姫ノ湯始めました (成宮)
しおりを挟む

騙されて

区切りとか気にしない
描写が弱くてごめんちゃい


この春から共学になった由緒あるお嬢様様学校、聖フランチェスカ学園に通い始めてから初めての夏休み。

ドキドキワクワクの展開を一応考えていたが、完全に不発に終わりそうなのである。

元々お嬢様が多いため、寮に残っているものはごくわずか。

及川は女子がいないならば意味ないで~と言い残し、さっさと実家へ帰ってしまった。

本当に欲望に忠実である。

まぁ海に行こうと誘っておいてくれるあたりいいやつではあるが出汁に使われる気がしないでもない。

さて寮に残るか、実家に帰るか。

とまぁいままでの説明通り選択肢は残されていないわけで、実家に帰ることにした。

しかしどうだろう。ただ帰るだけじゃ面白くない。

というわけで武者修行とじーちゃんをだまくらかして資金を調達。

実家まで自転車で帰ることにしたのだった。

 

マイ自転車にサバイバル道具を乗せ、自宅に向けて走り出す。

風を切って走る感覚が気持ちいい。

都心では俺の格好は興味の目で見られていたが、離れてみれば意外と俺と同じようなことを

している人は多いらしい。

リズミカルにギアが回る音が鳴り響く。

 

さて、ここから先は未知の領域である。

スマートフォンを開き、大雑把にだが地図を確認する。

うん、あの道が俺の家だな。

大体の方角にあたりを付ける。

 

以前、及川が言っていた。

「人生も恋も道はたくさんある。決まった道を進むんは楽やけど

未知なる道を突っ走るのも楽しいもんやで。普段出会えないことに出会えるんやからな。

せやから俺は熟女にも幼女にも・・・」

最後の部分はともかく言いたいことはなんとなくわかる。

だから俺も最短ルートではなく適当に進んでみよう。

まだまだ時間はいっぱいあるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

ねずみ色の空、雨独特の匂いに顔を歪ませる。

今の時期、降られても風邪をひくことはないと思うがそれでも服が張り付く不快感は拭えるものではない。

一時であれば気持ちがいいこともあるだろうが、それは着替えがあることを前提としなければならないだろう。

だから俺は雨を凌げる場所を探し、ひたすらペダルを漕ぐ。

 

 

今から約2時間ほど前、俺は出会った。

色黒スキンヘッドに何故か両サイドにおさげ。

筋肉ムキムキでなぜかオカマ口調で青いツナギ。

ぶっちゃけ怪しさ満点であったがしつこく話しかけてくるので仕方なしに昼食を共にした。

しかし話してみると思ったよりも喋りやすい。

オカマ口調なのがウザイがダンディな声であり、思わず聞き入ってしまうほど話し上手。

また、機微にも聡く、とても聞き上手で聖フランチェスカ学園での愚痴など喋ってしまった。

しかしなぜだろう。時々俺のことをご主人様と呼び間違える。キモイ。

 

 

「そういえばこの先に秘湯があるのよ。せっかくだから是非とも入って欲しいわ」

 

 

「秘湯?」

 

 

別れ際、彼はそういって山の方を指差した。

指の先を見ると舗装されていない道が山に向かって続いていた。

そういった道はタイヤにも負担がかかるし、遠慮しようかと思ったが

何故かわからない。行かなければならないような気がした。

そうだ、きっと俺は温泉に入って身体を休めたいんだな。

このよくわからない感覚をそう無理やり結論づけた。

天気は良好、温泉までに気持ちのいい汗がかけるだろう。

 

 

「ありがとう、行ってみるよ」

 

 

「ええ、看板が出ているからきっとすぐにわかると思うわ」

 

 

「楽しかったよ。じゃあな」

 

 

「こちらこそ楽しかったわ。またね、ご主人様」

 

 

そういって彼は俺が視界から見えなくなるまで手を振っていた。

またご主人様って言ってたな。

そいや結局お互いの名前を交換していなかった。

まあそれも旅の醍醐味の一つだろう。きっともう会うことはないだろうが。

 

 

そして今現在、俺はいつ降り出すかわからない状況必死で走っている。

そういえばどのくらいの距離に秘湯があるのか聞いていなかった。

戻るべきか、進むべきか。

今戻れば少し濡れるだけで済むかもしれない。

また秘湯というだけあって脱衣所なんかももしかしたらないかもしれない。

いざ発見したとしてもそれでは雨宿りすらできやしない。

最悪テント・・・と考えも浮かぶができることならば遠慮願いたい。

そう心の中で戻る選択肢に傾きつつあるとき、くだんの看板を発見した。

 

『姫ノ湯』

 

よく考えると看板が出ているのに秘湯って、と苦笑いが出る。

それでもサンドウィッチマンが使うようなこじんまりとした看板であるが。

一安心したところにポツリポツリと雨が降り出す。

このまま本降りになるのも時間の問題だろう。

 

 

「看板も見つけたことだし、行ってみるか」

 

 

誰も聞いてないことは解っているがなんとなく口に出した。

そうした方が決断が鈍ることが少ないだろうと思うから。

頭で考えるよりも決意や決断を口に出す方が芯が通る。

言霊の概念と一緒・・・なんじゃないかな。

 

 

 

看板の道に入っていく。

道は半ば登山道と変わらないような道で仕方なく自転車をひいている。

看板の近くに置いていこうとも思ったが、荷物もいくつか括りつけてあるし

もしいたづらでもされたら溜まったものではない。

というわけで無理やりにでも引っ張ってきた。

幸い看板からそこまで離れてはおらず、やがて小さな建物を発見した。

 

「これは・・・旅館?」

 

そう、なんというべきか。

穴場、という言葉がぴったりと当てはまるような小さくも威厳のある建物だった。

それは古いデザインの建物にもかかわらず傷やシミといった汚さは感じられない。

古めかしいのに新しいといえる旅館だった。

 

 

雨もだんだん強くなってきた。

自転車を脇に止め、急ぎ扉の前へ進んだ。

 

 

「すみません、どなたかいますか?」

 

 

引き戸を開き、声をかけてみるも人の気配はない。

無人なのかな、でもこんなに綺麗だし整備されてるのに。

そう疑問に思うことがあったが避難を優先することに意識を切り替えた。

すぐさま自転車のところに戻り、素早く荷物を降ろす。

水気を手で払い玄関口に荷物を置くとすぐさま自転車に戻り、ビニールシートを被せてゆく。

いくらサビに強いといっても限度があるし、雨風に相棒を晒しておくのも忍びない。

作業が終わったところで玄関口であるがようやく一息ついた。

 

 

「失礼します」

 

 

靴を脱ぎ上がる。

とりあえず少し中を見てみようか。

そう思った瞬間急に睡魔が訪れる。

 

「あれ、おかしいな・・・なんだろう・・・」

 

これまでの疲れが出た、そういった眠気ではない。

まるで電池が今にも切れそうなミニ四駆のような、全身の力が抜けていくような感覚。

その感覚に必死に抗おうと気合を入れようとするも、その気合すら出てこずに。

意識が強制的にシャットダウンされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひんやりと寒さを感じ、身震いした。

目を覚ますと見慣れない天井が視界に入った。

イマイチ記憶があやふやだが、確か秘湯を目指したどり着いた先がここだったはず。

ぼやけた意識の中で身体を起こすと、純和風の部屋だった。

テレビや冷蔵庫といった家電製品はない。

そればかりか照明すらなこの部屋にはなかった。

隅っこに玄関口に置いておいた荷物を発見し、ほっとひと安心する。

がそれ以外のものは一切ない、ただただシンプルな部屋だった。

 

そして何故か着替えた覚えのない浴衣を身につけている。

 

身体も動く。

頭もようやく回り始めた。

外は明るいし、ここで寝ててもなにも始まらない。

 

とりあえずここを探索しようか。

 

 

 

 

といってもすぐに終わってしまった。

ここと同じ様な部屋が3つ。

加えて囲炉裏がある部屋が一つ。

その隣に台所。

しかしガス電気水道などのライフラインは通っておらず

かまどやらなんやら。調理器具はあったからなんとかご飯は作れそうな感じ。

台所の裏口には井戸、ジ○リにでてきそうな手押し式ポンプ。

 

 

 

そして奥に進むと湯と書かれた暖簾。

その暖簾をくぐると4畳ほどの脱衣所。

男女の仕切りはないみたいだ。

そしてその奥の扉を開けると露天風呂があった。

 

鼻に温泉独特の匂いとわずかに立ち上る湯けむり。

こんこんと湧き出ている源水。

 

きちんと整備されており、老舗の旅館の露天風呂のように趣がある。

浴槽も大きさもなかなかだ。洗い場はこじんまりとしており3人座れるかどうか。

シャワーとかの設備はないくシャンプーとかも・・・置いてない。

ほとんど温泉に入るだけ、っていうところだった。

 

うん、これどこのト○ロの世界ですか。

日本のことをそれほど詳しくない外国人がアニメの知識だけで

作っちゃったぜ☆みたいな旅館です。本当に意味がわからない。

 

人もいないみたいだけど、勝手に色々やっちゃうとまずいだろう。

昼までまって人が来なければ置き手紙をして旅に戻ろう。

そう考え部屋に戻り、荷物から非常食と思って買っておいたカロリーメイトを食べた。

水は井戸水を拝借、冷たくまさに生き返るようなうまさだった。

 

そして昼まで待ってみたが誰も来なかったため浴衣を着替え、荷物をまとめる。

 

 

「浴衣お借りしました。手紙でのお礼になりますがありがとうございました、と」

 

 

こんなものでいいだろう。

あんまり長々と書くのもアレだしな。

手紙を目立つ場所に置いて、玄関口からでる。

シートを自転車から外し、すぐに荷物にしまい込む。幸い乾いていたからたいした手間もかからずに済んだ。

そして姫の湯をあとにする。

 

あ、結局温泉入らなかったな。

 

 

 

 

 

 

しかし走っても走っても森を抜けることができない。

未だに来る時に見た看板すら見つけることができず、既に1時間近くさまよっていた。

もういい加減やばい想像しかできなくなっていた。

よくある木に傷をつけて目印に、というやつもやってみたが今現在12週目突入。

 

思い切って旅館までの道のりを戻れば5分足らずで姫の湯に逆戻り。

これを三回繰り返して、ようやく俺は諦めた。

 

 

旅館に入り、自分が寝ていた部屋に戻る。

すると先程までなかった封筒が部屋の真ん中にぽつんと置かれていた。

慌てて手に取り素手でビリビリと乱暴に開ける。

すると中から1枚の紙がひらりと手のひらに落ちた。

 

『ご主人様へ

 

大好きです。本当なら今すぐにでも会いに行きたいのだけれど、それは無理なの。

すべてが終わったら迎えに行くからここで待っててねん。

「姫の湯」のことをよろしくお願いするわ。ここにあるものは自由に使っても構わないから。

ここでは様々な出会いがあるわ。きっとご主人様が喜びそうなこともね。

大変だけど頑張ってね、愛しのご主人様

                      あなたの恋人貂蝉より』

 

読み終えた瞬間真っ二つに引きちぎった。

 

書置きの手紙をおいた場所へ探しに行ったが消えていた。

やっぱり俺がさまよっているあいだに誰か来たのだろう。

可能性が高いのはやはり先程の手紙の貂蝉とやらか。

どんなやつかと想像しようとしたが背中に寒気が走り、これ以上想像するんじゃねぇぇと

本能が警告を発した。キモイ。

 

 

 

・・・あれ?なんかデジャブ?

 

 

 

 

出れないのであればここでしばらく生活するしかない。

とりあえず食料だ。

台所へ行くと最初見たことがなかった箱が置いてあった。

開けると肉や卵、野菜がたんまり入っていた。

きっと置いていってくれたのだろう。

冷蔵庫はないから肉とか早めに使わないとなーと考えながら親切だか親切じゃないんだか

ツンデレ?の奴にほんの少し感謝した。

 

 

かまどなど調理器具を確認しながら献立を考える。

鍋を見つけたとき脳裏に、よし、今夜は鍋にしようと天啓が!

調味料も色々あるし材料を持って囲炉裏がある部屋へ駆け込んだ。

 

 

鍋に白菜、白ネギ、椎茸、豚肉と人参をもうぐちゃぁと敷き詰め味噌スープを加え蓋をする。

外にあった薪を拝借し火を起こす。

ぐっつぐつ、ぐっつぐつと音を立て、いい香りがしてくる。たまらんね。

やっぱり鍋は簡単でいいな。

 

ここは夏なのに少し肌寒い。

森のなかだからか、それとも常識にはとらわれないせいなのか。

 

囲炉裏の熱によってほわっとあったかくなった部屋に少し眠気が入る。

そういえば今日は走りっぱなしだった。

鍋を煮込むあいだ、うつらうつらとしていると玄関の方から物音が聞こえた。

顔を起こし飛び起きる。

もしかしたら貂蝉が迎えに来たのかもしれない。

なぜか脳裏に浮かんだグロ画像を消し、もう誰でもいいから人よ来てと願う。

 

玄関を開けると、魔女の帽子とベレー帽をそれぞれかぶり、どこかの小学校の制服を思わせる少女が二人佇んでいた。




旅行者ってすごいね


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

追われてて

 

 

「はわわ、雛里ちゃん、これ、とっても美味しいよ」

 

「うん、わかったから。朱里ちゃん少し落ち着いてよ、恥ずかしい・・・」

 

二人が笑顔で鍋を食べている姿を見て、ついつい頬が緩む。

可愛らしく女の子座りで座布団の上に座って一生懸命手と口を動かしていた。

 

朱里ちゃんと呼ばれた少女は時折、鼻を啜っては器によそった鍋をはむはむと口に入れる。

雛里ちゃんと呼ばれた少女は目を真っ赤にし、涙を浮かべながらも友達を気遣う。

この幼い少女たちの名前は、諸葛亮とホウ統。

あの三国志に出てくる名前と同一であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの、たちゅけてくだちゃぃ!」

 

「お、追われてるんでしゅ・・・」

 

玄関を開けた瞬間、二人の少女はばっと顔を上げ、涙ながらにそう訴えてきた。

二人は息を切らせ余裕なんて微塵も感じさせず、泥だらけの服が痛々しい。

よく見ると膝は擦りむいたのか血が出ていた。

 

すぐさま二人の手を引っ張り中に連れ込む。

玄関の扉の影から森の奥を注意深く観察した。

風が葉を揺らす様子のみ、人の気配は感じ取ることはできなかった。

二人を驚かせないようにそっと扉を閉めた。

 

「大丈夫、外には誰もいないよ」

 

二人を安心させるためにできるだけ優しく微笑む。

しかしよほど怖かったのか二人は座り込み、お互いを抱きしめ合ったまま震えていた。

いつまでも玄関にいても仕方ない。

そう判断しこちらをぼーっと見つめている二人にもう一度声をかける。

 

「大丈夫、誰か来たって俺がやっつけてやるさ」

 

そういって二人の頭をぐしゃぐしゃと撫で回す。

 

「はわっ」「あうぅぅ」

 

小さく悲鳴をあげ、顔を真っ赤にしこちらを睨みつける。

おそらく子供扱いするな、と言いたいんだろう。

全然怖くない、むしろ可愛らしさが際立っていた。

 

 

「とりあえず上がろう。ちょうど夕食にしようと思っていたところだんだ。

お腹は空いているかい?落ち着くまでゆっくりしていくといいよ」

 

 

早足でそう言い、まぁ俺んちじゃないんだけどね、最後にそう付け加えたところで

ようやく二人はくすりと小さく微笑んだ。

 

 

「おっとその前に」

 

座っている魔女帽子の娘からそっと靴を脱がす。

気分はちょっとした王子様的な感じで。

目を白黒させていたが気にしない。うん、これはセクハラじゃない、幼女に欲情したりしない。

そして魔女帽子を被った少女の膝下と背中に手を出し持ち上げる。

いわゆるお姫様だっこというやつだ。

羽のように軽い・・・は言い過ぎだけれど、見た目よりも随分軽い。

太ももも肉付きがいいわけでなく、鍛えて細くなったというよりはあまり食べていないことを匂わせる。

 

 

「あぅ?」

 

「ひ、雛里ちゃんっ」

 

 

一人は現状を理解しきれず、もう一人は持ち上がってゆく友達を驚きの目で見つめること

しかできずフリーズしてしまう。

 

 

「怪我、バイキンが入ったらまずいから先に洗ってしまおうか。

ここは土足厳禁だからね、そっちの娘も靴脱いでからついておいで」

 

 

台所の裏口、井戸まで歩き出した俺の後ろをフリーズから立ち直った少女が

パタパタと音を立てて靴を脱ぎ、急いで追いかけてきた。

 

 

「ま、待ってください~」

 

 

ベレー帽が落ちないように手で抑え、顔を真っ赤にしている。

そして魔女帽の少女も防止で顔を隠し、借りてきた猫のようにおとなしく手の中に収まっていた。

 

 

 

治療の部分は割愛しよう。

特に語るべきことは・・・ない、と思う。

強いて言うなら傷を水で洗い流す際に水の冷たさと痛みに驚いて、転んでしまい

パンツ丸出しになってしまったくらいか。

あわわ、あわわと混乱し、涙目になった姿を見て可愛いなと感じてしまった俺は悪くないと思う。

 

丁寧にタオルで水気をとり、ポケットからピンク色の可愛らしい絆創膏を傷に貼り付ける。

本来ならば絆創膏よりもラップとかで保湿したほうがいいみたいだが流石にそんなものは持っていない。

試供品ともらった絆創膏で我慢してもらおう。一応新商品らしい。

 

念のため再度お姫様抱っこするとまたしても魔女帽で顔を隠された。

確かに恥ずかしいのはわかるけど、ここまで露骨に顔を隠されてはちょこっと傷つくなぁ。

 

もう片方がその様子を羨望のまなざしで見ていたことには気づかなかった。

 

 

 

 

囲炉裏のある部屋まで行き、そっと抱えていた少女を下ろす。

畳を見るのは初めてだろうか。

じっと見つめ、手で感触を確かめるように撫でる。

しかしそれも長くは続かなかったのか匂いの元である鍋に視線が向いていた。

 

「ん、これ使って」

 

それぞれに座布団を渡す。

二人は座布団を受け取ったものの、可愛らしく揃って首をかしげた。

 

「えと、これは?」

 

「座布団も知らないの?最近の子供はこれだから・・・」

 

俺も十分若いけどな、ついつい苦笑いとともにお決まりのセリフを吐く。

 

「はわわ、私子供じゃありません!」

 

「そうでしゅ、十分立派な大人です!」

 

ない胸を張るが説得力がまるでないよなぁ。

ランドセル背負っていたら十分アウトです。

って連れ込んだ俺もアウト?監獄送り?罪状は未成年者略取誘拐!?

冷や汗がでそうだ。緊急事態だから大丈夫だよな・・・?

 

「俺はロリコンじゃない!」

 

「ひゃぅ、び、びっくりした・・・」

 

「う、うん。驚いた・・・」

 

思わず叫んでしまった。不覚である。

 

「驚かしちゃって悪かったね。座布団はこうやって使えばいいよ」

 

俺が実演すると彼女たちもそれに習った。

ただしあぐらをかいた俺に対して二人は女の子座り。

きっとスカートを気にしたんだろう。残念。

 

 

「ご飯もいいけど、先に自己紹介といこうか。俺の名前は北郷一刀、学生だ」

 

「はわわ、私の名前は諸葛孔明でしゅ。水鏡女学園出身です」

 

「あわわ、ホウ統でし。同じく水鏡女学院出身です」

 

水鏡女学院?聞いたことないな。

フランチェスカと同じようにお嬢様学校なのかな。

 

「って諸葛亮にホウ統!?」

 

「はわわ」「あわわっ」

 

再度不覚をとってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食事を取りながらさりげなく話を聞き出す。

諸葛亮ちゃんもホウ統ちゃんもきっと気づいているんだろうけど

あえて指摘しない優しさに思わず笑みがこぼれる。

あと小動物のように食べる姿が愛くるしい。

 

すぐさまカラの器を差し出しおかわりを要求する彼女たちを見ると

本当に聞いたような生活をしていたことを実感させられる。

冗談のように思うだろう。

彼女たちが話したのはなんていったって三国志の世界の話なのだから。

といっても俺が知っている歴史の三国志とはかなり異なっている。

真名なんて風習は聞いたこともないし、そもそもこの二人が女の子だっていうことがまずおかしい訳だけど。

 

ここでさらに問題なのはどちらがやってきたのかということである。

賊から逃げているうちにここに来たと言っていたがそれは逃亡中に俺がいる世界に迷い込んだのか。

それともこの旅館がこの三国志の世界に飛ばされ、彼女たちがたまたまここに逃げ込んできたのか。

果たしてどちらなのだろうか。

答えは出ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえずしばらくここにいればいいと思うよ。追手も来ていないみたいだし」

 

食事も終わり、少しウトウトしている彼女たちにそう告げた。

お腹もいっぱいになり安心しだしたのだろう。

 

「はう、お願いしてもいいでしょうか?」

 

「いいよ。俺も一人じゃ寂しかったし」

 

「ありがとうございます」

 

二人は笑顔とともに頭を下げた。

 

「じゃ準備してくるよ。二人はここでゆっくりしてて」

 

そう言い残し、俺は布団の準備をするべく立ち上がりをあとにした。

俺が使っていた部屋の隣、流石に同じ部屋で寝るのはどうかなって思う。

押入れから真新しい布団を二枚敷く。

汚かったり埃っぽいと嫌だなと思っていたが運がいい。

というよりも至れり尽せり過ぎて少し不安だったり。

 

 

「準備できたよ。じゃ行こうか」

 

 

そう言ってホウ統さんをお姫様抱っこ。

さぁ魔女帽はないぞ?どういう反応をするのかな?

 

 

「あわわ、怪我はもうだ、だいじょうふでし」

 

ばたばたと手足を動かし抵抗するも、所詮は女子供であり抜け出すには至らない。

思わぎゅっと抱きしめたい衝動に駆られるが、お姫様抱っこで我慢しよう。

そんなに大差ないしね。

孔明ちゃんは俺の楽しそうな顔を見てため息をついていた。

 

と部屋を出たとき、甘い匂いに隠れて別の匂いを感じ取る。

この匂いは・・・たぶん・・・

直接言うと俺も恥ずかしいし向こうも顔を真っ赤にするだけじゃ済まないだろう。

というよりも俺変態扱いされるんではなかろうか。

さすがにそれは断固拒否したい。

なのでなるべく顔に出さないようにさりげなく伝えよう。

 

 

「そ、そ、そういえばお風呂あるんだけど、入らない?」

 

完全にどもった。

きっと引きつった笑を浮かべているだろうこと俺。

そしてこの言い方は別の意味でもアウトだった。

 

二人は湯沸かし器のように真っ赤になって煙を吹き出した。

果たして二人はどちらの意味で真っ赤になったんだろう。

 

 

「あ、いや、はわわ、お風呂は、嬉しいんですけど、ご一緒というのは、はわわ・・・」

 

「あうぅ」

 

「ああ、もちろんそういう意味じゃないから安心して。

純粋に、純粋に疲れをとって欲しいと思ったから言ったんだよ」

 

大事なことは2度言わなければ伝わらないんだと思う。

二人は無言で首をカクカクと縦に振り、釣られて俺も無言で脱衣所まで案内したのだった。

 

 

 

「あわわ、すごいね朱里ちゃん」

 

「はわわ、本当だね雛里ちゃん。こんなお風呂見たことないよ・・・」

 

決して出歯亀ではないことを告げておく。

俺がいるのは二人がいる風呂場ではなく脱衣所である。

頼まれたのだ、不安だからすぐ近くに居て欲しいと。

 

それは無理のないことだ。

つい先程まで彼女たちは賊に追いかけられ、助けもなく逃げ回っていたのだから。

俺も一応男なんだからとも思わないでもないが、それよりもここまで信頼してもらえるのが嬉しい。

 

というわけで邪な気持ちはなく、純粋な、そう妹を守るような気持ちでここにいるのである。

時折色っぽい声が聞こえるような気がしないでもないが幻聴である。

突入してしまうほど、サルではないのだよサルでは!

 

 

実際なんのイベントもなく彼女たちの入浴タイムは終了した。

期待した?残念でした。

この物語は基本全年齢対象なのです。

 

脱衣所で彼女たちに待ってもらって、俺も手早く入浴を済ませる。

すぐさま出てきた俺に彼女たちは

 

「男の人って早いんですね」

 

「北郷さんが特別早いのかなぁ」

 

と少し頬を染めていた。

女学園って言ってたしやっぱり男の上半身を見たことがないのかな?

あとその発言はなんとなく否定してもらいたい。

 

 

 

彼女たちを客間まで案内する。

いつの間にか暗くなり、電灯などの照明もないため手には懐中電灯を持っている。

彼女たちにはとても不思議がられたが、まぁ説明のしようもないためこういうものだと納得してもらった。

あまりこういった現代のものを見せびらかすのはやめておこう。

何が起きるかわからないため、いずれ何かしら対策を練っておかねば。

 

 

「あわわ、床に布団が敷いてありまし」

 

「はわわ、枕が柔らかいでしゅ。材質は一体何でできているんでしゅか?」

 

 

本日もう数え切れないほどの驚きとかみましたである。

そういえば三国志の時って陶器の枕とかだっけ。

すぐさま布団にダイブし、枕を抱えて頬ずりしている諸葛亮ちゃんを見て思わず涙がこぼれ落ちそうになる。

そして軍師なだけあって好奇心旺盛なのかすぐさま目を輝かせこちらに質問してくるところもなんとも可愛らしい。

 

「羽根だね。水鳥とかのを洗浄、消臭して中に敷き詰めているんだ。

畳の上に布団を敷くのは日本の伝統だね。俺たちはこの畳の上で死ぬのが本望なのさ」

 

 

それを聞き、二人は感心したように頷いた。

おそらく頭の中で色々と考えているのだろう。

微妙に間違ってる気がしないでもないが、まぁいいかなって思う。

俺もできれば畳の上で死にたいなぁ。もちろん老衰で。

ちなみに俺は自分のことを倭国の人間と言っておいた。

 

 

「面白いね、朱里ちゃん」

 

「そうだね、ためになるね雛里ちゃん」

 

息ピッタリの二人を見ると思わず姉妹ではないかと錯覚に陥ってしまう。

 

「そうやっているとまるで姉妹のようだね」

 

「そう、ですか?」

 

「私たちが姉妹だったら、きっと私がお姉さんだね」

 

「え、朱里ちゃんがお姉さん?」

 

「そうです、私のほうがお姉さんっぽいですから」

 

「でも朱里ちゃんって妹だよね?真里お姉さんがいるし・・・」

 

「はわわ、そういうなら優里ちゃんがいるいんだから私がお姉さんでも何も問題ないよ」

 

「あわわ・・」

 

「はわわ・・・」

 

 

 

 

諸葛亮には諸葛瑾という兄と諸葛均という弟がいたっけな。

真里と優里と行っていたからたぶん女の子なんだと思うけど。

と考えていたらいつの間にか二人は喧嘩になっていた。

最初はただの口論だったがようだが手が出て足が出て取っ組み合いにまで発展していた。

どっちも対して力があるように見えないし怪我することもないと思うけど。

それでも女の子二人が取っ組み合いの喧嘩している姿を見るのは少し刺激が強いもとい傍観している

べきではないだろう。

もう少しでスカートめくれそうとか思ってない。思ってないのだ。

二人の首根っこ掴んで強制的に分離させる。

 

「こら、せっかくお風呂はいってすっきりしたのに何やってるんだ」

 

「だって雛里ちゃんが・・・」「だって朱里ちゃんが・・・」

 

「言い訳しない。それでも軍師を目指してるの?もっと冷静になりなよ」

 

二人はしょぼんと顔を伏せたあと、お互い見合って何故かくすくすと笑いあった。

目と目で会話していたような気がするが一体なんだろう。

 

「北郷さん、まるでお兄さんみたいだね」

 

「そうだね。真里姉さんと優里ちゃんを加えて5人兄妹、かな」

 

なるほど、それを想像して笑っていたのか。

 

「そうだね、君たちみたいな妹がいたら楽しいかな?

頭が良すぎて、いつも言い負かされそうで怖いけど」

 

諸葛亮ちゃんとホウ統ちゃんがベレー帽と魔女帽なら

諸葛瑾と諸葛均は麦わら帽子とニット帽あたりかな?

その時代にあるの?というツッコミはなしで。

服装は彼女たちの着ているのが水鏡女学院の制服らしいのでベースに考えれば。

うん、とても可愛らしい四姉妹の出来上がり。

 

でも全員歴史に名を残すような才女なんだよね?

偉大な妹を持つと兄が苦労するんだよきっと。

 

 

「怖くなんてないですよ、兄さん?」

 

「・・・朱里ちゃん、意外と乗り気?」

 

「え、あ、はわわ・・・」

 

 

諸葛亮ちゃんの色っぽい流し目に少しくらっとなってしまう。

うぐ、本気でちょっといいかも・・・

そう思ってしまった俺に更なる追い討ちが。

 

「あの、ご迷惑かもしれませんが」

 

「できれば傍で一緒に寝てもらえませんか?」

 

一瞬でもエロいことを考えた自分の頭をスイカ割りの要領で叩き割ってやりたい。

二人の表情には先程までのおどけた感じは一切なく、その目には不安が色濃く出ていた。

 

「お願いします、兄さん」

 

ただ純粋に二人を安心させてやりたい、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女たちは幼くとも諸葛亮とホウ統であり、諸葛亮とホウ統であって幼い少女だった。

 

俺の姉妹発言からこの流れを読み、構築したのだろう。

ここまで言われれば彼女たちを拒絶することは俺にはできない。

そして兄としての気持ちが優先されるだろう。やましい気持ちなんてこれっぽっちも湧かなかった。

そう誘導したのだ、この二人が。

 

これだけの才がありながら幼さ故か人を頼らざる負えなかった。

彼女たちはどうしてもか弱いか弱い少女だった。

 

彼女たちは幼くとも諸葛亮とホウ統であり、諸葛亮とホウ統であって幼い少女なのだ。

 




ご主人様よりお兄さんと呼ばれたい


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

追われてて 朱里√

無理やりな感じがしないでもない


この大陸は現在、危機的状況に陥っている。

水鏡先生の下で学んだことによってそれがはっきりと解った。

力のない人々が苦しみ、死と隣り合わせの日々を過ごしている。

その状況が悲しくて、許せなくて、こんな私でも何か出来るんじゃないかって。

そう考えて水鏡塾を飛び出した。

雛里ちゃんはそんな私に賛同してくれて共についてきてくれた。

でも私たちに出来るのは考えることだけ。

誰かに庇護されなければ何も出来ない。

そんなことも気づかず飛び出した結果が今の状況だった。

 

 

私たちは特が高いという噂の劉備玄徳という人物がちょうど義勇兵を募集していると聞き、

その場所に向かっている途中。

女の子の二人旅。

格好の獲物だった。

 

 

油断したのか小細工などせず堂々と5人組の賊が現れ、はっきりと私たちを捕まえて売ると言い放った。

そして慌てて逃げ出す私たちを笑いながら追いかけてきた。

恐らく、獲物を追い詰めることに何かしらの喜びを感じているのだろう。

少しづつ迫ってくる笑い声に私たちは恐怖しか感じられなかった。

 

そして森の中へ入る。

運がよければ撒けるかもしれないと思った。

森というのは慣れたものでも進むことはこんなんを極める。

しかし体力的に逃げ切ることはできないし、障害物などをうまく使って逃げ切るという

賭けに出るほか私たちにはなかった。

 

服は解れ、細かい傷ができる。

雛里ちゃんは一度大きく転んでしまい、足に擦り傷を作った。

私を置いて逃げて、という親友の言葉を無視し、支えさらに奥へ進む。

すると突然道に出た。

獣道とは違う、完全に人が通るための道。

その先に一軒の見たことのない建物が建っていた。

 

肩で呼吸し、痛みに耐えている雛里ちゃんを見て決心した。

巻き込むかもしれない、でも助かるにはあそこの人に頼ることしか道はない。

これでもしあれが賊の住処ならば潔く諦めよう。

私が身体を差し出せば、雛里ちゃんだけでも助けてもらえるかもしれない。

そう希望にすがりつくように、建物を目指した。

 

 

 

耳障りだったあの笑い声はいつの間にか聞こえなくなっていた。

 

 

 

 

私の記憶を探っても、このような建物は見たことがない。

近づくにつれて明らかにこの国では見たことのない技術が使われているのがわかった。

 

未知なる建物。

 

それに好奇心を大いに刺激されつつも、今は不安の方が勝った。

もし貴族の家であれば、話すら聞いてもらえないかもしれない。

むしろ捕らわれ、同じような結果になる可能性も・・・。

しかし躊躇する暇などなかった。

建物の前に着くといきなり扉らしきものが開き男の人が出てきたのだ。

 

その男の人は見るからに先ほど私たちを追いかけていた賊とは違う。

感じたことのない空気を纏っていた。

彼を見て、感じて、何故かはわからないが確信した。

この人なら大丈夫だと。

 

私たちはその言葉を口にするべく、呼吸を整えることなく最後の力を振り絞り彼に向けて私たちは助けを求めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫、誰か来たって俺がやっつけてやるさ」

 

そういって彼は私たちの頭を撫で回した。

普段なら子供扱いされたことに怒り文句をぶつけていただろうが、今はその行為がとてもありがたかった。

荒っぽいけれども安心感があり、不思議と先程までの恐怖が和らいだ。

とまぁ感謝はしますけど、一応表情だけでも文句をぶつけておきます。

全然効果はありませんでしたが・・・

 

 

 

彼の小粋な冗談で和んでいたら、いつの間にか雛里ちゃんがお姫様抱っこで移動させられていました。

なんと羨まけしからんです。

何気ない動作から、あたり前のように雛里ちゃんは持ち上げられ、あまりにも自然すぎて私も

反応することができませんでした。完全に失態です。

ようやく思考停止から立ち直り、急いで二人を追いかけますが雛里ちゃんはお得意の帽子による顔隠しに

よってどのような顔をしているのかわかりません。

まぁ大体予想できるんですけど、きっと真っ赤にしているんです。

ちなみにこのままどこか変なところに連れて行かれるという心配は思いつきもしませんでした。

 

そして井戸につき、私たちの見たことのないような絡繰によって水が汲み上げられ、そのことについても

大変興味深かったのですが、雛里ちゃんが優しく介抱される姿を見て私なんか蚊帳の外でした。

 

水の冷たさに可愛らしく悲鳴を上げ、さらにはパンツまで見せてしまう、あざとい、あざといよ雛里ちゃん。

彼も慈愛の目で雛里ちゃんを見つめてるし、なんか悔しいんですけど私も怪我をしておくべきだったのでしょうか。

まぁそのあざとい行為も彼には不発だったみたいです。意識してやってるわけではないと思いますけど。

 

最後に傷に何か貼ってもらっていました。

傷に貼るには可愛らしいく、むしろ装飾品といってもいいかもしれません。

これならばそのままにしておくことや包帯を巻いたりするよりも見栄えもいいですし女の子にとっては嬉しいです。

もちろん怪我をしないことが1番なのでしょうけれど。

 

そして再度お姫様抱っこ。

雛里ちゃん、約得すぎやしませんか?

 

 

 

 

 

そのあと私たちは囲炉裏、と呼ばれるものがある部屋に行きました。

中に入ると床が緑に敷き詰められていました。畳というそうです。

ちなみに私たちは玄関にて靴を脱いでいます。

少し不思議な感覚ですが、嫌いではありません。

土足ではない分お掃除も楽ですし、案外これもいいものかもしれません。

 

と話が逸れましたが次に嗅いだことのない匂いが充満していました。

それは嫌なものではなく、嗅いだことのないにもかかわらず何故か食欲をそそられるものでした。

匂いの元を辿ると、部屋の中央に小さい焚き火をする場所がありました。これが囲炉裏というそうです。

そこには鍋が火によって熱されており、美味しそうな臭いを漂わせていました。

 

 

「ん、これ使って」

 

 

その言葉とともに薄い、正方形の布団のようなものを渡されました。

全然小さいので布団としては全然使えないと思いますけど。

 

 

「えと、これは?」

 

「座布団も知らないの?最近の子供はこれだから・・・」

 

とりあえず何に使うものかと尋ねると何故か馬鹿にされました。

屈辱です。

というかさっきから私に対して厳しいというか、態度おかしくありませんか?

 

雛里ちゃんが子供、という部分に反応して言い返していたので私は大人を強調するために

腰に手を当て胸を張りました。

水鏡先生は「もうあなたたちは立派な大人です。しっかりと胸を張って頑張りなさい」と仰ってくれました。

今こそ実戦するときです。*何故か勘違いしています

 

しかし彼は私たちをまた慈愛の目で見ていました。

・・・むしろ彼が子供だから私たちの色気に気づいていないんではないでしょうか。

そうだ、そうに違いない。

そう頭の中で論理を展開し、自分を正当化させようしていると彼がいきなり聞いたことのない単語を叫び

思わず雛里ちゃんと共に小さく飛び上がってしまいました。

 

 

彼はすぐさま叫んだことを謝り、座布団の使い方を伝授してくれました。

しかし彼の真似をすると、その、スカートの中身が見えてしまうのではないかと危惧し座り方を変えました。

これは狙ってやってるんでしょうか。

 

 

自己紹介のあと食事とともに様々なことをお話しました。

彼、北郷さんは私たちの名前を聞いて何故か驚き、目を丸くしていました。

そのあとの質問も私たちにとって常識と言えるようなことばかり聞きいてきました。

恐らく北郷さんは何かを確認するためだったように思います。

私たちはそのことに気づき、できる限りわかりやすく答えました。

まぁあの反応から北郷さんも気づいていたんだと思いますけど。

こういうやりとりをできるということはかなりのやり手なのだと思います。

水鏡女学園を出てから本当に世界はまだまだ知らないことだらけだな、と実感しました。

 

あ、食事ですか?

食べたことのない味でしたがとても美味しかったです。

普段お腹いっぱい食べれることなんてあまりありませんし、遠慮なく頂いてしまいました。

雛里ちゃんは遠慮がちに御代わりを差し出していましたが堂々を御代わりする私を見て

途中で吹っ切れたように遠慮することはなくなっていました。

次また食べれるかわかりませんし、相手の好意を無下にせず、むしろ譲歩させ、挙句吐き出させるのは

政略の基本ですよ?雛里ちゃんは軍略に秀でていますのでいいですが多少は覚えておいて損はないですよ?

 

 

 

 

食事後、お腹いっぱいになったことと安心感によって眠気が襲いかかり心は白旗を上げようとしていたとき

北郷さんからお風呂を提案してくれました。

 

これはとても幸運です。

逃げ回ることによって汗だくになり、泥だらけで正直気持ち悪かったのです。

初めは着替えるだけ、もしくは井戸の水をお借りしようと思っていましたがお風呂に入れるとは

本当に運がいいです。

ちなみにお風呂なんて一般には普及していませんし、入るのはそれこそ何ヶ月ぶりでしょうか。

ここは北郷さんに匂いを嗅がれ、服を脱いでいる今も落ち込んでいる雛里ちゃんにも感謝しておきます。

雛里ちゃんは犠牲になったのだ、ちやほやされた結果がこれよ。

 

 

そんなこんながあったけどお風呂は圧巻の一言だった。

施設の造りも見事ながら、なにより美しい。

ただ汗を流すことを考えてのものではなく、お風呂は楽しむものという発想は私にはなかった。

雛里ちゃんと共に丹念に体を洗う。

今も湧き出ているお湯を不思議に思いつつも、そのお湯を使い贅沢に体を綺麗にしていく。

なぜならその浴槽は、汚れた体で入ることにひどく躊躇いを覚えるものだった。

 

ようやくお互いに納得いくまで綺麗になり、浴槽に足を向けた。

少しづつ、恐る恐る浴槽に入る。

温度は少し熱い、でもそれが不快感を及ぼすものではない。

細やかな傷が少し痛むけど、徐々に、まるでお湯に溶け出すように痛みが引いてゆく。

 

「はう~~~」「あう~~~」

 

雛里ちゃんと共に無意識に声が出て、それが可笑しくて顔を見合わせ笑った。

 

「まるで現実じゃないみたいだね、朱里ちゃん」

 

「そうだね、雛里ちゃん」

 

命からがら逃げて、たどり着いたところでは今まで出会ったことのない不思議な男の人に助けられ、見たことのない

建物で食べてたことのないおいしい鍋をご馳走になった。

そして今は幻想的なお風呂で、安らぎと心地よさを感じている。

 

「北郷さん、いい人だね」

 

「雛里ちゃん、お姫様抱っこされて、嬉しかったのかな?」

 

暗に私はされてなくてちょっと悔しいということを伝えて、顔を真っ赤にして俯く雛里ちゃんを楽しむ私。

 

「なんか朱里ちゃん、意地悪?」

 

「そーんなことないよ、私だけ仲間はずれにされてて根に持ってなんかいないよ?」

 

「やっぱり朱里ちゃん、意地悪だよぅ」

 

さて、名残惜しいけど北郷さんも待ってることだし、そろそろでなくちゃね。

あとお風呂から出てからちょっとしたことあったけど、別に変な意味はなかったよ?

 

 

案内された寝台は、先程の囲炉裏があった部屋と似ていたもののそこには囲炉裏はなく変わりに畳に布団が敷いてあった。

枕は私はあまり好きではない陶器製ではなく、柔らかいもので、布団自体も全然私たちが使ってきたものと異なっていた。

枕に顔を埋めると、ほのかに太陽の匂いがした。

是非ともこれは欲しい。いずれ来る時のために作り方を教えてもらわねば。

抑えられない好奇心を北郷さんにぶつけた。

私の情熱に圧倒されたのか、北郷さんは懇切丁寧に答えてくれる。ほらそこ、情熱の無駄遣いとか言わない。

雛里ちゃんも真剣に聞いているのだ。

 

いろいろ喋っているうちに北郷さんは私たちを見て姉妹を言った。

確かに、真里姉さんや優里ちゃんよりも雛里ちゃんと一緒にいることのほうが長かった。

 

「そう、ですか?」

 

「私たちが姉妹だったら、きっと私がお姉さんだね」

 

「え、朱里ちゃんがお姉さん?」

 

「そうです、私のほうがお姉さんっぽいですから」

 

「でも朱里ちゃんって妹だよね?真里お姉さんがいるし・・・」

 

「はわわ、そういうなら優里ちゃんがいるいんだから私がお姉さんでも何も問題ないよ」

 

「あわわ・・」

 

「はわわ・・・」

 

私には一応雛里ちゃんを引っ張ってきたという自負がある。

だから私のほうがお姉ちゃんだって事は譲れない一線なのだ。

それに私のほうが大きいし・・・

 

そう言った瞬間雛里ちゃんが飛びかかってきた。

いつも消極的なのにこういう時だけ、と思わず悪態をつく。

お互い譲れないモノのためには武力も辞さない覚悟だった。

 

取っ組み合いを始めた私たちを見て慌てた様子で北郷さんが止めにはいった。

 

「こら、せっかくお風呂はいってすっきりしたのに何やってるんだ」

 

「だって雛里ちゃんが・・・」「だって朱里ちゃんが・・・」

 

「言い訳しない。それでも軍師を目指してるの?もっと冷静になりなよ」

 

 

その喋り方が、仕草が、何だか少し真里姉さんに似ている気がして。

雛里ちゃんもそう思ったのか、私と顔を見合わせて思わず笑ってしまう。

 

 

「北郷さん、まるでお兄さんみたいだね」

 

「そうだね。真里姉さんと優里ちゃんを加えて5人兄妹、かな」

 

「そうだね、君たちみたいな妹がいたら楽しいかな?頭が良すぎて、いつも言い負かされそうで怖いけど」

 

心外です。私はちゃんと兄さんを立てるいい妹です。

 

「怖くなんてないですよ、兄さん?」

 

「・・・朱里ちゃん、意外と乗り気?」

 

「え、あ、はわわ・・・」

 

恥ずかしい、私もまだまだだなぁ。

心の中でため息をつく。

雛里ちゃんと目を合わせると、こくりと頷いた。

さて、仕上げと行きます。

 

「あの、ご迷惑かもしれませんが」

 

「できれば傍で一緒に寝てもらえませんか?」

 

絶句している北郷さんに止めの一言を放つ。

適役はドジっちゃった私。

 

「お願いします、兄さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

ひかれた布団に雛里ちゃん、私、北郷さんの順に寝転がる。

男の人と一緒に寝るのなんて初めての体験だ。

胸がどきどきしてどうにも眠れそうにない。

 

北郷さんはちょっとはどきどきしてくれてるのかなと期待に胸を僅かにふくらませ顔を覗き見ると

既に眠っているのか瞼は閉じられ、規則正しい寝息が聞こえてくる。

 

うわぁ・・・男の人として何かおかしいよ。

もしかして女の子に興味、ないのかな?

むしろ男のほうが・・・

と違う意味で興奮し眠れなくなりそう、ってダメダメ何考えてるんでるんでしょう。

 

今度は雛里ちゃんを見るとこちらも安心した顔でぐっすりと眠りに入っていた。

意外と図太いんだよね、雛里ちゃん。

私を壁にしているとはいえ、すぐそばに男の人がいるのにぐっすりと眠れるんだから。

それとも北郷さんだから、なのかな?

咄嗟にお願いしちゃうくらい、信頼しているし。

出会った時にも感じた、ほかの人とは違う安心感。

近い表現をするなら・・・お父さんとか、お兄さんとか異性の家族って感じ。

 

 

そう考えて納得した。

だからこんなにそばにいても気にならないしむしろ安心するんだと。

 

 

今夜は水鏡女学園を出て以来、ぐっすり眠れそうでした。




うーん 苦い、もう一杯


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

受け取って

超スピード展開 だってしょうがないじゃん



最後に誰かと一緒に寝たのはいつだったのだろうか。

 

傍に誰かの気配がある。

傍に誰かの熱がある。

傍に誰かの鼓動が聞こえる。

 

それが妙に安心させる。

 

学園祭の準備で隠れて学園に泊まった時。

男友達ともみくちゃになって寝たんだっけな。

一つの目的に向かってみんなで集まって。

クラス一丸となって精一杯頑張って。

電池が切れたように眠りに落ちていって。

 

 

 

 

及川とゲームしてて寝落ちしたこともあったっけ。

あいつは買ってきた新作ゲーム片手に急に俺の部屋までやってきて勝手に始めだして。

たたき出そうと思ったけどあいつの顔が、

『どや?かずやんもやりたくなってきたんちゃう?』

そんなドヤ顔するものだから、ついつい乗ってしまって。

白熱してそのまま寝落ちしてしまった。

電源が点きっぱなしのゲームによだれを垂らして突っ伏した及川。

こんなグダグダした時間を友達と過ごすのが楽しかった。

 

 

 

一人で旅をしてきて、こんなにも人が恋しくなっていたんだ。

それともこんなよくわからないトコに来て、このまま一人で過ごさなければいけないかと不安になって

でもそんな時彼女たちが来てくれて。

 

彼女たちは助けてもらったと思ってるかもしれないけれど、俺も君たちに助けてもらったんだよ?

 

諸葛亮ちゃんの髪をそっと撫でる。

コンディショナーとかもないのにサラサラと手触りよくいつまでも触っていたいと思った。

ホウ統ちゃんのほっぺをつつく。

ぷにぷにと柔らかく、それでいて弾力がある。すぐに真っ赤になり顔を隠してしまう彼女のほっぺたを

触る機会なんてこんな時くらいしかきっとないだろうね。

 

 

諸葛亮とホウ統である彼女たちは遠くない時に帰ってしまうだろう。

史実通りなら彼女たちにはやるべきことがあるのだから。

 

そして貂蝉とやらの手紙に書いてあった”姫ノ湯をよろしく”という言葉。

つまりこれから彼女たちのようなお客さんがここに来るんだろう。

ここは旅館である。

だったら僅かなひと時でもしっかりともてなしてみよう。

 

それがきっと俺がここにいる理由。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女たちの体温を感じ・・・うん?何だか妙に暑い。

目を覚ますとうっすらと汗をかいていた。

今は夏だっけとつぶやき、すぐさまここは避暑地のように涼しいことを思い出した。

 

ではこの暑さの原因は何か?

正解はぬくもりを求めるように擦り寄っている彼女たちだった。

川の字のごとく三人で並び、右から俺、諸葛亮ちゃん、ホウ統ちゃんである。

諸葛亮ちゃんの小さな体はすっぽりと俺の胸の中に収まり、身体を丸めていた。

ホウ統ちゃんは丸まった諸葛亮ちゃんの服の一部をそっと両手でつかみつつ、身を寄せていた。

 

しかし及川とかがくっついて寝ていた時以上に暑く感じた。

まぁあいつの時は別種の暑さを感じてはいたのだが。

ではなんだろうか記憶を探ると、ふとその理由に気づく。

 

「ああなるほど、子供だからか」

 

「「子供じゃありません!!」」

 

子供は大人よりも体温が高く、また女性であることも加味されているのかもしれない。

小さい頃に親戚の従姉妹と一緒に昼寝をした際にその体温の暑さに思わず無理やり引っペはがしたんだっけ。

目を覚ました従姉妹がなんでこんなことするのと無言の視線が痛かった。

ちなみに動物は乗じて人間よりも体温が高い場合が多い。

 

 

「まったくもぅ、私たちは大人です」

 

「そうでしゅ、しちゅれいしちゃうでしゅ」

 

腕を組みぷりぷり怒る姿は完全に子供だった。

まごうことなき子供だった。

見ていて微笑ましいがこのままという訳にもいくまい。

さっさとごまかすために手を打っておこう。

 

「ま、とりあえずご飯にしよう。張り切って作っちゃうぞー」

 

わざとらしいくらいの棒読みを放ち、二人の頭を撫でまくる。

 

「はわ、や、やめてくださ・・・」

 

「あうぅ・・・」

 

次第に二人は目を回し、ぐったりと布団に突っ伏した。

かすかに唸り声を上げているが大丈夫だろう。

これ幸いと急ぎ部屋を脱出し、台所へ向かう。

 

「さーて材料何が残ってたっけな」

 

箱を開けると昨日の残りにプラスいくつかの食材が追加されていた。

もうその程度のことでは驚くに値しない。

 

「冬瓜とか食べ方わからんがな」

 

いくら食材があっても食べ方がわからないものはどうすればいいのやら。

試行錯誤するのはまた別の機会にしておこう。

食べれることはわかってるんだし、なんとかなるだろう。

 

「まずは水からだなー」

 

適当に朝食として使えそうな食材と米をたらいと鍋に放り込み裏口から出る。

冷えた朝の空気が気持ちいい。

ポンプをひと押し、冷たい水で顔を洗う。

氷水のような冷たさが、完全に意識を覚醒させた。

 

「あー、たまにはこんな生活も悪くはないなぁ」

 

顔を拭き、今度はたらいに水を張り、野菜類を浮かべる。

そして今度は鍋の方で米を研ぐ。水が冷たすぎて少し痛いがそこは我慢。

研ぎ終わったあとは鍋に水を張り、あとは火にかけるだけ。

さてお次は井戸水で冷えた野菜類。

丹念に泥を落とし鍋と共に台所へ。

 

かまどは初挑戦だが意外となんとかなるものだ。

もう一つ鍋を出し、適度に切った野菜を入れてゆく。

じゃがいも、人参、玉ねぎ、ごぼう、大根。

リズミカルな音が台所で鳴り響く。

そして適当に豚肉を放り込み、ちゃちゃっと味付け。

ホントはもっとちゃんとした作り方があるんだけど大変だから却下して。

そんなこんなで豚汁の完成である。

 

二人がようやく意識を取り戻したのか、それとも匂いに釣られたのか台所にやってきた。

 

「いい匂いですね」

 

「お、おはようございます」

 

「おう、おはよう。井戸の方で顔、洗っといで。そしたら朝食にしよう」

 

その言葉を聞いてかお腹が可愛らしく鳴いて、真っ赤な顔を隠しながら急ぎ裏口に向かう

二人を横目に炊き上がったご飯を見つけたおひつに入れる。

うむ、炊き上がりも完璧だ。俺って天才かも。

 

おひつと鍋を持ち、昨日使った囲炉裏がある部屋まで向かう。

二人が来る前に押入れからテーブルを出し準備を整える。

まったく、なんでもあるなぁここは。

とはいえ流石に食器は押し入れにないため、台所へ戻る。

いかにも老舗で使われていますと言わんばかりの食器類を見つけ人数分お盆に載せていく。

 

「お待たせしました」

 

「・・・ました」

 

「おう、行くぞ」

 

スッキリとさせた諸葛亮とホウ統と合流する。

ほんのりと顔が赤いのは先程のが未だに恥ずかしかったのか、それとも

井戸水があまりに冷たかったからか、果たしてどちらだろうか。

 

 

「ほれ、ちゃっちゃと座って」

 

部屋に着くなり座布団を指差し二人に命令をする。

こちらをちらちら見ながら恐る恐るそれぞれ座り込んだ。

 

鍋を開けると先程までかすかに漂っていた味噌の香りがより強く強調される。

お椀に色々な具材が入るよう調整しつつ、三つ分注ぐ。

次におひつを開けるとふわっと炊きたてのご飯の匂いが香り立つ。

茶碗によそい、さりげなく俺の分にだけおこげを混ぜる。

漬物とかもあればよかったのだが、あいにく付ける暇も道具もなかった、残念。

最後に二人の前にお茶を出す。

 

その姿、完全におかんである。

 

「準備完了。それじゃ食べようか」

 

「「はい」」

 

 

 

やはり食事はいいものである。

諸葛亮もホウ統もその小さい身体に似合わず、恥ずかしそうに御代わりを要求。

さりげなく茶碗に入っていたおこげを目ざとく見つけ、しっかりと要求。

豚汁は完全に視線がお肉に向いていたので嫌がらせに人参を多めに入れておいてやった。

見た目に反してたくましい少女たちである。

 

 

お腹が膨れて眠たくなったのか、二人は瞼をとろりとさせた。

そんな姿になごみつつきちんと注意してあげる。

 

「食べて寝ると牛になるよ?」

 

「はわわ、そ、それは困ります」

 

「あわわ、で、でも朱里ちゃん。牛さんみたいに、胸、大きくなるか、も?」

 

「な、なるほどでし、流石雛里ちゃん。兄さん、お布団の準備を」

 

その発想はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どっせーい」

 

「「きゃぁぁぁぁぁぁ」」

 

叫び声とともに将棋盤が宙を飛び、駒の雨が彼女たちに降り注いだ。

不肖北郷一刀、乱心である。

 

 

 

 

眠気覚ましに運動、というわけにもいかない訳でならばと押入れから囲碁と将棋盤を引っ張り出してきた。

ルールを説明するとあれよあれよ検討を始め、なんと一局目から敗北をきっしたのだった。

一を聞いて十を知る、を実際に目の当たりにするとは思わなかった。

流石、諸葛亮とホウ統である。

とわかってはいるものの、見た目幼女にしてやられて黙ってはいられなかったのだ。

知力で勝てなければ、腕力を持って勝てばいいのだよ。

 

 

「はわわ、兄さん、それは卑怯です」

 

「勝てばいいのだよ勝てば!」

 

「あわわ、少なくとも勝ちではないような・・・」

 

 

意表をついて二人に一矢報いて大満足です。

でも許して欲しい。兄と呼ばれるからには、多少なりとも威厳が欲しいのだ。

そんな俺を仕方ないなぁと哀れみの目でこっちを見てくる二人。

聡すぎるというのも考えものかもしれない。

 

壁掛け時計を見るともういい時間だ。

そろそろお昼を作る準備するために腰を上げた。

 

「どうしました?兄さん」

 

「そろそろいい時間だと思ってね。お昼を作ろうかと」

 

「あわわ、それならお手伝いします」

 

「いやいいよ、二人はお客さんなんだから」

 

そういって押し止めようとするものの、二人は強い目でこちらを睨みつけてきた。

 

「お客さんなんかじゃありません!」

 

「そうですよ、に、兄さん」

 

「朝だっていつの間にか起きて先に作っちゃってますし」

 

「あわわ・・・手伝わせて欲しいです」

 

うーむどうしよう。

いきなり誓を破りそうである。

旅館の代理主人としてお客様をしっかりともてなすと決めたばかりなのに。

しかし俺の頭にはエプロンを身につけた二人と一緒に台所で料理をする妄想が!

 

「駄目・・・ですか?」

 

俺の決意は上目遣いによって脆くも崩れ去ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄さん、上手ですね」

 

「うん、かっこいい・・・」

 

大根を綺麗に桂剥きにしていく俺の姿を見て二人はポツリとつぶやく。

箱にはぶりがあったのでメインをぶり大根にきめ、大根の下準備。

二人にはご飯の準備をしてもらっている。

ちなみにぶりは丸々一匹・・・ではなく切り身だった。

これはなんというか気が利いてはいるが、スーパーで買ってきたのか?!と問い詰めてやりたい。

あと豆腐があったので、こっちは楽に冷奴にするつもり。

これは水の張った桶に涼しげに浮かんでいた。昭和か!

 

ささっとぶりとだいこん、しょうが、水を鍋に入れ火にかける。

火の調節に苦戦しつつ、アクを掬っていく。

 

「どう?そっちの準備できた?」

 

ときどき悲鳴を上げながら作業する二人に声をかける。

 

「はい、お水が冷たくて苦戦しましたが無事準備できました」

 

「あとは火にかけるだけ・・・ちべたかったです・・・」

 

諸葛亮ちゃんは額に汗を滲ませ、ホウ統ちゃんの手は赤くなっていた。

彼女たちには井戸のポンプはなかなか重労働だったのだろう。

まぁ川まで水を組んでくることに比べればまだマシだろうが。

手が真っ赤なのは井戸水が冷たすぎたためか。

 

「きゃ」

 

諸葛亮ちゃんのために出した新しいタオルで額の汗を丹念に拭う。

時折唸り声を上げるが無視して拭いてやった。

 

「これでよし。首元とかは自分で拭いてね」

 

そういって諸葛亮ちゃんの頭にタオルを載せた。

次はホウ統ちゃんを見る。

彼女は先程の俺と諸葛亮ちゃんの様子を微笑ましそうに、そして羨ましそうに眺めていた。

そんな彼女の正面で膝をつき、両手を握る。

柔らかくも、予想通り冷たい手。

少しでも早く体温が戻るように優しくマッサージをする。

 

「あ、あうぅ・・・」

 

彼女はいつもどおり顔を真っ赤にしてうつむき、されるがままになっていた。

いやぁこれクセになるかも。

女の子の手の柔らかさに感動していると横から諸葛亮ちゃんが割り込み俺を押しのけた。

 

「いつまで雛里ちゃんの手を握っているんですか?」

 

笑っているのに怖かった。

彼女ほど才能があれば笑顔で人を恐怖のどん底に叩き落とすことも造作のないことなのだろうか。

 

「ほら、さっさと作りますよ」

 

「はーい」

 

渋々手を離し作業に戻る。

いつの間にか煮え立っていたぶり大根に調味料を適当に入れ落し蓋し中火に調整した。

やはり火加減が難しく、繊細な日本料理は作るのが大変かもしれない。

 

「よし、あとは待つだけだから二人は自由にしてていいよ。なんなら将棋でもやってながらまっててさ」

 

 

「いえ、できればいろいろお話聞かせて欲しいです」

 

「お話?」

 

「はい、ここには私たちが知らないことが一杯あります。知っている範囲でいいので教えてもらえないでしょうか?」

 

正直どうしよう。

彼女たちの真剣な眼差しを見れば、その本気さが伺える。

しかしここにあるものの多くは三国志の時代では未知の技術であり、教えてしまっても良いのだろうか。

未来が変わってしまう、タイムパラドックスだ!とかの危険性がある。

諸葛亮とホウ統が女の子の時点で歴史もなにもあったもんじゃないんだけどね!

 

というわけで知っている範囲でという形で穏便なものだけを教えていくことにしようと思う。

さすがにかまどの原理を教えてもご飯がおいしくなるだけで戦争に影響ないと思うしね。

というか美味しいご飯を食べて、関羽が呂布を討ち取った!とかはさすがにないだろうしな。

 

「じゃあ知ってることだけね。知らないことは勘弁して頂戴な」

 

「「はい、よろしくお願いします」」

 

しかしまぁこの二人の先生役が出来るなんて、とても光栄なことです。

 

 

 

 

 

 

 

 

寝て、食べて、勉強して、ゆっくりお風呂に浸かって疲れを癒す。

こんな生活を10日ほど続けるとついに彼女たちが切り出した。

 

「私たち、そろそろ行こうと思うんです」

 

「です・・・」

 

「そうか、寂しくなるね」

 

お別れの時だ。

彼女たちにはやりたいことが、やるべきことがあるのだからこの別れは必然だ。

そう初めからわかっていたことだ。

 

「それで北郷さん、一緒に行きませんか?」

 

「その、一緒に来てくれると、嬉しいです」

 

その言葉を聞いて驚いた。

勧誘されるとは、思わなかった。

その言葉に、酷く惹かれる。でも

 

「悪い、俺もやらなきゃならないことがあるから」

 

頼まれたしね、貂蝉に。

名前しか知らないけど、俺を信じてここを任せてくれた、と思う。

なら、ここをきちんと守ることが俺の仕事だ。

 

その否定の言葉を聞き、彼女たちの顔には落胆の色が見えたがすぐさま、仕方ないなといったものに変わる。

 

「そう言うと思ってました。兄さん頑固ですしね」

 

諸葛亮ちゃんがそういい、ホウ統ちゃんが帽子がおちんばかりに首を振る。

兄さん、と言う俺をからかったりすると気にだけの呼称。

それが聞けなくなるのは残念だ。

 

「まぁぶっちゃけ俺ここから出られないしね」

 

努めて明るくなるようにいうと二人も釣られて笑った。

そして二人はひとしきり笑い終えると姿勢を改め真剣な表情をした。

釣られて俺も背筋を伸ばし、先程まであった空気を霧散させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「北郷一刀さん、私たちはあなたに命を救われました」

 

 

俺も二人に孤独から救ってもらった。

 

 

「北郷一刀さん、私たちはあなたに美味しい食事と暖かい寝床をいただきました」

 

 

俺も二人に人のぬくもりをもらった。

 

 

「兄さん、私たちはあなたに安心を与えてくれました」

 

 

俺も二人がいたからこそ、ここで頑張る決意ができた。

 

 

「北郷先生、私たちはあなたに私たちの知らないことをたくさん教えてもらいました」

 

 

俺も二人からこの世界の知識、常識を教えてもらった。

 

 

「ですが私たちにはあなたに返せるものがありません」

 

 

とんでもない。俺こそたくさんたくさんいろいろなものをもらったよ。

 

 

「だから私たちはあるものを受け取ってもらいたいと思います」

 

 

 

 

「私は姓は諸葛、名を亮、字は孔明、真名を朱里といいます」

 

「私は姓は鳳、名を統、字は士元、真名を雛里といいます」

 

 

 

「「どうか、受け取ってください」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女たちは笑顔で旅立っていった。

困難な道だけど、彼女たちの目標が達成できるといいな。

 

さて次はどんな人が来るんだろう。

俺はいつ来てもいいよう、日課を開始した。




最初のポエムっぽいのがひどく恥ずかしい
でもこの程度で恥ずかしがってたらやってられっか!

朱里・雛里編終了 次は誰出そうかな


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

私を見て

書きたい、といってたわりにとても遅くなりました
今回のは賛否両論あると思います



私の最大の失敗は、袁紹の逆鱗に触れてしまったこと。

袁家という名の下で好き勝手してきたわがままなお嬢様。

周りは何もかも肯定し称賛し、頭を垂れるだけ、世界は自分中心に回っている、そんな状況がずっと続いていた者にとって1番許せなかったのは否定されることよりも無視されることのようだった。

優雅さがない、華麗さがないと政策を否定され、限界に達した私は袁本初を無視し無理やりゴリ押ししようとした。上手くやれる自信はあったし、結果さえ出ればそれで満足するだろう、そう考えていた故だった。

 

「きぃぃぃ!荀彧さん!よくもこの袁本初を無視してくださいましたわね!そうですわ、あなたも私と同じ目に遭いなさい!」

 

その行動が完全に裏目に出てしまう。まさか結果が出る前にこの馬鹿が気づくとは思わなかった。おそらく何処からか入れ知恵があったに違いなかった。

 

そしてとあるお触れが出る。

 

『今後、特例以外すべての人間が荀彧と接触してはならない』

 

正直馬鹿馬鹿しいと思った。そんな子供みたいなこと通用するはずがないと。

しかし予想に反し忠実に実行され、私はこの街で孤独となった。

 

誰も姿を見せない自宅、視線をそらすならばまだいい方で、露骨なものであれば強引に身体をぶつけ、そのまま笑い去るものすらいる。

こうした嫌がらせは日に日に増すばかり。

負けるものかと意気込んでいたが、精神は徐々にすり減ってゆく。

何より会話ができないことが1番厳しい。状況を打破するきっかけすら作ることができないからだ。

 

 

誰か、誰か!誰か!!!

 

 

そして狂いかけた。衛兵に話しかけても無視される状況では街から出ることすらかなわなかったため逃げ出すことも出来なかったのだ。

ぎりぎりのところで、顔良が手引きをしてくれたため脱出することができたが、結局私の誇りはズタズタに切り裂かれた。

ふらふらと浮浪者のような足並みで街を離れる。

 

とにかく誰でもいい。

私を見て!無視しないで!

 

残っていたのはそれだけだった。

そんな足取りで他の街にたどり着くなどできるはずもなく、私はへたれこむ。

 

そして声をかけられた。私の運命の人に。

 

 

 

 

 

 

 

膝を曲げ腰を下ろし、そっと肩を叩きうずくまっている少女に大丈夫、と声をかけた。

少女はびくっと身体を震わせたあと、恐る恐る顔を上げる。猫耳フードで見えなかったがウェーブのかかった綺麗な髪、整った可愛らしい顔、しかしその顔は呆然とこちらを見つめていた。

 

なぜ呆然とされるのだろうか?あまりの少女の様子に驚き、言葉が出ない。

 

お互い無言で見つめ合う。

 

そして少女は次第に目に涙を浮かべ、決壊すると同時に抱きついてきた。

勢いに押され体勢を崩し、尻餅をつくという失態を犯したが、何とか抱きとめることができた。少女は俺を押し倒したあとすがりつくように俺の胸に顔を押し付けた。細かく震え、震えに比例するように俺の服は強く握りしめられ、涙で濡れていく。俺はそんな背中をさすることしか俺はできなかった。

 

やがて落ち着いたのかそっと胸から顔を離し、上目遣いにこちらを見る姿は、不謹慎ながら可愛いと思ってしまった。整った顔、潤んだ瞳、顔は朱に染まり、そっとこちらを伺うような小動物のような仕草と上目遣いに思わずぎゅっと抱きしめたい衝動に駆られるがどうにか自重できた。

 

「落ち着いた?」

 

できるだけ優しく聞こえるよう、ゆっくり小さな声で尋ねた。少女はその言葉に口を開き何かを伝えようとするが、2、3度口をぱくぱくしたあと舌を向き力なく首を縦に振った。

とりあえずいつまでもこんな体勢をとっている訳にはいかない。話をするにしても一度戻った方がきっと良い。

肩を掴んで少女と身体を離す。一瞬傷ついた顔をしたが―――素直に服から手を離してくれた。そして立ち上がり、そっと少女に向けて手を差し出す。恐る恐る握られた手を支えに彼女はしっかりとした足取りで立ち上がった。

その様子を見て、怪我とかで座り込んで途方に暮れていた、というわけではないことを悟り一安心といったところだ。

 

「こんなところもなんだから、とりあえずうちに行こうか」

 

どう考えてもナンパです、本当に有難うございます。

時、場所によってはものすごい誤解されそうなセリフだが、この少女をここにおいて立ち去るという選択肢は俺にはできなかった。なぜなら先ほど差し出した手は立ち上がったあとも離されてはおらず、無意識なのかより強く握られていた。そして少女の瞳にははっきりと見て取れる怯え。

 

この少女を1人にしちゃいけない、そう強く思った。

 

「よし、じゃあ行こうか」

 

少女がコクリと頷くのを見て、努めて明るい声で俺はそっと手を引いて歩き出す。

少女の小さな歩幅に合わせながら。

 

 

 

十数分も歩いた所で無事に旅館に到着し、早速この少女を休ませお茶を出そうと思ったが一向に離れてくれる様子がない。

抱きつく、とか積極的な行動を起こしているわけではないのだが、服の一部をちょこん、と摘んでいたりと小さな意思表示を見せるのだ。その間ずっと無言を貫いているのでおそらく相当内気なのではないだろうか。

無理やり離そうにも、涙目の上目遣いにこちらが折れるしかなかった。

 

「とりあえず自己紹介からしようかな。俺の名前は北郷一刀、北郷が性で一刀が名だ。一応ここ、旅館に一時的に住まわせてもらってる」

 

加えて軽くここの説明も付け加えた。といってもあまりわかっていることなど多くはないのだが、それでも少女はこちらの言葉を聞き逃すまい、というようにしっかりと話しを聞いていてくれた。

 

「こんなところかな。それじゃ君の名前から、いいかな?」

 

すると少女は下を向いた。悔しそうな表情を浮かべながら。

 

「もしかして言いたくない?」

 

最初はそう考えた。こちらではどうかわからないが、現代では個人情報に敏感な人は多い。初めて合う人をいきなり信用することはなかなかできないものである。実は及川もおちゃらけているようでありながらそのへんはかなり慎重だったりする。昔それでひどい目に遭ったとか遭わなかったとか。そういう俺もちょっとした目に遭ってるためそれなりに慎重に行動しているつもりだが、まだまだ、らしい。

しかし少女は横に首を振る。どうやら別の事情らしい。

そこで俺はようやくある可能性に気づく。

もしかしたら言葉を発することができないのでは、と。

口をパクパクと動かす喋ろうとする動作。

その後の悔しそうな表情。

あれほど強い悲しみにあふれていたのに、一切聞こえなかった泣き声。

 

「ごめん。もしかして声が・・・」

 

彼女が見せた表情は、肯定だった。

そう、とつぶやき俺まで下を向いてしまうと、二人の間に重い空気が漂った。

 

どのくらい沈黙していただろうか。

いつの間にか袖を引っ張られていることに気づき顔を上げると、彼女が何か畳に指を走らせ始めた。しばらくしてようやく気づく。文字を書いているのだと。

 

「ちょっとまってて」

 

そう言って立ち上がり、隅に置いてあったカバンへと向かい、入れっぱなしにしてあったペンとメモ帳を取り出す。色は黒、メモ帳は1枚づつ千切れるようなタイプ。そして彼女のもとへ戻り、メモ紙に試し書きを行った。

彼女は紙の上に線が引かれていくのを驚いた様子で見ていた。旅館でも、料理でもそうだが未知のものに驚いてもらえるっていうのはちょっと楽しい。

朱里ちゃんや雛里ちゃんなんかはいちいちリアクションが素晴らしい。はわわ、あわわといいながら目を回す姿はそれだけでお金が取れそうなくらい愛くるしかった。

 

「これで字がかけるから使ってみて」

 

そして目を丸くして驚いている彼女に向けてペンを差し出した。

震えた手でゆっくりとペンを握り、まじまじと覗き見る。そしてぎこちないながらも線を引き、次第に夢中になって色々書きまくり始めた。予想通りのリアクション、本当に有難うございます。まるで子供が新しいおもちゃを買ってもらえた時のような、新鮮な驚きと楽しさの入り混じった表情は、ここに来てから初めて見ることができた笑顔だった。

 

ひと通り楽しんだのか、ぴたっとペンが止まり、伺うようにこちらを見る。頷くと文字を書き始めた。使い出したのはつい先程なのにもかかわらず俺よりも上手く、流れるように文字を書いていく。

そして書き終わったのかペンを置き、こちらに紙を差し出した。

 

「・・・ごめん」

 

それを見て俺は彼女に頭を下げざる負えなかった。

何故ならば、俺は文字を読み取ることができなかったから。書かれた文字はどう見ても日本語ではない、彼女の国の言葉。ぶっちゃけどうすることもできなかった。

 

「俺、字、読めないんだ」

 

そういった瞬間、彼女の表情に落胆が見て取れた。それもそのはずだろう、筆談、という手段が取れるかとおもいきや一方が読めないのでは全くの無用の長物だ。がっかりするのも当然だろう。

 

 

「日本語だったら良かったんだけどなぁ」

 

思わずつぶやいた言葉に、彼女が首を傾げた。それもそのはず、この時代に日本という単語は存在しないのだから。

 

「俺の国の言葉なんだ。具体的にはね・・・」

 

なんとなく、興味がありそうだったので、ひらがなを説明していく。

理由はよくわからないが幸いにも言葉は日本語で通じるのだ。紙にひらがなを書き、一つ一つ指さしながら発音していく。熱心に紙を見ている姿は、昔短い間だけれど勉強を教えていた近所の子にダブって見えた。

 

この時俺はちょこっとでも興味が湧いてくれると嬉しいな、と軽い気持ちで考えていただけで、まさか彼女の能力をまざまざと見せつけられる結果になるとは思いもよらなかったのである。

 

ぐ~という音は何処からなったのだろうか。

目の前には真っ赤な顔してこちらを覗き見る少女が1人。

答えは明白であった。

疲れているだろうからできるまで待っててと言って席をたち、台所に向かったのだが、後ろについてきた彼女は、料理をしている間も俺の側を片時も離れなかった。

さすがに刃物を持っている時は危ないとわかっているのか服の裾を掴んでいたりなどはしていなかったが、じっとこちらを見つめておりとてもやりづらい。視線の耐性ならそれなりにあると自負していたが、ここ最近の自由な生活でろくに機能しなくなってしまったようだ。しかたがないので料理を解説しながら作るという荒業に出ることにした。

作る料理はハンバーグ。これが嫌いな人なんてほとんどいない鉄板メニュー。

材料の紹介、独特のこね方、微妙な焼き加減、解説できそうなところは冗談話も交えてどんどん喋っていく。相槌がないのはちょっと寂しいが、テレビの出演者とかはこんなかんじでテレビの前の君へ語りかけているのだろうか、とちょっと同情してみたり。

時間にして45分、夕飯メニューの完成だった。

 

箸で割ると中から湯気と肉汁が溢れ出す。口に含むと肉本来の旨さに加え、ソースのこってりとした味が肉汁と混ざり、旨味は増すばかり。もう一口、もう一口と止まることを知らず、次々と口の中へと消えてゆく。

そして僅か5分、見事にお皿は空になった。

そりゃろくに会話もせすせっせと箸を動かしていたのだから仕方がない。よほどお腹が減っていたのか、食の細そうな小さい体ながら、俺と同じくらいの量を平らげた。

作り手からしてみれば、これ程嬉しいことはない。

食事を終えた彼女は何やらメモ帳に書いている。そういえば渡したままだったが、よほど気に入ってたのだろうか。

そして差し出された一枚の紙。

『ごちそうさま』

ひらがなで書かれたその文字を見て、俺は絶句してしまった。

マジか?!頭よすぎだろう。

朱里ちゃんや雛里ちゃんも頭の良さ、回転の速さが半端無かったが彼女の記憶力も相当なものだ。初めて見たと思われるひらがなを僅かの間に使いこなしているのだから。

しかし次に書かれた言葉に納得し、驚く。

 

『わたしのなまえはじゅんゆう まなをけいふぁ けいふぁとよんで』

 

次に渡された紙にはそう書かれていた。

 

 

 

 

いつから声が出ていなかったのだろうか。

無視されるのならば、声なんて出ても出ていなくても変わらない。故に声がでなくなってしまったんだと思う。

私がはっきりと認識したのは顔良に街から連れだされた時だった。

私の腕を引っ張っていく顔良に、痛いと何度も何度も言った。武将である彼女の握力は文官である私とはは桁違いといってもいい。故に加減されていなかった。しかし顔良は無視し続けた。さすがに限界が来て足が止まると、こちらに気づいた顔良は私の真っ赤になった手を見てごめんなさい、と謝った。そこで気づく。

私を無視していたのではなく、声が出ていないのではないか、と。

一度認識してしまうと、はっきりと出ていないのが分かる。なぜ私は気づかなかったのだろうかと涙が出てしまった。

もしかしたら顔良は以前から知っていたかもしれない。だからこうして逃がしてくれたのだろうか、私を哀れに思って。

 

悔しかった。

私をギリギリのところで繋ぎ止めてくれた人に名前を告げることすらできないことに。

私に声を掛けてきたのは以前ならば声を掛けられただけでも嫌悪感を顕にするだろう男だった。しかし柔らかい声と優しげな瞳、何より人とのふれあいに飢えていた私は嫌悪感をも気にする余裕などなく、彼にしがみつき、わんわんと声を上げて泣いた。実際には声は出てはいなかったが。

ようやく落ち着いた今では直接触れることに少し躊躇いがあるものの、それは他の男達に感じていた汚らわしいといったものではなく、嫌がられたら、うざがられたらどうしようというものだった。

そんな心境の変化に驚きつつ、彼との会話、否、一方的に喋ってもらうことによる意思疎通を進めていく上で自己紹介になった。そこで私は『荀彧』という名前を告げられなかった。もし袁紹の命令がここにもきていたとしたら、また孤独になってしまう。それだけは避けたい、もう一人は嫌だった。

私の悔しそうな表情を見てか、彼は喋れないから告げられないと勘違いしているようだった。正直心苦しさはあったがほんの少しだけ安堵してしまった。しかし意思疎通ができないのは不便だ。書くものさえあれば、となんとなく指で文字をなぞる。

そしたらなんと彼は待っててといい立ち上がり、戻ると不思議なものを私に渡してきた。それは筆と違い、そのまま文字がかけ、竹簡や普段使っていた紙とは明らかに違うものだった。

安堵したのもつかの間、伝える手段を得てしまい、考えた末に姪の名である『荀攸』をと偽名を名乗ることにした。結局彼は字が読めず伝わらなかったが、こんなすごいものを持っているのに字が読めないとはと、あまりのちぐはぐさと意思疎通の機会を逃したことにため息をついてしまった。まあその後直ぐに私の字が読めない理由を知ったのだが。

 

そして久々の人との会話や食事に暖かさ、心地よさを思い出した。この気持を思い出させてくれた彼には名前で呼んでほしい、そう想い先ほど教わったひらがなを用いて彼に紙を渡す。荀彧の名前は出せないから、先ほど書いた偽名である荀攸と私の大切な真名を添えて。

彼には桂花と呼んで欲しいから。




ここまで読んでいただきありがとうございます

とりあえず一言
ごめんなさい桂花 ひどい目に合わせてしまって

もちろん嫌いなわけがありません 大好きです
しかし出そうにもなかなかいい出し方が思い浮かばず、こんな形となってしまいました
桂花好きーには不快感を与えてしまったかもしれません 本当に申し訳ありません
一応このあと徐々にらしさとデレを出していってくれるはずなのでご容赦を

あと麗羽さん なんかものすごい悪役ですがここまでの目に合わせようとするつもりはなかったはず
周りの家臣団が色々と吹き込んだ結果です 桂花は恐らくやっかみも多かったでしょうし

もうしばらく続きますので この挿入話ももうしばらくお付き合いお願いします



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

打ちひしがれて

遅くなった理由を言い訳した時点で負けだと思う。

楽しみにしている方がいらっしゃれば、本当にすみません


華陀。

五斗米道の歴史上でも比類なき才能を有し、若くして五斗米道(ゴットヴェイドォー)の継承者に最も近いものと目されてる。しかし若さ故に精神面が未熟であり、五斗米道を率いるには足りないものも多いと指摘され、現在、病の人を救うため、そして継承者としての修行といった理由によって各地を放浪している。

彼はもう助からないと絶望していた者、医者に匙を投げられた者、数えきれないほどの人々を救い、多くの人々は彼をこう讃えた。

 

『医者王』と。

 

この医者王と称される青年は現在。

 

自らの無力さに打ちひしがれていた。

 

 

華陀は全速力で森の中を駆けまわった。

発端は1人の少女を拾ったところから始まる。

ちょうど舌が乾き、水を求めて川へ近づいたところ、河原に1人の少女が倒れているところを発見した。息も荒く、顔を赤く染め、背中には大きな切り傷、一目見て危険な状態だと悟り急ぎ治療を開始した。

鍼により体内にいた病魔は消え去り、背中の傷は縫合、失った血液と体力の回復を促進させる鍼をうち、ひとまずの危機は過ぎ去ったかに思われた。

突如として大雨が振り出さなければ。

 

いかにゴットヴェイドォーが優れていようとも、対処の仕様がない。病魔を消し去ることはできようとも、気で身体を活性化させようにも、弱った身体はすぐ様動けるようにはならない。ゆっくりとした休息に加え、十分な栄養が必要なのである。

 

次々と降る雨が少女の体温を奪い取る。あまりのタイミングの悪さにしばし呆然としたが彼はすぐさま行動を開始した。

そっと少女を背におぶると急ぎかけ出す。河原には雨風を防ぐ場所などなかったからだ。

彼はすぐさま森の中へと駆け込んだ。けれども雨は彼の行動をあざ笑うかのようにより強く、激しく降り注ぐ。ぬかるんだ悪路を走っているにもかかわらず軸があまり振れない姿は、彼が医療だけでなく身体的にもかなり鍛えていることが伺えた。

 

しかしいかに彼が懸命に走ろうとも、背中の少女はその生命をじりじりと失っていく。少しでも雨風を防げるように、と自らの服を少女に着させることも考えたが、袖のない、布面積の少ない服を掛けてどうするというのか。自らのポリシーを貫いた結果がこれとはひどく笑えない。

 

少しでも早く少女を休めることが出来る場所へ、せめて自分のできることをするために彼は必死に走り続けた。

 

 

 

 

「ん・・」

 

豪雨、と言っても差し支えないほどの雨が降りしきる。ここに来て初めての雨がこれとはさすがに少し憂鬱だった。幸い、ここは造りもしっかりしているし、手入れも行き届いているのか特に雨漏りの心配もしなくて済んだ。

 

「んにぃ・・・・・」

 

ランニングもこの雨の中を走ろうと思えないし、洗濯は乾かない。朝食は食べたばかりで今から昼食の準備をする気にもなれず、急ぎ掃除をしなければならないほど汚れてはいない。

だから俺の太ももを枕にして寝ている桂花を起こす理由なんてなかったのだった。

 

筆談、という手段を得て、彼女は俺と喋りまくった。

彼女の生い立ち、好きなもの、どうでもいいこと。ここに来た経緯含めて、これまでの鬱憤を晴らすかのように文字を書き続けた。

その内容にも驚いたが、だんだんと綺麗に、わかりやすくなる彼女のひらがなを見て、自分との頭の出来の違いにショックを受けていたのは内緒だ。

そしてようやく満足し話し終え、解散と思ったところ問題が起きた。彼女は、食事、トイレ、挙句お風呂にすら共についてこようとしたのだ。そして拒絶しようとすると涙目である。折れてしまうのは致し方無いだろう。そして案の定、寝る際にも同じ布団で寝ることになったわけである。お風呂の時と同様に、定位置はここだと言わんばかりに横になった俺の腕の中に潜り込み、唖然としている俺をよそに寝息を立て始めたのだった。

 

ちょっと懐かれた、というレベルではない、恐ろしいまでの依存度である。そんな桂花の行動にある種の危険を感じていたのだった。

 

そしてその危険はすぐに顔を出す。朝、朝食の準備をしていると台所に慌てて駆け込んできた彼女は、そのまま俺に飛びついてきた。包丁を握っていたためとっさに両手を上げた為、その勢いを受け止めきれず倒れこむ。そして彼女はそのまま俺の胸に顔を埋めて泣いていた。

前日の様子から多少危惧してはいたが、実際にその様子を見て驚いた。ほんの少し、俺がいなかっただけでここまで狼狽してしまうとは。俺にできたことは、空いた手で、そっと頭を撫でることしかできなかった。

そんな彼女は今、幼子のように安心した表情で身を任せ、時折もぞもぞと動き、掛けられていた毛布をずらしている。

そんな桂花の髪を撫でる。柔らかい感覚とふわりと甘い香りが沸き立った。見ていてこちらも幸せになるようないい顔だが、そろそろいい加減ちょっと足がしびれて辛いところである。髪をなでたり、ほっぺたをぷにぷにしたり、じっくりと寝顔を眺めるなど、さすがに飽きてきた。

 

「この眠り姫様はどうしたらいいのかねぇ」

 

もう一度桂花に目を向けると首から下げたれた鈴とホイッスルが目に留まる。これは声が出ない桂花の為に俺がプレゼントしたものだ。

動くたびに綺麗な音をたてる鈴は、ここにいるよ、と自己主張を行う。競技用であるホイッスルは、思い切り吹けば旅館全体に音が響き渡るようなシロモノである。

どちらも声を出せない、呼びかけることのできない桂花に対して必要になると思った者だ。

桂花は歩行すると共に鳴る鈴に顔をしかめ、やれやれといったジェスチャーを行い目を伏せる。しかしそんな態度とは裏腹に、何度も何度も確認するようにわざと鳴らしていたのを俺はしっかりと目撃していたわけだが。

ホイッスルは、試しに吹いてあげた際、あまりの大音量に目を丸くして驚いてくれ、「吹いてみて」と手渡した時の顔を真赤にして吹くか、吹かないか惑う姿はとても眼福であった。恐る恐る口をつけて弱々しく吹く様もポイントが高い。

いずれにせよ、今つけているということはそれなりに気に入ってくれた、と信じたい。

あと基本的に「ちゃん」「さん」付けで人の名前を呼ぶ俺だが、桂花の強い希望により呼び捨てという形に収まった。涙目卑怯なり。

 

雨音をBGMに穏やかな午前を過ごす。実に贅沢な時間の使い方である。

しかしその穏やかな午前も突如として響き渡る暑苦しい叫び声によって強制終了させられる事となる。

 

「うおおおおお!誰か!いないのかぁぁぁぁ!」

 

その叫びに文字通り飛び起きた桂花は慌てて周りを見渡したあと、動じていない俺を見て落ち着きを取り戻した。暑苦しい叫び声なんて俺としては日常茶飯事だったため、今更動揺することなんてありえない。じじいの叫び声のほうがよっぽどうざい。

 

痺れかけた足に活を入れ立ち上がると、桂花も倣って立ち上がる。

 

「ちょっと見てくるよ。桂花はどうする?」

 

返事はわかりきっていたが一応聞いておく。というか聞いておかないとこの娘はへこむのだ。それはそれで可愛らしいのだが、罪悪感の方が勝った結果、些細な事でも確認をとるようにしている。

桂花はトレードマークになりつつあるネコ耳フードを被ると、そっと俺の服を摘んだ。

うおおおお、と玄関の方が騒がしいことになっていて、厄介なことになりそうな予感がぷんぷんするが、もうどうしようもない。

小動物のように可愛らしい桂花に僅かながら元気をもらい、渋々ながら玄関先へ向かったのだったが・・・

 

「すまん、俺は華陀という者だ。どうかこのとおりだ。この娘を休ませてくれ!」

 

いきなりまくし立てられ、俺と後ろの桂花は少し引いていたが、華陀という男の背中にいたぐったりとした少女を見て、事の深刻さを認識する。

冗談抜きでやばい。

 

「ほら、その娘をよこせ。桂花、悪いけどこの男に拭くものを頼む」

 

「すまない」

 

少女を抱っこしてその身体の冷たさに驚く。

全身は川に飛び込んだようにずぶ濡れになっていた。

すぐさま囲炉裏のある部屋に飛び込んだ俺は一度そっと彼女を座布団に寝かせ、慌てて拭くものを持ってきてくれた桂花にお礼を言いつつ服を脱がしていく。

雨で濡れた服はその華奢な身体に纏わりつき、また水分を吸って肌に張り付き、ずっしりと重かったが、幸いにも軽装だった為に難なく脱がすことができた。

その横では桂花が囲炉裏に火をくべ、部屋を暖めていく。そこでタオルを頭に被った華陀が追いついた。

 

「すまん、遅くなった」

 

「おう、お前も服を脱いで暖まっとけ」

 

「いや、俺も手伝う。部屋を暖めればいいんだな。任せておけ。うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」

 

「うるせぇぇぇ!!」「ピイイイイイイ!」

 

突然叫びだした男に向かって濡れて重くなったタオルが跳ぶ。

べちゃ、という音とともに顔面にタオルが当たった男は、下を向いて体操座りで静かになった。

 

桂花という頼りになる助手のお陰で僅かな時間でひと安心できるところまでいくことができた。言わなくても次にやりたいことの準備をしていてくれる、阿吽の呼吸とはこういう感じなのだろうか。まぁ桂花が合わせてくれただけ、というのもないとも言えないが。そんな桂花がいつの間にか用意していてくれていたお茶を3人ですすりながらホット一息をつく。

華陀が連れてきた少女も桂花と俺によって全身丁寧に拭かれ、布団の中で規則正しい寝息を立てている。冷えきっていた身体も少し赤みがさす程度まで暖められていた。

身体を拭いている時に見た少女の身体は無数の傷が刻まれていた。中でも背中に大きく刻まれたものは死んでいてもおかしくないと思わせるものだった。が、綺麗に縫合され、あまり目立たなくなっていた。

彼の言葉が真実ならば、ではあるが華陀と名乗っていても遜色のない見事な技術であった。

 

「君たちのおかげで助かった。俺にできることがあればなんでも言ってくれ!」

 

穏やかな雰囲気の中、華陀が頭を下げた。その姿は嫌味なものなどなく、真っ直ぐなとても気持ちのよいものだった。ちょっとウザイが。

 

「そういえば自己紹介がまだだったな。俺は北郷一刀。こっちの娘は荀攸。その、彼女はあんたの連れなのか?」

 

すうすうと寝息を立てている少女を見る。

友人か、もしくは恋人か。似ていないので兄妹ということはないと思う。

 

「いいや、俺もたまたま見つけたんだ。まったく、ひどい状態だったぞ。さすがにゴットヴェイドォーの力を持ってしても死者を蘇らせることはできないからな」

 

「いやいやいや」

 

そんなことできたら既に医術ではなくネクロマンサーの所業だ。しかし死ぬ一歩手前ならば何とか出来るのか、ゴットヴェイドォー?

発音がなんか変だけどたぶん五斗米道だよな?それに本来の五斗米道ってそんなんだったっけ?

まぁこの程度のことで悩むようなことではない。そう、この世界では常識に囚われてはいけないのだ。

 

「そうだ、華佗さんに頼みがあるんだ」

 

「華佗と呼び捨てでかまわない。それで頼みとは?」

 

「なら俺も一刀で。華佗って医者だよな?できれば桂花、荀攸のことを診て貰いたいんだ」

 

俺の背後に控えていた桂花を見る。先程までのてきぱきとした動きとは裏腹に、華佗を警戒しているような素振りを見せる。何故に?

 

「ああそれは構わないが・・・何故俺は警戒されているんだ?」

 

「いや、まぁ、色々と事情があるんじゃないかな?」

 

「何故お前が疑問形なんだ・・・」

 

華佗がやれやれと溜息をつく。わからないものはわからないんだからしょうがないじゃないか。

すっと桂花のほうから一枚の紙が差し出される。

 

『おとこきらい』

 

「まじで」

 

な、なんということでしょうか。衝撃の事実発覚である。

俺も一応男なのだが。もしや男としてカウントされていない?!もしや出会って速攻お兄ちゃんとかお父さんポジションに定着してたとか?!

 

『かずとはすき』

 

「えと、ありがとう?」

 

続いて出された二枚目。やばい、なんかすごい照れる。

桂花もフードを被り下を向いている。わずかに見える頬が赤いことから書いた本人も相当恥ずかしかったのだろうか。あーくそ、可愛いなぁ。

 

「ふむ、治したいのは男嫌いか?だとするとどうしたものか・・・」

 

そんな初々しいカップルのような二人をよそに、マイペースに華佗が考えこむ。

 

「違う違う、彼女声が出ないんだ」

 

いずれそこも治さなければならない気がするが、それよりもこっちのほうが深刻だ。

昔は普通に話せていた、ということは怪我か、病気か、はたまた精神的なものか。

 

「ほら桂花」

 

桂花を抱きしめる。されるがままに腕の中に収まった。

 

「とりあえず診てもらうだけ診てもらおう。意外と簡単に治るかもしれないし」

 

「ああ、ゴットヴェイドォーに治せない病など存在しない!」

 

不安そうに見上げる桂花に向けて、少しでも気持ちが楽になるように言葉を紡ぐ。華佗も自信を持って断言してくれる。なおも揺れる瞳に対し、俺の本音も積み重ねた。

 

「俺、桂花の声聴きたい。俺の名前を、呼んで欲しいよ」

 

桂花の不安そうだった瞳が、頷きとともに閉じられた。

 

 

 

 

 

 

「--------!!!」

 

「えっと桂花、もうやめようよ?」

 

ブンブン。

 

「いや、でもその、ね?」

 

うるうる。

 

「いや、そこで顔真っ赤にして上目遣いとか卑怯だから!てかなんでそんな期待を持った目でこっちみてるの?!」

 

「あー、お邪魔だったか?」

 

「あ、華佗ちょうどいい所に。って逃げんなマジで違うから!」

 

 

 

 

「すまないな、看病を任せてしまって」

 

「もうそっちはいいのか?」

 

「ああ、少し疲れていただけだからな」

 

あの後、食事をとった華佗は眠りについた。

華佗によれば、ゴットヴェイドォーは気を用いることによって病魔を退治する秘術らしい。ぶっちゃけわけがわからない。

華佗もあの娘を助けるためにかなり無茶をしていたようだ。気を消耗しすぎたらしく桂花の診察を後回しにするほど疲れていたにもかかわらず、「彼女は俺の患者だ、最後まで看病するのは俺の義務だ!」と暑苦しく語り出したので、少々乱暴に黙らせた。病人の前でたびだび騒がしくなるのは本当に医者としてどうかと思う。離れでもあればそこでゆっくりと休ませてやりたいのだが、ない物ねだりしても仕方がない。

俺からの暴力と桂花からの冷たい視線により渋々看病を交代し休むことを宣言した華佗は、尋常じゃない量の食事をとった後、深い眠りについていた。そこら辺はしっかりと割りきれるらしい。

その様子を見届けた後、俺と桂花は将棋を打ちながら看病を行なっていた。スヤスヤと眠る女の子の寝顔を見るのは忍びないが、あれほどの怪我を負っていたのだ、いつ容態が急変してもいいように誰かが見て置かなければいけない。

じゃあ遊んでるなよ、といわれるかもしれないがぶっちゃけ暇なんだもん。

朱里ちゃんと雛里ちゃんと違い、一局目から敗北を喫するということはなかったが、明らかに手を抜かれていたのが解ってしまった。なんというか、打たされている感が拭えないのだ。なぜについさっきルールを知ったばかりの俺よりも幼い娘に接待プレイをされているのだろう、まだ全力で叩き潰されたほうがいっそ清々しかったのに。

 

『さすがかずと』

 

時折褒めるようなメモを見せてくる桂花についイラッとしてしまい、「桂花も疲れただろう?」と口八丁で丸め込み、疲れが取れるからとマッサージを敢行。

ちょっとした罰ゲーム感覚でちょっと痛いツボを押していたのだが。始めは痛みに身を捩り、逃げ出そうと身体を動かしていたんだが、しばらくするとおとなしくなっていき、だんだんと桂花の呼吸が荒くなり、顔を真赤にし始めた。そこでやめておけばいいものを、俺はてっきり痛みに慣れ、血行が良くなってきて来たんだと勘違い。実際は恐ろしいものを目覚めさせてしまったと知ったのはいい加減疲れてきて、終わりを宣言したところであった。

つい先程までうつむき見えなかった顔が上げられ、俺の目に飛び込んできた表情は、まさかの女の顔だった。

華佗がタイミングよく割ってはいってくれなかったら今頃どうなっていたことか。

まぁ勿論俺から手出しをするようなことなんてないのであしからず。

 

そんな桂花はこちらをジト目で睨みつけている最中である。

 

「いやしかしいつの間に移動したんだ?しばらく探しまわってしまったぞ?」

 

そんな微妙な空気も気にせず華佗が妙なことを言い出した。

 

「は?どういうことだ?」

 

「どうもこうも、いつの間にか離れの方に移動していたんだ。病人を動かすのはあまり感心しないぞ」

 

俺と桂花は思わず顔を見合わせた。かわいい。

桂花は廊下へ、俺は外への障子を開けるとつい二時間前にみたものとは異なる景色が広がっていた。

 

「おいおいおいおい」

 

桂花もぺたりとその場にへたり込む。その顔は少し青ざめていた。

つまり俺達は全く移動していないにもかかわらず、いつの間にか離れに移動していた、ということだろうか。なにそれ怖い。

ドッキリとかそいういレベルではない、まさに怪現象。

 

「まぁここなら母屋の方から離れているし、俺がゴットヴェイドォーの技を使っても五月蝿いと一刀たちに怒られなくて済むな」

 

華佗はのんきなことを言っていた。知らないのは幸せなことである。

そんな華佗の一言からふとある仮説が思い浮かぶ。

 

ーーーまさか俺が離れがどうのこうの思ったから?

 

そう思ったが慌てて首を振った。この件は深く追求しないほうがいい気がする。

ただでさえここはわけがわからないのだ。藪をつついて漢女が出てきたとあってはシャレにならない。

 

「すまない気にしないでくれ。桂花も深く考えず気にするな、いやいっそ忘れたほうがいい」

 

未だ青い顔をしている桂花の頭に手を載せ、くしゃくしゃっと乱暴に撫でる。乱暴に撫でられたからか、少し機嫌が悪そうにこちらを見ていたが顔色が少し戻っていたので無問題であろう。

 

「それで彼女の様子は?」

 

華佗はゆっくりと腰を下ろした。俺と桂花も続けて腰を下ろす。

 

「いや寝たまんま。あまりにも意識が戻らないとちょっとまずいな」

 

「最悪俺の鍼で強制的に目覚めさせることもできる。ただ自然に起きないということは身体が栄養よりも休息を求めているということだろう。筋肉のツキ方、身体の状態からみても日頃から相当無茶としていたんだろう。もしかしたらそのツケが一気に噴き出しているのかもしれない」

 

そんなところまで診ている華佗に感心していると、華陀から見えない位置に桂花がメモを差し出した。

 

『あいつへんたい』

 

疑問符ではなく、断定。女性から見てみれば自分の身体を隅々まで把握されてしまうのは、少々気持ち悪いのかもしれない。デキる男がゆえに、哀れなり。

 

「すまない一刀。頼みがあるんだ」

 

哀れな男から、意を決した様子もなく頼みごとが持ちかけられる。

 

「その娘がしっかりと回復するまで、俺に看病させてほしい。頼む、ここにいさせてくれないだろうか」

 

もとより追い出すつもりもなし、桂花を診てもらうということで借りもある。

俺はその頼みごとを即座に了承したのだった。

 




ここまで呼んでいただいた方々に感謝をーーー

ネタを考えてはボツにする日々でした

最近考えたネタは
『玄野計が進撃の巨人の世界に転送されたそうです』
どっちもかなり前に漫画喫茶でちょろっと読んだだけなのに流行に吊られて妄想してしまうって
本当にどうなのよ俺


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

目を覚まして

やばい、上手くかけない。
脳内の桂花はこんなに可愛いのに、なんで文章にできないのだろう


「会ってみたい人?そうだな、劉備玄徳・・・かな」

 

 三国志、から連想する人物といえば劉備、曹操、孫権あたりが出てくるのではないだろうか。他にも諸葛亮や趙雲、関羽や張飛などが先に出てくるのは、とある本が原因であろう。

 その中でも劉備を口に出したのは、あの波瀾万丈な人生を歩んだ彼は実際にどのような人物であったのかを直接見てみたかったからだ。

 

『りゅうびげんとく』

 

 桂花は紙とともに首を傾げた。どうやら思い当たる節がないらしい。

 

「今は誰も知らないかもしれないけど、いずれこの大陸に名を轟かせるだろうね」

 

 歴史の流れをたどることとなるならば、まず間違いないだろう。場合によってはすでに義勇軍を立ち上げ戦線に赴いているかもしれない。

 

『おぼえとく』

 

 頬をふくらませながらソッポを向く桂花。いきなりよくわからないことを言われれば不機嫌にもなるだろう。俺だっていきなり『及川が将来神世界の神になって、文字通り世界を股にかけるハーレム野郎になる』と言われても何言ってんだこいつってなりますよね。

 

 そんな不機嫌な猫の斜めになった機嫌を元通りに戻すべく、桂花にじゃれついた。そっぽを向いているため気づかれることなく近づいた手は脇に吸い込まれ、そのまま刺激を与える。

 手足をばたつかせ、必至に逃げ出そうとする桂花を無理やり抱きとめ動けないようにする。そうすなわち、くすぐりである。

 笑い声がない分かなりシュールな映像となっているが、キニシナイ。

 ほら効果はてきめん、ふくれっ面はあっという間に笑顔にチェンジ。うっすらと汗をかき、ほんのりと桜色に染められた頬、早く細かい荒い呼吸と、どことなく色っぽさが漂っているけどおかしなところはどこもない。

 あとで脇腹をつねられたり、ジト目で睨まれたりするのだがそんな姿も可愛らしい桂花ちゃんなのでした。

 

 

 

 

 

 

「おはよう、気分はどう?」

 

 時間で言えば朝なんてとっくに過ぎ去っているのだけど、と心のなかで付け足した。やはり時間がどうあれ、目を覚ました人にかける第一声は、おはようなのだと思う。

 黒髪の少女は視点をこちらに向け、寝ぼけた眼はじいっと俺の顔を見続ける。こちらは敵意をないことを示すべく、ふにゃっとした笑顔を浮かべた、つもりである。さすがに及川のように鏡でキメ顔の練習とかしたことはないので自信はないが、たぶん大丈夫だと思う。

 しかしキメ顔の練習はまだいいとして、土下座の練習をしているのはいかがなものか。「なーなー、どう、この土下座。誠意伝わってこうへん?」とか、謝罪の練習をしている時点でどーしようもない気がしなくもないのだが。いったい何をやらかし、誰に謝罪するつもりだったのだろうか。・・・世間?

 元の世界に戻れた時に、友人から犯罪者にランクアップしていないことを祈りつつ、いまだ言葉を出すことなくこちらを見続けている少女の額に手を当てる。

 

「熱は、まだ少しあるみたいだね。なにか、口にできそうかな?」

 

 少女の額はほんのり温かく、うっすらと汗をかいていた。あれだけの大怪我だったのだから、未だに身体から熱が引かなくても仕方がない。重要なのは、このあとも栄養があるものを食べて、しっかりと寝て、ゆっくり体を休ませることなのだから。

 

「・・・おみず、が」

 

「水ね、すぐ持ってくるから少し待ってて」

 

 彼女の要望に答えるため立ち上がる。部屋を出る際に振り返ると彼女はこちらをじっと見つめていた。先程までのぼやけた感じとは違い、多少なりとも目に力が感じられる。これならば思ったよりも早く元気になるかもしれない。

 

 急ぎ足で台所につくと、なにやらチャームポイントである猫耳フードを被った桂花が、隅でもぞもぞと動いている。

 何をしているのか確かめるため、そろりそろりと背後から近づく過程で、甘い匂いが漂っていることに気がついた。これはつまみ食いだろう。

 

「さて、なにをしているのかな?」

 

 後ろから両肩をしっかりと掴む。びくっと身体を強ばらせ、恐る恐るといったふうにこちらに向けた顔には、口元にべったりと茶色いソース。

チョコだ。

 以前箱の隅から見つけ、嬉々として桂花に勧めてみた。彼女は好奇心と警戒心をむき出しにした猫のようにじっと見つめて決して手を付けなかったチョコレート。残念に思いながら涼しい場所にしまったチョコを、結局は好奇心に勝てずに食べてしまったようだ。そして思いの外口にあったようで、あったチョコレートの大半がすでに失われていた。

 

「美味しかった?」

 

 ぶんぶんと大きく首を縦に振ることで肯定する。その瞳には、もっと、もっとと書いてあるようであったが、残念ながら無い袖は振れぬ、諦めてもらうしかない。桂花はそれを知るとため息を付き、名残惜しむように、体温によって溶けて手にこびりついたチョコをペロペロと舐め、しゃぶりついた。そこはかとなくエロい。

 なんともエロスとは奥深いものである、気がしないでもない。

 さて、満足気にしている桂花には悪いがそろそろ衝撃の事実を述べるお時間である。

 チョコレートのバカ食い、このコトから導かれる答えは明らかである。

 

「太るよ」

 

桂花は何を言っているのかわからない、といったふうに首を傾げた。

 

「デブるよ」

 

幸せの絶頂、といった表情が固まった。というかデブるで通じるのか。

 

「胸から大きくなるなんて迷信。脂肪は腹から来る」

 

 固まった顔が徐々に真っ青になる。『食べたもの全部胸の栄養になっちゃって、またサイズ上がっちゃった』とか都市伝説。事実なら現代社会の胸のヒエラルキーはもっと恐ろしいことになっている。そしてまさしく貧乳はステータスだ、希少価値だ状態になっていてもおかしくはない。まぁ食生活の変化によって日本人女性も胸の平均サイズは上がってきているとかいないとか。

 ちなみにダイエットは胸から痩せていくというのは本当だろうか。もし現代に戻れたら調べてみよう。

 

 ちなみにセクハラではありません。決してコレはセクハラではありません。

 

これでよし。これで問題ないはず。

 

 絶望に打ちひしがれている桂花の肩をそっと抱く。できるだけ、優しく優しく。

 

「大丈夫。ふっくらとした桂花も俺は好きだよ」

 

 そう呟いた瞬間桂花は飛び出すようにしてこの場から消え失せた。響く足音は次第に小さくなっていく。

さて、桂花はどちらだろう。

 俺に好きと言われて、真っ赤になって逃げ出したのか。

 デブった未来の自分を想像し、カロリーを消費するために一目散に動き出したのか。

顔を見る暇もなかった俺にはその答えを知る由もない。

 

「ちょっと悪趣味じゃないか。荀攸さんはむしろ少しくらい太ったほうがいい。今のままでは身体に悪影響を及ぼす」

 

「それ、あまり患者本人には言わないほうがいいよ。場合によっては必殺の一撃になりうるからな」

 

「・・・・?どういうことだ?」

 

 桂花を入れ替わるようにして、華佗が現れた。どうやら話を聞いていた彼の考えは当然医者の視点であった。女性に対して太れは医者からの言葉でも結構来るものがあると思う。まぁそう言われる人は大抵太りたくても太れない体質だったり、特別な病気であったりする場合が多い気がする。前者は女性の敵である。

 

「っとちょうどいいところに。ついさっき彼女、目覚めた。診たところまだ熱が身体にこもってるみたいだけど、意識もあったしち喋ることもできるみたいだから大丈夫だと思う」

 

「そうか、よかった」

 

「まぁ素人の診察だからな。華佗のほうでもしっかりと診てやってくれ。俺は簡単になにか食べられそうなものを用意しておくから」

 

 そういってコップを差し出す。勿論冷たい水ではなく、常温の水だ。目覚めてすぐに冷たいものを飲むのは、身体にとってあまり良くない。

 

「本当に助かる、一刀がいてくれてよかった。俺はあまりこういった方面は詳しくなくてな。薬といったものならば作れるのだが・・・ちなみに得意料理は龍をつかった各種増強効果を持った丸薬だ」

 

「薬は料理言わない、それは調合だ。あと龍にはツッコまないぞ」

 

「ああ、龍には無闇矢鱈と突っ込まないほうがいい。俺でも未だに一匹しか倒せていないからな」

 

駄目だこいつ早く誰かなんとかしてくれ・・・

 ツッコんでも天然でスルーされるとか精神的にごっついきつい。ましてやなんかどや顔で胸を張られちゃ、逆に何も言えなくなってしまうじゃないか。

こういうときはこれ以上話を広げず、さっさと進めてしまう方がいい。

 

「そんなことより彼女が水を待ってるから、さっさといってやってくれ」

 

「おおっとそうだったな。後のことは俺に任せてくれ」

 

 軽快に走り去る姿はとても好青年っぽいのだが、あまりに熱血すぎる。激しく動いた末にコップから飛び散る水は、果たして彼女の口に入ることができるのだろうか。

 まぁそんなことを気にしてもしょうがない。あとで濡れたところを拭かせるとして、とりあえずは料理だ。

 いくつか頭のなかにレシピが浮かび、現在ある材料と合わさりひとつ、またひとつと選択肢は減っていった。

 

 

 

 

 

 

「で、これどうなってんの?」

 

 病人食ならやはり定番はおかゆだろうということで、さっぱりと梅粥を作った。立ち上る湯気とほんのり香る梅の匂いがなんともはや腹がへる。あとで自分用に作っておこう。いやもし食べられなければ自分で食べたっていいかもしれない。

 そしてお粥をお盆に載せ、少女がいる部屋に戻ってきた俺が見たものは、うつ伏せに倒れている華佗であった。が問題はそこではない。少女が寝ていた布団が空になっていたのだから。

 

「おい、何があった?」

 

「うッ・・・不覚・・・」

 

 慌てて華佗を起こしにかかると、声に反応して目を覚ます。頭を手で抑えていることから後頭部を殴られたようだ。頭部へのダメージは心配だが、検査に必要な機材があるわけでもないしどうしようもない。本職である華佗に自己検診でもしてもらおう。

それよりも気がかりなのは少女だ。

 

「あの娘は?」

 

「すまない、あの少女にやられた。目が覚めたらこの有様だ」

 

「そんな、すぐに動ける身体じゃなかったはずだけど」

 

「俺の鍼と相性が良すぎた。俺の気に呼応して彼女の気も作用し、超回復といっていいほどの劇的な治癒が起きたんだ。もしかしたらもとから気に対して適応できていたのかもしれない。俺がここに来た時にはすでにはっきりと受け答えができるほど回復していたようだ」

 

 なんだその超展開。人の皮を被った化け物ですか。さすが俺の鍼だと自画自賛しているこの天然を張り倒したくなる。

 

「それでもすぐに動いちゃ駄目だろうに」

 

「ああ心配だ。まだ診察すらしていなかったというのに」

 

 万が一、ということがあるかもしれない。それに問診でしかわからないことだってある。意識を取り戻してからが本当の治療の開始、といっても間違いではないと思う。

すぐさま少女を連れ戻さなければ。

 

「とりあえず探すぞ。華佗は殴られてるんだ。一応外に出ずに旅館の中を探してくれ」

 

「そうだな。それに外に出て迷子になるのは避けたい。俺は母屋を探そう」

 

「ついでに桂花を見かけたら保護してくれ。大丈夫だと思うが彼女が桂花に危害を加えないとも限らないからな」

 

「わかった」

 

第一目標は少女の発見。

第二目標は桂花の保護。

 

 目的を確認した後、すぐさま華佗は部屋から飛び出していた。

 

 

 それを見送った後、俺はおもむろに押入れを開けた。

 

「あ・・・」

 

 そこにはドラえもんスタイルとなって息を潜めていた少女が唖然とした顔でお出迎えをしてくれていた。

 なぜ彼女がここにいるのかわかったのかは、なんてことはなく半分は勘だ。先程まで寝ていた少女が、華佗をぶっ倒しつつ遠くまで逃げることなんて出来るだろうか。まして少女にとってここは未知の場所。迂闊に動いて状況が悪化することを危惧していたかもしれない。

そのことを踏まえて考えれば押入れという選択肢が見えてくるだろう。

 あとわざわざ華佗を追い出したのはあいつがこの場にいるとめんどくさいことになりそうだからである。

 

「あのさぁ」

 

俺は問いかける。

 

「君に自覚はないかもしれないけど、手当した相手をいきなり殴るってちょっとまずいんじゃないかと思うんだけどなぁ」

 

 彼女はびくっと身体をすくませる。上目遣いでこちらを恐る恐る伺う姿は、もし意識してやっているとしたらかなり悪質であろう。くそ、可愛いじゃんか。

 

「それに勝手に動きまわって死なれても拾ったこちとら目覚めが悪いし」

 

「私は捨て猫ですか・・・」

 

「どうだろうね。最近の捨て猫は、勝手に出て行かないし、恩知らずでもないと思うけどね」

 

 最近拾った捨て猫は、勝手に出ていくどころか、むしろじゃれついて離れません。勝手に布団に侵入するわ、お風呂に突撃しようとするわ、膝の上に勝手に座るわで我が物顔をしています。あれ、俺憑かれてね?

 

「ともかく反省したならさっさとここから出て布団に戻れ。これ以上面倒をかけるな」

 

 びしっと布団を指さす。少々きっつい物言いかもしれんが、ここでビシっと言っておかないとあとで舐められたりするとかなわん。上下関係をはっきりとさせておくべきところなのだ。

 

「一つ訂正があります」

 

 彼女はゆったりとした足取りで押し入れから出るとまっすぐこちらを見た。先ほどまでの恐る恐ると言った感はない、しっかりとした強い眼差しだった。

 

「私はもとよりここから逃げ出す気はありませんでした。むしろお礼を言おうと思っていました。しかしあの男は部屋に入ってくるなり『服を脱げ』と私に迫ってきたんです」

 

ここまで語ると彼女は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

 

「・・・気づいた時には殴っていました。どうしようとオロオロしていた時、あなたの足音が聞こえ咄嗟に隠れてしまいました」

 

 そして最後に不服そうに『申し訳ありません』と付け足し、布団を頭からすっぽりと被った。

 元凶は身内にいた。俺もあの男をはっ倒すべきだろうか。

 

「あと私の名前は周泰と申します。・・・助けていただきありがとうございました」

 

 周泰さんは何も言えなくなっていた俺に対して自己紹介とお礼と告げると、再度布団をかぶり直した。

 

 

 

 

 

 

 

「すまん、ほんとーにすまん」

 

 周泰と桂花、二人に向けて華佗は深々と頭を下げた。なぜに桂花にまで頭を下げているのかというと、華佗は発見した桂花を気絶させ、肩に担ぐと今度は周泰を探すため旅館内をうろつき回ったらしい。哀れ桂花は不自然な格好によって身体を痛め、さっきからしんどそうな表情を浮かべている。

 

『しね』

 

「・・・」

 

『しね』

 

「反省している・・・」

 

 俺はご立腹の桂花の頭を撫でる。そして続いてお腹、腰をさすると痛みが和らいだのか目を細め気持よさそうに顔を緩ませた。

 華佗は医療とか以前に常識から学んだほうがいいのかもしれない。確実に世間一般の感覚とはずれている。

 

「わ、私の調子を診る為に言ってくださっていたんですよね。こちらこそ殴ってしまい申し訳ありません」

 

「いやこちらこそ言葉が足りなかった。ゴットベイドゥー継承者として情けない・・・」

 

「いや関係ないだろ」

 

これがゴットベイドゥースタイルであるならば、なかなか布教しないのも当たり前だろう。男には支持されるかもしれないが。

 

「それで容態の方はどうなんだ?」

 

「ああもう心配ない。気の流れも異常はないし傷の具合も上々だ。まぁだからといって動きまわっていいわけじゃないけどな」

 

 「ううっ」

 

 華佗でも嫌味を言うんだな、と少しだけ意外に思った。ほんの少しの付き合いでも直情的で言いたいことははっきりというような性格だと思っていたが、もしかすると患者のこととなるとまた異なるのかもしれない。いやむしろ殴られたことに腹を立てていたのだろうか。

 

「まぁ周泰さんも反省してるだろうし、説教はこのくらいで。そだ、おかゆ作ってきたんだった」

 

 ここに持ってきてから一度も手に触れていない盆を手に取る。土鍋ごと直接持ってきていたため、冷めず未だ温かいままだ。それを周泰の目の前で蓋を取ると、白い湯気と、ほんのりお米と梅の香りが立ち昇った。

 

「よかった、冷めてないみたいだ」

 

暖かなおかゆを適度な量、小皿に移す。混ぜたことによって、より匂いが拡散したようで、ぐうぅという音が3つ聞こえてきた。

 

「食欲はありそうだね」

 

 他の2つの音は気にしないでおこう。確かに梅の独特な薫りとお米の甘い香りは胃に来る。

 周泰は恥ずかしがりながらも身体を起こし、こちらに手を差し出した。しかしその手は空を切ることとなる。

 

「はい、あーん」

 

 北郷一刀のその行動は、周泰を笑顔のまま凍りつかせ、桂花を即座に威嚇体勢へとシフトチェンジに成功させ、華佗はしきりに感心しだした。

 この行為は稀によくあるお約束イベント、現代では食事が取れない程の重症患者は点滴を打たれ、大したことのないものには『喰え』と言わんばかりに目の前に食事が置かれるのみ。白衣の天使の手によって、なんてのは幻想入りして久しいだろう。幼少期に母親、または父親の手によって、というイベントならばあれど、一定の年齢に上がったならば気恥ずかしさによって、ただただ拒絶するだろう。他人の手、しかも異性というのは度重なる偶然と奇跡によって起こるものなのである。

 つまり俺がいいたいのは、リア充死ね。ではなく、こんな面白くなりそうなイベント、逃すべからず、ということである。

 周囲のお三方、予想通りの反応をありがとう。

 

「いや、あの、私大丈夫ですから、自分で食べられますから!」

 

「怪我人が無理して動いちゃ駄目だよ、怪我人なんだから」

 

 はうぁと叫びながら顔を真赤にしつつ目を回すという面白可愛いリアクションを楽しみつつ、予想通りの理論をぶつけ、罪悪感を想起されることで封殺する。

 隣の桂花は怒りがピークに達したのか、何故か懐からフォークを取り出し、周泰と自分の腕を見比べている。周泰はまだ排除するためという理屈が理解できるが、自分の腕というのは、自傷して自分もお世話してもらおうという魂胆でも考えているのだろうか。やばい、メダパニっているのはまだいいが、その方向性がヤバイ。

 そして華佗、この程度で感心って看護なめてるのだろうか。如何に今まで看護を軽視していたのかがわかる。まぁ鍼で治せるならそこまで重要視する必要はないかもしれないが。今後看護を本格的に学んでいこうと思うならば、この世界は奥が深い。

 

「ふむ、ならば妥協案を出そう」

 

このままでは桂花がヤンデレ化しそうなので次の段階に進ませよう。

 

「周泰さん、俺か、華佗、桂花から誰か選んでくれるかな」

 

 この一言がさらなる混沌を呼び起こしたのはいうまでもない。

 

 

 

 

 

 桂花は『あーん』したらなんとか正気を取り戻した。




ここまで読んできただいてありがとうございます

お返事できていませんが感想ありがとうございます

書き直しの件についてですが、一旦保留にします。
それよりもどんどん新しいものを書いて、より良くしていくほうがいい気がしてきました
いずれ指摘の合った部分と、自分d目お違和感がある部分を修正していきたいと思います

外史での一刀の不評さにびっくりしてます 正解です

最後に桂花がどんどん崩壊している件について
言葉がない分、スキンシップが激しくなってきております
果たして、男嫌いで触れるられるだけでもチキン肌になってしまう桂花さんは何処へ行ってしまったのでしょうか 
ツンがあってこその桂花だと思ってる方、大変申し訳無いです

ではまた次回


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

いじられて

桂花人気が半端ない 
むしろ桂花以外必要ないのではないかというくらいの人気に驚いてます


 

 

・・・

 

 

「・・・えっと?」

 

 周泰です。

 何故私は先程からずっと睨まれているんでしょうか。目の前の猫耳フードを被った少女---荀攸さんから祭様と同等とも思えるような殺意を一新に浴びせられています。ううッ、私がその猫耳フードをもふもふしたいってバレてるのでしょうか。

 

 なんてうそです、冗談です。

 

 本当はなんとなくわかっています。恐らく彼女は食事の時の『あ~ん』の相手に一刀さんを選んだことが気に食わなかったのでしょう。しかしそうはいっても選択肢らしい選択肢なんてどこにもなかったじゃないですか。変態は言わずもがな、彼女を選択しても、明らかに熱々のおかゆを無理やり押し付けられるか、はたまた匙をそのまま刺すという強硬に出る恐れすら感じさせておいて選べるわけがありません。

 つまり、一刀さんにふーふーしてもらって優しく食べさせてもらったのは必然なのです。悔しそうに顔を歪ませる荀攸さんを見て、優越感に浸ったなんてことは決してありません。ちょこっとドキドキしてしまいましたが、これくらいのことで動揺していてはお仕事が務まりませんですし。

 さて荀家といえば、多数の才女を排出する名門と知られ、特に荀彧、荀攸の名は広く知られています。最も現在荀彧の所在がしれず、また洛陽にて仕官しているはずの荀攸が何故この場にいるのかはわかりませんが。

 

「あの、その、眠りづらいんですけど」

 

 思わず『一刀さんたすけてー』と叫びたくなるのを必至に我慢しつつ、今にも爆発しそうな荀攸さんに声をかけました。この場には私と彼女しかおらず、一刀さんと華佗さん両名は席を外している状態でした。たとえ襲われたとしても、現状の体力でもなんとか対処できるでしょう、が言葉にはできないような、なんというかねっとりとした嫌な予感が拭えません。まるで祭様の前で年齢の話をした時のような緊張感が重くのしかかり、できることなら穏便に済ませたい思いでいっぱいでした。

 

『ゆるさない』

 

 何をでしょう、と聞くのは無粋でしょうか。私はまだ恋をしたことがないのでわかりませんが、これほど強い意思と想いを紡ぎ出せる彼女が羨ましいと思います。

 

「一刀さんと荀攸さんは、付き合っているんですか?」

 

 私の質問を理解するとともに、紅に染めて動揺する姿は、先ほどまでの刺々しさは一気に霧散し、ひどく可愛らしいものでした。何やら一生懸命口を動かしていたので読み取ると、『私が男となんて、付き合うなんてこと、絶対にない、ないわ。あんな汚らわしい生き物と付き合うなんて、考えただけでも鳥肌が立つ。でもでも、一刀は違うの。一刀は一刀であって・・・』というところで途中で手で顔を隠されてしまい続きを読み取ることはできませんでしたが、否定している割にニヤニヤとしゃーわせそうな笑みを浮かべていたことが無性に腹立ちました。できることならここを立ち去る前に何かしらの報復を考えておこうと思います。

 

 身悶えたまま現実に帰還しない彼女を横目で見つつ、一刀さん早く帰ってこないかなぁとぼやく私でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

豪雨の中でも明確に主張してくる血だまり、そしてそこに浮かぶ額当。血で染まり、真っ赤に濡れた額当を一目見て、コレが明命のものだとわかった。

それを拾い上げると無言で走りだす。辿るのは、豪雨によってぼやけた血痕と足あと。

冷静な部分は、すでに事切れていると言っている。しかし無残な姿が見えないことでわずかでも希望が残されているのも事実である。蓮華様に拾われてから、常に冷静であれと自らを律してきたが、戦友の命がつながっているという事実が諦めるという選択肢を投げ捨てた。

 痛む全身に活を入れ、酷使された身体を労ることなく、彼女の歩みは止まらないーーー

 

 

 

 

 そして日も沈み雨も止み、当たりが真っ暗闇になった頃、血痕は既に消えたが、わずかに残った手がかりを追跡し、たどり着いたのは一軒の屋敷。

 明かりで照らされ闇の中にはっきりと主張していたそれは、かつて見たことのないような造りであった。

 疲れた身体にムチを打ち、そっと中を覗き込む。そこには何かしら作業をしている男が1人、眠たげな顔をしていた。思考はとりあえずこいつをとっ捕まえて話を聞き出そうという危なげな方向へと傾く。愛武器である『鈴音』を手に音を消し、気配を消し、そっと男に近づく。

 すると幸運なことに男は立ち上がり、ノビをしたあと部屋から出てこちらに近づいてくるではないか。気づかれたか、とも思ったが全くそんな素振りもないことから、恐らく厠か喉を潤しに行ったのだろう、と推測した。

 

 そして背後から忍び寄り、鈴音を喉元へ突きつけた。

 

「静かにしろ・・・」

 

 耳元でそっと呟くと、男はビクッと身体を震わせたあと、両手を上げ首を何度も縦にふる。背後からなので男の表情は見えないが、怯えている気配が伝わってくる。その様子から真実だろうと確信し、素人か、心の中でそっと安堵する。もしかしたらどこかの豪族の屋敷で、近くに護衛がいるかもしれないと身構えていたがそんなこともないようだ。

 

「決して抵抗するな・・・」

 

 ガタガタ震えているこいつが今更抵抗するとは思えないが一応釘を刺しておく。素人でも玄人でも、抵抗されて面倒なのは変わりない。最低限準備をしたあと次に出たのはここに来た目的事項。

 

「ここには貴様以外誰か居るか?」

 

 一瞬の静寂、恐る恐る縦に振られた首を見て希望がつながったことに歓喜する。

そして、それが命取りだった。

 

突如として響く謎の音。

 大音量で鳴り響く音は、耳の良い私にとっては致命的な隙を生み出す。思わず耳を抑えてしまい、意識が目の前の男から外れる。

そして気がついた時には私は宙を舞っていた。

床に強かに身体を打ち付けた私は鈴音を取り落とし、痛みに悶絶してしまう。

全くわけがわからない。状況がわからず混乱している私に首筋にチクリと痛みが走る。

 何かが刺された、ということは判断できた。しかし次に襲ってきた抗えない眠気は到底理解できなかった。

そして落ちゆく意識の中、最後に見たのは悪どい顔で微笑む、先程までガタガタ震えていた男だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ほら桂花、やめやめ。無事だったんだからとりあえずいいよ」

 

 意識を失った女性を蹴りつける桂花をそっと後ろから抱きしめなだめる。しばし抵抗するものの、やがておとなしくなった。興奮して息を荒くしていたのだが、何がそんなに気に入らなかったのだろうか?

 

「説明しよう!一刀が投げ飛ばした敵を、俺が気を込めた鍼をとある場所によって刺すことによって強制的に睡眠に陥らせたのだ!勿論副作用といったものはない。安心してほしい」

 

「華陀も説明含め、ありがとう。助かったよ」

 

 得意げに仁王立ちで語り始めるのはこっそりと背後に周り、この女性に一鍼した華陀である。こっそり、という言葉がこの男に当てはまるとは思わなかった。普段の五月蝿さを考えると特に。

 

「いや遅くなってすまなかった。何やら変な気配が入り込んだのには気づいたんだが探しだすのに時間がかかってしまった。それにしても見事な投げだったな。綺麗すぎてびっくりしたぞ」

 

「あー色々とやらされてたからな。それよりもさっき刺した鍼はどれくらい効くんだ?」

 

「数刻ってとこだな。ついでに彼女の治療もしておきたい」

 

 いろいろの部分を説明すると非常に面倒なためさっさと話題を変える。華佗は意外かもしれないが、こちらの事情を察して深く追求してこないので本当に助かる。

 そう言って寝入っている彼女を背負う。暗くてはっきりとは見えないが華陀が間違えるとは思えないし、こういうことに関して信用できるから任せておいたほうがいいだろう。

 

「なにか手伝うことはあるか?その、一応俺が怪我させたところもあるかもしれないし」

 

「そうだな、とりあえず寝かせるところが必要か。あと替えの服も頼む」

 

「諒解。ほら、桂花もいくよ」

 

 声をかけると未練がましく?華陀に背負われた女性を見たあと、ぎゅっと手を掴んでついてきた。

 その小さな手は少しだけ汗ばんでいて、細かく、震えていた。俺は無言でいつもより強く、その手を握り返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「治療も終わったことだし、お待ちかね、尋問ターイム!」

 

 パチパチと手を叩く桂花ときょとんとする華佗。その場のノリをきちんと理解してくれる桂花はとてもいい娘です。ちなみにここにいるのは俺、桂花、華佗、先ほどの女性と4人である。周泰は現在夢の中だろう。

 

「一刀、お前は一体何を言ってるんだ?」

 

「ああ、なんかお前に言われると無性にムカつく!」

 

 拍手のし過ぎて手が赤くなってる桂花を無理やり止め、ちらりと先ほど捕まえた女性を見る。怪我が治療され、穏やかな寝息を立てているが、手足は縛られ、少し窮屈そうな体勢だ。

 

「俺としては傷が開く恐れがあるから、拘束はしてほしくないんだが・・・」

 

「武器も隠したし、大丈夫なような気もするけど、桂花がね・・・」

 

『だめ、ぜったい』

 

「と、お許しにならなくてね」

 

 頑なに拒否したのは桂花だった。腰に手を回しピッタリと身体を密着させ、片時も離れる様子も見られない。あふれていた涙を止めるのが大変だった。

 どちらかと言うと俺の言葉に賛成する桂花がここまで反対するのは珍しい。というかさらに過激な案を出してくる始末。

 手足の腱を切る、ぐるぐる巻にして逆さ吊り、もういっそ井戸の中に叩きこんでしまってはどうか、とあふれんばかりの殺意であった。勿論、医者である華佗によって『命を大事に』とお説教されて涙目だったが。

 

「それで、尋問タイムとは?」

 

「簡単に言うと、とりあえずお話を聞こうって感じです」

 

 素で聞き返されると恥ずかしいな。

 とりあえずいきなり襲われた身とあっては、どういう経緯でこのような犯行に及んだかをしっかりと把握しておかなければなるまい。とりあえず初対面からこの女性からの私念の線はないとして、忍者ぽい格好から依頼を受けて暗殺?だとしたら声かけられるまでに既に死んでますよね。

 恨みか・・・思い当たるフシは結構あるが、さすがにここまで追っかけてくることはないと信じたい。

 

「誤解があるなら解いておきたいし、何か事情があって仕方がなかったかもしれない。もしかしたら力になれることもあるかもしれない」

 

「俺が言えた義理じゃないが・・・甘いな」

 

 こくこくと華佗に同意するように頷く桂花。確かに甘い、平和ボケしてるのではないかと言われてもまるで言い返せないような歯の浮ついた理想的なセリフだ。

 勿論、まんまそう思っているわけじゃないのだが。

 

「尋問っていうのは言いすぎだけど、ってちょうど起きたみたいだな」

 

 直ぐ側で寝ていた女性の覚醒する気配がする。寝たふりで様子をみようとしたようだが、起きている人間と寝ている人間とでは呼吸から異なる。加えて緊張からか身体が硬くなった気配もした。既にこちらが気づいていることを知り諦めたのだろう。

 

「さて、とりあえず名前からいいかな?」

 

うっすらと開けた瞳には警戒心、及び殺意が篭っていた。一刀、華佗、桂花を眺めたあと、視線を逸らした。

 

「黙りはあまりよろしくないなぁ。一応こちとら死にそうな目にあったし、文句も色々言いたいところだったけど我慢して傷の手当までしてあげたんだけど、素直に喋ってくれると嬉しいなぁ」

 

「黙れ。いいからさっさとこの拘束を外せ」

 

 ああ、なんという上目線の命令口調。でも、一度くらいなら我慢します。既に桂花はキレかけているけど。

 

「阿呆か、なにを呆けている。もう一度言うぞ、さっさと私を開放しろ」

 

「よしその喧嘩買った!すみません喋らせてくださいとその口から是非とも言わせてやんよ!」

 

 売られた喧嘩は買わねばなるまい。なんの後ろ盾もない今、舐められたら終わりなんです。今にも飛びかかりそうな桂花を開放しつつ、華佗の様子を見る。多数決の原理に従えば既に情勢は決している。華佗がいくら何を言おうとも止まることはないのである。

 

「おい一刀ちょっと待て。確かに俺も少々腹が立ったが拷問などと、非人道的な行為は認めんぞ。なにより医者の前で怪我人を作り出すなど言語道断だ!」

 

「勿論それは考慮する。世の中には健康になる拷問というのもあることを教えてやろう・・・」

 

 ふっふっふっとまるで悪役のように笑う。拷問という言葉を聞いて、顔が引き攣った華陀と女性を見てよりいっそう楽しくなってきた。

 

「名前がないのは不便だから、とりあえず『鈴』ちゃんと呼ぼう」

 

「なッ!」

 

 そう言って鈴ちゃんの持っていた鈴を鳴らす。乾いた鈴の音があたりに響く。

 

「じゃあ桂花、なにか清潔な布の準備を。華佗はじっくりと見ておけ」

 

「っく。貴様ぁ、ふざけたことを!」

 

「お、おい一刀、大丈夫なのか?」

 

 跳ねるように出ていく桂花、憎々しげに顔を歪ませる鈴ちゃん、心配そうな華佗。俺の表情はといえば、恐らくドSと称される笑顔を浮かべているだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーい、痛かったら痛いって言ってねー。やめないけど」

 

「あ、あ、あああああッ」

 

「で、ここを押すと痛みがあるってことは、何らかの異常がある可能性が高いわけ。んでこっちを押せば結構が良くなる」

 

「ふむふむ」

 

「ううっ、くっ・・・」

 

「ここは疲労回復、こっちはなんと便秘にも効いてしまうのだ!」

 

「おおおおお!」

 

「い、いっ、あ、あ、あああああッ、ううううううううううぅぅぅ・・・」

 

 ひと通り終わった後に残ったのは言葉を発する気力さえ無くなったと思われる鈴ちゃん。身体をぐったりとさせ、荒い呼吸に元々の褐色肌でわかりづらいが顔を赤く染めている、まるで激しい運動をした後のような状態だ。

 

「うむ、いい勉強になった」

 

「足の裏は第二の心臓と呼ばれるほど重要な場所だからな。ゴットベイドゥーの鍼もいいがこういった誰でも知識さえあればできることを広めるのも大切なことだろう」

 

「ああ、他にも色々あれば教えてくれ!」

 

 実技での勉強は重要であり、実験台として頑張ってくれた鈴ちゃんには感謝しなければなるまい。まぁ彼女も健康になったわけでWin-Winな関係を見事に作ることができただろう。

・・・嬉しそうに様子を見ていた桂花が一番得をしていたかもしれないが。

 

「ふざ、ける、な」

 

「おおっと、もう大丈夫なんだな」

 

 結局叫びつつも足つぼマッサージにも耐え切り、何も話さなかった彼女の精神力は称賛に値するだろう。

 

「身体、軽くなっただろ?あとはゆっくりと寝れば疲労も取れると思うし。・・・という訳で次の段階に進むべきだと俺は思うのだが」

 

「次の段階?」

 

 華佗と桂花は揃って首を傾げた。後は寝れば、といっておいて次の段階というのはたしかにおかしいだろう。対して、鈴ちゃんは二人とは対照的に身体を震わせた。こういうのを感が鋭いというのだろうか、その危機探知能力が羨ましい。

 

「ああ、次は食の勉強をしようか。とその前に汗だくだからお風呂に入って清潔にするべきだろう」

 

 鈴ちゃんはお風呂、という言葉に一瞬喜んだがすぐさま顔を青ざめた。うむ、そんなに甘いわけがないじゃないか。

 

「華佗、頼む」

 

「ああ、任された」

 

「おいっ、ちょっとまて!」

 

「いやいや、怪我人を一人でお風呂に入らせるわけにもいかないだろう」

 

 正論をぶつけられ苦虫を噛み潰したような表情をする鈴ちゃん。だがここで諦めるような彼女ではなかった。

 

「ならばそこの小娘がいるだろう!」

 

「桂花じゃいざというときにちょっとね。というかむしろソッチのほうが危ない」

 

「?!なぜだ!」

 

「そりゃ縛ったまま風呂に叩き込みかねないからな」

 

 桂花に視線を向けると露骨に目をそらした。足つぼマッサージで多少の溜飲が下がったようだが、未だに殺意の衝動は抑えきれないようだ。

 

「つまり、鈴ちゃんを守るためには俺か華佗が君をお風呂に入れるしかない。だが俺がそんなことをしようものなら桂花が暴れるだろう。故に選択肢は華佗、しかない訳だ。そしていうなれば彼は医者であり、女性の身体には性的な意味で興奮したりしない。ぎりぎりセーフといえるだろう」

 

 医者ならばノーカン!である。

 

「それに、いざ君が暴れるようなことが合っても華佗ならば十分抑えることができるだろうしな。ということで諦めてくれ」

 

「諦めきれるかぁぁぁぁぁ!」

 

 魂の叫び、だが無意味だ。既に華佗はやる気満々なのだから。

 

「華佗、これは看護行為だ。きっといずれ身体が動かない女性をお風呂に入れるという状況も来るだろう、コレはいい予行練習になる。加えて湯治、という言葉があってな。湯に浸かることで血行を良くし、代謝を高め、回復を早めることもできる。また温泉に含まれる成分は様々な効能をもたらし、健康を促進するのだ!」

 

「おおっ!」

 

「ではいって来い!着替えはあとで用意させよう!」

 

 鈴ちゃんが無駄な抵抗を試みて、華佗に鍼を刺されてた。そんなことすれば更に恥ずかしい目に合うことなんて目に見えていただろうに・・・

そして華佗はまるで誘拐犯のごとく鈴ちゃんを肩に担ぐと、颯爽と部屋から出て行った。

 

「それじゃ料理に取り掛かろうか。桂花、手伝ってくれる?」

 

『わかった』

 

俺と桂花も、華佗を追うようにして部屋を後にしたのだった。

 




ここまで読んでいただきありがとうございます

い、いったい鈴ちゃんとは誰なんだ(棒)
ネタがないかのごとく続々と新しい登場人物を出していますが どうなのでしょうか
誰のセリフかわからない部分もあると思いますが、何とかしていきたいと思います

いまさらですが桂花の文字は『』でくくっていますが、二種類の文字で書かれているため他の人も読めると解釈していただけると有難いです あと『わかった』とかの短文は一度書いたものを再利用しているという謎設定があったりなかったり


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

探しに来て

補足説明
姫ノ湯は森の中にあり、基本一刀はそこから出ることができません
道を進んでも同じところを延々とループし、旅館へ帰ろうと思い道を引き返すとすぐさま帰ることができる という設定。



 

「孫尚香様~~~~何処え~~~~~~」

 

 

遠くから長年付き従っている使用人の声がシャオの耳に入ってくる。

そんな悲痛な叫びを背に虎の周々にまたがりさっそうと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

孫家のお姫様ことシャオは絶賛囚われの身・・・所謂人質なのだ。母様が亡くなってから孫家はガタガタになり、援助という形で

袁術の支援を受けなければならなかった。それによって私たちはバラバラになり現在に至るという訳である。

雪蓮姉様は孫家復興のために必死に袁術の客将という名の便利屋としてこき使われ、蓮華姉様は幾人かの家臣と共に厳重に監視。

シャオは日々勉強に追われている。冥琳や祭の小言を聞かなくて済むのは嬉しいが、故郷から離され家族同然の仲間たちとも離され

正直この日々がとても寂しい。

 

つまりストレスとか様々なモノが溜まっていたわけである。

 

そんなある日、一人の旅人から面白い話を聞いた。

囚われの身のお姫様をカッコイイ王子様が助け出す、所謂おとぎ話である。

あまりに旅人がリアルに、また面白可笑しく語るため、シャオはそのお姫様を自身と重ねて聞き入ってしまっていた。

そしてすっかりそのおとぎ話にはまってしまい、気分は王子様の助けを待つ、お姫様と化していたのだった。

 

そして翌日からその努力は開始される。

喋り方、行動、仕草、おとぎ話のお姫様を真似、勉強に至っては文句ばかり言っていた所謂厄介な生徒という姿はなりを潜めた。

どこに出しても恥ずかしくない淑女の誕生である。

やる気になれば大抵のことはできる孫家の血筋が無駄に本領発揮されたのだった。

そしてこの行動によって使用人はすわ何事かと大混乱に陥ったのである。

 

 

 

 

 

『孫家の姫君である孫尚香様は、軟禁生活にもめげず立派な淑女であらせられた』

 

この突然の孫尚香の豹変はすぐさま各地に伝わり様々な憶測が語られる。

 

孫策こと雪蓮は持ち前のカンを働かせおおよその事情を把握、周瑜、黄蓋を巻き込み大笑いしながら酒を煽りまくった。

巻き込まれた周瑜こと冥琳は馬鹿な親友とシャオのことを考え深いため息をつき、黄蓋こと祭は雪蓮から状況を把握し

堅殿とそっくりだと昔話に華を咲かせた。夢に向かって思い立ったら一直線なあたりがたいそう似ているらしかった。

ちなみに陸遜こと穏はシャオの豹変よりもその経緯である本のことを想い、興奮しっぱなしだったとか。

 

孫権こと蓮華は姉とは対照的に妹のことをたいそう心配し心を痛めていた。長い人質生活による心の疲れだと思ってである。

また護衛である甘寧こと思春は主のその心配を取り除くべく今にも屋敷を飛び出そうとして同じく護衛である周泰こと明命に羽交い絞めにされ

危うくというところで阻止された。袁術に下手な勘ぐりをさせるわけにもいかないと主に止められシュンとする思春だった。

最近孫権によって見出された新参者である呂蒙は孫尚香のことを詳しく知る訳もなく、さすが孫家の姫君である孫尚香様はご立派な方だと素直に感心していたのだった。

 

そんなこんなで各地の重臣より孫尚香当ての手紙が届き、その内容は驚愕、心配などで埋め尽くされていた。

挙句、袁術からも心配の手紙とはちみつが届き複雑な心境であった。(袁術側は100%心配だった)

 

 

そしてほどなくシャオが爆発した。

元々飽きっぽい性格が災いし、いくら待っても来ない王子様に業を煮やし激しくだだをこねたのだ。

その様子を見て使用人はほっとしたとかしないとか。

 

シャオは考えた。

そしてふと母様のある言葉を思い出す。

『孫家なら自ら動き皆の指針となれ』

江東の虎として前線に立ち、指揮をとっていた孫堅こと母様。

戦場では最前線にて自らの手で敵を切り裂き、道を切り開いてゆく雪蓮姉様。

ならばシャオも自ら動かなきゃ、そういった思考に行き着くまでに対して時間はかからなかった。

 

そして冒頭に戻る。

 

 

 

 

 

使用人を撒くべく適当に走らせる。

しかし相手は馬、平原などではすぐさま追いつかれてしまうだろう。

仕方なく、視界に見えた森のなかに飛び込む。

道がある訳もなく無造作に生えた木々のあいだを進む。

虎の周々にとって森で馬に追いつかれる道理はなかった。

だんだんとか細くなる使用人の声を振り払うように周々の背中を叩き速度を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もーここどーこーなーのー!」

 

追っ手を振り切ったのは良いがいつの間にか完全に方向がわからなくなってしまった。

彷徨い続けてはや数刻、体中に細かい擦り傷や切り傷は出来るわ、お腹がすくわで目に薄らと涙を浮かべる。

ついには周々の背から飛び降り座り込んでしまった。

手短にあった木を背もたれにし、完全に休む体勢になると傍らに周々が体を寄せ座り込み、まぶたを閉じて眠りについた。

長い間孫尚香を背に載せ走り続けた周々の体力もさすがに限界を迎えたのだろう。

 

「ごめんね、ありがとう、周々」

 

そっと周々の頭を撫でると返事をするかのように尻尾をゆっくりと左右に振り返した。

さてこれからどうすればいいのか。

一度座り込むことで冷静になった頭で今後の展開を想像する。

 

急いで旅立したことが災いし、食料などは持っていない。

一応森であるから探せば何かしらあるかもしれないが、あいにく食べ物であるか分別することはほとんどできない。

 

「雪蓮姉様なら野生のカンとか言ってなんとかしちゃうんだろうなー」

 

あの姉ならばどんな逆境でも生き残るだろう、それほど雪蓮姉様のカンは恐ろしいのである。

同じ孫家の血を引いているのにこの違いはなんなのだろう。

 

「そういえばうちって年齢と胸の大きさが比例してる・・・?」

 

雪蓮姉さまや冥琳、祭はいわずもながら穏もとても大きい。

蓮華は胸よりもお尻の方が・・・ともあれ胸も先に述べた4人に比べれば劣るが小さい訳ではない。

思春と明命は・・・シャオよりもちょっとだけ上。

他の家臣たちもどちらかというと比例しているような気もする。もちろん例外もいるが。

 

「やっぱり年増の方が・・・ヒッ」

 

年増、と口に出した瞬間言いようもない怖気が身を襲う。

これ以上考えるのはやめたほうがいい気がし、話を元に戻す。

 

助けを待つ?

この森に逃げ込んだのは使用人が見てるし、なにか目印のようなものを立てればあるいは。

でもそうすると連れ返されてしまうだろうし、目的である王子様を探し出すことができない。

実際命の危険のある現状でも、目的を優先しようとするのが孫家の血であった。

 

ではあてもなく彷徨う?

それでは始めに戻るだけだ。

 

「あーもーどーすればいいのよ」

 

気持ちよく眠りに入った周々に抱きつくように倒れこむ。

暖かい日差しと周々の体温、そして時折吹く心地よい風。

全てが合わさり緩やかな眠気を誘う。

そしてそのまま空腹と喉の渇きを忘れ、夢の中に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて私北郷一刀は命の危機に瀕しています。

 

事の起こりは些細なことでした。

朝の清々しい空気を吸って今日も誰も来ないけど頑張ろう、そう気持ちを入れたところあることに気づいたのです。

 

最近運動していない。

 

朱里ちゃんと雛里ちゃんを見送ってから早数日、この旅館の捜索や掃除も済みやることがなくついだらだらと。

なにせ遊戯はあるものの一人でやるものでもないし、温泉は気持ちいいけどそれで時間をつぶせる訳もなく。

食材も箱に毎日きちんと補充されるため狩りに出かけるとかサバイバル的なことをしなくて済みます。

つまり、身体動かすことがねぇ!

 

てか前言の頑張ろうって何を頑張る気だったんだ俺!だらだらすることか?!

 

というわけでランニングに出かけた次第です。早朝気持ちいいしね。

 

ただ残念なのはいくら走っても基本的に景色が変わらないこと。

いくら走っても走っても同じところを延々とループするわけで正直少しつまらない。

流石に道を外れて森の中を突き進むのもどうなるか怖いためできずにいるのだが。

 

だいたい腕時計で一時間、気持ちの良い汗をかき、温泉でさっぱりしたいと思い始めた頃。

戻るために後ろを振り向くと。

 

白い虎が俺の目の前に鎮座していた。

 

別に虎を初めて見た訳ではないが、以前見た場所は動物園であるわけで。

つまり俺と虎のあいだには柵もしくは鉄格子があった。

 

それが今はない。

 

人は、自身の安全が確保されている状況ならば目の前の虎に喜んでいただろう。

しかし今は檻に囚われていない虎が目の前にいる現在の状況である。

混乱、動揺した頭でひねり出された答えは

 

「ここは普通クマさんじゃね?」

 

どうしようもないことだった。

脳内で森のくまさんがBGMの如く流れる。

 

 

あ~る~ひ~

 

もりのな~か~

 

とらさ~んに~

 

であ~あ~た~

 

まよいのも~り~の~な~か~

 

とらさんに~で~あ~ぁ~た~

 

 

って替え歌作って現実逃避してる場合じゃねぇ!

こんなバカなことを考えている今も虎はこちらをじっと見つめている。

虎から逃げる方法って何かあったっけ?

え?出会った時点で試合終了?とある監督の名言否定すんなっ。

 

やがて虎は一歩一歩確実にこちらに近寄ってくる。

まさに死神の足音が聞こえてくるかのようだ。

正直もう逃げられねぇ。

 

すんすんと虎が俺の匂いを嗅ぐ。

俺、男だし体は引き締まってるし美味しくないって。

心の中で呟くも残念ながら無意味だ。

虎はまるで品定めをするかのように俺の周りをゆっくりと回り、そして俺の足を噛んだ。

 

 

歯が皮膚に突き刺さり、肉を食い破る。

血管が破れ大量の出血、そして傷口から骨が見える。

やがて激痛に意識を失うのだろう。

 

 

というところまで幻視して、実際のところは・・・

 

 

 

 

 

 

甘噛みだった。

 

絶妙な加減だった。

 

 

 

 

 

 

 

さすがに尖った歯もあり少々痛みもあったが、食いちぎるような強さには程遠い。

そのまま足を引っ張られる。

そこで俺はあることにようやく気がついた。

この虎、首に金属の輪、所謂首輪をつけていたのだ。

 

「まさか、飼い犬ならぬ飼い虎?」

 

その言葉を理解したのかどうかは定かではないが、噛んでいた足を放すと付いて来い、というかのように威風堂々と歩き出した。

ついて行くかどうか悩むとその気配を感じ取ったのか首だけをこちらに向けじっとこちらを見つめ続ける。

 

「わかった、わかったからこっちを睨むのはやめてくれよ・・・」

 

道を外れ、藪の中を堂々と突き進む虎のあとをついて行く。

よくよく考えれば獣特有の泥臭さというかそういうものが薄いし、よく見ると毛並みもツヤツヤしている。

こんなことにも気づかないなんてよほど慌てていたのだろう、まあ虎に出くわしたんだから当たり前っちゃ当たり前の話だが。

 

やがて少し開けた場所に出てた。

先程までゆったりと歩いていた虎が急に走り出す。

その向かった先には何か森という景色になにか違和感のある物体があった。

 

少女だった。

褐色の肌に桃色の髪、服はヘソ出しミニスカートでやたら露出が激しい。

体を大の字にして眠る姿は可愛らしい寝顔と相まってとても和やかなムードを醸し出す。

 

その可愛らしい姿に見とれていると、虎が彼女の頬をペロペロと舐め出す。

 

「うう、うー、うぅ・・・」

 

起きない。

いやいやと首を振り、体を半身にして顔を手でガードする。

すると負けじと虎は今度はペロペロとお腹を舐める。

唾液が太陽の光に反射してちょっといけない気分になりそう。エロい。

 

「もぉ~周々~、せっかく王子様が私の・・・」

 

彼女は手で周々と呼んだ虎を跳ね除け、寝ぼけたように目をこすりながら起き上がる。

いい夢を見ていたのだろうか、機嫌の悪そうな声で起こした虎を非難した。

そして全て言い切る前にぱちくりと開いた目と目が合う。

 

彼女は呆然としていたのは一瞬、花が咲いたように満面の笑みになる。

そして軽やかに飛び上がったと思うとこちらに駆け出してくる。

 

あまりにも自然で滑らかな動きに俺の体は動かず。

 

豪快なタックルをくらい、そのまま彼女と一緒に地面に倒れ込んだ。

 

「いったたっ、いったいなんな・・・」

 

「王子様?王子様だよね?シャオの王子様だ!」

 

いつの間にかマウントポジションを取られ、キラキラした目で俺のことを王子様と断定する少女。

シャオというのは恐らく真名だろう。中国でそんな読みがないわけじゃないけど迂闊に呼ぶのは危険なのである。

 

「あのね、あのね、シャオの名前は孫尚香。江東の虎の娘なの。気軽にシャオって呼んでね」

 

と思っていたら速攻真名を許された。いやいやちょっとまって。

 

「孫尚香?!それにシャオって真名だよね?いきなり人に真名を預けちゃっていいの?」

 

「シャオの王子様なんだから、大丈夫」

 

史実では孫尚香は劉備の奥さんになってたはずだから性別はおっけー。

しかしなぜか出会ったばかりで好感度MAX状態?真名まで渡されちゃったし。

俺の胸に頬をすり寄せ完全に抱きつく形になっている、所謂熱い抱擁をされている。

 

「いや、ちょっとまって。とりあえず離れて。落ち着こう君」

 

肩に手を当て、無理矢理引っペはがす。

タックルされた時にも思ったが軽い。だからこそ無事だったわけだが。

 

「む~、もうちょっと優しくして欲しいな。あとそれとシャオでいいよシャオで。それと王子様のお名前は?」

 

軽く睨んだあとすぐに笑顔になった。

コロコロと変わる表情が見ていてとても面白い。

 

「俺の名前は北郷一刀。あとごめん俺には真名はないんだ」

 

「そっか。なら一刀って呼ぶね」

 

少し考えたあと笑顔でそういった。

小さく一刀って何回もつぶやいているのが聞こえる。自分の名前を呼ばれていると思うと少し恥ずかしい。

 

「とりあえずさっきから言ってる王子様って?」

 

その恥ずかしさを吹き飛ばすもとい終わらせるべく先程から疑問に思っていたことを尋ねる。

 

「シャオはね、いつまでたっても王子様が迎えに来てくれないから探しにきたのっ!

それでね、森に入ったんだけど迷っちゃって・・・一刀はそんなシャオを助けに来てくれたんでしょ」

 

「あー、うん、なるほど、なんとなく把握した」

 

つまり勘違いなわけね。

俺はこの森から出ること叶わず、助けに行くことなんかできないためどうあっても王子様とやらにはなれない。

今回はたまたま彼女がこの森に来たのとこの虎に連れられやってきたという偶然が重なった結果。

 

「うーん、ほんと申し訳ないんだけど俺は君の探している王子様なんかじゃないよ」

 

「そんなことない、一刀はシャオの王子様よ。間違いないわ」

 

そう言って胸を張ってドヤ顔。

反論はいろいろあるけど、ここまで本気の彼女をどうやって納得させるか考えているとどこからともなく音が聞こえる。

 

きゅぅぅぅぅ~~~~~~~~

 

目の前にいたシャオがバッと手でお腹を隠す。

 

「い、いまのはシャオじゃないよ。しゅ、周々紛らわしい音出さないでよっ」

 

真っ赤になって言い訳して、周々と呼ばれた虎に責任を擦り付ける。

まるっきり子供だな、と思いながらも機嫌を損ねられると面倒なことになりそうだ。

 

「そうだね、詳しい話は後でするとしてとりあえずうちに寄っていかないかい?

ちょうど戻たら食事にしようと考えていたところだからさ。周々と一緒にどうだい?」

 

「そ、そうね。周々もお腹減ったって言ってるみたいだし、ご一緒させてもらうわ」

 

何故か叱られてしょんぼりしている周々の頭を撫でたあと、俺の腕に絡みつく。

 

「さ、さっさと行きましょ」

 

道なんかわからないだろうにグイグイと俺の手を引っ張ってゆく。

 

「はいはい、分かりましたよお姫様」

 

これが彼女、シャオとの出会いだった。




かなり間が空いてしまい申し訳ありません
実は本来ならば別の人々が来る予定で書いていたのですが急遽変更
孫尚香様に来客していただきました

実はあまり口調とか覚えていないしかなり想像の部分があるため
食い違いというかちがくね?と思ってしまう部分があるかもしれません
そういった指摘でもいただけるととても嬉しいと思います

初感想ありがとうございます これからも頑張っていきたいと思います


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

いなくなって

短いけど更新 引き続き新キャラ

補足説明
作者はこの時代、部屋でも基本土足だと思っています
なので彼女たちは何も知らず堂々と土足で部屋にあがろうとします



「流琉~帰ってきたら絶対ご飯作ってよねっ」

 

これが私、典韋が聞いた最後の季衣の言葉だった。

 

季衣が山向こう勅使様に付いていって邑からいなくなってからはや数日、私は悩んでいた。

 

運悪く私がたまたま森で狩った熊を街に売りに行っている間に私たちの邑は賊に襲われるという危機に瀕していた。

その危機に対し邑の人たちがとった行動は、なんと季衣一人に任せるという驚きのものだったのだ。

確かに季衣は強いけどたった一人戦場に向かわせるなんてことをするとは思わなかった。

ああ見えて季衣は邑も邑の人たちのことも大好きだから何の疑いもせず張り切って迎撃に向かったんだと思う。

 

「賊が来たって聞いたとたん、季衣ちゃん飛び出していっちゃってね。止める暇もなかったんだ。

え、なんで追いかけなかったって?そりゃ女子供を早く逃がさなきゃダメだろう。それに季衣ちゃんの足でまといになると思ってさ」

 

まだ就任してから日が浅く、年若い村長はそう言った。

 

だから見捨てたのか。

 

一人戦わせて。

 

今回はたまたま助けてもらって邑も季衣もなんとかなったけど、私の中で許せないという気持ちが湧き上がる。

 

「う、う、うあああああぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁあぁぁあぁぁ」

 

せめて私がいれば季衣一人を危険な目に合わせなかったのに、と強く思った。

 

 

さらに数日後、この邑は山向こうの勅使様の保護下に入る旨の連絡が来た。

邑の人たちはとても喜んでいたが、私はある疑念が浮かんでいた。

 

もしかして季衣を差し出して保護下にしてもらったのではないか、と。

 

季衣と私は熊や虎を狩ることができる。

季衣は当たり前と思っているようだがこれは異常なことなんだそうだ。

以前街に毛皮を卸に行った際に私が狩ったことを伝えると、大勢の人に笑われた。

そしてどれだけ熊を狩るのが大変か、人食い虎の恐ろしさを教えてくれた。

その時、私はどれだけ怖いものを相手にしているのか、そしてそれを相手にできる私たちの異常性を知った。

 

きっと勅使様はその季衣の強さを目の当たりにしたんだろう。

 

勅使様、曹操様の噂はよく聞くしその内容はとても良いことばかり。

でもそれでも季衣がいやいや戦わされているんじゃないかと勘ぐってしまう。

 

 

季衣いなくなってから、私の心はどんどん悪い方向へ流れていった。

 

 

 

一人、森の中を歩く。

 

今は自分の邑よりも、森の中で一人でいるほうが落ち着く。

邑にいると私も季衣みたいに売られるんじゃないかって思えて、でも自分が産まれ育った邑の人のことを悪く考えてしまう自分にも嫌気がさす。

また季衣のこともとても心配で、ひどい目にあっているんじゃないかって思うといてもたってもいられない。

助けに行くべきだろうか、でも相手は勅使様。到底叶う相手ではない。

 

とにかく頭の中がごちゃごちゃだった。

 

そんな頭の中を整理するべく静かで落ち着くことができる森の中を歩いていたのだが、違和感とともに急に見たことのない道に出た。

 

「・・・あれ、こんな道あったっけ?」

 

長年遊び場として入り浸り、狩りができるようになってからは狩場も熟知しておりこの森のことはほぼ知り尽くしていると思っていたのにまだ見たことのない

道があることにとても驚いた。

何となくその道を歩いていく。

しっかりと地面が固められとても歩きやすい。今までこんな道があることに気づかなかったことが信じられなかった。

 

「って、あれなんだろう」

 

しばらく進むと木々の隙間から何か建物が見える。遠目からだが、その形状に見覚えのようなものはない。

 

「どうしよう、もしかしたら偉い人の別荘だったり・・・」

 

ただの変わり者の家ならばいいがもし朝廷に使えているような人の建物だったりした場合、見つかると問答無用で打ち首なんてこともあるかもしれない。

それを想像してしまい・・・少し気分が悪くなりそうだった。

しかし結局好奇心と恐怖ではやはり好奇心の方が勝り、ちらっと見るだけと頭の中で言い訳をした後慎重に近づいていった。

 

 

芸術とかには詳しくないけど見たことのない造り、うちとは比べ物にならないようなしっかりとした佇まい。

そして感じたのは違和感。でもそれがなんなのかはわからない。

 

吸い寄せられるように扉らしきものに近づく。

 

「・・・『姫ノ湯』?」

 

無意識に口ずさむ。

入口らしきところに書かれていた文字を何故か読むことができた。

 

そのまま扉に手をかけ、恐る恐る開く。

中を覗くと、森とはまた違った木の香りがすぅっと入ってくる。

 

「おじゃまします・・・」

 

周囲には人の気配はなかったが、思わずそう呟いてしまう。

 

中に入ると段差のあとに床が地面ではなく木張りになっている。

手入れが行き届いているのか誇り一つない。

背徳的な気持ち(実際に侵入であるが)と共に少しだけワクワクした気持ちも湧き上がってくる。

 

私は扉を開けた時のように恐る恐る中に侵入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

腕に抱きつくシャオちゃんとゆったりと後ろをついてくる虎の周々と共に元来た道に戻る。

戻れないかも、と多少心配していたが杞憂に過ぎなかったようだ。

まぁ今回は俺一人というわけではなくシャオと周々の二人と一匹という初めてのケースだったが迷いの森の条件に適応されるらしい。

 

「ね、一刀。どこにいくの?」

 

「ん、うちに帰るんだよ。正確には居候させてもらってる旅館なんだけど」

 

「旅館?こんな森の中で?」

 

「そう、滅多なことでは来ることができない、不思議な旅館さ」

 

なにせこの森、この世界自体不思議な存在だからな。

 

「へー面白そう。シャオ早く見てみたいなぁ。どのくらいかかるの?」

 

「そうだな。帰りたい、行きたいって願えばあっという間に帰れるさ」

 

「わかった。シャオ頑張って願うね」

 

そういってさっきよりも強く俺の腕を抱きしめた。

その結果ほとんど抱きついているという状態になり、少々歩きにくい。

 

「なぁ、もう少し離れてくれないかな?」

 

「えーなんでー。シャオにくっつかれて気持ちよくない?」

 

残念ながら不肖北郷一刀、この程度の色香に惑わされるほど落ちぶれてはいない。

これでも伊達に聖フランチェスカ学園に通っていたわけではないのだ。

もともと女学園なだけあって純粋培養なお嬢様たち相手に心頭滅却の日々。

邪なことを考え、もし実行に移したとあっては即正義の鉄槌がくだされる。

しかし周りにはほぼ女性としかいないというシチュエーションに加え、今まで男性の目がなかったことからか無防備な女性徒ばかり。

胸チラパンチラご馳走様です。

でも顔に出せば即アウト。これなんて罰ゲーム?

及川あたりは開き直ってもうMに開花するんじゃないかっていうくらいお説教されていた。いやもう手遅れか。

また俺は及川曰くモテモテだったらしい。

 

「かずやんカッコイイー、きゃー付き合ってーって人結構おったんよ?・・・男からも」

 

お嬢様にとって男性とのお付き合いというのは未知の世界であって、興味と恐怖が入り混じったものになったのだろう。

ゆえにガツガツしてなかった俺に白羽の矢が立った、というのが及川弁。俺は通報される恐怖で頑張って耐えていただけなのだが。

あと男からもっていうのは、ここで女の恐ろしさを知って男に走った一部のことらしい。

男子校でというのは希に聞くが、ほぼ女学園でそういう奴がでるとはまるで思いもしなかった。

 

というわけで俺は普通の人に比べかなりの境地にいるのです。

 

「むぅ、シャオの王子様は随分と女慣れしてるのね。きぃー絶対にシャオにめろめろにさせてやるんだから!」

 

「メロメロね。まぁ楽しみにしてるよ」

 

もういろいろと言いたいことはあるが突っ込まんぞ。

 

そんなたわいのない話をしていると、木々の間から旅館が見えてきた。

やはり戻るときはほとんど一瞬か。

一時間程度走り続け距離に換算すると10km近い。しかしシャオちゃんたちと旅館に戻る時にかかった時間は徒歩で10分足らず。

 

「一刀、あれ?あの建物?」

 

隙間から建物を見つけ、シャオちゃんは興奮したようにはしゃぎ出す。

 

「ああ。意外と早く着いてよかったよ」

 

そう言い終わらないうちにシャオちゃんと周々は旅館に向かって駆け出した。

やはり珍しいものなのかうんうんうねりながら手触りや匂いなども確認している。犬か。

 

「どうだい、なにか感想は?」

 

「そうね、うん。豪華なわけじゃないけど高級感があるかな。それにこんな建物見たことない。

あとこの匂い・・・どこかで嗅いだことがある気がするんだけど思い出せない。でも嫌ってわけじゃないの。なんというか、とても落ち着くの」

 

やっぱりそうゆう感想だよね。朱里ちゃんや雛里ちゃんもびっくりしていたし。

匂いは・・・建物の材質の匂いとか・・・かな。

 

「あとこれ・・・『姫ノ湯』?あれ、どうしてだろう」

 

「ん、どうかした?」

 

姫ノ湯の看板を見てシャオちゃんが首をかしげている。

必死で考えている顔が可愛いと和みそうになる。

でも頑張ったけど答えは出なかったようで、小さくため息をついた。

 

「この字、見たことないんだよね。でも何故か読めたの」

 

「見たことないのに、読める?」

 

「うん。あーもー意味分かんなぁい!」

 

シャオちゃんはそういって周々に飛びついて、嫌がる周々の頭をぐしゃぐしゃっと撫で回した。

 

うーむ、また謎が増えた。今更感があるけど。

 

「ま、とりあえず入ろう。ようこそ『姫ノ湯』へ・・・ってなんだこれ」

 

玄関を開け、中を見ると廊下にうっすらと砂で汚れていた。

どうやら来客がいるらしい。いや靴も脱がず入っているから侵入者、というべきか。

誰が来てもいいようにしっかりと雑巾がけなどし清潔に保たれていた廊下に心の中で敬礼をしつつできるだけ音を立てないようにする。

 

「なになに、どうしっ」

 

急に黙った俺を心配してか、問いかけてくれたシャオちゃんの発言を言い終わる前に口を塞ぐ。もちろん手です。

口元に人差し指を持ってくる、所謂”静かにして”というジェスチャーをするとちゃんと理解してくれたのか首をカクカクと上下に振った。

シャオちゃんは周々に視線を向けたあと、外を指差しその手を下に振る。

すると周々は指された場所に向かい、静かに腰を下ろした。

 

やべぇ、シャオちゃんも周々も及川よりよっぽど空気読めるわ。

あの馬鹿なら興奮して突撃しているところだろう。

 

「ね、知り合いってわけじゃなさそうね」

 

「ああ、ここには俺しか住んでないから」

 

小声で顔を付き合わせて今の状況を確認する。

 

「もしかしたら賊が来てるのかも。姉様たちも最近よく賊退治に駆り出されてるって手紙に愚痴っていたし」

 

「そいえば朱里ちゃんと雛里ちゃんもそんなこといってたなっっっ・・・・」

 

二人の名前を出した瞬間足を踏まれた。叫び声を上げなかった自分を褒めてやりたい。

 

「誰そいつ?」

 

胸ぐらを掴まれた。こっちのほうが幾分か背が高いのに。

あと小声でドスの聞いた声怖いです。

 

「とりあえずそんな場合じゃないから。まずこの第三者をなんとかしよう」

 

そういうと渋々だが引き下がってくれた。

 

「で、一刀は戦いの方は?」

 

「あはは、面白いこと言うね」

 

「一刀戦いの方は?」

 

「暴力じゃ何も解決しないと思うな」

 

「・・・一刀、戦いの方は?」

 

「痛いの嫌い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この王子様ダメだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

ガラガラガッシャン

 

わざわざ大きく息を吸って叫びやがった。

顔突き合わせていただけあってモロくらってしまった。耳が痛い。

あとなんか奥の方で大きな音聞こえたきがする。

 

「どーしてシャオの王子様がこんなヘタレなの!謝罪と賠償を要求する!」

 

うーん、チェンジでもクーリングオフでも構わないが賠償はねー支払えるものなんてなにもないんだよね。

とそんなことよりも大切なことがある。

 

「とりあえず大きな音がなったところへ行こうよ。もしかして犯人かも」

 

そういって音が鳴った方へ逃げ出す。

シャオちゃんも慌てて追いかけてくるが靴を脱がなかったせいでまた廊下が泥だらけだよ。

俺?さすがに何かあった時のために靴は脱いでいないが、泥はきちんと落としておきました。

 

方向的に言えば台所だ。

犯人はお腹が減っていた?なら大丈夫かも。お腹が減って力が出ないっていうのは定番だ。

不意をつくように勢いよく扉を開ける。

そこで俺たちが目にしたものとは。

 

 

鍋を頭にかぶって床に倒れて気絶している、これまた露出度の激しい少女だった。

ねぇ、三国志の世界ってヘソ出しブームなの?今のところ確率5割なんだけど。

あと全員少女、そこロリ言わない。

 

 

「ねぇ、これが侵入者?」

 

「そうだね。俺も初めてみる娘だ」

 

よくよく見るとこの娘の手には包丁が握られたままで、キッチンには切掛けの大根、その他野菜類が切られるのを今か今かと待ち構えていた。

何はともあれ包丁が刺さったりしてなくて良かったとしておこう。

 

しゃがみこんで鍋を外すと、大きなリボンとエメラルドグリーンの鮮やかな髪が目に入る。

そしておでこには小さなコブが出来ていた。

 

「うーんとりあえずどうしよっか」

 

「普通なら縛っておいてあとから事情をきくんじゃない?」

 

「女の子を縛るのはちょっと抵抗があるんだけど・・・」

 

「シャオそういうの得意だよ。紐とかある?」

 

なんかやる気まんまんのシャオちゃんである。緊縛に定評があるのだろうか。

 

「いややめておこう。やったらもう友好的な関係作れなさそう」

 

絵面的にもやばいしね。

それにさすがにこんな子供ならいざという時にもなんとかなるだろう。

 

「じゃー悪いけどシャオちゃんその娘を部屋に運ぶから看病頼める?男の俺がやるよりいいだろうし」

 

「いーけど、一刀はその間何するの?」

 

「せっかく下ごしらえされてるからこれで何か作るよ。あとこれハイ」

 

そう言ってタオルを取り出す。

シャオちゃんがそれを見て、どういうこと?と首をかしげる。

 

「それで周々の足を拭いたら周々も部屋にあげてもいいよ。しっかり綺麗にしてね」

 

ひょいっと少女をお姫様だっこする。やっぱり見た目通り軽いな。

それにしても最近はお姫様だっこばかりしている気がするなぁ。

シャオちゃんはえーとめんどくさいという表情を隠そうともせずに後ろからついてくる。

 

とりあえず靴も脱がなきゃなぁ・・・

 




流琉ちゃんです 俺の嫁です
ここから少し原作と乖離していきます

ここを書くために少し原作部分をやったのですが季衣が一人で戦ってたって
見方によっては随分とひどいんじゃないかなと思った次第
そしてそのことによって流琉ちゃんが疑心暗鬼情緒不安定に

あと今回で一刀くんが女慣れしている理由が書いてあります爆発しろ
目の前に反面教師がいれば自重するよね

きちんとフォローは入れるつもりなので次回を気長に待っていてください

全然話すすまねぇー


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

答えが欲しくて

遅くなりました
今回視点切り替えが多くわかりづらいかもしれません
場合によっては side kazuto とか付けるかもしれません

あと心情ばかりで今回つまらないかも と予防線を貼っておくヘタレです



目を覚ますと知らない天井、あれ私何してたんだっけ。

身体に柔らかい感触、どうやら私は寝かせられていたようだ。

何故かズキズキと額が痛み手で触れると濡れた布が押し当てられていた。

とりあえず周囲を確認するために起き上がる。

 

「ひやっ」

 

最初に目に入ったのはどっしりと寝入っている虎と抱きついて寝ている褐色の肌の女の子だった。

 

え、え、いったいどういう状況ですか?!

 

ほんとなんで私こんなところにいるんですか?!

 

一応服及び身体に違和感がないか確認する。

・・・大丈夫。脱がされたとか変な痛みとかはない。

 

安心したことでようやく冷静に周囲を見渡すことができた。

よくよく見ると見覚えがある。

そうここは私が探索した『姫ノ湯』の一室だった。

 

私は『姫ノ湯』に誰もいないことを確認すると中を色々と見て回った。

最初に見つけたところがお風呂場だったのは幸運だった。

私が歩くたびに汚くなってゆく廊下がなんとなく可哀想で、どうにかならないかと悩んでいたのだ。

そのお風呂の豪華さに見蕩れ、入りたいという欲求が湧き上がり耐えるのに一苦労だったが。

 

しっかりと汚れを落としたあと、一つ一つ部屋を巡る。

基本的に同じような間取りの部屋ばかりだったが、内装は全く見たことがない。

でも不思議と落ち着く、そんな部屋ばかりだった。

 

続いて目にしたのは台所。

うちとは比べようもない設備、また見たことのない器具が立ち並ぶ。

また裏口にはこれまた見たことのない施設があり、興味本位でちょこちょこ触ってみた。

すると試行錯誤の果てにこれを使うことによって簡単に水が汲める絡繰であることがわかった。

 

といっても私の頭では原理はわからないんですけど。

 

普段家事をする者にとって水が簡単に手に入るのはありがたい。

この絡繰がうちにあればと思わずにはいられないほど羨ましかった。

 

そして台所に戻った私はある奇妙な箱を見つける。

興味本位であけた箱の中に様々な食材が入っていたのだ。

見たことがあるもの、全く見覚えがないもの、すべてがしっかりと太く実り、新鮮でとても美味しそう。

私はいてもたってもいられなくなった。

 

そう、私はすべてを忘れ料理に没頭し始めたのだった。

 

 

 

 

そしてこのざまである。

 

 

 

 

 

私が目を覚ました気配を察したのか、虎がその瞼を開き、こちらをじっと覗いている。

虎を退治した経験はあるが、この状況はひどくまずい。

武器は持っておらず、腰を下ろしている体勢のため素早く動くことができず飛びかかられればおしまいだ。

それ以前に寝起きなため体がうまく動かないということもある。

 

 

お互い見つめ合う状態がいつまでも続くのではないか・・・そう考えた瞬間、建物中に高い音が鳴り響いた。

 

その音に驚いた虎は抱きしめるように寝ていた少女を振り払うように飛び上がるように立ち上がり臨戦態勢をとるが私はやはり咄嗟に動くことはできず呆然とその様子を眺めていることしかできなかった。

・・・そして寝ていた少女は虎によって顔からずり落ち、「ぐべっ」と女の子が上げるべきではない悲鳴を上げた。

 

「いたーーい。周々よくも落としてくれたわね!」

 

飛び起きた少女は腰に手を当て虎を叱りつける。

その怒りの雰囲気を感じ取ってか、はたまた言葉がわかるのか虎は情けない唸り声を上げたあと、シュンとしていじけるようにそっぽを向いた。

 

「ちょっと周々聞いてるの?シャオの顔に傷でも付いたらどーするのよまった・・・」

 

ここにきてようやく私のことに気づいたらしい。瞬間顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。

そしてようやく落ち着いたのか、先程虎にしたように腰に手を当て仁王立ちになって私に向かって一言。

 

「あんた、見世物じゃないわよ!」

 

ああ、理不尽だ。

 

 

 

 

 

 

さてあとは沸騰するのを待つばかり。

特製コンソメ鍋の完成である。そこ、鍋ばかりとか言わない。

手っ取り早く作れる鍋は楽なんですよ。まぁ下ごしらえで何を作っていたのかわからなかったからめんどくさくなって鍋に突っ込んだだけなんだけどね。

 

さて、残った時間で廊下を綺麗にしておこう。

掃除機とかク○ックルワ○パーとかあればかなり楽なんだろうけどそんなものありゃしない・・・はず。押し入れからそんなオーパーツが発掘されるのはさすがに勘弁願いたい。

なので雑巾がけをいたします。

実は実家の道場なんかは今でも雑巾がけを修行の一環に取り入れており、大変苦労させられているのである。

じーさんに竹刀でケツを叩かれながらとか、普通に通報していいレベル。どこぞのバラエティ番組の罰ゲームか。

しかし現実問題、腕や足腰も鍛えられるし鍛錬といっても過言ではないのである。

まぁだからといって道場すべてを一人でやらせる所業は鬼畜と罵られてもおかしくはないと思う。

 

さっと汚れた箇所を調べるとすべての廊下が少し汚れてるという微妙にめんどくさい状況なのがわかった。

あの緑の髪の娘はすべての部屋を回ったらしい。

途中風呂場で靴を洗っているのは微妙に良心の呵責でもあったのだろうか。

まぁあんな娘が泥棒するためにここにきたとは思いたくないが。

 

しかしどういう原理でこの旅館に来れるのだろうか?

詳しく地理はわからないが、諸葛亮と孫尚香が近くに住んでいた・・・なんてことはなかったはず。

 

謎は深まるばかりなり。

 

今回来た娘はいったい誰なのだろう?

 

思考の海に落ちようとしたとき、旅館中に笛の高い音が響き渡る。

 

「やべ、薬缶火にかけっぱなしだった」

 

笛付き薬缶、意外と便利。タイマーなどないから水の分量によっておおよその時間を図ることができるのは便利だ。

急いで火を止め、今度は鍋の蓋を開けると湯気とともにコンソメのいい匂いがふわっと広がる。

少し味見すると芋や白菜などの旨みがしっかりとスープに染み出し、ソーセージがコクを出す。

 

コンソメの素を作った人は偉大だ。

 

こんなもんまともに作ってたらいくら手があっても足りねーわ。

本物をつくろうとすれば多くの食材、手間、時間がかかる。

その分美味しさもひとしおであろうが何より知識がないのが1番問題だ。

できることを知っているだけ全然違うが、手探りで食材やら調理方法を模索していくなんてどこの料理漫画やねん。

 

閑話休題。

 

ひとまず料理も完成したし、シャオちゃんもいい加減お腹をすかしている頃だろう。

はたまた先程の音に驚いていたかもしれない。こちらに来ないということはなにかあったのだろうか。

もしかしたら緑の髪の少女が目を覚まして話しているのかも。

 

とりあえず少女たちのいる部屋にいって確認だけしてこよう。そう考えて部屋に向けて歩み始めた。

 

 

 

そして俺は向かった部屋で取っ組み合いをしながらお互いに暴言を吐くという喧嘩を目の当たりにしている。

一応ご主人様(?)の危機のはずだが、周々は我関せずとばかりに部屋の隅で寝ていた。何か嫌なことでもあったのだろうか。

 

「いーからとっととシャオに謝りなさいよ」

 

「嫌よ、どーして私が謝らなくちゃいけないのよ」

 

「きーっ、シャオは孫家のお姫様なのよ!江東の虎の娘が舐められっぱなしなんていい恥だわ。さっさと謝りなさい!」

 

「あなたの家がどーとかなんて知らないわよ」

 

「うー、子供の癖にー」

 

「あなただって私と背も胸も対して変わらないじゃない」

 

「はっ、孫家の血筋はね、おっぱいもお尻も出るとこ出るのよ!シャオだってもうあと数年すればお姉様たちみたいにばいんばいんなんだから!」

 

「みーとーめーたー!今自分でまだ子供だって認めた!」

 

「う、うるさいこのデコ助!」

 

「デコ助?!」

 

不毛なやりとりだった。

いや、シャオちゃんの姉妹・・・おそらく孫策と孫権も女性だということが解った。

あとおっぱいもお尻もしっかりでているらしい。GJ。

 

「おーし、そろそろお兄さん気づいて欲しいなー。あと部屋をボロボロにしないで欲しいなー」

 

そういって取っ組み合いをしている二人の首根っこを猫のように掴み、バラバラにする。

興奮冷めやらぬのか、この状態になってもお互いににらみ合い鼻息を荒くする。

いい加減女の子同士が争うところを見たくないため、少々手荒なことをするのを覚悟してもらおうか。

 

「ふんっ!もういっちょ、ふんっ!」

 

掛け声とともにヘッドバット。

あいにくと首をしっかりと固定してないためたいした威力は得られないがこれで頭も冷えただろう。

先に食らったシャオちゃんの光景を見てかもうひとりの娘が逃げようとしたが、残念ながら持ち上げられているため逃げようにも足をパタパタと動かすくらいで逃げられない。

そのペナルティとして少しばかり黒い笑顔を添えて恐怖を演出してみたり。

目を回している二人から手を放すと弱々しく座り込み額に手を当て痛みを和らげていた。

 

「人の家(ではないけど)で暴れたり女の子同士で物理で喧嘩はよくないな。特にシャオちゃんはスカートなんだからもうすこしお淑やかにね」

 

「でもこいつが!」

 

「はいはい、口答えしないようにねー」

 

そう言ってめくれ上がった裾を直すと興奮で赤くなっていたのが今度は羞恥で赤くなりこちらを睨みつけてくる。

そんな視線を無視しつつ今度はもう一人の娘の方に向き直る。

 

「さて、俺の名前は北郷一刀だ。好きなように呼んでくれていいよ」

 

できる限り愛想よく、先程の黒い笑とは異なった表情で笑いかける。

一瞬身体を緊張させたものの、肩の力を抜いてくれたようだ。

 

「あ、あの勝手に上がり込んですみません。私、典韋って言います。介抱していただいたみたいでありがとうございました」

 

子供に似合わない綺麗なお辞儀をする。よほど両親の教育がいいのかそれともこの歳で大人の世界に足を踏み入れているのか。

しかし今度は悪来典韋ですか。史実通りなら恐ろしい怪力がある・・・ようには見えないな。

 

「シャオは孫尚香よっ」

 

対してこちらはいかにも横柄な態度である。孫堅さん、もう少ししっかりと教育したほうが良かったんじゃないでしょうか。

 

「一応確認だけど、典韋ちゃんは何しにここに侵入したの?」

 

そう質問すると典韋ちゃんはちょこっと困ったような顔をした。

 

「あの、本当にごめんなさい。見たことのない建物があるなって思ってつい・・・あ、あと台所にいたのは思わず見たことのない食材を目にして、こう、ぐわーっと」

 

作りたくなったんですね。

 

「でも、うちの近くの森にこんな建物あるなんて知りませんでした」

 

「あ、シャオもこんなヘンテコな建物があるなんて知らなかったー」

 

不思議そうな顔をする二人を後目に俺はやっぱりかと思う。どうやらここの空間自体もう常識の範囲外らしい。

二人にどう説明したものかと考えたが、多分理解できないだろうから諦めた。

 

「そういうものだと思ってよ。まぁ典韋ちゃんが泥棒とかじゃなくて良かったよ」

 

山賊何かがここに来れるかどうかはわからないが、悪意を持つ者がやってこないとも限らない。

防犯設備についても少し考えておく必要があるだろう。セ○ム?やったね、すごいね。

 

「じゃ、ま落ち着いたところで風呂にでも入ろうか」

 

 

「「へっ?」」

 

そういって二人を左右に抱きかかえる。

 

「え、あの、その、なんでですかー?!」

 

「一刀、抱きかかえるならもうちょっと優しく抱きかかえてよっ」

 

「だって二人共汚れてるし、ついでに言うなら汗臭いし。優しくはもう少し大人になってからねー」

 

足で襖を開けさっさと廊下を進む。

 

「一刀ひどーい。女の子に向かって臭いってどういうことよ!あとシャオはもう十分大人の女よ!」

 

「はいはい、大人大人」

 

「ちょ、ちゃんと話を聞きなさいよー!」

 

手足を動かし逃げ出そうともがくものの残念、その小さな身体ではどうしようもないのだった。

反対側の典韋ちゃんは大人しく、いや緊張してるのか身じろぎせずにいる。とても対照的な二人だ。

 

 

 

「下ろすよー」

 

脱衣所に着き、言い終わらないうちに両手を放す。

 

「あだぁ」

 

「きゃっ」

 

と二人は地面に叩きつけられ悲鳴をあげる。シャオちゃんなんかは涙目でこちらを見ている。

 

「なんでシャオがこんな目にあわなきゃいけないのー!」

 

「うん、まあごめんね?あと「あだぁ」って悲鳴はどーかと思うよシャオちゃん」

 

姫(笑)

 

「じゃあとっととお風呂入って綺麗にしちゃってねー。あ、一応言っておくけどお風呂に入る前にしっかりとかけ湯して汚れを落とすこと。

そのまま入って湯船が汚れてたら全部掃除させるからな。あとタオルは湯船に入れないこと。タオルってこの手ぬぐい(?)のことね。ご飯準備して待ってるから、早めに上がってね」

 

風呂場、洗濯カゴ、タオルを指差す。

しかし二人はもじもじして服を脱ぐことすらしようとしない。

 

「ほら、さっさと入りなよ」

 

「ならさっさと出ていきなさい!」

 

典韋ちゃんはそうだそうだと言わんばかりに下を向いたまま何度も首を縦に振る。

 

なるほど、そういうことか。

 

「はっはっは、君たちに欲情することなんてあるわけえぇぇぇぇぇぇ」

 

言い切る前に典韋ちゃんが脱衣棚を持ち上げる。

俺の三分の二の身長もない子供が大きな脱衣棚を軽々と持ち上げる光景はもうシュールを通り越してホラーの領域だった。

真横にいるシャオちゃんですらドン引きですよ。

 

「おーけーすぐに出ていこう。だが言っておくが二人の裸が見たいからわざと残ろうとしたわけではないからな」

 

これだけは言っておかねば。

ありとあらゆる防衛線を張り巡らせておくのは、現代日本人としては必須といっても過言ではないのです。

あとになって困るのはきっと自分なのだから。

 

逃げセリフを吐いてとっとと脱衣所から逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、シャオお腹すいてるんだからさっさと入ってご飯にするわよ」

 

そういって孫尚香さんは服を脱ぎ出す。

先程まで意識していなかったが、彼女の浅黒い肌は私の邑の近くではほとんど見ない。

どちらかといえば南部に住む人たちの特徴だ。

 

「ちょっと何ぼさっと見てるよの。あなたも急ぎなさい」

 

「は、はい」

 

私が手ぬぐいで身体を隠すのとは対照的に孫尚香さんは堂々と風呂場に入る。

慌てて追いかけると彼女はその風呂場の美しさに感嘆していた。

 

「すっごーい。なにこれなにこれ!」

 

目を輝かせて浴槽に飛び込もうとする彼女を腕を掴み止めると、こちらをジト目で睨んできた。

その気持ちはすごいわかる。すごいわかるんだけど・・・

 

「ほら、身体の汚れを流さないと。また北郷さんに烈火のごとく怒られちゃうよ」

 

「う、わ、わかったわよ・・・」

 

ゆっくりと屈み、飛び散らないようにそっと身体にお湯をかける。

思った以上に熱く、ありえないけど火傷するかと思ってしまった。

 

「孫尚香さん、お湯だいぶあつ・・・」

 

同じような失敗を繰り返さないよう孫尚香さんにも注意をしようと声をかけたところ・・・

 

なぜか彼女は悶絶していた。

 

「ど、どうしたんですか?」

 

熱いといっても悶絶するほどではないはず、じゃあ一体何が原因なのだろう?

 

「き、傷に、しみ、染みて~」

 

よく見ると彼女のその肌には細かいけれど無数の真新しい傷が出来ていた。

傷というものは気づかないようなものでも意外とというか地味に痛いのだ。

一度慣れてしまえば問題ないがそのためにも多少の痛みを我慢しなければいけないのは結構勇気がいる行為だと思う。

 

「あー、が、頑張ってね」

 

残念ながら私にはどうすることもできないのだ。

いつもやるように手ぬぐいに湯を浸し、身体をこすって洗っていく。綺麗になるという感覚はやっぱり好きだ。

 

手早く洗ったあと、お湯に浸かるか重巡している彼女を後目にそっと浸かる。

 

熱い、でもそれは嫌な熱さではない。

体の芯から嫌なものが抜け出てくるような、不思議な感覚。

芯から温まっていく、とても気持ちがいい―――――

 

初めてのお風呂がこれなら、もうほかのお風呂なんて入ることなんかできない・・・

 

あまりの快感にふやけていると、それを目の当たりにしてか掛け声とともに孫尚香さんが飛び込んだ。

 

「ちょっと!顔にかかったじゃない!」

 

「う、五月蝿いわね。ちょっとぐらいいいじゃない。あー気持ちいいー」

 

飛び散ったお湯は盛大に私の顔にかかり、せっかくのいい気分が台無しにされたにも関わらず加害者は素知らぬ顔。

飛びかかってやろうかとも考えたけれど、気持ちよさそうに湯に浸かる姿を見てなんだかどうでも良くなってしまった。

これがお風呂効果なのか、と実感した。

 

「ねぇ、あなた典韋だっけ。寝てたときうなされてたけど何か悩みでもあるの?」

 

彼女からしたらたぶん思ったことを口に出しただけだったのだろう。

私の事情は本来、こんな出会ってすぐの人に話すようなことではないと思う。

でもついつい喋ってしまったのだ、湯に溶け出すかのように。

 

「で、人が信用できないって訳?」

 

「う、うん」

 

彼女は私の話を聞いたあとうんうんと何度か頷き、私がずっと考えてきたことの答えを出した。

 

「邑の人たちがその娘を差し出した?そうね、確かにそうかもしれない。でもね、今の時代保護下にしてもらうために人を出すなんて当たり前のこと。口減らしなんてことが起きてる地域もあるわ。

それに比べたら一人配下になるだけで保護下になるならかなりの高待遇よ」

 

損得勘定で考えれば、一人を犠牲にすればみんなが助かるのは正しいこと。でも。

 

「彼女を一人戦わせた?それはあなたの思い込みじゃないの?もしかしたら彼女は邑の人を巻き込みたくなかったから一人で突っ走ったのかもしれないわよ。

それに邑の人たちだってただ逃げ出すんじゃなくてできることをやってたんでしょ?」

 

季衣は優しいから。

 

「それに彼女は曹操のところに自分で決めて行ってんでしょ。彼女が信じた人なんだから、あなたも信じなさいよ」

 

私が―――信じる。

 

どうしてそんなことにも気づいてなかったんだろう。

友達が急にいなくなってしまっただけで、ここまで視野が狭くなってしまっていた自分に驚いた。

そして一方的に決めつけ、勝手に疑心暗鬼になって、季衣のことすら信じることができなくなっていた。

 

「シャオだって、母様が死んで、雪蓮姉様や蓮華姉様と離れ離れにされて、冥琳や祭や思春、明命に穏とも会えなくなって。寂しかったけど、我慢したの!

孫家の姫として、いつか私たちの街を取り戻す時まで耐えなきゃいけなかったの!」

 

急に感情的になって声を荒げた彼女は次第に涙声が交じるようになってきて。

 

「シャオは信じてるの。いつか雪蓮姉様が孫家を復興させて、また皆で集まってバカみたいにお酒を飲んで、雪蓮姉様と祭が冥琳に飲みすぎって説教されて

その様子を蓮華姉様がため息をつきながら、でも楽しそうに見て、思春は陰ながらその姿を見守って明命は猫と戯れて、穏は本読んで発情してるの!

そんな日常がきっと来るって信じてる。皆を信じてるの」

 

最後には普通に泣いていた。私も。

 

「シャオのことはシャオって呼んで」

 

「私も流琉って呼んでください」

 

「シャオに敬語なんて使わなくていいわ。許してあげる」

 

「うん、シャオよろしくね」

 

私たちの中に固まっていたものが、湯溶け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、青春やってるところ悪いんだけど、いい加減人を待たせてるってこと思い出してくれない?」

 

明らかに怒気を含んだ声、シャオと一緒に恐る恐る振り向くと風呂場の入口に北郷さんが仁王立ちしていた。背後になにか鬼のようなものが見え隠れしている気がする。

私たちの顔が一気に青くなる。あまりの恐怖に湯に使っているとはいえ―――ほとんど裸を見られているということを気にする余裕すらなかった。

 

「1時間、随分と長いお風呂だねーお兄さん随分と待ったんだけどねー。いつ出てきてもいいようにしてたらスープは煮詰まっちゃうわ、空腹でかしらんが周々はなぜか俺をじっと見つめてくるわで散々だったんだけどね。

いつの間にか二人は随分仲良くなっちゃってるし、それはいいことなんだろうけど仲間はずれにされてちょっと寂しいっていう気持ちもなきにしにあらず、てな気分なんだけどどう思う?」

 

「え、えっと一刀も入る?とーっても気持ちいいよ・・・?」

 

「そうだね、夜に三人で入ろうか」

 

「え?!北郷さんそれはちょっと・・・」

 

「北郷さんっていうのも他人行儀だよね。もうちょっとフレンドリー・・・親しみの持てる呼び方をして欲しいかな」

 

「あ、う、は、はい・・・」

 

ダメだ、顔は笑っているけど目が全く笑っていない。

すでにシャオちゃんは隣でガタガタ震えてるし、あんまり起き上がりすぎると胸見えちゃうよ?

 

「あと10分だけ待とうか。それまでに準備できなきゃどうなるかは・・・わかるよね?」

 

そう言って黒い笑顔のあと北郷さんは出て行った。張り詰めていた空気が姿が見えなくなってようやく弛緩する。

 

「シャオ、早く出なきゃ。10分って何かわからないけど急がないと」

 

「冥琳ごめんなさい冥琳ごめんなさい冥琳ごめんなさい冥琳ごめんなさい冥琳ごめんなさい冥琳ごめんなさい冥琳ごめんなさい冥琳ごめんなさい冥琳ごめんなさい冥琳ごめんなさい」

 

「あーもーほらさっさと行くよ。もー手がかかるところが季衣にそっくり」

 

手を引いて無理矢理湯船から出す。

うぐぐ、遅刻しちゃったらどうなるのかなぁ。

 

 




口調、口調がわからん
次回はもう少し軽い話にしたいなぁ でも笑いどころ作るのって難しいからなぁ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一人じゃなくて

日常―――


彼女たち、シャオちゃんと典韋ちゃんは食事のあとすぐさま帰っていった。

せっかく作った鍋もむしろ熱いと罵られる始末、俺は絶対に悪くない。

 

「もう一度邑の人たちの話をしてきます」

 

「シャオも。流琉のおかげで大事なこと思い出したし」

 

「いってらっしゃい」

 

二人共すっきりとした顔になっていた。

俺も笑顔で送り出す。

 

きっとあの風呂場での会話がお互いにいい影響を与えたのだろう。実は俺はあの会話を聞いていた。

 

もちろん風呂場に監視カメラ及び盗聴器などというゲスいものを仕掛けておいたわけではない。

たまたま、そうたまたま呼びに来た時に空気を読んだだけだ。断じて盗み聞きするために忍び込んだわけではないのだ。

 

あの年齢で家族や友人と引き離され、周囲の人間が信用できなくなる。

それはとても辛いことだ。

 

今回たまたま同じような状況の人と出会い、気持ちを吐き出すこと、共有できたことは運がいいことだろう。

 

そしていま二人は・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一刀!どうしよう!」

 

不意に後ろから抱きつかれ、危うく倒れそうにながなんとかバランスをとることに成功する。

 

「お帰りシャオちゃん。そんなに慌ててどうしたの?」

 

「ヤバイの、危機なの、危ないの!私がいなかったことが袁術たちにバレちゃったの!このままじゃお姉様たちがどんな・・・」

 

すべて言い終える前にシャオちゃんを優しく抱きしめる。

シャオちゃんはしばらくじっと俺の顔を見つめていたが、やがて俺の胸に顔をうずめた。

 

嗚咽が聞こえる。

 

俺はシャオちゃんの気が済むまで、優しく抱きしめながら頭を撫で続けた。

 

「どう、落ち着いた?」

 

無言のままうなづく。どうやら落ち着いたようだ。

 

「軟禁状態で抜け出してきた・・・だったね」

 

「うん、シャオのわがままで皆に迷惑かけちゃった。どうすればいいのかわからないの」

 

「どんな事情があったとしても、勝手に出ていくことは駄目っていうのはよくわかったよね。

ちゃんと反省してるなら、ごめんなさいすればきっと許してくれるよ」

 

「ほんと?一刀、嘘じゃない?」

 

「ああ、シャオちゃんのお姉ちゃんたちなんだからきっと大丈夫だよ」

 

そういうと、シャオのお姉様だからね、と笑顔になる。

 

「シャオ、大丈夫?!」

 

そして台所から飛び出してきたのはエプロンをつけた流琉ちゃん。

右手にもつ包丁の切っ先が微妙に俺の方を向いてるのは気のせいだよね。

 

「兄様、なにしたんですか!」

 

「気のせいじゃなかったー」

 

「なに言い訳してるんですか。刺しますよ」

 

そう言って包丁でチクチク俺の腹をつついてくる。

流琉に限ってそんなミスをするわけないと思っていても怖いものは怖い。だって目に光がないんだもん。

 

「流琉ーどうしよー」

 

「よしよし、とりあえずご飯食べてどうするか考えよ」

 

今度は流琉ちゃんに抱きしめられ、シャオちゃんは居間に進んでいく。

うーん、流琉ちゃんのシャオちゃんに対する情が半端ない。

これは愛情なのか友情なのかで今後の流琉ちゃんへの対応に大幅な変更が必要になってくるだろう。

 

保護者の身としては前者にならないことを強く願うしかないのだが。

 

 

なぜ二人が今もここにいるのかといえばいつの間にかここを中継地点として使われているのだ。

シャオちゃんと流琉ちゃんの住んでいるところはとてつもなく遠い。行き来しようとすればひと月はかかってしまう。

そこで彼女たちはここで会うことにしたのだ。

 

出たことがない俺にはわからないが、ここに来たい、と強く念じて森に入ればここに来ることができるらしい。

まさにミラクルパワーである。

 

そして挙句に流琉ちゃんはここに住みだした。

あの時の食材、そして俺の料理の斬新さ(腕は大したことはない)に感動したらしい。

俺は料理の腕を流琉ちゃんは新しいアイディアを、お互いを研磨するために日夜二人で料理に励んでいるのだ。

それと真名を許してもらった。&なぜかまたもや兄呼ばわりされる次第になったそうな。

 

「様付けってなんか嫌なんだけど」

 

「いえ、なんかあの時を思い出すと様をつけなければならない衝動に駆られまして・・・」

 

俺の怒りはトラウマになったらしい。少し罪悪感。

 

ちなみにシャオちゃんはさすがにここに住むことはできないので、暇を見つけては遊びに来るという形をとっている。

 

一人で寂しかった生活に、新たな風が吹いたのだった。

 

 

 

 

「さて、今日の食材はなにかなー」

 

食材BOXを開ける。いい加減箱箱じゃなんかわかりづらかったので俺が命名しました。

 

「昨日はうなぎ、でしたっけ。にょろにょろツルツルしてて気持ち悪かったですけど、見た目に反してとっても美味しかったですね」

 

食材BOXの蓋を開けるといくつかの野菜となぜか炭、木のタライが中央に鎮座していた。

そしてその中には5匹ほどの元気に動き回るうなぎ。

 

思わず呆然としちゃったね。まさか生きている状態で食材BOXの中に入っているとは。

数日放置したら腐りましたとか嫌すぎるんですけど。

 

捌く際には

 

「きゃ、や、やだぁ。服の隙間から中に・・・に、兄様と、とってくだひゃいぃぃ・・・」

 

とまあ流琉の身体を這いずり回るうなぎというお約束をしつつ、試行錯誤しながらうなぎの蒲焼を完成させたのである。

 

わざわざ炭が入っていたところを見るとなかなか気が利いていると言わざるおえない。

 

「はわぁ、ふっくら柔らかいですね」

 

「うん、まさかこんなところでうなぎを食すことができるとは思わなかったなぁ」

 

ちなみにうなぎは現在高級食材である。学生だった俺の手の届くものではない。

もちろん聖フランチェスカ学園にそんなもんでるわけがないのは火を見るより明らかである。

 

そんなこんなで流琉ちゃんにとっては毎日新しい食材に出会えるという天国のような環境なのだった。

故に朝の食材チェックには至福の時なのだった。

 

「え?」

 

しかし今日の食材は一味違う。

 

「あの、兄様、これは一体・・・」

 

流琉ちゃんが手に持っているものは現代日本では誰でも一度は聞いたこと、見たこと、食べたことのあるシロもの。

そう、それは・・・

 

「"即席ラーメン"?!」

 

5袋入りお徳用値下げシール付きだった。

 

 

 

 

 

ラーメンどんぶり(食器棚に普通にあった)に注ぎ刻んだネギを載せ、完成。

ここまでの所要時間わずが5分である。

 

「兄様、これすごいですね。こんなに簡単に作れてしかも美味しいなんて!」

 

「ああ、うんそうだなぁ」

 

ずるずると麺をすする音がこだまする。

しょうゆをベースとした味はこちらに来てからまったく食べる機会もなく、懐かしさが胸の内をあふれる。

あるあるネタ、毎日彼女の美味しい手料理を食べているけど、時折どうしようもなくジャンクフードが食べたくなる、そんな心境だった。

しかし嬉しいは嬉しいのだが、なんか微妙に納得が行かない。食材を支給してもらっている時点でかなりありがたいことなのだが、今回の支給は所々に手抜き感が見られる。

つーかなんだよ値下げシールって!生活費なくなったの?今後しばらく特売の即席麺で過ごせって言うの?!

このことがきっかけで後日旅館の裏を切り開いて家庭菜園ができる。

もちろん整地は流琉が一晩でやってくれました!

 

 

「麺はお湯で煮るだけ、スープはこの粉をお湯に溶かすだけ・・・革命です!早い、美味い、保存ができる、完璧じゃないですか」

 

この時代、食品の長期保存はなかなか難しい。

故に内地では海産物は高価なものであり、良質な干し鮑といったものは金などと同等価値がある場合もある。

また食事にも手間が掛かり、料理屋でもなく僅かな時間で済ませるというのは難しいものなのだ。

 

ちなみに余談だが流琉は特級調理師レベルの腕を持ちながらも庶民の出であり、手間をかけるほどいいと言われる宮廷料理よりもこういった面で寛容である。

 

「あーシャオに内緒で何美味しそうなの食べてるの!」

 

匂いに釣られてか、シャオちゃんが足音を立てながら台所へとやってきた。

 

「あ、ごめんごめん。今からシャオちゃんの分も作るからちょっと待っててね」

 

そう言って席を立ち、水を入れた鍋に火をかける。

 

「え、今から作るの?シャオもう待てないんだけど」

 

「大丈夫ですよ、10分もあればできますから」

 

「え、10分?!」

 

ちなみに二人には俺らの時間の概念を教えてある。

旅館なだけあって各部屋には時計があるし俺としてもできればわかりやすい方を使いたかったからだ。

 

二人がガールズトークに花を咲かせているあいだにネギを刻み、昨日の残りの卵を取り出す。

沸騰した湯に麺を入れ、いいぐらいに柔らかくなったら粉末スープを、溶け切ったところで卵を投入。

潰れないように麺を器に移し最後にネギを載せ完成。

 

「あいおまたせー。シャオちゃん麺が伸びないうちにどうぞー」

 

机の上に丼を載せると、湯気がふわっと立ち上る。

 

「うわーほんとに10分掛からなかったのね。初めて嗅ぐ匂いだけど、いい匂いね。あと上に乗ってるのは・・・卵?」

 

「そそ、半熟たまご~」

 

さすがに煮玉子の準備はしてないから半熟卵で我慢。

さてシャオちゃんは何派かな?潰す派?丸呑み派?俺は丸呑み派です。

 

蓮華を使ってスープを口にする。そしてずずっと音を立て麺をすする。

なぜか俺と流琉ちゃんは無言でシャオちゃんの動きを注視する。

 

 

「・・・美味しい」

 

 

その言葉を聞いてほっと息をついた。

現代のラーメンが受け入れられるとは、さすが日○食品やでぇ。

 

すごい勢いで麺がなくなっていく。

シャオちゃんは潰す派だったようで思い切り膜を破り、卵がスープに馴染んでゆく。

 

そして口にして卵とスープの相性の良さに驚いているようだ。

 

「なるほど、溶かさず半熟にすることでスープに変化をつけれるようにしたんですね。勉強になるなぁ」

 

即席麺からでも学ぶ姿勢を忘れない流琉ちゃんは素直ないい子だなぁと本当に思う。

 

「一刀!美味い、もう一杯!!」

 

遠慮のないこっちの子はどうしてやろうか。

 

 

 

 

 

「そういや袁術に抜け出したことがバレたって話だっけ」

 

昼食も摂り終え、お茶を飲みながら旅館の一室で話し始める。

 

「そうなのよ、流琉、一刀~どーしたらいいの~」

 

頭を抱えて情けない声を出す。

 

「んーしらばっくれるとかは?」

 

「無理無理。疑惑が出た時点でもうダメなの。たぶん無理矢理押し切られちゃう」

 

「じゃあいっそ滅ぼしてしまうのはどうですか?」

 

「できるならやってるわよ流琉」

 

意外と黒い発言をするのは流琉。勅使とか支配階級の人にはやはり敵意を持っているようだ。

邑の人と解決したかと思えたが、これはまた別問題のようだ。

 

「一刀はなんかないの?」

 

「うーん、こうゆう時はご機嫌を取る貢物とかが定番なのかなぁ」

 

「貢物かぁ・・・あいつら金だけは潤沢にあるからそうそう欲しいものなんて・・・」

 

あ、という表情。

 

「そうだ、はちみつ!前に雪蓮姉様がはちみつがどうのこうの言ってた気がする!」

 

「でしたら袁術様に捧げるはちみつを取りに行ってました・・・とかでしょうか?」

 

「ただのはちみつよりもうひとひねり欲しいな。はちみつを使ったデザート・・・甘味なんかどうだろう」

 

「「それだ!!」」

 

ゴールは見えた。あとはそこまで行く道筋をつくるだけ。

 

「ねー流琉、一刀。はちみつを使った甘味つくって~」

 

「いいけど・・・作るのはシャオちゃんだよ?」

 

「え”?!」

 

俺の一言によって甘い顔が一気にひきつる。

 

「シャオ、当たり前じゃない。甘味なんて日持ちしないし。シャオが作るのよ」

 

「ええー。どうしてシャオがそんなことしなきゃいけないのよ」

 

ぶー垂れる。心なしか髪の毛も逆だっている気がする。

でもね

 

「付いて行きたても、俺この森から出られないし。流琉も距離が遠すぎて行くことできないし。ついでに言うと自分の蒔いた種なんだから自分で刈り取るのが筋ってもんじゃないかな?」

 

「そうよ、このままだと季衣みたいになっちゃう」

 

そんなにひどいのか、季衣ちゃん(ちゃんとした名も知らぬ少女)

俺たちに言われついに観念したのはいいが、俺たちを指差しキレ気味だ。

 

「うーーーーーー、わかった!やってやるわ。その代わり流琉も一刀もしっかりと手伝ってよね!」

 

「提案したんだ、ちゃんと責任は持つさ」

 

「友達なんだから、当たり前じゃない」

 

そういって俺たちは腰を上げると、台所へ向かっていった。

 

 

 

 

 

包丁を握ったことのないシャオちゃんに料理を覚えさせることは難解を極め、シャオちゃんが作れる、かつ珍しくて美味しいものという無茶ぶりをさせられる。

結局出来上がったのははちみつプリンという代物だった。

 

それはたいそう喜ばれ、シャオちゃんは袁術に気に入られるというかなりめんどくさいことになったそうな。

 




いい加減出したかったネタ
食材が供給されるという時点でずっと考えていました

あと申し訳ないのですが流琉、シャオの口調が安定しません
特に流琉は俺の嫁なのにどういうことなの・・・?

前回は設定の部分が多くぶっちゃけ書いていて面白くないなーと自分でも思っていた
今回は日常をいれて面白いと思ってもらえるように書きました


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

変化しちゃって

短め


「でねっ、美羽ったらすぐに私にぷりん作ってーってせがむのよ。あと周々に乗せて乗せてってしっつこーいくらいせがむし!

まったくどーいう教育されていたらあんなわがままに育つのかしら」

 

君も同類だよね、そう思いながらも口には出さない。

畳で寝転びながらぱり、ぽり、とシャオしゃんがせんべいを頬張る。

甘辛い香ばしい匂いと網の上で焼けるせんべいの音、そしてシャオちゃんのせんべいを噛み砕く音。

シャオちゃんのお茶請けというリクエストに答え、流琉と協力して囲炉裏でせんべいを作っているのだ。

 

「兄様、このせんべいというお菓子はとてもいいですね。意外と簡単に作れますし、多少保存もできそうです」

 

「うんうん、焼きたてが美味しいんだよねー。お茶漬けの上にこれを砕いてちらしてもまた美味しいし」

 

「お茶漬け・・・ですか?」

 

「ああ、お茶漬けってなかったっけ?今度材料が食料BOXから出てきたら作ってみようか」

 

「はいっ。お願いします」

 

「ちょっと、シャオの話聞いてる?!」

 

すっかりと畳に馴染んでらっしゃるお二人。

俺の行動を真似てか、たった数日でかなりここの生活に慣れているようだ。

 

「ほら、寝転んで食べるから食べカスが溢れてる。ほっぺたにもくっついてるしだらしないなぁ」

 

「なら一刀がとってよ。ほら、んー」

 

そういって目をつむって唇を出す。まるでキスを待つような仕草だ。

残念ながら普通に取るけど。

 

「ほりゃ、綺麗になったぞ」

 

「一刀、そこは唇で取らなきゃ。女の子の方から誘ってるんだからきちんとしなきゃ駄目よ」

 

「シャオ、はしたない」

 

どう答えるか迷っていると流琉ちゃんが注意してくれる。

流琉ちゃんは見た目は子供だけど、こういうところはしっかりしてるし調理も家事もできる。

たまに口うるさいと思うときもあるけどきっといいお嫁さんになるだろうね。

 

「兄様、なんか変なこと考えませんでした?」

 

「もちろん」

 

「そこは否定するとことじゃないんですか!?」

 

ノリツッコミもこなすし、なかなかお目にかかれないよこんなに優秀な人材は。

 

「ぶーぶー。流琉は堅いのよ。そんなんじゃいつまでたってもいい旦那は捕まらないわよ」

 

「だ、旦那様だなんて、もっと先の話ですし・・・そ、それにっ・・・」

 

赤い顔してこちらをちらちらと覗き見る姿可愛いな。俺の方が背が高いから、上目遣いになりかなりぐっとくる。

だがしかし!

 

「ごめんな流琉ちゃん。俺には既に心に決めた人が」

 

「「どこのどいつだ!!!」」

 

「いたいいたい苦しい苦しい、えりとか掴むのやめて、折れちゃう肋骨折れちゃう!」

 

シャオちゃんがえりを掴み締め上げ、流琉ちゃんが抱きついて肋骨を締め上げる。

駄目だ、現代でほぼお馴染みになっているような冗談が通用しない。

特に流琉ちゃん、君のパワーはやばいんだって。

 

しかし残念ながら骨がきしみ、意識が落ちるまで二人の猛攻は続いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると布団の上だった。

肋骨が痛いが折れてはいないようだ。ここには医者はいないため怪我や病気はできる限り避けなければならない。

嫉妬が元で死ぬとかどんだけ間抜けな死に方だよホント!

 

「あ、兄様。ようやく目を覚ましたんですね」

 

エプロン姿の流琉ちゃんが俺の元にきてそばに腰を下ろす。流琉ちゃんからほのかに暖かい匂いがしたから料理でもしていたのだろう。

 

「まったく、もう夕食ですよ。シャオはとっくに帰っちゃったし、兄様はもう少し身体を鍛えたほうがいいんじゃないでしょうか。女の子に絞め落とされるとか問題外です」

 

「善処しよう。まぁ無理だと思うけど」

 

あれ俺に受け止めろっていうのはなかなか酷だと思うよ。しかし女の子がこれだけ強いなら男はどれほど強いんだ三国志!

もし敵意を持つ者がここにやって来たとしたら・・・俺はいったいどうすればいいのだろうか。

 

「流琉ちゃん、俺一体どうしたらいいんだろう?」

 

「なに急に真面目な顔してしんみりしたこといってるんですか。とりあえず説明してください」

 

やれやれといったような、呆れたような顔でため息をついた。

 

「いやね、もしここに敵意を持つ奴がきたらどうすればいいかなって。俺こんなだし。逃げたくても俺ここから出られないし」

 

「なんだそんなことですか。兄様なら私が守ってあげますから心配せず、いつもどおりヘタレていてください」

 

「ヘタレ?!誰がそんなこといってたの?!」

 

「シャオですけど。なんかシャオの前でかなり恥ずかしい宣言してたって言ってました。シャオ、ちょこっと涙ぐんでましたよ、『シャオの王子様がヘタレたっだどうしよう』って私に相談してきましたから」

 

うわぁ、初めて会った時のあれか。軽い冗談だったのに。

でも王子様扱いされなくなったのは、俺にとってありがたいことだし、今のシャオちゃんとの関係がちょうどいい。そういう意味ではあの発言にもちゃんと意味はあったわけだ。

 

「もう、兄様はもう少ししっかりしてくださいね。外では最近妙な噂とか、危ないことになってますし」

 

「噂?危険なこと?」

 

「はい。詳しくは知らないんですけど、天の御使いがどうのこうの・・・」

 

流琉ちゃんが言い終わる前にけたたましい音で扉が開く音が聞こえる。あの方向と音の大きさから恐らく玄関だろう。

 

「兄様、私が見てきますから。ここから動かないでくださいね」

 

「いや、ここは俺が」

 

「もしかしたら危ないかもしれませんし、私に任せてください。それに兄様は先ほど起きたばかりでしょう」

 

そういって立ち上がり、すぐさま出て行った。

身体は多少痛むが別に動けないほどじゃない。もちろん痩せ我慢などではないですよ?事実ですから。

それに女の子一人向かわせた―――なんてまるで流琉ちゃんが嫌悪した邑の人そのものじゃないか。さすがにそこでヘタレるほど腐ってはいない。

しかし流琉ちゃんは自分が季衣ちゃんと同じような状況で同じような行動をとっているなんて思ってもいないだろう。それだけ大切に想われているのがちょっと嬉しかった。

 

 

「兄様、逃げてください!」

 

腰を上げすぐさま追いかけようとしたとき流琉ちゃんの叫び声が旅館に響き渡る。

そしてだんだんと近づいてくる大きな足音。かなり早いステップから相当な速さだと当たりを付ける。

 

逃げるか否か。

 

流琉ちゃんが突破されたということはそれなりの手練、だと思う。

けどわざわざ流琉ちゃんを突破してこちらに向かってきてるということがまず不可解だ。

こちらに来て恨みを買った覚えはないし、まず出会っているのが4人足らず。

 

朱里ちゃん

 

雛里ちゃん

 

シャオちゃん

 

流琉ちゃん

 

シャオちゃんなら流琉ちゃんが慌てるはずないしもちろん流琉ちゃんは論外。

朱里ちゃんと雛里ちゃんが流琉ちゃんを突破できるとは思えない、いや思いたくない。

別れてから鍛えて?とかドーピングだよそれ!

 

可能性として高いのはシャオちゃんの関係者。小覇王とかまじやめてください死にますから。

うちの妹になにしてくれての?とかいいえなにもしてませんされてませんから!

 

 

 

 

 

 

 

「おらぁ北郷一刀てめーどーゆうことだごるぁあああ!!!」

 

目の前に現れたのは小柄でフードを被った女の子。顔は見えないけど声からして恐らく間違いない。

侵入者は右の拳を引いて見事なテレフォンパンチ。美味しいです。

突き出された腕を両手で掴み引き寄せ、そのまま懐に入る。

 

「ぐふっ」

 

軸足をずらし、殴りかかってきた勢いを利用、最小限の動きで相手を制する。

そしてそのまま華麗なる一本背負い・・・

短い悲痛な悲鳴と、床に何かが叩きつけられる音が響く。

 

タイミング、スピード、力加減とどれをとっても文句のつけようがない。

過去にさかのぼってもこれほど見事に決まったのは初めてだ。

思わず一仕事終えた職人のように汗を拭う仕草をしてしまう。

 

「に、兄様、大丈夫ですか?!」

 

慌てた様子で流琉が駆けつける。

そしてやり遂げたとてもいい顔をしているであろう俺と投げられて目を回している少女を見て疲れたようにため息をついた。

 

「兄様、今度はどこのどなたですか?」

 

「いや俺知らない。初対面だよ。ほんと、ほんとだって。いやいやその嘘ついてんじゃねぇよって目で見られても真実だから。

神に、いや帝に誓って俺何もしてないって。無意識に?いやいやそもそも俺この森から出られないしその時点でどうしようもないから。

俺には流琉たちのような妹がいて大満足してます。え、たちってどうゆうことだって?

 

 

あ、いけね。

 

 

ああ、睨まないで怒らないで伝磁葉々取り出さないで、それ当たると死ぬし室内じゃ避けきれないし、ね、建物壊れたら貂蝉にも申し訳が立たないし。え、また女?いやあれおっさん。そう筋肉ムキムキのおっさんだから!あったことないけどきっとそう。ちゃんと説明する。説明するから

落ち着こう、うん深呼吸して深呼吸。すってー、はいてー、すってー、はいてー「ううっ、いたぃぃ・・・」ほらこの娘起きたしとりあえずごめんなさい!」

 

畳に額をこすりつけての土下座だった。

この世界に土下座の文化はないだろうから伝わるかどうかはわからないが雰囲気だけでも誠意を感じ取ってもらえるだろうか。

 

 

「そういえば兄様って結構強いですよね?何か武術でも学んでいるんですか?」

 

「うちの実家は道場やっててね、とりあえずいろいろやらされた」

 

「なるほど、それが理由なんですね」

 

「でもねー単純な力比べとか体力とか足の速さとかじゃきっと流琉には勝てないんだよね。あるのは技術だし。

俺にはどうあがいても流琉みたいに片手で林檎握りつぶせないもん」

 

「え、あの、兄様?」

 

「あれ見た瞬間俺思ったもん。この細腕にゴリラ並みの力があるとかヤバイって、手とかつないだらそのまま握り潰されるんじゃないかってさ。

人は見かけによらないって身にしみたよ。これからは子供だからって侮ったら死を招くってね」

 

「ゴリラというのは何かわかりませんけど、後半から完全に馬鹿にされてますよね?私」

 

「流琉はすごいなー、かっこいいなー」

 

「棒読みで褒めたって許しませんよ?」

 

ごめんなさい。

 

そんなコントのようなことをやっていると足音からか細い泣き声が聞こえてくる。

見ると両手で顔を隠しながら泣いている侵入者だった。

 

流琉ちゃんを顔を見合わせる。無音で兄様の馬鹿、と罵られた。

 

「えっと、あなた大丈夫?」

 

流琉ちゃんが恐る恐るといった感じで声をかける。俺は二人の様子を少し離れてじっと見つめる。

 

「っほん、ごう、か、ずと。あなっ、あなたのせい、で、・・・」

 

鼻をすする音、涙声でそう話す。

流琉ちゃんの俺への視線が一層厳しくなる。

俺は必死で首を振る。冤罪!冤罪だって!

 

「兄様のせいでって、兄様がなにかしたんですか?」

 

「わ、わたし、の占い、が変化、しちゃった、のぉ・・・」

 

彼女は泣きながらゆっくりと、ゆっくりと話しだした。

 

『黒点を引き裂いて、天より飛来する一筋の流星。その流星は天の御遣いを乗せ、乱世を鎮静す』

 

管輅と名乗った彼女の占いでは本来そう出るはずだった。

 

しかし出た占いは彼女の予想外のもの。

 

『幻の旅館、天の御使いと共に現れる。迷いし者、傷つきし者、壊れし者、導き、癒し、治す理想郷となろう』




ここで一区切りです ここまで読んできただきありがとうございました
本編ではほぼ出番がなかった管輅さんの登場です 見た目はロリです

次回から本格的に旅館として機能していく予定です
読んでいただいてわかるかと思いますが、今のところ従業員になり得るのが流琉のみという状況
いずれ増えていくと思います たぶんですが


余談ですが、張三姉妹はここで後の黄巾党の基礎である、歌や踊りを一刀から伝授されるというシナリオを考えていたのですが、時系列的とか様々な要因で加えることができませんでした ホントごめんね天和たち

あと最後の占いの内容ですがもう少しそれっぽい言い回しができればよかったと後悔があります
でも思いつかないところが私の限界なんだなと自分の無力さを痛感しています



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ニートと新戦力

 

 

 

客室に管輅を連れてゆき、そのあいだに流琉ちゃんにお茶を入れてきてもらう。

あまり関係ない話だが、流琉ちゃんはここに来るまでお茶というものを飲んだことがなかった。

なぜならこの時代お茶は贅沢品だからだ。むしろ酒なんかとは比べ物にならないほど高い。

初めて煎茶を出した際に、香りや味を楽しみ、心底お茶を味わっていた姿を見たときは心の中で感動していたものだ。

 

泣く声が聞こえなくなる頃、流琉ちゃんがお茶をそっと管輅の前に差し出した。

俺の前にも出されたお茶を飲みつつ、先程管輅が言っていた言葉を思い出す。

 

『わ、わたし、の占い、が変化、しちゃった、のぉ・・・』

 

占いの変化、変化前の占いにも俺らしき者が来るようなことを言っていた。

つまり俺がここに来るのは必然だった?

そして占いの結果がそのまま実現するとなればここには様々な傷を抱えた人達がやってくるのだろう。

 

 

 

 

「全く、やってられねーわ」

 

考えにふけっていると不意にドスの効いた声が聞こえた。

その出処は先程まで泣いていた管輅からであった。

タバコ(?)らしきものを口にくわえ胡座をかいて俺を睨みつけている姿は、どこからどう見てもただのチンピラである。

泣き止んだと思えばこの様子である。どうやらこれが素であるらしい。

 

「北郷一刀、お前はなんでこんなとこにいんの?さっさと表舞台に出てこいよ」

 

「んなこと言われても」

 

恐らく表舞台とはこの森の外、三国志のことだろう。

でも俺には全くそんな責められるいわれはない。なぜなら。

 

「ここから出れないし」

 

「ハァ!?」

 

せっかくの可愛い顔が台無しである。

いやタバコ加えている時点で台無しであったがより顔面が残念になったというかなんというか。

管輅は視線を俺から外し、唸りながら頭を捻る。

 

「兄様、とりあえず謝るべきでは?」

 

「理由もなく謝るのはちょっと・・・」

 

「見た目とは裏腹に表情、話し方が女性とは思えず、どう見ても詐欺にしか思えませんが一応女性を泣かせたんですから、どうせ兄様が悪いに決まってます」

 

「流琉ちゃん口悪いね、あと俺は悪くない」

 

機嫌が悪いオーラを周囲に振りまきながら吐く毒舌、ついでに俺に関してかなりの誤解が生じていると思われる。

俺、流琉ちゃんの前で女性を泣かせたことないと思うんですけど。

元の世界?ノーカンです。

 

「ち、だから占いの内容が変化したってことか。つまり私の役目も終わりってことだな」

 

管輅が頭を掻きながらぼやく。嬉しくも、悲しみもない無表情で。

 

「役目?」

 

「ああ、お前に警告を与えるとかな」

 

警告・・・ね。いい響きではないな。

 

「まいいか。北郷一刀」

 

「ん、なんだい?」

 

疲れきった顔から真剣な顔に入れ替わる。

普段からそうしていれば映えるだろうに、本当に残念な美少女だな。

一拍おいて、管輅の口から次の言葉が発せられる。

 

 

 

 

 

 

 

「責任を取れ」

 

 

 

 

「「お断りします」」

 

 

 

 

 

流琉ちゃんとハモった。

 

「なんで兄様があなたの責任を取らなければならないのですか?」

 

「全くもって」

 

「お前のせいで私の役目がなくなったんだ。責任を取るのがスジってもんじゃないのか?」

 

「不可抗力です。もともと俺のせいじゃないですし、むしろ俺も被害者ですし」

 

「なんだ、頼み方がいけなかったか?頬を赤らめて処女のように振舞ったほうがよかったか?」

 

「頭沸いてんのかおまえ」

 

狂人かお前は。

 

「ふむ、そこの少女はお前が責任をとって引き取ってったんじゃないのか?」

 

「むしろ勝手に住まれて困っています」

 

「兄様?!」

 

「なんだ違うのか、お似合いだと思ったのだが・・・」

 

「兄様、この人ちょこっとだけいい人かもしれません!」

 

変わり身早っ。でも評価ひくっ。

 

「ち」

 

「舌打ち?!評価低いことがそんなにショックだったの?!」

 

「兄様、とりあえず落ち着きましょう」

 

流琉ちゃん、君の責任もあるんだけど?

 

「あ、あとで困ってますの部分について追求させてもらいますので」

 

「後でね」

 

法廷で会おう、は一度は行ってみたいセリフ。

ここにはもちろんそんなものないだろうし、恐らく一方的に俺が痛めつけられるマゾ裁判になる予感。

 

「んで、責任って?結婚しろとか無理だから」

 

「・・・私の容姿が嫌か?」

 

「それ以前の問題。俺彼女いるし」

 

「「うそ!?」」

 

いたいいたい。

流琉ちゃんが叫ぶと同時に胸ぐらを掴む。

思い切り勢いよく掴まれたため、肺の空気が一気に押し出される。

加えて、息、出来ません。あれこれデジャブ?

 

「どういうことですか兄様?!私聞いてませんよ?!一体全体どこのどいつですか?!まさかシャオのことですか?!」

 

「おい待て、お前放せ。このままだと死ぬぞ」

 

ああ、ありがとう管輅さん。今なら責任とってもいいと思えるよ。

新鮮な空気が美味しいかな。過呼吸の如く音を立てて息をする。

 

「兄様、大丈夫ですか?!」

 

「げはっごほっ、うん、今度から禁止ね」

 

空気を吐かせてから締め上げて呼吸止めるとかデスコンボすぎる。

 

「そいつと同じだ。ここに住まわせてもらうぜ」

 

そういって流琉ちゃんを指差し堂々と同棲宣言。

 

「ま、私は何もしないけどな。旅館運営頑張れ!」

 

少し違った、ニート宣言だった。

 

「いやいや管輅さん、少しは手伝ってもらえたりしないの?」

 

この旅館は広い、広いのだ。

ぶっちゃけ現状では一定のレベルを保とうと思うとどうしても犠牲になる部屋が出る。

ここを本格的に旅館としてやっていくのなら増員は必須なのだ。

 

ガンガンガン

 

このニートをどうにか働かせる方法を考えていると玄関から扉を叩く大きな音が旅館に響き渡る。

 

「兄様・・・」

 

「ほらほら、お客さんがやっていたぜ。さっさと向かったらどうだ?」

 

ニヤニヤ笑う管輅の頭を思いっきりぶっ叩きたい衝動に駆られる、がなけなしの理性を総動員させどうにか押さえつける。

 

「行こうか流琉ちゃん。どうか流琉ちゃんはこんな性悪女になっちゃ駄目だよ」

 

「はい!」

 

「いてら~」

 

ごろんと寝転がってくつろぎモード。くそぅ、皮肉も通じやしない。

ひとまずこのニートは諦め流琉ちゃんの手を握り急ぎ玄関に向かった。

 

そして出会ったのだ。

 

渇望していた新戦力に!!

 




すみません、ここ数日バタバタしておりまともに書く暇がありませんでした
短いですが次回からはもう少し話を煮詰めてから投稿しようと思います


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

押し潰されて

おまたせして申し訳ありません
こんな鈍速な小説でも待っていてくださる方がいるのがとても嬉しいです


 

どうしてこうなってしまったのだろう。

 

ふぁんの人たちが行う略奪行為を止められなかったから?

 

大陸一を目指したから?

 

太平要術の書を拾ったから?

 

旅芸人を始めたから?

 

痛む左足が正常な思考回路を奪う。

後悔の波が押し寄せ自分自身をどんどん追い詰めてゆく。

 

 

私たちは軍に追われ、大勢のふぁんの人達の力によって何とかここまで逃げることができている。

しかし途中私が足をくじき、その速度は一気に落ちた。

周りにいた人たちも一人、また一人といなくなり今では私達三人しかいない。

 

「ほら、きっと何とかなるからもう少しがんばろ~」

 

「ちぃ達がいるんだから大丈夫よ。もう、そんな不安そうな顔をするなっ!」

 

天和姉さんのいつもと変わらない、ぽわぽわした声が安心感を与えてくれる。

いつも元気な地和姉さんの明るい声に励まされる。

 

いつしかノンビしすぎる姉といつも問題を起こす姉、二人を支えているという自負があった。

しかしまだまだ二人の足元にも及ばない、二人は自慢の姉たちだ。

 

持ち直した心はしかし地響きにより揺さぶられる。

 

「やばっ、あいつらもう追いついてきた」

 

「うーん、どうしよっか」

 

両側の姉たちが焦る。逃げ切れないのは最早明確だ。

 

「姉さん、私をここに「「ダメ!」」・・・むぅ」

 

私をここに置いて、という選択肢を言い切る前に拒絶された。

 

「人和ちゃんだけをここに置いていけるわけないでしょ~」

 

「そうよ、次言ったられんほーの分の杏仁は私が食べちゃうからね」

 

「そうね、ごめんなさい。大好きな杏仁、絶対にちぃ姉さんなんかにはあげない」

 

「なんかってなによー!」

 

「あはは、元気でたみたいね~。それじゃそこに森があるからもうちょこっとだけがんばろ~」

 

そういって指さした先には深い森。

今の状況じゃ厳しいけど、平原をひたすら逃げるよりかは多少はマシのはず。

うまく見失ってくれればいいのだけど、それともこちらの体力が尽きるのが先か。

 

「いこう」

 

張三姉妹、張角、張宝、張梁は肩を寄せ合い森の中に踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

扉を開けると壁にもたれかかるようにして倒れている3人が視界に入る。

露出の高い服はところどころ破けていたりほつれていたりとボロボロになっていた。

そして肌には無数の細かい傷、道ではなく森を突き進んできたことによりできた傷だ。

 

「お願いします、れんほーを、れんほーを助けて下さい!」

 

こちらを見た青髪の子が縋りつくように腕を取る。

必死な形相で訴えかけられ、思わず目をそらすように他の二人に視線を向けると桃色の髪の子が紫の髪の子を抱きかかえていた。

心配そうに見つめているその先の紫の髪の子は・・・顔を赤くし苦しげな表情で細かく呼吸を繰り返す。

 

「流琉ちゃん、すぐに布団の準備。あと拭く物とお湯も準備しておいて」

 

「は、はい兄様」

 

やばいことを悟ると後ろからついてきていた流琉ちゃんにすぐさま指示を出す。

切羽詰まった様子を理解してくれたのか、すぐさま走り出してくれた。

 

「ここじゃろくに治療もできない。すぐに中に入ろう」

 

桃色の髪の子に近づき、しゃがみこむとそっと抱きかかえていた手を離してくれる。

開放された子の背中と膝裏に手を添えそっと抱き上げる、いわゆるお姫様抱っこ。

 

「ね、ねぇ、れんほーは大丈夫なの!?」

 

「ちーちゃん、少し落ち着こう」

 

立ち上がるとすぐさま駆け寄ってきた子が慌ててこちらに言葉を投げかけてくるがもう一人の子がなだめる。

こういう時冷静な人がいてくれると有難い、それだけこちらも迅速に対処できるから。

 

「いますぐ危険ってわけじゃないと思う。とりあえず二人共ついてきて」

 

そういって流琉ちゃんが布団を敷いてくれているだろう部屋に向かう。

後ろの二人も相当疲れているのだろうが歩くのには支障がないようでちゃんとついてきてくれた。

 

「あ、兄様、お布団は敷いておきました。お湯もすぐに用意します。あとなにか摘めるものも」

 

先んじていた流琉ちゃんがすぐさま台所に向かう。

本当に気が利くいい子だ。

 

敷いてある布団にゆっくりと下ろす。

額に汗をかき、今でも苦しそうに呼吸を繰り返す。

 

「ちょっとごめんね」

 

そういって胸元を少し緩め、簡単に診察してゆく。

青髪の子が小さく声を上げたが結局はっきりとは出さずおとなしくしていてくれた。

どうも直情的のような子だ。それだけこの子が心配なのだろう。

 

「あの、れんほーちゃんの足も診てください」

 

そういってブーツを脱がす。

 

綺麗な足だ。けれどもひと目で分かるほど足首が真っ赤に腫れていた。

 

赤く腫れた右足首をそっと触る。

小さく悲鳴を上げた。

 

「・・・よくここまで我慢したね」

 

折れてはいないだろうが、数日で完治するとは思えない。とてもじゃないがすぐに歩くことはできないだろう。

 

「たぶんこの捻挫が引き金になったんだと思う。動かさないように安静にしなきゃいけないね」

 

その一言を聞くと二人は倒れるように寝転がった。きっと安心したのだろう。

それにしてもスカートの裾が危険なラインだ、と思ってしまうのは俺もようやく落ち着いたからだろうか。

 

「とりあえず二人も綺麗にしたほうがいいね。全身傷だらけだし、痛いかもしれないけどできるならお風呂に「「入る!!」」・・・諒解、すぐに準備するよ」

 

言い切る前に入る宣言され思わず苦笑い。

こちらの二人は紫の髪の子に比べかなり元気そうで安心した。

 

「兄様、ひとまずお湯を持って来ました」

 

ちょうどいいタイミングで流琉ちゃんが帰ってきた。

 

「ナイスタイミング。流琉ちゃん、料理変わるからこの子の世話お願いしてもいい?

泥だらけだからざっとでいいから身体を拭いてあげて欲しいんだ。終わったら彼女たちをお風呂に案内してあげて」

 

「ないすたいみんぐ?えっと、よくわかりませんがわかりました」

 

思わず口に出してしまった英語に少し戸惑いつつも、了承してくれた。

本当にいい「・・・兄様にそんなことさせられませんから。胸元を開けただけでも度し難いのに」

 

・・・妙なセリフが聞こえたような気がしたが気にしない。気にしないのだ。

 

と言い訳しつつ逃げるように部屋から出ていった。

 

「ああ、また廊下を掃除しなくちゃなぁ」

 

誰か来るたびに泥だらけになる部屋や廊下を見て、いい加減何かしら対策を立てなければと強く思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でねー、おっきな剣を持った怖い人がずっと追いかけてくるんだよ~」

 

「そうよ、何度死ぬかと思ったか。ふざけんじゃないわよ!」

 

ピンクの髪にゆったりとした喋り方、惹きつけられる大きな胸、天和と名乗った少女が一生懸命にその怖さを伝えようと頑張る。

水色の髪に気の強そうな喋り方、表情が多彩な地和と名乗った少女が怒りをあらわにする。

しかしほっぺたについたご飯粒、手の箸とお茶碗によって可愛らしく見えるだけだ。

 

「姉さん達。恥ずかしいからちょっとは落ち着いて・・・」

 

そう言って頬を僅かに赤く染めているのは人和を名乗った少女だ。紫の髪に眼鏡が知的な印象を与える。

足は処置によってだいぶ痛みも和らいだのだろう。巻かれた包帯が少し痛々しい。

 

あとなぜだろう、同じにおいを感じる。きっと苦労しているに違いない。

 

この三人、姿は似ていないが姉妹なんだそうだ。

旅芸人として各地を放浪中とのこと。

 

今は囲炉裏を囲んで、俺、流琉ちゃん、天和、地和、人和の計5人で食事の最中だ。

天和さんと地和ちゃんはお風呂から出たあと食事をすることなくそのまま気絶するかのごとく寝てしまった。

恐らく体力的にも精神的にも限界だったのだろう、お風呂にはいって汗と汚れを落としたのは乙女の矜持のなせる技か。

 

翌日になると人和ちゃんの苦しそうな様子もなくなり、目を覚ますと見知らぬ所に寝かされていたことに驚いたがすぐそばで寝ていた二人の姉を見て大丈夫だと思ったらしい。

下手に悲鳴をあげられなくてよかった。十中八九流琉ちゃんに殴られる役は俺になるので。

 

三人が目を覚ますと流琉ちゃんが朝食を作っている間にひとまずここの説明を軽くしておいた。

ちなみに真名をすでに預っていたりする。故あって本名は名乗れないということらしい。

 

「それにしてもお姉さんたち大変だったんですね」

 

「だなぁ。そんな恐ろしい目に会ってよく生きていたね」

 

巨大な斧を持ったやたら自信家の男っぽい女性から始まり、黒髪サイドポニーの女性、背中に大きな刀を持った忍者?らしき少女から

死神を思わせる鎌を振りかぶる金髪ドリル、その姉?と思われる高笑いをする金髪ドリル二号にニコニコしながら剣を振りかぶるピンク髪の色黒巨乳。

先程は無闇矢鱈と突っ込んでくる、黒髪オールバックの女性。

色黒ピンク髪の女性にわずかばかり心当たりがある気がしないでもない。

コロコロと変わるガールズトークに久々に聖フランチェスカ学園のことを懐かしく思った。

 

流琉ちゃんが両手で自分の体を抱きしめ、顔をひきつらせる。自分がそんな目にあった時のことを想像したらしい。

現代で言うならば、ストーカー?に付け狙われているようなものだ。こっちのほうがずっと過激かもしれないけれど。

 

「もうホント一刀のお陰だね~。助けてくれてありがとう~」

 

そう言って天和さんが右腕に抱きついてくる。

ふんわりと柔らかい胸が右腕を包み込み、天和の体温と匂いを強く感じる。

過去に体験したことのないボリュームに思わず圧倒され、その感触を強く意識してしまう。

 

「あー姉さんずるいー」

 

素早く立ち上がった地和ちゃんが左腕に滑りこむように抱きつく。

・・・ノーコメントで。

 

「っ」

 

「今姉さんと比べたでしょ?!がっかりしたでしょ!」

 

摘み、捻る。

 

その単純だが効果的な攻撃によって左腕に激痛が走る。

右腕に幸福、左腕に不幸と全く逆の幸のせいでこの状態がいいのか悪いのか。

 

「兄様?」

 

訂正、正面に怖い笑顔を浮かべた流琉ちゃんを含めると不幸分が大きすぎる。

なんとか状況を打開しなければ、そう思い周囲を見渡すも、人和さんは首を横にフリ、管路は部屋に引きこもり中。

 

「兄様のバカー!!!」

 

叫びとともに飛んでくる湯のみをお腹に受け、左右にいた二人とともにぶっ倒れた。

湯のみ直撃でぶっ倒れるってどんだけー。

 

「流琉さんよぅ、もう少しお淑やかにならんと嫁の貰い手がみつからぬぞう」

 

起き上がるついでに少し嫌味を零しておく。

優しくて家庭的でとってもいい子なのだが、少しデレデレしただけで死ぬ思いをしてちゃ生命がいくつあっても足らぬ。

包丁や鉈何ぞ無くても、アイアンクローで頭蓋骨を陥没させたり、さばおりで背骨を折ったりデキる子(想像)だからなぁ。

 

「余計なお世話です!そんなに言うなら兄様が貰ってください!」

 

「えへへ~残念。一刀は私達三姉妹がもらっちゃうよ~」

 

「えっ姉さん、私も含まれてるの?」

 

「当たり前じゃない。むしろれんほーの服を脱がしてあんなコトとかこんなコトした責任とりなさいよっ!」

 

「いやでも、俺はただ診察・・・医療行為を」

 

「一刀ひどーい、女の子に恥ずかしい思いをさせておいてそんな」

 

「に・い・さ・ま?」

 

阿修羅が、流琉ちゃんの背後に阿修羅が見える。

その圧力を避けるようにして俺の後ろに逃げ込む天和さんと地和ちゃん、我関せずの人和ちゃん。

少し人和ちゃんの顔が赤いのは、まだ熱が引ききっていないからかな。

無理して起こさず、寝かせておいてあげればよかった。ついでにもう一度ゆっくり寝たい。

 

と現実逃避をする暇もなく4人+傍観者1人の大騒ぎが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

明かりも消え皆が寝静まったと思われた頃、1人の少女が玄関から外に出た。

少女は森の中に入ることもなく、ゆったりと旅館の周りを歩き出す。

そして裏手に出たところで、木でできた簡易なベンチに腰掛けた。

 

これは流琉ちゃんがたまに考え事をするときに使っているベンチだ。

元々森のそばで育ってきた流琉ちゃんには家の中で考えるよりも森のにおいを感じられるところのほうがいいらしい。

 

「一刀、そんなとこいないでこっちに来なよ」

 

空、恐らく月を眺めていただろう少女がこちらを振り向かず声をかける。

歌手、だからだろうか。

それほど大きな音量ではないし、こっちに向かって声を出しているわけではないのにはっきりと耳に届いた。

 

「ごめん、少し気になっちゃって・・・いつから気づいてた?」

 

「んー最初から、かな。一刀が声掛けてくれると思って待ってたのに全然掛けてくれないんだもん。ず~っとお月様を見てるのもいいけど一刀とも話がしたかったから」

 

「そっか、じゃあそっちにいってもいいかな?天和さん」

 

「あははっ、私お話したいっていったよね~。ほらほら、早くこっち来てよ~」

 

天和さんは身体をずらし、ベンチを二度ぽんぽんと叩く。

その空いた場所にそっと身体を滑り込ませた。

元々あまり大きくないベンチは、二人も座れば肩が密着するような形になっていた。

 

 

「ここ、いいところだね」

 

月を見ながら呟いた一言。

その横顔は優しげな笑みを浮かべていた。

 

「一刀も典韋ちゃんもとっても優しいし、それにここは暖かい。私達って旅ばかりしてきたからかな、家に帰ってきた、そんな気になるの」

 

もう本来の家はないんだけどね~と遠い目で付け足す。

 

「それに最近はず~っと大変だったから。ちーちゃんとれんほーちゃんのあんな笑顔、久々だったなぁ」

 

どれほど大変だったかなんて、体験していない俺には分からない。

でも天和さんの嬉しそうな笑顔を見れば、紛れも無い真実だろう。

 

「そっか、天和さん達が助かったって言うなら、ここに俺がいた甲斐があるね」

 

「そ~だよ。一刀がいてくれたから、助かったんだよ。本当にありがとう」

 

ここが今噂になっている管路の占いの旅館ということはすでに話してある。

なぜ俺が選ばれたのかは今でも分からないし、管路も知らねの一点張り。

でも天和さんのありがとう、という一言を聞いて有耶無耶になっていた気持ちがはっきりとした。

 

「こちらこそありがとう。天和さん達のお陰で気持ちが固まったよ」

 

「え~と?」

 

「うん、大変かもしれないけど占い、実現させてみようと思うんだ。

『幻の旅館、天の御使いと共に現れる。迷いし者、傷つきし者、壊れし者、導き、癒し、治す理想郷となろう』ってやつ。

ここに来た人の力になりたいんだ」

 

今までここに来た人。

 

朱里ちゃん

 

雛里ちゃん

 

シャオちゃん

 

流琉ちゃん

 

天和さん

 

地和ちゃん

 

人和ちゃん

 

ついでに管路

 

そしてこれから恐らく来る人達。

 

笑顔で『いってらっしゃい』といって送り出してあげたい。

笑顔で『いってきます』といって旅立って貰いたい。

 

きっとそれが俺がここに呼ばれた理由なのだ。

 

「できるよ、一刀なら」

 

両手で俺の手を包み込み、ぎゅっと握りしめてくれる。

見た目とは裏腹にところどころ硬い部分を感じる、生易しくない、苦労したことがわかる手。

 

「だから、れんほーちゃんも助けて」

 

より強く握られた手と、先程までの優しい笑顔から一転、真剣な表情で打ち明けられたのだ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ニート自重して

前回の投稿時、日刊ランキングに乗りました 本当にありがとうございました
大変遅くなりました スランプ気味です
そして相変わらずあまり進んでいません

読み返してはいるのですがおかしな部分があるかもしれません
ご指摘していただけると助かります

今回から前書きで旅館にいる人を書いておくことにします いるかいないかわからないと不便ですしね

現在 北郷 典韋 管路 張角 張宝 張梁 計6名


「はぁ・・・」

雲ひとつない空に登った月がこの場を明るく照らす。

清潔に保たれた浴槽に、温すぎず、熱すぎないちょうど気持ちのよい温度の湯が流れこむ。湯に身を任せリラックスすると全身から疲れが流れ出るようだ。

しかしこの沈んだ気持は疲れとともに流れてはいかなかった。

 

『黄巾党』

三国志を語る上で必ずと言っていいほど出てくる黄巾の乱を起こした者達の名称である。これは本来は農民反乱だったがここでは少々事情が異なっていた。

誰が予測できるだろうか。アイドルグループの追っかけによる暴走劇によるものだと。

天和さんは順を追ってコレまでのことを一つづつ説明してくれた。

始めは旅芸人として各地を回っていたこと。その道中『太平要術の書』を手に入れたことで爆発的に人気が出たこと。大勢のファンに慕われ、大陸一番の歌姫に成りたいといったこと。次第に追っかけ以外のファンが増え、知らないうちに悪事を働いていたこと。そして止めることができず暴走し続けた結果、朝廷から討伐対象になったこと。・・・命からがら逃げ出したこと。

そこには後悔の念はなく、ただただ客観的な事実だけを述べていた。

 

「私はね、後悔していないんだ。でも人和ちゃんは地和ちゃんとは違って色々複雑に考え過ぎちゃってるの。私が言えばね、たぶん気にしないようになるかもしれない。でもそれは表面だけできっと奥底に抱え込んじゃう」

 

その一言を最後に天和さんは席をたった。

1人残された俺は気持ちを入れ替えるために風呂へいったというわけだ。

 

 

「夢のために頑張った結果がこれかー。やるせないな」

 

「そうか?夢を叶えるってことは少なからずいろいろな人に影響を与えるってことだぜ?傲慢になれ、とは言わないがそこはしっかりと割りきっておかなくちゃな」

 

「規模の問題だよ規模の。大陸一のアイドル目指したら中華全土を巻き込んじゃっての大騒動に発展するなんて誰が予想できたかって」

 

「それは覚悟の問題だろ?私は最悪殺されることも覚悟してたぜ」

 

いつの間にかひとりごとをすくい上げられ成立していた会話。

こんな喋り方をする奴は知る中では1人しか該当しない。

そいつは前を隠すこともなく堂々と近づき、そっと湯船に入ってきた。

 

「おいっ!何自然な流れで入ってきてんだ。あと前隠せっ、男らしすぎるだろ!」

 

「五月蝿いな、今なん時だと思ってるんだ」

 

はぁーと見た目にそぐわない息をつき、全身の力を抜き、気持ちよさそうに目を細めた姿はとても俺の親父に似ていた。そう入ってきたのは管路である。

 

「・・・ちゃんとかけ湯はしたか?」

 

「細かい男だなお前は」

 

「細かくないわ!というか俺が入ってるの知ってて入ってきたのか?」

 

「ああ、気づいていたけど問題無いだろ」

 

「問題あるわ!」

 

「そもそも私はいつもこの時間帯に入っていたんだぞ。それを無視して入っていたお前が悪い」

 

そもそももなにもそんなこと一切知らなかった。

むしろ部屋から一向に出てきていないこいつはきちんと風呂に入っていたことが既に驚きだ。

ついでなのでここで少し管路の話をしておこう。

結局彼女はうちの離れに住み着いた。基本離からは出ず、ずっと部屋の中で何かをしているようだ。一度、あまりにも音沙汰がなかったため様子を見に行ったところ、全裸で寝ているところを目撃、直後俺は共に来ていた流琉ちゃんに意識を刈り取られた。目を覚ました頃には管路は全裸ではなく、流琉ちゃんと同じスパッツにTシャツ姿になっていた。個人的にはスパッツも十分恥ずかしい部類に入る気がしないでもないが両者妥協、納得したのならば何も言うまい。

あと何故かやたら流琉ちゃんが管路に懐いており、まさかのお姉様呼ばわりと、少し前まではあなた呼ばわりとぞんざいな扱いをしていたのが嘘のようだった。

不審に思い管路に問い詰めると

「人を操りたいんならきちんと相手が望むもの、望むことを理解した上でしっかりとコントロールしなきゃな。導術なんかに頼ってるから大事な場面で解除されたりするんだぜ」

とよくわからないことを言っていたのでとりあえず制裁しておいた。実害を与えるニートとか何もしないニートよりもたちが悪い。出ていくはさらさら無さそうなので最早しっかりと部屋から一歩も出ないニートを満喫して貰いたかった。

 

「それで、張三姉妹が黄巾党の首領だって知ったんだな。全く、信頼されているな」

 

独り言に合わせていたことで疑っていたが、こいつは最初から知っていたらしい。

 

「何驚いた顔してるんだ」

 

「そりゃ驚くだろう。まともに顔を合わせていないお前に天和さんが事情を話した訳はないし」

「ああ、うん。ちょっとした関わりがあってな」

 

管路は実に困った顔をして顔を半分湯に沈める。

水中で何かを言っているようだがそれは声になることはなく気泡となってぶくぶくと音を鳴らすだけだった。その姿は歳相応に見えて、子供がちょっとしたいたずらを隠すような仕草。

 

「何やらかしたんだ?」

 

「何やらかしたとは失礼だな。・・・太平要術の書をあいつらにパチられただけだ」

 

・・・

 

「げげげ、元凶はお前かーーーー!」

 

「わ、わ、私だってそんなつもりなかったぜ!気がついたらなくなってたんだからな!」

 

管路の細い肩を抱き、力の限り揺さぶる。

大して管路も負けじと声を張り上げ言い訳を開始する。

 

「仕事もしないニートのくせにっ!何余計なことしてんだ!」

 

「うっさい不可抗力だ不可抗力!」

 

「大切なモノならきちんと管理しとけ!」

 

「むしろ私は被害者だからな!パクられたんだからな!」

 

「置き引きは置いといた方も悪いんだよバーカ!」

 

「なんだと!」

 

この風呂場での罵り合いは、お互いにのぼせ上がるまで続いたのだった。

 

 

 

「んでさっき言ってた覚悟ってなんだ?」

 

お互い脱衣所で一糸まとわぬ、ではなくタオル一枚被るだけという情けない姿。色気なんかなく、もはや羞恥心すら殆ど無いと言っても過言ではない。

 

「・・・私が占いしてたの知ってるだろ」

 

『黒点を引き裂いて、天より飛来する一筋の流星。その流星は天の御遣いを乗せ、乱世を鎮静す』本来であるならばそういう内容だったということは知っている。

 

「これさ、はっきり言って漢王朝を批判してる内容なんだよな。つまり私は流言を流した大悪党ってことになるんだぜ。実際は変わっちまったから微妙なところだけどな」

 

にししっとあっけらかんという内容に驚く。

管路は例え己が死刑になったとしても、この占いの内容を流す覚悟をしていたということだ。

 

「どうして、そこまでして?」

 

「それが私の夢だからな。人々に希望を与える、私にしかできないことだ。・・・誰かさんのお陰でご破算になっちまったけどな」

 

前半は胸を張って、後半ではジト目で責められる。俺のせいじゃないし、と口に出しそうになるが何とか止める。むしろそれよりも大事なことがある。

 

「夢?」

 

「ああ。私の一言で多くの人が希望を持つ。もちろん虚言じゃなくて真実でな。そして名を残したい、そう思ってた」

 

その時の管路の顔はなんというか、新しいおもちゃを買ってもらった時のような、希望に満ちた顔をしていた。

自分の夢を目指して、そんな顔ができるのが少しだけ羨ましい。

 

「ま、だから私と張三姉妹はどことなく共通点があるんだな。だから全部ではないけど、解ることもある」

 

大陸一の歌姫に成りたいという夢。

希望を与えた占い師として名を残したいという夢。

 

どちらもとてつもなく大変で、大勢の人に影響を与える。

そして管路や天和さんにはあって、人和ちゃんにはなかったもの。

どんな事が起きても、どんな犠牲を払ってでもきちんと受け止め、成し遂げるという覚悟。

管路は命を、天和さんは黄巾の乱を。

 

「おっ、なんかスッキリした顔になったな」

 

「そうだ、な」

 

管路はわざわざこのために来てくれたのだろうか。

ニートのくせに気使いやがって、と心のなかでつぶやいた。

 

「とまぁ私の夢も解ったな。ということで協力してくれ」

 

「協力?」

 

「ああ、占いが変化しちまったことはもうどうしようもないからな。じゃああとはきっちりこなしてもらうだけさ、な、一刀♪」

 

「おい、馬鹿くっつくな!暑苦しい!」

 

がばっと後ろから抱きつかれる。

長湯によって熱くなった身体が押し付けられ、せっかく冷めてきた身体が暑いと訴える。猛烈に拒否ったのは女の子に抱きつかれたからではない、念のため。

 

「お?照れてんのか?ん?ん?」

 

「うざっ!すごいうざい!」

 

そのどや顔殴りてぇ・・・

ロリに欲情するほど人生終わっとらんわい。

 

「人和を助けるって天和と約束したんだろう?とーぜん私も助けてくれるんだよな?」

 

「やっぱどっかで盗み聞きしてたんじゃねぇか!」

 

ちっと舌打ちをしたあと一旦管路から視線を逸らし考える。

といっても最早答えは出ているんだけど。

 

管路や天和さん達が覚悟していたと同じで俺も既に占いを実現させようって覚悟を決めていたのだから。

 

「わかったよ、でもお前もちゃんと手伝えよな」

 

「ああ、手助けくらい、だけどな。私は裏方しかできないからな。表は主人公であるお前に任せた」

 

「おう、任せろ!」

 

互いに拳を作り、コツンと軽く合わせた。

これからが俺と管路の本当の始まり。

 

「頼むぜ、盟友」

 

「きちんと働けよ、盟友」

 

くっくっく、とお互いらしい笑みを浮かべた。

 

「おっと忘れてたぜ。ついでだ、受け取っとけ」

 

「ん?何をだ?」

 

「私の真名は・・・」

 

夜が更ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

天和さん達が来てから日常生活にひとつの変化が現れた。

朝の調理の時間、包丁のリズミカルな音に加え、歌声が旅館に響く。

楽しそうな歌から切ない歌、時たまぎゃーぎゃーと喧嘩する声と飽きることはない。

そんなBGMを聞きながら朝食を作るのが、最近の1番の楽しみだ。

 

しかし先日『五月蝿い、朝のあいつらを何とかしてくれ』と管路(ニート)が言うものだから(物理的に)黙らせた。駄目だこいつ、早く何とかしないと・・・

 

ちなみにその間に流琉ちゃんが洗濯の準備をしていてくれているが、この役割分担を変えなければならないと思わざるをえない事件があった。

朝食の準備の最中、脱衣場で服を脱ぎっぱなしにしていたことに気づき回収に向かったのだが、流琉ちゃんが俺のシャツに顔を埋めている姿を確認してしまった。

予想が正しければこれはかなりまずい状況なのではないだろうか。こう、ヤンデレ的な意味で。

及川に無理やり押し付けられた漫画の如くだんだんとエスカレートして行かないことを強く願うことしかできない。

ついでにいうとそれ以降その俺のシャツは手元に戻ってきていない。・・・流琉ちゃんが怖い。

 

 

 

 

「・・・とさん。一刀さん」

 

「っと悪い。痛かった?」

 

いつの間にか思考の海に潜っていたらしい。

人和ちゃんに話しかけられていたことに気づきとりあえず当たり障りのない返事をしておく。

 

「えっと、少しだけ・・・」

 

控えめな主張に、他の二人の姉の自己主張の強さは遺伝ではないことを改めて思い知る。俺達は昼食を終え、暇と叫ぶ三姉妹の時間つぶしをするために縁側にて他愛のない話をしていた。

 

そして次第に怪我の話となりちょうどよい機会と思い、人和ちゃんの左足の経過を見ていた。見た目、腫れは引いていたが再度足に触れると痛みを耐えているのか顔をうつむかせる様子を見て、まだ油断はできないかもしれないと考えを改める。打ち身とか捻挫とかの怪我は道場で修行していた際に散々付き合っていたので大体把握していると自負していたがもしかしたら診断自体が間違っていたのかもしれないとしばしば不安になってしまう。

こんな時あいつがいたらなぁ、とついついいない男のことを考えてしまうのはないものねだりだろうか。

 

「一刀、いくら診察だからって女の子の足を舐めまわすかのようにジロジロ見るのはどうかと思うな~。あとちょ~っと手つきが怪しいかも!れんほーちゃんだって恥ずかしいものは恥ずかしいんだからね~」

 

「ね、姉さん、ちがっ」

 

「え、いやそんなつもりで見てたんじゃないって!それに触診!ただの触診だから!」

 

人和ちゃんが真っ赤になって否定してくれるが、むしろ正解にしか見えない。

確かにジロジロ見られるのも、他人に足を触られることもいい気はしないものだ。それに正式な医者ならばともかく、そんな免許すらないんだし。

世の中には男に髪を触られるだけでも嫌悪感でチキン肌になる人もいるのだ。

 

「えっと人和ちゃん。触られるのが嫌だって言うなら流琉ちゃんか天和さんに変わるから。はっきりと言っちゃっていいよ。その、うん。俺も気遣いが足りなかったよ、今までごめんね」

 

正直こういうことを口にだすことでもちょっとヘコむ。

そういえば今までお姫様抱っこで運んだりした時も相当我慢していたんだろうか。

あれ、俺もしかして今まですごい勘違いしていたとか?

いくら緊急事態だからって初対面の女の子をお姫様抱っことか寝てる直ぐ側で看病とか非常識だったり?!

 

実は朱里ちゃんや雛里ちゃんまでもが内心嫌がってたのではないかと悶えていると横から吹き出すような笑い声がし始めた。

 

「あははっ、一刀が今度はなにか身悶えてる~」

 

天和さんが俺を指差しぽわぽわと笑っていた。

対照的に、「れんほーは本気で嫌な人には言葉で突き放すから・・・」と俯き加減の地和ちゃんが付け足す。そこまで恐ろしい光景だったのだろうか。

 

「あ、あのその、私姉さん達みたいに肉付きも良くないし・・・あんまり自信なくて・・・その、恥ずかしがってただけですから・・・」

 

暗い顔した地和ちゃんと慌てた様子で人和ちゃんがフォローを入れてくれる。そんな二人の様子を見て改めていい娘達だなって思う。

 

「そんなことないって。筋肉も多すぎず少なすぎずバランスもいいし、肌もすべすべだし、日焼けとかシミとかもない綺麗な足だと思う」

 

嫌われてなさそうでよかったと安堵するとついつい口が軽くなってしまい、思ったことが口に出てしまう。

その一言で人和ちゃんはボンッと擬音が聞こえてきそうなくらい瞬間的に顔を真赤にしてしまう。チャームポイントである眼鏡が白く曇っているのは・・・見間違いです。

 

 

「おーい、誰かいないか?!」

 

不意に玄関の方から、はっきりとよく通る声が聞こえてくる。

それは流琉ちゃんでもなく、シャオちゃんでもない、初めて聞く女性の声。

 

「ごめん、ちょっと出てくる。人和ちゃんはもうしばらくおとなしくしておくこと。いいね」

 

急ぎ立ち上がり玄関の方に向かいつつ、念のため釘をさして置くのは忘れない。

性格的には無茶しないほうだと思うけど、無茶させる人間が周りに揃っているからなぁ。

 

「仕方ないわね。れんほーはちょっと私の華麗な踊りを見ていなさいっ!」

 

「ふう、張り切り過ぎて怪我しないようにね、ちぃ姉さん」

 

「一刀~また後でね」

 

早速元気よく庭の方に飛び出した地和ちゃんを苦笑しつつ眺める人和ちゃん、手を振って送り出してくれる天和さん。

三人に向かって軽く手を振って、この騒がしくも心地よい空間から移動していった。

 

 

 




管路回

よくよく考えると管路も命がけだよね っていう話
彼女は普段出てこないけど、大事な場面で出てくる・・・かもです

次回なのですが、その前に大変なことに気づきました。
それは 各陣営に属する前のほうがここに来やすいのではないか ということです
完全にアホです

というわけでどの位置かは確定してないのですが挿入投稿をしようと考えています
考えていたネタを消費できるし、新しいフラグにもなりますし
いかに計画性無く書いているかがよくわかりますね自分が

既に書き始めているので誰が来るのか楽しみにしていてください
今回も読んでいただきありがとうございました また次回があればよろしくお願いします

*あとそのうち登場人物紹介を載せるかもしれません 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

予想外で

壁は、だいたい予想外なことから立ちふさがってくる、とおもう

ついに友人から決定的な一言を言われてしまいました
『温泉宿なのに、入浴シーン全然なくね?』
温泉とか風呂は大好きなのですが、混浴は入ったことがありません!
だから混浴とかどう描写していいんですかわからないのですよ 体験出来れば筆も進むのでしょうかね


「兄さん、さっきの酒追加や!」

 

もきゅもきゅもきゅ。

 

「こら主人。恋殿がまだ足りないと申しているのです。すぐに新しいのを持ってくるのですぞ!」

 

もきゅもきゅごっくん。

 

「ふむ。このツマミもなかなかいけるな・・・」

 

もきゅ?・・・すっ。

 

「・・・食べる?」

 

首を傾げてこちらを伺う少女は、差し出したお皿を名残惜しそうに見つめている。

 

「・・・コレはお客様のものですから」

そう言って断ると、こちらには目もくれず食べ始めた。

四人の恐ろしいスピードで出された料理が食いつくされていくその光景に、戦慄というか呆れというか。しかもその光景を作り出している大半はこのぽやっとした癒し系少女なのだ。

彼女の名は呂布奉先。

最強の武力と最強の癒しを纏った不思議な少女である。

 

 

 

 

「どちら様で?」

 

急ぎ玄関に向かった先にいたのは4人。

紫の髪に大きな胸をサラシで隠し、上着は羽織るだけという奇抜なファッションと人懐っこい笑顔を浮かべた女性。

銀髪に、水着のような鉄の胸当てと腰布、前の人とは打って変わってイライラとした表情を隠そうともしていない。

その女性に背負われて、赤い髪の女性がぐったりとしている。顔を上げることもできないのか、どんな表情をしているのかはわからない。

そして最後に一際ちっちゃい身体とライトグリーンの髪、両腕を前で組み威圧的な目でこちらを見ている少女。

 

「あ、よかったよかった。兄さん、ちょっと頼みたいことがあるんやけど・・・」

 

申し訳無さそうな、苦笑交じりの紫の髪の女性が一歩前に出る。この中では中心的な役割なのかもしれない。

 

「ちょっと飯、食わせてくれへん?うちの連れがな、腹すかせて倒れよって」

 

そう言って赤い髪の女性を指さす。とタイミングよくその女性の方からぐぅう、と大きなお腹の鳴る音が聞こえる。

 

「金ならあるのです。さっさと用意すればいいのですよ!」

 

「そうだ、今すぐに用意しろ」

 

そして打って変わって殺気立ってこちらに詰め寄る二人。特に銀髪の女性はその迫力が尋常ではない。反射的に右手をポケットに引き入れ、飛び退ろうとした時、二発の硬いものと硬いものがぶつかる音がした。

 

ぱっと霧散する殺気、手を振る紫の髪の女性、そして頭を押さえるヤンキー二人組。

 

「アホかお前ら!ウチラは賊とちゃうで!ほら兄さんビビってるやん」

 

「そ、そんな。音々は恋殿の為に」

 

「そうだぞ。私だって恋のためにこうして仕方なく・・・」

 

「だからお前らはアホなんや!武力で脅して、奪う。あいつらと同じやないか!ちょっと頭冷やし!」

 

はっとなってバツが悪そうに俯く二人。

うーん、もう口を出してもいいのだろうか。

 

「っと、すまん兄さん。こっちの二人が暴走してもうてホント堪忍な」

 

そう言って頭を下げた。

 

「いや、気にしないですから。それにそれだけ必死だったってことでしょう?すぐなにか用意しますから上がってください」

 

そういって奥へと促す。脅されたけど、多分客だ。きっと客だ。恐らく客だ。

 

「ありがとな、兄さん。うちは張遼。こっちの気が強そうなのは華雄。ホンで持って華雄の背中でぐったりしてるのが呂布で、このちんまいなのが陳宮や」

 

思わず、ぶっと吹いてしまいそうになるがそれやったら命ないな。ぎりぎりの所で堪えることに成功する。引きつった笑顔になって申し訳ないが勘弁して貰いたい。

 

「ようこそ、『姫ノ湯』へ。精一杯おもてなしさせてもらいますよ」

 

ここではきものを脱いでください、という一言を付け加えることを忘れずに。

あとなんで張遼さんは関西弁やねん・・・

 

 

 

 

「へー、こないなとこに温泉旅館なぁ。全く知らんかったわ」

 

それはそうだろう。宣伝(占い)?はあったがここに来たいと思って来られる人がどれほどいるのだろうか。四人の中でも特に張遼さんが興味津々といった感じで話に食いついてくる。

 

「あとここでは暴力等は基本的にご法度です。破ったら出禁、強制退場にしますから」

 

「だそうですぞ、華雄殿」

 

「黙れ音々。むしろ私よりもお前のほうがすぐに手を出すだろうが」

 

「なんですとぉー!それは聞き捨てならないですぞ!」

 

一触即発の事態である。駄目だこいつら。

 

「・・・とりあえずこいつら追いだそうかな」

 

「・・・堪忍してや。きちんと言い聞かせるさかい」

 

張遼さんはとても苦労性のようだった。

そして囲炉裏のある部屋に案内すると、三人は驚きの声を上げる。そりゃここの時代の人からすれば未知の文化であるから、仕方のないことである。最近はこのリアクションを見るのが楽しみでしょうがない。思い思いに腰を下ろすのを見届けたあと、部屋を後にする。厨房への移動中にすぐさま出せるものを頭のなかに思い浮かべた。女の子が四人、空腹といっても大した量にはならないだろう。さてどうしようか。

 

「あれ、兄様。どなたかいらっしゃったんですか?」

 

途中すれ違った流琉ちゃんが尋ねる。手には洗濯物。いやそれについてはもう何も言うまい。

 

「うんお客さん。初めてのまともなお客さんだ。しっかりとおもてなしをしようか。とりあえずお腹空かせているみたいだから、すぐに出来るものを用意しよう」

 

「あ、そうなんですか。わかりました」

 

瀕死とかじゃなく、誰かに追われていたとか言うわけでもない。空腹は許容範囲内、そう普通のお客さんである。ここ大事。

 

駆け足で向かう流琉ちゃんを追って調理場へ入る。すぐ、と言われていても用意もなしに出せるものなどほとんどないのである。

 

「流琉ちゃん、確かりんごと葡萄が井戸の方で冷やしてあったはず。剥いてお客様のところへ出してきて。場所は囲炉裏ね」

 

「わかりました~」

 

ということでとりあえず果物に場を繋いでもらおう。コレならすぐに出せるし、空腹にも優しい、と思う。

 

そう指示を出している間に手早くお米を砥いだあと、土鍋で炊く準備をする。炊いている間に、もやし、人参、きゃべつ、豚肉を斬り、熱しておいた中華鍋に塩コショウをした豚肉を投入。そして人参、キャベツ、調味料を加え、鍋を振る。料理は火力、のもと強火で一気に仕上げていく。最後にもやしとごま油を加え、超簡単野菜炒めが完成するのだ。

 

「兄様、持っていきますね」

 

「流琉ちゃん何してんの?!」

 

てっきりとっくに持っていったと思っていたのだが、何やらやたらと時間がかかっていたようだ。シャオちゃんならば納得の時間なのだが流琉ちゃんにしてはやたらと時間がかかったようだ。そしてその原因なのだが・・・

 

「なんでりんごうさぎ?」

 

「え、兄様がりんごの斬り方はコレだって前に・・・」

 

お皿の上には大量のりんごうさぎ。やったね!寂しくないね!

確かに、ああ確かに教えたけどさ。そうだよ、俺が悪いんだよ!

 

「あーもーいいやそれで。とりあえず持ってっちゃって!」

 

「?よくわからないですけどわかりましたー」

 

そして流琉ちゃんが大量のりんごうさぎを持って行っている間に二品目。

沸騰した湯に鶏がらスープ、お酒、醤油、塩を入れる。鶏ガラスープは勿論顆粒である。全くもって風情がないわけだが、一から出しをとっている暇なんかあるわけもなく、ありがたくも重宝させてもらっている。流琉ちゃんは味気ない、と言っていたが時間節約といって納得させた。そして鍋に水で溶いた片栗粉をいれとろみを付ける。一煮立ちさせたあと、最後に溶き卵を入れ、かき混ぜるとほら完成、卵スープである。

 

「に、兄様。早く次の料理を!」

 

二品目が出来上がると慌てた様子で流琉ちゃんが駆け込んでくる。ホコリが立つからできるだけバタバタしないで欲しいのだが、流琉ちゃんがそんな常識を知らないはずもなく、それだけ慌てる事態が発生したということである。

 

「どうしたの?さっきりんごうさぎ持っていったばかりでしょ」

 

寂しくないようにであろうか、りんご五個以上使われたと思われるりんごうさぎ大家族である。四人で食べたとしてもわずか数分で無くなるとは思えないのだが。

 

「えっと、その、いつの間にかりんごうさぎ大家族が神かくしに遭ってましたぁ・・・」

 

震えた声で一生懸命に説明する流琉ちゃん。

流琉ちゃんがりんごについて説明している隙にすべて消え失せていたらしい。

すぐ側にいた赤い髪の女性が、「・・・可愛かった。・・・美味しかった」とつぶやいていたとかいないとか。全く可愛いといっておきながら容赦無いな!というか全部その娘の胃袋へ!?

 

「や、野菜炒めとスープで来てるから持ってって!」

 

「わ、私嫌ですよ。兄様が行ってくださいよ」

 

「俺には、ご飯が炊けるのを見守るという義務が・・・」

 

「私がやっておきますから。さっさと行ってきてください」

 

いかなきゃ力で押し通すぞ、という流琉ちゃんの気迫のこもった言葉に渋々従わざる負えなかった。というか立場弱すぎ?!

 

大皿と鍋、ついでに先日茹でておいた枝豆の入ったかご、小鉢とかその他もろもろを持って部屋にはいると、うつ伏せだった赤い髪の女性ががばっと顔を上げる。そう、呂布さんである。

 

「え、ととりあえず野菜炒めと卵スープ、枝豆をお持ちしました・・・」

 

手元の料理を見ているのだろうが、ギラついた目つきに、かなりビビる。一般人なら腰が砕けてしまっていたかもしれない。

 

「おー、兄さんこっちやこっち」

 

張遼さんの手招きに従い机に大皿を載せる。スープは冷めないように囲炉裏の方だ。

 

「へ、大皿で食べるんか。さっきのりんごうさぎもそうやけど、ここって面白いなぁ」

 

「ですね。食べたい量をご自分でよそってもらえると助かります。面倒でしたらやりますけ・・・」

 

ど、と言い終わらないうちに呂布さんが大皿を自分の方に引き寄せた。微妙な空気が流れる・・・かとおもいきや、他の三人はいつも通りなのか、対して驚きもせず、やれやれと言った感じで見守るのみであった。

 

「あー、いつも通りやから気にせんといて。うちらはこっちの枝豆とやらをいただくわ。これってどう食べればいいん?」

 

「え、ああ押してもらえれば豆がとび出すんでそのまま食べてもらえればいいですよ。あと飲み物は何がいいですか?」

 

「「酒で」」

 

「音々と恋殿はお茶でいいのですぞ」

 

どうやら大人チームと子供チームという区分けができているらしい。

 

「かしこまりました。では少々お待ちください」

 

そしてお酒とお茶、流琉ちゃんが作った料理を持って再度ここに来ると、すっかり空になった大皿、鍋、期待した眼の呂布さんがお待ちかねしていたのである。

 

そして俺と流琉ちゃんは料理を作り続けるという地獄に突き落とされたのだ。

 

 

 

 

 

 

そして冒頭に戻る。

もう何度目かもわからないおかわり地獄にもう辟易としているのである。正直持ってくるのもしんどい。流琉ちゃんなんかはもう眼がほとんど死んでいる状態だ。

 

「一刀、大丈夫・・・?」

 

こちらを心配するように現れたのは天和さんである。さすが長女は格が違った。

 

「あー、うん。多分大丈夫だと、と思うよ」

 

キャベツを刻むスピードを緩めることもなく、返事をする。流琉ちゃんはすでに無意識で鍋を振っている状態である。むしろそちらのほうがすごい気がする。

 

「で、どうしたの?」

 

できれば、出来ればコレ以上仕事が増えないでほしい、そう願いつつ尋ねる。

 

「一刀達忙しそうだから、お手伝いしようかなって」

 

「いや天和さんたちもお客さんなんだし、ゆっくりしてていいよ?」

 

「でも、私達お金を払ってるわけじゃないし・・・それに・・・」

 

「それに?」

 

もじもじと歯切れの悪いいいように、何かしら裏があるのかと疑ってかかってしまう。が、そんなようなことがあるはずもなく。

 

「暇なんだもん!もう踊るのも歌うのも疲れちゃった―。地和ちゃんは寝ちゃうし、人和ちゃんは動けないし、一刀かまってよー!」

 

途中から涙声になりつつ、本音を叫びだす。

うわぁこの人すっごい子供だ!あと包丁持ってるんだから抱きついてくんなし。

しかしこの提案はもしかして渡りに船かもしれない。

 

「では臨時従業員として採用しよう。何ができる?」

 

「歌と踊りならできるよ♪」

 

「よし、じゃあとりあえず外で踊ってきてくれる?」

 

「ごめん一刀~。嘘、冗談だから。あ、歌と踊りができないってわけじゃなくて他にも色々と出来るから。できるんだってば!」

 

さっさと料理をつくる作業に戻ろうとすると必死になって言い訳を始めるのだった。初めから正直に答えておけばいいものを、余計な時間を喰ってしまったわ。

 

「よし完成。じゃあコレ持ってくからついてきてくれるか?」

 

「うんいいけど・・・これは?」

 

大皿いっぱいの焼きそばだ。

質、量を兼ね備え、時間をあまりかけることなく簡単に作れる焼きそばというチョイスは実に理にかなっていると自負できる。

実はこの焼きそばはかまどが足りず、臨時に外に鉄板を敷いて仮設調理スペースで作業していたのである。なぜこのような設備が急に湧いて出てきたとかはもうどうでもいい。ぶっちゃけ疲れた。

先ほど刻んでいたキャベツ?戻ったらお好み焼きでも焼くつもりです、はい。

 

「ああうん、それもあるんだけど。この量を食べきれるの・・・?」

 

「多分大丈夫だと思う。いや、確実に食いきるだろう・・・」

 

確信が持てる。

呂布さんはわんこそばを食べるかのごとく食べきるだろう。未だに食べるペースが衰えないのがぶっちゃけおそろしすぎる。

あまりにも深刻だったのか、天和さんがゴクリと息を呑んだ。

 

「さあ行こう。きっと期待に満ちた表情で、正座で待ちわびているのだから・・・」

 

「えっと、一刀、がんばろー!」

 

乾いた笑顔が、棒読みの応援が、胸に染みこんでくきた。

 

酒(まだ飲むんかい!)、焼きそばを手に部屋に向かう。

焼きそばのソースの焦げた香ばしい香りが廊下を漂う。そういえばあれからほとんど何も口にしていなかった。あとで天和さんたちの分の食事も用意しておかないとなぁと、まだ終らないこの状況に静かに溜息をつく。

有名料理店の厨房はこんなかんじなのだろうか。好きだからできるのか、仕事と割り切っているからできるのか、尊敬するね本当に。

 

「お待たせしました。焼きそばと追加のお酒です」

 

「いやぁ待ったで。このお酒、ついつい飲み過ぎちゃうんや」

 

「ああ、口当たりもいいし、すっと身体に染み渡るというか。こんな酒は初めてだな」

 

「ほんま持って帰りたいなぁ。兄さん、帰るとき分けてくれへん?」

 

「私の分も頼む」

 

張遼さんも華雄さんも、うっすらと頬を染め、しかし呂律が回っているということもなくしっかりと受け答えができているようだ。

 

「全く、飲み過ぎなのですよ」

 

「そら音々、こんなにうまい酒があるんだから飲まなきゃ失礼やろ」

 

「そうだな。音々も一杯どうだ?」

 

「音々は遠慮しておきます。こんなトコロで酔いつぶれるのは嫌ですから」

 

どうやら二人と違って陳宮ちゃんは弱いらしい。この二人が強すぎる、と言い換えることもできるが。

 

「・・・早く、お皿置いて」

 

「おっとすみません」

 

呂布さんから催促ときたものだ。案の定、前に持ってきた大皿は見事に綺麗になっていた。俺は後ろに控えていた天和さんにアイコンタクト、正確に指示を理解し両腕がふさがっている俺の代わりに天和さんが大皿を片付ける。

 

そしてそこで思いがけない事件が起こった。

 

「あ、ちょーかく」

 

呂布さんの何気ない一言。

固まった空気の中、動いたのは3人。

華雄さんは『張角』という言葉を理解し、お酒を投げ捨て天和さんに飛びかかる。

その華雄さんを急いで止めようと手を伸ばし、たどり着く寸前で羽交い絞めに成功した張遼さん。

そして一泊置いて天和さんを引き寄せ、抱え込んだ俺。

 

「離せ霞!そいつが誰だか解ってるのか!」

 

「とりあえず落ち着けや華雄!」

 

「落ち着いていられるか。そこにこの前の黄巾党の原因がいるんだぞ」

 

「せやかてなんの証拠もあらへんやろ!」

 

「恋がそう言ったのだ。間違ってるわけがあるか!」

 

羽交い締めにされた華雄さんは荒い息を吐いて興奮状態に陥っていた。張遼さんは必死に押さえつける。しかしその目はこちらを信用している、ではなく疑ってかかっていたが。

 

「なあ兄さん。ホンマか?」

 

「本当だったらどうする?」

 

「そうやな。ここで華雄を拘束している手を離してまうかもしれへんな」

 

その目は本気だ、と言っている。だから俺はこう答えるしかない。

 

「悪いね。なら君たちは強制退出してもらうしかないな」

 

「ほう、なら認めるんか?」

 

「さあね。とりあえず暴力に訴えられちゃ困るんだよ」

 

彼女たちにはなにか事情があるのかもしれない。ただ言えることは黄巾党の首領である『張角』、『張宝』、『張梁』の三人は敵である、というだけだ。

 

「彼女たちは俺にとって大切な客だ。その客がみすみす危ない目に遭うっていうのを黙ってみているわけにはいかないんだよ!」

 

ポケットから折りたたみナイフを取り出す、でも刃は出さない。

きっと出してしまえばそれがきっかけになってしまうだろうから。

 

ジリジリと睨み合う。武器を持ってた維持しているわけでもないのに、冷や汗が出る。ナイフを持っている分、こちらが有利、と思うしかない。

 

「霞、華雄。少し落ち着くのです」

 

この圧迫がいつまで続くのか、と思ったが意外なところからストップがはいった。

そう、今まで一度も言葉を発していなかった陳宮ちゃんであった。

 

「霞、華雄、止める」

 

そして陳宮ちゃんに続くように立ち上がった呂布さんが間に入る。

 

「ちっ」

 

「ふー、華雄は馬鹿力過ぎてかなわんわ」

 

二人が臨戦態勢をとき座り込むのを見て、ようやくこちらも緊張状態をといた。後ろにいた天和ちゃんなんかはなんかもう、震えプラス涙目になっておる。

各有俺もナイフを持った手が短期間のうちに汗でしっとりと濡れていた。

 

「馬鹿華雄は仕方ないとして、霞も自重するのです」

 

「おい、ちんきゅ」

 

「せやかてうちだって納得いかんものはいかんのや」

 

「挑発しておいてよく言うです」

 

やれやれといた感じで陳宮ちゃんが座り込んだ。

 

「ほら、主人たちもそこに座るのです。とりあえず言いたいことがいろいろあるでしょうし」

 

どうやらこの中で1番冷静なのは彼女らしい。更にはこちらの話も聞いてくれる気もあるようだ。主導権を上手くとられてしまったが、この展開は正直助かったと言わざる負えない。

 

「そうだね」

 

努めて冷静を装い机を挟んだ対面に座る。天和さんも続いて横に座り、更に呂布さんも隣に座る。

 

「えと、どうしてこっちに?」

 

「ん、ごえい?」

 

むしろこちらに逃げられないようにするという意図があるのではないだろうか。ぶっちゃけとなりに呂布とかどうしろって言うねん。張遼さんならなんとかなるとか言うわけではないが。

 

「あんしん・・・して?」

 

そう言いながら黙々と焼きそばを食べ始める呂布さんを見て、もうどうにでもなれ、と開き直るしかなかったのだった。

 




ここまで読んできた抱きありがとうございます

まず先に遅くなってしまい申し訳ありません
急に思いついたSAOの話,仕事が忙しい、花粉症辛いと全然書く気が起きませんでした。
加えてとても難儀した回です。当初では馬騰さんが来訪する予定だったのですがいろいろ会ってボツになりました。

違和感に気づいた方も多いと思いますが恋がデレデレではありません
原作が好感度100とすれば今作では85といったところでしょうか
音々や霞への好感度が95位だと思うので 優先順位としては二人に軍配が上がっています
ならなぜ最後止めに入ったのかと言われれば、まぁ好きで危害を加えたいと思っているわけじゃないので、間に入って止めたといった事情があったわけです

次回はもう少し早く投稿出来ればいいと思います よくよく考えるとまだ13話しか投稿してないんだよね・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。