生きる事は悩むこと (天海つづみ)
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プロローグ

突然思い立ち小説を書いてみようということに。
スマホ、始めて使うアプリに悪戦苦闘しながらなので、句読点、改行、
文体などお見苦しい点が有るかと思いますが
ご容赦ください。


「着いたよ、お嬢ちゃん」

 

「ん…あれ?」

 

天井の幌を突き抜ける細かい光が真上にある、

もう昼らしい。

 

「いたたた」

藁の上で寝ていたはずが、いつの間にか

薪の方へ身体を伸ばしてたらしい、

太ももの後ろがボコボコしている。

 

今朝早くにこの町へ向かう荷車を

運良く見かけて乗せて貰った、

アプトノスが引く竜車は速くはないが

疲れない。

 

荷台からピョンと外に出る。

「うっわー、すっげーーー」

広い道幅、両脇を挟む高い壁、そして

何より行き交う人人人。

 

生まれてはじめてこんなにたくさんの

人数を見た、行商人や竜車や旅人?

そして…ハンター。

 

見たことのない装備、武器

少女の胸は高鳴る。

今日からこの町、

ドンドルマのハンターになるのだ。

「ありがと!おじさん!」

 

「それとお嬢ちゃんじゃないよ、

もう14歳だし!」

手を振って駆け出す、

140センチの小さな身体をケルビの如く。

 

「俺はおじさんなんて歳じゃないぞー」

背負った太刀を引き摺りながら走る

小さな背中に呼び掛け…

 

 

「やっぱりお嬢ちゃんだよなあ」

 

 

 

途中思い出す、太ももの薪の跡、

周りを気にするが誰も少女を気にする

様子はない。

立ち話、商談、狩りの計画、自慢話、

露天が並び大にぎわい。

 

この大通りがラオシャンロンという巨大な竜

との戦いの場になると言う。

「こんなにデカイの?」

 

道幅一杯の大きさを想像するが…まさかね。

 

壁に通路が空いている、なぜか商人達も

ハンターも出入りしていない、

 

入ろうとすると暗がりから人が出てきた、

ヒョロッと背が高い(少女から見たら大概高い)

優しそうな顔の男。

「今はエレーナ商会の仕切りだよ?」

 

少女は顔いっぱいに?を浮かべる。

 

 

「あれ?もしかして始めてここに来たの?」

 

「そう、たった今」

 

「何で入ろうとしたの」

まるで小さい子に諭すように

膝を曲げて親切に。

 

 

しかし少女にとって、その気遣いはムカつく

「気になったからぁー」

むくれながら答える。

 

「ハンターさんだよね?」

背中の鉄刀神楽が見えないのかこの男は!

 

「じゃ使う機会があるかも知れないし特別ね」

男は「着いてきて」と言って歩き出す、

細い背中で姿勢良く。

 

歩きながら、ここはハンター専用の戦う為の

通路であること、

通路の保全や修理を任されていること、

今月は自分の道具屋の番だということ。

 

通路の途中に広い部屋に出る、

アイテムボックスと大きなベッド。

そして大量の…槍?

 

不思議そうに眺めてそのうちの

一本を触ってみる。

単純に鉄、でも持つ所がない。

 

男が気付く。

「それはバリスタの弾だよ?」

 




設定資料などは一応読みましたが
都合の良いように地図、人物などは変化させていきます。


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プロローグ2

操作と投稿テスト兼ねてますので二話に分けちゃいました。
また短かいです。


 

「バリスタ?」

 

「あ、知らない?」

いちいち勘に触る、機嫌が悪いことを察したのか

 

「じゃ気分の良くなるもの見に行こう」

また奥の方へ歩き出す、

少女はふくれた顔で着いていく。

 

 

手入れが良いのか平らな石畳の床、壁の石材には

歪みも無く合わせ目もキッチリしている。

 

 

 

突然外に出た。風が下から吹いてくる、

緩やかな坂をいつの間にか登っていたようで、

崖の中腹らしい、この場所は結構高い。

 

きちんと整備され歩きやすいが…

 

男はスタスタ姿勢良く歩く、が、当然腹が立つ。

 

ゆっくり歩きなさいよね、

男なら女性に合わせるのがスマートでしょ。

 

思っても口には出さない、歩幅が違い過ぎる、

自分の背の低さを言われるに決まってる、

あームカムカする。

 

しかも背中に太刀、全身防具(ザザミ一式)だ、

重いの分かるだろ!

武器防具が無ければ………それでも追い付くか?

さっきのおじさんもそうだけど

女として見られてない。

ネックレスと髪飾りくらいは着けてるけど

化粧はまだ似合わない。

 

自問自答と葛藤を繰り返していると、

 

「着いたよ」

 

 

「うっわーーーーーーっっ!!!」

 

 

高い、高い高い!

これが有名なドンドルマの門しかも門の上!

人があんなに小さい、遠くの山々まで見える。

 

真下を見ると

「こわぁーーい!」

子供の様にはしゃぐ(子供です)

 

男は声を掛け、数人の人が作業をしている

その一つを見せてもらう、

 

「ほら、これがバリスタ」

何かの革らしい、多分雨風を防ぐ布を勢い良く捲る。

 

現れたのは巨大な弓

 

「でっかい!これであの槍飛ばすの?」

 

「そう、今はワイヤー外してるからできないけど」

男は指さす、この門から500メートル位先

「あの辺まで飛ぶかな」

 

「すごーい!」

 

「それにこうやって」

男はバリスタのハンドルを回す

「上下左右に動かせる」

キュリキュリいいながら角度を変える巨大な弓、

少し油が切れてるらしい、

仲間らしい人達に油を注すよう頼んでいる。

 

「こっちは大砲ね」と隣の革を捲ってみせる。

 

それはさすがにわかりますよ、と心の中で言い

「あれは?」

 

門の両サイドに4本の尖ったものが見下ろせる。

実は少女は名前を知っている、

大陸中で有名な兵器だ、この一撃は正に必殺

大型飛竜さえ当たれば即死だと言われている。

 

 

 

「撃竜槍、最強の兵器だよ。」

打ち出す所は見せられないけど、

と男は付け加える。

 

「ここがドンドルマの決戦場、

絶対にモンスターを止めることを誓い

ハンターが戦った場所」

 

「そしてこれからもドンドルマ全員で戦う場所」

 

 

 

 

「ドンドルマの誇りだよ」

 

 

 

  

 

 



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ジャンボ村の眠る青年

本編入ります。
出来るだけ説明描写入れます


 

 

「おはよー!おーい!」

 

ドンドン叩く音が響く、良く通る女性の声。

 

もう朝か?そう思い壁の隙間に目をやる、

粗末な木の壁はまだ暗い。

 

うちの道具屋は夜も基本的には営業している、

昼はおじさんが、夜はおばさんが店番だ。

 

おばさん 寝ちゃったのか?そう思った時、

 

「ハイハイごめんね、ウトウトしちゃって」

 

「アッハ、いやーこっちこそ朝早くにごめん、

船がこんな時間に…」

 

リン…と雷光虫が光る音がする、

同時に店から緑色の灯りが漏れる、

虫籠を軽く指で弾くおばさんを想像しながら

 

ああ、起きてた…青年は再び微睡む、

店の会話が遠くなっていく…

 

 

 

 

「さあ!今日は稼いで貰うよ!」

朝御飯のジャンボコーンのパンをかじる

手が止まる。

 

おばさんはニコニコ笑いながら大袈裟に喋る、

回復薬とガンナーが使う弾丸が

大量に売れたらしい。

 

売れた数を話すとおじさんも満足そうだ、

うんうんと頷き目尻のシワが深くなる、

 

「こりゃ忙しいわい、クロフ、お前は採取

で素材の補充だ」

 

自分は店番をしながら横の河で

ハレツアロワナなどを釣るのだ、

ちなみに釣りの腕前は…

交代した方が、…うーん…

 

 

背負い籠を持ち採取の準備は出来た、

後は村長に許可を貰うだけだ、

村の中央へ歩いていると、ギルドの看板娘、

パティが走って来る。

 

「クロフー、大ニュース大ニュース!!!」

小さな身体で身振り手振りしながら

今朝の情報を聞かなくても教えてくれる。

 

「知ってるよ?女ハンターが来たんだろ?」

 

「なあんだ知ってるんだ」

顔がふくれる、本人は自覚が無いようだが

14歳にしてかなりの美人、

なのにこんな子供じみた顔を平気でする、

愛嬌があるってこういうことか?

 

だがこのあとの話は確かに大ニュースだった。

 

ギルドガール兼スタッフ兼料理番(要は一人)

のパティによると、

 

大都市ドンドルマのハンター、

しかも大陸中に200人いるかどうかの、

とにかくトップクラスのG級。

 

 

しかも王立古生物書士隊の一人。

 

所謂エリート中のエリート。

 

「なんでそんな人がこの村に?」

 

「休暇だって言ってたらしいけど調査…とか?」

パティは直接見てはいない(まだ寝てた)が

真意はともかく凄い人が来た。

「しかもすぐにクエスト受けちゃって、私が

起きる前にディアブロス討伐に行ったんだって!」

 

 

驚愕、その一言に尽きる。

ディアブロスと言えば別名 砂漠の暴君 

20メートルを越える体と大きな2本の角、

砂に潜って地面から襲いかかる、

なのに翼もある、

さらには大音量の鳴き声でハンターを

動けなくすると言う。

 

村長によると額の大きな角を構えて、

ブルファンゴより速く走り敵に突き刺すそうだ。

 

そんなモンスターが最近村の管轄である

砂漠に居座り、近隣の村との物質のやりとりを

脅かしていた。

 

今村に来ている数人のハンターも手が出せずに

困っていた所だ。

 

ハンターと言えど人間、だけどG級だから平気?

いやいや…

 

そう言えば、村長の姿が見えない、

パティも知らないらしい。

 

 

 

パティに森と丘エリアへの採取許可を貰い

村から歩き出す。

 

「行ってくる」

 

「行ってらっしゃい、気を付けてね」

 

「うん」

言葉数は少なく必要最低限、

表情も変わらないが、

 

 

クロフはこの一言が嬉しい、でも顔には出さない。

 

村長がパティに行く先言わずに

出掛ける事など珍しい、と、疑問に思いながら。

 

 

 

 

 

森と丘という狩猟エリア。 草原と森、崖に岩山

と初めて来る人には良い景色と

悠久の風を感じるエリア。

 

 

だがクロフにとっては仕事場であり、

村の大切な現金収入を得る

現実的な場所に他ならない。

 

キャンプに入る、ハンター用のベッドの毛布を

ついでに干す、

 

 

まぁ自分には関係の無い話だ、

いつものように仕事をこなし、

生活費を稼ぎ、

淡々と ただ淡々と毎日を過ごして行ければ良い。

 

 

ハンターの様にリスクを取らなければ

自分も人も傷付かない、

気分も悪くしない、

目立たずに人に迷惑掛けないように。

 

 

「あぁくそっ!」

誰に向けた訳でもない怒りが出る、

 

気が付けば独り言を言う、いつからだろう。

 

 

「んじゃ、行くか」

 

 



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集落へ

 

「これで足りるかな?」

森と丘エリア 8番と呼ばれる場所、

木々が生い茂り 、木漏れ日が地面に降り注ぐ。

 

キノコ類、特に特産キノコは

村の大切な収入源だ、

幸い大きな猪 ブルファンゴも、

鋭い爪を持ち、二足歩行で素早く、

人間と背丈が同じくらいのランポスも居ない。

 

 

背負い籠にキノコを入れる、

まだまだ採取するから少しだけ。

 

後はカラの実とハチミツと……考えながら9番へ。

何も居ないことを確認する。

 

クロフはハンターではない、ただの村の青年で

村のために働く人。

戦闘訓練などしたこと無いし、剣より虫網を

振り回してきた、

モンスターがいる場所は避けていく。

 

9番、ここは細長い地形をしていて、やはり木々

が生い茂り、さながらトンネルのようである、

そてここには大概………

 

小さな足音がこちらへ来る。

 

「道具屋にゃーーー」

 

白猫のアイルーと黒猫のメラルーが

四足で走ってくる、数は四匹。

 

猫族と呼ばれる原住民?で あらゆる環境、

地域に適応しながら生きている。

 

特にアイルーの方は人語も操り手先も器用で、

村長によると人の村で商売まで始めて

生活してる者までいるそうだ。

 

一方のメラルーは手癖が悪く、人の

持っている物を盗んでしまう。

特に狩場(集落の近く)に来るハンターは

被害に会いやすいが、人間社会には

言葉が足らず入ってこれないため、

人の村まで来ることは無い、

狩りに来るハンターが狙われるのだ。

 

ちなみに道具屋は…

 

足元まで走って来ると二足歩行になって

クロフの匂いを頻りに嗅ぐ、

歩くときは後ろ足で立ち上がるのだ、

まるで幼い子供に囲まれている保母さんの

ような絵面になる。

 

 

持ってるにゃ、持ってるにゃと言いながら

周りを囲む。

 

「もちろん持ってるよマタタビ、後で集落に

行くから族長に伝えて」

 

「了解にゃ」 

 

「変わった事は無い?」

 

「クックがいるにゃ、それと族長が大きな

取り引きしたいと言ってるにゃ」 

 

 

イャンクック 通称クック 大きな赤い鳥竜種、

大きな翼と嘴、そして大きな耳を持つ、

ハンターにとってコイツが狩れたら一人前

と言われるらしいが…

 

何度も見てるが化け物だ、赤い鱗と大きな

シャクレた嘴が脳裏に浮かぶ。

あんなでかくて怖そうなのにハンターに

とっては初心者向きの

デカイ耳がある鳥だとか、世界が違う。

 

道具屋にすぎないクロフの勝てる相手では

ないし、戦う気なんて最初から無い。

 

今日の仕事はクックを避けながらか、

効率悪そうだ。

 

などと考えながら歩き出す、すると猫族も

一緒に着いてくる、一列に。

 

一度この中の一匹でいいから、飽きるまで

モフモフして撫でて、

じゃれつかせて遊びたい、

が、クロフは口には出さずニヤける。

 

 

大きな取り引き、この言葉が示す通り猫族に

とって取り引き相手のクロフは

物を盗まれる事は無い。

 

急いだ方が良いかな?

 

 

 

 

猫族の集落

 

「良く来たにゃ道具屋!」

保母さん状態の青年にアイルーが声を掛ける、

マタタビの香りにつられて

幼児の数が増えている(幸せ)

 

なんだかいつもより偉そうにしている族長、

他の子より年は取ってるらしいが

……見分けがつかない。

 

「なんだか大きな取り引きだって?

良いもの拾った?」

 

時々どこで見つけたか分からない石像とか

マタタビと交換したがるが…

 

「フフフにゃ」

 

 

どうせ盗んだ砥石とか回復薬とかだろう、

ハンターの中には盗まれても取り返さず

忘れるヤツがいる。

そうなると集落のガラクタ置き場に置かれる。

 

大陸中の村と猫族には協定がある。

 

狩りが終わるまでは保管、取り返しに来たら

ハンターに返す(マタタビは除く)

 

来なかったら集落の物。

道具屋と取り引きも自由。

道具屋はまた売ることが出来る。

 

これってなんだか悪い事してる気がするが、

村長によると、

「ヤハハ、メラルーは習性だから止められない、

ハンター 、猫族、そして村にとって

一番良い協定だよ。それに道具が無駄になる

ことが一番損だしね。」

さてガラクタか道具か、まったく別の…

 

 

「マタタビと持ち物全部いただくにゃ」

さぁ何が出るか

 

 

 

「捻れた角にゃーーーーーー!!!」

 

両手で数匹が天に掲げる、誇らしげだ………

 

 間…………

 

 

 

「えええエェーーーーーーー!!!」

 

捻れた角、それはディアブロスの素材。

となれば最近砂漠に居座り、隣村との交易を

脅かしていた存在が思い浮かぶ。

「ちょ、ちょっと待って!

それ誰が持ってきた?」 

 

「砂漠のヤツ(猫族)にゃ、見たことないけど

そう言ってたにゃ」

 

まさか?まさかいやいやいや!

今朝だぞ?出発したの、片道徒歩で40分位で

砂漠に着いたとして、

そこから狩りを始めたとして……

…まだ昼まで大分ある。

 

早過ぎるだろ、G級ってそういう者なの?

 

遠くから見たことあるけど

村中総出(50人程度)でも勝てる気しないぞ。

 

アイルーが取り引きしてるって事はもう狩り

は終了した事に…

 

 

村長どうしよう、珍しく高額商品だけど…

これに見合う交換物…もってないよ?

 

「持ってるマタタビ全部にゃ!」




モフモフ モフモフ


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死に神と出会い

 

「お代は次の時でいいにゃ。」

 

そんな取り引き始めてだ。結局持っていた

マタタビ20個その場で交換し

捻れた角を持たされた。

 

なんだろう この違和感、

何かがおかしくないか?

 

物々交換は品が揃ってお互いに納得して

成立する。

明らかにクロフは儲けすぎだ、

猫族だって解ってるはず…

次の機会なんてあやふやな…

 

 

 

「くそっ!」

また意味無く言葉が出る、最近多い。

 

疑問に頭を悩ませながら、1メートルを

ゆうに越える捻れた角を振ってみる、意外

に見た目より軽い、

大剣ってこんな感じだろうか。

 

森の中の水辺を歩き10番から隣のエリアへ、

狩場は細かいエリアが複数ある、

この森と丘と言われる狩場には

12のエリアに別れる。

 

その中の3番へ出る、

 

見晴らしのいい崖の上で広い、樹は数本

だけで下生えの草が風にそよぐ

気持ちのいい場所。

 

パティを連れて来たらきっと

喜んでくれるだろう、

村の仕事ばかりだし。

 

 

 

しかし…

 

 

 

 

「クックだ…」

 

いい気分をいきなり現実に戻された、

幸い距離はあるし、後ろを向いて

地面を啄んでいる、が見付かれば

縄張り意識の本能で攻撃してくる。

 

もどるか、それともそーっと後ろを通って…

 

その時

 

 

 

 

 

 

「あああーーっっっ!!!!!!」

 

 

 

 

 

「え?」

 

見るとクックの更に奥の方、岩の影から

ハンターが飛び出した、女の声だ。

 

黒くて恐ろしげな防具、

背負ったヘヴィボウガン、

そんな出で立ちの人物がこちらを指差している。

 

左手にブチ模様の猫族を襟首掴んでぶら下げて…

 

 

今朝からの出来事が脳裏に流れる…

そして指差してるのはクロフと、

捻れた角…思わず後退りする。

 

「まぁてえぇーーーーーー!!!!!」

 

走って来る!!

訳を話さないと、分かって貰わないと、

自分で出来るか?でも今は…

 

クックの耳が開く、戦闘体制に入った、

敵はもちろん大声出したハンター、

ゴワカカカと唸りを上げ

地面を軽く足で掻く、威嚇して…

全力で駆け出す、全体重を乗せた突進で

ハンターを潰しにかかる。

 

 

一方のハンターは走りながらブチを放り投げ

背中のボウガンを展開し…

 

クロフはボウガンで射撃するにはオカシイと

感じた、だって射撃武器だよ?遠距離武器だよ?

なのに突っ込んで来るクックに向かって

(正確にはこちらへ)走って距離詰めてる。

 

クックまであと5メートル、3メートル、

1メートル、その瞬間!

 

「邪魔だーーーーーーーっ!!!!!」

 

背中に振りかぶったヘヴィボウガンを遠心力

を効かせてクックの頭に叩きつけた!!

 

「ゴガン!!!!」

 

 

 

えええええええ!!!!?

 

そんな馬鹿な!使い方オカシイだろ!

そんな思いに支配されたがすぐに自分の

置かれた立場を思い出す。

 

横倒しになり足と翼をバタバタしながらもがく

クックの横で、こちらに向き直る恐ろしい存在、

ボウガンをハンマーの様に振り回す

規格外の怪物と目が合う。

 

ギラリ。

 

「返せーーアタシのツノーーーーー!!!!!」

 

走って来る!ボウガンを振り回しながら!

 

「うわああああーーーー!」

 

話の通じる相手じゃない、

分かって貰える状態じゃない!

盗んだと思われてる!!

 

殴られたクックと自分のイメージが重なる!

 

 

急いで10番へ戻り、どうしようキャンプに

逃げようか、それとも猫族の集落まで行き

族長に説明して貰って…

 

多分さっきのブチ模様が砂漠のメラルーだ、

追ってきたのか?誤解は解けるか?

 

「まぁてえぇーーーーーー!」

武器防具を装備したハンターよりは、

走るだけなら負けはしない、

 

集落に向かって走り隣の11番、集落の入り口、

小さな滝と水場がある狭いエリアで

ほとんど通路のような形、

 

 

 

入った瞬間後悔する、

こちらは集落で行き止まり!さらに!

 

ブルファンゴ!こちらに気付いて威嚇!

先程までは居なかったのに、

狭い場所では逃げ場が無い。

 

 

どうする!前に猪、

後ろに話の通じないハンター!

 

 

考える暇は無い、小さな滝を登り僅かな

段差の上で身を縮める。

 

… 一瞬遅れて

 

「まぁてえぇ!」

の声を上げながら走り込んで来る!!

ブルファンゴは既に走って来る!!

 

「うらぁぁー!!」

 

「ゴガン!!!」

ブルファンゴは横倒しになりもがく。

 

何あれ?ナニアレ?あのヘヴィボウガン

何で出来てんの?

そのまま集落に走り込んで行く、遠くで猫族の

悲鳴が聞こえる、女ハンターの叫びも。

 

なんにゃ!なんにゃ!誰にゃああああ!

 

どこいった!!!隠すなコラアアア!!!

 

心の中で猫族に謝りながら暫く待つ、

ブルファンゴは立ち上がりヨロヨロと

10番へ逃げていく。

 

……静かになったな。

 

 

 

 

そーっと集落へ入っていくと、

女ハンターが気を失った族長の襟首を掴んで

持ち上げている。

髭と毛並みが荒れて、まさに嵐の直後の様な

変わり果てた集落、倒れてる猫たち、

その中央で。

 

 

「あの…あの……うぐ」

 

「あ?」(濁点を付けてお読み下さい)

 

族長を掴んだまま振り返る、目がギラリと光る。

 

「あ…あの…その…」

 

捻れた角を両手で差し出し頭を下げる、

うまく喋れない。

 

「あんたがやらせたの!?」

 

「へ?」

 

思わず間抜けな声が出る。何の事?

 

頭の装備を外し顔があらわになる。

デスギア装備から現れたのは真っ白い肌、

茶色の髪をキリンテールにして、

やや勝ち気な鋭い、しかし涼しげな目、

 

パティとは全く違うタイプ、

大人の凄い美人だった。

 

悠然と歩きこっちへ来る、殴られるかも

しれないと思うと体がこわばる。

 

三歩程の距離で止まる、何を言われるか

考えただけでイヤになる、近い近い怖い、

目なんて見れない。

 

クロフより僅かに高い身長から

さっきとは別人のような口調で、

 

「何か知ってる?変じゃない?」

 

優しく女は話しかける、

しかし青年に余裕は無い。

オドオド そわそわ ビクビク

視線が定まらない、緊張で喋れない。

 

口の中が乾く、話さなきゃ 説明しなきゃ。

 

「あう…あの…」

 

「ハッキリ喋れ」

 

うずくまりたい、耳を塞ぎたい。

 

 



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げふぅ

改めて見てみると誤字脱字に
改行失敗など、恥ずかしいかぎりです。


 

「アンタさぁ、口が利けないわけ?」

 

青年は黙りこむ、

エリア9番を二人で歩く、

ツノはクロフが持ったまま。

 

 

 

 

 

 

 

集落で族長と女ハンターが確認する。

クロフは蚊帳の外。

 

見たこと無い猫族が持ってきたこと、そいつは

タダで置いて行ったこと、

その上ジャンボ村の村長から今朝

 

「ヤハハ、今日この集落にディアブロスの素材

を持ってるヤツが来る、

タダでくれるからクロフに渡して」

 

「にゃ?それは取り引きかにゃ?」

 

「お使い……かな?」

 

「タダかにゃ?」

 

村長は少し考え

「ヤ!わかった、明日マタタビ50個ね。」

クロフが持ってるのもあげると告げ、

帰ったとの事。

 

 

つまりこの取り引き自体が村長に

仕組まれたもの、

クロフの20個は もののついで。

 

だけど一番の被害者は、

 

 

「あー腹立つ、

あの竜人村長ってなに考えてんの!」

これじゃあクエスト内容はともかく、

ギルド責任者である村長自身が

協定違反をした事になる。

 

「そのうえ口下手で話にならないヤツいるし!」

 

傷つく。

 

「名前は?」

 

聞いてくる、人に名前を聞くときはまず………

 

「名前!!!!」

 

ビクッと体を震わせ、

 

 

 

「クロフです………」

 

「アッハ!名前あるじゃない」

 

自分はアルト、フルネームは長くて嫌いだから

アルトで良いよと答える。

 

長い?

 

「あの…」

 

「何?」

 

怖い

 

「さっきの…あの…ブチの……」

 

「多分アイツは使いだよ、村長の。

放り投げずに掴んでおけば良かった」

 

そして

 

「村長に話を正さないとね、

事によったらブン殴る」と村に帰る事にした。

 

名前が長いって事は………

 

 

 

「あの…………」

 

「何?ハッキリ言いな」

 

だから怖いってば

 

「あの…キノコ…」

 

「キノコがどうした、ハッキリ言え!」

 

「キノコ…採りたい…で」

 

「採るぞ」

食い気味。

 

 

 

再びエリア8 入ると…またあの猪ブルファンゴ!

しかしクロフは恐れずキノコ採取に入る。

 

え?こいつバカなの?

アルトは見ているとファンゴは走り出した。

 

助けないと!クロフに言おうと見ると。

 

クロフはスッと立ち上がり三歩ほど後ろに下がる。

 

ファンゴは急に曲がれない、

クロフとキノコの間を走り抜ける。

 

目の前を猛スピードで通過すると、

クロフは再びキノコを取る。

 

え?偶然?

 

ファンゴは向き直り再び突進、

またクロフは避ける、無表情のまま平然と。

 

(コイツ誰に教えられた?)

 

また全部は採らずに少し残す。キャンプへ。

 

 

「クロフ」

 

毛布を畳みながら青年は振り向く、

目は合わせない。

 

「誰に教えられた?」

 

クロフはただ挙動不審になるだけ。

 

「さっきのファンゴの避けかただよ!」

 

村長に…帰ってきた言葉はそれだけ。

 

アルトは納得出来ない、

あれは殺さない避け方だ。

 

ランポスからどう逃げる?の質問には、

 

「ジグザグ……………」

 

正解…確信する。

普通村単位で狩りをする場合多人数で戦う、

だがクロフの答えは一人か極少人数の場合、

間違いない、コイツはハンターの基礎を

自然に教えられている。

 

 

……そして人嫌い。

 

 

 

 

 

ジャンボ村、ジャングルの川辺の小さな村、

貧しいが近年交易船が定期的に

来るようになり、豊かになりつつある。

 

パティが昼の強い日差しの中、

手を振りながら走ってくる。

 

デスギア装備のハンターに「お疲れ様でした」

と挨拶するとクロフに大袈裟に

 

「おかえり!良いもの採れた?

持ってあげてるの???」

 

ツノは持たされているが

「うん」

それだけ答える、籠の中身からキノコ類を

取り出して見せる。

 

 

……へーえ、この子…

「パティ…だっけ、村長いる?」

怖いデスギアが問う。

 

「フラフラしてます」

 

村の中央、クエストボードがなければギルド

と言うより船着き場。

船乗り、乗ってきた行商人達が少ない

テーブルとカウンターを囲んでいる。

 

なんだこの村?おかしい。

アルトはこの村の異常に気付く。

 

船乗りと同じテーブルに鼻が異常に高く、

耳は長く尖り、

人間の数倍長生きする竜人がいる、

手足の作りも人と似ているが違う、

ちなみに糸目。

 

パティが呼ぶと振り返り固まった、

この竜人が村長。

 

クロフとアルトが一緒のところを見て

なぜ動きが止まるのか、

デスギア装備は今朝見ているのに。

 

アルトは何かに気がついたようで、

 

「よーう村長!今朝ブリだな」

 

「ヤハハ…ディアブ」

 

「誰かさんのお陰でクエスト放棄だよ!」

食い気味

 「村長、後で話がある」と告げる。

 

アルトはパティとハンター用の小屋に向かう、

今夜の寝床の準備だ。

 

途中パティは振り返り、

道具屋に向かうクロフを悲しそうにみる。

 

 

 

 

夕方、仕事を終えた村人と船乗り達が集まり、

愚痴と天気、相場の話をしている、

酔っぱらい達が一様に歓声を上げる。

 

「おおおおぉー!」

何事かと人が自然と集まる、

その中心にアルトがいた。

 

ふんわりした長袖にスカートを着た

まるで貴族かお姫様、

村の真ん中に突然大輪の花が咲いたようで

質問攻めにあっていた。

 

この村にブラウスと

フレアスカートを知るものはいない。

 

私服は更に色気がある、しかも所作が綺麗で

笑い方も上品、

見とれてボンヤリしているオヤジもいる。

 

「じゃ姉さんがあのポッケの古龍を?!」

 

「いやあれは仲間が…」

 

ワイワイと騒ぐ酔っ払いを掻き分けてパティが

ビールを持ってくる。

アルトにはまったく似合わないがジョッキで

ビールはハンターなら普通らしい。

 

 

 

世の男は古今東西 美人の女性が酒を飲む所を

下心や淡い期待、色々な感情を持って見る。

 

このお姫様はどう飲むだろう、

きっと両手に持ってちびちびと…

 

衣装のお陰でパティがメイド、

そしてメイドが仕える王女がアルト、

とにかく絵になる。

 

 

 

 

 

 

アルトは「ガシッ」っとジョッキを鷲掴みに

すると片手で、

 

「ゴッゴッゴッッ」

喉を鳴らしながら一気に流し込み飲み干した。

 

「ぶはぁ、うまあぁ!」

高価そうな服の袖で乱暴に口を拭う。

 

テーブルにダァン!とジョッキを置き、

最後は豪快に「げふぅ」とおまけ付き。

 

(おっさんだ)

(オッサンダゾ)

(中身はタダのおっさんだ)

 

見ている一同が一瞬固まると、

 

「おぉ!いい飲みップリだのぉ」

色黒でナマズのようなヒゲを生やした

太った船長が言う、と、また歓声が上がる、

 

「いいぞ姉さん!奢るぜぇ、

パティちゃん!お代わりだぁ!」

威勢のいい船乗り達が 囃す。

 

いつの間にか「姉さん」で統一されたようだ。

 

しばらくして村長が何処からか帰ってきた、

村の騒ぎを嬉しそうに眺める。

「ヤハハ、久しぶりに賑やかだ」

 

「どこいってたんですか!」

洗い物と料理、給仕に

忙しく動くパティに怒られた。

 

村の女達もアルトの周りに集まり

服の作りと縫い目を見せてもらったりして、

 

「あたしにゃ一生買えないねぇ」 

 

「おめぇにゃ似合わねぇよ」

 

「アンタの稼ぎが悪いからさぁ!」

辺りから笑いが絶えない。

 

「なんだよぉ、こんな美人が同じ船にいたのかよ、

防具脱げば良かったのに」

 

「アッハ そりゃアタシだって女だよ、

少し位用心するさ」

アルトは肉をかじる、これも豪快に。

 

「あんな怖い防具より何かこう…分かんないかなぁ」

 

 

 

 

 

 

すっかり日が落ち月明かり、

ほとんどの人は家に帰る。

蝋燭は高価だし、薪も節約したい。

 

喧騒が過ぎた後、

小さな篝火に照らされたアルトが

 

「さぁて、パティ、手伝うよ。」

 

「え?そんな、いいですよ(拒否) 」

そんなパティの言葉を受け流し片付けと

洗い物を手伝う、

 

パティは驚く、手際が良すぎる。

 

「パティは働き者だね」

 

「料理は苦手ですけど」

 

「まぁ慣れだよねぇ」

大分飲んだ赤い顔の美人が皿を洗う

 

「早いですね洗うの」

 

「そりゃアタシもやってたし」

 

「え!アルトさん元ギルドスタッフ?」

 

「アッハ!そうよ?意外過ぎる?」

 

 

二人が作業を終えてテーブルに着く、

既に酒を飲みながら村長が待っている、

二匹のアイルーと一緒に

 

アルトは先ほどとは違う冷徹な声で話始める

 

「村長、言い訳をきこうか?」

 

「ヤハハ……オイラの家で」



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朝焼けの作戦

 

 

「ヤハハ…何から話そうか」

 

「先ずは今日の協定違反よ」

 

「え!協定違反?」…パティは二人の顔を見比べる。

 

村長の家、装飾などない粗末な内装、

丸い大きなテーブルの周りに切り株のイス、

しかしテーブル上にこの村では高価なランプ

があり明るい、

この家で取り引きや商談もするのだろう。

 

二匹のアイルーが村長の横に座る、

一匹は真っ白な毛並み、名前は白、

普通の方はタマ。

 

「あんた、頭黒いよ」

真っ白にアルトが言うと

 

「にゃああっ!!」と手で隠そうとする

 

「この子ブチ無いですよ」

とパティは不思議そうに見る。

 

「アッハ、う・そ♪」

 

その様子を糸目で見ながら

 

 

「先ずは、ですか……ヤハハ、バレてるし」

 

「バレたね……で?その真意は?」

 

「クロフを弟子にして頂きたい」

 

 

「予想通りだが酒の上の話かい?」

アルトの目が鋭くなる、

テーブルの向こうから睨む。

 

 

「ヤハハ…オイラは本気で…」

 

 

 

ダン!!!!

 

 

アルトが立ち上がる

「それはあんたの

後始末を手伝えってことか!!!?」

 

テーブルを越え殴らんばかりに。

 

壁に映るアルトの影が大きくなる、

パティは怯えて後ずさる、

二匹はテーブルの下へ。

 

「ヤハハ、全部お見通しですか、

先ずは協定違反からですね」

落ち着いて答える。

 

 

 

 

村長は語り始める、

通常ハンターには常に二匹のアイルーが付く、

このアイルーはギルドマスター(村長など)が

契約して、ハンターが力尽きた場合に限り、

どんな状況下であろうと救出する

通称【猫タクシー】を組織する。

 

  

これこそがギルドのハンターと村の勇者を

明確に分けている。

 

村の勇者はモンスターに負ける事は

死を意味する。

 

それが常識。

協定違反はギルドとしての運営の信用を無くす

危険な行為。

 

もっとも今回はメラルーに関する方だけ、

しかし信用は揺らぐ。

 

村長は二匹のアイルーと一緒にアルトの後を

追いかけた。

 

予想以上に狩りは上手くて簡単に角を折る。

 

 

「ヤ!こりゃ急がないと、手順は分かってる?」

 

「にゃ!任せろにゃ!」

 

村長は砂漠から森と丘の集落へ。

 

白は事前に渡された炭粉でメラルーに化け、

何でもいいからディアブロスの素材を盗み

森と丘の族長に渡す。

 

タマは砂漠の集落から白の代わりになる

猫族を見付けて、

万が一アルトが倒れた時に備える。

 

 

 

朝焼けの作戦が決行される。

 

準備時間が無いとは言え上手く行くと思った、

 

 

が、二つの誤算が発生。

 

一つはアルトが不審に思って狩りを放棄、

森と丘へ行ってしまった事。

 

「アッハ!あんな怪しい猫初めて見たよ」

白が俯く。

 

もう一つが白の化け方が予想以上に下手

だったこと。

 

 

狩りの最中にメラルーの攻撃を受ける事は多い、

 

が、通常はハンターのポーチを狙う、

 

だが白は真っ先に折れた捻れた角を

取ってしまった。

 

その上炭粉で真っ黒にしたのは良いが、

体の前面だけ、後ろは真っ白。

 

猫が角を頭上に掲げながら二足で逃げる。

 

「ヤハハ、まさかそんな状態だったのか」

 

「にゃにゃにゃ…」

いくら器用でも

手の短さはどうにも出来ない。

 

不審に思ったアルトは狩りを放棄、追跡する。

 

森と丘へ白が角を持ったまま入る。

 

アルトは躊躇う、

 

「一度に複数の狩り場に行くのは

クエスト違反だしね、密猟とか」

 

しばらくするとクロフが入って行くのを見た。

意を決して入る。

 

クロフが毛布を干してから1番に行くのを見て、

一応見付からないようにキャンプに入り、

エリア1へ、

 

「キャンプから1番に出ようと見たらさ、

まだクロフは歩いてんのよ。」

 

8番にクロフが移動する

 

「そしたら2番から怪しい猫が走って来てさ、

水辺で体洗い始めたわけ」

アルトは笑いながら言う。

 

「水に入りたく無いんだろうね、

手でちょこちょこ洗うからマダラの

ブチになったよ」

 

体を洗うブチ猫の首根っこを掴み振り向かせ

 

「おい!」死に神のごときハンターと目が合う。

 

にゃぁぁ怖かったにゃ。と白。

 

「アッハ!なに聞いても喋らなくてさ、

角も無いし、でも考えれば猫が行くとこって

猫族の集落しか無いわけじゃん」

 

クロフに捻れた角を族長が渡す、

 

アルトと出逢う

 

その辺りは?アルトが聞く。

  

「ヤハハ、族長に聞きました、暴れたそうで」

 

「加減はしたよ」

 

 

 

 

あの…パティが久しぶりに口を開く

「協定違反してまで村長は

何がしたかったんですか?」

 

「ヤハハ、解らない?」

 

 

 

「まったく手の込んだことを…村長はね

アタシとクロフを会わせようとしたのよ」

 

「それだけ!?」

 

二人とも頷く。

 

「え!え?なんで……」狼狽えるパティ

 

アルトは語る

「アタシがこの村に来てさ、村長の薦めで

弟子にさせようとする、会わせようと

したらあの子(クロフ)どうする?」

 

 

「逃げますね 、会っても喋らないし

喋ろうとしない」

 

「アッハ!正解!あの子コミュニケーション

苦手だし」

人が嫌いか自信がないか、

人と目を合わせない。

 

 

 

つまりどちらが先でも後でも、村に帰ってきて

クロフがディアブロスの素材を

持って帰った事実があれば、

「アタシが問い詰める、

嫌でも話をするしかないってわけ」

 

「ヤハハ、それが一緒に帰った来たから」

 

「固まった訳ですか…」

 

これが顛末。午後から居なくなったのは…

「ヤハハ、この子たちの回収と族長に

話を聞きに行って」

 

「川で洗われてたにゃ」

 

白は身震いする、嫌だったのだ。

 

 

「嬉しい誤算になったよねぇ?」

 

「オイラの作戦が上手くい」

 

「まんまと踊らされたよ、

アンタが思う以上にね!」

食い気味

 

パティが不思議に思う。

えっと、それは、良い話?かな?

あれ?なんだろう、何かがおかしい。

 

アルトの目が鋭くなる。

 

 

「ヤ~、もう遅いからパティは寝」

 

 

ダァン!!!!

 

 

「パティにも聞く権利があるだろ!!!!」

 

そうだ、後始末?何?クロフとどんな関係が?

パティはまだ本題に入っていないことに

気付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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竜人の罪

アプリからコピペすると
相性悪いのか
改行し辛く
ごちゃごちゃです



 

「私にも…聞く権利?」

パティが遠慮がちに聞く

 

「弟子にしようとするのと私に関係が?」

 

「いや…義務かな アンタが話す?」

アルトが村長に問う。

 

村長は押し黙る。話しづらいようだ。

 

「ハンター以前にクロフは

人として問題を抱えてる。」

「その人としての部分も育てろってか?」

「原因はアンタだろ!」

アルトは捲し立てる。

 

パティが問う、

「クロフがああなった原因が村長?」

 

「んー村の始まりが原因…かな」

アルトは村長を見る。

 

 

 

 

しばらくの沈黙の後、ようやく

「お願いします」

と村長が口を開く

 

「じゃ、アタシの知ってる事と

今日の体験からの推測を」

 

 

遥か遠い竜人族の村に

毎日祈りを捧げる大僧正がいた。

 

ある日噂が流れて来る、四人の英雄の話。

その四人は自分と同じ竜人で、大陸中の

モンスターで困ってる人間たちを

助けていると言う。

 

「四大英雄」パティが呟く。

 

大僧正は疑問に思った。

幼くして役目を受け継ぎ祈る毎日。

 

片や人知れず祈る者、

片や戦い英雄と呼ばれるもの。

自分は祈る事しか出来ないのか?

 

まだ少年のような竜人の大僧正は、

弟に役目を押し付け村を飛び出した。

 

「ヤハハ、ただの子供だね」自嘲する。

 

まだモンスターと戦えない竜人は

どうやって人の役に立とうか考えた。

 

知識は人より高い竜人は辺境へ向かい、

個人、多くても数家族で生活していた

人達を集めて村を作った。

 

「もしかしてこのジャンボ村?

大僧正が村長?」

パティは村長を見る。

 

「アッハ!半分正解」アルトは続ける。

 

飢えで死ぬ人が多かった地域で、

竜人は特に農業を伝えた、

数年で村は蓄えが出来て

人口が増え飢えも無くなった。

 

竜人は喜んだ、人々も。

竜人はいくつも同じように村を作った、

辺境は見違えるほど豊かになった。

竜人は尊敬され持て囃された。

 

「愚かだった」村長は下を向いたまま。

 

しかし竜人は知らなかった、

隔絶された竜人の村には

存在しないものが人にはあった。

 

「竜人になくて人にあるもの?」

 

「………悪意だよ」アルトは俯く。

 

「オイラは世間知らずのバカだった」

 

村には土地という概念が出来た、

柵で囲いまた良い土地を探す。

 

土地には優劣があった、

作物が多い所と少ない所、

モンスターが来る場所。

 

土地の奪い合いが起こった、

武器を持ち争いが続いた。

 

 

「ここからアンタが説明しな、義務だ。」

アルトは冷たく言う。

 

 

「ふう…良くご存知ですね」

村長は天井を見上げる。

 

「ジイチャン達から聞いたよ

あっちこっちに村つくって

喜ぶ若造が居るってさ」

 

 

何年続いたろう。

止めるために話そうとしても

聞いてもらえず泣いたよ何度も。

 

争いの末残り二つまで村が減った、

土地は空いた、

争いは終わりを迎えると思った。

 

甘かった。妬みは恨みに代わり、

貧富の差が面子を生み、

裏切り寝返りを繰り返した人々は…

 

それでもなお戦った、独占欲が出たんだ。

最後の戦いが始まった。

 

でも戦わないで耕す者が僅かにいたんだ。

 

「オイラはその人達を集めてここに来た、

ジャンボ村がで」

 

「端折るな」

 

 

「前置きは終わり、この村はジャングルの中に

 突然出来た筈だ、昔の地図に無いからね」

 

「この村が出来たのは知ってます 、

四歳位かな」

パティが言う。

 

「んー、いいや解ってないんだ」

アルトが優しく言う。

 

突然村が出来るか?

人が全く居ないところに村を作るんだ、

並大抵の事じゃない。

 

初め竜人少年は最初から

人が居る所に村を作った。

 

ジャンボ村は違う。

 

毎日ジャングルを切り開き、獲物を取り、

雨に寒さに脅えて生きなきゃならない。

 

道を作り屋根さえ無いところに

肩を寄せあって生活しなきゃならない。

 

 

「人は目の前の事で手一杯だと

周りが見えなくなる、他人の

小さい子供の面倒なんて特にね」

 

 

「私…」

 

「クロフもね」

 

「オイラもそこまで気が回らなかった、

余裕が無かった」

 

「やっぱりアタシの推測どうりか、

クロフはパティの面倒見てたんだ」

 

「何歳で?アルトが聞く」

 

「ヤ~…、9歳くらい」

 

「まだ親の必要な孤児に

孤児の面倒を押し付けたんだ、

親がいて妹の面倒見るのとは訳が違う」

 

パティが顔を両手で覆う。

 

「親の愛情を受けるべき子供が

親代わりになったんだ」

 

この村は他人の寄せ集め、

しかも戦乱の生き残り、

心は荒んでいた。

 

クロフの面倒を見る人はおらず、

愛情は貰えず、

なのにパティを抱えて途方に暮れた。

 

「ふう、これがアタシの見解」

アルトは溜め息を吐き、

 

「辛くても文句も言えず、愚痴も言わず、

クロフは心を閉ざした、そうじゃない?」

 

「これがアンタがやったことだ、違う?」

ランプ越しに村長を睨む。

 

パティは顔を覆って

俯いたまま、細い肩が震えている。

 

「ヤ、あのぅ」

 

「何?間違ってたら言って」

 

「ヤハハ、概ね正解なんだけど」

 

「続きがあるとか?」

 

「ヤー、捕捉があって…」

村長はパティを見る。

 

パティは俯いたまま。

 

 

「クロフを可哀想って思えるなら、

恩を感じるなら頑張って聞きな」

アルトは優しくパティに言う。

 

村長は語り出す。

 

村が少なくなる度に、多くを殺した者は

英雄視されるようになった

 

村を指揮する立場にあった英雄に

オイラは戦いを止めるよう

何度も足を運んだ

 

その家にクロフはいた、

 

兄弟が多く皆戦士に憧れ、

幼いうちから木の剣で打ち合っていた。

 

クロフは体が弱かった。

兄弟に苛められ父親からは疎まれた。

 

 

パティが堪らず声を漏らす。

 

 

母親も諦めたんだろうね、

クロフは奴隷のように働かされてたよ。

 

だけど転機が訪れる。

 

「戦か」アルトは呟く。

 

最後の戦いが起こり皆死んでしまった。

オイラが行った時、焼け跡で呆然としてたよ…

親兄弟の死体の前で。

 

オイラは連れて行った、生き残りと共に。

 

 

嗚咽…自分を抱き締める

 

 

そしてここに連れて来た、

クロフにとって

再起の場所になるはずだった。

 

 

ガクガク体が震える…爪を立て堪える

 

 

体力もなく働けない子供に居場所は無かった。

 

 

ガチガチと歯が鳴る

 

 

ボロボロの服で

毎日頭を下げながら食べ物を貰い、

役立たず、無駄飯食らいと思われながら、

 

バァン!!!!

 

堪らずパティは走り出そうとする、

テーブルの下で丸くなっていた

白とタマが飛び上がる!

 

アルトは素早くパティを抱き止め、

 

「聞きな!!辛くても!!

アンタは聞かなきゃならない!!」

 

 

 

 

自分より背負った子供に食べさせた。

 

 

 

 

限界だった、パティは声をあげて泣いた。

 

 

 

 

ランプの火が弱い、

獣油が残り少ないのだろう。

 

「だっで……お兄じゃ…いづ…ああうあぁ!」

 

アルトの胸で泣き続ける、

頭を撫でながら思う、

クロフはこうして抱き止めていたのだろう。

 

パティは心の中でずっとクロフに

詫びながら、クロフの前で明るく

振る舞っていたんだろう。

 

続きは明日の方が…村長が薦める。

 

そうだね…撫でながらアルトが答える。

 

パティはしゃくり上げながら

 

お兄じゃんだずけでぇ」

 

アルトは両手で優しくパティの顔を包み

親指で涙を拭う。

 

「本気だな」アルトは冷静に言う。

 

パティはコクンと頷く。

 

 

 

 

 

 

 

自分のせいだった、

元から恵まれてないとはいえ、

更に追い詰めたのは自分だった。

 

 

ハッキリ思い出した、

ボンヤリしていた記憶。

 

暇さえあれば

弱い体で木の実を採ってくれた。

 

川で水遊びしながら体を洗ってくれた。

 

戦場跡で服を探し、

なくて大きな袋を服代わりにした。

 

雨が降れば大きな葉っぱの下で

震える私を抱き締めてくれた。

 

いつも頭を下げながら食べさせてくれた。

 

お腹を空かせて泣く私をいつも笑わせ…

 

 

 

………あぁ。

 

 

決して見捨てなかった、どんなに喚いても。

 

 

決して見捨てなかった、どんなに辛くても。

 

 

決して見捨てなかった、

自分より私を優先した。

 

 

私に愛情を注いでくれた。

 

 

いつも幼い心を満たそうとしていた。

 

 

 

また声をあげて泣いた

 

アルトも目を潤ませて

「アンタは人の心を貰ったんだね」

 

村長も涙を拭う。

 

 

 

 

 

 

落ち着いたのか

「あの…油だじできまずぅ」

 

涙と鼻水でせっかくの美人が台無しの少女は、

立ち上がり

隣の部屋へランプの油を足しに行く。

 

 

 

戻ってくると赤い目を擦りながら

 

「どうじだらいいの?」

 

村長とアルトは顔を見合せ、

まだギリギリのパティに向き直る。

 

続けるの?アルトが問うと

パティは涙を拭い頷く。

 

「夜更かしは美容に悪いんだよ?」

アルトが茶化す、空気を変えたい。

 

ジャンボ村はクロフを置き去りに形が出来た

 

「クロフにいつまでそんな生活させた?」

 

村長は天井を見ながら

「一年と…少しか…」

 

「長いな」

 

村長は頭を抱える。

「さすがにマズイと気が付いて

パティはオイラの小屋へ、

 

クロフは…二人に預けた…」

 

「道具屋さん…」パティが言う。

 

「道具屋は本当は夫婦じゃない…」と村長。

 

「え…」パティが驚く。

 

「衣食住揃って礼儀を思い出し

人心を取り戻したんだね」

とアルト

 

「ヤハハ、貧乏だけどね」

 

そしてクロフが壊れそうなことに

ようやく気付いた。

 

「アタシ子供いないけど

クロフの心の中には…んーなんて言うか」

 

油の足されたランプを見て

 

「心の器が無いっていうか

空白って言うか、空っぽ?」

 

アルトは語る

アタシの考えでは親に認められた時、

小さな器が出来る。

そこに愛情を注ぐと器は大きくなる、

これが自信になる。

 

自信が無いからクロフは

自分を俺とも僕ともいわない。

 

びくっと二人が顔を上げる、

心当たりがある!

 

クロフは器が極端に小さいか…

底が抜けてるか

 

だから何を言っても響かない…

反応しない?

 

「受け止められない?」パティが言う

 

その空っぽの、底の抜けた器でも

必死でパティに愛情を注いだ。

 

三人の頭の中に、

底の抜けた器で水を掬い、

パティの器へ注ぐ

ボロボロの少年が浮かぶ。

 

パティはまた顔を覆う。

 

自信が無いから人と話さない、

話さないから人との距離が解らない。

 

「子供は遊んで、じゃれあって、

人との距離を学ぶよね」

村長は寝ているアイルー達を見る。

 

クロフは多分…

9才で心の成長が止まってる。

  

自分の器さえ出来れば自信が出るかも…

 

自信が出来上がれば、自意識が出来る。

俺、僕が言える。

 

そうすれば人と話が出来る、

 

 

多分二人だけじゃない?少し話が出来るの?

 

パティと村長は顔を見合せ

 

「ヤー、あと道具屋の夫婦…猫族もか」

 

根は凄く優しい奴なんだ、

じゃないとパティを見捨てたはず。

 

とにかく人と話しをさせる、

下らない話でも良い、

そうすればいずれ…

 

アルトはパティに向かい

「笑顔が戻るかも」

 

また声をあげて泣く、ただし今度は別の涙

 

自信なぁ…アタシは

ハンターを通じてしか物を教えられない。

 

「取り敢えずクロフをハンターにしてみる?」

パティに問う。

 

パティは頷く。

 

 

「弟子の依頼、確かに受けた!」

 

「ヤハハ!!ありが」

「アンタじゃない!!!」

食い気味

「パティの依頼だ!」

 

 

泣きっぱなし。

 

 

「もうすぐ夜明けか、村長!!あれあるか?」

 

「ヤハハ、当然」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよー!!おーい!!」

ドンドン叩く音が聞こえる

 

おばさんは……

「ごめんねぇウトウトしちゃって」

 

あぁ起きてた再び微睡む…

 

 

が、店から足音が来る。

 

バサァと仕切りの布を捲り

 

「起きてる?」

 

慌てて起き上がると、

ポンと何かを投げてくる。

 

「え…?」

ハンターナイフと剥ぎ取りナイフ

 

「今日からアンタはハンターだ」

アルトは優しく笑う。

 

 

 

 



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こう……上から

粗末な煤けた部屋、

 いつも通り木の床に座り

 朝ご飯を食べながら聞かれる、

 

 「あの姐さんその為にきたのか?」

 おじさんは果物をかじる。

 

 「ハンターだって…」

 

 「クロフがハンターになるのかい?」

 おばさんが不思議そうにする。

 

 胡座で座るクロフの横に置かれた

 ハンターナイフを揃って見る。

 

 (似合わん)

 (どうしよう)

 (向いてないんじゃないかい?)

 揃って溜め息。

 

 まあ、

 どうせ村長の考えあっての話しだろうし、

 上手く出来なければ

 あのアルトって女ハンターも

 すぐ諦めるだろう。

 

 「で?午前中は暇だって?」歯に挟まった物を

 爪で取りながら、おじさんは聞く。

 

 「午後から来いって」

 

 「じゃあ久しぶりに釣りに付き合え」

 

 「あら、青キノコ採って来れば回復薬が…」

 おばさんが食器を重ねながら言う。

 「今日は釣り!」

 

 「ハイハイあたしゃ寝るからね」

 

 

 道具屋の横の川、二人揃って釣糸を垂れる。

 

 

 沈黙…

 

 

 話しかけないでくれた方が気楽、

 クロフはいつも通り。

 

 しかし

 「クロフ」

 

 「ん?」ああなんだろう

 調合の事を言われるのか、

 それとも

 昨日のキノコに形が悪いものがあったか、

 いやだいやだいやだ…

 

 唐突に

 「俺とアイツは放って置けば良い」

 「え?」

 

 「10年、家族の真似事してきたが、

 お前を預かって良かったと思うとる」

 

 (何を言ってる)

 

 「人殺しの畜生以下を

 こんなにも人間らしくしてくれた」

 

 「道具屋も上手く行ってるし、問題ない」

 

 「最初の狩りが終わったら

 もうハンター小屋に住んでもいい」

 

 「話は終わりだ」クロフを見ながら

 

 「ありがとうよ」

 

 何だか今日は良く喋る、クロフの感情は

 ありがとうの言葉で動かない。

 

 「話は終わりだ、行け」

 

 クロフは竿を上げ家に戻る。

 

 採取、大工仕事、調合、土木、

 アプノトスの世話、釣り…

 あいつは何でもやった、ガリガリの体で。

 

 少しずつでも、今は何でも一人前に出来る。

 

 教えた、なんでも。

 どう言えば上手く出来るか考えた。

 

 失敗すれば叱った、出来れば誉めた。

 

 こうして俺が出来上がった、

 畜生から立ち直らせてくれた。

 

 だから感謝した、でも、

 

 

 

 「通じないか」おじさん(ヨシ)は涙ぐむ。

 

 「何でクロフだけ帰すのさ」

 「寝てたんじゃねえのかお前?」

 

 「二人で朝から釣りなんて

 何かあると思うさ」

 

 ヨシの様子を見て「ダメだったのかい」

 とおばさん(メヒコ)は横に座る。

 

 沈黙………

 

 「終わりかねぇ」

 「いつかはこうなると

 知っとった筈なんだが」

 

 流れる水面を見る。

 

 

 【休憩中】の看板

 カウンターの上に

 ポツンと小さな板が立っている。

 「え?」

 暇だからパティに会いに来ても誰も居ない。

 

 船乗り達に話しかけられる。

 

 威勢のいい船乗り達の態度は

 クロフにとって当然怖い。

 怖い怖い怖い、体が強張る。

 

 「朝から居ねぇんだよ、何か知らねぇ?」

 当然

 「あ…の…え…んと」

 

 あーそいつ話しになんねぇよ、とか、

 あんなやつ居たっけ、とか聞こえる。

 

 「使えねぇ」

 吐き捨てるように言う。

 

 仕方なく村長の家にいくと船長が立ってる。

 

 「おぉ道具屋の…」

 名前は覚えて貰ってない。

 

 

 「村長どうしたんじゃ?」

 ドアには「昼から」とだけ張り紙がある、

 糸目の似顔絵付きで。

 当然しどろもどろな言葉しか出ないが…

 

 「お前みたいなヤツはイッパイおるぞ」

 ニコリと笑い船着き場へ。

 

 どうしようか、すると

 パタッとドアが空き

 中から白とタマが出てくる。

 

 「にゃ?どうしたクロフ」タマが聞く

 「村長は?」

 「まだ寝てるにゃ」白が答える。

 

 どうしたのか聞くと

 朝まで話しをしていたらしい、

 

 何の話か聞くと、

 

 「ブチになって洗われて

 ドォンバァン怖かったにゃ!」

 

 分からん。

 

 

 村の出口へ二匹と一緒に散歩する、

 村の目の前の藪の中。

 曲がりくねった木の根元、

 落ち葉が溜まった場所がある、

 

 なにかにゃ?クロフは落ち葉を掻き出す、

 ものの数分で全体が解る。

 ぽっかり空いた小さな穴。

 「にゃ!穴~!」

 アイルー二匹が飛び込むが、

 「狭いにゃ♪」

 二匹で一杯。ここはナンニャ?と聞かれると

 

 「隠れ家にいいし、あげるよ」

 

 

 

 

 昼

 ヤハハ、今日も暑いな!と村長が出てくる。

 遅くなってごめんなさいと言いながら

 パティがギルドへ走って行く。

 

 「遅いよ~パティちゃ~ん」

 船乗りと行商人達が騒ぐ。

 

 クロフー!と呼ばれて、

 「今日からアルトさんの弟子なんだよ?

 アルトさんは?」

 と聞かれている間に、

 

 アルトがギルドに来る、

 昨日とは違い革の鎧、

 武器も片手剣。

 

 「うおお姐さん、何でレザー装備なんだよ!」

 

 「ハンターなんだから

 装備着けるの当たり前だろ」

 

 「違うんだよもっと何かこう、

 分かんないかなぁ」

 

 「アッハ!お早う!」

 振り向く、もう昼ですが 、

 

 「ちゃんと来たね感心感心」

 もし来なかったら

 今朝のように無遠慮に来るでしょ、

 

 

 

 

 「挨拶!!!!!」

 

 

 船乗りが一斉に立ち上がる

 皆声の大きさと迫力に気圧される。

 

 静寂………

 

 「あ、…あの…」クロフはいつも通り、

 パティは直立不動。

 

 「アッハ!緊張すんな」

 

 クロフを見る、そしてパティに森と丘の

 採取クエストに行く了承を得る。

 

 「あ、猫タクシーいらない」

 笑いながら

 

 「ギルドである以上付けない訳には…」

 笑いながら

 

 「なにもしない?」

 ニヤケながら

 

 「しませんよね、村長」

 ニヤケながら

 

 村長は

 なぜかコソコソ船長の太った体に隠れる。

 当然クロフにはなんの事だか分からない。

 

 

 

 

 「クロフはどっち利き?」

 「?」

 「右利き、左利き?」

 「あ…う…え右」

 森と丘のキャンプ、

 先ずは装備の着け方から入る。

 

 左に盾、右に剣を持つ。

 

 良し、抜いて見ろの声で抜刀する、

 良し、納刀の声で納め…られない、

 後ろに鞘が有るため見えない。

 

 「良いか?ハンターやるなら

 抜刀、納刀は攻撃よりも大事だ」

 

 「あと20回!」

 めんどくさい、でも怒られたくない、

 ひたすら練習、出来るようになる。

 「次、回避!」

 

 ひたすら前転と側転、

 もう汗だくの土まみれ。

 

 ぜーぜー言いながら次の指示を待つ。

 怒られたくない、

 

 「抜刀斬り!」 前に走って跳びながら抜刀

 「回避!」  前転

 「納刀!」 納める

 「繰り返せ!」やだやだやだ

 

 20回で休憩の声。

 地面に倒れ死にそうな呼吸を繰り返す。

 

 なんでこんな事しなきゃならない、

 疲れるし辛いしもう嫌だ、

 服も汗でベタベタだ。

 

 行くぞ!の声でキャンプに服を全部脱いで

 インナー姿で1番へ。

 

 「次、発声練習!」

 え?何言ってんのこの人。

 

 「お早うございます!!!」

 馬鹿でかい声でアルトが叫ぶ。

 アプノトスの親子が

 ビックリして草を食べるのをやめる

 大きな体なのに臆病らしく逃げていく。

 

 「さ、やれ」

 

 恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい

 なんでだいやだいやだ…

 

 「恥ずかしいか?」頷くと、

 「ギルドでやるのとどっちが良い?」

 

 「おは…よ」

 怒られたくない、

 

 あたまをボリボリしながら

 「お前なぁ、もっとでかい声出るだろ?」

 「昨日ここで

  くそっ!!!! ってデカイ声出したろ!」

 

 ああああああああなんで、

 なんで知ってる恥ずかしい!!!!!!

 怒った怒った怒った怒った

 

 ニヤケながら「パティにバラそうかなぁ~」

 

 

 

 「お早うございます…」

 

 「ほら言えた」満面の笑み。

 

 「おはよう、こんにちは、今晩は、

 少ないんだよ?挨拶って、

 挨拶されたら相手だって挨拶返するんだ」

 

 こっちに近づく、怖い怖い怖い近い

 

 ビクビクする様子を観察しながら

 

 「アンタ、アタシが怖いの?」

 怖いに決まってる

 

 「アタシ何かした?」

 だって、あの、だから、…その

 

 しょうがないねぇと右手を出してくる。

 「?」

 「握手だよ握手」

 おずおずと右手を出して握る、

 心臓がバクバク言う。

 

 じゃあ次、

 アルトは手を離し一歩下がって…

 

 

 「ジャキン!!!」クロフに向かって剣を構える」

 鋭い目!全身から殺気!

 

 クロフはよろけながら後ろに下がる、

 呼吸が早い、いやだいやだいやだ…

 

 「どっちがこわかった?」

 構えた方に決まってる

 

 「剣…出し…」

 「そう、それがアンタなんだ、

 人に対して構えちゃうんだ、、

 アンタが構えるから相手も構えるんだ」

 

 「アンタ猫族好きだろ?

 アイルーは誰にだって

 友好的だよ、だから

 人間と距離が近くなれたんだ」

 

 白とタマを思い出す。

 

 そんなもんなの?

 

 「今日は一つだけ約束しろ、

 構えないで挨拶するんだ。」

 

 「さっき…の握…手?」

 

 「んー、言葉の握手、それが挨拶」

 

 「夕方帰るから 「ただいま」がいい、ほら」

 

 

 

 「ただい…ま」

 言えるじゃーんと言いながら

 アルトはクロフの頭をグリグリなで回す。

 

 いやだいやだ恥ずかしい恥ずかしい、

 でもちょっと嬉しい、が、

 

 「止めてください!」

 怒ってしまった。ちょっと嬉しいのに、

 嫌いじゃないのに、

 こんな自分に触れてくれたのに。

 

 クロフの口からはこんな言葉しか出ない。

 プライド、男、意地、嬉しさ、葛藤、怒り

 そしていつも、

 いつも後悔がやってくる。

 

 何度も後悔した、後悔したことを後悔した、

 自分でもこの言葉が

 自分の言葉じゃないことを知っている

 

 

 …はずなのに…

 

 「そんなに悩んで苦しまなくていい、

 今日は「ただいま」だけだ」

 言うだけだ簡単だろ、

 と笑うが

 クロフにとってどれほどのストレスか。

 

 ブルファンゴ狩るぞ、と探し始める

 すぐに見つかる、幸い一頭。

 

 「狩ってみな」アルトは平然と言う。

 意を決してファンゴの前へ、威嚇そして

 

 

 

  ドガ!!!!!

 

 

 盾で防ぐが体ごと持っていかれそうになる、

 左手が痺れる。

 

 「おーい

 クロフ、違うだろー、昨日どうやったー?」

 8番中央の岩の上から胡座で見下ろす。

 

 一歩下がって

 ファンゴを待ち通過する所を…斬る!!!!

 

 バシッ!!!!!

 

 イメージでは斬れるはずだった、

 しかし硬い毛並みに弾かれる、

 話が違うとアルトを恨めしそうに見上げると、

 

 「アッハ!振り向きを狙え!」

 

 通過する、追いかける、

 止まって振り向こうとする、

 抜刀斬り!!!の声に後ろから斬る斬る斬る…

 

 また走る、追う、抜刀斬り…

 

 

 

 

 力なくブルファンゴは倒れ断末魔を上げた。

 右手に肉を抉った感触。

 ぜいぜいと肩で息をする、

 普段なら村の人と5人位で槍で刺すが。

 

 「一人でも……勝てる」

 「アッハ!そうよ?戦いかたが出来れば…」

 

 クロフに手を伸ばす、

 当然強張る、怖い。

 

 ポンと肩を叩き

 「クックだって倒せる」

 

 あんたの狙いはハズレて無いんだけどね、

 と言いながらファンゴの背中側にしゃがむ。

 

 促され腹側にしゃがんで見る。

 「良く見て、毛並みって鼻先から

 後ろに向かって生えてるだろ?」

 

 これに逆らって縦に斬ろうとすると、

 とアルトはハンターナイフを軽く振る。

 

 

 ボスッ。

 

 じゃあ毛並みに沿ってやってみな。

 クロフは言われるままに

 

 ザスッ。

 

 「違いが解るか?」

 

 「横に切ったら…きりやすそう…」

 

 「正解正解分かってるじゃない!

 じゃあもう一頭」

 

 探す。10番にいた。

 同じように避けてすれ違いに

 

 ザスッ!

 剣を納め走り、後ろから…斬る!

 さっきより少ない回数。

 二頭目も難なく倒した。

 「アッハ!

 飲み込み早いじゃん!お姉さん嬉しい!」

 

 剥ぎ取りナイフは毛並み関係なく

 スパスパ切れる、皮や肉を取る。

 

 うーん、ファンゴで苦戦する予定だったけど

 こうなると欲がでるわね。

 

 「ランポス行っちゃおうか?」

 「え?無理」

 「行ってみよー!」

 「嫌だ…」

 「師匠は誰?」

 「うー…」

 

 おぉ、拒否したよ、意思表示出来たわ、

 人間余裕が無くなると、完全に黙るか

 思ってることそのまま愚痴に出るんだよね。

 疲れさせた甲斐があったわ、

 口数増えてるの気付いてないし。

 

 まぁ

 

 そのお陰で子供の頃に、愚痴言われたり

 無視されたりしたろうけど。

 

 

 採取しながら2番へ、二頭見える。

 「さて出番だ!」

 アルトは一頭をあっという間に斬り伏せる。

 「さぁ、やれ!」

 

 どうする、防具無いのに。

 クロフはインナーだけ、爪や嘴でケガをする。

 

 「キャンプでやったろ

 抜刀斬り、前転、納刀だ!」

 そ、そんな事言ったって…

 

 ランポスは止まらない!

 考えている間にランポスは

 走ってきて目の前に止まると、

 

 様子を見るようにし、

 

 噛みつき!

 

 ガシッ!

 

 盾で止まる、生臭い息が掛かる

 怖い怖い怖い怖い

 攻撃出来ずに何とか盾で防いでいるが、

 背中を崖に向けたまま。

 

 あと数歩で落ちる!アルトは叫ぼうとする!

 

 ゴロゴロと無様ではあるが

 ランポスの足下を転がり、

 後ろに廻る。

 ランポスは方向転換が苦手で、

 その場で数回小刻みな

 ジャンプで振り返る。

 

 ガスッ!!

 ハンターナイフが当たる、

 ランポスはのけ反る。

 

 アッハ!やるじゃない!それなら

 「前転一回で斬り上げ!」

 クロフは足下で斬り上げる!

 何度か繰り返すと、

 

 「ギョフッ!」

 

 可笑しな声を上げてランポスは力尽きる。

 

 「勝てたぁ…」クロフは座り込む。

 

 またアルトはしゃがんで説明する。

 「ファンゴと違ってランポスは鱗だ、

 同じ斬り方だと…」

 

 「滑った」

 「いい答えだ、じゃあどうする?」

 

 「………うーん鱗の…無いとこ?」

 「惜しい、鱗の小さい所に

 叩き付けるように斬るか…」

 

 アルトはランポスの喉を指でつつきながら、

 「ここだ」

 

 「あと大事なことだから言っとくけど

 盾は使うな」

 「え?」

 「ちょっと立ってガードして」

 

 クロフは盾を構える

 「そーらっ!」

 

 クロフの盾にアルトの盾がぶつけられ

 クロフはよろける。

 クロフが態勢を立て直す、と、

 目の前にアルトの剣がある

 

 唾を飲み込む。

 

 理解できたか?

 「一回ガードすると…何も出来ない…かも」

 「その通り!ファンゴが一頭なら良いけど

 三頭だったらどうなる?」

 クロフの頭に

 何も出来ずに力尽きる自分が浮かぶ。

 

 「…どうするの?」

 「アンタの得意技だよ」

 「?」

 「逃げ(回避)だ」

 

 

 

 狩りを終了し村へ、

 村で飼ってるアプノトスの竜車には

 ファンゴとランポスが2頭ずつ、

 他にキノコや薬草類。

 

 「どれ、キズ見せて」

 とアルトに言われ手足を見せる、

 鋭い爪のランポス、

 その足下を転がったのだから

 小さなキズだらけ。

 回復薬を指に着け、患部に塗った後、

 一気に飲む、不思議だが、即治る

 

 「飲むだけでも良いんだけど、痕がね」

 こうすると痕が残りにくいらしい。

 

 「アンタってハンターにとって

 大事なこと解ってるんだね、

 自分と相手がどこにいるか見えてるよね?」

 

 「地形と自分と…

 ランポスを…こう…上から…」

 上手く説明できない。

 

 

 やっぱりクロフは見えている。

 

 「崖までどのくらいだったか分かる?」

 「2歩」

 子供の頃から何百回も採取しながら

 覚えたんだろう。

 

 クロフは完全に地形を把握している、

 だから追い込まれない。

 それは自分を中心とした

 『視界以外も見えている』事に他ならない。

 

 ハンターやってても

 これが理解出来ない連中がいる、

 採取クエストが何故あるのか解っていない、

 採取をバカにする連中。

 こいつらは自分から死地である壁際に行き、

 何も出来ずに力尽きる。

 

 だから自力で実力を付けたハンターは

 こいつらとは組まない、

 逆に採取を大事にするやつは、

 後々一流ハンターになる可能性がある。

 クロフの可能性は高い、ハンターとしては。

 

 

 しかし人としては…………

 (器…どうしたら…

 二人の前で大見得切っちゃったしなぁ)

 

 「ただいま言える?」

 「パティなら」

 「会う人全員」

 「えー…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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足りないもの

仕事の合間に少し考え
寝る前に書いてますが、
文字数すくないなぁ。


 

村の入り口に着く、なんだか騒がしい、

 見慣れない行商人が多数いる。

 パティが走ってくる。

 「お帰り、それもしかして!クロフが!」

 いつもどうり大袈裟。

 

 「ランポス一頭はアタシだけど、」

 アルトはクロフを前に出し、

 「後は全部クロフだよ」

 

 村長!と呼ばれ

 村長も行商人との話をやめてこっちへ来た

 「ヤハハ、お帰り」

 

 アルトは黙っている。

 

 村長「…?」

 パティ「…?」

 

 アルトに背中を小突かれ、

 

 

 

 「ただいま…」

 言えるじゃーんと言いながら

 頭をグリグリ撫でられる、が、

 止めてくださいとは言いにくい

 雰囲気で手で除ける。

 

 「ヤハハ、たった一日で」

 「何も変わってないよ」とアルト

 「いやいや、いつもなら

 表情無いし大きな進歩ですよ」

 確かに拒絶のような

 照れのような態度、感情が出ている。

 

 クロフは居心地悪そうにしてから、

 「帰る」

 「あ、手続きあるから後でギルド来てね」

 パティが言うと

 

 「うん」といつものように返す。

 

 「ところで何の騒ぎ?」

 「ヤー、それが困った事に」

 事情を聞くととにかく船長に会ってほしい、

 と、いってる間に船長が来る、

 太った体を揺らしながら

 

 「すまん!」

 「え、何が?」

 「お前さんがG級だと知っていてな、

 実は伝書鳩をな、

 今日辺りにはディアブロス素材の取引が

 始まると、昨日の朝飛ばしてしもうて…」

 

 ギルド(兼船着き場)には

 船に乗ってきた行商人の他に、隣村、

 更にその隣の行商人がいる。

 皆道具屋や村の使いでもある。

 

 今日の所は人数が少ないが…

 明日には更に遠い村、

 最終的には一番奥の

 ポッケ村辺りまで噂が広がるだろう。

 

 そうなった時肝心の

 ディアブロスを狩ってないと知ったら…

 

 「このギルドの信用と

 船長の信用が落ちるか…」

 アルトはすぐに、

 「じゃ明日朝イチで倒して来るわ」

 

 「お願いする、今日の飲み代はワシが持つ」

 

 

 

 

 

 「ただいま…」

 道具屋の前、少し驚く顔をしたヨシとメヒコ。

 

 「おかえり、

 ハンター小屋に住むかと思ったぞ」

 笑いながらヨシは店番

 メヒコは起きたばかりなのだろう、

 顔を洗いに川へ。

 

 店から入り板張りの廊下のすぐ左、

 仕切りの布を捲ると

 自分の部屋。

 調合部屋も兼ねているため広い、

 キノコや薬草類がたくさんある。

 

 その乱雑な部屋の一角に大量の本がある。

 狩りに生きる、生態図鑑、

 その他行商人が捨てたもの、

 船乗りがパティに見せて、

 そのあと貰ったもの。

 どれもボロボロのものだが読めなくはない。

 

 その中のブルファンゴとランポスの本を取る

 どちらも分かりきった事しか書いてない、

 生臭い息、毛の硬さ、爪の鋭さ、血の匂い、

 

 うわべだけで今日クロフが体験した位、

 深いところは何も書いてない。

 

 モヤモヤする、自分の気持ちが分からない。

 イライラ?不安定なかんじ?なんだろう。

 

 確固とした自分が在れば、

 文章と現実が違うことは理解している、

 人が書いた物は

 その人の考えと理解している。

 

 

 しかし未熟な者はその違いが分からない。

 

 クロフは自分に悩んでいる。

 

 人と居るときは、邪魔にされている、

 馬鹿にされていると思う。

 

 何か人に話すと、間違っていないか、

 影で悪く言われていないか、

 悪い方へとばかりに考え、後悔する。

 

 仲良く人が話しているのを見ると、

 うらやましい、淋しい、

 そんな感情が出てくる。

 

 自分は変わるのだろうか

 変わるべきなのだろうか、

 でも変わってしまったら

 何かを失いそうな気がする。

 だいたい変わるってなんだ。

 

 人にこんな自分を見透かされたら

 恥ずかしい。

 だから何も考えず淡々と、

 ただ淡々と生きていけば後悔はしない……

 

 

 

  はず。

 

 「クソッ」小さく言う。

 

 頭の中は正にこの部屋、乱雑そのもの。

 

 メヒコが来て言う、

 「クロフ、ハンター出来そうかい」

 

 「今日ファンゴとランポス狩ったけど、

 向いているかは」

 「立派だよ、ダメでも行商人出来るよ」

 

 行商人は村間の道で

 モンスターに出くわす事もある。

 

 

 「うん…そうだね…」

 何故か俯く

 

 聞いていたヨシが店から話し掛けてくる、

 「お前何がやりたいんだ?」

 

 

 

 「やりたいこと…?」

 

 

 

 ギルドに来るといつも以上に人がいる、

 またもやアルトはアイドル状態。

 

 「ギルドカード作ったからね」

 パティから受け取る。

 ブロンズ…下位の、

 要するに駆け出しのカード。

 「これからは狩った数とか

 ギルドが書いていくからね。」

 

 「あ、そう言えば

 村長!アルトさんのカードは?」

 

 「ヤハハ、あるけど…何故かアルトを見る」

 

 

 「仕方ない、パティに見せて」

 

 村長が背負った荷物の中から

 カードと言うより小冊子を取り出す。

 

 「え!ナニコレ」

 大きな町でギルドスタッフの研修を受けた

 パティが驚く、見たことの無い厚さ、開くと、

 

 

 

 「えええええーーー!!!!?」パティが叫ぶ

 

 一枚目、先ずはその色、

 下位はブロンズ、上位はシルバー、

 G級はゴールド。

 

 

 だがアルトのカードは…プラチナ。

 

 プラチナカードを持つのは

 認められた四人のみ、

 今現在最強のハンター。

 

 

 

 「アルトさんって現 四英雄ぅーーーっ!!?」

 

 

 「はああああああぁーーーーーっ????」

 一同驚愕、アルトを中心に後ずさる。

 

 村長と船長は

 知っていたようで、落ち着いている。

 

 「いやぁーバレると休暇になんないかもって」

 アルトは赤い顔で頭をかく。

 

 続いて名前

 「アルト・フォン・エイダス・アルマ」

 

 行商人達がビールを噴く!

 「アルマ家ぇーーーーーっ!!!!???」

 

 「アルマ家って確かシュレイド大陸一番の…」

 「大金持ち」

 「それだけじゃない、各地の物資、素材、

 特産品の相場を動かす金の流れのトップ」

 「貴族に名前を連ねるのも近いって言う…」

 

 素性を聞いてしまうと

 みんな萎縮してしまった。

 威勢のいい船乗りたちも一歩引く。

 

 何しろ楽しく酒を飲んでいた

 目の覚めるような美人が、

 一人で王国兵士の一軍に匹敵する

 最強レベルのハンター、

 

 影では人外と呼ばれたりモンスターとも。

 

 しかもアルマ家出身者、

 後々貴族になるかもしれない。

 

 やっぱり。クロフは思う。

 名前が長い人は大体王族か貴族、

 または名士。

 

 「もーこれが嫌なんだよー」アルトは呆れる。

 

 クロフは道具屋だから

 相場の話で聞いたことあるし、

 商売の神様として本にも頻繁に

 名前が出てるが、

 

 疑問に思う。

 

 話し掛ける、

 それが青年にとってどれだけのストレスか、

 

 人前で目立つ行動だ、緊張する、

 だけど疑問に思う、

 嫌いにならないでくれと願いながら、

 

 一歩前へ出る、声が上擦る。

 

 

 

 「どうして…ハンターに…なった…の?」

 (一部裏声)

 

 これだけを人前で言うのが

 クロフにとっては大変。

 しかし周りの一同は

 「よく聞いた若僧!」内心思った。

 

 「あー子供の頃に両親を

 モンスターに殺されてさ、

 ドンドルマで拾われたのよ」

 

 一口ビールを飲み、

 

 「12になった頃に

 ハンター初めて、じゅうー…」

 

 

 

 アルトは黙る、静寂、そのあと、

 

 

 「今アタシの歳計算した?」

 

 

 

 クロフに笑いかける、が殺気を感じる!

 一同に緊張が走る!

 

 ジョッキ片手にクロフを軽く睨みながら、

 

 

 「いいかクロフ、

 生きていく上で大切なことだ、

 女に聞いてはいけない事が三つある」

 ビシッと指を三本立てる

 

 「ひとつは歳、ひとつは体重」

 

 「最後は過去の男だ」

 

 

 クロフとパティ以外の一同は

 感慨深そうに無言で頷いている。

 

 

 そのあと村中大爆笑。

 

 「まーそのあと実家とは縁切ったから

 名前だけよん」

 笑いながらおかわり。

 

 

 

 

 翌朝、朝日と共にジャンボ村から

 20人を越える一団が出発。

 先頭の竜車にアルト、

 村長、猫タク要員の白とタマ、

 

 続く竜車には剥ぎ取り要員の男衆、

 そして物好きな

 行商人が徒歩で続く。

 

 村間の街道と言っても、天井を木に覆われ

 トンネルのような獣道。

 

 

 一方、森と丘

 クロフは少し遅れて

 ファンゴ5頭討伐クエストへ。

 

 キャンプの見廻りとベッドの手入れ、

 天幕の張りを確認してから、

 自分がギルドの手伝いではなく

 ハンターとして来たことに気付く。

 

 あ、やらなくてもいいんだ。

 まだギルドの下働きが抜けない。

 

 やりたいことか…

 

 クロフには何もなかった。

 

 

 

 

 「自発的に?」

 「ヤーそうなんですよ!」

 

 

 穏やかな振動の中で

 クロフが自分からクエストを受けた事を

 アルトは聞いた。

 

 「あの子まだ『やらされてる』って感じだよ?」

 アルトは思う。

 (何かが変わりつつあるのか?)

 

 

 村長が聞く、

 「あなたがハンターになった動機は?」

 

 「単に復讐」

 

 「ヤー、クロフにも

 そのくらいの動機があれば」

 

 動機か、それより

 「二人だけだし、聞くけど」

 身を乗り出す

 

 「村長、アンタ、初日に

 アタシの素性知っても動じなかったよね」

 アルトの声が変わる。

 

 「去年一度来ましたよね?

 仲間のハンターと

 通過しただけでしたが」

 平然と答える。

 

 「アッハ!覚えてたのか」

 笑いながら座り直す

 

 「ヤハハ美人ですから」

 

 「アタシてっきり弟子を取らせる依頼でも

 受けたかと思った」

 

 「なぜです?」

 

 「アタシが孤児に弱いのに、

 偶然にしちゃ出来すぎだから」

 

 「アタシも

 孤児になったかもしれないんだ」

 

 「ヤー、当たらずとも遠からずですが」

 

 「何?」また目付きが変わる

 

 「ハンター教えられる人を寄越して

 くれと、ドンドルマに依頼しました」

 

 「え!逆!そういうこと!?」

 

 「上位の人辺りが来るかと思ったら、

 ヤハハ、まさか四英雄の方とは」

 

 確かに偶然にしては上手くハマった感じ。

 「あー、じいちゃんにやられた」

 

 「じいちゃん?アルマ家…」

 

 「違う、ドンドルマのギルドマスターの

 じいちゃん」

 思い出す。

 

 「王立書士隊から休暇が出たそうだな、

 ホッホッホ、ついでにディア狩りに

 ジャンボ村へ行ってくれ。

 やってくれたら休暇を一ヶ月に

 延ばすよう口を利いてやろう」

 

 

 

 

 (ヤハハ、鋭いですねぇ)

 

 

 

 

 

 2頭目を狩りナイフを研ぐ、

 村を出るとき虫網とピッケルを持たされ

 

 「鉱石も採ってきたほうがいい、

 あと光虫もな」

 

 とヨシに言われたのを思いだし

 中央の岩山へ、覗きこむ。

 

 1…2…3ランポスがいる

 

 ちょっと無理そう、ここばかりは

 モンスターとの遭遇率が高いので

 普段から近付かない

 

 しかもクックがどこかに…

 

 どうしようか座り込み考える

 

 何でクエスト受けたのか

 自分でも分からない。

 

 メヒコに誉められたから?

 

 誰かに誉められたいから?

 

 誰かに認めてもらいたいから?

 

 こうしてれば誰も怒らないから?

 

 こうしてれば自分が傷付かないから?

 

 こうしてれば一人で気楽だから?

 

 

 

 孤独が好きか?

 

 

 好きだ、気を使わなくていいし、

 自分のペースを変えなくて良い、

 気分で行動出来る、

 

 ……けど……

 

 

 

 

 「ギャアアアアァカカカッ!!!!」

 耳を抑える

 

 あーこりゃ突進来るなぁ、間に合わない

 

 まともに食らってみる、吹き飛ばされ

 砂の中を転がりながらセルフチェック

 

 おぉ!さすがレザーX、

 骨折どころか打撲も軽いわ

 

 目、砂は入ってない、良好

 鼻、この位なら問題ない

 耳、耳栓なしは面倒だな

 全身、軽い打撲が4、

 

 

 顔に傷無し(最重要)

 

 立ち上がり力を溜める

 突進が来る!

 「うるぁあああ!!!!!」

 グロンド・ギガを降り下ろす!

 

 ゴガン!!!!バキィ!!!

 溜め3、残っていたツノが折れた。

 

 砂に潜る

 (あいつ感情が無い訳じゃない)

 音爆弾を投げる

 

 キィンという高音で驚いたディアが

 体半分だけ砂から出てもがく。

 

 頭に1…2…3発入れる

 (感情を抑えている)

 

 納刀して後ろを向く、閃光玉を投げる

 (なぜ抑える?)

 

 砂から飛び上がった瞬間ディアブロスは

 目がくらみ墜落

 (幼児期のトラウマ?)

 

 地面でもがくディアの頭を滅多打ち

 (最初の家に原因?)

 

 ディアの目が回復

 スタンプ

 (だとしたら)

 

 ディアが気絶して倒れる

 (もっと前の段階で心の成長は止まった?)

 

 また頭を滅多打ち

 (母親の愛情が足りない?)

 

 脚を引き摺り逃げるが、股下を抜け

 (母親になれる人…)

 

 顎をカチ上げ、倒れる

 (道具屋の人?)

 

 更に頭を滅多打ち

 (パティ?)

 

 ディアが力尽きた、剥ぎ取りながら

 (自信と動機か)

 

 

 「あの姐さん…怖いにゃ」

 白が震える。

 

 「ヤー恐ろしいものを見た、

 ディアブロスがほとんど攻撃できてない」

 

 「村の人呼ぶにゃー」

  

 

 

 ゼイゼイと肩で息をしながら剣を研ぐ、

 中に入ってランポスに一撃入れては

 外に出る、

 

 もう何回繰り返したろう、

 息が上がる、喉が渇く

 足がまともに動かない。

 

 何で?何でハンターになった?

 興味?英雄になりたい、目立ちたい?

 

 こんなに苦しい思いしてまで

 

 見返したい?

 

 誰を?

 

 一頭が倒れる、チャンス、二頭目!

 ハァーッハァーッ

 

 ギョアッ、二頭目も吹き飛ぶ、

 ゼイゼイ

 

 一対一なら!

 

 ギョフッ、勝った!

 座り込む、胸が痛い、しばらく休もう

 ゼヒューゼヒュー

 

 

 

 

 息を整え立ち上がる

 

 三頭から剥ぎ取り、そしてようやく、

 

 カキーン!

 

 採掘開始、石ころ、砥石、そして

 僅かに青く透き通るマカライトが出る。

 

 「おっ!良いものでたねぇ」

 

 ビクッと振り返る、アルトがいる!

 

 「ありゅひょひゃん!」

 疲れと驚きで呂律が回らない

 

 「師匠だろ!」

 「しっししょおっおおっ!」

 

 「まぁいいわ、よく三頭狩ったじゃない」

 アルトは地面を見ながら

 「そうか、囲まれないように一回づつ…」

 

 「わか…るの?」

 何度も走り込んだ跡、前転の跡、

 リスクを最小限に時間を掛けて倒した。

 

 「アタシも駆け出しの頃にやったわ」

 「ディアブロスは?」

 「倒した」

 

 

 

 

 

 

 「姐さんは何処に行ったんで?」

 村の大工、カダが聞く。

 

 「ヤー、クロフが心配なんでしょう、

 森と丘に行っちゃいました」

 

 「しかし、どうしたら

 こんな死体ができるんだ?」

 皆不思議そうに見て解体する。

 

 両方のツノは折れ、

 口の牙も吹き飛んでいる、

 片方の目は潰れ、

 もう片方は飛び出している。

 

 顎も砕けているのだろう

 大量の血液で血溜まりになっている。

 

 まるで頭の中で爆弾でも炸裂したように。

 

 頭だけを集中攻撃したお陰で

 他の部分の甲殻などは傷一つ無い。

 

 「取引価格を上げる為にやったのか

 単に早く片付けたかったか

 どちらにしても凄まじい…」

 

 「頭だけって…」

 

 「どっちがモンスターだか…

 見てたんだろ?村長」

 

 「ヤー…逃げることさえ出来ない

 ディアブロスって想像出来る?」

 

 

 

 

 母親の愛情、自信、動機、

 器…

 

 クロフが5頭目のファンゴを狩り終了。

 帰りの台車にはランポスが三頭、

 ファンゴが五頭、

 鉱石、虫、薬草類で山のよう。

 

 クロフが台車を引き、今日から雇われた

 サスケとウドン(猫タクシー)が

 後ろから押す、と、

 後ろの方から「おおーい」と声がする。

 

 ディア狩りの竜車がそこまで来ていた。

 

 向こうは竜車2台に

 素材が山のように乗っている、

 

 

 どうしたって見劣りする、クロフは俯く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ようやくクロフの内面に触れていきます


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足りないもの2

 

 気が重い、村に入るのがい

 

 「おかえり!クロフ!」

 思考の途中でパティが飛んできた。

 「え、ちょっ」

 

 村の女衆が皆来る

 「大変なんだよぉ!食べ物足らなくて!」

 クロフは女衆に囲まれる。

 

 見れば行商人が増えている。

 「おおぉー!きたきたぁ!!!」

 

 早速素材の山に行商人が群がる

 どれがいくらか値踏みする。

 

 「皆!クロフがファンゴ狩って来たよ!!!

 捌くの手伝って!!!」

 女衆が騒ぐ

 

 「良かった、狩りが成功して、

 晩ごはん作れるよ!」

 「いきなり人数増えたからね!」

 「船乗りも行商人も喰うからねぇ」

 

 

 「ヤハハ、活気があって結構!」

 

 「村長は素材の販売とアルトさんへ報酬、

 販売は中央相場にします?

 それとも競りにします?」

 パティが聞く。

 

 「ヤハハどっちに…」

 

 「早く!!!!」

 食い気味

 ギルドズタッフとして忙しい。

 

 ディアブロスの素材は高値で安定する、

 何しろハンター、特に大剣使いには、

 確実に売れる。

 

 アルトが言う。

 「大剣使いは肩から角生やして一人前

 って言うしね」

 

 「?」クロフには分からない

 

 じゃ先ずは甲殻から!

 競り合いが始まる。

 村長が頭上に掲げる。

 

 スゲェ!傷も割れもねぇ!!!

 マカライト20個!!!こっちは22個だ!!!

 ポポのタンは!!!いやそれこっちにくれ!!!

 こっちは現金900ゼニーでどうだ!!!

 次は…………尻尾!!!

 歓声

 おぉー!!あれは高値で売れるぞ!!

 今北部で値段が上がって……

 あっちこっちで商談が始まった

 

 

 

 

 喧騒は過ぎ日が暮れてきた、

 みんな納得の行く取引が出来たのか

 ビールで乾杯、食べ始める。

 

 何故かクロフの周りは人が多い

 

 「クロフのお陰で助かったよ!」

 「ランポスまで倒したらしいじゃないか!」

 「この村はアンタが居れば安心だよ」

 「一人でこれだけ狩るとはなぁ」

 

 誉められっぱなしで

 クロフはどうにもムズ痒い。

 

 「アタシは手ぇ出してないのよ」

 いつもどうりジョッキ片手に

 

 おぉー!と村人は感心する

 

 「ハイ!クロフ!」

 パティがファンゴのモモ肉を焼いて

 持ってきた、大きい!

 

 有料のはずだし、注文もしてない。

 「え?頼んでな…」

 

 「アンタが狩って来たんだし

 村の危機を救ったんだ当然だろ?」

 女衆が騒ぐ。

 

 いくら取引が上手く行っても

 村が食糧難ではカッコがつかない。

 

 

 船乗りの一人が船長に聞く

 「変な村っすね、ディア狩った事よりも

 ファンゴとランポスで…」

 

 「お前子供いたな、

 初めて子供が立った時どうした?」

 

 「そりゃあ飛んで帰りましたよ」

 

 「そういうことだ」

 

 「?」

 

 

 

 「おい、クロフ」

  大工のカダが話しかける。

 ビクッとクロフは震える。

 

 「汚ならしいガキが!!!」

 

 

 

 過去に言われた事を思い出す、

 怖い怖い怖い怖い

 

 「ファンゴの毛皮売ってくれ、

 敷物が作りてぇ」

 

 

 

 「…え?」

 「あれ?……」

 

 「クロフ」

 加工屋のアキシ

 

 

 「働けねぇのに食いもんくれだぁあ!!!?」

 

 

 

 「ランポスの素材と鉱石をくれ、それと」

 アキシはクロフのハンターナイフを取る

 

 え、それはアルトから貰った…

 返して…返して

 「あ…ああう…」

 

 「こいつを強化してやる」

 

 「え?」

 

 

 「良かったじゃーん」

 アルトが来てグリグリ頭を撫で回す。

 

 皆が優しい…優しい。

 だけど…今さら…許したら…

 自分が…子供の…

 

 ダン!!と立ち上がりクロフは走る。

 

 「えぇ??!」

 

 道具屋に行ってしまった、

 みんなポカンとしている。

 

 マズイ!

 おかしな空気をアルトが変える、

 「あいつぅ照れちゃって」

 

 なぁんだ、照れ隠しか、皆が安堵するが、

 

 アルトだけが気付く

 (泣いてた、なぜ笑えないんだ

 嬉し泣きか…それとも何だ?…)

 

 「なぁ、道具屋さんいるかな?」

 

 ヨシとメヒコが近くへ来る

 「なんだ?姐さん」

 

 「今までクロフを誉めたことあるよね?」

 

 「当たり前さぁ」

 メヒコが呆れたように言う。

 

 「どんな反応してた?」

 

 「いつも無表情でなぁ、反応が薄い」

 ヨシが首を傾げながら言う。

 

 「でも言われた事はきちんとやるよな」

 「採取なんて誰より上手いよねぇ」

 「大工仕事も普通にできるよ」

 村中が話始める。

 

 「こんなこと初めてだよねぇ、

 照れてるように見えないけど」

 

 「何だか昨日の辺りから変だ、

 ただいまって言ったんだあいつ」

 

 

 二人も不審に感じている、

 

 無表情じゃない、戸惑い?後悔?

 

 なぜだ?、アルトは道具屋へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 薄暗い部屋へ借りたランプを持って、

 

 「クロフ、入るよ?」

 仕切りを開ける、大量の素材、調合本、

 クロフは何かを読んでいる。

 

 「凄い本の量だね」…無言

 

 前に見たことがある、書士隊のメンバー、

 やっぱり人と話せず本ばかり読んでいた。

 

 そいつは知識はあるが協調出来なくて

 トラブルを起こすやつだった。

 

 経験から学ぶ事を否定して、

 本で全てを学んだ、学んだ気になった。

 

 

 

 アルトの中で何かが繋がる、

 心は子供のままでも体は大人だ

 体の成長は止まらない。

 

 森と丘で最初に見た「クソッ」は、

 心と体のバランスを保てないストレスで

 いってるんじゃ?

 

 最初の家で愛情が貰えてない…

 

 なんだ?答えが見えそうなのに

 何かが足りない。

 

 「何?」

 

 「何?じゃないわよ、なんで逃げるの」

 

 「だって…あそこにいたら…皆…

 皆笑って…」

 

 「良いじゃない、皆誉めてるじゃない」

 (なんで拗ねてるんだ)

 

 「何も出来ないのに」

 

 「何言ってんの?獲物獲ってきたろ?」

 

 「ディアを狩った訳じゃない」

 

 「あのな、昨日今日ハンターになったヤツが

 狩れるわけ無いだろ」

 (アタシに対して?)

 

 クロフは振り返る、やはり泣いている。

 

 (アタシに対してじゃあない、ハンター

 として駆け出しなのは本人だって解ってる

 そんな表面の話じゃない)

 

 「なぁクロフ、大事な事だ、良く聞きな」

 きちんと座り話始める。

 

 「いつか分かってくれるだろう

 こんな事は無いと思え、

 もしもあるなら偶然だ」

 

 「気持ちを伝えたいなら言葉で話す

 これしかないんだ」

 

 「アンタの過去は村長から聞いたよ、

 辛い過去だ、でも前に進まないと」

 

 出来るだけ優しく言うが、クロフは

 膝を抱え

 俯いたまま動かない。

 

 なんだこの子に足りないモノは。

 まさか心の成長が追い付かないのを、

 知識で埋めてきたのか?

 

 もしそんなことが出来たなら、

 

 いや……出来てしまったら…

 

 クロフにとって世界の全てがこの部屋!?

 

 だめだ、何かが足りない。

 

 

 

 ギルドに戻る

 今日ばかりは篝火を増やし大騒ぎ

 村人、行商人、船乗り、

 皆が飲んでいる。

 

 

 「村長、ドスランポス居ないか?」

 狩りで教えるしか…

 

 「ヤハハ、んーーどうだったかなぁ」

 取引が上手く儲かったのだろう。

 上機嫌で酔っている。

 

 村中が酔っている、クロフを置き去りに

 

 「姐さんもこっち来て飲みなよ~」

 誘いを上手く避けながら

 

 「パティ!」

 

 忙しく走り回るパティを呼び止め、

 クエストの有無を聞く。

 

 

 

 

 

 翌朝、船が出港、行商人も隣村へ出発、

 飲み明かした村人が数人ギルドで寝ている

 

 「勝手に伝書鳩使うなよー!」

 アルトが叫ぶと

 

 「おぉ!すまなかった!」

 「また会おう姐さーん!」

 「なんでレザー装備ぃー!」

 手を振りながら船が遠ざかる。

 

 

 

 

 「もー村長!ギルドマスターでしょ!」

 水を出しながら

 

 「パティ、痛いイタイ頭痛い」

 テーブルに突っ伏し耳を抑える

 

 「仕事して!」

 

 「アッハ!二日酔いか、情けない」

 

 「アルトさん、お早うございます、

 怒ってやって下さい!」

 後片付けが大変なのだ

 

 

 遅れてクロフが来た

 「お早う…」

 

 「おう、挨拶出来たな、じゃ行こう。」

 

 「おーい待ってくれ!!」

 加工屋のアキシ

 

 クロフに

 「これを着ろ!」

 ランポス装備(頭無し)

 

 「それとコイツもな」

 ハンターナイフ改を渡す、

 

 「代金は今回はタダでいい」

 

 無言でアルトがこっちを見る、何?

 

 バシッ!!!!

 

 

 「ありがとうは!!!」

 頭を思いっきりひっぱたく!

 鬼の形相

 

 「があっ!!あ、ありがとう!」

 

 着替えて出発

 

 

 村から一番近い密林へ入る、

 湖に突き出たような形、

 沖には昼に行ける小島がある

 

 歩きながら

 「人生で

 一番大事な感謝がなぜ出来ない!!!!」

 

 「ありがとうとゴメンナサイは絶対だ!!!」

 

 怖い怒らせた嫌われた

 いやだいやだ嫌わないで………

 

 「前に言ったろ言葉の握手…」

 

 「ひぐっ…えぅ…うー」

 

 (うわ、ヤッバ!泣くとは思わなかった

 どうしよどうしよ)

 

 アタシの時は…

 

 「大丈夫、次から必ず言いなさいね」

 母親の顔を思い出す

 優しい笑顔で…

 

 

 

 

 「だ、大丈夫、次から必ず言うんだよ」

 顔は少々引きつるが。

 

 

 

 密林の2番

 かなり広い見晴らしの良いエリア

 ドスランポスはいない。

 

 前のエリアで狩ったアプトノスの生肉を焼く

 

 「焼き方出来る?」

 アルトが聞く。

 

 クロフは無言で焼き始める

 上手に焼けました…だが、

 

 うわーどうしよこの空気、

 この子疲れると口数多いけど、

 拗ねると黙るわ。

 

 

 

 しかしそこに助けが来る

 

 「道具屋にゃ~」

 

 (うわー助かったぁ)

 

 ここには猫族の集落があった。

 クロフの周りを囲み、

 

 「持って…ないにゃ」

 すると口々に持ってない、持ってない

 と言い始める。

 

 「マタタビない、取引は?クロフ?」

 族長らしき一匹が聞く。

 

 「ゴメン、ハンターになったんだ」

 クロフは申し訳無さそうに言う。

 

 するとメラルー達は、盗む?盗んで良い?

 と言い始める。

 族長らしき猫を取り囲み相談する。

 

 まるで伝言のように隣の猫へ言葉を伝える

 

 「出来れば盗まないで欲しい

 これからの取引もあるし」

 

 

 「分かったにゃ!クロフはクロフにゃ」

 

 族長が手をあげ叫ぶと次々復唱する

 にゃあにゃあ五月蝿い。

 

 

 ホント猫族とは普通に話すんだなぁ、

 

 あれ?メラルーが盗まない宣言?

 これって…

 

 盗み無効?

 

 アルトが考えていると木の根元にある

 集落(って言うか穴)から子供のアイルーが

 親猫と一緒に出てきた。

 

 

 「うっわ可愛い、

 人前にまず出てこないのに」

 

 クロフには全く警戒しないようだ

 

 四脚でヨチヨチ歩き、

 石ころや葉っぱの匂いを

 嗅いでいる。

 

 まだ二足で立てないらしい。

 

 抱き上げたら怒るかな?

 考えた時

 

 子猫が無言で小さな石を拾い親に見せる

 何の変鉄もない石ころ

 

 親猫は受け取り笑顔で抱き上げ

 顔を舐めている

 まだ言葉が喋れないんだろう…

 

 小さな取るに足らない勲章を親に見せ、

 親はそれを認めてやる、

 人間の小さい子供と変わらない。

 

 

 

 「ああぁーーーーーっ!!!!!」

 アルトが

 突然叫ぶ!猫達は蜘蛛の子を

 散らしたように逃げる!

 

 恐る恐るクロフが聞く

 「な…何?」

 

 アルトがクロフの顔を見る、

 「わかった!わかった!」

 

 器を作るのは愛情なら

 愛情はどうやって与えるか

 

 答えは言葉で褒める事じゃない!

 

 言葉なんかいらないんだ!

 

 ただ抱き締めてあげればいいんだ!

 

 人間の子供だって言葉なんて通じない、

 ただ笑って抱いてやればいいんだ!

 

 それだけで子供は自分の存在を理解する

 

 『自分はここに居ても良いんだ』って

 

 クロフだってパティにそうしたに違いない

 

 クロフは戦士の家に生まれ

 戦う事を義務づけられた

 親は早く大人にしたかった。

 

 ジャンボ村でも早く働けるように

 早く大人になることを望んだ。

 

 クロフ自身も

 急いで大人になるしかなかった!

 

 小さい子供の時代が不十分なんだ!

 

 クロフを笑って抱き締めるべき母、

 考えるまでもない

 

 パティだ!!!

 

 

 

 「クロフ!!!

 

 ソッコーでドスランポス狩るぞ!!」

 

 

 

 

 大きな体にランポスの倍ほどの跳躍力、

 ランポスの群れを統べるドスランポス

 体長も5メートルになる

 オマケに単独でなく、

 だいたい部下のランポスと一緒。

 

 普通の村人ではまず勝てない

 下手したら喰われるが…

 

 「おらぁあっ!!!」

 

 次々にランポス達は

 黒いハンマーで吹き飛ばされ

 頭が四散する。

 

 クロフはドスランポスに前転して斬り上げ、

 チャンスには

 複数回叩き付けるように斬る、

 

 大きいと足元が広くて動き安いし、

 防具のお陰でケガもしない。

 

 ドスランポスが横に二回飛ぶ、

 クロフの視界から消えるように、

 

 「避けろ!!!」

 

 クロフは側転する、

 ドスランポスは飛び掛かるが

 そこにクロフはもういない、

 

 「斬れ!!!」

 

 息を止め二回三回

 前転から真上に斬り上げ

 

 アルトはランポスに囲まれながらも

 的確に指示を出す

 

 ドスランポスはのけ反り距離が空く、

 跳躍から飛び掛かる!

 

 「クロ…!!!」

 

 ガキィィ!!!

 

 咄嗟にガードするが衝撃が凄い、

 直ぐには立ち上がれない

 息が上がる、脚が震える

 怖い怖い怖い!!!

 

 まずい!

 「転がれ!」

 

 噛みつきから逃れられない

 

 頭を咄嗟に守る為に左腕を噛ませる

 「ぐううっ」

 

 「クロフ!!」

 

 真下から剣を喉に一撃!!

 喉から刺さる!!

 最後の声を出すことも叶わず

 ドスランポスは倒れた

 

 「大丈夫か!?」

 

 左の手甲に大きな傷

 肘の内側に牙が食い込んだのだろう

 出血している、

 

 「ほら回復薬」

 

 教わったように患部に塗り、飲む

 

 「凄いぞクロフ、だけど今のやり方は

 感心しない」

 

 「盾を噛ませようとしたんだけど…」

 

 「良いアイデアだ、それならよし」

 

  頭をグリグリ撫でる、疲れたのだろう

 クロフはされるがまま。

 

 

 

 

 

 

 「 お帰り!クロフぇえええっ?」

 

 ドスランポスはともかく

 夥しいランポスの死体の山に、パティは引く

 ドスが仲間を呼ぶたび

 全滅させるもんだから20匹以上狩った、

 

 全て何故か頭が吹き飛んでいる。

 

 「ただいま」

 「これってクロフが………?」

 「師匠が」

 

 村長が来る

 

 「ヤハハ…群れ一つ全滅してないコレ?」

 村長は声が震えている。

 

 そんな言葉を無視してアルトは

 パティを連れて

 

 「女同士の話だ」

 「村長、小屋貸して」と続けて、

 

 頭が無いランポスを指差し、

 

 「覗いたらこうなる」

 ニヤリと笑う

 

 言って村長の小屋へ入った。

 

 少し引きつった顔の村長は、

 なにがあったか聞くが

 クロフは首をかしげるしかなかった。

 

 

 村長の小屋の中、窓を全部閉めて

 ランプを点ける。

 

 「あの、話って何ですか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「パティ、クロフと寝な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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足りないもの3

 

 パティ「寝る?」

 

 アルト「そう、寝る」

 

 

 

 

 数秒……

 

 

 ボンと音が聞こえそうなほど

 耳まで真っ赤になり

 

 「ねねね寝るというここ行為ははいいい

 わゆる睡眠とはことなるあああのような

 ことを指さしわわわ私じじ自身もそその

 興味がなないととわいいい言いきれず

 おおおおお兄ちゃちゃんををったたす

 助けるためななななら……」

 (早口、裏声、状態異常 混乱)

 

 アルトはパティの肩を掴み揺さぶる。

 「ゴメン言い方悪かった!戻れ、戻って来て」

 (この子耐性なかったかぁ)

 

 

 

 

 

 「落ち着いた?」

 アルトは困った顔で聞く

 

 「すいません取り乱しまして…」

 恥ずかしそうに座り直し

 

 「ただ抱きながら寝る…と?」

 不思議そうに聞く

 

 「そう頭を撫でながらだと

 もっと良いかも、

 とにかく触れてやって」

 

 アルトはパティを真っ直ぐ見て言う。

 

 「親子が寝るように寝るっていうか、

 クロフがアンタにしたようにっていうか、

 昔みたいに」

 

 

 「アンタが貰った物を

 クロフにあげるんだ」

 

 アイルーの親子の話をすると

 

 「納得出来ます、私やってみます」

 真剣な顔で

 

 「ただ」

 パティは顔を隠す

 

 「ただ?」

 

 「その…その先まで求められ…あの…

 私…」

 真っ赤で俯く

 

 「い…いや自分の子供だと思って

 抱いてくれれば良いから…」

 アルトも下を向くしかない。

 

 無理やりだけどなぁ

 

 嫌いじゃないみたいだし

 最悪そうなっても、

 

 いや最良かも。

 

 「ところで気になった事があるんだけど

 いつもクロフが帰る時なんで悲しそうなの?

 あとお兄ちゃんって?」

 

 「見てたんですか?」

 顔を上げる

 

 「元々お兄ちゃんって呼んでいたんですが、

 一年位前に研修から帰って来た時から

 呼ばなくなりました」

 

 「ギルドマネージャーの研修か」

 

 「その…帰って…お兄ちゃん見たとき…」

 

 「見たとき?」

 

 「なんだか…凄く寂しそうな…

 泣いてる…子供…みたいな」

 パティは顔を覆う

 

 「それからお兄ちゃんって呼ぶのが

 何か……全然笑ってくれなくて…」

 

 パンと胸の前で手を叩く

 「そうかアンタは見えてるんだ!

 アタシもようやくイメージ出来た!」

 

 

 「昨日道具屋で見たクロフは

 そのまま大人になっただけだ」

 

 「昨日の?」

 

 「あぁ、膝を抱えて泣いてた」

 

 「パティは外の世界を見て成長した、

 クロフは小さいまま置き去りになった」

 

 「私が、お兄ちゃんを置き去り…」

 泣きそうなパティ

 

 「追い付こうと本を読んだ、

 外の世界を知るために」

 

 「あの部屋は自分で自分を

 造ろうとしたんだ!」

 

 「だから最初に会った時、心が空っぽに

 見えたんだ!」

 

 距離の取り方が解らない

 人との接し方が解らない

 そして

 何とかパティに追い付くように

 本で壁を作った

 

 だが本当に自分を最初に認識するのは

 言葉のいらない親のスキンシップだ。

 

 

 最初が無ければ積み重ねられない、

 空っぽだ。

 

 

 

 よし、後は確認。

 

 

 村長と話す

 「クロフを誉めたこと?

 ヤハハ、いっぱいあるよ」

 

 「どうやって誉めたか?」

 

 「良くできたね…とか?」

 

 「口で言えば分かるよ」

 

 やっぱり言葉だ!

 

 

 店番のヨシに聞く

 「昨日の話かい?あぁ口で誉めたぞ?」

 

 「頭を撫でたりしたこと?」

 

 「姐さんよ、あんまり言いたくない事だ、

 どうしても聞きたいか?」

 ヨシの目がきつくなる。

 

 「俺もメヒコも戦の時代の人間だ、

 人に言えない事もしてきた」

 

 「血塗れなんだよ、俺達の手は」

 

 「まぶしいんだ、クロフとパティは」

 

 「村中の希望だ

 俺達の手で触れるのはいけねぇ」

 

 「それに最初、二人を除け者にした」

 

 「バカなことしたもんだ」

 

 「あいつらには穢れて欲しくねぇ」

 

 

 村長は言葉で十分と考えた、

 道具屋は罪の意識で触れられなかった

 パティ以外はクロフに触れた事が無い!

 

 

 クロフはこうして出来たんだ!!!!

 

 

 

 

 

 夕方、船乗りも行商人もいないギルドは

 数人の村人だけ。

 

 「ドスランポスまで狩るとは

 流石に師匠が四英雄だよ」

 

 「アッハ!あいつ自身の努力を認めて

 やってよ」

 

 「あのガリガリだった小僧が…

 立派になったもんだ…」

 

 「あぁ、なんか

 最近言った事に反応するしな」

 

 「ところで、なんで姐さんが料理?」

 

 「アッハ!パティは取り込み中でさ」

 (湯浴み中とは言えんわなぁ)

 

 

 

 日はすっかり落ちた、皆家に帰って行った。

 パティはソワソワ落ち着かないが、

 クロフは何も気付いていない

 

 ギルドにはクロフと三人のみ

 小さな篝火が揺れる

 

 「ハンターになったんだから

 たまにはそこで寝てみな」

 

 言われてハンター小屋に入ってみる、

 道具屋とほとんど変わらない質素な

 部屋。

 違いは大きな鍵の付いた箱

 アイテムボックス

 後はベッドのみ

 本も無いし仕事もない、

 

 装備をはずして伸びをする

 

 クロフは寝るしかなかった。

 

 

 

 

 しばらくしてパティがこちらを見る、

 

 アルトが頷くとハンター小屋の前で

 立ち止まり、

 大きく息を吸い込んで小屋に入っていく

 

 「ヤ!今はクふぉふがふ」

 アルトが村長の口を押さえる。

 

 

 

 

 

 「ヤー、そういうことですか」

 

 「そ、邪魔しないの」

 

 「多分正解なんでしょうね」

 

 「これで外れてたらパティに何て言おう」

 

 「ヤ、気にする事はありません」

 

 「アンタにとって損は無いしな」

 

 「ヤハハ、それはまたなぜ?」

 

 「この村で最初に異常を感じたことがある、

 ハンターが来た時、獲物を捕ってきた時、

 真っ先に寄ってくる存在がいない」

 

 「バレてますか」

 

 「バレバレだっての、

 子供が一人も居ないじゃん、

 あの二人に子供ができたらベストだろ?」

 

 村長は頭を掻いている。

 

 「いずれは新しい世代の

 村長にする気だろ?」

 

 「ヤー、敵いませんね」

 

 

 

 

 暗い部屋

 誰かが入ってくる。

 

 (………あれ?まさか師匠?)

 クロフは起き上がるが

 

 

 

 「……お兄ちゃん……」

 

 パティ!!!

 

 「な…な何?」

 

 「昔みたいに一緒に寝ようかなって」

 

 「あ…あ…あの、え…えっ」

 

 衣擦れの音、ギルドスタッフの

 ヘルパー装備を脱いでいる

 

 クロフは思わず背中を向ける

 

 「お邪魔します」

 ベッドに入ってくる、

 覚悟を決めると女の方が強い

 

 横を向いたクロフの背中にくっつく

 

 「あったかい、いつもみたいにして」

 

 「いい…いつもみたいにってて?」

 

 「こっち向いて」

 クロフは向き直る、パティは胸に

 しがみつく

 

 「ずっとこうだったよね、

 私が泣いた時とか、お腹空いてたとき」

 

 「そそそうだっけ」

 クロフは小刻みに震える

 

 「辛かったよね、私が遠くに行って」

 

 「……うん」

 

 「村の人も皆怖かったよね」

 

 「うん」

 

 「でもね?今は皆お兄ちゃんが

 好きなんだよ」

 

 「それは…」

 

 「お兄ちゃんだって

 ホントはわかってるよね」

 

 「うん…………でも」

 

 「でも?………なぁに?」

 

 「そ…そしたら…前の、」

 

 「前の?」

 パティは上目使いになる

 暗さに目が慣れてきた

 

 「小さい…ころ…辛かった…のに」

 

 「誰も助けてくれなかったのね」

 

 クロフはまた背中を向ける

 

 大の男が慰められる情けなさ、

 プライド、

 自分より小さい、いや、小さかった存在、

 だけど嬉しさ、

 色々な感情がこみ上げる、

 押さえていた感情。

 

 パティを抱えて自分が泣けなかった

 あの日々。

 

 「うん……えぅ…あう…うあぁぁ」

 

 もっとワガママで

 もっと泣いて良い筈のあの頃

 

 パティはクロフの頭を胸に抱く

 頭を撫でながら

 

 「辛かったよね、ずっと辛かったよね、

 なのに私を見捨てなかったよね、

 ありがとう、いっぱいありがとう」

 

 「だ…ぇど…いば…ゆづ」

 

 しゃくり上げながらクロフはパティに

 背中を向けて泣く

 

 パティは背中を抱きながら撫でる。

 

 お兄ちゃんと、

 いつも木の根元の穴で寝ていた、

 

 お兄ちゃんは私を穴から出してくれた、

 

 今度は私が引っ張り出す!

 

 クロフはずっと泣いている

 パティは撫でる、母親のように。

 

 「偉かったねぇ、頑張ったもんね」

 

 

 

 

 

 「これで器が出来たかなぁ」

 

 「え、器ならもうできてません?」

 

 「えっ?」

 

 「ヤハハ、いつも無表情のクロフが

 感情を表し始めてるでしょう」

 

 「???」

 

 「何かしたんですよね?誉めても

 クロフはいつも無表情なのに

 昨日は走りだしましたよ?」

 

 「え?…えぇっ!?」

 

 「頭を撫でられて嫌そうに

 照れてみたり」

 

 「え?あれ?あれ?アタシ何かしたっけ?」

 

 

 ヤハハ、たった一日で

 ただいまっていった

 止めてください!

 嫌だ

 

 「アタシか?」

 

 触れてやる…

 

 グリグリ撫でる…

 

 「アタシかあぁぁぁっ!???」

 

 じゃあパティは何の為に…

 何て言い訳しよう…

 

 

 

 

 

 「アルト?アルトって言うんじゃな!」

 「じはがげんだな」

 「綺麗な字だ」

 「よし!オメェは今からドンドルマの子だ!」

 

 グリグリ頭を撫でる

 喋れない少女は思う

 

 『アタシはここに居ていいんだ』

 

 でかくてゴツい手で撫でられるのは

 ちょっと痛いけど

 

 「温かかった、バカだなぁアタシ、

 自分も通った道じゃんか」

 

 言葉じゃないんだ。

 

 そして気付かぬ内に

 同じことしてたんだ。

 

 

 

 あれ?それじゃまるでアタシが母親じゃ…

 

 

 

 

 

 

 翌朝

 アルトは早起きしてギルドへ

 

 「お…お早う」

 (うわー聞き辛い)

 

 「あ…お早うございます…」

 

 「こんなこと…あ、あんまり聞くことじゃ

 無いけど」

 

 「ああああのなにも…

 何もないです…」

 真っ赤で下を向く

 

 「そ、そうか、ありがとうパティ」

 

 ハンター小屋からクロフが出て

 ギルドへ来る

 「お…お早う…」

 

 パティと顔を会わせたとたん

 二人とも真っ赤な顔で下を向いて

 言葉を発しない。

 

 (うっわこの空気はもう恋人同士じゃん、

 分かってたけど、なんか腹立つ)

 

 「クロフ、何か行ってみたいクエスト…

 ってもランポ」

 

 「クック…」

 

 「えっ?」

 

 「クック行きたい」

 

 自信と動機…

 

 (マズイ…へんに自信ついたか?)

 

 アルトはクロフにそこで待ってろ、と言うと

 パティと共にハンター小屋へ。

 

 男に一晩で自信を付ける方法は

 女ならもってるが

 

 「ホントに何もなかった?」

 

 「はい、朝になって起きたら凄く

 恥ずかしくなりましたけど」

 

 起きたらお互いインナーだけで

 抱き合ってたら無理もない

 

 「ゴメン、アタシの思い付きで」

 

 「私もお兄ちゃんにお礼言えたし

 良かったです」

 

 「ただひとつ、クロフに言い含めて

 欲しい事があるんだけど…」

 

 

 

 ギルドでクエストの許可を得る

 

 「クロフ、自分で思い付く道具持ってきな」

 レザーXとグロンド・ギガで装備を

 終えている。

 

 クロフはあれこれ選び、持っていく

 

 

 

 

 

 森と丘のキャンプ

 「さて、何持ってきた?」

 クロフは道具屋の知識がある

 割りと的確

 

 「よし、回復薬、砥石、こんがり肉

 この三つは絶対に必要、柱だ、

 どんなクエストでもだ!」

 

 「そして必要ならハチミツと調合書」

 

 「ペイントボール、閃光玉」

 

 「こんなとこだ、質問は?」

 

 「音爆弾が有効…だと」

 クロフはポーチから出して見せる

 

 「んー支給品のだけで良いわ、

 それからアタシは一切攻撃しないよ?」

 

 「はい、やってみます」

 

 

 

 

 

 

 ドンドルマ

 伝書鳩の小屋、鳩が飛ぶたび羽が舞い

 ホコリっぽい中、

 女性のギルドスタッフが手紙を

 次々取り出していく。

 

 

 

 ドンドルマ、ギルドマスターの部屋

 豪華な敷物にモンスターの牙や角が

 ズラリと並ぶ。

 

 「ホッホッ、ベッキーよ、

 良いクエスト有りそうか?」

 

 小さな竜人のギルドマスターが聞くと

 

 「緊急依頼も含めて今日も順調です」

 ベッキーは手紙を読み、続ける

 「ひとつだけ真意の解らない手紙が」

 

 「ホッ?読み上げてくれ」

 

 ベッキーが読む

 「御依頼の件、滞りなく、ジャンボ村」

 

 「アルトめ、頑張っとるな」

 ギルドマスターは笑う

 

 「あら、それって姉さんに弟子を

 持たせる計画ですか?」

 メイド装備で人差し指を口へ、

 内密な内容らしい。

 

 ベッキーは目を細め笑う

 

 「左様、うまくいっとるようじゃ」

 

 ベッキーは手紙をもう一度見る

 なんだか余白が多い

 不審に思いランプの火にかざすと

 

 「つきましてはジャンボ村特産キノコを

 中央相場の二割増しで今後は

 買い取って頂き…」

 

 「マスター…これって…」

 

 「あヤツめ……しっかりしとんのぉ」

 

 やれやれとパイプを吹かす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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初心者

 

 「ガシッ!」

 硬ぁ!

 嘴ってこんなに硬いのか

 

 正面に立つな と言われたの忘れてた!

 

 「避けろ!!!」

 

 反応して咄嗟に避ける!突進!

 僅かに引っ掛かる

 

 それだけでも分かる圧倒的な力の差

 

 生命力の差

 

 同じ生命体なのに

 人間の脆くて儚い身体の弱さ

 

 突進の終わり際に攻撃しようと走り、

 

 抜刀斬り

 二回三回と斬りつけようとする、が、

 

 尻尾を振り回す

 「クロフ!」

 

 咄嗟にガードするが

 「バチィィーン!!!!!」

 

 クロフは身体ごと吹き飛ばされる、

 

 人の脚ほどの先端が高速で

 叩き付けるのだから無理もない。

 

 「チィッ!」

 

 アルトが閃光玉を投げクロフを助けに入る

 

 隣のエリアに引き摺って行く

 

 

 

 「何のつもりだ!」

 

 アルトが怒る

 クロフは肩で息をする、左腕が痺れて

 うえに上がらない。

 

 「お前らしくない!

 お前はもっと慎重なヤツだ!」

 

 

 

 「………倒したい」

 

 「え?」

 

 「どうしても倒したい」

 

 (気持ちは分かるが焦っている、

 こいつらしくない、

 いつものクロフは怖がるはず)

 

 

 (落ち着かせるか)

 

 「時間は十分にある、徐々に弱らせる、

 それくらいの気持ちでいいんだよ」

 

 (やっぱりこうなったか、

 自信が付き始めたのは良いが、

 今度は気ばかり焦ってる、

 無謀な攻撃ばっかり)

 

 「たとえ早くても偉いわけじゃないよ?」

 

 「でも…」

 

 

 (じゃあこっちで行くか)

 

 「あらぁ、パティに誉めて欲しいのぉ?」

 

 「なっなななんで!?」

 

 「女同士ですもの、何があったか

 分かるわよん!」

 

 耳まで真っ赤になる。

 

 (おぉ、やっぱりパティが動機だよ)

 

 「村出るときパティから

 何か言われなかった?」

 

 「必ず無事でかえって…って」

 (アタシが言えって言ったんだけどね)

 

 「じゃあ、その言葉の意味は?」

 

 少し考え

 「ケガをしないで……?」

 

 「生きて帰ってこいって事だ、

 無理をするなって事だ!」

 

 アルトは続ける

 

 「人間よりも遥かに強いクックと今アンタが

 やってるのは命の削り合いだ」

 

 「生き残った方の勝ちなんだ」

 

 「勝っても一生もののケガしたり

 命を落とせば負けなんだ」

 

 「たとえ無様でもクエスト失敗しても

 生き残れば次がある」

 

 回復薬を飲みナイフを研ぐ

 

 「勝ち…が…んーと…何か」

 クロフは考える

 

 「そう、勝ちの意味が違うんだ」

 (素人はここで引っ掛かるのよね)

 

 じゃ、理解したらコツを二つ教える

 

 

 4番、広くて障害物も少ない

 そこでクックは地面を啄む

 

 突然後ろから斬りかかるクロフ、

 腹の辺りを足元から二回斬りつけ

 

 回避!

 尻尾が空を切る

 

 尻尾が通り過ぎたら前転切り上げ、

 一回で回避、噛み付きをかわす。

 

 コツその1

 三回斬れるとこは二回で

 二回斬れるとこは一回で回避

 ローリターンでも

 ノーリスクならこっち勝ち。

 

 クロフは様子を見る、

 クックは僅かに身体を引きながら

 頭を上げると

 

 ブレス!

 可燃液が飛んで来る

 

 放物線を描くため、前転で避ける

 

 直ぐ後ろへ着弾して燃え上がる!

 

 「熱っ!!!」

 

 コツその2

 とにかく 見る

 これが一番大事、

 生物が動く時は必ず予備動作がある

 これを見極める。

 

 まぁそれだけで通用すれば

 苦労しないけど。

 

 肩で息をし始まる、

 スタミナが切れそうだ

 

 そうだ音爆弾!

 クロフは投げてみる

 

 キィンという高音!

 まともに聞いたクックはフラフラになる

 

 チャンス!!!本で読んだ通り!

 抜刀斬りから切り上げ切り下ろし、回転斬り

 腹の辺りから出血、返り血を浴びる!!

 

 息が続かない、苦しい

 右腕がダルいが…

 

 「…ロフ」

 

 まだまだ!

 

 「クロフ!!!!」

 

 「え?」

 

 見るとクックは回復している、

 咄嗟にガード!!

 

 ガツン!!ガツン!!ガツン!!!

 

 

 

 

 

 

 ドザァ!!!!

 「いっだぁ!!」

 

 白とタマが、にゃあにゃあ言いながら

 台車を推して遠ざかる。

 

 暫し呆然………力尽きたのか?

 

 こんな下ろし方って…………

 

 アルトが走ってきた、

 怒られる!怒鳴られる!!怖い!!!

 

 「どうだった?」

 

 「え?」怒ってない?なんで?

 

 「今ので何を学んだ?」

 

 少し考え

 「夢中になって何も見えなくなった、

 それと、音爆弾のあとチャンスだと

 思ったけどその後は何か…」

 

 (おぉ!喋る喋る)

 

 「よし、チャンスだったのは本当だ、

 たたし夢中になったのはいけない、

 『相手を見る』を忘れてる」

 

 

 「そして音爆弾の副作用だ」

 

 「副作用?」

 

 「怒るんだよ、速くなるし強くなる」

 

 そんな事は本に書いてなかった。

 

 「怒ってない?」アルトの顔を見れない

 

 「アッハ!アタシが?なぜ?」

 

 「失敗したし…」

 

 「失敗するのは当たり前、素人なら

 普通の事だよ。」

 

 「たった一回の注意で

 無謀な攻撃は止めたろ?」

  

 「一番悪いのは失敗を認めず、

 何で力尽きたか、何が悪かったかを

 考える事が出来ない事」

 

 「こういうヤツに比べたら

 アンタは普通に成長してるよ」

 

 「………へへ…」

 

 (笑った!誉めて反応してる!)

 

 「自分で考えて行動した結果だ、

 やる気があるヤツは怒らないさ」

 

 ポンと肩を叩く

 

 「さぁ次はどうする?」

 

 「音爆弾は使わず、

 他の手でやってみます」

 

 

 

 10番水辺と森のエリア

 クックは水を飲みアクビをしている。

 

 「せいっ!!」

 抜刀斬り、斬り上げ

 

 クックが振り向くがそこにクロフはいない

 

 足元を転がり、できるだけ後ろへ

 回り込む。

 

 (掛け声まで出てきたか、

 このままいったら勝てるかもねぇ)

 

 (ただし、それはそれで問題だけど)

 

 クックが横に倒れジタバタもがく

 「翼を斬れ!!!」

 

 青い翼を息の続く限りに斬る

 ぜいぜいと呼吸が辛い

 脚がふらつき膝が笑う、

 

 翼から出血している!!!

 

 もう無理だ、息が、そう思った時、

 クックが立ち上がる、

 

 身構える(どこまで頑丈なんだ?)

 

 が、脚を引き摺り、破れた翼で飛び始めた。

 

 「うあっ!!!」

 

 抜刀斬りをしようと近付いたが

 風圧でよろける。

 

 「逃げられた…」

 

 「いや、よくやった」

 

 「岩穴かなぁ?」

 

 「アッハ、恐らく」

 

 

 

 4番エリア、岩穴の前、

 「罠は持ってる?」

 

 「ありますけど?」

 

 「今回は無しでやってみな」

 

 閃光玉は使って良いと言われ、

 クロフは岩穴へ入っていく、

 

 

 

 クックは一段高い場所に眠っている、

 

 凄い………

 クックをこんなに間近で見る日がくるとは

 

 大きい嘴、耳、青い翼、目の周りが青く、

 頬のあたりは丸く赤い。

 

 寝息を立てて体が上下している、

 生きてる

 

 命の削り合い、 こんな凄い生き物と、

 クロフは高揚する。

 

 数日前まではクックと闘うなんて

 想像もしなかった、

 そんなモンスターを追い詰めた。

 

 ナイフを研ぐ……そして

 翼に抜刀斬り!

 

 クックは起き上がる、突進!

 回避!!!

 

 今度は避けきった

 

 一回だけ斬り込む、尻尾がまわる!

 

 前転!足元へ、足踏みでぶつかるが

 防具のお陰でダメージは少ない

 

 閃光玉!クックは闇雲に尻尾を振り回すが、

 クロフは気付く、左からしか尻尾が来ない、

 足元へ転がる、斬り上げ!!!

 

 腹の傷が拡がる

 

 クックが回復すると、また閃光玉

 足元で斬りまくる。

 

 

 

 

 

 初めてとは思えないほど理解してるわ、

 アタシが出る幕ないなコレ。

 

 センス何てモノはこの世にない、と

 アタシは思う。

 

 あるのは努力、

 そして膨大なトライ&エラー

 

 その繰り返しのみが成長に繋がる。

 

 クロフは同じ失敗を余りやらない、

 アタシが言った事は守る。

 

 成長はやいぞ…きっと…

 

 

 

 

 しかし………………おかしい、

 普段ならランポス位いるはず

 

 さっきの10番でもそうだ、何もいない

 

 前にも似た事があった、

 頭の良いドスランポスがいる場合、

 部下達は普段と違う行動をする、

 

 強いモンスターが

 近くまで来ていて避難してるか。

 

 「どうやら何かいるな、これ」

 

 

 

 「うあぁぁっ!!!」

 

 「どうしたっ!!!!」

 (しまった油断した!!!)

 

 悲鳴に慌てて飛び込むとクロフは

 倒れたクックの下敷きになりかけたらしい

 翼の下から這い出て来た。

 

 「倒した………?」

 

 「あぁ、勝ったんだよ」

 (おぉ無事だよ)

 

 「さっきまで暴れてたのに…」

 

 「んー、野生の生き物ってさ、

 弱味見せたら喰われる事しってるんだ、

 だからギリギリまで全開なんだよ」

 

 

 

 

 

 キャンプに戻り手当てと後始末、

 クックは村の人が解体している、

 

 「防具の継ぎ目はしっかりな」

 アルトに防具の洗い方を教わり

 返り血を落とす。

 

 「あの………」

 

 「なに?」

 

 (怖くない)

 

 「クックの尻尾だけど法則っていうか、

 利き腕っていうか………」

 

 「アッハ!たった一匹目で気づいたかぁ!」

 アルトは満面の笑みで続ける

 

 「その通り!必ず同じ方向から

 振り回すんだ」

 

 「ちゃんと見てるじゃない!」

 グリグリ頭を撫で回す、抵抗しない、

 

 誉められて嬉しい気持ちが

 アルトにも伝わる。

 

 (アタシもこうされると嬉しかったなぁ)

 

 

 

 

 

 「お帰りなさい!」

 パティが走ってきた、

 

 え?抱き合っちゃう?アルトが見ていると、

 パティはクロフの身体を見回す。

 

 「良かった、ケガしてないね」

 

 「うん、ただいま」

 

 あらあら、まるでお母さんね(笑)

 

 

 いや待て、アタシってもしかして…

 

 

 

 お父さん!?

 

 何とも複雑な気持ちになる

 

 村長が来る

 

 「ヤハハ、遂にクロフは一人前ですね」

 

 「まぁ偶然も味方したけど」

 クロフを見る

 「実力は有るわね」

 

 「誉めてやって」

 

 

 

 

 

 

 「受け止められない?」

 パティが言った言葉…

 今は受け止められる、誉めれば

 通じるはず。

 

 

 

 

 

 いつも通り夕方はギルドで一杯飲む

 

 「クロフ、付き合え」

 アルトが呼ぶ

 

 クロフは酒を飲めない、が、アルトは

 注文して持ってこさせる。

 

 「ハイ乾杯!!」

 ジョッキをぶつける。

 

 「苦い………」

 クロフは渋い顔になる

 

 「アッハ!最初は皆そうだよ!」

 (素直に付き合うとは思わなかったよ、

 それに今の顔…)

 

 「ヤハハ!オイラも!」

 

 村中が集まり俺も私もと飲み始める。

 

 「村長、ビールが無くなりそうですよ」

 パティが心配そうに樽を見る、

 

 「ヤハハ、今日はクロフが一人前になった

 記念日だ、出し惜しみは無しで!」

 

 「良いぞ村長!!!」

 

 おめでとう、よくやった、と

 クロフに次々と声が掛かる。

 

 クロフの中で何か変化があったのか

 広角が上がる、声は出さないが

 表情は笑っている

 

 加工屋のアキシが来る

 「姐さん、ボウガンの修理出来たぞ」

 

 「ありがとー助かるぅ」

 

 「どんな使い方したらあぁなるんだ?」

 

 「あ、クック殴ったアレ」

 クロフが言うと

 

 「クックなぐったぁ???」

 村中が騒ぐ

 

 「その後はファンゴも」

 

 「バラすなよぉ!!」

 

 村中爆笑

 「なんでボウガンで!」

 

 「いやさ、使い慣れなくて

 ついハンマーみたいに」

 

 「なんでそれでディアブロスぅ」

 

 「んー、練習」

 また村中爆笑

 

 さすが四英雄!!!

 

 

 

 

 

 喧騒が過ぎ夜になる、

 ギルドにはいつもの四人

 

 「あの」…

 クロフが聞く

 

 「何、どうした」

 

 「村長、焚き火して良い?」

 申し訳なさそうに

 「灯りが少ないから歓迎だけど

 ヤ、何燃やすの」

 

 「本…」

 

 「あぁあれか」

 アルトは合点が行く

 

 

 クロフが本を一抱え持ってくる、

 ほんの一部だ。

 

 「燃やすの?もったいないんじゃ?」

 パティが言うが

 

 「いいんだ、何だか書いてあることが

 嘘みたいに思えるし」

 クロフは本を見ながら考える、

 知識は与えてくれた、だけど文章では

 伝わらないものが確かにある。

 

 アルトは持って来た本の内容を読む

 「現実と本のズレを感じたか」

 

 そして

 「あーコイツの記事か…」

 

 「知ってるの?」

 

 「あぁ、人から聞いた内容を

 文章にするのを仕事にしててさ、

 自分の足で経験積む事を

 否定するやつなんだよ」

 

 一口飲む

 

 「ヤハハ、知ってる方ですか?」

 

 「書士隊の一人でさ、知識ばっかりのヤツ」

 

 「嫌いなんですか」

 パティが聞きにくいことを聞く

 

 

 「ま、好きじゃないわね、

 勉強は出来るらしいけど」

 笑いながら

 「賢者は歴史から学び、

 愚者は経験から学ぶって言うのよ」

 

 クロフも聞いたことがある、

 「有名な言葉…」

 

 「だったら賢者になるには

 家から出ずに本を読めって?」

 飲みながら

 「クロフだって今、間違いに気付いたろ?」

 

 「頭の良いヤツ、人を導く人ほど

 若い時に外に出るもんだよ」

 

 この本はクロフが大人になりたくて

 読んだ、人の経験の詰まった本、だけど

 足りない。

 

 この数日でアルトから教えられた事の

 質、量に比べたら軽すぎる。

 

 火を点ける。

 クロフの知識が燃えていく

 古い知識が燃えていく

 半端な知識が灰になっていく

 

 全然惜しいと思えない。

 

 

 「師匠はなぜ書士隊に?」

 振り返り聞く

 

 「紆余曲折あってさ、簡単に言えば

 ギルドと王家、双方の落とし所かな」

 夜空を見ながら続ける

 「貴族達の中にはさ、ハンターの力を

 利用したい勢力がいてさ、

 そいつらはあの手この手で

 ギルドに干渉してくるわけ」

 

 ギルドは四大英雄達の

 作った規律に干渉してほしくない

 

 王家は無謀の恐れがあるから

 利用させたくない

 

 だから現 四英雄のアタシらが

 王家直属の組織に入って

 

 「闘技場で暴れるわけ」

 拳を握り笑う

 「暴れる?」

 クロフは目を見開く、表情が変わる、

 三人とも気付くがここは流す。

 

 「そ、貴族達が用意した私兵隊が、

 20人掛かりで勝てないモンスターを

 アタシ一人で潰したら貴族はどう思う」

 

 「ヤハハ、そりゃあ… おいそれと

 ギルドに楯突けなくなりますね」

 

 「ついでに王家にもね」

 

 「王家とじいちゃん達の取り決めで

 アタシは書士隊にいるわけ」

 

 「じいちゃん達って」

 パティは空いたジョッキを片付ける

 

 「あー各地域の偉いギルドマスターよ

 元四大英雄のドンドルマ、ミナガルデ」

 

 「んでココットの」

 

 凄い人ばっかり、

 大陸中で知らない人なんていないだろう。

 

 あれ?…三人しかいないが

 

 「ヤハハ、最後の一人は確かガストンとか」

 村長も酔いながら言う

 

 「あー嫌がるのよ、それ言うと」

 

 「知ってるんですか」

 クロフは身を乗り出す

 

 「だって父ちゃんだもん」

 

 「えぇっ!!!?」(一同)

 

 「驚くことじゃないって、G級の奴らは

 大体皆この人の弟子だから」

 

 「親子……」

 

 「アッハ!血は繋がってないよ」

 

 「ヤハハ、じゃあクロフは」

 

 「数百から千いるだろう孫弟子かな」

 

 

 「アルトさんって何人弟子いるんですか?」

 パティが聞く

 

 「んー、二人目、アタシは少ないの」

 

 「最初のお弟子さんは」

 

 「死んだよ、アタシそれから弟子

 取らなかったんだけどね、

 流れでクロフを育てる事になったわけだ、

 なぁ村長」

  村長を軽く睨む

 

 「ヤハハ、うまく行って…」

 三人でクロフを見る、

 クロフは何だろうとキョトンとする。

 

 明らかに表情が増えている。

 

 成長している、ハンターとして、

 人間として

 そしてアルトさんも師として成長している。

 

 オイラはクロフを一人前の

 ハンターにしたい、

 

 あの方はアルトさんを一人前の

 師匠にしたい、

 

 思惑が一致しただけですがね。

 

 

 オイラの罪は消えてくれるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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調査

 

 「採取行くぞ」

 

 今日は朝から師匠と二人で森と丘、

 時間が有れば密林にも採取に出る。

 

 一応いつもの装備だが師匠が言うには

 「最悪リオス系飛竜が近くにいるかも」

 と言う。

 

 「拾うもの分かってるよね?」

 

 「はい、回復薬系の素材、特にハチミツ」

 

 「そ、後はカラ骨とカラの実拾って

 弾丸作りたいから」

 

 「買っても…」

 遠慮がちに言う

 

 「下位のクエストで弾丸買ってたら

 赤字確定よん」

 (確かに)

 

 「ハンマー使えばいいんじゃ…」

 

 「下位じゃ加減が分かんないのよ」

 ハンマーを眺めながら続ける

 「本当はクックが弱ってからアンタに

 殺らせるつもりだったけど」

 

 人外、この言葉の意味が分かる。

 

 

 

 3番

 「さて、何がいるかって…クックゥ?」

 何故か師匠は不思議がる。

 

 まさかもう他の個体が飛来した?

 

 隣のエリアへ向かうと

 4番にも別個体

 

 あれ?…これって大発生?

 年に数回、昆虫類が多くなった後は

 イャンクックが増えるのだ。

 

 「これが原因……?」

 この程度でランポスが居なくなる?

 

 師匠の予想と反するみたいだが

 

 「狩っちゃおう!」

 師匠はニヤリと笑う

 

 「え無理ですよ、道具類足らないし」

 

 「ん、アタシはペイントボールだけでいいよ」

 

 「そんな無理ですよぉ」

 いくらなんでも道具無しって。

 

 アルトは見てろと言うと駆け出す

 

 尻尾、前転回避から起き上がりに一回殴る

 クックの振り返りに溜め3

 耳が破れる

 気絶、殴る

 クックがかわいそうになってくる。

 

 

 ものの2分程度で倒してしまう。

 

 いやいやいやなんだよコレ、

 これが師匠の実力

 この前のランポスもそうだった。

 

 「師匠、回復薬は?」

 

 「ん?いらない、一発も食らってないし」

 ノーダメージ……

 

 「じゃあ次、一緒に狩るぞ!」

 えぇっ!?緊張する

 

 「頭はアタシが叩くから、

 アンタは足元を狙って」

 

 気軽に言わないでよ

 

 攻撃を掻い潜りながら腹や脚を斬る、

 師匠はこちらに合わせて的確に

 頭を叩く、

 

 5分程で倒したが、

 

 「足引っ張ってますよね…」

 ゼイゼイと肩で息をする。

 

 「アッハ!誰だって最初はそうだ、

 馴れよ馴れ!」

 呼吸が全く乱れてない。

 

 師匠はこっちを気遣って

 思い切り攻撃出来なかったはず

 

 「弱いなぁ…」

 

 「何言ってんの!最近じゃ最初に

 一人で狩ってないヤツいるんだよ」

 

 「え………?」

 

 「いきなり狩れるヤツが少ないの、

 しかもその装備で」

 

 「え?…ハンターナイフ改って弱いの?」

 

 「アッハ!そう!

 普通はもう一段階位はね」

 

 「じゃあ何でソロやらせたんですか?」

 大変だったし疲れた

 

 「ソロで狩れて初めて勝ったと言えるのよ、

 最近は人に狩って貰ったのに、

 自分の実力だと思って

 死ぬヤツが多いのよ」

 ヤレヤレと首を振る。

 

 「それで一人で…」

 

 「アタシが一回だけ助けたけどね、

 アンタはもうソロで狩れそうだ、

 何と言っても大きな武器を持ってる」

 

 「大きな武器?」

 なにそれ?

 

 「道具の知識!!」

 クロフのポーチを指差す

 

 「覚えておきな、どんなに優れた

 ハンターでも回復薬、砥石、肉、最低

 でもこれ等がないと戦えない、剣士はね」

 

 説得力無いんだけど、

 ズタボロで倒れているクックを見る。

 

 とりあえず2頭で、後は採取して引き上げる

 

 

 

 村に着くと猫族の使いがいる、

 「ヤ、丁度良かった」

 何事か聞くと、どうやら密林に

 リオスの番が来ているらしい。

 

 「あぁそれでか」

 師匠は納得する、

 雌のリオレイアが卵を産むのだろう、

 そうなれば雄のリオレウスは

 餌を捕りながら周囲を警戒する。

 

 ランポスは手軽な獲物だ、しかし

 密林のランポスはこの前数が減った。

 

 その為に隣の森と丘へ雄が来たのだ、

 ランポスが警戒したのはそのため。

 

 「危なかった」

 会わなくて良かった

 今のクロフじゃ餌にされるだろう。

 

 「アッハ!人間はあんまり襲わないよ」

 

 「そうなの?」

 

 「人間より美味しい獲物がいる限りはね」

 

 今密林は食べる物があるんだろう、

 そして卵を狙うランポスがいない、

 ランポスが食べたいならすぐ隣の

 森と丘へ行けば良い、

 

 産卵には最適と言える。

 

 「アプトノスが多いんだにゃ」

 

 「んで?村長、どうする?」

 師匠は聞く。

 

 「ヤー…産卵してるか確認出来ます?」

 

 「分かった、クロフ!行くぞ!」

 

 

 

 密林の7番

 大きな広い洞窟、いくつも通路が

 通り日光が入って明るい、

 

 緑色、20メートル位の体に大きな翼、

 牙だらけの口、圧倒的存在感。

 雌のリオレイア、

 静かにその巨体を休めている。

 

 洞窟の入り口から観察する、

 

 「見えないなぁ」

 双眼鏡で師匠が見ている

 

 「温めてるんですか?」

 小声で恐る恐る

 

 「え?鳥じゃないんだから」

 

 「そうだとばかり思ってました」

 恥ずかしい

 

 「産んだら雛が育つまで世話はするけど」

 

 何も知らない、いつもだ。

 

 「どかさないと見えないなぁ」

 こっちを見てニヤリとする、

 悪い予感しかしない。

 師匠はペイントボールを取り出す、

 

 刹那

 

 風を斬る音、気付いた途端

 「グオォォォォッ!!!!」

 

 リオレウスが飛んできて着地する、

 ズシンと重そうな音がして、

 埃が舞い上がる。

 

 「チッ、間が悪い」

 身を低くする。

 

 お互いに匂いを嗅ぐように

 鼻を鳴らしている。

 

 「あの」

 

 「何?」

 

 「肥やし玉、作りますか?」

 

 「さっすが♪」

 

 

 

 

 

 

 

 二匹とも追い出し見てみると

 確かに三つ卵がある。

 

 「アイテムの知識が高いのは

 自慢出来るぞ、クロフ」

 一通り見て

 

 「よし、確認終了!」

 

 「まずいです」

 

 「何が?」

 

 「2ヶ月くらい密林は

 採取出来なくなりました」

 

 「あぁ、でもアンタいるしな」

 

 「?」

 

 「分からない?

 アンタはもう立派なハンターなんだよ、

 しかも村で一番役にたってる」

 

 「そうなの?」

 首をかしげて

 「一番下の役立たずだと思ってました」

 

 「卑屈だなぁ皆が認めてるじゃない」

 

 師匠が言ってくれなかったら、

 わからなかった。

 

 「立派な男だよ」

 頭をグリグリ撫でる

 

 パティも師匠も認めてくれた。

 それはいいが

 でも何か、

 

 「納得出来ないの?なんで?」

 

 素直に喜べない。

 

 顔が曇ったままだ、笑えない。

 

 「前に誰も助けてくれなかったのに

 今になって…………」

 

 「アッハ!そうか!今さら認められても

 素直に喜べないのか」

 

 「はい…………」

 

 「時代が悪かったのよ、許してあげな」

 

 「……でも…」

 

 「周りを変えたいなら

 自分を変えろ、って言葉は知ってる?」

 

 「知ってますけど……」

 

 「アンタの場合周りが変わって行ったの、

 アンタは立ち止まってるのよ」

 

 「そんな事いったって…」

 

 「恨んでるの?」

 

 頷く

 

 「時代が悪かった、子供一人で

 抵抗出来ないわよ」

 

 「…………」

 

 「じゃあ許せ、とは言わないけど、

 過去の自分だけは許してあげな」

 

 「自分?」

 

 「アンタの中に居るんじゃない?

 小さい時の無力なアンタが」

 

 怒り哀しみ、なんとも言えない気分、

 そこまでズケズケと人の心に

 入って来るのかこの人は!

 

 「べつに」

 こんな言葉しか出ない

 

 「アタシは凄いと思うよ、小さい時のアンタ」

 

 「なぜ?」

 大嫌いな無力な自分

 

 「一年もパティ育てたんだろ、

 普通の子供に出来る事じゃない」

 

 「だから許してあげな、何より自分を」

 

 なんで、なんでそこまで

 言われなきゃならない!!

 色んな感情……と、

 

 「アタシはさ、目の前で両親を喰われてさ、

 無力な自分を恨んでるのよ、

 アタシの中にも居るんだよ、

 無力な過去の自分がさ」

 

 言いながらアルトは気付いた。

 

 そうか、アタシはこのために、

 自分と向き合う為に、

 向き合えると思えたから

 クロフの師匠になったのか。

 

 ボリボリ頭を掻く

 どこまでが御膳立てなのか知らないけど

 多分じいちゃんの手のひらの上。

 

 

 

 「すぐには無理かもしれないし、

 少し歳を取らないと

 理解出来ないかもしれないけど」

 

 クロフの額に手を当て

 

 「いつか過去の自分を受け入れてあげな」

 

 「あんたにしか出来ないんだから」

 

 「師匠は出来たの……?」

 (この人の中にも………)

 

 「んーもう少しかな」

 

 「弱い自分を否定したくて

 鍛えて強くなったけど、

 否定してもダメなんだよ、

 過去の自分は変えられないから」

 

 「受け入れるしかない?」

 (過去を捨てるのは間違い?)

 

 「そ、否定しても悪夢見ちゃう」

 

 確かに、起きてても

 過去のイヤな事を思い出す。

 

 「受け入れる、どうすれば?」

 

 「毎日人と話す事よ」

 

 「それだけ?」

 

 「人と話すとね、反応があるでしょ?

 その反応、意見によって

 自分がどんな人間か解る、

 そして自分を大きくするんだ、

 本だけじゃダメなんだよ」

 

 「難しい………」

 

 「馴れよ、あぁでも努力しないのはダメ」

 指を一本、クロフの鼻先へ

 「努力しない人間はバカにされても

 仕方ない、なんでもいいからね」

 

 「努力……?」

 

 「アンタは大丈夫、毎日ハンターやってるし」

 

 「ヨシさんから聞いたよ、

 何でも頑張ったって」

 

 「大工とか…キャンプ作ったり…」

 

 「ほら、スゴいじゃない!」

 いっぱい誉められたはずだよ、

 と話している内に、

 「グオォォォォ!」

 

 あら早い、もう戻ってきた。

 

 

 

 

 

 確認を終えて村へ

 「ヤ、どうでした?」

 

 「3つの卵を確認した」

 アルトは指を三本立てる。

 

 「どうしようかな」

 村長は考える。

 

 「卵泥棒は勘弁してよ?」

 

 「卵泥棒?」

 クロフには分からない。

 

 「そういうクエストもあるんだよ、

 主にバカな貴族の依頼でね」

 

 「ヤー…暫く密林は無理かな」

 

 「じゃあ砂漠と、森丘か」

 クロフに向き直る

 

 「ま、あとは明日だね、

 クロフ、加工屋行って

 クックの装備の相談しておきな」

 

 

 

 加工屋

 普段は農具の手入れや細かい

 金属部品を作っている。

 

 「あの…」

 この人怖い…

 

 「おうクロフ、どうした?」

 作業を止めてアキシが来る

 

 「クック装備…」

 

 「作るか?」

 

 「うん」

 

 「一週もしない内にクックまで狩るとはなぁ、

 お前才能あるんだな」

 

 あ、これが誉められたって事?

 なんだか居心地が悪いような、

 良いような。

 

 照れが自分でも分かっていない

 

 「お願いします」

 

 「おうよ!!お前の注文なら

 最優先で作ってやる」

 あれ…?怖くない…

 

 「素材が入ったら何時でも来な、

 何でも作るぞ」

 有料だがなと笑う。

 

 つられて笑顔になる

 

 (お?初めて笑ったよコイツ)

 

 

 

 

 (あ…アルトに言われた大事な事、

 人生で一番大事な言葉)

 

 

 

 「あ…ありがとう……」

 

 「お…おおう!」

 (変な間が…でも初めて聞いたな)

 

 

 

 

 

 

 次の日

 

 「クロフ、一人で狩ってきな」

 クックなら一人で十分だろうと任される。

 

 しかし

 

 「おおーい!姐さん、待ってくれ」

 大工のカダが止める。

 

 「クロフを今日は休ませてくれ」

 

 「なにかあった?」

 

 「アプトノスの飼ってる場所を

 覆わないと危ないんだよ」

 

 密林は村から一番近いため

 狙われる危険がある。

 

 「クロフの手が必要なんだ」

 

 「ヤ、それなら仕方ないでしょう、

 急ぐクエストもないですし」

 

 「よし、アタシも協力するよ」

 

 村のはずれに荷車を引くアプトノスが二匹、

 大きな体で白地に黒の模様がある

 四つ足の竜、草食でおとなしい上に

 人になつく、繁殖力もあるし肉も美味しい。

 

 またその為に肉食に襲われやすい、

 村で柵に囲まれていたら逃げ場がない。

 

 

 

 「先ずは小屋の強化だな」

 クロフは指示通りに

 柱を立て板を打ち付ける、

 ネットをいくつも作り端を縛り大きくする。

 

 「おーいヨシさん、蜘蛛の巣と蔦を追加だ、

 村長、材木が足らない」

 

 「ヤハハ、村総出の作業は久しぶりだ」

 

 「村長、サボらないで」

 パティがロープを運びながら叱る

 

 「おいおい姐さん、

 モヤイ結びはそうじゃない」

 

 「えぇ!?こうじゃないの?」

 

 「じゃあもう一回見せるぞ?」

 カダがやって見せる

 

 「アタシはこういうの下手だなぁ」

 手元でロープがダンゴになっている

 

 「やったことないんだねぇ」

 女達が笑う

 

 「料理は得意なんだし器用なはずだよなぁ」

 

 それに比べてクロフは器用に作って行く。

 

 小屋はほとんど完成、後は小屋の周りの

 空が見える部分をネットで覆い、

 上から小枝や葉っぱをバラ撒くと。

 

 

 

 「出来た!!!!」

 

 小屋の辺りは日陰になり

 空から見えにくいだろう。

 

 「クロフのお陰で早く終わったぞ」

 「お前は本当に器用だよな」

 「大工でも食っていけるんじゃないか?」

 

 

 カダも怖くない…

 

 

 

 

 

 

 

 あぁ、これ誉められてたんだ

 

 

 

 

 

 

 今初めて素直に受け止められた。

 

 「大工仕事はクロフのが師匠だな!」

 カダが笑う

 

 「アッハ!面目無い」

 

 クロフはモジモジ挙動不審になる。

 

 

 

 

 皆で昼ゴハンを食べる、

 

 少し離れた所から

 「ヤー、照れてますよね」

 

 「そ、誉め言葉もちゃんと通じてるし、

 嬉しい感情も出てる」

 

 「一人前になったかな?」

 腕組みしながら村長は眺める。

 クロフは笑顔になっている。

 

 「お兄ちゃん……」

 いつの間にかパティが横に来ていた、

 アルトに抱き付く。

 

 「ありがとう…ぅぶえぇぇ…」

 

 「アッハ!泣かない泣かない」

 パティをなだめる。

 

 

 人として教えられる事も、あと…少し

 

 

 

 



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冗談と本気

 

 

 細かい砂粒が風に乗り、

 陽炎の揺らめく砂漠、しかし……

 

 クック装備の青年と、デスギア装備の

 女性が地底湖にいる。

 

 武器はチーフククリとガノスプレッシャー

 

 「この前はさ、急いでディア狩ったから

 全体が分からなかったのよね」

 寒っ!とアルトは震える

 

 「珍しいんですか?」

 

 二人がいるのは5番、地底湖になっている

 

 「旧砂漠には二種類あるの、もうひとつは

 このエリアが流砂になってて…って…」

 

 アルトはクロフに向き直る。

 「この大陸には同じ地形が

 無数に有るって事は?」

 

 「知ってます、森と丘だけでも

 百ヵ所越えるとか」

 本に書かれていた

 

 「そ、無数にあるのよ、

 農場作ろうと切り開いたら森と丘とか」

 

 「不思議ですよね?」

 

 「それを調べたりするのも書士隊の

 仕事なんだけどねー」

 辺りを観察する。

 

 外に出る、中の寒さから一転、

 日差しが強くなる、歩きながら話す

 

 「明らかに昔の人の手で

 作られた場所もあるしねぇ」

 寒かったのだろう、手を擦り合わせる。

 

 「昔の人?」

 

 「旧密林とかに石造りの物があったり、

 レンガの残骸があったり、

 あぁこの村の密林も多分あるはず」

 

 「何があるんですか?」

 

 「昔の建物の跡、レンガとかの」

 

 「ありましたっけ?」

 クロフは首をひねる

 

 「ほら、昼に行ける島の壁」

 

 「えぇっ!?あれ!?」

 思い出すが、ただの岩じゃ……?

 

 「もっと土砂の溜まって無い狩場だと、

 窓みたいのあったりするんだ、下の方に」

 アルトは地面を指差す

 

 「他にも各地に色んな話があってさ」

 

 「水中に都市があるとか、

 狩場自体が実験場だとか」

 

 「あぁ塔なんて全部人が造った物だし」

 指を一本立ててクルクル回す

 

 「実験場………?」

 話が飛躍しすぎて分からない

 

 「モンスターを観察するために

 あの島が作られたとかね」

 

 「……想像ではなくて?」

 

 「んー、それに直接関係は無いけど、

 過去に文明があったのは確かだよ、

 困った事に物証が出てくるんだ」

 腕を組みながら

 

 「物証?」

 ワクワクする

 

 「『錆びた塊』って聞いたことは?」

 

 「読みました、磨くと凄い武器になるとか」

 

 「錆びた塊が変化するんじゃないんだよ?」

 

 「?」

 

 「古代の武器が錆びてあぁなってるの」

 

 「古代の武器……?」

 なんかかっこいい響き

 

 「有名なのは、絶と滅

 片手剣使うなら絶一門位は知っておきな」

 振り返りニヤリとする

 

 「強いんですか?」

 凄いぞこの話!

 

 「アンタが今持ってるのと同じくらい」

 

 「それって弱いんじゃ………?」

 ガッカリ…古代って………

 

 「まぁ聞きなさいって、

 ランポスは同じくらい何度も

 斬らなきゃならないけど、」

 

 間を置く

 

 「リオレイアならその剣の三倍から

 四倍の威力になる」

 笑いながら

 

 「意味がわかりませんが…」

 

 「覚えておきな、属性ってヤツ」

 

 「絶と滅一門は武器自体が

 竜を憎んでるといわれてるんだ」

 

 そんな凄い武器が存在するんだ…

 

 

 

 

 「おー、いたいた」

 砂漠の2番 広い場所にヤツらはいた

 

 砂の中を泳ぐ変な竜、

 それゆえ砂竜と呼ばれる

 全身砂の色で目は見えないらしい。

 

 その代わり聴力が異常に発達しており

 砂の上にいる生物を襲う、

 大きな翼はヒレのようになり

 サメのような頭は左右に広がり、

 そこに耳がある。

 

 内蔵のキモが珍味で市場で

 高値で売れる。

 

 「知ってる?

 本当は青くて綺麗な鱗だってこと」

 

 「はい、前にいたハンターが狩ったやつを

 剥ぎ取りましたから」

 

 話していると、

 

 

 

 

 ドザザァァ!!!

 巨大な影が飛び出す!

 

 ドスガレオス!!!

 

 通常のガレオスはクックよりも

 僅かに小さい位だが、

 ドスガレオスはかなりの巨体、

 ディアと大して変わらないが、

 

 「体力は少ないからね」

 笑いながら弾丸を装填する

 

 「音爆弾はもってる?」

 

 「はい」

 

 「じゃザコは任せるわ」

 

 「ヤツは……アタシの獲物だ」

 

 「え?…キモの納品だから狩らなくても」

 

 「いいの…アイツは見たら全部狩る」

 目が鋭くなる

 

 「ヤツは人を食うからね…」

 声色まで変わる

 

 

 

 キィンと音がする度にガレオス達は

 砂から飛び出し、ジタバタもがく

 

 5回位斬るとアッサリ死ぬ

 怖いのはクックと同じように

 尻尾を振り回し、

 

 ブシュ!!!

 

 砂のブレス、地面から飛び上がり

 砂を吹き付ける、目に入ると大変

 

 一方ドスガレオスは

 長い脚のために片手剣では

 届きにくい体高だが、

 

 潜る度に徹甲榴弾で引き摺り出され

 一方的に貫通弾でボロボロになっていく。

 

 

 

 

 

 そうか…師匠の両親襲ったの…

 

 

 

 

 

 

 「数は足りてる?」

 

 「はい、倍以上です」

 

 「囲まれても慌てないのは良いぞ」

 

 「へへ…」

 

 キャンプで装備の砂を落とす、

 こんなに砂まみれになるのか

 

 「これだから慣れない武器は…」

 と言いながらアルトはボウガンの

 砂を出している。

 

 「師匠」

 

 「んー?」

 作業に手間取っている

 

 「人と話すって事ですが」

 靴の砂を出す

 

 「うん、どうした?」

 挟まった砂が取れない

 

 「出来るだけギルドに居るようにして、

 村の人と話すようにしてますが、

 何か変わったんでしょうか?」

 

 手を止める、じっとクロフを見る

 「アンタはまだ子供だなぁ、気付けよ」

 

 「アタシと話したからハンターになる

 選択肢が出てきただろ?」

 

 「カダさんと作業したから

 大工の才能もあること分かったろ?」

 

 「他にもいっぱいあったはずだよ、

 誉められた事とか」

 

 「人生の選択肢が増えたはずだ」

 作業は諦めたらしい、ボウガンを置き

 腰を伸ばす。

 

 「選択肢…?」

 

 「道具屋も行商人も教えられたりしてない?」

 

 

 

 

 「行商人出来るよ」

 おばさんの言葉……

 

 

 

 

 

 「お前は何がやりたいんだ?」

 なぜかおじさんに言われた事が

 頭をよぎる。

 

 

 

 

 

 ただ淡々と………

 

 

 

 何も考えず………

 

 

 

 そうすれば傷つかない………

 

 

 

 

 そう思っていたはず………

 

 

 

 何だか遠い過去のような………

 

 

 

 

 

 村の人達への恨みは消えてないし

 

 

 

 「俺、何がしたいんだろう……」

 

 

 アルトは凄い勢いで振り返る

 

 「俺ぇぇっ!!!!」

 

 「あ…あの…」

 不快だったかな、変だったかな、

 俺みたいなのが自分を俺なんて

 図々しいかな…………

 

 俺みたいなのが自己主張って………

 

 

 「クロフが俺ぇぇぇええっっ!!!!!?」

 アルトは絶叫する、

 

 ついに出来上がった!クロフの自意識が

 出来上がった!!!

 自分を認識した!!

 自分の社会的位置を認識した!!

 

 この子の時間は動き出した!!!

 歩き始めた!!!

 

 クロフには良い環境が出来ている。

 

 成長を邪魔して

 足を引っ張るバカがいない、

 

 やること全て否定するヤツもいない、

 

 妬みを持つヤツもいない、

 

 村中の皆がクロフの成長を願う人だけ。

 

 

 加速するぞ!!中身も19歳まで!!

 

 

 

 何故か師匠は上機嫌。

 

 「お帰り?」パティは不審な顔をする

 やたらとアルトがニコニコしているからだ

 

 「何かあったの?」

 パティはクロフに聞く

 

 クロフはモジモジする

 

 「アッハ!いいこと教えてあげる!!」

 

 

 

 『人を知る』

 これが楽しいと思えれば

 

 

 

 

 

 

 

 「我が弟子の成長がこんなに嬉しいとはね」

 夕方、既にアルトは飲み過ぎている、

 

 「ヤハハ、遂に出ましたか」

 村長も顔が赤い、

 

 「あの…俺…って変でした?」

 

 二人がこっちを見る。

 

 「うーん…俺…俺って感じじゃ無いなぁ」

 アルトが腕を組み、見ながら言う。

 

 「ヤー、もうちょっと…こう…何か…」

 村長も見ている。

 

 「何かが違うと言うか…」

 

 「ヤー、似合ってないというか…」

 

 

 パティがジョッキを下げに来る、

 

 「お兄ちゃん、髪切ってみたら?」

 パティが俺の顔を覗き込んで言う。

 

 「「それだ!!!!」」

 

 

 ハサミと村に一つしかない鏡が用意される、

 何事かとワイワイ村中集まる、

 こんな時に限って村の連帯感の

 高さが恨めしい。

 

 「え…えぇ?ホントに切るの?」

 

 「任せて!カッコ良くするからぁ」

 酔っ払った師匠の手にハサミがある、

 オカシイってば!なにその笑顔!

 悪い予感しかしないってば!

 

 逃げようとすると

 「まーまーまーまー」言いながら

 村の人達に座らされる、

 

 皆が笑ってるから…

 なんか怒ったらダメな雰囲気…

 何よりパティが笑ってるから……

 パティが笑ってるなら……安心……?

 

 

 クロフには冗談と本気の区別なんて

 出来ない、

 本音と建前の存在さえ知らない、

 ようやく言葉を理解した子供と

 大差ない。

 

 

 「にゃにごと?」

 白とタマがパティの傍らに来る、

 

 「お兄ちゃんの髪をきるのよ♪」

 楽しそうに、

 パティ、なんか…ひどくない?

 

 白とタマも注目している、

 

 

 「あっれー?…あ、ヤバ…まぁいいか…」

 ジョキジョキ音がする、

 師匠の酷い言葉が出る度に村中が笑う、

 恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい

 

 「師匠?大丈夫なんですか?」

 不安だ不安だ信用できない…

 

 「大丈夫だってば♪まだあるから」

 

 「まだ………まだって何!!!!?」

 村中爆笑

 

 

 「あらあら、アタシが直してあげようか?」

 メヒコが言う

 

 「アッハ!お願い!」

 

 「今どうなってるの!?鏡見せてよ!!」

 クロフは丸太のイスに座ったまま

 鏡を探すが、

 

 「いいからいいから♪」

 パティが鏡を持ったまま

 見せてくれない。

 

 「クロフは年に3回位しか切らないからねぇ」

 

 「ねぇねぇ普段は誰が切ってんの?」

 

 「この子自分で適当にやっちゃうんだよぉ」

 チャキチャキと音がする。

 

 既に足元には取り返しの出来ない

 髪の毛が大量だが、どうするのか

 

 「はい、出来たよ」

 

 「ありがとう」

 自分でも驚く位すんなりと言葉が出る

 

 「おんや、初めて言ったよこの子」

 嬉しそうにクロフの頭を撫でる、

 

 

 クロフも嫌がらない。

 

 小声で

 「ホント成長早そ」

 

 「ヤハハ、親子になれそうです」

 

 

 鏡を見る、ボサボサの髪がスッキリ短髪に

 なった俺がいた。

 

 色の白い、165センチの俺がいた。

 

 「あっれー?アンタ

 結構いい男だったんじゃん!!」

 アルトが酔っ払って言う。

 

 「街に行ったら結構モテたりしてぇ」

 完全にタダの酔っ払いが

 パティを見ながら言う。

 

 パティは膨れながら、そっぽを見る、

 俺が悪いの? 違うじゃん…

 

 ヤハハ、遂にクロフはジャンボ村の

 一員になれた、

 ようやくこの村が一つになった、

 この村がスタートした、

 

 オイラの仕事は…

 もう終わるかなぁ…

 

 

 

 

 交易船が来た

 

 「おお!村長、変わりないか?」

 太った色黒の船長が降りてくる

 

 「ヤハハ、船長、あいかわらず貧乏ですよ」

 

 「この前の素材は高く売れたぞ!」

 ニコニコしながら

 

 船員と行商人が降りてくる

 

 

 「えー、姐さん、今日はデスギアかよぉ…」

 若い船員がガッカリする

 

 「アッハ!アンタはいっつもソレな、

 何? キリン装備でも着ろってか?」

 

 「そうそう、露出の高い…」

 

 「シラフで言う事じゃないよ?」

 

 「うわぁ………」

 パティが引く

 

 「いやパティちゃん違うんだよ?

 …ロマンと言うものがあって…」

 

 「アンタらが来たって事は、

 もう2週間たつのか…」

 

 

 残り2週間か…

 

 

 

 「こんにちは、荷下ろし手伝う?」

 船長に若者が聞く。

 

 「おぉ、ウチの船員だけで足りとる…

 ………ヌシは誰だ?」

 

 「ヤハハ、クロフですよ、道具屋の」

 

 「なんじゃと!!あいつかぁ!!!?」

 

 「まるで別人だぞ、何があった?」

 クロフをまじまじと見る、

 見た目は髪型だけだが、

 纏っている雰囲気が違う。

 

 他の船員も見ている。

 

 この前まではオドオドして常に

 挙動不審だった。

 

 今は普通にしている、

 何の気負いも、劣等感も感じない。

 

 クロフも自信が出来て

 人を怖がらない。

 

 「ヤハハ、ビックリしたでしょう」

 

 「こんな短期間で

 こんなに成長するもんかのう」

 

 「アッハ!必要なのは良き師匠よ!」

 

 さて、良いところにきてくれたじゃない、

 良い人ばかりじゃ成長しないからね

 

 パティがいるから必ず妬みが始まる、

 船員達は気が荒いからねぇ

 

 人生は綺麗事ばかりじゃないしね。

 

 

 

 

 「パティ、何か必要なものある?」

 背は少々低いが、割りと良い男が

 美人の少女と話してる絵になる。

 

 「必要なのは食べるもの全般、

 特に肉と付け合わせのキノコ、

 あとの物は村の畑から出せるし…」

 

 「パティちゃん、ここに置くぜ!!」

 若い船員がビールの樽を持ってきた

 目がキツくなる

 

 

 若い船員達が絡んでくる

 「おい、オメェはさ、何?ハンターなの?

 なら話は終わったろ?もう行けよ」

 

 しっしっと手で払う仕草、ハッキリ言って失礼

 クロフは怒ることが出来ない、

 トラブルとかは苦手そうだが………

 

 さぁどうする?

 

 

 

 

 「お兄ちゃんお願いね!」

 

 「え!?兄貴なの!?」

 驚く船員達

 

 

 あらららこりゃダメだ、

 イヤな人間は必ずいるし

 慣れなきゃならない問題なのに、

 この村はクロフにとって環境良すぎるわ。

 

 いっそケンカにでもなったら

 成長するんだけどね

 

 人を知り自分と比べる

 その差異で自分を知るんだ

 

 




やっと、やっと一人称が書けた
ここまで主人公の造形をボカシ
続けるの、辛かった。

ようやく少し楽に書けます


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アルト・フォン・エイダス・アルマ

 

 閃光玉、クックは目を回す

 

 「せいやっ!!!」

 抜刀斬りから回転斬りまで

 流れるように斬った後、

 痺れ罠を置く。

 

 クックの目が回復、連続啄み!!が、

 アッサリ捕獲。

 

 「上出来上出来!」

 アルトをは拍手する

 

 村の人達が回収に来る、クックはロープで

 がんじがらめにされたまま、

 

 「クゥォー」

 

 寝ている。

 

 「捕獲のタイミング、分かりやすくて良いだろ」

 

 「耳閉じたら丁度良いんですね」

 初心者向きという話が今は理解出来る

 

 「クックは基本。

 だから先生なんて呼ぶヤツもいるんだよ」

 

 「先生…俺の先生は村長と師匠だね」

 

 「あー、うん、そうなんだけど」

 この話は早すぎるか?

 

 「違います?」

 

 「うーん、そうなんだけど」

 言っても良いかな

 

 「確かに先生だけどね、

 いっぱい先生居ないか?

 村の人達皆が先生じゃない?」

 

 この子は恨んでる、

 まだ早すぎるか?

 

 「皆が先生?」

 どういうこと?

 

 「良くも悪くも、あんたにモノを

 教えてくれてるってこと、

 影響を与えられたってこと」

 

 「良くも悪くも?…何だか難しい…」

 

 「まぁ気にすんな、何年かしたら

 この話を思い出してくれれば良い」

 

 何年かしたら…もしかしたら何十年も

 掛かるかも知れないけど、

 出会った全ての人に感謝出来たら…

 

 ま、アタシもまだ出来てないけどね…

 

 まだ親から偽善を教えられるべき

 だから…

 

 世の中灰色の話は…まだ早い……

 

 

 帰り道、クックは目を覚ます事はない

 

 「捕獲した後ってどうなるんですか?」

 クロフが聞く

 「おぉ姐さん、俺らも知らねぇんだよ」

 手伝いの村の人達も聞きたいようだ

 

 「王都で買い取ったり

 貴族が買い取ったりするのよ」

 

 「そこからどうなるの?」

 

 「王都の場合は前に話したように

 闘技場だったり、研究用になったり」

 

 「貴族は…バカなこと考えるんだけどさぁ、

 手懐けてみようとするのよ」

 

 「手懐けるぅう!?」

 

 「懐くのか?姐さん!?」

 

 「雛の時は割りと良い感じらしいよ」

 でかくなったら野生に戻る、と続ける。

 

 

 

 「お帰り、お兄ちゃん」

 いつものようにパティが出迎える。

 

 行商人も船員も運ばれて来るクックを

 見るが…

 

 パティとアルト、二人の美人と一緒にいる

 クロフが気に入らない。

 

 何とか絡んでやろうと思うが……

 

 「ヤハハ!!大漁だ!!」

 クックを生け捕り、ファンゴ×5、ランポス×5、

 他にキノコ、薬草類も山のように

 竜車に積んである。

 

 気に入らない、気に入らないが……

 認めざるを得ない。

 

 「クロフ一人でやったから

 アタシは報酬いらないよ?」

 

 

 誰も何も言えない。

 

 アルトは考える

 (まずいなぁ、これじゃ田舎の純朴な子で

 止まるぞ、もっと色んな人と

 話す機会が必要だよなぁ)

 

 村長は村から出すの反対だろう、

 この村にいて欲しいだろうし

 

 

 

 

 

 毎日の決まりになったギルドの飲み。

 

 今日は船乗りと行商人も混ざる、

 

 「人が怖く無くなったようだの」

 船長に話し掛けられる

 

 「はい、何であぁだったのか

 よく分からないんです」

 普通に答えられる

 

 「理由は様々だがの」

 

 「そういえば、前の時、

 お前みたいなのはいっぱい居るって」

 

 「おぉ、船乗りで色々な所に行くとな、

 人と話せないヤツがいるんじゃ」

 戦災孤児とか親を無くした子供とかな

 

 覚えがある、あるが……

 アルトを見る、アルトは気にせず飲んでいる

 

 「あの師匠」

 怒るかな、怒るよね…

 

 「何?」

 

 「師匠の両親って…」

 怒らないで…

 

 「聞きたい?」

 ジョッキを置く

 

 「はい」

 

 

 

 「じゃ奢りな、人に話を聞きたいなら

 ソレくらいはしなさい、

 それにアタシもあんまり

 話したい内容じゃないからね」

 

 

 

 

 これもクロフの勉強になるなら

 

 

 

 ジョッキ片手に語りだす

 「シラフじゃ話せないからね」

 

 周りに全員が集まる

 

 

 

 アタシの生まれは王都のアルマ家、

 俗に言うお嬢様だった

 

 小さい時から勉強ばっかりでさ、

 将来はどっかの貴族といずれ

 結婚することになってた

 

 「何歳で?」

 船乗りが聞く

 

 9歳だよ、祖母が下流貴族の人でさ、

 上昇志向っての? 凄い強くて

 だから初めて父の商売の勉強で

 外に出た時は嬉しかった

 

 「何の商売?」

 行商人達

 

 ドンドルマ市場との提携と王都との

 流通の相場変動の調整、

 平たく言えば通商契約

 

 「何か難しい」

 俺には分からない、道具屋でも

 

 まぁ面倒な話だからアルマの息子、

 アタシの父が直接行ったわけ、

 

 「あんた直系の孫なのか?」

 船長が聞く

 

 

 ビールを飲みながら

 

 「そうだよ」

 

 父、母、アタシ、使用人の20人と

 護衛が20人でドンドルマに出発したんだよ

 

 「凄い数だな、何で移動するんだ竜車か?」

 

 「いや馬車だよ」

 

 「馬ってやつか」

 馬ってなに?

 ちょっとケルビに似た動物だ、

 王都周辺にしかいなくて

 凄い高価らしいぜ

 ワイワイと周りが騒ぐ

 

 「そ。それで移動してたのよ」

 

 護衛の隊長がカッコ良くてさ、

 立派なヒゲがあって…

 

 アルマ家に取り入りたい貴族が張り込んで

 用意したもんだから、

 やたら豪華な商隊だった

 

 何事もなくドンドルマまで着く直前、

 時間短縮のために砂漠を突っ切る道を

 選んだの

 

 「何のために?」

 

 それは後、その砂漠で事件は起きた

 

 「ドスガレオス」

 クロフが呟く、皆が見る

 

 「そう、ガレオスの群れに襲われた」

 

 護衛の実力なんて実戦になってみないと

 分からないもんよ

 

 ビールを一口飲む

 

 後から聞いたらほとんど王都育ちの

 兵士でさ、ガレオス初めて見たような連中

 

 「なんだよソレ、ハンターの

 経験者じゃないのかよ」

 若い船乗りが態度悪く言う

 

 「まぁ今のアタシなら分かる事だけど、

 まず馬車で砂漠なんか入ったらさ」

 

 「まぁ動きにくいわな」

 竜車でディアの素材を運んだカダが言う

 

 そう、なすすべなく次々喰われて行ったよ

 アタシはその地獄の中で

 たった一人生き残った

 

 「どうやって」

 

 

 「それは………」

 

 「辛いんでしたら…」

 村長が言い淀む

 

 

 

 

 

 

 「うん、ちょっと………これはキツい」

 アルトが目を覆う、初めて見る

 

 

 

 

 

 

 

 「ゴメンその辺りは…………」

 とにかくアタシだけ生き残った、

 足元に商材のドリンク類があったために、

 砂漠の暑さ寒さに耐えられたんだ

 

 「辛かったですね」

 師匠は俺と同じように、子供の頃にキズを

 

 聞いていい話じゃ無かった、

 今は区別できる、

 バカなことをした。

 

 

 

 

 

 師匠は顔を拭き

 「続きを聞きたい?」

 

 クロフは頷く、なぜだろう

 聞かなきゃならない気がする、

 まさかこの先まで話して貰えると

 思わなかった。

 

 そこにドンドルマから救援が来た

 三人のハンター

 

 「どうやって」

 周りの連中が聞く

 

 護衛の一人が片足失いながら街道まで出て

 行商人に助けを頼んだらしいの

 

 すぐって訳には行かなくて

 アタシは丸2日、砂漠に立ち続けたらしい

 

 「らしい?」

 

 到着したときそうだったらしいのよ

 アタシは覚えてないんだけど

 

 「ヤー、当然極限状態でしょう、

 誰が教えてくれたんですか?」

 

 「父ちゃん達」

 

 「父ちゃん?父ちゃんはさっき…」

 

 「あぁドンドルマの父ちゃんと兄貴達よ」

 

 「父ちゃんと兄貴?」

 

 「血は繋がってないアタシの家族

 ガストンとゼルド兄貴とガルダ兄貴」

 

 

 

 「なぁーーあああああにいいぃーー!!!!?」

 一斉に周りが叫ぶ!

 

 四大英雄であり現四英雄のガストン!!!!?

 ドンドルマ専属の化け物兄弟ィィ!!!!!?

 赤鬼青鬼じゃねぇか!!!

 

 嘘だろ!!あんたはあの人達に家族として

 認められてんのか!!!!

 

 行商人達がお前見たことあるか!?

 ある!ない!とはなしている

 

 またワイワイ騒ぐ

 

 

 とにかく助けられたは良いけどアタシは

 意識を無くしてドンドルマの

 父ちゃんの家に寝かされたの

 

 町長の奥さんが看病してくれたらしいんだ

 で、アタシが意識を取り戻した時、

 全部終わってた

 

 「終わってた?」

 

 助けを呼んだ兵士は死んで、

 アタシは言葉を無くした

 

 「喋れない……」

 

 そう、精神的なものらしいんだけど

 だから自分のことを喋れなくて

 身元がハッキリしなかった

 このままだと孤児になってた

 

 なるほど、と村長は頷く

 

 

 「そんなことないじゃろ、

 アルマ家が探すはずだ」

 船長が髭を弄りながら聞く

 

 そこだよ、どうしても許せないんだ、

 さっきの隊長だよ

 

 「隊長………?」

 

 あいつが砂漠の横断を提案したの、

 で、ガレオスに襲われた時、

 真っ先に逃げ出したのよ

 

 「ひでぇ……」

 

 そして王都に戻って商隊全滅の報告をした

 

 「なんだよそれ!!」

 「ひでぇよ酷すぎる!!!」

 船乗り達が怒り出す

 

 アルマ家ではアタシも死んだことに

 なってたからね、探さなかった

 

 目を覚ましてから父ちゃんの家で

 家事やってさ、アルマ家からの

 連絡を待ってた訳よ

 

 じいちゃん……あぁギルドマスターが

 手紙出してさ、孫は生きてるって

 

 「それなら…」

 

 それがうまくいかないんだよ、

 何度出しても返事が来ない

 

 「なんで?」

 

 偽者だと思われたのよ、

 全滅したのを良いことに、

 誰かがなりすまそうとしてるって

 

 奇跡的に生きてるなんて誰が信じる…

 

 「ツラいな……」

 

 まぁね、家事をしてたんだけど料理の腕を

 買われてさ、すぐにギルドで料理を

 出すようになったんだ

 

 「それであの手際の良さ」

 パティが納得する

 

 そう、所属してるハンターだけで500人位

 いる大所帯だからね、

 ドンドルマで可愛がられたよ、娘だ妹だって、

 年下の子達からは姉ってね

 

 一年位したあとだ、アルマ家の使いが

 偶然買い出しにドンドルマ歩いてた

 アタシを見つけて……

 

 「大騒ぎ…?」

 

 まぁそうだね、直ぐにアルマ家に連絡が

 行ってさホントのじいちゃんとばあちゃんが

 馬車で飛んできた

 

 「それで帰った?」

 

 ジョッキのビールを飲み干す

 

 

 いいや、父ちゃん……ガストンの

 腕を掴んで放さなかった

 

 

 「なんで?」

 

 なんでだろうな、ばあちゃんに掴まれて

 引っ張られても、

 アタシは父ちゃんを掴んでた

 

 そしたらギルドマスターがさ、

 もう少しギルドで預かるって言ってくれて

 

 「引き下がるか?」

 

 下がらないよ、睨み合いになった

 

 百人を越える、良く言えば一流ハンター、

 悪く言えば山賊と睨み合う

 アルマ家のばあちゃん

 

 

 そこに……アルマじいちゃんが馬車から

 出てきてギルドマスターと話をつけたの

 

 「どうやって」

 

 旧知の仲だったの、後から聞いたら

 アルマじいちゃんはドンドルマの

 最初の人なのよこれが

 

 師匠の顔がようやく普段に近づく

 

 「どういう………?」

 

 あの岩山で水源見付けて、15の時に

 水売りから商売始めた人なの。

 

 「なんと!!」

 

 

 

 で、アタシは結局ドンドルマで雇われる

 ことになって、筆談で状況を説明したの、

 何が起こったのか書いて

 

 そしたらさ、アルマ家は調べ始めた

 

 「何を?」

 

 なんで隊長は虚偽の報告をしたか

 なんで砂漠を横断したか

 

 「そういやそうだ、なぜ?」

 

 横断したのは恩を売るため

 

 「そういうことか!!」

 

 周りはすぐに理解するが、

 クロフだけ理解できてない顔

 

 それを見るとアルトは説明を始める

 

 そう、適当にゲネポス辺りを倒せば

 アルマ家に恩が売れる、

 そう考えた

 

 このまま何も起きずにドンドルマに

 着いたら手柄がない

 

 しかし思惑は外れてガレオスの

 大きな群れが来た、予想を上回る

 ドスガレオスのオマケ付きで

 

 太刀打ち出来ない事を知っていた

 素人集団だから

 

 で、一人で逃げ出した、

 馬車が全部引っくり返るのを

 遠くから見て当然全滅したと思った

 

 

 さらに護衛を用意した貴族に

 調べが及ぶと

 恩を売れと指示したのは貴族自身

 

 しかも王都の兵と偽って出した護衛は

 自分の私兵

 

 「最低だ……」

 

 アルマ家の財力を味方に付けて

 出世しようと目論んだ

 

 見事に失敗した上にさ

 

 「上に?」

 

 自分の私兵を王都の兵と言った上に全滅、

 つまり王家に恥じをかかせた。

 

 「どうなった?」

 

 前王の怒りは凄まじかったよ

 王家に泥を塗った上に

 アルマ家の跡取りを死なせたんだ

 

 アルマ家は王都にとっても

 重要な存在だった

 

 隊長と貴族、その家族まで

 全員首をはねられたよ

 

 「んでアルマ家に戻った?」

 

 「いやーそれがさ……」

 師匠は照れたように頭を掻く

 

 「何度も迎えが来たんだけどアタシは

 拒否を続けて、12歳の時に…」

 

 話辛い…訳ではないみたいだ、

 顔がニヤケてる

 

 「なんだなんだ?」

 

 「アタシの声がようやく出たんだよ」

 

 「おぉ良かったじゃねぇか」

 

 「…それがさ…」

 

 なぜかアルトは照れている

 

 皆が見る

 

 

 

 

 

 「数年ぶりに出た言葉が『カタキ取る』だよ」

 

 「えぇえー??」

 

 お嬢様から出る言葉じゃあないわよね

 だけどね、その言葉を聞いたら父ちゃん達は

 「良く言ったぞ!!気に入った!!

 俺が鍛えてやる!!!!」

 

 ばあちゃんは怒ってさ

 「アルマ家の大事な一人娘を

 こんな連中の所に置けるかぁぁ!!!」

 

 「こんな所とはどういう意味だババァ!!!」

 

 「チンピラの溜まり場だろうが!!!」

 

 

 

 

 「すげぇな、ばあさん引かねぇな………」

 

 「気丈な人でさ…………」

 

 またギルドマスターとアルマじいちゃんの

 話し合いで、ギルドでハンター修行よ

 

 今思えば、恨む相手が首斬られて…

 いなくなったから…ドスガレオスに

 八つ当たりしたかったのよね…きっと

 

 「大変だったろ、お嬢様からハンターって」

 

 「そうね、修行で何度も死にかけたわ」

 笑いながら

 

 笑うところですか、クロフは思う

 

 「ま、こうなるわな」

 アルトは腕を捲る、俺より太い腕には

 無数の傷痕がある

 

 「そうしてアタシが出来たわけ」

 

 「アタシの話はこんなとこだよ」

 

 クロフの顔を見る、後悔しているのか

 複雑な表情、

 

 アタシに辛い話をさせたことを

 悔いているのか

 

 アタシに気遣いできたのか

 

 これが少しでも成長に繋がって

 くれれば安いもんだよ、クロフ

 

 



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逸らす

 

 人生で大事な言葉

 ありがとうと、ごめんなさい

 今は………

 

 「ごめんなさい」

 

 クロフは頭を深々と下げる

 子供の頃に食べ物を貰うために

 下げたことが一瞬頭を過る

 

 「嫌な話させて…」

 師匠に辛い話をさせた

 

 「いいさ、まだ笑い話には出来ないけど、

 アンタが色々考えるキッカケになるならね」

 

 「スゲェ話だったよ…」

 全員が溜め息を吐く

 

 「そこから頑張ってG級までいったんじゃな」

 船長が飲みながら聞く

 

 「途中で辞めようと思わなかった?」

 女達が聞く

 

 「あー、外の世界の広さが楽しいって

 気付いてさ、アルマ家では外に出ずに

 勉強ばっかりだったし」

 

 クロフの部屋を思い出す

 

 あぁ、そうか、似てたんだ

 

 

 「師匠…」

 

 「ん?」

 

 「また聞いて良い?」

 

 「話によるかな…」

 ジョッキをクロフに向ける

 

 「修行って?」

 

 「おぉ聞きたいぞ!!」

 周りが囃す

 

 「一言でいうなら」

 腕を組む

 

 「言うならぁ?」

 一同の声が揃う

 

 「拷問」

 

 「はぁ???」

 皆が変な声を出す

 

 「やって見せた方が早いか」

 言うと

 「クロフ、ちょっとソコに立って盾、構えな」

 

 クロフは言われた通りにする

 

 「しっかり踏ん張れ、行くぞ」

 

 え?なに?なにすんの?

 

 師匠の左足が一瞬上がり踏み込んだ瞬間

 

 

 「ドガ!!!!」 右回し蹴り!!!

 

 堪らず吹っ飛ぶ!!

 

 ゴロゴロ転がって止まる

 

 クックの尻尾並だぞこれ…

 身体ごと持っていかれた…

 前にもやった…なぜまた……

 

 

 「大丈夫!?」

 すぐにパティが駆け寄っていく

 助け起こそうとする

 

 これだ…パティは母親、

 それなら子供を守ろうとする、

 それだけじゃ駄目なんだ

 

 だからアタシは父親に…

 

 アルトがパティを怒鳴ろうとした瞬間

 

 

 

 

 「パティ!!助けるな!!!」

 

 

 

 

 全員が固まるほどの迫力

 

 ヨシさん…

 そうか、この人…多分…元戦士?…

 

 

 そしてクロフの父親になりたかった…?

 

 「パティ、いいんだ、一人で立てる」

 クロフは立ち上がる

 

 この村には同年の男がいない、

 友達もいない、ライバルがいない

 クロフはまだ歩き始めた赤ん坊、

 

 

 村は全員で守ってしまう

 

 

 

 ならば父親が身近な敵になるしかないか?

 

 パティはオロオロする

 アルトとヨシ以外は

 村中がどうしていいか分からない

 

 「クロフ、今ので何を学んだ?」

 師匠が聞く

 

 クックの時もそうだった、師匠は体験

 させてるんだ、

 

 分かる!!!

 身体で覚えるってこと!!!

 

 「力に対してまともに受けたら無理

 っていうか…」

 

 「良い答えだ、じゃあどうする?」

 

 「もう一度お願いします!」

 笑顔で

 

 「構えな!」

 こちらも笑う

 

 左足が上がる

 

 「ガシュッ!!…」

 

 盾に当たる寸前身を低くし、

 盾を頭に被る様にする、

 

 アルトは脚を上に逸らされ

 バランスを崩しよろける。

 

 

 体勢を崩されたアルト、

 反撃する余裕ができたクロフ

 

 素人目にも理解できる状況。

 

 「おぉーーー!!」

 一同から声が上がる、納得出来た

 

 「正解だよクロフ!!!」

 頭をグリグリ撫でる

 

 「力を避ける、逸らす、まともに受けない、

 その連続だよ、これが修行!

 アタシが最初にやった訓練!!」

 

 

 

 イスに戻りビールをおかわり

 

 「ほとんど拷問だよ、一回食らわせては

 どうだったか聞かれるのよ」

 飲みながら

 「しかも12の小娘に!!」

 

 

 師匠の話が始まる

 

 「モンスターと体力で張り合える訳ないから

 とにかく逸らすのよ、12の子供が

 生き残れるように叩き込まれたんだ」

 

 「ヤー、モンスター相手にそんな神業

 みたいなこと…」

 

 「逆よ、モンスター相手だから神業でも

 やらないと生き残れない」

 

 ビールを飲む

 

 「盾の使い方を…」

 盾になぜ丸みがあるのか分かった

 

 「いんや、違うよ」

 ジョッキを置く

 

 「え?だって今…」

 

 「アンタは片手剣だから教えたんだよ」

 

 「え!?じゃ師匠はどうやって!!?」

 

 「防具だけ着させられて、

 クックの前に放り出された、武器無しで」

 

 

 

 「ええーーーっ!!!!」

 全員があきれる

 

 「二人の兄貴が一緒でさ、

 やって見せるわけよ」

 

 腕を左右へ、そこから流れる様にうごかす

 

 「尻尾、脚、嘴…ブレス以外の全ての攻撃を

 食らって、痛みをおぼえて、逸らし方を

 身に付けた」

 

 クロフを見る

 

 「そうすると自然にどう動けば良いか

 理解できるようになる」

 

 「クックは人は喰わないからね、

 割りと安全な方なのよ」

 

 クック相手にノーダメージの

 理由はそれか!

 

 「父ちゃんはさ、とにかく体験主義っての?

 全モンスターの全攻撃を全て食らって

 覚えて避けられるようにしろっていうわけ」

 

 「攻撃範囲、予備動作、

 攻撃後の隙の勉強しろってね」

 

 「死んじゃわない?」

 パティが聞く

 

 「昔はホントに死んでたそうだよ、

 でも今は誰も死なない」

 

 「何でさ」

 船乗り達

 

 「その為に猫タク作ったのよ、

 その為のギルドの仕組みなんだよ」

 

 村の勇者は負ければ死ぬ

 ギルドのハンターは負けても学べる

 

 そうかそれでギルドが

 作られたのか

 

 ハンターが死なない仕組み

 それがギルドか

 

 

 

 

 「あ、一人この訓練の達人がいてさ

 ナナキっての知ってる人いる?」

 

 誰もしらない

 

 「あれぇ? アイツはポッケ村の出身だし、

 一人位いない?」

 

 「ヤハハ、誰も知らないようです…」

 

 「ま、いいわ、そいつは一回見た攻撃を

 全部覚えちゃうやつなんだけど…」

 

 「全モンスターの!?」

 

 「そ。全部」

 

 凄い

 

 「頭も半端ないんだよ」

 アルトは自分の頭を指でトントンする

 

 「リオレウス程度なら防具着ないし」

 

 「はぁああ!!!!???」

 全員が叫ぶ

 リオレウスってあれだろ

 デカイ空飛ぶヤツ

 火を吐くバケモノ

 みんなざわつくが

 

 「全部避けられるなら必要ないわけよ」

 一口飲む

 

 「何者ですか?」

 凄い、師匠と並ぶほどの…

 

 「現役ハンターの頂点、トップ、四英雄の

 中でも最強」

 

 「おぉーーーー!!!!」

 伝説のガストン以上!?

 現役最強かよ

 化けもんだ化けもん

 

 「天才ってヤツよ、

 あっという間に追い越された」

 

 「どのくらいで?」

 

 「ハンター初めて2年で四英雄になった」

 

 「なんだよそれぇ!!!」

 一同驚愕

 

 

 

 パティに向かって

 

 

 

 

 「同時に………………変態」

 

 「ええっ!!」

 パティは後退り

 

 「どういう訳か知らないけど、

 お尻が大好きなんだよ、

 この村来たら間違いなく狙われる」

 

 「何でぇ!!?」

 パティは反射敵に後ろを押さえる

 

 「なんだか知らないけど大好きでさ、

 アタシも一回触られた」

 

 「姐さんは…?」

 

 「もちろんブン殴った」

 握り拳を作る

 

 村中笑う、グーですか!

 

 「その上さ、『筋肉ばっかりで男みたいだ』

 って言うからもう一発」

 

 大爆笑

 

 

 

 

 

 

 

 

 喧騒が過ぎ今日は村長、船長、

 アルトの3人だけ

 

 「ヤハハ、面白かったです」

 村長がビールを持ってくる

 

 「おぉ、まったくじゃ」

 髭を弄りながら船長が飲む

 

 「二人ともナナキのこと知ってるだろ、

 反応しなかったのは」

 

 「ヤハハ、そりゃあ…」

 

 「気を使わせたわね、アイツの話は

 ポッケの全滅の話に繋がる…」

 口を滑らせた

 

 「おぅ、せっかくの場の雰囲気に

 あの話はの…」

 

 

 

 「で、話は変わるけど、クロフどう思う?」

 

 「ヤハハ、言いたいことは分かります

 外に興味が出てますよね」

 

 「気付いてたか…」

 

 「ワシの船で出るかの?」

 

 「ヤー、この辺りの村では

 満足出来ないかな…」

 

 「ここの地理は知ってるけど東に一つ

 そこから北に四つの村があって

 一番北にポッケ村よね」

 空を見ながら指をクルクル回す

 

 「合ってますよ」

 

 「でもここと変わらない田舎だよね」

 指を一本立てる

 

 「そうですね」

 村長は腕組みして俯く

 

 「どうせならさ…」

 

 「デカイところが良いじゃろうの」

 船長が南西を指差す

 

 パティも一度、船にのって大陸の南の町で

 ギルドマネージャーの研修をしに行った

 

 今度はクロフ、

 しかしハンターは危険な仕事だ

 アルトは分かり安く死なないと言ったが

 

 ギルドでは『死なない』のではなく

 『死ににくい』だけだ

 

 次期村長候補を失うリスクがある

 

 「ヤー、クロフの意思を尊重するべき…

 ですよね?」

 

 「一般常識と世相に合わせるならね」

 

 「成長を願うならリスクを取らねばの」

 

 「うーん…」

 考え込む村長

 

 あと2週間でアタシは王都に帰らなきゃならない

 クロフはどうしたいか…

 

 

 

 

 

 

 

 次の日

 アルトとクロフは隣村まで

 半日かけて来た

 

 「うわぁ怖い装備!」

 「男じゃないぞ!」

 「アッハ!そうよ!お姉さんよん」

 子供達が寄ってくる

 

 「良く来てくれました」

 セメク村の村長が挨拶に来る

 

 「ジャンボ村にいたハンターって

 ここに来てるんじゃないの?」

 

 「彼らなら北のポッケ村まで移動

 しながら活動すると言って…」

 

 「それで一番近くのアタシらに

 依頼出したのか」

 

 「旧密林のフルフルを倒して貰いたい」

 村長は頭を下げる、

 この村にはギルドスタッフが居ないようだ、

 全部まだ若いこの村長がやるらしい

 

 「了解だよ、さぁクロフ どうする?」

 

 「午後から旧密林の採取に行きたいです」

 

 「それはなぜ?」

 

 「地形の把握と使える物の採れる

 場所の確認しないと」

 

 頭をグリグリ撫でる、

 実力がつき自信が付くと、調子に乗るヤツ

 がいる、そういうヤツは痛い目を

 見せないと命を落とす

 

 クロフは臆病だ、

 それはハンターにとって長所になる、

 調子に乗って態度が悪くもならない

 

 ま、それはそれで詰まらなくも

 有るけどね

 

 

 

 

 

 

 これが旧密林…

 獣道から崖沿いを歩くとキャンプに着いた

 

 北側の崖の向こうには滝が、

 南側には高台が見える。

 

 早速行こうとすると

 「ちょっとこっちおいで」

 

 師匠に呼ばれ2番の方へ

 

 「これは………門?」

 

 「ね、こういう遺物が有るわけ、

 キャンプにもレンガあったろ?」

 

 南を指差し

 

 「もっと奥の高台、6番にも遺物が有るんだ」

 

 「来たことあるの?」

 

 「無いよ、でも分かる、他もそうだから」

 

 「………師匠」

 

 「ん?」

 

 「王立書士隊ってどうやったらなれるの?」

 

 うっわ………この子………

 

 「なりたいの?」

 

 「良く分からないけど色んな所の…」

 門を指差し

 「こういうの……見たい……」

 

 やりたい事が出来たのか

 

 

 

 「あんたの歳から学校行くのはなぁ…」

 

 「学校…って何?」

 

 「5歳位の子供と一緒に読み書きできる?」

 

 「え?…それは…なんか…でも師匠は?」

 

 「アタシはほら、ハンターから入った

 訳だし……他にもいるよ、

 実戦部隊って呼ばれてるけど」

 

 「実戦部隊?」

 

 「隊内の通名だけどね、

 モンスターを実際狩って調査するほう」

 

 「それになるには?」

 

 やる気かこの子?

 

 「最低上位ハンターになること」

 

 「じゃハンターやれば…」

 

 「あぁ上位検定クエスト成功すれば、

 推薦して貰える」

 

 「検定クエスト?出来る所って?」

 

 「管轄内に上位の狩場持ってる所よ」

 

 こりゃ村出るぞ

 

 「それは…どこ?」

 

 

 「なぁ…クロフ…一緒にドンドルマ

 行ってみる?」

 

 

 

 

 

 夜、村のハンター小屋に泊まる

 

 見た目はジャンボ村のと変わらないが、

 匂いが違うのと、隣の師匠と普通に話せる

 ほど壁が薄い点が違う。

 

 敷き布も埃っぽい匂い、

 

 食事に至っては村の人の手作り、

 なぜかジャンボ村が恋しくなってきた

 

 「師匠」

 

 「んぁ…あ?」

 寝ていたようだ

 

 「ギルドに…スタッフ居ないと変ですね」

 

 「パティが恋しいのぉ?」

 ニヤケている師匠が目に浮かぶ

 

 「違います」

 ホンとは…そうかも

 

 「珍しくないよ、田舎は皆こうだ」

 

 「そうなんだ、なぜギルドガールって?」

 

 「別の機会に教えるよ、もう寝な」

 

 

 まだ腹が減っている、ジャンボ村では

 腹一杯食べていた

 

 誰が作ってくれた?

 

 

 

 

 ………おばさん………

 

 敷き布は埃っぽく無くて、

 太陽の匂いがいつもしていた

 

 

 

 

 あぁ…恵まれていたんだ…幸せだったんだ

 今…ようやく気づいた

 

 

 恨んでいた……今も恨んでるはず……

 ……だけど

 

 ジャンボ村の皆は?

 

 怒られた記憶ばかりだが、

 ……同じ位誉められた……

 

 

 そうだ

 誉められていた!!

 

 なぜ厳しかったか

 

 

 

 

 「何を学んだ?」師匠の言葉、

 

 

 

 恨みで一杯では気付かない

 気付けない

 

 生きて行けるように……

 

 最初は違っていた、村中から敵意を感じた

 

 でも何時からか無くなってたんだ

 

 「アンタは立ち止まってるのよ」この意味

 

 生きて行けるように

 一人前に生きて行けるように

 ずっと教えられていたんだ………

 

 

 俺は………-バカだ………

 

 



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体験だけが経験になる

 

 バチィッ!!!

 

 「くあっ!!」

 バシャッと冷たい水に倒れる

 普通は目が覚めそうなもんだが意識が…

 

 

 「そらっ!」

 

 アルトが背中を蹴った

 

 「ぐっ……!」

 

 立ち上がる

 

 何なんだこのフルフルってヤツは!

 電気ってマヒするのか!

 

 「ボォーウ………ホッハ」

 

 鳴き声が変

 見た目はもっと変!

 

 一応飛竜らしく翼はある、

 鱗がない、毛もない、

 ブヨブヨの皮、真っ白な体色

 

 目が無いためミミズのような頭

 ズングリとした体、吸盤のような尻尾

 

 真っ赤な口には尖った歯がズラリ

 

 しかも…天井に張り付き動き回る

 

 竜と言うより別の生き物では?

 

 そして何といっても

 

 

 

 「ギュアアアァアァアア!!!!!」

 

 「ぐああ!」

 

 この咆哮!!耳から首のほうまで響く、

 腹に響く低音と違い

 物凄い高音

 

 しかも洞窟内で反響する

 

 後ろに回り込みながら斬るが

 フルフルがしゃがむ!

 

 「クロフ!!」

 

 急いで距離を取る

 

 バチバチとフルフルの周囲に青白い光が走る

 

 師匠は構わず貫通弾を撃つが…

 

 俺は攻撃出来ない、踏み込むと短いながら

 尻尾の振り回しもやる

 

 「一度外に出ます!」

 

 堪らずアルトに声をかけ奥の6番へ

 

 

 「やりずらいです!」

 

 「アッハ!だろうな」

 

 「何か攻撃する間が無いっていうか

 隙がないですよ」

 一応剣を研ぐ、柔らかそうなのに

 切れ味は消耗する

 

 回復薬も半分になった。

 

 「アタシも前から言ってるんだけどね、

 フルフルの危険度上げろって」

 

 「危険度…たしかクックより上ですけど

 それほど高く無いですよね」

 

 「アタシはリオレイアと同じ位だと

 個人的には思うのよ」

 

 「ええっ!そんなに!?」

 

 「だけどガンナーやって分かったわ、

 ただの的だわ、楽だ」

 

 剣士だと辛いってことね。

 

 

 

 

 

 あ…あれですか…

 クロフは指差す

 

 6番の奥に一段高い場所がある、石造り

 のようだ

 

 隣の崖下エリアの7番を見下ろせる

 

 「これって………」

 

 「まるで7番の 『何か』 を観察するのに

 最適だと思うだろ?」

 

 不思議だ、古代って………あれ?

 

 「古代の文明って滅んだんですよね?」

 

 「そうだよ?どうした?」

 

 「どうして滅んだの?」

 

 「それも調べる訳よ」

 

 そりゃそうだ。

 

 

 隣の7番へ飛び降りる、怪我はしない

 

 

 …………しない

 

 ペイントの匂いを追って8番へ

 

 丸く開けた不思議な空間、足首まで

 水があり小さな生物が逃げ回る

 

 居た…ボーッとしている…

 急にスンスン鼻を鳴らし…

 

 「ギュアアアァアァアア!!!!」

 

 

 「………っこのぉ!!」

 思いっきり斬り着ける、

 尻尾が回る、盾で逸らす、多少無理しないと

 全くダメージ与えられない、

 

 師匠はもうボウガンを仕舞って傍観

 している

 

 つまり……

 

 決着が近い証拠!

 

 足元をブレスが地を這うように

 水面を滑って行く。

 

 回避!斬れる!走り込む!しかし…

 首がありえない位に伸び食らい付く

 歯が鋭い

 

 焦っちゃダメだ、だけど

 

 潜り込んで首に斬り上げ!

 出血!しかししゃがむと放電

 

 ダメージ!回復薬グレートが…もうない!

 武器を仕舞い歩きながら調合!

 

 

 

 嘘でしょこの子!!戦いながら調合って!

 上位でも出来ないヤツがいるのに!

 

 決して嘗めてる訳じゃない、

 家業だから手慣れてるだけだ、

 

 ……が…凄いぞクロフ!……え?

 

 調合は出来たが至近距離で飲んでしまう

 

 「うっわバカ!!!」

 

 バチィッ!!!

 

 

 

 

 

 ドザァ!!!ガラガラガラ……

 

 「いっだぁ!!!」

 

 ……キャンプか………

 

 焦ってミスした、勿体ない

 

 厄介だ、盾で逸らせない攻撃…

 音の攻撃か…

 

 急いでペイントボールの匂いを辿る、

 一番奥の10番、

 ホットドリンクを飲み………

 

 「来たか」

 

 「え?何これ!」

 

 

 

 天井からブラ下がって寝ている

 

 「師匠…あれ…竜なんですか?」

 

 「一応翼あるしな、

 でも意見は別れてるんだ」

 

 じゃあ落とすぞ、と徹甲榴弾を撃つ

 

 「ボテ…」

 

 そんな表現がピッタリの落ちかた

 

 立ち上がる前に抜刀斬り、2回斬って

 

 ガード!!!

 

 「ギュアアアァアァアア!!!!」

 

 ビリビリと洞窟内に響く、

 足元に走り込んで斬り上げ!

 

 放電、離れて終わり際に抜刀斬り

 

 回転斬り、尻尾をかわして飛び込み

 

 首を下から!

 

 浅い水面にバシャアアと横倒しになり、

 動かなくなった

 

 

 

 「勝ったの?」

 ゼイゼイと息をする

 

 「そう、良くやった!飛竜にアンタの得意な

 前転回避からの斬り上げは有効だ、

 足元は攻撃されにくいからね、

 ただこいつは全方位攻撃出来るんだ」

 

 相性が悪かったね、と付け加える、

 ガンナーなら楽みたいだし

 

 「これが電気…」

 

 「厄介だよ」

 

 「本と全然違う…」

 

 

 

 セメク村に戻る、報酬にも皮を貰う、

 

 「いやぁ、良くやってくれました、

 ジャンボ村はいいですね、

 こんなに強いハンターが来て」

 

 「いや、アタシはともかくクロフは…」

 

 「ええっ!クロフって…

 お前道具屋のクロフなのか!?」

 どうやら知っているらしい

 

 「アッハ!村長 元行商人?」

 

 「はい、それに最近行商人の間で

 名前が出るんですよ」

 別人に思われたようだ

 

 隣村の住人も驚く、クロフは照れる

 

 「すげぇ!あんちゃんが狩ったの?」

 「うわ!気持ちワリィなフルフルって」

 

 運ばれてきたフルフルを

 子供達がツツイている

 

 帰路に着く、クロフは照れっぱなし

 

 「今から帰ると夜だな、まぁゆっくり

 帰ろう」

 

 「もしかしてフルフルの防具って…あったり

 します…?」

 

 「アッハ!もちろん!」

 

 「うわー嫌だ!」

 ブルブル震える

 こんな気持ち悪い素材を体に着るのか

 

 「便利なんだよ、耳栓付いてるし」

 

 「耳栓?」

 

 「あの声を軽減出来るんだ」

 防具には属性の他にスキルがある

 

 

 「ねぇ師匠?」

 

 「んー?」

 

 「変な質問していい?」

 

 「何?」

 

 「俺ってドコのダレだろう…」

 

 

 

 確認したいんだな…自分を

 自分の存在を。

 「ジャンボ村のクロフだよ♪」

 

 

 

 「不思議です、誰かと一緒に居ると、

 何か話さなければいけないような

 気になるんですが…」

 

 「間が持たないってか?」

 

 「はい、でも何話して良いか

 分からないんです」

 

 「アタシとはハンターの話が出来るだろ?

 ヨシさんは道具、カダさんは大工、

 村長はギルドの話が出来るだろ?

 アンタは話題が豊富なはずだよ?

 色々頑張って来たんだから」

 

 

 「何にもないと思ってた…

 ずっとバカだと思われてると…」

 

 「共通の話題があれば良いわけよ」

 

 「無かったら?」

 

 「あんたの自分の事とか…」

 

 「自分?」

 

 「今日何した、誰と会ってこんなこと話した、

 こんなことやった、何でもあるよ」

 

 「難しい」

 

 「アタシだって初対面の人と話す時は

 それなりに緊張してんだよ?」

 

 「ええっ!!師匠も!?」

 

 

 

 

 

 対人恐怖症?被害妄想?

 

 「努力した人は話題もあるのよ、自信持ちな、

 誰もアンタをバカにしないから」

 

 

 

 

 

 

 「お帰り、お兄ちゃん」

 恒例の全身チェック

 

 「なんか毛が焦げてる」

 

 「ええっ!嘘!」

 

 なんだかジョリジョリしてる

 電気って火じゃないのに…なんで?

 

 「疲れたでしょ?何か作る?」

 

 お帰り!と村の人達が迎えてくれる

 

 ちょっと戸惑うが

 「ただいま!」

 ハッキリ言う、言える。

 

 「ヤハハ、フルフルはどうだった?」

 

 「キツかったです」

 耳を塞ぐ格好をする

 

 「あの、おじさん、おばさん」

 

 「何だ?」

 ヨシが目尻のシワを深くする

 

 「今日は…道具屋に泊まっていい?」

 

 「何言ってんだいこの子は、自分の家だろ

 当然じゃないか」

 メヒコが呆れたように言う。

 

 走って道具屋の自分の部屋へ、

 いつもの匂い、敷き布の匂い、

 

 幸せだったんだ、ここにいていいんだ、

 ここが帰る場所なんだ。

 

 初めて外に出て分かった、

 この村の価値が、この部屋の価値が

 

 ここが好きなんだ…

 

 

 

 

 「交易船は行っちゃったのか」

 アルトはキョロキョロする

 

 「ヤハハ、今回は取引が少ないですし

 でもクックの生け捕りで取引額は

 大きいですが」

 顔を見る限り上手くいったようだ。

 

 

 村の匂い、道具屋の匂い、敷き布の匂い

 セメク村の匂い………は何か違う

 

 

 

 フルフル………実際は

 

 また本を抱える

 

 本では学べない。

 

 体験出来ない。

 

 電気ってビリビリする…なんて。

 

 実際は痛い!痙攣するマヒする!

 耳にはブーンと音がする

 

 

 ギルドに持って行くと

 

 「アッハ!恒例の焚き火か」

 

 

 村人達にフルフルの話をしたあと

 火を着ける

 

 「師匠、本って…役に立たないの?」

 

 「いやぁ…あー、全く役に立たない

 訳じゃなくてさ」

 上手く説明できない

 

 「ヤハハ、先ずは情報だよ」

 

 「情報?」

 

 「例えば今回のフルフルの電気、

 事前に知っていたよね」

 

 「実際はぜんぜん違う感じでしたよ?」

 

 「ヤ、でも『何かある』って事は知っていた」

 

 そうだ、それは確かだ

 納得した顔をすると

 

 「二つめは頭の整理」

 

 キョトンとする、全く理解出来ない

 

 「体験した事柄を整理するヒントがある、

 頭の中に種類別、

 段落別に整頓する本棚を作る

 練習になる」

 

 「アッハ!そうか思考の部屋とか宮殿とかだ、

 部屋ごとに考えを分けるって

 読んだことあるわ」

 

 「三つめは…暇潰し」

 

 「ええっ!暇潰し…」

 

 「そう、読むこと自体を楽しむため、

 オイラの経験からだとこれが本かな」

 

 情報、整理、暇潰し…

 

 「アッハ!ごちゃごちゃ考えないで良いじゃん」

 飲みながら

 「『百聞は一見にしかず』、知ってるでしょ?」

 

 「はい、聞くより一回見たほうが分かる…

 あ、そうか、本って」

 

 「そう!『聞く』なんだよ、もしくは聞く以下」

 

 「以下?」

 

 「こっちの意見は言えないし、

 反応がないじゃん」

 

 そうなんだ。

 「物を知るには本を読めって…」

 

 「じゃあ良い言葉教えてあげる、

 父ちゃんの言葉」

 

 『体験に勝る経験無し』

 『体験のみが経験になる』

 

 「体験主義者らしい言葉だけど、体験して

 初めて理解出来るって事」

 

 

 

 クロフは俯きながら

 

 「人と関わらなければ、話さなければ

 傷つく事は無い、

 だから何も考えない様にしてた、

 でもそれじゃ何も分からなかった」

 

 アルトが(お前のせいだ)と言う目で

 村長を見る

 

 村長は首を竦める

 

 「でも知りたい気持ちはあった…

 だから本を…」

 グッと拳を握り

 「考えなければ…」

 

 「アッハ!矛盾してるわ」

 

 「矛盾………?」

 

 考える、周りは静寂につつまれる、

 篝火の薪がパチパチと燃える音のみ

 

 

 

 

 クロフはハッと顔を上げる

 「そうか!

 傷つきたくないは、成長しない(したくない)

 本を読むは、成長したい」

 

 「そうだよ」

 

 アルトは立ち上がりクロフの前に立つ

 

 「アンタは立ち止まってるって言ったの

 覚えてる?」

 

 「はい」

 

 「この例えで良いか分からないけど、

 世の中は船だ、止まってないんだ、

 みんな流れのなかに居るんだ。」

 

 周りを見る、村人達を見る

 

 「アンタは岸でそれを見ながら右往左往

 してたんだよ」

 

 

 

 

 分かる!今なら分かる!今まで何者

 でもなかった

 

 

 何者にもならないようにしてた

 

 

 何者かになるのを拒否してた!

 

 

 みんな手を伸ばしていてくれた

 

 

 その手を拒否し続けて

 一人で本を読み

 船に乗ろうとしなかった!!

 

 涙が出る、なぜだろう

 

 「さぁジャンボ村のクロフ!

 お前は何をしたい!?」

 アルトは笑顔で質問する。

 

 

 「成長したい!色んな物を見たい!」

 なぜか叫ぶ

 

 「今度はお兄ちゃんが出る番だね!」

 

 パティがクロフの手を取る

 「あの木の穴から出たんだよ」

 

 「え………?」クロフは察しが鈍い

 

 「ヤハハ、次の交易船までに考えれば…」

 

 「アッハ!それまで村のために

 稼ぐぞクロフ!」

 

 

 (うらやましい…やはり同じ時を生きる

 人同志か…

 オイラは岸でなにをしたいんだろう)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プロローグ3

 

 「じゃ、降りようか」

 男は柵も無い場所を平然と歩き

 

 「ここから降りるんだ」

 指差すが、垂直の壁に梯子があるだけ

 

 少女は怖じ気づく

 風もあるし高いし…なにより少女の村に

 こんな高い場所はない

 

 「あれ?怖い?」

 少女には笑ったように感じた

 

 ムカつく。

 「怖いわけないじゃん!」

 わざと力強く近付く(怖ぁ…)

 

 「じゃ行くよ」

 男は手慣れているようで、スルスル

 降りていく

 

 意を決して降りてみる、

 手が鉄錆び臭く、茶色くなるが

 

 しまった!!こんなカッコ!!下から見たら!!

 

 ザザミ装備は見た目カワイイけど…

 

 「大丈夫?」

 

 「上見んなぁ!!!」

 

 何とか降りた、まだ少し足が震える。

 辺りは商人や露店が並ぶ

 大陸の東最大の街にして交易拠点

 

 「ようこそ、ドンドルマへ」

 

 デカイ鉄の門、くぐると

 

 「うっわー!!!」

 更に凄い人の数!!

 少女は物珍しくキョロキョロ

 

 「あっちがハンターズギルド、向こうが

 街の集会所…」

 

 「ねぇあれは井戸じゃないよね」

 見ると数人が水汲みしている噴水の

 ような場所

 

 「あぁこの街の水源で、湧き水だよ」

 

 

 「ハンターズストアばっかりじゃなく

 エレーナ商会もヨロシクね」

 言うと街の奥へ歩く、ヒョロッと背が高い

 男は姿勢良く。

 

 

 デッカイ建物…その前に立つ

 今日からここのハンターになるんだ!

 嘗められないように…と、

 

 バァンと乱暴にスイングドアが空く

 「だからお前は失敗するんだ!!

 メインモンスターと戦うなら

 事前に雑魚は片付けろ!!」

 

 「師匠は考えが古いんだよ、

 いまは鬼神化から………」

 

 双剣使いの師弟だろうか、少女には

 一瞥もくれず門へ歩いていく。

 

 「………ムカつく」

 

 今度は中からギルドスタッフの

 女性が出てきた。

 

 「あらぁ?ビールの配達まだかしら?」

 

 「あ…あの!!」

 

 メイド装備のスタッフは

 「あらぁ新人さんね………?」

 んー?と言いながら近付いて来る

 

 目の前まで来ると顔をマジマジと見て

 「あなた○○ちゃんね?」

 

 何で名前知ってんの?

 

 

 



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異変

 

 「おお、産まれたねぇ」

 双眼鏡で見ながら言う

 

 「雛の時ってピィピィ言わないんですね」

 こっちも双眼鏡

 

 あの卵が孵化して雛が3匹、

 リオレイアが肉を与えている

 

 「クックの雛は言うよ」

 

 やっぱりクックは鳥なんだ…

 

 覗きを終えて沖の島へ

 

 「上に注意しといて」

 アルトは壁を見回す、クロフはリオレウス

 を警戒する

 

 「師匠、何かあります?」

 

 「ダメだな、完全に埋まってる」

 

 快晴、辺りには人と変わらない程の大きさ

 と素早さを持つカニ、ヤオザミが2匹、

 爪で地面の細かいエサを器用に食べている

 

 「ここは状態が良いよ、建物の

 形は残ってる」

 

 「あ、師匠」

 空を指差す

 

 「ん?」

 

 見ると3番の向こう、上空に影

 

 「あっりゃ見つかったか」

 

 「え、この距離で?」

 

 「あいつ目が良いんだよ、来るかぁ?」

 師匠も空を見る

 緊張する、足を引っ張ったら命に関わる

 

 影はスウッとエリア中央の方へ飛んでいく

 

 「あら、メスの方へ一目散か、

 パティを見た時のアンタだねぇ」

 

 「しっ師匠!っそ、それはどっどういう!」

 耳まで赤くなる

 

 「アッハ!冗談よ」

 からかうと楽しいわ、

 色恋には縁がない子だし…

 

 …あるか……

 

 「さて本題に入ろうか!」

 二人で歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 「ヤ、今回のクエストなんですが…」

 

 「何か言いにくいの?」

 

 「実は密林にガノトトスが出まして…」

 

 「珍しいわね、リオレウスが警戒中に

 他のモンスターって」

 

 「それじゃ採取どころか…」

 クロフは困った顔になる

 

 「ヤー、もしも戦いになってしまったら…」

 

 「リオス夫婦は今は絶対に

 移動しないし、できないです」

 クロフはアルトを見る

 

 「別に問題無いんじゃない?」

 

 「ヤ、ですがガノトトスが岸の獲物を…」

 

 「言いたい事は分かったわ、獲物が少なく

 なれば村にも危険が及ぶって訳だ」

 徒歩で5分の狩場だし

 

 「ヤー、なので様子を見に…」

 

 「ハッキリ言いな」

 

 「出来れば…ガノトトスを倒して

 貰いたいんですが…」

 

 「下位のレベルじゃあないな」

 最悪三頭クエスト

 ただでさえレウスが警戒中に、

 他のモンスター狩るのか

 

 利点があるとすればガノトトスは

 別名水竜、大きな翼がヒレとなり

 頭はサメそのもの、

 尻尾もヒレで、空は飛べないが

 水中に適した体なので、水辺にしか来ない

 

 なので水辺のエリア北側3番と西側の

 4番だけで戦える。

 

 しかし戦ってる最中にレウスが来れば…

 

 「乱戦必至だわな」

 アルトは腕組みする

 

 「アタシ一人なら両方イケるけど」

 

 マジですか?

 

 「クロフ庇いながらじゃ自信ないな」

 

 クロフは困った顔になる。

 

 「あぁ、アンタが悪い訳じゃなくてさ、

 状況が特殊なんだよ」

 フォローを入れるが

 

 クック装備は火に強いが水には弱い、

 苦戦するのは目に見えてる

 片手剣も相性が良いとは言えない…

 クロフにとって試練だわ。

 

 「あくまでも様子をみるだけだ、

 倒す為には戦わない、

 それで良いかな?」

 

 「緊急ですし師匠一人でやったほうが…」

 自信なんてあるわけない

 

 「緊急事態は起こるものだよ、

 出来ればアンタにやらせたい」

 狩りに想定外はよくある事。

 

 「ヤー、とにかく何とかしていただき…」

 

 「じゃあ採取クエストで、

 第2目標をガノトトスでは?」

 

 「ヤ、ではそれで」

 

 

 

 

 

 

 

 「じゃ4番行ってみよう」

 意気揚々と師匠は歩く、

 弟子はビクビクしながらついていく

 

 岩のトンネルを抜け様子をみる

 

 いた…水面に背鰭が見える

 ピシュー、プシューと音がする

 

 「いい?アンタの装備は水に弱い、

 絶対にブレスは食らうな」

 

 「はい、なんとか避けてみます」

 

 師匠が音爆弾を投げる

 キィン

 

 「ザッバァァー!!!」

 驚いて水面から飛び跳ねる

 

 「「デカぁ!!」」二人とも叫ぶ

 

 ちょっとデカすぎる!アタシはともかく

 クロフは苦戦するぞ。

 

 ビシューと水を高圧で吹き出し下から上へ

 「横回避!!!」

 アルトが指した方へ回避する

 

 転がった後、自分がいた場所を見て

 ゾッとする、地面が抉れている、

 こんなもん食らったら

 属性なんて関係ないんじゃ?

 

 また水面から顔を出し、下から上へ

 また避ける、後ろの木の枝葉が

 面白いように斬れる。

 

 何度か繰り返した後、

 「バシャァァ!!!」 水面から飛び出し

 「ドサッ!」 地面に乗り上げ

 「ズリズリ」 少し地面を這いずると

 立ち上がった

 

 キラキラと陽光を反射する魚の様な鱗

 

 

 

 しかし………

 

 

 

 「「デカぁぁ!!!」」

 二人で叫ぶ

 

 「ヤッバ!よりによって最大クラスかぁ」

 何でこんなモンが!!

 え?どうしよ?クロフは届かないぞ!

 

 

 クロフが剣を振り上げても腹に届かない、

 ドスガレオスより大きいサイズ、

 必然的に足を攻撃、

 

 歩く足踏みだけでもダメージはあるが

 気にせず斬る。

 

 アルトは貫通弾を撃ちまくる

 

 尻尾の振り回し!

 クロフは見えている、見えているが…

 「ブオオオン!!!」

 唸りを上げて、まるで巨大な平手打ち

 が飛んでくる!!!

 

 「バァーーン!!!」

 「ぐあっ!!」

 リーチがとんでもない!長すぎる!

 ガードがほとんど意味無い!

 

 真横に吹き飛ばされ起き上がる

 「師匠どうしたら!?」

 

 「股下抜けるように回避しな!!」

 戦いの最中に声を掛けられる

 ようになったか、

 

 だけど……

 

 打つ手がクロフにあるか………

 

 あ!そうだ!力を逃がすんだ!

 アルトの蹴りの対応を思いだし…

 「バァーーン!!!!」

 

 「ぐぅぅっ!!!」

 攻撃範囲が広すぎ!!

 僅かにカスっただけでも衝撃が、

 クックの尻尾位はある!

 

 「クロフ!一旦引くぞ!!」

 

 

 

 

 すぐ隣のキャンプへ、狭いため

 大型モンスターは来られない。

 

 「やりずらいです!!」

 フルフルの時を思い出す

 

 「ガンナーにとっては的だわ」

 

 ナニコレ?でじゃびゅう?

 

 ま、冗談はさておき

 

 「どうするクロフ?続ける自信ある?」

 

 「正直手も足も出ません、

 剣士はどうやって戦ったら…」

 

 「あいつは回避が上手くないと

 近付くことさえ難しいからな」

 

 「師匠は…」

 

 「アタシは尻尾の振り回しを溜めながら

 紙一重で避けて、頭が来たら殴る」

 

 クロフの得意技は前転回避からの斬り上げ、

 でもあのデカさじゃ一回で懐に入れない。

 

 それに恐ろしい攻撃がヤツにはある、

 体験させたいが…

 

 「やってみます」

 

 よし!そうこなくちゃ!

 

 

 

 

 沖の島が見える北側の3番へ向かう

 

 「チッ…」

 アルトは小さく舌打ちする

 

 リオレウス!水面にヒレが見えるが

 お互いに戦う意思は無いようだ。

 

 「さて、想定内だねぇ」

 

 アルトは肥やし玉とペイントボールを

 リオレウスにぶつけて引き返す。

 

 

 「レウスがいたわ」

 

 「いきなり入らなくて良かったです」

 4番で待機してて正解だった

 

 すぐにレウスは2番へ行ったようだ

 

 「んー、アタシは適当にレウスの足止め

 するから、アンタも適当にやってみな」

 

 「適当って…」

 

 「無理と解ったらリタイアして良いよ、

 引くのも勇気だ、生き残れ」

 

 「…やってみます」

 

 

 一対一の勝負! 痺れ罠を設置、

 音爆弾を投げる

 

 「ブシューーー!!!」

 

 もう見慣れた、避ける、

 トトスがジャンプ、陸地に来る。

 

 ここからだ。

 

 噛みつき!

 しかし前転で避ける、大振りだから見切る

 のは容易い、

 足の間で斬る、鱗が硬くないから斬れるが

 …これダメージあるのか?…

 

 尻尾の振り回し!

 頭の方へ回避!

 

 よし!尻尾2回避けた!尻尾の振り回し

 は2回で1セット、懐に入る!

 

 一瞬トトスは体を引いた…

 「えっ?」

 

 

 

 「ドッ!!!!」

 

 

 

 

 ……クロフの記憶は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 「ドザァ!!」………ガラガラガラ………

 白とタマが遠ざかる

 

 「いっだぁ!!!」

 

 ………え?キャンプ?

 

 何が起こった???何された???

 

 ダメだ!何も解らなかった!

 これじゃ何も学べない。

 

 急いで4番経由で3番へ

 

 

 

 

 

 2番

 「ドサァッ!!!」

 「グゥルルル!」

 墜落したリオレウスがジタバタもがく、

 

 「飛ばないでもう少し付き合ってよ」

 

 アルトは閃光玉を調合しながら言う

 

 「恨みは無いけど弟子の邪魔しないで♪」

 

 言葉は通じる訳ないが、アルトにとって

 下位のレウスなど遊びで十分、

 攻撃せずに、じゃれている。

 

 

 

 

 

 

 

 3番

 痺れ罠に引っ掛かる、チャンス!

 斬る斬る斬る!!!

 

 罠は限界、壊れる

 一回離れようとする、トトスは一瞬体を引く、

 これ!これだ!ガード!!!

 

 「ドンッ!!!」

 

 吹き飛ぶ!ゴロゴロ転がる!

 

 見てからじゃ間に合わない!

 

 距離を置いて回復薬を飲む。

 

 何だよアレ!体当たり?

 体を動かし確認する、打撲だけのようだ

 

 割りとゆっくりしたモンスターのようだ、

 飛び掛かりや突進はしない?

 

 ブオオオン!!!

 いや!その必要ないかも!

 攻撃範囲がデカ過ぎる

 

 辺りの木々を叩き折りながら平手打ちが

 飛んでくる

 

 早い、タイミングが掴めない、

 師匠の方法を試すか?

 無理だ!紙一重であの尻尾を避けるなんて!

 

 どうする…

 ブレスをかわして飛び込む

 

 また体を引いた

 思いきって前転回避!!!

 

 

 

 

 

 アルトは5番から7番へ入る。

 

 こっちと合流したか、まだ雛がいるし

 母親は殺したくないよなぁ…

 

 しかし

 

 「え?何してんのアレ?」

 

 リオレイアは3番の出入口の辺りで

 動かない、雛をほったらかしで。

 

 リオレウスも降りてくるが、

 まったくアルトに注意を払わない。

 

 何だ?何が起こった?

 クロフはそっちで戦ってるのか?

 

 

 

 

 何だ?

 突然ガノトトスの動きが止まる

 

 え?瀕死か?そんなわけ…

 

 いきなり走り出す!水の中へ飛び込み、

 沖の島の方へ行ってしまった。

 

 …なんだろ?…

 クロフは剣を研ぎ備えるが、背鰭は

 遥か彼方へ行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 クロフが何かやったのか?

 アルトはリオス夫婦の横を注意しながら歩く

 

 2頭とも3番の出入口を見たまま動かない。

 

 

 

 

 何だこれ!?

 クロフは気付く、あり得ない違和感。

 普段は命に溢れた密林なのに、

 鳥の声がしない、ヤオザミのガチガチ

 いう音も、大型昆虫の羽音すらない、

 ただ水の音がするだけ、

 

 おかしい……

 

 水面を見渡す、何も…

 

 

 

 なんだ?あれは?

 

 4番へ抜ける岩のトンネル、その右、

 西の方に島がある…?

 いや…あんな所に島なんてないはず。

 

 

 

 ザプン

 

 見ていると近くの水面に、突然大剣の

 ようなモノが静かに現れた。

 

 と、

 7番からアルトが出てきた

 

 「クロフ、あんた何かやっ………え?」

 アルトは静けさに気付き動きを止めた、

 

 なんだこれ?静か過ぎる…

 

 直後

 「ザバアアァァァ!!!」

 

 水中から巨大な何かが出てくる、

 二人ともガノトトスだと思ったが、

 角度的に見えているクロフは気付く

 

 ガノトトスじゃない……

 

 正面から見ているのに理解するのに

 数秒を要した

 

 これ…顔?…頭?…トトス並み………

 ……デカイ………ア…アア……

 

 硬直したクロフを見てアルトが走り寄る

 

 「え!ウソだろ!!ラオシャンロン!!!?」

 

 蒼い巨大な頭がエリア3に入ってくる!!!

 

 「クロフ!!!逃げ……」

 

 クロフは膝をつきガチガチ歯を鳴らしている

 根元的感情、恐怖!!

 (顔?顔頭?大剣が角?蒼いあおいあおあ…)

 圧倒的存在感、生命力!!

 

 ズシン!!!

 巨大な塊、力の塊、人間など道端の

 石ころ以下だろう、

 そんなモノが近付いてくる

 

 クロフの視界は巨大な頭で一杯、

 なのにまだ手が届かない距離、

 それが示す圧倒的命の差。

 

 ズシン!!!

 

 たった一歩が絶望的な力の差を

 思い知らす

 

 「チィッ!!!呑まれたか!!!!」

 

 アルトはボウガンを捨てクロフの襟首を

 掴んで走り出す!!

 

 「走れ!!クロフ!!!」

 クロフの口からは「あうあう」と言葉に

 ならない声しか出ない!

 まともに走れる訳もない!!

 

 

「オオオオォォォー!!!!」

 アルトは雄叫びを上げ、クロフを

 引っ張りながら走る!!

 2番に向かう坂を

 クロフを引き摺り駆け上がる!!

 

 「おおりゃあぁっ!!!」

 

 2番に入った直後、

 ドガアァ!!!と後ろから轟音と振動。

 逃げきった!!

 

 「しっしし師匠!!あっあああれ!!!」

 クロフがようやく我に返った、

 

 アルトはゼイゼイ言いながら

 猫族の集落に走っていく。

 

 「にゃあーデッカイにゃー」

 猫族は珍しそうに崖下を見下ろしている

 

 「族長居るか!」

 アルトは厳しい声になっている

 

 恐る恐る族長が前に出る

 

 「ここにアレが居る伝承はあるか?!」

 

 「分かりませんにゃ!」

 

 「今日飛行船を見たものは?!」

 

 飛行船ってナンニャ??

 にゃあにゃあ騒ぎ出す

 

 「たまに空に浮いてるピンクの三角!」

 族長の首を掴んで揺さぶる

 

 「み、み見てないにゃぁああ!」

 

 「完全に未確認の個体か!」

 「クロフ!すぐ村に戻るぞ!」

 

 蒼い山はバキバキと大木をモノとも

 せずに、密林の東に進んでいく。

 

 クロフは冷静に見つめる

 どう見ても200メートル以上あるような…

 さっきのトトスの…何倍……?

 

 「師匠、あれは…」

 

 「ラオシャンロン、歩く天災、しかも…」

 

 

 

 アルトは思い出す、あれは

 ミナガルデの防衛戦、

 巨大な甲殻種の背中を…

 

 「……デカすぎる………」

 

 

 

 

 

 「緊急事態だ!!!」

 アルトは叫ぶ

 

 「ヤ!アルトさん!何かおかしいですよ!」

 聞けば村周辺の鳥達や虫が姿を

 消した、と

 

 ゼイゼイとしていた息を整え、

 「解ってる!ラオだ!ラオシャンロンが出た!!!」

 

 「なんだとぉ!!!」

 村中騒ぎ出す

 

 「東に向かったが一応避難準備!!」

 

 「村長!伝書鳩全部!!」

 「ヤ!パティ!」

 

 その日、近隣の村と遠くドンドルマまで連絡

 が、文字道理飛んで行った、

 

 内容

 

 ジャンボ村から東へ、蒼老山龍、

 過去最大級、警戒、判断せよ。

四英雄

 

 



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 「ただいま」

 

 「おかえり、お兄ちゃん」

 

 「おかえりなさい、アルトさん、

 手紙…来ましたよ」

 パティが持ってくる

 

 「7日で来るとは早いな」

 

 「ヤ、これなんですが…」

 

 小さな入れ物から巻き紙を取りだし

 アルトに渡す

 

 村中が注目する

 

 封蝋を開ける

 「王都に帰投しろ…か」

 

 やっぱり……皆肩を落とす

 

 「交易船はまだ数日は来ませんよ」

 パティが心配そうに気を使う

 

 「飛行船を寄越すってさ、明日森と丘に

 着陸する…準備しなきゃね」

 

 行っちゃうのか…

 

 「クロフ、手伝いな」

 

 「ボウガン、勿体なかったですね」

 

 「仕方ないさ、アンタが無事ならそれで

 いいじゃん」

 笑いながら言う

 G級の武器はとんでもない値段だと聞くが

 

 「それよりさ、アンタの武器頼んであげる、

 ハンターナイフ改しかないんだろ?」

 

 チーフククリも落としてきた

 

 「素材はありますが…」

 

 「だからお金出してあげるよ」

 

 「え…そういうの良いんですか」

 

 「甘えて人を当てにするような

 人間じゃないからね、

 アンタは遠慮を知ってるから

 調子に乗らないし」

 

 

 あれから数日、村は落ち着き、

 行商人の話によると、隣村にも被害はなく

 途中で痕跡が消えているとのこと。

 

 「毎回こうだよ、突然現れちゃあ

 何処かに消える」

 

 「分からないんですか…」

 

 「突然地中から現れたって話が

 あるほかはほとんどね」

 空を指さし

 「翼は無いんだから地面しかないはず

 なんだよなぁ」

 

 

 

 「村長、アタシの素材さ、現金化できる?」

 

 「ヤ、十分ありますよ」

 

 「荷物減らしておかないとね」

 

 「そうか、姐さん行っちゃうのか」

 村の人達も残念に思っている

 

 「さて、まだ日が高いし密林の様

 子でも見に行こうか」

 

 「ヤ、オイラも行きます、もしも狩場を一つ

 失うとなればこの先大変ですから」

 振り返り

 「じゃパティ、あとは頼んだよ」

 

 いざとなったらパティの合図で村は

 一斉に避難する手筈になったそうだ、

 なんと、この歳で村長代理

 

 

 

 密林7番

 「アッハ!無事に育ってる」

 雛たちは羽をパタパタやっている

 

 「親が逃げたらどうなるんです?」

 

 「ヤー、さすがに他の肉食に喰われるかな」

 

 リオス夫婦は見えないが健在だろう

 ここ数日、夫婦が混乱してないか

 心配だった

 

 

 7番は良いとして

 

 三人は3番へ入る

 

 

 

 

 「ヤー、サッパリしちゃったな」

 視界を遮っていた木々は根元から

 折れ、踏み潰されている。

 

 「アッハ!尻尾でみんな

 キレイに掃除されてるわ」

 

 一面の泥と泥濘、

 空まで覆っていた緑は消え

 一面茶色の平地になった

 

 「笑い事じゃないですよ」

 

 ここにはハチミツもあったしファンゴや

 獰猛な猿、コンガなども来る場所だ、

 昆虫類も豊富で不死虫なども捕れた

 

 昔パティと二人の時も良く来た

 

 「村の収入が…」

 クロフにとって子供の頃から採取を通して

 慣れ親しんだ場所だ、

 その風景が一変するのは何か寂しい。

 

 「ヤハハ、ラオシャンロンとなれば、この

 場所だけで済んだ事を幸運に

 思うべきだよ」

 

 「アッハ!本当」

 クロフに向き

 「村を通過したら最悪全滅だってありえる」

 

 

 だから天災

 

 生態不明、正体不明の古竜の中でも

 最大級の龍だ

 

 

 「あ、ボウガン」

 クロフが見つけた、拾い上げる

 

 「えっ?」

 

 見ると泥の中から半分ほど出ているが

 クロフが持ち上げると蝶番の後ろ側が無い

 

 「まっ、仕方ないさ、

 さて村長、クロフ、大事な話だ」

 

 「ヤ、クロフをドンドルマへ

 行かせるのは賛成しますよ」

 

 「俺も行きたいです」

 

 「よし、だけど条件を出す」

 

 「条件?」

 

 「あのガノトトスだけは狩ってから

 村を出るんだ」

 

 「あのデッカイの!?」

 

 「村や家族の不安要素に立ち向かう、

 それは一人前の人間なら誰でも

 やってる、アンタも自覚してるじゃん」

 

 

 「…そうですか?」

 

 「ヤハハ、気付いてないんだ?

 このエリアを見たとき、さっき何て

 言ったか分かる?」

 

 「?」

 

 「ヤ、村の収入って言ったんだよ、

 もうクロフ、君は人として村の一員として

 村を守ろうとしてるよ」

 パティと同じかそれ以上に

 

 (前から思ってたけど…その時は…

 道具屋のため?…自分のため……

 だったかも)

 

 

 

 

 

 次の日 森と丘は晴天

 中央のエリア4に飛行船が降りている

 

 「初めて間近で見たぞ」

 「こんなのが空飛ぶとはなぁ」

 村中が見送りに来ている。

 

 「アルト殿、お早く!!」

 小さな竜人が上から呼び掛ける。

 

 青くて何だかカッコいい装備の

 男がいる。

 「お荷物お持ちいたします」

 

 その様子を見る限り、アルトが社会的立場が

 高い人物なのは容易に見て取れる。

 

 「アッハ!ゼニスじゃん、何よ

 代わりにアンタが追跡?」

 

 「はい、ラオシャンロンの追跡

 調査の司令を受けました」

 

 ゼニスと言われた男は荷物を

 積み込むと飛び降りる。

 

 アルトが乗り込み上から言う

 

 「クロフ!無理はしなくて良いからな、

 ガノトトス倒したら交易船に乗りな!」

 

 「本当に色々ありがとうございまじだ!」

 パティは泣きながら手を振る

 

 「ヤハハ!またぜひ来てください!」

 

 

 

 「村長、ホントはじいちゃんからの

 依頼だろ?」

 

 「ヤ、なぜ?」

 

 「なんでドンドルマの伝書鳩が

 常備されてんだ?」

 

 「ヤー、バレましたか…」

 

 

 

 「師匠!追いかけます!!」

 

 「あぁ!!必ず来な!!」

 アルトは上から手を伸ばし拳を作る

 

 「?」

 

 「アンタも!別れの挨拶だ!」

 

 クロフも拳を作り手を伸ばす

 拳をぶつけて

 「また会おう!!」

 

 「はい!!」

 

 飛行船はゆっくり上昇すると、

 西へ向かって飛び始めた。

 

 「姐さーんまた来いよー!!!」

 飛行船が小さくなる

 

 

 

 

 

 「さて、早速仕事に取り掛かりたい」

 ゼニスと呼ばれた男が言う

 

 「ラオシャンロンを見た方は?」

 クロフより少し背が低い、声は高い、

 パティと同じか?15歳位だろうか

 

 「はい、俺です」

 

 「お弟子さんでしたか、見た場所へ案内を」

 

 

 

 

 

 

 

 夕方、ゼニスが戻って村へ来た

 

 「ヤ、ゼニスさん、何か分かりましたか」

 

 「いえ、密林から東へ走りましたが、

 やはり痕跡は途中で…」

 

 「あんな大きいのに…」

 クロフが見た限り200メートル位

 この村より大きい

 

 「道端から推測する限りですが、

 全幅で50メートルほど有るかと」

 

 どうやらもっと大きそうだ

 

 「ヤー、ゼニスさん今夜はこの村に滞在

 されますか?」

 

 「よろしければ御厄介になりたいです…」

 

 「じゃ何か話してよぉ」

 村の女達が言う、

 パティもビールを持ってくる

 

 装備のせいか、話し方か、

 まだ若いのにキチンとした物言い、

 顔は帽子であまり見えないが中性的で、

 メリハリのある立ち振舞いは、

 私服のアルトを思い出す。

 

 「あ、私は酒は…」

 

 「一杯位付き合いなよぉ」

 

 「じゃあ一杯だけ…」

 

 

 

 クロフはほとんど酒は飲めない…

 

 

 

 「あたしゃあですねぇ!こおぉうみえてぇ…」

 ゼニスはベロンベロンに酔っている

 

 自分より弱い人を初めて見た…

 

 「たった一杯でこれぇ?」

 女たちも呆れている

 

 ヤ、今夜は解散で!と村長は皆を帰し、

 ハンター小屋へゼニスを運ぶ

 

 

 

 「さて、もう良いでしょう?」

 村長は静かに話す

 

 ゼニスは笑う、クスクスと

 

 「ヤハハ、昼間は上手かったですね、

 あれなら飛行船に『乗って来た』と

 誰もが思うでしょう」

 

 「敵いませんね、人の目は誤魔化せる

 んですが」

 

 「で?クロフは合格ですか?」

 

 「はい、ご心配なく」

 まだパティと同じ位に見える童顔

 

 「ヤハハ、正体晒したのは…」

 

 「警護対象が帰還されましたから」

 

 「ヤー、驚きましたよ、本部のあなたが

 アルトさんと一緒にこの村に

 来るんですから」

 

 「自信有ったんですがね、行商人、

 アルト様にもバレなかったし」

 帽子をかぶり直す

 

 「で貴方はどんな依頼を?」

 村長の目が珍しく鋭くなる

 

 「解ってるでしょうに…」

 金髪を三つ編みにした髪を揺らす

 クスクス笑っている

 

 「ギルドマスターもヒドいな、アルトさんに

 弟子を持たせる依頼したくせに、

 気に入らなければ…………」

 

 「ま、一人目の弟子が酷くて

 粛清されましたから」

 

 「貴方が……?」

 

 「いえ、上司が、私は歳が…」

 

 「ヤー、あの子は今から幸せに

 なって欲しいんですがね……」

 

 「あなたがココの南で起こした

 戦乱の犠牲者ですものね」

 

 「どうか………命は……」

 

 「アルト様の名を利用しようなんて

 考えたら遠慮なく………」

 ゼニスはギルドナイトセイバーの柄を触る

 

 「あのお方は四大英雄の娘にしてアルマ

 の孫、そして王立直下ですから、

 後ろにいるお方達の権力たるや……」

 

 「恐ろしい人の弟子にクロフは

 なったもんだ……」

 村長は腕組みして天井を見上げる

 

 「孤児に弱すぎて…助けますから」

 

 「ヤー…本人は自由奔放だからね」

 

 「お陰で我々は心労が絶えませんよ」

 あどけない顔でニコリと笑う

 

 

 

 

 

 

 明くる朝

 回復薬、シビレ罠、ハチミツ…

 

 「強いんでしょ?そのガノトトス」

 パティは困った顔

 

 「うん、でも一回だけ避けられたんだ」

 ヒントは掴んだような

 

 ギルドで準備していると

 「クロフ」

 

 「アキシさん、どうしたの?」

 

 「姐さんから頼まれた品なんだが…」

 大きな布を捲る

 「これで良かったのか?」

 

 フルミナントソード!!

 

 「え?大剣?なんで…???」

 首をかしげる

 

 「確かにこれ作ってくれと…」

 こっちも首をかしげる

 

 「お兄ちゃん、大剣できるの?」

 パティも首をかしげる

 

 「大剣使えってこと……?」

 

 「それから伝言だ、走って抜刀斬り、前転、

 納刀、で走れ?」

 

 アキシは小さな紙を見せる

 ホントにそれしか書いてない

 

 

 

 あ、そうか、初日にやったあれだ

 森と丘のキャンプで散々やった基本の動き

 「ありがとうアキシさん、解った」

 

 「これで解ったのか?」

 

 「うん、師匠らしい」

 

 「行ってらっしゃい、無事で…」

 泣きそうな顔をする

 

 「大丈夫、無理だったら逃げるから」

 パティに見送られる

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブオオオオン!!!!

 ガード!切っ先を地面に着け斜めに!

 

 「ガシュッ!!!」

 

 重みのせいかガードが片手剣より楽!

 腕が痺れない!

 その代わり………

 

 足の間に走り込み、

 

 「おいしょー!!」

 抜刀斬り、前転

 

 「あわわ!」

 急いで納刀

 

 「うおぉぉぉ!!!」

 全力で走る

 

 ブオオオオ!!……

 後ろから尻尾のヒレ!!!

 

 緊急回避!!泥だらけになりながら

 また走る

 

 一回しか攻撃できない!

 連続攻撃は無理!!

 

 泥だらけで不様に走り回る

 属性のお陰か、たまにトトスの動きが

 止まるが……

 

 思い出す、一人でランポスを3頭狩った

 あの時を。

 

 3回位斬ったら隣のエリアに逃げるを

 繰り返す!!

 

 

 

 

 

 

 

 おやおや、無駄な動きの多いこと♪

 しかしこの人、独り言多いですねぇ

 

 2番の坂道から見下ろすゼニス

 

 頭に当てる技術などないし

 典型的な素人、しかし一度したミスは

 覚えているようだ、これなら大物

 になれるか………?

 

 ガノトトスが体を引く

 「あっ!!!」

 「ドンッ!!!!」

 

 白とタマが運んでいく

 

 …愚直過ぎて…助けてあげたく…

 なりますね………

 いやいや、服務規程違反です、

 監視に徹底

 

 

 

 キャンプでひたすら基本の動きを繰り返す

 この前一回だけ回避できたんだ、

 あれをもう一度…

 回復薬グレートの調合、肉を食べる

 

 

 

 

 居た、隣の4番、シビレ罠を置く

 

 飛び出し這いずり!ガード!

 

 尻尾!頭方向に回避!

 

 体を引く

 

 ここだ!!!狙うはガノトトスの頭の方!

 右前方へ回避!!!

 

 「ブオッ!」音を立てて空振り!

 後ろから振り下ろす、怯んだ!

 ついでに横凪ぎ!

 

 出来た!!!回避!!!

 

 もう怖くない!!

 

 ブオオオオン!!!

 

 いやまだこれが!!

 

 シビレ罠を踏みトトスが止まる、

 頭へ回り振り下ろしから斬り上げ!

 繰り返す!

 

 罠から解放されると一瞬首を持ち上げる

 

 これって!?

 反射的にガノトトスに向かって走る!!

 

 ブシュウーー!!!

 

 高圧の水が、すぐ横を飛んでいる

 

 頭!低い!止まってる!!!

 

 頭に抜刀斬り!!!

 

 

 

 

 

 

 

 突然トトスは倒れる、

 動く気配はない……

 

 「勝った………?」

 30メートルはあるかもしれない生臭い

 巨体の横、ゼイゼイと息をする。

 疲れで足がガクガク、

 大剣を杖にする。

 

 「貴方の勝ちです」

 パチパチと拍手しながらゼニスが

 現れた。

 

 「ゼニスさん…寝ていい?」

 

 「は?」

 

 「ドシャッ!」

 

 クロフはそのまま波打ち際に倒れ込み

 動かない、寝ている。

 

 

 

 限界だったんでしょうねぇ、まったく、

 半日近く走りっぱなしでしたし…

 

 憎めないひとですね、悪意がないし

 欲もない

 

 人を騙そうとか貶めようとか日陰の感情

 がない上、闘争心も薄い

 

 四英雄の弟子になったというのに

 功名心もない

 

 私に対する最低限の警戒心すらない

 

 余程の大物か大バカか…

 

 野心ってものが欠落してるのか?

 

 こんな男は見たことない。

 

 「いけない、私に感情は必要ない」

 

 始末する必要はないな

 

 

 

 

 

 半月後、

 

 「行ってきます」

 クロフがドンドルマに旅立つ

 

 「ヤー、辛くなったらいつでも帰っておいで」

 村中が見送る

 

 「お兄ちゃん、待ってるからね」

 パティが抱きつく、船員達からは

 敵意よりも冷やかしが飛ぶ。

 

 「クロフ、あのな…」

 ヨシとメヒコが近付く

 

 「その……なんだ……」

 二人とも言い淀む、本当の親子であれば

 それなりの別れになるだろうが…

 

 「おじさん、ハンター始めた日に釣り

 した時、俺にありがとうって言ったよね」

 

 「あ……ああ」

 

 「俺の方こそありがとう、いっぱい

 教えてくれて、ずっと先生だったよ」

 

 「そうか…そうか分かるか……」

 涙ぐむ

 

 「おばさん、ここまで大きくしてくれて

 ありがとう、普通に生活できることって、

 支えられてる事だった、俺、気付けたよ」

 

 「通じたねぇ…」メヒコは顔を覆う

 

 「道具屋、続けてよ?俺が帰る場所

 だからね、帰る家だからね」

 

 ぎこちなく二人と抱き合う

 

 「村長、お願いが」

 

 「ヤー、なんでも」

 

 「村の拡張は良いけど、藪の中の木を

 残して貰いたいんだけど」

 

 「お兄ちゃん、大丈夫!私が見てるから」

 今日は泣かない、そう決めた

 

 「時間じゃ!錨を上げぃ!!」

 船長の声が響く

 

 「道中は私が付き添います」

 ゼニスも一緒に乗り込む

 

 船が動き出す

 

 村中が手を振る、岸から離れる

 

 俺、ここが好きだったんだ…

 

 

 嫌な思い出から始まったけど…

 

 

 たくさんのモノを貰ってた…

 

 

 それに気付けなかった…

 涙が止まらない

 

 

 振り返り手を振る

 思いっきり叫ぶ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 「行ってきます!!父さん!!母さん!!」

 

 

 

 10年家族の真似事だった

 

 

 偽物の親子だった

 

 

 でも与えられたモノは本当の親子だった!

 

 

 赤の他人の子供を引き取り、多くの

 愛情をくれていた

 

 

 バカな子供は拒否し続けて

 感謝の一つも出来なかった

 

 

 それが分かる、分かる人間になれた!

 

 

 

 ヨシとメヒコは泣き崩れる

 

 無駄じゃなかった、今までの日常…

 

 戦乱から村造りの苦労、

 

 クロフを育てた事で得られたモノ…

 

 今すべてが報われた。

 

 

 

 ジャンボ村が報われた。

 

 

 

 

 「いっでらっじゃぁああぁぁ…」

 パティが泣き出す

 

 恋人なんて軽いモノじゃない

 

 

 兄妹であり、お互いが親であり子でもある

 

 

 言葉をいくら並べても表せない絆がある

 

 

 

 

 許された…今この村の罪が許された…

 オイラの罪が許してもらえた、

 村人の罪が許してもらえた、

 大丈夫!この村はもう人だけで歩ける!!

 

 オイラも…………

 

 



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化け物

今さらブレイブヘビィにハマり、
更新遅れてます(笑)


 

 「ここがドンドルマ…」

 広い道、左右に切り立った崖、

 そして行き交う人の多いこと

 

 「いえ、正確には街の入り口でして、

 この奥5キロメートルほどに

 街はあります」

 ギルドナイトは指を指す

 

 ゼニスは「近道がある」というと

 横の洞窟のような通路に入る

 

 「ここは?」

 

 「ハンター専用、戦闘時の通路になります」

 

 クロフはキョロキョロしている

 

 (はぁ…こっちの道のほうが気楽です)

 

 クロフはベッドやバリスタの弾を見る

 

 (田舎者丸出しで警戒心がない、

 ここに来るまで何度スリに盗られたか…

 本人に悪意がない分、人に悪意が

 有るとは考えないんでしょうか)

 

 ジャンボ村を出てから約7日、

 風に恵まれ早く着いたが、

 その間荷物を狙われたり財布を

 スラれたりしたが、任務ではないのに

 全部ゼニスが取り返したのだ。

 

 もちろんクロフは知らない

 

 

 

 「戦闘時って…言ってたラオと?」

 

 「はい、ラオシャンロンとの戦闘ですが?」

 

 「何でそんな所に街が?」

 

 「最新の学説で推論に過ぎませんが…」

 

 「先程の大きな道、谷のようになって

 ますが水が流れた形跡がありません、

 つまり、あの道は何者かが

 何度も通って出来た…と」

 

 「もしかして…ラオの通り道?」

 

 「過去数回ドンドルマはラオの

 襲撃に会ってます」

 

 「そんな所に……」

 

 「ラオの時間と人の時間は違い過ぎる

 のでしょう、ラオにとっては頻繁に

 通ってるつもりでも、人間側からすれば

 数年から数十年かもしれません」

 

 高い門の上まで出る。

 

 「さ、これがドンドルマの門です」

 

 「うわぁ!!高い」

 何メートル有るのか、心地良い風…

 遠くまで見渡せる…と、

 

 地面を見る、こんなに高い物なのに

 石造りの人工物…って事は

 

 「これって古代の遺物?」

 

 「いえ、ドンドルマが湧き水の発見以降に

 出来たことは?」

 

 「師匠に聞きました」

 

 「その湧き水の周りに建物を立て、

 広げる過程で岩山を削り、

 その石材で造られたんですよ、

 街は今でも拡大中です」

 

 下まで降りる

 

 デッカイ鉄の扉…鉄鉱石を何個使えば

 こんなものが…

 

 「さ、行きましょう」

 

 「あの…」

 

 「なんでしょう…」

 物珍しいのはいいですが、

 こうも質問ばかりだと…………

 

 

 

 

 

 「ゼニスさんって男?女?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今さらかい!!!

 

 「ど、どちらでも良いのです、

 任務に関係ありませんから」

 (天然………?)

 

 「さ、行きますよ」

 

 門をくぐり、大勢の人達の間を歩く、

 ジャンボ村の何倍の人数だろう。

 大きな建物の中へ入る

 

 

 ムワッとする、ビール、料理、ハンターの体臭、

 慣れない人にはキツイかもしれない

 

 クロフは匂いはともかく、こんな大勢と

 同じ空間に入ったのは初めてだ…

 …緊張する……

 

 誰もクロフを気にかける事もなく

 騒ぎ、飲み、楽器を鳴らす者もいる。

 

 入り口で固まってしまうクロフ。

 

 ゼニスが奥のカウンターから手招きする、

 ビクビクしながらそこまで行くと

 

 「では私は王都へ向かいますので、

 ここで失礼します」

 

 クロフに一礼するとゼニスは

 ギルドから出て行った、

 大勢の人の間をすり抜けながら。

 

 お礼一つも言う暇が無かった…

 

 「ホッ?お前がクロフか…うむ」

 カウンターの上に座った小さな竜人が

 クロフを見ながらキセルを吹かす。

 

 「あらぁ!こんにちは!私はベッキー、

 このドンドルマギルドのマネージャー

 兼スタッフです」

 

 カウンター越しに美人のスタッフに

 声をかけられ緊張する

 (胸…大きい…)

 

 「こちらはギルドマスター」

 

 「四大英雄の…」この人が…

 なんか…ちっちゃい

 

 「あ…あのっ…ギルドカードですよね……」

 

 あたふたしながらギルドカードを渡す、

 どうしても目線が胸に行きそうになり、

 目を伏せ耳まで赤くなる。

 

 

 「あらぁ、クロフ君は姉さんの弟子なのね?」

 

 ピタッと周りの喧騒が止まる

 

 ………え?………

 

 「アルトの弟子ぃ?」

 「おお!良く来たな!」

 「何だ?頼りねぇ奴だな!」

 「ガハハ細いな!肉食え肉!!」

 

 ゾロゾロと山賊のような雰囲気が来る、

 若手ではない、見ただけで解るほどの

 歴戦の傷、太い腕、肩、装備も凄い

 恐らくG級ハンター達が数十人で取り囲む

 

 アイツはなぁ俺らドンドルマハンターの妹よ!!

 サッパリしてるだろぉ!!!いい奴だろぉ!!!

 酒も強いし気っ風もいいだろ!!

 ガハハと笑い飲みながら話し、

 ヨロシクな小僧!!と背中をバンバン

 叩かれる

 

 ついていけない、怖い怖い怖い!!

 

 「コラ、皆ぁ、クロフ君怖がってるじゃない」

 

 ベッキーに言われ離れていく、

 怖かった…

 

 「どぉら!そう言うことなら」

 痩せてヒョロッとした老人が立つ、

 インナーだけで背中に太刀を背負っている

 少し腰が曲がっているのか猫背だ、

 髪が後頭部に残るだけで白髪、

 

 直立すれば180センチ位ありそうだが

 

 「ホッ?なんじゃ、ロクス、「見る」のか?」

 ギルドマスターが声をかける

 

 「あぁ、アルトの弟子なら見てみたいわい、

 ベッキー!」

 

 「はいはい、森と丘の採取ね!」

 

 「行くぞ小僧」

 眼力がある、刺すような目。

 

 「え?あの?」

 

 「荷物はその辺に置いとけば良いから、

 行ってらっしゃい」

 ベッキーは手を振りニコニコと

 送り出す

 

 

 

 

 

 

 

 ドンドルマ管轄、複数ある

 下位、森と丘の一つ

 

 凄い、ほとんど同じだ……

 

 「小僧、まず好きに採取してみろ」

 

 

 言われて採取をはじめる、カラの実は

 中身を取り出し地面に刺す。

 

 キノコ類は笠から胞子を払い落として、

 すぐに生えてくるようにする。

 

 薬草は葉っぱだけ取り、

 茎や根は傷付けないように…

 

 

 「ほう、誰に習った?」

 

 「村の人達と村長に…」

 

 「良い村だな、感謝しろ」

 

 「あ…あの…上手く出来てます?」

 怖い……

 

 「ふん!文句ないわい!」

 

 

 

 8番へ

 

 「小僧、隣のエリア見てきな」

 7番を指差す

 

 ハチミツなどを採取して戻ると

 

 

 

 

 「そこにいろ!」

 

 見るとランポスが3頭、ロクスの前にいる

 

 マズイ!インナーだけだし年寄りだし…

 …あれ…今こっち見て無いのに…

 

 一歩前に出る、と

 「動くな!!」

 

 気配だけで分かってる!?

 お陰でクロフはランポスに気付かれない

 

 

 ロクスは太刀を構えている、

 ランポスは距離を測るように小刻みに

 動く、

 

 1頭が跳び掛かる、その瞬間

 太刀をランポスに向けた

 串刺し!!!

 

 

 

 

 そう思ったが……

 

 

 

 

 

 

 ロクスの横に着地したランポス…

 首だけボトリと落ち、体も倒れる

 

 

 

 何だ!!?今何した!!?何が起きた!!?

 太刀を振ってさえいないのに!!?

 

 声を出しそうな口を押さえる。

 

 1頭が音も無く倒されたが

 もう1頭が跳ぶ!!クロフは見る!!

 

 

 ロクスは左足を引き、半身になり

 太刀を斜め上に、ランポスに向ける、

 刃を横にしている。

 

 跳んだランポスは軌道変更出来ない、

 水平の刃で首を斬られながら着地、

 ボトリと首が落ちる。

 

 残ったランポスは逃げていった。

 

 全身総毛立つ…恐怖…あんな細い

 老人なのに………

 

 「い………今の………」

 

 「何か見えたか?」

 ニヤリとする

 

 

 段差から降りて大剣を同じように構え、

 「跳んでくるランポスを…」

 

 半身になり

 「避けながら…」

 

 「首に当てて…」

 刃を横に

 

 「おぉ!!良く見えてるのぉ!!

 アルトに教えてもらったか?」

 笑顔、数本しかない歯を見せながら

 満面の笑み。

 

 

 「いえ、力をまともに受けない…」

 ガードのカッコをする

 

 「あの子はそっちが得意じゃったからのぉ、

 ハンマーばっかりじゃったし」

 

 「あの…今のは?」

 (他にもあったのか!!?)

 

 「ワシは体力がないからの、

 相手の力で倒すんじゃ」

 

 しゃがんでランポスの首を指差すと

 「第三第四頸椎の間が脆くての…」

 

 「あんな一瞬にそんな所まで…」

 背中が寒くなる、

 モンスターを…武器を振らずに倒す…

 

 

 

 

 

 化け物だ…

 

 

 

 

 帰り道

 「あの…歳はおいくつなんですか?」

 

 「今年65になる」

 

 腰が僅かに曲がり、膝と首が少し出て、

 いわゆる老人に見えるが…

 スタスタとクロフと変わらないペースで歩く

 

 

 

 怒るかな……

 「腰が曲がってるのは演技ですか?」

 

 「そんな訳あるかい!!!」

 顔は笑っている

 

 「…G級の方ですよね?」

 

 「ワシか?もう引退しとるよ」

 ニコニコと良く笑う老人…

 

 

 

 

 ギルドへ着くと

 「じいさん!!どうだった!!」

 

 大勢のハンターが聞いてくる、

 どうせダメだろ、とか聞こえるが…

 

 

 

 「合格じゃ!!」

 

 「うおおおぉお!!!負けた奴は金払え!!!」

 「何で合格すんだよぉおまえ!!」

 

 頭をグリグリ撫でる人

 肩や背中を叩く人

 ここはスキンシップの塊の人ばかり

 バシバシ叩かれる。

 

 なんなのココ?

 見た目と違って悪い人達じゃない

 みたいだけど、痛いし怖い…

 

 

 どうやら賭けていたらしい

 

 「あらあら、トラブルの種になるから賭け

 しちゃダメっていつも………」

 

 「ホッホッ勝ちじゃあ!!」

 

 「マスター!!!」

 ギルドマスターまで賭けていたらしい、

 ベッキーが怒る、どこかで見た光景

 

 「なぁなぁ?何で合格なんだ?」

 まだ若い駆け出しのハンター達が

 聞いてくる

 

 「あ…あの…わ…分かんない」

 クロフは状況に着いていけない

 だいたい合格って何が???

 

 

 

 

 

 「ちょっと?なんの騒ぎ?」

 狩りから帰ったばかりの小さいハンター

 

 「おぉ『レウス狩り』帰ってきたか、

 合格がでたんだ!」

 

 「なっ!!?」

 

 ズカズカとクロフの前に出る

 

 「何で合格なのよ!!」

 レウス一式装備のハンター

 

 「え…え…分かんない…」

 誰?小さい、グイグイ来る…

 

 ヒャッヒャッヒャ!!そりゃ解らんじゃろうの

 G級達が笑う

 

 ロクスが説明する

 「まず採取、気に入らんほど完璧

 じゃった」

 

 「次に見る目、既に上位並じゃ!

 ワシが何しとるか見えとる」

 

 おおおお!!歓声が上がる

 

 俺は解らなかったぞ、何してたんだ?

 どこを見たんだ?

 どうやって採取したんだ?

 ジャンボ村よりも大勢が、1度に

 しゃべる。

 

 質問攻め……怖い……

 

 

 

 「けっ!!どうせ四英雄の弟子だから

 贔屓したんだろ」

 ギルドの隅から下位装備の4人が

 態度悪く言う。

 

 それをロクスは一瞥すると

 「ベッキー!クロフのカード、ソロ討伐の数は?」

 

 「はいはい、ドスランポス×7、クック×11

 ガノトトス×1……うわ凄い!!水竜は

 いきなり最大金冠並!!!」

 

 ロクスはギルドの隅を見てニヤリ

 

 「やっぱりの!そのくらい実力あるわい」

 

 「あらぁ!ハンター歴一月半で!?」

 

 ベッキーはカウンターから身を乗り出し

 

 「上位検定の候補まで早そうよ!」

 

 

 

 「レウス狩りといい勝負だ」

 誰かから声が上がる

 

 「誰といい勝負よ!!!」

 甲高い……やっぱり子供?

 

 さっきからいるレウス一式のハンター……

 女性…っていうか女の子

 ………ちっちゃ……

 

 クロフの前で腕組みして胸を張るが…

 

 「あんた今ちっちゃいって思ったでしょ!!!」

 140センチの女の子が威勢良く。

 

 「あ…いや…思ってないよ」

 (思ってます)

 

 「ホッホッ、カンナよ、同じ四英雄の

 弟子同士、仲良くなぁ」

 

 「え!あんたがぁ?誰の?」

 更に寄る

 

 「ホッホッホッ、アルトじゃ」

 

 「ふん!調子乗るんじゃないわよ!」

 

 ロクスが諫める

 「カンナ、お前自分でもわかるじゃろ、

 採取と調合の知識がまだまだじゃ、

 それと狩りも才能はあるが

 それに頼りきりじゃ」

 

 どうやらこの子は不合格だったらしい

 

 「なによ…」

 

 「カンナちゃん、狩りは成功したんでしょ?」

 

 「失敗よ…」

 カンナと呼ばれた娘はクロフから

 離れていく

 

 

 「もう、頑固なんだから…」

 ベッキーは狩猟完了のスタンプを押す。

 

 カンナはテーブルに着き周りと話始める

 

 「あの子は?」

 

 「カンナちゃん、ひと月ほど前に

 此処に来て、既にリオレウスを10頭ほど

 狩ったんだけど…」

 

 「凄い!!」

 

 「でも師匠から出された宿題が達成

 出来なくて悩んでるの」

 

 「宿題?」

 

 「今度会う時までにリオレウスの

 尻尾を斬り落とせ…って」

 

 凄い…あんなのと戦うなんて

 

 「まだハンター初めて2ヶ月よ、

 ナナキも無茶な事を…」

 顎に人指し指を付ける

 

 「ナナキって…まさか最強の…」

 

 「あらぁ知ってたの?あいつが無茶な

 こと言うから……」

 

 「ホッホッ、丁度いいかもなぁ…

 カンナ!!こっちゃ来い」

 笑いながらギルドマスターが手招きする

 

 「なによ…」

 ムスッとしたまま。

 

 「お前達、今日から組め」

 

 「「ええーーっ!!」」

 同時に

 

 「コイツと!!?」

 カンナはこちらを向く

 

 「あんたレウス狩った事は!?」

 

 「無い………」

 

 「絶対無理!!!」

 

 「ホッ?カンナ、ガノトトス狩った事は?」

 

 「………ない…」

 

 「ホッホッお互いに教え合えば良かろ」

 

 カンナはこっちを睨む。

 

 「足引っ張ったら殴るからね!!」

 右手を出す

 

 あ、握手だ

 「よ、よろしく」

 ちっちゃいのに態度はデカイ……

 

 握手。

 

 

 




感想の方に、自己啓発の本みたいだ
と、ありましたが、
私自信が統合失調症みたいな人で、
その失敗や後悔、反省を勢いだけで
書いていたわけです。
そろそろ読みやすく編集しなきゃ。


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ドンドルマギルド

 

 

 「今さらクックなんてふざけんなっての!」

 

 ギルドマスターから二人で始めるなら

 クックで練習してこい、と言われて

 下位の森と丘へ

 

 ツインテールとかいう髪を揺らし

 前を歩く、太刀を背負うが…

 

 

 (あれ?……太刀が短いような…

 言ったら怒るよなぁ……)

 

 「何よ!じろじろ見んな!!」

 

 (何でこんなに怒る?)

 

 「あのさ、何で怒…るの?」

 

 「当たり前!!ギルドに来て早々に

 ロクスさんに不合格って言われたんだよ!!」

 (このアタシが…)

 

 「なのにアンタみたいなトロそうなのが

 合格って……」

 

 クロフは少し考え

 「…ロクスさんの技、見せて貰ってないの?」

 

 「技?何?」

 

 「太刀の技」

 クロフは手刀で表現する

 

 「なんのこと?」

 

 「ランポスを…」

 

 「ランポス偶然倒したアレ?」

 

 「偶然!?」

 クロフは意外そうな顔をする

 カンナさんには偶然に見えたのか?

 

 「え???」

 カンナはクロフの目を真っ直ぐ見る

 

 人の目を見てくる、

 クロフには怖くて難しい。

 

 フルミナントソードでクロフが説明すると

 

 「え!あれ凄い技術だったんだ!!」

 カンナは動きを真似る

 「武器を最小限の動きだけで…」

 何度も繰り返す

 

 二人とも気付く、

 見せて貰えた事を、達人の領域を。

 

 

 それがどれほどの幸せかを。

 

 

 ギルドに来たハンターに技を見せて、

 反応を見て

 技量を判断していたんだ……

 

 

 

 「何であんたは見えたの?」

 

 真正面から見てくる、迷いのない

 まっすぐな目

 緊張する、師匠を思い出す。

 

 「分かんない、偶然かも…」

 

 「でもアンタ凄い!」

 ピョンピョン跳ぶ、さっきまでのトゲがない、

 普通にしてれば可愛い子供だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 クックを発見、ペイントボールを投げる

 

 「よっしゃ!!行くよ!!」

 カンナは走り出す

 

 尻尾の振り回し!しかし…

 

 「えっ!!!」

 クロフは声を上げる、

 

 カンナは低い身長を更に低くして走る、

 尻尾は紙一重で当たらない、

 難なく足元に潜り込んで斬り付ける。

 

 

 受け流す、逸らす、じゃない!

 回避能力自体が高い!!

 

 クロフは尻尾を回避しながら一撃離脱を

 繰り返すが、カンナは連続で斬る。

 

 「ちょっと!邪魔!!」

 

 「え!?えっ!?」

 

 カンナの範囲に入らないように

 気を使うが、

 カンナは全く気にしない。

 

 クックがクロフに向く、突進!!

 足元のカンナは!!?

 

 

 

 「なんでぇ!!?」

 見えた、カンナの嘘みたいな動き。

 

 クックの突進…その足の間をすり抜けた、

 …………クックに正面から……

 前転回避した………凄い!!!

 

 ロクスさんの言ってた才能、

 カンナさんは小さい事が才能なのか。

 

 クックの攻撃を難なく避け続けるカンナ、

 懐に飛び込むのが上手い!

 

 ハンターの期間は同じ位だ、けど、

 回避能力が違い過ぎる。

 

 まだ駆け出しのハンターなのに、

 ほとんどダメージ無しで倒してしまう。

 

 ……カンナさん凄い……

 

 

 

 

 倒れたクックの近くで

 採取を始める。

 

 「薬草って全部採るんじゃないんだ?」

 

 「うん、葉っぱだけにすれば植物の

 回復も早い」

 

 「うちの村だと根っこ意外は全部だわ」

 正面にしゃがみこむ

 

 「狩場は村にとって収入原だから、

 維持、管理が大切だって教えられたよ」

 

 「うっわ、うちの村はいいかげんだわ、

 素材の回復なんて考えた事無い」

 

 「キノコなんかはきちんと胞子を落として

 おけば、早いと次の日に出るよ」

 

 「ホントにアンタは採取とか才能あるんだ」

 

 初めて言われた、これって嬉しい。

 

 「才能……かなぁ、ずっと仕事で」

 照れる。

 

 「師匠の言葉だけどさ、才能って努力の

 先にあるらしいから、仕事でも続けたら

 才能になったんじゃない?」

 

 (…才能…あるの?おれに?)

 

 

 

 キャンプに向かって歩く

 

 「あの…聞いていい?」

 怒るかな

 「ハンターになったのは…?」

 

 「うん?師匠がさ、フラッと村に寄ってさ、

 ランポスの群れを全滅させたのよ、

 カッコ良くてさ、頼み込んだの」

 

 手を胸の前で組み空を見る、

 少し顔が赤い、

 

 

 ちなみに胸と呼べる部位は無い

 

 

 さすがにこれを言ったら……

 

 

 「ナナキさん…最強って聞いてる」

 

 「でしょ!防具無しで勝つんだもん」

 ピョンピョン跳ねながら嬉しそうに

 

 「その技を教わった?」

 防具無しって怖くないのか?

 

 「んーん、避けろって言われただけ、

 目が良いから出来るはずだって」

 

 言いながらカンナは自分の目を

 指差す。

 

 

 「それだけ!?」

 

 「アンタは?」

 

 「え?俺?」

 

 「当たり前でしょ!アタシに聞いたんだから

 アンタも答えなさいよ!」

 

 「休暇で師匠が来たとき、明け方に

 急に部屋に入ってきて

 アンタは今日からハンターだって……」

 

 「え?四英雄が自分から?」

 

 「なんでだろ、今でも解んないんだ」

 

 

 カンナは思う

 (コイツ実は凄いヤツなん………?)

 

 

 

 

 

 ギルドへ戻りベッキーへ報告して飲み始める

 

 「アンタは飲めるんだぁ」

 目を丸くする、クロフを軽く見下していた

 が年上なんだと考え直す。

 

 「カンナさんは飲めないの?」

 俺も味は分からない

 

 「さん付けってやめてよ、カンナでいいって、

 それにアタシまだ14だよ、飲めないもん」

 

 「14?」

 まさかパティと同い年?そのわりに…

 言ったらブッ飛ばされそうだ。

 

 「ちっちゃいって思ったでしょ」

 軽く睨むが

 「まぁいいわ」

 果物を絞ったジュースを飲み始める

 

 「それよりアンタのこと教えてよ」

 

 「えっと、ジャンボ村から来たんだ」

 

 「東の辺境よね、師匠はアルトさんよね」

 

 「ねぇねぇ、アタシらにも聞かせてよ」

 女性のハンターが集まる

 

 「大変だったでしょ、カンナと組むって」

 片手剣を持つ女性に話し掛けられる

 

 「大変って?」

 初対面…緊張…

 

 「この子モンスターしか見てないのよ」

 中には男か女が分からないほどの体格、

 筋肉の……女性……か?

 

 「モンスターしか………?」

 クロフは解らない。

 

 「味方を気にしないで振り回すだろ?」

 

 「あ!」思い当たる。

 

 「だからカンナはソロは得意だけど、

 パーティーが苦手なんだよ」

 

 「それって凄い事じゃ…」

 

 「ルーキーの中じゃアタシが最強よ」

 カンナはドヤ顔。

 

 

 

 「彼女はいるの?」

 ズイッと前のめりになりながら聞いてくる

 

 

 

 「…………あ!」パティが浮かぶ…

 

 「ええーっ、いるのかよ」

 若い男のハンター達まで集まる

 

 嫌な気分じゃないけど慣れない空気、

 怖い………

 

 クロフ一人では話に自信は無い、

 こんなに大勢と話すのが初めて…

 

 「凄いよクロフ、採取のやり方」

 カンナがいてくれるおかげで話は続く、

 太刀の技に差し掛かった時…

 

 

 「よぉ!!!俺らと組めよ!」

 会話の中に入ってくる、

 贔屓だろうと言ってきた四人

 雰囲気が悪くなる、皆良く思って無いようだ

 

 「俺らと組んだら良い目見られるぜ?」

 クロフを見る

 

 「え…んーと…」

 

 苦手なタイプ、馴れ馴れしいのは良いが

 高圧的、イヤだ、この場を逃れたい。

 

 船乗りを思い出す。

 

 が、

 

 「止めなさいよ!!!」

 カンナは睨み付ける

 

 (助かった………)

 

 

 「なんだコラ チビ!!文句あんのか!!!?」

 

 ダン!!と立ち上がり

 「そのチビに頼りきりのザコが調子に

 乗んじゃねえ!!!」

 

 クロフと同年代の男四人に見下ろされる

 が、カンナはまったく引かない。

 

 (カンナ………口悪い……)

 

 

 「お?お?ケンカかぁ??」

 周りも囃し立てる、早くも賭けの話に

 なり、G級達も集まる。

 

 カンナに100ゼニー!

 俺はドラグライト!!

 秘薬の調合教えるぞ!!

 レウス狩りに料理5品!!!

 ワイワイ始まる

 

 次々カンナに賭け始めるが……

 

 「おい!!誰かやつらに賭けるヤツ

 いねぇのか??」

 

 誰一人賭けない、男四人にカンナが

 勝つと信じている。

 

 「チッ!!行くぞ!!」

 四人は出て行った、立つ瀬がない

 

 「今のは…?」

 

 カンナは座り表情も戻る

 「シュウとその仲間、弱すぎんの!」

 背中を侮蔑の目で見る。

 

 「装備見ると弱く無さそうだけど」

 

 レウス装備までいたが…

 

 「自分で勝ち取った素材ならね、

 あいつら人のクエストに付いていって

 戦わないのよ」

 

 若い双剣使いが言う

 「人に戦わせて自分はなにもしない、

 寄生ってやつらだよ」

 

 「そのくせさぁ勝ったら自分の手柄、

 負けたら人のせいにするのよね」

 かなり筋肉質の女が言う

 

 「強さは?」

 

 「四人掛かりでクックがやっと」

 カンナは果汁を飲む

 

 師匠の言ってたクックを

 『最近じゃ一人で狩ってないやつ』

 この事か……

 

 

 

 「何でこう…んと、ギルドに…」

 上手く言えない

 

 「ギルドのルールには違反してないの、

 あくまでも1つのクエストに4人まで、

 お互いに行くと決めたら行って良し、

 帰ったら解散」

 飲み干したジョッキを置くカンナ

 

 「だから1回行ったら皆2度と組まないのよ」

 片手剣の女が言う

 

 「だからアイツらは何も知らない

 新人に寄生する他ないわけさ」

 双剣使いが言う

 

 

 

 「それが恥ずかしい事だと気付かない?

 ……んーと……気付けない?

 言ってくれる人は居なかったの?」

 

 俺がやったら師匠に殴られそう…

 

 

 

 「あらぁ、そこは人それぞれよ」

 ベッキーがビールを持ってきた。

 

 「本人が恥ずかしいと思えるならハンター

 辞めてると思うわ、言ってくれても

 うるさい程度にしか感じないだろうし」

 

 ベッキーは片手を頬に当てて

 「難しいわよね、モノには言い方もあるけど

 受け取りかたもあるし」

 

 「ホッホッ、お前達は泥臭く努力して失敗を

 繰り返したじゃろ?

 それをカッコ悪いと思うヤツは成長せん、

 結果あぁして生きるしかない訳じゃ」

 いつの間にかギルドマスターが来ていた

 

 努力すれば話題も出来る、

 話が出来れば成長もする。

 師匠の言った通りだ。

 

 

 

 

 「クロフ君、まだ会ってない人を紹介

 したいの、こっち来て」

 ベッキーが手招きする

 

 「あ、まだ顔見せてないんだ」

 カンナが言うが……

 何だろう。

 

 

 

 ベッキーに奥の方に連れて行かれる、

 暗い部屋に大きなテーブル

 

 緊張……何………

 

 良く見るとテーブルの上に……岩?

 

 そして…イビキ?…え…何?

 

 「ほら起きて!姉さんの弟子よ!」

 

  「んん??あぁ…起こすな」

 

 「あんだあぁ??」

 

 「だから姉さんの弟子だってば!!」

 

 ベッキーがランプを点ける

 

 「なあああ」(濁点を付けて)

 

 テーブルから岩が落ちる、

 いや脚甲?…防具?…デカイ!!

 

 

 

 これ人の足!!!?

 

 

 

 そして二人の人物が立ち上がる!!

 見上げる!!2メートル、いや、もっと!

 

 「おめぇがクロフがぁ!!」

 

 「フム、細いな」

 

 二つの巨大な人影に

 見下ろされる

 

 一人はモジャモジャの頭、色黒、

 ギョロりとした目、そして全開で

 歯を剥き出し笑う、

 言葉が濁点だらけ

 まるでブルファンゴ!!

 

 「オデがゼルドだぁ!!!」

 

 

 もう一人はスキンヘッド、白い肌、

 目は鋭く眉間のシワが深い、

 眉が八の字で睨んでいるような

 困っているような、

 ヒゲが青い

 まるでドスランポス!!

 

 「おれはガルダだ」

 

 でかい!!身長はもちろんだが幅が凄い!!

 腕なんてクロフのウエスト位ありそうだ

 存在感、迫力が凄い!!

 

 これがドンドルマ専属の赤鬼青鬼か!!

 怖い怖い怖い!!!!

 

 「あああのよよろしくおおねがいしまます!!」

 (早口、裏声)

 怖い!!!デカイ!!!

 

 「フム、分からない事は何でも聞け」

 ガルダが言う、顔怖い。

 

 「ヨロジグなぁ!!」

 ゼルドは頭をグリグリ撫でる

 いたいいたい、手がデカイ!!

 

 そうか、師匠はこれで育ったんだ

 なんか納得出来た…

 

 

 

 「じゃ二人とも、お休みなさい

 ごめんね、起こしちゃって」

 

 二人とも同じように寝始める。

 

 

 部屋を出る

 

 

 「この二人こそドンドルマの顔だし、

 姉さんの家族だから紹介しない訳には

 いかないからね」

 

 「何で寝て……」

 

 ベッキーが察して話してくれる

 「徹夜で緊急事態に対応してたのよ」

 

 「あの、専属……」

 

 「あ、説明するわね、専属ってドンドルマ

 に常駐…つまり、いつもいるの、

 そしてドンドルマの危機に対して

 出動するの」

 

 「危機?」

 

 「例えばドンドルマの近隣の村が

 モンスターに襲われたとするわね、

 その村はクエストを発注出来るお金

 がない、さぁどうしましょう?」

 指を立てる

 

 「クエストにならない…

 ハンターは…タダでは…うーん」

 

 「その村はドンドルマに向かう商隊の

 通り道、その村が無くなると、ドンドルマ

 にとって損失に繋がる」

 指をくるくる回す、師匠と同じクセ…

 

 「そういう時に出る人……?」

 

 「そう!報酬無し、失敗は絶対許されない

 もちろん猫タクさえ安定して出せない」

 

 「え…いやだ…それ怖い…」

 無理だ、力尽きたら終わり!!?

 

 「昼夜も無し、モンスターの種類も数も

 情報無し…そんな場合に出るの」

 

 「え?それじゃ対策も準備も………」

 鳥肌が立つ

 

 「そうよ、いつ何が出てきても、多数でも、

 全て撃破する使命の二人なのよ♪」

 

 「G級の中でも…トップクラスですよね、

 ……そんな事出来るの」

 ロクスさんといい化け物だらけ………

 しかも師匠とガストンさんも………

 

 「あ、でもその代わり、全部ドンドルマ全体で

 面倒見るのよ、武器防具の費用、飲み食い、

 ぜーんぶ♪」

 

 それは魅力的だけど、一体どれだけ

 強くなったらそんな領域に……

 

 「だから周辺の村の信頼が厚くて、

 みんなドンドルマを通して取引するの」

 

 

 

 「あ!!!師匠が助かったのって!!?」

 

 「正にそれよ!報酬ないでしょ?」

 

 ベッキーは嬉しそうに笑う。

 

 

 「この人達に鍛えられたんだ……師匠…」

 

 「そう!蹴りを手甲で受け流して…」

 ベッキーは動きの真似をする

 

 思い出すが…

 あのデカイ足で蹴られるの…?

 

 「よく吹っ飛ばされてたわ♪」

 ニコニコ笑う。

 

 



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最強

 

 「カンナ!」

 クロフは回復薬を渡す

 

 「痛ったぁ!!」

 カンナの体重は軽いため

 派手に吹き飛んだ。

 

 「こんなに強いの?!ガノトトスって!

 足元に攻撃出来るヤツなんだ!?」

 

 リオレウスは足元に攻撃できない、

 そのセオリーが通じない。

 

 尻尾を避けるのは簡単(カンナには)

 だが、体当たりは経験が必要だ

 

 太刀はガードできない、

 そしてカンナにはリーチがない、

 リスクは高いが

 

 

 「でも解ったわ、次は避ける!」

 

 カンナはガノの足元を素早く移動、

 常に尻の辺りに張り付くように攻撃。

 

 カンナは体当たりを避け始める。

 

 

 

 

 ドンドルマ管轄、密林の三番、

 沖の島まで同じ地形

 

 

 「凄いね、1回見ただけで」

 剥ぎ取りながら

 

 「へっへー!師匠並みにはいかないけどね」

 大威張り。

 

 

 クロフは派手さは無いが堅実に攻撃し、

 サポートに回れるタイプ、

 

 カンナはチャンスに一気に攻撃する、

 バランスは取れている。

 

 「カンナはどうして太刀なの?」

 

 「師匠が太刀使っててさ、アタシにも

 使ってみろってさ、あんたは?」

 

 「片手剣渡されたから、最初は使ってた、

 でも一人でトトスと戦う時大剣を…」

 

 会話のキャッチボールが出来る、

 聞く、答える、ちゃんと出来てる……

 そんなことを考える、と、

 

 

 「なんでニヤケてんの?」

 

 考えてたら下から見上げて来る

 

 「あ、あの、人と話すの苦手だったんだ…」

 

 村での自分、過去の大嫌いな自分の事、

 話すのは怖い……

 嫌われる?バカにされる?嘗められる?

 

 「あ……あの…あ……」

 近い

 

 「あのさ、引っ込み思案は損だよ?」

 

 「損?」

 

 「アタシらハンターなんだよ?明日死ぬかも

 知れないんだよ?

 言いたいことは言わないと後悔するよ?」

 

 そうか、言いたいことは言わないと

 次がある保証は無い…けど…

 

 「でも、ケンカになったりだとか…」

 

 「そんなのブツかって当然、ケンカも当然、

 次は無いかもしれないんだから」

 

 年下に諭される

 

 人と話すのが苦手なクロフは

 トラブルなど起こしたくもない……

 

 ヤオザミがノソノソ歩いている

 (こんな生物でも縄張り争いはする、

 でも、俺には……なんか……)

 

 

 

 

 ギルドに戻りクエスト完了のスタンプを

 貰う。

 

 「ベッキー、リオレウスは……」

 

 「んー、今は下位は…無いのよ」

 

 ベッキーは何やらゴソゴソとカウンター

 の裏を探ると

 

 「あった、はい、カンナちゃん」

 

 出されたのは小さな手紙、読むと

 

 「ヤッバ……師匠が来る」

 カンナの顔が曇る。

 

 「え!ナナキさん!?」

 クロフが言うとなぜか

 ギルドに笑いが起こった

 

 「あいつ来るのか!」

 「今度は何の話が出るか楽しみだ!」

 「ベッキー!気を付けろよ!!」

 

 上位やG級達がワイワイ騒ぐ。

 

 「どうしよう…宿題できてないのに…」

 カンナの体は小さい、覇気をなくすと

 更に小さく見える。

 

 

 (たしか師匠の話だと最強だけど

 変態って………)

 

 

 

 

 

 それから数日、カンナは元気が無く

 口数も減っていた。

 

 偶然に期待して森と丘の採取に

 何度か行ったが………

 リオレウスは現れなかった。

 

 

 

 

 空振りしてギルドに戻る、と

 

 「アッハ!ちゃんとハンターやれてるじゃん!」

 

 「師匠!」

 

 アルトが飲みながら手を振る、

 フルフルの装備だろうか。

 

 「え!何で!?」

 

 「ナナキのヤツがさ、ドンドルマに

 寄るって言うからついでにさ」

 

 東の山岳地帯、ユクモ村辺りに

 調査に行くそうだ。

 だいたいジャンボ村とドンドルマの

 中間辺り。

 

 カンナは礼儀正しく

 

 「初めまして、カンナです」

 普段の態度と明らかに違う…

 

 「アッハ!聞いてるよナナキから、

 物覚えの良い天才だって」

 アルトはカンナと握手する

 

 「え、えぇ?師匠、ほめてんの?私を?」

 カンナが珍しく照れる、

 笑顔になった。

 

 「ホッホッ、普段ふざけとるが

 見るべき所はキチンと見とるよ」

 

 ギルドマスターが話してくれる

 

 「モンスターの動きを一度見たら覚える、

 と言うことは、仲間の動きも覚えるんじゃ、

 アヤツに認められたら素質があると

 言うことよ」

 

 「で…師匠は……?」

 カンナは見回す。

 

 「ホッ?さっきまでその辺に……」

 

 

 

 その時、ギルドの反対側の方から

 

 「きゃああっ!!!」

 

 誰かの悲鳴

 

 「パアァァン!!」

 乾いた音……?笑い声……

 

 「アッハ、あそこだ、ナナキー!こっち!!」

 

 

 一人の男がこっちへ来る

 

 

 

 

 「はい、お待ち!

 アプトノスのソテー・ベルナス添え!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 は……?なに?この人……?

 クロフはポカンとする。

 

 ハンター…だよな、ギルドスタッフ

 にこの人居なかったとお…

 

 「師匠…ベッキーのお尻さわった?」

 

 「お?久しぶりだなカンナ」

 

 ……インナーだけでトレイを持ち、

 料理を運んでいる男。

 歳は30くらいだろうか、

 体格は師匠(アルト)と同じ位か?

 黒の長髪、浅黒い肌

 細い顔立ち。

 

 

 

 

 そして頬に赤い手形………

 

 

 「アッハ、ナナキ!懲りないねぇ」

 

 「師匠、恥ずかしいから止めて」

 

 

 男はふんぞり返り、

 「何を言ってんだ?

 ドンドルマと言えばベッキーの尻だ!

 触らないなら何のために来たか解らん!」

 

 (あの、弟子に会いに来たんじゃ…)

 

 テーブルに飛び乗り変な手付きで

 

 「大きさ、丸み、柔らかさ、張り、

 大陸中でも滅多に居ない稀少種だ!!!」

 

 大威張り。

 

 何だか分からない理屈と迫力に

 気圧される。

 

 「ギャハハハハ!!」

 「いいぞ!ナナキィ!!」

 

 ギルドが笑いの渦となる。

 

 

 

 小声でクロフは聞く、

 「…この人、酔っぱらってます?」

 

 「アッハ、これでもシラフ」

 

 「この人が最強の……」

 クロフがつぶやく、強そうには

 見えない

 

 「アッハ!こうならないでよ?」

 アルトはナナキを指差す。

 

 

 「あ…あの、クロフです…」

 クロフはナナキに右手を出す、

 

 「やっぱり君か」

 テーブルから飛び降りる

 

 ………………え?

 

 「ちょっと?知り合い?」

 カンナとアルトが聞く

 

 知らない。

 

 「ハハ…まぁ覚えているわけないか」

 ナナキは寂しそうな顔をすると

 握手はしてくれたが……

 

 クロフはずっと村にいた、

 ならばナナキもジャンボ村にいた?

 覚えていない。

 

 アルトとカンナもクロフの次の言葉を

 待つが出てこない、

 変な空気になりかける

 

 「よし、これは宿題にしよう!

 クロフ、必ず思い出せ」

 ナナキは元のテンションに戻る。

 

 「ベッキー!クエストは!?」

 ナナキが呼び掛けると

 

 「アンタの希望通りのクエスト

 確保してあるけどさぁ、

 本来ダメなんだよ?早い者勝ちだし」

 

 言いながら依頼内容を持ってきた、

 森と丘のリオレイア

 

 「明日は四人で行くとしよう」

 今日はもう寝る、そう言うと

 ナナキはハンターの宿舎へ向かう、

 ついでにベッキーの尻を…

 

 

 

 パアァァン!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日早朝、ギルドの前で待ってると

 ナナキが遅れて来た。

 クエストはリオレイア

 

 

 

 

 

 

 

 そう、リオレイア…

 

 

 

 

 

 

 「じゃレイア狩り行こう!」

 元気良くナナキは言う。

 

 インナーだけ…どこから持ってきたのか

 背中に籠…大量のピッケルと虫網。

 

 頭に麦わら帽子、農作業ですか?

 

 クロフが固まると、アルトが

 「こういうヤツなんだ」と言ってくれるが

 

 

 「ナナキー!!!」

 ベッキーが乱暴にドアを開ける。

 

 「またアンタはフザケて!!

 武器くらい持ちなさいよ!!」

 

 「えー良いじゃん、俺とアルトは

 手ぇ出さないし」

 

 ベッキーは背中の籠を引っ張って

 下ろすと中を探る、

 剥ぎ取りナイフさえ無い

 「武器無いじゃない!」

 

 が、

 

 素早くナナキはベッキーの後ろに

 回り込む!!

 背中から胸をなで…

 

 「まったく…こんな所に肉を付けて…

 もっと尻に付ける努力を……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「アイツ照れやがって…」

 軽く鼻血をにじませながら

 狩り場へ向かう竜車の中、

 ナナキはペイントの実を弄くっている。

 

 「アッハ、何回叩かれた?」

 

 クロフは不思議に思う、

 覚えていない、それもあるが

 もうひとつ腑に落ちない。

 

 

 

 

 

 「師匠、あの…尻尾…」

 カンナは暗い。

 

 「無理だったろ」

 何かの羽根をイジリながら

 

 「え…」

 カンナはナナキの顔を見る、

 解っててやらせていた…?

 何のために???

 

 それを察した様に話す

 「その代わり立ち回りは上手くなったろ、

 正面には立たずにケツの辺りで

 斬れるだろ?」

 

 アルトがフォローする

 「一番リスクの少ない場所を体で

 覚えさせたのよ、他の飛竜系統にも

 対応出来るように」

 

 カンナの顔が明るくなる、

 この人の言う通りにしてれば

 間違いない

 言われてみればやってる!

 

 「ただなぁ、リオレイアはそれだけじゃあ

 負けるぞ?」

 

 「え、ダメなの?」

 

 「体で覚えて来い」 

 

 

 

 

 

 森と丘、中央の草原にレイアはいた…

 俺とカンナは大剣と太刀を構える。

 

 咆哮! 俺にとって初めての陸の女王!!

 

 三連ブレス!

 

 「うおぉっ!!」緑の草原が焦げる!!

 不様に転がり回避!

 

 三回も連続でブレス?

 

 怖い、けど これに勝てたら認められる、

 そんなモンスター!!

 

 

 

 

 

 

 

 …………だよ?

 

 

 

 

 

 

 「うわぁ不死虫居ねぇ」

 

 「上手に焼けましたー」

 

 ………………

 

 

 なんだろう、この緊張感の無さは…

 お互いの師匠達はレイアのいる

 同じエリアで………

 

 「アッハ、アタシも光虫とろう」

 

 「虫網売ってやろうか?」

 

 虫網を振り回している。

 

 

 強い人って………

 

 

 もちろんリオレイアは突進したり、

 攻撃に行くが、師匠達は難なく避け、

 のんきに肉を食ったりする。

 

 

 強い人って…理解出来ない…

 

 

 突然ナナキが

 「よし!!だいたい解った!!」

 

 言うと無防備に籠を下ろしレイアに

 向かって歩く、武器も無しで。

 

 「師匠!!?」カンナが声を上げる。

 

 レイアは尻尾を薙ぐ!

 「ブォン!!!」

 唸りを上げてトゲの付いた塊が

 インナーだけのハンターに!!!

 

 

 「またふざけて…」

 カンナはレウスを一緒に狩っていたころ

 を思い出す。

 

 「え…何してるんだ?!」

 俺には見えた!

 尻尾に合わせて後ろに跳んだ!!

 これが人間の動きか!!?

 

 

 案の定、ゴロゴロ転がった後、

 ナナキは無傷で立ち上がると

 帽子を拾い、

 

 「じゃ、後は任せる♪」

 そう言うと師匠(アルト)と一緒に

 エリアから出ていった。

 

 何だったんだ?何のために

 師匠達はココに居たんだ?

 

 その途端、レイアの攻撃が激しく感じる、

 

 そうか…俺のためか、

 初めてのレイアに慣れるまで目標を

 分散しててくれたんだ…

 

 向こうからカンナが声をかける、

 「クロフ!大丈夫!?やれそう??」

 

 「何とか慣れてみる!」

 

 咆哮!!カンナはマトモに聞いて固まるが

 俺はガードから閃光玉!

 

 カンナは走り込み股下から斬り着ける

 「アンタと狩ると楽だわ!!」

 

 クックとちがって大きいため、こちらも

 カンナの攻撃範囲を気にせずに羽根を。

 

 「うん、何か噛み合う!!」

 

 

 

 

 

 

 

 「これくらいで足りるか?」

 

 「アッハ、あんまり多くても勉強に

 ならないし」

 

 二人の師匠は閃光玉を調合する。

 

 「アルト、クロフは人も見てるな」

 

 「ロクスさんの試験、合格するほど

 とは思わなかったよ」

 

 「素直か?」

 

 「言われた事は基本的にやるんだ、

 ただ前は自発的じゃなくてさ、

 怒られるのを怖がっててさ」

 

 「人嫌いだったしな」

 

 アルトは軽く睨む

 「クロフは…アンタやっぱり…」

 

 「あぁ、ポッケの全滅の後、一時

 ジャンボ村にもいたんだ…

 その時の恩人だ」

 

 「やっぱりな」

 アルトは村長と船長を思い出す。

 

 「クロフに言うなよ?」

 

 「アッハ、分かってるって!」

 

 

 

 

 

 ブレス!!ガード!!

 

 「アッチィー!!」

 クックと違い直線で飛んでくる、

 可燃液ではないのに凄い衝撃、

 しかも三回!

 

 カンナはおかしな事に気付く、

 ペイントの匂い。

 「クロフ!!ペイントボール当てた!?」

 

 「えっ!?やってない!!」

 噛みつきをかわすが、

 ホントだ、匂う。

 

 レイアは飛び上がる、移動していく。

 

 匂いのお陰で見失うことはない。

 

 「師匠達かな」

 大剣を研ぐ、ガードだけで切れ味が落ちた。

 

 「多分」

 ソロと違って回復薬の消耗が少ない、

 パーティーも悪くないかも。

 

 

 

 

 

 

 「で?カンナは素直じゃ無いわけ?」

 

 「アイツはなぁ、言ったことに反発

 するからな」

 ピッケルを振りながら

 「頭は危険だからケツを斬れ…

 って言ってやったら…」

 

 「アッハ、頭狙うわけね!」

 石ころを集める

 

 「そうなんだよ、変に才能あるから

 人の言うこと素直に聞かない」

 

 「それで尻尾斬れか…アンタは

 教えかた上手いんだな」

 

 「惚れたか?」

 

 「殴るよ?」

 

 「アイツは才能に頼りきりだ、

 必ず挫折する時が来る」

 

 「成長期だしねぇ」

 

 「あと少し背が伸びたら回避出来なく

 なる、それまでに理屈で考える

 様にしないとな」

 

 「アッハ、それで二人を組ませたんだな、

 さっすがジイチャン!!」

 アルトもピッケルを振る。

 

 「毒消しも用意しとかないとな」

 

 「えっ?カンナは狩った事…」

 

 「無いんだなこれが、教えてる頃

 レウスのクエストはあったけど、

 レイアはな」

 石ころと粘着草を調合しながら

 「ドンドルマで自分で狩ると思ってたら、

 レウスだけ狩ってたらしい」

 

 「じゃサマーソルトは!!?」

 

 「見たこと無いわな!!」

 あっはっはとナナキは笑う。

 



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天才故の壁

 

 三番にレイアは移動した、

 すぐ隣のためクロフ達の方が早く着く

 リオレイアは背中を向けながら降りてくる

 

 「あっ!!!」

 クロフは何かに気付く

 

 「え?!何?!」

 

 「尻尾!尻尾に!!」

 

 三連ブレス!

 カンナは股下を抜けて尻尾を見る

 

 「うそ!凄い!!」

 全身緑色のリオレイア

 その尻尾にピンクの線が書かれている

 

 (竜車の中でペイントの実を…

 ナナキさんだ、あの一瞬に…)

 

 「ここを斬れば良いのね!」

 

 リオレイアとリオレウスは同種の雄と雌、

 斬れる場所も恐らく同じ、

 尻尾が切れない私に

 勉強させようとしてるんだ!

 

 振り回し!!

 目の前を通過するが手は出せない、

 

 

 (もしかしたら…)

 クロフは納刀して

 

 「カンナ!!三連ブレスの時!!」

 

 カンナは理解したように頷く

 

 

 

 

 

 

 一方キャンプ

 

 「これだけあれば足りるだろ」

 

 「アッハ、あんたも優しいねぇ」

 

 閃光玉、回復薬グレート、

 解毒薬まで作っておいた

 

 

 「後は釣りでもしながら待とうぜ?」

 

 「アタシは見てくる」

 双眼鏡片手に

 

 (甘いのは御互い様じゃね?)

 

 

 

 

 

 

 クロフはリオレイアの正面を動き続ける

 

 そうかクックと違って

 突進の途中で止まるのか。

 

 レイアが振り返る

 

 そこから更に方向転換して…

 

 レイアは突進!

 

 追いかけるのか…

 

 クロフは囮になっている、

 ブレスの時に尻尾を斬るカンナ

 

 解る、他の部分に比べて刃が深く入る

 これなら!!

 

 レイアが二歩下がる

 その動きに二人は一瞬止まる

 初めて見る動き

 

 (何だ?)

 

 そこから

 

 「バシィッ!!!」

 

 空中へジャンプしながら一回転

 その動きで尻尾を下から上に振り上げる

 通称サマーソルト!!

 カンナは派手に吹き飛ぶ!

 

 

 「うっぐぁ!!!」

 地面に背中から落ち、転がる

 

 「カンナっ!!!!」

 

 しかもサマーソルトの恐ろしいのは

 

 「あっぐ…」

 カンナは何とか立つが

 

 あれ…目眩?…吐き気?

 しまった!!毒だ!!

 視界が定まらない!!

 

 そのまま倒れる。

 

 

 

 どうする?逃げるか?

 一人で戦うか?

 クロフは考える。

 

 にゃあにゃあ騒ぎながら

 素早くネコタクがカンナを載せる。

 

 「おぉいクロフ!こっち!」

 

 アルトが呼んでいる

 

 そうだ、生き残る、

 ハンターならば生き残って学ぶ、

 それなら……

 

 クロフはキャンプに向かって走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 カラガラガラ…ドザァ…

 

 「ぎゃうっ!!」

 

 ………あれ?

 

 「あっはっは!意外と粘ったな、

 もっと早く来るかと思ったぞ」

 釣竿を上げてこちらを見るナナキ。

 

 「師匠……」

 地面にペタンと座ったまま

 

 「何を学んだ?」

 竿を片付けてカンナの方へ

 

 

 アルトとクロフが入ってくる。

 

 「レイアしか見て…」

 

 「違うな…尻尾だけ見てただろ」

 

 

 

 (言いたいことは言わないと…

 後悔する………)

 

 「いえ、カンナも予備動作には気が

 付きまし…た…」

 クロフが口を挟む。

 

 (うわ、言っちゃった!最強の人に!

 怖い、怒る?怒るよね……)

 

 

 アルトはニヤケる

 (アッハ!クロフ!

 言うようになったじゃない!!)

 

 

 

 「じゃあそこからどうした?」

 ナナキは腕組みして聞く

 

 「避けられると思って…」

 カンナは俯く

 「だけど……肩……と……」

 

 「お前は目がいい、人はともかく

 モンスターはよく見てる」

 ナナキはカンナの前にしゃがみこむ、

 「だけど小ささに頼りきりだ、

 ロクスさんにも言われたろ?」

 

 「どうしたら…」

 カンナは泣きそうになる

 

 「レイアのナナメ後ろ……とか?」

 クロフが言う

 

 二人の師匠は顔を見合せる

 

 「アッハ!しっかり回復して

 行ってきな!」

 

 もらった解毒薬も持って行く。

 

 

 キャンプから出ていく背中を見ながら

 

 「アルト、聞いてたハナシと違うぞ?」

 ナナキは首を傾げる

 

 「アッハ!また成長してるわ、人に意見

 出来るようになってる」

 

 

 

 

 

 またカンナは暗い、

 気付いてしまった、自分の弱さに。

 

 『レウス狩り』

 こんなアダ名を付けられ舞い上がってた、

 レウスが狩れれば大体同じと思ってた。

 

 「違う…」

 

 レウスに慣れすぎて、

 レウスしか狩れない…

 それに………

 

 「何が?」

 

 「え……?」

 

 「今違うって」

 

 「あ……あぁ…レウスと行動が…」

 

 「どのへん?」

 クロフは聞きたい

 

 「レウスはね、飛ぶの。

 飛んで上空からブレス吐いたり

 飛び掛かってくる」

 

 「怖いね、手が出せない…」

 

 「あぁでも狙いが正確すぎて

 前転で回避出来るのよ、

 それに閃光玉で簡単に落ちるし」

 

 

 

 

 

 九番の細長い通路のようなエリア

 ノシノシと緑色の巨体は歩く

 

 いつも突っ込むカンナだが

 

 「広いところに誘導しよう」

 

 クロフの言葉に黙って従う、

 クロフには少々気持ち悪い。

 

 咆哮!!ガードから斬り…

 ブレス!

 

 「カンナ!!」

 

 今度は正面じゃなく横から走り込むが、

 一回斬っただけでレイアが突進、

 連続で斬れない。

 

 カンナは納得いかない顔、だが

 「抜刀斬りだけで良いよ!!」

 クロフは叫ぶ。

 

 カンナだってそんな基本は知っている、

 だけどプライドが邪魔をする、

 レウス狩りのプライドが。

 

 涙が出てくる

 私は強い、新人の中でも最強…

 ソロでリオレウスなんて余裕……

 

 見下していた…自分以外……

 四英雄の弟子だって……

 

 調子に乗ってたの私だ……

 

 

 リオレウスだけしか………

 それに…………

 

 「ううぅ、うぐぅぅ…」

 戦いながら泣き始める、が!

 

 「カンナ!!横!!」

 クロフは横に手を伸ばし指差す

 

 反射的に横に回避………あ!!!

 

 サマーソルトで飛び上がって…

 

 降りてくる、尻尾が!目の前に!!

 

 「ここかぁ!!!」

 カンナは一気に斬る、かなり深い

 手応え!!

 

 クロフは気付く。

 この攻撃……もしかして……

 

 「真後ろよりも横だわ!!」

 カンナは嬉々として攻撃

 

 じゃ俺は反対がわ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 「クロフは自閉症みたいだったぜ?」

 また釣りをする

 

 「小さい頃の愛情不足だったのよ」

 ゴロゴロしている

 

 「そういや女の子いたろ」

 

 「あぁ、パティか…アンタまさか…」

 

 「カンナと同じ位の歳だよな…」

 

 「手ぇ出したらクロフに代わって

 アタシが殴るよ?」

 拳を握る

 

 「またクロフには借りを作ることに

 なる、見損なうな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 四番

 閃光玉で動きを止めると攻撃しやすい

 ……と思ってたらそうでもなく、

 暴れるために細かいダメージ。

 

 特に噛みつきの時、反動で尻尾が

 動き、つまらないダメージ。

 

 二歩下がる!!カンナは構える!

 サマーソルト!!

 

 

 

 「ここだぁぁ!!!」

 クロフは閃光玉を投げる!

 

 ドザァっ!!!

 「グルルル……」

 

 墜落してジタバタもがく。

 

 尻尾を斬りながら

 「これで堕ちるんだぁ!!!」

 カンナは斬りまくる。

 

 やっぱり!!

 「予想当たった!!」

 

 と、

 

 

 

 バサッ!!!

 

 

 

 

 は??

 

 

 

 突然レイアは50メートル程も跳び

 着地する。

 

 何が………

 

 「切れたぁ!!!」

 カンナは叫ぶ。

 

 見れば尻尾の先端

 (とは言っても人間位の)

 が落ちている。

 

 やったやった♪とはしゃぐカンナ、

 

 「まだ油断は……」

 ビックリして跳び上がった?

 

 レイアは足を引き摺り…飛ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「アッハ!いきなり逆鱗出たかぁ!」

 帰りの竜車の中、クロフのポーチ

 を見る。

 

 無事に討伐完了。

 

 「初めてで出るのズルい」

 カンナは鱗だった

 「まあいいや、尻尾切れたし♪」

 カンナは笑顔

 

 「うんうん、我が弟子たちよ、

 成長したなぁ」

 

 「クロフはアタシの弟子だ」

 

 ナナキは相変わらず

 

 

 「あの、ナナキさん尻尾の線…」

 

 「おお、あれな、分かりやすいだろ♪」

 言いながら鳥の羽根を取り出す、

 「これ、返しずらいな……」

 

 「なんか見覚えあるけど…」

 カンナは手にとってマジマジ見る。

 ペイントの実で染まったピンクの羽根、

 まだ少し手に付くし……

 「あれ?コレ羽根ペンだぁ!」

 

 「丁度良い道具が無くてな♪」

 

 「朝、こんなペン持ってました?」

 背中の籠に?

 

 「ベッキーの胸ポケットから♪」

 笑いながらナナキは変な手付き。

 

 ………あの時か!!

 

 まったく油断ならない人だ…

 そう言えば俺が知ってる人のはず…

 

 「クロフ…今日は何を学んだ?」

 ナナキが真顔で聞く。

 

 「アタシの台詞だろ!」

 ナナキの頭をペシッと叩く

 

 クロフは背筋を伸ばす。

 

 「まだリオス種よりもクックとかで経験

 を積んでおいた方が安全かと…」

 

 ナナキはアルトをみてニヤリ、

 アルトも笑う。

 

 「うん、やっぱりお前は慎重すぎる、

 でも一番生き残る」

 ナナキは頷く。

 

 「師匠!私は?」

 ずいっとカンナが身を乗り出す

 

 「しばらくクロフに従え」

 

 「何で!!!!」

 納得いかない!!

 

 「今までは上手く行ったが…お前は必ず

 挫折する、その時死にかねない」

 

 「なんでぇ!!!」

 顔を真っ赤にして怒る。

 

 アルトが言う

 「ねぇ、カンナ。自分で気が付いてない?

 成長期なんだよ、

 今防具、キツくない?」

 

 「……………ちょっと……」

 

 「ナナキはね、心配してるの、

 これからアンタがぶつかる壁に」

 

 アルトはカンナの目を真っ直ぐ見る。

 

 「……壁……」

 

 ナナキが真剣な顔になる

 「責任の大半は俺にある、

 お前を回避ばかりのハンターにした」

 

 カンナの太刀を見て

 「お前は体が小さい、ガードしても

 吹き飛ばされる、だから太刀を勧め、

 目の良さもあったから…」

 

 カンナは泣きそうで俯く。

 

 「本当は自分でも気が付いてるよな、

 背が伸びてきてること」

 肩に手を置く

 

 「私、弱くなるのやだぁ……

 やだああああ…………」

 泣き出す

 

 「弱く……?」

 クロフには分からない

 

 「クロフ、頼みがある」

 ナナキはクロフに向き合う、

 緊張……。

 

 「カンナは背が伸びたら…今までの

 様に回避出来なくなる、戦いかたを

 根本的に変えなきゃならなくなる

 かも知れない」

 

 「それは…しろうと…に?」

 

 「戻るかも知れない、武器も変わるかも

 知れない、

 なのに今までの調子では……」

 

 「無謀な…」

 

 「そう、ただの突撃になる…だから」

 

 クロフに頭を下げる

 「カンナを守ってくれ」

 

 「えっ?あの、えっ?」

 最強の…雲の上の人に…

 畏れ多いってこういうこと……?

 

 「アッハ!アンタの知識で助けてあげな」

 

 「知識?」

 

 「道具の知識、

 後はロクスさんに頼んであるから」

 

 「すまん、よろしく頼む!」

 現役最強が深々と頭を下げる。

 

 

 こんな形で自信を失う事があるとは、

 今まで積み重ねた強さが無くなる

 なんて…

 

 

 

 

 

 

 

 ギルドに戻ると

 

 「じゃ」と言いながらアルトは拳を出す

 

 「え?もういっちゃうの?」

 何日か教えてくれると思ってた

 

 「アタシらも忙しい身になっちゃって」

 申し訳なさそうに拳をぶつける。

 

 

 「じゃ行くからな、カンナ…」

 

 カンナは下を向いたまま後ろを向く、

 強いとは言っても14歳なんだと思い直す

 

 「ロクスさん、お願いします」

 

 「あぁ、ワシも何とかして

 やりたいと思っとった」

 

 クロフがロクスに聞く。

 「あの…師匠は自分の成長が…

 邪魔になるって言うか……」

 上手く説明出来ない

 

 「この娘(アルト)は運動神経がな」

 

 「アッハ、アタシお嬢様で足が遅くて

 回避苦手で、…いきなりカンナほどの

 強さにはなれなかったし…」

 俯くカンナを見ながら

 「天才故の悩みだよな…」

 

 

 「じゃこれからカンナは…」

 基本から…やり直し?

 

 「さぁな、この子次第じゃの」

 

 

 

 

 

 

 ユクモ村に向かう二人、

 ガーグァと呼ばれる大きな地鶏の車、

 竜車に比べると小さいが速い、

 乗り心地は最悪……

 

 クロフになにが返せるか

 

 「最強の四英雄が駆け出しの

 クロフに借り二つとはなぁ」

 

 「アッハ!書士隊への推薦だよ!」

 

 「あいつ入りたいのか!?」

 

 「ハンターになった理由が

 『色んな遺物見たい』 だからね」

 

 「どうしたもんかな…」

 

 

 

 

 

 次の日

 クロフ、カンナ、そしてロクスは

 森と丘の採取に来ていた。

 

 クロフは荷車を引かされ疲れている。

 

 「ロクスさん、これは?」

 重かった。

 

 ロクスは無言で被せた布を捲る

 

 アイアンソード、鉄刀、ハンターナイフ、

 アイアンランス、ライトボウガン等々

 

 ロクスはカンナを見る

 「解るな?」

 

 「自分に合う武器を見つけろってことね」

 カンナは真剣

 

 「一つ聞かせろ、お前はハンターで

 何を目指してるんじゃ?」

 

 「師匠! だから太刀を…」

 

 「なんじゃ!ナナキめ、本当の武器さえ

 教えとらんのか!」

 

 「「え??」」

 二人で顔を見合わせる、

 そう言えばクロフは武器を持った

 ところさえ見ていない

 

 「あいつはランス使いじゃ」

 

 「はぁあ!!!?」

 カンナ声を上げる

 太刀と全然違うじゃん

 

 

 

 

 やれやれと首を振り、

 「始めるぞ!!」

 

 



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陰口

 

 「どう!?カンナ!!」

 クロフは砂漠で大剣を振るい

 音爆弾を投げる

 

 「難しい!!」

 カンナは武器の重さに苦戦する、

 「脚が沈む!!」

 

 ドスガレオスは尻尾を振り回すが

 「ブォン」

 「ガスッ!!」

 

 「でも楽! 吹っ飛ばない」

 

 ランスって盾の重さを

 利用する武器なのか!

 

 攻撃が足にしか当たらないし

 大したダメージが入らない、

 もちろん回避らしい回避も出来ない。

 

 けど

 「ブォン」

 「ガスッ!!」

 

 ガードしても疲れない

 

 生き残る、それがハンターとしての

 正解ならば、これほど体現

 している武器はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「太刀ィ?」

 ロクスは顔を歪める

 

 「ロクスさんの…太刀の技術を

 教えてあげたら…

 カンナは今の…」

 上手く説明出来ない

 

 「言おうとしてる事は解るがのぉ」

 

 「違うの?」

 カンナは期待していた

 

 「ワシはガンナーじゃ!!」

 ボウガンを構える

 

 

 

 

 

 

 

 

 「まさかガンナーだとは…」

 身体中の砂を叩く

 

 「以外過ぎるわ」

 カンナは靴から砂を出す

 

 ドスガレオスを倒し、

 キャンプで一休み。

 

 「使えそう?」

 クロフが聞く、実は他の武器も

 興味が出た。

 考えてみれば自分から武器を

 選んだ事が無かった。

 

 「戦うのは焦れったい、こっちの

 ダメージは少ない…けど…」

 

 「けど?」

 

 「移動がイヤ!重すぎる!」

 ブンブン首を振る、ツインテールが

 面白い様に動く。

 

 盾と槍両方だと大剣より重い、

 だがそれ故ガード性能は高い。

 

 太刀はリーチが長い、そして

 攻撃範囲が広い、何より軽い。

 

 ランスはガードがメインのようだ、

 リーチも無いし攻撃範囲が狭い、

 そして重い。

 

 

 

 

 

 

 「ドタッ!!」

 

 「んぎゃっ!!」

 ハンマーを持ったが振り回せない

 

 「ハンマーも狩猟笛もダメか」

 ロクスは腕組みして考える。

 

 「あの…片手剣は?」

 クロフだってそこから始めた

 

 「ナナキの話だとガードごと飛ばされ

 るし、足しか斬れんそうじゃ」

 

 (背も低いしな)

 大きなガノトトスを思い出す

 (じゃ大剣はどうだ?)

 

 「片手剣って何かダサくない?」

 

 「そんなこと言ってる場合じゃ…」

 

 「何で師匠はランスにしたの?」

 カンナはハンマーを荷車に戻す

 

 「あいつは何でも一人で狩りたがって

 なぁ、一番生き残る可能性がある

 武器を選んだまでじゃ」

 

 「なら…私もやってみる!!」

 

 「本気か?」

 

 「うん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 「止めといた方が良かったかも」

 アイアンランスを恨めしそうに

 見るカンナ

 

 「と、とにかく色々試してみよう」

 フォローする言葉が見付からない

 

 「時間掛かるし重いし!」

 

 カンナの利点は小さな体と素早さ、

 ランスは見事に利点を殺す。

 

 

 

 

 

 

 ギルドに戻りロクスにも報告

 

 今日はゼルドとガルダも起きていた

 

 「おぉ、どうじゃった?」

 

 「ガードが凄い楽、だけど重いしイヤ!!」

 

 「がははは!!まよっでるなぁ!!」

 ゼルドが飲みながら言う

 

 「あの、何かアドバイスとか…」

 怖い…クロフは緊張…

 

 「フム…無い!」

 ガルダが素っ気なく言う

 

 「え…あの…えーと」

 怖くて挙動不審になると、ガルダが

 話してくれる

 

 「フム、クロフよ、なぜ俺たちG級が複数の

 武器が使えるか、考えた事があるか?」

 

 表情が変わらない、けど優しい……

 ……のか?

 そう言えば師匠もボウガンとか使ってた、

 何で?

 

 

 「師匠はランスなのに太刀って…」

 カンナは首をひねる

 

 「あいでにあわぜるんだぁ!!」

 ゼルドが歯を剥き出して笑う

 

 「まぁ全部一本で片付けるヤツもいるがの」

 ロクスは腕組みする

 

 「それって一番カッコ良くない!?

 誰!?その人!!」

 

 「「オヤジ!!!」」

 ゼルドとガルダ

 

 「「オヤジ??」」

 クロフとカンナ

 

 

 

 「ガストンじゃ!!」

 ロクスが言う

 

 

 

 

 

 「はあぁーーっ…」

 大きな溜め息とともに下位が集まる

 テーブルに突っ伏すカンナ。

 

 「何とかなるよ……」

 出来るだけ明るく言うが

 クロフの言葉は空気と同じ。

 

 

 「何か悩んでるんだって?」

 筋肉質な大柄の女性、名前は女らしく

 マリン……

 

 

 …マリンって………

 違和感が凄い、ギザミとか言う装備に

 緑色の大剣を軽々と担ぐ、

 髪も短くクロフは男かと思っていた。

 

 (ドスマリンって感じだけど……)

 

 

 

 「あ、マリン、武器がさ…」

 

 「私は大剣一本で限界だよ」

 

 「限界?」

 カンナは起き上がる

 

 「覚えること増えるし、強化にお金

 が掛かりすぎるよ」

 

 「それ(費用)もあるのか、どうしよ…」

 

 「まずさぁ、カンナは太刀だった

 わけじゃん、何で太刀だったの?」

 ジョッキを持ちズイッと

 前のめりに聞いてくる。

 

 「師匠に勧められて…」

 

 「それだけ?ほんとに?」

 

 「他に理由?あったかなぁ」

 

 

 「見た目だけで選んだんじゃねぇの?」

 双剣使いの男、名前はイシズキ

 リオレウス装備に鉱石の双剣、

 兜は着けずに長い髪の毛を

 立てている、赤くて目立つ、

 

 クロフと同じ年でハンター歴は

 一年だという。

 

 「見た目で武器を選ぶって事があるの?」

 クロフは自分で選んだ事がない

 

 「当たり前だろ、

 俺はこの見た目がすべてだ!」

 ジャキンと抜刀し頭上でクロスさせる

 

 「ギルド内で抜くんじゃねえ!!!」

 近くにいた師匠らしき人に頭を叩かれる

 

 

 「いってぇ!!!」

 

 「バカだねぇギルド内は抜刀禁止だろ」

 マリンに睨まれる

 

 

 

 「カンナ、ランス貸して貰える?」

 やってみたい、この武器

 

 「いいけど何?使うの?」

 ロクスのランスを勝手に渡す

 

 「うんちょっと練習してみたい」

 

 私は次は何使おう…

 

 

 

 

 

 

 ドンドルマ 下位 密林

 クック討伐

 

 「いざとなったら助けてあげる」

 

 なぜかマリンが一緒、

 話したことあんまり無いし……

 なんで……

 

 

 「あの…、マリンのこと教えて貰える?」

 

 緊張する、二人きりだし……

 いつもはカンナがいた…

 

 カンナは誰にでもこう言って聞く、

 マネしてみる。

 

 

 「私?出身はバルバレ近辺、王都の

 遥か南の大砂漠のほう、

 小さいときからガタイが良くてさ、

 村長にハンター勧められて」

 

 (人に聞くって何か怖いけど簡単に

 答えてくれるものなのか?……

 確かに背は180を越えてるし筋肉凄い、

 歩幅が違うよ…)

 

 「クロフは?」

 

 ジャンボ村の事、ハンターになった事、

 

 

 そして…

 

 

 

 

 「人と話せなかったぁ!??」

 マリンは以外そうな顔をする。

 

 「うん、人が怖くて…」

 恥ずかしい…

 

 「違うな、自分が傷付くのが怖いんだ」

 

 「うん、そうだった」

 クロフは下を向く、

 カンナに比べて話しやすい…

 なんで?

 

 「同じ四英雄の弟子でも、

 こんなに違うのか」

 歩きながら腕組みする、

 二の腕の筋肉が盛り上がってる

 

 「カンナと俺?」

 

 「そう、カンナはさ、弟子であること

 自慢するし、自分が最強っていうでしょ」

 

 「うん、自信が凄い!」

 

 「下位の間じゃ嫌われてたんだよ、

 皆は口には出さないけどね」

 

 「そうなの!!?」

 

 「アンタは逆だね、自慢しないし

 自分は弱いって思ってる」

 

 「それが普通じゃ…?」

 師匠の戦いを見たら……

 世の中上には上ばっかり…

 

 「そう!下位なら普通、だからアンタは

 話しやすい」

 

 この人怖くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ、いた」

 クックを発見

 

 「私は適当に時間潰すわ、その代わり

 報酬要らないし、素材もあげる」

 そう言うとマリンは別エリアへ。

 

 

 

 

 

 クックの足元に走り込みガード、

 ガード突きをやってみる。

 

 これってダメージあるんだろうか…

 チクチクチマチマ攻撃する

 

 横にステップ…尻尾が来るが…

 「ガスッ!」

 あれ?

 

 片手剣の時はハデな音と共に

 のけ反ったが、

 

 突進!ガード!

 「バン!」

 足元で立ち上がるクックを見る…

 見る余裕がある!!

 

 ツイバミ!!4回連続!!

 「ガン!ガン!ガン!ガン!」

 

 スタミナは持っていかれるが…

 なんだこれ!体が楽!

 

 片手剣の時はキャンプ送り

 になったのに!!

 

 それなら!

 

 尻尾の後に2回突く、

 すぐにステップ、正面から避難。

 

 ブレス!しかしガード、

 片手剣の盾と違い防御範囲が広い

 熱くない。

 

 時間が掛かるが…

 

 

 

 

 半日掛かりでクックを倒した。

 

 「どうだった?」

 マリンが聞く、半日採取だけやってた。

 

 「これ(ランス)凄いかも」

 

 

 

 帰り道

 「なんでマリンは一緒に来たの?」

 

 「カンナの居ない所でアンタと話

 したかったんだよ、

 カンナの居るところでさっきの

 話したら……」

 

 「怒って騒ぐ……」

 

 「そう!」

 

 そうか、カンナに自分の事話したら、

 騒ぎそうだから話したくないんだ…

 

 マリンは騒ぐ気がしない…

 俺より大人に見える…

 

 「何かマリンは人を悪く言うような…

 人じゃないはず…みたいな」

 

 「言いたくないよホントは、子供の頃

 からゴツい事悪く言われて

 育ったからね、

 人の欠点言うようなマネはしたくない」

 

 「うん、俺も人を攻撃?するような

 事は言いたくないよ」

 カンナは言うよなぁ

 

 「劣等感ってヤツだよ、まぁそのぶん

 ハンターに向いてたようだけど」

 大剣を軽々と振り回す。

 

 「カンナは何か…劣等感あっても」

 

 「多分チビって言われ続けたはず、

 それに必死で抵抗してる」

 

 「カンナは言いたいことは言わないと

 後悔するって」

 明日死ぬかもっていってたな。

 

 「加減…だよなぁ、もう少し年取って

 みたら分かるのかなぁ」

 

 (師匠の言葉、女には聞いては

 ならない事が3つある……………

 でも……)

 

 「マリンっていくつなの?」

 

 「17」

 

 「年下!!!?」

 

 「以外だった?」

 ニコっと笑う、女性というより

 カッコイイ男にみえる、

 白い歯が光るのはなぜ?

 

 

 「アンタは堅実な狩りをする、

 今度組んでよ」

 右手を出す

 

 「うん!役に立たないかも

 知れないけど」

 握手、手が大きい…

 

 「そういう所が気に入られるんだな」

 

 「???」

 

 「謙虚だよ」

 

 

 

 

 ギルドに戻るとロクスとカンナが

 話している、

 

 「あ、お帰りー」カンナが言う

 

 「武器決まった?」

 マリンが聞く

 

 「何で太刀だったか思い出したんだ、

 囲まれるのが怖くて、斬り下がりが

 ある太刀にしたんだ」

 カンナは手刀で表現する

 

 (ほぉ、この娘(カンナ)の口から怖い

 という言葉が出るとはのぉ)

 初めて聞いたかもしれない

 

 「あぁ、まとめて斬れるし…」

 マリンもマネする

 

 「そう!次に繋げやすい!」

 

 「つまりじゃ、複数相手の立ち回りが下手

 だったって事だのぉ」

 ロクスが腕組みして言う。

 

 (立ち回り…?

 師匠に何か言われたような)

 

 

 

 「で?クロフよ、ランスはどうじゃった?」

 

 「この武器…モンスターの攻撃見る

 のに…特化してる?…ような」

 

 ギルドの喧騒が止まる

 

 

 

 

 「………は?」

 

 

 すぐにまた騒がしいギルドに戻る。

 

 (何だ?今の?)

 下位のハンター達はキョロキョロしている

 

 満足そうにロクスは頷き

 「クロフよ、しばらく使ってみろ」

 

 

 

 

 

 

 奥の部屋

 「ホッホッ、初めてで本質に気付いたか」

 

 「あぁ、あの小僧にこんな素質が

 あるとはのぉ!」

 

 「アルトがおじえだんじゃねえが?」

 

 「フム、楽しみだ」

 

 

 「あらあら、何の悪巧み?」

 ベッキーがジョッキを持ってくる

 

 「ホッホッ、さっきのクロフ、

 誰か思い出さんか?」

 

 「アイツと同じ事言ったわね」

 ベッキーはムスッとする

 

 「何にしても下位で

 止まるヤツではないのぉ」

 

 

 「ホッホッ、カンナが迷ったお陰だなぁ」

 

 「アルト良いでじみづげだな」

 

 「フム、攻撃よりも生き残ることが

 大事だと気付いているな」

 

 「普通は何度も使わないと

 理解出来ないはずなのにね」

 ベッキーは頬に手を当て言う

 

 「フム、何にせよアルトにとって

 今度の弟子は……」

 

 「わるぐない」

 

 「ホッホッホ、ゼニスの報告通りじゃの」

 

 「良い子すぎて、ちょっと詰まらない

 感じもするけど」

 ベッキーは目を細める

 

 

 

 

 数日後、クロフは自分でランスを

 作り強化してクエストへ

 

 

 「クロフ!行ったぞ!」

 マリンが叫ぶ

 

 「おう!!」

 ガード!リオレイアが突進してぶつかる

 

 レイアが二歩下がる

 「カンナ!!」

 ガードしたままクロフは叫ぶ

 

 「とりゃっ!」

 カンナは閃光玉を投げる

 

 サマーソルトはガードされ、

 閃光で墜落

 

 「マリン!!イシズキ!!」

 

 「「おおりゃ!!!」」

 

 マリンとイシズキが斬りまくる、

 レイアが立ち上がるが

 

 「せいっ!!」

 カンナは頭に抜刀斬り、

 

 怯んだレイアが振り向き逃げようとすると、

 マリンが力を溜めていた。

 「うおらあぁぁっ!!!!」

 

 ドカンとレイアの頭に大剣を叩きつける

 

 

 

 「上手くいったね!!」

 カンナは先頭を歩く

 

 「カンナはもっと調合覚えないと」

 クロフはポーチの中を確認する

 

 「やっぱ双剣最高!」

 歩きながら振り回すイシズキ

 

 「イシズキ、アンタは無謀な行動多いよ」

 マリンが諫める。

 

 マリンとイシズキが攻撃、クロフはガード

 とサポート、カンナは遊撃、

 良いチームとして行動できる。

 

 「アイテムの消費が少ねぇよな」

 

 「私の閃光玉使ってんだからね」

 

 「調合したのはクロフでしょ」

 

 クロフは一人ニヤケる、これが仲間か。

 村の作業を思い出す、

 だけどあの時とは違う、

 同年代で同じハンター……

 

 

 同じ??

 

 

 

 キャンプで防具の手入れと休憩。

 

 「カンナはハンターでナナキさん

 目指してるんだよね」

 

 「ん?ほうばお」

 口一杯に携帯食料を頬張ったまま

 頷く

 

 「イシズキは?」

 

 「四英雄って訳じゃねぇけど、人から

 カッコイイ!!って思われてぇじゃん」

 赤い髪の毛を逆立て直す。

 

 「子供かアンタは…」

 マリンが呆れる

 

 「マリンは?」

 

 「村の守りだけで良かったんだけどね、

 上位に挑戦してみようかって」

 

 マリンは2年ほどドンドルマで下位を

 やってるらしい

 

 「クロフは?」

 

 「王立書士隊に入りたい」

 

 

 

 「師匠達と同じ…仕事?」

 カンナは目を丸くする

 

 「皆目的はバラバラなんだね」

 最終的には皆……せっかく良い仲間に

 巡り遭えたのに…

 マリンの顔が曇る

 

 「とりあえず上位に行ってみっか!?」

 双剣でお手玉状態

 

 クロフ、カンナ、マリンは思う

 

 「コイツ悩み無さそう…」

 

 

 

 

 でも単純すぎてどこか羨ましい、

 目的ができたら何も考えず進める

 タイプ、

 見方によってはバカともいうが。



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聞く

聞ける人がいる
ありがたさ

そこに気付けぬ者がいる

ただ愚かか
プライド故か


 

 四人でパーティーを組んでから

 一ヶ月が過ぎようとする頃……

 

 

 

 「ホッホッお前たちのリーダーは誰だ?」

 

 突然のギルドマスターの言葉に

 クロフは戸惑う

 

 リーダー…考えた事無かった…

 クロフは左のマリンを見る、人柄、実力、

 経験からすれば、マリンだろう。

 

 が、マリンはこちらを見ている。

 右のカンナとイシズキを見ると

 二人ともこちらを見る。

 

 「ん?…俺?」

 

 「お前の指示で動いてっだろが」

 今さらか、とイシズキが首を振る

 

 「ホッホッホクロフだなぁ、

 お前たちに遠征してもらいたい」

 

 「遠征…ってなんですか?」

 

 「遠くの依頼を遂行する事だよ」

 

 「私行きたい!」

 カンナは跳ねる

 

 「俺も構わねぇぜ」

 髪を立てる

 

 

 「旅費は経費から出るけど竜車

 だけだから、あとは自分達で何とか

 工面するのよ?」

 ベッキーから僅かなお金を渡される。

 

 「何をやるんですか?」

 

 「塔へ調査に行って貰いたい、

 もしもモンスターがいたら特徴を

 掴んで帰ってきて欲しいんじゃ」

 

 一瞬周りの目がキツくなるが

 四人は気付かない。

 

 「うお!ついでに狩っても?」

 イシズキが双剣を触る、マリンは

 目で制する。

 

 「構わんよ」

 マスターはニッコリ笑う

 

 「調子にのるな」

 マリンはイシズキを諫める

 

 「ホッホッホ、すぐに行け」

 

 竜車に乗って西側へ、

 クロフにとって初めての土地。

 

 

 

 

 

 「よろしいんですか?」

 ベッキーが聞く

 

 「やつらが組んで一ヶ月…あの

 パーティーの成功率は8割じゃからの」

 

 「落雷が確認されてるってことは…」

 

 「ホッホッホ、一度挫折して丁度良かろ」

 パイプを吹かす

 「勝てる相手しか戦わない、それでは

 成長せんし、

 クロフは慎重に見えて案外抜けとる、

 悩む時間が必要じゃ」

 

 

 

 

 

 ドンドルマから西へ出て、

 山脈に沿って北へ

 

 「皆はこっちの出身だよね?」

 クロフは聞くが

 

 「あんたねぇ、ドンドルマ自体が大陸の

 東なんだよ?

 西側がどれだけ広いと思ってんの?」

 カンナは手を広げる

 

 「そうなの?」

 

 「地図みたことねぇんじゃ…」

 

 「そうか、全体図を知らないのか」

 

 どうやら俺の知ってる世界は狭いらしい

 

 「ドンドルマから西へ行くと王都が

 あるけど、徒歩だと一月はかかるのよ」

 マリンが空中に指で何かを書く

 

 「私の村はそこから北に1週間位かな、

 ココット村の近く」

 カンナも書く

 

 「私は南に2週間くらい」

 

 「イシズキは?」

 クロフが聞くが

 

 「俺は故郷無いんだよ」

 

 「なんで?」一同が聞く

 

 「キャラバンの産まれだからな」

  

 「あのずっと旅してる…」

 マリンは知っているらしい

 

 「あぁ、南の大砂漠を移動し続けるんだ」

 

 「私の故郷と近いな」

 マリンはまた空中に書く

 

 「マリンはどの辺よ?」

 

 「バルバレ近辺」

 

 

 

 

 

 

 

 片道1週間ほど北上した所に塔はあった、

 近くの小さな村で依頼を確認

 

 

 

 

 

 キャンプから走って行く

 

 「凄い」

 クロフは溜め息をつく

 遺跡…デカイ…

 

 「こんな大きな物があるんだ」

 マリンも珍しく目を丸くする

 

 「王都ってこんな感じか?」

 イシズキがカンナに聞くが

 

 「んーん、こんなのは見た事ない」

 カンナは王都を知ってるらしい

 

 

 塔の地図を確認すると、

 ほとんど一本道のようだ

 

 とにかく移動、

 クロフが先頭で走っていき、

 目配せすると、先にクロフが入る。

 

 いつの間にか決まった狩りのやりかた

 まず、クロフがモンスターの攻撃を

 ガードし続け、出来るだけ覚える、

 

 次に三人が入り、クロフの回避の

 指示通りに動く、連続で攻撃はしない、

 

 慣れたら自分の判断で動く。

 

 この結果、このパーティーのリスクは

 格段に下がり、成功率が上がった。

 

 

 「凄い…皆入って!」

 

 「うわぁキレイ!!」

 

 足元に水が溜まり石の柱が崩れた

 暗い場所、大きな金色の光が

 フワフワ浮いている。

 

 「触っちゃダメだよ、

 それ大雷光虫だから」

 マリンは知っているらしい

 

 「ええっ!?」

 カンナは手を引っ込める

 興味を持ったものにスグ手を

 出すのはカンナらしい

 

 クロフは逆に観察する、

 そして手を出す度胸は無い

 

 

 

 イシズキは…麻痺してる。

 

 「何で斬りかかるんだ…」

 マリンが呆れる

 

 

 暫く進むと螺旋階段に出たが…

 何でこんなに一段がデカイんだろう、

 クロフの背丈ほどもある。

 

 「敵に攻め込まれないため…か?」

 マリンが辺りを見回す

 

 「住んでた人がデカイんじゃねぇの!」

 イシズキが身振り手振りで表現する、

 変な踊りに見える。

 

 「まっさかぁ!…ってちょっと!

 引っ張ってよ!!!」

 カンナを引っ張り上げる

 

 一同笑うが…

 

 巨人ならこの塔を造れそうだな…

 

 切り出した石を組んだ物だろう、

 壁を見ると石の境目が糸のように

 細い、

 過去にどれほどの文明が

 あったのか…

 

 

 

 

 また暫く進む…クロフは先に入る

 

 …と、

 

 (何だ…あれは)

 

 

 クロフは観察する、大きめのケルビ?

 馬?白く光っているような

 

 数歩近付く…と、突然振り返り

 「キュロロロ…」

 白く光るたてがみに、うっすら青い体

 

 威嚇……?……敵意?

 これが調査対象のモンスター?

 

 走ってくるが

 

 

 

 早っ!!!

 「バァン!!!」

 

 咄嗟にガードする、小型のモンスター

 なのに衝撃が凄い!!

 

 「キュロロロ…」その場で威嚇する

 

 次は何だ?

 

 しかし気付く、

 

 

 あれ?

 

 

 

 俺が光ってる…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ドザァ!!」

 

 「いっだぁ!!!」

 

 「は?……キャンプ?」

 

 三人が走ってくる

 「何があった!!?」

 

 「解らない……全然見れなかった」

 

 「ガードしたんでしょ?」

 マリンが顔覗き込む

 

 「したはずなんだけど…」

 体を自分で確認する、髪が焦げてる

 まさか…電気……?

 

 特徴を三人に言うと

 

 「ヤバイぜ、そいつはキリンだ」

 イシズキが答えを出した

 

 「キリン………?」

 

 「キリンって幻獣キリンか?」

 マリンが腕組みして聞く

 

 「あぁ師匠に聞いた、古龍になってる

 ヤツだ上位やG級じゃねぇとまず無理だ」

 

 「古龍か…どうするクロフ、

 私達のクエストは調査だ、引くか?」

 

 「えぇ??私も見たい!!」

 カンナは口を尖らす

 

 「俺も」

 イシズキも本物は見た事がない。

 

 あんなの…どうしたら……

 

 

 

 

 

 「…攻撃は禁止…全員回避のみで」

 

 皆頷く

 

 「何で俺が……リーダー………」

 こんな…何も出来ないのに……

 

 うつ向く

  

 「あきれた、自分で気付いてないの?

 皆アンタの指示で助かってんだよ?」

 カンナがふんぞり返る。

 

 マリンを見ると無言で頷いている

 

 「俺達の命を危険から守ってる

 じゃねぇか、一斉に飛び込んで

 たら全滅してるぜ?」

 

 でも頼られるって……

 怖いよ………

 

 

 

 

 全員で進む…居た…

 

 「あんな小さいの?弱そう!!」

 キレイとか言うカンナ

 

 綺麗だけど…

 

 こっちに突進!!!

 

 「早ェエ!!!」

 

 「何だコイツは!?」

 

 キリンは左右にステップしながら

 駆け抜ける

 

 「武器構えてたら危ないぞ!!」

 クロフは叫ぶ

 

 「キュロロロ…」

 

 動きが止まり前脚を上げ嘶く、

 カンナとイシズキが

 抜刀斬りに行こうとするが

 

 「待て!!」

 (うわ!命令しちゃった!怒る?)

 

 二人は止まる

 

 地面が僅かに光る

 

 これだ!!これを食らったんだ!!

 

 「パキィーン!!!」×6

 

 まるで剣を剣に叩きつけたような高音、

 近くのイシズキとカンナは目が眩む

 遠くに居たクロフとマリンは見た。

 

 轟音、空気を破裂させる衝撃、

 そして光…

 

 雷?しかも自分を守るように?

 6回も!?

 

 

 

 フルフルは自分で電気を起こして

 いるらしいし、クロフもそう見えた、

 

 キリンは違う、

 空から雷を降らせている!!

 こんなバケモノ敵う訳無い!!

 

 激しく動き回るキリン

 

 「せめて一回位!!」

 マリンが抜刀斬りをするが、

 

 「ガスッ!!」

 「何だ!?これ!!!」

 

 柔らかそうな白い体毛だが

 

 「信じられない位硬いぞ!!!」

 マリンが叫ぶ

 (当たる直前で弾かれた???)

 

 「えぇ!!?早い上に!!」

 地面を転がるカンナ

 

 「硬ぇのかよ!!!」

 イシズキは逃げる

 

 「皆!地面を見て光ったら逃げて!!」

 クロフは叫ぶが

 

 「そんな余裕は……」

 マリンも回避する

 

 ジグザグにステップ、止まる所に

 集まって斬ろうとすると

 落雷が追いかけてくる!!!

 

 「カンナ!!イシズキ!!」

 

 「バキィーン!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「クエスト失敗ですニャ」

 

 ずいぶんと久しぶりに、

 ネコタクのアイルーに言われる

 

 

 

 

 帰りの足取りは重い、さすがに

 口数は減り皆元気を無くした

 

 竜車の中は無言…

 

 しばらくはカンナとイシズキが

 「あの時なんであぁしなかった!?」

 だとか

 「お前が悪い!!」

 とか言い合ってライラしたが、

 人のせいにした所で失敗は覆らない

 

 

 

 「マリン…」

 

 「何?」

 

 「リーダー代わって…無理だよ…」

 

 マリンは少し考えて

 「あんたはリーダーって何だと思う?」

 

 「皆をまとめて…」

 

 「それも大事かも知れないけどさ、

 誰も死んでないよ」

 

 眠ってる二人を見ながら

 「あんたが守ってるじゃないか

 それで十分だよ」

 

 

 

 

 でも……

 

 初めてだ…ここまで何も出来ずに、

 手も足も出ない負けかた…

 

 

 

 

 

 

 

 ギルドで報告

 

 「以上です…」

 クロフがモンスターの報告を終えると

 

 「マスター!!クエストは!?」

 

 振り返ると上位とG級達が大勢いる

 

 「ホッホッホ、くじ引きで決める!」

 

 そう言うと皆バラバラに

 テーブルへもどるが……

 人気のクエストなのか??

 

 「良く無事だったなクロフ」

 「大きいケガもなく帰って来れたな」

 「古龍相手に良くやったぞクロフ」

 

 クロフの肩や背中をバシバシ叩く。

 

 失敗したのに…クロフは俯き涙を流す

 

 「何で泣くんじゃ」

 ロクスが聞く

 

 「失敗したのに…」

 

 「あらあら、皆認めてくれてるのに」

 ベッキーが料理を持ってくる

 

 「失敗したのに…?」

 

 「もう…上の人達クロフって言ったでしょ?

 認められたのよ?」

 

 そう言えば小僧って言わない…

 

 「ワシから見ればまだまだ小僧じゃがのぉ」

 ロクスが笑う

 悔しさと嬉しさ、複雑な気持ち。

 

 「ワシからの奢りだ、食って前に進め、

 無様でもカッコ悪くても、

 生き残ったら勝ちだからの!!」

 

 クロフは泣きながら食べる、

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは……勝ちか?

 

 

 

 

 

 

 「悩んどるのぉ」

 

 「ホッホッホ、存分に悩めば良い

 じゃろ、答えなんぞありはしないしの」

 

 「あらあら…」

 

 「フム、これで腐るようなら…」

 

 「ぞごまでのヤヅだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 次の日

 「クロフー起きてるー?」

 カンナの声、気分が乗らない。

 

 ドンドルマ 下位の宿舎、セメク村の

 ハンター小屋と変わらない

 壁の薄いホコリっぽい部屋。

 

 鍵つきの箱と藁、なぜかブタがいる

 粗末な部屋

 

 重い体を起こしてドアへ

 「何?」

 

 「外いこ!凄いよ!」

 

 階段を下りてギルドを通り外へ、

 

 「こっちこっち!!」

 手を引っ張り中央広場へ

 

 「うっわー!!」

 クロフが珍しく声を上げる。

 

 「おい!口はしっかり縛れ!!」

 「台車もう一台持ってこい!!」

 「麻酔足りるか!!?」

 

 アプトノスが四頭で特大の台車を

 引く、巨大な岩の塊が載っている。

 

 「夜にゼルドさんとガルダさんが

 捕獲したんだって!!!」

 

 町の人とギルドスタッフ達が大勢で

 取り囲み、作業している

 

 眠っているのは黒いグラビモス…

 

 

 

 

 見ていると……また……

 

 

 

 

 「………俺…弱いなぁ……」

 

 

 「俺達でしょ…」

 カンナだって同じ思いだ

 

 

 「あんな所までいけるのかな…」

 

 

 「分かんないよ…」

 

 

 「どうしたらいいんだろ…」

 

 

 「師匠に聞いてみっか?」

 

 「「え?!」」

 

 振り向くとイシズキも見に来ていた。

 

 「あんまりイイ雰囲気だったから

 声掛け難くてよ」

 ケラケラ笑う、

 手繋いだままだった…

 

 

 

 

 ギルドの中、上位のハンターが

 集まる辺りにイシズキの師匠は居た

 

 「師匠のナガエさんだ」

 

 ゲリョス装備に双剣の男、

 細身だが装備のせいで太って見える、

 40位だろうか

 気の良い近所のオッサンて感じ

 

 「ナガエだ、四英雄の弟子に質問

 されるとは光栄だね」

 クロフとカンナは握手してもらう

 

 「あの、どうやったら強くなれますか?」

 

 「んー、クロフ、質問になってないぞ」

 ナガエは真面目に言う

 

 「え?」

 戸惑う、どう聞いたら

 答えて貰えるのか…

 質問に……なってない?

 

 ナガエは黙って見ている

 

 どうしよう、何て言ったらいいんだろう、

 待ってる、言葉を、あの、だから

 

 「あ…あの…え…えと…」

 クロフの口からはこんな言葉しか

 出てこない

 

 「質問が悪いとか…?」

 カンナは首を傾げる

 

 「大雑把過ぎる、そんな質問は

 答えるのに何日掛かる?」

 

 「クロフ、俺達は何がしてぇ?」

 イシズキが助けてくれる

 

 強くなる、そのために必要な事は

 

 

 

 

 

 

 「えと……あの…何でキリンに

 手も足も出なかったんですか?」

 

 ナガエは満足そうに答える

 「そうだ、何で負けたか考えなきゃ

 強くはならない」

 

 これ…師匠にも言われた事ある!

 

 ……いつも考えるはずなのに……

 何か変だ……

 

 

 そうだ!!!

 

 ビールを頼む

 

 「ハッハァ、分かってるじゃないか!」

 笑顔

 

 『人に話を聞くのなら…』

 師匠に感謝する、教わっていたんだ

 

 

 飲みながらナガエは答える

 「まずは…お前たちは何を知っていた?」

 

 「「「え?」」」

 

 三人とも答えられない

 

 やれやれと首を振りながら

 「行き先は塔、その他は?」

 

 えと旅費の話と………

 

 「初めての狩場だろう?」

 ナガエは三人の顔を見る

 

 

 「情報不足で行ったってことね」

 マリンが来ていた

 

 うんうんと頷き

 「その通り、特にクロフとカンナは

 ヒントがブラ下がってるのに

 気付きもしなかった」

 

 「「ヒント……?」」

 

 「お前ら二人位だぞ、下位で気軽に

 ロクスさんや

 赤鬼青鬼としゃべれるヤツは」

 

 「俺なんかはG級のテーブルの方へ

 行けねぇもんな」

 

 「私もちょっと近付けないな…」

 

 そうだったのか、聞く人はいた。

 

 

 

 

 

 「そうか!狩り場によって何がいるか

 だいたい絞れるし」

 クロフが気付く

 

 ナガエは満足そうに頷く

 

 「キリンはその中の一つだったの?」

 

 「それすら知らねぇで突っ込んだ」

 

 「失敗が当然か……」

 

 

 「その通り!情報を集めなかった時点で

 結果は決まっていたんだ」

 

 ビールを飲み

 

 「賭けさえ始まらなかったぞ、

 皆死なないことを願ってたんだ」

 

 「何の対策も準備もしないで…」

 それでも狩れるのは…

 

 外のグラビモスを思い出す

 

 俺達はナメた行動を取ったのか……

 そうだ嘗めてかかった…

 

 

 

 

 「でも…何かおかしくないか?

 あくまでも調査のはずなのに…」

 マリンは腕を組む

 

 「俺もそれが気になってな、まるで

 『討伐』に失敗した気になって

 仕方ねぇんだ」

 髪をイジる

 

 「あれぇ?そうだよ、何でこんなに

 気分が悪いの?」

 カンナは首を傾げる

 

 

 

 ナガエは笑いながら答える

 「大体調査ってのは未知の土地、地形、

 遺跡、モンスターを調べる事だ」

 

 

 

 「キリンと分かった時点で調査

 は終わった…………?」

 クロフは何だか釈然としない

 

 「そうだ、じゃあ分かり易いように、

 一つは情報不足

 二つ目は色気を出して討伐しようと

 考えた、欲が出たんだ、

 『どうせなんとかなるだろう』とかな」

 

 「クエストの本来の目的を見失ったか」

 マリンが俯く。

 

 「そして三つ目」

 

 「まだあんの?」

 

 「どうせ何とかなるだろうと思った

 原因だ、クロフに先行させる戦法

 は良い、成功率も高い、

 それがお前たちの自信になった、

 だがそれがゴールじゃない」

 

 「ゴールじゃない……?」

 

 「まだまだ発展途上だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クロフ達が宿舎へ行くと

 

 「ホッホッホ、面倒掛けたなナガエ」

 

 「ウチの弟子の良い勉強に

 なりましたよ」

 

 「自ら危険に突っ込んだ事は

 理解してたか?」

 

 「はい、ですが良かったんですか?

 クロフの自信壊すような事して」

 

 「期待しとるから変な自信は

 壊すんじゃ、今のうちにな」

 

 

 



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できる事、やるべき事

目の前に山積する
問題の項目

目を逸らし
耳を塞げば楽だろう

でもね、前にすすむには


 

 「じゃ、久しぶりに二人でいくか!」

 ナガエはイシズキに声を掛ける

 

 「すまねぇ師匠、

 しばらくソロでやってみてぇです…」

 イシズキは赤いトサカのような

 頭を下げ、採取クエストへ

 

 「ホッホッホ、四人ともバラけて行動か」

 

 「ここからですね」

 ナガエは見送る

 

 

 

 

 

 自室で自分を見る

 背が伸びた?、靴と肩がキツい、

 装備の新調と武器も考えなきゃ

 

 確かにクロフには負担を掛けた、

 いや…クロフに甘えっぱなしだった、

 

 調合も…覚えることが山のようにあった、

 目を逸らしてた…面倒だって

 

 やれば強くなれるって知ってたはず

 なのに…

 

 「私も頑張らなきゃ…」

 

 片手剣…やってみようかな…

 

 調合書を読み続ける

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リオス種はソロで狩った事あるし…

 今より強くなるにはどうすれば…

 

 やっぱり強い敵を狩るしかないか?

 

 あの戦法はクロフ一人に

 リスクを背負わせる

 

 一番ハンター歴の長い自分が

 フォローすべきだった

 

 ……もっと強く………

 

 もっと過酷な環境へ行った方が

 強くなれるか?

 

 ならば火山へ………

 

 マリンはグラビモス討伐へ向かう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうすれば…

 クロフは街を歩く、そういえば

 あまり歩いたことがない、

 

 エレーナ商会…恰幅の良いおばちゃんが

 呼び込み、商品の説明をしている、

 軒先の特産キノコに

 『ジャンボ村』と小さい看板が付いている

 

 村にいた頃…強くなるために…

 何をしていたんだっけ…

 

 

 「よぉ!!シケてんな!!」

 いきなり肩を組んでくる男達

 

 

 「あ…」

 

 シュウが声を掛けてきた、

 「暇なら良い仕事紹介してやるぜ?」

 

 悪い予感しかしない、この男からは

 悪意しか感じない

 

 「こっちだ!付いてきな!」

 

 いやだ…行きたくない

 でも声が出ない…

 村にいた頃に戻ったみたいだ

 

 

 「クロフ殿?」

 

 「え?」

 

 「クロフ殿ではありませんか」

 

 「ちっ!!なんだよツレかよ!!」

 シュウ達は離れていく

 

 「お久しぶりです」

 声を掛けて来た主は頭を下げた

 

 「誰?」

 

 真っ白いドレスを着た女性、

 (マスターシリーズ、クロフは知らない)

 歳は16~7位だろうか、浅黒い肌、翠の瞳、

 金髪の三つ編み、………アルト並の美人

 

 背中にライトボウガン

 

 

 

 

 

 

 「分かりませんか?ゼニスです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ゼニスさん?!女だったの?!」

 イメージとの余りの違いに

 変な間ができる

 

 「予想通りの反応です」

 無表情で淡々と答える

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そうですか、強くなるには……」

 

 ドンドルマの門の上、

 久しぶりに来た

 

 「どうすれば…」

 

 「まずお聞きします、

 今、何を後悔してますか?」

 

 「準備不足だったし、クエストを…

 その…勘違いというか…」

 

 あったことを話していく…

 自分の馬鹿さ、愚かさ…

 

 涙が出る

 

 

 

 

 しばし考え

 「…では、まず勘違いですが、未知の

 モンスターに興味が出るのは

 当然です」

 

 「当然?」

 

 「ハンターなら後々の…後学のために

 戦うのは推奨します」

 

 

 

 「良かったの?あれで?」

 そうとは思えない…

 

 「格上のモンスターの感触を体験し、

 仲間にも体験させ、一人も失うこと無く

 帰還…しかも古龍相手に…」

 

 ズイッとゼニスは顔を近付け

 「どこに落ち度がありますか?」

 

 飛び抜けた美人が無表情で、

 どこか無機質に語る

 

 

 「名前で呼んでくれたのは…」

 

 「だからソコを認められたんです」

 

 「良かったの…?」

 

 

 「もうひとつ、準備不足は完全に

 不手際です、こればかりは

 救いようがありません、

 大いに反省してください」

 

 「そうか…この二つがゴッチャになって」

 

 「悩んでいたようですね」

 

 

 

 「クエストの失敗…あれ???」

 

 「ネコタクを三回使った以上失敗です」

 ゼニスは背を向け

 

 「しかしながらキリンの情報を

 持ち帰ってます、全員無事で!」

 

 

 「あれ??…成功してる??」

 

 「記録上は失敗ですが、

 実質は成功してるんです」

 此方を向く

 

 

 

 

 「準備………」

 

 「情報収集は基本です、なぜギルドで

 ビールが大量に消費されて

 いるか分かりますか?」

 

 

 

 「……そうか、皆話を聞いてるんだ」

 

 「そうです、師や目上の人と話し、

 情報を得ようとします」

 

 「ありがとうゼニスさん」

 

 

 

 「強くなる方法は生憎ですが……」

 

 「全然、凄く気が楽になりました」

 

 「では私はギルドに向かいます」

 ゼニスは踵を返す

 

 

 

 …が、振り返り

 

 「…クロフ殿はランスを使うように?」

 

 「はい、先ずは俺が先行して…」

 クロフは最近の戦法を言う、と

 

 「それはもう…

 やめたほうがよろしいかと」

 

 「え?何で?!」

 ナガエさんもそんなことを言った

 なぜ?

 

 「初めてのモンスターに有効であり

 成功率は高いです、

 しかしながら、その分仲間は油断します」

 

 「あ…嘗めて…」

 

 「そうです、嘗めてかかる、

 結果危険になる」

 

 俺も…いつの間にか…

 嘗めてたんだ…油断したんだ…

 ナガエさんにも言われた

 

 「何かホントにありがとう」

 色々な事が…教えてもらえた

 

 「では、失礼します」

 

 

 

 

 

 「あ!あの、ドンドルマに連れて

 きてくれたこともありがとう」

 

 振り返り丁寧に

 「礼には及びません」

 

 

 準備……何をして………

 

 『ヤハハ…先ずは情報だよ』

 

 ん?あれ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザザミ装備を久しぶりに

 引っ張り出すカンナ

 

 この頃は見た目だけで防具選んでた、

 今のレウス装備は……

 ミエだ…イシズキの言った通りだ

 

 

 ギルドに降りていきロクスの所へ

 

 「雷に強い装備って何ですか?」

 

 一瞬周りの目が集まる

 

 (ほぉ、敬語まで出たか…

 余程くやしかったんだのぉ)

 「聞いてどうする?キリンに挑む気かの」

 

 「キリンとまでは言わなくても……」

 

 「そうか…ゲリョス辺りはどうじゃ」

 

 「ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1…に…さん…しー…ご…

 

 ケルビの数匹いるエリアで

 イシズキはケルビのステップの

 観察を続ける…

 

 ケルビと動きは似ていた、だがもっと

 早いし、今のステップも人間には

 追い付けそうにない

 

 待ち受けるのが正解か?

 だとしたら一撃デカイの当てて

 逃げるのが正解?

 

 双剣を見る

 

 師匠が使ってるのを見て

 カッコだけマネしただけ……

 

 

 「なんだよ、

 俺もカンナと変わらねぇじゃん」

 

 動きは見たんだ…

 

 雷を避けて、一撃デカイの当てて…

 

 

 『うお!狩っても!?』

 

 

 バカだった……

 

 「今度は……ナメねぇ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「バガァン!!」

 

 ゼーゼーと荒い呼吸をするマリン

 

 胸の甲殻が壊れ、

 赤い筋肉が剥き出しになるグラビモス

 

 (ここまでは出来た…だけど)

 

 グラビモスは高温のガスを吹き出す

 

 「ぐううぅぅ!!!!」

 何度も焼かれ回復薬が底をつく

 

 『あくまでも調査だ、引くか?』

 

 あの時、私がもっと言ってたら

 失敗しなかった!

 無謀なことはしなかった!!

 

 『リタイアするべきだ』

 

 なぜこの一言が言えなかった!

 

 グラビモスが吠える!!

 ガードでこらえて…

 

 だけど、一つだけ確かめる

 もっと鋭く!!もっと正確に!!

 コイツに刃が通れば多分キリンにも

 

 「おおりゃああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕暮れ

 「おぅ、マリン」

 

 「あ…イシズキ…」

 

 「おいおい!大丈夫かよ?」

 

 「何とかな…」

 マリンは傷だらけ

 

 街の鉄トビラの前で合う、

 お互い今帰ってきた。

 

 「火傷じゃねぇの?ソレ」

 回復薬を渡す

 

 「ありがとう」

 クロフに教わった様に火傷に塗る

 「何してたの?」

 

 「1日ケルビの観察だ、あの動きに

 どうやって追い付いたら良いか

 解らなくてな…マリンは?」

 

 

 「グラビモスと戦った」

 

 「うぉ!!マジか!!?で?」

 

 「胸は壊せたけどリタイアしたよ」

 マリンは甲殻を見せる

 

 

 

 加工屋の前を通ると…

 「あ、クエスト行ってたんだ…」

 

 「よぉカンナ何してんだ?」

 

 「ゲリョス装備に必要な素材聞いてて」

 

 「雷を軽減したい…か…」

 

 「強くなりてぇもんな」

 イシズキは双剣をいじりながら

 「クロフはどうしてる?」

 

 「それがさ…」

 カンナは暗い顔になる

 

 

 

 

 

 

 

 湧水の水場近くにクロフは倒れていた、

 イシズキは走って行く

 

 「おい!!クロフ!!なにが…ってクセェ!!」

 

 凄い酒の臭い

 

 「酔っぱらったのか?」

 

 「ずっとギルドで飲んでたんだよ…」

 

 イシズキがキレる

 「おいテメェ!起きろ!!俺達が

 どんな気持ちか分かんねぇのか!!!」

 

 胸ぐらを掴み引き起こす

 

 「あ、いひずひぃ~…」

 

 「こんの野郎!!」

 イシズキは殴り掛かろうとするが

 

 「待てイシズキ!!」

 マリンが止める

 

 「あぁ!!!?」

 

 「クロフはせいぜい一杯が限界だ、

 ここまで酔うか?おかしいぞ?」

 

 「何かさ、午後からずっと飲んでて…

 動けなくなってココに…」

 

 「こんの…」

 

 「うベェれ○○○…」

 クロフは吐く

 

 「キッタネェ!!!」

 

 「クロフ何でこんなになるまで……」

 カンナが泣きそうになる

 

 街の人達が遠巻きでヒソヒソ

 しているなか

 

 

 

 

 「リーダーに……疲れたのか……」

 マリンはキリンの時を思い出す

 

 「見損なったぜオレぁ!!!」

 

 

 

 

 クロフに甘えてた……だから

 

 カンナは近くの桶を掴み

 「バッシャアアア!!」

 頭から水をかける

 

 「ねぇクロフ、何があったの?

 辛かったの?」

 

 「けっ!!こんなヤツを

 リーダーにしてたのか!!」

 クロフに背を向ける

 

 

 「よせイシズキ!!クロフ一人を危険な

 目にさせたのは私達だ!!」

 

 マリンはクロフの顔を見る

 

 「いいパーティーになってたのに…」

 悔しい……

 こんな事なら、あの時リーダーを

 代わっていれば…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ギ…リン」

 

 「え……何?……」

 カンナが耳を近付ける

 

 「ギリンの…うっ…じゃぐ…じゃぐっでん」

 

 「キリンの弱点って言ったのか!?」

 マリンが引き起こす

 

 「おじ…おじえで…もらっだ…」

 吐瀉物と涙と鼻水…

 グシャグシャの顔

 

 「ホントか?クロフ!おいテメェ起きろ!!」

 イシズキが揺さぶる

 

 「イシズキやめ…」

 

 「うボァ○○○……」

 

 

 

 

 

 とにかく寝かせるためにクロフに

 水をかけ、ギルドに三人で運ぶ。

 

 

 「ホッホッホ、クロフはどうじゃ?」

 

 「ギルドマスター!!

 なんでこんなに飲ませたんだ!!」

 イシズキが食って掛かる

 

 G級達が一斉に睨む!!

 その眼力にイシズキは怯む

 

 「そう怒るなイシズキィ…」

 ロクスが睨む、体が動かない、

 

 (なんだこれ、殺気ってやつか!)

 まるで大型モンスターに睨まれた

 ように…

 

 「クロフはのぉ、自分で出来る事を

 必死でやっていただけじゃあ」

 

 笑顔なのに何だ?この圧力……

 

 イシズキがおとなしくなると、

 ロクスは殺気を緩める

 

 「もしかして…飲み比べしてたの?」

 マリンが聞く

 

 「ホッホッホ、キリンの生態の本を

 欲しがってなぁ、無いって言ったらな」

 

 「何杯飲んだら弱点教えるって

 話になってのぉ」

 

 「クロフ君、10杯も飲んだのよ、

 掃除が大変だったわ、

 吐いても吐いても飲み続けて…」

 ベッキーも他のスタッフも

 ウンザリといった顔だ。

 

 「フム、5杯につき一つ情報を教える、

 といったら…10杯も飲んでな」

 

 「ふだぁづもぎいだんだ」

 

 

 

 「馬鹿なのか…コイツぁよ」

 イシズキは悪態を口にするが

 顔はニヤケる

 

 「そう…だったんだ、

 私にはできないもんね」

 クロフの頭を撫でるカンナ

 

 「とにかく部屋に運んでやらねぇと」

 イシズキはクロフを持ち上げようと

 するが…………

 

 「重てぇ!!!」

 完全に脱力している酔っぱらい、

 一人では信じられないほど重い、

 その上ズブ濡れ。

 

 「じゃ、私が」

 マリンはクロフをお姫様抱っこすると

 軽々と階段を昇る。

 

 ギルド中がそれを見送る

 

 男前だ………

 男前だぞ…

 女なのに男前だ……

 

 イシズキは……なんかくやしい。

 

 

 

 

 次の日

 「クロフー起きてるー?」

 ドアをノックすると

 

 「ぐ…はぁ…やめ…ノック…」

 

 「どうしたの!!」

 ドアを無理矢理開けて叫ぶ、

 甲高い声!!

 

 「だ!…痛い…頭…いだい」

 耳を押さえて藁の中へ

 

 「寝かしといてやれ」

 イシズキは廊下から小声で言う

 

 

 

 ギルドに三人集まる

 

 「あれが二日酔いってやつ?」

 カンナは経験がない

 

 「今までなった事無いって言ってたよ」

 

 「初の二日酔いか…つれぇんだよな」

 

 「とにかく起きるまでに、

 少しでも話しておこ」

 マリンとイシズキも頷く

 

 「私から話すね、

 ロクスさんの話によると…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「つまり電気に強いゲリョスか

 フルフルの装備…」

 

 「回避と走り回るから

 ゲリョス一択じゃね?」

 師匠のナガエが言ってたような

 

 「武器はもっと鋭い方がいい、

 不思議な感じだった」

 

 

 

 

 「おはよう…」

 ぼんやりしたクロフが来た

 

 「おぅ!もう昼近いぞ」

 イシズキは笑顔で迎える

 

 「大丈夫?」

 カンナが顔を覗き込む

 

 「まだ少し頭痛い」

 

 

 

 「おぉークロフ!

 マリンの胸はどうだったよ!?」

 

 「あのあとどうだったんだ??」

 

 ギルド中が囃し、ゲラゲラ笑う、

 無言で頷いてる人もいるが

 

 「は?…え?何?なんの事?」

 

 マリンの顔が赤くなる

 「気にしないで…」

 

 「なんだ覚えてねぇのかよ…昨日

 マリンにお姫様抱っこ…」

 

 「言うな!!!」

 マリンがイシズキを突き飛ばす

 

 「イシズキってさぁ、何にも

 かんがえてないよね」

 床に倒れたイシズキを見下ろす

 

 「良かった、皆元気で」

 クロフが笑う

 

 イシズキは起き上がり

 「はぁーっ」

 溜め息、ボリボリ頭を掻く

 

 「気を使われたのか…一人で

 何とかしようとしたんだな?

 俺達が深刻な顔してたから…」

 

 カンナとマリンも気づく

 基本優しいのだ……クロフは

 

 「次は俺も頼れよ?お前より

 酒は強ぇえんだからよ」

 

 「私もな、イシズキより強いよ」

 マリンも笑う

 

 「で?弱点は?」

 カンナは興味深々

 

 周りを見て小声で

 「一つは睡眠属性」

 

 「えーっ!!!?」

 カンナが叫ぶ

 

 「声がデケェ!!」

 イシズキは指を立て口へ

 

 「周りに聞かれたら

 クロフの努力が無駄になるでしょ」

 マリンも体を出来るだけ小さく

 して小声。

 

 「後は頭、切れ味が並みでも通るって」

 

 「だけどあの速さのキリンの

 頭に攻撃……できるか?」

 

 「それこそ疲れにくい

 ゲリョス装備じゃね?」

 

 「じゃ当面の目標は

 睡眠武器とゲリョス装備ね」

 

 

 

 コソコソと四人で話している

 姿をベッキーは見る

 

 

 

 

 「ホッホッホ、クロフには悩んで

 もらおうと思っていたが…

 ゼニスが全部説明したようじゃ、

 立ち直りがちょっと早すぎるなぁ」

 

 「あの娘が人の相談聞くなんて……

 その前に任務以外で

 話しかけるなんて」

 

 「ゼニスはクロフを

 気に入ってるようだのぉ」

 ロクスはニヤニヤする

 

 「ホッホッホ、案外モテるのかの」

 

 「人と接するのが苦手な者同士、

 どこか波長が合うのかしら…」

 




と言うことで、
初期の話を編集しました

加筆は一切していません


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もがく者たち

 

 ドンドルマ管轄 旧沼地

 一面の泥濘と湿地に寒い洞窟、

 そして晴れる事の無い霧

 

 「解毒薬は皆あるよね?」

 

 「おぅ!それよりクロフ、お前の

 フルミナントは電気だ、通じねえぞ?」

 イシズキはリオレウスの大剣

 

 「私の剣の毒はどうなんだろう」

 マリンはソロで倒したこともあるが、

 効果が薄い気がする

 

 「頑張らなきゃ……」

 カンナは初の片手剣

 ガノトトスの素材を使った睡眠武器

 

 あとは簡単な作戦

 『寝かせて溜め斬り』

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ゲリョス装備作るだぁ?」

 ナガエにビールを奢る

 

 「イシズキ、今さら

 俺の言うこと聞く気になったか?」

 

 「師匠に前に、ゲリョス装備に

 ついて聞いた事忘れちまって…」

 

 「まず電気や毒を軽減する、

 それにスタミナの消費が少なくてな、

 双剣だけでなくハンマーの

 溜めにも最適だ」

 

 「うんうんそれで?」

 更にビールを追加

 

 「ただし火に弱い、そこは気をつけろ」

 

 「それは覚えてるぜ」

 

 料理も持ってこさせる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そんな効果があったんだ…」

 四人で何度か狩っているが、

 クックやリオス系ばかり狩ってたせいで

 防具候補に挙がらなかった。

 久しぶりの大剣…緊張する

 

 「この前の死んだふりにも

 気を付けないとね」

 うっかり斬りかかってカンナは

 吹き飛ばされた。

 

 「あれは私も食らった事あるよ、

 吹っ飛ばされた」

 マリンでも吹っ飛ぶ

 

 「死に物狂いでカマしてくるからな」

 

 

 

 

 

 いた…霧の中に大きな

 ニワトリのようなシルエット

 

 斬りかかると尻尾を振り回す!

 

 「伸びんの邪魔!!」

 カンナは避ける、以外に広い

 

 カンナは足元に転がり脚を

 「かったぁい!!」

 初めての片手剣は感触が違う、

 全身ゴムのようなのに

 

 ゲリョスは毒を吐きながら走り回る、

 

 

 (速ェ、これに追い付けたらキリンにも!)

 「オラァッ!!」

 イシズキは振り返りに抜刀斬り

 

 一撃離脱を繰り返し四人は

 効率良く攻撃する

 

 ゲリョスは数回跳ねると動きを止め

 トサカを嘴へ打ち付ける

 カッ…カッ…カッ……

 

 「マリン!これ!」

 カンナは叫ぶ

 

 「そう!!ガード!!」

 

 

 クアァッ!!!!

 突然沼地に閃光が溢れる

 

 なんて芸の多い…

 モンスターなのに閃光まで使う

 

 「ガードあるって楽!」

 「まったくだぜ」

 

 カンナとイシズキは今まで閃光を

 避けられなかった

 

 「ガードがあればタダの隙だ!!」

 

 カンナが何度も斬りかかる、と、

 突然ゲリョスは倒れる

 

 

 「死んだふり!?」

 

 「いや…寝てるぜ」

 

 「やったぁ!利いた!」

 

 「じゃ、やるよ!」

 クロフとイシズキは頷く

 大剣最大の攻撃、溜め斬り

 

 事前に習ったように

 マリンに併せて振りかぶる。

 

 「「「せーの!!!」」」

 

 頭に溜め3 ×3

 

 

 

 

 

 

 

 

 「良い戦法だと思う?」

 クロフが考えた

 

 「爆弾よりも効率上がるかもね」

 マリンも満足そう

 

 「寝てれば溜め斬り楽だぜ!」

 

 「キリンって何回寝るかなぁ」

 

 とにかく次はこの戦法でいける、

 

 

 

 

 ……かなぁ

 

 

 

 

 

 

 

 「みんな素材足りた?」

 剥ぎ取った素材を見る

 

 「十分だろ、今までのもあるだろ?」

 イシズキはカンナに言う

 

 「私、素材売ってないはずだから

 足りるはず」

 

 「私はその気になればいつでも」

 マリンは大分素材があるようだ

 

 加工屋に頼み

 皆でゲリョス一式になる。

 

 

 

 「……これは…」

 

 「まぁ、分かってた事じゃねぇか、

 ウチの師匠見れば…」

 

 「どうにも丸いと言うか…」

 

 

 

 

 「アッハハ!!デブ!!」

 カンナは楽しそうだ、指を

 指して笑う

 

 「何で女用は普通なんだよ!!」

 

 「イシズキ、兜もかぶらなきゃ」

 マリンに言われる

 

 「くっそ…」

 イシズキは髪の毛を潰す

 

 とにかく防具の準備は出来たが

 「キリンのクエスト…もう無いよね…」

 クロフは俯く

 

 「いいさ、それならフルフルとか

 行けば良いんだよ」

 

 「そうだぜ!狩りの選択肢が

 増えたじゃねえか!!」

 

 「イシズキがマトモな事言ってる~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あらぁ、別のパーティーが行っちゃた

 わよ、今回はツイてなかったわね。」

 ベッキーは笑顔で言うが……

 

 

 

 

 「セドリック達が行ったか…」

 マリンは考える、成功するだろう、

 ハンター歴もそれなりにあり、

 何度かパーティーを組んだ、

 リーダーのセドリックは上位検定を

 確実に合格すると言われる。

 

 「あの下位の最強パーティーかよ」

 戦いたかった……もう一度…

 あのステップをぶん殴ることばかり

 考えてきた。

 

 「なんかさ、成功率高いんだって」

 何回斬ったら寝るか知りたかった

 

 

 

 クロフは……暗い

 

 「おいおいリーダー、気にすんなよ」

 イシズキが笑顔でフォローする

 

 

 

 

 次の日 装備の性能の確認に、

 密林のフルフル討伐

 

 

 

 

 「なんだこれ!凄い楽!!」

 フルフルの尻尾をランスでガード、

 スタミナ消費が少ない

 

 「何回乱舞できんだよコレ!!」

 イシズキは双剣で斬りまくる

 

 「回避も楽だよ!!」

 カンナは走って太刀で一撃離脱

 

 「イシズキ!何で今まで作らなかった!?」

 マリンがフルフルの向こうから聞く

 

 「そりゃカッコわりぃもん!!」

 

 「バチィッ!!!」

 電撃でイシズキは弾かれるが

 立ち上がる

 (ホントにダメージ少ねぇ…)

 

 「すげぇなコレ!!!」

 

 

 ちゃんと属性とか合えば、

 こんなに楽に狩れるんだ

 

 ………でも…各属性の防具と武器も

 揃えるって……気が遠くなる。

 

 

 

 

 

 

 「ねぇ、キリンって睡眠属性

 以外は弱点無いのぉ?」

 

 キャンプで防具を洗いながら

 

 「カンナ、何でキリンのクエストが

 競争率高いと思う?」

 マリンは返り血を洗う

 

 「何で?」

 

 「上位から聞いたことあるんだけど、

 属性的に弱点が無いんだって」

 

 ゲリョス装備は水を弾くため

 血も簡単に落ちる

 「火、水、雷、氷、

 まともに利かないそうだよ 」

 

 「それって……防具も」

 カンナは微妙な顔

 

 「そう……」

 マリンも

 

 

 「それが理由か……」

 くじ引きの謎が解けた。

 「じゃあキリンの装備って凄いんじゃ?」

 各属性揃える手間が減る!

 

 

 

 

 

 「クロフ、凄ぇけどよ…」

 カンナとマリンに振る

 

 視線を送られ

 「私は着る勇気が…ない」

 

 「私もハズカシイよアレ」

 

 「上位やG級の姉さん達にいるだろ?」

 イシズキが説明する

 

 「あ、あの目のやり場に困る装備か…」

 

 カンナとマリンに………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ムキムキと……ツルペタ?

 

 

 

 「…クロフ、今失礼な事考えなかった?」

 マリンが睨む

 

 「何でもないです…」

 下を向く

 

 「絶対いまコイツ考えたぜ!」

 

 「クロフやらしい~♪」

 

 「そんな、あの、…」

 照れるし恥ずかしい…

 こんな時どんな態度が正解?

 ナナキさんの様になれたらどんなに

 楽だろう…

 

 「とにかく電気を使うモンスターだけ

 でも楽に狩れるだけ…良い……」

 

 「真面目か!」

 イシズキが突っ込む

 

 真面目って……なんか俺……

 真面目?……かなぁ

 

 

 

 パティや師匠、ゼニスさんだったら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…ぶふぉお!!!」

 吹き出す

 

 「クロフ、ひっぱたいて良い!?」

 カンナに笑顔で胸ぐらを掴まれる

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後 ギルドマスターの部屋

 

 セドリックのパーティーは

 全滅したとネコタクから報告が入る

 

 

 「ホッホッ……笑い事ではないわい」

 

 「キリンだけではなかったんだのぉ」

 

 「キリン討伐の途中で別の

 古龍が飛来したそうです」

 ベッキーはネコタクからの情報を

 伝える

 

 「フム、将来有望な

 パーティーの全滅とは痛い」

 

 「わげぇやづにじんでほじぐねぇ」

 

 「うむ、ゼルド、ガルダは準備待機、

 ベッキーはギルドナイト本部と

 書士隊に監視の連絡を」

 

 「セドリック達の事は

 どう伝えたものかのぉ…」

 ロクスの試験を合格した一人なのだ、

 惜しい人材。

 

 「そのまま伝える他あるまい、

 ただし、もう一体は内密じゃ」

 ギルドマスターは目を伏せる。

 

 「この前ゼニスが来たのも…のぉ」

 

 「うむ、アルトがこの前東で発見した、

 古龍らしき生物の追加調査じゃ…」

 

 「ギルドマスター……こりゃワシの

 気のせいなら良いがの…」

 ロクスの顔が険しくなる

 

 「気のせいではない、

 ラオシャンロンといい

 各地の古龍が活動を始めとる」

 

 「……ヤツか?」

 

 「それだけは……避けたい」

 ギルドの紋章を見る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セドリックパーティーの全滅は

 ギルド内に伝わった

 

 「実際は上位に近いやつらだぜ?」

 「キリンは人食わねぇらしいのに?」

 「攻略だって出来てるだろうに…」

 「えぇ!?イイ男だから狙ってたのに!」

 

 下位は騒ぐが上位とG級は

 落ち着いている、大体何があった

 のか予想しているが…

 

 「じゃあキリンは討伐しかけて…?」

 

 「そりゃ無傷って訳じゃねぇよな?」

 

 「今チャンスじゃん!!」

 

 「ちょっと不謹慎だよあんたたち」

 

 クロフ達も察する事は出来ない、

 所詮は思慮も下位レベル。

 

 

 「ホッホッホ、原因は調査中じゃ」

 時にはバカな位の方が、空気が

 重くならんで良いか…

 

 

 

 

 

 数日後

 

 「し……し、失礼します!」

 ギルドの入り口で声がする

 

 皆で声の主を見る

 子供……学者っぽい服を着た子供?

 頭に四角い帽子を被った少年

 

 「ホッホッどなたかの?」

 

 「あ、……ぼく……あ、わたくし、

 王立古生物研究書士隊から

 遣わされました、マルクと申します!」

 

 ビシッと気を付けの姿勢だが……

 どうみても10才位…

 

 「うむ、その遣いが何用じゃ?」

 全員が気付く、ギルドマスターの

 しゃべり方が変わった、

 声色も違う

 

 コレは何かあるぞ…

 

 「北の塔へ直接調査を受けまして

 遣わされました、護衛をお願いします」

 

 「護衛か…」

 ゼルドとガルダは…出せん…

 他のG級に…古龍がいるかもしれん…

 

 「はい、ナナキ様の紹介により、

 クロフ殿カンナ殿に御同行を…」

 

 (ちっ!まずいのぉ)

 ロクスは思う、この二人ばかり

 特別扱いしとるように思われる、

 ギルド内の空気や派閥が

 不安定になる

 

 (まずいわね…)

 カンナちゃんの態度が最近マシに

 なってきて下位も安定してたのに

 

 (うーむ)

 これで偶然キリンでも狩ってきたら

 確実にヒビが入る…

 

 

 

 「アルト様からの伝言です」

 

 『クロフ、書士隊の勉強しなさい、

 塔でザコ以外は狩り禁止』

 

 一気にハンター達の目付きが

 弛む。

 

 (杞憂じゃったか)

 「ホッホッホ、良かろう」

 

 「アルトらしいのぉ」

 

 「弟子は可愛いのね姉さん」

 

 ギルド内もそれなら納得、

 と緊張が解けた。

 

 

 

 「あの…イシズキとマリンも…」

 

 「はい、お連れ様も歓迎です」

 

 「俺達ゃオマケか?あ?」

 

 「イシズキ、態度が悪い」

 マリンが睨む、と

 

 「だって子供だぜ?何だよこの

 上から目線!!」

 

 ギルド内の全員が思う

 

 子供はお前だ

 

 

 

 

 

 それよりも

 「みんな、必要と思われるものの

 準備と…マルクさん」

 

 「なんでしょう?」

 丁寧に向き直る

 

 「必要な物を言ってください」

 

 (おぉ、ちゃんと反省してるわい

 成長したのぉ)

 

 

 

 

 

 

 

 最近通ったこの道をまた通るとは、

 悔しい気持ちを思い出して暗くなる。

 

 アプトノスを操作しながら聞く

 

 「ええと、マルクさんはまだ若いのに

 どんな仕事を??」

 

 「普段は本部でひたすら原稿の

 写しを書いて…」

 

 「あ!狩りに生きるとか書いてんのって」

 カンナが聞く

 

 「はい、ボクた……私達です」

 キチンと座り毅然としているが

 

 「ギルドじゃないから緊張しなくて良い」

 マリンは優しく言う

 

 「た、助かります」

 一気に弛む。

 

 「けどよ、何で本部のヤツが調査よ?」

 

 「最近古龍の動きが活発で、

 先輩方も調査に駆り出されちゃって、

 それで先月、遂にボクにも」

 

 「人手不足なんだぁ」

 

 「この辺りの村が担当でした」

 

 皆思う

 (ランポス一頭にさえ……

 勝てないだろう子供まで使うのか)

 

 「あの、マルクさん」

 

 「マルクで良いですよ」

 ニコニコと良く笑う少年

 

 「古龍とかの本も書いてるんだよね」

 

 「はい、写したことあります」

 

 「教えてもらえる?」

 

 「おぉ!そうかこいつなら知ってんのか!」

 

 「私聞きたい!!」

 

 「私もだ」

 

 

 

 

 「コホン!えー…ではまず概略から」

 小さな教授は揺れる竜車で語り出す

 

 「古龍とは存在そのものが自然、

 または自然災害に成りうる存在です」

 

 四人はキリンを思い出す、

 雷ってなぁ……反則だよ

 

 「代表的なのは風を操るクシャルダオラ、

 存在そのものが炎であるテスカト種、

 姿を消すオオナズチ…」

 

 まだまだイッパイいるのか……

 

 

 あれ?ラオシャンロンも…確か古龍?

 

 

 

 

 

 「バキバキ……」

 大きな音が響く、森のトンネルを

 横から突き破った影

 

 

 

 

 ダイミョウザザミ!!

 

 四人は飛び降りる

 

 「え!あの!?」

 

 「マルクさんは伏せてて!!」

 

 「いょっしゃ!!俺らの仕事だ!!」

 

 「コイツ寝るのかな?」

 

 「とにかくやるよ!!」



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もがく者たち2

 

 「ガンっ!!」

 

 「あたっ!!」

 (あれ?!こんなはずじゃ…)

 

 「カンナ!!大丈夫!?」

 

 「お前らしくねぇ!!どうした!?」

 

 「無理せずに脚を!!」

 

 いつも通り、いつも通りに斬って

 ザザミの下をくぐったつもり…

 

 くぐろうとしたら…頭をブツケて

 よろけた……

 くぐれなくなってる。

 

 今までのやり方が通じない……

 

 「抜刀斬りだけで!!」

 クロフが叫ぶ

 

 ザザミなんて最初の時から

 楽勝だったのに……

 

 そうだ、レイアの時も泣いたじゃん、

 泣かないためには…

 

 本当は地味でキライだが、カンナは

 脚を斬り始める

 

 

 

 

 

 「ドスン…」

 軽い地響きを起こしながらザザミは寝た

 

 「寝たぁ!!!」カンナは跳ねる

 

 「じゃあ頭に」

 

 「クロフ、イシズキ、ちょっと待って!」

 

 「何だ?マリン?」

 イシズキは構えている

 

 「キリンを…想定するなら…」

 マリンは巨大なハサミの前に立つ

 

 二人とも頷く、弱い頭じゃなく

 あえて一番硬い所

 

 

 「「「せーの!!!」」」

 

 

 

 「バカン!!」と大きな音が響き、

 ザザミの爪が割れた

 

 「くーっ!!いてぇ!!」

 手応えってやつか、

 キリンを殴るためなら……

 

 

 見れば鋏の甲殻が剥がれ、

 身が…みえる…

 

 

 

 

 「「「「うまそう!!!!!」」」」

 そんな思いが過るが皆口には出さない

 

 立ち上がるとザザミは逃げていく

 

 「追うぞ!!」

 

 「待ってイシズキ、護衛でしょ」

 

 「俺達の仕事は終わったよ」

 

 「あ!…ちっ…そうか、そうなんだよな」

 

 護衛とは、つまり追い払うだけ、

 完全に狩っていけば、アイテムが

 尽きるは明白。

 

 

 

 竜車の方を見ると、

 マルクが横に立って何かしている

 

 「マルクさん、危ないから隠れて

 貰わないと」

 クロフが言うが

 

 「せっかくのモンスターですから」

 スケッチブックを見せる、

 キレイなザザミが描かれている。

 

 「これは絵…だよなぁ」

 

 「うっわぁ!上手!」

 

 「すげぇな!!」

 

 さっきのザザミをスケッチブックに

 描いていた

 

 「ボクの特技でして…」

 照れている、見ると他のモンスターも

 

 「だから今の仕事に?」

 

 「はい、これも仕事の一つです」

 

 

 

 マルクさんが現場に来る理由はこれか

 

 「どんなモンスターがいても、

 絵に残せる訳か!俺らにゃむりだぜ!」

 

 

 

 書士隊の仕事……できるか俺、

 絵なんて描いたことあったか?

 

 1日中原稿を写す……?

 

 クロフは悩む、書士隊……

 

 なりたいもの……

 

 俺どうして今ハンター……

 

 何か思ってたのと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後

 小さな村から少し歩くと塔、

 ここからは徒歩

 

 キリンを思い出す、昨日の事

 の様に…

 

 しかしカンナは…

 

 

 

 

 「…ザザミの事?」

 クロフは前置き無しで言う

 

 「…え?」

 カンナは驚く、数日前なのに

 考えてる事を見抜かれてる

 

 「あれからカンナ口数少ないし」

 

 「うん、今まで慣れちゃったモンスター

 は、もう一度考え直さないと」

 

 「クックとか……?」

 

 「ザザミでハッキリした…」

 痛感した

 

 「イメージ通りに全然できない、

 頭の中の自分と現実の自分に、

 なんかズレがあるの…」

 

 明らかにカンナは戦力として下がった、

 

 『カンナを守ってくれ』

 

 守らなきゃ………

 

 

 

 

 

 「マルクさん、疲れない?」

 

 「ボクは大丈夫ですよ、皆さんの方が

 装備も有りますし」

 足取りは軽い

 

 

 「あの……遺跡とか調べる仕事は

 普段はやらないの?」

 

 「戦闘も出来る方々だけが行きます、

 ボク、戦うの出来ませんし」

 

 「今の仕事をやろうと思ったキッカケ

 は何かある?」

 

 「学校で割り振られただけで、

 僕自身も何がやりたいかは……」

 少し困った顔になるが

 

 「そうなんだ……」

 (そういえば10才位だし、

 年上が聞いていい内容だったか?)

 

 

 ギルドで話を聞いてて覚えた、

 話しには前置きと本題がある、

 ちゃんと使えた。

 

 だけど……うん……

 聞いていい事じゃ無かったかも。

 

 「皆絵を早く上手に描けるの?」

 

 「これはボク以外はいません、上手

 でもボクほど早く描けませんから」

 得意顔

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おい何だよアレ?」

 イシズキが指差す

 

 「塔が見え…え……アレ?」

 カンナは目をこする

 

 「山が…浮いてんのアレ?」

 マリンも

 

 「飛行船とかじゃ…」

 村で一度、近くで見たが…大きそう

 

 「すごい、凄いですよアレ!!!

 古龍の中でも更に古いと

 言われるヤマツカミです!!!」

 マルクが叫ぶ、

 

 古龍?…龍……っていうか…

 何だアレ

 

 スケッチブックに高速で

 描いていくマルク、 

 丸い山に足?が数本

 

 「だけどこの距離であの大きさってさ」

 カンナは目を見開く

 

 「俺の目がオカシイのか?」

 イシズキも目をこする

 

 マリンもしきりに瞬きする

 

 幸いにも塔から離れていくようだ

 

 「どっか行くのかな…?」

 

 「チャンスじゃん!!」

 

 「とにかく調査しましょう!!」

 マルクのテンションは最高

 

 今回はちゃんとロクスに聞いて来た、

 塔とは手強いモンスターの巣窟

 であること、

 この名前と大雑把な特長も聞いた、

 

 けど、あまりにも……変。

 

 

 

 

 中に入ると

 

 「あれは!!ガブラスです!!」

 マルクが叫ぶ。

 

 不吉と災厄の使いと呼ばれる

 蛇のような竜、

 正確には小型飛竜

 

 頭上をゆっくりホバリングしてくる

 

 初めて見る、何だかニョロニョロした

 小さい飛竜……しかも

 

 「ペッ!!」

 

 「うわ!キタネェ!!」

 

 

 「毒だよ!気を付けて!」

 マリンが斬りつけ、一頭が死ぬと、

 それを仲間が寄ってきて喰う

 

 「やだぁ!仲間食べるの!?」

 

 「鬱陶しいなコイツら」

 大剣がギリギリ届く位の高さを飛ぶ、

 マリンなら届く

 

 「誰か音爆弾あったよね!?」

 前に本で読んだ

 

 「私持ってるよ!?」

 カンナは全然届かない、

 一生懸命に片手剣を振る姿は

 なんだか面白い

 

 「投げて!!」

 

 カンナは納刀せずに投げる、

 投げられる!!

 

 「キィン」という高音、と同時に

 ボタボタと5匹落ちてくる

 

 「凄いですよ!!」

 マルクが走ってくる

 

 「危ないから下がって!!」

 足元を走るマルクを

 マリンが避けながら言う

 

 「こんな近くで観察できるなんて♪」

 マルクは描き始める

 

 「おいクロフ!何とか言ってやれよ!」

 

 

 

 

 

 全部片付けてから

 「マルクさん、俺達は護衛ですが、

 自分から走ってきて…あの、

 えと………」

 年下にさえ怒るの苦手。

 

 マリンが前に出る

 「自分から危険に近付く人は

 守りきれん!!!」

 睨み付ける、

 いつもより厳しい口調、

 

 クロフが緊張する……怖い……

 

 「ご、ごめんなさい」

 マルクは丁寧に謝る、

 「つい絵に夢中になってしまい」

 

 興味を持ったら一直線な性格か?

 

 怒るマリン、その辺の男よりも怖い

 

 「気を付けます」

 小さくなるマルク

 

 

 

 

 

 

 

 奥に進む、大きな階段を、カンナと

 マルクを引き上げながら慎重に

 

 「さっきのヤマナントカが戻らなきゃ

 良いけどな」

 イシズキが見回す

 

 「あれが来たら逃げようよ!」

 カンナもキョロキョロ

 

 「うん、キリンがいても今回は逃げる」

 

 「あぁ?何でだよ!チャンスだろ!?」

 イシズキは食って掛かるが

 

 「イシズキ、今回はクエストは?」

 マリンが腕組みして聞く

 

 「護衛……か」

 

 「私もキリンと戦いたいけど

 ガマンしてんだよ?」

 

 マルクの無事

 これが今回のクエスト

 

 

 

 

 奥の吹き抜け

 「あれは………」

 マルクが何か見付けたようだ、

 一緒に付いて下に降りる

 

 マルクは木の枝を拾い上げる

 

 「これ…龍木だ!!」

 

 「流木?」カンナが言う

 

 「違いますよ、ヤマツカミに生える木で

 龍木です…凄い……」

 

 「木が…生えるの?…古龍に?」

 生物に木が生える?

 

 「何言ってんだコイツ?」

 イシズキは不機嫌、キリンに

 会いたい

 

 「じゃあ証拠を、マリンさん、軽く

 その大剣を振り下ろして見てください」

 

 直径5センチばかりの木の枝、

 リオレイアの大剣では、いくら軽く

 振っても斬れるはず…が!

 

 

 「ガイィィン」

 

 「うそ…」マリンは固まる

 

 「ヤマツカミの背中で、恐らくヤマツカミ

 の体液を吸って育った木は、

 金属並の強度になるんです」

 

 「これの武器とか防具とかって?」

 

 「存在します」

 

 

 他にも苔っぽい物を集めていると

 

 「おいこれ!!」

 イシズキが何かを見付ける

 

 食い荒らされ、僅かに残った肉片が

 潰れた防具を着ている

 

 「遺体……ですね」

 

 「レウス装備だね…」

 カンナは口を覆う

 

 「さっきの蛇みてぇなのに喰われたか」

 

 「これ……セドリックだ……」

 マリンは膝を着く

 

 何かに潰された様に見えるが…

 

 

 ハンターが死んだなら自然にまかせる、

 それがルール

 

 が、クロフは始めて見る状況

 

 

 

 「こういう時ってどうするの?」

 クロフは知らない

 

 「…そのままがルールだけど、遺品を

 一つ持って帰るのは許されてる」

 マリンは付き合いがあったのか

 悲しそうだ

 

 「ドンドルマの墓場に行った事ねぇな

 お前、盛り土に武器が刺さってるぜ」

 

 「武器……無いね」

 カンナは瓦礫の下を見る

 

 「じゃあ…」

 クロフは潰れた兜を持ち上げる、

 腐った臭いが鼻を刺す

 

 ハンターの末路……

 俺達もこうなる所だった、

 

 いや……いつこうなっても

 おかしくない、

 

 だから情報は大事なんだ

 

 

 

 

 全員が思い知る

 明日の自分かも知れない……

 

 

 

 

 

 何がキリンだ!!何が古龍だ!!

 俺達は遠く及ばない!!

 

 

 

 

 『退くのも勇気だ、生き残れ』

 

 師匠……強くなりたい…

 けど……強くなれば危険も増す……

 

 

 目標……

 

 

 

 

 

 「ブォン……ブォン……」

 

 「この音まさか!!」

 マリンは立ち上がる

 

 「逃げるぜ!!」

 

 「マルクさん!!」

 マルクの手を掴み走る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドンドルマで報告、

 セドリックの兜を見せる

 

 「そうかヤマツカミか……

 よくぞ無事で帰ったなクロフよ」

 

 ギルドマスターが誉めて…るのかな

 

 「依頼次第では討伐クエストが

 発生するが……どうじゃ?」

 マルクを見るが

 

 「そ、そんな、私には権限が

 ありませんので、

 一度本部に連絡しないと」

 

 

 

 

 

 

 

 「とにかく護衛は終わったな…」

 イシズキは天井を仰ぐ

 

 「キリンなんて…」

 クロフは俯く

 

 「うん…思い上がってたよ私」

 溜め息

 

 「私達は…これから…」

 マリンはセドリックと組んだ事が

 あるらしい

 

 

 四人で座って暗くなる、

 調子に乗ってた、狩り場を嘗めた。

 

 いつの間にか自分達に甘えがあった、

 常に死と隣り合わせの稼業なのに、

 勝って当然と思ってた。

 

 

 

 「おっ?真面目じゃないか」

 

 「師匠…」

 

 ナガエが来ていた

 「悩んでるなぁ若人よ、じゃあ俺の

 師匠から言われた言葉だ」

 

 「『己の無力を思い知れ』だ

 自分の無力を知って、それで初めて

 努力でき、成長するんだ」

 

 

 「無力……うん、無力だ……私」

 カンナは俯く

 

 「あの、自分の実力を知るのに……

 ちょうどいい強さ……えと…」

 

 ナガエは笑う

 「それが先生だよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日

 パーティーは解散、そして

 

 「武器はハンターナイフで」

 マリンが持つと小さく見える

 

 「防具も無し!全部避ける!」

 カンナは回避が不安定で自殺行為、

 でも今は必要なこと

 

 「罠も無しで良いだろ?」

 補助アイテムも最低限

 

 「基本から鍛え直しで行こう」

 今の自分のレベルを知る

 

 全員ソロでクックへ

 

 他のハンター達に変な目で見られる、

 

 セドリックのパーティーが全滅したこと

 で、現在成功率が下位で一位になった

 四人が、クックへ行くのだ当然だろう。

 

 しかも全員インナー、

 ハンターナイフ、

 まるで駆け出しのハンター。

 

 

 「クロフ達は謙虚だのぉ」

 

 「ホッホッ馬鹿とも言える」

 

 「あらあら、上位とG級の狩場から

 生きて帰ったのに」

 本当ならば下位で自慢できる

 

 

 「ホッホッ盲目で勘も悪い頭も良くない」

 

 「だが強くなるタイプだのぉ」

 

 パイプを吹かしながら

 「クロフには一番大事な『臆病さ』を

 思い出してほしかったんじゃ」

 ランスの戦法を壊し、

 わざと失敗するクエストへ行かせた

 

 「あら、そうだったんですか、

 上手くいきましたね」

 

 「カンナも怖いと言ったしのぉ」

 カンナの自信もスッカリ壊れた

 

 「ホッホッ、恐怖と常に隣り合わせで

 強くなるんじゃ、怖いもの知らずは

 一見勇敢だが死ぬからなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 イシズキはランポスに囲まれる、

 

 ランポスって厄介だったのか…

 忘れてたぜ。

 

 ハンターナイフでは6~7回斬らない

 と倒せない、しかもこちらを

 囲んでくる

 

 いつもなら回転連斬で密集に

 突っ込んで突破するが…

 

 「めんどくせええぇ!!!!」

 

 こんなんでクックに勝てんのかオレ!!

 

 

 

 

 

 

 「三頭目!!」

 

 マリンもランポスに苦戦する、

 いつもの大剣なら一撃で吹き飛ぶ

 はずが、何度斬っても立ち上がる

 

 そう言う事か…!

 武器の性能に助けられてただけだ!

 

 強くなる…そうか、これか!

 武器は最低、防具は無し、

 純粋な自分の力が分かるんだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「てい!!!」

 堪らず閃光玉を投げる、

 すぐに囲まれてしまう

 

 この私が雑魚に閃光使うなんて…

 

 この私?…馬鹿だ

 

 何が『この』よ!思い上がりだ!

 ランポスにアイテム?私が雑魚じゃん!

 

 片手剣じゃリーチは無い、遠心力

 が無い、つまり威力が無い。

 

 他の武器は?私の持ってる武器は…

 

 『お前は目が良い』

 

 「目って何よ…師匠」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの時突然師匠が現れた、

 最短でディアを倒したんだろう…

 遠いな…師匠

 

 倒れたランポスを見る

 

 三頭いたら必死だったけど、

 動きが分かる、もう脅威じゃない。

 

 さて、クックは…

 

 「ブフッ」思わず吹き出す、

 数ヵ月前までクックを化け物だと…

 

 今は…

 

 「気楽だな…」

 

 ハッとする、

 

 「嘗めたらダメだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドンドルマの入り口、鉄の扉の前

 

 「おう、マリン…」

 

 「あぁ…イシズキ」

 

 「その様子じゃ苦戦したな?」

 

 「アンタこそ髪型グシャグシャだ」

 

 

 「あ、マリン、イシズキ」

 

 「おうカンナ、お前はどうだった?」

 

 「…リタイア」

 

 「えっ!アンタがなんで?」

 

 「道具使いきっちゃった」

 

 三人で歩く

 自信は打ち砕かれた

 

 いや、最初から根拠が無い自信だった

 

 

 武器と防具……そして……

 

 

 「弱いな…俺ら」

 

 「…良く解ったよ」

 

 「師匠いつも防具無しだった…

 体一つでもこんなに差があるんだ」

 

 

 クロフに頼った自信だった

 

 

 

 

 ギルドに入るとクロフが居る

 

 「おかえり」

 

 「おめぇは…苦戦しなかったのか?」

 

 クロフはキョトンとする

 

 「うっわ腹立つ『何が?』って顔!」

 

 「クロフ、いつもより大変だった

 はずだよ?」

 大剣フルミナントからハンターナイフ

 

 

 「うん、考えた見たら俺元々片手剣

 だし、最初クック狩った時

 ハンターナイフ改だった」

 

 「うそぉ!!もっと強化しなかったの?」

 

 「なんとなく師匠に言われるまま…」

 

 「最初から最低限の装備か…」

 マリンは納得できた、

 初めて使う最低のランスで

 クックを倒したのだクロフは

 

 

 

 

 「解ったぜ…クロフ、次はお前が教えろ」

 

 「???」

 

 「そうだな、基本の強さが違う」

 

 「アンタってさ、もしかしたら師匠

 (ナナキ)に近いのかも」

 

 「教えるって……何を?」

 人にモノを教えた事なんて……

 

 「何かあんだろ?なんか」

 イシズキが聞き続ける……

 

 

 

 『いい答えだ』

 『何を学んだ?』

 『じゃあどうする?』

 

 「あれか…な?」

 



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もがく者たち3

 

 ハンターナイフを用意、

 集合場所は墓場、

 

 こんな所があったのか…

 

 ギルドの裏、高台にわずかな平地が

 広がり、無数の朽ちた武器などが

 盛り土に刺さっている

 

 「俺とマリンはよ、毎日来るんだ」

 

 「もしかして……仲間が?」

 

 「あぁ、マリンもな」

 

 

 「イシズキ……

 何でパーティー組んでくれたの?」

 不思議だった、

 なぜかギルドに来た日から

 良く会話に入って来ていた。

 

 

 明らかにクロフとは合わないタイプ、

 明らかにクロフを嫌うタイプ、

 人を見下し努力などしないタイプ、

 

 に見えるんだけど

 

 

 

 

 

 「何となくだって言ったじゃねぇか」

 前にも聞かれた

 

 「それだけじゃ…ないと思う」

 

 

 「……あーめんどくせぇな!!」

 頭をボリボリ掻いてから髪型を直す

 

 

 

 

 

 「……理由は二つだ、一つは

 お前がここにいるヤツに近くてな」

 盛り土の一つを指差す

 

 「近い?」

 

 「引っ込み思案でオドオドしててよ、

 利用されるヤツだった」

 

 墓の中には遺体は無いが、イシズキは

 しゃがんで手を合わせる

 

 「オメェ見てると不安でな、

 俺はこの街で…最初に仲間に

 なったのはシュウだった…」

 

 「え!?」あの悪意しか感じない…

 でも納得行く、言葉の荒らさ、態度、

 船乗りとかに似ている

 

 

 「人に戦わせて手柄は自分等のモノに

 した方が楽だ、賢い、

 そんな風に考えてよ」

 

 立ち上がると

 「けどな、死なせちまった……そこで

 気付いてよ、師匠に弟子入りした」

 

 後悔…懺悔…

 

 「コイツが死んだ時に気が付いた、

 俺がカッコわりぃんだ…ってな……」

 

 

 

 

 

 「もう一つはマリンだ」

 イシズキはクロフに向く

 

 「マリン!?」

 意外、何で?

 

 「知ってっか?女ってやつは

 3人いると派閥が出来る」

 

 「派閥??」

 

 「1対2になって相手を攻撃すんだよ、

 マリンはそれが無ぇし誰とでも話せる、

 女から好かれる女って珍しいんだぜ、

 そんなヤツが認めたからな、

 気になったんだ」

 

 クロフに近付き

 「女って結構ドロドロしてんだぜ?

 二人の前じゃ言えねぇけど」

 

 小声で言うが……

 ドロドロ……って何だろう

 

 

 

 「あのよ、クロフ、その女みてぇな

 しゃべり方、やめた方が良い」

 

 「何で?」

 喋るだけで大変なのに

 

 「気が弱いってナメられるぜ」

 髪を直し

 「案外大事なんだぜ?そういうヤツ」

 

 

 

 

 

 

 マリンとカンナも合流

 

 「クロフ、早速始めてくれ」

 マリンは真剣

 

 四人で墓場の中央へ

 

 「俺が師匠から教わったのは逸らす事」

 

 「逸らす??」

 

 「私も師匠に教わったけど、

 吹っ飛んだアレか…」

 

 「うん、盾を……」

 

 訓練を始める、蹴るのはクロフ

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 「ガシュッ!!」

 

 「おめぇは大剣でもこれやってたのか!」

 驚く、ガードしても楽!

 

 「力を力で受けないか、なるほど!」

 今まで踏ん張ってた

 

 「私もクック位は

 ガード出来るようにならないと」

 

 

 

 クロフの蹴りでは弱すぎるが、

 それでも理屈は理解できる

 

 この訓練、蹴る方が疲れる

 何回蹴ったんだろう

 クロフはゼェゼェ息をする

 

 「ランスだと…もっと……楽だよ」

 疲れた、膝が笑ってる……

 

 

 

 俺は逸らすを教わった、カンナは…

 

 「ねぇ…カンナは…何を教わった?」

 カンナだって何かあるはず

 

 「『お前は目が良い』って何だと思う?」

 

 「???」

 

 

 

 

 

 「……多分攻撃を見切る事か…な」

 マリンが考える

 

 「見切る……?」

 

 「たとえばさ……」

 

 マリンはナイフをゆっくり振る

 

 カンナは上半身だけでスウェーする

 

 「あ、そうか、回避」

 紙一重で全部避けてたんだ

 「でも最近は避けられなくてさ、

 下手になってる」

 

 「多分、モンスターから見たら的が

 小さかったんだろ、それで早エェって

 キリンみてぇだな!」

 

 それこそがカンナの才能だった、

 

 

 そして体の成長で消えそう。

 

 

 

 

 

 ギルドに戻りクックのクエストを探すが

 

 「今は無いわ、

 リオレウスなら来てるけど」

 

 え……どうし……

 

 

 「やってみっか?」

 振り返りニヤリ

 

 「さすがにインナーだけじゃ……

 無謀じゃないか?」

 マリンは困り顔

 

 「防具はアリで行こ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全員ハンターナイフ、防具は

 マリンがギザミ、クロフはクック、

 イシズキとカンナはレウス

 

 「じゃあまず回避とガードだけで」

 クロフが指示を出す

 

 「緊張すんなコレ!」

 ハンターナイフでは頼りない

 

 「目標はノーダメだ!」

 マリンは理想を口にする

 

 「絶対モノにしないと……」

 いくら練習しても元の体重が軽すぎて

 出来なかった…今から必要な技術

 

 

 

 

 

 

 

 トゲだらけの尻尾が来る!!

 

 「ガシュッ!!」

 

 「うおおぉ!!できたぜぇ!!」

 ブルブル震えながら感動する

 

 「こういうことかぁ!!」

 カンナは難なく身に付けたが、なんと

 自分から少し跳んで衝撃を逃がす

 

 ナナキさんが認めた理由が分かる、

 後ろに跳んだナナキさん……

 

 「私には難しいな、けど

 今までに比べたら楽だ」

 体が大きいマリンには合わないようだ

 

 ひと通り出来たみたいだし

 「じゃあここから普通に!」

 

 「やってやるぜェ!!!」

 

 

 

 しかし

 

 足元に走り込むカンナ

 「何か堅いんだけど?!!!」

 

 翼膜を斬るマリン

 「何だこれ!刃が立たない!!」

 

 「切れ味落ちるの早すぎんぜ!!!」

 

 「鱗の小さい所を狙って!回避重視で!」

 「連続攻撃は控えて!!」

 

 ハンターナイフでリオレウス……

 無謀だったか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 半日掛かって倒したが……

 

 「こっ……こんなに……強いのぉ!?」

 カンナは肩で息をする

 

 「と、砥石ギリギリ…」

 マリンも咳き込む

 

 「つれぇ!……でも解ったぜ

 これが強くなるって事か!!」

 地面に大の字

 

 「何とか……なったぁ……」

 砥石を採取しながら討伐、

 神経まで磨り減った

 

 全員が理解する

 

 

 先ずは本人の性能

 

 

 そこに武器防具が加わるだけ

 

 

 素人が最高の武器防具を身に

 着けても、クックにすら勝てまい

 

 強くなるには自分のムダを無くすこと、

 

 

 自分のどこにスキがあるのか理解する

 

 

 モンスターのどこにスキが

 あるのか理解する

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、それぞれ考えた武器で

 

 防具は同じ、カンナはトトスの

 片手剣、イシズキ、マリンは大剣

 クロフはランス

 

 

 マリンは思い出す、

 

 そうだ、クロフのガードは切っ先を

 地面に付けて斜めにしてた…

 

 「ガシュッ!!」

 

 「出来た!!!」

 私の体だと大剣の方が合う!!!

 

 

 

 

 マリンをみてイシズキが真似する

 

 

 そうか、クロフは応用したのか、

 ぼーっとしてるようで頭イイじゃ

 ねえか……

 

 もしかしたら突進もか?

 イシズキは斜めに受ける

 

 「ガスッ!!!」

 

 やっぱりだ!!逸らす、

 こういうことか!!!

 

 明らかに自分のレベルが上がった

 

 

 

 

 尻尾、突進、噛みつき…

 カンナは全て逸らし始める、

 自分から合わせて小さく跳ぶ、

 

 目がいいの意味が解った、応用できる、

 衝突の瞬間が解る。

 

 『かわす』は出来なくなってきた、けど

 『逸らす』が出来ればガードで固まらない

 すぐに次の行動が出来る!!

 

 カンナは盾の方の手で閃光玉を

 投げる

 

 

 

 

 「凄い、皆自分のモノにしちゃった」

 これはボヤボヤしてられないな

 

 クロフの中にライバル心が現れる、

 しかし本人は無自覚

 

 

 

 

 「じゃあ攻撃!!」

 

 

 

 

 

 

 リオレウスは20分で倒れる、

 以前は一時間位だった。

 

 

 

 「はっやぁ!!!」

 カンナはピョンピョン跳ねる

 

 「ちょっと…もう?」

 マリンはレウスの顔をつつく

 

 「嘘だろ、俺らこんなに強ぇえのか!?」

 手のひらをマジマジ見る

 

 逸らすとはつまり、こちらのガードのスキ

 を減らし、行動に余裕が出ること。

 

 

 

 

 街に戻りベッキーに報告

 

 「あらぁ、リタイアしたの?」

 

 「冗談!成功よ!」

 カンナは鱗を見せる

 

 下位達が騒ぐ

 「早すぎんぜ!?」

 「何で急に…」

 「何があった!?」

 皆不思議そうだ

 

 「へっへー!!そればでもがっ!!!」

 あわててイシズキがカンナの

 口をおさえる

 

 「何でおめぇは口が軽いんだ」

 

 「あ……ゴメン」

 

 

 「腕を上げたようだのぉ…」

 ロクスは大体察しているようだ

 

 「師匠のアレを…」

 

 「教えたのか、自分だけ知ってりゃ

 自分の財産だったのにのぉ」

 ゼニスの報告通り欲が無い、

 自分だけ良い思いしようとか、

 出し抜こうとか……

 

 まぁ基本の一つに過ぎんがの。

 

 

 ギルドマスターが来る

 

 「ホッホッ、次を与えて良さそうじゃの」

 ベッキーを見る

 

 「はい、下位の中でも最高のクエスト

 解放ですね」

 

 「ギルドマスター、いよいよじゃの」

 

 クロフ達は緊張しながら聞く、

 何が始まる?

 マリンだけは理解しているようだ

 

 

 

 「では、これらのクエストを全部

 こなしたら上位の挑戦を認める!!」

 

 「おおお!!!」

 下位に歓声が上がる

 

 「先ずはこれ」

 ベッキーに紙を渡される

 

 

 

 ディアブロスの討伐

 

 

 

 「う……」

 遠くから見たことがあるクロフは

 固まる

 

 「あいつかよ…」

 イシズキも知ってるらしい

 

 「え?…何?ねぇ…何?」

 カンナは知らないようだ、

 固まった二人を交互に見る

 

 そんな三人を見ながら

 「大丈夫、私は戦った事あるから」

 ニコッと笑う

 

 

 

 

 テーブルに着きマリンの話を聞く

 

 「弱点らしい弱点は無い」

 

 「えぇ…そんなぁ」

 

 「ディアブロスの攻撃はさ、ブレスとか

 特殊な能力は無いんだけどさ…」

 

 「楽じゃネェのか?」

 

 「身体能力だけでも凄く高いのよ」

 

 「どのくらい?」

 

 「突進の早さはリオスより上、オマケに

 咆哮がバカでかくて動けなくなる」

 

 本で読んだが、逸らす…通じるか?

 

 「地面に潜って下から突き上げてくる」

 

 逸らす……下から?無理そう。

 

 「でもよ?火は吐かねぇよな?」

 

 「そっかぁ!ゲリョス装備!」

 

 「逸らすと合わされば強わね」

 

 「後は道具の準備と……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 明日からは、マリンに聞いた話を元に

 準備をする、

 音爆弾と閃光玉と……出来れば……

 武器を。

 

 宿舎に上がろうとすると……

 

 「ホッホッ、ベッキー、後を頼むぞ」

 ギルドマスターが外へ出ていく

 

 

 あっれ…珍しい、もう夜なのに

 

 「カンナ、階段の途中で止まらないで」

 マリンが後ろで困る

 

 カンナは階段を降りて

 ゼルドに何か聞きにいく……

 

 

 

 

 

 

 

 (あらあら…勘が良いのか悪いのか)

 

 

 

 

 

 

 

 「クロフ、ちょっと」

 

 「何?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人で夜のドンドルマを走る

 

 「何?!何が!」

 クロフは手を引かれ走る

 

 「こっちこっち!!」

 

 カンナ足早い!!

 

 

 

 

 

 少し大きめの家の前へ

 

 「ギルドマスターが町長の

 家に行くって聞いたんだ」

 

 ゼェゼェする息を抑える

 「え…それ……が何?」

 

 「解んないのぉ?にぶいなぁ、

 タダゴトじゃ無いって事だよ」

 

 カンナはコソコソと家の周りを調べ、

 窓から中を見ようと背を伸ばすと

 

 

 

 

 「何してるのかしらぁ?」

 

 ビクッと振り返る……

 笑顔のベッキー

 

 「ベッキー……何で……」

 カンナは縮こまる

 

 「何って?ビールを届けに…ね」

 見ればアイルーが台車で

 樽を運んできている

 

 近付くと交互に顔を見ながら

 「大事な話だから

 ギルドに帰ってなさい……ね?」

 笑顔……だけどなぜか気圧される

 

 

 

 

 

 不審に思いながらもギルドに帰る

 「ベッキー…何かさ」

 

 「うん……怖かった」

 

 

 

 

 

 二人が帰る姿を窓から見ると

 

 「ホッホッホッ、やれやれじゃの」

 

 「全く…目が離せないわ…」

 

 「さて」

 ギルドマスターは振り返る

 

 ギルドマスター、ベッキー、町長の他に

 三人いる

 

 

 

 

 

 

 「アッハ!カンナは鋭いねぇ」

 アルトは笑う

 

 「まったく我が弟子ながら困ったヤツだ」

 ナナキも笑っている

 

 「貴方の弟子…だからこそでは?」

 奥の人物はクスクス笑う、

 貴族風の姿

 

 

 「国を動かす摂政である貴方が、

 直々にドンドルマまでお越しとは

 ……何事じゃろう?」

 

 

 奥の人物はマントを翻し

 「貴方だけではありません、四英雄の

 総力をお借りする以上、ココット、

 ミナガルデにもご挨拶は当然……

 本来ならば王が一言……」

 

 深々と頭を下げる

 シュレイド国、国務大臣にして摂政、

 王に次ぐナンバー2

 

 王が若く兄弟もおらず、

 妃も王子も居ないために、

 王の従兄であるこの男は

 第一王位継承者

 

 名を………ルキウス

 

 

 長身の細身に白い女性のような顔、

 金髪を後ろで一つに纏める、

 珍しい紫の瞳が涼しげ、

 まだ若いのに一国を預かる。

 

 

 

 アルトが話す

 「じいちゃん、悪い話と………」

 

 

 目配せして

 「……最悪の話があるんだけど…

 どっちから聞きたい?」

 

 

 

 たっぷりの間を置いてから

 

 「悪い方から聞こうか……」

 

 

 

 

 「ラオシャンロンが此方に来そう」

 

 「それは…準備しませんと」

 町長の人の良さそうな顔の

 眉間にシワが出来る

 

 

 

 

 

 摂政が挨拶に来る程の緊急事態……

 

 

 ワシの予想はハズレて欲しいが……

 

 

 「最悪の方は………」

 

 

 ルキウスは静かに話す

 「伝説が……ついに…」

 

 「うむぅ!予想通りか………っ!」

 シワに埋もれた目を見開く

 

 

 

 「ギルドマスター、俺達は防衛戦

 には参加出来ない」

 ナナキは真面目に言う

 

 「旧シュレイドの調査に行かなきゃさ」

 アルトも真剣

 

 

 「四英雄の本来の使命……

 まだ若いお前たちに託さねば

 ならんとは……

 ワシらが老いてなければ………」

 

 「アッハ!調査だよ!ヤバかったら

 引くからさ」

 

 ギルドマスターは俯く

 

 

 ナナキは出来るだけ明るく

 「それよりラオシャンロンが大きいぜ?」

 

 「なんですと?」町長が聞く

 

 「アタシがジャンボ村で見た個体、

 多分アイツだ」

 

 「なんじゃと!?」

 

 「ギルドマスター殿、貴殿の説が

 証明されそうです」

 

 ナナキは語る

 「ドンドルマの通路はラオシャンロン

 が複数通って造られた……

 

 

 

 

 

 そして…道幅と同じ位の個体が

 存在する可能性あり」

 

 「ちょ、ちょっと待って下さい!!

 道幅一杯!?」

 町長が慌てる

 

 「幅だけで50メートル越える、

 過去最大の個体だってさ」

 

 「南の小砂漠をこちらへ向かっています」

 

 「そ、そんな!大丈夫なんですか!?」

 小太りの体でオロオロする

 

 「町長、慌てるな…いつじゃ?」

 

 アルトは指を1本立てて

 「このペースなら約10日!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝

 ハンター、町民、ほとんどの人間が

 中央広場へ集められる、

 入りきれない人々は路地や

 屋根の上まで。

 

 「何だ何だ!?」

 「何の集まり?」

 騒ぐ者がいる中、上位やG級は静かに

 待っている

 

 小太りで人の良さそうな

 町長が前に出る

 

 5000人は居るだろう人に

 聞こえるよう叫ぶ

 

 「皆聞いてくれ!!ラオシャンロンが

 接近中だと報告が入った!!」

 

 「ええっ!!」

 「マジかよ!!」

 「ちょっと!準備!」

 「こりゃ商売になるぜ!」

 

 動揺が走る、皆騒ぎ出す

 

 「ドンドルマはこれより緊急体制に入る!!」

 

 「緊急事態につき、ギルドマスターに

 総指揮を委譲する!!」

 

 

 ギルドマスターが前に出る

 「カンッ!」と杖を鳴らし

 

 「接近中のラオシャンロンは

 過去最大級!!総員準備をせよ!!」

 

 「行商人、ドンドルマ以外の者は

 避難準備!!各商店の品は全て

 ギルドが買い上げる!!」

 

 ベッキーが前に出る

 「各商店は値段変動の

 調整に入って下さい!!」

 

 

 「デカイってどれくらい!!!?」

 声を上げる若い町人

 

 皆その人を見たあと正面に注目する

 

 

 

 「ホッホッ、クロフ前に出ろ」

 (度胸を付けてやろう)

 

 「ええッ!!!!?」

 こんな大勢の前に!?ムリムリムリムリ!!

 ブンブン首を振る

 

 「クロフ君前に出なさい」

 ベッキー……何か怖い……

 

 もじもじと前に出る

 

 

 

 

 「う……え……えと……あの」

 怖い怖い怖い怖い!!!

 背中に冷たい汗、

 膝が震える

 

 「クロフ、この中で近づいている

 ラオシャンロンを見たのはお前だけじゃ

 …お前の主観で良い、

 大きさを言ってみよ」

 

 

 

 

 

 しんと静まり返る

 

 

 

 

 

 嫌だ嫌だ怖い怖い!!ガチガチ歯が鳴る

 

 (クロフには早すぎんかのぉ…)

 ロクスは助ける術を思案するが

 

 

 

 

 

 

 「……………やま……」

 

 

 

 

 ガクガクしながらそれだけを

 ようやく絞り出す

 

 「山…とは?」

 ギルドマスターが聞く

 

 

 

 「に…にひゃ……くメートル位…の…」

 

 どっと笑いが起こる

 

 「200メートルぅ!!!?」

 「バカ言うんじゃねぇ!!」

 「ラオシャンロンはそこまで

 でかくねえぞ小僧!!!」

 

 町中ゲラゲラ笑う!!

 

 

 

 ヤダヤダヤダだから嫌なんだ……

 人前なんて、

 だから喋らない方がいいんだ……

 

 うつむき涙が出る

 

 

 

 「200メートルなんだな!!」

 イシズキが叫ぶ

 周りが静かになる

 

 (ほぉ、イシズキめ、やりよる)

 

 

 クロフは顔を上げ

 「え………………うん……」

 

 「何だあのトサカ頭」

 「今の話信じるのかぁ?」

 「頭オカシイんじゃねえ?」

 

 「カンッ!」と杖が鳴る

 

 「報告では全幅で50メートル、

 全長は200メートル以上!!!」

 

 

 全員が固まる

 

 

 「約10日ほどで来る!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………お…」

 

 

 

 「や………」

 

 

 

 

 「ヤベぇじゃねぇか!!!」

 「ウソだろぉー!!!」

 「物資買い占めろ!!!」

 「避難!!早く!!!」

 「西だ西へ逃げるぞ!!!!」

 

 辺り一面パニックとなる

 町中が走り回る!!

 

 「周辺の村に緊急連絡!!」

 

 「各班長の指示に従い女子供は

 避難準備!!」

 

 「男衆は各施設の点検整備!!」

 

 「各商店は商品確保と調合!!」

 

 町長とギルドマスターは街の

 役職たちに指示していく。

 

 

 ガルダが叫ぶ

 「ハンター全員聞けぇい!!!!」

 

 ザンッ!!と踵が鳴り、

 上位、G級まで全員直立!!

 

 「聞いての通りだ!!覚悟はいいか!!!」

 

 「おでらで守るぞおおぉお!!!!」

 ゼルドは大剣を掲げる

 

 「ウオオオオオオオオォォォ!!!!」

 

 全員が武器を振り上げる!!

 

 




努力、もがくってカッコ悪いのよ
ただね、
それすら出来ないほど時間がなくなるんだ
あとから気付くんだ


もがける内はもがく。

それが出来る時間があるって
素晴らしいことなんだよ


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総力戦

 

 遠いような近いような……ボウガンの

 発射音が朝霧の谷間にコダマする

 

 

 ……始まった……

 

 

 エリア1には高台があり、

 そこから射撃するそうだ

 

 クロフ達近接部隊はエリア2で待機中

 

 「フム、下位は全員最前列!!

 戦う資格があるか見る!!」

 ガルダが指示する

 

 「私が一番手よ!!」

 カンナは人を押し退け、

 太刀で真ん中に陣取るが

 

 「おいおい、おめぇ一人じゃアブねぇ」

 イシズキが双剣でズイッと寄る

 

 「二人とも、そんな時じゃないでしょ」

 

 「「マリンこそ♪」」

 

 まだ薄暗い霧の中、

 ボウガンの音が減って行く

 

 緊張する………もうすぐだ……

 

 

 

 ガリガリガリガリ……

 何かで岩を削る音が続く、

 両側の壁に触れるほどデカイ存在

 

 

 霧の中に巨大なシルエットが浮かぶ

 

 「来たぁ!!」

 カンナは太刀を抜刀

 

 「やるぜぇ!!」

 イシズキも双剣を抜き構える

 

 下位達が一斉に抜刀する

 

 いつもの4人ではない、

 ギルドのほぼ全員、怖いものなどない。

 

 

 

 ズシン……

 

 一歩一歩近づいて来る

 

 この感じ…この振動…

 

 アイツだ、間違い無い…

 

 一歩……また一歩……

 

 ズシン……

 

 

 

 三人とも……いや、クロフ以外の下位は

 全員武器を構えていた。

 

 霧の中にある大きな影を斬ろうと

 

 聞けばこのモンスターは歩くだけ、

 ただ歩くだけで攻撃し放題だとか、

 

 有名になれる!!英雄になれる!!

 

 

 

 影が霧を出る

 

 

 

 蒼い巨大な顔が霧を突き破る!

 

 

 

 下位は正面から見ているはずなのに、

 理解するのに数秒を要する

 

 

 

 顔……?え?……これ顔だけ?

 

 

 

 頭だけでこんなに…

 

 

 

 

 頭だけでこんナニデカ…イ……?

 

 

 

 

 歯をガチガチ鳴らし膝をつく

 

 眼前はラオの顔で視界が一杯、

 なのにまだ切っ先は全然届かない!!

 

 それが証明する圧倒的な存在の差!!

 生命力の差!!その距離!!

 

 自分たちの常識なんてモノは

 通用しない……

 

 下位達はそのまま固まってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空……朝のぼんやり白い空……

 

 

 

 あれぇ……私……ラオ……

 

 

 

 

 「うわぁ!!」

 カンナは飛び起きる

 「あれ、私今……?」

 

 横を見るとゼルドとガルダが、下位の

 ハンター達を後ろに倒して行く

 

 前を見たまま固まった下位が

 面白いように後ろに転がり空を見る

 

 

 「「うわぁ!!」」

 イシズキとマリンも起き上がる

 

 思い出すクロフの言葉

 

 

 

 

 

 

 

 

 「動けなかったぁ!?」

 カンナは笑う

 

 クロフが初めてラオに遭遇した

 時の話を聞く

 

 「なっさけなぁい」

 

 「ただ歩くだけらしいじゃねぇか?」

 片方の眉を吊り上げて

 

 「信じられないな、クロフがそこまで」

 マリンは真剣に聞く

 

 「腰が抜けたってやつぅ??」

 クロフを笑うカンナ

 

 

 

 

 

 

 さすがに理解する、

 腰抜かした……私……

 

 イシズキとマリンを見る……

 お互い同じ事を考えたようだ、

 三人で苦笑い

 

 生物としての格が違う、レベルが

 違う、人間なんて石ころ同然…

 

 それをただ歩くだけで雄弁に語る…

 

 

 

 クロフを見ると……

 

 「……?何?」クロフが気付く

 

 構えるどころかボーッと見ている

 

 「アンタは何でそう素なのよぉ!!」

 

 

 

 さて………

 ガルダが叫ぶ

 「今倒された者は補給を担当しろ!!」

 

 「「「ええっ!!?」」」

 事前に決まっていた役割、補給担当

 にされてしまった

 

 情けない……三人を含めた若手は

 肩を落としてキャンプに向かう

 

 

 クロフに二人が話かける

 

 「フム、よく平気だな」

 

 「一度見てなかったら同じでしたよ」

 クロフはようやく大剣を抜刀する

 

 「どぎょうがづいだんだなぁ」

 

 

 

 

 

 ハンター専用の通路の先に

 キャンプがある

 

 各商店の荷車が、物資を運び入れた

 後で、ゴチャゴチャして

 狭いスペースしかないが

 

 「よし、皆調合だ!!」

 G級の指揮で調合開始

 

 爆薬、大樽爆弾、弾丸を次々に調合

 

 「なんで作っておかないの」

 カンナは調合が得意ではない

 

 「カンナ、爆薬はシケちゃうし…」

 マリンは器用

 

 「大量に保管しといて

 事故があったらよ、どうなる?」

 

 「あー……納得」

 

 街の男衆や加工屋も、作っておいた

 砲弾を運び込む

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ドドドドオオォォーーーーン!!!!」

 ビリビリと谷間に響く轟音

 

 一斉に大樽爆弾が50個起爆

 

 「フン、怯みもしない…」

 

 「がんじょうなやづだ…」

 

 悠然と歩くラオシャンロン

 

 「勝って名を上げるぞぉぉぉ!!!」

 ハンター達は斬りかかる

 

 エリア1からガンナーが到着、

 剣士の後ろに展開して射撃

 

 「拡散弾は使うな!!誘爆する!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 門の上、ギルドマスターは耳を澄まし

 昔を思い出す

 

 小さな竜人三人と一人の若者

 

 「俺は…ココに残る…あいつの

 墓もあるしな」

 

 「じゃあ俺は西だ」

 

 「なら俺は東の岩山だ」

 

 「ガストン、お前は?」

 

 「んー、じゃ俺は小兄ィの所から順番に」

 

 「また会おう」拳をぶつける

 

 

 

 

 

 

 「ホッホッホ、思えば遠くへ来たもんじゃ」

 

 門の後ろにドンドルマの街は広がる

 

 あの湧水だけの名もない集落が、今や

 東の交易拠点か、成長したもんじゃ。

 

 

 数人のガンナーを引き連れロクスが

 来た。

 

 「始まったぞ」

 オオナズチのガンナー装備、

 ヘビィボウガンを担ぐロクス

 

 「近接戦闘に入ったようじゃな」

 パイプを吹かす

 

 「過去最大じゃ、見たことないわい、

 今回ばかりは被害が出そうだのぉ」

 

 ガンナー達はバリスタに着く、

 砲手を担当、細かい調整に入る

 

 「四英雄が居なくとも赤鬼青鬼が

 おるし…お前もおるしな」

 

 「やれやれ…引退したのにのぉ」

 

 

 「孫が産まれるんじゃろ……お前……

 退いて良いんじゃが……」 

 ギルドマスターはロクスに笑いかける

 

 「冗談はやめてくれぃ……だからこそ

 退けんからのぉ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「休むなァ!!撃ち続けろ!!」

 「手を止めるなァ!!」

 「隣のヤツにブツケんなよ!!」

 

 剣士はひたすら斬る

 

 補給達は走りまわる

 

 「応急薬と携帯食料あります!!」

 マリンが叫ぶ、ラオにぶつかった者

 へ配って行く

 

 「砥石は俺が持ってるぜ!!」

 イシズキも配って走る

 

 「弾が足りねぇぞ!!」

 

 「はい貫通弾!!」

 カンナは弾丸を持ち走る、

 下位はキャンプと現場を往復する

 

 

 ハンター全員がラオの進攻を

 食い止める

 

 最前列に近接部隊、

 一定時間で交代の2部隊制

 交代で研ぎ、回復

 

 後衛にガンナー

 的は大きいため外しようがない

 

 下位のハンターは補給と調合

 そして運搬

 

 街の男衆は崖の上から

 岩を落とす

 

 後退しながらの総力戦、少しでも

 歩みを遅くしたい

 

 

 「後方爆弾準備完了!!」

 

 「良し!ガンナーは爆弾の後方へ!!」

 

 「ぎりつづげろぉ!!」

 剣士は斬る

 

 ゼルドとガルダが的確な指示を

 飛ばす

 

 「ぎるのやめぇ!!」

 一斉に納刀、

 「剣士退避!!!………点火!!」

 

 「ドドドドオオォォーーーーン!!!!」

 大樽爆弾が数十個炸裂!!

 

 

 「グオオオオォォォ…」

 

 初めて数秒、歩みが止まった

 

 「おぉスゲェ!!!」

 「さすがにあれだけ食らえばな!!」

 若手達は騒ぐ

 「休むなァ!!」

 ベテランが叫ぶ

 

 

 

 「フム、怯んだな」

 

 「ようやぐだ」

 

 しかし二人は気付く

 (今回は危険だ!!!このペースでは

 物資がギリギリ…過去最大の体力だ)

 

 分かっていても口には出さない、

 

 士気が下がっては……まずい

 

 

 

 

 

 二人の予想通り

 「おい!素材足りねぇ!!」

 「今商会が取りに行ってる!!」

 「樽が無くなるぞ!!」

 「調合まだか!!?」

 

 キャンプの中もまるで戦争

 

 

 

 

 

 

 「伝令!!ゼルド、ガルダ両名より!!」

 ギルドガールの一人

 

 「うむ、何じゃ」

 

 「物資が足らなくなります、爆薬が……」

 

 「さて……」

 

 門の上から後ろの街へ

 

 「ベッキー!爆薬素材を至急集めよ!!

 値段は問わん!!」

 

 残っていた行商人から歓声が挙がるが

 

 「ふっかけたら次の取引は無いと思え!!」

 町長が渇を入れる

 

 

 「爆弾調合次第、エリア3、4の

 入り口に固めろと伝えよ!!」

 

 「ハッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 クロフは汗だく、

 経験の少ないハンターは、ラオが

 怯んで腹を着くのが回避出来ない、

 

 弱点の一つ、腹の下は

 経験豊富な者が担当、

 察知して壁際の隙間に避ける。

 

 「凄い……こんなデカイヤツの下で」

 

 「おい!やられたぞ!!引っ張り出せ!!」

 

 それでも大きすぎるため、完全に

 回避は難しいようだ

 何人かキャンプに送られた

 

 顎を斬る、大剣で何回斬ったろう、

 何回研いだろう……

 

 「ごうだいだぁ!!」

 ゼルドが手を上げる

 

 クロフは休む番

 

 「おい、砥石だ!!」

 

 ゼェゼェ言いながら

 「ありがと……イシズキ……」

 

 「疲れた?」

 マリンが携帯食料を渡す

 

 「なんか……全然効いてなさそうで」

 

 まるで岩を斬り続ける作業だ、

 腕がダルい、手が痺れる

 

 そう、ラオは歩いているだけ……

 それだけ……

 他のモンスターの様に威嚇しない

 怒りもしない……

 ただ本能のままに歩くだけ……

 

 

 なんかこっちが悪者に思える……

 

 

 そもそも……ラオは……

 戦ってさえいない……

 

 

 

 人間自体が見えてない……?

 

 

 

 

 「ボーッとしないの!!

 下位であんた位なんだから!!

 参加してんの!!」

 カンナは悔しい

 

 

 

 「バキンッ!!」後ろで音がする

 「ちぃっ!限界か!!」

 

 何百発も連続で撃ったボウガンが

 高熱で悲鳴を上げる、

 陽炎が立ち昇るボウガンなんて

 初めて見る。

 

 「おい!代わり持ってこい!!」

 運搬がハンターライフルを持って来る、

 壊れた方は加工屋へ

 

 (フム、疲れも溜まった、武器も限界か)

 

 「三番へ移動!!銃身を冷やせ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三番

 「もう朝日が昇ってたのか」

 忙し過ぎて、そんな事に今気付く

 

 大樽爆弾が数十個用意されている

 

 「矢をもっと持ってこい!!」

 「剣が折れそうだ!!加工屋いるか!?」

 「手持ちの弾丸がもう無いぞ!!」

 「ねぇ!火薬残ってるよ」

 「あれは砲弾用だ、使うな!!」

 

 

 

 

 ズシン……

 

 

 ラオが入ってくる

 

 「でんがぁ!!」

 

 「ドドドドオオォォーン!!!!」

 

 「よぉし!撃て撃てぇーーー!!」

 

 貫通弾が甲殻の表面を滑る、

 弾丸が刺さらない

 効果あるのか?

 

 「第1部隊攻撃開始!!」

 

 「オオオオォォォ!!!」

 クロフ達は走り込み抜刀斬り!!

 

 

 

 

 

 

 

 三番の起爆音……早い……

 予定よりも怯んだ回数が少ない……

 

 ギルドマスターは街に向かい

 

 「女子供は避難開始!!武器屋は

 商品を最終エリアへ搬入せよ!!」

 

 ベッキー達ギルドスタッフは、人々を

 避難させる

 門から外に出て西へ整然と歩く

 「足の不自由な人は台車へ」

 「慌てないで、歩いても間に合うから」

 

 

 

 

 「今回の出費は痛いのぉ」

 ロクス達は拡散弾を大量に調合する

 

 「仕方あるまい、ドンドルマと

 人が無事ならそれで良いわい」

 

 武器屋達が売り物の武器を最終

 エリアに運ぶ

 

 

 

 

 

 

 

 

 腕が上がらない、呼吸が苦しい

 

 「どうした!?もうバテたかクロフ!!」

 「アルトに笑われっぞ!!」

 「アッハ!!だらしないってなぁ!!」

 「頭グリグリ撫でて貰えねぇぞ!!」

 「ちげぇねぇ!!」

 「ヒャッヒャッヒャ!!」

 

 

 こんな大変な時なのに、

 周りのG級達は軽口を叩く

 

 最初は余裕があってふざけてると

 思ったが………

 

 

 違う……みんな余裕が無いんだ……

 必死なんだ……

 何とかしようと全力なんだ

 

 「バキィ!!」

 「ちぃっ!折れちまった!!!」

 折れた太刀を捨てる

 

 え!?高そうなG級武器を…

 

 「武器持ってこい!!!」

 代わりのアイアンソードで斬る

 

 

 「士気は高いが……」

 「G級はきずいだな……」

 ゼルドとガルダは察知する

 

 

 

 

 

 

 応急薬を作る下位達

 ラオが歩く振動で、パラパラと小石や

 埃が落ちてくる

 

 「もう爆弾の素材ないの??」

 カンナは見回す

 

 「四番に配置したヤツで全部だよ」

 

 「なんか……危なくねぇか?」

 イシズキもキョロキョロ

 

 「伝令!!バリスタの弾を運べ!!」

 

 「予定より早くねぇか?」

 イシズキは小声でマリンに言うが

 

 「いいから速く!!!」

 ギルドガールは悲鳴の様に叫ぶ

 

 (これ…余裕がねぇんじゃ?)

 

 

 

 

 

 

 四番

 「ドドドドオオォォーン!!!!」

 

 「ごれでばぐだんぜんぶが…」

 

 「フム、ここからは武器だけだ」

 

 負傷者は増えないが…

 

 「バキンッ!!」

 「ちぃっ!こっちも武器持ってこい!!」

 「弦が切れた!!代わりあるか!!?」

 「弾丸持ってこい!!!」

 

 剣士達は息が上がる

 クロフも限界が近い

 

 下位の数人はバリスタの弾の

 運搬を始める、

 

 

 

 そして

 

 キャンプに用意した資材が底を

 つき始める

 

 「ヤバくない?コレ?」

 

 「カンナ、今は皆を信じてやるしかない」

 

 「けどよマリン、あれだけあった

 爆弾全部だぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 四番の起爆音……

 

 「ハンター以外は退避開始!!」

 

 最終エリアの武器屋達、加工屋、

 商店の人達が避難する、

 

 一部の人々は門の裏へ待機

 

 

 「門閉めぇい!!!!」

 

 

 

 低い金属の摩擦音を響かせ

 「ギギギ…ガゴオォーーーン…」

 門が閉まる

 

 「配置に着けぇい!!!」

 

 バリスタ、大砲、撃龍槍へ担当が走る

 

 

 

 

 

 

 最終エリア5

 ここを突破されると街が破壊される、

 防ぐ方法は二つ、

 殺すか、西に伸びる通路へラオが

 逃げれば……

 

 

  ズシン……

 

 ここは少し広い、剣士もガンナーも

 ラオの周囲全体に展開

 

 「よぉし!解禁だ!!」

 

 G級達が騒ぐ、下位は

 意味が分からないが…

 

 「拡散弾解禁!!!背中に撃てぇ!!!!」

 ロクスが撃ちながら指示している

 

 

 

 「フム、それじゃあ」

 

 「いぐぞおおぉ!!!」

 

 ゼルドとガルダも飛び込む!

 前足付近に斬りかかる。

 

 ロクスの指示が飛ぶ

 「大砲!撃ち方始め!!」

 

 「バリスタ!!剣士に当たらんよう

 背中を狙え!!!」

 

 「運搬!!速くしろ!!!!」

 

 指示しながらボウガンを撃つ

 

 バシュッ!!!

 唸りを上げてバリスタの槍が飛び刺さる、

 しかし数歩の震動で抜け落ちる

 

 まだ遠いのぉ……甲殻が厚すぎて

 深く刺さらん……引き付けるか、

 ロクスは指示を出す。

 

 

 

 

 

 「撃龍槍の準備はどうじゃ?」

 ギルドマスターが伝声管で

 内部に聞く

 

 「こちら担当の商工会!!

 いつでも!!ウズウズしてますぜ!!」

 

 「確実に出番があるぞ!!」

 

 

 

 

 

 エリア6と呼ばれるキャンプからの

 通路、しかも坂道

 

 「くっそー!重てぇ!!!」

 よたよたと砲弾を運ぶイシズキ

 

 「大丈夫か?」

 マリンはまだ人を気遣う、

 砲弾を持っているのに

 

 「…女のお前に心配されるのは……」

 

 「そんな事言うな、みんな必死なんだ」

 

 「二人とも!頑張って!!」

 カンナも弾丸を持って走る

 

 

 

 

 

 

 広い場所だから振り上げもやりやすい、

 けど腕が……

 

 「づらがっだらやずめぇ!!」

 前足に溜め斬り

 

 ゼルドが横にいる、そんな事さえ

 今知った……余裕がない……

 

 剣士の部隊は交代が無くなり

 斬り続ける

 

 クロフは一旦壁際に退く、

 「ゼヒュー……ゼヒュー……」

 限界……座り込みたくなるが、

 辺りを見る

 

 鉄刀やアイアンソード、店で売ってる

 基本的な武器が壁に

 立て掛けてある。

 

 こんな弱い武器じゃ通用しな……!

 ハッとする

 

 こんな武器まで使うほど……?

 追い詰められてる?……と、

 

 

 

 

 あれ……音が……無音?何で?

 

 

 

 

 

 

 「グオオオオオオオオォォォ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 「うがああぁっ!!!!」

 ラオの咆哮!!耳を塞ぎしゃがみこむ

 腹の底なんてもんじゃない!!

 体全部に響く!!谷間に爆音が響く!!

 

 首を振るとゆっくり立ち上がる…

 あまりの重量に地面が沈む!!

 

 

 

 

 門の上

 

 「うお……」

 「ちょっとコレは……」

 砲手達に動揺が走る

 

 

 「これほどとはな………」

 ギルドマスターは目を見張る、

 

 今まで来たラオは、立ち上がると

 頭が門の上、大きい個体でも

 胸の辺りだ。

 

 ズシン……

 

 こいつは違う……腹だ…

 

 ズシン……

 

 歩く…この巨体で…

 恐らく頭頂は100メートル近く…

 

 ズシン……

 

 

 

 頼むぞ……

 

 祈るように……

 

 「撃龍槍発射ァ!!!!」

 

 



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覚悟

 

 「四人パーティー一組につき、成功報酬

 は30000ゼニーじゃ!!」

 

 「それは…下位も!?」

 

 「もちろんじゃ!!猫族も避難するし、

 ネコタク無しだからな!!」

 

 「おおおお!!!!」

 「スゲェぞ!!G級の報酬並だぁ!!」

 「怪我してもスグキャンプあるしな!!」

 ギルド内が大騒ぎになる

 

 

 

 「おいおい!参加しかねぇよな?!」

 イシズキが嬉しそうに振り返る

 

 「もっちろん!!」

 カンナも跳ねる

 

 「私も参加だ!!……が……

 やっぱり気になる?クロフ?」

 

 「うん、あの大きさ……色んな人達に

 聞いたら桁外れらしいし、

 それに比例した体力があるとしたら」

 

 それにこの数日、ギルドは物資を

 買えるだけ買い、そして

 全員が参加したくなるほどの報酬…

 

 (危ないんだな……今回ばかりは…)

 

 「明日の朝は早い!!

 今日は飲んで早く休め!!」

 

 その時

 

 

 「オヤジ!!」

 

 「え?何だ何だ?」

 ギルドはざわつく

 

 

 「あ、あの人」

 カンナが知ってるようだ

 

 ヒョロッと背が高い男

 

 

 「エレーナ商会の人……」

 

 

 「なんじゃあ…ホルト?」

 ロクスが面倒くさそうに

 

 (え?親子?って言うかエレーナ商会??)

 

 「産まれるんだぞ…あんたの孫が!!

 アンタこんな時までハンターかっ!!?」

 

 「やかましい!!こんな時だからこそじゃ!!」

 

 「あんたは母さんが死んだ時も!!」

 

 「出て行け!!ここはハンターの場所じゃ!!」

 

 「この…死ね!!クソジジィ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 長い沈黙

 

 

 「すまんのぉ騒がせての……」

 ロクスは謝るが

 

 「いいのか?血の繋がった家族だろう」

 ギルドマスターが申し訳なさそうに

 

 「アイツの言い分は所詮町人よ、ワシは

 ハンターとしての了見で動くからの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「合わんのぉ……」

 ロクスは射撃しながら思い出す、

 苦笑いが出るが、気を引き締め、

 

 じゃがの、ワシはワシの道を行く!!

 

 

 その時

 

 

 「撃龍槍発射ァ!!!」

 

 「ドガアァァァーーーン!!!!」

 

 門の両側、四本の巨大な槍が飛び出し

 ラオの足に刺さる!!!

 

 「うおおおぉぉーー!!!」

 「イヨォシ!!当たった!!!」

 「そりゃデカイしな!!」

 「外れねぇ!!!」

 

 直径2メートルの大木に鉄板を巻き、

 大きな矢じりを付け、

 出来上がった巨大な槍を

 僅かに大きい鉄管から

 大樽爆弾で撃ち出す、

 

 

 槍の後端に大きな鎖が何本も

 鉄管と繋がっているため、

 完全には飛び出さず、途中で止まる、

 

 爆圧と燃焼で、冷却と鎖の交換、

 爆弾の装填が必要ではあるが、

 

 これで一度使っても、引き込み何度も

 使える。

 

 当たれば無事では済まない

 最強の兵器

 

 

 

 「……………?…」

 

 

 

 

 普通なら怯む…怯んでまた

 四つん這いに………

 

 

 様子がおかしい………

 

 

 ラオが踏み込む!!

 

 

 

 「ドゴオオオォォッッッ!!!!」

 

 

 

 構わず体当たりするラオシャンロン!!

 

 「なんじゃとおおっ!!!!」

 

 「なぜ止まらん!!!」

 

 「ごんのばげものぉぉ!!」

 

 バラバラと瓦礫が落ちる、

 ラオは後退する…しかし!!

 

 

 

 「ビキビキビキ…ガゴオォン!!!」

 

 目を疑う…信じられない物を見る

 

 

 ラオに刺さった撃龍槍…最強の兵器が

 

 

 ラオの後退と共に

 

 

 刺さったまま引き抜かれた………

 

 

 

 

 

 「あ………あぁ………」

 

 「どう…なるんだ……」

 

 

 

 「なんだとぉ!!!」

 「おい!!どうなるんだこれ!!!」

 「撃龍槍がぁ!!!」

 「3本も!!!」

 「門にヒビ入ってんぞ!!!」

 

 「ズドォン!!」

 数人掛かりで運ぶ大きな鎖が簡単に

 引き千切れ、埃の様に

 宙を舞い落ちる!!

 

 「ギルドマスターは?!!」

 

 動揺が走る!!

 どうなるんだ!!?

 皆見上げる!!

 

 

 

 

 

 

 

 「うむぅぅ……」

 ギルドマスターは立ち上がる、

 衝撃に僅かに傾いた足場…

 

 「やられたか……」

 門がダメージを受けて…

 

 よろよろと歩き下を見て愕然とする…

 撃龍槍が……膝を折りそうになる

 

 

 

 ……なるが!

 

 (イカン!!!士気が下がる!!!

 ワシは毅然とせんと!!!)

 

 

 しかし状況は最悪を迎える!!

 

 

 ヒビから聞こえる

 「内部崩落!!!撃龍槍はダメです!!!」

 「退避だ退避しろぉ!!」

 

 

 

 (頼みの兵器が!!……)

 

 

 

 更に横の通路からカンナ達数人が

 戻って来る

 

 「道が無くなっちゃったよぉ!!」

 

 「6番が崩落しました!!」

 

 「砲弾が運べねぇぜ!!」

 

 「なんと………!」

 キャンプへの道が閉ざされた…

 

 半数近くがまだキャンプに……

 

 バリスタと大砲が終わった事を

 意味する……

 

 怪我人が避難出来ない……

 

 全ての補給が止まる……

 

 

 

 

 万事休す………

 

 

 

 ゼルドとガルダ含め、全てのハンター

 が見上げる…

 

 ラオは一旦下がって四つん這いに 、

 刺さった槍が抜け出血している

 

 

 

 

 長い…いや本当は数秒かも知れない

 沈黙の後…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「撤退せよぉ!!!」

 ギルドマスターは叫ぶ

 

 え……?いいのか?撤退って……

 

 

 ラオが吠える!!その振動の中

 門の上にいた者達が降りる

 

 

 ギルドマスターも降りた……

 

 

 

 終わりか?

 

 

 

 ドンドルマが終わるのか?

 

 

 

 俺達の家が……

 

 

 

 全員がギルドマスターに注目する

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギルドマスターは翼の装飾の剣を抜刀、

 上に掲げる!!

 「残るものはワシに続け!!

 行くぞおおおぉぉ!!!」

 

 「ウオオオオオォォォーーーー!!!!」

 ゼルドとガルダは大剣を掲げる

 G級達も声を上げる!!

 

 クロフもつられて声を上げよ……

 

 

 

 「ドムッ!!!」

 

 

 ……………は?……何が……

 

 ギルドマスターの腹に……

 

 

 

 ゼルドの拳がメリ込む

 

 

 「お前ら……ァ…」

 気絶?……何が?……何で?

 

 オロオロする若手の中、ベテラン達は

 落ち着いている

 

 「若い奴ら集まれぃ!!!」

 ロクスの声に集まる

 

 「フム、お前達は逃げろ、それと…」

 ガルダは見回し

 「マリン…だったか、こっちへ来い」

 

 マリンが前に行くとギルドマスター

 を背負わせる、ロープでしっかり

 縛り……

 

 「あの、これは…」

 マリンは戸惑うが

 

 「お前達若手と、この人さえいれば

 ドンドルマは終わらん」

 

 

 

 どういう……

 

 

 

 ロクスは説明する

 「反感を持ってる貴族どもが

 負けた事をタネに

 支配を強めようとするからのぉ、

 交渉ゴトはこの人が生きてれば

 十分だからの」

 

 

 

 だから…どういう事………?

 

 

 

 「クロフ、ごっじごい」

 ゼルドに呼ばれ

 

 「あるどにわだしでぐれ」

 古ぼけた…ネックレスだろうか?

 輪切りにした小さな空骨の真ん中に、

 磨いた小さなマカライト鉱石……

 それに革のヒモが付いてるだけ、

 お世辞にも綺麗なものではない。

 

 「師匠に……?」

 

 ゼルドは歯を剥き出して笑う

 

 「あいづにがえじでやっでくれ」

 

 

 

 見るとあっちこっちで

 防具の一部を若手に渡す光景

 

 

 

 「イシズキ…これを…」

 ナガエがゲリョスヘルムを差し出す

 

 「な…なんだよ!!嫌だぞ俺ァ!!」

 

 「俺の故郷は……教えたよな?」

 

 「冗談じゃねえぞ!!知らねぇ!!」

 

 「年寄りの母親が…」

 

 「聞けよぉぉ!!師匠ぉぉ!!」

 イシズキが泣き叫ぶ

 

 

 クロフは墓場を思い出す

 「ロクスさん……」

 

 「早く行け」

 

 「無様でも、カッコ悪くても

 生き残ったら勝ち……っでぇうぅ……」

 

 クロフも泣き出す、

 鈍くても理解できる、

 これから何が起こるのか、

 これからこの人達が何をするのか、

 

 そしてこの人達がどれほどの

 覚悟をもって戦いに臨んでいたのか、

 

 途中でG級達が言った事、

 あの時の雰囲気、

 あの時皆気付いていたんだ

 

 

 ロクスは笑って言う

 「ハンターはそれでいい、

 じゃがの?これは守る戦いじゃしの、

 全員で逃げれば、助かった所でギルド

 が信用を無くすしのぉ」

 

 「フム、例外だ、守る戦いに負けは

 許されん!負けたら守るモノも死ぬ、

 信用を無くせば街が衰退する」

 

 「おめぇだぢ、わげぇやづも

 まもる!!にげろぉ!!」

 

 ロクスは叫ぶ

 「東へ逃げろ!!振り返るな!!

 ドンドルマの灯を消してはならん!!」

 

 戸惑う、迷う、いいのか、

 

 

 

 これでいいのか、残って……

 

 

 

 ロクスは続ける

 「この次街を救うのはお前らじゃ!!

 行けぃ!!」

 

 

 

 一人二人と走りだし

 若手全員が四番へ向かう、

 残った全ての道具を置いて、

 数個の砥石、少しの弾丸……

 

 

 

 

 

 若手が泣きながら走って行く、

 その背中を見送りながら

 

 「はじめっか!!」

 「やろうぜ!!」

 「あとはあいつらが上手くやるだろ!!」

 「あいつらがいれば、

 ドンドルマは復活するぜ!!」

 

 「フム、何度でもなぁ!!」

 

 「良い花道が出来たのぉ!!」

 

 「いぐぞおおおぉぉ!!!!」

 

 「ウオオオオオォォォーー!!!!」

 

 切れ味の悪い武器で最後の攻勢、

 恐れなど構わず走り込む!!

 

 

 

 「ジイサン!!アンタ孫が産まれんだろ!

 退いたらどうだ!?」

 乱舞しながら

 

 「そうそう!孫の誕生日が命日なんて

 笑えねぇぞぉ!!」

 ハンマーを振り下ろす

 

 「ウルセェぞ小僧共!!孫に言うのか!?

 お前の誕生日に街を捨てて

 逃げましたって!!

 カッコ悪りぃったらないわい!!」

 最後の貫通弾を装填

 

 「オヤジにも拳骨だわなぁ!!」

 鉄刀で斬る

 

 「ごのとじでまだげんごずがよ!!」

 溜め斬り

 

 「フン!!勘弁願う!!」

 斬り上げ

 

 残ったG級と上位、合わせて約150人

 回復薬無し、食料無し、砥石……

 弾丸………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ダメだこの通路…埋まってる……」

 

 四番のキャンプへの入り口、

 途中で落盤している

 

 「行こう…三番へ…」

 

 若手は走る

 …いや…走ってるつもりか…

 後ろから聞こえる…ラオの咆哮…

 そして…皆の雄叫び…

 

 皆うつむき涙をこらえて走る

 

 ようやく理解する

 敗走して理解する

 

 死んでも守るモノがある

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カキン………

 最後の弾丸を撃ち尽くした

 

 「フン!!ロクスじい!退けぇ!!」

 

 「やかましいぞ小僧!!」

 

 「あんたは俺達と違う!!血の繋がった

 家族がいる!!」

 ガルダは怒鳴る

 

 「だから退けんじゃあ!!」

 

 「なにずるぎだぁ!!?」

 

 「ワシはここで孫の盾になる!!!!」

 

 

 ロクスはガンナー達に目配せすると

 

 「若手には見せられんからの!」

 

 ガンナー達は防具を捨てる

 

 ラオの数回の体当たりで、門は

 三割ほど崩された

 

 ガンナー達に残るは最後の手段

 

 「ワシに続けえぇぇ!!」

 ラオに向かって

 インナーだけのガンナーは走る

 

 「少しでも動きを止めるんじゃあ!!」

 インナーだけのハンター達はラオの

 足を登る!!

 

 

 武器は剥ぎ取りナイフ一本!

 薄く脆い刃だが鋭さなら最高、

 鱗や甲殻を剥ぐ、

 いくら背中で鱗を剥いでもラオの命まで

 は届かない、そんな事は分かってる

 

 やらない訳にはいかない、

 たとえ無謀な特攻でも。

 

 

 

 「止まれ………」

 誰かが呟く

 

 

 

 「止まれ……」

 広がっていく

 

 

 

 「止まれ……」

 声が大きくなっていく

 

 

 

 

 

 「止まれよちくしょーーっ!!!!」

 

 「あそこには大事なもんがあんだよぉ!!!」

 

 「ギルドが!街があんだよぉ!!」

 

 「家族がいんだよぉ!!」

 

 「俺達の家を壊すなあぁぁ!!!」

 

 

 全員が叫びながら斬り、

 泣きながら剥ぐ!!

 

 切れ味と呼べるものは既に無い、

 

 弾丸も無い、

 

 体力もない、

 

 出来る事は悪足掻きに過ぎない、

 

 命を捨てたモノの意地だけ。

 

 

 

 「腕がダメなら足で!

 足もダメなら食らい付いてでも!!

 ワシは盾になる!!」

 

 

 

 

 力を溜めながら、遠目にはゆっくりと

 

 

 

 ドオオォォーン!!

 

 

 

 

 ラオの体当たり

 

 

 

 ロクスは吹き飛ぶ

 

 

 

 エレーナ……見てるか?

 

 

 ワシらに孫ができるぞ

 

 

 ワシらの宝に子供が出来たぞ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三番の通路も使えず二番に向かう

 

 突然

 

 「ぐうっ!!」

 体が動かない!なんだこれ!!

 全員が固まる

 

 前を見ると…二番の方……

 

 太った人がいる…誰だ?

 

 黒い全身の防具で顔が見えない

 

 

 「……逃げてきたのか?」

 

 

 歩いてくる……

 

 殺気??リオレウスだってこんなに……

 

 歩み寄る…マリンの方へ、

 マリンも直立不動、動けない…が

 

 ギルドマスターを見ると

 

 「おーおー良く寝とるわ」

 

 ガクッと動けるようになる。

 

 もう一人同じ防具の人が走ってくる、

 マリンよりも背が高い

 同じようにギルドマスターを見ると

 「兄貴達ですね」

 

 「さすがワシのセガレよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うあああああぁぁあぁぁ!!みんながあ!!」

 

 緊張の糸が切れてしまった

 カンナが大声で泣き出す、

 大口を開け子供の様に鼻水まで

 「みんながああぁぁみんながああぁ…」

 立ち尽くしグシャグシャの顔で

 よだれを垂らし泣く

 

 皆関を切ったように泣く……と

 

 「いくぞガキ共!!」

 太った人が走り出す

 

 「ついておいで!!」

 長身の男は軽やかに

 

 

 動けない、疲労もあるが

 皆心が折れている

 

 なぜ泣く?

 

 

 街の終わり?

 

 

 知ってる人達の特攻?

 

 

 その人達に守られたこと?

 

 

 

 『己の無力を思いしれ』

 

 

 

 無力……自分たちは無力!!

 それが一番悔しい!!

 

 街を守る大事な戦いに役立てない、

 情けない!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おおーい!!」

 二番の方からキャンプに残っていた

 ハンター達が来る、皆物資を持ってる。

 

 その先頭に二人、同じ防具の人が走る、

 

 すれ違う瞬間、

 クロフとカンナの肩を叩き

 

 

 

 「アッハ!」

 「カンナが泣いてるぅ♪」

 

 

 

 二人は泣くのを堪える、

 懐かしい声、一番今いて欲しい人の声、

 

 振り向く

 

 

 泣き声で叫ぶ!!

 

 

 

 「「師匠おぉおおぉ!!」」

 



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四英雄

 

 

 「…………ジ……」

 

 

 「………………う……」

 

 

 「……ヤジ!!」

 

 

 「…………何だ?…………」

 

 

 

 

 

 急激に音が戻って来る

 

 「オヤジ!!!」

 

 「…………な!ホルトぉ!?」

 

 

 体当たりで歪んだ鉄扉の隙間から

 ホルトが叫ぶ

 

 「立てぇ!オヤジ!!」

 

 「やかましい!!言われんでも立つわ!!」

 

 肋骨が数本……打撲も多い、

 左腕が動かない

 

 立ち上がるだけで激痛が走るが、

 ホルトの前で声を上げるのは情けない、

 声を抑えて立つ。

 

 

 

 「オヤジ!!聞け!撃龍槍がまだ

 使えるかも知れない!!」

 

 

 「バカ野郎!!避難しろ!

 お前は親になるんじゃ!!!」

 胸が痛む、呼吸がしづらい

 

 「店の皆もいる!そっちから

 指示してくれ!」

 ホルトは引っ込む

 

 「聞けぇ!ホルトォ!!」

 

 

 

 

 門の裏、崩れて撃龍槍の発車管が

 出ている

 

 「よし!!やるぞ!!」

 閉塞の蓋を開けると大きな鎖が見える、

 鉤棒やロープを鎖に引っ掛け、

 

 「引き込めぇ!!」

 数十人掛かりで鎖を引っ張る、

 煤で手も体も真っ黒にしながら

 商工会は作業に入る。

 

 

 

 「おい!あれ!!」

 指差し

 「引き込んでるぞ!!」

 

 「うでるのがぁ!?」

 

 「ホルトのバカが準備しとる!!」

 

 「いょおし!!」

 万策尽きていたはずの中、

 一筋の光明、

 ハンター達の士気は上がる

 折れた剣で斬りかかる!!

 

 「時間を稼げぇ!!」

 「まだやれるぞぉ!!」

 「まだ終わらねェぞ俺達は!!!」

 

 

 

 

 「爆弾はあるのかぁ!!?」

 ロクスが叫ぶと

 

 「上から砲弾用の火薬袋が落ちて

 きた!これを使う!」

 

 

 

 しかし……

 

 

 ラオの体当たりが来る

 

 

 

 「一旦さがれ!ホルトォ!!」

 

 ロクスと商工会は退避、

 

 ゆっくりと……

 

 四つん這いで……

 

 

 

 

 

 ドオオォォーン!!!!

 

 

 

 

 大量の瓦礫が降り注ぐ!

 

 既に門の半分ほどが崩された

 

 しかも……

 

 

 

 「ギギギギィー……ドオオォン!!」

 

 鉄扉の片方が倒れた……

 

 

 

 

 

 「ゼルドオォーっ!!!!」

 ガルダの叫びがコダマする、

 

 撃龍槍を守ろうとギリギリまで粘った

 

 

 「げ……げぎりゅうぞうは!!」

 半分瓦礫に埋まったゼルド

 

 「バカ野郎!!腕が……」

 

 

 ゼルドは立ち上がるが……

 「ぐぅうう!!」

 ゼルドの右の肩からは、血塗れに

 なったボロ布が垂れ下がる、

 ついさっきまで右腕と呼ばれ、

 産まれた時から当然のように、

 自分の意思で動いたハズのモノ。

 

 倒れそうになるゼルドをガルダが

 支え、ゆっくり壁際へ避難

 

 「オ、オヤジ、ほめでぐれっがなぁ!」

 ゼイゼイと荒い呼吸

 

 「あぁ!!誉めるさ!!少し休め!!」

 

 ゼルドの肩を弓の弦で縛り寝かせる、

 止血は出来ても……このままでは……

 

 

 

 

 

 首を振り……

 ゆっくりと立ち上がる

 

 

 

 

 開いた門からホルトが見上げる……

 

 こんな……バケモノ……

 

 

 堅固な要塞となったドンドルマ

 しかし今は……

 

 遠くから見たらラオの前に、小さな

 砂の山がある程度だろう……

 

 「ホルトォ!しっかりせい!!」

 ロクスに頬を叩かれる

 

 呑まれちゃダメだ!!

 「分かってる!!タイミング教えろ!!」

 

 

 

 ロクスは見極める。

 

 

 ズシン……

 

 

 すまんのぉ、ラオよ……

 お前らにとっては自分の道に邪魔な

 モノ……

 大樽が現れたようなもんじゃろ。

 

 

 ズシン……

 

 

 じゃがの?その樽の中で生きてる者が

 いるんじゃ

 意地はって気ィはって戦うんじゃ、

 

 

 ズシン……

 

 

 最後の意地じゃ……

 

 

 ズシン……

 

 

 

 「撃てーーーぃ!!!!」

 

 「おお!!!!」

 火種を蓋の小さな穴に投げる

 

 ドガアァーーン!!!!

 

 

 

 ラオの左足に命中!!

 

 

 

 鎖が切れて刺さったままだが

 

 「うらぁ!!当たったぁ!!」

 「どうだぁ!!」

 「最後の意地だ!!」

 

 

 ハンター達は騒ぐ……

 

 ラオはゆっくりと退がると

 

 

 

 四つん這い

 

 

 

 しかし

 

 

 ズシン……

 

 

 西ではなく門へ

 

 

 

 まだ……やんのか?

 

 

 

 最後の槍が抜けて出血するが……

 

 先の三本のキズからは……

 

 血が止まってる……

 

 

 

 

 構える事さえできない、

 折れた武器を持ったまま立ち尽くす

 

 疲弊している、

 武器も残っていない、

 気力も限界、

 

 あと、俺達に残されたモノ……

 

 

 

 

 

 命一つ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「プオォ~」

 

 

 

 

 突然気の抜けた音、角笛?

 

 見ると崖の上に……誰かいる?

 

 ベッキー……?

 

 ベッキーは指差す、四番を、

 走ってくる黒い四人を

 

 

 

 

 先頭の太った一人が兜を取る、

 白髪の角刈り、日焼けした肌、

 右目が黒い眼帯の隻眼

 

 ラオの咆哮並の声で

 

 

 

 

 「立てぃ!!!ガキどもぉおおお!!!!」

 

 

 

 

 

 一斉にG級達が叫ぶ

 「お……」

 「この声……」

 「オヤジだ!」

 「オヤジィィー!!!!」

 「ガストンオヤジだぁ!!」

 

 疲れきったハンター達は残った力で

 声を出す

 

 

 「後はワシらがやる!!どいてろぉ!!!!」

 

 

 

 全員壁際へ、クロフ達も到着

 

 クロフは道具を持って走りまわり、

 壁際のゼルドを見付ける

 

 「ゼルドさん??!!」

 

 「おぉ……クロフがぁ……」

 

 

 「これは……っ!」

 潰れた右手、呼吸も弱い、

 一瞬セドリックの遺体を思い出す

 

 力なく左手を上げるゼルド、応急薬を

 かけるが……右手が治る訳もなく

 

 「らぐになっだ、ほがのやづもたずげろ」

 歯を剥き出し笑うが……

 

 そんなはずない、見れば分かる!

 応急薬を飲ませる

 

 「どうしたら……」

 泣く以外できない

 

 「うでのいっぼんでずめばやずい」

 ゼルトは上体を起こして座る

 「オヤジがぎでぐれだ」

 

 

 

 

 「どおおぉらあぁっ!!!!」

 ガストンが黒いハンマーで鼻先を殴る

 「よくもセガレの腕ェやってくれたな!!」

 

 ラオの巨体が僅かに怯む

 「行けぃ!!ハインツ!!」

 

 「はい!!」

 長身の男は鼻先を蹴り、ジャンプ

 すると太刀を一閃!

 

 「バキイィィィーン!!!!」

 

 蒼い太刀が折れた……かと思うと

 

 「ドスッ!!」

 「うわぁっ!!」

 

 地面に刺さって、それでも3メートル

 以上ある角が折れた、

 鼻先の角だ!!

 

 

 「テメェらよくやったぜ!

 コイツは弱っとる!」

 ガストンは顎を滅多打ち

 

 「ドンドルマの総力をぶつけたんです

 当然ですね!」

 長身の男は顔を横から斬る

 

 

 アルトは腹を斬る

 返り血で染まるが黒い防具は

 汚れない、それに……

 

 (何だ、あの片手剣)

 クロフは知らない

 真っ黒で先端に小さな……角?

 

 弱点とは言えラオの体を簡単に切り裂く

 

 

 

 少し離れてナナキらしい男は立って

 いる、腕組みして……ただ見ている。

 

 「師匠!なにしてんの!?」

 カンナが走りながら叫ぶが無反応

 

 

 

 ラオは首を振り……立ち上がろうとする

 後ろ足に体重が掛かる

 

 その時!!

 

 ナナキはランスで突進!!

 

 勢いを利用した突きを放つ

 

 「せいっ!!」

 

 バキバキバキィ!!……

 

 

 

 

 ラオの左後ろ足、二回撃龍槍が刺さった

 辺りに、黒い槍が根元まで刺さる!!

 

 分厚い鱗や甲殻を干菓子のように

 割りながら簡単に

 

 

 

 

 立ち上がろうとしたラオは

 

 

 

 

 ゆっくりと……

 

 

 

 

 「ドドオオオォォォー……ン!!!!」

 

 

 

 倒れた

 

 

 

 

 「やったぜ!!」

 「どうだぁ!!」

 「今度は勝ったろ!!」

 

 

 ………………

 

 

 

 

 

 

 大量の砂ぼこりが晴れると、

 ラオの鼻先に四人がいる、

 

 ただ構えているだけ……

 

 

 

 

 無音……静まり返っている

 皆固唾を飲み見る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ブゴオォォォッ!!」

 

 何だ?……いまラオが……鼻息?

 

 

 匂い嗅いだのか……?

 

 

 

 クロフはその時初めて、ラオの目が

 動くのを見る、

 

 

 

 恐らくラオは四人を見ている

 

 

 人間を認識している

 

 

 

 

 

 

 ズシン……

 

 「……お…」

 「これ……」

 

 ズシン……

 

 「方向が……」

 

 「変わって行く……」

 

 「西へ行くぞ!!」

 「勝った!!」

 「勝ったぞ!!」

 「守ったぞ!!」

 

 「ドンドルマの勝ちじゃあああ!!!!」

 

 黒い四人……恐らく四英雄が

 武器を掲げて叫ぶ、

 

 しかし……クロフは違和感を持つ

 

 

 

 四人の装備が…何というか……

 

 禍々しい……怖い……

 

 

 

 

 

 「う……むぅ……」

 

 「ギルドマスター、気が付きましたか」

 

 マリンはロープをほどき、降ろす

 

 

 「ホッ、情けない……生き残って

 しもうたか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕方

 

 

 町長やギルドマスターが叫ぶ

 「街の勝利に!!」

 高々とジョッキを掲げる

 

 「「「勝利に!!」」」

 

 一斉に街中が掲げる

 

 中央広場にテーブルが集められ、

 今日はハンターと町人が一緒に飲む。

 

 蒼い甲殻や重殻、爪、そして巨大な角、

 山のように素材が積まれているその

 前で

 

 緊張が解けたせいで大騒ぎ、

 自慢話や明日からの取引の話

 

 

 

 「あっはっは♪腰抜かしたか♪」

 ナナキは小馬鹿にしたように笑う

 

 「クロフの言うこと、しっかり

 きいとけば良かったよ……」 

 若手のカンナ達は食事の給仕を

 進んでやる

 

 

 

 「師匠……返すぜ」

 イシズキが兜を差し出す

 

 「ん……心配掛けたな」

 ナガエが受け取る

 「泣くな、俺も師匠に守られた、

 お前もいつか弟子を守れば良い」

 

 

 

 「師匠……ゼルドさんは……」

 

 「右腕はダメみたいだ」

 

 「俺……」

 

 「アンタのせいじゃない、街を守った

 結果だよ」

 

 「俺達が弱いから……」

 

 「アッハ!その気持ちがあれば十分!!」

 

 

 「あ、これ……」

 クロフはネックレス?をアルトに見せる

 

 「え!?アンタが受け継いじゃったのぉ

 !!?」

 アルトはビックリして立ち上がる

 

 「え?……師匠に渡してくれって……

 コレは……?」

 

 周りのG級達は騒ぎ出す

 

 「クロフに渡ったのかよ!」

 「大丈夫かぁ?」

 「責任重大だぜ?」

 

 「あ、あの、コレは……?」

 反応を見れば分かる、

 コレは見た目通りのガラクタじゃない、

 持ってる手が震える

 

 

 「このガキがオメェの弟子か?!」

 ガストンが来た

 ゼルトやガルダに比べれば普通のサイズ、

 しかし、圧力と言うか迫力が凄い、

 太っているんじゃない、肩幅が

 凄い

 G級達も街の人も道を開け頭を下げる

 

 「あ、父ちゃん、そうアタシの弟子」

 アルトの口調は軽いが

 

 「あぁ?ソイツは?!」

 ガストンがネックレスを見る、

 見られただけで体が緊張する、

 ガクガクしながら差し出す

 

 「父ちゃん、兄貴が渡したらしいんだ」

 

 「そうか……小僧!!名前は!!」

 

 「ク…ク……クロフ……です」

 (裏声)

 緊張、手に汗

 ガクガクしながら答える

 

 「よし!決して無くすな!!」

 ギロリと睨む

 

 「は、はいぃっっっ!!」

 怖いぃ!!

 

 アルトを見ると

 「アタシが話すより……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギルドマスターの所へ、

 町長、街の役職のテーブル

 

 ベッキーは忙しく動いている

 

 「じいちゃん、ゼルド兄貴は?」

 

 「今、腕の処置をしとる」

 

 「切断に…なりそうだって」

 ベッキーが俯く

 

 「そうか…じいちゃん、コレの説明を…」

 クロフが持つネックレスを指差す

 

 「ホッホッ、お前が受け継いだか」

 

 クロフはビクビクしながら直立

 

 「アタシが説明するより……ね」

 

 ギルドマスターが説明する

 

 かつて竜人で大陸中を旅した者達

 ワシら四大英雄、

 その中のリーダー、ココットの兄貴が、

 妻に渡したネックレスが…それじゃ。

 

 

 妻が亡くなった後、

 ココットからガストンへ渡され、

 ガストンは自分の首に、

 

 それからゼルトとガルダへ受け継がれ、

 アルトへ

 

 「で、アタシが書士隊へ入るとき

 兄貴へ返したの」

 

 「え!……あの、……コレ」

 いくら知らない事とは言え、

 そんな飛んでもないモノだとは!

 無理無理無理!重い!!重すぎる!!

 

 「どっ、どうしたら……」

 オロオロするが

 

 「アッハ!暫く着けてな」

 アルトがクロフの首に掛ける

 

 いやだいやだ重すぎる!!

 そんな大事なモノなんて!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 下位達も飲み始める

 

 「ロクスのヤツはどぉしたぁ?!!」

 ガストンの声

 

 「孫が産まれるそうで」

 「そういえば!!」

 「エレーナ商会に飛んで行ったぜ!!」

 

 「おぉ!!そりゃめでたい!!」

 

 

 

 「きゃあっ!!」

 

 「パァァン!!」

 

 「師匠!!」

 

 

 皆ハシャイでいる

 

 

 

 「みんな嬉しいんだ」

 守られた、でも次は……俺も……

 

 「当たり前だぜクロフ」

 ナガエが死なずに済んだ、

 嬉しくて飲み過ぎたのか

 顔が緩んでいるイシズキ

 

 「まさかギルドマスターを任されるとは」

 マリンは不思議そうだ

 

 「一番元気そうだったからじゃねぇの?」

 

 「私が怠けていたように聞こえるぞ」

 マリンはムスッとする

 

 「もぉーっ!!私の師匠って何で

 お尻が好きなのよぉ!!」

 

 

 

 背の高い男が来る

 「君がクロフ君ですか?」

 

 「は、はい!」

 師匠と同じ、四英雄の……?

 

 「アルトの弟子ですね、それから……

 君がナナキの弟子のカンナさん」

 

 「……はい」

 振り返ったカンナの目がハートになる

 

 「ハインツと申します、以後よろしく」

 190センチはあるだろうスラリとした

 細身、アルトより美人の顔立ちに、

 長い金髪を青いリボンで纏める

 紫の瞳が涼しげ、

 女性のハンターを何人も引き連れるが、

 全員目がハート。

 

 「アッハ!ハインツ、

 カンナまで誘惑すんなよ!?」

 

 

 「仕方ないでしょう……」

 困った顔をするが、街の若い女性

 まで寄ってくる

 

 

 こんな美人の男が存在するのか

 

 「あ、あの、初めまして」

 右手を出すと柔らかい仕草で握手し

 

 「四英雄を拝命しています

 ハインツ・ルーメル・フォン・ド・

 ……シュレイドです」

 

 貴族?……シュレイド??

 

 ハインツは挨拶して廻る

 女性達を引き連れて

 

 

 「カッコ良い~」

 カンナは赤い、飲んでないのに

 

 「絵の中から出て来た様な美形だな」

 マリンも目を丸くする

 

 「師匠より美人だ……」

 

 ベシッ!!

 

 「あんだってぇ?」

 飲み過ぎたアルトに頭を叩かれる

 

 

 

 「また死にぞこなったわい」

 ギルドマスターは笑う

 

 「あんたが居なきゃ始まらねぇ!!」

 ガストンも豪快に笑う

 

 「まだまだ四大英雄の名前は

 必要です」

 ベッキーがナナキを警戒しながら

 

 「甘いぞベッキー!!」

 音もなくナナキが近付く

 

 

 

 

 「パアァァァン……」

 



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今回は設定確認のための
過去の話




 

 ギルドへハンター達は戻り

 一人二人と眠り始める、

 無理もない、限界だったのだ、

 椅子や床、テーブルに突っ伏して

 

 

 

 クロフは興奮が収まらず眠れない

 

 軽いイビキをかいている三人、

 みんな寝てしまったので一人で門へ

 

 夜風が心地好い、街の広場では

 大勢が騒いでいる

 

 なんだか一人になったのは久し振り

 夜の街、一人……今まで経験

 しなかった時間帯……

 ワクワクする

 

 崩された門を見る、

 もうすぐ丸一日……

 ラオを思い出す

 

 

 これを元に戻すのは、

 どれほどの大仕事になるのか……

 

 

 

 「小僧」

 

 ビックリして振り返る

 

 「ガストンさん?!」

 

 「眠れんのか」

 あの迫力は無い、ニコニコ笑う、

 

 「は……はい!」

 あれ?なんか……柔らかい空気

 

 

 

 

 

 

 

 二人で向かい合って瓦礫に座る

 

 「ここまで壊すとはな」

 小石を拾い投げる

 

 「あ、あのっ…コレッ!!」

 ネックレスを指差し

 「師匠がっ!……着けとけって!」

 緊張する

 

 「おう、大事にしろよ?」

 

 気付く、クロフと変わらない背丈、

 まぁ幅が全然違うが

 

 あれほど大きく見えたのに

 

 

 

 「聞きたいってツラだな」

 ガストンは笑いながらネックレスを

 指差す

 

 クロフは頷く

 

 

 ガストンは語る

 「俺が10才の時だ」

 

 

 

 今では無くなってしまった北方の村、

 そこに暴れん坊のガキがいた、

 ワシだ。

 

 ろくに武器も無い時代に、棒切れで

 ランポスを仕留めて、浮かれていた。

 

 「棒切れ?」

 

 「村が貧しくてな、加工屋も居なかった」

 

 仲間を集めてガキ大将をやっていたが

 ドスランポスが現れてな、

 仲間を逃がすために俺は戦った、

 

 勝てる訳なくてな、そんな時だ、

 師匠達が現れた、

 あっという間にドスランポスを倒してな、

 その強さに惚れて弟子入りを志願した。

 

 初めは渋っていたが、ココットの

 妻のリネルが助けてくれてな、

 同行させてもらった

 

 数年四人にくっついてハンターの基礎

 を叩き込まれて、俺もイッパシに

 なった頃……

 

 「ちょ!ちょっと待ってください!ココットって

 村の名前じゃ?」

 

 「知らんのか?ココット、ミナガルデ、

 ドンドルマは英雄の名前だ」

 

 「ええっ!!?」

 

 

 現在のココット……当時は名もない集落

 で事件は起きた。

 

 一人前になったと勘違いしたガキ大将

 は、

 狩りの時に先行した

 

 討伐対象はモノブロス、

 ディアブロスの近縁種。

 

 バカなガキは自分の力を過信した、

 捜索が担当だったのに一人で

 立ち向かった

 

 まともに攻撃すら出来ず逃げ回ったが、

 壁際に追い詰められてな、

 体力が限界だった、

 デカイ一本角が俺に刺さる寸前……

 

 

 

 

 ワシを見つけたリネル姐さんは

 走って来て……庇ってな……

 

 

 ガストンは顔を伏せる

 

 

 「そして俺は右目を潰した……」

 

 「このネックレスは形見……?」

 

 「そう……形見だ」

 指差し

 「ココット大兄ィの手作りだ」

 

 この粗末な感じはそのせいか、

 俺が持ってて……

 

 「もっと綺麗な石がありそうなのに…」

 

 「まぁだマカライトが溶かせん時代

 だったからな、希少だった」

 笑う

 

 「は……?」

 間抜けな顔になる

 

 「50年位前の話だぞ、溶けんわい、

 燃石炭の使い方が解らん時代だぜ?」

 

 

 マカライトって普通に手に入るのに、

 溶けない?加工出来ない?

 

 

 それじゃあ

 「あの、装備は……?」

 

 モンスターの素材を使う、武器防具の

 繋ぎとして良く使われる金属、

 しかも下位の。

 上位だったら更に稀少な……

 

 それが加工出来ない時代の装備?

 

 「あの頃は武器と言えば鉄、防具は

 ボーン装備が最高だったわ!」

 ガハハと大笑い

 

 今なら駆け出しの装備……

 

 それでディアブロスの近縁種?!

 

 

 

 

 バケモノ……

 

 

 

 

 「それからハンターは四人になった」

 

 「……へ?」

 

 

 ガストンが真顔でクロフを見る

 

 

 

 

 「……察しの悪いヤツだな……なぜ

 ハンターが一組四人か知らんのか?」

 

 「五人以上は縁起が悪い……

 死がつきまとう……って……!」

 

 クロフは声を上げる

 「あれ?なんか!?」

 

 「そうだ!四大英雄とはココット、

 ミナガルデ、ドンドルマ、リネルだ」

 ガストンは親指で自分を指し

 

 

 「ワシは不吉の五人目よ!」

 

 「あれ?四大英雄……あれ??!」

 

 「すっかりワシが四大英雄の一人に

 されたがな」

 

 「あ!師匠に聞いたら事あります!

 四大英雄って言うと嫌がるって!!」

 

 「そんな事まで教えたか!バカ娘が!!」

 ガハハと大笑い

 「嫌に決まっとる!あの人達に比べれば

 ワシは邪魔な小僧っ子よ!!」

 

 これか!!これが原因で四人に!!

 

 

 聞いて初めて解る、凄い、凄すぎる!

 

 

 「そのあとココットは村に墓を造って、

 ギルドマスター兼村長だ、

 その墓に自分の剣を立ててな」

 ネックレスを指差し

 「剣にソイツを掛けて置いた」

 

 ガストンは夜空を見上げる

 「だが、すぐにワシにくれてな」

 

 

 「なぜなんでしょう」

 

 

 「リネルが助けた命だ、お前にやる、

 ……ってなぁ」

 夜空を見る

 

 「子供のように……かな?」

 

 ニカッと笑い

 「だと嬉しいがな!!」

 

 

 顔を擦りながら

 「ワシのせいで死なせたのに、

 あの人は恨みもしなかった、

 『運命だ』ってな」

 

 

 

 「ワシも老いたし引退を考えた時に

 ゼルドに渡したんだ」

 

 「引退……?」

 意外過ぎる、あのラオの顎を殴る人が

 言う事か?

 

 「ミナガルデとドンドルマに専属も

 置いたし、役目は終わったからな」

 

 「ゼルドさんとガルダさん以外にも?!」

 

 ガストンは笑う

 「皆ワシの弟子でな!東に赤鬼青鬼、

 西に黒鬼白姫がいるぞ?」

 

 「え……え?」

 ポカンとする

 

 「ソイツの話は終わりだ」

 ネックレスを指差す

 

 「俺が……持ってて……」

 良いのか?これ?

 下位が持ってて良いモノじゃないよ

 

 「ゼルドも何かしらお前を認めたか…

 『運命』だろうよ……」

 ニヤリと笑う

 

 

 

 

 

 

 

 

 中央広場の火も少なくなって来た

 

 「あの、もっと聞いても良いですか?」

 

 「おう!シラフじゃねぇしな!」

 

 

 

 

 不思議な存在がドンドルマにいる、

 誰にでも意見できて、

 尊敬されて……

 でも四英雄とかではない

 

 ギルドマスターと対等に話し、

 若者をテストする、

 

 歴戦のハンターであることは

 間違いなさそう……だけど

 

 

 

 「ロクスさんって……」

 

 「あいつかぁ、あいつの話は

 この街の始まりから話さんと」

 

 

 

 

 

 

 

 45年程前

 

 

 「あれ?前より家が増えてんぞ!」

 ガストン 15才 右目に眼帯、

 粗末なネックレスを着けて

 ハンマーを担ぎ軽快に岩を登る

 

 「アルマのヤツはまだいるのかの?」

 片手剣を持つ竜人ドンドルマ

 

 「前に来た時は一軒、掘っ立て小屋が

 あっただけだよな、小兄ィ」

 

 「四軒に……小兄ィは止めろ小僧が!」

 

 

 湧水の周りには石を積み、

 丸く池のようになり、

 それを囲む様に家がある、

 呼び掛ける

 

 「アルマぁ!おるかぁ!!」

 

 出て来た老人の話しによると、

 アルマは王都へ行ったという。

 

 「さて、ガストン、何から始めたもんかの」

 

 「何だよ小兄ィ、考えてないのかよ」

 

 

 ………………

 

 

 「そんな時代があったんですね」

 今のドンドルマから想像できない

 

 「何処だって似たようなもんだ」

 ガストンは寝転がり

 「一軒の家の軒下、テーブル一つと

 椅子二つ、ここからギルド……

 いや、村のためにモンスターを狩り

 始めた」

 

 

 ………………

 

 

 「チンピラぁ?」

 ガストンは眉を吊り上げる

 

 「そうなんですよ、なんか居着いてて」

 気の弱そうな老人

 

 「ワシらは人殺しなぞやらんぞ」

 竜人も顔をしかめる

 

 「何とかなりませんか?」

 

 「ガストン!!」

 

 「どれ、何処にいる?」

 ガストンが立ち上がる

 

 

 

 高台に小さな平地があり、そこに

 ボロボロの服を着て、

 村から盗んだ野菜をかじる若者、

 ヒョロッとした長身、

 

 立ち上がる

 

 「何だ!!テメェは?!」

 

 「ガゴッ!!」

 ガストンは無言で殴る、

 若者はその威力に堪らず倒れる、が、

 

 「ちょっ!!まっ!!」

 

 ガストンは更に馬乗りになり殴る!

 

 「があっ!!ま!テメェ!!!」

 

 ゴッ!ガゴッ!ガッ!

 

 無言で無表情で殴る!

 

 「あ……あの……まっ……」

 

 気を失うとガストンは立ち上がり、

 村へ戻る、

 若者はノビたまま

 

 

 

 

 「歯は折れない程度にしといたぞ」

 椅子に座る

 

 「担いで来なかったのか?」

 竜人が頬杖したまま

 

 「何だよ?捕まえる話だったのか?」

 

 

 ………………

 

 

 「話の通じない人から殴られ続ける

 訳ですか…」

 怖いよこの人

 

 「ワシは読み書きが出来んし、

 何を言ったら良いかも解らなくてな」

 

 「そのあとロクスさんは逃げて?」

 

 「それが逃げられない訳があってな、

 あいつは盗人で逃げ回っていたんだ」

 

 「元ドロボウ?!」

 

 「ガッハッハ!ハンターの多くは、

 元チンピラ、犯罪者が当たり前だ」

 ガストンは地面をつつく

 「この村はよ、他の村で色々あって、

 のけ者になったヤツが集まり安くてな、

 皆ワシがブン殴って弟子にしたんだ」

 

 

 

 ………………

 

 

 

 「何なんだテメェは?!

 会うたびボコボコにしやがって!!」

 顔が腫れて紫の男、ヨロけている。

 

 ガストンはボリボリ頭を掻くと

 「オメェは盗人で一生を終えるのか?」

 

 「……」

 

 「俺は馬鹿だから上手く説明できねェ、

 人に感謝されてみねぇか?」

 

 「今さら……」

 

 「今歳はいくつだ?」

 

 「20だが……」

 

 「俺は15だ、ガキに説教されるような

 情けねぇ人間で終わるのか?」

 

 腹が立つが殴る事も出来ない、

 この小僧の強さは普通ではない、

 どうしたら良いのか解らない

 「お……おぉ?何が出来るんだ俺に?」

 

 「ハンターになればいい」

 

 「ハンターって何だ?」

 

 「人のためにモンスターを狩るヤツだ」

 

 「竜人がやってるアレかぁ?

 人間に出来るのかよ?」

 

 「俺はその竜人の弟子だ!」

 

 「あぁ?じゃ村にいる小せェ竜人は!」

 

 「英雄だ!」

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 「そしてロクスは弟子になった」

 

 「えぇと、ガストンさんの弟子に?」

 

 ボリボリ頭を掻く

 「んー、あの頃は小兄ィも狩りやったし、

 小兄ィの指導も受けたからなぁ」

 

 起き上がり座ると

 「ワシの弟子であり兄弟弟子でもある、

 とにかくドンドルマの最初のハンター

 がロクスな訳だ」

 

 「一番古い方な訳ですね…」

 

 「何人もいたがアイツは一番臆病でな、

 生き残ったんだ」

 

 全て納得できる、すんなりと話が

 飲み込める、

 この人は余計な説明をしない、

 自慢しない、

 回り道も理由がある、

 全て正面から真っ直ぐ直球

 

 

 

 

 話が途切れた

 

 

 「他に聞きてぇ事はあるか?」

 

 アタフタする、聞きたい事は山程ある、

 なのに思い付かない

 

 「あ、あの、そこから街は……」

 慌てて適当に言ってしまうが、

 

 「ワシは一年毎に東西を行き来してな、

 何度目だったか……」

 

 

 

 ガストンは腕組みして

 

 周辺の馬鹿共を殴って弟子にして、

 この辺一帯の村の守りをやっててな、

 当時の報酬は金じゃなく、食料や

 建築資材、薪だった

 

 「お金自体がなかったとか?」

 ジャンボ村は今でも現金は少ない

 

 「ドンドルマは岩山だろ?農地も

 森も少ないからな、貴重だった」

 

 そんな訳でモンスターの素材は行き場

 が無くて貯まる一方だった、

 そんな時、移住してきた人間の中に

 商才があるヤツが現れた、

 名をエレーナ

 

 「エレーナって!」

 

 「エレーナ商会のエレーナだ」

 

 愛嬌のある娘でな、おしゃべりで

 良く笑う

 

 水を飲みに来た行商人に

 噂を流させた、ここは凄いと、

 行商人を立ち寄らせたら驚いたらしい、

 小屋の中に天井まで素材が

 溢れてたからな、宝の山だった

 

 その頃、ようやく燃石炭の使い方が

 分かり、モンスター素材の価値が

 上がってな

 

 

 最初は物々交換から始めてたんだが、

 噂が噂を呼び行商人が大勢来るように

 なった。

 小屋を交易所にしてな、大成功だ、

 物資と現金が行き交う場所になった。

 

 「そこから大きくなったんですね」

 

 「『英雄ドンドルマがいる村』って看板

 立てて商売してたらな」

 膝を叩き

 「ドンドルマになっちまった!!!」

 大笑い

 「今ではドンドルマ地方だとよ!!!」

 

 「ロクスさんとは……」

 

 「結婚したぞ」

 

 「ロクスさんってエレーナ商会の人

 って事ですよね」

 

 「あいつはエレーナ商会の大旦那よ!!

 商売なんぞしたことねぇがな!」

 

 

 誰かが言った

 

 人に歴史あり……

 

 

 「家に帰ってませんよね……」

 

 「セガレが商売継いだしな」

 

 「何だか……仲悪そうな……

 ホルトさん…でしたか

 『母さんが死んだときも』って

 怒鳴ってて」

 

 「オメェに言って解るかなぁ……」

 ガストンは頭を掻く

 「ロクスにとってこの街自体が

 エレーナとの子供な訳だ、

 自分の子供を必死で守ってるだけだ」

 

 「じゃあホルトさんにとって

 街が兄弟?」

 

 「エレーナが病気で死ぬ時も

 ラオの防衛戦があってな、

 ロクスはもちろん参加した」

 

 ガストンはゴロリと横になる

 「その辺がホルトには理解出来ねェのさ」

 

 

 

 



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 「ビール持って来ます」

 立ち上がろうとするが

 

 「要らねぇよ」

 

 無言が……ツライ……

 

 

 

 

 「あぁ、アルトから聞いたが、書士隊に

 入りたいってか?」

 

 「それが目標だったはずなんですが…」

 

 「迷ってんのか?」

 

 「……やりたかったはずなんですが」

 

 「誰だってそんなもんよ、自分の

 やりたい事を仕事に出来るヤツ

 なんぞ居ネェさ」

 

 「そんなもんですか?」

 

 「ナナキなんざ目標失って

 辞めようとしてるしな!」

 

 「最強なのに?!?」

 

 「聞きたいか?」

 

 「はい!過去に会ってるみたいなんです」

 

 

 

 

 

 

 

 3年程前 ドンドルマ

 

 ボロボロの男がギルドへ入ってくる

 

 「何だよアイツ……」

 「キタネエな……」

 「くせぇな」

 あまりの体臭に皆顔をしかめる

 

 髪と髭が伸び放題、何日も水浴び

 さえしていないだろう

 

 「何か御用ですか?」

 ベッキーもいつもの笑顔がない

 

 「何でもいい……狩りを……」

 

 「…ギルドカードは?」

 

 「……ない」

 

 「アナタは……ハンターですか?」

 

 「……」

 

 「偽物かぁ!?」

 「まぁた酔っ払いか!」

 ギルド中が騒ぐ

 

 浮浪者は言う

 「死にてぇ……」

 

 その言葉にギルド中が睨む!

 全員が殺気立つ!!

 

 道半ばで力尽き、

 死んだ仲間がどれだけ居るか、

 生きたくても喰われ、焼かれ、

 切り裂かれた仲間を思えば当然。

 

 「なんだぁテメェは!!」

 「殺されてぇか!!!」

 皆立ち上がる

 

 「ちょっとアンタ、ふざけてんの?」

 アルトが胸ぐらを掴む

 G級達は我慢ならない

 

 アルトに胸ぐらを掴まれ振り回されるが

 力なく床に倒れ

 「そうだ……死にてぇ」

 

 騒ぎを聞きつけガストンが奥から来る

 

 「何の騒ぎだテメェら!!!」

 

 「あ、オヤジ、変な野郎が……」

 「死にてぇとか抜かしやがって」

 

 浮浪者を見るとガストンは前に立つ

 腕組みして鬼の形相

 

 「死にてぇのか?」

 

 「死にてぇ」

 

 「そうか」

 

 

 ガストンは剥ぎ取りナイフを向ける

 

 「ガストン!!抜刀禁止じゃ!!」

 ギルドマスターが怒鳴る

 「父ちゃん!!やめて!!」

 

 ガストンは構わず

 「オメェみてぇなヤツが狩り場で簡単に

 喰われるとよ、

 人間を嘗めて街や村が襲われる」

 

 

 「……」

 

 

 「迷惑だ、自分で決めろ」

 

 

 「……」

 

 

 「どうした?俺の持ってるナイフが

 お前の死だ」

 

 

 「…………」

 

 

 「自分で刺せ」

 

 

 「……………………」

 

 

 「なぜ出来ねェ?お前の心に

 なにがある?」

 

 浮浪者が胸を抑える

 

 

 

 

 「……ソコは何て言ってる?」

 

 

 

 長い沈黙

 

 

 

 

 「ここがよぉ……勝ちてぇってよぉ、

 勝てるわけねぇのによぉ!!」

 胸を血が出るほど引っ掻きながら

 浮浪者は泣き出す

 

 「何に勝ちてぇ?」

 

 

 「……」

 

 

 「お前生きて勝ちてぇんだろ?

 何に勝ちてぇ?」

 

 

 浮浪者はガストンを見上げ

 「あんたらだって勝てるわけねぇ」

 

 またギルド中が殺気立つが、

 ガストンが手を挙げると押し黙る

 

 「試しに言ってみろ」

 

 

 

 

 

 

 「ク……クシャル……ダオラああぁ」

 号泣する浮浪者

 しかし顔は怒りに満ちている

 

 

 

 ギルドマスターはハッとする

 「まさか!!ヌシはポッケの生き残りか!!」

 

 「知ってんのか?兄ィ」

 

 「半年程前に北東の辺境に現れ、

 村を全滅させた個体がいると……

 それに村長のオババから聞いたぞ、

 もう一人の生き残りが消えたと」

 

 「ほう」

 ガストンは胸ぐらを掴み立たせると

 

 「このギルドにはクシャルに勝つ

 者は何人もいる」

 

 浮浪者は顔を上げる

 

 「依頼するか?」

 

 「……」

 

 怒り顔の浮浪者を見るとガストンは

 察する

 「そうか、自分の手で殺してェんだな?」

 

 「…………」

 

 「恨みを晴らしてェんだな?」

 

 

 

 

 「……どうやって……」

 

 「ハンターになれ、オメェに勝てる

 技術を教えてやる、

 その代わり地獄を見るが…やるか?」

 

 

 

 

 

 ガストンが手を離すと力なく

 床に座り、

 浮浪者は頭を下げる

 「……俺に……力を」

 

 

 

 「全員聞けィ!!!コイツは今日から

 仲間だ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そうして弟子にした訳だ」

 

 「復讐……村の復讐……」

 

 「おう、それな、ナナキはポッケの

 農夫でよ、農場の管理をしていた、

 作業してる時に突然村が襲われて、

 妻と子供が犠牲になっちまった」

 

 「結婚してたんですか?!!」

 

 「妻と子供を殺され復讐したいが、

 クシャルに対する恐怖が

 染み付いてて怖かったんだ、

 それで迷いに迷ってここにな」

 

 「死にたい……けど生きたい」

 

 「あれは生き地獄だろうよ、

 ナナキと村長だけ生き残ったそうだ、

 そのあと放浪して歩き回ったらしい

 …ワシは独り者だから解らんがな」

 

 「……なぜ生きたいって解った

 んですか?」

 

 ガッハッハと笑う

 「本当に死にたいなら勝手に死ねば

 良いだろ?

 それがワザワザ人前に出てきて

 言うんだ、

 言いたい事があるに決まっとる!」

 

 なんだろう、人間が大きい……

 器が大きいって、この人を

 指すんだろうか

 「そこから最強に……」

 

 「動機が強いからな、

 忘れて前を向く事もできず、

 折り合いをつける事もできん、

 ただただ戦い続けた、

 食う暇寝る暇も無くな」

 

 「それで……倒したんですね?」

 

 「そうなんだがなぁ」

 ボリボリ頭を掻く

 「ハンターになった理由が復讐

 だからな、仇殺したら

 やることが無くなっちまった」

 

 

 

 目標を失う……

 「今は……何で続けてるんでしょう」

 

 「惰性か…流れか……」

 ネックレスを指差す

 「運命や流れに逆らって生きるのは

 簡単じゃネェだろうさ」

 

 

 

 

 「ガストンさんも辞めなかったのは、

 運命や流れですか?」

 

 「大兄ィは運命と言ったがな、リネル

 姐さんはワシのせいで死んだと

 ワシは思っとる……

 贖罪……なんだろうよ、

 一生英雄のために働く、

 これがワシの道になった」

 

 「道になる……」

 

 「まだガキのオメェには早いだろうが、

 道ってのはソコにあるもんじゃねぇ」

 

 「ハンターの……道ってないんですか?」

 

 ガッハッハと笑う

 「人生は何でも同じよ!!

 おっかなビックリ、ヨタヨタ歩いてな、

 色んな物にぶつかって、

 ある時振り返ると道になってる……

 そんな感じだ」

 

 「師弟って道を教えて貰える物では…」

 

 「甘えるな、教えはしない、

 せいぜい横から叩いて真っ直ぐ

 歩かせるだけだ」

 

 

 

 「何か師匠は言葉を大事にするって

 言うか……横から叩くより

 言葉で教えるって言うか」

 

 『気持ちを伝えるなら言葉で話す、

 これしかないんだ』

 

 

 「ワシとタイプが違いすぎるか?」

 ニヤリとする

 

 ヤバい……怒らせたか?

 

 「オメェが良い子だったからだろ、

 拳は必要なさそうだ、

 ナナキも言葉で十分だった、

 言葉で通じると思ったんだろ」

 

 「良い子?」

 俺が?

 

 「ワシが教えたヤツはみんな言葉が

 通じねェならず者だからな、

 口より手で殴らねぇと」

 

 ロクスさんは無言でボコボコ……

 

 「目標なんてモノはな、無くても

 後からついてくる」

 

 あ、目標の話してたんだっけ

 

 

 

 「長くなっちまった」

 ガストンは立ち上がり腰を伸ばす

 「いででで……」

 

 その姿を見ると老人ではある

 

 「明日の夜だ」

 

 「え……?」

 

 「一度に話しても忘れたり混乱

 するからな、まだ聞きてぇだろ?」

 

 「は、はい!」

 

 「それにもう来たしな」

 ガストンは指差す、東西から人が来る

 

 「あれは……」

 

 「忙しくなるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日

 

 「30000!!」

 「31000!!」

 「こっちは35000ゼニーだぁ!!」

 

 各商会で競りが始まっている、

 凄い金額が左右に動く、

 ラオの素材は滅多に市場に出ない

 ため、商人達は殺気立つ

 

 あの巨体から剥ぎ取ったり、大砲で

 吹き飛ばした厚鱗や重殻が大量、

 しかも一つ一つがデカイ

 

 周辺の村だけでなく、事前に情報を

 聞いていた行商人達が大勢

 ドンドルマに押し寄せた。

 

 

 それに

 

 「村長の指示で来ました!」

 「修理、雑用なんでも!」

 「ドンドルマのために働けと」

 職人、大工、石工、加工屋、

 また、それらを当て込んだ商人、

 飲み屋、飯屋が続々と集まる、

 ドンドルマの人口が一時的だが

 倍増している。

 

 

 ギルドは大忙し

 「上位は各村に向かい警備に入れ!!」

 「G級は緊急事態に備えよ!!」

 「下位は門の作業に入れ!!」

 「各自装備の点検をせよ!」

 ギルドマスターは指示を飛ばす

 

 

 

 

 

 

 「門を解体するぞ!!」

 ロクスの指示が飛ぶ、体中に包帯を

 巻いた状態なのに機嫌が良い、

 聞けば無事に孫が産まれたそうだ

 

 

 

 門はここまで壊れたら基礎から造った

 方が早いと判断された

 

 街中の若者、村の男達、下位が

 作業に入る

 

 「どんくらい掛かるんだかな」

 イシズキが瓦礫を台車に載せる

 

 「今またラオが来たら怖いわね」

 マリンも岩を抱える

 

 「次は私が守るんだ!!」

 カンナは力が無いため水と携帯食料

 を配ってまわる

 

 「クロフはどうした?」

 イシズキは顎をしゃくる

 

 「朝起こしたら腕が上がらないって」

 マリンは自分の二の腕をパンパン叩く

 

 「だらしない!!アイツだけ!!」

 カンナは悪態をつく

 「ロクスさんは大怪我してるのに!!」

 

 肋骨4本と左鎖骨、左下腕の骨折、

 全身打撲だが……笑顔

 

 

 

 「明け方までここでガストンさんと、

 話してたんだって」

 

 「うお!後で聞こうぜ!」

 

 

 クロフが遅れて来た

 

 「遅い!!」

 カンナは怒る

 

 「瓦礫の片付け、出来そう?」

 マリンは腕を触ると

 

 「いだぁ!!」

 筋肉痛で激痛

 

 「出来ねェなら他の仕事探せ」

 

 「いいんだ、今やるべきはこれだから」

 痛む腕で片付け始める

 

 無言で黙々と作業を始めるが、

 

 「強くなろう」

 クロフが言う

 

 「おうよ、強くなろうぜ」

 あんな思いはタクサンだ

 

 「またギルドマスター背負うのは

 勘弁だよ」

 岩を持ち上げる

 

 「強くなろう!!」

 カンナは大きな声で

 

 下位達は掛け声のように

 強くなろう、強くなろうと繰り返す

 

 ロクスはニヤケる

 (良い傾向だのぉ)

 

 

 

 

 

 

 ギルドマスターの部屋、

 ゼルド、ガルダ、四英雄が集まる

 

 「ホッホッ、お前たちが間に合うとはな」

 

 「王家専用の飛行船だと片道3日、

 早いぜ♪」

 

 「アッハ!アンタの兄貴には

 感謝しないとね!」

 

 「兄上には借りができましたよ」

 ハインツはやれやれと首を振る

 

 「ワシらが来なくてもギリギリ

 何とかなったかも知れんぞ」

 ガストンは笑う

 

 

 「いえ、オヤジあってこその

 ドンドルマです」

 ガルダとゼルドは言う

 

 「なざげねぇ、門が……」

 

 「もう動いて良いのか?」

 ガストンはバンザイすると

 二人は膝まづく、

 モジャモジャのゼルドの頭と、

 ガルダのスキンヘッドをグリグリ撫でる、

 「良くやったぜお前ら、よくぞワシの

 留守を守ってくれたな」

 

 二人は泣きながら頷く。

 

 「うでがなぐなっじまっだ」

 

 「街を守った証だ、誇って良いんだぜ?」

 ガストンが励ます

 「下に行ってお前の健在をみせてやれ、

 G級達も不安だったろうしな」

 

 二人はガストンに一礼すると出ていく

 

 足音が遠ざかると

 

 

 

 

 「報告と説明を聞こう」

 ギルドマスターの声色が変わる

 

 ハインツが答える

 「事前に申し上げました通り、

 旧シュレイド城への追加調査、及び

 強行偵察の結果、存在は

 確認されませんでした」

 

 ギルドマスターは座り直し

 大きな溜め息を吐く

 「そうか……居なかったか」

 

 「だけど油断は出来ないぜ、

 あそこはオカシイ」

 ナナキが腕組みする

 

 「なんじゃと?」

 

 「何かね、視線と殺気があるんだ、

 確実にヤツは居るはずなんだ」

 アルトが指を立てる

 

 「どこに…いや、しかし今は……

 触らぬ神に祟り無し…か……

 して?……ソレは?」

 ギルドマスターは横を見る、

 武器と防具が並べられている、

 そこにあるだけで禍々しい空気……

 

 「地下に行ける所があってな、

 壁のヒビを見つけてよ、

 その壁壊したらな」

 ガストン顎をしゃくる

 

 「ランス、片手剣、ハンマーが祭壇に

 祀られてあり、防具は大量に

 保管されてました」

 

 「それを持って来たのか!」

 パイプを落としそうになる

 

 「書士隊の研究員達も一緒だったし、

 見せたら竜殺しの属性らしくてさ♪」

 

 「アッハ!効果あるかと思ったら」

 

 「大ありだったわ!!」

 ガッハッハと笑う

 

 

 

 「恐らく伝説の素材で……」

 ハインツはランスを指差す、

 ランスと言うより

 角そのもの……

 

 「それに気になる話の証明にも

 なったようですし……」

 

 「ホッ?気になるとは?」

 

 『キョダイリュウのゼツメイにより

 伝説は甦る』

 アルトは天井を見ながら言う

 

 「王家に伝わる古文書の一文ですが」

 ハインツはギルドマスターを見る

 

 「むぅ、まさか巨大竜とは昨日の……」

 

 「その可能性もあります」

 

 「アイツが引き金になるかも♪」

 

 「でな、ワシらは試してみた訳よ」

 

 「ホッ?何の話だ?」

 

 「アッハ!じいちゃん

 寝てたから知らないんだ」

 

 「鼻先で武器の匂い嗅がせたんだ♪」

 ナナキは自分の鼻を指差す

 

 「あのデケェやつさえ恐れたぜ?」

 ガストンは笑う

 

 

 「これで証明されたかもしれません、

 各地にいるラオシャンロンは

 アレを恐れて……

 逃げていると推測できます」

 ハインツはギルドの紋章を指差す

 

 「うぅむ……勝てなくて……

 良かった……か……?」

 

 

 

 

 

 

 「さすがゼルド兄貴だぜぇ!!」

 「不死身かよ!!」

 「ドンドルマの顔は不滅だ!!」

 ギルドではG級達が騒ぐ、

 みんなゼルドの背中をバシバシ

 

 「いででで、もっどやざじぐじろ」

 ゼルドは笑いながら飲む

 

 「フム、飲みすぎるな、キズが開くぞ」

 

 

 

 

 アルトが階段を下りる

 「ベッキー」

 

 「何?姉さん」

 

 「クロフと組んでるヤツの情報ある?」

 

 「心配なのね、クロフ君てアレだし……」

 困った様に笑う

 

 「アッハ!そう、アレだし」

 口下手、引っ込み思案のクロフと

 仲間になるには、

 ……それなりに……

 

 

 



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反乱

 

 ギルドの人数が少ない

 

 「師匠がいねぇな」

 

 「上位のハンターは周辺の村だってさ」

 フルミナントソードも一度加工屋へ

 預けた方が良さそうだ

 

 「何で?」

 カンナも見回す

 

 「若い人は皆ドンドルマに手伝いに

 来たから、警備だって」

 マリンはクロフの作業を見る、

 いくら研いだ所で……

 

 「山賊でも来るのか?」

 イシズキも見る、クロフの剣が

 何ヵ所も欠けている、

 修理……可能か?

 

 

 「よぉ!!イシズキィ」

 声を掛けてきたのはシュウ達

 仲間を引き連れる

 

 「何だ?お前ら……」

 露骨に嫌な顔をするイシズキ

 

 「そんな顔すんなよ、お前らに

 良い話持ってきてやったんだぜ?」

 

 

 

 

 

 ………………

 

 

 「な?相場より高く買ってやるんだぜ?」

 

 「断る!!」

 

 「良いだろ!!鱗の一枚や二枚!!!」

 シュウは食って掛かる

 

 「あの!……何か違う……」

 クロフは上手く言えない、

 カンナが助ける

 

 「防衛戦に参加しないで素材

 欲しいって、図々しいのよ!」

 

 「全くだ!楽に何でも手に入ると思うな!」

 マリンが立ち上がる

 

 「情けねぇヤツだなお前は、憐れだぜ」

 イシズキが呆れた様に言う

 

 

 「何だとコラァ!!!」

 シュウ達10人はクロフ達を取り囲む

 

 

 怖い……

 クロフはケンカなんて記憶の最初、

 小さい頃にやっただけ

 

 「ラオの素材はよ、この街皆で

 勝ち取った、命掛けて手に入れたんだ」

 イシズキがシュウの前に立つ

 「参加してねぇお前らなんかが買おう

 なんざ100年早えぇ!!!」

 

 シュウの取り巻きがイシズキに

 掴み掛かる瞬間

 

 「お?お?ケンカかぁ?」

 「イシズキに料理5品!」

 「秘薬の調合教えるぜ!」

 「イシズキにカブレライト」

 「イシズキに100ゼニー!!」

 

 にらみ合いになる両者

 

 「こんなヤツとツルんでお前こそ

 情けねぇぞイシズキ!!」

 シュウはクロフを指差す

 

 「んだとオラァ!!!」

 イシズキが飛び掛かる!!!

 

 

 

 シュウの取り巻きも飛び掛かろうと……

 

 「何だぁお前ら」

 G級がニヤニヤしながら近付く……

 殺気!

 

 

 ……それだけでわかる

 

 

 『手を出すな』

 

 

 

 勝負は呆気なくイシズキが勝つ

 「確かにクロフは弱え!気力がねぇから

 気後れしちまう!!

 人の顔見て話も出来ねぇ!!」

 

 

 グサグサ心に刺さるんだけど……

 

 

 倒れたシュウを見下ろし

 「だがな、テメェと違って裏切らねぇし

 実力は俺より上だ!!それに

 責任は全部自分で背負っちまうんだ!!」

 

 シュウを立たせて……

 外へ蹴り出す!

 「過去にテメェと組んだのは恥だ!!」

 

 

 派手にスイングドアが軋む

 

 イシズキが振り返ると

 

 「良く言った!!」

 「こっち来て飲め!!」

 「立派だったぜぇ!!」

 「ナガエにも見せたかったな!!」

 

 皆が迎える。

 

 

 

 「アッハ!あの子がイシズキ?」

 

 「そう、ちょっと危なかった子」

 

 「危ない?」

 

 「半年前まで粛清対象だったのよ」

 小声で言う

 

 「ホッホッ、ベッキー、そろそろ来るかも

 知れんぞ……」

 

 「来るって……何が?」

 アルトには解らない

 

 「頃合い……でしょうか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ムカつくぜあの野郎!!」

 

 「最初俺たちが組んでやったんだぜ!」

 

 街の飲み屋、今は大勢がドンドルマへ

 集まっているため、露店までもが酒を出す、

 とにかく客が多いため

 普段は違う店すら飲み屋となり、

 当然そこで働く者も来る。

 

 「兄さんたちってハンターでしょお?

 何でこっちで飲んでんのぉ?」

 料理を運ぶ女

 

 「うるせーぞ!!」

 

 「こわぁ」

 

 

 

 「この分じゃ誰に言っても無理そうだな」

 レウス装備の男

 

 「先方は待ってくれねェぜ?」

 ランポス装備

 

 「ギルドにはあるんだ!ラオの素材が!」

 シュウは歯ぎしりする

 

 「横流しも楽じゃねえなぁ」

 コソコソ話す

 

 「ラオの素材?商人なのぉ?」

 ビールを持ってくる

 

 「何だよお前は」

 

 「あんたたちが注文したんでしょぉ」

 ビールを置く

 

 

 

 ………………

 

 

 

 次の日 夜

 

 

 

 

 「手ェ上げろ!!!」

 ギルドに10人程が入って来た、

 手にはライトボウガンを構え

 背中にも武器を背負う

 

 顔は隠しているが

 

 

 「あんだ?」

 「強盗か?」

 「シュウ達だな」

 「面白そうだ」

 

 「ホッ?大変じゃ!皆大人しくするんじゃ!」

 

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 何の抵抗もせずに全員縛られる

 

 「は……こんなに簡単なのかよ!」

 

 「もっと早くやるんだったぜ!」

 

 「こうなるとG級も情けねぇもんだな」

 

 「武器持ってなきゃタダの人だ!!」

 笑うシュウ達

 

 全員床に座らされボウガンを

 向けられる

 

 ゼルド、ガルダ、ロクスまで

 大人しく縛られる

 

 

 変だ…この人達が大人しく捕まる?

 さっきのギルドマスターも演技に

 見える

 

 あれ?師匠は?

 

 

 

 クロフはガルダを見る、と

 顔半分、クロフに見える方だけ

 ニヤリと笑う

 

 そうか……何かの作戦なんだ……

 

 

 

 「おい!やっぱり金庫部屋あったぞ!!!」

 上から降りてくるシュウの仲間

 

 「さて、ギルドマスターよ、金庫部屋の

 カギはどこにある?」

 ボウガンを向けてシュウが聞く

 

 「ホッ?ベッキーが持っとるよ」

 

 「そういやベッキーは!?」

 

 「見てねぇぞ!」

 

 「いつもいるのに!」

 

 

 小声でカンナがクロフに言う

 「厨房のアイルーもギルドガールも

 居なくなってる……」

 

 シュウがカンナに近付く

 

 

 「おいチビィ!お前仲間になるか?」

 シュウはカンナにボウガンを向ける

 

 「誰があんたたちに!」

 にらみ返す

 

 「俺もチビは要らねぇよ!!」

 ゲラゲラ笑う

 

 

 

 

 

 

 「シュウよ、お前は誰の指示で

 これだけの事をやったんだ?」

 ギルドマスターは退屈そうに聞く

 

 「あ?俺達は誰の指図も受けねぇ!」

 

 「本当かのぉ」

 ロクスが聞く

 

 「うるせーぞジジィども!」

 ロクスを蹴る

 

 「テメェら怪我人になにしやがる!!」

 

 「黙れイシズキ!!」

 

 イシズキも蹴り倒される

 

 「おい、どんな気分だ?ハンターと

 して強くても、そのザマじゃなぁ」

 シュウ達がゲラゲラ笑う

 

 「イシズキィ、協力するなら今だぜェ?」

 

 下位達に言う

 「お前らも今なら仲間にしてやるぜ」

 

 「今日からギルドは俺達のもんだ!!!」

 

 

 

 

 「お前達は本当に単独なのか?」

 

 「しつけーな!デケェ取引があんだよ!」

 ギルドマスターの頭に銃口を向ける

 「大人しくラオの素材出せば

 殺しはしねぇぜ?」

 

 

 

 「気付いてる?四英雄もいないわ」

 マリンがコソコソ話す

 

 

 

 

 

 

 

 そこに

 

 

 

 

 

 「どこにも居ないわ」

 平然とベッキーが階段を降りる

 

 「なっ!?どこ行ってやがった!!?」

 

 厨房の地下からアイルー達、

 カウンターの裏からギルドガール

 が出てくる

 

 「街中走ってみましたが……」

 「馬車は無かったぜ♪」

 「アッハ!頃合いってこういう事か」

 「面白そうだな、ワシも混ぜろ!!」

 四英雄達もギルドに入ってくる

 

 

 「なっ!……あ……何だよ!!!」

 狼狽えるシュウ達、

 ボウガンをあっちこっちに向ける

 

 ギルドマスターは溜め息を吐くと

 「本当にお前達だけでやったんじゃな」

 憐れむようにシュウを見る

 

 

 「だっ、だったらなんだ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なぁんじゃ……つまらん!」

 ギルドマスターが言った途端G級の

 ロープがほどける!

 

 「え……え?」

 クロフ達は狼狽える

 

 「何だぁ、下位は縄脱けできるやつ

 いねぇのかぁ?」

 「情けねぇなぁ素直に縛られて」

 「普段から練習しとけ」

 「腰いてぇ」

 「肩凝ったぜ 」

 「料理が冷めちまうぜ」

 G級達は平然と立ち上がり

 下位のロープをほどく

 

 なぜかギルド中が笑っている

 

 「なんで皆平気なの?」

 「俺に聞くなよ」

 「強い人って分からないわ……」

 下位は理解出来ない

 

 

 

 

 ブチブチブチィ!!

 「なわぬげっでむずがしいな」

 ゼルドは片腕だけで引きちぎる

 

 「いつも言ってるだろう、お前のは

 縄脱けじゃない」

 ガルダは言いながら自分も

 ロープを引きちぎる

 

 「お前らには必要ないわい」

 ロクスは平然とイスに座り

 料理を注文する

 「鎖で縛らんと無理だのぉ」

 

 

 

 ギルド中が「やれやれ」といった

 雰囲気になる、

 シュウ達と下位を置き去りに

 

 ギルドマスターはいつものように、

 カウンターに腰掛けると

 「ホッ、このままでもつまらんな、

 誰か相手してやれ」

 

 「んじゃあワシがやろう!!」

 ガストンが前に出るが

 

 シュウ達は訳が分からない、

 

 G級達は、ボウガンを恐れていない

 

 それどころか普通に飲んでいる、

 いつものギルドに戻っている。

 

 

 「フム、オヤジばかりに良い所を

 持っていかれるのはな」

 ガルダが前に出る

 

 「なんがぐやじいぞ」

 ゼルドも重症なのに出る

 

 「この街に不安定を持ち込む輩は

 許せんからのぉ」

 ロクスも立ち上がる

 

 「ホッホッ、シュウよ、この三人に

 勝てたら、ラオの素材は

 全部やろう」

 

 まともな体はガルダだけ、

 ゼルドは右腕を失い、

 ロクスは複数の骨折で左腕は

 首から提げている

 

 「ほ、ホントかよ!!?」

 

 「うむ、二言はない、武器も自由じゃ」

 

 やろうぜ!!

 チャンスだぜ!!

 勝てるぜ!

 怪我人出すなんてよぉ!!

 シュウ達はなぜか盛り上がっている…

 

 

 

 異質……クロフは思う

 

 何考えてんだ?

 

 勝てる……?

 

 バケモノ……に?

 

 

 

 

 

 「何人でも良いよなぁ!!行けっ!!!」

 

 卑怯!!

 

 シュウの合図で二人のランス使いが

 突進!!

 イスやテーブルを薙ぎ倒しながら

 ガルダに向かう

 

 ガルダは低く構え、顔の前で手をクロス

 して……

 

 「バシュッ!!」

 

 一瞬!ヘビの様に両手がランスの

 穂先を掴む!

 

 そのまま両脇にランスを抱え込む、

 5メートルほどガルダは押し込まれるが

 

 「ダッダッダッダッ……」

 石畳に足音だけが響く、

 二人のランスの突進……

 

 

 ……止めている……力だけで……

 

 「フンッ!!」

 

 そして……足音が消える

 

 

 

 (なんて力だ!!……)

 

 

 ランスを抱えて……持ち上げた

 

 人間二人をランスごと?!

 力だけで???!

 

 ガルダの白いスキンヘッドが

 真っ赤になる

 

 二人は空しく空中を走るが、

 力の差を理解したんだろう、

 ランスを離し着地……「ゴゴン!!!」

 

 降りた瞬間ランスの根元で殴られ

 壁まで吹き飛ぶ

 

 ランス2本を軽々と肩に担ぎ上げると

 「フン」

 表情一つ変わらない

 

 

 

 

 

 

 

 ポカーン……

 シュウ達も下位も……

 

 ここまで差があるのか?

 真正面からランスの突進を

 受け止める???

 そのまま人ごと持ち上げる???

 

 

 

 

 

 「お、おい次だ!アイツ狙え!」

 

 ゼルドを挟むように片手剣と双剣が

 構える。

 

 モンスター相手でも絶対に立っては

 いけない場所、挟撃される中央に

 ゼルドは立つ

 

 低く構えるゼルド……

 やはり手は顔の前

 

 左から片手剣が抜刀斬りで跳ぶ

 …瞬間!

 

 「ガシッ!」

 

 「……え?」

 

 ゼルドは一瞬で間合いを詰め、まだ

 空中の片手剣の頭を掴み

 「ぬうりゃあ!!」

 

 そのまま振り降ろしながら後ろに投げる

 

 背後から斬り掛かっていた双剣に……

 

 「ドガァッ!!」

 

 

 二人ともピクリともしない……

 

 片手剣の首が変な方向へ……

 

 

 

 頭を掴んで投げる???

 

 (死んだんじゃねぇか?)

 

 

 「フム、ゼルド、手加減しろ」

 

 「がたでじゃあでぎねぇ」

 

 さっきのランス使いだってまだ倒れて

 ますが?

 

 この二人、見た目と違って素早いよ

 

 

 

 「何で負けてんだお前ら!!」

 シュウはイキリ立つが……

 なんだかギルド中がシラケている。

 

 

 

 

 「あのジジィなら簡単だ!!」

 二人の大剣使いがロクスを挟む

 

 ロクスはこんがり肉に猛牛バターを

 乗せて、食べようとしているが……

 

 

 クロフは知っている、この人の実力を、

 あの試験を、

 この三人の中でも一番恐ろしいのは

 多分この人だ。

 

 「オオオラアァッ!!」

 

 一人が抜刀斬りをするが、左足を引き

 半身になる……鼻先をかすめた瞬間!!

 

 「ほれ」

 

 ピトっと顔に肉を当てる、

 バターが溶けている肉……

 

 「ぎゃああああっぢゃああああ!!!!」

 顔を抑え転げ回る……

 

 惨い……

 

 もう一人が後ろから抜刀斬り、

 しかし半身になってかわす

 

 「凄い、最小限の動き!!」

 カンナが声を上げる

 

 振り降ろされた大剣に右足を乗せ

 

 「ほれ、どうした?」

 

 「ぬがああぁっ!!」

 振り上げ……しかし……

 

 

 「ガゴッ!!!」

 

 その力を利用してアゴを蹴り上げる、

 左足で蹴り上げ円を描いて着地……

 

 

 

 ……サマーソルトじゃん……

 

 平然と肉を喰うロクス

 「あち!!あちぃのぉ……」

 

 

 (顎……砕けてないか、あれ……)

 

 

 

 あっけなく6人は戦闘不能、

 重症患者にさえ勝てない、

 

 これがG級……兵士一軍と同等の……

 ……人外……

 

 ようやくシュウ達は理解する、が、

 

 「お、お前らがワリィんだぞ!!

 俺らに協力しねぇから!!」

 

 なぜかクロフ達を指差し非難する

 

 ギルド中が

 『何言ってんだコイツ』

 

 

 

 

 「あのさぁ、何であんたたちは

 人のせいにすんの?

 クエスト失敗した時みたいに!!」

 カンナが怒る

 

 「自分のケツが拭けねぇヤツだからな」

 イシズキが呆れる

 「自分だけは正しいとでも

 思ってるんじゃねぇの」

 

 「責任感ってものが無い!

 少しはクロフを見習うべきだったな」

 マリンも怒り顔

 

 「あ……あの……協力って……

 協力したら…どう……なった?」

 

 「お前らが協力すれば勝てたんだ!!!」

 

 

 

 

 

 

 静寂

 

 クロフが言う

 

 

 

 「武器を持った…程度で……

 何で勝てると思ったの?」

 

 「なっ!!!?」

 

 

 

 クロフはイメージする、

 自分がロクスに斬り掛かる場面を。

 

 ……何を使っても勝てない

 ……何人いても勝てない

 

 斬りかかる、殴りかかる、爆弾、閃光、

 何にしても攻撃してしまったら

 数秒間、無傷でいられる自信がない

 

 

 

 「ギャハハハ!!」

 「クロフの言う通りだぜぇ!!」

 「クロフが一番わかってるぜ!!」

 「ヒャッヒャッヒャ!!」

 ギルド中が爆笑する

 

 ギルドマスターは首を振る

 「憐れよなぁ」

 

 

 

 

 シュウ達は動けない、どうするべきだ?

 

 「ホッ、皆、どうする?」

 

 

 「弱いしなぁ……」

 「飽きたぜ……」

 「賭けにすらなんねぇしな……」

 

 

 「フム、趣向を変えてみては?」

 

 「にがじでみようぜ」

 

 「かけっこじゃのぉ」

 ロクスは笑う

 

 「ホッホッ、シュウよ、今すぐここから

 逃げろ」

 

 「何だぁ!指図すんじゃねぇ!!」

 言うが、仲間たちも既に逃げ腰

 

 ベッキーが言う

 「この一件はギルドナイトの知るところ

 となりました」

 

 「おい、ギルドナイトって!」

 「暗殺集団だろ!?」

 「まさかこの中に?」

 下位は騒ぐ

 

 「ホッホッ、無事に街を出られたなら

 不問にしてやろう」

 

 「ほれ行け」

 ロクスが顎をしゃくる

 

 シュウ達は逃げて行く

 

 

 

 

 イシズキは複雑な思いで、

 置いてきぼりの6人を見る。

 

 「かっこわりぃんだよ」

 吐き捨てるように

 

 

 

 

 「ロクスさん、大丈夫なんですか?」

 カンナが不思議そうに聞く

 

 「右手が折れた時なんざ左手一本で

 リオレイアと戦ったもんよ!!」

 

 「ギャハハハ!!」

 「違ェねぇ!!」

 「骨折なんぞ当たり前だぜ!!」

 

 

 ネコタクさえ無かった時代を

 生き抜いた

 この人達にケンカを売る……

 

 それは無謀だよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝

 

 見せしめの様に、街の入口に、

 首だけになった四人が並べられていた

 



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反乱・裏

 

 シュウ達は逃げて行く

 

 

 

 「マスター、湯浴みしてきます、

 走り回って汗が……」

 ベッキーが襟をパタパタする

 

 「ホッホッ、行っておいで」

 

 「ワシも孫の顔見て寝るかのぉ」

 

 「ギャハハハ!」

 「ロクスじいさんがジジィっぽいぞ!!」

 「ワシゃジジィじゃ!!」

 

 クロフ達は釈然としない、

 G級達はなぜ平然と……

 疑問だらけだ

 

 

 そんな下位の様子を見て

 「3年位前だったか?」

 ガストンが話を振る

 

 「ホッ、そのくらいだな」

 

 説明してもらう

 

 前回のラオの防衛戦の直後

 突然新人のガンナー達による反乱

 があった。

 

 やはりギルドが手薄になっている

 時だった、

 しかしアッと言う間に殴り倒してしまい、

 背後関係が分からなくなってしまった

 

 「背後って何ですか?」

 カンナがガルダに聞く、

 すっかり敬語になっている

 

 「フム、そいつらは利用されただけでな」

 

 「ホッホッ、何も知らんでなぁ」

 パイプに火をつけ

 「その時ギルドの近くで様子を窺って

 いた奴らがいたらしくてな、

 街の酔っ払いが見ていたら、

 失敗した途端に馬車で走って

 逃げたそうだ」

 

 「馬車……ってことは!」

 

 「おそらく貴族の誰か……でしょう」

 ハインツが静かに言う

 

 「反乱が成功したら、大威張りで

 登場するつもりだったんだろ♪」

 

 今まで聞いて来た話から理解できる、

 貴族の中にはギルドを利用したい、

 支配したがる者がいる

 

 「じゃあ今回捕まったのは……」

 

 「わざとに決まってんだろ!!」

 「ギルドマスター、もう少し真剣に

 演技しろよ!!」

 「嘘くさかったぜ!!」

 「ギャハハハ」

 ギルド中が笑う

 

 「あの、皆はボウガンが……その、

 怖くなかった…ですか?」

 下位達がウンウンと頷く

 

 G級の一人が

 「あのなぁお前ら、想像しろ」

 ボウガンをこっちに向ける

 「レウスのブレスとどっちが怖い?」

 

 納得する、普段モンスターの攻撃を

 かわし続ける人にとっては……

 凶器にはならないんだ……

 

 

 

 「だから皆が演技して時間稼ぎ

 してる間にさ♪」

 

 「街中を走り回った訳だ、馬車を

 探してな」

 ガストンが豪快に笑う

 

 

 

 『どこにも居ないわ』

 そういう事か!!

 

 「アッハ!尻尾を掴もうとしたのよ!」

 

 「ホッホッホッ、今回は違う手で

 来た……と見るべきかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エリア1

 

 ここまで離れると露店も人も居ない

 

 「ここまで来れば良いだろ」

 シュウ達はゼエゼエ息を切らす

 

 「シュウ!!これからどうすんだよ!!」

 

 「お前が絶対上手く行くって言うから

 乗ったんだぜ!!」

 

 「お前らこそ乗り気だったじゃねぇか!!」

 

 シュウ達は責任の擦り合いをしている

 

 と

 

 

 

 

 「あらあら、まぁだこんな所に」

 音も無く近付く影

 

 

 

 ビクッと振り返る、

 ベッキーがニコニコしている

 

 「ベッキー……?」

 

 「まさかギルドナイトって……」

 

 「ベッキーなのかよぉ!!」

 ゲラゲラ笑う

 

 「あら、オカシイかしら?」

 顎に人差し指を付け首を傾げる

 

 「女一人で勝てるとでも思ってんのか!!」

 

 「お笑いだぜェ!!!」

 

 「おい、シュウ!コイツ人質にして

 にげようぜ」

 

 「あぁ!利用できるぜ!」

 シュウ達は取り囲む、下卑た笑い顔で

 

 

 

 「あらあら……クズって大好きよ♪」

 背中からギルドナイトセイバーを抜く

 ニコニコ笑いながら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うわーバカだわぁ……」

 エリア1の高台に寝そべり、双眼鏡を

 覗く女

 

 僅かな月明かりの中様子を見る、

 谷間の反響で、身の程知らずな男達

 のバカな会話が聞こえる

 

 メイド装備のまま正体晒してる意味も

 理解出来ない男達……

 

 それは『絶対に討ちもらさない』

 自信の表れなのに

 

 「ま、着替える時間も無かったか」

 

 失敗した場合の未来予測さえ

 出来ない馬鹿共、騙すのは簡単だった

 

 収穫はあった、噂に名高い

 ギルドナイトがギルドのマネージャー、

 当然と言えば当然

 

 ハンターの個人情報まで知ってるし。

 

 「馬鹿と鋏ってね~……」

 

 

 

 

 ナイトの特定、任務完了

 

 

 

 

 

 

 

 「ストッ!」

 

 

 

 

 「……え?」

 右手の甲に……投げナイフ……

 しかも麻痺!!!

 

 「グビッ」

 

 後ろから何かを飲む音、

 バカな!気配が無かった!

 いつから!!!

 

 「今来たとこじゃ」

 

 読まれてる!?

 こっちはうつ伏せ!圧倒的不利!!

 もう一人いた?!

 

 何か逆転出来る手は……

 

 

 「無理だのぉ」

 

 麻痺が解けるまで時間を稼ぐしか…

 こっちの思考まで読まれてる!

 

 「参った、無理!降参!」

 話で時間を伸ばすしかない……

 動けなくしたのは尋問するため……

 

 「グビッ」

 

 「聞きたいんでしょ?全部話すから」

 動けない……

 

 「興味無いんだがのぉ」

 

 

 

 小さな足音が来る

 

 「おや、終わったようですにゃ……

 ようですな」

 

 

 猫族?!

 

 

 

 「聞いてあげましょうよ」

 崖を駆け上がって来た影

 

 「終わったのか?」

 

 「はい」

 

 「上出来じゃ、声を上げさせなかったのぉ」

 

 「全員ノドを一撃で♪」

 

 

 

 マズイ!!更に不利!!……どうする

 「ね、ねぇ、依頼内容とか聞きたくない?」

 

 「ギルドに反乱を起こす事か?」

 

 「それとも反乱があった『事実』が

 欲しかったかしら?」

 

 

 

 

 

 「……くっ、そうよ、事実が欲しかった」

 だめだ……全部読まれてる

 

 「貴族は交渉材料に

 したかったんだのぉ」

 

 「ギルドの統治に問題あり、

 とか言いたかったんでしょうね」

 

 

 「そうよ……依頼主とか聞きたくない?」

 

 「どうせ知らんじゃろ」

 

 「事実と嘘を混ぜる…基本よね」

 

 

 何なんだコイツら!!

 「本当よ!王宮の人間に依頼された

 んだから!!」

 

 「王宮の人間だったと思っとらんか?」

 

 「え……?」

 確かに王都の中心地の……

 王宮の前で……依頼を……

 

 「本当に王宮の人間だと裏は取ったの?」

 

 「裏……」

 

 

 

 

 「この程度のヤツを送り込むとはのぉ」

 

 「人材不足でしょうか……王宮に

 出入りしてる所まで見た?」

 

 

 

 「ちょっ、ちょっと待って!!裏って……」

 

 

 

 「グビッ」

 

 「暗殺家業はね、先ず依頼主と

 依頼内容を事実かどうか確認するのよ」

 

 「でないと罠の確認に送られて、

 今のお前のようになるからのぉ」

 

 

 「罠!どういうこと?!」

 うつ伏せのまま叫ぶ

 

 「罠だらけの敵地を散歩する馬鹿は

 おらん」

 

 「自分の前を捨て駒に歩かせるわ」

 

 

 

 「私が捨て駒?!」

 捨て駒はあの男達……

 私が利用したはずじゃ……?

 

 「お前は気付かなかったんじゃ、

 シュウ達が罠だった事をのぉ」

 

 「監視対象ですにゃ……であります」

 

 

 「奴らが罠?!」

 アイルーが監視してた?!

 

 

 

 「組織に干渉したいなら組織の

 内情を良く知り、

 尚且つ組織に反感を持つ者……」

 ベッキーは指を立て

 「こんな連中が一番利用しやすいわ」

 

 

 

 何処まで!!

 「私は騙されたの……?」

 

 「都合良すぎると思わなかった?」

 指をクルクル回す

 「『俺は馬鹿です』って顔に書いてある

 ギルドに要らない連中を、

 なんで生かしてると思う?」

 

 

 

 私は罠に……

 

 「簡単だったじゃろ、今ギルドは

 手薄だ、とか」

 

 「抜刀禁止って事は、武器持ったら

 G級でも勝てないから……

 とか言ったんでしょ」

 

 

 

 その通り……だけどね……

 馬鹿め!……もうすぐ麻痺が切れる

 イチかバチか!

 

 起き上がる瞬間

 

 

 

 

 「ストッ!」

 

 太ももに投げナイフ、また麻痺

 

 

 「ぐううっ!」

 

 今度は仰向けで麻痺

 …………しかも

 

 「え?!えっ!何?!コイツら」

 

 ロクスとベッキー、そしてアイルーが

 一匹、それはいい

 

 それより自分の回りに白くて小さい

 何かが数匹……

 

 「な!?何よこれ!!」

 

 「北の雪だらけの辺りで発見された

 新種でのぉ」

 

 「ギギネブラって命名されたわ」

 

 「吸血により成長しますにゃ……

 成長します」

 

 白くて丸くて小さなフルフルのような

 何かがカジリ付く

 

 「ヂュッヂュッヂュッ……」

 

 「ちょっと!やだ!助けて!!」

 

 「体温を感じて接近するからのぉ、

 クーラードリンクを飲むとな、

 襲われ難いんじゃ」

 

 さっきから飲んでいたのは!!

 

 「気付くべきだったわね、話を聞く気が

 無いのに麻痺投げナイフで

 動きを止めたことに」

 

 「やだ!こんな!まだ死にたく無い!!!」

 

 

 

 

 雲が晴れ月明かりでハッキリ周りが

 見えるようになる

 

 白い何かに血を吸われる女は

 戦慄する、目の前でモンスターに

 殺されそうなのに

 

 無表情で見ている女とアイルー……と

 満面の笑みでニコニコしている男

 

 「生き餌がガタガタうるさいのぉ」

 

 ロクスの顔が好好爺から悪鬼の如く

 変わっていく

 

 「た、たすけて!!、私は依頼主に

 忠誠なんて無いの!!

 雇われただけなのよ!!

 何でもするから……」

 

 

 「……見苦しいですね」

 

 「何でもすると言ってものぉ、

 金で裏切り信念も無いヤツなんぞ

 ワシはいらん」

 

 血を吸われ体温が下がったのだろう

 女は震えながら気を失なった

 

 

 「ベッキー、血の匂いが強いのぉ」

 

 「湯浴みすると伝えましたし」

 ニコニコ笑う

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 ギルドマスターの部屋の窓から

 ベッキーが入る

 

 「ホッ、湯浴みはどうじゃった?」

 

 反り血を浴びたベッキーは

 「粛清は完了しました、

 残りは師匠が見ています」

 

 帽子を取ると

 「半年前の粛清中止、理解できました」

 

 「ホッホッ」

 パイプを吹かす

 「何よりも恐ろしく、防ぎ難いのは

 人の悪意よ、ギルドに向かう悪意を

 どう利用するか……

 それを考えるんじゃ」

 

 「それであの子達を泳がせた

 訳ですね?」

 

 「まんまと引っ掛かっただろう」

 

 「私はまだまだですね」

 首を振る

 

 「それにな?わざと差別される少数を

 組織に入れておくとな、

 組織の悪意もソコに向かうからな、

 安定するんじゃ」

 

 ベッキーはキョトンとする

 

 「一番態度が悪い連中がいるとな、

 多少の事は許せるもんじゃ、

 カンナが仲間ハズレにならなかった

 じゃろ?」

 

 「組織の運営……勉強になります」

 ベッキーは一礼する

 

 

 

 「ロクスのヤツはどうする気かな?」

 

 「殺しはせず、逆に貴族を脅す

 材料に……なりそうもない女でした」

 

 

 

 

 そこへ一匹のアイルーが窓から

 入って来る

 「私の任務は終了ですかにゃ……

 ですかな?」

 紳士的で毅然としている

 

 「お疲れ様でした」

 ベッキーが一礼すると

 

 「そんな、上官の貴女が……」

 こちらも一礼

 

 「ハインツの教育の賜物だなぁ、

 馬鹿共の追跡ご苦労だった」

 

 「横流しの件は本部預かりとします、

 では!これにて!」

 赤いコートを羽織ると窓から出ていく

 

 

 「凄いですね、人より頭良さそう」

 

 「人の社会に馴染む速度が早いなぁ、

 まさかギルドナイトの末席に

 アイルーが入るとはな」

 

 

 

 

 「シュウ達の監視ができるとはのぉ」

 ロクスは扉から入ってきた

 

 

 「あの女はどうしました?」

 

 「生きとるから縛ってキャンプにな、

 片腕で力が入らなくての」

 

 「回収して来ます」

 

 「頼む」

 

 「ホッホッ、新しいオモチャは使えるか?」

 

 「腹一杯になると、吸わなくなるのぉ」

 ギギネブラの子供が入った籠を

 パシパシ叩く



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灰色

一生のテーマだから難しい善と悪、
でも人が成長する中で一度は必ず
考えるはず、


 

 下位の作業は3日で終わりに

 

 

 「あの6人は生きてんでしょ?」

 ギルドのテーブル、カンナが聞く

 

 「重傷4人と軽傷……かなぁ?」

 クロフが首を傾げる

 重傷と軽傷の境界はなんだろう

 

 

 「顎の骨折と顔面大火傷は軽傷に

 入るか?」

 イシズキは不機嫌な顔、

 シュウ達とツルむからそうなる。

 

 「首に背骨、ランスで殴られたヤツは

 頭蓋骨骨折だからね」

 マリンは自分の首に手刀を当てる

 

 「双剣使いは無事じゃねえのか?」 

 

 「そいつが背骨よ」

 人間を投げつけられて無事では無い

 

 マリンはG級のテーブルを見ると

 「勝てる訳……何人いてもねぇ……」

 

 「それが分かんないから反乱なんて

 起こしたんだね」

 珍しくカンナはイシズキに笑いかける

 「あんたは別れて良かったね」

 

 イシズキも少し笑う

 「あいつらには反乱でも、

 G級は遊んでただけだよな」

 

 

 

 下位は今日から通常に戻る

 

 「じゃあディアブロスの準備に戻ろう」

 

 「途中で止まってたからな!」

 

 「私アイテム集めなきゃ」

 

 「それよりクロフ、武器どうするの?」

 マリンが聞く、あの刃が欠けた大剣

 

 幸い折れなかったが、ラオ戦で

 ボロボロだし……

 

 

 

 

 加工屋へ持って行ったら

 

 「良く持ったが……ダメだな」

 職人は首を振る

 

 アルトに貰った大剣は役目を終えて

 しまった。

 手放したくない、師匠とアキシさんに

 作ってもらったのに。

 

 「どうしよう……」

 ランスがあるけど相性悪かったら……

 

 

 ……まて、そう『聞く』だ、

 幸い師匠達四英雄までいるんだ、

 こんなチャンスは滅多に無い!

 みんなでG級の方へ

 

 イシズキとマリンが緊張する

 

 

 

 

 アルト「使いやすいのにしな」

 

 ナナキ「何でもいいぞ♪」

 

 ガストン「ハンマーだ!!」

 

 ハインツ「まず、砂漠での戦いです、

 今まで砂漠で勝率が高い武器で

 あることも因子となります」

 

 

 見事に性格が出る……

 ハインツは具体的に言ってくれた、

 砂漠……ドスガレオスと戦った、

 どうする……

 

 クロフの難しい顔を見るがアルトは

 助けない、

 少し悩む程度で良い

 

 「アッハ、アンタは武器作りな、

 で、イシズキとマリンだっけ?」

 

 「「は、はい!!」」

 イシズキとマリンは直立で返事をする

 

 「アタシが素材集めに同行するよ」

 

 「「ええっ!!」」

 

 

 「良いなぁ、私はぁ?」

 カンナが不満そう

 

 「俺がいるだろ♪」

 ナナキは親指で自分を指すが

 

 「えぇ~……ハインツさんがイイ」

 カンナの目にはハインツの背中に

 光と花が見えている

 

 「お前は俺の弟子じゃん!!」

 G級達が爆笑する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イシズキ、マリン、そしてアルトは

 下位の森と丘、対象はクック

 鳴き袋を狙う

 

 「クロフの事、助けてくれたんだって?」

 アルトがイシズキに聞く、

 今日は大剣

 

 「助けた?……覚えがねぇですが?」

 イシズキが首を傾げる

 

 「いつも私達を守ろうとするのは

 クロフだよね……?」

 マリンも不思議そう

 

 街の広場の話をすると

 

 「クロフが200メートルって言ったら

 間違いねぇです」

 こっちも大剣、素振りする

 

 「何でそう思えた?」

 アルトが聞くと

 

 「あいつはウソつかねぇし、調子に

 乗って大袈裟にもしねぇです」

 アルトに正面から真っ直ぐ言う

 

 「自分に自信がないせいか

 自己主張が弱すぎて、

 疑われちゃうのが可哀想」

 マリンが苦笑いする

 

 「アッハ!短い付き合いなのに

 クロフの事、良く解ってるわ」

 アタシよりは長いけどね

 

 「臆病なのは良ぃですが、アイツは

 ほっといたら損ばっかりするし」

 

 「引っ込み思案が直らないしね」

 

 

 

 

 「マリンは何でクロフと組んだ?」

 キャンプから出て歩きながら

 

 「最初は……カンナの愚痴言うために

 二人きりになりたかったんです」

 少し俯く

 

 「そうなのかよ?!」

 イシズキは初めて聞いた

 

 「で、狩り見たら採取も上手いし

 謙虚だし……この人と一緒なら、

 強くなれる……かと」

 

 ふぅん、尊敬されてる。

 

 

 

 「イシズキ、マリン、アンタ達の過去は

 ベッキーから聞いてる」

 

 マリンはビクッとアルトを見る

 

 「アッハ!アタシからはクロフに

 言わないから安心して」

 

 マリンは暗くなる

 

 「お前何があったんだ?」

 

 「アッハ!イシズキ!女に詮索は

 モテないよ?」

 (クロフに合うヤツは心に何かの

 キズを負って苦しんだヤツだ、

 この子達なら大丈夫)

 

 

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 

 「もぉーっ!ハインツさんが良かった!!」

 ツインテールを揺らしながら歩く

 

 「俺の弟子でしょカンナちゃん?」

 相変わらずインナーだけのナナキ

 武器はランス

 

 「カンナはガノスの片手で良いの?」

 クロフもランス、火の属性

 

 「眠らせる方が楽じゃない?」

 

 眠らせて、タメ3……理想……か?

 「ナナキさんはどう思います?」

 

 「あっはっは!!全部避ければイイ!!」

 ふんぞり返る

 

 

 

 この人は凄すぎて参考にならない、

 いや、G級皆がそうかもしれない

 

 

 「そんじゃフルフル探すか♪」

 

 「あと光虫ね!!」

 

 結局フルミナントソードを

 作り直す事にした

 

 「ところでクロフ、宿題は♪」

 

 「何かが引っかかるんですが……

 まだ分かりません」

 知ってるはず……なんだけど

 

 

 勘は悪いみたいだ、だけど人を

 育てる才能があったりするかもな。

 カンナ自身は気付いてないけど

 調合も出来るようになったし、

 堅実に片手剣でサポートしてるよう

 だし

 

 よく守ってくれたな♪

 

 

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 夜、四人でガストンのいるテーブルへ

 

 「おう!反乱で延びてたな」

 ガストンはニコニコしているが、

 G級の真ん中、緊張する

 

 「何だぁ?オヤジから直接

 話聞いてんのか?」

 「幸せだなぁ!クロフ!!」

 

 「さぁて、何が聞きてェ?」

 

 

 

 「あの、ディあ

 

 「はいはいはい!!ハインツさんの

 事聞きたい!!」

 

 カンナにグイッと横から押される、

 カンナには緊張とか遠慮とか

 無いんだろうか……

 伝説の人だよ?

 

 ガストンはハインツに目配せすると

 

 「ふぅ」

 ハインツは溜め息を一つして

 

 「では、私が話しましょう」

 

 「良いのか?」

 ガストンが腕組みする、ニヤケながら

 

 「もう過去の、よくある話ですから」

 ニコッと笑う、それがまた美人

 

 カンナは身を乗り出す、が、

 私も私もと女性ハンター達が集まって、

 クロフ達は外側へ押し出される

 

 こんなはずじゃ無いんだけど

 

 

 ………………

 

 

 

 

 10年ほど前

 ミナガルデのギルド

 

 一人の酔っぱらいが千鳥足で

 ギルドに入る

 

 「ここで一番強いヤツを出せ!!」

 酒瓶片手に良い身なりの男が叫ぶ

 

 

 ハンター達……いや、

 数百人の山賊が振り返る

 

 「あ?」

 

 静かな夜の街 ミナガルデ

 

 

 

 

 

 

 

 「ドガァっ!!」

 蹴り出される酔っぱらい、

 ドアがキィキィ軋む

 

 「何だぁ今の?」

 「月に一人は来る酔っぱらいだろ」

 「いい酒だわ!!」

 「ギャハハハ!!」

 

 

 

 

 酔っぱらいは立ち上がると再び

 

 「ここでぇ、いちばん……」

 

 「ドガァっ!!」

 蹴り出されゴロゴロ転がる

 

 

 

 また立ち上がると

 

 「つよい……やつ……」

 

 「しつけーぞ!!」

 

 「ドガァっ!!」

 

 

 

 「何の騒ぎだ?」

 

 「ギルドマスター、いつもの事でさぁ」

 「ただの酔っぱらいですぜ」

 「何か変なカッコよね」

 「どっかの金持ちかぁ?」

 「美形なのにカッコわるーい」

 

 ハンター達は酔っぱらいの持っていた

 酒瓶を見る、高い酒だ

 服も庶民には買えそうにない

 

 

 

 酔っぱらいは這いずりながら

 ギルドへ

 「強い……」

 

 「この馬鹿まぁた来やがった」

 「腕の一本も折るか?」

 

 「待て!!」

 ギルドマスターが叫ぶ、

 

 ツカツカと酔っぱらいの元へ

 「見た顔だな、立たせろ」

 

 ハンター達は酔っぱらいを立たせて

 顔をギルドマスターに向ける

 

 ギルドマスターは髪を掴み

 「コヤツは……」

 

 「知ってんのか?中兄ィ」

 ガストンも奥から出て来る

 

 「噂に聞く王族の…中兄ィはやめろ!」

 

 

 ………………

 

 

 

 「王族ゥ?!!」

 下位達は声を上げる

 

 名前にシュレイド…クロフは納得

 

 ハインツはヤレヤレと言った表情で

 「本当です、私は王の従兄です、

 私の父は先代王の兄……」

 少し顔が暗くなると

 「そして……双子の兄がいます、

 名をルキウス、現在第1王位継承者、

 ……そして……摂政」

 

 

 

 

 「って事は!!」

 「凄い偉い人じゃん!!」

 「じゃあ、第2王位!!?」

 「摂政って何?」

 女達はキャアキャア騒ぐ

 

 「それが違うんですよ、家を継ぐのは

 長子と決まっていますので、

 私は王族や貴族の長子を一回り

 した後……

 10番以下です」

 

 「そんなに違うのぉ?!」

 

 「ええ、ですから子供の頃から

 双子なのに全然 扱われ方が

 違いまして……」

 

 

 兄は多くの人間に教育され、

 知識、教養を身につけ、

 親や家中の者の人望、期待に応え、

 16歳で職務を持って王宮へ。

 

 一方で私は兄の予備でしたから、

 食べるもの、着るものさえ違い、

 教育も最低限、これに嫌気が差し、

 街の不良仲間と付き合っていました

 

 「兄弟でそんなに……?」

 

 「権力が絡むと色々と……ね」

 

 不良達と街で悪さばかりして、

 益々親は私を嫌い、家名を汚すな

 と言われ続けました、

 しかしそんな環境を一変させる

 千載一遇のチャンスがやってくる。

 

 「チャンス?!」

 

 「闘技大会です」

 

 そこで優勝を続ければ王都の兵士、

 いずれは将軍になれると、

 一般から広く募集されました

 

 

 「アッハ、ハンターは参加出来なかった

 らしいけど」

 

 「俺らが参加したらよ!」

 「ハンターの大会になるよな!!」

 「人を守るのがハンターだからな!」

 「人に武器は向けねぇぜ!」

 周りが騒ぐ

 

 

 親を、兄を見返す機会

 

 不良仲間も揃って参加しました、

 そこで私は優勝し続けた

 

 「「「すごーい!!」」」

 また女性ハンター達がきゃあきゃあ騒ぐ

 

 ……クロフはG級達の顔を見るが、

 凄いと思ってなさそう

 

 「それで将軍に……なってない……」

 カンナが首を傾げる

 

 「……はい」

 

 剣、槍、何でも使いこなし

 何度目かの優勝の後でした、

 私はようやく気づいたんです、

 

 仲間としか対戦していない事に

 

 違和感を持ったまま表彰された後、

 控え室に行くと

 

 

 

 「今回も上手くいったな!」

 

 「ハインツに当たるまでは

 負けられねェぜ!」

 

 「組み合わせ上手くしねぇとな!」

 

 「アイツには優勝して貰わねェとな!!」

 

 

 

 ハインツが控え室に飛び込む

 「どういう事だ!!」

 何かの不正?!

 

 

 

 「あ……」

 

 「やべ……」

 

 「聞かれたか……」

 

 

 

 「どういう事だ!!まさか、俺は……」

 仲間の胸ぐらを掴むが

 

 

 

 

 「そうだぜ?俺達が勝たせてたんだ」

 振り払う

 

 

 「……なぜ!!……」

 自分は一番強いと……仲間だと……

 

 

 「決まってんだろ?」

 

 「俺達みてェな野良犬が優勝したって

 一般兵で終わりだ」

 

 「その点お前は王族だぜ?将軍だわな」

 

 「お前には早く出世してもらってよ、

 俺達を引っ張りあげて貰わねぇとな」

 

 

 「皆は……本気で……」

 戦ってない?私は弱い?

 

 

 「やるわきゃねェだろ!!」

 

 「お前にケガなんかさせられねェよ!」

 

 ハインツの沈んだ顔、

 仲間の一人が話す

 

 「なぁ、ハインツ、大人になれ、

 兄貴見返してェんだろ?」

 

 「俺達が上手くやっからよ」

 

 

 

 ………………

 

 

 子供の頃から仲間だと思っていた連中は、

 いつの間にか大人になり、

 私を利用……いいえ

 私の名を利用しようとしていたんです、

 ずっと私に手加減してました。

 

 「ひっどーい!!」

 女ハンター達は声を揃えるが

 

 

 

 

 クロフは考える

 (悪い?……これはどうなんだ?

 どちらでもない気がする)

 

 アルトはクロフの困った顔を見る

 (世の中灰色の話はクロフには……

 でも、ここでの経験で理解できるか?)

 

 

 「出世したいなら当たり前じゃね?」

 男達は言う、仲間で協力している……

 ハンターと変わりない

 

 

 まぁ、私も彼等を利用して優勝を

 続けても良かったんですが、

 ずっと仲間だと、対等だと信じていた

 のに手加減され、

 裏切られたと感じてしまった

 

 「どうやら私だけが子供だったようで」

 

 結局貴族にもなりきれず、

 野良犬の仲間にもなれず、

 見返すために強くなりたかった

 

 「それでハンターに?」

 

 「噂で聞いてました、ハンターは

 王都の兵士一軍に相当すると」

 

 「で、一番強いヤツを出せ?」

 女達が不思議そうに

 

 「世間知らずとは私の事です、

 仲間を見返したかった」

 拳を握ると

 「一応優勝してますし、多少の

 自信がありました……それで……」

 ガストンを見る

 

 

 「で、勝負して弟子にしたわけだ」

 ガストンが笑う

 

 「勝負になりませんよ、私の拳は

 カスリもしなかったですから」

 ハインツは爽やかに笑う

 

 ガストンさんと殴りあい?!!!

 無謀……

 

 

 「その数年後、G級になった時に

 再び闘技大会に参加しました」

 

 「どうだったの?!」

 

 

 ハインツは笑う、G級皆が笑っている

 

 「アッハ!ハインツ、照れんなよ!」

 

 「俺から説明するか?」

 ガストンがニヤケる

 

 

 「いえ、自分で……昔の仲間、

 兵士になっていた7人を参加させて、

 まとめて全員倒し優勝しました……

 私は女装してハンターであることを

 隠して」

 

 「それって……1対7?!」

 「女装!!?見たい!!」

 「似合いそう!!」

 「凄い美人になりそう!!」

 

 「はい、すぐバレましたが」

 

 190センチで女装……なぁ

 

 

 女性ハンター達は騒ぐ、

 凄いとかカッコ良いとか。

 

 「あの、怖いとか……」

 俺には絶対無理だ

 

 「クロフ君、反乱の時のボウガンを

 例に挙げますが、兵士7人とリオレウス、

 どちらが怖いでしょう?」

 

 「そりゃレウスだわな」

 イシズキが頷く

 

 

 「で?!で?その後は?」

 またカンナは遠慮なく聞く

 

 「ハンターのままです」

 

 

 そして三年ほど前に四英雄になり、

 その後王立書士隊へ

 加盟する事になった時、

 王宮へ呼び出されました

 

 その時兄は喜んでくれまして

 

 「仲悪そうなのに?」

 

 「自分の代わりに世界を見て

 教えて欲しいと」

 

 何年も口も利かず、別世界の人間に、

 遥か雲の上に思えた兄は……

 

 

 王宮の中からしか世界を見れない……

 可哀想な人になっていました

 

 そんな兄は外の世界を知るために

 王立書士隊を設立していたそうで。

 

 

 (あれ?……どこかで……)

 クロフは思い当たる

 

 (アッハ!規模が違うけどね)

 アルトはクロフの表情を読む

 

 

 私が兄を羨ましいと思っていた様に、

 兄も私を羨ましいと思っていたそうで、

 いつも外に遊びに行く私を

 窓から見ていたそうですよ

 

 「じゃあ今は?」

 

 「良き兄、良き仲間です」

 また爽やかに笑う

 「7人とも和解できましたよ、

 私の見識不足もありましたから」

 

 

 

 随分と気軽に過去を話してくれる、

 これが過去を受け入れた人だろうか

 

 俺は……受け入れ……られるか……

 

 

 

 「じゃあさ次私が聞きたい!!」

 「えーアタシ!!」

 「お肌の手入れは?!」

 「何食べたら美人になれるの?!」

 

 女達に囲まれていくハインツ

 

 

 「善悪……」

 隅っこでクロフが難しい顔をしていると

 

 「何か不思議?」

 アルトが来てくれた

 

 「師匠、さっきの話はどっちが……」

 

 「どっちも悪くないよ」

 やっぱり灰色の話が気になるか

 

 「善悪って何だろう」

 

 「そうだねぇ……

 最後は自分で決める物かな」

 村では……この子には早すぎた、

 今は……どうだ?

 

 「7人は悪……じゃないし……?」

 

 「んー、たとえば反乱は悪い、

 だけど起こした方から見れば

 こっちが悪いとも言える」

 指を立てる

 

 「……立場によって変わる?」

 

 「アッハ!正解!大事なのは自分が

 どう有りたいか、どう行くべきかを

 しっかり持っておく事」

 指でクロフの胸をツツク

 

 「もしかして、それが自分?」

 自分自身があやふやな、霧の様な、

 酷く不安定に感じる

 

 「アッハ!アタシだってハッキリとはね、

 ……でも大事に思ってるものは

 決して裏切らない、それが自分かな」

 

 「大事に思う……」

 俺にとって大事なモノ……

 それは……?

 

 




週に1回書き込むつもりが
少し早くなってますね、
ちょっとペース落とします


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閃き

たまには真面目に狩りの話もしないとね、
モンハンの物語である以上、
人間同士の血生臭い話は無しで
今回は真面目な攻略です。


 

 「行ったぞぉ!!」

 クロフが叫ぶ、地中を進むディア!

 砂煙が砂漠を走る!

 

 ドンドルマ管轄 下位 砂漠

 中央にキャンプがあり、その地下には

 地底湖がある

 

 

 「とりゃっ!!」

 カンナが音爆弾を投げる

 キィン!!

 

 ザバァッ!!

 地中から体半分飛び出し

 もがく

 

 「うおおっ!!」

 イシズキが狼狽えるが

 

 「ほら!こっちがビックリしない!!」

 マリンの掛け声で

 「せーのっ!!」

 頭に溜め3×3

 

 「バキィッ!!」

 角が吹き飛ぶ、

 ディアは暴れて飛び上がるが

 

 「ほいっ!!」

 今度は閃光玉

 

 一瞬飛び上がったディアは墜落

 

 「よし!!もう一回!!」

 3人で溜め斬り、カンナも斬る

 

 「グゥオァ……」眠った

 「おらぁっ!!もう一回だ!」

 イシズキの掛け声が分かりにくい

 

 頭がヒビだらけになるディア

 

 「よし、怒るぞ!!一旦退く!!」

 ペイントを付けて隣のエリアへ逃げる

 

 

 

 

 

 アイテムの残りを確認

 

 「音爆弾と閃光玉は十分だけど」

 クロフはポーチを確認

 

 「怒ると音が効かねぇのがなぁ」

 ゲリョスの大剣を研ぐ

 

 「閃光中も暴れるよぉ?攻撃しにくい」

 調合する

 

 「咆哮には皆慣れたね」

 マリンは満足そうだ、

 何度もやられてタイミングは覚えた

 

 G級や師匠達に聞いた戦法、

 一方的に攻撃できて安全

 

 「あんたさぁ、戦闘中は男らしく

 喋るのね」

 カンナがクロフの顔を覗き込む

 

 「俺も前から気になっててよ」

 イシズキもニヤケる

 

 「え……?そうなの?」

 

 「自分じゃ気付かないのね…カンナは

 掛け声が面白いよ?」

 マリンが笑う

 

 「そうなのぉっ?!」

 

 「投げる時に変な声出してんぞ」

 イシズキは投げるマネをする

 

 「私そんなんじゃなぁい~」

 

 狩りの最中に笑顔が出る

 

 

 

 

 アルト達四英雄に話を聞いて

 準備万端にして来た、皆余裕がある。

 

 それでも咆哮からの突進に何度か

 辛酸を嘗めた

 

 「カンナ、左手は?」

 

 「まだ楯は持てないかな……」

 突進を正面からガードしてしまい、

 打撲で肘から先が腫れている

 「折れてないけど、左じゃ

 アイテム投げるの無理かな」

 軽く振るが痛みで顔をしかめる

 

 (ガードはムリか)

 

 「イシズキは?」

 

 「もう大丈夫だ、その代わり

 回復薬グレートが減ったがな」

 

 突き上げを食らい吹き飛んだが

 骨折は無いらしい

 

 「ゲリョス装備様々だぜ」

 胸の辺りをバシバシ叩く

 

 「さて、ケガはしてるが気力は十分、

 アイテムもまだある、どうするクロフ?」

 

 「期限まではあと2時間、

 痺れ罠で畳み掛けよう!」

 

 「いょっしゃ!!調合だ!!」

 

 「私がアイテム全部担当するから

 皆は攻撃に集中して」

 手甲を締め直す、腫れてキツイ

 

 

 「……ん?」

 

 「移動したな……」

 

 「南ね……5番だね」

 ペイントの匂いが移動している

 

 「じゃあエリア入ったらすぐに痺れ罠

 置くから、みんなは陽動お願い!」

 

 「心配しなくてもいい

 …カンナの設置は早いよ」

 道具の扱いと調合はクロフ並みに

 なってきている

 「俺達に任せて!!」

 

 皆一斉にクロフを見る!!

 

 「え?!……何?」

 

 「初めてリーダーらしい事言ったな」

 「何かクロフらしくなぁい!」

 「男らしくなって来たんだよ」

 三人が顔を見合わせる

 

 「任せろなんて初めて聞いたぜ」

 

 やっぱりクロフはモジモジしてしまう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギルドに戻り報告

 

 「はい、ディアブロスの討伐完了!」

 ベッキーがデカイスタンプを押す

 「2回目で狩れるなんて早いわね」

 

 「色々教えてもらって準備して、

 やっとですよ」

 

 「お前が言い出したんだろ?

 『1回目はリタイア前提』って」

 

 「成功率は落ちても、そのあと

 高くなる……良いわコレ!」

 マリンは笑う

 

 「道具の消費が多いけど、

 無理しないから安全だもんね」

 カンナはポーチの中を見る

 

 

 「よし、あと2つだのぉ」

 

 「ロクスさん!

 最近ギルドに居なかったねぇ!」

 カンナは嬉しそうだ

 

 「名実共にジジィになったしのぉ」

 ロクスも笑う

 

 「後の2つは火山での狩りよ?

 グラビモスとアグナコトル……」

 ベッキーは説明するが

 「マリンちゃんは知ってるわね」

 

 マリンは無言で頷く

 眉間に皺が入る

 

 

 

 「マリン?」

 

 「あぁゴメン、思い出したから」

 

 「何をぉ?」

 カンナが首を傾げる

 

 「聞かなくていいだろ?言うときゃ

 自分から言う……だよな?」

 イシズキは何か知ってるらしい

 

 「うん、すまない皆……」

 

 マリンが暗い……

 何だか聞きにくい雰囲気

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 「師匠、グラビモスはどうしたら……」

 

 「腹殴ったりガンナーで貫通弾が

 有効なんだけど……

 アンタ達の中には居ないしなぁ」

 

 「ですが毒の大剣が二人ですから」

 ハインツの話では毒は有効らしい

 

 「問題は防具だな、ゲリョスじゃ

 焼かれるぜ♪」

 ナナキの口調は軽い

 

 「やっぱりそうなるよな」

 自分のゲリョス装備を見るイシズキ

 ……丸い

 

 「うん、レウス装備にしよう」

 

 「私は作り直さないとだめかなぁ」

 カンナは自分の頭に手のひらを乗せる

 身長だけでなく身幅も……

 

 「俺らは毎日見てるから分かんねぇ

 けど、見た目はどうなんです?」

 イシズキがナナキに聞く、

 言葉が荒いのに変に敬語を使うから

 独特

 

 「少し身長伸びてるぞ♪」

 

 「サイズの調整って……出来ますか?」

 アルトにも敬語が出るカンナ

 

 「アッハ!少しならね!」

 

 

 

 

 

 

 

 加工屋

 

 「調整で何とかしてみよう!」

 鉢巻きで色黒のおじさん、

 奥にいる竜人職人の弟子らしい

 

 「ありがと!!おじさん!!」

 

 「よし、採寸と調整だ!」

 

 「あの、こっちは一式お願いします……」

 クロフが言うが誰もこっちを見ていない

 

 何かカンナは気にいられてる?

 

 男と女で対応が違うような……

 道具屋とかでもオマケしてくれたり……

 

 世の中は女の方が得なのか?

 

 

 

 

 

 

 

 カンナとクロフが帰って来た、

 機嫌が良いカンナ

 

 「何かあったの?」

 マリンが飲みながら聞く

 

 「へっへー、背が伸びてた♪」

 

 「おー、何センチよ?」

 イシズキがカンナの前に立ち、

 カンナの頭の上で手を水平に

 

 「143!!」

 カンナはニコニコ

 

 「……たった3センチじゃねえか」

 

 

 

 

 「…………137だったんだよ……」

 ムスッとする

 

 

 

 

 ……

 

 皆無言になる

 色んな言葉が頭に浮かぶ……

 

 

 

 

 「サバ読んで……」

 イシズキが言いかけると

 

 「イシズキ、私は小さめに言ってるぞ?

 気にしてるんだ」

 マリンが諫める、顔が少し怒ってる

 

 「イシズキってさぁ!女に対する

 気遣いってモノがないよね!」

 

 

 

 「じゃ……じゃあ準備に入ろう!」

 ケンカになりそう!!怖い!!

 話題を無理矢理変えるクロフ

 

 

 

 パーティーの雰囲気で分かる、

 お互いを信頼している、

 過去や性格に拘らず……

 「ホッホッ、あの様子なら上位になぁ」

 

 「ですがリオス夫婦のクエストが

 タイミング良くあれば良いですけど」

 依頼書を捲るベッキー

 

 「アッハ、あの子達なら準備が大事

 って解ってるし」

 

 「何でも何とかするぞ♪」

 

 「一つの目標を達成する為には

 多くの準備が必要だからのぉ」

 

 

 「そこをキチンと理解してますね……

 もっと勢いと若さから来る無謀さが

 なく……下位らしくないですね……

 ギルドマスター、何かしましたね?」

 ハインツがギルドマスターを横目で見る

 

 「ホッホッ、調子に乗り始めた時に

 一度キリンで失敗させといてな」

 

 「……流石です」

 気にいられてますね

 

 「まさか考え方がアンタに似るとはね」

 アルトがナナキを見て笑う

 

 「1回目は色々試してリタイア、

 2回目は本番だろ?

 俺のソロのやり方だぜ?

 パーティーじゃ安全策過ぎだよな」

 

 「ホッホッ、もう1回やるかな」

 

 「意地わりぃなぁ♪」

 

 「ホッ?お前達も塔へ行かせたじゃろ?

 あれでハンターの末路を知ったし、

 ……薬が効きすぎたんじゃ」

 

 「期待されてますねぇ」

 

 

 

 ……………………

 

 

 数日後 ドンドルマ管轄 下位

 複数ある火山の一つ

 

 「クーラードリンクは?」

 

 「持てるだけ持ってきてるぜ」

 

 ドンドルマから南へ半日の辺り

 全員レウス装備

 

 地図を頭に叩き込む

 「こりゃ別れた方が良さそうだぜ?」

 キャンプから奥へルートが二つ、

 左の4番はいきなり洞窟

 

 「じゃあ俺とカンナは4番から行く」

 

 「中広いよココ……」

 カンナは4番を覗く

 「暑っ!!」

 

 「私はイシズキと1番からだね」

 

 「こっちはクーラードリンク

 必要なさそうだぜ」

 

 

 「見つけたらペイントだけ?全員揃うまで

 手は出さないでいつも通りね?」

 カンナは準備する、

 出会った頃は調合が苦手で道具は

 全部人任せだった

 

 「今回もリタイア前提、感触と

 パターン覚える事に集中で」

 

 「「「了解♪」」」

 

 

 

 

 ……………………

 

 1番

 

 「一面砂利か、こりゃスベりそうだな」

 イシズキは足踏みする

 

 「大丈夫、グラビモスは溶岩の

 所に出る、もう少し先だ」

 

 「体から出る……あれ……アレに

 気を付けるんだろ?」

 

 「睡眠ガスと燃焼ガス」

 

 「そうソレ!!」

 

 「燃焼ガスはキチンと対応しないと

 回復薬が無くなるぞ」

 

 「クロフの言う通りに体験しねぇと」

 

 「ブレスは体験どころじゃないけどね」

 

 

 過去に何があったのか気になるが

 聞くことはしないイシズキ、

 それを察しているマリン

 

 白々しい空気になるが

 

 「…………」

 

 「………………」

 

 「毎朝墓場に来るのは……

 仲間だよな?」

 

 「……あぁ……」

 

 

 

 奧に進む

 

 

 

 

 

 7番にその巨体はあった

 

 「あれがグラビモスかよ」

 まるで白い巨大な岩

 

 巨体を揺らし軽い地響きをたてて

 突進してくるが……

 

 「マリン!!何か遅くねぇか?!」

 ディアに比べて……鈍重?

 

 溶岩をものともせずに走るグラビモス

 

 「油断するな!」

 ペイントボールを当てて

 「足元に張り付く時は気を付けて!」

 

 

 

 「おーいこっち向けぇ!」

 6番からクロフとカンナが来る

 「ほいっ!!」

 閃光玉

 

 「グアアアアァァァーーーーー!!!!」

 

 咆哮!皆耳を押さえる……が、

 長い……こちらの態勢が戻っても

 まだ吠えている

 

 「コイツ何だかスキだらけじゃん!」

 カンナは足元に滑り込む

 

 「カンナ!注意して!!」

 マリンが叫ぶ

 

 尻尾が回る……逸らす!!

 「ガシィッ!!」

 

 「アッブねぇ!!」

 クロフに教わってなかったら

 吹っ飛んでるぜ!!

 

 「よし!!」

 体が楽!!真っ直ぐガードしてたのが

 馬鹿馬鹿しくなるわ!

 

 「ぐうっ!!」

 ガノトトスは平手打ちだった、

 ディアはハンマー、コイツは岩だ!!

 

 グラビモスはしゃがむ!!

 

 「カンナ!!退いて!!」

 

 マリンの声に反応してカンナは前転、

 しかし……

 

 「ブシュー!」

 グラビモスの周囲に白いガス

 

 「あにぇえ?」

 フラフラになるカンナ

 眠気でよろける

 

 「カンナ!!」

 マリンが走りカンナの背中を思い切り

 叩く

 

 「バシィッ!!」

 「ひぐぁあ!!」

 

 「あ、ありがと!マリン!」

 

 (俺は師匠に蹴られたなぁ、電気だった

 けど……師匠ヒドくない?)

 

 

 まずいな、前転1回じゃ攻撃範囲から

 出られない、連続攻撃は危険か

 「全員一撃離脱!!」

 クロフが叫ぶ

 

 「「「おう!!」」」

 皆ニヤケながら返事をする

 

 グラビが首を持ち上げる

 

 「ブレス!!」マリンが叫ぶ

 

 「ギィィィーン!!」

 

 よけた!!だけど何だこれ!!?

 

 「今のがブレスかよ!!アブねぇ!!」

 

 レウスともクックとも違う!!

 真っ直ぐ高速!!ガノトトスに近い!!

 

 「軌道は単純だ!!」

 マリンが叫ぶ

 

 当たった岩が真っ赤になってる!

 どんな温度だ?

 

 「まともに当たったらどうなる?!」

 抜刀斬りしながらクロフは聞く

 

 「防具次第じゃ消し炭!!」

 前転から納刀

 

 「こんなヤベェやつなのかよ!!」

 

 グラビモスがしゃがむ……ガス!!

 

 「離れろ!!」

 

 クロフの指示で離れると、今度は

 白くない、熱風!!

 

 「アッじぃいいッ!!!!」

 ガードしたイシズキが転げる

 

 「一旦退くぞ!!」

 

 

 

 ………………

 

 「イシズキ!!ケガは!?」

 

 「かなり熱かったぜ」

 回復薬を飲む

 

 レウス装備は熱に強いが、継ぎ目の

 金属部分が凄い温度に

 

 「マリンはどうやって攻撃してたのぉ?」

 

 「やっぱり一撃離脱だよ」

 遠距離はブレス、接近戦はガス、

 しかも睡眠ガスか熱風かは

 出されないと分からない

 

 「攻守共に強いか……マリンはガスを

 どうやって避けて?」

 

 「ガスは食らったら回復を続けて……」

 

 「消耗戦しかねぇって事かぁ」

 

 「レウスとかよりランクが上なの

 分かったでしょ?」

 

 「甲殻も固かったよぉ?」

 

 

 リオレイアの尻尾の時の……

 囮になってブレスを誘発させるか?

 でもやっぱり

 

 「ブレスとガスの時はしゃがんでる

 気がする……だけど」

 

 「私もそれは分かってるけど、

 接近してると見えないよぉ?」

 カンナが両腕を広げる

 視界を塞ぐ巨体

 

 「離れていれば全体が見えるんだけど」

 (今回で私は三度目、アドバイス

 一つ出来ないとは情けない)

 

 「何かイイ方法ねぇかな?」

 イシズキはグラビモスのマネをする、

 脚を広げてしゃがみ、手を広げる

 まるで鶏

 

 笑いが出るが

 

 

 

 

 

 「あ……膝だ!!」

 



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人の都合と自然

 

 「ひざぁ?」

 カンナが首を傾げる

 

 「だけどそいつぁ難しいぜ?」

 

 「そこに気が付くのは凄いけど

 1回や2回じゃ判らないわ」

 私は全然見えてないのね……

 

 「でも慣れるしかない」

 

 「何の話よ!!教えて!!」

 カンナは理解出来てない

 

 クロフが説明する

 「モンスターの一部の動きで全体を

 想像するんだ」

 

 「!」

 カンナもピンと来たようだ

 

 「そうなると……」

 

 「だよなぁ……」

 

 「うん……」

 三人がカンナを見る

 

 「何よ?」

 

 「カンナ、あんたは片手剣だし

 足元に張り付くからね」

 

 「オメェが一番見られる訳よ」

 

 「うん…カンナの指示が必要だ」

 

 「私っ?!」

 自分を指差すカンナ

 

 

 

 

 「ガスの瞬間を教えて欲しいんだ、

 カンナ、お願い」

 カンナに正面から言う、言える、

 人に向かって正面から話す、

 

 お願い……って言ってみた、初めて…

 ちょっとハズかしい。

 

 

 「なっ何よ、そんな真剣に……」

 クロフが正面から言うなんて、

 なんか……

 

 

 

 なんか……

 

 

 

 

 「なぁに照れてんだよ」

 イシズキが笑う、いや、ニヤける

 

 「カンナの『目がイイ』ってこれかもよ?」

 マリンもニヤける

 

 

 

 「もーっ!!分かったわよ!

 私が指示するわ!!」

 このモヤモヤするのは何よ!!

 

 (お願いって言って断られたら

 もっとハズかしそうだ)

 

 

 

 

 「顔赤けぇぞ?」

 

 「暑いだけよ!!」

 

 

 ……………………

 

 

 

 

 「あらぁ、リタイア?」

 いつものベッキーの笑顔

 

 そして髪のコゲたクロフ達

 「うん!でもね、私分かったんだ!」

 カンナは上機嫌

 

 「じゃあもう1回素材集めだな!」

 クロフと組んで理解した、

 『急がば回れ』

 一見面倒なようで一番早い。

 クロフについてきて正解だぜ

 

 「閃光玉と痺れ罠、あとは調合分だね」

 半年で……しかも無理をせず

 無謀な事もしていない、

 慎重で堅実だ。

 クロフと出会えたことは幸せだな

 

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 「サマーソルト?」

 皆で光虫を採る、森と丘で採取する

 

 「そう、しゃがむ時の姿勢がね、

 アレやるときのレイアにちかいの!」

 ギルドでは他のパーティーに聞かれる

 心配がある

 

 「そうだったのか、気付かなかったわ」

 マリンも想像する、

 自分の『見る』能力が二人より劣って

 いるのが解る、

 運動神経とガタイの大きさ、体力で

 何とかしてきた結果だろう

 

 「デカイし あの岩みてぇな

 甲殻じゃな、よくわかんねぇし」

 

 「睡眠ガス、燃焼ガスとも範囲の

 外に逃げられれば……」

 

 「任して!次は全部避けるから!」

 

 考えてみればクロフより少ない回数で

 攻撃を見切る事を得意としたカンナ、

 頼りになる。

 

 「髪……少し短くなったよね」

 何度か燃焼ガスに焼かれて

 髪が燃えてしまった、

 ツインテールが短くなった。

 俺の責任だ、俺の思い付きで……

 本当は遠くの人の方が全体は

 掴みやすいのに無理をさせた……

 

 「気にしないの!あんたには

 助けられてばっかりだし!」

 カンナは明るい

 

 

 「私も女らしく少し髪伸ばそうかな」

 マリンが自分の短髪を触る、

 長めのスポーツ刈り程度

 

 「イイ男が台無しになるぜ?」

 

 「イシズキ!」

 虫網を振り回しマリンが追い掛ける、

 

 

 「ちょ!冗談!なっ?冗談だってば!」

 走って逃げる

 

 「私だって女だ!!」

 

 よく見ればお互い笑っている

 

 他のパーティーを知らないクロフは

 当然と思っているが、

 これほど人間関係が上手く行ってる

 パーティーも無い

 

 年齢的にも自己主張がブツかり遭う

 はずだが、カンナ以外は『傷』を

 持っているため遠慮を知っているし

 トラブルは意識的に回避する、

 『必要以上に人の心に踏み込まない』

 ようにしている。

 

 カンナより人との距離を空けるタイプ

 

 人によってはオカシイ距離かも知れない

 が、これで上手く行っている

 

 

 

 このまま行けば確実に上位だろう

 

 が

 

 

 自然は人の思い通りには行かない

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ごめんね、あのクエストは

 G級案件になっちゃったわ」

 ベッキーから伝えられる

 

 「どういう事よ!」

 カンナはカウンターの上に乗り出す、

 せっかくグラビのクセが分かったのに

 

 「……緊急事態ってことね?」

 マリンは冷静……ではない

 

 「何があったんですか?」

 実はクロフだって納得は出来ない、

 アイテムを無駄にしたことは気にしない

 でも、カンナの頑張りが無駄になる

 

 ベッキーはギルドマスターを見る

 

 「うむぅ、話して良いもんじゃろうか」

 

 「良いだろうよ」

 ガストンが後ろにいた

 

 振り返り聞くと

 「コイツらは当事者でもあるだろ、

 オメェ等が戦った個体らしきヤツが

 死体で見つかってよ、

 喰われてたそうだ」

 

 「喰われたぁ!?」

 イシズキが声を上げる

 あんな岩みてぇなヤツを?

 

 クロフは周りを見る、下位以外は

 分かってるらしい

 

 「…古龍…………?」

 

 「アッハ!たぶん違うよ?」

 アルトも大体解っているらしい

 

 「とにかく、現在ドンドルマ管轄の

 火山周辺はG級だけで……」

 ベッキーは申し訳無さそうにする

 

 「えーっ!!上位までもう少しなのにぃ!!」

 カンナが膨れる

 

 「ホッホッ、どうしたもんかのぉ?」

 

 「火山地帯は危険区域に指定です、

 グラビモスとアグナコトルは……」

 ベッキーは小さな手紙を見ながら

 「ごめんね、カンナちゃん」

 

 

 

 

 「近い村の上位に探して貰おうか♪」

 

 「それでは各村が手薄になります」

 

 「アッハ!アタシ達で調査行く?」

 

 「ワシらは一応は書士隊だぞ?

 本部の指示無しで動いて良いのか?」

 

 

 何ががいるらしいが……

 

 

 

 「捨て置く訳にも行かんしのぉ」

 

 

 

 クロフ達を置き去りに話が進む

 

 

 

 「だからぁ!どういう事よ!?」

 カンナがナナキに食って掛かる、

 ナナキには遠慮しないしタメ口

 

 

 ナナキは冷静に

 「よし、下位を調査に加えよう」

 

 「ホッ?下位ではなぁ……」

 

 「戦闘はさせない、捜索だけさ……

 各パーティーに伝書鳩を持たせ、

 発見次第飛ばす……

 そしたらG級が最速で向かう」

 

 ナナキは続けて

 「俺達はココにさえ居れば命令違反は

 していない、ルキウスの面子も立つ、

 それなら街の守りも出来る、

 ……つまりだ♪」

 

 「ホッホッ、そうか専属を動かせる」

 

 ゼルドさんとガルダさん?

 

 「矛盾も無いし最速で問題解決

 させるつもりですね」

 ハインツは頷く

 

 

 

 「アンタの為だよ?」

 カンナの頭を撫でるアルト

 

 カンナは気付く、顔が明るくなる

 

 ナナキの教えや優しさはカンナに

 伝わりにくい、

 ナナキが不器用なのか、カンナが

 素直じゃないのか、

 

 恐らくその両方

 

 「急いだ方が良い!被害が出るぞ!」

 ガストンが呼び掛ける

 「G級ども!!討伐してぇ奴等は集まれ!!」

 

 

 「下位パーティー!探索クエストに

 参加する者は前へ!!」

 ギルドマスターの厳しい声が響く

 

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 

 

 「いびるじょう?」

 カンナは変な反応

 

 ドンドルマから南へ向かう街道……

 とは名ばかりの木のトンネル、

 かなり幅は広い

 

 

 「ぞうだ、なんでもぐっぢまう」

 ゼルドさんが一緒

 

 下位から参加したのは4組計16名、

 

 「フム、食い意地が凄くてな、

 目についたモノを何でも喰う」

 

 ゼルドとガルダが同行する

 

 教えてもらう、そのモンスターを。

 

 一定の狩場に留まらず歩き回り、

 一帯の生物を無差別に食い荒らす。

 また人も積極的に襲う、その点では

 古龍よりも質が悪い。 

 

 「で……やっぱり雷とか?」

 

 「いや、広範囲にブレスを撒き散らす

 以外は肉弾戦だ」

 ガルダは手を口に見立てて横に振る

 

 「横っていうのはどういう事です?」

 マリンが首を傾げる

 

 「ぶれずをよごに吐ぐんだぁ」

 

 「フム、グラビモスと戦ったなら解るか、

 あれを横に振ると思えば近い」

 

 「あんなのを……逃げ場が無いわ」

 

 

 「ぞれにな……!!」

 ゼルドとガルダは歩きながら

 鼻をヒクつかせる

 

 

 ?

 

 

 

 

 「ガサガサガサ」

 街道沿いの藪が動いている

 

 クロフ達は身構えるが二人は

 平然と歩く

 

 「なにかいますよ!!」

 クロフは大剣に手を掛けたまま

 走り寄ると

 

 「わがっでる」

 「気にするな」

 変わらず歩く

 

 

 

 

 「ギャアッギャアッ!!」

 ランポス!!しかも20頭位が前方の

 藪から飛び出す!

 

 「うわっ!!」

 「多いぞ!!」

 「囲まれんなよ!!」

 「こっちだってこの人数だぜ?」

 「余裕だ!!」

 

 下位は一斉に抜刀……

 するが……

 

 

 ゼルドとガルダは止まらない、

 二人の大きな背中は

 平然と歩いて行く……

 群れの中へ

 

 「あの!!……」

 意外な行動に言葉を失う

 

 「ええっ!!」

 「ちょっ!!」

 

 何を!!?

 

 後ろからしか見えないが、恐らく

 表情も変わらないだろう、

 歩くペースも変わらない

 

 

 一頭が飛び掛かる!!

 

 ロクスの様に斬るのか?

 思った瞬間!!

 

 

 

 「パン…………」

 

 

 …………え?

 

 ゼルドは蝿でも払う様に、

 大剣の側面でランポスを叩いた……

 凄いスピードで、

 

 

 

 

 それだけでランポスは破裂し、

 道とランポス達に血飛沫と内臓が

 降りかかる

 

 

 技術じゃない……純粋な力だけ……

 

 生物から出てイイ音じゃないよコレ?

 

 

 

 

 

 「フム、遅れるな」

 ガルダがこっちを見る、

 足を止めている、無防備で

 

 下位は走って追い付くが……

 ……ランポスの群れの中、

 当然構えるが……襲って来ない

 ……何で?

 

 

 

 

 

 「ドン!!」

 ゼルドが足を踏み鳴らすと、

 ランポス達は一斉に藪の中へ

 走っていった。

 

 

 

 「い……今のって……」

 

 「いがいどあだまいいがらな、

 いっぴぎでいい」

 

 「フム、こちらの力が上だと

 思わせれば襲われん」

 

 そういうもんなの!?

 

 

 

 ガルダは落ちている内臓を拾うと、

 剥ぎ取りナイフで切る

 

 「うっ……何してんですか」

 カンナが口を抑えながら聞く

 

 「フム、胃の中も腸も空だ」

 

 「それで何が解るんですか?」

 

 説明は簡単だった

 

 一つ、これだけの群れなのに

 ドスランポスがいない

 

 二つ、群れは空腹、エサも無い

 

 考えられるのは統率者が群れを

 守るため命を落とした。

 

 今は狩り場も追われパニックを

 起こしている。

 

 となれば冷静になった時

 襲う場所は……

 

 

 

 

 「人の村じゃ……」

 クロフ達は想像する、自分の故郷を

 

 「急がなきゃ!!」

 

 「あわでんな」

 

 「フム、各村には上位が

 派遣されている、体力を温存しろ」

 

 

 

 

 ………………

 

 

 「なんだよあれ!?」

 イシズキが叫ぶ……一瞬前に

 ゼルドとガルダは走り出す

 

 ドンドルマ管轄 火山の村

 中央の家の屋根に数人の子供、

 家の周囲に上位のハンター

 

 そして取り囲むように数十頭の

 ランポス、ゲネポス、イーオスそれに

 コンガまで

 

 「みんな!!やるぞ!!」

 クロフは大剣を振り上げる

 

 「おうよ!!」

 下位は走り込む

 

 ゼルドとガルダは数匹をまとめて

 斬りながら進む、まるで竜巻!!

 

 「イシズキか!?」

 ナガエが居た、疲れているらしく

 肩で息をしてる

 

 「師匠!!」

 イシズキとナガエは背中を合わせる

 

 「師匠、退いててもイイんだぜ?」

 「まだまだお前ら若いのに負けんぞ!!」

 双剣の師弟も暴れだす。

 

 「閃光投げます!!」

 クロフが思い切り叫び投げる

 

 「皆!やるよ!!」

 カンナが叫ぶ、下位達も飛び込む

 

 「なんだか硬いやつが混じってるぞ!!」

 

 「ザコでも上位個体が居る!!」

 

 「油断すんなよ!!」

 

 「嘘だろ!!ザコなのに歯がたたねぇ!!」

 

 「二人で一匹を攻撃しろ!!」

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 

 「助かったよ」

 ナガエは回復薬を飲む

 

 「何があったんだ師匠?」

 

 「昼くらいからモンスターの襲撃を

 受け続けてな、伝書鳩飛ばすヒマ

 も無かった」

 

 村の周りにはドスランポス、

 ドスゲネポス、ドスイーオスが複数、

 ババコンガまで来たそうだ

 モンスターの死体がザコを含めれば

 100を越える……

 イビルジョーから逃げて来たのか?

 

 上位とはいえ数人で防いでいた、

 村の損害は無いらしいが

 アイテムが底を着きそうだった

 

 

 

 

 イビルジョー

 それが一頭現れるとこれだけ狩り場も

 不安定になるのか、

 これから俺達が探すんだよな……

 

 

 

 「フム、良く守ってくれた」

 「ぞざいぜんぶオメェらのもんだ」

 

 上位達はようやく一息つく

 

 この数を上位8人だけで?

 

 「スゴいねぇ、こんなに」

 村の周囲一面にモンスターの死体

 

 

 

 ゼルドとガルダは村長と話をして

 伝書鳩を用意させている

 

 

 「あんちゃん達カッコいいな!」

 ガキ大将らしき子供がよってくる、

 マリンのギザミ装備の事だろうが、

 多分男だと思ってるような……

 

 「屋根に避難してたんだね」

 マリンが頭を撫でようとすると

 

 「違う!見張り!何匹も来たんだ!」

 手を振り払い腕を組み

 マリンを見上げる

 

 「子供は目が良いからな、

 やらせたんだよ」

 ナガエが頼んだらしい

 

 「おっちゃん!俺達だって役に立つだろ」

 

 「あぁ、立派な村の守り手だ」

 ナガエはしゃがみ握手する

 

 「父ちゃん達ドンドルマに稼ぎに行った

 から、オレ達で守るんだ!!」

 小さな勇者は胸を張る

 

 

 実際は避難させてもモノは言い様、

 ナガエは器用らしい。

 

 

 

 

 

 ゼルドとガルダが指示を飛ばす

 「後続にG級パーティーが来る!

 下位は捜索に入れ!

 上位は休んで回復させろ、

 その間村は俺達で守る!」

 

 「この村を前線ギルドとする!!」

 

 「みづげでもだだがうな!

 ぜっだいにげろ!!」

 




教える、教わる、
文字にするのは簡単だけど、
なんて難しくてイライラするのか。


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迷う

のんびりほのぼの、
日常です。

そんな中でも、
このままで良いのか
ダメなのか

毎日自問自答するんだよね。


 

 

 

 

 「あんなのが出てこなきゃさぁ、

 もう上位だったのにぃ!!」

 カンナが膨れる、この温泉には

 色々効果があるらしい

 

 「ドンドルマの火山一帯の生物が

 大混乱だからね」

 二人で温泉に浸かる、入って来る

 女性がマリンを見るとギョッとするのが

 気になる、

 一瞬男だと思われてるようだ。

 

 

 

 イビルジョーは無事に討伐された

 

 クロフ達は見つけられなかったが、

 これで終わったと思ったのに……

 

 ドンドルマの下位、 火山地域は

 大荒れになって安定しないため、

 数ヶ月 下位は立ち入り禁止

  

 

 

 上位と下位のモンスターが入り乱れ

 危険すぎるため、上位の狩場に

 指定されてしまった

 

 ナナキが最速で討伐案を

 出してくれたが、こればかりは

 どうにもならない

 

 

 

 ………………

 

 

 一週間ほど前

 

 

 

 「ホッホッ、ユクモに紹介状を

 書いてやろう」

 

 「えーっ?!なんでぇ?!」

 

 「早く上位になりたいんじゃろ?」

 

 「そうだけどぉ……」

 当然不機嫌なカンナ

 

 「伝書鳩で話は通しておくからね」

 ベッキー小さな手紙を書いてくれる、

 結構技術が必要そうだ

 

 「お前達だけではない、他の下位も

 火山のクエストは受けられん、

 安定するのは数ヶ月先かもしれんのぉ」

 

 どうやらカンナはロクスの言う事は

 素直に聞くらしい

 

 

 「せっかく行くなら色々見てきな、

 温泉あるし」

 アルトが笑う……温泉って何だ?

 

 「コノハちゃんによろしくな♪」

 相変わらず軽いナナキ

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 

 「ここは見た事ないモンスターも

 多いらしいから面白いかもよ?

 ……先にあがるわね」

 マリンは湯から出て脱衣場へ、

 波が大きい

 

 

 一人で湯船に鳥のオモチャを浮かべ

 

 「見つける事もできなかったし……」

 イライラする

 (ドンドルマで上位になれば一目

 置かれるハンターになったかも

 しれないのにぃ)

 

 

 

 ……自分の体を見る

 

 (体鍛えると胸から無くなるって……

 マリンは何で胸大きいのよ!)

 

 

 

 

 

 

 

 男湯

 

 「風呂っていうんだね」

 クロフは初めて入った、呼び方が沢山、

 風呂、温泉、湯船……?

 

 「お湯に体全部入れるって初めてだぜ」

 イシズキも初めて

 

 「キャラバンの頃はやっぱり?」

 

 「水浴びしか無かったな、ドンドルマに

 来てからだぜ?お湯で体拭いたのは」

 

 暑い地方は湯浴みさえない

 ジャンボ村も暑い時期は川で洗った

 

 

 

 二人で外に出る、装備を着けるが

 「ぐあぁー!!ゲリョス装備ってムレる!!」

 イシズキがボヤく、ゴム質……

 

 「まだ装備着けるの早いわよ?」

 マリンは何かでパタパタ扇いでいる

 

 「なんだよソレ?」

 

 「団扇って言うらしいわ?」

 

 「カンナはまだ?」

 

 「まだ不貞腐れてるわ」

 マリンは笑う、

 インナーだけで寛いでいる

 

 スタイルは決して悪くないし

 顔も悪くない、

 カンナは女同士で胸に目が行くが……

 

 筋肉が凄いし全体がデカイ……

 

 その辺の男より立派な体格、二人は

 女性としては見ていない

 

 

 

 

 俺も師匠に色々教えて貰いたかった

 から、ドンドルマに居たかったけどなぁ

 

 

 ………………

 

 

 「これは不運かもしれない、けど、

 他の土地を見る良い機会と考えたら…

 どう?」

 指を一本立ててアルトが言う

 

 「もっと東かぁ、行ってみてぇな」

 東を指差す

 

 「私はクロフが行くなら」

 マリンは深く考えてないようだ、

 片道一週間程度だし

 

 「ここで上位に早くなりたい!

 もっと師匠にも教わりたい!!

 温泉も行きたい!!」

 子供らしい理屈で膨れるカンナ

 

 「両方は取れないぜ♪」

 

 

 ………………

 

 

 

 「暫くは機嫌悪いわね」

 

 ウチワを貸して貰う、村でヤシの葉を

 編んで作ったアレに近いが……

 これは……紙と……?

 

 

 

 「あの、ドンドルマから来られた方は?」

 ギルドスタッフのコノハ、独特な衣装で

 パタパタ走って来る

 

 「あ、俺達です」

 

 「外で村長がお待ちですよ?」

 

 不思議な帽子……

 番台のアイルーもそうだが

 衣装が矢鱈と可愛らしい。

 

 なぜギルドに風呂があるのかな?

 

 風呂にギルドを付けたのか?

 

 ジャンボ村は港に…… 

 

 

 

 ………………

 

 

 「うそだろ!!立ち上がったぞ!!」

 四足から二足?

 

 「初めて見るわ!!」

 戦う形態が変化する?

 

 

 討伐対象はアオアシラとドスファンゴ

 アオアシラは立ち上がり腕を振り回す

 

 「以外にリーチ長いわ!」

 

 「頭も高い!」

 クロフの抜刀斬りでギリギリ

 

 「腕がトゲあるし硬ェ!!」

 

 「頭狙わなくても斬れるみたい!!」

 マリンが尻の辺りを斬る

 

 横からドスファンゴが走って来るが

 

 「何かどっちも簡単に寝るぅ♪」

 特にドスファンゴが簡単、カンナは

 紙一重で避けながら斬る

 

 寝てる間にアオアシラを倒し、

 ドスファンゴも寝かせて溜め斬り、

 睡眠が効くモンスターだった様だ

 

 

 

 難なく2頭を倒すと、偶然並んで

 顔がコチラを向いている

 

 毛むくじゃらのドスファンゴ

 怖い顔のアオアシラ

 

 「………………」

 

 

 

 

 

 「ブフッ!!」

 最初に笑ったのはクロフ

 

 「やっぱり!!?そうだよな!!」

 

 「アハハハ!!」

 指を指して笑うカンナ

 

 「ちょっ!……まっ……クッ!……」

 マリンは笑いを押さえるが

 

 

 

 

 「「「「ぶははははははは!!!!」」」」

 四人で大爆笑

 

 

 

 「おい、クロフぶふっ、息がっ!!」

 

 「ひゃうっ!ダメ!止まんない!!」

 転げるカンナ

 

 マリンとクロフは酸欠でヒクヒクする

 

 

 そっくりなのだ、ゼルドとガルダに……

 

 

 「こ……これっ!…ドンドルマにっ…

 行ったらっ!」

 息が吸えないクロフ

 

 「言ったら怒られるわっ!……ヒッ!」

 同じくマリン

 

 

 俺……始めて人と大笑いしたかも……

 

 村では本気で笑えてたかな?

 

 あぁ……楽しいんだ……これ。

 

 

 

 

 

 

 ………………

 

 

 「オーノー」

 

 「???」

 

 え?何??クロフ達は固まる、

 言葉は共通のハズだけど

 

 「あら、ごめんなさいね、口癖で……」

 

 ユクモの村長、妙な喋り方…失礼だが

 厚い化粧で表情も分かりにくい、

 ちなみに竜人。

 

 「上位目前のあなた方には

 簡単過ぎて失礼でしたわね、また

 宜しくお願いします」

 声で判断する限り歓迎されている

 

 「お疲れ様でした、火山の状況が

 掴めましたらクエスト発注しますね」

 コノハにハンター小屋に案内される

 

 四人で同じ部屋、ドンドルマとは違い

 独特の雰囲気、敷物の模様も

 建築様式も……いや、ドンドルマが

 ヒドイのか?寝床が藁だよ?

 

 

 

 「えぇー?!四人一緒ぉ?!」

 

 「いけませんでしたか?」

 

 「一応男女別れた方がさ……」

 マリンも困り顔、当然ではある

 

 

 

 「生憎と今は他のハンターの方達も

 多く、湯治客も……」

 コノハは申し訳ない顔をする、

 観光地というのは客が来る土地らしい

 

 

 

 「俺達を信用しねぇのか?なぁ?クロフ」

 

 クロフはうつ向いて困る、

 このテの話題は苦手過ぎる、

 年頃の健全な男である以上

 何も知らない訳ではない

 

 「な?大丈夫だろ?」

 

 どこが?

 

 

 

 何が?

 

 

 

 

 「あの、ナナキ様の弟子は……」

 コノハがモジモジと

 なんだか聞きにくそう

 

 「私だよ?」

 首を傾げるカンナ

 

 「ナナキ様は何で私の…その…」

 顔が赤くなる

 

 「まさかナナキさん……」

 

 「そうらしいな」

 ニヤケるイシズキ

 

 「師匠ココでもお尻触ってんの?!」

 

 

 「何でも大陸中のギルドガール全員

 触ったとか……」

 コノハは嫌そうではない、なぜだ?

 

 「大陸中!!?なにしてんのよ!!!!」

 

 

 ハッとする

 「まさか私、これからドコに行っても

 言われるのコレ?!」

 

 「ナナキさんらしいわね」

 マリンもクスクス笑う

 

 「お前有名人だぜ?!

 なりたかったんだろ?やったな!!」

 

 「やぁだぁあっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜

 

 このギルドは余り騒がず静かに

 飲むようだ、

 ケンカと賭けのドンドルマとは大違い

 

 四人で外の足湯に浸かる

 

 「地面から湯が出るのは何かな……」

 

 「火山の近くは多いらしいわ……」

 

 「気持ち良いけど何で足だけぇ?」

 

 クロフがうつ向いている、何かある、

 言いたい事があるらしい、

 みんな黙る

 

 

 

 「あの、みんな上位になったら……」

 

 「あ?オメェ書士隊になるんだろ?」

 

 「それが……」

 

 「他にやりたいこと出来たとか?」

 マリンは困った顔になる

 

 「それが……無くなっちゃったんだ……

 マルクさんに聞いたら何か……

 書類の写しとか……」

 

 「師匠も言ってたよー、

 字ぃ書くの嫌だって、報告書?とか」

 

 「うん、だから上位になったら

 どうしようかって」

 

 「今はとりあえず上位を目指すのよね?」

 マリンが聞くが……

 イシズキは違和感を持つ

 

 「私はG級になるんだから変な所で

 迷わないでよ」

 カンナが口を尖らせる

 

 『お前何がやりたいんだ?』

 『やりたいことを仕事に出来る

 ヤツなんざ居ねぇさ』

 

 おじさんとガストンさんの言葉、

 俺はどうするべきだ?

 何をしたいんだ?

 

 今は楽しい……みたいだし……

 そう、多分俺は楽しいと思ってる

 

 

 

 「なぁ、クロフ、ナガエ師匠はよ、上位で

 止まってるだろ?理由知ってっか?」

 

 「?」

 

 「上位がちょうどイイらしいんだ、

 命の危険は少ねぇし、稼ぎもイイ、

 食っていくのに一番だとよ」

 

 「ハンターを仕事にするならG級

 ばかりじゃ無いってことね……

 上位が一番人口多いそうだし」

 

 「有名になるならG級だよぉ!!」

 カンナは膨れる

 「上目指さないなら何でこんなに

 早く上位検定まで来たのよ!!?」

 

 「カンナ、クロフは急いで無いんだよ?」

 マリンがなだめる

 

 「俺も解るぜ、急がば回れだ」

 

 「解んない!何?」

 

 「事前に準備を十分にしてリスク

 減らしてるでしょ?」

 

 「一回リタイアするのさえ準備だしな」

 

 「何となく分かるけど……」

 

 「命を大事にしてきたら結果的に

 失敗が無くなって早くなっただけよ?」

 

 「根が臆病だからな」

 イシズキは笑う

 

 

 

 

 「青春ですわねぇ」

 村長が来た、薄暗いなかに真っ白な

 顔が……少し怖い

 

 「あ……あの……」

 

 「聞いてましたわ、若いんですから

 迷うのは当然ですわね」

 

 「当然……ですか……」

 

 「一生迷う人、一見成功してるのに

 後悔してる人……色々ですわ」

 

 「正解は無いってことよね」

 

 「でも有名なら色々得だよぉ?」

 足をバチャバチャする

 

 

 

 『おっかなビックリ、ヨタヨタ歩いて…』

 ガストンの言葉

 

 

 「一度原点に戻ってみては

 いかがでしょう?」

 

 

 

 

 

 「原点……って何ですか?」

 

 「お前がハンターになった所じゃねぇ?」

 

 「クロフの村か……行ってみたいな」

 

 「えーっ!!田舎でしょ?!」

 カンナだって田舎出身だろうに

 

 

 「今の視点から見た故郷がどう

 見えるか……経験してみたらいかが?」

 

 「今の視点から……」

 何か変わったんだろうか

 

 「今まで色々経験なさったでしょう?

 貴方の視点が変わっているはずです」

 

 

 イシズキが何か思い付く

 「そういやお前彼女居るって言って

 なかったかぁ?」

 ニヤケる

 

 「あ、私も聞いたわソレ」

 マリンもニヤニヤ

 

 「クロフの彼女は見たいかも……」

 カンナまで

 

 「じゃ決まりだ、上位になったら

 クロフの故郷に行くぞ」

 

 

 

 

 間

 

 

 

 

 「面白がってない……?」

 絶対そうだ

 

 「「「ないない!!」」」

 明らかに三人ともニヤニヤしてる

 

 「若いって良いですわねぇ」

 

 

 

 

 

 

 小屋に戻り寝る準備に入るが

 

 「男はこっちに入んないでよ!」

 ロープを張るカンナ

 

 「おい!こっちが狭ェぞ!」

 

 「ケンカしないの!」

 

 「騒ぐと迷惑だから……」

 いつもこうだ、退屈はしないが

 

 

 「なぁ、今日のクエスト、どう思った?」

 イシズキが暗い中、寝ながら聞く

 

 「2頭同時って初めてだよぉ?」

 

 「普通は上位で任されるのよ……

 私もあまり経験無いわ……」

 

 「レウスとか2頭同時だったら、なぁ」

 

 「想像したくなぁい」

 

 「上位検定は……リオスの夫婦だよ?」

 

 「マリン、何で知ってんだよ」

 マリンに何か違和感があるイシズキ、

 しかし暗くて表情まで見えない

 

 

 「私ね……過去に失敗して……」

 

 「リオ夫婦かぁ、肥やし玉で……」

 カンナは想像する

 

 

 あれ?

 「俺、何かそれっぽいのやったような…」

 

 「何だよそのクエスト?」

 

 村でガノトトスを狩った話をすると

 

 「スゴいわね、場合によっては

 3頭同時……」

 

 「アルトさん1人なら余裕ってか……」

 

 「G級って人外って呼ばれるの

 良く解るわ、なりたい!」

 カンナは人外の意味解ってるのか?

 

 

 

 

 「ねぇ、クロフ?ちょっとおかしくない?」

 

 「何が?」

 

 「2回目にガノトトスに挑んだ時も

 リオス夫婦は居たのよね?」

 

 「あれぇ?そうだよ」

 

 「偶然会わねぇで成功したのか?」

 

 「あれ?そういえば……」

 

 「足止めしてた人いないんでしょ?」

 

 「今まで気が付かなかったのかよ」

 

 やっぱりニブい所がある

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「クショッ!」

 

 「おや、珍しいですにゃ…ですな」

 

 「会議中に貴女がクシャミとは……

 風邪ですか?」

 

 「失礼しました」

 無表情の美人

 

 

 「ではゼニス、

 横流しの報告を聞きましょう」

 

 



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笑顔と疑念

ロシアでは意味無く人前で笑うのは
愚か者だそうだ、
だけど殆どの国は笑顔は基本。

気が付くと1日……
数日笑ってない、
そんなことが過去にあった。

自分ではなかなか気付けない、
病んでいる事に。


 

 「やっぱり冷えたら刃が通らないわ」

 とにかく弾かれる

 

 「硬ぇよな、砥石が無くなるぜ?」

 大剣の刃を確認する

 

 「溶岩から出た直後以外は無理かな」

 なんだか面倒なモンスター

 

 「せっかく寝かせてんのにぃ……」

 

 討伐目標はアグナコトル、

 溶岩や地面から出てきた直後は刃が

 通るが、冷えると硬くなってしまう。

 

 一通り攻撃したあと隣のエリアで

 いつものように話し合う

 

 「おまけにデカいって言うか……」

 

 「長いんだもん!」

 カンナは手を広げる

 

 「そう……長いのよ、頭狙うのも走るし、

 寝てからも頭に走って溜め斬りだし」

 スタミナ消費が大きい

 

 「移動も早いよ、滑って行くのが……」

 

 「あれ追い付けないしぃ!!」

 

 「こいつも消耗戦だな、めんどくせぇ、

 マリン、前回はどうやった?」

 

 イシズキは確信している、

 マリンが上位検定で失敗した話から、

 その辺りで仲間を失っていることを

 

 

 「水属性の武器が良かったのかな…」

 

 「それの用意は次回だね」

 今回も一回は様子見で

 

 「攻撃自体は当てられるけど」

 アグナコトルは足が短くて体高が

 無いため、カンナは楽

 

 

 

 暑さで長期戦は不利、効果的に

 ダメージを入れるには顔を……

 ちょっと無理か?

 

 「マリンは前は1人じゃないよね」

 

 「仲間がいたけど……」

 

 「武器は?」

 

 「弓が居たのが効果的だったのかな」

 マリンは腕組みしたまま首を傾げる

 

 

 ガルダさんが言ったG級は複数の

 武器が扱える……

 多分ここだ、この辺りで基本動作

 (通称・抜刀コロリン)が通用しなく

 なってくる、

 だから使えるようになるんだ、いや

 武器の選択をしなきゃならないんだ。

 

 

 「だけどよ、今から飛び道具はなぁ」

 

 「えー、いいんじゃないのぉ?」

 

 「防具も一式用意すんだぜ?」

 

 「あー、そっか!」

 

 そうだ、ガンナー装備が必要だ、

 今から慣れない武器を使い始め……

 時間的に……

 

 

 カンナが怒りそうだし……

 

 

 

 「シビレ罠、全員調合分も含めて

 12個…持てるだけもって、武器は

 水に変えよう」

 ガノトトスなら何度か戦ってるし

 素材は十分

 

 「じゃあ後はいつも通りに」

 マリンはピッケルを担ぐ、似合う

 

 「ポーチ一杯まで採取だぁ!」

 カンナも

 

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 「あらぁ、リタイアですか?」

 残念そう…なのか?化粧で表情が……

 ベンチに腰掛け、のんびりしている

 

 「はい、準備に入ります」

 

 「慎重なんですわねぇ」

 

 ジャンボ村の村長は見つからないほど

 忙しくしてたのに、この人は

 1日ココに居るらしい

 

 ユクモ村、温泉ばかりに目が行きがち

 だが、自然の斜面を利用して

 モンスターの侵入を防ぎ、

 各店や農地も充実している。

 

 この村はトウジ、とか休暇のために

 人が集まるそうだ……

 トウジって何だ?

 

 他のハンターに聞いたら、一生ここで

 ハンターを続けたいと言う人までいる

 

 

 「改めて見るとスゴい村ですね」

 

 「ですが周りが山岳地帯ですからねぇ」

 村長は手を山の方へ向ける

 「交通の要所にあるドンドルマとは

 比べられませんわ」

 

 いつものようにオホホと笑う

 

 村に活気がない……ではなく、

 のんびりしている、

 ジャンボ村もこうだったら良いのに

 

 

 

 

 

 

 

 

 加工屋

 

 「あぅ!!ガノトトスの大剣だな!」

 小さな竜人は鎚を振り回す

 「すぐ作ってやりてぇが半日待ちな!」

 

 竜人って大きい人と小さい人が

 いるのか?

 ジャンボ村の村長とココの村長は

 人間と代わりないが……

 

 

 

 

 そういえば聞きたい事があったんだ

 

 「あの、50年位前はマカライトが

 溶けなかったって本当ですか?」

 

 「うそだろ!そうなのかよ!」

 そういえば皆に言ってなかった

 

 

 「あぅ!!本当だぜ!」

 

 「でも、武器とか防具の……」

 クロフが言い終わらない内に

  

 「レシピ自体は昔っからあったんだ!

 竜人族の村とかになぁ!」

 

 

 「なのに燃石炭の使い方……」

 

 また言い終わらないうちに

 

 

 

 「おい若けぇの!!」

 竜人は片方の眉を吊り上げる

 

 「オメェは毎日メシ食った事を古文書

 に遺すか?」

 

 「???」

 クロフ達は考えるが何の事だか……

 

 

 

 「そう言うことかぁ!」

 カンナは解ったらしい

 

 「え?わかんねぇ、何だ?」

 

 

 

 「あぅ!当然過ぎて当たり前の事なんか

 遺さねぇわな!」

 

 炉の中に燃石炭を敷き詰める、

 昔は当然過ぎたのか

 

 「そうして失伝したものがいっぱい

 あるんだろうね、勉強になるわ」

 マリンも頷く

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガノトトスの大剣、水の属性……

 ……それはまぁ良いとして……

 

 麓の農場、スゴい規模……養蜂まで

 やってる

 

 

  釣り場の桟橋に立ち眺める。

 

 

 

 

 「俺、店の人と上手く話せてない

 気がする」

 

 「何だ?何かあったか?」

 

 自分とカンナへの対応を話す、

 なぜこんなに差がある?

 

 「男と女で態度違うの当たりめぇだろ!」

 イシズキが大笑いする

 

 「うーん、私は微妙かなぁ」

 マリンは何だか煮え切らない感じ……

 

 

 

 なんで?

 

 「なぁクロフ、お前はムサ苦しい男と

 普通の女…どっちに話し掛けられたら

 嬉しい?」

 イシズキがズイッと寄る

 

 イシズキ、カンナ、マリンと話す……

 違い?分かんない

 

 クロフの顔と反応を見て、

 イシズキはボリボリ頭を掻くと

 「まったく……こーゆーのは

 ニブイやつだな……

 彼女に話し掛けられたらどうだ?」

 

 パティ……パティ……と……

 

 うつむき耳まで赤くなる

 

 

 

 「分かりやすいわね……」

 マリンが呆れる

 

 「店のモンが男なら、女に話し掛けられ

 た方が嬉しいって事だ」

 

 「うん……解る」

 まだ赤い

 

 

 

 「クロフ、私も言いたくないけどさぁ、

 無表情でボソボソ話しても

 誰も聞いてくれないよ?」

 カンナは顔を覗き込む

 あんまり言う事じゃないけど、と

 付け加える

 

 

 「俺そうなの?」

 自分では解らなかった

 

 「笑顔が大事なんだよ?」

 自分の顔を指差しニコッと笑う

 

 女性の微笑みというより笑った子供

 ……多分言ったら怒るよね?

 

 

 

 笑う……

 水面を見る、

 俺……苦手かも……

 そういえば師匠と出会うまで……

 

 あんまり笑ったことないかも

 

 

 「私も愛想良くするのは苦手だけど、

 店では出来るだけ笑顔にするわ」

 

 マリンも苦手なのか

 

 

 「男なら愛想笑いより気合いの方が

 良いときもあるけどな!」

 

 「気合い?」

 

 「コンチワー!って元気良く言うんだ」

 

 

 ……出来るか?俺?

 

 

 「何にしても仏頂面より笑顔だよ!」

 カンナに背中を叩かれる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ、こ……」

 

 カンナに背かを叩かれる

 

 「コンチワー!!」

 笑顔……笑顔……

 

 「あぅ!!出来てるぜぇ!!ほら、持ってけ!!」

 明らかに職人も笑顔

 

 「ね!」

 カンナは満足そう

 

 

 

 

 まだクロフは戸惑っている感じ、

 イシズキと歩く姿を後ろから見ながら

 

 

 

 「ねぇマリン、仏頂面って何?」

 小声で

 

 マリンは吹き出す

 「あんた知らないで言ってたの?」

 

 「師匠が言ってたよ、笑ってないと

 周りが笑わないって」

 

 「うん……そう……そうなんだよね」

 私もそうか……まずは自分なのか

 

 私も……笑わなくなってたかもね。

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 

 「よし!!掛かった!!」

 

 「せーの!!」

 

 バカンと胸が砕ける

 

 「コイツ壊せるとこイッパイだよ!!」

 カンナは部位破壊が嬉しいらしい

 

 「適当に当てても怯みやすいぜ!!」

 

 「属性って便利だわ!」

 

 

 

 「潜ったぞ!!納刀!!」

 

 熱い地面に潜りながら背鰭で攻撃に

 来る、地上の突進と変わらない速度

 

 ディアもそうだが地上と地下でなぜ

 同じなのか、この世界はそういう事

 らしい

 

 

 体を半分地上に出すと

 

 「ブレス!!」

 

 アグナコトルは自分の周りを凪ぎ払う

 様に攻撃するが

 

 「おらぁっ!!」

 抜刀斬りを浴びせる

 

 「これがチャンスだったとはね!」

 マリンは溜め斬り

 密着するとブレスが当たらなくて

 隙だらけ

 

 怯んだアグナコトルは地上に飛び出し

 もがく

 

 「せーの!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「結局シビレ罠残ったなぁ」

 クロフが確認する、6つで終わった

 

 「水属性の大剣が三人いると

 こんなに楽なヤツだったんだな」

 

 「やっぱり慣れが一番大事だわ」

 隙を理解していれば

 

 「私は太刀で良かったかも……」

 カンナは納得いってない様子

 

 

 「何で?」

 片手剣辞めたいとか?

 

 「違うの、背が低くて潜り込めない

 モンスターなら頭ブツける心配

 ないじゃん」

 自分の頭に手をやる

 

 「あぁ……最初から足元に潜る必要

 ねぇからな」

 べったりと腹を地面に着いている、

 構造的に潜れない

 

 「この前のドスファンゴで少し

 気付いてたんだけどね」

 片手剣を太刀の構えにする

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ゼルドさんか?」

 ニヤけるイシズキ

 

 「ぶはははははは!!」

 

 大爆笑

 

 「こんなっ!……熱いとこ……でっ」

 クロフは酸欠

 

 「笑わせっ……息が!!」

 マリンも

 

 「地面熱い!!……ひゃふぁははは!!

 ノド熱いぃ!!」

 地面を転がるカンナ

 

 「ひゃひゃひゃ!!自爆したぁ!!!」

 同じくイシズキ

 空気が熱いのに爆笑するとノドが痛い

 

 「くっ!……クーラードリンク!」

 

 「アイテムっ!!……ムダにっ!!」

 

 アグナコトルの死体の脇で四人が

 笑い転げるオカシナな光景

 

 

 皆と一緒だと笑える、

 そうだ、何度も笑って来た……

 これからも笑いたい……かも

 

 後はグラビモス……そしたら……

 

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 「ふいーーっ……」

 

 「ちょっとカンナ、オッサンぽいよ?」

 

 「うわ、やば!!」

 伸ばした体を起き上がらせる

 

 帰って来て温泉に浸かってみる

 

 「ここでハンター続けたいって気持ち、

 分かるかもしんない」

 カンナは幸せそうに天井を眺める、

 顔がユルミっぱなし

 

 「狩りに行った後に入る方が自然よね」

 

 なぜ狩りに行く前に入るのか、

 そして不思議な効果があるのか、

 なぜドリンクをのむのか、

 

 

 ……謎だ

 

 

 

 「ねぇ、マリンはさ、子供の時

 体の事言われた?」

 

 「ゴツい事?」

 

 「そう」

 カンナは悪気はない、マリンもそれは

 分かっている

 

 「子供の頃からデカイし言われたよ」

 二の腕を掴む

 

 「私もチビって言われたよ」

 

 「……それで?どうしたの?」

 

 

 

 「大きくなる方法ってある?」

 (主に胸が、とは言わない)

 

 「んー親の遺伝が出てるんだよ」

 腕組みする、更に太く見える

 

 「親も大きいんだ?」

 

 「そうだよ……カンナの親は?」

 

 「私は普通だと思ってたけど……

 ちっちゃかったのかも」

 自分の頭に手をやる、ツインテールは

 解いて今は上にまとめてる

 

 「クロフの村に行ったら両親も

 見られるだろうね」

 

 「クロフってあんまり自分から

 話しないから、村の様子きいたこと

 ないかも」

 

 「彼女は見て見たいけどね」

 

 「美人だったりして……」

 

 

 

 二人は顔を見合せ

 

 「「まさかねぇ!!」」

 

 

 

 

 

 

 男湯

 

 「なぁクロフ」

 

 「何?」

 

 「マリンは仲間だよな」

 

 「えっ?突然何?」

 

 「いや、まぁアレだ」

 

 クロフは続く言葉を待つがイシズキは

 天井を見上げたまま

 

 「オメェはよ、何を聞いても許せるか?」

 

 「何の話?」

 

 「俺が人死なせてる話したろ?

 マリンもそんな過去抱えてても

 許せるかって聞いてんだ」

 

 「別に?仲間だよ?」

 

 コイツは馬鹿なのか?死生感ってモノが

 無いのか?

 

 両親が道具屋やってるらしい話は

 聞いたが……

 

 身近で誰か死んでるのか?

 

 

 

 まぁ俺は責められる訳じゃねぇけど

 

 「お前が許せるなら良いんだ」

 

 

 今は上手く行ってる、俺はこの

 パーティーが好きだ、今は良いんだ、

 

 ……無闇にツツク必要は無ぇ

 




笑顔の表情を作るだけでも
精神衛生上では効果があるらしい。

まぁ小難しい事は置いといて、
しかめっ面では人と関われない、

バカだと思われても
笑った方が自分にも
相手にも良い効果がある。


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達成感

今回は繋ぎの話ですので、
何のテーマも無く
私の実体験から出た反省もありません。

適当に読んで下さい


 

 

 「ガス来るよ!!」

 カンナが斬りながら叫ぶ!

 

 一斉に前転2回、範囲から出る!

 

 グラビモスは熱風を噴き出すが

 

 「スゲェ!!指示が速えぇ!!」

 誰も焼かれずに無事

 

 「当たり前じゃん!!」

 カンナはまた足元へ滑り込む、

 膝を見ながら斬りつける!

 

 「水属性も正解みたいね!!」

 溜め斬りでなくても怯みやすい

 

 事前に弱点までは聞いてなかった、

 けど水で正解のようだ

 

 グラビモスは横に体を引く

 

 「カンナっ!!」

 ガノトトスの動き!今のカンナは背が…

 

 体当たり!!

 

 「ほいっ!!」「ガシィッ!!」

 

 ガードして後ろへ大きく飛ぶ、

 派手に飛んだが難なく着地

 

 「スゲェ!!」

 まるで曲芸

 

 回避の方法を変えてきた、

 盾の使い方一つでこんな事出来るんだ

 センスってやつなのか?

 

 

 「設置したよ!!」

 マリンが呼ぶ、皆で罠の近くへ

 

 ブレス!!

 「ギィイイイーーン!!」

 高速で高熱が飛ぶ

 

 「うおっ!!」

 「あっぶなぁ!!」

 

 

 

 しかし

 

 

 

 「罠仕掛けると来なくなるよね?」

 クロフが言うと

 

 「私も気になってたんだよね」

 マリンも同意

 

 

 何者かの悪意を感じる

 

 

 「そんな知恵あんのか?」

 

 「まっさかぁ!!」

 

 数度のブレスの後、漸く突進して

 罠に掛かる。

 

 腹の剥き出しになった所へ

 「せーの!!」

 

 「ドカン!!」

 

 力なくグラビモスが地響きをたてて

 倒れる、

 重そうな体に潰されそうになるが

 

 「やったぁ!!」

 カンナが跳ねる

 「これで上位検定だぁ!!」

 

 「カンナのお蔭で楽に狩れたよ!」

 マリンも笑顔、ソロの苦労に比べたら…

 

 「これでリオス夫婦やれば上位だね」

 クロフが皆に言うが……

 

 「あぁ……そうだな」

 

 イシズキが暗い……なんで?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お疲れ様でした」

 相変わらず表情が分からない、

 そもそも普通の人間に比べて美人の

 竜人が何で化粧?

 

 「これで上位検定受けられますよね?」

 

 「もちろんです、

 ユクモ村長の権限で許可します」

 いつもののんびりした口調ではなく、

 きちんとした物言いで、

 丁寧に会釈され思わず姿勢を正す。

 

 

 

 しかしコノハが申し訳なさそうに

 「ですが今リオスがいないんですよ」

 不思議な帽子がうつ向く。

 

 どうなってんだろこの帽子

 

 

 「えーっ!こういう時ってどうすんのぉ?!」

 

 「ドンドルマや周辺のギルドに連絡

 します、数日中には返事が来るでしょう

 から、それまで逗留なさって下さい」

 

 温泉(ギルド)に手を向ける

 

 うん、温泉って好きかも、

 ジャンボ村にあったら…いいなぁ、

 人が集まる何かがあれば……観光に

 ……ジャングル……

 

 

 

 「ドンドルマだったらいいな!」

 カンナはなぜかドンドルマで

 上位になりたいらしい

 

 「なんでドンドルマなの?」

 クロフには全然分からない

 

 「あったり前じゃん!!」

 前を歩くカンナは後ろ向きに歩き出す

 「四大英雄に認められた事に

 なるんだよ!」

 ニカッと笑う、嬉しくてしょうがない

 

 「そういうモノ?」

 どこで上位になっても同じじゃ?

 

 「分かんないかなぁ、ハクが付くじゃん」

 指を立てる、師匠を思い出す

 

 

 

 「…………」

 

 「カンナ、ハクって何?」

 マリンが少し笑いながら聞く

 

 「は、ハクはハクよ!」

 プイッと顔を逸らす、

 聞いたばかりの言葉を雰囲気だけで

 使いたい年頃、

 やっぱり意味は分かってない

 

 現代で言えばブランド物の名前だけで

 欲しがるタイプかもしれない

 

 

 「何にしろ、クエストがある地域に

 行かなきゃ上位になれねぇぜ?」

 

 「連絡待っててもヒマだから

 素材集めようよ!」

 

 カンナから採取の提案が出るとは

 「大分減ったしね」

 

 

 

 上位になったら……どうするべきだ?

 

 

 気のせいかも知れないけど……

 

 

 皆の気持ちがバラバラになって

 来てるような……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後

 

 「ガラガラガラ……」

 ガーグァの荷車が疾走する、

 行商人達は迷惑そうに避けていく

 

 ドンドルマの門に到着、車輪を軋ませ

 急停止する……と

 

 

 

 「きぼぢわるい!」

 カンナは口を抑えて降りる

 

 「お尻いたい……」

 マリンが腰の辺りを擦りながら

 

 偶然出会ったのは幸いだったが

 揺れは大きいし小石で跳ねる、

 しかもこの大きな地鶏は

 減速を知らない

 

 でもスピードは速い上に坂道も平気で、

 徒歩や竜車で7日の所を2日……

 乗り心地は……

 

 

 

 ネコタク以下か……?

 

 

 

 「いででで」

 四人はヨロヨロ荷車を降りて

 

 「ありがとう……」

 クロフも尻を擦りながら料金を御者の

 アイルーへ渡す

 

 「まいどにゃ!」

 次の客を探しに走り出す

 

 「こんなにツラいもんなの……?」

 カンナは吐きそう

 

 「オメェが急ぎたいって言ったからだろ」

 イシズキも尻を擦る 

 

 

 

 見上げる……と

 

 

 

 「門があんなに!」

 クロフが指差す

 

 「おー!半分くらいか?」

 

 一月振りのドンドルマ、門が大分

 出来てきた

 

 「1ヶ月でこんなに直るんだ……」

 まだ顔が青いカンナ

 

 「人数が多いしね」

 足場を組み、大勢が石を積み上げる

 

 元通りになった鉄扉を抜けギルドへ

 

 

 

 

 

 「あら、お帰りなさい」

 

 クロフはビクッとする

 『お帰り、お兄ちゃん』

 パティが突然頭に浮かぶ、

 固まってしまう

 

 「あら?」

 首を傾げるベッキー

 

 「おい、どうしたクロフ」

 

 「あ、ゴメン…お帰りなさいって……」

 

 「あぁ、いつもはお疲れ様だっけ?」

 マリンが周りを見ながら

 

 「あれぇ?そうだっけ?」

 お帰りなさいも言ってたような

 

 

 

 「ホッホッ、ドンドルマから旅立った

 ハンターには言うんじゃ」

 

 「あれぇ?師匠達はぁ?」

 カンナは見回すが

 

 「任務でなぁ、とっくに行ってしもうた」

 

 あの人達は大陸中を飛び回る、

 1ヶ月も同じ所には居ないだろう、

 俺のやりたいことは……それか?

 

 

 「今日は休んで明日ね?」

 ベッキーはクエストの用紙をヒラヒラ

 させる

 

 「そうだね」

 マリンがカンナに目配せすると

 無言で頷く、

 さすがにカンナも今の体調では……

 

 皆二階の自室へ、

 

 四人は思う、ユクモと比べて……

 

 藁の寝床と豚……どうなのよコレ

 

 そしてこれから……どうなるのか

 

 

 

 

 

 

 

 ………………

 

 

 「何かスグに合流すんぞ!!」

 

 「もう!!なんでよぉ!!」

 閃光玉を投げるカンナ

 

 「今度は逆にしてみる!!」

 リオレイアに肥やし玉をぶつける

 

 「何か思い付いたの?!」

 マリンは墜落したリオレウスに溜め斬り

 

 

 雌のリオレイアは飛んで行った

 

 

 リオレウスに斬り掛かりながら

 「レイアが吠えると飛んで来る

 気がする!」

 

 「ホントかよ?!」

 

 「試してみよう!!」

 歩きながら調合

 

 

 

 

 

 暫く戦うとレウスは飛んで行く

 

 「うん……多分そうだ」

 

 「レイア来なかったねぇ」

 カンナが空を見る

 

 「何だ?予想通りか?」

 

 「吠えるのが合図って言うか

 呼んでる……ような?」

 

 「合流するのが遅くなったかもね」

 マリンも見上げる

 

 「アイテムの確認しとこうよ」

 カンナに促され数の確認

 

 

 

 

 この検定の意図が分かって来た

 

 複数クエストというだけではなく、

 制限時間内に効率良く

 道具の数にも気を使い、

 移動もある程度予測しながら戦う、

 

 地形、調合、ハンターの移動速度、

 もちろんペイントの使用まで、

 総合的な技術を試されている。

 

 攻撃、防御なんて基本中の基本、

 今までのクエストの経験値がないと

 攻略は難しい

 

 

 「ペイントって複数あっても

 分かるもんだね」

 マリンが鼻をヒクつかせる

 

 「今は離れてるしレウスは10番だね」

 クロフはフルフルの大剣を研ぐ

 

 

 

 

 

 

 

 

 10番でレウスと戦う

 

 「閃光は使いきるつもりで!!」

 尻尾に叩きつける

 

 「こっちだけでも倒しちゃえば!!」

 足に溜め斬り、倒れてもがく

 

 「楽勝だぜ!!」

 尻尾に溜め斬り、切れた!

 

 「ここだぁ!!」

 カンナは閃光を投げる、いつの間にか

 気付いた、

 尻尾を切ったら飛び上がり、必ず

 こっちを向いている

 

 「おらぁあああ!!」

 「せーの!!」

 

 

 リオレウスが倒れる

 

 「1匹相手なら余裕だな!」

 

 「あの訓練に比べたら凄い楽よね」

 ハンターナイフで戦ったアレだ

 

 「解毒薬調合するよ!」

 いつの間にか調合はカンナが

 主導するようになった

 

 「ペイントは各自持って!見つけたら

 最優先で!」

 

 「「「了解!」」」

 

 

 

 

 

 走りながらマリンは思う

 

 誰も死なせない、死ぬ気もしない

 

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 

 

 「はい、上位検定終了!!」

 ダァン!!とスタンプを押すベッキー

 

 「ホッホッ、では…………」

 ギルドマスターは咳払いを一つして

 

 「ドンドルマの名において、この四人を

 上位と認める!」

 

 「それじゃ新しいギルドカードに

 するからね」

 

 ギルドカードを預ける

 

 

 テーブルにつき飲み始めるが……

 

 「なんか実感湧かねぇな」

 自分でも不思議な位落ち着いてる、

 コレといった感想が無い

 

 「こんな感じなのか……」

 マリンも実感がない、

 ドキドキもワクワクも無い、

 あんなに上位になりたかったのに。

 

 「なんかさ、皆がお祝いしてくれるかと

 思ってた」

 それは無いだろう

 

 「とにかくこれで目標は……」

 

 

 「ホッホックロフよ、書士隊への推薦は

 どうするんじゃ?」

 ギルドマスターが来てくれた

 

 「それは…待ってください」

 うつむく

 

 「ギルドマスター、今クロフは迷って…」

 イシズキが言う

 

 「ホッホッそうか、ゆっくり決めると良い

 若いんじゃしなぁ」

 

 

 「上位になったのに暗いのぉ?」

 ロクスが同じテーブルに来る

 

 「なんか実感がねぇんです」

 

 「そりゃそうだろうの」

 当然という顔

 

 「なんで……ですか?」

 カンナも暗い

 

 「お前達はの、やっとの思いで攻略

 してないからのぉ」

 

 やっと?

 

 「あー、そりゃそうだ、クロフは準備を

 大事にするし」

 

 「事前に情報も集めようとするし」

 

 「そっか!両方普通に狩れるし」

 

 「十分過ぎるほど準備するから

 達成感か薄いんだのぉ、

 何しろ賭けにもならなくての」

 ニヤリと笑う

 

 「またやってたんですか」

 クロフが呆れる

 

 「全員成功に賭けてのぉ」

 

 

 最初にレイアを狩った時に比べると…

 達成感は確かに薄い、

 それだけ強くなったのか?

 

 

 

 「それにのぉ、お前達は多分だが…

 目標が検定ではないんだの」

 ニヤリとするロクス

 

 「目標……」

 俺は何処に向かって……

 

 「心のどこかで思ってないかの?

 居るべき場所はココじゃあないと」

 ロクスがテーブルをツツク

 

 「ホッホッ、デカくなったもんじゃ」

 ギルドマスターも笑う

 

 四人は意味が分からないが……

 

 「旅立つ時なのかも知れんのぉ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、墓場

 

 「いつも早いね」

 マリンが花を持ってくる

 

 「暫く会えねぇからな」

 振り返る、いつもの早朝の風景

 

 「………………」

 「………………」

 

 「話してもいいんじゃねぇか?」

 

 「……うん、上位になれたし……」

 

 「怖えェよな……けどな?」

 イシズキは立ち上がり向き直る

 「クロフに聞いたらよ、オメェは

 仲間だとよ…何を聞いてもビビらねぇ

 かもしんねぇぜ?」

 

 「分かんないわよ……それは……」

 勇気が……

 

 「俺に先に話さねぇか?」

 

 「……」

 

 「俺は人を死なせた、お前もそうだろ?」

 墓を指差す

 

 「ふぅ……勇気が要るわね」

 

 マリンも墓を見る

 「その通りだけど、あんたとは少し違う」

 

 二人で並んで座り街を見下ろす

 「あんたは新人を利用して

 死なせたんだよね」

 

 「思い出したくもねぇな、クズだったぜ」

 シュウの仲間だった時だ、

 1人で立ち向かう新人を隣のエリア

 から見て笑っていた、

 

 どうしようもないクズ

 

 

 「私は違う、下位を一緒に戦った

 仲間なんだよ」

 顔を両手で覆う

 「私も……クズだったんだよ……」

 

 

 

 「……話せよ……フォロー出切るように

 すっからよ」

 

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 

 

 ギルドマスターへ挨拶して一路

 ジャンボ村へ出発

 

 「何日位掛かんのぉ?」

 

 「来た時は7日で着いたけど?」

 

 「風が良ければだろ?」

 船ってのは基本そうだ

 

 「砂上船と海の船か……海って

 初めてだなぁ」

 マリンは見たこと無いらしい

 

 「クロフだけじゃん、海しってるの」

 

 「あ、そうか」

 カンナは北、マリンは砂漠のはじっこ、

 イシズキは砂漠の真ん中の

 生まれだっけ

 

 

 ドンドルマから南へ丸1日、途中で

 火山の村でナガエに挨拶してから

 小砂漠の村へ、

 

 

 

 そこから砂上船で南に向かい

 更に丸1日、砂漠が終わったら

 徒歩で港街へ

 

 

 

 

 

 港

 

 

 

 「お前スゲェな、乗り物に平気で

 乗れるのな」

 砂漠の生まれなのに砂上船は

 初めてだったイシズキ

 

 「よく1人でドンドルマまで

 来られたわね」

 

 「私も師匠がいたからドンドルマ

 まで行けたのに」

 

 「1人じゃないよ、ゼニスさんって

 人が一緒に……」

 

 「誰だそれ?」

 初耳

 

 

 

 

 あれ?そう言えば誰なんだ?

 「良く知らないかも」

 

 三人が凄い勢いで顔を見る

 

 イシズキが顔を抑えながら

 「くぁーっ、こいつぁよ!」

 

 「ちょっと呆れるわ」

 マリンも何だか渋い顔

 

 「クロフって警戒心とか無いのぉ?」

 人が良いを通り越してバカ?

 

 「え……変だった?」

 

 

 

 「まったく同意です」

 

 「「「「え?」」」」

 

 

 

 四人が一斉に見ると

 ギルドナイトスーツが一礼する

 

 「少しは人を疑って下さい」

 クロフに何かを差し出す

 

 「あれ?!無い!」

 荷物を探るクロフ

 

 「財布、取り返しましたよ」

 目深に被った帽子の下で

 笑顔なのが分かる

 

 「ありがとう、ゼニスさん」

 

 

 

 

 

 

 「「「ギルドナイトぉ?!!!」」」

 



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正直

人との距離を近くするには腹を見せる、
隠し事をしない、嘘をつかない、

カミングアウト


その勇気を持てる人を
私は尊敬する。


 

 「よくこの船が分かったなぁ?」

 ナマズのような髭を弄りながら

 太った船長が笑う

 

 「ゼニスさんに教えて貰いました」

 

 「あのギルドナイトか、縁があるのぉ」

 

 

 「おいクロフ!ギルドナイトに

 知り合いが居るなんて聞いてねぇぞ!」

 ……クロフは何者なんだよ

 

 「私もビックリしたよ!

 以外に顔広いじゃん!」

 裏の世界の人とクロフって、真逆じゃん

 

 

 「あの人は……」

 飛行船から降りて来たこと、

 ラオの調査に来たこと、

 その帰りについでに送って貰った

 事を説明する

 

 

 

 「なんだよ……そういうことか」

 イシズキは安心する、ボーッとしたクロフ

 と暗殺者と言われるギルドナイト、

 違和感しかない

 

 

 

 

 反乱の一件でギルドナイトが何なのか

 クロフは大体理解したが、

 ゼニスが暗殺者?とは思っていないし

 思えない、

 ゼニスは優しいと思っている

 

 

 「なんかさ、精悍って言うかさ、

 カッコいい人よね!!」

 カンナがトーンをアゲて言う

 

 

 

 背は少々低いが浅黒い肌と

 毅然とした物言い、

 帽子を深く被るから、一見カッコいい男

 

 ハインツさんの時といいカンナは

 顔で人を選んでる(男限定)

 

 その淡い期待と興味を打ち砕く

 言葉がある、

 クロフは少し意地悪な気持ちに……

 

 「ねぇクロフ、ゼニスさんの事……」

 

 

 

 

 

 

 「……女の人だよ?」

 クロフはニヤッとする

 

 

 

 

 

 「……え……ええっ?!!」

 鳩が豆鉄砲

 

 

 「だッヒャッヒャッヒャ!!」

 

 「うっさい!!イシズキ!!」

 カンナの顔が真っ赤

 

 船員達も笑う

 

 「ヌシに仲間が出来たか、嬢ちゃんも

 喜ぶだろうのぉ」

 ニコニコする船長

 

 「パティ元気にしてますか?」

 

 「元気だがの、手紙1つ寄越さんから

 怒っとった」

 

 「手紙っ?……!」

 今度はクロフが鳩豆

 

 「まさかオメェ手紙書いて無ェとか……」

 

 「半年以上もぉ?!彼女にぃ?!」

 

 「あれ……なんか……ダメ?」

 非難の目線が集まる

 

 「よし、伝書鳩を飛ばすかの」

 

 

 「船長、あのギルドナイトは

 何してたんだ?」

 イシズキがタメ口で

 

 顎を擦りながら

 「なんでもなぁ、変わった荷を

 運ばなかったか聞かれたのぉ」

 

 「変わった?」

 

 「中身が分からねぇモンとかだよ」

 若い船員

 

 「あの港の船全部に聞いて

 回ってたようだの」

 

 大小様々な船があったが……

 

 

 

 

 

 

 港町から北東へ陸地に沿って進む船、

 一応客であるクロフ達は基本ヒマ。

 

 「もう1人は船室から出て来んのぉ」

 

 「マリンも外出れば良いのに」

 

 海は快晴、気持ちの良い風

 

 「いいじゃねぇか、3日は海の上だしな」

 

 クロフは揺れる中小さい紙と格闘する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クロフなら平然と受け止めてくれる、

 ……確証は無いけどそんな気がする

 

 イシズキはもう話したから大丈夫、

 

 問題はカンナ……嫌われるだろう

 

 何て言われる……怖い……

 もしもこれでパーティーがバラけたら、

 私はこれから……

 

 暗い船室、自問自答を続けるマリン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜、月明かりと凪いだ海、

 小さな蝋燭の光の中四人は集まる

 船室でマリンが話始める

 

 「何?話って?」

 カンナは何も察していない

 

 「まぁ、聴いてやろうぜ」

 出来るだけフォローする覚悟の

 イシズキ

 

 「……?」

 ボーッと聞いているクロフ

 

 「私が上位になりたかった理由だよ、

 聞いてもらわないとさ、

 後で知ったら裏切られたと思うかも

 知れないし」

 

 「裏切り?」

 カンナの眉間に皺が出来る

 

 「仲間には正直でありてぇ、

 嘘は言いたくねぇって事だ」

 イシズキが真剣に話す

 

 「難しい話だね」

 頭がついていかないクロフ

 

 

 

 

 

 2年数ヶ月前のドンドルマ

 1人の少女……とは言っても

 恵まれた体格の(男なら)ハンターが

 ギルドに入る

 

 

 いつものように、そのガタイに目を

 着けられた……そう思ったが……

 

 

 「新人か?」

 クック装備の男、大剣を担ぐ

 

 「ちょうど良かった!」

 ランポス装備で片手剣の男

 

 「あ、今来たばかりで……」

 

 「私らの仲間にならない?」

 弓を持つ少女

 

 ドンドルマに来てすぐにパーティーを

 組めた、しかし……

 

 マリンの役目は荷物持ちだった

 

 

 

 

 「荷物持ちぃ?!」

 カンナは声を上げる、

 想像が出来ない、真っ先に大剣で

 斬り込むマリンのイメージからすると

 余りにも不自然。

 

 「そう、戦うのもシロウトだし

 役立たずだったよ」

 

 

 でもパーティーはそれなりに強くて

 順調にクエストをこなして行った、

 私も必死で付いていった、

 

 ……付いていってるつもりだった。

 

 

 「つもり?」

 クロフが不思議そうに

 

 「皆優しくてさ、色々やってくれるの、

 調合とか、だから私は覚えなかった」

 

 

 ほとんどシロウトのままで上位検定

 まで進むマリン、楽観していた。 

 

 

 

 

 

 「……言いたい事は分かったわ、

 ……地雷だったんだ……」

 カンナは怒ってる……のか?

 

 「地雷?!」

 マリンが?想像出来ない

 

 「たまに居るんだ……このタイプは」

 腕を組み俯くイシズキ

 「周りが優しすぎるとよ、全然

 強くならねぇんだよ」

 

 

 そう、女で愛嬌振り撒くタイプに多い

 らしいけど、自分がソレになっていた。

 何の実力も無い、知識も無い、

 そんなハンターとは名ばかりの

 シロウトが上位検定まで来てしまった。

 

 

 「信じられない」

 クロフは首をかしげる、

 シロウトのマリンが想像できない

 

 「最悪なヤツはG級まで進むらしい

 からな……本当に怖えぇよ……

 自分がG級の腕になってると

 思い込んでるヤツまでいるからなぁ」

 

 

 

 

 「……私には分かんないわ!」

 ソロで戦う事が強さ、誇りにしてきた、

 自慢できた

 「師匠は1人で狩れて一人前って

 言ってたよ!」

 

 「あ、それ俺も言われた」

 クックをソロで

 

 「お前らの言ってることは正しいぜ?

 だけどよ、俺らは師匠が居なかった、

 お前らが当然と思う事さえ

 知らなかったんだ」

 イシズキはフォローする

 

 

 

 

 リーダーやってた彼は勢いがあって、

 「大丈夫!俺にまかせろ!」が口癖で……

 私もソレが頼れる、信頼出来ると

 思ってた……

 カッコいいとさえ……

 

 

 「無謀で無計画ってことよね」

 言い方がキツイ、初めて会った時の

 口調に戻ってきた

 

 「カンナ、オメェだって調合とか

 人任せだったろ?」

 

 「なによ!!」

 自覚はしてるが感情が邪魔する

 

 

 カンナの言う通りだよ、若さと勢い、

 今思えばリスクだらけで無茶な狩り

 ばかりだった……

 堅実とは程遠くてさ……

 回復系のアイテムだけは目一杯

 私が持たされたけど、

 補助アイテムはほとんど無かった

 

 

 「そんなの……ちょっと怖い……

 持てるだけ持って……」

 クロフは呟くように

 

 「臆病だからこそ備えてっからな」

 クロフを見て笑う

 

 「……」

 カンナは黙る、自分もいい加減だった

 

 

 初めてクロフと組んだ時は驚いたよ、

 光虫と素材玉まで全部持って来た

 からね、

 堅実だった。

 

 

 マリンは溜め息を1つする

 

 

 そして上位検定まで来てしまった、

 何とか戦っていたけどね、分断する

 知恵も無かった、

 肥やし玉さえ持って無かった。

 

 期限の時間が迫っていた、そんな時だ、

 

 

 

 

 

 

 「大丈夫、俺にまかせろ!」

 大剣のリーダー

 

 「ここまでかなりダメージ与えたからな

 もう少しだろ?」

 片手剣を研ぐ

 

 「時間掛かっちゃったけど行けるわよね」

 矢の数を確認

 

 「あの、アイテムの数も少ないし……」

 マリンはオロオロする……

 

 言えない……リタイア……

 

 

 「大丈夫だ、いけるって!

 両方弱ってんだし!」

 

 「マリン、私達に任せとけばいいのよ」

 

 「よし!!行くぞ!!」

 

 場所は森と丘の巣穴、リオス夫婦と

 戦った

 

 

 

 「あんな狭いとこで?!」

 クロフが珍しく声を上げる

 自分なら絶対に同時に相手にしない、

 壁際に追い詰められやすいため

 一頭でも慎重になる。

 

 カンナは既に顔を背け壁を見ている

 

 

 

 閃光玉さえ無い、残りの回復薬も

 数個しかない中で乱戦になった、

 私は攻撃を食らわないように逃げ回る

 だけで精一杯だった

 

 

 

 

 「それで……」

 最悪を予測するクロフ、ネコタクは……

 間に合わなかった……のか?

 

 

 うつむくマリン

 「食いちぎられる瞬間にさ……

 目が合ったんだよ……口がさ……

 助けてくれって……」

 

 両手で顔を覆う

  「逃げ出すしか無かったぁ…あああぁ

 あうぁぁああ…… !!」

 

 

 「最っ低ぇっ!!!!」

 

 「カンナぁっ!!」

 

 にらみ会うカンナとイシズキ

 

 

 

 「リタイアするべぎだ……この一言が

 いえながっだ……

 何の実力も…うっぐ…

 無いために止められ無がっだぁ!……」

 泣きながら話すマリン

 

 

 

 

 

 

 ………………

 

 

 長い沈黙

 

 ようやくマリンは少し落ち着く

 

 「上位になれたらさ……あの頃の

 自分と……決別出来る気がして」

 涙を流しながら言うマリン

 

 上位に拘り続けた理由

 

 

 

 「なぁクロフ、俺だってクズだった……

 けどよ、お前は受け入れてくれたよな?」

 

 「受け入れた?」

 分かって無いクロフ

 

 「パーティーから追い出さなかったろ?」

 

 いまいち理解出来ない、

 その必要は感じられない

 

 

 涙を擦りながら

 「もしも受け入れて貰えないなら……

 ジャンボ村に着いたら私は引き返す、

 ……ドンドルマにも行かない、

 故郷に行くよ……」

 

 

 「仲間見捨てたんだね!見損なった!」

 乱暴にドアを開け外に出ていく

 

 「カンナぁっ!!」

 イシズキは止めようとするが

 

 「いいんだ……イシズキ……」

 小さくなるマリン

 

 

 

 

 「クロフ……お前どうする……?」

 

 クロフはポカンとしている、二人は

 違和感を持つ

 

 

 話聞いてたよな?

 

 

 

 「な、なぁクロフ、これからどおしてぇ?」

 

 

 

 

 ……分かんない、分かんないけど

 

 

 

 

 

 

 「このパーティーで笑いたい」

 クロフは平然と言う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ポカーンとする二人

 

 

 

 「プッ!!」

 マリンが吹き出す

 

 「あー……」

 イシズキは顔を抑え首を振る

 

 そうだよ、コイツはそういうヤツだ、

 嘘言わねぇし調子にも乗らねぇ、

 駆け引きなんて知りもしねぇ

 

 バカなんだ、

 人の気持ちとか感情に疎い

 子供みてぇなヤツなんだ、

 素直に気持ち言いやがった。

 

 

 だからこそ救われた

 

 

 

 

 

 ……俺達は今コイツに救われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1人で夜の海を眺めるカンナ、

 明かりがないため星がよく見える

 

 村では当たり前だったけど、

 ドンドルマに来てからは見てなかった

 

 1人でこうして考えるのも久しぶり

 

 

 「外は風邪ひくぞ?」

 船長が酒瓶片手に甲板へ来た

 

 「あ……」

 

 「壁が薄くてなぁ、聞こえてしまっての」

 太った体を揺らしカンナの傍らに座る

 

 「よっこいしょ…裏切られたと思うか?」

 

 「そうじゃないような……」

 気持ちの整理が出来ない、

 色々な感情が沸いてくる

 

 「信頼しとるからこそ話したんじゃろ

 ……たとえ嫌われても

 知って欲しかったんだのぉ」

 

 「…………」

 

 

 「ワシも元はハンターだからなぁ、

 知っとるよ……あのタイプは珍しい」

 

 「珍しい……」

 

 「見た目が良い女でハンターだとな、

 何かと周りの男が世話を焼きたがって

 なぁ、半人前が出来上がる」

 美人ではないがの、と小声で言い

 グビッと酒を飲む

 

 「半人前……」

 

 「半人前で逃げ出した、そんなヤツと

 組んでいたら自分が見捨てられる…

 そう思うかの?」

 

 「…………」

 

 「思わんじゃろ?」

 

 「分かんないわよ!!

 見捨てたのは事実でしょ!!」

 

 「想像してみるんじゃなぁ、過去の話と

 今の自分達を比べてなぁ」

 

 「比べる……?」

 

 

 

 「さぁて、冷えてきた、寝るとする」

 船長は立ち上がり中に入る

 

 

 

 

 森と丘の巣穴、私達で2頭同時……

 

 ピンチになったらマリンは……

 

 逃げる……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 絶対にそれは無い!!

 

 なぜか分からないけど確信できる

 

 それはなぜ?

 

 今までの行動?態度?言葉?

 

 

 

 「分かんないよ……」

 

 頭を抱える

 

 「聞かなきゃ良かった……」

 

 

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 

 

 ジャンボ村まで数時間

 

 「クロフ、このままじゃパーティーが

 バラけるぜ?」

 

 「それは……ヤダなぁ……」

 

 「何かイイ手はねェか?」

 俺には気の利いた事なんか言えねぇ、

 クロフに頼る他ねぇ。

 

 

 

 師匠が言った

 『気持ちを伝えたいなら言葉で話す、

 これしかないんだ』

 気持ち……今の……俺の気持ち?

 

 

 

 

 

 

 カンナは1人でボーッと海を見ている、

 いつも騒がしい雰囲気を纏っている

 のに

 

 「あの……」

 

 「何よ?」

 

 「マリンの事、嫌いになったの?」

 

 「別に、裏切るヤツだなんて

 思わなかっただけよ」

 クロフの顔さえ見ない

 

 クロフは少し考え

 「マリンは俺達は裏切ってないよね?」

 

 「そう……だけどさ……」

 うつむく

 

 「俺はマリンに居て欲しいし……

 笑いたい」

 

 「はぁ?」

 クロフに向き直る

 

 

 

 「またみんなで大笑いしたい」

 

 「ちょっと、何言ってんの?」

 子供かコイツは

 

 「カンナはマリンをどうしたいの?」

 

 「私は……」

 どうしたいんだ?自分の気持ちが

 分からない

 

 マリンは過去に逃げ出した、

 実力が無くて死ぬのは目に見えてた。

 

 今は実力はあるし…頼れる。

 

 話してくれたのはなぜ?

 

 『正直でありてぇ』

 イシズキが言った……正直……

 正直にマリンは話した、

 コイツも正直だ、嘘が言えない、

 

 私は……

 

 

 正直……

 

 

 正直……

 

 

 正直……な気持ち

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「マリン!!」

 乱暴に客室の部屋を開けるカンナ

 

 「え?……あ……」

 暗い船室

 

 「出てきなさいよ!!」

 

 「許して……?」

 

 「もう何かゴチャゴチャ嫌だしクロフ

 に問い詰められるのもイヤ!!」

 

 「え?」

 泣き腫らした顔のマリン

 

 「一緒にクロフの彼女見るよ!!」

 



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ケルビとモス

 

 陸地から歓声が聞こえる

 

 「何よコレ?」

 カンナは眼を細くして村を見る、

 大勢の人がこっちを見ている

 

 「スゲェ…歓迎されてんのか?」

 

 全員甲板から村を見る、

 村人が手を振っているのが見える

 

 「でもクロフーって言ってるわよ?」

 泣き腫らした顔を何とか洗い、

 少しは落ち着いたマリン

 

 「クロフ」「お帰り」と聞こえる、

 クロフが一番前に出ると更に歓声が

 大きくなる

 

 (おいおい、クロフすげぇじゃねぇか!)

 (まるで英雄ね)

 (期待されてんのぉ?!)

 

 

 

 「ゴゴ……ン」

 「タンッ!!」

 接岸した途端、一番岸の縁に立つ

 少女が飛び込んでくる!!

 

 

 ギルドスタッフの格好の美少女が、

 スカートをはためかせ

 クロフに抱き付く

 

 「お帰り!お兄ちゃん!」

 

 「ひゅーう!!」

 船乗り達、村人から

 歓声と冷やかしの声

 

 

 

 

 

 

 

 

 (………………なん……だと?)

 三人は呆然とする

 

 

 

 

 三人が予想していたクロフの彼女…

 

 田舎の田舎らしい垢抜けない少女

 冴えないどこにでもいる少女

 田舎っぽい田舎臭い少女

 

 

 ……のはず……が……ナンダコレ?

 

 

 

 目の前にある光景が信じられない

 

 明らかに『可愛い』から『美人』に

 なるだろう少女がクロフに

 抱き付いている、

 気のせいか背後に花まで見える

 

 (え?何だコレ?公認かよ?)

 村人の雰囲気は祝福ムード

 

 (ドンドルマにもこんな綺麗な娘、

 なかなか居ないわよ?)

 

 (ムカつく!!)

 

 

 抱き付かれ、耳まで赤いクロフに

 イシズキが寄る、

 

 呆然とした顔で

 

 

 

 「なぁ……

 

 クロフ……

 

 ……なぜだ?

 

 ……殴りてぇ

 

 今のうちにお前を殴っておきてぇ……」

 

 イシズキは敗北感で一杯になる、が、

 船員達に肩を叩かれ

 無言で頷き合う……

 何か共感したようで、連帯感が

 生まれたようだ。

 

 

 パティは恥ずかしそうに一旦離れると

 イシズキ達に向き直り、丁寧な仕草で

 

 「いつもお世話になってます」

 頭を下げる……二人とも顔が赤い

 

 (性格も……良さそう……)

 

 (ナニよコレ!!すっごい腹立つ!!)

 

 

 

 

 ………………

 

 クロフは村人達と話している、

 恐らく村人全員だろう、

 腕にはパティがしがみついている

 

 賑やかな村の中心を横目に

 ギルドのテーブルに三人で座ると、

 小さくなり小声でコソコソ話す

 

 「なぁ、一つ気になってんだがよ?」

 テーブルに伏せて話す

 

 「お兄ちゃんって……言ったわよね?」

 

 「まさか兄妹で…って事ぉ?!」

 

 クロフ達の方をチラッと見る、村人に

 囲まれ話している……

 どう見ても妹ではない、似てないし妹の

 話も聞いたことがない

 

 彼女で間違いないようだが……

 

 「田舎って兄妹で結婚とかあんのか?」

 

 「地方の風習で公認……とか?」

 

 「まっさかぁ!信じらんない!!」

 

 

 「あの二人は血縁ではないぞ?」

 船長が来て席に着く 

 

 

 「……え?あー?……って事は?」

 しきりに首を傾げるイシズキ

 

 「彼女に…お兄ちゃんって呼ばせてる

 ……って事……?」

 マリンも首を傾げる

 

 「やだぁ、クロフってそんな趣味……」

 

 

 

 三人はドン引き

 

 「いや…クロフにだって性癖の一つ位

 あんだろ……」

 そんな性癖は聞いたことがないが……

 

 「ちょっと私は引くわ……その趣味…」

 そんな世界があるのだろうか……

 

 「気持ち悪ぅ……クロフ……」

 

 

 「余計に混乱させたかの?」

 髭を弄り笑う

 

 

 

 「ヤ!!早かったね!」

 ニコニコした村長が帰って来た

 

 「村長、ただいま」

 ただいまが何も考えなくても言える

 

 「ヤー、お帰り!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕方、 昼から騒いでいた喧騒が過ぎ

 落ち着きを取り戻したジャンボ村

 

 「こんな美人とはよぉ!」

 「俺達だってなぁ……」

 「皆パティちゃん狙ってたんだぜぇ?」

 「パティちゃんがクロフ一筋でよぉ……」

 

 「なんで…何でクロフに……」

 飲みながら涙を浮かべるイシズキと

 船乗り達、肩を叩き合う

 すっかり仲良くなったようだ

 

 照れてモジモジするクロフとパティ

 

 「出会いは何なのよ?!」

 聞けばカンナと同じ位の歳、気になる

 

 「私も気になるわ」

 何でお兄ちゃん?何でこんな可愛い娘?

 

 「それよ!それ!クロフにナンパなんて

 デキネェよな!」

 納得出来ないイシズキ

 

 

 「ヤー……話すべきか……な?」

 笑い顔で真意は分からない村長、

 クロフとパティに目線を送ると

 

 「話しても良いと思います、お兄ちゃん

 の命を預けている方々ですし」

 パティは静かに話す

 

 クロフも真剣な顔で頷く

 「俺……話したいけど……上手く

 話せないし……」

 

 「ヤー……余り大きな声じゃ言えない

 事だし……」

 

 

 普通の内容では無いことを察する

 マリン

 「私達は大丈夫、何を聞いても多分…」

 マリンが真剣な顔で村長に言う

 

 

 「ヤハハ……じゃあ…オイラの家へ」

 

 村長の小屋へ入る

 

 

 

 

 …………………

 

 

 村長の小屋

 ランプを点けて話始める

 

 丸い大きなテーブルの周りに

 丸太の椅子、

 影が壁に伸びる

 

 村長は語る、戦乱の起こり、

 この村の出来た経緯、

 クロフの生い立ち、

 村人の素性、

 そしてクロフとパティの子供時代

 

 

 

 「戦災孤児……」

 カンナは初めて聞いた

 

 クロフにそんな深刻な過去が……

 

 パティを育てた命の恩人……

 

 普通に恋をした訳じゃない、必死で

 二人で生き抜いた……

 いや、クロフが親代わりになって

 食べさせていた、

 この二人は普通じゃない繋がりがある、

 恋人なんて簡単なモンじゃないんだ…

 

 

 でも……なんかムカつく!!

 

 

 

 「重てぇな、家族の死体の前で……」

 クロフの死生観の違和感が理解出来た

 

 死に鈍感なんじゃない、戦乱で

 殺し合いが当然だった場所で育った

 

 死に必要以上に触れてきたんだ、

 だから俺を簡単に受け入れた

 

 だから死に鈍く見えるのに安全策

 と準備を大事にする。

 

 

 

 「理解できたわ……あの時……」

 以前に小さな違和感があった

 

 セドリックの遺体の兜を躊躇なく

 持ち上げた、他人の死体をだ、

 普通なら出来ない事だ

 

 過去に人を死なせていても

 簡単に受け入れるはずだ、

 この村の人は戦乱の生き残り、

 

 簡単に言えば元は戦士、

 人殺しの村なんだ……養父母も……

 

 

 

 

 三人の顔には拒絶の反応は

 見られない、村長はヤハハと笑うと

 

 「クロフは子供の時に心の成長が

 止まってたからね、たまにオカシナ事

 言うかもしれないけど

 許してやって貰えるかな?」

 

 僅か数ヶ月前、アルトに出会うまでは、

 人前で喋れず、感情を出さなかった

 事を説明する

 

 

 「……そうか、嘘も打算も無ェはずだ」

 

 「ヤ?嘘?」

 

 「小さい嘘も言わねぇんだよ」

 

 ラオの説明をした時、普通ならもっと

 信じて貰いやすい様に言うだろう、

 人によっては脚色もするだろうし、

 大袈裟にもする

 

 それをただ素直な感想を言った、

 ……子供みたいじゃない、

 子供なんだ

 

 イシズキは顎でクロフを指して

 「コイツは素直過ぎるんだ、

 悪意も駆け引きも無ェ」

 

 腹の中で別の事なんか考えない、

 ある意味究極の正直者

 

 

 

 「思った事を

 素直に言ってるだけなんだね……」

 

 つまり本心から私を受け入れてくれた、

 私を許してる、許してくれた。

 

 深く考えないところが良いところかも

 しれない

 

 「ヤハハ……そうなんだよ、でもアルト

 さんのお陰でハンターを通じて色々

 成長したんだよ」

 

 

 

 

 

 

 「……」

 カンナは一人で考え込む

 「私先に休んで良い?」

 

 

 

 「休む準備出来てますよ、手続きは

 明日にしましょうか」

 パティはニコニコ丁寧に対応する

 

 「ありがとう、クロフのこと、明日もっと

 聞かせてね?」

 カンナもニコニコ笑う

 

 ドアを抜けると

 

 「カンナさんって歳はいくつですか?」

 

 「14、あ、15になるかも」

 

 二人は出て行き小屋の方に歩く

 

 

 「カンナ……疲れたのかな?」

 クロフが見送る

 

 

 

 

 イシズキとマリンは違和感を持つ、

 素早く目配せすると

 

 「クロフは道具屋に泊まるのか?」

 突然イシズキが話題を変える

 

 「もう帰って両親と話しなよ、久しぶり

 なんだし」

 マリンも同調

 

 「ヤ、そうだね」

 

 三人は勧めてクロフを帰らせると

 周囲を警戒しながら話す

 

 「気付いた……な?」

 イシズキの目が笑う

 

 「ヤハハ……あの二人……」

 村長の糸目もニヤニヤ

 

 「いきなり空気が凍ったわよね……」

 マリンはシカメっ面

 

 

 イシズキは溜め息を吐くと

 「カンナはクロフが気に入ってたからな」

 腕組みして上を向く

 

 「何でそう思ったの?私知らなかったよ

 カンナってクロフが好きだったの?」

 不思議そうな顔のマリン

 

 

 

 「マリン、嫌いな男の手に……

 冗談でも触れてぇか?」

 

 

 腕を組み

 「……ないな」

 

 「じゃあ俺なら?」

 

 「んー、それでも少し……抵抗あるかな」

 

 

 「だろぉ?仲間でもそうだろ?

 あいつら二人で手ェ繋いでんの

 見たんだよ」

 

 「あ、私も走って行くの見たかも」

 確か夜にどこかへ……

 

 

 マリンは溜め息を一つ

 「またカンナの機嫌が……」

 

 「悪くなるぜコレ……」

 

 「ヤー……面白くなりそうだ」

 ニヤニヤする村長

 

 「笑い事かよ」

 イシズキも笑う

 

 「一番の張本人が鈍いしねぇ……」

 マリンも

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハンター小屋

 

 ムカつく!!ムカつく!!ムカつくぅぅっ!!

 なんでこんなに気分わるいの?!!

 

 

 同じ歳なのに美人だし!

 背ぇ高いし!(カンナが低い)

 胸あるし!(カンナが無い)

 色白だし!(カンナが……)

 

 マリンの事もモヤモヤするし!

 

 クロフの顔思い出すだけでムカつく!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギルド

 片付けと帳簿を整理するパティ

 

 あの娘……あの空気……

 

 「ビキッ!」

 

 「どうした?パティちゃん」

 船乗り達が心配する、羽ペンが折れた

 

 「なんでもないわ」

 笑顔で対応するが……

 

 まさか……お兄ちゃんを……

 

 不穏な気配をカンナから

 感じ取っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝

 

 早起きして道具屋に来たカンナ

 

 ムカつくけどクロフの顔が見たい……

 何故かパティより早く会いたい……

 なぜだ?なんでこんなにイライラする?

 

 

 「お早うございまーす」

 

 「おぉ!仲間のカンナちゃんだったなぁ」

 「いらっしゃい!」

 ヨシとメヒコが笑顔で迎える

 

 「ちょうど良かった、

 今から朝ごはんだよ」

 クロフに手招きされ店の奥へ、

 

 「お邪魔しまーす」

 

 カンナの心の中に、なぜか『勝った』

 という感情が生まれる

 

 

 ……入った瞬間!

 

 

 

 

 「あ、お早うございます」

 パティが料理を持って笑顔で迎える

 

 「今朝はパティも食材持って

 来てくれたし賑やかだな!」

 機嫌が良いヨシ

 

 

 

 

 (やられたぁっ!!)

 カンナは心の中で叫ぶ

 

 (やっぱり!!)

 予想が的中したパティ

 

 

 

 

 

 

 

 ギルド

 

 「早起きする習慣があると

 起きちまうな」

 

 「やっぱりいつもの時間にね」

 

 「ヤハハ、もっと寝てて良いのに」

 

 「朝一で仲間の墓参りが

 日課なんだ俺達」

 

 「あ、クロフ……」

 マリンが気付く

 

 

 

 「お早う」

 まだ距離の遠い所を歩きながら

 クロフが挨拶して手を振る

 

 「おはよ……っっ!」

 三人は言葉に詰まる、

 クロフの後ろを笑顔で歩く二人……

 

 この距離でも分かる、ギスギスと

 軋む空気

 

 村長、イシズキ、マリンは並んで笑顔、

 だが小声で

 「クロフは気付いてねぇのかよアレ?」

 

 「笑顔が余計に怖いわ……」

 

 「ヤー……にぶいなぁ……」

 

 クロフの後を付いて歩く二人だが、

 明らかに纏っているオーラが黒い

 

 「村長、笑い事で良いのかの」

 船長も来て言うが、顔はやっぱり

 ニヤケている

 

 「ヤハハ……レイアが2頭……」

 

 「いやぁ……ケルビとモスの喧嘩だぜ」

 イシズキが小声で笑う

 

 「シッ!!聞こえるわよ!!」

 どっちがモスかで喧嘩になるわ!

 

 「ヤハハ……イシズキ君とマリンさん」

 

 「「?」」

 

 「何でもいいからクエスト

 行ってもらえるかな?とりあえず

 引き離そう」

 苦笑い

 

 溜め息を吐きながら

 「「了解」」

 こちらも苦笑い

 



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間違いは間違い

 

 「ここでラオと鉢合わせしたのか」

  

 密林の3番、四人で湖面を眺める

 

 「そう、あっちから最初に角が……

 水面からザバァって……」

 状況を説明するクロフ

 

 「動けなかったのが今は解るわ」

 マリンは苦笑い、あんなバケモノ……

 

 クエストはクック、今の四人には

 余裕で観光気分

 

 若い木が生えて来ているが、まだまだ

 クロフの背丈程にも届かない、

 元のジャングルに戻るには

 数年掛かるだろう

 

 「それで?原点に帰った訳だけど……

 どう?何か感じる?」

 マリンがクロフの顔を覗き込む

 

 「良く分かんないけど……

 なんか小さい」

 

 「村が?」

 

 「何か……こう……全部っていうか」

 手を広げて表現しようとするが、

 全然できない

 

 「自分がデカくなったんじゃねぇの?」

 

 「よく言うわよね、故郷が小さく

 見えるって」

 

 

 ヤオザミがノソノソ歩いている、

 蜂の巣もないし虫も居ない

 

 「ここも小さい頃からハチミツ採ったり

 してたんだけど、何だか……小さい」

 見回す、以前のジャングルに比べて、

 空に木もないしスカスカなエリア

 

 「あぁ、パティに食わせるためか」

 

 「良く面倒見たわね、親子以上かも」

 

 イシズキとマリンは理解する、

 クロフは子供の時代が辛かった分、

 人には優しいようだ

 

 パティを優先するあまり、自分を出さず

 押し殺す内に感情が無くなった、

 いや、感情の出し方が分からなくなった

 

 そして食べ物を貰うために

 人の顔色は見てきた、

 人を怖がってきた

 

 パティにとって命の恩人

 

 

 

 

 

 カンナは全く喋らないが、

 ようやく口を開く

 

 「ねぇマリン、ちょっと二人で話したい

 んだけど……」

 

 「うん……分かったわ」

 

 

 クックの捜索は二人に任せて

 キャンプへ

 

 

 

 

 

 

 水辺で納品ボックスに寄りかかり座る

 

 「……で?話って?」

 船の件で私に何か……

 

 納得してないんだろう……

 

 それともパティへの文句か?

 

 

 

 

 「クロフって……どう思う?」

 カンナは体育座りで顔を伏せる、

 どうやら照れている

 

 

 

 (うわぁ!…どうしよ!それ聞く?!私は

 年上でも恋愛経験無いんだよ??)

 

 冷や汗を出しながら

 「た…頼れるし……知識あるし……

 だ……だけど

 初対面だと頼りないか…な?」

 

 

 「あのさ……カッコいいって思わない?」

 

 

 

 (待ってよ!見た目は大人しい男だよ?

 特にカッコいいとは思わないよ?

 私に相談するかソレ?!)

 「どっどど……どの辺が?」

 

 

 「だってさ、四英雄の弟子だし、

 上位になったのも早い方だし……

 それにさ、ハンターとして強いし」

 

 

 

 あんただって四英雄の弟子でしょ?!

 

 そういうのは付随する条件であって

 本質ではないと思うんだけど……

 

 完全に恋だわ……

 悪い所が見えてない……

 「ね、ねぇ?カンナはさ、クロフの性格とか

 好きになったんじゃないの?」

 

 

 「分かんないの!理由が無いの!

 気が付いたら好きになっちゃた!」

 ブンブン首を振る、ツインテールが

 空を切る

 

 

 

 「私がクロフと組んでるのはね、

 堅実なところ……それに……」

 空を向く

 「この前私を受け入れてくれた事も…

 カッコいいとは思わないけど

 尊敬出来る人かな」

 

 

 ……そうか……

 

 

 

 「何で好きになっちゃたのかな……」

 耳まで赤い

 

 

 パティが現れたせいでカンナは

 自分の気持ちに気付いたんだ、

 今まで解らなかったんだ……

 

 私は片思いはしたことあるけど

 どうしたら……

 

 

 

 「あ!ペイントの匂い」

 カンナが顔を上げる……真っ赤

 

 「急いで合流しよう!」

 立ち上がりカンナを急かす

 (助かったぁぁ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 村に帰って来た四人、しかし……

 ドンドルマでレウス狩りと呼ばれた

 カンナだけなぜかボロボロ……

 

 ほとんど避けれなかった

 

 「カンナ、何だか今日は動きが

 オカシかったよ?」

 顔を見るクロフ……

 真っ赤になるカンナ

 

 「らしくねぇぜ?どうした?」

 

 

 二人に質問され、しどろもどろ……

 明らかにいつものカンナではない

 

 マリンがフォローする

 「あー、えーと…気になってる事がね、

 色々あるんだよね」

 

 

 

 

 うつむき顔が真っ赤のカンナ、

 

 動きがオカシイ?

 らしくない?

 

 なんか……

 

 なんか……

 

 

 

 ムカつく!!

 

 

 

 「誰のせいだと思ってんのよ!!!!」

 突然叫び道具屋の方へ走り出すカンナ

 

 

 

 

 

 「どうして怒ってんだろ?」

 クロフは首を傾げる

 

 

 「あー……」

 イシズキがマリンを見ると頷く

 

 

 

 こればっかりはどうしようもない、

 本人達以外は何も出来ない

 

 しかも中心にいるヤツが……

 

 

 「朝御飯の時は機嫌良かったのに…

 パティと楽しそうに話してて」

 

 

 この鈍さ!!

 

 

 

 「ヤハハ……そっちも大変みたいだね」

 いつの間にかマリンの後ろで

 小声で言う村長

 

 「え?『も』って?」

 

 「ヤー…こっちはこっちで……」

 

 

 クロフを道具屋へ行かせてから

 村長は話す

 

 今朝パティがギルドの食材を持ち出して

 しまった為に、船乗りや行商人の

 食事の質が落ちたらしい。

 

 味は普通でも美人のパティが作って

 くれる料理は、海の上ばかりの

 船乗りにはご馳走であり

 楽しみなのだ。

 

 そしてこの交易船はジャンボ村に

 とって大事な現金の取引先でもある、

 大事な客の扱いを雑にすることは、

 いずれ村に損をもたらす。

 

 

 「クロフから注意させられないかな?」

 村長も弱っているようだ

 

 「村長なんだから注意すれば

 いいんじゃねぇの?」

 

 「ヤー……パティは優秀でね、

 オイラの方が注意されっぱなしで……

 こんなことは初めてで……」

 

 「クロフを通じてパティとカンナを……

 こう……注意させる……」

 マリンは考えるが、クロフはマルクに

 さえ怒る事も出来なかった、

 自分の気持ちをそのまま言うだけ

 の子供……

 「出来ないよねぇ……」

 

 

 ギルドで相談していると、船乗り達の

 視線が集まる、不満があるようだ、

 

 クロフが原因であることは確かだ

 

 村のリスクとパーティーのリスク、

 同時に発生した問題……

 

 

 

 解決出来るのは素直で鈍い子供……

 人に意見を言うことは出来るが

 説得なんて……

 しかも恋愛絡み……

 

 

 

 悩んでいるとヨシが道具屋から

 ギルドへ来た、

 なぜかカンナを連れている、

 カンナはうつ向きトボトボ歩く

 

 「村長、ちょっといいか?」

 

 「あれ?クロフは?」

 

 「アイツは店に待たせてある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パティとカンナを並んで立たせる、

 村中の人と船乗り達が注目する

 

 ヨシは咳払いを一つすると

 

 「まず、二人ともクロフを気に入って

 くれてること、これは感謝する」

 ヨシは二人に礼をする

 

 パティの前に立つ

 「まずパティ、今朝の料理を食って

 おいてすまないが、お前はギルドの

 食材を持ち出したそうだな?」

 

 「はい……」

 小さくなるパティ

 

 「それは船乗りと行商人を軽んじた、

 そして先々村にとって損になる……

 解るな?クロフにとって嬉しい事か?

 ……違うだろう……のぉ?」

 

 ハッとした表情の後涙をうかべるパティ

 「ごめんなさい……私……」

 

 

 

 「さて……カンナ、もう言いたい事は

 解るな?」

 

 カンナもうつ向きシクシク泣く

 

 「回復薬を買うのは良い、家の稼ぎに

 なるからな、しかしだ、

 上位のハンターともあろうものが

 クロフに気を取られ

 下位のクック相手に苦戦するか?

 それは仲間を危険にした、

 つまりクロフの足を引っ張っているな?」

 

 「ごべんなざぁ…い」

 グシャグシャの顔で泣くカンナ

 

 「謝る相手が違う、危険にさらした

 仲間に言うんじゃ」

 

 マリンに抱きつき泣きながら謝る

 

 

 パティも船乗り達へ謝る

 「ごめんなさい……大事な仕事を……」

 

 「いいんだよパティちゃん!」

 「そういう事もあるわな!」

 「また旨い料理頼むよ!」

 船乗り達も騒ぐ

 

 

 「二人で畑に食材を取りに行け、

 ワシからは以上だ!」

 

 

 

 「ヤー……助かりました」

 村長は一礼する

 

 「村長、間違いは間違いだ、キチンと

 正しておかねばのぉ、

 目の前の確執に気をとられて

 結果クロフの足を引っ張っとる」

 

 ヨシは道具屋へ帰って行く

 

 

 

 「カッコいいぜ、あぁいう風になりてぇな」

 イシズキが笑う

 

 「年季が違うわよ、言葉の重みがさ」

 マリンも苦笑い

 

 「ヤハハ……助けられちゃったなぁ、

 オイラの方が年上なのに」

 

 「「え!?」」

 

 

 

 畑へ行く二人を見送る、と、

 道具屋の方からクロフが来る

 

 「何かあったの?」

 キョロキョロするクロフ

 

 「はぁぁぁー……」

 全員が溜め息、

 場が一気にシラケる

 

 クロフの肩に手を置くと

 イシズキがニヤケながら言う

 「お前が主に悪い」

 

 「???」

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕方

 

 ギルドで村中が集まっているなか

 

 「そういえば嬢ちゃんに荷物がなぁ、

 服みたいだぞ」

 船長が包みを持って来た。

 

 「私に……ですか?」

 封蝋で止められたヒモを解くと

 手紙が出てきた

 

 「ヤー……研修に行ってた町から?」

 この村以外にパティを知ってる人は

 そこくらい

 

 名前を読む

 「いえ……違うようです……

 四英雄のナナキさん?!」

 ビックリするパティ

 

 「えーっ?!師匠からぁ!!」

 カンナが叫ぶ

 

 「あの子すごいじゃねぇか!!」

 「また四英雄の弟子かよ!!」

 「しかも最強って言われる人だろ!!」

 船乗り達がドヨめく、

 知らなかったらしい

 

 

 「読み上げます」

 パティが静かに読む、全員が聞き入る

 

 「私の不肖の弟子をクロフに育てて

 頂いた事への礼として、

 何を返したものかと考え、

 ヘルパーシリーズ一式をお送りします」

 

 包みからは新しい衣装

 

 「ヤ?!クロフ!!育てたってどういう事?」

 

 「え?…あの…分かんない」

 

 

 

 「あーそっかぁ……」

 カンナが納得する

 「いつの間にかクロフが師匠に

 なってたかも」

 

 ナナキに教わったのは最初の一月、

 そのあと体の成長と共に才能は消え、

 クロフと組んでから学んだ事は多い

 

 「あれ?じゃあ俺達もそうじゃねぇか?」

 気が付けばナガエより一緒の期間が

 長い

 

 「クロフの堅実さを学んでたわ」

 以前はソロが多かったが……

 いつの間にか組んでいる

 

 

 

 

 

 

 

 村長に勧められ着替えてきたパティ

 

 「おぉー!!こいつぁ可愛いぜ!!」

 「似合うぜぇ!!」

 船乗り達から歓声が上がる、

 村の中に花が咲いた様

 

 

 サイズがピッタリで似合うが……

 

 パティは顔が曇っている

 

 

 

 「あのさ、お兄ちゃん……」

 怒って……るのか?

 

 「何?」

 

 

 「何で……こんなにピッタリなの?」

 

 「え?……何が??」

 

 

 「何でスリーサイズがピッタリなの?」

 怒って……る……

 

 

 

 「あれぇ?そうだよ、パティと師匠って

 会ったことないじゃん、

 何でサイズ知ってんのぉ?」

 

 静まり返る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…私の体……解る人って……

 お兄ちゃんしかいないよね……」

 

 船乗り達が立ち上がる!!

 「どういう事だ?!!」

 「まさかクロフ!!」

 「俺達のパティちゃんがぁ!!」

 「まさか!!嘘だろぉ!!」

 「嘘だと言ってくれぇ!!」

 

 「なぁクロフ?そうか?そうなのか!?」

 イシズキがクロフの胸ぐらを掴む!!

 

 「え?何?どういう事?」

 察しが悪いクロフ、だが誤解ではある

 

 「男の嫉妬はカッコ悪いよイシズキ」

 マリンが笑う

 

 「お兄ちゃん!!私の体のサイズ

 人に教えたの?!!」

 

 「知らないってば!!」

 ブンブン首を振るクロフ

 

 「こんなボーッとしてんのにテメェ!!」

 

 「イシズキ!カッコ悪いってば!」

 

 「クロフぅ、白状した方がイイよぉ?」

 カンナがニヤケる

 

 村中が騒ぐ

 

 

 

 

 「ヤー……トラブルだらけで

 気が休まらないなぁ」

 糸目が下がる

 

 「退屈せんわな!!」

 船長と村長は笑いながら

 カウンターで飲む

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日

 道具屋

 

 「おはようございまーす」

 

 「おぉ、カンナ!!来たか!!」

 ヨシが笑顔で迎える

 

 「あれぇ?パティは?」

 

 「今朝はギルドで船乗りの朝飯だ」

 今日 船は港町に向かう

 

 「いらっしゃいカンナちゃん」

 メヒコがパンを運ぶ

 

 「私も手伝うよ!」

 

 「俺が手伝うよ、お客さんだし」

 クロフは立ち上がるが……

 

 「あんたは座ってて」

 

 

 

 

 

 ギルド

 

 仲良く話すパティとカンナ

 お互いに争っても利は無いことを

 理解したし、

 クロフの足は引っ張りたくない

 

 

 まぁ……腹の中は分からないが

 

 

 

 「嵐は過ぎたな……」

 なんだかモノ足らないイシズキが笑う

 

 「クロフがハッキリしてればねぇ」

 パティ一択だろうけどね、

 髪の毛掴んで取っ組み合いなんて

 見たくないわ

 

 「ヤハハ……両方でも良いんだけど」

 

 「「え?!!」」

 

 「オイラとしては村の人口が増えて

 大きくなればね……」

 

 

 「この村にとってクロフは…何なんだ?」

 

 「ヤー次期村長にしたいんだけど……」

 

 「クロフの目標は…ねぇ」

 

 「ヤー…書士隊じゃなくなったのか…

 村に戻るのがオイラの理想だけどね」

 

 「クロフはハンター続けるのかどうか」

 空を見上げるイシズキ、

 マリンを見ると

 

 「……覚悟はしておくか……」

 マリンと頷きあう

 



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船2

気がついたら随分と書いたものですが、
全体の構想の半分も書いておらず、
このペースだと後16ヶ月……




 

 孤独が好きか?

 

 そんな言葉……

 聞こえたこともあった

 

 久々に一人で森と丘へ来てみる、

 師匠と出会ってからは滅多に

 一人で狩場に来なくなった

 

 

 

 

 巣穴の5番

 

 多分ここから始まった

 

 ハンターを始めた場所

 

 

 『お?良いもの出たねぇ』

 あの時突然師匠が現れた

 

 速攻でディアを倒して来たらしい

 ここに来ると思い出す

 

 「ランポス三頭に必死で……」

 呟く、最近は独り言も言わなくなった

 

 あの頃と比べると人を怖いと思う事

 も少なくなったし、話し方も少しは

 解るようになった

 

 『毎日人と話す事よ』この意味が

 分かった、人と話したから

 今の自分が分かる、

 自分がどんな人間か解るようになった

 

 ハンターとしても上位まで来たし……

 

 

 

 採取しながら考える

 

 師匠はハンターの天辺に居る、

 自分が強くなるほど師匠の強さが

 理解できる、どんどん遠くなってる。

 

 

 

 あそこまでは……

 

 行けなくてもイイかな?

 

 村の守りと道具屋が出来れば……

 

 

 

 

 

 

 

 

 採取を終えて村に帰ると

 

 「お帰り、お兄ちゃん」

 

 パティが出迎える、これを聞くたびに

 思う事がある

 

 

 「なぁクロフ?目標は見付かったか?」

 クエストが無いためインナーのイシズキ

 

 「うん、それはあるんだよ」

 こっちは普段着

 

 「ねぇ?ハンター辞めるとか

 言わないよね?」

 下から見上げてくる

 

 そんな目で見ないでよカンナ

 

 

 「私はクロフのやることに口出ししない

 けど……できればね」

 マリンのインナー姿は……

 筋肉凄い……

 

 

 「うん……ハンターは続ける、

 また大笑いしたいし」

 

 三人、特にカンナの表情が明るくなる

 

 「でも…もうひとつある……

 毎日パティにお帰りって言われたい」

 

 パティの顔が赤くなる、

 クロフの事だから分かっていないが

 プロポーズのセリフにも聞こえる

 

 

 

 「…この村でハンター続けるって事か?」

 腕組みするイシズキ

 

 「えーっ!G級はぁ?!!」

 

 「ここで……お別れになるの?」

 小さくなるマリン

 

 「だから迷ってる……」

 

 

 どうするべきだ?

 

 

 ………………

 

 

 

 

 

 数時間前

 クロフが採取に向かった後

 

 「カンナ、オメェもこっち来い」

 

 「んー、何?」

 パティと話すのを止めてテーブルに

 

 「これからの事だ、話しておこうぜ」

 真剣な顔のイシズキ

 

 「これからぁ?」

 とりあえず座る

 

 「クロフ……

 村に残るかも知れないでしょ?」

 腕組みしてるマリン

 

 「!!…ううぅーっ!!」

 うすうすは考えていた事を

 いざ言われると……眉間に皺が

 

 「クロフが決める事だぜ?まず各々が

 これからどうするべきか」

 

 「考えておくべきよね」

 

 「解散すんの?!やだよ私!」

 立ち上がる

 

 「クロフが決める事だ……強制は

 できねぇよ……」

 

 「イシズキ!!!アンタは解散したいの?!」

 

 

 そうじゃねぇよ……俺がクロフと組んだ

 理由はな、死なせたヤツと

 似てたからだ

 

 引っ込み思案でオドオドしててよ、

 ほっといたらシュウ達に利用

 されたりよ、心配だったし……

 同じ事は繰り返したくなかったからな

 

 「贖罪…だね」

 マリンが空を見上げる

 

 「あぁ、でも尊敬もしてんだぜ?一人で

 酒飲んでキリンの話聞いたりな、

 あの責任感の強さがよ」

 笑顔で楽しそうなイシズキ

 

 

 

 マリンも話し始める

 

 私は過去の自分と決別するために、

 過去の自分を越えたい、

 上位になりたいと思って組んだんだ

 

 最初はただ知識を教えて貰えれば

 イイかなって思ってた

 

 けど気に入っちゃったからね

 

 

 「マリンも好きって事ぉ!?」

 ライバルが増えるのか?!

 パティの目もキツくなる

 

 両手を前に出し首を振る

 「違うよ!その好きじゃないよ!

 イシズキと同じ、人として尊敬してる」

 

 

 「俺とマリンはハンター続ける、

 ドンドルマに戻るつもりだ」

 

 「クロフが残るなら反対はしないわ」

 

 「解散したくない!!クロフと

 一緒に居たい!!」

 また泣きそうになる

 

 

 「私はお兄ちゃんに危険な事は

 してほしくないけど……」

 カンナの前にジュースを置くパティ

 

 「それは心配なさそうだぜ?アイツは

 無理と分かったら即リタイアだしな」

 パティに向かって笑う

 

 「なにより安全重視だしねぇ、

 初めて戦うモンスターは大体ね」

 

 

 

 「最初は臆病だと思ってたけど、

 アイツはミエ張ろうとか……無いよね」

 下を向くカンナ

 

 自分の強さを一切自慢しない、

 自分を大きく見せようなんて考えない

 

 だから平然とリタイアもする

 

 そして…強くても……G級になろうとか

 威張ろうとか考えない……

 

 

 「で!だ、……カンナ、オメェどうするよ?」

 

 「G級……なりたいけど……」

 

 

 

 

 私は何でなりたいんだ?

 四英雄の弟子だから?

 私は……

 

 

 

 

 チビって言ってた連中を見返したい…

 

 

 見栄じゃん!!ただの見栄じゃん!!

 

 

 目標なんて呼べるものか?!

 

 そんなきっかけなんて今はどうでもイイ

 どうでも良くなった、

 

 クロフと一緒に居たい!

 G級になりたい!

 

 「うううーっ!!」

 唸るカンナ、

 小さな子供の葛藤のように

 「イシズキもマリンもドンドルマに

 戻る……」

 

 「あぁ、師匠もいるし」

 

 「仲間の墓もあるし…離れ難いわね」

 

 

 「うぐうぅぅ……クロフの意見に

 合わせるぅぅぅ……」

 下を向き、シカメっ面で拳を握る

 

 二人はホッとする、もっと機嫌が悪く

 なるかと思ったが、

 クロフを困らせたくないと考えて

 自分を抑えたようだ。

 

 昨日の一件で成長したかも

 

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 村長も帰って話に入る

 「ヤー、オイラはクロフが上位になった

 だけでも十分だよ」

 元上位ハンターの村長、悪くない

 

 「私もお兄ちゃんに居て欲しいし」

 

 話し合うが、クロフが村を出る理由が

 見付からない

 

 カンナは歯軋りするが

 ガマンするしかない

 

 

 

 

 

 「あ、伝書鳩」

 クロフが指差す

 上空を一回り旋回すると、

 降りてクエストボードに

 

 

 

 パティが脚から手紙を取り出す、と、

 「……え……?」

 

 「ヤー、何?どうしたのパティ」

 船長からとか?

 

 パティが読み上げる

 「緊急、巨星と新星堕つ

 ……四英雄敗北…王立書士隊本部」

 

 

 「「「「ええーっ!!!!」」」」

 一斉に立ち上がる!

 

 「敗北って!!師匠達が負けた?!!」

 アルトは無事なのか?

 

 「マジか!!あの人達が?!

 バケモンのG級の中でも最強だぜ?!」

 

 「ちょっと!巨星と新星って……」

 カンナを見るマリン……まさか

 

 「ガストンさんと…まさか師匠!!?」

 カンナが村長を見る、この意味は?

 

 「ヤー……堕ちた……」

 腕組みして下を向く

 「どうやら…命を落としたようだね…」

 

 「やだああぁぁあぁぁ!!!!」

 ナナキが死ぬ?信じられない!!

 

 

 

 

 

 運命や流れは突然に、または

 気付かぬ内に動き出す

 

 

 

 

 

 「クロフ、ドンドルマに向かう理由が

 出来たね……」

 村長が真剣な顔で

 

 「うん…パティ……もう一度行くよ」

 あの人達には多くを教えて貰ってる

 

 無言で抱き付くパティ

 

 いつもなら真っ赤で照れるクロフだが

 

 「大丈夫、危なくなったら逃げるから」

 パティの頭を撫でながら

 

 「やだぁ……行っちゃやだぁ……」

 シクシク泣き出す、思えば泣き虫だった

 筈なのにずっとガマンしてたんだ

 

 

 

 

 

 「うそだぁぁあぁぁあ……」

 マリンに抱き付き泣き出すカンナ

 

 「まだそうと決まった訳じゃねぇよ、な?」

 イシズキもなだめる

 

 

 

 「今は船が来るまでは動けない、村長、

 大工仕事とかもあったらやるよ?」

 

 「ヤハハ……ありがとう!」

 見違えるほど男らしく

 なったじゃないか、

 あの小さくてヒョロヒョロだった子が

 

 クロフが次に帰って来たら……

 オイラが居なくても……

 オイラの贖罪も……終わる

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後

 

 船の出発の日

 

 「何じゃあ!?この人数は?!」

 船長が驚く、

 クロフパーティーは勿論だが、

 この辺りからポッケまでの辺境地域、

 そこに散っていたギルドナイトと

 書士隊が集まっている、

 行商人も合わせると……

 

 この交易船が空以外の唯一の

 交通機関らしい

 

 「こんなに乗るのぉ?」

 カンナが心配する、ざっと20人

 

 「すみません、我々全員に緊急召集

 が掛かりまして」

 ギルドナイト達も頭を下げる

 

 「……四英雄敗北って……」

 クロフがギルドナイト達を見る、

 何か知っていることは……

 

 「我々も信じられません……」

 青い服の一団も動揺しているようだ

 

 

 「港町でもその話で持ちきりでよ!」

 「信じてねぇヤツばっかりだぜ?!」

 船乗り達

 

 

 「こりゃあギリギリだのぉ」

 

 「ヤハハ、安全にお願いしますよ?」

 

 「わかっとるわい」

 

 

 

 

 村中が集まっている

 

 

 「父さん、母さん、行ってきます」

 

 「必ず生きて帰って来いよ……」

 ヨシが頭を撫でる

 

 「あんたの帰る家はここにあるからね」

 メヒコは涙を浮かべて抱き締める

 

 「ホラ、パティ!」

 村中に言われ泣き顔のパティが

 前に出るが

 

 「やだぁ!!行っちゃやだぁぁぁあぁ!!」

 美人が膝を着き泣き崩れ、ボロボロと

 涙を流す

 聞けばクロフに会おうとドンドルマに

 行きたがったのを、何度も止められ、

 この数ヶ月ガマンしていたそうだ。

 

 やっと会えたのに……

 たった2週間で……

 

 

 

 「……おいクロフ……」

 このまま出発して、もしもの事が

 あったら後悔するはず、

 これ以上泣かせるのは辛い

 

 「クロフ……こういう時はさ……」

 パティにとって親以上、恋人以上……

 特別な存在、泣き止ませるのは……

 

 イシズキとマリンは何も言えない、

 クロフしかいない

 

 気の利いた事をバシッと……

 言って欲しいが……

 

 「大丈夫、必ず帰って来るから……」

 

 これしか言えない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズカズカとカンナが前に出る!

 パティの前でしゃがむと

 

 「パティ!!顔上げて!!」

 パティの顔を両手で無理やり

 自分へ向ける

 

 「?」

 鼻水まで出してる台無しの美人

 

 「クロフは私が守る!」

 

 一同「え?……」

 

 「必ずクロフに

 『ただいま』っていわせる!!」

 クロフを指差し

 「コイツを必ずココにもどす!!

 アンタに『おかえり』っていわせる!!」

 

 「カン……ナぢゃ……」

 

 「立って!!」

 

 カンナに助けられながら立つパティ

 

 

 

 

 カンナが抱き締める

 

 「浮気したら私が殴る!!」

 

 「……え?」

 

 「絶対に死なせない!」

 

 「……うん……」

 

 

 

 カンナは離すと

 「今度帰って来た時は私と勝負だよ!!」

 

 「……」

 今度は無言でパティが抱き付く

 

 「お兄ぢゃん……クロフをお願いね」

 涙と鼻水で台無しの美人が

 泣きながら笑顔を作る

 

 「任せて!!」

 

 

 

 

 「時間じゃ!!行くぞ!!」

 

 船に乗り込む

 

 

 「いっでらっじゃい!!」

 泣きながら手を振る

 

 クロフ達も

 

 「行ってきます!!」

 

 カンナが声を張り上げる

 「泣かないで待ってなぁ!!!」

 

 船が動き出す

 

 「おいクロフ、イイとこ全部カンナに

 持ってイカれたぜ?」

 ニヤケるイシズキ

 

 「何か言うことあるでしょ?」

 マリンに横目で見られる

 

 一番前にクロフは出るが

 「あ……えと……」

 

 「バシッ!!」

 カンナに尻を叩かれる

 

 「あっあの!!」

 

 全員が注目する

 

 

 「パティ!!帰ってきたら……

 

 




私の人生における後悔や反省を、
モンスターハンターのフィクションに
織り交ぜて描いてきましたが、
私自身の現実の経験がネタ切れですので、
私の分身であるクロフ君を中心にした
物語は、ここで一回区切りとさせて頂きます。

ここからは外伝に入ります。

あ、クロフの最後のセリフは想像して
楽しんで下さい。


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外伝 姉妹

今回は描くか迷った話です、
出来るだけ描写と台詞を削り、
読み手に想像させるように最低限にしましたが、
もしもガイドラインに触れるようなら
削除、もしくは18禁のタグで
別の方法を考えます。

精神衛生上、好ましくない話です

それでも良ければ読んで下さい


 

 これは知らなくて良い話

 

 探しても出てこない話

 

 誰もが口を閉じてしまう話

 

 誰も幸せになれない話

 

 あなたが読まなくていい話

 

 

 

 

 

 すっかり寒くなって来た

 

 この村は冬の間は雪が降り、

 約2ヶ月は作物が採れない

 

 弟と妹はお腹を空かせていない

 だろうか、両親は元気だろうか

 

 暗い閉ざされた部屋の中では何も

 分からない。

 

 また夜が来る

 

 男達のオモチャにされる

 

 

 チャリチャリという鎖の音が自分の

 震えを証明する

 

 寒さだけではない

 

 辛く汚く痛く屈辱的な夜が来る

 

 

 

 貧しい村だけど幸せだった、

 両親と弟妹と一緒に働き豊作の時は

 村中でお祝いした。

 

 しかしモンスターに対抗する術は

 少なく、時には大きな被害が出た。

 

 そんな時村に四人のハンターが来た、

 そのハンター達のお陰で村の危険は

 減った。

 

 村は歓迎した、手放しに喜んだ、

 村はハンターにこの村に居て欲しいと

 家を作り食事を作った。

 

 ハンター達は遠慮がちに好意を受けた

 

 村の作業を手伝い笑顔でハンター達も

 住み着いた

 

 

 

 

 しかし村には報酬の現金などない、

 村には負い目が出来た

 

 すぐにハンターは増長した、

 横柄に振る舞うようになった

 

 ハンターは小さな村の王になった

 村人は奴隷となった

 

 まだ9歳の私が目をつけられた、

 若い女が他に居なかった

 

 村の安全と引き換えに私は村の

 離れ小屋に繋がれた

 

 男達は毎晩私に性欲をぶつけた

 

 痛くて苦しくて臭くて情けなくて涙が

 でて吐きたかった

 

 まだ私は女にもなっていないのに

 代わる代わる

 

 叫んだ、泣いた、悲鳴をあげた、

 それこそ喉が枯れるほど

 

 そんな時言われる

 

 「お前が大人しくしてれば村は

 冬を越せるぜ?」

 

 従うしかなかった、弟妹が泣くのは

 耐えられなかった、

 村が無くなってしまうのは悲しかった

 

 どんなこともした、どんな格好もした

 どんな要求にも答えた

 曲芸をする動物になった

 

 反抗しなくなると男達は私を傷着けた

 痛がる私を面白がった、

 殴られ蹴られ火傷を作り爪を剥がした

 

 泣いた叫んだ、それを面白がった

 

 これは私じゃない……

 

 

 どこかの知らない娘が……

 

 

 オモチャにされてるんだ……

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 焦げ臭い……火事?

 

 遠くで叫び声が聞こえる

 

 突然男の一人が入って来る!!

 「畜生!!こんなとこまで……」

 

 そこまで言うと空気が抜ける様な

 音がして静かになった

 

 見ると男のノドから何かが突き出て…

 

 「なんじゃあココは?……っ!」

 

 後から入ってきた中年の男、

 漸く気付く、後ろから刺している

 

 「そうか……辛かったのぉ……」

 青い服の中年は鎖を断ち切ると

 私を抱えて小屋を出た

 

 

 

 眩しかった……久しぶりに太陽の

 下へ出た

 

 まだ雪は降ってなかった

 

 村はどうなっているだろう、

 家族は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこに村と呼べる物は無かった

 

 数人の年寄りが地面に伏して

 私に謝っている

 

 私が繋がれてすぐ、家族は私を解放

 するようにハンターに交渉した

 

 家族は村の柵に縛り付けられ

 顔を焼かれ殺されていた

 

 見せしめだ

 

 存在しない家族のために私は

 耐えていたのだ

 

 寒いなか裸で呆然とする

 

 私は何だ?何をしてたんだ?

 

 

 わたしの存在は……何だ?

 

 

 

 小屋から出してくれた男は布を私に

 巻き付けた

 

 「この娘に生きる場所は無いだろう、

 ワシが預かる」

 

 

 

 私は村を出た……いや……

 果たして村と呼べるモノだろうか

 

 半数近くが殺され、追っ手に

 驚き火をつけられたあの場所が

 

 

 「すまんのぉ」

 

 ひょろっと背の高い中年は何度も謝った

 

 「もっと早くに来ていれば……

 ワシがもっと早く……」

 

 途中の村で服や靴を買ってくれた

 

 見た目はそれなりになったが

 傷は消えない、

 髪がボロボロだったから

 頭に布を巻いた

 

 

 

 私は一言も喋らなかったが

 男は話してくれた

 

 ロクスと言う名前、ハンターであること

 

 そして村に来た四人はハンター崩れ、

 規律を破り追われていたこと

 

 どこかの街で犯罪をして

 逃げていたらしい

 

 男は私に優しく、竜車にも初めて乗った

 

 

 

 一月も旅をして目的の街に着いた

 

 すぐに大きな建物に入る、と、

 

 あの男達と同じ臭いの男達が大勢

 いた……ハンター……

 

 足が震えた

 

 悲鳴を上げそう

 

 吐き気がする

 

 ガチガチと歯が鳴る

 

 「大丈夫、コイツらは本物のハンター

 でな、人の味方だ」

 ロクスはそっと背中を押す

 

 

 

 

 

 

 何だか豪華な部屋に来た

 

 小さな竜人がいる

 

 ロクスが言う

 「粛清は完了したがのぉ」

 私を見る

 

 「その娘は犠牲になっていたのか……」

 

 何だか小さくて不思議な老人が

 喋った……これが竜人か?

 

 「鎖に繋がれててのぉ」

 

 「全てのハンターの祖は四大英雄の

 ワシらじゃ、責任の一端は

 ワシらにもある」

 

 竜人は続ける

 「ハンターに成ることは常人より

 強くなると言うことじゃ、

 その力を正しい方へ導けなかった

 ために、ヌシの人生を台無しに

 してしもうた」

 

 小さな竜人は私の前に来ると頭を下げ

 「ヌシの人生をココから始めてみんか?」

 優しく笑う

 

 何を言ってる?人生?

 私は何だ?

 始める?

 何を?

 

 

 「この娘は笑わん、一言も喋らんしの」

 

 「そうか、どうしたもんか……」

 竜人はうつ向く

 

 「まずはあの娘と会わせてみるかの」

 ロクスは部屋から出ていく

 

 

 

 

 

 しばらくして戻って来ると、ロクスが

 「この娘は喋れん、

 なんでも話すと良い」

 

 

 私と同じくらいの女の子

 

 

 でも違う

 

 

 綺麗な肌

 

 

 育ちの良さそうな雰囲気

 

 

 可愛い顔立ち

 

 

 何よりニコニコしている

 

 

 「名前はアルトじゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 大っキライ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 湯浴み……世話はアルトがしてくれた

 他の誰にも見せられない

 

 火傷と傷痕だらけの私の体

 汚され続けた私の体

 

 だけどアルトなら安心だ、

 言い触らす事はない

 

 最初はビックリしたようだが、

 火傷を撫でながら悲しそうな顔をした

 

 この娘だけは信用出来た

 大っキライだけど

 

 

 アルトに料理を教わった、見よう見まね

 で作るが運ぶ事はない、

 アルトが持って行った方がハンター達は

 喜ぶ……笑うから

 

 アルトが太陽なら私は月だ

 

 厨房で料理に徹した

 

 

 アルトは喋れないのに

 カウンターにも座る

 

 「行ってくるぜ!アルト!!」

 

 「デケェの狩って来るからな!!」

 

 「ただいまアルト!!」

 

 「ミヤゲあるぞぉ!!」

 

 皆が可愛がる、娘だ妹だと……

 気に入らない!大っキライ!

 

 なんで笑ってるだけで……

 喋れる訳でもないのに

 

 

 

 

 

 

 

 

 湧き水に顔を写してみる

 

 笑顔って何だっけ……

 

 アルトは言葉を失ったらしい

 

 私は笑顔も失った

 

 

 

 

 12歳を過ぎたある日の事

 

 アルトの家族が連れ戻しに来た、

 何度目だ?

 

 いつもの様に一番偉いハンターに

 抱き付き離れないアルト

 

 そんな時だ

 

 「カタキ取るんだ」

 

 アルトから言葉が出た、

 ギルド中が大騒ぎになった、

 ハンターとアルトの家族で睨み合い

 になった

 

 

 そんな事はどうでもいい

 

 私の体の事を話す危険がある

 

 膝が震える

 

 ガチガチと歯が鳴る

 

 怖い怖い怖い怖い怖い

 

 

 

 

 

 いつもの様に二人で湯浴み

 

 何を言う?脅す?からかう?

 

 でも違った、アルトは自分の生い立ちを

 喋り続けた

 

 アルトは死の恐怖に耐え続けたそうだ

 

 私は殺される恐怖はあっただろうか

 

 

 

 

 ……私の体の事は言わなかった

 

 

 

 

 

 

 

 アルトがハンターの訓練を始めて

 何日かした頃、また湯浴みする

 機会があった

 

 私は疑心暗鬼だった

 

 アルトが何を企んでいるのか

 

 

 後からアルトが入って来た

 

 

 

 

 

 全身生キズだらけで

 

 

 私の前に立つと

 

 

 「アッハ!同じだよっ!」

 

 

 笑った

 

 

 

 

 

 

 あの暗く湿った小屋

 

 あの屈辱の日々以来

 

 

 全力で泣いた

 

 

 全力で声を出した

 

 

 アルトは抱き締めて頭を撫でてくれた

 

 

 いつ以来だろう、力ずくではなく

 親の様に抱いて貰えるのは

 

 大っキライなのに大好きになった

 

 

 後から聞いた、回復薬を飲むだけで

 キズに着けなかったそうだ。

 

 何度も言われ注意されても、

 まるで傷痕を残す様に

 

 私を受け止める為だろう

 

 嬉しかった

 

 嬉しくて嬉しくて爆発しそうだった

 

 

 

 同じくらいの歳だけど……

 

 アルトは私の姉さんだ

 私だけの姉さんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハンターになったアルトの代わりが

 出来るように笑った、

 とにかく笑った

 

 そうしたらハンター達の反応も変わり

 皆が笑ってくれた

 

 カウンターでの作業もした、

 行ってらっしゃい、

 お帰りなさいが言えた

 

 新しく入った娘達の指導もした

 

 そうしている内に私は

 ギルドマネージャーと呼ばれた

 

 

 

 

 

 姉さんは私の家族だ

 

 姉さんが父ちゃん、兄貴、じいちゃんと

 呼ぶ人達も私の家族だ

 

 このギルド全体が家族だ

 

 姉さんが太陽なら私は月だ

 

 私は姉さんの家を守りたい

 

 

 

 あの人に教えて貰おう

 

 裏からこの街を守っているロクスに

 弟子にしてもらおう

 

 

 

 

 「お前の様な若い娘がやるような

 仕事ではないぞ?」

 

 「あら、私が望んでいるんですよ?」

 

 「一つ聞かせろ、お前は何を

 するつもりだ?」

 

 「今度こそ家族を守るんです、

 守る力が欲しいんです」

 

 

 「やれやれ…誰にも知られず

 誉められず、泥の中を進むか?

 お前には新しい人生を……」

 

 「ガストンさんが太陽なら、ロクスさん

 貴方は月です……同じ事ですよ」

 

 それに……

 

 「泥水なら飲み慣れてますから」

 

 

 ロクスは大きな溜め息を吐く

 「……分かった……対人の技を

 教えてやる……しかしな……

 ケンカじゃあない、人殺しの技だ」

 

 「お願いします、師匠」

 

 この日から文字通り『裏方』になった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バカな男と出会った

 

 いつも下らない事を言って私を

 笑わせようとする

 

 「討伐クエストあるかい?」

 

 「対象モンスターの希望は?」

 

 「もちろん君の尻さ」

 大真面目な顔で

 

 ギルド中が爆笑する

 

 

 なぜこんな事をするのか聞いてみた

 

 「営業スマイルじゃなくてさぁ、

 アルトに笑う様に笑って欲しいんだよ」

 

 見抜かれていた、この男は鋭い

 

 そんなやり取りを続ける内に

 気が付いた

 

 気付くと彼を目で追っている、

 いつも彼を見ていた

 

 姉さんに相談すると恋だと言われた

 

 いくら好きでも私は……

 男に触れるのは怖かった

 

 それに私の体は……

 

 

 

 思い切って打ち明けた、

 ここに居られなくなるかも知れないけど

 我慢出来なかった、

 もしかしたら、受け入れてくれるかも

 知れないと賭けに出た、

 生い立ち、地獄の日々を話して

 

 最後に素直な自分の気持ちを

 告白した

 

 嫌われると思っていたら

 

 

 「あっはっは!!それがどうした♪」

 

 半分呆れたけど、この人は受け入れて

 くれた

 

 そのままの私を受け入れてくれた

 

 嬉しくて嬉しくて小躍りした、

 姉さんも師匠も喜んでくれた

 

 こんな私を、穢れた私を受け入れて

 くれた

 

 

 

 

 

 

 もうすぐ彼が帰ってくる

 また私の火傷だらけのお尻を触り

 丸いだの柔らかいだの言うだろう

 

 また私は悲鳴を上げてひっぱたく、

 おかえりなさい、

 無事に帰って来てくれて、と

 

 こんな私を愛してくれて

 

 女としての悦びをくれて、と

 

 

 嬉しくて仕方ないのを周りにバレない

 ように誤魔化して

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 手紙が来た

 

 

 信じられない内容だった

 

 

 信じなかった

 

 

 姉さんは帰って来た

 

 

 「ベッキー……ゴメン……」

 姉さんは泣きながら謝った

 

 



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外伝 親兄弟

 

 「泥棒だァ?」

 ガストンは反射的にロクスを見る

 

 「俺は足ぃ洗ったろ!!」

 口を歪めて反論する、もう10年も前だ

 

 「うちの人は泥棒なんてやらないよ!!」

 威勢の良い女が反論する、

 名前はエレーナ、ふんぞり返る、

 取引が無い時はギルドの給仕で稼ぐ

 

 「コイツらの仲間だろ」

 ロクスはアイルーを指差すが

 

 「盗むのは黒毛のメラルーですニャ、

 私らアイルーは違いますニャ」

 トレイを持ち料理を運ぶ出稼ぎの猫族

 名前はミケ

 

 

 

 

 新しく建てた大きい建物の中、

 カウンターで事務処理をする

 竜人が続ける

 「エレーナ、怒らんで良い、

 どうやら二人組だそうだ」

 

 「そこまで分かってて何で

 捕まらねェんだ?」

 ガストン25歳、少し低い身長、

 広い肩幅、ガッチリした体、

 右目に眼帯で角刈り

 

 「気絶させられたそうだ」

 竜人ドンドルマは顎をしゃくると

 

 「面目ねぇです……」

 盗まれた弟子達が小さくなる

 

 「で?何盗まれたんだ?」

 ロクス30歳、180の身長、

 ひょろりと細く髪はフサフサ

 

 「俺は肉を」

 「俺は携帯食料」

 「俺は……焼いたばっかりの

 こんがり肉と肉焼きセット……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「狩場でハンター狙うとはなァ」

 ハンマーを担ぐガストン

 

 「武器持ってるのに……なぁ」

 ボウガンを背負うロクス

 

 二人で森と丘を歩く、

 クエストではない、犯人を捕まえる為だ

 

 被害者はハンター数人、今は食料が

 盗まれただけだが、いずれ武器や

 防具、村の物となったら大事だ。

 

 「猫族じゃなく人間二人組か……」

 麻痺弾を歩きながら準備するロクス

 

 「あいつらは基本的に約束は守る、

 守らネェのは人間だ」

 猫族と協定を結ぼうって時に……

 

 

 

 

 

 

 

 森と丘の9番

 細長い通路状のエリア

 

 

 ガストンは突然立ち止まる、と

 

 「ふーん……そうかァ……」

 

 「どうしたガストン?」

 

 「ロクス……そこにいろ」

 

 

 風の音、鳥のさえずり……

 

 静寂……

 

 

 

 「ザザッ!!」

 

 突然大きな影が藪から飛び出す!!

 ファンゴ!!?

 

 狙うのはハンターの

 腰に付いてるポーチ!!

 

 しかし

 

 「よっ…と」

 ガストンは体を少し捻る

 

 ハンマーの柄が

 「がスッ!!」

 

 ゴロゴロ転がり起き上がると

 

 「ぬがァーっ!!」

 鼻血を出しながら睨む

 色黒でモジャモジャ頭の若者、

 痩せた体にファンゴの毛皮を

 巻いている

 

 「ほう!子供か?割りとデカイな!!」

 ガストンが笑いかけるが、

 藪の中に飛び込んでしまった

 

 ガストンはボリボリ頭を掻くと

 「ロクス……後ろだ」

 

 その声に反応するロクス、

 ボウガンを構え直す暇はない!

 ならば!!

 

 ロクスは見ないで後ろに蹴りを放つ!!

 

 「ドガッ!!」

 「フがぁーっ!!」

 鼻血を出しながら転がる、

 色白で珍しい青い髪の若者、

 やはりファンゴの毛皮を着ている、

 藪の中に飛び込んで行く

 

 

 

 

 「…オメェ良い反応だったなァ」

 ガストンがニヤケる

 

 「ポーチを狙うのは分かったからな」

 ボウガンをしまい肩に担ぐロクス、

 まだ慣れてない

 

 「なんでボウガンなんて使い慣れねェ

 武器使うんだ?当たんのか?

 オメェ兄ィから双剣教わったろ?

 

 「良いんだ、そうなったんだ」

 

 「なんだそりゃ?」

 ハンマー一本のガストンには

 理解できない

 

 

 「良いんだよ……で?どうするよ」

 

 「挨拶は済んだ、後は待つだけだ」

 ガストンはキャンプへ歩き出す

 

 「捕まえるんだぜ?!」

 ロクスもついて歩く

 

 「ちょっとな、考えがあるんだ」

 

 

 

 

 

 

 キャンプ

 

 「待つってどういう事だ?」

 焚き火の番をしながらロクスが聞く

 

 ガストンは寝転がりながら

 「奴らのやり方見たろ?」

 

 まず、人間が人間から奪おうと思った

 なら、陽動、挟撃、分断するはず

 

 だが奴等は風下から静かに狙った

 

 これは野生生物のやり方だ

 

 奪えなかったらその場で終わりだ

 

 「おい、ちょっと待て、それじゃあ

 奴等はココにこないだろ」

 ロクスが反論する

 

 「だからよ、奴等が動物なら終わりよ、

 知恵がある人間ならもう一度来るぜ」

 起き上がると

 「人間なら説得も出来るぜェ?」

 

 ロクスは頭を掻きながら

 「弟子にするつもりかぁ?」

 

 「あのガタイであの速さだ、

 良いハンターになるぜ」

 しかもまだ子供、まだ成長する

 ガストンはニヤケる

 

 

 

 

 

 

 

 

 「来たぞ」

 

 ロクスは反射的に1番の方へ向く

 

 「そっちじゃネェ……静かにしてろ」

 ガストンは見ることもせずに寝転がる

 

 ロクスは感心する、ガストンの能力……

 以前気配を感じるのか聞いてみたが

 

 『そんなもん俺だって知らねェ、

 その場で一番弱いヤツを見るんだ、

 草食とか鳥の違和感を見ろ』

 

 ハンターとしての能力ではない、

 臆病者の生き残る術だと最近

 気がついた

 

 

 

 

 

 

 

 ドサァッ!!!!

 

 キャンプの街道側に掘った落とし穴、

 そこに獲物が2匹

 

 ロクスは麻痺ナイフを投げる

 「ガストンにゃ敵わねぇな」

 

 

 

 

 ………………

 

 縛られ動けない二匹……

 

 色黒の方は唸り続ける、

 対して色白はガストンとロクスの顔を

 珍しそうに見比べる、

 眼帯が珍しいのか?

 

 説得しようと話してみるが……

 

 

 「これだけ話して反応なしかァあ?!」 

 あてが外れた、

 説得しようと話し掛けても

 反応がない、

 野生の中で育った人間ならば期待

 できたが……

 完全に野生化していたら無理だ

 

 「おい、まさか言葉知らねぇんじゃ……」

 ロクスも疲れた、

 ウンともスンとも言わないし

 表情さえ変わらない

 

 

 

 

 腹も減ったし肉焼きセットを

 組み立てる、と、二匹が凝視している

 

 ロクスは気付き、ゆっくり手元を

 動かすと一緒に顔を動かす、

 ロクスの手と二匹の顔が

 まるでシンクロするように

 

 「ダッハッハァ!!そうかァ!」

 ガストンも肉を焼いて見せると

 二匹はヨダレを垂らし見ている

 

 肉を鼻先まで持って行くと

 「欲しいなら何か言ってみろ!」

 

 「おいおい……メラルーかよ……」

 ロクスは呆れ顔

 

 

 

 と、

 

 

 

 

 「……だい」

 

 

 

 

 「「!」」

 

 「どうしたァ?!もう一度だ!!」

 ガストンは肉を振る

 

 色白が言葉を発する

 

 「ちょう……だい……」

 一生懸命に口を動かすのが分かる

 

 色白の縄をほどき肉をやると、

 無言で受け取り半分にする

 

 色黒に喰わせながら自分も喰う

 

 

 

 全部の食料を喰わせるとすっかり

 大人しくなった

 

 「腹ァ減って限界だったなコイツら」

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 「うむ、帰ったか……なんじゃあ!!

 そいつらは!!?」

 

 ハンター達がざわめく

 

 ガストンとロクスの後ろにガストンと

 同じ位の背丈の二人がいる

 

 「犯人なんだがよ、ちょっと特殊でなぁ」

 ガストンは顎をしゃくる

 

 「一応コイツは大丈夫だ」

 ロクスは色白を指差す、

 色黒は手を縛られたまま

 

 12~15才位だろうか

 

 

 「何だ、まだ子供じゃないか、

 ほどいてやりなよ」

 エレーナがビールを持ってきた

 

 二人とも珍しそうにビールの

 匂いを嗅ぐ

 

 「この色黒は暴れてな、仕方ねぇよ」

 ロクスが疲れた顔で

 

 つづいてアイルーが料理を持って来る

 

 と、

 

 

 アイルーと見つめ合いながら鼻を

 動かす二人

 

 意志の疎通が出来ている?

 

 「おい!ミケ!分かるのか?!」

 ギルド中が驚く

 

 「この子達は猫語で喋ってるニャ、

 ちょっと待ってニャ」

 

 

 

 

 しばらくするとミケは語る

 

 両方とも狩場に捨てられた子供で

 あること

 

 流れ者のメラルーに育てられたこと

 

 最近そのメラルーが死んで二人だけ

 になったこと

 

 腹が減った時にハンターが肉を

 焼いて食べたのが、

 美味しそうで盗んだこと

 

 

 「ミケ、あんた凄いわね!この子達に

 言葉教えてやりなよ!」

 エレーナが笑いながら

 

 「言葉はとにかくマネすることですニャ」

 胸を張るミケ

 

 「自分の歳さえ分からんだろうのぉ…」

 竜人ドンドルマは一計を案じる

 「ミケ、仕事をすればガストンが

 好きなだけ肉を焼くと通訳しろ」

 

 「おい!兄ィ!!」

 

 「はっはっは!そりゃあいい!」

 ロクスは高笑い

 

 ミケが通訳する、声を発するのでは

 なく、鼻をフンフンしている

 

 「分かったそうだニャ」

 

 「ガストン!名前を付けてやれ!」

 竜人がニヤケる

 

 「やれやれだぜ」

 

 「だがよ、ハンター以前に……なぁ」

 

 「水浴びですニャ!」

 

 「後は髪切ってあげなきゃね!」

 

 

 

 

 

 

 ………………

 

 

 一月後

 

 「肉…しごと……ちょう…ください」

 色白はガルダと名付けられた

 

 捨てられたのは五歳、言葉は長い間

 使っていなかった為に、忘れて

 いたそうだ、

 しゃべり方が子供でも助かる

 

 一方

 

 「ぐ……がぁ……だ……」

 ゼルドと名付けられた方は言葉に

 ならない

 

 ガルダに詳しい話をさせると、

 ガルダが狩場をさ迷って居た時、

 ゼルドとメラルーに助けられたらしい

 

 ゼルドはもっと小さい頃に拾われた

 らしく、人語を喋ったことがないようだ

 

 

 「なかなか上達せんなぁ」

 竜人は事務仕事をしながら

 パイプを吹かす

 

 「猫族が人語をマネだけで覚えるんだ

 何とかなるだろ」

 ガストンは続ける

 「だが読み書きは教えられんぞ?」

 やれやれといった顔、

 ガストンは字が書けない

 

 「だけどよ、狩りは上手い…んだがなぁ」

 ロクスは誉めるが微妙な顔

 

 

 

 ガルダの話によれば、今まで

 ランポスやファンゴを倒して

 喰っていたそうだ、

 驚くのはその武器、なんと石で

 殴り付けていたらしい

 

 それを聞いたガストンとロクスは、

 クック討伐に連れて行った

 

 試しにアイアンソードを渡してみると

 並んだまま凄い速度で走り込む、

 鏡写しのように連携して同じ動きで

 翼を斬り、ものの5分で殺してしまった。

 

 モンスターの弱いところを本能的に

 理解出来るらしく、更に

 連携には言葉も合図も必要ない、

 長年コンビを組んでもここまで

 完璧な連携はできまい。

 

 しかし剣を理解していないために

 刃筋を立てる…なんてことは

 知らないようで殴り殺すに近い

 

 倒したらヨダレを垂らしてガストンに

 肉をくれと両手を出す

 

 

 

 

 「討伐するのは良いんだがよ……」

 ガストンはシカメっ面

 

 「コイツらにはモンスターに対する……

 何て言うのか……敬意が無い」

 ロクスも苦い顔、モンスターとは金に

 も財産にも変えられる貴重な生物、

 だからこそ根絶やしにはできない

 

 「まぁだ子供だよぉ、分かんないよ!

 こんがり肉が欲しくてやってる

 だけだろ?」

 二人の頭を撫でるエレーナ

 

 身長は170位あるが

 

 ギルドマスターはパイプを吹かす

 「行動が単純明解なぶん問題行動も

 起こさないし、なによりお前に

 良くなついたしの、

 それに飯の食い方も服の着方も

 出来るようになったし……

 大目に見てやるしかないだろう」

 

 「俺のマネばっかりやるんだ」

 ガストンは溜め息

 「ホントにデッケェガキ共だ」

 

 

 

 ………………

 

 

 

 数ヶ月後

 

 狩りは問題ない、

 生活全般などは子供と同じように

 教えてやらねばならないが、

 ガルダが間に入って言えるようになり

 楽になった

 

 「じゃあロクス、頼んだぜ」

 ガストンは旅支度を終えミナガルデ

 に向かう

 

 「あぁ、また一年後だな」

 

 「西の珍しいモノ買ってきてよ!」

 商売の幅を広げたいエレーナ

 

 

 

 「どこいく?」

 ポカンとしているガルダ

 

 「仕事で遠くに行くんじゃ、昨日も

 話したろ」

 ギルドマスターが見上げながら

 

 「ああああああ!!!!」(濁点を付けて)

 ゼルドが泣き叫ぶ

 

 「どこいく!!どこいくの!!?」

 ガルダも叫ぶ

 

 どうやら置いて行かれるのがイヤらしい

 

 ギルド中がなだめるが効果が無い

 

 体が大きく力が強くても

 子供には違いない、

 そしてガストンの言うことしか聞かない

 

 「こりゃあどうするか……」

 麻痺ナイフを持つロクス

 

 「仕舞いなよ、そんなもん」

 エレーナが諫める

 

 「お前の拳骨が頼りじゃ」

 ギルドマスターがガストンに拳を作り

 振って見せる、

 力で抑えるのは簡単だが

 可哀想だし逃げるかも知れない

 

 

 

 「ガストン!!お前にしか出来ねぇぜ!!」

 飼い主……いや親か……

 

 

 ガストンは意を決して溜め息を吐くと

 「ゼルド!!ガルダ!!こっち来い!!」

 

 素直にガストンの前に行くと

 ひざまづく

 

 皆はいつもの様に拳骨で殴る

 と思っていたら

 

 ガストンは頭をグリグリ撫でると

 「俺はオメェらの父ちゃんだ、

 前の親とは違う!!必ず帰って来る!!」

 

 ギルド中が納得する、この二人は

 捨てられた、特にガルダは記憶がある、

 

 また親に捨てられるかも知れないと

 思ったのだ。

 

 「ガルダ!ゼルドはお前の弟だ!

 お前が兄ちゃんだ、兄弟だ!!」

 

 「きょうだい?」

 「ぎ……だ?」

 二人とも顔を見合せポカンとする

 

 「お前ら兄弟でココを守れ、

 俺の代わりにココを守れ、約束だ、

 ちゃんと出来たら帰ってくる」

 肉も持ってくるからな、とグリグリ撫でる

 

 

 「帰ってくる」

 「が……ぐ……」

 二人は言葉では伝わらない

 何かを感じ取っている

 

 二人の頭を胸に抱くと

 「言葉が通じねぇなら肌で感じ取れ!!

 必ず帰って来る!!必ずだ!!

 お前らにギルドを任せる、

 俺の代わりだ!!」

 

 

 

 二人が大人しくなる、と

 

 スイングドアを開けるガストンを見送る

 

 「ゼルド、ガルダ、頼んだぜ!!」

 

 二人で言葉にならない叫びを上げる

 「行ってらっしゃい!!」と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから多くの年月が過ぎた

 

 今回は

 

 

 

 オヤジは帰って来なかった

 



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追撃

 

 「あいつら上位になったかな♪」

 カンナは感情に流されるし……

 

 「アッハ!多分ね」

 

 「クロフ君の慎重さなら失敗は

 無いでしょう」

 面白味も無いでしょうけどね

 

 

 「サイズ…合うといいけどな♪」

 ナナキは変な手つき

 

 「大体ゼニスと同じ位だったから

 多分ねっ…て、やめなさいよ!」

 ナナキの手を叩くアルト

 

 「この前のヘルパー装備ですね?

 なんだか嬉しそうでしたよ」

 

 「人の服の試着で嬉しそうだったの?」

 そんな事ってあるか?

 

 「あの娘(ゼニス)の感情は分かり難い

 ですが、鏡の前でクルクル回っていた

 ようです」

 ハインツがニコリと笑う

 

 「イマイチ分からねぇ娘だな♪」

 

 飛行船の中で話をする四英雄

 

 数日前、旧シュレイド城に突如出現した

 黒い竜の撃退指令を受けた、

 

 追い詰めた、が、

 あと少しで取り逃がしてしまった

 角を折り、翼もボロボロにしたのに

 

 弱った黒竜に対する判断は四英雄に

 一任すると本部からの連絡、

 ただし深追いするなとのこと

 

 

 

 「あの島ですぞ!」

 船内に操舵士の声が響く

 

 「父ちゃん!起きて!着いたってさ!」

 

 「んがっ!おぉ、着いたか!」

 寝ていたガストンが起き上がり、

 皆で甲板へ出て見下ろす

 

 眼下には溶岩だらけの島が見える

 

 「野郎…こんな所まで飛んできたのか」

 ガストンは目を凝らす

 

 他に2隻の飛行船が飛んでいる、

 旧シュレイド城から追跡してきた

 

 大陸から遥か南西、

 海原に煙を吹いている島

 

 「じゃあ準備はいいか♪」

 持てるだけ持って来た物資を担ぐ

 

 「これがワシの最後の仕事だ!!」

 肩を回す60才

 

 「またそんなことを……何回目です?」

 全員ラオ戦の時の装備

 

 「アッハ!!行くよ!!」

 

 些細な事でも情報を持ち帰る、

 英雄とは世界に破滅をもたらす竜を

 調べ、戦い、倒す使命を持つ者

 

 

 

 

 

 ゆっくりと着陸、四人を降ろすと

 上空で待機

 

 

 

 「フン!!溶岩の中に浸かってやがる!!」

 温泉で湯治のつもりか?

 

 四人は見る、溶岩の中から姿を現す

 紅い竜を

 

 「様子が変わったな♪」

 

 「角が治ってるじゃねぇか……」

 妙にデカく……

 

 「つまりココはヤツの居場所、

 回復する巣穴ってところでしょうか……」

 翼が治ってますね……

 

 「飛び上がった!!来るよ!!」

 

 四人の前まで突っ込んで来る!

 が、難なく避けて足を斬りつける

 

 「動きは同じだな♪」

 ランスで軽快にステップする

 

 「ブレスは避けろよ!!」

 力を溜めて爪先を殴る

 

 「あれを食らったら

 骨も残らないでしょう」

 反対の足を太刀で斬るハインツ

 

 「尻尾!!」

 アルトが叫ぶ!!

 

 広範囲を凪ぎ払う

 

 「距離を離すな!

 バカデケェ火ィ吐くぞ!!」

 ガストンが走り込む

 

 「あれは酷かったわね!!

 危なかったわ!!」

 腹から足を斬る

 

 「ガードも無理そうですか?!」

 

 「バカ言うな!盾ごと焼かれるぜ!」

 ナナキが盾を振って見せる

 

 

 

 四つん這いになる紅竜

 

 「くそっ!!まぁたこれか!!」

 

 四つん這いになられると高速で

 這いずり回る、手が出せない、

 回避に専念……

 

 ?

 

 突然……威嚇?

 動きを止めて……何だ?

 

 

 

 (何だ?何してやがる?こういう時は……)

 密着せずに2歩離れて

 力を溜めるガストン

 

 初めて見る動きには近付かない、

 それが生き残る道

 

 

 「グオオオォォ!!!!」

 咆哮!!直後!!

 

 

 「ドドドドォオオーーン!!!!」

 

 

 

 「ぐあぁぁーーっ!!」

 突然火柱に焼かれるガストン!!

 

 断末魔を上げてアルトに伸ばした

 手だけが火柱から出る!!

 

 が……

 

 「来るなあぁあああ!!!!」

 焼かれながら叫ぶ!!それでも……

 ハンドサインで逃げろと言っている

 

 「父ちゃん!!」

 「師匠!!」

 

 「バカ!!止まるんじゃねぇ!!」

 次々に!!ブレスじゃねぇ!!なんだ?!

 

 バチバチと高温で焼かれるガストン、

 火柱の中で影が倒れる

 

 

 「上だ!!」

 空から次々降ってくる巨大な火球

 

 

 こんな攻撃見てネェぞ!!

 なんてこった!!特殊能力あるぞコイツ!!

 「納刀!!動きを見極めろ!!」

 

 

 回避に撤する三人……ガストンは……

 

 腕だけが無傷で……

 熱い地面に落ちている、

 残りは……無惨に

 

 

 「父ちゃん!!」

 泣きながら駆け寄ろうとするが

 

 「バカ!!アルト!!」

 ナナキが襟首を掴んで引きずる!

 

 「ドドドドォオオーーン!!!!」

 

 「アルト!!しっかりしなさい!!

 師匠は全滅なんて許しませんよ!!」

 切り替えないと!

 

 「オヤジなら何て言う!?

 生き残って学べ!だろ?!!

 悲しんでるヒマは無ねぇ!!考えろ!!」

 

 黒い時はブレスと粉塵以外は肉弾戦、

 コイツは違う!!火山弾なのか?!

 キリンやクシャルのような能力が?!

 今身につけた能力か?

 

 

 

 

 三人は広がって距離を取る

 

 どうする……撤退……

 

 それを考えた瞬間!!

 

 「ドォオオン!!」

 

 飛行船の一隻が堕ちる、

 ブレスを上に吐いたのだ

 

 「ちぃっ!!そっちも狙うか野郎!!」

 

 「逃がさない……って事ですか」

 

 「どうしたら……」

 腕だけでも……

 

 

 

 

 ナナキは避けながら考える、と

 「ハインツ!!アルト連れて逃げろ!!」

 

 一瞬でお互いの思考を読む

 

 「バカな事言わないで下さい!!

 一人で残る気ですか!!」

 走り回りながら叫ぶ

 

 「アンタ一人だけ置いて行けないよ!!」

 

 

 もしかしたら……コイツは

 逃げたんじゃなくて……

 

 走りながら観察するナナキ、叫ぶ!

 

 「ココは巣穴じゃなくてヤツの狩場

 じゃねぇか!!?

 得意な場所じゃねぇか!!?

 俺達は罠に嵌まったんじゃねぇか!!?」

 だから新しい攻撃を……

 

 「嘘!!」

 空を見ながら本体も避けるアルト

 

 

 「可能性が!……もうひとつあります!!」

 全員回避のみ

 

 「良い話であってくれよ!?」

 何かこっちに有利な……

 

 「これが別の個体の可能性です!!」

 

 「「最悪だ!!」」

 それもあった!!

 

 黒竜は一匹だけの思い込みと、

 弱って巣穴に逃げたと思い込んだ

 

 不覚!!思慮が浅かった!!

 

 不利な場所、知らない攻撃、

 弱っていない別個体の可能性

 

 やっちまった!!

 

 「撤退するぞ!!」

 ナナキが手を振る

 

 「しかし狙い撃ちされます!!」

 飛行船は……

 

 「だから……こうすんだよ……」

 アルトに走り寄るナナキ

 

 

 

 

 「ドムッ!!」

 

 「がはぁっ!!」

 アルトの鳩尾を殴り気絶させる

 

 「ナナキ!!正気ですか!!」

 ハインツは怒る、アルトを気絶させた

 事ではない

 

 こうなればハインツはアルトを抱えて

 逃げるしかない、

 ナナキは自分の退路を絶ったのだ!

 

 ナナキは紅竜の正面に飛び出す

 「早くしろ!!お前らは生きて伝えろ!!」

 

 「貴方を見捨ててベッキーに

 会わせる顔がありませんよ!!」

 

 「上司だろ!!何とかしろよ!!

 ギルドナイト本部長!!」

 

 ステップしながら腹を突く

 

 

 

 

 

 

 「……解りました、生きて伝えます!!

 貴方も生きて下さい!!」

 ハインツはアルトを抱え、ガストンの

 腕を拾う

 

 気絶させてくれて助かった、

 アルトは残ろうとする、そうなると

 全滅した

 

 

 紅竜がハインツの方を見ると

 「こっち向けコラァ!!」

 ナナキが後ろから足を刺す

 

 

 

 飛行船が着陸する、大きくてノロマで

 ただの的だがナナキが囮になって

 守る

 

 「テメェの相手はこっちだぜ!!」

 

 紅竜の注意を引き付ける

 

 

 

 閃光も罠も効かねぇ、手持ちの

 回復系だけで消耗戦か

 

 「ハインツ、アルト、頼んだぜ!

 コイツは俺が食い止める!!」

 

 

 

 

 ちくしょう……クーラードリンクも

 無限じゃねぇ……

 

 

 ジリ貧だ……

 

 

 怖えぇなぁ……

 

 

 怖えぇなぁちくしょう……

 

 

 カッコつけても誰も見てねぇのによ……

 

 

 

 倒せねぇでも時間稼ぎさせて貰うぜ…

 

 ランスを振り上げ全力で叫ぶ!!

 

 「来いやァあああぁああぁああ!!!!」

 

 

 

 

 

 ベッキー……すまねぇっ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「かふっ!!ゲホっ!」

 アルトは気が付いた、飛行船の中

 なのを認識すると狼狽える、

 甲板に飛び出すと

 

 「ハインツ!!」

 

 ハインツは遠く小さくなった島を見て

 

 「火山弾……ではない……まさか」

 

 空から島へ正確に……

 火球が真っ直ぐ……

 

 まだナナキは……戦っている……

 

 

 

 「ハインツぁあああ!!」

 泣きながら殴りかかるが

 「バシィッ!!」

 アルトの拳を素早く掴む

 

 「怒りはもっともです、ですが冷静に

 なりなさい!」

 

 「死んじゃったんだぞ!!父ちゃんがぁ!!」

 ハインツの胸を何度も叩く

 

 「あのままでは全滅でした!私達は

 何としても生きて情報を伝える!

 それが使命です!!」

 

 「だけどぉおああぁああ……」

 

 アルトを胸に抱き止めるハインツ

 

 泣き続けるアルト

 

 操船している竜人や船員もうつ向く、

 ハインツも涙を流す

 

 

 「私だって悔しいんです!!ですがっ!!

 ナナキと師匠が犠牲になって

 掴んだ情報を伝えねばなりません!!

 我々は死ぬ訳にはいかないんです!!」

 

 

 

 たとえ……生き恥を晒しても

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 王宮 国務大臣執務室

 

 「緊急の書簡が届きました」

 薄くて緑色のローブを纏う若い男

 ルキウスの執事マーカス

 「ギルドナイト本……失敬、

 四英雄からのようです」

 

 ハインツがギルドナイトであることは

 ルキウスと数人しか知らない、

 

 ギルドの暗部が王宮に出入り……

 それどころか王族の一人では

 色々まずい

 

 「追撃の報告ですね……」

 こちらは白のローブに金の装飾、

 封蝋を剥がし小さな手紙を

 読むルキウス

 

 「これはっ!!」

 立ち上がる

 

 「どうされましたか?」

 

 「マーカス、書士隊とギルドナイトに

 召集を」

 手紙を持つ手が震える

 

 「すぐに手配致します」

 マーカスは退がろうとするが

 

 「四大英雄を王宮へ」

 

 「王宮へ……ですか?」

 いくら四大英雄でも……

 

 「速くしなさい、飛行船で今すぐです、

 災厄が来るかも知れません……」

 

 「すぐに!!」

 マーカスは走り出す

 

 手紙を握りしめ

 「なんて事だ……」

 

 

 

 即座に大陸全土へ伝書鳩が

 飛ばされた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後

 

 「人の一生は我らより短いが……」

 竜人ココット

 

 「それでも師より弟子が先に……」

 同じくミナガルデ

 

 「辛いもんじゃなぁ……」

 同じくドンドルマ

 

 表情は暗い、目が皺に埋もれる

 

 

 全く同じ姿の三人が円卓に座る、

 20以上の椅子がある多きな円卓

 

 「ようこそ、遠路遥々

 ご足労ねがいまして……」

 ルキウスは一礼する

 

 「摂政殿、よろしいのか?」

 「ワシらは英雄とは言っても平民だぞ?」

 しかも竜人

 「王宮内のお立場…悪くならんかの?」

 

 「国あっての王宮です、この危機に

 私の立場など……」

 毅然とした態度で議長席へ

 

 シュレイド国の主要人物達も円卓へ、

 各大臣、将軍、貴族……

 

 最後にハインツが部屋に入る、

 普段着とはいえ貴族のローブだが

 ハインツの席はない、

 ルキウスの部下の立場

 

 

 

 「王も隣でお聞きになっています、

 ハインツ、報告を」

 ルキウスの言葉で会議は始まる

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 「星……とは?」

 ココットが聞く

 

 「初めは火山弾を操ると思われ

 ましたが、遠くから見た時は……」

 ハインツは立ったまま答える

 

 「遥か上空から……ですか」

 

 大臣達から声が上がる

 「つまり流星を落とすと?」

 「信じられませんな」

 「いやしかし竜巻を操る竜も……」

 「自然災害そのものか……」

 

 

 ドン!!と円卓を叩くと将軍が嫌味の

 ように

 「負けた理由を捏造しただけでは?」

 

 さらに続ける

 「敗北にもっともらしい理由を

 付けただけではないか!」

 鎧を着て武人らしい格好だが、

 太っていて立派な腹が出ている

 

 

 議場の空気が悪くなる

 

 「しかし私は確かに……っ!」

 ハインツが反論しようとすると

 ルキウスが手を挙げて制する、と

 

 「敗北は敗北、ですが逃げも隠れも

 せずに恥を忍んで訴えているのです、

 嘘を言うとお思いか?」

 真っ直ぐに将軍を見る

 

 

 「弟君を庇いたいのは分かりますがね」

 将軍は呆れたように

 

 「大体流星などと……戯言を……」

 

 「弟君を庇うためにこの円卓会議で

 偽証を並べるのですか?」

 

 「国務大臣、自分のお立場を理解して

 無いようですな」

 

 将軍の派閥らしき大臣も避難の声を

 上げる

 

 議場は相手を貶める場になる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「カンッ!!」

 竜人達の杖が鳴る

 

 「立場、出世、

 蹴落とし合いなぞくだらん!」

 

 「盤上の駒遊びを

 見に来たわけではない!」

 

 「こうして児戯に興じている内に

 一番大事な時を失なうぞ!」

 

 

 「何を言うか平民どもがぁ!!」

 将軍が怒鳴った

 

 

 

 

 瞬間!!

 

 

 

 

 議場が凍り付く……

 

 

 

 

 ハインツでさえ逃げ出したくなる

 殺気……

 

 

 大臣達も動けない

 

 

 

 全員が理解する

 

 

 老いたとはいえ最強レベルの化け物

 を円卓会議に呼んだ事に!

 

 

 

 「分かっとらんなぁ…」

 

 「このままでは盤も駒も…」

 

 「この国ごと灰になると

 言うとるんじゃ…」

 

 

 笑う三人、しかし動けない……

 

 「ワシらがこの場で問うのは一つよ」

 

 「お伽噺を真実として認めるか……」

 

 「それとも隠し通すかじゃ」

 

 

 

 ココットが大臣達を睨むと

 「問題は『人類最強の二人』が敗北、

 最大の戦力を失ったのじゃ……

 そして災厄は……終わっとらん……」

 

 

 

 静寂……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 水差しを持った女官の一人が顔を上げ

 口元の布を取る

 

 「その辺で勘弁しては貰えぬか?」

 

 「なっ……王!!」

 「なにをしておいでで?!」

 「そのような格好で……」

 大臣達が狼狽える

 

 「ルキウス、ご苦労だった、

 この目で、耳で、英雄の声と威厳を

 堪能させて貰った……」

 

 「勿体ないお言葉……」

 ルキウスは立ち上がり、自分の席…

 議長の席に王を招く

 

 

 

 キチンと座ると 

 「では…是非とも英雄の意見を

 賜りたい」

 後ろに双子を従え、

 王は三人に一礼する

 

 「王!!」

 「平民にそのような!!」

 大臣達から意見されるが

 

 

 「黙りなさい!我々の兵士で勝てる

 相手では無いのでしょう?

 この国が危険なのでしょう?

 こちらが協力を求める立場です」

 王は三人に向き直ると

 

 「この国を私の代で終わらせる訳には

 行かないのです」

 

 

 

 三人の竜人は頷く

 「他の小僧どもとは違うな、

 流石は王じゃ」

 大臣達を見渡すココット

 

 「王と国務大臣は聡明じゃの、

 ハインツもな」

 同じくミナガルデ

 

 「小僧ども、口を開くな……沈黙せよ」

 同じくドンドルマ

 

 大臣達も将軍も黙る他無い、

 今から兵士を集めても勝てないだろう

 

 

 

 

 

 

 ………………

 

 1、G級に限り真実の公表

 

 2、シュレイド国内を移動する際の

 通行税をハンターに限り免除

 

 3、大陸南沿岸に飛行船と兵士の派遣

 および、連絡内容のギルドへの開示

 

 4、緊急時に限りG級ハンターの

 飛行船による運搬、使用及び

 全兵士のサポート

 

 

 ハンターに有利すぎて国の面子を

 潰しかねない内容だが

 

 「以上を締結する!!」

 ルキウスの宣言と共に王とココットが

 握手をする

 

 

 

 

 

 

 ………………

 

 

 数分後 別室

 

 「お陰で上手く行きました」

 ルキウスが頭を下げる

 

 「ワシらを呼んだ理由がまさかなぁ」

 

 「摂政殿からこんな手がなぁ」

 

 「何事も話し合いのルキウス殿がなぁ」

 

 同じ顔、同じ姿が同じ様に笑う

 

 

 「城内の兵士で太刀打ち出来るはず

 ありませんからね、

 まさか兄上が力で捩じ伏せるとは…」

 ハインツもやれやれといった顔

 

 「私も王も若すぎて大臣達から

 嘗められてしまいますし……

 綺麗事だけでは国は動かせません」

 ルキウスはニコリと笑う

 

 

 

 「バァン!」

 

 「ルキウス!!ハインツ!!

 これビックリしただろ!!?」

 女官の姿のままで乱暴にドアを開ける

 若い王

 

 同じ顔の二人が困った顔をする

 

 「いい加減脱ぎなさい」

 ルキウスが言うが

 

 「これくらいやっておかないと

 奴等(大臣達)を出し抜けないからな!

 それに噂に名高い英雄も自分で

 見たかったんだ」

 笑ったまま

 「その紅竜とやらの流星も

 一度見てみたいな!」

 

 ハインツが溜め息を吐きながら

 「貴方は好奇心が強すぎます」

 

 



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意気消沈

 

 「おっ、キレイになってんぜ」

 イシズキが壁を撫でる、石工の腕が

 良かったのか通路の壁がデコボコ

 していない

 

 「各通路も堀り直したみたいね」

 キャンプから覗き込むマリン、

 落盤していた通路の先に光が見える、

 土壁ではなくなった

 

 「歩きやすく石畳になってる」

 ガシガシ床を蹴るカンナ

 

 

 

 「でも……なんかやっぱり……」

 職人達の表情、掛け声…なんだか……

 

 「あぁ……人がすくねぇし」

 

 「活気が……無いわね……」

 

 「やっぱり師匠……」

 カンナが下を向く

 

 エリア4に抜ける、

 ドンドルマに帰って来た

 

 途中の村や行商人から噂を聞いたが、

 やはり本当だったらしい

 

 

 

 

 「挫けてたら師匠に笑われるし……」

 顔を上げるカンナだが、この言葉を

 呪文の様にずっと繰り返している

 

 自分に言い聞かせている……

 

 三人にはそれが理解できる

 理解できる過去がある

 

 

 門まで来ると

 

 「うわぁ!」

 

 「ほとんど直ってるぜ!」

 八割がた完成している

 

 「扉がキレイ!」

 カンナが撫でる、錆が浮いてない

 

 直った門を見ていると

 

 

 

 「おい、マリン、どうした?」

 

 マリンは無言で後ろを見ている、

 視線を追うと

 狩りから帰って来たパーティーが

 こっちへ来る

 

 しかし、視線を合わせる事も

 挨拶する事も無い、

 多分失敗したのだろう、

 こういう時は何を言っても逆効果……

 無言で通すが礼儀

 

 「失敗……だね」

 

 「多分な」

 

 「私らも行こう……」

 カンナは前を向く

 

 「ただ失敗しただけなら良いけど」

 様子がおかしい、失敗しただけ?

 

 

 

 

 マリンの予感は的中する

 

 街の活気が無い、行商人も露店も

 少なくなっている

 

 

 ギルドの前に着く……違和感

 

 静か過ぎる、いつもは喧騒が絶えない

 うるさい所なのに

 

 中に入ると…暗いし誰一人喋らない、

 ただ飲んでいるだけ、

 酔い潰れている

 

 「なんだよコレ?」

 

 カウンターにベッキーの姿も

 ギルドマスターの姿も無い

 

 力なくクロフ達を一瞥するだけ

 

 

 

 

 「帰ったか……」

 後ろにロクスがいた

 

 ………………

 

 

 

 「じゃあやっぱり」

 クロフもうつむく

 

 「本当なのか……」

 

 「ゼルドさんとガルダさんは?」

 マリンが見回す

 

 「ガルダは狩りに出とる、ゼルドは……

 奥で飲んだくれてのぉ……」

 

 

 あの手紙を誰も信じなかったが、

 アルトが帰って来て真実を告げた

 

 ベッキーは自室に引きこもり、

 ゼルドは仕事を放棄したそうだ

 

 ギルドマスターは王宮へ呼び出された

 

 

 

 「師匠は今どこに?」

 

 「ベッキーの部屋の前だ……行くか?」

 

 

 言っているとアルトが降りてきた

 

 「師匠!」

 

 「あ……あぁ…クロフ」

 やつれて目の下には隈が出来ている、

 手には冷えきった食事を持って

 

 「やはりダメか……お前だけでも

 メシを食ったらどうだ?」

 ロクスが心配するが

 

 「あの娘(ベッキー)が食べないんだ、

 ナナキ見殺しにしたアタシが

 食えないよ…」

 

 「見殺しってどういう事!!」

 カンナは叫ぶ、静かなギルドに甲高い

 声が良く通る

 

 皆こっちを見るが……覇気がない、

 既に聞いているのだろう

 

 ………………

 

 

 

 「そんな……」

 カンナが口元を抑え涙を流す

 

 「スゲェ人だな、仲間の為に……」

 腕を組みうつ向く

 

 「それだけじゃ無いわ、大陸全体の

 為にハインツさんとアルトさんを

 逃がしたのね」

 マリンは想像する、英雄の称号の重さ、

 なんて大きい人達だろうか

 

 

 

 「ナナキさん、宿題…終わってないのに」

 クロフもうつ向くしかない

 

 「宿題ィ?」

 ロクスが不思議そうに

 

 「次に会うときまでに思い出せって…

 前に会っていたらしいんです」

 

 

 アルトが少し考えると

 「…教えてあげる、ポッケの全滅の後に

 放浪した時だ」

 

 あの辺境から出るにはジャンボ村の

 交易船しか無い、だから一時ジャンボ村

 に居たんだ、

 

 道具屋の近くに誰が掘ったか

 分からない洞窟があって、そこに

 住んでたそうだよ

 

 

 

 「……あっ!!あの人だったんだ!!」

 髪と髭が伸び放題の浮浪者……

 

 「思い出したの?」

 カンナは涙を擦る

 

 「うん、船乗りとか村の食べ残しを

 何度も持って行った……

 パティと一緒に……」

 

 「感謝してたよ、だからアンタ個人に

 借りを返すより、パティに返せば

 アンタも喜ぶだろうって…」

 

 「似合ってたな」

 イシズキが少し笑う

 

 「サイズで揉めたけどね」

 マリンも笑うが

 

 会話が途切れてしまった、

 間が持たない

 

 

 「さて…何か作らないと」

 アルトが立ち上がろうとするが、

 よろける

 

 「言わんこっちゃない」

 ロクスが支えて座らせる

 「もう5日になるだろ、何か食え」

 

 アルトは力なく首を振る

 

 「師匠…」

 言葉が続かない、辛いんだ……

 俺じゃ何のフォローもできない

 

 アルトは涙を滲ませ黙ったまま

 

 

 

 

 「ワシから話そう」

 ロクスが語ってくれた

 

 手紙が来てから数日後、アルトは近くの

 町まで飛んできた

 

 ギルドに入ると全員が注目する

 

 アルトの顔が暗い……

 

 いつものように笑ってくれ……

 

 嘘であってくれ……

 

 誰一人口を開かない

 

 まさか……

 

 カウンターの前まで行くと

 

 「ベッキー……ゴメン……」

 泣きながら言うアルト

 

 クエスト帳や羽ペンを落としながら

 ベッキーは立ち上がる

 

 

 静寂

 

 

 

 

 突然

 

 

 

 

 

 「何で姉さんは生きてんのよ……」

 呆然としながら

 

 「ベッキー!!貴様ァ!!」

 ロクスが怒鳴る、一番辛いのは仲間を

 失ったメンバー、

 ギルドスタッフならそんなことは

 分かりきっている

 

 「ベッキー!!テメェ!!」

 「何言ったか分かってんのか!!」

 「何でだ!!ベッキー!!」

 G級達も怒り出す!!

 

 ベッキーは駆け出すと風のように

 階段を登って行く

 

 

 誰も何も言えない

 

 

 

 「すまんのぉアルト、まさかあんな……」

 ロクスが項垂れる

 我が弟子が……こんな……信じられん

 

 「いいんだ……女だからね……」

 

 

 ………………

 

 

 

 

 

 「あのベッキーがかよ……」

 いつもニコニコ笑ってるイメージ

 

 

 

 

 「ベッキー、ナナキさん好きだったし…」

 クロフが呟くと全員が一斉に見る!

 

 「どういう事!?」

 カンナが立ち上がる

 

 「アンタ誰から聞いた!?」

 アルトも体を起こす、一部の人しか

 知らないはず

 

 「おい、どういう事だ?」

 「何だ?何の話だ?」

 周りのテーブルも騒ぎ出す

 

 

 皆に見られてビクビクするが

 「なんか……ナナキさんにだけ普通に

 喋ってるし、態度も……こう……」

 上手く説明できないが

 「ベッキーが呼び捨てして……」

 

 「驚いたのぉ、まさか一番鈍そうな

 クロフがのぉ」

 ロクスの皺が深くなる

 

 「それに……」

 

 「まだあんの?」

 カンナがズイッと寄る

 

 俺の想像だけど……

 ギルドは酒場でもあるし、皆大体酒が

 入ってる、正直なところ手癖の

 悪い人もいるけど、ベッキーが触られた

 所なんて見た事無い

 

 ギルドガールを触ろうとしてベッキーに

 睨まれたり、手を叩かれた人は見た

 ことはある

 

 なのにナナキさんだけは触れる……

 

 「もしかしたら……ナナキさんにだけ

 触らせてる……かなって」

 

 

 

 「変な所で鋭いのな」

 イシズキがニヤける

 

 「それじゃ……辛いわよね……」

 マリンが頷く、伝えたアルトの心境も

 辛いものがある

 

 「なんかよ、こんな時は明るい話が

 欲しいよな……」

 イシズキが言うが……全員ため息

 

 

 

 

 

 スイングドアが開き大きな影が入る

 

 「フム、帰ったか」

 

 「ガルダさん!」

 

 

 

 ………………

 

 

 「それじゃあ……」

 クロフはうつ向きネックレスを見る

 

 「フム、ゼルドはギルドの規律や

 ハンターとしての矜持、体面ではなく

 オヤジの為に戦ってたからな」

 

 「専属なのに……」

 

 「仕方がない、だがゼルドはそんなに

 弱いヤツではない、必ず立ち上がる、

 俺はそれを待っている」

 表情が変わらない、いつもの怖い顔

 

 「物事には良い時も悪い時もある、

 今は踏ん張る時だのぉ」

 そう言うロクスだが……やはり

 覇気がない

 

 

 

 

 「ねぇ、師匠とガストンさんが負けた

 モンスターって何なの?」

 

 カンナの突然の質問にハッとする

 

 「そうだぜ、そういえば」

 顔を上げると

 

 「言えないんだ……」

 アルトが首を振る

 

 「四英雄か過去にその役目を継いだ

 者にしか公開されとらん……」

 

 「じゃあ知ってるのは師匠と?」

 

 「フム、後はハインツ、そして先代

 四英雄の俺とゼルドと……」

 

 「ゼルドさんとガルダさんも四英雄

 だったんですか!」

 四人が驚く

 

 「ガストンとワシらから赤鬼、青鬼、

 黒鬼、白姫に継いだからのぉ」

 ロクスがガルダを指さす

 

 

 

 

 「何か変ですよ?なぜまたガストンさん

 がその後に?」

 マリンが言う、そういえば

 

 「四大英雄に認められるやつが

 居なくての、ガストンが入って

 欠番を埋めたんじゃ」

 

 「とんでもないモンスターが

 居るんですね?」

 クロフがアルトに問うとコクンと頷く

 

 

 

 

 

 

 「あの……」

 まだ下働きのギルドガール達、

 オロオロしている

 

 「フム、どうした?」

 

 「お疲れのところ申し訳ありません、

 依頼が入っておりますが……」

 

 誰もクエストを受けないのだろう、

 立つ瀬がない

 

 「フム、内容は?」

 

 「上位相当のクックですぅ」

 困った顔

 

 「おっし、クロフ!」

 

 「ガルダさんも疲れてるだろうしさ」

 マリンが立ち上がる

 

 「師匠なら笑うトコだよね!」

 涙を拭いて立ち上がるカンナ

 

 「うん、そのクエスト、俺達が行く!」

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 

 

 「ちょっと何よコレェ!!」

 ランポスまで硬い、鱗が滑る

 

 「一旦退くぞ!!」

 クロフが叫ぶ

 

 森と丘の3番から2番へ移動

 

 「火山の村の時と同じだぜ!?」

 あの時も上位個体がいた

 

 「先にランポス片付けておかないと

 マズイわよ」

 マリンも息が切れている、

 ランポスごときが上位でこんなに

 違うとは

 

 「何か最初の頃に戻った感じだよぉ?」

 ポーチを確認

 

 「最初にランポス狩っておかないと

 無理だ」

 クロフも兜を取り、息を整える

 

 四人いればクックの他にランポスが

 居ても平気だった、上位では通用

 しない

 

 「嘗めずに基本に戻ろう!!」

 

 「「「了解!」」」

 

 

 

 

 雑魚を掃除してからクックと戦う

 

 「なんか思ってたのと違うぅっ!!」

 やっぱり硬い、手応えが違う

 

 「クックだと思うな!!」

 ガードすると一発が重い、久しぶりに

 体ごと持って行かれる感覚

 

 「コイツぁレウス並みだぜ!!」

 

 「気のせいかスキも少ないわ!!」

 振り返るの早いような

 

 「一撃離脱!」

 

 「「「おう!!」」」

 

 「閃光投げるよ!!」

 カンナが投げる

 

 「頭に行くな!足と翼へ!!」

 尻尾をガードするマリン

 

 「啄みはヤバそうだぜ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何とか倒してキャンプで後始末

 

 「素材はいっぱいあるからランポス

 装備位作れそうだね」

 ポーチを見ながらカンナが言うが

 

 「クック相手にアイテムいっぱい

 使っちゃったなぁ」

 クロフはボヤく

 

 「また光虫集めだな、それと

 上位装備にしないとな!」

 イシズキはなんだか嬉しそうだ

 

 「何で嬉しそうなの?」

 マリンが防具を洗いながら聞く

 

 「そりゃそうだろ、師匠と同じ位強い

 武器作れんだぜ?」

 上位の双剣…ワクワクする

 

 「でも、先ずは……」

 尻尾で叩かれた跡がクッキリ残る

 クロフの腕

 

 「防具から……だね」

 マリンの背中にも

 

 

 「ねぇ、気になったんだけどさ」

 カンナが盾の傷を撫でながら

 

 「ん、何?」

 

 「駆け出しの頃に戻った感じじゃん?

 G級上がる時も繰り返すよね?」

 

 「G級のクックの話も聞くわね……」

 

 「今の以上に強ぇえんだろうな……

 G級クックは下位だったら何になる?」

 

 「多分グラビモス……とか?……

 速くて硬い……」

 クロフは腕組みして首を傾げる

 

 

 

 「………………」

 四人共……途方も無い気持ちに

 

 

 

 

 

 

 

 「防具一択……だな!」

 イシズキはなぜかキメ顔で

 

 「生き残るが正解だし……」

 

 

 しまった……

 クロフは言ってしまった、今コレは

 カンナには……

 

 

 

 

 「……大丈夫だよ……」

 カンナは暗くなるが

 

 「カンナ、胸はって良いんだよ?

 あんたの師匠は国を守ろうとしたんだ

 誇れる師匠だよ」

 マリンがカンナの両肩に手を置く

 

 「最強の弟子……だよ」

 前みたいに生意気にならなきゃ

 いいけど……でもここは

 フォローすべき……

 

 

 

 

 

 「尻好きの弟子……」

 イシズキがニヤケながら

 

 「イシズキィ!!」

 

 「ちょっ!投げるな!砥石はやめろって!」

 笑いながら逃げ回る

 

 あぁ……これはイシズキなりの

 励まし方なんだ

 



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復活と始まり

 

 「なんか気が重い……」

 街に…いや、ギルドに行くのが……

 

 今朝後ろから来たパーティーの

 暗い顔が思い出される

 

 「こういう事だったのね……」

 マリンも納得した

 

 「……ギルド行かねぇで寄り道してぇ」

 

 「……なんかイヤだなぁ」

 

 こんなに沈んだ気持ちで門をくぐる

 日が来るとは

 

 ギルドに着く、と、今朝とは少し雰囲気

 が違う、騒がしい

 

 中に入ると

 

 

 

 「ごんなどぎまでしごどがぁ!!」

 涙の跡、鼻水の跡、色々着いた顔

 

 「こんな時だからこそだ!!」

 眉間に深い皺が出る、いつもの怖い顔

 

 ゼルドとガルダが言い合っている、

 賭けにするなら最高のカードだが

 誰一人囃す者はいない、

 力なくボーッと眺めている

 

 

 

 カウンターへ報告するクロフ達

 「お、お疲れ様ですぅ……」

 ベッキーの代わりに事務をこなす

 メガネの娘

 「あ、あの、あの……ケンカ……」

 たどたどしい

 

 「……私らじゃ止められないわよ?」

 察したマリンが答えるとギルドガールは

 下を向く

 

 アルトもロクスも止める気がない

 

 ゼルドもガルダも悲しいのは分かってる

 師匠というより親だ、

 拾って人間にしてくれた親だ、

 G級にとっても偉大な師だ、

 どれほど大きい存在だろうか

 

 「オヤジがしんだんだぞ!!

 がなしぐねぇのがぁ!!」

 片腕で殴りかかる!!

 

 「悲しく無いわけネェだろうがぁ!!」

 ガルダも殴り返す

 

 ハンマーの様な握り拳で一発づつ

 殴り始める!!

 「ぬうりゃああ!!」「うぉらあっ!!」

 「ドチャッ!!」「ゴチャッ!!」

 

 

 人を殴るとコレほど怖い音が

 するもんだろうか

 

 周りのやる気が無かった連中も

 流石に立ち上がり後ずさる

 

 テーブルや椅子を薙ぎ倒し、ジョッキが

 散乱するが誰も止められない、

 止める権利など無い

 

 親が死んで子供が悲しむのを

 止める事など誰が出来る

 

 「ビキッ!!」

 「ガゴォ!!」

 

 敷石が踏み砕かれ壁が衝撃で

 歪み、隙間から外の光が入る!!

 古竜が二匹ギルドで暴れているに

 等しい!

 

 「がるぅぁああああっ!!!」

 「オウラァアアア!!!」

 「ドゴッ!!」「ベチィッ!!」

 咆哮を上げて殴り合う!!

 踏み込みで床がひび割れ

 拳が唸りを上げる!!

 

 「ガゴォっ!!」

 「ボグッ!!」

 

 片腕など関係なく

 

 

 

 「こりゃヤベェ!!」

 「離れるぞ!!」

 「手加減してねぇ!!」

 「巻き込まれるぞ!!避けろ!!」

 

 防御も考えずに殴り合う!!

 全員が壁際へ避難する!!

 

 ギルドの真ん中に竜巻が有る様

 

 

 

 

 このままでは建物まで……

 

 クロフ達はカウンターの裏に隠れた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「カンッ!!」

 「ちょっと留守したらなんじゃあ?

 このザマは?」

 杖を鳴らす小さな竜人

 

 

 「ギルドマスター!」

 スタッフ達が一斉に言う、と

 二人がピタリと止まった

 

 「ゼルド!!!ガルダ!!!このザマは

 なんじゃあぁ!!」

 ギルドマスターの一喝!!

 気迫と言うのだろうか、クロフ達は

 直立不動になる

 

 「だっで……オヤジがぁ!!」

 顔面血だらけで、泣きながら叫ぶが

 

 

 「ガストンに後悔させる気か?」

 

 「???」

 一瞬表情が緩むゼルド

 

 「ハンターはいつ死ぬか分からん、

 だからお前達をここの専属に

 置いたんじゃ、安心して任務が

 出来るようにな」

 

 「ぐうるるる……」

 まだ納得出来ないゼルド

 

 

 

 

 「ゼルド!聞け!」

 血だらけでガルダがギルドの

 入り口を指さす

 

 

 

 

 スイングドア?……

 全員が注目する、

 風で少し軋んで揺れているが……?

 

 

 

 

 

 

 「オヤジはあそこで何て言った!?

 いつも何て言って出ていった!?」

 G級全員に向けて怒鳴る

 「テメェら思い出せ!!オヤジは

 何て言った!!!?」

 

 

 ドアを開ける後ろ姿

 

 

 ハンマーを背負い

 

 

 色黒の角刈り

 

 

 右目に眼帯で

 

 

 広い肩幅が振り返る

 

 

 ニカッと笑って

 

 

 

 

 

 

 

 「ゼルド、ガルダ、頼んだぜ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「だのんだっで……」

 涙を流すゼルドとG級

 

 「そうだ、俺達は任された、託された、

 このギルドを守れと言われた!!」

 

 G級達の目に光が宿る

 

 

 

 

 「ゼルド…オヤジと約束したな?

 ココを守れって言われたな?

 死んだら約束は無しか?」

 

 ガルダが胸ぐらを掴む!

 「お前は親不孝者か!!?兄弟!!」

 

 

 

 

 静寂

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あー……」(濁点を付けて)

 

 

 

 ゼルドが顔を擦りながら

 「……しごど……あるが?」

 掴まれたままでギルドスタッフに聞く、

 スタッフ達の顔が明るくなる

 

 ゼルドを放し

 「テメェら!!休暇は終わりだ!!」

 ガルダが叫ぶと

 

 「おうよ!!」

 「なまっちまったな!!」

 「久しぶりに運動すっか!!」

 「稼がねぇとな!!」

 G級達も騒ぎ出す

 

 「復活したのぉ」

 ロクスが笑う

 

 「ホッホッ、いつまでも世話の掛かる

 ガキ共だなぁ」

 

 次々にカウンターでクエストを受ける

 G級達

 

 ギルドマスターの前に二人が並ぶと

 

 「オヤジの…ぶぎどが…ぼうぐ……」

 「オヤジの遺品か形見とかは……」

 墓を作りたいが……

 

 「ホッホッ、残った片腕なぁ、ココット村の

 墓の隣に埋葬するそうだ」

 ハンター小屋の裏に、と続ける

 

 「ガストンは前々から言ってたしのぉ、

 埋めるなら姐さんの所だと」

 

 「じゃあ墓参り出来るな!!」

 「ちょっと遠いけどな!」

 「このクエスト終わったら行こうぜ!!」

 ドンドルマギルドが以前の騒がしい

 空気を取り戻す

 

 

 

 

 

 「その前に片付けなさぁーい!!」

 

 全員が階段を見る、

 ベッキー……

 

 静まり返る

 

 アルトに生きて帰った事を攻めた……

 皆の目がキツくなる

 

 

 「なによ!!皆で盛り上がっちゃってさぁ!

 一人でイジケてるのバカみたい

 じゃない!」

 どれほど泣いたのか、やつれて

 目の周りは隈が出来ている

 

 「ベッキー……」

 アルトが階段の下へ行くと、ベッキー

 が歩み寄る

 

 「姉さん、ゴメン、姉さんだって

 辛かった筈なのに……」

 アルトに抱き付く

 

 「アンタほどじゃないよ……

 分かってるよ……女だからね」

 背中を撫でるアルト

 

 「アルトよ……許してくれるのか?」

 ロクスは申し訳なさそうに

 

 「何だ?許すのかよ」

 「あんなこと言ったのにかぁ?!」

 「生きて帰って来たヤツを攻めるのは

 許せねぇぜ!?」

 皆納得できない

 

 アルトが叫ぶ

 「いいんだって!!女だから分かるんだ!!

 これ以上ベッキーに辛い思い

 させないで!!」

 

 「???」

 皆理解できない、なぜアルトは簡単に

 許すんだ?

 

 何だか煮え切らない空気になる

 

 「しかしだな、何らかの処分なり、

 注意なりせねばの」

 ロクスが言うが

 

 

 

 

 

 

 「あのぉ……ごめんなさい、こんな時に」

 カンナが遠慮がちに手を上げて

 

 「関係ないけど師匠の、その……

 形見とかあったら……」

 

 そうだ、ナナキさんの遺品は?

 

 

 「あー……なんだかなぁ……」

 ボリボリ頭を掻くアルト

 「ある……って言うか……」

 

 

 

 

 

 静寂

 ベッキーと頷き合うアルト

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……いるんだよ……お腹にさ……」

 

 

 

 

 

 「はあああっっ!!!!?」

 

 

 

 「そういう事かぁ!!」

 「ナナキの野郎ォ!!」

 「めでたい話じゃねぇか!!」

 「それであんなこと言ったのか!!」

 「あいつ抜け目ねぇな!!」

 ギルド中が爆笑する

 

 「そうだよ、産まれて来る子供の父親を

 見殺しにしたんだ、母親なら

 怒って当然!!」

 ベッキーを抱き締めながら

 「アタシは攻められて当然なんだよ」

 泣きながら抱き合う

 

 「ホッホッ、ではしっかり食べさせて

 やらなきゃなぁ」

 

 「孫の仲間が出来るのぉ」

 

 「ホッホッ、皆!!稼ぐぞ!!」

 

 「フム、街を衰退させられん!」

 

 「オヤジがいなぐでもまもるぞぉ!」

 

 

 「師匠の子供かぁ!」

 跳ねるカンナ

 

 「軽いノリの子供になりそうだな」

 ニヤケるイシズキ

 

 「狩りの才能はありそうよ?」

 腕組みするマリン

 

 

 

 

 「尻好きの……」

 クロフは言ってみる、人生初の冗談……

 

 三人は凄い勢いで振り向く!!

 

 

 

 「「「そうそう!!」」」

 皆笑顔

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プロローグ4

 

 目の前まで来ると顔をマジマジと見て

 

 「あなた◯◯ちゃんね?」

 

 何で名前知ってんの?

 

 

 「ベッキーさん、ビール持って来たよ!!」

 

 「あらぁ、待ってたわよ」

 伝票を持って走って行く……

 聞いたことがある、あの人がベッキーか

 

 「バァン」

 またドアが乱暴に開くと二人出てくる

 

 「うるせーなぁ年下のクセに!!」

 いかにもガキ大将が出てくる、

 黒い髪、黒い瞳、浅黒い肌、

 逆立てた髪は癖毛だろうか、

 18才位?

 

 

 「貴方は勢いばっかりです!!」

 ビックリする美形、薄い色素、紫の瞳、

 背が高くて上品、長い金髪を後ろで

 纏める

 

 こちらに気が付くと

 

 「おっ?新人かよ」

 ズカズカ近付くガキ大将、

 上から下まで見ると

 

 

 

 

 

 「お前……胸無ぇな!!」

 満面の笑み

 

 「なっ!!!!」

 

 「ハルキィッ!!」

 「ゴン!!」

 

 ベッキーが拳骨を落とす!!

 「まったくアンタって子はぁ!!女の子

 見ると見境なく!!」

 

 「いってぇな母ちゃん!!父ちゃんだって

 大陸中の……」

 頭を擦る無礼者

 

 

 呆気に取られていると

 

 「すみません、いつもの事ですので

 気にしないで下さい」

 背の高い美形はニコリと笑うと丁寧に

 「案内します、付いてきて下さい」

 

 ようやくギルドに入る、

 ベッキーとハルキ?はまだ言いあって

 いるが……

 

 酒と料理、ハンターの体臭でムワッと

 するが……なんだろ?

 私を見ると皆笑ってる気がする……

 髪型が変なのか?顔が汚れてる?

 背が低いから?

 

 

 まさか胸が無いから??!

 

 

 

 「アッハ!!とうとう来たねぇ!!エミナ!!」

 教官シリーズの美人が話しかける

 

 「アルトさん!お久しぶりです!」

 お父さんの師匠、何度も村に来ている

 

 「クロフ達も変わり無い?」

 

 「じいちゃんと釣りばっかりで

 お母さん達に怒られてますよ」

 

 

 「あれ、イツキは一緒じゃないの?」

 

 「私が先にガノトトスを……」

 

 

 

 

 「母様、この方がクロフさんの……」

 美形が聞く

 

 

 この美形はアルトさんの子供?

 

 「アッハ、そう!クロフとカンナの娘で

 エミナ、で、こっちはアタシの子で……」

 

 「ミハエルです、以後よろしく」

 自分の胸に手を当てて丁寧に

 挨拶する

 

 凄い、確かお父さんはハインツさん、

 貴族の家系……王族……

 

 「さっきまでイシズキも居たんだけどね」

 キョロキョロする、見当たらないらしい

 

 「イシズキさんは会った事無いけど、

 確か……」

 

 「アッハ!去年やっとマリンと結婚

 したのに弟子増やすのに夢中でさぁ」

 

 

 「あの、私の事って皆さん

 知ってるんですか?」

 二人に聞く、

 ギルド中がエミナを見ている

 

 「ホッホッ、それじゃよ」

 カウンターに腰掛けた小さな竜人が

 指差す………胸?

 多分ギルドマスター……?

 

 「フム、懐かしいな」

 怖い顔の大男が声を掛ける

 この人……ガルダさんかな?

 

 「ぞのねっぐれすだぁ!」

 モジャモジャ頭の大男……右腕が無い

 ……多分ゼルドさん?

 

 「コレ?!」

 村を出る時にお父さんから渡された、

 古くて汚ないネックレス?

 何で?

 

 

 「やっぱりのぉ!クロフとカンナの娘か!

 カンナに良く似とるのぉ!」

 杖をついて腰の曲がった老人が

 ギルドに入って来た、

 頭髪も歯もないようだ

 

 「あ!さっきの!君のこと話したら

 じいちゃんがギルドに行くって

 聞かなくてさ!」

 エレーナ商会?とか言うさっきの

 ひょろっとした人

 

 

 「ホッホッ、ロクスよ、日向ぼっこは

 飽きたのか?」

 

 「こんな時に出来るかい!ワシの試験を

 受けさせねばの!」

 

 「フム、もう引退してから何年だ?

 85過ぎただろう」

 

 「オデらだっでいんだいだ、

 じじぃなんだ、しずがにしでろ」

 

 「やかましいわ小僧ども!」

 杖を振り上げるが

 

 「アンタに比べりゃみんな小僧だぜ?」

 「ちげぇねぇ!!」

 「ぎゃははは!!」

 「60、70だって小僧だ!!」

 ギルド中が笑う

 

 

 

 

 ベッキーもハルキと一緒にカウンター

 に来ると

 

 「じゃあエミナちゃん、ギルドカードを」

 

 「あ、これです」

 エミナはブロンズのカードを渡す

 

 ミハエルが覗き込むと

 

 

 

 

 「ハルキ、ガノトトスをソロで討伐

 してますよ?」

 ミハエルが笑いながら

 

 「俺はリオレウス倒してるぜ?」

 腕組みしてふんぞり返るガキ大将

 

 「アンタはミハエル君に助けられて

 ばっかりでしょうが!!」

 ベッキーが怒る

 

 「ホッホッ、ちょうど良いかもなぁ」

 ギルドマスターが顔を見比べると

 「お前達、今日から組め」

 

 「「ええーっ!!」」

 

 「このガキ大将と!!?」

 エミナは指差す

 

 「このチビと!!?」

 ハルキも

 

 「誰がチビよ!」

 「誰がガキ大将だ?」

 「失礼だよアンタ!!」

 「失礼はお前だろ!!」

 

 「アッハ!こりゃ合いそうだわ」

 

 「まずは森と丘の採取ね」

 ベッキーは依頼書にサインする

 

 「ミハエル、監督頼むぞ?」

 ギルドマスターは笑いながら

 

 「いつもの事ですね」

 やれやれと笑うミハエル

 

 「アッハ!!まぁとにかく」

 

 ベッキーが手を振りながら

 「行ってらっしゃい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おおーい!村長」

 大工のカダ

 

 「ん?」

 釣竿を上げるクロフ

 

 「砂漠にディアが出たぞ!!」

 

 「うわ、準備準備!!」

 道具屋に走ると

 

 

 

 「ほら、アンタ!しっかりね!」

 カンナに装備と道具を一式渡される、

 各モンスターに合わせてカンナが

 考えてくれたマイセット

 

 「行ってらっしゃい!勝って来なよ!!」

 スッカリ道具屋の女将になった

 手を振るカンナ

 

 

 

 ギルドに着く

 「父ちゃん俺も!!」

 ハンターナイフ改を持った14才位の男、

 クロフとパティの子、名をイツキ

 

 「ダメよ、まだあなたじゃ足手まとい

 だからね、許可出来ないわ」

 益々美人になったパティが止めるが

 

 「エミナが先にドンドルマ行っちゃった

 んだ、俺も早く行きたい!」

 パティに似て可愛いらしい顔立ち

 

 「ガノトトスを一人で狩ったらな」

 

 「俺の方はデカかったんだぞ!!」

 

 「運も大事なんだぞ?」

 クロフは笑うと

 「パティ、村を頼んだよ」

 

 「行ってらっしゃい、

 無事で帰って来てね」

 手を振るパティ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 孤独が好きか?

 

 

 

 

 

 一人で砂漠に向かうと

 久しぶりに聞く……

 多分もう一人の自分……

 

 過去の弱い自分の声……

 大嫌いな過去の自分……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「一緒に行かないか?

 ちょっと賑やか過ぎるけど」

 




一応これにて本編を終了とします。
後は外伝等々気が向いたら更新しようかと
思います。

御覧の通りエンディングから先に書きまして、
いつでも話を閉じられる準備をしていました。

読んで下さった皆さん、ありがとうございました


そして願わくば、これを読んだ友人が、
鬱の自分も自分として受け入れ、
ドアを開け笑う……
そんな日が来ますように。


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砂の人形

回想シーンで書きかけだった話が
残っていたので。

あとで章の編集もしないと。


 

 「あとは一日ほど砂漠を進みますよ」

 立派な髭の隊長は少女に笑い掛ける、

 馬車と護衛が隊列を組み砂漠を渡る

 

 「分かりましたわ」

 少女はニコリと笑って馬車から

 答えるが、内心はウンザリだった。

 初めて王都から外へ、更にシュレイド領

 の外まで出られたことが嬉しかったが、

 珍しい物も数日見たら飽きてしまう。

 

 砂漠もすぐに見飽きてしまった。

 

 「お母様、外に出てみたいです」

 砂漠の砂を触りたい、森の木も、

 川の水も……

 なのにほとんど外に出してもらえない、

 これでは屋敷にいるのと変わらない

 

 白いフリルだらけの少女は

 伏し目がちにお願いする

 

 「私も出してあげたいわ」

 母親のエレンも気持ちは理解できる、

 もう何日も馬車の中だ

 

 「しかしながら旦那様の言い付けです、

 辛抱なさって下さい」

 使用人の女も困ってしまう

 

 父親のロイズは前の馬車で書類と

 質疑応答のシミュレーションで忙しい

 

 「やっとお婆様の目の届かない所に

 出られたのにぃ……」

 膨れ顔のフリルのドレス

 

 「アルト、ダメよそんなこと言っちゃ」

 刺繍をしながら諫めるエレン

 

 「勉強ばっかりだもぉん」

 

 「将来のため……なんだけどね」

 

 「将来って何?顔も知らない人と結婚

 するんでしょ?私」

 ドカッと馬車が揺れるように座る

 

 「私が平民だから今度こそって……

 少し意地になってるのよ」

 刺繍の手を止めて微笑む

 

 「お母様は大変だったのよね?」

 

 「そうよ、売り子が若旦那と結婚だもの、

 今でも納得してないでしょうね」

 

 下級貴族の自分が金持ちとは言え

 平民と結婚、

 そして息子が平民の娘と結婚、

 納得出来ない気持ちがそのまま

 孫に対する期待になっている。

 

 「あーつまんない!!」

 

 「じゃあ少し遊びましょうか」

 エレンが言うと使用人は

 エプロンなどを用意する

 

 

 

 着替え終わると

 「トマト、ナッツ類、葉物の下拵えからね」

 すっかり着替えると貴族も平民も無い

 格好に

 

 「またパン料理かぁ」

 アルトも着替えた

 

 「馬車では保存食しかないからね」

 火は使えないし、スペースも無い

 

 「お婆様は料理は使用人のやることだ

 って言うけど……」

 膝の上にまな板を乗せ小さな包丁を

 持つ

 

 「あら、貴族や平民である前に女よ?

 料理位は出来ないとね」

 笑う母親、平民の町娘だから貴族っぽく

 ないし、金持ちらしくもない。

 

 お婆様に隠れて家事を教えられた、

 お母様が言うには『女子力』と言う

 らしい、必要なスキルだそうだが

 分かんない

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼下がり……とは言っても常に暑い

 砂漠

 

 「お母様、暑いわ」

 馬車の中でも汗が出る、

 ドレスを脱いで正解だった

 

 「大丈夫なのかしら」

 周囲の護衛も変わりなく、馬も平気

 そうだが

 

 「水もクーラードリンクなども大量に

 あります、心配ありませんよ」

 ドアを開けてまな板を軽く水で流す

 使用人

 

 

 

 「…………!!」

 

 叫び声?

 

 

 「おい!!何かいるぞ!!」

 護衛の声が響く、アルト達は外を見ると

 此方に向かって砂埃が何本も高速

 で近付いて来る

 

 「なにあれ!!」

 目を見張りながら

 

 「モンスターでしょう」

 母親は心配そうに言うが

 

 「こんなに護衛がいるんです、

 アッと言う間に片付けてくれますわ」

 使用人は楽観する

 

 

 

 

 

 しかし数秒でその価値観は逆転する

 

 隊列の左手にいた護衛が馬ごと

 引き摺り倒される、と

 砂の中からガレオスが何匹も飛び出す

 

 「モンスターだ!!」

 「何だ!!何が起こってる!?」

 「砂の中にも居るぞ!!」

 「畜生!!当たらねぇ!!」

 「馬がやられたぞ!!」

 「どうすりゃイイんだ?!」

 「隊長!!どこだ!!」

 馬から落ちた護衛が応戦するが、

 まるで歯が立たない、

 次々に砂に引き摺り込まれたり

 尻尾で叩かれて飛ばされる。

 

 走る馬からボウガンを撃っても

 相応の訓練を積まなければ当たらない

 

 「聞いてたヤツと違うぞ!!」

 馬が怯えて動かない 

 

 最後尾の馬車が倒され、

 使用人達が放り出され砂に消える

 

 「アルト!こっちへ!」

 母親に抱かれ震えるしか出来ない

 

 「護衛は何をやって……っ!!」

 そこまで言った使用人は言葉に詰まる

 

 窓から見える巨大な体

 

 アルトは見てしまう、

 ドスガレオスの巨体を

 「ヒッ……!!」

 

 「奥様!!逃げ……」

 直後に衝撃!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗い……

 

 

 

 母親が覆い被さっている事に気付く

 「おか……」

 アルトの口を急いで塞ぐエレン

 

 アルトは状況を理解するまで数秒を

 要した

 

 馬車が倒されている、

 護衛達は戦っているが……

 一人に数匹で食らい付く、

 何も出来ずに喰われている

 

 魚とも竜ともつかない変な生物

 

 そして隊列の周囲を多くの背鰭が

 周回している

 

 「アルト、静かに、音を立ててはダメよ」

 母親は小声で続ける

 「本で見たことあるわ、アイツらは

 目が見えないはず」

 

 黒い壁の日陰でじっとする、この壁が

 横倒しの馬車の天井だと気付くのに

 時間がかかった。

 

 護衛は強いという思い込みはアルトの

 中で霧散した、何の役にも立たない、

 モンスターの死体は一つも無い

 

 

 

 

 

 母は周回のタイミングを見ると

 「アルト、立って」

 立ち上がるとアルトを馬車の上に

 上がらせ、自分も登る

 

 

 

 良く見える、

 

 どれだけ絶望的な状況か

 

 数台の横倒しの馬車

 

 護衛はいない

 

 馬も全部喰われたようだ

 

 馬車の上に数人づつ人がいる

 

 周囲は確実な死が周回している

 

 

 

 「………………」

 アルトは無言で母親にしがみつく

 

 エレンも抱き締め震えるしかない

 

 

 

 

 

 

 

 時間だけが過ぎる、しかし容赦ない

 太陽が照りつけ、

 頭の汗が頬を伝い顎から落ちる

 

 「……暑いわ、お母様」

 暑いのにカチカチと歯が鳴る

 

 「ガマンして」

 暑くて恐いのはエレンも同じ

 

 耐えるしかない、何か気配を感じるのか

 背鰭の輪は崩れない

 

 だけど人間は限界が近い

 

 

 どうする……

 

 

 

 

 

 

 

 前の馬車の上にアルマの長男ロイズ

 と執事が数名

 

 「逃げるなら全員の方が……」

 まだ若い次期当主

 

 「ムリです、奥様とお嬢様が砂の上を

 走るなど……」

 老執事は項垂れる、が、

 「ですから若、私達は一か八か街道へ

 向かって走ります、その間に奥様と

 お嬢様を連れて……」

 指さす、最後尾で横倒しの馬車、

 物資用のために幌の荷台だが

 食糧などが積んであるし、

 クーラードリンクもある。

 

 「あそこまで行けば数日は救援を

 待てます」

 

 馬車までは100メートルほど、

 街道までは……

 

 「止めてくれ、全員で生きる方法を…」

 何かないか

 

 老執事は手で制すると

 「貴方を死なせたとあっては処分は

 免れません」

 立ち上がると

 「アルマ家使用人!!聞きなさい!!

 我々は街道を目指して走るぞ!!」

 

 他の馬車に合図すると

 「では若……後程」

 飛び降り

 「皆!!街道まで走れ!!」

 老体にむち打ち走る執事と使用人、

 輪になっていた背鰭が一斉にそちらに

 走り出す!!

 

 それを見たあとで飛び降り妻と娘の

 馬車へ走るロイズ

 「エレン!今のうちだ!!」

 

 エレンも察してアルトと飛び降り走る

 

 ロイズは後ろに回りエレンとアルトを

 走らせる!!

 

 「急げ!!あの馬車だ!!」

 

 後ろの方から悲鳴が聞こえるが

 全力で走る!

 

 あと30メートル程

 

 

 

 

 アルトは今までロクに走ったことがない

 

 何度も転びそうになりながら

 横倒しの幌馬車に走る!!

 

 「頑張れ!!アルト!!」

 ロイズに励まされ必死に走る、

 呼吸が熱い!!

 砂が混じる空気の中を全力で

 

 「アルト!ほら!もっと速く!!」

 エレンに手を引かれ必死に走る

 

 「ザザッ!!」

 

 

 

 ロイズの声が消える

 

 「お父さ!……」

 「あなた!……」

 

 振り返ると一際大きな背鰭がある

 

 一瞬遅れて思考が戻る

 

 大きい!!

 さっきの!!

 お父様が!!

 しまった!!

 止まってしまった!!

 

 あと少しの所で足を止めてしまった!!

 

 小さい背鰭は執事達を追ったが

 この大きいのは動いてないらしい

 

 そして二人の前に

 

 「ザザァァッ」

 もう一つの大きい背鰭……2匹居た…

 

 

 

 

 

 二人は呆然とする

 

 

 確実な死が目の前にある

 

 

 どうする……

 

 

 動けない……

 

 

 多分コイツらは音に反応する……

 

 

 ジリジリと砂に、太陽に焼かれる

 

 時間などない

 

 

 

 「アルト!!」

 エレンは叫びアルトの手を取り走る!!

 走りながらアルトを前にする!!

 

 あと10メートル!!

 

 5メートル!!

 

 3!!

 「ドンッ!!」

 

 アルトは後ろから押され幌へ

 転がり込んだ

 

 

 

 

 

 意識はハッキリしている

 お母様に突き飛ばされた

 

 背中に人の手の感触

 

 数秒で幌の中から振り返る、と、

 

 

 

 ???

 

 

 

 お母様がすぐそこにいる

 

 「アルト、音を立ててはダメよ?」

 笑顔で……

 

 「おか……」

 

 エレンは人差し指を口へ

 

 

 

 膝から下が砂に……

 

 背鰭が……

 

 

 

 「アルトは美人なんだから泣いちゃダメ」

 

 

 

 ゆっくりと腰の辺りまで沈む……

 

 

 喰われてる!?今!!

 

 「いつも笑いなさい、笑顔でいなさい」

 苦痛に顔を歪めるが、それでも

 笑顔を作る母

 

 

 

 叫びたい!!泣きたい!!お母様と!!

 でも同時に理解する

 

 

 泣かせないために!

 

 

 音を出させないために!

 

 

 我が子を救うために!

 

 

 一番の恐怖の中にいる母は

 笑っているのだ!!

 

 

 

 涙を流しながら頷く、

 今はそれしか出来ない

 

 口に手を当てて嗚咽を堪える、

 母の思いをムダに出来ない!!

 

 エレンも笑顔で頷く

 

 

 

 

 そのまま……ゆっくりと砂に沈む

 

 笑顔のまま……

 

 

 

 

 「笑いなさい、美人なんだから」

 最後の言葉を残し、涙を流し沈む母

 

 

 

 

 

 

 どれほどの恐怖だったろう

 

 その中で必死に笑顔を作った

 

 我が子を泣かさないために

 

 

 

 

 守られた、凄まじい愛情で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 

 「ドォン!!」

 砂にハンマーが撃ち下ろされる

 

 堪らずガレオスが砂から飛び出す、と

 

 「「ぬうりゃあ!!」」

 二本の大剣がまだ空中のガレオスを

 斬る、頭と尻尾を斬り落とされ

 砂の上に転がる。

 

 「上手くなったな!!キモがダメに

 ならねぇ!!」

 ハンマーを担ぐガストン、

 白髪混じりの角刈り

 

 「オヤジ、四英雄だぞ?俺達……」

 「オヤジのがわりもでぎる!」

 2メートルを越える巨体の

 ゼルドとガルダ

 

 「イッパシの口利きやがる!!」

 ガハハと笑うガストン

 

 「それよりオヤジ」

 

 「でがいむれだ」

 

 「あぁ、珍しいな」

 辺り一面に50を越えるガレオスの死体

 

 

 

 

 2日前

 

 ドンドルマギルドに行商人が飛び込む

 「誰か来てくれ!!」

 

 近くに座っていた若いハンター達が

 外へ出ると竜車があり、片方の足を

 失った男が乗せられている。

 

 「何事じゃ?」

 ギルドマスターも出てきた

 

 「ほら!あんた!ギルドだぞ!」

 片足の男の頬をペシペシ叩く行商人

 

 「う……あ……」

 既に意識は混濁しているようだ、

 血も足りてないようだし、

 傷は止血してあるが既に

 腐り始めている、

 手の施しようがない。

 

 回復薬をかける間もなく事切れた

 

 行商人に事情を聞くと、昨日

 西の砂漠付近の街道で助けたそうだ

 

 自分は商隊の護衛だと言っていた、

 ドンドルマに向かう商隊だそうだ

 

 

 「むぅ、捨て置ける事態ではないな」

 ギルドマスターが思案すると

 

 「俺が行ってやる!!」

 ガストンが出てきた

 

 「報酬が出せるクエストにはならんぞ?」

 

 「ただ働きなら散々やったし

 今さら変わらねぇよ!!」

 ハンマーを担ぐと弟子達を呼び集める

 

 が、

 

 「ガストン、ゼルドとガルダを

 連れていけ」

 ギルドマスターは低い声で

 

 「あいつらァ四英雄だぜ?

 雑務でもねぇだろ?」

 

 「装備を見ろ……」

 ギルドマスターは顎をしゃくる

 「ただの護衛にしては装備が

 高そうじゃ」

 

 片足の男が着ているのは薄く延ばした

 金属の防具、ハンターではない、

 王都の兵士?

 

 「何者だァコイツ?……護衛……?」

 装飾部分を見るガストン

 

 「何にしてもトラブルの種だ、

 戦力は大きくて良かろう」

 王都の兵士か、貴族の連中か……

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 

 「妙だな……」

 ガストンは辺りを見る

 

 「フム、これだけ大きい群れなのに…」

 

 「どずがれおずがいねぇ……」

 

 隣のエリアに移動する

 

 

 

 

 

 信じられないモノを見る

 

 

 

 

 

 

 砂漠の真ん中に馬車の残骸が

 散らばる

 

 2つの大きな背鰭が円を描く中心に

 

 

 

 

 砂の……人形……?

 

 

 

 全身砂の色……人間?!!

 

 

 

 暑さで陽炎が揺らめく一面の砂、

 その中にポツンと立っている

 

 

 

 

 

 

 「なんだァありゃあ?」

 ガストンは目を凝らして

 「生き残りか?……やるぞ!!」

 力を溜めながら走るガストン

 

 「「おう!!」」

 二人も走り込む

 

 

 

 ………………

 

 

 ものの数分でドスガレオス2匹を

 片付けて、砂の人形の正面へ

 

 「良く生き残ったな」

 ガストンが語りかけるが…反応がない

 

 「フム、この残骸には物資が多いな」

 背鰭で壊されただろう馬車の周りに、

 食料、水、ドリンク類が散らばる

 

 「ひどりでがんばっだんだな」

 空になったビンも辺りに散らばっている

 

 

 

 「歩けるか?」

 ガストンが手を取り語りかけると

 

 

 

 ……ゆっくりと手を振りほどく

 

 エプロンをギュッと握り締めて

 立ち尽くす

 

 「おい……!」

 ガストンは漸く気付く、人形は

 ブツブツと小さく呟いている

 

 小さな小さな声で繰り返す

 

 

 

 

 「音を立ててはダメ泣いちゃダメ

 音を立ててはダメ泣いちゃダメ

 音を立ててはダメ泣いちゃダメ……」

 

 

 誰かに言われた生き残る術を

 必死に耐えながら繰り返している、

 小刻みに震えながら。

 

 

 

 砂だらけの顔をゴツい両手で包み

 

 「もういいんだ、よく頑張ったな……」

 ガストンはニカッと笑うが

 

 「………………」

 何かに取り憑かれたように繰り返す

 

 

 

 

 ガストンは砂を払い抱き締める

 「もうイイんだ!!オメェは助かったんだ!!」

 

 アルトは膝から崩れる

 

 

 糸が切れた操り人形の様に

 



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本編と全く関係なしの話です、
単にお気に入りのキャラの話を
前々から考えてました。

なんの教訓もありません、
ただの暇潰しです


 

 「ドンドルマ……ですか」

 無表情のゼニスが答える

 

 「何か不満でも?」

 ハインツが首を傾げて、

 ゼニスが聞き返すのは珍しい

 

 「いえ、何も……任務内容は?……」

 

 「現地で詳しい内容は聞きなさい、

 解っているのは『暗殺』任務です」

 

 

 

 最近疑問を持つ、助けられた恩義を

 返すためにギルドナイトとなり、

 大陸中を飛び回り規律違反の

 ハンターや、不正な依頼を出した者の

 命を狩ってきたが……

 自分のやっていることに違和感を持つ

 

 私のやりたい事はこれか?

 

 いや……やりたい事を口にするなど

 恩義に反する。

 

 

 

 

 

 

 ドンドルマギルド

 

 「……つまり弟子を暗殺すると?」

 

 小さなギルドマスターは笑顔で

 「ホッホッ、お前がその目で見て判断

 してほしいんだなぁ」

 

 

 

 「ハンターをしながら商売を?」

 前の弟子についての報告書を読む、

 初耳だ、副業をするハンター?

 ……密猟?

 

 「アルトの名前を使って金貸しを

 始めてなぁ、そして当然失敗」

 ギルドマスターは、やれやれと首を振る

 

 「そのあとは?」

 

 「アルトに損失被せてなぁ、コイツは

 もうダメだって事でベッキーにな」

 ニコニコ笑う

 「それでもアルトは助けようと実家に

 借金の相談にいこうとしたりなぁ……

 あの娘は孤児に優しすぎる」

 

 「なのにまた弟子を?」

 

 「ホッホッ、四英雄ともあろう者が

 弟子の一人も居ないではなぁ」

 

 「見栄……ですね」

 

 

 「そういうのも大事だしのぉ」

 ロクスが入ってきた

 

 「ロクス統括官!!」

 ゼニスは直立で敬礼する

 

 「やめろ、ワシは引退したし今では

 『ギルドナイト』だろう?

 ハインツに役目は継いだしのぉ」

 

 「いえ、組織の創設者である事は

 変わりません」

 

 「四大英雄にギルドの暗部を任された

 だけだ、ワシが偉い訳では無いしのぉ」

 

 「専属のベッキー様は……?」

 

 「カウンターに居らんかったか?

 アルトの準備でも手伝ってるんじゃろ」

 

 

 ギルドマスターは話を戻す

 「村長の話だとロクに人と話せない

 若者だそうだ、悪いヤツではない

 そうでなぁ」

 

 「もしもお前の目から見て、

 アルトの為にならない印象を持ったら

 ……のぉ」

 ロクスの目が鋭くなる

 

 「依頼内容はアルト様の護衛、という

 認識で間違いありませんか?」

 無機質に喋るゼニス

 

 「……うむ…アルトを『人』から

 守る任務だなぁ」

 

 

 

 

 

 

 親を殺しかけた罪人、そして今は

 ギルドナイトとして人を狩る、

 産まれも娼館の娘、

 マトモな人生などあるだろうか

 

 行商人に変相する、得意なスタイルだ、

 どこにいっても怪しまれないし、

 浅黒い肌は男に化け易い、

 アルト様の後を追って行く。

 

 

 

 

 

 ジャンボ村

 

 船乗りや他の行商人にも女であること

 がバレない、最近はそれが

 つまらないと感じる事さえあるが……

 

 「ヤハハ……これは珍しい」

 

 「村長さん!!どうです?シュレイド領の

 穀物ですよ?」

 身振り手振り、声色、表情、全て作り物

 

 本当の私ではない

 

 本当の私など必要ない

 

 

 

 「ヤハハ……貴女は一度見たことが…

 王都のとある場所でした」

 

 

 バレたっ?!!

 

 糸目で表情が解らないが

 

 「……それは失礼」

 まさか一目でバレるとは

 「本部から派遣されました」

 弟子の暗殺は……言えない……

 

 「目的は……なんでしょう?」

 糸目が笑う

 

 

 この竜人……気付いてる?

 「もちろんアルト様の護衛ですが?」

 

 「ヤー……そうですか……あの老人達

 の事だから……いやいや……」

 笑顔になり

 「そういうことにしておきましょう」

 

 

 

 油断ならない、辺境の村長なんて

 のんびりしたヤツだと思ってた、

 この竜人は気を付けよう

 

 

 

 アルト様が狩り場に出る間に村の構成

 や人物を観察、調査する。

 どうやら弟子になる男は人と接する

 のが苦手らしい、私と同じだ。

 

 過去の戦乱による影響なのだろう

 

 

 この弟子は好感が持てる、

 欲望が無いし実直だ。

 

 波打ち際で眠ってしまったクロフを

 濡れないように引き摺り、陸地へ揚げる

 

 嫌な匂いがしない男だ……

 

 嫌悪感が湧いてこない……

 

 頬をつついてみる……

 

 なんだろう……この気持ちは……

 

 

 

 ………………

 

 

 

 ドンドルマに戻り報告書を上官へ渡す

 

 「あの子が弟子の子?」

 ベッキーが横目で見ながら

 

 ギルドの入り口にオドオドした若者が

 一人

 

 「ホッ?ゼニスよ、一言で感想を

 言ってみよ、お前の主観で良い」

 

 「欲がない……いや、個が希薄

 でしょうか……」

 

 「ふぅん、じゃあ危険は……」

 

 「全くありません」

 

 

 

 

 

 ………………

 

 「任務完了しました」

 本部で報告、王都のとある建物

 

 「お疲れ様でした、アルトの弟子だった

 ようですね……どうでしたか?」

 ハインツは立派な机の向こう側に座る

 

 「その前に……失礼を承知で

 お聞きしたい事があります」

 

 (ほぅ、私の質問に質問で返すとは……

 成長と見るべきですかね)

 「なんです?」

 ハインツはニコリと笑う

 

 「ジャンボ村の村長に一目で看破

 されました、過去にここで私を

 見たそうです」

 

 「……フフフ」

 ハインツは顔を伏せて笑う

 

 ゼニスは不思議そうな顔になると

 

 「解りませんか?変相を見破ったのは

 驚きですが、『此処』で見た

 というのは…」

 

 ゼニスはハッとする

 「カマを……」

 

 「そうです、貴女が足元を掬われるとは、

 若さですねぇ」

 ハインツは笑いながら続ける

 「あの村長は四大英雄とも交流があり、

 あの老獪な人達と渡り合う人ですから」

 

 やられた……

 

 「それで?弟子は?」

 

 姿勢を正し

 「私と似た所があり……何か……

 気になる人でした」

 

 「!……そうですか……

 解りました、さがりなさい」

 

 

 ゼニスは一礼すると下の階へ降りる。

 

 ここは王都の中心、

 表向きは最大の宿屋、

 そして裏ではギルドナイト本部でもある

 

 毎日多くの行商人が立ち寄るために

 偽装しやすい

 

 「本部長、何があったんでしょう?

 以前は活かすか殺すか冷酷な娘

 でしたが……」

 部下の男、この宿屋のオーナーでもある

 中年の紳士、ハインツの副官

 

 

 「ゼニスも18の女と言うことですよ」

 

 「まさか……!」

 

 「一旦暗殺家業は様子を見た方が

 良いでしょう、ちょうど兄上から書士隊

 の補強の話が来ていますし、調査の

 方をやらせましょう」

 

 「あの冷酷な娘が……まさか恋?」

 

 

 

 

 

 

 

 ゼニス……この名前で呼ばれ2年

 たっただろうか、

 私の本当の名前は違う、ゼニスはただ

 適当に付けた隊内の名前。

 

 本当の名前は大嫌いな親に

 付けられた名前。

 

 どんなに最低なヤツでも親……

 ソイツに付けられた名前が本当の名前

 

 人に言いたくない名前

 

 

 ギルドナイトにスカウトされた時

 

 

 

 

 

 ………………

 

 「この娘ですか」

 長身の美形が地下牢の前に立つ

 

 マーカスが報告書を読み上げる

 「娼館の娘で、親を刺したそうです」

 

 牢の中にはボンヤリと座る少女が

 一人、金髪に翠の瞳

 

 「兄上はこの娘を私にどうしろと?」

 腕組みして牢を見る

 

 「そちらで預かれないかと……」

 

 「処罰はされないんですか?

 無罪って訳にも行かないでしょう?」

 

 「理由が理由ですから……

 条件次第で」

 

 「理由?……ですか……」

 ハインツは少女に向くと

 「◯◯◯、貴女はこれから表の世界

 では生きて行けません、罪人です、

 どうでしょう……裏方になりますか?」

 ハインツは無表情で語り掛けると

 

 「……正しい事をしたのに」

 肌が浅黒い事を除けば飛び抜けた

 美人が呟く

 

 「親を刺し殺そうとして正しい事とは…

 殺人未遂なんですよ?」

 マーカスは眼鏡を上げながら

 

 「キレイな世界の人には解んないわ、

 娼館の娘がどんな目でみられるか…」

 ローブを着たマーカスとギルドナイト

 スーツのハインツ、

 明らかに上流階級の人間に見える

 

 

 ハインツは目を伏せる

 「風当たりは強いでしょうし、まともに

 扱ってくれる人も少ないでしょう、

 ですが貴女は親を刺したんです」

 

 「娼館の娘は娼婦になるのが当然?

 そう言いたいの?」

 少女は立ち上がると

 「実の親に体を売らされるのが当然?」

 鉄格子に歩みよりハインツに向かい合う

 

 

 ハインツ顎に手をやり考える

 「なるほど、貴女は自分を守っただけ、

 だから正しいと?」

 

 少女は頷く

 

 

 

 

 暫し考え

 「マーカス、この娘を預かります」

 正義の為なら手段を選ばない

 かもしれない、

 それはギルドナイトにとって必要な

 素養だ、

 この娘は正しい目的意識を持たせて

 やれば……良い仕事ができますね

 

 マーカスは鍵を開けると

 「出なさい◯◯◯」

 

 

 「その名前はキライ……」

 マーカスを睨む少女

 

 「被害者……いや、実の娘に客を

 取らそうとした父親に付けられた

 名前が嫌……ですか?」

 薄暗い中でハインツの目が少し笑う

 

 少女は頷く

 

 「安心しなさい、仕事の内容上本名で

 行動しません、私以外はね」

 

 

 そして私はゼニスになった。

 

 男か女か解らない名前にしてもらった。

 

 

 ………………

 

 

 

 

 今回は暗殺ではない、

 アルト様とナナキ様がユクモの山奥で

 何か見つけたらしい。

 

 「今回はギルドナイトとしてではなく

 書士隊の調査です」

 宿屋の最上階でハインツが指示する

 

 「どの様な姿で……」

 行商人の服とギルドナイトスーツ

 しかない、私服など持ってないし……

 ゼニスは困る

 

 「倉庫にハンターの装備があります、

 戦闘は考えられますが、調査ですから

 様子見程度です」

 ニコリと笑うと

 「好きに選んで着なさい」

 

 実はハインツは試している、

 これで何を着るかでゼニスの心情を

 計ろうとしている、

 

 いつものゼニスなら顔が隠れ、男か女

 か分からない装備にするはず……

 

 もちろんゼニスはハインツの企みに

 気付きもしない。

 

 ゼニスはアレコレ選び

 マスターシリーズの白にした

 

 

 ハインツと副官は下まで降りて

 出て行く後ろ姿を見送る

 

 「あの娘……

 あんなに美人だったんですねぇ」

 部下の紳士が感心する、

 いつも男の行商人か目深に帽子を

 被るゼニスのイメージ

 

 「男を嫌い、男に抑圧される女も嫌って

 性別を捨てたあの娘が……

 あんなに女らしい格好で出るとはね」

 ハインツはニヤケる、

 まるで白いドレスの後ろ姿

 

 「本部長の言う通りですね、

 ギルドナイトも引退するでしょうか?」

 

 「誰にでもある『麻疹』みたいなモノ

 でしょう、初恋なんてそんなモノです」

 

 

 ゼニスは歩いて行くが、

 

 「うおっ!」

 「誰だあの美人?!」

 「ハンターだな」

 「うっわ!キレイな娘ぉ!」

 

 しまった……どうやら私は美人らしい、

 男が皆見てくるし、落ち着かない

 

 仕事柄目立たない様にしてきたから

 この視線は慣れない……

 

 なぜこんな装備を着た?

 大嫌いな女らしい装備を着た?

 

 ……見せたい……

 

 ……女であることを……

 

 誰に?

 

 あの人に……

 

 

 

 

 「よぉネェチャン!!ハンターだな?

 通行税は払ったかぁ?」

 宿を出て僅かな距離でチンピラ数人が

 近付く、いきなり肩を組もうとする、

 

 と、ゼニスは素早く後ろに回り込み

 

 

 

 

 

 「……鼻と耳、要らないのはどっち?」

 ギルドナイトセイバーを鼻に当てる、

 無表情で抑揚の無い声

 

 

 その場にガクガクとへたり込む

 チンピラ達

 

 ゼニスは背中に剣を仕舞い、

 「命が要らなくなったら何時でも

 声を掛けて下さい」

 

 周囲が一斉に後ずさる

 

 

 

 「本部長!!ギルドナイトセイバーを!!」

 

 「そっちはいつも通りですかっ!!」

 急いでハインツは追いかける、

 ギルドナイトセイバーはギルドナイトが

 主に携帯する武器、

 王都の中心て振り回しては都合が悪い

 

 

 

 

 

 

 

 なぜかボウガンを背負わされた、

 ドンドルマへ向かう

 

 

 

 

 

 

 二人きりで門の上へ、

 悩んでいるクロフ殿の話を聞く

 

 泣きそうなクロフ殿を納得させる

 

 「どこに落ち度がありますか?」

 顔を近付けてマジマジと見る、

 

 頬をつついた事を思い出す

 

 触れたい、この人に

 

 

 この人に会いたかった

 

 この人に見せたかった

 

 女である私を見せたかった

 

 言いたい

 

 本当の名前

 

 

 

 

 

 「全然、すごく気が楽になりました」

 クロフが笑顔になる

 

 良かった、笑ってくれた

 言うんだ……名前……

 「では私はギルドへ向かいます」

 

 チャンスだったのに!!

 

 

 

 

 「何かホントにありがとう」

 

 「では、失礼します」

 また逃した!

 言いたいのに…知ってほしいのに!

 

 何でこんな言葉しか出てこないんだ!!

 

 

 

 

 「あ!あの、ドンドルマに連れてきて

 くれたこともありがとう」

 

 振り返る、

 

 言うんだ!名前!!

 

 大嫌いな名前だけど

 

 この人には知ってほしい!!

 

 呼んで欲しい!!

 

 

 

 ……でも……

 

 「礼には及びません」

 

 

 

 

 自分が嫌になる……

 

 三回も逃した……

 

 

 

 ………………

 

 

 「任務完了しました」

 

 「お疲れさまでした、新種だとか?」

 ハインツは報告書に目を通す

 

 「あの……ハインツ様……」

 

 「どうしました?」

 

 「名前って……何でしょう?」

 

 

 ハインツと副官は顔を見合わせる、

 明らかにゼニスが変化している。

 

 「名前とは私にとっては自分や家を

 区別する記号のようなモノ……

 でしょうか」

 

 「記号……」

 

 「貴女は本名がキライでしたね」

 

 「……」

 

 「名前を変えますか?」

 

 ビクッと顔を上げて

 「できるんですか?!」

 

 「貴女は地下牢から出た時に、既に

 別人としての人生が始まっているでしょう」

 

 

 言われてみればそうだ、そして

 ゼニスになったんだ

 

 ハインツは立ち上がるとツカツカと

 ゼニスの前に

 

 「貴女はゼニス、しかしこれは隊内の

 名前です、貴女の本名は地下牢に

 置いて来たでしょう?」

 

 「置いて……」

 

 「自分で付けますか?」

 ハインツはニコリと笑う、

 報告書の白い新種のモンスターを

 見せながら

 「このモンスターもこれから名前が

 付くんです、産まれて直ぐ付けられた

 名前だけが全てではありませんよ」

 

 「自分で付けても良いものなんですか」

 どうしよう

 

 「貴女は本名が無いんでしょう?

 捨ててきたんでしょう?好都合ですよ」

 クスクス笑うハインツ

 

 「考えてみます」

 ゼニスが部屋を出ようとすると

 

 

 

 

 

 

 「クロフ君に覚えて貰えると良いですね」

 

 

 

 ドアノブに手を掛けたまま固まるゼニス

 

 真っ赤になり

 

 「失礼しますっ!!」

 乱暴にドアを閉める

 

 

 

 

 

 

 

 「本部長、ゼニスが感情を……

 名前を欲しがるとは」

 

 「面白いですね」

 

 「笑い事ですか?」

 呆れる副官の紳士

 

 「私など王族の名前で苦労したんです、

 名前を変えたいと思った事は

 一度や二度じゃありません」

 

 椅子に座りクルリと回る

 

 「名前で振り回されるなんて

 馬鹿馬鹿しいですよ」

 

 上を向くと

 「重要なのは人からどう呼ばれるかです、

 私は必死でハンターをやったお陰で

 『王族の落ちこぼれ』から

 『四英雄』になったんですから」

 

 

 

 「彼女は何になるんでしょうか……」

 あの感情の無い剣の様な娘が……

 

 「フフ……少なくとも女性には

 なったようですよ」

 

 「なりましたか?」

 副官は不思議そうに

 

 「今『彼女』って呼んだでしょう」

 

 



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ミナガルデ

 

 

 夕焼けの段々畑、気を付けながら登る

 若者が一人、

 

 作物は少ない…畑自体は見事なのに

 

 右目に眼帯、背は低いが

 ガッチリした体型、歳は16

 

 登り終えるとその体を伸ばす

 

 「荒れてんなァ……」

 

 目の前には小さな荒れた村、

 その中の一軒を訪ねる

 

 

 

 

 「ヒッ!」

 そんな声を上げながら後ずさる家主、

 しかし訪ね人の名を告げると

 別の家へ案内される

 

 

 

 

 「よぉ!中兄ィ!」

 隻眼の若者は声を上げる

 

 「中兄ィはやめろガストン!

 …良く来たな!」

 村人が集まっていた中に小さい竜人、

 後に四大英雄と呼ばれるミナガルデ

 「東と北はどうだ?!」

 

 「小兄ィがハンターの寄り合い

 みたいの作ってな、

 大兄ィも人集めてハンターの訓練

 やってるらしいぜ?」

 

 「ワシもそうしたかったんだがな…」

 

 「…」

 

 「歓迎してやりたい所だがな…」

 力なく首を振る

 

 「…大体分かるぜ…」

 荒れた村、村人の衣類、

 今目の前に出された食事の量と質

 

 苦しいのは誰でも理解できる

 

 「しかし変だな、この辺の村は

 畑は多いし、もっと食い物あっても

 いいはずだろ?」

 

 五人で旅をしていた時は豊かな一帯

 だったはずだが…

 周りの村人を見回すと俯いている

 

 「このあたり一帯に盗賊が出てな」

 

 「兄ィ一人で十分だろ?」

 

 「それがな…」

 

 聞けば頭の良いヤツが二人で率いて

 50人程を動かす

 

 二部隊に別れて別々の村を襲撃、

 しかも竜人の姿を見たら逃げる

 

 「なるほどなァ」

 ガストンは腕を組む

 「こっちの守るべき村は複数、

 兄ィ一人では手が足らねぇか」

 

 「前に三人程を叩き伏せたらな、

 ヤツらは逃げの一手よ」

 苦虫を噛み潰す顔、

 逃げる二兎を追うのは一人では無理

 

 「アジトは?」

 

 「一度それも考えてアジトに行ったらな、

 見張りを常に置いていやがる…

 やはり逃げてな、それ以来アジトに戻る

 際にも斥候を使うようになってな」

 

 「何にしても手が足らねぇな」

 自分達の戦力を理解し、恥も外聞もなく

 逃げる敵

 プライドなど捨てて生き残ることに

 専念している

 

 

 

 

 

 何かを思い付く

 「いや、良いところに来たぞ」

 ミナガルデはニヤリと笑う

 「誰にも見られてないか?」

 

 「あー、そうするか」

 ガストンもニヤリと笑う

 「具体的にはどうするよ?」

 

 「お前の見た目が丁度良かろう」

 

 「その手でいくかぁ」

 

 周囲の村人は顔を見合わせる、

 どんな作戦で戦うんだ?

 

 「私たちは何かやれることは…」

 この家の家主らしき男、

 まだ30半ばといったところ、

 名はケルト

 

 「ケルト、次の襲撃までガストンを

 隠してくれぃ」

 

 

 

 ……………………

 

 

 「今日あたりがいいだろ?」

 ボサボサ頭の大柄な男、斧を担ぐ

 盗賊のカシラ、名をドク

 力でノシ上がった若者 二十歳前後

 

 「この時期なら芋類が良い頃だ」

 もう一人の盗賊のカシラ、

 名をバルト、きちんとした服装で

 盗賊と言うより金持ちの息子の様、

 色白で短い金髪

 頭でノシ上がった少年 15歳

 

 「バルト、いつも通りで良いか?」

 ドクはアジトの洞窟内で斧を素振りする

 

 「そうだな……」

 洞窟の入り口で指を舐めて風を読む

 「少し寒い時期に入りそうだ、今日は

 多目に頂こう」

 

 「カシラぁ、配置はどうします?」

 いかにも荒くれの部下達

 

 「ドクは西の、俺は東の村へ行く」

 バルトは指を指す

 

 「竜人が出たらいつも通り標的を

 変えるんだな?」

 ドクは腕組みして聞く

 

 「あの化け物はシャレにならねぇ…」

 部下の一人が苦々しい顔で

 

 「ヤツは一人、こっちは複数、正面から

 ぶつからなければ良いだけだよ」

 バルトは不敵に笑う

 

 一人の見張りを置いて出発する2つの

 盗賊部隊

 

 

 

 

 

 

 

 村人が知らせに入る

 「やっと動いたか!」

 立ち上がるガストン、目がキラキラする

 

 「今日で終わらせてやる」

 ミナガルデ

 

 「あの、大丈夫なんですか?」

 後ろにケルトと数人が待機している、

 皆不安な顔

 

 「任せとけ、逃げられなくすりゃ

 敵じゃねぇさ!」

 アイアンインパクトを撫でるガストン

 

 

 

 

 

 西の村

 

 「お前ら!程々にな!バルトの言う通り

 にやれ!」

 ドクが指示する

 

 「カシラぁ、あんなガキの言う通りに…」

 「そうだぜ?あんたは全員と力比べ

 して勝ったんだ、不満はねぇが…」

 「あんなガキに従うのはな……」

 「よそ者だしよ」

 部下は不満そうだが

 

 「全部奪えば次に餓えるのは俺達だ、

 誰も殺すな」

 「それを教えてくれたのはバルトだ、

 力だけじゃダメなんだ」

 

 ドクは村の柵を力一杯吹き飛ばす、

 決して家は壊さない

 

 「芋を全部出せ!隠すなよ!」

 

 「言う通りにすれば殺しはしねぇ!」

 

 

 

 

 東の村

 

 「俺達だってアンタらに死なれちゃ

 困るんだ、なぁに、全部とは言わない、

 お互いに困らない程度で良いさ」

 バルトは村の代表と話す

 

 奥から籠に入った芋を持って来る村人

 

 部下達は感心する

 「さすがカシラ、力使わずに…」

 

 素直に出された量を見ると

 「ふざけるな!」

 椅子を蹴飛ばす、

 派手な音をたてて粗末な壁にぶつかる

 「たったこれだけのハズあるか!!」

 

 部下も村人もビクッとする

 

 「素直に出せば今なら許すぜ?」

 ニヤリと笑う

 

 

 

 

 帰り道

 「奥に隠してあるの、よく見抜いたなぁ」

 部下は笑いながら

 

 「いや、カマ掛けただけ」

 少年も笑う

 

 「そうなのかよ!!」

 部下達は驚く

 

 「俺の見た目はどう見ても強そうに

 見えないからな、相手に嘗められる」

 

 金髪色白の少年が山賊に…

 

 …悪ふざけにしか見えない

 

 

 

 「カシラ、アンタのお陰で俺達は

 安心して仕事できるぜ」

 

 「ドクよりアンタの方が上に立つべきだ」

 

 少年は首を振る

 「頭だけじゃダメさ、

 なによりまだ子供だしね」

 

 「「「自分で言うかよぉ!!!」」」

 大爆笑

 

 

 

 

 

 

 

 その頃 アジト近くの岩場

 盗賊の見張りの所にガストンが入る

 

 「何だぁテメェは?」

 ナイフを突き出す中年

 

 「おいおい、まってくれよ、盗賊って

 アンタらか?」

 ガストンはニコニコ両手をあげる

 

 「俺らを退治しに来た…

 って訳じゃあねぇようだな…」

 見張りはナイフを下げる、

 退治なら竜人や大勢の村人が来る

 

 同じ荒くれの空気を持つ男を見定める

 

 右目に眼帯、角刈り、傷痕だらけの体、

 農夫に見えない、

 村人が怖がったのは見た目で

 盗賊の仲間に見えたからだ

 

 「俺は真面目に働くってのが苦手でな、

 アンタらの仲間に入れて欲しいんだ」

 ガストンは出来るだけ穏やかに言う

 

 「カシラ達が戻るまではアジトに

 行けねぇ、ここで待つぜ」

 

 「おう、わかったぜ」

 ガストンはゴロリと横になる

 (この地形…)

 

 

 

 

 昼に盗賊達は見張りと合流する、

 岩で囲まれた場所

 

 「そいつは何だ!」

 ドクは斧を向ける

 

 「カシラ、仲間に入りてぇってよ」

 中年は親指で後ろのガストンを

 指差す

 

 「ふーん…」

 バルトは値踏みする、知らない顔だし

 どう見ても堅気ではない…

 危険は無いようだが…

 (村の仲間ではなさそうだ…

 でも雰囲気がただ者ではないな…

 仲間にする場合危険なのは

 ドクより強くて、一味のバランスが

 崩壊すること…)

 

 「何だよ?気に入らねぇか?」

 ガストンは困った顔をしてみせる

 「行く宛がねぇんだよ」

 

 「よし…わかった」

 バルトが場を動かす

 「ドクと軽く勝負してみろ」

 (もしもドクより強ければ仲間にしない、

 ドクの立場は揺らぐが俺が

 支えてやれば良い)

 「ドク、良いか?」

 

 「武器は使っていいのか?」

 ガストンがハンマーを構えるが

 

 「どっちでも良いが…」

 ドクも値踏みする、

 まだ若い、そして明らかに重すぎる武器

 

 調子に乗って無頼を気取った

 無謀な若者(要するに中二病)に

 見えるガストン

 「振り回せるのか?」

 

 

 

 

 

 ………………

 

 

 「でえっ!!」

 地面を転がるガストン

 

 「どうした若造!!」

 「情けねぇぞ!!」

 二人を囲み歓声が上がる

 

 バルトは安心する、

 ドクの相手ではなかった

 

 

 「自分の力を越える武器は足を

 引っ張り弱くなる、自分の弱さを

 認めることだ」

 ドクはガストンのハンマーを斧の背で

 受け流す、

 そのたびにガストンは転がされ

 泥だらけになっていく

 

 「もっ、もう勘弁してくれ!」

 ゼイゼイと息を切らして地面に転がる

 ガストン

 

 「振りが遅すぎる!!」

 

 バルトが前に出る

 「もう良いだろう!」

 その一言で勝負は終わった

 

 

 

 

 

 アジトの洞窟に入る

 

 (やっぱり森と丘じゃねぇか!

 兄ィの言った通りだ!!)

 緑が全て枯れて岩肌が剥き出しだが

 間違いない、勝負した場所は

 キャンプだ

 

 ガストンが考えているとドクが聞く

 「どうしてそんな武器を持つ?」

 180を大きく越える体が見下ろす様に

 

 「あぁ、暴力に慣れてないヤツには

 ハッタリが効くだろ!」

 構えて見せる

 

 「なるほどな、その姿は強そうに見える」

 バルトは納得する、

 自分に欠けている要素

 

 「それよりアンタらは何なんだ?

 ただの盗賊には見えねぇが…」

 ガストンは見回す、女と子供までいる

 

 ドクは酒を飲みながら

 「俺達は元は北の方の出身でな、

 飢饉で逃げて来たんだ、

 俺のオヤジがカシラになって、仕方なく

 盗賊をやるしかなかった」

 

 他の村を受け入れられるほど

 裕福な村は無いだろう

 

 「村から飛び出した俺とは少し違うな、

 ……アンタは毛色が違うよな」

 ガストンはバルトに話を振る

 

 バルトは首を掻きながら

 「俺は領主の所から逃げて来たんだ」

 

 「領主?」

 

 「シュレイド領の貴族だよ、

 親が小作でさ、

 俺もそのままじゃあ小作だろうよ、

 高い税に苦しみながら

 農夫なんてやりたくねぇよ」

 

 「その格好は何なんだ?」

 盗賊らしくない高い服

 

 「貴族みたいだろ?搾取される側から

 搾取する側になったのさ」

 立ち上がり披露してみせる

 

 「バルトは酒や食いもんより

 服だからな」

 「変わってるぜ」

 

 「まるで金持ちのボンボンだぜ?」

 ガストンは呆れるように

 

 洞窟内に爆笑が響く

 

 

 

 

 

 

 夕方

 

 「ここに住み続けるのか?」

 ガストンが聞く

 

 「皆行く宛も無いしな、バルトは畑の

 知識もあるし、いずれ村にできれば

 良いが……」

 ドクは本来ならば村長の子供だった

 のかもしれない

 

 「俺は畑仕事は懲り懲りだけどな…

 ガストン、ちょっと来いよ」

 バルトはガストンを連れて

 洞窟の反対側、崖から見下ろす

 

 (アプトノスとモスかよ!!)

 数頭が下生えの草を食んでいる、

 このエリアだけ緑がある

 

 「最悪に備えてな、周りの六つの村が

 飢饉になっても生き残れるようにさ」

 水を撒き草を増やし、食べ残しを

 食わせていることを話す

 

 (畜産までやりやがる、コイツらは

 盗賊で終わらすにはもったいねぇ!)

 

 その時

 

 「カシラぁ竜人だ!!」

 

 (お、日没か、時間だな)

 ガストンは後ろに留まる

 

 洞窟内に緊張が走る

 

 「来たか、男は前へ!!

 女と子供は後ろから下へ降りろ!!」

 ドクの指示が飛ぶ

 

 「ガストン!!初仕事だ…おい!!」

 バルトは叫ぶが

 

 ガストンは女と子供が脱出したあと

 崖の入口に立ちはだかる

 

 「わりぃなァ!!」

 ハンマーを構え笑うガストン

 

 動揺が走る

 裏切ったのか

 アイツ最初から

 

 四番からミナガルデ

 「上手く行ったなぁ」

 笑う

 

 「くそっ!!」

 バルトは考える

 あの竜人には勝てない!

 だがガストンなら簡単だ!!

 問題は崖を降りるスピード勝負!!

 

 「ドク!!ガストンを!!」

 

 「おうよ!!」

 ドクは一番後ろに来る

 「お前とは分かり合える気がしたが…」

 

 「俺もだぜ!!!」

 ニカッと笑う

 

 「俺の力は分かるだろう…が」

 ドクは斧を構え

 

 「残念だ!!」

 刃の方で思い切りガストンの頭へ!!

 

 

 

 

 「ガキィィーーーン!!!!」

 

 

 ドクの間合い、ドクのタイミング、

 全て完璧の一撃は……

 

 

 ガストンの頭をとらえた瞬間火花に

 なった

 

 

 

 

 ドクは立ち尽くす

 

 

 手に雷が落ちたような衝撃と火花

 

 

 震える両手……

 

 

 壁に刺さった斧……

 

 

 全て理解した

 

 

 当たる瞬間にハンマーで斧を叩いた

 

 見えないほどの早さで

 

 

 

 「ブラフか!!」

 バルトが声を上げる

 あのキャンプの勝負

 弱いフリをしていたのか!

 

 

 前門に竜人

 

 後門にガストン

 

 盗賊達に逃げ場は……無い

 

 バルトは考える

 (広さが救いだ、前に出させれば

 左右が開く、二人じゃ全員捕まえ…)

 

 ミナガルデの後ろから、大きなネットを

 持ったケルト達が入ってくる、

 横一例に10人ほどが広がる

 

 (くそっ!どうする!全員助かる方法は!)

 

 

 

 

 しかし

 

 

 

 

 ミナガルデ「ん?」

 

 ガストン「お?」

 

 二人が上を見る

 

 「どうしました?!はやく……」

 ケルト達が急かすが

 

 「今回は見送りだなぁ……」

 ミナガルデは剣を下ろす

 

 「仕方ねぇな……」

 ガストンも構えを解く

 

 全員が固まる

 

 何が…………

 

 

 その時ヒュルヒュルと風を切る音、

 天井の穴に星を遮る大きな影

 

 

 

 「グオオォォーー!!!!」

 

 

 

 リオレウス!!

 



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ミナガルデ2

 

 「カシラぁ!ヤベェ!!」

 前に竜人、後ろにガストン

 更に上からリオレウス

 

 「ミナガルデさん!我々は…!?」

 ケルト達も狼狽える

 

 「仕方ないのぉ…」

 ミナガルデは盗賊達を見渡すと

 「ケルト、外に避難だ、それとお前ら!」

 

 盗賊達に緊張が走る

 

 「一緒に避難しろ!」

 

 は……?

 

 「それはっ!」

 ケルト達から非難の視線、

 盗賊達は迷う

 

 「ドォン!」

 大きな音で思考が戻る、

 ガストンが地面を叩いた

 「テメェら!出てけぇ!!」

 

 

 リオレウスが着地する、風圧で食器や

 毛布が飛ばされ、篝火の炎が暴れる

 

 まだ全員外に出られていない

 

 「ワシらは陽動だ!」

 

 「おうよ兄ィ!」

 

 咆哮、しかし二人は距離を取り

 範囲からギリギリ外

 

 ガストンに突進するリオレウス、が、

 歩いて避ける

 

 「何だよあれ……」

 出口のバルトが呟く

 

 「攻撃を全部読んでいる……」

 ドクも唖然とする

 

 二人のはただリオレウスの

 周りを歩いているだけ、

 ブレスも突進も当たらない

 

 洞窟内にリオレウスのブレスが飛び、

 壁で弾ける

 

 

 「まだまだ若ェヤツだなァ!」

 

 「動きに嫌らしさがない、

 闘争の経験が少ないようだの」

 

 冷静に分析する、

 真ん中に猛獣がいるが、二人は

 普通に会話しながら歩く

 

 「なんか殺すには惜しくねぇか?」

 まだ成長しそうだし

 

 尻尾を振り回すが紙一重で避け

 

 「脅す程度にしておくか」

 

 

 何を言ってんだ!?

 何であんな余裕で…勝てる訳……

 

 「ケルト!ロープ有ったな!」

 ミナガルデは剣を抜く

 

 「あ、ありますが!」

 盗賊を縛るための……

 

 「外で待ってろ!ガストン!やるぞ!」

 

 「捕獲だな!解ったぜ!」

 

 

 

 

 

 四番

 ケルト達と盗賊はお互いに距離を取る

 

 「カシラぁ!どうするよ!」

 また居場所が無くなった、

 これからどうしたら……

 

 にらみ合いになる村人と盗賊、

 ケルト達は戦いの経験が無い以上

 負けるのは分かっている、

 人数も足りない

 

 盗賊側の有利……部下達は威嚇する

 「カシラ!やるか?!」

 若い連中は構える

 

 「……やめろ!

 ここで勝つことに意味は無い!!」

 ドクは部下達を諫めるが

 

 「何でだ?!

 やっと見付けた場所じゃねぇか!!」

 納得できない

 

 ドクには細かい説明が苦手、

 バルトが補う

 「居場所を奪おうとしてるのは

 コイツらや竜人じゃない、飛竜だ!

 戦ってくれてるのは竜人だ!

 ……皮肉だ……くそっ!」

 

 自分達では戦えないレベルの

 モンスター、それの相手をしてくれて

 いるのは敵のミナガルデ

 

 居場所の前に立場が無くなっている、

 敵に逃がしてもらった……屈辱

 

 「おい!あれ!!」

 誰かが叫ぶ、リオレウスがこちらに

 降りてくる!!

 

 「ヤベェ!」

 「逃げろ!!」

 「こっち来たぁ!!」

 全員が慌てる

 

 ガストンは?!

 竜人は負けたのか?!

 

 

 

 

 

 数秒

 

 

 「オメェらァ!!下がってろぉ!!」

 洞窟の中から叫びながら出るガストン

 と竜人、そのまま走ると段差から飛ぶ!

 

 

 「どぉおらあああァーー!!!!」

 

 着地直前のリオレウスに上から

 ハンマーを思い切り

 「ガゴン!!」

 「ビダァァン!!」

 

 背中を殴られ、地面に叩き付けられ、

 ジタバタもがくリオレウス、

 牙や鱗が弾け飛ぶ

 ガストンは更に頭を殴り続ける!

 

 「グオオッ!!」威嚇するが

 「ガン!!ゴン!!バカァン!!!」

 

 顔の甲殻が剥がれ気絶

 

 「おい!!ガストン!!捕獲だ!!」

 ミナガルデはケルトからロープを

 受け取ると一端をガストンへ投げる、

 翼と足を絡めて縛る

 

 

 

 

 

 

 

 足と翼を縛られ動けないリオレウス、

 首だけ動かし周りを威嚇する

 

 「やり過ぎるなと言ったろう!!」

 ミナガルデの一喝

 

 「すまねぇ兄ィ、つい忘れちまって……」

 笑いながら頭を掻く

 

 翼を撫でると

 「うむ、折れてないようだの」

 

 

 

 

 周りはポカンとする、

 目の前にいるリオレウス…

 

 人間など相手にならない存在…

 

 村総出でも危険な存在…

 

 それよりも強大な存在が二人…?

 

 

 

 

 強い竜人と強い人間だと思っていた

 

 違う……

 

 根本的に何かが違う

 

 

 

 

 「オメェらァ!!」

 リオレウスの上でハンマーを担ぐ

 

 全員の思考が戻る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あー……なんだっけか…?」

 首を傾げる

 

 

 

 

 

 

 

 「ガストン、ワシらは盗賊を…」

 ミナガルデが呆れる

 

 「あー、そうだったな……

 俺とケンカする気あるヤツいるかァ?!」

 

 こんなもの見せられて

 いるばずもない

 

 「そっちの頭、二人いるだろう、

 前に出ろ!!」

 剣を納めるミナガルデ

 

 「ドク!バルト!来い!」

 

 逃げるべきだ、しかしこの二人相手に

 

 エリアからの出口は二ヶ所、

 今までは逃げられた……今は……

 

 「バルト、無理だ」

 

 「勝てねぇ……」

 

 二人は前に行くしかない

 

 リオレウスの前で集まる

 

 「ケルト、お前達も来い」

 

 村人達は恐る恐る近づく、

 間近でリオレウスを見るなど初めて

 

 怖くてしょうがない

 

 ミナガルデは咳払いすると

 「さて……ワシらとしてはお前らを

 捕まえたいんだが……抵抗するか?」

 ニコニコ笑いながら

 

 「抵抗しない、あんたには最初から

 勝てないし死人は出したくない」

 ドクは項垂れる、生殺与奪は竜人に

 ある、借りまでできた

 

 「ほぉ、潔い男だなぁ」

 

 「これで終わりかぁ、逃亡の罰則で

 一生重労働かよ……」

 バルトも

 

 「重労働?何の事だ?

 それにその格好……」

 

 「兄ィ、バルトは小作だ、逃げて

 来たんだ…んで貴族に憧れてる……

 だろぉ?」

 ニヤケながら言うとバルトは

 舌打ちしながら横を向く

 

 

 「うむ、ケルト、お前達はどうしたい?」

 

 

 「今まで苦しめられた恨みがある、

 タダじゃ済ませない」

 

 「その通りだな」

 ミナガルデは大きく頷く、そして

 「ここにいる全員に提案がある!」

 

 

 全員に言い聞かせる、

 竜人一人で守るために六つの村を

 一つにする計画が立っていた

 

 しかし問題は各村の畑が遠くなる、

 そして新しい村の予定地は広いが

 水が無い、

 井戸を掘らねばならない

 

 畑を近くに開墾する必要もある、

 つまり労働力が必要

 

 「新しい村に来る気は無いか?」

 

 「ミナガルデさん!それは?!」

 村人達から非難の声

 

 「新しい村には労働力がいるだろう?」

 

 「それはコイツらから守るためです、

 今捕まえられる以上、

 村を作る必要は……」

 

 

 

 

 「ふーん……」

 ガストンは向き直り

 「オメェらはどおしてェ?」

 

 「俺達は何か言える立場か?」

 

 「今まで奪って来たんだぜ…」

 

 「そうだなァ……でもよ、オメェらも

 村を作る気だったよな?」

 

 全員が注目する

 

 「しかし我々は!」

 村人達は怒りだす

 

 

 

 「見せてェモンがある」

 ハンマーでどこかを指す

 

 「何だそれは?」

 

 ガストンが歩き出す、

 月明かりで良く見える

 

 

 

 

 

 ゾロゾロと崖のエリアへ

 

 「これはっ!」

 ケルト達は驚く、モスとアプトノス

 

 「驚いたわい!まさかのぉ!」

 ミナガルデも驚く、松明を着けると

 一面の緑

 

 「さぁて、コイツらを詫び代にしたら…

 どうだ?」

 

 ケルト達は狼狽える、

 肉など久しく食ってない、それに

 アプトノスは労働力になる、

 正直喉から手が出るほど欲しい。

 

 「明日の昼…代表者による話し合いを

 したい」

 ケルトは各村の代表を集める

 

 

 

 

 翌日 昼 村の家

 

 「良く逃げなかったなァ」

 ガストンがニヤニヤ

 逃げても特に問題無かった

 

 「他に行く所も無いしな」

 ドクは神妙な顔、殺されても仕方ない

 

 「アレの近くで寝るのは怖かったぜ」

 まだレウスは縛ったまま

 

 「では始めよう」

 ミナガルデの言葉で始まったが、

 やはり難航する

 

 

 

 

 

 「我々は今まで苦しめられたんだ!

 簡単には受け入れられん!」

 怒る村の代表達

 

 もっともだ、誰も反論出来ない

 

 しかし、竜人とガストンは反論出来る

 ネタを思い付いている

 

 「なぁ皆、今まで迷惑してきたな?」

 ミナガルデは静かに言う

 

 当然だと村人達

 

 「じゃあ皆は誰にも迷惑かけとらんか?」

 

 場が固まる、何の話だ?

 

 「迷惑掛けたろ?」

 ガストンが腕組みする

 

 ???

 

 「あの森と丘、木が無ェのはなぜだ?」

 軽く睨むガストン、

 本来豊かな自然があるはずなのに、

 今は岩の丘になっている

 

 村人の目に動揺が出るのを見逃さない

 

 「森の恵みを取り尽くしたな?

 他にもあるんだろう?」

 竜人は渋い顔をする

 

 「しかしそれは!」

 村人は反論するが

 

 「生きる為か?

 それならソイツらも同じよ」

 ミナガルデはドクとバルトを指差す

 

 

 

 

 竜人は語る

 

 人に迷惑をかけるな、

 自分がされたら嫌な事はするな、

 それが人道、社会の基礎、

 親から学ぶ大事な社会の生き方

 

 しかしだ、

 

 人は生きているだけで迷惑を

 掛けとる、知らず知らずにな

 それを自覚するべきだ、

 

 だから優しくなければいかんのだ

 

 「人にも…自然にも……な」

 ミナガルデは見渡す、村人を

 

 

 

 

 

 「全部奪えば次に飢えるのは俺達だ」

 ドクが言うと全員が見る

 「コイツの言葉だ」

 バルトを見る

 

 「生きるなら基本だぜ?」

 バルトは首を掻く

 

 「皮肉にも本質を実践しているのは

 盗賊だったのぉ……」

 

 

 「オメェらの不始末をよ、コイツらは

 回復させたんだぜ?

 ほんのちょっとだがな、それに

 モスとアプトノス見つけてあそこまで

 引っ張って来たんだぜ?」

 だからリオレウスが来た、

 レウスは痩せた土地には基本居ない

 

 村人達はうつむき無言

 

 

 パンと竜人は手を叩く

 「お互いに敵意を持ち殺し合うか?

 もう気持ちは変わったろう」

 

 「俺達に争う気は無い、アンタに従う」

 ドクは一礼すると

 「どうしても許せないなら俺の首で

 許して欲しい、あとの者は……

 逃がしてやってくれ」

 

 「化け物が二人じゃ勝てねぇな、

 どっちもアレ(レウス)より強えし……

 死ぬのは御免だ……

 だけど領主の所に戻って

 重労働はな……

 なんでもやるぜ……」

 バルトは不貞腐れた顔

 

 

 

 

 

 

 

 数日後

 

 「こんなに使える連中とは……」

 ケルトが感心する

 

 「俺達の大半は元は樵だ、

 家を建てるのは生活の基本だからな」

 斧の扱いには慣れているドク、

 ドクに従っていた方は、元はドクの

 父親の村民

 

 バルトに従っていた方は後から

 入った連中、しかし元は色々な職の者、

 井戸を堀り、道の整備、

 アプトノスを使って畑まで作る

 

 

 

 「計画は順調だな?」

 ミナガルデと各村の代表か見ている

 

 「水捌けも良いし肥料があれば

 大豆と麦に良さそうだ」

 バルトは元は小作の子、

 土を触りながら紙に記録する

 「大豆なら痩せた土地でもすぐに

 成長するし、先に蒔こうぜ?」

 

 「それが終わったら水路の計画と

 特産物の栽培と販路の開拓と……」

 村人と竜人は指折り数える

 

 

 「俺だけやること多すぎねぇか?!」

 バルトは立ち上が抗議する

 

 「何でもやるんだろ?ハンターも

 やらせるぜ?」

 ガストンがニヤニヤ

 

 「ハンターって何だよ?!」

 

 「モンスターと戦うヤツだ」

 あれ?ロクスにも言ったなこれ

 

 「ガストン!お前も少しは手伝えよ!」

 

 「お前頭良いから出来るだろ?

 それに出来ねェ理由がある」

 

 「何でだよ!!」

 

 「字ぃ読み書きできねぇ」

 

 「………………」

 

 「ガハハハ!!」

 爆笑するガストン

 

 

 

 

 雑務全部俺かよ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 約一年後

 新しい村に立てた小屋

 

 「じゃあな!また来るぜ!」

 

 「一年後にな」

 ミナガルデは手を振る

 

 「居ない間、村の安全は任せてくれ」

 すっかりハンターになったドク、

 命はガストンに預けた

 

 「リオレウス程度ならどうにでもなるぜ」

 こちらもハンターのバルト

 

 「今度は一人連れてくるぜ」

 ガストンは指を立てる

 

 ?

 

 「ロクスっていってなぁ、頼りになる、

 ソイツと一緒に四人で旅するぜ?」

 

 「ワシらみたいにか?」

 

 「おうよ!」

 ニカッと笑う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それが最初のミナガルデ、

 俺達が最初の四英雄だ」

 酔っぱらいの老人は語る

 小柄でキレイな身なり、白金の短髪

 

 ココット村 ギルドの外にテーブル

 

 村は賑やか、大勢の人々が

 手に花を持っている、

 ガストンの墓に供えるための行列が

 村の外まで続く

 

 「ガストンさんらしい……」

 感心するクロフ

 

 「でもちょっと強引だよぉ?」

 首を傾げるカンナ

 

 「荒っぽい時代だったんだろ?

 仕方ねぇよ」

 イスでふんぞり返るイシズキ

 

 「東西両方の街造りを……

 この大陸の二大交易拠点を造った

 ……大きすぎる人よね」

 腕組みして頷くマリン

 

 「アイツは自分の力を一切私欲には

 使わんで、ワシらのために働いたなぁ」

 パイプを吹かすココット

 

 

 そういえばそうだ、それほどの力が

 あるならもっと横暴でも良いはず

 

 「私利私欲で動く訳ねぇだろ」

 ジョッキを置く

 

 「何でじゃバルト?」

 

 「アンタが質素な暮らししてるから

 贅沢はしねぇし……多分……」

 墓の方を親指で差し

 「あの人に顔向けできねぇマネは

 したくねぇんだよ……」

 

 ガストンの命を救ったリネル

 

 「ワシらはアイツの枷になってしまった

 かも知れんのぉ」

 本来ならもっと自由で良かったはず

 

 「なに言ってんだ、ナメた口は

 利いたがずっとあんた達を尊敬

 してたぜ?

 それに枷が丁度良かったんだ、

 ガストンが好き勝手暴れてみろよ」

 

 四人は想像する……悪夢だ……

 

 

 

 

 墓の方から二人の中年の男女

 

 「バルトじい、行って来たぜ」

 黒と金の毛皮を着る男 黒鬼

 大柄で痩せた狼の様な風貌

 

 「じいさんも行って来なよ」

 金色に反射する白い防具の女 白姫

 明らかに丸い、商会の呼び込みの

 おばちゃんを思い出す

 

 「おぉ……」

 バルトは墓の方を向かいビールを飲む

 

 「え……」

 それだけ?

 クロフ達は意外に思う、墓参り、

 しかも長年一緒に戦った……

 

 

 「ゼルドのヤツ、片腕無くしたって?!」

 突然横からオバチャン…

 白姫が聞いてくる

 

 「は!はい!そうです!」

 圧が凄い、クロフは素直に答える

 

 「でも片腕で平気で大剣振るよぉ?」

 笑うカンナ

 

 「そうだろうな!!双剣みてぇに二本

 持って振り回したこともあったぜ?」

 大笑いする黒鬼……

 心配とか無いんだろうか……

 

 「うを……さっすが……」

 呆れるイシズキ

 

 「こんなのを……二本?」

 自分の大剣を見るマリン

 

 

 

 

 「まったく……良いヤツから先に

 行っちまう……ドクも早かったしな」

 バルトは呆れる様に

 

 「あんなに強かったのに……」

 クロフが呟くと

 

 「あ?ガストンは強くねぇぞ?」

 バルトが真顔で見る

 

 「何でぇ?そんな訳ないよ?」

 カンナ、タメ口で出るってば

 

 

 

 「ハンターとしては最強だった……

 そうだな?」

 

 四人とも頷く

 

 「人間の罠…小細工や戦略なんかにゃ

 まるでダメなんだぜ?」

 ビールを飲むと

 「罠があろうが正面から真っ直ぐだ、

 どんな時も笑いながら破壊して

 突き進むが……」

 

 想像にたやすい

 突進するグラビモス……

 

 「どんなモンスターだろうが兵士100人

 でも恐れずブッ叩いていくが……

 行き止まりとか落とし穴になぁ!」

 ココットが笑いを堪えながら言う、

 過去に何かあったな……

 

 「ゼルドとガルダも同じよね」

 「あいつらは師匠に染まったよな」

 黒鬼と白姫が笑う

 

 「だからよ、俺やロクスみてぇな性悪が

 横に居て丁度イイんだ」

 

 「ロクスさんが悪?」

 マリンが不思議そうに

 

 「何だぁ!?あのジジィ!

 好好爺やってんのか?!」

 バルトが大笑い

 「何にも知らねぇな小僧ども!!」

 

 「何だ?何の事だ?」

 イシズキは皆の顔を見る

 

 ココット、バルト、黒鬼、白姫は

 笑うだけ

 

 

 

 

 「さぁて」

 

 

 

 

 

 「長居しちまったな、ココット師匠」

 バルトは立ち上がる

 

 「もう帰るのか?

 墓参りに来たんじゃろ?」

 花も供えていない

 

 「挨拶に来たんだぜ?それに……」

 墓の方を見る

 

 

 

 

 

 

 「死んだなんてオレは認めねぇよ、

 あのバカ笑いがまぁだ聞こえるぜ?」

 

 




ホントはもっと長い話を無理やり
二話にしたため、駆け足な感じでした。



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英雄と人外

「来たぞ!」

「角笛!狼煙!」

「各部隊!準備ヨシ!」

「騎馬隊!出るぞ!」

 

 シュレイド国、東国境、関所付近の草原で

 小さな戦が始まる

 敵は違法な国境越えを繰り返す四人の犯人

 

 何度警告しても意に介さず平気で

 踏み越えて来る

 

 一度現場の兵士が話合いをしてみたが

 

 

 

「国ィ?国境?なんだそりゃ?

 どこに境目があんだ?」

 と、まるで話が噛み合わない

 

 その後何度か小競り合いになったが、

 最後はたった四人の犯人に50人の歩兵が

 返り討ちにあった

 

 

 

 

 『国の威信を掛けてでも首を取らねば!』

 と鼻息荒く王に進言した将軍一派、

 確かに国の防衛をする者達にとっては面目

 を保つのは大事だ

 

 しかしこの犯人グループはハンターで、

 シュレイド国内を通過する際、

 モンスターをついでに狩って行くのだ

 

 兵士が何十人掛でも苦戦し、死人まで出す

 ようなモンスターを鼻歌混じりで倒して

 行くため、国民から英雄視され、

 助けられた兵士までいる

 

 

 

 ……………

 

 王宮

 

 王は悩む

 

 強い、それは良い、問題はこの四人が

 

 

 『一切の制御が効かない』のだ

 

 

 金も地位も欲しない、それは素晴らしい

 事だがコントロールできない強大な力、

 それはモンスターとも言える

 

 いっそ兵士にしたいが出来ないし、

 法も意味を持たない

 

 誰に何を言われようが馬の耳に念仏なのだ

 

 救いがあるとすれば国境や関所を無視して

 移動するだけで、犯罪などは絶対にしない

 

 たまに小作が苦しんでいる領地などでは

 領主の屋敷に討ち入り、食糧などを奪い

 領民に渡す、というような義賊の

 真似事をする

 貴族にとっては犯罪だが国民からは英雄

 となる、その証拠に四人が来たらどこの

 村も歓迎する

 

 

 

 

「正義はどちらにあるか…それが問題だ…」

 円卓会議

 王と貴族による話し合い

 

 かつて竜人が人々の為に各地を歩き、

 モンスターを討伐した

 

 その頃は国内の反乱や、従わない地域を

 平定するために忙しく、自由にさせていた

 

 国内に入ったモンスターを勝手に倒し、

 シュレイドから報酬を受ける訳でもない

 

 こちらとしても都合の良い存在だった

 

 昔はそれで良かった、しかし今は一つの

 国としての面子がある

 

「総力を挙げてでも殺さねば!!」

「大袈裟な…一国がたった四人に総力を

 使えば笑われようぞ?」

「下手に殺せば国民から反発され、

 最悪一揆の可能性も」

「何とか懐柔できないか?」

「それはダメだった、

 奴等は金も領地も興味が無い」

 

 様々な意見が出るが

 

「王、是非とも意見を賜りたい」

 将軍に問われる

 

 だれも口には出さないが解っているのだ

 

 

 あの『四人に手を出す』方が『悪』に

 なってしまう

 

 かと言って放置は出来ない

 

 

 この堂々巡りなのだ

 

「そうだな…まず彼等を調べよ、

 そして目的を探るのだ」

 

 

 

 

 …………

 

「目的?モンスターで困っている人々を救う

 …それだけじゃ」

 

 名も無い小さな村(後のココット村)

 

 あの四人の師匠と言われる竜人と

 シュレイド国の使者

 

「しかしそれでは…」

 使者の兵士も困る、子供の使いではない

 

「なんじゃ?この答えでは気に入らんか?

 他に理由なぞ無いが…」

 

 使者は考える、彼等に非が無い

 国境などの『国の規律』を理解できない

 (しようと思ってない)だけ、

 空を飛んでいる鳥と大差ない

 

 しかし自分も国の使い、

 このまま帰る事など出来ない

「とにかくあの四人に関所を通り、税を納」

「解っとらんなぁ」

 

 

 

「…は?」

 

 竜人は語る

 国も村も大差無い、

 守りのために自警団を置いている、

 そして自警団の維持のために税がある

 …それだけじゃ

 

 ではヤツらは何か

 

 この大陸全体の自警団みたいなもんじゃ、

 全部が一つの村じゃ

「ワシも奴らも、自分の村の中を移動して

 いるに過ぎん、そこに国境なぞありはせん、

 帰って伝えよ、英雄が羨ましいのは解るが

 『軍属のヒガミ』なぞ聞く耳持たんとな」

 

 

 

 

 …………

 

「なんだと!!

 それでただ引き下がったのか!!」

 案の定、使者は王都の会議で

 将軍に叱責される

 

「ふぅ…」

 溜め息をつく王

 非は無い…その通りだ

 このシュレイドが小さな村なら簡単だった

 しかしこれだけ大きくなり複雑になれば、

 個人の意見では全部は動かせない

「手出し無用」

 この一言が言えればどんなに楽か…

 

 穏健派は手出しせず共存すべきと言う

 

 将軍派は首を取るべきだと騒ぐ、こちらの

 派閥には討ち入りされた貴族達も参加

 

 議会は真っ二つに割れる

 

 

「あの…」

 使者の兵士が手を挙げて

「もう一つ言われました、

 力比べならいつでも受けると…」

 

 

 

 ………………

 

「力比べって聞いたぜ?」

 金髪で小柄なバルト

 

「どう見ても戦だぞ?勝てる訳無いぞ?」

 ボサボサ頭の大男 ドク

 

「師匠達の誘い水だろ?

 上手く軍を乗せやがって

 …ケジメ着けるのメンドクセェから

 俺達に丸投げしたんだよ」

 細いが背が高く目付きの鋭いロクス

「一応奥の手は持たされたがなぁ…」

 

「なぁ…コレどうにかなんねぇか?」

 角刈り隻眼でガッチリしたガストン

 ゲリョスの皮を巻いたハンマーを

 恨めしそうに見ると

 防具を脱ごうとする

 

「脱ぐなよ!作り方が解ったばかりの

 最新だぜ?!」

 バルトが止める

 

「リオレウス着てるみてぇで気持ち悪りぃ」

 

「その皮も取るなよ?殺しちまうぞ?」

 

 

 

 草原に立つ、目の前数百メートルに

 見えるだけで500は居る軍勢

 対するはレウスシリーズを着た四人

 

 

 

「ちゃんと着とけよ?

 鉄の矢じり程度は弾くらしいぜ?」

 バルトは片手剣に布を巻く

 

「俺だってコレだぜ?」

 ドクはユクモの樫木を大剣の形に削ったモノ

 

「師匠達からは一人も殺すなと来たもんだ、

 ガストン、手加減できるか?」

 双剣に布を巻くロクス

 

「そりゃあ無理だ!!!」

「「「だろうなぁ!」」」

 

 

 

 

 

 

 角笛と狼煙

 

「フン!馬鹿共が!」

 ロクスは悪態をつく、『合図』を出すと

 言うことは『別動隊』か『伏兵』が居ると

 白状しているようなもの

 

「おい、左右の林、鳥の声がしねぇ…」

 腕組みしたままのガストン

 

「バルト、左へ行け、俺は右に行く」

 ロクスは歩き出す

 

「何でだよ?」

「行けば解る」

 

 騎馬隊が突撃してくる!

 地響きと時の声が迫る!

 

 

 

 

 

 

 

 が

 

 

 

 

 

「ガストン、あの馬ってヤツ速いんだろ?

 移動が楽だが」

 落ち着いて大剣(木)を構える

 

「ダメだ、俺はあんなモン要らねぇ…」

 ガストンは閃光玉を投げる

 

 

「ぐわぁっ!!」

「なんだぁ!!」

 突然の光に視界を奪われ急停止する騎馬隊、

 馬達が右往左往する

 

 ガストンは息を思い切り吸う、と、

 ドクは耳を塞ぐ

 

「ぐうぅるるるぁあああああーーっ!!!」

 ガストンの咆哮!と同時に

「ドオォン!!!」

 ハンマーを打ち降ろす!

 

 すると蜘蛛の子を散らすように騎馬隊は

 後方へ走る!

「おい!どうした!」

「どうどう!止まれ!」

「ダメだ!言うこと聞かねぇ!」

「こっちじゃねぇ!!」

 騎馬隊は地響きを上げて

 本隊の方へ走って行く

 

 

 

「…なるほどな、臆病すぎるのか…」

 

「あぁ、あれの背中に乗ってたら

 狩りは出来ねぇ」

 

 馬からすれば突然視界を奪われ、恐ろしい

 モンスターの咆哮を聞いた、

 その上感度の良い自分の四つ足に

 響いた衝撃

 

 背に乗せた人間の指示など聞いている

 場合ではない

 

 

 

 シュレイド軍が大騒ぎしているのを

 暫く傍観していると

 

「こっちは終わったぞ?」

 ロクスが戻って来た

「100人位の弓隊だった」

 ハンター用に比べると、まるでオモチャの

 弓を投げる

 

「こっちも弓だったぜ」

 バルトも戻る

「隠れてるヤツなんざ後ろ取れば

 脆いもんだな、防具のお陰でケガもねぇ」

 

「100人も倒してきたのか?」

 

「ドク、思ってたより俺達強くなってるぜ?

 ランポス100頭より楽だ、でも弓しか持って

 ねぇヤツ殴るのは逆に気が引けたぜ」

 

「師匠達の無茶なクエストのおかげだなぁ!」

 笑うロクス

 

 

 

 

 

「しかし…馬ごと弓で射る

 つもりだったのか?」

 ドクは首を傾げる、たしか馬ってやつは

 値段が高いとか

 

「そうか!ヤツら一枚岩じゃねぇな!」

 ガハハと笑うガストン

 

「どう言うことだ?」

 バルトが問うが

 

「あの数に対して手柄は4つしかねぇ!!」

 ガストンは自分の首に手刀を当てる

 

「そうか、部下を競わせるのは常套手段だ、

 でも今回は自軍の規模に対して手柄が少ねぇ

 味方出し抜くのも目的に入ってるって訳だ」

 ロクスが代わりに説明する

 

「それじゃ簡単なのか?」

 自信が出たバルト

 

「数が上だと思ってる内はモスの群れだ!」

 ガストンは意気揚々と前進する

 

 

 

 

 

 

 

 

「騎馬隊!戻りません!」

「伏兵、応答ありません!」

 シュレイド軍本隊

 指揮者達に動揺が走る

 

「どうなっている?!!」

 テーブルを叩く将軍

 

 自分の直属と貴族からの兵士合わせて

 1000人の戦力

 

 たった四人など一声で潰せるはず…と

 ついさっきまで余裕で酒を飲んでいた

 全軍使わず騎馬隊一つで

 十分過ぎるはずだった

 

 しかし思惑はハズれ、騎馬隊はここに

 突っ込んで大混乱になった

 

 踏み荒らされた天幕、シュレイド国旗、

 そして多くのケガ人まで…

 

 動揺する歩兵

「隊を立て直せ!」

「隊列を組め!」

「ケガ人は下がれ!」

 指揮官達の声に何とか持ち直す

 

 

 

 しかし将軍以下幹部の動揺は計り知れない

 たった四人にこんな無様な…

 

 さらに

 

「報告します!

 左右に展開した弓隊、全滅です」

 

「なんだと!!」

 

「死者は居ませんが全員重傷、気絶です!」

 

 なんと言う失態!

 たった四人に200の騎馬を無力化され、

 逆に攻撃の駒にされた

 (勘違い、ガストンは追い払っただけ)

 しかも追い討ちの弓兵200もやられた

 

 物見遊山の気分で着いてきた貴族達も

 恐怖に包まれる

 

 触れてはいけないもの

 手を出してはいけないものに手を出した

 かも知れない

 

 そう、奴らは簡単にモンスターを殺す、

 言い換えればモンスター以上の

 バケモノだ

 救いがあるとすれば今の内に降伏…

「将軍…撤退…」

 

「ふざけるな!」

 怯える貴族を睨み付ける将軍

「こちらはまだ600もの歩兵が

 居るではないか!!」

 

 

 

 

 

 

「おい、奴ら動き出したぜ?」

 

「横に20、奥は…見えないな」

 ドクが背伸びしても見えない

 

「四人相手だ、勝った気でいたもんだから

 作戦も無しか?」

 ガストンに振るロクス

 

「大軍に軍略いらず、こっからは

 小細工無しの力押しだ!」

 ガストンは嬉しそうにハンマーを

 振り回し笑う

 

「これ勝ち目あるか?師匠達がやらせる

 以上負ける気は無いだろうが…」

 ロクスは考える

 

「正気かよ?!生きて帰れるか?!」

 バルトの言ってることは正論

 

「なぁ、モンスターにすると向こうの

 戦力はどの位だ?」

 ドクも大剣(木)を素振りする

 

「そうだな…本気になったろうし…

 グラビモスが2…いや3頭って所か?」

 ロクスは顎に手をやり考える

 

「おいおい…そりゃあ…」

 無理じゃね?バルトはガストンをみると

 

「おもしれぇ!!!」

 歯を剥き出しニカッと笑う

 

 (ダメだコイツ、逆にワクワクしてやがる…)

 

 

 

 

 

「突撃ぃーっ!!」

 兵士が槍を構え突進するが

 

「ぬぅん!!」

 ドクの一振りで鎧はひしゃげ、

 四、五人が吹き飛び

 

「どらぁっ!!」

 ガストンのハンマーもまとめて吹き飛ばす、

 ゴム質の皮を巻いるとは言え一撃で兵士は

 重傷になる

 

「バルト、対人の稽古だ、隊列は横から崩す、

 お前は左だ」

 ロクスは右端から攻撃、

 回転連斬で吹き飛ばす

 

「まったく狂ってるぜ!!」

 左から斬り掛かる

 

 

 

 

「左右から包囲しろ!数で押し潰せ!!」

 将軍の指示と現場指揮官の連携で

 段々と囲まれる

 

「おい!囲まれたぞ!」

 もう何人叩き伏せたか

 

「バルト、落ち着け、もう3年もガストンに

 くっついてるだろうが?」

 ロクスは乱戦の中で落ち着いている

 

 ガストンは力を溜めるとハンマーを

 振り回しながら兵士の密集へ…

「どらぁあああっ!」

 吹き飛ぶ兵士を弾丸とし、さらに多くの

 兵士を巻き添えに

 

「アイツは不利な状況が得意だろう?」

 包囲を簡単に突破する四人

「さて、もう一回だ、適当に潰せ」

 

「おい!まさかさっきから!」

 斬り疲れてきたドク

 

「ガストンが居れば囲ませた方が早いぞ?」

 笑いながら叩き伏せるロクス

 お互いの背中を守るように四方を向く

 

 

 

 絶対的有利、圧倒的な戦力差、包囲まで

 しているのにいつまでたっても勝利の

 雄叫びが聞こえない、

 逆に兵士の悲鳴ばかりが聞こえてくる

 

 後方の兵士達は動揺する

 

 この先にハンターがいる、

 モンスターを簡単に狩るという

 俺達で勝てるのか?

 何だか…

 処刑台に向かう列に並んでいる気になる

 

「おい…これは…」

「ああ…」

 

 逃げ出したい…

 最後尾の兵士達が乱れ始めた、そこへ

 

「重装歩兵!」

「側近だ!」

 将軍の周りに居た兵士、明らかに

 飛び抜けた体躯と装備が四人、こちらへ来る

 兵士達は包囲の中へ入れる

 

 

 

 中央に殴り疲れた四人

 さすがにこの数にはムリがあった

 

 

 重装歩兵が来た

 

「まったく情けない、たった四人に

 このザマか」

「まぁ君達は良くやった」

「あとは首になって手柄になれ」

「これで終わりだ」

 高圧的に見下ろす重装歩兵、

 黒い大鎧と大きな武器

 

「やっべ…キツイぜ?」

 バルトは肩で息をする

 

「腕が上がらん」

 ドクも動けない

 

「研がなくて良いのは助かったがなぁ…」

 座り込んだロクス

 

「本気でやれねぇとここまでが限界か?」

 ガストンも息が切れた

 ハンマーに寄り掛かる

 

「丁度四人だ、一騎討ちでやろう」

「なるほど、俺達全員に一つずつ手柄か」

「そこの小さいの!前に出ろ!」

 

 バルトは躊躇うが

「バルト、行け」

 ガストンの言葉に前に出る

 ヒデェ奴だ、と思ったが

 

 …そうか、全員相手じゃなく目の前の

 一人に集中できる

 しかもその間他は休めるか…

「骨は拾ってくれよ?」

 

 

 

「どこからでも掛かって来い」

 両手で鉄槌を持つ兵士

 

 やっべぇ…全身鎧で隙間もねぇ…

 今の腕力じゃ殴ってもダメだ…

 じゃあ…さっき弓兵でやったヤツを…

 フラフラと近付くバルト

 

「ぬおおおっ!!」

 ドン!!!

 と鉄槌が横凪ぎに

 

 胸に当たり吹き飛ぶバルト、

 周りの兵士からは大歓声が上がる

「いょおし!一人目ぇ!」

「ざまぁ見ろ!」

 

 

 と、

 

 

 バルトはムクッと起き上がる

「なんだぁ?!」

「不死身か!あいつ!」

 

 ……なんだよ

 …ホントに俺が強くなってるぜ、

 サマーソルトに比べりゃ撫でられたような

 もんだ、遅すぎるしレウスの鎧でケガもねぇ

 

「自分で跳んだな」

「見えるようになったな、ドク」

「向こうも驚いてやがる」

 

 踏み込む歩兵

「ぬおおおっ!」

 唸りをあげて鉄槌を振るが

 

 武器が重てぇから動作が単純だ…

 とは言っても今の回避で限界だぜ…

 

 バルトは左腕の手甲や肩当てを外す

 

 鉄槌が横凪ぎに通過するのを避け、

 兵士の背中に取り付き、

 頚に腕をまわし頸動脈を締め上げる

「うぐあああ!!」

 振りほどこうともがくが、

 どれだけ暴れてもバルトは離れない

 

 細い腕は簡単に首に食い込む

 

 でかい鎧のせいで視界は効かねぇし、

 関節の可動範囲も狭い、背中は

 攻撃出来ねぇだろ!

 

 

 

 気絶して倒れる重装歩兵、一緒に倒れると

「もう一歩も動けねぇ!後頼んだ!」

 そのまま寝てしまう

 

 兵士達は動揺する、

 既に限界の少年が勝ってしまった、

 その空気を吹き飛ばすように

「次だぁ!前に出ろ!」

 両手用のオノを持つ

 

「こいつはオレだな…」

 ドクが立ち上がる、しかしいくら木刀とは

 言えあと数回が限界、握力が無い

 

 上に振りかぶる歩兵

 

 遅い、が体力も無い…

 

 ならば!

 

 ドクは大きく踏み込み、しゃがみながら

 振り返る

 振り下ろされる腕に手を添えてそのまま

 相手の力で投げる

 

「ありゃ俺の技じゃねえか!」

「盗まれたなロクス」

 

 重装備ですぐには起き上がれない歩兵を見

 下ろすと、力を溜めるドク

「う、やめろ!やめてくれぇ!」

「ドガン!!」

 鎧が砕け気絶する

 

 座り込んだドク

「もうムリだ…」そのまま動けない

 

 二敗、相手も動けないが明らかに

 側近が負けた…

 兵士達はざわつく

 

「フン、情けない…」

 槍を持った兵士が来る

 

「ふぅ、俺が行くか…」

 ロクスはヨロけながら立ち上がる

 

 

「そらそらそらぁっ!」

 連続突き!残像が見えるほど速い!

 しかし足さばきだけで懐に入る、

 槍の攻撃は至近距離なら当たらない

 

「そう来ると思ったぞ!」

 歩兵は思い切り殴りつけようと待っていた

 

 

 が、

 

 

「そう来ると思った」

 振りかぶった腕、その脇の下、

 そこは鎧に覆われていない

 布を巻いた剣を思い切り突く!

 

 

 

 

 

「こひゅっ!」

 おかしな呼吸

 

「まともに息が出来ねえだろ?

 肺に直接衝撃が行ったからな」

 

 胸を押さえ膝をつく、ロクスは歩兵の

 兜を取ると

「メンドクセェ…」

「ゴッ!!!」

 剥き出しの後頭部を剣で叩く

 

 

「ガストン、あと一人だ」

 座り込む

 

「おう、少し休めたぜ」

 立ち上がる、腕を回す

 

 

 

 

「ありがたいな、手柄4つか、

 次の将軍は俺に決まりだな」

 最後の重装歩兵が来る、盾と剣を持つ

 

「どらぁっ!」

 

 ガストンの一撃を盾でかわすと

 

「凄い衝撃だ」

「良く言うぜ!」

 力を逸らされた!コイツは手練れだ!

 

「我らの軍に入れば出世も出来るだろうに」

 細かく剣を使う、

 大きく踏み込まず滑るように動く

 

「へっ!そんな狭い世界は眼中に無ぇ!」

 ハンマーと手甲で受ける、

 レウスシリーズでもキズが付く

 

「部下にしてやるぞ?」

「誰がなるか!!」

 やべぇ、大振りしねぇからスキが無ぇ…

 殺したら兄ィ達怒るよなぁ…

 

 ハンマーを振り回すが盾で捌かれ

 剣が飛んでくる

 

 どうする?どうしたら良い?

 殺さずに勝つ方法…

 

 

 

 

 

 

 

 

 バガァン!!

 突然砕ける盾!驚く歩兵!

 ゲリョスの皮が取れてしまい

 アイアンインパクトが剥き出しに…

 

 !!!

「そうか!」

 一瞬で飛び込む

 

「ぬぅっ!」

 咄嗟に剣で凌ぐが

「パキィーン!!!」

 簡単に折れる剣

「な、何だと!!」

 突然の事に動揺する

 

「殺すな…『人は殺すな』だ!武器には

 本気でも良いわけだなぁ!!」

 笑いながら皮を巻き付ける

 

「ち、ちょっと待て!

 丸腰の相手に攻撃する気か?!お前には

 騎士道精神というものが!」

 および腰の大鎧

 

「たった四人に軍隊引っ張り出して

 良く言うぜ!安心しろ、死にはしねぇ!」

 ニヤリと笑うと思い切り

 

「バガァン!」

 鎧が弾け、吹き飛ぶ兵士

 

「おい…」

「やべぇってコレ…」

「逃げるぞ!」

 囲んでいた兵士が動きだそうとすると

 

「なにをしておるかぁ!!!」

 将軍の一喝

「相手は手負いが四人!こっちはまだ200も

 居るだろう!!」

 なりふり構っていられない!

 これでは一生笑い者だ!

 こうなっては自分の首も危うい!

 

「…そうだな…」

「疲れて動けねぇじゃねぇか」

「やっと動いてるのも一人だ」

「簡単だぜ?コレ!」

 

 更に200の騎馬隊も戻って来た

 

 にじり寄って来る兵士達

 

 

「おい、起きろ」

「あ?ここはあの世かドク?」

「これから地獄だバルト」

「なんだよ動けねぇぞ俺…」

「俺も剣が握れん…」

 

「ロクス、どうすっか!」

 ガハハと笑うガストン、

 もちろん何も考えていない

 

「やれやれ…これは使いたくなかったが…

 仕方ねぇ…」

 ポーチを広げる、

 見慣れない黄色のビンが大量

 

「何だそれ?」

 

「ドンドルマ師匠に持たされたんだ、

 『勝てるから使え』だとよ」

 

「何でもっと早く使わねぇんだよ!」

 悪態をつくバルト

 

「飲む気になれん」

 

「何なんだコレは?」

 ドクは日に翳して見る

 

 

 

 

 

「ゲリョスの体液だとよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分後

 

 

 草原に兵士の悲鳴と

 四人のバカ笑いが響き渡る

 

 

………………

 

 

 

 一月後

 

 王都の道端に人だかり、行商人が

 身振り手振りを交えて話す

 東の草原で1000人もの軍勢が負けた

 勝ったのは四人の英雄、その戦いぶりは

 最早人間離れしていたと

 人々は歓声を上げる

 『さすが我らの英雄』と

 

 

 

 

「将軍は箝口令を敷いたはずだが…」

「人の口に戸はたてられないのぉ」

 とぼける竜人

 

 王都 王宮

 王と竜人ココット

 

「まさか自国の将軍が負けたのに、

 国民が喜ぶとはな」

 

「仕方なかろ?平定が済んでからは自国内の

 税の徴収と統制が主な仕事だった訳じゃし」

 だから国民に敵視される

 

「私も国王だ、英雄には自由にして欲しい、

 が、

 立場上法や規律には従ってもらうべき…

 なのだろうな」

 

「それは…条件次第じゃろ?」

 

「条件?」

 

「それ次第ではあいつらに関所を通るように

 言いきかせよう」

 

「出来るものなのか?」

 

「あ奴らが一番恐れ従うのはワシらじゃ」

 

「条件は…」

 

「お互いのためにより良く、長く続く条件が

 良いなぁ、シュレイドと敵対したいとは

 思っておらんよ」

 ニコッと笑う

 

 

 ……………

 

 

「何で勝ったのに金払うんだよ!!」

 バルトは納得いかない

 

「俺達の苦労は何だったんだ?」

 ドクも

 

「おい、ココット師匠、何か裏があるな?」

 睨むロクス

 

「ふーん…何引き出したんだ大兄ィ?」

 取り引きを言い当てたガストン

 

 王都の酒場、テーブルで話す五人

 

「お前らが関所で5ゼニー払う代わりになぁ…」

 不審な目で見る四人

「ビールを9割引にしてやった」

 

「「「「はああっ??」」」」

 

「それじゃ運搬費用にもならねぇぜ!」

「出荷するほど赤字だな…」

「なるほど、

 寄り合いの(後のギルド)経費削減か」

「なるほどなぁ!新人育てるにもビールは

 必要だからか!」

 大笑いするガストン

 

「これでワシらには手出ししにくくなったし、

 新人も育てやすくなった訳だ、経費も削減

 して、ついでにシュレイドの面目も立つ、

 通行税でここまで出来れば上出来じゃ」

 

「大兄ィ、そこまで読んでたのか?」

 

「お前らが勝つのは確定だったからなぁ」

 狂走薬の事だろう

 

「一つ気になる事がある」

 ロクスはビールを飲むと

「あの敗戦、シュレイドにとっては恥だろ?

 隠すはずなのに何でこんなに

 広まってんだ?」

 

 店の中の客、入り口や窓から多くの人々が

 注目している

 あの戦力差で『手加減』して兵士に死人を

 出さないで勝った英雄がいるのだ

 

 

「英雄は有名な方が弟子が増やしやすかろ?

 ハンターが増えるぞ?」

 笑うココット

 

「大兄ィ…まだ何かやったな?」

 

 

 ……………

 

 戦いの前

 後にドンドルマと呼ばれる村

 出発する四人を見送った直後

 

「ホッホッ、エレーナや」

 竜人ドンドルマ

 

「ん?何だい?」

 金勘定をする威勢の良い娘、

 商売の才能があるようだ

 

「行商人連れて見物に行くぞ」

 

「やだよ危ない」

 顔をしかめる

 

「良いのか?ロクスの戦う姿が見られるぞ?」

 気になってるのを見抜いている

 

「そ、そりゃあさ…」

 本心では見たいエレーナ

 

 ならば

「行商人に双眼鏡を貸し出せ、こんな戦い

 滅多にないぞ?貸し賃を取れば儲かるぞ?」

 

「行く!こりゃ商売になるねぇ!」

 行商人を呼び集める

 

 

 ……………

 

「行商人はモノとカネ、そして情報を

 運んでいるのじゃ、利用すれば寄り合いを

 大きくして『ギルド』にできる」

 

「全部兄ィの手のひらの上かよ」

 苦い顔のガストン

 

「だから師匠達は敵にしたくねぇ…」

 あきれるロクス

 

 

 

 

 

 噂が流れる

 

 国民は四人の英雄だという

 

 兵士は人外のバケモノという

 

 

 どちらなのかは後の世が決めるが…

 果たして…

 

 




この世界の英雄と人外の
価値観、客観を分かりやすく
書いてみました。


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