魔法科高校の劣等生~錬鉄の継承者~ (アゲハチョウ)
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設定と1話

設定

 

影宮コノハ (15)

 

身長:158㎝

 

体重:55㎏

 

血液型:O型

 

趣味:魔術の鍛練、読書

 

魔術回路:五十四本

 

クラス:一年A組

 

所属組織・部活:風紀委員・弓道部

 

 

魔術

 

・投影魔術

 

魔術回路が英霊エミヤより多く剣以外の投影もエミヤより魔力の消費量が少ない。

 

・解析魔術

 

見たもの、直に触れた物に関しては概念、構造、担い手の記憶を読み取れる。

起動式も読み取れるが魔力の消費が激しくなる。

 

・強化魔術

 

物質の強化や自身の身体強化が可能。

 

固有結界

 

英霊エミヤと同じく厚い雲に覆われた空に空中に浮かぶ無数の歯車。赤い丘には無限ともいえる剣が突き刺さっている。

 

 

 

ここまでが設定です。

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

僕は幼い頃からいつも自分ではない誰かの記憶を夢として見ていた。

きれいな満月が浮かぶ夜。一人の黒髪の男性と赤銅色の少年が縁側で座っていた。

 

『僕はね、正義の味方になりたかったんだ』

『なんだよ、なりたかったってことは諦めたのかよ』

『うん、大人になると正義の味方を名乗るのが難しくなるんだ』

 

その男の人はどこか諦めたような悲しい表情をしていた。少年もその人の姿をただ見ていた。

 

『なら、仕方ないな』

『ああ、仕方な』

『仕方ないから俺が代わりになってやるよ』

 

その少年の言葉に男の人は少し驚いたような表情をした。

 

『だから、安心しろよ。爺さんの夢は―』

『そうか。ああ――』

 

その先の言葉は聞こえては来ない。でも、それはきっと大切な誓いであったのかもしれない。

 

 

 

 

「うっ、ううん。7時か」

 

時計を見ると七時を示していた。ベットから下り、顔を洗い、朝食を取り、着替えを済ませて家を出る。

 

「いってきます」

 

そのまま、僕が通うことになった魔法大学付属第一高校に向かった。

 

花冠(ブルーム)雑草(ウィード)。わざわざ差別する理由はないと思うのに」

 

自分の制服にあしらわれている八枚の花弁のエンブレムを見て、ため息をこぼした。

 

「このベンチで一息ついているか」

 

近くにあった一人か二人が座れるくらいのベンチを発見してそこで読書をしていた。

 

「隣、良いか?」

「ん?ああ、良いよ。別に独占していた訳じゃないから」

 

話しかけてきたのは二科生の生徒だ。二の腕辺りにエンブレムがないことが分かったからだ。

 

「珍しいな。電子書籍を使わないのか」

「あれは長時間使っていると目に悪いからな。本物の本ならそうでもないだろう。そう言うお前は仮想型ではなくてスクリーン型じゃないか。そっちも珍しいだろ」

「仮想型は読書に不向きだからな」

 

周りでひそひそ話されているが、そんなことを気にする必要はないか。

 

「ねぇ、自己紹介しないかな。僕は影宮コノハだよ。こう見えて男の子だから」

「その言い方だとよく間違えられるんだな」

「そうだね。よくと言うよりは毎度って言った方が僕にはしっくり来るよ」

「そうか。俺は司波達也だ。二科生だが、よろしく頼む」

「いいよ、そんなことで差別するほど器は小さくはないから」

 

司波達也、ね。何だか、秘密がありそうな雰囲気だよ。

 

「そうか、達也くんって呼ばせてもらうよ。よろしくね」

「ああ、こちらこそ」

 

握手を交わしながら僕は達也くんの体を解析してみた。

 

(何か力を封印。ううん、誰かとパスを繋いでお互いに抑止しあっているのかな?)

 

何か秘密があることは分かったが、それ以上は特に気にすることはしなかった。

 

「影宮、お前は何か武芸をやっているのか」

「え?まあ、一応剣術とか弓道とか様々な武芸は自分が出来る限界まで鍛え上げたけど……よくわかったね。僕は武芸をやっているなんて」

「手に幾つか豆とかが出来ているからな。しかも普通のスポーツでは中々出来ないような場所にまで豆ができている。だから、武芸をやっていると思ったんだ」

 

少ない手がかりでそこまでわかるものなのかな?そのまま、僕たちは読書に集中した。

これが司波達也との出会いだった。



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2話

僕と達也くんが読書を開始してからそれなりの時間が経ってきた。

 

「ふぅ。入学式まで後どれくらいで開始になるの。達也くん」

「後三十分ってところか」

 

三十分か。そろそろ移動しないとダメだよね。

 

「新入生ですね?開場の時間ですよ」

 

栞を挟んで本を閉じ、胸ポケットにしまい込んで顔をあげるとそこには自分より少しばかり背の低い女子がいた。

 

(腕に着いているのってCAD?確か校内でCADの着用が許可されているのは生徒会と風紀委員に他の特定の委員会のみだったよね)

 

「ありがとうございます。すぐに行きます」

「丁度、移動しようと思っていたところでした」

 

僕と達也くんはそのまま会場ねと向かおうとしていた。でも、先輩だと思われるこの女子は達也くんが持っていた端末に興味を惹かれたようだ。

 

「感心ですね。スクリーン型ですか」

「ええ、第一高校では仮想型は持ち込みが禁止されていますから。それに仮想型は読書に不向きです」

 

僕に言ったこととほとんど変わらない理由を述べた達也くんに更に感心した様子で頷いていた。

 

「動画ではなくて読書ですか。更に感心しますね。そちらの君は何かしていたのかな?」

「僕ですか?僕はこれを読んでいました」

「あら、もっと珍しいわね。今は電子書籍の方が流通していて書籍なんて中々売っていないのに」

 

今度は僕に感心を向けてきた。

 

(まるで好奇心が強い猫みたいな人だね)

 

「でも、二人って同じ中学なのかしら?二科生と一科生が仲良く同じベンチで読書なんてしないわよ」

「いえ、今日が初対面です」

「はい、今日から友達になった関係です」

「そう、他の生徒も貴方達みたいになってくれればいいのだけど上手くいかないのよね」

 

先輩と思われる女子はそのまま困ったと言わんばかりの表情をしていた。

 

「あっ、そう言えば自己紹介がまだだったわね。私は第一高校の生徒会長を務めています、七草真由美です。『ななくさ』と書いて『さえぐさ』とよみます。よろしくね」

 

七草先輩はそのままウィンクでもしそうなのりで自己紹介をした。

 

(『七草』、『七』の数字付き(ナンバーズ)の家系)

 

魔法師の中で遺伝的に優秀な魔法を使う家系。そして、七草は四葉の家系と同じくらいの強い魔法師を産み出している。

 

「俺、いえ、自分は司波達也です」

「僕は影宮コノハです」

 

僕と達也くんが自己紹介すると七草先輩は少し驚いていた。

 

「司波達也くんに影宮コノハさん……、そう、貴方たちが司波くんに影宮さんなのね。先生たちの間では二人とも話題になっているわよ」

 

なぜ話題になっているのか不思議に思うが、特に気にすることはしなかった。

 

「司波くんは入学試験で七教科の平均点が百点満点中九十六点で特に魔法工学と魔法理論は小論文を含めて文句なしの満点という前代未聞の高得点を出した生徒だって。影宮さんは司波くんに続いての七教科の平均点が百点満点中九十五点。魔法工学については少し減点されたけどその他の教科でも高得点を出して、今年の女子の新入生の中では司波深雪さんと同じくらいの期待の新入生だって噂になっているのよ」

 

なんだか、自分のことのように話している七草会長を見ると自分に姉がいたらこんな感じなんだろうかと思っていた。

 

(あれ、そう言えば僕がシレット女子って扱いにされているんだけど)

 

そう、達也くんだけをさっきから君付けで呼んでいるのが不思議だったけど、納得した。先生までもが僕を女子扱いしていたようだ。

 

「あの七草先輩、影宮は男ですが」

「え?そうなの?」

「はい、こんな見た目ですが僕は正真正銘の男です」

「そ、そうだったのね。ごめんなさいね、気を悪くしたかしら」

「い、いえ!もう慣れてしまいましたから」

 

何故だろう。男子の制服を着ているのに女子に間違われるんだと真面目に不思議に思った。

 

「それより早く会場に行こうか。達也くん」

「そうだな。それでは俺達はこれで失礼しす」

 

僕は達也くんに会場にいく用促し、逃げるようにその場を去った。

 

「うわー、きれーに半分に分かれているね」

「差別意識が強いのは差別している方ではなく差別を受けている方なのだろう」

 

そう、会場に入ると前半分には一科生が後ろ半分には二科生がそれぞれ席に座っていた。しかも誰かに統率されたかのように綺麗に分かれて座っているのだ。

 

「どうする?達也くんも僕と一緒に前に座るかい?」

「いや、入学式早々目をつけられたくない。それに妹の姿くらいなら後ろでも見える」

「妹さん?もしかして七草先輩がいっていた司波深雪さんが妹なの?」

「ああ、そうだが良く分かったな」

「いや、司波って苗字はそうそう居ないからね」

 

もしかして天然なのかと疑ってしまったが本人は本気でいっているのかそれとも冗談なのか分からない表情をしていた。

 

「確か今年の新入生の総代だよね」

「よく知っているな」

「たまたま小耳に挟んだんだ。それ以外は何も知らないよ」

 

司波深雪という名前は七草会長から聞く前にも知っていた名前なのだがいかんせん誰かが話していたのがたまたま聞こえてきただけなのであまり詳しくは知らないのだ。

 

「後ろの方には座らない方が良いよね」

「そうだな、一科生全員を敵には回したくはないだろ」

「まあ、ね」

 

そのまま僕と達也くんはこの法則に従って席につくことにした。

「ここでいいかな」

 

三十分前という事でそれなりに空いている席を見つけるのに苦労した。

 

(それにしても達也くんのあれは魔法で無理矢理力を抑え込んでいるんだよね。しかも、恐らくは解く役割を担っている人も同等の魔法で力を押さえ込んで互いに枷として生きていくみたいな感じだった)

 

それはまるで自由に生きられない籠の中の鳥のようだと思った。

 

「あの、隣に座っても大丈夫ですか?」

「え?ああ、別に平気だよ。特に誰かが座る予定はないから」

 

声をかけてきたのは二人の女子だった。

 

「ほ、本当ですか?!」

「良かったね、ほのか」

 

なんと言うか全くもって正反対な二人組だな。

 

「あ、あの私は光井ほのかって言います」

「私は北山雫」

「僕は影宮コノハだよ。好きなように呼んでいいから」

 

二人の苗字に多生なりとも驚いたがそれを表情に出さなかった。

 

(光のエレメンツの家系に大企業のご令嬢、か。すごい人たちと知り合ったな)

 

先程の七草先輩といいこの二人といい第一高校には有名人がいっぱい居そうだ。

 

「静粛に。今から入学式を始めます」

「あ、始まるみたいだよ」

 

いよいよ、入学式が始まる。

長い…長すぎる。校長の話が長すぎる。なんで、一人で20分以上話が続けられるんだよ。

 

「な、長いね。ここの校長先生の話…」

「長い、よく一人であれだけ話せる」

「あ、やっと終わるのか……」

 

長かった校長の話もようやく終わり、次へと駒を進めることができた。

 

「答辞。新入生代表司波深雪」

 

壇上に立っていたのはここにいる全員が100%美人だと評価を下すであろう女子がたっていた。

 

(あの子が達也くんの妹さん……。目の色とか雰囲気は正しく兄妹だよね)

 

答辞の内容はなんと言うか誰かのためを思って書いたように感じた。

 

(結構際どい台詞のオンパレードだね。まあ……)

 

周りを見てその事に気づいているのは兄である達也くんと僕位だと思った。

 

(皆、あの美貌の虜みたいだね)

 

一科生は憧れとその美しさに見惚れ、二科生は羨望と諦めたよくな雰囲気で見ていた。

 

「やっと、入学式が終わったー」

「コノハ、IDカード貰いにいかないの?」

「おっと、忘れるところだった。ありがとう、北山さん」

「雫でいい。私もコノハって呼ぶから」

「あの、私のこともほのかって呼んでください。私もコノハ君と呼んでいいですか?」

「うん、いいよ。好きなように呼んでくれて構わないって言ったしね」

 

入学式の最初から友達を作れるなんて幸運なのかな?

 

「二人ともなん組だった?」

「私はA組です」

「私もほのかと同じ。コノハは?」

「僕かい?僕も二人と同じA組だよ」

 

ほら、とIDカードを見せる。

 

「本当ですね!なら、これからよろしくお願いします」

「私もよろしく」

「こちらこそ仲良くしようね」



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3話

あの後、ほのかと雫が一緒にホームルームを見に行かないかと誘われたが、用事かあるという事で断った。

 

(何故、二人とも少し寂しそうな表情をしていたんだろう?)

 

断ったときの二人の表情が例えるなら主人にあまり構ってもらえなく寂しそうな犬や猫みたいに見えた。

 

「さて、鍛練を始めよう」

 

家の地下にある鍛練室でいつも日課として行っている鍛練をしていた。

 

「まずはいつも通りに自分の体を解析してみよう」

 

目を閉じて、頭の中で回路に電源をいれるイメージと共に言葉を紡ぐ。

 

解析、開始(トレース オン)

 

――身体に目だった怪我なし

 

――魔術回路 五十四本

 

――精神汚染・洗脳なし

 

「ふぅ、特に変わったところなし」

 

強いて言うなら夢の中に出てくる僕よりは魔術回路と呼ばれる魔術を使うのに必要なものが多いってところだけだ。

 

「次は本命と行きますか」

 

イメージで作り出したのは黒と白の双剣。夢の中で自分が最も愛用していた剣である。

 

(余計なことを考えるな。常にイメージするは最強の自分)

 

基本骨子想定を完璧に、構造に穴を作るな。自分が作るのは…。

 

「自分が作るのは真に迫った贋作だ」

 

回路に電源をいれるイメージと共に再び言葉を紡ぐ。

 

投影、開始(トレース オン)

 

投影したのは夫婦剣。その概念は互いに引き付け合う磁石のような力と怪異に対しては強い力を発揮する。

 

「ふう、なんとか上手くいった」

 

剣を視てみると基本骨子の想定は完璧だ。構造にも穴はない。

 

「次はこれを強化してみるか」

 

本来なら別のものを強化したりするのだが、今日はじめて自分が投影したものを強化する。

 

強化、開始(トレース オン)

 

骨子の隅々までに強化を施すためそれなりに神経を使う。

 

「ぐっ、結構厳しかったけど。上手くいった」

 

強化が施されているのを確認して、振るうことにした。

 

(今日も相手よろしくね)

 

イメージしたのは全身蒼いタイツ姿に身を包み、紅い槍を持つ男の人だ。

 

「ふっ、せい!」

 

その男の人のは命を奪われたことがあった。夢の中では戦った記憶を何度も見てきた。

 

「その手は通じないぜっ!」

 

故にイメージしやすく、またどんなことをしてくるのか予想もつきにくく、スピードも最も速い相手でもあった。

 

 

 

 

また、夢を見ていた。そこはまるで廃墟となった城のような場所。隣には自身の■■■■での相棒である■■■■がいる。

 

(いつも大事な部分にはノイズが走り、また大切な人たちの顔には影がかかってい見えないよね)

 

それでも自身の顔だけははっきりと見えていた。そして、これからやって来る相手の顔もだ。

 

『英霊■■■。それがお前の真名』

 

現れたのは紅い外套に身を包み、白い髪に灰色の瞳の男だった。

 

『■■■の理想を、英雄となった姿が貴方ではないなのではないのですか。なのに何故、こんな自分を殺すような真似を』

『確かにオレは理想通りの英霊になった。人間を救い、世界の危機とやらを救ったこともあった』

 

■■■■の問いに答えながら歩んでくる。その姿はまるでどこか後悔しているように感じた。

 

『だが、その果てに得たものは後悔だけだった。……残ったものは死、だけだっただったからな』

『死……だけ』

『できるだけ多くの人間を救う為に、殺して殺して、殺し尽くした。己の理想を貫くために多くの人間を殺して、殺した人間の数千倍の人々を救ったよ。そんなことを何度繰り返したのか、分からないんだ。■■■■』

 

その表情はもうかつての自分とは違うものだった。人を救うことに疲れたような表情。まるで理想が間違っていたと言いたげなものだった。

隣にいた■■■■も少し後ずさっていた。

 

『オレがこの環から抜け出す術はない。……そう、ただひとつの例外を除いて』

 

そう言って彼は過去の自分()を睨み付けていた。

 

『お前、後悔してるのか』

『無論。オレ、いや、お前は英霊になどなるべきではなかった』

『それじゃあ、俺達は別人だ』

 

そう、断言した。自分達は別人だと。

 

『俺は後悔だけはしない!だから、お前のことも認めない!間違った理想はおれ自身の手で叩き潰す!』

『分かっているようだな。オレとは剣製を競い合うことだと言うことを!』

 

そして、その男は何かを唱える。

 

体は■で出来ている(I am the bone of my■■■■■)

 

目の前に炎をがよぎる。そして現れた世界は―――。

 

 

 

 

携帯のアラームが鳴り響き夢から覚めた。

 

「うーん、もう朝なの?」

 

あの夢は必ず二回ほど分かれてみる。そして、その後に広がる世界についてもよく知っている。

 

「さて、登校しないとね。遅刻なんてしたくないから」

 

そのまま、一階へと下りていった。

 

「おはよう、雫にほのか」

「おはよう、コノハ」

「おはようございます、コノハさん」

 

教室に入れば、昨日知り合った雫とほのかに挨拶した。

 

「お、おい、司波さんが来たぞ」

「やはり、美しいですね」

花冠(ブルーム)の鑑ですわ」

 

周りが騒がしくなったので、ドアの方へと目を向けるとそこには達也くんの妹で今年の新入生総代を務めた司波深雪さんがいた。

 

(偶像崇拝、に近いかもね)

 

周りはまるで彼女を信仰対象みたいになっている。

 

「おはようございます」

「お、おはようございます!司波さん!」

「おはよう、深雪」

「おはよう、司波さん」

 

僕たちも挨拶を返す。

 

(ほのかさんは緊張しすぎじゃないかな?)

 

「そう言えば、自己紹介がまだだったね。僕は影宮コノハだよ」

「わ、私は光井ほのかです!」

「北山雫。よろしく」

「ご丁寧にありがとうございます。私のことは知っていると思いますが司波深雪です」

 

そのまま先生が来るまで四人でしょうもない話をしていた。



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4話

雫とほのかと司波さんと僕たちが話しはじめて十分後に先生が教室にやって来た。

 

「皆さん、ご入学おめでとうございます。これからは―――」

 

説明が始まったけど、特に興味がなかったから本を取り出して読書を始めた。

 

「お―み―。おい、かげ―、影宮!」

「ふぇ、?!」

「まったく、話を聞かないで読書とは……。お前には教職推薦で風紀委員に入ってもらいたいと話が来ている。明日辺りに生徒会長と風紀委員に呼ばれるから行くように」

 

僕は首をかしげた。

 

(なんで僕に風紀委員の推薦が来ているんだ?と言うか、風紀委員って何するの?)

 

突然のことで釈然としなかった。

 

「あの、先生。風紀委員って何するんですか?そして僕が選ばれた理由はなんですか?」

「何をするかについては渡辺麻利風紀委員長から言われるだろう。そして選ばれた理由に関してだがお前は今年の入学生の次席だからだ」

 

僕は頭をおさえてしまった。

 

(次席って…、七草先輩もそう言えば女子の中ではトップだって言っていたし、男子でも変わらなかったのかな?)

 

自身が選ばれた理由がわかって納得はしたが、自分より向いている人がいたのでは?考えてしまった。

 

「すごいですね、コノハ君!風紀委員に推薦されるなんて!」

「そんなに凄いことなの?」

「うん、風紀委員は名誉ある役職」

 

ほのかと雫の話を聞いてすごいことなのだ理解した。しかし……。

 

(男子からの視線がイタイ)

 

そう、ほのかと雫と男子からすごい見られる。と言うか、睨まれている。司波さんと喋るときなんて男子だけではなく女子からも鋭い目線が飛んでくる。

 

(僕は何かいけないことをしたのかな?)

 

このときコノハは気づいていなかった。自分が話しているのは可愛らしい女子だということを。気軽に話しかけられない男子からしてみれば殺したいほど妬ましいと思われていることに。

 

「そうだ、司波さん。一緒に見学しに行かない?達也くんとも一緒にさ」

「あら、影宮さんはお兄様と面識があるんですか?」

「うん、と言っても昨日会ったばかりなんたけどね」

「司波さんにはお兄さんがいるんですか?」

 

会話に入ってきたのはほのかだ。その隣にはやはり雫がいた。

 

「ええ、お兄様は二科生ですが本当なら魔法だってお兄様の方が上なのよ?」

「ええ、それはすごいですね」

「深雪のお兄さんに会ってみたい」

 

ほのかと雫は深雪の兄である達也に興味が出たようだ。

 

「それじゃあ早速…」

「し、司波さん!よろしければ一緒に回りませんか?」

「私もご一緒しても…!」

「私も!」

「ぼ、僕もご一緒に!」

 

深雪を中心にすごい人の群れができてしまった。

 

(す、凄い。これはヤバイ……)

 

近くにいた僕と雫とほのかは押し潰されてしまった。

 

「く、苦しい……」

「ほ、ほのか……」

 

苦しそうな声をあげるほのかと雫。

 

(仕方ない。魔術を……)

 

苦肉の策として体を魔術で強化して二人を助けだそうと考えた。

 

「それでは工房に行きましょう」

 

その声の主は深雪だった。

 

(もしかして僕たちを助けるために?)

 

自分がいては三人に迷惑がかかると思ったのだろう。深雪はそのまま大勢のクラスメイト達を引き連れて移動した。

 

「二人とも、大丈夫だった?」

「う、うん。大丈夫だよ」

「私も大丈夫」

 

二人とも平気そうだが、深雪のことが心配になり出した。

 

「司波さん、大丈夫かな?」

「たぶん、大丈夫じゃない」

「まあ、ね。人は大勢に囲まれると知らないうちにストレスをためてしまうからね」

「私たちも行く?」

「後ろから着いていくには問題ないと思うよ」

 

後ろについていく。妥当だとコノハも思った。

 

「それか達也くんと一緒に回る?」

「達也くんって深雪のお兄さんの?」

「うん、二科生だってことを気にするなら別にいいけど」

「ううん、私も雫もそんなことは気にしないよ」

「ほのかの言うとおり」

 

二人の言葉に満足気に頷いた。

 

「わかった。じゃあとりあえず工房の辺りを見てみようよ。もしかしたら達也くんも既に向かっているかもしれないしね」

「うん、行こう」

「あ、まってよ!二人とも」

 

三人もまた工房へと歩き出した。

 

「うーむ、中々見当たらないね」

「あはは、これだけ人がいるだもん。簡単には見付からないよ」

「ほのかの言うとおり。これだけの人の数から特定の人を見つけるのは難しい」

 

工房にはそれなりの数の人たちがいるため、人探しには向かない場所だった。

 

「うーん……ん?彼処にいるのは」

 

前の方へと視線を向けると、見知った後ろ姿があった。

 

「彼処にいるのは、達也くんだ」

「え?どこですか?」

「見えない」

 

慎重があまり変わらない三人だが、コノハが達也を見つけることができたのは単純に人と人との間にできた僅かな隙間から見えたからだ。

 

「二人とも離れないように手を繋いで」

「「え?」」

「良いから、たぶんこの人波を掻き分けて進んでいくとはぐれると思うから」

「わ、分かったよ」

「掴めば良いんだよね」

 

二人が手を繋いだのを確認してそのまま進んでいった。何故か二人とも顔を赤くしていた。

 

(人が多いな。目だけでも強化しておくかな)

 

その様子に気付かずに思考を巡らせて、誰にも聞こえない程度の声量で唱える。

 

強化、開始(トレース オン)

 

目だけを強化し、人波を進んでいく。

 

「こんにちは、達也くん」

「ん?影宮、なんでここに?」

「見学にだよ」

「そうか、デートという名のか?」

「デート?」

 

横にいるのはほのかと雫だ。しかも手を繋ぎっぱなしだ。

 

「ああ、これは違うよ。人波を掻き分けてきたからね。はぐれないように手を繋いで来たんだよ」

「そうか」

「お、達也なんだ。知り合いか?」

 

達也くんの後ろにも三人の男女がいた。

 

「そう言う達也くんはダブルデートかな?」

「違う!と言うか誰と誰が付き合ってんだよ、それ」

「え?赤い髪の女子と君が付き合ってて、達也くんとそこの度のない眼鏡をかけた子が付き合ってるんじゃないの?と言うか、デートしてるんじゃないの?」

 

コノハの言い分に赤い髪の女子が反論した。

 

「誰がこんな野性丸出しの男とデートするのよ!」

「え?同じ体育系っていう繋がりで?」

「なんで、疑問形なんだ?」

「わ、私は達也さんとはつ、付き合っていませんから」

「俺達は仲良く見学していただけだっての」

 

四人とも反論したことで違うのだと理解した。

 

「と言うか、コイツ一科生じゃねえか」

「あ、横の二人もそうだよ」

「良いの?あたしたちと一緒に回ってると目の敵されるわよ」

「ああ、そんなことは気にしないから。僕は」

「わ、私もです」

「コノハとほのかと同じ」

「でも、良いのでしょうか。三人にだって他に回りたい人がいるんじゃないんですか?」

「ああ、それならもっと大丈夫。司波さんが人気のあまりにそっちに皆いっているか。流石、達也くんの妹って感じだよ」

「何が流石なのかは理解できないが、誉め言葉として受け取っておく」

 

無表情でそんなことを言ってるけど、結構心配していると感じた。

 

「そう言えば、達也くん以外は僕のことを知らないよね。達也くんは二人のことも知らないよね?一応、自己紹介するよ。僕は影宮コノハだよ。こう見えても男子だからそこんとを間違わないでね」

「ま、マジかよ。ああ、俺は西城レオンハルトだ。気軽にレオって呼んでくれ」

「私は柴田美月と言います。よろしくお願いしますね」

「あたしは千葉エリカよ。よろしく」

「私は光井ほのかと言います。こちらこそよろしくお願いします」

「北山雫。よろしく」

 

それぞれで自己紹介を終えて一緒に回ることにした。

 

(それよりも『千葉』、『千』の数字付き(ナンバーズ)までもがいるなんて。驚いたよ。あの家の家系は剣術に秀でている家系だって有名だからね)

 

エリカの次に美月へと視線を写した。

 

(彼女は恐らく霊子放射過敏症過敏症だよね。今時、眼鏡を使わなくとも魔法である程度視力が補強できるようになってから眼鏡を使う人は数が減ったからね)

 

彼女の病気のことを見抜き、それでも分からない振りをする。紳士の嗜みである。

 

「それより回らないかい?人が混んできたしね」

「ああ、そうだな。三人はどこかいきたい場所はあるか?」

「特には僕はないかな?」

「私もありせん」

「私も強いてみたい場所はない」

「そうか、なら次は――」

 

そのまま7人は仲良く工房を見学していった。



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5話

ただ今、下校時間。とある集団たちが言い争っていた。

 

(と言うか、僕たちなんだけどね)

 

原因は深雪が兄である達也と帰りたいのだが、プライド高い一科生の数名が達也たちに食って掛かっていた。

 

(昼休みは穏便に済んだけど、これはちょっと無理かな)

 

ヒートアップしている目の前の事態に頭がいたくなってきた。

 

「いい加減に諦めたらどうなんですか?深雪さんは、お兄さんと一緒に帰ると言っているんです。他人が口を挿むことじゃないでしょう」

 

美月の正論にさらに食って掛かっている。この場には既に良心が逃げ出してしまったようだ。

 

「ど、どうしよう」

「ほのか、落ち着いて。私たちは深雪から直接誘われているから大丈夫」

「そうだけど、このままヒートアップしたらヤバイかもね」

 

現に凄い言い争いになってるしね。

 

「別に深雪さんはあなたたちを邪魔者扱いなんてしていないじゃないですか。一緒に帰りたかったら、ついてくればいいんです。何の権利があって二人の仲を引き裂こうとするんですか」

 

意外な人物が熱くなっていた。

 

(美月さんが意外と熱くなってるよ)

 

だが、更に目を引いたのは後ろで夫婦漫才をしている兄妹だった。

 

「引き裂くとかいわれてもなぁ……」

「み、美月は何を勘違いしているのでしょうね?」

「深雪……何故お前が焦る?」

「えっ?いえ、焦ってなどおりませんよ?」

「そして何故に疑問形?」

 

(あ、うん。あそこだけ空気がピンク色だよ)

 

一部だけ空気が違うことに気づいたのはコノハだけで、他の一科生は反論しかしていない。

 

(どれも穴だらけの反論で論破されるものばかりだ。これじゃあ勝ち目はないね)

 

だけども、両者とも更にヒートアップするだけだった。

 

「うるさい!他のクラス、ましてやウィードごときが僕たちブルームに口出しするな!」

 

禁止用語を使った彼があのグループの中心みたいな人だとコノハは思った。

 

(彼は確か……同じクラスの森崎駿だったけ?森崎って確かクイックドロウが有名だね)

 

彼の家のものが一度魔法を使ったところを見たことがあるために分かったことだ。

 

「同じ新入生じゃないですか。あなたたちブルームが、今の時点で一体どれだけ優れているというですかっ?」

 

このときコノハは嫌な予感がした。何か危険なことが起きると。

 

(森崎くんは男性。なら、あれを使うか)

 

僕は持っていたバックの中を探すフリをして投影魔術を使ってあるものを投影した。

 

投影、開始(トレース オン)

 

それは自身が英霊となって終わったはずの三度目の■■■■がまだ終わっていないときに出会った腹黒修道女(シスター)が使っていたとある聖人の遺体を包んでいた布だ。

 

「どれだけ優れているか、知りたいなら教えてやるぞ」

 

怒気を孕んだその声を圧し殺すように話している森崎。コノハは投影した布をバックから取り出す。

 

「コノハ君、それ何?」

「これ?まあ、見てのお楽しみだよ」

「コノハ、無茶しちゃダメだよ」

 

二人の心配そうな顔を見て、笑顔で平気と答える。

 

「ハッ、おもしれぇ!是非とも教えてもらおうじゃねぇか」

 

この言葉を引き金に森崎は行動に移した。

 

「だったら教えてやる!」

 

森崎が取り出したのは銃の形をした特化型CADだった。起動式も展開直前だ。

 

我に触れぬ(ノリ・メ・タンゲレ)

 

コノハが言葉を紡ぐとまるでその布は意思があるかのように動き出して、森崎を簀巻きにした。

 

「な、なんだこれ!」

「そこまでだよ。自衛目的以外での魔法の使用は犯罪だよ」

「き、貴様ぁ」

 

簀巻き状態になっている森崎は魔法を使って拘束を解除しようとするが……。

 

「魔法が、発動しないだと!」

「無駄だよ。これに巻き付かれている間男性は魔法はおろか異能の力すら扱うことをはできない」

「なっ!」

 

コノハが投影したのはマグダラの聖骸布。その概念は男性に対する絶対的な拘束力だ。

 

「そこまでだ。君たちが報告にあった一年A組と一年E組の生徒ね。事情を聞きます。ついて来なさい」

 

現れたのは生徒会長七草真由美ともう一人の女子生徒だった。

 

「すみません、悪ふざけが過ぎました」

「悪ふざけ?」

 

達也の突然の行動に驚きはしたが、何をするつもりなのかは何となくわかった。

 

(誤魔化すつもりだね、達也くん)

 

「森崎一門のクイックドロウは有名ですから、後学のために見せてもらうつもりだったんですが、彼は自衛目的以外の魔法の使用を許さなかったみたいで、彼を止めたんです」

 

森崎は驚いた表情で達也をみていた。

 

「では、そこの一年生が彼を簀巻きにしたのはそれが理由だと言うことでいいんだな」

「はい、流石に校則違反の前に犯罪行為ですから止めたんです」

「その横にいた彼女も魔法を発動しようとしていたようだがそれについてはどうなんだ」

 

横にいる彼女とはどうやらほのかのようだった。

 

「彼女は恐らく彼が失敗したときの為に準備していたのでしょう。展開していたのも光の閃光魔法で威力も随分抑えられていました。集中を削ぐための目的だったのでしょう」

「ほぅ……どうやら君は展開された起動式を読み取ることができるようだな」

 

(起動式を読み取った?あれって結構魔力の消費が激しいと思ったんだけど)

 

自分も解析魔術で起動式を読み取れるが魔力の消費が激しくてあまり使うことはなかった。

 

「実技は苦手ですが、分析は得意です」

 

達也は何てことが無いように話していた。

 

「誤魔化すのも得意なようだ」

 

そんな達也を睨んでいる真由美のとなりにいる女子。

 

「兄の申した通り、本当に、ちょっとした行き違いだったんです。先輩方のお手を煩わせてしまい、申し訳ありせんでした」

「僕の勘違いでもあるんです。本当にすいませんでした」

 

深雪の後に続くようにコノハも謝罪した。

 

「摩利、もういいじゃない。達也くんとコノハくん、本当にただの見学だったのよね?」

 

達也とコノハにことの真相を確認する真由美。

 

(あれ、いつのまにか僕と達也くんが名前読みになってる?)

 

達也を見てみると特に気にしていないのでコノハも習って気にすることしなかった。真由美の顔をみると悪いことを考えている顔をしていた。

 

「生徒同士で教え合うことが禁止されているわけではありませんが、魔法の行使には起動するだけでも細かな制限があります。この事は一学期内で授業で教わる内容です。魔法の発動を伴う自習活動は、それまで控えた方がいいでしょうね」

 

真由美の言葉を聞いて隣にいる摩利が形式的な言葉を述べた。

 

「……会長がこう仰られることであるし、今回は不問にします。以後このようなことの無いように」

 

その場にいた全員が示し会わせたかのように綺麗にお辞儀するが摩利はそれを見向きもしなかったが踵を返してきた。

 

「君と君の名前は?」

「一年E組、司波達也です」

「一年A組の影宮コノハです」

「そうか、覚えておこう。それと影宮は明日の放課後生徒会室に来い。風紀委員について説明する」

 

そう言って二人は去っていった。

二人が去った後、コノハは森崎の拘束を解いた。

 

「……借りだなんて思わないからな」

「貸してやるなんて思ってないから安心しろよ」

「僕も思ってないから。でも、今度またあんなことをしているのを見つけたら、委員会の仕事として取り押さえるから」

 

コノハの言葉に苦しい顔をする。

 

「僕はお前とお前を認めないぞ、司波達也と影宮コノハ。司波さんは僕たちと一緒にいるべきだし、二科生の肩をもったお前を認めないからな!」

 

そのまま森崎は二人の前から去っていった。

 

「いきなりフルネームで呼び捨てか」

 

(流石にいきなり呼び捨ては失礼じゃないかな)

 

そんなことを考えていると話し声が聞こえてきた。

 

「あの達也さん。先程はありがとうございました」

「何、気にしないでくれ」

「コノハもお疲れさま」

「あはは、僕は特に凄いことはしてないよ」

「ううん、コノハ君も凄かったよ!」

 

誉められるのって悪くはないけど二人とも距離が近いように感じる。

 

「それにしてもあんたが使ったあの布凄いわね」

「ああ、いきなり蛇みたいに巻き付いたんだもんな」

「はい、あれも魔法なんですか?」

「いや、コノハが起動式を展開した様子はなかった」

「お兄様、それでは何故あの布は巻き付いたんですか?」

「た、確かに…」

「不思議」

 

皆、興味津々のようだ。

 

(どうしよう。話した方がいいのかな?流石に投影魔術で作り出したなんてのは除いて)

 

「あはは、話すからここじゃない何処かでいいかな?」

「それじゃあ、昨日いったケーキ屋さんではなしてね」

 

こうして僕たちはケーキ屋さんへと向かうことになった。



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6話

ケーキ屋さん(という名のカフェ)についたコノハたちは早速気になっていたことを聞くことにした。

 

「それで影宮くんが使ってた布はなんだったの?」

「千葉さん、話すから落ち着いてください。それと近いですから」

「千葉さん、離れてやってくれ。それで影宮あの布はなんだ。魔法ではないんだろ?」

 

達也がエリカを落ち着かせたことでやっと話せるようになった。

 

「うん、あれは魔法じゃないよ。ゲームで言うとマジックアイテムみたいなものかな」

「マジックアイテムって言うとあれか、お助けアイテムみたいな」

「そうそう、レオくんのそれであっているよ」

「つまり、あれは魔法を補助するようなものなんですか?」

「うーん、あれは魔法を補助とかするようなものじゃないよ。見ての通りあれは相手を捕縛するためのものだからね」

 

美月の意見を否定して話を続ける。

 

「それでは起動式が展開されなかったのは何故ですか?」

「あれは僕が魔法を使って動かしている訳じゃないから起動式が展開されるわけじゃないんだ」

 

深雪は何処か不思議そうにしていたが納得してくれたようだ。

 

「それより気になることを言っていたな。あの布に巻き付かれている間は男性は魔法はおろか異能の力も使えないと」

「あ、確かにそんなことを言ってました」

「言ってた」

 

達也の発言にほのかと雫ものりだした。

 

「ああ、それを説明するのと一緒にこれの名前とか話さないとね。これはマグダラの聖女マリアが聖人の遺体を包んだ布でね。名前をマグダラの聖骸布。力に関しては皆が見た通り相手をって言っても男性に限られるけど、束縛して力を封じることだよ」

 

まるで何てこと無いように話すコノハだがその話を聞いて皆が目を丸くした。それもそうだ。いきなり聖人の遺体を包んだ布で男性に対しては束縛して力を封じるものだと言われても信じれるものではなかった。

 

「お前、よくそんなものを持っていたな」

「ああ、レオの言うとおりだ。よくそんなものを持っていたな」

「偶々だよ」

「それって本当は女の人が使うものじゃないの?」

「どういう意味、雫?」

 

雫の中々に鋭い質問にコノハは感心してしまった。

 

「そう、雫の言うとおりこれは本来女性が男性を束縛するための物だよ。だから、本当は女性が使った方が良いんだ」

 

夢で見た記憶の中でも使っていた女性だったし、被害にあっていたのもあの紅い槍をもった槍兵だった。

 

「これが僕が話せる全てかな?何か質問とかある?」

 

質問があるか聞くと誰も特に質問がないようだ。

 

「そう言えば達也くんは起動式が読み取れるんだね」

「ああ、それがどうかしたのか?」

「ううん。ただ僕も読み取れるんだけど魔力を多く消費するやり方だから出来ればあまり魔力を消費しないやり方を教えて貰おうかなって」

「え?影宮さんも読み取れるんですか?」

「うーん、読み取れると言うよりかは僕は解析してるんだ。そのせいで結構魔力を消費するんだ」

 

深雪の問いに曖昧に答えた。流石に解析魔術を使って読み取っているとか話せるわけがない。

 

「すまないが魔力を消費しないやり方は俺は知らない」

「そうなんだ。ごめんね、変なことを聞いて」

「いいや、気にしていないさ」

 

そのまま皆でワイワイ楽しく談笑していた。

 

 

 

広がるのは荒野。夕時なのか朝方なのか分からない厚い雲に覆われた空。そこには歯車が浮かんでいるか地面に埋まっている。そして、地面に突き刺さっているのは無限に近い剣だった。

■■■■が投影したのはガラスのような長い双剣。そして夢の僕も見て同じものを投影する。

 

投影、開始(トレース オン)!』

 

そして僕は■■■■に向かって走り出す。

 

『ふっ!』

『てああぁぁぁ!』

 

お互いに剣をぶつけ合う。何度も、何度もぶつけ合う。

 

『うおおおぉぉぉぉ!ふっ!てぇっ!』

 

■■■■の攻撃をなんとか防いでいるがやはり未来の自分が相手となると経験のさが大きかった。

 

『ふっ!』

『テイ!』

『やあぁ!』

 

そして等々夢の僕の方の剣が砕けてしまった。

 

『お前の剣製と俺の剣製が同等とでも思ったかっ!』

 

夢の中の僕は左肩を斬られ、突き飛ばされる。それでも諦めずに立ち上がった。

 

『お前はまだまだ基本骨子の想定が甘い』

『うるせぇ!』

 

図星だったから、悔しかったからがむしゃらに突っ込んでいった。

再び投影した剣が砕かれたとき僕に何かが流れ込んできた。

 

【体は…剣で出来ている。】

 

流れ込んでくるのは瓦礫と火の海に包まれた場所。

 

【血潮は鉄で心は硝子。】

 

今度は間近て見える火の海に包まれた場所。そこには見慣れたものの残骸が見えた。

 

【幾たびの戦場を越えて不敗。

 

ただ一度の敗走はなく、

 

ただ一度も理解されない。】

 

次に見えてきたのは剣が倒れた丘の上に剣や槍が刺さった誰かの姿が……。

 

【彼の者は常に独り。

 

剣の丘で……勝利に酔う】

 

その姿は未来の自分だった。

 

【故に生涯に意味はなく。

 

その体は、… きっと……

 

 

 

剣で出来ていた】

 

膝をついてしまった。見た光景が……あまりにも悲しいものだったから。

 

『今、お前は見たはずだ。未来に待ち受ける現実を。生涯、下らん幻想に囚われた紛い物を。それが自分の正体だと理解したか』

 

それでも認めるわけにはいかなかった。

 

『こんのぉぉぉぉぉ!』

 

いつのまにか固有結界も消えていた。

投影したのは黒と白の中華剣。それを無意識に投影して挑んでいった。

 

『くっ!』

『ふっ』

『テアァ!』

『お前は本当に英雄になりたいのかっ!』

 

剣を交わしながら、問いかけてくる。

 

『なりたいんじゃない!絶対になるんだ!』

『そうだろうなぁ!何故ならそれがお前にとって唯一の感情だからだ!』

 

問いかけている間に剣劇はお互いに増していった。

 

『何をっ!』

『お前はただ憧れただけだ。お前を助けたあの男の顔があまりにも幸せそうだったから、自分もそうなりたいと思っただけだ!お前の理想はただの借り物だ!』

『違う!』

 

刀身が砕けたがそれでも挑み続けた。

 

『この身は誰かの為にならなければならないと脅迫観念に突き動かされてきた!それが破綻しているとも気付かず、ただ走り続けた!』

 

動きながら剣を交わしていく、そしてまた今度は両方とも砕かれまた同じものを投影した。

 

『誰もが幸福であってほしい願いなど空想のお伽噺だ!』

 

夢の僕は右、左の交互に剣を振り下ろしたがそれらすべていなされてしまい、右肩を斬られてしまった。

 

『その夢を抱いてしか生きられないのであれば、抱いたまま溺死しろ!』

 

膝をつくまいと双剣を地面に突き刺した。体力も限界に近づき、また怪我を負いすぎて血も流しすぎた。

 

『体は……体は(つるぎ)で出来ている』

『貴様…まだ…』

『お前には負けない。誰かに負けるのは良い。けど、自分には負けられない』

『こいつ!』

 

力を振り絞って、僕は剣で勢いよく挑んだ。逆手に持った双剣で食らい付く。

 

『なんかじゃない!』

『叶わないと知って尚も挑みつづけるその愚かさ』

『間違いなんかじゃない!』

 

交差すると今度はア■■■ーの剣が砕けた。

 

『ううぅぅぅぅぅぅ!』

『うおおぉぉぉぉぉ!』

 

同じ剣がぶつかり合う。上手く逆手持ちから正しい持ち手に直しながら剣劇をぶつけ合う。

 

『それこそがオレの過ちだったはず!』

『けして間違いなんかじゃないんだから!』

 

激しいぶつかり合い。夢の僕が一気に押していく。

 

『うううおおぉぉぉぉぉぉ!てあぁぁぁぁぁぁぁ!』

 

持っていた双剣の黒い方を後ろへと投げ、白い方の剣を心臓付近を刺し貫いた。

 

『俺の勝ちだ。…アーチャー』

『ああ、そして私の敗北だ』

 

未来の僕が、いやアーチャーが敗けを認めてしまった。

 

『未来に何が待っていようと後悔なんかしない。俺は乗り越える!』

『そうだったな……乗り越えなければ嘘だ』

 

アーチャーの声は何処か認めたような、気づかされたような声色だった。

 

『楽しませて貰ったぞ。偽物同士実に下らん戦いだった』

 

その声と共に飛んできたのは百を越える武器だった。

 

「うわあああ!」

 

目を覚ますと朝の六時だった。

 

「初めてだったな。こんなに長い夢を見たのは」

 

何度も夢を見てきたが長い時間見てきたわけではなく、途切れ途切れだったのだ。

 

「アーチャー……これは貴方の記憶ではないんですよね」

 

今日もまた夢を見れることを祈って、そして今度はアーチャーの真名と夢の中での自分の名前や大切な人たちの名前が思い出せるよう願って……。



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7話

学校に向かう途中で達也と深雪に出会ったコノハは一緒に登校していた。更に途中にエリカ、レオ、美月と会い一緒に第一高校へと向かっていた。

 

「そう言えばさ、司波くんと影宮くんって生徒会長と前から知り合いなの?」

「いや、入学式の時が初対面の……はず」

「僕も入学式の日が初対面だよ」

 

達也とコノハは初対面だと言い切る。

 

「ですが、とてもお二人に親しげでしなよね」

「ああしかも名前呼びだったじゃねぇか」

「それに走って向かってくるくらいだしね」

 

エリカは後ろに視線を向けながら、ニヤニヤと人の悪い笑顔をしていた。何故なら後ろには笑顔でしかもコノハと達也の名前を呼びながらこちらに向かってくる真由美がいるからだ。

 

(お願いですから、そのコノハく~んと呼ぶのやめてください。周りの視線がヤバイです)

 

朝からラブコメもののアニメみたいな呼び声め名前を呼ばれると言う大変恥ずかしい体験と周りからの特に男子からの嫉妬の視線に晒されるはめになったコノハと達也だった。

 

「深雪の勧誘が目的のはずなのに何故俺たちも呼ばれいるんだ?」

「そんなの僕も知りたいよ」

 

呼ばれている理由がまったくもって見当がつかない二人を他所に真由美はコノハたちの前にやって来た。

 

「達也くんと深雪さん、おはようございます。コノハくんもオハヨ~」

 

(あれ?二人より挨拶がぞんざいではないだろうか……)

 

明らかに達也と深雪の二人より違う態様に疑問に思うが口に出すことはしなかった。

 

「おはようございます、会長」

「おはようございます、七草先輩」

 

達也が先に挨拶を返しながら一礼すると深雪も続くように一礼する。コノハも二人の後に挨拶を返した。

 

「お一人ですか、会長?」

「えぇ、朝は特に待ち合わせはしていないの」

「副会長とかとは一緒に来ないんですか?」

「はんぞーくんとは方向が逆だし、他のメンバーも時間帯が違うもの」

 

ここにいるメンバー(達也を除く)は真由美がいった一言に疑問を持った。

 

(((((はんぞーくんって誰?(でしょうか?))))))

 

「はんぞーくんとはもしかして服部副会長のことでしょうか?」

「ええ、そうよ?」

「失礼を存じ上げますが、会長と副会長はその……男女のお付き合いをなさっているのでしょうか」

 

深雪の質問に真由美は少し驚きながら答えた。

 

「えっ?違うわよ、深雪さん。長い付き合いをしている人や私が特に親しい人には渾名をつけて呼んでいるのよ」

 

この言葉を聞いた瞬間皆思った。「この人に渾名を付けられる機会がやって来たらキッパリと断ろう」と。

 

(と言うか、達也くんは良くわかったなぁー)

 

達也がどうしてあれで人の名前を把握できたのかを疑問に思いながらも感心していた。

 

「ところで深雪さんと少しお話ししたいこともあるし……ご一緒しても構わないかしら?」

「はい、それは構いませんが……」

「あっ、別に内緒話をするわけじゃないから。それとも、また、後にしましょうか?」

 

人の良い笑顔を向けたのは一歩後ろにいた三人の方だった。

 

「それより七草先輩、約一名だけ扱いが違うように感じるんですが」

「あら、そうだったかしら」

 

明らかに白を切っているのは明らかだったが、コノハはそれ以上深くは追求することはしなかった。何故なら……。

 

(もういいや。なんだか深く追求しても意味はないと思うし)

 

落ち着いた思考回路で大人な結論に至っていた。と言うのも夢で見たあの赤い悪魔や白い小悪魔、黒い後輩、虎のような姉の存在に振り回されたことに比べれば真由美のやっているのとなど可愛いものだと思ったからだ。

 

「お話と言うのは生徒会のことでしょうか」

「ええ。一度、ゆっくりご説明したいと思って。お昼はどうするご予定かしら?」

「食堂でいただくことになると思います」

「コノハくんと達也くんと一緒に?」

「いえ、影宮さんとは一緒ですが兄とはクラスも違いますし……」

「プライド高い人たちが一緒にいて、達也くんたちと食事を一緒にすることを許さないんですよ」

「以外と毒を吐くのね、コノハくん。そうね、変なことを気にする生徒が多いですものね」

 

コノハが見た目に似合わない毒をはいたことに驚きならも真由美は周りを見た。一科生と生徒会長が二科生と一緒にいることをあり得ないものを見るかのような視線を向けていた。

 

「じゃあ、生徒会室でお昼をご一緒しない?ランチボックスでよければ、自配機があるし」

「自配機があるんですか?」

 

コノハは好奇心で質問した。

 

「入ってもらう前からこう言うことを言いたくはなのだけど、遅くまで仕事をすることがあるので」

 

バツの悪そうな顔を浮かべながら勧誘を続けていた。

 

「生徒会室なら、コノハくんと達也くんが一緒でも問題ありませんし」

「……問題ならあるでしょう。副会長と揉め事なんてゴメンですよ。俺は」

「なんで僕まで行くことになっているんですか?僕は生徒会とは関係ないですから、妄りに入ったりしたらいけないんじゃないんですか」

 

達也とコノハは遠回しではあるが断ったが。

 

「それなら平気よ。はんぞーくんは部室で食べてるし、風紀委員の摩利だって生徒会室で一緒に食べているもの。だから、二人が来たって平気よ」

 

逃げ道はあっさりと真由美によって塞がれてしまった。

 

「何だったら、皆さんで来ていただいてもいいんですよ。生徒会の活動を知ってもらうのも役員の務めですから」

 

社交的な申し出ではあったが、それを意外な人物が断った。

 

「せっかくですけど、あたしたちはご遠慮します」

 

断ったのはエリカだった。普段の彼女なら悪のりでもして誘いを受けるのだが、今日の彼女はいつもとは雰囲気が違うように感じた。

 

「そうですか。じゃあ、深雪さんたちだけでも」

 

正直、コノハは断りたかった。だが、どんなに逃げ道を作ろうとも真由美に塞がれてしまうと考えた。

 

「分かりました。昼休みそちらに伺います」

「本当!?良かったわ。深雪さんと達也くんはどうしますか」

「……分かりました。俺たちもお邪魔させていただきます」

「そうですか。良かった。詳しいお話はその時に。お待ちしてます」

 

真由美はそのままスキップしそうな勢いでさっていった。

 

「なんだか、台風みたいな人だね」

「あれは台風より厄介だろ」

「それよりごめんね。僕が了承したせいで断れないみたいにしちゃって……」

「気にしないでください。どのみちいずれは誘われていたと思いますから」

「深雪の言うとおりだ。あの手この手で違う日に誘われていたさ」

 

気にするなと二人が言ってくれた。コノハは気が軽くなった。

そのまま達也たちと別れ各自の教室へと向かっていった。

 

「おはよう、雫にほのか」

「おはよう、コノハ。それに深雪も」

「おはようございます、コノハくんに司波さん」

 

教室に入ったコノハは雫とほのかに挨拶した。

 

「お昼休み前に早退したい」

「ど、どうしたの?コノハくん」

「実は今日、お昼を生徒会室でとることになったのですが」

「七草先輩にその誘いの前にいじられて疲れた。と言うか、嫌な予感がする」

 

(主に達也くんが被害に合うような)

 

そのあと、雫とほのかにお昼は一緒にとれないことを謝罪した。気にしなくても良いと言われたがコノハは後でケーキをおごることを二人に約束した。



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8話

時間が過ぎるのは早く、お昼休みになっていた。

 

「ねぇ、達也くん。僕だけ逃げて良いかな?」

「いや、恐らく放送とかで呼び出されるぞ」

「会長ならそうする前にあらゆる手で影宮さんを探し出すと思いますよ」

 

二人のそんなことを言われたコノハはため息をこぼすしかなかった。

 

「失礼します。一年A組、司波深雪です」

「同じくA組の影宮コノハです」

「一年E組の司波達也です」

「いらっしゃい、三人とも。さあさあ、座って」

 

 

深雪は綺麗に一礼して、座った。達也もそのあとに続いて一礼してから座っていき、コノハも達也の隣に座った。

 

「お肉とお魚と精進。どれが良いかしら?」

「自分は精進を。深雪はどうする」

「私もお兄様と同じものを」

「コノハくんは?」

「僕はお肉で」

 

それぞれの注文を聞き、真由美より少し背の低い女子が和箪笥ほどの大きさの機械を操作していた。

 

「入学式に紹介したと思うけど、一応念のためにもう一度しとくわね。私の隣にいるのはリンちゃんこと会計の市原鈴音」

「私のことをそう呼ぶのは会長だけです」

 

やはり、真由美の渾名をつけるセンスは何処かズレているのだ再認識したコノハ。

 

「その隣は知っていると思うけど、風紀委員長の渡辺摩利」

 

(会話がおかしいけど、誰も指摘しないから良いのかな?)

 

会話が繋がっていながっていないことを指摘しないのでコノハもスルーしていた。

 

「それからあーちゃんこと書記の中条あずさ」

「会長……お願いですから下級生の前で『あーちゃん』はやめてください。わたしにも立場というものがあるんです」

 

涙目で訴えているあずさを見てコノハは感心した。

 

(何故だろう。この人の渾名だけは的を射ているように感じる)

 

「そしてここに副会長のはんぞーくんを含めたメンバーが今期の生徒会です」

「私は違うがな」

「ええ、そうね。摩利は別だけど。あら、準備ができたみたいね」

 

完成したようで無個性ながらもキチンと盛り付けられた料理がトレーに乗って出てきた。数は五つである。

 

「達也くん、誰か頼んでいない人がいるの?」

「渡辺先輩が頼んでいないみたいだ」

 

小声で教えくれた。摩利の手元にはお弁当箱らしきものが置かれていた。

 

「渡辺先輩が作ったんですか?」

「そうだが、意外か?影宮」

「まあ、正直に言えば意外です。渡辺先輩はその武闘派の人間ぽかったのでそう言うのは苦手かと」

「ず、随分はっきり言うんだな」

「そうですか?」

 

コノハの言葉に真由美は苦笑いを鈴音は無表情のまま、あずさは何処かアワアワしていた。

 

「それより本題に入ったらどうですか」

「え?ああ、そうね。それでは本題に入りましょう」

 

コノハの言葉によって真由美から本題を深雪に話した。

 

「単刀直入に言うとね。深雪さん、私は貴女が生徒会に入ってくださることを希望します。引き受けていただけますか?」

「……会長は、兄の入試の成績をご存知ですか?」

 

いきなり達也の話題になったが真由美は気にせず答えた。

 

「えぇ、知っていますよ。すごいですねぇ……正直に言いますと、先生にこっそり答案用紙を見せてもらったときは驚きました」

「……成績優秀者、有能の人材を生徒会に迎え入れるのなら、私より兄の方が相応しいと思います」

「おいっ、み……」

「デスクワークならば、実技の成績は関係ないと思います。むしろ、知識や判断力が重要なはずです」

 

達也の呼び掛けを遮るかのように深雪は真由美に対して意見をのべていた。コノハは何となくだが深雪が言いたいことがわかった。

 

「わたしを生徒会に加えていただけるというお話については、とても光栄に思います。喜んで末席に加わらせていただきたいと存じますが、兄も一緒というわけには参りませんでしょうか」

 

(兄思いと言うよりかは達也くんの実力を知ってもらいたいと言う意思が感じるよ。でも、たしかうちの高校は……)

 

コノハは何か思い出すために頭をフル回転させた。

 

「残念ながら、それはできません」

 

深雪の意見を否定したのは鈴音だった。

 

「ああ、そう言えばうちの高校って規則では制度を覆すためには全生徒の三分の二くらいの票数が必要なんですよね?」

「はい。更に全校生徒が参加する生徒総会で制度の改定を決議される必要があります。尤も一科生と二科生の数がほぼ同じの現状では制度改定は難しいでしょう」

 

鈴音は何処か申し訳ないかのようにコノハの説明に補足をしながら話していた。

 

「申し訳ありませんでした。分を弁えぬ差し出口、お許しください」

 

深雪も深々と頭を下げながら素直に謝っていた。

 

「ええと、それでは深雪さんに書記として加わっていただくと言うことでよろしいでしょうか」

「はい、精一杯務めさせていただきます」

 

こうして無事に深雪は生徒会に入ることはできた。だが、コノハは一つ疑問に思っていた。

 

(なんで僕と達也くんが誘われたんだろう?この為だけなら必要なかったはずだし……)

 

そう、自分達が呼ばれた理由がいまだに分からないままだったのだ。

 

「……昼休みまで時間があるしちょっと良いか」

 

摩利が時計をみながら問いかけてきた。

 

「風紀委員の生徒会選任枠のうち、前年度の卒業生の一枠がまだ余っていたな」

 

このときコノハ予感した。

 

(これは達也くんに何か降り注ぐぞ)

 

厄介事と言うものがと考えていると真由美は摩利が何を言いたいのかわかったらしく。

 

「そう、そう言うことなのね。摩利!」

「あの、会長と渡辺風紀委員長。何を仰っているのですか?」

 

鈴音が問いかけると真由美は興奮ぎみで説明した。

 

「リンちゃん、一科生の縛りがある役員は何だったか覚えている?」

「た、たしか役員は会長と副会長、書記と会計ですよね」

「その通りよ。あーちゃん!」

 

何が言いたいのかまったくもって伝わっていない。そこで摩利が結論をいった。

 

「つまりだ、市原に中条。風紀委員の生徒会枠に、二科の生徒を選んでも規定違反にはならないわけだ」

 

何を言いたいのかわかった二人は成る程と感心していた。

 

「そうよ!風紀委員なら問題ないじゃない。摩利、生徒会は司波達也くんを風紀委員に指名します!」

 

(やっぱり、達也くんが厄介事に巻き込まれた!)

 

自分の予感が当たってため息をつく。視線を達也に向けると慌てていた。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!俺の意思はどうなるんですか?だいたい、風紀委員が何をするのか、俺は知りません」

「あっ、それは僕も知らないや」

 

そう、この二人は風紀委員に選ばれたもののその委員がどういった役割を担っているのかまったくもって知らないのだ。

 

「あ、あの、当校の風紀委員会は、校則違反者を取り締まる組織です」

「それって頭髪とか服装とかの違反者をですか?」

「それは自治委員会が週番でやってくれる」

 

あずさが説明し、その説明にコノハが質問して摩利が答えた。

 

「そ、それで、風紀委員の主な任務は、魔法使用に関する校則違反者の摘発と、魔法を使用した争乱行為の取り締まりです」

「えっと、つまり昨日みたいな騒ぎも風紀委員が取り締まるんですか?」

「ああ、その通りだ。」

「そして、風紀委員長は、違反者に対する罰則を決めたり、生徒側の代表として生徒会長と共に、懲罰委員会に出席して意見を述べます。いわば、警察と検察を合わせたような組織が、風紀委員です」

 

あずさの分かりやすい説明を聞く、コノハと達也。深雪に関しては既に達也に決定ですねと言わんばかりの視線を向けている。

 

(警察と検察を合わせた組織って平等な判断とかできるのかな?)

 

疑問に思っても口に出すことはしなかった。口にすれば面倒なことになると分かっていたからだ。

 

「凄いじゃないですか、お兄様!」

「いやいや、深雪さん。そんな決定ですねみたいに言わないであげて。達也くんの意思も尊重しようよ」

「影宮、今の深雪に何を言ってもダメだ。それより確認させていただきたいことがあります」

「なんだ」

 

達也は摩利へと視線を向けていた。

 

「今の説明だと、風紀委員は喧嘩が起こった場合力ずくで止めないといけないと言うことで良いんですね」

「ああ、その通りだ。魔法の使用の有無関係なく争いがあったら私たちの仕事だ。それにできれば魔法の使用前に止めさせるのが望ましいがね」

「あのですね!俺は実技の成績が悪かったから二科生なんですが!」

 

達也が言いたいことはコノハにもわかった。実技の成績に関して問題がある自分では力不足だと言いたいのだと。

 

「構わんよ」

「何がですっ?」

「力比べなら、私がいる……っと、そろそろ昼休みが終わるな。放課後に話の続きをしよう。影宮も来るんだぞ。それで良いか」

 

時計をみてみると確かにもうすぐ昼休みが終わってしまう。このままうやむやで終わって良い話ではない。

 

「分かりました。それで構いません」

「僕も分かりました。それと渡辺先輩、質問良いですか?」

「ああ、構わないがなんだ」

「風紀委員会は兼部とかって大丈夫ですか?」

「大丈夫だが、入りたい部活があるのか?」

「ええ、弓道部に」

 

その話を聞いて摩利も兼部の許可を出した。



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9話

五時限目の休み時間。あと一時間授業を受ければ放課後となり面倒なことが起きるとわかっている。分かっていてそんなとこには誰しもが行きたくはないだろう。

 

「ねぇ、雫かほのかが僕の代わりに放課後行ってくれないかな」

「やだ。私は行きたくない」

「私も嫌かな?」

「はぁ、あまり二人を困らせてはダメですよ。影宮さん」

「だってぇ~」

 

だらけていた。とことんだらけているコノハに三人は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「でも、達也さんが風紀委員になるのは私も賛成かな。なんだか、達也さんなら偏見とかなく見てくれるだろうし」

「ほのかの言うとおり達也さんなら似合っている」

「お二人もそう思いますよね」

「いや、でも達也くん本人の意思がなきゃダメでしょ」

 

昼休みに起きたことは二人にも話してはいた。

 

(うーん、でも達也くんって何処か謙虚すぎるよね)

 

達也が何故あそこまで嫌がるの理由はわからないことではないが、何処か自分は力がない存在だと自分に暗示をかけているみたいだった。

 

「それよりコノハって弓道部に入りたかったんだ」

「まあ、ね。本当は剣道部とか剣術部でも迷ったんだけど、ね」

「でも、なんでそんなに武道ばかりなんですか?コノハ君なら魔法を使う部活動でも活躍できそうなんですけど」

「昔から魔法なしとかのスポーツクラブと言うか武道系のものばかりやって来たからね。今更魔法を使うスポーツとかは向いてないんだよ」

 

夢の中の自分はどれも良くて二流止まりだったけど、コノハは多彩なものをすぐに極められる才能があった。

 

(夢の中での僕がこの事を知ったら、やっかみを言われるかもね)

 

なんて心のなかでにか笑いを浮かべていた。

そして放課後になり、達也とコノハは昼休みより重い足どりで生徒会室へと向かっていた。

 

(あれ?IDカードの認証システムに達也くんのIDが登録されているってことはほとんど決まりってことなんじゃ)

 

コノハは既に教職員の推薦枠で決まっているため、登録が済んでいても不思議てはないが達也のものまで登録がすんでいると言うことはどうやらあの二人は達也くんを逃がすつもりはないようだ。

 

「失礼します」

 

中にはいると一人、昼休みでは見なかった人物がいた。

 

「ねぇ、達也くん。あの男の先輩はだれ?」

「あの人が生徒会副会長 服部先輩だ」

 

小声で達也に聞いてみるとどうやら知っていたらしく答えてくれた。

 

「なんだか、達也くんを睨んでいるけど何かしたの?」

「いいや、恐らく深雪の兄である俺が二科生だからだろう」

 

つまり、そう言うことだ。あの優秀な妹の兄が二科生など恥と知れと言う考えの持ち主なのだと理解した。

 

(あまり仲良くはできなそうかな?)

「初めまして副会長の服部刑部です。司波深雪さん、生徒会にようこそ。そして、影宮コノハさんは風紀委員への加入おめでとう」

 

このときコノハは違和感を覚えた。

 

(なんで僕もさん付け?)

 

人によってだが男女問わず皆をさん付けて呼ぶ人もいるが明らかに服部副会長は誤解していると思った。

 

「誤解がないように言っておきますね。服部先輩、僕は男ですから」

「え?こ、これは失礼した!」

「いえいえ、もう慣れましたから」

「うふふ、確かにコノハくんは端から見たら女の子にしか見えないわよね」

「会長、それはフォローになっていませんよ」

 

端から見たら女の子に見えるのかとガックリしていたがそんなことはどうでもいいと話が進んでいく。

 

「それでは早速だけど、あーちゃん、お願いね」

「……ハイ」

 

(中条先輩……ドンマイです)

 

諦めきっているあずさにコノハは同情の視線をむけた。

 

「では、わたしたちも移動しようか」

「えっと、風紀委員の本部にですか?」

「ああ、その通りだ。影宮」

「どこにあるんですか?その本部は」

「この部屋の真下だ。と言っても、中でつながっているんだが」

 

そんなことを聞いてコノハと達也は思った。

 

((変わった造りをしている(ね)))

 

「渡辺先輩、待ってください」

「何だ、服部刑部少丞範蔵副会長」

 

このときコノハは驚いて声をあげはぐった。

 

(名前、ながっ!!)

 

「フルネームで呼ばないでください!」

 

本人もあまり好いていないようだ。

そして、コノハと達也の二人は真由美に視線を向けていた。向けられている本人はなんのことか分かってはいないだろうが『はんぞー』が本名だったことが予想外だったのだ。

 

「それで用件はなんだ。服部範蔵副会長」

「服部刑部です!」

「それは名前ではなくて、君の家の官職だろ」

「今は官位はありませんし、学校の方には『服部刑部』で届けが出ているはずです!……そんなことは今はどうでもいいんです!」

 

弄られているんだとコノハは思っていると可笑しな点に気がついた。

 

(でも、七草先輩は名前から渾名をつけているけど……それは良いのかな?)

 

この時、コノハは知らなかった。服部副会長が七草生徒会長に特別な好意を持っていたことを。

 

「渡辺先輩、お話ししたいのは風紀委員の補充についてです」

「何だ?」

「その一年生を風紀委員に任命するのは反対です」

 

感情を圧し殺したように達也を指差しながら言った。

 

「どうしてですか?服部先輩。一応、達也くんは生徒会長である七草先輩から指名されているんですよ。それを否定するってことは七草先輩の判断を否定するのと同じだと理解して言っているんですよね」

「影宮、本人が受諾していないそうじゃないか。本人が受諾して正式な指名と言える」

「それならこれは達也くんが決定することで君が決めることではないよ」

 

まるで、援護射撃のようにコノハの意見に便乗してくれた摩利。

 

「過去に二科生(ウィード)が風紀委員になったと言う事例はありませんよ」

「服部先輩、それは差別用語だと分かって使っているんですか」

「影宮の言うとおりだ。そしてそれは風紀委員の摘発対象だ。委員長である私の目の前で使うとはいい度胸をしている」

 

摩利の叱責と警告を聞いても服部は怯んだりはしていなかった。

 

「今更取り繕ったって、仕方ないでしょう。それとも全校生徒の三分の二以上の生徒を摘発しますか?これは学校側が既に認めている規則です。それだけ実力差があるんです。風紀委員はルールに従わない生徒を実力で取り締まる組織です。実力的に劣っている二科生(ウィード)に到底勤まるものではない」

 

傲慢とも言える口調で断言する服部。それにコノハと摩利は反論する。

 

「服部先輩がいっている実力と言うのは魔法だけのものですか」

「そうだ」

「確かに二科生の生徒は魔法に対しては一科生に劣っているかもしれませんが実力とはそれだけではないはずです」

「影宮の言うとおり、実力にだって色々ある。達也くんには起動式を読み取り発動される魔法を予測する目と頭脳がある」

「……なんですって?」

 

摩利の言っていることをまるで信じられないと言った表情で反論する。

 

「そんな馬鹿な。起動式には数万と越える文字や数字の羅列があるんですよ。それを読み取るなんて不可能だ」

 

(まあ、普通の人がやったら脳が処理できなくて廃人になるかもね)

 

自身も読み取れるとあってコノハはその危険性もよく理解している。

 

「当校のルールでは、使おうとした魔法によって罰則が決まる。だが、そんなものは起動した本人の言葉以外では証明することはできなかった。発動の完了まで待っていても本末転倒だ。真由美のように起動式を破壊してしまうのも手だ。彼は今までの罪状が確定できなかった…結果的に言ってしまえば軽い罰で済まされてきた未遂犯たちに対する強力な抑止力になるんだよ」

「……しかし、実際に違反の現場で、魔法の発動が阻止できなければ……」

「そんなことは一科生、二科生の一年生に関係なく同じことですよ。魔法のキャンセルができる人間なんて数が限られていますから」

 

ショックを受けたのか少し弱々しく反論してかるがコノハが一蹴してしまった。

 

「それに私が達也くんを委員会に欲するには理由がある。今まで二科の生徒が風紀委員に任命されなかったと言うことは二科の生徒による魔法使用違反も、一科の生徒が行っていと言うことだ。そして、その逆は存在してはいなかったと言うことだ。それこそが溝を深める要因ともなっていた。私が指揮する委員会が、差別意識を助長すると言うのは、私の好む所ではない」

「はぁ、凄いですね、摩利。そんなことを考えていたんですか?私はてっきり達也くんのことが気に入ったからだと」

「会長、お静かに」

 

(七草先輩……空気をお読みください)

 

摩利の作った雰囲気を真由美が壊そうとしたところを鈴音が制止する。呆れた目付きと責めるような眼差し。前者はコノハで後者が鈴音だ。それを真由美に向けていた。

 

「会長……私は副会長として、司波達也の風紀委員の就任に反対します。渡辺委員長と影宮コノハの主張には一理あることは認めます。しかし、風紀委員とは校則違反者の摘発と鎮圧が任務です。魔法力の乏しい二科生に、風紀委員は務まりません。この誤った登用は必ずしや、会長の体面を傷つけることになるでしょう。どうかご再考を」

 

この事にコノハが反論しようとしたがそれよりも早く深雪が声をあげた。

 

「待ってください!僭越ながら副会長、兄は確かに魔法実技の成績が芳しくありませんが、それは実技テストの評価方法に兄の力が適合していなかっただけなのです。実戦なら、兄は誰にも負けません」

「司波さんの言うとおりです。実技テストの評価だけがその人の実力の全てじゃありません!テストとは学校側が決めた枠のなかでの範囲だけしか評価されません。評価される部分と評価されない部分を含まなければいけないのではないのですか!」

 

二人は反論するが服部は構わず話続ける。

 

「深雪さん。魔法師は事象をあるがままに、冷静に、論理的に確認しなければなりません。身内贔屓は一般人ならばやむを得ないでしようが、魔法師を目指す者は身贔屓に目を曇らせることはないように心掛けなさい」

 

深雪に意見を言うと次はコノハへと視線向ける。

 

「そして影宮。君も同じだ。二科生(ウィード)の肩をもちましては認識を誤っている。二科生(ウィード)は所詮何をやっても意味がないのだよ」

 

その言葉に今度こそコノハは怒りを覚えた。

 

「目を曇らせているのはどっちですか!」

「影宮さん…」

「影宮」

「一科生であることに誇りに思うことは別にいい。でも、どんな理由があろうとも相手の実力を確かめずに二科生と言うレッテルだけで人を判断し、一科生こそが絶対的実力を持っていると言う考えと思想。そんな思想しか抱けないのであればその思想を抱いたまま溺死しろ!」

 

まるで何度も夢で見てきた自分のような台詞を服部に向けて放つ。

 

「貴様、一年生の分際で……!」

「ありがとう、影宮。服部副会長、俺と模擬戦をしましょう」

「なに……?」

 

先程から黙っていた達也が服部に模擬戦を申し込んだ。予想外の大胆な反撃に呆気にとられている真由美と摩利。

 

「思い上がるなよ、補欠の分際で!」

 

服部の表情を見て、達也はうっすらと苦笑いを浮かべていた。

 

「何がおかしい!」

「魔法師は冷静を心掛けるべき、なのでしょう?」

「くっ!」

 

まさか、自分が言った言葉が返ってくるとは思っていなかったのか悔しげな様子である。

 

「あるがままの対人戦闘スキルは戦わないと分からないと思いますが。別に、風紀委員になりたい訳ではありませんが妹の目が曇っていないことの証明と俺と深雪の為にここまで貴方と言い合ってくれた友の為ならば、やむを得ません」

 

(達也くん、ありがとう)

 

「……良いだろう。その申し出受けてたとう。身の程を弁えると言うことを教えてやる」

 

達也の挑発にのった服部。そしてその様子を見ていた真由美と摩利は行動に移す。

 

「私は生徒会長の権限によって、二年B組服部刑部と一年E組司波達也の模擬戦を、正式な試合と認めます」

「生徒会長の宣言に基づき、風紀委員長として、二人の試合が校則で認められた課外活動であると認める」

「時間はこれより三十分後、場所は第三演習室、試合は非公開として、双方にCADの使用を認めます」

 

こうして真由美と摩利の宣言によって達也と服部の模擬戦が正式に認められた。



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10話

達也くんと服部先輩の模擬戦を行うため、コノハと達也と深雪は演習室へと向かっていた。

 

「すまない、影宮。巻き込んでしまって」

「誠に申し訳ございません、影宮さん」

「あはは、気にしないで。二人のせいじゃないから。僕も友達をバカにされるのは嫌だったから反論していただけだしね」

 

演習室にはいると、既に生徒会の皆さんと風紀委員長の渡辺先輩がいた。

達也は素早く準備をする。そのさまを静かに見ているコノハのとなりに真由美がやって来た。

 

「それにしても意外ね」

「え?なにがですか」

「コノハくんってもっと冷めた性格だと思っていたのに、先輩であるはんぞーくんに対してあそこまで反論するなんて思ってもみなかったわ」

「……僕はただ友達である達也くんと司波さんのためにやっていただけですから」

 

コノハの視線は達也と深雪へと向けられていた。

「コノハくんって誰かの為ならその身を投げ出して、犠牲にしてまで誰かを助けそうね」

「えっ、そんなことは……」

「準備ができたようだな」

 

摩利の言葉を聞いて真由美はそちらに目を向けていた。コノハは反論することをやめた。

 

「よし、先ずはルールを説明しよう。直接、間接に問わず相手を死に至らす魔法による攻撃は禁止だ。また、回復不能な障碍を与える魔法も禁止だ。更に相手の肉体に直接損壊を与える魔法も禁止だ。ただし、捻挫程度の怪我を負わす魔法に関しては認める。武器の使用は禁止する。しかし、素手による攻撃は許そう。蹴り技を使いたければ今ここで靴を脱いで指定のソフトシューズを使用することだ。勝敗に関してはどちらか一方が敗けを認めるか、審判であるあたしが続行不可能と判断した場合のみだ。双方開始線まで下がり、合図があるまでCADを起動しないこと。このルールを破った場合はその時点で負けとし、力づくで止めさせるから覚悟しておけ。以上だ」

 

長いルール説明が終わり、達也と服部先輩はそれぞれ位置についていた。

そして二人はそれぞれの摩利の合図を待っていた。

 

(魔法師同士の戦いでは先に魔法を当てた法が勝つ。先に使う魔法を決めておいてそれを展開した方が勝つ確率が上がるけど……)

 

コノハが考えていたのはそれは相手が一歩も動かなかった場合のことである。

 

(達也くんは僕が武芸をやっている人間だと分かった人だ。本人もそれなりに何かをやっているはず……それに達也くんは彼処から動かないわけがない)

 

達也があそこを動かないわけがないと根拠もない事を考えていたがそれはあながち間違いではないと知ることになる。

 

「それでは、始め!」

 

戦いの火蓋が切られた。服部は直ぐ様自分の汎用型CADのキーを押す。早さには申し分なかった。座標も固定されていた。

だが、達也は既に視界を覆い隠すかのように接近していたのだ。そして、発動対象であるものを見失えば、魔法も発動できなくなる。

 

(速い。魔法を使わないであの速さ……。それにあの動きは確実に対人戦闘に慣れている)

 

達也の行動にそのような判断を下すコノハ。自身も魔法を使わずに相手を倒すことができるが彼ほどの速さを出そうとすれば魔術で足だけを強化しなければならないだろう。

 

「ぐはっ……」

 

達也が服部に向かって三波何か魔法を放つと、撃たれた服部は倒れてしまった。

 

(今のは三つの違う振動のサイオンの波を合成させたもの?それにしても目を強化しておいて良かった。正直強化無しだったら目では追うの難しそうだったからね)

 

ついでに解析で達也が放った魔法の起動式も見たが、基礎程度の魔法なら魔力をそこまで使わずに解析できるのだ。

 

「……しょ、勝者 司波達也!」

 

あまりの光景に摩利も反応が遅れたが、しっかりとその役目を果たしていた。

 

「待て、今のは予め自己加速術式を展開していたのか」

「いいえ、渡辺先輩。それは違います。あれは純粋な達也くんの体術です」

「はい、影宮さんの仰る通りあれは魔法ではなく兄の純粋な体術です。何せ兄は、忍術使い九重八雲先生の指導を受けているのです」

 

(九重八雲って今では誰も使っていない古流の魔法を使う人物だったよね。更には体術も中々だとか)

 

深雪が言っていた人物に対する情報を知りうる限り頭の中で並べてみた。

 

「それでは攻撃に使った魔法も忍術ですか?私にはサイオンの波動そのものを放ったようにしか見えなかったのですが」

 

本来、魔法師が非公式の術式を相手に訪ねるのはマナー違反なのだが、今はそんなものよりも好奇心と言う心が勝っているようだ。

 

「忍術ではありませんが、サイオンの波動と言う点はあっています。自分が使ったのは振動の基礎単一系統魔法でサイオンの波を作り出しただけですよ」

 

達也の返答に更に疑問を持った真由美は質問する。

 

「でも、それだとはんぞーくんが倒れた理由が分からないわ」

「波の合成です、七草先輩」

 

真由美の問いにコノハが答えた。

 

「達也くんはあの一瞬で三つのサイオンの波を作り出してそれを合成させることによって、常にサイオンの波に侵されている服部先輩でも感じたことのない波を感じさせることによって酔わせたんですよ」

「…凄いな影宮。正確には服部先輩の体が強く揺さぶられたと錯覚を感じたんです。暗示と考えてください。火傷するような事をしていないのに火傷したと暗示がかかると実際に火ぶくれができるのと同じメカニズムです」

 

二人の上記を逸した説明に市原と深雪以外はおいてけぼりに去れそうになるが何とか脳の処理が追い付いたようだ。

 

「だが、それだけの処理速度があるのに何故二科生なんだ?それなら実技評価も高いはずだ」

「もしかして司波くんのCADはシルバー・ホーンじゃありませんか?」

「シルバー・ホーン?誰ですかそれ?」

「シルバー・ホーンを知らないんですか!?」

 

コノハの発現にあずさがものすごい勢いで説明を始めた。

 

「シルバー・ホーンとはフォア・リーブス・テクノロジー専属の、本名不明で姿やプロフィールの全てが謎に包まれた奇跡のCADエンジニアが開発し、フルカスタマイズした特化型CADのモデル名なんです!ループ・キャストに最適化されているのは勿論のこと、少ない魔法力でも魔法が発動できる点で大きく評価されています。特に警察関係者には人気がすごいんです!……」

 

怒濤の説明とはこのようなことを言うんだろうなと思いながらコノハは丁寧に相槌等をしながら真剣に話を聞いていた。

 

(それにしても警察関係者に人気なのはきっとあの形が銃であることとデザインなんだろうね)

 

「あーちゃん、チョッと落ち着きなさい。コノハくんも困ってあるから」

「あ、別に困ってはいませんよ。こんな風に好きなことに関して説明してくれているんですから最後まで聞きますよ」

「……」

「妬くな妬くな、真由美」

「な、何いってるの摩利!私は別に」

「端から見たら彼氏をとられそうになっている彼女みたいですよ」

 

あずさの説明を聞いているコノハの姿を何処か面白くなさそうな表情をしていた真由美。

 

「でも、それだとおかしくないかしら。いくらループキャストに最適化された高性能のCADを使ったからって、そもそもループキャストじゃ……」

「はい、会長の言うとおりです。ループ・キャストはあくまでも、全く同一の魔法を連続発動するためのもの。同じ振動魔法と言えども、魔法師の設定する波長や振動数が変われば、それに合わせて移動式も微妙に異なります。同じ移動式を自動生成して繰り返すことはできないはずです。『波の合成』に必要な振動数の異なる複数の波動を作り出すことはできないはずです。振動数を定義する部分を変数にしておけば同じ移動式で『波の合成』に必要な、振動数の異なる波動を連続で作り出すこともできるでしょうけど、座標・強度・持続時間に加えて、振動数まで変数化するとなると……まさか、それを実行していると言うのですか?」

 

自分で発言していて更に驚愕する。達也へと視線を移した。

 

「多数変化は処理速度としても演算規模としても干渉強度としても評価されない項目ですからね」

 

正直、言葉がでなかった。やっていることが凄すぎだ。

 

「……実技試験における魔法力の評価は、魔法の発動スピード、魔法式の規模、対象物の情報を書き換える強度で決まる。なるほど、テストが本当の能力を示していないとはこういうことか……」

 

呻きながら、先程まで気絶していた服部が起き上がっていた。

 

「はんぞーくん、大丈夫ですか?」

「大丈夫です!」

 

少し前屈みになって覗き込むように身を乗り出してきた真由美に対して、寄せられた顔から逃げるように、服部は慌てて立ち上がった。

 

(うわー、なんだろう。ここにいる女子よりめっちゃくちゃ乙女やっているよ)

 

そんなことを考えていると話が進んでいった。

 

「はんぞーくんも謝罪したことだし、次はコノハくんの実力を見たいわね~」

「えっ?」

「そうですね、影宮くんの実力の方も気になりますね」

「風紀委員に入ってもらう前に実力の確認ぐらいはしておきたいな」

 

なんだろう、ここに悪魔が三人いるように見える。

 

「で、でも僕はCADを持ってきていませんから」

「あら、それなら心配ないわよ~。ここにコノハくんのCADはあるから」

「いつの間に……」

 

どうやら、やらなければならないようだ。

 

「でも、相手はどうするんですか」

「それなら私がしよう」

「渡辺先輩ですか」

 

コノハは汎用型のブレスレット型のCADを受け取って、位置についた。

 

「それじゃあ、私が審判するわよ」

 

真由美が審判を名乗り出た。こうしてコノハの模擬戦が行われることになった。



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11話

「あのー、絶対に僕もやらないとダメなんですか?」

「ああ、達也くんだけ試させて君だけやらないとはいかないぞ。それでは不公平だからな」

「そうよ~、だから諦めてね。コノハくん」

 

最後の抵抗を試みるコノハだが呆気なく終わってしまった。

 

「はぁー、なら明日にしていただけないでしょうか?」

「あら、どうして?」

「このCADはあくまでも仮の物なので本当の僕が使うCADを明日持ってきますから。それで勘弁してください」

「本当の?」

「と言うか、それは仮なのか」

「はい、そうですよ。服部先輩」

 

コノハの言葉に全員が驚いていた。

 

「では、また明日後日と言うことでいいな?」

「はい。それでお願いします」

 

こうしてコノハの実力を図るための模擬戦は後日と言うかたちになった。

 

「さてでは、深雪さんはこのまま生徒会室に戻りましょう。達也くんとコノハくんはそのまま摩利の案内で風紀委員の本部に行くのよね」

「ああ、その通りだ。それでは二人とも着いてこい」

 

深雪はそのまま真由美たちと共に生徒会室に戻り、達也とコノハは摩利の案内のもとに風紀委員の本部へと向かった。

 

「少し散らかっているが、気にしないでくれ」

「「……」」

 

二人は本部につくなり絶句した。

 

(これが、少し…?)

 

目の前には机の上に乱雑置かれている資料に、段ボールからはみ出ている私物と思われる何かに、埃をかぶり整備されていないであろうCADが置かれていた。

 

「風紀委員は男所帯でね。整理整頓をいつも口酸っぱくして言い聞かせているんだが……。校内の巡回が主な仕事のせいで誰も片付けが出来ないのだ」

 

それでもこれは酷いと達也とコノハは心の中で思った。これではここがいつかゴミ屋敷ならぬゴミ本部になる前に二人は顔を見合わせ、互いに頷く。

 

「委員長、俺と影宮でここを片付けてもよろしいでしょうか?」

「なに?」

「いくらなんでもこれは見過ごせません!」

 

(徹底的に綺麗にしてやる!風紀委員本部、ゴミの補充は充分か!)

 

こうして達也とコノハによる風紀委員本部の大掃除が始まったのであった。

 

「ふぅ、こんなものかな」

「影宮、少し本気になりすぎじゃないか?それとそのエプロンはどこから……」

「このエプロンはさっき新品のものを見つけたから使ってみたんだ。でも、これくらいは綺麗にしておかないと僕は少し許せないからさ」

 

そう、コノハが幾度となく見た夢では執事(バトラー)などをしていたことがあり、その時に見た技術などを使って本部を綺麗にしたのだ。

 

「……ここ、風紀委員会本部よね?あと、コノハくんのその格好素敵よ!」

「はぁ、ありがとうございます?」

「いきなりなご挨拶だな。それと真由美、コノハくんの頭を当然のごとく撫でているな。誤解されるぞ」

 

真由美は本部に訪れて早々に失礼なことを言うとコノハのエプロン姿に目を奪われ頭を撫でていた。

 

「だってねぇ…。リンちゃんがいくら注意してもあーちゃんがいくらお願いしても片付けなかったのに。どういう心境の変化なのかしら?」

「なに、この優秀な二人の新人のお陰さ」

「できればこれからは本当に整理整頓を心掛けてほしいですが」

「僕もかな?」

 

二人の言葉に摩利は苦笑いし浮かべることができなかった。

 

「そう言えば、会長と僕ってどこかであったことってありましたっけ?」

 

達也も同じことを聞こうとしていたが途中でやめた。なぜなら、真由美が小悪魔的な笑顔を浮かべていたからだ。

 

「そうかなぁ、そうなのかなぁ……。コノハくんは入学式よりも以前に私たちはであっていてあの日は運命の再会だったって!」

「えっ、あの……七草先輩?」

 

コノハはあたふたとふるが、真由美はそのまま話続ける。

 

「遠い昔に私たちは出会っていたかもしれない。運命によって引き裂かれた二人が、再び運命によってめぐり会えた、と!」

 

真由美が本気でいっていないことは何となく分かるが、コノハはどうしようもなかった。

 

「でも、残念なことにコノハくんとは入学式の日が初対面よ」

「なら、今までの芝居はいったいなんなんですか」

 

うふふふと笑う真由美を見る。

 

「ねえねえ、どう?運命を感じちゃったかな?」

「頭を撫でないでください。それとこれは運命(Fate)じゃなくて僕にとっては凶運(Doom)です」

 

コノハの言葉に達也は同感だと思わんばかりに頷いていた。

 

「チッ……」

「七草先輩、淑女がそんな舌打ちなんてしちゃダメですよ」

「あら、なんのことかしら?」

「はぁ、折角美人なんですからそんなことしないでくださいね」

「ふぇ?」

 

変な奇声を挙げる真由美。その顔を見てみるとまるで茹でたてのタコのように真っ赤になっていた。

 

「あれ?どうかしましたか、顔が赤いですけど?熱でもあるんですか?」

「はひゃあ!?」

 

自身のデコと真由美のデコを合わせてまるで恋人同士が熱を測るかのようにする。

 

「委員長、もしかして会長って」

「ああ、突発的な行動に弱い。しかもコノハくんは下心などなく純粋な厚意であれをやっているのだ。真由美もらしくなく動揺している」

 

そのあと真由美は慌ててコノハから離れて元気であるとアピールして生徒会室へと戻っていった。

そしてそのあと何人かの風紀委員の先輩たちと挨拶を済ませて今日のところは帰ることになった。

 

 

 

 

飛んできた武器たちはアーチャーに突き刺さっていた。

 

『理解したか。それが本物の重みというものだ。偽物は早くゴミになるがいい』

 

現れた金髪の青年■■■■■■■の後ろからは何かゲートのような物から武器が大量に現れアーチャーに襲いかかった。

 

『ぐあああ、ぐっ!ああああああああ』

『アーチャー!』

 

アーチャーに容赦なく刺さっていく武器。あまりの量に土煙が舞い、視界が悪くなってしまった。

 

『お前が倒せ。お前なら勝てる』

 

煙が晴れていく、そこにはアーチャーの姿はなかった。

 

『このぉ!良くもあたしのアーチャーをっ!』

 

■■が■■■■■■■に攻撃するも何か結界のようなもので防がれた。そして■■に向かって武器を投げる。

 

『下がって』

 

■■■■が跳躍してそれを弾く。そしてそのあとに室内に何故か煙が発生しはじめた。

 

『埃で汚れる。命拾いしたな、クズども』

『逃げるのですか』

『聖杯の完成を急がねばならん。もし、依り代を失って溢れでもしたら、アヤツなにをしでかすか分からぬからな』

 

そのまま■■■■■■■は去っていった。僕たちも慌てて外に出る。

 

『アイツ、柳洞寺で聖杯を完成させるつもりだわ』

『攻め込むのですね』

『貴女は山門で■■■■■■■を食い止めて。私と■■は裏手から回り込むから』

『まて!■■■■が奴と戦うのは不利だ』

 

■■の作戦に夢の中の僕は反論した。

 

『何故です』

『奴の強さは戦争そのものだ。同じ類いの力じゃなきゃ対抗できない』

『では、誰なら』

 

そのことを話すために一旦自分の家に帰る。そこで作戦会議が行われた。

 

『同じ類いの力……』

『奴の相手は…』

『貴方がするって言うんでしょ』

 

どうやら■■にはお見通しだったようだ。

 

『あれに対抗できる力はアーチャーが使った固有結界しかない』

 

そう、そして未来の自身(アーチャー)が使えたのなら自分も使えるだろう。だが……。

 

『しかし、それには膨大な魔力が必要です』

 

そう、魔力である。夢の中の僕は魔力が少なく固有結界を作れるほどの量はないのだ。

 

『自分で補えない分は他所から持ってくるのが魔術師ってものよ。だからね』

 

急に恥ずかしそうにする■■を見て顔を見合せて不思議に思う。

 

『その……』

 

訳が分からなかった。

 

『魔術刻印の移植なんて出来るのか』

 

 

何故、僕は上半身はだかなのだろう。それは魔術刻印の移植のためだからだそうだ。

 

『他に方法はないわ。もし成功すれば固有結界を使いこなすだけの魔力を私から■■に供給できる。意識を集中して。始めるわよ』

『うん』

 

こうして夢の中の僕は刻印の移植をすることになった。そしてそこから見えてくるのは■■の記憶?なのかな?流れてくるのか、それとも解析魔術を無意識に使って読み取っているのか分からないけど記憶が流れ込んできた。

 

『……っ!?成功したのか?』

 

左肩を見てみると魚のような形をした刻印が浮かんでいた。

 

『後は貴方の頑張り次第よ』

『ああ、ありがとう■■。■■?』

 

見てみると彼女はなんだか恥ずかしそうに枕を抱き寄せていた。

 

『えっと…』

 

確かに見てしまったがわざとではない。だが、彼女にそんなことをなしても意味がないだろう。それに若干涙を浮かべていた。

 

『この、獣!』

 

枕を投げられベットから落ちる。

 

 

 

「ぐへぇ!」

 

どうやらリアルでも落ちていたようだ。

 

「うーん。なんだかちょっと危ない夢だったな」

 

こんな内容の話は他の人にはできないな。

 

「そうだ。あれの準備をしておかないと」

 

僕はそのまま自分が愛用している中華剣に似た武装一体型CADと弓型のCADが入っているクローゼットを開ける。

 

「さて、持っていこうか」

 

僕はそのまま中華剣の武装一体型CADを専用のカバーに入れて学校へと向かうのであった。



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12話

登校し、持ってきたCADを登録するために職員室に向かい登録を済ませたあと教室にやって来た。

 

「おはよう、ほのかに雫。それに司波さんも」

「おはようコノハ君」

「おはよう、コノハ」

「おはようございます。影宮さん」

 

教室に入り、ほのかと雫と深雪に挨拶し少しばかり雑談する。勿論、美少女の部類に入る三人と親し気に話しているコノハには男子からの羨望や嫉妬による殺気などが向けられているが、本人は気しないことにした。

 

「あ、そうだ。司波さん。七草会長に今日CADを約束通りに持ってきたのでって伝えといてくれないかな」

「わかりました。では昼休みの時に報告しておきますんね」

「お願いします」

「コノハ、何かするの?」

「ちょっと模擬戦をね。昨日、達也くんが成り行きで実力を示さなくちゃならないことが起きてね。そしてついでに僕の実力を知りたいんだって」

 

二人の会話に興味を持った雫がそんなことを聞いてきた。

 

「私、コノハの戦うところ見てみたい」

「えっ?」

「私も見てみたいな」

「ほのかまで…。司波さん、なんとか二人を説得してもらえませんか」

「そうですね。一度聞いてみましょう。それでだめでしたら二人とも諦めてくださいね」

「「分かった(うん!)」」

 

(なんだろう。すごく嫌な予感がするんだけど…)

 

一抹の不安を感じながらも真由美からの返答に期待するしかなかった。

 

「ほのか、雫。朝の件なのだけれども無事に七草会長から許可がとれたわ」

「本当!やったね、雫」

「うん。これでコノハの勇姿が見れる」

「なんでさ…」

 

そんな報告を受けたコノハは項垂れた。対称的にほのかと雫は喜びを顕にした。

 

「なんでも人数が多いほうがコノハ君の実力を証明するのに都合がいいでしょ、だそうよ」

「非公認の試合のはずなのに…」

「あと、エリカたちも来るみたいよ。二時間目休み時間に偶然お兄様たちと会ってそのことを話したらエリカたちも見たいと言っていたから」

 

(なんでだろう。あの人の邪悪な笑みが頭を過ぎったような気がするんだけど)

 

そんなこんなで運命の放課後になった。

 

「で、なんで相手が千葉さんに変わってるんですか!!」

「まぁ良いじゃないか。君の実力を見るためなんだ。相手は問題じゃないのだよ」

「そんで私が代わりの立候補したのよ。達也君から聞いたけど武術習ってたんでしょ?しかもそのCADを見る限り接近戦が得意みたいだしさ」

 

それを聞いたコノハは達也へと抗議の視線を向ける。

 

「話さないでほしいとは言われてなっかたからな。俺は聞かれたことに答えただけだ」

「でも、意外ね。コノハ君あんな見た目なのにあんなCADを使うなんて」

「会長に見た目のあれやこれや言われるのは影宮君にとっては屈辱でしょうね」

「たしかに真由美は童顔だからな。それに体も幼児体型だからな」

「ちょっと二人ともどういう意味よ」

「でも変わった形をしてますね」

「武装一体型のようだが。二刀流といった点も珍しい」

「ところで、七草先輩。そちらの男子は」

 

一人だけ明らかに高校生という年齢からは考えられないような肉体をもつ男子がいた。

 

(凄い筋肉だ。背も高い。既に完成している肉体なんだろう。才能だけじゃなくて血が滲むような鍛錬をしていたのかもしれない)

 

「自己紹介がまだだったな。俺は部活連の会頭を務めている十文字克人だ。七草から話は聞いている。俺も部活連の会頭として影宮の実力をこの目で確認しておきたい」

 

最初に声を聞いたときコノハは何処か既視感のある声に驚きはしたがすぐに切り替えた。

 

「初めまして、十文字先輩。自分の実力なんて大したことはありません。ですが、見られても恥ずかしくないよう努力はするつもりです」

「では、双方位置についてください」

 

真由美がそう声をかけると、エリカと向き合うように位置につく。そして目をつむり深呼吸する。

 

(余計なことは考えるな。イメージしろ、いつも特訓しているときのように負けるイメージはするな。常に勝つイメージを。最強の自分をイメージしろ)

 

自身が持っているのは使い慣れた中華剣ではないが形は同等のものだ。なら、いつもと違うのは相手が実在する人物なだけだ。

 

「ルールは前回と同じく相手を死に至らす魔法と体の一部を損壊するような魔法は禁止。勿論、回復不可能な障碍を負わす魔法も禁止する。ただし、捻挫程度の怪我を負わす魔法は許可する。武器の仕様は禁止だが、素手などの攻撃は許す。蹴り技を使用する場合は指定のソフトシューズに変えるんだ。勝敗に関しては一方が負けを認めるか、審判が続行不可能と判断した場合のみで決まります。では、開始線まで下がって合図があるまでCADを起動しないでください」

 

一通り真由美が説明すると、摩利が合図を出すの待つ。

 

「なんだか緊張するね」

「ほのかが緊張してどうするの」

「お兄様、この勝負どちらが勝つとお思いですか」

「そうだな。二人の実力をきちんと把握していないから分からないが、どちらも武術に秀でているのは間違いないだろう。コノハの武術の腕は予測しかできないが、エリカは相当手強い相手だというのは分かる」

「達也の予想は兎も角、俺個人としてはコノハに勝ってほしいけどな」

「レオ、そんなこと言ってるとまたエリカに怒られるぞ」

 

達也たちは二人の勝敗の行方を予想を話していた。

 

「それでは始め!」

 

合図ともにコノハは誰にもバレないように強化魔術を使用する。そして一気にエリカとの距離を詰める。

 

「自己加速術式!?」

「シッ」

「ちょ、速っ」

 

エリカはギリギリで防ぐが、そこに空かさず蹴りを入れる。が、エリカに自己加速術式で避けられてしまう。

 

「今度はこっちから行くわよ!」

 

自己加速術式を駆使してコノハにそれぞれ別の方向から攻撃を仕掛ける。それら全てをいなしながら合間合間で反撃する。時折、中国拳法の八極拳の動きを取り入れた攻撃を仕掛けてエリカを翻弄する。

 

(このままだとジリ貧だな…。一つ賭けに出るか)

 

ここでコノハは初めて魔法を使う。

 

「何かするつもり、ね」

「ハッ」

「ちょ、武器を投げる」

 

ふたふりあった片方を投げつける。だが、簡単に避けられてしまう。

 

「もらった」

「後ろ、気をつけたほうが良いよ」

「えっ」

 

先程投げられたCADが目の前に迫っていたのであった。

 

「危なっ」

「はい、チェックメイト」

 

バランスを崩したエリカの足を払い、倒れたエリカの首にはCADの先を向けてた。

 

「まだやる?」

「はぁー、私の負けよ」

「そこまで!勝者影宮コノハ」

 

こうして模擬戦は幕をおろした。



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