萌えもん~multi travel~ (マクドール)
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第一部
薬屋の息子-1


ここはタンバシティ。荒波寄せる海の町。


 

 

 

 

萌えっともんすたぁ…縮めて萌えもん。

 

この世界には萌えもんと呼ばれる生き物達が至る所に住んでいる!

 

人は萌えもんと仲良く遊んだり、一緒に戦ったり………助け合いながら暮らしているのじゃ!

 

そして…

 

萌えもんを旅のパートナーにして世界を巡る人達もおる!

 

………そんな彼等の物語。

 

 

 

 

 

 

もう波の音と人々の喧騒が小さくなっている。そんな中、母の声が僕の耳に届く。

 

 

「ねぇ…本当に旅に出ないで良かったの?父さんは反対してるけど私は少しくらいなら旅に行ってもいいと…」

 

 

「…いいんだ、母さん。そう言ってくれるのは嬉しいけど僕はここの後継ぎとしての修行がある。まだ薬の勉強をしてたいな」

 

 

空が暗くなっていく頃、母さんの誘いに対して僕はそれを拒否した。僕には自分の家の手伝いがあるからね。そう伝えると母は何処か憂いを帯びた顔で僕を見る。それから目を逸らすかの様に僕は自分の部屋へと戻ろうとする。

 

 

「ならいいのだけれど…前に旅に出たいって言ってたから」

 

 

「いいんだ、気にしないでくれ。…僕はもう寝るよ」

 

 

僕の名前はドラ。ここ…タンバシティにある老舗の薬屋の息子だ。母は一月前までずっと旅に出たいと言っていた僕に対して気を利かせてくれたのだろう。だけど…

 

 

 

 

 

 

母と別れ僕は自分の部屋に戻ると相棒のツボツボの「つー」がいた。つーは家で仕事の手伝いをしてくれいる萌えもんだ。彼女は戻ってきた僕を見ると眠そうな眼にのんびりとした口調で告げる。

 

 

「ドラちゃーん。寝よー。つーは疲れたー」

 

 

そう言ってつーは自身のの隣に敷いてある布団を軽く叩く。…確かに今日の仕事手伝いは大変だった。つーが疲れるのも無理はない。

 

 

…それなら好都合だ。僕はつーの誘いに乗り、布団に入ろうとする。

 

 

「うん。僕も寝るよ。おやすみ…つー」

 

 

「…んー」

 

 

僕がそう答えるとつーが布団に入る。それを確認した僕も隣の布団に入る。…今日の僕は寝る気はないけどね。

 

 

 

 

………暫くしてつーが寝たのを確認し、僕はゆっくりと起き上がる。そして忍び足で部屋の中を歩く。部屋の電気も消えている薄暗い中で僕は押し入れに隠してあったリュックを取り出す。そして一月前から少しずつ準備してきた中身を確認していく。…特に問題はなさそうだ。

 

 

僕は大きなリュックを背負いこっそり部屋の窓から外に…家の外出る。

 

 

 

そう…

 

 

僕はこっそりと旅に出るのだ。

 

 

 

 

 

 

僕は前から旅に出たいと考えていた。しかし家は老舗のタンバの薬屋。父は猛反対していたし、母もあまり乗り気ではなかった。

 

 

なので今日母が旅に関して声を掛けて来たのは驚いた。僕の計画がバレてしまったのではないかと思ったからだ。

 

 

子供の頃から一人で旅に出るプランは考えていたがここタンバは海を渡らなければ一番近くの町であるアサギまで行けない。そして一人で海を渡るのは無謀であり、どうすれば外の町に出られるか頭を悩ませていた。

 

 

しかし、約一ヶ月前ここジョウト地方にある出来事が起こる。

 

 

…大規模な地震だ。

 

 

その地震によりタンバの脇に大きな穴が空き、洞窟が出来たのだ。どうやらそこはジョウト地方の各地に繋がっているらしい。

 

 

以前うちの薬屋に来た客がその洞窟から来たのだと言っていた。その話を聞いた僕はこれを利用しようと密かに準備を始め、そして今日が決行の日だ。

 

 

僕は夜の静かな浜辺を歩き、その洞窟前まで着いた。用意していたゴールドスプレーを使おうとしたその時…

 

 

「ドラちゃーん。…どこ行くの?」

 

 

 

 

聞き覚えのある声が聞こえる。

 

 

その声に振り向くとつーが立っていた。…何故つーがここにいるのか。いや、それを考えるのは後だ。幸いのんびり屋なつーなら言いくるめられるだろう。

 

 

「お、つーか。ちょっと気分転換だよ。すぐ戻るから先に…」

 

 

「旅、出るんだー。ふーん…」

 

 

つーは僕の行動の核心をついてきた。

 

 

その上普段のぼーっとしたような目ではなく、鋭い目付きでこちらを見つめてくる。妙に考えも鋭いしいつものつーらしくないな…

 

 

「いや、行かないよ。つーと一緒に薬屋の修行するって前に…「嘘は良くないよー。ドラちゃん。家に戻って知らせてくるよー」

 

 

「そしたらさー。パパさんは怒るだろうしー、ママさんは悲しむよねー。ドラちゃんも薬屋の修行漬けだろーねー」

 

 

「多分もう旅になんか出れないねー。まぁつーはそれでもOKなんだけどー」

 

 

僕の言葉に被せてつーが話を続ける。これもいつものつーらしいくない。…これは脅しているのか。確かにつーの言う通りだ。もし両親にこのことがバレたら僕の旅の夢は消えてしまうだろう。

 

 

「…何が目的かな?好物のきのみジュースなら部屋にあるの全部飲んでも…「要らない」

 

 

僕の懐柔案に対し、きっぱりと断られてしまった。また普段からは考えられない口調だ。

 

 

そんなつーの普段とは違う様子と僕の旅の計画がバレてしまったことに混乱していると。つーは溜め息をついて静かにこちらへの距離を詰めてくる。…それが何か恐ろしいものの様な感覚を僕は覚える。

 

 

「…別にねー、つーは旅を止めたい訳じゃなくてねー」

 

 

「ドラちゃんと離れるのか嫌なのよー」

 

 

「だからねードラちゃんの選択肢は二つ。つーと家に戻るか、旅に行くかだよー。それ以外は認めないからー」

 

 

…え?旅に?つーが?………つーのことに関してだが考えていなかった訳ではない。最初は連れていこうか考えだがつーは家の萌えもんだ。勝手に連れていく訳にはいかない。その為僕は声は掛けなかったのだ。

 

 

「いや、つーは家の萌えもんだ。だからそれは…「つーはドラちゃんの萌えもんだよー。薬屋の萌えもんじゃなーい」

 

 

「どーする?つーはドラちゃん連れ戻して一緒に薬屋の修行でもいいんだけどなー」

 

 

つーは依然としてこちらを鋭い目付きと僕の言葉など関係無いと言わんばかりの口調で僕を見つめ…問うてくる。

 

 

 

 

…しょうがないか。つーも引く気はないようだ。僕が折れるしかない。別につーが来てくれる分には助かるのだ。つーを勝手に連れていったことによる両親の怒りが怖いがそれはこの旅に出る決意をしてるからには覚悟の上だ。

 

 

「…分かった。行こうかつー。なら早く行かないとな」

 

 

そう言うと彼女の目が普段のぼーっとしたものに変わる。

 

 

「…うんー。行こー。ドラちゃーん」

 

 

つーは間延びした口調でそう言うと、洞窟へ入ろうとする僕の後ろにゆっくりと続くのであった。




つー(ツボツボ)
性格:のんき
タンバの薬屋の家の萌えもん。様々な仕事の手伝いを行っている。いつものんびりしており間延びした話し方をする。好物はきのみジュース。ビジュアルとしては金のミディアムヘアーで赤のワンピースを着ている。


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理科系の女-1

ここはワカバタウン。始まりの風が吹く町。


…良いものが手に入ったわ!

 

 

私はそれに浮かれるような軽いステップでこの町一番の大きさの研究所を後にする。外に出ると私は先程貰った機械を確認する。

 

 

「ふーん、これが萌えもん図鑑ねー。早速だしエレも覗いてみましょうか!」

 

 

この研究所の博士…ウツギ博士から貰った萌えもん図鑑で私は隣にいる萌えもんをチェックする。萌えもん図鑑を向けられた私の萌えもんは少し驚きながらも動かずにいてくれる。

 

 

…すると図鑑の画面に萌えもんのデータが映し出される。

 

 

『No125、エレブー。でんげき萌えもん。つよいでんきがだいこうぶつでおおきな はつでんしょなどにしばしば あらわれる』

 

 

「…なーんだ。あんまり大したこと書いてないじゃない」

 

 

もっと萌えもんの凄い秘密とかを教えてくれたりするのではないのか…。私がそう呟くと隣の萌えもん…エレブーのエレが私の呟きに反論した。

 

 

「いえ、それはマスターが私のことをよく把握しているからそう感じるだけです。これは凄いですよ。見知らぬ萌えもん相手にも情報を獲得出来るのですから」

 

 

まぁ…確かにエレの言う通りかもしれない。しかし今のエレの私への呼び方に対して、私はここ…ワカバタウンに来てから何度目かも分からない注意をする。

 

 

「あーっ!そのマスターっていうの禁止って言ったでしょ!セーレって呼びなさい!」

 

 

「すみません。マスター。これからはセーレと…「呼べてないじゃない!」

 

 

…やはり駄目だ。エレは直す気はあるらしいがいつもの癖でマスターと呼んでしまうようだ。全く…

 

 

「…もう私達は仕事も辞めて対等な関係なの!これからは私の輝かしいトレーナーライフが始まるのよ!」

 

 

そう、私はかつてシルフカンパニーという会社で働いており自分で言うのも何だがエリートコースの人間だったのだろう。当時の私は若くしてかなり上の立場にいた訳だし。…多分。

 

 

しかし過去…と言ってもほんの少し前に私は会社がある事件に巻き込まれその時にポケモントレーナーになりたいと思い、社長に辞表を叩き付けてやった。今側にいるエレとはシルフ時代からの関係であり、この呼び方もその時からのものだ。

 

 

「すみません。マスターそのことに関してなのですが…」

 

 

「…何?」

 

 

そのことというのは先程私が話したトレーナーライフのことかしら。………私はエレへの指摘を諦めてエレの質問に耳を傾ける。呼び方に関してはもう突っ込むのも疲れた。一旦スルーしよう。

 

 

「幾つか疑問がございます。何故旅の出発点をこちらに?ジョウト地方ならばコガネシティ或いはエンジュシティ等が望ましいかと」

 

 

「エレは頭が固いわねー。ここワカバは始まりの風が吹く町よ!始まりにぴったりじゃない!」

 

 

そう言うとエレは困惑した表情で私に聞いてくる。

 

 

「マ、マスターがそんな非論理的な理由でここを…?」

 

 

「うん。そうよ」

 

 

………エレは呆れた表情だ。まぁ昔の私のことを知っているエレからしたら考えられない様な理由だからだろう。それを聞いたエレは小さく息を吐き、質問を続ける。

 

 

「………では次の質問です。私の知る限りではポケモン図鑑は非常に希少なものだったと把握しております。何故ウツギ殿から頂けたのですか?」

 

 

「ウツギ博士の所とシルフはちょっとしたコネがあるのよ。何か試作品のボールやらアイテムだとかでね。彼は進化の研究で有名だから、私が持ってる色々なアイテムと交換してもらったわ」

 

 

「成程。先程私が持っていた箱の中身はそれでしたか」

 

 

あの研究所の博士…ウツギ博士には私が会社時代に入手したアップグレードとかブースターとか色々渡しておいたのだ。まぁ今の私には使い道無さそうだから渡してもいいでしょ。…何か萌えもんに対して使い道のある道具らしいが。

 

 

私の回答を聞いたエレは更に質問を投げ掛けてくる。…まだあるのか。

 

 

「では最後の質問です。何故私がこの旅に同行しているのでしょうか?私はバトルは不得手なのですが」

 

 

「そ、それは…」

 

 

………

 

 

私は今まですらすらと質問に答えていたがこの質問対して私は言葉に詰まる。

 

 

その質問に対し、私はある事件を思い出す…

 

 

 

 

「貴方達、待ちなさい!私を置いて逃げるなど…」「社員は逃がすな!人質として捕らえるのだ!」「なっ…」「マスターお逃げ下さい!早く下の階へ!」「エレブー!?何故ここに!」「生意気な!やっちまえ!ゴルバット!」「くっ、マスター早く!」「え、えぇ…」

 

 

 

 

あの事件の時皆が我が身を優先する中、普段貴女に対し冷たく当たっていた私を戦えなくても守りに来てくれたから…

 

 

ってそんなこと恥ずかしくて言える訳ないじゃない!小っ恥ずかしくなり、頭をかきながらエレに答える。

 

 

「…な、なんとなくよ!…あ!でも電気タイプとか一番最初の相棒感あるじゃない!」

 

 

「はぁ…」

 

 

…何とか誤魔化せた。エレもとりあえずは納得してくれた様だ。

 

 

さて、何処から行きましょうか…。まだ新しい鞄からタウンマップを取り出し、ワカバタウンを探す…。そしてワカバタウンを見つけるとその周辺を指でなぞる。

 

 

「さて質問終わりなら行くわよ!タウンマップ見る限りだとヨシノが次の目的地よ!そしてキキョウ!まずはバッチ一個から狙ってくわよ!エレ!」

 

 

「了解です。マスター」

 

 

「あー!だから私のことはセーレと…」

 

 

やはりエレの私への名前呼びに関しては直るまで時間が掛かりそうね…。




エレ(エレブー)
性格:真面目
元シルフカンパニー所属の萌えもん。研究等の仕事手伝いを行っていたのでバトルに関しては頭の中のデータはあるものの動きは素人。ビジュアルは黄色髪のショートに黄と黒のパーカーを着ている。


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遺跡マニアのおじさん-1

ここはチョウジタウン。ようこそ忍者の里へ。


 

[地下洞窟報告ファイル]

およそ一月前にジョウト地方を襲った大規模地震によりエンジュシティ内の焼けた塔が崩壊。その解体作業の際に地下洞窟が発見された。内部調査の結果この洞窟は現在ジョウト地方全域、ホロン地方南部に繋がっていることが確認されており、近域のカントー地方にも繋がっている可能性も考えられる。世間一般では地震によって地下洞窟が出来たと認知されているが、この様な大規模な洞窟が大規模な地震であったとはいえ即発的に生成されるとは考えにくい。その為今後も地下洞窟の調査を行い、地下洞窟の内部の捜索、生成の詳細を追うものとする。

[チョウジ萌えもん研究所地下洞窟捜索部職員ケイブ]

 

 

「ふぅ…まぁこんなもんか」

 

 

俺は報告書に一段落つけ、息を吐き体を伸ばす。年のせいか、長く座っていたからかどちらか分からないが伸ばした際に体から小さな音が鳴る。

 

 

するとこの部屋に俺の萌えもんが静かに入ってくる。彼女はカップを乗せたお盆を持ちながら近付いてくる。

 

 

「………」

 

 

「お、ありがとうなリリーラ」

 

 

彼女…俺の手持ちであるリリーラが淹れてくれたお茶を受取って俺はそれを口にする。

 

 

…うん、落ち着くな。

 

 

「ありがとうな」

 

 

「………」

 

 

そう言うとそそくさとリリーラは部屋を出てしまった。顔を見た限りでは赤くなっていたから照れていたようだ。

 

 

…それと入れ替わりで俺の二体目の手持ちであるアノプスがドアを開ける音を響かせながら部屋に入って来た。そして俺の側に来る。

 

 

「ケイブさん、報告書見てもいーい?」

 

 

「良いけど…見るだけな?」

 

 

そう言って俺は書き立ての報告書を手渡すとアノプスは黙々と読み始める。…暫くして読み終わったのだろうか、アノプスは俺に声を掛けて来た。

 

 

「なぁ、このホロン地方って何よ?」

 

 

んーとこいつにも分かるように説明するとだな…。顎の無精髭を弄りながら話し方を考える。

 

 

「ホロン地方は今いるジョウト地方から北に向かった所にある地方だな。…ちょっと前にお前らと見つけた出口があったろ。あそこはホロン地方のカンナシティ付近だったんだよ」

 

 

「えーっ!?俺そんなの知らないぜ!」

 

 

アノプスは驚く。あ、確かその時こいつは…

 

 

「…そういえばお前は瀕死状態になってたか。リリーラなら知ってる筈だぞ」

 

 

「リリーラの姉貴は全然話さねーから分かんねーよ!」

 

 

「…確かにな」

 

 

リリーラは大体表情見れば考えは分かるんだがなー。そこそこ長い付き合いだしな。

 

 

「…んでケイブさん、次はいつ行くんだい?」

 

 

アノプスは何処にとは言わないが場所ら恐らく地下洞窟のことだろう。そうだな…

 

 

「今すぐにでも行きたいな。一応報告書も書いたしな」

 

 

「えっ、今すぐか。ケイブさん、地方洞窟好きだねぇ」

 

 

「まぁな、今まで各地方見てきたがマニアとしちゃあそこまで面白いもんは無いわ」

 

 

今の俺は地下洞窟が持つ謎の魅力に惹かれているのだ。ここまで大規模で新しく出来た洞窟なのでまだ捜索しきれてない所だ。これは遺跡マニアとしての血が騒ぐ。

 

 

洞窟と遺跡は違うが俺はそういう未知なるものが大好きなのだ。現にこう話している内に行きたいという願望が膨れ上がっている。

 

 

「よし、アノプス。リリーラを呼んでくれ。さっそく行こうか」

 

 

「うん。…ってあ!」

 

 

部屋の扉の前には既に旅支度を整えたリリーラが待機していた。…いつからいたのだろうか?

 

 

「………」

 

 

「呼ぶ前からいるし…」

 

 

「おっ、支度まで出来てるか。流石だなリリーラ。んじゃ行くか」

 

 

「おう!」「………」

 

 

俺はリリーラが用意してくれた荷物を身に付けて部屋を出る。

 

 

さて、今日も探索だ。




リリーラ(リリーラ)
性格:おとなしい
ケイブの手持ちの一体。たまにしか喋らず基本無口。ケイブと共に各地方の遺跡や洞窟等を見て回ってきた。ビジュアルとしてはピンクのショートに紫の作業服と頭に紫の被り物と眼鏡装備。


アノプス(アノプス)
性格:わんぱく
ケイブの手持ちの一体。リリーラより後輩である。様々なことに興味を持つことが多くそれが良くも悪くも新たな発見に繋がることが多い。ビジュアルとしては灰色のツインテールに灰色の作業服と頭にアノプスの模様が書かれた被り物を付けている。


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ピクニックガールの少女-1

ここは地下洞窟。まだ名前も無い何処かに繋がる道。


 

足音はもう止んでいた。

 

 

「ハァ…ハァ…もう追手は来てないわね」

 

 

私は全力で走っていた足を止め壁に寄りかかる。壁からはひんやりした感触がする。足音はいつからだろうか…もう聞こえなくなっていた。

 

 

「…ふぅ、ツヴァイの回復しないとね。ツヴァイ出てきなさい」

 

 

呼吸を整えた私はボールのスイッチを押すと中から光と共に萌えもんであるワニノコのツヴァイが現れた。

 

 

「…もう大丈夫なの?ねーちゃん」

 

 

ボールから出てきたツヴァイは震えた声で私に語りかけてくる。やはりまだ不安なのだろう。そんな彼女を不安にさせないように優しく話す。

 

 

「…多分ね。ほら、回復してあげるから」

 

 

ツヴァイはそんな私の姿を見て疑問に思ったのだろう。そのまま浮かんだ疑問を私に投げかけてくる。

 

 

「…ねーちゃん、その格好どうしたの?いつものは?」

 

 

「…いつものはね、もう着ないわ。これからはこの服装でいるわ。…どう?似合うしら?」

 

 

「…うん」

 

 

今の私は活動的なピクニックガールの服装をしていた。これは普段からは考えられない服装だからツヴァイはこのことを聞いてきたのだろう。幸いなのはこの服装が非常に動きやすいものであったということか。見た目も悪くない。

 

 

私はポケットに入っていた傷薬をツヴァイに使った。これでとりあえずは大丈夫だろう。傷の治療が終わるとツヴァイはおずおずとした調子で私に聞いてくる。

 

 

「ねーちゃん、ここ何処?」

 

 

「ごめんね。私もよく分からないの。新しく出来た洞窟…?だったかしら」

 

 

こんなよく分からない所まで逃げなければいけなかったのか。ふと私はそう考える。…まぁ結果として追手を撒くことが出来たのだ。上々だろう。私は頭の中で考えを自己完結させる。それよりもここからだ。ここから進まなければならない。

 

 

「恐らくここには野生の萌えもんも出るでしょね。でも私達はここを進むしかないわ。ツヴァイ…付いてきてね」

 

 

「…うん。ねーちゃんは私は守るよ、ツヴァイ頑張る!」

 

 

ツヴァイはぴょんぴょん跳ねている。その無邪気さに私は思わず微笑む。

 

 

「ありがと。でも無理はしないでね。よくある洞窟の萌えもんの中なら…イシツブテとかはあんたには危険だわ。あまり戦わずにね…?」

 

 

「うーん、電気効かないからね。いないと良いけど…」

 

 

ツヴァイは手からパチパチと電気を出す。

 

 

 

 

…一般的なワニノコからは考えられない光景だ。

 

 

ツヴァイ…このワニノコはデルタ種と言われているホロン地方特有の個体なのだ。デルタ種は一般的な萌えもんと異なるタイプを持つことが多い。…しかし最近ではある理由でデルタ種は減少を続けており、デルタ種はかなり希少な個体であると言えるだろう。

 

 

………まぁその理由が原因で私達は追手から逃げることになり、こんな得体の知れない洞窟へと逃げ込むことになったのだが…

 

 

「逃げてばかりじゃ駄目よね。何処で落ち着いたらまた…」

 

 

「?ねーちゃんどうしたの?行かないの?」

 

 

私が考え込んでいるとツヴァイがこちらを見上げて私に聞いてくる。あ、そうね。今はとりあえず行動しないと…

 

 

「ん、あんた達の仲間にも会わないとねって。ツヴァイ、ちょっと我慢してね。またきっと一緒に…ね?」

 

 

私はそう言い、ツヴァイの頭を撫でる。するとツヴァイは元気良く返事をしてくれる。

 

 

「うん!」

 

 

「じゃ行きましょうか。行き先が分からないこの洞窟をね」

 

 

行き先が分からなくても進むしかない。今は進むこと…

 

 

それが私…ホロの目的であるかつて一緒にいたデルタ種の萌えもん達とまた暮らすという目標の第一歩になるのだから。




ツヴァイ(ワニノコ)
性格:さみしがりや
ホロン地方特有のデルタ種の萌えもん。デルタ種の萌えもんは一般的な萌えもんとはタイプが異なることが多く、ワニノコは水タイプではなく電気タイプである。甘えん坊であり、トレーナーのホロに甘えることが多い。ビジュアルとしては青髪の中に赤のメッシュが入ったロングヘアー、青と少し赤が混じった服を着ている。


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理科系の女-2

ここはヨシノシティ。花の香り漂う町。


 

「まずは萌えもんを回復させましょう」

 

 

テン、テン、テレレン…!

 

 

大きな機械からそんな音が聞こえる。その音が終わると職員さんはその機械からボールを取り出し私に手渡ししてくる。

 

 

「はい、元気になりましたよ!」

 

 

「あ、ありがとうございます…」

 

 

私がそれを受け取る。

 

 

「それでは頑張って下さい!」

 

 

「はい…」

 

 

私はボールを受け取った後、近くの椅子に座りボールのボタンを押す。

 

 

するとボールが開き、光が溢れる。…その光の中から落ち込んだエレが姿を表した。

 

 

「マスター、すみません。不覚を取りました…」

 

 

「うん…」

 

 

エレは開口一番に謝罪してくる。うん…不覚を取ったわね。

 

 

「バトルというのはやはり難しいものですね…」

 

 

そうね、やはり難しいわ…

 

 

「うん…だからってさぁ、あんた…」

 

 

「…初トレーナー戦のコラッタに負けてんじゃないわよ!私言ったでしょ!最初は綺麗に勝とうって!こういうのは最初の肝心なのよ!あーもう…」

 

 

私は胸の内に溜まっていた不満をエレにぶちまける。それを聞いたエレはしょんぼりしているようだ。

 

 

先程、私達は初めてのトレーナー戦に敗北してしまい目の前が真っ暗になってしまいエレを回復させようと無我夢中でここ…ヨシノシティの萌えもんセンターまで走ってきた。そして現在、萌えもんの回復を終えた所だ。

 

 

ワカバタウンからヨシノシティまでの道中向かう所敵無しだった私達は浮かれていたのだろう。そのままキキョウシティまで行こうということになり、その道中で短パンの少年に萌えもんバトルを申し込まれたのだ。

 

 

正直その時の私は初めてのトレーナーとの萌えもんバトルを舐めており、勝った時に何言おうかなーとか考えていたくらいだ。

 

 

しかし結果は惨敗である。もーこれは完全にエレのせいだ…!

 

 

「大体あんた相手のコラッタの電光石火モロに喰らってたし…!」

 

 

「む…」

 

 

私はエレに愚痴をこぼしてると黙って聞いていたエレも我慢の限界だったのだろう、負けじと言い返してきた。

 

 

「確かにコラッタは攻撃力、素早さに優れた萌えもんですが私以上の素早さでは無かったと分析しており…」

「だからってモロに喰らうんじゃないわよ!あんた蹲ってたじゃない!」

「…しかしマスターのその後の指示にも問題はあるかと!『エレ!?大丈夫?ねぇ!?』って混乱して指示が無かったではないですか!」

「そ、そりゃあんたが心配だからそうなるわよ!」

「ありがとうございます!…その後の指示も問題です、『エ、エレ瓦割り!』…って。私は瓦割り使えませんから!無茶言わないで下さい!」

「それはノーマルタイプのコラッタに有効な格闘タイプの攻撃指示じゃない!見様見真似でやりなさいよ!瓦割りくらい!」

「見様見真似で技が使えれば苦労しません!それはシルフで技マシンの研究の一端を担っていたマスターならばご存知の筈です!」

「でもエレブーは瓦割り使えるでしょ!あんたのステータスはしっかり把握してるつもりよ!それよりエレ!最後の動き攻撃が大振り過ぎよ!しっかり一発当てれば勝てたかもしれないのに!」

「それはマスターの初陣に花を添えようと努力した結果です!急所を狙うならあの様な形にならざるを得ないでしょう!」

「結果惨敗じゃない!」

 

 

「ムムム…」「ムムム…」

 

 

私とエレはにらみ合いながらうなり声を上げる。

 

 

「…ねぇ、エレ」

 

 

「何ですかマスター。まだ何か…」

 

 

そんなことをしているのが馬鹿らしくなって…でも昔はこんなことしなかった…いや、出来なかったなと分かって先程に続き本音をエレに明かす。

 

 

「私、久し振りに負けっていうのを味わった気がするわ」

 

 

私がそう呟くと彼女も同じ様に呟きを返した。これはエレの本音なのだろうか。

 

 

「…私も恐らくシルフの事件以来無かった経験です」

 

 

「いくら前職の研究員として優れいてもトレーナーにおいては素人なのよ。私は」

 

 

「…私も萌えもんのバトルに関しては素人です」

 

 

また同じ様にポツポツと言葉を吐く。エレも同じだ。

 

 

「…幻滅した?こんな情けないトレーナーで」

 

 

…私は今まで出すのを恐れていた本音を洩らす。

 

 

「マスターこそ御理解の上でしたが想像以上にバトルに不馴れな私に呆れているのかと…」

 

 

…違う。

 

 

…エレはエレなりに頑張ってくれていたのだ。だから…

 

 

「…そんな訳ないわ!」「そんな訳ないです!」

 

 

私とエレは同時に同じ言葉を口にした。その声が重なったことに私は笑みを洩らす。…するとそれに釣られたのかエレも笑った。

 

 

…何か悩んでいたのが馬鹿らしくなってきたわ…!それよりも今やるべきことは…

 

 

「フッ…さて、あの短パン小僧の対策考えるわよ!」

 

 

「はい、同じ相手に不覚は取りません!」

 

 

私達はまた話し合いを始め、そして一時間後…

 

 

 

 

 

私達は求めていた綺麗な勝利とは程遠い初勝利を勝ち取るのであった。



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薬屋の息子-2

ここは地下洞窟。まだ名前も無い何処かに繋がる道。


 

中は蒸し暑かった。

 

 

「ドラちゃんはさー、いつも詰めが甘いよねー」

 

 

地下洞窟を入ってからしばらくするとつーが僕にそう言った。洞窟内は中は少し蒸し暑いが動くには問題無さそうだ。

 

 

「萌えもん無しでここは無茶だよー、つー無しじゃ野生の萌えもんに指先一つでダウンだよー」

 

 

「…ゴールドスプレー使っても野生の萌えもんが近づいてくるとは考えて無かった。つーがいなかったら危なかったよ」

 

 

つーの言う通り僕の考えは甘かったと言わざるをえない。僕がゴールドスプレーを使っても何度か野生の萌えもんと遭遇し、そして戦闘している。

 

 

今までだとこの洞窟内でイシツブテ、アサナン、ブーバーに遭遇している。それをつーは僕の指示や回復薬の使用もあるが難なく倒して来たのだ。

 

 

…このことに一つの疑問が浮かぶ。それはつーがバトル慣れしているという程では無いもののバトルが初めてではないような動きをしている。ツボツボの能力値を生かした巻き付くと何処で習得したのか毒々を交えた耐久戦法を扱っているのだ。

 

 

「…つー、お前毒々なんていつ覚えたんだ?」

 

 

「んー、一月前くらいー?家の蔵にあったものを拝借したのー。まぁ埃被ってたしー、使って無いみたいだからいいかなーって」

 

 

「…技マシン!?…そんなのが家の蔵にあったのか!教えてくれよつー!」

 

 

何故そんな物が家にあるのだろうか…。その疑問もあるがそれは一先ず置いておこう。僕がそのことに驚くとつーはにやりと笑う。

 

 

「つーちゃんはドラちゃんが『旅に出るから教えて下さい。つー様』って言えば教えたのにー。ずっと隠してるからー」

 

 

「………んん?その口振りだとさ、つーお前俺が旅に出ようとしてたのを…」

 

 

 

 

ま、まさか…

 

 

嫌な予感がする。

 

 

「知ってるに決まってるじゃーん、一月前までずっと旅に出たいって言ってたのかピタッと止んで何か準備してるんだもんー、お客さんにこの洞窟の話聞いてからねー」

 

 

「………」

 

 

つーは僕の嫌な予感を見事に的中させることを口にした。…どうしよう。凄く恥ずかしい。僕が一月前から練りに練っていた計画がバレバレだったみたいだ…

 

 

落ち込む僕の肩をつーが軽く叩く。

 

 

「だから詰めが甘いって言ったのー。…あ、つーはねー我流だけどバトルの練習はしてたしー」

 

 

…成程。だから野生の萌えもん相手でも充分に戦えたのか。どうやらつーは随分と旅への準備していたみたいだ。

 

 

 

「そんなことまでしてたのか」

 

 

「…一緒にいるためにね」

 

 

「…?ごめん。何て言った?」

 

 

つーが何か言ったようだが聞き取れなかったので僕はつーに聞き返す。しかしその答えはつーの催促を促す言葉に阻まれて知ることはなかった。

 

 

「何でも無いー、それより密かに頑張ってたつーちゃんにご褒美をプリーズー」

 

 

「あ、あぁ…ありがとうなつー。ほら」

 

 

僕はつーの催促に対し、リュックの中からきのみジュースを取り出しつーに手渡す。つーはこれが好きだからな。ご褒美って言ったらこれだ。つーがきのみジュースを受け取る。

 

 

「…おぉー。ありがとー。でもさー、ドラちゃんやっぱ詰めが甘いよねー」

 

 

「え?駄目だったか?」

 

 

「いや、別にー」

 

 

つーはそっぽを向ききのみジュースを飲み始める。何が駄目だったのだろうか…

 

 

ま、気にしなくていいか。つーが飲み終わったらまた先へ進もう。

 

 

「飲み終わったら行こうか。つー、頼むぞ」

 

 

僕はつーの頭の上に手を置き優しく撫でる。するとつーの体がピクッと動いた…ような気がした。

 

 

「…ドラちゃんはさー、詰めが甘いけど詰め方は間違えてないのがつーは好きだなー」

 

 

「いきなり何言ってんだ。ほら…行くよ」

 

 

「はいはい、この先もつーにお任せあれー」

 

 

僕達はそのまま洞窟を進んでいく。目指す出口は以前薬屋に来た客が言っていた…エンジュシティ焼けた塔跡地だ。



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遺跡マニアのおじさん-2

ここは地下洞窟。まだ名前も無い何処かに繋がる道。


 

[地下洞窟報告ファイル]

・地下洞窟内エンジュシティ付近(仮)について

ここではエンジュシティ内の焼けた塔跡地付近からの地下洞窟の詳細について述べる。尚、洞窟内の区分は執筆当時詳細がはっきりしていないため仮と表記する。中は地盤がしっかりしており、気温は少し高く蒸し暑いが捜索活動には影響無いレベルである。

萌えもんの生息分布に関しては気温の関係か炎萌えもん…マグマック、ドンメル、個体数は少ないがコータス、ブーバーが確認された。他にはドガース、イシツブテの生息を確認した。この分布を見る限りでは一般的な火山付近の萌えもん分布に類似しているがジョウト地方のこの一帯では火山等は確認されておらず、何故この様な生息分布になっているのかはまだ調査を進める必要がある。

[チョウジ萌えもん研究所地下洞窟捜索部職員ケイブ]

 

 

俺はチョウジから一番近い地下洞窟の入口…焼けた塔跡地付近で調査を進め、洞窟内部で報告ファイルを書き進めていると俺のズボンをグイグイ引っ張る感触に感づき、下を向く。そこにはアノプスが涙目でこちらを見ていた。

 

 

「…悪い。ケイブさん、毒消しをくれー…」

 

 

「またか。…あの薬ももう少ないんだぞ」

 

 

俺はそう愚痴りながらもリュックから秘伝の毒消しを取り出しアノプスに与える。これは前にタンバの薬屋で購入したものであり、市販の毒消しに比べ使用後少しの間毒耐性が付く優れものだ。

 

 

「…ったく、リリーラは何してんだ。アノプスを見とけって言ったんだが」

 

 

「…あー、その…あそこで」

 

 

アノプスが軽く笑いながら奥の方を指差す。それの指差している方向を俺は見る。

 

 

 

 

そこにはまだドガース二体と戦うリリーラの姿があった。俺はリリーラに指示を出そうとするがその前にドガースの技『スモッグ』がリリーラを襲った。二体同時だからか毒の霧の範囲が広く回避は困難だろう。

 

 

…しかしリリーラは息を止めて姿勢を低くしドガース二体に急接近。その動作に驚くドガース二体の頭上に岩を落とした。…その名の通り岩落としを使ったのだろう。岩を頭に落とされたドガース二体は目を回している。…戦闘不能だ。…リリーラはそれを確認するとドガースから目を離しこちらを向く。

 

 

「………」

 

 

「リリーラは大丈夫…そうだな」

 

 

「流石だぜ!」

 

 

…流石だぜ!じゃねーよ。お前のせいで一対二になってんだぞ。俺はリリーラに感謝の言葉を述べる。

 

 

「一対二でよくやってくれた。指示無しで悪かったな………ん?」

 

 

「………」

 

 

俺がそう誉めるとリリーラが倒れているドガース二体の後ろを見ているので俺もそちらを見る。

 

 

 

 

すると奥でドガースが三体が目を回して倒れていた。あ、これは…

 

 

「…一対五じゃねーか!…アノプス、お前そういう時は声掛けろって言っただろ」

 

 

「いや、俺一体は倒した!」

 

 

「…そういう問題じゃない。何であんなのに挑んだんだよ」

 

 

「いや、だって…」

 

 

「………」

 

 

アノプスと話しているとリリーラは岩陰に避難させていたのだろうか…倒れている少女を出してきた。どうやら野生の萌えもんとの戦闘の間は隠していたみたいだ。

 

 

そしてリリーラはその少女を肩に背負い、担ぎ上げこちらに向かってくる。…いやお前その持ち方は女の子としてどうなんだリリーラ。

 

 

「あー!そうだ!」

 

 

「何か女の子倒れてたから助けようって突っ込んだよ!ケイブさん!」

 

 

…アノプス。こいつには報・連・相ってのを徹底させよう。俺はそう心の中で誓ったのであった。



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ピクニックガールの少女-2

ここはエンジュシティ。歴史が流れる町。


目を覚まして辺りを見回したとき、私が今どこにいるのか一瞬分からなかった。

 

 

…それから周囲を見回して、ここが萌えもんセンターなのではないかと私は推測した。

 

 

そして意識がはっきりしてくると私は腰の萌えもんボールがあるであろう位置に触れる。ボールは一つ。しっかりとあるようだ。

 

 

ほっと私が安堵していると目を覚ました私に気付いたのか隣にいる無精髭を生やした男が話しかけてきた。

 

 

「嬢ちゃん、大丈夫かい?ここはエンジュの萌えもんセンターだ。あんたは地下洞窟で倒れてたんだよ」

 

 

「エンジュ…?確かジョウトの…」

 

 

徐々に洞窟内でのことを思い出していく。いつだろうか、洞窟の壁がひんやりしたものからほのかな熱気を持ち始めた頃、複数の萌えもんに襲われて応戦するがツヴァイが毒を喰らったため、その場を離れようとして…

 

 

「…!私の萌えもんは!?確か毒を…」

 

 

「安心しろ。職員に渡して回復は終わってる筈だ」

 

 

良かった。ツヴァイは大丈夫みたいだ…。ボールの中のツヴァイを見る。…大丈夫そうだ。

 

 

「すみません…。ありがとうございます」

 

 

「感謝するなら俺の萌えもんにな。リリーラが見つけてくれたんだ。ほらっ、出てこい」

 

 

男はボールを投げると光と共に萌えもんが現れる。どうやらこの子が私を助けてくれたようだ。

 

 

「ありがとうね。助かったわ」

 

 

「………」

 

 

お礼を述べるが彼女は全く表情を変えない。聞こえているのだろうか。表情からも何も読み取れないので私は諦めて男の方に話しかける。こちらはしっかりとした受け答えで応じて話を続けてくれる。

 

 

「…ま、大丈夫そうなら俺は行かせて貰うぜ。別に礼が欲しい訳でも無いしな」

 

 

…暫くここエンジュシティ付近の話していると男はそう言い立ち上がる。彼にとっては退屈な話だったのだろうか、私は少し申し訳ない気分になる。

 

 

「いえ…、何かお礼を…」

 

 

「要らねぇよ。大人しくしときな。…そんな服装してるがあんたは華奢過ぎる。体を休めるんだな」

 

 

私はびっくりして声を上げそうになる。こ、この人まさか…

 

 

「ね、ねぇ…私が倒れている間に…み、見た?」

 

 

「…はぁ?何をだよ?」

 

 

「だって華奢ってことはその…色々」

 

 

「あー…見てねぇよ!俺にそういう趣味は無い!…嬢ちゃんその疑いの視線は止めてくれないか。…リリーラお前もな、何時もより眼光強いぞ」

 

 

隣の萌えもんも彼をじっと見つめていた。睨んでいる、そんなレベルだ。

 

 

「と、とにかく俺は行くからな!お大事に!」

 

 

そう言うと男はそそくさと萌えもんセンターから出ていった。

 

 

私の勘違いで悪いことをしてしまったかもしれない。…でもいきなり華奢だとかデリカシーが無いと私は思うのだけれど…

 

 

「………」

 

 

外に出ていった男に続いて彼のリリーラも私に一礼した後、外に出ていく。…彼を追いかける先程は表情一つ変えない彼女の顔は少し怒っている…?みたいに見えた。



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ピクニックガールの少女-3

ここはエンジュシティ。歴史が流れる町。


 

「まずはコガネ…だったかしら」

 

 

「…えーと、こっから下だね」

 

 

「下じゃ無くて南、ね」

 

 

「…そうなの?下じゃなくて南…」

 

 

私とツヴァイは萌えもんセンターに置いてある地方マップを見ながら自分のいるエンジュシティ、そして当面の目的地であるコガネシティへのルートを目で追っていく。

 

 

先程私を助けてくれた男にエンジュ周辺の話を聞くのと同時に『強くなるにはどうしたら良いか』というのを伺うとその際にコガネシティの名が上がったのだ。

 

 

そんなことを聞く理由として彼には『洞窟内の様なことが起きないために』と言ったが、本当の理由はそれではない。本当の理由は赤の他人である彼に言うつもりは無い。私の手でデルタ種の萌えもん…あの子達を取り戻す為だ。

 

 

しかしその目的の為には手持ちのツヴァイ、そして現状の私では明らかに戦力不足だ。ツヴァイは自分の力不足が原因だと言っているが私自身にも問題はある。

 

 

…あの男は私のことを華奢だと言ったが、それは的を射ている。私は普段から走り回ったりするようなタイプでは無かった。ならば体を鍛える為にも旅は悪くないかもね。そう思い始めていた。

 

 

これは私とツヴァイを鍛える為のコガネへの旅なのだ。

 

 

「…ねーちゃん。ごめんね」

 

 

地図の前で考え込んでいるとポツリとツヴァイが呟く。この萌えもんセンターに来てから何度も聞いた言葉だ。

 

 

「アインスねーちゃんならこんなことにはならなかったよね…」

 

 

私はツヴァイが話している萌えもんを思い浮かべる。確かにあの子なら洞窟内の萌えもん相手に苦戦することは無い。しかしあの子が居なかったら私達はあの洞窟まで逃げることは出来なかっただろう。

 

 

「ツヴァイ…気にしないで。貴女は貴女よ。今も頑張ってるし、これからも頑張ってくれる…でしょ?」

 

 

「…うん!ねーちゃんの為なら頑張るよ!」

 

 

私の問いにツヴァイは力強く返事をしてくれる。…この前向きさは大切にするべきだ。ちょっと私も見習いたいな…。

 

 

 

 

「すみません。ちょっと失礼…」

 

 

そう考えていると恐らく目の前の地図目的だろう。同い年くらいの萌えもんを連れた少年が私の横に立ち、同じように地図を目で追っている。

 

 

ここにずっといるのも邪魔になってるかもしれない。…行きましょうか。

 

 

「あ、ごめんなさいね」

 

 

私はそう彼に謝罪し、ツヴァイを連れてその場を離れる。…あの少年も私達と同じ様に旅をするのだろうか。いや、私みたいな目的を持ったトレーナーはいないんだろうな。そのまま私達は萌えもんセンターを後にする。

 

 

「じゃ、コガネまで行くわよ。無理はしない範囲でね」

 

 

「うん!」

 

 

こうして私達は萌えもんセンターから出て、エンジュからコガネに向かうことを決めた。………尚その時エンジュシティを出るのにかなりの時間を要した。だって仕方無いじゃない。町は広いしツヴァイは色々な所に目を光らせてるから足が止まることも多かった。

 

 

私もツヴァイもこんな経験は初めてだからしょうがない。…私はそう心の中で自分達を正当化しておく。



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薬屋の息子-3

ここはエンジュシティ。歴史が流れる町。


 

地下の長い洞窟を抜けるとそこはエンジュシティであった。どうやら僕達は無事にエンジュシティに着くことが出来たみたいだ。

 

 

「おー、本当にエンジュシティとはー。あのお客さんの話は本当だったねー。驚いたよー」

 

 

僕の後に洞窟から顔を出したつーは本当に驚いているのかどうか分からない声で喋っている。

 

 

「でー、ドラちゃんー。これからどうするのよー。…観光でもするー?」

 

 

「それもしたいけど…まずは萌えもんセンターに行かないとな」

 

 

エンジュの観光という大きな誘惑に耐えながら旅の計画の当初から考えていた僕がしないといけないことをまず実行に移そう。

 

 

「まずトレーナーカードを作らないとな」

 

 

 

 

 

 

「トレーナーカードですね。まず身分証明書を…はい、大丈夫です。ではこちらの記入をお願いします」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

エンジュの萌えもんセンターの職員さんから貰った用紙を手にして僕はセンター内の椅子に座る。

 

 

つーが僕の横に座り用紙を眺めている中、中身を書き進めている時…とある所で僕のペンが止まる。

 

 

「ほ、保護者印…」

 

 

どうやらトレーナーカードの作成には保護者印が必要らしい。よく見ると僕の記入用紙の端に未成年用と記載されているのが原因みたいだ。

 

 

「………どうしよ」

 

 

今更家に戻る訳にはいかない…。がトレーナーカードが無ければトレーナーとしてのサポートを受けることが出来ない。僕達には必需品なのだ。

 

 

何か良い考えはないか…。頭を抱えて考えを巡らせているその時…

 

 

「…ほーれ」

 

 

つーが用紙にポンと何かを押す。急に何かをしたつーに驚きながら僕はつーと用紙を交互に見る。

 

 

つーの手には印鑑が、用紙には保護者印が押されていた。

 

 

「つー、それは…」

 

 

「必要になるだろーとは考えてたからねー。家のスペアをねー、持ってきたー」

 

 

そう言って、つーは印鑑を懐にしまう。

 

 

「助かったよ、つー。あ…一応印鑑は僕が…」

 

 

「えー」

 

 

「えー、じゃない。ほら…」

 

 

「つーが厳重に保管しまーすー。ドラちゃんはこれが無かったらさー用紙埋められなかったんだよねー」

 

 

うっ、そう言われると厳しいものがあるな…。

 

 

「さー早く出してきなよー」

 

 

若干納得がいかない部分もあるが用紙を埋められたのはつーのお陰であることは事実だ。僕はその用紙を手にして先程の職員さんの所へ向かう。

 

 

 

 

 

 

「へへ…」

 

 

僕は出来立てホヤホヤのトレーナーカードを手にして少し頬が緩む。これで僕も念願の萌えもんトレーナーだ…!

 

 

「次は…」

 

 

僕はセンター内の地方マップに目を向けそちらに向かう。行き先はどうしようか、何をしようか…それを考えよう。

 

 

「すみません。ちょっと失礼…」

 

 

「あ、ごめんなさいね」

 

 

マップの前に立つと隣から同い年くらいの女の子の声がする。同じく僕と同じでマップを見ていたのだろうか。

 

 

大丈夫ですよ、そう声を掛けようとしたが彼女と側の萌えもんはその場を離れてしまい言うタイミングを逃してしまう。

 

 

「さてードラちゃん。どうするのー」

 

 

僕はつーの言葉でその少女から地方マップに目を通してエンジュの周りを調べる。…うん、ここが良いな。

 

 

「僕が考えてるのは…ここかな」

 

 

マップの一部分を指差す。つーは指差した場所を見て何も言わない。

 

 

…つーが何も言わないなら行き先はここで問題無さそうだ。



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理科系の女-3

ここはヨシノシティ。花の香り漂う町。


 

…水面は揺らがない。

 

 

「釣れないなぁ…」

 

 

私はもう何度目だろうか。釣り糸を引き上げ針に餌を付けてまだ水面に落とす。釣りは今日が初めてだがこの動作にも慣れてしまった。

 

 

今というか…かなり前から私はここヨシノシティの小さな釣り場で釣りをしていた。こんなことをしているのには当然訳がある。

 

 

 

 

水タイプの萌えもんを手に入れたい。

 

 

そう思うようになったのはキキョウ道中の繋がりの洞窟でのイシツブテ戦が原因である。繋がりの洞窟はキキョウへ行くだけなら通る必要は無いが、負けっぱなしではいられない。………絶対倒してやる…!

 

 

…それに将来的にもエレ一匹で戦うのは厳しいものがある。その為エレの弱点である地面タイプに弱点を突くことが出来る水タイプ…と考えた。

 

 

計画が出来れば後は実行だ。私はヨシノの釣り場に赴いた。その際に釣りをしているおじさんがおり、良ければ萌えもんを何体か譲ってくれると言ってくれたが私はそれを拒否した。

 

 

自身の手で釣り上げて、ゲットする。

 

 

そうするべきと考えた。だから簡単な釣り道具を購入し、使い方をおじさんに教わり、釣りを始めた。そして何時間が経っただろうか…。少しおじさんの誘いを断ったのを後悔している。

 

 

「釣れないなぁ…」

 

 

「嬢さん、そう簡単に釣れるものじゃないですよ」

 

 

近くにいるピンク色の服に耳が付いたピンクの被り物をした少女…だろうか?が話しかけてくる。彼女は私と同じく釣糸を水面に垂らしている。この暇な時間の話し相手になってくれるのだろうか。…大歓迎だ。私も少女に言葉を返す。

 

 

「いや、コイキングすら釣れないってどーなのよ…。早く何でもいいから欲しいわー」

 

 

「釣りとは初心者には難しいのですぞ。私も坊主ですー」

 

 

そう言い彼女はこちらを向き微笑む。確かに彼女にも萌えもんが釣れた様な痕跡は無い。すると少女は先程私に釣りのやり方を教えてくれたおじさんを指差す。

 

 

「お嬢さん。欲しいだけならあそこのおじさんから頂けば、よろしいではないですか」

 

 

「…駄目よ。私の手で釣るの!エレもそれを待ってるわ」

 

 

…エレは今頃トレーニングでもしているのだろうか。最初は釣りを見ていたが暫くすると痺れを切らし何処かへ行ってしまった。…それほどに時間が経っているといえる。

 

 

「ほー、頑張って下さいな」

 

 

少女はそう言い視線を私から自身が垂らしている釣糸に戻した。それを見た私も釣糸に目を向けるが掛かってる様子は無い。

 

 

「釣れないなぁ…」

 

 

また引き上げ、餌を付け釣糸を垂らす。それを何回しただろうか。日も暮れてきた。

 

 

そうしているとエレが私の元にやってくる。流石にもう萌えもんセンターに戻った方が良いか。帰り仕度を始めないとね…

 

 

「マスター、どうでしたか?」

 

 

「駄目よ、全然だわ。ごめんなさいね」

 

 

「…大丈夫です!私も先程から練習を重ね瓦割り(仮)を未完成ですが会得しました。これからイシツブテ相手にも…」

 

 

…そう簡単に技が使える訳がない。それは前にエレが言っていたことだ。…今の言葉は私への慰めの言葉なのだろう。

 

 

私が帰り仕度を進める中、エレが釣りをしている少女の方を見てこう言った。

 

 

「ん?…マスター、一匹いるではありませんか。一緒に釣りをするとは随分と仲良く…」

 

 

「…え?」

 

 

「あらら、トレーナーさんの萌えもんさんは見る目がありますな」

 

 

隣の少女がそう話す。帰り支度をする私と違い、彼女は依然として釣糸を垂らしたままだ。エレが少女をじっと見て…呟いた。

 

 

「…恐らくヤドン…ですよね」

 

 

「正解ー。まぁ見れば分かりますな」

 

 

そう言い隣の彼女は笑う。え…?………え?萌えもんだったの?

 

 

「おっとトレーナーさん。坊主じゃ釣りは終えられないでしょ。如何です?」

 

 

頭の中の整理が付かない私に彼女は語りかけてくる。そして私の方に顔を向けて口を開く。

 

 

 

 

 

「丁度餌を欲しがる萌えもんがいますよ」

 

 

「ん?マスターまさかその子はまだ…」

 

 

「…え、えっと貴女はヤドンでえっと…その…ど、どうぞ」

 

 

エレが何か言っているが、私は気持ちの整理が付かないまま片付けた釣竿の釣糸に餌を付け彼女の前に出す。そして彼女がそれを口に入れた。

 

 

「お嬢さん、釣れましたな。いや、マスターと呼んだ方が宜しいかな?」

 

 

彼女は針を吐き出し、自身の釣竿を引き上げる。そこには針も餌も無かった。

 

 

「うちも釣れましたわ。生きの良いトレーナーさんがね」

 

 

彼女は釣り道具…といって竿と糸だけだがそれを素早く纏めていく。そして…

 

 

「では、よろしくー」

 

 

とてとてと彼女は私達の前を歩き、萌えもんセンターに向かう。私は嬉しさと驚きが混ざった表情をしており、エレは呆れと驚きだろうか…そんな表情だ。え、えっと…こういう時は確か…

 

 

「ヤ、ヤドンゲットだぜー!」

 

 

「…えぇ!?マスター、あれはゲットと呼べるのでしょうか!?」

 

 

こうして私はエレからのツッコミを受けながら、先を歩く彼女に追い付こうと釣り場を離れた。




ヤド(ヤドン)
性格:気まぐれ
セーレがヨシノシティにてゲット(?)した萌えもん。人を食ったようなおどけた話し方をする。釣りをしていたことからどうやら一般的なヤドンに比べて知能が高いようだ。ニックネームは萌えもんセンターに戻り、正式に捕獲された際に付けられた。ビジュアルとしてはピンク髪のピンクの服に耳が付いたピンクの被り物をしている。


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遺跡マニアのおじさん-3

ここはスリバチ山。中は大滝の洞窟。


 

滝の流れる音だけが聞こえる。

 

 

「………」

 

 

「…おい、どーすんだよこれ。お前のせいだぞ」

 

 

「いや、ケイブさんのせいでしょ」

 

 

俺は不機嫌そうながらフラッシュを使っているリリーラの後ろを歩きながらアノプスとコソコソ話をする。

 

 

ここスリバチ山はエンジュとチョウジを繋ぐ42番道路にある大きな山であり、俺の主な活動拠点であるチョウジの研究所に戻るためにはここを通らなければならないのだ。その中の洞窟は薄暗く、フラッシュが無ければ周りを見渡すことは難しいだろう。その為リリーラにフラッシュを使って貰っているのだが…

 

 

「いや、アノプス。お前の発言のせいだ。さっきまでは機嫌直しかけてただろ」

 

 

「お、俺は事実しか言ってないぞ!」

 

 

「言わなくていいこともあるんだよ。ったく…」

 

 

俺はそう愚痴りながら先程のことを思い出す。確かエンジュの萌えもんセンターを出た時にはリリーラは疑いの目線を向けていたがエンジュの町を回ってる内に落ち着いたのかいつものリリーラに戻ってた…筈だ。俺は安心してチョウジに戻ろうとした時…アノプスが口を滑らせた。

 

 

何が『まぁ確かにケイブさんあの子の体、探ってたよねー』だ。確かに彼女の詳細を知るために探りはしたがその言い方だと完全に犯罪者じゃねーか。

 

 

それを聞いたリリーラは不機嫌な状態に逆戻り。俺はまた疑いの眼差しを受け、アノプスはリリーラの八つ当たりで瀕死になりかける事態だ。アノプスの奴は瀕死のままにしておこうか少し考えたが流石に可哀想なので一応回復はしてやった。

 

 

「悪かったよ…。で、彼女何だったの?あんな所で倒れてるなんて…」

 

 

「まぁそれが気になったからトレーナーカードを見させて貰った。そしたらさ…まずあの子はホロン地方出身らしい」

 

 

「ホロン地方って前に言ってたジョウト地方の北側の?」

 

 

「お、よく覚えてたなえらい、えらい」

 

 

俺はアノプスの頭上に手を置きポンポンと叩く。「や、止めろよー」と言いながらアノプスは満更でも無さそうだ。

 

 

因みにその時にリリーラの眼光が増したのに俺は当時気が付かなかった。因みにこの後俺はリリーラと二人きりでチョウジ名物いかりまんじゅうを食べに行くことで機嫌を直して貰うんだが…まぁそれは別の話だ。

 

 

さて話を戻そう。倒れていた彼女についてだ。

 

 

「多分前に発見したカンナシティ方面の道から来たんだろうな。で、えーとあの子はな………んー…?」

 

 

「…?何だったんだ?」

 

 

…こいつにも分かる様に言うのがちょっと難しいな。俺はなるべく簡単で分かりやすい様にアノプスに伝える。

 

 

「ホロって名前らしいが…あの子は…ホロン地方のお嬢様…いや、お姫様みたいなもんだ。地下洞窟にいること自体がおかしい。そんな存在だ」

 

 

「しかも護衛を付けず一人で、だ。あっちで何かあったな、これは…」

 

 

話している内にスリバチ山の道が終わり、フラッシュ無しでも辺りを見渡せるようになる。しかし俺の推理はまだ纏まるまで時間が掛かりそうだ。



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遺跡マニアのおじさん-4

ここはチョウジタウン。ようこそ忍者の里へ。


 

[雑記メモ]

嫌な予感は当たるもんだ。常々そう思う。まぁ良いことより嫌なことの方が印象に残りやすいからそう思うのだろうか。チョウジの研究所に戻った俺に普段ならば自分に無縁な話が耳に入る。…ホロン地方における特殊な磁場の減少、それに伴うデルタ種の減少。今希少な存在になりつつあるデルタ種の保護計画…。…そして研究所の一角、一匹の萌えもんを囲む研究員達。それを見た俺は所長の部屋へと向かう。

[ケイブ]

 

 

コンコンコン…

 

 

「失礼します」

 

 

「…入りな」

 

 

俺は所長室のドアを開けて中に入る。中には俺にも見覚えのあるような研究道具、全く見覚えの無い研究道具…どちらも綺麗に整頓され置かれている。

 

 

そして室内の椅子に妙齢の白衣を着た女性………所長がいる。

 

 

「所長、本日はお話があって参りました…」

 

 

「ケイブ研究員、まずはその畏まった口調を止めな。反吐が出る」

 

 

俺が話を持ち出す前に所長は俺にそう毒づく。その言葉に俺は一息つき、改めて話を始める。

 

 

「そこまで言わなくて良いだろ。所長さん。カリカリし過ぎじゃないのか?」

 

 

「で、何の用?…ここに来たんだ。何かあるんだろう?」

 

 

俺が畏まった口調を止めたら彼女もいつもの話し方に戻る。俺の小言を無視する性格まで戻ったみたいだ。

 

 

「単刀直入に言おうか。今研究所にいる…恐らくデルタ種だろう。あの萌えもんを俺に譲って欲しい」

 

 

「…理由は?」

 

 

「面白そうなことが起こるからだ。これ以上の理由はいるか?」

 

 

「論外だ。それ以下の理由は聞いたこともない」

 

 

所長は顔を下げこちらに手を払う。帰れというアピールだろう。まぁこれで納得してもらえるとは微塵にも思ってない。俺は頭の硬い所長なら納得してもらえるだろう本命の話を切り出す。

 

 

「ホロン地方にあると言われてる幻の森…その森の一族にデルタ種を返還するためならば?」

 

 

「………本当ならば悪い話では無いね。本当なら」

 

 

「長い付き合いだろ………な?」

 

 

俺は頭をかきながら所長の顔をじっと見る。…それに対して所長は一瞬顔をしかめるが、すぐに普段の表情に戻る。

 

 

…こちらからは直接見えないが、机の引き出しを開ける音がする。その音から察するに何かを取り出しているのだろう。

 

 

「…ほれ」

 

 

彼女は萌えもんボールをこちらに荒っぽく投げてくる。その急な動作に戸惑いつつも俺は慌てて何とかそれを手にする。

 

 

「随分と鈍ったんじゃないか、ケイブ研究員」

 

 

その様子を見て彼女は笑う。…小馬鹿にしたような笑い方だ。

 

 

「それがあのデルタ種の萌えもんボールだ。持ってきな。後…」

 

 

彼女は椅子から立ち上りこちらに向かってくる。彼女は俺の前で立ち止まり、俺の胸ポケットに付いている研究員バッジを外した。

 

 

「これは預かっておく。この件はあんた個人でやるんだ。そっちの方が性に合ってるだろ?」

 

 

「…ああ」

 

 

元から研究員なんて柄じゃ無かったんだ。遺跡や洞窟…未知なるものを探る只のマニアなんだからな。

 

 

「さっ、行きな。一応健闘を祈るよ」

 

 

彼女はそうぶっきらぼうに言い、背を向ける。話は終わりということだろうか。俺が部屋から出ようとするその時…

 

 

このバッジは預かっただけだからね。そう言う所長の声が聞こえたのは気のせいだろうか。部屋から出た俺には分からず終いだ。



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薬屋の息子-4

ここはモーモー牧場。モーモーミルク販売はこちらまで!


 

 

 

 

 

 

「…多分これで大丈夫だと思います。この薬は即効性がありますから」

 

 

僕は家から持ってきた薬箱をリュックに戻しながら牧場長にそう伝える。

 

 

「でも少し待って回復の兆しが無かったらまた言ってください。それなら別の薬は持ってますので」

 

 

「あ、あぁ…」

 

 

牧場長は歯切れの悪い返事だ。まぁ見知らぬ少年がいきなり押しかけて治療をしていたらそうなるのも無理はないか。

 

 

 

 

 

 

僕達は先程エンジュから38番道路を通り39番道路にあるモーモー牧場へと訪れていた。目的はモーモー牧場の看板メニューであるモーモーミルクである。

 

 

モーモーミルクは前々から栄養たっぷりで萌えもんに対しても回復効果があるとされている飲み物だ。是非とも一度は飲んでみたいと考え、ここを目的地とした。

 

 

しかし牧場に辿り着くと牧場の萌えもんであるミルタンクの調子が悪くモーモーミルクは今出せないとの貼り紙が掲示板にあった。仕方無い…出直そう。そう思っときにつーからこんなことを言われた。

 

 

『調子が悪いならさー治せばいいじゃーんー』つーもモーモーミルクを飲みたかったのだろう。まぁつー側からしたら頑張って38番道路の野生の萌えもん、何人かのトレーナーと戦ったのに只で帰りたくないといった心境なのだろうか。

 

 

つーの言葉を受け、僕は恐る恐る牧場小屋に入り、調子の悪いミルタンクの治療をしてそして現在に至るという感じ…かな。

 

 

 

 

 

 

「ドラちゃん、お疲れー」

 

 

小屋から出ると側の柵に寄りかかるつーの声が聞こえる。

 

 

「ん、あのミルタンク多分だが大丈夫そうだ」

 

 

「おぉー、流石ドラちゃんー」

 

 

「このまま牧場見て帰るだけは寂しいからね。治ると良いけど…」

 

 

そう言いつーが寄りかかる柵に僕も寄りかかる。地面に生える牧草の感触と風が心地よい。

 

 

「そういえばさー」

 

 

つーが僕に話を振る。つーはいつものぼーっとした表情だ。

 

 

「ドラちゃんはさー、何で旅してるのよー」

 

 

「よく聞くさートレーナーの目標の一つのリーダーバッチにも興味無いっぽいしー」

 

 

僕はつーの言葉を聞き入れる。僕が返事しないからかつーは話を続ける。

 

 

「知らない所や面白い所に行こうって気も薄いよねー。ここも知ってたんでしょー?」

 

 

「…明確に何かをしたいって気も無いでしょー。只旅したいってー」

 

 

「んー、そうだな…」

 

 

僕は頭の中でつーの言ってることの答えを考える。子供の頃からずっとタンバの薬屋の息子だった。でも家を継ぐのが嫌という訳では無い。そんな中で前々から旅に出たいという欲求があって…そういえば何故ここまで旅に出たいと思ったんだろうか?考えが纏まらないまま僕は答えを出す。

 

 

 

 

「僕の旅は旅の意味を知る為なのかな。…何言ってんだって感じだな」

 

 

ハハと空笑いしてつーの方を見る。つーはぼーっとした表情でこちらを見つめ、そしてフッと息を吐いた。

 

 

「んー、ふんわりした回答だなー。そんなんじゃつー以外は付いてこないよー」

 

 

「…だからさー、これからも仕方無いからつーが…」

 

 

つーが何か言いかけた時、牧場小屋の小屋が開き牧場長が現れる。彼は僕を視界に捉えるとこちらに向かってくる。

 

 

「あんちゃん。あんた凄ぇよ!ミルタンクの奴すぐ元気になっちまった!」

 

 

「…!そうですか!良かったです…!」

 

 

「あんちゃん!ちょっと時間はあるかい?是非ともお礼をさせてくれ!」

 

 

僕は牧場長に引っ張られ小さな家に連れて行かれる。それをぼーっと見ていたつーもそれに付いていこうと立ち上がる。

 

 

「…はー、詰めが甘いのは誰に似たんだかなー」

 

 

 

 

 

 

「いやーこれで景品の納期に間に合うよー。今回は無理かと連絡入れようとしてたんだよー」

 

 

牧場長は嬉々として僕に話している。僕は彼が出してくれた出来立てのモーモーミルクを飲みながら相槌を打つ。…うまっ!

 

 

「…景品?」

 

 

景品という言葉に違和感を覚え、僕は聞き返す。販売ではないのか?

 

 

「そうそう、いつもこれの景品で家のモーモーミルクを出してるんだ!そろそろ納品しないと大会に間に合わないからな!」

 

 

彼は席を立ち…暫くすると一枚のチラシを手にしてこちらに戻ってくる。そのチラシには…



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ピクニックガールの少女-4

ここは自然公園。緑豊かな憩いの公園。


 

「虫取り大会?」

 

 

「あぁ、そろそろ大会の時期だからね。いつもよりトレーナーも多いと思う」

 

 

私がコガネに向かう道中の自然公園内でバトルしたトレーナーさんがそう話す。

 

 

私は少し前からトレーナーが多いと思っており彼とのバトルが終わった後に聞いてみるとどうやら後数日後に虫取り大会というイベントがあるようだ。

 

 

「君は知らなかったのかい?」

 

 

「えぇ…どうもトレーナーの数が多いと思ってました。バトルはこれで何人目かしら…」

 

 

「まぁ…僕みたいにバトルや修行目的のトレーナーも来てるかもね」

 

 

彼はそう言って笑う。修行目的という点では私もその一人に入るのだろうか。ここ最近のバトルでツヴァイは経験を積み力量…レベルを上げている気がする。実際に修行にはなっているのだろう。

 

 

そんなツヴァイが今どうしているかなと思い私は付近の草むらに目を向ける。そこには彼の手持ちであるガーディに噛み付かれ涙目になってるツヴァイがいた。

 

 

「ね、ねーちゃん!助けて!」

 

 

「がう、がう」

 

 

私の視線に気がついたのかツヴァイはこちらに助けを求めてくる。その様子を見て相手のトレーナーは苦笑している。

 

 

「あれはあいつにとって友好の証みたいなものなんだ。気を悪くしないで欲しい」

 

 

「大丈夫です。さっきのバトルの様な本気の噛み付くとかじゃないみたいですし」

 

 

「…君の萌えもんの噛み付くの方が凄かったな。今は形勢逆転してるが」

 

 

本当にツヴァイの小柄さからの足回りの生かした引っ掻く、噛み付くでの機動戦で圧倒していた先程とは大きな違いだ。

 

 

ここに飛び道具である電気ショックが使えれば…と思うこともあるが、ツヴァイや私の詳細を隠す為だ。基本的に電気技は封印して戦っている。

 

 

「がう、がう、お前強い」

 

 

「わ、分かったから離してよー…」

 

 

彼のガーディはツヴァイに噛み付いたままだ。まぁ悪意は無いようだからいいのだがそろそろツヴァイが可哀想になってきた。

 

 

「こら、そろそろ離してやれ。…って今度は僕に噛み付くなよ…戻れ」

 

 

相手のトレーナーはガーディを離そうとするがそこからガーディは噛み付き相手を主人に変更。彼はすっと萌えもんボールにガーディを戻した。

 

 

「で、君は虫取り大会には出るのかい?」

 

 

彼は最初の話題へと話を戻す。そしてツヴァイは私の足元に抱き付いて来た。そんなツヴァイは撫でながら私は返事をする。

 

 

「いえ、コガネへ急ぐ旅なので出ないと思います」

 

 

「そっか、お互い頑張ろうな!」

 

 

彼は爽やかな笑顔でそう答える。こういう真っ直ぐさにエリートトレーナーの片鱗を感じられる。

 

 

「ありがとう。じゃ行くわよツヴァイ」

 

 

「…うん。あの…ガーディちゃんもバイバイ」

 

 

ツヴァイは彼の手の中にある萌えもんボールにそう挨拶した。それを聞いた彼は嬉しそうに笑っている。

 

 

「こいつには後で伝えとくよ。ありがとうな」

 

 

そして彼と別れ自然公園を後にしようとすると…

 

 

「お嬢さん、萌えもんバトルしようぜ!」

 

 

…他のトレーナーにまた絡まれる。やはりトレーナーが多いなと思いながら私はツヴァイを繰り出す。コガネへの道中は長そうだ。

 

 

 

 

 

 

「にしてもお前がワニノコ…水タイプになつくのは珍しいな」

 

 

「がう?」

 

 

「いつもは近付かないじゃないか」

 

 

「がう、違う」

 

 

「え?」

 

 

「 あの子、水使わない。だから多分違う」

 

 

「そりゃお前が手加減されてるだけだ。あの動きじゃ水技抜きでもボロ負けじゃないか」

 

 

「…がう!」

 

 

「わっ!悔しいからって僕に噛み付くな…」

 

 

 

 

 

 

…先程対戦した彼の悲鳴が聞こえた気がした。



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理科系の女-4

ここはキキョウシティ。懐かしい香りの町。


 

「ねーエレ殿ー」

 

 

「何ですか。ヤド」

 

 

用紙を記入する私の後ろからエレとヤドの話し声が聞こえる。最初は二匹が仲良く出来るのか少し不安だったがどうやらそれは杞憂だったようね。話を小耳に挟みながら用紙を書き進める。

 

 

「普通のヤドンはどの様な技を使うんですかなー」

 

 

「私のイメージですが…水鉄砲や念力のイメージがありますね」

 

 

「ふむふむ、それなら使えるー」

 

 

「後は、怠ける………いや、瞑想とかですか?よく考えてるイメージがあります」

 

 

怠けると言わなかったのはエレの気遣いなのだろうか。別にヤドは気にしないと思うけれど…。話を聞きながら私は用紙の一部分に『(エレブー)使用技電気ショック、睨み付ける、電光石火、瓦割り』と書き込む。…瓦割りは書き込んでいいのか微妙だがエレには他に書ける技もない。

 

 

「瞑想ね、使えるー」

 

 

私はそのあっさりしたヤドの返答に何処か違和感を覚える。この子、ヤドンの技を聞くというより自分の技を聞いているように感じられるのだ。私の用紙を書く手が止まる。

 

 

「後一つくらい技はありますかな。エレ殿」

 

 

「そうですね。…」

 

 

「冷凍ビーム。普通のヤドンなら使えるわ」

 

 

エレが考えている間に私が冗談交じりにそう答える。後ろからエレが呆れた表情でこちらを見ているのだろうか。視線を感じる。

 

 

「マスター、冷凍ビームは無いですよ…」

 

 

「冷凍ビームね。使えるよー」

 

 

「…は?」

 

 

私への呆れからヤドへの驚きに変わるエレを置いて私はヤドに聞く。

 

 

「…分かったわ。今の四つで書くわよ。ヤド」

 

 

「どうぞー」

 

 

『(ヤドン)使用技、水鉄砲、念力、瞑想、冷凍ビーム』…っと。これで用紙が埋まった。私は用紙を手にし、用紙をくれたお兄さんの元へ向かう。

 

 

「お待たせしました。これで大丈夫でしょうか?初めてなのでよく分からないのですが…」

 

 

お兄さんは用紙を受取り、中身を見ると顔を上げ私にこう言った。

 

 

「大丈夫ですよ。今の状況ですと…約10分後に」

 

 

 

「キキョウジムリーダーへのバトルが始められます。頑張って下さい」

 

 

「分かりました」

 

 

さぁ、初めてのジム戦ね!

 

 

 

 

 

 

私には詳しくは分からないけれどジムリーダーへの挑戦というものは…公式戦とかで色々規約があるらしい。簡単に挙げると…

・使える技は4つまで

・道具使用禁止。但し持ち物として持たせ使用することはOK

・制限時間があり、制限時間まで経つとジャッジによる勝敗判断が下される

 

 

ここら辺だろうか。他にも色々書いてあったが私には関係無さそうな技についてであり、面倒臭いから読み飛ばしちゃった。てへっ!

 

 

後、重要な要素が一つ。挑戦者のバッジ所持数でバトル形式が変わる…らしい。私はまだバッジ0個。この場合は1対1か2対2を選択出来る。

 

 

少し迷ったが私は2対2を選択した。手持ちにエレとヤドの二匹いるし。

 

 

又、ジムリーダーの使う萌えもんも挑戦者によって変わるようである。ある程度挑戦者の力量に合わせるという規定らしい。手加減されているということだが…私にはとても有難い。まぁジムリーダーが初心者相手にガチで戦うのも大人気ないってことかしら。

 

 

そんなことを思い出してる内にジムバトルの時間になったようだ。私はバトルフィールドのある部屋へ向かう。

 

 

 

 

 

 

そこにはキキョウジムのジムリーダーハヤトさんが待ち構えていた。横にはジャッジマンもいるようだ。ジムリーダーの顔付きはジムの看板に載っていたものにそっくりだ。…って本人なのだから当たり前か。

 

 

「俺がキキョウジムリーダーのハヤトだ。今回はよろしく頼む」

 

 

「挑戦者のセーレです。こちらこそよろしくお願いします」

 

 

相手の挨拶に対し私は返事をする。不思議と緊張はしていない。一人では緊張していただろうが、私には仲間がいるのだ。

 

 

「俺は飛行タイプのジムリーダーでね。…君はジム戦は初めてみたいだが大空を華麗に舞う鳥萌えもんの本当の凄さを見せて上げるよ!」

 

 

「では…バトル開始!」

 

 

ジャッジマンの試合開始の合図を見て私は腰に付けているボールを一つ投げる。ボールが地面に落ちると光と共に…私が先発に決めていた萌えもんが現れた。



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理科系の女-5-1

キキョウジムリーダー、ハヤト。華麗なる飛行萌えもん使い。


 

「さてさて、お相手さんは誰かな?」

 

 

頭の被りものを押さえながらヤドが呟く。ゆっくり周りを見るヤドに上から急接近する影に私は気がつく。

 

 

「ヤド、もう来てるわ!」「ポッポ!電光石火!」

 

 

相手の萌えもん…ポッポは素早い動きでヤドにぶつかる。その衝撃にヤドは吹き飛ばされるが、素早く立ち上がる。

 

 

その一方、相手のポッポは冷静に上空で機を伺うように飛び回っている。私とヤドは上空に目を向ける。

 

 

「速い…。ヤド、大丈夫?」

 

 

ヤドにも目を向けると、ヤドは土埃を払いながら相手を見据える中私に返答した。

 

 

「平気平気、さぁ指示をー」

 

 

「…よし、冷凍ビームよ!撃ち落としなさい!」

 

 

私は飛行タイプに有効である氷タイプの技を指示する。するとヤドは一拍貯めた後に冷凍ビームをポッポに発射した。

 

 

「!ポッポ、来るぞ」

 

 

ハヤトさんは冷凍ビームが発射されるとすぐにポッポに呼び掛ける。ポッポは頷き先程よりも素早い動きで上空を飛び回わる。

 

 

冷凍ビームがポッポの横を通り、空を切る。外したのだ。

 

 

「そのまま攻撃だ」

 

 

トレーナーの指示を受けたポッポが再び上空からヤドに接近。先程と同じ様にヤドにぶつかり、そしてすぐに上空に退避し距離を取ってくる。

 

 

………私達の攻撃が避けられ、相手の攻撃を一方的に受けている。非常に不味い状況だ。私は息を呑む。

 

 

「やー、どうしましょ。当たりませんなぁ」

 

 

ヤドはのっそり立ち上がり、全く追い詰められていることを感じさせない口振りで話している。ヤドはこの状況を分かっているのだろうか。

 

 

「当たりませんなぁ…じゃないわよ!一方的じゃない!」

 

 

「いや、それをどうにかするのがマスターさんの指示でしょ」

 

 

ヤドが他人事の様にそう答えた。…その言葉に私は目が覚める。

 

 

…確かにその通りだ。その言葉を受け、私は考えを巡らせる…まず相手の戦法は飛行による空中を用いたヒットアンドアウェイだ。私やヤドでは付いていくことすら出来ない。ならば…

 

 

「ヤド、慌てなくていいわ。一発当たればこっちのものよ。…次は水鉄砲。そしたら多分突っ込んでくるわ。そこに…」

 

 

私は小声でヤドに作戦を伝える。作戦を聞いたヤドはゆっくりと頷いた。その間にもポッポは上空を飛び回り、こちらの隙を伺っている。

 

 

「ふむ、悪くないですな。それで行きましょうかー」

 

 

ヤドはポンと水鉄砲を上空に放つ。ハヤトさんはヤドの動作からか攻撃を読み取り素早くポッポに指示を出し、それを受けたポッポは水鉄砲を悠々とかわす。

 

 

そのかわした際の勢いでこちらに向かってくる。先程と同じ電光石火だろうか。

 

 

この素早い攻撃をヤドに避ける術はない。同じ様に吹き飛ばされ、そしてポッポは上空に退避を

 

 

 

 

 

…させない。退避しようとするポッポの動きが止まるとまではいかないが鈍る。

 

 

念力。ヤドはこの攻撃を受けた上で念力で相手を拘束しようとしたのである。最初の水鉄砲は牽制、本命はこの念力だ。

 

 

拘束までは出来なかったが十分に動けないようだ。ヒット後のアウェイをさせない。そういう作戦だ。

 

 

「…っ、動きが」

 

 

ハヤトさんもこちらの作戦に気がつくがもう遅い。

 

 

「…捕まえましたぞ、マスター」

 

 

ヤドはゆっくりと立ち上がり、力を貯めている。私はその貯めている力に答える様に力強く指示を出した。

 

 

「冷凍ビーム!!」

 

 

冷気を纏ったビームがポッポに直撃。離脱しようとしていたポッポを撃ち落とす。…地に落ちたポッポは目を回している。

 

 

「…ポッポ。戦闘不能!」

 

 

「…やりましたなー」

 

 

私の中ですっかり存在を忘れていたジャッジマンがそう宣言する。ヤドも何時もの様な口調だが喜びを露にしている。

 

 

「…ポッポ、お疲れ様。中々やるじゃないか、でも次はどうかな?」

 

 

ハヤトさんはポッポをボールに戻し、二体目の萌えもんを出そうとボールを投げた。そう、後一体いるのだ。

 

 

「行け!ピジョン!」

 

 

ボールからポッポの進化系であるピジョンが現れる。先程と同じ…いや、それ以上の速さで上空で飛び回っている。

 

 

「まずはそのギリギリのヤドンを落とせ!イーブンにするぞ!」

 

 

ピジョンが近付いてくる。…ギリギリ?ヤドは何時もの様な感じで…私はヤドの方を見る。その時、ヤドがまた吹き飛ばされた。

 

 

今度のヤドは素早くも、のっそりとも、ゆっくりとも起き上がらない。

 

 

「これで電光石火四回だ。キツイだろうさ」

 

 

ハヤトさんはそう呟く。私はヤドに呼びかけるが、ヤドは起き上がらない。そして…

 

 

「…ヤドン。戦闘不能!」

 

 

…ジャッジマンの宣言が行われた。



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理科系の女-5-2

キキョウジムリーダー、ハヤト。華麗なる飛行萌えもん使い。


 

私はすぐヤドをボールに戻す。ハヤトさんはヤドの限界に気付いてたのに対し、私は気付いて無かったのが情けない。最後の念力や冷凍ビームも死力を尽くした攻撃だったのだろう。

 

 

私はヤドに心の中で感謝し、腰に付けているもう一つのボールを投げる。そこからは万全の状態のエレが現れる。

 

 

だが私の心は不安で一杯だ。ヤドに比べて力量の低いエレで勝てるのだろうか。

 

 

「エレ、頼むわよ…!」

 

 

「…お任せ下さい。恐らく相手のピジョンに対し私の力量は劣りますが、電気タイプである私は飛行タイプに対し有利です。それに…」

 

 

エレはいつもの様に戦力分析を行っているようだ。そして上空のピジョンを睨み付ける。

 

 

「ボールの中でヤドの戦いは見てました。これで私のシミュレーションによる勝率はぐんと上がりました」

 

 

「ふむふむ、勝率は?」

 

 

「三割です」

 

 

………

 

 

…フィールドに静寂が訪れる。相手のハヤトさんや、ピジョンの動きも少し止まったのではないか。恐らく呆れているのだろうか。その中で私はエレに静寂を破る指示を出す。三割か…

 

 

「…充分よ!行ってきなさい!」

 

 

「了解です!マスター!」

 

 

 

 

 

 

このバトルは先とは打って変わって機動戦の様相を示していた。ピジョンは先程と変わらず上空からのヒットアンドアウェイだが、対峙するこちらの足回りが先程とは大違いだ。

 

 

エレならあのピジョンの動きに食らい付くことが出来る。相手の電光石火、風起こしを避けつつ、エレは電気ショックを放つがピジョンもそれを避ける。

 

 

…うん、充分にエレはピジョンに勝るとは言えないが劣らない動きをしている。

 

 

ただお互いに決定打に欠けていた。しばらくしてその均衡を崩す指示がハヤトさんから放たれた。

 

 

「ピジョン、相手は電気タイプだ。…後は分かるな?」

 

 

ピジョンは頷く。指示の中身を言わずとも把握するその様子は新米である私達には真似できないものだ。

 

 

指示を受けたピジョンは上空から地面に急接近しながらエレの方へ迫る。その動きは何回か見た電光石火と変わらない…そう感じた。

 

 

しかしその私の考えは甘いものだった。

 

 

 

 

ピジョンはエレにぶつからず、地面の砂…いや、泥だろうか。それをエレに浴びせる。

 

 

「くっ…」

 

 

エレは後ろに下がり目を擦っている。…不味い!

 

 

「…また来るわ!正面、電気ショックで迎撃!」

 

 

「…っ、はい!」

 

 

エレは私の指示を受け正面に電気ショックを放つがピジョンに当たらず、接近され、再び泥を浴びせられる。

 

 

「外した!?エレ、一旦距離を…」

 

 

私は距離を取るよう指示を出す。エレは目を擦りながら私の元へとやってくる。…その様子から私は一つの予想に辿り着く。

 

 

「泥掛け…」

 

 

「へぇ、随分詳しいじゃないか」

 

 

ハヤトさんの返答からして私の予想は当たっているのだろう。しかしそれを喜ぶ余裕は私にはない。

 

 

「エレ、大丈夫…かしら?」

 

 

「不覚です。…ダメージは低いですが、目に泥が入りました。狙いがうまく定まりません…」

 

 

エレは目を擦りながらそう答える。先程の電気ショックを外したのはその為だろう。

 

 

「…分かったわ」

 

 

…なら戦い方を変えるしかない。目を潰されたエレには動き回り、相手を狙うのは厳しいだろう。ヤドの時と同じ…待ちの戦法で行く。

 

 

「…悪いがバトル中に悠々と話してる余裕は無いよ!…ピジョン!」

 

 

ハヤトさんは私の考えがしっかりと固まる前にピジョンをエレに向かわせる。私も指示を…!

 

 

「エレ、ちょっと前進してそこで待機!」

 

 

私の近くにいたエレを前進させる。…このくらいの距離なら大丈夫だろうか

 

 

先程と同じくピジョンがエレに迫ってくる。動作からか泥掛けか、電光石火…まぁ泥掛けの方だろう。更にピジョンがエレに近付き、泥を掛ける…

 

 

 

 

………今!

 

 

「電気ショック、全方位!」

 

 

「…はぁっ!」

 

 

「………っ」

 

 

泥掛けを食らいながらもエレの放つバチバチと音と光を立てる電気ショックが私の目の前まで届く。…少しだがピジョンの呻き声が聞こえた。恐らく当たっている…!

 

 

「…大丈夫だ!ピジョン、引け!」

 

 

ハヤトさんはピジョンに指示を出し引かせる。ピジョンには素早く離脱される…しかし退避先はいつもの上空ではなく、地面のようだ。

 

 

「挑戦者さん、やるじゃないか。狙えないなら狙う必要無い攻撃の指示。…そして目が見えにくい状態でマスターの指示を待てるそのエレブー…本当にジム挑戦は初めてかい?」

 

 

「えぇ…トレーナーになったのも最近です」

 

 

ハヤトさんの分析と称賛に私はそう答える。誉められるのは悪くない。只、喜んでいる場合ではない為、意識はピジョンへと向けておく。

 

 

「凄いな。…がその電気ショック一撃では俺のピジョンは落ちない。力量不足だね…ピジョン、羽休め!」

 

 

………あれは!?

 

 

「………っ!エレ!えーと…正面から若干右に電気ショック!」

 

 

「…え?り、了解!」

 

 

なんと相手のピジョンが先程から忙しなく動かしていた羽を休める動きを始めたのだ。

 

 

それを見た私はエレに指示を出し、エレも戸惑いながら電気ショックを放つが明日の方向へと飛んでいく。

 

 

…そしてピジョンは再び上空へと舞い戻り、飛び回る。先程の電気ショックのダメージなど無いような動きをしている。

 

 

…恐らくダメージを回復された。これでは先程の電気ショックが効いてないのど同じではないか…!

 

 

「…ピジョン、そろそろ止めだ」

 

 

ピジョンは三回も泥掛けを食らい、目が満足に見えていないエレに上空から接近する。

 

 

…全方位では火力が足りない。が今のエレが当てられる技はこれだけ。…エレの残り体力も少ないが有効な手は浮かばない。

 

 

「…エレ、もう一回よ!」

 

 

「…はい!」

 

 

そしてピジョンはエレの前に立ち…

 

 

「…今!」

 

 

「は………っ!」

 

 

 

 

エレの返事と電気ショックが少し発生したものの止まる。エレが膝から崩れ落ちる。

 

 

 

 

………ピジョンのあの攻撃は泥掛けではなく電光石火だ。エレに止めを刺そうとしたのか。そしてピジョンはエレから離れ………ん?

 

 

「よし、よくやったピジョン。………ん!?」

 

 

 

 

何とピジョンがエレから離れない。嫌…体が痺れて動けないというのが正しい表現なのだろうか。

 

 

…それを見た私は倒れかけのエレに最後の指示を出した。

 

 

「エレ、正面全力で電気ショック!!」

 

 

「り、了解…!」

 

 

「…っ、電気ショック…いや、静電気で麻痺したのか!?」

 

 

…電気ショックの光でしっかりとは見えないがエレの渾身の電気ショックがピジョンに直撃しているのはうっすらと見える。

 

 

そして光が止んだ時…

 

 

 

 

「………おめでとう、挑戦者セーレ」

 

 

そこには倒れかけのエレと倒れているピジョンがいた。それを見てジャッジマンが宣言をする。

 

 

「君の勝ちだ」

 

 

「ピジョン、戦闘不能!…よってこのバトル挑戦者の勝ち!」

 

 

私はその宣言を聞き、体が震える。

 

 

ジムリーダーに勝ったのだ。

 

 

 

 

 

 

夕方、キキョウシティを歩くトレーナーとそのトレーナーの萌えもんの姿が見える。

 

 

「ねぇねぇ、何処に付けようかしらコレ?やっぱり目立つ所がいいわよねー」

 

 

「…そ、そうですね…でもまず萌えもんセンターに…」

 

 

「バックとか如何ですかなー、マスター」

 

 

「いいわね!見える所に付けましょ!…こんな感じ?」

 

 

「おぉー!格好いいですぞー」

 

 

「…あれ?ヤド、何で貴女は元気なのですか…、私はボロボロなんですが…」

 

 

「あ、気にしないで下さいな」

 

 

「あ、エレ。今日休んだらすぐ出発だからね」

 

 

「…えぇっ。治療で怪我は治りますが、少しくらいゆっくりしましょうよ」

 

 

「いや、近くで虫取り大会とかいうのがあるらしいの。…面白そうじゃない?」

 

 

「まぁ今日は休んでいいからね…。だから」

 

 

トレーナーが連れている萌えもん二体を抱き寄せる。

 

 

「…よく頑張ったわ。ありがと」

 

 

「…はい」

 

 

「はいー」

 

 

「…あ、そういえばあれやってないわ…えーと」

 

 

トレーナーは抱き寄せていた二体を離し、こう言った。

 

 

「…ウイングバッジゲットだぜー!…ってね」



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遺跡マニアのおじさん-5

ここは36番道路。キキョウ、コガネ、エンジュへと通じる道。


 

[雑記メモ]

名は体を表す…とはよく言ったものだ。この萌えもんを見ていると改めてそう思う。最も彼女の名…ニックネームと俺が今考えている言葉は文字は一緒だが意味は異なるものである。ドライ…確か何処かの国で3を表すものだったか。ドライ…態度が冷淡であり、他と深い関係を持たない様。

………恐らく一時の関係であるとはいえ、別れる際には後者のドライから一時的だが俺のパーティーの三番目という意味の前者のドライが体を表すことになることを願うばかりである。

[ケイブ]

 

 

 

…俺はメモ帳を閉じ横にいる緑髪の萌えもん…ジュプトルを見る。するとすぐにその視線に気づいたのかこちらを見返してくる。

 

 

「どうした、ケイブ」

 

 

「…いやー、随分と素直にここまで付いてきてくれたなーと」

 

 

「私がお前達に付いていくのがお嬢に会うには一番賢明だと判断したからな。逆らう道理はない」

 

 

彼女は俺の質問に対し、ぶっきらぼうに答える。

 

 

…俺は最初にこのジュプトル…ドライを連れていくのに苦労すると思っていたがそんな心配は不要だった。

 

 

彼女は最初こそこちらを警戒していたもののあのホロン地方の嬢さん…ホロとその萌えもんのツヴァイの説明をし、お前を元の持ち主の所に戻してやると俺が言うと少し考えてた後、付いていくと答えたのだ。

 

 

そして現在チョウジからエンジュ、そしてコガネへの道を俺達は進んでいる。

 

 

「…騙しているとか考えなかったのか?」

 

 

「騙していようがあそこまでお嬢の詳細を知るお前達だ。仮に騙されようがあの研究所にいるよりは建設的だろう?まぁ最も…」

 

 

彼女は手を俺の腕手前まで伸ばす。彼女の手は俺に触れていないのに腕には何かが当たっている感触を俺は肌で感じる。

 

 

「そうならないことを私は願うがね」

 

 

「…それは無いからそのサイコカッターを閉まってくれ。それを出してるとな…」

 

 

 

 

「あいつが怒るんだ」

 

 

俺がそう言うとすぐに前方からリリーラが現れ、ドライを睨み付ける。その際に同じく前方から『ちょ、リリーラの姉貴!?』とアノプスの叫び声が聞こえる。

 

 

「………」

 

 

リリーラの睨みに対しドライはフッと笑い、俺に伸ばした手を下げる。

 

 

「冗談だ。私は君達の仲間だよ。今はまだ…ね」

 

 

「…だそうだ。リリーラ。早く戻ってやれ。何人のトレーナー相手にしてるか知らんがアノプス一体じゃキツいだろ。…さっさと片付けてやれ」

 

 

アノプスとリリーラにはこの付近のトレーナーの相手をさせていた。理由としてはこの近く…自然公園で始まる虫取り大会の影響だろうか…妙に数の多いトレーナーの相手をして貰い、俺が楽するため。後ドライと二人で話したかったというのもある。

 

 

「………」

 

 

リリーラは俺の指示を聞くとすぐに前方に戻る。

 

 

………前方から凄まじい岩が降り注ぐ音がする。…さっさと片付けてやれは言い過ぎたかな。

 

 

「…な?」

 

 

俺は少し笑いながらドライにそう言う。

 

 

「フフッ、確かに恐ろしいものだな…」

 

 

「…悪いな、怖がらせたか?」

 

 

俺は横のドライの頭上に手を伸ばし、頭をポンポンと叩く。何度かそれを受けたドライは俺から離れる。

 

 

「ケイブ、それは止めておけ」

 

 

「あ…悪い。嫌だっか。いつもアノプスにやる癖でな…」

 

 

「…違う。怒るんだろう…?あいつは?」

 

 

「………ん?」

 

 

そう言うとドライは薄笑いを浮かべながら前を指差す。その指先を方向を俺は見る。

 

 

「………」

 

 

…そこには何人…いや、何十人かの打ちひしがれるトレーナーと萌えもん達をバックに瀕死のアノプスを抱えたリリーラがこちらを睨み付けていた。…さっきと違うのは睨み付ける対象がドライではなく、俺だという所だ。

 

 

…どうやらコガネへの道中のトレーナーは問題無さそうだが、リリーラの機嫌取りという壁が俺に立ち塞がるようだ。




ドライ(ジュプトル)
性格:冷静
ホロン地方特有のデルタ種の萌えもん。タイプはエスパー。かつてはホロの手持ちだったがはぐれてしまったようだ。ケイブ達に対して不快感は無いものの、何処か距離を取って接している。
ビジュアルは緑髪のポニーテールに赤と緑の服。又、長い前髪が左目に被っている。


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ピクニックガールの少女-5

ここは35番道路。こちら自然公園とコガネシティ間、人の流れが絶えぬ道。


 

普段がどれ程か分からないが今日は普段以上の人がここにはいるのだろう。

 

 

その人々が作り出す人の流れに逆らいながら邪魔にならないように私は端の方を歩いていた。

 

 

もう流れから逆走する私に声をかけるトレーナーはいない。そろそろ虫取り大会が始まるのだろうか。私には好都合だった。

 

 

………その時後方から凄まじい何かが落ちた音が聞こえる。その音に周りがどよめくのが見ずとも伝わってきた。足元のツヴァイが私に掴まる感触がしたので私は彼女の頭を撫でる。

 

 

…その音の方向に私は目を向けるが目の届く範囲には先程から人の流れを形成している自然公園に向かう人混みしか見えない。…私は視線を戻し、ツヴァイに語りかける。

 

 

「大丈夫よ、近くじゃないみたい」

 

 

「…あ、うん!」

 

 

私の言葉にツヴァイはバッと掴んでいた手を慌てて離す。別に怖いなら掴まってていいのに…そう思うが私は口には出さず、別の話題を切り出す。

 

 

「そろそろコガネシティよ。着いたら萌えもんセンターで休みましょ」

 

 

「うん!」

 

 

ツヴァイは返事をしてくれる。コガネに着いて休んだらどうするのだったか…、エンジュで会った男性の話を思い出しながら考えていると町の入り口ゲートに辿り着く。

 

 

…ゲートの職員も少し落ち着きが無い様子だ。職員は私がゲート前まで来ると先程の音について聞いてきた。

 

 

「外で何かあったのかい?何か凄まじい音がしたけれど…」

 

 

落ち着きの無い理由はこれか。ここまで聞こえる音だったということだろう。

 

 

「すみません。私にもよく…。でも多分35番道路じゃ何も無いみたいですよ」

 

 

「そうか。…虫取り大会直前だからね、何かあったのかな…。一応あっちの警備員と連絡を取ってみるよ。……君はコガネシティに入る方だね。パンフレットはいるかい?」

 

 

「…一応お願いします」

 

 

そう伝えると職員は私にパンフレットを渡してくる。私はツヴァイにも見える様にしゃがみながら中を少し覗くと主な町の施設について書いてある。…パンフレットの一部にはイベント特集として今日の日付である虫取り大会の特集もある。

 

 

「わぁ…」

 

 

ツヴァイが目を輝かせながらパンフレットの中身を見ている。…町に着いて落ち着いたら観光もしてあげよう。

 

 

…イベント特集の欄を覗くと虫取り大会の数日後…私の目を引くイベントがある。

 

 

「あの、これは…」

 

 

私はその部分を指差し、職員に話を聞く。すると彼は私が指差した先を見るとこう答える。

 

 

「あぁ、虫取り大会の数日後だからね。恐らくこのイベントも多くの人が参加するだろうね。良かったらお嬢さんもどうだい?」

 

 

「…考えてみます。ありがとうございます」

 

 

私はパンフレットの先程と同じ場所を見る。

 

 

 

 

…コガネルーキーカップ。

 

 

…虫取り大会みたいなお遊びより私の腕試しにはぴったりだ。



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薬屋の息子-5

ここは自然公園。緑豊かな憩いの公園。


 

申し込みはすんなりと終わった。

 

 

「はい。これで登録が完了しました。開始の際にはアナウンスさせて頂きますのでよろしければこちらをご覧になってもう少々お待ち下さい。」

 

 

「はい」

 

 

僕は自然公園の職員から参加証と『虫取り大会について』と書かれたパンフレットを受取り大会受付場から少し離れた場所のつーが座っている椅子の隣に座る。

 

 

「登録出来たよ。つー、こんなのも貰った」

 

 

貰ったパンフレットを開きながらつーに話し掛ける。適当に開いた所には『主な出現萌えもんについて』と記されている。その中身に僕は目を通す。

 

 

「………んー」

 

 

つーは普段ののんびりした性格のつーだとしてもちょっと遅い返事でこちらに目を向ける。

 

 

「へー、色々いるなぁ。つーはどれがいいかな?」

 

 

僕が見る先には様々な虫萌えもんの写真があり、その中でもストライクの写真に目を奪われる。…その躍動感のある写真には凛としたストライクの姿があった。とても格好いい。男の僕でもそう思う程だ。

 

 

「ほら、このストライクとか…「ねぇ、ドラちゃん」

 

 

つーが僕の言葉を遮る。僕はつーの方をパンフレットから目を離し、つーの方を見るとつーと目が合う。

 

 

…まるでパンフレットなど始めから見ていなかったのではないかと感じる程ばっちりと目が合ってしまった。その状態でつーは話を続ける。

 

 

「ドラちゃんはさー、何でこの大会に参加しようとしたのよー?」

 

 

「え、萌えもん捕まえる為だけど」

 

 

僕は慌てて目線を逸らしパンフレットに目線を戻しながらつーにそう言うと彼女はまだ話を続ける。

 

 

「…OK。ドラちゃん相手にこれはつーが悪かったねー。質問を変えますー、どうして他の萌えもん捕まえたいって思ったのさー」

 

 

つーはこちらを覗き込む様に顔を寄せてくる。またつーと目線が合う。…よく見ると僕の気のせいだろうか、普段のぼーっとした目線とは何処か違う雰囲気を漂わせている。

 

 

「えーっと、その…だな…」

 

 

「………」

 

 

僕は新しく萌えもんを捕まえる理由を話そうとするが話すのは少し恥ずかしい…が話すしか無いだろう。僕はつーから目線を逸らさずこう言った。

 

 

「つーもバトルは一匹じゃ大変だろ?それに…その…、萌えもんの仲間とか友達とかがいた方がつーも嬉しいかなって…」

 

 

「あんまり僕には分からないけど虫萌えもんならタイプがつーと一緒だから気が合うのかな…とか…」

 

 

「…はー?」

 

 

自分で言ってて少し恥ずかしくなるがこれは本心だ。つーの負担を減らしてあげたいと思うし、自分以外にも友達や仲間がいた方がつーの為になるだろう。その為にこの虫取り大会に間に合うように道中急いで来たのだ。

 

 

…つーの方を見ると呆れが混じったぼーっとした目線でこちらを見ている。やはり先の雰囲気は僕の気のせいだったみたいだ。

 

 

「タイプ一緒だから気が合うとは限らないんだけどなー、ドラちゃんー」

 

 

「だ、だよな!でも一応…さ」

 

 

「…まー、ドラちゃんが選ぶなら誰でもいーや。…どれが狙いなのー?」

 

 

つーは僕が広げているパンフレットに目を向ける。まぁさっきも言ったけどここは…

 

 

「…ストライクとかどうかな?」

 

 

つーはその言葉を聞き、ストライクが映る写真をじっと見つめている。そしてつーが悪戯っぽく笑いながら僕にこう言った。

 

 

「おー、おっぱい大きいもんねー。ドラちゃんはこーゆーのがご趣味ですかー」

 

 

「はは、それ言ったらここに載っている写真のほとんどはつーより大きいじゃないか」

 

 

 

 

「………」

「………」

「………」

「参加登録をお願いしたい。まだ大丈夫かい?」

…受付場から声が聞こえる。

「………」

『間もなく参加登録を締め切ります』

…アナウンスが聞こえる。

「………」

「………」

「………」

「………」

「………」

「すみません、参加します!…エレ、すぐ準備しなさい!」

…受付場から声が聞こえる。

「………」

『間もなく虫取り大会を開催します。参加者は参加証をお持ちの上、広場まで…』

…アナウンスが聞こえる。

 

 

 

 

え?この空気の中で行かないといけないのか、僕達は…

 

 

 

 

 

 

…広場で行われている開会式の挨拶中に仏頂面のつーが小声で呟いた『ストライクは駄目』という言葉に対し僕は頷くしかなかった。



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虫取り大会-1

ここは自然公園。緑豊かな憩いの公園。


 

開会式の長ったらしい挨拶が終わり、周りのトレーナーが広場から草むらに向かっていく中、私はもう一度周りに目を凝らす。

 

 

………やはりいないか。

 

 

…彼とこの大会の開始前、開会式の際にも探したが私が求める姿は見つからない。

 

 

一方で私をここに連れて来た彼は広場のベンチに腰掛け、何かメモを取っている。

 

 

もう探し物には興味を失っている様子の彼に私は苛立ちを隠せず、彼の隣に座り後ろの首筋に手から発生させたサイコカッターを当てる。…するとメモを取る手を止めて私に謝罪をした。

 

 

「やー…悪かったって。まさか居ないとは思わなかった」

 

 

「ここまで付き合わせといてそれか。…他に当てはあるのか?」

 

 

へらへらと笑いながら謝罪する彼にこのまま手を前に動かしてやろうかと考えるが、それではお嬢への手掛りが無くなってしまう。私は自制し、彼に他のお嬢の居場所について問い掛ける。

 

 

「このイベントに居ないとなるとなぁ…もうコガネに行っちまったか?多分コガネシティだな、うん」

 

 

…コガネシティ。確かここから南の町だったか。彼の連れのアノプスがそう言っていたのを思い出す。とりあえず当てはあるみたいだ。

 

 

…どうやらまだ彼には利用価値はありそうだ。私は手を下げ、サイコカッターを納める。

 

 

「さて…ここではどうするんだ、ケイブ」

 

 

「…特に何も。離れすぎなければ適当に歩き回っていいぞ」

 

 

彼は再びメモを取りながら私にそう言った。

 

 

「…いいのか、虫萌えもんとやらは。その為の大会なのだろう?」

 

 

「別に大会には興味を無いしな。探し物の姫さんが居なかった時点で俺の大会は終わった様なもんだ。…それに虫タイプはあの馬鹿共で充分だ」

 

 

彼はペンをメモ帳に走らせながらそう言っている。彼の言う虫タイプの馬鹿とはアイツのことだろう。酷い言われようだ。

 

 

「…フッ、アノプスの奴が聞いたら泣くぞ?」

 

 

「…お前がそんな心配するようになるとはな、ドライ」

 

 

彼はメモを取る手を止め、心底驚いた顔でこちらを見てくる。失礼な奴だ。…このことに関しては心配というより哀れみなのだがな。

 

 

「確かに私はお前の手持ちを気遣うとはな。どうでもいいことか」

 

 

「…まぁやることが無いなら私もここに居よう、ゆっくりさせて貰うかな」

 

 

私はホロンからジョウト…そしてここまでの道を思い出す。…久し振りに体を休めるとするか。不服なのは隣にいるのがお嬢ではなく彼だということか。

 

 

 

 

 

 

暫く時間が立ち、虫取り大会の中頃だろうか。…私は席を立つ。

 

 

「ん?どうした?」

 

 

彼が立ち上がった私に話し掛ける。彼の手にはもう書き終わったのだろうか、メモ帳はなく、ベンチに両手を掛けて情けなくだらけている。

 

 

 

「何でも無い。…体が鈍りそうでな。少し歩き回ってくる」

 

 

そう彼に伝え、私は一角の草むらに向かう。

 

 

……………

 

 

………いい運動になった。私はベンチに戻り、大会終了まで体を休めるのであった。

 

 

 

 

 

 

…大会終了後、彼は愚痴を溢す。

 

 

「…一番下の参加賞でもトレーナーと萌えもんにモーモーミルクが貰えるんなら適当に何か捕まえれば良かったなぁ…。すまん」

 

 

「ケイブさんの馬鹿!何で捕まえないのさ!あーあ、飲みたかったなぁ…」

 

 

「………」

 

 

参加賞すら貰えない彼にアノプスは喚いているがリリーラはこの争いに我関せずといった感じあり、何故か私を睨み付けている。…私は悪くないぞ。彼が何もしなくて良いと言ったからだ。そう心の中で弁明する。

 

 

…それとも別の意味での視線なのだろうか。私にはよく分からない。…その視線を受けながら私は大会を振り返る。

 

 

…確か今大会で一番下の参加賞すら貰えないトレーナーは何もせずにいた彼と

 

 

 

 

 

 

 

ツボツボ連れの少年とエレブー連れの女性しか居なかったな。



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虫取り大会-2

ここは自然公園。緑豊かな憩いの公園。


 

また、体に傷が出来た。

 

 

瀕死直前の萌えもんを担ぐトレーナーの背を見ながら私はそんなことを考えていた。

 

 

今回は右腕か。自分自身の傷なのに他人事のような感覚で考えている。

 

 

この虫取り大会では多くのトレーナーが現れ、私を捕まえようと挑んで来る。今まで私はそれを全て返り討ちにしていた。

 

 

…最早この虫取り大会とは私にとって腕試しの場でしか無かった。

 

 

別にトレーナーの萌えもんになるのが嫌ということは無いが、私を倒す程のトレーナーでなければ下に着くつもりはない。

 

 

そうして戦っている内にいつしか私は『傷だらけのカイロス』と呼ばれ、この虫取り大会の名物になっていた。

 

 

周りの虫萌えもんからは尊敬と畏怖の念を受け、大会に出るトレーナーからはレア萌えもん中のレア萌えもんの様な存在…らしい。私の数少ない友人がそう教えてくれた。

 

 

………そう考えているとガサガサッと私の近くの草むらから音がする。その音で私は戦闘体勢を取る。

 

 

…すると目の前に少年が現れる。服装を見る限りでは彼もトレーナーなのだろう。少年は私を見ると驚いた表情でこちらを見ている。私の存在に気づいたのだろう。

 

 

そして少年は慌てて背中のリュックを探り始める。その様子に対して私は『ボールをすぐに出せない所に置くとは…』と敵ながら指摘しそうになる。

 

 

このまま襲って追い返してしまおうとも考えたがそれでは腕試しにならない。最もこんな少年の萌えもん相手では腕試しにもならないだろう。

 

 

すると少年はリュックから…

 

 

薬箱を取り出し私に近寄ってきた。

 

 

 

 

 

 

「これで大丈夫。でも急に動かしたりしないでね」

 

 

「何のつもりだ、少年」

 

 

私はこの萌えもんも出さずに私に近寄り、治療を施した少年に問う。

 

 

「私は野生の萌えもんだ。何も備え無しで近付くとは愚かだな」

 

 

「ご、ごめん…」

 

 

「…っ、私は敵だぞ。謝る馬鹿が何処にいる。…まぁ傷を治してくれたことは感謝しよう。だがバトルとは話が別だ」

 

 

私はこの萌えもんを出しもしない情けない少年に警告する。こいつは悪い奴では無いがとんだ甘ちゃんだ。このままでは一向にバトルが始まりそうにもないから私からバトルを促す。

 

 

「あ、いやその実は…今萌えもんがいなくて…」

 

 

「………ん?少年、お前はトレーナーだろう?」

 

 

「そうなんだけど今つー…えっと僕の萌えもんが拗ねててね。僕一人で探してくればー?ってね…」

 

 

…どうやらこの少年は自分の萌えもんのコントロールすら出来ていないようだ。…呆れたものだ。仕方ない…

 

 

「…少年、中央噴水の北側に壊れかけの柵がある。分かるか?」

 

 

「あ…うん」

 

 

「その付近の草むらだ。そこなら力量の低いキャタピーやビードル達がいる。それならお前にもチャンスはあるだろう。精々頑張るんだな」

 

 

「え…?あ、ありがとう」

 

 

「気にするな。傷の件の礼だ、さっさと行け」

 

 

私がそう言うと少年は礼をし、そちらの方向へと走り出す。そんな少年を目の端に捉えながら、私は次の腕試しの相手を探し始める。

 

 

右腕の傷はもう癒えつつあった。

 

 

 

 

 

 

聞きなれた虫取り大会終了のアナウンスが聞こえる。今回も私は勝ち残ることが出来た。まずはそれを喜びながら私の友人はどうなったのかを確認する為、トレーナー達が捕まえた萌えもんを表彰をする噴水広場がよく見える秘密の草むらまで赴く。そこには既に私の数少ない友人がいた。

 

 

「お、カイロスちゃん!大丈夫だった?」

 

 

「愚問だ。貴様も無事だったか」

 

 

「まぁねー。…ちょっとヤバかった時もあったけど」

 

 

そんな他愛もない話をしていると表彰開始前の噴水広場付近が騒然となる事態が起こる。

 

 

何事だろうか。その騒々しさに私は警戒体勢を取り、隣の友人も警戒体勢を取っている。…彼女も流石の対応の早さだ。

 

 

…いきなりで申し訳無いがここで虫取り大会のルールについて説明しなければならない。虫取り大会において捕まえられる萌えもんは一人のトレーナー辺り一匹である。そんな規定が決められているらしい。

 

 

中には複数体捕まえようとするトレーナーもいるらしいがそんなトレーナー対策にここでは虫取り大会専用のボールが使われる。詳しい仕組みは野生の私には分からないがそれにより虫取り大会中は萌えもんを一匹しか捕まえられず、不正を防止している。

 

 

…長々と説明したが要は『一人一匹までしか捕まえられない』だ。

 

 

なら何故騒動の中心にいる…

 

 

 

 

 

あの少年とその連れの萌えもんは数十匹のキャタピーとビードルを率いているのだ。

 

 

「…あれ?どゆこと?」

 

 

「………」

 

 

隣の友人も疑問に思ってるようだ。いつもの私なら同じ様に疑問に思うだろうが私は今少年の手に持っている薬箱と先程の治療の手捌きから一つの結論に辿り着く。

 

 

『傷付いたキャタピーやビードルを治療し、ボールを使わずに慕われる関係まで持っていった』

 

 

あの少年なら可能かもしれない。そんなことを考えているとその騒動の中心の少年は何か周りに話すとキャタピーとビードルは一斉に草むらに戻っていった。残ったのは仲直りしたのだろうか…連れの萌えもんだけだ。

 

 

その行動に周りのトレーナーや審査員は驚きながらも、何処か安心した表情をしている。

 

 

…それはそうだ。数十体のキャタピー、ビードルの群れは審査員からしたら異例の事態で採点のしようが無いし他のトレーナーからはどう評価されるかも分からないダークホースだ。

 

 

それの結果を少年は放棄し自身を『捕まえた萌えもん、なし』という評価に身を置き、大会が荒れることを避けたのだ。…連れの萌えもんに小突かれながらも周りに謝る少年の姿が見える。

 

 

そして騒動は収まり…表彰発表、閉会式と続き虫取り大会は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

「…で、どーすんのよ。カイロスちゃん」

 

 

「何がだ」

 

 

いきなり友人は私に話しかけてくる。そしてとんでもないことを言い出す。

 

 

「付いてくの?あの子に」

 

 

「滅多なことを言うな。何故私が…」

 

 

「ちょっと頼りなさそうだけど主を支えるって点なら戦い甲斐あるでしょ。あの子は」

 

 

「………成程。確かに頼りないな」

 

 

「だからさ、早く行ってやりな」

 

 

「ふ、ふん。確かにあの少年は見てられんな。不本意だが少し力を貸してやるか」

 

 

私は友人の言葉に従い、閉会式後公園を後にする少年の姿を追う。

 

 

…そんな私の後ろから友人の声が聞こえる。私は離れている為聞き取れなかったが恐らく別れの挨拶だろう…。

 

 

 

 

 

 

「…ようやく行ったか。意地っ張りだねー、あいつ。面倒臭いったらありゃしない」

 

 

「…何があったのか知らないけど噴水広場であの子見た時からベタ惚れって感じの顔だったし」

 

 

「…さて、ウチはどうするかなー。ま、なるようになるか」

 

 

そう言って彼女もその場を離れていった。



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虫取り大会-3

ここは自然公園。緑豊かな憩いの公園。


 

何かが私の頬を掠めた。

 

 

その事実に私は距離を取り、木の上へと退避する。

 

 

「んー…見切り間違えたかなー?」

 

 

「………」

 

 

前方の地面を蹴り上げ、私への間合いを詰める緑髪を束ねた彼女に語り掛けるが返答は無く、代わりに攻撃の手が飛んでくる。

 

 

私はその攻撃を左の刃でいなし、右の刃で彼女に辻斬りを狙う。

 

 

…が、その攻撃は不意な左腕の痛みにより精彩を欠いたものとなりあっさりと弾かれる。

 

 

やはり何かがおかしい。何も話さない彼女から目線を切らさず、距離を取る。…相手は私よりも力量は上かもしれない。やぶ蛇だったかー

 

 

「んー悪かったって。気持ち良く寝てる所邪魔しちゃってさ」

 

 

私は先程と同様に彼女に話しかけるが、彼女も同じ様に答えようとしない。…んー、つまんないな。その様子に少し苛つきながらも私は話を続ける。

 

 

「でもウチの気を感じる相手さんならさ、相手に取って不足無しだよ。やっぱり当たりだったねー、でも…」

 

 

「横のトレーナーさんも連れてくればいいのに。…肩に寄り掛かって寝てたから申し訳無いとか?」

 

 

その言葉に彼女の顔が少し歪む。…あ、この子のこと少し分かった気がする!ある意味私の見切りは成功したようだ。

 

 

「ごめんねー、愛しのトレーナーさんとの時間邪魔しちゃってね」

 

 

「…退け、小娘」

 

 

彼女が初めて黙りを解いた。…小娘ってあの子多分私と同じくらいだど思うけどなー。そんなことを考えていると凄まじい殺気を感じ、身が震える。

 

 

「今なら今までの言葉は全て冗談として流してやる。だがこれ以上冗談を言うなら容赦しない」

 

 

「………お、退いていいならウチは引かせて貰おっかな。あんたの方が力量高そうだし」

 

 

私はその言葉に心中で安堵しつつ、周りの草むら、木々から退路を考え出す。ここは私の庭だ。…考えは容易に纏まった。

 

 

 

 

強すぎる奴は相手にしない。

 

 

それが私のポリシーだった。何者にも怯まず挑む私の友人とは大違いだ。その私の戦い方から一部のトレーナーは『辻斬りストライク』と呼ぶが大層な名前だ。

 

 

 

私は唯臆病なだけなのに。

 

 

「んじゃ、失礼しますー。…愛しのトレーナーさん思いの萌えもんさん」

 

 

私は最後に言葉の爆弾を置き、予め決めた退路へ進む。…後ろから凄まじい殺気を感じたが気のせいでしょ、うん。

 

 

あ、この後この付近の草むらが彼女がストレス解消で暴れて荒れてたのには私は無関係です。

 

 

 

 

 

 

…虫取り大会終わり頃、恐らく最後の相手になるか。…今目の前のトレーナーと萌えもんは明らかに私より力量は低そうだ。

 

 

だが姿を隠していた私を見つけたというのは流石と言うべきか。

 

 

「見なさい、エレ!これが萌えもん図鑑の力よ!」

 

 

「本当に萌えもんサーチ出来たのですね。しかしそろそろ時間が…」

 

 

目の前の女性トレーナーは私を見つけると興奮した様子で話している。一方黄色髪の萌えもんは呆れた様子だ。

 

 

「この子捕まえれば問題無しよ!私はストライク一点狙いって言ったでしょ!」

 

 

「しかし何か捕まえて、保険はかけといた方が…」

 

 

「…保険とか糞食らえよ!今この子捕まえることだけ考えなさい。………多分力量は上だけどこのチャンス逃せないわ」

 

 

その言葉に私は自分を馬鹿にされた様に感じるがそれは私の考え過ぎだろう。どうやらこのトレーナーは私をゲットするつもりらしい。

 

 

「ハァ…分かりました。行きましょう」

 

 

目の前に萌えもんが構える。んー…私としては遊んでもいいんだけどねー。そろそろ友人との時間がなぁ…

 

 

「ん、悪いねー。じゃ」

 

 

「あっ、エレ!逃げるわ!追うわよ!」

 

 

「くっ…ここを逃がすと私のモーモーミルクが!」

 

 

彼女達は逃げる私を必死に追いかけるが追い付ける筈もなく、私は悠々と友人と待ち合わせの秘密の草むらに着き、友人を待つのであった。

 

 

 

 

 

 

その後友人と再開し、虫取り大会の終了後適当な口車で友人を送り出した私は秘密の草むらに一人でいた。

 

 

「さて、ウチはどうするかなー…」

 

 

カイロスちゃんはやりたいことを見つけ、あの大会荒らし(未遂)の少年の元に向かった。ま、カイロスちゃんの実力や性格なら彼女が変な意地を張らなければ問題なくあの少年とやれる筈だ。

 

 

私はどうしようか。友人が居なくなったこの公園は寂しいものだ。

 

 

…ふと今大会最下位のトレーナー三人を思い出す。あの中には私を必死に追いかけていたトレーナーもいたのを思い出す。

 

 

てか、あの三人の中じゃカイロスちゃんがあの少年で、あの緑髪がおっさんか…

 

 

なら私はあの女性トレーナー…

 

 

………いや、無いな。私が彼女達と一緒に上手くやれる保証は無いし…

 

 

そう考えていると『保険とか糞食らえよ!』…そんな彼女の言葉が私の頭の中を駆け巡る。彼女の言葉に臆病な私の意識は変わりつつあった。

 

 

…余り物には福があるといいなぁ。まぁ、まずこんな臆病な私を受け入れてくれるかだが…

 

 

「ま、なるようになるか」

 

 

私はこの公園で暮らすという保険を破り捨て、その場を離れるのであった。



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番外編:『UA1000記念!皆で決める番外編企画!』

※台本形式
※ギャグ、パロディ、キャラ崩壊あり
※本編「虫取り大会-3」までのネタバレあり
※(本編とは関係)ないです。本編読みたい方は飛ばしても大丈夫です


ここは謎の場所。いきなり現れ、そして消える場所。


コンコンコン…

 

 

セーレ「…入りなさい」(使徒と戦う司令官のポーズを取りながら)

 

ガチャ

エレ「失礼します」

ヤド「失礼しますぞー」

ストライク「どうもー」

 

 

セーレ「よく来てくれたわね。私の萌えもん達………ん?」

 

 

セーレ「何でストライクがいるの?」

 

 

ストライク「この後仲間になるのと話の都合です」

セーレ「さっそく盛大なネタバレしていくぅー!」ガビーン!

 

 

セーレ「…ま、いいわ。さて本題に入るわよ」

 

 

セーレ「まずUA1000突破ありがとうございます。これも一重に読者さんのお陰です。又お気に入り登録等もありがとうございます。してもらうと大変励みになります。作者の投稿スピードが通常の三倍になるレベルです」

 

 

ヤド「でもあの時の某人型兵器の推進性能は通常の30%増でしか無いらしいですぞー」

エレ「え、じゃ三倍は嘘じゃないですか」

 

 

セーレ「………まぁ後の長い挨拶は置いといて」ポイー

 

 

ストライク「原稿捨てましたよ、あの人」

ヤド「しかもUAはもう1500辺りですぞ」

エレ「作者がしっかり1000でやりたかったのにタイミング逃したパターンですよ」コソコソ

 

 

セーレ「…まぁこんな作品ですが今後も読者さんが楽しんでくれれば幸いです」

 

 

セーレ「で、ここから本題。その感謝の気持ちに応える為番外編を御用意したいと思います」

 

 

セーレ「その番外編の案として三つ用意したわ。では紹介して貰いましょう!まずは…」

 

 

ストライク「では新参者ですがウチから」

 

 

エレ「あ、だから三体萌えもん必要だったんですね」

ヤド「ならケイブさんの所でも良かったのではー」

セーレ「あれは一匹喋らないから駄目らしい」

 

 

ストライク「番外編案1は『萌えもん達がヤンデルスに感染した様です』を発表します」

 

 

ストライク「では簡単なあらすじだけ御紹介。現在登場している萌えもん達がヤンデルスと言う萌えもん限定ウイルスに感染し、ヤンデレ化するらしいです」

 

 

ストライク「何人かはギャグやほのぼの系で終わるらしいですが他は…作者がこの作品のタグにR-15か残酷な描写付けないといけないかもらしいレベルです」

 

 

エレ「番外編の為に必須タグ付けるのか」(困惑)

セーレ「まぁ付けなくても運営から注意喚起来たら付ければへーきへーき」(慢心)

ヤド「てか本編に既にヤンデルス感染済みがいそ…」

???「んー、呼んだー?」

???「………」

ヤド「呼んでないですぞ」

 

 

ストライク「以上です。では次、ヤドさんお願いします」

 

 

ヤド「はいはいー。では番外編案2は『萌えもん~multi travel~NGシーン集』ですぞ。これはギャグ、パロディ全開のギャグ作品ですな」

 

 

エレ「どのくらい全開なのですか」

ヤド「4倍界王拳くらいですぞー」

ストライク「そりゃ全開だ」

セーレ(今のインフレ考えるとショボいわね)

 

ヤド「あらすじは一応…本編がもしこうだったらみたいなIFを追う…みたいな感じですな」

 

 

ヤド「SS…ショート・ストーリーみたいになる予定ですぞ。では最後エレ殿どうぞ」

 

 

エレ「はい。では始めます」パワポポチー

 

 

セーレ「うわ、パワポ用意してるわ、マジよあれ」

ストライク「えらいっ」

ヤド「こんなはっぴょうにまじになっちゃってどうするの」

 

 

エレ「い、いいではないですか!では…番外編案3は『萌えもん~multi travel~裏設定資料集』です」

 

 

エレ「こちらは現在の萌えもんやトレーナー達の強さ指標や初期の作品構成の裏側を若干ネタバレも辞さない覚悟で書いていく作品です」

 

 

セーレ「けっきょく わたしが いちばん つよくて すごいんだよね」

エレ、ストライク(あんたが間違いなく最弱だろ…)

ヤド(ひょっとしてそれはギャグで言ってるのか!?…ですなー)

 

 

エレ「すみませんがあらすじとかは無いです。何というか…説明書の隅っこや攻略本とか読むの好きな方はお薦めです」

 

 

セーレ「例えが古いわ!」

ストライク「今や電子説明書に攻略サイトですからね」

ヤド「寒い時代だと思わんかって奴ですなー」

 

 

エレ「以上です」

 

 

セーレ「みんな、ありがとう。では最後に纏めるわね」

 

 

・どれか一つからお選び下さい!

 

1:『萌えもん達がヤンデルスに感染した様です』

2:『萌えもん~multi travel~NGシーン集』

3:『萌えもん~multi travel~裏設定資料集』

 

 

セーレ「んー、何か足りない。…そうだ!」

 

 

4:全部書くんだよおう、あくしろよ

 

 

エレ「気付いてしまいましたか」

ヤド「……マスターのような勘のいいトレーナーは嫌いだよ」

ストライク「ま、量多くなるけどプロットは出来てるから充分書けるらしいです」

 

 

セーレ「では以上の4つからお選び下さい!募集期間は一応3日くらいで!でもあまり票が集まってなさそうだったら一週間くらいに伸ばすかも!」

 

 

セーレ「では以上で番外編を終わります!」

 

 

セーレ、エレ、ヤド、ストライク、アノプス「皆さんありがとうございました!」

 

 

セーレ、エレ、ヤド、ストライク「って、なんでアノプスが!?改めまして、ありがとうございました!」




内容は以上です。作者の活動報告欄にアンケートを御用意しました。よろしければ投票お願いします。
※アンケートは終了しました。

…最後に読者の皆様へ、この作品を見てくれてありがとうございます。これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします!


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薬屋の息子-6

ここはコガネシティ。賑わいの大型都市。


 

「ねぇードラちゃんー。一つ聞きたいんだけどさー」

 

 

「ん?何かな?」

 

 

つーの質問に対し、僕はコガネシティ詳細のパンフレットから顔をつーに向ける。つーは虫取り大会の途中から機嫌を直してくれたみたいでいつも通りの表情だ。

 

 

「大会の時の萌えもん達はさー皆、戻って貰ったんだよねー?」

 

 

「うん。流石にあんなに連れていけないからね。一匹くらい捕まえとけば良かったなって思ってるけど」

 

 

虫取り大会中に仲良くなったキャタピー、ビードル達の中には付いていきたいという子が数十匹いたが申し訳ないが帰って貰った。

 

 

何人かの兄ちゃんと言って付いてきていた彼女達を思い出す。…妹が出来たみたいで可愛いかったなぁ。

 

 

「んー、じゃあさー」

 

 

「あの隠れてるつもりだろうけど、角出しながら付いてきてるあの萌えもんは何ー?」

 

 

そう言ってつーが指差す後ろの建物を見ると………建物の陰から角が出ていた。最初はその光景に驚いたが、角と同じ様に僅かながら見える腕の見覚えのある治療跡でその存在を思い出す。

 

 

その存在に覚えのある僕は建物の陰に近付きながら話しかける。その時角がピクッと動く。

 

 

「君はあの時はカイロスか!…もう怪我は大丈夫?」

 

 

「あ…う、うむ…」

 

 

カイロスはいきなり話し掛けた僕に対して少し戸惑いながらも目を伏せつつ答えてくれる。確かに見る限りでは傷は大丈夫そうだ。

 

 

「で、どうしたの?ここにいて大丈夫なのかい?」

 

 

「あっ、えっと、その…だな…」

 

 

「あららー、知り合いー?」

 

 

つーもこの萌えもんが知り合いだと知り、安心したのだろう。近寄って来る。

 

 

そして戸惑っていたカイロスが顔を上げ、いきなり僕の両手を握ってくる。そして…

 

 

「少年、私がお前を助けてやる!」

 

 

コガネシティ一帯に聞こえるんじゃないかと思えるような大声でそう言った。

 

 

 

 

 

 

「では本日はー、我らパーティに志望して頂きありがとうございますー。まず志望動機の方からお聞かせ下さいー」

 

 

あの後、僕とカイロスはつーに引っ張られながら萌えもんセンターの休憩所の一角まで来ていた。

 

 

そこでつーは何処から取り出したのか、眼鏡を付けながら椅子に座り、カイロスに問い掛ける。僕はその様子を隣から見ていた。

 

 

別に僕は仲間にしても良いんじゃないかと思うが、つーにそう言うと『ドラちゃんは黙って審査官の真似しててー』と言われたので仕方なく黙っている。

 

 

「な、何だ?これは…」

 

 

「…早く答えろー」

 

 

「…む、少年が余りにも情けないものだからな。私の力が必要だろうと思ったのだ」

 

 

答えを急かすつーに対しカイロスはそう答えた。確かに力を貸してくれるのは有り難いけど…

 

 

「………ほー、では次に貴女の特技をどうぞー」

 

 

「特技?…戦闘なら任せてくれ。これでも場数は踏んでいるつもりだ」

 

 

「技とかはー?」

 

 

「戦い方はこの角と腕力で捩じ伏せる。技は…主なものだと挟む、地球投げ、リベンジ、ハサミギロチンか」

 

 

「脳筋かー」

 

 

「…何だと?」

 

 

つーの言葉にカイロスが怒りを露にする。その様子に嫌な予感がした僕は仲裁に慌てて入る。

 

 

「つー、それは失礼じゃないか。…凄いねハサミギロチンとか。頼りになりそうじゃないか」

 

 

「むー、悪かったですよー」

 

 

「…ふん、見る目はあるようだな少年。しかも私のハサミギロチンは実戦用でな…」

 

 

彼女は角を動かしながら生き生きとそう僕に話すが…

 

 

「…はいはいー、では結果発表ですよー」

 

 

つーに遮られる。カイロスは角を止め、つーの方を渋々だが向き、それを確認したつーが言い放った。

 

 

 

 

 

「駄目。認めない」

 

 

「「え…?」」

 

 

つーらしくもない淡白な回答に思わず声が出る。…どうやらカイロスと同じ様に驚きの声を上げたようだ。

 

 

「つー、どうして…「ドラちゃん、もしこの子が嫌々力を貸すって言ってるならどうする?」

 

 

「それは…無理にとは言わないけど…」

 

 

「なっ、何を言うか!貴様!…」

 

 

カイロスが激昂している一方、つーは何時もののんびりした雰囲気ではなく冷たい感じがする。

 

 

「何が『力を貸してやる』だってー?つー達はそんなことお願いしてないんだけどー」

 

 

「っ…」

 

 

つーの言葉にカイロスは言葉が出ないようだ。僕はどうしていいのか分からず、二人を交互に見る。

 

 

カイロスが言葉に詰まってるのを見て、つーは息を吐く。

 

 

「…まぁ、わざわざここまで付いてきたでしょー?本音を話しなー」

 

 

「…っ、だがその…」

 

 

カイロスが僕の方を顔を赤くし角を動かしながらチラチラ見てくる。…どうしたのだろうか?

 

 

「………ドラちゃんー、ちょっと待っててねー」

 

 

「なっ…!」

 

 

つーがカイロスの腕を引っ張り外へと出ようとする。そしてそのまま僕を置いて外に出てしまった。

 

 

 

 

 

 

つーとカイロスが戻って来るまでどれくらいの時間が立っていたのだろうか。二人は大丈夫なのかという不安で一杯の僕には分からなかった。

 

 

そんな二人が戻って来た時に思わず僕は入口の二人へと駆け寄る。そこには目を赤く腫らしたカイロスと呆れ顔のつーがいた。

 

 

「つー、お前…何したんだ?」

 

 

「…何もー」

 

 

「少年…いや、主よ」

 

 

その状況に僕がつーに問い詰めているとカイロスが口を開いた。先程再会したように両手を握っている。

 

 

「君に私の力を貸そう。君の側にいさせてくれ」

 

 

「ん、いいよ」

 

 

「…む、随分あっさりだな。主よ」

 

 

「まぁ僕は別に仲間になりたいなら良いって思ってたしね。えーと、つーは…」

 

 

つーの方を向くと彼女もののんびりした表情でカイロスに了承の意を伝えている。話し方もいつもの感じだ。

 

 

「…今の言い方ならごーかく。後これからはつー様と呼ぶようにー」

 

 

「…了解した。つー殿」

 

 

「むむー、教育が足らんかー」

 

 

膨れてカイロスを軽く叩くつーに思わず笑ってしまう。良かった、つーも彼女のことを悪くは思ってなさそうだ。

 

 

「ハハハ…、んじゃ捕まえるよ。名前はさっきから考えてたんだ」

 

 

「おぉ!名前まで頂けるか。…嬉しいものだ」

 

 

カイロスの先程からは考えられない様な柔らかい微笑みに思わず目を逸らす。…そうしているとつーに小突かれる。早くしろってことだろうか。

 

 

 

 

「…ろすろす、これからよろしく」

 

 

僕は名前を呟き、ボールを彼女に当てる。

 

 

「…え?ちょ…」

 

 

彼女が光に包まれ、ボールが揺れる。…しばらくしてボールの揺れが止まったのを確認してボールを投げる。

 

 

「主…ろすろすとは…」

 

 

「え、駄目だった…かな?」

 

 

一応しっかり考えたんだけどなー、駄目だったかな?ろすろすの方を見ながら聞き返す。…すると彼女は角を動かしながら目を伏せた。

 

 

「…し、仕方ない。構わんぞ」

 

 

「んー。よろしく、ろすろすー」

 

 

つーがニヤニヤしながらろすろすに話す。

 

 

…これで僕のパーティに二体目の萌えもんが加わった。

 

 

 

 

 

 

「あ、ちょっと待ってねー…まぁ大丈夫…いや、一応チェックだなー」

 

 

つーはいきなりろすろすの胸の辺りを凝視する。…何をしているんだ。

 

 

「もう一度ろすろすお借りしますー。ドラちゃんはしばらく待っててねー」

 

 

そう言ってつーはろすろすを外へと引っ張り出す。先程とは違い、今の場所が入口付近だから外へと出るのもすぐだ。

 

 

…少しだけ二人の声が耳に届く。

「見せろー」「つー殿!?」………「これはー?」…「?普段はこうしてるが…」……………「あーこれはー、ろすろすの挟むってそういうことかー」「な…」………

 

 

…しばらくすると二人が戻ってくる。ろすろすは赤面しており、つーは飄々としている。そして僕にこう言った。

 

 

「ろすろすはやっぱり仲間にするの駄目ねー」

 

 

「ええっ!何で!?」

 

 

「…ふふー。冗談だよドラちゃんー」

 

 

驚く僕に対し、つーが悪戯っぽく笑う。…また一本取られた。僕はそう思った。




ろすろす(カイロス)
性格:意地っ張り
自然公園にて『傷だらけのカイロス』の渾名で有名だった萌えもん。堅物で芯の強い性格であるが、主であるドラへの忠誠心は強い。角に喜怒哀楽がよく出る。ビジュアルは茶髪のショートに角が生えており、体に傷が多く、服装も所々擦り切れた茶色の服。
…つー曰く角以外でも『挟む』が可能なようだ。


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理科系の女-6

ここは35番道路。こちら自然公園とコガネシティ間、人の流れが絶えぬ道。


 

「やぁ、トレーナーさん。先程はすまなかったね」

 

 

私達が虫取り大会後、コガネシティ北口ゲートに入ろうとした時後ろから声をかけられ、振り向く。

 

 

そこには虫取り大会の際に追い掛けていたストライクが立っているではないか。私はこの子をゲット出来なかったせいで結局最下位になってしまったのだ。

 

 

「あら?貴女は………エレ!確保よ!押さえときなさい!」

 

 

「ええっ…悪いがマスターの命だ。大人しく…「いいよー、ゲットしても」

 

 

「…は?」

 

 

「…え?」

 

 

私とエレは彼女の反応に驚く。…どうしたのだろうか?そう考えていると私達の中で驚いていない平静なヤドが口を開けた。

 

 

「いやー、待つのですぞ。こんないきなりゲットしてもいいなんて怪しすぎますぞ」

 

 

いや、あんたもそんな感じだったでしょ…と内心思うが口には出さない。

 

 

「ふふ、そう言うと思ってね。手土産も用意してきたのさ」

 

 

そういうとストライクは懐から何かを取り出した。…モーモーミルク三本だ。

 

 

「ほら、どうぞ」

 

 

「おぉ…マスター、ゲットしましょう。いい奴ですぞー」

 

 

「う、うむ…感謝する」

 

 

ストライクはヤドとエレにモーモーミルクを一本ずつ渡す。そして私にも…

 

 

「ほら、トレーナーさん。どうぞ」

 

 

「ねぇ、これって…」

 

 

私はふと頭に疑問が浮かぶ。…私の反応からストライクの彼女は気づいたようだ。

 

 

「ん?大会場から頂いて来たのさ」

 

 

「…っ、あんた達!まだ飲んでないわよね!?」

 

 

ストライクの言葉に私はエレとヤドの方を見る。

 

 

…どうやらまだ手を付けてないようだ。私は二人が手にしてるモーモーミルクを奪うように取る。ヤドの落ち込む声が聞こえる。…その様子にストライクは驚いているようだ。

 

 

「…貴女、ちょっと来なさい。謝りに行くわよ」

 

 

「…え?ど、どうしてだい?別に………」

 

 

「いいから!…ごめんね、二人はちょっと戻っててね」

 

 

こうして私はボールにエレとヤドを戻し、ストライクの手を引っ張りながら来た道を戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい!」

 

 

虫取り大会会場の役員さんに私は頭を下げる。頭を下げないストライクにも半ば無理矢理頭を下げさせる。…その時ストライクが震えているような気がした。

 

 

「間違えて持って行ってしまいまして…」

 

 

「…分かりました。返しに来てくれてありがとうございます。次からは気をつけて下さいね」

 

 

役員さんは若干不機嫌そうだが、返しに来てくれたことは感謝しているようだ。私は謝罪を続ける。

 

 

「私の萌えもんがやったんです。全て私の責任です。しっかり教育していくので…」

 

 

そう言うと頭を下げさせているストライクの体が震えが止まる。…その様子に私は小声で「大丈夫よ」と伝える。

 

 

そうしばらく謝ってる内に役員さんももう大丈夫とのことなので私は最後まで謝りつつ、ストライクを連れながら自然公園を後にした。

 

 

 

 

 

 

「…何でこんなことしたの?」

 

 

私は隣で落ち込むストライクに声を掛ける。それに対し彼女は答えようとしない。…多少強引にでも聞くしかないか

 

 

「…もう貴女は何と言おうと私の萌えもんなの。…マスター命令よ、答えなさい」

 

 

「…ウチのせいで」

 

 

…私の言葉にストライクは震え、涙を浮かべながら話始めた。

 

 

「大会…駄目だったから…今更仲間にって言っても駄目じゃないかなって…」

 

 

………分かった。

 

 

この子は怖かったんだ。私達に拒否させるのが、だから手土産を用意したのか………馬鹿な子だ。

 

 

「私のパーティーはね…」

 

 

「バトルからっきしな子とか何故か付いてきたかよく分からない子とかがいるの」

 

 

「でもね。悪い子はいないの。皆私に従ってくれてるわ。だからね…」

 

 

私はストライクを優しく抱き締める。その時彼女の体が僅かに震える。

 

 

「もう悪いことしないなら大歓迎よ。…ほら」

 

 

そう言い私はボールを取り出す。そして彼女にそっと当て………少し揺れた後ボールは止まった。

 

 

「ストライク…。んー…ライね!貴女を歓迎するわ。…頑張りましょう!」

 

 

私はボールを投げる。光の中からライが現れ…私に抱きつく。

 

 

「ん、ウチを今後ともよろしく…」

 

 

 

 

 

 

無事仲間になった所で皆にもライの紹介をしないとね…。ライは先程から一転して飄々した態度だ。

 

 

「ストライクのライです。先輩方、よろしくお願いしますー。あ、ウチの主な技は辻斬り、見切り、泥棒、翼で打つなんで…」

 

 

「………ちょっと待って!泥棒は忘れなさい!今すぐ!」

 

 

「虫技が無いのですが…。まぁ力量は私より高そうですが…」

 

 

「おぉー、個性的な技ですな。私とは大違いー」

 

 

冷凍ビーム使えるあんたが言うな、そう思ったが口に出すのは止めよう。

 

 

………技忘れとかってどうやるのかしら?私はそんなことを考えていた。




ライ(ストライク)
性格:臆病
自然公園にて『辻斬りのストライク』の渾名で有名だった萌えもん。普段は飄々としているが内心では周りに嫌われてないか等を気にすることが多い。野生の時のポリシー『強いすぎる奴は相手にしない』という臆病な内面をセーレ達となら変えられると信じ、未熟な指示の下戦っている。ビジュアルは黄緑のボーイッシュヘアー。白と緑の服に両腕に伸縮可能な刃がある。
…ヤド曰く男性の視線を『泥棒』出来る要素があるらしい。


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遺跡マニアのおじさん-6

ここはコガネシティ。賑わいの大型都市。


 

見知らぬ大きな建物だ。

 

 

俺達はパンフレットを見ながらコガネシティ西側の萌えもんグローバルステーションという大きな建物の前まで足を延ばしていた。どうやらここがコガネルーキーカップの会場………そして目的のお嬢さんがいるであろう場所だ。

 

 

「…ここがコガネルーキーカップ会場かぁ。こんな所前来た時は無かったんだがなぁ」

 

 

「ケイブさん、それおっさんぽいぜ」

 

 

「実際、ぽいじゃなくておっさんだからな」

 

 

「…そんなことはどうでもいい。早くお嬢を探さねばな」

 

 

そんな他愛もない話をしていると俺の袖を引っ張る存在に気付く。…リリーラだ。

 

 

「………」

 

 

「お、どうした。…あっちか」

 

 

リリーラが見ている方向…大会の受付場前を目で追う。

 

 

…いた。

 

 

あの服に着られている様な華奢な少女と足元のワニノコが見覚えのある姿だ。…ホロンの姫さんだ。

 

 

「リリーラ、よくやったな。おーい、ドライ姫さんがいたぞ………」

 

 

俺はリリーラに感謝の言葉を述べながらドライの方を振り向くが………もういない。

 

 

ドライはもう姫さんの元に走り出していた。………俺達もそれに続く。

 

 

「お嬢!…ご無事で何よりです。ドライで御座います!」

 

 

ドライは姫さんの元に着くと膝を付き臣下の礼を取る。…一方、姫さんはその動作と言葉に振り向くと一瞬驚き、そしてドライを抱き締める。近くのワニノコもそれに続き、二人の側に寄る。

 

 

「ドライ!どうして…大丈夫だったの!?何でここに…」

 

 

「ドライねーちゃん!?…ううっ」

 

 

「おい、泣くなツヴァイ。お前もよくやってくれたな…。泣き虫なのは相変わらずか」

 

 

「だって………うぅ…」

 

 

…どうしようか。話に入れる雰囲気じゃない。少なくとも姫さんにはドライのボールは渡さないといけないんだが…

 

 

「…そうだ!お嬢!私のボールを…!おい!ケイブ!」

 

 

お、話に加われそうな機会をドライが作ってくれたようだ。俺達のことを考えて…では無さそうだが

 

 

俺はドライが入ってたボールを手にしつつ姫さんとその萌えもんの所へ向かう。…姫さんは俺の姿に見覚えがあるのだろう。驚いてはいたが、ドライを見た時よりは驚きが小さい。

 

 

「あ、あの貴方はエンジュの…えっと…」

 

 

「ケイブだ。只の各地を回ってるおじさんだ。今回は縁があってな…この子をお前さんに渡そうと来た訳だ」

 

 

「…ありがとうございます。私は…」

 

 

 

 

「ホロ。ホロン地方の幻の森の一族…何でこんな所にいるかは知らんがな」

 

 

彼女が名乗る前に俺は彼女の詳細を述べる。…そして彼女が何か言おうとする前にドライのボールを彼女の手に手渡す。

 

 

「あんたの目的は分からんが…俺の役割は終わりだ。じゃあな」

 

 

「えーっ!帰るのケイブさん!ゆっくりしてこーぜ!」

 

 

「………」

 

 

俺はその場を去ろうとするとアノプスから止められる。…リリーラもこちらを見ているようだ。リリーラは帰りたい側なのか帰りたくない側なのか分からない。

 

 

「あ、あの…待ってください!…ケイブさん!」

 

 

更に後ろから姫さんにも声を掛けられる。

 

 

 

 

「あの………私…強くなりたいんです!…よろしければ色々教えて下さい!」

 

 

姫さんは俺の正面に回り、深々とお辞儀してくる。…その際には潤んだ瞳も見えた。

 

 

………はぁ。

 

 

このまま帰るのは流石に大人して駄目な気がする…仕方無い。

 

 

「嬢さん、あんたリトルカップに出るんだろ?」

 

 

「は、はい。そのつもりです」

 

 

「…その間は会場で応援してやる。で、そのバトルを見たら適当に口出ししてやるよ」

 

 

「え、えっと…ありがとうございます!…ツヴァイ、ドライ申し込みに行きましょう。ドライ…貴方はバトル大丈夫かしら?」

 

 

彼女は俺の言葉に対し俺の気が変わらない内に申し込みに行くようだ。その急ぎっぷりが微笑ましい。

 

 

「大丈夫です。今後はお任せ下さい」

 

 

「…頼りにしてるわ」

 

 

「ドライねーちゃんがいれば大会申し込めるね!ツヴァイも頑張るよ!」

 

 

姫さんの二体目…正確には一体目なのか?ワニノコも気合充分のようだ。

 

 

そうして姫さんとその萌えもんは受付まで向かっていく。その様子を俺は見届けていた。…微笑ましいものだ。思わず顔が緩む。

 

 

「………」

 

 

「ケイブさん、じゃあ暫くはここにいるってことだよね!」

 

 

「まぁ、そうなるな」

 

 

「やりぃ!何食べようかなー」

 

 

アノプスはすっかり観光気分だ。少しだが小遣いでもやるか…

 

 

「………」

 

 

「リリーラもゆっくりしてていいぞ。ここまで急いできたからな、疲れただろ」

 

 

「………」

 

 

そう言うとリリーラは俺の側に寄りこちらを見上げてくる…どうしたのだろうか?

 

 

「ん?小遣いは少し出してやるぞ」

 

 

「………」

 

 

そう言うとリリーラに脛を蹴られた。………何故だ?



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ピクニックガールの少女-6

ここはコガネシティ。賑わいの大型都市。


 

この状況下でドライが戻って来てくれたというのは渡りに船だ。

 

 

しかもドライは前に私を助けてくれたおじさん…ケイブさんに連れて来て貰ったらしい。彼には何度も助けて貰っており、本当に頭が上がらない。

 

 

彼はかなりの腕のトレーナーなのだろう。そういえば彼は私のことを知っていた。…どの位まで知っているのだろうか。そのことが疑問として浮かぶ。

 

 

「…ドライ。ケイブさんは貴女がデルタ種ということを知ってるの?」

 

 

「はい。彼は私のタイプまで御存知です。…ですが恐らく私達が追われてる訳までは知らないようです」

 

 

「そう…」

 

 

流石に完全に知っている訳では無さそうだ。だがドライのタイプまで知っているということはそれなりにドライには慕われていたようだ。

 

 

「まぁいいわ。この大会は二体の萌えもんがいないと申請出来ないみたいでね。ドライ、貴女が来てくれて良かったわ」

 

 

「それは幸いです。…ツヴァイも出るということが少々不安ですが」

 

 

「む…」

 

 

ドライの言葉にツヴァイの頬が膨れる。ドライからしたら昔のツヴァイしか知らないからそれも仕方無いことだろう。

 

 

「ツヴァイも大丈夫だよ!戦えるもん!」

 

 

「分かった分かった。でも無理するなよ」

 

 

「むむー」

 

 

そんなツヴァイをドライがあやしている。昔と変わらない光景だ。

 

 

…そう。この光景を取り戻さなければならない。その決意を私は新たにする。

 

 

さて、大会の申し込みだ。今度は滞りなく出来る筈だ。

 

 

 

 

 

 

「お、嬢さん。終わったのかい?」

 

 

「はい」

 

 

受付を終えて先程の場所に戻るとケイブさんと一匹の紫帽子の萌えもんがいた。確か前に私を助けてくれたリリーラという萌えもんだったか。

 

 

…もう一匹の萌えもんはボールの中かそれとも何処かに行っているのか近くにはいない。

 

 

「大会ってのはもう始まるのか?」

 

 

「いえ…予選があるようです。その後、本選みたいです」

 

 

「………すぐじゃないのか。面倒臭いな」

 

 

「…もし忙しいのでしたら無理しなくても…私の我儘ですし」

 

 

私は大会中は応援でコガネにいるという彼に迷惑を掛けていると考え、謝罪する。…すると彼は手を伸ばし私の頭を軽く叩いてきた。

 

 

「気にすんな。嬢さん。ゆっくりさせてもらうわ…あっ、す…すまん!」

 

 

「い、いえ…大丈夫です…」

 

 

その動作に驚きながらお互い距離を置く。…いきなりこんなことをしてくるデリカシーの無さは健在のようだ。

 

 

「………」

 

 

「…え、えーと…偵察でもすっか」

 

 

ケイブさんはリリーラの視線を受けながら会場を見渡す。…彼女に穴が開きそうな程見られているようだが大丈夫なのだろうか?

 

 

「て、偵察?」

 

 

「ま、そんな大したもんじゃねぇよ。周りのトレーナーを見るだけだ」

 

 

確かに今周りにいるトレーナーはリトルカップの出場者が殆どだろう。だが見るだけで分かるのだろうか。その疑問をそのまま口にする。

 

 

「見れば分かるんですか?その…実力とか」

 

 

「…何人かある程度は。虫取り大会で見た顔も結構多い」

 

 

虫取り大会…確か少し前に自然公園で行われていたものか。彼も参加していたのか。

 

 

そんな風に考えているとケイブさんは周りを見渡し、一人のトレーナーの詳細を語る。

 

 

「例えばあそこのガーディ連れの赤ジャージ…。あれは今回の虫取り大会の優勝者だ」

 

 

そう言われ、ケイブさんが話すトレーナーを見る…。後ろからガーディに噛み付かれている男は見覚えのある姿だ。

 

 

 

 

「あ、彼なら知ってます。前にバトルもしました。…ギリギリですが勝てました」

 

 

「…マジか。嬢さんって意外と強い?」

 

 

「…意外とは余計です」

 

 

その発言に私はムスッとして彼に訂正を求める。意外とは失礼だと思う…

 

 

「ま、悪かったな。…後はあのツボツボ連れのリュックの少年。あれは…」

 

 

私と同じくらい若い少年も見覚えがある。…が、思い出せない。

 

 

「あの少年…ですか?あの子は準優勝とか?」

 

 

「いや、結果は最下位だが…実際は分からん。…まぁ一応覚えとけ。もしかしたらバトルの方も問題児かもしれん」

 

 

発言を聞く限りではよく分からない。あの少年には何かあるのだろうか?一応覚えておこう…

 

 

そんな風に話していると一人の女性が慌てた様子で私達の前を通り過ぎる。

 

 

…どうやら受付に行く人のようだ。

 

 

…その様子を見てケイブさんが笑った。…知り合いなのだろうか?

 

 

「ハハ…噂をすればって奴だな…」

 

 

「…あの慌てた女性は?」

 

 

「俺とあの少年、そしてあのねーちゃんで虫取り大会の最下位組だ。まぁ…」

 

 

…ケイブさんも最下位だったのか。その事実に驚きながら私は彼の言葉の続きを聞く。

 

 

「気にしなくていいだろ。彼女は俺や少年と違って正真正銘の最下位だからな」

 

彼は一瞥してそう言った。



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番外編:『萌えもん達がヤンデルスに感染した様です。前編』

※番外編です。本編とは関係無いです。
※思ったより長くなりそうなので前後に分割しました。まずヤンデレ度軽そうな萌えもんからどうぞー





~case1~

 

[雑記メモ]

『モエルス』…確か萌えもんの成長を促進させるウイルスのことだったか。ウイルスと言うと響きは良くないが実際は萌えもんに悪影響を及ぼすものではなく、熟練のトレーナーは萌えもんのモエルス感染を歓迎するそうだ。

そして近年、モエルスの亜種…『ヤンデルス』の存在が確認された。

このウイルスは萌えもんが持つトレーナーへの好意を増大させるものらしい。その際に精神的に病んだ状態になる報告が多く挙がっている。………にも拘らず、どうやらこちらのウイルスも熟練のトレーナーは萌えもんのヤンデルスの感染を歓迎しているようだ。………上記の熟練と下記の熟練の意味は違うのではないか。俺はそう考えている。

[ケイブ]

 

 

「成程ねぇ…」

 

 

俺は自分の書いたメモを再読しながら目の前の萌えもんを見る。

 

 

「えへへ、ケイブさーんー」

 

 

「こりゃ、分かりやすいわ」

 

 

「ケイブさーん、んー」

 

 

アノプスはニコニコしながらこちらに両手を広げ近付いてくる。…これは抱っこしろってことか?まぁ…いいか

 

 

「おー、来い来い」

 

 

「んー、もっとギュッとー」

 

 

アノプスの言葉に応じ、ちょっと力を強めて抱き締める。アノプスは目を細めて満足そうだ。

 

 

「で、俺はどうすればいいんだ?アノプス」

 

 

「このままでいいー」

 

 

「…そうか」

 

 

 

 

「このまま二人で一緒にいような」ボソッ

 

 

「ん?何か言ったか?」

 

 

「何でもないぜー」

 

 

そうしてずっとアノプスを抱き締めて日が暮れる頃、アノプスが急に離れ「な、何してんだ!ケイブさんのエッチ!」と罵られた…。ヤンデルスは消滅した…のか?

 

 

………ふと一つの考えが頭をよぎる。もしあの時他の萌えもんのことを話したり、ボールから出してたら…

 

 

どうなったのだろうか。

 

 

それを確かめる術は俺にはない。

 

 

~case1 end~

コメント:まずは軽いジャブから

 

 

 

 

 

~case2~

 

「ホロねーちゃんが悪いんだよ…」

 

 

私は個室の中でツヴァイに手錠をされ、押し倒される。ツヴァイは一体どうしたというのだ。

 

 

「ホロねーちゃんが他の萌えもんと話してデレデレしたりして…」

 

 

「いや、してないわよツヴァイ」

 

 

「………えっ!?えーと、ちょっと待って!えっと…」

 

 

ツヴァイが慌てて部屋を出る。部屋を出る前に手錠を外して欲しいのだけれど…。暫くするとツヴァイは紙を持って戻って来た。

 

 

「えっと続きはここからだよね…」

 

 

「ウソ!絶対してた!もう許せない…こうしてやる…!」

 

 

そう言うとツヴァイは小さな刃物を取り出し、私に詰め寄る………って!

 

 

「…ツヴァイ!駄目、そんなもの持ったら!危ないでしょ!ほら、渡しなさい!」

 

 

「え…で、でも…」

 

 

「でもじゃない。渡しなさい!」

 

 

「う、うん…」

 

 

何か口答えしようとしてたがツヴァイは刃物を渡してくれる。全く…

 

 

「後この手錠も!こんなの何処で買ったの!?」

 

 

「は、はい…」

 

 

ツヴァイに手錠を外させる。こんなの何処で買ったのやら…

 

 

「ツヴァイ、何でこんなことしたか分からないけど…危ないからしちゃ駄目よ。怪我とかしてない?」

 

 

「だ、大丈夫…」

 

 

「…なら良かった。じゃ一緒に買い物行くわよ、お菓子買ってあげる」

 

 

「本当!?わーい!ツヴァイね、あれが…」

 

 

こうして私とツヴァイは部屋を出て買い物に向かう。あ…そういえばいつもより足に掴まる力が強いけど気のせいかしら。

 

 

~case2 end~

コメント:優しい世界

 

 

 

 

 

~case3~

 

「ふふふ、これをマスターに飲ませれば…」

 

 

「………マスター、お茶の準備が出来ました」

 

 

「あら、ありがと。エレも一緒に飲みましょ」

 

 

エレが淹れてくれたお茶を私は飲む。私が飲んだのを確認したエレもそれに続きお茶を口にした。…うん、美味しい。そう思っていると…

 

 

 

 

エレが突然倒れた。…え?私は慌ててエレの側に寄り、大丈夫か確認する。

 

 

…息はある。というか鼾をかいている。………どうやら寝ているようね、ベッドに運びましょうか。

 

 

エレをベッドに運んで寝かせてから暫くするとエレが目を覚ます。エレは起きた途端に周りをキョロキョロ見ている。…そしてブツブツ何か言っている。

 

 

「はっ!?ま、まさか飲むカップを間違えた…いや、馬鹿な…」ブツブツ…

 

 

「大丈夫、エレ?疲れてたのかしら?体調悪い?」

 

 

「い、いえ大丈………ゴホゴホ、いやーまだちょっと悪いみたいですー」

 

 

…どうやらエレは体調を悪いみたいだ。私が色々無理をさせたせいだろうか…

 

 

「ゴメンね…今日は付きっきりで看病するから、何かして欲しいことある?」

 

 

「!じゃあ傍にいて下さい!」

 

 

「あ、うん…良いけど他には?」

 

 

「大丈夫です!」

 

 

「やった…!計算通り…」ボソッ

 

 

結局私はエレが寝るまで傍にいてあげた。………それにしても幸せそうな顔で寝てるわねー

 

 

~case3 end~

コメント:優しい世界その2

 

 

 

 

 

~case4~

 

「なぁ、お前は大丈夫なのかドライ」

 

 

「急に何だ。ケイブよ」

 

 

「いや、最近ヤンデルスっていう萌えもん専用のウイルスが流行ってるらしいからな」

 

 

まぁ、ドライは見るからに平静だ。問題なさそうだが一応聞いておく。

 

 

「その話か。確かそのウイルスは萌えもんのトレーナーへの好意を増大させるものだったか、なら心配いらん。貴様に感謝はすれど好意など持っていない」

 

 

「ハハハ…酷いなー。まぁ掛かってないならいいや」

 

 

…大丈夫みたいだ。余計なお世話だったようだ。

 

 

「そこは否定しろ、馬鹿が」ボソッ

 

 

何か聞こえたが気のせいだろ。…俺はいつものようにメモを取り始めた。

 

 

 

 

 

 

私は自分のボールを見つめていた。もし…

 

 

もしだ。私がこのボールを壊してしまえばどうなるのだろうか。私は誰の萌えもんになるのだ。お嬢の萌えもんになってしまうのか…

 

 

なってしまう…?何だ、今の自分の考え方はまるで…。いや、まずそんなことをしても彼は私を受け入れてくれるのだろうか。…それは無い。

 

 

私がそんなことをしても彼は受け入れてくれるとは思えない。それはこの短い旅の中で一緒にいてずっと見てきたから分かっている。

 

 

ずっと見てきた…?やはり何か考えがおかしい。なら…なら私はどうすれば彼と…

 

 

ずっと一緒にいられる?

 

 

………

 

 

………うん。私の考えは何時も通りだ。

 

 

 

 

 

翌日、俺のメモ帳の表面に小さな切傷が付いていた。別に使えないって程の傷でもないからいいんだが…いつ付いた傷なんだろう。

 

 

 

 

「またメモか、懲りないな貴様は」

 

 

「ま、癖みたいなもんだ」

 

 

彼はそう笑いながらメモ帳を見つめ、ペンを走らせる。

 

 

 

 

…彼が私を見つめている。私を愛している。

 

 

私がお前の傍にいる。

 

 

~case4 end~

コメント:この位の距離感好き。ドライはホロのパーティーですが、ヤンデレ想定はケイブでしか出来なかった。すまん。




こんな感じで良いのかなぁ…
4体中3体はヤンデレ感無いんだが許して下さい


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番外編:『萌えもん達がヤンデルスに感染した様です。中編』

※番外編です。本編とは関係無いです
※前後に分けると言ったな。あれは嘘だ。三つに分けまする。今回は後編の面子と比べてもそれなりのヤンデレ度。ヤンデレ度指標は
前編勢<中編勢=後編勢のイメージでお願いします。


~case5~

 

「マスター、どうしましょー?」

 

 

「ん、どうしたの?ヤド?」

 

 

ヤドが袖を引っ張っているのに気付いた私はヤドの方を向く。

 

 

「いやー、流行りのヤンデルスっていうウイルスに感染してしまったのですー」

 

 

「へー………え!?」

 

 

「んー、どうしましょー?」

 

 

ヤドは何事も無い様に私に話をしてくる。ヤンデルス…確かトレーナーへの好意が増大するウイルスという噂だ。あれ?何事も無い様にってことは…

 

 

「………私ってあんまりヤドに好かれてない?」

 

 

ポロッと心の中の声が出てしまう。がヤドは即座に否定した。

 

 

「それは違いますぞ。マスター」

 

 

「私はマスターのことを心から好いています。それは間違いない事実なのですぞ」

 

 

「あ、ありがとう…」

 

 

堂々と好きと言われることに私は照れる。何だ…ヤドも結構可愛い所あるじゃない…

 

 

「ですが」

 

 

「マスターは心から私のことを好いているのですかな?」

 

 

「マスターが望む私でしょうか?マスターが愛せる私でしょうか?こんな気まぐれでふざけた私はマスターの望む私では無いでしょう。…なら私はどんな私になればいいのでしょうか?やはりエレ殿みたいな真面目な方ですか?ライ殿みたいなふと弱さを見せてくれる方ですか?のんびり屋だけどマスターの支えとなれる方ですか?力を捧げマスターに献身的な方ですか?元気にマスターの心を癒す方ですか?黙って仕事をこなす方ですか?甘えてきて保護欲を掻き立てる方ですか?落ち着いてマスターの隣にいてくれる方ですか?」

 

 

「え…ヤ、ヤド…?」

 

 

「他にも色々な方がいるでしょう。さて…マスターが望み、愛せる方はどの様な方ですかな?マスターが望むどの様な方にも私…ヤドはなってみせましょうぞ」

 

 

「さて、改めて…どうしましょー?」

 

 

普段のヤドからは考えられない程の早口の独白が終わり、『私が望む誰か』になる前のヤドが真っ直ぐとこちらを見ている。

 

 

…その姿に私は絶望する。

 

 

ヤドはもうヤドでは無くなっていた。

 

 

…私が本当に望む誰かはもういない。

 

 

~case5 end~

コメント:ヤドは書いてる内に化けた。ほのぼの勢の予定だったが何だかんだで賢くて良い子だったからこうなった。

 

 

 

 

 

~case6~

 

 

私は歩きながら主を探す。

 

 

それは私の野望、主をこの手で襲う為に。

 

 

…暫くすると私は主を見つけ、近づこうとする前に彼は自ら私の前にやって来た。

 

 

自ら来たか。好都合だ。私は主に手を伸ばし…

 

 

「ろすろす、大丈夫!?今萌えもん専用のウイルスが流行ってるとかで…」

 

 

「えっと一応ね、効きそうな薬も用意してみたんだ。モエルスの亜種らしいからね、完全に消せる訳ではないけどこれで少しは気分が楽になると思う。…こっちがろすろす用ね」

 

 

その言葉に私は伸ばしていた手を止める。

 

 

そう言う主の手には薬があり、私に差し出してくる。この短期間で、私の為に用意したというのか。

 

 

………

 

 

私の主は素晴らしい。彼は情けなくて、考え方が甘くて、自分に見返りを求めない…正直不安で見てられない、そんな人間だ。

 

 

だけどひたむきで、真っ直ぐで、周りの為に力を尽くせて、私のことを想ってくれている。 

 

 

本当に素晴らしい主だ。私の大切な主。大好きだ、主よ。主、私の………

 

 

私は薬を受け取るべく彼の手を………

 

 

「で…こっちがつー用なんだけど、つーを見なかったかい?つーも何処か行ってしまったみたいで…」

 

 

………

 

 

………あぁ。

 

 

本当に愚かな主だ。 私の性格や本質を何も理解してない。自分が襲われるなんて欠片も思っていない。 主の中では私がそんなことをする萌えもんだと考えてないのだろう。 

 

 

…見る目がなく、詰めが甘い。 本当に馬鹿な主…いや、少年だ。 

 

 

「…ろすろす?どうしたの?」

 

 

私は少年の手にある薬に伸ばしかけた手を彼の肩に置く。そしてもう片方の手も少年の肩に置いた。…少年の両肩に手を掛けけている形になった。

 

 

「ん、大丈夫?立つのも辛いとか…?」

 

 

分かっている。少年はこんなことを望んではいない。分かっているのだ。

 

 

…あぁ、でも本当に 

 

 

本当にこれが終わったら

 

 

少年、私は君が用意してくれた薬を飲み、君を主と呼ぶいつもの私になるから

 

 

許して、欲しい…

 

 

………

 

 

頭の中が真っ白になっていく。何も考えられない。もう行動の殆どが無意識だった。

 

 

…私は主の善意を裏切った。

 

 

~case6 end~

コメント:ドラちゃん、詰めが甘かったね(合掌)

 

 

 

 

 

~case7~

 

「おー、よしよし」

 

 

「や、止めろよケイブさんー」

 

 

またあの子だ。

 

 

「…っと悪いな」

 

 

「…ふん、気を付けろ。ケイブよ」

 

 

今度はあの子だ。

 

 

「あっ…す、すまん!」

 

 

「い、いえ…大丈夫です」

 

 

次はあの子だ。

 

 

「………」

 

 

「ん、どうしたリリーラ?」

 

 

「………」

 

 

…私は?ねぇ私は?

 

 

「腹でも空いたか?」

 

 

違う。

 

 

私は彼に頑張ったねって褒めてくれるだけでいい。その言葉だけで生きてる価値がある。

 

 

私は彼に撫でて貰いたい。彼は私にはしてくれないから。

 

 

………それにしても今日は何かおかしい。心がざわめいている。

 

 

…そうだ。何で私が褒められず、撫でられないのだ。私は今の彼のパーティーの最古参であり、最も強く、賢い存在ではないか。

 

 

つまり最も愛されるべき存在だ。

 

 

「………」

 

 

彼はそんな簡単なことにも気が付かず私を只の便利な萌えもんとしてしか見ていないのではないか。

 

 

便利な萌えもんではない。私が頑張るのは彼の為ではない。私の為。

 

 

………沸々と怒りが込み上げてくる。後…名前も納得いかない。心がざわめく。

 

 

「ど、どうした?リリーラ?」

 

 

…何なのだ、リリーラとは。彼にとって私は萌えもんのリリーラでしかないのか。私は私だ。萌えもんの種類ではなく、私を呼んで欲しい。

 

 

でも一番気に入らないのが呼ばれている内に愛着が出来ていることだ。彼が私が呼んでいる。

 

 

こんなちっぽけなことでも私は舞い上がってしまう。心がざわめく。

 

 

「………」

 

 

「…っ、まさかな」

 

 

「………!?」

 

 

彼が私の額に手を当ててくる。嬉しい。こんなことでもだ。

 

 

嬉しくて顔が赤くなりそうだ。いや、なってるのかも知れない。でも熱は出してはいけない。彼に心配をかけてしまうから。

 

 

「気のせいか。リリーラ、気を付けろよ。萌えもん専用のウイルス…ヤンデルスが流行ってるらしいんだ」

 

 

「ま、お前はそんな柔な奴じゃないか。ハハハ…」

 

 

彼が私に期待してくれている。その期待に、応えないといけない。

 

 

………

 

 

…心はざわめかなくなった。沸々と込み上げていた怒りも無くなった。

 

 

「………大丈夫」

 

 

「ん。だよな、頼りにしている」

 

 

彼が私の頭に手を置く。

 

 

…一声で全てが伝わる。彼は全て理解してくれる。私が欲しいものを全てくれる。それでいいじゃないか。

 

 

「………」

 

 

さっき言っていたウイルス…確かヤンデルスと言ったか。

 

 

私はそんなのにかかる様な柔な奴じゃない。私達の関係はそんなもので壊れるものか。

 

 

~case7 end~

コメント:リリーラも書いてる内に化けた。なんとヤンデルスに打ち勝ってしまった。…既に感染済みだからかもしれない。



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番外編:『萌えもん達がヤンデルスに感染した様です。後編』

※番外編です。本編とは関係無いです
※中編と同じくらいのヤンデレ度…だと思う


 

~case8~

 

何だこれは。

 

 

この感情は。

 

 

私が私で無くなる。

 

 

…怖い。私が私で無くなることがじゃない。

 

 

マスターを、仲間を傷付けかねないこの感情。

 

 

「ウチ…ヤバいなー、これはー」

 

 

私は木の上で一人呟く。

 

 

『お前が好きなマスターはお前を捨てる』………そんな訳ない。マスターは私を受け入れてくれる。

 

 

『仲間をお前を受け入れない』………そんな訳ない。皆いい子達だ。私とは比べ物にならない程。

 

 

分かっている。が気持ちが押さえられない。

 

 

『マスターを私のものに。邪魔する周りは排除する』………いけない。それは駄目だ。

 

 

………あぁ。憎い。この感情が。

………あぁ。煩わしい。この思考が。

………あぁ。嫌になる。この自分が。

 

 

分かった。もうこうするしかない。考えてはいたんだ。考えたくなかったけど。

 

 

 

 

私がいなくなればいい。私自身が私の喜びの為に一番邪魔だ。

 

 

私の喜び。マスターは私を受け入れてくれる。仲間も私を受け入れてくれる。そして私達は楽しく旅をするんだ。そんな日常。

 

 

消させるものか。今の私はその理想郷を消しかねない。

 

 

私は自分自身の右の刃を伸ばす。

 

 

…怖い。手が震える。その時…

 

 

「あ!ライ、ここにいたのね」

 

 

マスターは私を見つけ声をかけてくれる。

 

 

「いやー、急に何処か行っちゃうから探したのよ!エレとヤドも探してるから早く帰りましょ!」

 

 

………あぁ。やっぱり私は間違って無いじゃないか。

 

 

手の震えが止まった。

 

 

私の理想の為…

 

 

私は私を消そう。

 

 

………

 

 

………

 

 

マスターの声が聞こえる。泣きわめく声が。マスターらしくもない。

エレさんの声が聞こえる。呆然として震える声が。エレさんらしくもない。

ヤドさんの声が聞こえる。はっきりとした声が。ヤドさんらしくもない。

 

 

『馬鹿め』………そうかな。私は私の好きなものを守ったんだよ?

 

 

これ以上の喜びはない。

 

 

~case8 end~

コメント:ライは大体予定通りだがR-15や残酷な描写タグを入れない為に気を使った。これでうまく表現出来てるか少し不安。

 

 

 

 

 

~case9~

 

 

僕の体の中を何かが駆け巡る。おかしい。まさか…

 

 

僕は目の前のつーを見る。つーは口角を上げ、こちらを見つめている。

 

 

「つー…僕に何かしたな?」

 

 

「…分かっちゃうかー。流石だよ、ドラちゃんー」

 

 

やはりつーがしたのか。この変な感覚は先程つーに会ってから出てきたものだ。

 

 

「本当に凄いよー。ドラちゃんはー、まさかあの短期間でモエルスの亜種という情報だけでヤンデルスの抗体薬を作るんだもんー」

 

 

「お陰で私は無事つーちゃんに戻れたんだからー」

 

 

彼女が微笑む。その顔を見た僕は照れからか恥ずかしくなり目を反らす。

 

 

「………抗体薬は飲んだんだよな?」

 

 

「うんー。だってドラちゃんがつーの為に作ってくれたんだよ?喜んで飲んだよー」

 

 

微笑みながらつーは近付いてくる。

 

 

「でもさ」

 

 

僕の目の前に来たつーは伏せていた僕の顔を覗きながら呟く。

 

 

「やっぱり馬鹿。詰めが甘い」

 

 

つーが呟いたその言葉が脳の中で響く。その声が僕の判断を鈍らせる。

 

 

「んーとね…これか」

 

 

つーは懐から何かを探し、それを取り出す。その一挙一動に目が離せない。

 

 

「これはねー、ヤンデルスの抗体の逆バージョンになるのかなー?促進薬かなー?つーはドラちゃんと違って時間が掛かったよー。これを人間にも作用するようにするにはねー」

 

 

「完全にじゃないけど人間にも効いてる筈なんだー」

 

 

 

 

「で、感想を聞きたいな?どう?」

 

 

僕に耳元で聞いてくる。その声、仕草が僕の感情を荒ぶらせている。

 

 

………まずい。抗体薬…あ、そうだ…

 

 

「ふふっー。抗体薬探してるのー?無いでしょー、急造仕事でつーの分しか作ってないー。だから詰めが甘いんだよー」

 

 

「でもさー、必要…かなー?」

 

 

つーが僕を抱き締める。力が出ない。離れられない。離れたくない。

 

 

………待て。本当にまずい………!

 

 

「要らないよねー?一応御用意はしましたがー」

 

 

つーがもう一つ薬を出す。見覚えがあるあれは…

 

 

………

 

 

僕の感情を邪魔するものだ。

 

 

「…あららー?要らないかー。なら代わりにつーをプレゼントー、なんてねー」

 

 

つーが更に力を入れて抱き締めてくる。僕の愛しい人が僕をここまで愛してくれてる。

 

 

「全くー、ドラちゃんはつーがいないと駄目なんだからー」

 

 

その通りだ。僕を今まで支えてくれた彼女に僕は恋をして…彼女は僕を受け入れてくれる…居なくなるなんて考えられない。

 

 

「うん、ごめんな」

 

 

僕は謝りながらつーの胸に顔を沈める。

 

 

「大丈夫ー、気にしないでー」

 

 

顔を見上げると彼女はにやりと微笑む。

 

 

あぁ…

 

 

なんて可愛らしいんだ。

 

 

なんて愛おしいんだ。

 

 

~case9 end~

コメント:ラスボス。やはり格が違った。




番外編はこれで以上になります。
自分の趣味全開ですが楽しんで頂けたでしょうか?


次からは本編に戻ります。
この雰囲気から本編に戻れるかなぁ…(不安)


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コガネルーキーカップ-1

ここはコガネシティ。賑わいの大型都市。


 

『本大会の試合は2対2の入れ替えありのシングルバトルで行われる』

 

 

…これがあるから私は危うくこの大会に参加出来ない所だった。

 

 

でももう大丈夫だ。私は後ろのドライの方を見る。

 

 

そこにはルールについてツヴァイに説明しているドライの姿があった。

 

 

「要するに無理せず私に任せろということだ、ツヴァイ」

 

 

「お嬢はお前を先発にするつもりらしいが、無理はするな」

 

 

「うん、でもドライねーちゃんの出番は無いかもよ!結構ツヴァイもねー、強くなったんだから!」

 

 

ツヴァイが自信満々にそう語っている。その様子をドライは優しい顔で眺めている。

 

 

…確かにツヴァイは強くはなっている。しかしまだドライには力量は敵わないだろうけど…

 

 

「ま、そこら辺の判断は私がするわ。安心して」

 

 

二人共デルタ種だから相性管理は大変だがそれは相手も同じ…いや、慣れていない分こちらより辛い筈だ。

 

 

私は二人にそう話す。すると二人は返事をしてくれる。

 

 

「うん!」

 

 

「お任せします、お嬢」

 

 

 

 

相手のタイプ相性の概念の隙を突ける…。これは私達だけの初見殺しだ。

 

 

 

 

 

『萌えもんが使用出来る技は4つまで』

 

 

前に行ったジム戦と同じね。どうやら公式戦と同じ扱いらしい。

 

 

「ライ、貴女は前に言っていた技で大丈夫?」

 

 

「いいよー」

 

 

ライからの返事を聞き私は予め書かなければならない申請書に技を書く。

 

 

辻斬り、見切り、泥棒、翼で打つ…っと。

 

 

って…!

 

 

「泥棒書いちゃったじゃない!…何か他の技は!?ライ!」

 

 

「無いでーす」

 

 

ライはそう言って笑う。絶対何か他の技あるのに…

 

 

…まぁいい。私は次の萌えもんの技欄にペンを進める。

 

 

水鉄砲、念力………そう書いている時に横から紙を覗いていたヤドから声が掛かる。

 

 

「今回はどうしますかなー?マスター」

 

 

「…え、何が?」

 

 

何のことだろうか?よく分からないので私は聞き返す。

 

 

「技ですぞ。後は?」

 

 

「後は…って冷凍ビームと瞑想でしょ?」

 

 

「いや、一応今大会はどのタイプと戦うか分からないのですぞ。ジムとは違いますからな。ですからー」

 

 

ヤドは私が書いている技欄に手を加える。………え?これは?

 

 

「こんなのは如何ですかな?」

 

 

「………使えるのね?ヤド」

 

 

「勿論。エレ殿の瓦割りと一緒にはしないで欲しいですなー」

 

 

ヤドが笑う。確かにこれは…

 

 

 

 

「面白くなりそうね」

 

 

 

 

 

 

『試合中の道具使用禁止』

 

 

「う…まぁ仕方ないよな」

 

 

「主よ、当たり前だ。公式の場なら基本だぞ」

 

 

「そ、そうなのか参ったな…」

 

 

道具が使えない。………僕が作った回復薬を使えないということだ。

 

 

今まで野生や道中のトレーナーとのバトルにおいて道具を使っていた僕にとっては大きな痛手だ。

 

 

「いやドラちゃんー。続きを見なよー」

 

 

僕はつーにそう言われそのルール詳細の続きを見る。…成程。

 

 

『但し持ち物として持たせ使用することは可』

 

 

「萌えもんの持ち物としては有りなのか」

 

 

………よし。

 

 

「つー、ろすろす。ちょっと待っててくれ」

 

 

 

 

 

「今から持ち物作る」

 

 

僕がそう言うとろすろすは僕に聞き返してくる。つーは何も言わない。

 

 

「………正気か主よ。そんな簡単なことでは無いぞ」

 

 

ろすろすはそう言うが…そんなに難しいことかな?

 

 

「大丈夫。ろすろすに合う物を作るよ。期待しててくれ」

 

 

「わ、私に合う物だと…私専用…ふふ…ふふ…」

 

 

僕がそう答えるとろすろすはブツブツと何か言いながら顔を伏せてしまう。そんなろすろすの頭をつーが叩いた。

 

 

「…まぁこの後輩は置いといてー、ドラちゃんお願いねー」

 

 

「任せてくれ」

 

 

さて、早速作成にかかるか…

 

 

 

 

 

 

『優勝商品:コガネデパート商品券一万円分。準優勝…』

 

 

「随分と太っ腹だな。参加費無料の割には」

 

 

成程。参加者の多さの訳にはこれもあるかもしれない。

 

 

「ケイブさんも出りゃいいのにー」

 

 

そう聞いてくるアノプスは横でミックスオレを手にしている。早速小遣いを使っているようだ。まだ大会予選も始まってないのにそのペースでの消費は大丈夫だろうか。

 

 

「…俺がルーキーに見える?」

 

 

「見えない!」

 

 

即答された。

 

 

「分かってるんなら聞くなよ…」

 

 

「………」

 

 

「逆にお前は全く使おうとしないよなー」

 

 

同じく横にいるリリーラにも話しかける。リリーラは特に何かを買っているようには見えない。

 

 

「…良かったら何か買ってやろうか?」

 

 

「………」

 

 

一応リリーラにそう聞くとアノプスが話に割り込んでくる。

 

 

「あーっ、ずるいぜ!俺には無しかよ!………ぐえっ」

 

 

「はは、冗談だよ。お互い同じ金額を渡してるからな………ん?」

 

 

アノプスの変な声に対して声がした方を見るとリリーラがアノプスの首根っこを掴み路地裏まで引っ張る姿が見える。

 

 

………

 

 

………暫くすると二人が戻ってきた。どうしたのだろうか?

 

 

「………ミックスオレもう一本飲みてぇ…」

 

 

帰ってきたアノプスはそう呟いた。また無駄遣いする気かこいつは…



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コガネルーキーカップ-2

ここはコガネシティ。賑わいの大型都市。


 

[雑記メモ]

参加者の多さにより急遽開かれたというルーキーカップの予選。内容は幾つかのグループ分けからの総当たり戦だ。そこから成績上位の選手が本戦に出場出来るらしい。当然だが俺は姫さんがいるグループの予選の観戦だ。

そこで俺は『事実上の決勝戦』レベルの試合を目の当たりにした。…確か本戦はラジオ放送するらしいがこの試合を放送しないってのは勿体無いんじゃないか?まぁ見に来てた会場の僅かな客が役得だったってことか。

[ケイブ]

 

 

俺はペンを止め、先程の試合を思い出す…

 

 

 

 

 

 

「よ、よろしくお願いします」

 

 

「えぇ、よろしく」

 

 

姫さんが対戦相手の少年の挨拶に応える。相手の少年は俺も見覚えのある顔…あのリュックの少年だ。

 

 

両者が挨拶をし、バトルフィールドの指定位置に立つとジャッジが試合開始の合図をした。ジャッジも何試合も大変なことだ。まぁこのグループの試合も後少しだから気は楽だろうが…

 

 

「ではホロ選手対ドラ選手試合開始!」

 

 

ジャッジの宣言で両者がボールを投げる。あの少年…ドラって名前か…

 

 

「行けっ!ろすろす!」

 

 

「お願い!ツヴァイ!」

 

 

少年がカイロスを繰り出し、姫さんがワニノコを繰り出す。

 

 

そしてワニノコの方は直ぐ様カイロスに対して接近していく。体格差など関係無いと言わんばかりの速度だ。

 

 

「ツヴァイ、噛み付く!」

 

 

「…えっとろすろす!挟むで応戦…」

 

 

姫さんの指示が素早く入り、カイロス対して噛み付く。一方、少年の方は指示が遅れ、迎撃が間に合わない…

 

 

噛み付いているワニノコをカイロスが振り払うがその振り払いは大したダメージにはなっていない。直ぐにワニノコは体勢を立て直し、再び噛み付く。

 

 

…少年は後手後手だ。カイロスにリベンジの指示を出し、ワニノコに攻撃は入るがその攻撃を食らっても尚ワニノコは攻め手を休めない。姫さんもワニノコもそのつもりみたいだ。

 

 

…前に姫さんが意外と強いと言ったがそれは撤回した方が良さそうだな。ワニノコの小回りを生かした足回りで試合の主導権を握っている。

 

 

そして試合の主導権を握っているのを自覚した上でワニノコと姫さんは攻め手を休めていない。状況判断がしっかりしているじゃないか。

 

 

一方の少年は…バトルは大したことなさそうだな。俺は最初に持っていた警戒を解きかけていた。

 

 

しかし俺の考えは甘かった。彼のカイロスが体力の減少からか懐から丸い何かを口にする。

 

 

よく見えないが恐らく木の実か…メジャーなものならオレンかオボン…そんな所だろう。

 

 

少年は萌えもんの持ち物が使用可能であり、その有用性には気付いているらしい。そういう所には知恵が回るようだ。

 

 

「…よし!ろすろす、挟む!」

 

 

「…うむ!」

 

 

少年の指示を受け、カイロスがワニノコに向かっていく。

 

 

ん?

 

 

…ちょっと待て。

 

 

何だあのカイロスの動きは………

 

 

少年のカイロスはワニノコの動きに追い付いた上で相手の噛み付くを優々と受け止める。優々と受け止められたことにワニノコは驚いているようだ。

 

 

その上で挟むで攻撃。………ワニノコが吹き飛ばされる。今度は直ぐには起き上がらず、ゆっくりと起き上がった。ワニノコが呻いている。

 

 

「ううっ…痛い…」

 

 

「…よし!」

 

 

………少年がぐっと拳を作る。それに対し姫さんの顔が固まるのが目に見えて分かる。

 

 

…いや、ちょっと待て。どうしたんだ?あのカイロス?今まで手加減…いや、そんな素振りは無かった…

 

 

あの傷の治りは恐らくオボンとか?………だがあの攻撃、防御、素早さの上昇は説明がつかない。

 

 

…何だ?丸い…

 

 

………

 

 

…まさかな。俺は少年が虫取り大会で持っていた箱を思い出すがそれは考え過ぎか…そう思ってると解決の糸口は相手から見つかった。

 

 

「ろすろす、切れる前に…」

 

 

「うむ、分かっている!」

 

 

「ツヴァイ、来るわよ!横に回避!」

 

 

「う、うん!」

 

 

カイロスがワニノコ目掛けて突っ込んでいる。ワニノコは横に動き、突進を避けようとしているが…俺はその場よりも先程の言葉に意識を向けていた。

 

 

『切れる前に』………俺の先程の予想は当たってるかもしれない。もう一度少年が持っていた箱…薬箱が頭をよぎる。

 

 

………あの少年やっぱりバトルでも問題児だ。

 

 

俺が思考を巡らせている間に動いた場を見て………

 

 

倒れるワニノコと最後っ屁で噛み付くを食らいながらも立つカイロスの風景が俺をそう確信させた。

 

 

 

 

 

 

しかし少年の恐ろしさはそれだけでは無かった。

 

 

試合の全容を見た俺は実感する。

 

 

「っ………すみません。降参します」

 

 

「…了解しました。この試合ドラ選手の勝ち!」

 

 

ジャッジの試合終了の宣言後、姫さんが毒に蝕まれ倒れかけのジュプトル…ドライをボールに戻す。その後、少年もツボツボをボールに戻した。

 

 

「負けたわ…ありがとう」

 

 

「いや、こちらこそ…」

 

 

少年はペコペコと姫さんに挨拶している。勝った側とは思えない態度だ。

 

 

にしても…

 

 

またあのよく分からない丸薬とルーキーと呼ぶには不相応な今の戦法…

 

 

 

 

 

毒々に守る………随分と完成された戦法だ。

 

 

そして挨拶も終り、姫さんがこちらに気付いたのか席がガラガラの観客席側に来る。そして俺の隣に座った。

 

 

「………負けちゃいました」

 

 

彼女は空笑いしてそう言った。それに対し俺は慰めの言葉をかける。

 

 

「ま、でも嬢さんは予選通過圏内だろ。5勝1敗なら上々だ」

 

 

「あの子もね…」

 

 

姫さんはフィールドを離れる少年の方を見る。確かにあの少年もそれくらいだ。彼も本戦に駒を進めるだろう。

 

 

「………なぁ、嬢さん」

 

 

「…何ですか?」

 

 

「あれともう一回戦いたい?」

 

 

俺の問いに対して彼女は苦虫を噛み潰した様な顔をしてこう言った。

 

 

「…もう懲り懲りです。出来れば本戦でも戦いたくないです」

 

 

「…だな」

 

 

その後、俺は懐からメモ帳を取り出してペンを走らせた。



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コガネルーキーカップ-3

ここはコガネシティ。賑わいの大型都市。


 

 

会場が沸き立つ中、何度聞いたであろうか…実況の音声が緊張している僕の耳に入る。

 

 

『さぁーて!!いよいよ始まります!!』

 

 

機材越しでも分かる元気で活発な声が聞こえてくる。第一回戦からこの調子だがよくテンションが落ちないなぁ…

 

 

『コガネルーキーカップ準決勝!!実況は私、クルミちゃんがなんぼのもんじゃい!!ジツキとぉー!!』

 

 

『………』

 

 

『ヨウちゃん!!ほら、いつもの!!』

 

 

『…ヨウがお送りします』

 

 

今度は反対に静かながら良く響く綺麗な声が聞こえる。彼女の口調からは呆れも感じられた。

 

 

まぁそうだよな、だって…

 

 

『…ジツキちゃん、この挨拶何回目よ?もういいでしょ………』

 

 

『回数?数えてないです!!私達の名をとことん売り出すチャンスだからねぇ!!このラジオ視聴率も鰻登りらしいですよぉ!!ヨウちゃん!!』

 

 

自己紹介何回するんだって感じだもんなぁ。テレビやラジオとかって大変なんだなぁ…

 

 

『…はい。そろそろ始まります。準決勝第一回戦、ドラ選手対セーレ選手の試合です』

 

 

『あっー!!この子私の台詞取りましたよ!!この女狐がぁ!!………痛い!!ヨウちゃん!!マイクで殴るのは良くない!!………』

 

 

何か漫才始めてるし…僕の視界の端に見えるジャッジと正面に見える女性………セーレさんも苦笑いしている。

 

 

確かこの女性…セーレさんは虫取り大会の際に見覚えのある顔だ。まさか僕自身もだが彼女もこの場まで上がってくるとは…凄いトレーナーなのだろう。

 

 

「…では準決勝第一回戦、ドラ選手対セーレ選手の試合を始めます」

 

 

ジャッジも呆れながら試合開始の合図をする。

 

 

「………では試合開始!」

 

 

『では試合開始です。………ねぇ、ジツキちゃん起きて。殴り過ぎたのは悪かったからさ』

 

 

「行けっ!ろすろす!」

 

 

僕はボールをフィールドに投げ、ろすろすを繰り出す。ボールから光が放たれ、ろすろすが姿を現す。…やる気充分だ。

 

 

「いざ…!」

 

 

「行きなさい!ヤド!」

 

 

同じタイミング辺りで彼女もボールからヤドンを繰り出していた。相手のヤドンは落ち着いてろすろすを見据えている。

 

 

「おぉー。これがライ殿のライバルー」

 

 

相手の先発はヤドン。既に何試合かしてきたから分かってることだ。…岩タイプを含むつーを出すのは危険。ろすろすで相手をする必要がある。

 

 

そして相手の控えはストライク。…どうやらろすろすの知り合いらしい。ろすろすはトレーナーの手持ちになっている彼女に驚いていた。そのストライクはろすろすの話だと私と互角…いや、それ以上かという力量みたいだ。

 

 

………基本に忠実に行くか。ろすろすでヤドンの対処。ストライクにつーを当てる。これが安定か。

 

 

『ドラ選手はカイロス。セーレ選手はヤドンです。どちらも先程の試合で力を奮って来た萌えもん達です』

 

 

『………はっ!!私の出世街道がっ!!…って試合始まってますねぇー!!これは私ジツキ、減給が怖い所です!!』

 

 

「…よし、ろすろす………」

 

 

「…ヤド、あれお願い」

 

 

そして…

 

 

実況の音声と観客の視線を背に僕と彼女から萌えもんへの指示が下された。

 

 

「…地球投げ!」

 

 

「了解した!」

 

 

ろすろすが僕の指示を受け、ヤドンに向かい走り出す。一方、ヤドンの方は動く気配を見せない…大部両者の距離は縮まっていた。

 

 

相手は水鉄砲か念力。先程の試合で見てきた技だ。この距離とろすろすの速度なら水鉄砲は避けて地球投げへと組み付くことが出来る。

 

 

念力でも恐らく同じ…大丈夫だ。ヤドンの動きに注意しつつ技を入れていけばいい。

…まぁ仮に水鉄砲、念力なら致命傷にならず僕の薬で回復は可能だ。

 

 

なのに…

 

 

彼女とヤドンは動こうとしない。

 

 

距離が縮まり、ろすろすが地球投げの構えを取る。…この距離なら水鉄砲、念力が当たろうと地球投げまで持ち込めると僕は判断した。ここでまず一発、技を入れる…

 

 

その時…

 

 

彼女の指示と…

 

 

ヤドンの口から…

 

 

恐るべきものが飛び出した。

 

 

 

 

 

「…ヤド、火炎放射!!」「ではさよならー」

 

 

ヤドンの口から赤く燃える火が放たれる。それは掴みかかろうとしていたろすろすを怯ませ、そのまま火がろすろすを包みこもうと………って不味い!!

 

 

『おおーっと!!ここで火炎放射だー!!まさかの火炎放射です!!火炎放射!!』

 

 

『ジツキちゃん、うるさい…。でもこれは良い奇襲手ですね。ここまで温存してたのも素晴らしい』

 

 

「…ろすろす!」

 

 

僕はろすろすを呼ぶ。…すると火の中から体の節々を火傷しつつも僕の用意した丸薬を口にするろすろすが現れ、僕の近くまで戻ってきた。

 

 

「…舐めすぎたか。炎技だとっ…」

 

 

「ごめん…ろすろす」

 

 

「主が謝るな。さて、どうする…」

 

 

ろすろすがヤドンとトレーナーの彼女を見る。すると………

 

 

ヤドンを何回か叩くセーレさんの姿があった。

 

 

「…何で本当に使えるの!あんたは!?虫取り大会の時にも言いなさいよ!!」

 

 

「やー、言おうとはしましたぞ。大会の時も本当に使えるって言いましたのにー。痛いですぞー」

 

 

ヤドンも叩かれながらも満更ではなさそうな様子だ。

 

 

「まぁ、でもー」

 

 

彼女と戯れていたヤドンがゆっくりと此方を向く。

 

 

「その火傷ではキツいでしょうな、カイロスさん………あら?でも傷が少し治ってますぞ、やはり何かありますな」

 

 

『…確かにあのカイロス火傷してますね。火炎放射の当たり所が悪かったのでしょうか』

 

 

『ねぇ、ヨウちゃん!!』

 

 

『何ですか?ジツキ実況』

 

 

『私の家計も大火傷らしいです!!上からしっかり実況しろって!!』

 

 

『そのまま瀕死になって下さい』

 

 

漫才実況を耳にしつつ僕達の方を見てヤドンが少し笑う。その様子にろすろすが角を震わせた。

 

 

「…っ、主」

 

 

「ど、どうした?」

 

 

「まだ薬の効果がある内に仕掛けるぞ。あのヤドン、許せん」

 

 

ろすろすは闘志を燃やしている。その様子に火炎放射により引け腰だった僕も勇気付けられる。

 

 

「分かった。でも…」

 

 

火傷。

 

 

萌えもんの物理的な技の攻撃力が下がる状態異常だ。参ったな…

 

 

つーなら状態異常は問題なしだがろすろすには治す手段は…ない。地球投げなら安定したダメージを与えられるが…

 

 

僕の不安を読み取られてしまったのかろすろすが僕の方を向き、励ましてきた。

 

 

「主、大丈夫だ。…ハサミギロチンで行く」

 

 

「必ずや戦果を持ち帰ろう。つー殿に水タイプのヤドンは危険だ………ここで仕留めるか或いは…」

 

 

そうだ。

 

 

火傷でも関係無い技があった。ハサミギロチン。…一撃必殺と呼ばれる技だ。

 

 

「…大丈夫なのか?確か一撃必殺になるように当てるのは至難の技って話だけど…」

 

 

「ふっ、私のハサミギロチンは実戦に強く調整されていてな…大丈夫だ」

 

 

そう言うとろすろすがこちらに背を向け、ヤドンを見据える。

 

 

「期待しておけ、主よ」



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コガネルーキーカップ-4

ここはコガネシティ。賑わいの大型都市。


 

「期待しておけ、主よ」

 

 

そう言った相手のカイロスがヤドを見据えてくる。

 

 

運良く火傷状態出来たようだがまだ彼女の闘志は尽きていないようだ。流石はライが自分と互角かそれ以上の力量と言っていたライバルだ。

 

 

「…ヤド、まだ油断しないで。何かあるわ」

 

 

 

私はヤドにそう伝える。…まぁ私のアドバイスを聞く前からヤドは油断してないと思うけど…

 

 

「分かってますぞ。…恐らく次の動きは先程より速いですからな」

 

 

「…ろすろす!頼むぞ!ハサミギロチン!」

 

 

「…いざ参る!」

 

 

対戦相手の少年…ドラ君の指示を受けたカイロスがヤドに向かって突っ込んでくる。

 

 

…やはり先程よりも速い!…ドラ君、貴方虫取り大会の時から思ってたけど萌えもんに何か盛ってるでしょ!大会としてそれってOKなのかしら…

 

 

『おおーっと!!ここでハサミギロチンの指示が出ましたー!!果たして命中するのでしょうかー!!個人的には当たって欲しいー!!』

 

 

『ジツキちゃん、実況で贔屓は止めましょう。まぁ狙う価値はありますがさて…』

 

 

「ヤド!」

 

 

「………大丈夫ですぞ」

 

 

ヤドは私の指示に短く応える。もうカイロスは目の前…火炎放射の射程内だ。ヤドが火炎放射を吐きながら後退していく。

 

 

しかしその火炎放射はカイロスの勢いを止めるまでには至らず、頭の角がヤドの体に触れ急所に刺さろうとしていた…その時

 

 

 

 

ゴロン…

 

 

ヤドが体を地に落とし、寝転んだ。そして顔を上げ、再度火炎放射を浴びせる。

 

 

火炎放射が体勢を崩したカイロスを包み…吹き飛んだ。

 

 

「っ…ろすろす!」

 

 

『ハサミギロチン外れたっー!!カイロスこれは厳しいかぁー!!』

 

 

相手に起き上がる気配はない。一方のヤドはゆっくりと起き上がりカイロスの方を見る…

 

 

やった。取り敢えず一匹…そう考えたその時

 

 

 

 

ヤドが膝を付いた。…そして起き上がらない。どうやら立ち上がるのも難しそうな様子だ。

 

 

『…やっぱり』

 

 

…え?

 

 

場の光景と実況の声で私の浮かれた気分が消えた。

 

 

…え、当たっていた?嘘…。倒れたカイロスを見てドラ君がカイロスをボールに戻す。そして次に投げたボールからはツボツボが現れた。

 

 

『カイロスダウンー!!お次はツボツボの登場だぁー!!』

 

 

そのツボツボがヤドに寄りながらいきなり語り出す。ヤドは地面に伏せたままだ。

 

 

「ろすろすのハサミギロチンは正確には一撃必殺じゃなくてねー」

 

 

………いや、種明かしとか聞いてる場合じゃない!まだ瀕死じゃないのだ。取り敢えずヤドを…

 

 

トン…

 

 

ツボツボがヤドを軽く叩く。そしてヤドが目を回して倒れた。あぁ、間に合わなかった…

 

 

「割りと高確率で瀕死直前に追い込んでー、あわよくば一撃必殺らしいんだー。急所を広く捉えるんだってさー」

 

 

『へぇ…ルーキーとは思えない技術の萌えもんですね。驚きました』

 

 

「…らしいですよ。セーレさん」

 

 

ドラ君が苦笑しながらそう言った。えぇ、何その反則技…。まぁ現実に起こってるから認めるしかないけど…

 

 

…結果としてほぼ相討ちの形かー。そう考えながらヤドを戻す。そしてライを繰り出した。

 

 

「…やっぱカイロスちゃんは強いねー。ヤドさんが倒してくれて助かったわー」

 

 

「ま、ウチにこのツボツボは任せてなマスター」

 

 

「ウチに秘策ありや」

 

 

ライは悪い顔で笑った。…大丈夫かしら?

 

 

 

 

 

 

「つー、いつもの感じで」

 

 

「了解ー」

 

 

『おっと、この戦法はっー!!毒守だー!!汚い!!流石ドラ選手!!汚い!!』

 

 

『まぁこのレベルの大会に持ち込むものじゃないですよね。よく練られています』

 

 

いつもの感じ…言わなくても私やライには分かる。

 

 

毒々だ。今まで何試合もこの戦法を使うドラ君を見てきた。毒々を当ててからの守る、そしてあの薬だ。

 

 

しかも詳しく分からないが今回の薬は飲むタイプではなく、舐めるタイプらしい。何度もこっそり舐めている姿が散見された。

 

 

これは私の推論だが…恐らく食べ残しに似た効果なのではないだろうか。まだ何かありそうだけどね…

 

 

ドラ君のツボツボは毒々をライに向けて出しながら待ちの戦法だ。ライも毒々を辛うじて避けているがこれでは埒が明かない。

 

 

そうしてるとライの方から私に提案があった。

 

 

「なぁマスター。毒々…」

 

 

 

 

 

「当たってもいい?」

 

 

…は?

 

 

「いや、駄目よ。頑張って避けて」

 

 

「いや、流石にキツそうだからさー。…ちょっと任せてよ」

 

 

ライがそう言いながら毒々をまた避ける。…確かにこのままじゃキツいのは明白だ。賭けに出るか

 

 

「…分かったわ。任せる」

 

 

「了…解!」

 

 

私の返事を聞くや否やライはツボツボに向かって素早く左右に動きながら近付く。

 

 

「つー、当たってもいい。まず毒々だ」

 

 

「分かってるよー、ドラちゃんー…えいー」

 

 

近付くライの体に狙いすまされた毒々が触れる。それにライは顔をしかめるがそのままツボツボに攻撃を加えた。…ツボツボはちょっとだけ後ずさる。ダメージはあまり入ってなさそうだ。

 

 

『毒々が当たったー!!これは厳しい展開!!』

 

 

『おっ…』

 

 

その後ライが戻ってくる。毒になってしまい、その代償があまりダメージの入ってない攻撃…任せたのはミスだったか。

 

 

だがライは笑っている。…何を笑っているのだ。私がそう言おうとした時…

 

 

 

 

 

ライが懐から何かを取り出し舐めた。

 

 

『あっー!!』

 

 

その様子に会場全体が驚く。正確には実況の真面目な方の人は反応無いけど…

 

 

そのなかでも一番驚き、体がぷるぷると震わせているのはツボツボだ。あれは明らかに…

 

 

「…うっま!やっぱこれ状態異常にも効くみたいですよ!マスター!」

 

 

ライが嬉々として話している。

 

 

「えーっとドラ君…その悪気は無いのよ…」

 

 

「いやー、味も良いですよ、マスター!」

 

 

ライは嬉々として話している。…いや、あんたはちょっと黙ってなさい!

 

 

「いや、良いんですけど…その…つーが」

 

 

「おいー…糞アマー…」

 

 

ツボツボが体を震わせながら呟く…あぁ、やっぱり…

 

 

 

 

 

「返せっーーー!!!」

 

 

………キレてるーーー!ウチの子がごめんなさいー!

 

 

『おおっとー!!これは挑発の技かー!?ツボツボが毒々を使わず殴り掛かっているー!!』

 

 

『いや、ストライク側が挑発は使った気配無いですね…まぁある意味挑発の効果出てますが』

 

 

ツボツボがライに向かって殴り掛かっている。それをライは飄々と避けていた。その様子を見ながら私はどう彼らに謝ろうか考えていた…

 

 

 

 

 

…え?

 

 

…その後?

 

 

…一応勝ったわよ。

 

 

結局ツボツボのパワーや足回りじゃライを倒せないし、ライはドラ君の作った薬舐めながらだったから…

 

 

只ね…

 

 

試合終了後の挨拶で私が必死に謝るとドラ君は笑いながら大丈夫ですよって言ってくれたけど…

 

 

ドラ君のツボツボの目線が凄く怖かったわ。私が指示した訳じゃないのに…

 

 

しかもライはへらへら笑って、またツボツボと取っ組み合いの喧嘩になるし…実況もその様子を煽るし…

 

 

結局私がライは殴って謝らせて、ドラ君がツボツボを抱き締めて慰めるまで場は大荒れだったわ…

 

 

はぁ…

 

 

…本当に疲れた。明日の決勝大丈夫かしら…



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コガネルーキーカップ-5

ここはコガネシティ。賑わいの大型都市。


「何だったのかしら、あれ…」

 

 

大会準決勝が終わり、無事決勝戦へと駒を進めた私は萌えもんセンターへの帰り道で呟く。私の準決勝の相手は過去に自然公園にて戦ったあの男だった。手持ちはガーディにヘラクロス。恐らくヘラクロスがケイブさんが言っていた虫取り大会で捕まえた萌えもんなのだろう。

 

 

試合に関しては危うい所もあったけれど無事勝利を収めた。しかし今の呟きの中身はその事ではない。

 

 

その前の準決勝第一試合…後の話だ。予選で戦った少年のツボツボと次に決勝戦で当たる女性のストライクの喧嘩だ。

 

 

…実況も煽るわ、会場席のケイブさんは腹抱えて笑うし、それを見てたツヴァイは何故か目を輝かせてたし、ドライは冷ややかな目でストライクの方を見ていた。

 

 

「凄かったね!あれ!」

 

 

私の足元のツヴァイが私に話してくる。ツヴァイの言うあれとは今私が考えていたことと同じだろう。

 

 

「ツヴァイ、あんたは真似しちゃ駄目だからね」

 

 

「し、しないよ!」

 

 

ツヴァイは慌てて否定している。…なら良いんだけどこれ以上面倒事は御免よ。

 

 

そう思い、私は帰り道を進みながら対戦相手の女性とその萌えもんについて考え始めた…

 

 

 

 

 

 

そして翌日、熱気に包まれる会場の中心のバトルフィールドに私は立っていた。…何か昨日より人数が多くないかしら?そう考えていると昨日と変わらない実況の音声が聞こえる。実況はまたあの人達なのね…

 

 

『さていよいよ決勝戦です。セーレ選手対ホロ選手。…両者がバトルフィールドに立ちました。試合開始はもうすぐです』

 

 

『いやー!!どちらも頑張って欲しい!!私の名前を売るために!!私ジツキとヨウちゃんの実況でお送りしております!!コガネルーキーカップです!!』

 

 

『…すみません、私も巻き込むの止めてください。昨日散々上から怒られたのに懲りてないですね』

 

 

『…ふっ!!上からのバッシングがなんぼのもんじゃい!!私は私だー!!』

 

 

…相変わらずね。そう思いながら私は呆れながら正面に立つ女性…今回の対戦相手のセーレさんを見る。結局ケイブさんが気にしてくて良いと言ったこの人が決勝戦の相手だとは…

 

 

「よろしくね!」

 

 

彼女は明るい笑顔で私に挨拶してくる。昨日のことなど気にしてないのではないかと思える感じだ。私も挨拶を返す。

 

 

「よろしくお願いします」

 

 

そう言葉を交わし、お互いに試合開始地点に戻る。その様子を確認したジャッジが一拍置いて試合開始の合図をした。

 

 

「ではこれよりセーレ選手対ホロ選手の試合を始めます!………試合開始!」

 

 

 

 

 

 

私の指示を受けたツヴァイが相手のヤドンの尻尾に噛み付いている。恐らくヤドンには結構ダメージが入っているだろう。…開幕は悪くないといった所か。

 

 

「がぶー!」

 

 

「あたた!痛いですぞー!」

 

 

『おおっとー!!噛み付くが炸裂しているー!!これは効いてるぞー!!私も上司に噛み付いていきたいー!!』

 

 

『ジツキちゃん、実況が何時にも増してワイルドですね。首にならないか心配です』

 

 

…痛そうに聞こえないのはあのヤドンだからだろうか。まぁ恐らくツヴァイに噛み付かれたヤドンが走り回っているし、相手はエスパータイプ。噛み付くは良いダメージになってそうだ。

 

 

「ヤド!念力よ!」

 

 

「…むぅ!」

 

 

相手のヤドンが走り回っていた足を止めた。…すると尻尾に噛み付いていたツヴァイが宙を浮き、離れた場所の地面に叩き付けられる。

 

 

だがまだ大丈夫だ。…先程と同じ形を取る。噛み付くはヤドンに効いてる筈なのだ。その為ツヴァイに指示を出す。

 

 

「ツヴァイ、もう一回噛み付くよ」

 

 

指示を受けツヴァイが走り出す。

 

 

…ツヴァイ?

 

 

何処に向かってるの!?

 

 

『あら、これは…』

 

 

ツヴァイが走り出した方向には観客席への壁しかない。…そっちはヤドンがいる方向ではないというのに。その様子を見て私は止まってとツヴァイに指示を出すが止まる気配もなく…

 

 

ゴツーン!!

 

 

『混乱してますね』

 

 

『…これは痛そうだー!!思わずタマがひゅんってなりました!!私無いですけど!!』

 

 

…壁にぶつかった。ツヴァイがその場に倒れる。ぶつかったツヴァイは体を震わせながら起き上がろうとはしている。まだ瀕死ではなさそうだが…

 

 

「ツヴァイ、一旦落ち着いて…」

 

 

しかしそんな状況を見逃す相手では無かった。状況を見た彼女は必死に尻尾を守っていたヤドンに指示を出した。その指示を受けヤドンは尻尾への警戒を解き、足を止めた。

 

 

「念力よ!」

 

 

「…ツヴァイ!」

 

 

私はツヴァイに呼び掛けるがその甲斐はなく、ふらふらしているツヴァイが念力を食らい、宙に浮き再び地面に叩き付けられる。…そしてツヴァイが目を回している。あぁ…

 

 

ジャッジのワニノコが戦闘不能の宣言が聞こえる。それに沸き上がる歓声と実況もだ。まさか混乱していたとはね。落ち着いてツヴァイの状態を確認するべきだった…

 

 

ツヴァイに心の中で感謝の言葉を述べ、私は次のボールを投げる。…ドライ、頼むわよ!

 

 

『ホロ選手二体目の萌えもん、ジュプトルの登場だー!!静かながら溢れんばかりの闘志を感じます!!』

 

 

『ですね。気合充分です。ジツキちゃん、その調子で…』

 

 

『まるで私を叱るべく目を光らせるヨウちゃんみたいです!!私、震えが止まりません!!』

 

 

ゴンッ!…実況音声から鈍器で殴ったような音が聞こえた。そして実況が静かになった。大丈夫かしら、色々な意味で。

 

 

「お嬢、指示を」

 

 

そんな中、ボールから出たドライは実況など気にせずに落ち着いて周りと対戦相手の萌えもんを見据えている。一方、対戦相手のヤドンとトレーナーは何か話しているようだ。私達には聞き取れないが…一応…

 

 

「ドライ、一応あの準備を…違うなら違うで良いわ」

 

 

「了解です」

 

 

ドライがヤドンに向かっていく。その動きは素早く火炎放射もタイミング次第では避けることも可能だろう。

 

 

さて相手の次の手は火炎放射か…

 

 

「ヤド、戻りなさい!」

 

 

「了解ー」

 

 

 

 

 

これだ。

 

 

私は読みが当たり、思わず口角が上がる。相手のヤドンがボールの光に吸い込まれようとするその瞬間ドライは更に加速する。その様子にヤドンは疑問を持った様だが…もう遅い。

 

 

「…あらら?」

 

 

「おい、貴様…」

 

 

 

 

 

「家のツヴァイを倒しておいて只で逃げれると思うなよ?」

 

 

「…まさか!」

 

 

直前にトレーナーの方も気付いた様だが…甘い。ドライの目にも止まらない鋭い手刀がボールに戻るヤドンに襲い掛かる。それを無防備に受けたヤドンは目を回しながらボールへと戻っていった。

 

 

『追い討ち、決まりましたね。これはホロ選手一枚上手でした』

 

 

目を回して倒れていたヤドンの状況を見たからかヤドン戦闘不能の宣言がジャッジから行われる。

 

 

「あらら…まぁライなら大丈夫でしょ」

 

 

彼女は二体目をボールから出す。昨日の問題児、ストライクだ。

 

 

『さて、セーレ選手の二体目ストライクです。相性は良いですが先程から見えるジュプトルの技量。まだ侮れませんね』

 

 

『…うーん、追い討ちがぁ…上司やヨウちゃんやクレームのぉ…』

 

 

うっすらとだが先程から静かだったうるさい方の実況の声が聞こえた。まぁそれはどうでもいい。私はストライクの方を見る。

 

 

…だが様子がおかしい。相手のストライクはドライを見ると少し怯えているようだ。そしてゆっくりと口を開けた。

 

 

「う、ウチがあのジュプトルですかぁ…。まさか…」

 

 

「………久し振りだな。あの時のストライク」

 

 

ドライがそう応えた。するとストライクの怯えが明確なものに変わった。…あら、知り合いなの?

 

 

「…ひいっ!!やっぱりー!マスター、あいつヤバいですって!」

 

 

「…強いのは分かってるわよ!でも後貴女だけなんだから頑張りなさい!」

 

 

ストライクがトレーナーに泣きついているが、彼女は戦わせる気らしい。するとストライクは渋々だがこちらを向いてくる。…暫くこちらを見るとストライクは話し出す。

 

 

「…ん?相手のトレーナーは髭面のおっさんじゃないし…何であのジュプトルが?」

 

 

「…あら?知り合いなのあんた達?あんた、交流関係広いわねー」

 

 

髭面のおっさん…ケイブさんのことか。その時の知り合いなのね。彼女達の会話を聞きながら私はそんなことを考えていた。ストライクはまだ話を続ける。

 

 

「もしかして捨てられた…とか?あんなに仲良さそうだったのに」

 

 

「………お嬢、無茶を承知で進言します。サイコカッター、いいですか?」

 

 

…ストライクの話を聞き顔に青筋を立てたドライが小声で私に話している。いや、流石に駄目でしょ。怒ってるのは分かるけど…。そんなドライ私は宥めようとするが…

 

 

「今度はまな板少女か…まぁあのおっさんよりマシか。マスター、指示を…」

 

 

………

 

 

「あっ、うん…じゃあ翼で打つを…」

 

 

………

 

 

………

 

 

………

 

 

「ドライ、サイコカッターの使用を許可します」

 

 

「徹底的に潰しなさい」

 

 

私がそう言うとドライは返事もせずに目にも止まらぬスピードでストライクに駆け出し、交差した。…その急な展開に会場に静寂が訪れる。

 

 

『………ん?』

 

 

『…うーん、もうファンレターはお腹一杯だよぉ…』

 

 

そして…

 

 

会場の静寂が破られたのは…

 

 

 

 

ドライ渾身のサイコカッターが急所に当り、ストライクが地に伏せた瞬間だった。



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そして彼らは…-1

ここはコガネシティ。賑わいの大型都市


 

 

どうもー、つーですー

 

 

つー達は先日のコガネルーキーカップの三位の報酬としてコガネデパート商品券三千円分を貰ったことからコガネデパートに来ていますー。ドラちゃんが何か欲しいものがあったら買ってやるっさー。太っ腹ー

 

 

「なぁ、つー殿」

 

 

「何ー、ろすろすー?」

 

 

そんな中商品を見て回っていると後輩のろすろすがつーに話を振ってきたー。一方のドラちゃんは回復薬コーナーや食材コーナーに目が釘付けみたいー。

 

 

「先日の準決勝私にも不甲斐ない所があったが…つー殿、貴女の最後の行動あれはどういうことだ。あれが無ければ勝ち目もまだあっただろう」

 

 

………ろすろすの言っていることはつーの対戦相手のストライクに対する行動のことだろうねー。あの薬を盗られた時点で戦況は苦しいものだったけど落ち着いていれば…ってことかなー

 

 

「ろすろすー、ちょっと想像してみてー。例えだけどさー」

 

 

「うむ」

 

 

「自分の好きな人がさー、自分の為に手作りで丹精の込めたチョコレートを作ってくれてー、自分に渡してきたー」

 

 

「うむ」

 

 

「それをさー、いきなり横から知らない子に目の前で盗られて食べられるー」

 

 

「うむ」

 

 

「そしてその子が『いやー、チョコ上手かったわー』って言ってくるんだー」

 

 

「うむ」

 

 

「…許せる?」

 

 

「…許せんな。主から貰ったものをそんな風に扱われるのは許せん」

 

 

ろすろすが角を震わせているー。おー怖いー

 

 

「ろすろす、今のは例えだよー。別にドラちゃんなんてつーは言ってないんだけどなー。ドラちゃん思いだねー」

 

 

「な…ち、違うぞ!」

 

 

今度はろすろすの角が忙しなく動いているー。これは慌ててるのかなー。最近ろすろすの角の動きから考えが分かってきたよー

 

 

そんな話をしているとドラちゃんが嬉々とした雰囲気で大量の木の実を入れたカゴを持ちながらこちらに来たー。…凄い量だねー

 

 

「つー、ここ凄いな!色々なものがある!この木の実とかも使えそうなんだ!例えばこれとか…」

 

 

そう言いながらドラちゃんはカゴの中から一つの木の実を手にするー。そしてその木の実に関して色々と話始めてるー。…楽しそうだねー

 

 

そんな中…

 

 

 

 

 

「…いた!ドラ君!」

 

 

「ん?今…」

 

 

…遠くからドラちゃんの名前を呼びながら二人のトレーナーが近づいて来る。一人は横に黄色髪の萌えもんを従え、もう一人は苦しそうなワニノコを腕の中で抱いていた。その様子は穏やかでは無さそうだね。

 

 

そしてその二人はドラちゃんの前まで来てドラちゃんに対して捲し立てるように話してくる。…どうやら慌ててるようだね。

 

 

「ドラ君、急なお願いなんだけどこの子を助けてあげて!貴方、色々と薬学があるのよね!」

 

 

「いきなりですみません!でもツヴァイが…」

 

 

その様子にドラちゃんは困惑しながらもトレーナーが話している腕の中で苦しそうなワニノコを見る。…あれ?この子って

 

 

「え?………成程。…凄い毒だね、ここじゃ駄目だ。近くの広いところ…屋上まで行こうか」

 

 

「ごめんね!ありがと!」

 

 

「すみません。…お願いします」

 

 

ドラちゃんが屋上へ駆け出す。それに二人のトレーナーが続く。…ドラちゃんは先程の嬉々とした雰囲気を一変させており、どうやら彼女達に何も聞かずにあのワニノコを治療する気らしい…はぁー

 

 

ドラちゃんは何でこう甘いのかな。いきなり来た人にこんな対応する?仕方なく、つーとろすろすもドラちゃんを追いかける。

 

 

ま、そんなドラちゃんだから大好きなんだけどね。

 

 

 

 

 

 

屋上にてドラちゃんがワニノコの治療をしている。つーも色々と手伝うがどうやら治療に関しては順調みたいだ。その様子を二人のトレーナーに伝えるとほっとしたようだ。

 

 

そんな中…

 

 

また同じ毒だろうか?苦しそうな状態の萌えもんを複数体抱えてたおじさんが屋上に駆け込んで来た。

 

 

「…いた!」

 

 

「………悪いな坊主!…急患三体だ!コイツらも頼む!」

 

 

そのおじさんがドラちゃん達の前まで来て抱えていた萌えもん達を降ろす。その様子にほっとしかけていた場がまた騒然とする。

 

 

その様子から察するにどうやらこの三体の萌えもんも二人の萌えもんのようだ。必死に呼び掛けている二人の声が聞こえる。

 

 

その萌えもん達をまずつーが見る。症状は同じ毒だ。それもかなり深い毒のようだ。恐らくあのワニノコと同じ…

 

 

まぁ中には気に食わない顔もあるけど…

 

 

 

 

 

ドラちゃんに感謝するんだね、患者として来たなら助けてやろう。そう思い、つーは応急処置を始めた。



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そして彼らは…-2

ここはコガネシティ。賑わいの大型都市。


「みんなお疲れ様!何でも買ってやるわよー!」

 

 

ここ、コガネデパート入口にてマスターが先日の大会の準優勝の商品…コガネデパート商品券五千円分を手にしながらそう言うとヤドやライ達がわいわいマスターに詰め寄っている。それを私、エレは何処か他人事の様に見ていた。…私は大会に出ずにいたからな。

 

 

「ヤドはフエン煎餅セットが良いですぞー。後は………」

 

 

「ウチはこのヒウンアイス1ダースと後………」

 

 

「…あんま高いのは無しね」

 

 

マスターが商品を次々に言ってくる二人を相手にそう呟いた。すると何も言わない私に気づいたのかマスターがこちらを向いてくる。

 

 

「エレはどうするの?何かある?」

 

 

「いえ、私はいいですよ」

 

 

私はマスターの誘いにそう答える。あの商品券はヤドとライが勝ち取ったものだ。私が何か買うのは申し訳ない。そう考えていた。するとマスターは…

 

 

「………じゃあれを買ってあげるわ。…ヤド、あれってどこら辺にあったかしら?」

 

 

「五階ですな。まずそこから行きましょうぞ」

 

 

「え、あの…私は要らないですよ…」

 

 

私を置いて話が進み中に入ろうとする状況で、私は話の流れを断つ。マスター達は何を話しているのだろうか…。そんな私に対して皆が言う。

 

 

「いや、エレさん欲しがってたじゃないですか…瓦割りの技マシン」

 

 

瓦割り。その技名に私は震える。私が前々から習得しようと必死に練習していた技だ。………結局我流では大した技にはならなかったのだが。

 

 

「というか大会の目的はそれでしたぞ。マスターが買ってあげたいってずっと言ってましてな…」

 

 

「…ヤド!それ内緒って言ったじゃない!」

 

 

「ははー。勝ったから良いではないですかー」

 

 

ヤドの口から出た大会の目的に対してマスターが慌ててヤドの口を塞ぐ。ヤドは口を塞がれても気にしてない様子だ。

 

 

「………ま、いっか。エレ…自分は出てないとか気にしなくて良いのよ。私が買ってあげたいのよ。いつも苦労を掛けてるから…ね」

 

 

ヤドの話に驚く私にマスターは最後の方を照れながらも口にする。その様子をヤドとライはにやにやしながら見ていた。

 

 

「分かりました。ありがとう…ございます」

 

 

私はマスターにそう応える。するとマスターは私の腕を優しく引き、中へ入ろうとする。

 

 

「こちらこそ。…じゃ行きましょうか」

 

 

 

 

 

 

こうして買い物が終わり、萌えもんセンターへ帰ろうと一階入口に戻り、コガネデパートの端にて…

 

 

見覚えのある顔…確かマスターの決勝の相手だったホロと言う少女か。彼女が黒い服を来た大人達と複数の萌えもんに囲まれてる姿を目の当たりにする。その穏やかでは無い様子を見た私はマスターの方を振り向くが既にマスターやヤド達はその状況に目を向けていた。…私は小声でマスターに話す。

 

 

「マスター、あれは…」

 

 

「…まだ駄目よ。何かあったら止めるから」

 

 

「了解ですぞ」「了解ー」

 

 

ヤドとライも警戒はしている様だ。私もそれに続きその状況を注視する。

 

 

すると…

 

 

少女とその足元の萌えもんに対して攻撃を加える相手の萌えもんの姿があった。…やはりか!素早く私達はその状況に割り込む。そしてマスターが大人達に対して怒鳴った。

 

 

「…待ちなさい!何をしてるの!!………ホロさん、大丈夫かしら?」

 

 

「何だ、貴様は…」

 

 

「わ、私は…でもツヴァイが、あの毒を、で今毒消し使ったけど、治らないんです…」

 

 

その後マスターはホロさんを気遣うが彼女は震えながらポツポツと話始めた。彼女の腕にいる萌えもん…ワニノコは明らかに苦しそうだ。

 

 

「コイツらも始末しますか…やれ」

 

 

大人達の一人がそう言いながらボールから萌えもんを繰り出して萌えもんを私達を襲わせる。…不味い!そう思い、私は前に出るが相手の萌えもんは私の後ろからの攻撃に弾かれる。

 

 

…あの緑髪。確か少女のジュプトルだったか。その子の攻撃みたいだ。ジュプトルは相手の大人達と萌えもんを恐ろしい形相で見ている。そしてそのジュプトルがこう口にした。

 

 

「皆さん、ここは退いて下さい。ツヴァイのこともありますので。………それまで私が足止めします」

 

 

「ドライ!貴女…」

 

 

「…先程会ったケイブの所まで行けば大丈夫でしょう。彼は信用できる方です」

 

 

彼女はそう言っている。…無茶だ。複数体の萌えもんに対して…

 

 

「………んー、ヤドもこっち側ですかな。手伝いますぞ。…マスターとエレ殿はホロさんを頼みますぞ。ライ殿は…」

 

 

「…ウチもこっち側でしょ。今はふざけてる場合じゃなさそうだし」

 

 

「お前達…感謝する」

 

 

ヤドとライは私達の前に立ち、ジュプトルと一緒に相手を見据えている。その様子にジュプトルが感謝の言葉を述べた。…なら私もとそちらに向かうが…

 

 

「…エレ殿はマスターとホロさんの護衛を。まだ何かあるかもしれないですからな」

 

 

そう背中を向けながら私がそちらに加わるのを拒否する。何だかそれはまるで…

 

 

「ケイブ…確か虫取り大会の時のおじさんね…ホロさん、エレ…次に指示を出す振りをするからそのタイミングで逃げるわよ」

 

 

「え、えぇ…」

 

 

ホロさんは腕の中のワニノコを見ながらそう応える…一方相手も萌えもん達を繰り出しており一緒即発の状態だ。このままでは複数対複数の大規模なバトルになりそうだ。

 

 

その均衡はマスターの一言によって崩された。

 

 

「…ヤド、念力!」

 

 

その言葉に反してマスターとホロさんはその場を離れるべく駆け出す。それに私も続いた。

 

 

…引き際に垣間見たバトルで私は実感してしまう。

 

 

 

 

 

私が…

 

 

私があそこに居ないのは足手まといになるからだ。だからヤドは私があそこに行こうとしたのを止めたんだ。

 

 

………私は無力だ。

 

 

その思いが頭の中で巡りながら私はマスターとホロさんと共にジュプトルの言っていたあの男…ケイブさんがいたであろう方向へと向かうのであった。



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そして彼らは…-3

ここはコガネシティ。賑わいの大型都市。


「ほらよ」

 

 

コガネデパートの屋上の自販機前にいるケイブさんが俺…アノプスとリリーラの姉貴にミックスオレを渡してくる。俺達は買い物の為コガネデパートに来ている。今は屋上で休憩中でこのミックスオレはケイブさんが奢りで買ってくれた…やったぜ!

 

 

「ありがと!」

 

 

「………」

 

 

渡してきたそれを俺はお礼を言いながら開けて中身を口にする。一方リリーラの姉貴の方は貰った缶をじっと見ていた。

 

 

「ったく…出費が増えるぜ、まぁミックスオレくらいなら良いんだがな」

 

 

そう言いながらケイブさんはここコガネデパート内で購入した手提げ袋の中のもの…プレゼント用にラッピングされた箱を見る。

 

 

確かあれはホロさん達への贈り物らしい。先程、『優勝記念だからな』と言って用意していたのを思い出す。…まぁケイブさんのことだ。優勝とか関係無しに渡す気だったんだろうけどねー

 

 

確か中身は…何だっけ?

 

 

「何だっけ?そのプレゼント?」

 

 

俺はそのまま考えていたことを口にする。するとケイブさんが答えてくれる。

 

 

「技マシンだよ。…といってもデルタ種の萌えもんに使えるのか分かんないんだがな…。可能性がありそうなのを選んでみた」

 

 

「例えば…ドライだな。アイツは普通のジュプトルが使える草技が使えない代わりにエスパー技が使える。だがそれ以外の技は普通のジュプトルが使えるものと大体同じだ…アイツは追い討ちとか使ってただろ?」

 

 

「お、おう…」

 

 

確かにそんな感じはする…かも?正直俺にはよく分からないがとりあえず頷いとく。 ケイブさんは頷いた俺を見るとまた話を続ける。

 

 

「だから自分のタイプと合わない技………熟練のトレーナーはタイプ不一致技、サブウェポンとか言うんだが…それなら普通のジュプトルと同じ様に使えるだろうと考えたんだ」

 

 

「…で一般的なワニノコとジュプトルのタイプ不一致技で技マシンがある技を探して用意した。ワニノコの方は技マシンを探すのに結構苦労したぜ…」

 

 

「…で、何買ったのさ?」

 

 

その時の苦労からか、空笑いするケイブさんに俺はその技マシンの中身を聞く。

 

 

「ワニノコの方にはれ………」

 

 

「…ケイブさん!!」

 

 

ケイブさんが答えを言いかけた瞬間、エスカレーターからホロさんと確か決勝戦でホロさんと戦っていた女性トレーナーと一匹の萌えもんが走り、駆け寄って来た。その慌てた様子にケイブさんの俺と話していた時の優しい顔が険しい顔に変わる。

 

 

その様子に何かあったのだということを俺は理解した。………一方リリーラの姉貴もずっと見つめていたミックスオレを懐にしまい、その状況に目を向けている。

 

 

「ツヴァイが…ツヴァイが…」

 

 

「…落ち着け、毒だな。今毒消しを…」

 

 

見るからに困惑して話の要領を得ないホロさんと苦しそうなワニノコに対してケイブさんは状況を理解し腰につけた小さなポーチからいつも常備している回復薬を取り出そうとする。しかしそれはもう一人の女性に止められる。

 

 

「いや、毒消しじゃ駄目なんですよ!私からも何個か使ったんですが…」

 

 

「はぁ!?………ちょっと待ってくれ。………」

 

 

「…ケイブさん!」

 

 

彼女を発言を聞き、ケイブさんは驚くもすぐに落ち着きを取り戻し黙ってしまう。それに対し女性トレーナーは呼びかけるが俺には分かる。

 

 

ケイブさんのこういう時は解決策を探している時だ。眉間に手を当て顔を下げている…少しするとケイブさんは顔を上げた。

 

 

「なら萌えもんセンターか薬使いの坊主だな。…欲を言うなら薬使いの坊主の方が理想だ。毒消しじゃ治らないなら萌えもんセンターの回復でも治るか分からん」

 

 

「しかし何処にいるか…とりあえず萌えもんセンターへ…」

 

 

「…マスター、回復薬と食材コーナーです!確かそこに少年が!」

 

 

ケイブさんの回答に対して女性トレーナーが連れていた萌えもんが答える。どうやら彼女はあの少年の場所を知っているようだ。その発言を聞いた女性トレーナーが萌えもんの方を振り向く。

 

 

「ナイスよ!エレ!…じゃあその子に会いに行きますね!…ホロさん、行きましょ!」

 

 

「え、えぇ…」

 

 

女性トレーナーその萌えもんに対してお礼を言い、困惑しているホロさんの手を引っ張る。ホロさんは受け答えもしっかりしていない。…今のワニノコの状態からしたら無理もないか。

 

 

「…よし、俺も行こう。アノプス、リリーラ…行くぞ」

 

 

ケイブさんが俺達に呼びかける。隣にいた俺はすぐ準備出来たがふと見るとリリーラの姉貴は俺よりもうケイブさんの側にいた。…いつの間に!?

 

 

「………待て。なぁ嬢さん」

 

 

一同が向かおうとした時ケイブさんの足が止まる。そして女性トレーナーの方を呼び掛けた。

 

 

「何ですか?早くしないと…」

 

 

「その状態の萌えもんはそのワニノコだけか?…他の萌えもんは大丈夫なんだよな?」

 

 

「他の子はその…えっと…」

 

 

「ドライはまだ、デパート端の路地裏で戦って…確かセーレさんのも…」

 

 

答えに詰まる女性トレーナーに対しホロさんはポツポツとケイブさんの話に対する答えをを話始める。するとケイブさんの顔が更に焦りを持ったものに変わる。

 

 

「…そっちの奴の方がヤバい!………あの少年の場所はその萌えもんが分かってるんだよな?」

 

 

「先程見ました!多分大丈夫です!」

 

 

女性トレーナーの萌えもんがそう答える。それに対しケイブさんは頷き、今度はホロさんと女性トレーナーに呼びかける。

 

 

「なら薬使いの坊主の方は頼んだ!…俺達は下だ。デパート端の路地裏だな?」

 

 

「は、はい!」

 

 

「…よし。アノプス、リリーラ…行くぞ!」

 

 

場所の確認を終えるとケイブさんは振り向いて俺達に付いてくるように言う。それに対し俺は待ってましたと言わんばかりに答える。

 

 

「おう!」

 

 

「………」

 

 

こうして俺達は屋上から下に降り、少年を探しに行く彼女達と途中で別れる。

 

 

…残った俺達は下の路地裏に向かうべく下に降りていくケイブさんに続いていった。



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そして彼らは…-4

ここはコガネシティ。賑わいの大型都市。


「………」

 

 

とんだ邪魔が入ったものだ。

 

 

下へのエスカレーターを走りながら下る彼の背を追いながら私…リリーラは屋上に来た彼女達を思い出し、心の中で毒づく。

 

 

私が彼からのプレゼント…ミックスオレを飲んでしまうか取っておこうかを考えている中、彼女達は私達の所にやってきた。

 

 

彼女達の中に苦しそうなワニノコがいたのは分かったが正直私にはどうでも良かった。私には関係の無いことだ。…しかし彼は違った。彼女達を助ける気らしい。

 

 

彼のその雰囲気が読み取れた瞬間私は心の中で準備を整え、彼の側に立ち指示を待つ。彼の指示にすぐに応えたいからだ。

 

 

そう先程の出来事を振り返っていると走りながら彼がアノプスと私にこう言った。

 

 

「多分…相手はかなりの力量だ。アノプス、お前は無理して戦うなよ。俺の指示を聞いて…な?」

 

 

そう言って彼は少しだけアノプスの頭に手を置く。それはいつもの様に勝手で無茶なバトルをするなということだ。するとアノプスが何処か嬉しそうに彼に答える。

 

 

「…おう!落ち着いてな!」

 

 

「………頼むぞ、マジで」

 

 

アノプスの元気一杯の返答に対し、少し不安と呆れを含んだ彼の声が再度アノプスに念を押す。

 

 

………まぁアノプスは大丈夫だろう。その理由を彼には分からないだろうが私には分かる。

 

 

アノプスは彼の指示の元で戦えるのを心待ちにしているからだ。基本的に野生や道中のトレーナー相手では相手との力量差からか、私達は指示を貰わず戦うことが多い。………実際に私達はそれで勝ててしまう。それに彼は満足して指示を出さずに私達に任せてしまう。

 

 

…普段から私達は彼の指示の元で戦うことが少ないのだ。そんな中で彼から指示を出すからそれに従って戦えと言っているのだ。そんな誘いをアノプスは無下にする程馬鹿ではない。

 

 

まぁアノプスは普段の戦いから何処か無茶な動きやバトルをすることで負傷して彼の元に戻れば彼の指示の元で戦えるんじゃないかと考えているくらいには馬鹿な奴なんだが。

 

 

「…リリーラ。お前はいつも通りだ。アノプスや既に下で戦ってる奴等の援護だ。…細かい所は任せる」

 

 

「………」

 

 

………前言撤回。普段の働きからこうなることを考えていたならアノプスは馬鹿ではなさそうだ。意外と悪知恵が回るのかもしれない。…考え過ぎか。

 

 

そして私には指示無しか。

 

 

………狡い。

 

 

………まぁ、いい。私が頑張って下で戦ってる子達を助けて、敵を倒せば彼は褒めてくれるだろう。

 

 

エスカレーターが終わって一階に着いた私達は入り口へと駆け出す中、私は意識を戦闘へと傾けた。………誰だろうが容赦はしない。

 

 

 

 

 

 

入り口からすぐ近くで戦闘の気配がする路地裏に着く。…そして場を見ると

 

 

 

 

状況はやはり最悪だった。こちらは倒れたストライクとヤドン。そして意識を失っているのか動かないジュプトル…ドライに敵のトレーナーと萌えもんが迫ろうとしている。

 

 

「ん?何だあんた…」

 

 

「…アノプス!アイツらに岩雪崩!とりあえず牽制だ!動きを止めろ!…次はシザークロス!ドライから距離を取らせろ!」

 

 

「おう!」

 

 

いきなりこの場に割り込んだ彼は相手の問いを無視してアノプスに指示を出す。…アノプスが繰り出した岩が相手の萌えもん達やトレーナーの近くまで降り注ぐ。

 

 

その攻撃は一部の萌えもんに当たり、外れた攻撃も他の萌えもんやトレーナーの動きを怯ませる。…そんな中アノプスが切り込みドライに迫っていたトレーナーと萌えもんに対してシザークロスを放つ。その攻撃は萌えもんに直撃し、それに続けてアノプスは流れるようにトレーナーの前にもシザークロスを放つ。それはトレーナーに警戒心と恐怖を植え付ける一撃だ。

 

 

…ほらね。普通に戦えばアノプスはそれなりに強いのだ。

 

 

「………っ、てめぇ!」

 

 

「…落ち着け。邪魔をするなら敵だ。………」

 

 

「だね。…やるよ」

 

 

「………あれはデルタ種じゃないか」

 

 

シザークロスを目の前で見た黒服のトレーナー…と言っても皆黒服なのだが。激昂する彼を他のトレーナー達が止める。

 

 

四人のトレーナーだ。そして彼らの側に手持ちなのだろう。その萌えもん達が寄ってくる。

 

 

一匹は黒の上品な帽子に服装…先程シザークロスを食らった萌えもんか。

次は紫の魔女みたいな容姿。…薄ら笑いしながらこちらを見ている。

最後はシンプルな赤と青基調の服に頭に青のトサカ?が立っている。…あの子は無表情だ。

 

 

「………ドンカラスにムウマージ、ポリゴン…2だったかな。ありゃ」

 

 

彼がそう呟く。各地を見て回った彼には実際の体験や他者の話からある程度なら見ただけで萌えもんの判断が可能だ。

 

 

しかし何処かおかしい。彼等から仕掛ける気も、ここから逃げる気配も無い。ただこちらの方を警戒しているだけだ。

 

 

「………アノプス、まずは岩雪崩からの牽制メインで立ち回ろう。そして丁寧に一体ずつ…まずダメージのあるドンカラスから落とす。良いな?」

 

 

「…ん」

 

 

彼も相手への目線を向けつつ、アノプスに小声で次の指示を出す。………私は倒れている周りの萌えもんの救出と追加の岩雪崩の援護…かな。私のやることは纏まった。

 

 

でも…

 

 

でも私も指示が欲しい。指示じゃなくても『頑張れ』とか『頼む』とか…そんななことだけでも…そう思い私は彼の方を向く。

 

 

 

 

…待て。

 

 

おい。

 

 

 

 

何をする気だ?お前は?

 

 

私は鋭い石の刃…ストーンエッジを彼の後ろに放つ。その石の刃は彼の顔すれすれを通り、後ろの萌えもん…彼に噛み付こうとしていたよく洞窟で見る蝙蝠の様な服装の萌えもん…ゴルバットに直撃する。

 

 

「…ちっ」

 

 

その私の攻撃に彼や相手のトレーナー達がざわめく中一人だけ舌打ちしたトレーナーがいた。

 

 

………そうか。

 

 

今回はそういう相手か。

 

 

私は急所にストーンエッジを食らい、倒れるゴルバットに追加のストーンエッジを当てる。…アノプスや相手のトレーナーや萌えもんが更にざわめく。先程舌打ちしたトレーナーも流石に焦りの表情だ。…彼は何も言わない。

 

 

「…あー悪いな。俺は萌えもんバトルしてお前らを追い払うつもりだったんだが…」

 

 

彼が頭を掻きながら話す。その言葉はざわめく状況ながらもよく響く。

 

 

「そっちが萌えもんバトルをする気がないなら…」

 

 

「容赦はしない。リリーラ、もう一度だ」

 

 

やった。私への指示だ。

 

 

私はもう一度ストーンエッジをゴルバットに放つ。ゴルバットは瀕死という状態をとうに越していた。その状況を見て彼は相手に顔を向ける。

 

 

「…これ以上やるか?今ならこいつも返してやるし、見逃してやる。…さぁ、どうする?」

 

 

彼がそう言うと反抗しようとする奴もいるが、何人かは冷静なみたいだ。反抗しようとしている人を止めている。

 

 

「…ふざけんな!誰が…」

 

 

「…分かった。ここは退こう」

 

 

「…いいの?」

 

 

「仕方あるまい。あいつの力はまだ必要だ。それに…な。分かった、君達の萌えもんは解放しよう。持っていけ」

 

 

「…アノプス。持ってこい」

 

 

「………えっ、…あぁ!」

 

 

トレーナーの一人が倒れている萌えもん達…ストライク、ヤドン、ドライに目を向ける。それに応じ、彼はアノプスに三体を回収させる。そしてそれが終わると彼は私に目を向けた。

 

 

「………リリーラ、解放してやれ。アイツらは約束を守ったんだ。俺達もそれに応えよう」

 

 

私は倒れているゴルバットを相手側に蹴飛ばす。トレーナーの一人がゴルバットをボールに戻す。

 

 

「…随分とやってくれな。覚えておけよ」

 

 

そう言い彼等は萌えもんをボールに戻し、路地裏の奥へと消えた…。その様子を私達は見ていた。彼等が消えるのを確認した彼は倒れている萌えもん達に目を向ける。

 

 

「…よし、じゃあコイツらの回復………って!」

 

 

萌えもん達を見る彼の目の色が変わる。あ、この状態は…

 

 

「あの毒…コイツらもか!薬使いの坊主の所に急ぐぞ!アノプス、リリーラ!」

 

 

「う、うん!」

 

 

「………」

 

 

彼が三体を抱え、またコガネデパートへと走り出す。それに私とアノプスは続く。デパートに入り、上へと向かう途中、私は考える。

 

 

 

 

あぁ…

 

 

結局褒めて貰えなかったな。



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そして彼らは…-5

ここはコガネシティ。賑わいの大型都市。


「あの人達の一人が…」

 

 

 

 

「ロケット団って名乗ってたわ」

 

 

コガネデパート屋上で多くの人や萌えもんが集まる中、ねーちゃんが周りにそう言うと女のトレーナーさんがロケット団という単語に対して驚いている。その様子をツヴァイはぼーっと眺めていた。うぅ、まだ体が怠いよぉ…

 

 

「…嘘でしょ!ロケット団は壊滅した筈よ!あのシルフカンパニーの事件の時のトレーナーの活躍でね!だって私は…」

 

 

「で、でも彼らはそう…」

 

 

驚いている女のトレーナーさんをおじさんが止める。大会の前にドライねーちゃんを連れてきてくれた人だ。

 

 

「…落ち着け。確かにねーちゃんの言う通りロケット団はあれ以降大きな動きは無いが…残党とかそんな奴等だろ」

 

 

「嬢さん…どうしてそんな連中に追われてる?」

 

 

「そ、それは…」

 

 

おじさんはねーちゃんに質問する。しかしねーちゃんは言葉に詰まって話そうとしない。えっと、確か理由は…

 

 

「…別に俺には話さなくて良いが少なくともこのねーちゃんには話しな。嬢さんのせいで巻き込まれたんだ」

 

 

「いえ、別に無理に聞こうとは…勝手に割り込んだだけですし…」

 

 

女のトレーナーさんはそう言うがねーちゃんは周りを見て暫くすると話を始めた。

 

 

「…いえ、ケイブさんも聞いてください。私の持つ萌えもんはね…一般的な萌えもんとは異なるタイプを持つデルタ種の萌えもんなんです。そしてデルタ種はホロン地方特有の種族なの」

 

 

「?…つまり?」

 

 

女のトレーナーさんが首を傾げる。その様子を見るとねーちゃんが横になってる自分…ツヴァイを指差して来た。

 

 

「ワニノコは普通は水タイプですがあの子は電気タイプです」

 

 

「…え?何それ…。じゃあの子電気技使えるの?」

 

 

使えるよ!あんまり使うなってねーちゃんに言われてるけどね!今は電気ショックとスパークとね…

 

 

「確か電気ショックにスパークくらいは使えた筈よ」

 

 

………あ、そういえばまだ言ってなかったっけ。ツヴァイはねーちゃんの言葉に付け加える。

 

 

「後、ボルトチェンジも使えるよ…」

 

 

「…本当に?ツヴァイ。…凄いじゃない」

 

 

ねーちゃんが私の傍まで来て撫でてくれる。えへへー、凄いでしょ!

 

 

「…あれ?ウチのエレより優秀じゃない?」

 

 

「なっ…」

 

 

女のトレーナーさんの呟きで、近くで治療中のドライねーちゃん達を見ていた黄色髪の萌えもんが膝と手を床に付け落ち込む。…可哀想なのでツヴァイは立ち上がり彼女を撫でてあげる。………するとありがとうって言ってくれた。良かったね!

 

 

「…セーレさん、話を戻しますね。そして今デルタ種の萌えもんは減少しており、貴重な種族です。…恐らく彼等ロケット団はそのデルタ種の萌えもんの力を利用しようとしているのでしょう」

 

 

「…分かったわ。ありがとう」

 

 

女のトレーナーさんが納得したのを見るとねーちゃんはおじさんの方を見る。

 

 

「ケイブさんも大丈夫でしたか?」

 

 

「大体俺の予想通り。問題なしだ」

 

 

おじさんもねーちゃんの問いに頷き返す。そんな中、ツヴァイを治療してくれて今も治療を続ける少年が口を挟む。

 

 

「い、今のは…」

 

 

その少年に対しおじさんが少年の方を向き、優しく話しかける。

 

 

「坊主…今度お礼をしっかりするからそれで忘れろ。お前は完全に無関係だ」

 

 

「いえ、僕も…」

 

 

拒否しようとするおじさんに対し少年は食い下がる。食い下がる時に治療を手伝っていた萌えもんが振り向き、止めようとするがその前に少年の口から言葉が出る。

 

 

「僕にも手伝わせて下さい!こんな毒を萌えもんに使う奴…許せません」

 

 

「…本気か?こんな相手だぞ」

 

 

「こんな相手だからこそ…です」

 

 

少年が力強くおじさんの方を見る。するとおじさんは顔を下げた。その様子をねーちゃんは困惑して、女のトレーナーさんはじっと見ている。

 

 

「………分かったよ。よろしく」

 

 

「私もね」

 

 

今度は女のトレーナーさんがちょっと震えているで話し出した。その声におじさんが振り向く。

 

 

「ロケット団にはちょっとした因縁があるのよ…手伝うわ」

 

 

「…だろうな。よろしく」

 

 

 

 

 

「ち、ちょっと待って!何よ!手伝うとか、意味が…」

 

 

ねーちゃんが周りにそう叫ぶ。その様子を見たおじさんがねーちゃんの頭に手を置き、優しく呟く。

 

 

「嬢さんを助けてやるってことだ。嬢さんはまだ子供なんだ」

 

 

彼の言葉にねーちゃんの瞳が潤む。な、何かツヴァイも…

 

 

 

 

「俺達を頼りな。コイツらも手伝ってくれるらしいから」

 

 

「………っ」

 

 

するとねーちゃんがおじさんの胸に顔を埋めて静かに泣き出した。その様子を女のトレーナーさんと少年は優しい目で見ている。う、ツヴァイも泣きそう…

 

 

 

 

あっ…

 

 

ツヴァイはおじさんの後ろにいる萌えもんの穴が開くんじゃないか言わんばかりの恐ろしい視線でおじさん達を見ているに気付く。…こ、怖い!泣きそうな気分も吹っ飛んじゃったよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、一応自己紹介するか。大体見知った顔だがな。んじゃ坊主から!」

 

 

コガネデパート屋上で四人のトレーナーが円を組むように立っている。

 

 

「ぼ、僕から!?えっと…ドラです。タンバの薬屋の息子で一応薬学にそれなりに通じてると思います!よろしくお願いします!」

 

 

「私はセーレ。新米トレーナーよ!一応前は………理科系の仕事してました。よろしく!」

 

 

「んじゃ俺。ケイブだ。遺跡や洞窟マニア…かな?一応そっち系の研究員もやってる…いや、やってた?…ぜ。よろしくな」

 

 

「…私はホロ。ホロン地方出身でデルタ種に関わりがあります。今はピクニックガールとして旅をしてます」

 

 

「そして…ロケット団に狙われています」

 

 

「あなた達には迷惑をかけるわ。でも…力を貸して欲しい」

 

 

一人の少女が顔を伏せて話す。暫くすると顔を上げ微笑みながらこう言った。

 

 

「…よろしくね」

 

 

 

 

そして…

 

 

 

 

彼らは出会った。

 

 

 

『萌えもん~multi travel~ ───完』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おや?タイトルの───部分が?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ペラッ…

 

 

『萌えもん~multi travel~ 第一部完』

 



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後書き…そして

 

どうも、作者のマクドールです。

 

 

さて…これで第一部が終わりました。シナリオ的にはこれで

 

 

三分の一が終わりました。

 

 

 

 

読者の皆さんはどう思いましたか?『まだ三分の一か』ですか?『もう三分の一か』ですか?

 

 

私は『まだ三分の一か』という思いの方が強いです。思ったよりシナリオを文字に起こして書くのが大変だということがこの小説を書き始めてから身に染みました。

 

 

それでも続けてこれたのは読者の皆さんのお陰です。ありがとうございます。…そして次の第二部の方もよろしくお願いします。

 

 

では私の後書きで投稿の際の小説本文の最低字数…1000に到達したので(その為の文字数稼ぎ)

 

 

本命である次回予告をどうぞー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『次回予告』

 

 

彼らは再びジョウト地方を歩き回る。各々の想いを秘めて。

 

 

「───タウンですか、分かりました」

 

 

「───シティね。この子を…ねぇ」

 

 

「俺は一旦戻る。これは俺達だけの問題じゃねぇ」

 

 

「………多分ですけど、…それ私の萌えもんかもしれません」

 

 

 

 

 

普通か、異常か…

旅にハプニングは付き物である。

 

 

「………このままじゃジョウト地方が沈むね」

 

 

「…はぁ?所長もボケたか。………冗談だ、冗談!!」

 

 

「あぁ…やっぱり…。こんなことして…」

 

 

「ボールが一、二、三………ん!?ちょっと待って!」

 

 

「…え?バトル?あの…私違うんですけど…。あ…これもう戦う感じですか!?」

 

 

 

 

 

新たな仲間が旅に彩りを添える。

 

 

「…もーっ!アタイは虫じゃないっーの!」

 

 

「あ、姉さん!?どうしてここにいるんですかぁ!?」

 

 

「お待たせしました。───、只今到着しました」

 

 

 

 

 

様々な人や萌えもんが旅の思い出になる。

 

 

「あら、あの頃の私はお忘れ下さいな」

 

 

「お前の様な奴は儂は知らん」

 

 

「強くなる…とは違いますね。…変わるんです」

 

 

「見えるものはあるよ。それが見たいものかはともかく…ね」

 

 

 

 

 

そして彼らは…

 

 

「秘技…瓦割りぃぃぃ!!!」

 

 

「…これがアイツの贈り物なのが気に食わんな」

 

 

「あ、主は喜んでくれるだろうか…?」

 

 

「俺が皆を支えなきゃな」

 

 

「成程。…だから駄目だったのですか」

 

 

「………来た」

 

 

「鋼の…心…」

 

 

「もうツヴァイは泣かな………って何あれぇ!?」

 

 

「じゃあね、ドラちゃん」

 

 

 

 

 

彼らは…

 

 

「行こうか。僕も手伝うし、指示も出す」

 

 

「私はあれね。………勝てる気がしないんだけど!?」

 

 

「行くわよ、皆の足は引っ張れないわ。…お願いね」

 

 

「………やっぱり貧乏クジは俺か」

 

 

 

 

「相手は伝説級じゃねぇか。しかも…」

 

 

───。

 

 

 

 

 

次回、『萌えもん~multi travel~ 第二部』

 

 

『この次も、サービス、サービスゥ!!』

 

 

『ジツキちゃん、それは不味い。色んな意味で』

 

 

乞うご期待…



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番外編:『UA2500&第一部終了記念。萌えもん+トレーナー強さランキング&簡易道中録』

 

今回はUA2500記念と第一部終了記念として第一部終了時の萌えもん達やトレーナー(主人公達)の強さランキング作ってみました。

 

 

…はい、誕生日とクリスマスが近いから一回しか祝わないみたいなものです。他にも幾つか番外編案考えてたんですが、このままでは内容が纏まるのに時間が掛って2500記念になりそうにないので(もう既に遅いけど)とりあえず今回はこちらをお楽しみ下さい。

 

 

ではどうぞー

 

 

 

 

『登場主役級萌えもん力量(レベル+能力)ランキング』

※実際に戦う際には相性、状況によって優劣が多少前後します。

 

 

・一覧

リリーラ(リリーラ)

>>>(大きな壁)>>>

アノプス(アノプス)

>>>

ドライ(ジュプトル)

>

ろすろす(カイロス)

ライ(ストライク)

ヤド(ヤドン)

>

つー(ツボツボ)

ツヴァイ(ワニノコ)

>

エレ(エレブー)

 

以上

 

 

では一人ずつコメントをー

 

 

・リリーラ

文句無しの力量一位です。ランキング付けの際真っ先に決まりました。恐らく現状ならリリーラ対他全員でもリリーラが勝つと思います。しかしその強さはトレーナー(ケイブ)に大きく依存し、戦力としては非常に不安定。ある意味一番の問題児です。

本来ならユレイドルになっていてもおかしくない力量ですが…?

 

 

・アノプス

彼女も真っ先に力量二位に入りました。普段は情けない場面が多いですが、他の面子に比べ他の地方を回ってきたという経験の差があります。しかしこちらもトレーナー(ケイブ)の命令無しだと無茶な戦い方をするという欠点を持っています。

………そこを改めれば彼女がアーマルドに進化する日も近いかも知れません。

 

 

・ドライ

三位です。ここら辺まではあっさり決まりました。こう見ると『戦闘経験のあるトレーナーの萌えもん』はランキング高いです。戦闘に関しては上位二人に比べ欠点が無いので安定感はトップでしょう。こう見ると一時期は力量上位三体を独占していたケイブパーティーの優秀さが分かります。

又、デルタ種の萌えもんはデルタ種であることを隠すというトレーナー(ホロ)の都合上、公式戦では本来の力が発揮できない為弱く、非公式戦ではタイプ面での初見殺しとして強いという性質があります。

 

 

・ろすろす

四位です。最初からライとは同率順位にしようとは考えてました。この辺りが『強いと言われるor言われていた野生の萌えもん』帯です。戦闘面に関しては実戦用ハサミギロチンによる大物食い出来る可能性が特色でしょうか。確実にほぼ一体持っていくというのは中々優秀かなと。

マイナス面は脳筋故現状ではノーマル技、格闘技しか無く虫のタイプ一致技、他のサブウェポンに欠けます。そこの強化が課題でしょうか。

 

 

・ライ

四位です。ろすろすと同じです(二回目)

戦闘面に関しては虫のタイプ一致技に欠けるのはろすろすと同じですがろすろすに比べサブウェポン(悪、飛行技)が充実しており、使いやすさはこちらに軍配が上がる感じかなという印象。

又、ろすろすと違い進化を一回残しています。だが素早さが落ちる進化は彼女の性格や戦い方に噛み合うのか…?という感じです。

 

 

・ヤド

四位です。謎の多い彼女ですが『強いと言われるor言われていた野生の萌えもん』辺りの力量が適正かなと。戦闘面に関しては基本的な水、エスパーに加え冷凍ビーム、火炎放射とサブウェポンも充実した性能です。…しかもサブウェポンこれだけじゃありません。今後の本編の進行や本編内での回想にて明かされることでしょう。

問題があるとすればそれを把握し、使いこなすトレーナー(セーレ)の元にいないことですかね。

 

 

・つー

七位です。彼女は戦闘経験が少ないですが旅立ち前から自主訓練していた設定からまぁここら辺かなと。戦闘面に関してはこのランキングの萌えもん達内では一番戦法が完成しており、自身の能力に合った耐久戦法を用います。上手く嵌まれば上位陣とも戦えるでしょう。

問題点は進化無し、戦法が完成してこの順位なこと。…有り体に言えば他に比べて伸びしろが少ないのです。

 

 

・ツヴァイ

七位です。戦闘経験の少なさはありますが徐々に経験を積み、成長しています。…実は初期状態はエレと同じくらいなのですが道中の成長から一ランク上へ。戦闘面はドライの時に記述したデルタ種の萌えもんの特色に大きく影響します。その為今のところ噛み付く主体な戦法です。

又、現状唯一の進化を二回残している萌えもんです。強化フラグとして分かりやすい進化を二回持っている分将来性があります。

 

 

・エレ

九位。とにかく戦闘経験が少ないです。道中で少しずつ経験を積んでいますがまだ他に追い付くには至らない感じ。戦闘面に関しては基本的な電気、ノーマル技に加えて新たに瓦割りを習得しました。次の目標はエレブーの代名詞とも言えるあの技が欲しいらしいです。

………進化はどうなんですかね?この地方では広まってない進化なのでどうなることやら。

 

 

以上全九体。

 

 

 

 

ではお次のトレーナー(主人公)ランキングです。どうぞー

 

 

 

『トレーナー(主人公)ランキング』

※実際に戦う際には相性、状況によって優劣が多少前後します。

 

 

・一覧

ケイブ(遺跡マニアのおじさん)

>>>(大きな壁)>>>

ホロ(ピクニックガールの少女)

>

セーレ(理科系の女)

>

ドラ(薬屋の息子)

 

 

では同じく一人ずつコメントをー

 

 

・ケイブ

文句無しの一位です。他三人とは経験値が違います。トレーナーとしての指示、状況判断等も問題なし。過去の経験から様々な問題にも馴れており公式戦、非公式戦どちらも安定してます。…彼は非公式戦の方が好きらしいですが。

…欠点を敢えて挙げるなら彼も一人の人間ということ。彼レベルの力量のトレーナーが欲しいときに一つの戦場にしか赴けません。

 

 

・ホロ

二位…といっても他三人はどんぐりの背比べみたいな感じです。まぁランク付けるならトレーナーとしては彼女が二位かなと。トレーナーとしては状況判断に優れ、現在も経験を積みどんどん成長しています。

弱点は二つ。彼女のポリシーからデルタ種を隠そうとするため公式戦で力を発揮できないこと。そして貧乳…

 

 

嘘です。体が華奢です。一部ポケモン作品でありがちなトレーナーへのダイレクトアタック耐性が無いと言えます。

 

 

・セーレ

三位。…UA1000時では手持ちに『最弱だろ』と馬鹿にされていましたが最弱では無かったです。トレーナーとしてはまだ未熟ですが彼女の元で戦うと技の追加効果が出ることが多かったりと…ある意味トレーナーに一番必要な『運』を持っています。

弱点は時に萌えもんの自主性を重んじ、戦闘を任せる所。これは良い場面もありますが基本的に悪い場面の方が多いです。このままでは弱い子は育たないし、強い子は力を持て余したり、現状の状態や戦法で満足してしまうことがあります。トレーナーとしても成長出来ません。

 

 

・ドラ

四位。トレーナーとして最下位です。トレーナーとしては言い方は悪いですが、萌えもんの強さに頼ってる所があります。手持ちがつーやろすろすみたいな指示抜きでもそれなりに戦えるのがその点を助長させています。ですが彼の本領はトレーナーではなく、薬屋の息子としての薬剤師の能力。この能力で道具の使用OKな非公式戦はホロやセーレを越えます。

欠点は性格が優しく、詰めが甘いです。…その甘さは非公式戦において致命的な欠点になります。

 

 

以上全四人。

 

 

こんな感じでしょうか。もし何か疑問点とかあれば出来るだけネタバレしない範囲で答えます。

 

 

多分次の番外編はUA5000だと思います。その時までには番外編のネタをしっかり作ります!

とりあえずは今回の番外編は以上となります。少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

 

 

次は第二部本編からスタートしますー。

 

 

 

※おまけのおまけ(2018/03/29に追加しました)

 

・各主人公の簡易道中録

※第一部の簡単な纏めです。話の振り返りにどうぞー

※大雑把な流れしか書いてません。詳細を知りたい場合は表記された話をご覧下さい。

 

 

・ドラルート

 

薬屋の息子-1:ドラ、タンバシティの実家を抜け出し旅に出る。その際に実家にいたつー(ツボツボ)が付いてくる。

薬屋の息子-2:ドラ、エンジュシティへ進むべく地下洞窟を進む。

薬屋の息子-3:ドラ、エンジュシティに到着。トレーナーカードを作成する。

薬屋の息子-4:ドラ、モーモー牧場にて自身の旅の目的を模索する。

薬屋の息子-5:ドラ、自然公園の虫取り大会に参加を申し込む。

虫取り大会:ドラ、大会中に幾つかの虫萌えもんに出会うもゲットせず。結果最下位。

薬屋の息子-6:ドラ、コガネシティにて大会時に出会ったカイロスと再会。その後ろすろす(カイロス)をゲットする。

コガネルーキーカップ:ドラ、コガネルーキーカップに参加。本選の準決勝にてセーレとバトルし、敗北する。結果第三位。

そして彼らは…:ドラ、ホロとセーレに頼まれ、コガネデパート屋上にて毒に犯された萌えもん達を治療する。その際にホロの話を耳にし、彼女への協力を決意する。

 

 

 

 

・セーレルート

理科系の女-1:セーレ、ワカバタウンにて昔からの仲であるエレ(エレブー)を伴い、旅を始める。

理科系の女-2:セーレ、短パン小僧との萌えもんバトルに敗北。その後リベンジを果たす。

理科系の女-3:セーレ、ヨシノシティで釣りを行う。その結果ヤド(ヤドン)をゲットする。

理科系の女-4:セーレ、キキョウシティジムへの挑戦登録を行う。

理科系の女-5:セーレ、キキョウジムリーダーハヤトとのジムバトルを行う。結果辛くも勝利し、ウィングバッジを獲得する。

虫取り大会:セーレ、虫取り大会に参加。ストライクの一点狙いが災いし、結果最下位。

理科系の女-6:セーレ、虫取り大会にて出会ったストライクと再会。その後ライ(ストライク)をゲットする。

コガネルーキーカップ:セーレ、コガネルーキーカップに参加。決勝まで駒を進めるも、決勝戦のホロとのバトルに敗北。結果準優勝。

そして彼らは…:セーレ、コガネデパート近くにてロケット団に絡まれていたホロを助ける。その後助けたホロの話を聞き、彼女への協力を決意。

 

 

 

 

・ケイブルート

遺跡マニアのおじさん-1:ケイブ、チョウジタウンにて地下洞窟の報告ファイルを纏める。その後アノプス(アノプス)とリリーラ(リリーラ )を従えて地下洞窟へと赴く。

遺跡マニアのおじさん-2:ケイブ、地下洞窟内にて倒れていた少女(ホロ)を発見、保護する。その後エンジュシティまで運ぶ。

遺跡マニアのおじさん-3:ケイブ、チョウジタウンへと戻る道中にホロの身元と現状に疑問を抱く。

遺跡マニアのおじさん-4:ケイブ、チョウジタウンにて研究所の所長と会談。その結果、ホロの手持ちであったデルタ種の萌えもんを渡される。

遺跡マニアのおじさん-5:ケイブ、渡されたドライ(ジュプトル)の持ち主であるホロの足取りを追う。

虫取り大会:ケイブ、目的であったホロを発見出来ず。その後大会に参加せず、結果最下位。

遺跡マニアのおじさん-6:ケイブ、コガネシティにてホロを見つけ、ドライを渡す。その後ホロに頼まれ、大会を見守ることに。

コガネルーキーカップ:ケイブ、大会には不参加。ホロや参加者のトレーナーを分析する。

そして彼らは…:ケイブ、セーレとホロに頼まれ、彼女等にドラの元に行く様に指示すると共に、コガネデパート近くにてロケット団を追い払う。その後ホロから話を聞き、協力を決意。

 

 

 

 

・ホロ

ピクニックガールの少女-1:ホロ、何者からか逃げるべく、ツヴァイ(ワニノコ)を連れて地下洞窟へと潜り込む。

ピクニックガールの少女-2:ホロ、地下洞窟内にて倒れている所をケイブに助けられる。

ピクニックガールの少女-3:ホロ、地下洞窟での失態から自身とツヴァイを鍛える為、旅を決意。ケイブから聞いた話を参考に行先を決める。

ピクニックガールの少女-4:ホロ、コガネへの道中の自然公園にて多くのトレーナーとバトルする。

ピクニックガールの少女-5:ホロ、コガネシティに到着。その際にコガネルーキーカップの存在を知り、参加を決意。

ピクニックガールの少女-6:ホロ、ケイブからかつての手持ちであったドライを渡される。それによりコガネルーキーカップに申込み可能になった為、大会に参加の申込みをする。

コガネルーキーカップ:ホロ、コガネルーキーカップに参加。決勝戦のセーレとのバトルに勝利する。結果優勝。

そして彼らは…:ホロ、コガネデパート近くにて以前から追われていたロケット団に襲われる。結果としてはセーレ、ケイブの助けとドラによる萌えもんの治療により一難を逃れる。その際に自身の事情を彼等に話すと協力を申し出られるがそれを一度は拒否する。しかし彼等の説得により、協力を受け入れることを決意する。

 

 

以上。



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第二部
薬屋の息子-7


ここは34番道路。育て屋とサイクリングの名所。


 

 

 

 

『坊主、お前はヒワダタウンに行ってこい』

 

 

コガネシティの萌えもんセンターにてケイブさんが僕にそう言ったのを思い出す。そう言われた時はどうしてだと思った。ホロさん達を手伝うなら側にいた方がいいだろうと僕は考えていたからだ。

 

 

現在、僕の旅は特に目的地とかを定めていない。まぁ目的は出来たのだけれど…

 

 

ホロさんやセーレさん、ケイブさん達を手伝うということだ。そう僕の萌えもん達に話すとつーもろすろすも呆れながらも付いてきてくれるようだ。

 

 

実際にケイブさんに何故ヒワダなのか聞いてみた所…

 

 

『お前虫萌えもん使いだろ?ならツクシに鍛えて貰え。そうして貰う様に手紙は書いてやる』

 

 

そう言ってケイブさんは僕に手紙を渡してきたのだ。…まず僕は虫萌えもん使いでは無いし、何故ジムリーダーであるツクシさんと繋がりがあるのかとか疑問に思う所はあったが鍛えて貰うというのは悪い誘いではない。

 

 

『ヒワダタウンですね、分かりました』

 

 

その為僕はその言葉に従い、ヒワダタウンへと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

「別に僕は虫萌えもん使いでは無いんだけどなぁ…」

 

 

コガネシティから南に進んだ先の34番道路にて僕はそう呟く。この34番道路を進めばウバメの森、そして森を抜ければヒワダタウンだ。

 

 

虫…タイプかぁ。別に拘りがあった訳ではない。つーの新しい仲間、友達として同じタイプの方が良いのかなぁという僕の勝手な考えだった。今考えればタイプ関係無しにつーは自分なりに仲間や友達を作るだろう。

 

 

でもタイプが片寄るのは良くないよな…。腰に付いた三つのボールを見ながらそう思う。今のパーティー…つーとろすろすでは岩タイプへの相手は厳しいのではないか。幸いろすろすが格闘技を使えるとしてもだ。

 

 

 

 

…ん?

 

 

…三つ?

 

 

改めて僕は腰に付けたボールを確認する。

 

 

「ボールが一、二、三………ん!?ちょっと待って!」

 

 

僕は慌てて腰に付けたボール三つを手に取り正面に軽く投げる。するとボールが開いて光の中から萌えもん達が現れる。

 

 

「…んー?」

 

 

「む?お前は…」

 

 

「あららー」

 

 

光の中から現れたのはつーとろすろすと…

 

 

 

 

セーレさんのヤドンだった。

 

 

 

 

 

 

「気が付くのが遅すぎますぞ」

 

 

そう言って目の前のヤドンは笑っている。いや、そうだけども何故…?

 

 

「何でここにいるのさー、ヤドンちゃんー?」

 

 

僕が持っていた疑問をつーが聞いてくれる。するとヤドンはその質問に答え始める。

 

 

「いやー、ヤドもヒワダに用がありましてな。なら折角なんで一緒にと」

 

 

成程。別に僕としては構わないけれど問題はセーレさんの方だ。このヤドンは予め彼女に許可を得てここにいるのだろうか?

 

 

「セーレさんの方は大丈夫なの?流石に勝手に連れてくわけには…」

 

 

「だ、大丈夫ですぞ。置き手紙を残しましたぞ…」

 

 

…僕の目を見ないで言っているが大丈夫なのだろうか。

 

 

「今からでも戻った方が良くないか、主よ。何か怪しいぞ」

 

 

ろすろすがそのヤドンの様子を見てそう言う。疑う訳じゃないけどね、確かに連れていって良いものか…。そう考えているとヤドンがろすろすと肩を組み僕とつーから距離を置き、何か話を始める。

 

 

「まーまー、このフエン煎餅を」「要らん」「むむ、なら………」「…何?本当か!?」「本当ですぞ」「あ、主は喜んでくれるだろうか…?」「もうメロメロ間違いなしですぞ」

 

 

暫くして二人が戻ってきた。すると…

 

 

「ま、まぁ道中戦ってくれるらしいし…良いのではないか?」

 

 

ろすろすが賛成側に回った。僕はどちらでも良いがつーはどうなんだろうか?つーの方を向く。

 

 

「ドラちゃんに任せますー」

 

 

…だそうだ。なら連れてくか。最悪ヒワダの萌えもんセンターの交換システムでも使ってセーレさんに返そう。そこで彼女に謝ることも出来る筈だ。

 

 

「じゃ、一応連れてくよ。よろしく、ヤドンさん…?いや、ちゃん…?」

 

 

「ヤドとお呼び下さいな」

 

 

どう呼ぼうか悩んでいるとヤドン側からそう手助けしてくれた。どうやらヤドというニックネームらしい。

 

 

「私がマスターから頂いた名前ですぞ。よろしく、ドラ殿」

 

 

ヤドはそう自慢げに話す。その様子に思わず笑みがこぼれる。…良かった。別にヤドは前のマスターを嫌ってここに来たという訳ではなさそうだ。

 

 

「よろしく、ヤド」

 

 

思わぬ旅の仲間が出来たが現在の僕達の目的地は変わらない。…僕はヒワダタウンへの道のりを進み始めた。



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理科系の女-7

ここはコガネシティ。賑わいの大型都市。


 

『ヤドはヒワダのヤドンの井戸にご用があるので、ドラ殿の方にご一緒しますぞー。折角なのでヒワダ名物木炭で燻したお摘みでもお土産にしますぞ。お楽しみにー ヤド』

 

 

………え?

 

 

朝、萌えもんセンター内の宿泊施設内にてベットから起きた私はテーブルの上にある一枚の手紙に目を通す。

 

 

「な、何ですってー!!!」

 

 

 

 

萌えもんセンター内に私の叫び声が響き渡った。因みにその後職員さんに怒られた。すみません…

 

 

 

 

 

 

「おはよう、ねーちゃん。随分と騒いでたじゃねぇか」

 

 

慌てて旅の支度をして下の階に降りると予め決めていた待ち合わせ場所にいたケイブさんが声を掛けてくる。そんな彼の元に着いた私は息を整え彼に質問をする。質問の内容は当然…

 

 

「ドラ君は!?」

 

 

「ん?あいつなら朝早くに出たぞ。嬢ちゃんもだ。後はあんただけで今後のこと話したら俺も行くかーとか思ってた所だ」

 

 

「そ、そう…」

 

 

………最近の若者は早起きね。私はそんなどうでもいいことを考えていた。まぁ私もそれなりに若いし、ケイブさんとか間違いなく私以上の年だけど早く起きてるとかは気にしない方針で。

 

 

「…いやー、ドラ君の所にヤドが行っちゃったのよー。どうしましょ」

 

 

「そりゃ大変だな。ハハハ…」

 

 

「そうですよね。ウフフ…」

 

 

………

 

 

「「いや、駄目だろ!!」」

 

 

良かった、突っ込んでくれた。このまま話が流されたらどうしようかと思ったわ。すると彼は少し考えた後に口を開く。

 

 

「………坊主が戻ってくるの待つか、萌えもんセンターの交換システムで引き取れ。萌えもんセンターの連絡システム使えば時間合わせも出来るだろ」

 

 

連絡システム?そんなのがあるのか。使う機会が無かったから知らなかった。

 

 

「…来ますかね?ドラ君?」

 

 

「…微妙。気が付いて戻ってくるならもう戻って来ててもおかしくない時間だ」

 

 

…ならその交換システムとやらを使うか。私も足を止める訳には行かないし。そう決心し彼に次に私が行くべき場所を訪ねようとするが…その前に一つやるべきことを思い出した。

 

 

「分かりました。交換システムを使ってみます。あ、後…私の萌えもんがケイブさんにお願いがあるらしく…」

 

 

おずおずと聞いてみると彼はあっさりと答えてくれた。

 

 

「ん?何だ?言ってみろ」

 

 

「…出てきて、エレ」

 

 

私は腰に付けたボールの一つを投げ、エレを出す。昨日まで三つあったボールが二つになり今までの慣れからかエレのボールを取り間違えそうになったのは秘密だ。

 

 

「ケイブ殿!お願いがございます」

 

 

エレは畏まってケイブさんの方を向く。どうしたというのだろう。そういえばお願いの内容聞いてなかったわ。

 

 

 

 

 

「雷パンチの技マシンを下さい!!!」

 

 

綺麗な土下座を決めながらエレがケイブさんに言う。…そんなことかい!技マシンなら私が買ってあげるわよ!そう私は言おうとするが…

 

 

「あれはもう販売停止品だ。諦めろ」

 

 

………ケイブさん曰く販売停止品らしい。じゃあ無理ね。諦めなさい、エレ。

 

 

…というか雷パンチってエレブーなら普通に習得出来ないっけ?

 

 

「じゃあ何でホロさんのワニノコにプレゼントしていた冷凍パンチの技マシンは何処で入手したのですかぁ!」

 

 

「あ、あれはその…コネだ。相当貴重品なんだぞ」

 

 

尚も食い下がるエレに対しケイブさんはそう答える。………そういうコネがあるのか。なら…

 

 

「…エレ、ちょっと待ちなさい」

 

 

「はい、マスター」

 

 

私の命令にエレは意外と素直に応えた。頼み方ってもんがあるのよ、そういうのは…。私はエレに耳打ちする。それを聞いたエレはむむむと唸るが納得してくれたようだ。

 

 

それが終わるとエレは再びケイブさんの方に向かっていく。

 

 

「…ん?何だよ。悪いけど流石に…」

 

 

そしてエレはケイブさんに体を密着させ耳元になめまかしい声で呟く。………偶然だけどこれをやるのを恥ずかしがってるエレの顔も高評価だ。

 

 

 

 

「…お願い雷パンチの技マシン買って。お兄さん」

 

 

「………よーし!お兄さん何でも買っちゃうぞー!」

 

 

そう言ったケイブさんはエレの手を引いて萌えもんセンターから出ようとする。良し、成功ね。ついでに回復薬とかも買いましょ。そう思って彼等に付いていくと…

 

 

 

 

ゴスッ

 

 

 

 

いつの間にかボールから出たのだろうか。ケイブさんのリリーラが彼の頭に岩を落としていた。そして私の方を見る…

 

 

 

 

アッハイ。すみません。次の目的地は何処でしょうか。リリーラさん。

 

 

 

 

 

 

「アサギシティね。この子を…ねぇ」

 

 

私は萌えもんセンターを出て北に向かっていた。そんな中で先程のことを思い出す。

 

 

気絶するケイブさんを掴みながら全く話さずジェスチャーで説明する彼のリリーラのことだ。内容を読み取るのに結構苦労したわ…

 

 

アサギシティにはこの子が強くなれる当てがケイブさんにはあったらしい。その為に手紙も用意してくれたようだ。貰ったのはリリーラからだったけど。

 

 

「ま、強くなれるって言うならウチは万々歳だね」

 

 

そう考えていると私のパーティーの中のこの子…

 

 

 

 

ライがそう言った。

 

 

…そうね。よーし、アサギシティに向かいましょうか!



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ピクニックガールの少女-7

ここは35番道路。こちら自然公園とコガネシティ間、人の流れが絶えぬ道。


長靴を買ってあげた子供が水溜まりに足を入れたがる。

 

 

私はそんな事を目の前で戦うツヴァイを見ながら考えていた。ツヴァイは私達を襲ってきた野生の萌えもんに対して冷気を纏ったパンチを繰り出し、何度も撃退していた。今も野生の萌えもんとのバトルが終わった所だ。やはり決め手はあの技…冷凍パンチだ。

 

 

「ふふーん!やったよ、ねーちゃん!」

 

 

バトルが終わったツヴァイが私の元へ戻ってくる。そんなツヴァイの頭を私は撫でる。

 

 

「ん、お疲れ様。冷凍パンチも大部使える様になったわね」

 

 

「ですね。…これなら今後はメイン技として使っていけるな、ツヴァイ」

 

 

「うん!」

 

 

横からドライが私に相槌を打ちつつ、ツヴァイにそう言った。確かにこれなら噛み付くに並ぶツヴァイの主力技に出来るだろう。メインのタイプ一致技である電気技を使わない様に戦わなければならないツヴァイにとってこの技の習得は有り難い。

 

 

本当にこの技マシンをプレゼントしてくれた彼…ケイブさんには頭が上がらない。何度も助けて貰っている。しかも今後も私のことを色々と手伝ってくれるそうだ。

 

 

…何でだろう。私はそう思う。ケイブさんだけでは無い。セーレさんやドラ君もだ。何故私のことを助けようと、手伝おうとするのか。………もし私が二人の立場だったら手伝おうとしない。関係の無い振りをしてその場を去るだろう。

 

 

………私がコガネを出るときに私よりも前に朝から意気揚々とヒワダに向かったらしいドラ君とまだ寝ていて下に来ないセーレさん、そしてドラ君より先に起きていたらしく既に下にいたケイブさん。

 

 

何処か私とは違う…彼等はいい人なんだなと感じる。私は彼等の善意を利用しているのではないかと自責の念に駆られる。

 

 

…駄目だ。ちょっと考えを変えよう。私はツヴァイ達を連れて草むらから抜けて北側…自然公園への道に入る。ここ35番道路は前に来た時よりは人の往来は少なくなっていた。ゆっくり考えを巡らせる時間はある。

 

 

…そういえばツヴァイは冷凍パンチの技マシンを貰って喜んですぐ使っていたわね。ドライは何を貰ったのか…それを聞くために私はドライの方を向く。そこにはツヴァイの冷凍パンチを受け流しながら稽古を付けているドライの姿があった。またツヴァイは冷凍パンチ使いたがってるわ…

 

 

「ねぇ、ドライは何を貰ったの?」

 

 

そんなドライに声を掛ける。するとドライはツヴァイへの稽古を止め、私の方を向き、話始めた。…稽古を止められたツヴァイは構って欲しそうにドライの方を見ている。

 

 

「私はこちらを…岩雪崩です。岩技としては中々の威力だったかと記憶しています」

 

 

ドライは懐から一枚のディスクを取り出す。それが岩雪崩の技マシンなのだろう。………あら?

 

 

「まだ使ってないの?」

 

 

「…えぇ。いきなり新しい技というのは今までの戦い方を乱す要因になるかもしれません。暫くしたら使ってみようかと…」

 

 

…そういうものなのだろうか。まぁドライが言うなら間違いでは無いのだろう。しかし岩雪崩か…次の目的に役立つ技になりそうだ。

 

 

「でも次…あの子に会うまでにはその技に馴れといた方が良いわよ、ドライ。あの子には弱点の岩技だし…」

 

 

 

 

「………もしかしたらあの子とも戦うことがあるわ。あの子なら充分ありえる…」

 

 

私は次の目的であるあの子のことを思い出し、顔に手を当てて落ち込む。その私の様子を見たドライも苦笑している。…唯一様子が変わらないのはドライの足に引っ付くツヴァイだ。まぁ話を聞いてないからかもしれないけどね…

 

 

「………ですね」

 

 

あの子をことを思い出したのだろう、ドライもそう呟いた。



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遺跡マニアのおじさん-7

ここはコガネシティ。賑わいの大型都市。


 

急な頭部の痛みを受けてから暫くして目覚めた俺は頭に出来たたんこぶを擦りながらアノプスとリリーラに呼びかける。それにアノプスに力強く応じ、リリーラはそっぽを向いている。…さっきのは冗談だからな?ほ、本当だぞ?

 

 

「じゃ…」

 

 

「俺は一旦戻るか。これは俺達だけの問題じゃねぇ」

 

 

「おう!」

 

 

「………」

 

 

戻るというのはチョウジのポケモン研究所へだ。俺達は当初の目的であったドライをホロン地方の姫さんである嬢ちゃんに返すことに成功したのだ。一旦報告に所長の所に戻って色々話したいことがある。

 

 

………ロケット団。

 

 

その言葉をコガネの屋上で聞いた時は平静を保った振りをしていたがあれは周りを落ち着かせる為だ。実際は予想通りでも問題無しでもない。

 

 

…思ったより大事になりそうだ。俺達だけの問題では済まなそうな雰囲気がする。

 

 

「よし、チョウジへ帰る。準備は…大丈夫か」

 

 

アノプスとリリーラの方を見ると既に準備万端だ。今すぐにでも出発出来そうだ。

 

 

あ、一応連絡はするか。ちょっと二人には待ってて貰おう。

 

 

俺は胸ポケットからポケギアを取り出し数多い電話番号の中から所長の番号に掛ける。

 

 

………そういえば今回の四人の中だと俺以外ポケギア持ってないんだよなぁ。嬢ちゃんは仕方無いとしてねーちゃんや坊主は持っててもおかしくないと思うんだが…。特に坊主はまだ子供だ。旅立ちの際に親が持たせてやるべきだろと思う。

 

 

プルル…電話のコールはすぐ終わり所長の声が聞こえる。

 

 

『どうしたケイブ。何かあったのかい?…こっちは忙しいんだ。手短に言いな』

 

 

「その割にはすぐ電話に出る余裕はあるみたいだな。所長」

 

 

『…ふざけてるなら切るよ。朝話したろ、あの件で今忙しいんだ』

 

 

所長は俺の冗談に対して突っ込みを入れず電話を切ろうとする。朝のあの件…あれか。

 

 

「あ、その件は大丈夫だ。一人の少女が解決してくれる。そこまで深く考えないでいい」

 

 

『………分かった。でも市民への警告はしておくよ』

 

 

「頼む。ここから本題なんだがアイツら………いや、纏め役のアイツだけでいいか。この地方に呼べるか?」

 

 

この言葉で周りの空気が固まった気がしたが今はそれ所では無い。話を続ける。

 

 

…アイツら一人一人は面倒臭いからな。纏め役のアイツに言えば少しは集まるだろ。俺がそう言うと所長の声が詰まる。

 

 

『………それを私にやれと?お前がやりな。面倒臭い』

 

 

………やっぱり面倒臭いよな、アイツ。俺の時は長電話になって全然話を切り出せないし。

 

 

「頼むぜ。何とでも言っていい。保険として使える駒は欲しいんだ」

 

 

『………何とでも…ねぇ。よし、やろう。でも余り期待するんじゃないよ』

 

 

………何か嫌な予感がするが気のせいだろ。所長がやってくれるって言うなら有り難い。お願いしよう。

 

 

「頼んだ。じゃ予定通りコガネからチョウジに戻る…じゃあな」

 

 

『…とっとと帰ってきな』

 

 

そう言い、通話を切られる。…とりあえず成功だな。結果としてアイツとの連絡を所長に任せられた。

 

 

よし、今度こそ出発だ。俺はポケギアを仕舞ってアノプスとリリーラを見る。『すまん、待たせたな!行こう!』俺は二人にそう声をかけようとするが…

 

 

 

 

…あれ?アノプスまで拗ねてないか?

 

 

 

 

リリーラはそっぽ所か完全に俺に背を向けてる。………何故?



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薬屋の息子-8

ここはウバメの森。長年、木々がうっそうと茂る森。


「…参ったな、これは」

 

 

僕は目の前にある現在頭を悩ませている存在…

 

 

 

 

 

大きな大木の前にいた。

 

 

今その大木に対してろすろすが角で攻撃したり、ヤドが火炎放射を使っているが一向に倒れたり、焼ける気配は無い。…どういうことだ?

 

 

「…これは無理じゃないかなー?大人しく他の道に行くー?」

 

 

僕に対しつーが痺れを切らしてそう呼び掛ける。まぁそれも無理もない。ろすろすやヤドにお願いしてから結構時間は立っているが一向に状況は改善していない。

 

 

「んー、でもなぁ…」

 

 

先程の看板で確認したのだがこの道がウバメの森の一般的なルートらしい。他の道に行って迷ったり、野生の萌えもん達を刺激してしまうというのも避けたかった。そう考えているとろすろすとヤドがこちらに戻ってきて、近くの祠を背に座り込んだ。

 

 

疲れているろすろすとヤドに対して大木は全く状態を変えていない。

 

 

「主よ、これは厳しいぞ…。このままでは日が暮れてしまう」

 

 

「…焦げ付く感じすらしませんぞ。参りましたなー」

 

 

………やっぱりちょっと怖いけど大木の横側から別の道を探した方が良さそうかな。ちょっと二人が休憩したら別の道を探しに行こう。そう思っていた時…

 

 

 

 

「あっしは木を切るー。ヘイヘイホー…」

 

 

…大木の向こう側から小さな歌い声と木が切り倒されて木が地面に落ちる大きな音が聞こえてくる。…ん?木を切る?もしかして…

 

 

「…すみませんー!!」

 

 

僕は大木の方に大きな声で歌いながら木を切っている人を呼ぶ。すると歌声と木を切り倒す音が止んだ。代わりに歌声と同じ声色の声が聞こえる。

 

 

「はいはいー。どちら様ですかね?」

 

 

………良かった。こちらのことに気が付きそしてこちらに対しての感触は悪くない。話が出来そうだ。

 

 

「旅の者なのですがー、この大木が邪魔で通れないんですよー。どうにか出来ますかー!?」

 

 

声を張り上げそう伝える。向こうの人は木を切り倒すことが出来るようだ。もしかしたらこの大木も切れるのではないか。そう考えたのだ。すると声が返ってきた。

 

 

「えー、………んー………」

 

 

 

 

 

「………あ!あっしの名前を当てられたら良いですよ!因みにあっしはカモネギですので」

 

 

…暫く黙ってると思ったら何か突飛なことを言い出した。何だそれは…。まぁ相手の機嫌を損ねる訳にもいかないか…。

 

 

というか向こう側にいるのは萌えもんだったのか。確かカモネギという名前の萌えもんがいた筈だ。

 

 

「…それならカモネギだ」

 

 

そんな突飛な問題に苛立ちを覚えたのか、ろすろすが少し怒気を含んだ声を張り向こう側に言った。

 

 

「ぶぶー。はい、ちょっと怒りっぽい貴方は回答権無しー」

 

 

「なっ…!」

 

 

「あらら、ろすろす殿は甘いですな。相手はカモネギ…なら名前はおしょうですぞ。どうですかな?向こうの方?」

 

 

怒るろすろすを宥めながらヤドがそう言った。カモネギならおしょうとかそういう決まりやルールがあるのだろうか?

 

 

「ぶぶー。はい、気まぐれな声の貴方も駄目ねー」

 

 

しかしどうやら外れみたいだ。ヤドがぐぬぬと唸っている。んー…

 

 

「ならじんすけ…とか?」

 

 

思わず考えていた名前が口に出てしまう。それを聞いたのか向こう側から外れを知らせるメッセージが聞こえてきた。

 

 

「ぶぶー。んーと…最初に呼び掛けた貴方も駄目ねー」

 

 

…しまった。うっかり口に出てしまった。後答えられるのはつーだけだ。つーの方を見るがつーはぼーっとして祠に寄りかかっている。

 

 

「…つー、何か良さそうな名前とかある?」

 

 

僕は小声でつーに聞く。するとつーはぼーっとした状態を崩さずのんびりと答えた。

 

 

「んー、もう少し待とうかー。まー駄目なら諦めよー」

 

 

そう言ってつーが動こうとしない。そんな中向こう側から微かに声が聞こえる。先程のカモネギの声とは別の大人の声だ。

 

 

 

 

 

 

「…おい、アッカ。仕事はどうした?とっとこいつを切って終わらせるぞ」

 

 

「………あっ、主人!?い、今はっ!?」

 

 

大人の声の後に慌てたカモネギの声が聞こえる。するとつーが祠の側から起き上がり大木の前に立った。

 

 

「………んー、成程ー」

 

 

「終わったら自由にしていいから。………いつもお前はこの作業に随分と時間をかけるよな」

 

 

その話につーが微かに笑う。そしてつーは大きな声で向こう側に対して声を張り、伝える。

 

 

「…へー、早くしたらー?アッカちゃんー?」

 

 

すると向こう側から先程と同じく慌てたカモネギの声と大人の声が返ってきた。つー…それで名前当てるのは反則じゃないか?僕はそう思うが黙っておく。

 

 

「…ん?旅人さんかい?この大木だろ?ちょっと待っててくれ。今切るからな」

 

 

「…なっ!卑怯だぞ!これは無しだー!」

 

 

カモネギがそう言うがそれに対してつーはにやりを微笑みそして大きな声量でからかうように向こうに伝える。

 

 

「………んー、切りたくないよねー。だってこれは主人さんとの大事な時………」

 

 

 

 

 

ズバッ………

 

 

ズドンッ!!!

 

 

大木が切り倒され大きな音が鳴る。そしてようやく見える向こう側には大人のトレーナーと顔を真っ赤にしたカモネギがいた。

 

 

「旅人さん、お待たせしました。この道を塞ぐ木を切るのが私達の仕事なんです。さぁこちらにどうぞ」

 

 

大人のトレーナーが僕達にそう言ってくる。その声に従い、僕達は向こう側に行く。大人のトレーナーはカモネギに仕事のお礼を言っているようだ。

 

 

「お疲れ様、アッカ。じゃ次の仕事までは森でゆっくりしていてな」

 

 

「…うん」

 

 

そう言ってカモネギは飛び立とうとする。その際につーの方を睨んでいた。その様子から僕はつーの方を見るがつーは全く気にしてないようだ。

 

 

「次も頼むな」

 

 

飛び立つ直前にトレーナーがカモネギにそう伝える。

 

 

「…!…分かった」

 

 

そう言ってカモネギは森の中に消えていった。…その後ろ姿は何処か嬉しそうに見えたのは僕の気のせいだろうか?



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ピクニックガールの少女-8

ここは42番道路。こちらエンジュとチョウジ間、進むのは暗闇か深い青か。


 

無事コガネからエンジュに辿り着いた私達はまた観光をしたがるツヴァイを止めて、目的地へと向かうべくエンジュの東方面、42番道路へと足を進めていた。

 

 

「…本当にここを行くしか無いのね」

 

 

「はい。私達にはこの水路を通る術はありませんので」

 

 

その言葉を聞き、私は再度目の前の看板を見る。『ここはスリバチ山。中は大滝の洞窟』………そして再び洞窟の中を覗く。

 

 

………真っ暗だ。

 

 

そこから目を離し、今度は看板から右側に目を向ける。

 

 

水は深い青に染まっている…。ドライの言う通り私達にはここを渡る術は無い。何度も確認したこの事実により私は道を決めざるを得ない。

 

 

「…分かった。この洞窟の方を通るわよ。大体の案内は頼むわよ。ドライ」

 

 

 

 

 

 

 

やはり洞窟の内部は暗く、前も少ししか見えないレベルだ。周囲に警戒し、ツヴァイとドライを出して戦闘態勢を取りつつ私達は進む。

 

 

「ドライ、そういえば貴方はどうやってここを通ったの?」

 

 

私は前を進むドライに聞く。どうやらドライは前に一度ここを通ったことがあるようで、多少は道を覚えているようだ。

 

 

「あの時は彼の手持ちであるリリーラのフラッシュを利用してここを抜けました」

 

 

「あ、ケイブさんの時ね。………フラッシュか」

 

 

ドライの声が前から聞こえる。ドライが一度通った時というのはケイブさんといた時か、成程。フラッシュ…確か周囲を明るく照らす技だったか。

 

 

「!…あ、ねーちゃん!」

 

 

「…どうしたの?」

 

 

その会話から私の近くのツヴァイが私に何か思い付いた様で私の服の袖を掴む。…暗闇でいきなり掴むのは正直止めて欲しい。ちょっとビビったわ…

 

 

「ツヴァイならフラッシュ出来るよ!…ほら!」

 

 

そう言ってツヴァイは上に向かって電撃を放つ。その電撃は一瞬だが周囲に光と悲鳴をもたらした。光によって少しだけ周囲が把握出来た。完全なフラッシュではないが効果は充分だ。

 

 

………ん?悲鳴?

 

 

「ツヴァイ、もう一度お願いしていい?ちょっと前気味に」

 

 

「…えい!」

 

 

私の指示にツヴァイは今度は前方上斜めに電撃を放つ。先程と同じく一瞬だが周囲が照らされる。その際に私は自分の周りを見る。………あ。

 

 

「あばばばば…何してくれとんじゃ、ワレェ…」

 

 

私の近くにツヴァイの電撃によって痺れた青色の萌えもんがいた。…ごめんなさい。傷薬と麻痺直しは用意しますので。

 

 

 

 

 

 

「大体お前らなぁ!洞窟でのマナーが成っとらんわ!電撃なんて使ったら野生の萌えもんに迷惑掛かるやろ!」

 

 

「すみません…」「ご、ごめんなさい…」

 

 

青色の萌えもんを治療するとその萌えもんは私とツヴァイに説教を始めた。今回のことは私達に非があるので正座して話を聞く。一方、ドライはこの萌えもんに敵意が無いことを確認すると周囲の警戒を行い始めた。

 

 

「はぁー!しかもジョウト界のマスコット筆頭マリル様になぁ!良い度胸やで!あんたら、いつもここ通るおっさん見習えや!」

 

 

「すみません…」「ご、ごめんなさい…」

 

 

どうやらこの萌えもんはマリルという萌えもんのようだ。…こんな喋り方でジョウトのマスコットなのか。ジョウト地方の人達は変わってるわね。ホロン地方出身の私はそう思う。

 

 

「…すまなかったな。以後気を付ける」

 

 

「おっ!あんた…」

 

 

暫くマリルの話を聞いているとドライがマリルに話しかける。…その様子から察するに二人は知り合いの様だ。なら早く見逃す様にお願いしてね、ドライ。私は大丈夫だけどツヴァイが正座の限界みたいだから。

 

 

「えーと、あんたは…あれやろ!前に…」

 

 

「ケイブという先程貴女が話していたおっさんとここを一度通ったことがある。貴女と直接言葉は交わしてないがな。まぁ…お嬢やツヴァイにも悪気は無いのだ。どうかここは穏便に…」

 

 

ドライが話を纏めようとしてくれている…。よし、その調子よドライ。

 

 

「あー、いたなー…」

 

 

 

 

 

 

「フラッシュ前におっさんの腕掴んで引っ付いてたあんさんか!」

 

 

シュッ…!

 

 

マリルの朗らかな声が聞こえた後、何か空気を裂く様な音がする。何かしら、私には暗くてよく分からない。一応、私は周囲の警戒をする。その後小さな悲鳴とドライの声がうっすらと聞こえる。

 

 

ドライの声が上手く聞き取れず、聞き耳を立ててから暫くするとマリルが大きな声で私達に呼び掛けた。…その声によって結局ドライが何を言っていたのかは聞き取れなかった。

 

 

「や…おっさんの知り合いならチョウジ側の出口までご案内しまっせ!」

 

 

「え…良いの?」

 

 

「ふ、ふぅー…痺れる…」

 

 

急にマリルは態度を変え、私達の前をゆっくりと歩く。彼女の歩きには迷いが無い。慣れた道なのだろう。

 

 

しかし急にどうしたのだろうか?その言葉にツヴァイが正座を解いて安堵している。私はその様子の変わりように疑問を持ちマリルに聞く。

 

 

「ま、任せて下さいな!」

 

 

………そういうなら良いか。こうして私達はマリルの案内で無事スリバチ山を抜けることが出来た。そして出口に辿り着き、私達はマリルにお礼を言う。

 

 

………その時にドライの時だけ私やツヴァイに比べてお礼を言う時間が長かった様に感じた。

 

 

…まぁ知り合いなら色々積もる話もあるんでしょうね。



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遺跡マニアのおじさん-8

ここは37番道路。三本のぼんぐりの木はエンジュへの導きの木。


 

俺達はコガネシティから北に向かい、エンジュまで後少しという所まで来ていた。

 

 

向かう道中に嬢ちゃんは無理だとしてもあのねーちゃんには会えるのではと思ったが結局会わなかった。結構彼女の旅の脚は早い様だ。

 

 

…でもそれで良いのかもしれない。自分の力だけでアサギに辿り着くくらいの力量は今後考えられる事態の際には求められるだろう。坊主や嬢ちゃんも同じだ。

 

 

まぁ俺が彼女達に追い付けなかった理由は他にあるんだがな…その理由である後ろを見る。

 

 

「………」

 

 

「………」

 

 

この不機嫌な二人だ。

 

 

…なぁ、せめてアノプスは喋ってくれ。お前が黙ってるのは珍しいから怖い。リリーラの方は何時もと変わらなそうだが不機嫌そうなオーラ滲み出てるぞ。…あ、そのオーラで野生のオドシシが逃げた。

 

 

まぁコガネからこの状態になった原因に覚えが無い訳では無い。…でもそのことに触れるのが怖かった。

 

 

「…アイツを呼んだのが駄目だったか?」

 

 

「………別に」

 

 

アノプスがむすっとして呟く。…言葉に反して図星みたいだ。

 

 

「まぁそもそも来てくれるか分からんぞ。アイツのことだからなー」

 

 

俺はそう言って笑うとリリーラが口を開いた。その珍しいことに驚きながら彼女の話を聞く。

 

 

「………来るよ」

 

 

「………だって、貴方が呼ぶのだから。絶対来る」

 

 

………珍しいリリーラからの言葉だ。リリーラがそう言うならそうなのだろう。俺は長年の付き合いから察する。そしてそう話す様子からもこの不機嫌な理由が分かった。………面倒な奴等だ。

 

 

俺はしっかりと二人の方を向いて話す。

 

 

「そうか。ならアノプス、リリーラ…」

 

 

「改めて頼もうか。俺を手伝ってくれ。俺も只のおっさんだ。お前ら抜きじゃ何も出来ない」

 

 

二人が不機嫌な理由…それは『自分達が信頼されていないのではないか』と思ったことだろう。だから俺が他の奴に頼ったのが許せなかったのかな。

 

 

別に信頼していない訳では無い。あのロケット団の連中相手にアノプスやリリーラならば勝てるだけの力量を俺は知っている。しかし何が起こるか分からないのだ。この問題には万全を期したい。

 

 

…それは二人を傷付けない為でもある。

 

 

「…しゃーないなぁ。ケイブさんは」

 

 

「………」

 

 

アノプスは俺のお願いを聞き、呆れた様に話し出す。リリーラは俺の方をじっと見ている。

 

 

「…分かった、手伝うよ。でもさ…」

 

 

だがアノプスは話すにつれ声量が落ちていく。最後の方は掠れている。

 

 

「俺達も只の萌えもんだ。ケイブさん抜きじゃ何も出来ないんだ、だから…」

 

 

「………」

 

 

「………分かった。一緒に頑張ろうな」

 

 

掠れて聞き取りにくいお願いに対して俺はしっかりとした声で返す。すると二人もはっきりと答えてくれた。

 

 

「…おう!」「………うん」

 

 

…良かった。少しは機嫌が良くなった様だ。その様子に俺は安堵する。

 

 

………まぁアイツを使わなくて良いのが一番の理想だな。大丈夫…

 

 

コイツらは強いんだ。並みの萌えもん相手じゃ負けねぇよ。



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理科系の女-8

ここは39番道路。仄かに潮香るアサギ前の段々道。


 

「ねぇ、ライ」

 

 

私は段々道の中腹辺りでライに話を振る。今、話を振るのはライだけだ。何故なら…

 

 

「何?マスター?」

 

 

「貴女一人だけで下のトレーナー達と戦えるかしら?」

 

 

「…キツいねー」

 

 

ライは段差の下のトレーナー達の方を一瞥するとそう言った。

 

 

そうよねー。でも今戦えるのはライだけなのよ。………エレ?エレはね…

 

 

「…んー。むにゃむにゃ…モーモーミルク天国だぁ…」

 

 

横で地面に寝そべっている眠り状態のエレを見る。何度か顔を叩いたが起きる気配は無い。…私は諦めてエレをボールに戻す。

 

 

「何で最後に催眠術食らっちゃうかなぁ…。まぁ私にも問題はあるんだけど」

 

 

先程のバトルを思い出す。エレは相手を倒す直前に油断し相手のニョロゾから催眠術を食らってしまった。絶対水タイプ相手だからって調子に乗ったわね。エレと…多分私も。そんなことを考えていると後ろから人の声がする。

 

 

「すみません。通りますね」

 

 

「あ、すみません…」

 

 

後ろからの声に私は横に動く。その声の主は薄い紺色の髪に頭から大きな一本の角を生やしていた。それに続き、赤ジャージの男と豪勢な赤服にロングのブロンド髪の女性が通る。

 

 

ってあの子は萌えもんか。普通の人間には角生えてないもんね。あら、でもどっかで…そう私が考えていると突然ライは前方の集団の紺髪の子に声をかける。

 

 

「…あ、ヘラちゃん!」

 

 

「ん?げっ…ストライク…」

 

 

声を掛けられた彼女は露骨に嫌そうな表情をする。………あ、思い出した。この人達はあれだ。

 

 

 

 

ドラ君と同じコガネルーキーカップ三位のトレーナーとその萌えもんだ。以前私は彼と一度コガネルーキーカップの予選で戦い、無事勝利したが結局本選では戦うことは無かった。

 

 

そしてこのライに声をかけられ、露骨に嫌そうな表情をしている萌えもん…

 

 

 

 

ヘラクロスは彼…赤ジャージの男の虫取り大会優勝の証だ。

 

 

 

 

 

 

「…で何?まだ私は怒ってるんだけど」

 

 

「いやー、ヘラちゃん。そんなカリカリしないでよー。あの時のオボンは悪かったって。あの勝ち誇った顔からのオボン盗られた時の顔の変わり様は…ププッ」

 

 

「…よし、お前をこの段差から突き落としてやる」

 

 

ライがヘラクロスと話をしている。話の内容は予選での試合のことだろうか。そして二人は話が終わった様でお互いに戦闘態勢に入っている。そんな様子を私とヘラクロスのトレーナーは苦笑して見ていた。

 

 

「…あの時はすみませんでした」

 

 

私は深々と目の前の男に頭を下げる。それに対し男は全く気にしていない様子だ。

 

 

「大丈夫ですよ。でも泥棒の技とは驚きました。結局本選でも活躍してた技ですから僕の読み不足でした」

 

 

彼は爽やかな顔でそう言う。別に狙ってやった訳じゃないのよね。

 

 

「…落ちろっ!」「…見切りー」「ちっ、相変わらずちょこまかと…」

 

 

戦うライとヘラクロスを尻目に私は男の方を見る。…何かが足りない。ふと私はそう思った。前に予選で会った時に比べて何かが足りないのだ。んー…

 

 

「…御主人様、そろそろお止めになった方が宜しいのでは?」

 

 

「…うん、そうだね」

 

 

男の後ろにいた萌えもんが男に声を掛ける。この子は………赤服にブロンド…いや、でも予選の時と大違いよ。予選の時はヤドに怯えて男にくっついてたあの子とは。でも一応聞いてみるか。私は自分の中の予想を男に話す。

 

 

「…もしかしてあのガーディ?」

 

 

そう言うとその萌えもんが優雅に笑い、私の言葉を訂正した。

 

 

「あら、あの頃の私はお忘れ下さいな」

 

 

「今の私はウインディですわ」

 

 

ウインディ…ガーディから進化したのか。…しかし進化すると外面はともかく内面までこうも変わるのか。彼のウインディを見るとそう思う。

 

 

「おっ、分かってくれたか!コイツも全然変わってしまってなー。ガーディの頃は俺に噛み付いたりしてたのになぁ…」

 

 

「…ふふ、あの頃の事はお忘れ下さい。御主人様」

 

 

ウインディは優雅に笑い話を聞いている。確かに彼に噛み付いたりしたわね。あ…それだ。さっき何かが足りないと思ったのは。

 

 

「前みたいに水タイプに怯えて引っ付いたりや構って欲しくて噛み付いたりもしなくなってな…」

 

 

「ご、御主人様…?そろそろ…」

 

 

彼の話にウインディの優雅な表情が崩れ始める。

 

 

「昔は風呂を嫌がって一緒に入らないと嫌だとか言ったり、寂しいから一緒のベットで寝たりとかもしなくなったなー………」

 

 

「お、お戯れはその程度にっ…!」

 

 

『結構変わるんだな、進化ってのは』と言う彼の言葉は私の耳に僅かに届いたくらいだ。僅かにした聞こえなかったのは…

 

 

 

 

 

 

「ああっ…御主人様!すみません!御無事でしょうか!?」

 

 

彼がウインディに突き飛ばされて段差の下に落ちてからだろう。彼に対して下のトレーナーとその萌えもん達が近付いていく。…無事じゃなさそうよ、ウインディさん。

 

 

落ちた彼はその様子に困惑するも、周りにこう言い出す。

 

 

「あ、すみません。今萌えもん手元にいなくて…」

 

 

それを聞いた下のトレーナーは周りに集まるのを止めて近くにいた一人がアサギの方を指差して何かを彼に話している様だ。…何だ、こうすればバトルにならないのね。私もそれで…

 

 

「燕返しっ!」「…おっと」「燕返しっ!!…また見切りとは卑怯な!」「ふふーん」

 

 

そう思っていると横で戦っていたライとヘラクロスも段差の下に落ちる。…落ちた際に付近の萌えもんを巻き込んで。その様子に下のトレーナー達は目の色を変えて下に落ちた彼に詰め寄る。

 

 

「テメェ、よくも俺のクラブを!バトルじゃコラぁ!」「あぁ、ピカチュウちゃん!…貴方卑怯ですわよ!」「ニャース!大丈夫!?…バトルよ!容赦しないわ!」

 

 

 

 

あーあ。

 

 

無茶苦茶ね。…私は下に落ちた彼に呼びかける。

 

 

「ねぇ!えっと…名前何だっけ?」

 

 

その周囲に困惑する彼を呼ぶ。その近くには様子を察したのか青ざめるヘラクロスと何処か余裕のあるライがいる。そしてそこに向かう為上から周りの萌えもんを薙ぎ倒しながら近付くウインディが見える。それにより更に状況は悪化する。

 

 

「ぼ、僕!?エリトだ!」

 

 

「ありがと!私はセーレ!で、エリト君…」

 

 

 

 

「私と一緒にコイツら倒しましょ!」

 

 

その言葉がこの39番道路全体を巻き込んだ乱戦の始まりのゴングになった。

 

 

そして…

 

 

 

 

 

 

「ふぁぁ…」

 

 

「ん?何で皆寝ているのですか?」

 

 

薄れゆく私の意識の中、ボールの中のエレの呟きが聞こえる。『あ、あんたは…!』と少し怒りそうになるがそんな余力も今の私には無い。

 

 

あー…

 

 

…あんたは知らなくて良いのよ。うん。



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赤き瞳に映るもの-1

ここはチョウジタウン。ようこそ忍者の里へ。


 

スリバチ山を抜け、チョウジに辿り着いた私は萌えもんセンターで萌えもんの回復をしてその後、真っ先に目的地に向かおうとしていた。

 

 

しかしそれは警備員達に遮られることになる。そして彼等の内の一人が私にこう言った。

 

 

「あ、今はここは通行止めなんだ。ごめんね」

 

 

まぁこうなるわよね。この先…

 

 

 

 

怒りの湖で起こっていることを考えればそれも無理はない。私は状況の確認の為警備員さんに何があったのか聞いてみる。願わくば私の聞いた話とは違って欲しいという意味を込めて。

 

 

「…何かあったんですか?」

 

 

「今、湖の周りにギャラドス達が集まってるんだよ。まだ何も無いけれど危ないからね」

 

 

「あぁ…やっぱり…。こんなことして…」

 

 

私は小声で呟く。やはりコガネの萌えもんセンターでケイブさんに聞いた話通りだ。そしてその話に寄れば…

 

 

「しかも怒りの湖の伝説のね…」

 

 

 

 

「赤いギャラドスがいるらしいよ。まさか本当にいるとはね」

 

 

警備員さんの話はケイブさんの話と同じ内容だ。…ならば私がここに来た意味はあったということだ。でもどうしようか。怒りの湖へは現在通行止めなのよね。

 

 

………

 

 

少し警備員さんに話をしてみるか。無理なら裏道でも探して強引に入ろう。あまりそういうことはしたくないけど…

 

 

「………多分ですけど、…それ私の萌えもんかもしれません」

 

 

そう言うと警備員さんが軽く笑う。まぁそうなるわよね。

 

 

「赤いギャラドスがかい?冗談は程々に…」

 

 

「そのギャラドス…火を吐くでしょ。聞いた話によると」

 

 

私の話を冗談と思い、帰らせようとする警備員さんの表情が私の言葉により固まる。そして一瞬笑い、私にこう言った。

 

 

「普通そんなギャラドスがいないよ」

 

 

確かに普通はそうだ。通常のギャラドスでも火を吐くことは出来るらしいがそれはトレーナーの萌えもんの場合だ。基本的には火は吐かない。

 

 

「電気を出すワニノコやエスパーを使うジュプトルじゃあるまいし」

 

 

しかし警備員さんはその後驚くべきことを言い、私を見る。…どういうことだ、冗談としては正確過ぎる…

 

 

「…何てね、冗談だよ。深く考え過ぎさ」

 

 

黙っている私に対し警備員さんは軽く笑う。そして…

 

 

 

 

「ちょっと試したのさ。通っていいよ、ホロンの姫さん」

 

 

「………!貴方は、いや貴女は…」

 

 

そう言って帽子を取った警備員さんの姿を見て驚く。女性だったのか。そして私のことをここまで知っているのか…!つまりこの人が…

 

 

「話はアイツから聞いてるさ。ただちょっとあんたを一目見たかったのさ」

 

 

「じゃあ貴女が所長…さん?」

 

 

「ん、正解」

 

 

私の問いに対してそう応えると彼女はその場を離れチョウジに戻ろうとする。その去り際に私にこう言った。

 

 

「じゃ湖の馬鹿をどうにかしておくれ、頼んだよ」

 

 

「…はい」

 

 

あの子のことを頼まれるのは正直不安だが私がどうにかするしかない。そう決意し私は言葉を続ける。

 

 

「赤いギャラドス…フィーアのことは任せて下さい」



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ヤドンの井戸の底で-1

ここはヒワダタウン。萌えもんと仲良しの町。


 

僕達は無事ウバメの森を抜けヒワダタウンへの入口に着いた。そこにある看板に目を通す。…『萌えもんと仲良しの町』か。

 

 

「おおー、ようこそトレーナーさんー」

 

 

「あ、どうも…」

 

 

そして早速看板の近くにいたヤドンに挨拶される。僕はそれに応じて挨拶を返す。いきなりだったが悪い気分ではない。

 

 

…成程。萌えもんと仲良しの町か。このフレンドリーなヤドンを見れば納得出来るな。町中を見るとここ以外にも各所でヤドンの存在が確認できた。

 

 

「ふむ、町中まで萌えもんが自由にしているとは…」

 

 

「普通はこうはならないからねー」

 

 

「そうでしょうな」

 

 

町中を見てつーとろすろすもこの町の感想を口々に言っている。一方、ヤドは何処か誇らしげに頷いた。自分と同じ種族のヤドンが一杯いるからだろうか。それってやっぱり嬉しいものなのかな?

 

 

折角だからこのヤドンにヒワダの萌えもんセンターの場所を聞いてみるか。まずは一旦萌えもんの回復とセーレさんにヤドを返す準備が必要だ。それが終わったらヒワダジムに赴こう。

 

 

「ねぇ、萌えもんセンターは何処にあるかな?」

 

 

僕は入口のヤドンに尋ねる。するとヤドンはしっかりと答えてくれる。…見ず知らずの人間に対してここまで好意的なのか。野生かトレーナーの萌えもんなのか分からないが凄いことだ。

 

 

「暫く真っ直ぐ行って左側にありますよ。分からなくなったらまた私含め周りのヤドンにお尋ね下さいー」

 

 

「分かったよ。ありがとう」

 

 

僕がそれに対してお礼を言うと僕の萌えもん達も礼を言う。

 

 

「うむ、感謝する」「どうもー」「了解ですぞ」

 

 

「いえいえー…」

 

 

じゃ早速萌えもんセンターに行こうか。暫く行って左側だったかな。左側を見ながら歩き始める。するとちょっと間を置いて後ろから先程のヤドンの声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

「………んん!?お、お頭ぁ!?…皆ー!」

 

 

後ろのヤドンがそう叫ぶと周りからヤドン達が現れる。そして入口のヤドンの前に集まった。その様子を僕を振り返って見ていた。ど…どうしたのだろうか?

 

 

「確保ー!!」

 

 

入口のヤドンがそう叫ぶと周りのヤドン達は僕達の方へと突っ込んでくる。…え!?何で!?

 

 

えっ、攻撃…は駄目だよな。ど、どうすれば…逃げるか?…僕がそう考えてる内に僕達の方へと突っ込んで来たヤドン達は…

 

 

 

 

ヤドを担ぎ上げ何処かに行ってしまった。

 

 

「…んー、別にドラちゃんに敵意がある訳じゃないみたいだねー」

 

 

「うむ。私や主、つー殿には目をくれて無かったな」

 

 

攻撃態勢を取っていたつーとろすろすが構えを解く。…え?攻撃するつもりだったのか、二人共!?攻撃したら流石に不味いだろ…

 

 

でも今はそれ所じゃない。ヤドが攫われてしまった。…追いかけないと!

 

 

僕はヤドン達が向かっていった方向に走り出す。それにつーとろすろすも続いていった。

 

 

…因みに町の道中に萌えもんセンターがあったけどそんなの寄ってる暇はないな、うん!



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心まで鋼鉄に-1

ここはアサギシティ。潮風香る港町。


 

僕はアサギの港において釣糸を垂らしながら昨日のことを思い出す。

 

 

とんだ災難だったな。あの人…セーレさんのことだ。今考えてみれば自分があの場を突破する為に僕達の力を利用したとしか思えない。

 

 

彼女自身はあまり萌えもんを使っていなかったというのもその予想に拍車を掛ける。あの大会で使っていたヤドンを彼女は使っていなかったのだ。彼女は今手元にいないと言っていたが正直疑わしい。

 

 

だが悪いことばかりでは無い。後ろで模擬戦をしているウインディとヘラクロスを見る。ウインディが守りを捨ててヘラクロスの懐に飛び込み突撃しているのが見えた…まだ完璧には程遠い動きだが動作があの技に似ている。

 

 

インファイトだ。ウインディ曰く昨日の戦いの最中で習得しかけたらしい。しかけたというのは萌えもんの力量の上昇や技マシンの利用により習得したもので無いからだろう。しかし技への素養はあるようで経験を積めば習得出来るだろう。

 

 

そしてここからは理想論に過ぎないがもしかするとウインディがインファイトを習得すればヘラクロスにインファイトを教えられるかもしれない。ヘラクロスは格闘萌えもんであり、インファイトの技を使用する姿は熟練のトレーナーのバトルにおいてもよく見られている。だからインファイトを使える筈なのだ。

 

 

今後の指針を纏めてる中、全く釣糸が動く気配はない。しかしこの状況を動かす人が現れた。

 

 

………またあの人だ。僕の萌えもんの模擬戦の様子を見ると僕の横に座り、お願いをしてくる。………それは無理だ。簡単に出来ることではない。僕はやんわりと断ろうとする。

 

 

そんな中彼女のストライクが僕のヘラクロスに泣き付いている。…情けない姿だ。ヘラクロスが以前に『アイツは気に食わないが自分と同じかそれ以上の力量』と語っていたのが嘘みたいだ。

 

 

ヘラクロスは振り払おうとストライクに何度か攻撃しているが離れる感じはない。どうやら力を振り絞って引っ付いている様だ。…ん?

 

 

もしかしてな…日暮れまでならあの二体…エレブーとストライクも含めて訓練しても良いか。勝手に後ろで戦わせるだけだが。そう彼女に伝えると嬉しそうにお礼を言ってくる。結果として彼女の思惑通りなのだろう。

 

 

そんな中、暫く目を離していた釣糸に気が付き糸を引き上げる…そして餌を付け、また海面に落とす…。その動作を隣の彼女が見て微笑んだ。…何がおかしいんだ。

 

 

………狙いの萌えもん?このアサギの港だぞ。アイツに決まっている。まぁ今もここで釣れるのかは微妙な話だがな。昔は釣れたが…という噂話もある。すると彼女は小さな機械を取り出し周りを見る。暫くするとその機械から…ピコン!という音が鳴った。

 

 

そして彼女は少し悩みながら僕にこう言う。『釣りの時はね、釣糸だけじゃなく周りも見なさい』………これは馬鹿にされているのだろうか?そう言った彼女に一応お礼を言い、釣りを続ける。

 

 

そんな中結局当たりは掛からず、日が暮れる…すると彼女とその萌えもんはお礼を言って立ち去っていった。…結局利用されただけじゃないか。僕は溜め息を吐く。

 

 

………帰るか。ウインディとヘラクロスにも呼掛け、帰りの仕度をする。既に辺りも暗くなり、人が少なくなっていた。

 

 

だから気が付けたのだろう。

 

 

港にいた頭に僅かだが電気を溜めている萌えもんに。それに驚き、僕がその子を凝視しているとその子は慌てて海に入ろうとする。

 

 

………逃がすかっ!行けっ!ウインディ!

 

 

そして翌日…

 

 

 

 

 

 

「あら、ゲット出来たのね」

 

 

「………そっちもゲット出来たみたいですね」

 

 

「あ、分かるかしら!」

 

 

「そんな分かりやすく付けてれば分かりますよ。…おめでとうございます。確かスチールバッジでしたか」

 

 

「そうそう!貴方のお陰よ!…貴方もゲット出来たみたいで良かったわ」

 

 

 

 

「今、貴方の後ろに隠れているチョンチーをね………やっぱり港にいた子じゃない」

 

 

「…何でいるのが分かってて教えてくれなかったんですか?」

 

 

「んー、こういうのはね、待った方が良いのよ」

 

 

「何故?」

 

 

 

 

「私の釣りの経験からよ!」



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赤き瞳に映るもの-2

ここは怒りの湖。別名ギャラドス湖。


 

『ツヴァイ、お前にはまだ危険だ。下がってろ』…先程ドライねーちゃんから聞いた言葉だ。そして現在、ツヴァイはその言葉通りに怒りの湖に向かうドライねーちゃんとホロねーちゃんの後ろを歩いている。…ツヴァイはずっとこのままでいいのかな?最近そんなことを考えている。

 

 

『フィーア相手ならバトルもあり得るからね 』…これはホロねーちゃんの言葉だ。…そうかな?フィーアねーちゃんはちょっと怖いけどいつもツヴァイに優しくしてくれたよ?…でもツヴァイはそれを言い出せないでいた。ツヴァイが言うことはきっと間違っているから。

 

 

「…!お嬢…」

 

 

「えぇ…」

 

 

怒りの湖へと後少しかという草むら辺りでドライねーちゃんの足が止まり、それに応じてホロねーちゃんの足も止まった。ツヴァイはいきなりの足が止まったのに反応出来ずにホロねーちゃんの足にぶつかってしまう。…どうしたのかな?

 

 

すると前方から三体の萌えもんが現れ、ツヴァイ達の周りを囲む。その萌えもん達はフィーアねーちゃんの赤い服を青に変えた様な容姿だった。ただ、フィーアねーちゃんと違うのはこちらを見る目に優しさが無いこと。…感じるのは明確な敵意だ。

 

 

「おい、トレーナーさん。悪いけど今ここは通行止めなんだ。…痛い目みたく無きゃ引き返しな!」

 

 

「えっと…赤いギャラドスに用があるのよ。多分私の萌えもんだから」

 

 

囲んでいる萌えもんの一人がそう言ったのに対してホロねーちゃんはその萌えもんに対して説得をするが相手はそれに応じる気は無いみたいだ。

 

 

「…お前が姐御のぉ?嘘を言うな、姐御が話していた方は白いドレスを着てたらしいぞ」

 

 

白いドレス…。それは今のピクニックガールの服装になる前の服装だ。続けて囲んでいる萌えもんの一人が言った。

 

 

 

 

「後、胸が貧相らしいぞ。お前は胸が貧相だが服が違う。…引き返せ!」

 

 

そう言って周りの萌えもん達が笑い出す。…むむっ!失礼な!別にホロねーちゃんは貧相じゃないぞ!そう言おうとする前にホロねーちゃんが前にいるドライを手招きし、それを見たドライねーちゃんはツヴァイ達の側に来る。

 

 

そしてホロねーちゃんはツヴァイ達に小声で素早く呟いた。

 

 

 

 

「………相手はギャラドス。ツヴァイはまずアイツらにスパークで仕掛けなさい。そうしたら恐らくツヴァイに狙いが集まるからそうしたらボルトチェンジ。その後、ドライに前線を任せます。そしてまたタイミング見てツヴァイが仕掛ける…指示は任せて。基本はこのローテで行くわ。ツヴァイの電気技で相手を仕留めつつ、ドライで援護ね。…徹底的にやるわよ。一匹たりとも逃がさない様に」

 

 

「…了解です」

 

 

「え、えっと…はい!」

 

 

ツヴァイは余りにも素早い指示に戸惑いながらも応じる。でも相手の萌えもん達…ギャラドス達はツヴァイより大きいのに…えぇ、あれに突っ込むの…?

 

 

「…お前ら、とっと帰りな!こっちも無用な戦いはしねぇからよ!」

 

 

ツヴァイ達が話しているとギャラドスの一人がそう怒鳴った。それに対し、ホロねーちゃんは少し笑った。

 

 

「あ、すみません。すぐ帰りますから…ねっ!」

 

 

そう言ってホロねーちゃんはツヴァイの背中を押して、目の前のギャラドスに突っ込ませる。…あわわ、スパーク!ツヴァイは慌てて体に電気を纏い、体格の大きいギャラドスに体当たりする。

 

 

するとスパークを当てたギャラドスが呻き声を上げて倒れる。そしてギャラドスから離れる。まだ体の周りに電気が残っている。…あれ?ツヴァイってまだ電気を纏ってるっけ?いつものスパークならもう電気が切れてると思うんだけど…

 

 

「っ…コイツっ!」

 

 

仲間のギャラドスが倒れる様を見た残りのギャラドス二体が激昂し、こちらに向かってくる。そしてその様子に何故かホロねーちゃんとドライねーちゃんが驚いている。…え?ホロねーちゃんの話だとこうなる予定だよね?予定通り、ツヴァイはボルトチェンジで一旦引くよ?

 

 

 

 

あれ?

 

 

ギャラドスさん達…

 

 

身長が少し縮んだ?さっきよりも体格の大きい様に感じない…ま、いっか。ボルトチェンジだ。ツヴァイは電撃をギャラドス二体に放って一目散にホロねーちゃん達の所に戻る。そしたらドライねーちゃんが前に…

 

 

出ない。戻ったツヴァイをまじまじと見ている。あれ?どうしたの?早く行かないと…そう思い、ギャラドス達の方を見る。

 

 

「ドライねーちゃん、早くっ………え?」

 

 

「いや、もう充分…だな」

 

 

そこには倒れたギャラドスが三体いた。…あら?それを見たドライねーちゃんがそのギャラドス達から目を離し、ツヴァイの方を見てくる。

 

 

「ツ、ツヴァイ貴女…」

 

 

そしてホロねーちゃんもツヴァイの方を見て驚いている。…?あれ?何か…ツヴァイはホロねーちゃんの近くに寄る。

 

 

目の前が何時もの足…膝の辺りじゃない。これはホロねーちゃんの腰辺りだろうか。

あ、ツヴァイもしかして…

 

 

「…進化したのね」

 

 

 

 

………大きくなってるー!?



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ヤドンの井戸の底で-2

ここはヤドンの井戸。別名雨降らしの井戸。


 

私達はヤド殿を追って、ヒワダタウンから少し離れたヤドンの井戸と呼ばれる場所へと辿り着いた。

 

 

今、そこの入口を塞ぐヤドンに対して主が説得している。それを私は後ろで見ていた。

 

 

…ヤド殿はどうしたのだろうか?その疑問が頭に浮かぶ。抵抗もせずにヤドン達に運ばれていく彼女を見るにこのことは承知だったのか?ならば予め言って欲しかったな。

 

 

…もしかするとこのままあの約束は有耶無耶になってしまいそうだ。あの約束とはコガネを出てすぐの時の話だ。あの時ヤド殿は『強い技を教える』と言ったからあの場は彼女の同行を許したというのに。

 

 

そんなことを考えている時にふと隣のつー殿が目に入る。彼女はぼーっと主とヤドンの方を見ている。…先程とは大違いののんびりとした瞳だ。

 

 

先程ヤドン達が私達に近付いた時…つー殿の瞳はとても鋭かった。私よりも早く戦闘態勢を取っていた程だ。まぁ結果として私とつー殿の考え…主を襲う敵かという予想は杞憂に終わった訳だが。

 

 

「…んー?どうしたのー?ろすろすー」

 

 

「あ、いや…主は大丈夫かなと…」

 

 

 

私がつー殿の方を見ていると彼女もこちらを向き、どうしたのか聞いてきた。それに対し私は今考えていたことをそのまま口にする。するとつー殿はゆっくりと答えを返した。

 

 

「………まー大丈夫でしょー。…いやー、ろすろすは主思いだねー」

 

 

…最後の方は私へのからかいだろうか。ニヤニヤしながら私に言ってくる。べ、別に心配してる訳じゃないぞ!…それに主思いなのはどっちだ。つー殿も同じ様なものだろう。

 

 

しかしつー殿の大丈夫という発言は信頼の出来るものかもしれない。主とヤドンの様子も見る限りは悪くなさそうだ。…つー殿はたまに普段ののんびりとした様子からは想像できない程鋭いのだ。………私と初めて会った時からそうだったな。

 

 

「つー、ろすろすー。どうやら入っていいらしい…よ?」

 

 

主が私達に呼びかける。…やはり大丈夫だったようだ。そして入口にいたヤドンが中に入り、私達を手招きしている。主が手招きに従い中に入っていく。それを見た私とつー殿も続き、中に入るのであった。

 

 

 

 

 

 

井戸と呼ばれているからには中は薄暗いものかと思ったが中は明るかった。そして私達が向かう先からは騒ぎ声が聞こえる。

 

 

「ささ、どうぞー」

 

 

騒ぎ声が聞こえる前の階層の場所で私達を案内していたヤドンが入口へと戻っていく。それを主は目で見送り、私達の方を向いた。

 

 

「…どうする?」

 

 

「どうするってさー、行くしか無いでしょー」

 

 

主の問いに対しつー殿が答えた。彼女の言う通りだ。行くしか無かろう。私は彼女の考えと同じことを口にする。

 

 

「だな、ヤド殿にはどういうことか話して貰おう」

 

 

「…だよね。よし、行こうか」

 

 

主が意を決して下の階に降りる。下の階に降りて見えたのはヤドン達が笑ったり、騒いだりしている姿だった。側には食べ物や飲み物もある。その様子に驚いていると私達はヤドン達に絡まれる。

 

 

「お頭のトレーナーさんだー、さぁどうぞー」「いや、僕はお酒は…」「むむ、ならこちらをー」「………これは中々」「でしょー」

 

 

主がヤドンに勧められた食べ物に目を引かれ、ヤドン達の輪に混ざっていく。…やれやれ、主は流されやすいからな。つー殿とヤド殿を探そう…

 

 

「…おー、うまー」

 

 

いつの間に貰ったのだろうか。つー殿は飲み物を手にしていた。…そしてヤドン達に新しい飲み物の容器を貰い、また口にしている。…これはつー殿も駄目かもしれない。

 

 

その様子に私は呆れて私自らが探すしかないなと決心する。…さて、ヤド殿は何処だ。私はヤドン達に勧められる食べ物や飲み物に目を引かれつつも我慢して辺りを見渡す。

 

 

………いた。ヤド殿が奥で何か摘まみながら大きな兜の様なものを被ったヤドンに似た萌えもんと話している。そこへと私は向かう。

 

 

すると近付く私に気が付いたのかヤド殿と兜の萌えもんがこちらを向き、私を呼ぶ。

 

 

「ようこそ、ろすろす殿。さぁどうぞー」

 

 

「…要らん。これはどういうことだ」

 

 

ヤド殿が食べ物と飲み物を勧めてきたが私はそれを拒否する。すると兜の萌えもんが小さく息を吐いた。

 

 

「…ようやく話が出来そうな奴が来たな。この馬鹿とは違って」

 

 

「…はは、酷いですぞ。ヤドラン」

 

 

「お前の様な奴は儂は知らん」

 

 

兜の萌えもん…ヤドランはヤド殿を一瞥して冷たく言い放った。一方、ヤド殿は全く気にしていない様だ。

 

 

「むむー、長年の付き合いなのに…」

 

 

ヤド殿がそう呟くと自分の容器に飲み物を注ぐ。そしてそれを手にした。

 

 

「えっと…ヤド殿。改めて聞こう。これはどういうことだ。貴女は…」

 

 

二人の関係に今一入りきれない私は改めて話を切り出す。すると兜の萌えもんが私の話に同調した。

 

 

「そうだ。…何故戻ってきた」

 

 

「…んー、質問が多いですなー。ではまずヤドランの質問からー」

 

 

 

 

 

 

「ヤドは戴冠の儀を受けに来ましたぞ」

 

 

そう言ってヤド殿は笑い、飲み物を口にした。



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心まで鋼鉄に-2

アサギジムリーダー、ミカン。鉄壁ガードの女の子。


私は目の前が真っ暗か真っ白な状態になりかけていた。その直前に見えるのはワンピースを着た女の子と側にいる灰色の髪の大きなポニーテールの萌えもんだった。

 

 

どうしてこんなことになったのかしら…。私はここまでのことをうっすらと消えゆく意識の中、振り返る。

 

 

 

 

 

 

39番道路の戦いの翌日、私はアサギシティの萌えもんセンターから手紙に書いてある場所へと向かっていた。

 

 

「ここってジムじゃない…」

 

 

ケイブさんが用意してくれた手紙に書いてある場所を確認する。うん、ここで間違いない。

 

 

今、私はアサギシティの萌えもんジムの目の前にいる。本当か疑わしく手紙の場所の部分を二度見する。…やっぱりここだわ。

 

 

ケイブさんの手紙によるとここにライが強くなれる方法があるらしい。…まぁそれを直接聞いたというか教えてくれたのは彼のリリーラなのだけれど。

 

 

じゃあ、入りましょうか。ジムの入口から中に入っていく。…すると、中にいた一人の少女が入ってきた私に対して食い付いてきた。

 

 

「…あ、ジムにご用でしょうか…!」

 

 

「えぇ、ちょっとね…」

 

 

この子はジムトレーナーかしら。私がそう答えると彼女は嬉しそうな表情になる。

 

 

「…分かりました!少々お待ち下さいね。…こちらでお待ち下さい」

 

 

「あ、ありがと…」

 

 

彼女は私に対して椅子に座って待つように勧めてくる。私がそこに座るのを確認した彼女はジムの奥へと向かっていった。…ジムリーダーや大人の職員でも呼びに行ったのだろうか。暇なので待っている間にエレとライのボールを眺める。

 

 

…ヤドがいない。結局間に合わなかったか。今日の朝に萌えもんセンターの連絡システムを使ってドラ君に連絡しようとしたが、連絡は出来なかった。なのでヒワダの萌えもんセンターにドラ君宛でメッセージを残しておいた。…彼はまだヒワダに着いてないのかしら?

 

 

「…すみません!お待たせしました…どうぞ!」

 

 

先程の少女からそう告げられる。それを聞いた私は立ち上り、彼女の後ろに付いていく。…彼女は何処か嬉しそうだ。

 

 

内部を少し進み、彼女が扉を開ける。…その大きな部屋の中には方々に岩が置かれている荒野の様なステージが見える。そして彼女は奥側へと進んでいく。

 

 

…あれ?この状況、ステージはちょっと違うけど見たことあるわよ。

 

 

「…え?バトル?あの…私違うんですけど…」

 

 

そう言い、私は手紙を出そうとすると奥へと進む少女の足が止まり、ゆっくりと私の方を向いた。

 

 

「………え?」

 

 

「あ…これもう戦う感じですか!?」

 

 

「い、いえ…違うんなら良いんですよ…はい…折角決め台詞も考えたのに…」

 

 

少女が小さく呟きながら目に見えて落ち込む。さっき待ってた時にこれを準備してたのかしら。…まぁわざわざ用意したならバトルしても良いかしら。手紙はその後に渡せば良いかしら。…落ち込んでいる彼女を見るとそんな気分になってきた。

 

 

「…違うわ!バトルよ、バトル!さぁやりましょう!」

 

 

「…やっぱりバトルの方でしたか!分かりました」

 

 

私の言葉を聞いた彼女が再び奥へと向かって行く。そしてある所で止まった。…あら?そこは対戦者用の場所でしょ?以前、ハヤトさんがいた場所だったような…

 

 

「…では始めましょう!私はジムリーダーのミカン。使う萌えもんは…シャキーン!!………え、えっと…」

 

 

…え?あ、あら?まさかこの子がジムリーダーなの?ちょっとはアサギジムのこと調べとけば良かったわ。というかまずジムバトルなら技登録とかバトルルールは…。後、ジャッジもいないのだけれど…

 

 

「は、鋼タイプです…。ど、どうでしょうか?」

 

 

そんなことを考えていると奥の少女が赤面して私に聞いてきた。…え?ごめんなさい。

 

 

「全く聞いて無かったわ」

 

 

 

 

そう言うと彼女の顔が固まる。

 

 

「………」

 

 

「………えっと…」

 

 

「………お、お願い!ハガネール!」

 

 

「ええっ!?…お、お願い!エレ!」

 

 

彼女がボールを投げ、萌えもんを繰り出してくる。それを受け、私は慌ててエレを繰り出した。

 

 

 

 

 

 

「ハガネール…ですか」

 

 

ボールから出たエレが対面の萌えもんを見据える。相手の灰色のポニーテールの萌えもん…ハガネールはミカンさん…?ちゃん…?………ちゃんでいいか。ミカンちゃんと相談している。

 

 

「…あぁっ!?間違えてハガネールから出してしまいましたっ…」

 

 

そんな言葉が微かに聞こえた。それに対しハガネールは呆れている。しかしハガネールは軽く笑い、こちらを向く。どうやら戦う気みたいだ。

 

 

…ハガネールか。エレのあの技なら充分にダメージを入れられる筈だ。相手の攻撃も怖いがまずはこちらから仕掛けるか。

 

 

「エレ!瓦割り!」

 

 

「……砂嵐です!」

 

 

私の指示を受けハガネールに向かうエレの前に砂嵐が巻き起こる。その砂嵐にエレは一瞬怯むが構わずハガネールに向かっていく。

 

 

「っ、逃がしませんよ…」

 

 

砂嵐が吹いてようがハガネールの姿や影は私にもうっすらと見える。…よし!エレは相手の場所を把握出来ている…。エレがハガネールに接近し手を手刀の形にし、ハガネールに攻撃する。

 

 

ハガネールはその攻撃に対し、少し下がろうとしていたがそこに留まった。…それならエレの攻撃は当たる…!

 

 

「…はぁっ!」

 

 

 

 

 

ガギィィィン!!!…部屋全体に嫌な音が聞こえる。その音に怯んだエレが攻撃に使用した右手を擦りながら後退しようとしている…。一方のハガネールはちょっと体を揺らすだけだ。

 

 

………これは効いているのかしら?でもエレの方が痛がってる様な…

 

 

「…アイアンテール!」

 

 

「………エレ!一旦…」

 

 

しまった。そんなことを考えてる場合では無い…!砂嵐の中、ハガネールのアイアンテールがエレを襲うのが見てとれる。そしてエレがこちら側に吹き飛んでくる。…大丈夫だろうか。鋼技だ。電気タイプのエレならまだ…。

 

 

しかし私の甘い予想は覆される。

 

 

「ま、まさかっ………くっ…」

 

 

吹き飛んだエレが膝を付き、そして倒れる。………ええっ、そこまで重い一撃だったの!?攻撃後に怯んだ状態でも無かったのに…私はエレが起き上がらないのを確認し、ボールに戻す。

 

 

そして私は二体目のライを繰り出した。ライはボールから出ると私にこう告げた。

 

 

「マスター、とりあえずあの嫌な音は警戒かな。ま、あのレベルなら近くじゃないとあんまり影響は無さそうだけどね…」

 

 

「嫌な音…?………あっ!」

 

 

ライの言葉で私は先程の嫌な音が鳴ったことを思い出す。…瓦割りの攻撃後に近くにいたエレは嫌な音をモロに聞いてしまったのか。だから防御が落ち、アイアンテールが致命傷になったのか…

 

 

「…もしかして今気付いた?」

 

 

「うん…。ライはどうにか出来る?」

 

 

私の様子から今気付いたのを察せられた。で、ライはどうにか出来るのだろうか…。私の問いに少し悩みライが答える。

 

 

「………んー、音は大丈夫だけど…問題はあの萌えもんの硬さだね。…こりゃキツいかもね。ま、やれるだけやってみようか」

 

 

ライが軽く笑う。そしてまだ吹き荒れる砂嵐の中に入って行った。…大丈夫かしら。

 

 

「…ハガネール、来ますよ。岩落とし!」

 

 

「…岩技は不味いっ!…ライ!」

 

 

上空から幾つかの岩が落ち、砂嵐の中に混ざっていくのが見える。視界の悪いこの状況で岩技は危険だ…!私はライに呼掛ける。

 

 

 

 

キィン!………キィン!………キィン!

 

 

今度は先程よりは軽い音が続けて鳴る。そして砂嵐の影から見えるのは幾つかの落ちていく岩…それを高速で避けながらハガネールに近付いて攻撃を加えて離れ、再び接近し攻撃も加えているライ…そして………

 

 

 

 

 

微動だにしないハガネールの姿だ。

 

 

「…ハガネール、続けて岩落としを」

 

 

その様子をミカンちゃんも確認したのだろう。更に追加の岩が降り注ぐ。キィン!………また軽い音が鳴り、ライが砂嵐の中から出てきた。…良かった、ライはまだ動けそうだ。そのまま私の元に戻ってくる。

 

 

「…ん、キツいねー。ダメージ入ってるのかな、アレ」

 

 

「ライの今の技は辻斬りよね。…急所は狙えない?」

 

 

ライの話す様子と先程の情景からは辻斬りはハガネールに対して大きなダメージになってなさそうだ。なら急所を狙うしか無い…他にハガネールに有効そうな技も無いしね。

 

 

「…ま、やってみるよ。…じゃ!」

 

 

私の指示を受けたライが再び砂嵐の中へと入る。…そしてライの影がハガネールに交差する。

 

 

キィン…!

 

 

先程よりも二つの影が近い時間が長く、離れる際にまた軽い音が鳴った。そして離れようとしたライが岩を一つ避けるが他の違う岩に当たり、素早く動いていた影がスピードを落とす。

 

 

そして砂嵐が晴れると…

 

 

 

 

倒れるライとその姿を見下ろすハガネールの姿があった。




うーむ、バトルは描写長くなるなぁ。まぁそもそもしっかり書けているかも微妙ですが…。
…とりあえず頑張って書いていきますー


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赤き瞳に映るもの-3

ここは怒りの湖。別名ギャラドス湖。


 

穏やかな音ではなかった。

 

 

その音を聞いたアタシは立ち上り、音が聞こえた方向をじっと見る。アタシの急な動作に周りの奴等が驚く。

 

 

「…姉さん?どうしました?」

 

 

「………お前らは何も聞こえないか?」

 

 

アタシを座りながら見ているコイツらの見る限りあの音はコイツらには聞こえないのだろうか。アタシの気のせいか…?いや、でも確認はした方が良いか。

 

 

「…ちょっと散歩でも行ってくる」

 

 

「あ、姉さん!?ならお供しますぜ!」

 

 

周りの奴等が私に付いてこようとしている。しかしあの音はコイツらには聞こえてない様だ。ならば連れていくのは邪魔になりかねないし、コイツらを傷付けてしまうかもしれない。

 

 

「…別に要らねぇ。散歩だからな…付いてくんなよ」

 

 

「で、でも…」

 

 

「くどい。…ここにいろ」

 

 

尚食い下がるコイツらに対して釘を刺してアタシは…

 

 

 

 

怒りの湖の水中から姿を現した。

 

 

 

 

 

 

気のせいなら良いんだ。アタシは軽く潜り、水面から周囲を見渡す。だが今はアタシの計画の最終段階…油断は出来ない。この状況を邪魔する人間も現れるかもしれないし、アタシの物珍しさに近付くトレーナーも現れるかもな。

 

 

アタシは自分の髪を見る。…赤だ。頭の飾りとこの長く伸びた赤髪はアイツら…普通のギャラドスとは異なるものだ。だがこの姿に少しは感謝しなくてはならない。

 

 

ここ…怒りの湖において赤いギャラドスというのは伝説の存在らしい。ホロン地方からここへ迷いこんできたアタシを慕い、頼りにしているコイキングやギャラドス達からも分かるがその伝説というのはアイツらにとって偉大なものの様だ。

 

 

頼りにされるというのは悪くない。ここまで大きく頼られるのはこれで二回目だ。

 

 

一回目の箱入り娘の白いドレスの少女…アタシのトレーナーを思い出す。…姉さんは無事だろうか。アインスやツヴァイやドライが付いているのだろうか。

 

 

…ツヴァイは付いていても駄目だな。アタシはあの情けなく甘えん坊なアイツを思い出し、軽く笑う。

 

 

そう…今、湖の水際で湖に入ろうとするがビビって入れないアイツみたいだ。それを見守るトレーナーと萌えもんの姿も見える。

 

 

 

 

………

 

 

………何でここまでトレーナー通してんだぁ!!アイツらは!?

 

 

見張りを任せた部下のギャラドス達に心の中で毒づき、あのトレーナー達を見る。どうにかして追い払わないとな…ガキみたいだから申し訳ねぇが…

 

 

…ちょっと脅かすか。アタシは更に深く潜り、あのトレーナー達に近付く。ガキみたいだし目の前でちょっと水か炎でも吐いてやればビビって逃げ出す筈だ。

 

 

そしてあの情けない萌えもんが再び水面に近付いた時、アタシは姿を現して大きく吠えた。…これで逃げな。やっぱりガキ相手に攻撃は悪ぃからな…

 

 

 

 

しかしその萌えもんはアタシに引っ付いてきた。…おい、予想と違うんだが!?

 

 

それを見守っていた萌えもんはアタシの方を見据えている。…そう、そんな感じのリアクションが良いな。………あれ?アイツはまさか…

 

 

そしてトレーナーの方はアタシを確認するとこちらに詰め寄って来る。アタシを見ても怯んで無い。………嘘…だろ?その活動的な服装を纏った少女は…

 

 

「あ、姉さん!?どうしてここにいるんですかぁ!?」

 

 

…姉さんだ!服は違うが顔は姉さんだ!じゃあアイツはドライか!…でアタシに引っ付いてるコイツは誰だ?まぁそれはどうでも良い。アタシは驚愕の事実に固まる。そんな中でも姉さんはアタシに詰め寄って来ている。

 

 

「フィーア…あんたね…」

 

 

 

 

「………誰が胸が貧相よ!!!」

 

 

アタシはぶん殴られた。

 

 

 

 

あぁ…

 

 

 

 

姉さんだ。これは間違えなく姉さんだ。あの時みたいにこう怒る姿は姉さんだ。アタシは殴られながらも感極まり、目頭が熱くなる。

 

 

殴った勢いで姉さんがアタシに寄り掛かる。そして小さく呟いた。

 

 

「………心配したのよ。大丈夫だった?」

 

 

「…こう言えば姉さんはアタシを殴りに来てくれるかなと密かに願ってました」

 

 

「そんなことせずとも行くわよ…馬鹿」

 

 

 

 

 

 

「で、コイツがツヴァイであの音はお前が!?………でっかくなったなー、お前…」

 

 

無事姉さんと再開したアタシは姉さん達と話を始める。どうやら最初に聞こえた音はツヴァイの電撃らしい。今のツヴァイにそこまでの力量があるのか…やるじゃねぇか。

 

 

しかしこれでアタシの計画…ギャラドス達を率いてホロン地方へ進出する計画は中止だ。アイツらにはどう話そうか…。目の前の大きくなったツヴァイの頭を軽く叩く。

 

 

「…う、うん。フィーアねーちゃんは相変わらずだね…」

 

 

叩かれながらもツヴァイは満更でも無さそうだ。続けてドライの方を見る。こちらを冷たく見つめている。

 

 

…んだよ。その目は。お前は変わってねぇな。そのことに少し嬉しくなる。が、その目は気に入らねぇな…!

 

 

「おい、何見てんだコラ」

 

 

「…貴様が面倒な奴だから呆れているんだ」

 

 

「…あぁ!?テメェ…!」

 

 

「…二人とも!止めなさい!折角会えたのよ!」

 

 

姉さんがドライを睨む私を止めるが、それをアタシは軽く受け流す。

 

 

「ま、軽い腕試しっすよ。なぁドライ…」

 

 

部下のギャラドス相手じゃアタシにビビってまともにバトルにならないからな。ドライ相手なら良い腕試しだ。…バトルの勘を戻すにはな!

 

 

「お嬢…」

 

 

ドライは姉さんの方を見る。そして姉さんが軽く首を振るとドライがこちらを向いた。

 

 

「…軽くな。いいだろう」

 

 

ドライが構える。アタシはそれを確認すると近くのツヴァイに対して離れる様に手でサインをし、それを受けたツヴァイが姉さんの後ろに離れる。大きくなっても変わらねぇなアイツ…

 

 

 

 

「…行くぜっ!」

 

 

アタシは噛み砕くを狙うため、ドライとの距離を詰める。詰めすぎは駄目だ。アイツのサイコカッターの間合いに入ってしまう。以前の経験から私はドライへの作戦を立てる。非公式戦だ。やりたいようにやらせて貰うぜ…!

 

 

一発牽制で二回目を本命にすっか。どうせ避けられんだろ、ドライ相手なら…。軽い攻撃で動かし、そこを噛み砕くで突くか。アタシは距離を詰めると右前に飛びそちら側からドライへと噛み付くを…

 

 

 

 

 

おい。

 

 

何ビビってんだよ…

 

 

ドライはアタシの攻撃に対し、体が固まった様に動きが鈍くなり、アタシの噛み付くがヒットする。牽制目的の軽い攻撃だったからかダメージはあまり入っていない様だが…

 

 

そのドライの様子にアタシは追撃の噛み砕くを忘れてしまう。ドライは態勢を立て直しているがこちらを見ているだけで仕掛けてこない。…こちらが攻撃を忘れている状態だぞ?ドライ…!

 

 

なぁ、お前…

 

 

 

 

「………弱くなった?」



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ヤドンの井戸の底で-3

ここはヤドンの井戸。別名雨降らしの井戸。


 

んー。

 

 

これは甘い罠だったねー。まー、抜け出す気もないけどさー。

 

 

つーは新たな飲み物を差し出してくるヤドンからそのまま飲み物を受取って、口にするー。…すると木の実ジュースの甘い味が口一杯に広がるねー。いやー、素晴らしいねー。

 

 

「どうもー」

 

 

「いえいえー、所で主人さんはよろしいのですかな?」

 

 

飲み物をくれたヤドンからそんなことを聞かれるー。主人さん…ドラちゃんかー。そういえばどうしてるのかなー?気になり辺りを見渡すー。

 

 

「だから僕はお酒は駄目なんだよ…」

「まぁまぁー、ほれー」

「ほれー」

「や、止めてくれ…な?」

「…なら一発芸を!」

「…ええっ!?そ、そんな…」

 

 

そこにはヤドン達に弄られているドラちゃんの姿があったー。…はー、これはこれはー…

 

 

ドラちゃんも困ってはいるけど本気で嫌がってる感じではなさそうだねー。…それを分かってるからヤドン達も弄ってるのかー。へー、そっかー。

 

 

「ねぇヤドンちゃんー、もう一杯…良いかなー?」

 

 

「どうぞ、どうぞー」

 

 

飲み物をくれたヤドンに今度はつーから声を掛け、つーはヤドンが持ってきた飲み物を再び口にするー。…んー、相変わらず甘くて美味しいねー。

 

 

んー…行くかー。

 

 

 

 

つーはドラちゃんを中心としたヤドン達の集まりのなかに入りその中心にいるドラちゃんの首根っこを掴むー。…優しくねー、もし力入ってたらごめんー。そして周りのヤドン達に告げるー。

 

 

「…ん?」

 

 

「ごめんねー。あなた達のお頭…さん?にご用があるのでまた今度ー」

 

 

そう言い残しドラちゃんを引っ張り集まりの輪から抜けるー。引っ張っているドラちゃんはヤドン達に何か言って手を振っているねー。まー、どうでもいいけどー。

 

 

「…つー、どうしたんだ?そんな強引に…」

 

 

「…別にー?飲み物を飲んだからかなー?分かんないやー」

 

 

引っ張られながらもドラちゃんがつーに聞いてくるー。が、それをつーは適当にはぐらかすよー。

 

 

「飲み物…酒でも飲んだか…?大丈夫かつー?」

 

 

「…んー、分かんないやー」

 

 

まー、勝手にそう解釈してくれればいいやー。ドラちゃんを引っ張りながらヤドを探してー、見つけたのでそちらに向かうー。

 

 

こうやって大胆にドラちゃんを引っ張っているのは酒のせいー。

 

 

…そういうことにしておくかー。

 

 

 

 

 

 

「………お前が本当にここの長になるつもりなら儂は今までのことを水に流してお前を認めよう。だが…」

 

 

…あらー?何かヤドともう一人の萌えもんが一緒即発な雰囲気だねー。あわあわしているろすろすだけが唯一の救いだよー、本当ー。…ドラちゃんも雰囲気に呑まれ黙ってるしねー。

 

 

ま、つーにも関係無い話かー。黙って二人の話を聞いてようかー。

 

 

「な、なりますぞー…」

 

 

「…お前にその気は無さそうだな」

 

 

「っ………」

 

 

………ふーん。ヤドが押され気味だねー。珍しいもんだー。

 

 

「…ヤドキング」

 

 

先程からヤドと話している兜の様なものをつけた萌えもんがそう呟くとヤドがピクッと反応するー。依然として相手ペースだぞー、頑張れーヤドー。

 

 

「そんな力を得て外で何をするつもりだ。お前が無用に力を振るうとは思えんがな…」

 

 

 

 

 

 

「火炎放射、冷凍ビーム、草結び、シャドーボール、シグナルビーム、電磁波…サイコキネシスに熱湯も教えたな。お前の全ての技は挙げきれんがこれだけあっても足りないのか…」

 

 

「………」

 

 

 

 

…えー?

 

 

………えー?何それはー?それを聞いたろすろすとか自分の頬を叩いてるよー。………その気持ちは凄く分かるー。

 

 

「………足りない」

 

 

つー達が驚いている中ヤドが呟くー。…いや、まずさっきの話の否定からお願いしたいなー。………まさか本当だったりするのかなー…?

 

 

「足りないですぞ。ヤドラン」

 

 

「………ふ、随分と欲張りだな。強さに無欲なお前にしては珍しい」

 

 

ヤドの呟きに対して相手の萌えもんヤドランが鼻を鳴らしヤドの方を見てるねー。…あ、ろすろすー。もうさっきの話は本当らしいから頬を叩くのは止めなさいー。

 

 

「ヤ、ヤドはっ…!」

 

 

「 貴女が使えるあの技が欲しいっ…!」

 

 

 

 

「それが無いとアイツには勝てない…!マスターや皆を守れない………!」

 

 

ヤドが顔を伏せながらそう言葉を続けるー。…普段の感じからは想像できない必死さだねー。

 

 

「………他者の為…か。ここを逃げ出してから変わったな」

 

 

アイツー…?誰だろー?で、逃げ出したとはー?うーむ、話に付いていけないよー、つーはー…

 

 

「…おい!そこのトレーナー!」

 

 

「…は、はいっ!」

 

 

ドラちゃんは急にヤドランに声を掛けられておどおどしながら答えるー。………ドラちゃんを怖がらせるのは止めようね、ヤドランさん。

 

 

「話がある。ちょっと来い。…後お前もだ」

 

 

「…分かりました」

 

 

ヤドランが顔を伏せてるヤドを掴む。そしてヤドを掴んだまま、ドラちゃんを連れて奥の階段へと降りようとする…

 

 

降りる前に振り向き、つーの方を見てこう言った。

 

 

「…そこの萌えもん、先程のトレーナーへの呼び方は悪かったな」

 

 

…別に。つーは気にしてませんから。只ドラちゃんはビビりだからね、しょうがないね。うん。

 

 

「………安心しろ。別に危害は加えん。だから落ち着いて待っていろ」

 

 

…あら、つーは別に落ち着いてますけどね。何を言ってるんでしょうか、このヤドランは。

 

 

「………別にー。どうぞ行ってらっしゃいー」

 

 

つーがそう言うとヤドランはつーの方から顔を背け、ヤドを掴みながら階段を降りようとする。ドラちゃんはつーとヤドランを交互に見ている。

 

 

大丈夫だよ。ドラちゃん。別につーは気にしてないからね。ドラちゃんに早く行くように手でそれっぽくサインを送る。その様子を見てヤドランが軽く笑う。

 

 

「…ま、手篭めにはするかもしれんがな」

 

 

そして降り際にそんなことを言い残してヤドラン達は下に降りていった…

 

 

 

 

 

…あー。

 

 

つーはあのヤドラン嫌いだわ。何かつーのこと見透かしてる感じがいけ好かないなぁ。



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心まで鋼鉄に-3

アサギジムリーダー、ミカン。鉄壁ガードの女の子。


 

「…マスター!」

 

 

萌えもんセンターにおいて回復を終えた私は職員さんにボールを受け取ってから話そうとしないマスターに呼びかける。ライもそんな様子のマスターを不安そうに見ている。

 

 

「…はっ!エ、エレ…。ここは…」

 

 

ここは…ってマスターが自分自身でここに私達を連れてきたのではないですか…。周りをキョロキョロ確認するマスターに私は場所を伝える。

 

 

「萌えもんセンターですよ。どうしたのですか。ぼーっとして…」

 

 

「………あぁ、そうね!うん!いやー、参ったわー…」

 

 

そう言ってマスターが空笑いする。そうしているとライがおずおずとマスターに尋ねる。

 

 

「マ、マスター…ウチ…」

 

 

「…惜しかったわね。ライ」

 

 

そんなライの様子を見てマスターがそっとライを抱き寄せる。確かにあのバトルは惜しかった様な気がする。もしライがあの時急所を当てていれば…最初の私の失態が問題な気もするが。

 

 

…すると急にライはマスターから離れた。その様子にマスターは驚いている。そしてライは口を開いた。

 

 

「………マスター、手紙をあの子に渡そうよ!別に戦う必要なんて無いんだから!目的はバッジを取ることじゃないし…!」

 

 

「ラ、ライ…?」

 

 

ライがマスター相手に捲し立ている。その様子にマスターは困惑している。ライ…

 

 

「…マ、マスターがバッジ欲しいならヤドさんを呼ぼう!ヤドさんならあの砂嵐に対しても距離を取って戦えるし、あのハガネールの硬さも関係無い!」

 

 

「ヤドさんとエレさんなら充分勝てるよ!エレさんの瓦割りもウチの辻斬りよりは効いてるし…!後は…後は………」

 

 

………。

 

 

私はマスターの方を見る。するとタイミング良くマスターと目が合う。今度はマスターが私を見て静かに頷いた。私はそれに対し頷き返す。

 

 

マスター、分かってますよ。マスターが言わないなら私から言おうと思ってます。…これが非効率的なことは分かってますよ。

 

 

 

 

でも…

 

 

こんなライの姿を見て…

 

 

楽な道は選べませんよ。

 

 

「ライ…」「ライ殿…」

 

 

「…え?」

 

 

私とマスターが同時にライの名を呼ぶ。…お互いに自分から言うつもりだったみたいだ。同時に名を呼ばれたライは私達の顔を交互に見て捲し立てる声を止める。

 

 

…ではマスター、同時に言います?タイミング合わせは…不要ですよね?

 

 

 

 

「…明日あの子にリベンジよ!」「私とライ殿…二人で勝つんです!」

 

 

 

 

 

 

「む、無理だって…!」

 

 

「…無理でもやるのよ!頑張りなさい!」

 

 

マスターがライの手を引っ張りながらアサギの砂浜へと足を進める。そんな二人の後ろを私は歩く。…どうやら砂浜で特訓するつもりらしい。

 

 

…特訓としては悪くないか。しかし相手が私しかしないというのは問題かもしれない。私では役不足だ。

 

 

しかし砂浜へと向かう途中、マスターの足が止まる。そして港の方に目を向けている。…どうしたのだろうか?私も港に目を向ける。

 

 

そこには二人の萌えもんが模擬戦をしている姿があった。その内容はとてもハイレベルなものだ。赤い服の方の萌えもんがもう一人の頭から角を生やした萌えもんに勢い良く突撃している…。あ…あの角の方の萌えもんは確か…

 

 

その様子を見たマスターはライから手を離し、模擬戦をしている二人の近くで釣りをしている男の隣に座り、何か話している。確かあの男はコガネルーキーカップ予選の…

 

 

ぎゅっ…

 

 

「…ん?」

 

 

私は自分の手をそっと掴まれる。…ライ殿だ。…先程から様子は変わっていない。そして角を生やした萌えもんの方を私の後ろから見ている…。すると角を生やした萌えもんはライの視線に気付いた様だ。彼女は珍しいものを見るような感じでこちらを見ている。

 

 

「…ストライク?お前………」

 

 

「………ヘラちゃぁぁぁん!!!」

 

 

「えっ?…どうした!?気持ち悪い!」

 

 

ヘラちゃん…あ、そうだ。あの萌えもんはヘラクロスだ。確かライ殿曰く自分と互角かそれ以上の力量と言って予選ではライ殿が辛うじて勝利した萌えもんだ。その彼女に対してライ殿は泣き付いている。

 

 

それに対してヘラクロスはライ殿を一旦受け止めはするもののその様子を気味悪がり攻撃を加えている。…が、ライ殿は離れる気配はない。…あれは照れ隠しみたいなものか。

 

 

「ええっと…これは…」

 

 

「あ、すみません。すぐ離しますんで…」

 

 

その様子を見てもう一体の萌えもんが呟く。私はその萌えもんに謝罪をし、ライ殿を離そうとする…。相手も困ってますし邪魔してはいけませんよ、ライ殿。私も離すのを手伝おうとするが…

 

 

「…二人共!日暮れまでこの子達と一緒に特訓しても良いみたいよ!」

 

 

マスターが嬉しそうに私達にそう伝える。横にいる男はライとヘラクロスの様子を少しだけ見ると再び釣りに目を戻してしまう。男は何処か肩を落としている様に見える…。マスター、それは有り難いですが彼に無理矢理お願いしたりはしてないですよね…?

 

 

「ヘ、ヘラちゃん…その…あの…えっと……」

 

 

「一旦落ち着け。…話は聞いてやるから」

 

 

まともに喋れてないライ殿をヘラクロスはぶっきらぼうだが相手をしてくれている。良かった。大丈夫そうだ…そう考えていると私の肩に手を置かれる。

 

 

「では私の御相手は貴女ですわね。一時の縁とはいえ手加減は致しませんわよ」

 

 

「え…」

 

 

 

 

そう言って赤い服の萌えもんが私をあの二人からちょっと離れた場所へと連れていく。そして一礼すると彼女は恐ろしい勢いで突撃してきた…!

 

 

えぇっ…!ち、ちょっと…!とりあえず電気ショックだ!私は体に電気を溜めそして…

 

 

ドカカカカッ! !!

 

 

電気を放つ前に凄まじい勢いで相手に攻撃のラッシュを浴びせられる。私はそれを受け地面に倒れるが相手に起こされる。そして彼女はこう言った。

 

 

「まだまだ行きますわよ……さぁ!」

 

 

………えぇっ。

 

 

日が暮れる頃までには無事だと良いなぁ…。私はそう願いながら意識を相手の攻撃へと集中した。

 

 

 

 

 

特訓は無事…といっても凄く痛かったが終わり、萌えもんセンターにて私達は体を休める…。どうやらライは少しだけいつもの調子に戻った様だ。あぁ、良かった…

 

 

そして翌日の朝…マスターがジムに足を踏み入れる。すると昨日の少女…ジムリーダーのミカンさんが私達が入るのを見るとこちらに駆け寄ってくる。

 

 

「…先日はすみません!私…ジムの挑戦者かと思って浮かれてしまって…ご用件は…」

 

 

ミカンさんがそう言うがマスターは何も答えず入口近くに置いてある紙に何かを書き込んでいる。マスターのその様子を見てミカンさんは更に慌てている。

 

 

「あの…今日は………」

 

 

マスターは何も答えずに紙にペンを走らせる。そしてペンが止まるとマスターはミカンさんに紙を押し付けた。

 

 

「アサギジムリーダー、ミカン…」

 

 

 

 

 

「貴女にジムバトルを申し込むわ!これが今日の私の用事よ!それ以外は無し!」

 

 

「え…」

 

 

受け取った紙とマスターの方を見ながらミカンさんは慌てている。そんな様子の彼女にマスターが言い放つ。

 

 

「…ほら!早く!」

 

 

「は、はいっ………!」

 

 

マスターの言葉を受け、ミカンさんが奥へと走り出す。…マスター、流石に強引過ぎますよ…。まぁそんくらいやろうとする気持ちは分かりますがね…。そしてミカンさんが暫くすると戻ってきた。どうやら準備が終わった様だ。マスターは私達が入ったボールを握りながらバトルフィールドへと入る。

 

 

「ミカンちゃん!貴女のシャキーン!!な鋼萌えもん…打ち砕くわ!」

 

 

「あ…あれは忘れてくださいっ………。でも良いんですか…?」

 

 

「OKよ!…さぁ始めましょう!」

 

 

マスターの言葉に対しミカンさんは恥ずかしがり顔を伏せてしまう。ミカンさんはまだ私達がジムバトルに来たのを疑問に思っている様で改めて聞いてくるがマスターを力強く答えを返す。それを聞いたミカンさんは顔を上げ、凛とした表情になる。そして軽くジムバトルのルールを話し始めた。大体マスターが書いた紙に書いてあることだ。

 

 

「…分かりました…。では貴女のジョウトバッジは現在一つ。今回は二対二のバトルになります…」

 

 

「では…よろしくお願いします…!」

 

 

そしてお互いにボールを構える。さて、まずは…

 

 

 

 

「お願いっ…コイル!」「行って…!エレ!」

 

 

予定通り私か。まぁ万が一相手の初手がハガネールだったら私は引くつもりだったが…都合が良い…!私は瓦割りの構えを取り相対する。

 

 

「エレ…瓦割り!」

 

 

「…コイル、………十万ボルト!」

 

 

コイルへと駆け出す私に対してコイルから強力な電撃が私の方に向かってくる。十万ボルト…か。良い技だが私相手は効果は今一つ…。ならば…

 

 

「エレ、このまま…」

 

 

「了解です!」

 

 

マスターも同じ考えの様だ。ダメージ覚悟で一気に突っ切る…!私は少し電撃に触れてしまうがコイルへの距離を詰める。…いや、でもマスターこれ結構痛いんですけど…!

 

 

だが泣き言は言ってられない。私はコイルへと鋭い手刀を当てる。よし、瓦割りを命中させた…!コイルはよろけながらも立ち上がる。な、手応えはあったのにっ…

 

 

「コイル、ソニック………いえ、十万ボルトです!」

 

 

「エレ、押しきって!後少し!」

 

 

よろけながらもコイルが立ち上がるのを確認したミカンさんからの指示を受けたコイルが再び電撃を放つ。マスターの言う通りコイルはもう虫の息だ。しかし今度の私はコイルの近くにいたのでその電撃をモロに食らってしまう。ぐっ…痛いっ!!これって今一つですよね!?

 

 

 

 

でも…

 

 

でもこれはライが食らうよりは全然痛くないのでしょう…!なら私が受けますよ…!

 

 

私は瓦割りの構えを取っていない左手で電撃を振り払い、それにより僅かに空いた前の空間に前進し瓦割りの構えを取った右手を目の前のコイルに叩き付ける。その叩き付けた勢いでコイルが地面に倒れた。

 

 

「…お疲れ様。コイル…ではお次は…」

 

 

「…エレ!」

 

 

…マスター、分かってます。

 

 

「ハガネールです…!」「戻って!…行ってきなさい、ライ!」

 

 

「………え…」

 

 

ミカンさんがハガネールを繰り出すのとほぼ同時に私はマスターのボールから放たれる光に吸い込まれる。そして新たに繰り出すのはライだ。その素早い交換に対してミカンさんは驚きの声を洩らした。

 

 

………素早い交換でしょう。実は最初から決まってるんですよ。あのハガネールはライが倒すと…!今日の朝、ライ自身がちょっと震えながらもそう言ったんですから…!

 

 

「…エレさん、ありがとうございます。昨日振りだね、ハガネール…さん」

 

 

「…ライ。行くわよ…!」

 

 

ライがバトルフィールドに出て私へのお礼とライバルへの挨拶を告げている。ま、今回はライに任せますよ…

 

 

そう心の中でこの後を私はライに託す…がライはチラッと私のボールの方を見る。何処か不安そうな表情で私に何か言いたげな感じだ。

 

 

ライ…。

 

 

………ここからは任せますからね!実は私も十万ボルト二回食らって既にボロボロなんです!そこからハガネールの相手とか絶対無理ですから!…そして私は少しでも体を休める為に目を閉じた。



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赤き瞳に映るもの-4

ここは怒りの湖。別名ギャラドス湖。


 

「………弱くなった?」

 

 

…フィーアのこの言葉は私への煽りや挑発でも無いのだろう。

 

 

私をまじまじと見ているその姿がその証拠だ。…そんな珍しいものを見るような目で見るな。私はな…

 

 

 

 

あの戦いの傷がまだ癒えてないのだ。

 

 

 

 

 

 

『ドンカラス、ナイトヘッドだ!』

 

 

グループの中の若い男の指示を受けた黒い萌えもん…ドンカラスが黒い霧を私の周囲へと発生させる。…それに対して私はサイコカッターそれを振り払おうとしたその時…

 

 

(貴女は邪魔…。要らないの…)

 

 

『………っ、お嬢…!』

 

 

突然お嬢の声が脳内に響き、頭が痛くなり、膝を付く。お嬢の声に反応し、私はお嬢が走っていったであろう背後を向く。………黄色髪の萌えもんを最後尾に置き路地裏を去るお嬢の姿が一瞬見える。よし、大丈夫。お嬢は無事だ…

 

 

『今だ。行ってこい…』

 

 

『…分かってるよ!ドンカラス!…捕まえてきな!』

 

 

…私は大丈夫じゃなさそうだな。先程の幻の声を頭の中から振り払い、立ち上がる。………が、ドンカラスは既に私の目の前まで距離を詰めている。不味い…私は攻撃を受け止める為に後ろに跳ぶ。

 

 

「…させませんぞ!」

 

 

私と一瞬にここに残ったヤドンがそう言うと同時に手から微弱な電気をドンカラスに放つ。私へと意識を向けていたドンカラスはその電気に触れ、動きが鈍くなる。………助かる!私は動きが鈍くなったドンカラスに対して私は腕にサイコカッターを纏い振り払う。…が私のその攻撃は相手にはあまり通じてないようで軽く後ろに引いただけだ。

 

 

『…おい!何してんだ!馬鹿!』

 

 

『…う、うるさい!お前のせいだからな!』

 

 

そのドンカラスの様子を若い男が叱る。それにドンカラスの方も怒り、若い男に罵声を浴びせている。…仲違いするなら結構だ。存分にやってくれ。

 

 

『…ナイトヘッドは効いてるな。もう一度頼む』

 

 

『ほら!もう一回だ!』

 

 

グループの中の眼鏡の男がそう呟く。それに従い、若い男をドンカラスに指示を出し、それを受けたドンカラスは同じ様な黒い霧を放つ。

 

 

グループの残りの人間の一人はこの状況を軽く笑いながら見る女性と側にいる魔法使いの様な服の萌えもん。そして後一人…萌えもんすら出さずにこちらを静かに見ている男性だ…。二人共、まだこちらに手を出す気は無いらしい。その様子は疑問だがこちらには都合が良い。

 

 

さて、この黒い霧に触れては駄目だ…。私は霧に対して距離を取る。…しかし背後からの鋭い痛みに私は体がよろける。力を振り絞り後ろを見ると私に噛み付いたであろう萌えもん…あれは見たことがあるな、ゴルバットとそれを慌てて空中から叩き落とすストライクの姿がある。…少し遅いぞ、馬鹿。

 

 

噛み付かれた場所から体が脱力していく…。ツヴァイが受けたのはこれか…!そんな状態では私はまともに動くことも出来ずに黒い霧に包まれる。

 

 

体が…、頭が…朦朧とする。…いや、私は立ち上がらなければならないんだ…!そう思っても体は言うことを聞かない。そしてそう思う意識さえ奪われていく…

 

 

最後に脳内に聞こえた言葉は…

 

 

 

 

(お前は俺の萌えもんじゃねぇだろ)

 

 

 

 

 

 

その後私は予選で戦った少年…ドラから治療を受け、体は回復した。その際にお嬢やツヴァイは無事だったことも確認出来たし、一緒にあの場にいたストライクとヤドンも無事だった。…結果として私はお嬢を守ることに成功したのだろう。

 

 

だがあれから私は何処か調子が悪かった。体は元気なのだが…相手の攻撃が恐ろしいものに見えてしまうのだ。あんな軽い噛み付くであってもだ。

 

 

「…アタシを舐めてんのか?ドライ。…そうだろ?」

 

 

「ドライ…大丈夫?」

 

 

そんな訳無いだろ。お前は舐めて相手出来る程柔な相手じゃないのは私は知っているんだ。…お嬢も私の異変に感ずいてしまったか…?これはお前のせいだぞ…フィーア…!

 

 

「…えぇ。避ける必要も無さそうでしたのでね…」

 

 

「テメェ…!」

 

 

私の言葉にフィーアが怒る。そうだ、怒れ。さっきのは私の舐めて掛かった失態だ。そう思っとけ。

 

 

怒ったフィーアが恐ろしい速度で私に組み付こうとしてくる。怖い……これは冗談では済まないかもな…。私は固まった体を必死に動かし、避けようとする…

 

 

「ドライ…」

 

 

「…無理はしないで!…で、でも頑張って!」

 

 

「…頑張れー!ドライねーちゃん!」

 

 

 

 

あ…

 

 

体が軽くなった…。

 

 

フィーアがお嬢とツヴァイの声援に目を奪われたこともあるのだろう。そんな精彩を欠いたフィーアの攻撃を私は何とか避ける。だがまだ体は本調子では無い…。

 

 

…分かったぞ!今の私に足りないものが…!

 

 

「ツ、ツヴァイ…!お前はアタシの味方だよな…!?」

 

 

「…今のフィーアねーちゃん、ちょっと怖いからやだ」

 

 

「………そ、そうか」

 

 

ツヴァイにそう言われてフィーアがちょっと落ち込んでいる。落ち込んでいる今がチャンスか…私は後ろの草むらへと駆け出す。

 

 

「…おい!逃げんのか!…ドライ!」

 

 

「…ふん」

 

 

私はフィーアを鼻で笑い、草むらの中を駆ける。…どうやらフィーアも私を追う為に草むらに入った様だ。私が駆ける途中で先程ツヴァイが倒したギャラドス達が起き上がり、こちらを見ている。私はそれを一瞥し駆け続ける…少ししてフィーアとギャラドスの声が聞こえる。

 

 

「…あ、姉さん!?どうしたんすか!」

 

 

「う、うるせぇ!ちょっと喧嘩だ、喧嘩!…お前等は手を出すなよ!」

 

 

「…姉さん自ら!?…分かりました!やっちゃって下さい!!」

 

 

…ふん。随分と豪華な応援だな。私はフィーアがギャラドス達に絡まれている間に離れた場所の木の上に上り、座る。

 

 

たが…

 

 

私の応援にはお嬢とツヴァイとアイツがいる…!

 

 

 

 

私は懐から一枚のディスクを取り出し頭にそっと当てる。すると…

 

 

ピピ…!

 

 

 

 

『…技マシン80を起動します!…中には岩雪崩が記録されています!…萌えもんに覚えさせますか?』

 

 

 

 

 

 

「…これがアイツの贈り物なのが気に食わんな」

 

 

私の目の前には倒れているフィーアとその周囲に散らばる無数の岩があった。そんな中倒れているフィーアの頭を叩く。

 

 

「きゅう…」

 

 

「部下に見られて完全に浮かれてたな、馬鹿が」

 

 

ま、見られているというのは悪いものではないがな。…お嬢がこちらに来て私達を見てくれるぞ。ほら、起きたらどうだ?フィーア。

 

 

「フィーア…!大丈夫?」

 

 

「大丈夫ですよ。大したダメージになってませんから…確かゲットはしなくて良いんでしたよね?」

 

 

「うん。前にフィーアが入ってたボールがあるから…」

 

 

そう言ってお嬢は鞄からボールを一つ取り出す。そしてお嬢は気絶して倒れているフィーアにそっとボールを当てた。

 

 

 

 

「戻れ…フィーア」




フィーア(ギャラドス)
性格:勇敢
以前はホロの手持ちだったデルタ種の萌えもん。タイプは水/炎。色違いのギャラドスであり、希少なデルタ種の中でも更に希少な存在である。(因みに普通のギャラドスのデルタ種は電気/鋼タイプ)その希少な存在から周りに追われることも多かったが昔に自分を受け入れてくれたホロに感謝している。性格は短気で荒っぽいが、自分と仲の良い萌えもんには言葉は荒っぽいが優しい。
ビジュアルとしては赤のロングヘアーに頭を守る赤の髪飾り、一昔前のスケバンの様な赤い服を纏っている。


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ヤドンの井戸の底で-4

ここはヤドンの井戸。別名雨降らしの井戸。


 

水面に浮かぶ大小の小島…その中で一際大きい小島の中央に古びながらも輝きを持つ小さな王冠に似た被り物がある。

 

 

あれだ。あれが王者の印だ。

 

 

私…ヤドはその存在に目を奪われる。ドラ殿も小さいながらもあれの存在に気付いたのか目を向けている。

 

 

一方ヤドランはそれに対して全く興味を示さず、水面から予め冷やしていたのだろうか…瓶を取り出し、それを手に腰掛ける。

 

 

「トレーナーさん。座ってくれ」

 

 

そう言いながらヤドランは瓶から二つの容器に飲み物を入れ、そっとドラ殿の前に置く。それを見たドラ殿がゆっくりと座った。…あらら?

 

 

「…ヤドラン、ヤドのは?」

 

 

「井戸の水でも飲んでろ」

 

 

「そんなー」

 

 

冷たくそう告げられ、ヤドもしぶしぶ座る。ヤドが座るとヤドランをヤドを小突く。

 

 

「さぁ、この子の話をしよう。飲んでくれ」

 

 

「あ、はい…」

 

 

ドラ殿が目の前に差し出された容器を手に取ろうとする。…いいなー。あれ確か良いものだった気がしますぞ。

 

 

 

 

「…決めてたんだ。この子のトレーナーさんと飲むって」

 

 

ドラ殿の手が止まる。

 

 

「えっと…ヤドラン…さん。すみません。これは頂けないです」

 

 

その一言で場が固まる。

 

 

「…僕は本当のヤドのトレーナーではありませんから」

 

 

「………え?」

 

 

そして…

 

 

止まっていた場が、体が動き出す。

 

 

 

 

 

「お前はぁー!!他所のトレーナーさんにこんな所まで連れてきて貰ったのかぁ!?」

「…痛い!痛いですぞ!頬を引っ張るのは止めて下されー!」

「…あぁ!ヤドが!ごめん!…でも流石に嘘付くのも悪いかなって」

「そんなの黙ってれば良いのですぞ!コイツは気付いて無かったんですからな!」

「コイツだとぉ!?儂をコイツ呼ばわりか…良い度胸だな」

「………あぁーっ!尻尾はっ!…尻尾はらめえぇぇぇ!!!」

「…なんてこった!ヤドが気絶しちゃった!」

 

 

 

 

あ…すみませぬ。読者の皆さん。ヤドの意識が回復まで暫しお待ちを…

 

 

…今回はヤド視点だしこんなグダグダでも皆さんは許してくれるでしょ…

 

 

 

 

 

 

「…で、君はこの子の本当のトレーナーじゃない訳だ」

 

 

「…はい。本当はセーレさんと言う女性なんですよ」

 

 

ヤドが目を覚ますとヤドランとドラ殿が話し合っていた。…起きたヤドをヤドランは見下す様な目で見ている。…はい、ごめんなさい。

 

 

「……ヤドン!いや、ヤドって呼ぼうか…」

 

 

ヤドランがヤドのことをヤドと呼んだ。ヤドランがマスターのくれた名前でヤドを呼ぶ。それだけで何故か嬉しくなった。

 

 

自然と頬が緩む。そこにヤドランはいつの間に手元に持ってきたのだろうか…一枚のディスクをヤドの頭に叩き付けた…

 

 

………って痛っっったぁ!!何するのですか!!ヤドラン!!

 

 

「お前はさっきあの技が欲しいって言ったが…今のお前には無理だろうね。気合が足りないよ」

 

 

…そう言ってディスクをヤドの頭から離す。気合…か。

 

 

「成程。…だから駄目だったのですか」

 

 

「だからね…」

 

 

 

 

「そこの王者の印を付けな。他所のトレーナーさんにお前はここまで想われてるんだ。ここで渡さないと儂は只の嫌な奴だ」

 

 

「ヤド…、僕なりに一応説得はしてみたんだ…そしたら良いってさ!」

 

 

ヤドランが小島に浮かぶ王者の印を指差す。ドラ殿が私の手を掴み喜んでくれている。…ドラ殿ぉぉぉー!よくこの頑固野郎を説得しましたなぁ!…でもこれを口に出すと取り消しになりそうだから言葉には出せません!すみませぬなー!

 

 

 

あ…でも…

 

 

「…戴冠の儀は?」

 

 

「…あんなの伝承に過ぎないよ。あんなことしたって何も変わりゃしない」

 

 

そう言うヤドランの顔は何処か哀愁が漂っているが…ヤド側からそれに触れるのも野暮ですな。

 

 

「…そうですか。では」

 

 

ヤドは王者の印が置いてある小島に泳いで向かう。そして小島に辿り着くと後ろのヤドランとドラ殿を見る。

 

 

 

 

 

…ありがとう。

 

 

そう心の中で伝える。すると二人が笑った様な気がした。…気のせいでは無いだろう。そう思いたい。

 

 

そしてヤドは王者の印を手に取り頭に置いた。

 

 

こ、これでヤドに新たな力が…!これならマスターや皆を守れますぞ…!

 

 

 

 

………

 

 

 

 

あれ?

 

 

 

 

「変わらない…ね」

「ヤドランー。…これ不良品では?」

「そんな訳あるか。歴とした本物だ」

「………」

「………」

「………」

「…やっぱり戴冠の儀が必要なのでは?…皆の衆ー!!!戴冠の儀ですぞー!!!」

「…あっ…馬鹿!上の奴等を呼ぶな!」

「お頭ー!遂にですか!」

「親分ー!…あ、一人だけ良いの開けてますぞ、頂きー」

「…勝手に飲むな!お前等!」

「…つー殿!落ち着いて!」

「ドラちゃん~、えへへ~。あの年増に何もされてないよね~」

「…どうしたつー!?言葉遣いが変だぞ!?」

「主が下に行ってから酒に手を出してしまいまして…」

「おい…年増って言ったか?」

「あ、親分に言ってはいけないことを…」

「皆思ってますけどなー」

「ヤド、王者の印没取な」

「すみませんでした」

「つー…そ、そこは駄目だっ!」

「…うるせ~、年増~」

「…おいコラそこの酔っぱらい表出ろ…!」

「お頭…!戴冠の儀の準備出来ました!」

「ありがとう。でもそれ所じゃなさそうですぞ。…つー殿をここから出さないとヤドンの井戸が崩壊しますからな」

 

 

こうして何とかヤド達は半ば逃げる様にしてヤドンの井戸から出て王者の印を手にいれたのですが…

 

 

結局…王者の印を付けても何も変わらなかったですな。

 

 

 

 

 

 

そして夜、ヒワダタウンの萌えもんセンターにおいて…

 

 

「…あ、ヤド!セーレさんなら連絡が来てる!…二件あるね」

 

 

「…おおー!どれどれ…」

 

 

ドラ殿に呼ばれ、ヤドはドラ殿が見ているパソコンを覗く。新着メッセージが二件…ヤドはドラ殿に早く開く様に急かし、それを受けたドラ殿が古い方のメッセージから開く。…時間的に今日の朝頃ですな。

 

 

『ドラ君へ。

こんにちは、セーレです。この連絡システムを使うのは初めてなので送れてるか分からないけど送ってみます。…本題ですがそちらにヤドはいるでしょうか?もしそちらにいるのならばドラ君の都合の良い時で構わないのでアサギの萌えもんセンターに送って欲しいです。どうやら交換システムを使えば出来るらしいの。私はよく分からないけど…。もしこれが届いてたら返信お願いします!

セーレ』

 

 

「…だってさ」

 

 

「…ふふ!さて帰り仕度をせねばなー。お土産も…」

 

 

ヤドは身仕度を始める。よーし、今行きますぞマスター!既にお摘みも買ってありますぞー!

 

 

「あ、後もう一件あるよ。ヤド。………ほら」

 

 

ドラ殿が画面を指差す。これは夜…、つい最近ですな。えーと、中身は………

 

 

『ドラ君へ。

送れてるか分からないけど一応もう一度送ります。…やっぱりヤドはまだ送らなくて大丈夫です!…むしろ送らないで!こっちが落ち着いたらまた連絡します!

セーレ』

 

 

 

 

ドサッ…

 

 

メッセージを見てお土産を落としてしまう。お、送らないでは酷くありませんかな…ヤドも勝手にこっちに行ったのは悪かったですが…マスター………

 

 

「うっ…」

 

 

「…あ、まだいいのか…ってヤド!?」

 

 

 

 

 

 

「…うわあぁぁぁん!!!マ、マスターがぁ………!」

 

 

………もしかしてヤド…嫌われた?




ヤド視点って今回が初だったのね…。今回はちょっとメタ的な文章も入れてみました。
…まぁヤドだし良いかなって(適当)


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心まで鋼鉄に-4

アサギジムリーダー、ミカン。鉄壁ガードの女の子。


 

高く見積もっても二割。

 

 

そう頭の中で分析してしまった自分の思考に嫌気が差す。私の昔からの臆病な考え方だ。…その思考を振り払う様に私は目の前の相手に眼をやる。

 

 

…ハガネールがどっしりと構えている。既に戦闘態勢だ。

 

 

「…エレさん、ありがとうございます。昨日振りだね、ハガネール…さん」

 

 

その状況から目を逸らし、エレさんが戻っていったボールを見る。…また私は現状から目を逸らしてしまった。

 

 

エレさん、せめてアイツに瓦割りを入れてからチェンジして下さいよ。…口に出す直前でその言葉を飲み込んだ。これも臆病な考えだね。…そして再び前を見る。

 

 

…ハガネールがどっしりと構えている。既に戦闘態勢だ。

 

 

 

 

何も変わってない。自分の卑しい心も、相手の勝利へと進む心も。

 

 

『…勝つ気が感じられんな』………昨日あのハガネールと最後に交差した際に呟かれた言葉だ。その言葉は昨日の私の心中を見抜いており、それに心を揺さぶられた私は相手の攻撃を食らい、負けた。

 

 

「…ライ?」

 

 

「…ん?何、マスター?」

 

 

「いや…私が行くわよって言ったけど貴女は黙ったままだから…大丈夫?」

 

 

「…大丈夫だよ。ちょっと機を伺ってたのさ」

 

 

…嘘だ。しかしそう言うと不安そうに私を見ていたマスターの表情が和らぐ。…マスターは何時も通りでいて欲しいな。私の最後まで勝ちを諦めないでいてね。…よし、行こうか。私はハガネールへと意を決して一気に駆け出す。その動きに応じて砂嵐がフィールドに吹き始める。…やはりあの戦法か。

 

 

 

 

何も変わってない。マスターの勝ちを諦めない心も、相手の勝利へと進む心も。

 

 

 

 

後は私だけだ。

 

 

 

 

 

 

「ハガネール…、岩落としです…!」

 

 

「ライ、見切りよ!…機を逃さない様に!」

 

 

…とうに相手の攻撃は見切っている。私は砂嵐の中で落ちてくる岩を悠々と避ける。…こんなことだけは完璧だな。…ではまず一発頂きますか。私は姿勢を低くくしてハガネールとのすれ違い際に辻斬りを命中させる。

 

 

キィン…!

 

 

…浅いね、今のは大したダメージにもなってない。だが私の今の攻撃の目的はそれじゃない。

 

 

『…今日は勝ちに来たよ』…それを相手のハガネールに伝えたかった。ま…口角を上げたことと去り際の私へのアイアンテールが相手なりの答え方なのだろう。私はそれを距離を取り回避する。…もっと優しく答えて欲しいなぁ。

 

 

「ハガネール、そのまま岩落としを…!」

 

 

「ライ…!タイミングは任せるわ!」

 

 

砂嵐の中で戦う私達へのトレーナーの指示が通る。…マスター、指示が任せるってさぁ…。私は少し呆れながらも思考を巡らせる。

 

 

 

 

 

…岩落としかアイアンテール。どちらかだ。

 

 

どちらかの技を食らおう。

 

 

 

 

…そして叩き込む。チャンスは一度だけ。砂嵐が吹き荒れる中でのタイミングはとてもシビアだ。あの頑丈な体を砕いてやる…!

 

 

そう思考を巡らせて再びハガネールへの距離を詰めていく最中もも容赦なく降り注ぐ岩を避ける。…これは避けられているから良いがもし当たったら致命傷だね…。

 

 

…アイアンテールかな。こちらへの距離が近い技なのも良い。アイアンテールにわざと当たって直ぐ様仕掛けようか。

 

 

「………ハガネール、油断はしないように…落ち着けば大丈夫です…」

 

 

………感づかれたか?いや…相手のハガネールの動きは現状維持。なら大丈夫…。さて…アイアンテールに当たりに行く為の二撃目、行こうか。

 

 

キィン…!

 

 

ハガネールの体に辻斬りを命中させる。…そのすれ違い際にハガネールがアイアンテールを放っている。…今度は距離を取らない。私は離脱に遅れた振りをしてアイアンテールを腹に食らう。その尻尾に私は力を振り絞ってしがみつく。

 

 

ゴッ…!

 

 

「…ライ!」

 

 

フィールドに鈍い音が響く。その後にマスターの私を呼び掛ける声もする。…マスターは私が何処かで攻撃を食らうのは知ってるでしょ…。今日の朝に話したことだ。

 

 

昨日、ヘラちゃんから見様見真似で教わった技…見様見真似と言っても私…というかストライクにはその技の適性があるらしい。だから充分に形には出来た。

 

 

「………!ハガネール…振り払って!」

 

 

「………ライ…やっちゃいなさい!」

 

 

マスターもミカンさんも私の狙いに気付いた様だ。…マスターは私の狙いを既に知ってたけどね。…でもミカンさんも察するか、ジムリーダーってのは怖いね。

 

 

私はハガネールのしがみついている尻尾に対して全身から力を振り絞って全身をぶつける。…やはりこの技は不思議だ。アイアンテールを食らった際の痛みの分だけ全身から力がみなぎってくる。

 

 

「…ぐっ!!」

 

 

ハガネールはとっさに両腕を顔の前で組み、防御の構えを取りながらも吹き飛ぶ。それに伴い尻尾にしがみついている私も同じ様に宙を舞う。急所である顔を守ったのか…関係無いね!

 

 

「…よし!」

 

 

「っ………ハガネール…!」

 

 

 

 

 

 

私の技、『起死回生』が炸裂した。

 

 

…どうだ!無事攻撃が成功したことに私は微笑む。私の攻撃を食らってまでも攻めに転じた執念の勝ちだ……!相手が巻き起こしていた砂嵐の勢いが弱くなっていく…!

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

「………ふっ」

 

 

「………やった…ハガネール!…アイアンテールですっ……!」

 

 

ハガネールがその体勢のまま吹き飛び、地面に叩き付けられながらも小さく息を吐いた。そしてしがみついている尻尾に力が込められていくのが私の腕から伝わってくる。依然として防御の構えを取っているハガネールの顔は見えない。

 

 

…何で倒れないんだ?アイアンテールのダメージ量では足りなかったのかな?…岩落としなら起死回生でのダメージ量は充分だったりしたのか?結局私は適当な理由を付けてアイアンテールというダメージの低い技を食らう方を選んでしまったのか…?

 

 

………ハガネールは私のことをまた笑うのか。いや、笑っているのか?…彼女の顔は見えない。

 

 

 

…止めて。お願いだから。心の中での願いに反して尻尾に力が込められていくのが伝わってくる。…もう一回のアイアンテールを耐えるのは無理だ。今の私の体と…心では耐えられる気がしない。ハガネールは防御の構えを解かずに確実に私を詰ませに掛かっている。

 

 

これ以上、私から勝利を、希望を…

 

 

 

 

…奪わないで。

 

 

 

 

 

「…っ、ライ!………モーモーミルク!」

 

 

「…へ?」

 

 

…マスターの言葉とミカンさんの間の抜けた声が微かに耳に入る。

 

 

………!

 

 

………マスターの素晴らしい指示だ。私は指示の意図を察して行動に移る。…後はアイアンテールまでにそれが間に合うかだ。私はダメージのある体に力を入れ、顔を守っているハガネールの両腕を叩く。…それにより出来た腕の隙間から垣間見えるあれは…!

 

 

 

 

…任せてよマスター。…これは私が変わる必要が無い手慣れた一芸だから。

 

 

「…よこせっ!」

 

 

私はハガネールの両腕の隙間に手を入れ、直ぐ様隙間から手を抜く。これは一瞬の動作だ。ま、これくらいしか芸の無い萌えもんなんでね。…悪いけど奪うのは私の方だっ!

 

 

「…ハ…ハガネール…!?まさかっ…」

 

 

ゴッ…!

 

 

…腹に固いものがぶつかる感触がする。その衝撃に私は気を失いかけるがそれとほぼ同時にハガネールの隙間から奪った…

 

 

 

 

 

齧りかけのオボンの実を口に入れる。

 

 

………。

 

 

………何も考えられない。…多分この状態が絶好の起死回生のタイミングなんだよね、ヘラちゃん。私は気を失いかけながらも力を振り絞り、全力でハガネールの尻尾にぶつかる。

 

 

 

 

気を失う私が最後に見たのは…私から離れていくハガネール…。

 

 

 

 

…そしてジムの天井だ。

 

 

気を失う私が最後に聞いたのは…マスターとミカンさんの声…。

 

 

 

 

…そしてエレさんの…

 

 

「わ、私はまだ戦えますっ…!」

 

 

という宣言だ。



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番外編:『UA5000記念準備!皆で決める番外編企画2nd!』

※台本形式
※ギャグ、パロディ、キャラ崩壊あり
※本編「心まで鋼鉄に-4」までのネタバレあり
※(本編とは関係)ないです。本編読みたい方は飛ばしても大丈夫です。
※ちょっとUA5000には早いですがストーリーの都合上ここら辺でこの番外編を書いておきます。シリアス中に用意するのも良くないかなと思うので…


ここは謎の場所。いきなり現れ、そして消える場所。


 

ドラ「いやー、遂にUA5000だよ!つー!」

 

 

つー「そうだねー。赤飯炊いちゃおうかー」

 

 

ろすろす「主よ、まだUA5000ではないぞ。…今は4400くらいだ」

 

 

ドラ、つー「「………」」

ろすろす「あの…」

 

 

 

ドラ「これから来る読者さんには黙っとけばバレないと思うんだ。これはUA5000ぴったりに書きましたってことにしよう」

ろすろす「今私が話してしまったからバレバレだな」

 

 

つー「…じゃあもうUA4444記念でさー、つーが読者さんに毒々をプレゼントするよー。…UA4444踏んだ奴は夜道に気をつけてねー」

ろすろす「おい。今ので大半の読者さんがブラウザバックしたぞ」

 

 

ドラ、つー「「…すみませんでした」」

 

 

ろすろす「ではしょーもない茶番劇はここまでにして本題だ。今回も読者の皆さんに見てみたいと思う番外編をアンケートするぞ」

 

 

ドラ「…UA2500はサボってしまい、すみませんでした!今回はしっかり用意したよ!」

 

 

つー「でもさー、用意したって割にはこの番外編の登場キャラ数が貧相なんだよねー。今だと三人しかいないよー」

 

 

??「…誰が貧相よ!!!」

????「…わわ!ねーちゃん!出番はまだだよ!」

「ちくわ大明神」

???「そうです。ここはお耐え下さい」

????「えー!…いーじゃねーか!割り込んで参加すれば!」

 

 

つー「誰だ今のー」

 

 

ドラ「安心してくれ、つー。こんなこともあろうと今回は助っ人がいるんだ」

つー「流石ドラちゃんー!そこに痺れるし、憧れるよー。惚れちゃいそうー」

ドラ「こやつめ!ハハハ」

 

 

ろすろす「何というか………主が主じゃない…!この謎の場所とは一体…?」

 

 

??「もう良いかしら?早く出たいんだけど」

ろすろす「呼ぶのは主の仕事なのだがな…構わんぞ」

ホロ「では失礼しますね。どうも、ホロです」

ツヴァイ「ツヴァイだよ!」

ドライ「ドライだ」

フィーア「フィーアだ!本編だとまだお前らに会ってないけどよろしくぅ!」

 

 

ろすろす「まとも…まともだ…」(号泣)

 

 

ドラ「結婚したのか…?僕以外の奴と…」

つー「ハーメルンにて、マルトラで検索…」

 

 

ろすろす「何だその略称。さてこれで七人か…」

 

 

ドラ「七人の侍だね!」

つー「七人のナナだよー」

ホロ「…神7ね」

ツヴァイ「七人の小人!」

ドライ「男女7人夏物語か」

フィーア「王下七武海だな!」

ろすろす「いーや!鋼鉄の7人だ!…っておい!」

 

 

…七英雄でしょ byマクドール(作者)

 

 

 

 

さて…これ以上ふざけると本当に読者さんが去りそうなので本題に行きますよー。ここまで残った人は…

さあ!回復してやろう!全力でかかってくるがよい!

…それか馬車呼び出しですかね。

 

 

今回は人数通りに7つ番外編案を御用意しました。UA2500をサボった分出来るだけ読者さんに楽しんで頂ける番外編が書ければ幸いです。では皆さんに紹介して貰いましょうか…

 

 

 

1:『萌えもん~multi travel~NGシーン集』

『UA1000記念の没企画。本編をギャグ改造したものだ。ギャグ4倍界王拳でお送りするぞ。終始この雰囲気かもしれん…提案はするが選ぶなよ』byろすろす

 

 

 

2:『あの人は今…』

『今までの登場人物の中の主役級以外の脇役達にスポットを当ててくよ。対象は一人じゃなくて何人かはやるけど…誰が来るかはお楽しみに!…脇役達から見るこの世界をご覧あれ!』byドラ

 

 

 

3:『萌えもん達がヤンデルスに感染した様です。another』

『お待たせー。…これが欲しいんでしょー?今回はメインキャラじゃない方々に感染して頂くよー。あー…フィーアちゃんはちょっと待ってねー。メインキャラが増えたら2ndがあるから…ね』byつー

 

 

 

4:『コガネテレビ特番!お嫁さん企画!』

『もし萌えもん達がお嫁さんや彼女になったら?…そんな企画らしいわ。お願いだからピュアなツヴァイは巻き込まないで欲しいのだけれど…。後これ…テレビ放送らしいわよ』byホロ

 

 

 

5:『萌えもん~multi travel~ バレンタイン&ホワイト』

『UA2500に用意しようとしたがタイミングが悪く出来なかった没企画だ。トレーナーと萌えもん達のバレンタインデーとホワイトデー…甘くて苦くて目が回りそうになる世界をお送りしよう』byドライ

 

 

 

6:『イケもん~multi travel~』

『一番の問題作!女性の読者狙いの一品だぁ!萌えもん達が男性化するらしいぜ!ま、乙女ゲーみたいなモンだな!でもこの作品に女性の読者さんとかいんのかよ…?』byフィーア

 

 

 

7:『なぜなにヤド井戸』

『ヤドンの井戸のヤド先生がこの作品の世界観の説明や読者さんの質問に答えてくれるんだって!これに投票する時は皆さんが聞いてみたいことと…質問とかを付けて投票してくると嬉しいな!』byツヴァイ

※質問無しでの投票も可能ですぞ。byヤド

 

 

 

…以上になります。今回は数が多いので投票可能数は最大3つにしたいと思います。別に1つや2つでも構いません。

 

 

この中から見たいなーと思うものを1~3つ選んで作者の活動報告欄のアンケートに記入して下さい。上位3作品を書いていきます。(同率順位とかはその時考えます)

 

 

期限はUA5000になってから何日か後くらい?…今のところまだ未定です。活動報告欄のアンケートには期限が決まり次第書いておきます。

 

 

…では今回の番外編は以上になります。読者の皆さんの支えがあって無事UA5000に届くラインに来ました。本当にありがとうございます。そしてこれからもどうかよろしくお願いします。…べ、別に感謝なんかしてないんだからねっ!

 

 

 

 

次はUA7500か10000のどちらか…或いは第二部終了時の後書きでまたお会いしましょう!



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崩落までは何日後?-1

ここはチョウジタウン。ようこそ忍者の里へ。


 

いい目をした少女だった。

 

 

ホロという名の先程会った少女のことを思い出す。彼女ならば本当に怒りの湖でギャラドスを集めて湖周辺に人払いをしているギャラドスの親玉を止められるのではないかと思える。

 

 

「ま…やってもらわないと困るね」

 

 

そう呟き、町中を歩く。すれ違った人々は私を奇妙なものを見る様な視線で見ている。その視線を私は我関せずと言わんばかりの体で受ける。見るだけで何も言ってこない奴等なんか相手にする価値が無いからだ。

 

 

…やっぱりあの少女を見るためだったとはいえ、外に出るもんじゃないね。私はこの様な視線を受けている原因である自分の立場に嫌気が差す。もっと自由に空を飛び、地を駆ける。そんな昔のことを思い出す。

 

 

今の私は自身立場に相応しい振る舞いとそれにを保つ為に見栄を張ることをしなければならない。

 

 

見栄を張る…か。

 

 

そういえば………私は用事を思い出し、町中のお店の一つに足を踏み入れて、店内を見渡す。そして目的の品が入っている箱を見つけ、手に取りレジへと持っていく。

 

 

レジを担当している店員は先程外ですれ違った人々と同じ視線で私を見ている。…おい、私が怒り饅頭を買うのが可笑しいことなのか?

 

 

私だって自分がそんな柄じゃ無いことは分かっている。だがこれは見栄を張る為だ。部下との話の際に茶菓子の一つくらいは出せないとな。

 

 

…茶か。怒り饅頭を購入した私は足早にこの町の中でも有数の大きさの建物の中に入る。そして周りの人間との会話も無しに建物内の私の部屋へと辿り着く。

 

 

ドアを開け、中に入ると私の机の上に少し書類の散らかりが見える。そういえば調べものをした後に片付けをしていなかったな。そんなこと思い出しながら私は書類を整理する。こんなことは自分の柄では無いが部屋を汚い状態にしておく訳にはいかない。…これも見栄を張る為だ。

 

 

私は整理が終わると怒り饅頭を購入した際に思い出した茶について部屋に置いてある棚にある茶缶を確認する。その見た目は上品な作りをしており、その中身の茶葉もそれに相応しいものだ。…量も問題なしだ。部下との話の際にも私の立場に相応しいレベルのお茶を出さないといけないからな。…これも見栄を張る為だ。

 

 

確認を終えると私は買ってきた怒り饅頭が入った箱を入口側と部屋の応接机と椅子側からは見えない場所に置く。…わざわざ用意したものかと思って部下が気後れするのを防ぐ。…これも見栄を張る為だ。

 

 

これで大丈夫だろうか。私は部屋を入念にチェックする。………よし、大丈夫そうだ。

 

 

 

 

これで私は今日ここに戻って来るであろう彼………

 

 

 

 

………違う。ここに戻って来るであろう部下に対して私は所長という立場で接することが出来そうだ。



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崩落までは何日後?-2

ここはチョウジタウン。ようこそ忍者の里へ。


 

正直、ここに戻って来る気は無かった。

 

 

研究員としてのバッジを所長に取られた際にこのまま再び各地を巡る旅をしようかと考えていた。そんなことを考えていたのに現在研究所内を歩いている。

 

 

しかし嬢さんに関わる問題は俺個人では対応出来ない程の大きな問題だったのだ。だから俺はこのことを所長に相談し、様々なことを準備して貰った。…といってもタダでして貰う訳ではないのだが。

 

 

…何故嬢さんの問題に俺は関わろうとしている?…分からない。大人として見過ごせなかったのか?

 

 

…何故所長を頼った?…分からない。彼女を、この研究所を巻き込まずに自力で対応すれば良くないか?

 

 

………今度の所長は俺に何を頼むのだろうか。俺は所長の部屋の前で立ち止まり、ふと考える。

 

 

俺に面白いことを与えてくれるのか。それとも…

 

 

 

 

また俺を縛るのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

「…まずお帰りと言っておこうか」

 

 

「…どうも」

 

 

部屋に入ると所長が応接机と椅子の上座側に座っている。それを見て俺は空席である下座側の椅子に座る。…部屋は相変わらず小綺麗だ。研究器具や書類が整頓され、置かれている。

 

 

俺が座るのを確認した所長が席を立ち、少しすると二人分のお茶と茶菓子を手にしてそれを机に置いた。…その時に俺は持ってきたお茶を手で直接受け取ろうとしたのは何故だろうか。そういう関係でもないのに。

 

 

…相変わらず用意周到なことだ。机に置かれた見るからに高そうなお茶と差し入れで貰ったのだろうか…茶菓子を見つめる。…見つめるていると所長が食べる様に促した。それに従い、俺は茶菓子の怒り饅頭を口にする。

 

 

「で…ケイブ。悪い話と良い話があるがどうする?」

 

 

「悪い話からだ。好物は最後に食べるタイプでね」

 

 

口にあんこの甘さが広がる。

 

 

「どうでも良い情報をありがとう。…ならこっちからだ」

 

 

所長が立上がり、整理された書類の中から何枚かの紙を手にこちらに戻って来る。俺は口の中のあんこの甘さをリセットするためお茶を飲む。

 

 

「これはあんたが調べてくれた地下洞窟についての資料だ。…疑う訳ではないが、中身はかなり奇っ怪なものだね。エンジュ付近の地下洞窟内は暖かく、一般的な火山に生息する萌えもんが多数生息する…」

 

 

「…それについては書いてある通りだ。嘘は書いてないぞ」

 

 

上品な苦味を含んだお茶は俺の口の中をリセットしてくれる。

 

 

「知ってる。あんたが一度受けた仕事にはしっかり応えることはね」

 

 

「…そりゃどうも」

 

 

二つ目の怒り饅頭を口にする。

 

 

「そしてホロン地方のカンナシティ付近の地下洞窟。壁がひんやりとしており、何処か肌寒い…か。同じ洞窟の中とは思えないね」

 

 

「………これに後一つ加われば完璧だ」

 

 

「…何がだよ」

 

 

所長の口振りから俺の探索が完璧でないと笑われた様に思えて俺はぶっきらぼうに答える。口の中のあんこの甘味を味わいつつ…だ。

 

 

「地下洞窟の入口が見つかった焼けた塔の伝説は知ってるかい?」

 

 

「…大体はな。…もう焼けた塔は以前残ってた焼け残りの残骸すら地震によって崩れてしまった。今は撤去作業も進んで只の廃墟だ。たまにその光景を見に来る観光客や地下洞窟に興味を持った俺と似た人間が来るだけだな」

 

 

「そうだね。エンジュの伝説によると…百年以上前…塔は落雷で火事になって焼け落ち、突然の大雨で鎮火した」

 

 

所長が焼けた塔に関わる伝説を話し始める。俺はそれを聞きながらお茶を飲む。

 

 

「………名も無き三匹の萌えもんがこの火事で死んでしまったが、その三匹にホウオウが命を与え、三聖獣として復活させた」

 

 

所長は話続けている。それを聞きながら俺は三個目の怒り饅頭を手に取った。

 

 

「そして三聖獣の萌えもんは塔に落ちた雷、塔を焼いた炎、塔を鎮火させた雨の化身であると言われている」

 

 

手の中の怒り饅頭を口にする。…あんことそれを包む皮のバランスの取れた味に舌鼓を打つ。

 

 

「…ケイブ。ここからあんたに質問だ」

 

 

 

 

 

「もし…あんたの思い出の品が壊されたらどうする?」

 

 

「そりゃ…怒るな」

 

 

俺はお茶の入った茶器を手にする。中は後一口くらいだろうか。ちょっと名残惜しいが俺は残りの中身全てを飲む。

 

 

「…だろ?」

 

 

「…所長。何が言いたいんだ?…そして俺の探索に何が足りない?」

 

 

「そうだね…これは私の推論なんだが…」

 

 

 

 

 

「………このままじゃジョウト地方が沈むね」

 

 

お茶を吹き出しそうになる。

 

 

「…はぁ?所長もボケたか」

 

 

「………あんたより若いよ、馬鹿」

 

 

「………冗談だ、冗談!!」

 

 

…今度は所長に熱々のお茶をかけられそうになる。…ったく冗談なのに。でもこの話は…

 

 

 

 

………お茶と茶菓子を堪能しながら聞く話じゃねぇな。



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崩落までは何日後?-3

ここはチョウジタウン。ようこそ忍者の里へ。


 

気持ちは分からなくもない。

 

 

俺はボールの中でケイブさんとあの人…今は所長さんだったかな?…の話を聞きながらそう思った。

 

 

「…沈むってのはどういうことだ。まさかその三聖獣の萌えもん達がジョウト地方を潰すってことか?」

 

 

ケイブさんは先程まで茶菓子に伸ばしていた手を口元に置いている。…もう怒り饅頭に手を出す気はないようだ。…ケイブさん、俺達の分も残しておいてくれよな!後は帰る時にしっかりと持ち帰ってくれ、ケイブさん!

 

 

「…分からない。だから推論なのさ」

 

 

「焼けた塔…三聖獣の萌えもんにとっては家みたいなもんか…」

 

 

 

 

「それを壊されただけで?」

 

 

ケイブさんが呆れた様に軽く笑う。それを見た所長さんが顔をしかめた。俺もボールの中でケイブさん達は見てないだろうけど顔をしかめる。…リリーラの姉貴の表情は分からない。多分いつもの無表情なのだろうか…?

 

 

 

 

ケイブさんは分かってない。

 

 

俺は焼けた塔の伝説とか三聖獣の萌えもんの話とかはよく分かってないけど所長さんの話を聞く限りでは彼女達にとっての焼けた塔とは大切な存在なんだと分かる。

 

 

彼女達にとっては『かつての住み処であり、一度命と住み処を失いかけるも何とか守り抜いた思い入れのある大切な場所』だ。それを壊されただけと簡単に言えるものじゃないよ。ケイブさん。

 

 

焼けた塔崩壊の直接的原因である大規模地震による行き所のない不満や怒りが…その後の人間達により行われた焼けた塔の撤去作業に対して矛先が向いたのか?

 

 

気持ちは分からなくもない。

 

 

…再び俺はそう思う。もし俺がトレーナーであるケイブさんを失ったら多分周りに当たってしまったりするかもしれない。ちょっと意味が違うかもしれないが馬鹿な俺なりにそう解釈し、理解する。

 

 

「まぁいいや。で…俺はどうすればいいんだ?」

 

 

ケイブさんも少し言葉を止めて頭の中で考えていたのであろう、少し経ってから所長に問う。

 

 

「………まだ発見していない三聖獣…ライコウのヒントになりそうな場所の捜索だ。恐らく地下洞窟内だろう」

 

 

「………雷か。炎や水に比べると分かりにくいもんだが…」

 

 

不精髭を触りながら考えている。…雷かー。地面や壁に電気が残ってるとか?そりゃ怖過ぎる…。いや…そんなレベルの異変ならすぐ気がつくだろ。もっとこう…簡単な…

 

 

 

 

「…地面や壁が荒れている。それも洞窟としての形状を残しつつ…か?」

 

 

ケイブさんが呟いた。

 

 

「………そこら辺の判断はあんたに任せる」

 

 

所長さんがその呟きに答えた。…呟きの内容を否定する気はないらしい。俺は今の予想でいい線行ってると思うぜー。

 

 

「地下洞窟内であんたが正しいと思った場所の痕跡があったら報告してくれ。…それが今回の件に対する私からのお願いだ」

 

 

今回の件…ロケット団とかの話だろうか。ケイブさんが所長さんと話す前に『何か仕事をさせられるかもしれねぇ』と面倒臭そうに言っていたのを思い出す。

 

 

「………そりゃ…大層なお仕事だ」

 

 

 

 

ケイブさんは口角を上げて微かに笑う。………面白いことを見つけた子供の様な表情だ。ま、ケイブさんはおっさんなんだけどねー。

 

 

「なぁ…?」

 

 

「…何だい?」

 

 

「…捜索と報告だけで良いのか?」

 

 

ケイブさんは笑みを浮かべながら所長に聞く。…あ、これ絶対また俺達が苦労するやつだ。ケイブさんも所長さんの答えを分かっているだろうに…。やれやれ…

 

 

 

 

 

 

「それだけでいい」

 

 

 

 

「…!………そうか…」

 

 

 

 

 

 

しかし所長さんからの答えはケイブさんや俺が予想していた答えとは異なるものだった。ケイブさんの顔から子供の様な笑みが消える。それを見た所長さんが言葉を続けた。

 

 

 

 

「あんたには三聖獣の相手は無理だ」

 

 

所長さんが広げていた地下洞窟に関する資料を纏め始めている。その動作はこの話はもう終わりだと主張しているみたいだ。

 

 

俺には…所長さんがケイブさんには三聖獣の相手は無理だと言ったその…

 

 

 

 

気持ちは分からなくもない。



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崩落までは何日後?-4

ここはチョウジタウン。ようこそ忍者の里へ。


 

話はどうでもいい。

 

 

 

 

だが彼を蔑ろにする態度だけは許せなかった。

 

 

勝手に話を始め、そして終わらせたあの女をボールの中から睨む。幸いなのは私がボールの中なのであの女に会う必要がないこと、そして彼に私があの女を睨んでいることが見られないことだろうか。

 

 

「次はあんたの話だ。あんたが話したロケット団についてだが…」

 

 

「…おう。どうだった?」

 

 

そしてまた勝手に話を始める。あの女が勝手に始めた話に対しても彼は言葉を返し、話に応じている。そういう優しさがあの女を付け上がらせることを彼は分かってないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ロケット団の大きな話は数年前のシルフカンパニー占拠以降は聞かないね。解散したって話が濃厚だ」

 

 

…どうでもいい。彼も既に把握しているであろう在り来たりな情報だ。

 

 

「大きな話は………ってことは小さな話はあるのか?」

 

 

「小さな話ならある。カントー地方の一部で活動を再開しようとして結局解散したとか…地下での闇商売でボールを売り捌いたりとかだ。比較的小規模なものだね」

 

 

「そうか…やっぱり残党とか小規模なものか。あの時も四人しか居なかったし、その後俺達へ報復にも来なかったしな」

 

 

彼はあの女の話を聞きながら手元にある空の茶器を小さく回している。…彼はあまりこの話には関心が無いようだ。…というより先程の地下洞窟の話の方が頭に残っているのだろうか。考えているのは三聖獣と呼ばれているあの萌えもん達のことか…

 

 

 

 

ほっとけばいいのに。

 

 

 

 

伝説級の萌えもんなんてろくな奴がいない。

 

 

 

 

………アイツを見れば分かる。………まぁ、アイツは正確に言うなら伝説級の萌えもんでは無いみたいだが。

 

 

ほっとけばいいのだ。その三聖獣とやらもアイツも。地下に、砂に埋もれてればいい。

 

 

「………そんなつまらなそうにしないで欲しいね。全く…」

 

 

「い、いや…。別に…」

 

 

あの女もそんな彼の様子から心境に気づいたのかそう愚痴る。その後、彼が手で弄っていた茶器をパッと奪い、急須から茶器へとお茶を注ぐ。大体、八文目くらいまと注ぐと茶器を彼の前に差し出す。それを彼は微笑みながら、受け取る。

 

 

「…ん、悪いな」

 

 

「…別に」

 

 

………。

 

 

………早く次の話をしなよ。どうでもいい話だろうが聞いてあげるから。私の無言の圧力が通じたのか、二人の間に変な空気が流れたからかは知らないがあの女が急に話を変える。

 

 

「…さて、ケイブ。良い話に入ろうか。私に連絡を取れって言ったあの子の件だ」

 

 

「おう。良い話ってことは…」

 

 

彼が怒り饅頭に手を伸ばす。お茶に合う茶菓子が恋しくなったのだろうか。

 

 

 

 

「…来てくれるそうだ。良かったね」

 

 

「そうか…!助かる」

 

 

………。

 

 

おい、何が良い話だ。…悪い話の間違いだ。余計なことをしないで欲しい。

 

 

私の気持ちとは裏腹に喜ぶ彼は、怒り饅頭を持った手を口へと運ぼうとする。その時…

 

 

 

 

「…ほぼ全員、来てくれるそうだ」

 

 

「え…?」

 

 

その発言に、彼の持っていた怒り饅頭が机の上に落ちる。………アノプスが見たら『勿体ねー』とか言いそうだ。…今の話を聞いてそんなことを思う余裕があるなら、だ。

 

 

「………マジか。アイツらも結構暇なんだなー」

 

 

彼は怒り饅頭の落とした部分を軽く手で払い、口にする。

 

 

暇…?そんな訳無い。彼が呼ぶなら急いで彼の元に来る…そういう連中だ。

 

 

………私自身がそうだから分かる。

 

 

むしろ全員では無いのか。そう考えてしまう。…でも誰が来ないのだろうか。…出来れば面倒臭い奴が来ないことを祈る。

 

 

「…ん?ほぼってことは誰が来ないんだ?」

 

 

彼も私と同じ疑問を抱いた様で、あの女に話の詳細を聞こうとする。

 

 

 

 

「─────が来ないらしい。…あの子が説得したらしいがね」

 

 

…ふーん。

 

 

「………あー、まぁ…アイツはなー…。じゃあここに来る連中は…えっと…」

 

 

彼が腰に付けている私とアノプスのボールを確認する。彼が何体来るかを考えている間に私もその答えを考える。全く…面倒なことになった。

 

 

これでは…

 

 

彼との時間が少なくなってしまいそうだ。胸が苦しくなる。

 

 

 

 

 

 

「九体…、今いるアノプスとリリーラ含めて十一体かよ………ハハ…」

 

 

彼が空笑いをする。そしてお茶に手を伸ばし、中身を一気に口に含んだ。

 

 

「…はぁ………」

 

 

彼は口に含んだお茶を飲み込んだ。そして溜め息を吐く。そして黙ってしまう。その様子を見たあの女も今は話をする気は無いらしい…黙っている。

 

 

「………ま、どうにかなるだろ」

 

 

彼は考えるのを止めた様だ。その現実から逃げる様にまた怒り饅頭に手を伸ばした。

 

 

まぁ…私は彼と一緒に居れるならどうでもいい。

 

 

………。

 

 

─────が居ないのか。

 

 

 

 

やっぱり伝説級の萌えもんにはろくな奴がいない。

 

 

…改めてそう思う。こんな彼の方から呼ばれる機会を逃すとはね。

 

 

ま、どうでもいいことか。

 

 

 

 

 

 

「ほれっ、怒り饅頭だぞ」

 

 

「…一個だけじゃん!ケイブさん食べ過ぎだよっ!」

 

 

その後も私にとってはどうでもいい話をした後、彼が研究所を出るとケイブさんが持ち帰った怒り饅頭一つをアノプスに渡す。…あの箱は六つ入りの商品だったみたいだ。

 

 

「全くもー…」

 

 

アノプスが愚痴を溢しながら怒り饅頭を口にする。すると愚痴を溢していたアノプスの機嫌が良くなった。…単純な奴だ。

 

 

………そして食べながら彼に質問をしてくる。

 

 

「で、どうすんだよ。ケイブさん」

 

 

「?…何がだよ?」

 

 

「えっと…地下洞窟のこととか…ホロさんのこととか…これから来る皆のこととか…」

 

 

………質問の内容が定まっていない。アノプスが馬鹿なのと考えることが多すぎるということが原因か。…私は別に考える必要はない。

 

 

彼に従うだけだ。

 

 

「………どうするかなー…ま、その場によってだな………うん」

 

 

彼がそう呟きながら肩を落とす。…落ち込んでいる様に見えるその様子をアノプスが気遣う。

 

 

「…ほ、ほら!饅頭あげるから元気出せって!」

 

 

アノプスが彼に食べかけで半分くらいの大きさになった怒り饅頭を差し出す。いや、あげるって…元は彼から貰ったものだろう。………違う。問題はそこじゃない。

 

 

「…ハハ、ありがとな。じゃあ少し………やっぱ美味いな」

 

 

「ぜ、全部は駄目だからな!」

 

 

彼はアノプスが差し出した怒り饅頭を受取り、口を付ける。そして半分の半分…元の四分の一くらいになった怒り饅頭をアノプスに再び渡した。………おい、待て。

 

 

「…結構食べられたなー…ま、いいや!」

 

 

 

 

そしてアノプスはその四分の一を一気に食べた。…その四分の一の怒り饅頭の価値を分かってない様だ。その様子を私はじっと見つめる。

 

 

「………」

 

 

「…あ、姉貴!…ごめん!もう食べちゃった」

 

 

「………」

 

 

「だ…、だってそういうのはいつも要らないって言ってるし………」

 

 

「………」

 

 

「な、何か怒ってる?…何でだよ?」

 

 

………。

 

 

 

 

まず他の子が彼の元に来る前にコイツをどうにかした方が良いかもしれない。

 

 

…そう思った。

 



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理科系の女-9

ここはアサギシティ。潮風香る港町。



 

ここ最近、聞き慣れた音が機械から鳴った。

 

 

その音が鳴り止むと椅子に座っていた目の前の少女が立ち上がり、その機械の中から四つのボールを取り出し、こちらに戻ってくる。

 

 

「はい…。お待たせしました」

 

 

四つのボールの内、二つを私の前に置く。残りの二つは少女が手にしたままだ。私は目の前に置かれたボール二つを手にする。

 

 

「ありがとね、ミカンちゃん」

 

 

「ミ、ミカンちゃんは止めて下さい…」

 

 

お礼を言うと少女…ミカンちゃんは照れて顔を伏せてしまう。…呼び方はミカンちゃんでは駄目かしら?でも呼び捨てとかミカンさんって呼ぶのも何か違う気がする。

 

 

「ジムにも萌えもん回復の機械があるのね。羨ましいわ」

 

 

「日によっては何度もバトルすることもありますから…私はあまり無いんですけど…ね…」

 

 

「…だから私を挑戦者だと勘違いしたの?」

 

 

「そ、そのことはもう忘れて下さいっ…!」

 

 

私が笑いながらそう言うとミカンちゃんは更に照れて顔を伏せてしまう。

 

 

………どうやらミカンちゃんはあまりジムにバトルをする人が来ないせいか珍しく来た人を挑戦者だと勘違いしてしまった様だ。普段からアサギシティのことでジムに居ないこともあるらしいのが挑戦者が来ない要因の一つみたいだ。理由は萌えもんの体調管理?…らしい。

 

 

「ほ、本題に入りましょう…!この手紙についてです!」

 

 

「…中身は何だったの?私も詳しくは知らないのよ」

 

 

これ以上弄られたくないのかミカンちゃんは強引に話を切り替える。先程ミカンちゃんに渡した手紙の中身は私もよく分かってない。どうやらライが強くなることについての話らしいのだが…。私はそう伝えてきたケイブさんのリリーラを思い出す。

 

 

「えっと…まずこれを…」

 

 

ミカンちゃんが私の前に小さな金属の固まりを置く。…何これ?私はじっとその固まりを見る。

 

 

そんな私の視線に気付いたのかミカンちゃんが言葉を続ける。

 

 

「…それはメタルコートです。彼の手紙にこれを渡す様に書いてありました」

 

 

「………ふーん」

 

 

私はその金属の固まり…メタルコートを軽く指で弾く。…コンコンッと小気味の良い音が鳴った。

 

 

「………ねぇ?手紙に書いてあったとはいえ、貰っていいの?これ?」

 

 

「大丈夫です。…正確にはこれはケイブさんの物なんですよ。…彼はこれを何処かの洞窟で発掘した様で私が預かってたんです」

 

 

「へー…」

 

 

また私はメタルコートを指で弾く。こんな物を貰ってもなー…という思いもあるがその好意を無下にするのも悪いので受け取っておきましょうか。

 

 

「後…少し私と特訓をしましょう。普段はこういうことはしないのですが…」

 

 

…こっちの方がライが強くなる為の方法の本体かしら。ジムトレーナーとの特訓とは…贅沢なものね。それを取り付ける彼………ケイブさんって何者なのかしら?

 

 

「良いの?………じゃあお願いするわ」

 

 

「丁度バトルフィールドもありますのでそこで…」

 

 

私はミカンちゃんに良いのか聞くがミカンちゃんが頷くのを見て、お願いすることにする。そしてミカンちゃんに続き、先程戦ったバトルフィールドへと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

「お姉様ぁ!!」

「えっ…あの…ハガネールさん…?」

「いいえ!ネールとお呼び下さいまし!お姉様っ!」

「あの…距離が近い…。というか本当にさっきのハガネール…?」

「えぇ!先程、お姉様に初めての唇を奪われ、体中を蹂躙されたネールです!!」

「…待って!ウチそんなことしてない!」

「…そんなっ!ワタクシの……キャッ!恥ずかしい!そういうプレイですか、お姉様!」

「…何これ!?…てか誰!?…あの時の『…勝つ気が感じられんな』とか言ってた君は何処に!?」

「あの時のワタクシはお忘れ下さい!今のお姉様からはワタクシを泥棒し、蹂躙する気しか感じませんわ!」

「…そんなことしないよ!め、面倒臭いなぁ…」

「お姉様?」

「………」

「…お姉様?どうしました?」

「………」

「…も、もしかして…」

「………」

「…これが俗に言う放置プレイですか!?これ…凄く興奮します!!流石お姉様ですっ!!」

「なんだこの鋼鉄メンタル!?マスター助けて!」

 

 

 

…楽しそうねー。私はハガネールに引っ付かれるライを見ながら他人事の様にそう思う。…隣のミカンちゃんは信じられないものを見る様な目で二人を見ている。そして大きく息を吐いた。

 

 

「ネール…あんなに良い子だったのに…何故っ………」

 

 

「えっと…ごめんなさい」

 

 

「いえ…別にセーレさんが悪い訳じゃないですから………」

 

 

とりあえず私はミカンちゃんに謝っとく。というか凄い豹変っぷりねー。ジムバトルの時とは大違い…。あ、ライが押し倒された。………ライが私の方を助けを求める様に見てるけど…間に入れる雰囲気じゃないわね。…私は目を逸らす。

 

 

離れた位置ではミカンちゃんのコイルとエレが戦っている。…というよりエレがボコボコにされている。………まぁあの二人よりは特訓しているみたいに見えるしOKかしら。

 

 

 

「ソニックブーム…ソニックブーム…!」

「ちょっ…止めて下さい!」

「ソニックブーム…!」

「くっ、このっ…!」

「………サマソッ!」

「うわー、うわー…ウワー………」

 

 

 

………コイルの十万ボルトを食らったエレが吹っ飛んだ。壁際でミカンちゃんのコイルが待ちの戦法を取り、エレがそれに立ち向かう訓練…の様だ。あのコイルの戦い方は素人の私から見ても非常に完成された戦術だ。…あれを破るのは容易では無いだろう。逆を言えばエレがあの戦術を破ることが出来れば、かなり成長したとも捉えられるか。頑張りなさい…エレ!

 

 

「………あ、忘れてました!セーレさん、こちらを…」

 

 

ライとハガネールの光景から目を逸らしていたミカンちゃんが私に何かを渡してくる。…うん、あの光景から目を逸らしたくなる理由はよく分かるわ。

 

 

「ん?…これは技マシンかしら?」

 

 

「はい…中身は鋼の翼です。是非あのストライクに…」

 

 

 

「…ワタクシ達のお揃いの愛の証ですね!お姉様!」

「うわ、覚えたくない…」

「………!そんな…」

「…あ、愛の証って言われても…ねぇ?」

「…やはり中途半端な鋼技でなくワタクシと一緒のアイアンテールが理想なんですね!流石お姉様ですっ!!」

「………やっぱりこの子面倒臭いっ!!…ウ、ウチは絶対嫌だからな!」

 

 

 

「………お、覚えさせるかどうかはそちらで相談して下さい…」

 

 

「うん…」

 

 

エレはともかく、ライはあれで特訓になってるのかしら…。あ、でもあのハガネールを振り解く為に力を使ってるから結構良い訓練…なのかも?

 

 

………こうして私達は一日の間ミカンちゃんとその萌えもんに特訓して貰った。因みに特訓が終わると最後にはスチールバッジをくれたわ…!そうだ、一応ジム戦に勝ったんだったわ…忘れた…。

 

 

…よし!鞄の分かりやすい所に付けて、今日は萌えもんセンターに戻りましょうか!



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番外編:『萌えもん達がヤンデルスに感染した様です。 another 前編』

※番外編です。本編とは関係無いです
※前後の二話分の予定。
※今回は番外編の量が多いので本編→番外編→本編→番外編…の流れで投稿予定(あくまで予定です)。
大体UA7500か10000辺りまでには番外編を全て終えたいですね(終わるとは言ってない)。
※…このままではUA5000に間に合いません!強行します!
→アンディー!!(フライング投稿)


~簡単なあらすじ~

XXXX年。世界はヤンデルスの炎に包まれた!!
トレーナーの精神は枯れ、良心は裂け、あらゆるトレーナーは萌えもんに溺愛されたかの様に見えた!!
…しかし!萌えもん協会と匿名の少年の尽力によりヤンデルスの抗体薬が製作…拡散され、多くのトレーナー達は平穏を取り戻し…一部のトレーナーは舌打ちしたという!!


………だが!!


ヤンデルスは死滅していなかった!!


 

~case1~

 

 

 

朝のこの時間。

 

 

彼は朝に強い人間らしく、寄り道とかは余りしない人間だから…

 

 

彼らは仕事場へ向かう際に、この時間にここを通る筈だ。

 

 

………そのせいで最近ワイまで朝に強くなってしまったなぁ。…何でやろ?

 

 

暗い洞窟の道に薄い光が灯る。…来たか。これがウチの光…彼を示す光。

 

 

………。

 

 

………『捕まえてくれ』なんてウチから言える訳ないし、彼の周りの萌えもん達の様子から断られそうだ。

 

 

だから………

 

 

「…おっさんか!…偶然やないか!」

 

 

「おう、マリル。今日も通らせて貰うぜ」

 

 

「どうぞ、どうぞ!おっさんなら大歓迎でっせ!」

 

 

「…ありがとよ。…お前も普段こんな時間から起きてるのかー。珍しいもんだ」

 

 

 

 

「………実はおっさんのこと待ってるんやで」

 

 

「………え?」

 

 

「…冗談や!冗談!…アホみたいな面しおって!からかっただけじゃ!バーカ!!」

 

 

「コ、コイツ…変なこと言いやがって…!」

 

 

「ハァ…まぁいいか。じゃあな、俺は行くぜ」

 

 

「おう、気を付けてなー」

 

 

そう言って彼と彼の萌えもんが離れていくのを見送る。…彼等が離れると薄い光が更に乏しいものとなる。

 

 

………彼の萌えもんが放つ洞窟を照らす光は薄いのは嬉しくもあり、悲しかった。彼の顔をしっかりと見れないのは残念だが…

 

 

………ウチの真っ赤な顔を彼にしっかりと見られないのは嬉しかった。

 

 

だって…

 

 

 

 

 

…恥ずかしいやん。

 

 

 

~case1 end~

コメント:最初は軽いお通しから。…でもこれヤンデレじゃない感。…普通にラブコメみたいな話になってしまった。でも個人的にこの位の距離感がいっぱいちゅき。

 

 

 

~case2~

 

 

 

…彼にとって萌えもんという存在は一杯いるのだろう。

 

 

…でもあっしにとってトレーナーという存在は貴方しかいない。

 

 

「………ふふーん」

 

 

だから貴方を待つ。彼との約束の場所で約束の時間のかなり前から。

 

 

朝から…いや、昨日の夜…いや、約束をしたあの時から緊張している。…彼のことを考えると胸の高鳴りが収まらない。

 

 

だからだろうか………

 

 

 

 

 

彼にとってあっし以外の萌えもんという存在がいるのが我慢ならない。

 

 

………

 

 

あ…まだ約束の時間まで余裕はあるよね。

 

 

先に『仕事』、終わらせよ。

 

 

 

 

 

 

「アッカ、お待たせ」

 

 

「…やぁ!主人さん」

 

 

「いつもありがとな。…じゃあ行こうか」

 

 

「分かった。…確かあの場所の大木かな?」

 

 

「…そうだ。頼むぞ」

 

 

さて…

 

 

仕事終わりのご褒美の時間だ。彼があっしの隣にいる。あっしに話しかける。あっしを見ている。

 

 

あぁ、いいなぁ、これぇ…。仕事の疲れも吹き飛ぶよ。うん。最高。

 

 

「…アッカ、今回はしっかりな。…前のトレーナーさんみたいな人は出さない様に」

 

 

「はいはいー」

 

 

前回は…祠の近くの大木の件か。ふざけてトレーナーさん相手に遊んでたことを彼は言っている様だ。………結局遊ばれたのはあっし側だったけどね。あの時のトレーナーさんの側にいたあの忌々しい金髪の少女を思い出す。

 

 

………正確には違う、忌々しかった少女だ。…今なら分かる。

 

 

 

 

彼女はあっしと同類だ。…そしてあっしの理想型を既に手にした者。…云わば先輩だ。………そういえば彼を想う際の胸の高鳴りが以前より強くなったのは彼女に会ってからだ。

 

 

…そんな彼女の言動は私に答えをくれた。

 

 

 

 

『大切な時間』を楽しみたいなら『仕事』をしよう。それが『大切な時間』を楽しむ為だ。

 

 

…え?

 

 

仕事は何かって?

 

 

 

 

 

 

 

 

ここ…ウバメの森であっし以外の萌えもんを狩ることだよ?…これで彼にとっての萌えもんはあっしだけでしょ?現に彼があっしの隣にいる。あっしに話しかける。あっしを見ている。あぁ…いいね、最高だ…!

 

 

………あ、『仕事』の後始末は既に終わってるから気にしないで。『中途半端な仕事はするな』…それが彼の言葉だからね。

 

 

…まだこの森に起きた異変を知らない彼はあっしを連れて目的地へと進んでいる。

 

 

うん、一緒に進もうね。

 

 

 

 

 

 

あっしだけのトレーナーさん。

 

 

 

~case2 end~

コメント:原作でもポケルスって近くにいると感染するからね。ただし感染後に抗体が出来ると他へうつらない。…つまりどういうことなのかは皆様のご想像にお任せします。

 

 

 

~case3~

 

 

 

惜しかった。

 

 

 

 

優しいこと…合格。

真面目なこと…合格。

空気を読めること…合格。

正直なこと…合格。

心配り出来ること…合格。

謙虚なこと…合格。

礼節を重んじること…合格。

 

 

 

 

場に流されやすいこと…不合格。

恥ずかしがり屋なこと…不合格。

大事なことを黙ってること…不合格。

周囲に甘いこと…不合格。

物事の詰めが甘いこと…不合格。

仲間に恵まれないこと…不合格。

儂を愛していないこと…不合格。

 

 

 

 

紙に走らせていたペンを置き、書いたことを見直す。…まだ、こんなに駄目な部分がある。

 

 

少しずつ直していくしかない。…彼には儂の王になって貰うんだから。

 

 

さて…二日目、行こうか。

 

 

 

 

 

 

「やぁ、おはよう」

 

 

「………おはよう、ごさいます」

 

 

彼が動けない状態ながらも挨拶に応じる。彼の目はまだ様々な想いが混ざっているが挨拶に応じたことをまず評価しよう。

 

 

「…!よし…偉いぞ…少年」

 

 

儂は彼の頭を優しく撫でる。…すると彼はこちらを睨み返してきた。

 

 

………。

 

 

撫でる手を止めて彼の顔を掴み、儂の顔を見させる。…すると彼の目は怯えを持ったものとなる。

 

 

………。

 

 

彼を叩く。叩かれた彼は少しだけ体が横に動いた。…少しだけなのは彼の手足を縛ってる鎖のせいか。…彼の恐怖に歪む。…この後に起こることを彼は分かっている様だ。それを恐れてか彼が震えながら言葉を発した。

 

 

「…っ、すみま…せん…。ありがと…ヤドラン…」

 

 

 

「…!!…儂も悪かったな。少年…痛かったよな…大丈夫だったか?ごめんなー…」

 

 

儂は彼の叩いた部分を手でそっとさすりながら、抱き締める。そして耳元で囁く。

 

 

「…よく分かったね。凄い…、偉いな。二日目で何も言わずに分かった…流石少年だ。…賢いな。よく頑張ったぞー………」

 

 

「 ………っ」

 

 

そして、耳元から顔を離し、彼から距離を置く。…一日目と違い、離れる時の少年の顔が屈辱と切なさが混じったものとなっていた。

 

 

………悪くはない。

 

 

もう一度近付き、彼を抱き締める。…彼が顔を逸らそうとするが、儂がじっと見ると彼が顔を逸らすのを止めた。…向き合う形になる。

 

 

「…でも優しい君のことだ。これも儂を考えてのとりあえずの対応なんだろうな」

 

 

「………」

 

 

彼は黙っている。…そんな彼に救いの手を与えようか。…さて、どうするかな?

 

 

「………ふむ。ここの答えはな『そんなことない。気にしないで』と言えば良い」

 

 

「………!」

 

 

「少年のいい部分までは矯正したくない…その心配りは大切にしてくれ。…優しい君のな」

 

 

儂は彼の頭に手を伸ばし…

 

 

 

 

止める。…抱き締めていた腕も解く。

 

 

「………あっ…」

 

 

「………少年、答え聞いてなかったよ」

 

 

彼の顔がお預けを食らった様な切ないものになる。…先程よりも良いぞ。…やっぱり少年は儂の理想だ。…後は彼がその称賛を与えられる返答をするかどうかだ。

 

 

「どうする?」

 

 

 

 

 

 

 

「……………そんなことない!気にしないで!」

 

 

 

 

勝った。

 

 

 

 

彼に伸ばしかけていた手を頭にやり、全力で撫でる。そして儂の胸元まで頭を持っていき、解いていた腕で彼を再び抱き締める。それを受けた彼の顔が喜色に染まるのが束の間、見えた。

 

 

「よく言えたねー…。…少年を信じていたよ。君は優しくて…真面目で…空気を読めて…正直で…心配り出来て…謙虚で…礼儀正しくて…本当にいい子だ。でも…」

 

 

「………で、でも?」

 

 

震えた声で聞いてくる。まるで捨てられるのを恐れている子犬の様だ。…捨てる訳がない。儂が君を捨てる訳ないのにな。

 

 

 

 

「…悪い所もあるんだ。それは直していこう。…直す度に少年が望むことをしてやろう」

 

 

「……………なら」

 

 

「 …なら?」

 

 

「…こうやってまた僕を撫でて、抱き締めて、褒めて欲しい………」

 

 

「…!………そうかー…」

 

 

………一日目で解放してくれと言った彼が嘘みたいだ。…その様子の違いに黙っていると彼が不安そうな表情で見上げてきた。…そんな顔をするな。またご褒美をあげたくなってしまう…!でもまだ駄目だ…しっかりと彼を教育しなくてはな…。

 

 

「…いいぞ。君が直す度に…頑張る度に愛してやる」

 

 

 

 

 

 

彼が儂の王になる日は近い。

 

 

 

~case3 end~

コメント:やっぱり今回も駄目だったよ。まぁ…彼女は逆らわなければ優しいから大丈夫でしょ。…元の仲間は『仕事』されてる設定です。




前編はマリル、カモネギ(アッカ)、ヤドランです。
…誰だよ!って感じの強い面子かもですがanotherだからこれ位の面子が良いのです。前回と同じく趣味全開の作品でございます。

後編は三か四人の予定。…悩んでいる一人はデザート的な甘いものだから書くかはまだ未定です。


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薬屋の息子-9

ヒワダジムリーダー、ツクシ。歩く虫萌えもん大百科。


 

実際にやってみると難しい。

 

 

萌えもんに適した指示を出し、その結果から次の指示を出す。

 

 

それを繰り返そうとするが、何処かで指示の手は止まってしまう。…というより曖昧な指示が多くなってしまう。

 

 

「…つー、次も来る…!」

 

 

………相手の萌えもんから繰り出される攻撃を察知はしたものの、それへの対応する一手を指示出来てない。相手がつーの目前まで迫る…

 

 

 

 

だがそれで間に合う。

 

 

つーは『守る』の構えを取り、後ろに退きながら相手の攻撃を左手で弾き、受け流す。そして右手から予め力を溜めていたのでいたのであろう毒々を相手に放った。

 

 

………その毒々は相手の足元に当たり、直撃には至らなかった。だがその攻撃は相手との距離を取り、態勢を立て直すのに充分な時を与えてくれる。

 

 

…相手の萌えもんを見据えるつーと僕を見てくる相手の萌えもんが向かい合う。

 

 

 

 

「…よし、今日はここまでにしようか!お疲れ様、ドラ君!」

 

 

相手の萌えもんの後ろにいる小柄な少年の声が聞こえた。相手の萌えもんが構えを解くとつーも構えを解いた。

 

 

…僕もそんな二人の様子を見てから、彼にお礼を言った。

 

 

 

 

 

 

「ちょっとまだ判断が甘い…かな?自分と相手の次の動きを考えてみるといいよ」

 

 

「…はい。でも連続で攻撃が来ると戸惑ってしまうんですよ」

 

 

「それは相手の動きが読みきれてないからさ。…まぁそこは経験だね」

 

 

そう言って僕に微笑む。この人は中性的な顔立ちから少女に見間違われそうな少年…ツクシ君だ。

 

 

萌えもんの特訓ではなく、僕…トレーナーの特訓をしている。…そう感じる。

 

 

恐らく僕やホロさんと同い年くらいにも関わらず、ジムリーダーという立場に付いているツクシ君は僕が持ってきた手紙を見ると、僕にトレーナーとしてのいろはを教えてくれるそうでここ数日の間、暇を見て指導をしてくれている。

 

 

聞いた話によるとツクシ君はケイブさんとアルフの遺跡関連の話で繋がりがあるとか…一時期、彼に虫萌えもんについて教えたりとか…らしい。年上のケイブさんが教えて貰う側なことからツクシ君の凄さが分かる。

 

 

 

…手紙持っていく時にジムバトルと勘違いされなくて良かったな。…まぁ、普通は勘違いされないか。

 

 

「…じゃあ明日のこの時間にね!少しずつ良くなってるから頑張っていこう!」

 

 

「あ、ありがとう…」

 

ツクシ君はこの後にジムリーダーとしての仕事がある様で特訓はここで終わりになる。彼を見送ると、息を吐く。

 

 

「つー、大丈夫?」

 

 

「大丈夫ー。…ドラちゃんの方はー?」

 

 

つーに気を使ったつもりが逆に気遣われる。…その質問に対し、僕は軽く答える。

 

 

「大丈夫だよ。さて…ろすろすの方はどうかな?」

 

 

「まー、大丈夫でしょー。………問題はヤドだねー」

 

 

このジムでの特訓とは別にヤドンの井戸で訓練している二人は大丈夫だろうか?…ちょっと見に行くかな。

 

 

 

 

 

 

「…たぁーっ!!!」

 

 

ヤドンの井戸へと辿り着くとろすろすが声を上げ、拳を地面に叩き付けた。………何をしているんだ?それを見たヤドランがろすろすへとアドバイスをしている。

 

 

「違う。殴るのではない、…揺らす形だ。それでは只のパンチだぞ」

 

 

「………分かった。やってみよう」

 

 

ろすろすが先程と同じ様に拳を地面に叩き付けた。…その振動が地面から僅かに伝わってくる。

 

 

「…筋はいい。………あの馬鹿よりは早く完成しそうだな」

 

 

「馬鹿とは失礼なー」

 

 

ヤドランの小言に目を瞑って瞑想しているヤドが答えた。…頭に王者の印は付けたままだ。

 

 

「…正直に言おうか。お前は今のままだと厳しいぞ。…諦めた方がいい」

 

 

「…諦めるのは出来ませんぞ」

 

 

「だろうな。だからとりあえずは教えてやる」

 

 

ヤドの諦めの悪さをヤドランも分かっている様だ。ヤドは何をやろうとしているのだろう?…前に話したあの技というものかな?

 

 

その二人の様子を見ているとヤドランが僕達に気づいたのか、僕に話しかけてくる。…つーは先日の酔っ払った件があるからかヤドランに対し、顔を伏せている。…気にしなくていいと思うけど。

 

 

「来ていたか…。少年はどうだ?」

 

 

「ぼちぼち…ですかね」

 

 

正直僕のトレーナーとしての力量が上がっているか僕自身、よく分かってない。そう答えるとヤドランは僕に顔を向けずにろすろすとヤドの特訓を見ている。

 

 

「…少年、儂は君を高く評価している。本当のヤドのトレーナーで無いにしてもだ。…頑張れよ」

 

 

「あ、ありがとう…」

 

 

僕はヤドランの冷たい様に感じる素振りから急に褒められて照れてしまう。…すると隣のつーが僕の腕を引っ張った。…どうしたのだろうか?

 

 

「どうした?つー」

 

 

「…別にー」

 

 

………つーがヤドランに闘志を燃やしている。あ、なら…

 

 

「…つーも何か教えて貰う様に言おうか?」

 

 

「…いや、いいー」

 

 

「だろうな。儂もお前に教えるものは無い」

 

 

「………ほー?」

 

 

ヤドランの言葉につーが伏せていた顔を上げた。ヤドランの方を見ている。

 

 

「お前の技、戦術…バトルへの心構え…、心技体の内の心技は充分に完成している。後は経験を積み、力量を上げるだけだ」

 

 

「…その力量でよくここまで完成させたものだ。…苦労しただろう」

 

 

「…別にー」

 

 

その言葉につーが頬をかいている。…ヤドランの中ではつーの評価も高いみたいだ。…確かにつーは僕には勿体無い程、優秀な萌えもんだ。贔屓目に見てもそう思う。

 

 

 

 

 

「欠点は主人想い過ぎることか…随分と慕っているな。しかし詰めは甘そうだ…」

 

 

そう言って、ヤドランがつーを一瞥すると再びろすろすとヤドの特訓に目線を戻した。

 

 

頬をかいていたつーの手が止まる。そしてその手を口元に当てた。そして隣の僕でも微かに聞こえるかどうかの声量で呟いた。

 

 

 

 

「やーっぱ、いけ好かないなぁ…」



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番外編:『萌えもん達がヤンデルスに感染した様です。 another 中編』

※番外編です。本編とは関係無いです
※前後の二話分の予定…だったけど三分割になりました。相変わらずのガバ予定。
※今回は番外編の量が多いので本編→番外編→本編→番外編…の流れで投稿予定(あくまで予定です)。


 

~case4~

 

 

 

「お姉様ぁ!!ネールでございます!!」

 

 

また来た…。ハガネールさんがこちらに近づいて来る。…最近しつこいんだよねー。ちょっと釘刺しとこうかな。

 

 

「…で、出たな!クソレズ鉄蛇女!」

 

 

「………え?あの…」

 

 

彼女の足が止まる。…そして顔を伏せてしまった。さ、流石に言い過ぎたかな?でもしつこいしなぁ…

 

 

「………」

 

 

「…あ、ごめん。冗談だよ!冗談………」

 

 

…やっぱり可哀想だ。私は自分の立場になって考えた上で、そう思う。謝る為に私はハガネールに声をかけるが…

 

 

 

 

「…構いませんよ」

 

 

その前に、彼女が顔を上げた。

 

 

「…え?」

 

 

 

 

「ワタクシに会うや否やその名前を出したということはお姉様はその名前を予め用意していたのでしょう。鉄蛇萌えもんというハガネールの名称まで御存知とは、事前の下調べあってのことです。その情報はトレーナーさんに教えて貰ったのですか?…教えて貰ったということは少なからず、ワタクシに対しての意識があるということです。ならばお姉様はワタクシを罵倒する為、追い払う為にワタクシに意識を向けて下さったことになります。素晴らしく、尊きことです。ならばお姉様がワタクシのことを考えて作り出した名前、有り難く頂戴しましょう。…好意など大層なものは望みません。お姉様がワタクシの存在を頭の片隅にでも置いてくれて、少しでも意識してくれればいいのです。

…それが無上の幸せですよ、お姉様」

 

 

 

 

「…今日の君はいつにも増して面倒臭いな!!」

 

 

 

~case4 end~

コメント:(多分)平常運転、以上。

 

 

 

~case5~

 

 

 

彼が怖かった。…でも彼は優しかった。

 

 

「…よし、ここまでだ。戻って来い、チョンチー」

 

 

「は…はいっ………!」

 

 

彼の一声で、木に向かって電撃を放つ訓練が終わる。力を使ったことによる体の疲労は少なからずあるものの、私は彼の元へとすぐ戻る。

 

 

彼の元へと戻ると、彼は私と目線を合わせるために屈んだ。今日はどうだった…かな…?

 

 

 

 

「チョンチー…まだ電撃が弱い。あれではバトルの際、相手の萌えもんにダメージにはならないだろうね。もっと力を込めて打ってみるんだ、…いいね?」

 

 

「…はい」

 

 

やはり彼は怖かった。…いつも私の行動に対してのダメ出しから入るのだ。そして彼は私ではなく、電撃を放った木の方を見る。………無視されている様な気がして心苦しくなる。

 

 

「…でも今の電撃の力具合、それは覚えていてくれ。相手にダメージは与えられないが、行動を制御するには使えそうだ。…悪くないぞ」

 

 

「!…はい………」

 

 

やはり彼は優しかった。木の方を指差し、私に伝えてくる。今くらいの感覚…あれは結構力を振り絞ったものであったが、普段から使えない程ではない。………感覚をしっかり覚えておこう…。

 

 

今度は優しい彼を見る為に。

 

 

「………どうでしたか?御主人様?」

 

 

私達の様子を見ていたウインディさんが彼の側に密着する程、寄って問いかけた。………?何だろう?何かおかしい。普段は訓練後、私を労ってくれる優しいウインディさんが私に何も言わない………まるで彼しか見えてないみたいだ。

 

 

「…悪くない。電磁波はもう使えそうかな?………後は威力のある電気技だ。それが使えれば、メインウェポンがとりあえず整う。それで充分な戦力になってくれるだろうね」

 

 

「………それは良かったです。…彼女には頑張って頂きたいですね」

 

 

………ウインディさんが私を見下す様に見てくる。

 

 

やはり何かおかしい。…いつもはこんな接し方をすることは無いのだ。普段は優しく、時に厳しいけど、頼りになるパーティの先輩…それがウインディさんなのに。

 

 

 

 

………彼の足りない部分を補ういい女気取りか。大層なものだ。

 

 

 

 

………え?

 

 

意識もしてない言葉が私の頭の中に響いた。…その言葉に私は周囲を見渡すが近くには私に対して話した気配のない、彼とウインディしかいない。気のせい………かな、うん…。

 

 

「そうだな。…早く使える様になって、一人立ちして欲しいな。そうしたら訓練は終わりだ。後はウインディ、ヘラクロス…君達に任せよう。しっかり教えてやってくれ」

 

 

「…畏まりました」

 

 

………。

 

 

…え?

 

 

 

 

終わりになんか、させないよ?

 

 

…意識もしてない言葉は既に消え、聞こえなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

その夜…

 

 

「っ…おい!何をしているんだ………!」

 

 

あ、まだ喋れるのね…。

 

 

やっぱり彼の言っていた電磁波…?はまだ完璧ではなさそうだ。…やっぱり一人立ちにはまだ遠いよ。

 

 

「…おい!」

 

 

口は動くものの体は動かない彼は私を見て、呼びかけている。………が、それを無視して彼を押し倒し、跨がる。痺れている彼を押し倒すのば簡単なことだった。

 

 

「っ…止めろ…!どうしたんだよ…?」

 

 

彼の言葉が大きくなった。そして止めろと私を脅しながらもどうしたんだと気遣う彼がいる………うるさいなぁ。彼の顔をじっと見る。

 

 

彼の顔が徐々に近づく。

 

 

 

 

「終わらせ…ないから…」

 

 

「………え?」

 

 

 

 

うるさい彼の口を塞ぐ。…その際に目前にいる彼と目が合う。

 

 

…口を塞ぐのを止めると彼は私を見て、驚愕の表情を浮かべている。そして震えてながら口を開いた。

 

 

 

 

………さて。

 

 

 

 

彼からの発せられる言葉は…怖い彼のものだろうか?…それとも優しい彼のものだろうか?

 

 

 

~case5 end~

コメント:彼(エリト)のチョンチーとか本編では一言も喋ってないのに書く勇気。一応キャラ設定は用意してました。因みに普段はこんな子じゃないです………多分。




急遽三分割にしてしまってすみません。
後編は二人の予定。その後にやる番外編はバレンタイン&ホワイトを予定しています。それが終わったらお嫁さん企画…って感じで。

もうホワイトデーも旬が過ぎてる…。
………なるべく早めに書く様にはしますねー。


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ピクニックガールの少女-9

ここは43番道路。置いていくのはお金か、想いか。


 

以前の彼女からは想像出来ない光景だった。

 

 

彼女…フィーアを慕う怒りの湖内のギャラドスやコイキング達が彼女の別れを惜しんでいる。中には泣いている子も………というか大体の子が泣いている。そんな子達に囲まれてフィーアが戸惑い、怒鳴っている。

 

 

「「「姉ざぁぁぁぁぁん!!!」」」

 

 

「…うるせぇ!ギャーギャー泣くなっての!」

 

 

そう言いながらも集まった一人一人に対して丁寧に言葉をかけている。

 

 

………乱暴者だったフィーアがねぇ…。私はそう思うが、ツヴァイは『フィーアねーちゃんは優しい』と言うし、ドライは『アイツはあれでも情に厚い』と評価していた。

 

 

………私が知らなかっただけかもしれない。じっとフィーアとギャラドス達の光景を見る。…少しでも彼女を理解する為に。

 

 

「…後はお前らが好きに暮らしてくれ。そこら辺はお前らの良心に任せる」

 

 

「「「………」」」

 

 

「ソコんとこは信頼してるからよ…。…ん?どうした?」

 

 

「「「姉ざぁぁぁぁぁん!!!」」」

 

 

「…うるせぇ!ギャーギャー泣くなっての!」

 

 

そう言いながらも集まった一人一人に対して丁寧に言葉をかけ………

 

 

ってさっきと一緒じゃないの…!別れを惜しむ気持ちは分かるけど早くしてくれないかしら…

 

 

 

 

 

 

「…お待たせしました。姉さん」

 

 

「…はい。待たされました」

 

 

結局目の前で一連の流れを両手では数え切れない程、行われたのだ。小言の一つくらいは言っても許されるだろう。…ツヴァイは長過ぎて寝ているし、ドライは呆れて散歩に行ってしまった。

 

 

「さて、フィーア…改めて確認しないといけないわ」

 

 

「何ですか?姉さん」

 

 

「私達は一緒にいたデルタ種の萌えもんを取り戻す為に旅をしてるわ。…貴女もその一人」

 

 

「…はい」

 

 

私が目的のことを切り出すとフィーアは静かに応じてくれる。…これも以前からは考えられない。昔は適当に聞き流しているような…そんな感じだったのに。その応じ方は彼女の成長を実感させた。

 

 

「…ツヴァイ、ドライ、フィーアが揃ったわ。後は…」

 

 

「…アインスの姉さん」

 

 

私の言葉をフィーアが先に言った。………そう、後はアインスだ。

 

 

「…そう。彼女も必ず探して、取り戻す…。その為には貴女達には戦って貰うこともあるわ。………フィーア、大丈夫?」

 

 

「…なーんだ。そんなことか…」

 

 

フィーアが軽く笑う。そして即座に答えを出した。

 

 

「…大丈夫です!やってやりますよ、姉さん!」

 

 

「…ありがとう」

 

 

私がフィーアに笑いかけるとフィーアもこちらに笑いかけた。…その仕草から彼女の本質は変わってないのかもしれない。…そう感じた。

 

 

フィーアの決意を確認した所で私達はツヴァイとドライをボールに戻し、チョウジタウンへと戻ろうと草むらを歩く。…フィーアは出したままだ。時折怒りの湖の方へ振り向いている。

 

 

「…最後がアインスの姉さんかー」

 

 

「そうよ。まぁ彼女は大丈夫だろうけど…」

 

 

私がフィーアのことをしっかり見ていたからか、急な呟きにもすぐ応じることが出来た。

 

 

「………いやー、姉さん。………別に脅す訳じゃないんですが…」

 

 

「…どうしたの?」

 

 

だがフィーアの返答は歯切れの悪いものだった。長い赤髪を弄りながら言葉を探している。

 

 

私が答えを急かすとフィーアは髪を弄るのを止め、ゆっくりと口を開いた。

 

 

 

 

「アインスの姉さんは強いから危ない。………アタシはそう思いますねー」

 

 

「…強いから狙われるとかの心配じゃないです。狙われても返り討ちにする。それがアインスの姉さんですから。でも…」

 

 

「でも…?」

 

 

「何て言えばいーのかなぁ…、精神?心の方がって感じ?…です。まだホロン地方で姉さん探したり…それか何処かで精神が参ってそうな気がするんすよ」

 

 

「………」

 

 

………あー。前者は凄くありえる。私は強くて、頼もしいアインスの姿を思い出す。………あの子は飛べるしね。様々な場所を探してそうだ。

 

 

後者は…どうだろうか?あの子はそんな柔な子じゃない。その心配はツヴァイやフィーアにしていたけど…ツヴァイには私がいて…、フィーアには怒りの湖の萌えもん達がいたのだ。

 

 

 

 

………もしあの子の側に誰も居なかったら?

 

 

………元から急いでるつもりだが、一層急いだ方がいいかもしれない。

 

 

「…フィーア、ありがとね。アインスについてはまだ行方も分からないけど…必ずね」

 

 

「そうっすね、分かればすぐにでも…」

 

 

話している内に、チョウジタウンが見えてくる。最後にフィーアが怒りの湖の方を振り向いた。それを私は止めない。…フィーアが振り向くだけで我慢しているから。

 

 

「………また、来ましょうね」

 

 

「…っ………はいっ…!!」



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番外編:『萌えもん達がヤンデルスに感染した様です。 another 後編』

※番外編です。本編とは関係無いです
※三分割のラストです。
※今回は番外編の量が多いので本編→番外編→本編→番外編…の流れで投稿予定(あくまで予定です)。


 

~case6~

 

 

 

何処か、引け目を感じていた。

 

 

何者にも怯まずに挑む友達、自分を曲げずに飄々としている友達。

 

 

表面ではそんな友達のことを呆れて笑っていたが、内心は羨ましかった。私に無いものを持っているからだ。

 

 

一方で友達は私のことを高く評価してくれたが、それが一層私に引け目を感じさせた。友達は純粋に私を見ているのに、私はそれを出来てない様に感じたからだ。

 

 

………私は友達には勝てない。そう内心で思っていたんだ。

 

 

だから…

 

 

君が友達ではなく、私を選んで…

 

 

大会で優勝した時…

 

 

 

 

とても嬉しかったんだ。

 

 

 

 

 

 

「どうだ?ヘラクロス」

 

 

「…筋はいい。だが実戦を経験させたいな」

 

 

「…もう少ししたら僕の指示の元でバトルに出してみるかな。しっかり指示を出せば応じてくれる筈だ」

 

 

「…それがいい」

 

 

どうやら私の発言は彼には不要だったみたいだ。彼は新しくパーティに入ったチョンチーのことを理解している。それが分かると私は目の前で訓練しているチョンチーから目を離した。

 

 

チョンチーを見ている彼の横顔が目に入る。彼は育成やバトルにおいて優れた手腕を持っていた。…それでもあのコガネルーキーカップで勝てなかったのは準決勝の少女の萌えもんが何処か違和感を持っていたこと…それと少女の指示の的確さだろう。あの少女の腕も確かなものだった。…彼女の優勝は頷ける。

 

 

「………ん?どうした?」

 

 

「…何でもない」

 

 

私の視線に彼は気づいたのかこちらに顔を向けた。

 

 

「…何でもないってことはないだろ。普段のお前は僕をじっと見たりしないだろ?」

 

 

「………そうだな。…ウインディのことだ」

 

 

…見てるよ。恥ずかしいから表にはしないけど。でも彼のその発言は私を理解はしていないが理解しようとする意思を感じた。…それが堪らなく嬉しかった。そんな彼に応えようと話の為に適当な話題を持ち上げる。

 

 

「…何かおかしい。…彼女はウインディになってから大人しくなったがそれにしても普段より静かなんだ」

 

 

「………そ、そうか」

 

 

先程会った彼女…ウインディは普段とは何処か違った様子だった。ガーディからウインディに進化した時に大人しくなったがそれにしてもだ。

 

 

………まぁどうでもいいな。

 

 

彼の為の適当な話題だ。

 

 

 

 

「………なぁ?」

 

 

「どうした?」

 

 

「お前は…大丈夫か?」

 

 

「…?どういうことだ?」

 

 

 

 

 

 

「………やけに僕に近くないか?」

 

 

「普通だ。気にするな」

 

 

先程から彼に向けていた顔が、体が彼との距離を詰めようと何もおかしくない。普通だ。

 

 

 

 

…普通ではない?分かってるさ。とうに私はおかしくなっている。

 

 

 

 

…でも問題ないだろう?私は分別の付く萌えもんだ。彼や他者に危害を加えたり、何かを強いることもしない。彼の道を見守り、それを手伝おう。…何か問題があるか?

 

 

「…いや、でも…」

 

 

「大丈夫だ。気にするな」

 

 

そう、気にするな。君は君のまま。私は私のままだ。何も変わらない。

 

 

だから…

 

 

いつも通り…

 

 

 

 

私を選んでくれた君を慕わせてくれ。

 

 

 

~case6 end~

コメント:無害型ヤンデレ(でも爆発するとヤバいタイプ)。ヤンデルスの違和感、感染に気づいたが敢えて受け入れた感じ。

 

 

 

~case7~

 

 

 

鏡の中の自分と目が会う。

 

 

 

 

整った顔立ち、綺麗なブロンドヘアー、仲間に比べると少し劣るがスタイルも悪くない。着ている豪勢な赤服がそれを際出させていた。

 

 

 

 

醜い。

 

 

そう思い、鏡から目を逸らした。

 

 

 

 

 

 

あの頃は良かった。

 

 

 

 

今よりも大変だったけど私は楽しかった。未熟な私を御主人様は受け入れてくれた。我儘を言っても何だかんだで受け入れてくれた。

 

 

そんな御主人様だったから私も精一杯頑張った。頑張って、頑張って…ちょっぴり挫けたりもしたけど…

 

 

楽しかった。

 

 

 

 

今は…

 

 

私も成長して…その分頑張って、頑張っても…彼はそれを当たり前としていた。そして彼は私を見ずに、他の子を見ている。

 

 

 

 

つまらなかった。

 

 

 

 

「………がう」

 

 

私の呟きに返答は無かった。今、周りに誰もいないのだから当たり前だ。………でも返答が欲しかった。

 

 

…欲しかった。

 

 

 

 

 

「…ウインディ?」

 

 

「………ご、御主人様!?…い、いつから!?」

 

 

「いや…、今だが………」

 

 

 

 

 

「何かあったか?最近皆がお前のことを心配していてな…」

 

 

彼は来てくれた。

 

 

私が呼んだら来てくれた。

 

 

そうだ。私が呼んだら彼は来てくれる。助けてくれる。見てくれる。今も昔も変わらない。変わらないじゃないか。ちょっと我儘を言ったって許してくれる。

 

 

『少し寂しかったんです、御主人様』

 

 

…伝えよう。変わらない為に伝えよう。私を不安そうに見ている御主人様の方を向き、口を開く…

 

 

 

 

 

「ま、今のお前はしっかりしてるし、大丈夫だろうけどね」

 

 

 

 

 

 

 

…嫌だ。

 

 

私は御主人様を呼んだら来てくれる私が欲しい。

 

 

今の私はつまらない。醜い。こんな私は…

 

 

 

 

要らない。

 

 

 

 

 

 

「がう」

 

 

「…え?」

 

 

「がう、がう!御主人!」

 

 

「…ウ、ウインディ?…どうした?」

 

 

「…がう!好きだ!」

 

 

「…え!?おい!噛み付くなって!」

 

 

あぁ。

 

 

 

 

やっぱりいい。しっくりくる。

 

 

御主人様も私のことを見てくれる。心配してくれる。

 

 

「がう、がう…!」

 

 

「…おい!本当にどうしたんだ!?」

 

 

…どうもしませんよ?

 

 

 

 

さぁ、昔みたいに未熟な私を受け入れて、少しだけ我儘を言っても受け入れて下さい。私を見て、心配して下さい。私は手間のかかる駄目な萌えもんなのです。進化して力を得てもそこは変わらないのです、御主人様。

 

 

 

 

だから今の私とはさよならです。

 

 

 

「がう!」

 

 

 

………。

 

 

がう、がう!

 

 

 

~case7 end~

コメント:こちらは逆に面倒臭い子。幼児退行とかそういうジャンルになるのでしょうか?(自分でもよく分かってない)

精神崩壊してるからヤンデレ度は高そう。




以上でヤンデルスanotherは終了です。次の番外編はバレンタイン&ホワイトです。

………今回は良心枠がマリルしかいないなぁ。後はクソレズ鉄蛇女。
※ギャグっぽく書きましたが結構病んでます。


後の面子はそれなりに病んでると思います。
今回も自分の趣味全開の作品でしたが皆さんにお楽しみ頂けたのなら幸いです。


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遺跡マニアのおじさん-9

ここはチョウジタウン。ようこそ忍者の里へ。


 

[雑記メモ]

ロケット団の件-○。

とりあえず急ぎの問題は無し。嬢さんの安否には気をつけよう。出来れば萌えもんセンターの連絡システム以外の連絡手段が欲しい所だ。…ポケギアでも買ってやるか?でも勝手に用意するのもな…。

仲間のこと-△。

来てから考えるしかない。俺が呼んだにしても数が多過ぎる。………俺が指揮出来るキャパシティを優に越える。…ま、仲間同士の仲は良いからそこら辺の問題は大丈夫だろ。

地下洞窟のこと-×。

ヤバい。絶対ヤバい。普通なら笑い話として流すが所長が話すってことは本当の可能性あり。現在判明しているのがエンテイがエンジュ付近、スイクンがジョウトから北にあるホロン地方のカンナ付近………ならライコウは南側か…?安易な推測だがある程度決め打ちしないと時間が足りない…かもな。

[ケイブ]

 

 

 

「…ケイブさん!」

 

 

 

うわぁ…纏めると面倒臭いことが多過ぎる。自分が書き込んだメモを見てそれを実感する。

 

 

「…ケイブさん?」

 

 

こうやって考えを文字に起こすのは俺の癖だった。文字に起こして見てみると問題が見えやすい様な気がするのだ。とりあえず地下洞窟だ。早くしないと…

 

 

 

 

「…姉さんが呼んでんだろーが!このおっさん!」

 

 

「あっづ!!…な、何だ!?」

 

 

「…フィーア!?」

 

 

急な背中の熱気に俺は身をよじる。そしてその熱気の発生源…不機嫌そうな赤いつり目と赤い長髪の萌えもんが俺を睨んでいる。側には先程考えていた嬢さんの存在もあった。

 

 

嬢さんがその萌えもんに近づき、何か話すとその萌えもんは熱気を収めた。…だが俺を睨む視線は変わらない。

 

 

「…すみません!私のフィーアが…!」

 

 

「だ、大丈夫だ。………それが赤いギャラドスか」

 

 

正直大丈夫じゃないような強さの熱気だったが、俺は痩せ我慢をしてそう答える。

 

 

「はい。名前はフィーア…この子は炎と水タイプです」

 

 

「………ふーん。普通のギャラドスでも火を吐くことはあるらしいし、今回は結構普通…だな」

 

 

俺の専門分野ではないが、熟練のトレーナー同士の対戦ではギャラドスに炎技を習得させる場合があるという話を聞いたことがある。今回は嬢さんのワニノコやドライに比べればまだ納得できるタイプな気がする。

 

 

「………でも炎の方がメインです。この子しか使えない技もあります」

 

 

「…ほう。例えば?」

 

 

「えっと…」

 

 

嬢さんが赤いギャラドスの方を見る。すると彼女がむすっとしながら口を開いた。

 

 

 

 

「凄い技なら…スチームバーストとフニッシュバーンだ。使いたくねーけどな」

 

 

「…何だそりゃ。聞いたこと………」

 

 

………いや、前者…スチームバーストは聞き覚えがある。確か物凄く熱い蒸気を相手に浴びせるとかそんな技だったか?噂で聞いた話でしか無いが………

 

 

「…あるわ。確かかなりのレア技だろ、それ。俺も生で見たことないぞ」

 

 

「今使ったぞ、おっさん。一応、姉さんの信頼する人らしいから手加減はしたが」

 

 

「………あれかよ!レア技の癖に随分安売りだな!?」

 

 

赤いギャラドスがあっさりと答える。メモに熱中していた時に食らったあの熱気か………。前言撤回、こいつもかなり異常だ。

 

 

「なぁ?えっと…ギャラドス?」

 

 

「フィーアでいいぜ」

 

 

「じゃあ…フィーア。フニッシュバーンって何だ?」

 

 

後者の技…フニッシュバーンは聞き覚えのない技名であった。もしかしたら俺には馴染みのない分野の知識かもしれない。…興味が湧き、彼女に問う。

 

 

 

 

「アタシの中の全エネルギーを炎に変えてぶちまける。…以上」

 

 

「…大爆発みたいなものか」

 

 

「違うな。体力じゃねー、エネルギーだ」

 

 

 

 

 

 

「…使うとマジで疲れる。回復薬でどうにかなる話じゃない」

 

 

「………一度使うと暫く寝たきりになります」

 

 

フニッシュバーンの解説に嬢さんが付け足した。………俺にしてみれば体力とエネルギーって何か違うのか?と思うが二人の真剣な口振りと表情に野暮なことは言えない。

 

 

「…凄い技ってのは分かった。ありがとう」

 

 

「………」

 

 

「おい、どうした?」

 

 

フィーアが俺をじっと見ている。まるで値踏みをしている様だ。体の隅々まで見ている。

 

 

 

 

「姉さん、流石に趣味悪いっすよ」

 

 

「………え?」

 

 

「何度も助けて貰って信頼してるからってねぇ…おっさんじゃないですか。惚れるのは不味いですって」

 

 

「………え?フィーア?」

 

 

何かフィーアと嬢さんがコソコソ話し出した。…時折俺を指差している。近くにいるんだから直接話してくれよ、指差されるのはちょっと傷付く…。

 

 

「えっと…惚れるとか…じゃないわよ?」

 

 

「えっ!?…でも姉さんが初めて家族以外で男の人信頼してるじゃないですか」

 

 

「…い、いや!でも違うし…」

 

 

「えー!折角箱入りまな板娘の姉さんにようやく春が………」

 

 

 

 

「誰がまな板よっ!!!」

 

 

 

 

ゴゴドゴゴゴ…!!!!!

 

 

 

 

「………え!?」

 

 

 

 

木々が、大地が揺れる。周りの人々が慌てている。

 

 

「…これは」

 

 

 

 

この音、揺れは…

 

 

一月…いや、一月半くらい前の地下洞窟が見つかる原因となった…

 

 

 

 

あの地震と似ている。

 

 

 

 

…分かった。

 

 

彼等だ。間違いない。

 

 

 

 

周囲の人々や目の前の嬢さん、フィーアが慌ててる中………俺はこんな危険な状態なのに心が踊っていた。

 

 

 

 

まるで地震の揺れに呼応する様に。



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番外編:『バレンタイン&ホワイト 前編』

※番外編です。本編とは関係無いです
※前後の二話分の予定(今度はしっかりと二話に収めます)
※今回は番外編の量が多いので本編→番外編→本編→番外編…の流れで投稿予定(あくまで予定です)
※アンケート時のタイトルが長かったので短くしました。


 

~case0~

 

[雑記メモ]

『バレンタイン』…確か萌えもん協会が商業目的で流行らせたイベントだったか。しかし長い年月は当初の目的を定かではないものとし、今では親愛なる者に対してチョコレートを贈るイベントに成り下がり、萌えもん協会も一部のトレーナーや萌えもんに対して無償でチョコレートを用意したりする始末だ。

タダでくれるなら有り難いが、この日で…贈り物がチョコレートである必要はあるのか?という疑問はある。だって………

 

愛の形や表し方は人それぞれだろ?

[ケイブ]

 

 

 

~case1~

 

 

 

「はいー、どうぞー」

 

 

「受け取ってくれ、主よ」

 

 

「…ありがとう。でも…」

 

 

僕はつーとろすろすから小さな包みを受け取る。中身は甘いミルクチョコレートだ。

 

 

…え?何で知ってるのか?だって………

 

 

 

 

 

 

「わざわざ渡す必要無いと思うけど………一緒に作った訳だし」

 

 

そう、このチョコは三人で一緒に作ったものだった。だから中身も知ってるし、味見もしたから味も知っている。

 

 

「いやー、感謝の気持ちだよー。でも良かったねー。今回はつーとお母さん以外から貰えたねー」

 

 

「そ、それは嬉しいけど…」

 

 

つーの言う通り僕は今までバレンタインのチョコをつーとお母さんからしか貰ったことがない。…つーの言葉からは僕を馬鹿にする様な響きがあるが純粋につーと母さん以外………ろすろすから貰ったのは嬉しかった。

 

 

「喜んで頂いて何よりだ。私もこの様な行事は初めてでな」

 

 

「…でもこういうのは一緒に作るものなのか?」

 

 

ろすろすの疑問は僕と同じものだ。一緒に作るというのは違う………気がする。他の子から貰ったことがないから分からないけれど…

 

 

「そーゆーものなのよー、ろすろすー。じゃあドラちゃんー、ホワイトデーもよろしくー」

 

 

「あ、うん…」

 

 

そうだ。ホワイトデー…バレンタインのお返しを皆と一緒に作るのだ。恐らくこの三人でお菓子を作って…そして僕からつーとろすろすに渡す。

 

 

………渡すものをつーやろすろすは知っていて嬉しいのだろうか?

 

 

「成程…な。主、よろしく頼む」

 

 

ろすろすが僕達のバレンタインとホワイトデーの仕組みを理解したらしい。…その仕組みにろすろすは従う様だ。

 

 

ならいいけど………。まぁ確定で貰えるというのは二人側からも悪くないのかな?

 

 

 

 

 

 

「面白い仕組みだな、つー殿。これでホワイトデーのお返しを貰える訳だ」

 

 

んー、ちょっと違うなー。ろすろすの答えは40点くらいだねー。赤点ギリギリだよー。

 

 

「まー…そうだねー」

 

 

「…楽しみだ。また主と菓子を作れるというのは」

 

 

おー、追加で30点あげようかなー、ろすろすー。これで70点だー。合格点だよー。

 

 

「そー、ドラちゃんと一緒にいれるでしょー?まー、楽しみにしてなー」

 

 

「…うむ!」

 

 

ろすろすがこの仕組みに理解があって良かったよー。まぁろすろすもあまりバレンタインに縁が無かったのが幸いしたねー。

 

 

こうやって大切な日にドラちゃんと気心の知れた仲間と一緒にいれるの…つーは好きだからねー。これで良いのさー。

 

 

…んー?

 

 

 

 

後の30点?…自分で考えなさいなー。この仕組み、チョコみたいに甘いだけじゃないのよー。

 

 

 

~case1 end~

コメント:後の30点は皆様の御想像にお任せします。

 

 

 

~case2~

 

 

 

「「「マスター、プレゼントです!」」」

 

 

 

 

………。

 

 

泣いた。

 

 

 

 

 

「そういえばそんな時期だったわ…うぅ」

 

 

「…あら?マスターにはあまり縁がありませんでしたかな?」

 

 

ヤドがからかう様に笑っている。でも本当に縁が無かったのよねー…。

 

 

「昔のマスターは『下らない』と一蹴してましたよね。職場でマスターに渡そうとしてる方はいましたが…」

 

 

エレの言葉で私は自分の過去を思い出す。………下らないとか言ってたわね、うん。浮かれてる同期や部下とか鼻で笑ってたわ、うん。

 

 

…ごめん!あの時の皆!チョコ貰うのって凄く嬉しい!馬鹿にしてごめん!

 

 

「…って私に渡そうとした子とかいたの!?初耳よ!?」

 

 

「いましたよ。でもマスターの態度を見て諦めてました」

 

 

「………マジかー」

 

 

知らなかった…。まさかあの頃の仕事人間だった私を慕う人がいたなんて…。余程の変わり者ね。

 

 

「………え?もしかしてあげたり、貰うのって初めてなの?」

 

 

ライが驚いている。そうなのよー、私って昔は結構真面目だったからね。あげるなんで昔の私からしたら非効率的で論外だ。

 

 

「ええ…可笑しいでしょ?」

 

 

自嘲気味に笑う。すると三人がポンポンと体を優しく叩いてくれた。

 

 

「マスター!…私も真面目な性格故、こういう行事は無視してました!これが初めてです!」

 

 

「エレ…!」

 

 

「ウ、ウチも初めてかな…。そんなに喜んで貰えるとは思ってなかったよ」

 

 

「ライ…!」

 

 

「ヤドも渡すのは初めてですぞー。いやー、泣いたのには驚きましたなー」

 

 

「ヤド…!」

 

 

私を笑う様な子はいない。皆いい子達だ。これは私もしっかりお返しをしないとね…。お返しを用意するのも初めてだけど大丈夫!この子達は喜んでくれる筈!

 

 

 

 

 

 

 

「ま、よく貰いはしますけどなー」

 

 

「………」

「………」

「………」

「あっ………」

 

 

 

 

「ヤドは無しね」

「異議無し」

「異議無しー」

「…えーっ!ヤドも欲しいですぞー!」

 

 

 

 

………結局私達の冗談でヤドも泣き出してしまった。冗談ということを伝えると泣き止んでくれたが…まさかこんな冗談をヤドが本気にするとはね。

 

 

 

 

ま…よくチョコを貰う子には甘いだけじゃ済まないのよ。…バレンタインはね!

 

 

 

~case2 end~

コメント:ヤドはヤドンの井戸のヤドン達からよく貰ってました。…ヤド爆発しろ。




後編もこんな感じです。
(ヤンデルスみたいに重くは)ないです。
後…書いていく内に気づいたのですがこの作品、ホワイトデー要素が無いかなーと…。
これは自分の作品構成力、執筆力不足です。許してヒヤシンス。


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薬屋の息子-10-1

ここは繋がりの洞窟。河を渡って木曜を抜けて。


 

足場が不安定だった。

 

 

…ここが洞窟の深部だからだろうか?それにしても不自然だ。凹凸の激しい地面、剥き出しの尖った岩肌…それが僕の歩みを妨げる原因となっていた。

 

 

それとも今の地震のせいか?…と考えたがその考えを僕は頭の中から即座に消す。地震があったとはいえこの洞窟内の環境には影響を及ぼさないだろう。考え過ぎかな…

 

 

「あっ………!」

 

 

僕は歩いてる最中、真下の地面の出っ張りに気がつかずにバランスを崩しかけるが、何とか両足で踏みとどまる。…バランスを取るのに両手は使えない。それは手をつく為の壁が荒れているからでない。

 

 

 

 

両手で倒れた萌えもんを抱えているからだ。

 

 

「っと、危ない………」

 

 

…ふぅ、転ばなくて良かった。僕は腕に抱えている萌えもんが大丈夫か確認する。………先程確認した状態と同じだ。気を失っているが危険な状態ではない。

 

 

改めて気を失っている萌えもんを見る。クリーム色で二本のはねっ毛のある髪、そして同じ色の服から僅かに覗く小さな緑の羽と尻尾………

 

 

 

 

………分からない。何という萌えもんなのだろうか?虫萌えもんの様な見た目をしている気がするが…僕には萌えもんを判別する機械やこの萌えもんを今まで見た経験がないので分からない。

 

 

今度はこの子のことを考えながらも足元への注意は欠かさない。幸い洞窟内は明るく、目を凝らせば足元や周りを見ることが可能だ。ここは繋がりの洞窟内の深部だった気がするのに妙に明るい…。そんな気もするが僕にとっては有り難い明るさだった。

 

 

………暫く足場の悪い地面を歩くと短い登りの坂道が見えた。んー…

 

 

…とりあえず上へ行った方がいいかな?そうすれば入った時の入り口にも近づくだろうし、もしかしたら僕を探してくれているつー達にも会えるかもしれない。…そんな淡い期待を込めての判断だ。足場の悪い坂道を登る…

 

 

「…ん?」

 

 

 

 

坂を登ると荒々しい足場が姿を消した。今の足場は洞窟らしさを残しながらも人々の往来によって踏み固められた道だ。そして微かに水が流れる音、仄かな薄暗さ………

 

 

 

 

 

これは先程まで僕がいた繋がりの洞窟の様相だ。………では今僕が通った道は?

 

 

…?振り返って坂の下を見てみるが特に何かあるわけでもない。………というより今の僕にそんなことを気にする余裕はない。

 

 

 

 

僕は振り向くのを止め、前を見て進み始めた。

 

 

 

 

 

 

「えぇ…」

 

 

…今度は岩だ。

 

 

大きな複数の岩が整備された階段を塞いでいる。これを遠目で見た時は整備された階段だったから出口に近づいているんだ!…と思ったがぬか喜びだった。肩を落とす。

 

 

「はぁ…」

 

 

 

 

「大丈夫。…ここはすぐ空きますよ」

 

 

僕の耳に聞き覚えのないが綺麗な声が聞こえる。その声に反応して僕は辺りを見渡す。しかし周りには誰もいない。…抱えている子は目を覚ましていないからこの子の声でもなさそうだ。

 

 

「…え?」

 

 

「ここですよ」

 

 

「…あ、ど…どうも?」

 

 

「あら?………」

 

 

声のした方向には…小さな池に青髪で背中に甲羅を背負った萌えもんがいた。彼女は僕が挨拶したのを見ると少し驚いて不思議そうにこちらを見てくる。

 

 

「…どうしてこちらに?…見たところ萌えもんトレーナーさんなのは分かりますがこちら側にいるのは少しおかしいですね?どうしたのですか?」

 

 

池の萌えもんが僕に対して質問してくる。…もしかしたら僕を心配してくれているのかもしれない。…この萌えもんの話が本当ならばこの階段を塞ぐ岩は取り除かれるらしい。ならば少しくらい話をするのもいいかな…?

 

 

僕は腕に抱えていた萌えもんをそっと地面に置き、池の方に近づくと彼女も僕の方に近づいて来た。

 

 

「貴方が優しいトレーナーさんで良かったわ。…面白い話が聞けそうね」

 

 

「いや、面白い話はないけど暇潰しにはなると…思う」

 

 

こうして僕は彼女の話を聞こうとする姿勢に応える為、何故こんなことになってしまったのかを話そうと今までのことを思い出し始める………。

 

 

 

 

「えっと…ここには新しい萌えもんを捕まえに来たんだ。…僕自身が強くなる為にね」

 

 

僕はつーやろすろすといった僕には勿体無い程の優秀な萌えもんとの練習では自分のトレーナーの力量が上がらない…と考えたのだ。だから新しい萌えもんを鍛えると同時に僕も成長したかったのだ。

 

 

「…それがあの子?」

 

 

池の萌えもんが倒れている萌えもんの方を見て言った。それに対し、僕は首を振る。

 

 

「いや…あの子は違う。あの子はさっきの地震の時に見つけたんだ。…何か知ってるかな?」

 

 

「………いえ、あの子はここ…繋がりの洞窟の萌えもんではなさそうですね。見たことが無いですね」

 

 

「…え?」

 

 

…それはおかしい。抱えていた萌えもんに出会ったのはこの洞窟内だ。

 

 

「あの…あそこだよ!地面が荒れてて…岩と砂が入り交じった…というか…」

 

 

僕はその萌えもんと出会った場所を思い出しながら彼女に伝える。………が彼女の反応は良いものではない。

 

 

「………?ここでその様な場所は覚えが無いですね。…どうやってそこに行ったですか?」

 

 

僕を見る彼女の視線にちょっと疑いが入った…気がする。本当なんだけどなぁ…。ちょっと腑に落ちないが話を続ける。

 

 

「…さっきの地震は分かる?」

 

 

「ええ」

 

 

 

 

「その地震で床が抜けたんだ。…そうしたらそこにいた」

 

 

「………床が抜けた場所は?」

 

 

「…ヒワダからの入り口近く」

 

 

「………」

 

 

…彼女が黙ってしまった。やっぱり怪しい奴だとか思われてるのかな…?まぁそうだよな、話だけ聞いたら完全に怪しい奴だ。………本当なんだけど。

 

 

「…ま、あの人が来れば分かりますか」

 

 

「…あの人?」

 

 

「この岩を退かしに来る人です。彼はヒワダ周辺の道の整備をしていますから。しかもこの非常事態…すぐ来ますよ」

 

 

「へー…」

 

 

彼女はそう誇らしげに断言する程『あの人』のことを信頼している様だ。この萌えもんが話すあの人が僕達を助けてくれる訳か…。出来れば早く来て欲しいけど…

 

 

「…君のトレーナーさん?」

 

 

そこまで信頼しているってことは彼女のトレーナーさんなのかな?…気になって聞いてみる。

 

 

「いえ、彼は決まった萌えもんを持とうとしませんから…でも」

 

 

「…でも?」

 

 

そう話す彼女の顔には憂いがあった。その上で彼女の言葉は続いているのに気づいた僕は続きを促す。

 

 

 

 

「…いずれ彼の初めての手持ちになりたい。それが私…ラプラスの望みなんです」




ちょっと長くなったので10-2に続きますー。
次の投稿は番外編ではなく、10-2になる…かも?


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薬屋の息子-10-2

ここは繋がりの洞窟。河を渡って木曜を抜けて。


 

 

 

 

知らない不安定さと温かさだった。

 

 

…それはアタイが薄れゆく意識の中で感じたものだ。…こうなった原因は何だっけ?確か住処である砂…地面が激しく揺れたのだ。…その衝撃で意識が遠のいたのかな?

 

 

…こんな状態だからこの不安定さと温かさに身を任せるしかない。…でも不安定ながらもアタイを落とすまいと努力するその腕の温かさに触れる内に身を任せても良いかなと感じる様にもなっていた。

 

 

だから心地よく気を失うことが出来た。…表現がおかしいかもしれないがアタイにとってはそうなのだ。

 

 

 

 

そしてアタイの目が覚めるとその不安定さと温かさは無かった。

 

 

…それが堪らなく悲しかった。

 

 

 

 

 

 

「…おい、人間」

 

 

「…ん?………あ!」

 

 

「あら?」

 

 

階段を塞いでいる岩が退けられるまでラプラスと話していると後ろから声と温もりを感じる。…振り向くと僕が運んできた萌えもんがいた。彼女は僕の背中にくっついてきた。

 

 

「大丈夫………そうだね」

 

 

僕は自身の背中にくっついている萌えもんのコンディションを見える範囲で確認する。………とりあえず大丈夫そうだ。でも落ち着いたら萌えもんセンターに行った方が安全だろう。

 

 

「うん。…何、これは?」

 

 

彼女が僕の背中からラプラスの前に並べられているものをじっと見ている。…その視線に気づいたラプラスはにこにこしながら答えた。

 

 

 

 

「モンスターボールですよ。私が入る予定の…ね。貴方はどれが良いと思うかしら?」

 

 

「…どれでもいい」

 

 

ラプラスと僕の間に並べられたボールの数々をざっと見て、その萌えもんは目をそらした。…奇しくも僕と同意見だった。

 

 

「あらら…。…普通は拘らないものなのかしら?」

 

 

「…うん。僕の周りの萌えもんで拘る子はあまりいないね」

 

 

どうやらこのラプラス…自分が入るボールを予め準備している様だ。そのトレーナーさん予定の人に負担をかけない為…らしい。随分と献身的な萌えもんだ。

 

 

しかも目の前に並べられているボールは僕が知らない様な貴重なボールばかりだ。何でも捕獲率が高いとかラプラスは話していたな。…意味は今一分からないが良いボールなのだろうという認識だ。

 

 

一方の僕が助けた萌えもんはモンスターボールに興味を失ったのか僕の背中にくっついている。…そして体を擦り付けてくる。

 

 

「成程…。参考になりましたわ。ありがとう、少年」

 

 

そう、別に拘る必要はないのだ。むしろボールよりもその彼とラプラスの問題だろう。

 

 

「ん、なら良かった…」

 

 

 

 

 

「つまり彼に捕獲率の高いボールを押しつけて、私に当てて貰えば良いのですね」

 

 

「…いや!違う!何か強引だよ!?それは!?」

 

 

彼女は僕の言いたいことが分かってなかった。別にボールに拘る必要がないという意味が通じてない…!

 

 

「いや、でも彼はそれくらいしないと…」

 

 

 

 

 

…ゴッ!!

 

 

…何かが砕けた音がした。その大きな音がした方向へと目を向けると見覚えのある男性とつー、ろすろす、ヤド、ヤドランがいた。この見覚えのある男性がラプラスの話していた男性だろう。…以前ウバメの森で出会った男性だ。

 

 

「あ、やっぱりここでしたか!…ってラプラス、お前まで…!」

 

 

「…お久し振りです、主様」

 

 

「…それは止めてくれ。私は君の主ではない」

 

 

「…あらら」

 

 

にっこりとそう言うラプラスに対して男性はそれを突っぱねた。それを受けてもラプラスはにっこりと笑っているがやはり何処か悲しそうに見える。僕からも何か言った方が…。しかしそれは男性と現れた僕の萌えもん達に遮られることになる。

 

 

「主、…無事か!?」

 

 

「ドラちゃん!…ん?」

 

 

「うん、大丈夫だよ。心配をかけたね…」

 

 

つーとろすろすが僕を見や否や急接近してきた。それを見てヤドは笑い、ヤドランは呆れている。近づく二人を僕は受け止めようとするがつーの足が止まる。

 

 

 

 

「後ろの…誰?」

 

 

「あ、この子は…」

 

 

「…何だ、お前はトレーナーか」

 

 

後ろの…というのは背中にくっついている萌えもんのことだろう。一方でその萌えもんは僕の背中にくっついたままだ。

 

 

 

 

 

 

「…ならアタイを連れていけ」

 

 

「「「…え?」」」

 

 

その発言に僕とつーとろすろすが驚く。そして何故かつーが僕を睨んできた。…えっ、何で!?

 

 

「えっと…いいのかい?」

 

 

「うん。あんたみたいな人間ならアタイは大歓迎だ」

 

 

彼女は背中にくっつきながらはっきりとそう答えた。それを見ているつーの顔が少し歪んだ…気がした。

 

 

「…君は萌えもんなの?名前は?」

 

 

そう言えば名前を聞いてなかったと思い出し、彼女に聞く。

 

 

 

 

 

「ビブラーバ。これでもドラゴン」

 

 

「えっ、虫じゃないの?」

 

 

「…違う!ドラゴン!」

 

 

僕はこの子を虫萌えもんかと思っていたがどうやら勘違いだったみたいだ。彼女…ビブラーバの背中に引っ付く力が一層強くなった気がした。…怒らせちゃったかな?

 

 

 

「………おい、お前は野生だろう?住処は?」

 

 

「もう無い。…折角の新天地だったが潰された」

 

 

それを聞いたろすろすは黙ってしまった。…住処が潰された?あの地震のせいかな?それを聞いて僕はこの萌えもんを捕まえても良いかなという気にはなった。

 

 

 

「…と、とりあえず降りようねー…君ー」

 

 

「やだ」

 

 

「…こいつー」

 

 

ビブラーバは背中にくっつきながらつーの方を向いてつーの言うことを拒否した。つーの顔が少し歪む。…ビブラーバの方はどうだろうか?後ろにいるから分からない。

 

 

「…ど、どうする?」

 

 

「…つー的には無し」

 

 

「…私は主に任せる」

 

 

………捕まえても良いかなと僕は思ったが一応二人に聞いてみた。つーからは無し、ろすろすは任せるか…。ちょっと気になることがある。僕がここに来た理由。それは萌えもんを捕まる為…この子にするつもりは無かったが目的とは一致している。後は…

 

 

 

 

「ビブラーバ、最後に一つ…良いかな?」

 

 

「…何だ?」

 

 

「…バトルの経験はあるかい?」

 

 

…背中からの力が弱まった気がした。それを感じた僕は彼女に手を回し、優しく叩く。

 

 

「………」

 

 

「出来れば正直に答えて欲しい…かな?」

 

 

「………無い」

 

 

更に背中からの力が弱まった。…微かに震えてる気もする。無いか…この子は僕自身が強くなる為に求めていた未熟な萌えもんかもしれない。…それに質問に正直に答えてくれたのだ。それが僕には嬉しかった。

 

 

「…分かった」

 

 

 

 

 

「君だ…君に決めたよ。一緒に頑張ろう」

 

 

 

 

 

 

「つーの意見は無視ですかー、そうですかー」

 

 

「…つーも可哀想に思っただろ?住処が無くなったらしいし…」

 

 

「…いやー、別にー」

 

 

横で愚痴るつーに僕は捕まえようとした言い訳をする。…何だかんだでつーも多少はビブラーバの境遇に同情してる筈だ。…口では否定してるけど。

 

 

「それにつーなら許してくれる…かなって」

 

 

「………はぁー、つーだからー?」

 

 

「うん、つーだから」

 

 

僕はつーに笑いかける。するとつーは呆れた様に笑い返してきた。

 

 

「………そー、勝手にすればー?ろすろす程頑固じゃなさそーだしー」

 

 

「なっ…つー殿!?…え、えっとお前!」

 

 

確かにろすろすの時は面倒だったな…。といよりつーが…。慌てたろすろすが話題を逸らすかの様にビブラーバに話を振る。

 

 

「バトルの経験が無いのは分かった。…だが何が使える?」

 

 

ろすろすがそれを聞くとビブラーバは少し考えて口を開けた。

 

 

 

 

「超音波、嫌な音、大地の力、虫のさざめき………くらい」

 

 

「………虫技だと!?」

 

 

………それを聞いたろすろすが何故か落ち込んでいる。そう言えばろすろすは虫技が使えなかったな…それでも充分強いけど。

 

 

「…ろすろすより虫タイプしてるねー、うんー」

 

 

つーが笑っている。…そういえばつーも虫タイプだが虫技を使っているのを見たことがない。…つーは虫技を使えるのだろうか?

 

 

「…もーっ!アタイは虫じゃないっーの!」

 

 

それを聞いたビブラーバが拗ねてしまった。虫と言われるのが嫌みたいだ。…気をつけよう。

 

 

「はは、ごめんね。じゃ捕まえようかな。名前はビブラーバだっけ…じゃあ…」

 

 

 

 

 

「らーら…らーらかな。…よろしくね」

 

 

「…分かった!アタイはらーらだ!」

 

 

…良かった。受け入れてくれたみたいだ。僕はモンスターボールをそっとらーらに当てる。…すぐにボールの揺れが止まった。…ゲット成功だ。

 

 

 

 

「…なぁ?主のネーミングセンスはいつもあれなのか?」

「うんー、ドラちゃんの欠点の一つだよー…」

 

 

………つーとろすろすがこそこそ話をしているが多分新しい仲間を受け入れてくれているのだろう。




らーら(ビブラーバ)
性格:図太い
繋がりの洞窟(?)にて発見した萌えもん。地震によって住処を壊されて気を失った所をドラに助けられた。その際に彼の側を自分の居場所と思い、ゲットされた。性格としてはつーの視線を受けながらドラにくっつく等…肝は太いが虫と呼ばれること、そして居場所や仲間を失うことに関してはとても敏感。
ビジュアルとしてはクリーム色で二本のはねっ毛のある髪、そして同色の服から僅かに覗く小さな緑の羽と尻尾が特徴。


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番外編:『バレンタイン&ホワイト 後編』

※番外編です。本編とは関係無いです
※前後の二話分の予定(今度はしっかりと二話に収めます)→一応収まりました。
※今回は番外編の量が多いので本編→番外編→本編→番外編…の流れで投稿予定(あくまで予定です)
※昨日の投稿をサボったのでお詫びのブースト投稿です。(投稿)止まるんじゃねぇぞ…


 

~case3~

 

 

 

他人が聞いたら怒りそうな考えだ。

 

 

 

 

………貰ったことは嬉しいのだがちょっと違う…そんな感じだ。

 

 

「…高そうな物ってのは分かるけどなぁ」

 

 

…目の前にある高級そうな二つの箱を見る。これは朝一番にアノプスとリリーラが渡してきたものだった。…まぁアノプスはチョコをくれるかなと思っていた。まさかこんな高そうな物だとは思わなかったが。

 

 

一方でリリーラがくれたのは意外だった。彼女はこういう行事に無頓着だと思っていたからだ。………それでも手を震わせながら俺にチョコを渡してくれたのは微笑ましい光景だったな…。

 

 

…でもこういうのって手作りじゃないのか?俺が贅沢を言っているのだろうか?

 

 

「…貰ってない奴が聞いたら怒りそうだな」

 

 

そう呟いて視線を横へとずらす。その先にあるものは…

 

 

 

 

差出人不明の手作りっぽいチョコ、そして煎餅の袋だ。

 

 

 

 

えぇ…?…貰ったのは嬉しいのだがちょっと違う。先程と同じことを頭の中で繰り返した。

 

 

手作りっぽいチョコの方はまだ分かる。…恥ずかしかったとかそんな感じだ。まぁ普通に渡してくれとは思う。…お返しはどうすれば良いのだろうか?

 

 

 

だがもう一つの贈り物…煎餅。煎餅って何か深い意味があるのか?………今までで貰った経験が無いから分からない。

 

 

 

 

………結果として今年は四つ。俺からしてみれば想像以上の成果だ。…でも何か違う。名前が分かって手作りチョコが理想なんだが…。

 

 

ま、俺みたいな人間が貰えるだけ有り難いか。そう頭の中で結論付け、俺は…

 

 

 

 

煎餅の袋を開けた。

 

 

 

~case3 end~

コメント:チョコ以外を貰うと逆に嬉しい時……あるのかな?自分は経験が無いから分からないです(半ギレ)

 

 

 

~case4~

 

 

 

…見てて危なっかしい。

 

 

チョコを湯煎して溶かす時も、溶かしたチョコを固めようと型に入れる時もだ。溶かして型に入れたチョコが無事冷蔵庫に入り、後は待つだけだ。

 

 

「ホロねーちゃん!…どれくらいで出来るかな?もう出来た?」

 

 

「まだよ、ツヴァイ。というかさっき冷し始めた所でしょ…」

 

 

「…むー。冷凍パンチ使えば早く出来るかな?」

 

 

「止めなさい。…怖いから」

 

 

………ツヴァイは待ちきれない様子だ。…でもツヴァイがチョコを作りたいというのは私にも悪くない提案だった。

 

 

ドラ君に…セーレさんに…ケイブさん…彼等に今までの感謝の気持ちを伝える良い機会だ。なので私もツヴァイのチョコ作りに便乗させて貰った。

 

 

因みに自分達用のは作ってない。なぜなら…

 

 

 

「…急げっ!姉さんを待たせるな!」

 

 

「姉さんの姉さんの為にー!」

 

 

「…よーし!もっとでかくしろ!でも味は落とすんじゃねぇぞ!お前ら!」

 

 

「「「はい!!!」」」

 

 

…フィーアと彼女を慕うギャラドス達がとてつもない大きさのチョコレートケーキを作っているから。巨大なケーキが何十人で効率良く分担され、作られている。

 

 

………意外とフィーアはこういうことが得意だった。その技術と皆を纏めるカリスマで今回はやり過ぎなレベルの代物が出来てる…。あれは作ってくれた皆で食べましょうか。

 

 

 

 

…そういえばドライは?今までツヴァイに付きっきりだったから忘れてた。彼女は…あまりこういうことには興味なさそうね。

 

 

そう思っていると部屋にドライが入ってきた。…外出していたのか。入るや否やとてつもない大きさのチョコレートケーキを見て呆れている。そしてフィーアに何か言いながら何かを渡した後、私達の所に来た。

 

 

「ほらツヴァイ…チョコレートだ。…お嬢、よろしければどうぞ」

 

 

「…わーい!」

 

 

「良いの?…ありがとう」

 

 

何とドライが私とツヴァイに渡してきたのは手作りのチョコレートだ。…ツヴァイが喜んでいるのを見てドライも嬉しそうだ。

 

 

「…よーし!皆揃ったな!お前らここでストップ!………姉さん、頂きましょう!」

 

 

「え、えぇ…」

 

 

これ…皆でも食べきれるかしら?…そんなレベルの量になっていた。というかフィーアはドライが戻ってくるのを待っていたのか。

 

 

…ということはフィーアはドライの外出を知っていた…?馬が合わないと思っていた二人だがそれなりの交流はあるみたいだ。

 

 

「さぁ姉さん!号令を!」

 

 

「ご、号令?…えっと………頂きます?」

 

 

 

 

「「「狩りの時間だぁ!!!」」」

 

 

………物凄い勢いでギャラドス達がケーキに食いついている。…部屋の中が戦場と化した瞬間だ。

 

 

…それでもこの量だ。ギャラドス達だけではキツいだろう…私達も協力しないとね。私は巨大なチョコレートケーキの一角を自分のお皿によそる。でも最低でも二口分はお腹に余裕を残さないといけない。

 

 

 

 

…ツヴァイとドライが作ったチョコの分も食べたいから。

 

 

 

~case4 end~

コメント:優しい世界。…ホロパーティは目的の割りにはほのぼのしてると思う。

 

 

 

~caseX~

 

 

 

「…で、大丈夫だったのかよ?」

「………あぁ」

「…嘘だ。お前…チキったな」

「………」

「分かるんだよ。…食い物に関してはな」

「………そういうものなのか?」

「まぁな。…この後に姉さんがトレーナーさん達にチョコを渡しに行く。…その時にもう一度しっかりと渡せ」

「………でももう置いてきてしまった」

「なら買ってこい。折角だから何かしょっぱい物が良いな…煎餅とかどうだ?どうせ周りはチョコばっかりだ。それ以外は印象に残る」

「………煎餅は駄目だ」

「…何でだ?」

 

 

 

 

「先客がいた」

 

 

 

~caseX end~




番外編『バレンタイン&ホワイト』は以上になります。
………え?ホワイトデーが入ってないやん!…だって?

…み、皆様のご想像にお任せします(丸投げ)

次の番外編はお嫁さん企画になります。…多分3か4話分くらいの大きなものになるかも?


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理科系の女-10

ここはアサギシティ。潮風香る港町。


 

非常事態だということを理解した。

 

 

…この地響きは普通の萌えもんの力によって起こされたものではない。それほどの規模を持ったものだった。

 

 

「…はい。市民にも………かしこまりました…!」

 

 

私との特訓中だったミカンちゃんもこの地震が起こるや否やすぐに特訓を中止。そしてジムトレーナーにアサギシティの市民への避難と警戒の呼掛け、そして萌えもん協会だろうか…?何処かに電話をかけ、そしてまた違う電話番号に電話をかけ…を繰り返している。

 

 

そんなミカンちゃんの姿は初めて会った時や私がからかっている時からは想像も出来ない程、しっかりしていた。…流石はジムリーダー…いえ、ミカンちゃんと言った所か。

 

 

「はい…。ありがとうございます………失礼します」

 

 

…そしてまた何処かへ連絡を終えたのだろう。ミカンちゃんが受話器を置き、一息ついた。するとその姿を見ていた私に気づいたのか軽く笑いかけてくる。…その表情から私に心配させまいという気遣いを感じた。

 

 

「あの…すみません。ちょっとお仕事が…」

 

 

「…分かってるわよ。私は気にしないで良いから。…特訓は中止でしょ、もう充分よ!」

 

 

………この子はこんな状況でも私に気遣うのか。その優しさに少し呆れるが、私も彼女を心配させまいと虚勢を張る。

 

 

「…ありがとうございます、………ネール!」

 

 

ミカンちゃんが特訓中だったハガネールを呼ぶ。するとすぐにハガネールは側にやって来た。地震の際にくっつく状態になったライからもすぐ離れての行動だ。………普段だったらこのハガネールは喜びそうだが、流石に状況を分かっている様だ。

 

 

「…はい!…お姉様、失礼します」

 

 

「あ、ごめん…」

 

 

…普段はライがハガネールから離れるのだが今回は逆の状態だった。くっついていたライが離れていくハガネールに謝っている。…それに対してハガネールは離れ際にライに一言言い残した。

 

 

「………お姉様、鋼の心です。…これが最後の教えです。お忘れなきよう」

 

 

「鋼の…心…」

 

 

ライがハガネールの言っていた言葉を反復している。…何か思い当たる節があるのだろう。

 

 

 

 

「…そうだ、セーレさん…!」

 

 

「…え!?何?」

 

 

ミカンちゃん達がジムを出ようとするのを見送るしか出来ない私に対して最後に何か伝えようとしてるみたいだ。…一字一句聞き逃さない様にしっかりと聞く。

 

 

「私からも一つ…このストライクが強くなるかはセーレさんとこの子次第…いえ」

 

 

 

 

「強くなる…とは違いますね。…変わるんです」

 

 

「えっと…その…変わる為の特訓はしたつもりです。…だから後はセーレさん達次第です」

 

 

「…うん」

 

 

………とりあえず頷いたものの正直な話、あまり意味を理解していない。…強くなるじゃない?だってその為の特訓だって…ケイブさんもその為に用意してくれて…

 

 

「あ、あの……あんまりうまく言えないけど」

 

 

 

 

「……頑張って下さいね」

 

 

「……了解!今までありがとうね!…また落ち着いたらここに来るわ!」

 

 

 

 

…あ、分かった。

 

 

先程の彼女の言葉の意味が分かった。…彼女の言葉を借りるならあんまりうまく言えないけど………伝わった。

 

 

…これをどう解釈して受け止めるかは私の頑張り次第だ。

 

 

 

 

 

 

そしてジムを飛び出したミカンちゃんを見送った私達はそのまま萌えもんセンターに向かう。その道中には人通りは少なく、萌えもんセンター内においては不安そうなトレーナー達が多く存在していた。

 

 

『………これで二回目だ』

 

 

…人々の噂からそんな言葉が私の耳に入る。二回目…?前にもこの様な地震があったのだろうか?………カントーから来た私には分からない話だった。

 

 

私はセンター内の空いているパソコンを見つけ、アクセスを開始する。…他の人に連絡システムを使って連絡するためだ………といってもドラ君、ケイブさん、ホロちゃんくらいしか連絡先は無いのだが。…ちょっと悲しくなる。職場でも会社用の電話番号やアドレスしか無かったわね………

 

 

…って!そんな場合じゃない!…幸いなのはこのパソコンの連絡システムが今やアナログな代物なことか。…今はポケギア等の持ち運び出来る携帯端末があるからだ。こんな状態でもパソコンが空いていたのはそれが影響してるのだろう。

 

 

「………アナログ万歳…っと」

 

 

昔の私が聞いたら一蹴されそうな独り言を呟きながら、パソコンの画面を開く。すると…

 

 

 

 

『新着メッセージ:1件』

 

 

 

 

…やっぱりあった。…恐らくケイブさんかホロちゃんだ。…ドラ君は無い。何故なら私が前から送っているメッセージに返信をしてこないから。………使い方が分からないとかそんな感じだろう。行方不明とかは無いと思いたい。

 

 

…メッセージ欄をクリックする。すると差出人と件名が表示された。

 

 

 

 

 

 

『差出人:ケイブさん 件名:安否確認と今日の地震について』



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番外編:『コガネテレビ特番!お嫁さん企画!-1』

※番外編です。本編とは関係無いです
※『朗報or悲報?:3~4話予定のつもりが、4~5話になりそう』
…すみません!許して下さい!何でもしますから!
※今回は番外編の量が多いので本編→番外編→本編→番外編…の流れで投稿予定(あくまで予定です)


 

遠くにいても聞こえる様な明るくて活発な声とそれには劣るものの勢いのある声が私の耳に入る。

 

 

「…これは絶対行けます!!ディレクター!!視聴率爆上がりです!!アズマオウの滝登りです!!」

 

 

「…そうか!行ってこい!必ず捕まえろっ!」

 

 

「…はい!!」

 

 

明るくて活発な声の持ち主が勢いよく扉を開けて下の階へと下りていく。………その足音すらもよく響いた。

 

 

「………で、ヨウちゃん。お願い出来るかな?」

 

 

「了解です」

 

 

そして勢いのある声を出していた人…ディレクターさんは静かに私にそう言った。それに対して私は同じ様に静かに答える。

 

 

「あの子の言うことだ。…今回も絶対に当たる。…でも程度は君に任せる」

 

 

「大丈夫です。やってはいけない程度を彼女は直感で分かってますから」

 

 

「…だね。でも一応頼む」

 

 

「分かりました」

 

 

…そう、彼女は直感で物事のアウトとセーフのラインを見極めることが出来ていた。だから無茶なことをしても、このコガネ放送局にて愛すべき馬鹿な存在として残ってきたのだ。

 

 

………そんな彼女が貰う上からのバッシングや視聴者からのクレームは愛に溢れたものだった。………因みにファンの間では彼女へのファンレター=クレームらしい…。そんなカルト的人気を持っているとも言える。

 

 

 

 

それが私の仕事のパートナー、ジツキだ。

 

 

ディレクターに一礼して私は彼女を追う。………下から彼女の足音と叫び声が聞こえる。…どうせ何かパプニングに巻き込まれているだろう彼女にはすぐ追いつけそうだ。

 

 

 

 

 

 

「いやー!!行けるよ!!あの四人は絶対行ける!!」

 

 

「そうですか」

 

 

彼女が頭を擦りつつもふらふらと町中を歩きながら、そう豪語する。…あの後、色々あって放送局の三階から飛び降りたのだ。それで頭をぶつけて『…痛いっ!!!』との感想でその件に関してはもう終わりらしい。…その出来事を彼女は気にせず、歩いている。

 

 

「あの乱闘ボーイと泥棒レディは間違いないし、残りのまな板ガールと赤服さんも絶対面白い!!…行ける!!」

 

 

………酷いあだ名だ。でも誰のことを言ってるのかは分かる。…先日行われたコガネルーキーカップの第三位までの選手のことだ。確か名前はホロ、セーレ、ドラ、エリトだったか…。彼女はその四人を探していた。

 

 

「…何処かなー!?」

 

 

そんな中、彼女はふらふらと歩いていた。…彼女は彼等が何処にいるかも知らないし、私に何処に行こうとも言ってないのにだ。………そんな彼女と共に暫く歩いていると彼女がコガネデパートの屋上前の扉でいきなり足を止めた。…ここが当たりか。普通なら有り得ないが…

 

 

 

 

そして彼女は勢いよく扉を開けた。

 

 

…やっぱり当たりだ。…目的の四人の内三人を発見した。ドラ選手、セーレ選手、ホロ選手だ。

 

 

………そして『彼』がいた。…大当たりだ。

 

 

彼女はその集まりを確認すると彼等へと猛ダッシュで詰め寄る。

 

 

「…ん?」

「すみませんー!!コガネ放送局のジツキですっ!!皆様にはルーキーカップでお世話になりましたっ!!急ですみませんがお話がですねー………」

「あー…あの…」

「あの人ね…」

 

 

…彼女は三人しか見えてない様だ。彼には目もくれていない。…そんな三人に詰め寄る彼女の様子に引いている彼の側に寄る。

 

 

「あの………お久し振りです」

 

 

「ん?…誰だ?………悪いが人違いじゃないか?」

 

 

「………失礼しました。勘違いです」

 

 

「あ、そう…」

 

 

そう言って彼は頭をかき、騒がしい彼女と三人の集団に視線を移す。………ま、そうなるか。昔の私と今の私ではかなり印象が異なるだろう。覚えてないのも無理はない。

 

 

…私も彼女と三人の集団の方を見る。

 

 

 

 

「「「…お嫁さん企画?」」」

「はい!!貴方達トレーナーさんとその萌えもんでです!!存分にイチャイチャした風景をお願いします!!」

「あの…こういうのは大人の男性がやるんじゃ…僕はまだ子供で…」

「大丈夫です!!萌えもん協会にはそういうのを支持する層もいます!!」

「テレビは嬉しいけど…私、女性よ?」

「大丈夫です!!萌えもん協会にはそういうのを支持する層もいます!!」

「…私は子供で女性よ?完全に駄目だと思うのだけれど」

「大丈夫です!!萌えもん協会にはそういうのを支持する層もいます!!」

 

 

…会話のキャッチボールが成立してない。三人が投げたボールを彼女はバットを使い、ホームランとして打ち返す。………そんな感じだった。

 

 

その勢いに三人が呆れている。…そんな中、彼等の萌えもん達が持ち主に対して何か言っている。…もしかすると交渉に成功するかもしれない。…どうやら何体かの萌えもんは乗り気の様だ。

 

 

そして彼女はガッツボーズをしながら私の方を見る。何で勝ち誇ってるんだが…。しかし私を見ていた彼女のガッツボーズが急に解かれた。…そして私の方へと向かってくる。

 

 

「…ん!?…貴方はっ!?………ティンと来ました!!貴方もやりましょう!!」

 

 

「…え、俺!?」

 

 

向かって行ったのは私ではなく、彼の方だったみたいだ。彼女は彼までもお嫁さん企画にスカウトしようとしている。その勢いに彼もたじたじだ。

 

 

…彼女の目に敵う彼が凄いのか、彼を見つける彼女の目が凄いのか………。ここは彼女の目が凄いということにしよう。

 

 

「…俺、おっさんだぞ?」

「大丈夫です!!萌えもん協会にはそういうのを支持する層もいます!!」

 

 

…またホームランだ。便利な言葉だね、それ。…その後も彼に詰め寄っている。

 

 

その後、私は三人と彼に対して企画の説明や質問に答えたりしているといつの間にか日が暮れてきた。…そこで彼女は話を切り上げた。

 

 

「…では皆さん!!御検討をお願いします!!…宜しければ××日にコガネ放送局のスタジオまで!!」

 

 

………彼女の顔は勝ち誇ってたものだ。まぁ、見る限り三人と彼の感触は悪くない。本当に交渉成功が見えてきた。…そう言い残して勢いよく屋上から去る彼女を私は追いかけた。

 

 

 

 

そして翌日…

 

 

 

 

 

 

「やりました!!ディレクター!!スロットで言うならヨワシの魚群レベルの当たりです!!」

 

 

「…成し遂げたぜ!」

 

 

コガネ放送局のスタジオに集まった三人と彼を見た彼女とディレクターが大いに喜んでいる。………バックに壮大な音楽がかかってそうな程だ。いや、でもこれ…

 

 

「あの…ちょっと良いですか?」

 

 

「どうした、ヨウちゃん!!…バブル光線予告も欲しいですか!?流石ゲーセン通いのヨウちゃん!!」

 

 

私はゲーセンには彼女の仕事の付き添いにでしか行ったことがないのだが…。よく分からないことを言う彼女を無視してディレクターに質問する。

 

 

 

 

 

「…あの…赤服の彼は良かったのでしょうか?」

 

 

「「………」」

 

 

「………このままではオンエアまで間に合いません!!強行します!!」

 

 

「待て!ジツキィー!」

 

 

あ…そのまま撮影に入るのね。彼女とディレクターのハンドシグナルからそれを理解する。私以外の周りのスタッフもそのハンドシグナルを見たからか準備を進めている。

 

 

 

 

さて…ようやくコガネテレビ特番、お嫁さん企画の撮影開始だ。




まさか導入に一話使うとはこの海のリハクの目をもってしても読めなかったわ…

まぁ甘いイチャイチャ予定なのでごゆるりとお待ち下されー


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ピクニックガールの少女-10

ここは42番道路。こちらエンジュとチョウジ間、進むのは暗闇か深い青か。



 

歩調を合わせられていた。

 

 

私も出来るだけ急いでいるつもりだが、ケイブさんの歩き方は私の早歩きの速度に合わせているなと感じられた。ギリギリで彼の背中を追いかける形になっている。…私が追いかける側なのに情けない話だ。

 

 

「…嬢さん。あんたはポケモンセンターで大人しくしてなって」

 

 

「…ならケイブさんもそうしたらどうですか?」

 

 

「…俺は良いんだよ、こういうのに慣れてるから」

 

 

「………この地震に何か当てがあるんですよね?」

 

 

早歩きを止めずにそう伝えるとケイブさんのバツの悪そうな横顔が見えた。…図星だ、やはり何かを知っている。

 

 

「…だから何だって言うんだ。嬢さんには関係無いだろ。…頼む」

 

 

ケイブさんが私にそう言いながらも歩みを止めずにボールからリリーラを繰り出した。そして繰り出されたリリーラは即座にフラッシュを使いながらスリバチ山内部を進んで行く。…そのケイブさんとリリーラの動作は手慣れたものだった。

 

 

私はフラッシュの光の中を進むケイブさんの背中に付いていく。…私の足でケイブさんに付いていけるのは前に来た時とは違い、フラッシュにより周囲が見えていることとケイブさんが多少は私に歩調を合わせているからだろう。

 

 

恐らく本当に置き去りにする気はないのだ。…そう思いたい。私も歩みを止めずにスリバチ山に入る際に有耶無耶にされた話を再び切り出す。

 

 

「関係ありますよ。だって…」

 

 

 

 

「…ケイブさんは私を何度も助けてくれましたから。…だから私も出来ることがあるなら手伝います!」

 

 

…私はそう大きな声で言うがケイブさんは歩みを止めない。そのまま何も言わずに先へと進もうとしている。

 

 

 

 

 

 

………しかしケイブさんがいきなり自分の頬を叩いた。…小気味のいい音が小さく響く。

 

 

「…痛っ」

 

 

「…ど、どうしたんですか?」

 

 

私はケイブさんの急なその動作に戸惑い、声をかける。…しかも自分で叩いときながら痛いと小言を溢したのだ。

 

 

「や…何でもねぇ。ちょっと力を入れ過ぎた」

 

 

そう言って自分が叩いた頬を擦っている。それが少し滑稽に見えるが…それがケイブさんらしいなと思えた。

 

 

「…で、私はどうすれば良いですか?…本当に邪魔なら帰りますよ?」

 

 

…しかし私には帰る気は無い。でもケイブさんが帰れと言うならば従うつもりだった。

 

 

「………いや、もう帰るよりも進んだ方が速いな。…とりあえずエンジュの萌えもんセンターにいてくれ」

 

 

「…分かりました」

 

 

…依然としてケイブさんは歩みは止めない。それに私は続いて行く。

 

 

………先程よりも彼の歩みが遅くなった気がする。…更に私に歩調を合わせてくれたのか。

 

 

「…まさか付いてくるとは思わなかった。…結構急ぎのつもりだったんだぜ?」

 

 

「…でも何処か私に合わせてくれましたよね?」

 

 

「…かもしれねぇな。…ん、ありがとな」

 

 

ケイブさんがボールを取り出し、お礼を言いながらリリーラを戻す。…既に洞窟の出口は見え、フラッシュが必要無くなったからだろう。

 

 

………戻っていくリリーラは私の方を一瞬見ながら戻っていった。その際にケイブさんにお礼を言われたからか満足そうな表情が覗けた。

 

 

………スリバチ山を抜けて少し歩けばエンジュシティだ。その方向に向かって歩くケイブさんの隣に私は続いていく。そんな中、彼が呟く。

 

 

「………もしかしたら」

 

 

「…もしかしたら?」

 

 

 

 

「………嬢さんに何かお願いするかもな、その時は頼むぜ」

 

 

「分かりました。…私以外にもドラ君やセーレさんならきっと手伝ってくれますよ」

 

 

私はケイブさんと同じく私に協力してくれると言ってくれた二人の名を出す。…ドラ君もセーレさんも優しい人だ。お願いすればきっと手伝ってくれる。

 

 

「………アイツらもか」

 

 

 

 

 

そう呟いて…

 

 

 

 

ケイブさんがまた自分の頬を叩いた。…今度は自分で力を調整したみたいだ。痛がってはいない。

 

 

「…ま、とりあえず萌えもんセンターだ。嬢さんを送らなきゃいけないからな」

 

 

「 …一人で大丈夫ですよ?」

 

 

「いや、一応な。その位はさせてくれ」

 

 

とりあえず…と言うことはその後何処かへ行くのだろうか?………私は何処に行くのかを聞くのを少し躊躇ってしまう。

 

 

するとケイブさんがそんな様子の私を察してくれたのか声をかけてくれる。

 

 

「もし何かあったら頼むから、嬢さんは萌えもんセンターで待機してくれ」

 

 

「…了解です」

 

 

ならば言う通りに萌えもんセンターにいよう。…何かあればケイブさんは言ってくれる筈だ。そう話ながら歩いている内に私の視界に古風な建物が並ぶ町並みが入ってくる。

 

 

…エンジュシティはもう目の前だ。



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番外編:『コガネテレビ特番!お嫁さん企画!-2』

※番外編です。本編とは関係無いです
※5分割で行きます。あーもう目茶苦茶だよー。
※コガネシティ時の話なのに何故からーらとフィーアがいます。…そこは番外編パワーですよ!番外編パワー!
※今回は番外編の量が多いので本編→番外編→本編→番外編…の流れで投稿予定(あくまで予定です)


 

 

 

 

周りは何も言ってこない。

 

 

「…らーら。どうすれば良いのかな?」

 

 

「分からない」

 

 

…らーらから返ってきた答えは芳しくないものだ。なので自分でこの状況をどうすれば良いのか考える。

 

 

今はテレビの撮影でらーらとイチャイチャした風景…?とやらを撮りたいらしいのだ。でも僕も何をしたら良いか分からないし、それを見た周りのスタッフが何かを言ってくる訳でもない。

 

 

「分からないじゃ不味いよ、らーら。どうにかしないと…」

 

 

流石に僕達が何もしないのは駄目だろう。そう思い、僕は背中にしがみついているらーらにそう伝える。

 

 

「…でも分からないのは分からない。ごめん…」

 

 

…少し振り向くと背中にしがみついているらーらの申し訳無さそうな顔が目に入る。いや…別に謝らなくても………。僕は謝らせてしまったのを少し後悔してらーらを優しく撫でる。…すると申し訳無さそうな顔が少し和らいだ気がする。

 

 

「あっ…」

 

 

「いや、大丈夫だよ。…ちょっと周りに聞いてみるからね」

 

 

 

 

 

「すみませんー!どうすれば良いですかねー?」

『そのままで良いです!!』

「えっ…でも…」

『そのままで良いです!!』

「えー…」

「…ならそのままだ。主人」

「いや…でもいつも通りだよ、これ?」

『だがそれがいい!!』

 

 

 

 

 

 

ドラ君のこういう事に関する手腕は流石だった。

 

 

まぁ見習いたいかというのはまた別の話だが…。でも手早く撮影を一つ終えたのは羨ましかった。多分…いや、絶対私とこの子は苦戦する…

 

 

「あ、姉さんっ!お嫁さんとかってどうすれば!?」

 

 

「…知らないでこれに乗り気だったの?」

 

 

…今回の相手はフィーアだ。何とフィーアは意外にも最初からこの企画にやる気だった。後の私のパーティだとツヴァイは興味本意、ドライは仕方無く………と言った所か。フィーアがやる気なのは珍しいわね…

 

 

「…はい。すみません、姉さん…」

 

 

「…なら何で乗り気だったの?普段からこういうのに関心無かったのに」

 

 

そう、普段のフィーアならこういう物事は鼻で笑うタイプなのだ。『馬鹿じゃねーの?』と言うフィーアの姿が容易に浮かぶ。

 

 

「………えーっとですね…」

 

 

 

 

「ア、アタシの部下にこういうのに興味がある奴がいるんで…」

 

 

「アタシが見本にならないとなって…アイツらも多分この番組見てくれっから」

 

 

顔を真っ赤にしながらフィーアがそう言ってくる。何だ、そういうことか…。珍しいなと思ったがそれは勘違いだ。…フィーアはいつでも仲間思いなのだ。今回もそれ故の行動だった。

 

 

「立派になったわね、フィーア。昔とは大違い…嬉しいわ」

 

 

「…姉さん程じゃないです」

 

 

…私がそう褒めるとフィーアは照れながらも満更では無さそうだ。そんなフィーアの想いに私も応えなければならない…。ドラ君みたいに上手くは出来ないけど…

 

 

「いいえ、…じゃ頑張りましょう。フィーアの部下達に満足して貰わないとね…。さて…」

 

 

 

 

「…どうすれば良いですかね?」

『…そうですね、もっと親しい感じで…』

『馬鹿!!ヨウちゃん、凝を怠るなと…これで良いです!!これはまな板ガールの方がお母さん味がありますが問題無しっ!!』

「………フィーア、解説席にフィニッシュバーンよ」

「姉さん!?フィニッシュバーンは不味いっすよ!火の粉くらいに…」

「やれ」

「いや、流石に…」

「やれ」

「アッハイ」

 

 

 

 

 

 

解説席が黒焦げだ。

 

 

何があったのかと聞くとジツキちゃんは気にするなとのこと…。でも頭がアフロ状態なんだけど…。一方でヨウちゃんの方は何も言わずに服に付いた埃を払っているだけだ。…意外とこの子も肝が太いのかもしれない。

 

 

まぁ…『気にせずやって下さい!』とのことなのでやりましょうか。ある意味、問題児は最初に処理したいしね…

 

 

「ん?どうしたの?マスター?」

 

 

「…何でも無いわ。頑張りましょ」

 

 

…それがライだ。私のパーティだとヤドも少し不安だが、それ以上にライが問題を起こさないか不安だ…。…泥棒とかしないでね、頼むから。

 

 

「…じゃあ一旦出て、そしてただいまー…って感じで入ってきてよ。こういうのはシチュエーションが大事だからね」

 

 

「?…分かったわ」

 

 

私はライの指示に従い、一旦スタジオから出る。…でここからライのいる所に行けば良いのね。にしてもライからこういう指示が出るとは…意外だ。まぁ私としては指示してくれた方が楽だから助かるわ。

 

 

 

 

「ただいまー、今帰ったわよー」

 

 

 

 

「…あ!おかえりなさい、あなた。今日もお疲れ様」

 

 

 

 

………誰だこれ。スタジオに入ると私に向かって微笑みながら労ってくれる理想のお嫁さんがいた。…違う、ライだ。

 

 

「………」

 

 

「…?どうしたの?あなた?」

 

 

いつものライとの違いに言葉が出ない。…え?本当にライなの?これ?………もしかしてこれがドッキリ企画とかでテレビが用意したメタモンだったりとか…。

 

 

「………」

 

 

「………マ、マスター?駄目だったかな?ウチなりに練習したつもりなんだけど…」

 

 

………あ、良かった。ライだ。私が黙っていたからかちょっと涙目の不安そうな表情でこちらを見てくる。…練習、したのか。

 

 

「…いや、大丈夫よ!」

 

 

「よ、良かった…。フフ…全くあなたったら…面白いわね」

 

 

ライは一瞬素に戻ったものの演技を続ける。………そう言いながらライは笑ってはいるが相手を馬鹿にしている雰囲気を全く感じさせず、その一面を受け入れている感じがする。

 

 

…あ、これヤバイわ。完全に理想のお嫁さんじゃない。こんな子が嫁に欲しいわ………私女だけど。

 

 

 

 

 

「さ…早く上がってゆっくりしましょう?」

 

 

 

 

『「ママーッ!!」』

「…わっ!どうしたのマスター!?」

『ジツキさん、うるさいです』

『「いや、魂の叫びが…」』

「これは旨いお味噌汁作るわ、間違いない」

『…時折見せる素の状態がたまりませんっ!!』

「え…ええっ、そ…そんなこと…。お味噌汁とか作ったことないし…でもやれって言うなら頑張る…」

『あー………これは叫ぶのも致し方無いですね。完璧です』

 




…終始こんな感じの予定。
…この中だとしっかりお嫁さんやってるのライしか居ないけどね。


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遺跡マニアのおじさん-10

エンジュジムリーダー、マツバ。千里眼を持つ修験者。


 

使える。

 

 

 

 

 

一瞬でもそう思ってしまった。

 

 

そんな自分を戒めるべく自身の頬を力強く叩く。…それにより頬がじんじんと痛む。…っ、力み過ぎた。

 

 

「痛っ…」

 

 

「…ど、どうしたんですか?」

 

 

「や…何でもねぇ。ちょっと力を入れ過ぎた」

 

 

心配してくれた嬢さんに対して俺は軽く笑いながらそう答える。…すると嬢さんもその様子が可笑しかったのだろう、…僅かだが口角が上がっている。

 

 

………そんな仕種が一層自分の思考の醜さを自覚させてしまう。嬢さんは純粋に俺のことを心配してくれているのに、俺は…。

 

 

 

 

情けない大人…

 

 

 

 

…いや、情けない人間だ。

 

 

 

 

 

 

「………開いてっかな?」

 

 

俺は嬢さんをエンジュシティの萌えもんセンターまで連れた後、この町の中では近代的な外装の大きな建物の前に立つ。さて、こんな状態でもここ…萌えもんジムは空いているのだろうか?

 

 

試しに自動ドアの前に立つ。…ドアは普段と変わらず開いた。………そのまま中へと俺は入っていく。

 

 

「お邪魔しまーす…」

 

 

 

 

「…邪魔する気なら来ないで欲しいですね、…今は忙しいんですよ」

 

 

「…だろうな。でもその割りには話をする気満々じゃねーか…」

 

 

 

 

「マツバの兄ちゃん」

 

 

…入って早々の軽口に対して俺も同じく軽口を返しながら目の前の金髪に紫のバンダナとマフラーが映える青年の名を呼ぶ。

 

 

「…招かれざる客でも貴方は応対せざるを得ないでしょう。ケイブさん…いや、チョウジ萌えもん研究所地下洞窟捜索部職員ケイブ殿………の方が良いですか?」

 

 

「…普通に呼んでくれ。その名前は長くて嫌になる」

 

 

よく研究所にいた時の職名を覚えてるものだ。というかその名前は一応捨てたつもりなんだが…

 

 

「分かりました。ならケイブさん、こんな時に何の御用ですか?」

 

 

「ったく…分かってる癖に。まぁいいや…」

 

 

 

 

 

 

「地下洞窟の件だ。…どうなる?」

 

 

普通ならばこんな曖昧な質問はしない。しかし彼にはこれで充分だろう。現に彼は俺が投げかけた質問に対して疑問は持っていない。なぜなら…

 

 

「その落ち着きっぷり………見たんだよな?」

 

 

「…見えるものはあります。それが見たいものかはともかく…ね」

 

 

そう、このマツバという青年…ジムリーダーとしてのキャッチコピーにもある様に『千里眼』を持つ男なのだ。

 

 

『千里眼』………普通の人間が目視不可能な遠くの物事を、精細に見ることが出来るという能力。…これなら百歩譲って納得出来る。しかしこの彼の能力における『遠く』は距離のみならず時間のことも表す。

 

 

柄にもなく長々と詳しくない知識をひけらかしたが要は…

 

 

 

 

 

彼には未来が見える。

 

 

………といっても絶対に当たるという訳でも無いが。

 

 

そして現在、彼はこの二度に渡る非常事態に立ち会っても、いきなり来た俺を迎える程には落ち着いている。つまりはそこまでこの件は大事にはならない…かもしれない。

 

 

………正直その彼の様子を見ただけでもここに来た価値はある。…一先ずは胸を撫で下ろす。

 

 

「…なら教えてくれ。地下洞窟は…ジョウト地方はどうなる?」

 

 

さて…改めて核心となる話を聞こうか。すると彼は答えるのを一瞬躊躇したものの口を開いた。

 

 

「………ジムリーダーとして情けない話ですが」

 

 

 

 

 

「若きトレーナー達により三聖獣は鎮められ、ジョウト地方は救われます。だから…」

 

 

「………」

 

 

………色々掘り下げたい話の内容だが、彼の言葉が続いているのに気づいた俺は黙ってその先の言葉を待つ。

 

 

 

 

 

「貴方は何もしなくていい」

 

 

「………そうか」

 

 

その後の彼の言葉は、以前所長に言われたものとほぼ同じだった。…いや、所長のよりも極端な内容だな。所長はライコウの手がかりを探して戻れだったのに彼のは何もするなだ。なら俺にはライコウの手がかりの捜索すらするなってことか…

 

 

 

 

つまんねぇな。

 

 

俺は以前、所長に言われた時と同じく不貞腐れる。こんな面白そうなことに顔を出すなって言われるのは腑に落ちない。

 

 

…ま、それはいいや。問題はそこじゃない、前半の話だ。

 

 

「分かったよ。で…若きトレーナー達ってのは何だよ?」

 

 

 

 

「…言った通りです。正確には少年と少女…後、女性ですかね」

 

 

…まだだ、まだ慌てる様な内容じゃない。俺は更に話を掘り下げる様に促す。

 

 

「詳しく…見えたか?」

 

 

 

 

「誰だとは分かりませんが、少年は大きなリュックに薬箱…少女は活発な服装、女性はザ・トレーナーという服装です」

 

 

 

 

「…悪いな、マツバの兄ちゃん。この件、俺も動く」

 

 

…彼の千里眼は分かりやすすぎた。間違いなく坊主、嬢さん、ねーちゃんだ。………なんつー縁だよ本当に…

 

 

「!…いえ、貴方は…!」

 

 

彼の続きが分かりきった言葉が出る前に俺は話を続ける。

 

 

「…俺が三聖獣を鎮める。それともマツバの兄ちゃん…俺が負けるとでも?」

 

 

流石にアイツらにこんなことをやらせる訳にはいかない。…今のアノプスとリリーラだけなら流石にキツいがここから俺のフルメンバーがほぼ全員来るのだ。………それならやれる筈だ。

 

 

「………確かに貴方なら伝説級の萌えもん相手に打ち勝つのも不可能では無いでしょう」

 

 

俺の戦力と三聖獣の力の分析でもしたのだろう、黙っていた彼が俺の発言を肯定した………かのように見えたが…

 

 

「でもそれでは駄目です」

 

 

「…あ?」

 

 

何だよ、鎮めるってのはバトルで勝つとかゲットとかでは駄目なのか。…面倒臭いもんだ。

 

 

「…三聖獣を力で捩じ伏せてはいけない」

 

 

 

 

 

 

「三聖獣を欺き、手を取り合い、救わなければいけない。それが出来るのは若きトレーナー達です」

 

 

…何だそりゃ。手を取り合う、救うは分かるが欺くは響きが穏やかじゃねぇな。それをアイツらがこなすのか?

 

 

…その一人は?

 

 

 

 

「………しつこい様ですがもう一度言います。…貴方は何もしなくていい」

 

 

「…ん、分かったよ。ありがとな」

 

 

これ以上何もするなと言われるのに耐えられなくなった俺は強引に話を切り上げる。…本当にアイツらに頼るしか無いのか?

 

 

「…本当に何もしないで下さいね」

 

 

「…しつけぇな、分かってるよ」

 

 

彼に対してちょっと怒気を含んで言い返してしまったのを俺は言ってから後悔する。…彼がそこまで念を押すなら間違いないのだ。でもよ…

 

 

「…じゃあな。落ち着いたら今回の千里眼の報酬に怒り饅頭でも持ってくるわ」

 

 

「…ふ、一箱なんてケチなことはしないで下さいよ」

 

 

「…前向きに検討させて頂きまーす」

 

 

俺がそう言うと彼は微かに笑った。良かった…実はさっきの彼への当たりが強かったのではないかと気にしてたのだ。でも彼にそれを気にしている様な感じはない。

 

 

…これで気にしていたことが一つ減ったがまだ気になることは一杯だ。…ジムを出る俺の足取りは重かった。

 

 

 

 

 

 

「…マツバ様、あれで良かったのですか?」

 

 

…ケイブさんが出ていくといつの間にボールから出たのだろうか、僕のゲンガーが語りかけてくる。

 

 

「…分からない。もし本当のことを言ってもあの人は行くんだろうね。…でも流石に言えないよ」

 

 

 

 

 

「あの人が洞窟の奥深くで横たわり、倒れる姿が見えたとはね」



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番外編:『コガネテレビ特番!お嫁さん企画!-3』

※番外編です。本編とは関係無いです
※リアルが忙しかったので初投稿です(大嘘)
※失踪する気はありません。これだけははっきりと真実を伝えたかった(遅れてごめんね)
※今回は番外編の量が多いので本編→番外編→本編→番外編…の流れで投稿予定(あくまで予定です)


 

断る。

 

 

最初にコガネデパート屋上にてジツキさんから企画の話を聞いた時に、ろすろすが言い放った言葉だ。

 

 

他の皆の反応は意外と乗り気なつー、どうでも良いと主張するらーらだった。結果としてつーに押されて、ろすろすも参加することになったのだが…

 

 

 

「に、似合わんか…?」

 

 

「いや、似合ってるよ」

 

 

「そっ、そうか…」

 

 

ろすろすが頭の角を動かしながら頭を伏せる。そんなろすろすの格好はいつもの茶の服にエプロンを付けただけだ。だからあまり似合ってるかどうかと言うのも…

うーん、あまり変わってない気が…

 

 

「…嘘でも嬉しいものだな、主よ。この様な衣装、私には似合うまい」

 

 

「い、いや!嘘じゃないよ!…可愛いって!」

 

 

「っ…何を言うか!私が可愛いなどと…!」

 

 

ろすろすがそっぽを向いてしまう。でもろすろすの角はよく動いていた。………えーとつーに教えて貰った話によると確かこんな時は…

 

 

 

 

「嬉しい…の?」

 

 

 

 

「…な、な…そ、そんな訳あるかっ!…私はこんな萌えもんだから似合わんと思っただけだっ!」

 

 

「いや、似合ってるよ。…何か母さんみたいだ」

 

 

そう、このろすろすのエプロン姿からは僕の家の母さんを連想させるものがあった。…見た目は母さんとは違うがエプロン姿だからだろうか?

 

 

そういえば母さん…と父さんは元気だろうか。勝手に家を飛び出してしまったことを思い出し、後ろめたい気持ちに駆られる。そんなことを考えているとろすろすの顔が真っ赤になっていた。…角も忙しなく動いている。

 

 

「わ、私が主の母上…?それは無いだろっ、馬鹿…!」

 

 

いや、今のは例えで…と僕は弁明しようとすると予想もしてない声が替わりに答えた。

 

 

 

 

 

 

「無いね。どちらかと言うと口うるさい姉さんだ」

 

 

 

 

 

「らーら!?いたの!?」

「うん。それがぴったり」

「…おい、何故主の背中にいるのだ?らーらよ」

「好きだから」

「…今は私の番だろ?」

「でもスタッフ止めなかったし、主人も何も言わなかった」

「…主?どういうことだ?私との撮影はつまらんと思ったか?先程の発言は嘘なのか?なぁ?」

「…え?ご、ごめん!気付かなかった!…って怖いよ、ろすろす!」

「ほら、やっぱり口うるさい姉さんだ」

『ジツキさん、スタジオが荒れてますが』

『大丈夫です!!萌えもん協会にはそういうのを支持する層もいます!!』

『…修羅場を支持する層はいないと思います』

 

 

 

 

 

 

他人事の様に二人で見ていた。

 

 

「…やー、あーはなりたくないものですなー」

 

 

「そうねー」

 

 

ドラ君が手持ちの萌えもんと揉めてるのを見たヤドの呟きに緩く返す。

 

 

「…で、ヤド。貴女は大丈夫なの?貴女も結構不安よ、私は」

 

 

ライとヤド。

 

 

私がこの企画において不安だったのはこの二人だ。でもライは意外なことに予め予習してたみたいだし、ヤドもきっと…

 

 

「ハハ、きっと大丈夫じゃないですぞ」

 

 

「………分かったわ。頑張りましょ」

 

 

…駄目だ。私はけらけら笑っているヤドに期待するのを止める。ま、この子は予習とかしないわよねぇ…。あー、不安だわ…

 

 

 

 

 

 

 

しかしその予想は覆される。

 

 

何とヤドはライと同じ…いや、それ以上のお嫁さんっぷりを発揮し、瞬く間に撮影を終わらせることになった。その様子にあの周りのスタッフや実況の二人組も文句無しみたいだ。

 

 

「…と終わりですな。いやー、緊張しましたなー」

 

 

「あ、うん…」

 

 

撮影が終わったからかヤドは緊張している様子も無く、私に語りかけてきた。正直いつもあの嫁さん状態でいて欲しいような物足りなさがある…。それだけ完璧だったのだ、ヤドの演技は。

 

 

「…上手かったわよ、ヤド。やっぱり練習してたの?」

 

 

「いーや、全く。………ヤドはねー」

 

 

 

 

 

 

 

「昔にヤドにしてくれたことをヤド自身がやろうとしただけですぞ」

 

 

「…いい環境だったのね」

 

 

「…はい!」

 

 

…道理で手慣れてる訳だ。ヤドはその環境、その様子を間近で見てきたのだから…。………あれ?今までヤドにそうしてくれたのって誰?

 

 

「…ねぇ、昔のヤドにそうしてくれた人って誰?」

 

 

 

 

「ハハハ、ヤドランっておばさんですぞー」

 

 

 

 

「…あああああ!!!頭が痛いっっっ!!!あああああ…」

「ヤ、ヤド!?急に頭抱えてどうしたの!?」

「あああああ!!!すみませんでしたぞー!!!冗談、冗談です!!!」

「…え?え!?」

『おおーっと!!ヤドさんはどうしたのでしょうか!?』

『………これは恐らく遠隔からのサイコパワー…ですね。それもかなり高位のものかと』

「ああああああああああ!!!………ヤドランサマハワカワカシイデスゾ」

「…ヤド!何か目が虚ろよ!?」

「ヤドランサマハワカワカシイデスゾ。ダカラタスケテ」

「ちょっとこれを治せる人呼んで!!…早く!」

 

 

 

 

 

 

「ではいってらっしゃいませ、お嬢」

 

 

「…ん、ありがとう」

 

 

 

 

 

「カッート!!OKです!」

 

 

…スタッフの一人がそう宣言した。周りのスタッフや人々も安堵している。それはこのドライと私の撮影がつつがなく終わったからだろう。さっきから修羅場やら休憩所送りやら色々あったからね…

 

 

さて、セーレさんのヤドンの様子を見に行きましょうか。明らかに普通じゃなかったし…大丈夫かしら?

 

 

そして周りに挨拶を欠かさずにスタジオを出ようとした時…

 

 

『何か足りないなぁ。良かったけどもー………んー』

 

 

『…ジツキさん?』

 

 

普段のうるさい声の持ち主である実況の一人、ジツキさんが静かに呟いた。…その普段とは違う様子に私含めて周りも彼女に注目する。でもドライの演技にケチを付けられる場所は無かった…様に見える。それなら他の子の方が問題点が多かった。

 

 

『………あ!!ひ…ホロさんは大丈夫です!!お疲れ様でした!!』

 

 

「…そうですか。お疲れ様です」

 

 

…ドライに指示しかけたサイコカッターのサインを解く。良かったわ、彼女が少しは頭が回るみたいで。

 

 

 

 

『…ただ、ドライさん!!少しいいですか?あまりお時間取りませんから!!』

 

 

「…お嬢、どうします?」

 

 

「………行ってきなさい。私は先にセーレさん達の所に行ってるわ」

 

 

…まぁ大丈夫かしら。変なことされそうになったら逃げて、そうドライ伝えて、私はスタジオを後にした。

 

 

 

 

 

 

「…で、何で俺なんだよ、うるさい嬢さん」

 

 

俺はまだ撮影の時間でも無いのに、急遽呼ばれたことの理由をその原因である彼女に聞く。

 

 

『ピンと来ました!!以上!!』

 

 

「…この一点張りだ。訳分からん」

 

 

ドライが呆れた様子で俺を見てくる。…俺も訳分からんよ。…どうすれば彼女は満足するんだ?

 

 

「どうするよ、ドライ。…やるか?」

 

 

「…乗り気なのか、貴様は」

 

 

俺の言葉にドライが驚いた様子だ。相変わらずじっとこちらを見ている。

 

 

「ま、お前相手なら信頼出来るかなー…とは」

 

 

 

 

「………さっさと終わらせるぞ、ケイブ。お嬢に追い付かねばならないからな」

 

 

『…!!やっぱりピンと来てます!!この二人!!…さぁどうぞっ!!』

 

 

見せものじゃねーんだけとなぁ…いや、撮影だから見せものか。…まぁ彼女が満足してるんならいいか、ドライの言う通り、とっとと終わらせるか。ドライは何も言わずに撮影場まで向かっている。そこまで急ぎで撮影を終わらせたいのか…、俺も同じ意見だ。

 

 

「よし、分かった。…頼むぜ、ドライ」

 

 

 

 

 

 

「………フ、分かったよ。旦那様」

 

 

 

 

『…これって必要でしたか?』

『必要です!!…ほら、あの子も生き生きしてますよ!!』

『…でもこれをどうやって放送するんですか?』

『………浮気現場っ!!』

『は?』

『浮気現場ですっ!!』

『…テレビで流す内容ですか?それ』

『大丈夫です!!萌えもん協会にはそういうのを支持する層もいます!!しかしこの派閥は非常にデリケートッ!!浮気する側かされる側かで日夜闘争が繰り広げられてるとか!!』

『どうでもいいです。でも生き生きしてるのは分かる…気がします』

「…旦那様。頼りにしてるよ」

「ありがとな、俺もだ」

 

 




とりあえず今回は以上ー。投稿遅れてごめんなさいー。…上でも話したけど失踪する気は無いです。ストーリーも大筋は完成しているので、皆さんが見てくれて、応援してくれるなら大丈夫だと思います。


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そして集いし…-1

ここはチョウジタウン。ようこそ忍者の里へ。


 

全部、食われた。

 

 

空になった怒り饅頭の箱を部屋に置いてある何も入っていないごみ箱に突っ込む。

 

 

…どうやら彼のがめつさは健在みたいだ。用意した茶菓子を一人で食べるだけでは飽き足らず、一つお持ち帰りしたいなどと言い出した時は耳を疑ったものだ。

 

 

「…足りないとでも?」

 

 

六つ入りでは少なかったか?………いや、何個入りだろうと、彼は自身が満足するまで口にし、手に入れるのだろう。

 

 

 

 

彼からは何も渡さない癖に。

 

 

 

 

今回もきっとそうだ。私の忠告を無視し、彼は自分が満足する様に動くだろう。…分かりきっていた。しかし、私の立場の都合上、釘を刺しておかねばならなかった。だとしても…もう少し待ってくれたって良いじゃないか。

 

 

それすらも許さない地震のタイミングに苛立ちを覚える。もう少しだけいてくれたら…

 

 

 

 

 

 

 

「はい、ここで大丈夫。ありがとう」

 

 

部屋の窓から微かに聞こえた一声により、外から発されていた翼が羽ばたく音が止む。その聞き覚えのある一声が聞こえた時、私は部屋を重い足取りで後にし、そのまま研究所を出る。

 

 

もう少しだけいてくれたら…

 

 

 

 

彼女…彼女達の相手をしなくて済んだのに。

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました。オムスター、只今到着しました」

 

 

「………お疲れ様。大変だっただろう」

 

 

…研究所の外で彼女は待っていた。

 

 

この時間に着いたということは、かなりの長い距離を、恐るべきスピードで駆けたのだろう。そんな様子をおくびにも出さずに、身にしているクリーム色のコートの埃を払う彼女を労る。その動作の際に水色の作業服が垣間見える。

 

 

「大丈夫ですよ。皆さん協力的でしたから。…あの子を除いて」

 

 

…彼女はニコニコしながら答えているが、僅かにゆらゆらと揺れてる水色の長髪が彼女の苛立ちを物語っている。…揺れが僅かにしか見えないのは頭を覆っている被り物のせいだろうか。

 

 

 

 

 

「………で、主様は?」

 

 

 

 

………早速私が一番避けたかった質問が来た。どうしようか?………正直に答えるよう…ここにいない責任は彼に取らせるべきだ。

 

 

 

 

 

「いないよ。あんた達を呼び出した件とは別の問題でここをさっき出て行った。…多分ここから西のエンジュシティにいる」

 

 

本来彼女達…オムスター達を呼び出した目的はあのホロン地方の姫さんとそれに関わったトレーナーの護衛だったのだが…。彼はそのことを覚えているのだろうか?

 

 

「………そうですか。どの様な御用件で?」

 

 

彼女は笑みを絶やさない。

 

 

「私の研究所が担当してる地下洞窟の件だ。…恐らく伝説級が関係している」

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あぁ、良かった」

 

 

彼女は笑みを絶やさない。

 

 

「…良かった?」

 

 

「主様が悪党狩りなんかより、楽しそうなことをしていて」

 

 

彼女は笑みを絶やさない。

 

 

 

 

 

 

「変わらず、いてくれて」

 

 

 

 

………やっぱりこの子は彼の萌えもんだ。私は改めて実感する。『楽しそう』などといったふざけた理由で動く危うさは彼と重なるものがある。

 

 

 

 

「では私達も彼に従い、伝説級狩りでもしましょうか。そっちの方が…」

 

 

 

 

 

 

 

「楽しそうですから」

 

 

彼女は笑みを絶やさない。

 

 

「…待ちな。今回は力でどうにかなる問題じゃ…」

 

 

「………あらら、分かりました。では主様の考えに従いましょうか」

 

 

彼女は私の言葉に表情を変えずに飄々と答える。その主様の考えがきっと自分の考えと同じだと分かっているからだ。

 

 

「折角なので、可愛い後輩達にも会いたいですし…」

 

 

そう言って彼女が懐に閉まっていたモンスターボールを空に投げる。その動作は淀み無く、洗練されたものだ。まるで一流のトレーナーの様な…いや、気のせいか。

 

 

空に投げられたボールから光が放たれ、そこから灰色の翼を生やした萌えもんが現れる。すると彼女は跳躍し、その萌えもんの足に掴まる。

 

 

 

 

「…ではプテラちゃん。西のエンジュシティまでお願いね」

 

 

「了解。…楽しみだな」

 

 

またもう一体の萌えもん…プテラも頭が痛くなる呟きを残して、西へと飛び立っていった。

 

 

 

 

…だから嫌だったんだ。彼女達の相手をするのは。

 

 

だって彼と考えが同じなら私の言うことなんて聞かないから。こうなってしまったら彼が少しは大人になってくれていることを願うばかりだ。…彼が何もしないと彼女達に言えば間違いなく従うだろうからね。

 

 

…だから彼には少しは落ち着いて欲しいものだ。

 

 

………それはそれで少し寂しい気がするけれど。



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番外編:『コガネテレビ特番!お嫁さん企画!-4』

※番外編です。本編とは関係無いです
※毎秒投稿したい(届かぬ想い)
※今回は番外編の量が多いので本編→番外編→本編→番外編…の流れで投稿予定(あくまで予定です)


 

 

「ま、らーらの意見も悪くないかなー…ってー」

 

 

「…?どういうことだい?つー」

 

 

僕とつーの番になった撮影の前につーがぼーっとしながら呟く。

 

 

「ろすろすがドラちゃんのパーティのお姉さんって奴だよー。…なららーらは我が儘な妹さんだねー」

 

 

先程のらーらの話していたろすろすが口うるさい姉さんという話か。あの後は争う二人を宥めるのに苦労したものだ…。因みにらーらはしっかりとボールに戻してある。二回目は流石にテレビ側も許してくれないだろう。

 

 

………というかさっきの撮影でOKなのがおかしいのだが。そんなことを考えていると一つの疑問が頭に浮かぶ。

 

 

「…ならつーは?」

 

 

 

 

 

「…ドラちゃんのご想像にお任せしますー。さー、行くよー」

 

 

………つーが僕の背中を押す。その先には撮影現場、そして撮影を待つスタッフの人達がいた。…急げということか。背を押されるがままに前へと進む。

 

 

「…ん、行こうか」

 

 

 

 

 

 

…完全につーのペースだった。

 

 

「ごはんにするー?お風呂にするー?それとも…つー?」

 

 

「え、えっと…」

 

 

僕にはよく分からないが、つーが様々なお嫁さんのシチュエーションを演じてくる。…それに対して僕はぎこちなく答えているだけだ。なのに、スタッフやあの実況の二人が口を出さないということはこれでOKなのだろう。

 

 

「…ほらー、ドラちゃんー?つーは如何ですかー?」

 

 

「えー………」

 

 

…それにしても今日のつーは押しが強い。そんな様子に僕は押されたままだ。…どう答えれば良いのだろうか?んー…

 

 

 

 

「…じゃあ、ご飯とつーだね。一緒に食べようか………あ」

 

 

僕が頭の中でそのまま考えていた台詞が出てしまい、場が…対面のつーが固まる。…もしかして何かやらかした…かな?

 

 

「………」

 

 

「あ、やっぱり今の無し…」

 

 

慌てて前言を撤回しようとするが、固まっていたつーが顔を上げ、僕に向かって微笑む。そして…

 

 

 

 

 

「…うん。一緒に…ね?」

 

 

 

 

 

「…え?」

「あー………何でも無いよー。ドラちゃんー」

「いや、でも今…」

「………しつこい男は嫌われるよー?」

「あ、ごめん…」

「………変な所で気が回るなぁ、本当に」

「…え?」

「何でも無いよー」

『…何でこの二人ケッコンカッコカリしてないんですか!?コノヤロー!!』

『知りません。私に聞かないで下さい』

 

 

 

 

 

 

一番楽だと思った子が一番厄介だった。

 

 

「マスター、どうすれば………」

 

 

「うーん………」

 

 

今回の相手…エレはお嫁さんらしいものを全く知らないらしい。特に予習もしてないらしいし…どうしたものか。…このままでは撮影が終わらない。

 

 

「…考え方、変えましょうか」

 

 

「…考え方?」

 

 

エレが首をかしげて聞き返してくる。そう、お嫁さんという考え方を変えよう。エレにはその考え方が合っていない…そう感じる。

 

 

「…将来のパートナー」

 

 

「…!」

 

 

「…それなら行けるわね?」

 

 

「…はい!お任せ下さい!マスターの相手は慣れてます!」

 

 

エレが自信満々に答えに、私は頷き返す。…いや、ちょっと待って。マスター…私の相手だって?

 

 

「…え、私?」

 

 

「…はい。私はマスター以外に将来のパートナーに成り得る方はきっといないでしょう。…マスターはどうですか?」

 

 

聞いてるこっちが恥ずかしくなる様なことを堂々と言うわね、この子は………。でも間違ってはいない。

 

 

 

 

 

「私もエレ…貴女しかいないわ。だからこれからもよろしくね」

 

 

 

 

「…よーし!撮影行きましょうか、エレ!」

『あ!!もう終わってます!!』

「…そ、そんなっ!?折角ピンと来たのに………というか私凄く恥ずかしいこと言ってませんでした!?」

「…あ、ようやく気づいた」

「い、今の所カットで!」

『ワカリマシター』

「…ふぅ、これで大丈夫ですね」

『いや、この人絶対カットする気無いですよ。ニヤニヤしてますし』

 

 

 

 

 

 

「ケイブさんはさー、何か当てあるの?」

 

 

「あ?…何の当てだよ?」

 

 

「嫁さんのだよ。…もういい年だろ?」

 

 

「…うるせーな」

 

 

…痛い所を突くな、コイツは。確かに全くそういうことには縁が無いけども…。俺を煽ってきたアノプスの頭を軽く叩く。…しかし叩かれてもアノプスは目を細めて笑っている。

 

 

「痛っ!…ま、当てが無くて良かったよ」

 

 

 

 

 

「…それならケイブさんや皆とずっと一緒に旅が出来るな」

 

 

 

 

皆ってのはリリーラとかアイツらのことだろう。そう言ってアノプスは普段の明るい様子からは想像し難い穏やかな笑みを浮かべてこちらを見てくる。

 

 

………ずっと…か。悪いがそれは…

 

 

「…なら少しは落ち着いてくれ。うるさくて疲れるんだ、お前は」

 

 

「あーっ!酷いぜケイブさん!俺は落ち着いてるのにー!」

 

 

「…ならもっと落ち着け」

 

 

俺の言葉にアノプスが頬を膨らませ、怒ってくる。………ここでお茶を濁す俺はきっと最低なトレーナー…いや、人間なのだろうか。でも…

 

 

 

 

………あの穏やかな笑みだけは崩したくなかったんだ。

 

 

そして…

 

 

 

『アノプスさん!!』

「おう!何だ、ねーちゃん!」

『もっと嫁さんらしく!!撮影が長引いてます!!』

「…無理!分からねぇ!」

『なら仕方無い!!朝まで行きましょうか!!』

「…面倒臭いな、この二人…撮影終わらないぞコレ」

『…さっきので良くないですか?』

「………出来れば止めてくれ。何というか…あんまり他人には見せたくないな」

 

 

 

 

 

 

 

…俺には分かる。明らかに不機嫌だ。

 

 

「………」

 

 

「…待たせたな」

 

 

「………」

 

 

結局アノプスの撮影に時間が掛り、リリーラの相手をするのがかなり遅くなってしまった。…喋らないのはいつものこととして、少しむすっとした表情だ。

 

 

「…そりゃこんだけ待たされたらな。今度はさっさと終わらせるか」

 

 

「………」

 

 

ぎゅっ…!

 

 

「………ん?」

 

 

「………」

 

 

何故かリリーラが腕に抱きついて来た。しかも抱きつく力が強く、離れる気は無いみたいだ。………え?どうすんだ、コレ?

 

 

「い、行くぞ…?」

 

 

「………」

 

 

………ちょっと俺からも力を込めるが、離れる気配無し。…よく見たらリリーラの奴、『根を張る』の技を使ってやがる…!…使い方が違うだろ。

 

 

「あのリリーラ…さん?」

 

 

「………分かってる」

 

 

お、口を開けてくれた。ならばとリリーラに離すように俺は促そうとするが…

 

 

 

 

 

「………もう少し」

 

 

 

 

「…分かったよ。どれくらいだ?」

「………」

「更に根を張るのは止めてくれないか!?」

「………」

『沈黙!!それが正しい答えなんだってことですね!!』

『…絶対違いますよね』

「…ったく、しゃーねぇな。満足したら離してくれよ?」

「………ん」

『…いや、正解なのかもしれない?』

 

 

 

 

 

 

最後というのは気が重い様な…楽な様な…何とも言えないものだ。

 

 

「ねぇ、ツヴァイ。本当にやるの?」

 

 

「うん!やりたい!」

 

 

「そ、そう…」

 

 

目の前のやる気満々なツヴァイを見て、私は心中で溜め息を吐く。何でこんなことに興味を持ってしまっているのかしら…

 

 

正直、こんなことにツヴァイを参加させたくないというのが本音だ。テレビって何か汚れてるイメージあるし…。ほら、格好の獲物を見つけたみたいな目をしているジツキさんがそのイメージをより濃くする。

 

 

「…何でやる気なの?」

 

 

「だってお嫁さんって言ったらアレでしょ!あの…その…!」

 

 

アレ…?そのアレについての説明もせずに、ツヴァイが辺りを見渡す。そして用意されていた一つの衣装にツヴァイの視線が止まる。

 

 

 

 

「あ、あの白いヒラヒラ!…ホロねーちゃんが前に着てたのと似てるから!また昔みたいに着れる…かなって?」

 

 

ツヴァイの視線の先にある衣装は…ウェディングドレス。………まぁ本物かどうかは分からないけれど、確かにこの衣装は昔のホロン地方にいた頃の白のワンピースを連想させるものであった。

 

 

「…ツヴァイ」

 

 

「ん?」

 

 

ツヴァイが首をかしげる。

 

 

「…今日はね、あの衣装は私じゃなくてツヴァイが着るのよ」

 

 

「え!ホロねーちゃん着ないの?」

 

 

………今回の企画はツヴァイがお嫁さん役だから私があんな衣装を着る訳が無いのに。この子、それを分かって無かったわね。

 

 

私がウェディングドレスを着ないことからか、少し不機嫌になったツヴァイと目線を合わせる為、私は屈む。

 

 

「…でもね、ツヴァイ」

 

 

 

 

 

「また着れる…戻れるわよ、きっと」

 

 

 

 

『え!?良いですよ!!ま…ホロさんが着ても!!』

「…!良いってさ!ホロねーちゃん!」

「いや…お嫁さん二人になりますよ。それ」

「ならツヴァイがお嫁さんの逆やる!」

『それでも私は一向に構わんっ!!…です!!』

「えぇ…企画コンセプトめちゃくちゃね…」

『…この人に任せるといつもそうなるんです』





…もう一つパートあります。メインメンバー終わったけど後少しだけ。

※ヒント
『テレビ放送』

…ヒントありでも見当付かないと思います。まぁお楽しみ(?)にー


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そして集いし…-2

ここはヒワダタウン。萌えもんと仲良しの町。


 

「何と言うか…凄いことになってるね」

 

 

繋がりの洞窟から戻った主人は、ヒワダの萌えもんセンターの一室にて、アタイ達にそう言いながら空笑い気味に笑いかける。

 

 

「………ドラちゃんも巻き込まれたからねー」

 

 

「わ、悪かったよ………」

 

 

その笑いかけを受けたつーが主人に毒づくと、主人は罰の悪そうな顔をする。………因みにヒワダで帰る道中に彼女を呼ぶ時は『つー様と呼べー』と言っていたのに、アタイが本当に呼んだら『………や、やっぱりらーらが呼びやすい感じで』と言われた。

 

 

なのでアタイからの皆の呼び方はつーとろすろす、ヤドだ。…ヤドは気にしない様子だったが、少しろすろすが嫌な顔をしていた気がするが、嫌なら言ってくるだろう。そうしたら直せば良い。

 

 

「…さ、さて!これからだけど…」

 

 

主人がつーからの視線に耐えられなくなったのか、新しく話題を持ちかける。一方で話を逸らされたつーは少し納得してなさそうだが、これからのことを話すのは合理的と分かっている為か…主人の話を受け入れる。

 

 

 

 

「まずはこの地震についてなんだけど…」

 

 

…主人が拙い動作で部屋に置いてあるパソコンを操作している。………少しするとその動作が止まり、画面を指差しながらアタイを含めた皆に呼びかける。

 

 

「…少し前にケイブさんから連絡システムを使っての連絡があった。………ケイブさんからの話によるとこの地震は伝説の萌えもん?…が関わっている…らしい?」

 

 

「…ふむ、それはそれはー…」

 

 

「主、この文章を見る限りでは…どうする気だ?」

 

 

画面のメールの文章を見て、ヤドが頷き、ろすろすが主人に問いかける。………アタイは文章を見ていない。アタイが見た所で、何も理解出来なさそうだから。大切なのは主人や皆がどう判断するかだ。………その判断に従う気だ。

 

 

一方、つーは文章を一瞥すると何か言おうとしたが、ろすろすの言葉を聞き、開けかけた口を閉じた。

 

 

 

 

「…手伝いたいと思っている。僕に何か出来ることがあるならね」

 

 

「…了解ー」

 

 

「…そんな気はした。仕方あるまい」

 

 

「…恐らくマスターも来るでしょうな。…ならば乗りますかなー」

 

 

「………?主人、どうするのだ?」

 

 

…皆が主人の言葉に納得しているが、アタイにはどういうことか分からない。その為、主人に問いかける。

 

 

 

 

「えっとね…らーら。これから僕達はエンジュシティに向かう。そこでこのメールによると、この地震の原因を突き止める手伝いをする………らしい。ケイブさんって人からのお願いなんだ」

 

 

「そうか、分かった」

 

 

「…本当に?」

 

 

「大丈夫だ。…主人に付いていく、ならば問題無い」

 

 

…それだけでいい。複雑な目的や理由はアタイには要らない。そこの所は主人やつー、ろすろす、ヤドに任せよう。アタイにとって重要なのは………

 

 

 

 

そこに温もりがあるか、どうかだ。

 

 

 

 

 

 

「じゃあここを出る前に、短い間だったけどツクシ君に挨拶…でも忙しい…かな?」

 

 

そしてここ…ヒワダタウンを出る前に何をするべきか…という話になっていた。アタイはとりあえず皆の話を耳に挟んでおく。

 

 

「…一応行こうかー。つーも行くよー。………らーらも来なー」

 

 

「分かった」

 

 

…何故アタイが呼ばれたか分からないが、とりあえず付いていこう。

 

 

「ヤドはヤドンの井戸の者達に声を掛けてきますぞー。…ろすろす殿も来ますかな?」

 

 

「お供しよう。…あの技の礼をヤドラン殿にはしたいものだ」

 

 

………アタイがつーに呼ばれた意味が少し分かった。きっと気を使ってくれたのだろう。

 

 

「…あ、ドラ殿。ヤドランはどうしますかな?」

 

 

「…どうって?」

 

 

「………ドラ殿自らが泣き付いてお願いすればこの一件に力を貸しそうですがなー」

 

 

 

 

「………それは嬉しいけど、彼女にもやることがあると思うんだ。…止めとこう。もし付いてくるって言ってくれたらお願いしようかな…くらいで」

 

 

………そう言うとヤドが軽く息を吐く。

 

 

「………分かりましたぞ。ならば期待せずにお待ち下さいなー」

 

 

「…き、期待せずに?…分かったよ」

 

 

…そんなヤドの返答に複雑な表情で、主人は応じる。その後、主人が周りの皆を見渡す。どうやら最後の纏めに入る様だ。アタイは黙って主人の言葉を待つ。他の皆もそうしているみたいだ。

 

 

 

 

「…よし、皆。周りの人に挨拶をして、準備が整ったらエンジュシティに行こう!…なるべく急ぎで!」



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