転生とかもっとこう・・・なんか違くね? (九十九夜)
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転生とか・・・なんか違くね?

またも始めてしまった連載

ごめん!!書きたかったんだ!!


気付けば俺はよくわからない女と対面するかのように殺風景な空間で、椅子に座っていた。

 

 

「ようこそ。死後の世界へ。私は貴方を担当する女神です。えーと・・・あら?・・・っま、まあいいわ。なまえなんてささいなものだものね。ええと死因は・・・は?これもなし?どゆこと!?」

 

 

てゆーか白紙じゃないの!どうなってんのよ!!と頭を抱える青髪の女神(笑)に対してこいつに担当してもらって本当に大丈夫なのかと一抹どころかとんでもない不安が胸を埋め尽くす。

 

そんな我の心配をよそにコホンとわざとらしく咳払いをした女神(笑)。

 

「ま、まあいいわ。理由や経緯はどうあれ貴方は既に死にました。もう生き返ることはできません。

本来は此処で転生するか天国に行くかのどちらかなんだけど・・・「転生で」うんうんどっちも嫌・・・は?」

 

得意げに頷いていた女神がさび付いた蛇口のようにこちらに顔を戻す。

 

「ちょっちょっと待ってまだ第三の選択肢が「転生で」まって待って言わせて!!」

 

「あ、あなたには第三の選択肢が「て、ん、せ、い、で。」ううっ。」

 

何故我が転生押しなのか?そんなの決まっている。こんな記憶やらしがらみやらとおさらばするためだ。

いまいち記憶がおぼろげだが今までの我の人生には碌なことがなかった。

 

兄弟子の手伝いをしに日本に渡ったがその兄弟子自身が既に本業が出来ない状態に(正確には既にお陀仏状態)なっていて兄弟子が参加予定だった儀式に急遽我が参加せざる得なくなっていたり、参加したらしたでゲームマスターを名乗る男から渡されたカードは全然反応しない欠陥品だったし、おかげで自前の魔術しか手段もなく勝ち抜かなきゃだった。

いざ勝ち上がってみたらなんか黒いものに包まれてそれっきりだったし、本当に踏んだり蹴ったりである。

しかも、なにやら余分な記憶も多々ある。

見たこともない古代の都市やら、でかい牛と戦った記憶とか。なんだこれ?

家のことでもなんだかんだで殺し合いになって家から勘当されてしまったし、本当にめんどくさいことだらけだ。

 

天国に行ってもこの記憶を持ち越すくらいなら転生して記憶も消えてゼロからのスタートの方がまだ望みがある。

 

「早くしてくれ。」

 

我の声に反応したなんか天使っぽい女が魔法陣から現れる。

 

「そうですよ。アクア様。強制はしないというのが規則ではないですか。」

 

「だ、だって、だってえっ。今日のノルマがまだ終わってないのよお!!」

 

これじゃごろごろできないじゃない!!と天使に向かって言う女神。

・・・こんな奴が女神でいいのだろうか。

 

「そ、それに!!こいつなんだかんだ言っても戦力になりそうじゃないの!!なんかすごい威圧感あるし!金髪赤眼とか厨二な感じがするし!なんかすごい威圧感あるし!ね?」

 

いや我の金髪は単純にイギリス人だからなんだが。ん?赤い目・・・ていうか我?あれ?え?

 

「おい駄女神。鏡を貸せ。」

 

「か、鏡?そんなのなんに・・・は、そうよこれを願い事として聞き入れてしまえば「アクア様。」

 

どうぞと天使らしき女から手渡された鏡で自身の顔を覗き込むと・・・見たこともない美青年が映っていた。

嘘だろおい。誰かの身体かっぱらってきちまったよ。どうするよコレ。

今度は我が頭を抱えそうになった。

 

その時だった。

 

「隙ありいいい!!」

 

我の足元を赤と黒の二重になった魔法陣が覆う。

 

「ふふん、相変わらず警備が手薄なんだから。残念でした。この人の子は私たちが貰うわ。」

 

「は?へ?ちょっといきなり出てきてなに「さあ、そこの名も知らぬ貴方!貴方に使命を与えます。貴方はこれより私たち神の威厳を、そしてなによりあの弱くて群れることしか能のない人間どもから再び地上を我らのものにするための楔となってもらいましょう。さあ、行くのです!!」

 

「嫌だ。」

 

思ったより重い程度で足は動く。しかし、身体が動くよりも先に何やら背後が光りだした。

その調子で足を魔法陣の外に出そうとすると今まで唖然と見ていた何やら割って入ってきた着飾った女が焦りだした。

 

「そ、そんな!?転移呪縛陣がきいてな「ああ、そういう事か。」

 

なるほどなとわからないはずだった自身の身の上を唐突に理解する。

 

要は俺はあの黒い何かの中で潰して混ぜて煮込まれて我になったのか。と。

 

なら。

 

「ふん、ならば、貴様にかける言葉はこれだろうよ・・・図に乗るなよ、雑種。」

 

背後から数多の武器が射出される。

 

「ひっ」

 

怯えた声とともに女が魔法陣を作動したのとそんな女に射出された武器が突き刺さったのは同時であった。

 

落ちてゆく意識の中で思う。

 

―――さて、めんどくさいことになった。天の楔とは。

 

不幸な男はどうしたものかとボロボロと自我を崩壊させながら、崩れ行く意識の中で最期まで思考していた。

 



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出自とか・・・なんか違くね?

おぎゃあと泣いて出た先には金髪の美女がいた。あ、あと年季の入った産婆らしき人も。

 

ゴシャアアアアアっ

 

そしてそこに駆け込んでくる父親らしき人物。

正確には駆け込んでくるというよりそこに現れると言った方がいい。なんせ見た感じ瞬間移動だったから。

ただ今回は本人曰くマーキング?の位置をミスったらしくマーキングとやらが書かれていた壁をものの見事に破壊、風穴を開けていた。

当の本人は「床と壁の強度が足りなかったか。くっ。」とか言って自分が落ちた穴から這い上がってきた。

いやそもそも普通に走って来いよ。なんで床板と壁に穴開けるような登場の仕方すんだよ。

当然産婆は驚く、てか、怒り狂った。

父親らしき人物の襟首を掴んで持ち上げ、ものすごい勢いで揺さぶる。

 

「チョットオオオっ何してんですかあんたあああ!ここは男禁制だって言ったでしょう!!てかこの壁どうしてくれんのよおおおっ!?くれぐれも内密にってあんたが言ったんでしょうがああああっ」

 

そのとき「うっ」と自分の母らしき人が呻く。

その声を聞いた産婆が手のひらを反すかのように父親をポイっとまるでゴミクズか何かのようにその場に投げ捨てると母親に我を抱かせた。

 

「おお、なんと利発そうなおのこか・・・これで・・・。」

 

言って母親の力が抜けていくのが分かった。

え、ちょっと待て、待って、ねえお母さん。

 

産婆が悲鳴じみた声で医療班を呼ぶ声が聞こえた。

 

倒れていた父親も慌てた様子で駆け寄ってくる。

 

「理人?理人っ。おい、返事を―――」

 

バタバタと待機していたらしき医療班?の人々が母親に駆け寄っていく。

 

結局我がその人と再会したのはその人の納棺の時だった。

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

我は泣くことも騒ぐこともせず棺と参列者を見る。あ、初代火影だ。

初代の嫁は赤毛の美人だった。うずまき一族とかいうところの人らしい。夫婦は共に泣いていた。

ポタリと何処からか水滴が頭に当たった気がする。思わず身じろいだ。

いや、どう足掻いても手は届かないのだけど。

そして現在我を抱えている腕の持ち主。上を向くと目に入ったのは二代目火影だった。

いや、今は初代どころか木の葉隠れとかいう里すらもない状態らしいのでそのまま本名で千手扉間というおっさんである。ちなみに今生での父親だ。

じっと見つめていると何を勘違いしたのか驚いたような顔のあとすぐに微笑んで腕の力が強くなった。

く、ぐるじいっ。

・・・もしかしてこの者我が我であることを既に感づいているのではなかろうか。

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

息子が生まれた。妻が死んだ。

 

そんな事実を胸中で反芻する。

 

産まれたばかりの息子を抱き締めながら、妻だった女の納まった棺に百合の花を敷き詰めつつ扉間はぼんやりと思考する。

 

―――第一印象は哀れな女だった。

 

うちは程ではないものの長年の敵対してきたある一族からの戦利品。

それが彼女、理人だった。

その場限りの和平のために出された政略結婚の駒。

向こうはかなりの数の子がいたがために、惜しくはないとばかりにこちらによこされた。有体に言って、生贄。

しかも長兄である柱間は既に妻帯しており、次男であった自分のところにという微妙なポジション。

その時の彼女の心情は迎える側だった扉間には計り知れないが、恐らく穏やかではなかったことだろう。

 

―――強情な女だった。

 

一度これと決めたら梃子でも動かないような女で、意見が衝突したことも一度や二度ではない。

結局自分が折れるところまでがテンプレートのように決まっており、ああ、こいつも兄者と同じタイプなのだったなと幾度溜息を吐いたことか。

 

―――我が儘な女だった。

 

まわりが嫁に入ったのだからとあれこれつける注文に臆することもなく、平然と男に交じって意見をいい、いっそ苛烈とまで言われるかのごときその振る舞いと制裁は良くも悪くも一族を盛り上げた。まるでお前の色の染まるんじゃない、お前が私の色に染まるんだっと言わんばかりだった。

 

だから、

 

だからてっきり、戦場か、もしくは老衰とか、そういった最期を迎えるものとばかり思っていた。

そのためなのか、彼女の亡骸を目にしても悲しみとか遣る瀬無さとか以前に実感がわいてこなかったのだ。

 

平然としている自分を最低だ、と扉間は思う。

 

しかし、そんな言葉も何処か浮いていて。空々しかった。

 

自分が酷く醜い生き物だと考え出した時、ポロリと何か、暖かいものが頬を伝った気がする。

と同時に腕の中の息子が身じろいだ。

 

こちらを向くその顔には雫が伝っている。

 

思わず驚いた、俺は今、泣いているのだろうか。

 

息子の手が、俺をいたわるかのように動く。

恐らく偶然だろうが。そこに確かにどこまでも身勝手だったが、同時にどこまでも愛情深かった理人を見た。

 

 

息子は俺に、本当は妻を愛していたのだという事を教えてくれた。

 

なるべく不安がらせないように笑顔を作って息子・・・鏡間を抱えなおした。

 

こいつだけは、何があっても守ろう。



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出会いとか・・・なんか違くね?

「兄者あああ何処だあああ!!」

 

今日も今日とて父上の怒鳴り声が集落に響いている。

ああ、今日も空が青いなあ。

 

父上の分と、恐らく必要になるであろう伯父上の分そして己の昼食の準備をしつつ現実逃避をする。

場所のおおよその見当もついている。

どうせまた伯父上が執務を抜け出して賭場にでも行ったのだろう。で、それを現在五徹目の父上が鬼の形相で探し回っている、と。

 

我ながらよく路頭に迷わないなあこの一族。とか思う。

わっぱの中に手際よくおかずを詰めて、完成した弁当を風呂敷に包んだ。

 

 

 

・・・この調子でいくと今日の修行を見てもらう約束はぱあだな。

書き置き挟んで、届けた後は川に遊びに行こう。

 

え?同年代の子と遊んだらどうかって?

 

・・・残念ながら、僕。友達いないんだよね。

いやほら何ていうの・・・母親が外から来た人でいろいろあったらしくて親としては微妙なところなんだとか。

派閥がなんとかって。で、そんなでも近寄ってきてくれる子っていうのはいるんだけど、そういうのって大概逆。親に言われて、少しでも次の長に近い間柄の僕とお近づきになって来いっていう子がほとんどだからいまいち素直に仲良くなれない。本当に申し訳ないんだけれど。

 

 

そんなことを考えながら恐らく伯父上が通るであろう地点に特定のチャクラを感知したときに反応する起爆札とへばりつく網を使った簡易トラップを仕掛けて、そのわきにはお弁当を置いておく。これでよし。

 

「今回はどんな結果になるのかな。」

 

大切な修行の時間を潰しているんだから新しいトラップの実験台くらい多めに見てくれるよね。

報告を楽しみにしつつ集落を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パシャ パシャ パシャ ボチャ

 

川のせせらぎと、自分の放った石が水を切る音だけが響く。

ここは誰も来ない場所だ。だからいい。気に入っている。

 

時々死体が流れてきたりするけれどそこは仕方がないと容認している。

なんせこのご時世だ。きっと上流で合戦でもあったのだろうくらいである。

そしてこれも時々、というか死体が流れてくる頻度よりも極稀にだがその死体を追ってか生きた忍びもやってくる。

まあ、生きて何て返さないけれど。だってここは秘密の場所なわけだし、大変申し訳ないが僕もこんなところでおめおめと死ぬわけにいかない。僕が死んだらあの二人の困った大人の鬼ごっこをどうやって止めろというのか。

・・・というわけで大体は新術の実験台になってもらっている。

 

 

さあて、次の手ごろな石は・・・っと。

 

いい塩梅の石を見つけたと同時に何かが僕の感知に引っかかる。

 

えーと・・・小さくて忙しない足音・・・子供が一人。・・・と、そのあとを大人の足音が十人ってとこか。

つかず離れず、たぶんこれ機密を知られたからとかじゃなく、なんだろう・・・獲物をいたぶって遊んでいるかのような・・・。

 

鏡間はその足音を感知したほうに歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

 

 

 

「はあ・・・はあ・・・。」

 

なるべく呼吸音が聞こえないように両手で口を塞ぎながら木の洞の中に隠れる。

少女・・・ミギワはどうしてこうなったのだろう。こんなことになるのなら集落を離れなければよかったと今更ながら後悔した。

きっかけはちょっとした集落の子供たちの意地悪だった。

ミギワには父親がいない。戦死したとか病没したとかではない。元からいなかった、いわゆる私生児というものである。

そして何よりも血を繋ぐことが大切で、個人ではなく一族が重視されるこの戦国の世においてそれは余分なものだった。

母親がとんでもない美人だったというのもあってか誹謗中傷は納まるところを知らず、男にだらしない女。阿婆擦れなどといまだに集落の大人は陰口をたたいているし、子供もその影響を受けてかミギワのことを積極的にいじめるようになってきた。これがただの幼子ならきっと訳も分からずかなしいと思ったのかもしれない。漠然と憎いと思えたのかもしれない。

しかし、運が悪いというか、ミギワは転生者だった。なりたくてなったわけではないが。

そのため精神的にはそこらの子供より大人であったし、故に何を言われているのかも全て理解できていた。

 

その分苦しくて、辛くて、でもそんな奴らの相手をして一緒のところまで落ちてしまうのも嫌だった。

 

ほんの少し、一度だけ母親に陰口の話をして本当かと聞くと母親は少し悲しそうな顔をした後ミギワを抱き締めてごめんねとぽつりと言った。そんなことを言わせてしまったという事実が今度はミギワに圧し掛かってきて申し訳なさでいっぱいになった。自分はこの人より精神は長く生きているのに、自分の弱さでこの人を傷つけてしまった。と。

 

毎度の如く馬鹿にされる父親譲りの黒髪と、恐らくこれも父親らしき顔面を鏡で見て割ったことも数知れない。

 

ミギワは、父親が嫌いだった。

無責任に母をどうにかして、ミギワを産ませた挙句碌々守りもしない。きっとロクデナシのクソ野郎だ。

 

ミギワは、自分が嫌いだった。

いるだけで誹謗中傷の的になる、母にあんな顔をさせた。そして何より父に似たであろう自分が許せなかった。

 

いつものような意地悪の中で今日は一人で森に入って川で死体から鎧を剥ぎ取って来いと言われた。

そうしたら認めてやるとかなんとか。

普段ならそんな誘いには絶対に乗らないのであろうがこの時のミギワはいい加減疲れていた。

やけになっていたともいえる。

啖呵を切ったあと意気揚々と森に入っていった。

 

そして運悪く合戦帰りの忍の小隊と出くわしてしまって現在の状態に至る訳だが。

会話の端々から上玉だの売るだのという単語が聞こえるあたり十中八九捕まったら即売り飛ばされるか辱めを受けるかのどちらかであろう。絶対に嫌である。

 

(通り過ぎろ、通り過ぎろ通り過ぎろっ)

 

「みーつけぎゃっ!?」

 

洞を覗き込んだ男が瞬間に吹っ飛び恐怖心から出かかっていた涙が引っ込んだ。

 

それからしばらく何か殴打する鈍い音やら汚い悲鳴やらが響いていたがぴたりとそれもやんだ。

 

そして、再度。今度は小柄な人影が洞を覗き込んだ。

 

「大丈夫?」

 

いって、手を差し伸べてくる。

 

「あ、う・・・。」

 

それは金髪の、ミギワと同い年くらいの美しい男の子だった。

あまりの展開についていけなくなったミギワの口からは言葉にならない嗚咽しか漏れないが男の子はそれを恐怖心からだと思ったらしく、そのままミギワを軽々と抱き上げると適当な切り株に座らせて水とお弁当をくれた。

 

どうしていいのかわからず、とりあえず水筒の中の水を飲む。

大人からすれば見ず知らずの人物から与えられたものを口に含むなんてとか言いそうなところだったろうがそんなことを考えるような余裕は今のミギワには皆無だった。

 

水を飲んで一息ついたミギワに少年が落ち着いた?と優しく語り掛けてくる。

 

途端にボロボロとミギワの涙腺が決壊した。

 

男の子は慌てたようにどうしたの!?何処か痛いの!?と心配してくれるがミギワは泣きながら首を振り続けた。

 

―――母以外にも、自分を気にかけてくれる人がいるんだ。

 

その事実がミギワの心にすとんと落ちてきた。

 

結局そのあとそのまま少年に集落まで送ってもらい帰宅した。

鎧を見せても嘘扱いされて終わりだったがもはやそんなことは彼女にとってはどうでもよかった。

丁寧に洗ったわっぱと水筒を見て顔がにやける。

 

―――また、あえたらいいな。

 

そうしたら、きっと。

ふわふわと浮つきつつも着実に熱くなっていく胸をそのままに母の元に向かった。

 

「まず、強くならなきゃな」

 

取り敢えず自衛の手段として母に忍術の稽古をつけてもらう事から始めよう。

 



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実戦とか・・・なんか違くね?

「た、助けてくれっ」

 

「俺は無理矢理連れてこられただけだっ」

 

「頼むっ見逃してくれ!まだ幼い子供と病気の嫁が!」

 

聞こえてくる命乞い。

 

誰かの悲鳴。罵声。

 

今僕はそんなものばかりの戦場に来ていた。

初陣と言うやつだ。

迎えては討ち、迎えては討つ。

いつの間にか僕の回りには放射状に血と死体が散らばっていた。

 

「あ、あ、う。」

 

新しいのが来た。と思えばそれは立ち止まり、ガチガチと歯の根を鳴らしている。

 

「・・・大丈夫?」

 

魔が差して、声を掛けた。

振り返った先には僕より少し年上らしき少年が突っ立っていた。手にはクナイが握られているが両手に、且つ逆手ではない所を見るに彼も初陣なのだろう。僕が一歩彼に踏み出したと同時に目の前の彼の表情にほんの少し変化が見て取れる。

 

ああ、そういう事。

 

上手いことするものだと思いつつ遠い昔俺が読んだことのある小説をモデルに作った忍術『渦刀』を発動させる。

ものの見事に僕の後ろに接近していた敵の忍・・・この目の前の子の味方だったであろう男の首から上がおさらばする。近場にいたであろう他の忍の全身にスプリンクラーの如く吹き出す血がかかるがその処理は合戦場故にそのまま放置で失礼する。悲鳴とか上がっているがこの際無視だ。

一瞬にして希望が絶望に変わった目の前の彼は涙を浮かべるどころか余りの出来事に失禁して尻餅を着いてしまっている。・・・気持ちはわからなくもない、そりゃ助けに来た奴の首が飛ぶどころか弾けてなくなるなんてこと考えたくもない。

 

目の前の過呼吸気味の彼と、そんな彼の背後から向かってくるこれまた敵の増援に対して溜息を一つついた。

 

「うーん。」

 

出来れば彼ともう少し話らしい話をしたかったんだけど。

 

「本当は君たちに勝利の達成感とかを味合わせたいところなんですけど・・・すみません。」

 

次の瞬間。僕の発動した渦刀によってその場にいた僕以外の全員が首なし死体に早変わりした。

その後も次々と子供で弱そうだからか僕のところに向かってくる忍達。

でもごめんなさい。こういうの慣れてるんですよね、僕。

前世が魔術師で英霊の混ざりものなもので。

 

ピッと頬にほんの少し返り血が付いた。

・・・少しでも血が付いたら父上と伯父上、伯母上が心配するしなとか思いつつ適当に血を拭った。

そうして辺りを見回すと既に僕以外に近場の生存者はゼロである。

というかうまいこと分断されて僕だけになったあたりを鑑みるにこれ反母親派の策略なんじゃね?とか思わなくもない。まあいいや。

 

「・・・えーと。とりあえず合流が先かな。」

 

さっき千里眼で見た最前線に当たる場所に向かおうとその場から立ち去った。

 

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

 

 

パアンッ パアンッ パアンッ

 

 

不思議な音が戦場に響き渡った。

起爆札の爆発音でも、忍具で打ち叩く音でもない。

大凡この合戦場には似つかわしくない・・・例えるなら、そう。まるで縁日で売られている水風船が割れるような。

そんな音がだんだんとこちらに近づいてくる。

俺だけではない、周囲の他の忍達も一様にそちらを気にしている様だった。

と、近くにいた敵が件の音を立ててどしゃりと倒れる。

そこでやっとあの不思議な音の正体を知った。これは人の頭の弾け飛ぶ音だったのか、と。

敵が続々と同じ死に方をしている辺りを見るにおそらくは味方によるものなのだろうがこんな忍術を行使する味方を男・・・千手柱間は知らない。

自身も挿し木の術という自分でもえげつないと言えるような術は扱えるものの、流石に狙った一か所をどうこうとかは無理である。いったいどれほどの使い手でどのような忍術を使っているのであろう。

そうとめどなく思考していると近づいてくる足音が一つあった。

 

「あ、伯父上。こちら方はもう片付きましたので、応援にきました。」

 

ゆったりとした足取りで近づいてきたのは今回が初陣の可愛い甥っ子。千手鏡間だった。

分断されて行方が知れないと後方から連絡が入った時は肝を潰す思いだったがこうして元気そうな姿を見て安心する。

 

「鏡間!!」

 

思わず身を乗り出す勢いで前に出ると鏡間から制止される。

 

「ご心配をおかけしました。けど、話は後です。一掃しますね。」

 

瞬間一際大きい音が響き、前方の敵勢が一斉にその司令塔である頭を消されて倒れる。

詰まる所この技はこの甥っ子に寄るものらしかった。おそらく弟辺りが・・・いやあやつに限ってこの子に・・・いやいやと心中で葛藤しているとその敵陣の方に何かを確認しに行ったらしい鏡間が帰ってくる。

 

「お待たせしました。」

 

「のう、鏡間。さっきの術はお前が」

 

何と言ったらいいのか、どんな表情をすればいいのかわからず二の句を告げないでいるといつもの無邪気な笑顔で甥は嬉しそうに答えた。

 

「はい!まだ試作段階だったんですけど。まさかここまでうまくいくとは思いませんでした!」

 

お役に立てたのならいいんですけどと頬を掻く。

そんな甥の気丈に振る舞う姿に柱間は言いようのない悲しみに襲われ、鏡間を抱き締めた。

 

「・・・すまない。」

 

出てきた言葉はその一言だけだった。

 

こんなつい先日までいたずらをしていた可愛い子供が、こうやって平然を装ってまで人を殺している。

いつだったか、既に決別してしまった友と語った夢を、競った日々を思い出し、そしてそれすら許されなかった目の前の少年の振る舞いや言動を思い出して柱間は無性に苦しくなった。

 

いつかこんな子供が手を汚すことのない、優しい世界が・・・

 

 

「柱間様。勝鬨が上がりました。ご支度を。」

 

傍に寄ってきた千手の者に短い返事を返してもう一度鏡間の方を振り返った柱間は遅れないようにと声を掛けるとその場を去った。

 

 

 

 

 

 

「さて」

 

誰もいなくなった場で鏡間の声だけが嫌によく響いた。

ズズッと背後の空間から黄金の光があふれるとともに巻物が取り出される。

それを拡げるとそこから煙を立てて何かを口寄せする。

出てきたのは先程倒したはずの一族の、恐らく族長かそれに近いであろう男の生首であった。

しかし、何処までも不可解なのは切断面が何やら色のついた水に覆われていて、かつその生首が生きている(・・・・・)という事だろう。

猿轡をされている生首がヴーヴーと唸るのをそのままににこりと笑って鏡間は言う。

 

「誰に雇われたか、教えてくれますよね?おじさん?」

 

蛇のような赤眼が冷たく光った。

 




周囲と主人公の感情の温度差が酷い。

そして、そこからなる勘違いも酷い。


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臨時収入とか・・・なんか違くね?

今更ながら現在は子ギル君なので僕でデスマス調にしています。


「どちらさんも、よござんすね?」

 

姦しい通りとは裏腹にその場は静まり返っていた。

進行をする中盆の声とツボ振りのサイコロを振る音のみが響き渡る。

周りにいる客たちは次々に声を上げた。

 

「半!」

「半。」

「半!」

「半だ!」

「半!!」

「半ぞ!!」

 

「あ、じゃあ僕は丁で。」

 

 

「勝負!!・・・ピンゾロの、丁!!」

 

周りから「ぐわあああっまたかよっ」とか「有り金全部すっちまった」とか断末魔的な叫びとか聞こえてくる。

そして、この状況を冷たく見ている僕の横には、これまた周囲とは一線を画す落ち込み様のおっさんが一匹。

 

「何故ぞー!?」

 

この最早ふんどし一丁になっているおっさんは千手柱間。

そして僕は今は他人の振りをしたいところだけれど、残念ながらこのマダオの甥にあたる千手鏡間。

 

・・・僕らは今、鉄火場に来ています。

 

 

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

 

 

 

遡ること、今朝の噺。

執務用の机を挟んで父上が僕を呼びつけたことが始まりだった。

 

「修行の最中だったろうに悪いな。鏡間。」

 

先日の戦が終わったばかりだというのに事後処理だのなんだのと執務に戻った父の顔は心なし悪い。

てか、土気色になってきてるんだが大丈夫なのかコレ?

 

「いえ。父上こそお加減が優れないようですが。」

 

「儂のことはいい。・・・それよりも、お前に頼みがある。兄者を探してほしい。」

 

ああ、またかと空・・・と言ってもここは室内なので天井を仰ぐ形になる。

とうとう僕にこの番が巡ってきてしまった。そう、鬼ごっこの鬼役である。

伯父上の賭け狂いにも困ったものだ。

報奨が出るとすぐに近場の賭場に行ってしまう。さらに言えば弱い。滅茶苦茶弱い。

少し目を放すと見事にカモられて帰ってくる。否、帰ってこられるかも妖しい。

かと言って並大抵の感知タイプの忍ではすぐに撒かれてしまう。主に野生の勘で。

 

「すまんな・・・今は猫の手も借りたい状況で・・・ほかに頼めそうなやつもおらんのだ。」

 

酷い顔色に負けず劣らずの濃い隈を浮かせた父ははああっと組んだ腕に額を付けて俯いた。

動かない。・・・せめて夢の中でだけでも安眠できますように。

 

「う・・・ま、まだ・・・奴の・・・晴れ・・・見るま・・・で・・・。」

 

酷くうなされているようだ。

 

・・・掻い巻きを掛けておいた。

 

 

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

 

 

 

「鏡間ー次はあそこに行きたいぞー。」

 

まるで年頃の少女のようにキャラキャラと笑いながら、これまた鉄火場を指差すマダオ。

ちなみに奴の剥がれて質に入れられかけていた身包みは取り返したもののお金の類は持たせてはだめだろうと結論が出たため僕が持っている。要するに何が言いたいのかというと・・・あのマダオは今無一文である。

 

「駄目です。もうそのセリフ5回目ですよ。いい加減帰りましょう。」

 

「ええーそんなこと言わずにーお願いぞー」

 

あれで最後にするからーと僕の袖を引っ張りながら言うマダオ。

当の僕はと言えばこの混ざったののおかげかは知らないがとんでもなく当たりばかり引いている。

もう結構稼げたから個人的には帰りたいんだが。

さて、この往来で10満たない子供に泣きつくマダオをどうすべきか・・・。

 

そんなことを思案しているとある店の看板が目に入った。

 

「・・・いいですよ。伯父上。」

 

「な、何っ本当か!!」

 

途端に顔を明るくする伯父上。

そんな伯父上に僕も微笑みを返した。

 

 

 

「はい。そこで相談なんですけど・・・・・・リードと迷子紐とゼッケン。どれがいいですか?」

 

 

 

「・・・へ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

チャリン チャリン

 

「父上ー。ただいま戻りましたー。」

 

 

「おお、思ったよりはやか・・・何やっとるんだ兄者。」

 

僕らの姿を見た父上は即座に固まって、優しい顔は一変。

睨むだけで人が殺せそうな形相で伯父上を見る。

 

 

「?何って、連れ戻してきただけですよ?」

 

「あ、あのだな。扉間。これには深ーい訳が・・・。」

 

「言い訳無用だ。覚悟しろ兄者。」

 

「鏡間。ご苦労だった。もう部屋に戻っていいぞ。」といつもの優し気な声音で言った父の手にはクナイが握られていた。

 

「はーい。」

 

あ、そうだ。と追い打ちをかけてみることにした。

 

「伯父上。また行きましょうね。機会があったら僕。またあのお店に行きたいです。」

 

じゃあ。と言って今度こそ部屋を出ると背後から「どういうことだ兄者あああっ」「ご、誤解っ!!誤解ぞ!!」という掛け合いが聞こえてきた。

やっぱりこの世界でもイイ年したおっさんが首輪付きリードで少年に散歩させられているような構図はこの世界でもアブノーマルの類らしい。なんか、新しい扉開きそうになった。危なかった。

 

明日こそ河原に行こう。

 

 

 

 



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オレがうちはなのは、きっとなにかの間違いだ。

「やっ、はあっ!!」

河原の傍で一人で修行する。

今日も待ち人は来ない。

まあ、約束もしてなかったし。
あの子一般人みたいだったから仕方ないか。

まともな友達がほしいなあ・・・。


そう思いながら僕は今日もここで修行を続けるのだ。


「・・・お腹、空いた。」

 

自分以外誰もいない空間に虚しく響く声。

そのまま天井の木目を眺めていたが、ゆるゆると重い身体を起こした。

もうかれこれ3日も何も胃に入れていない。

戸棚を開けて保存食の確認をする。と、何の気なしにすぐ横にある食器棚に目が行ってしまう。

そこには二人分の食器が鎮座していた。

 

「母さん・・・。」

 

流行り病だった。

町の方なら優秀な医者がいて、薬だってあっただろう。

しかし、このミギワの住む辺境の集落には一族の者しかいない。もちろん医者なんてものいはしないのだ。

ミギワが転生する前に読んだ漫画の中では医療忍術なる技があったが、残念ながらそんなものを使える者は一人もいなく、皆戦争やらで怪我をしたときや病気になったときは応急手当の真似事や民間療法の様な処置を行うことで何とか命を繋いできたのである。

いや、一応医者は来た。たまたまこの集落に流れ着いた戦争で住処を追われた難民の中に医者はいたのだ。

けれどミギワや他の一族との間にミギワを成した母を差別したように、頭の固い連中は一族以外の者が集落に入るのをよしとしなかった。

結果、流行り病は止まることを知らずただ羅患者が増えるだけ。

最初は代謝の激しい幼子。次は免疫の弱い老人。老若男女問わずバタバタ死んでいく。

ミギワの母もそのうちの一人だった。

 

もうどうしていいかわからず、本音を言えばミギワもこのまま死んでしまいたかった。

そう思うたびにその食器棚の更に奥の方にあるわっぱと水筒を見て思いとどまった。

死が怖い故の言い訳かもしれなかったが、返しに行かなければと、もう一度会いたいと思って命を繋いできた。

 

しかし、それももう限界である。

 

―――せめてもう一度あの河原に行こう。

 

この際別に待ち人が来なくともいい。晴れなかったとしても心残りは軽い方がいいのだ。

母から忍術の基礎は教わったし、きっと今度は大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

 

 

 

 

パシャ パシャ ボチャ

 

運がいいのか悪いのか、先客がいた。

 

その見覚えのある、少し背の高くなった金髪がこちらを振り向く。

 

「久しぶりだね。ええと・・・。」

 

「・・・ミギワ。」

 

今更名前を教えてなんになるのかと内心で自嘲しながら呟いた。

 

「ミギワ・・・うん、覚えた。僕は鏡間。よろしくね。」

 

片手が差し出される。握手したいが、手を出さなかった。

 

「・・・よろしくしてくれるのはありがたいが、オレはもうここにはこれなくなるからあんま意味ねえぞ。」

 

ええ!?そうなの!?と思っていたよりオーバーなリアクションにこちらも驚いた。

どうやら少年は余程再会が嬉しかったらしい。ミギワとしては嬉しいやら悲しいやら複雑である。

 

「住んでたところが無くなったとか?なら、僕のいる集落においでよ。伯父上に掛け合ってみるから。」

 

「いや、いい。もう次の場所は決まってんだ。」

 

基本的にこの時代は引っ越すという事は珍しいことで集落の中で一生を終えるものがほとんどだ。

流れていくのは行商人やなんらかの理由で集落にいられなくなった罪人。そして戦争で集落から焼け出されてしまった難民である。

少年はミギワを後者だと思ったのか忍としては破格の提案をしてくれた。

ミギワもそれが出来たらどんなにいいかと思いつつ、即座にその提案を蹴る。

本当はミギワだって頷いて、その手を取りたいと思う。

けれど、忍の集落でよそ者がどんな扱いを受けるのかを日々身に染みてわかっているミギワだからこそ、それはできなかった。

よそ者にも冷たいが、受け入れた者にも冷たい。

そんな状況で精神をすり減らし腐っていく少年、鏡間の姿など見たくない。

そして仮にそこで折れるようなやわな奴で無かったとしても恐らくは自分の母親と同じような人生を辿ることになるだろうことは火を見るより明らかであった。

 

―――うまく笑えただろうか?

 

心配を掛けさせまいと必死に笑顔を取り繕ったが、如何せんあまり笑う機会もなかったためうまくできているかは微妙である。

そんなミギワの顔をじっと見ていた少年は、にこりと笑って口を開いた。

 

「じゃあ、今日は目一杯遊ぼう!」

 

「ままごとと祝言ごっこどっちがいい?」と聞いてきた鏡間に「なんでその二つだけなんだよ」とあきれ顔で言うと「いや、集落の女の子と遊ぶとき決まってこれをせがまれてね・・・ちなみに僕はおとうさん役・・・あれ、もしかして僕老けてる!?」と涙目になった。

 

「ちなみに後者の方は?」

 

「後者は・・・残念ながら今だ成し遂げられたことはないんだ。はじめの子と打ち合わせしてた時に違う子が入ってきて略奪ごっこ、駆け落ちごっことかにシフトしていって収集がつかなくなるから・・・。」

 

10にも満たない子供の集まりで略奪駆け落ちとはこれ如何に?

 

「ドロドロだな。」

「ドロドロだね。」

 

二人どちらともなく笑いあう。

 

「じゃあ、オレ。修行がいい。」

「え?」

「組み手。自信あんだ。勝った方のいう事なんでも一つ聞くってことで。はじめ!」

「へ?ちょっええ!?」

 

慌てるやつをそのままに拳を振るう。

当たった木がへし折れた。よし、チャクラコントロールは上々らしい。

 

「いくぜ!!」

 

 

 

 

――――

 

――

 

 

 

「はあ・・・はあ・・・て、てめえ・・・ばけもんかよ・・・。」

 

「いやあの・・・僕からしたらこの数か月でそこまでの力を付けた君の方にその言葉を進呈したいんだけど。」

 

少し汗を流す程度に止まっている鏡間を見遣って皮肉を言う。

首元には鏡間の手刀。どうやらミギワの負けらしかった。

 

「くそっ・・・煮るなり焼くなり好きにしやがれ。」

 

そんなミギワの言葉を余所にのんきに「もうそろそろ日が沈むね」と言った鏡間にミギワは更に膨れっ面になった。

 

「あ、そうそう。勝った方が何か一つ願い事を言う権利があるんだっけ?」

 

「あーそうだよ!!早くしろよ!!勿体つけんじゃねえ!!」

 

「ちょっそんな怒んないでよ。」

 

「怒ってねーよ!!」

 

「怒ってるじゃないか・・・。」

 

頬を掻いた鏡間は「あーじゃあ、目瞑って。」と告げる。

ミギワが薄目を開けているとしっかりと閉じるよう瞼を押された。

 

「いだだだだっ」

「閉・じ・て」

 

おとなしく閉じると今度は身体の前面と首元にぬくもりを感じる。

恐らく抱き締められているのであろう。

 

「きっとつらいことも、かなしいこともたくさんあるだろうけれど、君のこれからが幸多からんことを」

 

首元のそれが優しく、案じるように丁寧に告げる。

 

 

「君のこれからの世界が、優しい世界でありますように。」

 

 

 

雫が一つ。頬を伝った。

 

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

 

 

 

鏡間が送っていくと言ったのを断ったミギワは一人黙々と夕暮れの中を歩く。

 

と、ぴたりと立ち止まった。

 

 

 

―――優しい世界でありますように。

 

 

 

「・・・くそ。」

 

 

ばかじゃねーの。と続ける。

優しい世界なんてあるわけないことをミギワは知っている。

あるとしたらそれはきっと綺麗事と虚偽で飾られた安っぽい何かだ。

そんな世界ミギワはごめん被る。

 

けれど・・・それを願う少年はとても尊いものに見えた。

 

 

 

優しい世界なんてミギワはいらない。

 

 

「・・・オレに優しいのは、お前だけでいい。」

 

 

奴さえいれば後は優しいものも、綺麗なものも何もいらないのだ。

 

 

 

また、止めていた足を動かしだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

がらりと扉を開くと忍の間で広く普及しているタイプのサンダルに似た形状の靴が目に入る。

 

「・・・?」

 

客だろうか。葬式とは呼べないながらも母の弔いはもう終わってしまっている。

取り敢えず客だからなあと葬式時の来客への言葉をバカの一つ覚えのように胸中で繰り返しつつ襖を開いた。

 

最初に見えたのは団扇によく似たマークの付いた背中。

 

次に黒髪。

 

「あ、ごめんね。誰もいないみたいだから勝手にお邪魔させてもらったよ。」

 

「えーと、お母さんは?」と聞いてくる男に唖然としつつミギワは短くいないと答えた。

 

何故男・・・うちは一族の者が母に用があるのだろう。

背中の団扇のマーク。それは忍の中では知らないものがいないほどの高名な・・・うちは一族の家紋だったことを今更ながらミギワは思い出した。

 

「母に、何の御用で、しょう。」

 

 

 

「ああ、ごめん。そりゃ警戒するよね・・・本当は俺じゃなくて兄さんが来るべきなんだろうけどちょっと今立て込んでて・・・俺はうちはイズナ。君と君のお母さんを迎えに来たんだ。」

 

 

「は・・・。」

 

 

「わあ、その年で万華鏡写輪眼を?すごい!」と男、イズナが言うのを何処か遠くのことのように思いながら聞いているミギワの目は確かに赤く、歪な模様を描いていた。

 

 

 

 




というわけでミギワちゃんはうちはミギワちゃんなのでした。


写輪眼は母親に差別のことを言ったとき。

万華鏡写輪眼は母親が死んだときに開眼しています。

本人と周り(母親を除く)は知りませんでしたが。


そして差別の対象という事で碌な葬式も上げさせてもらえなかったためお母さんの身体は火遁の術で火葬。遺骨は箱に詰めて埋めてありますがそれだけ、後は辛うじてお花が供えてあるくらいです。しかも、普通にしていると荒らされるので家の床下に墓()があるという。


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成らざる者達の喧騒

side:X

 

 

「ふーふふーふーん」

 

鼻歌を歌いながら石を積み上げる少女が一人。

 

「いつにも増して機嫌がいいですね。主上。」

 

そんな少女にいつの間にか現れた妙齢の女が話しかける。

と、少女の詰んでいた石が崩れた。

 

「っ、申し訳ありません。お邪魔を・・・。」

 

頭を垂れる女性を差して気に留めることもなく少女はそのままころりと寝返りを打つかのように転がって立ち上がる。

 

「んー?いいよ別に。」

 

今日は気分がいいからね。特別許してあげるー。と笑う少女に女はほっと胸をなでおろした。

 

「んで?例の楔と鎖は?順調?」

 

「はい・・・鎖の成育が少し予定よりも遅くはありますが問題ない範囲です。ただ・・・。」

 

「ただ?」

 

きょろりと、今度はお菓子を食べだした少女が目だけを女に向ける。

 

「ひっ。い、いえ。いささか鎖の方が扱いずらくなる可能性があるかと・・・情緒不安定といいますか。」

 

「えー?たかが手製の泥人形と人間(半端もの)との間に生まれた道具のくせに情緒がどうのと言われてもねー?困っちゃうよねー?」

 

少女の瞳に物騒な光が宿る。

 

「し、しかし、現段階で始末するのは得策ではないかと」

 

次の瞬間その光は消えた。

 

「あーはいはいわーかってるっての!そもそもあっちに直接てえだすことがどんだけ大変か・・・あーやだやだ。これだから人間任せにしちゃうのはねーいただけないよねー。ほんと。そのためにも・・・ね?」

 

「はい。早急に我らの権威を人に知らしめる、ですね。」

 

女の言葉に再度笑顔を取り戻して少女は言う。

 

「そーそー。はああっ。ほんとなんでこう神様(わたし)から転生させてもらってる立場(・・・・・・・・・・)なのに自分は選ばれたーとか神になる―とか調子に乗っちゃう人間(ムシケラ)が多いのかねー?別に選別したわけでも仲間に加える気もねーっつーのー。

やっぱり転生じゃなくて作為的に作った方がより良いものを生み出せるよねー。ほら私人間(ムシケラ)と違って失敗とかしないしー。まあ、作るために女神一柱潰しちゃったけど仕方ないよね。ほら、あいつらもよく言う尊いぎせーってやつー?あひゃひゃひゃっ・・・だからあ。」

 

少女は一端言葉を切るとその場に手をかざす。

浮かんできたのは金髪の少年の立体映像だった。

 

「君には期待してるんだよ?千手カ・ガ・ミ・マクン?」

 

「・・・続いて、転生者の集まっていた神国のことですが。」

 

「ん?ああ、そのことならもういいよ。さっきのついでに片しちゃったから。まあでも」

 

神を敬わないような下剋上もくろんでる輩の住処に神国とか使っちゃダメだよねー。と凶悪な笑顔で少女はその場を後にした。

女はそんな少女がさっきまで石積みをしていたところを見ると、そこには大きな世界地図のようなものがまるで絨毯のように広がっており、件の石が散らばった個所にはこう書かれていた。

 

『神国』

 

その場所がまるで墨を溶かしたかのように黒く塗りつぶされていく、と文字が消えていく。

 

「・・・確かに、既に決済済みの様ですね。」

 

そういって女もその場から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side:Y

 

じりじりと燭台の中の焔が燃える音がその場に響いた。

ガタリという誰かの動く音を皮切りにその板敷の上に各々が腰を下ろした。ざっと見たところ数は10人ほどであろう。

 

まず、赤い外套を身に纏った男が口を開いた。

 

「さて、では今回の進行は私だったか。ではまず神国消滅の件だが。既に聞き及んでいるだろうか。」

 

「ああ、大規模な地殻変動だって話だが・・・ありゃ黒だな。仲間が天から光を落ちるのを見たってやつが何人かいる。・・・まあ、俗にいう天罰ってやつだ。」

 

やれやれと言った体で青いタイツの男が肩を竦めて見せた。

 

「・・・まあ、彼らの行動は目に余るところが少々ありました。当然の報いと言えばそれまででしょう。」

 

紫の長髪の女が更に言葉を付け足す。

 

「それでは神国の件は此処まででいいな?・・・では次に目撃情報についてだ。情報元は騎士王。」

 

その言葉に待ってましたと言わんばかりに青を基調とした服装の金髪の少女が立ち上がる。

 

「その件は私から。実は先日千手一族の動きを探るため黒騎士の部隊に近くの宿場町で様子を探らせていたのですが・・・そこに思いもよらない人物が現れまして・・・。なんと、寄りにもよってあの千手柱間と一緒に。」

 

ごくりと誰かが生唾を飲む音が聞こえる。

 

「そう、あの金ぴかが、千手に転生していたのです。寄りにもよって!!」

 

「なん・・・だと・・・」

 

ダンっと力強く拳を打ち付け騎士王は他の面子に訴えかける。

 

「これは由々しき事態です!!私たちと同じように金ぴかの面を被った転生者が千手に現れる・・・これは欲望に満ちた悪しき輩に違いありません!その証拠として彼はっ!!」

 

更にバンっと中央にたたきつけられた写真には賭場に来ていた若干元気のない柱間と、そんな彼を首輪付きリードで引っ張っている鏡間の姿が映し出されていた。

 

「千手柱間にっ・・・こんなっお散歩プレイのような醜態をさらすことで彼を辱めていました!!」

 

ざわりとどよめきが広がる。

 

このような形で情報が出回ってしまい更に数多の者にその醜態を大分不名誉な形でこうして見られている柱間の方が可哀そうなのだろうがそんなことは知ったことではない。

 

此処にいる俗に型月の更にFATEと呼ばれる作品群に登場するキャラクターに類似している彼らは転生者であった。

そんな彼らはみな型月をプレイしたことがあるものばかりで、それゆえにギルガメッシュというキャラクターを、鏡間と姿の類似したキャラクターとその性能をよく知っていた。

 

故に彼らは一様に彼のことを逆ハーレムだとかを目指す邪なものだと決めつけて会議は進んでいく。

 

 

 

「やれやれ、先が思いやられるね。」

 

その様子を見ていた誰かがくふふと笑って闇へと溶けた。



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青年編
成長とか・・・なんか違くね?


というわけで、青年編が始まるよー!


「くそおおおお千手っ。よくもっよくも檜佐木をおおおおっ」

 

そう言ってクナイを投げる日比谷。足元には今しがた殺されたばかりの恋人が転がっていた。

この戦が終わったら祝言を上げる約束をしていた、大事な幼馴染だった。

 

そのクナイは途中でブレたかと思うと幾重にも分散し、括りつけられた起爆札が一様に燃え始める。

そして本来ではありえないであろう飛距離と威力を自身の風遁を伝導させる特殊な術式によって極限にまで上げたものだ。・・・本来ならこれに檜佐木の火遁が加わって相手の傷口を焼き付けることで治療困難な怪我を負わせるというえげつないものだったのだが、未完の技となってしまった。

 

 

「くらえ!!」

 

 

風遁の後押しによって広域に散らばり発射されたクナイが敵のものであろう部隊に向かって進んでいく。

この速さはさすがの熟練した忍でも避けられまい。

 

辺り一面に爆音が響き渡る。

拡がる爆煙の中から敵影は一つも見えない。

 

「や、やったっ」

 

仇を討ったぞ、檜佐木!!とぐっと拳を握りしめると。途端にぶちゅっと生々しい音が近くで聞こえた。

腹をみれば黒茶の何かが生えていた。腕、足とみても同様のものが生えている。

 

「え・・・?」

 

立っていれなくなって崩れ落ちそうになる。

が、何故かそこに留められているかのように身体が動かなかった。

ポロリと日比谷の目から一粒。雫が零れ落ちる。

 

「く・・・そ・・・」

 

倒れることも許されなかった彼はそのまま瞼を閉じた。

 

 

煙幕が晴れる。とそこには幾重にも重なった樹木が現れた。

日比谷の同僚であった忍達が驚きに声を失う。

それもそうだ、何せ木遁を使う忍は千手柱間が確認されているのみ。そしてそんな彼は今ここではなく別の、主力部隊と交戦中のはずだったからだ。

柱間が来ているなど聞いていない。これでは自分たちの全滅が決まったも同然ではないか、と。

中には「俺たち・・・実は陽動で・・・族長たちに売られたんじゃ・・・」などというものもいた。

しかしそれは此処にいるもののほとんどが心を同じくしていることだろう。

 

 

そんな時向こう側に騒がしい声が響く。どうやら伝令が来たらしい。

断末魔やら怒号やらが響くこの戦場の中でその声が一際大きくなってしまうのも仕方のないことなのだ。

 

「伝令!!お伝えします!!柱間様、扉間様。ともに目標地点を攻略!!よって撤退の運びとなるそうです。ご帰還を!!鏡間様(・・・)!!」

 

伝令が告げた名に周囲がにわかにざわつき始めた。

 

「か、鏡間?鏡間って・・・」

 

「に、逃げろっ逃げるんだっ」

 

「し、死色だっ死色がでたぞー!!」

 

ここ数年で急速に広まった名があった。

千手には珍しいその金髪から、その色を見たら必ず死ぬとすら言われていた。

故に死色。死色の椿。

その存在は、そしてその戦場の跡から忍界は震撼することとなった。

何せその別名にある通り。彼の担当した戦場は今まで例外なくすべての敵対者の首が綺麗に刎ねられていたからだ。まるで、椿が自重によってその花を落とす様に綺麗になくなっていた。首は見つかっていないが。

敗走した忍はこの限りではないものの、皆口をそろえてこう言った。

 

「黄金に光り輝く、死神を見た。」と。

 

曰く、気付くと既に隣にいた仲間の首が無かった。

 

曰く、瞬き一つで千の首を飛ばす。

 

曰く、生殺与奪も思いのまま、生きた生首に話しかけていた。

 

etc・・・

 

敵側が一斉に退却していくと、やっと鏡間は木遁の壁を解いた。

 

 

「・・・思ったよりも早かったようだが。さて。」

 

敵の首級を取るよりも先に部隊が撤退してしまったため手持無沙汰になったらしき彼は仕方なさそうに落ちたクナイを拾うとそれを当たり前のように背後の黄金のゆがみの中にしまい込んだ。

 

「いささか物足りんが、まあ。いいだろう。」

 

そう言って部下に指示を出しつつその場から退却する。

 

本人は知らぬことだがこの戦いでさらなる別名が鏡間につけられた。

その名も『蓬莱の鏡間』である。恐らく竹取物語辺りからの出典なのだろうが・・・。

本人はその名を聞いたとき内心でうわあ厨二臭いのがまた増えた・・・と頭を抱えていた。

 

 

 

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

 

 

 

 

「鏡間様ーおかえりなさいっ!!」

 

「鏡間ー後で木遁見せて木遁ー」

 

「こら!!鏡間様でしょ!!すみませんいつもいつも。」

 

集落に帰るといつものように子供たちが寄ってくる。

 

「ん、ああ、今帰った。あ、芳。抱きつくんじゃない。こら、芽。汚いからまた後でな。」

 

手を振って別れた後、風呂に入るために服を脱いでいく。

鏡に自身が映る。金髪赤眼、そして無駄なく引き締まった美しい造形の肉体に、これまた恐ろしいほど美しい貌。

そこに映っているのはやはりあのよくわからない女神(笑)の空間で見た青年であった。

ペタリと鏡に手をつく。・・・どう足掻いても変わらない事実だが、せめてこの偉そうな口調だけでもなんとか幼いうちから矯正したかった。できなかったが。

考えても仕方ないかと考えて溜息を吐いているとがらりと扉の開く音がした。

 

「あれ?今日は鍵が開いて・・・てぇ!?」

 

戸口のところに立っている女と目が合った。ガシャンという風呂道具の落ちる音とともに「い、いやああへ、変態!!女湯に変態が!!」という声とともに駆けていった。いやここ我専用の風呂なんだが。

あれ?たしかあの方向は・・・。

 

声を掛けるべく戸口から半身だけ出して声を掛けようとする。

 

「おい。そっちは今試作のトラップが」「いやああああああっへるぷっヘルプミイィぃィっ」

 

・・・言わんこっちゃない。その先は我と父上の共同実験場だ。

結局女を救出したはいいものの、更にパニックになった女に横っ面を思いっきり引っ叩かれた。

何故だ。

 

 

 

 

 

 

 

そして、現在。我は絶賛先程の女の父親に土下座されていた。

 

「まこっとにっ。申し訳ありませんでした!!」

 

これどうすればいい?と父上と伯父上の方を見ると目をそらされる。自分で何とかしろってか!?チクショウ!!

 

「別段気に「こら!!ゾウカ!!お前も謝らないか!!」

 

いや最後まで喋らせろや。

 

「嫌よ!」

 

言って女はこちらをきっと睨みつけた。カルシウムか糖分取った方がいいと思う。

 

「だって私っ何も悪くないもの!!ちゃんと案内されたところのお風呂に行ったし!!むしろ・・・そのっ」

 

この変態と鉢合わせしてみたくもないもの見てしまったんだから私の方が被害者よ!!と女は主張した。

もう被害者でも加害者でもどっちでもいいから早くしてくれと切に願う。子供たちと遊ぶ約束もしているし、いい加減疲れた。だるい。はよ終われ。

我の様子を察したのか父上が割って入る。

 

「あー話は分かったが今日はひとまずこの辺でいいだろうか。こいつも戦から帰ってきたばかりでな。」

 

もう一度父親の方が深々と頭を下げ申し訳ありませんでしたというとまだ納得いかなさそうな娘を引き連れて廊下へと消えていった。めんどくさい嵐が去った。

 

「父上。さっきの奴らは?」

 

ふうっと溜息を吐いて仕方なさげに父上が口を開いた。

 

「まあ、なんだ。同盟相手・・・というか、何というか。」

 

父上にしては珍しくはっきりしない物言いに眉根を寄せると、すかさず伯父上が口を開く。

 

「俺はいいと言ったんぞ?ただ扉間がもう少し様子を見たほうがいいといって聞かなくてな。保留中なんぞ。」

 

ふうんと言って部屋を出ようとすると父上に呼び止められる。

 

「・・・気付いているか。鏡間。」

 

「・・・一応木分身を三体ほどつけている。今はおとなしく部屋にいるようだが・・・。」

 

「そうか、くれぐれも警戒を怠るな。儂も独自に調べておく。」

 

 

 

さて、鬼が出るか、蛇が出るか。

 

 

お手並み拝見といこう。

 



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難民とかこう・・・なんか違くね?

〇月×日

今日もマダオを連れ戻しに鉄火場へ。
今日もマダオはふんどし一丁だった。
我の修行の時間を三時間ほど削ったマダオ許さない。

・・・今日も川に奴は現れなかった。当たり前か。


△月□日

父上に言われてマダオを探しに行った。
時すでに遅し、マダオが素っ裸になって地面に転がされていた。
身包み全部剥がされたんかい・・・。
近くにお盆が二枚転がっている、酒の匂いがすごい。オエッ。
苛立ちもあって粗雑に扱おうか迷った、結局荒縄で縛って帰宅。
伯母上に引っ叩かれていた。いい気味だ。フハハハハッ。



「・・・まさかこんなに厳重な見張りが付くなんて・・・はあ・・・」

 

与えられた部屋の中である一族の族長の実子としてついてきているゾウカ・・・ではなく彼女そっくりに変装している女。コードネームはキャスターというこの女は鏡間が彼女につけている木分身の気配を察知して深いため息を吐いた。

彼女の脳裏にこの調査を依頼してきた同類の赤い外套の男の姿が思い浮かぶ。

 

「なにが簡単な、よ。全然難しいじゃない。」

 

キャスター自身もまさかここまで警戒されると思っていなかった。

あの傀儡の父親に対応を任せて自分はさらっと内部の調査をしてしまえば終わり。そう、2,3日で終わると高を括っていたのに、初日からこんな本物と変わらないような分身(見張り)が付くなんて。誤算である。

どうやら自分は思った以上に動き過ぎてしまったらしい。やはり小娘の我が儘くらいで茶々入れし過ぎたのだろうか。

愛の一族などというぬるま湯の様な呼称を持つくせにしっかりしている。

 

 

一応本格的な監視が始まる前に自身の状況とこれ以上の調査の継続はできない旨をしたためた手紙を送ったが果たして無事に届いたのだろうか。

 

「・・・後は。」

 

届いているにしろいないにしろ取り敢えずこの状況をどうやって乗りきるかが今後の問題な訳だ、が。

ちらりと部屋に設置された姿見を見る。そこにはキャスターの実年齢と比較するとかなり幼い少女・・・ゾウカの姿が映っていた。

 

「・・・続けるしか・・・無いわよねえ・・・。」

 

まだ無理なキャラ作りをしなくてはならないのか。と思うとどうしても憂鬱な気分になってしまう。

キャスターは本日幾度目かわからない溜息を吐いた。

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

 

正午を知らせる鐘が鳴った頃。千手の集落の集会場がにわかに騒がしくなった。

大衆に囲まれるように座る者が四組。相対するようにその眼前に座っているのは長である柱間と補佐をしている扉間である。

 

ひそ  ひそ

 

「おいおい。今度はなんだ?まーた難民か?」

 

「ああ、どうやら先の戦場の近くに住んでたらしいんだが奴さんの残党に焼け出されちまったんだと」

 

「はー。難儀なこって・・・で頭領は?」

 

「受け入れるんだと。けど一族の財政は大丈夫なんかねえ?おとついも二組受け入れたばっかだろう?」

 

「あー・・・それはほら、扉間様と鏡間様がいらっしゃるから。」

 

「けどそれは・・・」

 

ひそ  ひそ

 

 

そんな囁きが漏れ聞こえる中クルリと先程まで柱間と言い合いをしていた扉間が背を向けた。

 

「そんなに言うのなら兄者の好きにするといい。」

 

「ほ、ほんとか!!「ただし。条件がある。」なっなんぞ?」

 

「鏡間にも話を通しておけ。」

 

扉間の言葉に柱間の顔が露骨に固まる。

 

「・・・それは絶対ぞ?」

 

「絶対だ。」

 

「ほんとのほんとに絶対ぞ?」

 

「ああ。」

 

「ほんとのほんとのほんとに「いい加減しつこいぞ。黙れ。」ぞ・・・。」

 

落ち込んでその場で膝を抱えて沈む柱間をちらりと見遣って柱間は溜息を吐くと言葉を続けた。

 

「・・・大体、あいつの収入もあって現状が維持できているのだからこれまでだって本来は儂らだけでなく奴にも話を通しておくのが筋というものだったのだ・・・そもそも兄者が賭け事なんぞに行くから・・・」

 

親であるはずの自分が、まさかこの年で息子の稼ぎを当てにしているとか、浄土にいる妻にも両親にも面目が立たない。という言葉が出かかったがすんでのところでその言葉を飲み込んで、扉間は天井を仰ぎ見た。

 

正確には鏡間本人は直接千手の財政にプラスの影響を及ぼしているわけではない。

彼は主に賭け事によって一夜限りの財を築く。ただそれだけだ。要はプラマイゼロ。

しかし、それは扉間。牽いては千手の財政面の安定に一役買っていた。

そう、全てのマイナスを帳消しにするという方向で。

そして、その恩恵をもろに受けているのは他の誰でもない柱間である。

詰まる所彼の借金の返済で全て消えていくのだ。

余りにも不憫でならなかった扉間は思わずお前が稼いだのだからお前が使えと前に言ったことがある。

 

「ん?ああ、気にすることではないぞ父上。大丈夫だ。我には父上から貰って貯めていた幼少からの貯金がある。」

 

そう言ってにへらっと笑い、貯金箱をジャラジャラと揺する我が子を見て涙が出そうになった。

成長するにつれて口調やら性格やらがちょっとアレになってしまったが、鏡間(我が子)は何処まで行っても鏡間(我が子)だった。

原理のよくわからない波紋から出てきた生首なんて見ていない。

「・・・と、これで今年は152回目っと」と言って《ジャポニカふくしゅう帳》と書かれた冊子の兄者の欄に正の数をたしていたりなどしていない。

一族・・・親思いのいい子である。

柱間は大負けするたびに彼から仕置きを受けるためか金銭が絡むと鏡間に怯えているようだが扉間には関わりの無いことだ。むしろそうなるまで怒らせるとかお前何したよ。が、正直なところである。

 

怯える兄にもう一度繰り返そうとして口を開いたときに、件の人物はやってきた。

 

「父上、伯父上。拾い物をしたのだが・・・どうしたらよい?」

 

金髪の少女を連れて。

 

 

 

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

 

 

 

集落での出来事が起こる数刻前。アルトリアになった・・・便宜上の転生者のアルトリア(偽)は河原に来ていた。というか倒れこんでいた。

 

「う、うう。こんなことならちゃんとおかわりしてくるべきでした・・・。」

 

この燃費の悪い体が恨めしい・・・。と力なくアルトリア(偽)はその秀麗な顔を地に伏せる。

この彼女仕様の身体は恐ろしく燃費が悪く、常に何かを食べていないと身が持たないのだ。

此処まで精巧にしなくていいだろ神様と内心で思っているとざりっと誰かの土を踏む音が聞こえた。

ああ、自分はこのままこの人攫いらしき人の手によって何処かに売り飛ばされるのだろうか・・・などと何処かうわの空で考え出す。動物の餌になるのも嫌だが、売られるのも嫌だ。しかし、そんな彼女の懸念は次の言葉で吹き飛んだ。

 

「大丈夫か?」

 

霞んでゆく意識の中で辛うじて目に入ったのは金色の・・・―――

 

 

薄れゆく意識の中でかの人の裾を掴んで口を開いた。

 

「な、何か・・・食べ物・・・くだ・さ・・・。」

 

そのあとのことはよく覚えていない。

ただ何処か遠いところで「お、おい!!ここで寝るな!!」とか「ここで見捨てたら我の不手際という事になるのだろうか・・・ええいっ起きよ!!」などと聞こえた気がした。




孫の五代目があれだから祖父である初代の方もかなり賭け事弱かったんじゃないかと思う。

その点主人公はギルガメッシュ()だから黄金律とかで自分だけぼろ儲け。



ちなみに最近ちらほら出てるオリキャラ()にはキャラクター名とは別のこの世界での本名がある。


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オレたちの集落に難民が来るなんて、きっと何かの間違いだ。

「おい見ろ。例の餓鬼だ。」

 

「全く族長も一体何を考えて・・・」

 

「そもそもやはりあの時点で長にするには時期尚早だったのでは」

 

 

ボソボソとミギワとその身内への陰口が叩かれる。

ミギワは丸太に叩きつけていた拳をチャクラで強化しつつ地面に叩きつけた。

瞬く間に、まるで地震でも起こったかのような揺れとともに巨大な地割れが出来上がる。

それをまじかで見たうちはの老人たちが蜘蛛の子を散らすかのように逃げていった。

 

「・・・陰口叩く暇があんなら修行の一つでもしろや。クソ老害どもが。」

 

ちっと舌を打って、腹いせと言わんばかりに丸太を割り潰す。冗談でも大袈裟でもなく木端微塵だ。

そして、そんな彼女の元に先程とはまた違った嫌な声が聞こえてきた。

 

「お、今日も力自慢かい?いっそここじゃなくて見世物小屋にでもいたほうが似合ってるんじゃないか?」

 

「そーだ、そーだ。メスゴリラ。ぶぷっ」

 

声のした方にはミギワより幾分か年上らしき少年たちがニヤニヤとミギワを見ていた。

そんな次から次へとやってくる迷惑な客にはあっと溜息を吐いたミギワはだるそうに整えられていない伸び放題の髪を掻いた。

この手の輩はやはりどんなところにもいるものらしい。大元が「力」を指針として構成された武闘派集団だったためかミギワが強者だとわかると態度を軟化させたものがほとんどだった。が、それでもやはりというか、混血という事もあってかミギワを排したがる輩も少なからずいる。

主に血と仕来りにこだわる古参とミギワが来るまでその腕に自信を持っていたであろうミギワと同年代か少し年上の少年たちである。ミギワとしてはどうでもいいことであり、自分に構う暇があるならその余暇をもっと生産的なことに使ってくれと思う。主に修行とか、女性陣の手伝いとか。

いい加減相手をするのが面倒くさくなってきたミギワは片手を地面にやって、いくつかの砂を掴み上げる。

 

「あー取り敢えず。避けんなよ砂利ども。」

 

「あ?なにい、っひ。」

 

ビツッという不思議な音とともにぐいぐいと服が何かに引っ張られる。

否、引っ張られているのではない。とんできた砂・・・泥の塊によって服が背後の壁に縫い付けられているのだ。

千本のような形状のそれによって完全に磔の状態にされた少年たちはみな一様に半べそという様を晒しているわけだが、そんなことはやはりミギワにとってはどうでもいいことの延長上でしかないのでそのまま放置・・・しようとして足を止めた。

 

―――このままだとオレが悪いことになんのか?

 

 

それは本意ではない。免罪云々以前に族長のところに呼ばれること自体が今の彼女にとってはあまりよろしくない。ぶっちゃければ苦痛ですらある。

この数年間で一応知り合いくらいまで距離を縮めることはできたとは思うが、裏を返せばそこがミギワの取れる一番近い距離だったのだ。正直今でも一対一では辛いものがある。

 

絶対に会いたくない一心でミギワはクナイを取り出した。

 

 

 

 

・・・その日の夕刻。ある屋敷の一角で数人の少年が磔にされて動けない所を発見された。

当人たちは必死にミギワにやられた。あいつは危険だなどと言っていたが、その言葉に耳を貸す者はいなかった。

何故ならその少年たちのいた壁には「僕たちはおとつい女湯を覗いてしまいました。反省します。」という文が彫られていたからである。

更に言うなら、この少年たちが女湯の近くにいたのを通りかかった他の女性が目撃しており、恐らくその時に入っていた誰かからの報復だろうと言われて相手にされなかった。

 

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

 

 

「お願いします少し、ほんの少しでいいので・・・。」

 

集落の入り口辺りで足を止めると見張りと、おそらく外部の人間が言い合いになっていた。

相手は近寄って来たミギワを見てギョッとした後、あからさまに安心したような顔でミギワを指差した。

 

「わ、私っ彼女の友達です!!ね!そうよね、ミギワ!!」

 

見張り・・・改め自身の叔父にあたる人物に軽く挨拶をしたミギワは、そのまま馴れ馴れしく話し掛けてくる女の爪先から天頂部まで目を通して口を開いた。

先程の言葉の端々から旅人か難民かと思ったがおかしな事に女は然程汚れているわけでもなく、端々をよく見てみればそこはかとなく着飾っている様なふうですらあるその格好はとても奇妙なものだった。どう見ても寝食に困っていそうな人間の身なりには見えない。

そして何より向こうはミギワを知っているかの様な口ぶりだが残念ながらミギワは一切彼女との記憶は無かった。

 

「・・・誰だお前?」

 

「え・・・?」

 

途端に女の顔が絶望に歪むがそんな事はミギワにとってはどうでもいい事なのでそれはそのまま放置してひたすら記憶を模索する。

 

「だってさ、というわけだから他をあたってくれない?宿場町の方には送って行くから。」

 

「そ、そんなっ。私よ!同じ集落にいた仲間じゃない!!ねえったら!」

 

という事は前の集落の同世代のうちの1人かとまで絞り込むと探すのをやめた。前の集落関係ならどのみちどんなに探そうが覚えていないため無駄である。そこでやっと意識を隣に向けて拳を握る。勘違いしてもらっては困るが別に目の前の女が気に食わないから殴る準備をしているとかではない。断じて無い。むしろこれから起こりうるであろう事を止めるための準備だ。

 

「ふうん。そうなんだ・・・君この子の前の集落の・・・」

 

叔父がにこりと人好きのする笑顔を女に向ける。と、何を思ったのかその女が頰を染めて先程よりも高めの鼻についた声音でシナを作りながら叔父の方に距離を詰める。

 

「はい!そうなんですうっ。もしよ」

 

女が言い終わる前に女を軽く後ろに引っ張る。と、さっきまで女の首があった位置を目にも留まらぬ速さでクナイが通過した。

そのまま後ろへと尻餅をついた女は何があったかわからなかったらしく不思議そうな顔をしていた。

どうやら女はついさっき目の前の美丈夫が自身を殺そうとしていた事など露ほども気づかなかった様だ。

おめでたい奴だ、むしろなんでここまで生きてこれたのだろうかと溜息を吐きつつ、チラリと女に向けていた視線を叔父に移した。

ミギワの咎める様な視線にイタズラがバレた子供の様に叔父は首を竦めてみせる。

 

「全くもう。ミギワは兄さんに似て優しいなあ。」

 

「オレとしてはアンタが潔癖すぎるだけだと思うがな。イズナ叔父さん。」

 

えー、そうかな?とへにゃりと笑って首を傾げるミギワの叔父・・・改めうちはイズナはあ、そうそう。とまるで思い出したかの様な口ぶりでミギワの方に向き直った。

 

「受け入れるにしろ受け入れないにしろ族長へのお伺いは立てておかないとね・・・というわけで「嫌だ・・・じゃなかった無理だ。」まだ用件の途中じゃ無いか、というか即答だね。」

 

そこで女に気取られないように「オレはこれ持ってまだ回んなきゃなんねーんだよ」と開いた巻物に『絶対怪しいと思うが、泳がせるのか?追い出したほうがいいんじゃ無いか?』と書いてみせると「あ、じゃあ。先に僕が印つけるよ」と言ってイズナが『うん、だってこんな怪しい奴生かして返すなんて僕は反対だけど、ミギワは消すのは反対だろ?じゃあいっそ兄さんや古参の人たちに決めてもらおうかなって』とサラサラと書いて自然な動作でミギワの手に乗せた。

 

「アンタが行けば全部丸くおさまんだろ」

 

「ダーメ。なんせ僕は今見張りだからね。ほら、仮にも族長の腹心が職務放棄って駄目だろ?」

 

「・・・。」

 

「あーあ。僕超忙しいんだけど。こんな時ミギワが手伝ってくれたらなあー、すっごく助かるんだけど・・・はあ。」

 

「・・・。」

 

「手伝ってくれたら今夜はミギワのために衣笠丼作ろうかと「わーったよ!!行ってくりゃいいんだろ!」わー助かるー」

 

面倒くさいからこの際クナイに巻物括りつけて投げ込めばいいかと後ろ手で忍具を漁るミギワに「あ、投げこむとか駄目だよ。あの後兄さん落ち込んじゃって宥めるの大変だったんだから」とイズナが先手を取って注意した。

それに本日2回目となる舌打ちをしたあとミギワはその場から姿を消した。

 

叔父?族長?へ?といつまでも頭の整理のついていない女と先程までの朗らかな笑顔を消して冷たい目で女を見るイズナを残して。

 




千手と違ってうちはは血に対するプライドが高くてそんなに開けてないイメージ。

ただし、一度身内だと認めると滅茶苦茶尽くしてくれる。

ちなみに叔父はミギワを迎えに行っときに集落を見て親子の置かれた環境を知ってる。
遺骨の方はミギワの数少ない私物と一緒にうちはの家に納められている。


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デートとか・・・なんか違くね?

「鏡間―。次はあっちの店がいいですっ」

 

「・・・。」

 

「ま、まて。アルテイル!!貴様金を持っておらんくせに先に行くな!!」

 

金髪の青年に、金髪の少女。そして黒髪の童女。

この珍しいというか、派手な取り合わせに極力目立ちたくない鏡間は何とかアルテイル・・・金髪の少女にそこらの町娘の間で流行っている服を着せたりと多少の努力は見て取れるのだが、如何せんアルテイルが事あるごとに彼の名を大声で呼ぶため全く意味を成していない。

 

「ったく・・・ゾウカ。貴様はどうする。」

 

そんなアルテイルの様子に、チャリっと手に持っていた美しい細工のかんざしをもとの位置に戻して鏡間がゾウカに問う。

 

「・・・どこでもいいわよ。」

 

黒髪の童女。ゾウカは何処かぶすくれながら返事を返した。

その手は片方を鏡間に、もう片方はかわいらしい巾着を持っている。

ゾウカ・・・キャスターは童女姿という事もあって心身ともに疲弊しきっていた。

 

(若い子は元気ね・・・。)

 

自分があんなにはしゃいでいたのは一体なんじゅ・・・何年前だっただろうか、とアルテイルの姿を見て黄昏るくらいにはもうすべてがどうでも良くなってきている。

赤外套からの依頼なんか知るか、もう自分で調べれば?相方は既にご到着済みよ。と内心で鼻で笑うくらいにはフラストレーションも溜まっている。

そんな彼女の心持を察してかどうかはわからないが鏡間が休憩を提案したことにより何とか最寄りの休憩所に立ち寄ることが出来た。

 

ちょっとお手洗いに!!と言って果実水を飲み過ぎたらしいアルテイルが何処かに行ってしまうと、それと入れ違いになるように鏡間が帰ってきた、手にはゾウカに配慮してか温いお茶を持っている。

 

「ありがとう。」

 

「ああ。」

 

沈黙。時々どちらともなく飲み物を飲む。

それをお互いに三回ほど繰り返して、ゾウカが口を開いた。

 

「聞きたいことがあるのでしょう。例えばそう、私がスパイじゃないか、とか。」

 

それに鏡間は答えず、こくりと残りの自分のお茶を飲み干した。

 

「・・・なんだ、聞いたら答えてくれるのか?」

 

「あら、将来の旦那様になるかもしれない人だもの。信用して欲しいわ」

 

わざとらしく幼子らしい無邪気な笑顔を浮かべた。

 

「・・・どこから聞いた。」

 

「ふふ、聞いたんじゃないわ。分かるの。あの(ヒト)の考えそうなことだもの。今後の手駒として是非とも千手は欲しいわよねって話よ。それで・・・ほら、消去法で言うと次の世代で頭領に選ばれそうなのって貴方じゃない?」

 

鏡間の苦虫を噛み潰したような顔を見て幾分かイラつきを抑えることができたゾウカは無邪気な笑顔をやめて、鏡間からも視線を外し、彼と同じように休憩所越しに通りに目を向ける。今日は人通りが多いらしくちょっとやそっとの内密な話はすぐに喧騒に掻き消された。

 

「そうか・・・だが、残念ながら我は今のところ誰とも婚姻など結ばんぞ。」

 

「あら?どうして。あなた、より取り見取りそうだけど」

 

鏡間がぽつりと落とすかのような呟きを丁寧に拾い上げ、わざとらしく聞き返した。

容姿が容姿、且つどことなくその警戒すべき人物に似ているところのあるこの男の言葉をそのまま鵜呑みにするのもつまらないからという、鏡間がそう言った負の感情を自分に向けないという前提があってのちょっとした意地悪のつもりだった。

 

「我はお前のようなこれからのある者とはごめん被る。ロリコンではないんでな。」

 

「あら?趣味嗜好?あなた熟女が趣味なの?」

 

今だ感情らしい感情を載せていない、というより逆に削ぎ落とされていくかのように変わらないその表情に、納まったであろうフラストレーションが再度大きくなる。

 

「違う。我の理想は我への愛がなく。ただの取り決めのためだと割り切ってくれるような女とだという事だ。」

 

これからのあるものだともしかしたら何かの間違いで愛とやらが芽生えるかもしれんではないか。とゾウカをみて付け足した。

 

「はあ?なあに其れ。あなた変わってるわね。マゾヒストとかいう奴かしら?」

 

「いや。・・・ああ、余命僅かなものなら例外としてありだな。」

 

「・・・ますます変わってるわね。普通何かしらの有益なつながりが出来たらこじれないように歩み寄ろうとするものじゃないの?」

 

結婚=自分を追い込むものなら恐らく万人は結婚などしないのではなかろうか。というかゾウカ改めキャスターなら絶対しない。自分が想像していたのとは違っていた、が、ますます男が分からなくなっていく。

眉根を寄せて渋い顔を造るゾウカに相変わらず視線を向けずに苦笑した鏡間はポツポツと話し出す。

 

「少し、昔話をしよう。・・・我が僕だった頃。基本的に僕は独りだった。近づいてくるものは大概利用しようとしてくるような連中ばかりで・・・ここら辺は貴様も経験があるのではないか?」

 

確かにこの童女・・・ゾウカも、そしてキャスターも権力にほど近いところに生まれ、そしてそれゆえに人の醜さを知ることとなった。それは、忍も貴族も王族も変わらないのかもしれない。

 

「だが、誰も僕を見ていなかったわけじゃない。一人、僕を理解しようと幼いながらに近づいてきた奴がいた。・・・既にほとんど覚えていないが。他愛のない話をして、馬鹿をしたときは一緒に謝るような、そんな奴だ。やがて僕も奴も戦場に出られるくらいの年になった時、奴が嫁を取った。幼馴染で、好きあっていて、とても幸せそうだった。」

 

何処か遠くを見ているような彼の横顔を見つつ、興味がないようなふりをしてゾウカはこくりと冷めたお茶を飲んだ。

 

「けれど、」

 

 

「けれど、奴はそれから三月後の戦で殉職した。忍にはよくある話だ。」

 

 

「そして、奴の通夜には棺桶が一つ。葬儀には棺桶が二つ(・・)、並んだ。」

 

「それは・・・」と言いかけてゾウカは口を噤んだ。

 

「・・・もうわかるだろう。葬儀の棺桶のうち一つは奴。もう片方はその妻だ。自殺だった。」

 

「・・・どう、して。」

 

ここで始めて鏡間はゾウカの方を見た。

彼の顔は何一つ動かない、無表情だったが、その瞳に移ったゾウカの顔は今にも泣きそうだった。

 

「・・・他の集落の暮らしぶりはわからんが、我たち忍はいつ死ぬかわからん。それが明日かもしれない。・・・我の一族にはくノ一もいるし、女のみで商いをしている者もいる・・・だが、それが出来ないものは?稼ぎ頭であった夫を失った、家の中で生きてきた女たちは、どうなると思う?」

 

ゾウカはごくりと生唾を飲み込んだ。

だって、そんなの、聞かなくても決まっている。

そんなの、生きていけない。

 

「大体は一端実家に戻って、喪が明けたとともに違う、親の見繕った相手と婚姻を結ぶ。他に生きていく道がないから、そうせざる得ないのだ。特に乳飲み子を抱えた奴などはそれこそすぐだ。なんせ、自分も飢えるが、子供も飢え、そして死ぬ。だから、仕方なく、生きていくために好きでもない男と婚姻を結ぶ。・・・おそらく奴の妻はそれが嫌で逝ったのだろうよ。」

 

「・・・鏡間。あなた・・・。」

 

呆然としたゾウカの口から震えた声が出る。

 

「何、我に特別そういったものがいるわけではないが。そうさなあ・・・できれば、俺の目の届かない何処かで、そんなこととは無縁に幸せになってほしい・・・か?まあ、もし、だが・・・。」

 

―――嘘だ。

この男が先程手にしていたのは女物の簪だった。いや、その前からちょくちょく特定の女が好きそうな女物を見ていた。大体が赤系統であまり派手過ぎず質素過ぎずといった具合だったため自分やアルテイルではないだろうなと思いつつきっとそういう趣味なのだろうと関心がないふりをしていたのだが・・・。

 

「・・・そう。叶うといいわね。」

 

 

ちょっとお手洗いに行ってくるわ。と言ってその場を立ち去ると物陰でアルテイルがうずくまっていた。

 

「邪魔よ。早くいってあげれば?」

 

「・・・いえ、私が行っても。今の彼には不要でしょう。」

 

「あ、そう・・・胸くらい貸すけど。」

 

沈んだ様子のアルテイルがぶんぶんと幼子のように首を振る。

全く、どっちが年上なんだか。と思いつつその場に腰を下ろした。

 

「・・・すごい決意というか・・・なんというか私もあれくらい言えるくらいに」

 

「そういうの私の前ではいいから、本音は?」

 

「・・・それでも、彼のうちにいる思い人が消えることは、無いのでしょうね。」

 

膝の上の拳が一層強く握られる。

 

「・・・そうね。私も後すうじゅ・・・数年若くて、まだ迷っていたころなら、あなたのように思っていたでしょね。・・・だって彼。」

 

とても居心地がよくって・・・残酷だもの。と続けた言葉にアルテイルはこくりと頷いた。

 

「ずるいですね。」

 

「ずるいわね。」

 

そう言って顔を埋めたアルテイルの頭をポンポンとあやす様にゾウカは撫でてやった。




イメージ的に外:AUO 中:コクトー

・・・に(違うけど)近い何か。・・・を目指してる。


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宿敵との初対面とか・・・なんか違くね?

「ぐ、ぐわあああああ。」

「は、柱間様!?」

「ミ、ミト・・・俺はもう・・・だめかもしれん。」

「そ、そんなッ」

「さ、最後に・・・雑炊「お薬と重湯と白湯お持ちしました。」

「あら、ありがとう。柱間様、お食事だそうです。」

「う、ううっ。確かに飯は飯だが・・・固形物が食いたいんぞっ!!うっ!ぐあああっ」

「は、柱間様!ファイトです!!」


以上。便所の前での会話である。



「おい!!替えの包帯はまだか!」

 

「痛み止めの予備は?はあ?そんな数で足りるか!!後六十は作っとけ!!」

 

「何?針が間に合わない?この際縫い針でもいい!!あるもんは使え!!煮沸忘れんなよ!!」

 

響く怒号に、漂う薬品と、血の匂い。

誰に言っているのかわからない「死にたくない」「助けてくれ」。

「生きたい」と言わないあたり、それでも内心では諦めているのかも知れない。

数日前までそんな空間の一部であった少女。芳改め芳枝は出入り口でカタカタと震えていた。

 

(どうしよう、どうしよう)

 

芳枝の懐には書状が一つ。

決して読んではいけないと言われていたものを好奇心から開けてしまって後悔した。

その内容は決して、今この惨状を知る者として渡してはいけないものだと思う。世間的には渡さなければならないということも。

どうすればいいのかわからなくなって、焦燥は不安、不安が恐怖へと変わり芳枝は途方に暮れていた。

 

そんな彼女の横を通ろうとする者が一人。

咄嗟にその人物の着物の端をひっ摑んだ。

驚いた様な表情の後に此方を配慮した笑みを浮かべるその様にボロボロと涙を零しながら芳枝は言った。

 

「どう、しよ・・・かが・・・ま」

 

一瞬キョトンと此方を見てから、同様に入ってきた者に何やら一言二言残して、男・・・鏡間は芳枝を抱き上げた。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――

 

 

 

 

明け方近くなってやっと治療役を終えた鏡間はその足で扉間の書斎に向かっていた。

声をかける間も無く「入れ」と簡潔に指示される。

 

「治療役ご苦労。呼び出してすまんな。」

 

部屋の中は思いのほか暖かく、テーブルの上には湯気の立つ番茶と料理が並んでいた。

おそらく昼の芳枝との依頼書のやりとりからここまで、食事をしていない鏡間への配慮であろう。

扉間が席に着いたのを確認した鏡間も後に続く様に着席し手を合わせ、父が箸をつけたのを見計らって自身も食事を開始した。

扉間もどこで覚えてきたのかそんな行儀の良い息子に苦笑を漏らしつつ、大皿の料理を二人揃って突いた。

 

双方黙々と箸を進めていると、先に食べ終わったらしい扉間が一息つき、口を開いた。

 

「食いながらでいい、聞け」

 

そんな改まった父の様子をまだ咀嚼の終わっていない鏡間は頷きでもって返した。

 

「お前を呼び出したのは他でも無い。昼間の依頼の件だ。」

 

ようやく口の中が空になった鏡間は父から渡された依頼状を見てその秀麗な顔を少しばかりしかめ、書状を父へ返す。

自分を落ち着けるためなのか、番茶を一口呑んで一言。

 

「無理だ。」

 

予想していた答えなのか「お前もそう思うか・・・。」と眉間の皺を伸ばすように手をやって扉間は溜め息を吐いた。

 

「まずこの大名の治める土地だが、部下に秘密裏に探らせた所ここ数年は飢饉が頻発してあちこちで一揆が起きている。故に税収も滞りがちだ・・・あまり考えたくはないが請け負った後に千手か、それとも此処に名を連ねるいずれかの一族が割りを食うことになるだろう事は火を見るより明らか・・・最悪、契約自体が反故になるだろう・・・。」

 

「この間訪ねてきた農民がこの土地の出。故に言質もある。」とまで口にして鏡間の中に苦い思いが広がった。

ここ最近増加の一途を辿っている難民。それが最近では戦火で住処を失った者たちより領主の圧政から逃げてくる農民の方が多くなっていた。鏡間の朧げな記憶にある時代の組合やら相談窓口は当然のごとく無い、そして何より逃げ出そうものなら自らの役目を放棄し国に反したとして死罪か、それでなくとも重罪人として追われる身になる。それも本人どころか一族郎党が、である。

だから彼らは早急に何処か影響力があり且つ強力な庇護を見つけなければならず、こうして千手の様な忍一族に庇護を求めるのである。

そして、庇護下に入ってからは捨てられない様に努力する。庇護する側と庇護される側と言う格差が出来上がる。

なんらかの奇病が流行り出した時でもそれは変わらず、大体はその難民のせいでは無いかと真っ先に疑われてしまうこともザラだ。

 

「・・・そうか、が。そうもいってられん事態になってな・・・。」

 

ガリガリと面倒そうに頭を掻いた扉間がポツリと呟く。

 

「兄者に書状の事が知れた。」

「は・・・。」

 

「あやつ厠の住人と化した重病人ではないか。何故そこまで話が出回っている。」と首を傾げる鏡間。

そんな息子から横に視線をズラして扉間は湯呑みを手に持った。

 

「それがな・・・。」

 

ミシ、ビキ。と不吉な音が湯呑みから聞こえる。

 

「どこぞの族長 (バカ)が儂では承諾せぬことを見越して兄者のいる厠の前で土下座して説得したらしい。」

 

耐え切れなくなった湯呑みは遂にパアアンという小気味良い音を立てて割れた。

 

ここでああそうかと内心で鏡間はひとりごちる。おそらくその馬鹿とはここに滞在中のゾウカの父親の事であろう。

なるほど、だからゾウカとその父親・・・正確には父親の方が此の所強引にすり寄ってくる様になったわけだ、と。

ゾウカの最初の動きが不審すぎて其方にばかり気を取られていたが、確かに父親の方も彼女とは別の方向で千手との関わりを作ろうと必死だった。同盟内容の強化とか、政略結婚の勧めとか。途中でアルテイルの件と今騒ぎになっている病の件が立て続けに入ったのですっかり頭から抜け落ちていた。あの時には既にゾウカの一族を含めた千手以外の一族に話が回っていたとみた方がいいだろう。詰まる所ゾウカの父はなんとしてでも千手をこの戦に出し、牽いては末永く仕えさせるための交渉役だったという訳だ。

と言うことは・・・。

 

「・・・危惧すべきはうちは・・・か?」

 

先程の書状には十を越える一族の名が書き連ねられていた。例え弱小一族の集まりだったとしても数は足りるはずだ。

つまり、それでも千手にどうしても出てもらわねばならないと言うことは・・・自ずと分かってくる。

「しかし・・・。」と鏡間が更に言葉を続けるよりも先に、その断言じみた問いに扉間は緩慢な動作で頷いてみせた。

 

「ああ、そうだ。今はタイミングが悪い。と言うよりまるで仕向けられたかの様に悪いものが重なっている。」

 

現在千手は正体不明の流行り病によって少なくない被害が出ている。

最初はやはりと言うか、難民の誰かが持ち込んだのでは無いかとしていたが感染経路が判明し、皆治療中だ。

よくなるものがいる一方で未だ意識の戻らぬ危篤状態が続いている者もいる。

これにより主戦力の大半は使い物にならなくなっており、更に言えば我らが族長であるあの千手柱間もその病に感染してしまっている。

・・・生死の境をさまよう者がいる中で絶え間ない下痢の衝動ぐらいで収まっている辺り流石としか言いようがないが。

 

「・・・まあ、父上ではなく伯父上に情に訴える作戦に出た辺り小癪な奴よな。」

 

「珍しく父ではなく娘の方が謝っておったぞ」という返しに鏡間は苦笑いを返した。

部屋だの装飾品だのを見るうちにもしかしたらといくつか目星をつけていたが、まさか(前世からすれば)あんな大物がそんな風に頭を下げるなど・・・と思い浮かべ少し笑いが込み上げてくる。言っては悪いが烏合の衆の様な寄せ集めの、それも褒賞内容が払えもしない様な額の金プラスさり気無い家臣にしてやる宣言。そして極め付けに敵陣にうちはという如何にもな泥船案件。押し付けてしまったという罪悪感を抱いて貰うくらいには見知った仲になったという事だろうか。

 

「・・・兄者は這いずってでも行くと意気込んでいたがあの調子では無理だろう。ここは早急に断る旨の書状を「父上、その一件我が預からせてもらう。」おい。」

 

珍しく鏡間に声を荒だてた扉間。そんな長の代理でありながら父として子を案じる姿を見て、そんな彼に鏡間は微笑みでもって返した。

 

「何、どうという事は無い。我も泥船に乗るつもりはないんでな。策・・・と呼べるかわからんが既に考えはある。」

 

ではなと食器を持って下がろうとする鏡間を呼び止めようとした扉間に振り返って一言。

 

「ああ、後ほど白湯と薬を持ってこさせる故、くれぐれもおとなしく寝ているように。」

 

その一言を最後に襖が閉じる。

そんな鏡間の言葉に目を見開いた後、今度は扉間がその顔に苦笑を浮かべた。

 

「・・・ばれておったのか。」

 

 

 

 

 

  □ ■ □

 

 

 

 

 

 

あの手紙の件から数週間後、その日、芳枝は走っていた。

目指す先にいるのはいつも安心感を与えてくれる金髪。

その金髪目掛けて飛び込んだ。

 

「鏡間!!」

 

芳枝の渾身の一撃を難なく受け止めたその人はいつもと変わらない美しい笑顔で、いつもとは違う物々しい甲冑を身に着けていた。

 

「どうした芳。見送りに来てくれたのか?」

 

そんな男の問いにぶんぶんと力一杯首を左右に振る。

 

「ちがっ・・・く、ない。けど・・・そうじゃなく、て。・・・ごめんなさい。」

 

私があんな風に渡したから今こうして目の前の男が戦場に行くことになったのではないか、と実際は仕方のないことでも罪悪感で胸が痛んだ。

 

「・・・ありがとう。だが、我は死なんぞ?秘策もあるしな。」

 

この金平糖を賭けてもいい。と言って懐から金平糖がぎっしりと詰まった巾着を取り出して、渡される。

・・・何故、ただでさえ高級品な甘いものをそれもこんなにたくさん持っているのだろう。

 

「・・・でも、鏡間賭け事弱いだろ。頭領と一緒に賭場に行っても全然稼いでこないじゃん。」

 

そんな自分の声に周りの同じように戦支度をしていた男たちから「確かに!」「一本取られちまったな若頭!!」という声が上がった。

真面目に言っているのになぜ笑うのだろうか。

 

「ぐっ・・・いやその、それとこれは別物という奴でな?ほら、伯父上も賭け事はあれだが戦で負けたことないだろう?」

 

「頭領は頭領だからいいの!!お前は若頭だろ?ダメダメじゃん!!」

 

実のところ芳枝自身は頭領や鏡間の賭け事の腕前も、戦場での功績やら強さやらと言った難しいことはよくわからない。ただ単に何でもいいから理由をつけてこの目の前の男を戦場とかいう怖い場所に取られたくないだけなのだ。

「大丈夫だから」「ダメだ!!」という応酬を繰り返している二人の元に顔を壱と書かれた布で隠したくノ一が姿を現す。

 

「頭、そろそろ刻限です。」

 

その一言を聞いた者たちは先程とは違う硬い雰囲気を纏って規則正しく整列した。

その様をぽかんと見ていた芳枝の頭に何かがポンと乗っけられる。

 

「それじゃ、行ってくる。ああ、それは一応お前に預けておくが・・・食うなよ?」そう言って結局鏡間も行ってしまった。

 

「・・・バッキャローッ早く来ねえと喰っちまうからなあ!!」

 

 

 

 

 

 

「頭。報告が。」

 

先程の壱と書かれた布のくノ一が出発して間もない鏡間に再度声を掛けた。

 

「なんだ。」

 

「は・・・。鮮神(アザガミ)が標的を捕捉。第二段階に移行してよいかとのことです。」

 

「ほう・・・だが少しばかり早いな。・・・せめて我たちが戦場に立った時あたりがベストだろうよ。」

 

神薙(カンナギ)は既に潜入済みです。・・・紗々神(ササガミ)・・・を差し向けますか?」

 

「いや、良い。あやつのことだ。待てと言えば待つだろう。」

 

「承知しました。」

 

そう言って煙すら出さずにくノ一が消えた。

 

「・・・というわけだ。良いな?」

 

そのままの体勢で鏡間が後ろを歩く仲間たちに声を掛ける。

それは先程まで芳枝に向けていた人としての鏡間のそれではなく、その他を率いる者としての千手鏡間のそれであった。

 

『はい。我々侘鏡(タカガミ)は貴方を主と誓った者です。どうぞご随意にお使いください。』

 

いっそ機械的とでもいうかの如く揃った声音と動作で恭しく鏡間に頭を垂れ、そしていつもの仲間に戻った。

 

 

 

  ―――――――――――――――――

 

 

 

 

ぱあん   ぱあんぱあん

 

「・・・やはり多いな。」

 

渦刀で向かってくる敵を減らしつつそう呟いた。

どうやら向こうもそれなりの数の一族を集めた連合軍の様で数が多い。

多い、多いは多いのだが・・・。

 

「何故こうもこちらばかりを狙いに来るのか・・・。」

 

近場で戦っている他の者の元にはこちらの五分の一ほどの敵しか向かっていないようだ。

何故だ、やはりこの容姿故に舐められているのであろうか。

 

「ああ、だが。」

 

「こう障害物のない場所では格好の標的よな」と言いつつ後ろに移動していた敵方の忍の腕を渦刀で破裂させる。自身に向かって振りかぶられていたそれは目的を果たすことなく消え、ただ血をまき散らすシャワーヘッドと化していた。声にならない悲鳴を上げて崩れ落ちるそれの両手足をついでと言わんばかりに爆散させる。

素早くその胴と首だけになった男の首を目線が合うように両手で持ち上げた。

持ち上げられた男は持ち上げられた意図が分からず、やまぬ悲鳴を上げつつ恐怖に悶えている。

         

「ふん。族長自ら他の者を囮にして弱ったところで背後を取ろうとするとはまあ、見下げた根性だ。」

 

その言葉に反応は返ってこない。

既にこちらの言っている言葉を理解することにすら五感を回す余裕がないらしい。

尚も悲鳴を上げ続ける男の傷口を黄色の溶液で覆った後、幾分か余裕の戻ってきた男に再度問いかける。

 

「さて、何故我を狙う?他の奴でも武勲は変わらんだろう?」

 

「・・・。」

 

「どうした?怒りの表情一つでも浮かべてみせよ。」

 

さっきもそうやって感情を高ぶらせるためにわざとらしく侮蔑の言葉を吐いたというのに目の前の男はだんまりである。なんだろう。我に尋問の才能はないのだろうか。

 

「・・・お前らのように何故か我ばかりを狙うものに聞いたことがある。転生、原作修正、改変。貴様もそうか?」

 

「くたばれ。偽物。」

 

取り付く島もなしである。めんどくさいことこの上ない。

 

「偽物・・・と言われてもなあ・・・。」

 

「てめえも俺と一緒のはずだろご同輩よおお!!ぶってんじゃねえ!このゴミクズ野郎おおぉっ!お、ぉ?」

 

どちゃっという腐った生ごみが落ちるような音とともに手元が軽くなる。

その音をまじかで聞いていた相手の男も不思議そうに言葉を切って、一瞬の間の後、絶叫した。

目線を足元にやると、そこには敢えて残していた男の胴部分が無残に転がっている。

そして、おそらく。いや、間違いなくその下手人であろう生首を挟んで向こう側にいる少女が一人。

 

「あれれー?もしかして、お話の途中でしたー?やだー私ったらごめんなさーい。」

 

「・・・お前の持ち場は確か向こうだったはずだが。」

 

「はい。確かに向こうが持ち場だったんですけど・・・頑張って早めにおわしてきちゃいました!!」

 

エッヘンと胸を張る少女に首だけになった男が涙と鼻水を垂らしながら「てめっ・・・何しやがる!!」などと言葉にならない罵詈雑言を喚き散らす。

 

「はあ?気安く話しかけないでくれません?折角の師匠と弟子の感動の再会アーンド会話だっていうのに邪魔しないでください。汚物さん。」

 

さっきの我との会話の時の声は何処に言ったというほどのワントーンどころかそれより二段階ほど下げたドスの利いた声で生首を睨みつける。

 

「・・・このものは手段はどうあれ我に向かってくるだけの気概を見せたのだ。多少の口の悪さくらい多めに見てやれ、あと、汚物はさすがにやめよ。」

 

多少嫌な顔をして渋ったものの「はーい。」と返事が返ってきた。うん。多少問題はあるが本当は素直ないい子・・・。

 

「・・・そうですよね。世の中にはこんな人でも必要として、助かった人もいるんですよね・・・わかりました。汚物はやめて、産業廃棄物に格上げします。」

 

あ、うん。多少じゃない。かなり性格及び社会性に難ありだった。

我が弟子ながらどうしてこうも問題が山積しているのだろう。

深窓の令嬢のような可憐な微笑を浮かべながら、悪魔ですらもっとオブラートに包むであろう毒舌を放つ己が弟子、鮮神涼音(10歳)を見て頭が痛くなった。

 

ちなみに更に備考として奴は見た目に反してかなりの戦闘狂で脳筋である。

どれぐらいかというといくら簡単な作戦を立てても「わかりました。まずここのをぶっ殺して、次に奥の奴をぶっ殺して、それから奥のおじさんをぶっ殺せばいいんですね!!」といい笑顔で言って単身突っ込んでいくくらいには脳筋・・・いや、アホの類である。

多分我の元居た世界であった戦争だとバーサーカーの適性がありそう。一言でいうとヤバい。

こうなった原因は行方不明になった際に狼に育てられたかららしいが・・・この調子じゃ狼も大変だったんだろうな。まあ、獣並みの五感は役に立つ機会が多くて重宝しているが。

そんなことを取り留めもなく考えて現実逃避していると涼音がクイクイと袖を引っ張ってくる。

 

「師匠、師匠。なんかよくわからないのが来ます。具体的にいうと焦げ臭い奴が。」

 

「焦げ臭い?・・・ちょっと待ってろ・・・ああ、なるほど」

 

混じり気のない黒髪に濃紺の装束の一団がこちらへと迫ってくるのが視えた。

とうとう本命の登場らしい。ちらりと涼音に視線をやる。

 

「はーい。現在の向こうの様子を実況しまーす。・・・ええーと、うん。もう標的の目の前です。隣の錫女ちゃんはやる気バリバリで針構えてまーす。団長もうやっちゃっていい?だそうです。あ、近衛兵に見つかっちゃった。」

 

「・・・取り敢えず目撃者と標的を黒の列に加えた後代わってもらえ。」

 

「・・・はーい!」

 

一際元気よく返事をした涼音が「じゃあ私は向こうに連絡とりますんで!退却しまーす!!」とこれまた元気よくその場を飛び跳ねるように去って行った。

それから暫くして件の集団と対面する。

幼い頃伯父から聞いていた通り。確かに面貌も姿勢も何もかもが整っている。

これがうちはかと、感心したわけでは無いが納得した。同時に何故こうも戦続きの中で今迄戦う機会がなかったのか疑問もあるが。

そんなことは今は瑣末なことだ、と思いつつ携帯していた発煙筒の筒に点火し、上空に向けて思い切り投げる。

 

ドオォォォォンッ

 

三尺玉地味たとんでもない爆音とともに赤と白の粉が散らばる。

 

「・・・ちゃんと無色にしろと言ったというに・・・あのたわけめ。」

 

その音を聞いた千手の部隊が撤退して行く。それを不審に思ったらしい敵方の忍たちが追いかけようと態勢を変えるが、そんな事を許すつもりはないので秘密裏にあの金色に輝くゲート・・・・確か記録曰く王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)だったか?からさっきの尋問していた忍含む多数の生首を相手の足元に出現させる。

結果相手方の跳躍しようとした忍たちは無様にすっ転ぶか、悲鳴を上げていた。

うん、驚くよな。正直すまん。

そんな事を心中で唱えていると先頭にいた長い黒髪の・・・あれ?

 

「おい、柱間は何処だ。・・・それともなんだ?お前が殿だとでも言うつもりか?砂利。」

 

「・・・まあ、その様な者だ。正確には少々差異があるが。」

 

外側で平静を保っている様見せかけてはいるものの内心荒れ狂っている。

え?嘘だろ?他人の空似?なんか今対峙してるおっさん見覚え滅茶苦茶あるんだけど。

正確にはミギワを後20年くらい年取らせて顔厳つくして少し老けさせて性転換させた感じ?

お義兄さん?お義父さん?イヤイヤイヤ、イヤイヤイヤイヤイヤイヤ。

ミギワ、ミギワ・・・2回しか会ったことなかったけど可愛い子だったなあ。

もっと早く出会ってればもっと友達らしいことできたんだろうか・・・。

うふふ、あはは・・・はあ。

現実逃避もそれくらいにしてミギワの親族(仮)に意識を向ける。

と、既にこちらに接近していた血気溢れる親族(仮)は強烈なジャブを繰り出した。

掠った頬に切り傷が出来るっていったいどんな拳してんだ。

この親族(仮)の相手をしつつ他の奴らの足止めは流石に骨が折れる・・・と言うか今の我ではまだ無理だろう。

アレもまだ回りきっていないだろうしなあ・・・。

 

『木遁・積木格子』

 

地面から発生した樹木が重なり合いまるで大きなケージの様なステージを形成する。

隙間から出ようとする者には脱出防止用に木が散け、余計に複雑な格子になる為、まず出られない。

更にある封印術との合わせ技もできる優れものだ。

 

「ほう、柱間以外の木遁遣いか・・・が、何のつもりだ。砂利」

 

我の技に感心した様に笑った後、再度鋭い視線がこちらに向けられる。

・・・木遁って伯父上以外出さないの不思議だと思ってたらコスパとか以前に使えんかったのか・・・衝撃の事実が判明した。

 

「何、ほんの少し隔離させて貰っただけよ。」

 

「そこを退け、砂利。俺は柱間に用がある。」

 

そんなこと言われても、親族(仮)の懸想する者は未だ厠の住人である。我で我慢してもらうしかない。

 

「す、すまん。まさか貴様がそこまで頭領を所望するとは・・・」

 

なるべく戦闘は避けたいので物は試しに伯父上の落ち込み方を真似てみる。

え?そんなことしたらぶっ殺されるんじゃないかって?HAHAHA煽って行くスタイルってやつさ!!

 

「は・・・柱・・・間?」

 

おっと、思ったより相手を揺さぶっているらしい。

もうひと押ししてみようとほんの少しの邪心が出てきた。・・・本当ならここら辺でおわした方が正解だったのかもしれないが。

 

「本当にすまない。まさかそんな獲物を選り好みする様な面倒くさい奴だと思わなかったから・・・」

 

「やっぱテメエ柱間だなッ!!」

 

冷静さを失って摑みかかろうとする親族(仮)を必死に「兄さんよく見て!!アイツ変化じゃないよ!柱間じゃないよ!!」と言う親族(仮)その2の言葉にはっとする親族(仮)。

ああ、お遊びで誘導してられるのもここまで「確かに・・・じゃ、じゃあまさか・・・奴の倅!?」

 

Tigeeeeeeeeeッ確かに煽ったの我だよ。でもさ・・・

よく見ろおおおお!あのマダオの要素ひとつもないだろうがあああ!!

オイィィッ親族(仮)その2なんでそんな今気づいたみたいな顔でこっち見てんだあああ!!!

違うからね?我甥っ子だから!マダオの弟の子だから!!

 

・・・訂正すべきだろうか。

 

「期待しているところすまんが「なるほど、それなら奴ほどでなくとも楽しめるかもしれん」

 

what?

 

え?何言ってんのこの人?

 

「さあ行くぞ、柱間の倅!!」

 

凶悪な笑顔とともに火炎が迫ってきた。

ひ、火に油を注いでしまった・・・?

 

「早くしてくれ・・・涼音。」

 

ここから遠く離れた場所にいる弟子を思い浮かべた。

 

 

 

  ―――――――――

 

 

 

 

ガアンッと青い巨人の刀が地面を抉り、切り飛ばしていく。

 

『水遁・水爆連鎖』

 

ボシュウという音を立てて水素爆発を起こした巨人の腕がなくなる。が、次の瞬間には再生する。

 

「厄介だな。」

 

巨人の迫りくる腕を交わしながら呟く。

頭にいくつかの対抗策を練るが尽く時間稼ぎとしては駄作である。

あれをやったらここら一体更地だし、あの族長らしい親族(仮)は助かるかもだが後ろで毒にやられた奴ら軒並み遺体も残らないだろうし・・・どうしたものか。

 

「ははははっうまく避けたな!なら次は・・・これだ!!」

 

そう言って一気に二対の腕全てで斬撃が繰り出される。

 

『口寄せ・三重羅生門』

 

もちろんこれで防げるとは思っていない。

 

『木遁秘術・樹海降誕、縮』

 

蠢くように広がっていく樹木を操作し自分の前方に集中させ、圧縮する。

これが初めての試みだが、無いよりはマシだろう。

 

ズガンッという音とともに我の真横を斬撃が通っていった。

あ、駄目だ。使えねえわコレ。

そう思いながら更に距離をとる。いつまで続くんだこれ。もう我キャラ持たない。疲れた。帰りたい。

 

「師匠ー。順次抜かりなく!終了しました。」

 

救いの一声が聞こえた。ああ、お前はやればできるやつだよ。よくやった!涼音!!

 

「よし、撤退だ。他はどうなっている。」

 

我の隣に着地した涼音に目配せして言うと満面の笑みで応えられる。

 

「はい!既に退却済みです。後は師匠だけかと。」

 

「そうか・・・おい聞けうちはの。我らは撤退する故勝鬨を上げるがよいぞ。」

 

「・・・それを信じると思うか?」

 

戦闘を中断された親族(仮)が不服そうにこちらを見る。

そんな顔をされても困る。・・・目が血走ってる。超逃げたい。

 

「・・・信じるも信じぬも好きにせよ。ただ我の戦う理由は無くなったということだ。」

 

「行くぞ涼音」と傍らの弟子に声をかけると「はーい!!」とかわいらしい返事が返ってきた。

今ばかりは普段は猛獣みたいな問題児が癒し系小動物に見えた。

 

「ではな」と言って煙球を使ってその場を後にする。

後は後方に・・・「待てぇ柱間の倅ぇ」・・・え?

追っかけてくる!?足早!!

 

「・・・我は頭領の倅では無いんだが。」

 

「なん・・・だと・・・。ふ、そうか。では名を教えろ。覚えておいてやる。」

 

嫌だ。絶対にコレ何らかのフラグだよ。立てちゃいけないタイプのやつだよこれ。

具体的にはデッドエンドまっしぐらなやつ。

 

「・・・名乗るほどの「あ゛ぁ?なんだ?千手は名乗りも出来ないような躾のなってねえ連中なのか?」

 

あんた相手だから名乗りたくないんだよ。目えつけられたくないんだよ。わかれよ!

忘れててもらいたいんだよ!!

 

「さあ、名乗れ」

 

でもこの人きっと名乗らない限り帰してくれなそうだ・・・。

あれ?そういえば何か忘れているような・・・。

「師匠、師匠!」と言って涼音が己の手甲を指さす。

あ、マーキング。

 

「先に行け。涼音。」

 

言って、手甲に触れる。

「ふぁ!?」と言って驚愕の表情を浮かべたまま転送されていった。

さて、と。後は・・・。

 

「ほう、それは千手扉間の時空間忍術か・・・益々、面白いやつだ。」

 

ニイィッと凶悪な笑顔がすぐ傍に、恐怖だ。

と内心パニックに陥りつつ袖から火打石大の大きさのあるものを取り出す。

 

「・・・千手鏡間だ。今度こそ失礼するっ」

 

言い終わると同時に手に持っていた火打石大のそれを捻った。

パアンッという音とともに煙が上がる。

 

「うっ。」

 

そのまま我を追撃していた男はバキバキと枝を折りながら木から落下していった。

い、一応成功・・・か?

我がさっき使ったのは父上とともに息抜きとして作ったある死神漫画の「記憶置換」の類似品・・・のようなものだったのだが・・・。

1、2、3・・・這い上がってこないし、一応は成功だろうか・・・いや、改良の余地ありだな。デカすぎるから。

取り敢えず事は済んだ。・・・万全を期して飛雷神で帰るか。

 

 

 

 

 

 

  ―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

ドシャッ

 

「ぐっ!?」

 

飛雷神で辿り着いた場所は父上の寝室・・・というか寝間着だった。

ああ、そういえば父上がどんな状況でも飛んでいけるように寝間着にマーキングしていたんだったか。

父上は・・・気絶してるな。よし。

装備をあらかた外して玄関、風呂の順に飛雷神して自分の部屋に帰る。

予め敷いてあった布団に潜り込んで目を閉じた。

疲れた・・・今日はもう寝よう。

 

早く・・・ラーメンみたいな主人公・・・登場しないかなあ・・・。

 

あ・・・伯父上の知り合いっぽいの・・・名前聞いてない・・・。

 

まあ、いいか・・・。

 

 

 

 

 

この戦で千手を含めた十を超える一族を雇っていた大名が崩御。

その後継として補助を務めていた長男が後を継ごうとするも流行り病にてほどなく病没し、家督は次男が継ぐ運びとなった。

尚、この一件から褒賞こそ受け取ったものの約束であった金額より大幅に減額されていたこと。恒久的専属契約といった契約の一切合切が破棄されたことから先の戦に参加していた一族から抗議の声が上がったが、何故か千手からは何一つとしてそのような苦言は無かったという。

そして、この一件の後。まるで示し合わせたかのように先代の近衛兵たちが姿を消した。




という訳で鏡間とマダラの対面(?)でした。
ちなみに主人公は原作の概要の初期の方しか知らないので創設期の知識はすっからかんです。ミト様とかは友人のキャラクター自慢で覚えていたけれど。

そしてあんまり関係ありませんがこの話で出てきた鮮神だの侘鏡だのは鏡間が秘密裏に編成した私兵部隊。まあ、暗部みたいなものです。
存在を知っているのは鏡間とその部隊の当人たちだけ。
おおまかに鮮神、神薙、紗々神、侘鏡、無神の五つに分けられています。

役割とかはおいおい・・・。まあ、あまり関係してこないんじゃないかなと思います・・・たぶん。


戦闘では敢えてギルガメッシュじみた対応を心掛けている・・・訳ではないのですが酷いので本人としてはあまり知られたくない、見られたくないという設定があったりします。


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オレがうちはだったのは、やっぱり間違いだったらしい。

「え?ミギワのお父さん?」

まだ幼かった時、そんな質問を母にしたことがあった。

「んー・・・かっこいい人・・・だった、気がする。」

気がするってなんだ?仮にも愛しい人なんだろ!?

「ごめんなさいね。思い出そうとするとこう・・・もやがかかったみたいな・・・。うーん、あ。でも強くて、優しくて、純朴だけどそれを表に出せない・・・みたいな?。見た目は・・・黒くて、大きくて・・・ヤマアラシ?」

でかいヤマアラシが・・・オレの、父親?
うふふと恋する少女のように赤面して笑う母。あんたほんとは覚えてんじゃねーか?

「で、外見とは裏腹にロマンチストで・・・」

「母さん。その人の職業は。」

「んー?分からない!」

「は?」


あれ?これなんか雲行き妖しくなってきたぞ。

「あ、でもお母さんに忍びとしての修行をつけてくれたのはお父さんだったのよ。とても強くて・・・やめろって言われたけどお母さん勝手に師匠って呼んでたの。だからきっとアウトドア系の人ね!」

「え・・・。」

弟子に手えだしたのか!?俺の父親!?

「じゃ、じゃあ何で別れることになったの?」

「えー・・・と。たしか・・・よく覚えてないんだけど知らないうちにお金渡されてて、会えなくなっちゃった。みたいな?」

・・・それ、態のいい愛人で、手切れ金渡されただけじゃね?

「きっとミギワのためのお金だから。大事に取っておきなさいね。」

この人一人にしちゃだめだ。
そう思いながら「ふーん」と言って膝の上に上がって抱き着くと「あら、可愛いハリネズミ!」と言って抱き締め返してくれた。

母さん・・・ヤマアラシとハリネズミは別モンだよ。



ーーー何かの間違いなんじゃなかろうか。

 

興味本位で尾行していったイズナが見た女の印象はそれだった。

事の始まりは一年と少し前、イズナの兄がある任務に就いたことだ。

内容としては千手柱間の木遁の解析、のようなものである。

ただし、ある一族と親しくなってその秘術の弱点などを聞き出せないかという・・・あまり言いたくはないが色任務的なものだ。

もちろん同じ遺伝情報を持つ千手一族を調べたいところだが残念ながらうちはには殊更警戒しているため探りを入れるにしてもまず候補からは外される。

次に泥遁とやらを操る一族・・・は完全に雲隠れしているようで無しになり、次に目を付けたのが眉唾物のチャクラを使わずに土遁を行使できる一族の噂だった。

 

いい機会だからと、何故かその諜報任務はイズナではなく兄が行くことになった。

休戦期間とはいえイズナは何故交渉事どころか対人関係が苦手な兄が行かねばならないのか納得がいかなかった。が、我慢した。何故か周りは乗り気だったからだ。

そして、我慢に我慢を重ねていたある日。当初乗り気だった周囲がにわかに騒ぎ始めた。

曰く、兄が諜報相手の女に骨抜きにされ、絆されかかっている。と。

このときイズナの兄は丁度集落の中でも評判の良い娘との縁談が来ていて、兄自身は乗り気ではなかったが、古参含め上の世代が特に躍起になって進めていた。だからこそ逆に乗り気ではない要素として何があるのかという調査の元、この任務が露見したわけだが。

集落から出た一団をつけていたイズナは、当初はあの硬派の兄を骨抜きにするとかどんな悪女かと、自分の中にある悪い女のイメージを膨らませて意気揚々(きっと大半は兄の恋人(偽)に対する好奇心だろうが)と、されど女一人相手にこんな人数いるのかという疑問を抱えながら現地に向かう事となった。

逸る一団より離れたところから、その女が頻繁に利用するらしい茶屋の前で待ち伏せる。

驚くべきはここからである。

イズナは宿に出入りする女を見てアイツか?それともアイツ?と仕切りに睨みつけるかの様に視線を変えていた。

一際派手な女が通った時、それとは全く別方向に集団が動き出したので慌ててイズナもその後を追う。と、囲まれていたのはさっきの様な派手な女ではなく、自分よりも明らかに年下であろう、女どころか少女と言っても差し支えないくらいの子供だった。

え゛ッとイズナの中に衝撃が走る。

少女の年齢は多く見積もって16くらいだ・・・きっともう少し年下だろうが。

顔は流石というか、あどけなさが色濃く残っていて、されど背筋の凍る様な美しさが混ざった綺麗な顔立ちをしている。今は美少女だか、将来は恐ろしいほどの美女になるだろう。

が、そこから下に視線を滑らせると殆どが着物で覆われているものの、そこから出ている首も、手も、足も。全て白くて細い。少し力を加えたら折れそうな雰囲気で、正直触るのが怖い。

まだ未発達な、否。発展途上な幼い肢体だと言うことが目に見えて分かるものだ。

 

ーーー嘘でしょ・・・?

 

イズナはそんな少女に詰め寄って行く大人げない仲間を尻目に、ただ呆然と立ち尽くしたままだ。

 

ーーーあんな小さい子が、兄さんの相手?え?あんなチンチクリンが?

 

腹の中で渦巻く気持ちの悪い何か。その何かを「いや、任務だし、仕方ないよね?」などと思い込んでなんとかその衝撃に蓋をしようとするもなかなかそうは行かない。イズナだって人間である。流石に感情を抑えるにも限度があるのだ。

そんな風にわなわなと震えていたイズナはふと時折帰ってくる兄が大事そうに持っている手紙の内容をちらりと見てしまった時、まるで師弟関係を結んでいるかの様な内容が書かれていたのを思い出す。

あれが今目の前にいる少女とのやり取りだとするれば・・・益々顔が青くなった。

自身の尊敬していた兄が、実はロリコンで、且つ紫の上みたいなのを狙っているのではないかと言う疑惑が浮上する。

いや、まさかあの硬派な兄が本当に弟子?に手を出したりはしていないだろう、と。

そう、信じたい。・・・ここのところの兄の様子を見るに不安しかないが。

こんな任務を平気で実行している兄が信じられず、そんな事を平気でしてこいと言う周囲が信じられない。

大名やら位の高い者が若い娘を側室や後妻としている歳の差婚の例は知っていた。

が、実際に身近なところで、しかも真っ当なお付き合いではない世で言う結婚詐欺染みたことを、この年端も行かぬ少女にしてしまったと思うと一族第一のイズナもさすがに申し訳なさが先立った。そして、その加害者が兄だということに受け入れがたい何かが胸中に渦巻いてくる。

唐突に何かがせり上げてきて思わず口を覆う。

 

気持ち悪い、気持ち悪いきもちわるいきもちわるい

 

そんなイズナに気付いたのか、誰かが「大丈夫ですか?」と言って手拭いを差し出してくれた。

 

「あ、ありがとう・・・。」

 

そして、その人物・・・名も知らぬ少女の顔を見たが最後、イズナは卒倒した。

 

結局イズナが目を覚ましたのは集落に戻った後。

その時に渋る少女を幻術に掛けて一方的に別れさせたことを知った。

金も置いてきたから大丈夫だろうと安心したように語って笑っている同胞を見た時、初めてイズナは一族のことが嫌いになって、同時に自身を恥じた。

 

――――これが、後のミギワの母であるミソギとイズナの最初で最後の接触であった。

 

 

 

 

   □ ■ □

 

 

 

 

 

今、うちはの集落はにわかに騒がしくなっていた。

それもそのはず、先の戦で負傷し昏睡状態だった族長が意識を取り戻したからである。

パタパタと絶え間なく廊下を行き来する足音を聞きながらミギワは行儀が悪いのを承知でごろんと大の字に寝転がる。

 

(今日の分の修行も事務処理も終わっちまったし、さて、どうすっかな・・・。)

 

この所ミギワに仕事を斡旋してくるイズナも目が覚めたばかりの族長につきっきりでこちらには来ていない。

やることがない。

そして、ミギワにとってその事実はあまり喜べるものではなかった。

だらけるのが嫌いというわけではない。が、落ち着かないというか、手持無沙汰とでもいうのか・・・。

自分がただ飯喰らいの様で座りが悪いのだ。

イズナにこっそりとそのことを伝えてはいるのだが、そのたびに「そんなことしたら俺が兄さんに怒られちゃう」と困った風に笑うのだ。戦場に出してくれ、それとも自分では役不足なのかと問うと「それはもっとできないかな。例え俺がいいって言ってもきっと兄さんは反対すると思うし・・・俺も兄さんもミギワには幸せになってほしいんだ。それだけ、ミギワが大切なんだよ。聞き分けておくれ。」と言って悲しそうな顔をする。

 

じゃあ本人の意思はどうでもいいのかと言いたかったが、その雨に濡れた子犬の様な雰囲気と表情にミギワはいつも黙ることしかできなくなってしまうのだ。

 

そして、最もムカつくのがミギワとその父親である族長との親子仲を取り持とうとしてくることだ。

四六時中そうした態度を取っていれば当然のように避けるべき対象に認定するところだ。が、この男はそういった手合いではない。

ふとしたときに思い出したかのように言い出すタイプで、普段世話になっていることもあって無下に扱うことが出来ない。

そんなミギワを知ってか知らずか今回の昏睡から回復したその初日に「ミギワも兄さんのお見舞いに行ってあげなよ。そこら辺で摘んだ花でもきっと喜ぶから。」と食えない笑顔で言っていた。

まあ、その初日からここの所ずっと会えていないが。肝心の族長の部屋にも面会謝絶の紙が貼られていたのでそのまま放置していた。

 

「・・・・暇だ。」

 

別に絆されたとかというものではない。このままだとやはり座りが悪いままなので、取り敢えず見舞いという体を借りてイズナに会いに行こうと自身を納得させて立ち上がった。

 

 

 

  ―――――――――――

 

 

 

 

「じゃ、手筈通りよろしく。」

 

「え!?あ、あの・・・」

 

いいからやんなさいよ!!と強く背中を押されてツムギは受け身も取れず、無様に転倒した。

そんなツムギをドンくさいわねーと言ってクスクスと笑うその女は数か月前に族長の縁者の友人だと言って伴場強引に居候することになった、本人曰く難民だそうだ。

この屋敷の、それも限られた範囲内でしか歩き回ることを許されない軟禁状態である代わりにここに滞在することを許された、特例。

何故滞在を許されたのかは世話係の一人に任命されたツムギにも分からない。

他の世話係仲間の間でも彼女のそのよく言えば自由奔放、悪く言えば我儘で非常識な性格に疲弊していた。

族長やその補佐であるイズナ、古参組、そういったお偉方にはお偉方なりの考えがあるのだろうが実際の対応をしている自分たちはもう限界が近い。

今だってそうだ。彼女はどうしても族長やイズナ様に会いたいらしく、外に出たい、手助けをしろと駄々をこねている。

そしてこちらが手出ししないのをいいことに好き勝手暴れまわるのだ。勘弁してほしい。

そんなことを考えながら今回はどうやって彼女をなだめようかと内心で考えているとダンッと強く床を蹴る音が響いた。

 

「ヒッ!?」

 

傍で笑っていた女が情けない悲鳴を上げる。

不思議に思って音のした方に視線を向けると族長様の息女のミギワ様が立っていた。

 

「な、なんであんたがここにいんのよ!!」

 

到底客人としてふさわしくない態度をとっている女には目もくれずミギワはツムギの下に歩いてくる。

と、ツムギの腕を掴んだ。

 

「ちょうどよかった。お前みたいなやつを探してたんだ。」

 

「へ?え?や、あの・・・ええ!?」

 

言うが早いかそのままツムギを引っ張っていってしまった。

 

 

 

「あ、あの!あの、ミギワ様!!」

 

「あ゛ぁ!?」

 

「ひ、あ・・・の・・・わたし、仕事、が」

 

どすの聞いた声に思わず怯んだ様子のツムギを見て、ミギワはばつの悪そうな顔をして目線を逸らした。

 

「あー・・・なんだ、その。悪いな、邪魔しちまって・・・その、頼みたいことがあってよ。」

 

そんなミギワの様子を見てツムギは目を見開く。

周囲が話していたミギワの像と現在自分に謝っている彼女が同一人物だとは思えなかった。

暴力的で女らしさの欠片もない鼻持ちならない女だと兄は言っていたが、きっと、妬みか何かだろう。

だってこんなにも素直に謝ってくれる人を、身内と言えどツムギは見たことがなかった。

確かに髪やらは服装やらは周りと比べるとお世辞にもお洒落とは言えないがそれだけだ。

ツムギの二軒隣のヒビキ姉さんは男兄弟に囲まれて育ったせいか装いは綺麗だが所作が男らしいことで有名だし、それに比べたら背の低いのも手伝って可愛らしい小動物の様(ただしちゃんと女子としての手入れをすれば)だと思う。というかどっからどう見ても小学生くらいにしか見えない。かわいい。

男衆は怖がるか歯噛みするか。女たちはヒソヒソと遠巻きに噂話をしているかだったが、なんでみんな今まで関わろうとしなかったんだろうと、棚上げもいいところだがツムギは不思議に思った。

 

「その・・・花畑とか・・・知らないか?」

 

・・・その見た目とは裏腹の初々しい姿にツムギは乙女として負けた気がした。

 

 

 

  ――――――――

 

 

 

「そう、あ、そっちのほうの茎を軸にたした方が・・・そうそう。」

 

「・・・こうか?難しいな・・・。」

 

「はい!完成だよ。ミギワちゃん。」

 

数刻前までの緊張が嘘のように朗らかな笑顔でツムギが言う。

そんな彼女に「ありがとう。」と言って、照れたのを隠す様にミギワは頬を掻いた。

 

「でもちゃんはやめてくんねーか。なんか、こう、むずむずする。」

 

「え?でも私呼びすてで名前読んだことなくて・・・あとはミギワ様としか変えようが・・・。」

 

「ああ、うん。ちゃんでいいわ。」

 

花冠作りで打ち解けた二人は手探りながらも楽し気に花冠の改良を行う。

何気ない会話の端々から同じだったり全く違ったりする点を見つけるたびに一喜一憂していた。

 

「へえ、イズナ様ってお料理もお出来になるのね・・・すごいわ。比べるのもあれだけれどうちは私と母様以外台所に入ったことすらないもの。」

 

「まあな、族長は台所にたったとこ見たことないからわからねーけど。・・・っと、イズナ叔父さんの作る料理はそこらの宿の飯よりうまいぜ。」

 

 

言いながらミギワは出来上がった花冠に更に(おそらくは)月桂樹のモノであろう小枝を外れないように注意しながら巻き付けていく。そして、巻き付け終わったものから今度は花を摘んでいった。

 

「?わざわざ葉っぱだけ?花は?」

 

ミギワの不思議な行動に首を傾げるツムギ。そんな様子を余所にミギワは様々な角度から花が残っていないか入念にチェックしていた。

 

「んー?ああ、コレ?だってほらこないだの戦、勝ったらしいから。ソレ。」

 

「ふーん?」

 

何故戦に勝ったら肉の臭み消し用の葉を巻き付けることにつながるのだろうか。

よくわからないが、きっと何かしらのこだわりがあるのだろうと思ってツムギは黙認することにした。

 

「でもなんで花無し?」

 

「あー・・・なんだっけ。ええと、なんか花はあんまりよくなかった気がするんだよな・・・忘れたけど。」

 

良し!と言ってガバッとミギワが立ち上がる。

 

「ありがとうな、ツムギ。助かったよ。」

 

「ええ、お役に立てたようで何より。ミギワも頑張って作ったんだから、きっと相手も喜ぶわ!」

 

そんな何気なく言ったツムギの一言に、一瞬身を強張らせたミギワは力なさげに「そうだな」と呟いて笑って見せた。

 

「あ、と、ところで・・・さ。族長の寝所の面会謝絶って、いつ頃解除されるかとかは・・・」

 

「?ああ!そういう事!ええっと、確かもう今朝にはなかったけど・・・たぶんもういないんじゃないかしら。次の戦相手が千手だってわかったから今頃念には念を入れて会合中よ。きっと集会場ね。」

 

「集会場・・・わかった。行ってみる。」

 

このとき、その変化を気に留めなかったことを、そして何より彼女を引き留めなかったことを、ツムギは後悔することとなる。

 

 

 

 

 

  ―――――――――

 

 

 

 

 

「・・・では、やはりミギワ嬢に戦場に立ってもらう他ありませんな。」

 

皆もよろしいな?と古参のうちの一人が言うと輪の中の数人が頷く、イズナを含む半数は渋い顔をしたままだ。

 

「だがのう・・・。ちいとばかり早計過ぎやせんか?戦力不足とは言え初陣が最前線・・・それも千手相手に変化しているとはいえ年頃のおなごを出すなど・・・生き急ぐどころの話では済まされんぞ。」

 

第一折角手に入れたあの力、余所にやるにもなくすにも惜しい。と髭を蓄えた翁が言う。

その言葉にまたも周囲がううむと唸った。

 

「しかし、ミギワ様のあの潜在能力は素晴らしい!!族長の影の件は誰かに変化させて代役を立てさせましょう。ミギワ様は最前線ではなく後方支援から始めさせて、慣れてきたら前線に出ていただくのがよろしいのでは?」

 

ミギワの体術の指南役をしている初老の男がいきいきと意見する。

 

「・・・俺は反対です。あの子・・・ミギワはまだ実戦に出せるような力は持っていない。出したところで・・・。」

 

「出したところで?はっ。死ぬでしょうなあ。ああ、それとも能力を見込まれて捕虜になるかも・・・それがどうしました?」

 

ばっと手に持っていた扇子を開きながら男が鼻で笑った。

 

「あ、あなた何い「願ったり叶ったりでしょう?」!?」

 

イズナの意見は、再度発せられた男の声で掻き消された。

何を言ってるんだこの男は、とイズナは頭が真っ白になった。

 

「いえねえ。私情を挟むわけじゃありませんが・・・ここ最近の彼女は特に目に余る。こそこそこそこそ、それこそネズミか何かのように・・・私にはうちはを探る不届き者にしかみえませんなあ?」

 

「それに彼女、戦に出させろと言ったそうじゃないですか。本当に我らのためを思っているというのなら、その命を投げ打っていただくというのも、ほら、うちはのためじゃありませんか!!」

 

 

まるで演劇のようにわざとらしくその男の取り巻きらしい男たちがこぞってしゃべり、唾が飛んだ。

そのあまりにも身勝手な内容にイズナはわなわなと怒りから震えが止まらなくなった。

が、その直後に周りを凍てつかせるかのような一言がイズナの後ろから発せられる。

 

「言いたいことは、それだけか。」

 

地を這うかのような低く底冷えのする声の方には、族長。うちはマダラが立っていた。

 

「お、おお。族長様。体調はもうよろしいんで」

 

「もう少し休んでいたほうが・・・。」

 

途端に兄にすり寄るかのように態度を軟化させた男らを見て、またイズナの中の苛立ちが首をもたげる。

ここの所続いている会合に、イズナはマダラの代理として出席している訳だが、なかなか話が進まない。

足の引っ張り合いばかり、これならまだ寺子屋に通っている子供たちの集会の方が立派なんじゃないかとすら思えてきた。

そして、そんな会合を継続しなくてはならない原因の一端である扇子の男はぱちりと扇子を閉じて置くと、これまた余計な口を開いた。

 

「族長様も族長様です。貴方がしっかりしていれば今頃はこんなことにならずにうちの娘と・・・!」

 

「族長様はお優しいですからなあ。例え任務だったと言えどあのような女狐から生まれた半端ものでも見捨てられないのでしょうよ。血の流出を抑えるためにしても、あんな娘を今日まで育ててきたのだから。」

 

よよよとわざとらしく泣く男と便乗する取り巻き。そも、何故そんな奴がいまだに上役にいるのであろうか。

イズナは、そもそも兄さんを嵌めるためにあんな任務に就かせたのはお前で、娘の妊娠期間を間違えて不貞をごまかせなくなったのもお前が原因だろうが。と、私怨が駄々洩れになっている男に内心で毒づいた。

もっともその失態のおかげで兄が托卵されなくて済んだのだから、そこだけは相手の馬鹿さ加減になら感謝してもいいが。

 

―――本当に、なんであんな女が良くて、あの子が駄目だったんだろう。

 

思い出すのは今は遠い、過去の噺。

イズナが拒絶し、振り返りもしなかった兄と少女の事。

今でも鮮明に覚えている中途半端な始まりと終わり。

 

 

 

『大丈夫ですか。』

 

差し出された手拭いと可愛らしい笑顔。

 

 

  場面が切り替わる。

 

 

『母は、死にました。』

 

兄に似た顔に、少女と同じ色の眼の童女がぽつりと言った。

床板を捲ったその下にあったのは―――。

 

・・・少女がもう来ないことを知らずに任務の合間を縫って会いに行っていた兄の姿も、今でもはっきり覚えている。

 

 

 

「イズナ。」

 

すぐ傍で自分を呼ぶ声がして意識を戻した。

 

「念のため廊下と縁側見てきてくれ。こないだのもどきみたいな奴がここにこないとも限らねえ。」

 

そう言った兄の顔は冷静さを保っているが、その目の奥には明確な殺意とも憎悪ともとれるような炎が浮かんでいた。・・・写輪眼にならないだけまだ自制心が働いているとみていいのだろうか。

よくよく周りを見てみると先程まで渋っていたり、逆にミギワを経験を積むようにと押していた面子も写輪眼が発動している。

イズナはこれから起こるであろう出来事を予測してこくりと頷くと、まず縁側へと歩を進めた。

途端にふわりと、何処かで嗅いだことがあるような匂いとともに一陣の風が吹き抜ける。

 

「・・・?」

 

足元に落ちている花に目がいく。

その小さな薄黄色の花は縁側から見える庭には見当たらない品種だ。

摘まみ上げてみる、そこでやっとそれが月桂樹の花であることを思い出した。

 

―――なんでこんなところに?

 

 

そんなことを考えた時。向こう・・・門前が何やら騒がしくなった。

  

 

 

 

  ――――――――――――

 

 

 

 

「ミギワちゃーん!どこー?」

 

ツムギはきょろきょろと周りを見渡すもそれらしき人物はいない。

 

「ミギワちゃーん!!」

 

花畑から帰った後、作りすぎたおはぎをおすそ分けしようとミギワを探しているのだが一向に見つからない。

用のある時以外はあまり行きたくないのだが、集会場にまで顔を出すことにした。

 

「ギャッ!ちょっと誰よ!こんなところに・・・こんなもの!」

 

既に反射レベルで苛立ちの募る声と、ぐしゃりと何かが踏みつぶされる音に振り返る。

と、そこには此処にいるはずのない客人の女と無残に踏みつぶされている花冠があった。

花とはまた別にあの葉がついている、ミギワの作った花冠だ。

それを視認してからのツムギは早かった。

 

「何してくれてんだテメエ!!」

 

普段からは考えられない口調と声量で発せられた声を皮切りに、突進するかの如く女の方に走っていく。

いつもの様子とは違うツムギの様子に怯んだ女。その足を払って転ばせる。

すっ転んだ女の上に馬乗りになったツムギは「ミギワちゃんを何処にやったっ返せやゴラァ!!」と言って女の返答も待たず、感情のまま殴りつける。

 

「げふっちょ!ぐがっ」

 

「オラオラオラァ!吐け!今すぐ吐けやあぁ!!」

 

女を傷つけるなという命が出されていた気もするがそんなこと知ったことではない。

あんなに頑張っていたのに!あんなにあんなに、あんなに!!

それをこの女は!とドロドロの黒い沼地みたいなものがツムギの中で溢れていく。

普段女の前では自制に自制を重ねていたのでそれも相成ってツムギは何もかもがハイになっていた。

例え殴りすぎて顔面が血だらけになろうが相手の化粧が剥げ様が、自分の拳が傷つこうが止めなかった。

・・・たぶん、この女を見ていると父親と姉を思い出して更に容赦がなくなっているのかもしれない。

 

殴り続けていた拳は後ろから来た誰かの手に掴まれたことにより停止させられる。

 

「はい、ちょっと落ち着こうか。」

 

ぎろりと振り返った先にはイズナと、族長と古参勢と・・・ボコボコにされたツムギの父の姿があった。

そこでようやく沈静化したツムギは女からどいて着物を直し、返り血で血まみれになりながら微笑んだ。

 

「あら、族長様にイズナ様。それに皆様も、お騒がせしてしまい申し訳ありません。」

 

「今場所を変えます故。」と言って尚も逃げ出そうと這う女の首根っこを掴み上げる。

 

「ま、まぢなざい。」とボロボロの父がまるで縋るかのようにツムギに寄っていこうとする。

しかし、そんな男の様子に今気づきましたとでも言うかのようにツムギは冷たい目を向けた。

 

「あら、まあ。今度は何をなされたの?・・・お父様(ゴミ虫が)。」

 

そんな、集落の中でも物静かで嫁にするならこの娘だろうという話に必ずと言っていいほど名の上がるツムギからは到底発されないような罵りに周囲はぎょっとしていたがイズナだけは耐えきれないと言わんばかりに吹き出した。

 

「ご、ごみっ・・・ごみ虫っははっ!!」

 

そんな周りを置いてけぼりにして取り敢えずと女を適当に其処ら辺に放ってから、ツムギはマダラとイズナの方を向き、いすまいを正すと・・・土下座した。

 

「十数年前のことと言い、今回と言い申し訳ありません。おそらく今回のことで母も母の生家もこの男とは縁を切るでしょう・・・好きにして頂いて構いません。・・・本当に申し訳ありませんでした。」

 

尚も頭を下げ続ける娘の姿に他と同様に呆気に取られていたツムギの父・・・会合で私怨たっぷりにミギワを貶してマダラを含む数人に袋叩きにされた男は震える声で尋ねる。

 

「じゅ、十数年前って・・・お前、何を・・・」

 

「・・・お前は、真相を知っていたのか。」

 

険しい顔で言うマダラにツムギは首を振った。

 

「いいえ。ですが、母が何処かに謝りに行っていたことと、陰ながら泣いていたことは幼心に覚えています。」

 

ヒステリックに泣き叫び、当たり散らす姉と、そんな姉をなだめようとして母に怒鳴り散らす父。

そんな荒れた環境の中で母は、ツムギにひたすら謝罪の言葉と「お前はああいう風になってはだめよ。」という言葉をことあるごとに、それこそ暗示のように言っていた。

姉を無理矢理不貞を働いていた男の家に押し込めた後は謝罪の日々。

ツムギにとっては幸いというか、友達がいなくなったりとか、いじめにあったりとかは奇跡的に無かったが、母の帰宅してきたときの様相は酷いものだった。もちろん、周囲の大人たちの眼も。

ずぶ濡れになっていたり、日によっては何かを投げられたのか額が切れて出血していたことすらある。

後から知ったのだが、その発端となった出来事にはツムギの家以外にも様々な家が共謀していて、失脚したらしい。そして、当時の族長の長男だった肝心の当人には謝るどころか会う事すらできなかったとも。

そんな母とは引き換え、父親は謝りに行くことなど終ぞなく。自身の今後の心配ばかりしていた。

そんなことをしておいて、現在まで何故か嫁を貰っていない族長の嫁にとツムギを押そうとしているのだから本当に、救いようがないとツムギは思う。

目に見えて生活は破綻していたのにも関わらず、そんな男とは離縁しろという実家にもう一度だけチャンスをと言った母のおかげで父は母の生家の後ろ盾を失わずに済んだ。・・・まあ、その後。その母の愛に胡坐をかいていた男に現在は母も見切りをつけているようだが。

 

「・・・あーと、ちょっといい?そもそもなんで君、ここに?」

 

気まずそうにイズナが話に入ってくる。

その手に持たれた花を見てツムギは改めて我に返った。

 

「あ、申し訳ありません。実はミギワ様にこれを・・・あら?」

 

残念ながら彼女の持ってきたおはぎの入った重箱は、女を殴るときに放り投げられ無残な姿を晒していた。

落ち込む彼女にイズナが首を傾げた。

 

「?ミギワに?ミギワなら家にいるんじゃ・・・?」

 

「え?いえ。族長の見舞いにと花冠を作られて・・・そのまま集会場に言ったとばかり・・・。そうしたらこの者がミギワ様の御作りになられた花冠を潰していたのですもの。カッとなってしまって。」

 

言って道に転がった無残に潰された花冠に目が集まる。

 

イズナは知らず蒼白になっていた。

嫌な汗が頬を伝う。

 

「・・・今すぐみんなを招集しよう。」

 

―――もし、あの会話をミギワが聞いていたのだとしたら。

 

「ミギワが、集落を出たかもしれない!!」

 

 

 

 

 

 

結局、ミギワは見つからなかった。

 

そんな彼女の部屋には綺麗に畳まれたうちはの装束と、多額の金の入った袋。

 

『今までお世話になりました。お金、お返しします。』

という簡素なメモのみが置かれており。

 

彼女の数少ない私物の中から何やら一際大事にしていた箱のみが無くなっていた。

 

 

 

 

 

 

   □ ■ □

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・・はぁ・・・・ぐっっ」

 

木に寄りかかって、ズルズルとそのまま蹲る。

 

脚から零れ落ち、広がっていく血だまりをぼんやりと見つめた後。

ミギワは視線を空に向けて、そのまま寝転がった。

 

切れた場所が悪かったのか、既に足の感覚はない。

チャラリと金属の擦れる音が聞こえ、ああそういえば忘れていたと自身の脚に巻き付けていた不可視の鎖を解いた。鎖を解いた足はドシャリと土嚢か何かのように無様に倒れる。

一応繋がってはいるが、現状歩くのは無理だろう。もう一度鎖を巻き直せば動かすことなど簡単だがそうしてまで動きたいと思えなかった。

 

 

―――まさか、あそこに設置型の連携トラップがあるとはな・・・。

 

普段の彼女なら踏まないドジであろうが、今彼女は自暴自棄になっていた。

失血のためか、徐々に薄れていく意識の中で思う。

 

―――オレ、何のために生きているのだろう。

 

会合で盗み聞いた会話を思い返して、思う。

 

任務、血の流出。一族のため。

 

―――オレ(わたし)、何のために生まれてきたの?

 

相手を憎む気力も、もう湧かない。

そも、誰を恨めばいいのかもわからない。

父親か?それともうちはの上役たちか?それともうちはそのもの?

 

―――だめだ。もう疲れた。

 

愛されていたわけじゃなかった。

 

必要とされていたわけじゃなかった。

 

そもそも、存在すら。本当は許されてなどいなかった。

 

 

『優しい世界でありますように』

 

 

幼い頃の、唯一の綺麗なものが思い出される。

きっとこれが走馬灯という奴だろうか。

現実(そこ)には何もないと知っていながらも、手を伸ばした。

 

「あ、かが、み。」

 

ま、と呟いて。手がそのまま宙を切る。

 

ぽろりと何かが顔を伝った。

ミギワは、泣いていた。

 

―――そうか。

 

そのまま胎児のように背中を丸める

 

「オレ、助けてほしかったんだ。」

 

平穏をくれる誰かを、探していた。

もう、遅いだろうが。

 

「助けてくれ、鏡間。」

 

今更何言ってるんだかと自嘲して、更に丸くなる。

 

―――きっと、最期ぐらい、いい夢が見れると思うんだ。

 

重くなった瞼に逆らわず、ゆっくりと瞳を閉じていく。

 

 

 

 

 

 

「・・・言うのが遅いぞ。ミギワ。」

 

意識を完全に飛ばした彼女の身体を抱えてその人物はその場を後にした。

 




家出直前ー自室にて。

「遺骨、持った。ワッパ、持った。水筒、持った。ん?なんだこれ?」

袋を開けると大量の・・・札束。

「・・・。」

無言で袋を閉じた。

「お世話になりました。・・・と」



ちらりと袋を見る。

「やっぱり手切れ金だったんじゃねーか。」


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捕虜とか・・・何か違う、らしい。

「・・・おい、鏡間。それ(・・)はなんだ。」

 

父からの問いに慌てたそぶりもなく資料を持った鏡間が首を傾げて言った。

父親・・・扉間の視線は息子・・・ではなく、その首と両脇でがっちり固定された手足。

牽いてはそのおんぶの様な格好で息子にへばりついている黒い毛玉に向けられていた。

 

「?先日の調査の際に拾った者だ。名前はミギワ。」

 

父上もその場にいただろう?と平然と言う息子の姿に扉間は頭を抱えそうになった。

 

「そんな事は分かっておる。儂が聞きたいのは、確かそいつは忍で、捕虜として牢に入れていた筈だが、何故ここにいるのかと言う事だ。」

 

「いや、それがなあ・・・我以外の者が出した食事も手をつけずお手上げ状態だからどうにかしてくれと牢番に泣き付かれてな。」

 

こうして制限をつける事で俺が連れ歩く様引き取った。と言って鏡間、正確にはその指示を受けたミギワは扉間に向かって封印式の描かれた四肢と、同じく封印式を描かれた目隠しをした顔を見せつける。

・・・とは言っても、顔そのものは長すぎる前髪に覆われていて確認できないのだが。

 

「・・・はあ。お前と言い兄者と言い甘過ぎる。」

 

こんな七つに届くかどうかの童でも、お前と同じように死線を潜り抜けてきたのだぞ。と内心で扉間がひとりごちる。

このくらいの幼子に対して柱間も鏡間も手心を加えることが多々あった。

その気持ちそのものは悪いものだとは言わない。実際、扉間だって子供が死ななくていい世を目指しているのだ。傷つけなくてよいのならその方がいい。が、今はその夢の途中なのだ、此処で今を背負う兄か、未来を担う息子がその凶刃に倒れることはあってはならない。世に絶対などというものはありはしないのだから。

何度か口を開閉した後、扉間は鏡間への信頼故に、奴にも何か考えがあるのだろうと思い直して口を閉じた。

 

「心配しているところ済まないが、こやつは我を傷つけたりはせんぞ?」

 

なあ、ミギワ。というとその毛玉はブンブンと思い切り首を振って頷き、鏡間にスリスリとすり寄って尚更強く抱き着く始末である。危険因子寄りの不確定要素を大切な息子の傍に置いておくというのは扉間としてはこの上なく面白くないことなのであった。

 

―――まあ、儂が表面上の監視役として立ち回っておけばそう自棄は起こすまい。

 

「そこまで言うのならお前に一任しよう。が、・・・くれぐれも絆されるなよ。鏡間。」

 

―――どうあっても現状は敵であることに違いはないのだから。

 

後ろ手に襖を閉めた。

 

 

 

 

 

  □ ■ □

 

 

 

 

 

 

 

「すまんが厨房を使わせてもらえんか。」

 

「あら!誰かと思ったら鏡間様じゃないですか!」

 

「どうぞどうぞ!」

 

勝手口から聞こえた声に会合で出される料理を作り終わったところのらしい侍女たちが色めき立った。

色めき立つとは言うものの此処にいるのは若くても30を過ぎた頃。大体は40から60前後の世代のもので、恋愛的なものではなくアイドルと追っかけの様な、それでいて親戚の子供が見ない間にずいぶん成長したね的なものである。

 

「それで今日は一体何をお作りで?」

 

「よろしければお手伝いしましょうか?」

 

「・・・鏡坊。そっちの小さいの、こっちゃ来い。」

 

小さいのと呼ばれたミギワは殊更ギュッと鏡間を握る手足に力を込める。

そんな小さな身体が強張るのを感じ取った鏡間は、その手をぎゅっと握るとそのまま最古参の老婆の元に歩いていった。

老婆の皺だらけの手がミギワの顔に伸びてその髪を撫でた。

 

「ほおう。お前さん・・・なるほどねえ。鏡坊が気に掛けるのもわかる。」

 

皺だらけの顔を綻ばせると、何やら他の女たちに指示を出していく。

 

「まあ、食いモン作るにしても時間は掛かる。その間この子にお湯を使わせておやり。」

 

集まってくる侍女に再度ミギワが震えるも「安心しなされ。この者たちは戦場に出たりなどしておらんよ」という一言を聞き届けるとほぼ同時にミギワは湯殿へと連れていかれてしまった。

 

「さあて、こっちも取り掛かるとしようか。」

 

「?そこまでしな「あんたまさかあの子に重湯作るつもりじゃなかろうね?」

 

「あんたがあの子を連れてきて三日。確かに空の胃にはよいだろうが何も味の無いものを子供に食べさすんじゃないよ!!」

 

「・・・というのは冗談でね。」ひっひと老婆は笑う。嗤う。

笑いながら出してきた材料は

大麦、セモリナ粉、蜂蜜、卵、リコッタチーズ(だと思われる塊)。

 

「これで粥でも作ってみようかねえ?きっと面白いものがみれるよお」

 

「」

 

ニヤニヤと笑う老婆をみて変なものを入れないか注意しなくてはと鏡間は決意した。

 

 

 

――――――――

 

 

 

「さあさ、怖くないわよ」

 

「お風呂に入って綺麗になりましょうね」

 

にこにこと笑う侍女たちにひん剥かれていくミギワ。

なんだこいつら超怖い。

今までどこに行っても放置、且つ嫌悪されて生きてきたミギワは、いまだかつてないほどの恐怖に戦慄していた。

 

「べ、別に「あら、駄目よ!これから食事なのにそんな恰好じゃ。」

 

「そうそう!うちの子も泥だらけで~」

 

「い、いやあのだかっっひっ!」

 

話が通じない。鏡間助けて。

そんな願いも虚しく入浴は粛々と、その後の着替えは着せ替え人形の如く進んでいった。

 

ミギワが解放された頃には夕餉の時刻となっていた。

 

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

 

「きっと鏡間様も驚くわよ~」

 

「失礼しまーす!」

 

「入れ。」と短い返答の後に侍女に手を引かれて台所ではなく座敷へと入る。

生まれて初めて着た女ものの服は重すぎて、結われた髪も重い。

正直言って具合が悪い。よくこんな格好で過ごしてられるなと周りの侍女やらいままで会ってきた女たちを思い出してミギワは素直に称賛を送りたくなった。

 

「お、女子(おなご)だったのか・・・!」

 

「・・・もっとしゃんとしろ兄者。馬鹿っぽく見え・・・いや、もう手遅れだったな。」

 

鏡間以外の、外野のやり取り。

驚きを素直に表現する鏡間の伯父・・・らしい千手柱間とかいう奴と、これは信じられないが鏡間の父親らしい千手扉間とかいう二人。

確か、ミギワの前世の記憶の中ではそれぞれが初代、二代目火影に襲名した猛者だったはずだ。

何の因果かうちはの族長筋の家系に生まれてしまって以降、ただ流されるままに生きてきた今のミギワにとってはどうでもいいことではあるのだが、正直親しいものの身内にはいてほしくない人物だ。いろんな意味で。

扉間は柱間とは対照的に驚いたのは本当に一瞬で、すぐに隠してしまった。

たとえ兄弟でもここまで違いが出るものなのかとテコテコと鏡間の方に歩きながら関心を向ける。

その様は裏表など全くなさそうで、良くも悪くもストレートといった所か。

何かと含みのある自身の集落の連中、更には一応肉親だった二人を思い出しふう、と息を吐く。

自身の父に当たる人物は決して人前でああも開けっ広げに自身の心の内を語るようなことも、馬鹿みたいに笑うこともない。

自身の叔父にあたる人物は決して人前で誰かを叱りつけたりなどせず、明るく周囲を元気づけるような人だ。

尤も、前者は冷たい怖いと言った印象を受けがちだが、そのくせ(母や自分のことは抜きにして)誰よりも優しく傷つきやすい思春期男子みたいなところのあるメンドクサイおっさんであるし、後者はそんなムードメーカー役の裏側で常に何やら一族やら兄さんやらのために策謀を巡らせているとんでもねえ腹黒である。更にこの二人、一度火が付いたら止まらないという共通点が存在する。めんどくさいことこの上ない。

 

そんなことを考えながら鏡間に近づいていくと、ポンポンと隣に敷かれた座布団を叩いていた。

前には周囲とは異なる膳が置かれている。なるほど、そこがミギワの座る席らしい。

が、それよりもこんなに(主に着飾られる)苦労してここまでやってきたのだ、何か一言あってもいいんじゃないか?と不満に思ったミギワは鏡間の顔を凝視する。主に褒めろ的な意味合いで。

じっと見つめあった末。意図が分かったらしい鏡間がへにゃりと笑った。

 

「可愛いな。よく似合っている。」

 

ザクリ  心に何か刺さった気がする。クリティカルヒット。

喜びも束の間。ミギワは撤回を要求するために懸命に小さな手で彼の座っている座布団を引いた。

確かにうれしい。うれしいけどなんか違う。

うちはミギワ、外見年齢小学生。実年齢18歳は背伸びがしたい年頃だったのだ。

・・・いや、実際は背伸びとか以前の問題なのだけれども。

 

そんな夫婦漫才的な掛け合いを繰り広げていると隣から声を掛けられた。

 

「げんきがいいねえ?ひっひひっ」

 

その不気味なまでの雰囲気と声に思わず飛び上がったミギワはまるでモモンガのようにシャッと鏡間の腕に飛びついた。

そこに立っていたのは厨房にいた老婆であった。

 

「怖がらせるでない、婆。ミギワ、もう大丈夫だぞ。ほら、厨房であった婆だ。」

 

そう言って鏡間が腕を座布団までもっていく。

 

・・・降りない。

 

足が着くように関節を折り曲げるとシュッと物凄い速さで腹に抱き着いてくる。

相当恐怖だったらしい。

 

「このまま食べるか?」

 

腹越しにこくりとミギワが頷いたのを確認した鏡間は「わかった。」と短く返事を返した後おもむろに彼女のわき腹を掴む。「ひえっ」とおかしな声を上げて拘束が緩んだすきにぐるりと膝の上で彼女を半回転させて再度膳に向けて座らせた。見事な手腕だが、絵面的にも手段的にもアウト。現代ならセクハラ案件である。

余程恥ずかしかったらしいミギワはむーっとむくれているが、当の実行犯である鏡間はそんなことは意に返さず伯父と父に向けて珍しく満面の笑顔を向けていた。なんかこう・・・珍しい猫捕まえたよ的な・・・。

 

「ひっひ、さあお食べ。あたしと鏡坊特製の・・・『キュケオーン』をねえ・・・。」

 

パカリと大きな椀を開けたと同時に先程まで忙しなく動いていたミギワがビシリと固まる。

その椀の中に広がっていたのはクリーム色のスープ・・・否、甘い香りの漂う粥であった。

口を両手で覆ってブンブンと首を振る彼女の様子に「おや?ふうむ」とわざとらしく考えたふりをした老婆は「鏡坊。食べさせておやり。」と言って鏡間に匙と器をバトンタッチ。

そういう問題じゃねえ!!と内心で叫びつつ鏡間と粥とを交互に見て・・・涙目で拒否を訴える。

 

目の前にはニコニコと笑顔の鏡間。・・・そして、鏡間越しに見える般若みたいな顔した扉間。

 

 食べる

 

→食べない・・・と見せかけて食べる

 

食べるしかねえ!?

・・・今日、改めてミギワは世の理不尽を知った。

 

 

結局キュケオーンはおいしく頂きました。

尚、ロシアンルーレット式だったため。あの場にいた老婆と鏡間、ミギワ以外はもれなくおなかを下してお粥不信になったそうです。

 

 

 

  □ ■ □

 

 

 

「キャンキャン!!」

 

ヒュ ファサ  ヒュ ファサ

 

牢屋の中に一人と一匹。

 

遊んでいるように見えるがそれは犬だけで、ミギワ自身は犬から髪を守ろうと割と真面目に相手にしている。

何処から迷い込んできたのか、土やら木の枝やらがくっついているきったない毛玉の様な犬だ。

潤んだ瞳でまるで捨てないでとでも訴えかけてくるかのような、狡い子犬である。

食事が終わって牢に戻った時には既にいた。

 

―――警備手薄過ぎないか?ここ。

 

ミギワは一抹の不安を覚えた。

そんな中でガタリと天井から物音がする。

 

「ん?ああ、此処にいたのか、チョビ。」

 

天井裏から現れたのは鏡間だった。

チョビと呼ばれた子犬は「キャン!」と一つ鳴いてみせる。

 

「ほら、良かったな。飼い主が来たぞ。」

 

「いや、飼い主ではないのだがな。・・・遊んでもらったのか?シーザー。」

 

「おい、名前変わってんぞ。」

 

「まあ、名前も決まっていないからな。なあベルン?」

 

また嬉しそうに鳴く子犬。

 

「・・・ただのバカ犬じゃねーか。」

 

どんな名前でも鳴くとか、番犬には絶対できない。

状況の飲み込めないミギワは出て行こうとする鏡間を引き留めて説明を要求した。

 

・・・どうやらこの子犬。迷い犬だった母犬が厨房に迷い込んで、そのまま出産して生まれた犬だったようだ。

母犬も、他の兄弟も助からず、一匹だけ生き残ってしまった。

そんな寄る辺のないこの子犬を哀れに思った千手の者たちは総出で犬をかわいがることにした。

が、此処である問題、というか可愛がりの弊害が出てきた。

みんながみんな可愛がり過ぎて床にも置かないような扱いをしていたらしい。

案の定、何もさせてもらえない、エサは勝手に置かれるので食べるだけ、しつけとか何それ?名前が統一されないetc・・・ものの見事に駄犬と化した。

この名称不明の子犬が腹どころか手足にも肉が付き始め、歩行が困難になってきたところでやっと一族の者達もあ、これなんかヤバくね?と危機感を覚え、鏡間にブリーダー役が回ってきたらしい。

曰く、困ったときの鏡間!!例え無人島に漂流しても彼さえいれば安心!!だとか・・・。

そんなセールス染みた謳い文句を聞いたミギワは、便利屋みたいな扱いをされている自身の唯一無二の男になんだかしょっぱい気持ちが込み上げてきた。

 

「さて、今日の訓練は終わりだ。風呂でも入るか。」

 

そんな鏡間の一言にキャン!と鳴いた子犬はぽてっとその場に寝転ぶ。

 

「ん?なんだ?まさか運べとか言うんじゃ「いや違うな」

 

これは・・・と寝転んで腹を見せている子犬をじっと見て鏡間は一言。

 

「腹が減っているから飯が食いたいときのポーズだ。」

 

「いやなんで飼い主が犬の意図理解できんのに犬が飼い主の言葉理解してねえんだよ。おかしいだろ。」

 

名前(候補)が分かっているのだからいつもの習慣の一環としてわかるはずである。

もしやこの男。犬に舐められているのではなかろうか?

 

「おら、風呂だっつってんだろ。行くぞっ」

 

見兼ねたミギワが犬を持ち上げようとする。

が、余程風呂に行きたくないのかヴヴっと唸って床に這い蹲った。

爪も立てているようで剥がれない。

犬VSミギワの戦いがここに・・・始まるわけがなかった。

バッと思い切り力を込めたミギワに床から剥ぎ取られると同時にムリムリッと牢の中に置き土産をしてくれた。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛ッ」

 

「ま、まて!我の部屋を貸してやる故早まるな!!」

 

今にも犬を放り投げそうなミギワを御しつつ浴室に向かうにはどれくらいの時間がいるのか。

鏡間は溜息を吐いた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「しっかしこいつ、汚れてんなあ・・・。」

 

ワシワシと犬を洗いながらミギワが呟いた。

洗えば洗うほど桶の中の湯は濁っていき、逆に犬は白くなっていく。

もうかれこれこれが三度目のお湯の入れ替えである。

ザバッと濁った湯を捨てて温めて置いたお湯を足す。

 

「・・・肥溜めの中に突っ込んでいったからな。」

 

泥と花びらから造った特製の石鹸を足しつつ事も無げに鏡間が言う。

 

「え゛」

 

「さらにそれから何を思ったのか熊の住処に突っ込んでいった。」

 

「碌なことしねーな。こいつ。」

 

そんな二人を余所に当の犬は何を勘違いしたのか「もっと褒めてくれていいのよ?」とでもいうかのように誇らしげに胸を張ってキャンっと吠える。

 

―――いや、褒める要素何処にもないんだけど。

 

二人の心が一つになった瞬間であった。

ザバッと最後に綺麗な湯を上からかけると、真っ白な子犬が出てきた。

子犬は嬉しそうに「キャン」と鳴く。

 

「いやキャンじゃねーよ。次はこの肉をどう落とすかだな。」

 

言ってガシッと子犬の両頬を掴む。

ブニッと肥満体特有の肉づきが不思議とミギワの手に馴染んだ。

 

「・・・なあ。名前ってまだ決まってないんだよな?」

 

「ああ、そうだが。」

 

「じゃあ、雪見大福でどうだ?」

 

「なんか人によっては分け合うのを渋りそうな名前だな。」

 

「んなっじゃあお前はなんかいいのあんのかよっ。」

 

「・・・ゴールデンレトリバー。」

 

「それ犬種ぅぅーっ。つーかこいつゴールデンレトリバーじゃねえし!!」

 

「じゃあ、キュケオーン。」

 

「それ言ったら暫く誰も近寄らなくなるぞ。」

 

「・・・もう大福でいいや。」

 

「キャン!」と犬・・・あらため大福が鳴く。

命名・大福。決定である。

 

「良かったな。大福」と言って優しくミギワが大福の頭を撫でてやる。

なんだかんだで気にかけていたらしい。

鏡間も微笑まし気に目を細めた。

 

 

 

「鏡間様っ大変です。」

 

「どうした。」

 

牢番の声に心なし緊張した面持ちで鏡間が答える。

ミギワも身を強張らせた。

 

「じ、実はっ先日から捕えていた捕虜が脱糞して逃走したようですっ」

 

「んな゛!?」

「・・・それで?」

 

現在捕虜を捜索中ですっと浴室の壁越しに牢番が言うか否か、素早く牢番の前に躍り出る。

その目には写輪眼が赤く光っていた。

 

「なっそ、それ・・・は・・・。」

 

「そのことは此処以外で誰かに言ったか?」

 

「いいえ。まだ、誰にも言っていません。」

 

「・・・よし、ならそのことは全て忘れろ。」

 

幻術に掛かったのを確認して。そのまま牢番を返した。

 

「あああ危なかったっ」

 

「ああ、まあ、取り敢えずはこれで牢番に口止めをしたとして・・・後は現物をどうするかだが・・・。」

 

現物がまだそのままの状態であることを鏡間の一言で気づかされたミギワは遂に涙目になる。

 

「・・・どうしよう。例え勘違いでもこの年で脱糞?オレの人生終わりじゃね?あ゛あ゛あ゛どうしようぅっ。」

 

「・・・策がないことはない。イチかバチかだが・・・。」

 

 

 

――――――――

 

 

 

千手邸  実験室

 

 

「・・・せ、セット完了。こ、こんな感じでいいのか?」

 

ミギワがそろりそろりと陣を踏まないように慎重に外側に出たのを確認して「ああ」と短く返事をした鏡間はそのまま部屋の床一面に描かれた魔法陣を起動させる。

 

「後はミギワ、お前の記憶を頼りにその座標に転送するだけだ。その宝石を握ってイメージしてくれればいい。」

 

陣が淡く光りだし、文字が浮いては消え、沈んでは消えていく。

 

「辿るは風、()るは糸玉(いとだま)。頬を撫でるは遠き記憶

―――濡らすは雨、拭うは海。

―――流れるは砂、覆うは土。

集え集え集え。我、手繰るを望む者。歪め繋げ無色の糸。我、その針先を指し示す者也。」

 

一際大きな光を放ったかと思うと中心に置かれていた懐紙・・・とその上に置いてあった糞が消えていた。

どうやら転送はうまくいったようだ。ミギワと鏡間は胸を撫で下ろした。

 

「一件落着・・・か?」

 

「恐らくは、な。」

 

なんせ今回座標として選んだのはミギワの知る絶対に怪しまれない所である。

流石に元住んでいた集落とかにはいけない。つまり確かめる術はない。

 

「ありがとな。鏡間。」

 

「・・・どういたしまして。」

 

結局それから、あの牢屋では寝たくないと駄々をこねたことにより伴場強引に鏡間の部屋にミギワが住むことになったのであった。・・・もちろん、大福も一緒である。

 

「あれ?そういえば湯、途中のやつ取ってあっただろ、なんで?」

 

「ん?ああ、それはまあ、成功してのお楽しみという奴だ」

 

「?」

 

 

おまけ

 

一方そのころうちはの集落では・・・。

 

ある一軒の家の上空に何やら見たこともない文字列(※魔法陣です)が浮かび上がったかと思うと途端にそれは消失した。

そして、その家から悲鳴が響き渡る。

なんだなんだと心配というより野次馬らしき人だかりができている場所に玄関先から男が飛び出してきた。

長くなるので省くが、あるいざこざから妻子に見捨てられた男はそれでもまだ若い族長に取り入れないかと迷惑がられながらも家に通うことをやめなかった。

出禁になると嫌がらせをするようになり周囲も辟易しているような男であった。

そんな男の悲鳴に何だまたかと戻ろうとしたとき周囲は驚きの光景を目にすることになる。

男がなんと糞尿にまみれて走ってきたのだ。助けを求められてもみな避ける。

そも、見た目以前に肥溜めに落ちたかのようなにおいを放っていることもあって近寄ることすらできない。というかしたくない。

最初こそ、ついに族長の堪忍袋の緒が切れたかと噂されたが、その前触れのように謎の文字列が消えたこと、そのとき族長宅はそろって集落内を駆け回っていたことからいつしか件の男が祟られたという噂が流れることになった。

 




――×年後の噺――

「・・・でね、そのあとも定期的に岩が降ってきたり、よくわからないガラクタが降ってきたりして。いやー本当に因果応報ってあるんだね。」

「へ、へー・・・そうなんだ。」

ニコニコと楽しそうに語る叔父に冷や汗をかくミギワ。

―――い、言えない。最初から最後まで(偶然とはいえ)人為的なものだったなんて言えない。


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