

 

「……いや、一旦冷静になろうか。ここでそんな事をして……いや、そもそもこんな会話が少しでもされたと知られたら後が怖い」

 

「……そだな。うん、やめとこう」

 

(はっ? 先程までの恨みがましい会話がいとも簡単に終わりましたが……)

 

宗茂は正直話の流れ自体そこまで把握していなかったにも関わらず、その会話の内容もすぐに打ち切られた事についていけてなかった。

 

「それで……妙な格好のあなた方は私達の敵ですか? それとも……味方ですか?」

 

「その問いに、今などあるのかい? 現に私はトレスエスパニアの敵を倒しているのだが?」

 

「同じく……俺はお前の攻撃を逸らした。その行為だけで今の段階でどちら側かと言うのは……分かるだろ?」

 

「くっ……ならあなた方は! この三河が消滅しても良いと言うのですか⁉︎ それに消失したのならばあなた方も生き残る確率はゼロです‼︎」

 

「おやおや、私がいつ()()()()()()()()と言ったかな?」

 

「なっ……それはどういう意味で……」

 

「普通にそのままの意味だろ?」

 

「ならオメェらは何でこんな所にいんだよ?」

 

そこでさっきまで静かだった忠勝が口を開いた。

 

「ハッハッハッ……君は物忘れが激しいと思える。私は君にあった時こう言ったはずだよ? ()()()()()()()()()……と」

 

「その彼って誰だよ⁉︎」

 

『それに関しては先生が答えよう‼︎』

 

どこからともなく声が聞こえたと思ったら、今の三河の光景を見ている全世界に対して中継が繋がった。そこに映っていた人物は……現三河当主の松平元信公であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 松平元信

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全国の皆さーーん! こんばんはーーーっ‼︎ 先生は今ここ、地脈炉がいい感じで暴走している三河に来ていまーーーす‼︎」

 

松平元信は悪びれないような感じで……良い感じに例えるならまるで無邪気な子供のようにノリノリで片手にマイクを持って話していた。

 

「元信公! 何故三河当主であるあなたが! 三河を消滅させる様な真似をするのですか⁉︎」

 

「おや、そこにいるのは立花・宗茂くんだね。うんうん、それに良い質問だ。それじゃあそんな良い質問をする君に対して先生も問いをさせてもらうよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

危機って、面白いよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 本多・正純

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なんなんだこれは……)

 

私はどうして良いか分からない状況だった。8時から花火をすると元信公は言っていたものの、彼は中継でこう言ったのだ。()()()()()()()()()()と。

 

「正純様、これが花火というやつですか?」

 

「えっ……いや、これは花火なんかじゃない」

 

私はそれを言うだけで精一杯になっていたのかもしれない。それにしても元信公は一体何を考えているんだ? 危機が……面白い? それってなんの事だ?

 

『そして、それ以上に大きな危機が目の前で起こり得るのって、もっと面白いよね?』

 

(なんだ? 一体何を言っているんだ?)

 

『元信公‼︎ さっきからあなたは何を言っているんですか⁉︎ それに危機とは⁉︎』

 

『君には考える能力が無いのかい? それなら試しに……そこの副長、答えなさい』

 

『我は全然わっかりませーん‼︎』

 

『君はそのまま人形の様に、身動き1つせず立っていなさい』

 

『それ酷くね⁉︎』

 

『それじゃあ次……宗茂くんは分かるかな?』

 

『いえ、分かりません……』

 

『そうか、それは少し残念だな。それじゃあつg『えっ⁉︎ なんか我との扱い差がありすぎない⁉︎』君は大人しくしていなさい。全くいつまで経っても子供だな』

 

『何で最近我はディスられたばかりなの⁉︎』

 

『んんっ! それは良いとして……次にモンタークくん、君は分かるかな? 先生が言う大きな危機というやつが』

 

『そんなもの簡単な事さ。それも世界全員が理解している事だよ……それは末世さ』

 

『そう‼︎ 正解だモンタークくん! それとここで聞くのもあれだけど、君が所属している教導院はどこだい?』

 

『教導院? フフッ、今の私はどこにも所属してはいないさ。今の私は、ただ彼のためだけに動いているに過ぎないのだから』

 

『彼……とても興味深い存在だね。そうだな……君が言う彼という存在を、今から先生が当てて見せようか? それもその存在は、末世にも深く関わるだろう存在だからね』

 

(あの仮面を被っている者が言う彼とは一体……それも元信公が末世にも深く関わるという存在? ダメだ……全然整理が付かない)

 

『まぁここですぐに正解を言うのは面白くは無い。だから少し昔話と、私に纏わる噂話をしようか。私には秘密裏に出来た子供がいるという噂がある様だが、それは本当の事だよ』

 

それを元信公が言った時、私もそうだが、いくらかの人達もそう思っただろう。

 

『そして私はその子を武蔵に預けた。それから数年後、ある式典に参加する為に私は武蔵に行った。そして偶然にもその子に再会した……いや、これでは語弊があるね。武蔵の住人の殆どが知っているかもしれない話だけど、私の乗っていた馬車と、そして3人の子供がぶつかってしまったんだ』

 

(まさか……まさか⁉︎)

 

『そう、多分これで皆も分かったかもしれないけど、私は実の子を事故に遭わせてしまった。そしてその事故で亡くなったのも私の娘だ』

 

「ホライゾン……アリアダストの事か」

 

『そしてもう1つここで噂話をしよう。現時点で8つある大罪武装についてなんだけど……あれには人の感情を素材として使っていると噂されているね。それは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさしく本当の事だよ。そしてその材料に私の娘を使っている事も』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(な……なんだって……じゃあ大罪武装は……ホライゾン・アリアダストの感情そのもの⁉︎)

 

『そしてさっき大罪武装は8つあると行ったけれども、正確には違う。本来大罪武装は9つあるんだよ』

 

『そしてそれを……1年前に武蔵に送ったんだ。自動人形としてね?』

 

「っ⁉︎ ま、まさか……p-01s……」

 

「私がどうかしたのでしょうか? 正純様」

 

『名前はp-01s……その子こそが最後の大罪武装〔焦がれの全域〕……嫉妬を司る大罪武装だよ』

 

『なぜ……なぜ今頃になって言うのですか⁉︎ その話と末世と、どの様な関係があると言うのですか‼︎』

 

『そんなもの簡単だろ? 大罪武装全て集めた者が、末世を左右する……そんなところだろう?』

 

『簡潔にまとめられていて素晴らしい! その通りだよヴィダールくん』

 

『ふんっ、お前に褒められたところで嬉しくとも何ともない。むしろ俺は……お前のそのやり方に嫌気を覚えているところだ』

 

『まぁそうだろうね。それで……だ。昔の事故の話に戻るけど、3人の子供を事故に遭わせたと言ったね? 本来だったら2()()のはずだったんだ』

 

『ど、どういう事ですかそれは⁉︎ それではまるで……』

 

『そう、その事をまるで……2人が事故に遭う事を知っているかの様だったよ。自らの体を犠牲にしてでも、2人を守りたかったんだろうね? 結局それは1人しか救えなかったけれども。その最後の1人を仮定で言うなら……転生者と呼ぶとしよう』

 

「転生……者」

 

転生者……生まれ変わりと言う事だろうか? だけどもしそれが本当の事なら……葵、もしくは愛護のどちらかが転生者と言うことになる。

 

(だが当時の状況を鑑みるに……愛護が転生者?)

 

元信の言うことがパズルの様に正純の頭の中で組み合わさっていく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side トーリ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トーリも当然元信の放送を聞いていた。そして自分が明日告白しようとしていた自動人形が……かつて自分のせいで死に追いやってしまったホライゾンであるという事も……

 

「ホライゾンっ‼︎」

 

トーリはかけて行った。今度こそ守る為に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side ???

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そして先程モンタークくんが言っていた彼というのは……私の考えが間違えでなければ転生者の事を指すだろう。そして彼も……この末世に対抗できる手段を持っている』

 

「まさか大罪武装が9つだった事は驚きだが、それともう1つ……末世に対しての手段があったとは。それも転生者……こいつは滑稽だな!」

 

「元生徒、それでどうするかね?」

 

その部屋では2人の男が話し合っていた。1人は鬼族で、体格は寸胴で皮膚の色は赤かった。そして身なりは所属している教導院の男服を着用し、頭にはアメリカの大学の卒業式で被るような学生帽を被っていた。そして名をガリレオといった。

 

そしてもう1人は普通に人ではあったものの、どこかの教皇の様な格好をして椅子に踏ん反り返っていた。この人物こそは、K.P.A.イタリアの現総長であるインノケンティウスである。

 

「そんな物は簡単だ……どちらも我々のものにするまでだ」

 

そういう風にキメ顔で言っていた。だが彼らはこの時点で知る由もなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転生者が自分達の手に負える様な存在ではないという事を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そして今この場に来ているだろうね。転生者であり……そして今の武蔵では特務師団長の肩書きを持つ愛護颯也くん?」

 

「「「なっ⁉︎」」」

 

元信のその発言を近くで聞いていた忠勝、鹿角、そして宗茂は驚いていた。まさか彼がここに……地脈炉が暴走しているこの地に来ているのかと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは一体誰のことだい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その元信の台詞に反応するかの様に、その場で声が聞こえた。先の3人は辺りを見回すが、物陰に誰かが潜む様な感じはしない。では一体どこから……

 

「流石は転生者である愛護颯也くん……かな? まさか術式を展開せずに()()()()()()()なんて」

 

そして上を見上げれば、新名古屋城の外壁天辺と同じくらいの高さに彼はいた。黒き衣を纏っており、顔はモンタークと同じく上半分が隠れた仮面を着けていた。そして仮面についてあるであろうカツラの色は金色だった。

 

因みにその仮面……どこぞの音楽家サーヴァントが再臨した時に着ける仮面に似ていた。

 

「私は愛護颯也という存在でも、ましてやあなたが言う転生者と言う存在でもない」

 

「ほぅ、なら君は一体何者かな?」

 

「別に答えなくても良いんだろうが、ここであえて名を名乗るなら……白騎士だ」

 

白騎士と名乗る男がそういった途端、彼は空から姿を消して一瞬で鹿角の前に姿を現した。

 

「それにしてもモンタークとヴィダール……さっきの会話は聞こえていた。後で覚えておく様に……」

 

「「あっ……はい……」」

 

そう言われた2人は、見るからに落ち込んだ。

 

「……あなたは私達の敵ですか? それとも味方ですか?」

 

今度そう問うたのは鹿角だった。

 

「私ですか? そうですね……強いて言うならば……」

 

そこで白騎士は鹿角に向き直り……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたの味方であることは間違いありません」

 

白騎士さんはハニカミながらそう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side その他

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ま、まさかあの方々は‼︎』

 

『えぇ! 間違い無いわ‼︎』

 

『あの方々こそ……』

 

『『『アンフェア・ブレーカーズよー‼︎』』』

 

とある掲示板でそのような事が口コミでどんどん書かれていた。そしてその掲示板とは『アンフェア・ブレーカーズ』と呼ばれる、数年前に突如として現れた音楽グループのファンサイトだった。そしてこのサイトも規模がでかく、主に各国の若い女性達から人気があった。

 

『それにしてもヴァンデッタ様とカタクリ様はどこにいるのかしら?』

 

『確かに……ヴァンデッタ様はともかくとして、カタクリ様はあまり見ないわよね?』

 

『お二方とも何か別の事をしていると思うわよ?』

 

『確かにそうよね。ところであの方々の中なら誰推しなんでしょうか?』

 

『今からアンケートを取りましょう!』

 

『『『えぇっ! そうしましょう‼︎』』』

 

こちらのサイトでは三河消失とは関係なく盛り上がっていました……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の?」

 

「えぇ。さっきの戦いもこっそり見ていました。本当は介入したかったですが、そんな事をしてしまえば事は上手く運ばなかったと思うので……」

 

「事?」

 

「いえ、こちらの話です。それはともかくとして……」

 

そう言いながら白騎士は宗茂の方へと振り向く……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

強大な怒気を滲ませながら……

 

(こ、これは⁉︎)

 

「それにしてもそこの君……確か立花・宗茂だったかな? トレスエスパニアの第1特務並びに八大龍王の1人の」

 

「そ、それが何か……」

 

「君……女性に対して大罪武装を振るうとは……君には誇りというものが無いのかい?」

 

「……はっ?」

 

「誇りがないのかいと聞いている。地脈炉を止めるためならばいざ知らず、巻き込むのを承知で女性も射線上に入れるとは……恥を知れ」

 

「わ、私はそんなつもりは……」

 

「だがそれが事実だ。そして……彼女に対しての謝罪がないんだが?」

 

「しゃ、謝罪……ですか?」

 

「謝らないのか? 謝らないというのなら……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は君を一生戦えない身体にすることだってできる……

 

「っ⁉︎ も、申し訳ありませんでした」

 

宗茂は……直接言われたわけではないがそう感じた。自身の命が危ないと悟ったのである。

 

「いやぁ……白騎士くんって案外怖いよね?」

 

「それほどでもありませんが?」

 

「説得力がまるでないね……それで宗茂くんはここに何しに来たのかな?」

 

「はっ……そうです! 私は三河消失を止めに来ました‼︎」

 

「そうだね。じゃあそこの副長、彼を止めなさい」

 

「おう! 止めるぜ学級崩壊‼︎」

 

「いや、そこは私に任せてもらおうか」

 

そこで白騎士から声が上がった。宗茂の相手を自身がすると……

 

「な、何故ですか! 何故あなたも三河消失に手を「誰がそんな事を言った?」なっ⁉︎」

 

「私も……三河消失を止めに来た。だがそれは君のやり方とは違う方法でだ。何も壊さず、何も失わせない……それが私のやり方だ」

 

「なら何故私達に協力をしてくれないのですか⁉︎」

 

「そんなものは簡単だ……私が今の君達を気に食わないと思っているからさ。さて、議論なんて時間の無駄だよ……今の状況ならまさにね?」

 

「くっ……戦うしかないというのですか……」

 

宗茂は大罪武装である悲嘆の怠惰を、対する白騎士は両手に計8本の暗剣を指の間に握っていた。

 

「さぁ、行こうか?」

 

最初に動いたのは白騎士で、腕をクロスしてバッテンに斬りつけれるようにしていた。

 

(時間がない……こんな所では使いたくはありませんが)

 

「結べ! 悲嘆の怠惰‼︎」

 

それはまさしく蜻蛉切と同じ能力だった。刃に移した対象を活断する能力「そんな物を凌ぐのは簡単だ」……なんだが

 

「術式展開、扇」

 

白騎士がそう言うと暗剣が大きくなり、2つの巨大な扇のような物が出来た。その時に白騎士はクロスしていた腕を解いており、暗剣8本を前に突き出していた。

 

(これでは……)

 

政宗の思った通り白騎士は活断されず、逆に暗剣8本が活断された。そして活断された8本の暗剣の奥から1本の暗剣が投擲されていた。

 

「くっ⁉︎」

 

それを宗茂は弾くが……

 

「遅い……」

 

既に白騎士は宗茂の後ろにおり、再度展開していた暗剣で斬りつけようとしていた。それにも反応して宗茂は弾く。

 

(は、速い! ならばこちらも!)

 

「10倍加速‼︎」

 

宗茂は速度向上の術式を展開して先程よりも速く動いた。そして先程の白騎士と同じように、彼の後ろに回ったのだ。

 

(いただきます!)

 

「遅い」

 

「なっ⁉︎」

 

先程よりも早くなったというのに、白騎士は意にも介さずといった形で後ろを見る事なく宗茂の攻撃を暗剣で軽々と受け止めた。

 

(この武装だけでも8kgもあるはずなのに⁉︎ 何故こう軽々と⁉︎)

 

それを持って自由にふるえている宗茂も普通に凄いのだが、だが白騎士はその攻撃を暗剣……それも1kgにも満たない細い刀身で受け止めていたのだ。

 

「その程度か?」

 

白騎士は振り向きながら宗茂を弾いた。

 

「ぐっ! まだまだ‼︎ 30倍加速‼︎」

 

宗茂はまた速度を上げた。それも尋常ではない速さで……だが

 

「その速さも動けなければ意味がない。影縫い」

 

「なっ⁉︎」

 

白騎士は地面へと暗剣を投げた。それは宗茂には当たらなかった。当たらなかったが宗茂の()に当たったのだ。その途端、宗茂はそこから一歩も動けなくなった。

 

(何ですかこの術式は⁉︎ こんなもの聞いたことが……)

 

「何でも自分が持っている知識だけにとらわれない事だ」

 

「くっ……」

 

そして白騎士からの攻撃が苛烈を極める。宗茂はその場からは動けなくとも、それはその場から動けないだけで身体は動く。そのため白騎士の攻撃にも対応できだ。

 

(手数が多い……弾くだけで精一杯です‼︎)

 

しかし白騎士の手数は多く、宗茂はほぼ防御に徹するしかなかった。

 

(動くことが出来れば……っ!)

 

そこで宗茂は思い付いた。自分の影に刺さる暗剣を壊せばいいのではと……

 

「ぐっ! うぉぉぉっ‼︎」

 

白騎士の攻撃を一度食らってしまうが、その反動を利用して暗剣を悲嘆の怠惰で壊した。そうする事で宗茂はそこから動くことが出来た。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「見事です。ですが……かなり消耗してますね」

 

白騎士は宗茂を称賛した。だが、それをいう本人はまだまだ余裕そうだった。

 

「そこで私からの提案ですが……どちらとも最後の1発で決めませんか?」

 

「な、何を?」

 

「私も時間が惜しい……という事です。あなたが破綻の怠惰を撃ち、私を負かしたならばあなたの勝ち。そしてそれを凌げば私の勝ち……どうですか?」

 

正直宗茂は迷っている時間などなかった。三河消失まで後何分もつか……そして目の前と戦ってわかったことは……今の自分では何回戦っても勝てない事……そのために

 

「……わかりました。ですが……こちらとて加減はできません!」

 

宗茂は悲嘆の怠惰を撃つ体制に入った。悲嘆の怠惰の仮装砲塔が出来上がる前に先程の丸い玉が白騎士の顔めがけて放たれる。だがそれを白騎士は顔を左に傾げるだけで避けた。

 

「来い……ローレライ」

 

そして白騎士は右手を上に伸ばし、掌を広げた。すると掌の上で何かが青白く光り、その光はだんだん強くなりながら形を形成していった。そして出来上がったものは……独特な形をした剣だった。色は全体的に黒と灰色で、鍔はYの様な形、そして刃は普通の剣に比べて厚く、それで何が斬れるのかと問いたいところだ。

 

だが彼白騎士は、そのローレライと呼ばれる剣を強く握った。それに反応するかの様に、ローレライの中心部に埋め込まれた赤色の宝石が強く輝いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その放送は全世界に向けてされていた。なのでその通神枠が成実のところでも開かれている。

 

「颯也……また貴方は自ら危険な道を行くのね……あの時と同じ様に」

 

成実はそう呟きながら左腕をさすった。しかし、何故ここで颯也の名が出るのか?

 

「そんなもの決まっているでしょう? 白騎士が颯也だからよ」

 

……ネタバレはやめて下さい。

 

「ならあなたの方も静かにしてなさい」

 

……

 

「黙ったわね。それにしても……『アンフェア・ブレーカーズ』の掲示板では面白い事になっているわね」

 

そこには『アンフェア・ブレーカーズ』の公式サイトが映っており、その掲示板では今、どのメンバーが好きかをアンケートを取っていた。それを成実は眺めていた。

 

「まぁこのアンケートを作ったのも私なんだけど」

 

そうさらっと口にした。

 

「それで途中結果は……ふふっ、白騎士が1番ね。次がモンタークで、次がヴィダール……後はヴァンデッタとカタクリは同率ね。まぁこの結果は当然よね」

 

そして成実が開いている通神枠の1番上にはこう書かれてあった。

 

『アンフェア・ブレーカーズ会員ナンバー01 アンフェア・ブレーカーズ応援隊長並びに白騎士応援隊長』と……

 

まさになぁにこれぇ〜……と言いたい……

 

「あぁ……颯也♡ 早く……貴方に会いたい♡」

 

紅く染まった頰に片手を添えながら呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー●○●ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんなんですかその剣は⁉︎」

 

「さっきも言ったが……ローレライという。そしてこの剣で、君の一撃を鎮めよう」

 

「そんな事、出来るはずがありません‼︎」

 

「やってみなければ分からないだろう?」

 

「くっ……恨み言は無しです! 悲嘆の怠惰、超過駆動‼︎」

 

そして悲歎の怠惰から強大な搔きむしりが津波の様に白騎士に迫り来る。対する白騎士は……

 

「集え……この世すべてを支える深奥の理」

 

白騎士がそう唱えると、ローレライが白い光を放ちながら巨剣を生成した。それはまるで巨大な翼の様……

 

「目の前の虚無を打ち砕け! 天翔! 光翼剣‼︎」

 

その大きな翼の一撃を……白騎士は片手で振り下げ悲歎の怠惰の一撃と対抗した。両攻撃は両者の中間点で交わった。威力はお互い互角……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう見えたのは一瞬だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なっ……悲歎の怠惰が押されてる⁉︎)

 

宗茂はそう感じた。そしてその感覚はすぐに証明された。まず踏ん張っていたはずの宗茂は、後ろに滑る様に徐々に後退していった。地面には踏ん張った跡が深々とある。次に悲歎の怠惰が押され始めた。搔きむしりはいまだ健在だが、それでも押されている事は目に見えていた。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎」

 

「ぐっ……うぁぁっ⁉︎」

 

白騎士が最後の一押しで一気に力を解放……悲歎の怠惰の搔きむしりは消え去り、大きな翼の一撃は宗茂を飲み込んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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9話 R-15 ネーミングセンスが悪い敵が介入した 結果:そよ風にも満たん

皆様大変お待たせいたしました!

1ヶ月以内に投稿できなくて申し訳なく思います‼︎

「まぁそれはそうと作者……このタイトルは何だ?」

それは……見てからのお楽しみです。まぁ違う物語の、言うなれば敵キャラを出したに過ぎません。まぁ主人公の引き立て役に過ぎませんが……

「そうか……まぁとりあえず見てみるか」


「お前……本当にえげつないよな?」

 

「えっ? そうかな?」

 

「いやいや⁉︎ あの攻撃をえげつないと言わないでどう言えと⁉︎」

 

「それを言うんだったら……ヴィダールのダインスレイヴもえげつないでしょ?」

 

「お前が言うな⁉︎ それをいとも簡単に()()できるくせして!」

 

「いや、だってあれ確かに早いけど……普通に捉えることできるし」

 

「それがおかしいと言っているんだ‼︎ そもそもあれは()()! 大気圏外から地表に撃てば()()()()出る代物だぞ‼︎ それを普通に捉えれるという発言自体……」

 

「でもよく考えてみてよ。そういうヴィダールだってその速度は捉えれるでしょ?」

 

「……確かにそうだが」

 

「ほらね? だから、それイコール僕の攻撃もえげつなくないって事だよ」

 

「そうだな。確かに……ん? いやちょっと待て⁉︎ なんでダインスレイヴがえげつなくないイコールお前の技もえげつなくないってなっているんだ⁉︎ 第一にそれは速度の問題であって威力度外視してるだろ⁉︎」

 

「えっ? そうかな?」

 

「そうだろうが⁉︎」

 

「でもダインスレイヴでクレーター作れるでしょ?」

 

「お前のあれはそれ以上に大地丸ごと抉り取るほどやばいやつだろ⁉︎」

 

「でも今のこの状況見てみてよ。大地はおろか何も壊れてないでしょう?」

 

「お前が装備と技に対して非殺傷、非破壊設定の付与してるからだろうがぁー⁉︎」

 

「そんなに必死になってどうしたの? 疲れるでしょう?」

 

「そうさせてるのはお前だ⁉︎」

 

「そう? 俺は事実しか言ってないと思うんだけど?」

 

「それはこっちも同じだ! こっちも事実しか言ってないだろう⁉︎」

 

「だからといってそんなにいきりたったら体力使うでしょ? 無駄な消耗は抑えるべきだよ?」

 

「それも全てお前がそうさせてるんだろうがぁーーー⁉︎ はぁ……はぁ……戦闘にほぼ参加していない俺がなんでこんなに疲れているんだ?」

 

「さっきモンタークと喧嘩したからその罰として」

 

「そ、そうなのか⁉︎ ま、まぁこの程度ならb「いやいやこれだけじゃ終わらないよ?」……え?」

 

「勿論、この後俺と模擬戦してもらうけど?」

 

「なにっ⁉︎ ちょっと待て⁉︎ いくらなんでも喧嘩したくらいd「MO☆GI☆SE☆N……しようか?」……はい」

 

「ハッハッハッ‼︎ 本当に面白いなガエ……じゃなくてヴィダールは! 白騎士の逆鱗に触れるからだ!」

 

「モンタークもなに言ってるの? 君も後で俺とMO☆GI☆SE☆Nするよ?」

 

「……」

 

宗茂を倒した後の白騎士さん達はそんな会話を繰り広げていました。そしてそれを側から見ていた人物が……

 

「この状況にどう介入すれば良いのでしょうか……」

 

宗茂の後から来た立花・誾さんが立ち竦んでいました……

 

そしてそれに気づいた白騎士さんは声をかけます。

 

「やぁ、確か君がトレスエスパニアの第3特務……立花・誾さんだったかな?」

 

「っ‼︎ そうです。それで粗方こちらに来る前に話は聞いていたのですが、この地脈炉の暴走を止めるというのは……」

 

「えぇ、本当ですよ。それと今宗茂さんは気絶してはいますが、外傷は無いはず。明日になればまた元気な姿が見れるでしょう。それとこれを」

 

白騎士は誾に()()()を渡した……ん?

 

「っておい! いつのまに我の手から奪い取ったのだ⁉︎」

 

「私の一撃に驚いている隙にですが……何か?」

 

「いや⁉︎ 何かって「流石は白騎士様でございます。感服いたします」ちょ鹿角⁉︎ そこ褒めるところか⁉︎」

 

「何を言っているのでしょうかこのダメ勝様は? 失礼、忠勝様でしたね?」

 

「ねぇねぇ、なんで今日の我ってディスられてばかりなの?」

 

「活躍した私や白騎士様方を褒めないからでは?」

 

「まだ引きずるのその話……」

 

「ですが忠勝さん、ディスられてどうのこうのの話はともかくとして、あなたはどの道蜻蛉切をここでトレスエスパニア側に渡すつもりだったでしょう。その代わりを私がやったまでですよ」

 

「う、うむぅ〜……確かにそう考えてはいたが……」

 

「そう、だから何も問題はない。さて……後は私達の仕事です。立花さんは早々にお引き取りを……」

 

「……分かりました。では」

 

誾は宗茂を担ぐとその場を後にした。

 

「さて、ではこちらも行動に移るとしましょうか」

 

白騎士達は新名古屋城の方に歩を進めた。この大きな花火をそろそろ終わらせるために……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 元信

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼がここに来るか……」

 

「えぇ、あなたのお望み通り……という訳ではないでしょうが来ましたよ?」

 

元信がそう呟くと、既に背後に白騎士達が立っていた。忠勝達もそこにはいたのだが、本人達は何故目の前に元信がいて自分達がいつのまに移動していたのか驚いていたが……

 

「いや、大体僕の望み通りだよ。10年前から……のね」

 

「10年前……」

 

「そう……現武蔵の総長である葵・トーリくん、僕の娘であるp01-sことホライゾン・アリアダスト。そして……今僕の目の前に立っている白騎士くん、いや……愛護颯也くんを巻き込んでしまったあの事件の事だよ。あぁ、因みに先程まで流していた通神は切ってあるから気にしないで欲しいかな」

 

「そんな事は既に分かっていますよ。だからここにいます」

 

「そうか……それでそのお面は取って素顔を見せてもらえるのかな?」

 

「……良いでしょう」

 

そして白騎士は仮面を外して素顔を曝け出した。そこにいたのは、何の見間違いでもなく武蔵特務師団長の愛護颯也だった。

 

「おぉ……昔もカッコよかったけど、今はそれ以上にカッコいいね」

 

「その話は後でどうとなります。それで……俺が転生者と気付いたのはやはりあの時でしょうね?」

 

「仰る通り、君達を事故に合わせてしまった後三河に運び込んで治療した時だよ。あの時は何かの間違いだと思ったけど、今日ようやく確信出来たよ。君はやはりこの世界の住人……元の住人ではないね」

 

「何故そんなことがわかる? 颯也とてこの世界と同じ住人と同じ形だ」

 

「良い事を聞いてくれるねヴィダールくん。そう、確かに姿形はこの世界の住人と何ら大差はない。だが、この世界では当たり前のものが彼には欠けていたんだよ」

 

「内燃排気……ですね」

 

「そう、この世界で存在するために必要なそれが彼には無かった。だから愛護くんをこの世界の住人ではないと仮定した。そして後は省くけど、結果的に転生者と断定したまでだよ。もしかして君達も同じじゃないかな?」

 

元信はモンタークとヴィダールにそう問うた。それに対してモンタークは不敵に笑い、ヴィダールは無言を貫いた。

 

「まぁ正直に答えない事は分かっていたからこれ以上は言わないよ。それよりも……この地脈炉の暴走を止めると言ったね? それは先生も興味あるな。是非とも教えて欲しいものだよ」

 

「それは実際に見せて差し上げましょう。それで……元信公、あなたは本来ここで死ぬつもりでしたね?」

 

「うん、そうだよ。この世界がこれからどうなるかは気になるところだけどね?」

 

「ならばその命……ここで尽きたものと考えても良いですね?」

 

「別に構わないけど……それを聞いてどうするつもりだい?」

 

「それはですね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数分後……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成る程……確かにそれも面白そうだね」

 

「えぇ、では早速……少し待って頂いても良いですか? 通神が入ったものですから……」

 

「別に構わないけれど、時間の方は大丈夫かな? さっきの話を聞いて先生は今ここで散って誰かに未来を託すよりも生きてこの世界の行く末を見たいんだけど」

 

「あぁそれなら大丈夫です。地脈炉の()()を一時的に止めてますから」

 

「あ、あぁ……そうなんだ」

 

この発言には元信さんも度肝を抜かれたと言います……

 

そして颯也さんの通神の相手はと言うと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『颯也、今大丈夫かしら?』

 

仙台伊達教導院の伊達・成実さんでした。

 

「うん、大丈夫だよ」

 

『良かったわ。それでさっき流れていた中継を見たけど……どうやって地脈炉の暴走を止めるの?』

 

「勿論、今発生している地脈炉の暴走以上の威力の攻撃を新名古屋城に向けて撃つことだよ。そして地脈炉を暴走させている制御装置を停止させて暴走状態の地脈炉を霧散させるつもりなんだけど……」

 

『……いつも言うけど貴方は何でもありね?』

 

「そうかな……至って普通なんだけども……」

 

『それは貴方からの視点でしょう? 私達では簡単にできないわ。でも……私はそんな貴方に恋したのよ』

 

「成実さん……」

 

『だから……また私の所に帰って来てくれる?』

 

成実はいつもの様に余裕そうな調子で颯也に言った。だがその瞳はどこか儚げで、颯也がどこかに行ってしまうのではないかと……成実は心配した。だが……

 

「あぁ、絶対帰るから。だから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰った時はまた成実さんに甘えさせてくれるかな?」

 

『っ‼︎ えぇ、私の全てを貴方に捧げても良いもの』

 

「jud。それが聞けただけでも、俺は物凄く嬉しいよ。ありがとう、成実さん」

 

『お礼は帰ってから。その時にいっぱい受け取るから♡』

 

「jud」

 

そして成実との通神を切った。

 

「さて、そろそろ行動に移しますか!」

 

「それはそうなんだが……颯也達が話している間に新名古屋城が取り囲まれたぞ? しかも黒い影みたいな奴らが大勢……」

 

「ここは私が出て相手をしようか? それともヴィダールか……あるいは両方か」

 

そんな会話をしている中、颯也の頭の中で声が聞こえた。

 

(マスター、あの影の相手は私がやろう)

 

それは強い意志を持った女性の声だった。

 

(……ここは甘えても良いかな? モンタークとヴィダールには元信公達を送ってもらいたいし)

 

(ならマスターよ、煉獄剣を手にとって私を呼びかけて欲しい。私はいつでも貴方の側に行ける)

 

「分かった。じゃああの影の相手をお願いするよ」

 

「よし、さっきの戦闘では怠惰を晒しただけで不完全燃焼だからな! 遠慮なく暴れt「いやいや、モンタークとヴィダールには元信さん達をカタクリとヴァンデッタの所にまで送って欲しいから今回はパスね?」……ならさっき誰に任せると言ったんだ?」

 

「ん? それはね……」

 

……そもそも会話が少し、いや大分おかしい事に皆様はお気付きだろうか? そもそも悲嘆の怠惰は神格武装よりも強力な大罪武装だ。神格級の武装を防ぐだけでも難しいのにこの集団……まるで「大罪武装ぐらい簡単に防げるでしょ?」と言わんばかりの会話である。

 

そんな会話をしながらも、颯也は目の前に空間の狭間を作りそこに手を入れた。そして何かを掴むとそれをゆっくりと引っ張り出して狭間を消失させた。そして颯也が狭間から引っ張り出したのは、160㎝ぐらいはあろうかと言うほどの一振りの大太刀だ。それを颯也は目の前に突き付けたまま呼びかける。

 

「この世界を救うために、天秤の守り手よ……俺のわがままだけど来て欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔神・沖田さん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう唱えると大太刀を中心に光が発せられ、それはやがて新名古屋城の内部を埋め尽くした。そして光がおさまるとそこには1人の女性が立っていた。顔は整い、綺麗な白い足元まである長髪を1本に結わえ、綺麗な褐色の肌をもつ。全体的には白と黒の装いで、膝上まで伸びた羽織が特徴的だ。その装いからはクールさが窺える。そして先程まで閉じられていた目がゆっくり開けられると、綺麗な白い瞳が目の前に立つ颯也を捉えた。

 

「マスターの呼びかけにより推参した。魔神・沖田総司……そして」

 

沖田が簡単に自分の名を名乗った……と思いきや自らを呼んだマスターこと颯也にゆっくり歩み寄り……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会いたかったぞマスター‼︎」ダキッ

 

「うぉっとと、いきなりは危ないよ沖田さん」

 

最初に感じたクールさはどこへやら……沖田さんは颯也さんに甘える様に抱き付いていました……

 

「むぅ……マスター、何回も言っているとは思うのだが……私の事は沖田ちゃんと呼んで欲しい」

 

「いやいや! 確かに言われたけど俺の記憶が正しければ1回しか言われてないと思うんだけど?」

 

「ん? そうだったか? ……確かに思い返せば1回しか言ったことがなかったな」

 

「でしょう? まぁそれは置いといて……俺も君に会いたかったよ、沖田ちゃん」

 

「マスター♡ 私もだ! 長い間マスターに会えなくて寂しかった。だが……ようやくこの世界に来れた‼︎ 後……もう少しだけこうしてても良いか?」

 

「ギリギリまでなら……ね?」

 

いつのまにか惚気た雰囲気が新名古屋城内部に漂っていました……

 

 

 

 

 

 

 

数分後……

 

「おい! もうそろそろそれぞれで行動した方が良いんじゃないか⁉︎ というか今の状況分かってるよな、颯也!」

 

「ガリガリ……今私とマスターは大事な時間を過ごしているんだ。邪魔はしないでもらいたい」

 

「俺はガリガリじゃない! ガエリオだ‼︎ ……じゃなくてヴィダールだ‼︎」

 

「ハッハッハッ……全くいつもと変わらないなガエリオは」

 

「だからヴィダールだと言っているだろうが‼︎」

 

「そこ、うるさいぞ。ツッコミも程々にしておかないといざという時体力が持たないぞ?」

 

「主にお前のせいだろうがぁー‼︎」

 

(ねぇねぇ、我達蚊帳の外なんだけど……)

 

(そう思っているのは忠勝様だけでは? 現に私は愛護様の色んな表情を楽しんでいるので)

 

(先生もこの光景はなんだか懐かしく思うなぁ〜……。いや、あの時は楽しかったよ)

 

(えっ? ここにいる中でこの状況をおかしく思ってるの我だけ?)

 

(仲間はずれの忠勝様……滑稽です)

 

(君は両手にバケツいっぱいの水を持って立っていなさい)

 

(ぬぅ〜……解せぬ……)

 

「まぁガエリオをいじるのはまた今度にして「おい、今いじるって言ったか?」私ももうそろそろ働こう。マスター、少しじっとしていてはくれないか? 出来れば目を閉じて」

 

「ん? まぁ別に良いけど……」

 

そして颯也は沖田さん沖田さんに言われた通り、目を閉じてじっとした。それから数秒と経たず……

 

「ん……チュ……」

 

「っ⁉︎」

 

颯也さんは驚きで目を見開いていました。だがそんな中でもただ沖田さんだけは……

 

「あむ……」

 

颯也さんが驚いていようが関係なく、キスを続けました。

 

(全く……仕方がない人だ)

 

ですが颯也さんも颯也さんでまた瞳を閉じて沖田さんを迎え入れます……

 

「っ⁉︎ はむっ……チュッ……れろっ……んん♡」

 

そして沖田さんも、颯也さんが自分の気持ちに真正面から受けた事を物凄く嬉しく思い、自分の舌を颯也さんの舌に苛烈に絡めていきながらキスをしていました。因みにその間他の人達は……

 

(いやぁ〜……颯也は相変わらずだねぇ〜……それも相手から求められた時は特に……)

 

(今そんなことしてる場合じゃないと思うんだが……え? こんな事を思う俺は余裕がないと? ほっとけ‼︎)

 

(ねぇねぇ、何で人前で堂々とキスしてんの? あっ、そうか〜。我はもう空気扱いなんだぁ〜)

 

(キス……ですか。羨ましいですね。まぁ忠勝様とはしませんが?)

 

(あぁ……あの頃を思い出すなぁ〜……先生もまた若かりし頃の学生に戻りたいなぁ〜)

 

とまぁ、この中でまともな思考をしていたのはヴィダールさんだけでした……

 

それが数分続き……

 

「ぷはっ……やはりマスターとのキスは最高だな。これで魔神さんもパワー全開で戦えるぞ」

 

「そう言ってもらえたなら、俺も嬉しいよ。じゃあ、周りの連中は任せたよ? 後トレスエスパニアといって……基本的に赤い服装をしている人達がその影達に襲われていたならそれも助けて欲しい」

 

「あぁ、任せろ。行ってくる」

 

「うん、気を付けて」

 

沖田さんはそう一言言うと、最初からそこにはいなかったのではと思ってしまうように、一瞬でその場から姿を消した。

 

「さて……俺達も行くとするか」

 

「何事もなかったかのように普通にしきるな‼︎ まぁこれが失敗しようが時間をとった颯也の責任だし、俺には何ら関係のない事か」

 

「えっ?」

 

「はっ? 何でそこで何でって顔をするんだ⁉︎」

 

「いや、だって普通に考えてみてよ……俺と沖田ちゃんが魔力供給してる間に元信公達をカタクリの所に案内できたでしょ?」

 

「……あっ」

 

「やれやれ、だからガリガリと呼ばれるんじゃないか? ガエリオは」

 

「それを言うならマクギリスも何もしてないだろうが⁉︎ あぁ〜しくじった〜……何でいつもこう颯也のペースに乗せられてるんだ俺は〜……」

 

「まぁまぁ、取り敢えず元信公達を案内してあげてよ」

 

「……分かった。では今から俺達の本拠地に案内しよう」

 

「あぁ、そこは君達に任せるよ」

 

そうしてガエ……ヴィダールさん達は元信公達を案内し始めました。

 

「あぁっと、1つ忘れている事があった」

 

「何だ? もう時間がないんだから手短に頼むぞ?」

 

「それは勿論だよ」

 

そう言って颯也は忠勝……の妻である鹿角の方へと行き

 

「さっきの戦闘で俺に褒められたいって言ってたよね?」

 

「えっ⁉︎」

 

そう、颯也に鹿角がポツリと呟いた言葉は届いていたのだ。

 

「だから……」

 

「あっ/// んっ……」

 

颯也は鹿角の頭を優しく撫でていた。

 

「あぁっ⁉︎ テメェうちの嫁に何してやがる⁉︎」

 

「見ての通り先程の戦闘でのご褒美ですが?」

 

「そんな事言ってんじゃねぇんだよ‼︎ 我の目の前で何をやっているんだって話で」

 

「私、愛護様と結婚したいです」

 

「鹿角ぉー⁉︎」

 

「まぁ結婚云々の話は、今答えることなんて出来ないですけど……」

 

「いえ、それでも構いません。これは私の……我儘みたいなものですから」

 

「いや、それは良いかもしれないね。もし愛護くんと鹿角が結婚するなら先生は喜んで祝福させてもらうよ!」

 

「と、殿までぇ⁉︎」

 

「っと、それじゃ俺はここで……また()()()()()()()()()()

 

「うん、じゃあね愛護くん」

 

「愛護様……いえ颯也様、どうかご武運を」

 

「えっ? この場についていけてないの我だけ?」

 

「ほらとっとと行くぞ!」

 

その場の空気について行きそびれた忠勝さんはそのままほっとかれ、モンタークとヴィダールは元信達を自分達の本拠地に転移した。

 

「行くか……」

 

颯也は再び仮面を付けて新名古屋城の外に歩みだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

颯也は新名古屋城から出ると、とある言葉を口にした。

 

「フォーム……ウイングゼロ〈EW〉」

 

呟いた瞬間颯也からまばゆい光が発せられ、それが収まると黒い装いの颯也ではなく、天使のような姿をしたロボットが地面から数センチ浮いて浮遊していた。青と白を色の基調とし、胸には緑色の丸い玉のような物が埋め込まれている。顔はフルフェイスで、緑のツインアイが怪しく光る。そして額にはまるでWをかたどった角がつき、背中からは先も言ったように天使のような羽が付いていた。

 

まぁそれに搭乗しているのは颯也本人であるのだが……

 

それを展開している内側で颯也は、再び成実から届いた通神の相手をしていた。

 

『……さっきのは何なのかしら?』

 

「……えぇっとぉ」

 

『……まぁ良いわ。でも帰ったら……倍返しさせてもらうから』

 

「はは……分かったよ」

 

『えぇ、それだけ。怪我しないでね?』

 

「jud」

 

そして成実からの通神は切れた。いやはや恐ろしい女性である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何やら失礼な事を言われた気がするわ……。颯也の活躍を見た後出かけましょう」

 

語りべさんはこの後酷い目にあったと言います……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

成実からの通神が切れた後、颯也は纏っている機体の翼を広げ、まるで鳥が大空へと飛び立つ様に羽ばたかせて大空へと飛翔した。

 

颯也が飛翔して数秒、既に地脈炉の暴走によって引き起こされていた柱が吸い込まれている赤黒い雲の近くにまで来ていた。だがそこで異変が起こる。赤黒い雲から多くの何かが颯也の元に集っていた。よく目を凝らせばそれは、ボロボロな刀や筒を持った侍風のロボットであり、颯也を助けに来たと言うよりもまるで妨害しに来たと言う様な感じだった。

 

「あれは脇侍か。と言うことは……」

 

(あの変てこりんなハゲ頭のジジィがこの世界を支配しようとしているか……)

 

「地獄に送り返すか」

 

全く……この世界で本来起こる事を捻じ曲げようとする俺に対しての抑止力が働いているのか……にしても黒之巣会とか。

 

「ネーミングセンス悪すぎだろ」

 

そんな場違いな考えをしながら飛翔を続ける颯也に対し、その脇侍達は止まる気配はなく一直線に持っている獲物を掲げながら殺到する。

 

「はぁ……まぁ手っ取り早く終わらせようか」

 

颯也は緑色のビームサーベルを抜き放つ。

 

「ハイパービームソードモード」

 

[通常モードからハイパービームソードモードに移行します]

 

そんな機械音が聞こえたかと思うとビームサーベルが何十倍もの大きさになった。

 

「時間が惜しいから邪魔するなっと」

 

その台詞を緩く言いながら1回転して周りを一閃した。だが颯也と脇侍達の距離はそれでも離れ過ぎていた。いくら何十倍に大きくなったビームサーベルでも斬る事は出来ないだろう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが結果は悉く違った様だ。

 

シャシャシュシャキンッ‼︎

 

その音が聞こえたかと思うと、颯也に殺到していた脇侍達は()()撃破されていた。それも切り口は横だけではなく、縦にも斜めにも斬れていた。

 

「これではそよ風にすら劣る……」

 

颯也は更に上へと上昇していき、気付いた時には雲の中に姿を消していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side ???

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、一体何が起こったというのか……」

 

白髪の長髪を持った老人が、まるで信じられないとでもいう様に驚きを露わにしていた。この老人の名は天海といって、先程颯也に脇侍を送った黒幕だ。

 

老人の見立てでは、三河消失から混乱に陥った世界を我が物にしようと……簡単に言えばそう画策していた。だが今目の前で三河消失を食い止める動きがある……なんとしても止めなければ計画に支障が生じる。だから天海は今持てる全ての脇侍……元の世界よりも強固に作った精鋭を()()と送りつけた。

 

だが蓋を開けてみればどうだろうか……ものの数秒でそれも水泡に帰した。それがあった直後、天海にこんな通神が来ていた。

 

〈今回手出しした事は見逃しましょう。ですが今後もこんな事があり、私の大切な方々を傷つけようとするのであるのなら……その際は私が直々に地獄に送って差し上げましょう。 by白騎士〉

 

「な、なんと⁉︎」

 

自分の通神を知っているものなどいないはず……そう思っていたにも関わらず、先の惨劇を見せられてすぐにこの通神が届いた。誰も知らないはずなのにである。

 

まぁそもそも教える知人がいない。言うなれば1人ぼっちである。

 

「くっ……この儂をコケにしよってからに! 許さんぞ白騎士とやら‼︎」

 

1人でそう激昂していた。その時また通神が届いた。

 

〈そんなに怒ってるとハゲかけの髪が更に寂しくなりますよ? by白騎士〉

 

「い、言いたい放題言いよってからに!」

 

そもそもハゲかけてすらいない。だが白騎士からは見えなくてもその様子が分かるようだ。

 

「……チクショウめ」

 

そう、自分にはまだ髪の毛はあるのだ。ハゲてないってたらハゲていないのだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 喜美

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

颯也が武蔵を飛び出してからすぐに、愚弟もホライゾンの元に行った。ただ、今入った通信によると、愚弟は番屋に今保護されているらしい。どうにかホライゾンの元にまでは行けた様だけど、そこからは何も出来ずに拘束されたと聞いた。

 

(それにしても白騎士……ね。まさか颯也な訳無いわよね?)

 

10年前、愚弟とホライゾンと颯也が事故にあった時……そこに私はいなかった。そして結果は……ホライゾンはいなくなってしまった。戻ってきた愚弟と颯也にも、一生残らない傷を残した。でも私は喜んだ。確かにホライゾンはいなくなった。でも、まだ2人は生きて帰ってきた。その事が素直に嬉しかったものよ。帰ってきた当初、愚弟は何も口にしなかったわ。そこは私が無理矢理にでも食べさせたけれどもね? でも颯也は帰ってきてからも変わらなかった。みんなの不安を取ってしまおうと、彼はいつも笑っていたわ。例え一生()()が開かなくなったとしても……

 

颯也のおかげもあってか、皆は徐々に元気を、笑みを取り戻して行ったわ。それから10年間、私達は変わらない関係を過ごしてきたの。まぁ私はあわよくば颯也の恋人になりたいのだけど? でも相手が多いのが難点なのよね?

 

そんな考えをさっきまで持っていたはずなのに……

 

「この不安は……何かしら?」

 

多分その理由は分かっている。それは颯也の事……またあの子が無茶していると思ってしまうの。

 

「どうか怪我だけはしないで欲しいわね……」

 

「ん? 喜美? 何か言いましたか?」

 

「いいえ、何でもないわ」

 

隣にいた浅間にそう返し、また思考の渦に戻る。

 

(それにしてもさっきの機動殻は……見た事なかったわね)

 

そもそもあのサイズで空を飛べるものと言ったら本当に限られてくるだろう。仮にそれだったならまだしも、あの緑色の剣はもはやどの機動殻にも該当しないだろう。

 

そう考え込んでいた中、いきなり中継通神が流れ始めた。その通神に写っていたのは、今は赤黒い雲に覆われて見えないが綺麗な夜空が映し出されていた。その夜空の風景から少しずつ動いていき、次に移ったのは殆どの青と少しの緑で彩られた大きな球体だった。

 

『いきなりの中継失礼する。俺はカタクリ……アンフェア・ブレーカーズのドラム担当だ』

 

いきなりカタクリという人物が通神越しで自己紹介を行なっていた。

 

『この通神は、悪いが全ての通神を一定時間ハッキングして全世界に流している。その理由は……俺たちのこの行動が末世を覆すための布石として世界に知って欲しいからだ』

 

「ま、末世を覆すって言いましたか⁉︎」

 

『あぁ、確かに言ったぞ』

 

「っ⁉︎ 個人的な呟きに対しても反応出来るなんて……」

 

カタクリのその高度な技術に浅間は驚いていた。

 

『先に言っておくが、これは録画でも何でもない。今現在を映し出している。その証拠に赤黒い雲と1本の巨大な柱が見えるだろう? そこが今の三河上空の映像だ』

 

「という事は……この目の前に映っている緑の島国が極東信州という事ですか⁉︎」

 

『いかにも……そしてもうそろそろ……見えたな』

 

カタクリがそう言うと、赤黒い雲の中から何かが飛び出してきた。それは元信公が途中まで中継していた通神で登場した機動殻だった。

 

『今から俺達が見せよう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

末世を覆すその布石を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤黒い雲を抜けて漸く宇宙空間にまで飛翔した。ここまでならば、あの地脈炉も届かないだろう。逆に言えばこちらからの攻撃は地上に届くと言う事で……

 

颯也は両手にバスターライフルと呼ばれる長銃を取り出し、それを連結させて銃口が2つある長銃を作り出した。

 

「目標……新名古屋城地脈炉制御装置」

 

そう呟くと、2つの銃口がエネルギーを溜め出した。それは徐々に大きくなっていき、銃口の前に少し大きな黄色い球が出来上がった。

 

「セイフティ解除……」

 

颯也がそう呟くと、黄色い球が更に大きくなった。そして……

 

「破壊する」

 

なんの躊躇いもなく引き金を引いた。瞬間、長銃から颯也が纏う機動殻より何十倍もの大きな閃光が一筋の大きな光として新名古屋城に注がれた。それは地脈炉の暴走で出来上がった大きな柱よりも大きい。その一筋の閃光は、地上に達すると新名古屋城を飲み込み、やがて地脈炉制御装置にまで達する。閃光が制御装置を包み込むと、まるで最初から何事もなかったのように地脈炉の暴走は止まり、暴走によって作られた点に向かう大きな柱も消失した。

 

だがそれだけでは終わらなかった。なんと颯也が言った通り、新名古屋城にはその閃光によって生じた破壊はどこも見られなかったのである。有言実行とはまさにこの事で……

 

「任務完了……帰投する」

 

暴走を止めると、颯也はどこかへと飛び去っていく。その後の新名古屋城周辺は、颯也が再び物語に介入するまでは静寂だったと言う。




今回もちょっと解説を書く気分ではなかったので、またおいおい解説はしようと思います。それでh「待たれよお主‼︎」……はてどなたでしょう?

「なんと! 儂を出しておきながらしらばっくれると言うか! 儂は黒之巣会の天海じゃ‼︎ 人間どもを恐怖の底に陥れて支配してくr」

あぁ、誰かと思えばハゲかけのジジィですね

「誰がハゲかけのジジィじゃ⁉︎ 貴様の目は節穴か⁉︎ よく見てみろ! 立派な白髪があろうが‼︎」

それも所詮後で禿げるので心配しなくても大丈夫ですよ?

「貴様! 貴様まで儂を愚弄するか⁉︎ 許さん! 許さんぞ作者風情g」

それと今回出した新キャラですが……fateの魔神沖田さんを出しました! 最近イベントで出たばかりですよね‼︎ それでたまたまガチャ引いたら当たりまして……すごく嬉しかったので急遽小説に登場させました‼︎

という事です。では読者の皆様、また会いましょう!

「無視をするなぁ‼︎」


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10話R-15 誰かの代わりではない! そして宣戦布告

「な、なぁ作者? なんでまたこのタグがタイトルについているんだ?」

それはですねぇ……書いてたらそうなりました! ヤッタネ‼︎

「ヤッタネ‼︎ じゃないだろぉっ⁉︎ からどうするんだよ⁉︎」

どうするも何もそのまま突き進んだしまえばいいのさ‼︎ (๑˃̵ᴗ˂̵)

「簡単に言うな!」

「颯也……まさか私に隠れて浮気、かしら?」

「っ⁉︎ な、成実さん⁉︎」

おぉーっ! これは修羅場の予感‼︎

「そこで楽しんでいる作者さん? 悪いけどお仕置きね?」

……えっ?

「だってそうでしょう? この物語は私が颯也の彼女なんだから。それを差し置いて……覚悟する事ね?」

えっ? あっ、や、やめっ⁉︎ ごめんなさぁ〜い‼︎

「……ドンマイ」

「ふぅ、これで邪魔者はいなくなったわ。ということで颯也……イチャイチャしましょ♡」

「……と、取り敢えずご覧下さい」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20時45分 ハーフビーク級戦艦スレイプニル内

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side カタクリ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ当然の結果か」

 

俺はモンタークことマクギリスが所有する戦艦の艦長室で三河消失の成り行きを見守っていた。

 

まぁもっとも颯也のことだ。あれしきのことはどうとでもなる。

 

ん? いきなり現れて何を語っているのかだと? まずは自己紹介をしろと? 自己紹介は済んでいたはずだが……まぁ良い。改めてさせてもらおう。俺はカタクリ……今はそう名乗っている。今はということは、前は違った名前を用いていた。

 

そう……昔俺は魔神王・ゲーティアと、そう名乗っていた。それもこの世界とは違う世界でだ。元々俺は人類を滅ぼそうとしていたが、それも新米のちっぽけな魔術師に敗れた。まぁそれについては今はどうも思っちゃいない。過去の事で既にどうでも良い事だ。

 

そして今はカタクリとして、颯也とともにこの世界に来た。まぁそのカタクリという名前も、違う世界に存在している人物の名と姿を真似ただけだ。そしてその人物が所有する能力もな。

 

その世界とはONE PIE◯Eと言って、簡単に言えば海賊達が跋扈する世界だ。そしてその世界に生きるカタクリは、シャーロット・カタクリと言ってモチモチの実を食べた餅人間だ。そしてその世界で強者が持つと言われる武装色、見聞色、そして100万人に1人しか持たないと言われる覇王色を持ち合わせている。特に見聞色は極めすぎて少し先の未来が見えるまで鍛えたという。

 

そしてさっき言った様に、能力も“真似”た。それも努力してな? しかしあれは本当に何度死ぬかと思った事か……能力をその世界のカタクリ同様、あるいはそれ以上使える様に颯也と修行した。そのおかげもあり、その世界のカタクリ以上に能力は扱えると思っている。まぁ思っているだけだが……

 

(俺が魔神王でなければ死んでいたな……)

 

そう……思ってしまうくらいだ。にしても颯也は力加減を全くと言って良いほど知らない。いや……俺のためにわざと本気でやってくれたのか……

 

(だがこの世界に来てこの姿になっているのは驚きだったな)

 

俺がこの世界に来たのが確か13年前ぐらいだ。その時颯也と他多数と一緒にこの世界へと降り立った。まぁ颯也の姿は子供の姿だったが、それでも俺が魔神王の頃より遥かに強かった。

 

だが、その方がこちらとしても頼もしい。俺達が今やろうとしている事を考えるのなら、その時からそれぐらいの力を持っていなければこの世界を救えない。俺はそう考える。

 

そう考えていると未来が見えた。所謂見聞色の鍛え過ぎによる、少し程度の未来予知……

 

見終わると、艦長室のドアがスライドして開いた。

 

「ふむ……ここが艦長室というものか……」

 

現れたのは、さっきまで地上で謎の黒い影と戦っていた女だった。

 

あの黒い影の正体はシャドウサーヴァント……のさらに成れの果てだ。シャドウサーヴァントと比べたとしても敵う事はない。だがこの時代の学生よりかは少し強いと思う。

 

まぁその何千という群れを、この女はさっさと片付けてしまった。

 

「お疲れさん。沖田オルタ……だな」

 

「そうだな、あの世界ではそう呼ばれていた。それでお前は……マスターに着いてきた物だな。確か……ゲーティアと言ったか?」

 

「昔はな……今はその名前もとっくに捨てた。今はカタクリと名乗っている」

 

「カタクリ……片栗粉か?」

 

「……あながち間違いではない」

 

「そうか……ならタダでお餅が食べれるんだな?」

 

「何故そうなる?」

 

「マスターから今届いたのだが、お前が餅人間だから頼めばタダで食べさせてくれるかもねと……それで食べれるのか? できれば焼いて醤油で食べたいのだが……」

 

「……」

 

正直俺はどうしていいか分からん……確かに俺は沖田オルタがここに来ていくらか会話をしたのち立ち去る未来を見た。見たのだがこれはなんだ……とっくに俺が未来で見た退出時間を超えている……

 

(颯也はそれさえも見据えていると言うのか……)

 

「どうした? それで食べさせてくれるのか?」

 

「それは颯也に頼んでやってもらえ……」

 

「そうか……うん、それもそうだな。では邪魔したな」

 

そして沖田オルタは去っていった。

 

「……本当にあいつは化け物だな」

 

颯也さんの事をそう再認識したカタクリさんがいました……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新名古屋城と三河消失を防いだ俺は、マクギリスが所有する戦艦に到着し、カタクリがいる艦長室にいた。

 

「よぉ、お疲れさんだな」

 

「あぁ、そっちこそ上手くやってくれて助かるよ」

 

「なに、今回の俺の役割は全世界に俺たちの存在とその意義を知らしめる事だからな。せっかく颯也が新しい人生を送るのに、その世界も滅亡の危機に陥るとかごめんだからな。それに何と言っても俺はお前に助けられた。なら……お前の力になりたいと思う」

 

「はは……本当に昔の頃と変わったね」

 

「誰のせいだと思っている? だが今の俺も悪くないと思っている」

 

「そうか……それなら良かったよ」

 

颯也と談笑しているとまた未来が見えた……はぁ〜……

 

「どうしたカタクリ? なんか未来が見えた様だけど?」

 

「アイツが来るんだよ……」

 

「あの子の事嫌い?」

 

「そう言う訳じゃねぇんだがな……」

 

そう言っているとドアがスライドして数人が入ってきた。

 

「おっ? なんだもう帰って来てたのか?」

 

「おかえりなさい颯也。お疲れ様です」

 

「あぁ、ただいま」

 

「おかえり。にしても今日もまた凄いものを見せてくれたね」

 

発言の順はガエリオ、アイン、マクギリスである。

 

「う〜ん……序の口かな?」

 

((((えっ? あれで序の口(ですか?)?))))

 

その場にいた4人は同じ事を思ったという……ただ1人だけ除いて……

 

「マスターーーっ♡」

 

颯也の胸に飛び込む沖田オルタ。不意打ちにもかかわらず、それを優しく抱きとめる颯也は、どことなく父性を放出させる様に見えた。

 

「もう、いきなりは危ないよ? 沖田ちゃん」

 

「それはすまないと思っている。でも……我慢ならなかったから……」

 

上目遣いで颯也の顔を見る沖田……それに対して颯也はとても困ったという風に笑みを浮かべるが、瞬き1つする頃には困った表情は抜けた笑みを浮かべて沖田の頭を優しく撫でていた。

 

「んんっ♡」

 

沖田から喜びの声が漏れ、それと同時に沖田は颯也の胸に自らの顔を擦り付けていた。

 

「なぁ……邪魔だったら俺たちここから出ようか?」

 

「そ、そうですね……もう完全に2人きりの世界ですし……」

 

「ハッハッハッ……青春してるねぇ〜」

 

「……おい、ガエリオとマクギリス、今からすぐこの場を立ち去った方がいい」

 

「ん? どうしたんだ? そんな深刻な顔をして」

 

「何か未来が見えた様だが……」

 

「あぁ見えた。だかr「さて、それじゃあマクギリスとガエリオ」……遅かったか」

 

「今からさっき言った様に模擬戦しに行こうか」

 

「「……えっ?」」

 

「ん? 聞こえてなかった? ならもう1回ちゃんと言うよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

MO☆GI☆SE☆Nしようか?」

 

「「……」」

 

「マスター、今から模擬戦をするのか⁉︎ なら私も観てもいいか⁉︎」

 

「あぁ、勿論だとも」

 

「ふふ、楽しみだ。それと……」

 

「あぁ、分かってるよ。また後で……」

 

「楽しみにしているぞ♡」

 

そしてマクギリスさんとガエリオさんは、颯也さんからのありがたい……それはもうありがたい模擬戦を受けたと言います……

 

因みに……

 

「そういえばカタクリ、さっきはどうして沖田ちゃんにお餅を食べさせてあげなかったんだ?」

 

「……そんなものは当然だろう? 俺のこの能力はあくまで戦闘に特化した力だ。誰かに食べさせられる様なものではない」

 

「でも能力解放してるから、何もない空間からもお餅出せるでしょう? それも何年も前に試して分かってるはずでしょう?」

 

「……確かにそうだったな。だがそれを誰かに食べさせるものでは……」

 

「それだったら食堂に行って冷蔵庫の中にあるお餅を食べさせてあげればよかったでしょう? 沖田ちゃんがかわいそうだよ……」

 

「……」

 

(なんでお餅を食べさせなかっただけでそこまで言われなきゃいけないんだ……)

 

カタクリさんは心の中でそう思ったと言います……

 

「因みに心の声聞こえてるからね?」

 

「……」

 

目の前に立つ颯也さんの事を益々化け物だなと思ったようです……

 

そしてマクギリスさんとガエリオさんとの模擬戦が終わった後……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ颯也……来てくれて♡」

 

(どうしてこうなったんだろう……)

 

颯也は正直……模擬戦をした後こうなるとは思わなかった。何を思ったかというと、戦った後でお腹が空いただろうから、沖田ちゃんが大好きなおでんを作って振る舞おうとしたのだ。そして沖田ちゃんは颯也お手製のおでんをものすごい勢いで食べた。それもリスが口に物を貯めながら食べる様に……

 

颯也もそれには満足していた。確かにこの世界には……毎日言うのは恥ずかしいが好きな人がいる。勿論それは成実の事だが、目の前でおでんを食べている沖田が自分を好いていることは、何となくだが分かっていた。だからこそ、そんなにも美味しそうに食べてもらえたらとても嬉しかった。

 

それで沖田がおでんを食べ終えたら……

 

「ふぅ……やはりマスターの作ったものはどれも美味しいが、やはりおでんは格別だな」

 

「そう言ってもらえたら、俺も嬉しいよ」

 

「その代わりといっては何だが、私はマスターに恩返しをしたい」

 

「そんな、俺はただおでんを作っただけだし、何も特別な事はしてないよ? 寧ろこの世界に来て早々戦ってくれた沖田ちゃんに感謝しているよ」

 

「そうか。だが私は、このおでんを作ってくれた事もそうだが、私を助けてくれた事に感謝しているんだ。それも恩を返しきれないくらい……」

 

「沖田ちゃん……」

 

「だからマスター……これはささやかな恩返しだ」

 

沖田はそう言うと、誰にも見えない様な速度で颯也の前に立つ。その勢いのまま、だが優しく颯也の両頬を包むと、颯也にまずは優しく口付けをした。

 

「っ⁉︎///」

 

「んっ♡ ぷはっ……ふふ、顔が赤くなっているぞ? マスター」

 

「そ、そんな事……当たり前です」

 

「相変わらずマスターは可愛いな。もっと……その顔が見たい♡」

 

「か、からかわないで下さい……」

 

「敬語が出たな……ふふっ、マスター……いや、颯也が照れるととても可愛い♡ それでは颯也、一緒に行こうか?」

 

沖田はいつのまにかマスターである颯也の事を呼び捨てで呼んだ。それの意味する事は……今日の沖田は本気であると言う事で……

 

「い、行こうってどこに……」

 

「そんなものは決まっている……お風呂に行こう、マスター」

 

「……へ?」

 

久方ぶりに颯也さんは思考停止したといいます……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからは……なんか朧げだ。沖田ちゃんとまずは体を洗った……と思う。なんかここがよく思い出せない……思考がシャットダウンしていたんだろう。

 

それで大人が10人は余裕で入れる浴槽に浸かったが……沖田ちゃんは俺にくっついて離れなかった。物凄く恥ずかしかったが……ここからは覚えているぞ? 因みに2人ともバスタオルを巻いていた。沖田ちゃんは渋っていたけど……そっとしておいた。

 

だが今思えば遅かれ早かれだったんだなと思う。何故なら今、俺の目の前で……

 

「さぁ颯也……早く来てくれ♡」

 

“一糸纏わぬ姿の沖田ちゃん”がベットで俺を誘惑するかの様に誘っていたからで……

 

(……行くしかないよな?)

 

成実さんには本当に……本当に悪いとは思っているんだ! だけど俺は……俺の事を本気で好いている女の子がここまでやってくれているのを見て、見ぬふりなんて出来ない‼︎ だから‼︎

 

(えぇい! ままよ‼︎)

 

俺は少しずつ沖田ちゃんが寝そべるベットに歩み寄り、そしてついにはベットに横になった。それも沖田ちゃんと向かい合う形で……

 

「ふふっ♡ 颯也が来てくれた。嬉しい♡」

 

そして沖田ちゃんは俺を抱き寄せた。それも後頭部を撫でながら……

 

「颯也が……私とは違う人の事を想っているのは知っている」

 

「……」

 

「それでも私は颯也が好きだ。颯也が私の事をどう思っていようとも……好きだ」

 

「俺も……沖田ちゃんが俺の事を好きだろうなとは、漠然とながらだけど感じていたよ」

 

「そうか。やはり感じ取ってくれていたのだな……私はそれが嬉しい。だが私は、ただ好きだからという理由だけで颯也を今抱きしめているわけではない」

 

「どういう事?」

 

「私は……颯也が寂しがり屋な事を知っている。私も颯也の過去を見たから……な」

 

「……うん。確かに俺は寂しがり屋だよ……どうしようもないほど」

 

「だから、私は……自分自身で言うのもなんだが、今この場にいない颯也の想い人の変わりだ。颯也が寂しくない様に……大切な誰かの変わりだと思ってくれて構わない」

 

沖田ちゃんは……そう言った。俺の過去を知りながらも、この世界に俺の想い人がいることさえ知っていながらも……俺の事を優しく包んでくれる。

 

俺の前世は……ごく普通の家庭だった。両親からはたくさんの愛情をもらった。それでか、俺は他の人が困っていたら見て見ぬ振りはできなくて……偽善であろうとも助けて来た。その助けたが俺の自惚れなら……それはそれで構わない。俺が好きでやった事だから。

 

でも……心の中では寂しいと感じた。親からは沢山の愛情をもらっている筈なのに……友人からも良くしてもらっていたのに……表には出していなかったけどそう感じていたよ。

 

それでひょんな事で俺は1回死んだ。そして今……女神様から試練を与えられてそれらを見事やり遂げた。だからこの世界に転生させて貰った。それからの生き方も……俺が生きてた世界と一緒だ。困っていた人がいたら助ける。争いごとが起こっていたら仲裁する。そんな日々を送っていた。まぁ女神様から与えられた試練でどこぞの世界に飛ばされた時も一緒だったけど……

 

それでも寂しいとずっと思っていた。だけどこの世界に来て初めて……俺は寂しさから解放されたのかもしれない。それこそが……成実さんとの出会いだった。彼女が……俺の事を初めて、寂しさから解放してくれた。今では……いや、今でもスキンシップが1段上をいって恥ずかしさはあるけど……それでも彼女が一緒にいる事で寂しさなんてものはなかった。

 

それで今は……沖田ちゃんが俺の事を優しく抱きしめてくれていて寂しくない様にしてくれている。でも……何故か寂しく感じた。どこで寂しく感じたか……

 

(大切な誰かの変わり……)

 

そうだ。俺は沖田ちゃんのその発言が寂しくて……悲しかったんだ……

 

「誰かの変わりなんて……俺はそう思わないよ」

 

「颯也?」

 

「俺は……沖田ちゃんがこうしてくれて嬉しいよ。それも……俺の事を好きだって想ってくれている人がこうしてくれているから……だから俺は寂しくないよ? でもね? 俺は、沖田ちゃんが誰かの変わりだなんて思わない。いや、思いたくない」

 

「そうか……私の事を誰かの変わりだと思わないのなら、颯也の事を抱きしめている私の事をどう思っている?」

 

「……不誠実だと、そう思われても良い。でも俺はこう言うよ……沖田ちゃんの事も大好きだよ。成実さんとは比べられないくらい。だから俺は寂しくない。今は……ずっとこうしていたい」

 

「颯也……それは告白と捉えても……良いのか?///」

 

「そう捉えてくれて構わない……いや違うね。そう、捉えて欲しい。だから……沖田ちゃん、これからも俺に力を貸してくれる?」

 

「ふふっ……私は颯也がそう言わなくても力を貸すつもりでいた。だが……そう言われたのなら益々……貴方の力になりたい。だから今夜から……私に甘えて欲しい」

 

「うん……それじゃあ……甘えるよ?」

 

「あぁ……来てくれ颯也……あっ……んんっ♡ ふぅっ……」

 

三河消失を防いだ空の上では、1組の男女が互いに、自分の思うがままに身体を重ねていたと言います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勿論……この方はと言うと……

 

「颯也……早く……早く貴方に会いたい。会って……貴方を甘えさせたいの……。だから……早く戻ってきて……」

 

既に風呂に入って寝間着姿で布団の上に横たわっていた。ただ様子がおかしい……

 

いつもであるならちゃんと寝間着を着ている筈なのに……今夜に限ってはそれも乱れていた。汗を風呂で流した筈なのに成実さんの肌は赤く火照っており、汗も成実さんの綺麗な肌を流れ落ちていた。

 

(私は……今とても焦っている。颯也が……私から離れていきそうで……そう思ってしまうほど……んんっ)

 

胸の辺りがキュンッと締め付けられている感覚がした。勿論原因は分かっているわ……私は、私が思う以上に颯也を独占したいって思っているの。

 

(それ程までに私は……貴方が好き……大好きなの‼︎)

 

「だから……早く帰ってきて……」

 

いつもの余裕そうな表情を浮かべた成実さんではなかったと言います……

 

そう言えば成実さん担当の語り部さんはどこに行ったのでしょう……

 

【多分この前の事で成実さんの逆鱗に触れて一回休みじゃない?】

 

なるほど、そう言う事でしたか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー●◯●ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8時40分 三河

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この場では2つの陣営に分かれていた。赤の服に身を染めたのは、今回三河消失を止めようとしたトレスエスパニア……その先頭には、昨夜颯也に敗れたばかりの第1特務立花・宗茂と、その妻である第3特務立花・誾がいた。そして誾の手には、本来本多・忠勝のものではあるが、白騎士から手渡された蜻蛉切が握られてあった。

 

そしてトレスエスパニアに相対するように陣取る一方の陣営は、三河警護隊である。そして先頭には本多・忠勝の娘である本多・二代がいた。

 

この両陣営の様子は、今全世界に映像として流れている。映像として流す理由……それは、三河並びに武蔵がこの世界を相手にしていけるかである。三河は消失しなかったものの、それは未遂だ。そして消失を執り行った当主である松平・正信はいなくなり、その代わりとして娘であるホライゾン・アリアダストが責任を追及されてトレスエスパニアとK.P.Aイタリアに身柄を拘束されている。

 

しかしそれはただの建前であり、実際はホライゾンの中にある大罪無双を抽出、簡単に言ってしまえばホライゾンを処刑し、そして9つ目の大罪武装を我が物にせんとしているのだ。

 

それを、極東である三河と武蔵は断固として悪であると……何も罪を犯していない民が、世界の都合によって断罪されるのを良しとしなかった。

 

だからこそトレスエスパニアに相対している三河勢は示さなければならない。自分達は、自分達の手は世界でも通用するという事を……

 

そんな静けさの中動きがあった。そもそもここに両者が集まっている理由は、本多・忠勝の獲物である蜻蛉切を娘である二代に返す事も目的に含まれていたのだ。先に動いたのは立花・誾で、両者の中間点まで歩いて止まる。どうやらそこで蜻蛉切を渡すようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 二代

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ここは拙者達の力を見せる所に御座るな)

 

重奏信州を支える神器が失われて早数百年……その間極東は虐げられてきた。重奏信州を崩壊させた責任として、今まで重奏信州側がほぼと言っていいほど歴史再現を進めてきた。

 

確かにそれは仕方のない事かもしれない……だがそれとホライゾンを捉えて、あまつさえ処刑する事は話が別である。

 

だからこそ……

 

(今で御座る‼︎)

 

二代は翔翼を展開して動いた。あくまでトレスエスパニアから蜻蛉切を渡されるのではなく、自分の手で取り返すのだという風に。そして後一歩の所で届こうとしていたが……

 

「っ⁉︎」

 

二代の手は槍を捉えることができずに阻まれた。そして阻んだ人物は……立花・誾の夫である立花・宗茂である。そして宗茂は誾の手に握られてある槍を手に取り……

 

「この蜻蛉切をあなたの父である、本多・忠勝殿から託されました。どうぞ、お受け取り下さい」

 

そう言って槍を二代に渡そうとした。二代は……自分の力が目の前の男に届かなかったと思い、それは悔しく思うが……表には出さずに素直に受け取ろうとした。したのだが……

 

「む……?」

 

「? どうかされましたか?」

 

「これは蜻蛉切に御座らんが……」

 

「えっ……なっ⁉︎」

 

そう言われて宗茂もよくよくやらを見てみた。すると、槍の穂先が全く違っていたのだ。否! 穂先には何やら変な事が書かれた板が付いていたのだ!

 

『ドッキリ大成功‼︎』テッテレーン‼︎

 

「こ、これは⁉︎」

 

「どういう事に御座るか⁉︎ この場においてふざけているので御座るか⁉︎」

 

「い、いえ‼︎ そんな事は……しかしいつのまに……」

 

(誾さんは確かにさっきまで蜻蛉切を持っていたはず……何者かにすげ替えられた? それはいつ……)

 

そこまで考え……

 

(まさか……二代殿を遮った時ですか⁉︎)

 

そう……その瞬間した考えられないのだ。そして本物はどこに行ったのか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く……すぐにバレるものと思ったが、まさかこれ程までに腑抜けの集団だとはな」

 

そんな声がその場に聞こえた。声が聞こえた方向を見ると……

 

「なっ……あなた方は⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side インノケンティウス

 

「あ、アンフェア・ブレーカーズだと⁉︎」

 

そこには、確かにアンフェア・ブレーカーズの面々が映し出されていた。昨日三河にいたモンタークとヴィダールは勿論、昨日その場には姿を現さなかったヴァンデッタとカタクリの姿もいた。しかし白騎士だけはその場にいなかった。

 

『この中継……教皇も見ているんだったな? どうだ? この有様を見て貴様自身どう感じた? あの瞬間俺達は立花夫妻の間を通り、その隙に蜻蛉切を拝借した』

 

そう言うヴィダールの手には、確かに本物の蜻蛉切が握られていた。

 

『その瞬間を……誰か1人は気付くかと期待した。特に1番近くを通り過ぎた立花夫妻は気付く事は無いにしろ違和感を感じるものかと思った。だが蓋を開けてみればどうだ? 誰も気付かずあまつさえ普通に蜻蛉切を渡そうとする始末……そんな実力で貴様達は末世をどうにかしようと考えているとは……全くもって甚だしい!』

 

「くっ……好き勝手とほざくか!」

 

『あぁ好き勝手にほざくとも……何せ大罪武装をいくら使おうと俺達には届かない』

 

『少し格好をつけ過ぎだ。だが……それは事実だ。どれほど強力な攻撃力を持っていようとも……使いこなせなければ宝の持ち腐れに等しい。俺達に届くのは、真に己を高めた者のみだ』

 

『私達は確かに、あなた達がどんな風に過ごしてきたかなんて分かりません。ですが……さっきの反応を見て明らかに、あなた方では私1人にも勝る事は出来ない』

 

『ハハッ、いつになく熱いねヴァンデッタくん。だが……それも事実だね。どれだけ束になろうと、どれだけ罠を仕掛けようと……今の君達では私達には勝てない。そしてこれを見ている教皇総長には……あなたが所有している大罪武装《淫蕩の御身》をこちらに返して頂きたい』

 

「返すだと⁉︎ 何を言っている⁉︎ この大罪武装は貴様らの所有物ではないはずだ‼︎」

 

『確かにそうだね。だが……あなたの物でもない。それは……私達の友が大切だと思っている存在の一部なのだから……』

 

「ほ、ホライゾン・アリアダストの事か⁉︎」

 

『それ以外に何がある? その様な問答は時間の無駄だ。ただ簡潔に答えろ。貴様が持つ大罪武装をあの子に返せ。それともう1つ付け加える……我が友にとっての大切な存在を解放しろ』

 

「っ⁉︎ そんな事は出来るはずがない‼︎ 我々も末世が起こらぬ未来のために動いている! それこそがローマの! カトリックの教えそのものだ‼︎」

 

それを聞いたK.P.Aイタリアに属する者達は一斉に声をあげた。そうだ、それこそが我らローマでありカトリックであると……そう口々にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがそれは、目の前の4人にとっては火に油を注ぐ行為と同意であった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黙れ……

 

それは誰が呟いた言葉だろうか……いや、多分この場にいるアンフェア・ブレーカーズは皆一応にそう思った事だろう。何故なら彼らの纏うオーラの質が変わり始めたのだから……

 

「こ、これは……」

 

これには教皇総長も冷や汗をかきはじめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side ヴィダール

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これでよく分かった。俺とお前達とでは平行線……互いに相容れない存在だと。俺達のファンは除くが……」

 

その発言は少し甘いのでは? と思うほどだが、彼らは先程の発言の通り自分達のファンは大切にする。

 

ともかくもヴィダールはそう言いながら手元に己が本来持つ獲物を顕現させた。それは……中世の騎士が使う様なランスだった。大きさはヴィダールと同じくらいであり、全体的に青紫色だった。

 

「さぁ穿て……宗教の都合で民を虐げ、尚且つその為ならば人を殺めても構わないと謳う愚か者を‼︎」

 

神の遣いと騙る者を穿つ魔槍(グングニル)‼︎

 

ヴィダールはその槍を空に向かって投げた。次の瞬間、青紫色の槍はいつのまにか出来ていた紫色の穴に吸い込まれた。

 

そして槍がどこに行ったかというと……

 

「なっ⁉︎ これは⁉︎」

 

教皇総長の前に紫色の穴が出来ており、そこからは先程投げられた青紫色の槍が教皇総長に向かって行く。

 

(ま、間に合わん⁉︎)

 

教皇総長は《淫蕩の御身》を発動させようとしたが、それを発動させる時間は無かった。また、防御術式も展開が出来なかった。そして槍は止まる事なく教皇総長の顔に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当たる事はなかった。当たる手前で先程と同じ様な紫の穴が現れ、槍を飲み込んで行く。それから数秒後……K.P.Aイタリアが陣取る船の近くで尋常ではない程の爆発音が聞こえた。

 

そこをカメラを持った1人の学生が映し出すと……唖然とした。

 

そこにあったはずの山はゴッソリとなくなり、地表は何か強大な存在が通り過ぎたのかというほど抉れていた。

 

「生憎と俺達の目的は人殺しではない。あくまでも俺達の目的も末世を覆す事だ。そして俺達はここで宣言する……」

 

そして一拍おき……

 

「俺達アンフェア・ブレーカーズは、K.P.Aイタリアに対して宣戦布告する‼︎」

 

「「「っ⁉︎」」」

 

それは……その場にいた者もそうだが、この映像を見る各国も度肝を抜かれた。何せ一国に対して、いちアーティストが宣戦布告したのだ。それも、今この場に全員がいるわけではないが、たったの5人である。それが一国に勝てるのだろうか? 普通に考えて無謀である……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(だが奴らならやりかねん……)

 

そう思ったのは、先程攻撃された教皇総長である。自分は被害を受けかけたもののそれは未遂だ。だがあの攻撃は、たったの一撃で山丸々を削り取る。いや、さっきのは加減したのかもしれない……

 

だがそう考えたなら、彼らは本当にやりかねない。

 

(それに付け加えて昨日だ……)

 

昨日の新名古屋城の中継を教皇総長も見ていたのだ。そして正直我が目を疑った。映像越しとはいえ、大罪武装が一瞬のうちに押し負けたのだ。能力によって様々であり、それに伴って攻撃力も違ってはくるが……それでも大罪武装の中でも最強クラスの《悲嘆の怠惰》がいとも簡単に負けた。だからこそ彼らの言っている事が本気だと分かる。

 

「何故宣戦布告するか分かるだろうが、一応言っておこう。俺達の友が大切に思う存在を、自分達の都合で亡き者にしようとしている。これが1つ……そして2つ目は……宗教の都合ならば人を殺めてもいいと言うお前達の思想が胸糞悪い。正義であればその行いは美化されると思い込んでいる貴様達の行い……俺達は見過ごさない!」

 

「ハハハッ……言葉こそ上品ではないが、ヴィダールの言った通りだ。私達はその行いをよしと考えるあなた方を許しはしない。悔い、改めるまでは」

 

「だからと言って俺達は今すぐお前達を潰すつもりは無い。今この場においては、K.P.Aイタリアとトレスエスパニア間と、極東である武蔵と三河の問題だ」

 

「ですがあなた達がその考えを変えない限り……私達はあなた達を許しはしません。本来ならこの場で無力化しても構いませんが……」

 

「ヴァンデッタ、気持ちは分かるが今は抑えろ。いずれその時はくるさ」

 

「はい」

 

「それと忘れる前に1つやっておこう」

 

ヴィダールがそう言った瞬間、彼はその場から消えた。その場にあるものがそう思った瞬間……

 

「本多・二代殿」

 

「「「っ⁉︎」」」

 

ヴィダールが二代の前に現れた。それも蜻蛉切を大切そうに両手で持ちながら二代に差し出す。

 

「君の父君は立派に闘った。その証がこの蜻蛉切だ。君は先程の事で少し自信をなくしているだろうが、まだ若い。だからこそ、君だけの道を目指して欲しい」

 

そう言いながら彼は二代に差し出した。

 

「かたじけのう御座る。それと……感謝を」

 

「別に感謝は必要ない。俺達が好きでやった事だからな」

 

「それでも……拙者は貴殿らに感謝するで御座る」

 

「そうか……まぁ好きにすると良い」

 

そう言ってヴィダールは元の位置に一瞬で戻った。

 

「さて、これで私達がこの場でやる事も終わった。これからどう動くのか……私達は高見の見物とさせてもらうよ」

 

モンタークがそう言うと、アンフェア・ブレーカーズの面々はまるで最初からその場にいなかったかのように姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は前回よりも早めに投稿できた気がします! まぁあまり変わらないと思いますが……

本当はここの話で

梅組がホライゾンを助ける決意を固める→そこに颯也も合流する

と言うところまで書きたかったんですが……まぁそれは次回のお楽しみでお願いします!

では解説です!

神の遣いと騙る者を穿つ魔槍(グングニル)

これは『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』に出てくる機体、ガンダムキマリスの持つ武装の名前ですね。今回はオリジナル技としてヴィダールさんがその槍を投擲……威力は山をゴッソリと削り取る程の威力です。ですがこれもあくまで加減しており、実際の力は計り知れません。





とまぁ今回はこんな感じであとがきは終わります!

それでは次回もまた読んでくださったら幸いです‼︎


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11話 三河からの帰還

あぁ……ほぼ2ヶ月ぶりに更新できた……

「何故こんなに遅かった?」

それは……世間が夏休みというのもあったかアプリでイベントが被りまくって……

「それでチマチマ書いていたらまたイベントに突入したと?」

そうですよぉ〜‼︎ だってF◯Oの今年の水着イベントマジで良かったんですよぉー‼︎ ジャンヌ・オルタさんが水着で配布だし! 今回のガチャはガチャのジャンヌ以外全員当たったんです‼︎ それもBBちゃんに至っては2回当たったんですよ⁉︎ こんなのやらないわけないでしょう⁉︎

「ま、まぁそれは分からないでもないが……」

「それに気まぐれに引いたシナリオガチャでナポレオンが当たったんです‼︎ こんなのさらにのめり込むに決まってるじゃあないですか⁉︎ それもゲッテルデメルングまだ一歩も手を付けてなかったから私としては最高でしたよ‼︎

「それで今のアクセルゼロオーダーのイベントに入ったと……」

そんなところです……まぁ素材も粗方集めたし、シナリオの方も12日から開催されるやつを除いでステージはやりましたからね! だから投稿も再開します!

「……まぁ他にやってるアプリが再燃しないうちに書き進めろよ? といっても無理な話だが……」

ははは……ま、まぁともかく皆様お待たせしました! それでは本編の方をどうぞ‼︎


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8時45分マクギリス所有ハーフビーク級戦艦スレイプニル内

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『すまない颯也、勝手な真似をしてしまった』

 

「いや、ガエリオは正しいことをしたよ。それに俺だってあの場にいたら同じようにしてただろうし」

 

「マスターの言う通りだ。だが短気な所はやはりガリガリだな……」

 

『ガリガリじゃない! ガエリオだ‼︎』

 

『だがこれで良かったのかい? 今回の三河騒乱で武蔵に力を貸さなくて?』

 

「あぁ、今回はあくまでK.P.Aイタリア、トレスエスパニア間と極東勢で起こった事だ。まぁ俺は極東勢だから普通に参加するが」

 

『颯也だけずるいぞ? 俺は昨日大罪武装を逸らしただけで不完全燃焼なんだが?』

 

「なら後で模擬戦する?」

 

『すみません調子に乗りました……』

 

『まぁそれはともかくだ……俺達が次に動くとすれば……』

 

『極東勢が三河騒乱をどうにかした後……ですかね?』

 

『まぁ颯也がいる時点で結果など見えているだろうが?』

 

『だが油断は禁物だ。昨日介入してきた敵の件もある』

 

「まぁそれについてはその時に対処しよう。それにそいつらは今回の騒乱に関係ないにも関わらず首を突っ込んできたんだから、また昨日みたいな事があった時は遠慮なくやってしまおうよ」

 

『そうだね。じゃあ私達は一旦そちらに戻るとするよ。何かあったらまた連絡をしよう』

 

そして通神は切れた。

 

「マスター……行くのか?」

 

「うん、もうそろそろ戻らないと怒られそうだから」

 

「そうか……なら行く前に1つさせてくれ」

 

そう言って沖田は颯也の頬を両手で優しく包み込み……

 

「んっ……♡」

 

一瞬だけの口付けではあったが、颯也からしてみればとても濃厚だった。

 

「ふふっ、行ってらっしゃいのキスだ」

 

「はは……凄く嬉しいのに、未だに恥ずかしいや」

 

「そのようだな。ルンもピンク色に反応しているし、だが私はそんな颯也の事も大好きだぞ♡ だから……貴方が思うがままに舞って欲しい。私に……あの時の輝きを見せて欲しい」

 

「分かった。行ってくるよ」

 

そして颯也はスレイプニルから一瞬で姿を消した。移動した所は、何を考えたのか宇宙空間だった。

 

「フォーム……ウイングゼロ〈EW〉」

 

音など響かないはずなのに……確かにその言葉が聞こえた。そして颯也は昨日纏った鎧を纏い、地球へと飛翔した。

 

因みに何故颯也さんが宇宙空間からわざわざ鎧を纏って地球へ行くかというと……

 

「そっちの方が楽しめそうでしょ?」

 

との事でした……

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ……行こう。大切なものを取り戻す」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日同刻武蔵アリアダスト教導院梅組

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 浅間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私達は中継でその成り行きを見守っていました。ただ正純とネイト、直政はいません。事の発端は昨日の事……三河消失を画策した元信公、そしてその隠し子であるホライゾンアリアダストの存在と大罪武装について……

 

そしてホライゾンアリアダストは現在K.P.Aイタリアに捕らえられて処刑を待っている状態です。それを止めれる力が極東勢にあるのか……それが今中継で証明されようとしていました。ですが結果は悪く、三河警護隊の隊長である本多・二代さんは後一歩のところで力が及びませんでした。その状況のまま進むかに思えたのですが、そこに思いがけない乱入者が現れました。

 

それがアンフェア・ブレーカーズでした。彼らは誰にも気づかれる事なくその場に現れ、しかもトレスエスパニアから三河に渡されようとしていた蜻蛉切をすげ替えると言う……

 

(どう表現して良いか分からなくなりましたね……)

 

そして最終的にアンフェア・ブレーカーズはK.P.Aイタリアに宣戦布告をしました。ただ今回の事に手は出さないようですけど……

 

それから中継は終わりました。それが終わって先生から渡されたのが原稿用紙で、この状況下で今の私達が何をして欲しいのか……それがこの時間に出された課題でした。

 

今この時、ホライゾンのところに行ったであろうトーリくんもちゃんと出席してはいるのですが、昨日の事がショックだったのか机に突っ伏していました。

 

それで今現在進行形で書いてはいるのですが……

 

(私がして欲しい事……ですか。う〜ん……)

 

なかなか浮かびません……いえ、して欲しい事と言えば……

 

(昨日は日常通りに行けばトーリくんがホライゾンに告白して、それで成功したら……デートとかして一緒に過ごして、それから……あぁ、良いかもしれませんね‼︎)

 

それで次に想像したのが……

 

 

浅間妄想中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『浅間さん』

 

『な、何ですか颯也くん?』

 

『いや、そんな大した事じゃないんだけど……この前の約束を果たそうと思ってね?』

 

『っ⁉︎ お、覚えてくれたんですか⁉︎』

 

『それは勿論だよ。それで確か……ハナミと浅間さんと一緒にお散歩とお話しだっだよね?』

 

『そ、そうです!』

 

『なら早速行こうか』

 

そして颯也は歩き始めるが、浅間が颯也の羽織っている上着の裾を摘んで引き止めた。

 

『ん? どうかした?』

 

『いえ、その……大したことではないんですけど……1つ付け加えても良いですか?』

 

その時点で既に恥ずかしそうにしていたのだが、やがて覚悟を決め……

 

『その……明日の朝まで一緒に……いて欲しいです』

 

それに対して颯也は一瞬だけ驚いたが……

 

『良いよ。浅間さんがそう望むなら、俺は朝まで貴女と一緒にいよう』

 

『ほ、本当ですか⁉︎』

 

『うん、第1にこんな所で嘘ついたって何もならないし……まぁ俺なんかで良いんだったら』

 

『俺なんか、じゃありません! 私は颯也くんが良いんです‼︎』

 

『浅間さん……』

 

『颯也くんは……もっと自信を持って良いんですから』

 

そう言って浅間は颯也に抱きつく。それも強く抱きしめる。だからだろうか? 颯也の顔が赤くなってルンもピンク色になっているのは……

 

『そ、その……浅間さん?』

 

『どうしたんですか? 颯也さん』

 

『な、なんというか……こんな事言ったら幻滅されるかもしれないけど……あ、当たってるんですが……』

 

『えっ? 何がですか?』

 

そう言ってなおも抱き着きを強くした。

 

『そ、その……胸……とか』

 

『胸ですか? ……ふふっ、そんな事分かってます』

 

『えっ? おわっ⁉︎』

 

そして颯也は浅間に押し倒された。

 

『ふふっ♡ 本当に颯也くんって可愛いですよね? だからこうして、たまにイタズラとかしてしまいたくなっちゃうんですよ。でも……これは私の本当の気持ちです』

 

そして浅間は颯也の上に寝そべりながら顔を近づけ……

 

『んんっ……チュッ♡』

 

『っ⁉︎』

 

『ぷはっ……ふふっ、これは日頃からのお礼と、それと私の気持ちです。受け取って……くれますか?』

 

最初颯也は何を言われたのか分からなかった。まぁこの状況下なら仕方ないこともあるだろう。だが颯也は笑みを浮かべ……

 

『あぁ、嬉しいよ。ありがとう』

 

そう言って颯也は、お返しとばかりに浅間の頬を包んで口付けをした。

 

『っ⁉︎』

 

『ははは……さっきのお返し。どう?』

 

『も、もう⁉︎ 颯也くん‼︎』

 

『ごめんごめん……でも、さっきのは本音だよ。凄く嬉しかったから』

 

『えぇ、私も……嬉しいですよ♡』

 

それからというもの、浅間さんと颯也さんは2時間きっかりハナミとお散歩&おしゃべりをし、その後は……

 

妄想end

 

 

 

 

(それであんな事やこんな事を……あぁ♡ 良いですねそれ♡)

 

そうやって妄想をしていると……

 

「浅間? 原稿用紙もう1枚いる?」

 

「へっ? えぇっ⁉︎ なんですかこれ⁉︎」

 

「さっきから怪しい笑みを浮かべて身体をクネクネしながら書いていたわよ? 一体何を思いながら書いたのかしらねぇ〜? まぁおおよその予想はつくけど?」

 

「アサマチって、やっぱり淫乱なところあるよねぇ〜?」

 

「というより存在そのものが淫乱っぽくない?」

 

「ふふっ、言われてるわよ浅間? やっぱり淫乱巫女なんじゃない」

 

「なっ⁉︎ こ、これは……そ、そう! 邪念! 邪念です‼︎ 邪念を捉えたのでこうやって原稿用紙に記して清めていたんです‼︎」

 

そう言いながらも原稿用紙を自分の身体で覆い隠した。

 

「まぁ先生的にはその邪念をこの場で読み上げてもらいたいところだけど?」

 

「そ、それはダメです! 断固拒否します‼︎」

 

「ん〜困ったわね〜。なら……鈴の作文を代表して読んでもらおうかしら?」

 

「わ、私ですか? じゃ、jud」

 

「では私が鈴さんの作文を代わりに読み上げても良いですか?」

 

「浅間、さん? jud。お願い、します」

 

そして向井の作文を浅間が代わりに読み上げた。今更ではあるが、向井は文字は書けるものの目が見えないため、自分の書いた文章でも読み上げるのは難しい。そのため今回の様に、自分が書いた作文を自分の代わりに読んでもらう事にしている。

 

向井の作文が浅間の手に渡る。向井が素直に原稿を渡してくれることに関して、浅間は嬉しく思ったとともに助かったと思った。一時的にこの空気から解放されると……

 

だがそう思って立候補したんだろうなという事は……梅組の皆にはバレバレではあったが……

 

「それでは、私が鈴さんの作文を代理で奏上致します」

 

※ここからは向井さんが書いた作文の内容に入ります……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は教導院へと続く階段が大嫌いでした。

 

私は生まれつき目が見えなくて、階段も誰かに手を引かれなければ登れないほどでした。そしてその日は初等部の入学式……他の子達は親子連れでいるのに、私だけこの場に親はいません。両親はこの日も仕事で、毎日忙しくしている事は分かっていたから、我儘を言う事なく1人で入学式に参加しました。

 

でも、他の子達が親子連れでいるのを感じて入学式に参加する気が無くなってしまいました。教導院に背を向けて入学式に参加しないでしまおう……そう思った時です。私はある女の子に声をかけられました。その子こそホライゾンでした。ホライゾンも今日の入学式に親は出席しないと言っていました。それはホライゾンと一緒にいた男の子2人も一緒でした。それがトーリくんと颯也くんで、ですが寂しくはないと言っていました。

 

そのことを聞いて私は正直凄いなと思いました。私は両親が来てくれなくて寂しかったのに、この3人は寂しくないと言って、おまけに笑ってもいました。でもそんな中……

 

『君だって、もう寂しくないでしょう?』

 

そんな言葉が私に投げかけられました。私は、どうして? と、そう問いました。そしたら……

 

『だってここからは僕達と行くんだから』

 

『そうね。私達と行くんだもの。寂しくなんてないわ』

 

片方の手をホライゾンが繋いでくれて、もう片方は男の子に、そして階段を登る時に背中からもう1人の男の子が押してくれました。私は……それだけでさっきまでの寂しさが無かったかのように、登るのが嫌だった階段も登れました。

 

いつの間にか私は、あれだけ嫌だった階段を1人で登る事が出来ていました。それで1番上まで着いた時……

 

『『『入学おめでとう‼︎』』』

 

梅組の皆が私にそう言ってくれました。1番前ではさっき私を勇気付けてくれた3人が、笑って迎えてくれました。その時私は嬉しくて泣いたのを覚えています。

 

入学式が終わった後家に帰ったら、お父さんとお母さんからもおめでとうと言われて、その時にも泣きました。

 

中等部では階段が無かったため登下校に不満はありませんでした。そして高等部に上がると、あの時大嫌いだった階段を登って登校します。この歳になると階段とか普通に登れて、それで高等部の校舎前まで普通に行けるようになりました。その時もあの時と同じように、梅組の皆が出迎えてくれます。初等部の時に1番前で出迎えてくれた男の子、トーリくんと颯也くんも笑顔で出迎えてくれていました。でもそこにはあの時いたホライゾンの姿はありませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は……またあの時と同じように、梅組の皆と、トーリくんと颯也くん、そしてホライゾンと一緒にいたいと……そう願いました。私はあの時に比べて強くなったから。1人でも歩けるようになったから……だから……」

 

「だから助けてトーリくん! 颯也くん‼︎ ホライゾンの事を助けて‼︎」

 

向井は席を立ちながら叫ぶ。未だ机に突っ伏しているトーリに向かって……そして今この場にはいない颯也に向かって……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ‼︎ そんな事当たり前じゃん!」

 

その言葉を誰が強く言ったろう……今まで机に突っ伏していたトーリだ。

 

「おう! 俺! 葵・トーリはここにいるぜ‼︎」

 

いつもの様に笑いながら言う。

 

「あれ? 君さっきまで意気消沈してなかった?」

 

「何言ってんだよ先生⁉︎ 俺は今までこのエロ本を見ながら活力と言う名の欲望をチャージしてたぜ‼︎」

 

「き、君ぃ? 先生遅くまで君のためにわざわざ番屋まで向かって君を引き取ったのに、あろう事かエロ本見てやる気を溜めてたですってぇ? もしかして君 、先生にケンカ売ってる?」

 

「そんなわけないじゃんかよ! それより……」

 

トーリは向井の元に歩いて行った。

 

「ありがとうベルさん。俺も決めたよ」

 

「う、うん。わ、私……あの頃よりも強くなったから、もうひと、りで歩けるよ?」

 

「うん! そうだな‼︎」

 

そう言いながらどさくさに紛れてトーリは向井の胸を鷲掴みにしていた……は?

 

「 それに胸も成長しているようだし」

 

……いや、どさくさではなく堂々と向井の胸を揉んでいた。その光景に梅組は、さっきまでのシリアスさはどこに行った? と文句を言いたくなる衝動にかられる。まぁ実際はトーリのその行動に呆れていたのだが……

 

「うん、胸も……大きくなったよ?」

 

「うんうん! 俺はベルさんが順調に成長しているようで嬉しいぞぉ!」

 

「それで、泣寝入りはもう良いのか?」

 

「はぁ? 何言ってんだよこの守銭奴は⁉︎ さっきも言ったろ? 昨日の遅くまで番屋で身動き取れなくってやる気もダダっさがりだったから、没収食らってたこのエロ本をチョロまかしてきてゲージ溜めてたんだよ‼︎ それも銀髪巨乳特集だぜ‼︎」

 

「なんと⁉︎ トーリ殿の押しで御座るな‼︎」

 

何やらいつもの調子に戻りつつある様子の梅組……だが……ここでその言動に耐え切れない人物が……

 

「アンタねぇ……私がせっかく夜遅くまで番屋にフォローに入ってたのにその本でゲージ溜めて……」

 

「おう! 先生にも勿論感謝はしてるんだぜ?」

 

「ならせめて態度で示しなさい‼︎」

 

「ほへ? いや、結構態度でも示してるんだけどなぁ……まぁそんなにカリカリしてたらダメだぞ先生!」

 

「タダでさえ他の男が寄らないのに、眉間とかにしわ寄せて怒ったらさらに寄り付かなくなって婚期逃すかもしれないんだからさ‼︎」

 

この発言でトーリは死亡フラグをゲットした‼︎

 

「あは、あははははははっ‼︎ ふっきとびなさぁーい‼︎」

 

オリオトライはトーリの発言でもう正気ではいられなかった。ただ目の前で無邪気に笑うこのトーリ馬鹿を地の果てまでぶっ飛ばさなければこのイライラはどうにもならないと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでですよ? 先生?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「っ‼︎」」」

 

その声に誰もが動きを止めた。勿論さっきまでトーリに殴りかかろうとしていたオリオトライも含まれる。本来ならばこの場にいない、そしてトーリと同じくこのクラスの中心的存在の彼の声が……

 

そしてその声が聞こえた方に目を向ける。だがそこには……

 

「な、なんで白騎士さんがこんな所に⁉︎」

 

「それは勿論、今回の起こり得る騒乱に対応するためだが?」

 

その声を発したのは浅間だった。浅間が言った通り、白騎士がいたのだ。それも窓の桟に立つ姿が……

 

「……さっき中継で見てたけど、アンフェア・ブレーカーズは今回の事に手は出さないんじゃなかったかしら?」

 

トーリを殴りつけるのをなんとか堪えたオリオトライが、皆が思っているであろう事を代弁する。

 

「確かに……私達アンフェア・ブレーカーズは今回の事に手出しはしない。だが……」

 

「私には今回の出来事に手出しする権利は十分ある」

 

「えっ⁉︎ でも君はK.P.Aイタリアやトレスエスパニアの聖連側、ましてや武蔵と三河僕達とは一切関係ない筈だよ⁉︎」

 

「そうです! なのに、どうしてあなたが関係あると……」

 

ネシンバラと浅間が白騎士に対してそう言う中、その権利を肯定する声が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だって、白騎士、さんは颯也くん、だよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「えっ……」」」

 

「……」

 

それはなんと向井の口から出た言葉だ。その言葉に梅組の皆は唖然とする。そして白騎士も、こんなに早くバレてしまって言葉が出ない。

 

「おか、えり。颯也、くん」

 

「あぁ……こんなに早くにバレるとは……結構声とか歩き方とか変えてたはずなのになぁ〜」

 

「だって、私、目が見え、ない代わりに、耳が良い、から」

 

「ははは、確かに……一本取られたなぁ〜」

 

そう言いながら白騎士は仮面を取った。すると仮面からは、肩まで伸ばされた綺麗な金髪が仮面を取った影響で宙をたなびいた。そして髪2箇所についてある青い菱形のルンは、たなびいた後も春の涼しげな風に煽られる。その風が治ると、金髪によって隠された顔が露わとなった。右目の方は白い布の様な眼帯で覆われているが、左目は今でも綺麗な青い瞳で輝いている。口元はいつもの様な笑みを忘れない。

 

そう、紛れもなく武蔵の住人であり、教導院では総長連合の特務師団長の職に就き、その前に梅組の生徒である愛護颯也はそこに立っていた。

 

「ただいま、鈴さん。それと……昨日に引き続いてまた遅刻してごめんなさい、オリオトライ先生」

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(もう少し早くこの場に着くはずではあったんだがな……)

 

ここに来る途中、颯也は昨日出くわしたロボット達の妨害を受けていたのだ。それも宇宙空間で……

 

別に颯也にとってそれは大したことではなかった。大したことではなかったのだが、その後が問題だった。

 

なんとロボット達は三河に隕石を落とす画策をしていたのだ。勿論それを指示したのはあの白髪ハゲのおじいさんであろう事は間違いない。隕石の大きさも結構なものだったので、それを完全に“塵”にするまで少しの時間がかかったのだ。大体10分ぐらいなのだが……

 

そんな事もあり、颯也は誰にも感知されぬ様三河から離れた地に降り立ち(と言っても極東からかなり離れた海の上)ここまで低速で浮遊移動してきたのだ。その際に監視の穴もかい潜ってあるので、誰にも感知はされていないだろう。だがそれだけでもない。颯也は武蔵に行く前にもう1つやる事があったのだ。

 

そう……それは酒井学長と学長を迎えに行った武蔵さん達を三河から武蔵に帰す手続きの手伝いだ。本来ならば武蔵さん達でなんとかなるのだが、そこにインノケンティウスとガリレオが来るのを分かっていたために、自分の大切な存在に手を出せばどうなるか……それを分かってもらう(脅迫する)ために行ったのだ。勿論自分の仮の姿である白騎士の格好で行ったのだが、インノケンティウス達が去った後は酒井学長達にネタバラシ……普通に驚かれたものの、武蔵さん達には抱き着かれて頭をなでなでされた。

 

因みに颯也さんの頭の位置はお約束だそうです……

 

まぁそんな事もあったのでこのタイミングでの登場となったのだが……

 

(あの白髪ハゲ……生かすが容赦はせん)

 

颯也さんの中で白髪ハゲの末路が決まりました……

 

「そ、颯也くん……なんですか?」

 

「えぇ、愛護颯也本人ですよ?」

 

「じ、自分、幻想でも見ているのでござろうか? いや、ただ単に颯也殿が白騎士殿のコスプレをしているのでござろう」

 

「さっき鈴さんも言ってたけど、紛れもなく白騎士は俺で間違いないよ」

 

「じゃ、じゃあさ……三河消失を止めたあの一撃も……」

 

「勿論俺だけど?」

 

「で、でもそれだったら! 貴方の内燃排気は空になってもおかしくありません! 最悪の場合死んでいたんですよ⁉︎ なんで何事もなかったかの様に無事なんですか⁉︎」

 

「あの程度のくらいじゃ俺は死なないよ? なにせあれぐらいだったら、試した事はないけど何十日何百日は余裕で撃ち続ける事が出来ると思うし」

 

「そ、そんなデタラメな……」

 

「まぁそれくらいじゃないとアンフェア・ブレーカーズのリーダー役は務まらないって言ったところかな?」

 

そんな感じで質問を一呼吸も入れずに返していた。そんな中で動いた人物がいた。先程までトーリを殴り飛ばそうとしていたオリオトライだった。オリオトライが動いた事によって質問も一旦は止んで、遂には颯也の目の前に立った。そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パチンッ‼︎

 

 

「「「っ⁉︎」」」

 

それには梅組の皆が驚いた。何故なら、オリオトライは初めて颯也に手を挙げたのだ。それも自分の意思で……

 

「……私が今どんな気持ちか分かってる?」

 

「……はい」

 

「だったら君……今から私に何されても文句は言わないわよね?」

 

「……言いません」

 

「なら……そこに正座して目をつぶりなさい」

 

「はい……」

 

そう言われて颯也はそこに正座して静かに目をつぶった。確かに自分はあの時、ほぼ何も言わずただ用事ができたからと言って去ったのだ。その口ぶりからすれば、誰しもすぐに戻ってくるだろうと、確かに三河では事件が起こってしまったが、朝には変わらない姿で戻ってくるだろうと思うはずだ。

 

だが実際に颯也は遅刻してきた。いつもはHRが始まる何十分も前……昨日は急遽やることができたために遅れたが、それでも皆勤賞だった事は間違いない。だが今回は異常過ぎたのだ。連絡をしようにも繋がらなかったのだから……

 

さっきの様子を見て、オリオトライも物凄く心配した事だろう……だからこそ手を挙げたのだ。それも颯也は分かっていたから、今目を瞑っている。

 

先程の平手打ちよりも何十倍の威力が自分の顔目掛けて飛んでくるのだろうと……そう思いながら、颯也はただただ目を瞑った。だが正座させた理由までは分からない……何のために正座されたのだろうか?

 

この場合考えられるのが、重石を正座した足の上に置いていくという罰だ。

 

だがここに重石などはない……ならばどうして?

 

それはすぐに分かった。

 

「「「っ⁉︎」」」

 

「っ……?」

 

オリオトライの行動に梅組がまず驚いた。そして次に……颯也はオリオトライに何をされたのか分からなかった。相手の風や誰がどこにいるかをもルンは普段教えてくれるはずであるのに、その時はルンでさえも機能しなかった。

 

颯也は……自分の顔、或いは腹辺りに強い衝撃が来るものだと思っていた。だがその予想は裏切られ、現在颯也の顔は、何か柔らかく温かいものに包まれていた。それは……

 

「もう、心配したんだから……」

 

それは、オリオトライの抱擁だった。颯也はオリオトライに抱き締められていたのだ。それも自らの胸を颯也に顔に優しつ押し付け、きつくなり過ぎないように優しく抱き締めている。

 

その光景に梅組の皆は驚きで何も言えなかった。というか唖然とし過ぎて……だがそこからいち早く復帰した喜美と浅間が……

 

「ちょっと先生⁉︎ 何してるの⁉︎」

 

「そうです‼︎ 何をしてるんですか⁉︎」

 

「何って……見ればわかるでしょう? 颯也を抱き締めているのよ?」

 

「そんな事は見ればわかります‼︎ だから! どうしてこの場でそんな事をする必要があるんですか⁉︎」

 

「そんな事決まっているわ……颯也の事が心配だったからよ? でもこうして無事に戻ってきた。だから、私の事を心配させた罰と、無事に帰ってきたという事に対してのご褒美ってとこかしらね」

 

「何がご褒美よ⁉︎ 先生がただ単に颯也を抱き締めたいだけでしょう⁉︎」

 

「えぇそうよ? だって私先生だし、こうして合法的に抱き締めれる機会がないでしょ? なら、出来る時にやっておかなくちゃ。後で後悔するの私嫌だからね?」

 

「ぐっ……事ここにおいては正論過ぎて何も言い返せないじゃない……浅間‼︎ あんたが私の代わりに何か言いなさいな‼︎」

 

「えっ……えぇっ⁉︎ そこで私に振るんですか⁉︎」

 

「あんただってこの状況嫌なんでしょう? ならあんたも淫乱巫女らしく対処しなさいな」

 

「だ、誰が淫乱巫女ですかーっ⁉︎ 淫乱といったら喜美の方が淫乱ですぅー‼︎」

 

とまぁ胸囲が梅組の中でもトップクラスな2人が言い争っているうちに、オリオトライはオリオトライで颯也を未だに優しく抱き締めていた。

 

「そ、その……先生?」

 

「なにかな? 颯也」

 

「俺は……てっきり先生達を心配させたからさらにタコ殴りにされるんじゃないかと……」

 

「もぅ〜……颯也の中での私はそんな風に思われてたの〜? それは心外だわ」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「フフッ、まぁ良いわ。それと……今回の事を許す代わりに颯也には私からのお願いを聞いてもらおうかしら?」

 

「お、俺に出来る事であれば……」

 

「ならさ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今度時間があった時に先生とデートして欲しいかな? それも朝から夜まで……ね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「はぁぁぁぁっ⁉︎」」」

 

その一言に梅組の皆さんは一堂に同じリアクションになったと言います……

 

それとオリオトライさんは颯也さんにそう言った際、物凄い乙女顔だったと言います……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私……もう我慢が……出来ない……」

 

何かを感じ取っていた成実さんは、体がプルプル震えていたようです……

 

「どうした成実? 風邪でも引いてしまったのか? というか今日は休んだ方がいいと思うんだが……」

 

それを心配していた総長が傍にいたそうです……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「ねぇ、作者さん……これはどういう事かしら?」

ど、どうって言われても……

「何故かあの教師がこの作品のヒロインっぽくなってるんだけど……」

そ、それは……書いてたらそうなりました。

「そう……なら作者にはこれ以上のものを書いてもらうわ。勿論私主体で」

そ、それは勿論ですよ〜。なにせこの物語は成実さんが正妻ヒロインポジションですから!

「そう……それもそうよね。なら……R-18ぐらいのものを書いてもらおうかしら?」

……えっ?

作者の命運はいかに……?
※因みにホライゾンのR-18を書いて欲しいという方がいらっしゃいましたら……作者自身そのジャンルに手を出したことはありませんが何とか書こうとするかもしれません……


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12話 これからはお姉ちゃんと呼んでください。ーー以上 by武蔵さん

1ヶ月が過ぎての投稿となりました……誠に申し訳ございません……

「まぁアプリのイベントがかぶり過ぎたっていうのもあるし、何より色々と今月は重なってしまってたからな……もうそこは仕方ないし、次頑張ろう」

あ、ありがとうございます……これからも頑張っていきますので、どうか宜しくお願いします……

「という事でだ。読者の皆には待たせてしまって申し訳ないが、早速読み進めていってほしい」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午前11時 武蔵アリアダスト教導院前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この場では今まさに……今後武蔵がどの様に歩むのかについて決められようとしていた。

 

教導院側に陣取るのは……今は聖連からの指示で総長及び生徒会長を外された葵・トーリ率いる武蔵学生側……

 

もう一方は、武蔵機関部代表の直政と貴族代表のネイト・ミトツダイラ……そして総長連合、生徒会の中で唯一副会長の役職を剥奪されなかった本多・正純がいた。

 

その場面を見れば、確かに武蔵の今後の未来を考える場所だ。だが1つ……この場に本来いても良いのか? と疑問を思わせる人物がいた。その人物は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(((どうしてこの場に白騎士がいるんだ(いるんですの)(いるんさね)?)))

 

その場には白騎士さんがちゃっかりいたといいます……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 酒井

 

 

 

 

 

 

 

午前9時45分 三河関所

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや〜悪いね武蔵さん。迎えに来てもらっちゃって……」

 

「酒井様、個人的に判断しますに全然反省しているように見えません。いえ、反省のはの字もないですね。ーー以上」

 

「いやいや⁉︎ 今回は悪かったと思っているし、それにちゃんと反省もしているよ⁉︎」

 

「今回は?ーー 以上」

 

「……いえ、今回もでした。本当に心配かけてすみません……」

 

「分かれば良いのです。ーー以上」

 

「しかしながら今回酒井様が寄り道せずに真っ直ぐ帰っていたなら私達もここまで足を運ぶ必要はありませんでした。ーー以上」

 

「うっ……だ、だからそれは悪かったって……」

 

「それは?ーー 以上」

 

「いえそれもです、はい……」

 

「ならばそれを目に見える形で反省して欲しいものです。ーー以上」

 

「いや、これでも……じゃないな。ちゃんと反省しています」

 

「それだけでは私達から見て反省とは言えません。そうですね……数日の間酒井様には私達の弟である愛護様の仕事を全て肩代わりしてもらうのはどうでしょうか? ーー以上」

 

「えぇ、それが良いと思います。ーー以上」

 

「えぇっ⁉︎ ちょ、ちょっとそれは無理にも程があるんじゃ……」

 

「それは分かっています。私達もそこまで酒井様が愛護様の様に完璧に行うだろうとは思ってはいません。まぁだからといって手抜きも認めませんが……ーー以上」

 

「いやいやよく考えてみてよ武蔵さん⁉︎ 俺がもし、仮に愛護のやっている仕事を肩代わりしたとしてもさ……どうせ途中で愛護が介入してきて結局いつもの日常に戻るだけだと思うんだけど?」

 

「……確かにそうですね。ーー以上」

 

「だろう? だから俺が愛護の仕事を肩代わりする事は「でしたら1ヶ月ほど酒井様のオヤツは無しにしましょう。ーー以上」

 

「……」

 

もはや酒井は何も言えなかったのである。

 

「さぁ、こんな所で長々と話すのもなんですし、早く武蔵に帰りましょう。ーー以上」

 

「へいへい……」

 

「俺がそう簡単にお前を武蔵に返すと思うか? 酒井?」

 

「っ⁉︎ お前は……」

 

先程までシリアスのかけらもない会話がなかったその場が、その声とその声の持ち主の登場によって緊張に変わる。

 

「K.P.Aイタリアのインノケンティウスか⁉︎」

 

「教皇と呼べ。全く……その生意気な態度は昔からだな」

 

「そしてここにきているのは元教え子だけではない」

 

「ガリレオもいるのか……っ⁉︎ それは……大罪武装か⁉︎」

 

「その通り……これこそ八大罪の1つ、『淫蕩の御身』だ。まぁ今では九大罪といったところか」

 

「……能力としては持ち主が認知した相手方の攻撃する武器武装、攻撃する意思を半径3kmに渡って無効化する」

 

「その通り‼︎ 確かにこの武装は、攻撃力は皆無だ。だが私がこれを掲げる限り、私が認知したあらゆる武装は解除、解体され、攻撃の意思を無に帰すものだ。さて……無駄話はここまでとしてだ。昔俺は貴様にしてやられた事があったな。それを俺は忘れてはいない。確かに戦争だから仕方のない事かもしれないが……それでも思い出す度に少しでも腹わたは煮え繰り返るものよ」

 

「ちっ‼︎」

 

酒井は舌打ちをし、武蔵達侍女人形の腰を腕で抱えてそこから飛び退る。だが……

 

「遅いな酒井」

 

「くっ……」

 

飛び退った隙にインノケンティウス達は酒井の後方にいつのまにか浮いていた。

 

「貴様が学生だった頃とは随分と遅くなったな。ふん……これでは今貴様と勝負したとしても呆気なく終わりそうだなぁ〜おい?」

 

「酒井様、ここは逃げて下さい。ここは私達がなんとか足止めしますので……ーー以上」

 

「な、何を言っている⁉︎」

 

「酒井様は曲がりなりにも武蔵アリアダスト教導院の学長です。生徒を教え導く役職です。そんな方がここで倒れられてはいけません。ですから行って下さい……ーー以上」

 

「それだったら武蔵さんこそ武蔵には必要だ‼︎ お前さんがいなくなったら武蔵はどうなる‼︎」

 

「大丈夫です。私の思考は、常に妹達と共有しています。ですから私がいなくても武蔵はやっていけます……ーー以上」

 

「ほぅ〜、健気だなこの自動人形というやつは……うむ、俺も気が変わった。今回は威嚇程度と思っていたが、そんな意思を見せられて黙って見過ごすのも風流というやつがないと思わないか? なぁ〜おい?」

 

「さぁ、早く逃げて下さい。ーー以上」

 

「くっ……」

 

三河の関所で生徒間ではないものの、戦場と同じような緊張感が渦巻く。酒井はこれまでで既に多くの友人を失って来た。そして昨日も……榊原、それに本多を失った。そして今目の前では武蔵も失おうとしている……

 

確かに昔は力があった。実力の方も、松平四天王に上り詰める程の物だから折紙付きといっても遜色は無かった筈だ。

 

だが今ではどうだ? 学生という立場から離れてはや数十年……もはやそれ程の力は無かった。

 

そんな時だった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほぅ……こんな所に私の大切な者を壊そうとする馬鹿がいるとはな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ……」

 

「貴方は……ーー以上」

 

「き、貴様はっ⁉︎」

 

その声でその場にいた者は驚きを隠せなかった。何故ならば……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様は……白騎士か⁉︎」

 

「そうとも……貴様が認識しているその白騎士で間違いはないだろうな」

 

何故ならばそこに、さっきまで影形すらなかった白騎士がいたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで? さっきここで私の大切な者を壊す……壊すとは言ってないものの、それと同じ様な発言をした馬鹿は貴様か? インノケンティウス?」

 

「な、何故貴様がここにいる⁉︎」

 

「何故? 別に俺がどこにいようと俺の勝手だが? で? 俺の答えに対しては何も返答がなかった様だが……2度は問わん」

 

「くっ……あぁ俺だよ。確かにさっきの発言、教皇である俺が言った」

 

「そうか……これは俺の予想だが、その発言は先程俺達が貴様らK.P.Aイタリアに対して行った宣戦布告の憂さ晴らし……か。なぁ? どうだインノケンティウス? 俺の言った事に間違いはあるか? あるのならするがいい。だが、教皇である以上間違いをただすのならば、貴様らが信仰する神に誓って……間違いを正せ」

 

「か、神に誓ってだと⁉︎」

 

「そうとも。貴様が教皇であり、神に1番近い役職であるならば、そんな事は余裕だろう?」

 

「何を馬鹿な事を‼︎ そもそもそれは白騎士! 貴様の予想に過ぎぬ‼︎ 根拠も無いデタラメを言う貴様の方こそ、神の裁きを受けるに相応しい! そうだろ、おい?」

 

「馬鹿な事? その言葉はそっくりそのままお返ししよう。確かにさっきは予想に過ぎなかったが、今ので確信させてもらった。貴様の今言った発言で、貴様自身の心がざわめき揺らいだからな……だからこそ断言出来る。貴様の今その口から出た言葉は嘘であると。それで? 貴様は神に仕える身でありながら嘘を付いた……さぁ、まだ嘘を付くか?」

 

「ぐっ……」

 

「さぁ、もうそろそろ正直になろうか? 言っておくが俺に嘘は通じない。それでまた嘘をついたなら……容赦なくその大罪武装を頂こうか?」

 

「なっ⁉︎ 何故嘘をつくつかないで俺の大罪武装を引き合いに出さねばならん⁉︎」

 

「何故? そもそも貴様は、その大罪武装が元は誰の物なのかってのは理解しているんだろう? しかも昨日松平から言われたばかりで忘れるわけないよなぁ? 俺からすれば……ただ単に俺の大切な存在の一部を取り戻す。それだけの事だ。それで……今回は機会を与えているに過ぎない。さっきこの人達に吐いた言葉が、さっき自分達が招いた失態の憂さ晴らしだったのか? それとも違う理由があるのか? 俺からの質問は簡単なものだろう? YESかNOか答えるだけなんだからな。それで正直に答えたならば、今回は貴様が持つ『淫蕩の御身』はとらないで置いてやるよ。今はな?」

 

インノケンティウスは……正直白騎士という存在を舐めていた。確かに昨日の三河消失の一件……白騎士の強さは痛感した。なにせ地脈炉の暴走を普通に止めたのだ。それだけで驚嘆に値するものだろう。

 

それに先程のアンフェア・ブレーカーズだ。彼ら1人を相手取ったとしても被害は甚大だと考えた。それもそのはず……自分がその1人に摩訶不思議な手段で殺されかけたのだから……

 

だがそれが認識できていればそんな物は容易だ。こちらには大罪武装の『淫蕩の御身』がある。半径3kmの攻撃を無力化できる。だからこそ、白騎士もアンフェア・ブレーカーズもこの大罪武装にかかればどうとでもなると考えたのだ。

 

だが実際はどうだ……今目の前に白騎士がいる。今は攻撃する意思が見えないが、それでも準備は進めているかもしれない。それに超過駆動を発動するにも最低2秒程はかかる。

 

確かに常人であれば普通に発動できるだろう。そう、相手が常人であるならば……

 

だが目の前の存在はそれをはるかに超える存在だ。何故ならこの場に急に現れたのだから……

 

そんな存在が2秒の時間こちらを待つだろうか……いや、そんな事は万が一にも無いだろう。それは他のブレーカーズも同じだ。発動される前にこちらを攻撃できると考えれる。

 

だからこそ……インノケンティウスはこの場は正直に答えるしか無いと思った。

 

「ふ、ふんっ! あぁそうだ。その通りだ! 貴様らが俺に対してやった事を武蔵側に憂さ晴らししたかっただけだ‼︎」

 

「元教え子よ……」

 

「さっきの発言は確かに本当だな。あぁ、間違いなく本物だ。約束通り、今はまだ貴様の『淫蕩の御身』は取らないで置いてやろう。さて、それじゃあ次の話に移ろうか」

 

「なっ⁉︎ まだあったのか‼︎」

 

「当然だろう? なにせ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の大切な存在を傷付けると口にしたんだからな?

 

「なにぃっ! それは先程済んだ話だろうが⁉︎」

 

「教皇ともあろう者がちゃんと聞いていたのか? 俺はさっきその台詞を口にしたのは憂さ晴らしのためか……そう聞いた。それで貴様は是と答えたわけだが、まだそこからは何も動いちゃいない。正確にはここからが本番だ。憂さ晴らしであれなんであれ、貴様はその言葉を口にしたんだ。それも俺の大切な者達に対してな? で……その落とし前はどう付ける?」

 

「そ、そんなものは詭弁だ! 詭弁に過ぎんぞ白騎士‼︎ そもそも貴様のその言、言い換えれば武蔵側に属する者達が大切な存在だと聞こえる。だが貴様と武蔵側は初対面のはずだ‼︎ それを強引に自らの大切な存在として紐づけるなどと……」

 

「矛盾しているか? いや、矛盾はしていない。それに貴様の方こそ詭弁を弄そうとしているじゃあないか。武蔵側と俺が初対面? そんな事どうやって判断できる? 昔から付き合いがあったかもしれないじゃないか。俺達と武蔵側がな? それを否定する材料は、残念ながら貴様らには無い。これでも納得がいかないと言うのなら……もう1つ俺が武蔵側に味方する理由を提示してやろう」

 

「な、なんだと⁉︎」

 

「……ま、まさか‼︎」

 

「ガリレオは気付いたか……そう、さっきあっただろう? 貴様らと三河が戦えるかどうかの基準を測ったばかりだものなぁ? 確かに三河はお前らに後一歩及ばなかった。それはタッチの差だ。まぁそれはともかくとして……その場で俺達アンフェア・ブレーカーズは貴様らには宣戦布告しただろう? 今回アンフェア・ブレーカーズは生徒間の抗争には参加はしない。それはあの場で言った通りだ。だが……」

 

「この場は生徒間の抗争とは全くもって関係ない所だ。だから俺は武蔵側を守るし、貴様とも正面きって戦う事が出来る。それがもう1つの理由だ。納得、したか?」

 

宣戦布告……白騎士は再度K.P.Aイタリアに対して行ったのだ。それは先程モンターク達が行ったものとは同じようで、確かに違う所があった。

 

それは、自分の背に守るべき者達がいる事……白騎士はそれだけで世界の中心的組織の1つであるK.P.Aイタリアのトップ達を相手取ると……そう宣言した。

 

仮面で白騎士が今どの様な表情をしているかが分からない。そうであるあるはずなのに……インノケンティウスとガリレオは、白騎士が憤怒の形相でこちらを見ていると錯覚した。

 

「さて……そっちから喧嘩をふっかけてきたんだ。だから俺が貴様らに対して武器を突き付けたとしても文句はないだろう? それにこれはあくまでK.P.Aイタリアである貴様らとアンフェア・ブレーカーズである俺の中での話だ。だからここで武蔵陣営を俺が守ったからといって、その後で武蔵側に何かしたら……分かってるな?」

 

そう言いながらも白騎士はインノケンティウス達に武器を突き付けた。それは小型拳銃……ではあったものの、この世界ではまず見ない形をしていた事は確かだ。

 

「ふ、フンッ! たかだかその小さい物が俺に通じるとでも思うのか? 俺としては昨日新名古屋城の暴走を止めた長銃を出すと思ったが……結果がこれか〜、大方昨日ので貴様の内燃排気は空になって、それが未だに回復しきってないって事だろう? なぁおい? だって今貴様が手に持つ物は昨日の物よりも更に小さい物だものなぁ! そんな者で俺に挑むとは……片腹痛いわ‼︎」

 

と、インノケンティウスはさっきの調子を取り戻したかの様に言う。それもそうだ。さっきまで威圧していた相手、それも昨日の出来事を何事も無く、ただただ強大な一撃で止めた人物だ。インノケンティウスからしてみれば昨日の長銃を出すものとばかり思っていたが……蓋を開けてみればなんのその。自分達でも対処できそうだった。

 

そこから導き出したのは、昨日の一撃でほぼ白騎士の内燃排気が空となり、今もなおそれを回復している段階だと踏んだのだ。そう考えたからこそ、今の自分達でも十分白騎士に対処出来ると感じてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう感じてしまったからこそ彼は勘違いした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貴様らをこの世界から消し去って良いなら出すが?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「っ⁉︎」」」

 

その言葉に、本来彼に守られる立場であるはずの酒井達も冷や汗をかいた。そう、何故ならその言葉を彼は本気で言ったから……それが分かってしまうから……彼の背中しか見えないが、酒井達にもはっきりと伝わった。彼の言葉は本気であると……

 

「それに貴様は勘違いしているな。まさか俺が“あの程度”でパワーダウンするとでも? 俺自身数えたことはないが、撃った直後でもまだ数発は最低でもいけるが?」

 

「なっ……なんだとっ⁉︎」

 

「後さ……」

 

白騎士が銃を持ってない手の方で指を鳴らすと、インノケンティウス達の周りの空間に白い揺らぎが複数発生し、そこから白騎士が持つタイプの銃とは異なるが銃口が覗く。そう、簡単に言えばインノケンティウス達は包囲されたのだ。360度……逃げ場がない様に……

 

「こんな事だって容易にできる。全ての銃口が貴様らに向いている。安心しろよ……俺は、いや俺達は容易にここに生きる全ての人を殺めるなどはしない。まぁ他のメンバーは分からないが、それでもこれは俺の信条とするところだ。だが勘違いはするなよ?」

 

「あくまで人の命を取る事は無いってだけであり、いつでも俺は貴様らをこの世界の下らない政から退場させる事は可能だ。これは脅しでは無い……俺自身がこの世界全体に喧嘩を売る覚悟を持って貴様らに言っている」

 

その言葉は……まさしく脅しなどでは無い。白騎士に対面しているインノケンティウス達は今まさにそう感じている。それと同時に白騎士の怒気と、自分達を射殺さんと見つめてくる視線……仮面越しで見えるわけがないのに、今まさにそう感じている。その証拠に制服の下に着けているインナーは冷や汗で気持ち悪いほど肌に張り付いている事だろう。

 

「これで完全なる貴様らへの宣戦布告だ。貴様らが俺の大切な存在……ホライゾンの身柄と貴様が持つ大罪武装を今、この場で返すと……ホライゾンの身は傷一切なく、ホライゾンの感情を本人に、俺の目の前で返すという事をすれば、俺達が行った貴様らに対する宣戦布告を取り下げよう」

 

「そ、そんな事……出来る訳がなかろう‼︎ 俺は国の代表だ! こ、こんな脅しごときで俺が屈すれば、俺を信じた者達へ示しがつかん‼︎ 俺は屈さぬぞ! 絶対だ‼︎」

 

「も、元教え子よ……」

 

「ほぅ……そうか。まぁ、俺を目の前にしてでのその啖呵だけは褒めてやるよ。それで本当に良いんだな? 俺達アンフェア・ブレーカーズと真っ向から争って」

 

「無論だ! 今勝負をしたとしても構わぬ‼︎ 俺は……貴様らがどれだけ脅そうと屈さぬと決めたのだ! 俺がローマを! K.P.Aイタリアを背負う限りな‼︎」

 

「そうかそうか。それは大変結構……で? そんな宣言をしたところでこの包囲が瓦解するとか、そんな甘い考えは勿論無いよなぁ〜? だがまぁ認めよう……貴様らはこんな脅しでは屈さないと……そこでもう1つチャンスを与えてやろう」

 

「ちゃ、チャンスだとっ⁉︎」

 

「あぁ……この場から無事に立ち去る事ができるというチャンスをだ。ホライゾンの事は……まぁ武蔵と三河連中が手を取り合って貴様らから奪還するとして……問題はこの場でこの人達に吐いた戯言だ。それを無かった事にすると言うのなら……俺は今この場は貴様らを見逃そう。どうする? この場で政から退場して武蔵と三河の子らにホライゾン、並びにお前が持つ大罪武装を奪還されるか……若しくは少しでも抗って大罪武装だけは守り抜くか……だ。因みにホライゾンはどちらを選択しようが助かる。貴様らの手には落ちない。これは俺の予言だ。戯言だと思って構わないし……まぁそんな事は貴様らが決める事だ。それで? どうする? さっき言ったことは撤回するか?」

 

「ぐっ……ぐぬぬぬ……」

 

インノケンティウス、今この場で争うと言うことをはっきり口にした。だが白騎士はそれさえも嘲笑うかのように、この場を条件次第で見逃すと言う。それだけで分かってしまうのだ。目の前にいる相手は、自分の事など脅威とは全く見ていないという事に……

 

正直言ってプライドなどは既にズタボロである。自尊心が強いと自分でも思っているが、ここまでコケにされるなどとは……

 

だがそこでも冷静に考える……先程の発言さえ撤回すれば、この場は辛うじてやり切れる。正直それが自分自身で、心の奥底で納得できないと思っていたとしても……目の前の存在に対して今自分が何か出来るかを問われたのなら……はっきりに言って無理だと痛感した。

 

だからこそここは……

 

「わ……分かった。先程俺が言った事は撤回しよう……」

 

発言を撤回する行動に出た。だがここでも……

 

「それが人に何かした時に謝る態度か?」

 

それだけ聞いてインノケンティウスはまさかと思った。しかしながら、さっきの一言で考えた事は、無情にも白騎士からハッキリと告げられた。

 

「人に……それも傷つけるような行いをしようとしたんだ。外的にも心的にも……その人達に傷を負わせたんだ。それを払拭する謝り方ぐらい……貴様でも分かるよなぁ?」

 

「「っ⁉︎」」

 

それを言われただけで自分達に途轍もない圧がかかる……。

 

無言の圧力……とでも言う様な、そんな得体の知れない力をまさに味わっていた。

 

(くっ……苦しい……⁉︎)

 

息苦しさを感じる。まるで100kgはあるのではと思う様な鎧を着ているかの如く……自分自身の身体が重く感じた。

 

ふと気付いた時には、自分は……いや自分達は両膝を地面に付け、両手も地面につけるといった……所謂四つん這いの状態になっていた。

 

「そうそう……そこまで行けば後は……分かるよなぁ?」

 

「うっ……ぐっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side ???

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石は親方様の殺気……離れている私の所にまで届いてくる」

 

今私は現親方様……愛護様の様子を伺って御座った。

 

というかいきなり出てきたお前は何だ? という声もあるかもしれないが、今は答える事はない。ただ陰ながら親方様をお守りする立場……とだけは言っておく。

 

(あっ……地面に頭をつけて何か言って御座るな)

 

多分先程の非礼を詫びたので御座ろう。そしてそやつらはその場から消え失せた。それにしても……

 

(やはり親方様は凄い‼︎)

 

そこに忍者装束を纏った謎のくのいちがいたといいます……

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なんかさっきから誰かに見られている気がする……)

 

一応太平洋から三河に上陸? 浮遊して来たけど上陸でいいのか? まぁそんな細かい話はいいか……

 

その辺りから誰かに見られている気がした。見知っているような気配だし、あちらから何もしてこないと分かったから無視はしていたが……

 

「白騎士……でいいんだったか?」

 

そう考えていると酒井学長が声をかけて来たから、それについては是と答えた。

 

「さっき助けてもらった事は感謝している。俺も昔程は衰えたし、あのまま2人が引き下がらなかったらどうなっていたことやら」

 

「私武蔵も助かりました。感謝いたします。ーー以上」

 

そう言って2人は頭を下げてくる。にしても……もう良いよな〜、俺の正体バラしても。

 

「お2人ともどうか頭をあげて下さい。俺は俺のやりたい事をやっただけなんですから」

 

「だ、だがな〜……こちとらお礼ぐらいさせて欲しいもんだが」

 

「お礼……ですか。それならいつも貰ってますよ」

 

「はっ? 何を言って……」

 

「言葉通りの意味ですよ。それにもうそろそろ俺の正体もバラすつもりでしたから……」

 

そう言いながら俺は長髪付きの仮面を脱ぎ去った。そうすると2人の顔は、何が起こった⁉︎ ってくらい唖然としていた。そこからは俺のネタバラシと昨日のことについてだ。学長の昔馴染みの榊原さんについては、怪異に遭う前にこちらが助け出したと伝えた。勿論井伊さん、本田さん、更には元信さんと三河にいた自動人形達も助けたと言っておいた。彼らが今どこにいるかはまだ答える事は出来ないが無事だと答えた。それに後々武蔵側の助けにもなるだろうから、その話は一旦ここまでにしておいた。

 

それで酒井学長も納得はしてくれてたし、ここまでは予想通り……だったんだけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの〜……武蔵さん? どうして俺を抱きしめているの?」

 

「そんな事は当然です。弟の無事を安堵しない姉がどこにいるというのですか? ーー以上」

 

「……それに頭も撫でられているんですが」

 

「気持ち良くはなかったですか? ーー以上」

 

あぁ……武蔵さんの顔が若干悲しんでいるように見える。だからそれについては否定した。でも何故撫でているのかをさらに問うたら……」

 

「愛しい弟を愛でるのは姉の特権です。ーー以上」

 

と言いながら俺の頭を撫でる武蔵さん……ん?

 

(あれ? 俺っていつのまに武蔵さんの弟になったんだっけ?)

 

「愛護様に会った時からですよ。ーー以上」

 

(なんかデジャブを感じる……という事は今度から武蔵さんの事は武蔵お姉ちゃんって呼んだ方が良いのか?)

 

「はい! 是非とも私の事はお姉ちゃんと呼んでください‼︎ ーー以上」

 

「あっ、はい」

 

そんな様子を遠目で見続けていた酒井学長の姿がありました……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方この方はというと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それだったら私もお姉ちゃんって呼びなさいよ‼︎」

 

「うわっ⁉︎ いきなり成実は何を言っているんだ? びっくりしたぞ」

 

自分の事も姉と言われたい成実さんがいたと言います……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー●◯●ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁそんなこんなで冒頭に戻るが……本田さん達は俺がこっちにいる事で驚いているなぁ〜……当然か。

 

(なにせ白騎士の格好で来てるし)

 

皆に再会した後、昨日あった事は若干濁しつつ話した。それを言ったら梅組の皆の反応はそれぞれで……だがやり過ぎたとは思ってはいない。あれが俺にとってのベストなのだから……

 

「さて、役者も揃ったところで行うとしようか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

武蔵副会長不信任決議による臨時生徒総会を」




い、10,000字に行かなかった……

「いや、でも毎回良く書いている方じゃないか?」

そ、そうですかねぇ……でも他の方の作品を見ているとそれ以上に書いている人とかいるじゃないですか? それが凄く良いなぁ〜、あんなに短時間で書けたらなぁ〜……って思うんですよね。

「そこは人それぞれだろ? 作者は作者で、自分のペースで書けば良い」

あ、ありがとうございます愛護さん‼︎ という事でここから解説に入らせて頂こうかと思います‼︎







解説

GNビームピストルⅡ

ケルディムガンダムというガンダムOO作品に登場した機体が持つ主武装。近・中距離武装で、連射性と高い武器です。また、ケルディムガンダムにはビームサーベルがないため、この武装の下部にビームコーティングを施している事からビームサーベルなどを受け止める事も可能ですし近接時にも鈍器として使用する事が出来ます。

ですがこれも主人公により魔改造されているため、上記の性能の遥かに上を行くものとなっています。



謎のくのいち

作者よ……またfgoから引っ張ってきたか……by愛護




という事で今回は以上とさせていただきます。また1ヶ月かかるとは思いますが、また見てくださったら幸いです!


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13話 直訴しましょう‼︎

あぁ……また1ヶ月過ぎてしまった……

「今度は何やってたんだ?」

アプリの新章に突入+私の好みのキャラが出てきてくれたので育ててました。

「まさかとは思うが作者……そのキャラを出す確率は?」

えっ? 確率? 何の話をしてるんですか?

「コイツ絶対出してるわこの物語で……」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午前11時武蔵アリアダスト教導院前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いよいよ始まるのは武蔵生徒会の副会長である本多・正純の不信任決議……葵・トーリ率いる武蔵側と聖連側の副会長本多・正純、武蔵騎士のネイト・ミトツダイラ、武蔵機関部の直政が対面していた。

 

これは相対……勝者と敗者に別れる戦いが繰り広げられようとしていた。そしてこの相対で決まるもの……それは、簡単に言えば今聖連側に囚われの身となっているホライゾン・アリアダストを救うか、救わないかである。どの道トーリ達は正純達に勝たなければホライゾンを救うなど夢のまた夢である。

 

そして正純は、総長連合が解体された中で唯一副会長の肩書きが残っていた。また教導院の中では、将来政治職に就きたいという願いもあってか非常に頭のキレる人物であり、討論であっても大人顔負けな案とそれを可能にする発言を可能とする。

 

その両隣に立つのは、総長連合で第五特務を務め武蔵の騎士家系に属するネイト・ミトツダイラ。もう1人は総長連合で第6特務であり武蔵の機関部に属する直政。どの人物も武蔵の中では非常に強い力を持っている事は過言ではない。

 

そんな力を持つ3人と、葵・トーリ達……ホライゾンの生存をかけた戦いはどちらに軍配があがるのか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(全く……何で仲間や友達同士で争わないといけないんだ……)

 

そんな中で、表情には出ていないが今の状況に悲観する者がいた。それは白騎士だった。まぁ中の本人は愛護颯也なのだが……

 

彼は自分の大切な者や友人を大切にする。それも自分の身よりもだ。それこそが自分の幸であり、幸福であり、何よりも周りの幸せになると考えているからだ。自分が傷付いてでも守るのだ。例え“片目が一生開かない”と言われたとしても……

 

その信念を持つ颯也は……今の状況が心の底から憎い。自分が必要以上にこの世界、物語に介入してしまえば世界が狂う事を知っている。それは転生される前に女神に言われたのだ。必要以上の介入はその世界にあってはならないものを呼び込むと……

 

だが……

 

(実際にこの世界にいないはずの奴らがいる……多分俺はこの世界に、主だった事に干渉しすぎてしまったんだろう……)

 

それを既に実感していた。昨日の件でそれはもう明らかだ。賽は投げられたのだ。それでも……

 

(例え狂ったとしても、俺は大切な者を守る‼︎)

 

その意思だけは変わらない。変わらないが……目の前では自分の信念、想いとは矛盾した事が起ころうとしている。本当は、今すぐこの姿を晒してこの場を収め、一刻も早くホライゾンを助けたい。

 

だがまたこの場で自分が介入してしまったら……この世界はまた歪みを大きくしてしまうだろう。それによって大切な者に被害が及んでしまったら……

 

確かに自分が介入すればこの場も収まるし、自分がこの世界で今後起こり得る出来事も知識と記憶で得ているから介入する事は容易い。でもそのかわりに歪みは大きくなり招かれざる客がこの世界に現れ、大切な者に牙を剥く。それを自らの手で守る。そして出来事に表立って介入する……言い得て妙だが最早イタチごっこだった。

 

それを考えると……この場の相対で手を出すのは、手を出す事が憚られた。だが友人同士が傷つけ合う事など容認出来よう筈がない……

 

悔しい……力を持っているのにすぐ対処できない事が……

 

苦しい……ただこの場を見ているだけなんて……

 

憎い……今ここで何も出来ない自分が……

 

その想いが無意識に、無意味な力で手を強く握らせる。そこから生じたのは……少量ではあれ流血だった。表の皮を自らの爪が切った事に生じる流血……握り拳を伝ったそれは地面に落ちた。

 

(颯也……)

 

それを後ろから見つめる葵・喜美は、悲しそうな表情でそれを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 成実

 

 

 

 

 

 

 

 

(どうして私は……こんな時に彼の側にいてあげれないの……)

 

武蔵の中継は、全世界で報じられていた。未だ相対が始まっていないにも関わらず……

 

それを自室で見ていた伊達・成実は、何故自分が今彼の側にいないのかと……心から実感した。

 

その中継はその場全体をあらわしたもの……その中で白騎士が何故武蔵の陣営にいるか分からないのが全員思った事だ。だが白騎士の正体を知っている成実からしてみれば……そこに彼がいる事は当然だった。そして彼女は……白騎士が、颯也が強く自らの掌を握っている事を知っていた。そこから流れ出る流血も……

 

「んっ……」

 

成実は自らの身体の中から何かが疼くのを感じた。それは今の颯也を見ての悲しみからか、それともあの場にいない自分への腹立たしさからか……

 

「貴方がこの世界で苦しむ事なんて何もない筈なのに……どうして貴方は……自分を傷付けるの……」

 

成実は颯也が元々この世界で生まれた存在でない事は知っている。そして今起こっている武蔵の中での相対も、過去に自分があった傷も、殆ど颯也がいなくても起こり得たんだろうなという事は感じていた。

 

それでも彼は目の前の現状を悲しむ。自分以外の大切な存在が傷ついてしまう事を。そしてその場で何も出来ない自分が何より憎いと……

 

(だって私が自分の四肢を失ってしまったあの日も……自分が傷付いているのに私の事を優先して……)

 

その時に彼に治してもらったのだ。自分本来の四肢を……そしてあの時自分達を襲った力に対処できる鋼鉄の四肢を……

 

「貴方は……笑った顔が1番なのよ」

 

画面の中に映っている彼に向かって、悲しんだ表情で言う。

 

「ばか……」

 

だが彼は逆に思うだろう。自らが傷ついたとしても大切な人達が笑顔でいてくれるのならと……

 

そう呟いた時、成実の前に通神枠が開いた。通神枠は音声通神だけなのか枠の中に音声のみと表示されていた。それでも誰からかかってきたかは分かる。その表示には……『愛護颯也くんファンクラブ会員NO.2兼愛護颯也応援副会長』と記されてある……

 

成実はその通話に出る。

 

「どうしたのかしら? といっても要件は颯也の事よね?」

 

『はい。成実さんも今の放送を見ていますね?』

 

「えぇ。胸が締め付けられる感覚よ……あの子の今を思うと、何もできない私が悔しいの」

 

『私もです。本当なら私も今すぐあの場に行って颯也さんの事を抱き締めたい……あの苦悩から解放したいです』

 

「……そうね。あの子は自分の周りにいる大切な人達を守る為なら……自分を犠牲にしてしまうから。私達はそんな事は望まない。ただ颯也がこの世界を幸せに生きて欲しいだけなのに……それでもあの子は変わらないでしょうね。前世と同じ様に、自分よりも他人を優先する事を」

 

『そう、ですね。私の時もそうでしたから。私が元の時代で生きていた時も……元とは違う世界、2000年以上栄華を誇った秦で凍眠から目覚めた時も……彼は見返りなど関係無く周りの人を助けていた。村人達を襲う獣も、汎人類史の世界を取り戻そうと奮闘した魔術師達の力になった時も、そのせいで始皇帝の怒りをかった村人達に向けて落とした攻撃も自分の身を顧みずに周りを優先していました。そして……私が彼らに負けてしまって地に伏した時も、颯也さんが助けてくれました』

 

「例え敵味方関係無く……とは言い難いわね。それでも……あの子は自分に出来うる限りを救ってきている。ホント……無理しすぎなのよ」

 

『でも、その無理から私達は救われた』

 

「だからあまり強く言えないし……でも、そんな彼に私は惚れてしまったわ」

 

『それは私もですよ。一緒に暮らしていた家族や仕えていた皇帝以外でずっと一緒に居たいと思ったのは』

 

「あら、それだったら私もずっと一緒に居たいわよ? 今の役職を捨ててでもね」

 

『……ライバルは多いようです』

 

「そうね。でももし彼が私以外の女性を好きになったとしても……私は受け止めるつもりよ? まぁ私が認めればの話だけど」

 

『ははは……それはとても難しそうですね』

 

「そんなの当然よ。あの子の事を大切に思えない……ただ自分の欲望のためだけにあの子を利用しようとする輩を私は許さない」

 

『その通りですね。そんな事をする者達が現れたのなら……私は全力でその者達から颯也さんを守りましょう。例え私の命にかえても……』

 

「その言葉……あの子の前で言っちゃダメだからね?」

 

『あっ……そ、それは勿論わかってますよ⁉︎』

 

「……だったらさっきの間は何なのかしら? それはともかくとして……今日私の家に来ないかしら?」

 

『えっ? 急にどうしたんですか?』

 

「それは来てからのお楽しみ……というところね。それで今日何か予定はあるの?」

 

『予定はありませんけど……でも私副長職に就いてしまってますし、簡単に国を空けるわけには……』

 

「それなら大丈夫よ? あなたと話してる間にそっちの総長にメールを送って許可は貰ってるから」

 

『何してるんですかあの人⁉︎』

 

「という事だから今日は私の家に来る事。時間は……午後7時ぐらいが良いわね」

 

『は、はぁ……』

 

「それじゃあここで……武蔵がどう転ぶか見たいから続きは後にしましょう」

 

成実は通神を切った。

 

「まぁ、颯也がいる時点でホライゾンという子は助かるわね。後は……」

 

「颯也をどうやって甘えさせようかしら?」

 

その時には既に、成実さんの頭の中は桃色一色だったと言います……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side ???

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜……」

 

さっきの会話についての溜息をつく。相手は『愛護颯也くんファンクラブ』会員NO.1であり応援会長を務める伊達・成実だ。彼女は他に……というか主に奥州伊達教導院の副長を務めているというのに、それ以外にファンクラブの応援会長をするというのは結構負担がかかっているのではないだろうか……

 

まぁ、それをいうのならこちらも一国の副長を任されていてファンクラブの応援副会長なのだが……

 

「困りましたね……」

 

通神は自分からかけた。何故なら彼の心情を考えるにいてもたってもいられなかったから。彼女にかけた理由としては……『愛護颯也くんファンクラブ』の応援会長でもあるし、“こちらの事情”も知っている事から気を置かないでも話せると思ったからだ。しかし結果としては困った事になった。まさか彼女の家に招かれるとは……それも総長もいつのまにか許可を出しているし……

 

「というより私、成実さんの家を知らないですね……」

 

そう思っていたら通神メッセージが届いた。それはさっきまで話していた成実で……

 

『ここが私の家になるわ。後徒歩で来るとか時間がかかると思うから、案内役も手配しておいたの。多分もうすぐ来ると思うわ』

 

「いつの間に……成実さん手が早いです」

 

それと同時に自分の部屋がノックされた。今の時間帯……他の生徒達も武蔵の動きと三河、そして聖教側がどうなるかが気になるという事もあって放送に釘付けだ。だから今回は本来あるべき訓練なども休みにした。というのに誰が訪ねてきたのだろう? だが返事をしない事も失礼だと思ったのでノックに対する返事をした。

 

「はい、どなたですか?」

 

「先程伊達・成実から通神を受け取ったとは思うが、俺はあなたの案内役として遣わされた者だ」

 

(っ⁉︎ 幾ら何でも早過ぎです‼︎)

 

「驚くのも無理はない。それにすぐに出発するわけでもない。まだ昼を回ろうかとする時間帯だ」

 

「と、ともかくそのまま話をするのもなんですし入って来てください」

 

「話が早くて助かる」

 

そして自分の部屋を訪ねてきた人物を中に招いた。

 

「あなたは……カタクリさん?」

 

「その通り。『アンフェア・ブレーカーズ』ドラム担当のカタクリだ。今回は君を成実の元に送り届けるために足を運ばせてもらった」

 

「そ、それはご丁寧に……」

 

「だが先程も言ったが、すぐ出発というわけでもない。颯也がホライゾンを助けた事を完全に見届けてからだ」

 

「分かりました。もう彼女の中では決まった話のようですし、こちらも準備をしていきましょう。それにしても気になったのですが……なんでカタクリさんが私の遣いに?」

 

「……弱みを握られている

 

「えっ?」

 

「いや、何でもない。ともかく俺は君を成実の元へ送り届けるまでいさせてもらおう」

 

「は、はぁ……」

 

カタクリさんも苦労人の様です……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ今からトーリが率いる武蔵アリアダスト教導院側と、正純率いる聖連側の相対を行います。正純達が3名によるものだから、教導院側も3名を決めて行う事。それと先に2勝した方が勝ちって事で良いわね? 相対で競うものとかルールはそっちで自由に決めて良いわ。とまぁこんなところかしら。何か質問はある?」

 

オリオトライが今回の相対について説明した。説明し終えたところで直政が手を挙げて発言した。それは先程オリオトライが説明した箇所に関する事だろうか? それとも……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこで簀巻になってる葵・トーリ(馬鹿)は何さね?」

 

ほぼほぼ関係ない事だった……

 

「あぁこれか……自らで全裸になって簀巻になった」

 

「簀巻じゃねぇよ! 俺は今巻き寿司になってるんだ‼︎」

 

「今巻き寿司を食べてるお茶の間に謝れ‼︎」

 

「グフゥッ⁉︎」

 

ジロジロに簾の上から足蹴を喰らうトーリ……そしてそれを対面から見る正純達。うん、この時点で最早いつも通りの光景(カオス)だ。

 

「まぁそこの馬鹿は良いとしてさ……颯也はあれから戻ったかい?」

 

「いや、昨日から戻っていない……」

 

「そうかい……それを聞いた途端寂しくなっちまうね」

 

この発言に対してただ1人心の中で罪悪感に苛まれた人がいたそうです……まぁ颯也さんの事ですが。

 

「それで相対についてだが……」

 

「正純とネイト、ここはアタシから行かせてもらえないかい?」

 

「直政? まぁ良いが……」

 

「私も大丈夫ですわよ?」

 

「悪いねぇ。ということでアタシが1番さ。それとね、アタシは別にホライゾンを助けに行く事については賛成さ。賛成だけど機関部の連中がうるさいんさ……この武蔵に、あの中継で出てた奴らを越えることができるかどうかをね‼︎」

 

そう言いながら直政は目の前に通神枠を出し、義手である左腕で叩き割った。それとともにどこからか轟音が鳴る。そしてこの場に何かが風を切って近づいて来るような音が聞こえた。それはどんどんと大きくなり……

 

ドォォォン‼︎

 

目の前に現れたのは主にピンクと黒で彩った10m級の武神だった。

 

「お、親方! 空から女の子が‼︎」

 

「それは他作品だろ‼︎」

 

ジロジロが簀巻状態のトーリをまた足蹴にしていた。

 

(というか何でお前がその台詞知ってるんだよ……)

 

颯也さんは後から知りましたが、この世界にもその台詞で有名な本作と似たような作品があるとの事です……著作権に引っかからなければ良いのですが……

 

「コイツは地摺朱雀っつってね、颯也と並んで機関部の主力さね」

 

直政は普通の様に言う。普通に言うのだが……

 

「えっ? 颯也くんと並んでってどういう事ですか?」

 

「た、確かに……」

 

「ん? あぁ、そう言えば言ってなかったさね。颯也が機関部でも手伝っている事は皆知っているだろう? まぁあの域に行ったら手伝ってるじゃなくてもう既に機関部の一員……いや、機関部の爺さんと同等くらいの仕事量さね」

 

「「「えぇーーーっ⁉︎」」」

 

それはもう驚くしか無かった。武蔵は航空母艦とともに、武蔵に所属する全ての人たちの家に等しい。その人達の家や他国に運ぶ物資やetc……それに加えて武蔵自体の重さも加わるとなると、生半可な動力では浮く事など出来ない。それのメンテナンスなどを一手に執り行っているのが機関部なのだが……そこを取り纏める長と同じくらいの仕事量を颯也が行なっていると直政は言った。

 

だが思い出して欲しい……颯也は機関部だけでなく至る所を手伝っている。そう考えるとなると……

 

(((分かっていた事だけど最早人外……)))

 

(また人外って言われた様な……)

 

あなたはテレパスですか……

 

「そんな事は今としてはどうでも良いさね。それで地摺朱雀の重量は10t級……颯也ならまだともかくあんたらに対抗できるかい? まぁ対抗出来なきゃホライゾンを助けるなんて夢のまた夢さ……何せ各国は普通に武神隊とか揃えてるだろうからさ。それでそっちは誰を出すんさ? アタシは誰でも良いよ? なんでそっちにいるかは分からないけど白騎士、アンタとでもね?」

 

「私はこの行く末を見守りに来ただけですよ。あなた達と戦う為ではない。確かに私は今この子達の方にいますが、立ち位置としては中立ですよ。だから今はどちらの味方にも付くつもりはありませんよ」

 

「まぁそれもそうさね。なにせアンタらアンフェア・ブレーカーズは今回の生徒間の抗争に手出ししないって言ってたしね。それにアンタが来たとしたら、いくら武神で戦うこっちも勝てる見込みは無かったろうからね」

 

そう言いつつ、直政は誰が自分と戦うのか待っていた。時間は有限……時間が削れる毎にホライゾンの命も刻々と失われていく事を意味していた。そんな中……

 

「ならさ、お前が行けよ守銭奴」

 

と、葵・トーリが言った。

 

「ほぅ、何故だ?」

 

「だってお前って俺に対して辛辣な言葉とか厳しい態度とか……現に今も俺の事をそうしている訳だし? 簡単に言ったら腹いせだよ。だからお前を指名したんだ」

 

「「「大人気ない‼︎」」」

 

(いくらなんでも器が大きい小さすぎじゃあないか?)

 

「という事で……今回直政にギッタギッタにやられて日頃の行いを反省してくださぁーい」

 

「「「お前が言うな‼︎」」」

 

トーリは梅組が口を揃えて言う中でも御構い無しにジロジロを指名した。そして当の本人は……

 

「ふむ……それで私の信任が得られるのであれば安いものだな」

 

「ふへ?」

 

トーリの煽りというか何というか……それを真っ向から受け止めた。

 

『俺は何か手伝いとかしなくても良いか?』

 

そのシロジロの前に現れた通神枠……送信者は白騎士となっていた。

 

『颯也か……いや、こっちは何も心配にはいらない。ハイディのサポートさえあれば大丈夫だ』

 

『……なら君の力といっても過言ではないお金を君の所に振り込んでおこうか?』

 

『……大変魅力的な話……いやいや! いつも颯也には力になってもらっている。それにこれは、颯也がいない状況で私達がどれ程の力を持っているのか……言い方を悪くすれば試されている状況だ。だからこそ、私達の力で証明しなければならない。ホライゾンを救う事も……そしてこれからもお金を稼ぐためにもな‼︎』

 

『後者の方が君にとっての1番の理由だと感じたけど……うん、でも俺はシロジロの事を信じるよ。だから……勝って欲しい』

 

『あぁ、大船に乗ったつもりでいてくれ』

 

そこで白騎士からの通神は途切れた。

 

「話は済んだかい?」

 

「あぁ、今終わった」

 

「うんうん、それじゃあどっちとも準備はいいみたいね?」

 

「「jud‼︎」」

 

「それじゃあ行くわよ! 両者構えて……はじめ!」

 

オリオトライの合図とともに、その場に轟音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

シロジロと直政の戦闘は、教導院前から街中に移っている。シロジロが直政からの攻撃を避けやすくする為技と街中に移動したのだろう……

 

 

 

 

 

 

 

 

否‼︎ シロジロは直政に対して攻めていたのだ。逆に少々押されているのは直政の方で、戦闘が街中に移った為からか家などを壊さない様に気を遣っていたのだ。

 

「ぐっ⁉︎ それが金の力ってやつかい‼︎」

 

「そうとも。今の私の力は、契約したものの力を一時的に借り受ける事によって武神と対等の力を引き出している。勿論1分単位での金銭での契約だ。分数が加算される事に支払う金銭も比例していく。だが!」

 

「この程度で私のお金は尽きない‼︎ 本気でかからないと痛い目を見るぞ直政‼︎」

 

「ちっ! アンタってこれ程厄介だったさね‼︎」

 

「お金が絡むと特にな‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シロジロ達の戦いが街中に移っていった。まぁハイディさんも術式でサポートしてるだろうから、例え街中武神が倒れかかったとしても被害はないだろう。

 

(まぁ例え被害があったとしても俺が直すけど……にしても改めて見るとすごいよなぁ〜)

 

俺は間近でシロジロの術式を見ていた。それは、契約したものの力を一部ではあるが、一時的に借り受けて自らの手足の如く使うというものだ。実際に俺の目の前では、シロジロと契約した人達から力の供給が目の前で行われている。

 

(でも彼らにばかり負担をかけさせるわけにはいかないからな……)

 

という事で……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ……良かったらどうだろうか?」

 

「し、白騎士……さん?」

 

俺がまず話しかけたのは、シロジロと契約している武蔵警備隊男性隊長だった。ここには無論女性隊長もあるのだが、ただ単に颯也の目に最初に映ったのが彼だっただけである。そして差し出したのは、小皿に乗ったチョコレートケーキとフォークだった。

 

「俺は今中立の立場だ。だが、目の前で頑張っている人達を……そのまま見守るというのも私の主義に反してね。勿論敵対している人達は別だけど……という事で、良かったら食べて欲しい。勿論毒や怪しい薬なんて入れてないから」

 

「そ、そういう事でしたら……」

 

男性警備隊長は白騎士に言われてケーキの乗った小皿を受け取ってフォークを持つと、ケーキの先端を少し切って口に運んだ。

 

尚、それを見ていた警備隊の人達は男性警備隊長に対して怨嗟のこもった視線で睨みつけていたと言います……主に女性警備隊に所属する人たちが……

 

そしてケーキを食べた感想は……

 

「っ‼︎ う、うまい‼︎」

 

それを聞いた他の人達は……

 

「隊長だけズルいですよ!」

 

「俺にも一口分けて下さいよ‼︎」

 

「ちょっ! 男子達ばかりもズルいわよ‼︎ 私達だって白騎士様のケーキを食べたいわ‼︎」

 

「そうだそうだ‼︎」

 

とまぁ少し荒れ出してきた。しかしそれは颯也も読んでいたのか……

 

「喧嘩はしてはいけません。ちゃんと……皆様の分までありますから。ですから欲しい人は並んで下さい」

 

「「「やったぁーっ‼︎」」」

 

そして警備隊の人達は1列に並んで、白騎士の手からケーキを受け取っていったのだ。そして皆ケーキを食べると、とても幸せそうな表情をしていた。そのせいだろうか……シロジロに送られる力が一気に増した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ⁉︎ 力が増している……どういう事さね⁉︎」

 

「これこそ私のお金の力だ!」

 

(だがおかしい……何故急に供給される力が増したんだ?)

 

シロジロも不自然さを感じたが、今は目の前の戦いに集中することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ね、ねぇ颯くん」

 

「ん? どうしたのマルゴットさん」

 

警備隊の人達にケーキを配り終えひと段落した颯也の元にマルゴットが話しかけてきた。

 

「その……ね。警備隊の人達が食べているケーキなんだけど……私も食べたいなぁ……なんて」

 

「あぁ……それならまだあるから、良かったらどうぞ」

 

「えっ⁉︎ いいの⁉︎」

 

「勿論。何で断る必要があるの?」

 

「だ、だって今颯くんは中立の立場だし……」

 

「確かに今は中立の立場だよ? でもね? だからといって素直に欲しいって言った子に対して断るのは……俺の主義に反するからさ。だからはい、マルゴットさんもどうぞ」

 

「あっ……ありがとう///」

 

それをマルゴットは照れながら受け取った。それを見ていた他の梅組は……

 

「マルゴットあなた……抜け駆けは良くないわ!」

 

「そうですよ! 私もさっきから見ててお腹減ったんですから‼︎」

 

「アデーレ殿の言う通り、自分も食べたいでござるよ」

 

「カレー味のケーキありますか?」

 

「それは流石に無いだろう……」

 

「いや、あるけど?」

 

「「「えっ⁉︎ あるの⁉︎」」」

 

「さ、流石に御座るな……」

 

「ともかく……欲しい人は並んで欲しいかな」

 

その一言で梅組も颯也の前に並んだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それを遠目から見ていた正純達は……

 

「な、何をしてるんだこんな時に……」

 

「羨ましいですわ……」

 

「ミトツダイラ⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方この方はというと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「白騎士が武蔵に対してデザートを振舞っているようだが……というか見ているこっちもお腹が減ってきたな……」

 

「……」

 

「というよりそもそも白騎士は中立ではなかったか⁉︎ 何やら武蔵に肩入れしているように見えるのだが……」

 

「……」

 

「成実? 聞いているか?」

 

「えぇ、聞いているわ」

 

(帰ってきたら私の分も頼もうかしら……)

 

どうやら成実さんも颯也さんが作ったケーキを食べたいようでした……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はたまたこの方はというと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふっ……颯也さんらしいですね」

 

「……ジュルリ」

 

「か、カタクリさん?」

 

「はっ……ど、どうかしたか?」

 

「いえ、先程カタクリさんの方から涎をすする音が聞こえた気がしたんですけど……」

 

「俺がか? いや、そんな事はしていない」

 

「そ、そうでしたか……すみません」

 

「気にするな。誰にも間違いはある」

 

カタクリさんはクールに受け答えをしていました。しかし実際は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(くっ……颯也め。まだ昼も回っていないというのに……3時のおやつ時間(メリエンダ)が待ち遠しくなった)

 

カタクリさんの心中も穏やかではありませんでした……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして場面はシロジロと直政との戦いに戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にしてもシロジロ……アンタはアタシが思うにお金のためだけに動くもんだと思ってたけど……何でホライゾンを助けようとするんさね?」

 

「直政の言う通り……私はただお金のために動いているが?」

 

「へぇ〜、でもホライゾンを助ける事とアンタがお金を儲けるって話のどこが噛み合うんさね!」

 

「そんな事は簡単だ。お前にも分かりやすく教えてやろう」

 

「まず1つ目だ。ホライゾンがこのまま処刑されてしまえば、武蔵は解体される。何故なら一時的にもだが1年間ホライゾンを匿っていたと聖連側は主張するだろう。そうなれば言い逃れはできず、大罪武装を持っている彼女を匿った罪として武蔵は独立的な支配圏さえ失われて最終的には解体されるだろう。そして武蔵は航空都市間であり、見方を変えれば大きな貿易艦だ。殆どの稼ぎはその貿易によるものも大きい。だから武蔵が失われればその稼ぎは無くなってしまう!」

 

「それでもアンタだったら何処へだってやっていけるんだろう?」

 

「確かにそうだ。私ならどこへ行ったとしても商売は出来るだろう。だがそれだけでは武蔵でいる時以上に稼ぐ事はできん。そしてここで2つ目だ。直政は暫定居留地に住んでいる者達のお金事情を知っているか?」

 

「さぁね? そこまで気を配る事は出来ないから知らないさね」

 

「確かにそうだ。実際に私も数年前までは知らなかった。だがこれを言えば流石にお前も驚くだろうな」

 

「何のことさね?」

 

「居留地でもそうだが、我々武蔵は他国に多額のお金を貸している。それも何百年も前からな。そうするとどうだ。武蔵に住まう我々はまだ不自由な暮らしはしていない。だが、神州に住む者達は武蔵のように貿易でできるお金も無ければ、稼ぐ手段としては第1時産業が主だ。だから生活も貧しくなる。そして! 武蔵が解体されれば今まで他国に貸していたお金も帳消しにされ、居留地の生活もさらに貧しくなる‼︎」

 

「だからどうしたんさね!」

 

「そこでだ! 居留地で他国に貸し与えている金銭を誰が代わりに払っていると思う?」

 

「だ、誰さね……」

 

「それはな……颯也だ」

 

「なっ……」

 

「颯也は、他国から金銭的要求が来ると真っ先に自分自身の口座から資金を出して提供している。そこでさっきの2つ目だ。言い換えれば……借金が踏み倒された=颯也の財産が踏み倒された事になる‼︎」

 

「っ‼︎ いつから颯也は自分のお金を……」

 

「私が知り得る限りでは、あいつが初等部にいた頃からだ。そしてだが……多分各国でもこの中継は放送されているだろう。そして私が先程口にした事もこの放送にのった……と言う事はだ」

 

「あいつのファンクラブに所属している会員達はどう出るだろうな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そ、そんな……』

 

『私達が戦いで使っていた物資って全部……』

 

『愛護様のお金から出てたってこと……』

 

『しかも一国だけじゃなくて複数国……』

 

『『『今すぐ直訴しに行くわよ‼︎』』』

 

シロジロの発言がキッカケで、ファンクラブに所属していた人達は少々歯止めが効かないような状態に陥った。その中には他国の会計もいた。その為何が起こったかと言うと……簡潔に言えばもうあまり武蔵からお金を借りるのはよそうという話に纏まり、借りていたお金も徐々にではあるが颯也に返そうと言うことになった。

 

そしてこれは後の話になるのだが、金銭的に余裕が無いところは無理に返さなくてもいいと颯也が言ったため、余裕が無い各国としては無理に返済しなくてもいいと言うことになった。ただ、それで不正をする国もあると考えたために直接颯也が秘密裏に行って査定などをするのだが、それは別の話である……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なぁ成実ぃ〜……確か伊達も武蔵からお金を借りていたよな……今各国から寄せられているが、『愛護颯也くんファンクラブ』の会員が国に直訴して愛護殿にお金を返すようにと来ている。ま、まさかうちでもそれが来るのか⁉︎」

 

「いえ、そんな事はないわ」

 

「えっ? 何故?」

 

「だって私は前もってあの子がお金を他国に貸している事を知っていた。私はあの子のお金なんて使いたくないもの。ましてや戦争するためだけのお金をあの子から借りるなんて……私のプライドが許さないもの。だからいざ借りる時は別から借りるようにしているわ」

 

「そ、そうなのか……にしても成実は愛護殿と仲が良いな?」

 

「当然よ。だってあの子は私の弟だもの」

 

「そ、そうだな。あの頃から考えると普通に……うむ! だったら愛護殿は僕にとっての弟にもなるな‼︎」

 

「いえ、それは無いわ」

 

「まさかの即答⁉︎」

 

伊達教導院ではそんな一面もあったと言います……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クシュン……」

 

「か、カタクリさん? 風邪ですか?」

 

「いや……多分誰かが俺の噂でもしているのだろう」

 

「確かに、カタクリさんも『アンフェア・ブレーカーズ』で人気ですものね」

 

「だが基本的に人気なのは、1番が颯也だ。俺はオマケに過ぎん……」

 

悲しそうな顔をしながらカタクリさんはそう呟いたそうです……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつ……どれだけ無理してるんさね‼︎」

 

「全くもってそうだ! それで話を戻すがこれが3つ目だ。もし、仮に武蔵が解体されようものなら……颯也は歴史再現とか関係なく、この世界の仕組みを壊すだろうな」

 

「こ、壊すだって⁉︎ それが例え颯也であっても無理な話じゃ「無理なんかでは無い」っ⁉︎ どうしてそんな事が言えるんさ‼︎」

 

「では聞こう。直政……お前は颯也の武器を見た事があるか?」

 

「はぁ? そんなの見たことある訳無いさね。実技の時だってロクに見せやしないじゃないか」

 

「そうだな……確かに見た事はない。だが……もし颯也の持つ武器が白騎士と同等、もしくはそれ以上のものだとすればどうする?」

 

「……そんな事有る訳無いさね」

 

「どうしてそんな事が言える? あの教師オリオトライを武器1つ持たずに攻撃を入れれる人外だぞ? そんな奴が簡単に武器を見せないのは2通り理由がある。まず1つ……ただ単に本当に武器を持っていないのか。2つ……威力が強過ぎて使えないか、だ。そしてこれは断言できるが……颯也は武器を持っている」

 

「だったら……何で隠すさね! 実技の時は普通にマルゴット達は使っている! それは武器の使用が実技の中で禁止されていないからさね! なのに何であいつは武器を出さないのさ‼︎」

 

「他国からの監視があるからだ」

 

「っ⁉︎」

 

「気付いたか? 単純に考えてみれば簡単だった。あいつは……颯也は武器を所持している。それも……大罪武装など簡単に覆せるほどにな」

 

「だから……だからってどこをどうしたらあいつが世界の仕組みを壊す事に繋がるんさね‼︎」

 

「あいつが自分よりも他人を大切にするからだ」

 

「他人を……大切に?」

 

「そうだ。だからあいつは、武蔵が解体されると分かれば自分の秘密を簡単に曝け出すだろう。若しくは雲隠れして世界の仕組み……聖譜記述さえも覆すだろう」

 

「どうしてアンタがそんな事分かるんさ?」

 

「何度か颯也をうちに招いた事がある。その時に食事をとったこともな。そこで颯也がこんな発言をしたことがある。『もし大切な人が危険に晒されようものなら、俺が代わりとなって助ける』とな。それがいつの事でどの様な会話が元だったかは覚えていない。それに加えて最初は何故その発言をしたか理解が出来なかった。出来なかったが……今なら仮説を立てることぐらいは出来る」

 

「愛護颯也は、世界の仕組みを壊してでも大切なものを守る。例えそれが自分の犠牲でなりたった世界だとしても、あいつは喜んで自分の身を差し出すだろうとな‼︎ これで分かったか直政! ホライゾンを救わないという事は、それと同時にあいつの命も失うという事だ‼︎」

 

「っ‼︎」

 

それが隙になったのか直政の動きが止まり、シロジロの流体を纏った拳が地摺朱雀にヒットした。地摺朱雀は後方に倒れた。しかし今まで殴り合いをしてきたものの、地摺朱雀が家などに触れようとすれば術式が触れそうになった家を守っていた。

 

だが今回は違った。地摺朱雀はそのまま家を押し潰して倒れたのだ。

 

「なにっ⁉︎」

 

「これでチェックメイトだな」

 

そしていつの間にか直政の目の前にはシロジロがいた。

 

「……完敗さね。まさかアンタの仮説で隙を作っちまうとは」

 

「だが私もこの仮説を立てる事が出来たのは今朝の事だ。あの事が無ければ私は自分だけの稼ぎや儲け話を主体に相対していただろう」

 

「そうかい。それで? 仮説じゃ無い方だったらどうやって攻めていたさね?」

 

「颯也の写真などで利益を出す……それで攻めていただろう」

 

「はっ! アンタはどこまでいっても変わらないさね」

 

「そうだな。だが……颯也と関わった事で俺もどこかしら変わったかもしれん。金にしか興味がない私が、他人の心配をするなんて事は……な」

 

「……確かに守銭奴のアンタからは考えられない発言さね。それでアタシはこの相対に負けた訳だし、煮るなり焼くなり好きにしな」

 

「なら私はお前にこう言おう。力を貸してくれ直政。お前の力と機関部の力が必要だ」

 

「分かったよ。アタシの力と機関部の力がホライゾンを……そして颯也を助ける事が出来るんなら幾らでも力を貸すさね!」

 

「交渉成立だな」

 

シロジロは似合わない爽やかな笑みと、歯をキラッと輝かせながら直政の手を取って立ち上がらせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いつのまにか10,000字超えましたよ⁉︎

「本当だな。というかあの間とか本当にいるのか?」

そんなの書くときの気分ですよー! いいじゃないですか別に新しいキャラを出したって‼︎

「……収拾つくのか?」

どうにかつけてみせるんです‼︎

「ま、まぁ作者が言うなら構わないんだろうが……」

「また新しい人物を出したのね? それも作者が作者の好みにドストライクって叫びたくなるほどの……」

い、いつの間に⁉︎

「最初からよ。それで……この作品って毎回思うのだけど私がヒロインではなかったかしら?」

そ、それはそうなんですが……

「まぁ良いわ。私と颯也のアツアツなシーンを描いてくれたのなら文句はないわ」

あ、ありがとうございますぅ……

「ま、まぁここで解説? とまでいかないかもしれないが一応出しとくか」






解説

???

作者がまた新たに登場させたキャラクター。
ヒントとしてはFがつくアプリの新章に出てきた新キャラ。
そのアプリの中でも作者の発言として自分の好みにドストライクと語っている……





「さて、次回はどうなる事やら……」


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14話 「貴方は……」

はい! 皆さんあけましておめでとうございます‼︎ 本年も出来る限り作品を投稿していこうと思いますので、何卒宜しくお願い致します‼︎

「だが作者、なぜ今回も少しばかり遅れたんだ?」

……fg○のイベントにかかりっきりでして、それで今も素材集めしてます。後は大体が山の○だけを集めれば良いところですね‼︎

「ほぅ……なら結構投稿スピードは上がっていくのか?」

あぁ……実はですね、今朝新しいガチャピックアップがあったんで、その10連回したら……

「回したら?」

なんと李書文先生が来たんですよーっ! それも星5アサシンの‼︎

「あ、あぁ……」

だから多分そちらの育成にもかかりっきりになるのではないかと……

「……はぁ〜」

ま、まぁともかく今回も書かせていただきましたのでご覧下さい! でも所々「ん?」と思う箇所があると思いますので、こちらとしては力不足を否めないですが……どうかご了承お願い致します……

それではどうぞ本編へ!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1回目の相対……シロジロと直政の結果はシロジロに軍配が上がった。表面だけを見たら直政が操る武神と、契約によって一時的に他者の力を借りたシロジロとの殴り合いなのだが、水面下ではホライゾンが処刑された際に生じるデメリットをシロジロが論じ、そこに隙を生じさせた直政がシロジロからの攻撃を受け、同時にシロジロが論じた事も粗方納得した上で負けを認めたのだ。そして直政もホライゾンを助ける教導院側についた。

 

「おかえりなさい直政」

 

「あぁ智かい。ただいま」

 

「それにしても先程の会話についてなんですが……」

 

「あれかい? 確かにシロジロが言った事は仮説に過ぎないんだろうさ。まぁこれは各国にも中継されてるから普通にさっきの会話も流れたろうさね。でもシロジロの仮説が本当に正しいかどうかなんて誰も分からないだろうし、今まで武蔵に強力な武力なんて無かったんだから信じる奴なんていないだろうさ。だからホライゾンがもし処刑されたとしても愛護は動かないし自分を犠牲にする事もしない……って考えてる奴が大勢いるだろうさ」

 

「直政は……どう思ってますか?」

 

「アタシ? アタシは……信じることにしたさ。愛護の武器は確かに見た事はない。でも……アイツが昔っからのお人好しの大馬鹿者だって事は知ってる。だから自分の身を犠牲にしてでも、アイツにとっての大切な存在って奴を守るという仮説は頷けたさ」

 

「そうですね。颯也くんは昔から自分の身を顧みないんですから」

 

「だろ? だからさ……アイツがそうなる前になんとかしたいとも思ったんさ。それでもアイツは余裕でアタシ達の前に出るだろうさね」

 

「た、確かに……いつの間にか前に出てますものね……」

 

(それに昨日も新名古屋城の暴走を普通に止めてましたし……。だからホライゾンが処刑されそうになったら、颯也くんの取る行動ってシロジロくんが言った仮説と強ち間違っていない気が……)

 

直政さんはこの時点ではまだ知りませんが、浅間さんは白騎士さんが颯也さんである事を知っているために、シロジロさんが説いた仮説も間違ってはいないと思いました……後他の梅組の戦闘組の人達も……

 

そして浅間さんと直政さんの前に白騎士が現れました。

 

「お疲れ様です。これ、良かったら食べて下さい」

 

「し、白騎士っ⁉︎ って、これは……ケーキさね? 何でアタシに?」

 

「先程までは聖連側だったとはいえ、今は武蔵側にいますでしょう? とまぁそれは関係なくて……さっきまで武蔵の事を考えて戦ってくれたご褒美ですよ」

 

「ご、ご褒美さね?」

 

「えぇ。後でシロジロくんにも渡すつもりですし、まだ作ったケーキも余ってますから」

 

「そ、そう言うんなら受け取っとくさね」

 

そして直政も白騎士からケーキを受け取って一口口に含んだ。

 

(っ⁉︎ な、なんなのさこのケーキ⁉︎ 美味すぎやしないかい⁉︎)

 

「直政も美味しいって思いますよねそのケーキ! 私達も直政達が戦っている間に白騎士さんに振舞ってもらったんですよ‼︎」

 

「あ、あんたら呑気だね……」

 

「ま、まぁそう思われても仕方ないですよねー……」

 

(にしてもこのケーキ……後味がアイツの作った料理に似てるのは気のせいかね?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様です。シロジロくん」

 

「ん? あぁ颯也か。まずは1勝取ってきた」

 

「そんな君にこれを」

 

「これは……チョコレートケーキか?」

 

「えぇ。さっき君に力を送ってくれていた警護隊の人達にも配っててね」

 

「……どうりで途中から供給される力が増したわけか。何か仕込んだのか?」

 

「仕込む? いや、俺はただ普通にケーキを作って皆に振る舞っただけだよ。薬とか増強剤的な類は入れないさ。そもそも入れたらケーキの味が落ちちゃうからね」

 

「なるほど……まぁ差し出された物は不利益になる物以外は全て受け取る主義だからな」

 

そう言ってシロジロも白騎士のケーキを食べた……

 

「っ⁉︎ こ、これは‼︎ う、売れる! 売れるぞこのケーキ‼︎ 普通に高級店で出しても遜色ない……いや、それ以上の代物だ‼︎ 白騎士! このケーキのレシピを売ってくれないか⁉︎ 是非うちの商会で作って売り出したい! 利益としてはこちら側が売り上げの4割、そして白騎士に残りの全てだ! どうだろうか?」

 

「し、シロジロ殿⁉︎ 流石にそれは無理な相談では御座らんか?」

 

「う〜ん……別にこのケーキのレシピはあげても良いけど……」

 

「「「えっ⁉︎ 良いの⁉︎」」」

 

「よし‼︎ これで商談の方は成立で「でもね?」ん? 何か問題があるのか?」

 

「いや、私はこのケーキは作り慣れてはいるけど……結構凝ってる部分もあるから、この味にするまでは大分時間がかかると思うよ? それも材料費も半端じゃないし」

 

「そ、そうか……」

 

「まぁその代わりと言っては何だけど、代わりにこのレシピならどうかな? それでこっちがそのレシピで作ったケーキなんだけど……」

 

いつのまにか白騎士の手にさっきとは違うチョコレートケーキが……それをシロジロに渡した。受け取ったシロジロはそのケーキを食べて……

 

「なっ……確かに先程よりも濃厚さというか、そこは若干落ちるが十分に商品化出来るものだ‼︎」

 

「そう言ってもらって嬉しいよ。そのレシピだったら簡単にできるし材料費もかからない。誰でも忠実に作れば出来るものだから。これでも大丈夫かな?」

 

「何を言う⁉︎ 普通にアリだ! 売り上げも、うちの商会としては十分に見込める。さっきも言った通りうちが4、白騎士が6でどうだろうか⁉︎」

 

「う〜ん……いや、売り上げは全部君の所で良いよ?」

 

「……それは出来ない相談だ」

 

「それはどうきてかな?」

 

「確かに私はお金に対して執着心がある事は小さい頃から自覚している。お金について生き汚いところもな。だが……それでも取引先との信頼関係は大切にするたちだ。だからこそ、私はそれでは納得が出来ない」

 

「……分かりました。だったら、こっちは君が売り上げた2割を頂きましょう。これで商談成立しても良いかな?」

 

「全く……颯也にも困ったものだ。あぁ、それで商談成立としよう」

 

互いに商談成立の通神を出し合って握手に応じた。

 

これは完全な余談だが、三河騒乱が終わった後にシロジロが立ち上げている商会で白騎士のチョコレートケーキを売り出したところ物凄い利益となったのは間違いない。まぁチョコレートケーキを作ってるのは商会が雇ったお菓子職人だけでなく颯也も混じっていたが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、こんな最中にシロジロは何を商談成立させているんだ……」

 

「お腹が減ってきましたわ……はやくこの相対を終わらせて白騎士さんのケーキを是非食べてみたいですわ……」

 

「み、ミトツダイラ? 戦いの目的を忘れていないか……」

 

その場で真面目なのは正純だけでした……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜い。それじゃあ気を取り直して、1回戦目の相対はシロジロの勝ちね。これで教導院側の1勝、で次の相対だけど……」

 

と言いつつもオリオトライさんの口元にもチョコレートケーキのカスが付いていたと言います……

 

「次は私が参りますわね? 正純」

 

「ミトツダイラ……あぁ」

 

「ありがとうございます。では……武蔵の代表たるアルジョント・ルウ・ミトツダイラがあなた方に尋ねます。主不在の極東は何をもって私達騎士を従わせようとするのかを! さぁ、相対ですわ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次の相手はミトツダイラくんか〜……直政くんの時もあれだったけど次も厳しいね」

 

「確かに……小生絶対に相対とか無理ですよ」

 

「もともとアンタに戦闘力とか求めてないさね。そもそもロリコンの事でしか発揮できないだろ?」

 

「なっ! 小生を馬鹿にする気ですか⁉︎ 言っておきますが小生のロリコンといのは生命礼賛の事です‼︎ うら若き幼い少女達の生命力は侮れません‼︎ その生命力を尊ぶ事の何がおか……」

 

「そんな事はともかく次誰が行くさね?」

 

「ちょっとーっ⁉︎ 途中で小生の言葉を遮らないで……」

 

「ミトツダイラなら、ここは戦闘系が基本だろうな」

 

「あの、まだ小生話の続きを……」

 

「でもあのミトの馬鹿力に匹敵する人なんて……」

 

「颯也しかありえないだろうな」

 

「「「だよなー……」」」

 

「うっ……小生悲しい……」

 

自分の話を聞いてもらえず意気消沈の御広敷……だがその御広敷の肩を叩く人物がいた。それに対して無意識に振り向く御広敷……

 

「(君の考えている事は正直危ない方面だし、こっちとしても理解する事は難しいが……ともかく)頑張れ」

 

優しげな表情(仮面に隠れて見えないが……)でサムズアップしているように御広敷には見えた……

 

「あの……何をしてますの?」

 

だがいかんせん今の状況は外から見れば意味が分からぬ話し合いだ。何故なら円陣を組んでひそひそ話をしている。そんな中御広敷が騒ぎ出したと思ったらいつのまにかショボくれ、そこを白騎士に慰められる? といった構図が出来上がったのだから……

 

「あぁ〜今作戦会議中だからもう少し待ってな?」

 

「は、はぁ……」

 

一応教導院側はネイトに作戦会議中だからと時間を貰っている。

 

「それにしてもおかしな話だよね?」

 

「おかしいとは……どこがで御座るか?」

 

「考えてもみてよ。だって騎士って力の大なり小なりはあれど、僕たち平民よりも力を持っているんだよ? それがどうしてわざわざ騎士の方から平民に対して相対を申し込むのかって事だよ」

 

「確かにな。よくよく考えてみれば不自然だな」

 

「なら少々……私からあの子に対して質問をしてみようか」

 

「し、白騎士くん⁉︎」

 

「今回の聖連側と極東側の相対に介入をしないんじゃなかったんさね?」

 

未だ白騎士の正体を知らない直政は問う。

 

「確かにそうだけど……別に何か分からないことに対しての質問はしてもいいんじゃあないかな? それをしたからといってどちらにも肩入れなんてしようとする気は無いし、ただ個人的に気になったから質問するだけで邪魔をするわけでもない。ねっ? 相対自身に対して介入はしてないでしょ?」

 

とまぁ屁理屈とも取れる自論を展開する。最早ゴリ押しする勢いである。

 

(まぁ……どのみち武蔵に肩入れ、もとい味方をするのは既に決まりきっていることだけど)

 

「まぁそんなところだから私は自由に質問しに行くとしよう」

 

そして教導院側の円陣奥から白騎士がネイトに向けて歩み出し、数メートルのところで立ち止まった。

 

「な、なんで白騎士が出てきますの⁉︎ あなたは今回の相対に関係無いはずでは……」

 

「えぇ、もちろん関係はないですし介入する気もないですよ? ただ……気になったことがあったからあなたに質問しようとしただけです」

 

「質問……ですの?」

 

「そうです。それじゃあ時間もない事ですし早速質問させて頂きますよ? まず第1に……あなたはこれを口実に武蔵の騎士階級を返上するつもりですね?」

 

「「「っ⁉︎」」」

 

「な、何を仰って……」

 

「簡単な話ですよ。そもそも武蔵の安寧も騎士あってのもの……だからこそ、今回のホライゾンさん処刑も聖連側と戦うために武蔵は最終的に動くし、武蔵の民も動くでしょう。それは騎士という自分達よりも強い存在がいるからこそできる事です。しかしながら……もし武蔵に自分達を守る騎士がいなければどうなるか? 結論は1つ。武蔵の民は戦うことができなくなる」

 

「……えぇ。その通りですわ。私達は武蔵と武蔵に住まう民達を守護する騎士、その存在がどうして民達に危険を強いろと言うのです?」

 

「そう、それこそがそちら側の総意で間違いはないでしょう。だがそれと同時にあなた方は1つ大きな誤りを犯している」

 

「な、何ですの? その誤りというのは……」

 

「なら説明しましょう。まず1つ、ホライゾンさんも極東、そして武蔵の民である事」

 

「っ⁉︎」

 

「確かにホライゾンさんはこの極東たる武蔵に来てまだ1年しか経っていない。だが、それでも同じ極東武蔵に住まう1人には変わりはない。大を救うために小を犠牲にする……あり方として間違っているとは言わない。まぁだからといって今回のホライゾンさん処刑についてが今の話に該当するかは……極東武蔵側で決めるべき事です」

 

「そして2つ目、ホライゾンさんが何故聖連で処刑されようとしているか分かりますか? 勿論大罪武装を取り出す以外での話でですが」

 

「そ、それは……昨日の新名古屋城での事ですわ。あの騒乱で松平元信公は行方不明となり、またそれを起こした責任も有耶無耶となりましたわ。ですが、その代わりとして元信公の娘であるホライゾン・アリアダストがその責任追及の矛先となり、三河を収める君主の代わりとして……今回の事になっていますわ」

 

「えぇその通り。そしてあなたはさっき言いましたね? 『自分たち騎士を誰を君主として従わせるのか』と」

 

「え、えぇ……言いましたわ……っ⁉︎」

 

「どうやら気づいた様ですね。そう、確かに今は元信公はいない。ですがその娘であるホライゾンさんは、元信公の罪を被って“君主”の代わりとして処刑されようとしている。さぁ……ここまで言ったらもうお分かりですね? じゃあ私の質問は終わらせていただきましょう。では、後は武蔵側と聖連側に任せますので」

 

そう言って白騎士は後ろに下がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side インノケンティウス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あいつぅ〜っ‼︎ 質問と言いながら普通に武蔵に肩入れしているじゃないか⁉︎ えぇっ‼︎」

 

「お、落ち着くのだ元教え子よ」

 

「これが黙っていられるというのかガリレオ‼︎ 俺は我慢ならんぞ‼︎」

 

「だが白騎士はただ単に質問をしているだけだ。それで相手側の答えがどう変わろうが、白騎士側は相手の答えを覆してはいない事になる」

 

「それでもあれはどう見ても相手の意見を覆そうとしていただろう⁉︎ 誰が見てもそう思うはずだ‼︎ お前だってそう思うだろう⁉︎」

 

「ま、まぁ……元教え子の言わんとする事は理解できる」

 

「くっ……俺があの時、勝ち目がなくとも大罪武装を用いていればこの結果も変わったやもしれなのに」

 

インノケンティウスはそう言うものの、後の祭りである。ネイト達騎士が最終的にどの様な答えを出そうと、それは自分達で決めた事でありそそのかされた結果ではない。

 

「覚えておけよ白騎士‼︎」

 

その様な言葉をはいた直後だった。

 

〈別に構わないが……私の大切なものに手を出すのなら貴様らもそれ相応の覚悟をしておけ by白騎士〉

 

「「っ⁉︎」」

 

それは白騎士からの通神文だった。インノケンティウスが悪態をついて1秒程しか経っていない。それ故に、インノケンティウス達は戦慄を覚えた。そして通信文の内容も塩対応と……

 

「な、なんて奴だ……」

 

最早そんな言葉しかでない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ふぅ……あいつらも学習しないな)

 

先程通神文で教皇を語る奴に圧力(脅し)をかけておいた。全くもって……今すぐ潰しにかかっても良いくらいと思ってしまった。まぁ殺めたりはしないが……

 

(さて……さっきの質問の意図が分かるのならこの相対、結果的にこちらが負ける形になるな)

 

そして教導院側の梅組はというと……

 

「さっき颯也が言った事を考えたなら……どうにかネイトをこっちに引き込む事が出来れば良くね?」

 

「その通りだよトーリくん。武蔵の騎士を代表するミトツダイラくんをこちら側に引き込めば、相対としてはどちらとも1勝ずつになるけど、それでもアリアダストくんを助けるという点については一歩前進するよ!」

 

「じゃぁ〜……」

 

それから1分後……

 

「おし! こっちも決まったぞ‼︎」

 

「そ、そうですの……それで、どなたが私のお相手を?」

 

「それは〜……ベルさんだな」

 

「ベルさん、頼めるかな?」

 

「ju、jud.いく、よ」

 

「なっ⁉︎ 向井さんを出すって……正気ですの我が王⁉︎」

 

「ん? 正気も何もベルさんも何かしたいんだってさ。だったらこっちとしては信じるしかないだろ?」

 

と、真っ裸の簀巻状態からいつもの制服姿になっていたトーリが言う。

 

「で、ですが……」

 

それに対してまだ納得が出来ていない様子のネイトがいた。一体どう言うつもりで向井を出したのかと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お願い……助けて!」

 

「えっ?」

 

「助けて、欲しいの。わた、し……目が見えなく、て何も力に、なれない、けれども、それでも、何かの役に立てるかなって」

 

「それ、で、私ホライゾンを、助け、たいの。だか、ら……お願い。助けて!」

 

「っ‼︎ で、ですが……」

 

ネイトは葛藤する。確かに先程白騎士が言ったように、ホライゾンは武蔵の民である。だがホライゾンを救うのにホライゾン以外の民が傷付くのも間違っているはずだと。謂わば、民を巻き込まない為にホライゾン()を切り捨てるのか。またはホライゾンを助ける為に()を傷つけるのか……ネイトは葛藤する。

 

(こんな時に貴方ならばどうするのですか……)

 

誰かに委ねてしまう考えが出そうな程、彼女は葛藤していた。

 

ふと、そう考えてしまった時だ。

 

(俺は自分の身を犠牲にしてでも助けに行くよ‼︎)

 

(っ⁉︎ 懐かしいフレーズですわね。いえ、いつも言ってる様な物ですが……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこで少し昔の想い出に浸った。あれは去年の事だった。ひょんな事で自分が癇癪を起こして荒れ気味だった頃……トーリが自分より年上の生徒に標的にされた事があった。理由としては、自分自身の振る舞いが気に入らなかった事が原因だったはずだが今ではもうどうでもいい事になっている。ともかくとしてその理由から、自分の身近な存在が標的とされた。間接的に巻き込んでしまったのだ。

 

そしてその知らせを聞いて駆けつけた時にはトーリは……ボコボコになっていなかった。しかし、その代わりとして傷を負ったものがいたのだ。それが颯也である。

 

『どうして……どうしてこんな事に……』

 

それを見たネイトの一声は確かそんな物だった。だが傷ついた彼は、彼女の事を怒った顔や恨んだ表情では見てなかった。逆に微笑んでいた。

 

『何で笑っていますの? 私が上級生に目をつけられてしまったが為にそんな傷を負っているのに……』

 

それに対して颯也は……

 

『俺がそうしたいからそうしたまでだよ。誰かが何かで苦しんでいたり、また傷つきそうになった時は……俺は自分の身を犠牲にしてでも助けに行くよ‼︎ まぁ他の人はあまりお勧めしないけどさ』

 

最後の発言を弱気な感じで言うところは拍子抜けする様に思ってしまう。それでも彼の笑みを浮かべながら言うその言葉には、最後はいいとして感銘を受けたのだろう。そこからだった。彼女が本気で彼に向き合いたいと思ったのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(そうでしたわね。私が彼の事を興味本位とかではなく、心の奥底から好きであると認めて向き合おうとしたのは)

 

そしてとにかく彼を知ろうとした。まずは、今まで小耳にしか聞いていなかった彼のファンクラブに入会して情報を出来るだけ集めようとした。それだけでなく、彼のインタビューが載った本も買い漁って熟読したぐらいだ。それでも分かる事は……彼がいつも全面的に出している性格と態度だけだろう。ほぼほぼプライベートは垣間見なかった。

 

それでも彼女はもっと彼の事が知りたかった。できるだけ彼と2人きりになる機会がある時は、一層時間を大事に使おうともした。

 

(まぁプライベートなところは本当に見て取れませんでしたが……)

 

彼は何を思っているのか、何を原理で行動しているのか、その時どう思って言葉を紡ぎ出しているのか……今のところ分かった事はない。

 

(でも……彼が本当に優しいと言う事を知っていますわ。だから!)

 

(きっと彼がこの場にいたのならこう言った筈ですわ‼︎)

 

「えぇ! 任せなさい‼︎ 私が自分の身を犠牲にしてでもあなた方民を助けますわ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ……それって」

 

「えぇ、今回の相対は私の勝ち、そちらの負けでよろしいですわね?」

 

「ju、jud.私の、負け、だね」

 

「えぇ、私の勝ちですわ。それと同時に、私は宣言いたしましょう」

 

「私、武蔵騎士代表アルジェント・ルウ・ネイト・ミトツダイラは、民を守るために……そしてホライゾンを救うために武蔵側につくことを‼︎」

 

「やった! これで騎士がこちら側についたよ‼︎」

 

「これで聖連側になんとか挑めるでござるな‼︎」

 

梅組が喜びの声を上げる。その中でネイトは正式に武蔵側についた。そして梅組の皆に迎えられる。それを嬉しく思うのだが、それを表に出すよりも前に……

 

「礼を言いますわ、白騎士」

 

「私はあなたに対して何もやってはいませんよ?」

 

「嘘を言わないで下さいな。分かっていたのでしょう? 私が……迷っている事を、ホライゾンを助けるか否かを」

 

「私をなんだと思っているのか……私は人の思いの奥底が分かるような……そんな出来た者ではないですよ」

 

「そうだとしてもですわ。あなたの言葉で……私はあの時の気持ちを、私の大切な方の言葉を思い出せたのですから」

 

「そうですか……まぁあなたがそう思うのなら、素直に礼を受け取っておきましょう」

 

「えぇ、是非そうして下さいな。それと……」

 

「? なんでしよう?」

 

「わ、私実は友人と一緒に雅楽のサークルをやっていまして……それで『アンフェア・ブレーカーズ』の演奏を毎回参考にしていると申しますか……」

 

「つまりファンという事でしょうか?」

 

「あぅ……そ、そうですわ」

 

「……なるほど」

 

「そ、それで……その、今この場で場違いだという事は承知しているのですが……サインと握手を頂けたらと……」

 

「「「えっ……」」」

 

「サインと握手……ですか」

 

ネイトの一言に梅組の皆は一瞬唖然とした。しかしながら直ぐ後に……

 

「ちょっとネイト‼︎ どういう事ですかそれは‼︎ 私だって『アンフェア・ブレーカーズ』のファンなのに‼︎ 私もサインとか強請りたいなとは思っても我慢していたのに‼︎」

 

「この貧乳騎士ひどいわ〜、我先にと憧れの人のサインとか貰いに行くとか〜」

 

「さっきまで聖連側だったのに、寝返った途端にそれとかナイちゃんからすればナイと思うなぁ〜」

 

「全くもってマルゴットの言う通りだわ‼︎ もう決めた! 次あんたを題材にして描く時はものっすごく淫乱な感じで描いてやるわ‼︎」

 

「うっ……」

 

とまぁネイトは凄く叩かれるように言われた。特に梅組の女子からは……

 

ただそこでもこの人は……

 

「ふむ……と言う事は、この場にいる私達のファンの皆様にサインなどをすれば問題はないと……そう言う事ですね?」

 

「「「……あっ」」」

 

「えぇ、それでこの問題も丸く収まるでしょう。まぁ私以外のファンの方々には申し訳ないのですが、もしいらっしゃるのであるならばこの騒乱が終わった後にでもその催しを開きましょう」

 

「「「やったーっ‼︎」」」

 

その歓声は梅組以外の、この中継を見ていた他の武蔵に住んでいる民達にも知られる事になり、騒乱後はちょっとした握手会が開かれた。

 

「さて、それはそれとして……ミトツダイラさん、フルネームはアルジェント・ルウ・ネイト・ミトツダイラ……でしたかね?」

 

「あっ、はい! そうですわ‼︎」

 

「ではこちらを……私のサインです」

 

「っ‼︎ い、いつのまに……」

 

「今ですね。それと握手……でしたよね。この様な簡単な場で申し訳ありませんが……」

 

「い、いいいえいえ! そんな事ありませんわ‼︎ 寧ろ光栄と思うほどで……だからあまり気にしないで欲しいですわ」

 

「分かりました。ではこれ以上気にしない様にしましょう」

 

そう言いながら白騎士はネイトに右手を差し出す。

 

「あ、ありがとうございますわ‼︎」

 

そしてネイトも自らの右手を差し出して白騎士の手を握り、握手を交わした。

 

(っ⁉︎ こ、この手の感触は……それにこの匂いは……まさか⁉︎)

 

白騎士は白い手袋をしているがために、外からはどんな様子かは伺えなかった。だがそれを手袋越しではあるがネイトは握ったのだ。そして握手する距離まで近づいて、微かではあるが白騎士から流れてくるであろう微かな匂いも感知した。その結果としては……今この場にはいない人物の事を思い浮かべた。いや……目の前にいる人物がいつも梅組という枠組みの中に存在しているのに、今この場にいない人であると……

 

「貴方は……まさか」

 

そうネイトが驚きの声を上げると、白騎士は右手の人差し指を自分の唇にあたるかあたらないかの距離に持ってきて「しーっ」と、悪戯っぽくジェスチャーした。それに一瞬見惚れるネイトは、それ以上言葉は発しなかったが、驚きの表情はそのままだった。そして白騎士はネイトの表情が少し面白かったのか口元には笑みを浮かべた。仮面の目にあたる部分(いつも閉じて瞳は見えない)も開いて瞳が外からでも見える様になると、白騎士は口元だけではなく瞳も笑みを浮かべた状態でネイトを見た。

 

それを見たネイトはここで完全に理解した。そして認識したのだ。目の前にいる人物は、梅組ではほぼほぼ中心的存在にいる者だという事に……

 

「他の人には、まだ内緒にしておいて下さいね?」

 

それを悪戯っぽく笑いながら小さな声でネイトに告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、それとこれもどうぞ?」

 

「っ⁉︎ ありがとうございますわ‼︎」

 

序でに白騎士さんは、ネイトに先程梅組の皆が食べていたケーキを渡していたと言います……




「ネイトも梅組に加わったという事は……今度は正純との相対だな。次回はどんな感じにするんだ?」

あぁ……次は話的にも結構難しいんで、そこのところはカットしちゃおうかな〜って思ってるんですけど……

「まぁあれは直に作品とかを見ても分かりにくかったからなぁ〜。という事はほぼほぼ作者目線で行くってところか?」

まぁそうなりますね。多分語彙とか表現とかめちゃくちゃになってしまうと思いますけど……何卒ご容赦を……

「ところでなんだが……あの質問とかって完全に梅組に肩入れしてるよな?」

……さぁ?

「さぁ⁉︎ しかもさっきの間とか完全に確信犯だろ⁉︎」

まぁともかくまた次回会いましょう‼︎

「おい待て作者! っと、相変わらず逃げ足だけは早いな……まぁ次回もよろしくな!」


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15話 雑種が……

「なぁ……これって某英雄王のセリフだよな? まさかこの作品に出るの?」

えっ? 何言ってるんですか? 出すわけないじゃあないですか!

「えっ? ならこのサブタイトル何なんだ? どう見たってあの有名なセリフだと思うんだが……」

まぁ……そこはある意味気にしたら負けですよぉ〜。

「いや、そこは気にしろよ……」

まぁまぁ良いじゃあないですか! という事で早速本編スタートです!



今現在……教導院前は、自分でこんな事を言って良いのか分からないが……カオスになっていた。ん? もう梅組がいる時点でカオス? ……そうか。まぁ確かに、トーリにあれされたりトーリにあれされたり? はたまたトーリにあれされたり……

 

(最早トーリがいる時点でそうじゃあねぇか……)

 

まぁともかくとして現状はこうだ。武蔵側と聖連側の相対なのは別に問題ではない。ただ乱入者がそこに通神越しで相対に乱入している事。これこそが問題だ。それで誰が乱入してきたかといえば……

 

(何でインノケンティウスが乱入してんだよ? コイツは暇か? 暇なのか? はぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう殺めてしまおうか

 

まぁこの場では流石にしない。するとしたら聖連側と武蔵・三河の問題が終わってからだ。

 

で、何でこんな事になっているかを少し振り返ってみる事にしよう。そう、出来るだけ簡単に……

 

 

 

まず3回戦目の相対だが、聖連側は本多さんだけになった。ただ本多さんは論述、論議に長けている。だから彼女は聖連側の言う、何故ホライゾンが処刑されなければならないのかの論を展開するだろう。まぁ、もし仮に俺が本多さんの相手になったら……まぁ論破されて負ける未来しか見えない。そもそも俺は知略で誰かと競うんじゃなくて武力で競う方だからな。だからまともに議論もできないだろう。

 

(まっ、この場では愛護颯也としてではなく白騎士としているんだけど……)

 

だから武蔵側は誰が出るのだろうと……そう思っていたんだが……まさか……

 

「そんじゃ俺が行ってくるかな‼︎」

 

うん、まさかトーリが出るとは思ってなかった訳でさ……

 

(というかあれ大丈夫か? なんか相対行く前にアデーレさんに何か頼んでいた様だけど……)

 

それで相対が始まった。始まったんだが……

 

「やっぱりホライゾンを助けに行くの……やめね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……はっ?

 

いや、確かにそうだ。この場でのトーリの回答はそれが正解なんだ。何せホライゾンを救うか救わないかの、この2つの議題で今回は議論していくんだ。そしてトーリは議論をする際に先行を取った。そこからホライゾンを救わないと口にした。トーリが先行でホライゾンを救わないと明言した時点で、本多さんに残されたのはホライゾンを救う事を論じる選択肢のみ。もともとどちらが何の議論について行うかなんて最初から決めていないのだから、別にトーリがホライゾンを救わない論を取ってもルール違反しているわけではない。

 

そう、だからこそトーリのその行動は正しい。論議で劣る自分が論議で優れている本多さんに対して、真っ向からホライゾンを救う事を論じるよりもホライゾンを救わないと論じた方が確実にホライゾンを助ける事が出来る。その大義名分を取る事が出来る。

 

それは前世の知識でも分かっていた事だし、頭の中でも理解はしている。理解はしているんだ……だが……

 

(心が……どうしてもイラつきを、憤怒を覚えている……こんな事を防げなかった……自分が……腹立たしい‼︎)

 

握り込んだ拳から血が滲み出る。それはまた床へと落ちていく。その血はすぐに蒸発して消えてはいくがそれでも止めどなく拳からは血が流れ出ている。次から次へと掌を、拳を伝って落ちていく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自分を……責めないで」

 

「っ⁉︎」

 

颯也の手から力が抜ける。その声と、握り込んだ拳を優しく覆う様にして、颯也から握り込む力を抜けさせた。それは喜美だった。

 

「貴方は……何も悪い事なんてしてないんだから。だから責めちゃダメ」

 

「でも……俺は、こんなにも力があるのに……あの子1人を救うのに十分な力があるのに……ここにいる俺は、ただ見る事しか出来ない」

 

「いつも頑張り過ぎなのよ貴方は。いつも皆の為に動いてくれて、その分の痛みも負って……ホライゾンがいなくなった時も、貴方は頑張ってくれていたわ。それは皆……皆知っているのよ?」

 

「それよりも最初からもっと頑張っていたら、自分の力を少しでも過信せずに努力していれば……ホライゾンがいなくなるなんて事は無かった。あの時に……俺にもっと力があれば……」

 

「でも、そう悔やみながらも貴方は前を見続けて進んできた。誰よりも誰よりも強くあろうと……」

 

「そうですよ。そんな颯也くんの前向きな姿勢があったから、皆も強くなれたんですよ?」

 

そこに浅間も加わる。喜美が優しく覆っている颯也の手の反対側を優しく包みながら……

 

「私達、もう颯也くんが心配する程弱いなんてつもりはありません。ですから今は……今の私達でもホライゾンを救えるって事を見ていて下さい」

 

「喜美さん……浅間さん……」

 

「さぁ颯也。今昔の事を悔いるのは後にして、私の愚弟が、ここにいる皆があの頃よりどれだけ成長したかを見ましょう」

 

そう喜美に微笑みながら言われた。それが……凄く綺麗に見えた。

 

(あぁ……そうか)

 

周りを見渡す。ホライゾンを失った時よりもはるかに背も顔つきも身体つきも成長した皆……身体だけではなく内面もあの時よりも成長した皆がいる。

 

(もう……俺が心配しなくてもいい程成長してたんだよな)

 

若干名まだ心配する人物はいるが、それでもあの時よりも皆強くなった。

 

「うん、そうだね」

 

画面越しからでも分かるほど、颯也の顔は先程よりもずっと晴れやかでやらかだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 成実

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの子にもあの場所で、私以外に癒してくれる存在がいるのね」

 

正直悔しい……私と私が認める以外で颯也の事を癒す事が出来る(存在)がいるという事を……でも

 

(今は感謝するべきなのかもしれないわね)

 

あの場で颯也を癒したいという気持ちは誰にも負けない。でも、私の今の立場ではあの場に介入出来ない。この立場さえなければと、さっきまでで何回も思ったし考えた。若しくは私が最初から無理矢理にでも武蔵に転入できていればと……けれど私には、この場で為さねばならない事がある。颯也がこれを聞けば怒るかもしれないけれど……これは私の命にかえてもやらなくちゃいけない事がある。だから……この場を離れる事ができない。

 

(そんな私の代わりに……今だけは颯也を癒す事を許可してあげるわよ)

 

なんとも上から目線なワガママ副長である……

 

「はっ? 何か言った? 言ったわよね?」

 

「と、突然どうしたのだ成実⁉︎ な、なんか怖いぞ……」

 

「えっ? あぁ……ごめんなさい。何でもないわ。なんかさっき私の事を小馬鹿にした様な発言が聞こえた気がしたから……」

 

「そ、そうか……それにしても成実を、本人に聞こえないとしても馬鹿にするなんて……もしいたとしたら命知らずなやつだな?」

 

「ふふっ、そうね」

 

(それと……帰ったら私が今映っている子達の倍癒してあげるからね♡ だから颯也、覚悟しておいて♡)

 

成実さんの脳内はまた桃色思考に落ちました……

 

そして成実さん専属の語り部さんは……また成実さんから罰を受ける事が決定しました……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トーリと本多さんの議論を俺は見守っている。さっき大きな動きを見せた。トーリがアデーレさんから紙を渡されて、そこに書いてある内容を本多さんに読み上げて回答を待っている。これは、武蔵側と聖連側の相対がどうなるのかを見守っていた外野……具体的に言うならば本多さんのお父さんであったり商人の小西さんからの質問だった。

 

これに対して本多さんも答えるそぶりを見せる。自分のポッケからカンニングペーパーを取り出したのだ。そんな時に本多さんの後ろからいつのまにか木製の桶を持ったアデーレさんが……そしてその桶の中には、武蔵の排水を綺麗にしてくれる黒藻達が顔を覗かせていた。そして黒藻達は言ったんだ。ホライゾンを助けてと……それを言われて本多さんは、カンニングペーパーを黒藻に与えてトーリに振り返った。その時の本多さんの顔付きは……いつもよりも自身に満ち満ちた表情だった。

 

そこからは本多さんの独壇場……ホライゾンさんが三河消失未遂に関わっていない事の説明と責任転嫁の無理矢理な指し示し。その未遂と、ホライゾンさんの中から大罪武装を取り出す事の関係性の結び付け……本多さんが口を開けば怒涛の勢いで今回の事の不可解な部分が出てくる。

 

そんな中だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『調子に乗るのはそこまでにしてもらおうか? なぁおい?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこにインノケンティウスが通神で割り込んで来た。それからはインノケンティウスと本多さんの議論にシフトチェンジしてきた。そこまでは……まぁ許していたさ。だが……そこでインノケンティウスは完全に俺を怒らせた。

 

『お前……確か過去に手術をしているんだったよな? それも男になるための』

 

それは本多さんの過去だった……本多さんは過去に三河でとある人物に襲名しようと父親の指示で手術を行ったと聞いている。襲名を有利に進める様に行ったのだが……結果は襲名できず、手術も中途半端な形で終わってしまったと聞いた。それ故に……彼女はコンプレックスを抱いているとなんとなくわかっていた。

 

そこをついたインノケンティウスはベラベラと喋る。主に、自分を偽っておきながら誰が貴様の言論を信じるのかと……それに伴ってさっきまでの表情が嘘だったかの様に、本多さんは怯えの表情を見せていた。顔が青くなっている事がここからでも分かる。彼女の心が傷ついている事が分かる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雑種風情がっ‼︎

 

颯也から尋常ではないプレッシャーが放たれる。それも通神越しのインノケンティウスに向けて……

 

『ガッ⁉︎ な、何がどうなって……』

 

「えっ? いきなりどうしたの?」

 

「な、なんか苦しそうですよ? さっきまで副会長の事を好き勝手言ってたのに……」

 

この会話から察するに……武蔵の面々には何も影響がない。だが通神越しのインノケンティウスだけ通神画面から下の方向に、まるでスライドアウトするかの様に画面からはいなくなっていた。

 

『ハッ……ハッ……この感覚は……さっき以上のっ⁉︎』

 

(俺の大切な人の心を傷つけた罰だ……ありがたく……溺死しろ‼︎

 

仮面で見えないはずなのに……颯也の目が赤く光っている様に見えた。

 

(あぁ……颯也のやつヤベェなぁ〜……どうしよう?)

 

『愚弟、何とかして颯也の気をそらしなさい‼︎』

 

トーリはインノケンティウスが何故急に苦しみだしたのかを分かっていた。十中八九颯也が何かしたのだろうと。そんな中でプライベート通神で喜美が颯也の気をそらす様に言う。それを受けてトーリは……

 

『あぁ〜……よし! んじゃやってみっか‼︎』

 

「えぇっ⁉︎ セージュンって女だったのか! だったらこの場で確かめても文句無いよな‼︎ んじゃあご開帳〜‼︎」

 

そう言いながらトーリは正純のズボンの端を両手で持って引き摺り下ろした。

 

「えっ? なっ……キャーーーッ⁉︎」

 

「うーん‼︎ 良い女だぜ〜っ‼︎」

 

一瞬フリーズするも、正純はトーリがずり下ろしたズボンを履き直す。

 

「おいおい! お前らだってそう思うだろう‼︎ ここにいるのは紛れもなく良い女だ! こんな良い女が! 武蔵を救うために、ホライゾンを救うために頑張っているんだぜ‼︎ それを信じないなんてどうかしているぜ‼︎」

 

「あぁ、その通りだ」

 

「「「っ⁉︎」」」

 

そのトーリの声に同調したのは、なんと白騎士だった。その事に周りにいた武蔵の住民達は驚く。そもそも梅組に至っては、正純が武蔵に来た時から女性である事は分かっていたので、今更正純が女性でしたと分かったからと言って驚きはしない。だが……まさかトーリの言を白騎士が肯定するとは思ってもみなかったのは事実でもある。そしておまけにインノケンティウスにかかっていたプレッシャーも解除された。

 

「確か……副会長さんは去年に武蔵に来たばかりだと聞いた。そんな女の子がだ……まだ1年そこらしか過ごしていない武蔵の為に副会長の座に就いている。という事は……武蔵の事を、良い方向に持って行きたいと、彼女は少なからず思っているのではないか? 武蔵と、武蔵の民の方達を思いながら今の官職に就いているのではないか? 確かにこれは私の推察に過ぎない。それが違ったとしても……それが最終的には自分の為だったとしても、誰かの助けになりたいと願っていなければ絶対に就けない筈だ‼︎」

 

「そうだぜ! 白騎士の言う通りだ‼︎」

 

『な、何を馬鹿なことを! それに白騎士! 貴様また生徒間の抗争に介入したな‼︎』

 

黙れ雑種が

 

「「「っ⁉︎」」」

 

それには皆驚いた。インノケンティウスも、まさか教皇と呼ばれる役職に就く自分がまさか、雑種と呼ばれる日が来るとは思っていなかった。しかもアイドルという存在である白騎士にだ。

 

普通アイドルが汚い言葉遣いをしてしまったら、ファンであってもドン引きだ。

 

それをわかっている筈なのに……白騎士である颯也はそう口にした。いつも優しい言葉遣いの彼がだ……信じられないだろう。

 

「俺は今……汚い言葉遣いをしている事は理解している。俺の事をファンだと思っている人達にも……申し訳ないと思う。だが!」

 

「それでも俺は! 目の前で他のみんなの為に頑張っている人が侮辱される事が我慢ならない‼︎ こんな言葉遣いをする俺の事を……幻滅する人も出てくるだろう! それは仕方ない。だがこれだけはハッキリさせておくぞ! 俺は目の前で頑張っている人を侮辱する奴を許さない! そして雑種……貴様は俺を怒らせた。ここで宣言させてもらう……俺達アンフェア・ブレーカーズはK.P.Aイタリアを、いや、K.P.Aイタリアのローマ教皇であるインノケンティウスに対して! 宣戦布告する‼︎ これは脅しではない! 覚悟しておけ雑種‼︎」

 

それは……インノケンティウスに下された罰、否、死刑宣告である!

 

『なっ……な、ななななにぃっ⁉︎』

 

「当然だ。そもそもこれはホライゾンを救うか救わないかの討論だった筈だ。それを横槍を入れるだけではなく、勝手に本多さんと討論し始め挙げ句の果てに彼女を侮辱した。こんな素晴らしい彼女をだ!」

 

「そうだそうだ! セージュンは良い女だぞ‼︎」

 

「「「お前はそれしか言えないのか⁉︎」」」

 

「だけどそうだよな……1年しかここに住んでないこの子が俺達のために頑張ってくれたんだ! 俺はその子の事を信じるぜ‼︎」

 

「うちの子も副会長が授業を教えてくれて、しかも教え方も上手くて成績が上がったって言ってたわ。感謝こそすれど貶めるなんてそんな事出来るものですか!」

 

「胸が小さいからってなんだよ! 小さい子には小さい子なりに良いところがあるんだ! それを馬鹿にするなんて許せねぇぞ教皇様よぉ!」

 

「「「そうだそうだ‼︎」」」

 

「あんな馬鹿どもはほっとくとして……でも今の討論でも彼女が武蔵の為を思って動いてくれているのは、流石にわかるわよ。それを過去にあの子が何かしたから〜とかで疑心感煽るなんて、人として終わってるわ」

 

「そもそもあんたさえ何も邪魔しなかったら、白騎士様だって汚い言葉遣いなんてしなかったわよ! どう責任とってくれるのよ‼︎」

 

「「「そうだそうだ‼︎」」」

 

『ぬっ⁉︎ ぐぅ……』

 

確かに白騎士は汚い言葉遣いをした。それ自体は皆驚いてはいる。だが白騎士がいう事にも筋が通るのだ。そもそもこれは武蔵側と、聖連の代理である正純達とで相対をしていた筈だ。それがいつのまにか聖連の代表であるインノケンティウスが参加している。確かに正純は代理ではあるものの、3回戦目の相対で武蔵側と聖連側、どちらがホライゾンを救うか救わないかの議論を先に示した上で討論するのかは決まっていない。その中でトーリは先行で、ホライゾンを救わない方を選んだ。そして正純はなかった方で討論するしかなかった。相対上では何も問題がない。

 

それをあろう事か横槍を入れたのだ。しかもいつのまにか討論の内容さえも拡大解釈をして、挙げ句の果てに正純を侮辱するような発言をしたのだ。

 

それに対して、簡潔に言えば白騎士はキレた。結果的には汚い言葉を使ってしまった。

 

しかしそれも……元を辿ればインノケンティウスが横槍さえ入れなければ、正純の心も傷付く事は無かったし、それを受けて白騎士が汚い言葉も吐く事は無かったのだ。

 

そしてこの中継は全国で放送されている。勿論白騎士のファンもいる。そんな時に彼が汚い言葉を吐いた事で……確かにファンの心は傷ついたかもしれない。だがそれもこれも途中で横槍を入れたインノケンティウスが悪いのだ。つまり白騎士から汚い言葉を出させたインノケンティウスが悪いのだ。

 

その結果何が起こったかというと、三河消失未遂が終わった後ぐらいから続々と教皇を辞めろとの苦情が入ったのだ。それも白騎士のファン達から……それは各国だけでなく、自国の教導院にいる者達からや民にまでその苦情が入る始末……胃薬と精神安定剤が手放せなくなった。

 

「さてと……ここはこれくらいにして……本多さん、まだ討論の途中だったでしょ? こんな空気にして申し訳ないんだけど、あの雑種と討論を続けてくれないかな?」

 

「あ、あぁ……それは構わない。それと……ありがとう」

 

「いや良いさ。私が好きでやった事なんだから」

 

そう言って白騎士は元の立ち位置に戻った。

 

「ふふっ、まさかあんな言葉遣いをするなんて驚いたわよ? でも気分がスカッとしたのも確かだわ」

 

「もぅ、颯也くん! ダメですよあんな言葉遣いをしては‼︎ 例え事実であったとしても口に出してはいけません‼︎」

 

喜美と浅間は周りに聞こえないように白騎士に言った。特に浅間は、どこぞの近所のお姉さんの如く白騎士である颯也を叱っていた。

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「分かれば良いんです。今度からはそんな言葉遣いをしてはいけませんからね?」

 

「ぜ、善処します……」

 

白騎士、浅間に叱られて萎縮する……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side ???

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あぁ……颯也さんがあんな汚い言葉遣いを……これは帰って来たらしっかり叱りつけないといけませんね)

 

とある教導院の副長はその様に考えていたと言います……

 

(まぁ颯也がキレるのは……あの状況では普通だがな。しかし珍しいな……中々見れたものではない)

 

その傍でカタクリさんも今回の颯也さんのキレ具合に珍しがっていました……

 

「へぇ〜、珍しく颯也がキレているじゃない?」

 

「そうだな。それにしても下手をすれば見ているこちらもプレッシャーを受けそうだ」

 

「虞さん⁉︎ 項羽さんまで……どうしたんですか?」

 

彼女の目の前に現れたのは、虞美人と呼ばれる女性と項羽と呼ばれる男性だった。虞美人は長い亜麻色の髪をそのまま下ろし、赤い瞳を持つ。そして服装は……凄い軽装だった。最早「えっ? それ服?」と言えるくらい露出度マシマシである。そして項羽は、外から見ても分かるくらい鍛え上げられた肉体を持つ武人だ。漆黒の長い髪を持ち、その形相は普通にしていても睨みを利かせているといっても過言ではないもの。口髭を鋭角に伸ばし、装備もいつでも戦いに赴けるよう鎧を纏っていた。そして腰には6つの刀が指してある。

 

そして彼女の問いに虞は答える。

 

「いえ、あの子の事を中継で見ていたんだけど、なんかあなたと見たほうが良いなと思った気がしてね。まぁ気分よ」

 

「は、はぁ……」

 

「しかし虞よ、我らが義息子……立派な覇を纏っているな」

 

「そうですね項羽様。普段からは想像もつかない程の……立派な覇気にございます」

 

「……久方振りに我が義息子と交えたいものよ」

 

「それはお控え下さい。この前の事をお忘れですか項羽様? 嫌がるあの子と戦った結果、負けたのは項羽様ですよ?」

 

「た、確かにそうではあるが……あれの敗因は……そう! 我が酔っていたからであってな! だから「項羽様!」は、はい……」

 

「あの時の項羽様はお酒など口にしておりませんでしたが? 項羽様が戦いに赴かれる前に何を召し上がったかなどはしっかりと把握しております。そんな言い訳を考えつくくらいなのなら、あの子の全力の半分を出せるくらい武を磨いてはいかがですか? あの子とまた交えるのはそれからです」

 

「う……分かった」

 

項羽さんは虞美人さんの尻に敷かれていたといいます……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

そこからまた話は進んだ。どうにか周りが落ち着き始めたところで正純とインノケンティウスは討論を続ける。特にインノケンティウスはさっきよりも言葉を選んで不況を買わないように……

 

そして結果としてはこう纏まった。ホライゾンを助ける事と、ホライゾンが感情を取り戻すために各国と平和的模索をし、ホライゾンの感情である大罪武装を回収しつつ末世から世界を救うために武蔵は行動すると。

 

『そうか……結局は平行線になるのだな?』

 

「その様ですね。ですが私は……いえ、私達はこの結果に後悔はしません。全ては……末世を救う為なのですから!」

 

『……ならば致し方あるまい。本当ならばもう少し穏便に解決もしたかったところではあるが、そちらがその答えなのならば……K.P.Aイタリアも総力を持ってお前達を潰しにかかろう。その前座にだ……』

 

『やれ、ガリレオ』

 

インノケンティウスがそう言うと、まるで瞬間移動をしたかの様にガリレオが現れたのだ。

 

「そろそろ君の口を塞がなければならないのである。悪く思わない事だ」

 

そう言いながらガリレオは正純に近付こうとするが……

 

「行かせぬぞ! この異端者め‼︎」

 

ウルキアガがガリレオに拷問道具を突き付けながら突撃した。しかしそれはガリレオに当たる前にバラバラに分解されてしまう。

 

「大罪武装か⁉︎」

 

「そうだ。大罪武装『淫蕩の御身』はあらゆる武装を無力化する」

 

「ふっ、そんな事は考慮していた! 行け! ノリキ‼︎」

 

「分かっている‼︎」

 

ウルキアガの影からノリキが現れ、ガリレオに拳をぶつけた。

 

「その程度かね? 天動説!」

 

「「ぐあっ⁉︎」」

 

ガリレオにはノリキの拳が通じず、逆にウルキアガと共に反撃を食らってしまう。ガリレオの天動説で2人は地に這いつくばるような形で倒れ込んでしまう。

 

そしてガリレオはその間にも移動術で正純の目の前に移動し、正純にも攻撃を加えようとした。それに対して目を覆う事しか正純はできなかった。非戦闘系の彼女からしてみれば、ただの攻撃も大ダメージを負ってしまう。そして正純に攻撃が当たろうとする時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれだ……」

 

「なっ⁉︎」

 

「えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんと白騎士が正純の前に立ち、ガリレオの手を真正面から掴んでいたのだ。魔神族である彼の、数倍はあろうかと言う手を普通に片手で……しかも

 

「『淫蕩の御身』が発動しているのに何故力をふるえるのだ⁉︎」

 

通常稼働している『淫蕩の御身』が発動して、敵の武装も敵の力も解除されて皆無になるはずなのに……

 

「白騎士! また我々の邪魔をするのであるか⁉︎ しかも宣言を破ってまで⁉︎」

 

「宣言? 俺は別に破ったつもりはないが?」

 

『と、惚けるのも大概にしろよ白騎士! お前達は確かに言ったのだ‼︎ 武蔵間と聖連間の生徒間での相対に介入しないと‼︎』

 

「あぁ、確かに言ったな。だが……俺はそのルールにも破ってはいないぞ?」

 

『キッ、サッ、マァーッ‼︎ ふざけるのも良い加減にしろぉーっ‼︎』

 

「そうか。そこまで言うなら答え合わせといこう……何故俺が堂々とこの場に参加しているのかもな」

 

「まず第1に……俺は武蔵の住人である」

 

「「「えっ?」」」

 

『なっ⁉︎』

 

「第2に……俺は武蔵アリアダスト教導院の生徒である」

 

「「「はっ?」」」

 

『ななっ……』

 

「第3に……俺は……武蔵アリアダスト教導院梅組の生徒にして、そして……」

 

片手で自分の付けている仮面に手をかけた。そしてゆっくりと取り外す。仮面に付いていた金髪のカツラも一緒に被っていた主人の頭から離れる。しかし離れてもその主人の髪の色は変わらなかった。何故なら本人の髪もカツラと同じ金髪なのだから。

 

焦らすかの様に仮面が主人の顔を徐々に徐々に離れていき、主人の輪郭を晒していく。白騎士は仮面から顔が全て離れたと同時に、手に持っていた仮面を横に放り投げた。そして露わになったのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「えぇぇぇぇっ⁉︎」」」

 

『ま、愛護颯也だとぉっ⁉︎』

 

それには武蔵の住人も、通神越しのインノケンティウスも、はたまたこの中継を見ていた全ての人々が驚きの声をあげた。今日1番の驚きである。

 

「さて、それはそれで……覚悟はできているだろうなガリレオ? 俺の目の前で俺の友人を傷つけようとしたんだ。この場で……腕の一本は覚悟しておけ!」

 

「ぬぉっ⁉︎」

 

ガリレオはそう言われたと同時に颯也に片手だけで投げ飛ばされた。

 

「天候満つる処に我は在り……」

 

一方で颯也の方は何か詠唱をし始める。颯也の立つ地面に魔法陣みたいなものが描かれ始め、そこから眩い光が発せられる。

 

「黄泉の門開く処に汝在り……」

 

魔法陣から発せられる光はとどまることを知らず、更に溢れていった。それと同時にガリレオが吹き飛ばされたところにも変化があった。ガリレオが投げ飛ばされてどうにか着地した地点の足場、4方向の地面から何らかのエネルギーが上空に撃ち出される。そして上空には赤と青を纏った巨大な雲が形成されていた。そして撃ち出された4つのエネルギーは、その雲に吸い込まれる前に1つに纏まり1つの大きなエネルギーとなるとそのまま雲の中へと吸い込まれた。雲はそのエネルギーを吸い取ったと同時に雷雲となった。吸い取った雲の口は拡大されていき、倍の大きさに広がる。次第にその大きな雷雲の穴からも眩い光が灯る。

 

「ぬっ⁉︎ なんだこの術式は⁉︎」

 

「貴様が今回過ちを犯した罰だ。なに、殺めたりはしないさ……ただ……」

 

「さっきも言った様に腕の一本は覚悟しておけ‼︎ 出でよ! 神の雷‼︎ インディグネイション‼︎

 

赤と青を纏う巨大な雷雲から巨大な雷がガリレオ目掛けて降り注いだ。そう……まさに神の裁きである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「なんか終わってみたら……結果的に俺がキレて暴れた話じゃあないか?」

えぇ、そうとも言いますね。

「あぁ……そうか〜……あんな汚い言葉遣いが全国に中継されていたという事は……成実さんにも聞かれた……嫌われる……」

そ、颯也さん⁉︎ き、気を確かにした下さい! 例え汚い言葉遣いをしてしまったとしても成実さんは颯也さんの事を嫌いになんてなりませんから‼︎

「えぇそうよ。私はそんな事で嫌ったりはしないわ」

「な、成実さん⁉︎」

「だって私は貴方の姉兼恋人だもの。だから……ね?」優しい笑みを浮かべながら両手を広げる態勢をとる。

「うぅっ……成実さぁーんっ‼︎」

「ふふっ、よしよし……いい子いい子」抱き着いてきた颯也を優しく抱きしめ返して頭をナデナデする。

……あれっ? まだ本編ではそんなに颯也さんと成実さんはこんな風に甘えた描写とか聞いてないんですけど……

「なら作者さん、さっさと書きなさい」

あっ……はい……

という事でここからは解説入ります!








WARNING
ここからはfgo第2部3章も少し触れて書いてありますので、fgoをやっていてまだそこまで行ってない! クリアしていない‼︎ という方に関しましては、ネタバレ要素を若干含みますので項羽さん、ならびに虞美人さんの解説を見ない事をお勧めさせて頂きます……
それでも大丈夫だという方はご覧下さい。



項羽

中国史に出てくる武人。中国史というと三国時代などが知名度がありすぎて残念ながら項羽という武人はマイナー扱いされてしまう。(作者もfgoで出てくるまでは知らなかった)しかしながら知略、武力は折り紙つき。秦王朝を滅ぼした劉邦と次の天下を競い合う。

今回この話から登場した項羽はfgo出身。本来人馬一体の機械の様な姿なのだが、颯也と一緒に着いてきた項羽は、作者がイメージした人の姿となっている。イメージしやすい人物で挙げるとするならば「不思議な海のナディア」に登場したネモ船長である。

また颯也の事を義息子と呼んでいる件については、颯也が転生者見習いの際、偶々fgoの項羽がまだ最前だった時代に飛ばされた事と、その際記憶を失ってしまい、身寄りがない所を保護、一緒に生活をし始めてから颯也の事を義息子と呼んでいる。
そしてサーヴァントとなってfgo2部3章の人知統合真個国シンでは、カルデアと人理をかけて戦いを挑む。その際カルデア側に付いていた颯也と再会……過激なバトルを展開する。
その後、カルデア側はその時代……2500年も続いた秦の王である始皇帝と凌ぎを削り、カルデア側の勝利。本来破れたはずの秦も消える運命ではあったが、そこは何でもかんでも御都合主義に事を運ぶことができる颯也の力によってその秦を残したまま、地球の周りを漂う月以外の衛星を創り出してそこに秦を移転した。
そのため本来の話とはえらぬ沿ってしまったものの、秦という時代は残った。それに伴い颯也が別の世界の人間であり、また違う世界に行ってしまう事を知ると、自分も付いて行くといって女神に直談判……結果この世界に来た。
尚妻である虞美人も一緒であり、ホライゾンの世界では虞美人に尻を敷かれている……

虞美人
こちらもfgo出身。項羽の妻である。fgoの世界では死ぬ事ができず、項羽が死んだ後は死にたくても死ぬ事ができず現代にまで生きた。本来カルデアのトップチームに所属するマスターではあったものの、とある事故によってカルデアの敵に回る。fgo第2部3章「人知統合真国シン」にてカルデアのマスター達と対峙する。颯也が現れるまでは普通にカルデアと争っていたのだが、颯也が現れてからは急に戦意を失う。その世界でも項羽と会い、項羽との時間をもう失わないためにこの秦を残そうとした。しかし予想外に颯也も現れてしまったためにその決意は揺らぐ……

結果的に颯也の御都合主義的な能力で万事解決とはなったが、その時未だに颯也に矛を向けてしまった自分を悔やんでいた。しかしそれも仕方ない事だから気にしないで欲しいと颯也に悲しそうな顔で言われたために、もう気にしない事にした。

因みに虞美人が颯也の事を義息子と呼んでいるのは項羽と同じ理由で、項羽が生前記憶喪失の颯也を保護して一緒に生活し始めてからである。そこから颯也にも愛着が湧いた。もう溺愛しているといっても過言ではない……。本来表には出さないが、2人きりの時や項羽と3人の時には溺愛ぶりを発揮する……らしい。





インディグネイション

テイルズシリーズでよく使われる最上位呪文(テイルズシリーズによって異なる)の1つに数えられる。本編の詠唱もキャラクターによって変わる。今回のインディグネイションの演出としては、「テイルズ オブ ジ アビス」に登場するジェイド・カーティスと呼ばれるキャラクターの秘奥義で使われるインディグネイションと同じである。詳しくはYou Tubeなどを参照。巨大な雷が範囲内にいる敵に容赦なく降り注ぐ。




以上です。また、成実さん専属の語り部は、今回も学習しなかった様で、次の出番もお休みとなっております! 成実さん専属の語り部さんのファンの皆様には大変申し訳ない(笑)と思いますが、まぁ今後ともよろしくお願いします。それではまた次回、乞うご期待くださいませ。


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16話 R-15 好きな人の前で格好つける事は当たり前よ?

「……よぉ、3ヶ月ぶりだな作者」

……(汗ダラダラ)

「大体遅れた理由は見当がついている。素直に言ってみろ」

ご……

「ご?」

「ごめんなさい‼︎ まさかF◯Oがあんなにイベントを連発するなんて思ってなかったんです‼︎ それに今年に入ってアプリ化したオ◯マスもまさかあんなに面白くてイベントが行われるなんて思ってなかったんです‼︎ そんな中でちまちま書いていました……

「そうか……まぁともかく仕方がない。取り敢えず読者の皆様には申し訳ない」

本当に申し訳ありません。それでは……物語を読んでいってほしいと思います。では、どうぞ。


 

 

side ヨシナオ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(先程の衝撃は何だったのであるか⁉︎)

 

そう思うヨシナオではあるが、何故その衝撃が起こったかについては分かってもいたし理解もしていた。ただ……あまりにも一瞬でヨシナオの頭の中に様々な情報が入ってきたことから混乱していたのだ。

 

(ま、愛護くんが白騎士で……そして白騎士が所属しているアンフェア・ブレーカーはK.P.Aイタリアに宣戦布告して……それで愛護くんはそれ相応の力を所有しており……ど、どうすれば良いのであるか⁉︎)

 

これは、武蔵を預かる形のヨシナオにとっては大きな問題であった。

 

本来武蔵はどんな形であれ武装の所持は禁止されており、それでも持っているとするならば武蔵の中でもとてつもなく重要な役職を持っている者か、騎士家系でしか許されない。

 

今回の場合、武器ではないのだが……それでも全国の教導院で登録されている武器以上である事は確かだ。

 

もっとも、颯也としては武蔵が自分の攻撃によって傷付くことが嫌なので、被害が及びそうな場所については防護魔法などを施すのと、最低限の威力にとどめてはいた。いたのだが……それでも衝撃は凄まじかったようだ。

 

また、颯也が白騎士である事は先ほどの中継で既に知れ渡っているし、昨日の三河消失未遂からして強大な武装を所持している事はヨシナオには理解できたし、これは各国の教導院にも知れ渡った。

 

今後、各教導院から抗議が送られてくる事だろう。武蔵が強力な武器を所持していたとして……

 

(しかし……これから武蔵は変わっていくのだろうな)

 

まだホライゾンを助けるかの相対はどちらに転ぶか分からない。だがもし、ホライゾンを助けるという方向に向かえば、各国は認めないだろうが武蔵が武装を所持する合理性は認められる。

 

それにヨシナオは最近知った事ではあるが……颯也はファンクラブを有している。それが本人公認かは分からないが、それも武蔵のみならず他教導院にも人気との事で……

 

(もしかして余が思うよりもそんなに大事にならないのでは?)

 

そう考えている隣では……

 

「まさか愛護殿が白騎士殿だったとは……成る程、あの強さも伺えるで御座るな。愛護殿がもし良いと言ってくださるのであれば稽古をつけて頂きたいものに御座る」

 

ヨシナオの護衛で本田・二代がいたのだが、彼女はそんな事を嬉々として呟いていた。

 

(だが末世に進む未来をただ平然と過ごしていくよりかは、彼とそれに着いて行く者の道を見て行くのも良いのかもしれぬな。それに……)

 

「彼ならば武蔵の将軍という立ち位置にも相応しいだろう」

 

「貴方? なんだか嬉しそうね?」

 

そう聞いてくるのは、ヨシナオの妻だった。

 

「ん? あぁ、少し不謹慎だったかな?」

 

「いえ、状況としてはあの時と同じ様な感じなのに、今の貴方からはあの時の様な表情は伺えなかったものですから」

 

「あぁ……そうであるな。ただあの時とは違って何だか……少しばかりではあるが希望が見えたと思ったのでな」

 

(正直子供達にこの世界の行く末を担わせるのは、大人の私からすればなんともいかんせん……)

 

この世界……武蔵だけ学生間の抗争は学生だけしか参加する事は許されない。それは当然だ……と言われるかもしれないが、他の教導院は普通に学生を卒業している歳の大人達も所属している。だから昔から学生間の抗争で戦っている生徒18歳以上の大人がいるのだ。

 

これを考えると、武蔵は学生数も少なく学生間抗争を経験した者もほぼ皆無。それだけで不利だ。そして武蔵の教導院に所属する学生以外はこの抗争に参加できない……否、参・加・資・格・が無いのである。だからこそヨシナオは、まだ18になるかならないかの子供に未来を託すという事を申し訳なく思う。

 

だがそれとは別にこうも思っている。この子達ならば……と。

 

(武蔵の未来……いや、この世界の未来を頼んでも良いだろうか)

 

今はそう思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side ???

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり凄まじい威力ですね……颯也さん自身からすれば1割も満たないでしょうけど」

 

「そうだな……俺はあの攻撃をたった1回だが、本気で受けた事がある」

 

「「「えっ?」」」

 

カタクリの放ったその一言にその場にいた項羽、虞美人、そしてもう1人は驚く。

 

「あなた……颯也のあの本気を受けてよく死ななかったわね」

 

「我でも正気を保つ事が出来たのは5割が限界だったが……」

 

虞美人と項羽は、間近で中継にも映った攻撃を目の当たりにしたからこその正直な感想をカタクリに送った。まぁ項羽に至ってはあの雷撃を受けたのだが……

 

「でも何故颯也さんがカタクリさんに本気の一撃を?」

 

もう1人いる彼女は純粋にその疑問を口にする。何せ颯也は早々本気のこもった攻撃を、誰かに負けるという事はあり得ない。それも、何も悪逆非道な事をしていない者に対して……

 

「……俺のとある能力を限界まで引き伸ばすためだ」

 

「とある能力……ですか?」

 

「あぁ。限界値まで鍛え上げた能力を、俺自らがもっと引き伸ばしたいと考えたからだ。元々の最終目標には到達してはいたが、この世界の基準がそれ以上だと仮定し……さらなる鍛錬を颯也に願い出た。それにはあいつも賛同してくれた。だがこれまでの……加減した力では限界など超えないだろうと、俺達は思った。だからこそ颯也の、どこに落ちるかが術者の颯也ですら事細かに分からないあの攻撃を本気で受けた。勿論その能力を使って完璧に避けるつもりでな。だが……俺の能力と颯也の本気では、未だに遥か遠くだった。天と地……その揶揄表現でもしっくりとくるくらい……な」

 

「ふ〜ん……それで颯也の攻撃を受けたあんたはどうなったの?」

 

「10日ほど生死の境を彷徨った」

 

「「「っ⁉︎」」」

 

カタクリのその言葉に、その場にいた者は衝撃を受ける。

 

「(元破壊神の)俺だから良かったものの、他の者が受けたならば焼け焦げた炭しか残らないだろう。だが俺も咄嗟に……無意識ではあったのだろうが、防御が間に合っていなければどうなっていたか分からないな」

 

「あれって普通の防御でなんとかなるものなの⁉︎」

 

「いや、盾や鎧の類ではまず無理だ。そもそも雷の電動率を高める悪手に過ぎん」

 

「ならばあれをどうやって防いだと?」

 

「……企業秘密だ」

 

「企業秘密? はぁ、つまんないわね。そこまで話を持ち出しておいてそれはないでしょう?」

 

「虞よ。それは言い過ぎというものだ。何しろ男という生物は、これはいかんともし難い事だが格好を付けたがるものだ。例を表すのであればジ◯ンプの主人公達の様にと言ったところだ」

 

「そんなものなのですか? そんな考えだからこそ颯也に中途半端に負けたのでは?」

 

「ぐっ……そこを突かれると痛いところではあるが……」

 

「小手調べは良いですが程々に……それは自分が圧倒的な強者の位置に立っているからこそなのです。項羽様は確かに強いですが……颯也に対してはその様な小細工などいらないでしょう?」

 

「そ、それはそうなのだが……」

 

「分かっているのなら何故実行しないのですか? そもそも……」

 

と、いつのまにかまた項羽が虞美人に説教をされているという……今回は少し長い様だ。

 

(何故こうなるのか……我が演算をもってしても分からぬ)

 

「聞いていますか⁉︎ 項羽様‼︎」

 

「も、勿論だとも……」

 

(こいつもこいつで大変なんだな……)

 

そう思うカタクリさん。だがカタクリさんは知らない……この2人は結局のところ最後にはイチャイチャするという事を……カタクリさんが思うよりもとても仲睦まじい事をまだ、カタクリさんは知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は元に戻ってアリアダスト教導院前……白騎士が颯也であると発覚してガリレオが颯也の放った術を受けたところ。

 

「ぐっ……ぬぅ……」

 

ガリレオは未だにダメージが抜けきらない。それもそのはずだ。直接雷を受けたのだから。五体満足ではあるものの、正純に殴りかかろうとした腕が丸焦げになっていた。それも纏っていた教導院服は、直撃を受けた腕の方は片口まで無くなり皮膚が露出していた。

 

そして雷を直接受けた事による痺れは身体全体に広がり、まともに立つ事が出来ず、ただ片膝をつけてしゃがみ込む。息も肩でしていて、もはや意識を保つ事で精一杯だった。

 

「あれを受けてまだ意識を保っていられる……初めて受けたとしてもそこは賞賛しよう」

 

それに対して颯也はガリレオを褒める。自分の攻撃を……最低の出力で放ったとはいえまだ意識を失っていない事に。だが、ただそれだけだ。

 

「それで……だ。当然部下の失敗はその上司がつけを生産するのがこの世界でも当たり前なのかどうかは分からないが、それ相応は受けてもらおうか? なぁ……インノケンティウス?」

 

『な、なんだとっ⁉︎』

 

「……いや、そもそもこれはお前自身の判断ミスだな。さっきのは降りかかる火の粉を払ったに過ぎない。だから……今度はお前自身がその身で受けろ

 

颯也が指を鳴らした。それで何が起こるのか、正直周りの者は期待したが少し経っても何も起こらない。さっきのはただ格好をつけるために行ったのだろう……そう誰もが思った時だった。

 

『ぐぅおぁぁっ⁉︎』

 

突然通神枠に移るインノケンティウスが苦痛に歪めた顔になっていた。

 

「な、何が起こったと……」

 

何とか意識を保っているガリレオが疑問の声を上げた。

 

「なに、それは簡単な事だ。俺があいつに対して攻撃を放ったまで」

 

「「「っ⁉︎」」」

 

普通にそういう颯也だが、それは颯也にとってのもの。他の面々は驚愕した。それもそうだ。通神越しで敵に攻撃をするなど誰が思っただろうか? 距離が近ければ直接いけるかもしれないが……現在颯也とインノケンティウスの距離は数kmは普通に離れているはず。そんな中で一体どうやったというのか。

 

「離れた敵をどうやって攻撃したか……そこを疑問に思っているのだろうが……それも簡単だ。俺はそこにいる教皇(自称)に対して明確に宣戦布告した。ならば……そんな対象をみすみすとそのままにしておくだろうか? いやそのままにはしないさ。宣戦布告したその時から……俺はすでにそこの教皇(自称)に印を付けている。いつでも攻撃を出来るように……な」

 

『な、何だと……?』

 

「信じる信じないは勝手だ。まぁこの辺りでデモンストレーションは終わらせておこう。ヨシナオ教頭も来る事だしな」

 

颯也がそう呟くと、インノケンティウスは自身に加えられていた謎の攻撃が消失した事に驚く。さらにガリレオは自身が受けたダメージが癒えている事に気付く。

 

『貴様……何のつもりだ⁉︎』

 

「何のつもりもなにも、さっきのはただのデモンストレーションだと言っただろう? こっちとしては、K.P.Aイタリアからホライゾンを取り返す前に事を大きくしたくないだけさ」

 

『っ⁉︎ ここまで事を大きくした奴の言う台詞か⁉︎』

 

「あんたが俺に対して侮辱していたのなら……別に俺は何もしなかったさ。だが……その侮辱の対象が私の友人、そして大切に想う者ならば、俺はそれに対してそれ相応の対処を取るだけだ。だから今回の事は全て……あんたの自業自得だよ」

 

『ぐぅっ! 減らず口をっ‼︎』

 

「そこまでにしていただきましょうか聖下!」

 

『むっ⁉︎ 貴様は……武蔵王か!』

 

「左様です。武蔵王ヨシナオに御座います」

 

颯也とインノケンティウスの間に入ってきたのは武蔵王であるヨシナオだった。

 

『この場に一体何をしに来た?』

 

「勿論、これ以上のこの場での武蔵とK.P.Aイタリアとの争い事を止めに参った所存であります」

 

『なに? 止めに来ただと? 学生でもない貴様が生徒間の間に入ると言うのか?』

 

「確かに私は武蔵の学生ではありません。しかしながら私はここにいる学生達と武蔵の民を預かる立場にある者……なればこそ、この場が本当の意味での学生間抗争でないのならば止めに入るのもまたこの武蔵を預かる私の役目故です」

 

『ふむ……確かに一理あるな』

 

「それに、確かにこの場は武蔵が優勢であり、あなた方K.P.Aイタリアにも対抗できるという可能性はあります。しかしあくまでもそれは愛護颯也にだけ言える事。ならば私はこの目をもってしてここにいる学生達が、颯也くん以外にも立ち向かえるのかを見たい。それが決まってからでも先程の決着は遅くはないでしょう」

 

『……分かった。お前がそこまで言うのなら、私は高みの見物に戻ろう』

 

「ありがとうございます、聖下」

 

「はーい、という事で今回のトーリと正純の相対は教皇が途中乱入した事で無効ね。ということで……こちらとしては途中で大事な案件に対して横槍入れられるのは非常に時間の無駄なので、今後は金輪際控えてくれると嬉しいですね。教皇?」

 

『う、うむ……善処しよう』

 

オリオトライが相対3回戦を無効試合と宣言する。そしてついでと言わんばかりにインノケンティウスに対してこんな事が無いようにも注意をした。だがその注意には若干トゲが含まれているようにインノケンティウスは感じた。だからこそ今冷や汗をかいているのだろうことが顔に出ていた。

 

そして最終的にインノケンティウスからの通信は切れた。

 

「さて……ガリレオも先程の傷は癒えているはずだ」

 

「た、確かに……」

 

「ならば早々にこの場から立ち去れ。俺の気分が変わらないうちにな」

 

「そ、そうさせてもらおう……」

 

そしてガリレオも立ち去った。

 

「さて! 邪魔者はいなくなったわね‼︎」

 

(((この教師邪魔者って堂々と言った⁉︎)))

 

梅組の全員はそう思った。

 

「それで3回戦目の相対は無効になったけど、どうしようかしらね?」

 

「それならばマロに考えがある」

 

「へぇ〜、マロに何か考えがあるのか⁉︎」

 

「葵・トーリ! いつも言っているがマロの事をマロと呼んで良いのはマロだけである‼︎ ……話は逸れたが、3回戦目の相対が無効になったのならば4回戦目の相対を設けて決めるというのはどうだろうか?」

 

「4回戦目ですか……ですが教頭、正純がK.P.Aイタリア側からの最後の代理です。この場に4人目の代理を立てるとなると……」

 

「オリオトライくんの言う事は至極真っ当であるな。だがそこも心配はいらない。何故なら既にここにいるのであるからな。二代くん、頼めるかな?」

 

「承り申した。接写只今武蔵王ヨシナオ殿よりK.P.Aイタリアの代理を任され申した。拙者、三河教導院所属及び三河警護隊隊長を務めて御座る。本多・二代に御座る。K.P.Aイタリアと事を交えたいと申すのであれば、先ずは拙者と蜻蛉切を超えて行くで御座る」

 

「という事だ。二代くんには既にこの様に話はつけてある。そこで条件なのだが、この相対で武蔵側は愛護くんを立たせない事を条件として加えてもらおうか」

 

「えぇーっ⁉︎ 何でだよマロ⁉︎」

 

「だからマロの事をマロと言うでない‼︎ ともかくとしてだ、愛護くんは今巷を賑わせているアンフェア・ブレーカーズのリーダーであり、先程も実力をK.P.Aイタリアに見せつけた。(正直愛護くんだけでもホライゾンくんは助けられるだろうが……)そして非公式ではあるが、二代くんを無傷で倒したとも聞いている。だからこそのこの条件だ」

 

「拙者としては蜻蛉切を父上から授かった今、この蜻蛉切をもってして愛護殿とまたあい交えたいと思って御座ったが……今は私欲は抑えるべきで御座るな。して、拙者の相手は誰で御座るか?」

 

蜻蛉切を構えながら二代は相対の意を示す。対して梅組は……

 

「ど、どうしましょうこれ⁉︎」

 

「う〜ん……僕達に本格的に合流してくれた愛護くんは出せないわけだし……」

 

「戦闘系が出なければならないのは必須であるな」

 

「でも戦闘系って言ったって……」

 

「ここはアタシが出ようかね。速さが売りでも朱雀でズガンと叩けばそれで1発さね」

 

「いえ、ここは騎士である私が出るべきかと。私の持つ武器でドカンとすれば」

 

「直政もネイトもいけません! そんな事したら武蔵に被害が及ぶ可能性があります! ここは私が出で一撃の矢でズドンと……」

 

……とまぁ直政、ネイト、浅間が立候補するがどれもこれも最終的には擬音語が目立つ。これには梅組の全員は引いた。颯也に至っては苦笑いである。そんな中……

 

「はぁ……どいつもこいつもなっちゃいないわね〜。最後の3人と来たら擬音語で済ませて。見てみなさいな! 颯也も苦笑いしてるわよ‼︎ 中々見る事ない顔でレアで写真に収めたいところだけど‼︎」

 

「喜美ちゃんそこは大丈夫だよ‼︎ 私が既に写真で撮ってるから‼︎」

 

「よくやったハイディ! これでまた儲かるな‼︎」

 

こんな所でも商魂逞しいと言うべきか、商人2人組みがいたと言います……

 

「まぁそれはそれで安心したわ。後でそれも何枚か買おうかしら。話は戻すけど、どいつもこいつもなっちゃいないからあんた達の代わりにこの賢姉が出るとするわ」

 

「き、喜美! 本気ですか⁉︎」

 

「あら、本気もなにも、本気で無ければここにはいないわよ。それに……」

 

「惚れた男の前で格好を付けたいのは当然のことよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 成実

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ〜、そうでるのね。少しは見直してあげても良いかしら」

 

惚れた男の目の前で格好を付ける……えぇ、私も颯也に対してはそう思う。貴方の目の前だからこそ格好を付けたい。頼りになりたい。そう思うところは……悔しいけど通神枠に映るあなたと一緒ね。

 

成実さんは喜美さんの事を、少しですが認めたようです……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「相対は……お主で宜しいので御座るか? 武器などの類は持っていないように御座るが……」

 

「んふ! 外面だけで評価するなんて、アンタもなっちゃいないわね。誰もがアンタ達みたいに武器を持ってドンパチするとは思わないことね。ウジィ、出なさい」

 

ハードポイントと呼ばれる衣服を固定する物で、この世界の人間ならばつけて当然の物である。それが肩腰に着いており、喜美がそう言うと右肩のハードポイントが開いて何か出てきた。

 

それは、二頭身の女の子だった。髪は君と同じ亜麻色のロング。顔は美人の部類でおっとり顔、眠いのだろうか目は閉じた様に見える。実際にハードポイントから出た時少し頭をうっていた様に見える。着ているものは着物の類で、舞を披露する時に着るような装いだ。そして両手には扇子が握られている。

 

「私はうずめ系の契約者なのだけど、あなたうずめ系がどの様なものか知ってる?」

 

「さぁ? 詳しくは知り申さんが、なんでも歌って踊って周りの物を鼓舞するとか」

 

「そう! その通りよ。そして私の契約しているものはエロとダンスの神様と同じくそれしか術式は無いわ‼︎」

 

「本当に戦闘系が無いでは御座らぬか……」

 

「んふ。確かにね。でもそんな私でも、守りたい者のためなら命を張って戦えるのよ。特に好きな人がいる女っていうのはね。あなたには守りたいものはある?」

 

「……」

 

「そう、そこで黙ってしまうのね。まぁいいわ。それはそれとして……颯也、少し来てくれるかしら?」

 

「ん?何ですか喜美さん?」

 

「ちょっと屈んでくれるかしら? そう、それくらいで良いわ」

 

そして……

 

「んっ……」

 

「っ⁉︎///」

 

「「「えっ?」」」

 

「「「あぁぁぁっ⁉︎」」」

 

「「「……」」」

 

反応は三者三様と言ったところで……喜美が何をしたかと言うと、それは簡単な話。喜美は颯也の頭を自分の胸の高さにするとそのまま抱き着く。

 

ここで少し備考を挟みますが……今喜美さんの服装は普段の服装よりもはだけており、胸の上部分は露出していると言います……。なので……颯也さんは直に喜美さんの胸の肌に触れているということで……

 

「ウジィ〜!」

 

喜美さんの走狗(マウス)であるウジィも颯也に抱き着いていました……

 

「あ、あの……喜美さん?」

 

「なぁに? 颯也」

 

「こ、この状況は一体……」

 

「うふ♡ 私が貴方に抱き着いているの。そして貴方の頭をヨシヨシしているのよ」

 

確かに抱きつきながら頭をヨシヨシしている喜美。ウジィも颯也の事を、小さい手ではあるがヨシヨシしている。

 

「いや、その……そう言う事じゃなくて……」

 

「言いたい事は分かっているわ。それでも私は今こうしたいの。そして……」

 

「貴方の事が好きだって、大好きだって伝えたいの。貴方の事を異性として」

 

「っ⁉︎/// お、俺は……」

 

「良いの。私が今貴方に言いたかっただけだから。私のいつもの様な我儘みたいなものだから」

 

「は、はい……」

 

「返事はすぐに出さなくても良いわ。貴方の心の準備は出来ていないと思うし。だからその代わりに、少しの間だけ……このままでいさせて」

 

「……ハハハ。まいったな。まさかこの場で、こんな形で誰かに告白されるなんて……思ってなかった。でも、今答えは出さなくても……貴女の気持ちだけは受け取っておきます。そして……貴女が良いと言うまで、この体制でいますよ」

 

そう言いながら颯也は喜美を抱きしめ返した。

 

「ふふ、ありがとう。颯也、大好きよ♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 成実

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「前言撤回……あんな泥棒猫になんかに負けてたまるものですか‼︎」

 

「な、成実ぃ⁉︎ お、落ち着け⁉︎」

 

そこには、喜美さんのやった事に怒りと闘争心で燃える成実さんと、それを必死に宥める伊達家総長がいたと言います……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out




「ねぇ作者さん……私の出番は?」

……(汗ダラダラ)

「ねぇ? 聞いてる?」

は、はい……

「なんだか最近……私以外の女性キャラがこの作品のヒロインと化しているんだけど……何か弁解は?」

申し訳ありません……

「そう、それじゃあお仕置き決定ね」

えっ? あっ! いやその……ご、ごめんなさいぁぁぁいっ‼︎

「ヒゲのパイロットの真似か?」

厳密には、確かに真似たと作者さんは言っていたようです……


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