ハートだよ!覚り三姉妹! (かくてる)
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番外編コラボだよ!覚り三姉妹!
第二のさとりと博靈の巫女


コラボでございます!

お相手は鹿尾菜様です。
なかなかよくわからない展開となっていますが、2話に分けて投稿しますので、よろしくお願いします。


 昼の地霊殿。

 私はいつも通りの日常の中の日課、ティータイムを終え、外に出た。

 

「あ〜、いい天気だなー」

「気持ちがこもってないね。しんりねぇ」

「だって地底だし天気わからないでしょ」

 

 私、古明地しんりは妹である古明地こいしと共に散歩することになった。これは日課ではなく、「気が向いたから」である。

 

「ねぇ、さとりねぇは?」

「あ〜、なんか別の仕事があって来れないんだって」

「………」

「どうしたの?」

「しんりねぇはお空が来る前は家事をしてたよね」

「まぁ、そうだけど、今はしなくなったなぁ」

「……何もしてないんだね」

「…………そうなる」

「…ほんとに長女?」

「うるさい」

 

 地霊殿を出て、地底の大通りに出る。鬼や妖怪が酒を酌み交わしていて、大きな笑い声が暗い大通りを支配する。私やこいしは慣れっこなのだが、どうにもさとりだけはこの賑やかさが嫌いらしい。よく鬼に絡まれるらしくて、まともに歩けないとか。

 ………それは同感だね。

 

「ね、しんりねぇ、「甘武」行きたい」

「……まぁ、いっか」

 

「甘武」とは、以前にお燐やお空、さとりを連れて行った高級甘味処であり、地底の穴場の店である。穴場と言っても客の数は多いんだけどね……。

 大通りの途中で右に曲がる。小さな細い道を歩くと「甘武」の文字が見えた。

 私は右手でスライド式のドアを開け、顔を覗かせるように入店した。

 

「失礼しまーす……」

「入ろ入ろ!」

 

 私はこいしに引っ張られて店内に入った。

 そんな私は、途中の客に視線が行った。私のサードアイが何かを感じ取り、反応したからだ。その方向がその客の方だったのだ。

 

「あ、このパフェ美味しいですよ」

「はぁ?こっちの方が美味しいに決まってるじゃない」

 

 敬語で柔らかく話すピンク色の長髪の少女とツンケンした態度の黒髪で黒い巫女服の少女が対面で座っていた。何故だか、私はそんな二人が気になっていた。

 

「しんりねぇ?」

「ねぇこいし、あの2人、なんか不思議に思わない?」

「可愛いふたりだね」

「………えっ?」

 

 んんんんんんんん?

 私は目を疑った。こいしが理解出来ていなかったからもう一度ピンク色の長髪の少女を見返すと、私やさとり、こいしと同じように細い管が全身を囲うように伸びていた。

 そしてその中心には大きな目玉がある。これは覚り妖怪である証拠だ。

 私達三姉妹以外の覚り妖怪は既に滅んでいる。幻想郷の初期から存在する妖怪なのだから、いつかはそうやって系列が切れるからだ。

 そんな中、あの桃髪の少女のサードアイは偽物なのか、自然とそう思ってしまう。

 

「ご馳走様でした。これからどうします?」

「知らないわよ。というか呑気に甘い物食べてる暇なんか無いってのに……」

「それは靈夜さんも同じですよ?」

「うっさい、さとりはどうしたいのよ?」

 

 ん、んんんんっ!?

 私とこいしはその場で硬直。そしてその少女に近寄って私は肩を強く掴んだ。

 

「あの」

「?はい」

「あなたの名前は……?」

「古明地さとりです」

「え、ええ?嘘ですよね?」

「ほんとですよ」

 

 よくよく見ると、その長い髪の毛の少女、さとりという少女は顔も名前も、合致している。

 

「あの…?」

「あなた本当にさとり!?」

「へっ?さとりですよ?」

「私だよ?私、しんりだよ!?」

「ちょっと、何してるの?」

 

 私がさとりの両肩を掴んで私を思い出させようとすると、さとりの隣にいた黒い巫女服の少女がこちらを睨む。赤色の双眸が私を見据えていた。

 

「ごめんなさい。私達は今別の世界に飛ばされたみたいなんです」

「……はぁ?」

「さ、さとりねぇは別の世界の人ってこと?」

「えっ?こいし?」

「へっ?」

 

 私はもう今の状況が全く理解出来ず、他の三人を見渡すしかなかった。

 変わりに変わってしまっている長髪のさとり、そして霊夢さんと少し雰囲気が似ているこの人。地底じゃ一度も見たことがない。

 

「……」

「……」

「ちょ、ちょっと一回整理しよう」

 

 流石に誰もちんぷんかんぷんなこの状況じゃ、話が進まない。

 

「まずあなた達は?」

「私は古明地さとり。そしてこちらが博麗靈夜さん」

「はぁ……靈夜よ。よろしく」

 

 面倒くさそうに挨拶をする靈夜さん。気だるそうな性格まで霊夢さんにそっくりだ。

 

「それで、あなた達はどこから……」

「それが分からないんですよね。いつの間にかよく分からない妖怪達の前にいて……」

「転移?ってこと」

「まぁ、そゆこと」

「じゃあ、このさとりはまた別のさとり?」

 

 別って言い方はあまりよろしくないと思うが今はそう言うしかなかった。

 

「ところで、あなたは?」

「私は古明地しんり。この世界の地霊殿の主だよ。んで、この世界のさとりのお姉ちゃんなんだ」

「え、この世界じゃ私達は三姉妹……てこと?」

「そういうこと、こいし、さとり、私でね」

「ややこしいわね……」

 

 靈夜さんが隣で気だるそうに肘を机につきながら言ってきた。あっちの世界には私の存在は無いのか……。何故だか少しだけ悲しい。

 

「とにかく、私達は元の世界に帰れる術を探しています。協力願えますか?」

「…いいけど、さとりのキャラが全然違うね」

「まぁ、とりあえず、地霊殿に来なよ。手がかりが何かあるかもしれないしね」

「そうですね。そうしましょう」

 

 私とこいしはさとり(?)と靈夜さんを連れて地霊殿へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーー地霊殿の書斎。

 私が帰ってくると、姉さんもこいしも地霊殿にはいなかった。どうせまた「気が向いたから散歩行く」とか言って私がいないあいだに外に出てしまったのだろう。

 私はもうこんなことには慣れっこだ。多少のアクシデントや奇想天外な出来事には驚かない耐性が付いていた。

 …………………しかし今日だけは、今日だけは驚きを隠せなかった。

 

「ちょ、えっ!?ええええええええ!?」

「あ〜、さとり、紹介するよ。別世界から来た博麗靈夜さんと…………古明地さとりさん……」

「ま、待って姉さん!さとりはここよ!?」

 

 すごく言いにくそうに紹介する姉さんに私は必死な顔で否定する。

 

「よ、よろしくお願いします……さとりさん……」

 

 別世界のさとりさんも自分自身に挨拶しているようでぎこちなさそうだった。まぁ当たり前だろう。同じ人物が現れたのだからそりゃビックリもするか。

 

「……この人は、別の世界の私ってこと?」

「そういう事ですね」

「随分優しいさとりだよね。こっちの世界とは違って」

「姉さん。これ以上お小遣い減らされたいの?」

「まぁ、どっちのさとりも優しいね」

「……なんで姉のあんたよりも妹の方が強いの」

 

 呆れたように言う靈夜さん。仕方ないじゃない。さとりが怖いんだから

 

「でも、さとりと顔は似てるのに服装とか髪型とか違うんだね」

「まぁ、色々ありましてね」

「とりあえず、こんな所まで足を運んで頂き、ありがとうございます。泊まる場所などは決まっていますか?」

「いえ、まだ何も決めていないわ」

「じゃあここにお泊まりください。部屋は余っていますので」

 

 さとりは旅館ばりの接客をし、靈夜さんとさとりを部屋へと連れていった。私はさとりと話すためにさとりについて行った。………なんか変な感じがするね。

 

「ねぇ、分かりにくいからさとりの呼び方変えよ?」

「そうですね、ここのさとりさんはどう呼ばれているのですか?」

「さとり」

「……」

 

 これはなかなか決まらなさそうだ。私は顎に指をつけ、考え始める。

 

「じゃあさっちゃんとさっちんで」

「はぁ?」

「別の世界のさとりがさっちゃん。私の妹のさとりがさっちん」

「いいですねそれ…」

「そ、そちらの私はいいかもしれないけど、私はさっちんよ!?なんか………なんか……」

「なんか?」

 

 私はニヤニヤしながらさっちんに迫っていく。さっちんは顔を真っ赤にしながら顔を覆う。われの妹ながら可愛い仕草だ。

 

「とにかく、別世界のさとりがさっちゃんで、こっちのさとりがさっちんね」

「ええ、よろしくお願いします」

「じゃあ、靈夜さんの部屋はここです」

「さっちゃんはここだね」

「はい、ありがとうございます」

「ん、ありがと」

 

 優しく丁寧な挨拶をするさっちゃんとは裏腹に靈夜さんは素っ気ない態度で部屋へと入っていく。何だか霊夢に似通った部分があって親近感が湧いてくるのは私だけなのだろうか。

 二人が自室に入り、ここにはさっちんと私しかいなくなった。

 

「さっちんって嫌よ。姉さん」

「我慢して、あのふたりが元の世界に帰るまでね」

「………分かったわよ」

「じゃあ二人を帰す方法を考えようか」

 

 そう言って、私とさっちんは踵を返し、友に書斎へと帰っていった。

 二人が戻れる方法が見つかればいいけど……異変とかだったら少し面倒くさいな……とずっと考えていた。



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急展開、唐突すぎる解決

コラボ完結!

グダグタすぎて何書いてるか分かりませんが、お読み頂けるとありがたいです。

知らない方もいないと思いますが、今回のコラボ相手様の鹿尾菜さんのほうもよろしくお願いします。

コラボありがとうございました。


「よしっ、勝ったぁ!」

「なんでぇ……」

「あんた弱すぎでしょう?なんでそんなに顔に出るの?」

 

 私は今、さっちゃんと靈夜さんの三人でババ抜きをしていた。何故こんなことをしているかと言うと、ちょっとした息抜きである。

 ついさっきまで書斎で手がかりを全員で探したのだが、当然、異世界転移なんてそんなものレアケースすぎて本にも記されなかった。

 紅魔館の大図書館にも、それらしいものはあったが、全てが「物語」であり、実体験を元にした本は一冊も見当たらなかった。

 ということで、何か変化があるまでこうやって待機しているのだ。

 

「つ、次は人狼ゲームやろ……」

「いいわね、何か書くやつかして?」

「っと、その前にさとり達も呼ぼう。三人じゃ流石に……」

「じゃあ私が呼んできます。靈夜さんとしんりさんはここに」

 

 さっちゃんは部屋を出て、「さとりさーん」と声をかけていた。

 私は棚から紙とペンを用意して、「人狼」「市民」「占い師」「騎士」に分けた。

 それから数分後、さっちゃんがさっちんとこいしとお空、お燐を連れてきた。

 

「来た来た。じゃあとりあえず、くじにしたからみんな取ってー」

「じゃあ私進行役やりますよ」

「ん、お願いさっちゃん」

 

 目を閉じて、みんながみんな一枚ずつ紙を取っていく。

 私は取った紙を開く。そこには「市民」という下手くそな字で書かれていた。我ながら恥ずかしいくらい。

 何も出来ないなぁ……とりあえず、机にふして、さっちゃんが人狼ゲームを進めていくのを待っていた。

 そしてその数分後。

 

「今回死んだのは、しんりさんです」

「え、ええ……」

 

 早すぎる。いくら何でも私だけゲームに全然勝てない。真っ先に人狼に殺されたというわけだ。

 

「……人狼誰?」

「さぁ?」

 

 …………明らかだ。明らかすぎる。隠す気すら無いのだろう。

 

「……靈夜さん…」

「…何?」

「……いえ?」

 

 私はチョンとさっちんの腕を突く。そして小さな声で耳打ちをする。

 

「靈夜さんの心。読んで」

「え、それじゃ反則じゃない……」

「いいから……」

「もう…」

 

 溜息をつきながら、さっちんはサードアイを見開かせる。するとさっちんは全てを悟ったような顔をして、靈夜さんを見る。

 

「な、何よ、姉妹二人して、何が面白いわけ?」

「いいえ?私は別に、ねぇ?姉さん」

「そうだね。靈夜さん、そのまま続けちゃお?」

 

 私はその円の中から外れ、外野から人狼ゲームを見守ることにした。

 そして「人狼」が目を開けて、次はこいしを指さした。さっちんは市民。どうやら、厳しいみたいだが、ここでさっちんが動いた。

 そう、「騎士」である。

「騎士」が守る人は……こいし。

 

「全員顔を上げてください。今回の死亡者はいません」

「ありゃ、誰も?」

「では、話し合ってください」

 

 そうして、私とさっちゃん以外の人が一人一人の役職を憶測で話し合っていた。結果を知っている私はずっと後ろでニヤニヤしていた。

 するとそこでさっちんが動いた。

 

「私は靈夜さんが怪しいと思います」

「な、なんでよ」

「まず、私はさっきの……進行役のさとりさんが「死亡者はいない」と言った時、本気で疑問に思っていたのは、こいしとお空だけ」

 

 そこで、今まで何も話さなかったペット二人が控えめに手を挙げて発言をした。

 

「あたいは「占い師」です。靈夜さんのを占うと「人狼」でした」

「私は市民だよ?」

「……話し合いはそこまで、では、誰が人狼か指を指してください。せーの」

 

 ピッと四人の指が一人に集中した。四人の細い指が向く方向は、博麗靈夜さんだった。

 

「……はい、残念」

「うぐっ……」

 

 唸る靈夜さんの隣でこいしが難しい顔をしながら、少し大きめな声で言った。

 

「もー、外に出て遊ぼーよー!」

「手がかりが無さすぎですねぇ…」

 

 こいしの話を無視するように、さっちゃんが言う。正直、さっちゃんとさっちんの見分けは付く。髪の長さや服装。明らかに別人に見えるのだが、顔だけは同じなのだ。目の位置や眉毛やまつ毛の長さなど、統一されているのかと思うほど。

 

「……まぁ、小説だし仕方ないか……」

「?どうしたの?姉さん」

「ううん、何でも、とりあえず、ここからどうしよ………」

 

 ドタタタタ!!

 誰だ?地霊殿は全員ここに集合しているため、侵入者としか考えられない。

 私とさっちんはその場で低く構え、ドアをゆっくりと開ける。するとそこには

 

「しんり!いる!?」

「おわぁ!?」

 

 息を切らしながらドアを思い切り開ける瑞乃がいた。私はそのドアの勢いに押されて吹っ飛ぶ。その途中に机の角に頭をぶつけてしまい、蹲る。

 

「ありゃ……ごめんしんり」

「………で、どうしたのさ、瑞乃」

「あぁ、そうだった。博麗靈夜さんと異世界から来たさとりさん。いる?」

「はぁ、ここだけど」

「永琳様が呼んでいます。至急永遠亭までお越しください。というか、これをお使い下さい」

 

 瑞乃は小さく何かの詠唱を始めた。小さくて何も聞こえなかったが、詠唱が終わると、ドアの方の空気に亀裂が入った。

 

「な、何これ……」

「師匠が編み出した「空間移動術」だよ。しんもやる?」

「いい」

 

 なんかこんなのあると紫さんの顔が潰れるでしょうに……

 と、哀れに思いながら、私は靈夜さんたちのあとを付いていく。

 というかそもそも、どうして瑞乃が靈夜さんやさっちゃんのことを知っているのだろうか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーー永遠亭。

 診察室に行くと、永琳さんはいつも通りの表情と話し方でこの一連の事について説明をし始めた。

 

「まず、あなた達二人をここに呼び込んだのは私よ」

「は、はぁ!?何してくれてんのよ!」

「知らないわ。薬の実験で壺を使ってたら、あなた達が出てきたんでしょう?心当たりはないの?」

 

 壺から二人が出てきた………って、何かの召喚みたいでカッコイイなぁ……と後ろの三姉妹は黙って見ていた。

 靈夜さんの顔はみるみるうちに青くなっていく。

 

「あ、あ〜、そう言えば……歩いてたら落とし穴に落ちたんだ……てっきりこいしが仕掛けたものだと思って……そしたらここにいて……」

「多分、その穴こそがさっき瑞乃が使用した技の中で一番大きい技ね」

「ってことは世界の次元の亀裂がたまたま落とし穴に出来て、その先が永琳の薬の壺の中だったってこと?」

「そゆことー」

 

 永琳は椅子ごとくるりと回転して、ペンでカルテを書いていく。まだ待合室には多くの患者さんがいたため、ここに長居は出来なかった。

 

「とりあえず、瑞乃。あなたの術で二人を返してあげなさい」

「…出来るんですか?」

「ええ、強く念じれば行けるわよ。じゃお願いね。あ、庭でやってよ?」

「わかりました」

 

 靈夜さんとさっちゃんは瑞乃について行くように診察室を出た。取り残された三姉妹とそのペットは大きく溜息をつきながら、外へと出向いた。

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーー庭。

「じゃあ行くわよ」

 

 そうしてまた、瑞乃は詠唱を始めた。今度はさっきよりも長く、強い妖力を感じることが出来た。そんな中、靈夜さんとさっちゃんはこちらに振り向いた。

 

「ありがとうございました。色々楽しかったですよ。えと……この世界のさとりさんもお元気で!」

「そ、その言い方やめてくださいよ………さよならです!あっちの世界のさとりさん!」

 

 お互いの「さとり」が苦笑いをする。こんな絵、今までで見たことのある人がいるのだろうか。こんなもの見ても得する人なんかいるのか……………いるね。

 靈夜さんはなぜだか気だるそうに手を振っていた。

 

「色々ありがとね、しんり」

「ええ、まぁ、一日だけでしたけどね?」

「それでも礼を言うのは当たり前よ、じゃあまたね」

 

 初めて見せた靈夜さんの微笑み。気だるそうにしているが、笑うとかなりの美人さんだった。

 というか、手を振る時に揺れる胸にある大きな二つの山は何なんですかー

 私は睨みつけるように、靈夜さんの胸を見る。

 

「な、何よ……」

「いや、大きいシュークリームだなって、羨ましいなって、妬ましいなって」

「し、しんりもいずれ大きくなるわよ……」

「余計なお世話……!」

 

 そう言うと瑞乃は丁度詠唱が終了した。するとそこにはさっきよりも大きな亀裂が完成した。その中は漆黒の闇。正直入りたくはない。

 

「じゃあ二人共!バイバーイ!」

 

 こいしが両手を大きく振った。それに応えるように二人も軽く微笑みながら手を振って、亀裂の中へと消えていった。

 そして数秒後、亀裂は完全に閉じた。

 

 

 

「いやぁー、パラレルワールドってあるんだね」

「そうね。正直あるとは思わなかったわ」

「じゃあお疲れ、瑞乃、仕事の合間にやらせちゃってごめんね」

「いいのよ。緊急事態だったしね…」

 

 私達はパラレルワールドなど、完全な妄想の世界かと思っていたが、こうやって実際に感じると、何か重いものを感じることが出来た。

 

「さて、帰ろ。アイス買ってさとり」

「妹に奢らせる姉は嫌いよ」

「奢って」

「やだ」

「怒るよ」

「うん」

 

 テンポのいい会話をしながら、私達家族は楽しく地霊殿へと帰っていった。



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序章 三姉妹の誕生
末妹の誕生


オリジナル作品を打ち切りにし、頑張って書いてみました。

いずれか「東方想幻華」の方も追って投稿します。


「あ、姉さん。今日はごみ捨て。よろしく」

「え?あれ?今日はさとりじゃないの?」

「何言ってるのよ、昨日は私。今日も私がやらなきゃいけないの?」

「あ、いや、それならいいんだけど……」

「しっかりしてよね。もうすぐ新しい妹が生まれるんだから、少しでもお母さんの負担を和らげないと」

 

 そう、もうすぐ妹が生まれる。

 地上からここに来るまで、一体何年経ったのだろうか……

 人間からは忌み嫌われ、人をコントロールできる私とさとりの心を読む能力だけで距離を置かれていった。

 それにより、お母さんにはたくさんの迷惑をかけた。

 心を読む能力はお母さん譲りなのだが、さとりはそれを無意識に行ってしまうため、制御は出来なかった。

 私は人の様子を見て、気を狂わせたり、気を良くしたり悪くしたりなど、人の調子を自由に操れることが出来る。

 不気味なものでしょ?ただそれだけで鬼に頼んで地底まで来たんだから。私の名は古明地 しんり。黒髪のロングに白色のフリルスカート。白いサードアイを身につけている。

 サードアイの使い方はさとりのとはまた別のもので、心を読むのではなく、コントロールをする。

 つまり、簡単に言えば『人間コントローラー』だ。

 なかなか便利なものだ。

 

「よっこらせ……」

 

 重いゴミ袋を持ち、地霊殿を出て右手のごみ捨て場に放り投げる。力持ち、という訳でないが身長はさとりよりも少し高め、大体140センチくらい。まぁ、勇儀さんに比べればかなり低いけど。

 

「さとりぃー……」

「どーしたのよ?」

 

 さとりのサードアイがゆっくり開く。

 

「あぁ……今日の晩御飯ね……どうしようかしら」

「永遠亭まで行ってお母さんに作ってもらう?」

「何言ってるの…………」

「冗談だよ」

「冗談に聞こえないわ」

 

 さとりの心を読む程度の能力。私の調子を操る程度の能力果たして妹はどんな能力で生まれてくるんだろうか。まぁ、可愛い子だったらなんでもいい。お母さんの名は古明地 りんね。お父さんの名前は知らない。私が産まれる前に死んじゃったらしいから。

 しかし、現在お母さんは新しい妹を迎えるため、永遠亭の方でお休みしている。

 だから今現在、地霊殿の中は私とさとりのみ。

『地霊殿』とか大層な名前だが、一軒家の大きい方。人間でいう『豪邸』ってやつほどだ。館と呼べるほど大きくない。

 

「じゃあ、私が作るよ。さとりは待ってて」

「え、姉さん料理の経験は?」

「んー、一度だけお母さんに教わった」

「何を?」

「ゆで卵」

「妹ながら恥ずかしいわ」

「なっ?!ゆで卵をバカにするな!」

「はいはい、まぁ、私も料理の経験はないし、お願いするわ」

 

 どうして姉の私より、妹のさとりの方が権力があるのだろうか………確かに私は少し抜けているところが多い、それに対しさとりは言葉遣いも丁寧で、誰にでも優しい。私とは正反対だ。まぁ、実際私はさとりに頭が上がらないけど………

 

「じゃあ、ナポリタンでも作ってくるよ」

「最低でも食べれるものをお願いね?」

「分かってるよ!」

 

まったく………私はブツブツいいながら書斎から消える。しかし、廊下に出た瞬間、1人の兎が走ってきた。

 

「え、えっとー、あっ、鈴仙さん!どうしました?」

「お二人共、すぐに永遠亭に来てください!もうすぐ生まれます!」

 

 その言葉に、私は一瞬目を見開く。

 

「な、何ですって?!」

 

 書斎からさとりがものすごい形相で鈴仙さんを見る。鈴仙さんは少し後ずさりながら答える。

 

「え、ええ!急いでください!」

「さとり、行こう!」

「ええ!」

 

 飛んで約15分。迷いの竹林内の永遠亭に来ていた。そこにはベッドに横たわって苦しい顔をしている私とさとりの母、古明地 りんねがいた。

 

「か、母さん!!」

「ふ……2人とも…………………も、うすぐ…新しい娘が生まれるから…………待っててね…」

 

 その苦しそうな顔を見て、私の不安は募るばかり。

 即座に右手を握って、応援する。

 

「うん、頑張って、お母さん!」

 

 さとりは左手をそっと握る。

 

「じゃあ、行くわよ、りんねさん」

 

 八意永琳さんがお母さんの腹に手を添える。

 しかし、すぐに顔が青ざめていく。

 

「鈴仙!少しやばいわ…………」

「母体の方に少しだけ異常が…………このままでは危険です!」

「?!まずいわ、母体の方の心拍が少ない!」

 

 少しずつ慌てる永琳さんと鈴仙さん。

 それを見た私達は少しずつパニックに陥っていった。

 

「ち、ちょっと、永琳!大丈夫なの?!」

「これは………もう賭けよ。子供は無事、母体が助かるかどうかは分からない…………それでもいい?りんね」

 

 それは、大人のお母さんでも重く苦しい選択だった。自分が助かる可能性が極めて低いが子供は無事。自分は助かるが、子供の生まれる確率が極めて低くなる。

 

「………分かったわ。そっちに賭ける」

 

 お母さんの覚悟に、私とさとりは従うしかなかった。そのお母さんの答えに、永琳さんはふっと微笑んで、こう放った。

 

「あなたの覚悟、しかと受け止めたわ。じゃあ、頑張りなさい!」

 

 そこからはもうまるで戦場のようだった。その3時間後。

 

「りんね!最後よ!せーの!」

 

 永琳さんの掛け声とともに、お母さんは力を入れる。すると下の方から1人の産声が聞こえた。

 

「う、生まれた…………」

「や、やったー!」

「良かった……」

 

 両手をあげて喜ぶ私と、胸に手を当ててほっとするさとり。どうやら、お母さんは賭けに勝ったようだ。

 

「良かったわね……しんり、さとり。末妹よ………名前は……そうね………」

 

 息を切らしながら、お母さんは考える。

 

「あなた達が恋焦がれていたから…………『こいし』…………古明地 こいし……どう?」

 

 こいし………こいし………私はこの子の名前、『こいし』という単語を反芻させる。

いい……名前だ。

 

「か、可愛い………私はそれがいい!」

「私も、よろしくね。こいし」

「ふふっ、あなたもいいお姉ちゃん2人を持ってよかったわね………」

 

 お母さんはこいしの頬にキスをする。しかし、その刹那、お母さんの体重は真下に落ちる。

 

「お、お母さん?!」

 

 落ちそうになるこいしを抱っこする。まだまだ産声が響いていた。そんな中、お母さんが過呼吸になり、苦しんでいた。

 

「り、りんね?!鈴仙、血液パック!血液が足りないわ!急いで!!」

「はい!」

「ど、どうなったの?お母さん……?」

 

 私達姉妹は何がなんだが全くわからず、そのまま呆然と立ち尽くしていた。

 

「鈴仙!電気ショック!」

「はい!」

 

 ピュイイイイインという音を立てながらお母さんの胸を刺激していた。

 

「お、お母さん!しっかりして!」

 

 ようやく状況を理解した私はお母さんの傍により、手を握る。

 その反対側をさとりがまた握る。

 

「お母さん!!」

「ヒュー…………ヒュー……………………………………………」

 

 ピーーーーーーという同じ音がずっと続く。その瞬間、永琳の顔は暗くなり、こう放った。

 

「もう…………………だめよ……」

 

 その言葉、今の私にはトラウマでしかない。この時を持って、私たちの母、古明地 りんねは息を引き取った。その状況に私は目を見開き、目尻から大量の涙が溢れる。

 

「おかあ…………さん?……目を覚ましてよ…………」

 

 私らお母さんの頬に触れ、返事を求めた。きっといつものお母さんのイタズラだ。いつもこうやって私たちをひやひやさせる。本当にいい性格してるよね………

 

「お母さん!!目を開けて!」

 

 さとりが叫ぶ。

 しかし、お母さんは体すらも反応を示さない。

 

「おかぁさぁぁぁぁぁん!!」

 

 私達は『お母さん、お母さん』と、数時間そこで泣き続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから3日後。こいしが永遠亭から退院し、地霊殿に帰ってきた。親のいない、この地霊殿はいつもより広く感じた。

 

「さとり、今日の晩御飯、どうする?」

「そうね………私はこいしのミルクを買ってくるから、夕飯お願いしていい?姉さん」

「オーケー、分かった」

 

 そう言ってさとりは地霊殿を後にした。こいしが何かを言っている。

 

「ん?どーしたの?こいし?」

 

 まだ言葉になっていないその声はとても愛らしく、いつまでも見ていられるようだった。

 

「ふふっ、可愛いね…」

 

 こいしを抱っこし、ギュッと抱きしめる。それに応じてくれたのか、こいしは口元が緩み、へにゃっと笑った。

 

 

 

 ここから、私たち覚り妖怪三姉妹の地霊殿生活が始まった。



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幼少編だよ!覚り三姉妹!
恨むべき体重計、鬼畜と化したダイエット。


今回から頑張ってほのぼの回を作ります。


初めて。


 シャアアアアア………と、シャワーの音が風呂場に響く。

 

 結局、お母さんは出血多量で死亡。こいしの方は健康な状態で生まれてくれた。なので、地霊殿にいるのは私とさとり、こいしの3人のみ。有り余るほどの広さがあり、逆に不便かもしれない。

 それから3年後、こいしも落ち着き、少しずつ喋れるようになった。私は7歳、さとりは5歳、こいしは3歳。みんな二つずつ歳が離れている。私の料理もまともになってきて、生活が安定してきた頃。私は風呂から出て、バスタオルを手に取る。少し冷えてきたので急いで体を拭いて、巻き付ける。

 

「そういや……最近体重測ってないや……」

 

 隣においてあった体重計に乗る。ゆっくり乗って、書いてある数字を見る。しかし、その数字は以前よりもおぞましい数字に変わっていた。その結果に私は絶望した。

 

「……え、ええええええ!?」

 

 私の驚きの声が風呂場で反響した。

 

 

 

 

 

「………で、どうしたのよ…姉さん…」

 

 私は泣きながらさとりに相談した。さとりは現在、地霊殿のお金の使い道を計算していた。私にはよく分からないけど。

 

「体重がぁぁ……………」

「とりあえず涙拭きなさいよ……」

「う、うん……」

 

 私はこいしを抱っこしながら、さとりに質問する。今日の出来事により、私は今まで自分がしてきたことに後悔する。妖怪だから太ることなんてありえないってずっと考えてたから、体重とか気にしないでバンバン食べてたから……この歳で体重に悩まされるとは……………妖怪だからでしょうけど。

 

「仕方ないわよ姉さん。ただでさえ地霊殿の資金もカツカツなんだから、節約も兼ねてダイエットしましょう」

「え、ええ………」

「こいしのミルク代もあるのよ。それに、姉さんいつも1人だけ食べる量が私の倍ほどあるもの。太ってもおかしくないわ」

「まぁ………仕方ないか……」

 

 私は諦めてダイエットすることを決意する。

 

「ね、さとり。私………太ったように見える?」

「いいえ、見た目は変わらないけど…………どれくらい増えたの?」

「…………聞きたい?」

「…ごめんなさい」

 

 実は、私の体重は約10キロほど増えた。1、2キロならまだ仕方ないと思うが、まさかの10キロ増量。よく食べる子は成長するね。やったね。

 

「ダイエットするって言っても、具体的に何するの?」

「そうねぇ………野菜を多く食べるとか、運動するとか………ほら私たち覚り妖怪は地底に来てから外にすら出ないじゃない。私も一緒に行くから運動しましょ?」

「う、うーん……」

「こいしも行くー!がんばって、しんりねぇ!」

 

 こいしの満面の笑み。その笑顔には何も悩みがないように見えた。その笑顔に少しだけ妬ましさを感じてしまったのは私が悪いのだろうか……………

 

「まぁ、こいしにまで言われたらやるしかないか………」

 

 私はようやく決意し、ダイエットすることになった。今夜の食事から私はダイエット食を考えた。肉は少なめにしてサラダ中心のご飯。しかし、さとりたちは美味しそうなステーキ。作る時にもヨダレが何度も垂れそうになり、ようやくステーキとの食欲勝負に勝利したのに、最後の最後まさかさとり達と同じ食卓で同時に食べることになるとは……

 

「…………だめよ姉さん。ダイエットするんでしょ?」

「しんりねぇダメー!また太るよー!」

「う…………分かってるよ!」

 

 私がステーキを美味しそうに見ていたのがさとりに心を読まれ、注意された。あぁ……………サラダおいしい…少量の涙を流しながら私はサラダをゆっくり食べる。そこからいつもより少なめの米を口に運ぶ。

 

「なんか心が痛むわ………」

 

 ションボリと食べる私を見て、さとりはすこしだけ複雑そうにこちらを見る。その顔が自分の心をさらに深くえぐる。しかし、そんな雑念を私は首を振って振り払う。

 

「ごちそうさま……………うぅ……」

「ね、姉さん……………太ってから涙もろくなった?」

「う、うるさい!てゆーか太ったって言わないで!」

「でも、太ったのはしんりねぇが悪いよね?」

「ぐっ……」

 

 いつから私の妹たちはこんなに手強くなったのだろうか……心を読めるさとり。そして最近になってこいしの能力が判明した。なんと、さとりと同じ能力を持って生まれてしまったようだ。この理由はお母さんの死因にも繋がってくるから話すのはまたの機会に………

 

「二人とも!ダイエット付き合って!」

「分かったわ。こいし、行くわよ」

「え、さとりねぇどこ行くの?」

「姉さんのダイエットよ。こいしも来なさい」

「行くー!」

 

 なんかピクニック気分………これはこいしのテンションの高さが尋常じゃないからだろう。そうして、私は少しだけ冷える夜の地底に出て、走る。いつもは飛んで移動する地底の商店街も歩いてみれば、いい雰囲気を醸し出している。こういうのも悪くない。

 

「あ、姉さん、そこだけ地面が割れてるから転ばないでね」

「へ?」

 

 私の右足が出っ張った地面に引っかかる。そして私の全身は絵に書いたような転び方で強打する。

 

「姉さん…………ドジなの?」

「言わないで!」

「あはははは!しんりねぇきれいに転んだ!」

「こいしも!」

 

 私は立ち上がり、もう一度走る。油断はしちゃダメだ。さっきみたいに転んで2人に笑われる。それだけは避けねば…………

 

「お、こんな時間に勇儀さんがお酒飲んでるわ」

「へぇ、こんな時間まで飲むなんてさすが鬼だね………」

「ゆうぎだー!」

「ん?おお、古明地三姉妹じゃねぇか?」

 

 右手を上にあげ、こちらに挨拶をした鬼の四天王。星熊勇儀。彼女は私たちが当てもなく家を探していた時、地霊殿まで案内してくれた恩人のひとりだ。

 

「こんばんは、勇儀さん」

「おー!古明地の次女!えーと……………」

「さとりです」

「そ〜かそ〜か、なぁさとり!一緒に飲まねぇか?」

「し、しかし………」

「なんだぁー?飲めねぇってのか?」

 

 完全に酔いが回っていた勇儀さんは断ろうとしたさとりにメンチを切っていた。それに対し、さとりは何歩も後ずさる。しかし、その怒りの矛先は私に向く。

 

「おおい!古明地姉!一体お前んとこの妹はどぉーなってんだぁ?!」

「え、そこで私に聞きますか……」

「まともな答えを10秒以内に答えなきゃ酒ぶん投げるぞ!」

「え?!………え、えーと……」

 

 ばっしゃぁぁん…………と、私の全身に勇儀さんが持っていた盃ごと私にかかる。

 

「ま、まだ10秒経っていないじゃないですか!」

「がっはっはっ!面白れぇな!古明地姉!」

「私何もしてないのに………とゆーか酒臭………」

「わ、しんりねぇ酒臭い!」

 

 こいしはわざとらしく鼻をつまんで、私から距離をとる普通に傷つくからやめてくれ………我が妹よ……今日は仕方がなかったので、私達はそのまま地霊殿に帰ることにした。そして地霊殿に帰り、私は洗面所に向かった。

 

「今日だけで体重が減ってるとは思わないけど………」

 

 そうして私は体重計に乗る。

 ………………

 

「まぁ、分かってるけどね……」

 

 そうだよね、今日1日で痩せたら誰でも可愛くなれるもんね…………私は泣きながら体重計を降りる。そこに風呂に入ろうとしたさとりが通りかかる。

 

「あ、姉さん古い方の体重計に乗っていたの?」

「え?」

「ほら、こっちに新しい体重計があるじゃない」

 

 さとりが指さした方向に、こっちよりも全然キレイなデザインの可愛い体重計があった。呆然とする私にさとりは苦笑いをする。

 

「だって…その体重計とっくに壊れてたし…………」

「…………」

 

 私は黙って新しい体重計に乗る。そして結果を見る。

 ………………………………

 今日の我慢は一体何だったのか……………

 

「元の体重と変わってないじゃないー!!」

「ね、姉さん……それは姉さんが悪いわよ……」

 

 頭を抱えて唸る私。さとりの後ろでこいしが腹を抱えて笑っていた。

 

「まぁ、姉さんもいい経験が出来たわね……」

「ダイエットの何がいい経験なのよ!」

「あはははは!」

 

 私が今日、勇儀さんにお酒をかけられたのは全くの無意味だったということ。

 

 私の悲痛な叫びと甲高い声で笑うこいしの声がいつまでも地霊殿の洗面所に響いていた。

 

 

 



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寝ぼける次女、姉妹の添い寝

今回少しだけ百合要素があります。

嫌な方はブラウザバックを、まぁ、そこまで百合百合する訳じゃないので


さとりのキャラ崩壊があるかもしれません。
イメージと違っていたら申し訳ありません。


 体重計事件も終わり、私は朝を迎える。

 他の2人、さとりとこいしよりも私は早く起きて朝食を作らないといけない。

 

「さて……今日は何にしよっか…」

 

 朝の献立が自分の中では一番決めにくい、バリエーションも少ない中でいかに色とりどりで美味しい朝食が作れるのか………これが一番重要だと思っている。

 私はフライパンを取り出し、冷蔵庫に入っていたウインナーを取り出す。

 軽く切込みを入れ、フライパンを熱する。

 少し冷える朝、手を擦りながら料理をする。

 

「おはよー………」

「ん、さとり。おはよ」

 

 今日のさとりはやけに早起きだな………

 私は感心しながら料理を進める。

 しかし、さとりは朝に弱く、カリスマ性溢れる日中のさとりではなく本当にだらけきったニートのようである。

 そのままさとりはソファにうつ伏せになる。

 

「すぅー…………すぅー……」

「寝ないでさとり。姉さん怒るよ」

「んん……………ふにゃあ………」

 

 幸せそうな笑顔で寝ている。

 ため息をつきながら私はさとりを抱っこして、ベッドに戻そうとする。

 

「ほーら!さとり!起きるなら起きなさい!寝るなら寝なさい!」

「んう………?起きるけど寝てる……すぅー……」

 

 寝ぼけているのかわざとやっているのか分からないが、私は次第にイライラが増していった。

 昼のさとりはしっかりした妹なのに、朝方はこんなにもだらしない。

 朝昼で私とさとりの立場は逆転しているみたいだ。

 朝は私がしっかりして、昼はさとりがしっかりする。

 本当に何なんだこれは。

 

「さとりぃぃぃ!」

「ひゃう?!」

 

 耳元で大声を出す。

 その声にさとりは体をビクッと強ばらせる。

 変な声出しちゃって…………

 しかし、そのままもう一度眠りに入った。

 これはもう完全に爆睡コースだな………………

 さとりの幸せそうな顔を見て、私はさとりの自室へと向かう。

 カチャっとドアを開け、ベッドにさとりを置く。

 

「じゃ、おやすみ、さとり」

 

 私はさとりに布団をかぶせる。

 そうして私は立ち上がり、部屋を出て朝食の準備に戻ろうとする。

 しかし、私の服が何かに引っ張られる感触があった。

 さとりの右手の親指と人差し指で私のスカートの裾を引っ張っていたのだ。

 

「どうしたの?さとり」

「……一緒に寝よぉ?」

 

 今日のさとりはいつも以上だ。

 ここまで寝ぼけたことがあっただろうか…………

 

「嫌。私まだご飯の準備が……」

「行っちゃうのぉ?」

 

 さとりは目をうるうるさせ、こちらを上目遣いでみてくる。

 ドキッと私の心臓が高鳴る。

 くそっ、反則でしょう!それは!

 さとりはいつからこんなに可愛くなったんだろうか…

 ってそれどころじゃない!

 

「さ、さとり?私まだ準備があるの……」

 

 赤くなる顔を見せないように俯きながら断りを入れる。

 しかし、さとりの顔はどんどんと可愛くなって涙が溢れていく。

 これは抵抗したら負けだな…………

 私はその場で溜息をつき、さとりのベッドに入る。

 その途端に、にへぇ……と笑うさとりがいた。

 ………………可愛すぎだろぉ!

 いや、これは寝ぼけているのだ。素のさとりじゃない。

 何をこんなにドキドキしてるんだ。

 7歳と5歳の子供同士がただ添い寝するだけじゃないか。

 人間だったらどうにも思わないが……人間よりも発達能力が高い覚り妖怪は5歳を過ぎたら大分大人っぽくなる人もいる。

 さとりなんかそうだ。

 私もそれくらいには色々なことに興味を持っていた。

 そう、色々なことに…………………

 んで、話戻すけど、それが原因で今はさとりと添い寝することに心臓の鼓動が鳴り止まない。

 

「姉さんいい匂い♪」

「う、うん…………ありがと…」

 

 私の腕にさとりは頭をこすりつけてくる。

 猫か。

 

「ほら、もう寝なさい。さとり」

「うん…………………………………すぅー……」

「早ぇ……」

 

 私は呆れながらさとりを見る。

 本当にこれが私の妹なのかな………そう思えるくらい、私の妹達は可愛いのだ。

 さとりの頭から出る匂いが鼻腔をくすぐる。

 いい匂いだ…………

 私と同じシャンプーかな?でも、少し違うかも…

 あ、手………私より少し細いかも……それに…長い…

 って何考えてるの私っ!

 現実に戻ると、私の瞼が勝手に落ちていっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の瞼に光が刺激する。

 

「ん………」

 

 目を覚まし、私は状況を確認する…………前に……

 

「あ、やばい!フライパン熱したままだ!」

 

 私は慌てて起き上がろうとするが、それにサイドによる拘束で止められる。

 

「え、こいし?!」

 

 私の左サイドにはさとり。そして右サイドにはさっきまでいなかったこいしが私の腕を掴んで寝ていた。

 私の驚きの声にこいしが目を覚ました。

 

「あれ?しんりねぇ。おはよ♪」

「おはよ…………いつ来たの?」

「んー?さとりねぇとしんりねぇが気持ちよさそうに寝てたから私も参加したの」

「へぇ……」

 

 私はこいしの話を聞いた後、もう一度現状を思い出す。

 

「あ、フライパン!!」

「あ、フライパンなら私が寝る前にガス切っておいたよ?」

 

 こいしのその一言に私は肩を落とす。

 

「よ、よかった………ありがと…こいし………」

「どーいたしまして♪」

 

 私は起き上がり、こいしと一緒にリビングへと戻る。

 そうして私は切込みを入れただけのウインナーをもう一度熱したフライパンにのせる。

 ジューーーといい音が聞こえる。

 こいしは寝間着を脱ぎ、リビングにおいてあった私服を着る。

 

「あ、しんりねぇ。今日はダイエットしないの?」

「しないよ!あれは事故なの!太ってないの!」

 

 わざとらしく笑うこいしに私は厳しく反抗する。

 そんな会話をしているとさとりが扉を開けた。

 

「おはよ、姉さん、こいし」

「おはよー、さとりねぇ!」

「おはよう」

 

 よかった………さとりはいつもの調子のようだ。

 さっきみたいに寝ぼけてはいなかった。

 私は今日の朝あったことをさとりに話す。

 

「今日のさとり。いつも以上に寝ぼけてて、私と一緒に寝たいって言ったんだよ?」

 

 さとりは顔を赤くして、ギクッという顔になる。

 

「へ、へぇー、そんなことを…ごめんなさい、姉さん………」

 

 少しだけぎこちない謝罪をした。

 さとり自体わざとじゃなかったようで、悪気もなかった。

 まぁ、仕方ないということで丸く収まったが、こいしがさとりのことを物珍しそうに見ていた。

 そして何かを悟ったのか、にやっと悪い笑みを浮かべる。

 

「さとりねぇも素直じゃないねぇー?」

「なっ!」

「え?」

 

 さとりはこいしに近寄り、両手でこいしの口を塞ぐ。

 

「素直じゃないってどゆこと?」

「わーっ!聞かなくていいよ!」

 

 次は私の方に向けてブンブンと両手を振る。

 その時のさとりの顔は真っ赤だった。

 すると口が解放されたこいしはまたもや喋り出す。

 

「さとりねぇ『寝ぼけてた』なんて嘘つかなくても良かったと思うんだけどなぁー?」

「こいしっ!心を読まないで!」

「?」

 

 私はさとりが必死になる理由も分からないまま、朝食の準備ができた。




さとり可愛い。


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こいしが心を閉ざした日 その1

今回から真面目回入ります。


ほのぼのは少しお休みを………それと、話の内容がぶっ飛びすぎてよくわからないです。
私もわかりません。


「あっつい…………」

 

 地霊殿にはクーラーも扇風機もないため、暑さを凌ぐものは無い。汗だくのまま、私はリビングのソファに倒れ込む。服がベトベトして気持ち悪い…………8月14日。夏、真っ只中だ。私は先月13歳の誕生日を迎え、さとりとこいしもそれぞれ成長し始めた。

 

「姉さん、クーラー買いに行きましょ?」

「そうだね……お金もまだあるし………クーラーくらいなら買えるでしょ………」

「なになに?またお買い物?こいしも行く!」

 

 さすがにこの暑さの中何もなしにただ耐えろなんて地獄すぎる、"旧"地獄なんだから暑いのはおかしいでしょ……

 

「って言っても………クーラーなんてどこに売ってるの?」

「河童………でしょうね…」

「ってことは妖怪の山か………………とおおおい……」

「2人ともだらだらしすぎだよ!もっと元気よくいかないと!」

「逆だよ………どうしてこいしはそんなに平気なのよ………」

「へ?」

 

 こいしはさとりのその言葉に首を傾げる。大丈夫なのか私の妹は………

 

「何が何だかよく分からないけど、早く外に出ようよ!」

「外に出るのも一苦労よね……」

「仕方ない……これが終わったらいっぱい涼めるよ……」

 

 ベトベトする服を脱ぎ、新しい服を棚から取り出す。着替えた後の爽快感は相変わらず気持ちいい。地霊殿の玄関まで歩く。こんな中、私の中には一つの心配事があった。私達覚り妖怪は人々から嫌われ、避けられている。それに、嫌われている的は私とさとりの2人なのだが、嫌われていることをこいしは知らない。こいしが生まれてからは地上には出ていないからだ。妖怪とは中がいいのだが、妖怪の山に行くには人里は通らないといけない。こいしに姉ふたりが避けられる様子なんか見られたくないんだけどね………

 

「じゃあ、姉さん、行こうか」

「うん」

「はーい!」

 

 どうやら、さとりも少し恐れているみたいだ。やっぱり心配だ……クーラーなんて買わなくてもいいのではないだろうか…そんなこともつゆ知らず、こいしの表情は笑っていた。その笑顔がさらに私たちを心配させる。ドアの鍵を閉めて歩き出す。こんな感じで姉妹三人で歩くのも久しぶりかもしれない。地底と地上を結ぶ通路まで来る。ここに来るのはほぼ9年ぶり、お母さんの出産の日以来だ。あの日から鈴仙さんとは何かと関わりを持ってくれて、今でもたまに地霊殿に何か食べ物を送ってくれる。それ以外、地上との関わりは絶っている。私とさとりはずっと心臓の鼓動が鳴り止まない。私たち覚り妖怪を覚えている人間は少ないと思うが、まだまだ覚えている人間もいるだろう。こいしに人間の汚れた心の声を聞かせるのもあまり良くない。人里はそそくさと行って、妖怪の山に行こう。

 

「よし、行こう、さとり、こいし」

「ええ」

「おー!」

 

 私達はゆっくりと通路を歩く。岩肌が出て、少し角張っているため、歩きにくい。しかし、ここはとても涼しい。しかし、私とさとりはそんなこと考える余裕なんかなかった。

 そうして、地上に出る。

 

「久しぶり…………だね」

「そうね」

「すごぉーい!ここが地上なの?きれー!」

 

 私たちのマイナスなテンションとは裏腹にこいしはぴょんぴょんと跳ねてはしゃいでいた。そして、下を見下ろすと人里が見える。数年前と変わってないその町並みは少しだけトラウマを燻られる気分だ。早足で降りて、人里の入口まで行く。

 

「姉さん、周りは見ないで一直線に行きましょう」

「分かってる。こいし、黙って着いてきてね。絶対にサードアイは使っちゃダメ。わかった?」

「?うん、わかった」

 

 小首をかしげながらも私の忠告にしっかりと対応し、頷いた。そして、私たち三人は人里に足を踏み入れた。

 

「……っ!」

 

 空気が変わった。どんよりした嫌な雰囲気。この原因は言わずもがな、私たちだ。人間は2人1組くらいになってヒソヒソと耳打ちをしていた。それは妖怪の耳なら絶対に聞こえるほど。

「あいつら……覚り妖怪じゃねぇか…」「どうしてここに来たんだよ……」「気味が悪い……」などと言いたい放題だ。私は直接危害が加わらないので無視をしていた。さとりも同じように、こいしはさっきの笑顔とは裏腹に心底怯えていた。そんなこいしの手を握る。

 

 

 

 

「心を読むとか……死んじゃえばいいのに…………」

 

 

 

 

 その言葉に、さとりが歩を止めた。

 そしてその言葉を放った男を睨みつける。

 

「さとり。抑えて」

「……………分かってる…」

 

 さとりの顔は今にも泣き出しそうで、見ているこっちの心が痛くなる。しかし、「死んじゃえばいいのに」か……………確かにここまで言われたことは無いな………私も何気にショックだ………よし後100メートル……早く河童のところに行こう…………と、その瞬間。

 

「止まれ!!」

「は?」

 

 人里警備隊だ。

 警察のようなもので、人里の安全を守っている団体だ。そんな所に私達は声をかけられた。そんな犯罪を犯した覚えもないし、そもそも地上に出たのが久しぶりなのだから明らかにおかしい。

 

「あの、何ですか?」

「あそこのお兄さんが、お前ら覚り妖怪に友人が昨日、殺されたと警備隊の方に連絡が来た」

「え?!ちょ、どういう事ですか?!」

「そのままの意味だ。お前らは人殺しを犯した。今の幻想郷のルールくらいは知っているだろう?」

 

 もちろん知っている。目的がしっかりとした明確なものであれば罪は軽くなるが、ただ妖怪の食欲を満たすためだけに人間を殺すことは重罪になる。無差別に人を殺すのも同様だ。

 しかし、私達は本当に身に覚えがない。

 

「本当に……やってないです…」

 

 さとりの弱々しい声がする。

 

「ダメだ。しっかりとした証拠がつかめるまで署にいてもらう。お前ら覚り妖怪は危険だしな!」

 

 その男は煽ってくるかのように笑いながら私の手を引く。

 この男も私たちが覚り妖怪だからこんなにつっかかってくるのだろう、その友人が殺された男性も後ろでケラケラ笑っている。私は堪忍袋の緒が切れそうになった。

 

「や、やめて!」

「おら、暴れんな!」

「離してよ!」

 

 私はスペルカードを使ってやろうかと思ったが、ここで無闇に騒ぎを起こしたら博麗の巫女が来る可能性が極めて高い。言いなりになろう……………そう思って力を抜いて黙ってついていこうと思った瞬間だった。

 

「ふざけないで!!!」

 

 私の背後から、ヒステリックなさとりの叫びが聞こえる。さとりの目尻には涙が溜まり、背後には白く、巨大な魔法陣が展開されていた。そして

 

 

 

 さとりはなんの躊躇もなしに、人里で私達をバカにしていた住民達に向け弾幕を放った。

 



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こいしが心を閉ざした日 その2

古明地 しんりさん。
実は博麗の巫女より強いです。
この実力を知っている者は家族のみであまり戦いを好みません。

そして幼少編の博麗の巫女は霊夢の前の前になります。
先代巫女の先代巫女だね。


「さとり!!やめて!」

「うるさい!姉さんは黙ってて!」

 

 私の制止すらも切り捨て、さとりは涙を流しながら弾幕を放ち続ける。人里は阿鼻叫喚の地獄絵図のようだった、死者は出ないものの、その場で倒れる者、悲鳴を上げながら逃げ回る者、私は見ていられなかった。

 

「やめるんだ!覚り妖怪!!」

 

 人里警備隊の男が1人、下で叫んでいる。さとりはその言葉が癪に障ったのか、下を向いてこう叫ぶ。さとりの顔はクシャッと潰れ、涙をふんだんに流しながら口を大きく開ける。

 

「覚り妖怪覚り妖怪っていい加減にしてよ!私はただあなた達と仲良くしたいだけなのに!心が読めるだけでどうしてそんなに嫌うのよ!!私達が何をしたっていうのよ!」

「さとり!もういいよ!」

「さとりねぇ!やめて!」

 

 ピンク色のサードアイをギュッと握る。しかし、私とこいしの2人の必死の止めにさとりは我に返り、こちらを見る。その時の目はまるで死んだ者を見ているかのような光のない目。

 

「お前ら覚り妖怪は博麗の巫女に殺されればいい……!ただの邪魔者だ!」

「……」

 

 私のもう我慢の限界だった。もういっそ殺してしまおうかと思ったくらいだった。しかし、この時の博麗の巫女は妖怪にはよく差別をする巫女だった。大して強くないのに………

 私は戦いが嫌いだ。よっぽどの事がないと手は出さない主義なのだが……今回は怒りがかなりこみ上げてきた。

 いつの間にか、警備隊は100人をゆうに超えていた。どうしてハエのように集まってくるのだろうか……気味が悪い……

 

「さとり、下がってて」

「ね、姉さん……?」

「ちょっとお灸を据えるだけだよ」

 

 こいしの手を離し、私はさとりたちよりも少し前に出て、警備隊の前まで歩く、何故か私の足取りは軽く恐れもなかった。ただ怒りに身を任せていたからだろうか。

 

「なんだ?大人しくついてくるのか?」

「……………」

「まぁ、俺たち人間が覚り妖怪を生かすなんてこと、まずしないけどな。博麗の巫女が覚り妖怪は殺すべきだと判断している」

 

 男は刀を抜く。その刀身が日に照らされ、反射して私の目を細ませる。60センチ程の刀身を振り上げ、真っ先に私の脳天へと進む。

 

「とっとと死ねぇ!」

「………はっ」

 

 まったく、幻想郷の人間はどこまで穢れば気が済むのだろうか……妖怪退治を生業とし幻想郷のパワーバランスを保つ博麗の巫女さえが無力で無実の私たちを殺そうとしているのだ。つくづく呆れたよ、これだから地上は嫌なんだ。結局こいしにもこの有様を見せてしまったし、その上あのさとりがあそこまで心をえぐられるとは思わなかったよ。ほんと最悪。もう、どうなってもいいよね。こんな所。私たちに地上の味方はいないんだ。

 

「鬱陶しいよ。人間」

 

 私の手が警備隊の腹に添えられる。私は長い戦いが嫌いだ。手短に済ませて地霊殿に帰ろう。私の手からは細長い光線が放たれ、男の腹をきれいに貫く。少しだけ飛び散る鮮血が地面に散る。

 

「あが………」

「つまらない。鬱陶しい。うざい。もう三拍子揃っちゃってるじゃん」

「ひっ?!」

「罪のない私たちを殺そうとしたんだ。当然、返り討ちにあう覚悟もあるよね?人間」

 

 私の鋭い声に警備隊は少しずつ後ずさる。情けない………妖怪とはいえ、私はまだまだ子供(ガキ)だ。それなのに体格も私よりも遥かにガッシリしている男達が少女にビクビクしててよく人里からの信用を得たものだ。もういい、こうなったら自分が業を背負うしかない。

 

「私はそこまで騒ぎを起こしたくない。殺されたくなければとっとと去れ。そうすれば私達は何の危害も加えるつもりは無い」

「だ、黙れ!!覚り妖怪のくせに!」

 

 私はもう一度光線を放ち、次は警備隊の盾を貫通し、1人の男の足を捉えた。

 

「もう一度言う。ここから去れ」

 

 私もここまで強く、乱雑な言葉遣いをしたことが無かった。男のような口調なのに、声がまだ幼い私は少しだけ恥を覚えた。すると警備隊の長のような者が、私たちに刀を向け、こう叫んだ。

 

「と、突撃ー!」

「うおおおお!!」

「……はぁ…」

 

 人間というのは人の話もろくに聞けないのだろうか……話が通じていない。覚り妖怪だからなのだろうが、流石にけが人が2人出たらわかってくれると思ってたのにな……

 

「こいし、さとり。後ろに下がってて」

「し、しんりねぇ…………」

「姉さん…」

「この人数なら何とかなる。後ろに退避していなさい。さとり、何かあったらこいしを助けるんだよ?」

「分かってるわよ」

 

 さとりに優しい言葉で投げかけ、私はもう一度前を向く。そこにはもう男数十人が私に向かって雄叫びを上げながら突っ込んでくる。無策にも程があるだろう………恐れながらも無理をしてこちらに来ているものが数名。どうやらあの長に強制的に連れてこられたのだろう。人の気を見ればわかる。覚り妖怪を実は嫌っていない人が殆どだ……私は少し安堵した。

 

「………なら、狙いはあいつだけだね……」

 

 ついて男達が刀の射程圏内に入ってしまった。ブンブンと振り回される刀はどこかぎこちなさを感じた。まさかとは思うけど、刀初心者多いのかもしれないね。私はもっともっと長に呆れる。もう本当につまらない。終わらせちゃお。

 

「岩符「ブロック・レイン」」

 

 長の垂線上に茶色の魔法陣が展開され、その中からは岩石が雨のように降っていく。

 

「ひっ?!」

 

 長のそんな情けない声が聞こえる。私は頭に手を当てこう呟いた。腰を抜かし、涙と鼻水をダラダラだしながら怯え出す。

 

「あなただけが死ねばいい」

「や、やめてくれ!!」

「今更命乞い?見苦しいからやめてよね」

 

 そもそも覚り妖怪に恨みのない人間達を無理やり派遣させ、自分は後ろで高みの見物。一番気に食わないやり方でこいつは私たちに攻撃した。その時点で私の怒りは最高潮に達していたのだ。

 

「じゃあね。永遠に土で眠るがいい」

 

 ドガアァァン…………一気に岩石が落ちていき、私を切ろうとしていた警備隊は全員呆然と立ち尽くしていた。長の声は誰1人聞こえない。完全に押しつぶされたか。まぁ、このスペルカードは瀕死の状態までしか攻撃できないから確実に死んでることは有り得ないから大丈夫。私は空中から離れ、地面に足をついてさとりの方に向かう。

 

「ごめん、2人とも、時間がかかっちゃった」

「大丈夫よ姉さん」

「こいしは大丈夫?」

「…………」

 

 返答がない。

 

「こいし?」

「え?あ、うん。大丈夫………」

「…………」

 

 こいしの顔は本当に怯えているようでまるでトラウマを植え付けられた人のよう。何かにずっと怯えていた。これは私たちが人里に入った瞬間から変わっていない。出かける時と今のテンションの違いが著しく、どんどん下がっていくばかり。もう、今日はクーラーは買えないな………

 

「とりあえず、博麗の巫女が来る前に地底に戻ろう。そうしたら勇儀さんに相談しよ」

「そ、そうね………」

「わかった……」

 

 私以外の2人は心底震えながら私の手をそっと握りながらゆっくりと歩いていった。この時、こいしの手だけ特別に震えが大きかった。



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こいしが心を閉ざした日 その3

今回でこいしが心を閉ざした日編は終わりです。


では、ごゆるりと…


 私達は重い足取りで地霊殿に帰る。結局クーラーも買えなかったし、ただ単に人里で戦ってきただけ。今日は本当に災難な日だ。しかし、私よりも今はさとりとこいしの状態がひどい。さとりは怒りを覚えたかのようなイライラした顔。それとは裏腹にこいしは心底怯えており、呼吸が荒く、カタカタと震えていた。

 

「2人とも……大丈夫?」

「大丈夫よ。ごめんなさい、姉さん」

「こいしは?」

「………」

「こいし?」

「へ?あ、うん、大丈夫……」

 

 ついさっきも同じ質問をしたのだが、こいしはまた同じ反応をするし、私の言葉など耳に届いていなかったみたいだ。そうして地霊殿に着く。出る時とは全く違う雰囲気で私は少しだけ気まずさを感じた。

 

「じ、じゃあ、お昼ご飯作るよ。何か冷たいものがいいよね?」

「うん………」

 

 2人はソファに座り、うずくまっていた。

 

「2人とも、そこまで気にすることはないよ。たかが人間の一言じゃん。博麗の巫女もいつかはここに来ると思うけど、きっと分かってくれる。だから、元気だそ?」

「そうだけど………ただ心が読めるってだけでどうしてあそこまで言われなきゃいけないのよ………」

 

 少し刺々しいさとりの言葉に私は息を詰める。さとりとこいしは同じ能力。私には分からないんだ。そう言えば、まだ2人が同じ能力の理由を話していなかった。お母さんと二人きりの時にふと呟いた事なんだけど。

 

「さとり、こいし。何で2人が同じ能力なのか知ってる?」

 

 私は少しでも2人の元気を取り戻してほしいと願いながら、別の話題で二人を振り向かせる。

 

「さとりとこいしは元々"双子"で生まれてくるはずだったの。産まれる前にお母さんの体に異常が出てね。さとりだけが先に生まれちゃったの。そしたらこいしを生む時にはもうお母さんの体は衰弱しきってて、あちらこちらの血管が切れたからなんだ」

「そ、そうなの………?」

「そう、双子は必然的に"同じ能力"を持つはずなんだ。だから実質、さとりとこいしは双子なんだよ」

「それは知らなかった………まさか私とこいしが同い年なんて………」

 

 さとりはつっかかってくれているのだが、こいしの方は一向に反応を示さない。私は死んだ魚のような目をしているこいしに優しく声をかけた。

 

「こいし………?大丈夫だよ、だからもういつも通りに……ね?」

「そうよ、こいし。確かに人里で私が暴れたのは悪かったけど、今なら後悔していないわ。ただの人間に言われただけでそこまで落ち込むことはないわよ」

 

 私とさとりの声に、嗄れた声でこいしは静かに反抗した。

 

「しんりねぇもさとりねぇも………悔しくないの……?」

「悔しいよ。でも、こんなの一々気にしてたらきりがない。人間とは当分関係を断つつもりだから……」

「そうじゃない………あんなに酷いことばっか言われて………ただ心を読むことが出来るだけで避けられる………そんな孤独に……さとりねぇは耐えられるの?」

 

 少しずつ声が鋭くなるこいし。そして、ついに爆発でもしたのか、勢いよくソファから立ち上がり、自分の青色サードアイは思い切り握った。

 

「私は嫌だ!!こんな誰とも仲良くできない生活なんか嫌だよ!!人間のみんなとも仲良くしたいっ!もう心なんか読めなくたっていいのに………」

「こいし……」

 

 いつの間にか、こいしの頬には銀色の雫が伝っていた。そして、自分が泣いていることに気づき、こいしは早足で私とさとりの間を通り過ぎ、自室へと向かっていった。

 

「………大丈夫かしら…こいし………」

「多分…………でも、私たちが避けられてるのを見て、少し心に大きな穴が空いちゃったかもしれない………………しっかりとケアしないとね………じゃ、ご飯作ってくるよ…」

「うん………」

 

 私は台所へと向かい、フライパンを手に取る………まさか…こんな早くにこいしの心が折れてしまうとは思わなかったよ………さとりも心の傷がまた出来ちゃったし………これはお姉ちゃんの私がしっかりしないとな……そう決意して私は料理を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は自室に篭もり、ベッドの上で仰向けになる。

 どうしてしんりねぇもさとりねぇも平気な顔をしていられるの………?みんなに嫌われてるのに、どうして我慢できるの………?お母さんがくれた能力なのに…今じゃ憎たらしくて仕方が無い。もうこんな能力無くていい………いや、なくなって欲しい……私は心の中でそう念じた。人里の行く時、私は色々な人の心の声が聞こえた。『覚り妖怪なんて死ねばいいのに………』『もう気味が悪いよ…………』…こんな事が心の中で反芻させられ、私の頭はおかしくなりそうだった。さとりねぇも恐らくそれを聞いていたのだろう…………それなのに…我慢して生きていくのなんて嫌。私は他のみんなとも仲良くなりたいの。だから………こんな能力…消しちゃえばいいんだ………私はベッドから降りて、棚を漁る。

 

「あった…………」

 

 それは、鮮やかな銀色のナイフ。裁縫のためにと言って、しんりねぇが一回り大きいナイフを買って来ちゃった時のもの。これで……私は覚りから開放されるんだ………目をつぶり、私はナイフを上に振り上げる。そして…

 

 

 

 

 

 

 思い切り、サードアイの中心に刺した。

 

 

 

 

 

 

 

「っ………ああ!……」

 

 体の一部でもあるサードアイにはもちろん痛覚もある、自分の目を潰すのと同じ痛み。鮮血を撒き散らし、ベッドや棚、私の真っ赤な血によって染められていた。そして、私自身もまた赤くなっていた。

 

「あ、あああ!」

 

 やった………これでようやく…心が読めなくなった………私は痛みや恐怖よりも先に、喜びが勝った。サードアイにはポッカリと穴が開き、スゥー………と静かに瞼を閉じた。覚り妖怪は一度瞳を閉じると、もう二度と開かなくなる。つまり、"心が読めなくなる"という事だ。

 ああ……これでみんなに嫌われない……………

 

「あはっ…………ははは……」

 

 乾いた笑い声が部屋に響く。するとカチャっと静かにドアが開けられ、そこからしんりねぇが顔を出した。

 

「こいし?ご飯できたけど…………………………」

「あ、しんりねぇ………………これで私……………………………覚り妖怪じゃなくなったよね?」

「…急いで永遠亭に行くよ…………!!」

 

 しんりねぇの顔には怒り、心配、呆れ、この三つだった。すると後ろからさとりねぇも来て、私の姿を見る。

 

「こいし?!あなた何やってるの!!」

「今はいい!早く永遠亭に行くよ!」

 

 私は慌てるしんりねぇに担がれ、地霊殿を出た。そして物凄いスピードでしんりねぇは飛ぶ。その後ろにさとりねぇも付いてきていた。そして、私は永遠亭で永琳にこう言われた……

 

「馬鹿なことを………」

 

 その哀れみのような目に私は疑問符を浮かべる。どうして…………みんなそんな顔をするの………?私は腕に一本の注射を打たれ、すぐに瞼が落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こいし………大丈夫よね…?」

「大丈夫だよ…………しかし何であんな馬鹿なことしたんだろ………」

 

 さとりの問いに、私は静かに優しく答えた。するとさとりはその場でカタカタと震え、自暴自棄に入ってしまった。

 

「私のせいよ………私が…人間に嫌われるようなことをしたからっ………!」

 

 両腕を抱き、涙を流すさとり。私の手は無意識にさとりの背中に伸びていた。ゆっくりと擦り、震えるさとりを落ち着かせようとする。

 

「大丈夫…………さとりは悪くないよ……大丈夫……」

 

 この優しい言葉に何の意味があるかは分からない。これはこいし自身の決断だ。さとりはもちろん悪くない。私のせいだ。自分のことだけを考えてしまい、妹のことを考えていなかった。自分でそう悔しがっていると、手術室のドアが開く。

 

「しんり、さとり。あなた達に知らせたいことがあるの。中に入りなさい」

「え、うん。わかった……」

 

 私とさとりは顔を見合わせて首を傾げる。そして、椅子から立ち上がり、こいしのいる手術室に入った。中に入ると、横たわって寝息を立てているこいしがいた。

 

「こいし………」

「安心しなさい。手術は成功よ。でも……」

 

 永琳さんの顔はいつよりもかなり暗く、マスクをしていても分かるくらいだった。

 

「彼女はもう"心が読めない"。完全に心を閉ざしてしまったのよ………誰にも知られたくない、誰のも知りたくない………そんな思いから…だと思うけど、完全にサードアイが潰れてしまっているわ……」

「そんな………」

「だからこいしは『無意識』が操れるようにもなった。こいしの心は誰にも分からなくなってしまったの」

 

 その発言に私とさとりは凍る。こいしは恐らく心を読むことが嫌なのだろう………まぁ、私たちの嫌われようを見て嫌になったんだろうけどね…………

 

「そう、ありがとう…永琳さん」

「もうすぐで目が覚めるわ………それまで待っていなさい。お茶くらい出すわよ」

 

 そうしてまた私達は手術室を出て、隣の隣にある居間に座る。すると鈴仙さんがお茶を差し出してくる。

 

「どうぞ。粗茶ですけど…」

「ありがとうございます」

 

 ズズズ………と静かにすする。その暖かさに私は少しほっこりした。夏なのに心地がいいこのお茶は素晴らしいものだ。それから数分後、永琳が戸を引いて入ってきた。

 

「こいしが目を覚ましたわ……」

「………わかった…」

 

 そして、また手術室に入ると、今度は体を起こしてボーッとするこいしがいた。

 

「こいし……」

「しんりねぇ、さとりねぇ。私はもう覚り妖怪じゃないよ………これで…みんなに嫌われないよ……」

 

 乾ききった笑みを見せる。私はそれに少しショックを受けた。

 

「どうして……こんなことを…………」

 

 さとりの言葉にこいしは対抗するように声を張り上げる。

 

「お姉ちゃん達が……!嫌われているのを見たくなかったから!私が覚り妖怪は悪い妖怪じゃないってことを伝えたかったの!」

 

 涙が溢れ出す。

 

「だから……そのためには…心を読む能力は切り捨てないといけないのよ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 バチン!!

 手術室内に軽快な平手打ちの音が響く。赤くなった頬をこいしは抑える。

 

「しんり………ねぇ…」

「こいし、そんなことをしても意味は無いよ。鬼が角をとっても鬼であることには変わりない。翼をもいだ鳥も鳥であることには変わりない。それと同じように、こいしがサードアイを閉じても、覚り妖怪であることには変わりないの」

「………!」

「覚り妖怪のイメージを変えるためだけに、心に傷を作ってはいけないよ………こいし…」

 

 こいしの体全てを包み込むように…私は優しく抱きしめる。優しく、そして強く。

 

「私も………絶対にこいしを守るから……!もう、1人で無理しないで……!」

 

 私の目からも涙が溢れる。こいしはしばらく硬直し、もう一度涙を流した。

 

「しんりねぇ……」

「私も、ごめんなさい…こいし………心が読める私でさえ、心を読むことを拒否してた……こいしがここまで我慢してるのを知らずに……」

 

 私とこいしに重なるようにさとりの体も触れる。

 

「う、うあああああああああ!!」

 

 こいしが声を上げて泣き叫ぶ。しかし、その涙は悲しみでもなく、悔しさでもなく。

 

 

 

 

 嬉し涙だった。

 

 

 

 

 

 

 

 それから5時間ほど経ち、すっかり日は沈んでいた。こいしも泣き止み、これからはしっかりとお姉ちゃん達と協力して生きる。そう改心してくれた。今日は永遠亭に泊まることになり、私達は夏の夜空を見上げていた。

 

「あはは……さとりねぇだけ先に寝ちゃった……」

「本当だ……」

 

 私とこいしが縁側で月を見ていると、壁に寄りかかって、さとりが寝息を立てていた。私は無意識にこいしの手をギュッと握っていた。

 

「しんりねぇ……?」

「こいし。もう、あんな無理はしないでね………?傷つくのは………あなただけじゃないんだよ?」

「………うん」

 

 小さな声にも、しっかりと対応してくれた。もう、これ以上妹達を危険な目には合わせたくない。今回の件も何もこいしだけが悪いわけでもない……お姉ちゃんである私が……二人を守るんだ………

 

「……大好きだよ…………しんりお姉ちゃん……」

「………!」

 

 こいしが初めて放った『しんりお姉ちゃん』。その言葉には妙に重みがあり、私は初対面の人にいきなり名前で呼ばれた感覚に陥る。少しドキッとしてしまった。しかし、こんな情けない顔を見せてられない。私もすぐに微笑む。いつまでも……古明地三姉妹が…幸せでいられますように………その思いを乗せ、こう紡いだ。

 

「私も大好きだよ…こいし……」

 

 夏の夜空は満月を中心に、たくさんの星空が広がっていた。




こいしの心が閉じ、シリアス回第一回、これで終わりです。
次回からほのぼのなものを作ったり、異変編だったりするので、これからもよろしくお願いします。


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服が無い、魔女っ子三姉妹

今回ほど挿絵があったら良かったなと思った回はありません。

全てを読者さんの想像におまかせします。
私、画力無いもので……


とゆーわけで、今回は想像回です。

ごゆるりと……


 こいしが心を閉ざし、無意識を操れるようになって5日後。こいしの精神も能力も安定してきており、普段通りの生活が送れるようになった頃。私達はまたもや、暑さに死にそうになっていた。さすがに何も無いのは暑くてサードアイが溶けそうだったので、簡易プールを作り、冷たい水で涼んでいた。水着もあったのでちょうど良かった。今少しだけ私たちの水着姿を見たくなった諸君。残念だけどこれは小説だよ。挿絵なんか以ての外だ。

 

「それっ」

「きゃっ!?ちょっと姉さん!!」

「あはは!さとり隙だらけ……いゃっ?!」

 

 背後から冷たい水が全身にかかる。私が後ろを向くと、こいしがケラケラと笑っていた。

 

「こいしぃ〜!」

「ちょっ!しんりねぇ!かけすぎだよぉー!」

「知ったことかー!」

 

 バシャバシャと3人で水をかけあう。こんな感じで姉妹水入らずの遊びをしたのも久しぶりで、少なくとも私はとても楽しめた。暑さも凌げたし、楽しかったし。そのかけあいもヒートアップしていっていた。

 

「くらえっ!」

「このっ!」

 

 ばっしゃぁぁ…………三人同時に大量の水をかけた。簡易プールなのでもちろん範囲は狭い、外にも水はかかっている。私達はプールの目の前で水着に着替えたため、私服がすぐ隣に畳んで置いてあった。私達は後々、このことを忘れており、無我夢中に水をかけていた。

 

「あっ…」

「ん………?……あ」

 

 私とこいしがそれに気づいた。そう、今の私たちの服がびっしょりと濡れていたのだ。

 

「あらら……地霊殿まで取りに行くか、そろそろお昼時だし、丁度いいよね」

「そうね……」

「仕方ないか……もっと遊びたかったけど……」

 

 しょんぼりするこいしを横目で見て、私はプールからあがる。濡れた服を片手に、私は地霊殿の玄関へと歩いた。そのまま風呂場へと向かい、洗濯カゴに入れようとする。そのままそれも洗濯してしまおうと考えた時、まだ洗濯機がゴウンゴウンと回っていた。あ、そうだ。今日の朝、私達三人の私服を洗ってたんだ………後2時間くらいかな?私は水が腐るのですぐに洗いたかったが、渋々洗濯カゴに入れた。するとドアが開き、こいしが顔を出す。まだ髪の毛が濡れており、水着姿のこいしは全身に艶があるように見えた。

 

「どしたの?」

「私の服知らない?1枚もないんだけど………」

「え?……ほんと?あれ、おかしいな………」

「ごめん姉さん。私も」

「え、入れる棚間違えたかな………ちょっと待ってて」

 

 私は2人にそう指摘され、自分の部屋に入り、棚を漁る。もしかしたら私の棚に2人の服が入ってるかもしれない。しかし、2人の服はおろか、私の服すらもなかった。しまった………全部洗濯してるんだった………私たちの服は調達するのが面倒で1人3着しか持っていない。ってことは…今現在2着洗濯中。1着びしょ濡れ…………何も着れない……そろそろ水が冷えてきたんだけど………

 

「しんりねぇー?」

「ごめん、今服無いや……」

「え、えー………じゃあどうするのよ?」

 

 私はその場で頭を抱える。確かにほかの服はあるが……寝間着があるが、この後も寝間着で活動すると汗で眠れなくなってしまう。他には…………あるにはあるけど……恥ずかしくて着れないもんね………

 

「あ、そう言えば先月くらいに勇儀から可愛い服もらったよね?3人とも違うやつ。それでいいんじゃない?」

「こいし……あれは思いっきり『こすぷれ』ってやつだよ………恥ずかしい…」

「あ、あれはダメよ!勇儀さんのお遊びで作った服だし、派手で着てられないわ……」

「ええー?でも、このままじゃずっと水着のままだよ?」

「うっ……」

 

 私たちが今議論しているのは、以前勇儀さんが『差し入れだ!古明地姉妹!』とかいって、1人1着の服をプレゼントしてくれた。無下にするのも心苦しかったので、私はそれを素直に受け取り、袋を開封した。まだ普通のTシャツとかだったら良かったものの、これがかなり過激でなおかつ『こすぷれ』と言わんばかりの派手な服なのだ。一度着てみたが、恥ずかしくてすぐに脱いでしまった。しかし、こいしだけはノリノリで着ていたのを覚えている。そうそのこすぷれとは…………

 

「早く着ようよ!魔女っ子!」

「嫌だぁぁぁ!」

 

 自分たちのイメージカラーの露出の激しい魔女のコスプレなのだ。これを勇儀さんが作ったのか、一時はそう疑ったがどうやら地上の妖怪の友人と勇儀さんが話していた時、私達の話題で盛り上がっていて、せっかくだから……って感じで作られた代物らしい……なんか釈然としない…

 

「えぇー?涼しいのに……」

「そういう問題じゃないのよ……」

「とゆーかもう着てるし…」

 

 私とさとりは水着姿のまま、そこで立ち尽くしていたが、こいしはいち早くその服に着替え、深緑の魔女っ子に変身していた。我が妹ながら可愛いな……。

 

「さ、お姉ちゃん達も着よ?」

「うぐ……」

 

 確かに水着のままじゃ気持ち悪いし、着替えた方が楽かもしれない。少し諦め気味になり、私は自分の白の魔女服を手に取る。すると、さとりが少しだけ驚きと焦燥の顔を浮かべる。

 

「ちょっ、姉さん?!ほんとに着るの?」

「いや、恥ずかしいけど、水着のままは嫌だし……」

 

 私は渋々魔女服を着る。肩が露出し、スカートもかなり短く、いつものフリルスカートよりも足がスースーする。私は赤面してスカートの裾を伸ばす。

 

「うぅ……」

「あっははは!しんりねぇ恥ずかしいの?」

「恥ずかしくないこいしがおかしいの!」

「さとりねぇは着ないの?」

 

 私は置いてあった魔女の三角帽子を被り、扇風機の前にストンと腰をおろし、さとりの方を見る。さとりはまだ水着姿のままで、正直さとりが1番目立っていた。

 

「い、いやよ!それなら洗濯終わるまで待つわよ!」

「服が乾くの明日だよ?さとり?」

「うっ……」

 

 じぃーっとさとりを2人で凝視する。その目線にお手上げだったのか、さとりは更に顔を赤くし、声を荒らげてこう放った。

 

「わ、分かったわよ!着ればいいんでしょ!」

「お、さすがさとりぃー!」

 

 私はもうこの魔女姿に慣れ、心の余裕を生むことが出来た。さとりは少し涙目になりながらも、紫とピンクの魔女服を上から着る。やっぱりさとりのコスプレは冗談もお世辞も抜きで可愛いな………

 

「う、うぅ……そんなに見ないでよ姉さん!こいしも!」

「あ、照れてるさとりねぇって結構貴重かもね?」

「こいし、このさとりの姿をよーく目に焼き付けておくんだよ?」

「う、うるさいわよ!姉さんだって同じ格好してるじゃない!」

 

 私は心の余裕が出来たなんて言っていたが、やはり落ち着かない。露出が激しいため、いくら姉妹とはいえ体の一部を見せるのはやはり恥ずかしくてつい隠してしまう。

 

「え、い、いやー…私はもう恥ずかしくないし……?………………ひゃんっ!?」

 

 私は唐突にとんでもない声を上げてしまう。こいしに露出している肩を指でなぞられ、くすぐったさから声を上げてしまた。

 

「お、しんりねぇ凄い声出た。それに……肌スベスベ♪」

「ちょっ、こいし……!そんな触らないでっ!」

「………〜〜〜っ!私も混ぜなさいよ!」

「ちょっ!さとりまで!やめて!お姉ちゃんに何するのぉぉ………」

 

 さとりが新たに混ざり、私の肩をくすぐる。この日、私達は遊んだ後、魔女服が今までにない以上の汗を纏っていた。ちなみに、私はこの日だけで数日分の体力を消費して、こいしとさとりは私の肌を触っていたからなのか、清々しい顔をしていた。世の中って不公平だよね。

 

「ふぅー………楽しかった♪」

「はぁ………はぁ……つ、疲れた……」

「でも、姉さんの肌、何でこんなに綺麗なのかしら?」

「知らないよ…………今はそれどころじゃない……」

 

 夜、服がまだ乾かないので、3人で姉妹水入らず、久しぶりの風呂に入っていた。地霊殿の風呂はかなり広く、大浴場と言っても過言ではない。3人でも全然余裕で伸び伸び出来る。

 

「でも、こうやって3人でお風呂に入るの久しぶりね……」

「そうだね……しんりねぇもさとりねぇも1人で先に入っちゃうんだもん…………これからは一緒に入ろーよ!」

「ええ……毎日体触られるのは嫌だよ………」

「大丈夫よ姉さん。今日は気分が………ね?」

「ちょっとさとりその目怖いよ」

「あはは!でも、今日は楽しかったね?また魔女服で遊ぼ!」

 

 こうして、私達の魔女っ子遊びの1日は私だけが不幸な目にあって幕を閉じたのだった。




しんりちゃんの肌ってどれくらいスベスベなんだろうね……

とゆーか魔女っ子なのに魔法系の物がないという完全な題名詐欺………まぁ、想像回だしね………

とゆーわけで少し百合要素のある小説でした!


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中秋の名月、来たる玉兎

オリキャラ登場!

物語が急展開過ぎるかな……


 10月2日。

 地底では今日が中秋の名月だと騒いでおり、地上に出る者も多かった。もちろん、私達は地上には行きたくないし、地底からでも月は見える。私たちにとって別に特別な日でもなし、何か大切な日でもない。本当に普通の平日って感じ。まぁ、一応団子は作るけどね。

 私はごみ捨てとついでに外の空気を吸いに、さとりとこいしの3人で散歩していた。こいしが無意識を使ってどこかへ行ってしまったので、実質さとりと2人で夜道を歩いている。

 

「あ、姉さん。うさぎだ」

「え?」

「うさぎがいるわ」

 

 さとりが唐突にそんなことを言うので私は首を傾げる。そもそもうさぎがこんな所に………最初はてっきり鈴仙さんかと思っていたが、玄関の方に行くと、本当に白いうさぎがそこに居た。

 

「か、かわいい!」

「ちょっ、姉さん?!」

 

 そう、私はかわいいものに目がない。まぁ、女の子だったら当然だよね?みんなそうだよね?私は警戒すらしないうさぎを撫で回しながらにやける。

 

「……ねぇ、さとり。この子飼っていい?」

「ダメ」

「答えるの早いよ……」

 

 食い気味に答えるさとり。私はモフモフの毛を堪能する。すると、背後からこいしの声が聞こえた。

 

「あ、しんりねぇ!その子と一緒にお月見しようよ!」

「え?この子こいしが拾ってきたの?」

「そうだよ!道の端っこで悲しそうな目してたから耐えられなくて持ってきちゃった♪」

「『持ってきちゃった♪』じゃないわよ!餌もないのにこの子飼うなんて出来ないわよ?」

 

 さとりはお母さんのような口調でこいしを叱る。長女の私よりも次女の方が賢いってどうなの……私はこいしの意見に賛成するように首を縦に振った。さとりは「はぁ…」と、大きな溜息をつき、額に手を当てながらこう言った。

 

「仕方ないわね………見た感じ野良じゃなさそうだし、飼い主が見つかるまでよ」

「や、やったぁー!ありがとうさとりねぇ!!」

 

 こいしの小さい体がぴょんぴょんと跳ねる。私はそのウサギを抱きながら、2人に言う。

 

「ね、この子の名前決めようよ」

「確かに…じゃあ私達と似たような名前にしない?」

 

 さとりが少しだけ言いにくそうに口を開いた。その意見に私とこいしは「おおー」と感嘆の声を漏らす。

 

「……さとりも実は乗り気だった?」

「な、そんなことないわよ!」

「この子ってメスかな?」

「…見た感じ女の子っぽい」

「じゃあ、チョロQ!」

 

 こいし、それは流石にまずいよ………と、心の中でこいしのネーミングセンスを否定する。悪気なしで言っているのでそこがまた無意識に嫌なところだ。私は切り替えて新たな案を考える。何かいい名前は無いものか…………と、私はここで一つの案を思い出す。お母さんの友人で昔いつも遊んでいたお姉さん。今はもう死んじゃったけど、優しい人で、いつも私の憧れだった人。

 

瑞乃(みずの)!」

「………いいわね…すこし人間っぽいけど」

「私はそれがいい!」

「よし、じゃあこの子は今日から瑞乃だ」

 

 私は瑞乃を抱き、撫でる。毛並みも綺麗でモフモフだ。ずっと触っていたくなるほど。

 するとこいしがぴょんぴょんと跳ねながら、私に迫ってきた。

 

「ね、さっそくお月見しよーよ!」

「そうだね。じゃあこいし。瑞乃をお願い。お団子取ってくるよ」

「はーい!」

「屋上で待ってるわ。一昨日に勇儀さんが開けた大穴から月が見えるらしいから」

「………また開けたのかあの鬼は…」

 

 そう言って、私は地霊殿の扉を開け、歩いて台所へ向かう。少し薄暗く、誰もいないため、恐怖を煽られるが自分の家でなおかつ私達も妖怪なので、恐れるものは全くない。

 数十メートル歩くと、香ばしい匂いを未だに放出している台所にたどり着いた。まな板のすぐ近くに、色とりどりな丸い団子が山積みになっていた。こいしの好きな三色団子。さとりの好きなみたらし団子の両方を重ねてる。みたらし団子は少しネバネバしちゃうけどね……。

 私はそれを両手で運ぶ。なかなかの重量に足が少しだけふらつく。体勢を立て直しゆっくりと運んだ。屋上なので階段もゆっくりと歩き、途中からさとりに手伝ってもらったりしながら、私は屋上にたどり着いた。

 そこにはもう敷物を敷いて、座って待っている準備万端のこいしと瑞乃がいた。私は少し早足でそこへ向かった。

 

「ねね、早く食べよ?お腹空いちゃった」

「私もお腹が空いたわ。もう食べていいの?」

「いいよ。結構多めに作ったから沢山食べてね」

「いただきます」

「いっただっきまぁーす!」

「私もー!」

「じゃあ瑞乃もー!」

「あれ?」

 

 私達はお月見など関係なく、団子を次々と頬張っていた。私とこいし、さとりと瑞乃。あっという間に50個ほどあった団子はもう20個程しか余っていなかった。それでも口と手を止めようとはせず、どんどんと口に入れていく。さっき晩御飯をたらふく食べたのに、まるで別の胃があるかのようにポンポンと入れられるものだ。私は感嘆の息を漏らしながら団子を少しずつ食べていく。すると、さとりとこいしが口に団子を頬張り頬を膨らませながら顎を動かしていた。私も少しだけ食べすぎてしまい、手を止めた。しかし、団子は"減っていた"。

 そこで私が一番最初に異変に気づいた。

 

「っ?!」

「ん?」

 

 一瞬、団子が喉に詰まりそうになったが、何とか飲み込んで大きく息を吸う。それと同時に私の顔もどんどん青ざめていく。

 満月の夜。うさぎが月から降りてきた。

 

「え、えええええええ?!」

「どーしたの?しんりねぇ?」

「あ、あ、あ、あなた誰?!」

「へ?」

 

 私が指さした方向には元々瑞乃がいた。可愛い白いモフモフの"うさぎ"がいたはずだったのに。

 瑞乃がいた場所には、鈴仙さんと同じようなうさ耳。腰まで伸びている銀色の真っ直ぐな髪の毛。黒いセーラー服にミニスカート。今まで見たことのないような美少女がそこで鎮座して団子を食べていた。

 

「え、ちょ、ちょっと姉さん!!不審者よ!」

「へぇあ?!ちょっと待ってよ!私だよ私!!」

「『ワタシワタシ詐欺』か?!誰か警備隊呼んできて!こいし!」

「わ、分かった!」

「だ、だから、瑞乃だって……」

「瑞乃はうさぎだ!こんなにおっぱいの大きいうさぎなんか見たことないぞ!」

「私の話を聞けぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 銀髪美少女の声が地底いっぱいに反響する。ここは岩の壁が近いので声は反響しやすい。エコーがきいたかのように瑞乃モドキの声が大きく聞こえた。

 私達は静まり返り、瑞乃モドキを凝視する。

 

「いい?私は玉兎なの。ただのうさぎじゃなくて、月から来たうさぎの妖怪なの」

「あ、そうなの?」

「まぁ、月から追放されてここに来たんだけどね……ちょうど中秋の名月だから出口が大きかったよ」

「そうなのね……どうりであんなモフモフな白うさぎになっていたのね………でも、永遠亭には行かなかったの?あそこも元月人よ?」

「最初は八意様のところに行こうと思ったよ?でも、降りた所から永遠亭に行くまでの道のりが分からなくて、フラフラ歩いてたらここに着いたってこと」

「着いたっていうか拾われた。だよね」

「そこはどうでもいいの。まぁ、名前は無いし、瑞乃っていう名前も好きだから瑞乃って呼んでね」

 

 瑞乃が淡々とここに来た経緯を話す。要は瑞乃は月のうさぎで何らかの理由で地上に追放された。そして、同じ月のうさぎがいる永遠亭に行こうと思ったが、道に迷って、フラフラしていたら地霊殿前に到着。とゆーか、玉兎って兎に変身できるんだね。

 

「じゃあ、よろしく。瑞乃」

「え、もうここに住む気なのね……」

「あら、ダメかしら?」

「私はおっぱい大きい人嫌!」

「え、ええ?!理不尽すぎるわよ!」

「こいしはいつから胸に嫉妬を抱くようになったの……」

 

 最近、こいしは様々な物事に興味を持ち、最近は大人の女性の体に特に興味を持っている。毎朝、『私はきょにゅーになる!』と騒いでいて全く迷惑極まりない妹だ。

 瑞乃は言わばナイスバディ。ボンキュッボンの三拍子全てがパーフェクトと言わんばかりのわがままボディなので、私達は古明地姉妹の嫉妬の対象になりそうだ。特にこいしは敵視しているだろう。

 

「まぁ、とりあえず、よろしく。瑞乃」

「よろしくね!」

「うん、よろしく、こいし、しんり」

 

 なんかしんりって呼び捨てで呼ばれたの久しぶりだな……まぁ、長女だから仕方ないかもだけど。

 

「お、月が大きいし、綺麗!」

「あ、ホントだ。綺麗だね」

 

 こいしが手を広げて夜空に浮かぶ地球の衛星、月を見上げていた。いつもよりも大きく、クレーターも目立つぐらいの輝かしく巨大な月が私たちを覗いていた。

 私達はずっとそれに見とれていたが、さとりがいつの間にか、団子を平らげていて、私は目を見開くしかなかった。

 

「じゃあ、仕方ない。瑞乃は姉さんの部屋で寝て」

「りょーかーい。じゃあ、おやすみ、みんな」

「はーい、おやすみ、しんりねぇ。さとりねぇ。瑞乃」

 

 ふぁぁ〜〜と大きく口を開けて欠伸をしながら自室へと消えていくこいしを横目に、私は瑞乃を連れて自室へと入る。

 2人でいるからか、いつも一人でいたこの部屋がいつもよりも狭く感じた。

 

「瑞乃。私は床に布団敷いて寝るから、眠かったらベッドで寝ていいよ」

「うん、ありがと……」

「じゃあ私は風呂入ってくる」

「はーい!」

 

 元気のいい返事をした瑞乃は自室から消えた私も確認して、こう呟いた。その声には、安堵と安心がこもっている。

 

「私も……ここなら×××の罪を一生背負わなくていいんだ。また、八意様にも会いたいな………」

 

 瑞乃の小さな声は反響せず、ゆっくりとベッドに横になる。瞼が少しずつ落ちていき、全身に力が入らなくなった瞬間、瑞乃は無意識に視界が暗黒に染まっていた。




瑞乃可愛いかな?


瑞乃は三姉妹の親友ポジにしたいと思ってます。


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永遠亭、働き口探し

 翌日、私達は同じ玉兎のいる永遠亭へと足を運ぶことにした。こいしが無意識を操れるようになり、人目を全く気にせずに姿を消すことが出来るため、難なく人里を通り抜けられるようになった。

 

「あ、ねーねー、あの団子食べたい!」

「ダメよ。人に見つかる」

「じゃあ私が買ってくるよ」

「…………じゃあ、お願い。瑞乃」

 

 瑞乃はこいしの無意識の領域から抜け出し、私から現金を受け取り、団子屋さんの方へと歩を進めた。そして、笑顔で店主と会話し、品物を指さしていた。

 

「じゃあ、これとこれ。お願い」

「あいよ!」

 

 一つの紙袋を受け取り、鼻歌交じりにこちらへ歩いてくる。

 

「はい、みたらし団子と三色団子。さとりとこいしが好きなんだよね?」

「やった!みたらし団子」

 

 さとりが珍しくテンションが高く、みたらし団子を頬張っていた。いつもこの調子なら可愛いのに………そう思ったのは内緒にしておこう。2人は瑞乃から渡された紙袋を漁り、見つけた団子からバクバク食べていく。その姿は姉ながら可愛らしく思ってしまう。にやけてしまうので敢えて顔を逸らして、瑞乃を見据える。

 

「永遠亭は迷いの竹林って言う本当に誰もたどり着けないほど迷う竹林があるんだ。まぁ、私は覚えてるけど…そこを抜けたら、永琳さんのところに行けるよ。鈴仙さんもね」

「え?鈴仙?!」

 

 瑞乃の顔が穏やかから驚きに変わる。鈴仙さんと関わりがあったのだろうか?小首を傾げながら自分の中で考察する。

 

「鈴仙さんと何かあったの?」

「いやいや、親友だよ。唯一無二のね」

「唯一無二………………か…いいね、そう言うの」

「そう?まぁ、鈴仙とは早くに別れたからあっちは覚えてるか分からないけど……」

「瑞乃が覚えてるなら……………って、自分の名前はないのに、鈴仙にはあるのね」

「私は階級が下っ端だったから、鈴仙と関われたのはほぼ奇跡に等しいんだ」

「へぇ………お、着いたよ」

 

 さとりと瑞乃の会話を静かに聞いていた私は目の前にそびえる木造の建築物を指さす。これが幻想郷の医学の中心。永遠亭だ。月の医学がここよりも発展しているため、特効薬などはここに任せれば治るとも言われている。病気にかかったら永遠亭に行け。幻想郷の合言葉の様なものである。

 私達は永遠亭の前で団子を食べていたが、いつの間にか、瑞乃の姿が消えていた。

 

「あれ?瑞乃?まぁ、いっか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はしんり達に黙って永遠亭に入ってしまった。待ちきれなかったから、鈴仙と八意様に会いたかったから。私は恐る恐る敷地に入り、つま先歩きで内部へと入る。

 

「お、お邪魔しまーす………」

 

 極力小さな声でそう言うと、奥から人影が見えた。

 

「ひっ?!」

「あら、患者さん……………って、ええ?あなた!」

「あ、鈴仙……久しぶり…………」

「元気してた?久しぶりじゃない!」

「鈴仙こそ、前と変わってないわね」

 

 久しぶりに友と出会い、私は安堵と歓喜の両方がこみ上げてきた。鈴仙とは本当に長年の付き合いで大体30年程。身よりもなく、名もない私に手を差し伸べてくれた唯一の親友。鈴仙が月から逃亡したと聞いた時は本当に心が折れた。

 

「あ、そう。私ね。××××、×××しちゃって追放されちゃった…」

「え、え?!ちょっと待って、それは師匠しか作れないはずじゃ…」

「八意様のレポートが図書館に残ってたの、だから月の科学者達がそれを再現したってこと。それを無理やり飲まされて、追放された。まぁ、平民以下の扱いなんてこんなものよね……」

「そんな……」

「でも、古明地姉妹に「瑞乃」って名前をもらったんだ。あの子達は可愛いね…」

「瑞乃…………いい名前ね……じゃあ、師匠のところに案内するわ。こっちよ、瑞乃」

 

 私は鈴仙に手を引かれ、少し早足で歩いていた。20メートル程歩くと、鈴仙が急に立ち止まり、私は鈴仙の後頭部が鼻に当たる。私は鼻を擦りがら鈴仙を見る。

 

「あ、あぁ、ごめんなさい。ここよ、師匠ー!」

「開いてるわ。入っていいわよ」

「失礼します」

「し、失礼します」

「……あら、うどんげの友人じゃないかしら?」

「……ご存知でしたか…」

「ええ……何か私と話したいようね。悪いけどうどんげ。席を外してくれる?」

「分かりました。しんりちゃん達の相手をしてきます」

 

 そう言って、鈴仙は扉を開け、ゆっくりと閉める。それを見た後、八意様はこう紡いだ。

 

「………『蓬莱の薬』が、私以外にも作れるようになったなんてね……」

「ええ、八意様……………いいえ、××様……」

 

 私が八意様の下の名で呼ぶが、それを言った瞬間、八意様の表情が引き締まり、制された。

 

「玉兎の間では、私の名はそれで通っているのね。でも、幻想郷(ここ)で××は嫦娥と呼ばれてる。軽々しくその名を呼ぶのはやめた方がいいわ。私は八意永琳。覚えといて」

「は、はい。分かりました。永琳様……」

 

 私が即座に名を変えると、永琳様はゆっくりと息をついて、微笑んでこう言った。

 

「あなた、家で働かない?鈴仙とも友達だし、悪いことはないわよ?」

「はい、その事をお願いしたくてここに来た次第です」

 

 まるで心を見透かされたかのように、永琳様は迷うなく私を勧誘してくれた。鈴仙もいるし、家族のように過ごせると思った。古明地姉妹とも仲良くできそうだが、鈴仙ともっと過ごしたい。

 

「なら好都合だわ。じゃあこれからよろしく。えっと……」

「瑞乃です」

「瑞乃ね………何か姓名が欲しいわ…………うーん……」

「雅 瑞乃」

 

 永琳様がそう告げた。ずっと憧れだった永琳様に名を貰った。それだけで私は感極まって涙が出そうになるほど。嬉しかった。

 

「…………はい!よろしくお願いします!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私達は瑞乃が出てくるのを待っていた。すると永遠亭のドアが開き、出てきたのは瑞乃ではなく鈴仙さんだった。

 

「ごめんね。今師匠と瑞乃はお話中だから中に入ってお茶でも………」

「じゃあ、お言葉に甘えます。鈴仙さん」

 

 少し遠慮気味にそう言って、私達は永遠亭内部へと足を運んだ。地霊殿とはまた違う雰囲気の穏やかさに、私の心は落ち着いていた。

 

「ね、しんりねぇ」

「ん?」

「瑞乃ってここに住むのかな………」

「私はそれをオススメしたいな。覚り妖怪よりも、同じ玉兎の方がいいと思うし、何より私達の事で迷惑はかけたくないしね……」

「……まぁ、ここならいつでも来れるし、いっか!」

 

 こいしは少しだけそれを心配していたが、どうやら納得してくれたようだ。こいしも大人になってきたな…………しかし、覚り妖怪は14歳から成長が止まり、350歳までは同じ身長であることがもう分かっている。お母さんも享年900歳で約163センチ程で身長は高めだった。

 それに比べ、私は140センチ、さとりは130後半、こいしハ130前半程でまだまだ小さい。ちなみに、私は今14なので、350歳まではこの身長であるという事だ。もう少し伸ばしたかったな…………と、一人で頭を抱えていると、奥から瑞乃が姿を現した。

 

「およ、瑞乃。ここに住むことになった?」

「うん、永琳様からも許可は頂いたよ」

 

 八意様から永琳様に人称が変わっているあたり、永琳さんも分かってくれていたみたいだった。これでとりあえず一安心。瑞乃とはいつでも遊べるし、永遠亭も遠いわけではないので、毎日会えると言っても過言ではない。

 

「じゃあ、瑞乃。鈴仙さんと仲良くね」

「な、なんか最後の別れみたいになってるよ……」

「瑞乃の事は………グスッ………忘れないよ!」

「何で感動してるの!」

 

 さとりとこいしの迫真の演技がこの場を和やかにしてくれた。さすが古明地姉妹………やるべき事はよく分かっているみたいだ……………

 私達は永遠亭を離れ、地底のある方角へと歩を進める。

 

「ね、しんりねぇ、さとりねぇ!手繋ごーよ!」

「いいよ」

「仕方ないわね……」

 

 こいしを真ん中にし、私はこいしの右手を、さとりは左手をぎゅっと握った。こいしのほんのり暖かい手が私は右手を通じて全身に伝わる。心地よい肌さわりと温度で、私は手を離したくなくなった。

 

「あ、しんりねぇ!お好み焼きたべたーい!」

「ダーメ!帰ったら晩御飯があるから!」

「ね、姉さん………あそこの抹茶美味しそう……」

 

 ジュルジュルと涎を垂らす二人。晩御飯があるのに………二人はそれを考えていないのか、はたまた別腹なのか……さすがにこの二人の食べる量が最近私よりも多い気がしてならない。

 

「仕方ないね……一つだけだよ?」

「やったー!しんりねぇ大好き!」

「全く………」

 

 私達はゆっくりと人里の一角にある甘味処に入ろうとする。しかし、その途中のことだった。

 

「うにゅ?妖怪は排除ー!」

 

 私達目掛けて、太陽のような暑さを誇る巨大な球体が襲い掛かる。

 

「え?!」

 

 私は咄嗟に後ろにジャンプして、それを躱す。球体が落ちたところは大きなクレーターができ、陥没したかのようにへこんでいた。とんでもない威力に私は息を飲んだ……

 

「あなた……誰……」

「………うにゅにゅ?」

 

 私は目の前にいる妖怪に問うた。大きな翼を掲げた大きな鴉がそこで私たちに銃口を向けていた。




最近、センスがただ下がりですな……


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鴉との戦い、新たな家族

うつほちゃん登場です。

お空の持ってる第3の足、右手についてる大砲はまだ守谷の神が付けたものではなく、お空自身の武器です。

なので、お空はまだ核融合は出来ず、強力な灼熱を操る設定となっています。


「わわわわわわわわわわ!!」

「ちょ、姉さん危ないわよ!」

 

 私達は必死に鴉の弾幕を避けていた。密度も濃く、少しでもずれたら被弾しかねない。私とさとりとこいしの3人はそれをしっかりと見切りながら避けていく。どうやら、休憩の暇もないようだ。

 

「ありゃ?当たらないなぁー?」

 

 鴉は首を傾げながら、さらに弾幕を放つ。がむしゃらに避け続ける私達はついに体力が切れてしまった。はぁ、はぁ、と息をつきながら、私達は前方を見る。キリがないとおもったわたしは頭をポリポリと掻きながら

 

「あぁー!もう、さとり、こいし!下がってて!」

「え、しんりねぇ戦うの?!」

「仕方ないよ!ここは地上だから別にいいでしょ!」

「全く……幻想郷壊さないでよ?」

「何の心配してるのさとり………」

 

 呆れる私は地面から足を離し、久しぶりに飛行した。鴉と平行になる高さまで浮き、しばらくの間睨み合う。緊張感のない顔がお互い見受けられた。

 

「真理「真実の向こう側」!」

 

 私の周りに10メートル四方の鏡が出現し、小さな弾幕を無数に放っていく。それは全て鏡によって反射し、鴉へと向かう。しかし、鴉の弾幕は全て破壊力が高く、小さな弾幕ではほぼ一振りで半分が消え失せてしまった。

 

「うにゅ、なかなか強いね!」

「………あんたこそ!」

 

 見た感じ、鴉にはスペルカードはないようだが、通常弾が異常に速く、破壊力がある。スペルカード以上の威力だ。私は心底ビビりながらも恐怖心に打ち勝ち、続けて弾幕を放つ。

 

「火焔「燃え続ける心臓」!」

 

 ここは地上で、なおかつ人気のない竹林の中だ。いくら強力な弾幕を放とうが、被害は無いはずだろう。私は大きな炎を纏う弾幕自分の妖力を込める。しかし、それもまた安易に防御され、私は膝に手をつく。妖力と体力は同じようなもの。妖力を酷使すれば、体力も自ずと無くなる。

 

「はぁ………はぁ……」

 

 見ず知らずの妖怪に突然攻撃され、意味も分からないまま応戦してしまったが、思った以上の力に私は少しだけ後悔する。話せば分かってくれたのではないか。もう奥の手を使って黙らせるしかないのかな………

 

「およ?もう終わりかい?」

 

 つまらなさそうに鴉は首を傾げる。私は少しだけ語尾を強めて、こう質問した。

 

「あなたは、なぜ私たちを攻撃したの?」

「…………私が、あなた達を?」

 

 私は鴉の答えが出るまで待っていた。まともな回答をお願いしたいところだが、これが人里の人間の仕業だったら大人しく引くしかないだろう。しかし、今更人里の人間共が私たちを攻撃しようとは思わないし、確率は低いと思われる。するとようやく、鴉が口を開いた。しかし、その答えは私の予想の一周半回って意外すぎるものだった。

 

「……何でだっけ?そもそも、あなた誰?」

「……………は?」

 

 言っている意味が分からない。あっちから攻撃してきたのに………もしかして私が覚り妖怪ってことも知らないんじゃないのか?すると鴉はしばしの間考え、こう放った。

 

「お前達がいたから!攻撃したんだ!」

「……いやいやいやいやいやいや…」

 

 ますます意味がわからない。私たちが、ここにいたから攻撃されたのか?

 

「これ以上考えても頭が痛くなるだけだな…………」

「うにゅ?もっかいやる気かー!」

「真相「混合のバレットハート」!」

 

 とっとと終わらせたいがために、私は強力なスペルカードを唱えていた。鴉のサイドから襲う弾丸のような弾幕。真上、真下からはレーザー弾幕が流れるように、真後ろは大玉弾幕。私は右手を上にかざす。すると手のひらに一つの物体の感触があった。それは白銀色の光を放つ銃。私は標準を鴉に合わせる。

 

「邪魔だ邪魔だー!」

 

 鴉は周りの弾幕を少しずつ減らしていっている。そして、その弾幕たちが消えかかった瞬間、私は銃の引き金を引いた。

 銃口からはハート型の小さな弾幕が連射され、素早く鴉を囲む。

 

「これで王手(チェックメイト)だね。」

 

 まぁ、王手(チェックメイト)はただ私が言いたかっただけなんだけど。私は左手の中指と親指でパチンと軽快な音を鳴らす。すると囲まれてたハートから無数のレーザーが鴉に当たる。そして、そのハート型弾幕と共に、鴉は爆発した。

 私は下に落下した鴉の元へと向かう。地面には足をピクピクと動かしながら力尽きた鴉が伏せていた。

 

「強かったわね………この鴉」

「そうだね…久しぶりに強い相手と戦えたし、私は満足かな」

「いってて………」

 

 鴉が顔を上げる。全く、妖怪というものは回復が早くて困る。私は溜息をついて鴉にこう言った。

 

「もう、いいから早く家に帰りな?もう日も沈んだし、これからはところ構わず戦っちゃダメだよー?」

「うにゅ………うん」

 

 どうやら反省はしてるみたいだ。私はそれに少しだけ安堵した。もう一回戦いたいなんて言われたらそれこそ私の体がオーバーヒートする。すると鴉はまたとんでもないことを言った。

 

「あれ?私の家ってどこ?」

「……大丈夫?」

「あ、思い出した!私家ないんだった!」

 

 一体この鴉はどうやって生き延びてきたのだろうか……家がないってよっぽどの事じゃないか……

 

「……連れはいないの?」

「いないよ?私一人だもん」

「……どうする?さとり……」

「どうするって言われても……どこか預けてくれる所は無いの?」

「とゆーか、この鴉……馬鹿を偽ってる訳では無いよね?」

 

 私がさとりにそう投げかけるとさとりのサードアイが見開き鴉の心を読む。

 

「どうやら、この鴉の馬鹿さは本当のようだわ。本心から言ってるもの」

「え、ホントなの……」

 

 それもかなり重症だと思うけど…本当にどうやって生きてきたんだろ…………?

 

「ねぇ、あなたはどうやって生活してたの?」

「狩り!」

「それは覚えてるんだ………」

 

 狩りって本当に無一文で身よりも無かったみたいだな………なんか可哀想………

 すると今まで一切口を開かず、黙りこくっていたこいしが元気よく手を挙げ、提案をした。

 

「はいはーい!この子ペットにしよーよ!」

「ぺっ、ペットぉ!?」

「だってカラスだし!可愛いじゃん!」

 

 確かにこの鴉は思ったよりも可愛い。黒髪もしっかりとセットしてあり、艶がある。それに…………デカイ!ずるい!私がそう悔しがっていると、早速さとりが口を開いた。

 

「ダメよ、こんな危険な妖怪」

「うぅー、瑞乃のこと飼えなかったし、いいでしょー!」

「………瑞乃の代わりなだけならいいけど、あの姉さんがあそこまで苦戦するほど危険な妖怪を地霊殿に住まわすことは出来ないわ」

「うにゅぅ…………」

 

 こいしと鴉が俯く。正直、私もこの子を飼いたい。一緒に生活したら、楽しそうだし何よりいい相手になる。

 

「ねぇ、さとり。私からもお願いするよ。身よりが無いのも可愛そうだしさ………」

「う、姉さんまで………」

「実際、地霊殿も広すぎるくらいなんだからさ、ペットの1匹や2匹いいでしょ?」

「まぁ、姉さんがそこまで言うなら……」

 

 さとりがついに折れた。溜息をつくさとりとは裏腹に、こいしと鴉は飛んで喜んでいた。

 

「やったぁ!ありがとうさとりねぇ!」

「ありがとー!私は霊烏路 空!八咫烏っていう妖怪なんだってさ!私もよく分からないけど!」

 

 全く元気のある妖怪だ。こいしと仲良くなれそうだな…とゆーかぴょんぴょん跳ねる時に揺れる乳がせこい………私もあれくらい欲しいのに………子供だから仕方ないのかな………

 

「……うつほってどういう字なの?」

「空って書くの!」

 

 地面に自分の名を書く空。するとこいしが考え込む。

 

「うつほじゃ言い難いから………あだ名みたいなの……」

「『お空』でいいじゃない。可愛いし」

 

 さとりのネーミングセンスには敵わないな………私とこいしはブンブンと首を縦に振る。

 

「君はそれでいいの?」

「うん!ありがとうさとり!いや、さとり様!」

「別に飼い主だからって『様付け』はいいわよ………」

「まぁまぁ、お空なりのお礼でしょ?素直に受け止めよ?」

「…………そうね」

「じゃあ帰ろ!お空!」

「はい!」

 

 私たち古明地三姉妹に新たに霊烏路空という八咫烏のペットが家族として地霊殿に加わった。



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日常編だよ!覚り三姉妹!
ハロウィンの準備、高級甘味処


 お空が家族の一員として迎えられ、私達は退屈な日々を過ごしていた。お空は料理がとてつもなく美味しい。私が作るのよりも調味料の使い方や、隠し味のタイミングなど、全て知り尽くしていた。こうして、私たちのペットはお母さん的存在となった。馬鹿だけど。

 

「へっくしょん!!」

「姉さんくしゃみがおっさん」

「うるさい。寒いから仕方ないでしょ」

 

 今日は地底で唯一の雑貨屋に来ていた。今日は10月28日。何でもない日に、私達はある行事の準備をしていた。そう、10月といったらハロウィンだろう。ジャック・オ・ランタンやその他もろもろをここで買い揃えるつもりできたのだ。

 

「さとり様、しんり様。これ可愛くありません?」

「ちょっ、お空?!」

 

 お空が持ってきたのは、リアルな蜘蛛の模型。さとりは虫が大の苦手である。その蜘蛛を見た瞬間、目にも留まらぬ速さで私の後ろに回り込んで、ガタガタと震えていた。

 

「お、おおおおおおお空!!早くしまってきなさい!!」

「うにゅ?どーしましたさとり様?」

「何でもないから!それを元の場所に返しなさい!」

「?分かりましたー」

 

 首をかしげ、小走りでお空は消えていった。するとさとりは長いため息をついて

 

「全く………」

「さとりの虫嫌いも克服した方がいいよ?」

「仕方ないの!気持ち悪いものは気持ち悪いんだから……」

「しんりねぇ!さとりねぇ!これ見て!」

 

 次はこいしが何か持ってきた。なんか嫌な予感がするのは私だけなのだろうか?

 

「ひやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 さとりの悲痛な叫びが私の耳元で響く。慌てて耳を塞ぐ。

 

「ちょ、さとりうるさい!」

「だ、だだだだだって!」

 

 プルプルと震える指でこいしが持ってきたものを指す。こいしがもってきたのはさっきお空が持ってきた模型の数倍はある大きさの蜘蛛。そのスケールには私も少し驚いた。さとりはもう涙目で私に抱きついていた。正直きつい……

 

「こいし!!しまってきなさい!」

「あれ?さとりねぇどーしたの?」

 

 心配そうな顔でこいしが蜘蛛を持ったままさとりに近づく。それによりさとりは更に私にきつく抱きしめる。

 

「い、いや!こいしこっちに来ないでぇぇ!!」

「いたたたたた!!さ、さとり!痛い痛い!こいし、早くそれしまってきて!」

「え?あぁ、うん。分かった」

「はぁ………はぁ…」

 

 こいしはそれをトテトテと歩きながら「変なの」と最後に言ってそれをしまいに出た。全く、お空といいこいしといい…とんでもないものを持ってくるな……ハロウィンなんだから仕方ないだろうけど。もっと魔女帽とかあるでしょ………………魔女………うっ頭が……

 

「あれ、姉さんどうしたの?」

「いや………嫌なこと思い出した…………」

「しんり様!これ買っていいですか?」

「ん?どれどれ?」

 

 お空がさっきよりもワクワクした顔で持ってきたのは骸骨のお面。これさとりが怖がってたホラー小説の奴じゃん……………でもまぁ、さとりもこれなら大丈夫でしょ。

 

「ひっ………」

「え?これも怖いの?」

「い、いや、大丈夫よ?いいわよお空。お金あげるから買ってらっしゃい………」

「はーい!ありがとうございます!」

 

 そう言って、お空はそれを大事そうに抱きながらレジの方へと向かっていった。それもスキップで………ねぇやっぱりあのおっぱいはずるいよ。揺れすぎだってば………………私はお空のを見てから自分の胸に視線を移す。あぁ………悲しいな……

 

「ねぇ、姉さん……」

「ん?どしたの?」

「私当分お空と関わらないことにするわ。ハロウィンが終わるまで」

「どれだけあのお面が怖いの……」

 

 そう言えば、さとりは確かこの小説の表紙を見せただけで心臓が飛び跳ねそうなほど驚いていたし、そのままその日は寝れなかったらしく、仕方なく一緒に寝てあげたのを覚えてる。それがトラウマになってしまったのだろう………

 

「しんりねぇ!これ買っていい?」

「お、いいよ。それは可愛いじゃん。おしゃれだね」

「う、うん。いいと思うわよ」

 

 こいしが買おうとしてるのは黒が主体で黄色いリボンがついた帽子。まぁ、私達三人ともおしゃれなんてしないし、帽子なんか被ってなかったしね。

 

「やったー!ありがとう!しんりねぇ、さとりねぇ!」

 

 私は財布からお金を差し出す。が、その前に

 

「それっていくら?」

「………えーと………5000円!」

「たっか………」

 

 私は少しだけ後ずさるが、こいしの為だ。これくらい出してやらないとお姉ちゃんとしての威厳というものが立てられないだろう。私は渋々財布から5000円札を出してこいしに渡す。

 

「はい、買ってきな」

「やったー!」

 

 こいしもお空と同じようにスキップしながらレジに向かった。でも、妹のおっぱいが揺れないからって安心しちゃ行けないよね。

 お空とこいしがレジから帰ってきて、私達は地底に出た。

 

「さて、姉さん。まだ時間あるけど、どうする?」

「そうだね、どこか甘味処とか寄ろうか」

「私三色団子食べたーい!」

「じ、じゃあ私はプリンが食べたいです」

 

 少し遠慮気味にお空が言う。どうやら、さとりも何か食べたいようだ。

 

「じゃあ、「甘武」に行こうか」

 

 甘武とは、地底で有名な甘味処。あそこの店主がとても美味しいものを作れるんだとか。行ったことがないので、期待はしないでおこう。ここからあまり距離もないので、約数分で甘武に着いた。

 

「いらっしゃいませ、4名様ですか?」

「はい」

「では、こちらに」

 

 店員さんの丁寧な対応に私は少しだけ感嘆の息をついた。期待はしないって言ったけど、どうしても期待しちゃうな。

 

「では、ご注文が決まりましたら、そちらのベルをお鳴らし下さい」

「ありがとう」

 

 そう言って、店員さんは厨房の方に消えていった。丁度四冊ある薄いメニュー表を見て、何があるかを物色する。みたらしもあるしプリンもある………アイスクリームもあるじゃん………色々あるな…

 

「じゃあ決まった?」

「決まったよー」

 

 全員決まったらしく、私は左手でベルをチーンと鳴らす。この音とまた高貴で聞いていて飽きない。

 

「はい、ご注文をどうぞ」

「みたらし団子と三色団子、プリンと抹茶アイスクリームをひとつずつお願いします」

「かしこまりました。少々お待ちください」

 

 また店員さんは厨房に消えた。背もたれに体重を預け、私は店を見渡す。

 

「いい店だね。雰囲気も好きだな」

「んね!可愛いしおしゃれ!」

 

 さっきの帽子をさっそく被っているこいし。いつもとは違くて何か雰囲気が大人っぽくなった。さとりもお空もどうやら落ち着けているみたいだ。この店の評判はかなり良いし、来て正解だったかな。

 

「お待たせ致しました。抹茶アイスクリームとプリン、みたらし団子と三色団子でございます」

「ありがとう」

 

 一気に全部来た。とゆーか、頼んでから5分ほどで出来るものなのかな………でもいい匂いはする。私はスプーンを取ってアイスクリームを掬う。そしてゆっくりと口の中に入れる。

 

「うま………!」

 

 思わずほっぺたが落ちそうなほど甘く、口の中に一気に広がっていった。

 

「んぅ〜!!」

 

 パタパタと足を上下させるこいしとさとり。ものすごく笑顔で食べていた。しかしそれとは裏腹に、お空はスプーンを口に入れたまま、固まっていた。

 

「あれ?どうしたの?お空」

「………あ、しんり様……このプリン…」

 

 お空は一呼吸おいて形容しがたい顔で相談してきた。

 

「持って帰っちゃダメですか?」

「………何で?」

「美味しすぎて今全部食べられません」

 

 どうやら本心で言ってるみたいだ………

 

「ダーメ、ここで食べなきゃ腐っちゃうよ」

「うにゅぅ………」

 

 凄く悔しそうにプリンを食べていくお空。しかしプリンを口に入れた途端、お空の大きな黒い翼がバタバタと動く。お空自身も凄く嬉しそうだ。

 

「ちょ、お空!羽が飛んでるって!」

「うにゅ?あ、ごめんなさい、さとり様」

「まぁ、みんな美味しそうで何よりだね。ここならいつでも行けるし」

「毎日行こう!」

「それは飽きるよこいし絶対に」

 

 そんな会話をしながら、4人はそれを完食し、甘武を出た。

 

「ここ美味しかったね。噂通りの店だよ」

「まぁ、ちょっと高いけどね………」

 

 私は財布を見て少しだけ肩を落とす。まぁ、高級甘味処ならこれくらいが妥当なのだろう。これを毎日となれば近いうちに地霊殿自体がお釈迦様になっちゃうよ…………

 

「じゃあ、帰りますか」

「はーい!」

 

 私達4人はハロウィン前に贅沢な時間を過ごした。それはとてもいい経験でまさか近所にこんな美味しい甘味処があるなんて知らなかったよ…………

 余談だけど、ハロウィン用のお菓子を買うの忘れて、こいしが「仕方ないから私の手作りクッキーでいいよね!」と甘味処に憧れて自分でクッキーを焼いてた。私とさとりは当分食べ物に手をつけられなかった。



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長女の誕生日、ハロウィンと同日

 ハッピーハロウィン!今日は10月31日。私達古明地姉妹は大いに盛り上がっていた。何故こんなに盛り上がるのかって?

 

「ハッピーバースデーしんりお姉ちゃん!!」

 

 パァンッパァンッ、クラッカーの破裂音が部屋中に反響する。その大音量に私は少しだけ体を強ばらせた。そう、10月31日は私が生まれた日。今日で16歳だ。ハロウィンと重なっているのは……本当に偶然だけどね。ドンッと目の前に大きなショートケーキが置かれ、その上には16本のロウソクが立っていた。真ん中には「HAPPY BIRTHDAY SHINRI」のプレートがあった。

 

「お空が腕を奮ってくれたんだよー!」

「ささ、しんり様。大きく息を吸ってー………」

 

 すぅーと空気を吸えるだけ吸う。そして一度で16本のロウソクを消そうとして、私は自分の肺活量全てを使って息を吹いた。しかしどうやらオーバーキルだったようで、ロウソクが吹っ飛んでしまった。

 

「あ」

 

 飛んだロウソクが、対面にいたさとりにクリームごとかかる。そしてさとりは全身が少しだけ白く染まった。さとりの顔を恐る恐る見ると、怒りに満ち溢れているのが見て取れる。

 

「ねーさーん!!」

「わわ、ごめんごめん。まさかそんなに飛んでくとは思わなかったよ」

「あはははは!さとりねぇケーキだらけ!」

 

 そう言って、こいしはさとりについたケーキを指ですくって、それを口に入れる。

 

「んぅ〜、おいし!」

「ちょ、主役よりも先に食べないでよー!」

 

 私はこいしが食べるのをやめようとしないので、それを制そうとしたらこいしは自分の指を私に差し出してきた。

 

「んじゃあ、しんりねぇも食べる?」

「くっ……食べるよー!」

 

 ムシャクシャになり、私はこいしの指をくわえる。それにこいしは顔を赤くしてドキッと跳ね上がる。こいしの指があまりにも甘く、美味しかったためペロッと舌で指を舐めてしまった。

 

「ちょ、しんりねぇ!!」

「ん?どーしたのこいし?」

「どうしたのって………うぅ、ほんとに私の指食べるとは思わなかったよ……」

「美味しかったよ。ありがと、こいし」

「そうじゃなくて!……………もういいよぉ……」

 

 こいしはだんだんと体を小さくしていく。私はこいしが何故こんなに恥ずかしそうになっているのか全く理解ができなかった。私が首をかしげていると、扉がコンコンと二回叩かれる。

 

「はーい!」

 

 さとりが反応して椅子から立ち上がり、扉を覗く。そしてパァとさとりの顔が明るくなり、ガチャっとドアを開けた。

 

「やっほー!しんり!」

「み、瑞乃!鈴仙さんと永琳さんも!」

「お誕生日おめでとうございます。しんりさん!」

「おめでとー!」

 

 普段地霊殿には来ることのない永琳さんと鈴仙さんが初めてここに顔を出してくれた。また新たなクラッカーが取り出され、二度同じ炸裂音を聞いた。

 

「はい、これ、誕生日プレゼント!」

「あ、これって………」

 

 瑞乃から渡されたのは一冊の本。「真実の歯車」。この本は私と瑞乃の二人で香霖堂に買い物に行った時、私がずっと見ていた小説だ。

 

「この作者が鈴仙と知り合いでね。香霖堂を通してくれたんだよ」

「や、やったぁー!」

 

 私は子供のように跳ねて、その本を抱きしめる。鈴仙さんが「稗田阿求」さんと知り合いとは……

 そこにも驚きだが、私は憧れの本が手に入ったことが何よりの喜びだった。

 

「じゃあ、私からも、姉さん」

「ん、何これ……?」

 

 さとりから手渡されたのは小さい紙袋。ガサガサと揺らすと何やら何かのキーホルダーみたいだった。

 

「開けていいの?」

 

 さとりは首を縦に振る。私はテープを剥がして中身を取り出す。するとそのキーホルダーは白色が主体の女の子のキーホルダー。するとお空が少しだけ声を張って

 

「さとり様とこいし様、それと私の三人でしんり様のキーホルダーを作ったんですよー!」

「あ、これ私?」

「文句があるなら返してもらうわよ」

「ごめんなさい、とっても嬉しいですさとりさん」

「そ、それなら良かったわ」

 

 さっきまで鬼のような表情だったさとりが恍惚とした輝かしい笑顔を私に返す。こいしもお空も機嫌が良さそうだ。

 確かにこのキーホルダー、私に似ているかと言われれば、ぶきっちょながらも頑張って作った感が出ていて、似ているとは言い難い。しかし、これがお祝いの気持ちになるのならば、それに越した事はない。ここは素直に礼を言おう。

 

「ありがとう三人とも。とっても嬉しいよ」

「えへへー……」

 

 こいしは満足げに笑っており、お空は少しだけ照れていて、頭を掻いていた。私はそのキーホルダーを腰につける。キーホルダーをつける場所がないので、腰にぶら下げるしかなかった。

 

「じゃあ、ケーキ食べようか。瑞乃達もどうぞ」

「あ、じゃあ、お言葉に甘えようかしら」

「いただきまーす!」

 

 あっという間にケーキが平らげられた。数分前まで綺麗に乗っていた楕円のケーキはもうそこには存在していなかった。主役の私はもちろん沢山…………食べれなかった。

 

「うぅ……みんなよく食べるね……」

「しんりねぇが少食なだけでしょ」

「そうなのかな……」

「そんなことよりお酒!持ってきたから飲も飲も!」

「げっ、瑞乃……お酒飲めるんだ………」

「残念ながら、玉兎はみんなお酒好きよ?ね、うどんげ」

「はは、まぁ、好きですけど……瑞乃程じゃ無いですよ……」

 

 瑞乃はコップと酒瓶を何本も取り出す。どこから出したんだ………するといつの間にかコップを手渡され、お酒が入れられる。半透明のもので匂いはなかなか強かった。もちろん、私はお酒なんて飲めない。冷や汗がダラダラと流れる。

 

「え、私は………飲めないんだけど……」

「えぇー!?一緒に飲もーよーしんりぃー!」

 

 私にズカズカと言い寄ってくる瑞乃。私は後ずさりながら妹達に助けを求めるが、二人共目をそらし、別の話の輪を作り始めた。畜生、あの悪魔妹共めぇー!

 私は瑞乃の流されるがままになっていた。

 

 

 数時間後

 

「だぁーかぁーらぁー!私だってもっとお洒落したいんだよぉー!」

「それぇなぁ!永琳様だってお洒落しなさいって言ってるのに出来ないんだよぉ!」

 

 私と瑞乃はもうベロベロに酔っ払っていた。呂律も回らないほどに飲まされ、もう今では自我なんて保っていなかったよ。

 

「ちょ、姉さん。飲みすぎよ」

「瑞乃も。ちょっと回りきっちゃってるよ」

 

 さとりと鈴仙さんが止める。しかし、それを振り払って私と瑞乃は酒をぐびぐび飲んでいた。顔を真っ赤にして、だらしない格好をしながら。

 

「うへぇー、さとりいい匂ーい」

「げっ、姉さん酒臭い!」

「あはははは!しんりねぇおもしろーい!」

 

 鼻をつまむさとりとオレンジジュースをちびちび飲むこいし。今日の誕生日会で記憶に残っていたのは、そんな妹二人のそんな姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

  「うぅ………頭痛い…」

 

 11月1日。

 二日酔いによる頭痛が私のことを寝起きから襲う。どうやら私はあの後手に負えなくなったらしくて、永琳さんに安全な麻酔を打たれて眠ってしまったらしい。ちなみに瑞乃も一緒ね。それでさとりに自室のベッドに運ばれてきたとか。

 

「あ、姉さん起きた?」

「んあ、さとり………私って何してたの?風邪でも引いたのかな………」

「記憶にないのね…………」

「何が?」

「何でもないわ。おかゆ作ったから、気が向いたら食べてね。二日酔いさん」

「ふ、二日酔い?」

 

 さとりがにやっと笑ってそう言った。二日酔い?私はいつどこでお酒を飲んだのだろうか…………ここに来るまでの経緯を頭を回転させて考える。いや、考える必要も無い、導き出される答えなんて決まっている。

 

「私……昨日お酒飲んだ?」

「ええ、全くもってその通りよ?」

「ぜんっぜん記憶にないや……」

 

 ガンガンする頭を抑えながら、私は16歳を迎えた。机には、瑞乃から貰った「真実の歯車」が本棚に置かれていて、私の腰には家族が作ってくれた私のキーホルダーがぶら下がっていた。



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秋のピクニック、新しい友人

評価バーに色がつきました。
ありがとうございます


 秋といえば紅葉。

 ハロウィンも過ぎ、もうすっかり肌寒くなってきて、クーラーが欲しかった夏が恋しくなる。そんな私はこたつの中で瑞乃から貰ったみかんを食べていた。

 

「ありゃ、地底に紅葉なんてないのに……」

 

 開けた窓から一葉のカエデの葉が落ちてくる。とても鮮やかな色をしており、同時に紅葉も降ってきた。きっと勇儀さんあたりが紅葉の木でも植えてくれたのだろう。その葉を拾いに言った瞬間、冷たい風が地霊殿内に入り込んできた。

 

「おおふ……さぶぅ……」

 

 カタカタと震える私の元に元気の良い愛妹が飛び込んできた。

 

「しんりねぇー!ピクニック行こー!」

「ぐぼぉ!」

 

 こいしの勢いあるダイブが私の腹に直撃、尋常じゃない痛みが私を襲う。「ぐおおぉ…」と言いながら痛みに耐え、引いてきたころ、こいしがまた叫んだ。

 

「しんりねぇー!ピクニックに」

「二回も言わなくていいよ!とゆーか、ピクニックって普通穏やかな春に行くものだよ!こんな寒い日に行きたくないよ!」

「もう!16歳になったんだから外に出ないと!」

「何その私ニートだったよ設定は!定期的に外に出てるからいいよ!」

「ええー!さとりねぇも同じこと言ってた!」

「そりゃそう言うよ………しかも少人数すぎるよ。いたとしても私とさとり、こいしとお空でしょ?」

「お空の友達も来るよー!」

「へ?友達?」

 

 こいしは首を縦にブンブンと振りながら表情を明るくしたまま言った。

 

「そ、昔の友達らしくて、今幻想郷にいるって情報を買い物中に聞いたんだって、それで昨日偶然出会ったらしくて、「明日一緒に家族とピクニックしませんか」ってお空が友達に言ったんだってさ!」

「あんの鳥頭ぁ!勝手に話を進めるなー!」

 

 ここにいないお空に私は大きな声で叱る。今日だけは外に出たくなかったのに………

 しかし、お空の友達も来るというのならば、行くのが礼儀というものだろう。お空も傷ついちゃうもんね…。私は深くため息をついて

 

「このこと、さとりには話したの?」

「まだ、今から言うの」

「じゃあ私が教えてくるから先に外に出といて」

「はーい!」

 

 まぁ、少しでも室内にいる時間が欲しいだけだけど。私は内心そんなことを思いながらさとりのいる書斎にゆっくりと向かう。そしてたどり着いたと同時にコンコンと二回ドアを叩く。「どうぞー」という声が聞こえたので、私はドアノブを捻り、開く。さとりはカリカリと何かを書いていた。

 

「………何書いてるの?」

「ちょっと永琳さん達にお礼の手紙を……」

「……なんのお礼?」

「姉さんの誕生日会の事ね。他にも色々お世話にもなったし」

「へぇ……」

 

 こうやって礼儀正しいのは古明地家の中でさとりだけなんだろうな……私もこいしも礼儀のれの字も無いしね。私はさとりに尊敬の眼差しを送った後、話題を切り替えた。

 

「さっきこいしがここに来てピクニック行こうって言ってたよね?」

「あぁ、かなりしつこかったけど、なんとか断ったわ」

「なんかもうお空の友達が来ることすら決定してるらしいよ」

「え、じゃあ行かなきゃ行けないってこと?」

「そーゆー事」

「こんな寒い日に出かけたくないのに……」

「私も同じこと言った」

「まぁ、お友達が来るのなら行かないわけにはいかないからね」

 

 ブツクサと言いつつ、さとりは奥に消えてなにか準備をしていた。とゆーか、ピクニックなのにお弁当とか持っていかなくていいのかな…………なんか不安になってきた…………

 

「さ、行きましょうか」

「うん」

 

 私とさとりは書斎を抜け、廊下を渡り、玄関を出た。そこには笑顔のこいしと何やらソワソワしているお空がいた。どうやら楽しみなのだろう。自分の友達と私達が仲良くなれるのをね。

 

「とゆーか、お空、こいし。場所は決めてるの?」

「一応妖怪の山!待ち合わせは麓の辺りだって」

「また遠いわね……」

 

 私とさとりは同時に肩を落とす。まぁ、飛べばいいだけだけど、ピクニック前に体力を使いたくないしね。途中までだけ飛ぼ。

 私達は一斉に飛び上がり、地上に出てからこいしの無意識で私たちの存在を認識出来なくし、妖怪の山まで着いた。大体30分程度。シュタッと地面に足をつけ辺りを探し回る。

 

「うーん、そもそも人がいないね……」

「あれ?いるはずなんだけどな…」

 

 お空がもう一度空へ飛んで、見下ろす形で探す。難しそうな顔をした後、唐突にパァと顔が明るくなる。

 

「い、いましたしんり様!」

「ど、どこ?!」

 

 チョンチョンと指を指すお空。私はその指の下まで走る。するとそこにはゴスロリ風の服を身にまとい、赤毛の長髪は三つ編みにし、緑のリボンを境に髪が二つに分けられていた。頭には黒い猫耳が、あれ、この人耳四つない?まぁ、一目でわかる。この人は猫の妖怪だ。

 

「燐!この人達が私の主様だよ!」

「そうなのかい?どうも、火焔猫燐だよ。燐って呼んでくれ!」

「うん、私は古明地しんり。紫髪の方がさとり、緑銀髪がこいし。よろしくね」

 

 と、燐と握手をする。するとこいしが「うーん」と悩み始めた。首を傾げる私達はこいしに問う。

 

「どうしたの?」

「いや、燐って少し言いにくいから……」

「お空なんだし「お燐」は?」

 

 私の何気ない提案にここにいた全員が「おおー」と感嘆の声を漏らした。

 

「うん、じゃあお燐!」

「うん、ありがとうしんり。嬉しいよ」

 

 お燐は女の人とは思えないくらい爽やかで凛々しい笑顔をこちらに向ける。男らしいというか…爽やか系ってなんかいいよね。しかし……あの猫耳はしっかりと音が聞こえるのだろうか………私が凝視していると、こいしが急にフワフワと浮いて、優しくお燐の耳を触った。

 

「ひゃん?!」

「わ、お燐変な声出した!」

「ちょ、いきなり触らないでくれるかな!」

「えへへー、柔らかぁーい………」

 

 案外モフモフだったのか、こいしは安らいでいるかのようにペタペタとお燐の耳を触る。どうやら、感覚は猫と同じなのかね。耳や尻尾は触られると変な感覚になる。

 

「もう………人間になるのもめんどくさいんだから………」

「え、どーゆー事?」

「こーゆー事だよ」

 

 ぼぉぉん…という音とともにさっきまでお燐がいた所には何も無かった。

 

「あ、あれ?お燐、どこ行ったの?」

「にゃーん………」

「およ?可愛いし………珍しい色の猫だね」

 

 私はその猫を凝視する。黒い毛並みにところどころ赤毛が混じっている。しかし、耳には見覚えのある緑色のリボン。私はそれで確証がついた。

 

「あ、お燐か!」

「動物になれるのね……任せなさい……」

 

 さとりのサードアイがカッと開いて、何やらお燐止めを合わせている。これはさとりの能力、「心を読む」で動物の心さえもわかるという。よく良く考えれば便利な能力だった。

 

「なるほど。猫姿の方が楽らしいわ」

「うにゅ、私だって鴉になれるよー!」

 

 お空は対抗するように変身する。すると緑色の大きなリボンをつけた鴉がそこでバサバサと翼を動かしながら飛んでいて、何やらドヤ顔しているみたいだった。

 

「すごいわねこの子達……」

 

 さとりが少しだけ興味深そうに二匹を見ていた。これは、さとりが心を開いてくれそうだ。

 

「ね、早くピクニック行こーよ!お腹空いちゃった!」

「ん、そうだね。じゃあみんな。行こうか……」

 

 猫のお燐。鴉のお空。動物の妖怪は面白い人ばかりなんだな………



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妖怪の山、弱すぎるジャンケン

お空の能力

「核融合を操る程度」ではなく、「灼熱を操る程度」でございます。諏訪と八坂の神様によって能力が上書きされた。という設定ですので。

まだ神様に出会ってないですもんね。


 お燐と出会い、私達は妖怪の山のてっぺんを目指し、山道を歩いていた。

 

「そう言えば、お燐はどこから来たの?」

「え、住むところはなかったよ。お空と同じ」

「狩り…………ね」

 

 さとりは呆れるように言う。お燐は「ご名答」と言ってさとりに指を指す。誇れることじゃないんだけどね………

 

「あれ、そういやお弁当ないの?」

「今更ね、こいし」

「こいしが急に言うからお弁当なんて作れてないよ、ねぇお空?」

「はい、作れてないですよ」

「じゃあ、行って何するの?」

「決めてない!」

「即答だねこいし」

 

 弁当も何も持っていない私達は一体何をしにてっぺんまで行くのだろうか……つくづく不安に思いながらも私達は長い坂道を歩く。

 

「ねぇ、こいし」

「んー?」

「飛んでいい?」

「ダメ!タダでさえ体力ないんだから!」

「ええー……」

 

 なぜこいしに飛ぶ許可をもらおうとしたかというと、私達は今こいしの能力によって周りから認識されないでいる。その範囲外になってしまうからだ。別にここら辺には人間はいないけど、ここは天狗の領域、無断で入ると怒られたり攻撃されたりするから見つからないようにしているのだ。こいしから離れたら無意識が解除されちゃうんだよね……

 

「あぁ〜疲れたし寒い……」

「本当に………何であの三人はあんなに元気なのよ……」

 

 マフラーをしていてもカタカタと震える私たちに反して、こいし、お空、お燐は何も防寒せずに元気に歩いている。私もあんな感じに寒くても普通でいられる体が欲しい。

 

「ねぇ、何でそんなに元気なの?寒くないの?」

 

 さとりの質問に、お空が手を挙げながら元気よく発した。

 

「はいはーい!私の能力であたためてまーす!」

「え、私達も欲しい!」

「うーん……能力が使えるのは4人までだから……さとり様かしんり様どちらかが降りてくれるのなら出来ますよ」

「さとり、ここは姉に譲るべきだよ」

「いいえ姉さん。ここは可愛い妹に楽な思いをさせて上げるべきよ」

 

 私とさとりの双眸がぶつかる。まるでバチバチと火花が散っているかのように睨み合った。これはどちらが暖かいお空の能力をもらうかの争奪戦である。

 

「さて、どうやって決めようか?」

「じゃあ、無難にジャンケンにしましょう」

「………いいのかいさとり?私、ジャンケンで負けたことないよ?」

「………姉さんは私を見くびりすぎなのよ。私の能力を忘れたの?」

「私は人の調子をコントロール出来るんだ。さとりの能力の調子を操って心を読めなくすることも出来るんだよ?」

「しんりってそんなに凄い能力なんだね」

「そ、しんりねぇはサードアイが特別なんだって永琳が言ってた!」

 

 お燐とこいしの会話を横目に、私達はまた睨み合う。これはお互い能力を使わない正真正銘の真剣勝負という事だ。ニヤッと笑い、大きな声で叫ぶ。

 

「最初はグー!」

 

 私のその言葉と同時に私とさとりの右手が振り上げられる。

 

「ジャンケン!」

 

 そして右手が振り下ろされた。

 

「ポンッ!」

 

 私はグー、さとりもグーだった。私は一瞬だけ集中を切らす。そしてまた、掛け声を同時に言う。

 

「あいこで………しょっ!」

 

 私はパー、さとりもパー。これは長期戦になるのだろうか………

 

「ふふっ…さとりも強くなったね………姉さん嬉しいよ?」

「姉さんこそ………次で勝つわよ…」

 

 これはいつまでも決まりそうにない。そう思った私は強行手段に出る。

 

「さとり、私はチョキを出す」

「…………………なるほどね。じゃあ、私はグーを出すわ」

「じゃあ行くよ……最初はグー!」

 

 三度目の正直、右手ではなく「神の左(自称)」を使って私は思い切り振り上げる。そしてさとりも同じように手を振りあげる。その瞬間、私の目線とさとりの目線がぶつかる。

 

「ジャンケン………………ポンッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あったかぁ〜い!」

「うぐぐっ………」

 

 さとりは笑顔で体をブンブンと動かす。大して私はその隣で小さくまとまって凍えていた。そう、私はジャンケンに負けた。私がパー、さとりがチョキ。さっきの心理戦はどこへやら………

 

「おや、そうこうしているうちに着いたみたいだよ」

「ほんとだー!」

「……綺麗ね……」

 

 お燐とこいしは走って頂上まで向かい、その場ではしゃいでいた。お空とさとりは鮮やかな赤色の紅葉に見とれており、私は凍えながらも下に落ちた葉を拾った。本当に綺麗だ。地底にある紅葉とはまた別の雰囲気を醸し出している。

 

「で、ここで何するんですか?しんり様」

「私に聞かないでお空、どうするのさとり?」

「姉さん考えて」

「よし寒いから帰ろう」

「それはダメ、せっかくお燐がいるんだから」

「えー……」

 

 私はもう寒いから帰りたい、地霊殿で遊べばいいじゃないか………こんなこと聞くのは野暮だって分かってはいるけどどうしても思っちゃう。

 

「あ、そう言えば、さっき人里に饅頭が売っててね。4人分だけあるんだけど…………」

「た、食べたい!」

 

 全員一致で、その饅頭に手を伸ばした。しかし、この場は5人。どうしてこうも一人分足りなくなるんだろうか………するとこいしが楽しそうにこう言った。

 

「またジャンケンで決めよーよ!」

「お、いいね」

 

 私は少しだけ嫌な予感がする。一人だけ寒い思いをしている私、なんかこのジャンケンも負けそうだ。

 

「行くよー!ジャンケン…………」

「ポンッ!」

 

 お燐グー、お空グー、さとりグー、こいしグー………………私チョキ………

 

「もう嫌だぁぁぁぁぁ!!」

 

 どうしてだ!私が何をしたというのだ!と、心の中で悲痛な叫びをあげる。ピクニックに来てまで凍え、腹すらも満たせない私の心はもうズタズタだった。それを見たお燐やさとりは少しだけ苦笑いしている。こいしとお空はお腹を抱えて大爆笑。

 

「まぁ、仕方ないわね。さっきジャンケンで負けたことないとか調子乗ってたから天罰が下ったのよ、姉さん」

「ぐっ、それを言うな……」

「あはははは!しんり様かわいそー!」

「可哀想に思うなら饅頭をください……」

「負けたしんりねぇが悪いんだよー!」

「こればっかりは…………ねぇ…」

 

 頼みの綱であるお燐でさえ苦笑いをして饅頭を食べてしまった。するとさとりが私の前に来て

 

「仕方ないわね。半分だけあげるわよ」

 

 珍しいさとりの慈悲に私は涙を流す。

 

「さとりぃ〜!」

「ね、姉さんくっつかないで!」

 

 私はさとりから受け取った饅頭をちまちまと食べていく。せっかく貰った貴重な饅頭だ。しっかりと時間をかけて味わわないと損だろう。

 

 

 

 

 

「誰です?」

「?」

 

 私達は一斉に背後を振り返る。そこには長い下駄を履いた白いスーツのようなものを身にまとった………天狗だろうか……カメラを持ってそこに立っていた。

 

「やばい……天狗だ……こいし、能力使って……!」

「わ、分かった」

 

 そう言って私達は姿を消そうとすると、天狗は慌ててそれを止めた。

 

「ま、待ってください!別にあなた達を追放しようとか思っていませんから、ただ……ここら辺じゃ見ない妖怪ですね……」

「私達は地底の覚り妖怪よ。地上には滅多に出ないからね……」

「ほほう………私は鴉天狗の射命丸文と申します。あなた方は?」

「私は古明地しんり………それでこっちが………」

 

 一通り自己紹介を終え、私達は文の質問攻めにあっていた。良くもまぁこんなに質問が思いつくものだ。

 

「それでそれで、しんりさんはどんな能力なんですか?」

「私は人の調子をコントロールする。狂わせたり、気持ち悪くさせたり、色々出来るんだ」

「それは………少しだけ鈴仙さんと似てますね……」

「まぁ、確かにそうだね…」

「妹さん方は……」

「私は心を読む程度、こいしは無意識を操る程度。そんな大したものじゃないわよ」

 

 すると文は少しだけ目を見張ってさとりをマジマジと見る。

 

「あなたが……噂の覚り妖怪でしたか………」

「何よ、地上じゃ有名なの?」

「ええ」

「そうなのね………」

 

 さとりの顔は少しだけ曇る。まぁ、悪い意味で有名になってしまったのなら、ますます地上に顔を出しにくくなってしまったからね………仕方ないことではあるけど。

 

「あ、もうこんな時間……大天狗様に怒られる。では、これでお暇いたします!」

 

 シュビッと敬礼をし、文は背中に付いている黒い翼をバサバサと動かしたが、浮いたところで止まり、こちらに振り返った。

 

「最後に言っておきますが、現在人間の間で覚り妖怪を悪く思う人はほとんどいませんよ。むしろ「会ってみたい」と思う方が多いかと……」

「え?」

「それではっ!」

 

 次こそ文は目にも留まらぬ速さで妖怪の山を飛び抜けていく。文が過ぎ去った後、風によって紅葉がパラパラと散っていった。覚り妖怪を悪く思ってない…………か…。

 

「なんか……面白い妖怪に会ったわね……」

「んね……元気な人だったな…………」

「ねぇ、2人とも」

「ん?」

 

 今まで口を塞いでいたお燐が唐突に私たちの会話に割り込んできて、一つの提案をした。

 

「一度無意識を解除して人里に向かってみない?本当に何も言われないかもしれないし………」

「………そうだね、一度行ってみようか?」

 

 そう言って私達は来た道を戻り、妖怪の山を降り始めた。



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嫌わない人間、初めての地上の友人

最近私はゆるキャン△を見ています。

ハマりすぎてコミック買っちゃった次第です。

近々、にわかながら小説作ってみたいと思います。


覚り→覚ではというご意見をもらいました。

しかしごめんなさい!覚りの方が語呂が良いのでこのままということにさせていただきます!
ご指摘くださった通りすがりさん、申し訳ありません。


 私たち3人はお空やお燐の後ろに引っ付きながら人里へと降りていく。また覚り妖怪は邪魔者だとか言われたらそれこそ前のように殺意が湧いて人を殺してしまうだろう。まぁ、殺せる勇気はないんだけどね……

 

「じゃあ……入ろうか…」

 

 人里の入口まで来た時、手の震えが段々と大きくなってきていた。そして、恐る恐る人里を歩く。

 

「……………っ!?」

 

 何故だろうか、人々の目線が私たちの方に向かない。こいしがまた無意識でも使っているのだろうか?私達は不思議に思いながらそのまま大通りを歩いていく。あの天狗の言う通りだったみたいだ………

 

「大丈夫だね。よかったじゃないか」

 

 お燐が私の頭をわしゃわしゃと撫でた。何やら子供扱いされているみたいで嫌だ。

 

「あ、あの子可愛いー!」

「っ!?」

 

 突然、私は誰かに声をかけられた。声の主は私と同じくらいの身長の女の子。目をキラキラさせてこちらを見ていた。私はどうしていいか分からなくなりタジタジしていると、女の子がこちらに駆け寄ってきた。

 

「あなた可愛いね!お名前は?」

 

 よく見ると白が基調のドレスで少しだけ黒が混じっていて、上品だ。髪の毛もセミロングだが、しっかりと手入れがされており、真っ直ぐに黒い髪が伸びている。俗に言う「お嬢様」だ。私もその幼いながらの美貌に少々見とれた後、慌てながら自己紹介をする。

 

「え、えと、古明地しんり………」

「しんりちゃんって言うの?」

 

 私はコクっと小さく頷くと女の子は私の手をぎゅっと握って引っ張った。

 

「ね、私達友達になろ!」

「とも……だち?」

「そ、友達!」

 

 私は初めて友達ができた。それが何よりも嬉しくて、おそらく年下であろうこの子に、友人として惹かれていったんだ。私は歓喜のあまり口が緩んでしまっていた。

 

「うん!よろしくね!」

「良かったじゃない姉さん。私達は先に地底に帰ってるけどいい?」

「あ〜、そうだね。うん、先帰ってて」

 

 そう言って他の4人は私のことを微笑ましそうに見た後、来た道を戻っていた。

 

「あれは妹さん?」

「そうだよ、後は友達」

「沢山いて楽しそうだね!」

「ね、あなたの名前はなんて言うの?」

「私はセリカナ・クレセ・ステナミア。長い名前だけどセリカナで覚えてね!」

「セリカナ………」

 

 長い名前をつけられているあたり、お嬢様であることは確定だな……もっとお嬢様ってわがままなイメージあったけど…私の偏見みたいだったね。

 

「じゃ、どこか遊びに行こっか!」

「う、うん」

 

 セリカナが思ったりよりも活発で最初はただ疲れるだけだったけど、最終的にセリカナが考えたものは全て面白く感じるようになった。自分ももう16歳。大人にはなったつもりだが、まだまだ子供の部分が抜けきれていないというか、たまにはこういうのも悪くないって実感できた。

 こうして夢のような時間はあっという間に過ぎていった。

 

「今日はありがとうね。セリカナ。楽しかったよ」

「こちらこそ、ところで、しんりはどこに住んでるの?」

「……実は地上じゃなくて地底に住んでるんだ。妖怪だし」

「しんりって妖怪なんだ!通りでそこに目がある訳だ!」

 

 びっとサードアイを指さす。怖がらないんだ………私はそれに少しだけ感動を覚えた。

 

「そう、あ、もう時間だ。もう帰るね!」

「うん!またね」

 

 私は元気よく走って人里を抜けていった。セリカナ・クレセ・ステナミア……長い名前だなぁ……私はそんな初めての友達、セリカナと知り合った。

 

 

 

 

 

「ただいまー」

「あ、姉さん。おかえり、あの子どうだった?」

「楽しかったよ。優しかったし」

「そう、良かったじゃない。仲良くなれて、それに嫌悪の心が一人もいなかった」

 

 そう、今日は特別なのか何なのか、覚り妖怪に嫌味な目線を送る人は誰ひとりいなかった。まぁ、約10年前の出来事を覚えている人物なんているわけが無い。

 

「あ、しんり様!」

「ん、どしたの、お空?」

「お燐がここに住みたいって!」

「お願いだ。あたいの住むところがないんだよ……」

「え?!う、うーん……」

 

 お燐がここに住むのはこちらとしても歓迎したいが、今の地霊殿はお金が少ない。別に困っているわけではなく、贅沢ができない状況ということである。さとり曰く「姉さんの誕生日会でお金使いすぎた」とのこと。

 

「いいわよ。別にペットが増えるのは嬉しいし……」

「ほ、ほんとかい?!ありがとう!」

 

 お燐は顔を明るくし、私たちに頭を下げる。まぁ、猫だしペットって事でさとりに管理してもらおう。するとお空が少しだけドヤ顔でお燐を早速指摘した。

 

「お燐。あの3人にはしっかりと「様」を付けること!」

「え、あ……そういうの恥ずかしいな……」

「恥ずかしがってちゃペットなんか出来ないぞ!」

 

 あの鳥頭……めんどくさい性格してるな……まぁ、2人は元々親友だったらしいし、これからの関係で困ることは恐らくないだろう。お空の面倒も見てくれそうだ。お金のことなんか気にしてられないな。

 

「分かったよ……よろしくお願いします。しんり様」

「うん、よろしくね。これからはお空のパートナーとして面倒見て貰えると嬉しいな」

「んなっ!お言葉ですけどしんり様!私は面倒見てもらうほど鳥頭じゃありませんよ!」

「お空、寝言は寝てからだよ」

 

 私がそう一言零すとお空はうぐぐ………と唸ってお燐の背中をバシッと叩いた。

 

「いっ!?」

「これからよろしくね!お燐!」

「どれだけ負けず嫌いなんだよお空……」

「負けず嫌いじゃないです!ごはん作ってきます!」

 

 そう言って、ズカズカと歩きながら厨房の方へと早歩きで行ってしまった。それを目で追いながら苦笑いをする。あんなに意地を張ったお空は初めてだ。

 

「あはは………まぁ、いつも通り接してやってよお燐…」

「え、ええ……そのつもりですけど……あんなお空初めてですね……」

「さてと、私は書斎に戻るわ…」

 

 さとりは一度大きく背伸びをした後、体を所々伸ばしながらお空とは反対方向へと歩いていった。私もこの後やることがあるんだよなぁ……

 

「「真実の歯車」読まなきゃ」

「あ、あの瑞乃から貰ったやつ?」

「そう」

 

 瑞乃から貰った憧れの小説。まだ内容は詳しく把握出来てないため、今日明日でじっくり読みたいと思っていた。

 

「じゃあ、夕飯時になったらお呼びしますね。こいし様はどうします?」

 

 早速お燐のペットが板についてきたみたいだ。なかなか飲み込みの早いヤツでお空よりも扱いやすいかも………まぁ、猫姿は可愛いし、関わりやすいしね。

 

「私はお燐とお話してるー!」

「あはは……しかし、お仕事がありますので……」

「いいよ初日くらい。こいしのお話し相手になってあげて」

「い、いいんですか?ありがとうございます」

「じゃ、夕飯の時はよろしくねー」

 

 右手をヒラヒラとさせながら私は自室へと向かう。暖房のない廊下はやはり冷える。長袖を着ているとはいえ鳥肌が少しだけ立ってしまう。自室のドアを開け、静かなこの空間の中、私は椅子に座って「真実の歯車」を手に取る。そして1ページ目からしっかりと読んでいく。

 大方の物語は一人の女性の愛人が何人もの女に手をかけていた事が判明し、その女性が男を殺し、そして、女もある場所で自害するというシリアスな物語。どこにでもありそうな小説だが、私は元から「稗田阿求」さんのファンで、目に入った時は無性に惹かれたのだ。

 

「やっぱり………書き方が上手だな……」

 

 まるで自分が小説の世界に入っているかのようにめり込ませてくれる。これができるのは阿求さんしか見たことがない。それに、鈴仙さんは阿求さんと知り合いなのだ。ということは意外と身近にいるってことなんだよね………

 

「今度……お願いしてサインだけでも貰おうかな……」

 

 私は阿求さんの容姿を妄想する。かっこいい人かな……それとも美人さんかな………楽しみだなぁ……

 余談だけど、この後私がずっとニヤニヤしていたらさとりが私の部屋に来て、見られたんだ。そしたら真実の歯車が実はエロ本なんじゃないかって間違われてさ、危うく捨てられるところだったよ。



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鈴奈庵、憧れの小説作家

前回でも言った通り、正しくは覚り妖怪ではなく、覚妖怪なんだそうですが、それだとほのぼの感が欠けてて個人的にしっくりこなかったので、「覚り妖怪」で続けていこうと思います。


 お燐が家族の一員となって地霊殿が少し狭く感じるようになった。食事も賑やかだし、家事はほとんどお空とお燐がやってくれて、私たちがダメダメになりそうだった。そんな中、自分がだらしない生活を送っていると自覚しながらも「真実の歯車」に没頭していた。

 

「姉さーん、ご飯だってー」

「待って、あと5分」

「………冷めないうちにね」

 

 そう言ってさとりが扉をまた閉める。もうすぐで序章が終わる。この小説は稗田阿求さんが書いた小説の中で一番の長編だとか。稗田阿求さんは小説以外にも詩や書道など、和の心を大切にしている方だと鈴仙さんからは聞いている。

 

「あ〜………お腹空いた…」

 

 栞を挟み、パタンと優しく本を閉じる。その時に本を閉じた時の風が私の顔面全体にかかる。本独特の匂いがして、少しだけ気分が良くなる。正直、この匂いが好きだ。心が落ち着くというかなんというか………

 

「よし……」

 

 ドアノブを捻り、廊下に出る。部屋の中が暖かかったからか、廊下が妙に肌寒く感じる。私は早足で食卓へと向かった。そこにはもう、私以外の全員が座っていた。

 

「じゃあ食べましょうか」

 

 さとりの号令と共に私達はナイフとフォークを手に取り、ホカホカのステーキにナイフの刃を付け、押し引きして切る。フォークで刺して口に入れる。ステーキが口の中でとろけるように味が広がっていく。

 

「んう〜!」

 

 パタパタと足をばたつかせながら私は落ちそうなほっぺを手で抑える。な、なんだこの美味しさは……!そんな私を見てお空は鼻を鳴らして胸を張る。

 

「今日人里に言ったら安売りしてたんだっ!」

「へぇ………また珍しいね…」

 

 お金がカツカツの私たちにとって安売りセールは有難いものだ。こいしたちも美味しそうに食べてるし…………と、私は上辺だけお姉さんを演じてた。

 明日………鈴仙さんにお願いして阿求さんと会えたりしないかな………まぁ、そんなうまい話あるわけないか………そうだよなぁ……人里の有名人とそんな簡単に出会えたら世の中苦労しないもんなぁ……………

 

「阿求さんに会いたい?いいですよ、お付き合いします」

「え?」

 

 案がうまく行くものだった。次の日買い物ついでに永遠亭に寄り、ダメもとで鈴仙さんに頼み込んでみたら、快く快諾してくれ、まさか連れていってもらえるとは………や、やばい………正装で行かなきゃいけないのに………いつもの私服だぁ……!白のフリルスカートに赤が基調でボタンや襟周りは白い服。さとりに「大人になったから」という理由で私服を丸ごとチェンジすることになってはや数ヶ月。これにも慣れつつある時期だった。

 

「あの鈴仙さん…」

「はい?」

「服…着替えてきていいですか?」

「あはははは!大丈夫ですよ、とても優しい人ですから気にしませんって……」

「ほ、本当ですかね……」

 

 心臓の鼓動が歩く度に大きくなっていって、体がカチコチになる。それを鈴仙さんは少しだけ呆れながらポンポンと背中を叩く。

 

「そんな緊張しなくても……」

「だっ、だって………人里だけで数千万部も売れてる超人気作家さんですよ!?緊張しない訳ないじゃないですか…」

「あ、つきましたよ」

「ひゃう!?」

 

 鈴仙さんが指さした先には「鈴奈庵」と書かれた木の看板。その先には小さな木造建築。地霊殿と比べればとてもちっぽけな建物だった。

 

「ふぅー落ち着けー…………すぅーはぁー……」

「失礼しまーす」

「ちょ、鈴仙さーん!?」

 

 私が目の前で深呼吸していると鈴仙さんは躊躇なく扉をカラカラと開ける。すると奥から幼い声が聞こえた。

 

「あら、鈴仙さん。こんにちは、今日はなにかお探しですか?」

「いえ、阿求さんのファンを連れてきました。私の友人です」

「ど、どうもっ!ち、地底の妖怪、古明地 しんりと、も、申しまひゅ!」

「そんな固くならなくていいですよ……」

 

 ぎこちない話し方と噛み方に阿求さんはクスクスと可愛らしく笑う。よく見ると………幼いなぁ…紫色の髪でややセミロング。人間って聞いたから10歳くらいだろうか?私よりも小さい……でも……なんか風格あるなぁ…部屋の中も本でぎっしりだ……

 

「………おや、あなた「覚り妖怪」でしたか……」

「!」

 

 阿求さんが私をまじまじと見た後、真剣だがまだ幼さの見える声でそう言い、私はその場で固まってしまう。それを見かねた阿求さんは微笑みながら

 

「………大丈夫です。私はあなたを嫌いになんかなりませんよ?もちろん、現在の人里の住民は覚り妖怪の事なんて記憶にございません。安心なさい…」

「そ、そうですか…ありがとうございます」

 

 この人……こんなに幼いのに…まるで大人びいているというか……自分が年下に見えるというか………

 

「あ、あの、阿求さん」

「はい?」

「「真実の歯車」いま読んでいます」

「ええ、ありがとうございます。一番の長編ですので、ゆっくりと読んでってくださいね?」

「いえ、今後どういった小説を出すおつもりなんですか?」

「そうですね……」

 

 阿求さんは指を顎に当て、上を向いてしばしの間考える。

 

「次は恋愛ものにしてみようかと、サスペンスと恋愛、殺人を題材にした「真実の歯車」の続編とか……今は考えてますよ」

「ほ、ほんとですか!?」

「ええ、まぁ、読者さんに言ってはいけない事ですけどね……」

「わ、私、楽しみにしてます!頑張ってください!」

「ええ、ありがとうございます」

 

 阿求さんとの会話を済まし、私は鈴奈庵内の本を少しだけ探していた。大体が幻想郷の歴史や文化、代々博麗の巫女の事なんかも書かれていて少々不愉快。するとひょこっと鈴仙さんが私の顔を覗いた。

 

「………しんりさん。今の博麗の巫女は以前のような非人道的な方じゃありませんよ?」

「………え?」

「彼女は、博麗霊夢。幻想郷最強で博麗最高の巫女さんとも謳われてる程です。それに人妖問わず好かれてるんですよ……」

「そうなんですね…………まぁ、関わる機会は理由がない限り極力避けるつもりなので……」

「ええー、もったいないですよー」

「それよりもこれとか……」

「あ、それは輝夜様ですね。蓬莱の薬の奴でしょう」

「あ、瑞乃が言ってた嫦娥って……」

「月の女神様です、今はどこにいるか知りませんが……」

 

 そんな話をしているうちに日がすっかり暮れてしまっていたがまだ半分も見れていない。阿求さんは「気が済むまでここにいて構わないですよ〜」と、本当に優しく声をかけてくれた。私はお言葉に甘えて少しだけ鈴奈庵にいることにした。鈴仙さんは薬の販売のため帰ったが、私はまだ夢中になって本を漁っていた。

 

「あ、阿求さん。これって阿求さんの最初の作品ですよね?」

「恥ずかしながら………」

 

 少し顔を赤らめた阿求さん。可愛らしくて少しだけ見惚れていた。どうやら初めてだから文面もバラバラになっているらしい。実際、一番売れた本がこれなのだが……

 

「へぇ………「生きた亡霊」………ねぇ……凄く面白そうな物語ですね……これ買ってもいいですか?」

「買うというより、もう自分には必要の無い本です。無料で差し上げますよ」

「え、いいんですか?ありがとうございます!」

 

 頭を下げ、阿求さんにお礼を言う。すると後ろのドアがガラッと力強く開けられ、私は頭を思い切りチョップされた!

 

「いったぁぁぁ……」

「姉さん、まだ帰ってなかったの!?……すいません…うちのバカ姉が………」

「大丈夫ですよ。久しぶりに妖怪と話せましたし……何より優しい方でしたので……」

「いやいや、それはきっと裏の顔ですよ阿求さん。この人は腹黒くてゲスでバカな妖怪ですから」

「そこまで言わなくたっていいじゃんかぁ……」

「ふふっ、楽しそうな姉妹ですわね……」

 

 私とさとりのやり取りを見て、阿求さんは微笑ましいと言わんばかりの顔で笑う。とゆーか、チョップが何気に強力でたんこぶ出来てるんだけど…………てか、今9時やん……

 

「さ、姉さん帰るわよ!晩御飯冷めるわ!」

「わわっ、引っ張るなよさとりぃ〜!」

「またのお越しをお待ちしております〜」

 

 ヒラヒラと手を振って阿求さんに見送られた。外に出ると少しだけひんやりした空気が私の口の中に充満する。空気が美味しい、とはこの事だろう。

 

「ね、さとり、阿求さんに新しい小説貰ったんだ〜」

「そう、私にも読ませてね」

「やだっ!私のことチョップしたから読ませてあげない!」

「姉さん今月の小遣いなしでいいの?」

「ごめんなさいどうぞお先にお読みください」

「我ながらいい姉を持ったわね」

 

 いつからこんな悪ガキに成長したんださとりよ。前まで「姉さん、姉さん」可愛かったのにいつの間にか反抗期に入ってしまった………

 

「早く帰りましょ。お空達が待ってるわ」

「おー」

 

 キュルキュルとなるお腹を抑えながら少しだけスピードを上げて地底に帰っていった。途中、セリカナに会えるかなって思ったけど、流石にないか……

 阿求さんの小説を抱きながら地霊殿へと帰った。



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人里の外れ、友人の豪邸

すいません!二話連続人里………


「はい、終わったわよ」

「ん、ありがとうございます。では」

 

 ぐるぐる巻きにされた腕を下ろし、永琳さんに一礼し、外に出る。そう、怪我をしてしまったのだ。調子に乗ってお空の灼熱弾幕を素手で受け止めようとしてしまい、やけどとその威力に軽い打撲をしていた。さとりにはこっぴどく怒られたし、こいしには「ダサすぎるよしんりねぇ!」って大笑いされた。くそ、誰も私の怪我の心配をしてくれるやつはいないのか!

 

「大丈夫ですか?しんり様。どこか不便なところは……」

「あぁ、大丈夫だよお燐。ありがと」

「ならいいですけど………あ、綿菓子食べますか?」

「え、ほんと!?食べる食べる!」

「では人里に行きますか」

 

 お燐だけは私のことを本気で心配してくれた。お空自身も申し訳ないと、反省はしてるみたいなんだが、どうにも内心ほくそ笑んでるようにしか見えない。地霊殿唯一の常識人と言っても過言……………過言だけど…。

 お燐はいつでも周りに気を配れるし、本当に地霊殿に来てくれてよかった。

 

「覚り妖怪は再生能力が高いわけじゃないし……こうやって手当はしないとね」

「そうですね。でも痛みってありました?」

「まぁ、人並みよりは少ないけど無いわけじゃないかな」

「へぇ………あ、買ってきますね」

「うん」

 

 タタタッと小走りで綿菓子屋に向かうお燐。お燐もお空もそうだけど、身長高いよね。スタイルもいいし、どうして覚り妖怪だけこんなに小さいの。種族の問題かな………?

 

「あれ、しんりちゃん?」

「へ?」

 

 突然名前を呼ばれ、私は体をビクッと強ばらせる。人里で私の名を知っている人は指で数えられるほど、それにこんなフレンドリーな掛け声をかけてくれる人なんかもっと限られる。

 

「せ、セリカナちゃん!」

「やっほー」

「ど、どうしてここに?」

「や、ここから家近いしね、しんりちゃんの姿が見えたから出てきたの」

「そ、そうなんだ……」

「しんり様ー!買ってきましたよー……………おや?」

「あ、お燐は初めて話すよね。セリカナ・クレセ・ステナミア、私の友達。で、こっちが火焔猫燐。家族だよ」

「どうも、火焔猫燐だよ。お燐って呼んでね」

「あ、はい!セリカナって呼んでください……………えと、お燐さんも妖怪ですか?」

 

 セリカナちゃんはお燐の全身を見て、少しだけ引き攣りながら問う。まぁ、猫耳と尻尾があれば誰だって驚くよね。人里の目線も少しだけ集まってたし。

 

「そうだよ。まぁ、地底に住んでるから別に特別視はされないかな」

「そうなんですね……」

 

 お燐は火車という妖怪で、よく物語に出るらしい。葬儀などの時に死体を持ち去る妖怪、それが火車という妖怪、地底は怨霊が多く、火車はその怨霊たちとも会話ができ、お燐はとても楽しんでいるとか。それにこんなに常識人ではあるのだが、本人曰く「死体が大好き」とのこと。妖怪によって殺された人間などはよく持ち帰って来ている。まぁ、迷惑としか言いようがないが、彼女自身とても楽しそうだし実害もないので放っている。

 

「ね、しんりちゃん、このあと暇?」

「うん。用はないかな」

「じゃあ私の家に来てよ!もちろんお燐さんも!」

「…いいの?」

「いいよ!お家おっきいから!」

「そ、そういう問題じゃなくて……」

「………行きましょうか、しんり様」

「だね……」

「?しんりちゃん……その腕どうしたの?」

 

 心配そうに見つめるセリカナちゃん。良かった、地霊殿の連中よりも情が深い……人間はいい奴なのかもな……

 

「あぁ、ちょっと大やけどしちゃって…」

「だ、大丈夫なの!?」

「大丈夫大丈夫。永遠亭で診てもらったから」

「そう、ならいいんだけど………あ、着いたよ!」

「え……」

 

 でっか。

 全身真っ白の建造物、人里の外れにこんな大きな屋敷があったなんて……地霊殿より大きい屋敷初めて見たかも。ちょっと悔しい。

 

「ささ、入って入って!」

「お帰りなさいませ、お嬢様」

「うん、ただいま、セリシウス!今日は友達を連れてきたんだ!」

「……………………左様ですか…はじめまして、セリシウス・クロミーと申します。ここでセリカナお嬢様の執事をやらせて頂いてるものです」

「……はい、よろしくお願いします」

 

 何だろ、セリシウスさんの目つきが一瞬とんでもなく悪くなってた気がする。少し年老いてるし寝不足なのかな?どうやらお燐も少し気づいていたようで、私の肩をチョンチョンとつつく。

 

「しんり様。少しだけあの人には警戒しておきましょう」

「うん、分かってる」

「しんりちゃん、お燐さん!紅茶でも飲みましょ」

「うん、分かった」

 

 バルコニーに案内され、私とお燐はその規模の大きさに自然と感嘆の声が漏れる。妖怪の山が一望できるバルコニーと木目が整っている木材を使った鮮やかな茶色の床。天井からぶら下がるハンモックなど、とてもここらじゃ見ることができない物がずらりと並んでいた。私達はセリカナちゃんち指示されたところにちょこんと座った。椅子も豪華で鮮やかな白色に薄い紫でソフィの花のようだった。

 

「どうぞ、紅茶でございます」

「あ、ありがとうございます」

 

 さっきまで私を睨んでいたセリシウスさんが笑顔で紅茶を出してくれた。紅茶の中身には毒でも入っているのかな?まぁ、私達妖怪には効くはずもないし、多分心配は要らないだろう。セリカナちゃんにバレたら色々とまずいし、まだセリシウスさんが私達に恨みを持っているって決まったわけでもないしね。

 

「ん、うま……」

「ほんとに……美味しい…」

「へへっ、良かったねセリシウス!」

「ええ、お客様に喜んでもらえるのなら光栄でございます」

 

 どうやらセリシウスさんが悪者というのは私達の勘違いっぽいな……能力を使っても、セリシウスさんの気には全くの悪気がない。少しだけ安堵の息をつき、紅茶を飲み干すとセリカナちゃんが元気よく立ち上がった。

 

「ねね、セリシウス!今日は部屋で遊んでいい?」

「ええ、ご主人様からの許可も頂いております」

「やったー!ねね、しんりちゃんとお燐さん、部屋で遊びましょ?」

「うん」

 

 ここの一家とは仲良くできそうだ……色々人間と関わるのは怖かったけど、案外人間は悪い生き物ではないのかもしれない。鈴仙さんが言ってたとおりだったかもな。

 

 

 

 

 

「ま、負けたぁぁぁぁ!!」

「しんり様…ジャンケンといいトランプといい、弱すぎませんか?」

「しんりちゃん弱すぎー!」

 

 現在、ババ抜きを楽しんでいるが、絶賛15連敗。ジョーカーがいっつも手札に残ってしまう。

 

「しんり様、顔に出すぎですよ。丸わかりです」

「え、ええ?ポーカーフェイスを保ってるつもりなのにな………」

「しんりちゃん世の中には「寝言は寝て言え」っていう格言もあるんだよ?」

「ひどい!とゆーか、格言なの?」

 

 そうしてまた、トランプを切り始める。ババ抜きがこんなに楽しいとは思えないほどに没頭してしまい、遂には日が暮れるまでやり続けていた。

 

 

 

「わ、私が勝てる日は……そう遠くはない!」

「25連敗が何言ってるんですか……」

「言わないでお燐」

「あはははは!楽しかったよ2人とも!また遊ぼーね!」

 

 最後まで元気なセリカナちゃんは満足げにピョンピョンと跳ねた。艶やかな黒髪が私の目を魅了させる。こんなに無邪気な子でも女の子を保ち続けていた。同じ黒髪の私だが、念入りなお手入れなんてしてないし………またさとりにでも相談しようかな……

 長く伸びた自分の髪を触りながらそんなことを考える。友達にこんな綺麗な子がいたら気にしちゃうんだよなぁ………お燐も綺麗だし……

 

「しんり様、とりあえず帰りますか」

「う、うん。じゃーね、セリカナちゃん」

「ばいばーい!」

 

 そう言って私達は大きく手を振りながら人里を離れる。飛んでいる間、お燐が私に近寄り声をかけた。

 

「しんり様、自分の髪には自分の魅力があるんです。別にセリカナちゃんが綺麗だからって対抗する必要はありませんよ?」

 

 まるで心を見透かしたかのような口ぶりに私は少しだけ励まされた。

 

「……でも、ちょっと髪型も考えないとな……お燐、後で一緒に考えて」

「了解しました」

 

 自分の髪を気にしながら、私は地底へと戻った。その時にはもう、ついさっき負ったやけどの傷跡はきれいさっぱり消え失せていた。




しんりちゃんの髪型、ロングかショートどっちがいいかな?
挿絵ないからイメージだけど、やっぱりイメージは大切だよね


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ポニーテール、姉妹の喧嘩

「お燐〜?」

「あ、しんり様。どうしました?」

「昨日さ、セリカナちゃんの家で遊んだでしょ?」

「ええ」

「私も綺麗な髪型になりたい」

「はぁ……」

 

 何故こんなことを頼むのかというと、実質私とセリカナちゃんは髪型と髪色が同じ黒色。でも艶やかさが全然異なっていて、私のは光に反射せず、少しパサついているが、セリカナちゃんのはサラサラで光によく反射する。それに感化されたというか、憧れちゃってお燐に散髪と髪の手入れを頼んでいる次第だ。

 

「どういった髪型にするんですか?さとり様はショート、こいし様はセミロング、しんり様はロング。ひとりひとり個性があっていいじゃないですか」

「ロングなのは変えないで、ただ、少し伸びすぎかなって、たまに足で踏んじゃうし…」

 

 私の髪はもう数年近く切っていない、切る時間が無いというのも一つの理由だがそもそも髪が長い方がお姉さん感が出ていて憧れているからだ。

 

「じゃあ少し散髪するくらいでいいですか?」

「あ、あともっとツヤツヤにして欲しい」

「充分艶出てますけど……」

「いーの!お燐みたいな三つ編みでもいいから!」

「被ると嫌じゃないですか……」

「だって今私とお空同じじゃんか!」

「あの馬鹿はそろそろショートにしたいとか言ってましたね……」

「馬鹿……………馬……鹿…」

 

 私の頭の中には馬鹿という単語が何故か反芻させられた。私の中で「馬鹿」という単語から何らかの髪型が思いつくという発想になったのだ。

 

「馬……………ポニー…………ポニーテール!」

「しんり様の脳内が本当に働いているのか不安になる今日この頃ですね」

「ひどい!」

「ポニーテールいいじゃないですか。しんり様、シュシュとか持ってないんですか?」

「え、ずっとこの髪型だったから持ってないよ」

「じゃあこれあげますよ」

 

 お燐は自分の頭につけてあった赤色のシュシュを手渡した。そんなのどこに付けてたんだ…と一瞬疑ったが、あまりのシュシュの可愛さに見とれてしまっていた。

 

「可愛い…」

「可愛いでしょ?前に雑貨屋で買ったんです」

「へぇ……じゃあ付けてよ」

「分かりました」

 

 お燐は私の髪を持ち上げ、赤いシュシュを髪に巻き付ける。すこし引っ張られる感触があって多少の痛みはあったが、いざ付けてみると自分が新しく変身した気分に陥る。

 

「おおー……」

「可愛いじゃないですかしんり様」

「うん、ありがと、お燐」

「いえいえ」

 

 椅子から立ち上がり、新しくなった自分を見せびらかそうと部屋を出て、書斎へと向かった。

 

「さとりー」

「あら、姉さん、どうしーーーー!?」

 

 さとりはガタッと椅子が一度床から浮く、そして立ち上がり、私に近づいていく。

 

「ね、姉さん?それどうしたの?」

「お燐が結ってくれた」

「へぇ……可愛いわね。まさか姉さんがお洒落するとは…」

「どーゆー意味……」

 

 さとりは無愛想な感じで私に話しかけているが、振り返りざまに見てる耳は少しだけ赤らんでいたことがわかった。すると私の中でちょっとしたいたずら心が目覚めていた。

 

「あれれ?さとり、実はちょっと姉さんのこと可愛いって思った?」

「ええ、可愛いわ」

「さとりもこうして欲しいのぉ?」

「いいえ?この髪型が好きだもの」

「………」

 

 あっさり負けてしまった。私の脳内では「ち、ちがっ、違うわよ!この髪型が好きなの!」って赤面しながら弁解するさとりの姿があったのだが、大きな予想ハズレだった。

 

だって、姉さんがこの髪型が可愛いって言ったんだもん………

「え?なんて?最近耳が遠くて……」

「うるっさい!何も言ってないわよバカ姉!」

「ば、バカ姉ってなんだよ!」

「そのままの意味よ!バカ姉!」

「私がバカってこと!?うぎぃぃぃぃ!妹のくせに調子乗らないでよ!ちょっと頭がいいからって!」

 

 私とさとりの喧嘩に書斎の扉から顔だけをのぞかせるこいしとお燐とお空。その顔はとても微笑んでおり、ずっと見ていた。

 

「まだまだ子供ですねぇ……」

「こいし様がそれ言いますか………」

「何か可愛らしいね!」

「末妹としては嬉しいものだよ。まだお姉ちゃん達と遊べるしね」

 

 そんな会話をしているとはつゆ知らず、私とさとりの口喧嘩はそのまま続けられる。それを未だ微笑ましく見る三人。

 

「だいたい、これ以上髪型をいじったら姉さんやこいしに近くなっちゃうじゃない!」

「いいじゃん別に!こいしの髪型も可愛いじゃん!」

 

 こいしは自分の名を呼ばれ、フラフラと私とさとりの間に割り込んできて、嬉しそうにお互いの顔を見る。

 

「しんりねぇ、さとりねぇ、私のこと呼んだぁ?」

「外野は黙ってなさい!」

「外野は黙ってて!」

 

 同時にこいしを叱り、その当人のこいしは少しだけたじろぐ。そしてこいしにもスイッチが入ったのか、顔を真っ赤にして怒りを顕にする。

 

「むきぃぃぃぃ!私だって外野じゃないもん!二人の妹だもん!」

「だから何よ!一番可愛いからって構ってもらえるわけじゃないんだよ!」

 

 久しぶりの三姉妹での喧嘩、もう数年やっていないので、喧嘩している側もとても楽しかった。傍から見たら大喧嘩に見えるが、全員が楽しんでいるのが私から見て実感できていた。

 

「しんり様もさとり様もこいし様も………まだまだ子供なんだよなぁ……心配の域はまだ越えない………か…」

「んね!まだまだ私が勉強教えてあげなきゃ!」

「それはひょっとしてギャグで言ってるんだよね?お空?そうだよね?あたいはお空の頭も心配だよ……」

 

 お燐とお空は二人で楽しく会話をしながら台所へ向かい、私達は昼ごはんが出来るまでお互いを貶しあっていた。

 

「しんり様、さとり様、こいし様。お昼ご飯が出来ましたよー」

「あ、ありがとうお空、すぐ行くね」

 

 まだまだ怒りが収まらない私達はお空によって一時休戦となったが、向かう途中も食堂に着いた時も怒っていた。特にこいし。

 

「もう!お姉ちゃん達はでりかしーが無さすぎだよ!」

「………………ぷっ!」

 

 さとりが唐突に吹き出していた。

 

「あはははは!」

「さ、さとり?どうしたの?」

 

 腹を抱えて笑うさとりに私とこいしは質問する。すると涙を拭きながらさとりは答える。

 

「いや、姉妹でこんな喧嘩久しぶりだし……私達も沸点低くなったなぁ………って」

「確かにそうだね……こんな喧嘩したの久しぶりかも……」

「ね!しんりねぇの怒った顔久しぶりに見たよ!」

 

 数秒前まで喧嘩していた間柄とは思えない会話だった。すっかりとそのことも忘れ、いつも通りの笑顔で話し、笑い合う。

 

「まぁ、沸点が低いのはさとりだけだけどね」

「………………いやいや、姉さん達も低かったでしょ?」

「いや、しんりねぇとさとりねぇだよ」

「……………」

 

 プツンと何かが私の中で切れた。

 

「さとりが一番怒りやすいよ!なんでそうデマばっか言うわけ!?」

「あなたよ!姉さん!ちょっと言われただけですぐ怒るじゃない!それに何色気づいてるのよ!」

「二人ともだよ!お姉ちゃんのくせに妹にばっか怒ってさ!」

「こいしもだよ!デリカシーがないのはどっちだよ!」

「まぁた喧嘩ですか……三人とも飽きないですねぇ……」

 

 これからまた長い時間喧嘩していた。この後弾幕ごっこにまで進展したが、部屋を荒らしに荒らしたからか、怒ったお燐が料理のおたまをもって私たちの脳天を叩いて数分間疼くっていた事は内緒だ。

 その時に、私のポニーテールはお燐から貰った赤いシュシュを境にフワフワ揺らいでいた。




バンドリーマー[ハクア]さん。

誤字修正ありがとうございます。


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地底パーティ、久しい友人との話

 私は大きな欠伸をして、洗面台に向かっていた。少々寝癖が目立つ髪の毛をポリポリ掻きながら廊下をスタスタ歩く。欠伸が全く止まらない。

 

「姉さ〜ん……」

 

 眠そうなさとりがこちらに歩いてくる。そのフラフラした足取りが今にも転げ落ちそうだ。

 

「ど、どーしたのさとり?寝てないの?」

「……んぅ…………眠い…」

「何してたの?昨日何も無いよね?」

「今日の地底パーティの参加費の計算をしてたのよ」

「あ、あ〜そっか、今日か……お疲れさん。パーティは夜だし、寝てたら?」

「うん、そうさせてもらうわぁ……」

 

 いつも人前ではキチッとしているさとりだが、大きなあくびをしながら、来た道を戻っていった。姉ながら、仕事を妹に任せるのは少々気が引けるものだ。

 

「しんりねぇ〜」

「ん、こいし?」

 

 寝癖でボサボサのこいし、いつもの整った銀色のセミロングではなく、本当にサボテンのような爆発度。思わず吹いてしまうところだった。私のポニーテールがゆらゆらと揺れる。今では自分で結くことを出来る。

 

「こいしはぐっすり寝たみたいだね」

「でも、9時間くらいしか寝てないの……」

「恨みたくなる睡眠時間だな……」

 

 私も途中までさとりの手伝いをしていたのだ。夜中の12時くらいまで、だが、いわゆる「寝落ち」してしまい結局半分以上さとりにやらせてしまった次第である。

 阿求さんに無償で貰った「生きた亡霊」。さとりから昨日返して貰った。昼間はそれを読もうと思っている。

 今日の夜は地底の鬼や妖怪が集まってパーティをする。場所は地霊殿、勇儀さんが数年前に考案したものだ。

 

「さて、部屋に戻ろ」

 

「生きた亡霊」を右手に私は西側にある自室へと足を運んだ。

 

 

 ーーーー夜。

 私達地霊殿組は台所に集合していた。お空と私とが料理を作り、お燐が盛り付け、さとりとこいしは出来上がった料理を会場へと運んでいた。少し時間が押しているため、全員が素早い行動をとっている。

 

「お空!胡椒とって!」

「今私が使ってまーす!」

「だぁぁ、早くして!」

 

 お空は食材にパラパラとふりかけた後、私に手渡した。私はそれを奪い取るように受け取り、早速かける。鶏肉に少しだけ黒い粒が点々と付く。

 

「お燐、油!」

「はーい」

 

 ペットの手を借りて、私は次々と料理を作っていく。私が料理をするのも久しぶりだし、台所に来るのももう数週間ぶりだ。そのため、腕が訛っていると言ったらいいのか、あまりサクサクと事が進まない。

 

「よし出来た。あとは何?お空」

「え、えーと………巨大ケーキですね」

 

 お空は地底のみんなから貰ったアンケート用紙を確認し、メニューを口にした。地底の妖怪達にはしっかりと好きなものがあるように、あらかじめアンケートをとり、結果から好きな食べ物を料理することにしたのだ。

 

「これは………頑張るしかないのか…」

 

 予想以上の規模設計に、私は一歩二歩後ずさる。全力で作っても二時間はかかるだろう。まぁ、まだ数時間あるし、余裕が無い訳では無いが、手を抜いているとあっという間に過ぎるだろう。

 

「よしっ……」

 

 袖をまくり、生クリームを鼻につけながらも短時間で丁寧に仕上げていった。

 

 

 

 

 

 

「終わったぁ……」

 

 私は出来上がった大きなショートケーキの前で痛くなってきていた腰を手の甲でトントンと叩く。実際に要した時間はほんの一時間半。さとりとこいしも協力してくれたからか、思いのほか上手く出来た。

 

「あとは味だけ………か」

 

 味見をしてみたいところだが、先に食べるのも良くない、そろそろ時間だしね。

 

「あ、あたいが案内してきますね」

「うん、お願い」

 

 お燐が台所を出て、地霊殿の玄関へと向かう。もう外ではガヤガヤと賑わっているようだ。

 

「はい、皆さんお待たせいたしました。順番にお入りくださーい」

 

 お燐の慣れた声が外にいるであろう妖怪達をまとめる。しばらくすると、そのガヤガヤした声が段々と近づいてくる。そして、その扉が開かれた。

 

「古明地ぃー!」

「おわ、勇儀さん?!」

 

 顔を赤くした長身の鬼、星熊勇儀が私にどーんと乗っかってきた。私は受け身が取れず、そのまま床に倒れ込んでしまう。馬乗りになった勇儀さんはガブガブとお酒を飲んで笑い飛ばす。

 

「はっはっはっ!まだまだちいせぇな!古明地姉、えーと……」

「しんりです!古明地 しんり!忘れないでください!」

「おっと、そうだったな、しんり。今日は飲もうぜぇー!」

「勇儀、あまり遊んじゃダメよ」

 

 勇儀の後ろに顔を出したのは金髪のセミロング。緑眼の双瞳を持つ少女、水橋パルスィがいた。彼女とは勇儀さん繋がりで仲良くなることが出来た。その他にも地底の妖怪達は勇儀さんのおかげで友達が沢山できた。

 

「おー、わりぃわりぃ、そういや、さとりとこいしは?」

「あ〜、もうすぐ来ると思いますよ」

 

 と、私が放った途端、タイミングよく、疲れ果てていたさとりとこいしが扉を開けて部屋に入ってきた。勇儀さんはそれを見たや否や、物凄いスピードでそちらに向かっていった。

 

「ひっさしぶりだなぁ!お前ら!勇儀姐さんは会えて嬉しいぞ!」

 

 その大声に二人は驚きとビビリの表情になっていた。私とパルスィさんはそんな勇儀さんを見て、後ろで話す。

 

「あんな感じなんですか?いつも」

「ええ、友人に会う度にいつもああやって飛びついているわ」

「苦労してますね……」

 

 パルスィさんと勇儀さんは昔からの友人で、いつも橋で酒を交わしているらしい。私達にとっては憧れの関係と言っていいだろう。

 

「うにゅ、もう集まってたの?私も入れてー!」

 

 台所から出たお空が元気よく話の輪に入っていった。というか、この後、乾杯の音頭を取ってもらうことになっている。すると勇儀さんが手作りのステージの上に上がり、耳を塞ぎたくなるほどの大声量で叫んだ。

 

「えー、皆様!酒をお持ちください!」

 

 勇儀さんの声が部屋を反響し、キイイインという音となり跳ね返る。それでも、私達は机にあったお酒を持ち、今一度勇儀さんに顔を向ける。私の目線の先にはキスメさんやヤマメさん、他にも永遠亭の瑞乃や鈴仙さんがいた。

 

「では、今年も地底パーティ、出来ました!かんぱーい!」

『乾杯!』

 

 全員の声が初めて被る。大人数のため、勇儀さん一人の声よりも大きかったが、私達は他の妖怪達とコップを合わせていたので、あまり気にならなかった。

 

「あ、瑞乃!」

「ん、しんり。久しぶり!」

「元気してた?」

「うん!そっちは?」

「妹二人が私に辛辣になってきたよ。反抗期かなぁ……」

「それは姉さんもでしょ」

 

 私も瑞乃の会話にさとりが隣から割り込む。さとりはまだお酒を全く飲んでいないみたいだ。酒豪の瑞乃にとってはそれを見過ごせなかったらしい。

 

「さとり?お酒は?」

「飲まない」

「なんでぇ?」

 

 瑞乃はさとりを挑発して、お酒を無理にでも飲ませようという魂胆だったらしいが、さとりにはどんな挑発にも乗らないというのは、私の実体験の元、立証済みだ。

 

「あなた達みたいにベロベロに酔っ払って二日酔いになんかなりたくないからよ」

「うぐっ……」

 

 痛いところを突かれたのか、瑞乃は口を塞いで唸る。それを見た私は不覚にもクスクスと笑ってしまっていた。

 

「な、なによぅ……」

 

 顔を赤らめて頬を膨らませる瑞乃。ちょっと可愛くて私は思わず目をそらしてしまう。私よりも身長が高く、美しい顔立ちなので、魅了される人も多いと鈴仙さんが以前に言っていたのを思い出す。最初は信じていなかったのだが、今なら魅了される気持ちをわからなくもない。

 

「まぁ、そういう事よ。じゃあ、私はお空達と飲んでくるわね」

「はいよ」

「ね、しんり。久しぶりに二人だけで飲まない?」

「どこで?」

「ここの屋上。誰もいないでしょ?」

 

 そうだ。瑞乃(人間状態)と初めて出会ったのはここの屋上だった。兎のままこいしが連れてきて、いつの間にか人間に変身していた。今や数年前のお話だが、鮮明に覚えている。

 

「ね、兎になってみてよ」

「あれ体力使うからあまりなりたくないんだけど」

 

 進んでやろうとはしていなかったが、素直に兎に変身した。モフモフの体毛。思わず顔を埋めたくなる。

 

「やっぱ可愛いなぁ……」

 

 ホッコリする可愛さに私はほのぼのしていた。しかし、瑞乃はすぐに人型に戻ってしまう。私は名残惜しそうに見ていたが、瑞乃は何やら恥ずかしそうにモジモジしていた。

 

「あのね………兎の姿で撫でられると………なんと言いますか……」

「どったの?言いたいことがあるなら言いなよ」

「体の撫でられるのは……変な気分になるというか…………お…………おっ……お……」

「ど、どうしたの?おって何?」

 

 瑞乃が今までにないくらい恥ずかしそうになっていたので私は少しだけ好奇心が湧いていた。瑞乃は一度深呼吸をした後、思い切って放った。

 

「おっぱいを触られてる感覚になるの!」

「………」

 

 一瞬の静寂。それを切り離すかのように、私の冷めた声が瑞乃に届く。

 

「そんなの兎状態でもおっぱいがあるってこと?私なんか男と間違わられてもおかしくないくらい小さいのに。てか、一々おっぱいで例えなくても良くない?何それ、嫌味?」

「い、いやいや、普通に困ってるって言いたかっただけだよ…………もう……」

 

 まさか………瑞乃ってそっち系の話嫌いなのかな。前にも思ったけど、あまり興味を示さないというか、敢えて遠ざけてる気がする。私は瑞乃のセーラー服を見る。そして、私の目線の前にある嫌味ったらしいこの柔らかそうな二つの山を見て、私は軽く舌打ちをした。嫌ならおっぱいなんか言わなかったらいいのに。

 

「世の中、不公平って言葉が似合いすぎるね」

「ど、どこ見て言ってるのよ!」

 

 瑞乃は両腕を抱き、自分の豊満な胸を隠す。その仕草がまた私の心臓を跳ね上がらせる。私はそれを悟られないように、一つ咳払いをして、気を取り直す。

 

「まぁ、久しぶりに二人になった訳だし、飲もっか」

「そ、そうね。前は永琳様に麻酔打たれたもんね。程々にしておかないと怒られる」

「私も。さとりに殴られる」

「あなた、いつの間にかオシャレに目覚めたのかしら?ポニーテール可愛いじゃない」

「でしょ?お燐が結ってくれたんだ。」

 

 ポニーテールをフワフワ揺らしながら自慢する。これを言うのも悪い気分ではない。

 お互いがお互いのコップに酒を注ぐ。少し濁った薄緑の液体が、月明かりに照らされて反射する。甘くてピリッとした匂いが鼻腔をくすぐり、心地が良くなる。

 

「じゃあ、乾杯」

「ん、乾杯」

 

 久しぶりの友と、優しく乾杯をし、お互いが同時にその酒を飲む。飲んだ後、またしても同時に「ぷはぁ!」という声が漏れる。

 

「やっぱ酒はこれじゃないとな」

「ね、しんりが酔っぱらった姿また見たいなぁ……」

「もうあれは懲り懲りだよ………頭痛がひどかったんだから………」

「そう?酔ったしんり可愛かったわよ?」

「お世辞はいいよ」

「お世辞じゃないんだけどな……まぁ、謙遜するのはいい事ね」

「上からも少しだけムカつくな……」

 

 お互い、皮肉っているのか褒めあっているのかわからなくなってきているが、瑞乃との会話が何よりも嬉しかった。久しぶりにお互いの仕事場の話をしたり、身内の話をしたり。有意義な時間を過ごせたと思っている。

 私たちが話し終わる頃にも、下の会場は勇儀さんの大声とこいしの笑い声がここまで聞こえてきていた。結局終わったのは午前3時。全員が目にクマを作って解散した。



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地底異変だよ!覚り三姉妹!
異変の始まり、核融合


ありきたりなフラグ立てた方がいいよね


実際の東方地霊殿とは違ったストーリーですので、それを知った上で読んでいただけると嬉しいです。


 いつも通りの朝、地底の天井の岩の間から差し込む陽の光が地霊殿の私の窓まで届き、微かな光となって私の目を刺激する。

 

「ん、んん……」

 

 私の瞼が少し震えた瞬間、扉の木製の軽快な音が聞こえた。その後、ドア越しなので少し籠り気味の女性の声が聞こえる。

 

「しんり様ぁ〜、朝ですよ。起きてください」

「わかったぁ……」

 

 お燐の声だ。今現在一番長く共に過ごしているのはお燐なので、すぐに分かった。

 私は重い体を起こし、部屋を見渡す。いつもと変わらない部屋に安堵感と悲壮感が同時に生まれる。平和なのはいい事だが、何か刺激が欲しい。地底パーティをしてから、瑞乃ともよく遊ぶようになったし、鈴奈庵にも定期的に訪れている。楽しい日常なのだが、言わば平凡なのだ。

 ベッドから足を下ろし、立ち上がる。朝食の時間なので、ドアを開けて廊下に出ると、さとりと鉢合わせした。

 

「ん、おはよ」

「おはよう、姉さん」

 

 私と同様に、さとりは目が半開きで、欠伸が連続で起こる。お互い無言で歩きながらも、すぐに食堂についた。そこにはもういつも通りの朝食が並べられていた。

 

「……あれ、お空は?」

「分からないです。ご飯だけ置いてあったので私が多少作りました。今日は朝から見てませんね……」

「どうしたんだろ?」

 

 結局お空はここに来ず、四人で食事を取った。その後、髪を結って、いつも通りの格好に戻った後、「真実の歯車」を読んでいた時だった。慌てて走る音が廊下に響く。

 

「し、しんり様!」

「あ、お燐、どしたの?」

「お、お空が……」

 

 お燐の必死な慌て様に、私も動揺を隠せないでいた。急いでお空がいるところに向かう。

 地底にある間欠泉という温泉の元が噴き出していると、地底の妖怪達が騒いでいる。

 

「お空!」

「うにゅ?」

「何やってるの?」

 

 動揺を悟られないように、落ち着き払った声でお空に問う。

 

「なんか神様にかくゆーごー?ってのを貰って強くなったから地上を攻撃してみよっかなって……!」

「またバカなことを……」

 

 お燐はそのお空を止めようとするが、それを私が制す。

 

「やってみようよ、お燐、セリカナちゃんや、永遠亭の面々には迷惑はかからないよ。人里の真下に地底はないし、迷いの竹林にもない。一度やってみようよ。今頃地上には温泉が噴き出してるんじゃないかな。お空も色々溜め込んでたんてしょ」

「……しんり様がそこまで言うなら…………」

「でも、さとりには黙っておこう」

 

 最後に付け加えるように言った私に苦笑いするお燐。乗り気ではないが、面白そう…って考えてる。お燐は地底を見渡し、間欠泉の方へと歩いていく。

 

「こちらの方で異常が起きていなかったら、地上にも迷惑はかかりません……」

「そうだね。お空は博麗の巫女に一度退治されればいいよ。そしたら反省するかな」

「というか、核融合なんてあいつどこで手に入れたんですか?」

「さぁ?そういや、昨日の夜からお空いなかったな」

「そこですね。誰かに取り付け………………………………あ」

 

 お燐は言葉の途中で冷や汗が流れ始める。口をパクパクさせ、声にならないかすれ声が聞こえる。

 

「ち、地霊が…………」

「どしたの?」

 

 お燐はピッと間欠泉のある上空に指を向ける。私はそれをなぞるようにお燐の指の先を見る。そこには紫色の塊が次々と地上に出ていくのが見える。お燐が管理する怨霊たち、地霊が間欠泉の穴から出ていくのが見える。

 

「あ〜、あれってどうすればいいの?」

「………恐らく、しんり様が博麗の巫女に怒られますね。いや、退治されるか」

「……じゃあ、これが異変ってやつ?私達黒幕?」

「そうなりますね。まぁ地底の妖怪達が博麗の巫女くらい食い止めてくれますよ」

「まぁお空だしね……」

 

 安堵のため息とともに、このままお空が止まってくれるのか、心配もあった。お燐がいるし、博麗の巫女もいい人だと鈴仙さんも言っていた。そこまで大事にはならなさそうだ。私とお燐はそのまま地霊殿に帰った。

 

「多分、今日中に博麗の巫女は来ますよ」

「まぁその時はその時だね」

 

 別に、正直どうでもよかった。これで地上が荒れようとも、博麗の巫女が私達のところに来ても、ちょうど暇だったし。お空にこのまま暴れさせてもいいかな。核融合なんて誰につけられたのか知らないけど。

 

「とりあえず、さとりには黙っておこう」

「そうですね……バレたら怒られるの私ですけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………はぁ」

 

 博麗神社。唐突に噴き出した間欠泉からの温水。博麗神社に温泉が加わったら参拝者が増えるのでは………。そう思った私は温泉の道具を集めようとしていた。

 

「霊夢」

「……………誰?」

「紫」

「何しに来たの?」

「地霊が出たのよ。恐らく、地底の方に」

 

 めんどくさい。紫のその少ない口数からも伺うことが出来た。

 

「嫌よ。せっかく博麗神社にも温泉が沸いたのだから」

「そこから霊が出てくるのよ?」

「………まだ出てきてないけど」

「もう何体も出てるわ。だから霊夢。地底に行きなさい」

「ええ……一人で?」

 

 肩をがっくりと落とす私。ポリポリと後頭部を掻き毟る。憂鬱すぎてため息が何度も出てしまう。

 

「安心なさい、陰陽玉でサポートするわ」

「…………しゃーないわね。お賽銭いれときなさいよ」

「はいはい」

 

 すると私の周りには紫と白の私の頭程度の大きさの陰陽玉。私のサイドを浮いている。

 

「じゃあ、行くわよ。どこから行けばいいの?」

「そうね………妖怪の山から入れるはずだけど……」

 

 博麗神社は山の上なので、飛ぶのはだいぶ楽だ。そのまま風の抵抗を受けながらも負けずに前に進む。少し時間がかかるが、そこまで困らないだろう。その間、隣の陰陽玉から嫌味ったらしい声が聞こえる。

 

「どこかでサボらないでね?私見えるんだからね?」

「分かってるわよ!もう声かけないで」

「はーい」

 

 ふてくされる演技の声をしながら紫からは一切声が聞こえなくる。私はため息をついて

 

「とっとと終わらせて温泉入ろ……」

 

 そう決めた私は妖怪の山にたどり着き、小さな穴を見つける。

 

「よし……」

 

 急降下し、スピードを上げて小さな穴に入り込む。唐突に気温が下がり、鳥肌がたった私はスピードをもっと上げた。早くこの空間から出たかった。

 

「早く終わらせて早く温泉入るっ!」

 

 持っていたお祓い棒を強く握りしめ、なびく髪が少しだけくすぐったかった。

 段々と地底に近づいていくと、気温は少しずつ上がっていた。



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博麗の巫女、地底での戦い

腰がヘルニアになりました。

立てない

言っときますけど、私まだ若いからね?
年じゃないからね


「あ、暑い………いや、熱い……」

 

 今私がいるのは間欠泉の地下センター。これもいつの間にかそう呼ばれており、元々地霊殿の地下に存在する灼熱地獄の跡地らしい。お空がそれを管理していたのだ。どこの誰が彼女に核融合を取り付けたのか知らないが、まぁ実害は今のところないし、多分大丈夫だろう。中心に大きな太陽のような恒星が激しく燃えて、光っている。

 

「しんり様。お燐です」

 

 後ろからお燐の声が聞こえる。私は首だけ回し、お燐の方を見る。

 

「どうしたの?」

「博麗の巫女が地底にやって来たそうです。今、ヤマメさんと弾幕ごっこをしているのだとか」

「ほぇ……?来るの早いな」

「どうします?一度見に行きますか?」

「そうだね。見に行こう。お燐、付いてきて」

「りょーかいです」

 

 地下センター、もとい灼熱地獄を出て、地霊殿を通り商店街の方へと飛んでいく。その間にも、勇儀さんやパルスィさんなど、いつもの場所でお酒を飲んだり、橋でぼーっとしてたりと、いつもと変わらない様子だった。

 

「はてはて、ヤマメさんはどこにいるんだ?」

「あ、いましたよしんり様」

「お、ほんとだ」

 

 そこに居たのは紅白を纏った女性、後ろ姿だけでも確認が出来た。恐らく、あれが博麗霊夢なのだろう。そしてその正面には黒谷ヤマメが弾幕を放ち続けていた。私達は物陰に隠れて、それを観戦する。

 

「つ、強いね……」

「ええ……ヤマメの弾幕をあんな軽々と……」

 

 キスメもヤマメと対峙する前に一瞬でやられたという。最初は雑魚だと思っていた博麗の巫女だが、これを見るとそうは見えない。

 

「あ」

 

 最後の最後、博麗が飛ばした札がヤマメさんに当たり、小さな爆発を繰り返しながら、ヤマメさんは下に落ちていく。それをしばらくほうけた顔で見ていた私達は数秒後、我に返り、物陰に体ごと隠す。

 

「と、とんでもない強さですよ……」

「まぁ、お空の実力は桁外れだし、お燐だって強いでしょ?世間じゃお燐は地霊殿最強って言われてるしさ」

「え、ええ!?」

 

 私がお燐のことを「地霊殿最強」というと、お燐は驚きを隠せないと言わんばかりに、仰け反り、大声を出す。私は慌てて人差し指を口に当てる。

 

「しーっ!見つかるから!」

「誰かしら?」

「っ!?」

 

 お燐の大声で、博麗の巫女がこちら側を向きながら問う。私達は口を塞いで、その場で固まる。

 

「(そ、そうだ!)」

 

 私のサードアイが開く。そして、私は能力を発動する。「気をコントロールする程度の能力」。これを使い、博麗の巫女が私たちを気にとめないようする。つまり、博麗の巫女は私たちがいることに興味を示さないようにしたのだ。

 

「………」

 

 博麗の巫女はこちらを訝しげに見た後、そっぽを向いて、商店街の方へと飛んだ。私はそれを見送った後、大きく息をついた。

 

「お燐のバカ!気づかれるところだったよ?!」

「も、申し訳ありません。あたいがまさか地霊殿最強とは……」

 

 お燐の口元が緩む。よほど嬉しいのだろう。

 私は一度ヤマメさんと戦いっている時に博麗の巫女に向かって能力を発動した。ヤマメさんと弾幕ごっこで勝つ気を操って失わせようとしたのだが、ちゃんとした理由がある気だと、通用しないらしい。

 つまり、勝つ気があるのはこの異変を終わらせるためだから。さっき、私たちに興味を示そうとしても能力が効いたのかは恐らく、私たちを見つけることに理由が無かったからだろう。

 しっかりとした根底の理由があるとほぼ通用しないらしい。どうでもいいこと、理由や大きな目的が無いものに通用するのだろう。思ったよりも不便かもしれない。

 

「さて、地霊殿に戻ろっか」

「はーい」

 

 

 

 

 

 

 ヤマメとやらを倒した後、私は何かに近づこうとしたのだが、どうやらどうでも良くなったのか、調べなかった。

 

「霊夢。どうしたの?」

「いや……なんか大事な事があった気がするのに、覚えてない」

「…………いたわね」

「何が?」

「あなたは恐らく、覚り妖怪の能力に飲み込まれた。そう考えてるわ。あなた、ヤマメを倒した後に、声が聞こえたから調べようとしたのよ」

「……そうだっけ?」

「そう、その時にあなたは能力に飲み込まれて、その気が失せた、ということよ。多分ね」

 

 確証は無いのか、紫は最後に付け足すようにそう言った。私はその時は全く意味が分からず首を傾げたまま、地底を飛び回っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地霊殿に戻り、私はさとりのいる書斎へと向かう。

 

「ね、お燐」

「はい?」

「まださとり気づいてないのかな?異変が起きてること」

「流石に気づいてると思いますよ。まぁ特別大きな音があった訳でもないし。ここからじゃよく聞こえませんけど」

 

 廊下で話を広げる。さとりが気づいたら、きっと私怒られるんだろうなぁ……少し憂鬱になりながらも、早足で書斎に向かう。書斎のドアをコンコンと二回叩き、声をかける。

 

「さとり。私だよ」

「どうぞ」

 

 さとりが篭もり気味な声で招いた。私は木の軽いドアを開けて、書斎に入る。さとりはどうやら、何かの書類を机に広げ、書いたりまとめたりしていた。

 

「どうしたの?姉さん」

「え?」

「え?じゃないわよ。何かあったの?」

き、気づいてないのかな………?

「何が?」

「う、ううん!何でもないよ」

「さとり様。今日の晩御飯どうします?」

 

 お、お燐ナイス!これで上手いこと話が逸らせる。何はともあれ、さとりにはバレていないようで良かった。

 

「そうねぇ……ハンバーグとか」

「承知しました。しんり様。行きましょう」

「う、うん。じゃあさとり。後でね」

「ええ」

 

 そう言うと、さとりはまた仕事に戻った。私は一息安堵し、書斎の部屋を出る。そして書斎からさとりに聞かれないように距離をとってからお燐に聞く。

 

「そう言えば、こいしは?」

「あ、朝から見てませんね。どこにいるんでしょうか?」

「まぁこいしの事だしそこら辺フラフラ放浪してるんでしょ」

「そうですね」

「とりあえずお燐。あなたは怨霊の管理に戻って、灼熱地獄跡地に沢山いると思う」

「りょーかいしました。ではしんり様。後ほど」

「うん」

 

 さてさて、私はどこにいようかな。

 恐らく、博麗の巫女は確実に地霊殿に殴り込みに来るだろう。これの原因はお空なんだし、間欠泉地下センター、もとい灼熱地獄最深部は地霊殿の真下だ。ここは通らないと行けない。今頃、パルスィさんや勇儀さんとも戦っているのではないかな?

 私は部屋に戻り、博麗の巫女が来るまで、部屋に戻り、「真実の歯車」を読み始めた。

 多分、現代の博麗の巫女は鈴仙さんが言っていた通り、博麗の巫女の中でも最強の方なのだろう。ヤマメさんがやられて、パルスィさんでも厳しいだろう。しかし、地底の鬼、星熊勇儀さんの実力はあの博麗の巫女を上回ると私は思った。

 

「地霊殿に来る前に、勇儀さんが倒してくれたら嬉しいんだけど………」

「姉さん」

「っ!」

 

 ドアが叩かれ、ビクッと体を強ばらせる。さとりの声だ。

 

「さ、さとり?どうしたの?」

「いや、「生きた亡霊」ちょっと貸してくれないかなって」

「あ、ああ、うん。良いよ」

「失礼するわね」

 

 気づかれたのかと思って私はヒヤヒヤしていたが、どうやら私の思い込みだったみたいだ。私はほっと安堵のため息を吐いて、さとりが出ていくのを待つ。

 

「ん、ありがとう姉さん。じゃあ後で」

「うん、お疲れさん」

 

 バタン……とドアを閉めた後、私は今日二回目の溜めていた息が一気に出ていく。

 

「あ、危なかったぁ……」

 

 あの時に「ちょっと物音がするんだけど」みたいな事言われたら絶対に私は怒られる。そう思った。気持ちを切り替えて、私は「真実の歯車」を手に取り、栞をとって続きから読み始めた。



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地霊殿内部の弾幕 その1 ~地上からの使者~

はい、ここから4面にはいりまーす。

4面は正直、避けてて楽しいよね


「生きた亡霊」を読み、私はそれを閉じて外を見渡す。書斎から覗ける地底の景色は決していいものではなかった。岩肌が露出し、太陽もなければ空もない。つまらない光景だ。しかし、私はそれが好きだった。姉さんやこいしはそれを好きとは言わない。むしろこの景色は嫌いという。それは違うと思う私は異端なのだろうか。

 

「………ん?」

 

 なんとなく外を覗いてみた結果、私の視線の先で爆発や弾幕が飛び交っていた。勇儀さんが弾幕ごっこでもしているのだろうか?私は目を凝らして、それをよく見る。

 すると勇儀さんは楽しそうに白い歯を見せながら戦っていたが、ボロボロの勇儀さんを見て、私は気づいた。あの勇儀さんが押されていると。私はそれに釘付けになり、両手を窓につけて、その戦いの終わりを見届けようと思った。

 しかし、その数分後、小さな爆発が起こった。それから、勇儀さんは姿を見せなかった。

 

「ゆ、勇儀さんが………まけ……た?」

 

 そこに現れた人影は紅白の衣装を身にまとった少女だった。あんなにひ弱な女の子に勇儀さんが負けるとは到底考えられなかったその最中、書斎の前の廊下がやけに騒がしかった。

 ドタドタと誰かが全力で走る音が聞こえたと思ったら、勢いよく扉を開けられた。

 

「さ、さとり!」

 

 そこに現れたのは、銀色のロング、黒いセーラー服をまとった兎の少女、瑞乃がいた。その顔は慌てていて、冷や汗もかいていた。

 

「どうしたの瑞乃。そんな凄い形相で」

「そ、そんな呑気なこと言ってる場合じゃないわよ!」

「え?」

 

 私は瑞乃が何を言っているのか全くと言っていいほど理解出来ず、その場で呆然としていた。

 

「お、怨霊!いっぱい地上に出てるよ!?」

「え?そうなの?」

「そう!だからしんり呼んで!」

「わ、わかった」

 

 そう言うと、私は書斎を出て姉さんを探す。恐らく、自室で本を読んでいることだろう。私が廊下を歩くと、鈴仙さんが息を切らしながら、歩いてきた。

 

「み、瑞乃……足速い……」

「あ、鈴仙さん」

「あ、さとりさん。知ってますか?今の地上」

「はぁ……具体的には聞いていないですけど……」

「怨霊がたくさん出て、地上を蔓延っています。今、博麗の巫女がここに来ているのでは?」

「あっ」

 

 恐らく、勇儀さんを倒したのが、その博麗の巫女なのだろう。私は冷や汗をダラダラと流しながら、全力で姉さんのいる自室へと走る。今は呑気に「真実の歯車」を読んでいることだろう。

 

「ここから遠いから嫌なんだよなぁ……」

 

 走りながらも、私は深いため息をつく。私自身、こんなこと知らなかったし、興味もないが、博麗の巫女に退治されるのは真っ平御免だ。黒幕として考えられるのは、姉さんとお空かな、こいしはこんなことに興味は無さそうだし。お燐は真面目だからこれをやるとは思えないしね。

 そう言って、私は玄関の前を通ろうとした時に、バタ……とドアが開く音がした。木材独特の音がホールに響く。

 

「……」

 

 私は出来るだけバレないように息を潜める。確実に博麗の巫女だろう。少し顔を覗いてみると、少しイライラが見えた。心が少し見にくいのはあるが、外見から伺えた。

 

「………出てきなさい」

「……」

 

 一瞬でバレてしまった。私はため息をついて、博麗の巫女の眼前に姿を現す。そしてサードアイを開かせる。

 

「いらっしゃい、ようこそ地霊殿へ」

「観光に来たわけじゃないわ。怨霊を止めに来たの、早く止めてよ」

「………またペット達が何かしたのね。ごめんなさい。私ではどうにも出来ないわ」

「……どうしてよ。見た感じ、あなたがここの主でしょ?」

「いいえ、私は主の妹よ」

 

 そこで私は心を読む。その心の中は自分の欲望と賽銭でいっぱいでこの異変を本気で止めたいとは思っておらず、どちらかと言うと、この後の温泉が楽しみなんだとか。いいことをしたような悪いことをしたような………なんとも言えない感覚になる。

 

「温泉………入りたいみたいね」

「……っ?」

「心が丸見えよ。博麗の巫女さん」

「……なるほど、地上に妖怪がいるんだとか、その陰陽玉に……」

「あなた……何者……」

「おっと、紹介が遅れましたね」

 

 私はスカートの裾をつまんで、淑女の見本となる挨拶をして見せた。実際一度もやった事がないので、少しだけ恥とぎこちなさがあった。

 

「私の名は古明地さとり。地霊殿の主、古明地しんりの妹です」

「……っ!」

 

 博麗の巫女は息を飲んだ。なるほど、博麗の巫女の間ではずっと古明地姉妹の名は語り継がれていた見たいね。そりゃ驚くのも納得ね

 

「別にあなたを殺そうとも思いません。今の人々が優しいことは知っていますから」

「じゃあ何で、こんな異変起こしたの?」

「さっきも言ったでしょう。私も知ったのはついさっきです。この仕業はペット達でしょう」

「じゃあそこまで案内してよ」

 

 私はその言葉を聞いた後、口元が綻ぶ。そして博麗の巫女の目の前まで移動し、立ちはだかる。

 

「いくら悪さしても、私の大切なペットですしね。ある程度の抵抗はします」

「そう………なら退治するまでよ」

 

 お祓い棒を構えた博麗の巫女は札を大量に取り出した。久しぶりの弾幕勝負に私は心を踊らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「真実の歯車」を読んでいた私は途中、大きな物音がしたので、本を閉じて外に出た。そろそろ博麗の巫女がここに来る頃かな。廊下に出て、あたりを見渡す。

 

「しぃーんーりぃー!」

「み、瑞乃?」

 

 瑞乃の顔が凄く怒っていた。しかしそれは本気の怒りではないようだが、慌ててはいた。

 

「あの異変は何!?」

「え、あぁ、お空が核融合を手に入れてね。なんかいつの間にか間欠泉から温泉が吹き出てて、結局地上に届いたの」

「じゃああの怨霊は?」

「知らない。地底の奥深くから来たんでしょ?」

「んな適当でいいのかしら……」

 

 瑞乃は額に手を置き、ため息をつきながら私の部屋を見渡す。

 

「久しぶりに地底に来たな……しんりの誕生日パーティー以来かな?」

「んー、そうだね。久しぶりでしょ?なんか新鮮」

「でも、その久しぶりに来た理由が異変の事って……」

「で、どーして来たの?永遠亭には地底がないから、迷惑はかかってないでしょ?」

「永琳様が患者さんが殺到してるから。だって」

「患者?」

「なんか怨霊にビビって逃げて怪我した人が多いんだとか…………」

「な、なんか申し訳ないな……」

「という訳だから、今すぐやめて欲しいんだって」

「って言っても、黒幕お空だから、私じゃどうにも出来ない。今、博麗の巫女が退治してくれるでしょ」

 

 私は肩を竦めて、瑞乃に呆れた顔で言った。本当に私じゃどうしようもない。このまま時間に任せるのも悪くない。私は回転する椅子をくるりと回して背伸びをする。

 

「さーてっ!私も博麗の巫女を迎える準備をしよっかなっ!」

「あら、あなたも戦うの?」

「まぁね、一応地霊殿の主だから」

「そ、私は別にいいわ。頑張って」

 

 瑞乃は素っ気なさそうに言っていたが最期の応援の言葉には心がこもっていた気がした。私はそれに応えるように首肯した後、部屋を後にした。私は廊下を歩く度に少しだけ体が軽くなっていった。



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地霊殿内部の弾幕 その2 ~読心の覚り妖怪~

秋葉原のアトレ、東方プロジェクトとのコラボのアレに行ってきました。
Twitterでも書きましたが、すっごく感動したし、幽々子様がエロ可愛い。
推しキャラが揺らめきそうだったよ。




「あぁん!もう!ちょこまかとすばしっこいわね!」

 

 苛立ちを含んだ博麗の巫女が叫び、札を放ち続けている。それに対して私は博麗の巫女の心を読んで、札の先の軌道を分かっているため、避けるのも苦労はしなかった。

 

「想起「飛行虫ネスト」」

 

 縦に落ちるビーム弾幕と横から出現する蝶弾幕が博麗の巫女を襲う。博麗の巫女もそれが危ないと分かったのか、即座に私から距離をとった。

 

「あなた…心が読めるのよね?」

「ええ」

「なら……紫!」

「はいはい」

「?」

 

 私は博麗の巫女と地上の妖怪の会話を首を傾げながら聞いていたが、全く意図が分からなかった。

 

「さぁ、行くわよ!」

 

 博麗の巫女はまた札とお祓い棒を持って、構えた。

 

「無駄よ!心が読める限り、あなたに勝機は無いわ!」

「それは……どう、かしらね!」

 

 私のサードアイが見開かれる。そして私は能力を使って、もう一度先のことを読もうとした。

 

「!?何で?!」

 

 私の心に流れ込んできたのは、別の者の記憶だった。今の博麗の巫女の心ではなく、誰かの「記憶」。それだけが私のサードアイに届いたのだ。

 

「くっ!?何したの?!」

「陰陽玉はね。心を支配することも出来るの。だから、今あなたに流れているのは、私の"記憶"。今の"軌道"は読めないわ。もっとも、私が最低限戦えるほどの心はあるけど、八割は陰陽玉に支配されているわ」

「何よそれ……」

 

 仕方ないので、自力で避けるしかなかった。しかし、自力と言っても、私はそこまで運動が得意なわけでもなく、目がいいわけでもない。

 

「想起ーーーーー」

「させない!」

 

 スペルカードを唱える暇もなく、私は札が次々に当たっていく

 

「さすが覚り妖怪ね。体力が高いわ」

「はぁ………はぁ……たかが人間に負けてられないのよ……」

「その割には、負けそうよっ!」

 

 博麗の巫女は一枚のカードを取り出し、大きな声で詠唱を始めた。危機を感じ取った私はすぐさま後ずさるが、もう遅かった。

 

「封魔陣!」

 

 赤く激しい波がホールを覆う。それは熱くもなく、冷たいわけでもない。私はその威力に押され、遠くまで吹っ飛んでいった。私が放った弾幕もその場で消されていた。

 

「きゃあ!」

「ふぅ……終わりっと」

 

 地面に仰向けで倒れる私の前に立つ博麗の巫女。その顔は私を見下しているようにも見えた。

 

「さて、ペットの居場所を教えてくれるかしら」

 

 私は確証はないが、恐らくここだろうと言う検討は付いていたので、保険をつけながら私は博麗の巫女に場所を明かす。

 

「恐らく、ここの地下、間欠泉地下センターにいるはずよ。まぁ、人間なら熱くて熱中症にでもなるんじゃないかしら?」

「そ、心配してくれてありがと、じゃあ、異変が終わったら猛省するのよ」

「……分かりました……」

 

 博麗の巫女の迫力に押されたからか、私は博麗の巫女に対して敬語で話してしまっていた。当の博麗の巫女はそんなことを気には留めず、そのままホールの奥の方に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は窓から地霊殿を出て、勇儀さん達に報告しようとした。飛び回って勇儀さんを探すが、一向に見当たらなかった。するとその時、下から聞いたことのない声が聞こえた。

 

「あ、おーい!」

 

 最初は私に向けられたものでは無いと思っていたが、下を見ると、明らかに私に向かって手を振っていた。念のため、私は自分を指さす。すると下にいた者はコクコクと頷いた。私はその場で垂直に落ちていく。

 

「よっと………あの、誰でしょうか?」

「うん、私は洩矢諏訪子。んで、こっちが八坂神奈子。よろしくね」

「は、はぁ……古明地しんりです」

「しんり………君がお空の主人かな?」

「あ、はい。そうですが……」

 

 金髪の小柄で目玉付きの帽子を被った者と注連縄を背負った紫のセミロングの者が私に語りかけてきたのだ。

 

「私達は神様、土着神と天津神なんだ」

「か、神様ぁ!?」

 

 私は慌てて姿勢を正そうとしたが、二人はそれを止めた。

 

「いいよいいよ。いつも通りで」

「は、はい。そうですか……」

 

 苦笑いをする二人につられて私も苦笑いをした。すると天津神の神奈子さんが真面目な顔に戻った。

 

「実は、彼女に核融合を取り付けたのは私達だ」

「え?そうなんですか?」

「ちょっとした産業革命のため……というか、新たな灼熱地獄を生誕させたかったんだけど……」

「だけど?」

 

 二人の神様は困り果てたような顔で私にお願いをしてきた。その顔を少しだけ、いや、本当に困っているような顔だった。

 

「お空があそこまで鳥頭だとは思わなくてね。ただ地上を破壊しようとしてるだけになっているんだ」

「そ、そもそも、どうしてお空に核融合を取り付けたのですか?」

「あぁ、八咫烏の力を手に入れたら、地獄鴉は太陽の暑さに強いんだ。だから、最適かと思ったんだが……予想外でな…」

「だから、頼むよ。しんり。お空を大人しくして欲しいんだ」

「それなら、今博麗の巫女が止めに出動してますけど……」

 

 私がそう言った途端、二人の顔が一気に青ざめた。そして私から数歩後ずさりながら、私に問う。

 

「それは……本当?」

「ええ」

「や、やばいよ神奈子……私達に飛び火が来るよ……」

「こ、こればっかりは…仕方ない……だろう……」

「お二人共、足が震えてますけど……」

 

 私がそう指摘すると、二人は深呼吸を始めた。そして小さく「落ち着けぇ………落ち着けぇ……」という声が聞こえていた。

 

「だ、大丈夫ですか?博麗の巫女に何か……」

「以前、私たちが異変を起こした時に、ボッコボコにやられてね……黒幕だと分かった瞬間から容赦しないんだよ、彼女は」

「そ、それはまた……とんでもない巫女ですね」

「とっ、とにかく、頼むよ!しんり」

 

 そう言って、二人は勢いよく上に飛んだ。そのスピードも、天狗にも匹敵するのではと思うほどの超スピード。私は姿が見なくなるまでそれを見送る。

 

「ってことは……私もボコボコにされると」

 

 いつもなら怯える私だが、今はそんなこと無かった。女の子が言うのもあれだが、ぶっちゃけ上等だ。博麗の巫女と戦えるのはとても楽しみだし、さとり達がどれだけ強くなったかも知りたいから。

 

「さてさて、地霊殿に戻るか」

 

 勇儀さんを探すつもりで外に出たが、結局いないし、時間だけが過ぎていきそうなので、私は地霊殿に帰ることにした。帰りの道中も少しだけ探したのだが、勇儀さんは結局見つからず、すぐ地霊殿に帰ってきた。

 今度は玄関から入り、私は中を確認する。私は未だに博麗の巫女と対峙していない。なので警戒は怠らずにいた。

 

「………」

 

 私は玄関を入ってすぐのホールを見渡していた。罠や不意打ちに注意しながら進んだ。すると階段の下に座っていたさとりを見つけた。

 

「さ、さとり!?」

「んあ……姉さん?」

「ど、どうしたの?」

 

 服はボロボロで体には軽い傷があったが、重症ではないようだ。私は体を持ち上げ、瞼をあげたさとりに問う。

 

「は、博麗の巫女……かなり強いわよ……」

「え…さとり負けたの?」

「え、ええ……桁外れね。ただ実力があるだけじゃなくて、しっかりと考えて、どうやったら勝てるかを無意識に分析していたわ」

 

 無意識に相手に隙を突き、そして弱点を解析する。これはいわゆる"天才"の領域だ。私はそれを聞いて息を飲んだ。さとりは自分で体を起こし、その場で私の方を向く。

 

「恐らく、お燐でもお空でも勝つのは難しいわよ」

「そ、そんなに?」

 

 私は耳を疑うような事を今日何回も聞いた気がして、正直うんざりだった。

 

「よし、じゃあ、お空が倒されたら、私は博麗の巫女と一度手合わせしてみようかな…」

 

 お空やお燐よりも強い相手ならむしろ私は燃える。何も無い日常生活にはもう飽きた。もう少し広い視野を持ってこれから生活していけたらいいな。そういう思いも、心の片隅にあった。



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灼熱地獄の弾幕 その1 ~灼熱地獄の火車猫~

お燐中心です。


スペルカード名はnormalからです。

ルナティックのスペルカード名漢字多くて覚えれない


「はぁ……」

 

 怨霊の管理を任されたあたいは灼熱地獄の一角にいた。あたいはしんり様にここの管理を任された後、怨霊が何故地底の外に出たのかくまなく調べてみた。

 

「ん?どうしたの?」

 

 一匹の怨霊が私に話しかけていた。

 

『お空さんの扱う核融合がとっても熱いんですよぉ…』

「熱いのは知ってるよ」

『私達怨霊はああいった熱さには弱いんですよね。だから皆逃げていったのかと』

「やっぱりお空の力の使い方がまだ慣れてないからだ……」

 

 あたいは正直、この異変には協力したくなかったし、どっちかっていう博麗の巫女側に付いていたかったのだが、しんり様の命令だし、しんり様自身もなんかやる気だったので、しょうがなく付いていた。

 

「ったく、あの鳥頭は一回博麗の巫女に退治されれば良いんだよ……」

『全くですよ……お空さんがあそこまで馬鹿だとは………それなのに料理が出来るって支離滅裂ですよ』

「ごもっとも」

 

 あたいはため息をつきながら怨霊の言葉に頷く。今でも次々と怨霊が出ていこうとしているのだが、あたいはそれを止め、涼しいところに避難させてあげている。今ではもう地上には怨霊は出ていないと思うが、今地上にいる怨霊だけでも二百は行っているだろう。

 

「さて、死体の管理でも……」

 

 

 

「……あなたね?」

「ん?」

『どうしたのですか?お燐さん』

 

 あたいが後ろを振り返ったことにより、怨霊が少し驚きながらあたいに質問した。

 後ろには紅白を身にまとった少女、まだ背も小さいが顔だけは頑固な感じがしている。

 

「あぁ、博麗の巫女が来たよ」

『ぬ、思ったよりも早いですね』

「何独り言言ってるのよ。気持ち悪い」

「気持ち悪いなんて心外だね。暑くないの?」

「暑いわよ」

『では、お燐さん、後はよろしくお願いします』

「うん、任せときな」

 

 博麗の巫女は右手で手を扇ぐ仕草を見せて、暑いということをアピールしている。左手に持っているお祓い棒には力が入っていて、苛立ちを隠せていなかった。

 

「へぇ、残念ながら、犯人はあたいでもないんだよ。ここに来たということはさとり様は倒されたんだね?」

「あ?あの心を読む妖怪?」

「ええ」

「倒したわよ。相手にならなかった」

 

 あたいは目を丸くして驚く。まさかあのさとり様との戦い後でも疲労を一切感じさせず、言動や態度からでもどれだけ余裕だったかが伺えた。

 

「ってことは、ここの奥にまだ空間があるのね」

「?」

「ええ、分かってるわ」

 

 博麗の巫女がいきなり独り言を言い出したが、その理由はすぐに察せた。あの陰陽玉だろう。

 

「ここの奥には灼熱地獄間欠泉地下センター最深部っていうところがあるよ。そこにはあたいの親友がいるはずだ」

「そいつが異変の黒幕ね?」

「あぁ、間違いない」

「じゃあ通してくれる?」

 

 あたいの横を通り過ぎようとした博麗の巫女を右手で制す。それを見た博麗の巫女は女の子とは言えないくらいの目つきの悪さで睨みつけてきた。

 

「何よ?」

「さっきも言った通り、あたいは親友なんだ。最低限の抵抗はしないと絶交されちゃうかもだしね」

 

 と、下らない戯言を話していると、どうやら博麗の巫女はすっぽりその策にハマって、切れていた。おお、怖い怖い。

 

「そぅ……あなたも………紫!」

「よし、来な!」

 

 私は周りを浮いている怨霊を操りながら、大量の弾幕を放つ。博麗の巫女も身軽なもので左右上下にかわしながらだんだんと距離を詰めてくる。

 

「くっ!」

 

 怨霊を一匹後ろに回り込ませて、背後からもう一度同じ弾幕を放つ。博麗の巫女はそれに気づいていないようで、真っ先に突撃していた。

 しかし、その刹那博麗の巫女は唐突に頭を下に下げた。そして、その先にはさっしあたいの怨霊が放った弾幕が正面から襲いかかってきた。

 

「え!?」

 

 予想だにしない博麗の巫女の勘と反応速度に驚きを隠せないあたいがいた。慌ててそれを避けて、新たな弾幕を放つ。

 

「スペルカード!呪精「ゾンビフェアリー」!」

 

 半透明の体をもつ怨霊の妖精が出現し、あたいは青い弾を円状に放ち続ける。隙を見つけたのか、博麗の巫女はすかさずあたいに札を投げる。しかし、それは目の前の怨霊に防がれ、破裂した怨霊からは小さな弾幕が無数に放たれた。それを見た博麗の巫女は目を見開きながらも避けながら札を投げ続けていた。

 

「スペルカード!贖罪「旧地獄の針山」!」

 

 円を描いて回転する怨霊と赤い粒弾幕を同時に放ちながら、ほぼ博麗の巫女の移動速度を制限した。しかし、遠ざかれば遠ざかるほど、怨霊の円の間隔が空いてしまうため、避けにくいといえばそうではない。ましてや、これで博麗の巫女を倒そうとは思っていない。

 

「この程度………かしら!」

「あんたこそ……そのお祓い棒は何のためにあるのさっ!」

 

 お互いが息を切らしながらも、弾幕を放ち続け、どちらかが力尽きるのを待っていた。

 

「スペルカード!霊符「夢想封印」!」

 

 七色の大きな弾幕があたいの周りで大きな爆発を起こし、眩い閃光を放ちながら弾ける。あたいは両腕で目を隠し、光を遮断する。しかし、衝撃波によってあたいは数十メートル後ろに吹っ飛ぶ。

 

「ぐっ!」

「あら、覚り妖怪よりも体力はありそうね……」

 

 余裕なことを言っているが、博麗の巫女の顔には疲れが溜まっているのが伺えた。私はそれが好機と思い、一斉に弾幕を放った。

 

「っ!?」

 

 博麗の巫女もこの密度には驚いたようで、あたいは持っている怨霊の全てに弾幕を放てさせ、博麗の巫女を追尾させる弾幕を増やした。

 

「……あぐっ!」

 

 博麗の巫女の肩にかすり傷が見えた。恐らく、今放った弾幕が博麗の巫女の左肩を通り過ぎて、傷が出来たのだろう。

 

「驚きね……今日初めて相手の攻撃に当たったわ……」

「連戦だから疲れてるんじゃないかい?」

「ええ……そう……かもねっ!」

 

 それでも博麗の巫女は札を投げ続ける。あたいはその隙を見て、ラストスペルを唱えた。

 

「死灰複燃!」

 

 ゾンビフェアリーよりも数が多い妖精を出動させて、大玉弾幕や小粒弾幕と、五百は超えているだろう弾幕を妖精だけが発射する。あたいの手からは小さなウイルス弾を放ち、隙を伺う。ぶっちゃけ、あたいの体力はもうゼロだ。今からもう一度スペルカードはもう無理だろう。

 

「当れぇ……」

 

 心の声が表に現れた瞬間、博麗の巫女は一枚のスペルカードを取り出して、あたいから距離を置く。そして、密度が甘くなった弾幕を避けながら、詠唱を始めた。

 

「封魔陣!」

 

 赤いオーラが私を襲う。避けることすら出来なかったあたいはその勢いに任せて、数十メートル後ろに吹っ飛んで、終いには壁に激突した。その衝突によってあたいの口から真っ赤な鮮血が吐き出される。

 それを見た博麗の巫女は自分の両手をはたいていた。

 

「ちくしょー……ここまで強いとは思わなかったよ」

「ええ、今度こそ会えるのよね?」

「ああ、ここを真っ直ぐだ」

「そ、ありがと」

 

 素っ気ない感謝の言葉を言って、博麗の巫女は早々にあたいが指さした方向に向かった。あたいはその場で目を閉じて眠りに入っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お空〜」

「うにゅ?しんり様?」

「暇ぁ…」

 

 私は博麗の巫女が来ない暇さと、いつまでもお燐が帰っとこないため、ちょっとした苛立ちがあった。子供みたいと言われるかもしれないが、本当に暇なのだ。

 

「あ、しんり様。博麗の巫女来たよ」

「ほんと?」

「はい」

「じゃあ、お空、私が言ったセリフを博麗の巫女に言うんだよ?そしたら博麗の巫女は怖くて絶対逃げるから」

「え、えーと……」

 

 私はお空が最強の黒幕だと言うことを見せつけたかったので、私なりにかっこいいセリフを考え、それをお空が博麗の巫女にあった時に言えば、それなりの強みがあるだろう。

 

「はるばるこの地底までよく参った。まずはここまでやって来たこと、我は感心したぞ」

「ふむ……」

「しかし、ここまで来てすまないが、早速帰ってもらおう。さもなくば、我から鉄槌を下すって言うの!」

 

 今のが私の考えたセリフだ。少し悪者感があって、厨二くさいけど、これが私が考える精一杯の脅しなのだ。

 

「う、ううぅぅ〜、わ、分かった!」

 

 分かっていないようだが、博麗の巫女の気配がもうすぐそこまで迫っていたため、私はお空の背中を叩いて励ますのだった。

 

「大丈夫!お空は博麗の巫女なんかに負けないでしょ!」

「お、おおー!」

 

 お空は右手を元気よく上げる。私はそれに答えるように力強く頷いて、身を翻した。

 

「そう言えばこいしどこ言ったんだろ?」

 

 小首を傾げながら、私はお空から離れた。そして見えない場所に隠れて、この戦いを見届けようとしていた。



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灼熱地獄の弾幕 その2 ~八咫烏の力、核融合~

 私は陰からお空が博麗の巫女と対峙するのを見守っていた。それはお空がちゃんと私がさっき言ったことを博麗の巫女に言えるか、お空が迫力を出せるか、それだけが不安だった。

 

「お空……頑張れ!」

 

 親指をぐっと立てて、お空を応援する。お空の顔は珍しく緊張気味で、口元が強く引き締められていた。そんなお空を見るのも、私的には悪くなかった。

 そして、お空の目の前に博麗の巫女は現れた。その時にはもう、お空の顔は真剣で冷静な顔になっていた。

 

「(さぁ、お空!あのセリフを言うんだ!)」

 

 私は前のめりになりながらそのセリフを待っていたがお空は私の方を向いて、謝る仕草を見せた。そしてまた博麗の巫女に向き直り

 

「まずはここまで来てご苦労ね」

「そう思うのなら今すぐ間欠泉を止めてちょうだい、怨霊が湧いて迷惑してるのよ」

「なるほどね。しかし、それはもう手遅れよ。私は神の力、究極のエネルギー、「核融合」を手に入れた」

「核……融合?」

 

 私はお空のセリフを聞いて唖然としていた。

 か、かっこいい!私が考えたのなんかよりもよっぽどかっこいいセリフを考えていたのだ。あの緊張顔は何だったんだろ……

 

「(……霊夢。あなたならわかる筈よ。彼女は何の神様を取り入れたのかしら?)」

「……間欠泉だからお湯を沸かす神様?何にせよ、あいつを倒せば異変も解決する。なら、必要までにボコボコにするまでよ!」

「そう来なくてはね。八咫烏様、我に力を与えてくださり、感謝しております。太陽の力、是非とも私に貸してくださいませ。博麗の巫女、お前は究極のエネルギーで身も心もフュージョンし尽くすがいい!」

 

 お空らしくない感謝の言葉と博麗の巫女に対する宣言、私はそれを見て、息を飲んだ。お空の信念と強さがわかる瞬間をこの目でしっかりと捉えた気がした。私がそう思っているうちに、戦闘は始まっていた。

 お空の弾幕が縦に放たれる。

 

「おお、さっきの奴らとは桁違いね」

「今のだけでそれを見極めるのね。さすが博麗の巫女。じゃあこれはどうかなっ!」

 

 お空は胸から一枚のスペルカードを取り出し、上に掲げる。そしてそこからは灼熱の熱気が辺りを襲う。それに対して私は手で体を隠し暑さに耐えている。

 

「あっつ……」

「核熱「ニュークリアフュージョン」!」

 

 巨大な恒星が360度全方位に出現し、壁にあたっては消え、新たな恒星が生まれる。それを博麗の巫女は躱していくが、私がこの暑さに耐えられなくなった頃、お空の左手からは渦巻き状に進む青い弾幕が放たれるようになった。

 

「くっ!」

 

 博麗の巫女も少し避けるのが疲れたのか、青弾が所々を掠めていた。これはもしかしたら、お空に勝機があるかもしれない。私はそう期待していた。

 しかし、さすが博麗の巫女。それくらいでは大きな焦りを見せずに、すぐに攻撃態勢へと入る。

 

「やるねぇ、博麗の巫女」

「はんっ!これくらい出来ないと博麗の巫女は務まらないっての!」

 

 嘲笑するようにお空を挑発するが、お空自身もそれを全く気にせずに、弾幕を放ち、弾幕を避けるを繰り返していた。

 私はお空のこの実力に心底驚いていた。普段から彼女とは弾幕ごっこを繰り広げていはいるが、今日のこの戦いを見てわかる。お空の全力は私は一度も見たことがないだろう。この弾幕の密度、聞いたことのないスペルカード。これら全ては恐らく、「八咫烏」、核融合の力を手に入れ、潜在的能力が蘇ったのだろう。

 

「爆符「メガフレア」!」

 

 無数に出現する恒星。しかし、それは空気に触れれば触れるほど小さくなるという欠点を持つが、弾速は速い方。そして発生した恒星からはニュークリアフュージョンと同様に、青弾が放たれる。

 

「霊符「夢想封印」!」

 

 七色の弾幕がお空の周りを囲む。それが危険と判断したお空は、右手に付けてある第三の足の銃口を一つの弾に向けた。

 そこからは一つの小さな御霊が飛んでいた。

 

「?」

「吹っ飛べー!」

 

 お空がそういった途端、首をかしげていた博麗の巫女の前の弾と御霊が接触し、大爆発が起こった。衝撃波と熱気、同時に私の体に襲いかかる。これは下手したら肌が溶けそうなほど。スカートの裾が少しだけ焦げていた熱い。これはさすがの博麗の巫女も息ができずに死に至るのではないかと私は予想していたが、それは裏切られる形となった。

 

「夢符「二重結界」」

 

 結界によって爆発の衝撃波が反転させられ、熱気もその場で滞っていた。そのスペルカードに対しては私もお空も驚きを隠せないでいた。

 

「嘘……でしょ……」

「まさか、こんな所で奥の手を使うことになるなんてね。褒めてあげるわよ。紫、もう倒していいのかしら?」

「(ええ、構わないわ)」

「させないよ!「地獄極楽メルトダウン」!」

 

 最初、小さな恒星が博麗の巫女とお空の後ろに飛ぶ、そしてお空と博麗の巫女の背後にさっきまで小さかった恒星が壁に当たることで巨大に広がった。

 そして二つの恒星の間は約3メートル。 その恒星からは小さな弾幕が放たれ、隙間はさらに狭まる。

 

「また奇抜なスペルね」

「へへっ、これはまだ序の口だよ!」

 

 ここで初めて、私は博麗の巫女の焦りを感じ取った気がする。さっきまでは動きが大雑把で攻撃が主体だったが、このスペルカードに入ってから、自分が弾に当たらないように防御主体で動いていた。こういった切り替えも天才の強みだろう。

 

「霊符「夢想封印 集」!」

「………っ!」

 

 札と弾幕が同時に放たれ、それは一直線にお空を襲った。お空はそれをまた第三の足の御霊で全てを爆発させる。するとお空の体力はほぼ底を尽きていた。そして最後のスペルカードを取り出し、精一杯に叫んだ。

 

「地獄の人工太陽!」

 

 お空自身が恒星となり、その周りには弾幕が張られ、それは恒星から引力が働き、引き寄せられていた。それは弾幕だけでなく、博麗の巫女も私も引き寄せられて、私は岩にしがみついて耐えられていたが博麗の巫女は後ろに下がりながら遠ざけていくが、弾幕が邪魔で思うように進めないみたいだった。

 

「や、やばいっ!」

「(霊夢!引力はいいわ!弾幕に集中して!)」

「わ、分かってるわ!しかもそれだけじゃない!」

 

 そう、それだけではない。熱だ。とてつもなく熱い。もう全てを溶かすことが出来るのではないかと思えるくらいの熱量。服も溶けてきている。

 

「このまま全てを溶かしてみせるっ!」

「くっそ!調子に乗るなぁ!」

 

 必死になった博麗の巫女は札を無数に投げるが、お空は動じずに引力を働かせ続ける。

 しかし、最後に博麗の巫女はにやっと笑い、スペルカードを取り出した。

 

「っ!?」

 

 私は息を飲んで、そのスペルカードの内容を能力の気を使って読む。博麗の巫女の調子から、どんなスペルカードかすぐに理解出来た。

 

「嘘……これは…」

「霊符「夢想天生」!」

「無敵だよ……これ」

 

 博麗の巫女はそのスペルカードを唱えると、白く発光した。そして弾幕が博麗の巫女に当たると、弾幕が弾け、博麗の巫女自身は無傷だった。

 

「な!?どういうこと!?」

「残念、こちとら無敵の修行していたのよ」

 

 そう言うと、お空はフッと微笑みを浮かべて、さらに力を強め、引力も最大限まで強めていた。

 

「ならっ!最後まで足掻いてみせる!」

「………王手」

 

 無数の札がお空の全方位から襲う。そして物凄いスピードで札が飛び、大爆発を起こして、お空は地上に落ちた。

 

「うう、しんり様……ごめんなさぁい……」

 

 私は岩陰からその光景を見て呆然としていた。口も半開き、手を震えていた。

 

「お空が…………負けた……そんなに強いのか……」

 

 感嘆のため息を漏らし、目を丸くしながら、私は地霊殿に続く道へと歩いた。この戦いで分かった。今の博麗の巫女は「無敵」なんだ。最後に唱えた「夢想天生」は弾幕の攻撃を無視していた。札の量もおぞましく、避けられる訳がなかった。

 しかし、私の予想はあのスペルカードは一枚しかない。そう確信づいていた。

 私は帰る道中、ずっと口元が緩んでいた。

 

「ああ、楽しみだなぁ……」

 



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EX 神社の弾幕 その1 ~幻想郷は常識に囚われない~

………例大祭楽しかった?



いいな、私は部活ですよ。
いーなーいーなー

ホントは行けたのにさ、どうして予定ずらすんだろうね。


 お空が博麗の巫女に退治され、間欠泉も止まり、地上に怨霊が飛び出すことはなく、平穏を迎えた。お空は博麗の巫女に負けた後、厳しく叱咤され。もう地上の支配や核融合の暴走などはしないと誓った。

 

「あ〜あ、暇だなぁ…」

 

 結局、博麗の巫女は地上に帰り、地底はもういつも通りの静けさを取り戻し、私とこいしのみ戦闘はなかった。

 晩御飯を食べ、もう後は寝るだけになった時、私は「真実の歯車」を読み終わり、暇を持て余していた。

 

「こんな話だったんだなぁ……」

 

「真実の歯車」は、序盤内容が浅いかなって思ったけど、終盤に近づくにつれ、犯人の動機とその行動についての真相などがこと細かく説明されており、目をキラキラさせてしまっていた。

 その時、ドアがコンコンと二回叩かれ、向かいからお燐の声が聞こえる。

 

「しんり様ー、博麗の巫女から手紙です」

「は?」

 

 扉を開けたお燐。灼熱地獄で博麗の巫女と戦闘したお燐の顔傷はまだ癒えていなかった。頬には絆創膏、右手には包帯が巻かれていた。唯一、地霊殿の中で出血したのがお燐なので、治療はお燐が一番苦労したとか。

 私はお燐から大きめの封筒を取り出し、内容を読む。

 

『拝啓 地霊殿当主へ

 私が退治した八咫烏の妖怪の裏で働いている者がいるのは知っているのかしら?私は今からそれを退治しに行くつもりだ。私はあなたから事情が聞きたい。明日の昼、妖怪の山麓付近で待ち合わせしましょう』

 

「……なるほどなぁ……」

 

 裏に働いている者。恐らく、土着神の諏訪子さんと天津神の神奈子さんの事だろう。あの二人はよっぽど彼女を恐れていたみたいだった。まぁ、あの圧倒的な強さは神様でも驚きだろう。

 

「だるいから行きたくないなぁ…」

「そう仰らずに、もしかしたら、博麗の巫女と戦えるかも知れませんよ?」

「……そう……だね」

 

 今では戦いたいなんて思ってはいないが、本当に暇だったので、私は寝ることにした。お燐を部屋から出し、電気を消す。久しぶりの弾幕ごっこに私はほんの少しだけ心を踊らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の昼。私は一足早く妖怪の山に来ていた。セリカナちゃんに会えるかなと思ったが、知り合いとは一度も会わずに来てしまった。

 

「あら、あなたが古明地しんり?」

「……ええ」

「私は博麗霊夢。よろしくね」

 

 右手を差し出し、握手を要求してきた博麗の巫女。私は少し後ずさりながらもその手を握り握手をした。随分とフレンドリーになっていたことに私は驚きを隠せなかった。

 

「今更焼いて食ってやろうなんて思ってもないし、異変が終わったのなら、元黒幕を倒そうなんて考えないわ。まぁ、あなたが戦いたいなら容赦はしないけど……」

 

 その言葉を待っていた。私は口元を緩め、にやっと不敵に笑う。その顔はまるで極悪の殺人者の様なものだった。

 

「ああ、是非お願いしたいな。博麗の巫女がどれだけ強いのか」

「そんなもの、地底の時に見てたでしょう?あのお空とやらの戦いを」

「気づいてたんだ」

「当たり前ね。あんな前のめりになって見てたらそりゃ分かるわよ」

 

 私は今更になって少し安堵する。あの時にもし博麗の巫女に攻撃されていたら私は今頃ボコボコにされていたのだろう。

 

「じゃあ行きましょう。しんり」

「うん、えっと……」

「霊夢でいいわ」

「う、うん。霊夢」

 

 そう言って、まだぎこちない会話の中、妖怪の山の奥の方へと入っていった。そこは紅葉が綺麗で、和を彷彿とさせるものだった。

 

「ほら、もうすぐよ」

 

 そこはコンクリート詰めされた何らかの道。そして暫く飛んでいると大きな赤色の鳥居が姿を現す。これを見て、私はここが神社なのだと、理解出来た。

 

「ああ、長ったらしいわね」

「こんくらい我慢できるでしょうよ、霊夢……」

「私は同じ景色が嫌いなの」

「あら、ここは景色がよろしくて?」

 

 前方から声が聞こえる。私と霊夢はその場でブレーキをかけて眼前の敵を見据える。

 

「早苗?なんでここに?」

 

 早苗さん……という名前なのだろうか。霊夢と同じ巫女服にしか見えない。腋を出すのが流行なのだろうか?

 

「この先には神様がいます。最低限の抵抗はしないとねってことです。霊夢さんとしんりさん」

「ど、どうして私の名を……」

「諏訪子様から聞きました。よろしくお願いします」

 

 可愛い笑顔を浮かべた早苗さん。しかし、すぐに顔を切り替えて、風祝を構える。その風貌はまるで神を奉る神聖な巫女のよう。

 

「会って早々で申し訳ありませんが、絶対に常識に囚われない勝負です!」

「しんり、よろしく頼むわよ」

「え、ええ!?」

 

 私は唐突に霊夢に押し付けられ、その場でたじろいでしまう。しかし、早苗さんはその隙を見逃さず、間髪入れずに弾幕を放った。

 

「秘法「九字刺し」」

 

 円状に回る小さな弾幕と、縦と横。網状に進むビーム弾幕が同時に私を襲う。私は弾幕のスピードと小さな弾幕の進行方向を瞬時に判断し、それを避けた。

 

「は、速いですね…」

「これが強みですから」

 

 これには流石の早苗さんもビックリしてくれたみたいだ。私は満面の笑みでそれを返した。次は私がスペルカードを唱え、弾幕を射出した。

 

「スペルカード!岩符「ブロックレイン!」」

 

 岩が雨のように降り注ぐ。真下から速い岩が飛んでくるのは誰だって恐怖心がある。もちろん早苗さんはその私の術中にまんまとはまってくれた。これはいわゆるハッタリだ。幻覚を見せることだって容易いのだ。

 調子をコントロールする程度の能力。気を操る程度の能力。これがまた便利でもある不便利ともいえる私の能力だ。

 

「わわっ!私のこと殺さないでくださいよー!」

「殺すつもりはありませんよ!」

 

 私は必死に弁解をし、誤解を解く。そして早苗さんはにやっと笑い、スペルカードを取り出した。表情からして、これが今のラストスペルだろう。

 

「スペルカード!神徳「五穀豊穣ライズシャワー」!」

 

 米粒弾がサイドの壁に当たってはシャワーのように黄色、緑、青の色をした弾幕となって不規則に降り注ぐ。規則的に落ちてこない弾幕は軌道が全く読めないため、私は弾幕の隙間を狙って移動していた。

 

「はぁ……はぁ……まずい…」

「まだまだ行けますよー!」

「仕方ない!終わらせる!」

 

 焦りを感じた私は胸ポケットから一枚スペルカードを取り出し、詠唱を始めた。

 

「スペルカード!神界「バレットオブハーブ」!」

 

 出現した巨大なハーブから奏でられた音は高速な弾丸となって早苗さんへと向かっていく。この弾丸のスピードは今まで私がみた弾幕の中でもトップクラスの自信があるほど。

 

「は、速っ!」

「まだまだー!」

 

 立場逆転。私が今度は早苗さんを追い詰める番だった。常識的にこんな速い弾幕は生み出せない。しかし、調子をコントロールする私なら弾幕の調子を上げることなど容易い。

 常識に囚われてないね。

 そしてようやく、数十発目の弾丸が早苗さんの胸と腹と太ももに直撃し、爆発を起こして、早苗さんは下に降下していった。

「ふぅ……」と息をつき、大きく背伸びをした。そして後ろから霊夢が驚きの顔と声を上げた。

 

「お、驚きね……あんなに苦もなく早苗を倒すなんて……」

「は、はぁ……」

 

 良かった。まだ私の力は通用しているみたい。そこにひとまず安堵し、私は霊夢を促した。

 

「さて、霊夢。黒幕は早苗さんじゃないよ。早く神様のところに行こう」

「ええ、分かってるわ」

 

 私達はもう一度神社に向かって飛ぶ。

 その途中、私は自分の手のひらを見た。確かに力はある。しかし、これが霊夢に勝てるかどうかはまだ分からない。もしかしたら、力量は圧倒的に霊夢の方が上だということも考えられる。

 しかし、私にとってはそれくらいが上等だ。手のひらを握り、私はもう一度前を見据えた。



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EX 神社の弾幕 その2 ~心を閉ざした第三の目~

ここのこいしのスペルカードは原作のスペルカードが飛んでる場合があります。

名前が思い出せないものや表現しずらいものは描写していません。

ご了承下さい。


 早苗さんを倒し、私達はさらに前進していく。少し肌寒いが先ほどの弾幕ごっこで体はポカポカだ。それに、何もしていない霊夢さえも平気な顔をしているのだ。今更「寒い」なんて言えない。

 

「はぁ、ここってこんなに長いの?」

「私も嫌よ。黙ってついてきなさいってば」

 

 私は正直、さっきの早苗さんとの戦いで満足だ。別にもう霊夢とやらなくてもいいし、ちゃっちゃと片付けてココアが飲みたい。それでも霊夢を怒らせたくないので付いていく。

 

「あ、もうすぐよ」

「やっとか…」

 

 最後に大きな鳥居をくぐり、大きな建物が見え始める。鳥居に彫ってあった文字が目に入る。

「守矢神社」ここが諏訪子さんと神奈子さんが奉られている神社なのだろう。そしてここが本殿。二人はここにいるのだろうか。

 

 

 

 

 

「ありゃ?しんりねぇ?」

「………え?」

 

 背後からか、私の名が小さく呼ばれた気がした。疲れているから幻聴だと言い聞かせ、歩を進めようとした瞬間。

 

「もー!聞こえてるんでしょ!」

「あだっ!」

 

 肩を両手で掴まれて私は重力に従って前に進んでいく。ある程度のバランスが取れた後、後ろを振り返り、声の主を見据える。

 

「こ、こいしっ!?」

「やっほー」

 

 そこに居たのは私とさとりの妹であるこいしがそこで笑顔で手を振っていた。予想の斜め上をいく人物の登場に私は驚きを隠せずにいた。

 

「な、なんでこいしがここに……?」

「んー?ああ、ここの神様にね。地霊殿の周りをふらついてた時に『ここは危ないからうちに来な…』って言われて」

「それは神奈子さんの真似してるの?」

 

 こいしが神奈子さんの全く似てないモノマネにため息を付く。すると隣にいた霊夢が話に割り込んでくる。

 

「ねぇ、その神様とやらはどこなの?」

「んぅ?知らないよ」

「しらばっくれなくてもいいわよ。あなたに危害は加えないわ」

「ほんとにしらないってばぁ!」

 

 明らかに知っているだろう素振りを見せ、霊夢を挑発するこいし。私はあたふたしながらそれを止めようとする。

 

「ちょっ、やめ、こいし!?」

「あらぁ……知らないのねぇ…」

 

 霊夢の後ろにはゆらゆらと漆黒のオーラが漂っている。それを見た私はビクッと体を強ばらせるが、こいしはそれでも恐れずに霊夢を挑発する。

 

「あっれぇ?博麗の巫女って……あなたなのぉ?」

「……ええ私よ。悪かったわね……」

 

 ビキビキ……と霊夢から聞こえそうなほどキレているのがわかった。怖いもの知らずのこいしはこうやって人をいじるのも好きになったのだろう。

 嗚呼、妹が悪い方向に進んでいくよ。母さん。

 

「なら、力ずくで吐かせるまでね!」

「いいね!それを待ってたんだよ!」

 

 オレンジ色の魔法陣を展開させたこいしは独特のポーズを取りながら円状に米粒弾を大量に射出する。しかし、霊夢はそれをいとも簡単に避け、自分の札を発射していく。

 

「表象「弾幕パラノイア」!」

 

 霊夢の周りにピンク色のクナイ弾幕が円を描きながら霊夢を囲む。そして密度はもう逃げられないくらいのもの。霊夢はクナイ弾幕の円の中で滞る。そしてこいしからは規則的な青い大玉弾幕が等間隔に発した。弾幕ごっこのルールとして、絶対に避けられない弾幕は放ってはいけないというルールがあり、この密度が限界なのだろう。

 しかし、霊夢はその狭い空間の中でも僅かなズレによって迫り来る大玉弾幕をスレスレで避けていく。私はその霊夢の技術に「おお……」という感嘆の声を漏らしてしまう。

 

「むっ、なかなかだね!しんりねぇと同じくらい!」

「それはなにより………だわ!」

「本能「イドの解放」!」

 

 こいしを中心に弾幕ごっこでは珍しいハート型の弾幕が円を作り交差しあっているため、単純だが避けにくい仕様になっている。密度も人一人分程しかないため、避けるのにも高度な技術が必要とされる。

 しかし、霊夢はそれを横移動のみで交わしていく。それを見た私は息を飲んだ。

 

「もー!全然当たらない!」

「それは残念ね。しんりの方が強かったなぁ……」

 

 霊夢は先ほどのこいしと同じように嘘話を作ってこいしを挑発する。こいしは「弾幕ごっこではお姉ちゃん達には負けたくない!」と、よく意地を張っていて、三姉妹の中で一番の負けず嫌いだ。もうすぐで人間の寿命を超える時期だというのにやんちゃなところが沢山ある。まぁ、個人的には可愛げがあっていいんだけどね。

 

「むきー!しんりねぇなんかアウトオブ眼中だもん!私の方が強いもん!」

「そんな言葉どこで覚えたの!?」

「はんっ!今の戦いだけならまだしんりの方が強いわね!」

「ふんっ!戦いで負けてもおっぱいの大きさは私の勝ちだもん!」

 

 こいしの最後の一言で私の中で何かが切れた気がした。

 

「こいしコラぁぁぁぁ!!誰が貧乳だぁぁ!」

 

 私は自分の白い魔法陣を展開し、大量の弾幕を放とうとするが、それは霊夢の左手によって制される。

 

「あなたのコンプレックスを知れて嬉しいわよ。さて、こいし………と言ったかしら?そろそろ終わりましょう?」

「……ええ!」

 

 そう言って、こいしはまたスペルカードを取り出す。霊夢はお祓い棒を強く握り高く飛んだ。私は頬を膨らませながらも下でその戦いを見届けようとした。

 

「抑制「スーパーエゴ」!」

 

 次はイドの解放とは逆にこいしを中心にハート型の弾幕が集まってきて、渦潮のように回りながらこいしに近づいては消えていっていた。霊夢は歯を食いしばり、スペルカードを出した。

 

「霊符「夢想封印」!」

 

 私は霊夢のこのスペルをもう数回聞いたがいつ見ても迫力もあって力もあるスペルカードだ。流石のこいしもこれには少しだけ押される。そしてしまいにはそれに力負けし、遠くに吹っ飛ぶ!

 

「きゃあ!」

「こ、こいし!」

「まだまだ!」

 

 こいしはまたスペルカードを取り出す。一体何枚あるのだろうか……

 

「復燃「恋の埋火」!」

 

 一つのハート型が、弾幕のブーストによって結界の中を跳ね返りながら霊夢を襲う。しかしそれを霊夢は一瞬の弾幕で全てを消し飛ばした。

 

「二重結界……」

「な、それ反則だよ……」

 

 結界の狭間に連れていかれたこいしの弾幕は闇の中へと消えた。負けを確信したのか、こいしは涙目になりながらも最後のスペルカードを取り出した。

 

「まだ負けない!「サブタレイニアンローズ」!」

 

 円状に広がる弾幕がレールとなり、大きな薔薇の弾幕が回転しながら徐々に広がっていく。それは時間が経つにつれ、薔薇の弾幕のスピードや大きさなどが変化していった。

 

「当たれ当たれ当たれぇ!」

「……くっ!」

 

 薔薇の弾幕が霊夢の服を掠め、所々に弾幕を当てているが、未だに霊夢にモロ当たるものは見たことがなかった。

 

「スペルカード!「夢想天生」!」

 

 私はこのスペルを聞いて、霊夢の勝利を確信した。負けを認めたくなくて、我を失ったこいしとこのスペルカードによって無敵になった霊夢。結果は誰でも分かるだろう。

 

「これで………終わり………よっ!」

「当たるもんか!そんな札!」

 

 超速の札がこいしを狙うが、こいしはそれを軽々と避ける。しかし、こいしのその油断が命取りとなった。

 

「残念、跳ね返るわよ」

「へ?」

 

 背後から来たさっきの札がこいしの背中に当たる。すると大きな爆発が起こり、こいしはプスプスと焦げた匂いを発し、気を失いながら下に落下する。霊夢は両手をパンパンとはたく。

 

「ほい、これで良しと……」

「あれ、諏訪子さんと神奈子さんは追わなくていいの?」

「なんだか、この陰陽玉からね。二人は今地霊殿の方で復興作業をしているらしい。反省してるみたいだし許してあげてってね」

「そう言えばそれ、なんか細工があるの?」

「紫と繋がってるいるのよ。まぁ、詳しいことはまた教えるわ」

 

 そう言って、霊夢は私の方に向き、申し訳なさそうな顔で私に謝罪をした。

 

「ごめんなさいね。結局あなたを誘う必要は無かったみたい。お詫びと言っちゃなんだけど、今度の異変解決の宴会、あなた達も来なさい。拒否権は無いわよ」

「え、あ、うん。ありがとう?」

 

 疑問形になりながらも霊夢にお礼を言う。そして私は下に落ちたこいしをお姫様抱っこで持ち上げる。

 

「地霊殿の奴らで来なさいね。場所は恐らくここって魔理沙が言ってたわね……」

「うん、じゃあまた手紙送ってね」

「ええ」

 

 私は霊夢に軽く手を振った後、地霊殿の方向へと飛んでいった。霊夢と戦えなかったのは仕方なかったけど、私は疲れていたし、こいしが成長していること、霊夢の強さを見極めることが出来て、大きな収穫になったかもしれない。

 私はこの異変に満足していた。



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宴会、同じ姉の話

自販機のカフェオレのボタン押したら、何故かブラックコーヒーが出てきたんだ\(^o^)/


自販機に入れる人が場所間違えやがった。


ひさしぶりなのでダラダラ書いています。


 霊夢とこいしが弾幕ごっこをしてから、約一週間後。地霊殿のメンバーは落ち着き、今ではこいしもいつも通りピンピンしていた。私は今も変わらず本を読んで、お空と弾幕ごっこをして、退屈な日々を過ごしていた。そんなある日、地霊殿に一通の手紙が来た。

 

「しんり様〜。博麗の巫女から手紙です」

「あ、宴会の件かな……」

 

 私はお燐から受け取った封筒を開け、中身を見る。すると案の定、宴会の招待状だった。中には五人分の招待状が入ってて、手紙は入っていなかった。

 

「何それ?姉さん」

「ああ、異変解決の宴会をやるって霊夢から聞いてたでしょ?それの招待状」

「今日?」

「うん」

「じゃあこいし達を呼びに行かなきゃね。今人里にいるんでしょ?」

 

 それだけ言って、さとりは外に出た。彼女が自分から外に出るなんて珍しいな。と考えていると、後ろからお燐がヒョイっと顔を出した。

 

「宴会ですか?」

「うん、お燐も行くでしょ?」

「もちろん」

「じゃあ、私は部屋で寝てるよ。六時に起こしてー」

「承知しました」

 

 私はお燐の進行方向とは逆に歩を進め、自室のベッドへとたどり着く。死ぬように倒れ、うつ伏せになりながら顔を枕に押し付ける。

 

「ねっむ……」

 

 何故だろう。別に睡眠時間が短かったわけでもないのに、意識が朦朧としてきている。そしてそのまま、私は小さな寝息と共に深い眠りに着いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しんり様、六時ですよ」

「ふあ?もうそんな時間?」

 

 目を擦りながら、近くの時計を見ると、時針は真下を指していた。私はムクっと起き上がり、お燐を見据える。

 

「おはよ………」

「おはようございます。夜ですけどね」

 

 右足から降りて、顔を洗う。そして、赤色の襟と周りは白色、袖周りは黒色のいつもの服に、黒色の……………ミニスカート。

 以前はフリルスカートだったのだが、こいしが「しんりねぇはもっとオシャレしないと!」とふざけたことを言ったら、いつの間にか阿求さんまでその情報が届き、作ってくれた。阿求さんの親切心を無下に出来なかったので、愛用しているが、これがなかなか短いのだ。別にこれくらいどうでもいいが、パンツが見えた時は他には変え難い恥ずかしさがある。

 

「私はもう準備出来てるわ。こいしもね」

 

 さとりがドア付近でもたれかかっていた。

 

「あれ、みんな早いね……」

「招待状に六時半からって書いてあるわよ」

「ほんとに?急がなきゃ……」

 

 慌てて服を着替え、サードアイの位置を整え、「よし!」と鏡の前で大きく息を吸い、みんなの元へと行く。

 

「お待たせ。行こうか」

 

 そう言って、私達五人は地底を出て、以前霊夢とこいしが弾幕ごっこをした「守矢神社」に向かった。道の途中には見たこともない妖怪達がゾロゾロと集まっていた。

 

「あら、来たのね。しんり」

「霊夢!一週間ぶりだね」

「地霊殿の面々も来てるのね」

「……ええ……」

 

 少し警戒しているさとりやお燐。それを見た霊夢は大きくため息をついて、手を広げた。

 

「別に取って食べようなんて考えてないし、反省してるなら私も今更攻撃しないわよ」

「ならいいのだけど……」

「それよりも今日は宴会よ。気が済むまで楽しみなさい」

 

 霊夢はくるっと踵を返し、私たちに背を向ける。霊夢は先代の巫女の理不尽な性格とは裏腹に、どんな妖怪にも手を差し伸べられる優しい巫女だということを私は今日改めて実感した。

 

 

 

 

 

 

 守矢神社本殿に入ると、多くの妖怪が私たちを一斉に見た。そして数人の妖怪は私たちに寄ってきた。

 

「あなたが覚り妖怪?私はレミリア・スカーレット。地底からじゃ分からないだろうけど、「紅魔館」という館の当主よ。で、こっちがメイドの咲夜と妹のフランドールよ」

「よろしくお願いします」

「よろしくねー!」

 

 私とさとりはその場でたじろぐがピッと姿勢を正し、レミリアさんに一礼する。

 

「よ、よろしくお願いします。レミリアさん」

「レミリアでいいわ」

「う、うん。よろしく」

「さて、私はあなたに色々聞きたいことがあるのよ。時間もらっていいかしら?」

「うん、いいよ」

「フラン、咲夜。あなたはそっちの覚り妖怪の相手をしてて」

 

 そう言われて、私はレミリアに手を引かれた。そして少し人気のなくなった所で立ち止まる。

 

「どうしたの?レミリア」

「いいえ、普通にあなたとお話がしたかったの。同じ長女だしね」

 

 私はその一言を聞いた瞬間、体が固まる。月明かりに照らされたレミリアの赤色の双眸は見るものを魅了させる美しさがあった。

 

「どうして私が長女だって……」

「運命を見たのよ。って言っても理解できないわよね」

「………そういう能力?」

「……驚いたわね。察しの良さはいいようね」

「こういう能力なんだよ。気を操ってね」

「便利ね」

 

 近くのベンチに腰を下ろし、真上の月を見る。

 

「何故でしょうね。あなたと出会って数分なのに、親しくなれそうな気がして仕方ないの」

 

 私もそんな気がしていたのだ。レミリアとは本当にまだ数分しか話していないのに、どうしてここまで話しやすいのだろう。

 

「私もそう思ってた」

「あなたの所の妹はどんな感じ?」

「…私を姉だと思ってない。容赦なく虐めてくる」

 

 そう言うと、レミリアは一瞬驚いたような顔をして、クスッと笑う。

 

「私の所とは正反対ね。フランはね。いつも私のことを気にかけてくれてて、以前にあの子の本性が暴れだした時があって、長い年月地下室に閉じ込めていたの」

 

 その話は何かゾッとさせるものがあった。唾を飲んで私はレミリアの話を静かに聞く。

 

「それでもいつまでも私を敬愛してくれて、あの時は涙が出そうになったわね……」

「……いい…………妹だね…」

「そうでしょう?」

 

 少し自慢げにいうレミリア。話し方や振る舞いからカリスマが溢れているように見えるが、時に見える笑顔はまだまだ幼い。可愛さが残っている。同じ身長くらいなのに、年下に見えた。

 

「しんりの所も苦労しているのね」

「だいぶね……」

 

 彼女になら、こいしの事も話していた方がいいのだろうか。これから親しくなるのなら、疑問を抱かせないのが、得策だろう。

 

「一度ね。私達もとんでもない事が起こったの……」

「……」

「私達は心が読める…それは知ってる?」

「ええ、しんりだけは特殊で、妹の……」

「うん、さとりとこいし。もう片方は心が読めないのだけど……」

「さとりは心が読めて、こいしが読めない?」

「そう」

 

 どこからか聞いたのだろうか、こいしとさとりの名を知っていた。

 

「前に人里に出た時に、心が読める覚り妖怪は忌み嫌われててね」

「……以前は……」

「うん、以前はこいしも心が読めたんだ。人里の住民達に、私達は周りから「気持ち悪い」とか「死ねばいいのに」みたいな事をたくさん言われてね」

「……酷いわね……能力だけで……」

「その声たちにこいしの心が壊れてしまって……サードアイを潰したの」

 

 自分のサードアイを撫でながらそう言う。自分の事でもないのに、言うのが少し嫌になってくる。

 

「潰した……?」

「ナイフでね……」

「ッ!?」

 

 レミリアの顔が一気に険しくなる。

 

「それから、こいしはすぐに更生したんだけどね……」

 

 私の不甲斐なさに悔やんでいるのは未だに私だけだと思う。こいしもさとりも数年前のそんな出来事は忘れていると思う。でも、自分の戒めとして、私はずっとその出来事を鮮明に覚えているのだ。

 

「お互い、辛い過去を持っているようね。なら、そんな過去を吹き飛ばすくらいの出来事をこれから作り上げればいいだけよ。単純明快ね」

「…そう……だね…」

 

 そう言って、レミリアは右手を差し出す。その細い手をしばし見つめた後、私も右手を重ね、握手をする。

 

「ふふっ、綺麗な手をしているわね。しんり」

「レミリアこそ」

 

 見つめあって、お互いが同時に微笑む。すると背後から咲夜さんが声をかけてきた。

 

「お嬢様ー!しんりさーん!宴会が始まりますよ!」

「今行くわ。行きましょ……しんり!」

「……うん」

 

 私はレミリアに手を引かれ、みんなの元へと進んだ。私は宴会に心を踊らせていた。



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宴会の終わり、友人との関わり

遅くなってすいません……
他作品も追って投稿します。


 会場に戻った私とレミリア。会場にはもう霊夢やこいし達は色々な人と関わりあっていた。

 

「さて、私達も輪に入りましょ?」

「う、うん…」

「……お?お前が……」

 

 そこに来たのは金髪ロングの可愛らしい少女、いかにも魔法少女という感じの容姿で顎に手を当て、私の全身をマジマジと見ていた。私はその行為に少したじろぐ。

 

「あ、あの……」

「お前か!さとりの言ってた姉さんって」

「へ?あ、はい…まぁ…」

「へぇ……まぁ、よろしくな、私は霧雨魔理沙」

「あ、古明地しんりです」

 

 差し出された右手を私は優しく重ねてみる。男らしい口調の割には小さく細い指が私の手を包んだ。その指は滑らかで憧れるほどの白さだった。そんな私の目線を見て不思議に思ったのか、魔理沙さんは少し目を細めた。

 

「どうした?」

「へっ?あ、いえ、なんでも……」

「姉さん、魔理沙。そろそろ乾杯するわよ」

「わ、マジか」

 

 私と魔理沙さんは隣で酒を注ぎあった。レミリアと同じく、魔理沙さんともすぐ仲良くなれそうだ。

 乾杯の時には両サイドに紅魔組と魔理沙さんがいた。

 私はいつの間にか、こんなに友人が増えたのかと、少しずつ自覚してきていた。

 

「では、みんな酌を持ってぇー」

「気だるそうだな……霊夢」

 

 どうして霊夢に乾杯の音頭を取らせようとしたのか、疑問である。しかし、周りは皆それに対して笑い。楽しそうな雰囲気が一気に漂い始めた。

 

 

「では、かんぱぁーい」

『乾杯!!』

 

 

 

 その音頭と共に守矢神社にいた全員が酒を飲み始めた。私は端の方で魔理沙さんと長い長い会話をしていた。

 

「んでな?そのチルノってやつが馬鹿でさー」

「あははははっ!」

「あら、魔理沙だけずるいわよ」

「お?レミリアと……フラン?来てたのか?」

「うん、お姉様に許可貰ったんだ」

 

 レミリアにかなり似た少女、彼女の言う「お姉様」は恐らくレミリアの事なのだろう。なんとも可愛らしい容姿と髪だ。女の私でも少しだけ見惚れてしまった。

 

「紹介するよ、古明地しんり。地底に住む妖怪だ」

「よろしく!私はフランドール・スカーレット。レミリアお姉様の妹よ」

「あ、うん。よろしく」

 

 私はまた握手をする。宴会だから仕方ないのだろうが、私は今日だけで何回握手をすればいいのだろうか。心の中でそう思いながらも実はこうやって友人が増えていくのは嬉しいことだった。

 

「さーてさてさて、飲もうぜ!しんり!」

「え?でも、お酒はちょっと……」

 

 以前にさとりから痛い目にあったので、お酒はあれ以降から少し避け気味になっている。今もこうやって魔理沙さんの誘いも敬遠してしまっている。

 しかし、魔理沙さんは不機嫌そうな顔をして、さらにずいっと酒を押し付けてくる。

 

「いいから飲め!うめーから!」

「え、え……まぁ、いいか……宴会だし」

 

 私は思い切りその酒をグビッと一気飲みしたのだが、何故か拍手が起こるような雰囲気にはならず、何故か驚愕の顔で私を見るレミリアと魔理沙さん。

 

「あ、あーあ……」

「ど、どうしたの?」

「それ、めちゃくちゃ度が高いぞ」

「えっ……」

 

 終わった。私はこれから暴れることだろう。さとりにめっちゃ怒られて、お小遣い減らされるんだ。通りかかった霊夢に抱きつき、大声で泣く。

 

「うああああ!小遣いがぁぁぁ!」

「ちょっ、何よ!?」

「あ、わかったわ。さとりにお酒飲み過ぎて怒られて、その後お小遣いを減らされるってとこね」

 

 レミリアの正確すぎる推理に、私はさらに泣きたくなった。そして背後から大声で笑う声が。

 

「きゃはははは!しんりねぇださ!だっさ!」

「う、こいしうるさい!」

「まぁ、この後が大変だな。レミリア、酔ったしんりの対応よろしく」

「嫌よ。飲ませたのはあなた。自分が撒いた種よ」

「うぐぐ」

「とりあえず、大人しくしてなさい。酔わなくなるから」

「う、うん……」

 

 私は霊夢に宥められ、また魔理沙さんとレミリアの間にちょこんと座り込む。さっきまで馬鹿にしていたこいしはフランさんと仲良く遊びにいった。

 

「その……なんだ。色々ごめんな」

「いえ、魔理沙さんの話を聞かずに飲んだ私が悪いですよ……」

 

 う……この後が思いやられる……

 私は憂鬱になりながらも、この宴会を見渡した。人間や妖怪、神など、様々な種族が壁を超えて交流している姿に、私は驚いた。

 

「コレ見てると、地底にこもってた私たちがバカみたいよね」

「さとり……」

「だってそうでしょ?今の幻想郷は以前とは違う。そんなの分かりきっていたのにね……」

「……そうだね。まぁ、機会が来ただけありがたいや」

「そうね。あ、姉さん」

「んー?」

「またお酒飲んだりしてない?次酔って迷惑行為したら今度こそお小遣いなしだからね?」

「だ、大丈夫だよ?多分……」

「そ、ならいいけど」

 

 素っ気ない態度を取りながら、別の場所へと移動するさとり。もしかしたら、酔っても宴会だから許してくれると思っていたが、今釘を刺されて私はもう終わったと、そう確信した。

 

 

 

 

 

 

 数時間後。

 

「魔理沙さぁーん、飲みましょーよぉー!」

「し、しんり……さっきの酒か…」

 

 見事に。本当に見事。

 私はベロンベロンに酔っ払っており、もう中年男性のそれだった。流石の魔理沙さんもドン引き。

 

「ちょ、しんりっ、飲み過ぎ……」

「レミリアもぉ、一緒にのもぉ?」

「……ふ、不覚にも少し可愛いと思ってしまったわ。後はよろしく魔理沙」

「って、おい!私を1人にしないでくれ!」

「ええー、レミリアつまんないのー。まぁいいや、魔理沙さん。飲みましょ?」

「え、私もそれ飲むのか?い、嫌だ嫌だ嫌だぁぁぁぁ……」

 

 魔理沙さんの断末魔の叫びは守矢神社に一瞬だけ反響したらしいが、そのまま他の人の声でかき消されたらしい。

 

「はぁ……姉さん……また…」

「うへへぇ……さとりぃー?」

「もう姉さん、小遣いゼロね」

「ええー?やだなぁー」

「見たところ。完全に回ってるわね……」

「いいわよ。そういう所なんだから」

「霊夢さん……」

 

 さとりが私に呆れている中、背後から顔を赤くした霊夢が姿を現した。彼女もまた酔っ払っているんだろう。

 

「よっぽど疲れてるんでしょ?手の焼ける妹が二人もいてね」

「……手を焼いているのはこちらなんですけどね……」

 

 さとりは苦笑いをして霊夢に微笑み返した。しかし、そのさとりの顔は何故か不機嫌には見えなかった。それは、心の底からこの宴会を楽しんでいるのが分かったそうな。

 

「ほらぁー!霊夢ものもぉー!」

「あ〜、はいはい。飲みますか」

「やったー!はい、さとりも!」

「………仕方ないわね……」

 

 さとりはこの後、楽しそうに私や霊夢達とお酒を楽しんだ。

 それはもう、私たち古明地姉妹にとってはかけがえの無い思い出となった。

 

 

 

 

 

 

「全く……飲みすぎでしょう……」

 

 宴会が終わる午前0時。私の背中でイビキをかきながら眠る姉さんとまだテンションが高いこいしと共に帰っていた。

 

「あららぁ、姉ながら可愛い顔だね?さとりねぇ」

「……そうね。いつもの姉さんとは思えないわ」

「…………優しい人たちだね…」

「………前みたいに、いじめられることはない……わね」

 

 少し、自信がなかった。なぜなら、私は今日、一度も能力を使用していないから、彼女たちの本心が見えていないから。本当は嫌っているのかもしれない。

 しかし、今日の彼女たちを見ると、そうは見えなかった。綺麗事を並べようともしていなく、ただ純粋に宴会を楽しみ、私たちと仲良くなろうと歩み寄ってくる人もいた。

 

「こいしも友達出来たでしょ?」

「うん!フランちゃん!とっても可愛い子なんだ!」

「そう……」

 

 私も、咲夜さんと言う方とよく話すことが出来た。話も合うし、とにかく話しやすかったのだ。私はその事が今日一番の歓喜であった。

 

「さ、早く帰りましょ?」

「あれ?お空たちは?」

「先に帰ったわよ?」

「あ、そうなんだ」

 

 そう言って、私は姉さんを担ぎ、こいしと一緒に地底へと帰った。私は何故か、地上を離れることに抵抗を覚えてしまっていた。



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また異変だよ!覚り三姉妹!
レミリア訪問、謎の襲撃


そういえば、しんりちゃんのプロフってあったっけ?
まぁいいや、書きまーす。

古明地 しんり

身長 155センチ。
体重 あなたの家のクーラー1.2倍。

容姿 白色の服に襟周りやボタンは赤。
フリルスカートも思い切って赤にしてみた。
黒く長い髪は腰まで伸びているが、ポニーテールで結んでいる。
白いサードアイ。


能力 生き物の調子、気を操る程度の能力。

読んで字のごとく。調子と気を自由に操れる。

陽気でほのぼのした性格だけど、強い(主人公補正)
怒ったら怖い顔になる。けと優しい(主人公補正)


後書きに報告がありまーす


 宴会から約2週間後。私たち覚り妖怪は以前の生活に逆戻りしていた。

 私はよくセリカナちゃんと遊ぶし、こいしはよく紅魔館に遊びに行く。さとりと咲夜さんと仲が良さそうだ。

 それも当たり前だろう。ただ一つのことを抜いて、私達はただ地底で生活するだけしかないからだ。

 しかし、こんな私たちの生活にも変化は訪れた。それは、「友達」ができたこと。

 

「しんり様ぁー?お客様ですー」

「え?」

「失礼するわ。しんり」

「れ、レミリア!?どうして……」

「フランがこいしと遊びたいって言い張ってね。付き人として咲夜も来ているわ」

「そ、そうなんだ」

 

 レミリアが地霊殿に来るのはこれが初めてなので、驚きを隠せなかった。

 するとレミリアは少し頬を赤らめて、目をそらしながら、「それに……」と言い付けるよう、控えめに言った。

 

「しんりとも……話したかったし………」

「っ……!」

 

 こう見ると、彼女がまた別人にも思えてしまう。私も思わず顔を背けてしまっていた。そこから、しばらくの沈黙が訪れる。気まずさをいち早く打破しようとした私は立ち上がった。

 

「お、お茶でも飲む?レミリア、何がいい?」

「あ、じゃあ紅茶で、あるかしら?」

「紅茶ね。あるよ」

 

 私は部屋の後ろにある棚を漁り、茶葉を取る。自分自身お茶を飲みながら小説を読むのがとても好きで、一日の中で楽しみな日課の一つとなっているのだ。

 自分は緑茶が好きなんだけど、さとりが「もっと高貴なお茶をね……」と呆れてしまっていたので、紅茶を頼んでみたら、思ったよりも紅茶が美味しかったのだ。

 それから、紅茶は本を読む時以外でも飲んでいることが多い。

 

「はい、砂糖は?」

「紅茶に砂糖入れるの?」

「え?入れないの?」

「ええ、そのまま飲めるし」

 

 レミリアの意見と初めて齟齬が生まれた。

 

「そんなコーヒーじゃあるまいし、苦くなんか無いでしょ?」

「まぁ、そうだけど……甘くないと嫌じゃん?」

「?……そんなことないわよ?」

「……初めてレミリアと意見が食い違ったね」

「…………そうね……」

 

 何言ってんだこいつ。みたいな顔で私を覗き込む。それは私が間違っているのか、レミリアが間違えているのか。二人しかいないこの空間では迷宮入りとなった。

 

「しかし、この部屋雰囲気がいいわね。紅魔館とは別の……」

「まぁ、以前にリフォームしたばっかりだしね。前はもっとボロっちかったよ」

「あら、それは何で?」

「家族が増えたから、お空やお燐が家に来て狭く感じたんだ。だからなけなしのお金でリフォームしたの」

「へぇ……」

「っと、こんなつまらない話しても仕方ないよね。ってことで、これからどうする?」

「そうねぇ……今からやることなんてーーーー」

 

 レミリアの言葉は途中で遮られた。なぜなら、私の部屋のドアが勢いよく開けられ、そこからは大男が四人。黒くて重そうな長い金属の塊の先を私に向けていた。

 

「大人しくしろ!手を挙げて頭を下げろ!」

「…………は?」

「…………は?」

 

 私とレミリアは同時に素っ頓狂な声を出す。しかし、大男はピストルの拡大版のようなものを私たちに突きつけた。

 恐らく、襲撃なのだろう。とりあえず、男の言う通りに実行してみる。

 

「は、はぁ……」

「何かしら?」

「よし、そのまま大人しくしていろ」

 

 その瞬間、私は能力を使った。調子を操り、男達の調子を最大限まで下げ、戦意を喪失させた。そしてそのまま大男達はどこかへ立ち去った。

 

「………」

「これで良しと」

「凄いわねあなた……」

 

 目を見開いて感嘆の声を漏らすレミリア。私は胸を張って自慢したいところだが、生憎とこれにも弱点があった。

 

「最近私の体力不足のせいでね。これを使えるのも限られてるんだ。今は緊急事態っぽかったから使ったけど、あんまりポンポン使えるものじゃないんだ」

「そう……なのね」

「それより、こいつらは何なの?」

「さぁ?これ何?」

 

 レミリアが手に取ったのは、男が持っていた大きなピストルのようなもの。武器なのだろうが、用途が全く分からない私達はそれをペタペタと触っていた。

 ピストルも触ったことのない私達はその銃に興味津々だった。

 

「へぇ……なかなか上品ね」

「んね、飾ってたいな」

 

 するとレミリアの人差し指が何だか棒が曲がった所に引っ掛けられた。

 

「?何かしら、これ」

 

 レミリアは指に思い切り力を入れた。するとカチッという音が鳴る。と同時にズガガガガガガガッ!!と、先っぽから火花が飛び出した。

 

「うおおわああああああ!?」

「な、何、これ!?」

 

 そしてよくよく見ると、その先端からは何やら金色の弾が物凄い速さで飛んでいた。私はそれで確信がついた。これは銃だ。それで、今飛んでいるのは「弾丸」。極めて危険だ。

 

「ちょっ、レミリア!!危ない!」

「え、ちょっと聞こえないんだけど!?」

「1回撃つのやめてぇぇぇ!」

 

 爆音で私の声が届かず、レミリアは引き金を止めるのに数秒遅れてしまっていた。私は息を切らしながら、レミリアから銃を受け取る。

 

「な、これ……」

「危険ね。これがまだ沢山いるのよ?」

「ん、んー、色々面倒なことになりそうだね」

 

 地底異変が終わって間もないのに、また新たな異変が起きようとしていることに、地霊殿が巻き込まれたことに私は憂鬱感と変な胸騒ぎが起こっていた。

 

「さて、こいつらがどこから来たのか調べないとね」

「銃見れば分かるんじゃない?」

「……そうね」

 

 そう言うと、2人で銃にある文字や作りをくまなく調べた。

 

「あ、何か書いてある」

「どこ?」

「ほら、ここ。『我らが命は赤城様のために』だってさ」

「何だか独裁者のようね」

 

 赤城様。これは重要なワードになりそうだ。私はそのワードをインプットし、立ち上がる。

 こいしやさとり達は無事だろうか、また馬鹿みたいに敵で遊

 んではいないだろうか、正直、2人の安否よりもその相手の方が気になる。

 

「ここにいても仕方ないし、こいしたちを探そう。レミリア」

「そうね」

 

 私達は自室を出て、地霊殿の大広間へと足を運んだ。するとそこには笑顔のこいしが飛んでいた。

 案の定だ。案の定過ぎる。

 

「こいし……」

「あ、しんりねぇとレミリアお姉様!」

「こ、こいしが私のことをお姉様って呼ばなくても……」

「いいの!それより、これ何?」

「敵」

「分かってるよ」

 

 そこに倒れているのは体を震わせて倒れている男達。こいつらは一体どこから来たのだろうか。全てが謎に包まれていた。

 それよりも、こいしの容赦の無さに私もレミリアも身震いした。

 

「あなたのとこの妹、末恐ろしいわ……」

「ごもっとも……」

 

 そこに居たのは目と口をテープで隠し、両手足を縛って天井にぶら下げられている大男が大勢。これは全てがこいしの仕業なのだ。

 

「どしたの?」

「いや、なんでも……」

 

 やっぱり、どれだけ可愛くても本気で怒らせてはいけない相手はこいしなんだ。と、今日改めて実感できた。




この度、「ハートだよ!覚り三姉妹!」はコラボすることとなりました。

お相手は「古明地さとりは覚り妖怪である」で有名の鹿尾菜様です。
私のような矮小な存在がこのような方とコラボ出来るのは失礼極まりないのですが、コラボしちゃいます!

まだ日時は決めていません。よろしくお願いします。


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1vs500、連合軍の裏

コラボの方は少々お待ちを……もうすぐで終わりますので、明日か明後日に……


 地霊殿内は大勢の敵がいた。未だ正体が分からないこの集団は少し気味が悪かった。

 レミリアと私、こいしの三人で地霊殿内部を歩き回る。

 

「………多いね」

「そうね、この量だと、三人じゃ相手するのは大変かも」

「…さとりねぇは?」

「多分、どこかにいると思うけど」

「しんり」

 

 レミリアに名を呼ばれ、私はそちらに意識を向けた。すると地霊殿のホールには、倍以上の集団がさっきの銃を持って入ってきた。今ここにいるのは、ざっと五百。頭が痛くなる人数だ。しかし、相手に出来ないことは無かった。

 

「私一人でやるよ」

「ちょっと、本気なの?しんり」

「うん、こいしとレミリアはここにいて、地霊殿にいる妖怪は私しかいないという認識をあいつらに植え付けておいた方が後が楽でしょ?」

「でも……」

「大丈夫だよレミリアお姉ちゃん。しんりの強さは霊夢や神奈子、諏訪子なんかよりも全然強いから」

「そ、だから安心して」

 

 何故か、この戦いには絶対的自信があった。こいつらなら倒せる。勝てるとそういった自信。これは余裕ではなく、自分の実力を見極めた上での……だ。

 

「だから、レミリアとこいしはここに」

「……ええ」

 

 地霊殿のメンバーは人数が少ないため、占領されるのは人数の比率からして仕方ない。

 なら、同じ人数に合わせればいいだけ、実に簡単な作業である。

 私は角から姿を現し、敵に自分を認識させた。すると一斉に黒い武装服をきた男達は銃口をこちらに向けた。私はそれに少しだけビビってしまう。

 

「……誰だ?」

「ようこそ地霊殿へ。私はこの地霊殿の主、古明地しんりと申します。今日はどう言ったご要件で?」

「…幻想郷のパワーバランスの破壊ですよ」

「っ!」

 

 男達の間から出てきたのは、真っ赤なロングヘアーの美女。凛とした佇まいに、露出の激しい着物。この場にいるのは、どう見たって場違いだろうと思った。

 

「……あなたは?」

「私は赤城、ステナミア連合第一軍隊、総合指揮官です」

「……そこまで情報を漏らしていいの?」

「ええ、今から死にゆく者がいくら情報を持っていても、すぐに消去されますしね」

「……そっか」

 

 完全にやる気だ。私は少し距離をとり、スペルカードを一つ取り出す。

 しかし私の中には一つ引っ掛かりがあった。ステナミア連合軍。どこかで聞いたことのなる名前に私は少しだけ考え込んでしまっていた。

 

「さて、今からここを支配いたします。第一軍隊!位置につけ!」

 

 訓練でもしたのか、統率された男達の動きに少しだけ感心してしまう。するとあっという間に私は男達に囲まれており、逃げ場がない程にぎっちりと包囲された。

 

「本当に殺す気なんだ。なら、こっちもそれ相応の対応をさせてもらうよ」

「……「あのお方」からあなたと博麗の巫女、雅の兎、核融合の鴉は要注意とお告げになったのでね。先に排除しておくことに越したことはないのです」

「そう……」

 

 にやっと笑う赤城。その顔は極悪の顔、私はそんな顔をする人を見たことがないので、少しだけたじろいでしまう。

 赤城は右手を天井に向かって上げる。男達は引き金に指をかけた。

 

「……………始め!」

「っ!」

 

 ズガガガガガガガガガガ!!!

 五百人が同時に射撃を始めたため、もう本当に逃げ場は無かった。

 レミリアとこいしの方を見ると、心配そうな顔でこちらを見ていた。まぁ、こいしに至っては別の意味で心配しているんだろうけど……

 

「スペルカード、心符「ハートバレッタ」」

 

 私の周りは厚い防御壁が出現し、弾丸はその壁の中にめり込んで停止した。私の方に届く弾丸はゼロ。全てが壁で防がれていた。

 

「はーずれ」

「………」

 

 私は余裕な態度を見せ、強力な力があることを誇示する。そして、私はもう一度スペルカードを取り出した。

 

「スペルカード、岩符「ブロックレイン」」

 

 岩石が雨のように降り注ぎ、男達は全員その岩に潰されるが、死ぬことはない。多少の気絶はあるだろうが、死傷率はゼロパーセントである。

 

「さぁて、赤城。といったかな、あなた達の目的は本当に幻想郷の崩壊なの?「あのお方」とは誰のことさ?」

「………あなたは本当に恐ろしい。幼い体をしながら、ここまで強力だとは………残念ながら、これ以上の情報は伏せておきます。この力は予想外だったのでね」

「ま、待って!」

 

 私が赤城を止める前に赤城は眩い雷光と共に姿を消した。私は軽く舌打ちをして、レミリアとこいしの元に戻る。

 

「お、驚きだわ……しんり…あなた……」

「しんりねぇ……ちょっと本気出しすぎじゃない?」

「そこまで出してないんだけどな……」

「……霊夢よりも絶対強いじゃない」

 

 レミリアは未だ驚きを隠せていないようだ。

 そんなレミリアを横に見ながら、私は次の場所へと移動し始める。

 

「しんりねぇ、こいつらって結局なんなの?」

「なんか、「ステナミア連合軍」って言ってたんだけど……」

「あっ」

「ん?」

 

 ステナミア連合軍の名を出した瞬間、レミリアは驚きと恐怖の顔に染まった。

 

「どしたの?レミリア」

「ステナミア連合軍って………」

「レミリアお姉ちゃん?」

「い、いえ、ごめんなさい。何でもないわ。それよりもさとりやフラン達が心配ね」

「そう……だね、とりあえず、他のメンバーを探そう」

 

 レミリアは一つ咳払いをして、一つ一つの部屋を虱潰しに探していく。

 私は「あのお方」「ステナミア連合軍」。この二つのワードが頭の中で反芻させられていた。ステナミアというのはどこかで聞いたことがある。

 

「ステナミア……………ステナミア……………あっ」

 

 私はようやく一つのもやもやが消えた。これが確信という訳では無いが、大体の予想がついた。しかし、あの子がそんな大所帯を作り上げることなど不可能だろう……あの子の父親が……かな?

 

「セリカナ……ちゃん……じゃないよね」

 

 まさか、あんな幼い子が大きな軍隊を統率する力なんてあるわけが無い。「あのお方」がセリカナちゃんならば、それも違う。お嬢さまと呼ばれていたセリカナちゃんはどう見たってアレが素なんだから。

 

「……り…んり…………しんり!」

「っ!な、何?」

「大丈夫?顔色が悪いわよ?」

「大丈夫……早くさとり達を探そう」

 

 私はステナミア連合軍のトップに、友人が隠れていると知った今、恐怖が唐突に襲いかかってきた。

 それに、さとりやフランちゃん。どちらも地霊殿にいないとなると、本当に危ないかもしれない。早く見つけないと……

 地霊殿を三人で歩いている間、私はずっと心臓の鼓動が激しくなっていた。

 この連合軍の裏には、必ずセリカナちゃんと……その親族が隠れている。そう、確信していた。



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絶望の日、叫び声

今回はかなりシリアス&グロ要素&鬱要素。

まじで無理な方はブラウザバックを、割とマジで。


「ごめんね、しんりちゃん……ごめんね……」

 

 激しく燃える業火の中、黒髪の少女はすすり泣いていた。白い服を身にまとった少女は「半分が赤くなっていた」。そして、右手には服と同じく、銀色の刃に赤色が着色されていた。

 

「これで………これでぇ……!」

 

 少女は歓喜した。悲しみと同時にこみ上げてくる笑み。涙を流しながら笑う少女の目の前には赤く染まり、「生き物だったもの」があった。

 形として残っているのは、銀色の髪、黒いセーラー服。そして、「雅」と書かれた看護師用のネームプレートだった。

 

「待っててね……しんりちゃん…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーこれは酷い……

 薬の訪問販売から帰ってきた彼女は自分の住まうべき所、永遠亭が火炎に包まれていることに驚きを隠せなかった。そして彼女は入口の壁に寄りかかっている白衣を纏ったの銀髪の女性がいることに気づく。

 

「し、師匠!」

「う、……うどんげ……なの?」

「はい、これは一体どうしたのですか!?」

「確か……ステナミア連合軍…………って……」

 

 かくんっと、師匠の体重が彼女にのしかかる。

 彼女は驚きながらも、師匠の心音を確認する。

 ………どうやら気絶したみたいだった。彼女は安堵のため息を漏らし、師匠をそのまま壁に寝かせる。

 師匠がやられたんだ。相当な実力の持ち主がここにいるのだろう。正直、師匠以上の強さを持つものは幻想郷にはいないと言われるほど。「最強」の一角だった師匠がここまでボロボロにやられるとなると、幻想郷を滅ぼせるくらい……

 彼女はそこで悪寒が走った。能力を発動し、いつでも戦闘オーケーな体制で永遠亭内部に入っていく。

 

「……誰かいるんでしょう?出てきなさい!」

 

 …………答えは何も返ってこない。息を潜めているのか、それとももうここにはいないのか。とりあえず銃で物を破壊し、隠れ場所を探していく。

 

「いるのは分かっているのよ!!」

「あれ?まだ残ってたんだ?」

 

 彼女の背後から聞こえた声は幼く、可愛げのある声だった。驚きつつも振り返ると、そこには返り血らしきものに染まった服を身にまとった黒髪の少女がそこにいた。

 

「……誰よ?」

「誰でもいいでしょ?」

「……何人殺したの?」

「んー?まだ一人だよ?」

「誰?」

 

 だんだんと、彼女の顔色は青くなっていく。怖くて、足が震え、銃の標準もバラバラだった。

 少女は悪戯に笑い。ニヤリと笑う。その笑顔は可愛くて、幼くて………怖かった。

 

「誰だっけかなぁ?」

「教えなさいよ!!!」

 

 燃え盛る木造の建築が次々に倒壊していく。彼女は絶叫し、銃を一発撃つのだが、もちろん当たらず、後ろの柱を貫通した。

 それでも少女は動じず、淡々と答えていく。

 

「んー、仕方ないなぁ」

「……」

「なんか可愛いセーラー服?みたいなの着てて、兎さんの耳が生えてた!」

「ッ!」

 

 彼女の世界は止まったような気がした。彼女はもう誰なのかおおよそ予想はついているが、何故か引き金を引けずにいた。それは、まだあの子が死んだと信じたくないから、他の子が死んだ可能性をまだ信じていたいから。

 しかし、そんな希望は一瞬にして、塵となった。

 

「「雅」って書いてたなぁ……?」

「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 引き金を何度も引く、何度も何度も何度も。しかし、そんなものは無意味とわかっていた。一発も当たらず、ただ消費しただけ。

 

「嘘よ……嘘だよね……瑞乃……」

「あららー、お友達だった?ごめんね!この奥に「瑞乃ちゃんだったもの」はいるから、んじゃねー!」

「……ちなさい」

「んぅー?」

 

 彼女はもう一度、銃を向ける。その手は震えており、彼女の目からは大粒の涙が頬を伝っていた。

 

「あなたは誰なの?」

「…」

「答えろ!!」

「私の名前?君を生かしておくなら教えられないなぁ……」

 

 この際なら、私も死んでしまおうか。瑞乃のいない世界など考えられない。生きていきたくない。

 

「……じゃあいいわよ。殺してよ。あなたの名前を永遠に恨み続けるから」

「へぇー、たいそうあの子に執着してたんだね!じゃあお望み通り」

 

 少女は右手からナイフを取り出し、私の額に先端を付ける。そして額から少量の血が流れる。

 

「瑞乃………」

「じゃあ、ばいばい」

 

 最期、少女の冷めた声が彼女の脳裏に焼き付いた。その後、小さく、少女は呟いた。

 

「長門……だよ」

 

 瞬間、意識が途切れた。「長門」その名を胸に刻み、永遠に恨み続けながら、彼女の意識は暗闇へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁん!もう!敵多いよ!」

「ちょっとうるさいわよ。しんり、黙ってて」

「うぐっ」

 

 私達は今、地底から地上へ続く道でさとりとフランを探す。途中、お空、お燐、咲夜、美鈴は地底に潜む敵たちと交戦していたため、遠回りをして二人を探していた。

 

「しんりねぇ、レミリアお姉ちゃん。地上に出ない?」

「……そう………だね。それが良いかも」

「そうね」

 

 私達は歩く方向を変えて、地上へと向かっていく。ここから案外近いので、すぐに出ることが出来る。薄気味悪い洞窟なので早く出たい一心だった。

 

 

 数分後、ようやく地上に出た私達は言葉を失った。断末魔の叫びが遠吠えのようによく響く。目の先には赤色に燃える人里とその奥に見える迷いの竹林。目を覆いたくなった。

 

「嘘………瑞乃達は……?」

 

 重い足取りで坂を下っていく。私の目は虚ろになり、生気を感じられなかった。そんな私をレミリアが引き止めた。

 

「落ち着いてしんり。まだ死んだとは決まってない」

「そう……だよね」

「でも、急ごう。何があるか分からないよ」

 

 私達は地面を蹴り、空へと飛び立った。そして全速力で迷いの竹林へと入る。人里の火は未だ人里警備隊によって消化されていた。

 これがステナミア連合軍の目的なのか?本当に幻想郷の支配なのか……?

 ちらりと見えたセリカナちゃんの屋敷、もちろん火炎の渦に飲み込まれていた。

 竹林に入ると、下には妹紅さんが永遠亭に向かって走っているのが見えた。

 

「妹紅さん!」

「あ?あぁ、アンタ達か」

「今から永遠亭に行くんですか?」

「あぁ、しかし、すまん!あたしは再生の途中なんだ。先に行っててくれ。うまいこと飛べない」

「は、はい」

 

 妹紅さんの体の傷は意外とひどかった。腕の皮膚が剥がれ、血が滝のように流れていた。

 あれを見ると、永遠亭も物凄く心配だった。

 

「ねぇ、あれ……」

「………え、永琳さん!?」

 

 入口に座り込んでいたのは八意永琳。永遠亭の医者だった。ボロボロの体が誰かと戦闘したことを物語っていた。幸いにも気を失っているだけのようだ。

 

「………奥に入ろう。みんなの安否を確認しなきゃ……」

「え、ええ…」

 

 私の心臓の鼓動は早くなるばかり、何でだ?この胸騒ぎは一体何なんだろうか?しばらく進むと、辺りには血が飛び散り、戦場のようだった。

 その真ん中には、紫色の髪の少女がうつ伏せで倒れていた。

 

「鈴仙さん!」

 

 体を持ち上げると、頭から出血していた。私は慌てて心音を聞く。

 とくん………と一度だけだが小さく鳴ったのが聞こえた。

 

「よ、良かった………」

 

 鈴仙さんも無事なようだが、このまま放置すると確実に死んでしまう。今は医者もいない。

 

「レミリア!」

「な、何?」

「鈴仙さんを見といて!私は瑞乃達を探す!」

「え、ええ!」

 

 レミリアに鈴仙さんを任せ、私はこいしのあとを追う。永遠亭の敷地は意外にも広いので、瑞乃達を見つけるのは至難の技かもしれない。 こんな大きな襲撃も初めてなので、皆驚きを隠せないはずなのだが、幸いにも死者は一人もいなかった………はずなのに…

 

 

 

 

 

「し、しんりねぇ………」

「ど、どうしたの?」

 

 口を両手で塞ぎ、目からは涙、震える右手の人差し指がどこかを指していた。私はその先を見る。それはあまりにも無情で、残酷で、凄惨なもの。

 

 

 

 

「え………瑞乃……?」

 

 

 

 大量の血を流し、もうこれを「生き物」と呼んでいいのか分からないくらい凄惨な状態の瑞乃がそこにいた。

 信じたくなかった。しかし、うさ耳や銀髪、更には「雅」のネームプレートまであったら信じるしかなかった。

 私は倒れる瑞乃の前まで走り、改めて瑞乃を見る。

 

 私はこの時、人生最大の絶望を味わったような気がした。

 

 膝をついて、顔を手で塞ぐ。

 嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!

 こんなの、こんなの……!

 この瞬間、私は瑞乃と出会ってからの記憶が脳裏をよぎった。もう瑞乃はこの世にはいない、目を覚まさない。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 私の叫び声が竹林に反響した。

 その声は炎と混じった熱い風と共にどこかへと運ばれていった。




鬱すぎて………あぁ……


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真実の歯車、平行する事件

遅れてすいませんっしたぁ!


 永遠亭は完全に消火され、焼け跡だけが残っていた。幸いにも形が完全に崩れることはなく、再建は可能だそうだ。私達は永遠亭の外側の壁に寄りかかっていた。

 

「………」

「………」

 

 全員が黙る。しかし、気まずさなどなかった。それは、みんなが瑞乃の死を悔やんでいるから。私、こいし、レミリアの三人だけ。今のところ襲撃はなく、永琳さんも鈴仙さんも無事だったが意識が戻らないのでベッドに寝かせている。

 

「……ねぇ、しんりねぇ」

「…………ん?」

「……誰……なんだろうね?」

 

 こいしの言う「誰」というのは恐らくこの「ステナミア連合軍」に関してだろう。瑞乃の遺体からは何も証拠は掴めなかったため、鈴仙さんと永琳さんが覚めるのを待つしかなかった。

 

「分からない……」

 

 でも、私がそいつらを恨んでいることは確かだ。それだけは胸の奥に秘めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ………はぁ………」

 

 私は拘束された腕を解こうとするが、石のように硬いロープはビクリともしなかった。薄暗い部屋に金属の匂い、隣ですすり泣く声だけがここの印象だった。

 

「う、うう……お姉さまぁ……」

「ちょっと!これはどういうこと!?」

 

 バチンっ!と私は頬を平手で叩かれる。叩いた相手には私は少し見覚えがあった。

 

「だーめっ!しんりちゃんが見つかるまで、君にはここを離れて欲しくないんだよ」

「あなたまさか………セリカナ・クレセ・ステナミア……」

「うーん、私はこの名前が嫌いでね。長すぎて覚えにくいでしょ?「長門」って呼んでよ……」

 

 小悪魔的笑みが零れる。セリカナ……もとい長門は私に顔を近づけて、小さく囁いた。

 

「私達は古明地しんりと博麗の巫女が目的なの………だからじっとしてて?」

「う………あっ……」

 

 何か、私の中から抜かれるような感覚に陥り、まるで内蔵を全部抜かれたのかと言わんばかりの激痛が私を襲った。

 

「あ、ああああああああああ!!!」

「さ、さとりお姉ちゃん……?」

 

 隣で叫ぶ私を見てさらに涙が零れるフランさん。しかし私にはそんなことを考える余裕など無かったのだ。

 

「赤城、加賀」

「はい」

「この子達の監視をお願い。私はしんりちゃんを探してくるよ」

「………了解しました」

 

 すると、長門はここから立ち去った。私は激痛が収まり、顔面を顔につけ、痛みに耐えた。そしてある程度痛みが回復した後、周りを見た。

 

「さとりお姉ちゃん………大丈夫なの?」

「ええ、心配かけてごめんなさい……大丈夫です……」

「あらぁ?だめよ、私語は慎みなさい?」

 

 少し露出した女性。赤い衣服を纏っているので恐らくこちらが「赤城」なのだろう。

 近くまでより、赤城はそれだけ警告した。そして、その場でニコリと笑い、すぐに離れた。

 

「(赤城……加賀……長門……どこかで)」

 

 この三つの名前にはどこか聞き覚えがあったのだ。何かの本だろうか?姉さんが何かを話していた気がするのに………

 

「おやおや、しんり様のご姉妹ですか」

「あなたは……」

「私、セリシウス・クロミーと申します。セリカナお嬢様の執事でございます。以後お見知りおきを」

「……」

 

 返事をする余裕などない。フランさんですら、この二人に怯えている。狂気を操り、ありとあらゆるものを破壊することの出来るフランさんが。

 私は下を向き、ただ助けに来てくれるのを祈っていた。それが届けばいいのに……とただ願いながら。

 

「早く………助けに来て…………………………しんり姉さん…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「れ、鈴仙さん!」

 

 ベッド室に戻ると、鈴仙さんが目を覚ました。赤い双眸はまだ虚ろだが、意識はあるようだ。

 

「大丈夫?」

「れ……みりあ………さん?」

「そうよ、あなたが倒れた理由、覚えてる?」

 

 レミリアが心配そうに鈴仙さんの顔を覗く。鈴仙さんはレミリアを見た後、何かを思い出し、目を見開いた。

 

「瑞乃っ!」

 

 鈴仙さんが勢いよく立ち上がるのを見て、私は鈴仙さんを抱きしめた。それは、動こうとする鈴仙さんを止めようとしたのか、それとも自分が人肌恋しくて抱きついたのか、分からなかった。

 

「落ち着いて聞いて!鈴仙さん………瑞乃は……」

「やめて!何も言わないで!瑞乃はまだ死んでない!」

 

 現実逃避をする鈴仙さんに私は体を離し、思い切りビンタをした。快音が竹林に反響する。

 

「瑞乃はもういないの!死んじゃったんだよ!」

「っ!…………うぅ………」

 

 自分の心臓を抑え、泣きじゃくる鈴仙さん。私はその鈴仙さんの背中をゆっくりと摩っていた。

 

 五分後、落ち着いた鈴仙さんは一つ息をついて私を見据えた。

 

「迷惑かけてすいません。しんりさん」

「大丈夫ですよ」

 

 立ち上がりが早いな。と私は心の中で鈴仙さんに感心した。

 

「とりあえず、ココであったことを話してくれませんか?鈴仙さん」

「………ええ」

 

 険しい顔になった鈴仙さんの口から出たその言葉は私の心に大きなダメージを与えた。

 

「まず、瑞乃を殺し、永遠亭を燃やしたこの軍隊の最高軍司令官は……「長門」………幼い体をしていながらも、戦闘力は桁外れでした。長い黒髪が目立ち、身長はしんりさんよりも低めです」

 

 それを聞いた瞬間、私は膝をついた。そして自分の頭を抱える。

 

「嘘……セリカナちゃんが……最高軍司令官……?」

 

 第一軍隊司令官は地霊殿で出会った『赤城』。そして、ステナミア連合軍そのものを動かしている最高軍司令官が……セリカナ・クレセ・ステナミア。

 

「なら………確実に…鈴仙さん、セリカナちゃん以外に敵はいましたか?」

「いえ、彼女一人でした」

 

 鈴仙さんも瑞乃もセリカナちゃんにやられた。つまり、二人以上の力をセリカナちゃんは持っているということ、私はそれを知った途端に背筋が凍る。

 

「セリカナちゃんは……長門と名乗った……」

 

 長門。それは阿求さんの「真実の歯車」にて登場した「戦艦」という船。あちらの世界に存在したものだ。

 そして、赤城、加賀。この二つは「航空母艦」、戦闘機や爆撃機という飛行物を搭載する船だという。

 

「ってことは……外の世界から…………?こいし、レミリア、私は一度地霊殿に帰るよ。二人はここにいて」

「な、しんりねぇ、危険だよ!」

「そうね、私もそれはお勧めしないわよ」

 

 二人は私を止めた。しかし、私は地霊殿に帰ってやらなければいけない事がある。

 

「大丈夫、私は死なないよ」

 

 そう言って、私は永遠亭の地面を蹴った。勢いよく飛び、肝が冷えるほどのスピードで空を飛んだ。風が熱い。まぁ、これだけ家屋が燃えてたら、風にも影響するか。と、勝手に自己解釈して、すぐに地底内に入った。

 

「あれ、阿求さん?」

 

 入口に立っていたのは、小柄な人間、稗田阿求さんだった。私が声をかけると、こちらを振り向いた。

 

「あ、しんりさん……」

「どうしたんですか?」

「実は……」

 

 少しずつ顔が暗くなっていく阿求さん。私はその顔を見て唾を飲んだ。

 

「真実の歯車が……現実に出てきているんです……」

「え?」

「真実の歯車そのものの物語と並行してるんですよ」

 

「真実の歯車」は、一人の女性が彼氏の浮気相手を殺す物語、その女性は警察の目から避けるため、「横須賀」とい所の海軍基地に逃げ込む。そこで、女性はそこで自害する……という物語だったのだが、いまいちピンと来なかった。

 

「あっ!」

 

 私は少しだけ辻褄が合わさり、閃かせることが出来た。

 

「阿求さん、あなたはここにいては危険です。私と一緒に来てください」

「え?きゃっ!」

 

 阿求さんの手を握り、私は思い切り飛ぶ、飛べない阿求さんは可愛らしい声を出し、私にしがみついた。

 考えたくないが、セリカナちゃんの考えていることが少しだけわかった気がした。



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黒幕、シナリオ

マジ申し訳ない。

いや、これから書いていこうと思う。

ほんとに申し訳ない。こんなに月日が経つのが早いとは……

まぁ、シスコンの方も書いていきますので


 阿求さんを抱えた私の体は少し重かった。

 最高司令官のセリカナちゃん、基、「長門」。そしてその部下であるセリシウス、「加賀」。もう一人の女性、「赤城」。

 全ては阿求さんが描いた外の世界での物語、「真実の歯車」で登場した戦艦、航空母艦。これは、ある戦いで無残にも海というところで沈没してしまったらしい。

 

「……なら、あの軍隊は……外から……でも、何が根本なんだ?」

「……」

 

 阿求さんは黙って私の背中に乗っていた。

 そもそも、このシナリオは「真実の歯車」と酷似している。

 というより、ほぼ同じような、戦い、一つの街が軍隊によって陥没。

 

「………………っ!!!」

 

 分かった。分かってしまった。私はその瞬間、阿求さんを突き飛ばした。

 

「きゃぁぁ!」

 

 人間である阿求さんはそのまま重力に従って落ちる、飛ぶことなんて出来ない、はず。

 それなのに、阿求さんは「黒い羽を生やして」飛んでいた。

 

「あっぶないですねぇ……」

「あんた……誰?」

「おやや?バレちゃった?」

 

 私はふざけた態度をとる阿求さんの偽善者に向かって詠唱を始めた。

 

「岩符「ブロックレイン」!」

「手厚い挨拶だこと」

 

 阿求さんの偽善者は降り注ぐ岩石を右手一本で張った結界で防いだ。

 すると、"私の知ってる"阿求さんの姿はもうそこにはなく、「黒幕」の正体があった。

 

「稗田阿求っ……」

 

 この異変の黒幕にして、「真実の歯車」の著者、稗田阿求だった。

 

「あら、気が付かれましたか?」

「それに、あんたは元々の阿求さんじゃなくて、何か取り憑いてるんだ」

「そこまで分かっちゃう?」

「気を操る能力を舐めないでよね」

 

 最近、私が気づいたことだが気を操る能力は、割と何でもできた。心も読めるし、人の感情も操れる、行動も制限できるし、殺すことも出来る。しかし、私がそれをしないのは、その力が微弱だからだ。

 心を読むのはあまりさとりと変化はないが、感情や行動の制限は力のない人間や妖精、下級妖怪にしか効果はない。ましてや、殺すことなんて出来ないのだ。

 

「中身は……怨霊か………」

 

 無力な人間はどれだけの微弱な怨霊でも、取り憑かれてしまう。でも、今回の怨霊は違う。この強さは今までの比じゃない。

 

「あんたはセリカナちゃん達をどうやって操った?」

「簡単だよ?精神のコントロールはね。あんな可愛い少女に超強力な霊を流し込んだから、実力はある」

「………」

 

 最低だ。何も知らないか弱い女の子に霊を流し込んで、あたかもセリカナちゃん自身が悪を働いているかのように見せて、幻想郷を崩壊させるつもりなのだ。

 

「あの軍隊は?」

「あいつらも同じ、外の世界の陸軍のヤツらに流し込んだんだ」

「霊が人間に入り込んでまでして、幻想郷を襲撃する理由は何?」

「………半分の目的は達成したんだよ」

 

 意味有り気に怨霊は答えた。私はその答えに対して納得がいかず、首をかしげてしまう。

 

「どういうこと?」

「私達は「月の霊」。名も無き玉兎に私達は消されたんだ」

「名も無き玉兎って………まさか……」

「あぁ、セリカナが殺したあの兎さ」

「瑞乃がなにをしたっていうのさっ」

 

 私の叫びに対し、怨霊は私を睨みつけた。それはまるで殺意むき出しの猛獣のような。そんな眼をしていた。

 私が気づいた頃には阿求の手が私の首を絞めていた。

 

「あっ………がっ……」

「何をした?何も知らない覚り妖怪が知ったような口を聞かないで」

 

 更に、力を強め、私は声も出せなくなってしまった。私が力強く腕を握っても阿求はびくともしない。

 

「あいつはっ……私たちを…宇宙へ放り投げたんだ。それも、1匹ずつ拷問をした後にね…」

「っ!?」

「そんなの、誰が許すの?あんただったら、笑って許せるの?」

「………」

 

 何だ、この違和感は。

 違う、何だか、これは違う気がする。

 考えるよりも先に私は手が出ていた。

 

「嘘」

「っ!」

 

 ガァァンっ!!と骨が当たる音がすると同時に阿求は吹っ飛んだ。私の膝蹴りが、頬に入ったのだ。

 

「な、なん、で……」

「さっき言ったでしょ、気を操る能力を舐めるなと」

「……」

「なるほどね。月面戦争か、怨霊は中立側だったのに、月側に攻撃されたわけだ」

 

 阿求は諦めたように溜息をつき、先ほどの余裕を取り戻していた。

 

「そうよ、そんなの、怨霊への宣戦布告。でも、月面戦争ではダメージが大きすぎて反撃はできなかった。でも、今日まで戦力を整え、襲撃への作戦も考えて、襲撃したんだ」

「それで……人間に入り込んで身を隠した……」

「そういうこと」

「それでも、無関係な人を巻き込んでまですることなの?」

 

 阿求に一歩近寄る。それを弾くように声を張り上げる阿求。

 

「仕方ないんだよ!月の奴らがここに来たなら、私はそれを殺そうとしたまで、だからセリカナに永遠亭を潰すように命令した。でも、軍を連れてきてしまったのは誤算だった、ここまでの被害はこっちも想像してないよ」

「………鈴仙さんと永琳さんは生きてる」

「っ!」

 

 阿求の顔は絶望に染まったようなそんな顔をしていた。しかし、その顔を見れた私は安堵の息を漏らし、口を緩める。

 

「良かった。殺せなかった、つまり、セリカナちゃん自身、「殺すのをやめた」んだ」

「………人間がそんなこと……」

「出来る。セリカナちゃんの意識が残ってたんだ。怨霊の厚い壁で出来ている支配された意識からにじみ出た「本当」のセリカナちゃんの意思が現れたんだ」

「……どうやら、人間を甘く見ていたみたい。もちろん、あなたもね」

「そりゃどーも」

「なら、この体も必要ないわ。もっとも、あなたにバレた時点でだけどね。古明地しんり」

 

 意味深な言葉を放った阿求に私は首をかしげた。しかし、説明する気は毛頭なかったらしく、急に阿求の意識が無くなった。

 

「なっ!?」

 

 私は意識の消えた阿求が落ちるのを防ぐため、阿求に近寄り抱える。

 

「抜け出すのも簡単ね」

 

 背後から聞こえる声はさっきの阿求の声とは全くの別物だった。阿求を抱えたまま、背後に振り返る。

 そこにいたのは、黒いワンピースを身にまとい、常人よりも白くなった肌と銀色の髪。幽霊というのを醸し出していた。

 

「あんたが……この異変の黒幕の……」

零羽(れいば)紗姫(さき)よ。よろしくね」

「零羽………」

 

 聞いたことはない。というより、幽霊らしい名前かと思いきや、可愛い名前があったみたいだ。

 怨霊は人間や妖怪の怨念が死んだ後に具現化することだ。人間の名前があったって不思議ではないのだ。

 

「私が書き上げた「真実の歯車」。どうだったかしら?このシナリオ通りに進め、この後、セリカナ・クレセ・ステナミアには外の世界で自害してもらうつもりよ」

「ど、どうしてそこまで……」

「それが、私の見たい全てだから」

「…………納得出来ないね」

 

 私は拳を握りしめ、唇を噛む。血の味が口の中でするが、そんなの関係ない。

 瑞乃もこいつが手を加えたせいで死んだ。大切な友達、いや、家族とまで認識していた瑞乃を殺した。

 鈴仙さんや永琳さんも傷ついた。

 そして何より、幻想郷を傷つけた。

 

「罪は重いよ……零羽……」

 

 私は怒りに身を任せ、強く零羽を睨みつけた。

 そして、私の白いサードアイは白色がだんだんと濃くなり、黒く染まっていっていた。

 まるで、サードアイ自身が人を殺すかのような殺意と共に。



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零羽との死闘、死んだ古明地しんり

えー、本当にこういうの好き。

主人公が覚醒するの好き


 これは弾幕ゲームではない。本当に相手を殺しに行かなければ、私が死ぬ。

 

「零羽ぁ!」

 

 私の弾幕は案外零羽を苦戦させていた。展開する勇儀さんにしごかれた弾幕は霊夢も驚愕するほどのものだ。自信はある。

 

「はぁ……はぁ」

 

 私の方も体力が限界まできたので、一度零羽と距離を取る。

 そして、時間稼ぎのために、私は零羽に質問を投げかけた。あくまで時間稼ぎのためのはずだった。

 

「零羽、あんたは……人を殺したことがあるの?」

 

 零羽の顔は一度驚いたような顔を見せた後、ニヤリと不敵で気味の悪い笑みを浮かべた。女性でも見とれるような美貌なのに、今回ばかりは不気味に見えた。

 

「あるよ。何人、何百人とね……」

「…人里には手を出さないで」

「……」

「あそこには、人間の子供や、将来を決めた若者が多くいる。そんな人たちを殺さないで」

「それはお願いなの?わざわざ敵のお願いを聞くとでも?」

「命令だよ」

 

 私はそう断言した。強く睨みつけ、零羽に圧力をかける。しかし、零羽は手を広げ、こう放った。

 

「それは無理なお願いだねぇ!」

「なっ……」

 

 一度舌を出し、上唇をぺろりと舐める。先ほどよりもオーラを出し始めた零羽は周りの木々を枯らせていた。

 

「もう、人里の人間を15人。殺したよ……」

 

 狂ったような笑みに私はぶちん、と何かが切れる音が体内でなった。

 

「お前………じゃあ次」

「これで最後だよぉ?」

「さとりとフランちゃんは?」

「…………」

「心を読めばわかる。あんたはさとりとフランちゃんと居場所を知ってる」

 

 人里の人間を殺したとわかった今、さとりとフランちゃんの安否が気になる。

 襲撃を受けてから、一度も2人と会っていない。それに、零羽の心の片隅に2人の顔が浮かんだ。

 

「……今頃、独房で泣いてるんじゃない?」

 

 今度こそ、私は切れてしまった。

 白いサードアイは漆黒に染まり、周りには黒い雷光を纏っていた。

 

「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 ただ怒りに身を任せ、私は素手で殴り掛かるしかし、余裕の無くなった私の拳なんか、そこら辺の下級妖怪と同じようなものだ。零羽はニヤリと不敵に笑い、それを躱した後、背中を蹴った。

 

「かはっ……」

「ほらほらぁ……私を倒さないと、フランちゃんとさとりちゃんは助けられないよぉ?」

「……岩符「ブロックレイン」!」

 

 物理的な攻撃のブロックレインは幽霊である零羽には透けて通ってしまう。

 先程まで、私の方が優勢だったのに、零羽の一言で一気に立場が逆転してしまった。

 

「…さとりとフランちゃんを……返せよ……」

「…………あの2人は元々、あなたをそうやって激昂させるため。いつ殺してもいいんだよ?」

「やめろ……」

 

 俯いて、拳を強く握る。唇をかみ、血が出る。

 

「…人にものを頼む態度が違うんじゃないの?」

「……」

「…何か答えなさいよ……!」

 

 零羽のかかと落としが炸裂し、私はうつ伏せに倒れ、零羽が私の顔を踏みつける。

 

「『2人を助けてください……』でしょ?」

「………くっ……」

「あはっ、そんなのプライドが許さない?そんなので、大切な妹と友達を殺すの?」

 

 嫌だ。こんなやつに平伏するのが、私は屈辱だ。

 でも、二人が命の危険に晒されてるのなら、そんなの捨てるしか無かった。

 

「2人を…………助けて……ください……」

「……よく言えましたっ」

 

 零羽は右手を広げ、剣を生成した。

 そして、それを高く掲げ、振り下ろした。

 

 

 ザシュッ……

 

 

「あっ、……ああああああああああああ!!!!」

 

 私の叫びが森一帯に響き渡った。

 辛うじて目を開けてみると、私の左肩から腕までが存在していなかった。

 激痛が遅れて走り、蹲る。

 

「あはははははははははは!!どお!?自分の腕が無くなる気持ち!玉兎はこんな痛みを味わいながら死んだんだよっ!?」

「……くっそぉ………」

 

 すぐに再生する。私はそう思っていた。しかし、いつまで経っても出血が止まらない。

 恐怖に私は支配されたのだと、この時に初めて実感した。

 

「再生なんかしないよ?」

「……はぁ……はぁ……」

「どうしてって?再生能力なんて、霊力で抑制することくらい簡単だよ?」

 

 やられた。私は零羽が怨霊で、霊力や魔力を自在に操ることが出来るのを、完全に忘れていた。

 

「さとり……こいし………助けて……」

「絶対に来ないよ?この空間には、あなたの味方は来れない。そう、「あなたの味方」はね」

「……っ!?」

 

 周りを見てみると、赤色の結界が辺り一帯を覆っていた。

 そして、その結界の外から、一人の少女が降りてきた。見覚えのある長い黒髪に血のついた白いワンピースを来ていた。

 

「紗姫」

「あら、長門ちゃん、お疲れ様」

「セリカナ……ちゃん?」

「あ、しんりちゃん。ひっさしぶりぃー!」

「………そんな……」

 

 霊を流し込まれたセリカナちゃんはもう別人だった。前までの明るくて私の好きなセリカナちゃんはもういなかった。

 

「……紗姫、しんりちゃんどうするの?」

「え、あぁ、どうせなら、殺しちゃう?」

「……そうだね。なら、ついでにスカーレットとこいしちゃんのグループも」

「っ!?……やめろっ……」

 

 体が反射的に動く。立ち上がろうとしても、左腕がないので、うまく立ち上がれなかったが、ふらつきながら、時間をかけて立ち上がった。

 

「もう、これ以上、人を……私の大切な人を殺さないで」

「………嫌」

 

 突如、腹を貫かれたような痛み、いや、貫かれたようなではなく、「貫かれた」。

 零羽が投げた細剣が見事に貫通し、私の背後の木に突き刺さった。

 

「がっはっ……」

 

 叫ぶ気力もない私はその場で大量に吐血し、片膝をつく。残った右手でスペルカードを取り出し、抵抗を見せる。

 

「真相「混合のバレットハート」……」

 

 四方からの弾幕を出現させ、セリカナちゃんと零羽を中心へ追い込む。

 

「……くっ、まだこんな余力がっ……」

 

 少し焦っていた零羽。

 私は右手を掲げ、もう一つのスペルカードを唱えた。もう声も掠れて、思うように詠唱も出来なかったが、辛うじて全てを読み上げた。

 

「火焔「燃え続ける心臓」……」

 

 炎を纏った弾幕が上下を塞ぐ。

 

「長門」

「はぁーい」

 

 セリカナちゃんが可愛らしく返事をすると、辺りに魔法陣が現れ、セリカナちゃんは小さく詠唱を始めた。

 

「スプリームホライズン」

 

 大爆発が起こる。それは周りの森を全て吹っ飛ばすほどの威力。もちろん、私もそれに巻き込まれた。

 焼けるほどの熱風、私は数十メートル吹っ飛ばされた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 セリカナちゃんの魔法で辺りは森から焼け野原へと変貌した。

 左腕の切れ目からさらに出血する。もう意識が朦朧とし、今から死ぬんだと、そう思った。

 

「あーらら、博麗の巫女よりも強い古明地の長女って、巷じゃ有名なのに、期待はずれ」

「じゃーねしんりちゃん」

 

 うっすらと目を開けると、私の前に立っている零羽とセリカナちゃん。

 零羽が大きな大剣を生成し、剣先をこちらに向けた。

 

「はい、おーしまいっ」

 

 最後に、そう言った。

 刹那、私の背中に一瞬の激痛。そこから、意識は暗黒へと閉ざされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はぁ、これで死んだんだ。呆気ない人生だったなぁ。こいしとさとりと過ごす日々は何事にと変え難い。

 

 もっと、2人と過ごしたかったなぁ……。

 幻想郷で、霊夢や魔理沙さん、レミリア達とももっと仲良くなって、覚り妖怪として天寿を全うしたかったなぁ。

 

 なら、こんな所で死んでなんかいられない。

 みんなを助けたい、幻想郷を助けたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死にたくなイ………いやダ、殺さナイデ………。

 

 殺されタクナイなら、コロセバイイ………。

 

 アハハハハハ、シンリ、オモテノワタシハ、ヨワスギル。

 

 ワタシガ、チカラヲカスヨ。

 

 

 

 

 

 

 

 サトリヨウカイデ、アナタダケノ……クルッタセイシントチカラ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウフフ、アハハハハハッ!!」

 

 私は奇跡的に生きていたらしいが、生きていたのは、「私」では無かった。今まで見たこともない、「裏の私」。

 

「ワタシハ、零羽トセリカナチャン……ヲ殺ス」

 

 ポニーテールは解け、目は真っ赤、サードアイは暴走したかのように雷電を纏っていた。

 

「サトリ、フランチャン、ミズノ、コイシ、ミンナ………助ケル……」

 

 私の意識は内側に閉じ込められたまま、狂ったような顔をした私はゆっくりと焼け野原を歩いていた。

 

 古明地しんりは生死をさまよった後、狂気に染め上げられた。



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こいしと零羽

「………遅いね、しんりねぇ」

「そうね…」

 

 私とレミリアは永遠亭でしんりねぇの帰りを待っていた。

 数時間前に「一度地霊殿に戻る」と言ってここを出た後、帰ってこない。

 しんりねぇの事だから、襲われたということは有り得ないが、ここまで遅いとどうしてもそれも視野に入れてしまう。

 

「……瑞乃のお墓も作ってあげないとね」

「…恐らく、あいつらは人も殺しているわね」

 

 レミリアの予想は何となく予想ができた。人里からは聞きたくもない断末魔のような人々の悲鳴がこだましていたのだから。

 

「…ねぇ、フランちゃんとさとりねぇは?」

「……分からない。恐らく、異変には気づいているだろうけど、どこにいるのかしら…」

「……レミリア、こいし」

「っ!?」

 

 私たちが永遠亭の入口で立っていると、永遠亭内部から現れたのは、赤と青のナース服。八意永琳がいた。

 脇腹を抑え、苦しそうにしている。するとその脇腹からじわりと血が滲んでいた。

 

「ちょ、永琳!まだ休んでなさい!」

「…2人とも、この異変の黒幕は「本来」のステナミアじゃない」

 

 永琳が掠れた声でそう放った。

 

「え、どういう事よ?」

「分かる。私たちが襲われたセリカナ・クレセ・ステナミア。彼女は月面戦争滅んだステナミア連合軍の司令長官の娘」

「……じゃあ彼女が最高司令官というのは…?」

「デタラメよ」

 

 永琳は即答だった。

 

「セリカナに襲われた時、何故か久々に感じた妖力があったの」

「久々に?」

 

 永琳はここできつくなったのか、壁に寄りかかって、ズリズリと腰を降ろしていった。

 

「ええ、それこそ、「私が月にいた時に感じた怨霊の妖力」ってところかしらね」

「つまり……あいつらは……月の怨霊が…セリカナちゃん達に憑いたってこと?」

「……そういうこと。恐らく、黒幕は…………」

 

 その瞬間、近くで大きな爆発音が響いた。そして、聞いたことのない艶のある声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらぁ?まだ生きていたのね?八意永琳」

 

 

 

 

 

 

 バッと後ろを向くと、そこに居たのは銀髪の女性。

 大それた美貌を持つ彼女は不敵に笑っており、悪寒が走るほど。

 

「あなたは……」

「………零羽……」

「覚えていてくれたの?まさか月の頭脳とも呼ばれたあなたに覚えてもらっていて光栄だわぁ」

「……彼女よ」

「え?」

 

 永琳の顔は今までにないくらい、苦しそうにしていた。

 

「この異変の張本人、怨霊を取り仕切る長、零羽紗姫」

「……どぉもぉ、零羽でーすっ」

 

 陽気な性格とは裏腹に、とんでもない殺気を放っているため、気を緩めることは出来なかった。

 私とレミリアは拳を作り、浮遊している零羽を睨みつける。

 

「あなたはどうして、幻想郷を攻撃したの?」

「……2人は知らないと思うけど、私達はね、以前の月面戦争で中立側に入っていたの」

 

 先程までの雰囲気とは違い、トーンが落ち着き、冷ややかになっている。

 

「それなのに、私達は月側の勢力に攻撃されて、月側が私たちを中立だと認識する頃には遅かった」

「……」

「それで、その時の襲撃してきた月の第二軍隊。それを仕切っていたのが……」

 

 零羽は一呼吸置いて、私たちをしっかりと見据えながら、その一言を強く放った。

 

「最強の精鋭の玉兎部隊、「霊兎(れいと)種族」の長、今では雅 瑞乃と呼ばれているらしいわね」

「っ!?」

 

 私とレミリアは目を見張った。

 あの優しい彼女が月の主力部隊の長というとんでもない階級だからだ。

 

「あら、分からなかったの?考えて見なさい、どうしてそんな主力が地上にいたのか」

 

 言われてみればそうだ。

 瑞乃は兎姿のまま、私に拾われたんだ。地底の町並みにちょこんと座っていたので、不思議に思わなかった。

 

「それは、彼女の間違えた判断で月のトップに泥を塗った。公平であることが優先の月面戦争で、中立を攻撃しては、掟を破ることと同じですもの。追放令でも軽いほうだわ」

「……それが……瑞乃の罪…」

「そう、だから、おしゃべりはおしまい」

 

 零羽の目つきが一気に変わり、不敵に笑った。

 その顔は私の背筋を凍らせるほどの恐ろしい笑みと同時に深い闇を持ったオーラが私を包んだ。

 

「君たちも、殺してあげるよ…」

 

 やばい、やばいやばいやばいやばいやばいやばい。

 これは直感が逃げろと、警告を出していた。

 ここまでの恐怖を感じたことは生きてきて感じることがなかった。

 

「レミリア……逃げよう」

「何言ってるの?ここで逃げたら被害が……」

「私たちじゃ一秒ももたないよ!」

 

 声を張り上げて叫ぶ。

 レミリアは私は焦りと絶望に満ちた顔を見たのか、下唇を噛んでいた。

 

「あら、こいしちゃんせいかーい、私は誰にも止められない。だって…最強の妖怪と呼ばれる、古明地しんりを殺したのだから」

 

 私は一瞬、世界が止まった。

 

「は?」

「聞こえなかった?あなたの姉、しんりは私の手で殺したの」

「……」

 

 終わった。

 この戦いは完全に、そして、私たちの生活も終わった。

 私は両膝を地面に落とし、零羽を見上げる。

 

「…どうして……」

「敵だから」

 

 零羽は表情一つ変えずに、淡々と続けた。

 

「しんりはね、怨霊の中でも最重要人物として挙げられていたの、その割には、なんだか弱かったけどね。どうしてあいつはは、あんな弱っちい覚り妖怪を選んだんだろうね」

「……いや、やめて……」

「いーや、やめないよ?あなたの姉は弱かった。所詮、母親も救えない、あなた達妹すらも助けられなかった、ただの雑魚、あなたは…………」

 

 ザシュッと零羽を貫く音が聞こえた。

 頭を抱えて耳を塞いでいた私はそれを離して零羽を見る。すると真紅の槍が零羽の腹を貫通していた。

 

「口を慎め、怨霊風情が」

 

 レミリアだった。

 その顔は怒り、ただそれだけしか含まれていなかった。

 光のないレミリアの目は味方の私でさえ、恐れるほどの怒気をはらんでいた。

 

「あら、吸血鬼さん、あなたも最強のひとりよね?もういっそここでみんな殺すわ」

「こいし、鈴仙と永琳を連れて逃げなさい」

「嫌」

「………はぁ、永琳、起きれるなら、逃げてちょうだい」

「わ、分かったわ、死なないでよ」

「……」

 

 永琳は足を引きずりながらも、素早く逃げた。

 私はもう涙は乾いていた。

 立ち上がり、レミリアの隣に立つ。

 そして、こう叫ぶ。

 

「殺してやる」

「おー、可愛い顔が台無しだよー?」

 

 煽る零羽に向けて、私はスペルカードを放つ。

 

「「サブタレイニアンローズ」」

 

 回転し続ける弾幕を零羽に向けて出し続けるが、零羽はそれを剣一振りでそれを薙ぎ払う。

 その反動が、私とレミリアに届き、数メートル吹っ飛ぶ。

 吐血をしながらもすぐに立ち上がる。

 

「紅魔「スカーレットシュート」!」

「抑制「スーパーエゴ」!」

「あ〜、無駄無駄、しんりよりも数倍弱い。もういいわ」

 

 零羽は全ての弾幕を避けた後、空を蹴って目にも留まらぬ速さでこちらへと向かってきていた。

 零羽の剣先は私の心臓へと向かっていたが、私は足がすくんで動かせなかった。

 

「(やばい……死ぬ……しんりねぇ……)」

 

 目を瞑る。

 とうとう死を覚悟した私は力を抜いて、なるべく苦しまないようにした。

 しかし、それを叶わなかった。

 

 私の目の前でレミリアが真紅の血を流していた。

 背中からは突き出るように零羽の剣が飛びてていた。

 

「レミ……リア…」

「がぁっ……はぁ……」

「あら、身を呈して助けるなんて、いい友情だこと」

 

 零羽はかき混ぜるように剣を動かす。

 レミリアの中から零羽の剣に何かが移っていき、レミリアから妖力が感じられなくなった。

 

「はい、お疲れー」

 

 零羽はゆっくりと剣を抜く。

 レミリアは人形のように、倒れ込んだ。

 

「レミリアっ!!」

「こい……し……逃げて……」

「いや……死なないで……」

「私は……死なない……」

 

 私の裾をつかみ、震えていた。

 止血をしようとするが、その前に、レミリアはかくんと力が抜けた。

 

「あらあら、レミリアちゃん、死んじゃったかなぁ?」

「ぅ………やめて……よ」

「んー?」

 

 零羽はわざとらしく私に耳を傾ける。

 私は泣き叫ぶ断末魔のように大口を開けて、涙を流しながらも必死に叫んだ。

 

「これ以上!私の大切な人を殺さないでよぉ!!」

「………古明地こいし……愚かな人ね…………興ざめよ」

 

 零羽はへたり込む私の前に立ち、見下すように冷めた声で語りかけた。

 私は今度こそ、ここで死のうと、そう思った。

 このままだと、さとりねぇもフランちゃんも殺されるけど、どうせ私じゃ止められない。

 幻想郷はもう終わりだ。

 

「はい、古明地こいし死亡ー」

 

 振り上げられた大剣が私めがけて落ちてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イタ……零羽紗姫………コロシテアゲルヨ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

 その聞きなれた声、私は声の主を探していた。

 しかし、いくら辺りを見渡しても、私と零羽以外の姿が見えなかった。

 

「ど、どこだ!」

 

 どうやら、零羽も混乱しているようで、息が荒くなっていることがわかる。

 しかし、一瞬で"零羽も姿を消した"。

 その数秒後、遅れてくるように強力な衝撃波と強風が吹き始めた。

 零羽はその先で気に叩きつけられていた。

 

「……アハ、ヨワイジャン……」

 

 先程まで零羽がいた場所には、黒色の綺麗な長髪、白色の服と白色……のはずなのに、黒くて雷電を纏ったサードアイ。

 

「コイシ……ワタシガマモルヨ……」

 

 そこにいたのは、変わり果てた私の最愛の姉、古明地しんりだった。



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古明地しんりの中の「心理」

完全復活!!


いや本当にすいません創作意欲って壁がありました。
こんな作品でも忘れていなければ見ていってください!
またこれから話を続けようと思いますので、何卒よろしくお願いします!


 これが本当にしんりねぇなのだろうか? 

 

「零羽? ドコ?」

「し、しんりねぇ?」

 

 恐る恐る、その「しんりねぇと思われるもの」に問う。純白のサードアイは黒く、赤い雷電を纏って苦しそうにしている。

 

「コいし……レミリアハマダイきてル。連レテ逃げて」

 

 冷めたその声は妹の私でさえも、震えたたせた。

 

「しんりねぇ……」

「どうして……生きてるのよ…………古明地しんり…………」

 

 零羽を見据えるその目は生気を纏ってはいなかった。

 

「……イイかラ…………さとりとフランちゃんを返しテ……」

「……断るわ。というよりも、会いたかったわ、古明地しんり。いえ、古明地しんりの奥に眠る心理……とでも言いましょうか?」

「な、何言ってるの……しんりねぇの奥に眠るって……」

「あら、あなた達には早々にご退場願いたいわね」

 

 零羽の手のひらがレミリアを抱え、座り込む私に向けられる。そして、その手が闇色に染まりきった後、私に飛んできたのは闇色ではなく「赤色」。それも、ビチャビチャとした液体。そして、その液体に紛れ、零羽の右手が切り落とされる。

 

「あ、あ……ああぁぁ!?」

「……だからッ……早く逃げてよッ…………こいしっ!!」

「し、しんりねぇ……」

 

 今はしんりねぇの言葉に従うしか無かった。あんな苦しそうな顔をされて、お姉ちゃんの頼みとならば、それがどんなお願いであろうとも私はしんりねぇに付いていくって決めたんだ。

 

「…………分かった。死なないでね……しんりお姉ちゃん」

 

 二度目だ。この呼び方は。いつもなら小っ恥ずかしいこの呼び方もこの時だけは心にしんりねぇの心に届いたと思う。

 私はレミリアを抱え、永琳と共にこの場をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しんりの今の状態は、誰もが理解出来る状態ではなかった。普段現れている「古明地しんり」の人格と、裏で燃え盛っていた「心理」が同時に表に現れているのだ。

 

「……へぇ…………それが古明地しんりの本当の姿なのね……」

「……そうだヨ……そして…………零羽をコロすタめに……生まれた……もう一つの人格……」

 

 しんりの体には時々ノイズのようなブレが生じていた。零羽はその状態に恐怖すら覚えていた。だんだんと、生き物の域を超えていた。

 

「……恐ろしいわね、ただの覚り妖怪が一転、幻想郷最強の生き物になるなんて……」

「…………」

 

 もうしんりは会話する気が無い。自分が作り上げたシナリオの為にセリカナを利用して瑞乃に手をかけ、親友まで傷つけて、果てには家族にまで手を出した零羽の罪は重い。そう思っている相手に会話をする気なんて毛頭無かった。

 

「……さて、邪魔者もいなくなった事だし、始めましょう? 2人だけの楽しい時間を……」

「……」

 

 ニヤリと不敵に笑う零羽の顔がしんりには染み付いた。しかし、それに負けないほど、しんりの顔も笑っていた。白い歯を見せるその顔は可愛さも残っていたが、零羽には不気味にしか感じ取れなかった。

 その瞬間、しんりは魔法陣を展開させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 勝負は一瞬だった。

 一度目に展開した魔法陣から放たれる弾幕は零羽の全身を襲った。その威力は「心理」が現れる前とは比べ物にならないくらいのものだった。

 永遠亭の壁まで飛ばされた零羽は両腕が千切れ、腹には大きな穴が空いていた。怨霊とはいえ、もう助からないほどの致命傷だ。

 

「……弱スギ……つまらナイなぁ……」

「はぁ……はぁ……」

 

 零羽はもう話すことも出来ないほど激痛が走っていた。いや、もう感覚なんて無いのだ。ただただ、目の前の「心理」に恐怖していた。

 

 

 

 

 

 

 そして、しんりの中で何かが切れた。

 

 足りない。もっと欲しい。そう私の中で求め始めていた。この時、私はどれだけ狂っていたのだろうか。

 

 

 ぜんぜんつまらないんだよなぁ。もっともっと、わたしをたのしませてくれていいのになぁ。たりないなぁ。ほしいな、すべて、わたしのものにしたいなぁ。

 

「ねぇぇ!! もっと楽しませてよぉぉぉ!!」

「ひっ……」

 

 急に叫び、狂気的に笑うしんり。それはもう、女の子の恥とか、姉の威厳とか、全てを捨て、「殺す」事だけに生きてきた「殺人鬼」の顔。

 

「つまらないんだよ零羽ぁぁ!! あんたこの異変の元凶なんでしょ!? もう少し楽しませてよぉぉぉぉ!!」

「……あ、あなた……」

「もういいよぉぉ!! 勝手に解体して……痛い目見せてあげるからさぁぁぁ!! あっははははははっ!!」

 

 しんりが近づく。一歩一歩、狂ったように笑いながら。零羽はもう、ただしんりに集中していた。

 

「いやっ……来ないで……嫌だ…………死にたくない……」

「それはさぁ! ……理不尽じゃないかなあ!! 人を殺す勇気があるのにさぁ!! 殺される勇気は無いのかなぁ!! 覚悟しておきなよそんなものぉ!!」

「いやあああああぁぁぁ!!」

 

 痛みを忘れ、生前最後の記憶が今「恐怖」といった形で刻まれようとしていた。

 そして、我を忘れた零羽はとにかく謝罪をひたすらに唱えていた。

 

「ごめんなさいごめんなさい! 人を殺してごめんなさい! 何でもする! だから、私を殺さないで!」

「そうやってさぁ!! 命乞いをする人達を殺してきたんじゃないのぉ!!??」

「ひっ……いや……」

「死んだ人に償うのは……自分が死ぬしかないでしょぉぉぉぉ!!」

 

 当然、しんりには零羽の命乞いなんて届くはずもない。彼女の中にはもう「優しい心」は残っていない。残っているのは「殺す楽しさ」だけなのだから。

 

「じゃあ……おさらばだねぇ! 零羽紗姫さぁあぁあん!!」

 

 しんりの右手が勢いよく零羽の顔面へ飛んでいく。今のしんりの力なら、零羽の顔を本当に潰すことくらい容易い。

 

「(……これが……死……なのね……)」

 

 もう零羽には抗う気持ちもなかった。もうこんな相手に敵うはずがない。どれだけ足掻いても、自分の罪は消せない。もう自覚してしまった零羽には、死ぬこと以外考えられなかった。

 フッと微笑み、目を閉じて最期の時を待つ。

 

 

 

 

 しかし、いつまで経っても私の「死」は訪れなかった。恐る恐る目を開けると、しんりの動きが止まっていた。

 

「…………」

 

 そして、しんりの後ろに、もう一人の面影があった。紅白に彩られた巫女服を身に纏う、博麗の巫女がいた。

 

「あんた……こいしに言われて駆けつけて来たら…………何よこのザマは……しんり…………あんた何で狂気なんかに支配されちゃってんのよ……」

「……あははっ……霊夢ぅ…………見てて……今から私が元凶を殺すから……だから……早くこの腕を退けてよぉ……」

 

 霊夢の腕はしんりの右腕を力強く掴んでいた。とても人間とは思えないような力で掴んでいることが零羽にはわかった。

 

「嫌よ。この異変の全貌が分かるまで、コイツを殺すことは許さないわ」

「……霊夢ぅ……どうしてぇ…………? コイツはいっぱい人を殺したんだよ? 殺されて当然の罪を犯したんだよぉ?」

「だからこそよ。動機も何もかも聞き出してから、コイツの処遇は考えるわ。だから、今は退きなさい、しんり」

 

 妖力も何もかも格上のはずのしんりに恐れずに対抗していく霊夢。

 

「何それぇ……なら……今ここで霊夢ごと消しちゃってもいいかなぁ??」

「………………いいわよ。狂気と自分に勝てないあんたに負ける程私は弱くないわよ」

「……その言葉を待ってたよぉ?」

 

 不敵に笑うしんり、霊夢はしんりを見下すように光のない視線を送る。

 

「とりあえず、あんたは縛っておくわ、零羽。この戦いが終わったら、あんたには聞きたいことが沢山あるの」

「あ、ありがとう……ありがとう……」

 

 拘束された零羽はただただ「死」から自分を遠ざけてくれた霊夢に感謝を述べていた。もう、これ以上異変なんてやっていられないからだ。

 

「さってと、しんり。あんたと本気でやりあうのはこれが始めてね。まぁ、あんたの方は満身創痍だから少しアンフェアだけど」

 

 零羽から離れ、宙に浮きながらしんりと会話を始める。しかし、今のしんりの状態で会話できるとは思っていない。

 

「そんなことよりぃ……博麗の巫女のお肉って美味しいのかなぁ……」

「こりゃまた物騒ね…………言っとくけど、博麗の巫女は食料じゃないわよっ!!」

 

 札を投げる。牽制ほどにもならないだろうが、先手は打っといて損は無い。投げられた無数の札はしんりの前にある防御壁に消し飛ばされる。

 

「次はこっちだよぉ! 霊夢ぅ! 楽しませてよねぇ!」

「望むところよ! あんたに殺されるなんてクソ喰らえだわ!」

 

 こうして始まったのは、黒幕を一瞬で撃破した最強の妖怪と代々受け継がれた博麗の巫女の中でも最強と謳われる博麗の巫女の本気の殺し合いだった。




かなーり駄文。

しょーもない作品ですが、見ていただけると嬉しいです!




不死蓬莱さん。
誤字報告ありがとうございます。


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決断したその先は

「はぁ……はぁ……」

 

 決着は一向につかなかった。というのも、霊夢の一方的な攻撃をただただしんりは弾き返しているだけだ。しんりも攻撃を仕掛けるが、霊夢は自慢の俊敏性を活かして全てを避けていた。

 

「……すばしっこいなぁ……楽に殺してあげるから諦めなよ……」

「嫌よ。まだ跡取りもいないもの」

「博麗の巫女は霊夢で終わりにしよぉよ」

 

 互いに息を切らしながらも、攻撃を繰り出していく。しんりの方はまだ狂気に支配されたまま、自我と理性と狂気が混ざりあって狂い始めている。

 

「霊符「夢想封印」」

 

 もちろん、スペルカードには殺傷能力は存在しない。本気で殺しに来ているしんりには遊びにしかならない。

 それに比べ、霊夢には殺す意思が無い。しんりの本気の攻撃に霊夢は全力で避けるだけだった。

 

「なかなかキッついわね……」

 

 しんりもスペルカードを使っているが、どれも初見だった。

 

「挟殺「スパムカッター」」

 

 魔法陣が霊夢を囲い、そこから飛び出してきた腕が霊夢の首を捕える。そして、しんりが両手を握った瞬間、それに呼応するように霊夢の首が締まる。

 

「あっ……がっ…………」

「ほら! 早く!」

 

 早く、死ね。この世界には、何もいらない。今までの友達も、家族も。力さえ存在していれば、私は満足だ。

 

「……はぁ!」

 

 霊夢は負けじと札を投げる。だがその攻撃はしんりにとってお遊びでしか無かった。しんりは防御障壁を展開する。

 

「っ、あぁ!」

 

 そうして、障壁で跳ね返ってきた札が霊夢に直撃する。弾幕とはいえ、少し魔力を込めた弾幕なので、殺傷力がある。その札が人間である霊夢に当たったのだ。ひとたまりもない。

 

「あーあ、終わり? 博麗の巫女が聞いて呆れるよ」

「あっ……がっ…………」

 

 霊夢は地に這いつくばって、痛みにこらえる。しばらくすると、吐き気を催すようになった。

 

「っ!? がはっ……」

「あらら、吐血しちゃった」

 

 吐瀉物かと思いきや、思い切り血液だった。経験すらない激痛と吐血。霊夢が混乱するには十分すぎる材料だった。

 

「うそ…………こんな所で……私……」

「はいはい、さようなら」

 

 魔法陣から一つの槍が飛び出す。その技は誰にも見せたことのない、もしかしたら「表」のしんりですら認知していない即殺の技だった。

 

「極殺「イグニッション・スピア」」

 

 しんりが腕を上げる。狂気に染められたしんりは霊夢という友人を殺すことさえも躊躇がなかった。

 

「じゃあね、霊夢。色々ありがとう」

「っ!」

 

 そうして、腕を振り下ろし、魔法陣から槍が出かけるところで、しんりは動きを止めた。

 そして、苦しそうに、心臓を抑えながらもがくしんりの姿が霊夢の目に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

「あっ……あがっ…………ぐぅ……ぎぃあぁ……」

「? …………な、何よ……」

 

 苦しみ悶えるしんりの口から声が発せられる。

 

「れ、霊夢!」

「っ!?」

「今のうちに…………あた、しを…………ころ、して……」

「え……し、しんり?!」

 

 そう、今出てきたのは「表」のしんり。いつものように笑って、元気な古明地姉妹の長女。

 

「はや、く……」

「…………」

「くそっ、今更……になって…………出て……来ないで……よ! 雑魚のくせ……に!」

 

 今、しんりの心の中で大きな綱引きがされているんだろう。しんりという人格と、何故か心に存在していた「裏」のしんり。

 

「はや、く……れい、む…………ぐぁ…………あ、あぁあああああああぁあ!!??」

「…………っ!」

 

 しんりは暴走状態になっていた。自分の技で自分を傷つけ、今では霊夢よりも流血していて、見ていられない。腹はえぐれ、少し内蔵が見えている。片目を潰し、その目玉を握る。

 いつものしんりからは想像なんて出来ないくらい、狂気もなっていた。

 博麗の巫女が妖怪とはいえ、殺人をする。先代の巫女でさえ行ってこなかった最悪の所業。

 霊夢は今、最大の葛藤に侵されていた。幻想郷を守るために友達を殺すか、友達を守るために幻想郷を見捨てるか。

 そんなの、霊夢にとっては辛すぎる選択だったが、今まで築き上げてきた博麗としての意志を持つしかなかった。

 

「ごめんね、しんり。色々迷惑かけたわね」

 

 一枚のスペルカードを取り出す。きっと、今くらいしんりが弱っているのならば、きっと殺せる。

 

「夢想天生」

 

 霊夢の周りに数個ほどの陰陽玉が現れ、それは霊夢の周りで円を描くように回っていた。

 

「さよなら、しんり」

「……あ、ぐっ…………あ、……ありが…………と……」

 

 最後にお礼を言われた霊夢は一瞬だけ躊躇った。もしかしたら、まだしんりを救う方法が残っているんじゃないか、殺さなくてもいいんじゃないか。そう思わずにはいられなかった。

 しかし、しんりの決心も決まっている。そして、それは同じく私も。

 

 

 

 

 

 そして、陰陽玉から吐き出されるように出現した無数の札。そして、それは一直線に霊夢の目の前のしんり目掛けて飛んでいく。そして、しんりに着弾する。

 グチャッ、ズブ……生々しい音と共に、煙の中でもわかるほどの血が流れていた。

 そうして10秒ほどの夢想天生を終えた後、煙が晴れる。

 

「しん、り……」

 

 そこには、大量の血を流して倒れている黒髪の少女がいた。左腕が千切れ、首も半分切れている。背中を見れば、背骨が丸見えである。うつ伏せになっていて顔は見えないが、凄惨な状態なのはひと目でわかる。

 

「ごめん、しんり。弱くて……ごめん」

 

 霊夢は涙こそ出なかったが、とてつもない罪悪感と友達を失ってしまった喪失感が同時に込み上げてくる。

 

「…………くそっ」

 

 膝をついて、地面を思い切り殴る。どうしてしんりは自分の狂気に打ち勝てなかったのか、そもそも、何故しんりの中に狂気が存在していたのか、どれもこれも謎だった。

 

 

 

 

「え…………れい、む?」

「っ……」

 

 

 

 

 背後から声がする。今この場で一番いてはいけない人物かもしれない。黄色と緑を基調にした服に銀色の長髪。間違いなかった。

 正真正銘、しんりの妹である、古明地こいしがその場にいた。そして、そのこいしの後ろには、レミリアもついてきていた。レミリアに関しては、ところどころ包帯を巻いており、大怪我をしたのだと認識できた。

 

「れ、零羽には……かて、たの?」

「ええ……」

「そ、そっか、そういえば、しんりねぇは無事?」

「…………」

 

 何も言えない。霊夢は下唇を噛んで、握りこぶしを作る。

 

「れ、霊夢。何とか言いなさいよ。しんりはどこなの?」

「…………」

「しんりねぇは……」

 

 こいしは途中で話すのをやめた。彼女の視界に、「あるもの」が入り込んでしまったから。レミリアもそれに気づき、言葉を失っていた。

 

「…………ねぇ、霊夢」

「何かしら」

「零羽は、今どこにいるの?」

「あそこの岩陰で捕らえているわ」

「じゃあ、これは誰?」

 

 恐る恐る、こいしが指を指す。こいしの目にはもう光がなかった。

 そして、霊夢はしんりに心の中で謝礼を述べてから、実の妹に真実を告げた。

 

「…………しんりよ」

「……は?」

 

 静寂が訪れる。こいしもレミリアも、ただただ硬直していた。

 

「え、嘘……だよね。これが……しんりねぇ? は、はははっ、笑わせないでよ霊夢」

「…………事実よ」

「……嫌…………しんりねぇ……なん、で………ぃゃ……いやああああああああぁぁぁ!!」

 

 とうとう、状況を理解したのか、こいしは大粒の涙を流し、泣き叫ぶ。

 

 そう、古明地しんりは死んだのだ。裏表関係なく、しんりそのものが、この世から消えたのだ。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!! しんりねぇ! 置いてかないでよ!! ねぇ、生きてるんでしょ!? 起きてよ!!」

「こいし……」

 

 レミリアの顔は酷く歪んでいた。涙をこらえているその顔が、霊夢の目に酷く焼き付いた。

 

「霊夢…………」

「…………なに」

「誰が殺したの……」

 

 こいしが睨みつけるように霊夢に問う。怒りを堪えているのがわかる。いつも笑っているはずのこいしがこんなにも酷く怒ることがあったとは知らなかった。

 ここではぐらかしてもしょうがない。きっと、こいしでも受け止めるには時間がかかるかもしれないが、この事実だけはどうしようもなかった。

 

「私よ」

「っ!?」

「こいしっ!?」

 

 霊夢が殺したのだと分かった瞬間、こいしは霊夢に弾幕を放とうとした。しかし、それはレミリアがこいしの腕を掴んで制止する形で止められた。

 しかし、こいしの怒りはそのままで、口頭で矛先を向けていた。

 

「殺すッ! 絶対に! お前だけは絶対に殺すッ! 博麗霊夢!!」

「こいし、落ち着きなさい!」

 

 レミリアが必死に宥めようとしているが、こいしは一切それに答えようとはしなかった。

 どうやら、レミリアはどうして私がしんりを手にかけたのか、理解出来たらしい。

 

「…………今説明しても無駄よね」

 

 そう言って、霊夢はこいしに近寄る。歯を食いしてばって霊夢を睨みつけているこいしの頬に触れる。

 

「少し、眠っててもらうわよ」

 

 こいしの魔力を抜き取る。体が一気に重くなったこいしは気を失って倒れてしまった。

 こいしを横に倒して、レミリアは自分の帽子を枕にして、上着を布団代わりにした。

 

「……分かってる。仕方ないって言うのは」

「レミリアは……冷静で助かるわ……」

「冷静ってわけじゃない…………」

 

 レミリアは霊夢の顔を見た時から、望んでしんりを殺した訳でもないことは分かっていた。悲しさを通り越して、抜け殻のような目をしていた。

 

「……霊夢。助けに行けなくてごめんなさい」

 

 ただ、レミリアはそれだけしか言えなかった。もっと早く私が応援に来ていれば、零羽なんかに遅れを取らなければ、しんりは助かったのかもしれない。そう考えると、後悔が波のように襲ってくる。

 

「いいわ、きっと、しんりは最初からこのつもりだったのかもしれないしね……」

「霊夢……」

 

 霊夢は上を見上げる。下を向くと、涙が零れてしまいそうだから。しかし、それは上を向いても同じだった。目の横を通り過ぎて、霊夢の涙は地面に落ちた。



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覚悟

「……」

 

 零羽を連れて、霊夢達は永遠亭に戻る。レミリアはこいしを担ぎ、霊夢はしんりの遺体を運ぶ。どうせなら、地霊殿の近くに埋葬するという、霊夢のせめてもの償いと餞だ。

 

「……ね、霊夢」

「何?」

 

 永遠亭に戻る道中、レミリアは霊夢に話しかける。

 

「しんりを救う方法は本当に無かったのかな……」

「…………それはさっき話したでしょう。無理だったの」

「でも……それでも、しんりが助かる方法も……」

「レミリア、何度も言わせないで」

 

 苛立ちを隠せない霊夢はレミリアの食い下がりように、強く当たってしまう。

 

「無理だったのよ。殺すこと以外、私には思いつかなかった」

「……そう、ごめんなさい」

「…………」

 

 霊夢としんりが戦っていた場所は永遠亭から大した距離では無かった。五分ほど歩くと、すぐに永遠亭が見えた。

 到着すると、霊夢は近くのベッドにしんりを預ける。欠損が激しい体でも、やはりしんりの面影は見える。

 

「……永琳を呼んでくるわね」

 

 こいしを寝かせたレミリアは永遠亭に隠れている鈴仙と永琳を探しに出ていった。私はそれを見送ったあと、しんりを見て後悔する。

 

「(本当に……しんりを救うことができたなら……私は……)」

 

 初めて人を殺したのだ。それも、友人を。どうしようもない後悔と罪悪感が流れる。

 霊夢はこの時、初めて悔しくて握り拳を作った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、零羽」

「な、何?」

 

 近くに座らせておいた零羽に問いかける。今の零羽には霊力も一切ない。つまり、ただの人間と同等以下の存在に成り下がっている。

 

「さとりとフランはどこ?」

「……寺子屋から入れる地下深くの私の独房よ」

「……そう、嘘は言っていないみたいね」

「私は、これからどうなるの?」

「別に、私はあなたを許す気は無いけれど、殺す気は無いわ。霊力を全て吸い取ったから、あなたを故郷に返すつもりよ」

「そう……」

 

 今の零羽には何も無い。つまり、このまま放っておいても構わないのだ。

 

「でも、セリカナとやらはどうなっているの?」

「あれは、私の霊力を込めた。だから、恐らく今頃は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せ、セリカナお嬢様!」

 

 セリカナ・クレセ・ステナミアの執事、セリシウスが突然倒れるセリカナの体を支える。

 ここは寺子屋から続く零羽の独房。寺子屋の管理者である上白沢慧音すら知りえない場所。

 

「な、何が……」

 

 そこで捕らえられているさとりとフランは唐突に倒れたセリカナを見て目を見張る。そして、それは同様、黒髪ロングの「赤城」と黒髪ショートの「加賀」。二人の女性も同じだった。

 

「……まずい。お前達」

 

 セリシウスの名指しに、赤城と加賀は姿勢を正す。

 

「お前たちは地上にいる軍の支援にいけ。ここは私一人で十分だ」

「はい」

 

 こうして、赤城と加賀は姿を消した。

 

「な、何が起きているの!?」

「ふん、お前達は知らなくていい事だ。そろそろ、古明地しんりが姿を現す頃だろう? いい加減、戦いたくてうずうずしているんだ」

 

 セリシウスの狂気的な笑いに背筋が凍る。この人は幻想郷の誰よりも強い。そう確信することも出来た。

 

「(多分……姉さんでさえも……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ、軍の奴ら全員がいきなり倒れたぁ!?」

 

 レミリアが人里で軍と戦っていたお燐とお空の話を聞き、目を見開く。

 鈴仙と永琳、そしてレミリアと霊夢。とりあえず永遠亭で作戦会議をしているのだ。

 

「う、うん。突然、魂が抜けたように倒れて……」

「なるほどね」

 

 霊夢がレミリアの隣で頷く。

 

「全員、零羽の力で動いてたってことね」

「…………どういうこと?」

「零羽。あなたが操作していたのは、セリカナっていう女の子と、その軍隊……だけ?」

「ええ、あとは自発的に幻想郷を壊しに来たものよ。私含めてね」

「そう……」

 

 零羽の説明に霊夢以外の全員が頷く。零羽の零羽は全て削がれた今、セリカナや軍の力は全て消えた。

 

「とりあえず、人里への脅威は消えたわけね」

「で、でも……それだとまだ敵がいるみたいな……」

 

 しんりの死を受け入れ、既に前を向いている鈴仙はとにかく目の前の敵を倒そうと必死にもがいていた。

 感心した霊夢はすぐさまそれに関しての話を続ける。

 

「そういうこと、レミリア。あんた達が地霊殿で出会ったやつの名前、なんだったかしら?」

「えと……あ、赤城?」

「そう、これは零羽の操作を受けないで、自発的に幻想郷を破壊しに来た奴ね」

「……となると、まだ敵はたくさん残ってるってわけね」

「……残り三人よ」

 

 囚われたままの零羽が部屋の端から口を開く。

 

「その赤城、加賀……そして」

 

 零羽は一度口を噤むが、決心したように霊夢の目を見据えた。

 

「セリシウス・クロミー」

「……誰?」

「この異変の首謀者よ。私達は幻想郷破壊を目論んでいたセリシウスに加担した。利害の一致から共に行動していただけ」

「……なるほど」

「とりあえず、今は休憩しましょう。今から攻めに行っても返り討ちになるだけよ」

 

 霊夢の提案に全員が頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……しんり様……」

 

 しんりの遺体の前で膝を付くお空と呆然と見つめるお燐。ポロポロと涙を流し、しんりの手を握る。

 

「必ず……さとり様とフランさんを助けてみせます……あなたが落とした命を……決して無駄になんかしません」

「今までお世話になりました……」

 

 今まで彼女が地霊殿の主として努力していたのは知っている。仕事は大抵さとりが行っているが、それでもさとりのサポートや慰労に努めていたのは間違いなくしんりだった。

 

「……さようなら」

 

 そう言って、お燐達は立ち上がる。今、幻想郷は戦場なんだ。いつまでも仲間の死を引きずっていては自分も命を落とす。

 か弱い少女ながらも、覚悟を決めていたお燐達はすぐに切り替えて握り拳を作る。

 

「セリシウス……絶対に倒す……」

 

 お空のその言葉は怒気がこもっていた。大切な人を殺した罪はとてつもなく重い。

 

「……お空?」

「っ!?」

 

 突如名前を呼ばれる。しかし、お燐では無い。声のした方向が明らかに逆方向だったからだ。そこに居たのは、紛れもないしんりの妹、こいしだった。

 

「……ねぇ、しんりねぇはどこ?」

「…………」

「? どうしたの、知ってるなら教えてよ」

 

 お燐達は口を噤む。まだ死を受け入れられていないこいしにどう話せばいいのか。

 

「あ、あれ? もしかしてまだ帰ってきてないの? もぉー、しんりねぇったら相変わらず自由だねぇ」

「こいし様……」

「あ、しんりねぇが帰ってきたらみたらし団子買ってあげよう? ね、お空、お金まだある?」

「こいし様!!」

 

 現実から目をそらすこいしにお燐が叫ぶ。ビクンと体を強ばらせるこいしに追い打ちをかけるようにお燐は叫ぶ。

 

「しんり様はもういないんです! 死んだんですよ!?」

「な……何を言ってるの、お燐。しんりねぇなら……ここに……」

「……死んだ者は生き返らないんですよ。どれだけ願っても、どれだけ努力しても、死んだ者はもう息をしないんです。笑わないんです」

「……やだ……やめてよ。お燐……お空も何か言ってよ!」

「こいし様……」

 

 ずっと黙っていたお空はこいしから顔を逸らす。お空にとっては辛すぎるものだった。

 

「お燐!! しんりねぇは生きてる! だから、早くそこに連れて────」

 

 パァン。

 こいしの頬に痛みが走る。これで頬を叩かれたのは二度目だった。

 

「……いい加減にしてください。こいし様」

「…………」

「いつまでも現実から逃げようとして、それであなたは救われるんですか?」

「そ、そんなこと……」

「いいですか、しんり様は死んだんです」

「ッ!!」

 

 はっきりとお燐は伝える。ここで曖昧な答えはかえってこいしを傷つけるだけだと判断した。

 

「これから、こいし様はしんり様が残したものを全て背負うんです。そして、いつまでも幸せに笑うんです。それが、しんり様にとっての唯一の報いなんですよ」

「う……うぅ……」

 

 お燐もこいしも涙を流す。地霊殿の主が、私達の家族が知らないうちに死を遂げた。ろくなメッセージも思いも聞かずに、命を落としていった。

 

「……だから、いつまでも引きずらないでください。こいし様にはまだ家族がいるでしょう?」

「…………」

 

 そうだ……私にはさとりねぇもお燐もお空もいる。一人にはならない。

 もう、しんりねぇとは話せない。しんりねぇと一緒に笑えない。その事実だけが、こいしを推し潰そうとしている。

 

「……嫌だよぉ……しんりねぇ……」

「こいし様……」

 

 その場で崩れ落ちるこいしを抱きしめるお燐。そして、その二人を包むお空。三人の泣き声が、大切な人の目の前で響き渡った。

 そして、涙が枯れる頃、こいしは二人の手を握った。

 

「……行こう」

「え?」

「この異変を終わらせよう」

 

 お燐とお空はこいしの覚悟が垣間見えた。それに呼応するように、二人は笑う。

 

「ええ、必ず、この異変を終わらせましょう」

「さとりねぇ……待ってて」

 

 そう決意した三人はしんりの元を離れ、霊夢達のいる永遠亭内に向かった。

 

 その瞬間、しんりの指がピクリと動いたのは、誰にも感知されなかった。



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帰ってきた玉兎

「ええと……じゃあつまり、敵の戦力は残り三人?」

 

 永遠亭に全員が集まる。

 お燐、お空、霊夢、レミリア、鈴仙、永琳、そして私。

 

「ええ、一気に削れたわね」

 

 輝夜やてゐはというと、妹紅達と一緒に人里へ支援へ向かったそうだ。普段ニートだからとはいえ、さすがは蓬莱人といったところだろうか。行動力は凄まじいと感じた。

 

「零羽と永琳はここに残りなさい。けが人の治療に専念すべきよ」

「了解したわ」

「相手が3人なら、ペアで1人を相手取りましょう。そうね……」

 

 霊夢はそう言って顎に手を当てる。3人とはいえ、零羽よりも力がある3人だ。実力は計り知れない。

 

「私とお空、鈴仙とレミリア、こいしとお燐。どうかしら?」

 

 全員がその意見に納得……と思ったところでレミリアが右手を上げた。

 

「このペアの根拠は?」

「相手がどんな奴らなのか情報不足な以上、遠近で攻撃ができるペアにしてみた」

「なるほど、分かったわ」

 

 顔も見た事がない敵にどうこう作戦を立てられるわけじゃないのだ。

 幻想郷指折りの実力者が揃っても、恐らく拮抗した戦いになるのは確実だ。

 

「零羽、あなたは永琳と共に敵の情報を集めなさい」

「……は? 私、いつあなた達の仲間になったの?」

 

 零羽は銀色のロングヘアを揺らしながら霊夢を睨みつける。霊力は存在しなくとも、十分な圧力が私たちにかかる。

 しかし、それは霊夢も同じだった。

 

「いいわ、協力しないというのなら今ここで殺してあげる」

「っ!」

「私は生き物を殺すのに抵抗があるからね。永琳、少しでも怪しい動きをしたら息の根を止めて」

「ええ」

 

 八意永琳。幻想郷の医者でありつつ、誰も逆らうことの出来ない最強の存在でもあるのだ。

 かつて、蓬莱の薬の研究材料を盗もうとした人間がいた。しかし、そいつらは呆気なく永琳に捕まった。それから、そいつらの行方は今も分からないままだ。

 マッドサイエンティストなんて巷では言われているが、もしかしたらそれ以上に恐ろしい存在なのではないかと思っている。

 

「……わかったわよ。私も死にたくないからね。協力するわよ」

「そう。じゃあ今の作戦で行くわよ」

 

 霊夢の言葉に全員に緊張が走る。

 怖い。これはいつもの弾幕ゲームなんかじゃない。命をかけた戦いだ。もちろん、そんな経験今までなかった。

 それに、しんりねぇが死んでしまった今、戦力も随分と削れてしまった。でもそれは敵側も同じはずだ。

 

「変な作戦は混乱を生むだけだから、私から言いたいのは一つ」

 

 霊夢の黒い目が全員を見据えた。その目には闘志が燃えているような気がした。

 

「全員、無事に帰ってくること。いいわね」

「「「「おー!!」」」」

 

 そうして、私たちは永遠亭を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人里に降りると、そこはもう火の海だった。所々に血がこびり付いていて、凄惨な殺人が行われていたことに全員が顔を歪める。

 

「……やけに静かだね」

「相手の戦力は3人だけですしね」

 

 不思議に思った私に鈴仙が応答する。

 しかし、そう思った矢先に背後から冷たい声がした。

 

「……静かなのは誰も動いていないだけですよ?」

「ッ!?」

 

 6人全員がその声の主から距離を取った。白色のショートカット。全身に鎧を纏った女性がそこにはいた。

 

「……誰?」

「自己紹介が遅れました。私、「加賀」と言うものです。以後、お見知り置きを」

 

 私は先程零羽が話していたことを思い出していた。

 幻想郷を自発的に破壊しに来た三人の内の一人、加賀だ。それを認識すると唐突に悪寒が走った。

 

「れ、霊夢。どうするの?」

 

 耐えられなくなった私は霊夢に指示を促す。しかし、先に冷静を取り戻していた霊夢は冷や汗をかきながらレミリアと鈴仙の方を向いた。

 

「レミリア、鈴仙。ここは頼んでもいいかしら」

「ええ」

「任せてください」

 

 まさか、こんな序盤で一人目と当たるのは運がいいのか悪いのか。

 グングニルを取り出したレミリアとスペルカード「幻朧月睨(ルナティックレッドアイズ)」を発動した鈴仙が前に立った。

 

「あとは頼んだよ。レミリア」

「いつの間にか呼び捨てになってるわね。こいし」

「えへへ……終わったら、一緒にお酒飲もう」

「ええ、高いのを用意させるわ」

 

 そう言って、私達は人里内部へと駆け込んだ。その瞬間から、爆発が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは、どこだろうか。

 真っ白な空間、何もかもが少し眩しく感じるほど白々しい。

 そして、私の目の前には真っ黒に染まったモノが現れた。

 

「起きたんですね。××」

「あ、あなた……は」

「名乗る名前はありません。そうですね……」

 

 声がする方にあるのは暗やみに紛れた人の体だった。

 そして、そいつはこう名乗った。

 

「心理。とでも名乗っておきましょうか」

「し、心理?」

「ええ、訳あって今あなたの体に干渉してるんです」

「……ぇ」

 

 心理。

 そう名乗った彼女は手を広げ、堂々と騙り始める。

 

「あなたはここで死んでいい存在ではないはずですよ? 穢れを振り払い、鮮やかで穢れなき幻想郷を作るために月を抜け出したのでは?」

「……そ、そうだけど……」

「望まぬ形で幻想郷へ来てしまったようですが、個人的には結果オーライでしたね」

 

 この人は誰なんだろうか。

 しかし、私はその声に少し懐かしさを感じていた。

 大切な人だった気がする。

 

 家族のように私を愛してくれて、家族のように可愛がってくれた。

 確かに、一緒にいた期間は短くとも、私は確かにその愛を感じていた。

 

「まぁ、貴方のような人が「あんなこと」で死ぬわけないじゃないですか、あそこの演技は大したものです」

「……は、は?」

「まさか、ただ単に出血多量で貧血になって、死んだと思っていたんですか?」

「で、でも、ここは……」

「ここは、私と貴方が干渉し合う世界です。まぁもっとも、こんなことが出来るのは穢れているあなたの身体だけですけどね」

 

 穢れている。

 その言葉に私は目を見開いた。

 

「ああそれと、あなたの体は今快方に向かっていますよ。もうそろそろ、現実世界で目が覚めるのでは無いですか?」

「……死んでないんだ」

「月の民に「死」はありません。そうでしょう?」

「はぁ……」

「「八意永琳の傍付き」として、あなたはこれからも生を歩むんですよ」

「っ……」

 

 彼女がもう、誰なのか分かってきた。

 人の「気」を操って心にまで干渉出来る。

 そんな化け物じみた能力の持ち主で、なおかつ、そこから私の記憶をも抜き出して全てを「悟る」。

 こんな妖怪が私の仲間だなんて心強い。

 

「……私も多分、後から向かいます。今はまだボロボロの死体ですが、いずれ……」

「……ありがとう」

 

 黒いシルエットだけしか見えないのに、どこか微笑んだような気がした。

 そう思う頃には、もう視界が真っ白になっていた。

 まるで水の底から浮かび上がってくるかのような感覚。

 

「また会いましょう。「雅 瑞乃」」

 

 彼女はそう、私の名を呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲホッゲホッ……」

 

 意識が戻ると、口の中いっぱいに血の味が広がり、激痛も走った。

 首だけを起こして自分の体を見ると、体は綺麗に裂かれていたみたいで、まだ傷口が完全には塞がっていなかった。

 私は痛みに耐えながらも体を起こして、裸になっている自分の体を

 

「……戻ってきた……」

「……みず……の?」

 

 右手から声がする。

 そこにはカルテを持った八意様が大きく目を見開いて硬直していた。

 瞳孔が震えていた。体が震えていた。

 八意様の目尻に、涙が溜まっている。そして、手に持っていたカルテが力無く落ちる。

 私は、久しぶりに戻ってきた幻想郷の空気をめいっぱい吸い込みながら、親愛なる八意様に笑いかけた。

 

「ただいま戻りました……永琳様」

 

 瞬間、永琳様の体と密着した。

 痛みがなかった訳では無い。何なら、声を上げてしまいたいくらいだ。

 きっと医者としては患者にとんでもないことをしたと、永琳様は後々後悔すると思う。

 ただそれ以上に、永琳様の震える身体に私は驚いた。

 

「……良かった……良かった……」

「永琳様……」

 

 人智を超越し、誰よりも長い年月の生を生きてきた永琳様が自分のために泣いてくれていた。

 そして、永琳様の抱擁から早二分が経っていた。しかし、いつまで経っても永琳様が動くことは無かった。

 

「……」

「あの……永琳様?」

「……なに」

「離していただけると……嬉しいのですが……」

 

 帽子をとって、いつもの三つ編みも解いている永琳様の鮮やかな銀髪からシャンプーのいい匂いがする。

 私の言葉を断るかのようにさらに強く抱きしめる。

 

「……少しくらい……心配させて」

「……はい」

 

 唯一。唯一気になるのは永琳様の大きなふたつの胸が私の胸に押し当てられて、少しだけくすぐったい。

 でも、耳元で聞こえる鼻のすする音がそんな邪な考えを打ち消させてくれる。

 

「……すみませんでした。永琳様、ご心配をお掛けしました」

「ほんとよ。鈴仙も、しんりも。みんなあなたの死を悲しんでたんだから」

「…………そう、ですか」

 

 しんり。

 彼女は一体何者なんだろうか。私の意識の中に直接干渉してきて、なおかつ「月の民」を知り尽くしているかのような言い方だった。

 

「……落ち着きました? 永琳様」

「ええ、取り乱してごめんなさい」

 

 体を離した永琳様は顔を赤く染めながら自分の髪をいじっていた。

 誰よりも大人な永琳様もまだ可愛らしい少女であることに、私は少しだけ微笑する。

 

 

 

 

 しかし、私はすぐに顔を引き締める。

 永遠亭の患者がかなり重傷者が多いところを見ると、まだ戦いは終わっていないのが推測できた。

 

「それで、永琳様。今はどうなっているんですか?」

「……話すけど、少し場所を変えましょう」

 

 今ここには、治療中の重症患者もいれば、私たちの会話を聞いている人間も多くいるはずだ。聞かれてまずい話も無いはずがない。

 

「はい」

 

 永琳様が用意してくれた車椅子に乗って、私は永琳様に押してもらいながら移動した。

 

 

 

 

「あ、あなたは……」

 

 場所を移し、診察室に向かうと、そこには見知らぬ女性がいた。

 色白で永琳様以上に輝いている銀髪が腰まで伸びている。

 肌の色よりももっと白色ワンピースを着て、丸椅子に腰掛けていた。

 

「……はじめまして、零羽沙姫よ。よろしくね、瑞乃」

「……月の霊……ですか」

「あら、分かるのね。あなたが攻撃して、追い込まれた月の霊よ」

 

 皮肉るように零羽という女は私を睨みつけた。

 

「……ごめんなさい」

 

 私はただ謝る敷かなかった。

 あの時、私が犯した罪。それは「中立側の月の霊を攻撃する指示を出した」事だ。

 地上と月の大いなる戦を乱した罪は重く、蓬莱の薬という禁薬に手を出した永琳様や輝夜様同様、追放令を下されたのだ。

 

「あの時に私がやったことは許されないことだってわかってます。あなたが私を殺そうと、それは正しいことだと思っています。どうぞ、あなたが私の処遇をお考え下さい」

「……瑞乃」

 

 永琳様も何も言わなかった。

 これは正しいことなのだ。この罪から逃れることは出来ない。

 私は零羽の前で頭を下げる。そして、私の前でため息をつく零羽がいた。

 

「……別にいいわ。今更何かしようなんて思ってない」

「……そう、ですか」

「そんなことよりも、この異変を止めるために動くんでしょう?」

「…………ありがとうございます」

「ただ、あなたを許すつもりは無い。月の霊はいつまでも玉兎を恨んでいることを忘れないで」

「……はい」

 

 責任逃れすることは出来ないのはわかっている。

 だからこそ、私はここからまた再スタートをきる必要があるのだ。

 

「……じゃあ、これまでの経緯とこれからのこと、話すわね」

 

 永琳様が雰囲気を断ち切り、私の正面に座った。

 そして、私が死んだ後から今までをこと細かく説明してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

「嘘……しんり……が」

「……ええ、零羽との戦闘中、能力に支配されて歯止めが効かなくなったしんりを霊夢がとどめをさしてくれたわ」

「……そうですか」

 

 しんりが死んだ。

 その事に私は動揺を隠せずにいた。

 悲しみよりも戸惑いが勝る。それはなぜなのか、それは「私の精神の中の出来事」が関係している。

 

(……後から向かう……そう言ってた気がする……)

 

 私の記憶が正しければ、"生きている"と思う。

 

「……あの、永琳様」

「何かしら?」

 

 私は永遠亭で目覚める前に感じた自分の精神の中での心理との会話を思い出しながら話す。

 

「……覚妖怪は未知ね」

「……それは私も思いました。零羽さんを凌駕するほどの実力を持ち、なおかつ月の民にも詳しくて……」

「それは私も感じたわ。というかさ」

 

 零羽が横から口を開いた。

 

「古明地しんりって本当に覚妖怪なの?」



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