少年は甘やかされたい (クヤ)
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少年は甘やかされたい

一人の少年がいた。

端的に言って彼は天才だったのだろう。

そして幸運でもあった。

生まれから考えれば、今現在彼はとても恵まれていたのだから。

 

「ふぇいと、全力で甘やかすといいよ」

「エリオやキャロもレクサスみたいに素直に甘えてくれたらいいのに」

 

膝枕をされながらそんなことをのたまった少年は、とても満足そうだった。

そして幸せそうだった。

自立しないと堕落させる系お姉さんが、全力で甘やかしてくれるのだからそれも当然かもしれなかった。

 

少年、レクサスには理解できないことであったが、彼より年上のフェイトにより後見されている少年少女は、すでに働きに出ている。

正確には訓練学校在学と、自然保護を業務としている部隊に所属という埋められない溝はあったが。

それもあとわずかのことで、保護者と同じ部隊で働くことになっているとか。

 

しかし、何故彼らはそんなに生き急ぐのか。

保護者が働かないでゆっくり学校でも行けばいいよと言ってくれているのに、わざわざ働きに出るとは。

フェイトの親友の出身世界あたりではまだ義務教育という強制就学期間であるらしいというのに。

こちらはまだ一桁歳であるので全力で保護してもらっているが。

とはいっても仕事が忙しく家にはあまり帰ってこない。

 

そういう彼もあまり人のことは言えなかったりするのだ。

お小遣いをせびって、宝くじを当て、それを元手に投資を行って数年で一体いくらになっていたのだったか。

そもそも、彼に働く理由はないのであった。

既に一生分稼いでいたのだから。

しかし保護者の勧めで学校には通っていた。

フェイトが保護しているという点で察していただけると思うが、彼もまた特殊事情を備えたお子様であった。

プロジェクトFによって、偶発的に僕の考えた最強のオリ主とでもいうべきスペックを持って誕生し、様々な記憶を詰め込まれて、いつ脱走しようかなーとのんきに考えていたところをエリオとともに保護された経歴を持つ。

 

そんなハイスペックではあったものの、致命的な欠陥が存在した。

彼には勤労意欲という物が存在しないことだ。

やるきが欠片もなかったので、普通普通、私普通、と研究者たちを謀りながら生きてこれてしまった時点でおかしかった。

その後の健康診断や魔力テストも全力で偽装していたりする。

特に意味はないが、なんとなく目立たない方が楽に生きられるということを生まれながらにして知っていた。

なので彼の真のスペックを把握しているものは彼自身も含めて誰もいなかったりする。

 

「ふぇいとー。結婚して―」

「このおませさん」

 

ほっぺをつんつんされながら、今日の平和をかみしめるのである。

 

 

 

 

 

「こんにちはなのはさん」

「はい、こんにちは」

「このたびは、フェイトがご迷惑をおかけしまして……」

「ははは、相変わらず子供らしくないぞぅこのっこのっ」

「うをーやめるのだ。ほっぺは引っ張るものでない」

「やだ、もちもち」

 

このたび、エリオやキャロなんかも含めてフェイト一家すべてが機動六課の寮に入ることになって、ミッドチルダにずっといるのに一人暮らしなんてさせられないと、なぜかレクサスも引き取られていたのであった。

しかもなぜか、なのは、フェイトと同室である。

 

「己は一人部屋でよかった」

「一桁の子供でしょー」

「しかし、普通に悠々自適な一人暮らしを満喫できる程度の一桁児である」

「それは確かに」

 

それには、なのはも同意するしかなかった。

むしろフェイトより生活力があるのではないかと疑っていたりする。

家に帰った後のフェイトのスーツはパリッとしているし、ワインをこぼしたワイシャツもちょちょっと綺麗にしてくれるらしかった。

 

「最初はリンディさんところに預ける予定だったのにね」

「子供は嫌いではない、しかし、独り暮らしの方が気楽」

「フェイトちゃんちだからねー。一人暮らしじゃないんだぞ。というか君も子供だ」

「是、是、是、しかしあまり帰ってこない。己は気楽、フェイトは家の管理が要らない。うぃんうぃんな関係」

「そうなんだよね。忙しいからなー」

「しかし、この寮にはハウスキーパーがいると聞いている。アイデンティティの危機」

「子供は本当はそんなことしなくていいんだよ」

「しかし、完全にやることがないのも堕落の一歩」

「子供は学ぶことが仕事です」

「一理ある。何かテーマを決めて研究に取り組もうと考える」

「子供らしくなーい」

「己を子供らしくしたければ全力で甘やかすといい。全力で甘やかされてみせる」

「ふっふっふ。よーし、甘やかしちゃうぞそれー」

「わー、もっとかまえー」

 

とても平和な光景が、そこには広がっていた。

 

「レクサスって擦れてるようで、甘えたがりだよね」

「というより人のぬくもりが好き。あと綺麗な女の人も好き」

「真顔で言われるとちょっと恥ずかしいぞ」

「事実だから仕方がない。だからなのはさんも好き」

「あはは、照れるね」

「ぎゅーーっとしてくれる」

「なんのーもっとぎゅーっとしてやるー」

 

ぬくぬくである。

ぽわぽわである。

しあわせぱわー。

しかし柱の陰にフェイトさん。

 

「あっフェイトちゃん。顔が怖いよ?」

「是、こわい」

「二人だけ楽しそうでずるい!」

「にゃはは、ずるいと言われましても」

「フェイトも混ざる?」

「混ざる!」

「混ざるんだ」

 

 

 

「ほんでまあ、知っとる子もいるやろうけど、この子が今フェイトちゃんが保護者しとるレクサスや。六課の中うろちょろしててもほっといてやり」

「どうも、レクサスという。小生意気だが悪気はないので許してやってほしい」

「自分で言うなや!」

「自己紹介とは自分を伝えるものだと聞いている。今の一言できっと私がどういう人間かは伝わったと思う」

「正論や確かに伝わったと思う。納得いかんけどな」

「このコントのようなやり取りを見て、不安になったものもいると思う。しかしこの人は仕事はできるタイプなので見逃してやってほしい」

「フォローありがとなって、なんであんたにフォローされなきゃならんねん!」

「そういうキャラだから?」

「どんなキャラやねん!」

「そういうツッコミキャラ?たまにぼけて滑るところまで仕様?」

「誰がすべっとんねん!はっ思わずつっこんでもうた……」

「どんまい?」

「くぅ!」

 

はやてとの漫才は楽しい。とてもテンポがいい。

レクサスは満足げだった。

 

「ははは、レクサスは相変わらずだね」

「ほんとにね」

「あんたたち知り合いなの?」

「僕たちの保護者もフェイトさんですから」

「ああ、なるほど」

 

漫才が一段ついて、集まった人が解散すると見覚えがあるのが近くにやってきていた。

 

「エリオ、キャロ、お久」

「うん。久しぶりー」

「成長期なのに二人の背が変わっていない件」

「そんなにすぐ伸びないよ。レクサスだってそうだろ?」

「私はじりじり伸びるというか、まだまだだから」

「こっちだってそうだよ」

 

「知り合いなら紹介してよ」

「ああ、はい。こっちはさっき紹介されたようにレクサスです。で、こっちは同じ新人のスバルさんとティアナさん」

「どうもです」

「ナマイキそうねー」

「ナマイキですが。甘やかされたい年頃なのでガンガン甘やかすがいい」

「おおう、なんか新しい……」

「あはは、本当に相変わらずだ……」

 

 

 

 

「今日からちょっとうちで預かることにしたから、学校から帰ってきたら相手してあげてね。ヴィヴィオっていうんだ」

「ほう」

「ほー?」

 

目の前にいたのは、好奇心に煌めくオッドアイ眩しい幼女であった。

 

「ほうほうほう。考えてみれば己より年下というのは初めての経験。よかろう己がかわいがってくれる」

「おのれー?」

 

考えてみれば、レクサスの周囲には年上しか存在していなかった。

甘やかせーと全力なことに不満はなかった。

しかし、いざ自分より下の人間ができればどうか、甘やかしたい衝動に駆られるのであった。

 

レクサスは有言実行だった。

なのはママの仕事を全て奪ってやろうと言わんばかりに、有言実行だった。

フェイトママ?知らない子ですね。

学校を休んで、おはようからお休みまで完全にかわいがっていた。

保護者は難色を示しつつも、特殊な事情を抱えたヴィヴィオの相手をずっとしてくれることは助かっていた。

保護者達は多忙であったのだ。

なので少女ももちろん超懐いた。

 

「おにいちゃんーむふー」

「この湧き上がる衝動、これが萌」

 

抱きしめて抱きしめ返されて、テレビを一緒に見て、ゲームを一緒にやって、お風呂に一緒に入って、保護者二名まで込みで一緒に眠った。

二人は間違いなく家族だった。

お兄ちゃんは全力だった。ちょっと保護者の頬が引きつってしまうぐらいに全力だった。

 

しかしそんな日も、突然邪魔者が現れる。

 

「おにいちゃん……こわいよぅ」

「大丈夫。己が守る」

 

やるきがなかった少年に、やる気を注いだ少女。

そしてわかりやすい敵。

 

「その子供を渡してもらおうか」

「断る。己の妹である。貴様らごときが触れてよい存在ではない」

「ふざけたガキだ。お前らを守ってくれる奴らはもういないんだよ」

「是、是、是。そして否。己は守ってもらう必要などない」

 

なぜならば。

 

「今己は初めてやる気という物を出した。このまま帰るなら見逃そう」

「冗談!」

「ならば失せるがいい」

 

少年から魔力が溢れだす。

 

「な、なんていう魔力だ。てめえなんだ!?」

「己が何者か?ヴィヴィオの兄である」

 

放たれるは虹色の砲撃。

かつて聖王家の証と呼ばれたその魔力光は、魔改造ミックスのクローン体にも受け継がれていたのであった。

 

「滅びよ!」

 

砲撃の一撃では終わらない。雷が炎が氷が侵入者たちに襲い掛かる。

 

「たまには景気よく行こう」

 

少年には、記憶はあれど経験なんてものはない。

何せ自堕落に生きてきたのだ。

いかに才能があれど、戦闘者たちに初めてで勝てるはずもない。

だから戦いになるというのなら、圧倒的魔力による蹂躙しかありえなかった。

 

「ふざけんな!?」

「こんなのありっすか!?」

 

故に勝利するというのなら、圧勝。

やるきを出した少年に敵う者はこの場にはいなかった。

 

「むう、少し疲れたな。やはり定期的に魔力も放出しなければ体に悪いのかもしれぬ」

 

終わってみればわずかに数分。

それだけですべては薙ぎ払われていた。

それをなした少年が思うのは己の健康についてだった。

 

「どうだヴィヴィオ。兄は強かろう?」

「うん!」

 

 

 

 

「二人とも無事!?」

「ママー!」

「ああ、なのはさん。己は疲れたぞ。警備にはもっと気を使ってほしい」

「えー。というかこのありさまはいったい……」

 

六課が襲われていると聞き、慌てて駆け付けたなのはの目の前には、崩壊した六課と。

ヴィヴィオを抱え込んで、いい天気だなーと空を眺める少年の姿があった。

ほのぼのしている二人の裏で、積まれている戦闘機人や、仲間たち。

激しい戦いがあったことを物語っているのに、いったい何が起こったというのか、なのはには分からなかった。

 

「なに、己とて甘えるばかりではないということ。しかし、頑張りたくないので普段はもっと甘やかしてほしい」

「あまやかせー!」

「そうだそうだー」

 

「えー」

 

なんだかわからないが、二人は無事だった。

それでいいじゃないか。

取り敢えず、無事な二人をなのはは抱きしめた。

 

「はーよかった……」

 

 

 

 

 

 

「それで結局、六課襲撃犯はレクサスがどうにかしたということでええんか?」

「うう、ごめんなさい」

「すみません主」

「ああいや、責めてるわけやなくて!」

 

どういったもんかなーとはやては思った。

攻撃力はあまりなくとも、自分の信頼する守護騎士たちが敗れた相手が、一桁の子供に蹂躙されたという現実が、どうにもうまく飲み干せないでいた。

 

「つまり、実力を隠していたレクサスが本気出したらあのざまやったということか」

 

いや助かったんやけど。

クロノも言っていた。現実はこんなはずじゃなかったことばかりだと。

ほんまやなー。

 

「で、保護者達としてはどない思う?」

「レクサスもそんなにすごいんなら、教えてくれたらよかったのにね!」

「にゃはは。下手うった側だからノーコメントで」

 

一人はうちの子すごいとハイテンション。

一人は、自分たちのミスを、実力不足を子供に補わせたことが引っ掛かっている模様。

 

「じゃあ、本人。なんで実力かくしてたん?」

 

これだ今一番の疑問点は。

 

「己は普通ではない。そして普通ではないことがばれることは面倒くさい。己の本能はそう思っている」

「本能……」

「うむ」

「そうかー本能ならしゃあないな。ってなんやその理由!もうちょっとマシな言い訳持ってこいや!」

 

レクサスは困った。理由なんてそれ以上でもそれ以下でもないのだから。

実力を発揮しなければ困る状況なんて、ついさっきまでなかったのだから。

 

「えっまじで!?そんな理由なん?冗談やなくて?」

「うむ!」

「うむって、そんな元気よくうむって……まじかー」

 

しかし保護者組は納得していた。

うわー、レクサスっぽい理由だーっと。

 

「今回は妹を狙われた故にちょっと全力を出してみた。ついでに現在すかりえってぃが潜伏しているのはここ」

 

そしてこの爆弾発言である。

突如として告げられたその発言に示された、空間投影型ディスプレイには地図が表示されていた。

 

「いやいや、そんなばかな。えっまじで?」

「少し面倒だった」

「いやいやいや!少し面倒で世界的指名手配犯の居所特定とかありえへんからな!?」

「とても面倒だった。早く捕まえてヴィヴィオの安全を確保してほしいと思う」

 

ついでに管理局内の一部区画を機能停止させてみたことは言わなくてもいいだろうか。

無駄にバックアップ機能が充実していて、実に面倒だった。

管理局機能に一切関係ないから、わざわざ隔離区画に行くようなのもいないだろうし。

 

「あたし等の今迄の仕事ってなんだったんだろうな」

「言うな」

 

守護騎士武力組はどこか遠くを見ていた。

 

 

 

 

 

 

「あっはっは。それでは私の計画を阻止したのはその子供だったということか!何という喜劇!」

「そうだよ。うちの子はすごいんだから!」

「フェイトちゃんそうじゃないから」

 

六課全員で、捕縛に動き全力全開で戦いが行われた結果スカリエッティは御用されたのであった。

そして現在、関係者たちによる事件の摺り合わせ中。

 

「ちなみに、最高評議会の脳髄たちを始末したのは、君たちではないのかね?」

「はっ?」

「やはり知らないか。私の目的の一つだったのだが、気が付いたら彼らの生命維持ポッドが停止していたようでね」

 

スカリエッティにより語られる管理局の闇と、その真の黒幕。

それらがいつの間にか始末されていたこと。

全てを聞いてはやては言った。

 

「ちょっとレクサス連れてきいや!!!」

 

大体あいつの所為。すでにはやての中で確立したルールであった。

そして連れてこられた容疑者。

 

「何か用?」

「あんた最高評議会って知っとる?」

「管理局で不当に電力を供給されていた生命維持ポッドの中身?」

「やっぱり知っとったかー。そ、れ、で、それらをどうしちゃったのかなー?」

「供給ラインを物理的にズタズタにして、ついでにショートさせてみた」

「犯罪やろ!」

「大丈夫。証拠を残すようなへまはしない」

「そういういみやないんやけどなー」

「はやて、落ち着いて!レクサスのほっぺはそんなに伸びないから!!!」

 

引き伸ばすはやてと、止めるフェイト。

さりげなく脱出しているレクサス。

 

「ということは、そちらの少年が下手人か。資料は見ていたがね。それほどおかしなことは書いていなかったはずなのだが」

「それはそう。生まれた時から周りに合わせてた」

「なんと。そうか、あのクローンの作り方でよく人間ができたと思っていたのだが」

「あいつらばかだった」

「それには同意しよう。研究に勘を持ち出すような科学者は、科学者ではない」

「なぜあんなに、物があったのか今でも不思議」

「私のところからも流れていたようだが、確かに不思議な話だ」

 

意外と話が弾む狂気のマッドと、天災系少年(無害)。

 

組み合わせてはいけない。

 

この場のだれが思ったのかは知らない。

ただ、おそらくみんながそう思っていた。

 

「レクサスー久しぶりに膝枕してあげようか」

「してー、ごろなあ」

 

「なんとまあ。この私を負かしたものとは思えない姿だ」

「私らもそんなとんでもないと思ってなかったんやけどな」

「私はやればできる子だと思ってたよ!」

「そういうのいいから」

 

 




誰かこんな感じの書いてくんないかな。
フェイトさんに甘やかされて生きたい系主人公。
うっかりこの作品ではチートにしてしまったけど、
チートがない方が面白い気がするのよね。


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ティアナさんの日常

その日レクサスは、帰ってくるのがいつも通り遅い保護者達を放って、夜の散歩としゃれ込んでいた。

レクサスは自他ともに認めるぐーたらである。

しかし、ごろごろするのと同じぐらい散歩も好きだった。

 

いつものように徘徊していると、何やら騒がしい一角に差し掛かる。

はて一体なんだろうかと、ついでに、時間帯を考えると近所迷惑だろうと思った。

もっともここは完全までいかない物の、防音に優れる宿舎の近くの無駄に広い裏庭の一角なので、多少騒がしくしていてもそもそも気が付くような人間がまれであるのだが。

 

そこにいたのは、つい最近ティアナさんと紹介されたまだまだツインテールが似合うお年頃の女の子だった。

どうやら訓練をしているらしい。

家で覗き見たなのはさんの訓練メニューから考えるに、現在は自主訓練の時間のようだ。

割とぎりぎりまで追い込む訓練メニューだった気がしていたのだが、こうして元気に訓練している所を見るに、まだ追い込みが足りなかったらしい。

今度なのはさんにそう言っておこう。

レクサスは決意した。

 

良く観察してみると、どうにも疲労感が漂う訓練風景だった。

実戦経験に乏しいレクサスにはそれが適切かどうかは分からなかったが、とりあえず知識的に考えて非効率だなと思った。

今しているのは射撃の命中精度上昇のための訓練のようだったが、常識的に考えて疲れている時を基準にした精度に意味はないのではなかろうかと思う。

変な癖が付いたら治すのが大変そうだ。

そもそも魔力弾なんてホーミングさせろよと考えてしまうのであった。

デバイスの人工知能に命じればいたって普通に補正してくれると思うのだ。

六課のデバイスは割と金がかかっている方だということを小耳にはさんでいたので、よけいにそう思う。

直射の方が余計な動作を挟まない分速いのは分かるのだが、これはいつか誤射る。

確定的に明らかなのでそのことを言おうかと思った。

 

が、顔を見て思ったのは、

 

(ああ、これは絶対にやめない人の顔)

 

自堕落を主張する彼からしてみると、これほどの効率の悪さには眉をひそめざるを得ない。

自堕落とは効率の追求にあるのだ。

ここまで非効率だと文句の一つも出てくるが、正論でいくらものを言っても聞き入れないことは、人生経験の浅い彼でもわかった。

このままだと怪我でもしそうだと思ったので、そこで見学をすることにした。

 

レクサスは、デバイスという名の無駄に天才的な頭脳と金にあかせて作り上げた便利グッツに命じる。

するとソファーが現れた。

お出かけ用携帯ソファーである。

しつこい泥汚れすらもはたけば落ちる、しまえば消滅のどこで使ってもきれいな素晴らしいソファー。

 

ティアナの訓練を肴に、ジュースとおかしで武装した。

完璧だった。

 

「あんた何してんのよ」

 

訓練を終えたティアナは、そこでようやくこの場に似つかわしくない高級そうなソファーでくつろぐお子様を発見した。

 

「お気になさらず。しかし、かまってくれるなら遠慮はいらない」

 

さあ、どうぞと両手を広げてかまえの体勢。

このお子様自重しない。

 

「いやほんとに何やってんのよ」

 

文句を言いながらレクサスを抱き上げるティアナ。

疲労困憊もいい所であるというのに、この対応。

面倒見の良さがそれだけでうかがえる。

しかし、足に来ていたのかそのままソファーに腰を下ろした。

 

「なにこのソファー……」

 

ティアナは思った。やばい。なにがやばいのかさっぱりわからないが、なんかやばい。

座り心地が良すぎる。

 

「人を堕落させるソファー」

 

納得した。疲労した体から力が抜けていき、そのままそこで眠ってしまいたい衝動に駆られるほどに。

 

「こんな遅い時間まで出歩いてるんじゃないわよ」

「こんな遅い時間まで訓練なんかしてるんじゃないわよ」

「うぐ、私はいいのよ大人だし」

「己はいいのだ保護者に理解がある」

「理解?」

 

ちょっといい負かされそうになったティアナ。

こんな時間まで訓練しているのはあまりよろしいことではない。

頭では分かっているのだ。

しかし、保護者に理解っていいんですかフェイトさん!

ティアナは混乱している。

訓練のし過ぎで頭が回っていなかった。

 

なお、よく遅くになるまで仕事をしているワーカーホリックたちは、レクサスによって人権をはく奪されている。

なので最近はそこまで残業はしてこない。

やるなら家でやりなさい。

この言葉は重かった。

なお、家に帰るとなんだかんだで勝手に仕事を手伝いながら、構わせられるので仕事は程々に進んで終っている。

よけいなスキンシップが挟まれるのに、一人でやるより早いあたり保護者の威厳はなかった。

 

そして無駄に信頼が厚いので、遅くなりますと連絡してあれば、しなくちゃいけないことがあるんだろうと、とても理解があるのであった。

 

「やば、本当に眠りそう」

「寝ればいいのではない?」

「寝るなら部屋で寝るわよ」

「送っていくよ彼女」

「ぷっなによそれ、むしろあんたが送られる方でしょ。年齢的に」

 

子供体温あったかいー。ティアナはもうだめだった。

軽口を聞きながら、瞼が重くなっていって、気が付けばレクサスを抱きしめたまま眠り込んでいた。

 

「ふむ、寝た」

 

やはり疲れがたまっていたと見える。

では送っていこうか。

 

「飛べソファーよ」

 

寝ている人がいるので声は抑えめ。

ふわふわと浮かび上がったソファーに乗って、宿舎へと向かっていくのであった。

 

 

 

翌日

 

「は!?」

 

目が覚めると、お子様を抱きしめて眠っていたことに気が付くティアナ。

昨日はいったい何があったというのか。

思い返せば話している途中から記憶がない。

 

「本当に送られてしまった……」

「騒、がしい、己は、まだ、寝るぅ」

「子供かっ、子供だったわ」

 

話していて子供と話している感が抜けていたせいか、自分でもよく分からないことを言ってしまった。

 

「あっティアおはよー」

「お、おはよう」

 

なんだか気まずかった。

いや子供だし。

 

「昨日はびっくりしたよ。ティアったらソファーに乗ってくるんだもん」

「はっソファー?」

「そうそう、ソファーって飛ぶんだね」

「いや普通は飛ばないわよ」

 

あはは、だよねー。相棒は軽かった。

ティアナは真顔だった。

 

「それで、レクサスが送ってきたのはいいけど、ティアったらレクサス離さないんだもん」

 

レクサスもさすがに困ってたよー。

あっはっは。相棒はやっぱり軽い。

 

「だからそのまま泊まっていきなよっていっちゃった」

 

眠そうだったし仕方ないよねー。

いや仕方なくないから。

別にお子様と一緒に眠ったからなんだというのか、しかし、何故だか無性に恥ずかしかった。

 

「でも昨日はすごかった。腕を外そうとすると巧みに避けるんだもん」

 

いや知らないから。

 

「ねえねえ、レクサスの抱き心地ってどうだった?」

 

私興味あります。

そんな気持ちが透けて見える表情だった。

 

「まあ、あったかかったわ」

「子供って体温高いらしいしね。今度は私にもかしてー」

「いや私のじゃないし。そういうのはフェイトさんに聞きなさいよ」

 

自分は何を言ってるんだろうか。

というかフェイトさんに聞くものであってるわよね?

落ち着いた風に振舞っているものの地味に混乱は続いていた。

 

 

 

 

「あっティアナおはよう」

「おはようございますフェイトさん」

 

廊下でばったりと遭遇。

 

「レクサスの抱き心地良かったでしょう?」

「なっなんで」

「昨日はティアナと寝るから帰れないって連絡が来てたから、写真もあるよ!」

 

ニコニコと悪意が欠片もないフェイトさん。

しかし人通りがある廊下、うわさがきっと広がっていくんだろうな。

ティアナはあきらめた。

私はショタコンではない。

 

「キャロやエリオはすぐに一人で寝たがってね。レクサスみたいに甘えてくれるといいんだけどなあ」

「いつも寝るときそんな感じなんですか?」

「そうだよ。レクサスは一人寝よりも人に抱き付いて寝る方が好きみたい」

 

贅沢な話だ(フェイトの胸元を見ながら)

 

「それにレクサスを抱きながら寝るとね。疲れが取れるんだ」

「えっ」

 

言われてみれば、昨日の訓練から考えて体が軽すぎることに思い至る。

そういえば、寝覚めもよかった。

当の本人は悪そうであったが。

 

「あっ嘘だと思ってるでしょ」

「いえ、そんなことは……」

 

むしろ効果を実感していますとは言えなかった。

自分は目の前の人ほど人恋しそうだっただろうか。

 

「これにはね根拠があってね」

「はい?」

 

いやいや、精神的なものでしょ?

 

「前にそう言ったら、レクサスがいろんな機器を用意してね。科学的に検証してみようって」

 

普通はしません。

 

「結果がね。レクサスが無意識にしているもろもろの効果で、ばっちり疲れとかが取れて体調が良くなるっていうんだよ」

「えー」

 

なんだそれは。と言うかもろもろって何ですかそこ多分一番重要なことじゃないですか。

 

あれにはレクサスもびっくりしてたよねー。

平和か!

本人としては、そんな効果はありませんと言うのを確認したかったのではないだろうか。

一番の理由は気になったからとかな気もするけど。

 

「フェイトさん」

「ん、どうしたの?」

「これからもレクサス借ります」

 

そんな便利な効果があるなら使わない手はなかった。

もろもろのところが気になるけれど。

 

「だ、だめだよ。甘えてくれるレクサスは貴重なんだから!」

 

そういう過保護オーラを出さなければ、もう少しエリオやキャロも甘えてくれるのではないか、ティアナはそんなことを思った。

 

「抱いて寝ると疲れが取れるんですね。いいことを聞きました」

「だめだよお」

 

なんだか涙目だったが、快適な目覚めは私が頂きます。

 

 

 

 

 

「ああ、ティアナもあれを知っちゃったか」

「なのはさんも?」

「うん。どんなに疲れていても疲労が抜けるし、普通は治らない不調なんかも改善する効果があるんだよね」

 

あれはやばい。

なのはさんはそう語ります。

 

「だから、毎日はダメだよ?」

「は、はい……」

 

肩を掴まれて言われたその一言には、本気がこもっていました。

答える言葉が震えていたような気がするのは気のせいです。はい。

時々ならいいんですね。

 

「あと、できるだけ内緒にしておいてね」

「なんでですか?」

「ティアナが寝る日が減っちゃうよ?」

「わかりました」

 




続いてしまった。
短編のくせに続きが投稿できるなんて、そんなの詐欺だ!

あと、完全なノリで書いてるので、時系列とか、原作設定度とか適当です。
これは、ヴィヴィオ来る前の話。たぶん。


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スバルな場合

|д・) ソォーッ…

|д・) ⊃とんっ

|彡サッ!


「ぐぬぬ、なんで私じゃダメなのぉ?」

「さあ?」

 

ここしばらくのスバルの様子を見ていて、不思議に思いつつも、内心「どうでもいいわよ」という気持ちが態度に表れていた。

 

ことの発端は、件のレクサスである。

大抵の年上女性には、だっこやハグを強請るというのに、なぜかスバルだけ露骨にねだられない。

そして、レクサスだっこ効果はひそかに広がっていた。

だっこすると、疲れが取れた気がするという、現在は都市伝説レベルではあるものの、その効果のほどを実感しているティアナからすると、これ以上知る人は増えなくていい。そう思ってしまうのも仕方のないことなのだ。

 

そして、まあ、そんな健康レクサスだっこが微妙にブームになってきているのだ。

本人はあれで的確に人を選び、邪魔にならず、構ってもいいかなと言う時を見計らっているので、だっこを強請られていやがる女性は出ていないと聞いている。

おのれ策士め。

私の順番を減らすんじゃないわよ。

短時間では大した効果は出ないと聞いているものの、本人が能動的に何かしている可能性はある。

むしろ高い。

何せ無意識にヒーリング効果があるのだ。

なぜ、何故能動的にできないと思うのか。

 

話がそれたが、スバルもそのブームに乗っかろうとしたわけである。

どちらかといえば、だっこしてみたいという単純な衝動の結果だったように思えるけれど。

結果はまあ、現在机の上で項垂れていることから分かるように失敗だったのであるが。

 

「ほんとなんでかしらね?」

「ティアだけずるぅーい」

「知らないわよ。それに別に私だけじゃないでしょ」

「そうなんだよねーはぁ……」

 

良く一緒に寝ているせいか、他の人よりは頻度が高い気がするものの、レクサスは結構な広範囲で可愛がられている。

つまりあっちこっちで、いろいろ強請っている。

しかし、これがスバルになると。

満面の笑みでだっこしてあげるよと、近づいて行った彼女をすさまじい動きで避けて、自分の背後に回り込むとは、ティアナも思いもしなかった。

 

よくよく考えてみると不思議な話であった。

その時は驚きと、「なんでぇ~」と、愕然としたスバルの様子に爆笑していたので、特にその理由を問うことはできなかったのだが。

その後もたびたびそういうことがあった、でも、一度タイミングを逃すとうっかりが続いて現在に至るまで、結局その謎は解き明かされていないのであった。

だっこに関わる攻防が、地味に愉快であったので、もう少し続けてほしいと思っていたこともあったかもしれない。

しかし、相棒がこのまま機能しなくなっても困るので、そろそろ潮時だろう。

 

「今度聞いておいてあげるわよ」

「お願いします……」

 

 

 

 

 

「それで、あんたなんでスバルだけ露骨に避けるのよ」

 

休憩時間にうろちょろしているのを発見したので、ジュース片手に膝の上に乗せて、問いただしてみたわけである。

 

(というか、めちゃくちゃ自然に膝の上に乗せたわね。私大丈夫かしら?)

 

と、そんな自分の行動にちょっと戦慄していたりもした。

 

「う~?」

 

(無駄に顔が整ってるわね。まつ毛なげー)

 

首をひねって、ティアナを見上げながら、疑問符を頭に浮かべている様子を見るに、自分でもよく分かっていないのかもしれなかった。

こりゃ、お手上げね。

ティアナがそう思って諦めたところで、続く言葉が紡がれた。

 

「己も不思議である。しかし、近くにいると、むずむずする」

「むずむず?」

「うぬ」

 

詳しく聞くと、どうにも何かの違いを感じていて、落ち着かなくなるので高速で直前に避けているらしかった。

猫的に言うと、毛を逆なでされたような違和感なのだという。

何故猫で例えるのか。

直前な辺りは一応可愛い女の子だから我慢しているらしい。

なので、こちらに目的がないときは一定範囲を保っているのだとか。

最近はその違和感が他の人にも発揮されるのか色々と試しているけれど、特にそういったことはないらしい。

 

(スバルの所為か!?)

 

スバルに対するあてつけのように、それ以前まで選択肢に上っていなかったような人にもだっこを強請る様子が確認されていた。

以前は、だっこ対象者は結構偏っていたのだ。

つまり最近のとりあえずだっこな、みたいな風潮はスバルが原因であったのだ。

よけいなことしやがって。

 

「スバルの特殊性ねーあっ」

 

特に気にするような事柄でもないからと、すっかり忘れていたが、スバルはとても特殊な人間であった。

戦闘機人というサイボーグの一種である。

これが原因かもしれない。

半ば確信にも似た思いが生まれたが、自分が勝手に言うわけにもいかないし、どうしたものか。

 

「ぶっちゃけ、無理?」

「慣れれば大丈夫と思う」

 

ダメもとで聞いてみれば思ったよりも、希望はありそうだった。

ならば話は簡単だ慣れさそう。

 

 

 

 

 

ティアナや関係各所からのお願いにより、微妙にやる気なさそうに、仕方ないなと言った様子で案件は可決された。

本人は別に困ってなかったし、仕方なかったかもしれない。

 

「ティアーこれどうにかならないの?」

「うるさいわね。あんたのためにやってるんじゃない」

「そうだけどぉ」

 

会話だけではわかるまい。

とりあえず、スバルを動けないように椅子に縛り付け、レクサスを投入することで、危険じゃないものであることを、教えているのだ。

ここまでしても、何故かまだ警戒マックスなので、身じろぎするたびに結構遠くまで離れていくのだが。

少しずつ近づいては離れてと、野生動物の観察でもしているかのようなありさまだった。

これは一日では無理だ。

 

「うう、先が長そうだよ……」

「あんたが何とかしてほしいって言ったんだから頑張んなさい」

「うん……」

 

それにしてもその宇宙人を見たような反応はどうなのかレクサス。

基本的に女の子には無条件で融通を利かせるくせに、スバルだけここまで拒否反応が強いとは。

つついては離れていくその様子に、呆れとも感嘆ともつかない何とも言えないため息をつきながら、これがしばらく続くのね。

と、憂鬱になるティアナだった。

 

 

それからもスバルの奮闘は続いた。

スバル縛り椅子、略してスバリスをくり返すことによって、近づくことに慣れさせ。

何とか近くにいても、じんわりと離れていくことがなくなり。

 

「はい、あーん」

「あーむ。もぐもぐ」

「じゅるり」

「あーん」

「あ、お返し?やったー」

「意地汚いわよあんた」

「だってー」

「スバルさん食べるの好きだから」

「おいしいは正義。かわいいも正義」

「あんたはあんたで何言ってんのよ」

「この世の真理」

「おいしいのは正義だよ!うん!」

「こっちものらないの!」

 

フェイトさんを涙目にさせつつ、餌付けを繰り返させ。

「私の仕事―!」

仕事じゃありません。

※レクサスはきちんと自分が食事を食べることができる量を考えて餌付けされています。

際限なく与えそうな人はいますが、きちんとお断りしています。

なので、あーんができる人間はかなり限定的です。

ようやく接触ができるところまで持っていった。

 

「長かった……」

「私の方が面倒だったわ……」

 

最終的に面倒になって、スバルにレクサスを縛り付けてやるところが実に面倒くさかった。

全身接触すると鳥肌が立っていたので、これを慣れさせるには荒療治が必要だと判断したのは、きっと間違っていなかった。

 

「イン、レクサス!」

「それを言うならオンよ」

「あの、レクサス大丈夫?冷や汗すごいけど」

「うに、体が離れたがっている。ふしぎ」

「ほんとなんでなんだろうね?」

「まあ、これだけくっついてればそのうち慣れるでしょ」

「うう、早く慣れてね?私だけ警戒されてるのツライ……」

「スバルさんだけなんだよね。早く慣れるといいね」

「むしろエリオの方が女に慣れるべき。フェイトにもっと甘えるべき」

「それは関係ないだろ!?」

「むしろお子様のくせになぜそこまでスキンシップを避けるのか。今しかできない。あんなに目をキラキラさせて、さあ、甘えてと主張しているというのに」

「いやいやいや!?」

「なるほど。自分はイケメンに育つから大人になってからでも十分間に合うと。何という傲慢」

「エリオ君?」

「そんなわけないから!そんなこと思ってないよ!」

「それはいいからあちらでちょっと目をキラキラしている方に甘えてくるといい。キャロも一緒に」

「私も!?」

「「いやいやいや!?」」

「まったくそれでも子供なのか」

「いや、あんたはあんたで子供らしくないから」

 

驚愕の表情のレクサス。心底驚いたといった様子にティアナは。

 

「いや、なに?そのそんなばかなみたいな顔は。まさか自分が普通とでも思っていたの?」

「己は間違いなく、一流の子供」

「子供に一流とかないから。そんなこと言っている時点で子供らしくないから」

「ばかな。これほど子供とは何たるかを学び、的確に人に甘えるすべを磨いてきた己が……」

「いや、甘え方とか子供って磨いたり学ぶもんじゃないから」

「しかし、適切な甘え方をしないと、少し無理してもどこまでも甘やかしてくる保護者」

「それが原因か」

 

この場にいる者たちの心の中で、一人を除いて意見が一致した。

思わず真顔になってしまうほどに。

脳裏には全力で過保護する保護者の姿がよぎっていた。

 

「己は甘えたい。すごく甘えて生きたい。むしろお世話されるだけの生き物でいたい。しかし、周囲にはそれを許さないものも多い。ちなみにフェイトは仕事の邪魔にならない範囲ならどんなに甘えたことを言っても逆に喜ぶ」

「なんてダメ人間。さすがにフェイトさんでも……」

 

否定できなかった。

 

「さすがにすべてに甘えて過ごすのは、己もどうかと思う。そもそも己は環境に甘えたいのではなくて人に甘えたい。それとて、メリハリはとても大事。甘えるとき、まじめなとき、離れているときとが存在してこそ真に甘えることに充足感を得られる。だからほどほどに頑張って、ついでに褒められながら甘えるのがいいのである。その点フェイトは割と理想的。家にあまりいないしちょっと抜けてるから真面目にならざるを得ず、離れている期間が一緒に住んでいる割に長め。さらには普段忙しい分、空いた時間は全力でかわいがろうとしてくる」

「そんなこと考えていたの!?」

 

驚愕の新事実であった。

一人ほど感極まっていた。そこは喜ぶところなのだろうか?

 

「故に、一生働かなくていい程度に全力で金銭を稼ぎ」

「えっ」

「動かなくても筋力量が落ちないよう、動かないでできる効率的なトレーニング法を開発」

「えっ」

 

何かが間違っている。

 

「甘やかされるに足る能力を得るべく、炊事、洗濯、掃除と各種技能を磨いた」

「えっ」

「己が甘えていても、別に誰も困らない環境を構築するために頑張っている」

「……」

 

つまりはこう言いたい。どうせ結婚できないだろうフェイトの家に主夫的な生き物としての居場所を構築しています。

程々っていったいなんだろう。

予想外に計画的な甘え方だった。

 

「いやどうしてそうなった」

「リンディさん応援してくれた」

「リンディさーん!?」

「だれ?」

「フェイトさんのお母さんです……」

「どうせあの子結婚できなさそうだから、レクサスくんにもらって上げてほしいわーって」

「フェイトちゃん!それもいいかなーじゃないよ!?しっかりして!いくつ離れていると思ってるの!?」

「あらーうちのなのはももらってくれていいのよって、桃子さんが」

「お母さーん!?」

 

傍観していた別の人に暴投が飛んでいった。

 

「男の子なんて、ユーノ君とクロノ君ぐらいしか連れてきたことがないし、恭也はモテモテだったから、そんな心配したことがないのに。他の子と来たら……」

「うう……どうして私に飛び火しているの」

 

何故かなのはにダメージを与えた。

 

 

 

 

「トイレに行きたい」

「ああ、うん」

「ちょっと待ちなさいスバル」

「なに?」

「どこにいくつもり?」

「トイレに」

「なんであんたごと行くのよ。降ろしていかせなさいよ。おかしいでしょ!」

「そう?」

「なんで疑問形なのよ。あんたが行く意味ないでしょう」

「確かに……」

「確かにじゃないわよ。いったい何を考えているんだか……」

「己は別に困らない」

「そこは困っときなさいよ。さすがにトイレはどうかと思うわよ」

「己、子供」

「子供だからって……どうなの?おかしいのかしらこれ?」

 

大分レクサスに毒されている二人であった。

 

 

 

それから、スキンシップが減ったフェイトさんからすごい目で見られて、だいぶストレスがたまったり。

あと、なのはさんも微妙に手持無沙汰感が出ていたり。

というか結構な割合でそんな感じだった。

こいつどこまで六課を侵食しているんだと思ったティアナは間違っていない。

そもそも、宿舎は分かるが、職場に入ってきていても誰も不思議に思わないあたり、まずいのではなかろうか。

 

そんな奮闘の甲斐あって、どうにか鳥肌も立たなくなり、レクサスも慣れた。

あとで分かったことだが、すでに無意識にしているもろもろが、自分とは違う構造の人間に、どういった作用をするのか分からないことに本能的な忌避感を抱いて、強いストレスを感じていたらしい。

戦闘機人だということが暴露され、今までの不思議ないろいろに納得がいったレクサスによって語られた話である。

慣れたというのも、無意識にしているもろもろが、スバルに適応できたということだった。

そこまでいってもなんか違うなは感じるらしいが、内臓が真逆についてる猫ぐらいの違和感に収まったらしい。

例えがよく分からなかったが、レクサスの感知能力の高さが露呈した事件であった。

 

「ついに念願のレクサスを手に入れた!」

「殺してでも奪い取る」

「フェイトさんステイ!ステイ!」

 

物騒な発言に驚いたけれど、地球にいる友達にスバルが言ったようなセリフを言われたら、そう返すことがマナーだと教わっていたらしい。

どこの常識ですか!?

ティアナが地球という、隊長たちの故郷に少し畏怖を抱いたのは仕方のないことだった。

 




みんな好き過ぎーうれしいけどまじでファッてなる。
伸び方がオカシイ

フェイトさんに甘える話を考えているんだけどしっくりこないの。
このままではあらすじ詐欺になってしまう可能性が……。
出だしで甘えているから詐欺にはならなかった!

あと大前提として、その場のノリで設定追加しているので多分そのうち矛盾します。
生暖かい目で見守ってやるとよろしいです。
直すのは……めんどい。

感想返しは、良い返しが思いつかなかったときとか、ちょっと放置してたら返しにくくなったとか、
普通に面倒くさくなったりするのでご了承ください。
書いてもらったのは全部目を通しているよ!


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甘える理由

やあ(。。)ノ
元気だったかい?
ほのぼのを期待している人には悪いけど、今回はそこまでほのぼのしてないよ。
レクサスがフェイトそんに引き取られる過程を描いてみたんだ。
ほのぼのは明日ね。ヴィータちゃんで書いてみたよ。


 

ある日、執務官補佐となったティアナが、フェイトに誘われて家で食事をしていた時こんな話題が上がった。

なお、なのはは出張で、ヴィヴィオはすでに夢のなか。

 

「んあ?己だけフェイトに引き取られた理由?」

「そうそう、エリオもキャロも一緒に暮らしていたわけじゃなかったんでしょう?」

「うむ」

「二人の話は聞いたけどあんただけ知らないのよね」

「己が暮らすようになった理由か……」

 

バカな研究者にあっという間に愛想が尽きて、研究所内をこそこそ、ごそごそして過ごす日々にも飽きていた。

さる筋からの情報によると、近々管理局からがさ入れがあるという。

逃げ出す準備はすでに整っていたりするが、脱出に伴うデメリットを現状が上回らない、非人道的な研究とはいっても、人造魔導士についての研究だ。

薬でボロボロにして、すぐに死んでしまえば費用対効果に見合わない。

そんな丁重に扱わなければならないガキに何ができるという話で、精々、薬の所為で感情的になりやすかったり、逆に制限されてたり、慢性的な体調不良と精神が弱い奴なら閉所恐怖症になる程度の研究だ。あとは絶望している少年とかがちょっとうっとうしいぐらいなもの。

そんな生活でも倫理観はきちんと吹っ飛んでいたが。

生まれも育ちも違法研究所なら当たり前と言えば当たり前な話。

 

わざわざ逃げ出した後に生活基盤を構築するのは、運要素が絡むので、このままがさ入れを待ち、そのまま保護された方が面倒が少ないだろうとそう判断した。

軽く調べたところによると、管理局もピンキリのようだったが、少なくとも今回派遣されてくる執務官は善人に分類される実績を上げている。

いままで、実力なんて発揮してこなかったから並の人造魔導士に興味を持つ悪党もいないだろう。

つまり、自動的に違法研究所で生まれたクローン体に人権が付与される。

おいしい状況というわけだった。

 

今一番の敵は退屈だろうか。

同じ研究所に出戻りがいるが、嫌なことでもあったのかふさぎ込んでいて、没交渉。なんにでも噛みつく狂犬かという。

厳密には出戻りではないのだが、よその研究所で誕生した人間を、なんやかんや後ろ暗い経緯を経て研究所送りにしているのだから出戻りでもいいだろう。

この研究所生まれの普通の実験体は、平常時では意識が希薄で自己主張が薄い傾向が強い。

部屋に監禁されてぼーっと時を過ごすだけである。

 

 

 

 

保護された施設にフェイト・T・ハラオウンという執務官が会いに来た。

保護したのもこの人だったので、あまり不思議ではなかった。

 

「調子はどうかな」

「すこぶる最悪だ」

 

この時の己は、研究所を脱走していなかったことをすこぶる後悔していた。

誰も彼もが腫物でも扱うようで、うっとうしい。

そもそも、他人が近くに長時間いることが耐えがたかった。

吐き気を覚えてすらいた。

自分以外の人間はゴミレベルの認識であった。

ゴミがうっとうしい、ゴミがうっとうしい。

そんなことばかり考えていたような気がする。

 

さらに言えば今更脱走しても、追手がかかるだけで利点が一切ないあたり判断できてしまっていたのが不幸だったのだろう。

喚き散らすこともなく、ひたすらに不満をため込んでいたのだから。

 

「俺にふれるな」

 

 

 

 

「はあ?あんたがフェイトさんに?」

「うむ」

「あのころのレクサスはもう、ちょっと目が怖かったよね……今はこんなにかわいいけど」

 

言いながらレクサスの頭を抱え込むフェイト。

 

「もっとやれ」

「ぶれないわね……」

 

ティアナが驚くのも無理はなかった。

この接触過多なお子様が、かつてはそんな、俺にふれるなと言わんばかりなつっぱったお子様であったとは。

しかし、そんな状況でも目立ちすぎていなかった辺り、本当に実力隠しは本能的な話だったのかもしれない。

などと衝撃のあまり、なぜそこをという所が妙に気になった。

 

 

話を戻して、

 

「どうして?」

「虫唾が走る」

 

フェイトが問えば、端的に返した。しかしそれだけでは、何も理解することができないのは当然だろう。

感情から来た説明できないものの可能性もあった。

しかし、瞳に宿った知性は安易にその結論を導き出させるには、少々理性的に過ぎた。

 

「?」

「ふう、私が自己を確立するのに不特定多数が近くにいる現状は最悪に近い。他者を感じれば感じるほどに、己の境界がぶれる。吐き気がする。死にたくなる」

「死ぬなんて軽々しく言っちゃだめだよ……」

「僕は理性的だ。分かっている。だから死んでいない。死は逃げと同じだ。自分に価値を見出していなくとも、他者に価値を感じられずとも」

 

当時は言ってしまえば、金魚鉢で育てられた魚が、いきなり多種のいる水槽に投げいられたようなものだった。

生まれた時から基本的に一人で過ごし、何か無茶な誕生の所為で頭には数十人分の人生が詰め込まれ、言ってみれば多重人格で、それすら未熟、精神の統合が終わっていなかったのだ。

研究所のように他者とのつながりが希薄で、常に頭にもやがかかっている状況では、決して表に出ることがなかった問題だ。

感情抑制用の薬剤が、調べて知った作用以上に己の能力を制限していたことに気が付くも後の祭り、これならば、一人で山奥にでもこもって自我と力の制御を確立させるべきだったと強く思ったものだ。

それでも、力をひけらかさずに済んでいたのだから、本能というのは強かった。

この時、すでに面倒くさがりの片鱗は見えていたのだ。

もっともこのころは色々と限界も差し迫っていたのだが。

暴言は吐くものの、決して暴れず、しかし目が死んでいて、基本的に脱力している状態で「失せろ」とぬかす幼児、施設の連中はただのわがまま扱いしていたが、あと少しいろいろ遅れていたら、施設が吹き飛んでいたかもしれぬ。

 

「そんなに眉をしかめていると、大きくなった時に眉間にしわが残っちゃうよ?」

「知るか」

「もう、そんなこと言わないの」

「ふれるなと言っただろう」

「じゃあ触らないから、少し話をしようか」

「早くひとりになれるなら付き合おうじゃないか」

「君はレクサス」

「正確にはプロジェクトF実験素体、開発コード、Legend・Experience・Xeno・Ultimate・Self通称LEXUS。唯一現在でも生き残っているが故に単体呼称としてレクサス。実験自体は費用対効果に見合わなかったことから凍結された」

 

伝説の遺伝子に経験を持つ未知なる究極の自己。

御大層な名称はついているが、伝説の遺伝子を切り貼りして作った素体に、その時研究所にあったすべてのデータで詰め込めるだけ詰め込んだ実験とすら呼べない工程の結果生まれたものだ。

名前にカオスが入っていないことが一番納得がいかない。

むしろ開発コード自体がカオスでいいだろうと思うそんな代物。

 

「レクサスが名前だと嫌なのかな?」

「別段呼ばれることもなかった名に思い入れも何もない。私だとわかるならそれでいいのです」

「そっか。それで、他の子に比べて自意識が発達しているし、暴れるようなこともないと。ただ、言葉が統一されていなくて、心を開く気配は絶無と」

「何の確認だ。俺はただ無駄なことをしていないだけだ。おとなしく従っていれば検査なんてものはすぐに終わる。言葉にできることはすでに別の人間に話してある。資料を読んでここに来たのだ。知っているだろう」

「そうだね。実験の結果、多種多様な人格データが同居しているせいでぶれる。心を開かないのは他人に興味が持てないから。確認したかっただけだよ」

「ならば話は終わりか。早くひとりにしてくれ」

「ううん。ここからが本題」

「なんでしょう?」

「一緒に暮らさない?」

「話は聞いていましたか?他人と接したくないと言ってるのです」

「聞いてたよ。だから家族になろう。家族は他人じゃないよね。それに君は感知範囲が広くて、知覚範囲内に人が大勢いる施設では気が休まらないんだよね。だから最近は寝不足でストレスが溜まって、保護以前より言葉のブレが激しくなっている」

「そもそも、執務官。お前は暇ではないだろう。俺のような特殊なガキを引き取ることが可能なのか」

「それを言われると痛いな。でもここに居てもいつか爆発するだけでしょう?特殊だからこそ特例が適応されるんだよ。私はいつも一緒にいられるわけじゃないけど、使い魔もいるし引き取ること自体には障害が少ないよ」

「なぜそこまでする?」

「私がしたいから。その目が気になったから」

「理由になっていない」

「それでどうかな?」

 

その時見た瞳が妙に綺麗で。

その目に惹かれるかのように、差し出された手を取った時初めて温かいと思ったのかもしれない。

 

それからまあ、いろいろと心を砕いてもらって。

割と雑に扱ってもくじけずにスキンシップをはかってきて。

ああ、この人はなんかいいなと思うに至ったのである。

 

 

 

「うっ、あんたら揃いも揃ってどういう環境……」

「泣いたか」

「泣いてないわよ」

「うんうん。泣いてない泣いてない」

 

 

 

 

「それでどうしてこんな甘えたに育ったのよ。劇的すぎるでしょう」

「己が自分にも他人にも価値を感じないと言ったのは覚えている?」

「言ってたわね」

「己が世界で最初に価値を見出したのがフェイトである」

「まあ、納得できなくはないわね」

「そしてそんなフェイトに世話をされている、大事にされている自分に価値があると、逆説的に思うようになり。ふれあい甘やかされているときに己は生きていると実感を感じるようになった」

 

人格がきちんと統合されレクサスという人格をしっかりと形成するにあたり、さすがに、フェイトにしか価値を感じないという偏った時期は過ぎ去った。

己も人間の一人という事実を受け入れ、一人一人の価値を見極めるようにもなった。

そして他人を受け入られるようになった。

その過程故に、人に甘やかされると充足感を感じるようになった。

あと、男は研究者とかのマイナスイメージが強いので、フェイトのような美人な女の子に甘やかされたいという、極めて自然な流れでそう思うようになった。

 

「なるほど。筋が通っているわね」

「そんなことを思ってたの!?」

「なんで驚いてるんですかフェイトさん」

「だって聞いたことなかったし……」

「言ったことがないから当然」

「なんだかはずかしいな」

「だから己はフェイトを嫁にする」

「ふふ、楽しみにしてるね」

 

ティアナは悟っていた。フェイトは子供の戯言扱いだが、レクサスは多分割と本気であるなと。

知っていたのだ。

実は保護責任者がリンディだったり、養子縁組はやんわりと断っていたり。

それになんとなく結婚できなさそうなフェイトさんは、自動的に落ちていそうだなと。

なんだか周りもそれを狙っている雰囲気があるし。

まあ、私には関係ないけど。

 

「ティアナも好きである」

「いきなり何言ってんのよあんたは!?」

「うぬ?なんか言ってほしそうだった」

「フェイトさんに膝抱っこされながら言われてもね……」

 

あれ、それって……。

 

「そういえば、デザートとは別にアイスを仕込んでいたのだった。たべる?」

「食べる」

「今日のは何かな?」

「己はアイスはチョコクッキーが一番好き。好きだったメーカー、アイスの味が変わってしまった。己はとてもかなしい」

「だから自分で作るんだよね」

「うむ」

 

レクサスが自分好みを目指して作ったアイスはとてもおいしかった。

 




おかしいんだ。
フェイトちゃんに甘えるだけの話を書こうとすると、話の途中で事件が起こって、なぜかシリアスに持っていこうとするんだ。
そんでもって、研究所育ちで倫理観とか道徳がちょっと吹っ飛んでるレクサスが顔を出すんだ。
クズは死ねっていう、恐ろしい論理回路なんだよ。

自然公園に行ったらなぜか密猟者とかち合ったり、
遊園地行ったら、爆弾が仕掛けられてたり、
身代金目的の誘拐犯が悲惨な目にあったり、
どこで甘えたらいいんですか!?


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ヴィータちゃんの休日

「ヴィータお願い!」

「なんであたしが……」

「他の子はみんな抜けられない仕事が入ってて、ヴィータは確か有休を消化するために休めって言われてるよね?」

「たしかにそうだけどよ」

 

なぜこんな状況に陥っているのか。

大した理由ではない。

フェイトに執務官としての仕事で、長期出張の仕事が入った。

これ自体はそれほどないことではない。

この広い次元世界において、ただでさえ人員不足な管理局においても執務官というのは、希少な人員で交代要員が少ない。

遠くの世界に行かなくてはならなくなれば、往復、それに現地での作業とひと月自宅に帰れないこともざらだ。

誰にでもわかることであった。

問題は、その執務官殿が現在子どもの養育をしており、その子供が特殊な事情を抱えているために預け先が限られるということだろうか。

 

「いつもみたいにリンディさんところでいいじゃねえか。エイミィだっていんだろ……」

「それが、地球の近くで次元嵐が起きているみたいで、今渡航が不可能なんだよね」

「マジかよ」

 

フェイトが他のがダメだったと言うということは、自分はむしろ最後に近い選択肢だったのだろう。

まあ、わかる。

お世辞にも大人っぽいとは言えない容姿だし、性格もガキっぽい。

そもそも、子供とまともに接したことがあっただろうか。

一応、はやてやなのはたちとは子供のころからの付き合いだが、彼女らが一般的な子供と呼べるか怪しいところだ。

 

「あたしがとか無茶じゃね?」

「だいじょうぶ。あの子は賢いから。本人は一人暮らし余裕っていうんだけど」

「いや、さすがにだめだろ」

 

ヴィータでもわかるむちゃくちゃな話だ。

常識的に考えてダメだろう。

 

「私も一人でも大丈夫だとは思うんだけど、何かあったらと思うと……ああやっぱり別の人に仕事をまわして……」

「わーったよ。あたしでも本当に大丈夫なんだろうな?」

「うん。何かあった時に頼れる大人さえいてくれれば、問題ないと思うから。本当にありがとう」

 

喜びをあらわにしたフェイトが手を掴んで大きく上下に振りまわす。

 

「やめろ!」

「ああ、ごめん。不安だったことが解決したから。ヴィータは毎日顔を見に行ってくれるだけでいいから。一緒にいてくれてもいいけど」

「いや飯とかどうすんだよ?」

「うん?いつも自分で作ってるよ。とっても美味しいんだよ!それに栄養バランスもばっちり!」

「はぁ?」

 

どんな子供だ。

さすがに一桁歳のガキを一人にしとくのはまずいだろ。

この日、ヴィータの休日の過ごし方が決まった。

 

 

 

 

「じゃあ、よろしくねー!」

 

結局、ヴィータの住まう八神家に子供、レクサスは預けられることになり、ヴィータは家で子供の面倒を見ることになった。

そして、フェイトは子供を任せるとさわやかに去っていった。

 

みんな忙しいの言葉に間違いはなく、このひと月ばかりは帰ってくるのが大分遅くなるだろうことが予想されていた。

或いはそもそも帰ってこないか。

さすがにヴィータもひと月は休めないが、定時には家に帰れる程度の予定だった。

なお、はやての護衛として付き従っているザフィーラに子供を預ける選択肢はなかった。

言ってみれば、使い魔ポジションで役職についていないので、いつでも休めるのだが、ヴィータでも思った。ないな、と。

 

(子供の世話してる様子が思い浮かばねえ。いや狼の姿ならありうるけどそれって、なあ?)

 

かくしてヴィータの子育てが始まったのである。

 

 

 

 

(なに言ったらいいかわからねえ)

 

レクサスはヴィータを見つめていた。

それはもう、じ~~~っと吹き出しが見えてきそうなほどに。

自分の何がそれほど視線を集めるというのか。

 

「よろしくねヴィータおねいさん!」

 

にぱあ、ちょっとあざといほどににっこにこな笑顔だった。

眩しい笑顔にちょっと引きながら「お、おう」としか返せないヴィータだった。

 

「あー、なんだどうするよ?」

 

自分からあれしようこれしようというのを諦めて、本人に選択させてみることにした。

 

「ゲーム持ってきたから一緒にやろうよ」

「ゲームとかやるの久しぶりだな。手加減しろよ?」

「大丈夫。操作とか簡単な奴だから」

 

 

「つええな……」

「おねいさんも強いよ?」

「世辞はいい。次は勝つ!」

「わーい」

 

 

「お姉さんおいしい?」

「ギガうめー。はやてに匹敵するぞお前」

「よかったーにへへ」

 

 

「じゃあ電気消すぞー」

「おやすみなさい」

「おう、おやすみ」

 

 

翌日

 

「んあー、そういえば一緒に寝たんだったか」

「んにうー」

 

朝起きて、寝癖の付いた頭を掻きながら、いつもと違うぬくい感触に現実を思い出す。

あたしがガキの世話とかなー。

平和な顔して寝てやがる。

こいつめ。

 

「ほっぺたやべえ……」

「ふみゃー」

 

布団を引っぺがしたせいか、ぬくもりを求めてヴィータに引っ付いていた少年のほっぺたをつつくと、子供特有の魔性のもち肌だった。

 

「子供っていうのもいいな……」

 

まあ、はやてが結婚でもしなきゃ縁がないんだろうけどな。

でもなー、はやてが結婚とかしたらあたしらどうなんだろ。

まあ、未来のことは分からんか。

気にしてもしゃーなし。

 

「ほれ起きろー」

「うなーあと半年……」

「おまえは冬眠でもする気か?」

「ぬおーやめろー」

 

苦笑しながら頭をわさわさしてやれば、まだ眠りたりないのか、手から逃れようとあっちこっち頭が動き回る。

なんだかおもしろかった。

 

「うぬ」

「起きたか」

「おはようヴィータ」

「なんか昨日と違くないか?」

 

眠気まなこなせいなのか、どうにも昨日のキラキラオーラを感じない。

微妙に居心地が悪い感じの奴。

 

「初日ぐらい媚を売ってみたがいかがだったろうか。感想をいただきたい」

 

まじかこいつ。

アレ演技かよ。

過保護なフェイトが一人残して出かけても安心していられる理由を垣間見た。

 

「うぬ、己は基本的に、能動的には動きたくない。あのキャラはとても疲れる。アニメで見た子供。何故子供とはあれほどにパワフルなのか。しかし、初日ぐらいはがんばってみた」

「おい子供。あーなんて言ったらいいかわからねえ」

「では寝よう」

「いやもう朝だろう」

「ともに二度寝という至福を味わおう?」

「あー、それも悪くないかもな」

「では」

「まあ、起きるけどな。そんであたしが起きるんだからお前も起きろ」

「うーさすがにフェイトと同じようにはいかない」

「フェイトの奴、誘惑に負けるのかよ……」

「むしろ自主的に二度寝に入る?」

「休みじゃあ仕方ねえか?忙しくて疲れてるだろうしな」

「家のことは己が終わらせておく、フェイトは己をかわいがることに精を出せばいい」

「それもどうなんだ?」

「フェイトは雑事に煩わされず己に癒される。己はかまってもらえて満足。うぃんうぃん」

「ガキに世話されてんのかよ。あいつ……」

 

それは一人にしといても不安は覚えないわ。

むしろ、手が空く分負担減な可能性すらありやがるぞ。

大丈夫なのかフェイト。なんだかフェイトの今後が心配になるヴィータであった。

 

 

 

 

「で、昨日のが演技だとすると普段は何やってるんだ?」

「一般的な家事と、昨日とあまり変わらずごろごろ?」

「やっぱやってんのか家事。どこで覚えたんだよ……」

「生まれた時から?知識だけは豊富」

「あ?あーそうかお前プロジェクトFだったか」

「うぬ」

「おまえ、なんか思うところねえのか?」

「科学者が馬鹿すぎてツライ」

「はあ?」

「己は実験的も実験的につくられている。正直よくまともな生き物が誕生したと我ながら思う」

「どういういみだ?」

「現存する偉人の遺伝子を適当に勘だけでミックスし、なんかいけてしまったので誕生したのが己」

「まじか」

「現実が奇すぎてツライ。そんな馬鹿が科学者であることがツライ。そんな馬鹿が貴重なデータいっぱい持ってたのがツライ」

 

人生の汚点であると言い切りやがった。

そこまで言われる科学者にちょっと興味がわいたぞ。

 

「なんか大変だったな」

「今はフェイトに甘やかされる日々を享受しているので問題ない。ヴィータも存分に甘やかしてくれていい。甘やかしセンサーに反応があるからヴィータもきっと大丈夫」

「なんだその珍妙なセンサーは」

「己を甘やかしてくれそうな人に反応する勘。勘と言うところが生みの科学者を思い出して微妙なのでセンサー」

「お前その科学者本当に嫌いなのな」

「死ねばいい」

「そこまでか」

 

ちょっと戦慄した。年齢を考えると大した接触期間でもないだろうに、そいつはいったい何をしたというのか。

聞きたいような聞きたくないような。

 

「というわけで、いっしょにごろごろする」

「どういうわけだよ。いや、まあ、いいけどな……」

 

 

 

 

「マジでごろごろしかしなかったな今日」

「今日もとてもいい日だった」

「そうかよ」

 

普段の休日と大して変わらなかった気がするヴィータである。

テレビ見ながらお菓子を食べる。

完全にいつも通りだった。

違うのは、抱き枕が人間だったこと。

気が付くと抱き枕にしている辺り何か特殊な力でも働いていたのだろうか。

問題なのは子供の体温が思ったより心地よくて、すぐ眠くなったことだろうか。

昼寝とか何年振りだよ。

 

「きょうは何食べる?」

「ああーなんでもいい。つーかお前がなに作れるかあたし知らねえし」

「大体なんでも作れる。レシピがあるならなおよい。あと、準備に数日かかるものはあらかじめ言っておいてほしい。当日でも不可能ではないけど、さすがに面倒」

「できんのか」

「できる。魔法は万能」

「そんなしょーもないことに使うなよ」

「う?魔法は雑務処理用?」

「いやちげーだろ」

「掃除も洗濯もこれ一つで完璧にこなせる」

「まじか、魔法スゲエ。じゃなくてお前がすごいんじゃねえのそれ?」

「さあ?他人と比べることに興味はない。ただ、仮にも偉人系遺伝子を継いでいる。よほど失敗してない限り何かしらには秀でている」

 

あたしは少なくとも魔法で掃除とかできない。

ついでに料理も手伝いぐらいしかしたことねえから、一人じゃできねえ。

できるシャマルはたまにするミスが致命的だから、台所には入ってほしくない。

見た目とか普通だからたちが悪い。

せめてまずそうに作れよ。

 

 

 

 

「オムライスか……」

「ふわとろー」

「プロかお前」

「なお、己はふわとろより薄焼き卵の方が好き」

「じゃあなんでこれにした?」

「技術力アピール?」

「たしかにすげえけど」

 

一時期流行った、オムレツ開くふわとろオムライス。

これって家で作れるんだな。知らなかった。

 

「くっうまい」

「いえー」

「このデミグラスソースが美味すぎる。いったい何入ってるんだ?」

「いろいろ、魔法で時短した」

「こいつまじで魔法を日常使いしてやがる」

「まほーちょーべんり」

「普通そんなに細かくつかえねえよ。細かく使う必要すらないしな」

 

ていうかこいつ、まだ年齢一桁っていうかあたしよりさらに小さいんだからいくつだ?

 

「おかわりあるよ?」

「食う」

 

とりあえず、飯に罪はない。

美味しくいただいた。

デザートはチーズケーキだった。

これも手作りらしい。

フェイトの奴良い生活してんな。

最近は忙しいから、はやての飯もあんまり食えてないしな。

 

 

 

 

 

「おら、今日は出かけんぞ!」

「えー」

「なんだよ不満そうだな」

「ごろごろこそ至高」

「否定はしない。もう何日も家でゴロゴロしてるだけじゃねえか。体壊すぞ」

「問題ない。日向ぼっこはしている」

「いや筋肉が落ちるだろう?」

「問題ない。電気パルスやその他技能で、トレーニングしている。己の筋力量は理想的」

「またか」

「まほうちょーべんり」

「まあ、それはいい。それでもたまには歩け」

「かまわないと言えばかまわない。しかしどこへ何しに行く」

「買い物でいいだろ。そろそろ食材が減ってきたし」

「買い物……そういえば買い物とは本来、スーパー的なものに行くのだった」

「いや、ほとんど一人暮らしみたいな状態で、なんで買い物について知らねえんだよ」

「さすがに幼児が一人で買い物に行くのは危ない。己の買い物はだいたいお使いを頼むか、通販が基本」

「そういえばお前子供だったな……」

「どこから見てもぷりてぃな幼児」

 

こいつがそんな普通のことを言うと、それだけで違和感を覚えてしまうのは毒されすぎだった。

 

「己、実は値切りという物に興味津々」

「いや、スーパーでそんなことすんなよ?」

 

ちょっと不安になったヴィータであった。

 

 

 

 

 

 

「やべえ。あたしが堕落する」

 

レクサスを預かることになってはや数日。たまっていた有給をある程度消化し、仕事に戻らなくてはならなくなった。

その時点で、家に一人置いておいても何の問題もないだろうことを理解できてしまったあたり、ヴィータも毒されていた。

時々遭遇した八神家の面々には、初日の媚びっぷりは披露せずに、しかし適度に甘えに行くのだから大したもの。

その間手持無沙汰になっている自分に気が付いて、愕然とするところまでワンセットだった。

懐に潜り込むその素早さに、戦慄が隠せない。

シグナムなぞは、子供の相手は得意ではないのだが、なんて言いながら頭をなでていた。

癖になる頭。今宵の手は頭を求めている。

そして何故かはやてにはやたらと気安かった。

「はやて、ちーっす」

レベルで気安かった。ついでに言うと甘えに行かなかった。

もしかしたら好みがあるのかもしれない。

お姉さんぶろうとしたリインは逆に捕獲されて、ヴィータも合わせて川の字になってごろごろした。

見ている目が珍妙な生物を観察している感が漂っていたことだけ気になった。

 

そしてまあ、預かっていることには違いないと、定時上がりで自宅に帰ると。

お風呂は沸いているし、食事もあとは仕上げだけな状態。

デザートも出てくる。

ついでに言えば、ほこりも落ちてないし窓もピカピカだった。

預かる前よりも、全体的に忙しい八神家の生活水準が上がっている気がした。

 

そんな日が何日も続くと、ふと気が付く。

これフェイトのことバカにできないんじゃねえの?

 

ガキに世話されてんのかよ……ガキに世話されてんのかよ……ガキに世話されてんのかよ……ガキに世話されてんのかよ……ガキに世話されてんのかよ……ガキに世話されてんのかよ……ガキに世話されてんのかよ……ガキに世話されてんのかよ……ガキに世話されてんのかよ……ガキに世話されてんのかよ……ガキに世話されてんのかよ……

 

かつて言った言葉が、己に返ってきているような気がした。

 

 

「な、なあ。なんかしてほしいこととかねえか?」

 

かといって何かできることがあるかというとそういうことはなく。

本人に聞いてみるしか残された選択肢はなかった。

 

「ほっぺちゅー?」

「ふ、ふざけんな」

「なぜ焦る?普通にじょーだん」

「そ、そうか。冗談か」

「頭、撫ぜれ」

「お、おう」

 

挙動不審なヴィータに深く突っ込んだりはせず、頭を突き出すレクサス。

ヴィータに甘えるという行為で、普段している添い寝とごろごろ以外のあまえ方が他に思いつかなかったのは秘密である。

ぎゅーもなんか違うし、膝枕はもっと違かった。

 

「髪さらさらだな……」

「子供ゆえ」

「あー終わりだ。終わり」

 

なんだか気恥ずかしくなってやめてしまった。

そういえば、ぬいぐるみのように扱うことはあっても、頭をなでることはしていなかったなと、思った。

 

 

 

 

そんな日々を過ごしていても終わりというのは来るもので。

 

「ヴィータ助かったよ。ありがとう」

「別に大したことしてねえよ」

「レクサスは一人で何でもできるけど、やっぱり子供だから」

 

安心感が段違いだったよ!とフェイトが言う。

絶対に一人でもたくましく生きていくだろうなと、ヴィータは思ったが、口には出さなかった。

 

「じゃあ、ヴィータにバイバイしようね」

「ヴィータ、ばいばい」

 

フェイトの背中にぷらーんと乗っかっていたレクサス。

 

「おう」

 

また来いよ。小さな声でそう告げて、うに、と返す声がした。

そうして小さくなっていく二人の背中を見えなくなるまで、なんとなく見つめ続けたのだった。

 

 

 

 

「ヴィータ寂しいんやろ?」

「べつに、んなわけねえし……」

「強がらなくてもいいのだぞ?」

「ちげえ!」

「あらあら、ヴィータちゃんも母性に目覚めちゃったのかしら」

「うるせえ!知るか!」

 

久しぶりに我が家に揃った八神家。

ビール片手に、最近忙しかったからと慰労会じみたことをしていた。

が、話題にされるのは、ここのところ預かっていたレクサスのことで。

みんながみんな、ヴィータをからかおうとしてくるのだった。

 

「あれが、一般的な子供ではないのは分かるがな」

「なんで、私にだけあたり強かったんやろか」

「いや、あれはあたりが強いとは違うんじゃ?」

「結局一度も甘えにこんかったしなぁ」

「聞いてみたら、なんか甘える気がしなかったというか、腹黒さを感じたらしいぞ」

「私のおなかは黒くないわ!」

「ええー最近のはやてちゃんは、ねえ?」

「ノーコメントです主」

「ノーコメント」

「みんなひどい!ザフィーラは私の味方やもんなー」

「……」

「ザフィーラまで!こうしてやる!」

「主、おやめくださいっ」

「はやてちゃん酔ってますねえ」

「一仕事終わったのだ。気を抜くことも必要だ。ザフィーラには悪いが」

「頑張れよザフィーラ」

『おまえたち……』

 

 

 

 

「はー酔っぱらうのは気持ちええな。そんじゃそろそろお開きにしよか」

「そうですね。リインももうだいぶ前から寝てしまっていますし」

「私がベッドに入れてきますね」

「たのむわー」

 

ビールの缶が散乱し、つまみもほとんど残っていない。

なかなか楽しい一夜であった。

 

「おっと」

「足元にお気を付けください」

「あぶねえぞ。はやて」

「いやー、酔っぱらってるなあ」

「大丈夫か?水持ってくる?」

「へーき、へーき。そや、ヴィータ」

「なにはやて?」

「今日は久々に一緒に寝よか?」

「……うん」

 

少し迷った後に、そう返事をした。

 

「うーん。やっぱりうちの鉄槌の騎士はかわええな!」

「はやて、酒くせえ」

「ヴィータも飲んでたやん。照れるな照れるな」

「照れてない」

 

顔が赤く見えるのは、酒気の所為か、それとも。

 




なぜや、これが書けて何故フェイトに甘えられないのか。
あとヴィータちゃんもかわいい。


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フェイトさんに甘えたい

ついに詐欺卒業さ。
誰も言わないけど筆者の中では、いつまでも甘えられなくてストレスだったのさ。
でもちょっと甘さが足りない気もするんだ。
みんなはどうだい?


 

「レクサスはここに居て。いいね」

「ああ、わかった」

 

レクサスの情緒を養うために、ミッドから離れた自然公園へと来ていた二人。

引き取られて幾分か経った結果、自分の能力の手綱を握り直すことができていたので、それによるストレスから随分と解放されて、精神的には落ち着きを見せていたが、それは人としての感情を養うことにはなっていなかった。

 

それで、とりあえず外との接触による刺激のために出かけようと、遊園地やその他娯楽施設を検討した結果、人が少ない方がいいということで自然公園が選択されたのだった。

 

レクサスの中には、幾人もの記憶があり、それぞれ時代や背景が違ったので、常識という物には疎かった。

結果的にそれらをどれも正しいと扱わないことで、一般人の振りをしていたのである。

新しく得た情報とそれらをくみ上げて今、レクサスという人格を形成している過程であった。

 

そんな裏背景がありつつ、実際に自然公園に訪れてみると、意外と年寄りの記憶が多かったせいか、それとも崩壊系世界の記憶のせいか、ことのほか自然公園というところを気に入った。

穏やかな表情が多くてフェイトも一安心であった。

 

しかし、そこで事件が起こる辺り、主人公体質である。

どちらかと言えばおそらくフェイトが。

具体的に何が起きたかというと、よくいる密猟者が、自然公園内の希少生物を狙って現れたのである。

応援を要請され、仕方なく、本当に仕方なく、レクサスを預け戦場へと向かっていったのであった。

 

「懐かしい。戦場の臭いだ」

 

自然公園の職員に、あまり構わないでくれるよう要請し、窓の外を眺めながらそんなことを呟いていた。

影を背負ったその雰囲気は、似合っていた。実に似合っていた。

おい、お子様。

レクサスにこの体での戦闘の経験はない、しかし記憶の中で戦っていないことは少なかった。

違法研究者たちが抽出したデータなんてものはそんなものだろうと、戦ったこともないのに不思議なものだと自嘲した。

戦いたいなどと欠片も思わない。

面倒だ。そう思っている。

だがなんだろうかこの胸の内に渦巻くもやもやとした感情は。

 

「戦えば答えは出るだろうか。なあ?」

「ちっ」

 

いつの間にか忍び寄ってきていた男に、答えを期待せず問いかけた。

大方人質でも取りに来たのであろう。

舌打ちしてこちらに掴みかかってこようとしていた。

だがこの身に刻まれた戦いの遺伝子は、そんな素人じみた存在にどうにかされるほど生易しくはない。

体に最適化されていなかろうと、人体のどこをどうすればどうなるかを知っていて、人外じみた能力があったのなら、たいていの敵は相手にすらならない。

男が気が付いた時には、肺の中身を吐き出していて、天井を見上げていた。

魔力によって強化された肉体は、男に認識できない程度の速さで殴りつけ、床にたたきつけることなど造作もなかった。

 

「そのまま、寝ていろ」

 

倒れた男の顎を蹴りあげると、男の意識は容易く闇に飲まれた。

記憶に刻まれた常識に従い思考が殺害へと傾いたが、なぜか泣き顔のフェイトの顔が浮かんでいた。

こんな敵にもならない敵のために、泣かせる必要はないだろう。

 

「ふむ、この程度の相手では戦った内にも入らんな。気分は晴れず、か」

 

そしてそのまま、窓の外を眺める作業に戻った。

 

 

 

「レクサース!大丈夫だった?逃げた密猟者が来たんだよね」

 

はて自分はなぜこの人間の、泣き顔が見たくなかったのだろうか。

 

「どうしたの?」

「いやなんでもない」

「もっと子供らしくしていいんだよ?」

「子供らしくはよく分からん」

「私に甘えてくれたらいいんだよ!」

 

まあ、それも悪くないか。

ぶらぶらと抱き上げられて、見上げたフェイトの顔にそんなことを思うのだった。

 

 

 

「なのはーそれでねレクサスがねー」

「はいはい分かったから。飲み過ぎだよフェイトちゃん」

「いいのーきょうはのむよー」

「そのレクサス君が待ってるんじゃないの?」

「アルフが見ててくれてるし、それに今日は遅くなれって言われたから」

「誰に?」

「レクサスに」

「へー……?」

「やさしいんだー」

「そっかー」

 

それは帰ってくるなということでは?

酔っぱらいの相手をしたくなかっただけ、となのはの中のレクサス像は言っていた。

 

「でも、よかったよ。レクサスがちゃんと密猟者を生かしていてくれて」

「あー」

「引き取ったばかりのころのレクサスならたぶんやってた」

「そこまで?」

 

なのはもレクサスの事情については、一通り聞き及んでいたため分からなくもないという思いもあった。

それと同時に、そんななのかというデータ以外をあまりよく知らないが故の疑問もあった。

付き合いも長く、執務官として下したフェイトの判断には疑問を挟む余地はない。

しかし、それでもまだ幼児と言ってもおかしくない子供がそれほどに殺伐としているというのはどうにも信じがたかった。

 

「うん。だってあの子、今でもたぶん敵は死ぬものだと思っている」

「資料は見たけど、入力されている記憶がほとんど戦乱期のものなんだっけ」

「たぶんね。本人はぐらかしているからどの程度正確に記憶にあるかわからないけど、ただの森林に涙を流すなんて相当」

「ひどい時代だったらしいね」

「だから、目を離しちゃいけないんだ。犯罪者にさせちゃいけない」

「……そうだね。私たちがもっと頑張らないと」

 

手にした魔法の力は誰かのために。

 

「暗い話はまた今度!さ、なのはも飲も」

「よーっし、今日は飲んじゃうぞー!」

 

 

 

 

「フェイトよ」

「どうしたの?」

 

珍しく言いづらそうに声をかけてきたレクサスに、フェイトが疑問を覚えるのも当然のことだった。

 

「うむ」

「?」

「その、だな。膝を貸してくれないか」

「膝?」

 

レクサスと膝の関係が、フェイトの中で線を結ぶことはなかった。

 

「日ごろから甘えろというだろう?調べてみたところ、膝枕というのが一番わかりやすい甘え方のように思えたのだ。やめろ、その顔は己に効く」

 

ぱああああ、と輝くような笑顔を浮かべたフェイトに、レクサスはその顔を直視することが難しくなった。

精神年齢の高さを自覚しているレクサスは、最近それを落とそうという努力を始めたのであったが、羞恥心と戦っていた。

まだ子供になり切れていないのだ。

 

「いや、やはり」

「どうぞ!」

「うぬ」

「どうぞ!」

「……しつれいする」

 

ささっと姿勢を整えて、ソファの上で膝をポンポンしだした。

レクサスはフェイトの圧力に屈した。

 

「膝枕とはこれでいいのだろうか」

「いいんじゃないかな?」

 

仰向けに、寝転がってみたものの、膝枕の経験なんて言うものはないので、何が正しいのかいまいちわからなかったが、フェイトがそういうならそうなのだろうと、納得した。

 

「そうか、胸が邪魔で顔がよく見えないな」

「そうだねちょっと邪魔かも」

「だが、まあ、悪くはないな」

「そう?ならよかった」

「フェイトの息づかいは、なんだか落ち着く」

「私もなんだかこの重さが落ち着く気がする」

 

しばらく、二人の呼吸の音だけが、空間を支配していた。

声を出すと、何かが壊れてしまうようなそんな気がしてしまうほど、落ち着いた雰囲気だった。

 

「なんだか眠ってしまいそうだ……」

「眠ってもいいよ」

「邪魔だろうに」

「甘えるってそういうことだよ」

「そう、か。そうか、も……」

「レクサス?」

 

くー、と可愛い寝息が聞こえてきた。

 

「寝ちゃったか」

 

フェイトは思う。ずいぶんと距離が近づいたものだと。

初めて会ったときはなんだかとても無理をしていた。

きっと、口に出していたこと以上に、不調だったのだろう。

言葉が落ち着くまで、紆余曲折があったけれども、本質は変わっていなかったように思う。

この子はきっと人にすごく気を使っていた。

その視線には、常に観察と警戒が含まれていた。

 

それに気が付いたのはいつのことだっただろうか。

その姿は、警戒する小動物というより、か弱い生き物と触れ合おうとする子供のようだったように思う。

つぶさないように、壊さないように、大事に大事にするように最大限の警戒。

フェイトの勘違いかもしれない。

でもきっと優しい子だ。それだけは間違いない。

 

「確かにちょっと邪魔かも」

 

自らの胸で、眠るレクサスの顔がよく見えないのが残念と言えば残念だった。

 

 

 

「うぬ?」

 

目を覚ますとずいぶんと息苦しい。

顔には何やらやわこいものが。

 

(ああ、あのまま寝てしまったのか)

 

ふしぎなものだ。フェイトの体温はなぜだか落ち着く。

自分はここに何故いるのか。

頭の中には、すでにこの世のものではない誰かの記憶に満ちている。

年代も性別も、区別はなく。

むしろ、人間ですらない記憶すら。

だから今いる自分は誰だっただろうかという疑問が、ふと湧いてくることがある。

昔は薬の影響で、ずいぶんと思考が制限されていたのだなと、良く思う。

軽く研究者を謀ったりしていたが、あんなものは誤差だろう。

違法研究者に人権なんてしゃれたものはない。

実験体にないのに奴らだけあるなんて不公平だから。

 

最近は色々なことを夢に思い出す。

大抵は戦乱の記憶。戦があるから、人間の記憶のコピーなんてことが許されていたのだろう。

とはいっても、まともに残っているものは少なかった。

読みだせないなら、人間に入れてみようとかバカの発想で、成功してしまっていることが悲しい。

そして目が覚めた時にはその時の記憶に引っ張られる。

 

いつかは、自分に興味がないといったが、自分がなかったから興味以前の問題だったというべきだったのかもしれない。

故に、他人に興味がなかった。

自分に興味がないものに、他人に興味なんて持てるはずもない。

そういえば、研究者を語る時に、理性的かつ客観的なこき下ろしでなく、感情的かつ憎々しげに語るようになったのは最近か。

この温かさを心地よいと思えるようになったのも、そのころ。

 

「寝ているのか」

 

嵌ったくぼみから、頭を抜き出すと気持ちよさげに眠る彼女の横顔が目に入る。

疲れていたのだろうか、まあ、疲れていたのだろうな。

 

「起こせばいいものを」

 

既に随分と時間が、経過しているようだった。

太陽が随分と赤く輝いている。

それを純粋に綺麗だと思った。

 

「これが情緒を養うということか」

 

綺麗なものを綺麗だと思えるようになる。

これも進歩。

 

「さて、己はあなたの願うとおりに成長できているか」

 

成長の仕方など選べるわけもなく、この間抜け面晒している保護者が笑っていられるように育ってくれればいい。

我がことながら、いい加減だ。

いや、我がことだからこそか。

 

「さて、夕食の仕度でもするか」

 

レクサスはフェイトを一瞥すると、キッチンへと消えていった。

ただその横顔は、誰も見るものはなかったが、確かな笑みを湛えていた。




いつの間にか、ずいぶんと遠くまで来てしまったようだ(ポイントやお気に入り数)
そして聞いてほしい。
短編ランキングを見てにやにやしようと思ったら、ランキングから卒業してしまっていた(愕然)
そうか、五話から短編には載せてくれないんだね。
知らなかったよ。
だからもう、連載にチェンジするのはいいかな。
この作品は短編なんだよ。
どんなに伸びても短編を貫くよ。
詐欺だと誰からも言われてないけど、あえて言おう。
詐欺である!


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