魔法科高校にて境界を視ゆ (オガワハイム)
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入学式:1
「ふざけるな、なんでこんな面倒なことをした」
「なんて吠えようとも聞く耳持たないわ」
桜が舞い散り、太陽が燦々と大地を照らす、今日の空は入学式にうってつけな最高な天候だ。
校門に立てかけられた『国立魔法大学第一高校入学式』と書かれた看板、入学式が始まるのを心待ちにし校庭にまばらに散らばる新入生たちを生徒会室の窓から見下ろしながら、現生徒会長の
「だって四季君私が何もしなきゃ高校進学しないつもりだったでしょ?せっかく実力があるんだから伸ばさないと」
「だからと言って別に
「どうせなら、近くに置いておきたいじゃない」
「チッ、この性悪女が」
「あらあら、そんなこと言って良いのかしら?」
「……」
まだシワの付いていない
「それに、ここで学んでいるうちに、貴方のその
「それもそうだが……」
事故によって死にかけの状態から目覚めた時、四季の瞳にはある変化が生じていた。新しい眼を手に入れたのだ。『直死の魔眼』と呼ぶことにしたそれから見る全ての風景は、死の概念、“死の線”で満ち溢れた終末の世界であった。
そんなものに普通の人の精神構造で耐えることは到底できない。しかし、この両儀四季という男にはそれが当てはまることはなかった。
時たま殺人衝動に駆られることがあるが、己の理性で食い止めることができたのだ。よって、せいぜいどうしようもないほどの頭痛に悩まされる程度だった。
つまるところ四季の力では直死の魔眼を制御することはできなかったのだ。そこで四季は、真由美に貸し一つという条件のもと、霊視子放射光に始まり霊子放射光過敏症、さまざまな特殊な眼についての研究をしている 七草家お抱えの研究所を紹介してもらい、特注の眼鏡を作成してもらい、今に至る。
どうせなら、自分自身でその眼について知って置いて損はないでしょ?と真由美は言った。
「………………はぁ、まいった。大人しくするよ」
「よろしい」
ニコリと笑いながらこちらを見る真由美。
「そういえば、どうやって俺を入学させた?そもそもテストだって受けてないぞ?」
「ふふふ、秘密」
「なんだそりゃ」と言葉を続けようといたところで真由美に遮られた。
「というのは嘘で、私が直接職員室に乗り込んで説得してきたわ。この七草真由美が認める立派な魔法師ですって。あとはそうねぇ、受験日当日は体調不良のため出れないってことにして後日テストを受けられるようにしたわ。ちなみに後日っていうのは今日よ」
この悪魔め
胸の中で毒ずく。まあ、驕りでも慢心でもなく、四季には学校の試験程度簡単に乗り越えることができるという自負がある。しかし、ゴリ押しもここまでくれば権力の私的利用にも思えなくもない。職権乱用だ。
「きっと貴方ならすぐに終わらせられるわ」
そういうと、真由美は机の上に置いてあったブレスレット形薄型汎用型
「これから入学式の打ち合わせがあるので先に行くわね。必ず出席すること、それじゃあね」
そういうと行ってしまった。
誰もいない生徒会室に一人置いてきぼりにされた四季は大きなため息をついた。
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入学式:2
「なにあの子、
「こんなに朝早くからもよろしく…………無駄なのにね」
(阿保らしい)
コソコソと小さな声で、然し乍らわざと聞こえるように意識しているような声で話す女子生徒二人。
実力主義であるこの学校では一科・ニ科制度が採用されている。ニ科生とは、例えば事故などで魔法が使えなくなってしまった一科生の穴埋め要員、つまるところの予備だ。大きな差としてあげられるのは教師による魔法実技の指導があるか否かだろうか。施設等の使用などについてはなんら差はないが、ニ科生はその実技指導を受けることができない。
一科生こそが真のエリート。そう信じてやまないものたちがこの学校にどれほどいるのだろうか。
一科生かニ科生かでいうのであれば、四季はエリートである一科生である。しかし、だからといって誰かを蔑んだり侮辱しようとも思わないし見下すつもりもない。自分よりも優れている人は意外と身近にいる。例えそれが格下のグループであったとしてもだ。四季はそれを嫌という程理解している。
自分の実力を信じ切って慢心したものほどニ科生のことを見下すのだ。その姿がどれほど不毛であるか。
そしてニ科生は自分はダメだと思い込み何もかもを諦める。
本当に阿保らしい。
悔しいなら悔しいなりに見返してやろうとは思わないのだろうか。
そんなニ科の蔑称が
そんな二人の視線の先には珍しいことに、ニ科生にして堂々と道の真ん中を歩く青年がいた。
切れ長で理知的な瞳、高身長にしまった体つきの青年だ。
こいつなんかやってんな
それが四季の司波達也に対する第一印象であった。
重心の移動、足の運び方。それらを観察し察するに武術系統のなにかしらを嗜んでいるのだろう。それも相当の練度で。
特別に受けさせられる一人入試テストは放課後だし、入学式までの時間は特に用事もない。
脳内で展開したスケジュールを確認するや否や
(ついてってみるか)
件の二科生の後をつけることにした。二科生なのにこんな時間にいるのか。
失礼な内容かもしれないが、四季は気に留めることもなかった。恐らく、あいつはこちら側の人間だ。表の世界より裏が似合う人間だ。そういった直感が働いていたからだ。先ほど思いついた質問もわりかしどうでもよく、なにを考えて生きているのかが単純に気になっただけだった。
相変わらず体にブレを作ることなく歩き続ける少年を四季は隠れるそぶりも見せずについて行った。
「なにあの子、
「こんなに朝早くからもよろしく…………無駄なのにね」
(阿保らしい)
妹を見送り、入学式まで時間があるものだからどこか座ってゆっくりしようかとベンチを探していたところで耳に入った言葉。
司波達也は無意識のうちにため息をついた。
実に馬鹿馬鹿しい。優越感に浸っているだけの女子生徒に対しては憐れみすら覚える。
今の言葉が
そんなことを考えている時、達也は自分のことをつけるものがいることを察知した。
(曲がってみる………………ついてきているな。足音も小さい。こいつ……)
フェイントをかけて見たりするが、どうやら自分の後をつけているのは本当のようだ。
考えても仕方がない。周りの目もあるこんな場所で行動を起こすとはとても考えられない。
そんなことを考えながら達也はベンチに腰を下ろし、スクリーン型の携帯端末を懐から取り出し、起動させ、ライブラリを開く。ダウンロードされている全て既に頭の中に入っているため、ただただ時間を潰すためだけに適当にファイルを開く。
「隣に、座るぞ」
最初の一行目を焼き読み終えたあたりのタイミングで先ほど後をつけてきたやつだろうか、誰かが自分の座る場所の隣に返事も待たずに座った。
横目で隣の人物を観察する。
黒髪の短髪に眼鏡をかけた少年。その制服には花弁のエンブレム。
「勝手につけたりして悪かったな。俺は両儀四季。お前は?」
「司波達也。見ての通り二科生だ」
司波達也、そう繰り返す四季。
「どうして俺のことなんかをつけた?」
たかがニ科生だぞ?といあ意味合いを込めて聞いてみる。
「なに、単純に気になったことがあったから聞きにきただけだ。俺は一科・二科制度なんて別に気にしてないしな」
「そうか」
拍子抜けだった。別段気に障ったとかそういったこともなに一つないんだが、先程色々言われた反動か、目の前の少年の言葉がやけに強く達也の中に残った。
「早速聞こう。お前、
「どういうことだ?」
目の前の少年、両儀四季から放たれた言葉は達也の考えていたものと全く違った。
そして四季の眼が達也を覗き込んでいるのに、無意識に鳥肌を立ててしまっていたことに達也は気付くことはなかった。
こんな感じで、少なめですけどなるべく毎日更新できるようにしたいです。
よろしくおねがいします。
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入学式:3
「早速聞こう。お前、
「どういうことだ?」
隣に座る両儀四季という男からされた質問。
その眼を見て達也も漸く気がつく。
ただならぬ覇気、うっすらと纏う血の気配。
こちら側の人間か
達也はそう結論付けるとどう応えたものかと考えた。
四葉家直系の司波深夜の息子。司波達也、本名が四葉達也であることなど当然言えるはずもない。
ならばどうしてあんなことを……。
なぜかそこまで知られているのではないか?そう思わせてしまうほどに四季と名乗った男の瞳は不思議な光を放っていた。
とにかく、達也は様々な事情を抱えている。四葉の情報操作を信じて達也はいたって普通な劣等生になる。
「ただの学生だよ。君と違って二科生だしな」
「君なんていうようなやつじゃないだろお前。四季でいいよ」
「そうか、ならそれで」
こいつは要注意人物かもな。そんなことを考えながら達也は両儀四季の名前を心の中で反芻した。
沈黙
隣に座る男が
「武道、なんかやってるだろ」
そう言ってこちらを見てきた。
「武道、なんかやってるだろ」
数秒、いや数分だったか。沈黙を破って声をかけたのは四季の方だった。
元々聞こうと思ってたことに対しての回答は得られなかったがそれはそれだ。そもそも、俺側の人間であるのであれば、そんな情報をおいそれと話すことなんて絶対にしないはずだ。
それについて答えたくないというのであれば別にそれでいい。
今はまた別の話だ。
「どうしてそう思った?」
この男はこの期に及んでとぼけるつもりなのだろうか。
「足運び、重心その他諸々を見ればわかる話だ。惚けるのもいい加減にしろ」
そういうと、観念したようにため息をつく。
「あぁ、一応。九重八雲から教えを受けている」
「へぇ、あの忍びのねぇ」
九重八雲。対人戦闘のプロフェッショナル。現代社会に潜む『忍び』、忍術を昔ながらのノウハウで現代に伝える古式魔法の伝承者だ。この界隈で彼の名を知らない奴は相当のモグリだろう。
(この男なら、俺を満足させてくれるだろうか)
四季は心の中でひとりごちる。
直死の魔眼を手に入れてからというもの、四季は殺人衝動にかられるようになった。真由美や世話になっている人たちの前では理性という名の枷で押さえつけているものの、堪え切れなくなった殺人衝動の場を
四季は体術など、魔法を除いた戦闘技術で自分を超えるものを見たことがない。もし、目の前の男、司波達也が自分より強く、殺人衝動を戦闘行為で誤魔化せるようになるのであれば。それは願ったり叶ったりなのだ。
「もし予定が合ったら手合わせでもしてくれないか?」
「手合わせ?まぁいいが」
「ならよかった。あぁ、連絡先教えておく。出来れば今日中にこのアドレスに連絡くれ」
懐から手帳を取り出すとペンを走らせ、連絡先のアドレスが書かれたページを千切ると達也に押し付けた。
(何となく嫌な予感もするし、この辺で退散とするか)
直感がそう告げていた。
「それじゃ、手合わせの件。よろしく頼む。お前との関係はこの先長くなりそうな気がするな。三年間、同じ屋根の下頑張ろうぜ」
そう言って席を立つ。一応言っといてやるか。
「逃げるなら今のうちだぞ」
そう言い残して四季はその場を後にした。
一体どういう意味だったのだろうか。
達也は先程去っていった四季の残した言葉の意味がわからなかった。逃げるのなら今のうち。何から逃げるというのだろうか。
そんなことを考えている時、目の前に一人の女子生徒が立っていた。
見上げる形でその女性を見る。
この顔、どこかで……
「新入生の方ですね? もうすぐ入学式の時間ですので講堂に向かった方がいいですよ」
今頃達也はあの性悪女に捕まっていることだろう。
まぁ、精々頑張ってくれと四季は心の中でエールを送った。
毎日詐欺をしました。
すみませんでした。
お気に入り登録ありがとうございます。
なんか今回はめちゃくちゃなきが……
慣れない書き方に挑戦したものです、とても読みづらかもです。
すみません。
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