俺は貴女を守る剣となる(リメイク版投稿中) (凪里)
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第1章 アルザーノ帝国魔術学院テロ編
月光が照らすは蒼き髪


 この世界には魔術がある。しかし魔術は魔法ではない。

 

 身体を自由に浮かし空を飛ぶことは出来ないし、いきなり物を生み出したりすることも出来はしない。だがそれに近いことは出来る。例えば箒を浮かせそれに乗ると空を飛ぶことは出来る。素材を集めれば物によっては創り出せる。

 

 そんな魔術だが、その魔術が何に一番使われるかと言われればそれは人殺しだ。銃で一人を撃ち殺す間に魔術だと十人殺せる。魔術とは基本的には人殺しの道具なのだ。よって魔術を悪用する人間は多くいる。悪用する人間いるならばそれを止める人間もいる。魔王がいれば勇者もいるものだ。

 

 

「───はぁ……はぁ……クソッ!」

 

 三人の男はアルザーノ帝国フェジテの街を駆けていた。男の腕には短剣に絡みつく蛇の紋が彫られている。それはアルザーノ帝国に蔓延る魔術結社───

 

 天の知恵研究の紋章だった。天の知恵研究会はアルザーノ帝国を乗っ取ろうとする組織。つまりは悪だ。悪がいれば正義もいる。男達は一人の男に追われていた。初めは五人だったが既に二人殺られていた。

 

「路地裏に逃げ込むぞ!」

 

 三人の男は路地裏の奥へと逃げ込むと男達は裏路地の壁に背中を預ける。既に三人とも肩で息をしている状況だ。

 

「──撒いたか…!?」

 

 男達が周囲を見渡すが自分達を追っている者の姿は無さそうだった。

 

「ちっ…噂に聞く《月》が相手とは…」

 

「ま、まあ…なんとか撒けたみた───」

 

 男の言葉が紡がれることは無く赤い紅が飛び散った。

 

 残った男二人は、先程までいた仲間の方を恐る恐る見るがそこには倒れた仲間の姿がありその側にフードを被った男が手に剣を携え立っていた。その剣には赤い血がついている。

 

「クソがぁああああああ!!!」

 

「こいつ…!!」

 

 仲間を殺られ冷静さを失った男二人がその男へと黒魔【ライトニング・ピアス】を放つ。ライトニング・ピアスは軍用魔術。銃弾以上のスピードがある。二本の光がその男に向かって走る。

 

 

 

 光の線が男を貫いた。だが光が貫いたのはフードの男ではなく魔術を打ったはずの二人の男。フードの男は瞬時に男達の背後へと回り込み【ライトニング・ピアス】を同時に二発放っていたのだった。

 

 その場に倒れ意識を失う二人の男を尻目にフードの男がそのフードを取った。満月の夜、月の光が男の青髪を照らしていた。

 

「……ふぅ。任務完了。楽勝だったな」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 アルザーノ帝国魔術学院。その名を知らぬ者はアルザーノ帝国において誰一人としていない、有名魔術学院である。

 

「あ────寝みぃ……」

 

 

 とうに授業開始時間は過ぎているのだがその教室に教師らしき男の姿はない。その教室の一番前の席で一人の少年は眠そうな声を上げていた。

 

「眠そうだね。リアム君」

 

 その少年リアムに隣に座る金髪の少女が話しかけた。少女の名はルミア=ティンジェル。優しく素直な性格でスタイルもいいこともあり男子生徒からの人気は絶大だ。

 

「あー。ルミアかー」

 

「昨日遅くまで何かしてたの?」

 

 誰の目から見てもリアムの様子はいつもとは違い疲れきって眠そうだった。

 

「んーまぁちょっとな」

 

「??」

 

 ルミアはリアムの返答に疑問を感じたようだったがリアムは気にせず話を続ける。

 

「そういえばシスティーナは?」

 

「システィならあそこだよ」

 

 ルミアが教卓の前で歩き回ってる長い銀髪の娘を見た。

 

「……遅い!」

 

 少女は相当機嫌が悪そうに見える。彼女の名はシスティーナ=フィーベル。大貴族フィーベル家の令嬢だ。成績優秀、容姿端麗ともなれば男子生徒からの人気は絶大なものと思えるが気が強く口うるさく「お付き合いしたくない美少女」とされている。

 

「どういうことなのよ! とっくに授業開始時間過ぎてるじゃない!? もう職員室に言いに行こうかしら!?」

 

「何かあったのかな?」

 

 ルミアは首を傾げてみせる。

 

「まあ俺はこのまま来ないでくれると寝れるから助かるんだけどな」

 

 リアムが呑気に眠ろうとした所にシスティーナが近寄ってきた。

 

「なんですって!? リアム!?」

 

「うわっ…相変わらず耳いいな!」

 

 ちなみにリアムは学年トップクラスの成績を誇る。学院には女子生徒によるファンクラブもあるが、システィーナ、ルミアと言う学院でもトップレベルの美少女と仲が良いこともあり多くの男子生徒から妬まれている。

 

「貴方はもっとアルザーノ帝国魔術学院の生徒としての自覚を───」

 

 システィーナがリアムに説教を始める。これはいつもの光景でクラスの皆はまた始まったかという顔だ。

 

「まあまあ程々にね。システィ…リアム君も疲れてるみたいだし…」

 

「ルミア…貴方はリアムに甘いのよ! 夜遅くまでダラダラしてるから眠くなるのよ!」

 

「それにしてもヒューイ先生はなんで辞めたんだろうなあ」

 

「ちょっと話を逸らさないでよ!」

 

「でも本当になんでやめちゃったんだろう…ヒューイ先生」

 

 元々二組の担任ヒューイが突然の退職、よって非常勤の講師がやってくることになった。その非常勤講師の事をホームルームにやって来た大陸屈指の魔術師、セリカ=アルフォネアは「まあ、なかなか優秀な奴だよ」と言った。大陸屈指の魔術師にそこまで言わせるのだから生徒達は期待していたのだが…もう既に授業時間は残り半分もない。

 

「全く、この学院の講師として就任初日からこんな大遅刻だなんていい度胸だわ。これは生徒を代表して一言…」

 

「あー悪ぃ遅れたわー」

 

 教室の扉が開き、クラスの生徒皆が注目する。しかし入ってきた人物の様子は想像していたものとは全く違っていた。ずぶ濡れの服、擦り傷、あざ…青年の格好はとても教師には見えない。

 

「あ、あなたは─────ッ!!」

 

「違います。人違いです。」

 

「人違いなわけないでしょ!?」

 

 その男にシスティーナが喚き立てる。ルミアもその男の姿を見て驚いている。どうやらこの二人は知り合いのようだ。リアムがルミアに話しかける。

 

「なあ、ルミア? システィーナはあいつと知り合いのか??」

 

「う、うん。ちょっと…ね」

 

 ルミアは今朝の出来事をリアムに話した。システィーナと二人で登校していると飛び出して来た男にシスティーナが魔法でぶっ飛ばしその後ルミアにセクハラに近い行動を働いたというそしてシスティーナが再びぶっ飛ばしたようだ。

 

「そういうのはきちんと言わないとダメだぞ。ルミア」

 

「私は気にしてないから大丈夫だよ?」

 

「ルミアのそういうとこは直した方がいいと思うぞ…」

 

 リアムとルミアが今朝あった事を話している間も男とシスティーナの口論は続いていた。そして一段落すると男は教卓へと向かっていた。どうやら授業を始めるらしい。

 

「しゃーねーな。授業始めるかー。」

 

 クラス全体が静まり返り視線が男に注目する。静かな教室に黒板に字を書くチョークの音のみが響く。そして書かれた文字は…

 

 

 

 自習

 

 

 

「は?」

 

 クラスの者全員が黒板に書かれた二文字に驚愕する。

 

 

「一限目の授業は自習にしまーす」

「眠いから」

 

「ちょおっと待てぇええええええ!」

 

 教科書を手に取りシスティーナは男の元へと駆け出していた。

 

「お、ラッキー」

 

 リアムはこれ幸いと呑気に寝ることにした。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「あ、リアムくーん!こっちこっちー!」

 

 システィーナと食事を取っていたルミアがリアムの姿を見つけリアムを呼ぶ。

 

「ああ。今行くー」

 

 リアムは二人の元へ向かい、ルミアの隣に座った。リアムはとてつもない数の視線を感じていた。

 

(毎度の事だけど男の視線が…まぁ慣れたけど)

 

 それもそのはず、学院でもトップレベルの美女二人(一人は口煩いが)と食事など男子生徒が妬んでも仕方ない。実は一部の女子生徒もシスティーナの事を軽く睨んでいたりするが本人に気づく様子はない。

 

 リアムは食事をしながら二人と話しているうちに非常勤講師の名前がグレン=レーダスということ、また女子更衣室に入ってきたことを知った。

 

「とんだロクでなしだな…」

 

「ほんとそうよ!!」

 

「あはは…」

 

(それにしてもグレンっていうのか、あの非常勤講師。その名前どこかで…? んーグレン…グレン…)

 

 リアムが非常勤講師、グレンの事をどこで聞いたか思い出そうとしているとシスティーナがリアムに話しかけた。

 

「それにしても…」

 

「ん?」

 

「相変わらずたくさん食べるわね、あんた」

 

 確かにリアムの食事の量は多い。大盛りのサラダ、大盛りのビーフシチュー、大盛りのライス、コーンスープ二杯、さらにはデザートのいちごタルトが三つである。いくら食欲盛んな学生とはいえその食事の量は学年トップクラスである。事実食堂を見渡してもリアムより多く食べている生徒は一人もいない。

 

「まーなー食事は俺にとって至福の時間な…」

 

「ん? どうしたの?」

 

 リアムは急に話をやめ口をあんぐり大きく開けている。その様子をシスティーナが不審に思っていると

 

「失礼」

 

 グレンが一応断りを入れて空いているリアムの隣の席に座った。

 

「あ、あ、貴方…!」

 

「違います。人違いです」

 

 華麗にスルーしてグレンは食事を開始した。

 

「な、なんで…ここに座るのよ!!」

 

 システィーナがグレンのことを問いただすとグレンは料理を口に運びながら答えた。

 

「他に空いてる席ねーんだから仕方ねーだろ」

 

 確かに周りを見渡すと生徒で埋め尽くされている。楽しく三人で食事をしていたのが一転グレンが来たことでシスティーナは何も言えなくなった。会話がなくなり重苦しい空気のまま食事が続くかと思いきやとその空気を変えたのは以外にもルミアだった。

 

「先生ってずいぶん、たくさん食べるんですね?リアム君と一緒で食べるの好きなんですか?」

 

「ん?ああ、食事は俺の数少ない至福の時間だからな」

 

「ふふっ、リアム君と同じこと言ってますね」

 

「この、リア充と同じ?」

 

「誰がリア充だよ…」

 

 ルミアが積極的にグレンに話しかけるとグレンは普通に応じた。どうやら話しかければ応じるタイプのようだ。

 

「これでリア充じゃなかったらなんなんだよ」

 

「ふふっですね」

 

「ちょっ…ルミアまで」

 

「あはは、冗談だって」

 

 三人の楽しそうな会話を聞いてつまらなそうなシスティーナの姿があった。

 

「…ところで、そっちのお前。お前はそんなんで足りるのか?」

 

 グレンがシスティーナに話しかけた。グレンの事を嫌っているシスティーナも流石に話しかけられるとそれに応じた。

 

「余計なお世話です。私はこれで足りるんです」

 

 確かにシスティーナのメニューは薄くジャムを塗ったスコーン二つとルミアよりも少ない。

 

「午後の授業が眠くなって集中できないから、昼はそんなに食べないんです。まあ先生には、関係なさそうですけどね」

 

 システィーナが思いっきり皮肉めいた口調でグレンに言い放った。

 

「回りくどいな、ほれ」

 

 システィーナの皿にグレンがキルア豆を載せた。キルア豆はフェジテの名産の一つだ。

 

「ちょっ…何をっ!」

 

「欲しかったんだろ?」

 

「いや、私は…!!」

 

 食ってかかるシスティーナを完全に無視してグレンはフォークをシスティーナのスコーンに突き立て口の中へと放り込む。

 

「お、スコーンもなかなかうめーな」

 

「ああ───っ!! 何、勝手に取ってるのよ!!」

 

「いや、まあ等価交換ってやつ?」

 

「ど こ が 等価なの!? どこが!?」

 

 こうしてシスティーナとグレンはナイフとフォークでチャンバラを始めた。

 

 何事かと周囲から集まる痛い視線。ルミアとリアムは顔を見合わせ苦笑いをするしかなかった。

 




感想とコメントお待ちしております!
4巻の内容までが原作沿いでそこから先が完全オリジナル展開です。
これからよろしくお願いします!


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グレンVSシスティーナ

 グレンの授業態度は相当酷いものだった。遅刻は当たり前、当然講義をすることは無く自習。本人は教卓で毎時間爆睡。次第に黒板に書いていた自習の文字すらも適当になっており最近では入ってくるなり───

 

「あー今日もいつも通りなー」

 

 この一言だけ発しすぐさま教卓で寝始める。よくまあ毎時間寝れるものだと生徒達は思っていた。今ではグレンの授業の際はグレンが来る前から生徒は自習をしている。なぜこの男は非常勤とはいえこのアルザーノ帝国魔術学院の講師になれているのか本当に謎だった。

 

 

 

 グレンが非常勤講師となってから一週間がたったこの日。教室の雰囲気はいつもとは違っていた。漂うのは緊張感。

 

 自習する生徒などはこの場に一人もおらず全員がペンを起き教卓のグレンに注目している。但し決して授業をしているのでない。

 

「貴方にそれが受けられますか?」

 

「シ、システィ!だめ!早くグレン先生に謝って、手袋を拾って!」

 

 日々の適当な授業の連続に怒りが頂点に達したシスティーナがグレンへと左手に嵌めた投げつけたのだ。古来より左手を覆う手袋を相手に向かって投げつける行為は、魔術による決闘を申し込む意思表示となる。そしてこの投げつけられた手袋を相手が拾うことで決闘は成立する。

 

 烈火のような視線でシスティーナはグレンを真っ直ぐに見つめる。そんなシスティーナをルミアは止めにかかる。が、システィーナは全く手袋を拾おうとはしない。

 

「……お前、マジか?」

 

 流石のグレンも驚いた様子でシスティーナの事を見る。そこにはいつもの眠そうで気だるそうな顔などは全く見られず眉をひそめ、真剣な表情でシスティーナを注視している。

 

「大マジです。その野放図な態度を改めて、真面目に授業を行ってください!」

 

「…辞表を書けじゃないのか?」

 

「もし、貴方が───」

 

 システィーナとグレンの口論をクラス中がハラハラしながら見守っている。

 

「り、リアム君…システィが…」

 

 親友のシスティーナの事が心配なのであろう彼女の顔には心配な表情が見てとれる。それも当然だ。とある事情からルミアはシスティーナのフィーベル家に下宿している。言わば家族なのだ。その家族がこんな無茶をしているとなると心配も当然である。リアムも驚いた様子で二人のことを見ていた。

 

「流石に先生も決闘は受けないと思うけど…」

 

「だといいんだけど…」

 

 グレンがどんなにロクでなしであったとしても仮にもアルザーノ帝国魔術学院に非常勤だが講師として招かれるような人物だ。そんな男にただの学生に過ぎないシスティーナが勝てるような相手では無いはずなのだ。決闘を挑んだシスティーナでさえ事実軽く震えている。生徒達も全員がグレンは決闘を受けないで適当にあしらうと思っていたが…

 

「いいぜ。その決闘、受けてやるよ」

 

 グレンは目の前の手袋を拾った。クラス中が驚愕の目をグレンへと向ける。そんな中グレンがルールの提示を進めていく。

 

「じゃあ俺が勝ったら、俺に対する説教禁止な。それでいいな?」

 

「分かり…ました」

 

 システィーナの同意の言葉を聞いたグレンはさっと振り返り教室のドアへと向かっていく。

 

「ほら、さっさと中庭行くぞ? なんだ? 怖くなったのか? やめてもいいんだぜ?」

 

「だ、誰がっ! 貴方絶対に許さないんだから!」

 

 肩を怒らせてシスティーナはグレンの背中を追った。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 針葉樹が芝生を囲んだ学院中庭にて。グレンとシスティーナよ二人は互いに十本程の距離を空けて向かい合っていた。

 

「カッシュはどっちが勝つと思う?」

 

「心情的にはシスティーナなんだけどなあ…」

 

 クラスの生徒達の他にも、講師と生徒が決闘を行うという噂を聞きつけて集まった野次馬たちが二人を遠巻きに取り囲んでいた。

 

「システィ…」

 

 ルミアは心配そうな表情でシスティーナを見つめている。その横にはリアムがいる。

 

「心配すんな。大丈夫だって」

 

 グレンは余裕の表情を浮かべており対するシスティーナは真剣な表情で油断なく身構えている。

 

「おーい。いつでもいいぜ? ルール忘れたのかー? 一応言っといてやるがショックボルトのみだぜ?」

 

 グレンがシスティーナを小馬鹿にするがシスティーナはそれに食ってかかろうとはしなかった。静寂が中庭に流れやがてシスティーナが動く。覚悟を決めたシスティーナがグレンを指指して、呪文を唱えた。

 

「《雷精の紫電よ》───ッ!」

 

 システィーナの指先から放たれた輝く力戦は真っ直ぐグレンへと飛んでいく。その攻撃をグレンは得意げな表情で───

 

「ぎゃあああああああ──っ!?」

 

 まともに受けグレンはあっさりとその場に倒れ伏した。

 

「……あ、あれ?」

 

 システィーナは驚きのあまり指を突き出したまま固まった。

 

「え?」

 

 決闘を眺めていた生徒達もざわめいている。

 その後グレンがあーだこーだ言い訳をしながらシスティーナの決闘を続けるがグレンの惨敗。それもそのはずグレンには【ショック・ボルト】の一説詠唱が出来ないのであった。

 

「と、とにかく決闘は私の勝ちです。先生は明日から──」

 

「え? なんのことでしたっけ?」

 

「あ、貴方……ッ!?」

 

「とりあえず今日は引き分けってことにしてやるよっ! ふはははははははははは──!」

 

 そのままグレンは高笑いをしながら走り去っていった。何度か転びながら。

 

「最低だわ」

 

 システィーナはまるで親の敵のようにうめいた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 システィーナとグレンの決闘から数日立つがグレンの態度は一向に変わろうとはしなかった。やがて生徒達は自由に自習を始め、それぞれが勉強に励むようになった。

 

 ただでさえ担任講師が辞めたことで授業が遅れているのだ。それを差し引いても皆、元々が学習意欲が高い生徒達である。グレンの授業の時間を無駄にしたくないと思うのは当然のことであった。いつしかグレンの授業では自習というのが当たり前となっていった。

 

 

 そしてある日、その授業は決闘があった日と同じように雰囲気が違っていた。誰も自習をせずに教卓の前に立っているシスティーナとグレンを見ている。

 

 二人は魔術について口論をしている。システィーナが魔術が崇高であると称えた矢先グレンがそれに噛み付いたのがきっかけだ。魔術は崇高で偉大であると謳うシスティーナに対し、グレンは魔術はそもそもなんの役にも立たない。医学や建築学のように多くの人の役には立たないと称えている。

 

 確かに魔術は使える人には恩恵があるがそれはあくまで使える人、魔術師だけであって、魔術を使えない人には恩恵は魔術師程はない。この世界は魔術が使える人間ばかりではなく、全く魔術が使えない人も大勢いる。しかしグレンはこれまでの言い分とは全く違うことを急に言い出した。

 

「いや、すまんすまん。魔術は凄ぇ役に立ってわ」

 

 その言葉にクラスの生徒の視線はグレンへと向けられる。

 今更何を言ってんだ───そんなことを生徒達が思っていた矢先グレンが口を開く。

 

「人殺しにな」

 

 生徒達の背筋が一瞬にして凍る。グレンの姿は今までのふざけた非常勤講師とはうってかわり別人と化していた。

 

(人殺しねえ……)

 

 リアムは魔術が人殺しの道具と言い放ったグレンのことを静かに見つめていた。

 

(ただの非常勤講師が魔術を人殺しって言うかね…? ただの教師じゃないなこりゃ…)

 

 リアムはやはりどこかでグレンの名前を聞いていたことを確信しどこで聞いたかを必死に考えていると…

 教室にぱぁんと乾いた音が響いた。

 

「大嫌い、貴方なんか」

 

 システィーナはグレンの頬を掌で叩き教室を後にしていた。

 

「───ち」

 

 グレンはガリガリと頭をかきながら舌打ちする。

 

「あー、なんかやる気でねーから、本日の授業は自習にするわ」

 

 そう言い放つとグレンは教室を後にした。

 その日グレンは姿を表すことはなかった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 放課後、あたりの景色が赤く染まり始めた頃。

 

「さーて帰るか」

 

 リアムは帰ろうとして席を立つとカッシュやカイ達に別れを告げ教室を出る。

 

 すると廊下で突然リアムの手が誰かに掴まれる。優しい温もりのある手だ。

 

「!?」

 

 リアムは驚き振り返るとそこにはルミアの姿があった。

 

「リアム君、ちょっと手伝ってくれないかな?」

 

 話を聞くと法陣の復習がしたかったらしい。その手伝いをリアムに頼んだというわけだ。リアムが承諾するとルミアは笑顔でありがとうと言った。

 

(はぁ…ずるいなあ…)

 

 正直疲れが溜まっているので帰ってすぐ寝たいのだがルミアの顔見ると断ることができる筈はなかった。リアムはルミアと一緒に歩き始めた。

 

 

 

「おっかしいなあ…なんで上手くいかないんだろう?」

 

 二人が居るのは魔術実験室。床には法陣が描かれている。無論魔術実験室の個人使用は禁止だ。見つかったら只では済まない。それもハーレイ先生などに見つかったら大変だろう。

 

「なあルミア、それ水銀が…」

 

 リアムがルミアに話しかけようとした瞬間──

 ばんっ!

 

 突然魔術実験室の扉が開いた。

 ルミアとリアムは驚いて飛び上がった。

 扉の方を振り返るとグレンが立っていた。

 

「て、なんだよ、リア充かよ。邪魔したな」

 

 グレンがその場を立ち去ろうとすぐドアを閉める。

 

「ちょっと、待ってくださいよ」

 

 リアムが足をすぐさまドアに挟んでグレンを引き止めた。

 

「はぁ…なんだよ」

 

 グレンも帰るのを諦めドアを開き教室へと再び入ってくる。二人が事情を説明する。

 

「ふーん。なるほどねえ…」

 

「あ、ごめんなさい、すぐに片付け──…」

 

「いーよ」

 

「え?」

 

「もうほとんど完成してんじゃねーか。崩すのは勿体ねえから最後までやっちまえ」

 

 グレンは昼間とは違ってとても優しい言葉をルミアにかけていた。これにはルミアも少し驚いている。

 

「でも…上手くいかないんです」

 

「水銀が足りてねーだけだよ」

 

 そういうとグレンは水銀の入った壺を掴みあげると、水銀を手早く足していく。

 

「凄い…」

 

 あまりの手際の良さにルミアが感心していると

 

「よーし起動してみろ」

 

「は、はい」

 

 ルミアが法陣の前に立ち呪文を唱える。

 

「《廻れ・廻れ・原初の命よ・理の円環にて・路を為せ》」

 

 その瞬間法陣が光りだした。光が収まるとそこには七つの光と輝く銀が織り成す幻想的な法陣が現れていた。

 

 その、光景は美しく、神秘的なものであった。

 

「綺麗…」

 

 

 

 その後ルミアの提案により三人で一緒に帰ることになった。その帰り道システィーナとその祖父の事をルミアから聞いたグレンは

 

「……悪いことしたな」

 

 素直に反省していた。その後グレンの過去の話をしたり、ルミアが魔術を志す理由を話したりなんかした。

 

 ルミアの魔術を真の意味で人の力にしたい。という想いはグレンの心をちょっとだけ動かしていたがその事にルミアは気づいていない。

 

 その後も他愛ない話を続けているとグレンのその言葉が唐突に訪れた。

 

「それで、お前らって付き合ってんの?」

 

「ブフォッッ!」

 

「おいおい、きったねえな!」

 

 唐突にグレンがそのような事を二人に聞いた。

 リアムは飲んでいたジュースを吹き出す。

 そんなリアムのことをグレンが呆れる。

 ルミアの顔は赤くなっている。

 

「ち、違います…」

 

「俺にルミアは勿体ないですよ」

 

 リアムの一言でルミアは一瞬さらに赤くなったがその事に二人は気づいていない。

 

「ふーん……まあいいや」

 

 その後も他愛も無い話が続きやがて三人はそれぞれの家へと帰っていった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「昨日は───悪かった」

 

 次の日、生徒達は信じられない光景を目にしていた。

 なんと、グレンが授業開始時間前に教室に居て、システィーナに謝っているのである。

 

「……え? あ、は…はい」

 

 謝られたシスティーナは信じられないものを見たと言う表情だ。

 クラス中に動揺が走る。あれは本当にグレン=レーダスなのかと。

 グレンは教卓へと向かって行き静かに立っていた。

 やがて予鈴がなる。今日も適当な感じだろうと皆が思い思いに自習を始めようとする。

 そんな中教卓に立っているグレンが発した言葉は予想だにしないものであった。

 

「じゃ、授業を始める。早速だがお前らって本当に馬鹿だよな」

 




『青髪天才魔術師と禁忌教典』を読んで下さっていた方の多くがリメイク版の今作を読んでいただいてるようで非常にありがたいです!
また、今作から初めて読むという方もおられるようでとても有難いです!
三月中には加筆修正部分を終えたいなとは思っています!出来たら新話投稿も出来るかな?という感じです。


次回。グレン、覚醒───


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興味無い奴は寝てな

お久しぶりです、投稿遅れて申し訳ありません!!
引越しをしてて忙しくあまり書けていませんでした!
引越しは終わったのでこれからはもっとペースを上げて書いていきたいと思います。よろしくお願いします!


「早速だがお前らって本当に馬鹿だよな」

 

「「「はぁぁぁ???」」」

 

 期待せずとも何だかんだグレンの話を聞いていたクラスの生徒から不満の声が上がる。

 

「いやいやだってそうだろ? お前らの授業態度見てたら分かったわ。魔術の事なんにも分かってねーんだな。魔術の書き取りなんてアホみたいな真似して魔術の勉強しているつもりになってるんだからな」

 

 今、まさに羽ペンを手に教科書を開き、書き取りをしようとした生徒達が硬直する。

 

「ふん。【ショック・ボルト】程度の一節詠唱もできない三流魔術師に言われたくないね」

 

 あちこちからクスクスと押し殺すような侮蔑の笑いが上がる。

 

「まあ確かにそれを言われると耳が痛い。俺には略式詠唱のセンスは皆無でね」

「だが【ショック・ボルト】程度だって? いやーほんとお前らバカだわ。丁度いいから今日はその【ショック・ボルト】について話そうか」

 

「今さら、【ショック・ボルト】なんて説明されてもね…」

 

「【ショック・ボルト】なんてとっくの昔に究めてまーす」

 

 生徒達から不平不満の声が上がる。

 

「ほう? じゃあ【ショック・ボルト】を究めてる君達に問題だ」

 

 《雷精よ・紫電の・衝撃以て・撃ち倒せ》

 

「さて、これを唱えると何が起こる?」

 

 沈黙。

 

「これはひどい。まさか全滅か?」

 

「何が起こるか分かるはずなんてありませんわ! 結果はランダムに決まってますわ!」

 

 クラスの生徒の一人、ツインテールの少女。ウェンディがたまらず声を張り上げ、机を叩いて立ち上がる。

 

「ランダム!?お前らこの術、究めたんじゃないの!? ぎゃはははははははっ!」

 

 ひたすら人を小馬鹿にするように大笑いするグレンにクラスの怒りは最高潮に達していた。

 

「もういい。答えは────」

 

 この時ルミアの隣りに座るリアムが隣のルミアですら聞こえるかどうかという小さな声で呟いた。

 

「右に曲がる」

 

「───えっ?」

 

 ルミアは不思議そうにリアムの事を見る。

 リアムの発言に気づいていないグレンはそのまま続けた。

 

「右に曲がる、だ」

 

 グレンが四節になった呪文を唱えるとグレンの宣言通り力線は大きく弧を描くように右に曲がって壁へと着弾する。

 

「嘘っ!?」

「ま、マジかよ…」

 

 クラス内が騒然となる。

 ルミアは一際驚いたようにリアムの方を見ていた。

 そんな中グレンは話を続ける

 

「このように五節にすると…」

 

 グレンはチョークで更に節を切る。

 

「射程が三分の一」

 

 これまたリアムが先に小さな声で呟く。

 

「射程が三分の一になる」

 

 これまたグレンが宣言したのはリアムが言ったのと同じ答えだった。

 

「お前ら今までは魔術式を覚えるのに必死で、根本的な部分については二の次だったろ」

 

 グレンの言う通り生徒達は魔術式を覚え習得した呪文の数を競い、誇ってきた。根本的な事を突き詰め考える余裕は今まで無かった。

 

 

 つーわけで、今日、俺はお前らに、【ショック・ボルト】の呪文を教材にした術式構造と呪文のド基礎を教えてやるよ。ま、興味ない奴は寝てな」

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

「んじゃ今日は終わりなー」

 

 そう言い残しグレンは教室を退室していった。

 生徒達はそれを放心したように見送る。

 扉がしまった瞬間生徒達は一斉に板書をノートに取り始めた。

 

「なんてこと……やられたわ」

 

 システィーナが顔を手で覆って深くため息をついた。

 

「まさか、あいつにこんな授業ができるなんて……」

 

「そうだね……私も驚いちゃった」

 

 隣に座るルミアも目を丸くしていた。

 

「あ、そう言えばリアムく……ん?」

 

 ルミアがリアムの方を見るが既にリアムは教室を後にしていた。

 

「あれ? リアム君は?」

 

「そういえば居ないわね? 講義の時には居たんだけど…? リアムがどうかしたの、ルミア?」

 

「ううん。なんでもない…」

 

「?」

 

 システィーナは首を傾げるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 今までダメ教師として学院に名を馳せてたグレンが一転。今ではグレンの授業の質は学院一と言われるほどになった。

 そんな訳でグレンの授業は大盛況。今では他のクラスの生徒が見に来るのは当たり前。立ち見の生徒まで出るほどである。

 必然的にグレンの人気もうなぎ登りだ。

 

 そんなある日事件は起こった。

 その日学園の教授や講師達は魔術学会へ出ており学校は休講であったが、グレンのクラスはグレンの前任ヒューイが突然失踪したため、その授業進行の差を埋めるべく授業が入っていた。

 つまり、この日授業があるのはグレンの担当クラスだけで他の生徒や講師は誰もいない。

 

 そしてその時────

「《ズドン》」

 光の線が校舎を貫いていた。

 



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改めまして

「…遅い! 凄くいい授業をするから、少しだけ。ほんっの少しだけ見直したらすぐこうなんだから!」

 

 システィーナは苛立っていた。

 それもそのはず、授業の開始時間を二十五分も過ぎているというのに担当講師のグレンは姿を見せない。

 

「でも、珍しいよね?グレン先生、最近は遅刻せずに頑張ってたのに」

 

 隣に座るルミアも首を傾げている。

 

「あいつ今日が休校日だって勘違いしてるんじゃねーか?」

 

「流石のグレン先生でもそんなことは……ない、よね?」

 

 リアムの発言をグレンの事を誰よりも信頼しているルミアでさえ、流石に否定はできない。

 最近態度は良くなったとはいえ、つい数日前までの授業態度を考えると遅刻はありえる話だ。

 

「!?」

 

 突然ルミアの隣の席に座るリアムが何かに気が付き驚いたような表情になる。

 それを不審に思い二人が声をかける。

 

「リアム君? どうしたの?」

 

「ん? あ、いや…………お腹が痛いなあ…なんて」

 

 リアムがお腹を抑え苦しそうな表情を見せる。

 だが表情は固くその様子はどこか違和感しかなかった。

 

「? 朝から食べ過ぎなんじゃないの…?」

 

「大丈夫?」

 

「あ…あぁ…ちょっとトイレ行ってくるわー!」

 

 リアムが立ち上がると教室を飛び出していこうとする。

 

「先生がいつ来るか分からないから早く帰って来なさいよー!?」

 

 システィーナがリアムに声をかけるとリアムは分かったと手を挙げる仕草で答えそのまま教室を出ていった。

 

「まったく困ったやつだわ…」

 

「まぁまぁ。誰だって体調を崩す時はあるし」

 

 ルミアがリアムのことをフォローする。

 

「体調管理は大切な事よ! それにしてもグレン先生は何してるのかしら! 先生が来たらとにかく一言言ってやるわ!」

 

「あはは…システィ落ち着いて」

 

 ルミアがシスティーナを宥めていると…教室の扉が乱暴に開けられた。

 大遅刻で焦って走ってきたグレンかと思い生徒達が扉の方へ注目するが教室に入ってきたのはグレンではなかった。

 

「邪魔するよー」

 

 突然現れたのは謎の二人の男だった。黒い服を纏い危険人物だと見て明らかに分かった。

 

「ちょっと貴方達、何者なんですか?」

 

 システィーナが男に食ってかかると男が指を突き出す。

 

「《ズドン》」

 

 男が小さく呟くとシスティーナの顔の真横を光の線が走る。

 システィーナが後ろを振り向くと小さな穴があきその穴からは外の景色が見える。

 システィーナは汗が止まらなくなった。

 

「……え?」

 

 男が放った呪文は黒魔【ライトニング・ピアス】。軍用の攻性呪文である。さらに男は短く切り詰めた一節詠唱で放ったのだ。

 この男の技巧の高さが分からないものなどこの教室において一人もいない。

 

「おい、システィーナ!さがれ!」

 

「ちょっと黙ってくんない?」

 

 システィーナに声を掛けるカッシュ。すると男は【ライトニング・ピアス】を三連続機動した。

 壁に外まで続く小さな穴がいくつも空いていた。

 この男には決して勝てない、例え全員で束になってかかったとしても───クラスの全員がその事を認識した。

 生徒達は恐怖のあまり誰も動けなくなった。システィーナも恐怖のあまりその場に座り込んだ。

 

「お、いい子じゃん。それで俺たちさ、一人女の子探しているんだけど───」

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

「学校にテロ仕掛けるとか…恐らくアイツらだな。ほんと狂ってんな」

 

 廊下を走っている一人の少年がいた。

 

 リアムである。

 リアムは不審人物が学院の中に入ってきたのを感知するとトイレに行くと嘘をつき教室から出て身を隠していた。

 そして教室を遠見の魔術で確認し、学院に入ってきた男達が天の知恵研究会と仮定する。

 

「狙いはルミアか…」

 

 リアムは遠見の魔術を二反響唱してダークコートの男がルミアをチンピラ風の男がシスティーナを攫ったことを確認した。

 

「さらに学院内にあと一人…それとあと黒幕が一人か」

 

(黒幕はさっき魔力発信の符呪で確認したが…あの位置…ルミアを転送するつもりか)

 

 黒幕が分かっても相手は四人、さらにそのうちの一人ルミアを攫った男は特に手練だ。一人では頭数がどうしても足りない。

 リアムがどうしようかと悩んでいると学院内を見ていた遠見の魔術が一人の男を捉えた。

 

「……!」

 

 グレンであった。

 確認するとグレンはシスティーナが連れ去られた部屋へと向かっている形となっている。

 

(システィーナは先生に任せるしかないか…)

 

 リアムはグレンに、システィーナを任せルミアを取り戻すことを決めた。

 ()()の事を考えるとそれが一番正しい選択だろう。

 リアムはそう考えていた。

 

(女王陛下直々に受けた任務だ。失敗するわけにはいかない)

 

 

 

 

「誰だ…!」

 

 走るリアムの耳に一人の男の声が聞こえてくる。

 

(見つかったか…!)

 

 リアムの前に一人の男が現れリアムの姿を確認すると男はリアムに対して問いかけた。リアムは足を止めた。

 

「ただの学生ですよ?」

 

 リアムが適当に流す。

 

「ガキが…どうやって抜け出した!」

 

「さーね?」

 

「後悔すんなよ?……クソガキ!」

 

 男は左手を振りかぶると呪文を唱える。

 

「《炎獅子よ》」

 

 男が唱えた魔術は黒魔【ブレイズ・バースト】。収束熱エネルギーの球体を放ち、着弾地点を爆炎と爆圧で薙ぎ払う強力な軍用呪文だ。

 魔術はリアムへと一直線に飛来しリアムは爆炎に飲み込まえた──そう思われたが

 

「なっ…」

 

 そこにリアムの姿は無かった。

 

「遅い」

 

 リアム男の背後に既に回っていた。

 男は瞬時に避けようとするが避けきれない。

 

「《雷槍よ》」

 

 男の肩を【ライトニング・ピアス】が貫く。

 男が肩を抑え距離をとった隙にリアムは錬金術で手早く剣を創り出す。

 

「軍用魔術…!? それに錬金術での高速錬成!? 貴様、ただの学生ではないな…!?」

 

「さーね?」

 

 剣を構えたリアムが地面を蹴り男に一気に詰め寄る。

 リアムが男に斬りかかったその時。

 リアムと男の間の空間が揺らぎ出すと

 無数のボーン・ゴーレムが現れリアムの攻撃を阻んだ。

 

「ちっ…あのコート野郎か」

 

 召喚【コール・ファミリア】。本来は、小動物のような小さな使い魔を呼ぶ召喚魔術だが、この術者は、ボーン・ゴーレムを、使い魔として、更には遠隔で連続召喚するという離れ技を行っている。

 

 ボーン・ゴーレムがリアムに襲い掛かる。

 リアムは次々とゴーレムを斬り倒すがゴーレムの数は数十体に及びさらには魔術師一人も相手にしなければならない。

 

「《雷槍よ》」

 

 男の【ライトニング・ピアス】がゴーレムの間をすり抜けリアムへと迫る。

 するとリアムはボーン・ゴーレムの頭を掴むとその上に逆立ちするようにして攻撃を避ける。

 そして空中から魔術を唱える。

 

「《炎獅子よ》」

 

 爆炎が男を襲うがその爆炎はボーン・ゴーレムが盾となり防ぐ。

 その隙に男が回避するがその回避した先をさらに爆炎が襲う。

 

「なっ…《光の障壁よ》」

 

 男は咄嗟に対抗呪文を唱えて、魔力障壁で爆炎を防いだ。しかしここで隙が生まれる。

 

「終わりだ」

 

 その隙を見逃すリアムではなかった。

 後ろに回り込んでいたリアムが剣で男を斬り裂いた。

 男は倒れ込んだ。勝負ありだ。

 リアムが指をパチンと鳴らすとゴーレム達を炎が襲った。

 

「この俺が学生ごときに……お前二反響唱(ダブル・キャスト)までこなすとは…何者だ…?」

 

 リアムは男に寄って答えた。

 

「俺か?俺は─────」

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 

「《我は神を斬獲せし者・我は始原の祖と終を知る者・──……」

 

「……え? 嘘……? その呪文は……」

 

 システィーナを助け出したグレンはシスティーナと共に無数のボーン・ゴーレムと対峙していた。

 システィーナの【ストーム・ウォール】により進行速度が落とされたゴーレムに対してグレンが両手を突き出し呪文を唱えていた。

 

「《其は摂理の円環へと帰還せよ・五素より成りし物は五素に・象と理を紡ぐ縁は乖離すべし・いざ森羅の万象は須く此処に散滅せよ・遥かなる虚無の果てに》───ッ!」

 

「ええい!ぶっ飛べ、有象無象!黒魔改【イクスティンクション・レイ】───ッ!」

 

 グレンが放った高等呪文はゴーレムの群れに加え天井、壁までも消滅させていた。

 だがグレンもその場に倒れた。

 

「先生ッ!?」

 

 システィーナがすぐに駆け寄る。

 グレンの顔色は酷くマナ欠乏症に陥っていた。駆け寄ってきたシスティーナにグレンが応える。

 

「おい、白猫。俺に構ってる場合じゃねえ…今すぐここを離れ…」

 

 グレンは言いかけるが聞こえてきた足音に苦い顔をした。

 

「ちっ…離れる暇なんて与えてくんねーよなあ。くそ」

 

 二人の前に姿を表したのはダークコートの男レイクだった。

 その背後には五本の剣が浮いている。

 

「貴様はここで仕留める」

 

「あー、もう浮いてる剣ってだけで嫌な予感がす…」

 

 刹那。グレンとシスティーナの間を一筋の光が駆け抜けた。

 光はレイクに向かって一直線。

 レイクに当たる直前に二本の剣がレイクの前でクロスする形でその光を防いだ。

 

「……貴様か」

 

 レイクが苦い顔をした。

 レイクはグレン以上に一人の男を警戒していた。

 あの教室からどういう訳か抜け出し、自分が差し向けたボーン・ゴーレムと魔術師一人をもってしても及ばなかった───

 

「今のは…【ライトニング・ピアス】!?」

「新手か…っ!」

 

 システィーナとグレンが驚き振り返るとそこには予想だにしない人物が立っていた。

 整った顔立ちに鮮やかな青の短髪───

 

「リアム!? 何であなたが!?」

 

  その場に居たのはリアムだ。その右手には一振りの剣が握られている。

 

「もう少しやれます…よね?《愚者》のグレンさん?」

 

 グレンが驚いた顔でリアムの事を見る。

 《愚者》というワードにレイクも驚いた顔でこちらはグレンのことを見ていた。

 システィーナは何のことかさっぱり分からないという顔をしている。

 

「おまっ…何でそれを…!? ……何者だ」

 

 グレンが警戒の表情をリアムへと向ける。

 システィーナは何故リアムがここに居るのか、何故グレンがリアムを警戒しているのか全く理解ができなかった。

 

「そう警戒しないで下さい…()()

 

 リアムはそう言うと丈長の黒いローブを制服の上から羽織った。

 それは帝国宮廷魔導士の礼服───

 

「改めまして俺は帝国宮廷魔導士団特務分室所属、執行官ナンバー18《月》───」

 

「リアム=ロディウス。以後お見知り置きを!」



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自分の為に

お久しぶりです!
今回長めですがよろしくお願いします!


「なっ…!? お前…宮廷魔導士団だったのか…!? しかも特務分室だと!?」

 

 グレンは驚きの顔でリアムを見つめている

 

 帝国宮廷魔道士団特務分室───

 帝国宮廷魔導士団の中でも魔術がらみの案件を専門に対処する部署で、かつてグレンが軍所属だった時所属していた。よってグレンにとってリアムはかつての同僚となるはずなのだが、リアムが特務分室に所属するようになったのはグレンが特務分室を辞め、アルザーノ帝国魔術学院の非常勤講師になるまでの一年間の間である為、互いの事はまったく知らなかった。

 

「えっ…特務分室…? なに…それ?」

 

「話は後だ。今はこいつをぶっ飛ばす」

 

 システィーナが疑問を問いかけるがリアムは気にせず左手にも剣を錬成し戦闘態勢に入る。

 グレンも真剣な顔に戻りレイクを見据えている。

 

「なるほど…帝国宮廷魔導士団か…さらには特務分室の所属とはな。そんな奴が学生の中に紛れ込んでいたとは誤算だった」

 

 レイクの表情は既に冷静さを取り戻しており戦闘態勢に入っている。突如レイクが右手を軽く動かすと五本の剣が三人を襲う。

 システィーナとグレンの前に素早く割って入ったリアムが三本の剣を両手の剣で受け止め防ぐ。

 残りの二本はリアムを避けグレンとシスティーナに襲い掛かる。

 二本の剣はまるで意思を持ったように三本の剣とは違った動きを見せていた。

 

「ちっ…こっちは手動式か」

 

 グレンがシスティーナの黒魔【ウェポン・エンチャント】で強化された拳でその剣を受け止める。

 

「私はこれまでの経験から三本の自動剣と二本の手動剣の組み合わせが最も強い、そう結論付けた」

 

「余所見してる場合かよ。《その剣に光あれ》」

 

 リアムが【ウェポン・エンチャント】を詠唱し、両手の双剣を強化すると、三本の剣を弾き飛ばした。

 

「《雷槍よ》」

 

 リアムは剣を弾き飛ばすと同時にすかさず【ライトニング・ピアス】を二反響唱(ダブル・キャスト)。リアムが唱えた【ライトニング・ピアス】はそれぞれレイクの頭と心臓へと一直線に飛来する。

 

 並の魔術師ならこの素早い【ライトニング・ピアス】の二反響唱を防ぎきれずに倒せる、

 しかしレイクは数々の修羅場をくぐり抜けた魔術師でありその攻撃に対する反応は早かった。

 

「《光の障壁よ》」

 

 レイクは冷や汗一つかくことなく冷静に対抗呪文(カウンター・スペル)を唱え魔力障壁で雷撃を防ぐ。

 雷撃と障壁がぶつかり合いやがて障壁が破れると煙があがる。

 煙に紛れてリアムがレイクとの距離を一気に詰め寄っていた。

 リアムの剣撃がレイクを襲う。

 だが、レイクもすかさず二本の手動剣でリアムの剣撃を受け止める。

 

「《紅蓮の獅子よ・憤怒のままに──……」

 

 グレンが隙を見て【ブレイズ・バースト】を唱えようとするがグレンは三節詠唱までしか出来ない。

 三節詠唱ならば簡単にレイクは片手間でも対処できる。

 

「遅い」

 

 リアムによって弾き飛ばされていた自動式の三本の剣がグレンへと襲い掛かる。

 

「ちっ…!」

 

 グレンは魔術の詠唱を止め、その剣を避ける。

 慌てて避けたことによりその着地時にグレンは足をくじいた。

 

「くそっ…!」

 

 怯んだグレンに三本の剣が襲い掛かる。

 なんとか急所は避けたが三本の剣はグレンの右肩、右腕、左足を切り刻んでいた。

 再びグレンに三本の剣が襲い掛かる。

 

「《大いなる風よ》……!」

 

 グレンの元に駆けつけたシスティーナが【ゲイル・ブロウ】を唱えグレンを襲う剣を吹き飛ばした。

 

「グレン先生…ッ!」

 

 足を抑えるグレンにシスティーナが駆け寄る。

 

「悪ぃ白猫…助かった…」

 

 

 その間もリアムとレイクの剣撃の応酬は続いていた。

 その場には金属と金属がぶつかり合う甲高い音が響き渡る。

 そんな中レイクが隙を見て【ライトニング・ピアス】を唱える。

 リアムを撃ち抜かんとする一筋の光───

 

「ちっ…《霧散せよ》」

 

 その光はリアムへと辿り着く前に対抗呪文によって消えた。

 対抗呪文を唱えることによって隙が生まれた。

 その隙を見逃さずレイクの剣撃の精度があがりリアムの剣がレイクの剣によって弾かれる。

 

「その程度か…? 宮廷魔導士…!」

 

「甘く見んなよ」

 

 弾かれたリアムの剣は弧を描きレイクの元へと向かっている。

 

「《爆散せよ》」

 

 リアムの一節の詠唱で剣が爆発する。

 レイクは距離を取りその爆発から間一髪逃れる。

 その爆発によりレイクの剣二本は破壊される。

 

「ちっ…起爆式だったか」

 

 既にリアムはレイクの元へ駆け出している。

 

「後ろががら空きだぞ!」

 

 背後から三本の剣がリアムを襲うがリアムはそれを気にも止めない。

 

「《力よ無に帰せ》───ッ!」

 

 システィーナの【ディスペル・フォース】によってレイクの剣はただの剣となりその場に静かな音を立て落ちた。

 

「!? 何───ッ!」

 

「システィーナ、助かる!」

 

 リアムが礼を述べると詠唱を開始する。

 

「《気高き金色の雷神よ・我が剣となりて・───……」

 

「……ッ!《光の障壁よ》」

 

 レイクがリアムに対し対抗呪文で対抗する。魔力障壁がレイクの前に現れる。

 リアムは飛び上がり詠唱を続ける。

 

「《雷の如く駆け抜けよ》───ッ!」

 

 リアムが唱えた魔術はB級軍用魔術の【ライトニング・ソード】───。自由に形状変化させることが出来る剣状の雷を生み出す魔術である。

 精製された剣はバチバチと音を立てながらリアムの右手に収まっている。

 

「うおおおおおおらぁああああ───ッ!」

 

 雷の剣をリアムが大きく振りかぶり魔力障壁を真正面から叩く。

 そのあまりの威力に魔力障壁にひびが入る。

 勢いがあったこともあり魔力障壁に入ったひびは瞬時に大きくなっていく。

 

「《目覚めよ刃───!?」

 

 レイクは剣に再び魔力を送るが起動しない。

 

「チェックメイトだ」

 

 グレンの右手には愚者のアルカナが握られていた。

 

「!?」

 

 やがてリアムの【ライトニング・ソード】が魔力障壁を叩き割る。

 

 レイクは回避しようとするがリアムの方が速く既にレイクの懐に飛び込んでいた。

 

 リアムの剣状の雷がレイクの急所を貫通する。

 緋色が壁に床に静かな音をたて飛び散る。

 

「……見事だ」

 

 レイクは崩れるように倒れ息を引き取った。

 それと同時にグレンも倒れる。

 

「ちっ…ここまでか…」

 

「先生──ッ!」

 

 リアムとテロリストの男レイクの様子を見ていたシスティーナが慌ててグレンを振り返る。

 マナ欠乏症のまま無理をしたからかグレンの顔色は悪かった。

 グレンを心配するシスティーナにリアムが声をかける。

 

「システィーナ、グレン先生を安全な所に運んでくれ。暫く安静にすれば大丈夫だ」

 

「ちょ…あんたも相当…!?」

 

 リアムも相当戦っていたはずだ。マナ欠乏症に陥ってもおかしくないほどマナを消費している筈───そうシスティーナがリアムを心配するもリアムの顔には未だ余裕があった。

 

「魔力容量には結構自身があるからな………お前程ではないが」

 

 システィーナにはリアムが小声で発した後半部分は聞き取れてはいないだろう。

 

「ルミアを助けに行く。先生は任せた」

 

 リアムはそう言い残しこの場を去ろうとしたその時───

 リアムにグレンが話しかけた。

 

「おい、リアム。助けに行くって言ってもな…ルミアが、それに黒幕がどこにいんのか…分かるのか?」

 

「分かります。それに黒幕の正体も掴んでますし」

 

「なにっ…!?」

 

 目を丸くする二人にリアムは黒幕の名を告げる。

 その名前にグレンとシスティーナが驚く。システィーナはグレン以上に驚いていた。

 

「そんな、ヒューイ先生が!?」

 

 ヒューイ=ルイセン───

 グレンの前任講師であった男であり授業もわかりやすいと好評であった。

 一身上の都合で退職とされていたが…

 

「あいつは天の知恵研究会から送り込まれていたスパイだ」

 

「そんな…」

 

 動揺が隠せないシスティーナ。

 それもそのはず、システィーナにとってヒューイは最も頼れる講師だったからだ。

 

「でも何で分かったんだ?」

 

 グレンがリアムに疑問を問いかける。

 

「魔力発信の付呪をしてましたからね。すぐに場所わかりましたよ」

 

 リアムは一目見た時からヒューイの怪しさを感じ取り念のために魔力発信の付呪をしていたのだ。

 

「予防線の一つに引っかかった。それだけです」

 

 リアムは十五歳ながら並外れた観察眼に加え魔術、剣術ともにずば抜けたセンスを誇る。

 帝国宮廷魔導士団に選ばれても何の不思議もなかった。

 

「リアム…!」

 

 システィーナがリアムの名前を呼んだ。

 その真剣な声にリアムが振り向く。

 

「ルミアを…助けて…」

 

 リアムはすぐに向き直り歩き出すと

 

「任せろ」

 

 その一言だけを残してリアムはルミアの元へと走り出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 

 

 学園内に聳え立つ白亜の塔───

 帝都と学院を繋ぐ転送法陣がある転送塔それがここである。

 転送塔の近くは崩れたゴーレムで埋め尽くされている。

 その内部、長く続く螺旋階段を登った先、最上階の大広間、そこにルミアはいた。

 しかしそこにはルミアだけでなくもう一人の青年がいた。

 今回の事件の黒幕であり、学院内にいた裏切り者───ヒューイ=ルイセンがそこにいた。

 転送法陣の上で魔術により拘束されていたルミアがヒューイに叫んだ。

 

「ヒューイ先生! 貴方はこんなことをする人じゃなかった…! 私を転送して、自分の魂ごと学院を爆破させるなんて───……!」

 

 ヒューイは静かにルミアの悲痛な叫びを聞いていた。

 やがてヒューイが口を開いた。

 

「僕はもとより、王族、もしくは政府要人の身内。そのような方がこの学院に入学された時───」

 

「そいつを自爆テロで殺害するため、そんな僅かなないかもしれない事の為だけにこの学院に在籍していた。様は人間爆弾ってとこか?」

 

 ヒューイに割って入り声を発した人物がいた。

 入り口にもたれかかっているその男を見た二人は驚きを隠せない。

 

「……まさか貴方でしたか…」

 

「そんな…リアム君!?」

 

 しかしリアムの姿は二人が知っているリアムとは違っていた。

 丈長の黒いコートを羽織り、両手に握られるのは錬成された二対の双剣。

 鋭い目つきでヒューイの事を見据えていた。

 

「その黒いコート…なるほど。帝国宮廷魔導士でしたか…」

 

「ご名答。俺はそこのルミアを護衛する任務を女王直々に受けてる」

 

 そのリアムの言葉にルミアが驚いていた。

 あの日私に冷たい目を向けたあの人が私の為に護衛をつけていた───ルミアはその事実に驚きを隠せなかった。

 

「事実だよ。お前の母さんはお前の事を愛してるよ」

 

 そんなルミアの心情を察してかリアムがルミアに声をかけた。

 そしてリアムは法陣に向かって歩き出す。

 リアムは法陣をじっと見つめ口を開く。

 

「……なるほど。白魔儀【サクリファイス】か」

 

「はい」

 

 穏やかにヒューイは微笑んだ。

 

「確かに死ぬつもりらしいな」

 

「僕の腕前ではルミアさんの転送するための転送法陣の改変は間に合い間に合いませんでした、まさか貴方のような伏兵がいたとは…」

 

「しかし白魔儀【サクリファイス】この魔術だけの起動はできる。あと十分もすれば起動します。解呪に取り掛かったとしても間に合うとはとても思えません」

 

 ルミアがヒューイの言葉を聞きリアムに懇願するように叫んだ。

 

「そんな…逃げて…!リアム君…貴方だけでも…!」

 

 だがリアムはルミアの願いを聞き入れようとはせず法陣の解呪へと取り掛かる。

 その解呪の手際はとても速い。

 

「貴方だけなら学院の地下に逃げ込めば助かる余地はある…ですが…迷いはないようですね」

 

「そんな…どうして!」

 

「おいおい…俺の任務はルミアの護衛。護衛対象を死なせて自分だけ助かるとか完全にアウトだろ」

 

 リアムの解呪の手際はヒューイの想像以上に速い。これならばあるいは───そう考えていたヒューイは自分自身に驚いた。

 

(僕は彼が【サクリファイス】を解呪することを望んでいるのか…?生徒の無事を僕はどこかで願っていた? 長く…ここに居過ぎましたかね…)

 

「逃げたって誰も責めないよ…!だから逃げて…私のことなんて…ど───」

 

「どうでもいいわけなんてないだろ」

 

 ルミアは自分が言おうとした言葉をリアムに言われて言葉が出ない。

 

「自分のことなんてどうでもいい。死んだって構わないって思ってる。自分が死んでも誰かが助かる方がいいって思ってる。そうだろ?」

 

 ルミアが考えていた事を次々と当てるリアムにルミアは驚きの表情だ。

 

「俺も昔はそう思ってたよ…自分なんて死んだって構わないってな。だけど…!」

 

 昔の自分の姿がリアムの頭の中を過ぎる───

 法陣はリアムの黒魔儀【イレイズ】によって既に二層目も解呪されていた。

 

「自分がどうでもいいって思っていても周りの人はそう思ってなんかねえ…! 俺は自分の事を大切にしてくれる人、愛してくれる人に出会って変わることができた…!お前にもそんな人達がいるだろ!」

 

「システィーナやグレン先生、クラスのみんな、それに…」

 

 そこまで言ってリアムは口を噤んだ。

 

「まあとにかく…大切に思ってくれる人の為にも生きろよ…!」

 

「…!」

 

「誰かの為に死ぬことだって立派だけどな、その為に自分はどうなっても構わない。死んでもいいってのは違う! もっと自分を愛せよ! もっと自分の為に生きろよ! ルミア!!」

 

「!!」

 

「みんなともっと一緒にいたい。もっと色んなことをしてみたい。そう思うだろ? ルミア」

 

【イレイズ】により第四層も解呪成功───しかし最終層を残し残りは一分。

 白魔儀【サクリファイス】が起動を開始しようとしていた。

 

「くそ……ルミア…!」

 

 名前を呼ばれたルミアはリアムの方を静かに見据える。

 

「お前気持ちに変化…あったか…?」

 

 ルミアは自分の事を家族と言ってくれるシスティーナ、そして荒れていた自分を優しく包み込んでくれたシスティーナの両親、ルミアの為に護衛をつけてくれていた自分の本当の母親、自分の事を優しく受け入れてくれたクラスのみんな、昔、命を救ってくれたグレン、そして今まさに命を張って助けに来てくれたリアムのことを思い、そして───

 リアムの言葉を聞きルミアは涙を流して叫んだ。

 

「私は…生きたい…! 自分の為に…まだまだ生きたい…! もっとみんなと一緒に居たいよ……!!」

 

「そうか…なら間に合わせるしかねーよなあ!」

 

 リアムの解呪のスピードがこれまでよりも格段に上がる。

 それでも解呪が間に合うかは五分五分───

 法陣の輝きが寄りましてくる。その中でもリアムは解呪を続ける。

 そして文字を書き終えたと同時に叫ぶ。

 

「《終えよ天鎖・静寂の基底・理の頸木は此処に解放すべし》───!!」

 

 大きな輝きを放っていた法陣は輝きを消し静寂に包まれ、やがて法陣は───消えた。

 

「リアム君…!」

 

 するとルミアがリアム目掛けて飛び込んでくる。

 

「ちょっ…」

 

 そんな二人の様子を見ながらヒューイは呟く。

 

「私の負け…ですか。でも……良かった…」

 

 リアムがヒューイの元へと近づく。

 

「あんたはさ。そっち側は向いてないんだよ。本当にそっち側の人間だったら何年いようが今のアンタみたいにホッとした表情にはならないよ」

 

「……リアム君」

 

「あんたの生徒達と接する姿は紛れもなく教師だったよ。生徒のことを心から愛していたし…あんたのことを詳しく知るわけではないから偉そうにこう言うのもなんだけどさ。教師になった方が良かったと思うよ」

 

 ルミアもヒューイの元へと歩を進める。

 

「ヒューイ先生……また戻ってきてください!」

 

 ヒューイはルミアのことを申し訳なさそうに見ると

 

「ルミア君……私は貴女に……」

 

 ルミアはヒューイを真っ直ぐ見据えて…

 

「私達……待ってますから!」

 

 その言葉を聞きヒューイは涙を流しその場に崩れ落ちた。

 こうしてアルザーノ帝国魔術学院自爆テロ未遂事件は幕を閉じたのであった。

 




コメントくれると嬉しいです!
次回も今日中に更新出来たらなと思います。


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戻ってきた日常

今回で第一部完です。
後半はいつもとは違う一人称での茶番回?です。


 アルザーノ帝国魔術学院を襲った前代未聞の自爆テロ未遂事件。

 かつて女王陛下の懐刀として暗躍した伝説の魔術師殺し、存在を密かに抹消された廃棄王女、さらには学園内に紛れ込んでいた凄腕の天才魔術師が事件と関わっていた───そのような噂が囁かれた。

 しかし人は飽きる生き物だ。その噂も話題に上げるものは徐々に減り、一ヶ月後には誰の話題にも上がらなくなっていた。

 そしてアルザーノ帝国魔術学院には以前と何ら変わらない日常が戻ってきたのである。

 

「しっかしまあ…ルミアが三年前病死したはずの、あのエルミアナ王女で、女王陛下直々に護衛の命をリアムが受けていたとはなあ…」

 

 晴れて非常勤講師から正式に講師となったグレンが一ヶ月前に起こった事件を振り返っていた。

 あの事件の後、グレンとシスティーナの二人は、事件解決の功労者として帝国政府上層部に密かに呼び出され、ルミアの素性を聞かされた。

 リアムの任務の事を知っているのはその任務を出した女王陛下自らとリアムが所属する帝国宮廷魔導士団の特務分室だけだ。

 二人は後にリアムからその事を聞かさていたのだ。

 ルミアが王女であろうが、リアムが帝国宮廷魔導士団の一員であったとしても何一つシスティーナの二人への態度が変わることはなかった。

 

「まあまあ。無事解決したんだからいいじゃないっすか」

 

「てかさ。お前どうやって俺のこと知ったの? 特務分室時代の情報とか全部消されてんじゃね?」

 

「ああそれだったら───」

 

 

 

 ───数日前。特務分室にて

 

「俺学生だぞ!? 何で平日にこんなに書類書かなきゃ行けないんだよ!? 寝不足で死ぬわ!! 任務で長期間一人抜けてる分を何故!? 何故俺に回すぅ!?」

 

 リアムは愚痴を言いながら書類の山を片付けていた。

 

「リア坊大変じゃのう」

 

 その様子をバーナードは呑気に新聞を読みながら見ていた。

 

「いやちょっとは手伝ってくださいよ!?」

 

 そこに帝国軍の特務分室の一人クリストフがやって来る。

 

「リアム君。僕暇だから手伝うよ?」

 

 クリストフがリアムの傍に聳え立つ山から書類を幾つか取る。

 

「ありがとうございます! クリストフ先輩は神ですねホント」

 

「いやいやそこまででは…それにしても本当にリアム君は頑張ってるよ。学生なのにグレン先輩の穴を埋めるどころかそれ以上だね」

 

「ん? グレン先輩…?」

 

 リアムがその名前を聞き書類を書く手を止める。その様子を不審に思ったクリストフがリアムに話しかける。

 

「どうしたの…?」

 

「グレンって人のこと詳しく聞かせて貰っていいですか!!!」

 

 

 

 

 

 

「て訳ですよ」

 

 リアムがその時のことを思い出しながらグレンに話す。

 

「なるほどねえ…クリストフに隠者のおっさんとか懐かしいな…てかクリストフに書類押し付けたまま辞めたな俺…他にも貸し作りまくったままだわ…」

 

「何してんすか…」

 

 二人がそんな話をしていると聞きなれた声が聞こえてくる。

 

「あっ、先生!」

 

「やっと見つけた…!」

 

 廊下の向こうから見慣れた二人の女子生徒がグレンを見つけ駆け寄ってきていた。

 システィーナの表情を見るとなにやら怒っているようだ。

 恐らくグレンが先の授業で錬金術について教えた時に授業の後半に犯罪スレスレ…いやれっきとした犯罪である金モドキを売りつけ小銭を稼ぐ話をしたからであろう。

 

「やれやれ…」

 

 グレンは頭を右手で掻きながらシスティーナの説教を受けに二人の話を聞きに向かった。

 案の定システィーナの説教が始まる。

 ルミアは隣で苦笑いしている。

 ルミアがリアムに話しかける。

 

「グレン先生となに話してたの? リアム君…?」

 

「まあいろいろね…」

 

「ふーん。そうなんだ」

 

 突然ルミアが何かを思い出した様な顔になったと思うとリアムに話しかける。

 

「あっそうだ。リアム君!教えてほしいところがあるんだけど…」

 

「ん…? どこだ…?」

 

 リアムとルミアはそのまま図書室の勉強しに向かっていった。

 

 グレンへのシスティーナの説教はいつの間にか終わっており静かに二人は仲良く談笑しながら歩いて行った二人のことを見ていた。

 

「ねえ…先生…」

 

「ああ…お前も思ったか。白猫…」

 

 いつもは意見など全くに合わず喧嘩ばかりしている二人だがどうやらこの時ばかりは意見が合ったらしい。

 

「「あの二人…怪しい…!」」

 

 

 この日図書室で勉強する二人の姿と共にその二人を監視するように見ている講師と生徒の姿が目撃された。

 

(あの二人…わかりやすいんだよなあ…)

 

「んー…」

 

 リアムはため息をつくしかなかった。

 その間もルミアは教科書と睨めっこしている。

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 俺の名前はカッシュ。アルザーノ帝国魔術学院の生徒だ。

 最近俺のクラス二年二組に一つの噂がある───

 

 そう。ルミア=ティンジェルとリアム=ロディウスの交際疑惑だ。

 この二人共に容姿端麗である。入学から一年が経ってもリアムに話しかけられるとキャーキャー騒ぐ女子がいるし、ルミアへ告白した後振られて落ち込んでいる男子生徒の姿は未だに見かける。

 

 もともとこの二人は仲は良い方だ。しかし最近は特に仲が良い。

 授業中グレンとシスティーナが言い争っている時も二人は一緒に何か話しているし放課後度々二人で図書室で勉強している姿が目撃されている。

 

 今俺はカイそしてウェンディと共に図書室に張り込んでいる。

 金曜日には必ず二人はここで勉強する。このことは既に事前調査により判明している。

 そして今日は───金曜日だ。

 

「ウェンディ。あの二人…どう思う?」

 

 カイがウェンディに質問を投げかけた。

 初めは俺とカイの二人の予定だったがこの話を嗅ぎつけたウェンディも参加すると言ってきたのだ。

 ウェンディはクラス一のゴシップ好きだ。この話に食いつくのは納得だ。

 

「怪しいですわ。プンプンに匂いますわ…!」

 

 ウェンディがカイの質問に答えた時である。ターゲットの二人が図書室にやって来た。

 俺たち三人は汗を流す。

 

「今日はあの錬金術について───」

 

「ああ…あれはだな───」

 

 チッ…リア充め…

 実は俺たち以外にも二人の様子を見ている者がいる。

 グレン先生とシスティーナだ。

 二人は本棚の影からこっそり二人を見ている。

 うん。バレバレだ。あれに気づかないわけがない。

 てかリアムの位置から丸見えだし…!

 

 二時間後───

 ターゲットの二人が帰るようだ。

 当然俺たち三人もあとを追う。

 グレン先生とシスティーナは───

 システィーナは本を熱心に読んでいる。

 恐らく『メルガリウスの天空城』についての本だろう。彼女は典型的なメルガリアンだ。グレン先生はというと寝ている。

 やれやれ何をしに来たんだか…

 

「カッシュ急げ…見失う…!」

 

「あぁ…!」

 

 二人はカフェに入っていった。

 二人が座った席から少し離れた席に俺達は座った。

 二人とも笑顔で楽しそうに話している。

 チッ…リア充め…

 俺が何が憎いかって? そんなものは決まってる。イケメンは敵だ。さらにそのイケメンが俺たちのアイドル───あの天使の様なルミアちゃんと付き合うなど…!

 テンプレ展開過ぎて許せん…!

 

 因みに二人に直接聞いたりも既にしている。

 俺がリアムにそれを聞いた時は…

 

「え?俺がルミアと付き合ってるって?」

 

「ああ…違うのか…?」

 

 リアムは小さく笑うと、どーだろねと言い残し去って言った。

 これがイケメンの余裕と言うやつなのか…!

 

 

 ウェンディがルミアに聞いた時は…

 

「え…!? わ、私が…り、リアム君とつ、つ、付き合ってる…!?」

 

「違いますの…?」

 

「ち、違うよッ! …付き合ってない…! 付き合ってないよ…ッ!」

 

 顔を真っ赤にして教室を去って行ったらしい。

 いやもう明らかでしょ!?それ答えでしょ!?

 

 

 ガタッ

 席を立つ音が聞こえて俺が二人の方を見ると席を立ち会計を済ませようとしていた。

 

「追いかけるぞ…!」

 

 自分たちも会計を済ませると慌ててカフェを飛び出す。

 しかし二人の姿はない。

 

「どこに行きましたの…!?」

 

「見失ったか…!?」

 

 そこに一人の少年が歩いてきた。

 少年が俺の制服を引っ張る。

 

「どうしたんだ…?迷子か…?」

 

「親御さんを探しに行きましょうか」

 

「ねーねー」

 

 俺の制服をさらに強く引っ張る。

 

「安心しろ。お前の親御さんなら俺達が今から見つけてやるからな」

 

「お前らなにしてんの───?」

 

「「「……え?」」」

 

 少年の口調が一転したと思うと少年の姿が歪み少年はリアムへと変わった。

 自分の姿を変える魔術【セルフ・イリュージョン】だ。

 

「「「あ」」」

 

「《雷精の紫電よ》」

 

 リアムが右手を前に出すと【ショック・ボルト】を唱える。

 

「「「ごめんなさーーーーい!!!」」」

 

 

 

 今日もフェジテの街は平穏だ。

 

 

「はっ…! 俺は何を…ッ!」

 その頃図書室で一人の講師が目を覚ました。

 





感想とお気に入り追加待ってます!
ちなみにあと二話ほど投稿できますが今日中にした方がいいですかね?


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第2章 魔術競技祭編
来たる!魔術競技祭!


今回から二部スタートです!
よろしくお願いします!


「『飛行競争』の種目に出たい人ー?」

 

 壇上に立ったシスティーナがクラス中に呼びかけるも反応はない。

 クラスメイトは皆、俯いたままである。

 

「…『変身』の種目に出たい人ー?」

 

 しかしクラスメイト達は無反応だ。

 今この教室では、来週の魔術競技祭のメンバー決めをしている。

 だが誰も反応しない。それもそのはず。

 魔術競技祭は近年、クラスの成績上位陣のみが出場するのがお約束となっている。

 さらに、今回は女王陛下が賓客として御尊来になる。

 クラスの皆が気が引けるのは当然のことだ。

 

 成績トップのリアムも参加しようとする意志はないようだ。

 思えば昨年の魔術競技祭もリアムは適当な言い訳を付けて参加していなかった。

 

(俺が競技に出てる間にルミアが襲われたらどうすんだよ…)

 

 リアムはアルザーノ帝国魔術学院の生徒だが、実はもう一つの顔がある。

 それは帝国宮廷魔導士団特務分室に所属している軍の魔術師という事だ。

 リアムは異能が見つかった為に三年前病死扱いとされ王家を追放されていたエルミアナ王女…ルミアの護衛を女王陛下直々に任せられている。

 このことを知るのは、学院でもごく僅かな者だけである。

 こうした理由もあり、リアムは魔術競技祭には参加しない。

 魔術競技祭は入院許可証が必要であるとはいえ、外部から多くの人間が訪れる。

 リアムが競技に出ている間に何かがあってからでは遅いのだ。

 

 ばぁんっ! と派手な音が教室に響き渡る。

 勢いよく教室前方の扉が開かれていた。

 クラス全員がそちらを見ると同時に全員の顔が一気に青ざめる。

 

「話は聞いたッ!」

「ここは俺に任せろ、このグレン=レーダス大先生様にな───ッ!」

 

 グレンが謎のポーズを決めてそこには立っていた。

 

(───うわ…ややこしいのが来た)

 

 クラス一同の心情が見事に一致する。

 グレンはシスティーナを押しのけるように教壇に立つと続けた。

 

「争いは何も生まない───そして何より───」

 

 クラスの者全員が()()グレンの次に発する言葉に注意を向ける。

 きらきらと輝くような、爽やかな笑みを満面にグレンが浮かべて───

 

「俺達は、優勝という一つの目標を目指して共に戦う仲間じゃないか」

 

(───キモイ)

 

 クラス一同の心情は再び一致するのであった。

 

 

 

 

 

「す、すげぇ…」

 

 グレンの手際は目を見張るものがあった。

 次から次へと競技ごとの参加メンバーを発表していく。

 そして発表が終わると生徒達はざわついていた。

 それもそうだ。今回の競技祭の参加メンバーに誰一人として選を漏れていなかったからだ。

 クラスの生徒全員が何かしらの競技に出場することになっている。

 

「ちょっ、俺は───」

 

 グレンに対しリアムが不満げな声を上げると、リアムの方にグレンが寄ってきた。

 

「なんだ? 不満か?」

 

「いや、俺は出場する気なんか…」

 

 するとグレンは大袈裟に手を頭に置き

 

「おいおい、成績トップのお前が出ないと勝てるもんも勝てないだろ…?それに…」

 

 グレンが小さくリアムに耳打ちをする。

 

「大丈夫だ。ルミアには俺が付いてる」

 

「…ッ!?」

 

 グレンがリアムを選出した競技は『呪文詠唱』である。

『呪文詠唱』───

 この種目は簡単に言ったら早口言葉だ。

【ゲイル・ブロウ】、【ショック・ボルト】、【ファイア・ショット】この3つの基本的な三属性の黒魔術をどれだけ早く詠唱し現れる的に当てることができるかという競技だ。詠唱速度は勿論なこと、的を狙う正確性も要求される。

 呪文の即興改変などいくらグレンの授業を受けたからといってほとんど生徒ができるものでは無い。

 それを簡単にこなせるリアムが負ける訳などない。

 また『呪文詠唱』の競技は、他の競技と比べて比較的早く終わる。グレンはそれも考慮してリアムを『呪文詠唱』に選んだのだ。

 リアムは悩んだ後、やがて出場を承諾した。

 

「カッシュを選んだ理由は───」

 

 グレンは他の生徒達からの質問を受け、選出理由などを丁寧に答えている。

 その間にリアムは黒板に書かれた生徒毎の出場競技を見てある事に気づく。

 選ばれていない生徒がいないのは勿論のこと使い回されている生徒も一人もいないのだ。

(確かにこれは理想的な布陣だ。俺やウェンディのとこは余裕で1位だろうし、システィーナとギイブルがいる決闘戦も大丈夫だろう。といっても…)

 ほかの競技を持ってしてもそれぞれの生徒が得意な分野の競技に当たるように割り振られている。

 確かにグレンが選んだのは理想的な布陣ではあるが、それは生徒を使い回さなかった場合においてだ。やはり成績優秀者を使いまわした方が得点はとれる。

 グレンは同じ生徒を複数の競技で使いまわして良いことに気づいてないようだった。

 優勝したクラスの担当講師に出る特別賞与が目的のグレンは本来、成績優秀者のシスティーナやリアム、ギイブル達を存分に使い回すに決まっているのだ。

 

「気づいてないなこりゃあ….」

 

 壇上ではシスティーナがグレンに満面の笑顔を見せている。

 

「なんか…噛み合ってない気がするなあ…」

 

 そんな二人の様子を、ルミアは苦笑いで眺めていた。

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

「《雷精の紫電よ》───ッ!」

 

 放課後。学院の中庭は二組の生徒達の練習場所となっていた。

【ショック・ボルト】や【レビテート・フライ】、【サイ・テレキネシス】など様々な呪文の詠唱が聞こえてくる。

 それぞれがそれぞれの競技に向けて練習に励んでいた。

 

 練習は不要であったが一応リアムも練習することにしたようだ。

 リアムは中庭の端の木に腰掛け掌を上に向けて詠唱する。

 

「《ズバー》」

 

 リアムの適当な呪文で【ショック・ボルト】の魔術が起動し、小さな電撃が木の枝に向かって走る。

 すると電撃は木の枝を捉え、小さな木の枝が落ちてきた。

 

「すごーい…! 今のって【ショック・ボルト】…?」

 

 リアムの前にルミアが立っていた。

 ルミアは目を丸くして落ちた小さな木の枝を見ている。

 

「まーねー。これくらい出来たら余裕だろうし…後は寝るとするかな…」

 

 リアムはそう告げると目を瞑り眠ろうとする。

 するとリアムの額に小さな痛みが走る。

 

「いてっ」

 

「駄目だよ。サボる暇なんてないよ…?リアム君。みんなの練習相手とか…やることは沢山あるんだよ?」

 

 どうやらルミアがリアムにデコピンをしたようだ。

 ルミアは頬を軽く膨らませるとリアムに手を差し伸べる。

 

「……はあ…仕方ないな」

 

 リアムはルミアの手を取り起き上がると皆が集まっている中庭の中央へと歩いて行った。

 

「いや、もう。付き合えよ…」

 

 カッシュはそんな二人の様子を見ながら小さく呟いていた。

 

 

 

 

 

 次の日の放課後。

 中庭は一組と二組の生徒達が言い争っていた。

 その言い争いの中心は事もあろうにそれを止める立場である担任講師であるグレンとハーレイだ。

 

「もし、貴様に本当にやる気があるのであれば、練習のために場所も公平に分けてやってもいいだろう。だが、貴様にはまったくやる気がないではないか! なにしろ、そのような成績下位者達……足手まとい共を使っているくらいなんだからな!」

 

「──ッ!?」

 

「勝つ気のないクラスが、使えない雑魚同士で群れ集まって場所を占有するなど迷惑千万だ! わかったならとっとと失せろ!」

 

 そのハーレイの酷い言い草に、流石にキレたグレンが言い返そうとした時、二人の視界に突然、短い鮮やかな青の髪が映る。

 リアムがグレンと、ハーレイの間に割って入っていたのだ。

 リアムは拳を握りしめハーレイを軽く睨んでいる。

 どうやら先程のハーレイの言い草にグレン同様にリアムもキレたようだ。

 

「なんだ…貴様は─ッ! 邪魔を───」

 

 ハーレイがリアムに食ってかかるがリアムの瞳が一際鋭くなりハーレイは何も言えなくなった。

 

「り、リアム君…!」

 

 ルミアが心配そうにリアムのことを呼ぶ。

 グレンもリアムを止めようとする。

 

「お、おい。リアム何を…」

 

 ばんっ!

 突然中庭に大きな音が響いた。

 予想だにしない出来事にその場にいる誰もが凍りついたように一歩も動けず何も発せない。

 リアムがハーレイ目掛けて手袋を投げつけていたのだ。

 

「お、おい…! リアム…!」

 

「魔術決闘の申し込み…!?」

 

「ハーレイ先生相手に…無茶だ!!」

 

 ようやく状況を呑み込めた生徒達とグレンがリアムを止めにかかる。

 しかしリアムは一歩も動こうとはしない。

 

「き、貴様───…ッ!」

 

 ハーレイの怒りは頂点に達している。

 そんなハーレイに対しこれまで無言を貫いていたリアムが遂に言葉を発する。

 

「受けろよ…! お前みたいな教育者の風上にもおけねえクソ野郎…ぶっ飛ばしてやるよ」

 

「何だと…!?」

 

「足手まとい共…? 使えない雑魚…?ふざけんなよ? てめえ…それでも講師かよ…!うちのグレン先生はてめえみたいなクソ野郎とは違う…成績上位も下位も関係ない。全員平等に扱って魔術競技祭を勝とうとしてる…!グレン先生こそ本物の講師だろーよ…!」

 

「ぐ……」

 

 普段とはまったく違うリアムの様子にクラス一同驚きながらもリアムの言葉に感化され歓声を上げる。

 グレンもやれやれと肩を竦めている。

 

「リアム君…!」

 

 ルミアはそんなリアムを心配しながらも感謝の気持ちがその綺麗な瞳から見て取れる。

 恐らくクラスの皆が馬鹿にされたのを言い返してくれたことに感謝しているのであろう。グレンのクラス、ハーレイのクラスそれぞれの生徒が声を上げ中庭は騒然となった。

 

 そんな中でハーレイも自分の生徒達の前で引くにも引けず手袋を拾った。

 

「ふんっ…貴様のような生徒一人など返り討ちにしてくれるわ…!」

 

 ハーレイとて二十代半ばで早くも第五階梯に至った若き天才魔術師だ。

 そこら辺の魔術師とは格が違う。

 

「生徒相手に怪我をさせるのは問題だからな。ルールは【ショック・ボルト】を相手に当てた方の勝ち、使用可能なのは学生でも習う汎用魔術のみ。いいな…?」

 

「いいぜ。ハーレイ先生も忙しいでしょうから今ここで決着つけましょう」

 

「「「うぉおおおおおおおおお!!!」」」

 

「ハーレイ先生とリアムの決闘だああああ!」

 

「リアム…! 勝ってくれえええ!」

 

「ハーレイ先生! あんな奴返り討ちにしてやって下さい!!」

 

 こうして二人の魔術師による決闘それも、講師と生徒という前代未聞の決闘がまたしても学院の中庭にて行われることになった。

 

 

 

 

 

 

 10分後───

 中庭はたくさんの人で溢れかえっていた。

 リアムとハーレイの決闘の噂を聞きつけた多くの生徒達が駆けつけていたのだ。

 今も次々と生徒達が集まってきている。軽く100人は中庭に集まってきていた。

 グレンと二組の生徒、一組の生徒に加え多くの生徒達によってリアムとハーレイを取り囲まれた。

 

「では、私の合図によって始めることとする。異論はないな?」

 

 セリカ=アルフォネアが向かい合う二人の間に立ち言い放った。

 セリカ=アルフォネアは大陸屈指の魔術師だ。彼女以上に審判に適任な人物はこの学院において一人もいない。

 

「なぁ…なんで、いるんだよ…」

 

 グレンがセリカに問いかける。

 

「おいおい、グレンの教え子とあのハーレイが決闘するって言うんだ。こんな面白いイベント見逃す訳にはいかないだろう…!」

 

 セリカはこの状況を誰よりも楽しんでいるようだった。

 グレンはため息をつくしかない。

 騒がしかった中庭も決闘の始まりが近づくにつれ一人また一人も話すのをやめやがて多くの人で溢れかえっている中庭は沈黙に包まれる。

 

 

 

 

 

 

 

「では…………開始───ッ!」

 

 セリカが決闘の開始を宣言する。

 先手をとったのはハーレイだった。

 流石は第五階梯の魔術師。やはり反応は早く、セリカの宣言が終わると同時に素早く呪文を詠唱する。

 

「《(いかずち)よ》───ッ!」

 

「……!! は、早い…!!」

 

 ハーレイの短く切り詰められた詠唱によって放たれた【ショック・ボルト】は学生のものとは比べ物にならないスピードでリアム目掛けて走っていく。

 流石に威力は少し痺れる程度にはなっているが。

 そのあまりの詠唱の早さに生徒達が驚く。

 

 【ショック・ボルト】がリアムの元へとすぐさま届くと大きな砂煙が上がる。

 

「この程度で私に挑もうなど…笑わせてくれる」

 

 ハーレイは早くも勝利を確信した余裕の表情を浮かべる。

 

「《いけ》」

 

 中庭にいる誰もが決まったと思ったその時、二対の雷が巻き上がった煙の中よりハーレイを襲う。

 ハーレイは一瞬驚きの表情を見せるがすかさずその電撃に対応する。

 

「《炎壁よ》」

 

 炎の壁が現れ電撃を阻んだ。

【ファイア・ウォール】───放射状に炎の壁を展開する魔術だ。

 

ニ反響唱(ダブル・キャスト)だと…!」

 

 ニ反響唱は多大な技術が要求される高等技法だ。一度の呪文詠唱で二度同じ魔術を起動することができる。

 そんな高等技法を易易と披露したリアムにハーレイは舌を巻いた。

 

「1度の呪文詠唱で2度の魔術起動!? そんなこと可能なのか!?」

 

「そもそもあいつの詠唱、《いけ》って言っただけだったぞ!?」

 

「何者なんだ!?」

 

 これまで見たこともない高等技術に生徒達が驚く。

 

 ハーレイは素早く【ゲイル・ブロウ】を放ち煙を吹き飛ばすがリアムの姿はない。

 リアムは【グラビティ・コントロール】によって自身を一定時間軽くして大きくジャンプをしてハーレイの頭上へと飛び上がっていた。

 

「!?……上か!」

 

 一瞬リアムを見失ったことによって隙が生まれた。その隙にリアムが呪文を詠唱する。

 

「《轟け・紫電よ》」

 

 リアムは【ショック・ボルト】を改変し広範囲に渡る電撃に変えた。

 

「《大気の壁よ》」

 

【エア・スクリーン】によってハーレイは電撃を防いだ。

 しかし広範囲に渡る電撃に気を取られリアムのもう一つの攻撃にハーレイは気づいていなかった。

 

 突然激しい音が中庭に響いた。

【スタン・ボール】───激しい音と震動が発生する球を飛ばす学生用の攻性呪文で相手を気絶させ無力させたりするのが目的となる。

 

「広範囲の電撃は囮だと!?」

 

 決闘は完全にリアムのペースだった。

 すぐにハーレイの勝ちで終わると思っていたハーレイのクラスの生徒や野次馬たちはリアムのペースで決闘が進んでいることに驚きを隠せない。

 

 

 

「《終わりだ》───ッ!」

 

 【スタン・ボール】によって怯んだハーレイ目掛けてリアムは【ショック・ボルト】を唱える。

 リアムの放った電撃がハーレイに直撃するかと思われたがその電撃は打ち消された。

 ハーレイが【トライ・バニッシュ】を時間差起動(ディレイ・ブート)したのだ。

 

「残念だったな…!」

 

 ハーレイはすかさず【ショック・ボルト】を放つがリアムの姿は既になかった。

 

「なっ…」

 

 リアムは地面を蹴りハーレイへと背後から詰め寄っていた。

 リアムが呪文を詠唱しようとすると地面が光る。

 ハーレイが備えていた魔術トラップだったが…

 リアムはそれを見破っており素早くそのトラップを解除する。

 

 とんっ

 

 ハーレイが対応しようとした時には時にはもう遅い。

 ハーレイの頭にリアムが右指を突きつけていた。

 

 

 

「そこまで! 勝負あり!」

 セリカが決闘の決着を宣言した。

 

 

 

 

「この私が学生に負けた…だと…!?」

 

 ハーレイはその場にショックで倒れ込んでいた。

 

「ハーレイ先生の敗因は生徒に負けるはずがないという慢心。警戒を怠りすぎですよ?」

 

 リアムがハーレイへと話しかける。

 ハーレイは言い返すことができない。リアムの言う通りだからだ。

 

「くっ…覚えていろ! 魔術競技祭の本番では負けんからな!、! 集団競技になったら、まず貴様らにクラスから率先して潰すからな! 首を洗って待っていろ!」

 

 リアムとグレンはハーレイに言い放った。

 

「「おととい来やがれ」」

 

 二人は親指を下に向け、首をかっ切る仕草とともにメンチを切った。

 鼻を鳴らし、忌々しそうに肩を怒らせながらハーレイは去っていった。

 二組の生徒達は喜びの声を上げた。

 

 魔術競技祭はもうすぐそこに迫っている。

 

 




活動報告でアンケート?的なの取ってますので
良かったら見てください!


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二組の快進撃

2部の2話です。
よろしくお願いします!


「ねえ、アルベルト。私達今回何をするの?」

 

「女王陛下の周囲の監視だ」

 

「分かった。怪しい奴がいたら斬ればいいんでしょ?」

 

「………監視対象に気付かれないように女王陛下の周囲を監視し、怪しい者が居たら殺さず捕らえる」

 

「分かった。背後から叩き斬る」

 

「………」

 

 この日魔術競技祭が行われるアルザーノ帝国魔術学園の近くにて丈長の黒のローブを身に包んだ男女の二人組が会話をしていた。

 一人は十代半ばの少女である。伸び放題の青髪に眠たげに細められた瑠璃色の瞳。しかしその美少女の表情は無表情でその姿はまさに人形のようであった。その少女の名前はリィエル。帝国宮廷魔道士団の一人である。

 リィエルにアルベルトと呼ばれた青年。藍色がかった長い黒髪と鷹のように鋭い瞳が特徴的な青年である。彼の容姿は多くの女性を引きつけることであろう。そんな彼もまた帝国宮廷魔道士団の一員であった。

 

 

 

アルザーノ帝国魔術学院の競技場の観客席は人で溢れていた。この日は生徒達が待ちに待った魔術競技祭の日だ。

 

『またまた二組だぁああああああ!!「飛行競争」の三位に続き「魔術狙撃」においても四位以内を確定させたぁあああ!!』

 

 成績上位者のみが出場するのが伝統だったこの大会も今大会は異様な光景に包まれていた。

 成績上位者のみならずすべての生徒が参加している二組が優勝候補筆頭の一組と同じように優勝争いに名乗りを上げていたのだ。

 

「マジか…」

 

 二組の担任、グレンも想像以上の結果に驚きを隠せないでいた。

 確かにグレンは様々なアドバイスを生徒達に伝えていたがそれでもここまでの結果を残せるとは思っていなかった。

 

 観客も驚きの声を上げてはいたが「やがて失速するだろう」というのが大方の見解であった。

 しかしウェンディの【リード・ランゲージ】の一位など、成績上位者は確実にポイントを重ね、成績が特別高くない生徒も各々結果を残している。

 そして午前の競技を二つ残した時点で二組の順位は大方の予想を裏切り三位。

 優勝の可能性が十分にある位置につけていた。

 しかし他のクラスは成績上位者で固めているためやはりそれなりに差は出てきてしまう。

 二組は三位につけては、いるが優勝争いを続ける五組や一組との差は大きかった。

 この午前の残りの競技で多くポイントを稼ぎこの二クラスに追いつかなければ優勝は厳しいそんな状況であった。

 

 そして迎える次の競技は【精神防御】───

 出場するのはルミアだ。

 精神防御は配点が高いが、ポイントを得られるのは一位のクラスのみ。

 さらにはこの競技において最強とも言われている五組のジャイルが出場することもありハーレイの一組は捨て石をこの競技に出場させている、

 屈強な男達の中に一人混ざったルミア。

 その紅一点の女子生徒を観客は困惑の目で見ていた。

 そんな状況でもルミアはにこにこと笑い二組のクラスメイト達に手を振っている。

 

「ルミア…」

 

 リアムは競技場の中央で多くの視線を集めながらこちらに手を振るルミアを見ていた。

 

「なんだ…? 彼女が心配なのか…?」

 

 そんなリアムにグレンが揶揄うように話しかけてきた。

 

「いやだから彼女じゃないですって…てか心配って…そんな心配いらないでしょ」

 

 それもそうだとグレンも競技場の中央に視線を戻した。

 

 

 その光景はとても信じられないものであった。

 屈強な男達が次々と倒れていく中。

 その中でも屈強な男達の中に混ざった一輪の花───ルミアは顔色一つ変えず平然と立っていた。

 会場はその異様な光景に大歓声に包まれる。

 やがて残ったのはルミアとジャイルの二人だけとなった。

 

「ふん。お前…なかなかやるじゃねーか」

 

「そ、そうかな…?」

 

「へっ。だが、そろそろきついんじゃねえか?棄権したらどうだ?」

 

「心配してありがとう、ジャイル君。でも……だめ。私だって負けるわけにはいかないんだ」

 

 ルミアは気丈に笑うが痩せ我慢なのがありありと見て取れた。

 その姿を見たジャイルがやれやれと肩をすくめる。

 

「はっ……わからねえな。こんなくだらない競技祭ごときで。一体、何がお前にそこまでさせている?」

 

「私…負けるわけにはいかないの。全員で勝とうって言ってくれた先生や、クラスのみんな。彼の為にも」

 

「彼…? ほう…彼氏か?」

 

「そっ…そんなんじゃないよ…!彼はいつも私を護ってくれる。でも護られてるだけじゃ嫌なの。私もなにかできることをしたい。だから頑張るんだ」

 

「……そうかい」

 

 それ以降、ジャイルはルミアに対して何一つ言わなくなった。堅い信念を持って立ち塞がる好敵手に語る言葉などない、ということなのだろう。

 

『続いて二十八ラウンド───ッ!』

 

 いよいよ勝負も佳境。観客席は盛り上がりに盛り上がっていた。

 その加熱ぶりは止まるところを知らないようだ。

 

「では…さきほどよりもう少し【マインド・ブレイク】の威力を上げよう。いくぞ、心の準備は宜しいかな…?」

 

「……はい」

 

「いつでもいいぜ?」

 

 ツェスト男爵が慎重に呪文の威力を徐々に上げていく。

 余裕があった二人の顔もだんだんと余裕がなくなってきた。

 しかし二十九、三十、三十一とラウンドを重ねて行っても二人はまだその場に立っていた。

 ルミアには限界が近づいていた。

 

(…ッ!……もうそろそろ…でも駄目。負けるわけには……)

 

 ドサッ

 遂に倒れる音が会場に響いた。

 しかしルミアは体制を崩し倒れかかってはいるもののまだ倒れてはいなかった。

観客がまさかとそちらへと視線を移すと

【精神防御】で優勝確実と言われていたジャイルが倒れている姿がそこにはあった。

 

『ああ───ッとぉおおおお!!ここでジャイルくんダウン…!? 勝者はなんとまさかの紅一点ルミアちゃんだぁああああ──ッ!』

 

 ルミアの勝利に湧き上がる歓声。

 二組の生徒達が観客席から飛び降り、一直線に駆け寄って来てルミアを取り囲み、その健闘を次々と口早に讃えてくる。そんな中システィーナがルミアに抱きついた。

 

「もう、ほんっとに心配したんだから! でもおめでとう。無事でよかった」

 

「システィ…」

 

 そしてルミアはクラスメイト達を振り返り嬉しそうに笑ったのであった。

 リアムは観客席からその様子を見つめていた。

 そのリアムを見つけたルミアはリアムに対し手を振り嬉しそうに花のような笑顔で笑った。

 そしてルミアはリアムに向かって右手を握りしめ突き出すと口パクで何かを語りかけた。

 

「が ん ば っ て か…」

 

 リアムはルミアのメッセージを受け取ると待機場所へと歩き出した。

 

「次は俺の番…だな」

 

「頼んだぜ? リアム」

 

隣に居たグレンがリアムへと話しかける。

 

「余裕ですよ」

 

振り返ることなくリアムは答えると再び歩き出した。

 

 

 

【呪文詠唱】の競技に出場する生徒が競技場中央に集まっていた。

 

『さぁあああ!!午前最終競技。【呪文詠唱】が今始まります!!』

 

 合図とともに的が現れ一人を除き参加者が呪文詠唱を開始する。

 

「「「雷精の紫電よ───」」」

 

 リアムは呪文詠唱を行う素振りを全く見せずその場に佇んでいる。

 

『おっと───? どうした、二組のリアム選手。ここまで全く呪文詠唱を行っていないぞ───!?』

 

「ふんっ…大口を叩きながら本番では緊張して全く動けないか…これだから二組の生徒は───」

 

 ハーレイがグレンに話しかける。

 

「なーにいってんすか。ハーレム先輩。競技はまだ始まったばっかっすよ」

 

「ハーレイだ。ハ ー レ イ ! 貴様、グレン=レーダス──!覚える気がないだろう──ッ!それに現にあの生意気な生徒は一言も呪文を詠唱していない!」

 

 それぞれ参加者が呪文を詠唱し、【ショック・ボルト】や【ゲイル・ブロウ】、【ファイア・ショット】の魔術が飛び交う。

【呪文詠唱】の競技はこの三つの魔術で現れる的を如何に早く壊すことが出来るかが問われ、的を割る事に一点入り、また間違った魔術で的をわると減点となる。

 

『おっとー!一組のハインケル選手。この【ショック・ボルト】の的も取った───!! ここまで【ショック・ボルト】のポイントを総取りだぁあああ!!』

 

「ふっ…聞いたか。グレン=レーダス! この競技は一組が貰ったな! 先ほどの【精神防御】には驚かされたが、これでまた差が開くな!!」

 

「そろそろか」

 

「き、貴様…!? 無視だと!? ふざけるなよ! グレン=レーダス!!」

 

 

 リアムはこれまでただ立っているのではなく冷静に他の生徒の事を観察していた。

 

(この程度か…しかしハインケルとかいうやつの【ショック・ボルト】()()はまあまあだな。確か一組だったか───言うだけのことはあるな)

 

 リアムが右手を突き出す。

 

「ま、相手にはならないけどな」

 

「なんだと…!?」

 

小さく呟いたリアムの方を見てハインケルが苛立ちを見せるが再び中心を見据えハインケルは競技に集中する。

 

(何を企んでるのかは知らねーがここからの逆転は全て取るくらいじゃないと不可能! 第一俺が【ショック・ボルト】の詠唱で負けるわけが無い! こい…! こい…!!)

 

ハインケルの思惑通り次に現れた的は【ショック・ボルト】。ハインケルの狙い通りだった。

 

「《雷せ───!?」

 

 的が現れた瞬間その的が電撃によって割れる。

 一瞬の出来事に競技場全体が静まり返る。

 

「あ、やべ。やり過ぎた」

 

『な、なんだ───!?今の高速詠唱は─!?ここまで一度も呪文詠唱をしなかったリアム選手。ここに来て得点だぁあああ!!』

 

「なんだと───」

 

 ハーレイも目を丸くしてリアムの方を見ていた。

 

「馬鹿な───ッ!?いくら何でも早すぎる───ッ!【ショック・ボルト】とはいえ学生の域を完全に超えている───」

 

「どうしたんですかぁあ?ハーベストせんぱぁあい?」

 

そんなハーレイの様子を見てグレンが憎たらしい顔を作ってハーレイを煽る。

 

「…お、おのれ…!」

 

 ハーレイは悔しさの余りに身体を震わせていた。

 その間にもリアムは次々と的を破壊していく。

 他の生徒達は最下位だったリアムが徐々に得点を重ね追い上げていくのに焦りを感じる余りに減点を連発していった。

 

「《ほらよっと》」

 

 リアムが唱えた【ファイア・ショット】の炎弾は的を破壊した。

 

『きたぁああああ───ッ!これで二組リアム選手、首位の一組ハインケル選手とポイントが並んだ───!!』

 

 次に【ショック・ボルト】の的が現れた。

 他の生徒よりもいち早くハインケルとリアムが呪文を詠唱する。

 

「《雷精よ》」

 

 ハインケルも【ショック・ボルト】の改変呪文で素早く魔術を唱えポイントを重ねてきた。しかし───

 

「《いけ》」

 

 リアムの詠唱はさらに短く切り詰められており詠唱速度はその上をいっていた。

 逸早くリアムの放った電撃がハインケルのものよりも的に到達し的を割った。

 

『決まったぁああああ───ッ!!最後のポイントは二組リアム選手───!【呪文詠唱】の競技も【精神防御】に続き二組が一位だぁあああ!!』

 

 リアムは二組のクラスメイト達の方を向くと右手を突き出した。

 二組の生徒達は歓喜の声を上げていた。

 こうして魔術競技祭午前の部は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 昼休み───

 リアムは迫り来るクラスメイト達から逃げ中庭の隅の木の上で昼飯を食べていた。

 

「やれやれ…そんな全力で追いかけてくるなよ…」

 

 昼休みにはグレンがシスティーナに吹き飛ばされるという小さな事件もあったりしたが平和に過ぎていった。

 リアムは遠見の魔術を使用しルミアの様子を確認した。

 ルミアはグレンにサンドイッチを持っていきグレンと一緒に何かを話しているようだった。

 グレンと一緒なら大丈夫だろう───リアムはそう判断し目を瞑った。

 

 

「んっ…」

 

 リアムが目を覚ますと賑わっていた中庭には誰もいなかった。

 

(ああ…俺は寝ていたのか…)

 

「確かに最近寝不足だったからなあ…」

 

 競技場が賑わっていた。どうやら午後の部が始まるらしい。木から飛び降りてリアムは闘技場へと向かったがそこにルミアの姿はなかった。

 不審に思ったリアムがシスティーナに事情を聞くと───

 

「あぁ、ルミアなら先生が探しに行ったから大丈夫よ」

 

「そうか」

 

 グレンが探しに行ったなら大丈夫か、ただしまあ念には念をとリアムが遠見の魔術を起動しルミアの姿を確認した。

 だがリアムが見た光景は予想していたものとは全く違っていた。

 

 リアムの視界に写ったのは複数の兵士に剣を向けられるルミアと兵士によって殴られ倒されたグレンの姿だった───

 

「っ……!?」

 

「ちょっと!リアム!どこ行くのよ!?午後の競技、すぐに始ま───」

 

「すぐ戻る!」

 

 リアムに話しかけるシスティーナを他所にリアムは闘技場を走り去った。

 




この作品の題名を変えようか悩んでいます。
何かご意見や題名案などあればよろしくお願いします!


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戦車は止まらない

いつの間にかお気に入りが200超えてました!ありがとうございます!!あと日刊ランキングにもランクインしてました!これもいつも見ていただいてる皆様のおかげです!これからもよろしくお願いします!


 ルミアが立つのは人気のない中庭の街路樹の下。

 そしてそのルミアを囲むようにして王室親衛隊が立っている。

 

「体の力を抜いて、動かぬことだ。急所を外せば長く苦しむことになる」

 

 隊長格の衛士が剣を握りしめルミアの前に立つ。

 

「………はい」

 

 ルミアは一つ深呼吸をして目を瞑った。

 ルミアはいつかこのような日が来るのではないか───そう覚悟していた。

 元々自分は三年前に死ぬはずだった。そんな自分は無理をして生かされていたのだ。

 いつ殺されたっておかしくない。死んだって構わない。

 そう思っていた───1人の少年に出会うまでは

 その少年は自分に言った。

 大切に思ってくれる人の為、自分の為に生きろ。

 そう言われルミアは生きたいと思えた。

 

(……リアム君、もっと貴方と話したかった。もっと貴方と一緒にいろんなことをしたかった。もっと貴方の側で、いつまでも貴方の側でいたかった…私…貴方のこと───)

 

 その時ルミアの耳元に声が聞こえた。

 

「そのまま、目、瞑ってろ───」

 

「……えっ?」

 

 何かが爆ぜるような音が鳴り響くと耳を指すような悲鳴がその場を支配した。

 

「うぎゃぁああああああ───ッ!」

 

 ルミアが目を開くとそこには剣を取り落とし目を抑えて悶え苦しむ衛士達の姿があった。ルミアには何が何だか分からない。

 

「【フラッシュライト】の呪文さ」

 

 リアムがルミアに近づきルミアを後ろ手に縛める縄を切った。

 

「リアム君!」

 

 するとルミアはリアムの胸に飛び込んできた。

 

「怖かった…! 私怖かったよ…もう駄目かと……助けに来るの遅いよ!」

 

 ルミアが目元に涙を浮かべながらリアムの胸を叩く。

 

「すっかり遅くなっちまったな、悪かった…」

 

 リアムがそんなルミアの頭を撫でる。

 そんな中───

 

「くっそー強烈なヤツぶちかましやがって!てか俺が助けに来なくても良かったじゃねーかよ」

 

 グレンが二人の元へと近づいてきていた。

 グレンは片目を抑えていた。

 どうやらリアムの【フラッシュライト】をもろに食らったらしい。

 

「先生…!」

 

「あ、先生いたんすか」

 

「いたんすか。じゃねえ! お前知ってただろ!?」

 

「さー?」

 

 二人とグレンが話をしていると───

 

「いたぞ───ッ!」

 

 向こうから新手の衛士達かこちらに向かって駆け寄って来ていた。

 

「み、見ろ! 同士達が殺られているぞ!?」

 

「おのれ、我が剣の錆にしてくれるッ!」

 

「志半ばで倒れた同胞の無念、必ず晴らしてみせる!」

 

 どうやら勘違いされてしまったようで、衛士達は妙に殺気立ってこちらに向かってきている。

 迫り来る衛士達が一斉に抜剣する姿に、三人のは顔は青ざめていく。

 

「ど、どうしよう!?」

 

「逃げるぞ!」

 

「ちょっ…なんか俺も疑われてない!? やったの俺じゃなくてリアムなんですけどー!? あーもう。くそう!」

 

 グレンが三節のルーンで呪文を唱える。

 

「リアム! ルミアは任せるぞ!《三界の理・天秤の法則───》」

 

「了解」

 

「任せるって───きゃっ!?」

 

 リアムはルミアを横抱きに抱えると、一節のルーンを唱え跳躍する。

 すると人の脚力ではありえない高さまで、二人の体が空へと舞い上がった。

 黒魔【グラビティ・コントロール】。重力操作の呪文である。

 グレンもリアムに遅れながら三節詠唱で二人を追いかけ学院を囲む鉄柵を大きく飛び越え、学院のその外へと出た。

 呪文を解除すると二人は猛然と駆け出した。

 

「とにかくここを離れるぞ。ルミア」

 

「う、うん」

 

 リアムにお姫様抱っこされている状態のルミアは赤面しながら答える。

 

  「ああ、もう!なんで俺まで──ッ!?」

 

 グレンの悲痛で切実な叫びがフェジテの街に響いた。

 

 

 

 

 魔術学院のある北地区から、西地区へと至り、リアムは抱えていたルミアを下ろした。

 

「はぁ、はぁ…これからどうする…」

 

 息を整えながらグレンはリアムに問いかけた。

 

「先生はルミアと一緒に逃げて下さい。俺が囮になります。一節詠唱ができる俺の方が相手を翻弄できます」

 

「……そうだな。頼んだ」

 

「リアム君…」

 

「無事に戻ってくるよ」

 

 その一言だけ残しリアムはその場を後にした。

 そんなリアムの姿を心配そうに見つめていたルミアはやがてリアムが見えなくなるとグレンへと振り返り

 

「先生も私を助けてくれてありがとうございます」

 

 ルミアがグレンに礼を述べる。

 突然告げられた感謝の言葉に戸惑うグレンだったが…

 

「俺は何もしてねーよ。助けたのはリアムだ。俺は巻き込まれただけ」

 

「ふふっ」

 

「なんだよ?」

 

「なんでもないです」

 

 ルミアがグレンに笑顔を見せた。

 

「───たくっ…」

 

 グレンが右手で頭をかく。

 

「さてこれからどうするかな…」

 

 グレンが次に打つべき手を考えていると遠くの方で大きな音が鳴り響く。

 どうやらリアムが王室親衛隊と戦闘を始めたらしい。

 ルミアが心配そうな顔でその方角を見る。

「大丈夫だ。あいつは強い。俺よりもな」グレンがそうルミアに告げると「そうですね。彼を信じます」とルミアは笑顔を見せた。

 

「さてと。どうやって陛下に会うか、だが……あ。別に直接会う必要はないな」

 

 グレンはポケットからセリカとの遠隔通信の魔導器を取り出した。

 

 

 

 

 

「いたぞ!あそこだ!」

 

 衛士達はリアムの姿を見つけると携えた剣を引き抜く。

 リアムがそれに対し呪文を唱える。

 

「《雷槍よ》」

 

 リアムの左手より放たれた一筋の(いかずち)が衛士の剣を捉えそれを弾き飛ばす。

 さらに次から次へと雷は放たれ衛士の剣を次々弾き飛ばしていった。

 

「こいつ…!」

 

 衛士が弾かれた剣を拾おうと目を向けた瞬間───

 激しい音と振動が発生する。

 リアムが唱えていた【スタン・ボール】が決まり衛士達は気絶した。

 

 その後もリアムは衛士達を片っ端から【ショック・ボルト】などの呪文を行使し行動不能にして回った。

 

「ひとまずはこんなもんかな…」

 

 見渡す限りは追ってくる衛士達はもういない。

 

「とりあえず二人と合流するか」

 

 リアムはルミアとグレンを探しに駆け出した。

 

 

 

 

 

 

『お前だけがこの状況を打破できる……そう、()()()()がな』

 

「それは一体、どういう意味だよ…!?」

 

『グレン、この意味、よく考えろ。そして、なんとかして女王陛下の前に来い。来たなら取り巻きの親衛隊くらいは……これ以上は危険だな。切るぞ』

 

「あ、おい!?」

 

 セリカはグレンとの通信を一方的に切った。

 

「わけわかんねえ…女王陛下の元に来いって言われてもな…それに俺だけが状況を打破できるってどういう事だ…?」

 

 グレンがセリカの言った言葉の意味を考えていたその時───

 

 

「見つけた」

 

 

 ぞくり、と。背中を駆け上がる、氷の刃で斬りつけられたような悪寒。

 

「───殺気!?」

 

 かつて慣れ親しんだその感覚に、グレンが脊髄反射で殺気を感じた方向へ目を向けると同時に何者かがこちらに向かって駆け出す。

 その者の手には大剣が握られていた。

 そして大きく地面を蹴り飛び上がる。

 

「ルミア!下がれッ!」

 

 グレンがルミアを路地の奥へと逃がす。

 その時グレンはその何者かの顔を観てその正体に気がつく。

 

「リィエル!? 宮廷魔導士団も動いていたのかよ!?」

 

 リィエルが大剣を力の限りに振り下ろす。

 グレンが間一髪逃れたその場所の石畳は大きく割れ大剣が突き刺さっていた。

 突き刺さり抜けなくなった大剣を無視しリィエルが呪文を詠唱する。

 

「《万象に希う・我が腕に・剛毅なる刃を》」

 

 リィエルが両手を地面につくと紫電が走ると共に、リィエルの手に新たな大剣が生み出された。

 

「───《白銀の氷狼よ・吹雪纏て・疾駆け抜けよ》ッ!」

 

 グレンが突き出した左手から吹雪が吹き荒れ大量の氷礫がリィエルへと襲いかかる。

 軍用攻性呪文(アサルト・スペル)の黒魔【アイス・ブリザード】。この魔術に対し普通の魔術師ならば、瞬時に防壁を張ったり、有効射程より撤退する、いずれにせよ足が止まるのだが───

 

「効かない」

 

 リィエルは大剣で襲いかかる冷気を防ぐと、地面を強く蹴り飛び上がって、冷気から逃れる。

 

「猪かよ───ッ!?」

 

 グレンは咄嗟に【ウェポン・エンチャント】を唱えて拳を強化する。

 

「いいいいやぁああああ───ッ!」

 

 暴風のように飛び込んできたリィエルがその手の大剣を振りかざし稲妻の如くそれを振り下ろす。

 その荒々しく苛烈な剣撃を、強化した拳で受け止める。

 グレンが剣を受け止めた瞬間、その衝撃から踏みしめていた大地は割れて砕ける。

 

「ぐッ───」

 

 グレンは血を吐きながらもその一撃になんとか耐えきった。

 

「先生ッ!?」

 

 グレンの軍時代。リィエルとの相性は抜群だった。

 グレンの固有魔術【愚者の世界】によって魔術を封じてもリィエルの剣術には微塵の影響もない。

 グレンが帝国宮廷魔導士だった頃はその相性もありよく組んでいた。

 だがそれが相手となると相性は最悪である。

 グレンの【愚者の世界】をもろともしないリィエルはグレンにとって天敵でもあるのだ。

 

 グレンも何とかリィエルの攻撃を捌いていたが徐々にリィエルの剣撃がグレンを押していく。

 

「くっ…リィエルッ!?話を聞いてくれッ!?」

 

「問答無用ッ! 斬るッ!」

 

 これが答えとばかりにリィエルがグレンに斬り掛かる。

 リィエルの凄まじい剣撃を前にグレンも防戦一方となる。

 そして───

 

「が───ッ!」

 

 グレンがリィエルの剣によって弾き飛ばされ壁に打ち付けられる。

 

「先生ッ!」

 

「私の………勝ち──ッ!」

 

 リィエルがグレンに剣を振り下ろした刹那───

 

 キィィィン!!!

 金属と金属がぶつかり合う甲高い音が鳴り響く。

 グレンを叩き斬ろうとしていたリィエルの大剣は二つの剣によって防がれた。

 リィエルはその場から少し下がり距離を取る。

 

「リアム君!!」

 

 駆けつけたリアムがリィエルの攻撃を防いでいた。

 

 

「な、なんでリィエルと先生が───」

 

「リアム! 邪魔!」

 

「ちっ…!」

 

 リアムの言葉を遮るようにリィエルがリアムへ襲いかかる。

 リアムもそれに応戦する。

 咄嗟にリアムが左手の剣をリィエルに向かって投げつける。

 しかしリィエルは軽くかわす。

 

「《雷槍よ》──!」

 

 リアムがその一瞬の隙を狙い【ライトニング・ピアス】を撃つ。

 しかしその攻撃もリィエルはバク宙でひらりとかわす。

 

「マジかよっ!? なんて身体能力してんだよ!?」

 

「邪魔するなら───斬る───ッ!」

 

 リィエルが大剣を振りかざしリアムへと襲いかかる───

 だがリィエルは攻撃を突如中断し空中で体を捻る。

 そのリィエルの横を光の筋が走った。

 グレンの【ライトニング・ピアス】だ。

 あのままリィエルが攻撃を続けていたら直撃していたのだがリィエルはそれを直感で察知し回避した。

 

「いや今の避けるとか有り得ねえだろッ!?」

 

 グレンが嘆いていると

 ふとグレンの視界に一人の青年の姿が映る。

 リィエルと同じ黒のローブに長い髪、そして鷹のような鋭い目───

 その男の正体を悟ると同時にグレンがリアムに向かって叫ぶ。

 

「リアムッ!よけろっ!」

 

「えっ?」

 

 リアムとリィエルの激しい攻防が続く中、超高速で飛来する稲妻の力線が真っ直ぐ二人めがけて飛んでくる。

 

「アルベルトだ!」

 

 しかしリアムに回避する余裕などなく、リアムに稲妻が命中するかと思いきや───

 

「きゃんっ!?」

 

 黒魔【ライトニング・ピアス】は、リィエルの後頭部に刺さっていた。

 途端にリィエルはどさりと倒れ伏し、地面でぴくぴくと痙攣し始める。

 

「「……え?」」

 

 先ほどまで吹き荒れていた破裂音が嘘のような静寂が、不意に訪れた。

 呆然とするグレンとリアムの前に、アルベルトが歩いて近付いてきた。

 

「久しぶりだな、グレン。リアム」

 

「あ、あぁ……」

 

 アルベルトの挨拶に戸惑っているグレンの横でリアムは固まったまま動かなかった。

 不審に思ったルミアが駆け寄ってきて、リアムに問う。

 

「どうしたの? リアム君?」

 

 その様子に気がついたグレンもリアムに怪訝の表情を向ける。

 

「あ、あ…」

 

「「()…?」」

 

 ルミアとグレンが顔を見合わせる。

 

「あ、兄貴ぃいいいいいい!? なんでここに!?」

 

 そのリアムの問い掛けにアルベルトは淡々と答える。

 

「任務だ。ほかに何がある?」

 

「いやイテリア地方への長期任務はどうしたよ!? まだ一週間しか経ってないぞ!?」

 

「既に終了した」

 

「あの任務二人で一ヶ月はかかると思うんですけど!? なんでたった一人でしかも一週間で終わらしてんの!? 」

 

「造作もない」

 

 そんな兄弟の会話に割って入ったのはグレンだ。

 

「待て待て待て!? 今、リアム。兄貴って言ったか!? お前ら兄弟なの!?」

 

 ルミアも目を丸くしている。

 

「あぁ。血は繋がっていないがな」

 

 グレンの問にアルベルトは冷静に答えた。

 




今回の話は前作読んでない人には衝撃の事実…かな? 皆さん気付いてましたかね?笑 題名変更を検討中です。このままの方がいい!とかこんな題名はどうですか?などご意見聞かせて頂けると嬉しいです!


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私が作戦を考えた

遂に10話です!
お気に入りも240超えてるようでありがとうございます!
励みになります!
今回2000字ちょっとと短いですがどうぞ!
題名ミスっていたので修正しました!


「「このおバカぁああああああ!」」

 

 フェジテ西地区の路地裏の奥深くにグレンとリアムの叫び声が響き渡った。

 

「うぅ…グレン、リアム。痛い痛いー」

 

 グレンがリィエルの頭をグリグリしていた。

 リアムはというと、正面からリィエルの頬を引っ張ってる。

 

 リィエルがグレンに攻撃を仕掛けた理由は帝国軍時代の勝負の決着をつけたかったかららしい。リアムが襲われたのはその勝負の邪魔だったからという理由だ。

 

「タイミングを考えろ!? タイミングを!」

 

「邪魔だったからと言って同僚を殺そうとするな!?」

 

「大丈夫。あの程度でグレンとリアムが死ぬわけがない」

 

 リィエルは無表情ながらもどこか誇らしげであった。

 そんなリィエルに二人はグリグリ攻撃と頬引っ張り攻撃を再開する。

 

「痛いー」

 

 その様子を見ていたルミアの表情はどこか嬉しそうだった。

 

「どうした? ルミア?」

 

 その様子に気づいたリアムがリィエルのほっぺたを引っ張るのを止めルミアに話しかける。

 

「ううん。リアム君の楽しそうな姿が見れて嬉しいだけだよ」

 

「え、俺って学院じゃ楽しそうじゃないの…」

 

「いや、そうじゃなくって…帝国軍でもリアム君らしく楽しくやってるんだなあって。ほらなんかもっと軍ってピリピリしてるイメージだったから」

 

「いや大体はピリピリしてんだけどまぁ…こいつの周りだけはね…」

 

 するもルミアとリアムの会話にリィエルが突然割って入る。

 

「こいつって何。リアム。私の方が先輩」

 

「いや、ど こ が 先輩だよ! 先輩に見えねーわ! 尊敬できんわ!」

 

 リアムがリィエルの頭を両手で鷲掴みにして、がくがくと激しくシェイクする。

 

「やれやれ、リィエルの奴はちっとも変わらんな……少しは成長してるかと思ったら……はぁ……」

 

 眠たげな表情のまま、メトロノームのようにぶらぶら揺らされてるリィエルを見ながらグレンはため息を吐いた。

 

「……俺の苦労が少しは理解したか、グレン?」

 

「その……うん、ごめん。ほんと。今度奢ります」

 

「それで話の続きなんだが───」

 

 

 

 グレン達とアルベルトはそれぞれ持ってる情報を交換し整理した。

 当然リィエルは何も理解してないし何の情報も持ってない。

 グレン達は情報からグレンの【愚者の世界】がこの状況を打破すると考えた。

 

「つまり俺の【愚者の世界】が必要ってことは……」

 

「魔術起動の封殺が鍵になる。つまり魔術起動式の呪殺具の類が付けられてるのだろう」

 

「呪殺具……」

 

 呪殺具という言葉を聞いてルミアの顔に少し動揺が走る。

 母親に呪殺具が付けられている。母親がいつ殺されてもおかしく無い状況。いくらルミアと言えど動揺して当然だった。

 

「その呪殺具が何か、なんだが……」

 

 グレンが頭を書きながら記憶を整理していく。

 今日の女王陛下に何かいつも違ったところは無かったか、と───

 

「……あ、俺。分かったかも」

 

「見当がついたのか、グレン?」

 

「あぁ。だが問題はどうやって女王陛下の前に行くか、だ」

 

 三人の間に再び沈黙が流れる。

 そんな状況に痺れを切らしたリィエルが三人の会話に突然割って入ってくる。

 

「それなら問題ない。私が作戦を考えた。グレン、それにリアムもいるから高度な作戦が可能」

 

「ほぅ? 言ってみろ」

 

「ちょ、せんせ───」

 

 リアムが止めにかかるが時すでに遅し。リィエルはリアムの言葉を遮って話し始めた。

 

「まず、わたしが正面から敵に突っ込む。次にリアムが正面から敵に突っ込む。その次にアルベルトが正面から敵に突っ込んで、最後にグレンが突っ込んだら女王陛下の前。……どう?」

 

「……どう? じゃねぇええええ!? お前はその脳筋思考をどうにかしろよ!?」

 

「うー痛いー」

 

 グレンが本日三回目のグリグリ攻撃をリィエルに食らわせた。

 

「……そうだ。いい作戦思いついたぜ」

 

 グレンがグリグリ攻撃を止め、声を上げる。

 

「ほぅ…どんなだ」

 

 グレンは思いついた作戦の内容を話し始めた。

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 

 作戦はグレンとルミアがアルベルトとリィエルに【セルフイリュージョン】で化けて、代わりにアルベルトとリィエルがグレンとルミアの振りをして王室親衛隊の相手をするという作戦だった。

 リアムの役割はグレンとルミアのサポートとなった。

 

 突然現れたアルベルトとリィエルに驚き、アルベルトがグレンの代わりに指揮を執ると聞かされ初めは戸惑っていた二組だったが。

 

「先生がいない時に負けたらあとで絶対にバカにしてくるわよ、アイツにさんざん煽られ、バカにされてもいいの? アイツが居なくても私達はできると見せつけてやりましょうよ! みんな!」

 

 状況をなんとなくだが察したシスティーナの言葉によって、クラスの生徒達の心に火がついた。

 そして二組は勢いを取り戻し高得点を連発していく。

 

 リンなど普段の成績があまり目立たない生徒達が一位を取るなどの期待以上の活躍もあって二組とハーレイが率いる一組との差は徐々に縮まっていき、遂に『決闘戦』を前に二組と一組の差は無くなり同率一位で『決闘戦』を迎えることになった。

 つまりは勝った方が優勝というわかりやすい構図となった。

 

 一戦目。

 カッシュは評判以上の力を見せ一組の成績上位者を追い込むが最後は地力の差により惜敗。

 二戦目。

 ギイブルは実力通りの力を発揮し完勝。

 

 そして三戦目───

 

「《大いなる風よ》───ッ!」

 

 即興改変を既に身に付けたシスティーナが負ける筈はなく…システィーナの【ゲイル・ブロウ】が炸裂し勝利。

 そしてこの瞬間二組の魔術競技祭優勝が決まった。

 

「「「やったぁああああああ!!!」」」

 

 システィーナにすぐさま駆け寄る二組の生徒達。

 そして歓喜しているのは二組の生徒達だけではなく

 

「「「わぁああああああああ!!」」」

 

 例年とは違いクラス全員が出場した二組の優勝は競技場全体が例年以上の盛り上がりを見せるには十分だった。

 

 そんな歓声に包まれる競技場で運命の閉会式が始まろうとしていた。




4巻から後の展開を次々に思いついて書きたすぎて辛いです。

題名変更についてのアンケートを活動報告にて取っているので番号言うだけでもいいので良ければよろしくお願いします!


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波乱の閉会式

魔術競技祭編は今回とあと一話で終了です。
活動報告にて題名変更についてのアンケートを取っているのでよろしくお願いします。



 閉会式はなんの滞りもなく進んでいった。

 そして例年にはない最後のイベント。

 女王陛下が勲章を下賜するというビッグイベントが始まる。

 

『それでは二組の代表者は前へお願いします。盛大な拍手を』

 

 拍手が上がる。

 各クラスの担当講師達から羨望のため息が漏れる。

 が、次第に拍手は疎らになっていき、ざわざわと会場が沸き立ち始める。

 

 会場がざわつく理由。それは、生徒達を掻き分け前に立った人物の中に担任講師のグレンの姿はなく、立っていたのはアルベルト、リィエル、リアムの三人だったからだ。

 リアムはともかく見慣れない二人の男女の姿に会場がざわつく。

 

「アルベルト……? リィエル……?」

 

 アリシアは目を瞬かせながら二人の姿を見つめる。

 

「……来たか」

 

 戸惑うアリシアをよそに、セリカはぽつりとそんなことを呟いている。

 傍らに立つゼーロスも、何が何だかわからないと言った表情だ。

 

「リアム…なぜアルベルトとリィエルの二人がここに…?」

 

 アリシアがリアムに問いかけると

 

「しだいにわかりますよ陛下」

 

 アルベルトがぼそりと呪文を唱えるとアルベルトとリィエルの姿が歪みグレンとルミアへと変わっていく。

 

「なぜ!? ルミア殿がここに!」

 

 来賓や大勢の生徒達は一体何が起きたのか、さっぱり読めずに遠巻きにその様子を眺めながら困惑しざわめいている。

 

「簡単なことさ【セルフ・イリュージョン】で入れ替わったんだ」

 

 グレンが種明かしをし、セリカに合図を送る。

 その合図を受けセリカが断絶結界を作り出す。

 兵士達が結界を叩きながら叫んでいるがその声は結界内には届かない。

 音も遮蔽する断絶結界だ。

 

「ルミア、お前の母さん。今から助けてやる」

 

「はい」

 

 グレンがルミアへと小さく呟きそれにルミアが答える。

 グレンはアリシアの方へと向き直る。

 

「さてと、女王陛下その首のネックレス……とても綺麗ですね?」

 

 アリシアはグレンの言葉に一瞬驚きの表情を見せるが、すぐにグレンに向かって微笑み答える。

 

「ありがとうグレン。私の一番のお気に入りです」

 

「でも少し派手じゃないっすか? 外した方がいいんじゃないっすか?」

 

 グレンが一歩、また一歩と女王陛下の元へと歩み始める。

 

「貴様何を───ッ!」

 

 ゼーロスは剣を構え剣先をグレンへと向けている。

 

「駄目ですよ? 私はこれ外したくないですから」

 

 

 ビンゴ。

 条件起動式の呪殺具で確定だ。

 グレンはその瞬間確信した。

 

「では陛下。そのネックレス俺が外して差し上げますね」

 

「させるか──ッ!」

 

 グレンが駆け出し右手を動かした。

 動作を始めたのを察知したゼーロスがグレンへと即座に斬り掛かるがその剣はグレンへとは届かない。

 

「───!? 貴様!?」

 

 リアムの双剣がゼーロスの剣を受け止めていた。

 

「邪魔しないで貰えますかね!」

 

 ゼーロスは驚きを隠せなかった。

 ただの学生が自分の速度に付いてきたこと。また、押されているとはいえ自分の剣を受け止めている事実にゼーロスは驚いていた。ゼーロスはこの時点でリアムがただの学生ではないことを悟る。となれば名を聞くのは当然のことで

 

「………名はなんという」

 

「リアムだ」

 

「……! そうか、貴公が……」

 

「……?」

 

 リアムはゼーロスが言った言葉の意味を聞こうとするが既にゼーロスに話す気は無いということは、その表情からも、その剣からも分かった。

 

 リアムも何とか持ち堪えようとするが、やはりゼーロスの方が実力は上。

 リアムが押し切られそうになった瞬間。

 ある物がゼーロスの視界に映りゼーロスが突如剣を落とした。

 

 ネックレスが投げ捨てられていたのだ。

 

「陛下───ッ!!」

 

 ゼーロスが目を見開きアリシアの方へとすぐさま振り返る。

 

「安心しろ。呪殺具は発動しない」

 

 グレンの右手には愚者のアルカナが握られていた。

 

「何故───愚者のアルカナ? 貴公、まさか──!?」

 

「そのまさかですよ」

 

 ゼーロスの剣を拾いゼーロスへとその剣を渡しながらリアムがゼーロスの問に応じた。

 

 グレンは少し離れたところで体を伸ばしている。

 アリシアはルミアの元へと駆け寄りルミアを抱き締めていた。

 

「エルミアナ…私はあなたを傷つけて…」

 

「お母さん…」

 

 抱き合う親子、二人の目元には涙があった。

 

 

 

 

 ゼーロスがリアムへと話しかける。

 

「貴公のその剣。見事だった。流石……いや、やめておこう」

 

「流石? それは一体どういう…」

 

 リアムがゼーロスに聞こうとするもゼーロスは既にリアムの前から去っており衛士達への連絡を始めていた。

 

「一件落着って言いたいとこなんだけどなあ…リアム!」

 

 グレンがリアムを呼ぶとリアムは既に魔術を起動している。

 

「分かってますよ。二人の加勢に行ってきます」

 

 そう言い残すとリアムは風のようにその場から消え去っていった。

 

「【疾風脚】まで使えんのかよ…ホント優秀だな…おい」

 

【疾風脚】はただでさえ燃費の悪い【ラピッド・ストリーム】を連続起動する魔術で小回りが効かず難易度が高い魔術だ。当然グレンには使えない。

 

 グレンの元へルミアがやって来た。

 

「先生…」

 

「母さんとはもういいのか?」

 

「後でたくさん話をすることにしたので。それより…」

 

 ルミアがリアムの事を心配してるのは明白だった。

 ルミアの頭の上にグレンが優しく掌を置いた。

 

「大丈夫だ。あいつなら…」

 

 二人はリアムが駆け出して行った方を見つめていた。

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 同時刻。

 魔術学院より離れた南地区にて、人気のない路地裏をひっそりと人影が歩を進めていた。

 それは女王陛下付きの侍女長、兼秘書。エレノア=シャーレットの姿がそこにはあった。

 

「まさか失敗に終わるとは……それにしても《月》のリアム。なるほど魔術学院の生徒でしたか…これは計算外でしたわ」

 

 エレノアが歩みを止める。

 その瞬間、エレノアの目の前が爆発した。

 

「これは手荒い歓迎ですわね」

 

 エレノアの前にアルベルトが現れる。

 

「これはこれはアルベルト様…」

 

 エレノアが両手でスカートの裾を軽く持ち上げ、お辞儀をする。

 しかしアルベルトはエレノアを鋭く睨んだまま続ける。

 

「我々のもう一つの任務は女王陛下側近の内定調査…まさか貴女だったとはな。天の知恵研究会の外道魔術師エレノア=シャーレット」

 

 エレノアは正体が割れたというのに不敵な薄ら寒い笑みを浮かべていた。

 その姿は不気味。そのものだった。

 

 いつの間にかエレノア背後に付けていたリィエルが剣を構える。

 

「さて、どうしますか? 私はここは逃げの一手を打たせて貰いたいのですが」

 

 リィエルが激風を纏い、弾丸のように突進する。

 

「逃がさない、斬る!」

 

 アルベルトも指を構えて呪文を唱え始める。

 

「殺すなよリィエル。捕らえて組織の情報を吐かせる」

 

 エレノアは動じず、舞うような身振り手振りと共に呪文を唱え始める。

 

「でしたら…少しお手合わせ願いましょうか?」

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 フェジテの街中。

 屋根の上を突風が吹き抜ける。

 その突風の正体はリアムだった。

 リアムはスピードを全く落とさず屋根を蹴り駆け抜ける。

 

「敵は兄貴の目があったにもかかわらずここまでのことを仕掛けた。只者じゃねえ…」

 

 リアムは遠見の魔術で確認したアルベルト、リィエルが戦っている場所に向かい屋根上を駆け抜ける。

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 リアムが疾風の如く駆け抜ける地点より離れた南地区の路地裏は戦場と化していた。

 そこには複数の死体が屍の山を築き上げていた。

 

「《おいでませ》──《嗚呼・おいでませ》──《おいでませ》──!!」

 

 酔いしれたように歌われるエレノアの詠唱。

 周囲に響き渡ると虚空に門が開かれ、瘴気が溢れ出る。

 門より無数の死者たちが凄まじい勢いで現れい出る。

 

 女性の死体が肉壁を作り出し迫る。

 それをアルベルトの魔術が次々に撃ち抜き風穴を開ける。

 そこにリィエルが地面を蹴り飛び込む。

 

「いいいいいやぁあああああああ──!!」

 

「──ッ!? 《光の障壁よ》──!」

 

 エレノアがすぐに呪文を詠唱し、光の壁を作り出す。

 リィエルはその壁を剣で叩く。

 リィエルの凄まじい力を前に光の壁はあっという間にひびが入り砕け散った。

 

「冗談きついですわね───」

 

 リィエルの剣はエレノアを切り裂いた。

 紅の血潮が宙を舞う。

 

 背後から襲い掛かる死体の攻撃をリィエルは距離を取って回避した。

 目標を見失って佇む死体をアルベルトの魔術が次々に撃ち抜き死体はその場に倒れ伏していく。

 

「アルベルト。あいつまだ───」

 

 リィエルは倒れたエレノアの方へ剣を向けたまま警戒を続ける。

 その剣を握る手は少し震えていた。

 

「三度───奴を俺達はこれで三度確実に殺した。だが───」

 

 アルベルトが淡々と語るとエレノアは再び立ち上がった。

 先程リィエルによってつけられた傷が徐々に消え治っていく。

 

「この超回復力、この不死性…こいつは脅威だ。ここで仕留めるぞ。リィエル」

 

「ん」

 

 アルベルトが魔術を起動し雷が宙を駆け抜ける。その後すぐリィエルが地を蹴り距離を詰める。

 エレノアに向かって一直線に伸びる【ライトニング・ピアス】は突如現れた肉壁によよって防がれる。

 すかさずリィエルが死体を飛び越えエレノアへと切り掛るが再び死体による肉壁に防がれる。

 力任せに振り降ろされたリィエルの大剣その肉壁ごとエレノアの右腕を切り落とす。

 

「やってくれますわね…」

 

 地面から出てきた無数の死体の腕がリィエルの足を掴もうとするがリィエルはいち早く反応し元の場所へと飛んで腕を躱す。

 エレノアが再び次から次へと死体をよび出すと次々にリィエルとアルベルトへと死体が迫り来る。

 だが顔色一つ変えずアルベルトが【ブレイズ・バースト】を時間差起動する。

 燃え上がる炎が死体を焼き尽くす。

 

 その時吹雪がその場に吹き荒れる。

 燃える炎が凍り砕け散っていく。

 その場の気温が一気に下がる。

 

「ちっ…新手か」

 

 エレノアの傍に一人の少女が佇んでいた。

 

「エレノアお姉さま、加勢に参りましたわ♪ さあ《戦車》と《星》さん♪ 私が愛でて差し上げますわ♪」

 

「あらグレイシア。 助かったわ。 ふふふ、これならあなた方お二人を仕留めることができますわね」

 

 不敵に笑うエレノアとグレイシアの二人。

 だが二人は突如顔色を変えその場を離れる。

 二本の剣状の雷が二人がもといた場所に突き刺さっていた。

 

「はぁあああああああああ───ッ!!」

 

 屋根上より突如現れたリアムが体を回転させながらエレノアへと斬り掛かる。

 

「───させませんわ」

 

 グレイシアが吹雪を巻き起こすと吹雪の壁がリアムの前に立ち塞がった。

 

「───ッ!」

 

 リアムが攻撃を止め、アルベルトとリィエルの元へと下がる。

 

「ん。リアム」

 

「来たか」

 

「《冬の女王グレイシア》───何故ここに?」

 

 リアムがエレノアの横に立つグレイシアを目据えて言う。

 

「さぁ何故でしょう♪ お久しぶりです《月》さん♪ 少しお話しませんか♪」

 

「お断りだね」

 

「まあまあこれは《月》のリアム様。お会いできて嬉しゅうございますわ」

 

 エレノアはリアムを見据えて不敵に笑う。

 アルベルトが左手を構える。

 

「どうする。こちらは三人だ。今なら逃げれるぞ?」

 

 エレノアとグレイシアの周りを吹雪が吹き荒れ二人を包み込む。

 

「そうですわね。ここは引かせていただきますわ」

 

「また会いましょう? 《月》さん♪」

 

 吹雪が止み終えると二人の姿はその場から跡形も無く消えていた。

 アルベルトは構えた左手を引いた。

 リィエルも剣を下ろす。

 

「後のことは俺がやる。リアム、戻ってやれ。お前の事を待っている奴らがいるだろう? 」

 

「兄貴………ありがとう」

 

 リアムは【疾風却】を起動しその場から去って行った。

 路地裏にはアルベルトとリィエルの二人が残った。

 

「アルベルトどうするの?」

 

「特務分室に戻る。今後のことを決めるぞ」

 

「ん。分かった」

 

 二人もその場から姿を消した。





次回は打ち上げの様子です。お楽しみに!


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お酒は恐ろしい

2部これにて終了です。
今回いつにも増して短いですがよろしくお願いします。


 リアムはフェジテの街中の屋根の上を颯爽と駆けていた。

 向かう先は二組の打ち上げ会場だ。

 場所は護衛対象のルミアにマーキングをしている為座標ですぐ分かる。

 やがてその店が見えてきた。

 場所は北地区学生街───ではなくそこから少し離れたところにある飲食店だ。

 この店に以前リアムは来たことがあった。

 

「え、ホントにこの店でやってんのか?」

 

 リアムが座標を確認するが間違いない。

 ルミアはこの店の中にいる。

 リアムが疑ったのには理由がある。

 それは、この店は学生の打ち上げに使うにしては料理の値段が高い。

 リアムは時々バーナードにこの店で奢ってもらっている為来たことがあった。

 確かにこの店の料理の味は素晴らしい。素晴らしい……が。

 如何せん高いのだ。

 自分一人で来ようなどとは絶対に思わない。

 

「……嫌な予感がする」

 

 リアムが恐る恐る店のドアを開ける。

 普段は落ち着いた雰囲気の趣のある店内の店だが、今日ばかりはリアムの想像通り。いや、想像以上に悲惨であった。

 二組の生徒が貸し切りにしている店内ではあちらこちらで生徒が倒れ伏している。

 倒れるとまではいってない生徒達も騒ぎすぎたのか食べ過ぎたのか覇気がない。

 そこら中に倒れ伏している生徒達の中にグレンの姿があった。

 リアムが一応グレンの様子を見に近づいて見るとグレンは気絶していた。

 そのグレンを起こして話を聞こうとした時

 

「何やってんすか───あ」

 

 

 

 目に入ってしまった。

 グレンの右手に握られた伝票の数字が───

 

 

「うわぁ…」

 

 

 グレンが気の毒になる。

 グレンは優勝するクラスをハーレイとそれぞれ自分のクラスに賭けていたのだが、それで得た給料三ヶ月分と優勝した事による特別賞与がぶっ飛ぶであろう額だ。

 これから暫くはグレンに今までより優しくしようとリアムは決めた。

 リアムがグレンの側から離れその後、何とか生き残っている生徒達とも話をしながら店内を見渡しているとカウンター席に座るルミアの金髪が目に入った。

 

「あ、ちょっとごめん」

 

 話をしてた生徒に断りを入れルミアの元へと向かおうとすると話をしていた生徒にからかわれたが気にしない。

 床で倒れている生徒達を避けながらカウンターに座るルミアの元へと行く。

 見てみるとルミアは林檎ジュースを飲んでいた。

 グレンを気遣ってのことだろう。

 料理の注文もしていなかった。

 

「食べないのか?」

 

「あ、リアム君。うん…流石にね」

 

 ルミアが店の一角へと振り返る。

 リアムもそちらの方を向くとぐっすりと眠っているシスティーナの姿と高級ワインの瓶が無数に転がっていた。

 

「犯人あいつか…て、あの、ワイン…」

 

 酒の恐ろしさを再度認識したリアムであった。

 リアムはレモンティーをマスターに頼んでちびちびと飲む。

 ルミアも林檎ジュースをちびちびと飲む。

 静かな時間が緩やかに過ぎていく。

 

 やがて。

 

「……遅いよ。リアム君…」

 

 リアムが隣のルミアを見てみるとルミアはとても悲しげな目をしていた。

 

「悪い…」

 

「嘘、全然気にしてないよ? お仕事だもんね」

 

 ルミアは先程とは打って変わって笑っている。

 リアムがルミアには敵わないなと思いながらカップをテーブルへと置き呟いた。

 

「母親とは…どうだった?」

 

「あの後、お母さんと色々話してすっきりした。やっぱりお母さんは私の事愛してくれてた」

 

「まあ、当然だな。俺の事を知ってすぐに護衛を頼むほどだからな」

 

「リアム君、ありがとう。助けてくれて」

 

「そら任務だからな。助けて当然だよ」

 

「ううん。今回だけじゃなくて…入学式の時、覚えてる?」

 

 入学式の日、歓迎パーティの後ちょっとした事件が起こった。

 その時に、颯爽と現れてルミアを助けたのがリアムだ。

 入学式の時はリアムは特務分室には入っておらず、当然、ルミアの護衛の任務はない。

 

「あの時だって今回だって、リアム君は私が危なくなったらすぐに駆けつけてくれる。王子様みたいに」

 

「王子様? そんな柄じゃねーよ。俺がルミアを助けたのはただ俺が───」

 

 そこまで言ってリアムは口を閉じてしまった。

 ルミアが意地悪な顔をしてリアムをのぞき込む。

 

「ただ俺が……なに?」

 

 リアムはルミアに急に見つめられて顔を赤くするとくるっと反対を向いてレモンティーを飲んだ。

 

「な、なんでもねーよ…」

 

「ふふっ…素直じゃないなあ…」

 

 

 こうして慌ただしく過ぎっていった昼間が嘘のようにその夜は静かに、緩やかに更けていくのであった──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは暗い暗い闇の中───

 一人のメイド姿の女が不敵に微笑んでいた。

 

「《月》のリアム。ふふっ。間近で見て確信しましたわ」

 

「本人はまだ気づいていないようですが彼の力はいずれ我々が……今度こそ───」

 

「天なる知恵に栄光あれ───」





次回からは過去編に入ります!
今回短かったので今日中の投稿目指します。

題名変更については今のところは無しで行こうかと考えてます!
これからも『俺は貴女を守る剣となる』よろしくお願いします!


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過去編
出会い


今回から4話の間、過去編に入ります。
とりあえず今日、明日で過去編一気に行きます!


 リアムは家に居た。

 リアムは暇で暇で仕方がなかった。

 土曜日で学校は休み。いつもなら特務分室の仕事があるのだがそちらも珍しく、非常に珍しい事に休み。

 他の生徒達は魔術競技祭の疲れで寝ているだろうが、リアムはピンピンしている。

 軍所属のリアムが学生の魔術競技祭で疲れるわけが無いし、ルミアやグレンと逃げてる時も相手が弱かったので楽だった。

 ゼーロスと剣を交えたのは流石に疲れるがそれも一瞬。エレノア達との戦闘もすぐ終わったので全然疲れてない。

 そもそも他の生徒とは体力が違う。

 

「何かないかねえ…」

 

 リアムが何かやることがないか考えているとルミアの顔が思い浮かぶ。

 ルミアは今回母親と話したことで過去の事を考え込むことはもう無いだろう。

 ちなみにルミアの護衛任務は今日は一日ルミアも家でおり、フィーベル家にいれば安心安全なので必要ない。

 

「過去ねえ…」

 

 これはリアムの過去、8年前の物語───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は捨てられた。

 

 7歳になる頃だ。

 

 異能者だったとか王族の派閥闘争とかそんな大それた話ではない。

 ただ家が貧乏だっただけ。

 俺の親は生活に困った末、俺を捨てた。

 親の顔や名前、全てを覚えていない。

 自分を捨てた親の事なんかどうでもよかったので覚えてなくても別に構わない。そもそもなにもかもがどうでもよかった。

 このまま自分は誰の記憶にも残らないまま死んでいくのだと思っていた。

 そんなある日、俺はあの人と出会ったんだ───

 

 

「お前、名前は?」

 

 その日も俺は路地裏で一人パンを食べていた。

 当然色あせた残飯だ。

 ぼんやりとパンを食べていた俺は初めはその声に気づかなかった。

 やがてその声が何度も繰り返されているうちに耳に届き見上げると一人の12歳くらいの男の人が立っていた。

 

「お前、名前は?」

 

 どうやらこの人は名前を聞いているらしい。

 親の顔や自分の故郷など全てを忘れていた俺だったが自分の名前だけは覚えていた。

 

「……リアム」

 

 名前を聞くとその人は黙り込み急になにを思ったか俺が食べていた残飯をひったくり投げ捨てた。

 

「あっ…」

 

 投げ捨てられた残飯を拾おうと手を伸ばす俺の手をその人は握り座り込んでいた俺をその人は立たせた。

 

「……もっと美味いもの食わせてやる。ついてこい」

 

 その人は俺の手を掴んだままどこかへと俺を連れて行った。

 やがて裏路地を抜けて街の表に出た。

 飲食店などが建ち並んでいる。

 ほとんどの時間を路地裏で過していた俺にとって街の風景はとても眩しく写った。

 色んなものが光に満ちている。

 どこからか香ばしい匂いなんかも匂ってくる。

 路地裏の臭いとは大違いだった。

 それはたったの数歩。路地裏を抜けただけで世界は180度変わった。

 数分後、とある一つの家の前に着いた。

 どうやらここがこの人の家のようだ。

 

「…ただいま」

 

 自分はなされるがまま家の中へと招かれた。

 すると家の奥から誰かがやってきた。

 

「おかえり、アルベルト───あら、その子は?」

 

 この人の母親だろうか。とても優しそうな人だった。

 そしてこの人はアルベルトという名前ということをその時初めて知った。

 

「……拾ってきた。何か食わせてやって」

 

 

 

 

 

 数分後

 案内された部屋で待っていると

 

「……飯、できた」

 

 アルベルトに呼ばれた俺は食卓へと向かった。

 

 食卓には俺が見たこともないような綺麗で美味しそうな料理が並んでいた。

 

「さあ、食べて?」

 

 その人の母親は俺の前にあった皿に料理を取り分けてくれた。

 俺はアルベルトの方を見た。

 アルベルトは既にご飯を食べだしていた。

 

「いただき…ます」

 

 取り分けられた炒め物を口にするとそれは今まで食べてきたものとは比べ物にならないくらい美味しかった。

 

「どう、美味しい?」

 

 コクリ、と頷く。

 良かったとアルベルトの母親は喜んでいた。

 

 その日の夜家に帰ってきたアルベルトの父親らしき人と母親が話をして俺はこの家に住むことに決まった。

 この日からこの二人は俺の両親となりアルベルトは兄になった。

 

 

 

 アルベルト…いや兄や両親と暮らしていくうちに初めは縮こまっていた俺もだんだんと打ち解けていった。

 そして兄や両親のことを知った。

 両親は魔導省の官僚だということや兄は11歳ながら魔術学院に入学していて天才と騒がれていた。

 そんな両親や兄に憧れた俺も魔術師になりたいと志した。

 俺は学院の授業を終えた兄に魔術を教えてくれるよう頼んだ。

 初めは兄は嫌がっていたがやがて…

 

「……仕方ないな」

 

 兄は俺に魔術を教えてくれることになった。

 兄は俺に様々な魔術を教えてくれた。

 具体的に言えば【ショック・ボルト】や【ファイア・トーチ】などだ。

 初めのうちは当然だが全然魔術を使えなかった。

 それでも根気強く練習していくうちに…

 

「《雷精よ・紫電の衝撃以て・撃ち倒せ》」

 

 リアムの左手から電撃が放たれる。

 

「やった! できた!!」

 

 兄の教え方が上手いこともあって俺は少しだが魔術が使えるようになった。

 兄が魔術学院から帰ってくると兄に魔術を教わり、兄が魔術学院に行ってる間は自分で家で魔術をひたすら練習した。

 俺にとって魔術は掛け替えのないものになった。

 俺の魔術の腕はみるみる上達していった。

 その魔術の腕から地元では天才少年と噂され、俺達兄弟は天才兄弟として有名になった。

 そして俺がアルベルトと兄弟になって四年───

 

 兄は魔術学院を卒業した。

 当然の如く主席で合格した兄を俺は誇らしく思ったし兄のようになりたいと改めて思った。

 魔術学院の中でも天才として知れ渡っていた兄は帝国宮廷魔導士団へとスカウトされ兄は帝国宮廷魔導士になった。

 そんな兄を両親はとても喜んでいた。

 俺もそんな兄に憧れた。

 

 兄は帝国宮廷魔導士団でもエースとして活躍しているようだった。

 また兄には仲がいい同僚ができたみたいだ。兄は断固として仲がいいとは認めないが。

 兄に負けじと俺も魔術の腕を磨いていった。

 そして三年の月日が流れた。

 

「ここがアルザーノ帝国魔術学院か」

 

 俺は今、アルザーノ帝国魔術学院の門の前に立っている。

 

「いままでいろんな事があったな」

 

 思い返せば本当に色んなことがあった。

 何も無かった俺に兄や両親は居場所を与えてくれた。

 俺を愛してくれた。

 もう自分のことをどうでもいいなんて思わない。

 俺は人の記憶に残る魔術師になる。

 決意を胸に俺はアルザーノ帝国魔術学院の門を潜った。

 




次回、アルザーノ帝国魔術学院へ!


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アルザーノ帝国魔術学院

 リアムは学園敷地内にある、学生会館の多目的ホールにいた。

 入学式が終了すると、新入生達はここに集められ新入生歓迎のパーティーが開かれた。

 見れば新入生以外にも有志で参加した先輩達もいる為大変賑わっていた。

 

「なぁリアム!この飯すげぇうめぇな!」

 

「カッシュ食い過ぎだ」

 

「あはは、カッシュはたくさん食べるんだね」

 

「セシル! この薄くスライスされたビーフ! 食べてみろよ!世界が変わるぞ!」

 

 リアムはすぐに二人の男子生徒と仲良くなり三人共に行動していた。

 一人はカッシュ=ウィンガー。不思議な愛嬌のある大柄の少年だ。もう一人がセシル=クレイトン。まるで少女のような茶髪の少年である。

 

 その時突然リアムが食事の手を止める。

 

「ん? どうした…?」

 

「可愛い子が集まってる! しかも二組のテーブル…クラスメートみたいだ! これは行くしかない!」

 

 カッシュがリアムとセシルの手を取り談笑している少女達の元へと向かった。

 

 

 

「いつか必ず貴女を越えてみせますわっ! 貴女をわたくしの好敵手と認めてさしあげますわっ!」

 

 ツインテールの少女が涙目で地団駄を踏む横で、一人の少女は穏やかな微笑を浮かべ、銀髪と金髪の少女、そして小柄の眼鏡の少女が困ったように笑っている。

 

「おっと、ちょっといいかな? そこの可愛い子ちゃん達!」

 

 そこにカッシュがリアムとセシルを伴ってやって来た。

 

「っと、まずは自己紹介だな! 俺、カッシュ=ウィンガー。で、こっちが、この学院で最初に俺の友達になったセシルだ!」

 

「あはは、セシル=クレイトンです。よろしくね、皆」

 

「あ、こちらこそよろしく! 私はシスティーナ。こっちが、ウェンディとテレサ。この眼鏡の子がリンよ。それに───…って、あれ?」

 

 男子生徒二人の愛想が良い挨拶に、システィーナも名乗り返すが……

 

「あれ? ルミアは……?」

 

「ルミアさんならあちらですわ」

 

 テレサが見た方にはリアムとルミアが居て二人で何やら話していた。

 

「ん、あの人はカッシュ達といた…」

 

「あぁ、あいつは───」

 

 

 

「リアム君はなんで魔術師になろうと思ったの?」

 

 ルミアはリアムとの話に花を咲かせていた。

 

「あぁ、兄貴に憧れたんだ」

 

「へぇ! お兄さんがいるんだ! お兄さんはなにか職業に?」

 

「帝国宮廷魔導士って言って…まぁ軍の魔術師なんだ」

 

「凄いね! じゃあリアム君も帝国軍に?」

 

「まぁ、そうかな。ルミアはどうして魔術師に?」

 

「私はね───」

 

 リアムとルミアは共に容姿端麗である。そんな二人にお近付きになろうと男子生徒や女子生徒が二人の事を見ていたが何にせよ相手はルミアにリアムときている。適うはずもなく肩を落としていた。

 

 そんなことは露知らず二人の話はどんどん盛り上がっていった。

 

 

 

 

 

 盛り上がる生徒達から離れた会場の端で三人の男女が立っていた。

 その姿は異彩を放っていたが魔術によって会場の者は誰一人としてその姿には気が付かなかった。

 

「なぁアルベルト。お前何見てんだ?」

 

 突然一人の男が声を発する。

 話しかけられたアルベルトは右目でどこかを見据えたまま、左目では遠見の魔術を起動している。

 アルベルトは鬱陶しそうにその声に応えた。

 

「護衛対象の監視だ」

 

「いや、そっちは分かってるよ…」

 

 グレンは先程までアルベルトが見ていた先を確認して何か納得したような顔になる。

 不快感を覚えたアルベルトがグレンに話し掛ける。

 

「なんだ」

 

 グレンの顔がたちまち憎たらしいにやけた表情に変わる。

 

「いやぁあ、まさかアルベルト君にこんな趣味があったとはなぁああ!?」

 

「?」

 

 グレンが見ている先にはルミアがいる。

 

「いや確かにあの娘はすげぇ可愛いが。まさかアルベルトにそんな趣味が…」

 

「なにを言っている。黙れ」

 

 アルベルトがグレンを睨むがグレンは気にせず話し続ける。

 

「爺の事をさんざん言いながらも実は自分にはこんな趣味があったなんて───」

 

 アルベルトがさらに鋭くグレンを睨むが構わずグレンは話し続ける。

 

「ちょっと、グレン君!」

 

 もう一人いた白髪の美女がグレンを止めにかかる。それでもグレンは止まらない。

 

「おいセラ! この情報、イヴの野郎に売ってやろうぜ! あいつもさぞ面白がるだろうよ!」

 

 アルベルトが小さくため息をつく。

 

「……忠告はしたぞ」

 

「いやぁ、まさかアルベルトがロ───」

 

「《万物を凌駕する雷神よ・その腕に宿りし迅雷以て───………》」

 

 アルベルトがグレンに向かって左腕を突き出し魔術の詠唱を開始する。

 グレンは即座に黙り一気に青ざめる。

 

「おまっ! それ、プラズマカノンじゃねーか!? こんなとこでそれはヤバイだろ!?」

 

「安心しろ。外さん」

 

「いや外せよ!? 外しても駄目だけど!?」

 

「あ、アルベルト君! さすがに…」

 

「安心しろ、サラ。流石に殺さん。軽く半殺しにするだけだ」

 

 グレンが飛び上がると華麗なムーンサルト土下座をアルベルトに決める。

 

「お、お助けを───!」

 

 じめんに這いつくばったグレンの姿を暫く見た後アルベルトが左腕を下ろす。

 アルベルトが左腕を下ろした瞬間即座にグレンは立ち上がり再びふざけた顔をして───

 

「いやぁあ…まさかアルベルトがロリコンとはなあ」

 

 グレンに反省の色は全く見えない。

 アルベルトがグレンに向かって指を突き出す。

 

「《しね》」

 

 アルベルトの左指から電撃が放たれグレンを捉える。

 

「ぎゃぁあああああああああ───!!」

 

「お、お前…【ライトニング・ピアス】なんて…軍用魔術だぞ…」

 

「安心しろ。威力は抑えた。【ショック・ボルト】みたいなもんだ。だが…」

 

 アルベルトが放った【ライトニング・ピアス】は威力が格段に抑えられており【ショック・ボルト】とほとんど変わらなかった、

 

「次は本気で打ち込む。それが嫌なら護衛対象の近くを見張りに行け」

 

「はぃいいいいい!!」

 

 黒焦げになったグレンは目にも留まらぬ早さで走り去っていった。

 グレンが去った後セラがアルベルトに話しかけた。

 

「アルベルト君が見てたのって男の子の方だよね?」

 

「……」

 

「もしかして弟君とか? 髪の色似てるし! 」

 

 しかしすぐにないか。と、セラが笑う。

 

「…………そうだ。義理だがな」

 

「……え?」

 

 期待してなかった返事が返ってきてさらにはその返ってきた返事が予想だにしないものだった事でセラが驚く。

 

「へぇ──! アルベルト君に弟君がいたんだね…! そう…あの子が──」

 

「グレンには言うなよ」

 

 分かってる。と、セラが微笑んだ。

 そして二人はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 やがて楽しかったパーティーは終わりを告げる。

 時分はすっかり、夕暮れ時だ。

 生徒達は別れを惜しみながら解散す流れとなった。

 

「じゃあな、リアム! 明日からよろしくな!」

 

「じゃあね! リアム君!」

 

「あぁ、また明日」

 

 リアムはカッシュ、セシルと別れを告げる。

 リアムは学院の中へと戻って行った。

 

(システィーナを見ていた女の目…何かやりそうだな)

 

(システィーナは大丈夫だろうが……ルミアは…)

 

 リアムの歩く足はだんだんと早くなり、やがてリアムは駆け出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 学院校舎本館の中庭───

 ルミアと三人の女子生徒の姿があった。

 仲良く話している様には到底見えなかった。

 二人の女子生徒は背後からガッチリとルミアを拘束していた。

 

「先輩方は何でこんなことを!?」

 

 ルミアの問にリーダー格の女が答える。

 

「目障りなのよね。システィーナとかいう新入生。少し魔術が使えるからって調子乗って」

 

「……ッ!? 」

 

「だから貴女には人質になってもらうわ。安心して。今からあの新入生を連れてくるわ。貴女には危害は加えないわ。貴女には…ね」

 

「システィに……何をする気なんですか」

 

「ただの『指導』よ。先輩として…ね?」

 

「……!」

 

 睨みつけてくるルミアを無視しリーダー格の女が振り返りその場を去ろうとした時───

 

「きゃああああ───ッ!?」

 

 女子生徒の声がその場に響いた。

 リーダー格の女が驚き振り返るとそこには倒れた2人の女子生徒がいた。そして先程まではいなかった一人の男が立っていた───

 

「!?」

 

「ただの【ショック・ボルト】ですよ」

 

 ルミアを助け出したリアムの姿がそこにはあった。

 リアムの事をリーダー格の女が睨みつける。

 

「ふふっ…ピンチに駆けつけた王子様ってわけ」

 

「そんな柄じゃないんですけどね… それにしてもこの学院にもこんなくだらない人がいるんすね」

 

 リアムが挑発的な言葉を投げかける。

 だが、リーダー格の女は余裕の表情で答える。

 

「あらあら、たかが不意打ちで上手くいっただけで調子に乗らない事ね。新入生。私の名前はカレン=ナーシャ。いいわ。貴女にも特別に指導してあげるわ」

 

「リアム君! 逃げて! 先輩と正面から戦って勝てるわけない! 私のことはいいから!」

 

「安心しろルミア。大丈夫だ」

 

 リアムはルミアを安心させるように目配せする。

 そのリアムの目はとても頼もしいものだった。

 カレンがリアムに向かって右手を突き出すと

 

「大した自信ね。さぁ、いつでもどうぞ? 王子様?」

 

 カレンがリアムに先行を促す。

 

「じゃ、行きますよ、先輩」

 

 カレンは余裕であった。

 それもそうだ。

 自分は二年次生の中でも実力はトップクラス。ましてや相手は新入生だ。

 その実力差は言うまでもない。

 この新入生は【ショック・ボルト】が使えるようだが、所詮は新入生の三節詠唱だ。

 一節詠唱ができる自分が負ける筈がない。

 そうカレンは思っていた。

 

「《雷精の紫電よ》」

 

 しかしリアムは一節詠唱で【ショック・ボルト】を唱えていた。

 驚いたカレンが咄嗟に魔術を唱えようとするが当然間に合うはずもなく…

 

「ああああああああ!?」

 

 リアムの左手から放たれた紫電はカレンを捉えた。

 紫電はバチバチと音を立てて、カレンの全身を這い回りら蹂躙して一瞬にしてカレン視界を暗闇へと変えた。

 カレンはその威力のあまり気絶していた。

 

「リアム君…!」

 

 ルミアがリアムの元へとすぐに向かう。

 

「助けてくれて…ありがとう」

 

「当然のことをしたまでだよ」

 

 そこへ一人の少女が駆けつけてきた。

 

「ルミア───ッ!」

 

「システィ…」

 

「急にいなくなって…もう心配したんだから! ってなにこれ…」

 

 システィーナが目にしたのは倒れて気絶した三人の上級生の姿であった。

 周囲を一通り見渡すとシスティーナはようやくリアムの存在に気がつく。

 

「貴方…たしか…」

 

「リアム=ロディウスだ。改めてよろしく、システィーナ」

 

 まるで状況が分からないシスティーナ。

 そこにルミアが割って入った。

 

「リアム君が助けてくれたんだよ!」

 

「えっ? どういう…」

 

 再びシスティーナは周りを見渡す。

 そして状況を察すると…

 

「ルミアを助けてくれて、ありがとう。リアム。そしてこれからよろしくね」

 

「あぁ、よろしく」

 

 

 

 

 

 

 

 そんな中庭に面した、学院校舎の屋上にて。

 

「……………」

 

 帝国宮廷魔導士団の黒い魔導士礼服に見を包んだ青年と女が、そこにはいた。

 

「……かっこよかったね? 弟君! まさに白馬の王子様って感じだったね!」

 

 アルベルトにセラが話しかける。

 

「ふん………」

 

 そこに屋上のドアが開いてグレンがだらだらと歩いてきた。

 

「ちっ…面倒な後始末押し付けやがって……おーいアルベルトー、終わったぞ」

 

「大臣の護衛任務は終了だな。では予定通り、次の任務へと従事するぞ」

 

「ジャティス君の捜索……だよね」

 

「あんなイカレ野郎。どっかでくたばってればいいんだけどなあ」

 

「これは任務だ。集中しろ」

 

「……ちっ……お前も相変わらずいけ好かねぇ野郎だぜ」

 

「あはは、二人とも、仲良く仲良く」

 

 喧嘩腰になるアルベルトとグレンをセラが取り持ち宥める。

 三人は、学院校舎屋上を後にした。



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誘い

 リアムがアルザーノ帝国魔術学院に入学してから数ヶ月の時が経った。

 リアムは目立つことを好まない為成績はあえて上の下辺りになるようにしている。

 魔術の改変なども余裕でこなすことは出来るが当然学校では普通の学生と同じように呪文を詠唱している。

 その為周囲からは普通に頭がいい生徒というイメージとなりカッシュには度々勉強を教えている。

 また新入生歓迎パーティー後の件もありリアムはルミアに加えシスティーナとも話を良くするようになったし三人で一緒にいることも多くなった。

 そんなリアムにカッシュ達、男子生徒は時々憎しみの目を向けている。

 

「じゃあな! リアムお疲れー」

 

「じゃあね! リアム君!」

 

「おうーお疲れー」

 

 この日の授業は終わりリアムはカッシュとセシルといつもの分かれ道で別れる。

 いつもと同じ道、変わらない風景。

 そしていつもと同じ家。

 いつも同じ、その家の扉を開ける。

 

「ただいまー」

 

「おかえりなさいリアム」

 

 いつもと変わらない母の声によって出迎えられる。

 いつものようにリアムはリビングへと向かう。

 しかしリビングにはいつもと違う光景があった。

 

「!? 兄貴!? なんでいるんだよ?」

 

 いつもは帝国軍の仕事で家を空けており今では別々に住んでいる兄、アルベルトの姿がそこにはあった。

 

「ちょうど任務が終了した。明日の葬儀のこともあり一旦戻った」

 

 葬儀。兄の口から立たんと告げられたその言葉。

 兄は帝国軍に所属している。

 同僚が死ぬ事など珍しいことではない。

 しかしその言葉にまだリアムは反応せざるを得なかった。

 

「葬儀…?」

 

 リアムは聞かなくていいことを聞いたと後悔した。しかしアルベルトは顔色一つ変えずに答えた。

 

「あぁ、同僚が死んだ。特務分室のな」

 

 帝国宮廷魔道士団特務分室。

 帝国宮廷魔道士団の中でも選りすぐりの魔術師が集まった帝国軍最強の戦力だ。

 そのメンバーが死んだとなると相手は相当な敵だったことが容易に想像できる。

 

「それにバカが一人辞めた」

 

「辞めた? それって…」

 

 兄がバカと呼ぶその人は兄と一番組んでいる相棒のような相手の筈だ。

 リアムが話を聞いてると仲良さそうに感じるのだが決して兄は仲が良いことを認めない。

 

「……大丈夫なのか…?」

 

「問題ない」

 

 アルベルトはその場を去り自分の部屋へと向かう。明日の葬儀の準備をするのだろう。

 リアムの目に映る兄の背中はどこか悲しそうで寂しく、いつもの兄、アルベルトとは様子が少し違っていた。

 

「……」

 

 そんな兄の背中をリアムは見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 

 

 リアムが久々に兄、アルベルトにあってから一週間の時が経った。

 リアムは今日もカッシュ、セシルといつもの分かれ道で別れ、家へと歩を進める。

 その時リアムが急に立ち止まった。

 リアムの他には誰もいない。

 いつもなら人が何人か通っている時間だ。

 

「人払いの結界……準備万端なんですね」

 

 リアムが後ろを振り返る。

 そこには赤髪を三つ編みに束ねサイドテールにした一人の若い娘が立っていた。

 その相貌は非常に精緻で目麗しくリアムが一瞬見惚れてしまうほどであった。

 

「貴女は…?」

 

 その女は淡々と答えた。

 

「私はイヴ。特務分室の室長…て言えば分かるかしら?」

 

「特務分室…」

 

 リアムの前に立つその娘は特務分室の室長。ということはアルベルトの上司に当たる人物だ。そんな人物がなぜ自分の所に?そんな問を投げかけようとした途端。

 

「私が貴方に会いに来た理由。それは特務分室に貴方をスカウトするためよ」

 

 イヴの言葉はリアムが予想だにしないものだった。しかしそれは、リアムにとっては願ってもない話だった。

 リアムの目標は兄である。

 その兄と同じ部署で働ける。

 リアムには断る理由などない。

 しかし一つ引っかかる。

 

「有難い話ですけど…兄は…?」

 

 そうあのアルベルトがこんな話を許すとはリアムには思えなかった。しかしイヴから返ってきたのはまたしても予想してなかった返答。

 

「話は通してあるわ。あとはあなた次第よ」

 

 

 

 

 

 

 

 数日前───

 

 特務分室の廊下でイヴとアルベルトがすれ違った時イヴがアルベルトに話しかけた。

 

「新しい特務分室のメンバーに相応しい人材を見つけたわ」

 

「そうか」

 

「興味無いって顔ね」

 

「まだ共に仕事をすると決まったわけじゃないからな」

 

 そう言い残しアルベルトはその場を立ち去ろうとする。

 その背中にイヴが声を投げかける。

 

 

 

「まだ子供だったとはいえ、貴方が見ず知らずの少年を助けるなんてね。意外だわ」

 

「……! おい」

 

「あら? 私が気づかないとでも思った? そうよ、貴方の義理の弟を特務分室にスカウトするわ」

 

「あいつはまだ学生、子供だ」

 

「グレンが帝国軍に入ったのも彼と同じぐらいだったはずだけど?」

 

「あいつじゃまだ実力不足だ」

 

「あらあら、そんなに弟が心配? 意外ね。彼の実力は貴方が一番分かっているはずだけど?」

 

「……」

 

「彼ならグレンの穴埋めどころかそれ以上の働きが出来るでしょうね」

「それに気づいているのでしょう? 彼の潜在能力に。子供だった貴方はそれを直感で感じ取り彼を助けた、違う?」

 

「……」

 

 アルベルトは決して答える気は無いようだった。

 

「彼が捨てられたというのは嘘。捨てるしかなかったのよ。彼を助ける為に。恐らく彼の一族はなにか異能のような何かを持ってる。それを天の知恵研究会辺りが欲しがった」

「彼を助けたことは貴方が今まで上げてきた戦果に匹敵する、いやそれ以上の功績よ」

 

「異論は無いわね。流石に強制はしない。彼が望んだら特務分室に引き入れるわ」

 

「分かるでしょう? セラにグレンも失った。少しでも戦力が欲しいのよ」

 

 黙ってイヴの話を聞いていたアルベルトがようやく口を開き

 

「勝手にしろ。だが一つ条件がある───」

 

 

 

 

 

 

 

 

「その話、受けさせてもらいます」

 

 リアムがイヴを見据えて答える。

 イヴは小さく笑うと

 

「そういうと思ったわ。付いて来て」

 

 リアムはイヴへと付いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後リアムは特務分室の室長室に居た。

 様々な手続きを終えるとリアムはこの部屋へと連れてこられた。

 

「さて、貴方のコードネームだけど……」

 

「帝国宮廷魔道士団執行官ナンバー18《月》のリアム。これにしましょう」

 

「《月》──? 何でですか?」

 

「貴方の兄に出された条件よ。学校には非常時以外普通に通わせる。それが条件。だから貴方の活動は基本的には夜だけよ。《月》ってのはまさにピッタリね」

 

「兄貴がそんなことを…」

 

「何だかんだ弟思いね? 彼」

 

 イヴが小さく笑う。アルベルトは冷静沈着な為こんな一面があるのはイヴにとって意外だったのだろう。

 

「これで貴方も帝国宮廷魔道士団特務分室の一員よ。さて、早速だけど任務に出てもらうわ」

 

 その言葉にリアムが目を丸くする。

 

「え、今から!?」

 

 イヴは当然と言いたげな顔だ。

 

「貴方の実力を見てみたいもの。それに──」

 

 イヴが話そうとした時後ろのドアが開く。

 

「安心せい。ワシらがおる」

 

 ドアが開いた音でリアムが振り返ると一人の老人と青年が立っていた。

 

「彼等が貴方をサポートするわ。《隠者》のバーナードと《法皇》クリストフ。戦力としては申し分ないわ」

 

「見せてもらおうかしら? 《月》……貴方の実力を」

 

 こうしてリアムの帝国宮廷魔道士としての初任務が幕を上げる。



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初任務と新たな任務

今回にて過去編終了です!
リアムが大天使ルミア様の護衛になった理由です
今回新キャラ登場します


「ぐわぁあああああああああ!!!」

 

 フェジテの街の路地裏───

 外道魔術師がまた一人、一人の男の手によって地獄へと堕とされた。

 その男は帝国宮廷魔導士団特務分室執行官ナンバー18《月》のリアム。

 男の右手には剣が握られており、その剣先は血で汚れていた。

 

「これで7人目、北側の敵は全て葬ったか」

 

 リアムは通信用の魔導器を取り出した。

 

「とりあえず先輩方に報告を……ん…?」

 

 リアムは魔導器を起動し、《隠者》のバーナード、《法皇》のクリストフと連絡を取ろうとするも通信が繋がらない。

 この状況で考えられる原因は一つしかない。

 

「通信妨害の結界……嵌められたか」

 

 二人はそれぞれ敵が多かった西南側と東南側の敵の制圧に向かっている。

 敵の少なかった北側を新人のリアムが対応することになったのだが裏目と出たようだ。

 二人が異変に気がついてもこちらに来るまでには時間がかかる。

 

「……!」

 

 リアムが黒魔【ライトニング・ピアス】を後方の屋根上に向かって放つ。

 いつの間にかそこに立っていた何者かはその攻撃を軽くかわし、路地裏へ飛び降りた。

 

「ほぅ、対応が早いな」

 

「お前……天の知恵研究会だな。それも末端とは違う……」

「何者だ?」

 

 リアムと対峙するその男。

 その男の雰囲気は今までリアムが相手をしてきた敵とは全く違っていた。

 そう彼はホンモノなのだ。

 男から放たれるのは本物の殺気。

 今までの組織の末端とは比べ物にならない。

 剣を交わさずともその力量の高さは明らかだった。

 

「どうせのちのち分かる事だ。名乗ってやろう《月》───」

「私は天の知恵研究会第一団《門》が一人《魔剣》のエリヤ。帝国宮廷魔導士にやり手の新人が入ったと聞いて様子を見に来たのだが…」

 

 エリヤがリアムの姿を改めて見る。

 

「こんな子どもとは…な」

 

「───!」

 

 リアムの剣をさらに強く握る。

 

「そう怒るな。なかなかのやり手には違いないらしい。さて、少し手合わ───」

 

 刹那。リアムが【ライトニング・ピアス】を二反響唱する。

 エリヤは軽く上半身を動かし高速の雷撃を悠々と避ける。

 

「やれやれ。話の途中なんだが……な!」

 

 エリヤが右手に即座に剣を召喚させ詰め寄っていたリアムの剣による攻撃を軽く受け止める。

 リアムは既にもう一本の剣を錬成しており両手に剣が握られてる。

 リアムとエリヤの剣撃の応酬が続く。

 リアムが隙を見て【ライトニング・ピアス】や【ブレイズ・バースト】と言った魔術を時間差起動するもエリヤは冷静に対抗呪文で対応する。

 リアムが体を捻りエリヤの斬撃を回避するとそのまま背後に即座に回り込んで斬り掛かる。

 リアムの双剣から繰り出される銀光二閃。

 しかしエリヤは、一撃目はふらり、と。身体を最小限揺らすだけで躱し、二撃目を手にした剣で防ぐ。

 そして再び繰り広げられるリアムの剣撃の応酬。

 まさに嵐のようなリアムの斬撃───。

 しかしその剣全てをエリヤは防ぎ切る。

 

「ちぃっ…」

 

 たった一瞬。たった一瞬の隙をエリヤは決して見逃さない。

 エリヤはリアムの懐に素早く入り込むと【フィジカル・ブースト】により強化された左足でリアムを蹴り上げる。

 

「ぐ──……」

 

 リアムの身体が上空へと蹴り飛ばされる。

 

「《雷槍よ》」

 

 エリヤが【ライトニング・ピアス】を連続詠唱する。

 電撃の力線が上空のリアムを襲う。

 リアムは【フォース・シールド】を二反響唱しその攻撃をギリギリで防ぎ切る。

 

「はぁああああああああああ───!!!!」

 

 リアムは壁を蹴ると体を回転させその回転力を力と変えエリヤへと斬り掛かる。

 リアムの渾身の一撃がエリヤを襲う。

 

「ふん……」

 

 だが、その一撃もエリヤには通用しなかった。

 リアムの剣がエリヤを捉える前にエリヤの剣によって防がれていた。

 しかしリアムにとってそれは想定内───

 

「……!」

 

 鈍い音が響き渡る。

 

 リアムの【フィジカル・ブースト】によって強化された左足での蹴りがエリヤの右脇腹を捉えていた。

 リアムが蹴り飛ばすかと思いきやエリヤの体は鉛のように重く動かなかった。

 

「【グラビティ・コントロール】か……!」

 

 リアムに対してエリヤが剣を振り下ろす。

 但しその剣はリアムではなく虚空を斬り裂いた。

 リアムは瞬時に距離を取り回避していた。

 その時。ぴしり、とリアムの剣に亀裂が走り剣が折れる。

 

(こいつの剣は俺の剣よりも力、速さ、技。全てにおいて上だ…先輩達が来るまでもつか…?)

 

 リアムとこの男の実力差は歴然だった。帝国宮廷魔導士団に入ったばかりのリアムの相手としてはこの男、エリヤは強過ぎた。

 戦場での経験も今回が初であるリアムに対して、エリヤは幾つもの修羅場をくぐり抜けてきた暗殺者だ。

 そのエリヤから放たれる殺気は今まで相手にした敵より鋭く冷たかった。

 魔術師の世界において大物食いなど幾つも存在しており珍しい事ではない。

 しかしそもそもそれを許すような隙はこの男にはないし、勝ちを一瞬でも期待することができない。それほどまでの実力差がこの男とリアムにはあった。

 リアムは既に折れたその両手の剣を捨てる。

 

「期待の新人がどのようなものかと期待してみれば…この程度の剣とはな…イルシアの方が上……いや今は《戦車》と言うべきか」

 

 敵の口から出た要素だにしないそのコードネームにリアムが驚く。

 聞き間違いか───いやこの男は確かに《戦車》と言った。

 《戦車》、つまり特務分室の同僚だ。

 何故ここでそのコードネームが出てきたのかは分からない。

 もっとも特務分室に入ったばかりのリアムは《戦車》が誰なのかは知らないのだが。

 

「《戦車》……特務分室だな。その人と関係があるのか…?」

 

「それをお前に答える義理はない。今度はこちらから行くぞ」

 

 言葉通り男は一気に攻め落とすらしい。男はもう一本剣を召喚させた。

 

「ちっ…《万象に問う・我が腕に・剛毅なる刃を》───!」

 

 リアムは双剣を高速錬成し即座に構える。

 と、同時に迫っていたエリヤの高速の剣撃を防ぐ。

 目にも留まらぬ高速の斬撃───

 

 リアムにはそれを防ぐことしか出来なかった。

 正確には防げてはいない。

 防ぎきれない斬撃が徐々にリアムの体を切り刻む。

 その攻撃を最小限に抑えることしか出来ず次々とリアムの体には傷が増えていく。

 

 リアムは気づいていた。この男がまだ本気を出していないことに。

 その感覚は義理の兄であるアルベルトと稽古をする時と同じ───底知れぬものをこの男からリアムは感じていた。

 

(今の俺では百回やってもこいつには一度も勝てない……とにかく今は時間を稼ぐ…!)

 

 ふとリアムが左手に握っていた剣をエリヤに向かって投げつける。

 エリヤもその攻撃は軽々しくかわすが…

 

「《爆散せよ》」

 

 その剣がリアムの詠唱により爆発する。

 その隙にリアムは距離を取ると同時に呪文を即座に詠唱する。

 

「《吠えよ炎獅子》──《吠えよ》、《吠えよ》!」

 

 黒魔【ブレイズ・バースト】が連続起動され、超高熱の火球が三連続で飛んでいく。

 しかし───

 爆炎は次々と真っ二つに斬られエリヤはリアムとの距離を詰める。

 

 そしてリアムとの剣の応酬が再び始まる。

 防ぎきれないエリヤの斬撃を前にリアムの動きは徐々に鈍くなる。

 そして生まれた隙を敵が逃すことは無い。

 リアムの双剣は弾き飛ばされそのまま左足で蹴り飛ばされる。

 リアムは即座に【ゲイル・ブロウ】を唱え勢いを抑えると壁に向かって左腕を突きつけ新たな剣を錬成し壁を蹴る。

 

「はぁあああああああああ───ッ!!」

 

 体を回転させ再び回転斬りをエリヤに繰り出すもその攻撃は先程よりキレがなかった。

 その攻撃はエリヤに難なくかわされそのまま蹴り飛ばされた。

 だがこの攻撃をかわされるのはリアムの予測通り。

 本命は───

 

 エリヤへと死角から雷の力線が襲った。

 C級軍用魔術【ホーミング・ピアス】──【ライトニング・ピアス】の改変呪文で、威力、速度は劣るが【ライトニング・ピアス】と異なり敵を追尾する。

 だが【ホーミング・ピアス】がエリヤを捉えることはなく、時間差起動された【フォース・シールド】によって雷の力線は途切れた。

 

「甘いぞ」

 

 エリヤはすぐさまリアムとの距離を詰めて再び蹴り飛ばす。

 リアムは壁に激突した。

 全身に激痛が走る。意識が飛びそうになるがなんとか堪え正気を保った。

 その時リアムが持つ宝石型の魔導器が光る。

 どうやらバーナードとクリストフの二人は近くまで来ているようだ。

 しかし間に合わない。

 

(レベルが違い過ぎる───もたなかったか…)

 

 エリヤが止めを刺そうとリアムに斬り掛かった瞬間───

 一筋の雷がエリヤの心臓を捉えんと飛翔する。

 その攻撃に瞬時に気づいたエリヤは回避するが回避しきれず雷は右手を捉えた。

 

「……ほぅ」

 

 雷閃が飛んできた方角の二千キロメトラ先には時計台が立っていた。

 このような芸当ができるのは一人しかいない。

 

「《星》か…」

 

 しかしエリヤはすぐに持ち直し止めを刺さんとリアムへと斬り掛かったその刹那───

 

「───《高速結界展開・翠玉法陣》ッ!」

 

 魔力線が地面に走り、五芒星法陣を描くとそれに沿って緑光の障壁がそびえ立つと、エリヤの剣撃を真っ向から受け止めた。

 

 次にエリヤへと三発の銃弾が撃ち込まえエリヤはその場から距離を取った。

 

「《星》に加え《法皇》に《隠者》───分が悪いな…」

 

 リアムの所へとバーナードとクリストフが降り立つ。

 

「無事かい?リアム君」

 

「やれやれリア坊と通信が取れないと思うたらこうなっておったか…それにしてもまさか《魔剣》とはのう…」

 

 クリストフが宝石を構えエリヤを見据えて言う。

 

「どうしますか?まだやりますか?《魔剣》エリヤ───こちらは三人。それに加えてアルベルトさんの援護もありますが」

 

「分かった…ここは大人しく引くとしよう」

「《月》───。次に会う時は手加減はしない」

 

 エリヤはそう言うと姿を消した。

 

「やはり冷静じゃのう…それにしてもリア坊。よく死なずに耐えきれたのう!」

 

「いや、あいつは本気を出していませんでしたし…」

 

 リアムが残念そうに答える。

 そうあの男が本気ならばとっくにリアムの命などなかったのだ。

 リアムが生きているのはあの男の気まぐれのようなものだ。

 

「それでも《魔剣》相手にこれだけもったのはなかなかだと思うがのう」

 

「やつが本気だったらわしでも勝てんかったと思うぞい」

 

 実際に剣を交えたリアムには分かった。

 奴にはまだ何かがある。

 底知れない何かが───

 

「それにしてもアル坊の奴め、弟が心配で来ておったか」

 

「アルベルトさんの射撃能力の高さにはほんと脱帽ですね」

 

 リアムは落胆していた。

 自分が手傷一つ負わせられ無かった相手に兄は2千キロメトラ先から一撃で手傷を負わせた。

 兄との実力差を改めてリアムは実感していた。

 兄と同じ職場へとスカウトされ舞い上がった。

 兄に少し近づけたかと思ったがそんなものは慢心だった。

 自分はまだまだ兄に遠く及ばない、

 

「とにかくこれで任務終了ですね」

 

「そうじゃのう。ほーれいつまでも落ち込んでないで帰るぞリア坊」

 

「……はい」

 

 三人はその場を後にした。

 こうしてリアムの初任務は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後リアムは帝都にいた。

 何やら女王陛下直々に話があると言う事を室長のイヴに今朝告げられたのだ。

 

「女王陛下が俺なんかに何の用だ…?」

 

 リアムには全く検討がつかない。

 大方特務分室絡みの何かなのだろうが、リアムは入ったばかりの新人である。

 普通なら他の者が呼ばれる筈だ。

 

「女王陛下、特務分室リアム=ロディウスをお連れいたしました」

 

 女王陛下の部屋の前でリアムの左隣の兵士が高らかと宣言する。

 

「分かりました。ご案内してください」

 

 部屋の中から声が返ってくる。

 その声はリアムも聞いたことがある、女王陛下の声だった。

 今度はリアムの右隣の兵士が前に出てその扉を開く。

 

「失礼します」

 

 部屋の中には女王陛下が居た。

 リアムをここまで案内した二人の兵士がその場を去る。

 部屋にはリアムと女王陛下の二人だけとなった。

 

「貴方がリアム=ロディウスさんですか。お若いのに帝国宮廷魔導士団特務分室だとか。優秀なのですね」

 

「勿体ないお言葉です」

 

「貴方に折り入ってお願いがあるのですが」

 

「私に…ですか。私に出来ることであればなんなりと」

 

「……娘の護衛を貴方にお願いしたいのです」

 

「御息女の護衛……レニリア王女の護衛を私が…?」

 

「いえ、レニリアではありません」

 

「……え?」

 

 女王陛下、アリシア七世には一人の娘がいる。

 娘の護衛と言われたのでリアムはてっきりレニリアの事かと思ったのだが違うらしい。

 だが、それはおかしい。

 女王陛下には娘は一人しかいない。

 もう一人娘はいたのだが数年前流行病にかかり病死したはずなのだ。

 

「エルミアナです。エルミアナの護衛を貴方に任せたいのです」

 

 アリシアの口から出た名前はその流行病で亡くなったエルミアナ王女だった。

 

「どういう……事ですか…?」

 

 リアムは驚きを隠せなさった。

 エルミアナ王女は既に死んでいる。

 既に死んでいるのだから護衛は出来ない。

 

 だがアリシアはそんなリアムの疑問とは全く関係ない事を言い出した。

 

「リアムさん。貴方はアルザーノ帝国魔術学院の生徒だそうですね」

 

「え……? あ、はい。そうですが…」

 

 次にアリシアから出た言葉はリアムが予想だにしないものだった。

 

「アルザーノ帝国魔術学院にエルミアナが居ます。彼女は生きてます」

 

 アリシアから告げられた衝撃の事実に困惑するリアム。

 アリシアの顔を伺うがどうやら本当のことのようだ。

 

「……本当なんですね」

 

「はい。エルミアナには異能力があります。それが知られれば王家の威信に影響を与えかねませんでした」

 

「……それで表向きでは流行病で死んだことにして、今は名前を変えて生きている……ということですか」

 

「……その通りです。彼女の異能力は少々特別です。また彼女の立場のこともあり天の知恵研究から度々狙われている…との噂を聞きました」

 

 その言葉でリアムは納得した。何故、アリシアが自分の事を呼んだのかを。

 

「自分にエルミアナ王女の護衛を任せたいと?」

 

「……今更私があの娘にどうこうしていい立場ではないのは分かってます…私があの娘にした事は決して許されることではない…けれど…! あの娘には自由に好きなように生きていてほしいのです…どうか! どうか、あの娘を…護ってはくれませんか?」

 

「……分かりました」

 

「……! ありがとう…ございます…!」

 

「それで王女の今の名前は…?」

 

「───ルミア=ティンジェル。それがエルミアナの今の名前です」

 

「え……?」

 

 リアムには一瞬アリシアが何を言ったかが分からなかった。

 ルミアが、死んだ筈の王女?

 とても信じ難い事であったが考えてみればルミアとアリシアは似てなくもない。流石に驚いたがリアムは決心した。

 

「エルミアナ王女、ルミアは俺が必ず命に変えても守ります。俺がルミアの剣となります」

 

「ありがとう…どうかあの娘をよろしくお願いします。リアム」

 

 こうしてリアムは存在を抹消された元王女、ルミアの護衛を任されることになった。




次回から遠征学修編に入ります!
リメイク前に追いつくまであと少し!


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第3章 遠征学習編
脳筋美少女転校生がやって来た


遠征学修編です。
脳筋の美少女がやって来ます。


 フェジテの街中を歩く二人の少女が居た。

 ルミアとシスティーナだ。

 学院へ続く歩道を今日も二人仲良く歩く。学院に到着するまで今までは二人きりの時間だった。

 そう今までは…

 

 毎日通る広場の噴水の前に今では見慣れた二人の人物が待ち構えていた。

 

「おはよう! リアム君!」

 

「今日も遅刻してないですね。先生」

 

「ルミア、システィーナおはよう」

 

「……おはよう。お二人さん…はぁ…」

 

 リアムとグレンの二人である。

 魔術競技祭の一件以降グレンとリアムは護衛の為にルミアとシスティーナの二人と共に登下校をするようになった。

 ルミアが『天の知恵研究』に本格的に狙われていると分かったためリアムも護衛の警戒度を上げ、グレンも今まで以上に干渉するようになった。

 

「はぁ…」

 

 グレンが大きな溜息をつく。

 ルミアとシスティーナが不審に思いグレンに話しかけるがグレンは何でもないと言う。

 だがグレンの目は明らかに死んでいる。死んで三日たった以前のグレンのような目だ。

 

 リアムにはグレンがため息をつく理由に心当たりがない事は無い。

 今日から護衛の為に特務分室から新たに一人派遣されるという事をリアムはイヴから聞かされていたのだ。

 恐らく。そのことであろう。だが、それでため息をつくのはおかしい。

 生徒として送られるのだから《法皇》のクリストフでほぼ間違いない。

 教師だったら兄のアルベルトなども候補だったが生徒として違和感が無いのはクリストフぐらいだ。

 クリストフの結界術は護衛において相当心強い。またクリストフはコミュニケーション能力も高い為学院にもすぐ馴染むだろう。

 なのに何故グレンはこんなに落ち込んでいるのか全くわからなかった。

 

「何か…嫌な予感がする」

 

 その後、他愛のない会話を交えながら学院の正門へと続く上り坂の麓に差し掛かった時グレンが気に病む正体がリアムにははっきり分かった。

 

「あ…」

 

 リアムがルミアとシスティーナを連れてその場をさっと離れる。

 

「? リアム君…?」

 

「ちょっと? どうしたのよ? リアム」

 

「危ないから離れとけ」

 

「「危ない…??」」

 

 ルミアとシスティーナは何が危ないのか全く理解出来ず二人は顔を見合わせる。

 すると突然、上り坂の麓に佇んでいた小柄な少女が側の大剣を手に取ると、地を蹴り弾丸にように飛び込んでくる。

 

「おはよう。グレン」

 

 淡々と告げられる言葉とは裏腹に少女は大剣をグレンへと力一杯振り下ろしていた。

 それをグレンが白刃取りによって防ぐ。

 カタカタカタとグレンは震えている。

 

「新たな護衛ってクリストフ先輩だと思ってましたよ。俺」

 

 リアムが白刃取りに成功しているグレンに離れた位置から話しかける。

 

「俺もそうだろうなと思ってたよ……でも何でお前なんだよぉおおおおおおおお!?リィエルぅううううううう───ッ!!」

 

 グレンは、リィエルの剣を奪い取ると剣を放り投げる。

 ああーとリィエルがトコトコと剣を追いかける。その姿はまるで小動物だ。

 

「リィエル!? 何のつもりだこれ!?」

 

「挨拶」

 

 リィエルは剣を拾いグレンに振り返ると淡々と答える。

 

「確かにおはようって言ってたな……て

 違うわぁあああああああ! 何でもれなく大剣で斬りかかってきてんの!? そのオマケは何なの!?」

 

「でもアルベルトが久々に会う戦友に対する挨拶はこうだって」

 

 リィエルが再び剣を構える。

 

「んなわけあるかッ!? アイツ何やってくれてんだッ!? おい、リアム! てめぇの兄貴どうなってんだよ!! て、何構えてんだよ!? 剣をしまえ!剣を!!」

 

「いや、俺に言われても…」

 

「わかった」

 

 リィエルがその時ようやくリアムに気付く。

 

「あ、リアム。アルベルトがこれ渡してくれって」

 

 思い出したかのようにリィエルが小さな石をリアムへと渡す。

 それはグレンがセリカとの連絡にも使っている通信用の魔導器だった。

 

「あー通信用の魔導器か」

 

「あと伝言が」

 

「伝言? なんだって?」

 

「んー。忘れた」

 

「おいおい…」

 

 リアムが魔導器を見ると紙が括りつけられていた。リアムが少しその場から離れその紙を確認するとリィエルが忘れることを見越してアルベルトからの伝言が書かれていた。

 

『今後何かがあればこの魔導器より連絡する。それとリィエルは任せた』

 

(なるほど。兄貴はリィエルという帝国軍が誇る一緒に仕事をしたくない同僚ランキング万年一位の超厄介物件を俺に押し付けてきたわけか…はぁ…)

 

 リアムがため息をつきながらリィエルの方を見るとリィエルはルミア、システィーナとそれぞれ自己紹介をしているようだった。

 

(まぁ…頑張るか)

 

 リアムは覚悟を決め皆の元へ戻っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 

 二組の教室は今沸き立っていた。

 転校生としてたった今リィエルが紹介されたのだ。

 リィエルは見た目だけは美少女だ。

 人気が出るのも頷ける。だがあくまで見た目だ。

 リィエルがシスティーナと同じような外見だけの残念美少女とは知る由もない男子生徒の間では早速新たな派閥が生まれようとしていた。

 現在二組の主な派閥はルミア派、ウェンディ派だが、それに加え最大勢力を誇る二組の男子生徒ほぼ全員が兼任で所属するリアム爆発しろ派がある。

 そして今ここにリィエル派が新たに誕生しようとしている。

 リアム爆発しろ派のみに所属している生徒達が続々とリィエル派との兼任を決めているようだ。

 

「おい、リィエル。自己紹介しろ」

 

「ん。わかった」

 

 生徒全員がリィエルに注目する。クラスの生徒全員に注目される中、リィエルが放った第一声は…

 

「リィエル=レイフォード」

 

 クラスに沈黙の時間が流れる。

 

「いや、名前はさっき紹介しただろ…何か他にだな…とりあえず特技とか言えばいい」

 

「わかった。帝国軍が一翼、帝国宮廷魔導士団、特務───」

「だぁああああああああ──ッ!? 何言ってくれちゃってんのぉおおおおお───!?」

 

 グレンがリィエルを首根っこを掴んで引き摺りながら慌てて教室の外へと出る。

 

「あの…バカ…」

 

 流石のリアムもリィエルがここまでべらべら話そうとするとは思わず頭を抱えていた。

 リィエルは護衛任務をなんだと思っているのか、と。

 潜入している者が潜入してますと宣言することなど普通に考えて有り得ない。

 他の生徒は何が何だか分からず騒いでいる。

 

「なぁさっき帝国軍とか言ってなかったか?」

 

「俺もそう聞こえた…」

 

「リアムもそう聞こえたよな?」

 

 カッシュがリアムにそう言ってくるがリアムは当然肯定せず

 

「気のせい…じゃねーかな。ははは」

 

 しばらくしてグレンとリィエルが戻ってくると再びリィエルが自己紹介を始める。

 

「私は、将来、帝国軍へとの入隊を目指し、魔術を学ぶためにこの学院にやってきたらしい、出身は……ええとイテ?」

 

「イテリア地方な」

 

「そうイテリア地方……? 年齢は多分、十五。趣味はなんだっけ?」

 

「読書な」

 

「そう読書。特技は───」

 

 リィエルとグレンによる漫才のようなやり取りが繰り広げられ生徒達は困惑していた。

 自分達は一体何を見せられているのか、と。

 やがてグレンたち二人の漫才のようなやり取りも終わり質問タイムになる。

 様々な質問が飛びそれにリィエルが答えていると

 

「リィエルちゃんとグレン先生って仲良さそうだけどどんな関係なんですか?」

 

 カッシュからの質問が飛んだ。

 これはクラス全員が聞きたかったことだ。誰が見てもグレンとリィエルは初対面ではない。

 

「あー、俺とリィエルの関係はな───」

 

 元同僚などとは言えるはずもなくグレンが何とか切り抜ける手段を考えるがリィエルがグレンが考えているうちに宣言した。

 

「グレンは私の全て。私はグレンのために生きると決めた」

 

 その言葉に教室内は沈黙。

 そしてやがて…

 

「きゃぁああああああ──ッ! 大胆〜ッ! 情熱的〜ッ!」

 

「禁断の関係! 先生と生徒の禁断の関係よ〜ッ!」

 

「もう失恋だぁあああああああああ──ッ!?」

 

「表に出ろやぁあああああああ──!!」

 

 もう生徒それぞれが言いたい放題の大騒ぎとなる。

 

「何言ってくれちゃってんのぉおおおおおお!?」

 

 グレンがリィエルの頬を引っ張り上下にシェイクする。

 しかしその行動が火に油を注ぐことになる。

 

「なにイチャイチャしてんだ、こらぁあああああああ─ッ!!」

 

「リィエルちゃんに触るんじゃねぇえええええ──ッ!!」

 

 さらに関係が疑われることになってしまった。

 

(うぉおおおおお!? やっちまったぁああああああ! これじゃリアム爆発しろ派に続いて新たにグレン爆発しろ派が生まれちまうぞ…それはヤバい…ヤバすぎる………ん、まてよ?)

 

 この状況を打開する秘策を思いついたグレンがリィエルに耳打ちをする。

 

「リアムは私と愛し合ってる? 私達は将来を誓いあった仲」

 

 リィエルの言葉にクラス全員が反応する。

 

「ぶっふぉ!!」

 

 リアムが吹き出す。

 

「リアムてめぇえええええええええ!!!」

 

「ルミアちゃんだけじゃなくリィエルちゃんにまで手を出しやがったのかぁあああああああ!!」

 

「リア充爆発しろぉおおおおおおお!!!」

 

「俺は今までお前のことを思って入ってなかった…だが、この瞬間から俺もリア充爆発しろ派の一員だぁあああああああああ!!」

 

 この瞬間リア充爆発しろ派はギイブルなどの極小数の男子を除いた全員が所属することになった。

 リアムがグレンを睨みつけるがグレンは何処吹く風だ。

 

「こ、殺してやる……痛!?」

 

 リアムがグレンへの殺意を募らせていると右手に激痛が走る。

 見るとルミアがリアムの右手を抓っておりリアムへと笑顔を向けていた。笑顔だがルミアの目の奥は全く笑っていないのが分かった。そのルミアの様子に教室内の温度は一気に下がり他の生徒達は恐怖のあまり声が出せなかった。

 

((る、ルミアちゃんこええええええ!!?))

 

「ねぇ、リアム君。これはどういうこと?」

 

「違っ!? る、ルミア!? これは…ッ!?」

 

「ねぇ、どういうこと?」

 

 ルミアの指にさらに力が込められる。

 

「誤解なんだぁああああ!!」

 

 

 

 リアムはこの時のルミアの笑顔を二度と忘れることは無かった。



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幕開ける遠征学修

Twitterアカウント作ってます。
楽しく話ができたらなーと思うので良かったらフォローお願いします!@nagiri_aoaka



 リィエルがアルザーノ帝国魔術学院に転入してから数日が経ち、リィエルもはじめは苦労したが今ではクラスに打ち解けている。

 転入初日の魔術の実践授業でリィエルが大剣を高速錬成、ぶん投げ人形を粉々に粉砕した為二組の生徒は皆、リィエルを怖がっていたが、ルミアやシスティーナが積極的に話しかけリィエルとだんだん仲良くなり次第にクラスの皆もリィエルを恐れることは無くなっていったのだ。

 だが、流石は帝国軍の一緒に仕事をしたくない同僚ランキングにおいて万年の一位の実力は伊達ではなく、数々の問題を引き起こしていた。

 ある時はグレンに決闘を申し込もうとしたハーレイに斬りかかり、ある時はグレンの悪口を言っていた生徒に斬りかかり、その全てをリアムが事に及ぶ前に防いでいた。

 そんな日々の疲れからかリアムは疲れきっていた。

 

「はぁ…」

 

 揺れる馬車の中でリアムはため息をついた。

 今、グレンが受け持つ二組の生徒達は全員馬車に乗っていた。

その目的は『遠征学修』に向かう為である。アルザーノ帝国魔術学院には『遠征学修』という必修単位の一つの講座が設けられている。

『遠征学修』は二年次生の生徒が研究所見学を行うもので、二組はサイネリア島の白金魔導研究所が遠征先である。

 今はサイネリアの島行きの船が出る港町シーホークへと向かっている最中だ。

 

「最近ため息が多いなリアム。リィエルちゃんの事か?」

 

 カッシュがリアムへと話しかける。

 初日のリィエルの発言からリアムは男子生徒全員が恨まれていたが、リアムとリィエルの様子を見ていくうちにそれがグレンによる嘘だったことを悟った。

 そしてリィエルに振り回されるリアムを皆、恨むどころか同情していた。

 

「最近あいつに振り回せれっぱなしだからな…」

 

「お前も大変だな………それよりさ! お前、ルミアちゃんとどんな感じなんだよ!?」

 

「あ、俺も気になるぞ」

 

「結局付き合ってんの!?」

 

 男子生徒全員がリアムに注目する。

 男子生徒皆が気になっていたことなのだ。

 結局リアムとルミアは付き合っているのか、と。

 

「うーん………付き合ってない……かな?」

 

 リアムが首を傾げながら答える。

 

「なんで疑問形なんだよ!」

 

「ちっ…リア充め」

 

リアムに向けられる同情の眼差しは再び恨みに満ちた眼差しへと変わる。そのまま話題が恋バナになるのは必然で

 

「この遠征学修で俺もリア充になるんだ! ウェンディ様に告白するんだ!」

 

「やめとけ! お前には高嶺の花過ぎる!」

 

「テレサちゃんと一緒に海で泳ぐんだ!」

 

「お前、海に誘う勇気も度胸もないだろ…」

 

男子生徒が、自分の願望をそれぞれが言い放つ。男子生徒達が乗る馬車の話題は恋バナで持ち切りだった。

 

 

 

 

 

 一方女子生徒達が乗る馬車の話題も同じことだった。

 

「それでルミアはリアムと付き合ってるの!?」

 

ウェンディが正面に座っていたルミアへと問いただす。

 

「へっ!?」

 

突然の事にルミアが驚き慌てていると、

 

「気になりますわ!」

 

「リアム君ってイケメンだしね! お似合いだよ!」

 

別の女生徒達もその話題に乗ってくる。

 ルミアが顔を赤くする。

 

「つ、付き合ってないよ! ぜ、全然付き合ってないよ!?」

 

「ふーん。そうなんだ」

 

「では、リアムさんのことは好きですの?」

 

「えっ!? そ、それは─────」

 

 女子生徒達の話題は終始ルミアとリアムの関係の事で持ちきりだった。

 

盛り上がる生徒達を乗せた馬車は、生徒達がすっかり疲れて眠る夜も走り続け、目的地の港町シーホークへと向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

「ここがシーホークか!!」

 

 次の日の正午。

 二組の生徒達は長い馬車の旅を終え、港町シーホークへと到達していた。

 

「まだ船まで時間もあるし自由休憩にするわー。飯も済ませとけよー」

「集合場所は二時間後に船着場な」

 

「「「はーい」」」

 

 グレンがそう告げるとすぐ生徒達はそれぞれ町中へと向かって行った。

 

「おーいリアム、飯食いに行こーぜー。ここは魚料理が美味いらしいぞ!」

 

「おーまじか。今行く」

 

 リアムもカッシュやセシルと共に町中へと向かった。

 

 食事をする店を探す途中、リアムが立ち止まる。その様子を不審に思ったカッシュがリアムに話しかける。

 

「ん? どうしたよリアム」

 

「……悪ぃ、先行っててくれ。すぐ追いつく」

 

「そうか? すぐ来いよー! 早くこねーと先に食っちまうぞー!」

 

「あぁ!」

 

 リアムはカッシュ達がその場を離れたのを確認すると側にあった店へと向かう。店主は眼鏡をかけ髭を生やした五十歳位の人物だ。

 

「いらっしゃいませー。お兄ちゃん。何か買ってくかい?」

 

陽気な店主がリアムへと話しかける。リアムは呆れた顔で店主へと声をかけた。

 

「何やってんだよ」

 

「気付いたか」

 

「義理でも兄弟なんだ。気付くわ」

 

「……付いて来い」

 

 店主に連れられリアムは裏道を進んで行く。

 周りの目を確認し、眼鏡などを取っていくとたちまち店主の姿はアルベルトへと変わった。

 

「何でいるんだよ? 用があるなら魔導器で連絡したらいいだろ」

 

「俺が用があったのはグレンの方だ。お前じゃない」

 

グレンはアルベルトとの通信手段を持っていない為、直接会う他ない。

 

「そーいうことか」

「それにしても兄貴まで護衛か? 俺にリィエル。それに兄貴って三人は流石に人員を割きすぎだろ。何か裏あるだろ?」

 

「俺の護衛は今回の遠征学修だけだ。折角、俺の変装に気付いたんだ。一つ忠告をしといてやる。白金魔導研究所の所長には気をつけろ」

 

「所長? なんでだ?」

 

 リアムが遠征学修のパンフレットで見た白金魔導研究所の所長はバークス=ブラウモン。バークスは温厚な人物という印象でとても怪しくは見えなかった。

 

「後に分かる」

 

「……分かった」

 

「リィエルの様子はどうだ?」

 

「なかなか苦労させられてるよ……まあルミアやシスティーナが仲良くしてくれてるから助かってるわ」

 

ルミアやシスティーナがリィエルと仲良くしてくれてるのはリアムにとって本当に助かっていた。おかげで大きな問題を起こす前に止めることが出来ている。

 

「そうか。それにしても随分と護衛対象とは仲が良いみたいだが?」

 

「んなっ!? どこまで知ってんだよ!」

 

「まあこれ以上は何も言わん。お前一つ良いものをやる。お前にはこれが必要な筈だ」

 

 アルベルトがそう言うとアルベルトは小包をリアムへと投げた。

 

「!!」

 

 それをキャッチしてリアムはそれを確認するとポケットへと突っ込んだ。

 

「助かる」

 

「じゃあ俺は戻る」

 

 アルベルトはそう告げると再び変装し裏道を戻って行き店に戻ると…

 

「今からキルア豆のタイムセールだよぉおお!! どんどん持っていきなぁあああ!!」

 

 裏道にまで店主の声が響いていた。

 

「やれやれ…相変わらずの演技力だこと」

 

 リアムはカッシュ達の元へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 集合時間になり生徒達は船着場に集まっていた。

 ルミア、システィーナ、リィエルの三人が男に絡まれていたがその男をグレンが追い払った。その男の正体にグレンとリアムの二人だけは気付いていた。

 

「もっとマシな方法は無かったんですかね…」

 

 やがて船が到着し、生徒達は次々に船へと乗り込む。向かう先は白金魔導研究所のあるサイネリア島だ。サイネリア島はビーチが有名で生徒達は盛り上がっている。

 

そして生徒達を乗せた船はサイネリア島へと向け出発した。



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サイネリア島へ

 照りつける太陽と澄み渡る青空の下二組の生徒を乗せた船は遠征先の白金魔導研究所があるサイネリア島を目指し航海を続けていた。

 生徒達の殆どは海を見たことがなく初めて見る雄大な海に心を踊らせていた。

 そんな和気あいあいとした雰囲気の中───

 

「うぇええええ………気持ち悪ぃ…」

 

 グレンは一人船の手摺にもたれ掛かっていた。グレンは船酔いで顔色がすこぶる悪い。

 

「まさか先生がここまで船が弱かったなんて…」

 

 システィーナとリィエルがそんなグレンに付き添っている。

 システィーナがグレンの背中をさする。

 

「はぁ…なんで私がこんな事を」

 

「悪ぃ…白猫」

 

 そんなグレンの様子を見ながらリィエルは首を傾げていた。

 

「グレンはなんで顔色が悪いの? 毒を盛られたの?」

 

「毒じゃないわ」

 

「じゃあ何で? この船が悪いの?」

 

「まあ…そうね」

 

 システィーナのその言葉を聞いてリィエルがすぐに大剣を取り出す。

 

「分かった」

 

「え!? な、何やってるのよ!? リィエル!?」

 

 システィーナが慌ててリィエルを止めようとする。

 

「? この船のせいでグレンは顔色が悪いんでしょ? ならこの船を斬る」

 

「待ってリィエル!? ちょ、ちょっとぉおおお!! 誰かリィエルを止めてぇえええええ!!!」

 

 慌てて駆けつけたカッシュ達男子生徒が五人掛かりでリィエルを取り押さたので大事に至らずに済んだ。

 

「こういう時に限って…何であいつも……」

 

 このようなリィエルが何かしでかす時はいつもリアムがリィエルを抑えるのだが今日ばかりは違っていた。

 システィーナはため息を吐きながら船の後方を見つめていた。

 

 

 

「おぇえええええ!」

 

「だ、大丈夫…? リアム君…?」

 

 リアムに付き添うルミアが優しくリアムの背中擦りながら話しかける。

 

「あ、あぁ…これでも酔い止め飲んだから…少しは…まし…うぇええ…」

 

 リアムはグレン以上に船に弱い。

 何度か任務の時に船に乗ったことはあるがその都度ダウンしている。

 これでもアルベルトから貰った帝国一強いと言われる酔い止めを飲んだ為マシになってる。

 初めて船に乗った時はそれはそれは酷かった。

 

「リンゴ食べる? さっき船員の方に貰ったの。船酔いに効くらしいよ?」

 

 ルミアの手元には数切れのリンゴが乗った皿があった。

 

「も、貰うわ…」

 

「はい。あーん」

 

 ルミアがリアムにリンゴを食べさせてあげる。そんな二人の様子を男子生徒達が黙って見ているはずもなく

 

 ルミアに優しく介護されるリアムの姿を男子生徒達は憎き敵を見る目で見ていた。

 

「くそ…リアムの奴、羨ましい!」

 

「あれもう付き合ってんだろ…」

 

「それにしてもグレン先生は…」

 

 男子生徒達が少し離れたところにいるグレンとシスティーナを見る。

 

「あの説教女神に世話されても嬉しくないな」

 

「「「うんうん」」」

 

「ちょっと? 聞こえてるわよ?」

 

「「「げっ!?」」」

 

 システィーナから向けられる殺気を感じ男子生徒達は我先にとその場から逃げ去ろうとする。

 その時、カッシュ達に取り押さえられていたリィエルが一瞬の隙に逃れる。

 

「しまっ…!? リィエルがッ!?」

 

「と、取り押さえろ! 取り押さえなければここで俺達の遠征学修は終わりだ!!」

 

「船が真っ二つになるぞ!?」

 

 船の上はたちまち大惨事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後一行を乗せた船はやがてサイネリア島へと辿り着き、生徒達は既にそれぞれホテルの一室で旅の疲れ、主に船旅の疲れを癒している。

 男女のホテルはそれぞれ別棟となっており、3人から4人が1グループとなりグループそれぞれに一部屋が与えられている。

 リアムはセシルとギイブルと同じ部屋になっていた。

 

「ギイブル、これからの予定は特にないよな?」

 

 リアムが同室のギイブルへと話しかける。

 ギイブルは面倒臭いという顔をするが問いかけに答える。

 

「……そうだ。食事と風呂が終わったら後は寝るだけだよ」

 

「じゃあ、ちょっと就寝時間前に出掛けるわ」

 

 その言葉にギイブルとセシルが驚く。

 

「君は就寝時間の意味を分かっているのかい?」

 

「そんな時間にどこ行くの?」

 

「まぁ、ちょっとな」

 

 そう言い、リアムが時計をちらりと見ると食事の時間が迫っていた。

 

「そろそろ晩飯だな。行くか」

 

 リアムに疑問を抱きながらも部屋を後にするリアムにギイブルとセシルも付いて行った。

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 

 食事に風呂が終わり、すっかり静まり返った夜、就寝時間。

 

 カッシュ達、男子生徒の何人かが茂みの中に集まっていた。

 

「みんな作戦の把握は大丈夫だな?」

 

 カッシュが静かに声を出すとそこに集まる男子生徒が頷く。

 

「先生に見つかった時はびっくりしたけど…」

 

 そこには男子生徒のみならずあろう事か教師であるグレンの姿もあったのだ。

 

「お前ら、俺を置いて行くなど許すものか! 大丈夫だ、バレて減給となったとしてもゼロにはならねえ!」

 

「先生、やっぱアンタは最高だよ!!」

 

「フッ…当然の事さ。よし、行くぞ! お前ら!!」

 

「「おう!」」

 

 グレンの掛け声で男子生徒が一致団結した時だった。

 

「部屋に戻れよ……お前ら」

 

 後方からの声に驚き生徒達が振り返るとそこには真顔のリアムがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ! ここまで来てリアムだなんて!」

 

「『楽園』はもうすぐそこだって言うのに…!?」

 

 カッシュがリアムの説得を試みる。

 

「おい…リアム…俺たち、親友…だろ…? ここを…通してくれよっ!!」

 

「悪いなカッシュ…ここを通すわけには行かない」

 

 リアムの腕には剣が握られておりその剣をグレン達へと向ける。思わず生徒の何人かが後退りをする。当然リアムの剣は鉄製などではなく木製である。

 

「下がれっ! お前らっ! こいつはお前らが敵う相手じゃない!」

 

 リアムの目は本気であった。グレンたちを本気で倒しに来ている。正面から戦えばグレンでさえ敵わないリアムとカッシュ達を戦わせるのは危険だ。

 しかし生徒達の意思は揺らがない。

 

「先生! 俺達も戦う! 確かに俺達じゃリアムに勝てない! でも…!」

 

「俺達は先生の盾にでも何にでもなる!」

 

「だから俺達を使ってくれ!!」

 

「……」

 

 生徒達の魂の叫びにグレンはしばらく考え込み…やがて

 

「……わかった。行くぞ、お前ら! 『楽園』はもうすぐそこだっ!!」

 

「「うぉおおおおおお!!」」

 

「悪いのは完全にお前らなんだけどな」

 

 リアムが左手を構えるとすぐに呪文を詠唱する。

 

「《痺れろ》」

 

「「うわぁああああああ!!」」

 

 リアムのたった一言で放たれる【ショックボルト】を前に何人かの生徒が倒れた。

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 

 そんな男子生徒+αの『楽園』を巡る戦いをテラスからシスティーナ達は呆れた顔で見ていた。

 

「ほんとバカね。男子って」

 

「あはは…」

 

「リアムに見張らせておいて良かったわ。ホント」

 

 システィーナは、こうなる事をあらかじめ予想しリアムに周囲を見張らせていた。

 リィエルはそんな男子生徒達の戦いをじっと見つめていた。

 

「リィエル? どうしたの?」

 

 ルミアがリィエルへと声をかける。

 

「ん、楽しそう。私も戦いたい」

 

 その言葉にルミアとシスティーナの顔は一気に青ざめ二人は慌てる。

 

「り、リィエルはここにいてね!? お願いだから!! ね!?」

 

「貴女が行ったら洒落にならないわ!?」

 

「? 分かった。二人が言うならここに居る」

 

 その言葉に二人がほっとする。そこにウェンディが三人を遊びに誘いに来たので三人は部屋の中へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 

 

 リアムは攻めきれずにいた。初めこそは突っ込んでくる生徒が何人かいたので突っ込んできた生徒は全員【ショックボルト】で気絶させた。余裕かと思っていたが、グレンの存在によりリアムは苦戦を強いられることになった。これでも元帝国軍。豊富な実戦経験からかグレンの指揮は優れていた。グレンがいなかったらとっくに決着はついていただろう。そう思うとリアムはため息を吐かずにはいられなかった。

 

「はぁ…めんどくせぇ…」

 

  グレン達は単独行動は決してせず、まず一人が【ショックボルト】で攻撃。その攻撃をリアムが躱し反撃するともう一人が対抗呪文でそれを防ぐ。それをタイミングをズラして四方から行ってくる。リアムの剣の間合いには決して入らない。そういった時いつもなら剣を投擲、爆破し状況を打開するのだが、当然そんなことをする訳にもいかない。

 

「というか教師だろアンタ! こいつら止める立場だろ!?」

 

 教師であるグレンは本来なら止める立場であり、リアムの味方をするべきなのだ。しかし、グレンは本気でリアムを潰しに来ていた。

 

「ふはははは! なんとでも言ぇえええ!!」

 

 グレンはノリノリでリアムに攻撃してくる。何より一番厄介なのがグレンだ。指揮官であるグレンをリアムは先に潰そうとするがグレンは上手く周りの木などの障害物を利用しリアムの魔術の射線に入ってこない。グレンには三節詠唱しか出来ないという弱点があるがそれは他の生徒たちが上手く補い、ここぞというタイミングで魔術を放ってくる。

 

「「《雷精の紫電よ》──!!」」

 

「《障壁よ》──!!」

 

 左右から飛来する雷を障壁で防ぐ。ここでリアムに大きな隙が出来た。そこでカッシュが【ショックボルト】を詠唱する。

 

「《貰ったぁああ》──!!」

 

 カッシュはいつの間にか【ショックボルト】の即興改変をこなしていた。リアムと共に特訓していたのだが、まだ完成はしていなかった。しかしこの戦いの中でカッシュは確実に成長し、即興改変をものにしていた。

 

「──ッ!?」

 

 流石のリアムもこれには一瞬驚く。

 完全に隙を突き対抗呪文は間に合わない。皆は決まったと確信する。しかし…

 カッシュの攻撃をリアムはバク宙で躱す。リアムは魔術競技祭の時のリィエルの動きを参考にした。

 

「マジかっ!?」

 

 驚くカッシュ達を尻目に空中でリアムが人差し指を突き出し、すかさず魔術を放つ。もう手段を選んではいられない。

 

「《雷槍よ》──!!」

 

 リアムが軍用魔術の【ライトニング・ピアス】を詠唱する。その向かう先は勿論───

 

「ちょっ!? 軍用魔術は反そ──!?」

 

 大幅に威力は抑えられているが速度は同じ【ライトニング・ピアス】がグレンに向かう。グレンはその攻撃を躱す事が出来ず直撃、その場に倒れた。グレンは気絶していた。

 

「「「せんせぇええええ──ッ!!!」」」

 

 指揮官を失い大きく体制が崩れた《楽園》を目指す男子生徒達はその後次々とリアムに倒されていくのであった。



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事件の予感

 グレン率いる二組男子生徒達とリアムの『楽園』を巡る戦いから少し離れた森の中にその男はいた。

 

「何をやってるんだ。あのバカは…」

 

 暗い森の中で黒いローブを羽織り木を背にその男、アルベルトは遠見の魔術を起動していた。一通りグレン達がホテルへと戻って行くのを確認するとアルベルトは遠見の魔術を解除した。

 

「いやー楽しそうっすねえ。グレン先輩」

 

 アルベルトが背にしている木の反対側から男の声があがる。

 

「要件を言え。クロウ」

 

「い、いきなりっすか…相変わらず真面目ですね…アルベルトさん」

 

 その男もまたアルベルトと同じ黒いローブを羽織っている。それが意味することはつまり、彼もまた帝国軍の魔術師だと言うこと。

 

「白金魔導なんちゃらが研究している内容が分かりましたよ」

 

 クロウのその言葉にアルベルトが耳を傾ける。

 

「なんだ」

 

「『Project:Revive Life』これがその白金なんちゃらが研究している内容らしいですね」

 

「なんだと…?」

 

『Project:Revive Life』と言うワードにアルベルトがいつも以上の反応を示す。

 

「その研究データを持ち帰ってこいと……室長が言ってました。最悪でも確実に処分しろとのことです」

 

「………分かった。だがわざわざお前が出向いた意味はなんだ…?」

 

「俺この近くで任務あるんすよ。そのついでです。それにこの島。今、外部と連絡取れないんすよ」

 

「なに…?」

 

 アルベルトが、通信用の魔導器を使ってみるが外部と連絡は取れない。どうやらクロウが言っていることは本当らしい。

 

「それと、天の知恵研究会もなんか絡んでるみたいですね。第二団クラスが来てる可能性もあるみたいなんでそれを《月》、《星》、《戦車》の三人で抑えろと……室長からの指示です」

 

「………分かった」

 

「アルベルトさんの後方支援に加え護衛対象のすぐ側にリィエルにリアム。それにグレン先輩もいるんで安心ですね」

 

「だといいんだかな」

 

「……? 弟じゃ頼りないって言いたいんすか? 相変わらず弟に厳しいっすね。大丈夫ですよ。リアムなら上手くやるでしょ」

 

「……そうだな」

 

 アルベルトが気にかけていたのはリアムではなく、リィエルだ。普段も気にかけなければいけないが今回はそれとは間違う意味で気にかけなければならなかった。

 

「とにかくこれ以上人員は避けないということですね。バーナードさんを待たせてるんで俺は行きますねー」

 

 そう言うとクロウはその場から立ち去った。アルベルトは再び遠見の魔術を起動すると周囲の監視を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 

 

 次の日。この日も天気は快晴。グレンのクラスの生徒達はビーチへと来ていた。女子生徒達は水着へと着替えており、男子生徒達は感動の涙を流していた。

 

「「「『楽園』はここにあったのか!」」」

 

 海ではしゃぐ生徒達をグレンは傍から眺めていた。傍から眺めているのはグレンだけで無く二人の生徒がグレンの近くにいた。

 

「お前らは泳がねーの?」

 

 グレンがギイブルとリアムに話しかける。ギイブルは制服、リアムは水着にこそ着替えて入るが上着を羽織っている。

 

「当然です。僕達は遊びに来た訳では無いのですから」

 

「昨日ので疲れましたー」

 

 ギイブルはヤシの木を背に本を読みながら淡々と答え、リアムもまた、別のヤシの木を背にしながらだるそうに答える。

 リアムが言っていることは当然嘘であり、リアムは周囲の警戒をしていた。

 

「そーかい」

 

 グレンもその事は分かっており追及はしない。そんなリアムの元へとルミアがやって来る。

 

「リアムくーん!」

 

 ルミアは青と白のストライプの水着姿だった。これは先日、ルミアがシスティーナと共に出掛けた際、リアムに見せるために新しく買ったものだ。当然リアムはわざわざ自分に見せるためにルミアが新しく水着を買ったとは思ってない。

 

「どうしたよ?」

 

「どう? この水着、似合ってる?」

 

 ルミアがリアムの前でくるりと無邪気に回ってみせる。

 

「似合ってる似合ってる。凄ぇ可愛いよ」

 

「ふふ、ありがとう! 実はね…」

 

「??」

 

 ルミアの言葉に疑問をリアムが抱いているとすぐ隣までルミアが近づき耳元で小さく囁く。

 

「この水着、リアム君に見せるために買ったんだよ?」

 

「………ふぇ?」

 

 ルミアの思ってもみなかった言葉にリアムが素っ頓狂な声を出し赤面する。

 

「今からみんなでビーチバレーするから行こ?」

 

「いや、俺は…」

 

「ほら行くよ?」

 

 断ろうとするリアムの手をルミアが掴みリアムを無理矢理連れ出すとリアムも観念したようにルミアと共に皆の元へと向かう。

 途中ルミアが振り返りグレンとギイブルへと声をかける。

 

「先生とギイブル君も早く! みんな待ってますよ?」

 

「いや、僕は…」

 

 ギイブルが断ろうとするが

 

「ったく。しゃーねーなあ。行くぞ、ギイブル」

 

 グレンは立ち上がりギイブルも無理矢理連れていくのであった。

 そして白熱のビーチバレーが行われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。リアムは部屋に居た。既にセシルとギイブルの二人は寝ている。リアムも寝ようかと思ったが、寝る前に周囲の安全の確認をすることにした。

 すると、誰かがホテルから出るのを使い魔のネズミが捉える。

 リアムが使い魔と視界を共有し、確認する。

 

「ルミア達か…どこに行くんだ?」

 

 ホテルから出たのがルミア、リィエル、システィーナの三人だったので付いて行く。三人は海へと向かい三人が遊んでいるのを確認する。

 

「大丈夫そうだな」

 

 近くにグレンもいたのでリアムは安心して眠る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、グレンのクラスは遠征学修先である白金魔導研究所へと向かっていた。クラスの生徒達は皆疲れが見て取れたが軍所属のリアムに疲れは当然なかった。

 その途中、リィエルがルミア、システィーナと喧嘩する場面もあったが一同は無事、白金魔導研究所へと到着した。

 

「ようこそ、アルザーノ帝国魔術学院の皆様。遠路はるばるご苦労様です」

 

 生徒達を出迎えたのは白金魔導研究所の所長バークス自らであった。バークスは不思議と親しみやすい雰囲気の初老の男だった。

 だが、リアムはバークスを見た瞬間に直感で感じ取っていた。

 

(こいつ…クロだ。隠そうとしてるようだが隠しきてないこの雰囲気───天の知恵研究会の奴らと同じ雰囲気だ。兄貴が言ってたのはこういう事かよ)

 

 リアムがバークスを睨んでいるとカッシュが隣からリアムに話しかける。

 

「なーに怖い顔したんだよ? リアム」

 

 その声に我に返ったリアムが普段通りの顔に戻る。

 

「あ、あぁ。何でもねーよ。俺も疲れてたみたいだな」

 

「なんだよ。疲れて無さそうに見えてやっぱりリアムも疲れてたんだな。水やるよ」

 

 そう言ってカッシュが水を差し出す。リアムはその水を有難く頂戴する。

 

「さんきゅー」

 

 リアムは水を飲みながらバークスを見てみるとバークスが一瞬、ルミアに冷たい視線を向けていたのが見えた。

 

「水、ありがとな」

 

「おう」

 

 そう言ってリアムはカッシュへと水を返すとルミアの元へと向かった。

 

「あーやっぱりリアムのやつルミアちゃんと見て回るのか…良いなあ」

 

 カッシュがそんなことを呟いているとリアムがカッシュのことを手招いていたのでカッシュはリアムの元へと向かう。

 

「なんだよ? リアム」

 

「カッシュも一緒に回ろうぜ。セシルも呼んでくれると嬉しい」

 

「良いのか? 二人で回らなくて? ルミアちゃんも?」

 

 まさかの提案に驚いたカッシュが二人に疑問をぶつける。

 

「私は全然大丈夫だよ? どうして?」

 

「いや、二人が付き合ってるから二人で見て回るのかと」

 

「だから付き合ってないって」

 

「そ、そうだよ!? まだ、付き合ってないよ!?」

 

「そ、そうか。じゃあセシル呼んで来るよ」

 

 そう言ってカッシュはセシルの元へと向かった。ルミアの「まだ」という言葉にカッシュは気を落とす。一方のリアムは全く気づいていない。

 

 リアムはなるべくルミアと複数で回る方が安全と考えた為、カッシュ、セシルと四人で回ることにした。ルミアとしてはリアムと二人で周りたかったのだが、リアムが自分の事を思ってのことだと分かっていたので快く了承した。

 その後、セシルが合流して間もなく研究所内の案内が始まったので四人は他の生徒達に続いて白金魔導研究所の中へと入っていった。




オリジナルキャラのクロウさんは特務分室のメンバーです。
まあ暫く登場しないんですけどね。
クロウ「解せぬ」

彼は今後大きな役割を果たすのでしばしお待ちを。


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《月》と《戦車》

本日二本目の投稿。
学校休みで暇だったからね!仕方ないね!


 白金魔導研究所の研究所見学では特に問題は起こらなかった。しかし問題は見学後、ホテルに帰ってから起こった。

 グレンと話をしていたリィエルが突然飛び出して行ったのだ。よってこうしてリアムは、リィエルを探して街中を走り回っている。

 リアムはリィエルだけではなく、グレンのことも気にかけていた。その理由は白金魔導研究所で『Project:Revive Life』と聞いた時のグレンの様子が明らかに変だったからだ。その事について兄に連絡しておこうかとリアムは考えていた矢先、目にしたことがある青髪がリアムの視界に映った。

 

「いた…!」

 

 リアムは港の方へと屋根を伝って駆けていく。

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 

「え…?」

 

 港にはグレンとリィエル、そして一人の男がいた。

 そしてグレンは今起きたことが分からない様子で自分の身体を確認する。リィエルの大剣がグレンの身体を突き刺していた。

 

「リィエ……ル…なん……で」

 

 リィエルは大剣をグレンに突き刺したまま答えた。

 

「ごめん。グレン。でも私は兄さんの為に生きるって決めた。だから…ごめん」

 

 その言葉を聞いたグレンは有り得ないという表情でもう一人の男を見る。

 だがすぐにグレンの視界から男は消え空が広がる。背中に激痛が走る。

 リィエルはグレンを剣で突き刺したまま放り投げた。剣は途中で抜けグレンはコンクリートに叩きつけられる。

 コンクリートに赤い血が広がり染み込んでいく。

 

「とどめを刺せ! リィエル…!」

 

 男のそんな声を聴きながらグレンの意識が暗転した。

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

「は…!?」

 

 リアムは信じられないものを目にした。

 リィエルがグレンを剣で突き刺していたのだ。いくら様子がおかしいからといってまさかグレンにあんなに懐いていたリィエルが剣で刺すなど思ってもみなかった。

 そしてリィエルはグレンを投げ飛ばし、グレンの方へと近づいき、とどめを刺そうと剣を振りかぶっていた。

 

 リアムは魔術を使い脚力を強化すると一気に駆け抜けた。

 

「間に合え───ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 

「そうだ、殺れ! リィエル!!」

 

 リィエルが剣を振り下ろす。

 かつての仲間。自分が一番大切に思っていた仲間だったグレンを殺すことにリィエルは躊躇いなどはなかった。

 グレン以上に大切な自分の兄が現れ、その兄がグレンを殺すことことを望んでいる。

 なら自分はグレンを殺すだけ。その事に一切の迷いはない。

 

 大剣がグレンの喉を目掛けて振り下ろされる。

 だが、大剣がグレンを捉えることはなかった。

 リアムが駆けつけリィエルの大剣を寸前で両手の剣によって防いでいたのだ。

 リアムがリィエルの剣を押し返し弾き飛ばす。

 リィエルは大きく距離を取った。

 リィエルを見るリアムは怒りを露わにしていた。

 

「お前…自分が何やったか、分かってるのか…!リィエル…!!」

 

「グレンを刺した。とどめを刺そうとしたらリアムが邪魔した」

 

「何でグレンを刺した…!?」

 

「兄さんがそれを望んだから。私は兄さんの為に生きる。邪魔するならリアムも斬る」

 

「はぁ!? 兄さん…!?」

 

 リアムはそこで一人の男がいることに気がついた。男の服装はリアムがこれまで何度も見てきたものだった。

 

「テメェ…天の知恵研究会だな」

 

「そうさ。そして僕がリィエルの兄だ」

 

 リアムがリィエルの兄に向かって右手を構える。

 

「そうか、なら死んでもらうだけだ」

 

 しかしその男の前にリィエルが立ち塞がる。

 

「兄さんは殺させない」

 

「リィエル…!? お前天の知恵研究会の味方をするのかよ!?」

 

「ん。私は兄さんの為に生きる。兄さんの邪魔するやつは斬る」

 

「リィエル…!そいつも殺せ…!!」

 

 男はリィエルにそう指示するとその場をすぐに立ち去る。

 リアムが追いかけようとするがその前にリィエルが立ち塞がった。

 

「分かった」

 

「ちっ…」

 

 リィエルが静かな音を立て剣を構える。その姿にリアムも決心し、双剣を構える仲間であるリィエルに向かって。

 

「……通してもらうぞ。リィエル」

 

 そして二人は同時に地面を蹴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 剣と剣がぶつかり合い火花が散る。リアムが体を捻りながらリィエルの背後に回り込む。

 大剣はそのままリアムが元いた場所に振り下ろされコンクリートが砕ける。リアムが背後からリィエルへと斬り掛かる。が、双剣がリィエルの体を捉える前にリィエルは地面に突き刺さった剣を手に距離を取る。リアムの双剣は宙を切る。

 

 リィエルは地面を大きく蹴りリアムとの間合いを一気に詰めると、その手の大剣を大きく振る。

 

「ちっ…!?」

 

 リアムは回避を試みるが間に合わないと判断し右手に持つ剣で大剣を止める。しかし勢いがある分リィエルに部がある。

 リアムが左手を構える。

 

 リアムとリィエルの剣の実力はリィエルの方が上だ。しかし二人の帝国軍の模擬戦の対戦成績は8対2でリアムが大きく勝ち越している。二人のこの差は魔術にある。リィエルが魔術は筋力等の強化以外からっきしなのに対しリアムは多くの魔術を使いこなす。その魔術の差が二人の実力に大きな差を作り出していた。

 

「悪いなリィエル。剣だけとは言ってないぜ?」

 

 そう言ってリアムは剣を左手で二本持ち右手を構え詠唱する。

 

「《雷槍よ》──!!」

 

 そして【ライトニング・ピアス】が起動し、リィエルを捉える。否、リィエルを【ライトニング・ピアス】が捉えることは無かった。

 そもそもリアムが唱えた魔術はリィエルを捉えるどころか起動しなかった。

 それはまさにグレンの使う【愚者の世界】のように───

 

「なっ…!? まさか───!?」

 

 グレンの発動した【愚者の世界】の効果圏内にリアムは入っていたのだ。その為魔術を発動することが出来なかったのである。リアムが来る前にグレンはリィエルの兄と名乗る男を殺す為に【愚者の世界】を使用していたのだ。後から来たリアムはその事を知らなかった。

 

 魔術を詠唱したにも関わらず魔術が発動しない、それは当然隙が出来る。その隙を逃すほどリィエルは甘くない。リィエルの大剣がリアムを捉えた。しかしリアムもすぐに回避行動を取っていた為致命傷とはならない。だがその傷は決して浅くはない。

 リアムが一瞬怯み体勢を少しだけ崩す。リィエルはその隙にリアムに斬り掛かる。

 

「いいいいゃぁあああ───!!」

 

 仲間を斬るというのに全く迷いのないリィエルの真っ直ぐな荒々しい一撃がリアムを襲う。

 間一髪でリアムが双剣で防ぐが剣の一方が折れる。

 

「ちっ──!?」

 

 リアムの戦法は双剣による剣技と正確な魔術の組み合わせによる攻撃。魔術が大きくその戦法を支えている。その魔術を失った為リアムは本来の力を大きく発揮することが出来ない。リアムとリィエルの対戦成績は魔術があってこそだ。その魔術が無くなった時その実力差は反転どころか更に大きな差が出来る。

 リアムが魔術を使ったとしてもリィエルは10本勝負したら2本リアムに勝つことが出来るのだ。つまりそれは魔術があろうがリィエルの剣に及ばないことがあるということ。魔術無しでリアムがリィエルに剣で勝てるほど甘くはなかった。

 

(勝てる見込みはない…けど───)

 

 片方の剣を失ったリアムが残った剣を構える。その剣にも既に小さなひびが入っている。リアムの剣の強みは双剣による手数の多さだがその強みは失われた。

 いつものように新たに剣を錬成しようとも【愚者の世界】の効果圏内の為錬成できない。リィエルと戦い始め、そう時間は経っていない。軽く見積もっても愚者の世界の効果が切れるまで最低でもまだ一分はある。だがリィエルが片手剣のリアムを始末するのに一分という時間は十分に事足りるのだ。

 双剣でも及ばないリィエルに片手の剣だけで最低でも一分耐えなければならない。しかもそれも早くて一分なのだ。二分経ってもまだ【愚者の世界】の効果が継続している可能性もある。

 状況はリアムに圧倒的に不利。しかしそれだとしても───

 

「諦める訳にはいかねぇ──!」

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 数分前───

 

 森の中でアルベルトは遠見の魔術を使用しグレンがリィエルに刺されたのを確認する。

 

「ちっ…あのバカ…」

 

『Project:Revive Life』の名前の聞きアルベルトは警戒を強めていたが、アルベルトが考えていた最悪のシナリオになりつつある。

 そのシナリオを阻止すべくアルベルトがその場を立ち去ろうとするが、アルベルトは立ち止まった。

 アルベルトは立ち止まらされた。

 

「……まさかとは思ったが貴様らも絡んでいたか」

 

 アルベルトの前に立つのは先日アルベルトと戦って逃がした天の知恵研究会の女。エレノアだった。

 

「あら、アルベルト様。今宵はお一人ですか? リィエル様の姿は見えませんが…」

 

「よく言う」

 

 アルベルトが右手を構えると一節で詠唱する。

 

「《吼えよ炎獅子》───!!」

 

 爆炎がその場には巻き起こる。火が燃え移った木がエレノアが立つ場所に倒れる。アルベルトは無言で背後へと振り返り【ライトニング・ピアス】を時間差起動(ディレイ・ブート)する。

 光の力線が一直線に放たれる。

 爆炎を躱したあとアルベルトに攻撃しようと背後に回り込んでいたエレノアをアルベルトは冷静に狙った。しかし、エレノアはその攻撃も軽く躱してみせる。エレノアは不敵に笑いアルベルトに呟く。

 

「ふふふ、グレン様の所には行かせませんわ…!」

 

「エレノア。貴様はここで仕留める」

 




リメイク前に今回でやっと追いつきました!
て、ことでリメイク前の『青髪天才魔術師と禁忌教典』は消しました。
これからも『俺は貴女を守る剣となる』をよろしくお願いします!


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リィエルの思い

今回短いですがよろしくお願いします!


 リアムとリィエルの戦いは魔術を封じられたことでリィエルが早々に方を付けるかに思われたがなかなか勝負は付かなかった。

 理由は一つ。リィエルの剣に普段ほどの鋭さが無いのだ。と言ってもリアムがそれで勝てるかと言ったらそう簡単な話ではなかった。

 リィエルの力任せな攻撃を何とかリアムは防いでいる。

 幾ら普段のリィエルではないと言っても、このままでは普段とは違う剣一本のリアムが負けるのは確実だった。

 

「おい、リィエル。グレンを刺して満足か? 嬉しいか?」

 

「……なに? そんなの知らない」

 

 その言葉にリィエルは一瞬立ち止まる。

 

「おい、逃げるなよ。自分の事を思ってくれていた人をぶっ刺してとどめまで刺そうとして嬉しいかって聞いてんだよ」

 

 リィエルの表情には分かりにくいが、普段とは違い動揺していることがリアムには見てわかった。

 

「───知らない知らない知らない!! 私は兄さんの為に生きるの!! 兄さんの邪魔する奴は全員斬る!!」

 

 リィエルが叫ぶと大剣を力一杯振り下ろす。

 その攻撃をリアムは顔色一つ変えず後方に飛んで躱す。そのままリアムは揺さぶりを続ける。

 

「それで? 俺を斬った後お前はどうすんだよ? ルミアのとこに行くのか?」

 

「ルミアを連れていく。それが兄さんの望みだから」

 

「ルミアが何されるかお前でも分かってるよな? 自分と仲良くしてくれたルミアが酷いことされてお前は何も思わないのか?」

 

「……ッ! うるさい!」

 

「ルミアとシスティーナと過ごした日々はどうだった?」

 

「……うるさい」

 

「ルミアやシスティーナと抜け出して見た夜の海はどうだった?」

 

「………うるさい」

 

「あんたにとって二人はなんだ?」

 

「!? ……知らない!」

 

「友達だろ」

 

「とも…だち…?」

 

 そのリアムの言葉にルミアとシスティーナと共に夜、ホテルを抜け出した時のルミアの言葉を思い出す。

 

「あなたと、こうして友達になれたことが、とても嬉しいの」

 

 

 

 

「あの時友達と言って貰えて嬉しかったんだろ?」

 

「……」

 

「あんたがやることはその友達のルミアを助けることじゃないのか?」

 

「……違う違う違う! 私はルミアを連れていく! それが…兄さんの望みだから!」

 

「じゃあ何でそんなに悲しそうなんだよ?」

 

「私は悲しくなんか……」

 

 リアムが手に持っていた剣を海へと投げ捨てる。それを驚いた様子でリィエルが見る。

 

「何……を…」

 

「あんたが俺のことをどう思ってるのかは知らないけど俺にとっては仲間だから。仲間に剣を向けてるのはおかしいだろ? それに何だかんだ、あんたの剣の腕には尊敬してるんだよ……()()

 

「リアムは…私を仲間だって言ってくれるの?」

 

「当然だろ? まだ兄さんの為にルミアを連れてくっていうか? なら早く俺を斬れよ?」

 

「……斬らない」

 

 リィエルは小さく首を横に振って呟く。

 

「じゃああんたは何がしたいんだ? 何をやりたいんだ?」

 

「私…は……ルミアを…みんなを……助けたい」

「でも……もう…戻れない。私グレンを殺そうとした。システィーナやルミアに酷いことした。もうみんなとは……会えない」

 

 リィエルがその場から立ち去ろうとする。

 だが、リィエルの細い腕をリアムが掴み止める。

 

「会えるさ。先生やルミア、システィーナならお前のことを許してくれるさ。あんたがみんなの前から消えた方がみんなを悲しませるぞ?」

 

「……私、みんなと居て…いいの?」

 

「当たり前だろ。まぁちゃんとごめんなさいしろよ?」

 

「……分かった」

 

「とりあえずこの人、死なせちゃあかんよなあ」

 

 そう言ってリアムはグレンの方を見る。

 リィエルが思い出したようにグレンへと駆け寄る。

 

「グレン…!! ごめん。私…」

 

「後悔は後にしろ。焼け石に水だろーけど、血を止めねーと!」

 

 リアムが素早く出血を抑える処置を施し終えるた頃アルベルトが現れる。

 

「兄貴! 何してたんだよ!?」

 

「エレノアの相手に手こずった。状況は?」

 

「つ……血は一応止めた。白魔儀【リヴァイヴァー】くらいしか…」

 

 リアムはアルベルトがエレノアを簡単に引かせたことに驚いていた。この状況でエレノアがそう易々とアルベルトを自由にさせるはずがない。不死身とは言えるエレノアの足止めを軽く突破した兄の技量にリアムは驚いていた。

 

「そこまで分かっているのなら上出来だ。お前の魔力を使ってもいいがこの後に支障が出る。システィーナ=フィーベルの魔力を使う」

 

「確かにシスティーナの魔力なら…」

 

「そいつは結局どうなった?」

 

 アルベルトがリィエルの方を見ながら言う。その声はいつも以上に冷たい。

 

「このバカは俺がなんとかした。だから大丈夫だ」

 

「アルベルト…私…」

 

「俺からは何とも言わん。グレンが目を覚ましてから言われておけ……とにかくお前達二人は先に行け。他の者に既に王女は連れ去られている」

 

「!?……分かった」

 

「……ルミアは絶対助ける」

 

 アルベルトはグレンを担ぎシスティーナの下へと向かい、リアムとリィエルはアルベルトの指示で地下水路の入口があると思われる湖へと向かった。




キリが良かったのでここで一旦切りました。
次回はなるべく早くできれば明日更新予定です。

もう一作の『紅炎公と赤き弓兵』及び新作について活動報告にて書いてますので良ければご覧下さい。


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魔の銃弾

投稿遅れて申し訳ないです。続きです。


 次々と現れる合成魔獣達を次から次へとリアムとリィエルは剣で魔術で倒して進んで行った。

 

「リィエル!」

 

「ん。任せて」

 

 リアムが魔獣の攻撃を双剣で防ぐとリアムの背後にいたリィエルが跳躍。

 大剣を振り下ろし魔獣を真っ二つにした。

 リアムとリィエルは敵の本拠地に潜入してから数え切れない程の魔獣を倒していた。

 

 当然その事は相手も把握しており───

 

「何なんだ!? こいつらは…ッ!」

 

 白金魔導研究所の所長バークスはモニターに映る二人の姿を見ながら怒鳴る。バークスは昼間の親しみやすい雰囲気から一転。態度を見繕うことはせず苛立ちを顕にしていた。バークスの横には不敵な笑みを浮かべているエレノア、さらにはリィエルの兄を名乗った男ともう一人、フードを被った男が居た。そして奥には拘束され制服は破かれ、肌には無数のルーン語が刻まれている見るに無残な姿となったルミアが居た。

 

「リアム…君……リィ…エル…」

 

「そもそも何故あちら側の味方をしている!? ライネル…! 貴様しくじったのかッ!」

 

 バークスはリィエルの兄と名乗った男をライネルと呼び睨みつける。

 

「ッ……ふ、ふん…あいつはもう要らないさ…僕達には新しい作品が付いている!!」

 

 ライネルは一瞬怯むがすぐに言い返す。

 

「まぁ…いい。あいつらがここに辿り着くことはない!」

 

 バークスは自信ありげに言い放つ。そんなバークスにくすくすと不敵な笑みを浮かべながらエレノアが話しかける。

 

「あら? バークス様、相当な自信がお有りなようですが?」

 

「見せてやろうッ! 私の最高傑作をなッ! こいつを倒したければ真銀か日緋色々金の武器でも用意するんだなあ!!」

 

 バークスの高笑いがその場に響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 

 

 リアムとリィエルの前に次に姿を現したのは大部分を宝石で構成された大亀の怪物だった。

 

「何なんだよ!? こいつッ!?」

 

 リアムとリィエルが何度も斬りかかったが傷一つ付く気配は無かった。ならばとリアムが魔術を放ったがそれも効果はない。次の手を考えているリアムの前にリィエルが立つ。

 

「今度こそ…斬る」

 

 リィエルが大剣を構えて突っ込んでいこうとするがリアムが即座に首根っこを掴んで止める。

 

「馬鹿!? 俺達の攻撃じゃ効かないって分かったろ!?」

 

「でもこいつ倒さないとルミアが」

 

 この時、リアムが何かに気が付く。

 

「……俺達が倒さなくても良いんだよ」

 

 リアムはそう言うとリィエルの首根っこを掴んだまま背後へと駆け出し大きく跳躍。

 着地したリアムの前にはグレンとアルベルトがおり…

 

「───ぶっ飛べ。有象無象」

 

 次の瞬間、巨大な光の衝撃波が駆け抜ける。命の危機を感じた宝石獣が稲妻で抵抗するが稲妻は衝撃波の前に消え去りやがて衝撃波が宝石獣を飲み込んだ。

 眩い光が収まった時、宝石獣の体の大半は消え去っていた。

 

「一言言ってくれませんかねぇ!? 死ぬとこだったよ!?」

 

「日頃の恨みだ! リア充め!!」

 

 グレンとリアムは言い争ってる。その様子をリィエルは、ばつが悪そうに見ていた。そんなリィエルにグレンが話しかける。

 

「リィエル、話は後だ。今はルミアを助けに行くのが先決だ」

 

「グレン………分かった」

 

 リィエルが頷く。そのリィエルにグレンがゲンコツを浴びせる。

 

「今のとこはとりあえずこれで許す。ほら、行くぞ?」

 

 ルミア救出のメンバーは4人となりそのまま地下水路の奥へと進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 

 

 バークスはその様子を忌々しそうに見ていた。

 

「馬鹿なッ!【イクスティンクション・レイ】だとッ!? セリカ=アルフォネア以外にあの術を使えるヤツがいるというのか…ッ!? それより何故生きている!? グレン=レーダスッ!! 」

 

「まさかグレン様にこんな奥の手が…」

 

 エレノアもグレンの奥の手に驚いていた。フードを被った男がエレノアへと話しかける。

 

「エレノア様…どう致しますか?」

 

「さて、どうしましょうか? バークス様」

 

「ふんっ…私が直々に奴らを仕留めてやろう。エレノア殿達はここに居るといい」

 

「では、そうさせて戴きますわ」

 

 バークスは部屋から出ていった。フードを被った男にエレノアが話しかける。

 

「では、後は任せましたわ。マグネス」

 

 マグネスと呼ばれた男はフードを取り答える。

 

「了解致しました」

 

 エレノアはその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 

 

 先を急ぐリアム達だったが立ち止まらざるを得なかった。ようやく目的といった所でバークスが待ち構えていたのだ。

 

「貴様ら、よくも好き勝手やってくれたな─ッ! 全員ここで私が仕留めてやる!」

 

 バークスを前にアルベルトが一歩前に出る。

 

「お前らは行け…こいつは俺が排除───いや、殺す」

 

 アルベルトの言葉にはいつも以上に強い意思が感じられた。

 

「っ……悪い…!」

 

「兄貴、任せた」

 

「ん」

 

 リアム達三人はその場をアルベルトに任せ次へと進む。

 

「そう簡単に通すと思うかッ!! 《紅蓮の獅子───」

 

「《気高く・吠えよ炎獅子》!」

 

 バークスがそれを阻止しようと呪文を唱え始めるが、アルベルトが先駆けて【ブレイズ・バースト】を唱える。

 

「馬鹿な!? 貴様、仲間を巻き込む気か!?」

 

 飛来する炎球にバークスは【フォース・シールド】で対抗する。火球が床に着弾し、バークスだけでなくリアム達をも巻き込むかに見えたが、荒ぶる炎嵐は、リアム達を避けて流れていた。そしてそのままリアム達は駆けて行った。

 

「貴様だけを狙うことなど造作もない事だ」

 

「駄犬にしてはなかなかできるようだな」

 

「貴様は俺がこの場で殺す。確実にな」

 

 アルベルトはバークスを指さし【ライトニング・ピアス】を唱えた。

 

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 

 

「《月》のリアム。お手合わせ願おうか」

 

 グレンたちの前には天の知恵研究会の男、マグネスが立っていた。

 

「先生とリィエルは先に。ご指名みたいなんで」

 

「……死ぬなよ」

 

「当然」

 

 グレンがリアムに死ぬなと言った理由、それはマグネスがバークスより強いと一目見た時にグレンが感じ取ったからだった。グレンとリィエルはマグネスの横を走り抜けていった。

 

「案外、簡単に通すんだな」

 

「俺はお前の相手をするように言われている。ほかは関係ない」

 

「そーかい!」

 

 リアムは、話し終わる前に既にストックをしていた【ライトニング・ピアス】を時間差起動(ディレイ・ブート)。更に双剣をマグネスへと投げつける。

 

 マグネスは飛来する【ライトニング・ピアス】を【トライ・バニッシュ】で打ち消すと、背後に跳躍。

 

「《爆散せよ》」

 

 リアムの詠唱により双剣が爆発。マグネスは後方への跳躍でその攻撃を軽々と躱していた。

 

「《駆けよ・雷槍》」

 

 マグネスが放った【ライトニング・ピアス】が通常のものより倍ほどの速度でリアムの元へと飛来する。

 

「ちっ…」

 

 リアムが慌てて回避するがその回避する先へとマグネスは銃弾を放っていた。リアムは身体を捻って躱そうとするが躱しきれず、銃弾は左足を掠めた。その時リアムの左足が急激に重くなる。

 

「っ…!? そうか…お前が《魔の銃弾》か」

 

 《魔の銃弾》と呼ばれる天の知恵研究会のメンバーがいることはリアムは知っていた。その男の放つ銃弾は魔術が込められており様々な効果をもたらす。魔術を銃弾にエンチャントするのには高度な技術が必要とされ調合には時間がかかるとされるが《魔の銃弾》と呼ばれる男は瞬時に銃弾に魔術をエンチャント出来ると言われている。

 

 先程、マグネスが放ったのは【グラビィティ・コントロール】がエンチャントされた銃弾だった。リアムが魔術を唱え【グラビィティ・コントロール】を解除しようとするがそのリアムに向かって次々とマグネスは銃弾を打ち込む。リアムはその銃弾を後方に飛び躱す。マグネスの左手は既にリアムの方へと向けられており

 

「《爆散せよ》」

 

「!?」

 

 その時、リアムが詠唱。すると天井から爆発する。それはリアムが投げた双剣の一本だった。初めに爆発したのは一本だけ。その爆発に紛れてリアムは剣を天井へ刺していた。この隙にリアムは【グラビィティ・コントロール】を解除し、新たに双剣を錬成する。

 

「簡単なことだろ? お前が放つ銃弾に当たらなければいい」

 

「躱せるものなら躱してみろ!」

 

 マグネスがリアムへと銃を構える。リアムはその場で魔術を唱える。

 

「《砂塵よ・荒れ狂え》」

 

 リアムが唱えた魔術は【サンド・ストーム】と呼ばれる魔術で、その場の石などを錬金術の応用で砂へと変え、その場に砂嵐を巻き起こす魔術。撤退する時などに使われたりする。

 砂嵐によってマグネスは銃の狙いを定められなくなる。

 砂嵐の中から雷撃が飛ぶ。その雷撃を【トライ・バニッシュ】で打ち消すとその方角へとマグネスは銃を連射する。すると銃弾は突如、炎をあげてその場に炎嵐を起こした。

 

「へぇー。今度は【ブレイズ・バースト】か」

 

 背後からリアムが斬りかかっていた。マグネスは回避しようするが一瞬のことで回避し切れずリアムの双剣はマグネスを切り裂く。だが、致命傷とはならない。

 砂嵐が消え、リアムとマグネスは向き合う。

 

「【ホーミング・ピアス】か…してやられた」

 

「お褒めに預かりどうも」

 

 マグネスは飛来した雷撃を【ライトニング・ピアス】と思いそこに向けて魔弾を放った。しかしそれはリアムが放った【ホーミング・ピアス】であり、リアムがいたのはマグネスの後方だった。【ホーミング・ピアス】は孤を描く様に放たれるのでマグネスはリアムのいる方角を見誤った。

 

「さーて、ここで仕留めさせて貰おうか《魔の銃弾》」




イヴヒロインの新作『紅炎公と銀の剣聖』を投稿開始したので良ければそちらもよろしくお願いします!


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事件の終わり

大変お待たせいたしました。
リメイク前から書きたかった設定が今回書けて満足です。


 リアムとマグネスの闘いは熾烈を極めた。両者一歩も譲らない戦い。リアムがマグネス目掛けて魔術を放とうとする。

 

「《吠えよ炎───……」

 

 魔術が放たれる前にマグネスは次々魔術がエンチャントされた銃弾をリアムへと放つ。

 

「ちっ…」

 

 魔術の詠唱を中断し、その銃弾をリアムは剣によって確実に弾き飛ばす。

 弾き飛ばされた銃弾は壁に当たり燃え上がる。

 

 リアムにとってマグネスはやりにくい相手だった。魔術を詠唱しようとしたタイミングで確実に銃を打ってくる。マグネスの銃の腕は相当なものだった。その腕前はリアムが今まで見てきた中で最高と言えるバーナードに匹敵するほどだった。魔術も併用するマグネスを前にリアムも全ての攻撃を捌ききれておらず所々に傷を負っていた。

 

 マグネスにとってリアムはとてもやりにくい相手だった。銃での攻撃には魔術には無い利点がある。それは連続、同時での使用が容易なことにある。魔術は連続で魔術を起動するとしてもせいぜい三連。同時起動などは高等技術であり殆どの魔術師は使えない。そして魔術のように銃弾を打ち消すことは出来ない。よって殆どの魔術師はマグネスの銃弾を防ぎきれずに簡単に仕留められる。

 

 だが、剣術の技量が高い者は銃弾を弾くことができる。だが、剣だけだと魔術も併用するマグネスとの距離を詰めることは出来ず、マグネスの魔術の前に敗北する。魔術は銃弾とは違い剣で防ぐことは出来ないのだ。

 

 リアムには高い魔術の技量と剣術があった。二反響唱(ダブル・キャスト)時間差起動(ディレイ・ブート)というどちらか一つでもこなすのは難しいという二つの高等技能を使いこなす魔術の腕前とマグネスの銃弾も防げる剣技。

 

 リアムにはグレンのような【愚者の世界】といったオリジナルや、アルベルトのような帝国一とも言われる狙撃技術などリアムにしかない能力は一つもない。だが、リアムはマグネスにとってはまさに天敵だった。

 そして徐々にリアムがマグネスを押していき…

 

「チェックメイトだ」

 

 完全に背後を取ったリアムがマグネスへと双剣で斬り掛かる。

 マグネスが回避したとしても完全に間に合わないタイミング。しかしマグネスは慌てる様子もなく落ち着いていた。

 

「お前がな」

 

「なに…!?」

 

 その時リアムの右足が何者かによって掴まれリアムはその場に叩きつけられる。

 

「ちっ…この魔術…」

 

 リアムはこの魔術に見覚えがあった。

 

「リアム様。貴方の力、存分に使わせていただきますわ!」

 

 突如現れたエレノアがリアムへと魔術を放つ。

 

(やられた…! こいつは完全に囮だったのか!)

 

 リアムが魔術を唱えて防ごうとするがマグネスも銃口をリアムへと向けているのに気がつく。防ぐにしてもどちらか一方しか防げない。そしてリアムへ向けてマグネスが銃を放つ。

 

「クソっ……! ルミア……!」

 

 リアムが敗北を覚悟した時一人の男の声が聞こえる。

 

「この程度か? ───《月》」

 

「!?」

 

 エレノアの魔術とマグネスの銃弾がリアムの元で炸裂。爆炎がその場に起こる。

 エレノアとマグネスの二人は勝利を確信する。だがその場にリアムはいなかった。

 

「!?……どこにっ!?」

 

 エレノアが周囲を見渡した瞬間、マグネスがその場に倒れる。

 そこには右足を構えたリアムが立っていた。

 

「そんなありえ───!?」

 

 エレノアは瞬時に危機を察知しその場から離れる。しかし、間に合わなかった。

 直撃は避けたものの一本の剣によってエレノアの右腕は切り落とされていた。

 

 エレノアはその場から距離を取りその男の方を見る。だが、リアムもまたその男から距離を取り、剣先をエレノアではなくその男の方へと向けていた。

 

「……」

 

「……やはり、貴方ですか」

 

 そこに立っていたのは天の知恵研究会の一人、《魔剣》のエリヤだった。

 

「そろそろ本当の姿を見せたらどうです? エリヤ様…いえ、カルロ=ロディウス様」

 

「………は?」

 

 そのエレノアの言葉にリアムは驚きその男の方を見る。

 エリヤは小さく笑うと

 

「ふっ…やはり気付かれてたか。流石はエレノア=シャーレットだな」

 

 するとエリヤの顔が歪みエリヤの姿は青髪の男へと変わった。

 

「いえ、貴方の工作は完璧でしたわ。組織の中でも貴方を少しでも疑っていたのは恐らく私だけ───……!?」

 

 その時エレノアは気付いた。

 自分の右腕が切り落とされたままであることに。

 いつもならその超人的な再生能力から既に再生している頃だった。

 

「残念ながら君の右腕は今までのようにすぐさま再生することは完全に無い。これから先、永遠にそのままだ」

 

「まさか、その剣は───!?」

 

 エレノアは驚愕の眼差しでカルロが持つ剣を見る。カルロはエレノアへと右手に持つ剣を向け答える。

 

「察しがいいな。この剣は魔法遺産(アーティファクト)消失の剣(バニシュ・ヴード)。この剣はいかなる魔力も全て消失させる。故に、君の右腕が戻ることはどんな手を使ったとしても無い」

「つまり、この剣でその首を撥ねたら、いくら君でも……死ぬ」

 

 その時カルロからこれまで以上の殺気が放たれる。その殺気にエレノアからいつもの余裕は消え真剣な表情になる。

 

「これはしてやられましたわね…仕方ありませんわ。ここは逃げの一手を選ばせて頂きますわ。──《爆》ッ!」

 

 黒魔【クイック・イグニッション】をエレノアが唱えると爆炎が上がる。爆炎が収まった頃には、エレノア、そしてマグネスの姿はなかった。

 

 リアムがカルロの下へと詰め寄る。

 

「……おい、アンタ。どういう事だ!? カルロ=ロディウス、その名が本当ならアンタは───」

 

 カルロはリアムの言葉を遮り答える。

 

「───俺はお前の父親だ。王女の指示で天の知恵研究会に潜入していた」

 

「嘘だ。俺の両親は俺の事を───…!…っ!?」

 

 その時、リアムを頭痛が襲った。そこへアルベルトが駆けつける。

 

「───全て、話したようだな」

 

「まだ全てではないが…それは後に話そう。フレイザーの息子だな? 世話を掛けた」

 

 アルベルトとカルロの会話に頭痛が収まったリアムが割って入る。

 

「ちょっと待て、兄貴はこの事知っていたのか!?」

 

「……そういう事だ」

 

「───後でちゃんと話してもらうからな」

 

 リアムの視界に一人の少女が映る。

 グレンとリィエルが助け出したルミアの姿がそこにはあった。その姿を見てリアムは安堵した。

 そしてルミアがリアムへと駆け寄ってくる。

 

「リアムくんっ!」

 

 ルミアはリアムの胸へ飛び込んだ。

 

「……!? る、ルミア……!?」

 

「リアム君なら来てくれるって私、信じてたよ」

 

「───無事でよかった」

 

 そんな二人の様子を後から来たグレンとリィエルは二人で見ていた。

 

「これで一件落着だな」

 

「ん。よかった」

 

「おい、リィエル。俺は忘れてねーからな?」

 

 グレンがリィエルの頬を引っ張っる。

 

「うぅ…」

 

 

 カルロが隣のアルベルトへと話しかける。

 

「《星》、俺は先に行く。後は頼んだぞ」

 

「あぁ」

 

 そうアルベルトに言うとカルロはその場から姿を消した。

 リアムがカルロがいないことに気が付き、アルベルトへと声をかける。

 

「兄貴、あの人は…?」

 

「既に去った。近々改めて会うことになるだろう」

 

「……そうか」

 

 遠征学修で起こった事件はこうして幕を閉じた。




これにて第3部終了です。
次回からは完全オリジナルの第4部となります。
よろしくお願いします!


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第4章 9年前の真実編
明かされる真実


今回、非常に短いです。2000字もありません…
次回はすぐ投稿できるようにします。


 遠征学修は事件の事もあり中止となった。生徒達は惜しみながらもフェジテへと帰還した。

 そして再び日常が始まる。そうリアムは思っていた。だが、フェジテに帰った次の日。リアムは王宮へ呼ばれた。

 

「女王陛下から話ってなんだ…?」

 

 リアムが呼ばれた理由を考えながら女王陛下の部屋の前へと案内される。女王陛下の部屋に差し掛かった時、反対側から一人の少女が自分と同じように兵士達に案内されこちらに向かってきているのが見えた。

 その少女は一目見ただけで誰かわかった。それは少女も同じことで

 

「!?───ルミア!?」

 

「リアム君!? どうしてここに…?」

 

 二人が驚いていると近くの兵士が扉の向こうへ向け口を開く。

 

「女王陛下、アルザーノ帝国魔術学院のリアム=ロディウス。ルミア=ティンジェルの両名をお連れ致しました」

 

(ルミアがいるから薄々気付いたけど特務分室だからって訳じゃないのか)

 

「ご案内して下さい」

 

 女王の言葉により扉が開かれルミアとリアムの二人が部屋の中へと入る。

 

「!? あ、アルフォネア教授!?」

 

 そこにはソファに腰掛け足を組んで寛いでいるセリカの姿があった。

 

「おー。やっと来たか」

 

「な、何でここに…?」

 

「いやーアリスに呼ばれてね。こいつらもな」

 

 セリカは奥を指さす。

 そこにはアルベルトとカルロの二人が壁にもたれ掛かっていた。

 

「兄貴にアンタまで…」

 

「全員揃ったようだな」

 

 ゼーロスが全員揃ったことを確認すると兵士へと合図を出す。すると兵士は部屋から出て扉を閉めた。

 この場にいるのはアリシア、ゼーロス、セリカ、アルベルト、カルロ、リアム、ルミアの7名だった。

 扉が閉まるのを確認すると女王アリシアが話し始めた。

 

「リアム=ロディウス。貴方の事をこれから話します」

 

「え? 俺のこと?……ですか?」

 

 ルミアとリアムは驚き顔を見合わせる。

 

「まずは貴方の記憶を《解放(リリース)》します。カルロ」

 

 アリシアに呼ばれたカルロがリアムの前へと立つ。

 

「《解放(リリース)》」

 

 するとリアムを頭痛が襲い、その痛みからリアムはその場で苦しむ。

 

「リアムくんっ!」

 

 ルミアが心配しリアムの元へと駆け寄ろうとするがリアムは手でルミアを制止する。

 

「……大丈夫。今治った」

 

 リアムにアルベルトが話しかける。

 

「……思い出したか? 9年前の記憶を」

 

「あぁ。思い出した」

 

 そしてリアムはカルロの方を向き

 

「久しぶりだな。父さん」

 

「大きくなったな。リアム」

 

「無事、記憶を《解放(リリース)》出来たようですね」

 

 アリシアの言葉にリアムが頷く。そしてカルロは本題を話し始めた。

 

「今から9年前の真実を話す───」

 

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 

 

 まず、俺達の一族には他の人間には無い、ある『力』があった。その『力』は『魔法遺産(アーティファクト)』の力を引き出す特別な力だ。『魔法遺産』は現代の魔術師には基本的には扱えない。扱うことが出来たとしてもその力の一部だけだ。だが、我々一族はその力の限りなく全てを使うことが出来た。

 

 リアムの記憶はリアムが、天の知恵研究会に狙われないようにする為、母親であるシャルロット=ロディウスが使う魔法遺産の『メモリーシール』の力によって封印していた。『メモリーシール』によって封印した記憶はシャルロットが決めた条件により解放される。リアムの記憶の解放条件は「父親として現れた俺が《解放(リリース)》する」だった。

 

 一族の強大な力は天の知恵研究会に狙われ襲撃を受けた。天の知恵研究会にスパイとして潜入していた俺はその事を襲撃の直前に知り、一族へと伝えた。だが、襲撃までに時間がなかった。一族はリアムを生き残らせる事にしたんだ。よって俺はリアムを旧友のフレイザーの家に預けることにした。

 

「じゃあ、俺が兄貴に拾われたのは…」

 

「そういう事だ」

 

 そして一族は天の知恵研究会の襲撃を受け、その襲撃から生き残ったのはリアム。お前一人だけだ。

 

「じゃあ母さんは…」

 

「シャルロットはその時に…死んだ」

 

 また、天の知恵研究会がお前の情報を掴まないよう、シャルロットは親友であるアリシア女王に頼み、女王の根回しなどもありお前の情報が天の知恵研究会に知られることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 

 

「これが9年前の真実だ。そしてここに二人を呼んだのはリアムの魔法遺産(アーティファクト)の契約をこれからするからだ」

 

「なるほどなるほど……は?」




そういえば三嶋くろね先生のタペストリー買ってみました。非常に良きです。オススメですね。3000円とお高めですけどね。
次回は9年前の天の知恵研究会と一族の戦闘を書きますのでお楽しみに!

感想や高評価等をしてくれるとモチベに繋がりますのでよろしくお願いします。自分モチベにすっごく左右される?人間なんで…とにかく
感想頂けると非常に嬉しいです。


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戦いの序章

投稿遅れて申し訳ありません!
天の知恵研究会と一族の戦いの序章です。


 アルザーノ帝国西部に広がる広大な森。

 その一角にその小さな村はあった。その村には特殊な力を持った一族が住んでいた。

 彼らの力は『魔法遺産(アーティファクト)』の力を引き出すこと。しかし全員が『魔法遺産』を使える訳では無い。それぞれ個人に適した『魔法遺産』があり、その『魔法遺産』が見つかっていないと、その力は発揮できない。現在、村で魔法遺産を使うことが出来るのはほんの数人しかいなかった。

 

 また、この力はあまりにも危険だった。一族は力を持ったものが、力を悪用しないよう契約を結んでいた。

『魔法遺産』を使う力を引き出すにはある詠唱が必要でありその詠唱は自分が誰かの為に尽くす事を誓い、その者の為に力を使うというもの。この詠唱の存在によりこの力を自分の為だけに使うことは不可能となっている。

 また、この力を契約するには女王陛下の前で力を契約する者と、その者が尽くすことを決めた二人が共に、互いが互いの事を誓い合い、女王陛下が二人のことを認めて初めて力を使うことができるようになる。

 

 天の知恵研究会はその一族の強大な力に目を付け、幾度となく刺客を送り込んできたが無事帰ったものは誰一人としていなかった。だが、9年前のある日。その悲劇は起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アレンの兄ちゃん! 遊ぼー!」

 

 7歳のリアムが家の庭から部屋の中に居た青年へと声を掛ける。青年の名はアレン=フリード。一族でも数少ない『魔法遺産』を使える1人だった。

 

「ははっ、元気だな。リアム。今行くよ」

 

 アレンはリアムにそう答えるとリアムは嬉しそうに頷く。席を立つアレンにアレンと話をしていた金髪の美女が声を掛ける。女性の名はシャルロット=ロディウス。リアムの実の母親だった。

 

「いつも悪いわね…アレンだって疲れてるでしょう?」

 

「なぁに甥と遊んでやるのも叔父の務めってもんでしょ。それに村に子供はリアムしかいねーしな。遊んでやらねーと」

 

「ありがとう、アレン。でも村に子供がリアムしかいないのは、貴方と二アスが結婚相手を見つけてこないのが原因だと思うけど?」

 

「っ……じゃ、じゃあ、リアムと遊んでくるよ。姉さん」

 

 アレンは庭へと向かおうとしたその時、シャルロットが持っていた通信用の魔導器が甲高い音を立てる。アレンは歩みを止めシャルロットの方を振り返る。

 シャルロットが頷き魔導器を起動する。

 

『天の知恵研究会が一族の力を狙い村へ向かっている』

 

「と言ってもいつもみたいに小物でしょ?」

 

『いや、今回は第三団(ヘヴンス・オーダー)《天位》も動いてる』

 

「「!?」」

 

 その言葉にアレンとシャルロットの二人は息を呑む。存在が都市伝説とも言われる第三団《天位》が遂に動いたということに驚きを隠せなかった。

 

『情報を掴むのが遅れた…俺のミスだ』

 

「そんな事ないわ。第三団《天位》が動く案件なんて天の知恵研究会でもトップシークレット。よく情報を掴んだわよ。事が起こる前なら少しでも対策できる」

 

「カルロさん。奴等が来るまでの時間はあとどれほどですか?」

 

『5分あればいい方だ。すぐに皆に知らせてくれ』

 

「了解です」

 

『……よく聞いてくれ…いくらお前達でも死ぬ可能性が高い。相手はそれほどまでの戦力を投入してきている』

 

「……そうですか。時間を考えると安全に逃がすことが出来るのは一人ですね。なら…」

 

「アリスに連絡するわ。カルロはフレイザーさんに連絡して。アレンはこの事をみんなに伝えて」

 

 アレンは頷きすぐに家を飛び出す。

 

『既に連絡した。俺は今すぐそちらへ向かう。それまで厳しいとは思うが持ち堪えてくれ』

 

「最善は尽くすわ」

 

『……死ぬなよ』

 

 カルロとの通信が途絶える。そしてすぐにシャルロットは別の通信用の魔導器を取り出して起動する。

 

『シャルロット? どうしました?』

 

 魔導器からアルザーノ帝国女王、アリシア七世の声が聞こえてくる。

 

「アリス、今から一族が天の知恵研究会の襲来を受ける」

 

『……今すぐ兵士を派遣します』

 

「いや、いいわ。死人が増えるだけ。前に約束したでしょう? 一族だけで対処するって」

 

『ですが……』

 

「だから、リアムのこと。頼むわね」

 

『……分かりました』

 

「ありがとう」

 

『……ご武運を』

 

「えぇ」

 

 シャルロットがアリシアとの通信を終えた時アレンがリアムと一人の男性を連れて駆け込んでくる。

 

「姉さん! ニアスを連れてきた! あとは任せる!」

 

 アレンはそう言い残し再び家を飛び出していく。リアムは何が起こっているのかわからずクエスチョンマークを浮かべていた。シャルロットがアレンと同じくらいの年齢の青年、ニアスに話しかける。

 

「ニアスどこまで飛ばせる?」

 

「流石に王宮までは…フェジテまでは何とか。それでも数分かかりますね」

 

「じゃあ、1分で」

 

「相変わらず無茶言いますよね……何とかします」

 

 リアムがシャルロットの元へと歩いてくる。

 

「母さん。みんなどうしたの?」

 

 その間も家の外では一族の者達が慌ただしく動いていた。

 

「リアム」

 

「なに?」

 

 シャルロットはリアムを強く抱きしめる。

 

「ちょっと母さん…く、苦しい…」

 

「私はいつまでもどこにいても貴方のことを愛してる。今からすることは貴方を守る為。だから……許して。貴方だけでも…生きて」

 

「えっ? か、母さ──」

 

 シャルロットが魔法遺産『メモリーシール』を使用するとリアムは気を失った。

 そしてニアスがグローブを嵌めた手を翳すとリアムはその場から姿を消した。

 

「リアムは無事フェジテまで飛ばせました」

 

「……そう」

 

 その時、外から大きな破裂音が聞こえる。それは周囲を囲っていた結界が破られたことを意味していた。

 シャルロットとニアスが外に出ると、天の知恵研究会の先行隊の姿があった。ニアスは村の入口の方へと走っていく。入口にはアレンが1人で槍を手に持ち立っておりニアスがそのアレンの隣に立つ。

 

「遅かったな? ニアス」

 

「あのな、俺の魔法遺産は本来人を飛ばす為の物じゃないからな」

 

「リアムは?」

 

「安心しろ。無事だ」

 

「良かった。……やるぞ」

 

 後方に居た天の知恵研究会の魔術師三人が詠唱を終えるとまるで隕石のような巨大な炎が村へ向かって飛来する。

 

 ニアスが前方へと飛び出すと両手を突き出す。

 

「馬鹿め! 死にてーのかこいつ! B級軍用魔術の【フレア・メテオ】だぞ! たった1人で何が出来るんだあ?」

 

 天の知恵研究会の男の1人が笑う。そして巨大な炎はニアス目掛けて飛んでくる。ニアスに直撃するかに思われた瞬間、巨大な炎は姿を消した。

 

「馬鹿はそっちだろ。どこ狙ってやがる」

 

 その時天の知恵研究会の魔術師の上空から先程消えた炎が突如現れて魔術師達を炎が襲う。

 爆炎が魔術師達を包み込んだ。

 

「ありえ…ない」

 

「まさか…こいつ」

 

 ニアスの前の空間には穴が空いておりそこからは力尽きた魔術師達の姿が映っていた。魔術師達の頭上にも同様の穴があり、そこからはニアスの姿が見えた。

 

「あれ程の魔術を飛ばしたというのか…!?」

 

 ニアスの隣をアレンが駆け抜けていく。

 

「手合わせ願おうか! 天の知恵研究会!!」

 

 天の知恵研究会の魔術師達目掛けて突撃するアレンを狙って魔術師達が構える。

 

「ここで死ね!!《雷槍よ》──!!」

 

 アレンに向かって魔術師達は【ライトニング・ピアス】を放つ。

 無数の雷撃がアレン目掛けて駆け抜けていく。だが、アレンはそれを諸共せずそのままのスピードで突撃する。

 

「こいつ…死にてぇのか!?」

 

 雷撃がアレンに突撃する瞬間アレンは僅かに体を逸らして躱す。続く第二撃、三撃も最小限の動きで躱す。

 

「あ、有り得ない…!」

 

「おいおい。ホントに【ライトニング・ピアス】か? 姉さんのと比べたら…止まって見えるぜ!」

 

「ほらよっ!!」

 

 アレンは跳躍すると勢いよく手に持つ槍を投げつける。槍が地面に突き刺さった瞬間辺りを雷撃が駆け抜ける。

 

「ぁあああ!?」

 

 アレンは着地すると突き刺さった槍を手に持ち再び地面を蹴る。

 

「!? ど、どこに…」

 

 剣を構える男の背後に瞬時に回り込み倒すとその後も手に持つ槍を振るい途轍もない速さで敵を葬っていく。

 

「ちっ! 《吠えよ炎獅子》」

 

 男が【ブレイズ・バースト】をアレンの背後から放つ。だが、アレンはそれを見ようともせず首を曲げるだけで躱す。

 

「ほらお返しだ」

 

 アレンが躱した炎球が飛来する先には穴が空いており炎球は穴へと消える。

 

「ぐぁああああああ」

 

【ブレイズ・バースト】を放った男を爆炎が襲った。

 アレンとニアスの二人の手によって天の知恵研究会の先行隊はたった1人を残して倒された。残った男がアレンと向き合う。

 

「第一団《門》の名にかけて貴様を倒す!」

 

「《吠えよ炎獅子》!!」

 

 男は【ブレイズ・バースト】を二反響唱(ダブル・キャスト)する。男はC級軍用魔術の二反響唱という高等技術を披露するが、実力はアレンの方が格段に上だった。

 

「うるせーよ」

 

 背後に回り込んでいたアレンが攻撃する。だが、男もその攻撃を読んでおり躱す。

 

「甘いな。その程度の攻撃でやられる私では……貴様、槍は何処に!?」

 

 男がアレンが槍を手放していることに気付いた時には遅かった。男の頭上から雷撃が男に炸裂した。こうして天の知恵研究会の先行隊はアレンとニアスの二人の手によって全滅した。



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一族の戦い

 一族と天の知恵研究会の戦いは熾烈を極めていた。倒しても倒しても増え続ける敵戦力を前にニアスとアレンの二人も抑えきれず村への侵入を許す。

 

「クソッ! なんだこの数!?」

 

「アレン! 雑魚は無視だ! 村のみんなで倒せる。俺達の相手は第一団(ポータルス・オーダー)《門》以上の奴だ」

 

 アレンとニアスの技量ならば第一団《門》相手だと1体1なら基本瞬殺できる。だが、複数人相手だとそれなりに手間がかかる。

 

「《──■■■》」

 

「「!!」」

 

 突如、人間のものとは思えない声が聞こえる。二人はその場からすぐさま離れる。すると元いた場所に爆炎が巻き起こる。その勢いは【ブレイズ・バースト】とは比べ物にならないものだった。

 

 アレンが槍を構え呟く。

 

「──竜言語魔術(ドラグイッシュ)。フォーエンハイム家のモンか」

 

「如何にも」

 

 アレンは深呼吸をする。

 

「……本気でやらなきゃいけねえみたいだな……ニアス。ここは俺が引き受ける」

 

「死ぬなよ」

 

「誰に言ってる?」

 

 ニアスは村の方へと走り去っていく。ニアスが去ったのを確認するとアレンは目を閉じ詠唱する。それは魔法遺産(アーティファクト)の力を最大まで発揮する為の詠唱だった。

 

 対してフォーエンハイムの男は再び竜言語魔術を唱え始める。

 

「《──■■■》」

 

 再び爆炎がアレンの元へと迫る。

 

「──《誓う・我が力は汝の為に・我汝の剣となる》」

 

 巨大な爆炎がアレンごと飲み込もうと迫り直撃する瞬間アレンは目を開くと手に持つ槍でその爆炎を一刀両断する。

 

「──ほぅ」

 

「我が魔法遺産、『迅雷の神槍』──。その真の力、見るがいい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

「……結界。哀れね」

 

 シャルロットの周囲には何重もの結界が張られていた。よって術者を倒さなければその場から逃げることは出来ない。

 

「シャルロット=フリードだな?」

 

 シャルロットは三人の魔術師に囲まれていた。その全員が第一団《門》クラスだった。

 

「懐かしい名ね。私はもうフリード姓じゃないんだけど」

 

「かの名高き第六階梯も活躍したのは既に10年以上前」

 

「舐められたものね。たったこれだけで私を相手しようなんて」

 

 シャルロットは呆れるようにため息を吐く。

 

「そんな訳あるまい」

 

 男が合図すると魔術によって透明化していた魔術師達が姿を現す。その数は実に20以上。20人以上の魔術師に突然囲まれたというのにシャルロットの表情には焦りは微塵も感じられない。

 

「はぁ……だから……たったこれだけで私を相手するの?」

 

 男達が一斉に魔術を詠唱する。

 爆炎が吹雪が雷撃がシャルロットを襲う。

 

「───《吠えよ炎獅子》」

 

 シャルロットが唱えたのは【ブレイズ・バースト】だった。魔術師の一人が声を上げる。

 

「ただの【ブレイズ・バースト】で何しようってんだ?」

 

「……ただの【ブレイズ・バースト】? バカにしないでほしわね」

 

 シャルロットが魔術を唱えるとシャルロットの周囲、三方向で爆炎が駆け抜ける。その爆炎によって全ての魔術は防がれそして多くの敵を焼いた。【ブレイズ・バースト】の規模がただの魔術師とは違っていた。魔術師達は驚愕する。

 

「──三重唱(トリプル・キャスト)だと!?」

 

「それに今のは【インフェルノ・フレア】と何ら変わんねーぞ!? 本当に【ブレイズ・バースト】か!?」

 

 魔術師達はシャルロットに恐れをなしてその場から逃げようとする。だが、結界によってその場から逃げることは叶わなかった。

 

「馬鹿ね、結界なんて。自分たちの首を絞めるだけなのに……さっさと《死んでくれる》? この外道」

 

 シャルロットの改変した魔術によってシャルロットの周囲が爆発する。爆発によって起こった煙が晴れる頃にその場に立っていたのはシャルロットだけだった。

 

「……雑魚ばっかりね」

 

 そこに無数の剣が飛来するが、シャルロットは軽く躱してみせる。地面に刺さった剣が突如輝くと爆発する。その爆発も読んでいたシャルロットは魔術によってそれを防ぐ。

 

「《万物を凌駕する雷神よ・その腕に宿りし迅雷以て・蹂躙せよ》」

 

 その魔術はB級軍用魔術の【プラズマ・カノン】であった。B級軍用魔術は何節かけてでも、とにかく詠唱することができれば超一流の魔導士とされ一般的には七節以上で詠唱される。それをたったの三節で詠唱することは相当な実力であることを示していた。

 

 極太の稲妻がシャルロット目掛けて駆け抜ける。B級軍用魔術は基本的に防ぐことは出来ない。防ごうとしても唱えると同じように手間がかかるのだ。よって唱えられれば逃げるのが鉄則だ。

 

「《我に守護あれ》」

 

 だが、たった一節の改変した魔術でその攻撃をシャルロットは防いでみせたのだった。

 

第二団(アデプタス・オーダー)《地位》クラスのようだけど相手が悪かったわね。───《金色の雷神よ》」

 

 シャルロットは【プラズマ・カノン】をたった一節で詠唱すると第二団《地位》の男を葬り去った。

 

 シャルロットは周囲全ての敵を倒した事を確認するとその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニアスは第二団《地位》の魔術師と戦っていた。

 

「どうした!? その程度か!?」

 

 男は次々と魔術を詠唱する。その全てをニアスは魔法遺産の力によって飛ばしていた。

 

「《吠えよ》《吠えよ》《吠えよ》《吠えよ》!!」

 

 男は【ブレイズ・バースト】を四連続で詠唱する。ニアスはその魔術を相手の元へと飛ばす。相手はその場から距離を取って躱す。

 

「───《雷槍よ》!!」

 

 その隙を狙ってニアスが【ライトニング・ピアス】を唱える。その攻撃は敵の肩を貫いたように見えた。しかし

 

「その程度か…?」

 

 その男の耐久力はずば抜けていた。ニアスはこれまで【ライトニング・ピアス】、【ブレイズ・バースト】といった魔術を唱え幾度となく攻撃はその男に直撃した。だが、男は無傷のままであった。

 

「さあさあ!! まだまだ行くぞ!!!」

 

 男が再び魔術の高速詠唱を開始する。再びニアスはそれを魔法遺産で飛ばす。だが今回は今までとは違っていた。相手はニアスが飛ばした魔術を躱そうとその場を離れる。と、そこに穴が開いていた。

 

「なにっ!?」

 

「──俺の魔術で倒せないなら他のやつので倒せばいい」

 

 男はその穴に吸い込まれ姿を消した。

 

「───!?」

 

(こいつ…絶対にヤバい!?)

 

 ニアスが敵が穴に消えたのを確認した時だったニアスはこれまでの敵とは明らかに違う気配を感じ取った。ニアスはその場からすぐさま離れようとするが遅かった。

 

「──《神炎の業火よ》」

 

 B級軍用魔術【インフェルノ・フレア】──。たった一節で詠唱されたその魔術により灼熱の業火がその場を駆け抜けた。

 

「この程度か…」

 

 男はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

「《──■■■》!!」

 

 フォーエンハイムの男の竜言語魔術がアレンを襲う。だが、アレンと男の前に突如穴が現れる。

 

「なにっ!?」

 

 その穴からはニアスが飛ばした男が現れ竜言語魔術による爆炎が男を襲った。

 

「ぐぉおおおおおおおおおお!?」

 

「き、貴様らっ……!?」

 

 予想だにしない出来事に男は驚く。その隙が命取りだった。アレンが目の前から消えていることに男は気付くのが遅れた。

 

「……取った」

 

 通常の剣や銃弾では決して傷つかない男の竜の身体にアレンの槍が突き刺さっていた。

 天の知恵研究会の男二人は程なくして息絶えた。

 

「悪いな。こちとら手段を選んでられないんで」

 

 アレンは突如、槍を構え地面を蹴ると空中で槍を突き出す。その槍は一人の男に掴まれていた。

 

「あんた…何者だ?」

 

「第二団《地位》三帝の一人。───■■■」

 

「三帝だと…!?」

 

 天の知恵研究会第二団《地位》において、その中でも圧倒的な力を持つ三人が居た。彼らは三帝と呼ばれその力は第三団(ヘヴンス・オーダー)《天位》に匹敵するとも言われる。いわば姿を見せる第三団《天位》といったところだ。

 

 アレンは槍を動かそうとするがその槍はピクリとも動かなかった。

 

「三帝…あんまり舐めてかかると痛い目に合うぞ?」

 

 アレンがそう呟くと同時に迅雷の神槍は強烈な電撃を放った。

 

 堪らず男は槍から手を離す。アレンは槍を振り回し男の側面から槍を叩きつける。男は吹っ飛び地面に激突する。すぐさまアレンが詠唱を開始する。

 

「《万物を凌駕する雷神よ・敵を蹂躙せよ》──!!」

 

 魔法遺産の力によって二節で詠唱されたアレンの【プラズマ・カノン】が男へと襲い掛かる。

 

「《神炎の業火よ》」

 

 男も【インフェルノ・フレア】を一節で詠唱する。稲妻と業火が激突し、大爆発が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……セリカ。貴女の術。使わせて貰うわよ……」

 

 シャルロットは第二団《地位》の敵を複数相手にしていた。これまで戦闘をずっと続けておりシャルロットにも疲れが見えていた。

 

「《其は摂理の円環へと帰還せよ・五素は五素に・象と理を紡ぐ縁は乖離せよ》」

 

「なにっ!? その呪文は!?」

 

「【イクスティンクション・レイ】だと──!?」

 

 だが、【イクスティンクション・レイ】は発動しなかった。

 

「はぁはぁ…」

 

「はっ! 流石のシャルロット=フリードも【イクスティンクション・レイ】は使えないようだな!」

 

 男がシャルロットへと斬り掛かり男の剣がシャルロットの目の前まで来た瞬間男が燃える。シャルロットが仕掛けていた魔術トラップが発動したのだ。シャルロットは続いて詠唱を開始する。

 

「《真紅の炎帝よ・劫火の軍旗掲げ・朱に蹂躙せよ》──!!」

 

「まさか…!? 二反響唱(ダブル・キャスト)だと…!?」

 

 シャルロットはB級軍用魔術【インフェルノ・フレア】を二反響唱という離れ業をやってのけ、周囲の敵を全滅させた。

 

「流石に…キツいわね。ここで第三団《天位》を相手にするのは」

 

 シャルロットは一点を見つめていた。その先にはフードをかぶった男が立っていた。男はシャルロットに静かに語りかける。

 

「万全の状態ならこの私でも討たれたであろう。……シャルロット=フリード。その命、ここで頂戴しよう」

 

 男が右手を構える。

 

「───《神炎の業火よ》」

 

 灼熱の業火が瀕死のシャルロットを襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁあああああああ!!!」

 

 アレンが槍で男に攻撃する。その速度は迅雷の如く、目にも留まらぬ速さであったが男はその攻撃を軽く躱すとアレンを蹴り飛ばす。地面に叩きつけられたアレンの体に、空から降ってきた光剣が複数突き刺さる。

 

「ぐぁあああああああ」

 

 アレンは完全に身動きが取れなくなりマナも切れかかっていた。

 

「……クソッ…」

 

 アレンは三帝の男の前に敗北を喫した。男がアレンの元へと歩み寄る。

 

「死なすには惜しい駒だ…その力、利用させて貰おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャルロットは負けた。第三団《天位》の男はシャルロットの前に立っておりシャルロットはその場に倒れ込んでいる。シャルロットを殺そうと男は右手をシャルロットへと向ける。

 

「さらばだ。歴戦の強者よ」

 

 その瞬間シャルロットは右腕を構えた。男は瞬時に躱すが間に合わなかった。

 

「……そう簡単にやられる訳にはいかないわ」

 

 シャルロットは【イクスティンクション・レイ】を時間差起動(ディレイ・ブート)した。シャルロットの【イクスティンクション・レイ】によって男の左腕から先は消滅していた。

 

「……やってくれる。だが、終わりだ。──《雷槍よ》」

 

 男は【ライトニング・ピアス】を唱えその場を後にした。【ライトニング・ピアス】がシャルロットの心臓を穿つ。致命傷だった。シャルロットの命はもう1分と持たない。シャルロットが右腕を掲げて呟く。

 

「……あの子の力になってあげて」

 

 シャルロットは右腕を下ろした。

 

「……リアム。強く……生きて。貴方の事を私はずっと…愛してる」

 

 程なくしてシャルロットは息絶えた。

 

 数分後、カルロが村に到着した時、既に息のある人間は一人も居なかった。




前回、今回とオリキャラしか出てない問題。フォーエンハイム家の人はレイクとは別人です。次回から時間軸は戻ります。


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俺は貴女を守る剣となる

今回で第4章も終了です。後書きにてお知らせがあるので良ければ最後までご覧ください。

お気に入り数340突破。ありがとうございます!これからもよろしくお願いします!


「──リアムの魔法遺産(アーティファクト)の契約をこれからするからだ」

 

「なるほどなるほど……は?」

 

 カルロの突然の言葉にリアムが驚く。それは隣のルミアも同様だった。

 

「いきなり過ぎないか!? 記憶思い出してまだ数分なんですが!?」

 

「天の知恵研究会にお前の事がバレた今、力を隠す必要は無いし隠している余裕もない。天の知恵研究会はこれまで以上にお前の事を手に入れようとする筈だ」

 

 カルロは続ける。

 

「予定よりは少し早いが…致し方ない。詠唱は覚えてるな? リアム」

 

「ちょっ…詠唱なん…て」

 

 リアムがまるで何のことか分からないと思った時リアムの頭の中に不思議と一つの言葉が思い浮かんだ。

 

 その様子を見てカルロは準備を進める。その一方でアリシアはルミアへと詠唱などを教えていた。

 

「──以上です。エルミアナ…突然の事で申し訳ないんですが…」

 

 アリシアは突然の事だったのでルミアを心配するがルミアは状況を受け入れていた。

 

「ううん、大丈夫だよ。お母さん。私はリアム君の為に生きるって決めてるから」

 

「そう…」

 

 親子の二人の元にゼーロスが二対の剣を持ってくる。

 

「陛下…準備が完了致しましたのでそろそろ…」

 

「分かったわ」

 

 アリシアはゼーロスから双剣を受け取る。リアムがルミアの隣に立つ。リアムがルミアへと小声で話しかける。

 

「ルミア…本当に大丈夫?」

 

「大丈夫だよ、リアム君。私、リアム君の力になれて嬉しいの」

 

「…良かった」

 

 リアムは深呼吸をしてルミアの方へと向く。ルミアもまたリアムの方へと向き直る。そしてリアムが誓いの宣言を開始する。

 

 

「ルミア=ティンジェル…これからずっと何年先も…俺は貴女を守る剣となる。今、ここに誓う」

 

 その言葉を受け、ルミアも誓いを宣言する。

 

「リアム=ロディウス…私は貴方を支え貴方を信じ貴方に尽くす。そう誓います。」

 

 二人の宣言を聞いたアリシアが二人の前に立つ。

 

「リアム=ロディウス。ルミア=ティンジェル。貴方達の誓いを女王アリシアの名にかけて認めます。リアム。今ここに、貴方にこれを授けます」

 

 アリシアは二対の剣をリアムへと渡す。それをリアムが受け取ると続けて詠唱を開始する。

 

「《誓う・我が力は汝の為に・我汝の剣となる》」

 

 その言葉を受けルミアも詠唱を開始する。

 

「《誓う・我は汝のために尽くし・我汝を愛する》」

 

 ルミアの詠唱が終わった途端、リアムの持つ魔法遺産が輝きを放つ。

 

 輝きは徐々に収まっていきやがて…

 

「契約完了だ」

 

 カルロのその言葉でリアムとルミアが息を付く。

 

「はぁ…疲れた…」

 

「わ、私も…」

 

 そこにセリカが話しかける。

 

「おーおー上手くいったみたいだな。良かった良かった。二人共お疲れ〜」

 

「……アルフォネア教授はホント何の為にいたんですか?」

 

 リアムが疑問を投げかける。それは最もな疑問だった。セリカは今回、何もしていない。

 

「ん? あぁ私は別件だよ。この後アリスと学院について話があってね」

 

「学院について…ですか?」

 

 ルミアが首を傾げる。

 

「まぁ…近いうちに分かるよ」

 

 その言葉にリアムとルミアは二人揃って首を傾げる。

 

「息ぴったりだねぇ…おふたりさん。流石カップル。青春だねえ…」

 

「「へっ?」」

 

 その言葉にリアムとルミアが驚く。

 

「か、カップル!?」

 

「え、え、え!?」

 

 リアムはただただ驚きルミアは顔を赤くしている。そんな二人の様子を意外そうにセリカは見る。

 

「なんだ? 付き合ってなかったのか? 婚約者なのに?」

 

「「!?」」

 

 セリカの言葉に二人はさらに驚き顔を赤くする。そこへアリシアとカルロがやってくる。

 

「エルミアナ? まだリアムと付き合ってなかったのですか?」

 

「リアム。男としてどうなんだ」

 

 それぞれの親が自分の子へと疑問を投げかける。

 

「お母さん! ほ、本当なの!?」

 

「本当も何も貴方達が決めたことですから」

 

 アリシアとカルロの話によれば二人が小さかった頃二人はそれぞれ親へとルミアとリアムと結婚すると言い親である二人はそれぞれ快諾したらしい。その後、二人によって正式に婚約となった。

 リアムがカルロへと問い詰める。

 

「なんで小さい子供の言うことで簡単に婚約決めるんだよ!? そんなのでいいのか!?」

 

「子供がそうしたいって言うならそうさせてやるさ。遊びとか習い事とは違うんですけど!?……る、ルミア!?」

 

 そんなリアムの手をルミアが突然握り部屋を飛び出す。

 

 その様子を見ていた面々は…

 

「あの子もなかなか大胆ね」

 

「陛下に…似ましたな」

 

「あら? 何のことでしょう?」

 

 

「……ふん」

 

「情けない息子だな…」

 

「ティンジェルのやつ。なかなかやるじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 二人は王宮の中庭に居た。ルミアは息があがってる。突然の事でリアムも驚いている。

 

「る、ルミア…? 何を…」

 

「ほんっとに鈍感なんだから! リアム君は!」

 

「!? ご、ごめん…なさい?」

 

 謝るリアムの様子にルミアは残念そうな顔をする。

 

「謝って欲しいんじゃなくて…リアム君は私の事どう思ってるの?」

 

「どうって…そりゃあルミアの事は好きだよ」

 

「その好きは友達として…でしょ?」

 

「……?」

 

 何のことか分からないという顔をするリアムにルミアがキスをする。

 

「……!?」

 

 リアムは突然のことに驚く。ルミアが顔を離す。

 

「私の気持ち…分かってくれた?」

 

「ルミア…本当に俺なんかでいいの?」

 

「いいに決まってるよ! 初めてリアム君に助けられた入学式のあの日から…私はずっとずっとリアム君の事が好きだったんだよ?」

 

 ルミアの告白はリアムをただただ驚かせた。

 

「……鈍感でごめん。ルミア」

 

「それがリアム君だもん。いいよ?」

 

 少しの間の後、リアムが真剣な顔でルミアの名前を呼ぶ。

 

「ルミア」

 

「はい」

 

「俺と付き合ってください」

 

 その言葉にルミアは満面の笑みを浮かべて

 

「喜んで」




凄い最終回みたいな内容ですけど続きます。
感想、評価など貰えると嬉しいです。

【お知らせ】
暫く『俺は貴女を守る剣となる』を休載し、イヴヒロインの『紅炎公と銀の剣聖』をしばらく中心として書いていきます。『紅炎公と銀の剣聖』も見て頂けると嬉しいです!休載と言ってもそれほど長いものではなく長くても一ヶ月くらいだと思います。早かったら2週間ほどで投稿再開すると思います。その辺はTwitterや活動報告にて連絡させて頂きます。これからもよろしくお願いします!


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第5章
謎の美女


 今、リアムは人生で一番の窮地に立たされていた。

 クラスメイトからの人間に向けるものとは思えない冷たい視線。

 特にルミアに至っては目から光が完全に消えている。

 ここはアルザーノ帝国魔術学院、二年次生二組の教室。

 そして、リアムは現在。巨乳の美女に抱きつかれている。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 遡ること数分前───

 

 

 先日、正式に付き合う事になったリアムとルミア。学院一の美男美女が付き合った。その噂は当然の如く、瞬く間に学院中を駆け巡った。

 今日も二人は一緒に登校してきており朝のホームルームを前に二人は仲良く話している。

 

「ねえ? リアム君。今日のお弁当、なんだと思う?」

 

 二人が付き合い出してから毎日欠かさずルミアはリアムの昼ご飯を作ってきている。

 料理の腕も上達しリアムもルミアが作る弁当を毎日楽しみにしている。

 

「卵焼きとか? 全然分かんねーや」

 

「ふふっ。お昼になってのお楽しみだよー!」

 

 クラス中が二人に釘付けである。

 

「くそう!! リア充め!!」

 

「やめとけカッシュ。哀れだ」

 

 やがてチャイムが鳴りグレンが息を切らしながら教室に入ってくる。

 

「はぁはぁ…間に合った……よし……ホームルーム……始める……ぞ」

 

 そんなグレンに対してシスティーナが文句を言うのは当然の事で

 

「始めるじゃないですよ!? 間に合ったからいいけど、何でそんなにギリギリ何ですか!? もっと余裕を持って───」

 

 そんな時だった。教室のドアが突然開く。

 クラス中が驚いてドアの方を見る。

 システィーナもグレンへの文句を言うのをやめ注目している。

 

 そこに立っていたのはアルザーノ帝国魔術学院の制服を着た美女だった。

 クラス中がざわつく。

 特に男子は突然の美女に狂喜乱舞だ。

 

「誰なんだ? この美女は!?」

 

「あんな美女、見たことないぞ!?」

 

「う、美しすぎる!!」

 

 女子達もそのあまりの美貌に興味津々だ。

 

「綺麗な人──!」

 

「足長いし肌も綺麗ー! どんなお手入れしているのかしら!」

 

「なんて綺麗なお髪! お話を聞きたいですわ!」

 

「先生ー? 転入生ですかー?」

 

 だが、驚いているのはグレンも同じで

 

「い、いや、転入生なんて聞いてないぞ? 誰だ? 教室間違っているんじゃないかっておい───」

 

 突然現れた美女はグレンの言葉を聞かず教室へと入ってくる。そして…

 

「やっっっっと会えた!!」

 

 美女はリアムへ向かって一直線に向かってくると突然リアムに抱きついた。

 

「「「は?」」」

 

 クラス中の考えがこの瞬間一致した。

 

「え?」

 

 リアムも同じく何がなんだが分からないという表情。

 隣のルミアはゴミを見る目でリアムの事を見据えている。

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 リアムside───

 

 いやいやいや!? 誰!? この人!?

 急に教室に入ってきたと思ったら抱きついてきたんですけど!?

 隣のルミアの目が最早人間に向けていいものじゃなくなってるんですけど!

 クラス中が浮気してると思ってるよ! これ!? 俺、この人まっっっったく知らないんですけど!? 軍の仕事の方であった人か? いや、全く記憶ない…

 てか、当たってるからわかるけどこの人凄い巨乳……ってこんな事考えてるのバレたらルミアに殺される!!

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「「「最低」」」

 

 クラスの生徒全員から向けられる冷たい視線。

 そしてリアムの隣のルミアがほんとに小さな声で呟く。

 

「死ねばいいのに」

 

 その声はリアムにだけ届きリアムは顔色を真っ青にしすぐさまその美女を離そうとするが全く離せない。

 

(力つよぉおおおお!?)

 

 そしてその美女が口を開く。

 

「やっと会えた! 本当に会いたかった!! リアム、心の底から愛してる!!」

 

「いや、ちょっ───」

 

「「「死ね」」」

 

 クラス中が確信した。

 こいつ、やったなと。

 クラス中から次々と男女それぞれから罵声が飛ぶ。

 

「ルミアちゃんがいるのに最低!!」

 

「リアム、お前。ルミアちゃんっていう彼女がいながらそれでも満足出来ないのか!?」

 

「このクソ野郎が! 表出ろやああああ!!」

 

 そしてリィエルでさえも

 

「リアム。最低」

 

 リアムはクラスメイト全員を敵に回していた。

 リアムが何とか弁明しようとするも聞いてくれるような状態では既に無い。リアムが恐る恐る隣を見ていると予想に反しルミアは笑顔だった。リアムは一瞬安堵しかけるが目の奥は全く笑っていない。その姿にリアムは震え助けを求めようとするがこの場で助けを求めれるようなリアムの味方は一人もいなかった。

 そこに再び教室のドアが突然開く。

 クラス中が驚いてドアの方を見る。

 

 入ってきたのは───

 

 大陸が誇る最強の魔術師。セリカ=アルフォネアだった。

 

「やっぱり! ここにいたのか!」

 

 

 

 

「……!? せ、セリカ!?」

 

 突然のセリカの登場に本日何度目かも分からない驚きがクラス中を支配する。セリカの訪問にグレンが声をあげる。

 そのままセリカは真っ直ぐリアムと美女の元へ向かう。

 リアムは助けを求める目を必死にセリカへと向けていた。

 その時、セリカが美女をリアムが無理矢理剥がす。

 

「あーん! リアム───!! セリカー! はーなーしーてー!」

 

 美女が再びリアムに突撃しようとするがセリカが既に捕まえておりリアムは救われた。

 クラス中が困惑する中、セリカが状況を説明する。

 

「あー。迷惑かけたな、グレン。そして生徒諸君。特にリアムにルミア。こいつはリネア=ロディウス。リアムの姉だ」

 

 驚愕の事実に生徒達は声も出ない。

 そんな中声を上げたのは問題の原因であるリネア、本人だった。

 

「えーと。リアムの姉のリネアです! みんなよろしくねー!!」

 

「「「……」」」

 

 教室を支配する沈黙。

 その沈黙を破ったのはその原因であるリネアだった。

 

「ん? な、なに…? この雰囲気?」

 

 やがて生徒達は我に返り

 

「「「はぁあああああああああ???」」」





短いけど許してくだされ…
実は3章くらいからこの話書けてました←
この後の話とかもぼちぼち決まってきたので投稿再開?します!


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転入生リネア=ロディウス

お久しぶりです!そしてすみません!!
投稿が大幅に遅れていました…
活動報告に今月中に投稿するといいながらもう11月の3日…
活動報告にあげてから一月は経ってないからセーフ…はいすみません。


 その場にいるセリカとリネア以外の全員が驚きの声をあげる。

 

「あ、姉!? リアムにこんな美人のお姉さんが居たのか…」

 

「イケメンで成績優秀、可愛い彼女に美人の姉なんて……神はリアムにどれだけ与えたら気が済むんだ!!」

 

「許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん」

 

 男性陣からリアムへと数々の言葉が飛んでいく。だが驚いているのはリアムも同じのようでリアムはキョトンとしている。

 

「リアム? 何驚いてるんだ…?」

 

「い、いやあ…俺も姉がいるなんて知らなかったから…」

 

「「「え??」」」

 

 その言葉に再び、皆が驚きの声を上げた。

 

「うわあああああああん!! リアムが私の事忘れちゃったあああああ!!」

 

 リネアはリアムの言葉を聞き泣き叫ぶ。

 

「落ち着けリネア。無理もない」

 

 泣き叫ぶリネアをセリカが宥める。システィーナはセリカへと問いかける。

 

「アルフォネア教授。一体どういうことなんですか…?」

 

 当事者のリアムを含めた全員がセリカへと注目する。セリカは返答に困っているように頭をかきながら答える。

 

「んー。かなり複雑な事情だからなあ…簡単に言うと幼い頃に生き別れた姉弟だからリアムが覚えていても仕方が無いってことだな」

 

 セリカが事情を端的に説明する。セリカが説明した直後にチャイムが鳴る。

 

「おっともうこんな時間か。おいリネア行くぞ。初日から遅刻とか笑えんからな。既にホームルームは遅刻だが」

 

「えー私リアムと一緒に居たいー!」

 

「無茶を言うな。またすぐ会えるから」

 

「……分かった」

 

 リネアは頬を膨らまし残念そうに答える。

 

(((か、可愛い…)))

 

「リアムは放課後、私の研究室に来てくれ」

 

「分かりました」

 

 セリカはそれだけ伝えると教室を後にする。リネアもそれについて行くが途中、ルミアの横を通る時に立ち止まる。

 

「??」

 

 ルミアは頭上にはてなマークを浮かべている。

 

「あなたがリアムの彼女さんのルミアちゃんね?」

 

「あっ…はい。リアム君とお付き合いさせていただいてます」

 

「うん! 可愛くて丁寧な子で良かった! じゃリアムのことよろしくね!」

 

「…はい!」

 

 リネアもセリカに続いて教室を後にした。

 

「「「………」」」

 

 教室には沈黙の時が流れる。やがて

 

「おい、リアム! あの美人なお姉さんはどういうことなんだ!!」

 

「説明しろ!!」

 

「羨ましいぞ! コノヤロウ!!」

 

 リアムへの質問攻めが始まるのであった。それは一限目のチャイムが鳴っても続いていた。

 

「おーい魔術学の授業始めるぞー」

 

 グレンの言葉には当然、誰も反応しない。

 

「はぁ…自習にするか…」

 

 グレンが呟くとシスティーナがグレンに説教する。

 

「何言ってるんですか!! ちゃんと授業してください!!」

 

「あぁー!! もうめんどくせぇぇぇえええ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 四年次生三組の教室にて───

 

「というわけで! ご紹介にあずかりました。リネア=ロディウスです! 皆さんよろしくお願いします!」

 

 リネアが転入したクラスの皆に挨拶をしていた。リネアの挨拶に教室からは拍手があがる。

 

「じゃあロディウスはティティスの横の席に座ってくれ」

 

「分かりました」

 

 リネアは担任が指さした空いている席へと座った。

 

「それでは授業を開始する。次からは遅刻するなよ?」

 

「あはは。ごめんなさーい」

 

 教室からは笑い声が上がる。そんな中リネアの隣の席に座る眼鏡の女子生徒が話しかけた。

 

「リネアちゃんって呼んでいいかな?」

 

「ん?いいよ! あなたは…ティティスさん?」

 

「うん。私はメア=ティティス。メアって呼んで!」

 

「私の事もリネアでいいよー」

 

「じゃあそうさせてもらおうかな? リネアって二年のリアム君のお姉さんなんだよね?」

 

「そうだよ?」

 

「私の妹がリアム君と同じクラスなんだー! 」

 

「そうなの!? すっごい偶然!」

 

「それで私の妹はあまり魔術が得意じゃないんだけど…リアムくんに教えて貰って上手くなったって喜んでたよ!」

 

「さすが私の弟ね! 他には───」

 

 リネアの声を遮るように担任の声がした。

 

「おい、そこ! ロディウスにティティス! この問題の答え言ってみろ」

 

 既に授業は始まっており黒板には文字列が並んでいる。担任に当てられた問題は四年次生の授業ともあって突然当てられて答えられるようなものでは無い問題だった。

 

「あーメルテリア遺跡を発見したのはロバート・アランディオですね。発見したのは今から78年前」

 

「せ、正解だ…」

 

 誰もが答えられないと思っていた問題を軽々とリネアは答えてみせた。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 昼休憩でリネアはメアの他何人かの女子生徒と共に食事をした後、メアに軽く学院の施設を紹介してもらっていた。

 

「とりあえず大まかな施設はこんなものかな? 」

 

「ありがとう!」

 

「そろそろ教室に戻ろっか」

 

「そうだね」

 

 二人は教室の前まで戻ってくる。時間が早いこともありまだほとんどの生徒は戻っていないようで中からは男子生徒何人かの声が聞こえてきた。リネアがドアを開けようとすると

 

「なーあの女、調子乗ってね?」

 

「あの転入生か?」

 

「そうそう。初日から遅刻とか舐めた真似してよ。自分は可愛いからなんでも許されるって感じでよ」

 

「わかるわー。それにしても美人だよなー。胸もでけぇしな」

 

「俺の女にならねーかなー」

 

「なる訳ねーだろ! アッハッハッハッハッ!」

 

 メアは心配した様子でリネアの事を見るがリネアは気にしない様子でドアを開けようとするが次の言葉に手が止まる。

 

「アイツあれだろ? 二年のリアムの姉だろ?」

 

「──!」

 

「あーあの調子乗ってる二年のクソガキか」

 

「魔術競技祭の時とかも俺TUEEEEって感じで調子乗ってたな」

 

「雑魚のくせにイキっててほんと目障りだわー」

 

 バァァン!!

 

 勢いよく教室のドアが開かれ男子生徒達が驚く。

 

「て、てめぇ!」

 

「アンタ達…私の事は何言ってもいいけど弟の事を悪くいうのは許さない」

 

「許さないってよ! ハハッ! ブラコンかよ!」

 

 男子生徒達は笑い声をあげる。そしてリーダー格の男がリネアへと話しかける。

 

「それで? どうすんの?」

 

 その時、リネアの手袋が男の顔にぶつけられる。

 

「他に言葉が必要?」

 

「こ、こいつ!」

 

「お前、この人がどれだけ強いのか分かってんのか!? 学院ナンバーツーの実力のギークさんだぞ!?」

 

「後悔しな──」

 

 取り巻きの言葉をギークは手で制すと手袋を拾った。

 

「いいぜ。受けてやるよ、その勝負」

 

 




書き方とかも忘れてて焦りました。
これから更新頑張ろうと思いますので皆様よろしくお願いします!
また、お気に入りや感想頂けると泣いて喜びます。
この回も含めて加筆修正もしたいなあ…


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姉と弟

 競技場の中心にギークとリネアが向かい合うように達その周りを生徒達が取り囲んでいた。学院ナンバー2の実力のギークと美人転入生リネアの二人の決闘の噂はあっという間に学院中に知れ渡り多くの生徒達が一目見ようと競技場に集まっていた。その数はざっと数百人にわたりあちこちで生徒が勝負の予想を言い合い競技場は熱気に包まれていた。

 

「すごい人ね」

 

 リネアもあまりの人の数に驚いていた。もう授業が始まる時間なのだが生徒達が教室に向かう様子はなくこの場にいる生徒はこの勝負を見届けるつもりらしい。

 

「リネア…ギーク君は強いからやっぱりやめた方が…」

 

 心配そうなメアがリネアに声をかける。ギークの実力を知っているだけあってリネアの事が心配でならないようだ。

 

「心配しなくても大丈夫!」

 

 リネアはリラックスした様子でメアに答える。

 

「でも…負けたら何されるか…」

 

 それでも表情が冴えないメアに対しリネアはメアの目を真っ直ぐに見据え自信を持って答えた。

 

「大丈夫。絶対に負けないから」

 

「……うん! 頑張ってね」

 

 その言葉に安心したメアは最後に一言だけ残してその場から離れた。

 ギークがメアに決闘の開始を促す。

 

「そろそろ始めよーや? 転入生」

 

「いいわ。いつでもどうぞ?」

 

 リネアは挑発するように答える。

 

「それじゃあ…遠慮なく──《行かせてもらおうか》!!」

 

 ギークは即興改変した【ファイア・バースト】を広範囲に向かって放つ。火炎弾はリネアへと一直線に向かい爆発する。

 

「え、えげつねぇ…ギークのやつ女子相手に…」

 

「流石はナンバーツーの実力…あれだけ高速で広範囲の攻撃をたった一節で…」

 

「大丈夫かよ…あの女子生徒…」

 

 どよめく生徒達は競技場の中心部に注目するが煙が立ちこめ何も見えない。そんな中リネアの声が競技場に響き渡った。

 

「所詮は二番手…この程度って事ね」

 

 そこには無傷のリネアが立っていた。

 

「何だと…! この──!?」

 

 続けて攻撃しようとしたその瞬間にギークの視界からリネアが消える。

 

「どこ見てるの? ここよ」

 

 とんっ

 

 ギークの後頭部にリネアが指を突き付けていた。一瞬の出来事のその場にいる全員が静まり返る。

 

「「「うわぁあああああ!!!」」」

 

「あのギークをこんな圧倒して…!」

 

 そしてしばらくして歓声が上がった。

 

「それで、どう? 降参でいいの?」

 

 ギークに指を突きつけたリネアがギークに問いかける。

 

「……こ、降参だ。俺の負けだ」

 

 ギークは両手を挙げて負けを認めた。

 

「ま、弟を侮辱したからこのまま終わりとはいかないけどね!」

 

 リネアはとびきりの笑顔で答えた。その笑顔にその場に居た全員の背筋が凍った。

 

「なっ…! ちょっ待っ「《雷精よ》」」

 

 こうしてリネアとギークの決闘はリネアの圧勝で幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 放課後、セリカの研究室にて───

 

「ふぅ…こんなものか」

 

 セリカは研究室で作業をしていた。その時ドアをノックする音が聞こえた。

 

「ん? 入っていいぞ」

 

「失礼しまーす」

 

 セリカの研究室を訪れたのはリアムだった。

 

「あーもうこんな時間か」

 

 セリカはリアムが研究室に来たことで今が放課後だということを知る。

 

「姉…のことについて…ですよね?」

 

「あぁ…そうだ。何か思い出したか?」

 

 セリカは座っている椅子をくるりと回してリアムの方へと向き直る。

 

「授業中とかも考えてたんですけど、正直あまり…」

 

「だろうな。そうだと思ったよ。まず初めに言っておくとリネアは正真正銘のお前の姉だ」

 

 セリカはリアムへの説明を始めた。

 

「まずお前がリネアの事を覚えてない理由。それは二つある。一つ目はシャルロットの『メモリーシール』の力の影響だ」

 

『メモリーシール』はリアムの母、シャルロットにのみ扱える魔法遺産で他人や自身の記憶を封印することが出来る。

 

「母さんの…?」

 

「『メモリーシール』によってお前の記憶は封印されていただろ? それの影響が一つ。もう一つがお前とシャルロットは離れて暮らしていたことだ」

 

「離れて…? じゃあ姉さんはどこで…?」

 

「それはお前もよく知ってる奴のとこさ。特務分室の一人、ユーナ=ヘイヴン。あいつの元にお前の両親はリネアを預けてた。一族が狙われることを危惧してな」

 

「ユーナさんのとこに居たのか…」

 

「つまりお前とリネアが一緒に暮らしていた時期はとても短くその当時の事はお前はほとんど覚えておらず、記憶の封印を行ったことで完全に忘れてたってわけだ」

 

「そういうことか…」

 

「一方のリネアは両親とはよく会っていたがお前とは全く会ってなかっただろう? その結果ブラコンを拗らせた。それで今日のあれだ」

 

 リアムは今朝の出会い頭抱きついてきたリネアが確かにリネアはやっと会えたと言っていた事を思い出していた。

 

「な、なるほど…」

 

「まぁこれからはやっと一緒になれたんだ。姉弟仲良くしてくれ」

 

「分かった。ありがとうセリカさん」

 

「そう言えばお前にプレゼントを用意してるから楽しみにしてろ」

 

「それは楽しみにしときます」

 

 こうしてリアムはセリカの研究室を後にし帰宅した。

 

 

 

 

 

 のだが…

 

 

「…………は?」

 

「ふぅーいいお湯だったあ。あ、おかえりリアム!」

 

 家の扉を開けると裸にバスタオル一枚のリネアが風呂場から出てくるところであった。

 

「なんじゃこりゃああああぁぁぁぁ!!!」

 

 リネアがリアムの元へと歩いてくる。

 

「何驚いてるの? セリカさんに聞いてない? 私達一緒に暮らすのよ」

 

「聞いてな──あ、あれか」

 

 リアムの頭にセリカのプレゼントの言葉が過ぎる。

 

「ってわかるかあぁぁぁぁ!!」

 

 リアムのセリカへの激しいツッコミが決まる。セリカはここにはいないが。

 

「というか服を着ろ! 服を!!」

 

「別にいいじゃない、姉弟なんだから。それに昔は一緒にお風呂入ってたじゃない? 別に今一緒に入っても──」

 

「お断りします! というか昔の事は覚えてないって!!」

 

「とにかくこれからよろしくね! リアム!」

 

「はぁ…まあ、よろしく姉さん」

 

 こうして姉弟の新たな生活が始まった。




今回は短めですけどキリがいいので…
次回から本格的に五章始まります!

『紅炎公と銀の剣聖』も更新しましたので
良かったらお願いします!

あと近々新作を書こうか検討中です。
ヒロインはシスティ予定。
詳しくは活動報告にて。


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お知らせ
設定と今後について


 俺は貴方を守る剣となるを見てくれてる皆様、お久しぶりです。

 前回投稿から約1年も経過してしまいました。

 申し訳ございません。

 

 この度、投稿を再開しようと思い1話から読み返したところ

 設定等から大きく変えたいなと思う部分が多々あり、

 リメイク版を投稿していくことにしました。

 

 既に「俺は貴方を守る剣となるre」として投稿しておりますので今後はそちらをよろしくお願い致します。題名は仮題のため、題名が決まり次第変更します。

 リメイク版投稿ですが、しばらくは週一投稿を目指して行こうと思っております。

 

 また、新作としてバンドリで二次創作小説を投稿しています。

 これからはメイン投稿はバンドリとなります。

 タイトルは「隣同士の二人の距離」です。

 興味ある方はそちらの方も覗いていただけたら嬉しいです。

 

 メインはバンドリの方なのですがロクアカのリメイク版の方も投稿しています。またロクアカのもう一作「紅炎公と銀の剣聖」も加筆修正の後、投稿を再開しようと考えております。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 リメイク版投稿にあたって、オリジナルキャラ三人の設定と展開のネタバレは含まないリメイク版での変更点についてお知らせします。設定読むの面倒だという方は飛ばしていただいて全然大丈夫です! 主な変更点は後にも書きます。

 

 主人公《リアム=ロディウス》

 藍色がかった黒の短髪

 帝国宮廷魔導士団特務分室所属、執行官ナンバー18《月》

 アルベルトの義弟。天性の魔術センスを誇り、兄のアルベルトに匹敵する狙撃センスを持つ。魔術学院に女王アリシア直々に命を受け、ルミアの護衛任務を任される。

 

 魔法遺産『炎雷の剣』(アグニ・トール)を使用する。

 それぞれの剣が消えない炎と止まない雷の力を宿した双剣。

 この炎と雷は近代魔術(モダン)ではなく古代魔術(エインシャント)の為消失(バニッシュ)する事は不可能。

 

 

 

 リアムは変更点としてアルベルトの義弟設定が無くなります。

 また、魔法遺産関係の設定は全て無くなります。

 

 

 

《カルロ=ロディウス》

 天の知恵研究会第一団《門》に所属する。

《魔剣》のエリヤと名乗っていたが偽名。

 リアムの実の父。

 天の知恵研究会に潜入していたスパイ。

 その正体は帝国軍が誇る最強の剣士であり、女王陛下直々の命により天の知恵研究に潜入していた。

 イルシアの剣の師匠にあたる。

 魔法遺産を扱うことが出来る一族。

 一族は既に彼と息子であるリアムともう一人以外は殺された。

 

 魔法遺産『消失の剣』(バニシュ・ヴード)を使用する。

 あらゆる魔力を打ち消す剣。

 この剣で四肢を斬り落とされた場合二度と戻らない。これにより不死身に近い能力を持つエレノアの右腕を斬り落とした。

 

 フレイザー家とは昔から付き合いがありリアムがアルベルトによって拾われたのはカルロからアルベルトの父にリアムの事を頼まれていた為。

 

 

 

 フレイザー家との親交ありの設定はなくなります。

 リアム同様に魔法遺産関係の設定もなくなります。

 

 

 

《シャルロット=ロディウス》

 リアムの母であり、カルロの妻。カルロと同じく魔法遺産を扱える一族の娘でカルロとは幼馴染み。アリシアとはアルザーノ帝国魔術学院で出会い親友。アルザーノ帝国魔術学院主席卒業者であり魔術の腕前はなかなかのもの。三重唱も使用可能。ただしセリカとは違い三節詠唱で一つのB級軍用魔術しか使用出来ない。C級だと一節でも可能。セリカとも親友の中。大陸最高峰の魔術師の一人と言われ、位階は第六階梯。セリカを除けばアルザーノ帝国最強の女魔術師。考古学者でもありシスティーナはシャルロットの大ファン。

 

 魔法遺産『メモリーシール』の使い手。対象の一定期間の記憶を完全に封印することが出来る。特定の条件を達成することでその封印が解かれるようにする事も可能。その場合術者が死亡した場合も条件が達成されない限り記憶の封印が戻ることは無い。

 

『メモリーシール』によってシャルロットはリアムの両親、姉、一族の事全ての記憶を封印した。その記憶の解放条件は「父親として現れたカルロに会う事」

 

 天の知恵研究第二団《地位》を複数人同時に相手にし全員を討ち取るも第三団《天位》の男の前に敗北、死亡した。

 

 

 シャルロットに関しても魔法遺産関係の設定を削除。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 魔法遺産関係の設定は全て無くなります。

 リアムとアルベルトの兄弟設定も無くなります。

 リネアは登場してすぐなので設定は乗せていません。

 そもそも変更点は今のところ無いので……

 

「俺は貴方を守る剣となる」は、大きくリメイクして再出発となりますがこれからもこの作品をよろしくお願いします。




私の他の作品
バンドリ
「隣同士の二人の距離」

ロクでなし魔術講師と禁忌教典
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