ヒナタの姉はやべーやつ (闇と帽子と何かの旅人)
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夢nォICD-10ハじmã 'り
もし願いが叶うのなら


まともな展開と地の文や百合やら薔薇を求めてる方はバイバーイ!
主人公アカン奴なんで正義の味方の英雄譚求めてる方もブラウザバック。
思考回路がちょっとアレでハイテンション系なようで情緒不安定な奴が大蛇丸を巻き込んで何かする感じです。

エロゲギャルゲパロが大量にあったりなかったりするので苦手な方もバイバーイ!


 世の中の関節は外れてしまった。ついでに彼は色々なモノから外れてしまった。なんと呪われた生か。

 全てを憎み、生まれ続けて幾年。彼は彼女になった。

 

 何回生まれ続ければ終われるのか。何をすれば終わりになるのか。絶望しかないのに。不滅を望む誰かに変わって欲しいと彼女は切実に思う。

 

 滅びゆく世界を眺める。

 

 魔王を倒し。親友と妻になるはずだった女に裏切られ、世界を憎み滅ぼした……かつて勇者だった男と共に。

 

 「案外綺麗だね」

 

 人が存在しなくなった滅びゆく世界で横たわりながら眺める。彼女の感想は轟音とともに溶けゆく。 

 

 「……」

 

 かつて勇者だった男は何も答えない。咳き込み血を吐きながら横たわっている女は呟く。

 

 「そういう眼で見ないでくれない? むかついて殺しちゃいそうになるから」

 「……すまない」

 

 そう言う女にそんな余力は無い。魔術の類の発動はおろか、指先すらもう動かせないのだから。

 

 「ほんの少しでも世界が優しければ、君も魔王なんかにならなかったのにね。ほんと呪われてるよ。この世界も、君も、わたしも」

 「……」

 

 嗤いながら彼女は呟く。全てを呪うように。嗤う。男はそんな女をやるせない表情で見続ける。

 

 「あーあ。わたしも何度か世界を滅ぼした事あるけど、こんなに綺麗に滅ぼせたのは初めてかも。君、わたしより世界を滅ぼす才能あるよ。すごいね。まだ若いのに」

 「モミジには敵わないよ」

 

 やるせない表情を残しつつ苦笑しながら男は女の頭を撫でる。まるで恋人にするかのように髪を梳かす。

 

 「何か馴れ馴れしいんだけど。君そんなキャラだっけ。ここはわたしの頭蓋を砕いて高笑いしてENDの場面でしょ」

 「そんな事しないしできないよ。それに……もう疲れたんだ」

 「うわぁ、目的完遂して勇者に戻ってるよこの子。君はこれで終わりかもしれないけど、わたしはまだ続くんだよー? 満足そうな顔して並んで寝ないでよ……もう……」

 

 手を動かせたなら、この哀れな魔王の頭を撫で『おつかれさま』と彼女は言ったかもしれない。その程度には彼を気に入っている。

 だが残念ながら彼女の手は動かない。

 

 「君を救えなかった私が勇者な訳が無い。協力してもらったのに……約束を果たせなくてすまない」

 「……」 

 

 彼女は答えない。答えられない。

 まるで絵本や御伽噺のような終わり方だなと彼は思う。

 

 「おやすみ……モミジ」

 

 何かの呪縛から解き放たれたような表情で男は女の頭を優しく撫でる。

 世界は崩壊し続ける。やがて彼も彼女もソレに飲み込まれるだろう。だが彼女は終わらない。終われない。

 

 

 ▲

 

 

 生きては死に、産まれては死ぬ。当たり前のようだが俺にとっては短いスパンで永遠に続く拷問の連続だ。

 記憶を封印し、何も知らぬ娘で生きた時もあった。だが結局は無駄な足掻きに終わる。次がハジマレバ思い出し、連続する。 

 

 「かつての記憶は犠牲の犠牲になったのだ……」

 

 日向家の宗家長女、日向モミジになってしまった俺は自室で一人呟く。

 母親は既に病死している。俺が産まれて5.6年後に後妻を娶ったヤリチンの日向ヒアシが俺の現在の父親だ。

 家族仲は良好。というよりウザイ程に溺愛されている。後妻を娶った後ろめたさがそうしているのだろうか。まぁどうでもいいが。

 

 「長く生き過ぎた弊害ね。完全記憶能力保持者でもないし」

 

 知っている世界であるはずだ。だが中々思い出せない。産まれてすぐ忍者と聞き流石忍者汚いというワードが真っ先に思い浮かんだが、何なのだろうか。

 火影岩なる大統領岩を見れば卑劣というワード。アカデミーに入り卒業し、同じ班になったうちはイタチを見れば犠牲とオレオが脳裏を埋め尽くす。

 特別上忍になってアンコちゃんと仕事をすればたまに悶える性癖持ち。よくわからんデブがどのみちろくな奴じゃねえんだ見つけ次第殺せと里の中心で愛を叫ぶ。

 

 まともな奴もまともなモノも何処にもない。それが今生の世界。

 どのみち一族、卑劣、オレオ、犠牲。あまり役に立ちそうにないワードしか思い出せない俺も大概だが。

 

 「後は……日向は木の葉にて最強だったかな?」

 

 先ほど父親であるヒアシと組み手をして唐突にそんなワードを思い出したのだ。

 ここは木の葉の里。五大国で一番勢力のでかい里。昔で言う所のアメリカやヤマトやブリタニアのようなものだ。

 そんな最強に近い里で最強の一族に産まれてしまった。ならば俺は大統領になろう。ああ、そうすると攻撃する際『わたしのことを好きになってくれた?』と言わなければならないのか……

 

 現代兵器はあるようで無いが医療技術は恐ろしいほど発展している世界。おそらく忍術が科学の発展を阻害しているのだろう。

 ブリミル教とかいう宗教が蔓延る世界もまほーがあるせいで科学技術は発展してなかったしな。

 

 考えてみてくれ。ロケランをぶっぱするより起爆札クナイ連打したほうがコスト的にもリーズナブルなのだ。忍術なんて科学的にチートだぜ。 

 あまり俺の目的には期待できそうにない世界だが、医療技術は眼を見張るモノがある。腐らずに研究しましょう呪われてる俺。

 

 そんな結構どうでもいいことを考えながらぼーっとしていると……襖が勢い良く開き、ちっこい娘っ子が俺にダイブ! 気分はそうラストバトルをしかける甲君に挑まれるノインツェーンとわたしの気分である。

 

 「ねえさん」

 「ちゃおー。どうしたのヒナタ」

 

 マイシスターヒナタちゃんである。何を思っているか知らないがこの娘は俺に懐いている。異常なほどに。特に何かした覚えも無いのだが。恐らくかつての男の身体だったならば近親相姦待ったなしである。

 

 「あそんでください!」

 「おほーっ」

 

 満面の笑みで俺に抱きつきながらのたまうマイシスター。まだ幼いのに力つええ……俺じゃなきゃ死んでるね。中忍辺りなら殺せるわ楽に。鍛え過ぎだぞヒアシ。

 成長すれば上忍も楽に殺せる鯖折をマスターするだろうな。鯖折のヒナタと名付けてやろう。というか俺の死亡フラグじゃねコレ。旗立颯太にパスできねぇかな。ああ、この世界に奴は居ないや。 

 

 「任務も無い休暇中だしいいよー。何して遊ぶの?」

 「ねえさんとあそべるならなんでもいいです」

 

 こいつ俺と遊べるなら何でもいいって言ったよね? 玩具にしてコロコロするぞ娘っ子。

 簀巻きにして転がすのは昨日やったし、別の方が喜ぶか。何がいいかなと考えていると道場から瞬歩を無駄に使いつつここに向かってくるチャクラ……

 

 「ヒナタ! お父さんともっと遊ぼう! もちろんモミジもだ!」

 「えぇ……」

 

 馬鹿みたいな速さで俺の部屋までやってきた人物。父親であるヒアシまで遊ぼうと満面の笑みを浮かべながらのたまう。

 お前の遊ぼうは八卦掌・回天連打じゃねえか。それさっきやったじゃねえか俺とヒナタに。なるほど、ヒナタに逃げられたなコイツ。

 

 「ヒナタがすごい目付きで睨んでるよ。やめといたら?」

 「とうさま……いや」

 「!?」

 

 俺の服をきつく握り締めながらいやいやするヒナタ可愛いね。まだ遊びたい盛りの子供に一日中修行はやり過ぎだ。

 俺を教育した感覚でヒナタを教育しようものならそら嫌がられるわな。

 固まって灰になったヒアシをヒナタを頼むわねとヒアシの後妻がヒアシを引き摺りながら回収していく。これが我が家の平凡な一日である。

 

 久々に長生きしたいなぁとふと俺は思う。恵まれた環境に中々産まれる事は無い。たまにはニンゲンのふりでもしながら長く幸せに過ごしたいものだ。

 

 「ねえさん」

 「ん? 大丈夫? おねーちゃんと遊ぶ?」

 

 なにやら不安そうな表情をしたヒナタに優しく問いかける。

 

 「ねえさんはどこにもいかない?」

 「……」

 

 ああ、これだから子供は嫌いだ。聡い。特に近しいモノの変化を機敏に感じる。

 泣きそうになっているヒナタを抱きしめて落ち着くように頭を撫でる。

 そしてヒナタにだけ聴こえるように優しく呟く。 

 

 「んふふ、今度の任務が終われば……それからはずっと一緒だよ」

 「ねえ……さん」

 

 安心したような表情で眠っていくヒナタ。疲れてたんだろうに。俺も疲れてるけどな。優しい姉を演じるのもストレスがたまるものだ。

 果たして俺の目的を知った後、この子はそれでも俺と一緒に居たいと願うのだろうか。もしも君が願うのなら傍にずっといてあげようかな。

 せめて醒めてしまう夢の中では優しい俺と幸せになってね。と柄にもない事を思うのであった。

 

 

 ▼

 

 

 その夜日向モミジは何者かに連れ去られる事件が起きる。連れ戻そうとした日向ヒアシは負傷し、己が娘の奪還に失敗した。

 事件の下手人はなんと木の葉の里の元忍、大蛇丸であった。

 

 後にヒナタは後悔する。あの時もっと姉を引き止めていたならばと。

 ヒアシも後悔する。娘の苦悩を理解していなかったと。

 

 だが、どうしようもないのだ。産まれた時から彼女は呪われているのだから。

 




登場人物

日向紅葉(モミジ) 幾千もの時の中、様々な世界でとある少女に転生し続ける元男

日向ヒアシ この世界ではただの子煩悩のお父さん

日向ヒナタ 何をするにしてもねえさんねえさんとモミジに付いてくる うちはで言えばイタチとサスケのような兄弟仲


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誘拐される日向の長女

生きたい。ただ生きたい。
何故どうして?


 その日、大蛇丸は深刻なダメージを受けていた。木の葉の里の暗部に追われている。

 かつて無いほどに追い詰められた大蛇丸。それもそうだろう。最近噂になり始めた木の葉の天才うちはイタチも暗部に紛れ込んでいたのだから。

 

 どうにかイタチを撒いた大蛇丸だったが、別の暗部に見つかってしまう。

 目の前の暗部程度まだ処理するくらい可能だが、いざ戦闘を行えば撒いたイタチに感付かれて追いつかれるかもしれない。

 火の国の国境近くの森で大蛇丸はため息を付く。甘く見ていた。若い芽達を。救いの神にでも祈ろうかと少々らしくもない感傷に耽るくらいにはギリギリの状態だった。

 

 だが、そんな大蛇丸に救いの手を差し伸べる女神が居た。否、悪魔のような少女が居た。 

 

 暗部の忍の首がもぎ取られる。近付かず、音も立てず。相手が認識できない速度で。そんな芸当、大蛇丸ですら万全の状態でやれるかどうか。五影レベルのソレを行ったのが目の前の少女だ。

 先ほど相対した天才と呼ばれるうちはイタチですら――今はまだこのような芸当できないであろう。

 いつのまにやら先ほどの暗部の首が大蛇丸の手元に。誰もこんな事は頼んでは居ない。ネクロフィリアになった覚えは大蛇丸にはない。

 

 「ちゃおー。わたしのことを好きになってくれた?」

 「……」

 

 流石の大蛇丸もこれには引いた。かつて相対し『どう? 私といいことしない? 気持ちよくしてあげるよ?』と言ってきた少女。日向モミジ。

 暗部の首をわざわざ己に持たせて好きになってくれたかと問う精神。目の前の少女はたいがいイかれている。その死体になったモノは味方なのではないのかと愚問は口に出さないが。

 

 何故なら初めて相対した時も、任務に同行してたであろう仲間を手にかけ『わたしは日向紅葉だよ、以後よろしくね、大蛇丸君』なんて自己紹介してきたのだから。

 平和ボケした木の葉の里に何故このようなバケモノが生れ落ちてしまったのだろうか。袂を分かった、かつての師を思い浮かべては消す。

 

 「わたしの力が必要? わたしの力、貸してほしい?」

 

 ニコニコとこの場に不釣合いな可愛らしい笑顔を浮かべる目の前の悪魔。その精神性は大蛇丸ですらおぞましいと感じる。

 先ほどから感じる悪寒は目の前のおぞましいモノから感じているのだろう。

 

 「……不本意だけどお願いするわ」

 

 大蛇丸の感じたそれは久方ぶりの恐怖である。己以上に生き続けていると言っているバケモノに力を貸してもらう。不明瞭なモノへまた貸しを作ることへの。貸しが増えていく事への恐怖。

 

 「まったく素直じゃないなー君は。でもお願いされましたー。だから助けてあげる」

 「また借りができたわね……どう返そうかしら……」

 「んふふ。律儀だなぁ君は。普通悪党って借りとか借りっぱなしじゃないの?」

 「貴女以外ならそうするわ。貴女からの借りを踏み倒したら命まで取られそうだもの」

 「えー……何か怯えられてる? わたし君に危害加えたっけ。まだ加えてないよね。それにしても良いね。君まだ若いのにいい直感してる。濡れちゃいそう。処理し終わったら抱いてく? ついでに結婚する?」

 「私にアレだけ暴力ふるっておいて、危害加えてないって……DV嫁は遠慮するわ……」

 

 大蛇丸はうんざりした表情で答える。そうしている間にも大蛇丸を追ってきたであろう木の葉の暗部を淡々と処理していくモミジ。何故このような場所で日向の天才と呼ばれる日向モミジが居るのか。

 そんな能天気な疑問を抱く暇すら与えずに首を刈り取られていく木の葉の暗部達。

 

 出逢う前までの大蛇丸の知っている彼女の情報と言えば、最年少で特別上忍になった日向の少女。ダンゾウを泣かせた少女、チャクラ量は人柱力クラスで木の葉のやべーやつ。

 何故知っていたかと言えば、うちはイタチと同期で同じ班だった事から監視対象にしていたからだ。

 だが、あくまでその程度の情報しか知らなかった。噂など尾ひれ羽ひれ付くもので、ただの笑い話だろうと少女に直接対峙するまでは思っていた。

 いざ出逢ってみれば、後悔と喜びの二律背反に苛まれる毎日だ。はっきり言ってしまえば常識外なのだ彼女は。敵対したくないと大蛇丸に思わせるほどに。

 

 あの時、根の時代に使っていた古いアジトに行った時、偶然出会っていなければ敵対していたのだろうかとふと大蛇丸は思う。それとも必然の出会いだったのだろうか。

 己をお姫様抱っこで抱えながら淡々と敵を処理していくモミジに抱く恐怖より、それに勝る好奇心が彼を蝕む。

 

 「そうだ。今度わたしの事誘拐してくれない?」

 「貴女はいつも唐突ね……いいけれど。貴女、家族はいいのかしら」

 「何が?」

 

 大蛇丸は首を傾げるモミジに辟易した。彼女の使う正体不明の忍術には興味があるが、やはり彼女と自分とでは価値観が違うのだろう。まるで宇宙人と話しているようだ。

 幾多の悪事に手を染めてはいるが、常識は持っているつもりだ。だがこの少女は常識を知っているだけで持っているわけではない。

 両親に大事にされているであろうに。かつて己が攫ってきた子供達とは訳が違う。扱い辛い。

 

 「攫って欲しい時に連絡するね。カブトだっけ、あの子供に伝えたらいいかな?」

 「そうね……そうしてちょうだい」

 「あ、いい事思いついた。攫う時はお姫様抱っこでよろしくー。わたしが君にしてるみたいに」

 「……貴女みたいに余裕があればね」

 

 攫う時に恐らく出てくるであろう日向ヒアシに日向一族。それを相手にこの日向のお嬢様はお姫様抱っこでの誘拐をご所望である。難易度Sの任務である。

 

 「万全の大蛇丸君ならよゆーよゆー。そうだ、里の子達元気してる?」

 「貴女私の事なんだと思ってるのよ。元気よ……なんで貴女に懐くのかしらね」

 「少なくとも火影クラスだと思ってるけど。それはねー、単純に君よりわたしのほうが可愛いからじゃない?」

 「鏡みせてあげようかしら。おぞましいバケモノよ貴女」

 「んふふ、言うようになったね」

 

 ここで言う里は木の葉ではなく音の里だ。ようやく軌道に乗り始めたのは、モミジが助力したおかげでもある。

 険悪なように見えるだろうがこれでも大蛇丸は彼女を認めている。己の計画が順調なのは彼女の助力があってこそだと。

 森を抜け、少々開けたところでモミジは止まる。

 

 「もう大丈夫でしょ。そろそろご飯の時間だから帰るねー」

 「ええ、助かったわ」

 「それじゃ、またね」

 

 大蛇丸を下ろし、手を振りながら去っていく。それだけ見れば可愛らしい少女だが中身が終わっている。

 やっかいな共犯者を抱えたと思いながらも、その煩わしさすら愛おしく思う感情を大蛇丸は認めたくない。

 

 「貴女には感謝してるわよモミジ」

 

 面と向かって伝える事は無い。小さな小さな呟きは風の音と共に溶けて消えていく。

 

 

 

 

 「攫いに来たわよ日向のお姫様」

 「きゃー……何その眼、君が振ったんでしょ」

 

 珍しく大蛇丸がボケたのでノってあげたのにジト目で俺を見つめてくる。なんでや。俺攫われるお姫様やぞ。

 後でお前雪美さんに謝れや。ジト目はあの子が至高なんやぞ。そんな事を説教する俺に完全スルーの大蛇丸。これから毎日ジト目で見てやろうか……

 

 「さあ、無駄口叩いてないで行くわよ」

 「ほいほーい」

 

 というか振ったならちゃんと処理しろよ。雑やねん。お前秋刀魚ちゃんに本番中怒られるで。

 でもちゃんとお姫様抱っこしてくれる大蛇丸は律儀なヤローだとおもいました。だからスキー!

 

 「君にかかれば木の葉の警備もザル警備。日向の警備は内部からのお漏らしでよゆーと。流石木の葉の三忍! かっこいい惚れそう抱いて?」

 「貴女ねぇ……まぁいいわ」

 

 中々なびかねえなこいつ。結構いい遺伝子持ってそうだから会う度に言ってるけど中々上手くいかない。こんなにも美少女なのに。こんなにも美少女なのに!

 大事な事実なので二回反芻しました。コイツ美少女な俺に靡かないとかホモちゃうか……

 

 「ねえさん?」

 「あら……どうしましょうモミジ」

 「あちゃー……」

 

 少々会話の声が大き過ぎたのだろうか。俺の横で寝ていたヒナタが起きてしまった。子供は熟睡しておねんねの丑三つ時やぞ。

 泣きそうな顔して俺と大蛇丸の所へ歩いてくる。怖いだろうに夜のまっくらな中での大蛇丸の顔。 

 

 「ねえさんをはなせっ!」

 「貴女のお姉さんに頼まれたのよ……って聞いちゃいないわね」

 

 果敢にも大蛇丸に殴りにかかるマイシスターヒナタ。ウンザリしながら回避する大蛇丸。とてもシュールで笑いを堪えるのに必死である。

 回避しねーと俺でもやべーからな本気のヒナタは。多少当たっても大蛇丸なら大丈夫だろうけど。

 

 「それ以上やるなら殺すわよアナタ」

 「!?」

 

 殺気のようなモノを飛ばす大蛇丸。それだけで動けなくなるヒナタ。うむ。大人気ない。あーあかわいそうに。トラウマモンだぜこれ。

 

 「ヒナタ」

 「ねえ……さん……」

 

 流石に殺す気は無い。大蛇丸もめんどくさいから動けないように威圧しただけである。殺しても俺は咎めたりしないんだけど後が面倒だもんね。

 誘拐とサツガイじゃその後が違うからな。サツガイだと追手がビュンビュンで大蛇丸がストレスマッハでやばい。誘拐でもやばいけど。人質がある分慎重になる。

 

 「良い子は寝る時間だよー。だからヒナタ……おやすみ」

 「まって……おいてかない……で……」

 

 ヒナタに幻術をかけて眠らせる。そして大蛇丸に目配せしながら早く行けと指示するのだが。

 

 「……本当に良いのね?」

 「流石に二人誘拐となると日向家全員来ると思うよ。わたしの場合置手紙あるからそんなに来ないと思うけど。ヒナタはダメ」

 「そういう意味じゃないのだけれど……まぁいいわ」

 

 そんなくだらない事を言いながら日向家の屋敷から出た所にやはりというべきか、父親登場だぜ。

 アレだけヒナタが大きな声で叫ぶからもう。ほんとにめんどくさい。

 

 「娘を返してもらおうか」

 「ねえモミジ帰っていいかしら。なんだか疲れてきたわ……」

 「ちゃおー。父さん。大蛇丸君わたしからの依頼なんだぞ、ちゃんと仕事しなさい」

 「モミジ……あの手紙はどういう事だ」

 

 何かキレッキレで白眼使いつつ俺と大蛇丸を見詰めるヒアシファーザー。手紙ちゃんと置いてきたのになんでだろう。

 

 「病気治してくるだけだから安心してよー」

 「……木の葉では無理なのか」

 「特別上忍になってから禁書も全部漁ったけど無理かなって。綱手姫も居ないし連絡付かない。そこで禁術のスペシャリストに依頼したって訳なんだけど父さん聞いてる?」

 

 そう会話しつつも大蛇丸だけを器用に殴るファーザー。そして俺をお姫様抱っこしながら回避する大蛇丸。いい修行方法じゃねこれ。

 音の里に行ったら子供達にもさせよう。そうしよう。

  

 「娘はやらんぞ! 大蛇丸!」

 「ねえ、貴女。手紙とやらに変な事書いてないでしょうね……」

 「変な事ねー。大蛇丸君と結婚します。探さないでください。とは冗談で書いたねー」

 「貴女ねぇ……」

 

 大蛇丸がもううんざりだぁと無双6エンパの農民みたいな表情になった。男がそんな表情しても萌えないし、可愛くないからやめたほうがいいぞ。好きだけど。

 それにしても結婚とかイッツアジョークだぜ。誰も真に受けないだろうよ。というかまだ死にたくないから木の葉から出るのであって、まだまだ君らとキャッキャしたいから大蛇丸と研究するのになんでだ?

 ちゃんと枕元に忍び寄って手紙置いてきたから大丈夫だと思ったのになー。 

 

 「娘はッ! 渡さン゛ン゛ン゛ン゛ン゛!」

 「勘弁してくれないかしら……」

 

 それはかつて見た海賊王になりそうな麦わら君がキレッキレでド派手なミンゴを殴る蹴るした時のように、ヒアシは大蛇丸だけを器用に殴る蹴る。はっきり言って今のヒアシは異常だ。

 ヒアシは大蛇丸より弱いと見ていた俺なのだが……俺を抱っこしているのを含めても大蛇丸は余裕でヒアシをあしらえるはずなのに。

 どうも大蛇丸は絶不調のか、はたまたヒアシが絶好調なのか。野球してるんじゃねーんだぞコラ。

 

 「埒があかなそーなのでわたしが相手をしよっと。大蛇丸下ろして」

 「最初からこうすれば良かったんじゃないかしら……」

 

 ぶつくさ文句を言う大蛇丸を無視してヒアシに突貫する俺。

 

 「ムッ」

 「えいっ」

 「モ……ミジ……」

 

 そしてヒアシはバタンキュー。俺の16連鎖にヒアシもお手上げ。日向は木の葉にて最強。つまり最強の娘は無敵なのだ。父親くらい一発KO余裕です。術もワザマエもいりません。ただ拳。一発のみよ。

 

 「出鱈目ね貴女。日向宗家当主をこうも簡単に……」

 「多分無意識に手加減しちゃったんじゃないかな。腐っても娘だし」

 「本当嫌な子ね貴女。娘には持ちたくないわ……」

 「じゃあお嫁さんならいいの? 腐る前に貰ってね」

 「本当に勘弁してもらえないかしら」

 「今の返しすっごく気に入っちゃった。んふふ、大切に扱ってあげるから、これからはずっと一緒だよ」 

 「……墓穴掘ったかしら」

 

 頭を抱えてうずくまりながら嘆く大蛇丸。しかし俺は君を逃さないZE☆ 何故なら君の研究は大いに役立つからだ。主に俺の身体にな。

 禁書を読んでいく内に気付いたのだ、俺の読んでいる大半の著者が大蛇丸だという事に。だから君をつ・か・ま・え・た(ア赤並感)。

 今回は長生きしたいのだよ。胃と肺からドバーっと血をしこたま出したくないんだ。

 

 こうして俺は音の里へと、行くのだった。

 被害は最小限なのでセーフと言っている俺にアウトよと返すうんざりしている大蛇丸と共に。




登場人物

大蛇丸 今作のメインヒロイン 深遠を覗こうとしたら美少女の皮を被ったバケモノに捕まった

日向ヒナタ 夜の大蛇丸に果敢にも挑むが敗北 将来に期待

日向ヒアシ 娘の門出を素直に喜べない父親

日向紅葉 主人公 大蛇丸よりやべーやつ


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bygone days

木の葉の人達の日々


 「大蛇丸がのぅ……」

 

 日向ヒアシの報告を受け。日向モミジが大蛇丸に誘拐された事がわかった。

 だがモミジが置いていったとされる手紙を読むと、誘拐と言うより駆け落ちが近いのではないだろうか。

 納得して出て行ったような節もありそうである。元弟子とモミジの結婚式にいつ呼ばれるのだろうか。それとも本当に誘拐なのだろうか。

 

 平和ボケした3代目火影は悩む。

 

 「モミジは俺より強い。恐らく誘拐ではなく奴も納得した上での里抜けかと」

 

 モミジを良く知るうちはイタチはそう言い切った。

 

 「誰しもが死にたくは無い。戦場ならまだしも病なら尚の事。手紙の通りならモミジを責めるに責められんな……」

 「仮に追い忍を向けても、追い忍が誰も行きたがらないでしょう……」

 「うむ……」

 

 日向モミジ。イタチと同い年。忍者学校に入る前に白眼を開眼。イタチと共に忍者学校を首席で卒業。9歳で中忍。10歳で特別上忍になったイタチ世代のエースオブエース。

 ただし性格は快楽的で破滅的。大蛇丸が優しいと思えるほど残忍な所も見られる。任務に同行して生き残っている者は口を揃えて言う。ちいさいおんなのここわい。と。

 

 「嫁の貰い手が出来てよかったと喜ぶべきなのかと思ってしまうわい」

 「3代目……それはヒアシ様には言わないほうが良いかと」

 「わかっとる」

 

 流石に冗談である。だが、モミジが里抜けしたのは結構な問題である。里の戦力の大幅な低下だ。病で休暇をとっていたモミジ。一応長期休暇とだけ里の者には言ってあるのだが。

 その休暇中他の特別上忍に休みは無かった。それくらいの量の仕事を彼女に任せていたのである。

 人材不足が否めない。4代目と共に幾多のツワモノが散ってしまったが故の、やるせない事情である。

 

 うちはイタチはかつての同僚で、己の壁として見ていた者が居なくなってしまった事へ、僅かながらに寂しさを覚えた。

 今生の別れでは無いにしても、恐らくもう会う事はほぼないだろうと。

 

 ナルト君やサスケ、ヒナタちゃんを交えて会う事はもう無いのだろうかと、イタチはやはり寂しさを覚えるのであった。

 

 

 

 

 「んふふ。わたしを捕まえてごらん?」

 「ねえさんおいてかないでー」

 「モミジ姉ちゃんすげえってばよ!」

 「流石モミジさん! ぱねぇ! おいナルト俺達は修行だ!」

 「おう!」

 

 忍法・超越神力とのたまいながら座禅を組んで空を浮遊しながら逃げる日向モミジ。ソレを必死の形相で追いかける妹のヒナタ。眼を輝かせながらすげえってばよを連呼するナルトにサスケ。

 ナルトを監視していた暗部も口を開けてなにあれ……こわい……。と言うくらい非常識な忍術なのだが、子供達は流石モミジと賞賛しては楽しそうに追いかけっこするのみである。 

 

 「何をやってるんだモミジは……」

 

 飽きれて頭を抱えるのは中忍になりたてのうちはイタチである。イタチも天才と言われていたが、日向紅葉と言う天災には勝てなかった。

 アカデミーの頃からそうだった。モミジに常識は通用しなかった。影分身を出す授業があれば多重影分身を使い、変化の術の授業ならば教室に居る生徒全てを変化させて全てモミジにする始末。

 

 中でも酷かったのは幻術の授業で、幻術を里中にかけて住民全員を夢の世界へ誘い笑っているのである。猿でもできる優しい世界の作り方と彼女は笑いながら言っていた。

 

 それに激怒したダンゾウにモミジがまたしてもしでかす。三代目の女装した変化入り影分身を100体ダンゾウに迫らせるという、大蛇丸も真っ青の返しをする日向モミジにはダンゾウも涙目になりながら逃げた。

 それを水晶の術で見ていた三代目は爆笑していたそうだが。ソレが毎日毎日延々と続くのだ。10日続いた時には流石に三代目もかわいそうと思うようになり、20日経った頃にはダンゾウはノイローゼになっていた。

 

 ダンゾウにとっては悪夢でしかなかっただろう。

 

 手加減と言うモノを彼女は知らない。いつだって全力で遊んでいる。そう遊んでいるのだ。何をしても十全どころか百を越えて何処か遠くへ行ってしまうのがモミジ。

 そんな彼女と腐れ縁のように関わるようになった切欠はナルトやサスケとヒナタが遊ぶようになってからだ。

 

 下忍になりたての頃はただの厄介なチームメンバー。任務も淡々とこなす。気難しいが才気溢れる才女だと思っていた。だが今でははっきり言える。彼女は木の葉のやべーやつだと。

 

 「あ、兄さん!」

 「お、イタチ兄ちゃんだってばよ!」

 「サスケにナルト君。モミジの真似はするなよ」

 

 イタチは見よう見真似でモミジの術をやろうとしている二人に一応釘を刺しておく。サスケが隠れて忍法・超越神力の修行をしていた時は冷や汗をかいた。

 里中が浮遊している忍者だらけになる未来を夢で魘されながら見てからと言うものの。イタチは拒絶反応とまではいかないが、どうにかできないかと日々考えるようになった。

 

 「えー! すっごくかっこいいじゃん。俺もやりてぇよ兄さん」

 「俺も俺も! 空飛びたいってばよ!」

 「……モミジは簡単に発動させているが高等忍術だからなアレは……習うにしても、もう少し大きくなってからだ」

 

 ブイブイブーイングを言う子供達を優しく諭すイタチ。そもそも大きくなってもあの術が使えるようになるかと言えば微妙だ。

 似ている術ですら影クラスの技術とチャクラが無ければ、発動はおろか術の原理すらわからないだろう。かくいうイタチですら謎の術という認識だ。

 今の土影。オオノキが似たような術を使うらしいが。ソレとはまったくの別系統なのは間違いないだろう。そもそも"チャクラ"を使っていないのだから。

 

 「ね゛え゛さ゛ん゛ま゛っ゛て゛え゛え゛」

 「あーららー。ヒナタは泣き虫さんだねー。よーしよし。いい子いい子」

 「ふぇぇ……もうおいていかない?」

 「それは約束できないなー」

 「ふえぇぇぇえん」

 

 いつまでたっても追いつけない鬼ごっこにヒナタが泣いてしまった。しょうがないから捕まってあげると地面に降りてきてヒナタを泣き止ませるように抱きしめるモミジ。

 これもいつもの光景だ。最初から普通に鬼ごっこしていれば泣かせないだろうにと、幾度と無くモミジにイタチは突っ込んではいるものの直る気配は皆無だ。

 

 「まーたモミジ姉ちゃんがヒナタを泣かせてるってばよ」

 「ヒナタは泣き虫だししゃーないだろナルト。それより俺達も飛ぼうぜ! 兄さん教えてくれよあの術!」

 「いや、あのなサスケ……」

 

 頭を抱えてどうしてこうなったと嘆くイタチ。忍としては一目どころか目標にすらしているが、ああはなって欲しくないとも思う。

 駄々をこねるサスケとナルトに苦笑いを浮かべながら、別の比較的安全な高等忍術を教える事によって謎の術を教えろコールから逃げる日々。

 そろそろ教えられる術も無くなってきたなと、新たに術をまた取得しなければならなくなったが、己自身の修行にもなるからなんとも言えない……やるせない気持ちになってしまうイタチを責められる人物は居ないだろう。

 

 在りし日の、穏やかな日々。 

 

 

 

 

 「大蛇丸とモミジが組んだだと!?」

 

 それはダンゾウにとって最悪の知らせ。天使が終末のラッパを吹きながらツァーリボンバーとリトルボーイとリトルガールを空一面に降らせるような。

 ダンゾウにとって大蛇丸はやべーやつだが道理がわかる分、比較的取引しやすい人物。だが、モミジは道理も通じないし常識なんて無いやべーやつだ。

 

 「木の葉はおしまいだぁ……」

 「どちらかと言えばダンゾウ様がおしまいですね」

 「うぅ……もう三代目に迫られるのは嫌だ……」 

 「……ダンゾウ様のトラウマが発動した。しばらく根も休暇だね」

 

 淡々とダンゾウの様子を見ては発言する根の者達と阿鼻叫喚で発狂しているダンゾウ。それも仕方が無いだろう。モミジに変化の術で弄られまくった後三代目の顔を見ることすらできなくなったのだから。

 三代目と顔を合せれば『ヒルゼンやめてくれ! そこは入れる穴ではない! 開発しないでくれぇえええ』とトラウマが発動し叫ぶ始末だ。

 

 ただの変化の術の影分身と侮るなかれ。100体の1体1体が三代目と同レベルのチャクラ保有に同レベルの身体さばき。ダンゾウは1体も倒す事が出来なかったどころか100体に毎晩ヤられる日々を一月近く送ったのだ。

 根の者も最初は助けようとはしたのだが、全員泣き叫ぶダンゾウを見て興奮して以来ほっておいた。命まで取られるわけではないのだからと放置する方針に切り替えたのである。

 

 『腐れ者どもめー!』と泣き叫ぶダンゾウに満面の笑みで見守る根の者達。そんな日々がまたやってくるのかと思うと、根の者達は隠し切れないほど興奮した。

 

 そう、木の葉の根は腐っていた。ダンゾウに救いは無い。

 

 「おお! 二代目様……助けてくだされ……」

 「幻覚見始めましたねダンゾウ様」

 「ダンゾウ様も歳だしね……二代目×ダンゾウこれが次の流行か」

 「イイネ」

 「俺それで本描くわ」

 「出来たら言えよ、言い値で買うわ」

 「これも……青春だぞ! リー!」

 「はい! ガイ先生!」

 

 いつのまにか紛れ込んでいるガイとリーだが普段通りなので根の者達もスルー。どうしてこうなったのだろう。ダンゾウは悪くない。悪いのはこの世界だ。

 和気藹々と和やかなムードで日々が続いてる根の者達にとって、木の葉の里はモミジが居ようが居まいが比較的平和だった。ただダンゾウだけは地獄だった。

 

 

 

 

 「ねえさん……どうして私をおいていったの……」

 

 ヒナタにとって姉とは掛け替えの無い存在だった。物心付いた時からずっと傍に居る存在。ヒナタがあれこれモミジの物を欲しがっても嫌がらずにくれる。

 厳しい父と違い。わがままを聞いてくれる存在。甘えてもいい存在だった。

 

 余りにも修行が厳し過ぎて、泣いてしまった事もあった。だが姉に甘えられると思えばそんな修行も苦ではなかった。

 

 姉がどれほど優しいかを知ったのは分家の自分達以外の兄弟や姉妹の様子を見たり、護衛のネジに普通の兄弟とはと話を聞いてからだった。

 それからは我慢を覚えた。甘え過ぎていたと。大好きな姉に万が一でも嫌われないようにと。だが、モミジは甘やかす。わたしの前では我慢しなくていいんだよと。

 任務があるのに傍に居てという願いも、任務に影分身を行かせ一日中傍に居てあげるほどにヒナタの甘い願いは叶えられる。

 

 今にして思えば異常なほどヒナタに対して優しかった。いじわるはたまにされるが、それもスキンシップの範疇だ。

 

 どれだけ姉が非常識な存在と周りから思われていようと、ヒナタにとっては優しい姉でしかなかった。

 

 そんな姉がヒナタの前から消えてしまった。

 

 思えば思い当たる節はあったのだ。何時ものように姉が自室で一人で居る時の様子をこっそり襖の少し開いた所から覗いていた時だ。

 

 姉は自室で何をするでもなく。ただ遠くを見ているような眼をして、ぼーっとしている時が多い。

 だが、この日は違った。何かを思い出したかのように、悲しそうな表情を浮かべながら『呪われてる』とぽつりと呟いていた。

 

 何処か遠くへ行ってしまいそうな姉を見て、道場から逃げ出した事すら忘れ姉の胸に飛び込んでしまう。

 

 抱きしめれば優しく抱きしめ返してくれる。何時もの姉に戻ったと思ったヒナタは喜んだ。

 だが、それは間違いだった。姉は遠くへ行ってしまった。

 

 姉が色々な所を連れまわしてくれたおかげでナルトやサスケと言った同年代の友達も居るが、姉が居ない。大好きな姉が。

 

 それからというものの、ヒナタは暗くなってしまった。思えば姉という守りが無くなり周りが怖くなってしまったのだ。

 どれだけ姉に守られてきたのだろうか。まだ物心付いて居ない時、誘拐されそうになった時も身体を張って守ってくれたのがモミジという姉だった。

 

 「ねえさん。お姉ちゃん。モミジおねえちゃん。う……うぅ……」

 

 部屋の主が居なくなった部屋で一人ヒナタは泣いている。だが抱きしめてくれるあの人はもう居ない。

 父であるヒアシも暗くなってしまった。俺がしっかりしていれば。俺に医療技術があればと一人嘆くようになった。

 

 「モミジ様にとって……日向家は……取るに足らないモノだったのか……」

 

 日向家にとってもモミジの存在はでか過ぎた。ネジにとっては目標でありヒナタと同様守るべき存在だったモノが唐突に消えたのだ。荒れに荒れた。

 大蛇丸に誘拐されたと言うが、そんなモノ信じられるか。ネジにとってモミジは歴代最高の忍の力を持っているモノ。

 そんなモミジが大蛇丸に誘拐されるような玉か。ありえない。何か目的があって付いていったに違いないと確信している。

 

 何が彼女をそうさせたのか。力の無い自身のせいか、甘えるだけの妹のせいなのか。ぐちゃぐちゃになった感情は他者に牙を向ける。

 ネジがヒナタに当たるようになったのはこの頃からだ。行き場の無い感情故、子供だから仕方が無いのだが。

 

 ヒナタにとって、ネジにとって、日向家にっとってモミジという存在は甘い毒だったのかもしれない。 

  

 

 

 

 うちは家にとってもモミジという存在は小さくなかった。失ってから気付く、その存在によって多く助けられていたと。

 

 ナルトとサスケも普段通りに遊んではいるが少し元気が無くなった。ナルトは『モミジ姉ちゃんみたいに飛ぶんだってばよ』と言わなくなった。

 だが、空を飛ぶ事だけは諦めていない。飛べたらモミジ姉ちゃんが帰ってくると思っているからだ。

 サスケはモミジの真似をしなくなった。否、できなくなった。しても悲しいからだ。遊んでくれるモミジが居ないからだ。

 

 二人にとってモミジはイタチと共に見守ってくれている優しい姉というような存在だ。

 

 そもそも何故ナルトがサスケと一緒に暮らしているかと言えばモミジのせいである。

 イタチやサスケの母うちはミコトの前にナルトを連れて行って、ナルト君はなんとクシナさんの子なのですと暴露したせいだ。

 

 モミジにかかればトップシークレット何ソレ食えるのである。禁書を読む傍ら発見した書物による"単なる暇つぶし"による行動だった。

 

 ブランコに一人乗っていたナルトを確保してうちはミコトに突貫バトルである。人柱力も里の均衡もへったくれもない。

 ナルトの母の友達だったミコトは一言了承と言ってそのままうちは家に居候する形で収まった。

 

 最初はサスケと反発するものの、すぐ仲良くなっていき。互いをライバル兼同居人のような半分家族のような。そんな関係になっていった。

 

 本当に荒らすだけ荒らしては知らん振りだなとイタチは思う。手を差し伸べたなら最後まで責任を持てと思わなくはない。

 

 思えば班で行動していた時もおかしかった。医療忍者のくせに常に最前線。ビンゴブックの首ゲットだぜと元上忍の抜け忍を軽く捌く下忍は大概おかしかった。

 担当上忍はもうモミジだけでいいんじゃないかなと灰になりながら崩れる始末。

 

 破天荒すぎる。だが己の行動に責任は持たない。飽きればポイと捨てるような、子供らしい感性と言えばいいのだろうか。そんな冷酷な所もある。

 例えば、護衛任務で護衛対象を送り届けた後は、何があろうが任務外だから知らないと参加する事は無かった。

 

 例え送った矢先に護衛対象が襲撃されようとも、彼女は眉一つ動かさず団子を食べて休憩していた。

 当時は可哀想だとは思わないのかと、任務が終われば知らん振りは人道に反しているんじゃないかと。同じ班だったシスイは怒っていた。

 

 イタチはふと、今思えばモミジは道理に反してなどいなかったなと。むしろ契約と言う理を重視していたかのようにも思えた。

 何故なら契約は道中のみで送り届けた後の事など契約内容に含まれていなかったからだ。

 

 結局あの少女は何を主軸に考え行動していたのだろうかと、イタチは考える。考えるが己にはとうてい理解できまいと考える事を放棄した。




搭乗人物

三代目 闇の火影 ダンゾウが己を模した影分身に犯されるシーンを水晶に保存しては毎晩観ている

ダンゾウ 犠牲

ガイ&リー 何処にでも偏在している青春妖精

下忍の時点でやべーやつ 木の葉戦闘航空団11飛行隊付き教官 元大統領 TACネームはモミジ

考えを放棄した奴の弟 脳内にアララトがリフレインする 将来の夢はグリペンになる事 TACネームはサスケ

将来の夢は空飛ぶ火影のガキ 木の葉戦闘航空団11飛行隊付き人柱力 TACネームはナルト

うちはミコト 秋子さんレベルの了承ガール

根の方々 腐ってやがる……


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クーデターが起きないとイタチは無職になる

abgrund 奈落の底


 「何故急にコートを作ろうと思ったのかしら」

 「風が冷たいし、天使も居ないからねー」

 「意味がわからないわ……交わす言葉も私達には不要とか言いそうね貴女……」

 

 俺は最近マンネリ気味だ。夫婦で言う倦怠期。何事にも鮮度が大事と言われるが、そもそも動かなければ新しい発見は産まれない。いわゆる研究行き詰まり。

 大蛇丸にエスコートされて、俺の研究のついでに音の里の発展に尽力したはいいがピースが足りない。

 

 「暁のお揃いコートを見て、ふと音の里にもお揃いのコートが必要だと感じただけだよー」

 「お揃いじゃないと嫌とか言いそうね……わかったわよ、お揃いを着てあげるからそんな目で見ないでちょうだい」

 

 最近は大蛇丸も折れたような素振りを見せる。最近は反発してくれないので折檻はしていない。ただジト目で見るだけだ。出会った当初のツンツン具合が楽しかったのに、コイツ俺の事好きになってもたんちゃうか。

 わかるけどね。自分の不死に関する研究が急速にカタチになって、目処も立って実行するだけになったんだから。いいよな君は目処が立って。

 

 暁というのは最近噂の戦闘傭兵達で、なんかかっこいいコートをお揃いで着てた。フレンチクルーラーがものすごく食べたくなったのは秘密だ。あのコートに触発されて俺は音にもコートが必要だと試作品を作って君麻呂に大量生産させている。

 

 最近よく授業を見る元気な4人組の子供達には、お揃いのコートを着せて戦場のカルテットって名付けて音楽界を震撼させようと思います。多由也は喜ぶだろう。

 よくよく考えると俺は音楽という文化に救われている部分がある。音楽が無ければ今の俺もなかっただろう。音の里に来たのも必然だったのかもしれない。

 かつてはピオーヴァ音楽学院理事長を務めていた俺だ。音楽なら任せろ。クリス君、いい雨だね……

 

 「そう言えば話は変わるけれど、ダンゾウが最近情報くれなくなったらしいね。大蛇丸君何か嫌われるような事した?」

 「……単に寝込んでるだけよ彼。主に貴女と猿飛先生のせいで……ね」

 「わたし何かしたっけ……というか三代目?」

 「水晶で録画してたそうよ……貴女の影分身のアレ」

 「あーね」

 

 俺にいじわるばっかりしてくるダンゾウに嫌気がさして、お返しをしたんだっけか。ヤられたらヤりかえす。バイ返しだ! あんまり覚えてないけど。

 

 「これは別の筋からの情報だけど、近い内にうちは一族が粛清されるそうよ」

 「ふーん」

 「興味なさそうね、イタチとは仲が良かったんでしょう?」

 「んー? もしかして焼いてるの? わたしは大蛇丸君一筋だよー」

 

 そう言って抱きしめると、大蛇丸は『はぁ』とため息を付く。なんや倦怠期か。わたしの身体に飽きたのね! 一度も抱かれた事無いけど。

 

 「貴女に普通の感性を求める私が間違ってたわ……ごめんなさい、忘れてちょうだい」

 

 人を下劣畜生みたいに言いやがってとジト目で見ればすぐ謝る大蛇丸。ちょっと太古の記憶が蘇って殺気もれてたかも、すまんな。

 

 「それにしてもうちは一族かぁ……なんで粛清されるんだろ、一族からクレイジーサイコホモでも出た?」

 

 最近思い出したのだが、うちは一族にはクレイジーサイコホモが居るはずなのだ。多分クレイジーサイコレズな静留ちゃん並にやべーやつで確かフルフルニィする人。

 

 「誰よそれ……違うわよ、何でもクーデターを起こしそうなんですって。悪い子達よね。自分達が籠の中でのうのうと平和を享受している身にも関わらず贅沢を言う愚かな子達。うちの子達が聞いたら怒りそうね」

 「……」

 

 俺はその言葉に咄嗟に返さなかった。返せなかった。こういう所がずるいと思う。悪い子ぶってるいい子と言えばいいのだろうか。大蛇丸の根底にあるのは悪意で隠してある善意だ。

 大蛇丸は戦災孤児等を引き取っている。そりゃ実験体にしたり、色々非人道的だとか周りは言うかもしれないが。俺の感性からしてみれば天使のような行いだ。

 

 ――だから俺はコイツを好きになってしまっていたのだろうか。まあ人間としてだけど。

 

 よく考えてみろ。普通の孤児の行く末を。俺はソドムで暮らしていた事もあるからわかる。もっと悲惨で糞みたいな結末を大抵迎える。あの頃の俺は荒んでたなあ。頭に語りかける虫ケラ共のせいだが。クリミナルパーティするぞ糞が。

 

 よし、いい事を思いついた。実験体の数も増やせるし一石二鳥だ。様々な点で保険にもなる。やるべきだ。大蛇丸も反対しないだろう。

 

 「ねぇ、遊びにいきたいんだけど」

 「っ!? 貴女まさか……」

 

 数少ない言葉でも通じ合えるとか夫婦かよ。ほんと使えるね大蛇丸は。忍者にするのはもったいない。やはり魔術師に向いている。

 

 「悪い子達はうちの良い子達に説教してもらおっか。お前らは恵まれてるんだぞー! って」

 「貴女はいつも唐突……本当嫌になるわ」

 「んふふ。悪い子はしまっちゃおうね。大蛇丸君、まだ里に開拓して間もない場所あるでしょ。

  そこに悪い子達を閉じ込めちゃうのってどう?」

 「里長は貴女よ、私は貴女に従うわ」

 

 そう。現在音の里長は俺である。日向紅葉さんは音影になったのだ……

 そもそも音の里自体俺と大蛇丸が孤児やらはぐれ者を拾ってきて作られた里なのだ。当初の運営資金はモミジチャンマネーと大蛇丸マネー。ついでにパパマネーとサムライマネー。

 ようやく軌道に乗り始めて支援される必要もなくなり俺達の里はは自立した里となったのだ。

 

 だからだろうか俺が里長に就任した時も誰も反対しなかった。皆ジークハイル連呼してたけど。総統になったつもりはないんだけどなあ。大総統には一度なった事あるよアメストリスで。

 

 「じゃあ来週辺りに木の葉行くから留守番お願いね」

 「私も行くわよ」

 「そんなに一緒に居たいの? じゃあ一緒にいこっか」

 「貴女一人だと無茶な事しそうだから付いていくだけよ……わかるかしら、貴女のしでかした事の後処理を一人でする辛さが」

 「そんな事言ってわたしと居ないと寂しいんでしょー。このっこのっ」

 

 はいはいそうねとおざなりに肯定する大蛇丸。呆れる事すらしなくなった君は本当に倦怠期夫婦だね。

 

 ……俺の研究と野望の為にうちはになってもらうぞ、犠牲一族よ。

 

 

 

 

 そしてやってきました木の葉の里。相変わらず平和である。ラブアンドピース! 争いなんてくだらないね! ラブアンドピースを壊そうとする悪い奴らを仕舞いに来た俺は悪の味方モミジチャン。

 実は予め三代目と大蛇丸との間で話は付いているので何も問題ないのだが。下っ端のうちは一族には知らされていないけどね。

 ほんとよく出来た嫁である。嫁でいいのだろうか、俺的に大蛇丸は嫁なのだが身体的には俺が嫁なのだろうか。心は女だが身体が男? の大蛇丸と心は男だが身体は美少女の俺。BLなのかGLなのか今の俺には理解できない。

 そんなしょうもない事を考えつつクーデターを起こそうとした悪い子は仕舞っちゃおうね。彼らに認識できない速度でポイポイと俺の魔術により彼らは消えていく。

 少々抵抗があったものの。俺の魔術で亜空間に移動させて保管した。犠牲一族は音の里で開拓民になるのだ……

 

 そう、俺の本業は忍者ではなく魔術師だ。起源であり、呪いの原因でもある。そろそろ宇宙の悪意に打ち勝ちたいね。結構気に入ったしこの世界。

 

 「それは口寄せを弄ってるのかしら」

 「うん。基本は口寄せの契約だけど魔術ミックスで弄くりまくってる。相手は拒否できないし強制で亜空間にポイー。帰ったら教えよっか?」

 「お願いするわ」

 

 大蛇丸からは相変わらず出鱈目ねとお褒めの言葉を頂く。そりゃ馬鹿みたいな数生きては死にを繰り返してるからな俺は。これくらい余裕だ。ああ……昔を思い出してはいけない。イライラして殺意と憎しみと切なさの塊のようなものが出てしまう。 

 横に居た大蛇丸がぎょっとした表情で『ごめんなさい。気に障ったかしら?』なんてしおらしい事を言うものだから、抱きしめて鯖折したくなったがやめといた。

 なんでもないと、ぶっきらぼうに言ってしまったが伝わっただろう。お前に殺意を抱いてる訳ではない。それくらいわかるだろ。

 

 というより君も大概だろうに。俺から魔術を習得した大蛇丸はまるで仙術ねという感想を言いつつ、魔術師として恥ずかしくないレベルで魔術を習得している。

 確かに自然エネルギーを利用する所は変わりない。そもそも身体に定着させる必要性も無いからな。相性というのもあるのだろうが、大蛇丸にはこっちのほうが才能があった訳だ。

 具体的には病気で死掛けだったリゼットちゃんレベルの才能だ。懐かしいなぁ。虚無(クリフォト)の魔石を使った実験も中々に興味深い研究だったよ、俺には意味が無かったが。

 

 正直俺以外には負けんのちゃうか。仙術は修め切れなかったらしいが、魔術のような仙術もどきは俺の教えたモノを全てモノにしている。

 魔術師として幾千もの時を生きてきた俺より才能があるかもしれない。まぁ1000年経てば俺を越えるかもしれんね。そうなった大蛇丸を見る事無く、俺がこの世界から消えている方が確率は高いが。

 

 「とりあえずこれで全員かな。犯行声明もばっちり各家に置いてきたし」

 「あの頭の悪そうな手紙を置いてくる必要性はあったのかしら……」 

 

 【悪い子はしまっちゃおうね。 BY日向モミジ】ときちんと犯行声明を律儀に各家に置いてきた俺はとても礼儀正しく、素晴らしい人格者だなと思う。木の葉の里のワルガキも見習え!

 ちなみにフガクやミコトの宗家だけは手付かずだ。人柱力を監視する暗部も居るしめんどくさい。

 一族ごっそり居なくなればクーデターは起こせん。人的資源確保ォ! 森久保ォ! 後は音の里でうちは一族使って人体実験しましょうねー。という具合だ。

 

 「何か居るわよ」

 「ああ、あの二人かー。ちょっと待っててね」

 

 悪い子を全員しまって木の葉の里から出たはいいんだが、見覚えのある奴らが二人森の前で立っていた。シスイとイタチである。しょうがないので俺が先行して二人に接触だ。大蛇丸だと八つ当たりで殺しかねない。

 

 「ちゃおー。イタチにシスイおひさー」

 「モミジ……お前は何時も無茶をする……」

 「この奇天烈馬鹿娘は~!」

 「会っていきなり何で殴りかかるかなシスイは」

 「無茶ばっかりしやがって、少しは俺達を頼れ! 仲間だろ!」

 

 無駄に瞬身を使いつつ俺の頭を叩こうとする悪い奴だな。イタチを見習え、いつも落ち着いてるぜ。しかしコイツはまだ俺を仲間と言うか。俺の所業を何一つ知らないまま、フレンドリーな対応をする様は失笑ものだぜ。そう考えるとシスイ君は良い子だね。そのまま何も知らずに、綺麗な記憶の中で生きていけ。俺は何も言えないわ。

 

 多分三代目からの差し金だろうな。どういう説明をしたのやら……いらんお節介だわー。

 

 「連れ去るのはいいが、その後どうするつもりだったんだ?」

 「んー。薬と幻術と暗示で優しい世界?」

 「だと思った。本来俺達の仕事なんだけどな……」

 

 呆れながらもやるせない表情のシスイに頭を痛そうに抱えるイタチ。

 

 「俺達が説得するから俺達も連れて行け。その方が早い」

 「三代目の命でもある」

 「えー……」

 「えーじゃない馬鹿。何時もお前はそうだ。一人で突っ走る。あの頃からまるで成長してないな」

 

 馬鹿馬鹿言いながら俺の頭を小突くシスイは俺の父親気取りかな? 父親ちゃんとおるぞ。甘やかされまくって修行以外で殴られた事ないけど。

 すると先ほどまで離れた所から無言でこちらを見詰めていただけだった大蛇丸が俺のそばまでやってくる。

 

 「およ?」

 

 無言で俺を持ち上げ、抱きかかえてきた。人肌恋しくなったのかな。

 

 「それ以上茶番を続けるなら殺すわよ」 

 「っ!?」

 「大蛇丸……」

 

 キレながらお姫様抱っことはコイツやりおる。急にどうしたんだろうか。昔の仲間とイチャイチャしてるわけではないが浮気してるとでも思ったのだろうか。

 ただのスキンシップなのでセーフ! というより結婚もしてねえし浮気も糞もねえよ。気分は同窓会に浮かれている若奥様である。

 

 「落ち着いてよ、君そんなの柄じゃないでしょ」

 「目の前でくだらない茶番を見せ付けられたら、温厚な私でも腹が立つわよ……覚悟は出来ているかしら、うちはシスイ」

 「えっ……」

 

 大蛇丸がビンビンに怒っていらっしゃる誰か咥えてさしあげろ。帰ったら俺が咥えてやるか。多分嫌がるだろうが。というより大蛇丸は俺の奥さんごっこでもしてるのだろうか。キれる要素どこ? ここ?

 真っ青になったシスイが平謝りでイタチは無言で頭を下げて大蛇丸に挨拶している。

 

 「これが青春だ! リー!」

 「はい! ガイ先生!」

 

 そして何故か居るガイとリー。木の葉では日常茶飯事なので全員スルー。

 

 大蛇丸は今日イライラしやすい男の子の日だったのだろう。運が無いなシスイ。

 殺気駄々漏れの威圧しまくりの大蛇丸にどうどう言いながら、俺は大蛇丸にお姫様抱っこされつつ二名お客様を連れながら音の里へ帰るのであった。

 




登場人物系みたいなー

君麻呂 コート職人 愛読書はコデックス・セラフィニア○ス

大蛇丸  不屍転生の術に魔術のような仙術を取り入れてまったく別物の術を完成させるくらい魔術の才能アリ

大蛇丸の夫 しまっちゃうお姉さん 弟子が数人世界を破壊している実績あり

ガイ&リー 青春の妖精 青春っぽい所にどこにでもわく

うちはシスイ 同窓会で既婚者の同級生にちょっかいかけて殺されかけた男

うちはイタチ 仕事をモミジに奪われ無職になった 


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それは、妄執と狂気に至る姉妹愛

engagement


 

 ――おめでとうございます。あなたは魔術少女に選ばれました。

 

 別の世界で産まれた当初は、そんなファンファーレが頭をよぎってた。頭ハッピーすぎるだろう俺。語尾にぽんが付くやべーマスコットも居なければ、森の音楽家も居なかったのにな。そもそもそんなアプリで遊んだ事も無い。

 強制される人生リセマラは駄目でしょう。そもそもリセマラできてないし、排出固定じゃん。アヴ・ラパチ・プク・バルタ様助けて! そんな適当な叫びは無論届かなかった。俺ペチカ派だったし。そもそも届いてたら材料にされる。

 

 現在俺は初心に返るくらい少々困惑している。

 

 「挨拶したほうがいいのかしら……」

 「柄じゃないでしょ、やめとけば?」

 

 最近大蛇丸が瞑想しつつ迷走し続けてます。いやさあ、大好きとか好きちゅき愛してるーとか普段面と向かって言ってるけど人間的な意味でだぜ?

 それを真に受けてしまったのか、大蛇丸はご両親に挨拶したほうがいいか俺に聞いてくる始末。こいつぁひでえや。なんて日だー。

 

 そんな天中殺みたいな日だが、音の里で開拓民として拉致ったうちは一族もイタチとシスイの説得(物理)もあって納得して音の里で、平穏無事に奴隷生活している。

 喚きまくってるから俺もいっちょしばいたろかと思って、行けばキャーキャー言われながら逃げられた。大蛇丸が俺を止めてよかったな、止めてなかったらお前らエドテンボンバーのボムになってたぞ。

 

 イタチは木の葉の里に職探しの為帰ったが、シスイは音に住む事になった。監視役をするらしい。これは内々で大蛇丸と三代目が決めていたそうな。

 何勝手に決めてるかなーと大蛇丸に言えば、この方が管理が楽でしょと言われ。それもそうだと思って任せている。

 

 出来た奥さんだわ。多分生物学的に男だけど。心は出来る奥さんしてるわ大蛇丸。

 

 「ねえ貴女」

 「なに?」

 「イタチにも言われてると思うけれど、一度本体か分身を日向家に送った方がいいわよ。貴女の妹、木の葉の里の連中が手に負えないほど荒れてるらしいじゃない……」

 「あはは……」

 

 そうなのだ。聞けば俺が木の葉を去った後ヒナタがやべーやつに進化したらしい。はじめのうちは暗くなってションボリしてて、ネジにそれを毎日弄られて泣いていただけらしいのだが……

 ある日を境にネジとヒアシをサンドバッグにし始めたらしいのだ。ソレも生気の無い眼でお姉ちゃんお姉ちゃんと呟きながら。

 ネジとヒアシ、ついでにヒザシもボロ雑巾にして日課のように日向家の裏庭に捨てているそうだ。

 

 イタチやナルトやサスケも止めようとはしたが、なんとイタチ達まで裏庭に捨てられるという始末。イタチが三代目と相談した結果俺にお鉢が回ってきたわけだ。

 

 分身送っても分身すぐ殺されるんちゃうか。

 

 元々幼女の頃から中忍くらいなら鯖折できる力を持っていたマイシスターだったが、才能が開花してしまったらしい。上忍も片手であしらうほどに。

 自分以外は敵と認識して半径3m以上は誰も近寄らせないらしい。アカデミーの先生もこれにはお手上げだそうで。何とかしてくれと、いつのまにか音の里へ観光しにきていた三代目の影分身とイタチに頼まれた。

 

 あまり行く気にはならないんだがなー。俺って教育に悪い存在だろうし。悪化するんじゃないだろうか。

 

 「貴女が里帰りしている間に、計画を始めようかと思ってね。これから暁に潜入することにするわ……無論貴女の為よ? 浮気なんてしないから安心なさい。それとも本体でこっそり着いて来る? でもあまり行かせたくないのよね貴女を暁には」

 

 コイツ不死になってから性格変わってねえか。俺のせいか、俺のせいなのか。

 

 「……どうしちゃったのさ大蛇丸君。柄じゃ無い事ばっかり最近言ってるけど。着いていってもいいけど本体は里の警備があるから無理」

 

 本当にどうした大蛇丸。お前男にしか興味ないんじゃないのか。この前も貴女にあげるわとか言って草薙の剣くれたし。

 

 「これでも貴女に感謝してるのよ? それに私にも人並みには独占欲くらいあるわ。そうそう貴女の妹を一度遠くから見てみたけれど、イタチをまるでその辺りの下忍をあしらう様に庭に捨ててたわよ彼女。このままほって置くと火影すら庭に捨てるわね彼女……音の宣戦布告とみなされるかもしれないわ、さっさと貴女がフォローしてきてちょうだい」

 

 「うえぇ……」

 

 気分はフィッシュ&チップスの為に戦うシグニットちゃんである。俺は頭を抱えた。ヒナタそんな強くなったのか。というか俺とお前とはギブ&テイクのビジネスライクな関係じゃなかったのか。ニコニコしながら俺を見詰める大蛇丸。

 舌を出してまるで蛇みたいにこちらを伺っている。結構可愛いじゃん。でも蛇系ヒロインはやべーやつが多い(経験談)。そう言えばこいつ蛇のやべーやつじゃん! (再認識)

 

 「貴女の困惑する表情そそるわねぇ……「ねぇ、痛いのと、気持いいの、どっちがいいかな?」お茶目な冗談よ。笑って流して頂戴。本音を言えばこのままだと貴女の計画半ばで私が精神的に殺されるかもしれないじゃない……貴女の妹に。

 あの娘からしてみれば私は優しいお姉ちゃんを攫った悪人なのよ。見つかったら無限にサンドバッグされそうだわ……いくら不死になったとしても精神を殺されて、生きるサンドバッグになるのは嫌よ。そんな茶番御免だわ」

 

 「確かにそれはわたしも困る。わたしの願いはまだ成就してないからね。じゃあ里帰りするかー。可及的速やかに」

 「お願いね」 

 

 確かにこのままほおって置いたらヒナタが鬼神化して転生眼開眼ヒナタTUEEE展開になって俺以外の人間滅ぼして物理的ファンタズマゴリアENDになりかねないからな。血の赤い夜は勘弁だ。

 今回の世界はまだ諦めるには早い。『もう遅えんだよ!』とポポルさんに言われてもいないし、グズグズが虐められて『力さえあれば……』と呟いてもいない。色々と試したい事がありまくる。まだ人間を滅ぼす気は無い。

 

 なので可及的速やかにマイシスターのご機嫌を伺う事にした。

 

 

 

 

 今となっては懐かしいこの世界での生まれ育った町。警備ザルだねー木の葉は。純粋に妹が住む里の警備が心配になってきたので、顔を見せたら門番は見て見ぬふりをするだけだ。むかついたのでメンチ切って10分くらい睨んでやった。それで恍惚な表情を浮かべる門番は良く鍛えられている変態だ。うむ、安心だな。

 ナルトを道中でみかけたのでラーメンおごってやった。モミジ姉ちゃん久しぶりだってばよと泣きながらラーメン食べてた。軽くヒナタの様子を聞けば真っ青になってモミジ姉ちゃんヒナタを頼むってばよ……と震えながらラーメンを食べてつつ俺にこれまでの事を語ってきた。

 

 大体は三代目とイタチに聞いたとおりなのだが、そもそもの原因は親にあるかもしれないということだ。ハナビという妹が増えたそうだ。やったねモミジチャン家族が増えたよ。俺がくまのぬいぐるみを持っていて、近くに力士が居たらバッドエンドだ。

 どうも俺という潤滑剤があったから、ヒナタもヒアシやネジとどうにか家族をやっていたらしい。ナルトの主観だが。

 

 ナルトもサスケと共にどうにかしてヒナタを宥めようとしてたらしいんだが、気付けばヒナタはおねえちゃんしか言わなくなったらしい。

 ナルトとサスケもこれはやばいと思ってイタチに相談そして――裏庭へ。

 

 「俺ってば日向の家に住んでる訳じゃないからずっとは無理なんだってばよ。モミジ姉ちゃんわかるだろ。

  それに家族間のデリケートな部分も問題だから俺やサスケが突っ込んでも解決しないってわかるんだよ。というか突っ込んだら裏庭に捨てられた……

  やっぱ家族であるモミジ姉ちゃんが、これはどうにかするべき問題なんだって俺は思う。というかだいたい姉ちゃんのせいだろ」

 「はい」

 「ヒナタをほったらかしにしたヒナタの父ちゃんも悪いけどさ。モミジ姉ちゃんはそれまでずっと守ってきたんだろヒナタの事? それを途中でほっぽりだすのはよくないと思うんだよ俺は」

 「おっしゃるとおりで」

 

 何故俺は子供に説教されているのだろうか。

 

 「俺もサスケも、ぶっちゃければモミジ姉ちゃんとは仲良かったけど……ヒナタとサシで遊んだ事とかはないからモミジ姉ちゃん抜きだと、どうしたらいいかわからなかった。これは少し俺達にも悪い部分がある。

 昔モミジ姉ちゃんに教えてもらった触れちゃいけないライン? それを越えるかもしれないって思って冷や冷やしながらだったっから……やっぱりモミジ姉ちゃんのせいだな、うん。あと女の子の悩みは女の子が聞いてあげるべきだと俺は思う」

 「あー……」 

 「というかもうヒナタのサンドバッグにはなりたくないってば……モミジ姉ちゃん頼むからヒナタを元に戻して欲しい……モミジ姉ちゃんにしか出来ねえ事だこれは」

 「おっけーわかった。後はモミジ姉ちゃんに任せなさい。ナルト君はよくヒナタを見てくれているんだね。ありがとう。これからも仲良くしてあげてね」

 「お、おう! ラーメンが美味いってばよ! おっちゃんおかわり!」

 

 そういえば同世代の友達に女の子居なかったなヒナタ。これは俺が原因か? アカデミー行ったら友達くらい100人できるだろうと思ったけど、友達や家族をサンドバッグにする女の子はダメみたいですね。

 ラーメン食いながら俺に説教かます四代目の子供。昔からしっかりした子供だと思っていたが、妙におせっかいに育ってしまったな。

 俺が教育したわけではないが、うちはミコトはしっかり教育できてるらしい。うちの親にも見習わせたいぜ……

 

 そしてラーメンを食べ続けるナルトにお金を渡しつつ、一楽を後にした。

 しっかしそんなにヒナタやばくなったのか。なんだか俺も震えてきた……! 影分身だが流石に可愛がっていた妹に殺されたくないです。

 

 そんなこんなでやってきました久々の我が家。そして久々の自室。何故か俺の部屋で寝ている第一ヒナタ発見。俺の服にくるまれて寝ていやがる……幸せそうに。問題なくね?

 だが俺の侵入に気付いたのか目を覚まし。俺を凝視するヒナタの目にハイライトは無かった。これはいけない。

 

 「ちゃ、ちゃおー? ヒナタ元気してた?」

 

 恐る恐る声をかけてみると瞬身の術で突撃されました。その間わずか0.01秒。最早四代目の飛雷神レベルの移動速度じゃねえか。我が妹ながら恐ろしいほどに行動が早かった。

 

 ヒナタが暗殺者なら俺は今頃死んでるね。凄まじい身のこなしですね……

 

 「……ヒナタ?」

 「……」

 

 無言である。俺の無い胸に顔を埋めながら、ただ俺を抱きしめている。ああ、これは駄目だ。

 

 「急に居なくなったりしてごめんね。影分身だけでも置いて置くべきだったね……ごめんね」

 「……」

 

 ひたすら無言。顔もあげてくれない。話してくれないし離してくれない。おねーちゃんこまっちゃうなー。とりあえずなされるがまま1時間くらい経過した。

 

 「おねえちゃん」

 「はい。あなたのおねえちゃんですよー。大きくなったねヒナタ。わたしと同じくらいの背じゃん。おねえちゃんもうすぐ身長抜かされちゃうなー」

 「……ほんもののおねえちゃん?」

 「一応本物というか影分身だよー。本体は仕事で忙しいの。実はお姉ちゃん里長になったのだ。毎日がカーニバルで忙しいん……」

 

 抱きしめる力が強くなってきた。これは鯖折されるのか、ついに鯖折のヒナタが覚醒してしまうのか。影分身だからいいぞ。

 

 「おねえちゃん」

 「はい」

 「おねえちゃんおねえちゃんおねえちゃん」

 「よしよし」

 

 幼児退行でも起こしているのか、口を開いたと思えばおねえちゃんしか言ってくれない。そう言えばねえさんって俺の事呼んでなかったかな。ヒナタがものすっごい小さい時におねえちゃんって呼ばれてた気がするが。

 

 「……」

 

 顔をあげて俺を見てにこっと笑顔を見せてくれた。そうそう。笑顔が一番やで。けど何か悪寒がするんだぜ。能面みたいな笑顔なんだぜ。

 

 

 「おねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャン」

 

 「」

 

 ヒエッ……

 

 「モウハナサナイ」

 「hai!」

 

 それは、妄執と狂気に至る愛かな? 俺は秋五じゃないのでセーフ! ヒナタは七七ちゃんじゃないからセーフ! セーフじゃないと俺が次の世界で達磨になるのでセーフ!

 

 「オネエチャン。ズットイッショ」

 「……こんなにも想ってくれて嬉しいよ。ありがとう」

 

 ここは求められている解は……喜んで抱きしめてあげるのが正解か。いや、違うな。俺が側に居る事が正解か。この少女はただひたすら俺という姉を求め、今まで待ち続けてきたのだろうから……こんなに執着されているとは思いにもよらなかったが。

 何を間違えたら俺にここまで執着するのか。よくわからんわ人間はやっぱり。ああでも小さい頃からずっと味方で居続けた姉という存在が、唐突に消えるとこうなるのだろうか。

 俺なんて存在すぐ忘れて母親と父親とキャッキャウフフしていると思っていたがどうやら間違っていたようだ。人間の感情というモノは幼きモノでも馬鹿にできないらしい。三つ子の魂百まで、か。

 

 俺が帰ってきたのを今知ったのかネジとヒアシ&ヒザシが襖からこっそり覗いている。ついでにヒナタの母親も。本当はお前らの仕事じゃないのかコレ。俺の娘じゃねーんだぞ。まぁ娘みたいな扱いしてたけどな。

 ほっとした表情で後は任せたぞーじゃねえよてめえら。久々に会った単身赴任中だった娘に何か言う事他にないんかい。

 つーかマジでボロボロだったなヒアシとネジ。あいつらも雑魚じゃないからヒナタが相当やべえ強さになっていると言う事になる。

 

 俺はヒナタにロックされながら一晩過ごすはめになった。そして一晩経って、ようやくヒナタは落ち着いてくれたらしい。

 

 「姉さんおはよう」

 「おはようヒナタ」

 

 ようやく落ち着いてくれて話をしてくれたのだが、あの両親ひでえ。ヒナタほったらかしにして妹こさえてた。そらグれるし、ありし日の姉求めますわ。タイミング悪過ぎる。

 俺のせいでもあるけど……不甲斐ない己と感情の捌け口に嫁とイチャつくのはいいがほどほどにしろよヒアシ。

 

 「姉さん。もう私をおいていかない? 一緒にご飯食べてくれる? 一緒に遊んでくれる? 一緒に修行してくれる? ずっと見てくれる? 私の事嫌いになってない?」

 

 落ち着いたかと思えば、微妙に追い詰められてる表情で俺に懇願するヒナタ。いやあほんとごめんなさい。こんななるとは思わなかったんだよマジで。

 

 「……嫌いになってないし、影分身でよければずっと置いておけるけどそれでもいい?」

 「……ほんとは本体が良いけど、姉さん忙しそうだから我慢するね」

 「ヒナタはえらいねー。よーしよしよし」

 「えへへ……コレカラハズットイッショ」

 

 かつてムツ先生に学んだよしよし学を実行しつつ、卜伝ちゃんに学んだ剣術をヒアシに叩き込んでやろうかとも思う何とも言えない朝である。

 俺が音に行った後もヒアシとは手紙でやりとりしてたよなぁ? 大体金の催促だったけど。どうして育児放棄したんですかね。斬神を口寄せ召喚で呼ぶぞコラ。TV局でモースを滅多切りにした感じのレベルで暴れてくれるだろう。

 いや、卜伝ちゃんはダメだ。ニコニコしながら人を撫で斬りヒャッハーだから。木の葉の里でクリミナルパーティ開催しちゃう。今はまだ滅ぼす気はないです。あの頃はよく一刀斎ちゃんと一緒に卜伝ちゃんを止めたものだ。

 

 止めた後一緒になって暴れたのはクロの歴史である。

 

 ヒナタに可愛らしい笑顔が戻ってきてご機嫌うまい! 俺の心の故郷フィレンツェの言葉で話しかけそうになったが自重した。ヒナタの琴線がどこにあるかわからないからな。

 

 「姉さん」

 「んー?」

 「呼んでみただけ」

 「かわいいなーヒナタはこのこのっ」

 「くすぐったいよ姉さん」

 

 これからは影分身をずっとヒナタの側に配置しておこう。でなければおちおち眠る事もできない。主に大蛇丸が。

 どっかのイルカ先生が見ていればこいつぁひでえやと言っているに違いない。どっかのイルカ先生、飛雷神捕虜エドテンバスケがしたいです。

 

 非常に妹成分たっぷりな里帰りになってしまったが、木の葉故致し方なし。これは青春判定されないのかガイとリーは来なかった。

 




登場系人物

モミジ ペチカ派の魔術少女 頭の中がいつもハッピーだよ

大蛇丸 原作と違いもう不老不死。将来の夢は可愛いお嫁さん

ナルト ラーメンを食べながら説教をかます原作主人公 

ヒナタ ほっておくと世界が滅ぶ 

卜伝ちゃん ニコニコ笑いながら人を殺す世界線の塚原卜伝 ぼくでん血がだーいすきが口癖

どっかのイルカ先生 おほーと言いながら生徒を順番ずつ殴る


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音のアイドル達の日常

・- -・-・・ -・--・ ・・-- -・-・ ・--・ ・-・・ --- -・


 死んでは生まれる、死んでは産まれる。違う世界で。同じ容姿で。何度死んでもこの身に宿る痛みは終わらない。誰かを助けても終わらない。善行を積もうが悪行を積み重ねようが必ず俺は病死してしまう。

 

 俺を終わらせようと京輔君のように嫌気がさして自害してもウマレル。そもそも後悔で戻るならこの黄泉返り自体が後悔だ。色々な方法で自害する事十数回、自害アプローチはやめた過去がある。今思えば無駄な足掻きだった。

 

 逃避するようにこれは仮想現実で、俺は壊れた楽園計画に接続されてる検体だと思い込みながら機械的に生活する事もあった。

 眠り姫どこだよ。自分接続切っていいっすか。なんだよこれ。なんで終われないんだよぉ! 団長ォ! と叫び狂った事もあった。狂おうが止まらないんだけどね。止まれや。

 

 贄の血とやらで延命できるかどうか実験した事もあった。だが結果は空振りである。むかついて鬼共に無双したのはクロの歴史だ。無双してすぐ血吐いて死んだからな。恥ずかしい。空振ってなけばれあの世界にまだ居たんだろうな……桂ちゃんは本当に良い子だった。

 

 どっかの箱になりたいマリアちゃんみたいに27755回頑張って生きていれば、俺のハサウェイが助けてくれると容姿のような少女じみた幻想に取り付かれた事もあった。

 無論そんな存在は皆無だ。白いウサギに出逢えなかったアリスのように、祈りは神に届かない。神が居たとしても三つ目のインド人だな。

 

 拒絶する教室ならぬ拒絶する宇宙かな? 茂木さんと結ばれるから許して。そもそもハサウェイどころか大蛇丸に捕まったね。俺が大蛇丸捕まえたんだっけ。

 

 「なんてことだ……わたしが大蛇丸のハサウェイだったのか……」

 「モミジ先生大丈夫? 笛ふく?」

 「多由也は優しいね、ありがとう」

 「えへへ」

 

 あんにゅいな俺の心配をしてくれる多由也ちゃんは天使だと思いました。ちらりと他の女生徒を見ればキンと香燐はネイルを塗るのに忙しいようだ。おしゃれに目覚めたんやね。

 

 気を取り直して、現実に眼を向けましょう。音の里長兼音の忍者アカデミー学院長である俺なのだが、生徒がやんちゃでもう大変です。教師もやんちゃでまるで動物園です。

 生徒と言えば鬼童丸が『これが覚醒した俺のステージぜよ』と糸を出して暴れては、次郎坊がオリハルコン製ゴーレムを召喚して抑えようとしている。正直一緒に暴れているようにしか見えない。

 右近が『我が恐怖の門を開けッ!!』と叫びながら謎の門を召喚しているし、左近が『ちっちぇえなあ』と憑依合体してるのに右近を挑発している。いつも女装している水月は『いつからボクが女だと錯覚していた?』と男である事を重吾にカミングアウトし、重吾は『もう男でもいい……だから……ありったけを……』とバイをカミングアウトし、見事カップルを成立させていた。水月お前男だったのか……俺より女の子になる才能あるわ。

 

 幻幽丸だけ『もう一匹いたのかよ……』とお外で蝶を追いかけているが、音の里の風物詩なので問題ない。

 お前らやべーやつに育ってしまったな。俺の教育の賜物ですね。特に右近はその内、猫のような笑い声を上げるに違いない。

 

 教師も教師で、教師として雇っている紅蓮は酒飲んで俺に膝枕させて寝てるし、桃地再不斬は白に電気按摩されて使い物にならない。鬼兄弟は凄まじく真面目な表情をしつつ神の一手を極めるとか呟きながら囲碁を打っている。仕事しろ。

 日向一族からコウでも呼んどくべきだったか、ナツでも良かったが。俺の付き人だったが今はフリーで暇しているはず。暇だろ手伝えやって言えば来るだろうか。

 近々音の動物園の園長という肩書きも増えそうである。一般的な里長なら過労死しかねないな。俺は超里長なのでその心配も無いが。

 

 ついでに言えば定期的にヒナタの所に送る影分身を回収しては送るを繰り返しているのだが、何故か俺が木の葉の里ですら先生をするはめになった。

 主にガイとリーのせいである。彼らは人の言う事を聞かないからなぁ。三代目も彼らの事はいないもの扱いだ。良かったな忍者の世界で、アナザーなら死んでるぞ。

 

 いないものの二人は青春探しの旅に出ると宣言し、各国を周りはじめたそうだ。

 

 そのせいで俺が旧ガイ班の担当上忍をするはめになってしまっていた。旧ガイ班のメンバーまで面倒見るとかオーバーワークだわ。木の葉の里に影分身の俺が5体も居るぞ。その内俺の影分身だらけになるんじゃないかな。

 そう言えばイタチが暁に潜入する仕事に就けたそうで同期として安心した。無職だとサスケとナルトにジト目で見られるもんな。出世頭の俺と比較されるのは辛かっただろう。影分身の俺も結構大変な毎日を過ごしているようだが、そんなものは別の俺が負担する事なので関係ないね。

 三代目も毎日お色気の術を習得したダンゾウと毎日修行しているらしいし、木の葉の枯れた葉もまだまだ現役だなと思う。

 

 しかし何故俺は二つの里で教師をしなければならない羽目になったのだろうか。

 

 そもそも教員免許すら持ってない俺はグレートなてぃーちゃーではない。どちらかと言えばお願いされるてぃーちゃーである。優しさがモットーデース。ヘイ大蛇丸。血が足りないネー。

 しかしどうするかねこの動物園。いくら休みの時間兼道徳の授業中なのだが、そこまで俺の授業中はリラックスできるのか君達は……と、そんな風に多由也の頭を撫でながら現実逃避しているとやって来ました大蛇丸教頭先生。

 

 「騒がしいわね。殺すわよ」

 

 一瞬で静寂を取り戻す教室。賢く座る生徒達(幻幽丸を除く)。寝ていたであろう紅蓮は俺の後ろに隠れ、再不斬と白は保健室へ消え、鬼兄弟は水溜りになった。

 

 「ちゃおーわたしのハサウェイ。教頭が板に付いてきたね」

 「くだらない事言ってないできちんと躾なさいよ。貴女舐められてるわよ?」

 「息抜きは必要だよー。何事にも……ね」

 

 舐められている訳ではないと思うんだけどなー。きちんと言う事聞いてくれるし。厳しく言うと皆直立不動で軍隊みたいになるから嫌なんだよね。

 故に俺は飴の係になろうと思ったのだ。鞭ばっかりじゃ子供は育たない。教師陣は知らん。それは大蛇丸の仕事だ。

 

 「はぁ……私の仕事を増やさないでちょうだい。聞いてるかしら鬼兄弟」

 

 水溜りに話しかける大蛇丸は非常にシュールで俺は笑いを抑えきれない。観念したのか鬼兄弟は水溜りから人に戻ると俺に助けを請うように叫んだ。

 

 「「俺達は悪くねぇ! モミジ様が言ったんだ! 『わたしの授業中はリラックスしていいよー』と! 故に俺達は神の一手を極め続け……ゴフゥ」」

 

 そんなアクゼリュスを崩壊させて犠牲の英雄にでもなったような台詞を吐きながら、大蛇丸の神速の一手によって彼らは血溜りになってしまった。

 また腕を上げたな大蛇丸よ。神の一手に一番近いのは大蛇丸なのかもしれない。

 

 「言い訳は嫌いよ、こうなりたくなかったらモミジの授業中もきちんとなさい」

 「「俺達は……悪くねぇ……」」

 

 喋る血溜りに御通夜ムードの教室。ちょっと鞭が強すぎる気がしないでもないがこれが音の里の流儀だ。 

 俺が拾ってきた手前、もう少し音の常識を教えた方が良かったかもしれないな鬼兄弟。いや、俺がここの常識教えたんだった。わはは。

 

 「モミジ行くわよ。薬が出来たわ」

 「……わかった。それじゃ業頭と冥頭と紅蓮、後はお願いねー」

 「「――イエスマイレディ」」

 「わかりましたモミジ様」

 

 紅蓮は大蛇丸が苦手。大蛇丸をいないもの扱いするレベルでだ。その内ストレスが爆発してどこぞの爆弾魔みたいに、爆発を見ては美しいとか言い出すようになるかもしれない……暁に似たようなの居るしソイツも講師に雇ってみるのもいいかもしれないな。それにしても大蛇丸怖がられ過ぎでしょう。紅蓮ちゃんのせっかくの可愛い顔が強張ってかわいそうに。

 血溜りから復活した業頭と冥頭は無駄にかっこつけて執事みたいにお辞儀している。やっぱり俺の教えた常識は間違っていたのかもしれない。

 

 さあ、息抜きの時間はおしまいだ。こう見えて俺は常にある痛みによってストレスでやばい。お薬の時間だねと、主治医である大蛇丸に連れられてアカデミーを後にした。

 

 

 

 

 「どうかしら。一応改良してはみたのだけれど」

 「あー……だいぶましになったかな。ありがとう大蛇丸」

 

 俺があんにゅいな気分に包まれていたのは内臓の痛みによるものだ。耐性が出来たのか、俺が作った薬では効かなくなっている。

 

 「ごめんなさいね……飛段の細胞でも採取できれば良いのだけれど……」

 「そっちはそっちで大変でしょうに。暁に潜入しつつ構成員の細胞摂取なんて中々出来ないと思うよ。でも出来れば欲しいかな飛段とかいう奴の細胞。柱間細胞での実験も空振りだったからねー。もう少しわたしの方でも色々試してみるけど」

 

 イタチと共に頑張ってるらしいというのは俺の影分身から聞いている。暁のメンバー内に不死者が何人か居るようだが、飛段というのしか俺や大蛇丸のお眼鏡には叶わなかった。

 

 「ええ、私も頑張るわ……貴女にかけられてる呪いの一欠けらでも理解できたら、もう少し研究も進むのだけれど、言い訳ね」

 「君の願いを叶えたのだから、わたしの願いも叶えてね?」

 「……ええ。絶対に」

 

 大蛇丸の願いは不老不死と未知への探求。その程度の願い。悠久の時を過ごした魔術師である俺にかかれば余裕だ。他にもあるらしいが、それは自力でやれ。

 俺の肉体は呪いのせいで。生きたくても長く生き続けられない。今は大蛇丸に協力してもらっているが、現状維持が精一杯。 

 柱間細胞というIPS細胞みたいなものと、俺の細胞を掛け合わせて培養した臓器を現在移植しているが、焼け石に水で薬の投与は欠かせない。

 

 皮肉なモノだ。赤の他人は不老不死の存在へと変える事ができるのに、肝心の自分自身を不老不死に出来ないとは。

 ふざけた話だ。イライラする。また繰り返さなければならないのか。またあんな思いをしなければならないのか。無力な少女だった頃を思い出し、意識は完全に宇宙か何処かに存在する神か何かへの憎しみと殺意で溢れる。

  

 「私が貴女を死なせはしないわ」

 「……」

 

 断言しているが大蛇丸よ、お前はそれほどまでに万能か? 本当に俺を治せる目処など立つのか? 信じていいのか?

 同情しているかのような真剣な眼差し。かつての弟子達と同じように俺を見詰める目。そういう類の目が俺は嫌いだ、俺の中にある"私"が一番嫌悪する目だ。

 

 同情し見下して、私を見るあいつらの目が嫌い。揃いも揃って馬鹿ばかり。役に立たない、ゴミと屑ばかりの世界。

 

 ……死にたくない。まだ生きていたい。病死するのが運命だと言うなら運命を許さない。何度だってやってみせよう。かつてと似たような事の繰り返しになろうとも諦めはしない。足掻いてやる。せいぜい私の役に立て塵共。

 

 「貴女は身体が治った後の事を考えておいてちょうだい」

 「……」

 「ろくでもない事を考えてないで、これからの人生設計でも立ててなさい。貴女、顔に出てたわよ」

 「……悪いけど、もう話す事は無いかな。少しほって置いてくれない? 一人になりたい気分なの」

 「……わかったわ」

 

 哀れんだ表情を浮かべながら部屋から出て行く大蛇丸。うっとおしい。そういう態度が私は一番嫌いだ。何度も見て飽き飽きだ。同情されて逆上した事もあったな……まだ俺が私になってなかった遠い過去だが。

 

 頭を振り"俺"は気持ちを落ち着ける。俺の中の私は過去の技術と刷り合わせて今の世界でも実現できそうな方法を模索する。

 臓器移植や薬による延命措置もその内効かなくなるのは目に見えている。封印術も調べるか。魂の磨耗による肉体の劣化。否、違う。屍鬼封尽を試してみるのもアリか?

 仙術の応用で魔術を使っているが、そもそも本来の魔術が使えれば……無いものねだりはしないほうがいいか。何もしたくなくなる。

 

 今の俺は日向一族……ああ、そうか。

 

 延命措置で一番簡単な方法は子供を産んでソイツの肉体を奪う方法だな。大蛇丸がかつて計画していたモノに似ている。いや……まだ致命的なまでの肉体のダメージは無い。焦るな俺。

 他者の肉体の奪取は根本的な解決にはならない。かつての俺が通過した過去に過ぎない。肉体を変えようが結局死んでしまう。そうだな……仙術関連と封印術関連を組み合わせてみるか。出来るかは知らないが。

 

 もしそれでも駄目だったならば、うちは一族を使って戦争でも起こさせるか。進入した事の無い里の医療技術を盗めば使えるモノもあるかもしれない。

 そう、戦争に医療技術の発達は付き物だしな。色々試せばいいのだ。選択肢はまだ沢山あるのだから。自暴自棄になるのはまだ早い。穢土転生? アレは生きているとは言えないし、この内臓の痛みが治る訳でもない。そんな地獄のような苦痛を、永遠に味わうだけのモノに成り下がるくらいなら世界を滅ぼして次に賭ける。

 

 まだ足掻こう。叶うのならば、この世界で身体の痛みを感じずに長く生きたい。

 

 

 

▼ 

 

 

 火影岩の上で戦っている三代目とダンゾウは幻覚だ。でなければ日常風景と言う事にしておこう。でなければ精神衛生上悪くて身体壊しそう。

 

 「忍法・お色気の術」

 「忍法・お色気の術」

 

 三代目とダンゾウの女装姿が見られるのは木の葉の里の火影岩の上だけ。新しい観光名所かな。見世物にもなりゃしないと思うが。

 何故女装しながら戦っているのか。俺には理解できない。恐らく録画した水晶で目覚めた三代目と目覚めざるをえなかったダンゾウに、譲れぬ思いと何かが混ざってアクセルシンクロしたのだろう。

 根の奴らが興奮しながら結界を張ってなきゃ火影岩は崩れてたね。ほんと有能だが腐ってやがる。こいつらに女装は早過ぎたかもしれない。

 

 元祖お色気の術の開発者うずまきナルト氏にインタビューをした事があるが『ああはなりたくないってばよ……』と開発者らしからぬ否定的なコメントをいただくほどには早過ぎたんだろうな。

 

 「モミジせんせー修行しないんですかー?」

 「もう少しまってねー。オイタをしたネジにお仕置きしないといけないから」

 「はーい」

 

 それに比べてテンテンはいい子だわー。ちゃんと言う事聞いてくれるし、だがネジお前は駄目だ。いくら子供だったとは言え、ヒナタに八つ当たりしていたのだから。

 ヒナタの姉として罰を与えなければならない。けして三代目とダンゾウからインスピレーションが降って沸いたわけではない。

 

 「モミジ様……勘弁してくれませんか……」

 「ネジちゃん可愛い! モミジ先生ちょーセンスあるぅ!」

 

 げんなりしているネジに少し興奮しているテンテン。やっておいてなんだが、ネジよ女装が似合い過ぎているぞ。

 

 「今はわたしが担当上忍です。文句がある班員は三代目に言ってね。と言うわけで今日から可愛いネジちゃんをよろしくお願いねー」

 「女装が似合う己が憎い……っ!」

 「面白いのでおーるおっけーでーす! というかマジでネジ女の子だね。というか女の子でしょ。こっちの服も着てみない?」

 

 今日から当分ネジは俺とテンテンの着せ替え人形だぜ。後で写真とってヒナタにあげよう。少しは溜飲が下がるでしょう。

 己の不運を呪うがいいわ。ネジよ。俺の本体は恐らく男の子の日。分身である俺も少しイライラしているので間違いないでしょう。

 というかガイとリーよな、何が青春探しの旅だよ。意味不明すぎるぞ。オビトもこれには苦笑いで『カカシ……俺間違ってたよ……』とか言いながら昇天しかけてたぞ。

 

 だが、奴らのおかげで木の葉に堂々とスパイとして居られるのだから、その点では感謝はしておこう。

 さてと、これからこの子達を自分流で鍛えてみるかね。普通の上忍クラスにはしてあげよう。これでも育成は得意だ。過去の弟子達はたまに斜め上どころか宇宙に飛び出して亜空間戦闘を行ってしまう奴も居たが、それはご愛嬌。

 

 その内木の葉は女装隠れの里として機能しはじめるんじゃないかと思うぐらいには、今日の天気はいい天気だ。




アイドルとプロデューサー紹介

多由也 やさぐれ系アイドルから癒し系アイドルに転向した 担当はモミジP

モミジP 様々なアイドルを世に送り出している敏腕P 早死になのがたまにきず

犠牲の英雄 7歳児にしてその身を犠牲に世界を救う犠牲界のトップアイドル 担当はヴァンP

飛段 柱間細胞に匹敵する細胞を持っているかもしれない邪神系アイドル 担当は大蛇丸P

テンテン 女装したネジを見て何かに目覚めかけているPの卵

ダンゾウ&ヒルゼン 木の葉初の女装ユニット 担当はナルトP


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Waldeinsamkeit

できないガイが、くり返す。


 日向ヒナタの朝は早い。真っ先に確認するのは姉の横顔である。寝る時も、姉の顔が何時でも見られるように、姉に抱きついているように寝ている。

 

 「う……森羅……記……」

 

 姉モミジの寝言を聞きながら寝顔を観察するのはヒナタの大事な日課だ。姉の紫色で長い髪が好きだ。たまに魘されている姉の顔も好きだ。姉の匂いも好きだ、嗅ぐと安心する。ずっと抱きしめていたくなる。

 そう、ヒナタの求めていた日常が帰ってきたのだ。これからはずっと側に居てくれると約束してくれたのだ。ずっとだ。

 

 「姉さん。そろそろ起きて」

 「壬晴……灰……」

 「姉さん。姉さん」

 

 モミジは中々起きない。寝起きがあまりよろしくないのもある。彼女は低血圧ではないのだが、とかく寝起きが悪い。だが、それは仕方の無い事でもある。

 長く生き続けて来た彼女は、膨大な記憶を整理する為に様々な魔術を己にかけてはいるが……睡眠時間は過去の記憶整理に大半を使う。魂が拒絶するのだ。それは一種の防衛反応で、暗い過去を閉じ込める為に。彼女が休まる事は無い。

 完全記憶保持者ではないと彼女自身は思っているが、それはは間違いである。彼が彼女になる前の人物が完全記憶保持者だったのだから。

 

 では、何故記憶が不完全なのかといえば、彼が彼女になってから……何度目かの世界を行き来した後に、恐らく彼女が自身の記憶に蓋をしたからだ。それも不完全な。

 記憶は穴だらけで不完全。間近な日々の記憶も欠落し、エピソード記憶は零れ落ちていく。それ故ちぐはぐなモノとなっている。だが、どういう訳か魔術や身を守る為の技術だけは完全に記憶している。おそらくそれだけ"過去"が熾烈な環境だった故の、覚えていなければならない知識だったのだろう。

 その魔術や技術からの関連付けで、暗い過去を思い出してしまうのは、彼女の心を蝕む呪いとなって身体にも影響を及ぼしているのだが……彼女は気付いていても、ソレをどうにもできない。故に呪いと彼女は自嘲する。

 

 「しょうがないなぁ姉さんは」

 

 そんな呪われているモミジをヒナタが、かつて己がしてもらったように、優しく揺すりながら姉を起こす。この瞬間もヒナタが好きな時間だ。

 

 「んあー……あぁ、おはよう。しじま……じゃない誰?」

 「姉さんおはよう。また寝ぼけてる?」

 「あれ、ここどこ? 萬天?」

 「……日向の家だよ、モミジ姉さん。私は妹のヒナタ」

 「? まだ夢の中なのかな、ねるね」

 

 そう言いながら寝なおそうとする姉をヒナタは抱きしめ、無理矢理起こそうとする。彼女の姉は寝起きに誰が誰かを、判別する事ができないほど記憶が混濁する。長きに渡る生は彼女の記憶を蝕んでいた。起床して1時間くらい経たなければ、何時もの姉に戻らない。

 何故あれほどに姉を求めていたか、その理由はコレだ。長期間もし姉と会っていなければ、完全に忘れられてしまう可能性を彼女は恐れていた。幼いヒナタにそれは耐え難き恐怖。その恐怖は親に育児放棄された事すら、些細になるくらいの恐怖であった。

 モミジがあと少しヒナタに会いに来るのが遅ければ、ヒナタは音の里へ姉に出会うためだけに行ったであろう。そして大蛇丸を見かければ恐らく、口にするのも憚られる行為を行い、姉の居場所を吐かせようとしたはずだ。

 

 「うーん……ちょっとまってね、記憶整理するから……」

 「ほんとにもう……私が居ないと姉さんはだめなんだから」

 

 ヒナタはモミジを優しく見つめながら語りかける。己が妹で貴女は姉と"ヒナタにとって都合が良い事実を混ぜながら"毎日洗脳するかのように説明する。その眼は狂気的な慈愛で満ち溢れていた……

 

 

 

 

 金髪の少女達がうちはオビトに纏わり付く。うちはオビトは今、最高に幸せそうな表情で鼻を伸ばしていた。

 

 「オビト先生、ハーレムの術だってばよ!」

 「あぁ……すごいじゃないかナルト……先生ちょっとトイレに行ってくる!」 

 

 前屈みになりつつ、股間を押さえながら走り去るうちはオビト。担当上忍としてそれはどうなのだろうか。マジメなサクラはオビトに侮蔑的な視線を送る。

 

 「にっしっし。今日の修行は終わり! サスケ、サクラちゃんラーメン食いに行くってばよ!」

 「オビトにハーレムの術を使ったのかナルト……たいした奴だ……」

 「ナルトもナルトだけどオビト先生もオビト先生よね……」

  

 中忍試験間近だというのに、これでいいのかとサクラはどんよりとした気分になる。確かにサスケもナルトも上忍クラスの術を覚えているし、その辺りの上忍並には強い。

 だが、試験というくらいなのだから力だけでは受からないだろうと、聡明なサクラは考えていた。

 

 「ラーメン食べながらでもいいからナルト、サスケ君、勉強するわよ」

 「えー……サクラちゃん俺ってば、勉強は嫌いだってばよ。エロ仙人に逆ハーレムの術も教えてもらったし、勉強なんて必要ないと思うぜ」

 「俺も勉強は嫌いだ……」

 「あんたらねぇ……」

 

 いっそ清々しいほど勉強したくないアピールするナルトと、クールに勉強嫌いを宣言するサスケに辟易するサクラ。

 そんな二人をどうにかして勉強させようと思っていると、そんなサクラの思いを他所に、ヒナタと共に散歩しているモミジをナルトとサスケが目敏く発見し突貫する。

 

 「お、モミジ姉ちゃんだってばよ。モミジねちゃーん! 俺にすげえ術教えてくれってばよ」

 「おいナルトずりぃぞ。モミジさん! 俺にもかっこいい術教えてくれ」

 「ちょっと二人共! ほんとにもう……」

 

 先ほどまでのクールは何処へ行ったのか、サスケもナルトと同じように突貫する。日向モミジ。ガイの代わりにガイ班の先生をしている人物。それくらいしかサクラは知らないし、関わりが無い。

 

 「こんにちは。モミジ先生にヒナタ……さん……」

 「こんにちは。サクラさんにナルト君にサスケ君」

 「ちゃおー。サクラちゃんにナルトォ君にサスケェ君。それじゃあ今……モミジ先生は今、ヒナタのお買い物に付き合ってるので……駄目です」

 

 ハイライトが消えかけたヒナタを見逃さないモミジ。今日も木の葉の里の平和は保たれた。

 

 「えー……あのさあのさ、モミジ姉ちゃん! 俺ってば逆ハーレムの術をとうとう完成させたんだってばよ!」

 「兄さんは仕事で居ないしつまんねーなー……俺も逆ハーレムの術を覚えるか……」 

 

 先ほどからヒナタが睨んでいる事に気が付いていないのか、サスケとナルトはモミジに構えとせがんでいる。サクラはそんなヒナタに恐怖し、さん付けせざるを得なかった。

 普段は良い子なんだけど……ね。と、サクラは姉が絡んでいなければヒナタは優しい女の子と認識している。だが、己の姉が関係する事なら話は別だ。サンドバッグのヒナタを光臨させてはいけない。空気を読めない馬鹿二人は、そんなの関係ねぇ! と言わんばかりに術を見せたりしている。サクラは頭を抱えた。

 

 「お、モミジか。あの二人は彼女に任せてサクラ、俺と修行でもしよう」

 「オビト先生……」

 

 いつのまにか戻ってきていたオビトは、とても爽やかな笑顔でサクラに空気の読めない提案をする。こいつ賢者タイムね……とサクラに見抜かれている事は、永遠にオビトは気付けないだろう。サクラの苦悩はまだまだ続く。

 

 

 

 

 「やはり……お前だったかカカシ……」

 「……いつ頃、気付いたんだガイ」

 

 青春の旅に出たガイは、死んだはずのカカシと再会していた。青春の旅というのは口実で、似たような境遇のリーと共に暁の野望を阻止するための、武者修行兼悪撲滅の旅に出ていたのだ。

 各地で暗躍している謎の人物。その人物のぐるぐる巻きの仮面の下はかつての親友だった。

 

 「青春の神様のおかげでな、お前が第四次忍界大戦を引き起こす原因だと"知って"いたんだ」

 「意味がわからないね……何を言ってるんだお前は」

 「難しい事は俺にもよくわからんが、気付けば戻っていたんだ。四代目が九尾を封印した直後に。そして九尾の封印を解いたのがカカシ、お前だと言う事も知っている」

 「ふぅん……仮にお前の言う事が正しいとして、何故今まで俺を放置していたんだ、ガイ」

 「最初は信じられなかったからだ。お前が実は生きていて、あんな事をするなんて……だが、結局あの時と同じような歴史を辿っている。もうあんな事、お前にさせたくない! 間違った道に親友が進もうとするなら、俺は止めてみせる! それが青春だからだ!」

 「……相変わらず暑苦しいねお前」

 

 かつて親友兼ライバル同士だった二人は交差しながら語り合う。互いに一歩も引かず、戦う。闘う。体術を駆使し、忍術を駆使し、片や野望の為。片や親友を悪の道から正道へと正す為に。拳でぶつかり合う。

 

 「もし今の俺がお前に敗れたとしても、青春パワーで再び戻りお前を止めてみせる! 何度でも、何度でも! 俺はお前を助ける! それが俺の青春道だからだ!」

 「……過去を変える事は出来ない。例えお前が未来から来た超常的存在だったとしても、俺の心が変わらないように」

 「カカシ……」

 「俺は父さんを犠牲にした木の葉を許さない! リンを見殺しにした世界を許さない……誰も、俺を止める事など出来ない」

 

 互いに譲れない思いのある二人はぶつかり合う。別の世界で歩んできたかもしれない青春を、今取り戻すかのように。二人は戦う。それはとても尊いモノだと誰もが感じるのではないだろうか……

 

 「あちらはどうやら長引きそうですね……」

 「こんな小僧にしてやられるとは……」

 

 そんな二人を他所に、青春の妖精の片割れ、ロック・リーは暁のメンバーである角都を倒していた。

 

 「たかが心臓が増えたくらいで、青春の妖精である僕が遅れをとるはずがありません! 満足いく青春を過ごしていない貴方には理解できないでしょうが」

 「ははは……言ってろキ○ガイ共め……」

 

 もうすぐ角都は天へと帰るであろう。だが、その表情は敗北者らしからぬ満足そうな表情だった。

 

 「ああ、初代火影からしてキ○ガイだったな木の葉は……」

 「初代様は青春の神です。悪口はいけませんよ」

 「う……ぐぅ……」

 

 初代火影の悪口を言う角都に、ためらいも無く止めをさす。自称青春の妖精ロック・リー。彼もガイと同じく、時を遡ってきた存在である。それがガイと同じ世界で同じ時代かは不明だが、凄まじい戦闘力を保有するリーは常識外の存在であるのは間違いない。

 ソレは現在の五大国の影クラスに匹敵する。流石の角都でも彼には歯が立たなかった。

 

 「あなたは知りすぎた……僕に言えるのはそれだけです」

 「……」

 

 物言わぬ骸へ、リーは静かに語りかける。その表情は険しい顔だった。

 

 

 

 

 

 

 「賭けはお前の勝ちだな、小娘」

 「んふふ。わたしの勝ちだねマダラ君」

 

 どこかの地下深くに、うちはマダラと日向モミジが対峙していた。水晶に映る暑苦しい戦いの末を見届け、うちはマダラはため息を付きながらぼやく。

 

 「ふん。約束だ、貴様らの行動に対して不干渉で居てやろう。だが、いい気になるなよ。俺は俺の計画の為に動く。邪魔になれば消す」

 「ああ、あの楽園計画もどきね。夢の中では幸せにって……悪夢の花の夢の中で生きているんじゃないのかな君は。夢見師に夢を修正されるといいよ」

 「口が減らないジャリめ……忌々しい」

 

 なんらかの賭けを交わし、勝ったのは日向モミジ。今にも殺しに行かんばかりの殺気を飛ばしているうちはマダラ。だが、外道魔像に繋がれている彼は、かつて忍の神と呼ばれた男と戦っていた男と同一人物とは思えないほど衰弱していた。

 

 「わたしは"私"の邪魔になるモノを許さない。それは私の産まれた世界の、全てのモノに適応される。例外は無いよ」

 

 そう強気な態度で日向モミジが言えるほどには、うちはマダラは弱っていた。

 

 「……さっさと消え失せろ。もう俺に用は無いだろう」

 「……そうだね。そうだ、老婆心で忠告してあげる。植物には注意した方が良いよ。食虫植物は君を……君の野望ごと食べるかもね」

 「……」

 

 胡乱な目つきでモミジを見やるマダラ。注意しなければならない存在に、注意喚起される事ほど訳のわからない事はないだろう。食虫植物……ゼツの事か。ふとマダラは確かにと、忌々しいほどにご機嫌な小娘からの忠告に納得する。

 モミジはニコニコと笑顔で去っていく。マダラはそんなご機嫌な少女が去った方向に向け、彼女に届かない呟きを漏らす。

 

 「ふん……アレも哀れな存在だな……」

 

 侮蔑的な表情を浮かべながら、去った彼女を哀れむマダラ。平和な世界。それを創る為に彼は暗躍している。たかが駒の数が減っただけで、代わりを補充すれば良いだけの話だ。

 片や己の欲望の為に動くモミジ。そんな彼の対極的な存在である彼女と、馬が合うわけが無い。次、互いに出会えば殺し合う間柄になっているだろう。

 マダラは気持ちを切り替える。減った駒をどう補充するか、彼は考える。まだこちらには時がある。時の無い小娘に一時だけ譲ってやろう。そう譲歩した彼の心境は、かつてあったかもしれない、彼本来の優しさなのだろうか。

 

 ただ、月だけが優しく輝いていた。

 

 

 

 

 「悪夢の中で生きているのはわたしも同じか……んふふ……あははっ……アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」

 

 満月の浮かぶ夜。日向紅葉はただ一人、森の中で狂笑する。眼も笑っていなければ表情は能面のように、ただ口元だけが三日月を描き嗤っている。そこにヒナタや音の里の子供達に見せる優しさなど皆無だ。ただ、攻撃的な嗤いを繰り返す。

 彼女は世界を呪うように、世界は彼女を呪うように。祝福は彼女を拒んだ。ならば彼女も世界を祝福する事は無い。呪いは彼女から水滴のように落ちていく。その染みは、いつか世界を覆い尽くすかもしれない。

 

 「卑の意志を継ぐものよ、どうした?」

 

 そんな彼女にまるで、瞬間移動してきたように突然現れて話しかける影。先ほどまでの表情から一転、口元は朔のようにモミジは険しい表情へと変わる。

 

 「二代目さん。わたしは貴方を呼んではいないのだけれど……何故ここに来たの?」

 「弟子の様子を見に来てはいかんのか?」

 「お小水中とかお風呂だったりならいかんでしょ……」

 「オレとお前との仲ではないか」

 

 それは、穢土転生によって現世に蘇った二代目火影"千手扉間"であった。だが、二代目火影は穢土転生による縛りを受けていない。自由に行動できる。ソレはモミジが最初から縛らなかったからだ。

 己が撒いた種とは言え、彼の自由奔放さに彼女は辟易する。オレを蘇らせると言う事は、卑の意志を受け継ぐ覚悟があるのだな。そんな台詞と共に蘇った彼に常識は通用しない。

 

 「それで、何の用なのかな」

 「いやなに、お主は存外抜けているのでな。マダラに可愛い弟子が何かされんか見守っていたまでよ。無事、事が運んで良かったではないか」

 「……」

 

 扉間はすごく爽やかな笑顔でのたまう。先ほどマダラがモミジを見ていたような胡乱な目つきで、モミジは扉間を見ている。いつマーキングされた? そう、疑問を抱きながら。そんなモミジに対して扉間は笑顔を崩さない。

 モミジは扉間を一度たりとも信用も信頼もした事が無い。この世界で唯一己を殺す事が可能な存在だからだ。今では後悔している。常に警戒し続けなければならない存在を、己が手で再び現世へ舞い戻らせてしまったと。

 惜しげもなく己の忍術や技術をモミジに教える扉間は、何を考えているのかわからない。

 

 無条件で誰かに協力するような輩は、絶対に信じてはいけないのだ。モミジの長い人生で培ってきた勘は、彼がとても危険な存在だと確信している。

 

 「うーむ……弟子に嫌われるのは辛いな。そう頻繁に風呂場は覗いたりはしておらんぞ?」

 「最近入浴中に妙な視線を感じると思ったら、やっぱり覗かれていたのか……」

 「弟子の入浴を見守るのも師匠のつとめだからな。モミジはもっと肉を食え肉を、その貧相な胸を揉んで大きくしてやろうか? 無理矢理揉んでもいい」

 「……今日も天中殺かな」

 

 恐らく現世に呼んではいけないモノを呼んでしまったのだろう。モミジはジト目で扉間を見つめつつ反省する。少しくらい良いではないか、減るものでもあるまい。そんな言葉を爽やかな笑顔で言いながら、飛雷神の術を無駄に駆使しモミジの胸を揉む扉間。普段ならモミジも飛雷神で逃げているのだが、モミジは影分身だし良いかとスルーする。

 大蛇丸とたまに修行だと言って戦っている姿や、恐ろしいほどに多彩な忍術の数々をモミジに伝授する姿からは想像できないが、コレが二代目火影だ。

 邪魔になれば消せば良い。幸いモミジには彼が知り得ない初見殺しな術も過去に取得している。今後、目的の障害になれば何時でも処理できる。彼女は扉間を無視し、月を眺め気持ちを落ち着ける。

 

 ああ、今宵の月は綺麗だ。と現実逃避しながらモミジは扉間と共に音の里へと帰るのであった。




登場人物

うちはオビト この世界線での第七班担当上忍 よくトイレに行く

エロ仙人 この世界線ではBL作家

はたけカカシ この世界線での暁リーダー 青春妖精と戦うも敗れる

ガイ 青春パワーで時空の壁を破りタイムリープしてきた男

リー その辺りの影と変わらない実力を持つ謎多き妖精

角都 好きな食べ物はたい焼き 背中に羽の付いたランドセルを背負っている

モミジ 胸を揉まれても覗かれてもスルーするが故に抜けていると扉間に思われている

千手扉間 モミジと初対面時無理矢理こじ開けようとした 弟子にまったく信用されていない


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Amor magister est optimus

愛から始まる中忍試験


 音の里、日向モミジの私室に音の首脳達が集っていた。上座に日向モミジ、モミジの隣に大蛇丸、そして下座に元二代目火影である千手扉間。

 不確定要素はほぼ取り除けた日向モミジは、ニコニコと笑いながら二人に作戦概要を説明する。大雑把すぎるその作戦は忍界大戦を経験している二人、大蛇丸と扉間に多少修正されたものの完璧に近い出来だと喜んでいる。

 

 「ふむ、オレは悪くないと思うぞ」

 「ええ、私も反対しないわ」

 

 二人はモミジに向かって邪悪な笑顔で答える。そこに善意は欠片も存在しない。攻撃的な笑顔。ソレは生物の原初を思わせるような表情だった。

 

 「だが、お前の妹は必要なピース足りえるのか? モミジよ」

 「……長年このわたしが大切に育てた大事なピースだよ? 大事な大事な保険。可愛い可愛い妹だもの、少し話せばわたしに付いて来てくれるし大丈夫だと思う」

 「どういう意味で可愛がっていたのかしら、怖いわねぇ……」

 

 大蛇丸は茶化すようにモミジを見つめながら言った。

 

 「純粋に妹として愛してたよ? こんなに妹想いの姉中々居ないよ。むしろ妹想いな姉のわたしを褒めるべき」

 「モミジよ、同じ目を持つ者として……いや、師として忠告する。その感情は本当にお前自身のモノか?」

 「……? よくわからない忠告どうも」

 「……他者にあまり期待しすぎるなよ」

 

 同じ目とは白眼ではなく、その同じような目つきという事だろう。モミジは師匠面する扉間に、胡散臭そうなモノを見る目で忠告に感謝するふりをする。

 扉間はモミジに信用されていない。修行時モミジと二人っきりになるや否や腹をいやらしい手つきで触るわ、太ももや足裏をねっとりした視線で舐めまわしつつ揉みだす。初めは注意していたのだが『弟子の分際でオレを責めるつもりか……?』と訳のわからない理論をまくし立ててくるので、好きにさせるようになった経緯がある。

 故に扉間の忠告は彼女には届かない。だが、届かないと知りつつ忠告する辺り、千手扉間は彼女の師をしている自負はあるのだろう。

 

 今後の方針が決まり、ひと段落した所でモミジは大蛇丸に前々から気になっていた事を尋ようと思った。部屋の窓から見える、うちは一族が住んでいる場所付近で、一生懸命に何かよくわからない建造物を建てている飛段を見ながらモミジは疑問を口にする。

 

 「そう言えば引き抜いてきた飛段君さ、あの人何してるの」

 「邪神様を祭る神殿を作ってるらしいわよ。私にもよくわからないわ」

 

 大蛇丸に尋ねるモミジだったが、流石の大蛇丸も飛段の行動原理は理解できないようだ。

 

 「ふん。オレなら全裸のモミジ像を祭るな。眺めて視姦してもいいし、擦り付けてもいい……うむ。オレも作ろう」

 「……」

 「……」

 

 まるで現代人の魔改造d○llfieの使い方だとモミジは一瞬思ったが、流石に自分を模したモノでやられるのはドン引きだ。あの大蛇丸ですら絶句する。かつてないほどの恐ろしい存在である千手扉間に二人は戦々恐々とした。

 オレもうちはの連中が住んでいる場所に作るかと呟く扉間に、果たしてうちは一族は何を思うのだろうか。

 

 

 

 

 子供達が公園で遊んでいる。市場には人があふれ活気に満ちている。人々は笑ったり怒ったり泣いたり。当たり前のような光景だが、大蛇丸はこれが当たり前の光景だとは思わない。己一人では到底成し得なかった光景が大蛇丸に眩しく目に映る。

 

 「二人で作った光景だよ。あの廃村だった場所がこんな立派な里になった。君にはどう見えるんだろうね。ちょっと眩しく見えるかな?」

 「そうね、私には少し眩しいわ」

 「……でもソレも無くなるかもしれない……わたしと手を切るなら今しかないよ?」

 「モミジ……貴女……」

 

 この光景を作った片割れ日向モミジは事も無げに、普通のトーンで微笑みながらそんな重大な事を話す。

 

 「……わたしには無機質にしか見えない。まるでフィルムで現像された写真のように、いつか色褪せていくんだろうなと、そんな風にしか感じない。感じれない」

 「……」

 「写真は千切れば破れるけど、世界はどうなんだろうね。そんな感じなんだよ、わかるかな大蛇丸君。君が組んだ相手は、人が当たり前に持っている感情を知っているだけの、人を人とは思えないヒトガタなんだよ」

 

 微笑んではいるが眼は寂しげに呟く。誰にも理解されないと彼女は理解しているが故に、そもそも理解されようとも思っていない。虚構で固められた精神は何が本当で何が嘘か、それすらわからない。

 

 「あまり私を舐めないで頂戴。そんな事とっくに承知済みよ。私は貴女を手放す気は無いわ……それに私は巷じゃ極悪人なのよ、どこかの妹想いの優しいお姉さんと違ってね」

 「……」

 

 ウィンクをしならがモミジに語りかける大蛇丸の目は優しい。

 

 「初めて出会ってから、衝撃の連続。退屈しない日々……今思い返しても幸せだと感じるわ。この私がよ? 貴女が見せてくれる既知ではない数々の術に最初は惹かれてたわね。でも、今ではそんなモノよりも貴女自身に興味があるの。貴女の居ない毎日なんて考えられないわ。

 それに蛇はあきらめが悪いの。例え、貴女がこの里を去ろうが私は貴女を追いかけて捕まえるわ。私に関わったのが運の尽きよ、あきらめて私のモノになりなさい」

 

 そんなモミジへと大蛇丸は己が心情を吐く。そんな大蛇丸に目を見開いて、やるせなさそうな表情をし、最後は笑顔でモミジはその想いへ応える。

 

 「……そっか。出て行っても捕まっちゃうのか」

 「ええ、離さないわ」

 「じゃあ仕方ないかー」

 「この世の真理よ。あきらめて頂戴」 

 

 モミジは大蛇丸の肩へとしな垂れる。それは何処にでも居るような、仲睦まじい様子の二人。里で探せばどこでも見られる当たり前の光景で、この音の里に溶け込んでいる。

 

 「よし! じゃあ戻って飛段細胞の研究でも仲良くやろっか」

 「ええ、やりましょう」

 

 そんな二人の光景を青春だとガイとリーが見つめつつ音の里を後にした。だが、リーだけは振り返り複雑な表情をし、少々立ち止まってからその場を後にする。

 彼は何を思い、そんな表情で彼女達を見ていたのだろう。去り際に彼は何かを呟いていたかもしれない。だがその呟きは風の音と人々の喧騒にかき消された。

 

 

 

 

 「見える……儂にも見えるぞ……ウッ!」

 

 木の葉の根のアジトでダンゾウはアジトに響き渡るバイヴ音と共に嬌声を上げる。それはとても満足げな笑みで幸せそうだ。

 

 「この前何故か生き返ってた二代目様が、ピンク色のモノをダンゾウ様と三代目に渡してからずっとああだね」

 「あー、遊びに来てたね。でも木の葉じゃよくあることじゃねえの。死人が蘇るとか珍しくないし」

 「確かに」

 

 二代目火影から渡されたモノを使い、毎日真面目にヒルゼンとダンゾウは謎の儀式に取り組んでいた。これは仙術を取得す為の方法。この方法で仙術を会得できるのは三代目とダンゾウだけだが。

 

 「儂は間違っていた。光と影などと、二元論に逃げたのがいけなかったのだ。世界はこんなにも広い。儂は今世界の中心に居る。ヒルゼン儂は……お前を……いや、お前と共に……ウッ!」

 

 二度目の嬌声をあげるダンゾウ。彼の中で彼は世界の中心なのだ。彼の中では。そんな世界の中心でヒルゼンへの愛と共に、彼はより高みへと上っていく。

 

 「アレが仙術の修行方法らしいぜ。二代目様曰くだが」

 「マジかよ、俺達もやるか」

 「僕は見るのが専門ですので自分で試すのはちょっと……」

 

 根の者達も様々な派閥がある。にわかも居れば嫌がり泣き叫ぶモノが良いという者も居る。見るだけで満足する派、己達も実践する派、火影雌堕ち派、露出派、不良調教派など様々だ。

 そんな腐った根の人々に見守られている修行中のダンゾウの元へ、女装しつつ何やら機械的な音を響かせつつ三代目火影がやってくる。

 

 「ダンゾウ、お主も会得できたか」

 「……あぁヒルゼン。儂もついさっき会得した。世界はこんなにも穏やかに安らげる日々を願っていたのだな……」

 「うむ。お主と理解し合える日が来ようとはな……」

 

 感慨深げに、ヒルゼンはダンゾウと肩を並べ語りかける。かつてあった蟠りは二人の間にもう無い。

 

 「……儂はあやつに感謝したほうが良いのかもしれんな」

 「ふふふ。お主らしからぬのぅ。柄ではないのではないかダンゾウ」

 

 とても爽やかな笑顔を見せるダンゾウにかつてあった影は無い。憑き物が落ちたかのように、彼は日々精力的に木の葉の為に頑張っている。

 

 「儂は中忍試験会場にいく。ダンゾウ。お主も観に来んか?」

 「……少し待っておれ。世界と繋がり過ぎて腰が抜けておる」

 「……儂らも歳じゃからな」

 

 そこにはかつてあったであろう友情か何かが再び芽生えていた。互いに切磋琢磨しあった日々を思い出すかのように、彼らは若い芽を見に行くつもりだ。

 いつの間にか居た、うたたねコハルと水戸門ホムラも二人に触発されたのかイチャイチャしはじめる。木の葉の里の枯れ葉は今だ現役だ。

 

 

 

 

 中忍試験。今回の主催は火の国の木の葉の里だ。各国の下忍達が競い合う祭典。戦争ごっことは誰が言ったのか、あながち間違いではないその指摘通り彼らは戦う。

 まずはバトルロワイヤル方式で、そして勝ち残った者達で班を組み、とある森でサバイバル訓練のようなモノをする。そして残ったモノ達にのみ中忍になれる可能性が生まれるのだ。簡単なように思えるだろうが、このサバイバルが曲者だ。何故なら各里の里長が敵として現れるのだから。

 

 しかしそれは試験を受ける下忍にも、観客にも知らされてはいない。とっておきのサプライズなのだから。今はまだ、ただ戦うだけだ。互いに切磋琢磨した忍術や体術を駆使し、観客達を楽しませるお遊戯会のようなモノ。

 

 例えば木の葉の里のうずまきナルト。

 

 「忍法・逆ハーレムの術」

 「ふん。そんな術……あぁ……天国だわ……」

 

 対戦相手が女の子だった為、逆ハーレムの術を使う事になったナルト。だが、その判断は結果的に正解だった。彼は彼女を無傷で下す。それは観戦しに来ている影達ですら眼を見張る結果であった。

 そしてうちはサスケは砂の里の我愛羅と戦った。そして無事勝利を得る。我愛羅は強かった。幾多の参加者が蟻のように見えるかのように。だがそんな彼の相手サスケは忍法・超越神力を会得していたツワモノだった。

 砂を飛ばそうが空を飛び回避する。それはかつて憧れたある忍を彷彿とさせる動きであった。掴もうとする砂を避けながらイタチに教わった術を駆使しつつ、危なげなく勝利を得たサスケ。任務から里に帰り、己の戦いを観戦してくれていた兄へと勝利報告をする所だ。

 

 「兄さん。俺は強くなった。だが、まだこんなものじゃない。かつて見たあの人の飛行速度はこんなもんじゃなかった……兄さん無職で暇だろう? 俺にもっと修行を付けてくれ」

 「いや、サスケあのな……」  

 

 会場は騒然。それもそうだろう影クラスの忍術を使う下忍など、中々お目にかかれない。観戦に来た各国の大名達はどれほどすごい忍術なのかわからない為、普通に楽しんでいる。

 勝利報告と共に修行を付けろとのたまう弟であるサスケに、うちはイタチは頭を抱えながら、かつて見た夢は正夢になりつつあると嘆いていた。そして無職ではない。任務が無いだけだと言ってもサスケは聞いてくれない。誤解を解くには時間がかかりそうだ。

 

 そして日向ヒナタはと言えば、日向ネジとぶつかっていた。

 

 「……そうやって、姉さんの気を引くつもりなんですねネジ兄さん」

 「違うんです! 誤解ですヒナタ様! 俺はそんなつもりでこんな格好をしているのではありません!」

 「そんなつもり? 私の姉さんが魅力的ではないと? そう言うのですねネジ兄さん、いや日向ネジ」

 「あぁもう! 誰か助けて……」

 

 日向ネジは美しかった。扇情を煽るようなドレスを身に纏い、会場の観客達は大興奮。対する日向ヒナタは比較的地味なパーカーにズボンと言う色気の無さであった。ヒナタの姉であるモミジはテンテンと共にネジを観て爆笑している。

 

 「言い訳無用ッ!」

 「オウフ」

 

 姉の興味を引くモノは許さない。ヒナタは修羅となる。あの日、かつて見たサンドバッグ。必死に女装しているネジはヒナタに言い訳しようとするも、聞いてくれない。殺意が篭る瞳に言葉は不要。ただ拳のみで応じる。

 

 「まっ、待ってく……グホォ……」

 「姉さんは誰にも……誰にも渡しません」

 「」

 

 ヒナタは審判が止めに来るまでネジを生きるサンドバッグにした。ある一点を集中的に潰されたネジは、恐らく今後男としてやっていけないだろう。明日からは正真正銘の女の子になっているはずだ。ネジは担架で運ばれていく。テンテンは笑いながら付き添いへ。

 観客達は皆恐ろしいモノを見てしまったような、良くないものに目覚めてしまったような表情をし、大名達は掛け値なしに素晴らしい姉への想いだと拍手する。よくわからない光景が広がっていた。

 

 日向ヒナタはネジ戦で勝利を掴んだ後、姉に教えてもらった飛雷神の術で担当上忍でもない彼女へと突貫する。

 

 「姉さん。掃除が終わった。姉さんは私だけの姉さんだよね?」

 「ひゃっ……ヒナタ。どこに手を突っ込んで触ってるのかな……」

 

 まるで盛りのついた雌犬のように、先ほどまで人間をサンドバッグにしていたと思えないほど妖艶な雰囲気でモミジの身体を弄る。

 一度弄るのをやめ、ヒナタは自分の手をモミジから離す。その手の指先には透明で粘着質な液体が、その液体を幸せそうな笑顔で口へ含みヒナタは一旦指を離す。糸を引く指先。その指先をモミジの口元へとつきつけながらヒナタは笑いかける。

 

 「姉さん。私、ご褒美が欲しいな」

 「……うん。良いよ、何が欲し……あっ……んんっ……ヒナタぁ……」

 

 そして再び貪る様にヒナタはモミジの身体を弄る。モミジは嬌声をあげてしまう。

 

 「私は姉さんが欲しいな。続きは家でしよう? 気持ちよくしてあげるね」

 

 その様子を見て、百合は素晴らしいと大名の一人が百合に目覚めたのが切欠で、大名達に百合ブームが訪れるが些細な事である。会場はかつてないほどに盛り上がり、観客達の歓声と嬌声で包まれる。大名達は今日はこれで決まりと、どこかのオリーブの妖精のような言葉をそれぞれ呟きながらトイレへ我先にと向かって行く。

 

 「……シノ俺達は大丈夫だよな? ヒナタさんに目付けられてねぇよな? サンドバッグこえぇ……」

 

 ヒナタと同じ班員のシノは青ざめた表情をしつつ、同じく手を繋ぎながら観戦しているシノに問いかける。

 

 「……キバ。俺達は大丈夫だ。何故なら俺達は俺達でカップルが成立している。彼女に目を付けられる心配は皆無だ」

 「そうだよな! ほっとしたぜ。な、赤丸」

 「赤丸もそう思います」 

 

 第八班担当夕日紅は『もう我慢できない』と、こちらも負けず劣らずアスマに向かって突貫していた。これにはアスマも苦笑い。二人は中忍試験の途中でありながらも、モミジ達と同じように何処かへ消えていった。

 

 「あーめんどくせ……アスマの奴、紅先生としけこみやがった」

 「シカマル。もっと縛って」

 「……わーったよ。やればいいんだろ」

 

 縛ってくれと懇願する秋道チョウジ、彼は縛られるのが大好きなアブノーマルだ。めんどくさそうに影で縛り上げるのは、木の葉の里で有名な縛る一族の奈良シカマル。彼は、俺はノーマルだ。俺はノーマルだと心で呟き続ける。仕事で縛る術を覚えただけで決してアブノーマルではないと彼は自負している。

 

 木の葉の里は摩訶不思議な里。火影は女装し、死人は蘇り、犬猫は普通に喋る。そして白昼堂々と百合プレイが観られる。

 ヒルゼンとダンゾウはいい宣伝になると満面の笑みで、この中忍試験は成功すると確信していた。だが、そんな二人の思いを他所に……トイレに行った大名の一人がテクノブレイクに襲われる悲劇が訪れる。

 これには護衛していた木の葉の忍達も大慌て。テクノブレイクは何処から大名を襲ったのかと大騒ぎとなった。中忍試験は一時中断である。

 

 




じんぶつしょうかい

扉間 裏モノマッサージ師 暗躍する

ヒルゼン 彼の女装姿は里の門で死体喰ってるババア呼ばわりされているとか

ダンゾウ 流出位階に到達した 聖異物はピンクのアレ

日向ネジ 壊れて女の子になった

日向ヒナタ とうとう姉を手篭めにする

奈良シカマル 木の葉を代表する緊縛師一族の跡取り 代表作は君○縄

テクノブレイク 男にとって最強の敵 襲われると勝てない


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カブトのなく頃に

Techno break incident


 まさか中忍試験中にトイレで大名がぶっ倒れるとは思わなかった。かつて29万石の大名に憧れていた俺は、この世の世知辛さをよく知っていたつもりだったがまさかな。 

 今生の世界に困った時の始皇帝様が居ないので、詳細な原因はわからないが、何か致命的なモノがトイレにあったに違いない。

 

 嫌な事件だったね……と、中忍試験を早々にリタイアした薬師カブト君は語っていたが、唐突に喉を掻き毟りながら『あの時のおはぎか! ダンゾウめぇえええ』と叫びながら死亡した。

 これに対し闇の火影である猿飛ヒルゼンは『彼はセミのような人生だった』と、彼に対して後世に残るエールを送る。尚、中忍試験が再開する頃に復活しているだろう。

 

 そんな事よりも俺はヒナタにお持ち帰りィされてしまい、ヒナタにねっとり嬲られた。ネジを女の子にした彼女の強さは、最早上忍どころか現在の影達ですら霞むレベルになっていた。

 だが、そんな彼女の強さよりも俺とヒナタとの絡みの方が観客と大名達には好評だったようで、ヒナタと共に表に出れば、有名女優扱いされているレベルでサインと握手を強請られるくらいには人気な模様。

 それくらいならまだ良かったのだが、時たま蔑んだ目で踏んでくれとヒナタに金を渡して懇願する熱烈なファンまで登場する始末。こんなプチサポのお誘いが多い里にヒナタを置いて置く訳にはいかない。

 

 「お姉ちゃんの里に来る? こんなんじゃ普通に生活できないでしょ」

 「うん!」

 

 なので、俺の里へ避難するかと問いかければ二つ返事で早く行こう早く早くと、俺がまるでそう言い出すのを待っていたかのように抱きついてきた。ヒナタにしては珍しく公衆の面前で積極的に俺に絡んできていたのはもしや……いや考え過ぎだな。

 ヒアシに説明すればヒナタをよろしく頼むと言われ、ハナビと言う新しい妹にはヒナタ姉さんをお願いしますと頼まれた。日向の家は任せたよと言えば元気に『はいっ!』と使命感溢れる目で返事していたので大丈夫だろう。

 

 ナルトとサスケもヒナタと俺が心配で様子を見に来てくれた。と、思いたい。

 

 「俺達ヒナタとモミジ姉ちゃんのお陰で……目が覚めたってばよ」

 「ああ、女の子同士というのは盲点だった。礼を言わせてくれヒナタ、モミジさん」

 

 何故俺達姉妹は礼を言われているのだろうか。君達も大名と同じように目覚めし者になったのか。ヒナタもヒナタで『良かったねナルト君、サスケ君』とニコニコ笑顔でその礼を受け取っている。

 退院して元気に女の子しているネジも、こっそり俺達の様子を覗いていたようだが『ナルサス……だと……』と、こちらは何か別の方向に勘違いしていた。

 

 やめてくれネジ、その固有名詞はかつて10秒戦争に敗北し、心が折れた俺に効く。

 俺は亡国の王子役をやめて、領主をする仕事に戻った悲しい過去を思い出していた。この世界にファヴランデレちゃん呼べねえかな。滅ぼしたくなってきた。

 

 少々あんにゅい所か、Yeah! めっちゃ滅ぼしたい。という気分になってしまったが、ヒナタがイイ笑顔で手を握りしめてきたので自重した。

 

 

 

 

 「火影、どう責任を取るつもりだ!」

 

 火影室にて三代目火影を怒鳴りつけながら筋肉アピールをしているのは、雲隠れの里の長の四代目雷影aだ。今はこの場に居ない四代目風影とは対象的にaは煩い。 

 

 「貴様らの杜撰な警備のせいでうちの国の大名がテクノブレイクに襲われた。もうこれは国際問題だぞ!」

 「それはそちらの監督不行届ではないのか雷影よ。火影だけを責める訳にはいかんわい」

 「大名様方が全員同時にトイレに行くなんて、誰も予想……できないと思いますわ」

 

 三代目土影オオノキと五代目水影照美メイは火影を援護するような姿勢を見せる。四代目風影は大名と共に既に帰っているのでこの場には居ない。三代目火影はやれやれと肩を竦めながら煽る。火に油を注ぐ様は、火影という肩書きに恥じない立派な立ち振る舞いであるという事に、この場に居る全員は疑問を持ちようがない。

 俺も音の里長としてここに呼ばれている。雨隠れの里長も横に居るのだが、フォースを身に纏って『シュコーシュコー』と呼吸音を響かせるだけ。誰が呼んだんだコイツ。

 

 「ええい黙れ! 元はと言えば貴様のせいだぞ音の里長。貴様が何故木の葉で担当上忍までやっているのか知らないが、貴様が妹を止めていれば良かったのだ。それを成されるがまま……」

 「あいや待たれよ雷影殿。その理論で行くならば貴方にも責任がある」

 

 急に矛先が俺に来てどうしようか悩んでいると、困った時のミフネさんが助け船のビックウェーブに乗ってやって来た。

 

 「なんだと」

 「各国の大名様方がトイレに行った時、貴方はナニをしていたのか、今この場で説明できますかな?」

 「ぬぅう……」

 

 やはりミフネさんは頼りになる。彼には色々と世話になった。もちろん俺もギブ&テイクで剣術を教えに、たまにサムライの国に特別講師として働いていたからイーブンな関係だけどね。

 そう言えばあの時、雷影は五影達が座っている場所で堂々とシていたな……ナニとは言わないが。すぐさま水影に注意され、控え室に渋々向かって行った程の漢らしいジンブツなので俺も嫌いになれない。だが責任転嫁はよしてくれ。

 

 「無益な争いはやめなされ……」

 

 その時、呼吸音を響かせるだけだった雨隠れの里長が喋った。まるでどこかの坊主のように、この場に居るモノ達を諭す。コレには一同騒然。俺も反論しようと思って開きかけていた口を閉じる。

 

 「貴様喋れたのか、雨隠れの」

 『シュコーシュコー』

 「……」

 

 おわかりいただけただろうか。とナレーションが脳内を埋め尽くすかのような、怨霊の仕業かと一同の興味はソレに集中する。怪奇現象かもしれないと、この場をまるでコープスするパーティの様に空気を変えた雨隠れのハンゾウ。やはり只者ではない。

 

 「チッ。水を差されたか。火影、音の里長。後日、使者を出す。使者が着くまでに考えるのだな。貴様らの怠慢で起こった事の重大さを」

 

 そう言い残し、この場を去る雷影。やれやれじゃわいと土影は俺の側まで来て、これから忙しくなるのぅ。と、呟いて去っていく。水影は婿探しツアーの最中だったらしいので、ソレを再開する為に同じく去っていく。

 

 「モミジ殿、大変ややこしい状況になりましたな。何かありましたら、いつでもこのミフネを頼ってくだされ」 

 「ありがとう。ミフネさん」

 

 同盟関係である鉄の国のサムライ大将であるミフネさんは俺の味方をしてくれるらしい。パワードスーツの開発を協力したのが功を奏したのか、武士達の修行をつけたのが功を奏したのかわからないが。何時も協力的だ。

 雨隠れのハンゾウは呼吸音を響かせながら、火影室にある花瓶を手に取る。すると火影室の家具が動き始めた。やはりコイツは只者ではない。

 

 「モミジ。いや、音の里長殿。儂ら木の葉も困った時は助け合おうと思うのじゃが、どうじゃろうか」

 「そうだね……互いに目を付けられたモノ同士助け合おっか」

 

 そんな風に火影であるヒルゼンと話していると、雨隠れの長ハンゾウも何故か俺に向かって人差し指だけ差し出す。

 

 「えっと……」

 『シュコーシュコー』

 「これでいいのかな」

 

 とりあえずE○ごっこすると見せかけて俺の口元に添えてみた。満足げに頷いてくれたので多分対応は間違っていないだろう。もしかしたら俺のファンなのかもしれない。

 こうして鉄火雨音の四カ国同盟が締結されたのは、ある種の必然的な流れだったのかもしれない。好戦的な雲隠れの里の長は恐らく宣戦布告してくるだろう。岩隠れの里は中立を装いつつ弱った里を攻めてくるかもしれない。霧隠れは……男を攫いに来そうだ……

 後にテクノブレイク事件と後世に語り継がれる大事になりそうですね。サラエボかよ。ナニが火種になるかわからん! アンイン橋の橋渡しさん助けて。

 

 

 

 

 「踊れ、遍く万象。全ては卑の女神を彩る舞台装置。オレの脚本に踊る演者達よ」

 

 里長達との会議があった後の夜。木の葉の里の火影岩の上で、どこかの水銀のようなセリフを吐いているのは……木の葉の里の二代目火影だった男。千手扉間。思えば初めて出会った時からコイツはおかしかった。

 『貴様に恋をした、どうかこじ開けさせてほしい花を』と、無理矢理俺の花を開こうとしたくらいおかしかった。思わず落魂陣でコイツを攻撃してしまったのは言うまでもない。

 だがコイツには通用しなかった。それどころかコイツは爆笑しながら、逃げている俺を元気に追い回す始末。何故通用しなかったのか。何故ならコイツは……いや、ソレは今関係ない。

 

 「計画はどうやら大幅に変更せざるを得なくなったな、モミジよ」

 「……邪魔はしないでと言ったはずなんだけど」

 「弟子に試練を与えるのは師の特権よ。ガハハハハハ」

 

 爽やかな笑顔で爆笑してやがる。ヒルゼンやダンゾウが凄まじいパワーアップをしていたのはコイツのせいだ。なんだアレは。最早盧生の眷属か第六天射干レベルじゃねえか。

 

 「千手扉間……あなたは敵? 味方?」

 「ふむ。信じるかは知らんが、オレは常に弟子の味方だぞ」

 

 それはどの弟子に言っているのだろう。ヒルゼンとダンゾウか、それとも俺か。障害になりかけているコイツに対し、今後どう接していいのかわからなくなった。

 

 「……本音は?」

 「師をそんな眼で見るものではないぞ。弟子の機嫌を取るのも師のつとめだな。よし胸を揉んでやろう」

 

 そして飛雷神の術による追いかけっこが始まる。常にこれだ。はぐらかす。まるでかつての自分自身を見ているようで腹が立つ。同属嫌悪と言う奴なのだろうか。逃げながらも扉間に問いかける。

 

 「木の葉の里と同盟を組ませる意味は? 巻き込みたいの?」

 「今の木の葉は腑抜けている。故に試練を与えるまでよ。オレはオレのやり方で木の葉の里を守る。まぁお主のお守りのついでだがな」

 「ついで……ね」

 

 俺にマッサージを施し俺の身体を労わるくらいには、コイツは俺の味方なのかもしれない。とんでもない所まで触って揉みしだこうとするのは、ただのコイツの趣味だろうが。

 下手に穢土転生弄らなきゃよかった。何かよくわからないモノを召喚してしまった。成功したと喜んでいた過去の俺を殴りたい。

 鉄砲でもあれば扉間に向けて発砲していたに違いない。今宵は朔だしね。マブダチだったあの子を思い出す。アイツ男作って幸せになりやがったけどな。ちくしょうめ!

 

 「姉さんにナニをしようとしているのですか? 二代目様」

 「……ちょっとした冗談ではないか、そう睨むでない。怖い怖いお主の妹が来たのでオレは退散しよう。では後を頼むぞモミジの妹よ」

 

 そしてそんな俺を庇うように飛雷神でやってきたヒナタ。俺のピンチにかけつけてくれる彼女は、俺にとっての英雄なのだろうか。俺は別にくしゃみでパンツ脱がせる技能を持っている訳ではないのだが。

 

 「姉さん。大丈夫。これからはずっと守ってあげるから」

 「……うん。ありがとう。ヒナタ」

 

 何か忘れている気がする。だが思い出そうにもノイズがかかる。

 

 「姉さんは何も心配しなくていいんだよ」

 

 だから安心してね。と、俺を抱きしめてくるヒナタは良い子ですね。何か大切な事を忘れている気がする。記憶の混濁具合も相まって、俺は混乱の極地に至っているが、忘れるモノなんて些細な事だろうと忘れる事にした。

 無くしたモノに価値なんて無いんだから。と、柄でもない愁傷な気分に浸りつつ、ヒナタと木の葉の里を後にした。




登場人ブツ

薬師カブト 時報

火影 火に油を注ぐ者也

困った時のミフネさん モミジに援助している パパ活ではない

メイちゃん 霧隠れの里で水影やってます。彼氏募集中です(ゝ∀・)☆

雨隠れの里長 別名イワナのハンゾウ 世界七大怪奇現象の一つ

卑の女神 10秒戦争に敗北し挫折した過去がある

卑道神 兄である青春の神と鬩ぎ合いをしている


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メイとお茶会

Tea party


 俺はヒナタと共に音の里に帰ってきた。だが、けっして忘れてはいけない事を忘れてしまっていたのだという事に今更気付いた。

 生けるサンドバッグになった大蛇丸を見て思い出したのだ。ああ、説明するのを忘れていたなと。

 思わず『官房長おおおおお!』と叫んでしまったのは不可抗力だ。大蛇丸を回転寿司にでも連れて行ってあげるべきだった。

 

 ヒナタと共に帰って来たら地雷屋さんとやらが大蛇丸と対談してたんだよ。

 

 声を聞いて地雷屋とかいう大蛇丸と同じ三忍の一人が、すごくダークカイザーだなって思ったね。その内ゾイドコアか炭素指数軽減の為にヒルコと憑依合体しつつアメリカンなホームコメディを展開してくれると信じている。

 俺達は登り始める、長い長いゼネバス帝国を復活させる道を。そのうち彼は『這いずり回れ、下等な輩よ』って言うだろう。

 

 終始和やかなムードで話し合っていたのだが。俺を見つつ大蛇丸に『お前にも春が来たんだな』とか言うのがいけない。

 これにはヒナタも三日月嗤い。まるで団長に次を乞うように『姉さん。次は誰を潰せばいい?』なんてイイ笑顔で言うものだから困惑した。

 

 そんな風にヒナタの地雷原を踏みまくる自来也もとい地雷屋だったが『お前も良い方向に変われたんだな』と、大蛇丸を見ては満足顔で満足を探す旅に出ると言いどっか行った。お前はどこぞの京介君か。

 だが、去り際に『ナルサス……』と呟いて俺の地雷も踏み抜いた。奴とは相容れないと確信した。次会ったらお前を官房長する。

 

 「ヒナタステイ。モウシンデル」

 「ネエサンドイテソイツコロセナイ」

 

 夢を見ていた。赤く血で染まる大蛇丸。部屋に響くのは妹の嗤い声。『これは私の夢です』と39歳厨二病真盛りな作曲家が恐らく黒幕。ポルカ姉ちゃんと鏡天花は無事咲く模様。

 どこぞの伝説の電波かよ。俺は10番道路で幸子に崖から落とされる白昼夢を見ているのだろうか。幸子に一方的に腹パンするより腹パンし合いたい。

 

 「勝手に殺さないでちょうだい」

 「案外元気だね」

 「姉さんとめないで」

 「いや、この人悪い人じゃないから、ね」

 

 だが、中々言う事を聞いてくれないヒナタ。大蛇丸はうんざりした表情でどこかに逃げ出す。結局俺がヒナタを説得するのに24時間必要だった。

 俺はコンビニじゃねーんだぞ。いや、24時間フルで影分身をあちこちに放って偵察させてるからコンビニか。歩くコンビニとは俺のことだったのか。

 

 そんなこんなで音の里に帰って来た俺。水晶で色々な場所に居る俺をチェックしましょうね。ヒナタに抱きしめられながら、各地の映像を水晶で覗く俺はピティ・フレデリカな気分。髪の毛しゃぶる性癖は無いけど。逆に妹に髪しゃぶられてるわ。ヒナタがフレデリカだったのか……

 さて、まずはどこを観ようか。月を天眼に変えようとしたのだが、失敗した故の労力。中々思うように行かないのが人生である。

 

 

 

 

 遺ェェ影。現在水影の照美メイちゃんとお話中である。おそらく本体もこの様子を覗いている事だろう。それはあの髪の毛うめぇの人のように。

 スク水うめぇも居るからな、あの世界の魔法少女は。やはり颯太くんが一番まともなんやなって。

 

 「モミジちゃんも大変ね。むさ苦しいジジイに妙な言いがかりを付けられて」

 「そうなんだよ。聞いてよ」

 

 なんて言いながら俺はメイちゃんにお呼ばれして、霧隠れの里のメイちゃんのお部屋でお茶会の真っ最中なのだ。道中綱手姫を薬漬けにして、手篭めにしていたシズネちゃんも誘って一緒にお茶会デース。

 とりあえずお茶会に煩い俺は、かつてペチカちゃんに教わったスイーツ作りを疲労しながら披露しつつ、どこかの暇な部署の警部みたいに紅茶を入れていた。

 

 「私ここに居ていいんでしょうか……」

 「わたしが誘ったんだから、良いにきまってるじゃない」

 「シズネちゃんも私やモミジちゃんと友達になりましょう」

 

 シズネちゃんは綱手を手篭めにしていた姿からは想像付かないが、とても奥ゆかしい。可愛らしい女性である。色々とぐっしょり濡れている綱手は、部屋に上げると濡れるので中庭で放置されている。

 

 「綱手様ったら酷いんですよ」

 「ほうほう」

 

 それでそれでと相槌を打ちつつ、無敵になる為の行動をしている俺。だっていくら強くとも、周りが敵だらけだと負ける。それは戦国時代のトップアイドル信長さんも実証済みである。

 大胆な味方作りは女の子の特権。コレは経験則に則った行動である。宇宙一天災の鷲羽ちゃんに昔太鼓判押されたしなこのやり方。けっしてサボリではない。あー……紅茶うめぇ。

 

 「あら、クッキーが無くなったわね」

 「ちょっと待っててね、補充するから」

 

 そう言いながら俺専用の亜空間に手を突っ込み、作っておいたお菓子を彼女達の目の前に出す。気分はメガネのガキにねだられる青い狸だ。

 

 「すごく便利よねぇソレ」

 「……」

 「いいでしょ。教えよっか?」

 

 もう二回目なのでメイちゃんは驚かないが、シズネちゃんは初めて見るであろう俺の謎の術に驚いている。実はこれ口寄せが元なんだけどな。というか仙界かどっかに繋がって生き物入れられるんだから、食い物もいけるやろの精神で術を弄ったら四次元ポッケみたいになった。

 

 「タダでは教えてくれなさそうねー」

 「お友達だからタダでもいいよ」

 「お友達だからこそ、タダじゃ貰えないわ」

 

 中々にメイちゃんは強かだ。タダで貰うと言う行為がどういう事を招くかわかっている。

 

 「よし、じゃあ……私限定で音じゃなくモミジちゃんと同盟関係を結ぶわ」

 「うん? どういうこと」

 「お友達の危機には、無条件で駆けつけるってことよ」

 「わーい」

 

 こうして俺はここでの仕事を終えたのだ。どこかの着替えに長時間かかる、お友達にはポテチとコーラしか出さない無敵さんとは違うのだ。

 やっぱり私場違いなんじゃと言いつつ、俺が作ったお菓子をもぐもぐとハムスターばりに頬張っているシズネちゃん。君の食べっぷりには俺も感激だ。トントンにも俺が作ったペットフードを進呈しよう。

 

 「あのオオノキの爺がさー、私になんて言ったと思う? 婚期を逃しそうとか言い出すのよ。殺そうかと思ったわ」

 「こんな可愛い美少女に向かって酷い事を言う爺も居るもんなんだね」

 「でしょー? 失礼しちゃうわ」

 「メイさんはとっても優しくて美しい女性だと思います」

 「トントンもそう思います」

 

 話はまた愚痴へと変わっていく。こんなに可愛い笑顔を浮かべる子が婚期を逃す訳が無いじゃないか。見る目がないなオオノキ。

 

 『む? ここはどこだ』

 「あっ、綱手様が起きちゃったみたいなんでちょっと行ってきます」

 

 そう言いながら、ようやく起きた綱手にピンク色の薬が入った注射器片手に突貫していくシズネちゃん。寝起きの師匠にお薬処方とか、師匠想いの素晴らしい女の子じゃないか。

 

 「いい弟子を持ったわね綱手様は」

 「いい子だよねぇ」

 

 『やめろシズネ! それは人に打つ薬ではない!』と言いながらもシズネちゃんとのプレイを満喫している綱手は幸せ者だ。

 

 「私も弟子を取ろうかしら」

 「今はまだいいんじゃない。もう少し遊びたくない?」

 「確かにね。まだまだ遊びたいわ」

 

 メイちゃんはまだまだ若い。遊びたい盛りのお年頃だぜ。俺も年甲斐も無く、可愛い子がいたら遊びたくなっちゃうからね。恋に歳は関係ねぇ。気持ちが大事なんだ。

 メイちゃんは恐らくまた男漁りのツアーに参加する事だろう。果たして運命の王子様はメイちゃんに微笑むのか。乞うご期待。

 

 

 

 

 俺は雑事を終え、同化している魂を持つ俺にしか認識する事のできない心の中の場所で、魔術でロックされている秘密の階段を下りていく。もう一人の自分へと会う為に。

 心層の地下深くに彼女は存在した。様々なコードを身に付け、夥しい数の水晶を観てはつまらなさそうにしていた。

 

 「ちゃおー、わたし」

 

 その正体は本物の日向紅葉。二つの心に一つの身体。本来一つだった魂に魔術や色々な技術によりどっかから突っ込まれて融合したのが俺、日向モミジ。まるで合わせ鏡。魔導書から生み出されたコピー、創造主の偽魂体のようだとあの時は思った。

 普段彼女が出てくることは無い。俺の負担になるからだ。故に俺が動き俺が全てやる。いつも水晶から俺の行動を覗くだけの生活。そもそも表に出る事すら億劫になってるからな"私"は。

 どこぞの飴だけで歌って踊ってくれる天使かよ。やっぱり紅葉ちゃんはアイドルなんやなって。容姿同じだから自画自賛ですな。ワハハ。

 

 「ちゃおー……あのさ、あの二代目は無いんじゃない。どこの時空から引っ張ってきたの」

 

 あの二代目は彼女と共に魔術で穢土転生を弄り、どこかの時空から引っ張り出して来た二代目(仮)だ。まともに戦えば350時間メンテナンスで、更に緊急メンテナンスされる場合があるので戦う気はない。

 

 「貴方の知識からの引用よ、わたしは悪くない」

 「わたしの影響かぁ……」

 

 彼女はけして俺以外を信じない。故に間違えている俺の知識ですらそのまま使う。

 

 「鏡を見て話してるみたいだから、わたしの前ではその一人称も話し方もやめてって言ってるでしょ。わたし達しか居ないんだから普通に話してよ」

 「ああ、うん。でも長年やってるから難しいかな。ごめんね」 

 

 幾千もの時を経ても、凡人である俺だけなら魔術なんて覚えられなかっただろうし、こうして勝手きままに行動する事もなかっただろう。

 このやりとりも、何度目だろう。彼女には申し訳ないと思うが切り替えが中々できない。染み付いてると言っていいだろう。

 

 まるで人柱力の精神部屋。誰も知らない。そんな場所で俺は過去を振り返る。

 

 木の葉の里を俺が影分身を用いて大掛かりな魔術により、常識を変え、己の都合が良いよう傀儡にする事もあった。

 それはかつて見たスワスチカのように。大規模な幻術に近いそれは、彼らを能天気な世界へと誘った。木の葉の里から滝隠れ、砂隠れと様々な里を魔術により常識を変化させる。

 元々木の葉の里がおかしかったのは気のせいだろう。と、思いたい。初代が何かすごかったらしいというのは昔聞いたが……まさかな。

 

 木の葉の戦力の底上げした輩の召喚も、彼女には何か狙っている意図があるのだろう。俺が信じなければ誰が彼女を信じるというのか。そう言い聞かせる。 

 

 「飛段だっけ、アレには驚いたわ。何せ、魔術のまの字も無いような世界で黒魔術を行使している輩なんだもの」

 「確かに。けどアレは俺達の役に立つよ」

 「そうだったらいいね」  

 

 彼女はあきらめかけている。俺が同化して間もない頃よりも悪い状況かもしれない。

 

 「貴方はいい気なものよね、半身であるわたしをほったらかしにして……他の女の子とお茶会を楽しんでるんだもの」 

 「……」

 

 俺があんにゅいな気分に襲われるのは、彼女と共に過ごした記憶によるものだ。だって初っ端からレ○プされた挙句、出産ショーと言いつつ達磨にされて、その後好事家の玩具だぜ。その辺りの凡人の俺には耐えられなかった。そんな泣き叫び狂う俺を笑いながら彼女は見てタネ。

 

 そもそも、何事も無くても胃が激痛、胃と肺から血ドバーなのでクソッタレな繰り返しにも耐えなければならなかった。

 そしてまた別の世界で悲惨かどうかわからないが、そう言う類の人生が普通と言えるくらいにまで、俺は繰り返した。100回以上そういった生を送れば、嫌でも強くならなければならなかったのである。

 

 そして、そんな彼女の考えは……同化している俺には、わかりたくなくてもわかる。

 

 「遊んでいるわけじゃないよ。これも計画の為……俺は君を助けてみせる」

 「できたらいいね」

 

 彼女は拗ねていた。同化して間もない頃ですら、他者と仲良くしていると拗ねる傾向があった。長い月日を共に過ごした今は尚の事。そんな彼女を宥めるのも大事な俺の役目である。

  

 「そう拗ねないでくれるかなー」

 「拗ねてないよ、少し意地悪したくなっただけ」

 

 そう言いつつ、ツンとした態度で俺に接すると言う事は拗ねているという事。こればっかりは俺が悪いなのかもしれない。だが、必要な事だったのだ。堪忍して。

 

 「ほら紅茶にケーキ。一緒に食べよう?」

 「パチンコ打ちたいなー連れてって?」

 「えぇ……」

 

 彼女のご機嫌をとるのには時間がかかりそうだ。パチンコ屋なんてこの世界あったっけ。長い長い人生だが、今回はまだ足掻ける。故に俺は、わたし達は歩き続ける。




※感想評価ありがとうございます禿げみになります 1章これで終の空 2章120kbくらい溜まったら登校しmっす

登場地雷系

地雷屋さん 他人の地雷を踏み抜き満足するBL作家だよ

モミジちゃん 歩くお茶会だよ(。>﹏<。) 

メイちゃん 可愛い美少女だよ(๑´0`๑)♡

シズネちゃん お薬を盛るのが得意だよ(。☌ᴗ☌。)

トントンもそう思います

日向紅葉 尾獣みたいなものだよ


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醒めゆく夢
Panorama luminary


自己勝手なエゴの暴力


 とある地中の奥深く。うちはマダラは現状に辟易していた。カカシと角都は訳の分からない眉毛の濃い奴らと交戦し敗北。角都は死亡し、カカシは捕虜として木の葉の里へと拉致られた後行方知れず。長門と小南は雨隠れの里に帰郷後、何故か新婚旅行へと旅立った。

 干柿鬼鮫はうちはイタチと共に木の葉の里に寝返り、デイダラとサソリは芸術を磨く旅に出ると言い暁を脱退。飛段は大蛇丸に音の里へスカウトされそのまま組織には帰ってこず。ついでに橘やぐらを拉致。

 裏切りが常の忍世界だが、同時にここまでの数の人間が裏切るとは流石のマダラでも予想できなかった。 

 

 木の葉の里の連中だけならまだわかる。だが、他里の者達まで理解不能な行動をし始めるのはマダラの既知の外だ。おかしいのだ。彼らはそれぞれ何かしら憎しみを抱いて里を抜けた者達。この世の不条理を恨んでいたのではなかったのか。

 

 「解せんな……」

 

 何処からおかしくなった。いつ歯車が外れ始めた。何が原因だ。マダラの疑問はうず高く、山のようになっていく。

 そんなマダラの所へ食虫植物のようなヒトガタが地面から生えた。

 

 「マダラ。ヤッパリオカシイ。月ガ七ツナイ」

 「……何を言っている」

 「千年毎ニ文明ガ破壊ト再生ヲ繰リ返シテイル事ハ知ッテイルナ? 創造主ノ意志カハ、ワカララナイガ」

 「だからお前は何を言っている」

 

 唐突に現れたかと思えば意味不明な事を喋る黒ゼツ。彼はマダラに残された数少なくなった手駒の一つ。その手駒すらおかしくなっていた。

 

 「オ前の意志ハ、俺ノ意志ダ。ツマリ俺ガ、マダラノアポトーシスダッタノダ」

 「……」

 

 黒ゼツは各地の情報を収集するのに最低限必要な駒なのだ。このような状態ではまともな情報など入手する事は不可能だろう。マダラは幻術にでもかかっているのかと、黒ゼツにかけられている何かに対して干渉する。

 

 「グッ……オオオオオオオオ!?」

 

 やはり幻術か。マダラの読みは当たったのだろうか。

 

 「オレハショウキニモドッタ」

 「妙だな、チャクラは感じなかったが……」

 「マダラ。日向モミジニ気ヲツケロ。奴ノ細剣ニ触レルナ」

 「小娘がどうした。それに細剣? 知っている情報を吐け」

 「奴ハ俺ガ思ッテイル以上ニ危険ナ存在ダッタ。コノママダト母サンガ……」

 「おい」

 

 幻術から解き放たれ、正気に戻ったかに思えた黒ゼツだがマダラの言葉に返事をする事はなく、まるで自我を保てる内に喋っているように焦っていた。 

 

 「グッ……オオオオオカアアアサアアアアンンンンン!?」 

 「おい」

 「ヤッパリカグヤガナンバーワン。カアサンノ温モリニ包マレテ眠リタイ」

 「チッ。もう一度正気に戻すか」

 

 ただの幻術にしてはおかしいほどにしつこい術だ。普通なら解けているはず。うちは一族の眼による幻術ですら、ここまでしつこいのはイザナミか月読くらいである。

 

 「グッ……マルデ将棋ダナ。俺ノチャクラヲ利用シテイルノカ。アノ女……フザケタ存在ダ」

 「まだ正気に戻ってないのか」

 「マダラ、今ナラマダ間ニ合ウ。動ケ」

 

 再び正気に戻したはずの黒ゼツだが、やはり焦っていてマダラなど眼中にないかのように指図する始末。

 

 「動きたくとも駒が足りん。知っているだろう」

 「ソウダッタ……詰ンダナ……マルデ詰ミ将棋ダナ」

 「あの小娘の情報を吐け。何をされた?」

 「奴ノ口寄セスル武器ニハ絶対ニ触レルナ。斬ラレルナ……モウ遅イガナ。俺モオ前モ詰ンデイル。アノ女ノセイデ全テパーダヨ」

 「それはわかった。だが、何が詰んでいる。まだ計画に必要な人柱力も存在している。奪われた人柱力も奪い返せばいい。駒も増やせば良いだけだ。地下に大量にある白ゼツも使えばどうとでもなるだろう。何を焦って何をあきらめている?」

 「グゥゥウウウウ……奴ハ世界ノ敵ダ。滅尽滅相、誰モ生カシテオク気ナド毛頭ナイ。アノ女ノ……イヤ、アノ男ノ根底ニアルノハタダソレダケダ。コレダケハハッキリト真実ヲ伝エタカッタ」

 「おい……チッ。また元に戻ったか。何の術だコレは」  

 

 黒ゼツは日向モミジに何かしらの術を受けてこうなったのだろう。だが、奴はうちは一族ではない。日向一族の眼にそんな効力は無い。瞳術の類では無いのは確かだ。

 なるほど、ここまで強力な洗脳紛いの幻術を使えるのであれば、暁の者達が次々に不可解な行動をし始めるのにも納得できる。だが、いつ彼らに接触したのかすらわからない。もしくは細剣自体に効力があり大蛇丸が原因なのだろうか。

 思えば日向モミジが接触してきた時点でこちらは詰んでいたのかもしれないと、ふとうちはマダラは過去を振り返る。あの時ああしていればとIFを思い描くが、結局敗者の思考でしかないとその思考を捨てる。

 

 「ハッハハハハハハハハハハハハハハ!」

 

 敗北するのは何年振りだろうかと、愉快げに笑う。柱間に匹敵するとは言い難いが敵と認識して全力で戦いたいとマダラは思った。

 

 「小娘……いや、日向モミジ。俺の敵として認識してやろう。次に会う日が貴様の命日だ」

 「カアサン……カアサン……」

 「……幼児退行でもする幻術なのかコレは」

 

 久しぶりに全力で戦いたい相手とマダラに認識された日向モミジだが、彼女が果たしてまともに戦うという選択肢をとるかと言えば取らないかもしれない。

 なにせ得体の知れない幻術を要所にかけてくる輩なのだ。情報封鎖からはじめる相手。真正面から馬鹿みたいに戦いを挑む輩の方が何倍も相手にしやすい。

 

 「ママァーーーーー!?」

 「耳元で叫ぶなうっとおしい」

 

 それよりも黒ゼツをどうにかして元に戻さなければと、思考を切り替えるマダラであった。

 

 

 

 

 「最近の貴女……異常よ」

 「……まさか君に異常者扱いされるなんて、光栄に思うべきなのかな。君が異常状態にかかっているのを疑った方がいいのかな」

 

 音の里、とある研究施設で大蛇丸と日向モミジは研究の傍ら話し合っていた。

 

 「私の事はいいわ、貴女最近らしくないじゃない。安定していない人柱力で実験するなんて、何を焦ってるのかしら」

 「……焦ってなんてないよ。ただ必要だっただけ。それに君は正邪に興味なんてなかったんじゃなかったっけ。あるのは底抜けの探究心、ただそれだけでしょ? そこにどれほどの屍が築かれても見向きもしないそんな下劣畜生じゃなかったっけ。ほら君の方がらしくない」

 「……」

 

 日向モミジの指示通りに、暁のアジトから橘やぐらを奪って来た大蛇丸は、相方と言っていい彼女の本心がわからず困惑する。彼女はもっと優しいジンブツだったはず。そんな"植えつけられた常識"と知っていて尚大蛇丸は嘆いている。

 

 「ねぇ……貴女が私の常識を弄った事くらいわかってるのよ。そこまで信用できないのかしら、自分以外の人間が」

 「……へぇ。君の精神構造がどういうモノなのか知らないけど、ずいぶんと強固なんだね。まさかアレを受けて自我を保っていられるなんて……いや、元々対個人用の洗脳だしこんなもんか」

 「私は貴女を裏切らないわよ。信じて頂戴」

 

 日向モミジは無理矢理笑いを抑えているような表情で大蛇丸を見やる。

 

 「……要は五大国を狂わす。ソレが計画の要。それは知ってるよね」

 「ええ。そして何時でも私達の都合が良いように動かせるよう手配し、そしてそれを使う時は非常時の破れかぶれの策」

 「うん、本命の補助みたいなモノだね。本命は痛みからの解放。飛段の研究も、その他の実験体も全てはわたしがこの痛みから解放される為だけのモノ。知ってるでしょ」

 「……でも貴女の、いいえ。"貴方"の望むモノはそうじゃない」

 「ふぅん? 何が言いたいの」

 「貴方の目指すモノのはソレだけではないでしょう? 私は知ってしまった。理解してしまった」

 「へぇ。何を知ったのかな?」

 「一度だけよ? 貴方の記憶を見たのよ……」

 「……」

 

 モミジは黙る。まるで敵を見ているかのような眼つきで大蛇丸を見る。大蛇丸が指摘しているように焦ってはいないが、それでも普段のモミジより活発に行動している。

 大蛇丸はそんなモミジを純粋に心配しているだけなのだ。とあるモノを見てしまった大蛇丸は心配せずにはいられないほどの。あるモノを。

 

 「貴方に私の願いを叶えてもらった後、少し貴方が焦っていた時期があったでしょう? まだ余裕があるはずのに、何が原因で焦ってるのか私もわからなかった。気になって貴方の記憶が無性に見たくなったのよ」

 「あぁ、あの日か。教室で授業のあった時、薬を処方されてイライラした後、研究室で不貞寝した時くらいだよね……わたしに何か出来たのは」

 「ええ……あの日。常に警戒している貴方らしくなく、無防備を晒した日にね。純粋に好奇心も疼いちゃって……」

 

 なるほどと納得するモミジに大蛇丸は続ける。

 

 「貴方の記憶は他者のソレとは違い、まるで迷路だったわ。扉が至る所にあって、道も大量で理解不能なオブジェクトでびっしり。狂人の記憶かと思えばファンシーな可愛らしい生き物も居るし、見た目どおりの少女のような記憶なのか困惑したわ……」

 「そんな風に見えるんだ。わたしの記憶って」

 「……続けるわよ。とりあえず一つ一つ扉を開けては貴方がかつて経験したであろう記憶を見ていったわ。

  かつて貴方が師事した師匠達ってすごいわよね、今の私ですら瞬殺されそうなおぞましい人達。ニコニコと笑いながら人を斬る事しか頭にない女、撫でるだけで生き物を懐かせてしまう老人、筋肉モリモリの房中術に夢中な邪仙にパンツを脱がせる事しか頭に無い教授……」

 「懐かしいね。そんな人達に師事した事もあった」

 

 懐かしげにモミジは、寂しそうな表情で頷いている。

 

 「他の扉もそんなおぞましい人達で一杯だったわ……中でも異質だった扉を開けた時、恐らく貴方がまだ貴女じゃなかった頃の師匠ね。水晶で自在に他者を取り出したり、自身すら水晶に映している場所へ移動できる女。アレが一番貴方の師で異質な記憶だったわ」

 「……えらく古い記憶だね」

 

 苦々しい表情でモミジは大蛇丸を見る。あまり聞きたくない類の記憶なのだろうか。

 

 「その扉を開けてからが問題だったわ。思えばプロテクトみたいなモノだったのかもしれない。ソレからは貴方の記憶の世界は豹変した。ファンシーな生物は鳴りを潜め、代わりによくわからない機械染みた円形の浮遊物が闊歩する世界になった」

 「……」

 「上には七つの月が輝き、扉は無機質な井戸になり、ドレもコレも蓋が強固にされていた。知らない事の連続で私も興奮していて迂闊だったわ。パンドラの箱でも開けてしまったのかと……元々貴方の痛みを根本から治すきっかけにでもなればと思って潜ったのよ? その殺気はやめて頂戴」

 

 無遠慮に記憶を覗かれたせいなのか、モミジは口を繊月のように歪めながら嗤っている。怒りか、焦燥か、殺意剥き出しの笑顔で大蛇丸を見ている。

 

 「どの井戸も厳重な魔術によるプロテクトが施されていて開けられなかったわ。でも1個だけ私でも開けられそうな井戸があったの、ソレを少しだけ解除して隙間から恐る恐る私は見た、見てしまった」 

 「君ハ何ヲ見タノカナ?」

 「……貴方が人柱力並みのチャクラを持つに至った理由、貴方風に言うならマナ、魔力の源をよ」

 「……ああ、アレだけか。度々開けるから緩くなってたのかなあそこ」

 「痛みからの解放もそうだけれど……貴方は解放されたいのでしょう。アレに」

 

 心底安堵したような表情に変わった日向モミジ。表情がコロコロ変わるモミジを見つつも続ける大蛇丸。

 

 「私の推察は間違っていたかしら……」

 

 モミジが焦ってらしくない行動をしていると思ったのは、勘違いだったのだろうか。失敗は許されない。己のプライドに賭けても、日向モミジを救おうと、そう思ったが故の行動。

 

 「100点満点で言えば40点しかあげられないかな。そしてソレだけじゃないんだなーわたしの目的は」

 「……でも、教えてくれないのでしょう貴方は」

 「教えたら君もわたしの中の彼女も、誰も彼もが敵になるから教えてあげない……なーんちゃって。たいした事じゃないし気にしないでいいよ」

 「陳腐な言葉だけれど、私は貴方以外を敵にしても構わないと思ってるわよ? それでも駄目かしら」

 「君のエゴで"わたし"のエゴを攻撃するの? それとも君のエゴをくれるの? エゴを融合させたら強くなれる世界じゃないよここは」

 

 一転しておどけたようなモミジに懇願するような目で見る大蛇丸。かつてモミジが元々居た世界ならば問答無用で戦いの火蓋が切って落とされていたかもしれない。モミジは口寄せで細剣を召喚する。

 

 「待って頂戴! 私は貴方を……」

 「まだ早い。早いんだよ大蛇丸」

 「必ず貴方を救って……あら、私なんでここに居るのかしら」

 

 何かを言っている大蛇丸へと無慈悲にも細剣を振るうモミジ。振るった途端にまるで夢から醒めたように、再び夢の中へと再び叩き込まれた大蛇丸。不死になっている為、傷は瞬間的に癒えてしまって痕すら無い。

 

 「飛段細胞で実験してる最中だよ。忘れるなんて酷い。もしかして健忘症?」

 「……そうだったかしら。何か大切な事を忘れているような」

 「わたしの為の研究が大切じゃないみたいな言い方だなー」

 「貴方の計画以上に大切な事なんて今は無いわね。ごめんなさい」

 「わかればよろしいー」

 

 そして何事も無かったかのように振舞うモミジに、何も疑問を抱いていないように大蛇丸は返事を返す。こうして、日常は回っていく。誰も彼もぬるま湯のような判断基準で動いていく。

 




トウジョウジンブツ

黒ゼツ マザコンだよ

うちはマダラ 唯一まともに見えるよ

日向モミジ 細剣で斬り付けた相手を夢の世界に招待するよ

大蛇丸 彼氏が浮気なんてしてないと思いつつ好奇心でスマホ覗く女みたいなものだよ


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夢を見る夢の中で

Spem perficio


 夢。夢を見ていた。三つ目で角の生えた女が俺に助けを請う夢だ。三つ目の女なんて傀儡マニアの殺戮好きでやべー奴しか友達に居ないぞ。あの子も俺の助力があってD区画の女王として君臨していたしな……

 恐らくあの夢に出てきた三つ目角女も俺に力を求めているのだろうな。どこの次元から通信しているのか知らないが、眼が一緒だったし俺の友達と色々な意味で。

 

 俺がこんなセンチメンタルでグラフィックごと乙女座の男が飛んできそうな夢を見るのは、邪神アイドル飛段と蘇らせた角都のお笑いコンビのせいに違いない。

 ストーカーのように俺を見る誰かの視線が気になり過ぎて、ふと見れば妹と眉毛の濃い何か。妹は俺が対処するとして、眉毛の濃いのはお呼びでない。

 因縁あるだろう角都に相手させたらええやろの精神で蘇らせたら『あんまんをくれ、でなければ心臓を貰う』と、背中に羽の生えたランドセルを背負っている、たい焼きヒロインらしからぬ言動を吐いたのだ。

 

 これには俺も苦笑いで、お前はいつ雪月家の龍神セイバーになったのだと、亜空間からたい焼きとあんまんを出して渡しつつ返答するしかなかった。お前爺やし無理あるやろと思ったが、本人は若いつもりなのがいただけない。チャイルド症候群患者かな? 

 思わず龍神村の神社で巫女のアルバイトをしていた頃を思い出し、心の汗が少し流れてしまった。俺も崖の無縁仏の前で線香花火をして、友達の龍神と雪解けを待ったものだ。

 

 しかも飛段と会わせれば角都は急に水遁を使って、飛段を洗おうとするくらいお節介ヒロインだった事が判明した。飛段が風呂も忘れて邪神神殿を造っていたのがいけないのだが。

 角都が飛段の神殿造りの資金源はと聞けば、俺のポケットマネーから飛段が金を借りている事を知り、すぐさま働いて返すと俺に言ってくる始末。『お金は命の源だからな……』と、元暁メンバーらしからぬ常識的なヒロインの言動を吐いた。

 

 これには俺も微妙な表情で、とりあえず砂隠れの砂金おじさんへの紹介状をしたためて渡しておいた。周りの影達から弱いだのなんだの言われまくる風影だが、金を集めるのには定評があるらしいからな。

 眉毛にリベンジしつつ、お金集める仕事すると良いよ。第二の人生も末永く何かの源ヒロインしていてくれ。

 

 最近よく飛段の細胞を弄くっては研究していたが、なんとコイツの細胞は環状DNA鎖を有する原核生物みたいに複製時の末端が存在しないやべー細胞だった。コイツ人間違うやんけ……

 俺はドローンを飛ばしつつさくらちゃんを監視する知世ちゃんを見た時の様な、恐ろしいジェネレーションギャップと、恐ろしいスピードで『サクラ、それは人に向かって振ってはいけない!』と、謎の効果音を連続で鳴らしながら走っていく大神隊長を幻視した。

 まさかこんな世界でこのようなモノを発見してしまうとは、思いにもよらなかった。はっきりいって斜め上の結果過ぎて、どう利用しようか困惑している。

 

 そう言えばこの世界のサクラちゃんも何か覚醒してしまったようで、担当上忍であるうちはオビトを日々打ち抜くようになった。影分身を利用しながら水晶で、トイレから出てきたオビトを打ち抜くその瞬間を見てしまった俺は、木の葉の女ってやべえなって思った。

 霊子甲冑どころかガンダ○と生身で戦えそうで、いつサクラがガン○ムファイトに出場するのかわくわくが止まらなくなってしまったではないか。そう言えば装甲悪鬼屑兄さんも生身でロボと戦って勝ってたな……思ったより普通だな、うん。

 妹のヒナタと共に拳系ヒロインとして活躍していくのだろう。誰がヒロインとして貰うのだろうか……貰い手は居るのだろうか……妹達の行く末が結構心配である。

 

 「姉さん、これ雷影からの手紙だよ」

 「ヒナタ、ありがとう」

 

 そんな夢見が悪過ぎて夢見師に助けてもらおうと思っている俺に、雷影さんからお手紙着いた。ヒナタは大蛇丸が俺の秘書みたいな事をしているのが嫌らしく、大蛇丸から秘書の仕事を無理矢理奪った。

 大蛇丸は研究の日々に帰って行ったのだ。どこかのうさ耳マッドや天災女神みたいに、妙なモノを作ってくれると期待している。宇宙船に変身できる喋るナマモノとか、細胞研究の副産物で作ってくれねえかな。

 

 「……ふぅん。問答無用で宣戦布告するかと思えば、あそこにも考える頭がまだある人居たんだね」

 「どうしたの姉さん?」

 「中忍試験を雲隠れの里主催でやり直すってさ。集まった里長を暗殺でもしたいのか、それとも額面通り試験を再開させるのか……」

 「……」

 

 いくら常識を弄っていると言っても、常に思想やら考えまで縛れないからな。思考の方向性を変えるくらいしかできない。

 雲隠れの里でクリミナルパーティを開催するのか、アレだけ啖呵切っておいて雲隠れする気なのか……俺、気になります!

 気分は天使の気分である。三つ目のあの子は俺の眷属。なるほど。あの夢に出てきた女、俺の眷属か。わざわざ夢見師に修正させる事でもなかったなと、悩みの一つが消えた。

 

 

 

 

 各里長の所に雷影からの招待状が届いて、木の葉の里長ヒルゼンが音の里長たる俺に対して、里の子供達の交流を兼ねた修行をしよう。と、提案してきた。ガイとリーが久々に木の葉の里に帰ってきて、俺も一時お役目ご免となっているので了承した。ストーカーは一人でええんや。リーが木の葉に帰って良かった。

 全員連れて行くわけにもいかないので、戦場のカルテットたる4人集だけ連れてきたかったのだが、ヒナタが強引にマイウェイして来て勝手に着いて来た。

 ついでと言わんばかりにキンやら幻幽丸やら水月やらも着いて来たので、子供達の護衛として鬼兄弟も急遽引率係としてついて来させた。そして道中水溜りを踏む遊びをしつつ木の葉へと向かった。

 

 「マイレディー。計画は修正されたようですが、大丈夫ですか?」

 「……ん? 何、いっちょまえにわたしの心配?」

 「「俺達は常に心配していますぞ」」

 「姉さんは私が守りますので、心配後無用です」

 

 気分はオタサーの男の娘姫。やべえ……俺口にするのも憚られる事されちゃうじゃないか。鬼兄弟から鬼父達にクラスチェンジする気ですか? 距離とっとこう。ヒナタの方が俺にとって危険かもしれないが普段通りなのでスルーする。

 

 「「マイレディー……」」

 「ふふっ」

 

 勝ち誇った表情で鬼父もとい鬼兄弟を見やるヒナタ。悲しそうな声をあげながら水溜りになる鬼兄弟。そして一歩離れた所に恐る恐るヒナタを見ている4人集。ワイワイ遊びながら歩いている子供達。

 何か物足りないな。無性に百鬼夜行ごっこしたい気分だ。もっと連れて来てもよかったかもしれない。

 卜伝ちゃんみたいに大名行列ごっこしても良かったな。今度遠征する時は音の里の子供達総出で百鬼夜行ごっこしよう。

 

 生きるというのは続ける事ではなく、繋げるものだとインフィニティちゃんが言っていたな。俺の生は繋がっているのだろうか、生きていると言えるのだろうか。ふと脳裏に浮かんだ憧憬に思いを馳せつつ、木の葉の里に到着した。

 

 久々の再開をナルトやサスケやイタチと祝いつつ各里の子供達の修行へと、各々は動き始めた。4人集とナルト達が仲良く修行している。その様子をヒルゼンと共に見ていると、何かよくわからないノイズがかかる。

 彼らが死に物狂いで戦っている様子が断片的に映されていく、何だろうこの記憶は……俺が知らない記憶がある? オカシイ。こんな光景みたことは無いはずだ。

 

 「どうしたモミジ。顔色が優れぬようじゃが」

 「――――――――――――――――」

 

 とっさに言葉を返す事ができない。

 

 ――何故か大蛇丸にさらわれてダークサイドに堕ちているサスケ。

 

 ――全てを憎悪してそうな表情で戦う多由也を含む4人集達と木の葉の下忍達。

 

 ――俺と出会わなかった切羽詰って辛そうな大蛇丸。

 

 なんだこの流れてきた記憶は。俺が知らないというのはそもそもおかしいのだ。この世界に産まれてから記憶を弄った覚えは無い。誰に弄られた。いや、弄られてはいないはずだ。

 

 ――ヒルゼンと死闘を繰り広げる大蛇丸。

 

 ――そして屍鬼封尽で腕の魂を死神に持っていかれた大蛇丸。

 

 ――そして……死に逝く三代目火影ヒルゼン。

 

 思えば、あの三つ目の女の夢を見てから調子がおかしい。

 ふざけるなよ。()()さえいればいい。俺の記憶に干渉して良いのは俺だけだ。そうでなければならない……

 

 ――『■■■■■■(俺自身は)■■■■■■■■(俺だけのモノだ)

 

 俺はあるかどうかすらわからない干渉を遠ざける為に、少々キレながら心を落ち着かせる為の魔術を己にかけつつ魔力を全身に行き渡らせる……うむ。落ち着いた。

 

 「……ふむ。元気なようじゃな。どれ、子供達に戦いとはどういうものか儂らで模擬戦でもして教えてやらんか?」

 「……えらく好戦的じゃない。火影さん。らしくないんじゃない」

 「子供達を見ていて、身体が年甲斐も無く疼いてしまったんじゃよ。付き合ってくれんか」

 

 目の前のコイツに干渉はされていない。誰だ。何処だ。記憶を覗いた大蛇丸か。いや、アレは表層部分しか見てないし触れてはイケナイモノも触れて弄って無いから違う。男内村にも『本当は和姦だったんじゃないのか』と、和姦判定されるくらいのモノだ。

 そもそも記憶に触れられ、弄くられると嫌でもわかるのだ。見られるだけなら何も思わないし、せいぜい見やがれ程度で済ます。

 久々に白眼を使い感知してみるが、怪しいチャクラの動きも、怪しい魔力の動きも無し。杞憂か。

 

 「デートのお誘いかな。たまには動かないと鈍るし……ちょっとダンスに付き合ってくださるかしらミスター?」

 「うむっ!」

 

 むっちゃはりきってますな火影さんよお。俺はもやもやした気分でいっぱいだわ。ストレスは身体にいけないので、身体を動かしてストレス解消しましょう。

 子供達も修行はひと段落したようで、こちらに集まってきた。何をするのかワクワクしている表情で皆いい顔してるぜ。 

 

 「四紫炎陣はってくれない? 多分そのまますると周りの建物壊しちゃうから」

 「「「「はっ」」」」

 

 四人集の子供達は素直で良い子達だほんとうに。ヒナタは俺の様子が少しおかしかったのを見逃さなかったのか、大丈夫か聞いてくる。ちょっと身体動かしてストレス解消するだけやで。大丈夫だ。

 

 「では、ゆくぞモミジよ」

 「ええ、どこからでも」

 

 影分身の術を使いサルトビは三匹に増えた。そしてすぐさま手裏剣を投げつけてくる。

 

 「手裏剣影分身の術」

 「風遁・大突破」 

 

 あえて日向の体術は使わない。デモストレーションのようなものだから。体術は別の時に使おう。ただ、火影は首を傾げながら体術を使わんのか。と話しつつ口寄せを召喚し如意棒のような物に変化させてこちらに殴りかかってくる。

 

 「体術も子供達に見せてやりたいのう。なあ猿魔」

 「猿魔もそう思います」

 「体術は使うとねぇ……」

 

 すぐ終わりそうじゃない。そう言い返しながらヒルゼンの影分身を全てひと殴りで潰す。そして俺も口寄せを召喚する。

 

 「ん? モミジじゃないかどうし……へぶらっ!」

 「囮寄せか。懐かしいのう」

 「同じ師を持つ者同士これはやらないと……と思ってね」

 「猿魔もそう思います」

 

 口寄せで呼んだシスイは結界に突き刺さった。相変わらず良い囮だ。うちは一族は囮にて最適。

 

 「ふんっ」

 「当たらないね」

 

 俺はかつて竜の子の攻撃を柳のようにいなす噛ませおじさんの真似をしながら、ヒルゼンの如意棒のようなものを避ける。

 地味だが、身体に疲労が溜まりにくいしチャクラも必要ではない。回避術としてはいい物だからな。子供達に見せるにはいいんじゃないだろうか。

 

 「変わった体術じゃのう」

 「弱点もあるよ、気付いてるでしょ」

 「儂は火影じゃぞ。当たり前じゃ……ふんっ!」

 

 足元をすぐさま攻撃する火影であるヒルゼンは、流石かつてあっただろう忍界大戦を生き残ったモノだけはある。似たような経験でもしたのだろう。そして俺はヒルゼンの棒の上に立つ。

 

 「曲芸みたいでかっこいいでしょ」

 「ほう……重さを感じんな……」

 

 子供達もウキウキした表情で俺の軽身功もどきを拍手喝采。だが火影的には気に食わなかったのか、ふて腐れた表情で『先ほどから回避ばかりじゃが、儂が思ったより音の里長殿は弱いのかのぅ……』なんて俺の手を舐めようとしながら挑発するのはいけないね。

 

 「舐めようとしたな。わたしを」

 「舐めたらどうなるんじゃ? 怒るのか? ほら攻撃して来んか」

 

 里長として舐められるのはいけない。というより女の子の手を舐めちゃいかんでしょ。そんなに攻撃されたいのか、ならばいいさ――おいたをする老人は……

 

 「んぐぉ……何じゃこれは、何も見えぬ……! 聴こえぬ! 身体も動かぬ……」

 

 そして俺は術を発動させる。ただ髪の毛を振動させているだけだが、ヒルゼンしかり観戦していた子供達も、結界を張っている音の子達も俺の姿など見えていないだろう。なにせ視界どころか五感を奪う術なのだから。

 この音を聴いた相手は何も見えない聴こえない。そして身体を自由に動かせなくなる。喰らった相手は暗闇の世界。超音波による脳への直接攻撃だ。脳を誤作動させる術だが、中々に使い勝手が良い。対処方法は同じ振動で返す事。

 初見ならほぼ決まる。流石のヒルゼンもこういった体験はなかったのか、冷や汗をかきつつ『そんな術を使うとは反則じゃぞ』なんて言い訳している。煽ったのはそっちじゃん。久々にちょっとはしゃぎたかったし互いにいい運動になったから良いだろう。

 

 「一応音の里長だからね。音の術でフィナーレという事で」

 「……まいった」

 

 五感を奪われ、身動きが取れなくなったヒルゼンの首筋にクナイを当てて模擬戦は終了です。模擬戦じゃ負けなしのコーラ君もニッコリするでしょう。 

 術を解いてヒルゼンに現状をわからせ、まいった宣言を獲得した俺は無事模擬戦を終えた。子供達はさっきの見えなくなって聴こえなくなる術すげえって興奮してる。

 火影にもう少し術を使わせた方が良かったか、いや、シスイのせいで結界に皹入ってたし互いに手加減してたからこんなもんか。

 

 ただあの闇の中でもヒナタは微動だにせず俺をじっと見つめていた。ヒナタに効いてない……だと……マイシスター実は呂奉先の弟? いや可愛い女の子だ。女の子だよな……?

 俺はヒナタに内心怯えながら、今日の天気はまあまあの天気だと思いつつ現実逃避した。




登場JINブツ

三つ目で角の生えた女 モミジに助けを請う信号を送るよ

砂金おじさん 5影の中で一番金策が得意だよ

春野サクラ 生身で劔冑砕けるよ

男内村 名探偵だよ

うちはシスイ 囮寄せの囮の一つだよ

ヒルゼン 少女のおててを舐めようとする爺だよ

日向モミジ 音の里長として音を使って模擬戦に勝利するよ


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Payday1

モミジちゃんの給料日・マザコンの宣戦布告編


 「この空間で、その狂人紛いの思考はせんでよいぞ。誰も覗いておらぬ」

 「……本当みたいだね、大筒木カグヤさん。貴女の言っていた事は」

 

 とある空間で大筒木カグヤと日向モミジは対峙していた。

 二度目の邂逅。初めての邂逅時、彼はカグヤの言葉を信じなかった。

 だが、実際彼の中の彼女はこの夢を認識していなかったし、あの行動原理が不明瞭な二代目火影も知りえない。疑いに疑うモミジも彼女を信じる他ない。

 あのノイズで流れてきた記憶の正体も判明し、この空間では、つまらぬ思考を続ける必要性は無くなった。 

 

 「ワラワを救ってくれ。この世界を……無論対価として……」

 「……」

 「懸念か。ほれ」

 「あら……ここは……」

 

 二人だけだった空間に大蛇丸の精神体が召喚される。

 

 「何でもアリか……このウサギの女神サマは」

 「モミジ……この女まさか……」

 「このほうが話が早いであろう? ソナタもワラワの前でコヤツに洗脳されている"フリ"をする必要性はない」

 「わたしはアリスでは無いんだけどなぁ……」

 「なるほど……そう言う事ね」

 

 狂ったフリを幾千もの時を続けてきたモミジは、その思考を捨てきれず、癖でついしてしまう。自己を保持する為の防衛。それは急に辞められるモノではない。

 驚愕の表情だったが、何かに納得したように大蛇丸はカグヤを見る。大丈夫なのかとモミジに目配せするが、モミジは呆れた表情でため息を付くだけだ。

 

 そもそも大蛇丸はモミジに洗脳されていなかった。自他共に認める天災である大蛇丸は、とっくにその洗脳を克服していたのだから。

 あえて、洗脳されているフリをしていた。せざるを得なかった状況だったのだ。一芝居打たなければ、大蛇丸とモミジにとって不都合だったのだから。

 

 ――夢の中のような、そんな空間の中で……彼女達は何かを交わす。

 

 

 

 

 雲隠れの里。再び中忍試験を再開させる為各里の下忍と担当上忍、里長が集まっていた。

 その最中、本体である日向モミジは各里に送っていた自身の影分身達を、各里に与えられた部屋で収集していた。

 

 「YOYO! オレキラービー! 陸に上がって進化を遂げたダゴ○! メイド・イン・チャイ○! 中○で大量生産!」

 「本体のわたしの前でまで、やらなくていいから……それにダゴ○はやめて、わたし本物の狂人になっちゃう」

 「離れたココロ、今はバラバラ。医術書の為。オレ「アレに見られてる心配は無いよ。その問題は解決した」……オレだよオレ! わたしだよ!」 

 

 顔を破くように雲隠れの人柱力キラービーは、顔面に張り付いたキラービーの顔を破る。筋肉質な男に変化した日向モミジが現れた。本物はとっくの昔にラップ修行の旅に出ている。

 雲隠れの里に居たキラービーの正体は、大蛇丸の消写顔の術を改造し、キラービーに化けていた影分身の日向モミジ。

 

 ――各地の医療忍術収集の為にばら撒いた影分身の一人だ。

 

 「後は、わたしが【わたし】になって、あの子と別の身体になって、月をどうにかするだけになった」

 「……ふぅん。とりあえず戻るね」

 

 ――キラービーだったモノはモミジへと還っていく。

 

 「岩隠れのトップアイドル! ツチ様だぜェ! アタイを見るだけで、てめーは見惚れて動けねェ」

 「わかったから……戻って」

 「何だよ、サインくらいねだれよ……つまんねェ」

 

 ――そう言いながらこちらも、影分身だったツチはモミジへと還っていく。本物はデイダラの追っかけをしている。

 

 「我はこの荘厳なるヴァルハラを燃やし尽くす者となる」

 「こんな狭い場所で灼遁はやめなさい……」

 「フン……本体、貴様今素面か……泣くのが好きなのかと思っていたが、もう止めたのだな」

 

 ――パクラに化けていた砂隠れの影分身もモミジへと還っていく。本物は恋に恋するお年頃で、男漁りツアーの旅に参加中。 

 

 「結婚したのか? 俺以外の奴と。俺の結婚相手は首切り包丁だけだと思っていた……」

 「再不斬君に絡まなくていいから……」 

 

 枇杷十蔵に化けていた影分身は担当上忍として下忍と共に居た、現首切り包丁所持者である桃地再不斬に絡んでいた。

 昔の恩師にトラウマ持ちの再不斬にはキツいのだろう。おぞましいモノを見ている表情で辟易としていた。

 

 「勘弁してくれ……モミジサンよォ。俺はコイツの顔を見る度にトラウマが……」

 「ああ、うん。ごめんごめん。すぐ回収する」

 

 ――枇杷十蔵に化けていた霧隠れの影分身もモミジへと還っていく。本物の枇杷十蔵は霧隠れの忍者学校で教師をしている。

 

 影分身達が本体へ戻る。そして各里の医療忍術を全て手中に収める日向モミジ。計画は順調だとほっとした表情で安堵している。

 

 「終わったかしら」

 「久々に今は素面だけど、わたしキ○ガイみたいじゃんコレ」

 「あら、素面でもキ○ガイよ貴方。でも、そんな貴方が好きよ」

 「えへへ……じゃなくて、わたしがキ○ガイなら、マザー○レサはテロリストだよ。世界中の誰よりも、わたしは平和主義なのに」

 「誰か知らないけれども、貴方が平和主義なら、私は聖人になりそうね」

 「聖人に決まってるじゃない。頭に邪なるって付きそうだけど、わたしにとっては聖人どころか天使かな」

 

 嬉しい事言ってくれるわね。と、モミジの護衛として側に居る大蛇丸はニコニコと笑いながらモミジの頭を撫でる。

 砕けていたパズルのピースが埋まっていく。だが、何か見落としていないか。

 モミジの長年培ってきた警戒心は、何かを見落としている気がしてならない。そしてそれは現実のモノとなる。

 

 

 

 

 中忍試験は無事終了し、各里の参加者達と担当上忍は打ち上げをしている最中。各里長達も、雲隠れの高級料亭に打ち上げの為に集まっていた。

 豪勢な料理に、高級酒の数々。里長の護衛達もほろ酔い気分に当てられたのか、少々場に酔っている。

 

 「フンッ。初めから雲隠れ主催でやれば良かったのだ。そもそも火影……貴様、酒の席だからと言って、その女装はどうなのだ」

 「なんじゃ惚れたか」

 「……誰かコイツを入院させろ。木の葉の連中は何故こんな奴を野放しにしておるのだ……」

 

 女装している上機嫌のヒルゼンに、絡み酒で絡まれている雷影a。

 

 『シュコー』

 「久々ですな。こうして剣を交えるのは……半蔵殿」

 

 美しい剣舞を披露するミフネと半蔵。大半の者は見ていないが、二人は楽しそうだ。

 

 「モミジちゃん聞いてよ。長十郎ったらいっつも私に嫌味ばっかり言うの」

 「そうなんだ」

 「ムー……適当に聞いてるでしょ。そんな悪い子にはお仕置きしちゃうわよ」

 「メイちゃん……何処触ってんの。というかのらないでー」

 

 適当な返事をする音隠れの里長に、酔っ払いながらセクハラをかます水影照美メイ。モミジは素面なのでドン引きだ。

 

 「やれやれじゃわい」

 

 そんな阿鼻叫喚をツマミに一人悠々と酒を嗜むオオノキ。

 

 「いかん……これほど出費しては……」

 

 金に煩い風影、砂金おじさんで有名な羅砂は影々じゃんけんで負け、コノ場の支払いを全額任され途方に暮れていた。

 そんなのん気に宴会していた里長達の宴会部屋に、地中から何かが近付いてくる。そして畳が一帖弾けた。

 

 「見た。来た。後は勝つ」

 

 その姿にオオノキはほろ酔い気分が醒め、風影は押し入り強盗かと用意していた金を隠し、剣舞をしていたミフネと半蔵は警戒を露にし、雷影と火影は臨戦態勢を取る。

 一方寝ているメイに圧し掛かられ、身動きが出来ないモミジはというと大蛇丸に助け出されている最中だ。

 

 「貴様……うちはマダラか?」

 「フンッ。両天秤の小僧か」

 

 部屋の畳を破壊しながら地中から現れたそれは、かつて忍の神と互角に戦い、敗れ、死んだはずの男。うちはマダラであった。

 面識のあるオオノキはすぐさま男の正体を看破する。他の面々は面識は無いものの、名を聞いて警戒心が高まる。

 

 「どうして穢土転生体になっているのかな」

 「穢土転生体だと、どういう事だ音の里長」

 

 大蛇丸に助け出されたモミジは、かつてないほど警戒を露に質問する。

 疑問に思った雷影はモミジに問うが、モミジは雷影を相手にする余裕は無かった。

 

 「貴様の呼び出したアレに無理矢理な……」

 「ああ、やっぱり『二代目』か」

 「小娘、貴様も運が無かったな」

 

 やはり、裏切ったか。だが、想定内でもある。早々に身体を変える必要性が出てきたとモミジは考える。

 

 「はて、亡者殿はなにゆえ宴会に迷いこまれたのか。お聞きしたい」

 「なに、腑抜けている貴様らに戦争を仕掛けようと思ってな。わざわざ来てやったまでよ」

 

 ミフネがマダラに質問すれば、戦争を仕掛けると宣戦布告する。

 

 『シュコー』

 「……何だオマエは」

 

 半蔵はミフネを庇うように前にでる。戦友を守るように。

 

 「……フンッ。まぁ良い。日向モミジ。貴様の首級でも挙げて宣戦布告でもす……ぐぅううう……ヤメロ……」

 

 突然苦しみだすマダラ。警戒していた一同は半蔵の動きにも警戒する。するとマダラの身体に異変が起こる。やはり怪奇現象か。

 

 「じゃーん! マダラだと思った? ゼツだよ!」

 「は?」

 

 マダラの身体から白い何かが出てきたと思えば、モミジがかつて見た食虫植物のようなモノの半身である白ゼツだった。

 

 「ちなみにボクがマダラから完全に出るとマダラが爆発しまぁす。全ては母さんの為に。そう言うことだよ母さんモドキ」

 「……」

 「愛の力の前では、いかなる精神攻撃も砕かれる。策士策に溺れるだね。滑稽だよオマエ」

 「へぇ……」

 

 そう憎悪の瞳でゼツに挑発されているモミジは、思い当たる節があるのか、なるほどと心の中で頷く。

 

 「ちなみに各里の人柱力はこちらの手に落ちました~。のんきに中忍試験なんてしてるし、宴会までしてるから、おかげさまで守りが手薄だったよ」

 「なん……じゃと……」

 「まさかそんな」

 「じゃあそう言う事でばいば~い」

 「待て貴様!」

 

 雷影や各里長その護衛は追おうとしたが、地中に高速で潜っていく白ゼツと融合しているうちはマダラ? をついには見失ってしまう。

 宴会はお開き。各里長は各地の人柱力の安否を探る。だが結果は、黒。至る場所で地下から人柱力が襲われ拉致られていた。

 

 まるで中忍試験を待っていたかのような、各地の守りが手薄になる。そんな時を狙われたような結果だった。

 

 そしてその場は、各国に宣戦布告して来た謎の勢力、うちはマダラと白ゼツ達への対策会議へと移っていく。

 

 月が見えぬ、朔の夜に起きた出来事であった。




登場人物・用語

大筒木カグヤ 兎の女神の方

枇杷十蔵 生徒にトラウマを植え付けるのに定評がある鬼教師

パクラ メイちゃんとは婚活仲間

白ゼツ マダラに憑依合体中

影々じゃんけん 五影で支払いを決める時にやるじゃんけん


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ぺいでい2

※今回は人柱力のチャクラ引っ張りみたいなのをオリ主と中の人がやる補足回なんでメイちゃんとのやり取り以外読まなくてもおk

プロット時のそのままの箇所誤字等があったので修正
本筋は変わんないでス2/17


 各里の勢力は一旦各自の里へと帰郷した。

 各地の人柱力がうちはマダラと融合している白ゼツや扉間に拉致られたが、ナルトとビーは抜け殻になった我愛羅を助けながら自力で脱出したらしい。

 ま、俺も九尾と憑依合体してるナルトと○トゥルーの化身と融合してるビーなら大丈夫だろうと思っていたところだ。たぬきはしゃーない。 

 

 砂金おじさんに『息子を助けてくれ! 有り金は全部渡す!』と、言われたので、しょうがないにゃあと言いつつ、生半可な医療忍術では真似出来ない医療魔術で生命力を戻しておいた。

 綱手姫でも居れば綱手姫にお鉢が回ったんだろうけど、例え頼んだとしても、博打の薬中だし使い物にならんかっただろうな。

 

 回復した我愛羅君はちゃんとお礼を俺に言ってきたな。砂金おじさんも『貯めに貯めた金が……』と、大泣きしていた。

 良いことするのもたまには悪くない。善悪相殺していけ。

 

 問題は、橘やぐらを拉致って音の里からとんずらこいた二代目火影【千住扉間】だ。このタイミングで……というか予想はしていたが、少し早いので内心ちょっと焦った。

 あとメイちゃんが俺に泣きついて来るのがうざい。俺は君の母親ではない。友達だから聞いてあげるけど。

 

 「モミジちゃぁあああん! たすけて!」

 「メイちゃぁああああん! なにを?」

 

 マダラのような何かが襲撃中、酔っ払いながら俺にもたれ掛かって寝ていた水影メイちゃん。その後もずっと寝たままで、あの日の夜。俺がおんぶして長十郎が案内する部屋まで送っていったな。

 他の影達からお前影としての仕事もせず寝ていたから、忍連合軍の司令官やれ、と丸投げされてるメイちゃん。

 自業自得じゃん。カンクロウが居たら、カンクロウもそう思うじゃんって言いそう。

 

 「私、連合軍の指揮なんて……できないよぉおおおお!」

 「男漁りツアーで、陣頭指揮とってた時みたいにすれば良いと思うよ」

 「それとコレとは違うのよぉ……」

 「音の里長様。すみません! 本当にすみません!」

 「モ゛ミ゛シ゛チ゛ャ゛ァ゛ア゛ア゛ン゛!!」

 

 メイちゃんのお付き、長十郎君が平謝りで俺に謝るが、そんなの関係ねぇ! と言わんばかりに俺に泣きついてくるメイちゃぁああん。

 そんな訳あるかい。あの陣頭指揮は鋼鉄の元帥を彷彿とさせるほど、立派な指揮だった。男漁り絡まないとダメなのかコイツ。

 

 「わたしにどうして欲しいの……」

 「私の代わりに指揮して! モミジちゃんなら大丈夫! ほら、音の里を五大国レベルまで発展させた手腕でお願い!」

 「満場一致でメイちゃんに決まったんだから無理だよ……」

 「すみません! お忙しい中、本当にすみません!」

 

 長十郎君。君はどこぞのすまないさんかね。謝ってばかりだぞ。確かにこれから忙しい。早く連れて帰れ。

 あとメイちゃん。内政と戦争手腕は比肩せんぞ。

 あと内政も強引な事ばっかりだから、他里じゃ真似出来ないし、やれば反乱起こって終わりだ。俺になに期待してんだ。

 

 「やだ! メイやだ!」

 「悪いこはお仕置きだよ?」

 「モミジちゃんになら、お仕置きされてもいいから、お願い!」

 「マジすみません! すぐこの行き遅れ連れて帰ります。お騒がせして本当にすみません!」

 

 ――その時歴史が動いた。

 

 「ア゛ァ゛? 今なんっつったお前……」

 「あっ……」

 「あっ……」

 

 長十郎君、テンパって心の声がそのまま出てしまったな。可愛い笑顔で殺意ましましの攻撃的な表情になってしまったメイちゃん。

 こうなったメイちゃんを俺は止める気にはならない。何か手のかかる妹が増えたみたいだ。ヒナタはそろそろ準備できたかな。

 

 「ちょっと来いや」

 「ヒィィイイイイ……水影様すみません! 本当にすみません!」

 「今のは長十郎君が悪いかな……」

 

 長十郎君はカンタだったのかもしれない。気分は五月産まれの姉の気分だ。

 メイちゃんにひきづられて行くカンタもとい長十郎君に敬礼しながら、俺はBETAが作ったハイヴのような地下迷宮へと向かう。

 

 ――目的を果たす為に。

 

 

 

 

 音の里の地下の研究施設に日向ヒナタ、日向モミジ、大蛇丸。現在の音の里の……否、この世界最高峰の戦力が終結している。彼女達は俺の目的の一つを果たす為に。 

 

 「ヒナタ、準備できた?」

 「うん。姉さん……ううん。兄さんいつでも出来るよ」

 「身体変えたら肉体的に性別変わるのかな、いや、姉である事に変わりないし、姉さんって呼んでくれたほうが違和感無いかな」

 「えへへ……姉さん! 頑張るね!」 

 

 長年俺を洗脳するように、寝起きの俺を"教育"してきたヒナタ。ま、そう仕向けたのは俺なんだがな。

 ヒナタは俺の【事情】を全て理解した上で協力している。結局無条件で信じられるのはこの二人だけなのだ。

 そして最後のピース大蛇丸。彼……彼女には色々迷惑かけたと思っているが、後悔も反省も無い。

 

 先に性別まで変えちゃったからな、大蛇丸君は。おっぱいさらしで隠してるけど……実はコイツ肉体的にも今は女なんだぜ。

 つーか、肉体的にちゃんとした夫婦になる為だし良いよね。迷惑かけても。

 俺もそろそろ新しい身体よーをして、男に戻るのだ。見た目は完全に美少女やけどええやろ。というか大蛇丸が俺の為に用意した新しい身体……両方あるとかジェンダーフリーやんけ。

 

 性別の欲張りセットかよ。大蛇丸レベル高いわ……

 

 「さて、やるわよモミジ」

 「うん。二人共お願いね」

 「うん! 任せて!」

 「ええ、任せなさい」

 

 人柱力を引き出す指輪を魔改造した指輪をはめたヒナタ。様々なケーブルに繋がれた俺と大蛇丸。そして俺とそっくりな、飛段細胞と俺の細胞で創られた素体。準備は万端だ。

 

 「じゃあいっちょ、囚われの【(わたし)】を回収しますか」

 

 ――そして精神世界へ俺と大蛇丸は行く。

 

 

 

 

 ――かつて、来た。あの部屋。

 機械に囲まれた殺風景な部屋。少女は相変わらずケーブルに繋がれたまま、つまらなさそうに存在している。 

 

 「ちゃおー。わたし」

 「……結構前から外の様子が見れないんだけど、何しに来たの貴方」

 「全ては(わたし)の手の内だから心配ない。君を救いに来たんだよ」

 

 俺の勝手なエゴで申し訳ないが。

 

 「わたしにはわかる。君の考えが。ふざけないでくれる? 殺すよ」

 「……かつての(わたし)なら、黙って殺されてただろうね。でも今の(わたし)を殺せるかな?」

 「別世界の……それも長年共に過ごした"自分の魂"に復讐されるのが運命だとでもいうの……」

 「違うんだけどなぁ……」

 

 やはりというか勘違いしてる。記憶が劣化していく彼女と違い、俺は勘違いをしようも無いが。彼女は俺の復讐を恐れていた。

 初めてこの身体に入れられた時の事を、俺は思い出していた。恨み辛み全てを彼女にぶつける事もなく、どうしてこんな事するの? と聞く俺。

 

 その質問を彼女は一笑して、客観的に自分がどんな目に合ってるか見て見たかったと言った……あの時の事を。

 

 そらまぁ、勝手に別の世界から連れて来られて、挙句、痛めつけられてる俺見て、毎回ずっと笑ってんだからな。普通なら復讐されるとでも思うか。

 もしくは"本能的"に、自分が呼び出したモノの存在を、無意識に認識してしまっている恐怖から来る……畏れから溢れた感情かもしれない。

 彼女はそれだけ規格外の存在だから。そして、そんな彼女に呼ばれた俺も……

 

 「寄生虫の分際で、わたしに勝てるとでも?」

 「さて、その寄生虫は一体何年、君と一緒に生きてきたでしょう?」

 「……なんで、なんでなのよ?」

 「ただの女の子に還る時が来たんだよ【ヒムカイモミジ】ちゃん」

 「調子にのっているね。 少し痛い目を見たほうがいいんじゃないかな?」

 

 宿主が怒り狂う。そう、所詮この身体にとって俺は寄生虫のような存在でしかない。

 極大の魔力が荒れ狂う。彼女は俺に向かって、俺と言う存在が消滅しかねない魔力の塊を投げつけてくる。

 

 ――『築基・煉精化気・煉気化神・煉神還虚・還虚合道――以って性命双修、能わざる者墜ちるべし、落魂の陣――』

 

 「チッ! あの女の術ね」

 「(わたし)と相性が良いんだよね、この術」

 

 かつての友に授かった術で、向かってくる、当たれば俺を消滅させたであろう魔力の塊を穴へ落下させて消滅させる。

 だが彼女は穴に落ちない。そもそも通用しない。そう、彼女の精神世界なのだから、彼女はここに存在するだけで神に等しい。寄生虫の俺とは違う。

 精神世界故の、かつて学んだ術の行使。本来使えないソレを、前提条件すら無視して全て使える寄生虫の俺。そしてそれは、彼女にも当てはまる。

 

 「■■■■、■■■■、我と汝が力もて、等しく滅びを与えんことを」

 

 彼女は高速詠唱で俺にドラゴンが跨いで通るような魔法を放つ。詠唱破棄なんて、暴発が怖くてかつて"凡人"だった俺では真似できない究極系の魔法。

 さて、避けるにもこの大きさではね。何か防御する為の詠唱をする暇も無い。ならば。

 

 ――『鹿島新當流・一ノ太刀』

 

 俺はかつて習った剣術を、大蛇丸に貰った草薙の剣を持って彼女の魔法を一刀の元切り捨てる。

 最早、魔法の域と言って良い切れ味。空間ごと切り裂くソレは――向かってくる殺意の塊を、ただの一振りで消し去る。

 流石に日向紅葉も予想外だったのか、目を丸くさせる。

 

 「その剣術あの女の……それにその剣、あの男だか女だかわからない奴に貰ってた、今の世界で……」

 「精神世界でも使えるんだよね、この剣」

 「……んふふ。わたしの、絞りカスみたいな存在の癖にやるね。これならどう?」

 

 そう言いながら、魔方陣を幾重にも出しつつ。まるでゲロビの魔力砲を俺に向かって多重次元から放出する。これは斬ってもきりが無い。ならば。

 そのまま受けよう。受けようがそもそも今の俺に効くわけも無い。魔力砲により、溶けて消滅するかに思えた俺だが。

 

 ――『過去見――時惑い』

 

 かつて、そして今も。時の神に囚われた経験が俺にだけある。その体験をソノまま放出する。時は戻り、俺の精神体は、先ほどの状態まで戻る。

 

 「は? ナニそれ……反則じゃないの? と言うか、何で、あんな神秘を使えるの? わたしはソレを知らない……人間である貴方が、そんな神秘……おかしいよね。なんで? ねえ、なんで?」

 「(わたし)は理由があって使えてね。精神世界でしかできないけどね、こんなモノ」

 「ふざけるな! 出来るならもっと早くに使いなさいよ……手加減してるつもりなの? 役に立たない塵の分際で」

 

 いくら助けようとしている存在とはいえ、さっきからコイツは俺に対してキツイわ。頭ヒートしてますよ宿主。冷静になってよ。

 

 温厚な俺だが、流石に少しカチンとくる。

 あの女神がきちんと約束を果たしているか……ソレを確認をした俺は。本気を出す事にした。

 

 「何度も……何度も……」

 「なに? 今更命乞いでもするの?」

 

 余裕を崩さない紅葉。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も……」

 「ッ……」

 「何度も、何度もッ! あきらめて自害するほどに、普通の精神ならばとっくに死んでいる。それでも繰り返してしまう、ソレを君と共に体験した(わたし)が絞りカスと? んふふ……あははハハハハハハハ! 笑える認識だよ宿主さん」

 「……何が言いたいの貴方」

 

 わかってないな。認識が甘い。自我が消滅しないように、俺が何をしていたのか君も見ていただろうに。

 

 「とてつもない存在の宿主さん。君という、おそらく概念上の神か悪魔に近しい魂の君。そんな存在が別世界から奪って来た、そんな君と同じ魂を持つ(わたし)が、本当に? 絞りカス? その認識でいいのかな?」

 「だから……何が言いたい……まさか」

 「ねぇ? いつから――(わたし)が取るに足らない存在だと誤認していたのかな?」

 

 ――『■■■■■-■■■-■■■■■■■■■』

 

 機械で無機質だった空間は七つの月が輝き、文明を滅ぼす竜達が、悪食の竜達が、千年毎に襲ってくる世界へと変わっていく。(わたし)の生きていた世界の……隣の世界を再現し、彼女の精神世界を、(わたし)の世界で塗りつぶす。

 

 「何……この世界は……こんな記憶、わたしは知らない……」

 「当たり前じゃない。【わたし】……これは。コレは(わたし)のハジメテ産まれた世界だよ。君が見る事が出来ない世界、そして記憶」

 「え……」

 「ま■わから■いのか、君の呼んだ存在は■■■■■■。かつて人間にそう呼ばれていた、そんな存在ダよ」

 「あ、あぁ……嘘……」

 

 俺はとたんにヒトガタを維持できなくなる。本来の俺の姿。ソレは――巨大な竜のようなカタチで、大きな口を開き、腹から手が生えまくり、悪食の限りを尽くすバケモノ。

 本来の姿になれる理由もある。カグヤちゃんブーストのおかげである。でなければ宿主である彼女の魂を傷つけてしまう。

 

 「ば、ばけもの……わたしは……ただ……」

 『助ケ()()て来た存在に、そう言われるのは……存外傷()くナ』

 

 君が呼んだ存在だぞコラ。助ける為にわざわざ時空を越えてやって来て、ずっと共に過ごした仲なのに……バケモノ扱いされると傷つきます。

 

 ――かつて、世界から拒絶された少女が居た。

 

 かつて、国民の反乱によって滅んだ国の、ある王女が居た。この世全ては虚無に等しいと、私の居場所は、私だけだと、あきらめた、小さい女が居た。

 世界は彼女の親を家を奪い、そして世界は彼女の心を奪った。国を、世界を、人との繋がりを彼女は求めたが、世界はソレを拒絶した。

 

 ――元より、彼女の居場所はその世界に無かったのかもしれない。

 

 ――故に彼女は望んだ『世界』を。

 

 結局その『世界』は彼女を救えず、勇者のような存在達にその『世界』は討たれ、とある国の地下に封印される事になる。

 

 ――そして、そんな存在を、彼女は次元を超えて呼んでしまったのだ。同じ魂を持つ存在を巻き込んで。

 

 そう、そんな『セカイ』と融合してしまったのが俺という存在。

 彼女の魂の中に入るために『セカイ』が勝手に当て嵌めた、都合がいいヒトの魂を選んだ結果。俺が選ばれたんだろうね。

 無論俺は抵抗した。というよりその『セカイ』自体俺と同位体だったから抵抗の意味も無く完全融合してしまったんだよ。

 進入した彼女の精神を喰らわないように、何年も何年も本当に苦労した。出せる力は最小限に。針に通す糸どころの神経の使い方じゃなかった。

 危うく自我が消えそうにというか、共食いしそうになったからな……俺自身が俺を。

 

 ――戦意を失い、かつての希望を、思い出してくれるであろう宿主へ問う。

 

 『虚無へト向かうカ? ソれとモ生きたいカ?』

 「……」

 『……』

 

 空ろな表情になってしまってから数分。彼女はようやく正気に戻ったのか、何かを思い出し、悲しい表情で……

 

 「わたしは……ただ生きたい。普通に生きて、普通の女の子みたいに……だから、たすけて……」

 『……わかっタ』

 

 ――俺は彼女の記憶を喰う。彼女を蝕む忌まわしい呪いごと記憶を全て。

 

 無理矢理喰っても、その魂が傷付くからね。彼女が同意してくれるまで粘っていた訳だ。

 助けて欲しいと素直になってくれれば、もう少し早く出来たのに。

 ま、求められた存在の記憶に感化されすぎてしまう、そんな俺じゃあ時間がかかっても仕方ない。

 

 俺、精神科医やカウンセラーには向いてねえや。同じ気持ちになっちゃうし。

 病んだ相手の魂に入ったら、一緒に病んじゃったもの。助けようとする存在に、喰ったモノにすら同調して、自分も何故かそうなる。

 

 何せ全部喰うからな。悪食だし。

 

 そして彼女は、リラックスしたように横たわる。役目を無事果たせる俺は、ヒトガタへ戻る。こうしている間にも彼女の記憶は、俺の中へ流れていく。

 いやまぁ、こんな無茶できたのは彼女の魂のキャパシティもあるけど、三つ目角女ことカグヤちゃんの守護ブーストのおかげでもある。

 彼女が居なければもう少し時間がかかったかもしれない。彼女が紅葉という存在を守ってくれたから、いやほんと、あの女神規格外だわ。

 

 「……貴方の本来の姿、よく見たら可愛いかったわ」

 「え゛っ」

 「もしわたしが、貴方を忘れたとしても……貴方はわたしを、わたしと言う記憶を……捨てないでね」

 「……安心しなさい。わたしが全部持って行く。ずっと誰にも渡さない。だから今は、ゆっくりおやすみ」

 「うん。あり……が……」

 

 本当は俺も……長年共に過ごした半身に忘れられたくないが、記憶を全部喰う。二度と魂に傷が付いて、肉体の損傷なんて起きないように。

 

 こんな方法しか思いつかなかった俺を許せとは言わない。だが、生きてくれ、どんな状態であれ、救われてくれ。あの子のような存在を、二度と作りたくない。

 

 次に彼女が起きた時、俺の事なんて綺麗さっぱり忘れてるだろうさ。

 彼女は救われた。完全な意味で。普通の少女と同じように、歳をとって死ねるだろう。

 

 ソレで良い。俺は俺さえ居れば良い。

 

 けど長年過ごした半身の願いを叶えたのなら、そろそろ……自分の肉体を持って自由に動きたいんです! 俺自身の願いも叶っていいよな。でなきゃオカシイ!

 と言うわけで、ヒナタや大蛇丸に協力してもらう訳だ。俺だけだと無理です。俺は喰う専門なんで。

 

 「すごいわね、貴方も彼女も」

 

 カグヤバリアで守られて居た場所から、ずっと俺達を見ていた大蛇丸君の感想は、小学生みたいで先生は可愛いと思います。

 

 「大蛇丸君さぁ、もうちょい手伝ってくれてもよかったんじゃないかな」

 「嫌よ。流石にあんな中に入ろうモノなら、私の魂が消滅しちゃうわ」

 「ま、いいや。彼女はこれで良いとして、本番いくよー」

 「ええ、あっちの身体に貴方を入れるわ」

 「お願いね」

 「任せなさい」

 

 そして外でヒナタ、内に大蛇丸というスペシャリストのお陰で……俺は寄生虫から、一人のヒトガタに進化した!

 

 

 

 

 「いやっほう! こんにちは新しいわたし。大蛇丸とヒナタ愛してる!」

 「流石に疲れたわ……」

 「姉さんが増えたみたいで、何か嬉しい」

 「そっちの(わたし)は完全に記憶無いはずだから、これからの生活……助けてあげてねヒナタ」

 「うん! 任せて!」

 

 いやぁ、一仕事した後はあんにゅいな気分が晴れて清々しい。ああ、今まで一緒に、生きてきた甲斐があった。

 あのとき救えナかっタ彼女を、無意識に重ねてたかもしれない。世界に捨てられた彼女に。

 心残りだった。だが、封印されていた俺にはどうしようもなかった。ま、今の世界で出来る事をやろう。

 

 「さて、後は女神様のお願いか」

 

 約束は果たされた。ならば俺は君の願いを叶えよう。俺はそういう『セカイ』なのだから。




登場人物

日向紅葉 別世界の同じ魂はバケモノと融合していた

日向モミジ 全てを喰らうバケモノと融合した元人間の魂 尾獣よりヤバイ

カグヤちゃん 女神様 バケモノに救いを求めた

ある王女 零へと還る物語の方


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Insel Null

 日向モミジは、音の里の地下深くで新しい身体の調子を確かめていた。

 

 「流石大蛇丸。魔術ブレンドの素体は、一寸の狂いも無い。けどなんでわたしのアレは両方あるのか」

 「両方あったほうがお得でしょ」

 「……」

 

 そう言いながら、絶句するモミジにウインクを飛ばすのは大蛇丸。

 本来の忍術やクローン技術で相当な年数がかかるソレを、短期間の内に完成させてしまう才能。

 この世界で真似出来る者は恐らくいまい。それは最早単なる天才という枠組みからかけ離れていた。

 

 そんな風に己が身体を点検しながら、日向モミジはとある存在と邂逅するために、ある部屋へと護衛の大蛇丸と共に入る。

 

 「やあ、お久しぶり。君たちのおかげで元気になったよ」

 「……」

 

 (何時見ても人外だなぁこいつら、漂流した教室に出てくるアレか、BETAの戦車級かよ)

 

 その存在は喋らない。普通の人間では聴こえない音で通信し意思疎通する。

 何故モミジが会話できているとかと言えば、かつて似たような存在と意思疎通する機会があったからだ。

 

 目や様々なモノが退化し、普通の人間からかけ離れている彼らは、意思疎通が唯一出来るモミジに助けを乞うた。

 

 我らの聖域を侵す者達がうっとおしいと。助けてくれと。

 モミジは対価を貰えるならと、その願いを聞き届けた。

 

 モミジは彼らの守る場所を異界化させた。普通の手順では迷ってしまい、進入する事は不可能な場所に。

 モミジは対価として、その地に生える薬草と彼らの労働力、彼らの細胞を手に入れた。

 その薬草から抽出された成分と、彼らの細胞も大いに役に立った。

 

 そんな薬草の成分や、彼らの細胞と飛段の細胞を魔術で掛け合わせ、かつての大蛇丸の計画を、一笑に伏せるレベルの神秘を産み出した。

 もちろん大蛇丸自身の身体にも利用している。モミジが言うには『彼らはまるで、Cure.Virus-P-Carrierだ……』との事。

 

 彼らの細胞はレトロウイルスの一種でもあった。様々な障害をブレイクスルー。つまるところ、大蛇丸やモミジが求めていた存在でもあった訳である。そんな細胞を持つ彼らが聖地と称している場所に生える薬草と、彼らの細胞を掛け合わせ、不老だけでなく、不死すら可能とした。

 普通、そんな細胞を移植すれば拒絶反応が起こる。そこに柱間細胞が多いに役に立つ。

 精神の問題が無い大蛇丸は、さっさと素体を作り、不老不死へと辿りついたが、精神面の問題があったモミジは実行できなかった。

 

 そこに魔術的要素により、精神面をカバーする為の世界の外的因子。黒魔術によって誕生した飛段細胞がフィットしたのだ。

 未知の神秘の連続に大蛇丸は興奮した。研究大好きっ子の大蛇丸は、それはもうウキウキとしながら研究の日々を送ったものだ。

 

 そして、モミジの精神的な根幹を揺るがす存在から魂を分離する手段を、大筒木カグヤの補助により獲得したモミジは……

 かねてより計画していた己だけの身体の取得へと行動を移す。これにより彼を縛る枷が外れた。

 

 それに身体面だけではない。音の里の急激な発展や開拓は、彼らの労働力があってこそだったのだ。 

 まるでどこかの世界の、ハイヴのような構造の地下迷宮。その規模、フェイズで言えば5は確実だ。

 

 その地下迷宮は、歴史に否定され、世界に疎まれ、滅びが運命だった者達の最後の楽園(ツォアル)となった。

 

 何故そんな迷宮を作らせたかと言えば、日向モミジの計画に必要不可欠だったためだ。

 肉体の不備を解決したモミジは、計画を最終段階へと移行する。

 

 

 

 

 木の葉の里の根のアジト。その地下深くで女装しているダンゾウと牢に入れられているカカシが居た。

 女装し、何故かカカシの使っていた渦を巻いているような面を付けて、ダンゾウはカカシと対話する。

 

 「お前たちは悪だ、滅ぼさなければならない。父さんやリンを見殺しにした畜生だッ!」

 「先ほども言ったはずだ……それはお前が見た幻だ」

 「嘘だッ!」

 「嘘ではない。何故なら、のはらリンも、はたけサクモも……生きている」

 「!」

 

 驚愕の表情で、ダンゾウの背後から現れた二人の人間を凝視するカカシ。 

 それは死んだはずのリンとサクモであった。二人はカカシに笑顔を見せている。

 

 「じゃあ……木の葉はわるくないのか?」

 「木の葉はとってもいいものよカカシ!」

 「ああ、悪いモノじゃないぞカカシ」

 

 リンとサクモの二人は、カカシに笑顔で語りかける。

 戸惑う表情から一転、カカシは満面の笑顔になる。

 

 「どうやら俺は……間違っていたらしい」

 「このうっかりめ。じゃがワシは許してやろう。寛大な心を持っているからなワシは」

 

 リンとサクモ、二人の笑い声と共にカカシも笑顔になる。ダンゾウもそんな三人を笑顔で見守る。

 そんな4人を離れた場所から見守る影が居た。

 

 「うむ。笑顔が一番じゃのう」

 「でしょう?」

 

 三代目火影ヒルゼンと影分身の日向モミジ。

 そもそもリンもサクモも死人だ。彼女らはモミジが蘇らせた穢土転生体だ。

 幻術の中で生きるカカシにはわからないだろうが、ダンゾウは知っていて、カカシに幻術をかけながら暗示と洗脳を施す。

 

 「これも一種の救いよな。無理を言ってすまなかったのう。モミジよ」

 「別に良いよ。それより……変わったね火影さん」

 

 三代目火影ヒルゼン。彼はモミジの幻術にもかかっていないし、傀儡でもない。

 

 「全て儂の不徳が招いた事態。自覚したんじゃよ……お主にかけられた幻術の中でな、儂は儂の甘さを」 

 「……」

 「甘さだけでは、守りたいモノも、この手から零れ落ちてしまう……ダンゾウにも昔から言われておったが……それを再認識しただけじゃ」

 「そっか」

 「お主にも散々言われたが、まだ認識が甘かったようじゃ……儂がもう少し早く決断出来ていれば、ナルトもさらわれずに済んだのにのう」

 「人柱力は難しいからね色々と」

 「ダンゾウも儂も、変わった。変わらざるを得なかった。もし、あのまま甘い理想に溺れていた儂じゃったら……」

 

 ダンゾウか大蛇丸に殺されていたかもしれんのう。そうモミジに零す。

 それはどこかの世界、時代で起こりえた可能性。その可能性をモミジは潰す。

 

 「ついでにミナトとクシナ、他の者達も頼んで良いか?」

 「はいはい。その代わり……わかってる?」

 「約束は守るわい。それに他人事でもないしの。儂も火影として、いや、この世界に生きる一人の人間として、この世界を守らねばならん」

 「なら良いよ。マダラやゼツ達が片付いたらお願いね」

 「うむ」

 

               い

 二人の里長は密約を交わす。かつて交わした約束と

               か

               還

               る

               べ

               き

               場

               所

               の

               為

               。

 

 

 

 

 水の国。霧隠れの里。その近海にある水中深くのとある施設に、水影メイと日向モミジの影分身が居た。

 その施設は、現在謎の勢力から各里が宣戦布告された中でも、色々な里の者達で賑わっている。

 

 「結構賑わってるでしょ。え、本来の目的? あっ……大丈夫よ! 忘れてないわよ。私を信じてモミジちゃん!」

 「何か不安になってきた……」

 

 水影であるメイと度々会っていたのには理由があった。やくもの件もそうだったが、日向家に対する行動の問題を解決するために、彼女達はよく話し合っていた。

 結果的に平和的な解決策へと乗り出すことになったのだが、当時のメイはただの上忍。そこでモミジは彼女が水影になるように暗躍した。

 

 そういったしがらみを解決し、無事水影になった彼女に個人的なパイプが出来たモミジは、彼女にある提案をした。

 とあるテーマパークを作ろうと。メイはあまり深く考えずに、霧隠れの里の近海の水深17m~51mの領域に四層からなる建物を建造。

 

 そのテーマパークは水の国の観光施設となった。そしてソレはある目的のための、重要な資金調達源となっていた。

 その豪快な手腕により、水影になったメイに不満を抱く者達も、彼女を崇拝するくらいには霧隠れの里は変わった。

 

 「我らも協力する故、心配ありませんぞモミジ殿」

 『シュコー』

 

 ミフネと半蔵。彼らも里の忍やサムライを、この施設を作る為に派遣し、いつか来るだろう問題の次善策として、この施設を作る為に手を貸していた。

 このテーマパークは音霧滝サムライの4ヶ国の協力体制の元作られた。減圧症やらなんやらの細かい問題はサムライの技術により解決。

 高圧力送風機は何故か半蔵が作った。彼は意外と機械関係に強い。音の忍も協力し作った施設でもある。

 

 子供や忍が遊べる広大なテーマパークではあるが、本来の目的は違う。

 ここは本来、緊急時に避難する為の場所として作られている。モミジは各里に似たような施設を作ろうとしたが、時間と金、そして人が足りなかった。

 故に二ヶ所。それもこれも二代目火影である扉間のせいである。

 

 「カウンターのカウンター。不確定要素による被害を最小限にする為の投資。ま、無駄になっても良いけどね。メイちゃんウキウキで嬉しそうだし」

 「だから忘れてないって言ってるじゃない。拗ねないで。ホラホラ」

 「いや、誤魔化そうとして、モミジ殿にセクハラをするのはどうかと思いますぞメイ殿……」

 

 この世界における億万長者トップと化した照美メイは、本来の目的すら忘れ、男漁りツアーを開催し、自身も度々いく位には懐も心も余裕である。

 その慢心故か、他の影達よりも能天気である。これはモミジによる幻術や思考操作ではなく、完全に彼女自身の問題だ。

 モミジは出会った当初、多少弄りはしたものの、すぐ解除してある。ほって置くととんでもない方向へ行きかねないからだ。

 

 そういった経緯があり、かつてメイ以外の影達が会議の結果、忍連合軍を結成するに当たって、資金面や様々なモノを考えた結果、メイを連合軍のリーダーに推薦するに至ったのだ。

 大半の原因は、メイが寝ていたせいではあるものの、概ね理に適った采配なのだ。もちろんその決定には、モミジが一枚噛んでいるが。

 

 「長門、ほらあっちにイルカ」

 「小南……少し休憩しないか……」

 『キュイキュイ(殺して救済してやろうか)』

 

 新婚旅行中の夫婦が分厚い防水ガラス越しに、イルカを見ては、はしゃいでいる。そのイルカは可愛い笑い声で客達をたのしませている。

 

 「シズネよせ! 私は乗り物ではない!」

 「いっけー綱手号!」

 

 医療忍術の師弟も遊んでいる。だが、ここの医療スタッフだ。

 

 「角都さん。貴方、たい焼き屋を始めたんですか……結構お似合いですよ」

 「茶化すな鬼鮫。飛段の借金のせいだ……」

 

 角都のたい焼きコーナーは子供達にも大人達にも人気のコーナーだ。

 

 「兄さん! 俺もたい焼き食べたい」

 「サスケ、落ち着け」

 「兄さんはオレ○ばっかり食べさせるし、食べ飽きたんだよ○レオ」

 「サスケェ! 俺はお前をオレ「イタチ兄ちゃん俺にも買ってくれってばよ!」ふむ。少し俺も浮かれていたな、ナルト君にも○レオをあげよう」

 

 『もうオ○オ飽きたってばよ』と、のたまうナルトに、笑顔でオ○オを食べさせようとするイタチ。サスケはすかさず逃げ出した。だが、ナルトは動くのが少し遅かった為、イタチに捕まった。

 少々働き詰めで、イタチもストレスが溜まっていたのか、今は伸び伸びとはしゃいでる子供達に感化されたのか、同じように楽しんでいる。

 

 「ナルトもサスケ君も少しは遠慮したらどう? すみませんイタチさん」

 

 ナルトやサスケ、サクラや鬼鮫とイタチ。木の葉の面々もこの施設に観光という名目で避難している。

 モミジは前々から避難させるようにと三代目に言っていたのだが、三代目が渋ったせいで一度はさらわれたナルト。

 

 だが、現実を認識した三代目は彼らを避難させる事にようやく同意した。

 今は修行も兼ねてこの施設で班員やビーと共に滞在している。

 

 ビーは伸び伸びとラップ修行の旅に出かけていたのだが、襲われてからようやく自覚したのか、己が狙われている事を再認識する。逃げる最中、タコ足を一本犠牲にしたが、本人はあまり気にしていない。

 だが、里に帰れば雷影に雷を落とされ、渋々ラップの旅は中止。モミジからの提案もあり、この施設へ行く事に。

 故に、このテーマパークへと避難しているのだ。そして、そこで出会ったナルトと意気投合。二人は歳の離れた友達となった。

 

 「YOYO ナルト。あんまんだってばよ」

 「俺の口調真似すんな! ビーのおっちゃん! そのあんまんよこせってばよ」

 「こらこらナルト。あまりビーさんに迷惑をかけるなよ」

 「えー! 俺よりオビト先生の方が迷惑かけてるってばよ!」

 

 トイレから出てきたうちはオビトは、いつも通り賢者タイムだ。

 綱手とシズネを見て、何かを膨らませて引率であるはずが、その仕事を放棄してトイレへと駆け込んだのである。

 これにはサクラもニッコリ。『あんたが一番迷惑かけてんのよ!』オビトは再び宙へ舞い、トイレに放り込まれる。

 他にもデイダラの粘土教室、サソリの傀儡教室等、子供達にも人気のコーナーがある。

 デイダラの粘土教室には、勝手に住み着いたツチが、勝手に助手を担当しては、デイダラの芸術品を改造している。

 

 『天才塾かな?』と零すモミジは、ブリーフ一丁のおっさん達を幻視していた。

 

 そんな施設内で、モミジやメイ、ミフネに半蔵は打ち合わせを開始する。

 これから来るであろう。様々な困難を共に乗り越える為に。彼らは、彼女達は動き続ける。   




人物系

目の退化したアレ 確かアニメの300話くらいで出てる この世界ではCure.Virus-P-Carrierみたいなモノ

照美メイ この世界トップのお金持ち だが彼氏は居ない

綱手号 シズネちゃんの玩具

角都 たい焼き屋さん


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Re:Rock

-and the consequences return and advance again-


 ロックリーの朝は早い。それはトレーニングという日課があるからだ。

 毎朝決まった時間に起きて、決まった時間に朝食を食べるルーチンワーク。

 それは彼が幼い頃から変わらず、欠かせないモノとなっている。

 

 「……今日もランニング日和の、良い天気です」

 

 そう言いながら、朝食を食べつつ、天気の具合を気にするくらいには、彼にとって大切な日課のようだ。

 朝食を食べ終え、着替え、戸締りをしランニングへ向かう。

 

 「お、リー君。おはよう」

 「おはようございます! 今日も良い天気ですね!」

 「おはよう、リー君。リー君は相変わらず元気だねぇ……」

 

 近所のお爺さんやお婆さんが、ランニングをしているリーと挨拶を交わす光景も、変わらない日常だ。

 だが、リーはこの当たり前のように感じるこの光景を、当たり前とは思わない。

 かつて、体験した中忍試験、木の葉崩し、ペイン襲来、そして――あの大戦を知っている身では仕方が無い。

 

 (この時代、この世界では……三代目も健在、ガイ先生も……そしてあの人も……)

 

 そう、彼は本来この時間軸には存在しないはずだったロック・リー。

 彼は走りながら、町並みを見ては眩しげに、触れては壊れてしまう宝物のように感じている。

 

 (ボクの足掻きは無駄じゃなかった……!)

 

 かつての記憶に想いを馳せながら、彼は今日も日課をこなしていく。

 

 

 

 

 「こんにちは。モミジさん」

 「ん? 今日も見舞いに来てくれたんだ。ありがとう。リー君」

 

 リーはネジに連れられて、とある部屋へ。

 日向の宗家。日向ネジの護衛対象であり、日向ヒナタの姉である日向モミジの見舞いにやってきた。

 

 必要最低限の家具に、殺風景な部屋。余計な物を欲しがらない彼女らしい、そんな場所にネジと共に入る。

 ベッドに横たわっていた彼女は、起き上がり。病的までに白い肌と、細い腕を晒しながら見舞いの品を受け取る。

 

 そも、彼女とリーは接点など無かった。

 だが、一緒に修行をしようとネジを誘う為日向家に赴き、偶然ヒナタと共に庭でひなたぼっこをしている彼女に出会わなければ、接点は生まれなかったはずだ。

 

 「相変わらずですねモミジさんは」

 「何が相変わらずなのか。まるで寝ているだけのごくつぶしとでも言いたげだね?」

 「あ、いえ。そう言う意味ではなく……」

 「おい、リー。モミジ様に失礼だぞ」

 

 扉の前で陣取って居たネジが、すかさず苦言を呈す。

 

 「んふふ、ごくつぶしに違いないけどね」

 「モミジ様!」

 「そんな怒鳴んないでよ。冗談だよ冗談」

 

 自虐的なモミジに怒るネジ。そしてその声を聞き、部屋にやって来る影。

 

 「また姉さんに怒鳴ってる。ネジ兄さん……?」

 

 白眼全開でネジを睨みつけながらモミジの部屋へやって来た日向ヒナタ。

 

 「あ、あの……ヒナタ様? 違うんです! 誤解です!」

 「姉さんをお願いしますね」

 「あ、はい」

 

 叫びながら釈明するネジを引き摺りながら、ヒナタはネジと部屋から出て行く。

 こうしたやり取りも日常と言えるほどには、リーは日向家によく入り浸っている。

 

 「騒がしくてごめんね。ネジもヒナタも育ち盛りだからね」

 「え、いや、そういう問題では……」

 「あはは。真面目だね。リー君は」  

 

 何故リーが、彼女を見舞いにわざわざ来ているのかと言えば。単純にネジやヒナタの姉というだけで来ているだけだ。

 そこに特別な感情など無い。しいて言えば哀れみだろうか。

 

 「貴女は何故……」

 「ん?」

 「貴女は何故笑っていられるんですか? もう余命幾許も無いというのに……」  

 「ううん? どうした、リー君」

 

 そう。彼女は余命幾許も無い。ヒナタとネジから聞いている。そして彼女自身もそれを知っている。

 かつてリーを治し、現場に復帰させた……あの医療のスペシャリストである綱手ですら、匙を投げた。死亡宣告に等しいそれを彼女は笑って済ませたらしい。

 

 何故……彼女は笑っていられるのだろうか。ネジや自分をからかい、普通の人間のように振舞っていられるのだろうか。

 子供故の、残酷な質問。大人であれば、躊躇し、けっしてしないであろう問い。

 

 「……貴女は何故、そんなにも強いんですか」

 「あー……そういう事」

 

 もちろんリーも普段ならばこんな問いなど問わなかっただろう。

 今は普段ではない。木の葉崩しという悲しい出来事があった後なのだ。サスケの里抜け、三代目火影の死。色々な悲しみがリーに降りかかる。

 

 もっと自分に力があれば。もっと色々な事ができていれば……リーはある種の自信を無くして不安になってしまったのだ。

 師であるガイと続けている修行は……果たして実を結んでいたのだろうか……意味はあったのか……

 木の葉崩しの後で、少々ナーバスになっていたリーは八つ当たりのように、彼女にその鬱憤を質問でぶつけている。

 

 「……強くなんてないよ。ただ諦めてるだけ。君のほうが……よほど人間として強い」

 「えっ……?」

 

 だが、リーにはあり方が強く見えたモミジは、自分の方が強い人間だと言う。

 

 「慣れって怖いよねぇ……諦め癖なんて付くくらいには……」

 「それはどういう……」

 

 ふと、リーを眩しいモノのように見つめるモミジ。そんな彼女にリーは言葉を続けられなかった。

 ああ、ごめんねとモミジは言って再び言葉を続ける。

 

 「そんな滑稽な……わたしに比べて、君はハンデを物ともせず頑張り続けた。ネジはよく君の話をしていたよ。

  運動オンチで忍術の才能も幻術の才能も無い。そう同級生から馬鹿にされているのに、ひたすら頑張っている愚か者とか当時は言ってたかな。

  ネジは素直じゃないけど、君のあり方に憧れて、認めてもいたよ。あの子も屈折した難しい子だけど、そういう直向な君を見て何か感じたんだろうね。

  それからかな。ネジはいい方向に変わったよ。無駄に他者を見下すような事はしなくなったし、今では君をライバルと目標みたいに思って日々修行しているよ。

  ……わたしはほら、稽古つけてあげようにも血吐いちゃうし、あの子に何もしてあげられなかったし……感謝してるよ」

 

 「……そうだったんですか」

 

 勝手に憧れライバルだと思っていた。そんなネジは自分を認めていたらしい。

 モミジの独白にリーは胸が熱くなる。ネジは自分の事をそんな風に思ってくれていたのかと。

 

 「だがら自信を持っていい。君は強い。わたしが認める。かつて日向の天災と言われたわたしが。

  諦めなければ良い。他人の誰かに認められなくても、貶されようと……たった一人でも認める人間が居ればそれは本物だ。

  君は君が信じる道を行けば良い。貫き通せば、それは一つの真実になる」

 

 かつて日向の天災として名声があった日向モミジ。特別上忍になるまでは第一線で活躍していた人物。

 だが病が発病してからは自宅で療養する日々。かつての鬼才は、ただのゴクツブシと里の者から陰口を叩かれるようになった。

 

 そんな彼女だが、けして腐る事は無かった。 

 

 稽古をつけたりは出来ないが、ネジやヒナタに口頭でアドバイスもするし、日向一族の長老達の色々な相談にも乗る。

 そんなモミジをネジやヒナタは、日向一族は、けっして貶したりしない。

 日向家の長老達は、いまだにモミジを次期長として押しているくらい彼女は評価されている。

 

 日向モミジに対してリーも、ある種の憧れを抱いていたのかもしれない。

 

 そんな彼女やネジに認められているのだ。リーの胸に消えかけていた火が、再び激しい炎となる。

 

 「……ありがとうございます。モミジさん。少し自分に自信が持てました」

 「うん。悩みが少しでも晴れたなら良かった。 ……わたしにも君のような直向さがあったなら……まだこの世界で足掻いていたのかな」

 「えっ」

 「あー……柄じゃない。やめやめ。笑顔で平和。それが一番だね。若者よ、大いに悩みながら前進していけ」

 「あ、はい。頑張ります! 今日はありがとうございました!」

 

 小声でボソリと呟くその言葉はリーには聞こえなかった。彼女には彼女にしかわからない悩みがあるのだろう。

 リーは笑顔を取り戻す。その直向さは、努力の天才と、どこかの誰かに言われるほどに輝いていく……

 

 

 

 

 「そんな……」

 

 ペイン襲来後、多くの忍達が死んでは蘇った。だが、その蘇った中に日向モミジは居なかった。

 ネジやヒナタも日向一族の長老達も嘆き悲しんでいる。

 

 綱手が言うには、まだもう少し生きられたはずだ。延命措置を施していた。なのに何故。

 

 この日から、リーの輝きにかげりが出る。ほんの少し、だがそれは染みのように広がっていく。

 そんなリーの心情のように、世界にもそのかげりが広がり始める。

 

 第四次忍界大戦が始まり、数多くの忍が散っていった。ネジが亡くなった。

 

 ――また一人、未熟だった自分を認めてくれていた人が居なくなってしまった。

 

 そして終戦間際に、師として尊敬していたガイも亡くなった。

 

 ――また一人、自分を認めてくれていた人が居なくなった。

 

 そして大筒木カグヤとの戦い。ヒナタもナルトを庇って亡くなった。 

 悲しみの連鎖。それでもナルトやリーは懸命に努力し、何とかカグヤを撃退し、その後、五大国と協力しつつ平和を保ち続けた。

 

 だが、そんな頑張りを嘲笑うかのように、木の葉の里は滅んでしまった。否。忍世界は滅んでしまった。

 今では忍と呼べるモノは片手で数えられるほどに減った。

 

 リーは思う。何故こうなってしまったのだろう。どうすれば良かったのだろうか。自分は、自分たちは間違っていたのだろうか。

 

 後悔と悲しみにくれるリー。だが、そんな彼に言葉をかける仲間はもう居ない。

 

 「ボクはずっと木の葉のために……何が出来るかを……探しました……」

 

 朽ち果て、ボロボロになった墓標に彼は語りかける。

 

 「その何かを、何度も、見失いそうになったりしましたが……ボクは貴女の言葉や、ガイ先生の言葉を胸に頑張ってきました」

 

 彼の心境はどういうものなのだろうか。悲しみか憎悪か。それとも諦観か。

 

 「ボクは……間違って……いたのでしょうか……」

 

 涙は枯れ果てたはずだ。だが流れるコレは何だろうか。

 

 「……もう誰もボクに教えてくれません」

 

 彼は今、後悔しかない。かつて灯った火は消えかかっていた。

 できるならば、あの頃に戻りたい。ヒナタやネジ、モミジが笑い合っていた日々。

 同期の面々と馬鹿をやりながら、笑っていた日々。

 

 かつて交わした言葉を胸に、彼はひたすら進んだ。その結果がこれでは報われない。あまりにも報われない。

 

 そんな彼に不思議な事が起こった。リーは光に包まれる。

 空から人影が降ってくる。そう、文字通り降って来た。

 半透明で、生きている人間ではないのは明らか。だが、その人間をリーは知っている。

 

 「えっ」

 『後悔しておるのか。ならば戻してやろう』

 

 それはかつて忍界大戦時、穢土転生で蘇った時に見た、初代火影柱間だった。

 

 『お前に全てを託す……笑顔になれるとよいな……』

 

 そんな言葉を最後に、彼はこの時代から消える。

 

 

 

 

 気付けば彼は、ガイに出会う前の幼子へと戻っていた。摩訶不思議な出来事に彼は困惑した。

 何が起きたのだろうか。時間移動? だが……リーは難しい事を考える事をやめた。

 

 「何だっていい……これは機会(チャンス)です……もう二度と……」

 

 二度と、あの悲しみを繰り返してはならない。リーの心に再び火が灯された。

 

 再び師と出会い。彼は今まで以上に修行をする。聞けば彼の師であるガイも似たような境遇らしい。

 ならばと、二人は己が信じる道を突き進む。悲しみを背負いながら、彼らは歩み続ける。

 

 気付けばガイもリーも凄まじい忍になっていた。ソレはこの時代の五影と互角の実力。

 火影に相談し、対峙し、戦い、認めさせて、自由に行動できるようになった。

 

 ふと、リーは彼女の事を思い出す。自分を認めてくれた一人である。日向モミジを。

 だが、彼女は同じ存在かを疑うほどに行動的だった。気付けば、既に彼女は木の葉から抜けていた。

 

 彼女も……もしかしたら、自分達と似たような存在なのかもしれない。

 

 ならば、道は再び交わるだろう。彼は、彼女の邪魔にならないようにガイと共に戦い続ける。

 ふと、音の里にて……彼女の様子を見に来たリー。

 大蛇丸と和やかに過ごす彼女を見て、少し寂しい思いを感じる。

 

 「……覚えていますか? ボクは貴女の言葉を忘れない」

 

 けして届かぬであろう小さい言葉。そんな言葉と共に彼は再び駆ける。

 己の信じる道を師と共に。




――I will start over again and again for your word. 


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第四次忍界大戦
ドキッ☆忍だらけの大運動会~開会式~


カブトのエドテンバスケはありません


 アクセス――■■原罪(シン)と、かつて何処かの世界での歴史を思い返すように、日向モミジである俺は忍連合軍の中枢に居た。

 欠けた感情のソレが求める飢餓感を、再び思い出す。ニンゲンでは無い己には到底理解できない。人が求めるソレを。

 

 そんな人でしかわからない行動原理で、白ゼツ&うちはマダラ達が本格的に侵攻して来たのだ。

 連合軍は水の国に集結。とある施設を守るように陣を構え、ここに忍世界の世界大戦のようなモノが開催された。

 

 「第一部隊は左翼の白ゼツの部隊に」

 

 メイちゃんは今、忍連合軍の部隊指揮を執っている。

 

 「第二部隊は正面の白ゼツ部隊をお願いします。第三部隊から第五部隊は薬師カブトが率いる穢土転生部隊を……第六部隊は右翼を」

 

 謎の機械に繋がれた山中家の奴に各部隊への指示を出しているメイちゃん。

 うむ。様になっている。何で俺が忍連合軍の中枢に居るかと言えば、メイちゃんのせいだ。

 補佐してくれなきゃ婿探しツアーするって、しつこく音の里の俺の執務室で駄々こねるのだ。

 

 そんな風に俺の部屋で愚痴ったり、飲んで酔っ払って暴れたメイちゃんを宥めたり、そんな日々を少々過ごしていた。

 しょうがねぇなあと、どこかのZ戦士のような心境になったのは言うまでも無い。

 

 そもそも俺とか居なくても勝てるでしょうに。

 こんなオールスター戦に俺は入りたくは無いし、俺要らんやろ。

 

 ・第一部隊 ダルイ率いる雷部隊

 ・第二部隊 黄ツチ率いる土部隊

 ・第三部隊 うちはオビト率いる火部隊

 ・第四部隊 我愛羅率いる砂部隊

 ・第五部隊 ミフネ率いるビームソードサムライ部隊

 ・第六部隊 半蔵率いる怪奇現象部隊

 

 後なんか色々な情報なら任せろの山中家の奴とダンゾウに大蛇丸の部隊、感知は目覚めし者になったナルトと地雷屋さん部隊。後方支援の医療は綱手とシズネ率いる部隊。

 

 ね、要らないでしょ? 新しい身体で動きまくったせいで、俺はちょい疲労気味なのになあ。

 

 ・即応部隊(第七部隊) 日向モミジ率いる多国籍軍

 

 俺がよくわからない奴らを率いる事になってしまった……感知情報奇襲なんでもやろうぜ部隊。アカンこれじゃ俺が過労死するゥ!

 いや、もう不死だったわ。過労で死ぬ事は無かった。アハッ。

 

 なんで一つにまとめたがるんですかね……メイちゃん含む五影。

 音忍にサムライの一部に怪奇現象部隊の一部、木の葉の情報部と感知部と医療部の合同部隊。

 配下の部隊員にどこかで見たことがあるハゲ居るぞ。お前敵役ちゃうかったっけ……アイツの頭に草2つ植えつけたい。

 

 故に俺だけ不参加決めて、音の里から一歩も出ません作戦は無事終了。

 俺、どっかの杏ちゃんみたいに戦争なんてやらず引き篭もりたかった。飴くれや。世知辛いね。

 

 俺という保険は確かに役に立つだろうよ。ヒルゼンとオオノキめ……笑顔でメイちゃんを煽りつつ、友達なら助けてやらんか、なんて俺を煽りやがって。

 俺が魔改造した水晶の術をうっかり見せてしまったせいで……覆水盆にかえらないどころか、闇のショコラティアラおじさんみたいになって俺に襲ってきたな。

 

 水の国の観光施設で意気揚々と俺も飛行忍術教室開いてたんだよ。子供達は大興奮で術を覚えては浮いていた。

 そんな微笑ましい光景をぶち壊すかのごとく、奴らは突然海から攻めてきた。

 

 そう、海の中にうちはマダラと融合したゼツが群れをなして泳いで来た。

 

 恐らくビーとナルトを奪取したいが為の行動だったのだろう。

 観光施設を壊される訳にはいかない。壊されたら、施設圧壊してマグロTUEEEE展開が起こっていたに違いない。  

 俺はそんなのごめんこうむる。マグロがTUEEEして良いのは太陽系外の惑星世界だけだよ。最近の小学生でも知ってる。

 

 飛雷神の術でとりあえず施設からでて、海中の予めマーキングしていた場所に俺は瞬間移動。

 海中戦を一人でやるなんて嫌だから、水晶から大蛇丸を引っ張り出して海中に召喚。

 マグロの群れの如く泳ぎ続けて攻めてくる何か達を瀬戸際で止めて、彼らの毛髪の一部を手に入れて、施設から離れた安全圏に移動させて、二人でエドテンボンバーした。

 

 それはまるでマグロの解体作業のように、マグロのように泳いでいたマダラっぽい何か達を無事撃退する事に成功した俺達を、メイちゃんは何故かウキウキ顔で迎えた。

 

 アレを偶然見ていたメイちゃんがアレなにアレ! と、初めて市場で解体作業を見た子供のようにはしゃいだのがいけなかった。 

 女の子の噂話とはすぐ広がっていく。すぐに五大国の婿探しツアーネットワークで噂は広がってしまう。

 

 そして五影に俺の噂話が広まってしまった。故にここに居るハメになった。

 

 そらまぁ……水晶でいたる所に忍配置できるし、危なくなった連合軍の隊員をすぐ医療部隊に渡せるし、奇襲にも対処できるから便利なんだろうね……

 本部から俺は出たくない。別に戦闘狂ではないし。そもそも自分は、俺より強い奴に会いに行くとかいう平和思考ではない。

 どちらかと言えば、俺より弱い奴に会いに行く。noob狩りうめぇwww 初心者狩り最高!www って平和思考なんだよ。

 

 「モミジちゃん。奇襲は無い?」

 「ぱっと見は無いかな」

 「そのまま戦場全体の監視お願いね」

 「はーい」

 

 だから本部のコタツで、水晶を忍達が戦っている様子を観ながら、ぼーっとメイちゃんに各地の戦況情報を知らせていく。

 そしてサクっと仕事した的な感じで、そのままゆっくりしたい。どっかのナマモノまんじゅうのように。

 

 「ソレは通らんぞ火影。ロンだ」

 「ぬぅぅ……素直にスジだけ見るのは失敗じゃったか……やるのう雷影。儂とした事が抜かったわ……」

 「ふんっ。影たる者、裏スジも読まんとな。耄碌したか火影? ワシが麻雀の恐怖を教えてやる!!」

 

 隣の机では賭け麻雀している五影の四人が居た。その背後には護衛対象である大名達が影達を煽って観戦している。

 雷影aが火影であるヒルゼンに雷我爆弾(ライガーボム)を雀卓で華麗に決めていた。

 良かったな、この世界には鳴きのモッチーが居ない。

 あの餅のような謎生物が居たならば、場はもっと荒れて混沌としていただろう。

 

 「加流羅……オレに運命力を……」 

 「風影……目の前の現実から目を背けても、最下位という現実からは逃れられんのじゃぜぃ」

 

 メイちゃんだけに軍事費を払わせるのはよろしくない。そう俺が言ったら……こいつら麻雀しはじめた。

 本陣で緊迫した感じで居るよりリラックスしていてイインジャネと思ってほっておいている。

 多分このまま行けば風影が最下位で、彼の軍事費負担額が増えるんじゃないかな。

 

 さて、そんな平和的な五影をよそに、戦場に動きがあったな。ちょっと注視しよう。

 

 

 

 

 第三部隊。元々うちはオビトが率いていた部隊だ。何故かサスケが指揮を執っている。

 イタチが補佐しているから問題ないか。

 

 「オビトがまたトイレに行って行方不明だ! サクラ! 俺達でなんとか食い止めるぞ」

 「しゃんなろォオオオオオオオオオオオオ!!」

 「サスケェ! こっちは俺に任せろ」

 「兄さん任せた!」

 

 穢土転生体である彼らを千切っては投げ、千切っては投げる。サクラちゃんは立派な拳系ヒロインとして活躍していた。

 イタチもサクラが千切って捨てた敵にオ○オを口に突っ込んでは浄化させていく。

 あの菓子にそんな効果があったとは……やはり、うちはイタチ……只者ではない。 

 

 「おや、あまりはしゃぎ過ぎると……お身体に触りますよ」

 

 そんなイタチの作業をカバーするように、イタチの死角から攻撃しようとする西瓜山河豚鬼等の元忍刀七人衆を鬼鮫が撃退していた。

 そんな彼らの奮戦を馬鹿にしたような表情で、この穢土転生体部隊の指揮官である薬師カブトは歪んだ笑みでソレを見ていた。

 

 「全てダンゾウが悪いんだ。ボクは悪くない。ダンゾウが……」

 

 いつのまにか復活していたカブトは、何故か木の葉のスパイ活動から勝手に脱サラして、いつのまにやら敵になっていた。

 何を言っているかわからないだろうが、俺にもわからない。

 大蛇丸を寝取られたと感じて、俺に対して敵対していたのかとハラハラしていたが、どうもそうではないらしい。

 

 「扉間から教わったこの術で……君達もおしまいだッ!」

 

 やはり扉間……彼は何処に向かっているのだろう――何処へ行くの、扉間。おそらくマージでもキめているに違いない。

 そんな俺の思考をよそに、カブトは彼らにエドテンボンバーをかましていく。

 

 だが――

 

 「幻術だ」

 「チッ」

 

 イタチはそんなカブトの後ろから現れ、攻撃をしかける。カブトはギリギリの所でかわす。

 サクラやサスケはあぶなげなくボンバーを回避していた。

 

 「これは……モミジさんが……かつて言っていた穢土転生を利用した卑劣な爆発術……サクラ!」

 「しゃんなろォオオオオオオオオオオオオ!!」 

 

 サスケはすかさずサクラに穢土転生体に貼り付けられた起爆札ごと、穢土転生体を破壊するように指示する。

 サクラのその拳は大地を容易く砕く。穢土転生体なんてなんのその。起爆札ごと破壊していく。

 よく覚えているなサスケ君。君まだ忍者アカデミー通う前じゃなかったかな。

 

 「半蔵殿……行きますぞ」

 『シュコー』

 

 彼らの対処法を見て、半蔵とミフネも動いて行く。

 

 「ヒャッハー! 死人は消毒だァ!」

 「もう待ちきれないよ。早く斬らせてくれ」

 

 そんな半蔵とミフネに続くように、頭フラワーでキめてるゾウリやワラジ等ガトーカンパニーの傭兵達と、サムライが穢土転生体を起爆札ごと切り刻んでいく。

 怪奇現象部隊も大きな百足を召喚したり、頭からビームを放ちながら、穢土転生体を焼き尽くして彼らの動きを援護していた。

 

 そして我愛羅率いる砂部隊は彼らを守りながら、ゆっくりと戦線を移動している。

 

 ガトーカンパニーと言えばメイちゃんが乗っ取ったからなぁ。所謂フロント企業。

 実質メイちゃんの会社で、傭兵達は彼女の私兵だ。名前だけは残して、悪名だけはガトーが背負う。

 ガトー君も彼らの活躍の音色を、水の国の牢屋で笑顔でキまりながら聴いている事だろう……

 

 「糞ッ! 何なんだこいつらは……でも……まだだッ!」

 

 カブトはまともに当たればこうなる事を予想していなかったのか、忍連合軍に押されている。だが……

 再び穢土転生の術を使い、爆発物を増やそうとしている。処理しきれないほどに増やすつもりなのだろう。

 

 ――その時、突如カブトの背後にとある影が二つ現れる。

 

 「そこまでにしておけ」

 「ッ! 千手扉間に、うちは……マダラ……」

 「貴様は後ろに下がっていろ。後はマダラがやる」

 「千手扉間、貴様……フンッ。まぁ良い。ジャリ、後はオレがやる」

 「……わかりましたよ」

 「黙ってオレに従え。カブトにマダラ」

 「チッ。忌々しい」

 

 そう、扉間宅急便で運ばれてきたのはうちはマダラ。

 カブトは先ほどまでの憤慨していた態度から一変、落ち着きを取り戻す。

 扉間はカブトを連れて何処かへ去っていった。

 

 これは子供達やサムライ達だと荷が重いかもしれない。こちらも五影召喚……いや、まだ南場か……駄目だ。彼らは動かない。

 地雷屋さんと大蛇丸と綱手姫に動いてもらうしかないねぇ。今すぐ自由に動ける部隊は俺の所だけだし。 

 

 さて、メイちゃんにまずは報告だ。

 

 

 

 

 「なっ! 中央にマダラですって?」

 「今フリーなのは、わたしの部隊だけみたいだし……動かすね」

 「……わかりました。モミジちゃんお願いね」

 「はーい」

 

 そして俺は扉間宅急便より大掛かりな宅急便の術で、かつて三忍と呼ばれていた、地雷屋、大蛇丸、綱手姫を部隊の隊員達と共にマダラの前へと召喚する手はずを整える。

 

 「あら、私達の出番?」

 「大蛇丸頼んだよ」

 「ええ。安心して私に任せなさい」

 

 邪悪なスマイルで俺に応える大蛇丸は安心できる。だが……

 

 「地雷屋さんも綱手姫も頼みますよー」

 「ふむ。カブト×二代目×うちはマダラ……イけるな……」 

 

 大蛇丸はきちんと俺の言葉を聞いてくれるが、地雷屋さんは俺の話を聞かないというより、誰の話も聞かない。

 何故なら彼は彼の世界で満ちているから。彼に何か言っても無駄だ。

 ……なんとかなるでしょう。多分。腐っても三忍って呼ばれるほどだし。

 

 『待て! 先にシズネを止めろ! 私にまたアレを打つつもりだ!』

 『待ってくださいよ綱手様ー。痛くしませんからー』

 『やめてくれ! シズネ! それは……ソレだけはダメだ!』

 

 綱手とシズネちゃんは相変わらず。仲が良くて微笑ましい。

 

 「いよいよか。ワシも準備運動をしておこう」

 「……」

 

 口紅を塗りながら、何の準備をしているのだろうかダンゾウは。

 お前は俺の代わりにメイちゃんの補助しろ。

 

 「モミジ姉ちゃん。俺がちゃんと留守番しておくってばよ……」

 「……うん。お願い」

 

 いつのまにか九尾と仲良しになって仙人化できるようになっていたナルト。施設内でのビー達との修行で更に強くなったんやなって。

 やはり彼はしっかりしている。残していく部隊員と戦場へ飛ばす部隊員それぞれに俺は指示を与えていく。 

 

 結構魔力と言うか、チャクラ使うからね大人数を移動させるとなると。

 すぐ発動させる事は出来ない。二、三人ならすぐできるんだがな。

 

 まったく、ままならないものである。

 予定が早まって、予定通り遠足できないのは扉間が全部悪い。

 さて、扉間が勝つのか。わたしが勝つのか。

 

 ――さあ。はじめましょう。扉間さん? 破滅への戯曲を。




※正直2章を鰹節みたいに削りすぎたかもしれない
三章はゆっくりペースで齟齬しながら董宏します。
一応最後まで打ち終えてるんですが無茶区茶で自分で読めない。


登場用語説明系

鳴きのモッチー チーで場を荒らすやべーやつ

怪奇現象部隊 ビームも打つし 輪廻眼標準装備


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三忍ンン! 闘いは好きかぁ?

 とある地下深く。鎮座する外道魔像へチャクラを流している影。

 穢土転生で蘇らせた金閣銀閣の九尾のチャクラを取り出し、ゼツ達は外道魔像をいつでも動かせる状態にしていた。

 彼らは今、マダラがかつて繋がっていた外道魔像を用いて、何かをしようと動いている。

 

 「もうすぐ会えるよ……母さん……」

 

 彼の表情は恍惚としていた。

 長い、長い年月を耐えてきた。

 ようやくその願いは叶う。

 

 ――そう、もうすぐ叶う。何者にも邪魔はさせない。

 

 例え、うちはマダラや千手扉間が彼らに対して何かを命令しても、彼らは自分達の悲願の為に動く。

 そう、そこに母親への想い以外入り込む余地はない。他者の思惑も、行動も、信念も、願いも関係ない。

 

 「アア……アト少シダ」

 

 柱間細胞とクローン技術により大量生産したマダラもどき。

 マダラの細胞から生産されたクローン体と、予め大量生産していた白ゼツとを融合させた、彼らの尖兵としたマダラの群れ。

 だが、オリジナルマダラの1/10にも満たないほどの雑魚を大量生産させただけに終わった。

 

 結局うずまきナルトとキラービーを奪取する事には失敗したが、代替案はある。

 

 そう言えばと、ゼツは過去を顧みる。あれも少々役に立ったと、思いを馳せる。

 音の里へ潜入した時に奪取した、あの資料は多いに役に立った。

 彼らは地下からこっそりと研究施設に忍び込み、クローン技術のような何かを盗みとったのだ。

 

 彼らの母である大筒木カグヤを、この世界に再誕させる為の、その何かを……彼らはある一つの解に辿りつく。

 

 

▽▲▽

 

 

 黒い軍服のようなコートに包まれながら、腕に音の額宛。これから戦場に後方支援だが出る為に着替え室で、大蛇丸と二人だけでお着替え中。

 ○○○されるか心配だったが、流石にヤらんか。鬼父もとい鬼兄弟も扉間も、大蛇丸を見習え。

 

 かつて君麻呂に作らせた戦闘用の服だ。どっかのSS将校みたいな格好だなあと俺は思いながらも着替える。

 戦場へ出る時は切り替えなければならない。例え後方支援が主だったとしても、身の危機は付きまとう。

 油断していれば、たとえ不死だとしても捕らえられ、何かの材料にされるかもしれないからな。

 

 そう言えば、音の里の研究施設から何者かが、開戦前に資料を幾つかパクって行ったな。

 どうせゼツ達だろうなぁ。あの迷宮みたいな地下施設からよく見つけたものだと感心した物だ。

 

 ――だがそれで良い。あの女神の願いを叶えるには必要な道筋だ。  

 

 「貴方」

 「なあに」

 

 宅急便前の、少々俺らしくなく緊張した感じの気分を察したのか、大蛇丸は俺に話しかけてきた。

 

 「散々言ったと思うけれど、直接戦闘はなるべく控えるようになさい。敵はあのうちはマダラと千手扉間なのでしょう?」

 「施設内に居るし、大丈夫だと思うけど」

 「その身体はマーキングされてないとは言え、飛雷神の術はアレも使ってくるのよ? それに貴方の得意戦法が通用するなら良いのだけれど……ね」

 「ハァん? というか大蛇丸の側の方が安全なんじゃない」

 「……そんな余裕があればいいのだけれど」

 

 アレがヤる気まんまんなら、もう使用してると思うけどな。こっちの施設内の誰かにマーキング施して飛雷神の術。

 多分俺と同じような精神なら、純粋に遊んでいる感覚のはずだ、あの扉間は。

 

 しっかし得意戦法ねぇ……幻術を多重にかけて、現実か夢かを認識できなくさせたりする、こすい感じのアレの事か。

 幻術を相手にかけながら、ある種の超音波を自身の髪の毛を震わせて出し、脳を直接狂わせる。その後、細剣で相手の皮膚を斬りつける。

 細剣に塗った幻覚キノコやダチュラ等様々な成分と、この世界で再現できる魔術をミックスさせた悪意を敵の体内に吸収させるのだ。

 

 今なら飛雷神と水晶の術をセットで多重影分身を使い、各地に移動しまくり同時多発テロおk系、それがわたしです。

 この世界で写輪眼とかいう便利な眼を持って産まれなかった為の、妥協した戦闘方法。

 

 この世界で洗脳用の細剣を再現するのは苦労した。

 その戦術が有効だと初対面時の大蛇丸相手に実験して確かめたな。

 俺の得意戦法とか言ってるが、実はそれしか能が無い。

 

 白眼に幻術をかける効力でもあれば最高に楽だったんだが、白眼にそんな効力ねぇよ。

 相手と直接対峙する時くらいか、白眼が効力発揮するのって。あと感知。

 

 日向の柔術も、その他体術も俺は多少しかできない。その道の最高峰と言われる人物より劣る。

 主にヒナタには体術で絶対に勝てない。多分ヒナタに体術の才能全部吸われたんちゃうか。

 

 そもそも気が遠くなるほど、長年使ってきた戦闘方法を変えてまで、体術を重視する気にならなかった。

 どっかで足元掬われるかもね。でも俺負けないよ。俺以外の他人が躍動する戦いを、水晶で観るだけ系両性類だからな。

 

 そう言えば里抜けする時は、流石にヒアシに毒を塗りつける訳にはいかないから仙術もどきを体内で循環させて拳ひとつだったな。

 でも、あれほどの実力者でもソレだけでいけるんだ。警戒しすぎても、それはそれでストレス溜まりそうでダメです。

 俺の戦い方が効かない相手は、耳が聞こえない相手や、毒耐性魔術耐性MAXで常にはぐれてそうなメタルボディの敵くらいだろう。

 

 「こちら側じゃ貴方、大半の戦法が使えないんだから……変な気を起こして、前線なんかに出ないようになさい。わかったかしら?」

 

 おう。俺の行動完全予測されてるやんけ。お前以心伝心か?

 

 「えー……飛雷神で飛んで、前線に居るハゲに植毛したい……」

 「それは戦闘していない場所でやりなさい。わかったかしら」

 

 俺の頭を握り拳で撫で回す大蛇丸。

 

 「ソレ痛い。頭グリグリしないで」

 

 確かに精神世界ならともかく、現実世界での俺は実際使える技術が限られる。

 不死同士で、最早俺より強いんちゃうかレベルになった大蛇丸に頭が上がらない。物理的に。

 

 「昔から知ってはいたけど……ほんと楽天的よね。貴方本来の性格って」

 「こうならざるを得なかったのだ! へけっ!」

 「知ってるわよ」

 

 コイツ俺より俺の事詳しいかもしれんな。モミジ博士じゃねえの。

 

 「いい? もし、前線に貴方が行くとしても……私の目の届く範囲内に居なさい。絶対よ」

 

 そう言いながらも俺の頭をグリグリしてくる大蛇丸。

 

 「ふぇぇ……大蛇丸がDVしてくるよぉ……」

 「貴方も昔、私にした事でしょう?」

 

 互いにDVする夫婦とかアブノーマル過ぎて、ネジが身体に刺さりまくってそうだわ。

 なるほど、今度日向家のネジを大量生産して俺と大蛇丸に貼り付けてみるか。

  

 「何かこう、大蛇丸に諭されている感じに違和感が……鳥肌立ってきた」

 「貴方ねぇ……私の事なんだと思ってるのかしら」

 「年下なのに実質姉さん女房とか流行らないから……」

 

 そう言うとお返しと言わんばかりに、俺のほっぺたに舌を這わせる大蛇丸。マーキングかな?

 少々うんざりした感じになってる俺だったが、目の前の女もどきの表情は、恍惚としていやがる。やっぱ蛇系ヒロインって……

 

 「そう言えば聞きたかったのだけれど、貴方くらいまで歳をとると精神が幼くなるものなの?」

 「こたえは簡単。そうしないと、わたしは耐えられなかったから。だからわたしはこうなった。また一つ賢くなったね大蛇丸」

 「……やっぱりそうなのね」

 

 うーむ。何か悩んでるね。ああ、なるほど。そう言う事か。

 気が早いなあ。俺は、俺より頭のいい子は好きだよ。

 

 「1000年後とか考えてたでしょ。大蛇丸君」

 「……」

 「気にするだけ無駄だよ。なるようにしかならない。君は君のままかもしれないし、変質するかもしれない。

  でも君なら本質は変わらないと思うよ……それよりも目の前の問題を解決しよ。ね?」

 「……そうね。そもそも戦場へ行く前に話す事でもなかったわ」

 「いいよいいよ。また何か聞きたくなったら言いなよ。何時でもこたえるよ」

 

 そう言い合いながら、着替えを終え、装備を整えた俺達は集合場所へと向かっていく。

 

 「準備完了してるみたいだね。じゃあ行くよー」

 

 施設の最奥部の部屋。俺が描いた魔方陣の上に戦場へ移動する部隊員達は集まっていた。

 自来也もとい地雷屋、綱手姫、大蛇丸もそれぞれの部下を引き連れて魔方陣の上に立つ。

 俺が常に持ち運んでいる水晶とリンクさせた魔方陣を起動させて、即応部隊は戦場へ。

 

 

 

 

 戦場へ着いてみれば、中々に子供達は粘っていた。サムライ達やよくわからない人達もマダラの群れと善戦している。

 やはり、うちはマダラ本体と思われる固体は、遠くから眺めているだけだ。

 オオノキが言っていた。マダラは戦闘狂の節があるが、己より格下すぎる相手には見向きもしないらしい。

 

 「なんで貴方まで来ちゃうのよ。大人しくできないのかしら?」

 「……久々すぎて出力ミスっちゃった。わざとじゃないよ? 痛い。いひゃい。ほほ引っ張るのやめて」

 「大方お前と一緒に少しでも居たかったのだろうのォ。察してやれ大蛇丸」

 

 イラッ。

 

 「……」

 「お、おいやめんか! 痛い! 無言でワシの脛を蹴るのはやめてくれんかのォ……」

 「自来也、口は災いの元よ」 

 

 コイツはやはり官房長したほうがいいのかもしれない。

 

 「お前たち、遊んでいる暇は無いぞ」

 

 凛とした表情で綱手姫がこちらにやって来た。どうやらシズネちゃんとじゃれ合うのは終わって賢者タイムのようだ。

 

 「先ほどまで弟子と遊んでいた癖によくいうのォ」

 「微笑ましい光景だったわよ綱手」

 「お前ら回復はいらないらしいな……?」

 

 後は任せるか。あくまで俺は全体の監視役に徹しておこう。

 救護班の方へ水晶で戦況を見つつ歩いていく。するとシズネちゃんが俺のほうにやってきた。

 

 「聞いてくださいよモミジちゃん。綱手様ったら酷いんですよ? 私がせっかく丹精に愛情を込めた薬を劇薬だなんて言うんです」

 「いや……アレは綱手姫以外に打っちゃダメだよ?」

 「どうしてです?」

 「綱手姫以外じゃシズネちゃんの愛を受けきれないからね」

 「……なるほど。一理ありますね。では綱手様以外には普通の薬を処方します」

 「う、うん」

 

 シズネちゃん。君には俺ノータッチだけど、俺が弄るより酷い幻術でも受けてるのか?

 常人に打てば即死する劇薬だぞアレ。千手一族だから大丈夫なのだ綱手姫はね。

 さて、シズネちゃんを説得したし。救護用のテントを一杯取り出しましょうねー。

 

 「これくらいでいい?」

 「はい! 助かりました。相変わらず、すごいですねその術」

 「それほどでもないよ」

 

 俺は謙虚だからよ、いや……謙虚じゃなかったわ。

 俺はどちらかといえばファイナル分身する方だった。ここ忍者世界だし。

 

 そんなくだらないやり取りをしながら、俺はシズネちゃんと共にテントに入る。

 さて、シズネちゃんは救護班を指揮している。俺も水晶で全体を見つつ指揮しなければ。

 

 「モミジさんよ。オレらは戦わなくていいのか」

 「再不斬くんと白くんは救護班の護衛と手伝いかな」

 「護衛か、わかった」

  

 大蛇丸が拾って調教した再不斬くんと白くんは、日々保健室プレイをするほどには救護班の護衛が似合っているだろう。

 

 「モミジさまー。ボクらは?」

 「水月と重吾も救護班の護衛ね」 

 「りょーかい。行くよ重吾」

 「ああ」

 

 水月も重吾もそう言いながらテントから出て行く。

 うーむ。多由也達四人集は里の護衛で音の里に置いてきたしなぁ。

 ヒナタも音の里長代理で音の里に残してきている。もしかしたら次期音の里長はヒナタが最有力候補かもしれんね。

 

 各里の様子を見る。そこはやはり戦場になっていて、別働隊の白ゼツ軍団が各里を襲おうと、攻め込んでいた。

 木の葉は蘇った四代目とクシナ達がきちんと白ゼツの軍勢を追い返している。カカシはダンゾウが魔改造した結果カカシTUEEEしていた。

 

 音の里はちゃんと多由也達四人集が頑張って結界はって、白ゼツを里に入れさせてない。飛段が邪神様神殿で何か祈祷してた。相変わらずだった。

 雨隠れは弥彦が指揮しながらきちんと防衛している。流石怪奇現象の里。たいした里だ。

 他の里も大量のゼツ軍団を千切っては投げている。問題なさそうだ。

 

 さて、救護班の護衛指示も終わり、各里の状況も観終わった。 

 おや、指示しながら水晶で戦況もチラチラ見ていたが、こちらの戦場も流れが変わったな……うちはマダラ本体と思われる固体が動いた。

 

 『三忍ンンンンン!! 闘いは好きかぁーーーー??』

 『『『……』』』

 

 三忍である地雷屋、綱手姫、大蛇丸の目の前に現れたかと思えば、何故か異様にハイテンションなマダラが居た。

 写輪眼がグルグル。赤い鎧になんか団扇みたいなの装備してウキウキしてますね。

 それはまるで元気印のゲンキ君のように、ハートバグバグになりながら、雨が降る街で赤い傘だけが歩いている様子でも見たんだろうな。

 そうか……こいつがフルフルだったのか。ソロモン72柱のマダラ? あれ、そうだっけ。

 元気印のマダラに対して、三忍である三人は警戒した様子で黙ってマダラの様子を伺っていた。

 

 『どいつもこいつも軟弱すぎて話にならん。だが、お前らは多少やれそうだ。本当の闘いまでの間……お前たちとの闘いを愉しむ事にしよう』

 『……熱烈な歓迎ね』

 『ふぅむ……タチに見えて実はネコっぽいのぉ……』

 『おい、自来也』

 

 水晶越しにもわかるが、このマダラ生き生きしている。恐らくフラストレーションでも溜まっていたのだろう。そんなマダラに相変わらず地雷を踏もうとする自来也。やはり只者ではない。

 綱手は気が気じゃないのか、ハラハラしながら自来也を引っ張るが、彼は彼の常識で動いている。俺も関与してない。はじめから彼はああ(、、)だ。

 

 『ほう。オレを挑発するか。たいした度胸だ』

 『寝取られ属性もありそうだのォ……本命を女に取られてそうな……』

 

 ――その時歴史が動いた。

 

 『……死にたいらしいな』

 『ううむ……こんな時だが、創作意欲がわいてきたのォ』

 『相変わらずね……自来也は』

 『勘弁してくれ……』

 

 ピキィってなったマダラに何処吹く風の自来也。風来坊は伊達じゃない。

 大蛇丸と綱手姫はアチャーな表情だ。

 自来也以外の三忍はすぐさま口寄せで大きな蛇となめくじみたいな子を召喚している。

 自来也だけはノートを取り出し、何かをメモっているようだ。

 

 木の葉の一部の忍達や他里の実力者達は元からどこかしらオカシイ。それはこの世界の理を色濃く受けているようで、やはり油断は出来ないと俺は思った。




人物鍾士季系

日向モミジ 仮にうちは一族だった場合眼が異常進化して複眼になって雑魚様系ヒロインになっていた

自来也 地雷屋

綱手 いつも打たれてる薬のおかげでトラウマをトラウマで上書き済み

シズネちゃん 綱手への愛がやべーやつ

マダラ 本命を女に取られた経歴がある


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お菓子な世界のテントで

 怒り狂うマダラは禍々しい髑髏のようなモノを身に纏い。自来也と大蛇丸や綱手を攻撃していた。

 そう、須佐能乎である。大蛇丸と綱手はすかさず口寄せをし、マンダとカツユを召喚していた。

 

 『お、今日はあの狂しているやべーのは側に居ねえのか』

 「マンダ、無駄口を叩いている暇はないわ」

 『……おいおい。聞いてねぇぞコラ』

 

 うちはマダラを見たマンダは、代わりにおっかねぇのが居るじゃねぇか! 帰っていいか。と、呼び出した大蛇丸にジト目を送りつつ文句を言いながら大蛇丸を守る。

 

 「カツユ!」

 『舌菌粘酸(せっしねんさん)!』

 

 綱手も地面を砕きながら岩をマダラに投げつつ、カツユに指示を飛ばしながら大蛇丸を援護する。

 だが、マダラには効かない。愉悦に歪んだ笑みで須佐能乎の手で払うのみ。

 

 戦闘の余波でメモを取る暇がなくなりそうな彼。自分の世界に篭る自来也も一応口寄せを使う。

 だが、それは戦況を見てではなく、ただネタ帳にメモをする時間を稼ぐ為だけにガマブン太を召喚したにすぎない。

 三忍達はうちはマダラに対して口寄せ獣で対抗し、戦況は拮抗しているように見える。

 

 「あれだけ煽ったのだ、もっとオレを愉しませろ」

 「メモの……邪魔だのォ……」

 

 自来也前を見ろ前を! と、ガマブン太は警告するが、やはり彼はマイペースに何かをメモしている。

 それでも半自動的に術を使いながら、自分の身を守る自来也は流石に三忍と言った所か。 

 

 「綱手、アンタは自来也のフォローを」

 「わかっている!」

 

 彼は元々こんな性格ではなかった。だが、自来也は仙人化する時、世界に一瞬でも繋がってしまった。

 何が作用したのかは大蛇丸も綱手も知らないが、それから彼はこうなってしまったのだ。

 

 「こんな時でもマイペースなのね自来也」

 「大蛇丸。今更だ……来るぞ」

 

 そう。世界は狂している。世界と僅かでも繋がった者は、強大な力を手に入れる代わりに何かを失ってしまうのだ。

 そこに例外はなく、半蔵や長門雨隠れの者達等、様々な実力者達は何かを犠牲に強大な力を得る。

 チャクラを含む自然エネルギーを利用する仙術などを使用する者などは、大概このような常人とはかけ離れた言動や行動をとるのだ。

 

 

▽▲▽

 

 

 あのうちはマダラに一歩もひかない自来也、綱手、大蛇丸の三忍。

 水晶を通して俺はテントの中で戦況を見守りつつ、負傷者の手当てをしている。

 

 「モミジさん。もう大丈夫だ。ありがとう」

 「そう? 無理しちゃだめだよー」

 

 サスケに治療を施していく。同じ班で医療忍者のサクラちゃんはまだ前線で穢土転生体を千切っている為、俺が治療するハメになってしまった。

 彼女は一旦火がつくと破壊衝動を抑えられないのか、雄叫びをあげながら恐らくカブトが次々と送ってくる穢土転生体を破壊し続ける。

 サスケとイタチはその余波で吹き飛び、ダメージを食らったのが原因だからサクラが元凶でもあるが。

 

 流石あの班一強い拳を持つ女の子である。ヒナタとたまに修行している姿を見たときにも思ったが、彼女は素晴らしい才能を持っていたな。

 その内ヒナタと同じように俺より拳で何でも片付ける系女子に進化していくと思ったが、戦争がそうさせたのか、彼女の才能は桜のごとく満開していた。

 恋も夢も拳で満開。そんな破天荒系女子に進化したサクラちゃんは、ヒナタを目指し日々努力していたし納得できる結果でもある。

 

 そんな風に考えているとサスケェは俺にうずうずした感じで問いかけてくる。

 

 「モミジさん。まだ空は飛んじゃダメなのか?」

 「まだ、それは隠しておいて。敵と味方を見分ける為の手段にもなるから」

 

 なんでこう、木の葉の連中は気が早いのか。大蛇丸見習えや、気の長い子は珍しいタイプなんだろうか。

 

 「……なるほど。流石モミジさん……兄さんの治療も頼む」

 

 何かに気付いたのか、サスケェ君は大人しく俺のいう事を聞いてくれる。

 サスケと同じく治療のために俺が居るテントに来たうちはイタチは俺に話しかけてくる。

 

 「モミジ。あの菓子は本当に凄まじいな」

 「……? どういうこと?」

 「ん? モミジが発案した菓子ではなかったか。ガトーカンパニー特製の浄化菓子の事だ」

 「うん? メイちゃんにレシピは渡したけど、そんな効力無いはずだし……わたしは知らないよ?」

 「……なるほど。照美メイ、たいした女だ」

 

 ちょっとよくわかりませんね。度々お茶会で色んなお菓子を作ってはメイちゃんとシズネちゃんに披露していたが、俺の作る菓子に浄化効果なんてない。

 ……さてはメイちゃん、シズネちゃんと一緒にレシピどおりに作らず、何か弄ったな。

 治療を済ませたサスケェとイタチはテントから礼を言いながら出て行く。

 同じテント内で治療行為をしていたシズネちゃん。俺と同じく一段落した彼女に俺は問わねばならない。ナニしたん? 

 

 「シズネちゃーん。一つ聞きたいんだけど今いい?」

 「あ、モミジちゃん。いいですよ」

 

 話しかけた俺に振り向き、戦場に咲く可憐な華のような笑顔を俺に向けてくるシズネちゃん。

 治療された忍達が軒並みヘブンな状態なのは日常茶飯事なので、見て見ぬふりをしておこう。

 

 「あのさ……メイちゃんに渡したレシピあるじゃない。わたしが居ない時でも自分達で食べられるようにって」

 「その節はありがとうございました! おかげで何時もおいしいお菓子が食べられます!」

 「うん。それはいいんだけど。レシピどおりにちゃんと作ったの?」

 「私がもっと美味しくなるように愛情をブレンドして、更に美味しくできました!」

 「えぇ……」

 「一緒に試作品を食べたメイさんが太鼓判押してましたし、今では工場で大量生産されてるくらい何も問題ありませんよ?」

 「えっと……愛情をそのまま?」

 「……原液をそのまま使うのは、何故か綱手様に止められて使えませんでした。しょうがなく千倍薄めた愛を込めただけなので、残念ながら私の思う極上の菓子には至りませんでしたが」

 

 極上……あっ……そっかぁ。

 どおりであの菓子によくわからん効果が付随してしまった訳なのね。

 愛、それは人類の希望であり夢であり狂気でもある。地球でいう昭和33年、忘れられないあの街を思い出す。青線で働いた事は無いけどな。

 桜の木の下さんが『ほげぇええええ』と言いながら、葛飾区の治安を守るように、この世界を守るのだろうか。

 

 俺は桜井舞人や朝倉純一にはなれなかったようだ。手から魔法で和菓子を出せないし、桜の加護がある訳ではないからしょうがないね。

 

 「あ、モミジちゃんも食べます?」

 

 休憩がてら例のお菓子を頬張り無邪気な笑顔で俺にやべーモノをすすめてくるシズネちゃん。

 君の愛は、全てを救うんじゃないかな……俺の仕事が減って嬉しいやら、何か納得いかないような、そんな不思議な気持ちで渡されたお菓子を食べつつ……少し休憩しながら水晶からみえる戦況を俺は観ていた。

 

 

 

 

 自来也はメモを続けている。ガマブン太はそんな地雷屋さんを補佐するようにドスを振り回しながらマダラをけん制している。

 

 『よし。次回作のメモは終わった。そろそろ闘うかのォ……』

 『『遅い(わよ)!』』

 

 マダラは歪んだ笑みで自来也達に攻撃しているが、仙術を使いながら華麗に回避したり、須佐能乎自体を割ろうとしたり、大蛇丸はそんな二人の補佐をしている。

 三忍と言われるだけあって、この世界でのスリーマンセル最高峰と言っても過言ではない動きを三人は見せている。

 

 だが、相手は忍の神と言われた男とタイマン出来る神域の男マダラ。

 1対3で不利なはずの状況すら愉悦と言わんばかりに、その闘争を愉しんでいるようだ。

 

 それよりも俺は綱手にカツユと呼ばれるなめくじのような女の子に興味深々で、彼らの戦闘そっちのけで彼女を見ていた。

 なんて可愛い女の子なんだ……傷を負った地雷屋や綱手をすぐさまカバーするように分裂しながら回復する。なんて献身的な……素晴らしい……

 もし、大蛇丸と出会う前に彼女に会っていたならば……俺は彼女にぞっこんだったに違いない。

 俺には彼女が黒髪ロング清楚系で制服の似合う……塩をかけられると小さくなっちゃう、癒し系なめくじ少女に見える。いっぺん癒されてみる? 癒されりゅううう。

 

 「……」

 「モミジちゃん。そろそろ休憩終わりにしますね」

 「うん。わたしはここでちょっと全体を監視する仕事があるから。もう少ししたら行くね」

 「わかりましたー」

 

 そんな久々に可愛い女の子を目撃してしまった俺に、休憩終わりやぞと言いながらトントンと共に治療の為、次々と運ばれる患者の元へ向かっていくシズネちゃん。

 癒される休憩時間だった。俺もカツユちゃんを見習って分身しつつ患者の治療を再開しますか。

  

 「姉さん」

 「!?」

 

 俺の思考回路を読んでいたのか、背後から聞き覚えのある女の子の声が聞こえてきた。後ろを振り返ってみると、そう日向ヒナタ、俺の妹である。

 恐らく飛雷神の術でここにやってきたのであろう。俺と分離した眠っているある少女を抱えながらヒナタは微妙な表情で突っ立っていた。

 

 「えっと……里の防衛指揮はどうしたのかな?」

 「千手扉間がこの子をさらったから、それどころじゃなかったの。せっかくだから姉さんの顔をみて帰ろうって思って来たんだけど、ダメだった?」

 「ダメジャナイデス……なるほど。アレはやっぱりわたしを使って何かをしようとしていた訳だ」

 

 里の防衛指揮と共に俺はヒナタに彼女を守ってもらうよう指示していたが、やはり扉間は俺を使って何かをしようとしていたな。

    

 「姉さん。よくない事考えてなかった?」

 「何もやましい事は考えてません。いつも清く正しい大蛇丸の相方モミジとはわたしの事だよ!」

 「……ま、いっか。ちゃんと帰ってきてね。姉さん」

 「……心配してくれてありがとう。気をつけて帰るんだよ」

 

 俺無事危機を乗り切る。彼女の俺に対する感知能力はすごいな。まさか思考読まれてねぇよな……

 しっかし、やはりと言うべきか、俺扉間に狙われていたな。だが囮は基本。アレがこの世界での師だから仕方が無いね。

 

 アレはナニを考えて元の身体をさらったんだろう。俺にナニをさせたかったのか。

 数パターンほど考えたが、アホで抜けてる俺には考え付かない……やばい事を考えてるに違いないね。

 なので、水晶に映る場面を切り替え、本部でメイちゃんの補佐をしていたダンゾウを引っ張り出して召喚することにする。

 

 「なんだ? ワシは今忙しい」

 「千手扉間の兄に対する思考パターンを教えて」

 「ふむ……ようするに、二代目様の初代様に対する思いか。ワシの所感だから間違っているかもしれんが、それでもよいか?」

 「うん。お願い」

 

 俺はアレに対する情報をダンゾウから提供してもらう。

 ダンゾウから詳しく聞けば……やはりアレは俺が知識として知っているアレではない。情報を修正する。

 

 「ワシが知っている事はこんなもんだ。ヒルゼンも似たような所感だろう」

 「ありがとう」

 「そんな事よりどうだ、この口紅は。ヒルゼンよりセンスが優れているだろう?」

 「……うん。忙しいらしいし戻すね」

 「おい。二代目様の話をしてやったのだ。少しくらい……」

 

 SAN値が下がりそうなコスメの話題になりそうだったので、本部の中枢にダンゾウを戻す。

 結局俺はアレに踊らされていたに過ぎないのか、アレと共に踊っているのか。それは現状ではまだわからない。 

 だが、少なくともカグヤの願いを叶えるまでは、俺は自身の欲求から行動する気にはならない。

 彼女には大きな借りがある。返さなければならない。

 それが世界同時革命レベルでやっべー事でも。穢れ無き無垢な夢だろうと、俺は受けたモノは返す。

 

 世界の理に逆らうかの如く、俺は反逆者な気分で次々と運ばれる患者達を癒していく事にした。




ジィンブツショウカイィ

自来也 闘いの中でもネタはメモる作家の鏡

マダラ 常時ハイテンション状態のボス ドラ○エで出てきたら投げる

シズネ 無垢な女の子シズティス 真のラスボス【ステップ○ゴン】との戦いの為マップ外の異次元空間に突入する

カツユ 可愛い

清く正しい大蛇丸 ヒロインやぞ

日向ヒナタ 姉に関する感知能力は惑星一つ余裕でカバーできる程度の感知力


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緋の月がのぼる空

 三忍達がマダラ達と闘っている頃。

 千手扉間はかねてより計画していた事を実行に移すために日向モミジをさらおうとしていた。

 音の里へ久々に飛雷神の術で飛び、睡眠中の彼女をさらうまでは良かった。だが……さらった彼女はどうやら彼女(モミジ)ではなかった。

 

 とある洞窟の中、起こしてみれば泣くわ会話が出来ないわ、まるで赤ん坊。

 これには流石の千手扉間も困惑するしかなかった。

 

 「ふむ……してやられたか」

 

 自身の肉体を囮に使う。それは扉間も想定外の事だったらしい。

 そんな扉間の様子をみかねてか、穢土転生の操作をしつつ扉間に薬師カブトは話しかける。

 

 「なにやら様子がおかしいですが。日向モミジをさらって、何をしようとしているのですか?」

 「……お前には関係ない。黙って与えられた役割を果たせ。薬師カブト」

 「つれないなぁ……わかりましたよ」

 

 そう言えばと扉間は過去に思いを馳せる。彼女は何時だって自身を信じる事は無かったなと苦笑する。

 嫌われたものだとあの頃は笑っていたが、ここまで徹底しているとなると、どうやら自身の思惑から外れてしまったらしい。

 

 「まぁいい。オレはオレ目的の為に動くまでよ」

 「……」

 

 泣き叫ぶ赤子を尻目に、扉間は嗤っている。その様子を薬師カブトは冷めた目でみていた。

 

 (きっと扉間の事だ……えげつない事を計画していたんだろうね……)

 

 そしてどうこの日向モミジもどきを返そうかと、本物の日向モミジをどうさらおうか画策している扉間。

 彼は彼の目的の為に動く。それはカブトも同じ。互いに互いを利用しているに過ぎない。

 それでも組織として回るのはひとえに扉間の手腕と言った所だろうか。 

 

 扉間がやったように、同じく飛雷神の術でやってくる日向ヒナタにぶっ飛ばされて月に追突して刺さったのはまた別の話。

 

 

▽▲▽

 

 

 俺は相変わらず水晶で戦況を見つつ、負傷者をシズネちゃんと共に治療していた。

 カツユちゃんの勇姿をもっと観たいと思っていたのだが……

 三忍とうちはマダラの闘いは唐突に終わりを告げた。というかマダラがやばいのに目覚めてしまった。

 

 そう、眼が変わったのだ。写輪眼ではない。アレは……輪廻眼だ。どこかのおしどり夫婦の夫が持っていた眼と同じである。

 これはマダラにとっても想定外だったのか、高笑いしながら貴様らとの闘争も役に立ったなとか言いながら怒りを潜め、三忍を吹き飛ばしてどこかに去っていったのだ。 

 

 だが、やる事は変わらない。敵が強化されようが、弱体化しようが関係ないね。

 例えバグってHPとMPが32000以上になってマザークレアが仲間になってマザークレアTUEEEEしようが、戦闘の度に大鳴門橋が歪曲しようが関係ない。

 

 「まずい事になったわね……」

 「うん?」

 

 そんな風に昼間の顛末を考えていると、一人で黙々と作業していた俺の側に大蛇丸がやって来てそっと呟く。

 

 「まさか戦闘中にあの女と同じ眼を開眼するだなんて予想外よ」

 「綺麗に吹っ飛ばされてたねー」

 「……流石に肝を冷やしたわ」

 

 大蛇丸はそう言っているが、俺はそうは思わない。君は封印されない限り動き続けられるでしょう。

 どうやらカグヤに苦手意識があるようで、こんな冗談も言うようになったんだなぁと、俺は感心する。

 

 「カグヤちゃんは悪い子じゃないよ」

 「……貴方にとってはそうかもね」

 「焼きもち?」

 「はぁ……」

 

 俺をあきれた表情でため息をつきながら見やる大蛇丸。

 安心しろ。俺達が会っているあの(、、)女神は別に永劫を司っている訳ではないし悪意も無い。

 そもそも敵になってもいくらでもやりようがある。

 

 仮に破壊と再生を繰り返して、自分が存在しないセカイを見せられて、その方が平和な世界になっていた的な、幾千もの優しいセカイを見せられたら……大蛇丸の心が折れるかもしれないが。

 

 そもそも俺と大蛇丸は心を折られない限り、本当の意味で負ける事は無い。

 例え月読のような空間に引きずり込まれて精神的拷問を受けても今の俺には効かないしな。

 精神攻撃を喰らった大蛇丸が居たとしてもフォローできるですぅ。

 

 それはどこかのお人形さんのように、心の木を如雨露で癒してあげるですぅも精神世界なら可能だ。

 

 「能天気な貴方と様々な可能性を考える私。ちょうどいいのかもね……」

 「人を馬鹿みたいに言ってるけど、これでもちゃんと考えてるよ?」

 「どうせろくでもない考えでしょ」

 

 失礼な。大蛇丸じゃなかったらぶっこおしてた所だ。そんな風に会話しつつ、俺は過去を思い出しながら考える。

 木の葉の里のとある神社の地下、そこにあった石碑のある部屋。

 その部屋の片隅に小さく描かれていた妙なカタチの図のような……そう文字だ。

 

 カタカムナ文字。アレはあってはならないモノだ。

 

 あの場所に、このセカイに存在する事がオカシイ代物。

 あの時俺は俺の思い違いにようやく気付いたのだ。

 オカシイとは思っていたのだ、矛盾した記憶の二律背反。他者の動き、言動、全体、知識、その他全て。

 

 けど今は関係ないな。思考を切り替えよう。

 

 「大蛇丸」

 「なにかしら」

 「わたしを信じられる?」

 「……私が貴方を信じなかった事があったかしら」

 「今更だったね……ッ!?」

 「これは……まずいわね」

 

 そんな思考をよそに、地面が激しく揺れる。地震か? いや、地震にしては長過ぎる。

 そして強大なチャクラを感じる。星のエネルギーかと思っていたが、それは半分正解で半分不正解だった。

 

 水晶を見れば兵達が慌てている。外に出て班員と談笑していたシズネちゃんも、慌てて救護班に指示を飛ばしている。

 俺と大蛇丸は急いでテントから出て現状を把握することにした。

 

 

 

 

 『手の空いている方は急いで!』

 

 そんなシズネちゃんの悲痛な叫び声が聞こえる。極大の何かが地面を削った痕がある。負傷者が負傷者を呼ぶような惨状だった。

 

 「モミジアレを」

 「あぁ……そうか、そうか。そういう訳か」

 

 大蛇丸が指摘する方向に目をやると、そこには大きな、黒く尾が10本ある何かが蠢いていた。

 まだ起動させるにはチャクラが足りないと踏んでいたが、どうやらあちらさんは無理矢理動かしたらしい。

 どんな方法なのかは知らないが、無茶をする。

 

 「忍達を狙っている訳でもなさそうね。試射のつもりかしら」

 

 夜襲のつもりなのか。しかしそれにしてはお粗末過ぎる。

 水晶から見える連合軍の忍達は皮膚が破れ、苦しそうな表情で意気絶え絶えだが、皆生きているし、誰も彼も回復可能な範囲内の負傷だ。

 おそらく直撃はせず、かすったか逸れたのだろう。これから忙しくなりそうだ。

 おそらく狙いは……

 

 「向きを変えたわね」

 

 大蛇丸の声に反応して、俺は再び黒くて大きなアレに視線を戻す。

 

 「あっちの方向は確か……」

 「貴方の作ったアレの方角よ」

 「なるほど……狙いはアレか」

 

 おそらく十尾なのであろう黒い巨体。アレはとある施設の方角に向きを変えていた。

 あの施設内には五影やその他忍、水の国も民間人等が多数存在する。

 アレの攻撃で水中にある施設ごとなぎ払うつもりなのだろう。

 

 だが、あそこには五影が居る。アレの上に乗っているうちはマダラには悪いが、君の思惑どおりには事は恐らく運ばないと思うぞ。

 かつて俺が彼に向けられたであろう、同情的な視線をもって彼と彼に乗られている黒い巨体を眺めていた。

 

 

▽▲▽

 

 

 「ふむ。ようやくワシらの出番じゃぜぃ」

 

 オオノキは呟きながら持ち場へと移動する。

 持ち場へ着きニコニコと笑いながら、彼はヒルゼンから渡された酒を座りながら飲みつつチャクラを身体に纏う。

 

 「赤い月じゃが綺麗じゃ……月見酒と洒落込もうかのぅ」

 

 ヒルゼンは酒を片手に持ち場でリラックスしながら、準備をしている。英気を養う時間は十分だった。

 

 「フンッ。あんなデカブツ一思いにワシが潰してやっても構わんのだが、まぁいい。大名達を守るのもワシらの仕事だ」

 

 不承不承仕事をしている感じだが、エーは大名達やその他力の無い者達を守る事に満更ではなさそうな表情で持ち場に着く。

 

 「ううっ……金が無くなっていく……」

 

 麻雀で最下位になり、4ヶ国分の軍事費を支払うハメになってしまった羅砂は愚痴りながらも持ち場に居る。

 だが、その表情はどこか晴れやかである。

 

 「皆様持ち場に着きましたね。いつでも発動できるようにお願いいたします」

 

 忍連合軍指揮官である照美メイは緊張した面持ちで、自分を除く五影に対して指示を出していた。

 彼女は全体を見つつ、そちらの指揮もしている為手が離せないが、メイを除く四人の影達は自由なのだ。

 この施設の本来の使い道。大名や力の無き里の人々を収容し、守るためのモノ。

 連合軍の本部を置いている水の国が激戦区になる事は目に見えていた。そこでこの施設が役に立つ。

 本来モミジは各里にこのような施設を作らせ、どの影が連合軍の司令官になってもいいように計画していた。

 

 「「「「応ッ!」」」」

 

 その為の施設。その為の五影。

 

 「……来ます!」

 

 そしてデカブツは光線を放つ。

 

 ――『『『『忍法・四赤陽陣!』』』』

 

 施設に本来直撃していたであろうその悪意は結界に阻まれた。




照会人物系

うちはマダラ 再び輪廻眼を開眼

日向モミジ 賢い事考えているようでゲェジ主人公

大蛇丸 かしこいヒロイン


※ピーターうさぎ&こなかなのパロで20kbあったが完全に脱線なのでカット&編集
自分の読みたいもん全部打ち終わると満足して編集のモチベさがるの草


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神様の居ない安息日

 「間引きは失敗か」

 

 うちはマダラは十尾の上でそう呟く。彼は本気で間引く気などは無かった。ただ、これくらい対処できないのであれば生き残っても意味が無いと思ったまでで、そこに悪意は無い。

 彼はある意味純粋過ぎるのだ。千手柱間とかつて仲違いし、喧嘩別れのようになった過去も純粋故の出来事であって本意ではない。

 本当の平和という願いを純粋に望むが故の、月の眼計画であり、無限月読であり、その為の行動を今だ続けている。

 多少行き過ぎた思いは含まれるかもしれないが、今は亡き柱間の意志を――火の意思を純粋に受け継いでいる人物でもある。

 

 「まぁいい。本命は別にある。あの小僧が召喚する穢土転生体に間引きは任せるか」

 

 マダラはそう呟く。失敗したのにも関わらず、特に問題ないというように表情にも曇りは無い。

 まるで自分の計画が成功しないほうが良いような、そんな風に捉えることもできる態度だ。

 そんな純粋なマダラが本当に警戒すべき相手はマダラが小娘と呼ぶモミジでもなければ、ふざけた扉間でもなく、ましてやカブトでもない。

 

 「アレはどう動く気なのだろうな……」

 

 利用し、利用されるのが忍世界の常。裏切りなど腐るほど見てきたマダラ。

 そんな彼はアレが自分に隠れてコソコソ動いている事など、とっくに気付いている。

 気に食わない相手から忠告された過去もある。柱間以外の存在など取るに足らないと思っていたかつての思い上がりは、今のマダラにはほぼ無い。

 神と称される忍と互角に渡り合った男マダラ。その勘は鈍る事は無く、更に研ぎ澄まされている。

 

 「……柱間、オレやお前の考えはもう古いのかもしれんな……いや、新しいモノが良いモノとは限らんしな」

 

 だが世の中に絶対不変などというモノは皆無だ。変化していく時代や理。言葉、忍術、体術、流行り廃れ……

 そういったモノに対応できなくなった時、敗北するのだろうかと、マダラは柄にも無く純粋な笑みで笑った。

 

 「もう交わる事は無いだろうが……それでも理想は同じだったと、オレは思う。誰にも邪魔はさせん。そう、誰にもだ」

 

 かつて語り合った理想。彼はただソレだけを求め、今まで生き恥を晒してきたと自負している。

 その純粋な願いは柱間への想いと共に。月の光だけが彼を見ている。

 

▽▲▽

 

 まるでマザボのコンデンサが妊娠して妹が爆発したような、そんな地響きと共に世界が崩壊していく瞬間が始まるのだろうか。

 激しく揺れる地面と十尾の光線の試射で数多の忍が傷を負った。

 メイちゃん達五影や大名達その他が居る施設にもそのゲロビが当たりそうになり、大惨事になりかねた。だが、施設内で待機していた五影達の結界術によって攻撃は阻まれた。

 

 幾千もの時を生きてきて、既に確固たる己すら無い癖に(、、、、)……キャラじゃないのにセンチメンタリズムな感慨に耽っている。

 

 現在進行形で俺は負傷した連合軍の忍達を治療している。

 それは背中に龍の刺青がある戦場のNPOのように、焼夷弾やらクラスターやら生物兵器がばら撒かれたりという救いようが無い戦場ではないのが救いか。

 チーム龍ならぬチームシズネと俺率いるチームモミジな医療班が寝ずの治療にあたっているからだろうけど。 

 

 外交が下手だと戦争が起こると言うが、そんなモノは普通の平和な世界で生きた人間が遠くから使う言葉だ。

 飢えりゃ仲良くやってた隣人もヤっちゃうし、例え飢えてなかろうが、何か理由があれば友だろうが血の繋がった親兄弟でも争うし、特に理由の無い暴力を振るうのも人間という存在である。

 ただ、悲しいのは……そんな悲惨な事も悲惨と思えなくなった自分自身なのだろうか。

 

 ――そもそも元の俺という人格は残っているのだろうか?

 

 そんな風にニンゲンっぽい思考をしようと頑張るのだが、中々長年染み付いた思考方法は変える事が出来ない。

 そうか、俺がこういった真面目な思考をしている時というのが世界の七大怪奇現象の一つなのだろうネ!

 

 「モミジちゃーん。黄昏てないで手伝ってくださーい」

 「休む暇が無いね。時間外労働手当ちょうだい?」

 「なんですかそれ」

 

 そうだった。シズネちゃんにコイツ頭付いてないんちゃうか? みたいな表情で聞き返された時、時間外労働手当など存在しない世界だった事を思い出す。

 今ならヒロシ(仮)の気分がわかる。こいつぁひでえ労働環境だ。ブラックでおなじみのWTMが産まれたら嬉々として起業する世界じゃん。

 

 そんな精神論で全ての忍が動ければ、この世界はとっくの昔にブラックで平和な世界になっていたのだろう。

 やはりWTMは有能だった。俺もメイちゃんに任せきりではなく自分で起業すべきだった。

 

 そんなしょーもない事を考えながら、負傷した忍達を治療しつつ戦場全体をチェックする。

 大蛇丸や地雷屋、綱手姫はマダラと十尾を警戒する為に前線に待機している。

 アレから動かなくなったマダラwith十尾。できそこないのデスザウラーみたいに、冷却ファンとか付いてて、ビーム打ったら冷却期間が必要なのだろうか。

 

 現在大半の忍たちは今休養中だ。敵も無尽蔵に攻められる訳ではないからね。多分アレらも生き物なんだろうし。

 昼間忙しく働いていた忍たちは今、お風呂やら食事やらおトイレやらティッシュタイムでーす。

 けして葛西のような人物に言ってはいけないワードを浮かべながら風呂場までチェックする俺。

 男でもあり女でもあるからよ、両方見ても問題ねーんだわ。カイネちゃんとかあまぎちゃんみたいな感じなんだよ。

 

 そう、for security reasonsなんだよ。

 おや? 見覚えがある男が施設内の大浴場inナルトやビーの側にいつのまにか居やがる。

 

 『ナルト……大きくなったね……』

 

 各里への侵攻が一段落したせいか、四代目火影の影分身がいつのまにかやって来て、ナルトの背中を流しつつ感慨深げに呟く。

 コイツも飛雷神使いだったな。動向には注意しておこう。

 

 『……おぅ』

 

 気恥ずかしいのかナルトは照れくさそうになされるがままである。そんな親子の様子を見て気分が良い。

 次は施設外にある露天風呂だ。音忍とサムライが戦場には露天風呂だろと言って作ったせいで、露天風呂があるのだ。

 そんな開放的な空間でイタチとサスケェが仲良く洗いっこしてた。

 

 『サスケ……立派になったな』

 『兄さん……どこを見て言ってるんだ……』

 

 イタチはそうとう疲れが溜まっていたのだろう。普段では考えられない言動と行動をしている。

 いや、元からストレスかフラストレーションが限界まで行くとああなったな。疲労は関係ねーや。

 

 『どうだ、この肉体美。現役の頃とほぼ同じトレーニングをした結果、今のワシは……』

 

 やべえ。ダンゾウが子供たちに何か自慢している。ダンゾウ君はいつ施設から脱走したのかな? 後で回収しておかなきゃ……続いて女湯ミルデス。

 

 『……』

 『えっと、元気だしなよ? ほら、戦場って普段と違って妙にテンションあがったりするって言うし、誰も変だなんて思わないって』

 『……』

 

 木の葉の拳系アイドルであるサクラ=チャンが山中家の情報なら任せろ野郎の娘に慰められていた。

 そういえば暴走してたみたいに暴れまわっていたね。素面に戻って恥ずかしがって体育座りでションボリしてるのかな。

 

 『そうよ……私は何も悪くない。戦争が悪いのよ。だから私は悪くない』

 『ちょっとサクラ?』

 『サスケ君にはきちんと話をしないと』

 『サクラー?』

 

 なにやら雲行きが怪しいですね。この後、サスケが拳でサクラに襲われ万華鏡写輪眼を開眼するとは俺も思わなかった。

 サスケェが悲劇のヒロインだったんだね。サクラはイケイケでオラついてるヒロインだったんだな。なんだ百合じゃん(錯乱)。

 ナルトはナルトでみたらしさん家のアンコとか山中家の娘とか色んなオンナノコに襲われてたな。ハーレムやんけ。やったねナルトォ! 家族が増えるよ!

 これには親である四代目も大喜びやろなぁ。ブランコで一人ぼっちだった子供はもう居ないんだなって。

 

 そんなハチャメチャでドッカンなバトルの後もずっと監視していたが、俺以外の何かが()ている気配は無い。

 大丈夫そうだな。実はトイレや風呂の時が一番危ない。敵に扉間が居るからな。何をしでかすか予測しにくい。  

 

 欲を言えばこういった監視もメイちゃんに任せたい。けどメイちゃんの仕事をこれ以上増やすと男漁りに暴走するかもしれん。

 というより最近は何だか女の子でもいいかなとか俺を見ながら言うから怖い。距離を置きたい。怖い。恐ろしい。トモダチから言葉で言い表せない何かに昇格したくない。

 そんな風に錯乱しつつ様々な場所をチェックし、忍たちの治療を続ける。

 

 

 さて、治療もあらかた終わった。後はその辺の医療ニンジャに任せても大丈夫になった。

 

 「そろそろわたし達も休憩タイムはいりましょー」

 「疲れたので綱手様で癒されたいです。モミジちゃん。私を綱手様の所に送ってください。お願いします」

 「あ、はい」

 

 シズネちゃんはぶれないね。俺もそういう所だけは見習いたいと思います。

 かつてユニラテラリズム的な生ばかり送ってきた自分には、虚心坦懐なシズネちゃんは眩しい。俺も大蛇丸を労わったほうが良いのだろうか。

 綱坂さん家の葵ちゃんのように、手を顔に被せるように俺はシズネちゃんを見ていた。

 

 早く早くと彼女にせがまれ、しょうがないにゃあと言いつつシズネちゃんを綱手姫に向けてシュート! 綱手にクリーンヒット。仲いいよねあの二人。素直にいいなぁと思う。

 純粋に行動できる彼女が羨ましいのだろうか。今の俺はそんなニンゲンのような思考に陥るほど疲れているんだろうな。 

 しょうがないので水晶に顔を突っ込んで、俺も大蛇丸の肩辺りに突然行ってびっくりさせたる。

 

 「ちゃおー。大蛇丸」

 「ッ!? モミジ、貴方ねぇ……」

 「驚いた?」

 

 大蛇丸で癒されようと思い立ったので、俺はすかさず実行に移す。

 唐突に大蛇丸の肩の上に出現したモミジチャンの生首もどき。多分大蛇丸も疲れが吹っ飛んで大喜びでしょうねぇ。

 

 「思いつきで行動するのは変わらないようね」

 「ダメだった?」

 「はぁ……」

 

 なんでため息付いてるん。ここは大喜びする場面でしょう。

 

 「……ハイライトが無い眼で見つめないでちょうだい。怖いわ」

 「うん? ハイライト消えてた?」

 「ええ。貴方の妹が私を見る眼そっくりだったわよ」

 「まぢぃ?」

 

 大蛇丸の肩の上でげんなりしつつ、意外なところで姉妹の共通点が見つかって嬉しいやら悲しいやら微妙な気分になった。

 そもそも元からハイライトあんまり無いんだがな、日向一族って。そんな細かな仕草すらわかる大蛇丸は日向博士を名乗って良い。

 

 「……私の好みではないのだけれど。どうしてかしら? 今更だけれども、不思議とこんなやり取りも悪くないわね」

 「うん? わたしが好みじゃないって事?」

 「馬鹿ね、そういう意味じゃないわよ」

 

 何かを誤魔化すように舌を出しつつ、肩の上にある俺の頭を撫でる大蛇丸。別に好みじゃなくても良いんじゃないかな。

 世の中には間違いだらけの道順を辿ってカップルが成立する砂時計的な夏の世界もあるんだぜ。

 そしてこの瞬間も色褪せていく記憶の中で、大蛇丸だけが困ったような笑顔のまま的な感じになるのか?

 

 なるほど、俺は大蛇丸にとってのリージェンか。いや、俺はタイムパトロールになった覚えはないから違うか。

 出逢った頃はどちらかと言えば野乃崎家の明穂ちゃんかもな。髄膜炎と敗血症も併発してたし。

 そんな風に出逢った頃を感慨深げに思っていると下のでかい蛇が喋り始めた。

 

 『俺様の上でイチャついてんじゃねえぞコラ』

 「あら、焼きもちかしら?」

 「まぢぃ? マンダと大蛇丸って、そういう関係だったんだ……」

 

 ここ忍者世界だと思ってたけど、そうか……人外とイチャパラおkな世界だったんだな。やはりカツユちゃんが俺の本来のヒロインだったのか……ルート間違えたぁ!

 どう考えても大蛇丸ルートまっしぐらな俺。いやでも可愛いじゃん蛇。しかし失恋か……何世紀ぶりだろうか……ショックで高校に行けずコンパニオンになりそうだぜ!

 

 『オイ。コイツ話が通じねえやべえ奴だぞ……大蛇丸。疲れてるのか知らんが相手を選んで冗談は言えや……』

 「モミジ? 冗談よ?」

 

 色々と蛇のような仕草だからてっきり蛇とカップリングが成立しているのかと思ったが、違うわよと言いつつ俺の頭を小突きやがる大蛇丸。

 俺は異種間カップルだろうが差別無く祝福するぞ。言い訳はしなくていい。盛大に祝福しよう。

 

 それはもう盛大に……この世界をどっかのでかい白い鯨のように、絶えず戦争が起こる世界にして祝福してやろうと思います。

 

 『俺様とした事が……気が抜けたからか。オイ。俺様はこんなのとなんて間違ってもご免だ。だから手から草薙の剣取り出して無言で俺様を斬ろうとするな! その剣はやべーってーの』

 

 何か失礼な事ばっかり言ってやがりますね、マンダ。

 太古の昔、ネグレクトされた市原家の闇みたいな人生だった事もありやがるんですよ。蛇からぺんぎんに改造して遊びまくってやってもいいですよ。

 

 『俺様がこんな男か女かわからねぇ、危険な奴を番になんて世界が滅びてもしねぇから……頼むから落ち着けよモミジちゃんよぉ。間違っても世界滅ぼそうだなんて考えんなよ? 俺様まだ死にたくない』

 

 確かに無理をして本気だせば一つの次元世界くらい軽く滅ぼせるんですよ。

 じゃあ期待に応えてこの世界でイタズラするですよ、マンダ。

 

 「モミジ」

 「うん?」 

 「綱手とシズネが風呂でも一緒にどうかって言ってきたわ」

 

 そんな風に手と顔だけ出してデスなムーアさんごっこをしつつ、ネグレクト的思考をしてマンダとコミュニケーションをとっていたら、いつのまにか綱手姫とシズネちゃんが俺達の側まで来ていた。

 

 「モミジちゃーん! お風呂に行きましょう!」

 「シズネ! 私を馬みたいに扱うんじゃない!」

 

 話を聞けば、どうも地雷屋さんが昼間は迷惑をかけたと、十尾の監視を一手に引き受けるらしい。

 そんな事よりカツユちゃんはどこかな? そんな俺の想いを他所に彼女も引き続きマダラと十尾の監視を続けるらしい。

 献身的すぎる。というか……なめくじな彼女に熱々のお湯ってやばいのかな。一緒にお風呂したかったな……

 

 そんなこんなで大蛇丸も失礼なマンダに監視役を押し付けてレッツお風呂。テントを経由し、露天風呂へ綱手姫とシズネちゃんと大蛇丸をワープさせる。

 そして平和なお風呂タイムである。綱手姫とシズネちゃんはもちろん女湯だが、俺と大蛇丸は両方あてはまるので両方用の湯である。

 流石に混浴は大蛇丸が嫌がったから、俺と大蛇丸専用の貸切風呂です。元々俺一人で入る為に作っておいた場所なんだけどね。

 

 もちろん湯船に入る前に大蛇丸と洗いっこした。それはもう仲良くキャッキャと俺が言いながら。

 

 「ふぅ……」

 

 今日は結構な頻度で医療忍術というか医療魔術を使い続けてかなり疲れましたね。

 一番最初に覚えた魔術。感慨深いソレを他者に施すとは、あの頃の自分では想像付かなかったな。

 湯に浸かりながら辺りを見る。何か蜃気楼みたいなのが紛れ込んでいるがスルーする。陽気な湯気か何かでしょう。

 大蛇丸はまだ髪を洗っている。後姿のソレは本当に見返り美人のようで、とても美しい。

 

 「オイ! この露天風呂、割と良い湯だぞマジで!」

 「そうだ……ね?」

 

 いつの間にか俺の横に見知らぬおじさんが蜃気楼のように現れた。

 

 「おじさん誰? わたしは日向モミジです。気軽にモミジちゃんって呼んでいいよ?」

 「あっ……良い湯過ぎて術解けちまったな! まぁいいか。オレは鬼灯幻月。モミジちゃん一緒に飲もうや」

 「露天風呂の妖精さんかな?」

 

 お猪口片手に一緒に飲もうと陽気なおじさんが酒をすすめてくる。

 幻月って言えば妖精のはずだ。つまり良質な露天風呂に誘われて妖精がやってきたのだ。

 露天風呂には妖精が憑き物と言うが、まさかこんな出来立ての露天風呂にもわいてくるとは……

 

 「モミジ。露天風呂の妖精ではないわよソイツ」

 「そうなの?」

 「おじさん妖精って柄ではないな。でも今は妖精でいいぞ。良い湯で酔っていたい」

 

 妖精ではないとしたら、露天風呂王か? 露天風呂チェーン店のオーナーかもしれんな。

 敵情視察はチェーン店オーナーならしっかりしとかないとライバル店に負けてしまうしね。

 

 そんな事より俺と二人だけだった時はバスタオルなんて巻いてなかったのに、大蛇丸はバスタオルで身体を隠している。

 知らないおじさんが居ると隠すんだね。なんだかんだ言って女の子なんだなって思いました。

 俺? 貞操観念なんて遥か昔にポイーしたので隠すわけが無い。ガハハ、グッドだ。 

 

 なにやら警戒しつつ大蛇丸は俺を引き寄せ、謎のおじさんから引き離す。

 何だか嬉しそうな表情をしていた鬼灯幻月とかいうおじさんは、大蛇丸の行動が悲しかったのかションボリしている。

 大蛇丸もそこまで警戒せんでも……相手がヤる気ならとっくにしていたでしょうに。

 ちゃんとわかってますとも、彼が穢土転生体で敵勢力の人物なんでしょ。わかってるって。うちの水月の親類か何かでしょ。

 

 それに悪意には敏感なので、目の前のおじさんが悪人では無い事はわかっている。

 ただ、逆に悪意とか敵意が無い存在はスルーするので結構俺は抜けてるかもしれない。やっぱり大蛇丸ってしっかり者だなって思う。

 

 今夜は月が赤くて綺麗な良い夜に良い湯だ。そりゃ妖精も酒をすすめてくるよ。

 月の横に小さな赤い星が無くて良かったな。あったら星詠の舞が開催されるぞ。

 

 月……月ね。半月も良いけど十六夜も良いよね。浄眼でも持っていれば恋でも歌ってたかもね。ま、この世界じゃ誰かに話しても通じないし、月に兎の方がメジャーか。

 戦時中の束の間の穏やかな時間。神を名乗ったり、創造主のように振舞う種族は嫌いだ。具体的には紫色の竜は大嫌いだ。

 だが、月之輪姫ちゃんや時之輪姫ちゃんとか、この世界なら兎の女神(大筒木カグヤ)ちゃんなら嫌いじゃない。

 そんな穏やかな雰囲気の露天風呂で、大蛇丸や陽気な妖精と共に英気を養うモミジちゃんなのでした。




用語系列

カイネちゃんとかあまぎちゃん 両方あったり男から女に変わったりする代表

時間外労働手当 アベル重亙製、極限作業用人型重機カムル三式に乗る人物でも貰える

WTM 転生したらブラックで世界征服できるほど超有能のやべーやつ

ティッシュタイム 葛西みたいな奴に言うとウケるが机とキスするハメになる

どっかのでかい白い鯨 最終試験で宇宙人が残した空に浮いてるくじらでは無い方

露天風呂の妖精 幻月おじちゃんは陽気な妖精

浄眼 主人公が言ってるのはカクリヨの幻視能力を持つ瞳の方 


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tsukihana-月華-

再臨、鬼と呼ばれた女神 神話級


 夜が明け、再び戦いが再開される。

 再び闘う三忍とうちはマダラ。連合軍と穢土転生体達。奇跡的に死者が今まで0人という、第四次忍界大戦。

 歴史上もっとも死者が少ない忍界大戦になるかもしれない。そんな思いが五影達の脳裏によぎる。

 

 普通に考えて、そんな都合の良い結果になるわけがない。事前に考えていた彼らの戦況推移よりも良過ぎる経過。

 

 人柱力も何名かは温存されて、戦場にすら出ていない。

 そもそも人柱力が必須ならば、うちはマダラはもっと苛烈に人柱力奪取に力を入れていたはずだ。

 あのマダラらしくなく杜撰な人柱力の扱い。まるでついでと言わんばかりの。

 

 そしてまた夜が来る。満月。時は満ちた。

 

 「篭っていれば安全だと、あのジャリ共は思っているのだろうな。せいぜい鳥籠の中に篭っているといい」

 

 うちはマダラ自身は人柱力――尾獣のチャクラを必要としていない。

 彼が真に求めているモノはたった一つ。この世に最早存在しないある人物でも無ければ、この世界の覇権でもないし、復讐でもない。 

 突如彼の姿が変わる。かつて六道仙人と呼ばれた存在に似た容姿へと。

 

 「はじめるか。せいぜい優しい時の中で過ごせ」

 

 樹のようになった十尾に語りかけるように。マダラは優しげな表情で月を見ながら術を発動した。

 

 この世界各地を樹の根が覆う。建物を突き破り老若男女問わず樹の根に覆われていく。

 それはあの水中の施設も例外ではない。

 悲鳴を上げる間もなく、施設を突き破り根が覆う。圧壊せず、水没しないのは技術力の賜物か。

 だがそんな技術力も役には立たず、中に居る人々を覆っていく。

 それはまるであるべきものを元の場所へ還すかのように。

 恐ろしい速度でソレは近付いてくる。印を結ぶ暇すら与えられず、忍達は捕らえられていく。

 

 「そんな……」

 

 司令官である照美メイは、そんな呟きを残しながらなすすべなく、あっという間に自分達を覆っていく樹の根のようなモノに包まれる。 

 

 そして世界は樹によって覆われた。

 

 

 

 

 「神樹と呼べばいいのか、はじまりの樹と言えばいいのか。大蛇丸まで取り込まれちゃってまぁ……」

 

 そんな世界の様子を日向モミジはいつもとは違い無表情に近いソレで見守っていた。

 

 「何故、貴様は取り込まれていない」

 

 いつまで経っても取り込まれない日向モミジ。

 うちはマダラは日向モミジに問う。何故コイツは取り込まれていないのかと。

 

 「こんな時は、世の中の関節は外れてしまったって言えばいいのかな」

 「オイ」

 

 呼びかけるうちはマダラに興味が無いのか、日向モミジは樹を懐かしげに眼を細めながらずっと見ている。

 樹の根は何故か日向モミジを避けるように世界を覆う。その様子を見ていたマダラは少々苛立ちながらモミジに詰問する。

 

 「質問に答えろ小娘」

 

 どうでもよさそうに日向モミジはうちはマダラへと向き合う。そこに感情の発露は無く、ただ作業的に機械的に振り向く。

 

 「……何故取り込まれないかって質問だったね」

 「……そうだ。何故樹は貴様を避ける」

 「君が今、六道仙人のような姿になれているのは、何の力を使っているからかな? それが答えだよ」

 「どういう意味だ。まさか貴様神樹そのものか? いや、そもそも神樹ならチャクラが同調して……」

 「陰があれば陽もある。わたしが陽なら陰はそっちが使っているチカラ、そもそも元は一つの怨念の集合体なんだよソレ」

 「……神樹の人格かと思ったが、そういう訳でもなさそうだな」

 「樹になった覚えは無いかな。そして君たちはチャクラなんて呼んでるけど、違う」

 

 チカラは統合す。集いしチカラは引き合う(カタカムナ)

 

 「彼女は夢と現の境界が薄れるこの時を待っていた」

 「なに?」

 

 胡乱な目つきでモミジを見やるマダラ。対するモミジはずっと表情が無い。

 

 「……約束を果たす時、か。大筒木カグヤ」

 「何を……」

 

 言っている。その言葉は最後まで続かなかった。突如マダラ様子が豹変する。

 苦しそうに、何かに耐えるように。 

 そしてマダラの腹を突き破るかのように一人の女が現れた。

 それはまるで産まれてくる胎児の如く。

 

 ――胎児(カグヤ)胎児(カグヤ)よ。嗚呼、胎児(カグヤ)よ、(悪夢)の中で産まれた愛し子よ。

 

 両目に白眼、額に輪廻眼と写輪眼の力を扱う事が可能な第三の眼を持つ女。大筒木カグヤが再びこの世界に顕現する。

 

 「馬鹿……な……」

 

 傷をおさえながら苦しそうにマダラは呟く。

 ゼツ共に憑依させたのは本体ではなく多重木遁分身体で、彼らの付け入る隙は無かったはず。

 そもそもゼツ共も外道魔像に吸い取らせ、十尾となり、今は樹になっているはずだ。

 狂った鳥達は母の元へと、鳥籠の中へと還っていったはずなのだ。

 そう、鳥籠の中の悪意と同化したのだ。そのチカラの奔流と共に。ソレらを利用しこの世界の六道のチカラを使っているマダラにとってソレは毒になる。

 警戒していたマダラだったが、チカラそのものに意志があるとは盲点だったようだ。

 その毒はマダラを通して世界に流れていく。その流れは止まる事は無い。誰も止める事はできない。人ではソレを止められない。

 その正体はとある世界。その片割れ。日向モミジがまだ人であった頃融合してしまったモノの陰陽で言う陰の塊。そのセカイそのもの。

 

 チカラの根源は別のセカイそのものであった。

 

 うちはマダラがいくら警戒しようが、ソレに気付く事は不可能だ。

 普段誰もが当たり前のように使っているチャクラ。否、チカラというべきソレを警戒する事などほぼ不可能に近い。

 マダラはそのチカラを知らず知らずの内に内包してしまっていたのだ。それも直接。

 直接取り込んでしまったソレは他者のように、柱間の残滓で鬩ぎあっていた純粋なチャクラというべきソレとは違い、人格が歪むほどに狂うチカラ。

 この世界の柱間はソレにいち早く気付き、対策を練った。だが、根本的な解決にはならなかった。

 故に後に続く者達へと託す他無かったのだ。この世界の柱間は忍の神と呼ばれてはいたものの、ただの人間だったがために。

 

 「……そういう事か」

 「なりふり構わずだよね。ゼツだっけ? 無事お母さんの元に還ったね」 

 「まだだ……まだ俺は……」

 

 最早気力だけで立っているだけのうちはマダラ。マダラは日向モミジを見ているようで、見ていない。

 この世界に最早存在しない誰かを見続けている。その残滓を彼は見続けている。その意思を、火の意志をずっと宝物のように。

 再び世界に産まれた大筒木カグヤと言えば、まるで憎悪の塊のような、全てを憎んでいるとでも言わんばかりの表情で、世界を見渡し、日向モミジを見つけ、モミジを睨みつけながら呟く。

 

 「何故ワラワがもう一人居る」

 

 それにモミジは応えない。代わりに別の声色が応える。

 

 「こちら(、、、)のワラワは不憫よな」

 

 これにようやく合点がいったのか、うちはマダラはなるほどと呟く。 

 憎悪に狂うカグヤと対照的に、憐憫の眼差しをカグヤ(鬼の女神)に向けるカグヤ(兎の女神)

 それは一つ間違えれば自身が辿ったかもしれない可能性。

 支配欲、独占欲、憎悪。様々な感情を内包し、殺意と共に睨みつけてくるカグヤに対し、日向モミジの身体に纏わり付いている何かはそう呟く。

 

 別の次元の、似たような世界での記憶。それはこの纏わり付いているカグヤによる記憶の流入。彼が、日向モミジが知らなかった記憶の正体。

 その纏わり付く彼女の願いは世界を、己が法で包む事。

 この目の前の憎悪に狂う邪魔な存在を、目の前の女を討ち果たし、己が世界を覆う事。

 鬼と呼ばれた存在を、目の前の怒り狂うカグヤに当て嵌めるならば、こちらのカグヤは兎の女神と人々に呼ばれていた存在と言うべきか。

 

 ならばリーやガイを送り込んだ存在。あの千手柱間という存在はどういった存在だったのか。

 彼は彼で、本当の意味で神となった存在だった。それはこの日向モミジに纏わり付いているカグヤが居る世界の。

 だが、その世界はとある勢力により滅びを辿り、神であった柱間も奮闘はしたものの残滓しか残らなかった。

 その世界で自発的に月に封じられていたカグヤ(兎の女神)の楔が綻んだのはその時である。

 柱間がリーを送り込んだように、カグヤもカグヤ自身をその隣り合った別の次元の世界へ送り込んだのだ。

 リーやガイは己の肉体へ送り込まれたのだが、カグヤには肉体が無かった。仮にあったとしても、別世界の己が彼女を受け入れたかと言えば否であろう。

 そこで入り込む余地のある、日向一族のとある娘へと入り込んだのが事の始まりだった。

 その娘は病弱であったが、産んだ子もまた病弱であった。己が入り込んだせいでこうなったのだろうか、そんな思いと責を考え、死んでしまう母親の代わりに見守ろうと日向モミジに取り憑くのは自然の流れのようだった。

 

 だがその取り憑いた先は膨大な魂を内包する人の形をした何かであった。

 

 それは一つの世界と言っていいほどの、魂を内包したソレは狂っていた。

 このままではカグヤが世界間移動してきた意味も無く、ソレに巻き込まれて消滅してしまう。

 故にソレの人格を奪おうとはせず、守護霊のごとく取り憑くだけにとどまる。

 

 「シャーマンファイトでもするの? カグヤちゃん」

 「ワラワはソナタが言っている事の半分も理解できない。ワラワにわかる言葉で喋って欲しい」

 

 この狂う人の形をしたセカイは、思考の大半が狂っている。

 それを隠すようにそのヒトガタは自身の経験した世界の中でサブカル的な事柄で思考を埋め尽くす。

 そうしなければ自身を保てないかのように、彼は彼で戦っている。戦い続けていた。

 それは内包する魂の一つ。とある少女の為という欺瞞でもあった。

 そもそも彼自身は彼だけで満たされている。と、思っているようなどうしようもない魂だったのだ。

 そこに想像を絶する数の魂との融合を経て、彼は希薄になりつつある自我を守る為に、欺瞞を続ける。他者の願いを叶えるというプロセスを経て、自我を守る。絶対に失ってたまるものかと。

 そして一番の問題はカグヤによって解決され、彼を縛っていた一番太い鎖は無くなった。

 

 「……アレと融合でもして封印されたいの?」

 「……ソレでもよい」

 

 つまらなさそうな表情でカグヤを見やるモミジ。そんな結末認めない。認める訳が無いとでも言わんばかりの表情だ。

 そんなやり取りを警戒した様子で見ている、かつて鬼と呼ばれた方のカグヤ。

 

 うちはマダラはそんな様子をこのまま見続けるだけで良いのかと、自問自答する。

 かつて交わした柱間との想い、残滓。受け継いだ遺志。彼の中での柱間とはこの世界の柱間と別の世界からやってきた柱間の残滓。ソレも指す。

 彼の中にあるその意志を、残滓でしかなかったソレと共に彼は再起する。

 託された想いを、ただそれだけを秘めて、彼は再び立ち上がるのだ。

 例え、ソレが柱間という意志に伝わる事が無かったとしても、彼は止まらない。

 この目の前の鬼と呼ばれざるを得なかった女や、兎の女神と呼ばれる存在のよりしろになっている日向の小娘だろうが、平和への想いは誰にも負けないと自負している。

 

 傷? そんなもの気合でどうとでもなる。

 チカラが足りない? 想いの力で打ち砕け。

 

 「ふざけるなよ女共。オレはあきらめんぞ。ぽっと出の女神か忍の始祖かは知らんが、そんなモノに俺は負けん」

 

 思わぬ負傷により六道形態が解けたマダラだったが、己のチカラだけで再び須佐能乎を呼び出し戦闘態勢を整え、彼は吼える。

 柱間細胞がマダラに呼応するかのように、傷を驚異的な速度で癒してゆく。彼が折れぬ限り何度でも再び立ち上がれるのだ。

 

 「すごいね……解脱してる」

 「ワラワにもわかるように語れ」

 

 モミジが言うには、彼はこの世界の理から外れ、真の意味で一人の人間として存在を確定させたらしい。

 それは強靭な精神のみが到達できる一つの到達点。何者にも穢されぬ意志。

 

 「輪廻の果て、ついにはソレに至れなかった。そんなわたしとは違い、本当の意味で人間になれた他者をはじめて見たよ」

 「小娘。いや、よりしろ(兎の女神)。邪魔をするならまずは貴様からだ」

 「ワラワがさせると思っているのか」

 

 こうなると、物理的に倒しきるのは不可能に近いとモミジは考える。

 なにせ、理から外れるとは文字通り世界から外れているという事なのだから。本来、生物に適応される物理法則は通用しない。

 そんな風に戦い始めたモミジとその背後に居る兎の女神、カグヤ。うちはマダラ。そこに割り込む鬼と呼ばれたカグヤ。

 はじめから理から外れている鬼、ただ一つの思いだけで理から外れたマダラ、そして――。

 

 三者は闘う。それぞれの意志と願いを胸に。

 

 大地が歪もうが、辺りの被害等考えない戦いを繰り広げる。

 ふざけた火力で須佐能乎の腕を振るうマダラ、振るう度に空気は震え、その余波で山を容易く割っていく。

 

 「愉しさとは無縁だが、これはこれで血が滾るというものだ。貴様らには感謝せねばならんのかもしれんな」

 「ッ!」

 

 一方日向モミジはと言えば転移をし続け回避するだけである。当たり前だ、あんなモノをモロに喰らえば流石に不死の肉体と言えど、その中にある人格、あるいは魂は消滅を免れない。

 そうなれば全てが無に帰す。彼の意識、人格が消滅し中にあるセカイは制御を離れ全てを喰らうまで暴れ続けるだろう。

 それはモミジにとって数万、数億……あるいは那由他の果てにたどり着いた、精神の安定をぶち壊す結末である。認められない。

 だが、マダラにばかり気をとられていては鬼の攻撃は避けられない。

 

 ――『共殺しの灰骨』

 

 殺すという鬼の言葉と共にマダラとモミジへ絶対なる破壊が迫る。

 マダラは樹海を降誕させ、その迫り来る破壊の概念を凌ぐ。

 モミジはまた空間転移する。だが、三者にとって距離という概念は最早意味を成さない。

 樹海のはるか上空へと転移したモミジのすぐ近くへと、須佐能乎を纏った物理法則を完全無視するマダラがやって来る。

 そしてモミジは応戦せざるを得なくなり、空間から一振りの剣を取り出した。

 

 「ほう……その剣は……草薙の剣か。ソレにも洗脳の呪いの概念が付けられているのだろう。だが、今のオレ(、、、)には効かんぞ」

 「……残念ながら、そんなこすい剣じゃないよコレは」

 「な……に!?」

 

 ただ振るう。近付いてくる須佐能乎の腕が草を薙いだように斬られた。

 草那芸之大刀(くさなぎのたち)と言われる神威をのせる剣。

 その斬撃、例え使い手が真なる達人には敵わない技量だったとしても、その神威は理から外れたマダラの須佐能乎くらいなら斬れるのだ。

 

 「ワラワは一人だけでよい!」

 「次から次へと……」

 「逝ね。女共」

 

 マダラをどうにかしたと思えば、背後からまるで空間を裂いて来たかのように鬼が出現する。

 そして共殺しの灰骨という破壊の概念を飛ばしてくるのだ。モミジはマダラの須佐能乎を斬った直後に、その飛んできた概念を草を薙ぐ概念ののった神威で斬り、進行方向を変えさせる。

 その隙をマダラが再び再生した須佐能乎の腕で攻撃してくるのだ。

 

 埒が明かない。だがそのモミジの行動は回避に専念されていて、とても相手を消滅させようという気概で闘ってはいない。

 まるで時間稼ぎをしているような、何かを狙っているような。

 

 そして再びモミジは距離にして10万km以上離れた場所へと空間転移するのだ。

 

 こうして三竦みの状態で拮抗する時間は流れていく。

 モミジや兎の女神が鬼と呼ばれるカグヤを攻撃しようとすれば、マダラがその両方を攻撃しようとする。マダラにとって彼女達は両方異物でしかない。

 

 敵の敵は味方ではなく敵でしかない。

 だが、そんな時日向モミジが回避行動をとりながら、よくわからない謎の印を結ぶ。

 魔方陣が、巨大な魔方陣が起動し始める。カグヤはソレが何かわからないが、本能的に転移に関するモノだと察知する。

 

 「モミジよ、何をしておる。すぐ転移した方が良いぞ」

 

 モミジの突然の行動に兎の女神は困惑する。

 

 「ようやくだ……今ならできる。わたしの月を呼べる」

 「まさか……」

 

 意思疎通が難しいモミジに困惑していた兎の女神。だが、やろうとしている事は伝わってきた。

 

 「女共、息絶えろ」

 「ワラワ以外消え失せよ」

 

 輪廻写輪眼の能力や共殺しの灰骨を使いながら迫りくる鬼、須佐能乎で両方を圧殺しようと振るうマダラ。

 鬼の骨とマダラの須佐能乎により、ついには赤い華を咲かせたモミジ。

 二人の攻撃を受けて、最早不死すら関係なく消滅しかけ、絶体絶命かと思われたが。

 

 「……なんだここは」

 「月を呼んだか……いや、ワラワはこんな月は知らぬ。ここは……」

 

 突如景色が変わる。それはマダラにとっても、鬼と呼ばれたカグヤにとっても未知の星。

 その誰も知らぬ月。それはモミジの原初。人であった頃に住んでいた、今は誰も住んでいない誰も居ない月。

 そこへ接触してきた鬼とマダラを己と共に置換したのだ。

 

 「モミジよここは……」

 「……」

 

 兎の女神の問いに彼は答えない。ただ崩れかけた肉体で歪んだ笑みを返すのみ。

 かつてあっただろう文明の傷跡。荒れ果てた大地。栄華を極めていたであろうその名残。

 何者かによって滅ぼされたのであろう、その文明の名残は哀愁漂う。

 

 「兎の女神の権能か」

 

 マダラは一人納得する。だが、正確に言えばソレは違う。これは日向モミジ自身の能力であり、兎の女神はその補助を担っただけに過ぎない。

 彼は他者を惑わせる事と移動させる事に関しては他の追従を許さない。

 夢と現の境が緩くなった事で得をしたのは兎の女神や鬼だけではなかったのだ。日向モミジもまた、その恩恵を受けているのだ。

 夢か現実か、その境界が曖昧な彼にとって世界は幻のようなモノなのだから。

 境界が緩くなった事により、現での能力行使が可能となる。

 そしてとうとう境界が、夢現が、夢幻に変わったその瞬間、術が発動したのだ。

 

 小さくただいまと呟くモミジ。彼の故郷、その月はとある種により滅ぼされた。

 二度と帰ることは無いと思われたその月を、彼は兎の女神の助力により、忍世界のある次元に召喚する事に成功する。

 

 彼はここで決着をつける気なのだ。それは誰も理解できない想いと、執念の果て。

 

 「何がしたいのか知らんが、やる事は変わらん。貴様らを潰す」

 

 例え土俵が変わろうがマダラには関係ない。邪魔者を潰す。それだけだ。

 一方とあるチカラと融合している鬼と呼ばれているカグヤの方は気が気ではない。

 彼の意図に気付いてしまったが為に。何をやろうとしているのかわかってしまったが為に。

 

 「ワラワはこんな所で終わるわけにはいかぬのだ……」

 

 焦りを隠せない鬼。ただ一つの願いの為に気力だけで動き続けるマダラ。そして――。

 

 「終わりではなく。始まるんだよ。ようこそわたしの故郷へ」

 

 歪んだ笑みから一転、可愛らしい笑顔で言葉を発するモミジはとある魔術を行使する。そして月に光が満ちた――。




▽ようてん▽貴重なマダラの出産シーン→カグヤとモミジは津名魅with砂沙美みたいなもんだった

三鼎(26話構成)まで続いたりしない
次話『向こう側の月』で終わリー


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向こう側の月

 「何か大切なモノを忘れている気がするのよね……」

 「大蛇丸様?」

 

 音の里。その里長の部屋で大蛇丸は悩ましげな表情で呟く。

 薬師カブトはそんな大蛇丸に首を傾げながらも書類整理を続ける。

 

 第四次忍界大戦。連合軍の勝利により、世界に平和が訪れた。

 各里は戦後の事後処理で忙しい。音の里も例外ではなかった。

 だが皆何かしら忘れているかのように少しばかりの違和感を残しながらの平和。

 その違和感に大蛇丸は疑問を呈する。だがその違和感の正体はわからない。

 何を忘れているのだろうか。そもそも自分は現役で音の里長だったか?

 別の人物がやっていたようにも思える。考えれば考えるほど謎は増えていく。

 だが、そんな白昼夢のような思考は事後処理の忙しさにより薄れていく。

 

 

 

 

 「はて、ワシらは何故これほどの口紅を所持していたのか」

 「ダンゾウ、お主もか。何かやる為に集めていたのかのぅ……」

 「気色悪い。捨てるぞヒルゼン」

 

 ダンゾウとヒルゼンは火影室にあったコスメを処理しつつ、戦後処理をしていた。

 何か忘れている気がしてならない。そんな小さな違和感。

 だが、そんな違和感を払拭するよりも、今は大事な時期である。

 五代目火影に就任する事になった自来也への引継ぎや、各国との調整、他にも沢山彼らの仕事があるのだから。

 

 「こんな時奴が居れば……」

 「どうしたダンゾウ?」

 「むっ? ワシは今何か言ったか?」

 「ボケたかダンゾウ。やはり儂等はもっと早くに隠居するべきじゃったな」

 

 他愛の無い会話をしながら書類やら何やらを片付けていく二人。

 そんな光景に違和感を多少覚えながら手伝う綱手と自来也。

 

 「何か忘れておる気がするのォ……」

 「自来也、暇ならこっちも手伝え」

 「次期火影使いが荒いのォ……」

 

 そうぼやきながらも書類整理を続ける。かつて三忍と呼ばれた内の二人。そして片方は次期火影である。

 第四次忍界大戦の功績により綱手と自来也が火影候補にあがったが、綱手も自来也もやりたがらず、結局賭けによる勝負で二人のどちらかが火影になる事になったのだが、珍しく綱手が賭け事で勝ってしまい、自来也が火影をするハメになったのだ。

 

 「ナルトにやらせたいのォ」

 「馬鹿。あいつはまだ子供だぞ」

 「わかってる。ナルトにはまだ早い。だが、次はアイツだ」

 

 そんな風に次期火影が次期火影を語りつつ、木の葉の里の人々は平和に過ごしている。

 

 

 

 

 「長十郎! そっちの処理を頼むわ」

 「ひぃぃ」

 

 水の国、霧隠れの里の水影照美メイも戦後の処理と、拡大し過ぎた事業の板ばさみで寝る暇すら無かった。

 助手のような次期水影候補である長十郎も休む暇はもちろん無い。

 

 「あぁんもう! 何で今まで出来ていたはずの事が出来ないのかしら……」

 

 それは物資の輸送手段。失われた何か。ロストテクノロジー。

 メイの会社が使っていたはずのその輸送手段が使えなくなってしまったのだ。

 

 違和感しかないが、何を使って輸送していたのかそんな些細な事よりも膨大な荷物、商品を届けるほうが先なのである。

 水の国の霧隠れの忍達全員をフルで使っても補え切れない販路。

 何らかの手段で簡単に出来ていた事、それが出来ていない。

 故にその販路を縮小するハメになった。だが、縮小してもしきれないほどにメイの会社は巨大であった。

 

 「うぅ……」

 「悲劇のヒロインぶってないで仕事してください!」

 「うるさいわね……ちょっとくらい良いでしょ」

 

 お菓子が食べたい。唐突にメイはある菓子が食べたくなった。

 

 「シズネちゃんを引き抜けば良かったわね……」

 

 戦後共にアイデアを出しながら会社を大きくしてきた片割れシズネを水の国に招聘するべきだったとメイは考えた。

 あともう一人居た気がしたが、その思考は忙しさに忙殺された。

 

 

▽▼▽

 

 

 「これで良かったのかモミジよ?」

 「故郷に帰れてわたし満足! かもね」

 

 いやー苦しい戦いでしたね(大嘘)。その為の不死、あとその為の月。

 味方に兎の女神の存在が無ければ苦戦していただろうね。

 音の里で作ってたハイヴもどきからロケットを射出して、この世界に居る月の民を蹂躙するBET○ごっこはお蔵入りです。

 あの眼が退化したBET○もどきさん達や死人である穢土転生体全ては今、この月に住んでいる。黄泉の星だね!

 

 あれからどうなったか。とりあえず、俺が遥か過去に作っていた対創造主(自称)を封じる為の設備がまだこの月に残っていた事を思い出して、俺が産まれた別次元の月をカグヤちゃんブーストで召喚。

 召喚する際、この世界の月をその住民ごと俺がかつて居た世界へ置換してやった。

 せいぜい創造主と戦い滅んでください。俺あの紫色の竜大嫌いだから共倒れしていてくれたらいいなって。一石二鳥とはこの事だ。

 

 そしてマダラや鬼と呼ばれていたこの世界のカグヤちゃんを俺や兎の女神のカグヤちゃんと共にそこへ置換して、召喚した月に封じた訳ですよ。

 もちろん代償はある。俺がこの星から離れられなくなってしまった。

 飛雷神の術で大蛇丸やらヒナタがいる地球? へでも行こうものなら封印が解けてしまうくらいの代償である。

 影分身とか余計なチカラを使おうものなら封印が解けられて世界がヤヴァイ。

 

 俺はどこぞの白皇かよ。

 

 鬼の方のカグヤちゃんが融合しきってるチカラの源が俺と融合しているチカラの源と同じ類というか、同じモノなのが原因だからあながち間違っていない。

 

 かつて滅ぼされた7つの古来種。その怨念。世界から見放された魂の果て。そのチカラは一つのセカイに匹敵する。

 

 その憎悪の側面があっちの、鬼のカグヤちゃんと融合しちゃったのがそもそもの始まり。

 そりゃあチャクラというか自然エネルギーに長時間触れている人は人格歪んでも仕方が無いし、よくわからん言動だったりする訳だ。

 

 このままだと折角ヤバイの封印しているのに世界が狂った人々によって自滅で滅んでしまう。

 そうなるのは流石の俺でも引くので、カグヤちゃんに頼んで普通の思考回路になるように忘却の術やらなんやらを無限月読もどきやらのついでで世界の人々にかけてもらった訳だ。

 恐らく戦争なんて反対だぜ! 平和に殴り合いで解決しようや的な思考回路になっているに違いない。これが緋想天……ッ! 

 

 ついでに俺に関する記憶も消してもらった。

 

 俺という存在の認識から鬼のカグヤちゃんのチカラが漏れ出したり、封印が綻んでしまうのを防ぐ為である。

 封印術って使い勝手が良いようで、実は結構悪い。

 

 思いのチカラがその他全てを凌駕してしまうのが宇宙なんだよなぁ。

 

 多少の綻びから鬼のカグヤちゃんや、ガンギマリのマダラが封印から解けられた! ってなって、月面戦争勃発とか嫌だからねー。

 俺はルナリアンになりたい訳ではないからね。そういうのは恋愛原子核に任せるのだ。

 この世界には居ないけどね。居たら戦術機で侍達と共に俺TUEEEしているだろう。

 

 そしてこの持って来た、廃墟だった月も復興が進んでいる。

 自分の糞を肥料にしてじゃがいも作って一人で生活していた、火星での日々を唐突に思い出した。俺の糞はうまいなぁと自問自答系第六天スマイルしてたっけ。あの頃は過酷でした。

 

 復興作業は四代目火影の穢土転生体が結構頑張ってくれてる。

 息子と会話できる機会がそんなに嬉しかったのかな。すごい俺に感謝してくれて復興作業を手伝ってくれているが、俺はそんな善意でやった訳ではないので……何かげんにょりする。

 

 世界の監視も兎の女神であるカグヤちゃんにお任せである。

 こうして忍世界の平和は兎の女神の抱擁によって保たれるのだった。

 何か黄昏の世界みたいだな。三人の守護者が居ないが。

 無理矢理当て嵌めるならマダラが飢えた獣役で鬼のカグヤが蛇役か?

 どちらかと言えば扉間だよな蛇役は。彼も今この月に居る。

 

 「モミジよ。やはりオレの目に狂いは無かった。感謝する」

 「ああ、うん。どういたしまして」

 「感謝を身体で示しても良いか?」

 「やめてよね、封印解けたら扉間さんのせいだよ」

 「冗談だ。ガハハハハ!」

 

 彼の正体は俺の射干……ではなく使徒。正確に言えばこの世界における俺の中にあるモノの端末候補だった奴。

 通りで狂っている訳だ。俺の中にあるやばーいのにモロで繋がっているヒトガタなのです。

 そりゃ無茶苦茶な強さと人格で、俺の本気に近い攻撃が通用しないはずだ。

 俺の身体を拉致ろうとしたのも、さっさとこの月に移動させて飛雷神でマダラと十尾になる前の外道魔像を封印するつもりだったらしい。

 ある程度忍達に戦いを経験させて、強くして元々あった月の、その内侵攻してきそうな勢力に対抗する為の、裏切りというより戦争を操作しやすいように敵側に居たとかなんとか。

 

 絶対楽しむ……愉しむために違いない。コイツ俺と似たような思考回路になってるはずやし。

 

 前もって言ってくれればもう少しましな結末になったかもしれないが、そんな協調性は俺も彼も持ってないし存在しない。ガハハ。グッドだー!

 

 ふと、緑の鬼畜王になった気分で復興しつつある町並みに目をやる。

 かつて破壊しつくされた町並みは、その栄華を再び取り戻しつつある。

 俺の中の自我が消えた魂達も浮かばれるだろうかと、柄にも無く感傷に耽ってしまうのは里帰りのせいである。

 

 平和って意図も簡単に邯鄲な感じで作れるし壊す事もできるんだよね。

 それを保つのが大変なんだ。だが、それは俺の仕事ではない。生きている人間達の仕事です。

 見守る系は俺やカグヤちゃんがする。だからまぁ、頑張れよ。おめぇも頑張んだよって言われそうだが気にしない。

 

 さて、これからはこの黄泉の国みたいな月でツクヨミちゃんごっこでもしつつ、平和な世界を眺めながら余生を送りますか。

 あ、大蛇丸が変な表情でカブトを見つつ命令してる。違和感に気付いたんだろうね。彼というか彼女は鋭い。

 伊達に両性類ではないな。不死になってることにいつ気付くのだろうか。気付いた時、違和感が確信に変わるのかな。

 俺が関わらなかった場合の大蛇丸というのを遠くから見守るのもおつである。

 大蛇丸ってしつこいし、蛇だからどっかに記憶とかバックアップとってるかもしれないね。

 その時はカグヤちゃんの判断にお任せー。俺は知らない。関与せん。

 

 ――幸せに暮らせば良いよ。元気でね。

 

 ヒナタはと言えば、元の体と仲良く日向家で暮らしているね。

 ネジはテンテンと仲良くファッション界で活躍しているようだ。

 流石ネジ。あの美しさは恐らく宇宙で通用する。頑張るんやで。

 

 ――欲を言えば、あの輪の中に自分も居たかった気がする。

 

 なんだか久々にあんにゅいだね。陽気な妖精さんでも見て癒されよう。

 

 「オイ! 月でも温泉掘れるんだな! マジ良い湯だぞこれは!」

 

 温泉妖精である幻月のおじさんが温泉を掘り当てて喜んでいる。

 相変わらず元気で陽気で困ったもんだ。

 彼は扉間が穢土転生で蘇らせた穢土転生体で、俺に対する連絡網係のような存在だった。

 

 今は他の穢土転生体のニンゲンもどき達と共に月の復興の為に働いてくれている。

 扉間は相変わらず訳のわからない事ばかりやっているが、封印さえ弄らなければ好きにすれば良い。

 

 「今のわたしってきちんとした自我(、、)があるのかな? ねぇ、カグヤちゃん」

 

 ふと、隣に居る兎の女神に禅問答みたいな問いを問いかける。だって暇なんだもの。

 退屈は精神を殺す。ほら、どっかの金髪で銃ブッパする三蔵も言ってたし。

 俺が封印に飽きて逃げないように、水晶の術を側で使っているカグヤちゃんに問いかける。

 

 「ソナタはソナタであってそれ以上でもそれ以下でも無い。例え自我が薄れ、別物になっていたとしてもな」

 「兎の女神さまにそう言われると納得できるようなできないような」

 「そんなどうでも良いことよりもほれ、ソナタの妹がまた問題を起こしておるぞ」

 「えっ……あちゃー……」

 

 記憶が消えてもそれまで培ってきた体術やらチカラが無くなる訳ではない。

 いつのまにか模擬戦していて、担当上忍ふっ飛ばしちゃってるヒナタ。マイシスターとかサクラと訓練する時は皆命がけだね……

 

 ナルトもサスケも木の葉の女の子に食われつつも、平和を享受している。おそらく、穏やかな日々が続くだろう。

 兎の女神が見せた、あの未来にはならないはずだ。三代目火影さん? 約束は果たしたよ。

 あとマンダ。ちゃんとお願いされた事はきちんとしてやりましたよ。喜びやがれです。

 

 もう俺の事なんて思い出すことも無いだろうがな。ぺっ。

 

 なんだかとってもエターナルな存在になってしまった気がする。

 永遠神剣なんて持ってないんだけどな。あ、草薙の剣を大蛇丸に返すの忘れてた。

 ま、いっか。大蛇丸の代わりに愛で用としてとっとこう。別に剣に執着する剣狂いではないけど、なんとなくね。これくらいは持っていても良いだろう。

 

 いつか朽ちるかもしれない平和。

 この兎の女神の治世を脅かすような、そういった危険な種族やら、人物が出没するまでは、この向こう側の月と共に世界を見ながら余生を過ごしつつ、まったりやりましょうかね。

 

 もう俺も狂った輪廻に還る事は無いだろうしね。俗世よさらば!

 そんな俺の思いを他所に、何者かが月に侵入してきたと扉間から報告があった。

 

 「この月を認識している存在は限られているはずなんだけど……」

 

 大規模な封印魔術と結界により、大半の存在はただの月だと認識しているはずなのだ。

 そこに誰かがやって来るという事は、多次元宇宙からの侵略者だろうか。まさかト1ロEF2ホか?

 

 隣に居た筈のカグヤちゃんがいつのまにか居なくなっている。緊急事態じゃねえか。はしゃぎまわってた幻月も報告に来ていた扉間も近くに居ない。

 嘘だろ……まさかこの一瞬で何者かに存在を消されたのか?

 困惑する俺を他所に何故か聞き覚えのある声が耳に届く。

 

 「他の連中ならまだしも、私を欺けるとでも思ってたのかしら」

 「えっ……」

 

 馬鹿な。いくらなんでも早過ぎる。カグヤちゃんの術が解けた?

 

 「今まで散々振り回されて来たのだから、これからは振り回してもいいわよね」

 「えっ……えっ?」

 

 やばい。封印は大丈夫なのか。そんな風に困惑しながら封印をチェックするが、異常はないっぽい。あるぇー?

 

 「安心なさい。封印には影響は無いはずよ」

 「どういうこと?」

 「貴方と似たような事をしたまでよ。別次元の私を使ってね」

 

 何でも俺が昔教えた魔術を応用して、とうとう別次元の自分すら召喚できるようになっていたらしい。

 樹に飲み込まれてた方は別次元の方かよ……どおりであっさりやられてるなぁとは思ったが。じゃあさっき覗いて見たのも別の方か。

 いつ入れ替わってたんだろう? 何か教え子に上回られた気分。元が違い過ぎて比較対象にもならんか、この天才は。

 よく見れば解脱してるし、マダラレベルかよ。そらここに居ても問題ないわ。

 そして事前にこっそりカグヤちゃんに教えてもらっていたみたい。亜空間女子会かな。俺も混ぜろよ。仲間はずれよくない。まったく……目の前の……

 

 「前にも言ったでしょう。逃がさない」

 「……うん」

 

 抱擁されるのは久々である。

 何だか急に気恥ずかしくなって、顔を見れなくなって別の方角を見るとカグヤちゃんと扉間と幻月や四代目火影が良い笑顔でピースしてやがった。

 カグヤちゃんは許す。幻月や四代目も悪意は無いだろう。

 だが扉間、てめーの笑顔は悪意に満ちている。むかつく。後で扉間を封印しよう。




永遠の楽園(ツォアル)END











■あとがきとか言い訳とか■
 所謂ヒロイン大蛇丸で恋愛成就しない系かと思えば、逃さないわよED。
 ボールが友達だったとある人物が、気付けばパチンコ玉が友達になっていたみたいな、そんな感じなんだよ。

 Q.何で一ヶ月あいたん?
 A.ランス10で忙しかった。ケイブリス戦のBGMを聴いた時ぐう興奮した。
 最終戦で血の記憶を聴きながら神ゲーだったと満足し涙がでた。虚無感がやべえ……

 ブックマーク入れてくれてる方、全部読んだ方、ここまでお付き合いくださいましてありがとうございまし。
 後は長くなるので割烹で。


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