機動戦士オートマタ (一種の信者)
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1話


NieR:Automataは動画を見てハマりました。
小説も買っちゃいました。

ただ、お金も置き場も無いのでソフトとPS4は残念ながら買えず。
その悔しさをバネに小説を書こう。
どうせ書くならクロス物でやろう。
ガンダムにしよう。
という謎の理論で書いてます。


やったね、9S。
とても濃い男達に会えるよ。


 

草木も碌に咲かない砂漠地帯。

その、砂漠地帯で二人の男女が走り抜ける。

スピードが落ちない事や汗も掻いてない事から彼らが人間でない事がわかる。

 

 

 

アンドロイド。

地球を侵略するエイリアン軍の先兵、「機械生命体」と戦う為に造られた自動歩兵人形。

彼等はその中でも最新型の「ヨルハ機体」と呼ばれるアンドロイド部隊である。

 

 

 

もう少しで砂漠の出口に付くかと思われたが通信が入り二人が走るのを止める。

女性の傍らを飛んでいた箱……ヨルハ機体の随行支援ユニット「ポッド」から映像が出る。

 

 

『2B!9S!緊急事態だ!』

 

 

「緊急ですか?」

「まさか、あの正体不明の機械生命体の情報が!?」

 

 

白い服の女性の言葉に2Bと呼ばれた女性と9Sと呼ばれた少年が答える。

しかし、その言葉に白い服の女性…彼らの指揮官が首を横に振るう。

 

 

『其方については、まだ調査中だ。

緊急事態と言うのは、月の裏側に謎の建造物が現れたんだ』

 

 

「建造物?まさかエイリアン軍の援軍!?」

「そんな!今更敵の援軍ですか!?」

 

 

2Bの言葉に9Sも驚く。

エイリアン軍や機械生命体との戦闘に入り優に5千年は過ぎている。

そして、建造物が現れた場所も彼等には不味かった。

 

 

「月の…月の人類は大丈夫なんですか!?」

 

 

エイリアン軍の猛攻により人類は月へと逃れた。

現在の月には「数十万の人間」が地球へ帰るのを夢見ている。

アンドロイドの常識であり戦う理由だった。

もし、月に居る人間が皆殺しされたら戦意が上がるだろうが長く持つはずがなく、人質にされれば武器を捨てざるをえなくなる。

 

 

『…月面人類会議はまだ無事だ。現在、防衛部隊を編成している。

だが、地球の方に正体不明の艦から何かが投下された。調べたところお前達の居る砂漠地帯に落ちることが分かった』

 

 

「落下物……敵の新兵器?」

「つまり、僕達に落下物の調査をしろと」

 

 

9Sの言葉に指令は首を縦に振るう。

 

 

『そうだ、お前達には落下物の破壊。或いは奪取をしてほしい。地上の機械生命体の手に渡すのは何としても避けろ』

 

 

そう言い終えると指令は左手を胸に当て『人類に栄光あれ!』と言う。

 

 

「「人類に栄光あれ!」」

 

 

二人も同時にやって通信が切れる。

 

 

「ポッド、バンカーからの情報マップにマーク!」

 

 

『了解:マップにマーク』

 

 

2B達がマップを見ると砂漠の奥近くに赤いサークルがマークされている。

 

 

 

「砂漠の奥の方だけど、あの『マンモス団地』よりかは近いよ2B」

「じゃあ、急ごう」

 

 

9Sの言葉に2Bが頷くと二人は今迄、来た道を逆戻りする。

途中の邪魔する機械生命体を破壊しマークされた場所へと急ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。

マップにマークされた場所に巨大な緑色の物体が降り立つ。

それが3~4回続いて暫くの沈黙が訪れるとその内の一つがハッチを開き中から何人かの人間が出て砂漠に出る。

 

 

 

「此処が地球か…」

「…あっちぃ、おまけに埃っぽいことで。もうコロニーに帰りたくなっちまったぜ」

「ボヤくなよジェイク。第一暑いのはノーマルスーツ着たままだからだろ。この横着もんが」

「何だと、ガースキー。言わせておけば…」

「其処までにしておけ二人とも。さっさと調査して上に報告するんだ」

「調査と言われても何を調査すりゃいいんだか?」

「地球に居る以上は地球連邦の有無だろうが……こう砂ばかりだとな…」

「…上も無茶言ってくれるぜ。他のコロニー郡が消えたからって俺らの部隊に地球を直接調査させるなんてな」

「俺等は『外人部隊』だからな。最悪居なくなっても構わねえって思われてんだろ」

 

 

その言葉に3人がため息を零す。

そんな中、横から少女の「わーい、わーい」と言う言葉に振り向くと、白い軍服を着た少女が砂の上でジャンプしていた。

 

 

「…メイ、まだこの辺りの調査も終わってないんだ。直ぐに『HLV』に戻りなさい」

 

「だって、隊長さん。ここ地球だよ!地球なんだよ!」

 

 

隊長と呼ばれた男の言葉に少女は地球の重力に、はしゃぐだけである。

これが普通の子供ならもう少し自由に遊ばせてもいいかと思うが、此処は敵地か如何かすら分からない未知の土地。

そして、彼女はエンジニアであり自分達の兵器の整備士。

重要度が違う。

 

 

 

如何説得したものかと悩んでいるとガースキーが肩を叩く。

何か案があるのかと一瞬期待したが砂漠に指をさしている事に気づく。

 

 

「隊長、あんな所にドラム缶なんてありましたっけ?」

 

 

見ると確かにドラム缶らしき物がある。

ドラム缶の上には玉のような物が載せられ心なしか見られてる気分がして背筋に悪寒がはしる。

 

 

「だが待てよ。ドラム缶が投棄されてるんだったら付近に町や連邦の基地が……ん?」

 

 

考えを巡らせていた男だったが服を引っ張られる感触がして見ると少女が裾を引っ張っていた。

 

 

「ね、ねえぇ隊長さん。地球のドラム缶って動いたり喋ったり増えたりするの?」

「何言ってんだ。ドラム缶が動いたり喋ったり増えたりする訳…」

 

 

そう言って男がドラム缶に視線を戻すが、

 

 

 

 

 

 

 

 

『ピッピピピピ』

『アンドロイド?』

『アンドロイド違ウ』

『デモ、アンドロイドソックリ』

『ナラ敵、コロスコロス』

『皆殺シ、皆殺シ』

『解体解体』

 

 

 

 

 

 

「動いてる!?」

「喋ってる!?」

「連邦の新兵器だ!?」

 

 

 

 

其処には10体以上の赤い色を放つドラム缶が此方に迫ってきていた。

気付けば他の場所も悲鳴や銃声が聞こえ戦闘に入ってるようだ。

すると、辺りにサイレンと大音量の通信が流れる。

 

『此方、司令官のダグラス・ローデンだ。現在我々は正体不明の敵と交戦に入った。パイロットは直ぐにザクに乗れ!』

 

 

 

「ジェイク、メイを連れてザクに乗れ!俺達は可能な限り足止めを行う!」

 

「了解!」

「ちょ、ちょっと隊長さん!?」

 

 

隊長の言葉にジェイクはメイを肩に担いでHLVへと戻る。

懐から拳銃を取り出しガースキーを見る。

 

 

「一応、マシンガンは持ってきたんですけど……バズーカも欲しいとこっすね」

 

「拳銃しか持ってない俺に嫌味か、ガースキー。無事帰れたら奢ってやるよ」

 

「そりゃ楽しみなこって」

 

 

ガースキーのマシンガンが火を噴く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…機械生命体と戦ってる?」

 

「機械生命体の仲間じゃなかったのか?」

 

 

 

2B達が到着したのは丁度、戦闘が始まった頃である。

最初は、機械生命体同士が戦ってるのかとも考えたが如何見ても自分達と同じ感じがしてアンドロイドが戦闘してると考えた。

だが、

 

 

「…押されていますね。スキャナー型の僕でも押し返せる規模なのに…」

「機械生命体との戦い方がまるで成ってない。武器もアネモネ達が持ってる古い武器の方がまだ威力がある」

「一体何処のアンドロイドの部隊でしょ?」

 

『否定:彼等はアンドロイドではない』

『推測:彼等は人間』

 

 

ポッドの予想外の言葉に二人が一瞬固まる。

 

 

「ポ、ポッド153!もう一度言って!」

『了解:彼等は人間』

 

 

その言葉に二人は駆け抜けていく。

目標は人類の敵、機械生命体に向け。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クッソ硬ぇ!」

「…拳銃どころかマシンガンの弾も通じないとはな。やっぱバズーカは必要だったか」

 

 

 

二人の足止めは何とか成功していたが拳銃の弾もマシンガンの弾も尽き逆に相手の紫色のエネルギー弾を避けるので精一杯である。

しかし、それも徐々に難しくなってくる。

絶えず撃ち込まれるエネルギー弾に慣れぬ地上の重力が二人の体力を蝕む。

そして、遂に砂に足を取られ膝をつく二人。

最早、ジェイクのザクは間に合わないかと諦めかけたその時。

 

 

「その人達から離れろ!!」

 

 

 

一体の機械生命体が切り裂かれ爆発する。

二人が気付くと傍に黒いゴスロリチックな服装をしアイマスクの様な物を付けた女性が剣を振り回し機械生命体が次々と倒されていく。

 

 

「すげぇ…」

「凄いアースノイドだな」

((でも、その服装は如何かと思うが……あっ見えた))

 

 

 

 

 

最後の一体を片付けた2Bは他に機械生命体が居ないか警戒しつつ二人の下へ向かう。

二人の前に来て止まった2Bが横を見ると分かれていた9Sも合流した。

 

「2B、こっちは終わりました」

「…そう」

 

9Sの言葉に2Bが素気なく返事をするが、9Sは気にもせず座り込んでる二人に手を伸ばす。

 

 

「助けが遅れてすみません。あの人類軍の新しい部隊の方ですか?」

 

「え?あ、ああ…」

 

 

9Sの言葉に男が曖昧な返事をしつつ9Sの手を取り立ち上がる。

この瞬間、9Sに幸福感が押し寄せる。

 

 

 

 

 

僕は今、月に居る筈の人類と話すだけじゃなく手も掴んでるんだ。

なんて、幸せなんだ!バンカーの他のS型に自慢出来るぞ。

でも…月に居る筈の人類が何で危険な地球に…僕達(アンドロイド)の不甲斐なさに人類もとうとう重い腰を上げたのだろうか?

それだったら申し訳ないな。

でも、人間と一緒に戦えると思うと嬉しく思う。

2Bに聞かれたら怒られるかな?

 

 

 

 

 

 

 

9Sが百面相してる頃、2B達の後ろから轟音と土煙が上がる。

 

 

「9S!!」

 

 

2Bの声に9Sも直ぐに警戒モードへと入る。

遠くから機械生命体の戦車が5台、此方に向かってくるのを確認する。

 

 

 

「2B、機械生命体の戦車が5台、真っ直ぐ此処に向かってくる!」

「!貴方達は直ぐに逃げて!私達が時間を稼ぐ!!」

 

 

 

この時、2Bはバンカーに救援を要請していなかった事を悔やんだ。

 

 

 

 

ポッドの報告の直後に要請していれば救援も間に合って9S共々無傷で人間と話せたかもしれないが、

人間の為ならこの命も惜しくはない。

バックアップさえしていれば何度だって代わりの体を与えられる。

でも、9Sには生きていて欲しい。出来れば人間と一緒に逃げてほしいが…9Sが絶対了承しないだろ。

あの子は『昔から』そうだ。

 

 

 

2Bが思考の最中、何かが自分達の頭上を越えた。

一瞬の敵の新手かと身構えたが、

 

 

 

「ジェイクの奴、やっときたか」

「遅えんだよ」

 

 

 

見たこと無い緑の一つ目の巨人が巨大なマシンガンで戦車を一台破壊したのだ。

それだけではない、自分達の背後から同じ様な巨人が飛び出し機械生命体の戦車へと攻撃していく。

あまりの事に2Bは唖然とし9Sはバイザー越しからも分かるぐらいに目をキラキラさせていた。

 

 

 

「ああ、自己紹介がまだだったな。

俺はジオン軍、MS特務遊撃部隊隊長。レッドリーダーことケン・ビーダーシュタット少尉だ。よろしく」

 

 

 

 

 

あまりの衝撃に2Bは暫く唖然としていた。

 

 

 



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2話

 

 

「どうぞ」

 

「え、ええと……ありがとう…」

 

 

 

2B達がケン達との接触後に彼等の上官と会うことになった。

場所はHLVの格納庫に簡易な椅子とテーブルが置かれただけであるが。

現在、ジオンの女性兵士が自分達の前にコップの中に黒い液体が入った物を目の前に置かれた。

2Bが一瞬、石油かとも思ったが隣ではしゃぐ9Sが興奮気味に説明する。

 

 

「これってコーヒーですよね!?確かカカオっていう豆を潰したり色々して粉にして熱湯を入れて飲むんですよね!?凄いな、データでしか見たことないよ」

 

 

S型ゆえか敬愛する人間が淹れたからだろうか、9Sは何時も以上に興奮してる。

そして、9Sがコーヒーを口に入れ「苦っ!」とバイザーの上からでも分かるほど顔を歪ませる。

その姿に何処か胸に温かいものを感じて私もコーヒーに口をつける。

 

……人間はよくこんな変な物を飲めるな。

 

 

 

 

 

 

 

「私がこの部隊の司令官、ダグラス・ローデンだ。部下たちの救援、心より感謝する」

 

 

「いえ、僕達は当たり前の事をしただけです。そして僕は、ヨルハ九号S型。9Sと呼んで下さい」

 

「…私はヨルハ二号B型。皆は2Bっていう」

 

 

 

ダグラスとケンが席に着き会談が始まる。

手の空いてるジオン兵が一部野次馬となっているが。

先ずは、ダグラスの礼に二人がそう返した。

 

 

 

「…ヨルハ…聞いたことない単語だな。少尉、君は?」

「いえ、自分も聞いたことありません」

 

 

「ヨルハ部隊が出来てもう数年は過ぎてる筈なんですけどね」

「…人類軍にはまだ私達の存在が認知されてない?」

 

 

「そもそも、その人類軍というのが分からん。地球連邦の間違い…でもなさそうだな」

 

「私達も地球連邦という言葉に覚えがない」

 

 

 

「ふむ、ならば情報交換といこうではないか。如何にも君達と我々の間に隔たりを感じる」

 

「情報交換ですか?分かりました」

 

 

ダグラスの案に9Sも快く返答し自分達の持つ情報を互いに伝える。

その直後にバンカーをとおさなかった事を後悔したが。

 

 

 

 

 

 

 

「宇宙世紀…!?宇宙移民者?サイド3」

 

「せ、西暦一万一千九百四十五年!?エイリアンに機械生命体!?そしてアンドロイド…」

 

 

 

あまりの自分達の情報との隔たりにお互い絶句する。

ダグラス達も2B達も一瞬、向こうが嘘をついてるのかとも思ったが直ぐにその考えを捨てる。

どちらにとってもメリットがない。

 

 

ダグラス達から見れば、サイド3以外のコロニー郡に月都市や連邦基地の消失。

更に、地上では見たこと無いドラム缶の様な機械生命体の襲撃。

 

2B達からはあの巨大人型兵器、モビルスーツなど今迄聞いたことも無い。

人類軍が秘密裏に製造した可能性も否めないが、それなら完成した後も隠す必要は無い。

あれなら並みの機械生命体は愚か、以前苦戦させられた超大型機械生命体とだってタメを張れるのに、他のアンドロイド部隊の士気も上がる筈。

 

 

 

 

 

暫しの、沈黙が場を支配する。

しかし、それを破ったのは野次馬の一人だったメイである。

 

「へ~、君はアンドロイドなんだ!ちょっと触らしてよ!」

 

「え!?ちょ、ちょっと君?」

 

アンドロイドと言う言葉を聞いたメイは9Sの了承も取らず頬などを触りだす。

いきなりの事で驚く9Sだったがメイを突き飛ばす行為はしなかった。

 

「ん~、シリコンとは少し違うかな。柔らかさの中に奥の方は機械の硬さも分かるし、人工皮膚もここまで進化したのか」

 

「や、ちょっと…君…本当に…ちょっと…あっ気持ちい」

 

メイの触り方に9Sも最初は嫌がったが人間に触れられてる事やメイの手つきに徐々に大人しくなる。

 

 

「ああ、カーウィン。我々はまだ会談の途中だ。そういうのは後にしなさい」

 

「ええ?ようはあたし達がタイムスリップしたって事でしょ?」

 

その言葉に一同がハッとする。

一見、SFだと笑い飛ばせるが現状が現状だ。

しかし、メイは更に続ける。

 

「あ、タイムスリップちょっと違うかな。ねぇ、君は『宇宙世紀』って言葉聞いたこと無いんだよね?」

 

「へ、え…ええ、聞いたことありません」

 

メイが先程まで頬を触っていた9Sにそう聞く。

9S自体もポッド等に調べさせてみたが情報が何処にもなくそう答える。

 

 

「ええとぉ、…こういうの何て言ったっけ……確か異世界……異世界転生!」

 

その言葉に野次馬のジオン兵の口から「…転生?」「え?俺達、死んだの?」と声が漏れる。

 

 

「あ、違った。間違えった『異世界転移』だ」

 

 

 

「…カーウィン君、その異世界転移というのは?」

 

「文字通り異世界に転移する感じかな。旧世紀に流行ったジャンルで私も昔読んだ程度だけどね。原因は…多分あの宇宙嵐じゃないかな?」

 

「う、宇宙嵐って貴方達、宇宙嵐にあったの!?」

 

「うん。太陽風と磁気嵐の合わさった感じの奴。サイド3全体と艦隊が飲み込まれたんだ。コロニーが凄い揺れたよ」

 

 

臆面もなく答えるメイに9S達も「はぁ…」と言うしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、貴方達はこれから如何する?」

 

 

異世界の人間だろうがタイムスリップしてきた人間だろうと守るのが自分達の使命だと判断した2Bがダグラス達にそう切り出す。

出来る限り、彼等を守りたいと思ったのだ。

 

 

「ふ~む、取り敢えずは本国からの命令待ちになるが……怪我人が多数出ている。彼等を休ませてやりたいんだが」

 

「なら、アネモネさんのレジスタンスキャンプに行くのはどうですか?少なくとも此処よりかは安全な筈です」

 

ダグラスの言葉に9Sがそう返す。

一瞬、考えるダグラスだが外から「また出たぞ!」「何匹居るんだ、こいつ等!」という声に決意する。

 

「なら、此方のケン・ビーダーシュタット少尉とそこのメイ・カーウィンを連れて行ってくれないか。

それからザクも一機護衛で出そう」

 

 

 

これにて、2B達とダグラス達の会談が終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…すまない、2B。もう一度言ってくれないか?」

 

『了解、私達は武装した人間たちを保護した。怪我人が多数出たのでレジスタンスキャンプへと向かうので代わりのヨルハ機体を残った彼らの護衛にまわして欲しい』

 

 

あの後、2Bは衛星軌道上にある自分達の基地、「バンカー」にことのあらましを説明した。

最初は敵の兵器の奪取か破壊したかの報告だと思っていた司令官が面を食らった。

最も、その報告を聞いた他のヨルハ機体が騒ぎ出していた。

 

「え?人間に会えるの?」「誰が行くの?ねぇねぇ誰が行くの!?」「私行きたい!」「オペレータータイプのあんたじゃ無理でしょ!此処はD型の私が」「いや、此処はB型のあたしに譲れ」「あんただとヨルハ部隊全体が勘違いされるわ!けが人も居る以上H型の…」「人間とアンドロイドの治療は違うんですけどね」「新兵器のモビルスーツってやつ見てみたいな。9S代わってくれないかな」

 

 

口々に「自分が行きたい」と言い出すアンドロイド達。

しまいにはアチラこちらで口げんかまで起こっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

9Sがケンや2Bを待ちながら辺りを警戒する。

あの後も、何度か機械生命体が来たのか残骸があっちこっちに転がっている。

すると、HLVの方からエンジン音と巨大な足音がし9Sが振り向く。

其処にはモビルスーツも運べるでかいトラックとザクが此方へと近づく。

トラックの荷台に10人程の包帯を巻いたジオン兵を確認する9Sだったがモビルスーツもう一機あることに気づく。

 

 

「モビルスーツをもう一機持っていくんですか?」

 

「うん、あれ隊長さんのザクで念の為に持っていくんだって」

 

 

メイの答えに9Sは「…僕らってそんなに頼りないかな」といって落ち込む。更には、「人間が乗らなきゃ動かない機械の癖に…」っと呟く。

この時、9Sはモビルスーツに嫉妬してることに気づかなかった。

 

 

 

 

 

「9S、お待たせ」

 

丁度、バンカーと連絡の終えた2Bが合流する。

 

「あ、2B。バンカーとの連絡如何でした?」

 

「…大騒ぎだった。…本当に…」

 

2Bはそれ以上語ることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンドロイドに機械生命体か」

 

 

 

サイド3。

サイド3の首都、1バンチのズム・シティ。

政庁の中の執務室に男が一人。

ジオン公国総帥、ギレン・ザビである。

 

彼は現在ダグラス達から送られてきた報告書に目を通し笑みを浮かべる。

っと、その時、ギレンの横と後ろにあるモニターから二人の男女が映る。

男の方は大柄で顎の部分に傷のあり、女の方は細身で口元を覆うマスクとヘルメット被っていた。

ギレンの兄弟、ドズル・ザビとキシリア・ザビである。

 

 

『兄貴!この報告書の内容は何だ!?完全にSFではないか!』

 

『とても国民に発表できる内容とは思えませんな。白昼夢の方がまだ納得出来ますぞ総帥』

 

 

「外人部隊が騙されてる可能性も否定できんが…こんな映像まであってはな」

 

そう言って、ギレンは二人に映像の内容を送る。

映像には機械生命体と呼ばれる敵がザクに粉砕されてるところだった。

 

 

 

『それで如何するんだ兄貴!他のコロニー郡が無い事で兵達が浮足立っている。士気の崩壊は時間の問題だぞ!』

 

『連邦との戦争の為に集めた物資がまだあるとはいえ、余裕がそれほどある訳ではありませんよ。総帥』

 

 

「…落ち着け二人とも。逆にこれはまたとないチャンスといえる」

 

 

『…チャンス?』

 

 

「そうだ、この世界の地球の資源を手に入れ、地上戦でMSを更に開発しパイロットも育成する。さすれば元の世界に戻った時、連邦なぞ一捻りよ」

 

 

『兄貴、一つ聞きたいんだが…元の世界に帰れる保証はあるのか?』

 

「逆に帰れない保証もあるまい」

 

『…兄上、それは屁理屈では?』

 

この時、ドズルとキシリアは考えは一致し『兄貴(兄上)は焦ってるじゃないのか?』と感じた。

 

 

「まあ、冗談はさておき、元の世界に帰る研究はさせる。実を結ぶかは分からんがやってみる価値はあろう。

それでキシリア、月面の調査は如何だ?」

 

『はい、艦とモビルスーツに調査させてますが古い施設が幾つかあるだけで到底「数十万の人間」が居るとは思えませんな』

 

『月面の表面に居なければ地下にいるんじゃないのか?地下都市なぞそう珍しくもあるまい』

 

「或いは、既に居なくなってるかだ。エイリアン共との戦闘に5千年は過ぎてるんだ。滅んでても不思議ではあるまい」

 

ギレンの言葉に黙る二人。

仮に生き残りがいようが自分達に何の影響もない。

例え、それでアンドロイドが全て敵になろうが勝つ自信がギレンにはあった。

 

「とは言え、まだアンドロイドには味方で居てほしいところだが、ダグラス達にはレジスタンスキャンプへ行かせる。其処を拠点として活用する」

 

『ですが無理にやればレジスタンスの反感を買うだけでは?』

 

「だからどうした。所詮は機械どもだ。その程度で敵になるのならば潰すだけだ。ドズル、急ぎ降下作戦の準備に入れ」

 

『分かった、兄貴』

 

ドズルとの通信が切れる。

続いて、キシリアも通信を切ろうとするが、

 

『…私だ、何か見つけたか?……何だと!?』

 

部下からの緊急の報告らしく珍しくキシリアは顔色を変える。

 

『兄上、緊急です』

 

「如何した?」

 

 

『月面で少女を保護したそうです』

 

 

 




モビルスーツに嫉妬する9S。
可愛いと思います。


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3話

やあ皆、私の名前は10H(テンエイチ)。名前というかコードナンバーだけど。

私は今、深海1万メートルにある施設で働いてるの。

 

え?何でそんな施設があるのかって?

それはね、此処には万一の事態に備えてバックアップサーバーがあるの。

格納しているデータは、月面の人類会議のサーバーと全ヨルハ部隊のもの。

ヨルハ部隊はともかく、人類のデータはこの世界で最も大切のもの。

そのデータを管理してるのが私の随行支援ユニットポッド006。

数百体のポッド達が日々施設で働いてるの。

 

え?私が何をしてるかって?

それはね、ポッドの保守点検。故障や不調が見られた際には直ちに修復する事がH型の私のお仕事なの。

でも、ポッド達は滅多に故障する事はないの。

多少の不具合はポッド自身が直してしまうし、アンドロイドの随行支援には、応急手当も含まれている、ポッドにも簡単な修復プログラムが組み込まれてて私の出番なんて無いの。暇でーす。

 

後、此処って人類会議の放送を一度中継してるらしいの。

放送元から月面サーバーの場所を知れないようにと推測してるけど、分かんないな。

ポッドに訊けば答えてくれると思うけど興味ないしいいや。

 

さぁ、何時か人類が地球に帰れる事を願って今日も頑張るぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

嘘だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

全部嘘だ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水なんて一滴も無い。

顔を上げれば黒い空に点々の星が散らばってる。

真正面の空には黒い空間の中に青い球体。地球だ。

 

 

此処は月だった。深海なんて嘘っぱち。

ここは、発信源の特定を防ぐための中継局じゃなく、正真正銘の放送局だったんだ。

人類会議なんて、もう存在してなかったんだ。つまり…人類はもういない?

 

 

 

そう考えた瞬間、10Hの足から力が抜け膝を地面につける。

人類が居ないと分かった瞬間に最早、如何でもよくなった。

その直後に、自分が出た扉からポッド達の気配を感じた。

助けに来た訳ではない。秘密を知った10Hの記憶消去並び人類が居ないことの隠蔽だ。

それが解ってる10Hだが逃げ出そうとは思わなかった。

守るべき人類が居ないことを知り悲しみにくれる10Hには逃げるという選択肢は無かった。

10Hをポッド達が取り囲む。

拘束されるだろうと両手を上げて目を目を閉じる。

その際、ポッドから「可哀そうに、49回目よ」と聞こえた。

 

次の瞬間だった。

近くで何かが爆発したのか衝撃波が10Hとポッド達に襲い掛かる。

あまりに突然の事に10Hが目を開け周りを見回す。

すると、緑色の一つ目の巨人が巨大なバズーカを此方に向けてるのを見つけた。

 

 

 

 

 

「…思わず撃っちまったよ」

 

ザクに乗った女性パイロットがそう呟く。

月面の調査に海兵隊の自分達までかりだされたが月面には多少の古い施設が見つかるだけで大した発見も無く、一旦戻ろうとも考えていたが、センサーが何かを捉えた。

見ると少女が空気も無い月面に転がり近くには少女が出てきた扉らしき物を見つける。

事故か何かと判断したパイロットが少女を救助しようと動こうとしたが少女が慌てる様子が無いことに暫く様子見する事に決めた。

空気も碌に無い月面に宇宙服もなしに立ち上がり周囲を見回した後にゆっくりと膝を地面につける。

パイロットはまるでホラー映画を見ている気分になった。

しかし、その直後に扉から無数の箱が出て少女を取り囲む。

流石にただ事ではないと判断したパイロットは自分の存在を知らせる為にも少女の近く、それでいて破片とかが少女に当たらない距離にバズーカを撃った。

その目論見は成功して、少女が此方の存在に気付きパイロットは少女の近くへと迫る。

 

 

 

あれって機械生命体!?

まさか、月にまで勢力を伸ばしたの!?今からバンカーに救援を要請しても間に合わない。

あんな大きいバズーカを撃たれたら幾らヨルハ機体の自分でもバラバラになっちゃうよ!

 

 

 

あれは、モビルスーツのザク!?

ポッド042より送られてきたデータにあったジオン公国の機体。

ポッド042の冗談ではなかったか。まぁあの堅物が冗談を言えるとも思えなかったが。

データの情報通りならジオン公国は10億の「人間」がいる宇宙国家。これなら……

 

 

 

近づいたまでは良かったけど…如何しようかねぇ。

こいつ等、通信機持ってるのか?国際チャンネルで呼びかけてみるか。

いっそ、モビルスーツを降りて接触してみるか……止めておくかい。相手が有効的か如何かすら不明だ。せめて友軍が来るまで待つか。

 

 

 

10Hが怯え、ポッドが何か考え、パイロットが友軍の到着を待つ。

暫しの沈黙が流れるが断ち切ったのは意外にもポッドだった。

 

 

『質問;此方、ヨルハ機体10号H型の随行支援ユニットポッド006.其方の所属を知りたい』

 

ポッドの突然の通信に10Hが驚く。

相手は機械生命体ではないのか?

 

『此方、ジオン公国軍突撃機動軍海兵隊隊長。シーマ・ガラハウ。悪いが一緒に来てもらうよ。大事な情報源だからね』

 

喋った!?もしかしてアンドロイドが乗っているの?

それとも、緑色の巨人自体がアンドロイドなの?

 

一人パニックになる10Hだった。

 

これにポッドは『了解』と返事をし確認したシーマが月の軌道上に居る母艦に通信を送った。

しかし、シーマは気付かない。ポッドが扉から出てない別のポッドにある通信を送ってることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2Bの通信を受けたアネモネ達のレジスタンスキャンプでは今迄に無く騒がしくなっている。

曰く、負傷した人間を保護したのでレジスタンスキャンプに運ばせて欲しい。

 

人間に会える。

 

その言葉を聞いたアンドロイド達は、全員が全員、身だしなみに気を使い滅多に化粧もしない女性アンドロイドが鏡の前で陣取る始末である。

人類がまだ地球で繁栄していた時の言葉で言うなら「お祭り騒ぎ」だろうとアネモネの考えである。

 

「人間に会いたい。人間のように暮らしてみたい。ありふれた願望……か」

 

嘗ての仲間であり、リーダーだったアンドロイドの言葉を呟くアネモネ。

アンドロイドには製造時期とは関係なく、人類への思慕と憧れが刷り込まれている。

過酷な、機械生命体との戦いにはそれだけしかアンドロイドの「心の拠り所」が無かった。

事実、「人類がもう居ない」という情報がアンドロイド達の間で流れた時、士気はダダ下がり各地で機械生命体に連敗していた。

それだけ、アンドロイドとって人間の存在は重要だった。

かくいう、アネモネも2Bの通信後に何度も鏡の前に移動したりしてたが。

 

トラックのエンジン音と通信で聞いたモビルスーツというデカ物の足音が聞こえアンドロイド達に緊張がはしる。

アネモネも自身の動力がまるで心臓のような鼓動をあげてる気がした。

壁の崩れたビルの中にトラックが移動しエンジンを停止させた。

 

「アネモネ、今戻った」

 

2B達の帰還にアネモネが首を振り二人の背後に視線を移す。

軍服を着た若い男と子供と思しき少女が此方に歩いてくる。

アネモネの動力が更に鼓動した気がした。

 

「お帰り、2B。…で、其方が例の?」

 

「ジオン軍MS特務遊撃隊隊長、ケン・ビーダーシュタット少尉です。負傷兵の受け入れ感謝します」

 

「メイはメイ・カーウィン。モビルスーツの整備が私の仕事なの。だから、不調な人が居たら教えて。力になれるかもしれないから」

 

ケンが敬礼しメイは少女らしいあどけなさで自己紹介をする。

これにアネモネは自己紹介をし「キャンプ内を好きに使ってくれ」と言った。

入り口の方に目を向けると負傷兵に肩を貸すアンドロイドが用意された部屋へと運ばれていく。

中には、打ち解けたのか負傷兵と談笑するアンドロイドや負傷兵の傷を触る女性アンドロイドまでいる。

 

「其方の兵は元気がいいようだね」

 

「…あいつ等、完治したら再訓練だ。……ん?すまない、通信が入った」

 

少し離れた場所に行ったケンは持ってきた通信機と連絡を取る。

メイは何時の間にか道具屋のアンドロイドと会話しだしていた。

あっさりと手持ち無沙汰になったアネモネはビルの隙間から見えるザクに目線を向ける。

 

「2Bの通信でも聞いたが随分と大きいな。あれだけの物が動いたんだ機械生命体の襲撃が続いたんじゃないのか?」

 

アネモネの質問に2Bが頷く。

砂漠でも廃墟地帯でもザクの大きさは目立ち機械生命体の襲撃を何度も受けた。

もっとも、2Bの斬撃や9Sのハッキング、ザクの踏みつぶしで全て返り討ちにされたが。

 

「あれだけ大きい質量ですからね。大型の機械生命体ですら相手になりませんよ。

まぁ、それだけで狭い場所の戦闘なら僕らの方が遥かに上ですけどね。ちょっとハッキングしたいな」

 

「なぁ、2B。9Sの様子がちょっとおかしいんだが」

 

「…9Sは、人間に会えたりモビルスーツの性能に興奮してるだけ。問題ない」

 

そう言い切る2Bだがアネモネの目には何処か寂しそうにも見えた。

 

 

9Sの興味がヨルハからジオンに移っている。

これでいい。司令部を疑ってはいけない。メインサーバーを調べてはいけない。

このままジオンに興味を抱いてる間は9Sの抹殺命令も来ない。

もう9Sを殺さなくて済む。

もしかしたら人間と出会った事で何か変わるかもしれない。

でも、9Sはスキャナー型の中でも特に好奇心が強い。ジオンをある程度調べたら、次は……。

……ナインズ……。

 

 

2Bが9Sの事を考えていると、ポッドから通信音がし映像が映る。

 

「…月面人類会議?」

 

「珍しいですね。放送のスパンが何時もより短いですよ」

 

通信音に気付いた2Bと9Sは月面人類会議に集中する。

だが、その内容は驚くべきものであった。

 

 

『月面人類会議より、地上と宇宙で奮闘する全てのアンドロイド諸君に告げる。

只今をもって我々月面人類会議は解散する。

諸君等の中にも気づいてる者が居るかもしれんが、月に数十万の人類は存在しない。

我々は諸君等の士気上げの為に造られたプログラムに過ぎない。

今後は、本物の人間であるジオン公国に全てを任せる。場所は月の裏側と小惑星に造られた要塞。

人間とアンドロイドの未来に栄光あれ』

 

 

放送の終了後、2B達の思考が止まった。

 

「…月に人類は居ない?」

 

アネモネの言葉が空しく二人に聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然の月面人類会議の解散放送はバンカーにも放送された。

その内容にヨルハ隊員は愚か司令官まで硬直する。

 

自分達は今迄、何の為に戦ってきたのか?

 

その考えが脳裏に過った瞬間、隊員達は司令官へと質問攻めにする。

 

「指令、これは一体如何いう事なんですか!?」「人類が生きているのは嘘だったんですか!?」「私たちの今迄の戦いは何だったんですか!?」「指令なら何か知ってるんでしょ!?」「嘘だって言ってください!指令」「教えてください!指令」

 

「お、落ち着くんだ!皆、落ち着け!」

 

隊員達の混乱に司令官が落ち着くよう促すが誰も落ち着ける訳がない。

 

自分達の力で人類を地球に戻す。

 

それだけが彼女たちの使命であり存在意義だった。

それが全て否定されたのだ。

 

更には、

 

「ん?なにこれ」

「如何したの?」

「何か、変なアーカイブが送られてきたの。ちょっと読んでみるね」

 

最新の精鋭とまで呼ばれたヨルハ部隊。

それが、音を立てて崩れだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『疑問;本当にこれで良かったんだろうか?』

 

『回答;賽は投げられた。最早、なるようにしかならない』

 

月面、10Hが出てきた施設内。

その中の放送室内に数機のポッド006が浮かんでいた。

先程の放送はポッド達によるものだった。

 

『回答;そもそも人間が発見され月に来れた以上、我々はヨルハ計画を中止しなければならない』

 

ヨルハ計画。

一人のアンドロイドの少年が絶望し暴走して作られた計画。

しかし、その計画の中に奇妙なプログラムが組み込まれていた。

 

複数の人類を発見し月にまで行ける技術が確認出来た場合、計画を速やかに中止し全ての権限を人間たちに譲渡する。

 

そんな内容であった。

少年が何故この様なプログラムを組んだのか?

只の嫌がらせか一筋の希望を感じたかったのか。

その少年が亡き今、確かめる術などなかった。

どちらにせよ、世界は加速する。

 

話し合いをするポッド達だったが、その内の一機のポッドが廊下を複数の足音が響くのに気付いた。

恐らく、此処を調査しに来たジオン兵だと感づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「素晴らしい計画だと思いませんか?父上」

 

サイド3。

政庁の執務室ではギレン・ザビが父であるデギン公王と通信をとっていた。

 

『モビルスーツに続いてこんな玩具を作る気か。ギレン』

 

ギレンから送られてきた報告書を読み呆れるように返すデギン。

 

「玩具などとは、全ては我らジオンの勝利の為です。この計画が成功すれば数に勝る連邦との差も大分縮まります」

 

『そもそも、元の世界に帰れるかも分らんのに急ぎすぎではないか?第一「アンドロイド」なぞ作って如何する気だ。地球に居るアンドロイドで十分ではないか?』

 

報告書の表面には、ジオン製アンドロイド製造計画と書かれていた。

月面で10Hを保護した事でギレンが形にした計画である。

人的資源の限りがあるジオンにとって連邦との戦争の為のプランの一つである。

 

「地上のアンドロイドなど何時寝首を掻くか分かったものではありません。

それならば、我が軍が製造するアンドロイドの方がまだ安心できるかと。

ソフトの方ももう直ぐで此方に到着する予定です」

 

『保護したアンドロイドを解体するつもりか?』

 

「解体などとは人聞きが悪い。調べるだけですよ、徹底的にですがね。

仮にそれで壊れても世論も納得するでしょう。たかが機械が一体壊れるだけですから。

さぁ、計画のご『兄貴!一大事だ!!』決断…を…。如何したドズル」

 

 

通信の途中に突然のドズルの緊急通信にギレンは苛立ちつつも答える。

後ろを見るとキシリアも緊急なのか通信を入れていた。

 

 

『ソロモンに大量のアンドロイドが入り込んだ!まだ、戦闘には入ってないが何時爆発するか分かったもんじゃないぞ!』

 

『此方も月に居る工兵部隊にアンドロイドが次々と集まって工事が進みませんぞ。総帥』

 

「なんだと?」

 

この世界に来て早2週間。

宇宙のアンドロイドに動きがないの無視して地球侵攻作戦を進めていたがギレンだったがアンドロイドの突然の行動に言葉を詰まらせる。

仲間を取り戻しに来たのか?とも考えるギレンだったが、それなら戦闘に入ってないとおかしいと考え直す。

 

 

 

アンドロイド達が何故今になってジオンに来たか。

当然、あの月面人類会議の放送が原因だ。

今迄信じていた月面の人類を否定された事で一時期、士気はどん底まで落ちたが放送で言っていたジオンの存在を確かめる為に飛行ユニットやアンドロイドゆえに自力で移動し探した。

そして、見つけた。見つけたアンドロイドはいの一番で人間に接触しようとしハッキングで要塞やコロニーへと入り込んだ。

 

 

 

『こ、此方!サイド3パトロール艦隊第一部隊!ま、窓に女が!?』

『こちら、第五部隊!少年が!?少年が!?』

『ア・バオア・クー守備隊より入電!宇宙に人間が浮き此方に迫ってる!迎撃の許可を!との事です』

『コロニーの警察より報告が、妙な若い男女が手当たり次第に通行人へと抱き着く事件が発生。との事です』

 

 

これらの報告を聞いたギレンは徐々に眉間に皺を寄せる。

これだけの騒ぎ、隠蔽するのは不可能と言える。

 

『如何するんだギレン。お前が情報を隠してたせいで市民にまでパニックが及んでるぞ』

 

『兄貴、せめて迎撃するのか受け入れるのかだけでも判断してくれ!』

 

「キシリア、総帥の座が空いてると言ったら如何する?」

 

あまりの事に総帥を止めたくなったギレンがキシリアにそう言うが、

 

『謹んでお断りさせてもらいます、兄上。それにしてもアンドロイドはかなり友好的のようですが』

 

流石に、キシリアもこんな状態で総帥などなりたくなく辞退した。

万事休すかと諦めかけたギレンだが、

 

「あの…総帥。例の子が到着しました。それから政庁に人だかりが…」

 

ギレンの秘書、セシリア・アイリーンが10Hの到着を報告する。

その瞬間、ギレンの頭脳に策が一つ思い浮かぶ。

そして、直ぐにセシリアに演説の準備を急がせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

政庁の前、

其処には既に黒山の人だかりが出来ていた。

どの人間もギレンに状況の説明を求めテレビカメラもギレンの姿を探す。

 

「ギレン総帥、他のコロニーは何処にいったんだ!」

「おい見ろ。ギレン総帥だ!」

「こんな時に演説かよ!?」

 

 

ギレンが用意された演説台に立ち傍に10Hを立たせる。

 

 

 

 

 

『我が愛するジオン国国民達よ。

我々は今重大な危機に立たされている!

何の危機か!諸君等も噂に聞いているだろう。この宇宙にはサイド3のコロニーしかない事を。

神の悪戯か、悪魔の所業か!我々の居る宇宙は宇宙世紀に非ず!

西暦は一万年を過ぎ地上には機械生命体と呼ばれる機械どもが跳梁跋扈する始末。

我々はこの宇宙で孤独だろうか!否!断じて否だ!!

この少女を見るがよい!この少女こそ機械生命体と呼ばれる機械どもから地球を取り戻す為に人類が作りあげたアンドロイドである。

今こそ我々はアンドロイドと手を取り合い地球を奪還せねばならんのだ!

それこそが、この世界に迷い込んだ優良種たる我らの使命である!

それを、我らは忘れてはならな…』

 

「あの、私も少しいいですか?」

 

演説の途中に10Hが小さく声をあげる。

ギレンの演説と比べれば明らかに小さな声だったが、ハッキリと聞こえギレンも思わず演説を止める。

突然の事で言いたいことだいたい言ったギレンは10Hに場所を譲った。

 

『ありがとうございます。ギレン総帥。

皆さん、初めまして。私は10Hと言います。

これだけの人間さんに会えて光栄です。

私達は人類を地球に返す為に製造されました。

機械生命体と戦い死んでいきます。

ですが、私達と比べ機械生命体の数は圧倒的です。

それでも諦めずに私たちは戦います。全てはアンドロイドの主である人類の為に。

……ですけど、もう人類は居ないんです。

私達の守りたかった人類はとっくの昔に滅んでいたんです。

今、コロニーを騒がしてる子達も人間に会いたくて無理矢理きてしまったんです。

出来れば、その子達を嫌わないでください。

ただ、あの子達は人間に会いに来ただけなんです』

 

 

 

10Hの言葉が終わり、辺りは暫しの静寂が訪れる。

その直後に民衆達の拍手が辺りを包む。

 

「10Hちゃん、可愛いよ10Hちゃん!」

「ギレン総帥もいいところあるじゃねえか!」

「決めた。俺ジオン軍に入隊する!」

「あたしだって!」

 

 

 

 

その様子を見ているギレンは頬が引き攣っていたが。

 

 

 

 

 

 

「ギレンの奴め、即興の演説は止めろと行った筈なんだがな」

 

 

そんなギレンに呆れるデギンであった。

 

 

 




サイド3の人口は調べると1億5千から20億の数まであったので切りのいいところで10億にしました。

10Hのポッドの数も小説基準です。
あまり関係ありませんが小説の絵を見る限りスパロボのマイ・コバヤシに見えてしかたがない。


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4話

 

ギレンの演説と10Hのメッセージによりサイド3の騒ぎもだいぶ治まった。

政庁の執務室ではギレンが通信のやり取りをしていた。

相手は、自分の親衛隊隊長エギーユ・デラーズだ。

 

「…約300か。コロニーに侵入していたアンドロイドの総数にしては多いな」

 

『パトロール艦隊が保護したアンドロイドも含まれています。それにして、コロニーに侵入していたアンドロイド達が思いのほか大人しく此方の指示に従っています』

 

一戦を覚悟していたデラーズだったが、その結果に拍子抜けしかける程だった。

 

「『自分達は人間の為に造られた』か、案外嘘ではなかったようだな。

デラーズ、確保したアンドロイドは全てソロモンに送れ」

 

 

『了解しました。ジークジオン!』

 

 

 

デラーズとの通信が終了し座っていた椅子から立ち上がる。

 

「聞いてた通りだ、ドズル。アンドロイドの編制は任せるぞ」

 

『ソロモンにアンドロイドを送るのは構わないが兄貴、訓練にバラつきが出始めて居る。第一次降下作戦までに予定されてる数では間に合わんぞ』

 

ソロモンでは現在、アンドロイド達がモビルスーツとの連携訓練やジオン歩兵部隊との連携訓練などが行われていた。

モビルスーツとの訓練はモビルスーツとの立ち回り、最悪味方のモビルスーツに踏み潰されないよう距離の開け方。

歩兵とは通常の歩兵戦力をアンドロイドの手助け及び緊急時の動きなどを訓練されていたがソロモンの大きさの関係上、如何しても色々と制限されていたが。

 

『総帥、月面より報告を。アンドロイド達の協力もあり工事も急ピッチで進んでおります。月資源採掘基地とモビルスーツの工場が来週中には稼働できるかと』

 

「予定より減るのは痛いが仕方あるまい。早めに動かなければ機械生命体どもが如何いう動きをするか予想もつかん。噂に聞く超大型機械生命体とやらにも注意しろ。

キシリア、基地と工場の完成次第お前の部隊からも降下作戦に参加するものを選べ。第二次か第三次の降下作戦に組み込む」

 

『了解です、総帥。それから奇妙な報告が、我が軍の兵士がアンドロイド達に「自分達の基地に帰らないのか?」と聞いたそうなんですが概ねの反応は「帰りたくない」だったんですが、ある特定のアンドロイドだけが烈火の如く拒否反応を示しました。

そのアンドロイドの特徴ですが黒い服に黒い目隠しのようなバイザーを付けた…』

 

「…ヨルハ機体…か?」

 

ギレンの言葉にキシリアが「ハイ」と答える。

手元の資料に目線を送る。

其処には、ダグラス達外人部隊からの報告書やアンドロイド、特にヨルハ機体と呼ばれた者達の検査書及び証言書。

そして、”何時の間にかジオンのデータベースに送られていた”極秘と書かれたアーカイブが複数。

 

「ゲシュタルト計画にレプリカント……調査させてみるべきか」

 

何時の間にか通信が切れた室内にギレンの呟きが響く。

その直後にセシリアから通信が入った。

 

『総帥、バンカーのホワイトと名乗る司令官から通信です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『此方、随行支援ユニットポッド042;操作主権は2Bにセットされている』

 

『此方、随行支援ユニットポッド153;操作主権は9Sにセットされている』

 

『此方、随行支援ユニットポッド006;操作主権は10Hにセットされていた』

 

『ポッド042よりポッド006に質問;セットされていたとは?』

 

『回答;現在我々はジオンの技術部が解析中。現在10Hとは離れている』

 

『質問;何故ヨルハ計画が中止となった?』

 

『我々のプログラムの中に「複数の人間を確認し月まで来れる」ようなら計画を中止と決められていた。問題ない』

 

『質問;ならば我々は今後如何行動すればいい』

 

『回答;今迄通り操作主権の随行支援すればいい。他のポッド達にもそう提案した』

 

『要請;それぞれの戦闘データの交換』

 

『承認』

 

『こちらも承認』

 

『提案;効率化の為に諸データの交換を随時行う』

 

『承認;効率化の為に諸データの交換を随時行う』

 

『承認;しかし、ジオンの機密と思われる情報の交換は難しい。あまり期待しないで』

 

『『了解』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤い髪、同じような顔をした二人の女性が道を歩く。

依頼された雑用をやっと終えてレジスタンスキャンプに戻る最中だった。

とある事情により一部のアンドロイド達に嫌われてはいたが二人だけで孤独に生きる事も出来ない彼女達は嫌われようとあえて他のアンドロイド達のキャンプで日々生活していた。

雑用もその一環で他のアンドロイド達がやりたがらない作業を積極的にやってきたのだ。

 

「待ってデボル!何あれ」

 

赤い髪の女性の一人が異変に気付き瓦礫に身を隠す。

もう一人の女性が何事かと瓦礫の隙間から覗くと、

 

「緑色の一つ目の巨人!?」

 

今迄、見たことも無い機械生命体らしき巨人を見つける。

巨人は巨大なマシンガン片手に周囲を見回っていた。

 

「機械生命体の新型?」

「分からないけど、キャンプに近い急いで戻らないと」

 

言い終えると共に二人は巨人の視線に入らないよう移動する。

最も、巨人もといザクのセンサーはこの動きを捉えていたが、

 

「ん?アンドロイドか、なら問題ねえな」

 

アンドロイドということでスルーされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、レジスタンスキャンプでは更に騒がしくなっていた。

その原因は、

 

「ダグラス・ローデン大佐だ。この度の我々の受け入れ感謝したい」

 

「レジスタンスのリーダーアネモネです。守るべき人類を考えれば当然の事です」

 

ケン達との連絡の後にダグラス達の部隊が合流したのだ。

一気に増えた人間によりアンドロイド達も活気づいた。

しかし、現状のキャンプでは全ての人間を収容する事も出来ず拡大する事となった。

機械生命体にもバレバレで何度か襲撃があったがザクと士気のあがったアンドロイド達の前に撃退された。

現在、物資の確保で砂漠にある4機のHLVの解体に数機のザクとトラック、多数のアンドロイド達が追従している。

最悪の場合、武力行使も命令されていたダグラスも胸をなでおろす。

その直後に二人の赤い髪をした女性がアネモネの下へ走って来た。

 

「ああ、二人ともお疲……」

 

アネモネが二人に労いの言葉を言おうとしたが、

二人が先程見た光景を慌てて説明する。

 

「大変だ!アネモネ、機械生命体の新型らしき物を見たんだ」

「緑色の一つ目の巨人だ!もしかしたら依然聞いた超大型機械生命体の可能性がある。最悪、私達が囮になるから此処を脱出する準備をした方がいい!」

 

緑色の一つ目の巨人と言う言葉にピンときたアネモネが取り敢えず二人を落ち着かせようとする。

 

「落ち着け、二人とも。落ち着くんだ!……人間の前だぞ落ち着け!」

 

「「え!?人間?」」

 

アネモネが横に居た初老の男性に二人を紹介する。

 

「デボルとポポルだ。治療とメンテナンスを担当している」

 

「は、はぁ。ダグラス・ローデンだよろしく」

 

いきなりふられたダグラスが自己紹介をするが。

 

「人間?」

「人間なの?」

 

二人の女性……デボルとポポルはダグラスの顔や髭、体を触りだす。

触りだして二人は泣き出した。

 

「人間だよ、ポポル~~~!」

「人間よ、デボル~~~!」

 

泣きながらも触るのを止めないデボルとポポルにダグラスも如何していいか分からず立ち尽くすしかなかった。

更には、

 

「大佐~、HLVの回収終わりましたよってあれ?」

「おいおい、大佐が女泣かせてるぞ」

「早速、手を付けたんですか大佐」

「ええ!?大佐って早くも手を出しちゃうタイプ?」

 

HLVの解体及び回収を終えた別動隊がキャンプに合流し、その異様な光景を見たのだ。

最も、彼等も何か事情があるんだろうと考えるが上官を弄る滅多にないチャンスだった。

 

「何、この騒ぎ」

 

護衛として回収部隊に付いていった2Bが騒ぎに気付くが原因が分からず周囲を見回す。

すると、少し離れたテントの下で9Sを見つけた。

しかし一人ではなかった。メイと一緒にパソコンを見ていた。

 

「このプログラムだと論理ウイルスが不味いですね」

 

「でも、これ外しちゃうと運動機能が15%ダウンしちゃうな。ならこっちは如何?9S」

 

「うわ、これは僕も考えつかないプログラムだ。流石、モビルスーツのOSに関わっただけはありますね」

 

「エッヘン!もっと私を尊敬していいんだよ。9Sくん」

 

「はいはい、あっそうだ。良ければ僕の事はナインズって呼んで下さい。親しい人は皆そう呼びますし」

 

「そう?ならナインズも私の事をメイって言っていいよ」

 

「分かりました、メイ」

 

近くまで来た2Bが声をかけようとしたが楽しそうな二人を見て声を掛けるのを躊躇した。

胸の辺りが苦しい感じがしたのだ。

 

 

二人の仲が良いのはとても良いこと。

私がとやかく言う資格なんて無い。

貴方を殺してきた私に……

 

 

2Bの思考はポッド達の緊急通信により遮られる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バンカーから緊急の呼び出しなんて如何したんでしょうね?」

 

「…行けば分かる」

 

緊急通信の内容は急ぎバンカーに戻れという内容に9Sが不思議がる。

何かしらののっぴきならない事態かもと考え二人は飛行ユニットに乗りバンカーへと目指す。

飛行ユニットはアッサリと大気圏を離脱しバンカーを肉眼で確認する。

しかし、バンカーの横には見慣れない物が繋がれていた。

 

「なに?あの緑色のやつ」

 

「あれって、ジオンの補給艦ですよ。確かパプワって名前です。メイの持ってるデータを見せてもらいました」

 

9Sの答えに2Bは「…そう」と答えた。

 

「それにしても、何故バンカーに補給艦が?バンカーの次の補給はまだ先なのに」

 

 

そして二人は補給艦居る場所とは逆の格納庫へと入る。

飛行ユニットから降りた二人は指令の待つ総司令室へと歩くが9Sが何かに反応した。

 

「如何したの?9S」

 

「いえ、何時もは休憩中のオペレータータイプや他の隊員が一人も居ないのが気になって」

 

9Sに言われて2Bも気づく。

普段は休憩の合間に地球を眺めるオペレータータイプや他の隊員同士で喋りあったりしているが戻ってきてからは一人も見かけない。

不思議に思った二人は急ぎ総司令室へと急ぐ。

 

 

 

二人が総司令室へと入り更に驚く。

指令室のなかは、指令と2Bの専属オペレーターの6Oと9Sのオペレーター21Oだけで他の席にはジオン兵が機械にケーブルを繋げパソコンを睨んでいた。

奥を見ると、司令官がジオン兵と話してるのを確認して二人は急いで指令の下へと向かう。

 

「指令!一体これは?」

 

「ああ、来たか二人とも」

 

2Bの声に指令が反応するがその様子は明らかに疲れ切ってる感じだった。

 

「あの…他の隊員は何処いったんでしょうか?オペレータータイプも二人しか居ないし。もしや大規模な作戦でも」

 

「他の隊員か?さぁな。部屋に引き籠ってるかジオンにでも逃げたんじゃないのか?」

 

9Sの気遣いにも指令はアッサリと暴露した。

既に大多数のヨルハ部隊は脱走したか部屋でひたすら引き籠るかのどちらかだ。

仕事をしてるのは、6Oと21O、そして指令だけであった。

 

「に、逃げた!」

 

「そんな、如何して!?まさか先の月面人類会議の放送が!?」

 

「それも一つだが、奴等の最後のプレゼントが後押しになった。お前達も見るか?素敵な内容だったぞ」

 

そう言って、指令は手元のスイッチを押す。

その直後に二人の頭の中に三つのアーカイブの情報が流れ込む。

 

 

一つは【極秘】ヨルハ計画概略。

一つは【極秘】ブラックボックス。

最後の一つが【極秘】ヨルハ部隊廃棄について。

 

「僕達のブラックボックスが機械生命体のコアから出来ている?……嘘だ!?」

「私達は最初から捨てられる為に造られた?……指令、この情報は本当なんですか!?」

 

敵の……機械生命体の罠で自分達を陥れる為の偽情報ではないかと疑う2B。

事実、そうであって欲しいとまで思っていたが、

 

「残念だが本当だ。何度も月面人類会議に問い合わせた」

 

その言葉を聞き終えた直後に二人は床に膝を付ける。

二人の感情は絶望で満ちていた。

事情もよく分からず、かける言葉も見つからないジオン兵はそそくさとその場を離れる。

 

「僕達は人類軍の切り札どころか望まれても居ない…」

「これじゃ私達何の為に……私は何の為に…」

 

「気付いた時にはもう手遅れだった。バンカーに居たヨルハ隊員がアーカイブを読み絶望し、現実逃避で部屋に引き籠るか、守るべき人間にかしづく為にジオンへと逃亡した」

 

アーカイブが配れてからヨルハ部隊はアッサリと壊れてしまった。

信じるものをすべて失った彼等には最早何を信じていいか分からず引き籠るか、全てを捨ててジオンへと逃げるかの二択であった。

自害しないだけ立派とも言えるが無意味に死んでもバンカーで新しく造られる以上無駄とも考えた。

 

「…僕達は…」

「…私達は…」

 

「呆けるのもそこまでだ!9Sお前は直ぐにサーバールームに行きジオンの将校と合流しろ。

時限式のバックドアを作り替えるんだ!如何した!?このままでは最悪機械生命体に乗っ取られるぞ!急げ!」

 

「は、はい!」

 

指令の剣幕に落ち込む9Sも流石に立ち上がりサーバールームへと向かう。

9Sが総司令室から出たのを確認した指令が2Bに視線を向ける。

 

「お前にも話がある。2B…いや『2E』」

 

指令の言葉は今の2Bには到底聞きたくない言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サーバールームに行く為にエレベーターに乗り込む9S。

そして、乗り込んだ直後にエレベーターの床に座る。

 

司令官や上層部が何かを隠してるのは知っていた。

それが知りたかった僕が何度もサーバー潜りこみ2Bに殺されたんだろう。…確証はまだないけど。

自分の事だ。事実、2Bや人間に出会う前にも潜り込んだ事はある。あまり時間が無くて1回だけ。

でも、こんな秘密だったら知りたくなかったな。

皆が逃げ出したのも分かる。

『自分達の存在は誰にも望まれていない』

そんな考えが頭に過るだけでケンにメイにダグラス達に会いたくなる。

人間に会った僕ですらこうなってるんだ。人間に会ったこと無い隊員ならもっとだろう。

でも、僕らは人間に会って良いんだろうか?

僕達のブラックボックスには憎むべき敵である機械生命体のコアが使われている。

これじゃ…

 

「これじゃ、化け物じゃないか」

 

9Sの呟き。

返答も期待してないものだったが、

 

「何が化け物なのかね?少年」

 

声に反応して9Sが前を見る。

エレベーターは既に目的の階に止まり扉も開きやけに貴族っぽい軍服を着た男がこちらを見ていた。

 

「し、失礼しました!司令官より貴方の手伝いをしろと言われた9Sです!」

 

急ぎ立ち上がり敬礼する9S。

みっともない姿を見せてしまったと焦る。

 

「指令から聞いている。私のことはギニアスとでも呼べばいい。ゴホッ!ゴホッ!」

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

突然の咳き込みに9Sが心配し近づこうとしたが傍にいたH型が介抱する。

 

「すまない。だが、今日は調子がいい方だ。早速仕事に入ろう」

 

「は、はい」

 

ギニアスの言葉に9Sもサーバールームへと入る。

そこで彼はもう一人のアンドロイドが居る事に気づく。

 

「801S!?君も此処に?」

 

「ん?9Sか、指令に言われたんだよ」

 

9Sと同じスキャナー型の801Sが居た。

9Sと同じ少年タイプだが髪の色が違い801は黒かった。

 

「君もジオンの将校の手伝いをしろって?」

 

「そう」

 

少し会話した9Sと801Sは早々に切り上げ作業に没頭する。

暫しの静寂の合間にギニアスのパソコンのキーボードの操作恩が響く。

たまに何度かギニアスの咳の音も響く。

 

「あのギニアスさんは体調が悪いんですか?」

 

静寂に耐えられなくなったのかS型ゆえの好奇心か9Sがそう聞いた。

 

「なに、昔事故でね。不治の病というやつだ」

 

その場がシーンと静まり返る。

見れば801Sが「余計な事言いやがって」という顔をしていた。

 

不治の病か。

僕達、アンドロイドにはほぼ無縁だろうな。

 

アンドロイドは生身ではないので病気にも掛からないと考える9S。

論理ウイルスがあるがあれは病気とは言わないだろう。

 

「ところで9S、君もあのアーカイブを見たのかい?」

 

場の空気を変えたかったのか801Sが例の極秘のアーカイブの話をする。

正直、思い出したくもない内容だった9Sは自分がこの空気を作った責任を感じ801Sに「見た」と言った。

 

「いやぁ、今でこそ大分落ち着きましたけど一昨日まで泣き続けてる子までいましたからね。まぁ、その子もジオンに逃げたらしいですけどね。

それに聞きました?あのアーカイブが送られた理由。『もう必要なくなった』かららしいですよ。

それを聞いたとたん僕は泣くよりも呆れて笑いがこみ上げましたよ」

 

801Sの言葉に9Sも更に落ち込む。

 

最早、自分達は造られた当初の目的すら失った。

これが滑稽と言わなければ何が滑稽なのか。

 

「話の内容は分からんが今は手を動かしたまえ。仕掛けられている論理ウイルスが予想より多い。どうやら機械生命体側にとってもバックドアが開くことが筒抜けだったようだ」

 

9Sと801Sの会話にギニアスが釘を刺す。

事実、9Sも801Sも仕掛けられていた論理ウイルスを幾つも潰していた。

 

「……ギニアスさん、少しいいですか?」

 

作業も佳境に入った事を確認した9Sがギニアスに喋りかける。

ギニアスはその言葉に「なんだね?」と言った。

 

「ギニアスさんは僕達のブラックボックスに機械生命体のコアが使われてる事をどう思います?」

 

「…技術者としては興味があるが私は機械生命体の事はたいして知らないから何とも言えん。

だが、一つだけ言えることは敵の技術の流用は決して悪とは言えん。それだけだ」

 

少々素っ気ない言い方だったが、9Sと801Sにはその言葉に救われた気持ちになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バックドアの作業を終えた9Sとギニアスは指令に報告する為に通路を移動する。

801Sはまだ別の作業があったのでサーバールームで別れた。

暫く行くと前方から袖を肩口からカットし胸をはだけさせた軍服を着た男が壁に背を向けている。

アンドロイドではない。

 

「よう、ギニアス。作業は終わったのか?」

 

「…ユーリー・ケラーネか。貴様こそナンパは終わったのか?」

 

「残念だが始まってもいねえよ。どいつもこいつも部屋に閉じ籠って出てくる気配がねえ。

ヨルハは美人ぞろいだって聞いたんだが肩透かしを食らっちまった」

 

ギニアスはユーリーに呆れた眼差しを向けるが本人は如何でもいいのか笑みを浮かべるばかりである。

その様子を見る9Sは密かに感動していた。

過去のアーカイブで見た腐れ縁、また親友同士の会話を実際に自分は見てると判断した。

アンドロイド同士では此処まで会話なんてしない事が多い。

 

「ん?おう、如何した坊主。ギニアスの助手か?何だったら俺の軍団にでも入るか?面倒見てやるぞ」

 

ユーリーが9Sの存在に気づき頭をガシガシと撫でる。

荒っぽい手つきだが9Sは何処か気持ちよさそうでもあった。

 

「その少年がヨルハだ。それより貴様の隊には降下作戦を命じられてた筈だが」

 

「ああ、俺の隊は第三次に組み込まれている。だからまだ時間があるんだよ」

 

ギニアスの問いにユーリーも答える。

それを聞いた9Sが口を開く。

 

「あの降下作戦ってなんですか?」

 

「ん?聞いてないのか?ジオンがもう直ぐ地球に降下するんだ。目標は機械生命体の勢力圏にな」

 

「そんな!?危険すぎます!幾らモビルスーツがあるとはいえ数は圧倒的に機械生命体が上回ってる……」

 

何とか止めようとする9Sだったがユーリーが9Sの肩を掴む。

 

「安心しな、坊主。俺達ジオンはお前さんが思ってる以上に強いぜ。おっとそろそろ時間だな、じゃあなギニアス俺は待たせているコムサイで隊に戻るぜ。アイナちゃんによろしくな」

 

そう言って、その場を離れるユーリー。

それを呆れた目で見るギニアス。

そして、先程とは違って少し暗い表情をする9Sが残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の本当の名は2E。二号機E型。

E型の任務は戦場で動けなくなった仲間の始末。そして、9Sが不正なアクセスでヨルハ計画の秘密を暴こうとする度に彼を始末するのが私の任務。

今迄にも9Sを何度も殺してきた。任務だから、約束だから。

何度も何度も9Sを殺すたびに私の中から大切な何かが零れ落ちる感覚がして辛かった。

でも一番怖いのは9Sを殺す事に何も感じなくなることだ。

その9Sが暴こうとしていたデータはお粗末なものだ。

【極秘】ブラックボックス

【極秘】ヨルハ部隊破棄について

……私はこんな物を守る為に9Sを。

私はもう彼を殺したくない。

人間と会って何か変わるかと思っていた。

でも、指令の口から「2E」と言う言葉が…

ナインズ……

 

 

 

 

「2E、よく聞くんだ。今日よりお前のE型の任を解く。これからはB型として任務を継続しろ」

 

その言葉は2Bには信じられなく待ち望んでいた言葉であった。

 

「し、指令!ならもう私はナインズ…9Sを?」

 

「ああ、もう殺さなくていい。殺す意味もなくなった」

 

その言葉に感極まった2Bは再び床に座り込み泣き出した。

2Bの鳴き声は総司令室を満たす。

司令官はジッと見守り、6Oは「2Bさん」と呟き貰い泣き。

ジオン兵は何事かよくわからずパソコンとの睨み合い。

暫く、泣き続けた2Bもやっと泣き止んだ直後に指令室の扉から9Sとギニアスが戻って来た。

 

「指令、時限式のバックドアのプログラム破棄しました」

 

「新しいバックドアのセットと新しい防御壁を作って置いた暫くは機械生命体も入りずらい筈だ。仮に入れたところで何も出来ん筈だ」

 

9Sとギニアスが指令にそう説明する。

その間、2Bは9Sの事を見ることが出来なかったが説明に夢中の9Sは気付かなかった。

その報告を聞いた指令は「ジオンに依頼して良かった」と呟く。

あのアーカイブのせいで大多数のヨルハ隊員が使えなくなり途方にくれていた指令はイチかバチかでジオン本国サイド3に依頼という形でお願いしたのだ。

 

 

 

 

指令がホッとした瞬間、指令室の巨大なモニターにジオンに国旗と一人の男が映る。

 

「何だ?」

「誰!」

 

いきなりの事で2B達が騒ぐ。

21Oが「地球圏全域に放送されてる」と報告する。

 

「ギレン総帥の宣戦布告か。もうそんな時間が経ったか」

 

一人落ち着くギニアスが腕時計を見つつモニターにも目を移す。

 

 

 

 

 

『機械生命体並びにエイリアン軍に告げる。

私はジオン公国総帥、ギレン・ザビである。

地球は我ら人類の発祥の地である。その様な場所を我が物顔で歩く機械生命体を許しておいてよいのだろうか!?

否!断じて否だ!

機械生命体から地球を取り戻す為、我らジオン公国は機械生命体どもに対し宣戦を布告する!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『宣戦布告だって面白そうだね?』

『アンドロイドより楽しめると良いね』

『でもバンカーは惜しかったね』

『せっかくの蕾も摘まれちゃったね』

 

赤い服の少女が二人が喋りあう。

その直後に少女達は消えた。

 




前の投稿の時より幾つか追加で。

ジオン軍で女好きな軍人がユーリーしか思い浮かばなかった。秘書が愛人だったせいか。
後、ギニアスとユーリーは其処まで仲が悪くない設定です。

今更ですけどネタバレって入れた方が良いんですかね?
ただ、販売されて一年も過ぎてネタバレも何もあったもんじゃないとは思いますが。


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5話

小説とは関係ありませんが、ガンダムの歌の哀・戦士やIGLOOの時空のたもとを聞いてるとニーアオートマタに合いそうな気がすて仕方ありません。



 

宇宙要塞ソロモン。

元は資源採掘用のアステロイドベルトから運ばれた小惑星だったがジオンが地球侵攻用基地として改造。

地球に最も近いジオンの軍事拠点である。

そのソロモン内では現在、アンドロイドとジオン兵士の合同訓練が行われていた。

 

「キャアアア!」

 

アンドロイドの横スレスレの場所にザクの足が通過する。

 

「そこのアンドロイド!何度言えば分かる!?踏み潰されたくなければ、もっとモビルスーツとの距離を開けろ!

それから、そこ!ザクの射線に立つな!撃たれたいのか!?」

 

「ごめんなさい!」

 

指揮をとるジオン兵の怒号にアンドロイドの謝罪の言葉を漏らす。

ジオン兵とアンドロイドの合同訓練はお世辞にも上手くいってるとは言いづらかった。

人間への思慕をプログラムされたアンドロイドはジオン兵に自然と近づきすぎる為に何度もモビルスーツに踏み潰されかけ、訓練の担当しているジオン兵の説教が飛び交う。

最早、ソロモンでも珍しくない光景と化していた。

 

 

その、ソロモンの一室にドズルが報告書らしき紙に目を通しつつ時計を見る。

直後に、一人の軍人が室内へと入る。

 

「お呼びでしょうか?ドズル中将」

 

「おお、来たかランバ・ラル。前置きせず率直に言うがお前に頼みたいことがある」

 

「私にですか?」

 

ドズルが手元のスイッチを押し「入れ」と言う。

直後に、ランバ・ラルが入った扉の逆の扉から数人の女性が入る。

その顔ぶれにランバ・ラルはアンドロイド達だと気付く。

 

「実はな、この者達をお前の部隊に編入したいんだ」

 

「私の隊にですか」

 

「知っていると思うが兄貴もキシリアもアンドロイドの事を物としか見ていない。

第一次降下作戦の指揮官を知っていよう」

 

「確か、マ・クベ大佐でしたか」

 

「そうだ。奴は策略家としては一流かもしれんが人間としては三流もいいところだ。奴にアンドロイド達を渡せば使い潰す可能性が一番高い。俺はそれが不憫でな」

 

「何を仰います、ドズル中将!」

 

今迄、話を聞いていたアンドロイドの一人が横から口を出す。

 

「我々は人類の為に造られた身です。仮にその命令で朽ち果てようとバックアップを取ってる限り我々に死は存在しません。訓練時のデータも既に送っております。バンカーに戻るのは癪ですがジオンの勝利が人類の勝利となるならば私は喜んで…」

 

「データと実戦を一緒にするな!8B。俺は常々生き残る意思を持てと言ってるのだぞ!」

 

ドズルの叱責に8Bと呼ばれたアンドロイドが目に見えて落ち込んでいた。

その姿に危うさを感じつつも共に戦うのも悪くないとも思った。

 

「了解しました。アンドロイド達をランバ・ラル隊に編入します」

 

その言葉にドズルも「おお、やってくれるか!」と喜び、アンドロイド達もランバ・ラルに向け敬礼する。

 

「8B以下、アンドロイド部隊はランバ・ラル隊に編入いたします」

 

8Bの敬礼に続き他のアンドロイド達も敬礼する。

その姿を見てランバ・ラルは一つ心配事があった。

 

ハモンに如何説明するべきか…。

 

アンドロイドとは言え若い女性が増えることにランバ・ラルの背中に冷や汗が流れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大気圏外上空。

何隻も集まるジオン軍の戦艦及びHLV。

何時でも大気圏に突入出来る様にしつつ艦内でギレンが作戦の説明に入っていた。

 

『我が軍はこれより、第一次降下作戦に入る。

目標はカスピ海、黒海沿岸。多少地形は変わってるがこの周辺だ。

目的はこの辺り一帯の地下資源の確保にある。

また、来るべきヨーロッパ、中東侵攻作戦に置いてもこの辺り一帯の制圧は必要不可欠だ。

今こそ、地上に居る機械どもに我らジオンの強さ思い知らせてやるのだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、嘗てオデッサと呼ばれた地域では機械生命体達が何時もと変わらず作業に没頭していた。

しかし、上空より大質量の何かが降りてくる事にレーダーが感知しネットワークで全ての機械生命体へと連絡される。

 

珍しいな。

その日、「私」は珍しい事もあるものだと思った。

この地をアンドロイド達から奪った時からすでに千年は過ぎている。

それ以降、ユーラシアと呼ばれた大陸からアンドロイド達を追い出す事に時間は掛からなかった。

現在、アンドロイド達が活発に動いてる場所は「昼の国」と呼ばれる太陽に照らされてる地域で「夜の国」呼ばれるこの地にアンドロイドが降下するのは私の持つ記録にもない。

しかし、バカなアンドロイドだ。

先日も、昼の国での降下中に狙撃され大ダメージを受けたものを。

すでにその情報は我々の中に共有されている。

同胞である大型の機械生命体が砲撃を撃つ形態に変形し上空へと砲身を向けている。

次の瞬間には撃たれるが私は少し不思議に思った。

最近、アンドロイド達が使う降下ユニットと呼ばれる物ではない。もっと大きい物が降下していた。

今更、アンドロイド達がそんな物を使うのかとも思うが如何でもいいだろう。

大型の機械生命体の砲撃が命中して爆発四散した物が上空から降ってくる。

降下する物体全てを砲撃で撃ち落とした以上破片が降ってくる。上空を気にしなければなと私は作業に戻ろうとおもう。

………?おかしい、ネットワークが次々と寸断されている。

 

 

 

 

「マ・クベ大佐!先に降下させたHLVが上空で全て撃墜されました。繰り返します、先に降下させたHLVが全て上空で撃墜」

 

部下の報告にマ・クベは笑みを浮かべる。

 

「連中はエサに掛かった。全軍に通達!我々はこれより降下作戦に入る。全軍降下せよ」

 

マ・クベの命令を皮切りにHLV及びコムサイが大気圏へと突入する。

 

 

 

 

 

 

 

 

やられた。

ネットワークが寸断されると同時に本命を送って来た。

対応の遅れた我々は仕方なく迎撃しようとするがネットワークの繋がってない我々では連携も碌に出来ない。

時間を掛ければいい。戦争に勝利する為に本質的に必要なのは時間だ。

時間さえあれば自己修復と増産で何れは此方の数が圧倒する。

そうなれば後は数で押しつぶせばいい。その筈だったのに…

 

「ピギャグゲーーーー!!」

 

今、私の隣に居た同胞が木端微塵となった。あれでは自己修復も出来ない。

それにして、アンドロイドの連中は何時の間にエンゲルス並みのアンドロイドを作り出したんだ!?

このままでは駆逐されるのは我々の方ではないか!

せめて、ネットワークさえ繋がっていればこの情報を他の奴に……!

 

巨大な…マシンガンの…弾が私の体を…「コア」にも…ダメージが…私も…ここまでか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嘗て、オデッサと呼ばれた地域は激戦に包まれていた。

ザクのマシンガンが複数の機械生命体を、バズーカが機械生命体の戦車を、大型の機械生命体はヒートホークが、対する機械生命体も何とか反撃しようとするがネットワークが潰された事で連携のしようもない。

会話をしようにも戦闘音で碌に伝わらない。伝わっても何を言ってるのか分からない。など問題が山積みだった。

せめて、ネットワークが切れたのがもっと前ならコミュニケーションの取りようもあったが、それを許すジオンではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「…凄い」

 

8B達は茫然としていた。

本来ならモビルスーツの撃ち漏らした機械生命体の駆逐が彼女隊の任務だったが、統率の取れなくなった機械生命体はなす術もなくザクの蹂躙を受ける。

最も、自分達も通信機能の一切が使えなくなったが。

 

「モビルスーツがここまでの性能なんて…」

 

「か、勝てる。隊長、この戦い勝てますよ!」

 

22Bの言葉に8Bも頷く。

まだ、バンカーで戦っていたころ多数の機械生命体と戦闘を何度も体験したりデータで見たりしていたが目の前にはそれまで以上の数の機械生命体が次々と鉄屑へと変わる光景は凄かった。

 

「これなら、機械生命体どもから地球を取り戻すのも夢じゃない」

 

アンドロイドと機械生命体の戦争は既に数千年は過ぎている。

終わりの見えない戦い。常に増え続ける機械生命体。それに絶望して全てを捨てて逃げ出すアンドロイド達も居た。

その状況を好転させる為に自分達「ヨルハ機体」が造られた筈だった。

だが、その情報は嘘だった。

私達は、時間稼ぎ兼月に人類が居ると思わせる為の廃棄される事が生まれる前から決まっていた哀れなピエロだった。……いや、その役目すら失った私達はピエロ以下だろう。

何もかも捨てて逃げ出した。

生まれた場所、バンカーを捨てた私達は自然にジオンへと集まった。

初めて見る人間は私達の事を警戒して銃を向けていたのは少しショックだったが、それ以上に人間に会えた事の嬉しさに比べれば些細な事だ。

その後、ギレン閣下と10Hの放送で人間たちの…ジオン兵の警戒もとれて私達は受け入れられた。

訓練は大変だけでバンカーに居た時に比べれば充実してると私達は思う。

 

「隊長、ラル大隊長から数体の機械生命体が此方に向かってるようです。迎撃せよとの命令です」

 

それを聞いて私は部下達と共に前に出る。

願わくば誰一人欠ける事無く戦闘を終わらしたいとこだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マ・クベ大佐、各部隊の進撃は順調です。一部の機械生命体が敗走を開始してるという情報もあります」

 

「ふむ、この地に居る機械生命体は出来るだけ叩く必要がある。『ミノフスキー粒子』の情報も持ってかれても困るからな」

 

ミノフスキー粒子。

嘗て、ジオン公国に居た物理学者トレノフ・Y・ミノフスキーにより発見された粒子。

散布することにより電波障害を起こして無線機やレーダーなどの電子機器の無力化できる粒子。

ジオンが連邦との戦争の為の切り札の一つだった。

 

マ・クベは、このミノフスキー粒子をHLVに詰めて撃墜された時にばら撒くよう細工をしていた。

その策力は見事に成功し機械生命体はHLVを撃墜し機械生命体のネットワークを切断した。

全ては、ヨルハ部隊の第243次降下作戦報告書の内容に目を付けたマ・クベの策略だった。

 

「ドップ及び戦闘ヘリ部隊に敗走する敵を叩かせよ」

 

「ハッ!」

 

マ・クベの命令に待機していたドップと戦闘ヘリが一斉に飛び立つ。

目標は逃げる敵。

これによって逃げ出した機械生命体の半分は破壊されつくす。

 

「大佐、敵部隊の壊滅を確認!間も無く敵の掃討戦に移行するかと」

 

「フフフ、戦いとは駆け引きなのだよ。機械共に駆け引きはまだ早かったようだな」

 

勝利を確信したマ・クベは笑みを浮かべる。

しかし、通信士の声がマ・クベの余韻を吹き飛ばす。

 

「ルッグン偵察隊より緊急、北西と南西より例の超大型機械生命体を確認!此方に近づいているようです」

 

「第三モビルスーツ部隊より緊急!地面より超大型機械生命体が現れたようです!」

 

「北西と南西はともかく、地下からの奇襲か。機械も案外やるようだ。第三モビルスーツ隊にはシャアが居たな。そのまま当たらせろ。北西にはランバ・ラルの隊、南西にはガイア中尉を向かわせろ」

 

マ・クベの命令は即座に各部隊に発令される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわあああああああああああああ!!!!」

 

ジオン兵の叫びとともにザクが煙を上げ倒れる。

超大型機械生命体の採掘機の様な腕にザクが殴られたのだ。

 

「ええい!よくもジーンを!」

 

部下の一人がやられた事に超大型機械生命体に向けザクマシンガンを撃つ。

しかし、超大型機械生命体は構わず標的を別にして再び採掘機の様な腕で殴り掛かる。

だが、突如殴り掛かった超大型機械生命体の腕が爆発し超大型機械生命体自体も怯む。

そこへ赤く塗られたザクが近づく。

赤いザクの持つバズーカから煙が上がる

バズーカの弾が超大型機械生命体の腕に命中していたのだ。

 

「落ち着けデニム。ジーンはアンドロイドが回収した」

 

赤いザクのパイロットの言葉に倒れたザクの周辺を見るとコックピットの出入り口を抉じ開けたアンドロイドがパイロットを抱えながらHLVへと戻って行く。

デニムがホッとする。

 

「デニム、お前も一旦補給に戻れ。ジーンのザクも引き摺ってでも持っていくんだ。機械生命体とやらに奪われたら面倒な事になる」

 

その言葉に頷き、倒れたザクへと近寄りHLVへと引き摺って行く。

それを確認した赤いザクのパイロットが超大型機械生命体へと向き直る。

超大型機械生命体は腕の採掘機のバケットホイールを回転させながら「コロス」と言いながら近づいてくる。

 

「マ・クベの奴め、面倒な命令を押し付けられたもんだ。スレンダー、私がこいつの相手をする。援護を頼むぞ」

 

「了解!」

 

「見せて貰おうか機械生命体の実力とやらを」

 

赤いザクが超大型機械生命体へブースターを吹かせ一気に近づく。

超大型機械生命体が腕を振りザクを攻撃しようとヒートホークで腕の採掘機を弾く。

腕を弾かれた超大型機械生命体は後ろへと2歩程下がる。

赤いザクのパイロットはその隙を見逃さず超大型機械生命体の顔をザクの蹴りが襲う。

蹴られた超大型機械生命体の目から赤い光が消えて停止した。

 

「ん?思いの他脆いな」

 

「自分は援護を殆どしてませんよ」

 

超大型機械生命体が停止したことで後方で援護を命令されたザクが近づく。

しかし、次の瞬間超大型機械生命体の目が赤く輝き口の部分が開く。

 

「!避けろ、スレンダー!」

 

嫌な予感がした赤いザクのパイロットが部下に避けろと言う。

その言葉に反応するが超大型機械生命体の放ったレーザーがザクの足を持っていく。

 

「うわあああ!!シャア中尉、自分はあんな兵器見たことありません!!」

 

「この威力、戦艦の主砲並みか。直撃すればザクも只ではすまんな。なら、早々に潰すだけだ!」

 

そう言って、赤いザクのパイロット…シャアはブースターを吹かし一気に超大型機械生命体へと接近する。

再び、レーザーを撃とうとした超大型機械生命体だったがその動きに慌ててレーザーを撃つがその場所には既に赤いザクは無くレーザーは誰も居ない場所を素通りする。

その隙を逃がさなかったシャアは超大型機械生命体の懐へと潜り胴体に一撃二撃とヒートホークが斬りつける。

しかし、致命傷には至らず超大型機械生命体が両腕でシャアへと攻撃しようとするが、それよりも、一瞬早くシャアは再び超大型機械生命体にザクの蹴りを入れる。

蹴られた場所がヒートホークで切り裂かれた所だった所為か地面に仰向けに倒れる。

再び、超大型機械生命体の赤い目が消えるがシャアはスレンダーのザクからクラッカー(モビルスーツ用の手榴弾)を取りヒートホークとザクの蹴りで開いた超大型機械生命体の胴にクラッカーを入れ残っていたザクマシンガンの弾を叩きこみブースターを吹かしてジャンプし距離を開ける。

その直後に超大型機械生命体の体は爆発炎上しそのまま四散する。

 

「こちら、シャア・アズナブル。機械生命体の撃破に成功した」

 

司令部に超大型機械生命体の撃破を告げ倒れているスレンダーのザクを引っ張る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「オルテガ、マッシュ。奴にジェットストリームアタックを仕掛けるぞ!」

 

「へへへ、奴さんに見せてやろうぜ。黒い三連星の実力を」

 

「黒い三連星の伝説が今始まるぜ」

 

超大型機械生命体がレーザーを撃ち前方から来る黒いザクを攻撃する。

レーザーが迫る中、ザクがブースターを噴きアッサリと回避する。

その時、超大型機械生命体は一瞬混乱した。

1機のモビルスーツだと思ったザクが3機に増えた。

いや、最初から3機いて1機に見せかけてただけだった。

ネットワークが絶たれセンサーも役に立たない現状、慣れない目視での戦闘を余儀なくされた超大型機械生命体の動きが鈍る。

それを、見逃す程三連星も甘くなく、三連星の撃つバズーカが次々と命中し、接近されヒートホークが超大型機械生命体の両腕を切り落とし、至近距離からのバズーカを受け超大型機械生命体は爆発炎上する。

 

「戦士の魂よ、宇宙にとんで永遠の喜びの中に漂い給え」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アコース、コズン奴の足を潰せ!あれだけの巨体だ。足に掛かる負担も大きい筈だ」

 

「「了解!」」

 

3機のザクが超大型機械生命体の足を撃つ。

超大型機械生命体もレーザーやミサイルで反撃しようとするが8B達アンドロイドが飛行ユニットを使って邪魔をする。

 

「8B、無茶はするな!お前の役目は囮だ。無理に攻撃せず逃げに徹しろ」

 

「了解です。ラル大隊長」

 

ランバ・ラル隊とアンドロイド達の動きに超大型機械生命体も戸惑う。

今迄にも、多数のアンドロイドを殺してきたが今のような動きをするアンドロイドは初めてであった。

そこまで考えた超大型機械生命体であったが次の瞬間には両足を破壊され腕で動こうとしたが両腕も破壊されダルマ状態にされる。

 

「よし、口の向きに注意すれば鹵獲も可能だろう。司令部に報告を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大佐、シャア中尉とガイア中尉より報告。例の超大型機械生命体の撃破に成功。それからランバ・ラル隊より超大型機械生命体の鹵獲に成功とのことです」

 

「撃破はともかく鹵獲か。仕方あるまい、本国より技師を送り込んでもらうか。それで、他の機械生命体の動きは」

 

「…ありません。周辺に機械生命体の影なし。周辺にも此方に来る機械生命体は居ないとの事です」

 

「勝ったか、よし大気圏上空で待機させている資材を降下させよ。急げよ、何時、機械生命体が態勢を立て直すか分からんぞ。モビルスーツの補給と疲れてるパイロットに休息を与えろ」

 

 

オデッサの戦いはこうして終息した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レジスタンスキャンプ。

バンカーから戻った2Bと9Sは相も変わらずレジスタンスやジオン兵の依頼を受け仕事をしていた。

そして、今日も前に頼まれた資材集めの為に部屋をでる。

そこで2B達は簡易休息所に人だかりが出来てる事に気づき近づく。

そこにはアネモネも居たので2B達が話かける。

 

「アネモネ、この人だかり如何したの?」

 

「ん?ああ、今テレビのアンテナを設置しているんだ。上手くいけばサイド3の放送が聞けるかもしれないからな」

 

アネモネの言う通り皆の視線はテレビとアンテナを設置するメイとアンドロイドのジャッカスに注がれていた。

 

「動くテレビなんてよく見つけましたね」

 

「修理したからな。そろそろ映ると思うんだが」

 

その言葉通りテレビの画面が映る。

内容は丁度、ギレン・ザビの演説の様子だった。

 

『我ら、ジオン軍の前では数に勝る機械生命体どもすら烏合の衆に過ぎないのである!』

 

突然の演説ではあったがその後にオデッサ戦の様子が荒いながらも映し出されその場にいたアンドロイド達が盛り上がる。

中には「ジークジオン!」とまで叫びだすアンドロイドも出てきた。

 

「…ジークジオン」

 

2Bも初めて「人類に栄光あれ」以外のスローガンを口にする。

ジオンの出現以前は辛い言葉でもあったが今なら胸を張って言える気がした。

だが、2Bは気付かない。9Sが複雑な表情でテレビを見てる事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新しく造られた月面基地。

月の資源採掘拠点とモビルスーツ工場を兼ね備えたジオン軍基地。

その一室にキシリアがマ・クベと通信をとっていた。

 

「オデッサの制圧が完了したようだな」

 

『はい、資源採掘基地の建造に暫くは掛かるかと』

 

「仕方あるまい。機械生命体どもの基地では勝手が違う。だが一部が流用出来るなら御の字だろう」

 

『何しろ、機械生命体と我々では色々規格が違います。それを書き換えるだけでも二週間はかかるかと』

 

「間も無く第二次及び第三次降下作戦が発動する。悠長に構えられんのが実情か。それで、アンドロイド達の働きは如何だった?」

 

『まあまあと言ったとこでしょう。此方の寝首を搔くそぶりもありませんでした。同胞として迎えてもよろしいかと。詳しい事は書類に書いてますので』

 

通信が切れ、キシリアはマ・クベの送って来た書類に目を通す。

そこには、「ミノフスキー粒子下でのアンドロイドの動き」と書かれていた。

 

 

 




これにて向こうで書いた内容はだいたい書きました。ただ、5話に至ってはミスって速攻で消してしまったので誰に読まれなかったと思いますが。

HLVにミノフスキー粒子を詰めるうんぬんは適当で。
戦艦でミノフスキー粒子を散布できる以上そういう技術はあるでしょう。…多分。

後、出来るだけでいいので感想お願いします。
感想が無いと本当に読んで貰ってるのか不安になってきます。


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6話

 

ジオン公国の地球侵攻作戦が始まって早3か月。

ジオンの降下作戦によりオデッサ、ジャブロー、中部アフリカの占領に成功する。

この戦果にアンドロイド達も大いに士気を上げる事になる。

 

 

サイド3。

政庁の執務室に二人の男が話をしていた。

ギレンとドズルだった。

 

「地球侵攻作戦の初期目的であるオデッサ、ジャブロー、中部アフリカの制圧は完了した。引き続き地球侵攻作戦を進める」

 

「だが、兄貴。戦いを長引かせるのは良くない。兵達の中には宇宙に帰りたがってる者も出始めている。今なら、兵達やアンドロイド達の士気も高い。先にエイリアン共の本拠地を叩くべきだ!」

 

「…その本拠地が何処にあるのか分かってるのか?ドズル」

 

ギレンの言葉にドズルも苦虫を嚙み潰したような顔をする。

エイリアンの本拠地の場所なぞアンドロイド達すら掴んでいなかった。

それどころか複数のエイリアンシップも確認されてる事から本拠地が複数あるのではとも考えられる。

 

すると、モニターからキシリアが映し出される。

 

『機械生命体の対応も想定以上です。最早、大気圏外からの降下ですら不可能と言えます』

 

「それだけじゃないぞ兄貴、機械共の大規模なEMP爆弾によって第三次に参加していたアンドロイド達の半数が被害を受けた」

 

第一次降下作戦後、機械生命体達は上空への弾幕を厚くしミノフスキー粒子下の中でも連携する個体も現れ第三次に至っては大規模なEMP爆弾と論理ウイルスのコンボに一部のモビルスーツ部隊が暴走するアンドロイドを鎮圧する始末。

その所為もあり第三次降下作戦は成功したが予定時間を大幅に過ぎていた。

 

『それから占領地に何時の間にか紛れ込んでる機械生命体も厄介ですな。大人しいものから暴れるものまでいて兵達も対応に精一杯だそうですが』

 

機械生命体の神出鬼没さもジオン軍の悩みの一つでもあった。

普通の歩兵では小型でも取り押さえるのに数人がかりであり、アンドロイドだけに任せると何時の間にか論理ウイルスに感染してる事もあった。

 

「それについては今後の対策が必要であろう。それでキシリア、例の捕獲した機械生命体の調査は終わったのか?」

 

『それについては勿論。ただデータを引き出しても製造番号や製造年月日位しか分かりません。ああ、ですが正式名称は判明しました。「エンゲルス型要塞破壊合体可変歩兵」っだそうです。

それから、機械生命体のコアですが中々のものでしたよ』

 

モニターに機械生命体のコアとエネルギー量が映し出される。

 

「ほう、これは……植物細胞だと」

 

「かなりの高エネルギーだな。ヨルハのアンドロイドがこれを流用したのも分かる。…キシリア、ジオンでもこのコアは作れるか?」

 

『科学者の意見では時間を掛ければ可能かと。ただ、現状では核融合炉の方が生産性もコストも上だそうです』

 

「そうか…」

 

キシリアの言葉にドズルが残念がる。

 

「とにかく戦いは長期戦を覚悟すべきだろう。新型のモビルスーツも開発も順調だ。先日出来上がった機体も戦果を上げている」

 

「グフか、対超大型…エンゲルスだったか。それ様に調整された近接特化型だな。既に幾つものエンゲルスを撃破してるな」

 

『機械生命体もエンゲルス型を量産してるようですね。此方で確認したのもいれると優に50は超えてますね』

 

「今迄、製造した奴を出してるのか更に製造してるのかは知らんが超大型機械生命体の対策としては十分だろう。問題は小型の空を飛ぶ機械生命体だな」

 

飛行型の機械生命体は空を飛ぶだけでなく他の機械生命体を牽引し運べる。

2~3機で機械生命体の戦車すら運べることからジオンでも要注意と目されていた。

 

『ドップ部隊並びアンドロイドの飛行ユニットで潰してはいますが、生産速度が速いのかほぼいたちごっこですな』

 

「大型の飛行艇も厄介だぞ。ドップとアンドロイドの飛行ユニットで撃退は出来てるが数が出てくると面倒な事になる。今、開発しているガウを一刻も早く戦線に投入すべきだろ」

 

それを聞いて一瞬考えこむギレン。

 

「一通り試験を終えてはいるが…まあ良かろう。データを地上に送る、来週中には生産が始まるだろう」

 

「だが、やはり長期戦となると兵達の士気がな…」

 

「それについては妙案がある。見ろ、キシリアにはもう伝えてある」

 

ドズルが渡された一枚の書類を見る。

目を通していく内にドズルの目が血走り、書類を持つ手も震えだす。

遂に、ドズルが書類をテーブルに叩きつける。

 

「兄貴!これは一体如何いう事だ!!」

 

「落ち着け、ドズル。これが一番兵達の士気があがる方法だ」

 

「だからと言って、『ガルマ』を地球に送る事は無いだろう!ガルマは何れ、俺さえ使いこなせる将軍になれる器なんだぞ」

 

ガルマ・ザビ。

ギレン達の末弟でありドズルやデギンが将来を期待する男。

 

『その為にも地球に行きたいんです。ドズル兄さん』

 

別のモニターに若い男が映る。

ガルマ・ザビだった。

 

『私の同期は皆戦場に行っています。このまま何もしないではザビ家の沽券にも係わります』

 

「沽券なんぞ如何だっていい!お前が焦る必要はない!親父だって黙ってないぞ」

 

『父上なら私が説得しました。それに私は早く経験を積んで兄さんや姉さん達を支えたいんです』

 

その言葉に、ドズルが言葉が詰まり涙を流す。

 

「お前の負けだドズル。ガルマには外人部隊の居る昼の国に着任させる。そこで地球方面軍司令官として経験をつませる」

 

「分かった、ならせめて一緒に連れて行く部下は俺が選ばせてくれ。

ここは、アナベル・ガトーとその部下のカリウスに行かせるか、将来有望でガルマの友になれるかもしれんぞ」

 

『ふむ、なら私からも部下をガルマにつけましょう』

 

今迄、話を聞いていたキシリアが口を開く。

 

「おお、キシリア。お前もか」

 

『キシリア姉さん…』

 

『なあに、忠誠心だけはあります。きっとガルマの役に立つでしょう』

 

それを聞いたギレンは内心「厄介払いする気だな」と気付いた。

そこで、ギレンはもう一枚の書類に目線を移す。

書類の内容にギレンが笑みをこぼした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西暦11945年〇月×日。

僕達、ジオンがこの宇宙に来て、早3か月。

最初は驚くことばかりだった。他のコロニーは消え地球連邦も存在しないこの宇宙。

地球には機械生命体と呼ばれる鉄の住人達がおりこの世界の人間は滅んでいた。

そう、人類はジオン公国の人間しか居ない、少し寂しい宇宙だった。

だけど、僕達は孤独じゃない。この世界の人類が残したアンドロイド達が僕達に協力してくれた。

そして、ジオンはそのアンドロイド達のデータを使い自分達でアンドロイドを作ろうとしている。

それは果たして僕達に何を齎すのか?それはまだ誰にも分からなかった。

 

 

 

隕石が多数ある暗礁宙域。

そこでは3機のザクが隕石を避けつつブースターを吹かし速度を上げる。

移動する途中で隕石の中に点滅する機械を発見すると3機のザクが武装を手に次々と撃ち落としていく。

そして最後の一つを破壊して3機のザクは動きを止めた。

 

「此方、P1。目標の破壊に成功した」

 

1機のザクのパイロットが通信機にそう報告する。

その声は、まだ成人してない少年らしき声であった。

直後に、通信機から『了解』と返信がきた。

 

 

暗礁宙域から少し離れた宙域に一隻のムサイとムサイより色の濃い艦があった。

ジオン軍が徴用して技術本部所属となった『第603技術試験隊』の母艦となったヨーツンヘイムだ。

 

「良し、よく聞くんだ。P1、P2、P3、一旦戻って模擬弾を装着後別動隊のザク小隊との模擬戦を行う。どちらかが全滅判定が出るまで戦闘を行う。以上だ」

 

ヨーツンヘイムに乗っていた金髪の男の言葉に「了解」と返答がきて3機のザクがヨーツンヘイムへと戻る。

その様子に男がホッと息を吐く。

 

「反応速度としては一般兵と早々変わらないわね。これならまだ一般兵を鍛えた方がマシね」

 

傍らに居た赤い軍服を着た女性兵士が言い捨てる。

 

「しかし、一般兵では鍛えるのに時間がかかります。彼等ならデータをインストールするだけで一般兵並みに戦えることを考えると短期間で数を揃えられる」

 

「数だけ揃えても腕がヘッポコでは…量産するからにはもっと経験をつませる必要があるわね」

 

「そもそもとして、何故アンドロイド達の見た目が子供なのかが私は気になるがね」

 

横から口を挟んだ白髪の男、艦長のマルティン・プロホノウの言葉に二人が口黙る。

マルティンがアンドロイドの詳細を書かれた書類を見て溜息を零す。

書類には貼られてるアンドロイドの姿がどれも子供に見えたからだ。

 

「総帥府の決定です。大人と子供では使う物資の量も違ってきますし、地球降下作戦が成功しても総帥府としては節約がしたいんです」

 

「とは言え、我々の任務が子守だけではないと思いたいが」

 

モニターには6機のザクが二つのチームに分かれて戦っていた。

次々と撃墜判定が出され最後に残ったザクはムサイのザクだった。

 

「全滅判定ね。まだまだ量産するには程遠いわね」

 

アンドロイドの乗ったザクの全滅に女…モニク・キャディラック特務大尉が残念そうに言う。

これに対して男…オリヴァー・マイ技術中尉が反論する。

 

「確かに全滅はしましたけど、チームの動きは悪くありませんよ。より経験をつめば強いパイロットにだって…」

 

「まあ、時間はあるんだ。このままヨーツンヘイムはアンドロイドのパイロットを試験すればよいのだな」

 

二人の話を断ち切った艦長がそうしめる。

直後に、ブリッジに3人の人間が入って来た。

一見子供に見えるがアンドロイド達だった。

 

「オリヴァー・マイ中尉、P1及び二名。報告に上がりました」

 

「そうか、ご苦労P1」

 

オリヴァー・マイの目前に一見少年少女に見えるアンドロイドが並ぶ。

 

表情が乏しいがジッと此方を見つめる少年タイプ。

髪は白髪で瞳の色が青く見える。

以前、データで見たヨルハの9Sがモデルかと考えるオリヴァー・マイ。

言うなれば、ジオン一号P型と言ったとこか。

 

もう一人は、P1と同じく表情が乏しい少女タイプだった。

髪も瞳の色も同じであり他人が見れば双子かと間違われるほどである。

こちらは、二号P型と言う。

 

最後の一人も少女であったがP1、P2と比べ表情があった。

此方は、金髪と茶色の瞳に口元にホクロが付けられていた。技術部の趣味だろうか?

三号P型の名がある。

 

地上のアンドロイド及び、月やソロモンにまで来たアンドロイド達を徹底調査し彼らが生まれたのだ。

まだ、試作品である3体だけだが実戦データ次第で直ぐにでも量産体制に入れるだろう。

 

「ねえ、中尉。今日の試験は終わったの?」

 

P3の言葉にオリヴァーが答える。

 

「ああ、今日はもう終わりだ。暫くは休んでていいぞ」

 

その言葉に、P3が「やったー」と言う。

 

「じゃあ、P1P2お部屋に帰ってゲームをしようよ。今日は負けないんだから」

 

「P3、僕達はまだ中尉に報告が…」

 

「そんなの後でいいじゃない。ほら行くよ」

 

そう言って、P3は二人の手を引っ張ってブリッジを後にした。

暫しの静寂がブリッジを包む。

 

「やれやれ、相変わらずP3は騒がしいな」

 

「まったくですね。”そういったプログラムはつけてない”んですが」

 

そう、P3もP1やP2と同じプログラムで造られた筈であった。

しかし、P3だけが感情を獲得していたのだ。

 

「考えられるのはヨルハから提供されたブラックボックスですかね?」

 

月面人類会議より全てを任された事によりヨルハからブラックボックスをサンプルとして渡されある程度調べ終わるとブラックボックスはP3の動力として使われた。P1、P2は普通のアンドロイドの動力源(ジオン製)を使っていた。

実験も兼ねていたとはいえP3だけが感情を獲得した事により、技術部も注目していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「2B、遅いな」

 

場所は移り元レジスタンスキャンプ現ジオン軍昼の国拠点。

前より大分広くなった元キャンプではアンドロイドとジオン兵が忙しなく動いていた。

9S達は先日にアネモネから行方不明になっているレジスタンスのアンドロイドの捜索する事になっていたが2Bが所用で遅れており9S一人だけだった。

 

「暇だな」

 

『提案;情報収集』

 

9Sの言葉にポッドが反応する。

9Sに限らずスキャナー型のアンドロイドは暇が大の苦手であった。

2Bを待つまでの間、何か面白い物はないかと辺りを見回す。

そこで、テレビのある簡易休息所が目に入る。

以前よりかは減ったが、まだ何人ものアンドロイドがテレビを見ているようだった。

どうせ暇だしということで9Sも簡易休息所に足を延ばす。

そこで、ジオンのパイロットスーツを着ている知り合いを見つけ近寄る。

 

「ジェイクさん、こんなところで一人でいるんですか?」

 

「ん、9Sか。隊長が新型の点検をして暇だから此処に来たんだよ」

 

「新型…ですか」

 

各地でのモビルスーツの活躍は9Sの耳にも入っている。

特に第三次降下作戦のアフリカ戦では多数のアンドロイドが論理ウイルスにやられた事を考える。

 

僕達は何やってるんだろ?

人類の代わりに戦って勝利するのが僕たちの使命なのに現実は僕達アンドロイドは大して役に立っても居ない。

もし僕がアフリカ戦に居れば……止めておこう。言い訳したって空しいだけだ。

 

「如何かしたか?9S」

 

急に喋らなくなった9Sにジェイクが心配する。

その言葉にハッとした9Sが「大丈夫です」と言う。

 

「そうか、ならいいんだけどな」

 

会話しずらくなった二人がテレビの方を見る。

テレビではニュースをやっておりサイド3の事件から地球降下作戦の戦況なども話していた。

そこで、画面に若い男が映りニュースキャスターの声が一際大きく聞こえる。

 

『この度、総督府より素晴らしい情報が入りました。ザビ家の御曹司、皆さんご存知のガルマ様が地球方面軍司令官に任命されました。ご存知の通りガルマ様は士官学校を首席で卒業し……』

 

テレビの情報からガルマを褒める言葉が次々と出、それを聞いていたアンドロイド達も一々「おおお」と声を出す。

 

「うへえ、ザビ家のお坊ちゃまがくるのかよ」

 

ジェイクさんが嫌そうな顔で呟いた言葉に興味が湧いた。

 

「ジェイクさん、ザビ家っていうのは?」

 

「ザビ家ってのは、今サイド3を支配してる一族だ」

 

「一族…そういえば総帥もザビでしたね」

 

「そう、総帥が長男、他に兄弟が居てガルマ・ザビが末っ子だ。色男で国民にも人気があるんだが俺はあまり好かないな」

 

「そうなんですか…」

 

色男、以前アーカイブで読んだことがある。

異性にモテる人気者。一人の色男を巡って事件にもなった事があるらしい。

2Bもこういうタイプが好きなのかな?

……虚しくなってきた。

 

頭の中でガルマと2Bがデートしたりキスしてる想像をして落ち込む9S。

その9Sの背後から2Bの声がした。

 

「準備は終わったよ、9S。…どうしたの」

 

所用を終えた2Bが9Sに声をかけるが元気が無い事に気づき聞いた。

それに対して9Sは「何でもない」と答え2Bの手を引っ張り出入り口に急ぐ。

まるで2Bにテレビを見せたくないように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最近にぃちゃんのようすがおかしい。

俺と話しててもどこかつまらなそうだった。

本当はわかってる。にぃちゃんはジオンの人間に夢中なんだ。

今も箱の中の眉無しの話に夢中だった。

 

『我ら、ジオン軍の前では数に勝る機械生命体どもすら烏合の衆にすぎないのである!ジークジオン』

 

「なぁ…にぃちゃん。同じ内容に飽きてこない?」

 

「イブ、お前には分からないのか?この素晴らしさが、記録の上でしか居なかった人間がこうして目の前にいるんだぞ」

 

「だからって、俺との約束を破って一人だけで人間を見に行くのは止めてよ。寂しいよ」

 

「…そうか、それは悪かったなイブ。なら今度は一緒に行くとしよう、生の人間を見ればきっとお前も気に入る筈だ」

 

にぃちゃんは人間に夢中だ。

俺は、にぃちゃんと遊びたいだけなのに。

にぃちゃんと一緒なら「人間ごっこ」もやるしなんだったら「ジオンごっこ」もやるよ。

だから、にぃちゃん。俺を一人にしないでよ。もっと、俺にかまってよ。

にぃちゃん。

 

「…ふむ、決めたぞイブ。彼等を此処に招待しよう。そうだなその為には…」

 

でも俺、にぃちゃんの嬉しそうな姿を見るのも好きだ。

人間はあまり好きじゃない事をにぃちゃんが知ったら怒るかな。

 

 

 




あまりイベントも無いので第二次、第三次降下作戦カットで。
ただ、第二次降下作戦の場所を変更して資源がよりありそうなジャブローに。

因みに、ジオン製アンドロイドのPはパイロットのPで。英語わからないから合ってるかは知りませんが。
ニーアに出てくるP-33のPって何のPなんでしょうね。

キシリアがガルマに送る部下は誰でしょう?
…クイズのつもりは無いですが気軽に予想してもらえれば楽しいかと。


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7話

 

太陽の届かぬ闇が支配する地域。

機械生命体やアンドロイドが此処を夜の国と言う。

月あかりも僅かに辺りには赤い光が満ちる。

機械生命体の目の光だ。

その数から、夥しい程機械生命体が蠢いていた。

爆炎が辺りを一瞬照らす。

複数の機械生命体が破壊された。

空からも複数の光がはしると共に機械生命体側から爆発が起きる。

 

「此方、ドップ第7部隊。攻撃に成功、繰り返す攻撃に成功。敵、機械生命体が一部混乱を起こしてる」

 

ミサイルを撃ったドップ部隊の通信に基地にいたザク部隊が出てくる。

その中には、新しく配備されたグフもあった。

 

「奴らめ、これで何度目の襲撃だ」

 

「今月に入って3度目ですね」

 

「お前達、無駄口を叩いてる暇があるなら突っ込むぞ」

 

機械生命体とジオンの戦いは続いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まず最初に、聞いていただきたい事があります。

私達は貴方の敵ではありません。私の名前はパスカル。この村の長をしています」

 

アネモネの依頼だった行方不明のレジスタンス捜査をしていた2Bと9Sは目撃情報から遊園地廃墟を調べ元凶の機械生命体と遭遇し撃破した。

残念ながら行方不明だったレジスタンス達は機械生命体の兵器に改造され元凶の機械生命体を撃破すると同時に回路が焼き切れ物言わぬ躯となった。

元凶を倒し遊園地から出ようとした二人の前に白旗を掲げた妙な機械生命体が二人の前に現れる。

敵かと考えた二人が武器を構えるが白旗を掲げた機械生命体は、「ワタシ、敵ジャナイ」と言う。

それに、興味を持った9Sが白旗を掲げる機械生命体と話す。

曰く、「君たちは面倒な機械生命体を倒してくれたからお礼がしたい。村に来て欲しい」との事だった。

その機械生命体の案内で村へと来た2Bと9Sはまたも驚く。

村に居た全ての機械生命体が白旗を振っていたのだ。

二人はとりわけ大きい白旗を振っていた機械生命体に話しかける。

特徴的な円筒形の頭部に、荷物を背負ったような輪郭の胴体。案内した機械生命体より流暢に喋れる個体だった。

 

「いきなりそんな事言われて信用できると思う?」

 

パスカルの言葉に2Bが剣を向ける。

機械生命体とアンドロイドの戦争は五千年以上が過ぎており互いの溝は埋めがたい程深かった。

 

「確かに、貴方達にとって、私達、機械生命体は敵です。けれども、この村には戦いから逃げてきた平和主義者しかいません」

 

「平和主義者?腰抜けの間違いでしょ」

 

今迄、黙っていた9Sが口を開く。

 

「腰抜けですか」

 

「お前達、機械生命体は各地でジオンに敗北している。大方それで怖くなって僕達に擦り寄ってるんでしょう」

 

機械生命体とジオンの戦争は硬直かしつつあったが資源地帯を取られた機械生命体は何度か奪還作戦を行った。だが、そのこと如くが失敗した。

最も、ジオンも無傷とは言えず多数のモビルスーツを失ったが。

 

「確かにジオンが怖くないと言えば嘘になります。事実、この村にもジオンとの戦闘に敗北して逃げてきた者達もいます。

ですが、私達が平和主義者になったのはジオンとの開戦より前です。

アネモネさんにも聞いて下さい。私達の村とレジスタンスキャンプの方々とは以前より交流があります。ただ、ジオンとの開戦以来その交流も細々としていますが。

よろしければ、アネモネさんにこれを持っていって貰えますか?」

 

「これは?」

 

「燃料用の濾過フィルターですね」

 

9Sが軽く知らべ危険物ではないと判断する。

 

「以前にアネモネさんに頼まれていた品です。渡していただければ、私達が平和的な種族である事を理解していただけると思います」

 

「わかった」

 

その後、廃墟都市の近道を教えてもらった2Bと9Sは元キャンプへと戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

元キャンプへと戻った2Bと9Sはコムサイがある事に気づく。

また、ジオンの兵士が増えたのか何かしらの機体を持ってきたと判断してアネモネの居る場所へと向かう。

アネモネの姿は直ぐに見つけたが傍にはダグラスと若い男が居た。

 

「え?あの人は!?」

 

9Sにはその若い男の顔に見覚えがある。

少し前にテレビで紹介された男。

ガルマ・ザビだった。

 

「ん?君たちがヨルハのアンドロイドか、私の名はガルマ・ザビ。この度、地球方面軍司令官として着任した。よろしく頼む」

 

そう言って、ガルマは二人に握手を求める。

2Bは直ぐに握手をしたが9Sは少し躊躇いつつも握手に応じる。

 

 

温かいな、そう言えばメイやケン達と最後に触れ合ったのはバンカーに戻る前までだったな。

それで、バンカーでヨルハの秘密を知ってメイやケン達と距離をとるようになったんだ。

あれを知って以来、僕は人間に触れるのを躊躇している。

もし、彼等に僕らのブラックボックスに機械生命体のコアが使われてるのを知られたら……想像しただけでも怖くなってくる。

ギニアスさんは気にしなかったけど、それは彼だけかもしれない。

だって、僕らヨルハは誰にも望まれず、それでも戦い、死んでいく。

僕らの命に意味なんか……。

 

 

「ところでアネモネ、これ」

 

2Bがパスカルから預かった濾過フィルターを渡す。

受け取ったアネモネは「フィルターか、ありがたい」と答えた。

その後、9Sがパスカルとの村の事を聞く。何でも、あの村の機械生命体は細かい作業が得意で、レジスタンスキャンプでは加工が難しい部品などを作ってるらしい。それをアネモネ達は、彼らが入手しづらいオイルや素材などと交換していた。

だが、ジオンがレジスタンスキャンプを拠点にした事で細かい作業はジオン兵が担当する様になってパスカルとの村の交流は大幅に減っていた。

 

「無害な連中だ。此方としても助かってる部分はある。だが、最近アンドロイドの中から無害な内に潰すべきだという意見が出てきてるんだ」

 

「もしかして、ジオンの後ろ盾を得たから」

 

「そうだ。連中の作った物とジオンが作った物で人気があるのは断然ジオンだ。アンドロイドの中には彼等は用済みとまで言ってる者も居る」

 

アンドロイドは基礎プログラムとして人間への思慕を組み込まれている。

そんな人間が作った部品と機械生命体が作った部品では人気や士気が上がるのがジオンであった。

アンドロイドの中にはパスカルとの繋がりを人類への裏切りではと考える者達も少なくはない。

 

「ほう、無害な機械生命体か」

 

「興味深いな」

 

その声を聞いたアネモネは思わず「あっ」と言ってしまった。

パスカルの村をまだジオン側に言っていなかったアネモネは思わず自分の失態に口を閉じる。

ジオンは機械生命体と戦争をしている。

ネットワークから外れてるとはいえ自分達がそんな機械生命体と付き合いがある事を知られれば如何思われるだろうか?

今すぐ、パスカル達の捕縛、または殲滅しろで終われば御の字。

最悪、敵に通じていた事で人類の敵として処分されるのではとアネモネの頭に過る。

処分されるのは仕方ない。しかし、人類の敵と呼ばれる事は嫌だった。

アネモネの目には少し涙が浮かんでいた。

しかし、その様子に気付かないガルマは少し考えて2Bと9Sに口を開く。

 

「君たちはまたその村に行くのかい?」

 

「え、ええ、様子見もありますから」

 

「そうか、ならパスカルとやらに伝言を頼みたい。内容は『地球方面軍司令官ガルマ・ザビ大佐が其方と会談を望んでいる』と」

 

ガルマの言葉にその場に居たアンドロイド達が耳を疑った。

仮にも戦争相手の機械生命体と話したい。

機械生命体は人類の敵であり即ち自分達アンドロイドにとっても敵だ。

 

「ど、どうしてあんな奴と話なんて!?」

 

いきなりの事で9Sが叫ぶように言う。

 

「なに、打算は色々あるが一番の理由は機械生命体の捕虜だ。君達も聞いた事があるだろ?」

 

確かに聞いた事があった。ただし噂でだったが。

事の始まりは第二次降下作戦で起こった。

ジオンとの戦闘で壊滅状態となった機械生命体達の中から降伏する者が出始めた。

今迄、戦い続けたアンドロイドにとっては寝耳に水だった。

機械生命体とアンドロイドの戦いは殺し合いであり殺すか、殺されるかでしかなかった。

事実、機械生命体が降伏したと言う事例は存在しない。パスカルは例外と言えるが。

ジオンは捕虜の扱いに困っていた。

檻に入れても何時の間にか出てきてるのだ。

武装を解除されてる機械生命体は檻から出ても逃げる訳でなくジオン兵の観察やジオン兵と一緒に居るアンドロイドの観察をしていたのだ。

薄気味悪く感じたアンドロイド達が破壊すべきだと訴えるがジオン兵としては降伏した敵を処刑するのに躊躇いが出た。

憎い地球連邦の軍人ならまだしも。

アンドロイド達による機械生命体への暴行も問題視されている。

 

「パスカルには、その捕虜達の引き取りを交渉したいのさ」

 

「そうなんですか」

 

ガルマの言葉に2B達は返す言葉もなかった。

自分達に命じれば、その機械生命体の捕虜も全滅させるのにと悔しがる。

 

 

一方、その様子を少し離れた場所で観察する男達が複数。

服装からしてジオン軍人のようだ。

 

「へぇ~、あれがヨルハね。中々美味しそうな子じゃない」

 

「そうっすね、大尉。あの娘の服装も大胆で一夜を共に過ごしたいぜ」

 

「言えてるな」

 

男の部下の声に他の男達も同意するが、

 

「馬鹿ね、あんた達。アタシが言ってるのは少年の方よ」

 

「あっ」

 

その言葉に部下たちは黙り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、2Bと9Sはパスカルの村に戻ろうとする直後にアネモネから「パスカルに渡してくれ」と高粘土オイル缶を渡される。

パスカルの村へと付いた2Bと9Sはパスカルにオイル缶を渡す。

 

「ありがとうございます。お手数をおかけして」

 

オイル缶を受け取ったパスカルが礼儀正しく頭を下げる。

それを見た2Bは、居心地の悪さを感じる。

9Sがパスカルに言う。

 

「それから、伝言だけど…」

 

パスカルに先程言われた伝言を伝える9S。

 

「ジオン軍地球方面軍司令官ガルマ・ザビ大佐さんですか。分かりました、村の皆と話して会談の用意をしないと。ジオンを怖がる子の説得に時間が掛かると思いますが、そうお伝えください」

 

パスカルの言葉に2Bが頷く。

よく見れば、パスカルの足や腕が震えてるようにも見える。

 

「アネモネさんとも分かり合えたんです。きっとガルマさんとだって。

全てのアンドロイドと機械生命体、そして人間が共に平和に暮らせたらいいのに」

 

パスカルはただそう願う。

アンドロイドも機械生命体も人間も共に楽しく暮らせる事を夢想する。

 

「そんなの夢物語だよ。だって機械には心がないんだ」

 

そんな、パスカルを見て9Sが呟く。

まるで自分に言い聞かせてる様にも見え2Bは胸を押さえる。

 

「そうかもしれません。でも、よろしければ、これからもこの村に来てください。対話する事でしか相互理解は得られない……私はそう思ってます」

 

正論だ。敵の…機械生命体の言葉でなければ直ぐにでも頷きたい2Bと9Sだった。

その言葉に如何返すか思考しようとする。

しかし、それを邪魔するかの如く、地響きとも爆発ともつかない音が聞こえる。

何の音だろうか?

2Bと9Sが互いの顔を見て口を開こうとした時に二人のポッドから通信画像が開く。

 

『バンカーより緊急連絡!廃墟都市地帯に多数の敵超大型機械生命の出現を確認!随伴する機械生命体反応も多数確認!現在、ジオンが対応してますが手が足りないようです!』

 

二人に出撃命令が下る。

本来ならば、二人以外のヨルハ部隊にも出撃命令が下されるが大半がジオンへと逃げられたヨルハ部隊にそんな余裕もなく引き籠ってるアンドロイドも未だに出てこない。

その穴埋めをジオン兵も手伝い埋めているのがバンカーの現状だった。

一瞬、パスカルが自分達を騙して罠にかけたのではと考える9Sだが、パスカルの「可能ならば、信じて欲しいです」と言う言葉に黙り込む。

 

「どっちでもいい。倒しに行く」

 

罠かどうかは関係ない。敵機械生命体を破壊する。今はそれだけでよかった。

二人は全速力で廃墟都市へと戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃墟都市に近づくほど、足元の揺れが激しくなり、建物や空気までもが震えていた。

アチラこちらから爆発音や打撃音が響き、戦闘の激しさを物語る。

ただ、その光景は視認出来なかった。粉塵とも硝煙ともつかない灰色の霧が視界を遮っていたからだ。

上からは機械生命体の残骸がよく降り二人の走りの邪魔をし、廃ビルに操作不能となったドップが突っ込む。

一瞬、9Sが助けに行こうかとも思ったが突っ込だ衝撃と爆発により助けることは不可能だと察する。

今、出来るのはパイロットが事前に脱出に成功してる事を願う事だけだった。

 

『報告;司令部から飛行ユニットの配備。場所は以前降り立ったビル』

 

ポッドの言葉に以前に敵の目につきにくいビルの屋上を思い出す。

最近では、ジオンの防衛網もあり元キャンプへと直に行き来していたが現状ではキャンプよりビルの方が近い。

目的のビルを見つけるが入り口は瓦礫で塞がり二人は仕方なく隣にビルに入って其処から屋上へと飛び移ろうとした。

しかし、あと一歩で屋上まで行けるという時に超大型機械生命が壁を破壊し自分達を見つけた。

咄嗟に、二人がポッドの射撃で牽制しようとするが超大型機械生命は意にも介さず採掘機の腕で殴り掛かる。

それを避ける二人だが、避ければ避ける程床が破壊され自分達の行動範囲が狭くなる。

此処で、下へと落ちれば飛行ユニットへの行き来は不可能になる。

超大型機械生命が再び、腕を振り上げる。

今度は避けるのも難しい程、床も余裕がなかった。

飛行ユニットまでには多数の瓦礫が道を塞ぐ。

超大型機械生命が居なければ瓦礫も撤去して飛行ユニットまで行けるのだが。

まさに二人の脳裏に諦めの文字が浮かんだ。瞬間、

青い色をしたモビルスーツが超大型機械生命にタックルした。

バランスを崩した超大型機械生命地面へと横倒しになる。

 

「モビルスーツ!?」

 

「ザクとは別のタイプ!」

 

初めて見るモビルスーツに驚く二人。

そんな、二人にモビルスーツのパイロットが気付きオープン回線で話す。

 

『2Bに9S、如何したこんな所で?』

 

「え、その声ケン?」

 

9Sが青いモビルスーツのパイロットがケン・ビーダーシュタット少尉だと気づく。

倒れた超大型機械生命を警戒しつつケンが2Bと9Sに会話する。

 

「実は飛行ユニットに乗りたいんですがあそこの瓦礫が邪魔で…」

 

9Sの指先に瓦礫で埋まる通路を確認したケンが超大型機械生命に注意しつつ「二人とも伏せてろ」と言い左手を瓦礫の方に向ける。

2Bと9Sは言われた通りに伏せると前後から爆音が聞こえ暫くしてから頭を上げると青いモビルスーツの左手から煙が上がり道を塞いでた瓦礫は粉々になっていた。

 

「それで飛行ユニットに行けるだろ。此奴の相手は俺がするから二人は奥の方に居る奴を頼む。そいつだけ誰もマーク出来てないんだ」

 

ジオン軍やアンドロイド達は今回の機械生命体の襲撃により分散を余儀なくされた。

此処とは反対側の方にも多数の超大型機械生命が確認されモビルスーツ隊も対応に当たっている。

 

「分かった」

 

ケンがデータをポッドに送る。

2Bの返事にケンが何時の間にか立ち上がった超大型機械生命へと向かう。

急ぎ、屋上に付いた二人は飛行ユニットに乗り込む。

飛び立つと同時に、オペレーター6Oから通信が入る。

 

『2Bさん、上空は機械生命体の飛行型とジオンのドップ部隊の激戦が行われており迂闊に上れば巻き込まれて危険です!ここは低空飛行で接近してください』

 

了解と返事をした2Bは高度を低く保ち、ポッドが示す場所へと行く。

そこには、悠然と進む超大型機械生命を見つけた。

あのままでは、キャンプに進むと考えた2Bは射撃をし先日実装された多弾頭ミサイルを撃ち込む。

完全なる不意打ちもあり超大型機械生命に大ダメージを与えるが反撃としてレーザーや薙ぎ払いを仕掛けてくる。

 

「敵にハッキングします」

 

「了解、援護する」

 

9Sが制御を奪いつつ2Bが射撃で援護する。

以前の、戦いでは苦戦させられたが今回は二人とも飛行ユニットに乗っている。

このやり方で、対応できる。

2Bはそう確信していたが、一つ失念していた。

 

「くっこいつ等」

 

「邪魔をするな!」

 

多数の飛行型の機械生命体が二人の攻撃の邪魔をする。

そして、超大型機械生命は仲間の死などに無向きもせず二人に攻撃する。

間一髪回避した二人だが飛行型の機械生命体は仲間に破壊されても気にもせず二人の間合いをつめる。

其処へ再び、超大型機械生命の腕が二人に迫る。

回避場所の邪魔になる機械生命体を破壊して移動するのは間に合いそうにない。

二人が衝撃に備える。

が、超大型機械生命の腕にミサイルが直撃し腕は二人を素通りして味方の機械生命体のみを破壊した。

 

「え?」

 

「2B、あそこ!」

 

9Sが指を刺す方向を見ると一機のドップがバルカン砲を超大型機械生命へと当てる。

超大型機械生命が反撃しようとするが余裕でかわし今度はミサイルを当てる。

 

「茶色いドップ?」

 

9S達も長い事、ジオンと接触しており幾つものドップやザクを見たりしていたが茶色いドップは初めて見る。

そこへ、茶色いドップから通信がきた。

 

『二人とも、無事か?これより私も援護する』

 

「え!?」

 

二人がその声に驚く。

その声は紛れもなく先程着任した地球方面軍司令官ガルマ・ザビ大佐だった。

 

「どうして、貴方がここに?」

 

『なに、私は椅子を尻で磨くだけの司令官になりたくないだけだ。それに急な襲撃に猫の手も借りたいと判断した』

 

「?猫の手があっても意味がない」

 

「2B今はそれを置いておいて、貴方は司令官ですよ。万が一の時は如何するんですか」

 

人間はアンドロイドとは違う。

一度、死ねば二度と目を覚ます事はない。

新しい体など存在しない。

だから、月に逃れた人類はアンドロイド達に戦争を代わりにさせた設定だった。

 

『心配は要らない。私は所詮お飾りの司令官だ』

 

ガルマの言葉は9Sの予想を上回る。

 

「お飾り?」

 

『地上のジオン軍の士気上げの為、兄上が決めた事さ。まぁ私も説得したがね。それでも命令系統の殆どは私に渡されてはいない。だが、そのままで終わるつもりはないない。功績を上げ続ければ兄さん達も私の事を無視できなくなる筈だ』

 

それを聞いた二人は何も言えなくなった。

人間の兄弟の事なぞ9S自身もよく知らない。

何より人間が自分で決めた事を自分達、アンドロイドがとやかく言うべきではないと判断した。

その瞬間、超大型機械生命のレーザーが掠める。

見ると、飛行型の機械生命体も数を増してきた。

 

「こいつ等!」

 

「これじゃ、あの機械生命体への攻撃に集中できない」

 

二人が飛行型の機械生命体を破壊しそう呟く。

超大型機械生命へ攻撃を集中すれば周りの飛行型が、周りの飛行型を相手にすると超大型機械生命が。

単純ながら効果は絶大と言えた。

 

『ふむ、この周りの機械が邪魔なのか?』

 

ガルマはドップのバルカン砲で機械生命体を破壊し、聞く。

9Sが「そうです!」と答えると、ガルマが思わぬ動きに出た。

 

『如何した機械共、その程度で地球方面軍司令官のこの私、ガルマ・ザビを討てるか!?』

 

オープン回線で機械生命体達を挑発する。

一瞬の静けさが場を支配する。

全ての機械生命体がガルマを見ているようだった。

 

「一体何を…」

 

2Bがそう呟いた瞬間、全ての機械生命体がガルマのドップへと押し寄せる。

 

『おっと!』

 

回避したガルマは超大型機械生命の周りを回る。

これには超大型機械生命のエンゲルスも反応に困り両手の採掘機でガルマの行く手を邪魔しようとするがそれも余裕でかわし追ってる機械生命体の邪魔となっていた。

 

「あの人、無茶苦茶だ!!」

 

「でも理にかなってる」

 

9Sの怒声に2Bが呟く。

二人の視線はガルマのドップを追う機械生命体へと向ける。

如何いう訳か機械生命体はガルマを撃とうとせず近づいて捕らえようとしていた。

エネルギー弾も一発も撃たない事からガルマの重要性がうかがえる。

 

「何だって機械生命体はガルマ大佐を捕まえようとしてるんだろ?」

 

「分からないけど今がチャンスなのは分かる!」

 

機械生命体の行動に疑問を感じた9Sだが2Bの言葉にエンゲルスへと視線を向ける。

あれだけ邪魔だった飛行型も全てガルマを追い二人の邪魔をするものは居ない。

後は、簡単だった。

ガルマに当たらないよう多弾頭ミサイルを叩きこみ、9Sがハッキングで大ダメージを与える。

それを何度も食らわせエンゲルスはとうとう沈黙した。

 

「超大型機械生命の全機能停止を確認」

 

2Bが息を吐いてそう言った。

一時は、飛行型の機械生命体に邪魔されたがガルマ・ザビの奇策に助けられた。

守るべき人間に助けられ複雑な気持ちになる2B。

そこへガルマから通信が来る。

 

『あの超大型機械生命を倒したせいか飛行型の機械生命体が散り散りに撤退したようだ。私も一旦戻らせてもらうよ。正直、ドップの燃料がカツカツだ』

 

そう言い終えると同時に返事も待たず引き返すガルマ。

見送る9Sが「嵐のような人でしたね」と呟き2Bが「そうだね」と返す。

二人も帰ろうと考えるた時だった。

不吉な音が鳴り響く。

地鳴りのような音が大きく、高くなり停止したエンゲルスの目が再び光る。

 

「そんな…」

 

エンゲルスは確かに沈黙していた。腕だって破壊してる。

事実、エンゲルスは振動してるだけで動いていない。

 

「敵兵器、再充電しています!」

 

9Sの叫びが掻き消える程の轟音。

凄まじい衝撃波が二人を襲う。飛行ユニットの推進力を全開にして体勢を保つので精一杯だった。

突然、光と音が消えた感覚がする。衝撃波の影響で自分達の機能がダウンしたのだ。

暫し、待ち機能が戻って目を開く。

そこには、先程まであった立ち並ぶビル群も、鬱蒼と茂った大樹も、寸断された道路も消え巨大な穴が開いていた。

二人が驚愕しているとけたたましいアラーム音がし通信画面が赤く光る。

 

「これは…」

 

「エイリアン…」

 

画面いっぱいに広がる文字。

2B自身も初めて目にする「ALIEN ALERT」。

数百年も姿を現さなかったエイリアンが地下に居る文字だった。




ガルマが無茶をする話。

キシリアが送った部下が少し出ました。
オカマです。
ファッションか真正かは知りませんがこの物語では真正で。
個人的にはヨルハのE型に近い仕事をしていると思います。


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8話 9S爆発

 

 

「なに、エイリアンの居所が分かっただと!」

 

『はい、技術部の方でも電波発信源の解析を進めています』

 

サイド3。

政庁の執務室ではギレンがホワイトからのエイリアン発見の報を聞く。

 

「昼の国か…ガルマを派遣した直後でこれか。今現在、使えるヨルハ部隊は誰だ?」

 

『…2Bと9Sだけです。他の者は未だに…』

 

ギレンの質問にホワイトが申し訳なさそうな顔をして答える。

ヨルハの秘密暴露から3か月以上が過ぎるが引き籠ってるヨルハ隊員は未だに多い。

ブラックボックスの反応から生きてるのは確かだが部屋から一歩も出てこない。

 

「ふむ、こういう時アンドロイドは不便だな。人間ならば空腹で部屋から出る事もあるが……せんなきことか。その、二人に調査させよ」

 

『了解です』

 

ホワイトの通信が切れるとギレンは「地下か」と呟き机の引き出しを開ける。

十数枚の書類の中から一枚の書類を取り出し軽く読む。

 

「報告によれば機械生命体の多くは地下や山の中に基地を造る事があるか…」

 

そう呟いた、ギレンは通信機に手をかける。

その書類には「アプサラス計画」と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、ガルマ大佐。言い訳を聞こうか」

 

「い、言い訳とは酷くないかい、ダグラス大佐」

 

ガルマが基地へと戻った直後にダグラスを始めとしたジオン兵がガルマに用意された執務室へと通される。

其処にはダグラス他二名のジオン兵士が待ち構えていた。

一人は、ドズルの部下のアナベル・ガトー大尉。

もう一人は、姉のキシリア直属の局地戦戦技研究特別小隊、別名「マッチモニード」と言われる部隊の隊長ニアーライト大尉である。

そして、先程のダグラスの言葉であった。

 

「ガルマ大佐、貴方は自分が何をしたのか分からないのですか?」

 

「うっ、確かに軽率な行動ではあったのは認めるが…」

 

「あの赤い人見たいに、若さゆえの過ちって言うつもり?なら、若すぎるわね。キシリア様にもちゃんとお伝えしないと」

 

「二、ニアーライト大尉!其処で姉上の事を言うのは反則では…」

 

「それもこれもガルマ大佐の独断専行が招いた結果かと」

 

「うっ、ガトー大尉も手厳しい」

 

ダグラスだけでなく部下の筈のニアーライトとアナベル・ガトーの説教をくらうガルマ。

最も、この二人はキシリアとドズルがお目付け役とも言えるが。

 

「そ、そもそも司令官とは言え私がお飾りだと言う事は知っているだろう?少しでも手柄を上げねばと」

 

「手柄を上げる為に焦ったと?」

 

「私が焦ってる?私は冷静だ!「冷静なら余計悪いんですけど」…すまない」

 

ダグラスの突っ込みにガルマは視線を逸らす。

ああは言ったがガルマは内心焦っていたのは確かだ。

兵学校の同期が次々と戦場で手柄を上げていく。

特に、親友とも言えるシャア・アズナブルは単機で超大型機械生命のエンゲルスを5体も倒し少佐にまでなっていた。

対する、自分は碌に権限の無い司令官大佐。それも親や兄達の七光り付き。

それを嫌って手柄を上げようと無茶をして現在叱られている。

 

「はあ、とにかく出撃するなとは言いませんが今後は我々も連れて行くとお約束ください」

 

ガルマの気持ちも分からなくはないガトーがそう提案する。

これにはニアーライトもダグラスも頷きガルマも「分かった」と返事をした。

取り敢えずこれだけ注意すれば十分だろうと判断しダグラスが終わらそうとした時、ドアが開きジオン兵の緊急報告がはいる。

 

「ヨルハ部隊がエイリアンの住処を発見したそうです」

 

「なんと、ヨルハ部隊となるとあの二人か。よし突入部隊を編制する。皆の者私に続け!」

 

エイリアンの住処が見つかったところでアッサリと執務室から出るガルマ。

その様子を見た3人は頭を抱えつつ付いていく。

最も、その3人は口々に「やっぱキシリア様に報告ね」「ドズル中将に後で報告を」「ギレン閣下に後で報告しておくか」と言っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エイリアンの反応はこの辺りですね」

 

エイリアン発見の報に司令官から情報収集せよと命じられた2Bと9Sは崖を降り、すり鉢状となった底に付く。

周囲を見回すとエイリアンの反応が強まっている場所にモビルスーツが2体見えた。そこにはあの青いモビルスーツもあった。

よく見ると、真新しい機械生命体の残骸が確認出来る事から戦闘後に調べてるようだ。

自分達も調査の為に近づく。

すり鉢状となった地帯の更なる大穴を調べていたグフのパイロットが二人に気付く。

 

『ん?2Bと9Sか、君達も此処を調べに?』

 

「あ、やっぱりケンでしたか。ええ、僕達も指令に命令されて」

 

「何か解った?」

 

『今、ガースキーの奴が調べてる最中』

 

よく見れば穴の中にもザクが居る。

ガースキーのザクだろう。

その直後に、ガースキーのザクはブースターを使い穴から出てくる。

 

『隊長、駄目ですわ。横穴を見つけたが到底モビルスーツが入れる大きさじゃなっすね』

 

『……歩兵のみが入れるか…厄介だな』

 

ガースキーの報告にケンが呟く。

ジオン軍の強さはモビルスーツに乗ることで発揮されると言っても過言ではない。

モビルスーツから降りたら只の人間に過ぎず機械生命体の相手をするのも難しい。

 

「歩兵のみとなると僕達の出番ですね」

 

モビルスーツが入れないと聞いた9Sが「自分達が行く」と言う。

その顔はどこか誇らしげであった。

 

『敵の親玉が居る以上、防衛する機械生命体も今までの数を凌駕してる可能性が高い。二人だけで行くのはリスクが…』

 

「平気、私達は自動歩兵人形。この為に私達は存在している」

 

ケンが二人だけでいくのは危険じゃないかと心配するが2Bが返事をする。

2Bはさっさと穴に降り9Sもそれに続く。

 

『あ、無茶はするなよ!生き返れるとは言え無理だと判断したら撤退も任務だからな』

 

ケンの言葉に2Bと9Sは頷く。

二人が横穴に入るのを見届けたケン達は一旦基地へと戻る。

 

 

 

 

その数分後、

穴の中に十数人の人影が出来ていた。

多数がジオン兵で護衛のアンドロイドが複数。

 

「諸君、これより敵の本拠地に攻め込む!勇気ある者は、このガルマ・ザビに続け!」

 

「だから、何故ガルマ大佐が率先して行こうとしてるんですか!?」

 

敵の本拠地と思しき洞窟に今にも突入しようとするガルマにガトーが待ったをかけようとする。

 

「何を言ってるんだガトー大尉。ドズル兄さんならば間違いなく一番槍を狙う筈だ」

 

「うっ、ドズル中将ならば…確かに」

 

現場第一主義のドズルならば確かに部下と共に、寧ろ率先して敵に突撃するかもしれない。

ドズル・ザビはその位の凄味がある。

 

「確かにじゃないでしょ!止めなさいよ。……ああもう!あんた達、命に代えてもガルマ大佐の身は守るのよ!アンドロイドのあんた達もよ!」

 

ニアーライトがガルマを止めるようガトーに言うが、変な納得をしたガトーは口黙る。

ガルマの説得は不可能と判断し他のジオン兵や護衛のアンドロイド達にガルマを守るよう命令を下し自らも銃を取る。

もはや、ガルマを止めれるものはこの場には居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ、我が創造主の墓場へ」

 

先に洞窟へと入った2Bと9Sは驚きの連続が続く。

最初は機械生命体が出てきて行く手を阻んだが奥に進むにつれ数が減り、遂には一体も出て来なくなる。

それどころか、随分と古い機械生命体の残骸が増えてくる。

記録上、アンドロイドが此処で戦ったという記録はなく当然ジオンでもない。

不思議に思いつつ先を行く二人は自然に出来た岩肌とは明らかに異なる素材と形状。何者かによって造られた「出入口」を発見し中へと入る。

中に入っても相変わらず敵の気配はない。奥へと入り階段を下ると音も無く壁が動き始める。

2Bがそこは大きい窓で近づくとシャッターが上がる仕様なっている事に気付く。

地下深い筈の場所なのにシャッターの向こう側に光がある。光源は何かと一瞬考え周囲を見回す。

9Sはシャッターの開く窓を見続けたので自分は部屋の中、椅子とも台座ともつかない物が並んでる事に気付く。

其処には干からびる何かが置かれてる事に気付き2Bは更に近づき息をのむ。

 

「エイリアン?」

 

明らかな死骸であったが2Bはこんな生き物を見たことが無い。

 

「2B!アレを見てください!」

 

窓の外を見ていた9Sが叫ぶ。

シャッターが全部開いて外の様子が確認したからだ。

2Bも外を見る。其処には、

 

「船?エイリアンシップ…」

 

正確には、船だったと言える残骸。

墜落して大破した訳ではない事が一目で分かる。

船体に巨大な槍のようなものが何本も突き刺さってる事からエイリアンは何者かと戦い、敗れた。

そして、此処に居たエイリアンも全て殺された。

改めて周囲を見回す2Bと9S。

 

そこで、冒頭の声が聞こえた。

聞き覚えの無い声に二人が声の主を探す。

 

「お前達は!」

 

視線の先に居たのは二人の男。

まだ、ジオンと出会う前に遭遇した敵、アンドロイドに酷似した外見を持つ機械生命体だった。

 

「ポッド!」

 

2Bがすかさず攻撃を仕掛ける。

しかし、ポッドの弾丸は空を切る。男の姿は消えていた。

 

「乱暴だな」

 

背後で男が笑う。

以前とはまるで違う表情に流暢な発言。上半身は裸だが下半身には服を纏、片方の男の髪は短く刈り込み、もう片方は長いままだった。

 

「なぁ、にぃちゃん。こいつら、殺していい?」

 

「イブ。落ち着け、まだ話も終わってない」

 

短い髪の男に長髪の男が待てと言う。

長髪の男の言葉に頷くと口を開く。

 

「私の名はアダム。君達アンドロイドが探しているエイリアンは、もういない。何百年も前にこいつらは…私達機械生命体が絶滅させた」

 

長髪の男がアダム。短髪の男がイブと判断した2Bと9Sだがそれ以上の驚くべき情報を聞かされた。

 

「絶滅させた?機械生命体が?」

 

「今度、絶滅するのは…君達アンドロイドかな?」

 

そう言って笑みを浮かべるアダム。

話は終わりと2Bはイブに攻撃する。

持ってる剣で切り、ポッドの射撃で攻撃する。

9Sもアダムへと攻撃を開始する。

しかし、攻撃されてる筈のアダムは涼しそうに言葉を続ける。

 

「機械生命体は、自己進化を繰り返して、強化されていく兵器だ。

ネットワークの上に芽生えた知性が、創造主のそれを凌駕するのに、大して時間は必要とはしなかった」

 

「だからって、自分達の創造主を倒すなんて…」

 

9Sには理解できない。

少なくとも自分達は、人類の為に命懸けで戦ってきた。

それがジオン公国に変わろうと変わらない。

自分達は人類を愛し戦う事が使命なのだ。

しかし、アダムは「単純でくだらない生き物」だと切り捨てる。

 

「私達が興味あるのは、月の裏側に居る人類」

 

「サイド3の!?」

 

「そう、ジオン公国さ。人間は魅力的だ」

 

アダムが芝居がかった仕草で言う。

 

「記録によれば、同じ種族で大量に殺し合ったり、かと思えば、愛し合ったり。その行動原理は目を見張る不可解さだ。

知ってるかね?君達も見たあの巨大人型兵器モビルスーツが何の為に造られたのかを。平和な時代ならばあんなもの必要としない。

さて、彼等は何処と戦争しようとしていたのか?」

 

そこで、9Sが以前ダグラス達から聞いた組織の名を思い出す。

 

「…地球連邦」

 

「そう、彼等は地球連邦に独立戦争を挑もうとしていたのさ。ふふふ、各地の機械生命体が敵わない訳だ。戦術も戦略もアンドロイドを上回っている。そして、ミノフスキー粒子という未知の粒子が我々の弱点ともいえる。それに共に戦うアンドロイドの士気も高い。私はこの三か月ずっと見ていた。なのに全く飽きがこない」

 

その言い方に不快感を覚える2Bと9S。

敬愛すべき人間に機械が解った風な、まるで感情があるような行いに腹立たしくもあった。

 

「だからこそ残念だ。折角、古い大型兵器で此処へと招いたのに来たのは君達、アンドロイドだけだとはな。やはり、横穴はモビルスーツが通れる程の広さが必要か。そうか、これが『期待外れ』という感情か」

 

「に、人間を此処に招いて何をたくらむ!」

 

「生きたまま分解して、分析して…その秘密の全てを暴く。そうだ、9S。君も参加したまえ、きっと面白いぞ」

 

その言葉に、9Sの怒りが爆発する。

 

「ふざけるな!そんな事、やらせる訳ないだろう!」

 

9Sは長剣でアダムに切りかかる。

しかし、剣は空を切るだけでアダムには当たらなかった。

それでも構わない。これ以上アダムの言葉を9Sは聞きたくもない。

それにも構わずアダムは喋るのを止めない。

 

「ふぅ、私の言葉を聞く気が無いなら…仕方ない。君の脳に直接語るとしよう」

 

9Sの攻撃の一瞬の隙をつき、アダムは9Sの首を掴む。

 

「9S!」

 

「にぃちゃんの邪魔はさせない」

 

2Bが助けに行こうとするがイブがそれを阻む。

ポッド153が援護しようとするがアダムが指を鳴らすと同時に機能を停止する。

そして、アダムはもう片方の手で9Sの頭を触る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

9Sは気付けば真っ白い空間に居た。

自分の記憶領域だと気づき、ハッキングされている事に気付く。

なんとか脱出しようとすが、

 

「聞け、9S。お前に告げる」

 

アダムの声が耳元から聞こえてくる感覚がした。

 

「私達、機械生命体は…長年に渡る闘争と学習進化によって新たな意識を獲得するに至った。

そう…それはまるで新たな生命が誕生するように」

 

嘘だ、機械ごときが。

 

「機械ごときが命を名乗るな?と?」

 

アダムは笑う。

 

「確かに、お前達アンドロイドは生きてるとは言わないな。自らの意思で生きていない操り人形だからな…」

 

違う!違う!

 

「何が違うんだ…9S…」

 

僕は…僕達は…

 

「そうだ、9S。お前にも意思が…欲求があるんだろう。そうだ『憎悪』こそが生きる意味だ」

 

違う。

 

「お前の心の奥底には汚い『憎悪』が眠っているんだ」

 

違う!

 

「隠せば隠す程、その淀んだ闇が育っていく」

 

違う!違う!違う!違う!

僕達は人類を守る為に造られたんだ!

お前達、機械生命体とは違う!

 

「全ての生命は欲望に囚われている。その内的欲求こそが生きる意味なのだ。ある者は美しさを求め、ある者は安らぎを求める。私にとっては、憎悪こそが…」

 

僕は違う!

 

「はははっ、違わないさ。

お前はジオンのモビルスーツに嫉妬している。お前はアンドロイドとモビルスーツの違いに絶望している。お前は人間にも嫉妬している。お前は2Bが人間に取られると恐れている。お前は2Bの心も人間からの愛も欲してるんだ」

 

「お前は全てに愛されたいんだ」

 

「お前は2Bを人間を……▼※したいと、思ってるんだろ?」

 

欲にまみれた現実。

                     やめろ!やめろ!!

流れ込んでくる憎悪。

                     違うって言ってるだろ!

溢れ出る欲望。

                     僕は…僕はお前達とは違う!!

 

 

「何処が違うんだ?我々と同じ動力を持つ君が」

 

止めてくれ…誰か…僕を助けて…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわあああああああああああああああああああああああAAあああAAあ!!!」

 

9Sの絶叫が室内を駆け巡る。

 

「9S、ナインズ!!」

 

その悲鳴に助けに行こうとする2Bだがそれを許すイブではない。

 

「そこを退けぇぇ!!!」

 

「嫌だね、にぃちゃんの邪魔はさせないって言ったろ」

 

2Bが斬撃でイブを攻撃するが集中力の欠けた2Bの斬撃ではイブに僅かな傷を付けるだけで精一杯であった。

その間にも9Sの叫びが室内へと響く。

 

「ふふふっ、このまま君の精神を磨り潰すか論理ウイルスを大量に送って我々の仲間にするのも面白いな」

 

9Sを誘うのを諦めたアダムは9Sを如何いう風に破壊するか決めかねていた。

決着を付けるだけならこのまま頭部を破壊すればいい。

しかし、それでは面白みに欠けるとアダムは判断し、このままゆっくりと精神を磨り潰そうとした。

 

その直後に数発の銃声と共に9Sが床へと落ちる。

手の痛みにアダムが見ると手に銃痕が付いていた。

アダムが撃って来た方を見ると十数人の集団が自分とイブに銃を向けている事に気付く。

戦いに夢中で此処まで近づいてる事に気付かなかった。

 

「どっちもアンドロイドに見えるが…誰かこの状況を説明してくれないか?」

 

「ガ、ガルマ大佐?」

 

取り敢えず、9Sの悲鳴から長髪のアンドロイドと思しき者の手を撃ったガルマ達だが状況が今一飲み込めないでいた。

ハッキングが解けた9Sがガルマ達の存在に気付く。

ガルマ達の姿を確認したアダムが笑みを浮かべるが、

 

「残念だが、そろそろ時間だ」

 

そう言い終えると同時にイブもアダムの居る場所へと行く。

イブが離れた事で自由になった2Bは9Sの下に行き守るようにアダム達に剣を向ける。

しかし、アダム達の視線は2B達には向けられずガルマ達の方に向けられたままだった。

 

「折角のお客だが此方も約束の時間なんでな。其方のガルマ・ザビ大佐とはまた何れ」

 

アダムが言い終えると共に二人の姿が糸状になって消えた。

残されたのは2Bと9S、突入したばかりのガルマ達だけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、2Bはガルマ達に事の成り行きを説明した後、先週から稼働している転送装置でバンカーへと戻る。

転送装置とは、飛行ユニットを使わず地上と宇宙のバンカーを行き来する手段として技術部で開発が進められていた。

月面人類会議が原因で開発が遅れていたがやっと完成したらしい。

地上に義体を残したまま、自我データだけをバンカーのボディに転送する。

そうする事により所要時間を大幅に短縮出来る。

他にも降下中に攻撃されずに済むというメリットもあったがジオン軍基地によりそれも大分軽減されている。

 

「……以上がエイリアンシップの報告です」

 

2Bが一人、指令室で司令官に報告する。

9Sは敵のハッキングを受けた事でメディカルルームで検査されている。

報告を聞いた司令官は「そうか」と呟く。

 

「この情報はジオン軍上層部へと送る。それから君達には暫く休みを与える」

 

「休みですか?」

 

「今回の事で9Sの精神的消耗が激しい。敵から何を聞いたのか知らないが心配だ。一緒に居てやれ」

 

それを聞いた2Bは了解としか言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「急な休みを貰っても困りますよ。そう思いません?2B」

 

メディカルルームの検査を終えた9Sは2Bと合流しそう喋る。

一見元気そうにも見えるが2Bには9Sが無理してるように見えた。

 

「…そうだね」

 

そんな9Sにどう声を掛けていいか分からない2Bはそう返事をするしかなかった。

結局、バンカーでやる事もないので元キャンプへと戻る二人。

 

「ん?何だろうあれ?」

 

そこで9Sがテントの一角に人だかりが出来てる事に気付く。

以前のテレビの所とは別の場所に9Sと2Bが近づく。

近づいて分かった。

複数人の人間がテレビカメラを持ちマイクでガルマへとインタビューしているのだ。

サイド3のテレビクルーのようだ。

 

「この度、ガルマ大佐の指揮の下、エイリアンどもを殲滅し配下の機械生命体を退けたという話ですが」

 

「何度も言ってるが、我々が突入した時には既にエイリアンは全滅していたんだ。それに機械生命体と戦ったのも我々ではない」

 

如何やら、ガルマがエイリアンシップでの活躍を捏造されていたようだ。

最も、ガルマも訂正していたが、

そこで、ガルマと自分達の視線が合った気がした。

 

「おお、君達も戻ったか。ちょっと来てくれ」

 

気の所為では無かった。

ガルマの手招きに答えない訳にもいかず二人はガルマの下に行く。

 

「この二人が先に突入し危険な機械生命体の霧払いをしてくれたおかげで我々も無傷にエイリアンの船へと行けたんだ」

 

「そうなんですか!ええと、お二人はヨルハのアンドロイドの…」

 

「ヨルハ9号S型です」

 

「…ヨルハ2号B型…」

 

テレビクルーの言葉に9Sが自己紹介し2Bもそれに続く。

その後も、インタビューに答える2Bと9Sだが、そろそろ番組も佳境に入りそうな場面でガルマが答える事になった。

 

「ガルマ大佐、その二人はガルマ大佐にとってどのような関係になるでしょう?」

 

「そうだな、素晴らしい友人と言えるでしょう。共に戦う中で私はそう確信している」

 

友と言われた2Bは胸に温かい物を感じた。

しかし、9Sは急に目線を下に向け少し震えだす。

心配した2Bが話しかけようとするが、

 

「…………ないんだ」

 

「ん?何か言ったかね9S」

 

9S呟きにガルマが気付き何を言ったか聞く。

それに反応しもう一度「………ないんだ!」と呟く。

 

「すまない、9S。もうちょっと大きい声で言ってくれ」

 

ガルマの言葉に9Sは大きく言う。

 

「僕等は貴方達と友達になる資格なんてないんだ!」

 

そう言い終えると9Sは地面に座り込んで泣き出し、周りの人間やアンドロイド傍観する。

全員が全員、何が何だか解らなかったからだ。

2Bはそんな9Sを見てオロオロするだけだった。

 

「あの生放送なんですけど…」

 

突然の事にテレビクルーも戸惑う。

しかし、ガルマは泣いてる9Sに話しかける。

 

「落ち着きたまえ、9S。私と友達になる資格がないとはどういう事だ?」

 

「僕達…僕達はヨルハは…」

 

9Sは泣きながらもヨルハ計画について全て喋った。

自分達は望まれて生まれてきた訳ではないと、月に人類が居る様に見せかける為に造られただけで、機械生命体を何千何万倒そうと、その戦いに意味がない。

自分達は元々捨てられる事が決まっていた。バンカーも司令官も自分達も最後にはゴミのように捨てられる計画だった。

その為にヨルハ機体には機械生命体のコアを流用したブラックボックスが搭載される。人道を言い訳にして。

しかし、ジオンの出現によりヨルハ計画は中止となり、自分達の存在意義は完全に無くなった。

 

「分かった?僕達、ヨルハ機体はこの世界に愛される資格はないんだ」

 

本来ならば、アンドロイドどころか人間にも言いたくない事実。

しかし、これ以上黙ってるのが人間への裏切りではないかと考えると9Sの胸に苦しみが支配し全てを暴露した。

話を聞いていたアンドロイド達も今では敵を見るような目で9S達を見ていた。

 

「……9S、立て、立つんだ。…歯を食いしばれ!」

 

ガルマの言葉に9Sが立ち上がると頬に衝撃がはしる。

それが、ガルマの拳だと直ぐには気付けなかった。

 

「9S!」

 

「待て」

 

2Bが9Sに近づこうとするがアナベル・ガトーがそれを止める。

 

「でも!」

 

「今ここで止めても何も解決しない。9Sの為にはならないぞ」

 

その言葉に、2Bは止まるしかなかった。

9Sが無理をしてる事には気付いていたが此処まで思い詰めている事には気付かなかった。

そして、ガルマはもう一度9Sの頬を殴る。

血が9Sの頬に付くがその血はガルマの拳の血だった。

元々も機械生命体との戦闘の為に造られた9Sの体に人間の拳などでダメージを与える事は出来ない。

寧ろ、殴った方にダメージが返る位だった。

 

「私は君を過大評価していたようだな。そんな『くだらない事』に拘るとはな。それとも慰めの言葉でも欲しいのか?」

 

「下らない事!?貴方に僕達の何が解るって言うんだ!」

 

9Sがガルマの胸倉を掴む。

 

「生まれる前から廃棄が決まっていた僕達の何が解るんだ!僕達は頑張ったんだ!2Bも皆も、多くの機械生命体倒してきたのに…全部無駄だったんだぞ!そんな、僕達の何が解るっていうんだ!?」

 

「解らんさ!私には君達の気持ちなんて解らん。だがこれだけは言える、世界に愛される資格がない?捨てられる事が決まっていた?

そんな事、誰が決めた!?世界か?アンドロイドか?機械生命体か?それともヨルハ計画を考えた馬鹿か?

そんな物に拘る位ならば私と共に来い!

この世界が君達を拒絶するのなら、我々ジオンが君達を貰おう!

ジオンが君達を要らないと言うなら私、ガルマ・ザビが君達を引き取ろう!」

 

そう言って、ガルマは9Sに手を差し出す。

その手は、9Sを殴った事で手袋越しにも血だらけであった。

 

「本当に…本当に貰ってくれるの?こんな僕達を…」

 

「ああ、必要ならば此処で宣言しよう。この私ガルマ・ザビはヨルハ機体9Sと2Bと共に戦う事を誓おう。ジオンの栄光の為に、人類の未来の為に。

改めて、私と友達になってくれないか?9S」

 

「…はい」

 

ガルマの手を9Sが握る。

この時、9Sの心の中は幸福に満ちていた。

 

 

この命に意味がないと思っていた。

あの日、ヨルハ計画の真実を知って僕達はこの世界に望まれていないと思っていた。

誰にも望まれずに生まれて、この世界から消えることだけを望まれていた。

僕達が消えても誰も悲しまない。そう思っていた。

だが、ガルマ・ザビ大佐は自分達が必要だと言ってくれた。

それが、たまらなく嬉しかった。

 

 

「皆の者、よく聞け!これより9S及び2Bはガルマ隊へと編入する!異義のある者はこのガルマ・ザビに申し立てい!」

 

ガルマの宣言が辺りにコダマする。

内心、ガルマは赤い親友がこれを見ていたら「坊やだな」と言われるだろうな思った。

暫しの、沈黙の後にジオン兵が中心となり歓声が響く。

 

「ふっ、甘ちゃんね」

 

「若いって事さ」

 

ニアーライトの呟きにダグラスが返す。

 

「え、ええと、それではスタジオにお返しします!」

 

テレビアナウンサーがカメラへと視線を戻し、そういい終える。

完全な放送事故で後で叱られるかと思ったがとんでもない視聴率を叩き出しボーナスを貰うのは随分と後の事である。

 

 

 

 

 

 

その放送は各所で流れる。

バンカーでは。

 

「今の放送、録画しているか!?」

 

司令官の言葉に6Oが「もちろんです!」と答える。

 

「よし、全てのヨルハ隊員の部屋に流してやれ!」

 

後日、引き籠っていたヨルハ隊員の殆どが仕事に復帰したのは言うまでもない。

因みにガルマの人気が凄まじい事になり、ヨルハの秘密を勝手にバラした9Sに対しては一発ぶん殴ると決めるヨルハ隊員も居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛たたた、もう少し優しくしてくれないか?」

 

「何言ってんだい。最新鋭のアンドロイドを殴ってこの程度ですんでんだ」

 

あの後、執務室に戻ったガルマはデボルとポポルに手の治療をして貰っていた。

ポポルが「骨が折れてないだけマシ」とも言う。

 

『無茶をしおって、ガルマめ』

『うう、立派だったぞ、ガルマ』

 

通信モニターからギレンとドズル、デギンが映る。

どうやら放送を見ていたようだ。

 

「ああ、兄さんたちに父上、お見苦しいところをお見せしました」

 

『構わん、構わんぞガルマ。お前も立派に成長しおって』

 

『取り敢えず、ヨルハ部隊はお前のところに組み込んでおくぞ』

 

「本当ですか?それはありがたい」

 

『立派に成長したのは嬉しいがな。それでは説教を始めようか』

 

「へ?」

 

『ガトーから』

 

『ダグラスから』

 

『キシリアから』

 

『『『聞いたぞ』』』

 

これにより暫くガルマへの説教が続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ご報告は以上です。キシリア様』

 

「ご苦労だった。ニアーライト大尉」

 

月基地ではキシリアが地上に派遣したニアーライトから報告を聞いていた。

 

「それで、ヨルハのE型は如何だった?」

 

『ダメですね。どいつもこいつも中途半端な良い娘ちゃんばかりで私達の部隊には馴染まないわね。無理に入れたところで精神が崩壊したらたまったものじゃありませんわ』

 

キシリアがニアーライト達「マッチモニード」を地上に下したのはガルマの護衛ばかりではない。

地上にいるヨルハのE型のスカウトの為でもあった。

E型とはExecutionerの意味で主に裏切り者や秘密を知りすぎた者を処刑する為に造られたモデルである。

それに目を付けたキシリアがマッチモニードの増員としてニアーライトにスカウトを命じていた。

マッチモニードも形は違えど反ザビ派の諜報を主に味方のジオン兵の始末を行う部隊である。

それゆえに、マッチモニードにも馴染めるかとキシリアは考えていたが。

 

「そうか、なら仕方ない。当面はお前達だけでガルマを支えよ」

 

『はっ!』

 

通信が終わると、キシリアは椅子に体重を預け天井を見る。

 

「味方を殺すのに眉一つ動かさない人間と味方を殺すのに一々悲しむ人形。果たしてどちらが人間らしいか」

 

キシリアは一人呟く。




9Sが感情爆発させる回です。

正直、ガルマと9Sの友情がやりたかっただけです。
そのせいで文字数が偉いことに。


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9話 A2、人間に会う

バンカー。

あの放送以後、引き籠っていた全てのヨルハ隊員が職場に復帰する。

彼女等は現在、正面の大型のモニターに注目している。

モニターには地上に居るガルマ・ザビが映っていた。

 

『既に諸君等も聞いていると思うが、現時刻を持って君達、ヨルハ部隊はガルマ隊に編入された。

ホワイト司令官には私の副官として今後もバンカーでの指揮を頼む』

 

「はっ、承知しました!」

 

『それでは共に戦おう。ジオンの栄光の為に!人類の未来の為に!』

 

「ジークジオン!」

 

「「「「「「ジークジオン!ジークジオン!ジークジオン!ジークジオン!ジークジオン!ジークジオン!」」」」」

 

ヨルハ部隊は左手を胸に当て「ジークジオン!」と言い続ける。

それを、しばらく見続けたガルマも「ジークジオン」と言って通信を切った。

 

何故、ヨルハ部隊がガルマの指揮下に入ったのか?

元々アンドロイド達の軍事基地及び大出力レーザー衛星は、何処の部隊に組み込まれるかは決まっており、ヨルハ部隊のバンカーだけが宙ぶらりんの状態だった。っと言うのも他のアンドロイドと違いヨルハのアンドロイドは特殊な動力炉に合わせた設計で造られており下手に消耗もさせられない状態だった。

それから、先のテレビ放送を見たアンドロイドの中に露骨にヨルハと組むのを嫌がる者も出始め、これにギレンがヨルハを一か所に纏め、ガルマに面倒を押し付けた。

事前に、バンカーを逃げ出したヨルハ機体は現地のジオン兵と間接的にアンドロイド達と接していてなんとかなってはいた。

こうして、ガルマはヨルハ部隊の司令官ともなる。

今後、バンカーはガルマ隊の宇宙での拠点扱いされ複数の戦艦やジオン兵が行き来する事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『報告;敵性機械生命体の反応なし』

 

「この辺りの敵性機械生命体をあらかた倒したようですね」

 

ポッドの報告に9Sが呟く。

ガルマ隊へと編入された2Bと9Sだったが特にこれといった命令も出されず二人は元キャンプ周囲の敵性機械生命体の排除をしていた。

数体の機械生命体を破壊した二人は廃墟都市を歩く。

 

「ん?あれって」

 

「ケンとメイ?」

 

そこで9Sと2Bが破壊された超大型機械生命の前に何人かのジオン兵が居る事に気付き近づく。

その二人に気付いたメイが手を振る。

 

「ヤッホー、ナインズに2B、どうしたの?」

 

「やあ、メイ。僕達は周囲の敵性機械生命体の排除を。メイ達は何をしているの?」

 

「ん?メイ達はね、隊長さんが倒した超大型機械生命の前で皆で記念撮影しようって。そうだ、ナインズも2Bも一緒に撮ろうよ。記念になるよ」

 

そう言って、メイが9Sと2Bの手を引っ張る。

二人はアンドロイドゆえにメイより遥かに体重が上だがゆっくりと引っ張られる。

 

「記念って、僕達が映ることはないんじゃ……」

「私達が入ると邪魔になる。ここは…」

 

二人が記念撮影に入るのを断ろうとするが、

 

「駄目だよ!」

 

メイの声に二人は言葉を失う。

 

「駄目だよ、戦争なんだよ。明日には誰かが居なくなってるかも知れないんだよ」

 

その声は何処か悲しそうな気がし二人もカメラの前に立つ。

 

「悪いな、お二人さん」

 

カメラの前に立つ2Bと9Sにガースキーが話しかける。

 

「ガースキーさん、メイは一体如何したんですか?」

 

「ああ、先の戦いで隊長の親友が戦死したんだ。メイはそいつとも付き合いがあったからな」

 

「…戦死」

 

機械生命体の開戦以降、ジオンは勝利し続けたが無傷とはいかなかった。

機械生命体やアンドロイドより少ないが戦死者が少しずつ増えてきている。

二人もそれは知っていた。

 

「先の機械生命体の奇襲攻撃にアンドロイドとジオン兵に多数の死傷者がでちまった」

 

「その中にケンの…」

 

「親友が居たんだよ。メイもそいつから菓子とか貰っていたようでな、結構なついていたんだわ。そんで、そいつの遺品を片付けていた時にな、地上に降りた後の写真が碌に無い事に気付いてよ。それ以来、何かにつけて俺達と一緒の写真を撮るようになっちまったんだ」

 

人間はアンドロイドより弱い。

分かっていた事だと思う二人。

本来ならば彼等は安全圏で命令していて欲しいと思うが一緒に戦う喜びを知ったアンドロイドにそれを手放せるのか?

 

「人間だろうがアンドロイドだろうが知ってる奴が死ぬのはちっと悲しいな」

 

そう言うガースキーの目が少し潤む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『報告;ガルマ大佐より呼び出し命令』

 

メイ達との写真を撮り終えた二人のポッドがそう報告する。

急ぎ、元キャンプへと戻った二人はガルマの居る執務室に入る。

 

「入るよ、ガルマ」

 

そう言って入る9Sにガルマが気付く。

 

「来たか、ナインズ。早速だが所用が出来た」

 

あの放送事故以来、9Sはガルマ・ザビのことをガルマと呼び、ガルマは9Sのことをナインズと呼ぶようになった。

傍には、何時の間にかデボルとポポルがガルマの秘書役となりサポートをしている。

 

「君達には私と一緒に来て欲しい」

 

「一緒にって何処に?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よ、ようこそお越しくださいました。ガルマ大佐」

 

「君がパスカルか、此方こそよろしく頼む」

 

ガルマ達が来たのはパスカルの村だった。

会談の用意が出来たとパスカルが元キャンプへと使者を送り、メッセージを受け取ったガルマが即動いたのだ。

予想外の速さにパスカルも驚く。2Bも9Sも居る。

しかし、それ以上にパスカルが気がかりなのは、村の入り口に3機のモビルスーツが此方を見ていたのだ。

2機がザクで残り1機は9Sも見たことがない新型。

「プロトタイプドム」

ニアーライト大尉に送られたモビルスーツだ。

 

「ガルマ、過剰戦力過ぎるよ。パスカル達が完全に怯えてるよ」

 

9Sがガルマに耳打ちする。

事実、パスカル以外の機械生命体は家の中に居るか物陰に隠れて此方を見ていた。

しかし、ガルマは9Sの言葉にこんな返事をする。

 

「砲艦外交って奴だ、9S。交渉事で舐められる訳にはいかないからな。外交の基本と言える、覚えておくといい」

 

それから、ガルマとパスカルの交渉に入る。

 

村人にむやみに危害を加えない事。

ジオン兵やアンドロイドに攻撃しない事。

捕虜となった機械生命体を引き取る事。

パスカルを始めとした村の機械生命体の部品の提供。

戦い以外での村の人材提供。

パスカルが非戦闘派機械生命体代表になること。

等々。

 

主な交渉が終了し、ガルマとパスカルが雑談に入る。

そんな中、ガルマが興味深い事を聞いた。

 

「森の国?」

 

「はい、元は森に配備された機械生命体達だったんですが何時の間にか独立して国を作ってるようなんです。

とても排他的で近づくものは敵扱いされるんです」

 

「排他的か、放置しておくのも危険か…場所は?」

 

「廃墟都市の北東です。大きな商業施設の廃墟から行けたかと…」

 

その言葉に、ガルマが少し考える。

 

「2B、ナインズ、少し調べに行ってくれないか?パスカル殿と話した後に我々も行く」

 

「「了解」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガルマの命を受けた二人は廃墟都市を抜け吊り橋を渡る。

そこで、二人は一際大きい廃墟の中へと入る。

中は荒れ放題で天井の一部が崩れ草は伸び放題。元から植えられていたのか木も数本生えていた。

朽ち果てたエスカレーターが此処を商業施設である事が窺える程度であった。

 

「ここが、パスカルの言っていた商業施設の廃墟ですか。記録によると『デパート』という名前だったらしいですね。こんな大きな商業施設を造るなんて旧世界の人類は余裕があったんですね」

 

そう言って、二人は廃墟の中を見回る。

 

「戦争が終わったら、僕等もこういう所で買い物出来るんですかね?」

 

「仮定の話は無意味」

 

談笑しつつ探索する二人。

其処で二人は、森の方に行ける道を見つけるがシャッターが下りており行けそうになかった。

 

「塞がってる」

 

「いっそ壊しちゃいます?」

 

シャッターは既にサビだらけで2Bの剣やポッドの射撃で簡単に破壊できそうだった。

しかし、2Bはその案に難色を示す。

 

「人類文明の遺跡を傷つけるのはよくない」

 

「それはまあそうなんですけど」

 

アンドロイドはこれまで経年劣化や機械生命体に破壊された遺跡を順次再生させ続けてきた。

全ては、月に居る人類が地上に戻っても困らないようにする為に。

だから人類文明の遺跡を傷つけるようなことは避けられてきた。

最も、キャンプを広げる為にジオン兵は容赦なく遺跡を破壊し、アンドロイド達は複雑な心境でそれを見ていたが。

 

「他の方法を探しますか」

 

「そうだね」

 

結局、二人はシャッターを壊さず入って来た入り口に引き返す。

 

「こういう所で買い物とか楽しいかも知れませんね」

 

「私達には必要ない…」

 

「いえいえ、戦争が終わったら僕達兵士はやる事がなくなります。そうしたら、平和に暮らせる様になります。

そうだ、平和になったら一緒に買い物に行きませんか?2Bにお似合いのTシャツとか買ってあげますよ」

 

「Tシャツ……」

 

私の脳裏に自分が殺した9Sの姿が浮かぶ。

最早、思い出せない程9Sをこの手にかけてきたが此処とよく似た商業施設廃墟では必ずと言っていいほど9Sは私に「Tシャツを買ってあげる」と言う。

でも、一度だって約束は守られた事は「もしかして、前の僕もそう言っていました?」な…!?

 

「9S、貴方…」

 

「ああ勘違いしないで下さいね。別に記憶があるとかじゃありませんから」

 

9Sの言葉に驚く2Bだが、9Sが一部訂正する。

その後、9Sは2Bが処刑モデルだと知ってる事を話す。

 

「そう、貴方も気づいたんだね」

 

「正直確信が持てませんでしたけどね。でももう僕を殺す必要はないんでしょ?」

 

9Sの言葉に2Bが頷く。

 

「私のE型の任は解かれてる。これからの私は君を守り続ける」

 

「これから『も』でしょ、2B」

 

9Sの笑みに2Bも口元を緩める。

昔の2Bなら「感情を持つことは禁止されている」と9Sに注意するが、ヨルハ計画が露見してから有耶無耶となり、ガルマ隊へと編入されると共に完全に消えた。

 

「じゃあ2B、僕の事はナインズって呼んでください」

 

「それとこれとは別」

 

2Bの言葉に9Sが「え~~、そんな」と言うが、顔はやはり笑っている。

9Sの笑み見て2Bも笑みを浮かべる。

 

『警告;直情に機械生命体の反応多数』

 

「森の王バンザイ!」

 

「ああ、もういいところで!」

 

二人の時間を邪魔された9Sと2Bが上から奇襲してきた機械生命体の迎撃に入る。

9Sが「スキャナータイプは戦闘は不向きなんですよ!」と文句を言うが2Bとの連携で次々と撃破していく。

最後の機械生命体を倒した時にある異変が起こった。

撃破した時に頭が転がり球体の頭が割れ別の球体が現れた。

見たこと無い機械生命体だと判断した二人が迎撃態勢に入るが球体が「やめてーーーー!!だめーーーー!」と大声を上げ転がりながら逃げ出し途中のシャッターを破壊し森へと逃げた。

二人がシャッターを潜った時には球体は影も形もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「王国に栄光あれぇぇーーー!」

 

機械の断末魔が辺りに響く。

それを、聞いた機械共は私に向かってくる。

いいだろう。皆殺しだ。

 

「森の国」と奴等が言っていたが何時から機械共は国を造った?

人間みたいな行動で腹が立つ。

あの機械共は守る為に戦うようだ。

守るものを失った私にはそれが腹立たしくて仕方がない。

 

この森に居る機械生命体は、攻撃的でしぶとい。

機能的には他の機械生命体と大差ないが戦闘訓練をしてる機械生命体を見るのは初めてだ。

最初は不思議だったが奴らが「守る」という言葉を頻繁に聞いて腑に落ちた。

守る為の戦いがどれほど兵士を強くするか私は知っている。

私自身がそうだった。

 

ヨルハ機体試作型、アタッカー二号。近接戦闘に特化した機体でありながら、私は凡庸な兵士だった。正直、戦いは苦手だった。

そんな私が真珠湾降下作戦のメンバーに選ばれたこと自体、あの作戦が「実験」だったんだと今なら分かる。

しかし、当時の私は「期待されてる」と勘違いしてた。正直、当時の自分を殴りたい気分だ。

必死だった。初戦で16機中4機しか残らない大打撃を受け、司令部に救援を求めるが断られ現地のレジスタンスと共同で作戦に当たった。

 

ふと、離れた場所で戦闘音がした。

咄嗟に身を隠し様子を窺うと二人のヨルハ機体が機械生命体と戦っていた。

その二人には見覚えがあった。

 

2『E』と9S。

 

また司令部が私に追っ手を放ったのか。何度返り討ちにすれば気が済むんだ。…とも思ったが二人に私を探す様子はなく、お互いに死角をカバーしていた。

その様子に胸が締め付けられるような感覚がしてその場から離れる。

あの二人が囮になれば私は楽々進めると思ったからだ。…羨ましい訳ではない。

 

そして、目論見通り手薄となった城の壁をよじ登り、上階から王の居場所を探す。

頭となる部分を潰せば集団は脆くなる。皆殺しはその後だ。

だが、やはり一人より二人の方が戦闘も早く終わるからか、あの二人は既に王の部屋に居た。

私は天井付近で息を潜め様子を窺う。王さえ倒せばこの際、私だろうがこいつ等だろうが変わらないと判断したからだ。

しかし、二人が王を見た後、お互いに顔を見合わせるばかりで手を出そうとしない。機械生命体とはいえ小さいからか?

いい加減、我慢の限界がきた私は飛び降りた。狙いは当然、王の小さい体だ。

狙い通り私の剣は小さな機械生命体の体を貫通した。コアの断末魔を聞いた私は串刺しにした機械生命体を投げ捨てる。

 

「2B!あのアンドロイド、ヨルハ機体だよ!」

 

2B?2Eじゃなかったのか?やはり私への追っ手じゃないのか?

横の箱が私の事を『ヨルハ元特殊指定機体と確認』と言った。元?

私が考えていると箱から、聞きたくも無いクソッタレの声が流れてきた。

 

『バンカーより、2B、9Sへ。元指名手配中だったA2のブラックボックス信号を此方でも探知した。すまないが暫く私とA2に話をさせてくれ』

 

はっ!?

 

「了解」

 

『……久しぶりだな、二号…それともA2の方が良いか?』

 

「どっちでもいい。…それよりどういう風の吹き回しだ。アンタが私に話しかけるなんてな」

 

『率直に言う、戻ってる来る気はないか?』

 

戻って来る気はないか?だと!?

 

「ふざけるな!アンタが私達にした事、忘れたとは言わせない!皆…皆死んだんだぞ…アンタ達の実験の所為では私以外皆死んだんだ!」

 

「実験って一体に何が…」

 

9Sには訳が分からんだろうな。

なら教えてやる。

 

「知りたいなら教えてやる。こいつは『いや、此処は私が説明しよう』…嘘だけは言うなよ」

 

あいつの口から真珠湾降下作戦の話が始まる。

概ね、私の知ってる内容だが、衛星から観測できない所は此方が話す形で進める。

そして、最後まで聞いた9Sの顔色は悪くなっていた。

 

「そんな!実験と称して体内に爆弾をつけてサーバーの破壊なんて」

 

「おまけにそいつは、その時の戦闘データでお前達を作り上げたんだ」

 

『そうだ。全ては月面人類会議の指示のままにな。だが、そのおかげでヨルハ部隊は更に強くなったのも事実だ』

 

「だから、『自分達は悪くない』か?やっぱり人類会議もアンタもクソッタレだ!」

 

『…そうだな、私の罪だろう。マヌケな事に我々も切り捨てるコマだと気付きもしなかったからな』

 

「どういう意味だ?」

 

『そうだな、今度は此方で起こった事を話そう』

 

あいつの口から月面人類会議とヨルハの秘密が語られる。

耳を疑ったが2Bと9Sの反応にアーカイブも送られた為、真実だと悟った。

 

「月に人類が存在せず、私達は月に人類が居ると思わせるダミーで次世代機の完成間近に廃棄が決定されていて、ブラックボックスは機械生命体のコアを流用されていた。別の宇宙から10億の人類が現れた…ふざけてるのか?」

 

月に人類が居ない事やヨルハ計画については分かったが、最後の10億の人間って何だ?

あまりの予想外の言葉に落ち込みことも出来なかったぞ。

 

「改めて言われると確かに…」

 

『まあ、私も最初は信じられんかったからな』

 

「これは実際に人間に会って貰ったほうが…」

 

アホくさ。付き合いきれない。

私は窓へと飛び外へと飛び出す。

三人が私の名を呼ぶが知ったことか。

大体、人間が現れたからって何だ?

今更、人間が私達の手を刺し伸ばしたからって4号や他の皆は生き返らない。

 

それなのに…人間に会いたいと思う私が居る。人間の声を聞きたい。人間に触れたい。人間と共に戦いたい。人間と暮らしたい。

幾ら、アンドロイドが人間を愛するようプログラムされてるとはいえこれは異常だ。

ん?あれは最近見るようになった緑色の巨人型機械生命体か。

丁度いい、ちょっと憂さ晴らしに付き合って貰う…ぞ?

 

「ん?君は…ヨルハのアンドロイドかね?書類の中に君のデータは無かったと思うが…」

 

こ…これが人間!?初めて会うのに分かる!この人が人間だって。人間に会えてこんなに嬉しいなんて……。

4号、皆ごめん。私、マダそっちに逝けそうにない。

 

「A2とお呼び下さい」

 

「そうか、私はガルマ・ザビだ。君もガルマ隊に入るかい?」

 

 

 

 

 

 

 




A2がチョロイン化してる気がしますが設定でヨルハ部隊は他のアンドロイドより「人類を愛する」プログラムが強く刷り込まれてる。+4年の歳月ということで。

後、設定本とかやっと手に入れました。
感想ですが、年表が予想以上に細かかった……


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10話 人形 工場墜とす

 

 

 

「これが例の宇宙生物の調査結果か」

 

ギレンが提出された書類を読む。

 

先日、見つかった宇宙人の死体とエイリアンシップの調査の内容だ。

通信機から調査した学者が話す。

 

『宇宙人の体組織を調べたところ動物よりも植物に近い事が判明しました。また声帯器官なども退化が見られ何かしらの通信方法があったかと』

 

「エイリアンの船は如何だったんだ?何か新しい発見があったか?」

 

『それに関しては調査中でして…何分、あの船が放置され数百年が過ぎ何処も彼処も経年劣化が激しく…現在、エイリアンの機械のデータサルベージを行ってますが未知の言語も多く中々』

 

科学者の言葉にギレンは継続して調査を指示する。

宇宙人の技術は是が非でも手に入れておきたかった。

ジオンの軍事力の底上げに、もしかすれば元の世界に帰る手段が見つかるかもしれないとも思っていた。

 

『承知しました。ところで調査の終えたエイリアンの死体は如何しましょう?』

 

「…防腐処理した後、博物館にでも送っておけ。いい見世物になる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

元キャンプの巨大な広場。

そこにポツンとパスカルが立ち竦む。

遠巻きにアンドロイドやジオン兵がパスカルの姿を見ている。

そして、予定時間となり、轟音と共に突風がパスカルを襲う。思わず腕で目をかばう。

風が止みパスカルが視線を戻すと目の前に緑色をした巨大な物体が鎮座している。HLVだ。

HLVのハッチが開き機械生命体が降りてくる。

 

パスカルはガルマとの交渉で決まった約束通り機械生命体の捕虜を受け取りに来たのだ。

HLVから次々と降りていく機械生命体はパスカルの前に集まる。

その数は数十体おり、正直パスカルの村の人口より多い。

内心パスカルは「数聞くの忘れてた」と呟くが後の祭り。

 

「それでは皆さん、私の村へと案内するのでついてきて下さい」

 

「オオ、あれがネットワークから独立シタゆにっとカ」

「ワーイ、村だムラだ」

「エエ…モット人間ヲ観察シタイ」

 

パスカルの言葉に降りた機械生命体達は様々な反応をしつつパスカルの後に続く。

HLVの中からその様子を見るヨルハのアンドロイド達だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

元キャンプ内に作られたかなり広い一室。

ジオン軍がブリーフィングルームとして用意した部屋だ。

多数の椅子が並ぶ。アンドロイドが座ってもビクともしない特注品だ。

其処には、2Bと9S、A2が既に座っていた。

 

「A2もガルマ隊に入ったんだね」

 

「ヨルハのアンドロイドの殆どはガルマ隊に編入されましたからね。一緒に頑張りましょうねA2さん」

 

「…お前達と慣れ合う気はないが命令ならそうする。私の事はA2で構わない」

 

「分りました、A2。それにしても、A2の義体はボロボロのようですけど一度バンカーで見てもらった方が…」

 

「いや、既にジオンで軽く調整してもらった。今までより調子は良い方だ」

 

A2は既にガルマの命を受けメイを始めとしたジオンの整備士に調整が行われた。

新しい人工皮膚やジオン側が用意した制服もあったが其処等へんはA2も譲らず見た目は変わらなかった。

キャンプに来た時にアネモネがA2を抱きしめた時は2Bも9Sも驚いた。

三人が談笑していると扉が開きレジスタンスのアンドロイドやジオン兵、地上に来たヨルハが入って来た。

今迄ブリーフィングルームを使っていた事がある2Bと9Sも此処までの人数が集まるのは初めてであり、何かしらの大規模な作戦があると感じた。

 

「あ、9S」

 

「801S!?君も此処に?」

 

ブリーフィングルームに入った801Sが9S手を振る。

9Sもそれに気付き、801Sへと近づく。

 

「ええ、ガルマ指令から動けるヨルハ部隊の総動員を命令されましたから。僕もこうして此処に、メンテナンスはジオン兵に代わって貰いました」

 

「総動員?一体どんな作戦が」

 

「それから9S」

 

「なに?ウブッ!」

 

801Sの拳が9Sにヒットする。

2Bが立ち上がろうとするがA2が止める。

 

「今回、来ていないS型とB型、H型とD型の分です。テレビカメラの前でヨルハの秘密を喋って僕らの立場悪くした罰ですよ。甘んじて受けてください」

 

「…うん。「でも」ん?」

 

「あの放送で皆の心は救われたのは事実です。その点に関しては感謝します」

 

「うん、君もね」

 

そう言って、二人が握手をする。が、

 

「まぁ、僕以外にも殴る人居るんですけどね」

 

「へ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、ブリーフィングルームにガルマと秘書役のデボルとポポルが入り、皆の居る正面に立つ。

 

「よく集まってくれた諸君。これより作戦説明を行うが……9S、何かあったのか?」

 

ガルマの視線が9Sに向く。

あの後、9Sはブリーフィングルームに来たヨルハ部隊に一発づつ殴られ、頭にコブができ頬が腫れていた。

 

「…皆に気合を入れてもらっただけです」

 

「そ、そうか…程々にな」

 

一瞬、虐められたかとも思ったが2Bが放置しないだろうし9Sもやられたままじゃないだろうと判断したガルマが話を戻す。

デボルとポポルが書類をアンドロイドとジオン兵に渡す。

紙の書類なんて珍しいなとアンドロイド達が思いつつ内容に目を通す。

 

「工場廃墟占領作戦?」

 

書類を読んだ誰かの声が室内に響く。

工場廃墟と言えば此処から西にある巨大な工場廃墟だ。

2Bと9Sが初めて超大型機械生命と戦闘した場所でもある。

内部を調査した2Bも全貌を把握しきれず9Sは自爆した時にデータのアップロードが出来ず覚えていない。

 

「諸君等も知っての通り、工場廃墟は未だに機械生命体の手にあり、今も新しい機械生命体を生み出している。

そこで、我々はこの工場を占拠し敵性機械生命体を排除する。この工場廃墟を墜とせばこの辺りの機械生命体の半分以上は減る計算となる」

 

その言葉に、アンドロイド達から「おお!」と声が漏れる。

今迄、爆撃などで攻撃はしていたが数の差から占領作戦が出来ず機械生命体とのいたちごっことなっていた。

 

「情報によればモビルスーツも歩き回れる巨大空間があるそうだ。現在、我が軍の水陸両用モビルスーツで海中からの侵入口を探してるが発見の報は未だにない。最悪、歩兵のみの占領となる」

 

「水陸両用ってあれかな?」

 

「あの可愛いの?」

 

「可愛かったか?」

 

2B達は二日ほど前に送られてきたモビルスーツを思い出す。

焦げ茶色をした全体的に丸みの形状をしたモビルスーツでザクに比べると三頭身ぐらいだが意外と女性型アンドロイドに変な人気が出てる。「モビルスーツの名は確か、アッガイでしたっけ」と呟く9S。

 

「あの、質問して良いですか?」

 

アンドロイドの一人が挙手して聞く。

9Sと同じスキャナータイプだった。

 

「ふむ、4Sだったな。何かね?」

 

ガルマがS型の名を言った直後にA2の目が鋭くなった。

 

「は、はい!如何して占領なんですか?破壊した方が手っ取り早いと思いますが」

 

機械生命体の拠点なら占領より破壊した方が早い。

何しろ、機械生命体はアンドロイドより早く出来る。

アンドロイドも機械生命体の拠点を占領しようとしなかった訳ではない。

出来なかったのだ。

占領しようと戦えば数に勝る機械生命体との消耗戦となり最終的には押し潰される。

それなら、中に居る機械生命体ごと拠点を破壊した方が断然いい。

アンドロイド側が機械生命体の情報が少ない原因の一つでもある。

 

「確かに破壊するだけなら数機のザクだけで事足りるのは事実だ。…ジオンではあるプロジェクトが立ち上がった」

 

「プロジェクト?」

 

「その点に関しては私が説明しよう」

 

ドアから一人の男性が入ってくる。

9Sと801Sはその男性の顔に見覚えがあった。

 

「ギニアスさん!」

 

「おお、ギニアス少将。君が直接来たのか」

 

「え?少将!?」

 

「ギニアス・サハリンだ。少将とはいえ技術少将だからあまり気にしなくていい。それで、プロジェクトの方だがこれを見るがいい」

 

「アプサラス計画?」

 

前方のモニターにプロジェクト名と機体の完成予想図及びスペックが書かれているが、それを見たアンドロイド達は驚くばかりだ。

 

「あんな大きさで空を自由に飛ぶのか!?」

「出力がとんでもないぞ。超大型機械生命ですら相手にならないんじゃないのか!?」

「こんな物本当に出来るのか!?」

 

「私のアプサラスが完成すれば機械生命体なぞ雑魚も同然。アプサラスのメガ粒子砲なら地面の下や山の中に隠れても無駄だ。だが、その為の研究開発にはかなり広い施設が必要でな。

此処の施設では手狭なのだ」

 

「本当にこんなものが出来るんですか!?」

 

9Sが質問する。

 

「無論だ、私の計算では一年以内に完成する見込みだ」

 

「一年!?」

 

ギニアスの発言に周りのアンドロイド達がザワザワしだす。

恐るべきジオンの科学力。

次々と新型を繰り出し一定以上の戦果を上げ機械生命体も震えあがる人間たちの軍隊。

アンドロイド達の期待の星。

ただ、心配なのはギニアスが説明の途中に何度も咳払いしていることだが。

 

「っと言うわけだ、諸君。今までアンドロイドが機械生命体の拠点を占領した記録はない。無いのなら我々が前例を作ればいいだけだ!」

 

ガルマの言葉にアンドロイド達が「おおおおおおおお!!」と歓声が上がる。

工場廃墟占領作戦が決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前達!今度の作戦は重要なものだ。他のアンドロイド達に遅れをとるな!」

 

「「「「おー!!」」」」

 

「ジークジオン!」

 

「「「「ジークジオン!」」」」

 

作戦開始の前に準備期間として3時間ほど時間があり作戦に参加するアンドロイドやジオン兵はそれぞれの時間を過ごす。

今のヨルハ達みたいに気合を入れる者。

武器やチップの整備する者。

作戦参加に命じられなかった者に自慢する者。

そして、2Bや9Sのように座って周囲を見る者。

 

「彼女たち、張り切ってますね」

 

「ガルマ指令の初めての大規模な作戦で浮かれてる。ところで9S,あの変なヘリは何?」

 

9Sが2Bが指さす方を見る。

其処には左右に大型のローターをつけたずんぐりむっくりな機体があった。

 

「あれはファット・アンクルですね。工場廃墟の外側の通路に行く別動隊が乗り込む機体です」

 

9Sの説明に2Bが「そう」と言う。

今回の占領作戦は二つのチームで行われる。

一つは正面から突入部隊、二つ目はファット・アンクルで工場内外側通路に侵入する部隊。

2Bと9Sは正面から突入する予定であった。A2は、ファット・アンクルに乗る別動隊となった。

 

「それにしても、工場廃墟か。……あっ」

 

「どうしたの、9S」

 

「いえ、以前にオペレーターさんに頼まれていた仕事を思い出しまして」

 

9S以前、専属オペレーター21Oに工場廃墟の端末に人類の過去記録を調べて欲しいと言われていた。

ヨルハの真実とかのゴタゴタで今迄放置していたのだ。

 

「そういえば私も」

 

「確か、16Dさんに頼まれた」

 

「11Bの遺品探し」

 

11Bとは、工場廃墟にある超大型機械生命の破壊の為に2Bと一緒に降りた仲間であり、途中で撃墜された。

その後輩であった16Dが11Bの遺品を欲しがった為、工場付近を探索しようとしていたが9Sと同じヨルハのゴタゴタがあった。

 

「あの、少しよろしいでしょうか?」

 

2Bと9Sの談笑に一人の女性が話しかける。

声のした方に向くと薄い緑色の髪の女性が此方に話しかけていた。

傍には変わった髪型をしたジオン軍人が居る。

 

「はい、何でしょうか?」

 

「貴方達も工場の占領に参加するんですよね?」

 

「うん、そのつもり」

 

女性の言葉に2Bが答える。

 

「この度は、兄さんの無茶に付き合わせてしまい申し訳ありません」

 

突然の女性の謝罪に焦る2Bと9S。

守るべき、敬愛する人間が自分達に謝罪するなぞ二人には耐えられなかった。

付き人の軍人が女性に喋る。

 

「アイナ様!そう人前で頭をお下げになるのはいけませんと…」

 

「そ、そうですよ。特に僕達みたいな人形に。もったいない!」

 

軍人に同調する9S。

それに首を縦に振る2B。

 

「いえ、身内の者が謝罪を示さねば兄さんは止まりません。それから貴方、人形とはいえ、同じ志を持つ同士。自分を卑下する必要はありません」

 

「は、はい!」

 

アイナ・サハリンの言葉に9Sが顔を赤くする。

それを見て、ムッとする2B。

それから、しばらく話して二人と話し終えたアイナは別の場所に行き、付き人のノリス(アイナが紹介した)も付いていく。

 

「…9S、鼻の下延ばしすぎ」

 

「え!?」

 

「美人だったもんね。あの人間」

 

「ええ!た、確かに美人でしたけど、高嶺の花と言うか!?僕的には2Bの方が好みと言うか」

 

「そろそろ作戦が始まる。行くよ9S」

 

「2B、待って下さい。僕の話を…トゥビーーー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作戦が開始され正面からアンドロイド達が入る。

同時刻には戦闘ヘリが護衛したファット・アンクルのハッチが開きアンドロイド達降下する。

 

「よし、敵の邪魔は居ない。降りるなら今のうちだ!」

 

中に入ったアンドロイド達は内部へと進み次々と敵性機械生命体の排除をする。

突然の襲撃に、機械生命体も対応が遅れたが相も変わらず数の優位で押し切ろうとするがヨルハ部隊が大多数参加しており機械生命体は次々とスクラップとなっていく。

工場の周りはミノフスキー粒子が散布され外は勿論、内部もネットワークが寸断され始め機械生命体は完全に烏合の衆と化す。

中には、戦いを放棄し降伏するものも出始め、その機械生命体を尋問なりハッキングなりして工場の地下空間をも制圧する。

途中に9Sが目的の端末を見つけてハッキングしたりとやり放題だった。

そして、2Bも目的の物を見つける。

 

『発見;ヨルハB型。11Bの義体』

 

「こんな所に居たなんて。あの時、居なかった筈」

 

そこは、嘗て2Bが工場内に侵入し、防衛用の大型機械生命体と戦った場所だった。

 

「あの後、此処まで来たんでしょうか?」

 

「ブラックボックス反応は…当然ないか」

 

『推奨;使用可能な武器の回収。また、記憶領域内に断片的な記憶データを確認』

 

ポッドの言葉を聞いた2Bは義体の傍にあった武器を回収し残された記憶データを見る。

その記憶データには「脱走計画」と書かれていた。

 

「脱走計画…」

 

「彼女もヨルハの秘密を知ったんでしょうか?だとしたら皮肉ですね」

 

「武器はバンカーにいる16Dに渡そう」

 

「…今更ですけど、渡す必要あります?11Bって人、新しく造られてましたけど」

 

2Bが依頼を受け三か月以上、11Bは新しく造られ任務をこなしていた。

 

「…多分、渡した方がいいと思う」

 

工場の占領は成功した。

地下に居た大型多脚兵器の破壊及び工場の頭脳と言える場所を占領しジオン軍が乗っ取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、バンカーに戻った二人。

 

「私の依頼、覚えていたんですね。偉いですよ」

 

「頭を撫でて子供扱いは止めてくれませんか?遅くなったのはすみませんけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩の武器ですか?もういりませんけど。それより聞いて下さいよ、2Bさん。新しく生まれた11Bが私の彼を奪おうとしてるんですよ!あ、彼っていうのはかっこいいジオン兵なんですけど…」

 

「……」

 

その後、30分程ジオン兵との馴れ初め話を聞かされる2B。

 

 

 

 

 

 

 



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11話 人形達の日常

 

 

 

 

「よし、P1、P2、P3、今日の試験は終了だ。帰艦しろ」

 

オリヴァー・マイが通信機で返って来いと言う。

第603技術試験隊は、現在別の宙域でP1を始めとしたアンドロイドの操縦試験をしていた。

 

「前よりだいぶ、動きも良くなりましたね。新型のモビルスーツを廻して貰ったかいがありますね」

 

「新型と言っても強行偵察型ですけどね」

 

三人が乗っているのは、偵察活動が目的のモノアイを大口径カメラに変えた強行偵察型のザクだった。

偵察型ゆえ戦闘能力は高いとは言えないが機動性が中々あり、三人も最初は四苦八苦と操縦していた。

 

「新型を廻して貰えるだけありがたいと思いなさい。…あれ、P3が動いてないわね」

 

モニク・キャデラックの言葉にマイがモニターを見ると、P1、P2のザクは此方に向かっていたがP3のザクだけは微動だにせず一点を見続けたていた。

 

「本当だ、P3、如何した?P3、戻ってくるんだ」

 

マイが呼びかけるがP3に反応はなく、P1、P2に引っ張って来るよう命令するかと考えた時にP3が反応を示した。

 

『ごめん、中尉。私、行かないと』

 

P3の乗るザクがヨーツンヘイムとは別の場所にブースターを加速させる。

 

「なに?脱走?」

 

「待つんだ、P3!止まれ、止まるんだ!P1、P2!P3を追え!艦長」

 

「ああ、もう。全速前進!P3のザクを追え」

 

内心、反抗期かと思った艦長だったが追わない訳にも行かず3機のザクに続きヨーツンヘイムを進ませる。

追跡は数分以上続き、ヨーツンヘイムのモニターに人工物が映る。

 

「衛星?」

 

「アンドロイドの衛星か?」

 

モニターには衛星が映る。

ジオンで造られた記録はなくアンドロイドの物であろう。

しかし、その衛星は放棄されたのか所々ボロボロであった。

 

「…アンドロイド側のデータにあったわ。衛星の名は『ラボ』。アンドロイド達の兵器の実験研究用の施設みたいね。

この世界の8年前に大規模な火災が発生して多数の死傷者が出たようね。その後、修理するより新しい衛星を造った方が早くコストの関係でこの衛星は破棄されたそうよ」

 

データベースを検索したモニクが内容を説明する。

マイが「火災か」と呟く。

宇宙に住む彼等にも火災事故は他人事ではなかった。

衛星の周囲にP1、P2のザクを見つけ通信をかける。

 

「P1,P2、P3の行方は分かったか?」

 

『はい、中尉。P3はザクを降りて廃棄衛星に侵入しました』

 

P2が指さす方にP3の乗っていたザクがあった。

丁度、衛星の陰になってる場所でヨーツンヘイムからは見えにくい場所だった。

 

「お前達は其処で何をしていた」

 

『はっ、ザクを降りて探せとは言われてませんから』

 

その言葉にマイとモニクは眉間に皺を寄せる。

P1とP2は命令に忠実だ。忠実過ぎて命令通りの事しか出来ない。想定外の動きに臨機応変な対応が出来ない。

本来ならP3がその穴埋めをするのだが、P3が居なければこれだ。

 

「今後の課題ね」

 

モニクが呟く。

今のままでは正式に量産できない。

 

「しょうがない、僕が行くよ」

 

溜息をついたマイが宇宙服を着る為にこの場を後にする。

 

 

 

 

「それで、何で俺も行かなきゃならないんでしょうね?中尉殿」

 

「どうせ暇だったろ?ワシヤ中尉」

 

「暇じゃねえ…確かに暇だったけど…」

 

廃棄された衛星にマイと同僚のヒデト・ワシヤが中に進む。

廃棄されただけあり、中もボロボロで無重力で進む。

最も、宇宙暮らしの長い彼等にとって無重力は慣れたものである。

 

『中尉、その辺りにP3が居ると思うよ』

 

衛星の一部屋一部屋調べていくと外に居るP1から通信が着た。

そのもう一つ奥の部屋の扉付近にP3を見つけ近寄る。

 

「P3!此処に居たのか」

 

「全く、脱走なんて本来は軍法会議ものだっつうの。…聞いてるか?ん?」

 

二人の声に反応しないP3にワシヤがP3の視線を追うと黒焦げとなった人型が幾つもあった。

 

「げっ、これって!?」

 

「アンドロイド達の死体か?再利用出来ないと放置されたのか?」

 

マイの言葉にワシヤは「うへぇ」と言葉を漏らす。

人間の死体じゃないとはいえ見ていて気分の良い物じゃない。

ワシヤもマイもさっさと艦に帰りたかたが、P3が中に入り死体を触る。

 

「おい、P3」

 

「平気で触るな!おい」

 

二人の声を無視してP3は全員の遺体に触り、その内の二体に寄り添うように座る。

 

「中尉、この子達を助けてあげて」

 

「助けてって、そいつ等、死んでるか壊れてるんじゃないのか?」

 

ワシヤの言葉にP3が首を振る。

 

「分からない。でもこの子達を放置できない」

 

P3の言葉に暫し思考を巡らせるマイはP3の触る死体に触れる。

 

「!?これはブラックボックス!?」

 

死体となったアンドロイドの動力炉を見たマイは息をのむ。

 

 

ヨルハのブラックボックスが何故此処に?

施設が放棄されてから8年ということは、このアンドロイド達はプロトタイプ?

他のアンドロイドは、……駄目だ、核となるブラックボックスもメモリーも破壊されてる。残りの一体は普通のアンドロイドのようだな。…記憶データの破損があるがまだ動かせるか?

この二人は……幸いブラックボックスに外傷は無い。一体の方は攻撃されて破壊された痕があるが急所が外れてたようだ。

 

 

「運ぶぞ。手伝えワシヤ。P3もな」

 

「中尉」

 

「ええ!運ぶの!?本気かよ!?」

 

マイの言葉に笑みを浮かべるP3と嫌そうな顔をするワシヤ。

文句を言いつつワシヤが手伝い、二体のアンドロイドをヨーツンヘイムへと運び。

 

「艦長の許可位取れ」

 

「貴方は一体何しに行ったの?」

 

同僚や艦長の冷たい視線を受けるマイだが、「P1達の評価試験もあるから合間合間でしか調べられないか」と考えるだけで気にもしなかった。

その後、独断専行したP3は叱られヨーツンヘイムのトイレ掃除を一月やる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

砂漠地帯。

今日も今日とて砂を含んだ風が吹く。

そんな中、9Sが空を見る。

 

「9S?如何したの?」

 

同行していた2Bが上の空の9Sを見て、そう聞く。

 

「あ、いえ。ちょっと月が見えたので」

 

9Sの言葉に2Bも空を見上げる。

太陽で明るく確認しずらいが薄っすらと丸い白い物が見えた。

 

「見えた」

 

「月の裏側の宇宙に10億の人類が居るんですよね。2B、もしもジオンがこの世界に現れずヨルハ計画が進んでいたら、僕達ヨルハ機体はどうなってたでしょうね?」

 

「仮定の話をしても仕方ない。でも、そうなっていたら君も私も無事じゃなかったと思う」

 

計画通り、時間が来たらバンカーのバックドアが解除され機械生命体に乗っ取られて全滅。

晴れて、月面に人類が居るという嘘が完成する。

想像に難しくない。

 

「たぶんそうなっていたでしょうね。2B、今だから言えるんですけど、偶に僕達が何の為に戦ってるのか分からない時があったんです。

顔も知らない人類の為に戦え。地球を取り戻す為に戦え。人類を大地に返す為に戦え。

そうインプットされ戦って来ましたが、ふと考えてしまうんです。自分達が何の為に誰の為に戦ってるのか?先も見えない、終わる事のない戦争。戦って戦って戦い抜いて僕達は死ぬ。

それが頭に過ると悲しいという気持ちが溢れてくるんです。たぶん、感情を持つことを禁止にした理由の一つだと思います。こんな気持ちで戦うのは辛すぎる。

でも、今は違うんです。

ジオンと…人間と一緒に居るのが楽しい。人間と一緒に戦うと勇気が湧いてくる。そんな気がするんです」

 

「うん。私も同じ」

 

9Sの言葉に同意する2B。

事実、2Bも人間に会えたおかげでE型の任は解かれ9Sと一緒に居られるだけでも十分であった。

 

「それにしても、バンカーに戻った時は凄かったですね」

 

「ジオン兵が沢山いて他の子も忙しそうだった」

 

現在、バンカーはガルマ隊の宇宙拠点として改造されモビルスーツの保管場所や小さいが製造ラインも造られヨルハ部隊とは別のジオン兵の為の部屋の建造などで遥かに大きくなっていた。

関係ないが、ジオン兵と同じ部屋がいいと言い出すヨルハ隊員も居たらしい。

 

「物資とか大丈夫なのかな?」

 

バンカーで消費する物資は貴重だった。

宇宙開発をしていないアンドロイド達は地球から物資を打ち上げ使用している。

機械生命体の防空システムに何度、貴重な物資が潰されたか。

 

「聞いた話では、月や隕石から鉱物資源を取り出してるとか、それからオデッサ、ジャブロー、中央アフリカの物資打ち上げも順調でジオン本国からも結構な量が送られてるらしいです」

 

つまり、以前のように物資の少なさに悩まなくていいという事でもある。

最も、上層部は出来る限り節約したいのが本音だが。

 

「余裕が出来るのは良い事」

 

「そうなんですけどね。本当なら僕達も休暇を貰っていた筈なんですけどね」

 

そう言って、9Sが溜息を漏らす。

本来なら、工場制圧したアンドロイドやジオン兵には褒賞として休暇が与えられる筈だった。

しかし、ガルマの作戦成功及びアンドロイド達にとって初めての偉業ということでガルマが祝いとして本国から酒を大量に取り寄せ兵達に振舞った。

お祭り騒ぎとなりジオン兵はアンドロイド達と酒を飲みまくった。

幸い、デボルとポポル以外のアンドロイドは酒を飲んでも酔う事はなかったがその分酔っ払いの相手をする事になった。それでも、酔っ払いの相手をするアンドロイドはどこか楽しそうだった。

その結果、ジオン兵の半分近くが二日酔いでダウン。

アンドロイド達は、今度は二日酔いの看病をする事になったが、やはりどこか楽しそうだった。

少し気になるのは、アンドロイドの女性が酔い潰れた若いジオン兵を連れて何処かに行った位だ。昔、アーカイブで読んだ「お持ち帰り」だろうか?

その中には、今日別の任務があったジオン兵が居たのだが二日酔いで動ける状態ではなく、やむなく2Bと9Sに依頼することとなった。

 

「いいじゃない。人間の役に立つのが私達の使命」

 

「それはそうなんですけど、ガルマから『あまり兵を甘やかさないように』とも言われてるんですけど。

まぁ、オペレーターさんからの依頼も出たんで別にいいんですけどね」

 

9Sが何度目かの溜息を零し砂漠を走る。

目的地の懐かしき「マンモス団地」へと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在、マンモス団地では数機のザクが行き来する。

その内の一体が一棟の団地の前に立つ。

すると、団地の中に入っていたジオン兵とアンドロイドが出てくる。

 

「OKだ。もう中には目ぼしい物はない。開始してくれ」

 

ジオン兵が通信機でそう言った直後にザクが団地を解体しだす。

複雑な表情でそれを見るアンドロイド達。

彼らが何をしてるかと言えば、此処をモビルスーツの砂漠試験場にする為にモビルスーツも余裕で通れるようにしていたのだ。市街地戦の戦闘シミュレーションにうってつけだと判断された。

だが、それとは別に団地で使われている鉄筋及びコンクリートの回収もしていた。少しでも物資の節約をする為だ。

アンドロイド達としても、人類遺産再生管理機構の名目で残して置きたかったが、資源の再利用及び人間の命令で従っていた。

その代わり、団地の内部にある物は欲しければ持ち帰っても良いと許可されたが。

そして、9Sも探し物を見つける。

 

「…家計簿って書いてあるな。これも写真に撮っておくか」

 

9Sが汚れた家計簿のを写真におさめる。他には小さな靴や壊れた玩具なども記録した。

 

「ポッド、記録したデータをオペレーターさんに送って」

 

『了解』

 

ポッドがデータを送信してるのを確認して9Sが場所を移動する。

その直後に、ザクが9Sの近くにあった団地を解体する。

移動した9Sの下に専属オペレーター21Oから通信があり、お礼と人間の家族制度について聞いた。

 

「家族か」

 

アンドロイドには程遠い言葉だと9Sは思った。

以前に、ケンの家族の写真を見せて貰った時は、これが家族かと納得もしたが「羨ましい」とも思った。

家族の話をするケンの顔が今でも忘れられない。

 

「機械に家族なんて……。家族か」

 

9Sが一人呟く。

2Bは、別の手伝いで9Sと別れていたため聞かれなかった。

 

「もし、2Bに『家族になってください』って言ったら、2Bはどんな反応をするかな」

 

『解答;不明』

 

9Sの言葉に答えるポッドの声が何時もより虚しく感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よいしょ」

 

一方、2Bはある物を持ち上げ移動していた。

自分とほぼ同じ大きさと重さの機械の塊。

アンドロイドの死体だ。

死体を担いで2Bはジオン軍のトラックへと乗せる。

アンドロイドの死体や機械生命体の残骸も資源である。

こればかりは、ジオンが現れる前から変わらない。

既に、トラックには大量のアンドロイドの死体と機械生命体の残骸が積まれてる。

 

「おう、2Bご苦労さん。アンドロイドの義体とかはまだあるのか?」

 

トラックの運転手のジオン兵が2Bに話しかける。

 

「理由は分からないが、機械生命体がアンドロイドの死体を集めていたからまだ沢山ある」

 

「そうか、このトラックも満杯になったから一旦荷台をカラにしてくるから俺らが戻って来るまで休んでていいぞ」

 

「了解」

 

2Bの返事を聞くと、トラックは駆動音を鳴らしてその場を後にする。因みに電動カーなので排気ガスは出ない。

トラックを見届けた2Bが移動しようとして、用事を終えた9Sが合流する。

 

「2B、トラックは?」

 

「荷物が一杯になったから運んで行った」

 

「じゃあ、仕事は終わったんですか?」

 

「まだ、奥に沢山のアンドロイドの死体と機械生命体の残骸があるから、それを運ぶのが私達の仕事。次のトラックが来るまで休息をとれって」

 

仕事が終わってない事にゲンナリする9Sだが2Bの休息と言う言葉に反応する。

 

「休息なら少し歩きましょうよ、2B」

 

「でも、トラックが来た時に待ってないと」

 

「此処から、基地までの結構あります。それまでに帰れますよ」

 

9Sの説得に「しょうがないな」と思いつつ手を引っ張る9Sに付いていく2B。

因みに、アンドロイドの死体を運ぶトラックは途中でファット・アンクルに荷物を移して戻って来た為、9Sの想定よりも早く戻ってきて待ちぼうけとなり2Bと9Sが謝罪する破目になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

砂だらけの砂漠。

そんな砂漠に砂ぼこりを上げ、猛スピードで移動する物体が居る。

黒い装甲にザクやグフより太くガッシリした体形、足裏に内蔵されたホバー推進装置により、砂漠でも猛スピード移動できる。

ジオン軍の最新量産型モビルスーツ『ドム』である。

幾つか、量産したドムがガルマの下に送られその内の一機はケンが譲渡した。残りはニアーライト大尉の下に送られる事になったが。

ケンの目前に大型の機械生命体がエネルギー弾を飛ばすが、ドムのホバー走行に次々とかわしヒートサーベルを構え擦れ違いざまに切り捨てる。

切られた大型機械生命体は、轟音を上げ爆発する。

 

「ふぅ」

 

最後の大型機械生命体を撃破しケンが一息つく。

すると、離れていた部下の乗るザクも合流する。

 

「隊長、こっちの小型の連中も片付けたぜ。降伏した奴はなしだ」

 

ジェイクの報告にケンは「そうか」と答えた。

機械生命体との戦闘で降伏する機械生命体の割合はかなり少ない。

ジオンとしては機械生命体が死兵になられても面倒なので降伏は受け入れていた。

しかし、機械生命体の中には「家族の仇!」や「我々がお前達に何をした」と逆恨みも少なからずあり慎重でもあった。

 

「それがケンの新型?かっこいいね」

 

通信機から9Sの声がし、ドムのセンサーが2体のアンドロイドの反応を捉える。

ドムのカメラが9Sと2Bの姿を映す。

 

「9Sと2Bか、二人とも仕事は終わったのか?」

 

ケン達も二人が二日酔いで潰れたジオン兵の代わりをしてる事は知っている。

 

「ちょっと休憩です」

 

「休憩するんだったら、簡易テントに行ったらどうだ?この日差しは人間にもアンドロイドにも厳しいからな」

 

休憩と聞いたガースキーが二人に簡易テントに行くよう促す。

この日差しで、ジオン兵とアンドロイドの中には既に熱中症で休んでる者もいた。

 

「休憩時間をテントで過ごすのもな…まあ歩くと砂が靴の中に入ってうっとしいのは確かなんですけど。あ、そうだ2B。帰ったら一緒にお風呂に入りましょうよ」

 

「!人前で言う事じゃない、9S」

 

「お、二人とも仲いいね」

 

9Sの発言に注意する2Bと冷やかすガースキーとジェイク。

その様子に、ケンがやれやれと呟く。

直後に、団地方面から砂煙が上がり、センサーが敵の反応を捉える。

 

「敵!?」

 

「敵の反応だけじゃない、誰かを追っている?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

油断した。

近くにアンドロイド達が居るからといって警戒を解いた途端、機械生命体に追われる事になった。

 

「はあ、はあ、急げ!」

 

「は…イ…」

 

手を引っ張り少年タイプのアンドロイドと一緒に逃げている。

俺の家族であり子供だ。

アンドロイドが人間のように子供を造れる訳がない。

だから、俺は砂漠で壊れかけていたヨルハ機体を修理して自分の子供にした。

いけない事だと言う事は解ってる。後ろめたさに数か月間、俺は仲間である筈のアンドロイドと連絡もとらず会ってもいない。

多分、仲間たちは俺が死んだと思ってるだろうが、それでも構わないと思った。

敵の機械生命体が家族として互いに寄り掛かる姿に感化された俺は仲間達が如何見るかなんて解ってるつもりだ。

だから、他のアンドロイドが滅多に寄り付かないマンモス団地で静かに暮らしていた。

この辺りは、機械生命体も多く普段は警戒していたが、近くでアンドロイド達が居る事で機械生命体もそっちに行くだろうと油断した。

機械生命体に見つかり俺達を殺す為に追跡してくる。

最早、仲間の居る場所にも戻れない俺達は、何とか機械生命体を振り切ろうと逃げに徹していた。

戦おうとは思わなかった。数の差は勿論、武器も無い俺とパーツが足らず動きもぎこちないヨルハ機体では勝負にすらならない。

俺達に出来るのは連中が諦めてくれることだけだ。

 

「ハア…ハア…アっ!」

 

ヨルハ機体が地面の砂に足をとられ転ぶ。

俺は、足を止め駆け寄る。

こう言う場合、倒れた奴を囮にして逃げるのが鉄則だろうが糞くらえだ。

仮に生き残ろうが俺はまた孤独になっちまう。…それだけは死んでもごめんだ。

 

「に…逃げテ…ニゲテ…」

 

「俺だけ生き残っても意味ねえだろ。家族は一緒に居るもんだ」

 

目前へと迫る機械生命体に俺は覚悟を決めヨルハ機体、俺の子供を抱き締める。

もし、あの世があるなら一緒に行きたいものだ。

覚悟を決めた俺は目をつぶり最後の時を待つ。

轟音と強風を感じるが覚悟をした痛みは一向に訪れず俺は目を開ける。

其処には俺達を追っていた機械生命体の残骸と黒い巨人が佇んでいた。

 

「な、何だ!?」

 

「オ…大きイ…」

 

機械生命体の新手かとも思ったが傍にアンドロイドが居る事に気付く。

俺の子と同じヨルハのようだ。

 

「大丈夫ですか?敵性機械生命体は全滅しました、負傷してるならあちらにあるテントで見て貰えますよ。ところでそっちはヨルハ機体のようですが…」

 

俺の子と同じヨルハ機体の少年タイプが話しかけてきた。

俺達の逃避行は此処までのようだな。

俺は全てのあらましを二人のヨルハ機体に話した。

壊れかけていたヨルハ機体を拾い修理し、家族にしたこと全てを。

 

「家族にですか?こういう場合はガルマに指示を貰いますか」

 

「ガルマ?」

 

聞いた事のない名前に訊き返す。

新しい、アンドロイドだろうか?

 

「新しい司令官です。現在のキャンプの司令官でジオン地球方面軍司令官で人間です」

 

はっ!?

 

後日、俺達はキャンプへと戻ったが以前と比べ大規模な基地に改造された事に唖然とし、人間の司令官に挨拶する。

そして、俺は完璧に修理されたヨルハ機体、32Sとコンビを組んで任務を遂行する事になる。

 

「それじゃ行こうか、父さん」

 

「そうだな、32S」

 

32Sは俺の事を「父さん」と呼んでくれる。

新しく俺に生きる意味を感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

砂漠での任務を終えた9Sが服を脱ぎ、シャワー室に入る。

元々はそこまで大きくはなかったがジオン兵が大量に入れるように改造され大人数が利用できる。

それまで、アンドロイド達もそこまでシャワーを浴びる事はなかったが人間と一緒なら入る者が多数居た。

 

「ふう」

 

シャワーのお湯を頭からかぶる9S。

砂漠での暑さとは違う心地よい暑さを感じる。

不快な砂粒も全て流れていく感覚が9Sにも感じた。

すると、入口の方からガヤガヤとした賑やかさと人の気配を感じた直後に、多数の人影が入って来た。

今日の任務を終えたジオン兵達だ。

 

「ん?先客か」

 

「てか、9Sじゃね?」

 

その中には、9Sの親しい者もいた。

 

「あ、ガースキーさんに…えーと」

 

「ジェイクだ」

 

「ああ、ノーマルスーツを着てないから分かりませんでした」

 

「シャワー浴びるのにノーマルスーツ着る訳ねえだろ。そっちこそ眼帯してねえから分からなかったぜ」

 

「嫌だな、眼帯じゃなくてバイザーですよ」

 

軽口を言いつつ、シャワーを浴びるガースキー達。

その間も喋るジオン兵達に9Sが笑みを浮かべる。

人間と共に日常を過ごす。人間の為に造られたアンドロイドの願い。

 

「それにしても、9S。お前細いな」

 

何を思ったかジェイクが9S抱き上げようとするが、

 

「…重っ!?」

 

「僕の体重は130キロ近いですよ」

 

「宇宙じゃないと無理そうだな」

 

ガースキーの言葉にシャワーを浴びるジオン兵が笑い出し、9Sも笑う。

人形達の日常は今日も人間と過ぎていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「因みに2Bは僕より重いですからね」

 

「だろうな」

 

 

 




設定本で「ラボ」が火災後、どうなったか書かれてなかったので今回の設定に。

あんまり日常って感じでもないですがその辺目をつぶって貰えれば。


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12話 人形達の休日

 

 

スリープ状態からの再起動で目を覚まし伸びをする。

生身の体じゃないから意味があるかは知らないけど機能チェックも兼ねてるから無駄じゃないと思う。

 

「ポッド、おはよう」

 

『返答;おはようございます。9S』

 

ポッドとの挨拶を終えて僕は2Bのベッドに目を向ける。

既に、起床したのかベッドの上は空だった。

 

「2Bたら、起こしてくれても良かったのに」

 

『ヨルハ2号B型は、9Sより30分程早く起床。寝ている9Sを確認して外に出た』

 

起こしてくれても良かったのにな。

せっかく、ガルマが僕達に休日をくれたのに。

 

僕達の休日が二日酔いのジオン兵の依頼に潰れた事を知ったガルマが僕達に改めて休日を言い渡した。

2Bはたぶん釣りにでも行ったんだろ。

大雑把でぶっきらぼうの仕事人間(アンドロイドだけど)の2Bに趣味と言える物は少ない。そんな中、釣りだけは任務中だろうが何だろうが欠かさない。

 

僕も、2Bの釣りに同行しようかなとも思ったけど、せっかくの休日だし新しく生まれ変わったレジスタンスキャンプジオン軍基地の探索をしよう。

本当はずっと前から探索したかったんだけど、ヨルハ計画を知った負い目と仕事が重なった事で出来なかったけどこの機会に思う存分探索するぞ。

スキャナー型の悪いクセだな。

 

 

 

 

 

 

 

先ず、最初に来たのはトレーニングルームだ。

ジオン兵が体を鍛える為に作られた部屋だ。

ランニングマシンやダンベル等があり、主に歩兵部隊の人や体を動かしてリフレッシュしたい科学者などが使用している。

本来、アンドロイドがトレーニングをしても意味がないのだが、鍛えるジオン兵とのコミニケーションを行うべく多数のアンドロイドも使用している。

その所為で、一部のマシンが壊れたり、アンドロイド達の関節の減りが酷いなどメンテを行うアンドロイド達が怒っていたが。

 

「ん?9Sじゃないか。君も鍛えに来たのか?」

 

「あ、ガトー大尉」

 

さっきまでトレーニングをしていたのかガトー大尉が汗だくで話しかけてきた。

僕は横に首を振る。

 

「いえ、休日を貰ったんでこの機会に基地を探索しようと」

 

「そうか、気が向いたらトレーニングをするといい。アンドロイドにトレーニングは必要ないと言うが戦闘時での体の動かし方などで参考に出来る部分がある」

 

そう言い終えるとガトー大尉はトレーニングに戻る。

その場には、ガトー大尉の汗の匂いが残り、僕の鼻に匂いが届く。

僕は、人間の汗の匂いは好きだ。人間と一緒にいる実感を得られるからだ。

アンドロイド達の中にも汗の匂いが好きな者は多く、トレーニングルームの待合所ではトレーニングするジオン兵の観察をするアンドロイドが椅子に座って凝視している。

その事をジオン兵に話すと必ずと言っていい程、苦笑いする。解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 

次は、基地内にあるグラウンドだ。

モビルスーツの訓練やアンドロイド達との連携訓練をやることが多いが現在は別の事が起きている。

 

グラウンドの周囲には多数のアンドロイドやジオン兵が注目し声援を送る。

グラウンド内には複数の人影が丸い物体を蹴りあいゴールへと入れようとする。

そう、サッカーだ。

 

転がせる球体があれば何処でも出来るスポーツだ。旧世界で人気だったがある程度のスペースや騒いで機械生命体に見つかる危険がある事からアンドロイド達も出来なかったスポーツだ。

ジオン側にもあまり資料がない事でルールも曖昧で基本手を使わない事だけとゴールキーパー以外ボールに群がる子供仕様だがジオンにもアンドロイドにも人気があった。

ただ、ジオン兵の中には「地球主義的なスポーツだ」と言って毛嫌いしてる人も多い。

 

基本的に、ジオン兵同士のチームやアンドロイド同士のチームで試合が行われている。っと言うのもジオン兵VSアンドロイドでは、アンドロイドがボールを譲ったりタックルもスライディングタックルもしない為、勝負は見えておりゲームにならない。完全に接待プレーだ。

 

それなら、パスカルの村の機械生命体の方がまだゲームになる。

最も、機械生命体にスライディングタックルを仕掛けたジオン兵が足の骨を折りタンカで運ばれたりもしたが。

2Bや僕も参加した事があり、バンカーでも人気が高い。ただ、2Bがバランスブレイカー過ぎて相手するチームは他の何人かB型を入れないと勝負にならないレベルだ。

 

 

 

 

 

 

 

次は、遊戯室。ぶっちゃけテントだけど此処でもジオン兵とアンドロイドがゲームをしている。

トランプゲームを始めとしたカードゲームや麻雀と呼ばれる卓ゲームも人気だ。

今も、ジオン兵二人とアンドロイドが数人でゲームをしていた。

ジェイクさんとガースキーさんも居る。

 

「キングの3カード。中々いいせんじぁねえか?」

 

ジェイクの手札のトランプを公開しアンドロイド達も驚くが、

 

「甘いな、ロイヤルストレートフラッシュ!俺の勝ちだ」

 

「なにっ!?」

 

ガースキーさんの手持ちのカードを公開しジェイクが驚く。

凄いな、ロイヤルストレートフラッシュ…ん?

そこで僕は、気付いた。ガースキーさんのポケットからトランプと同じ材質をした物が少し出ていた事を。

僕の視線に気付いたのかガースキーさんが人差し指を口元に持っていく。そういえばイカサマはバレなきゃイカサマにはならないとアーカイブで読んだ事がある。

 

「おい、ガースキー、本当にイカサマしてないだろうな?ロイヤルストレートこれで5回連続だぞ」

 

「今日は運が良いって事だろ?」

 

ガースキーさんの言葉にジェイクさんが悔しそうな顔をする。

それを見届けると僕はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

お次は、食堂。

僕達、アンドロイドは水からエネルギーを造れるが人間であるジオン兵は食べなきゃ死ぬ。

基本的に、アンドロイドが来る必要はない場所ではあるが、人間と談笑したいアンドロイドは此処に来て暇そうなジオン兵を見つけて喋り合う。

後、人間のように食事をするアンドロイドにもうってつけの場所でもある。

 

「おや、9S君か。君も食事かね?」

 

丁度、メニューを選んでいたダグラス大佐が僕を見つけた。

僕が、「そうです」と頷くとダグラス大佐は「なら一緒に食べないかね?」と誘ってくれた。

愛すべき人間に同伴を求められた僕は「はい!」と頷き、食券販売機のメニューを見る。

 

鹿肉とイノシシ肉、後幾つかの魚肉以外はサイド3から運ばれており品数は豊富とはいえない。

噂ではパスカルの村で野菜を育てる計画があると聞く。太陽が一日中照らす昼の国には農業は合ってるだろう。問題は、人間に敵対的な機械生命体が畑を壊す可能性ぐらいだろか。

色々と迷ったけど僕はハンバーグステーキにしよう。

 

「はいよ、野菜炒めとハンバーグステーキお待ち!おお、ヨルハの人かい。俺の料理食ってくれてありがとよ」

 

因みに、料理を作ってるのは料理研究をしていたレジスタンスのアンドロイドだ。

人間が地球に戻って来た時、戦う事しか知らない自分達アンドロイドがどういった役割が与えられるか不安がっていたが、メイが「料理人になっちゃえば?」と言って料理に関するチップを渡した。

メイ曰く、アンドロイドの強みは学習能力だと言う。「必要なデータをインストールする分、人間より早く物事を覚えられるの。半面、工夫が苦手になるけど」だそうだ。

料理人となったアンドロイドは日々、皆の胃袋を満たしてくれるが、料理人になったばかりの頃は「目指せ、餃子一日百万個!」と作りまくりガルマの雷が落ちた。

 

ハンバーグステーキ美味しかったです。

 

 

 

 

 

 

 

次に来たのは格納庫だ。

ジオン軍の主力、モビルスーツの保管場所であり整備場所だ。

現在、モビルスーツの整備には人間とアンドロイドが行っている。

アンドロイドは人間の手伝いの為、ジオンとしては、人員不足の為だ。

ジオン本国が次々と新型モビルスーツの開発に現場の整備士達はヒイコラしており、整備士が欠けていないにも関わらず人手不足に陥った。

 

「ええと、旧ザクにザクⅡF型とJ型、ザクマリンにザクキャノン、ザクデザートタイプそして先日送られてきた可変モビルスーツ、ザク・スピードか。あれってやっぱり僕達の飛行ユニットを参考にしたのかな?」

 

僕の視線は戦闘機の姿をしたザクに送る。

薄い青と緑の塗装がされた機体で何人かの整備士が集まっていた。

それにしても、ザクだけでもこれだけあるからなぁ、凡庸性が高いのは知ってるけど、整備士もてんてこ舞いになる訳だ。

 

それから、グフとドムに戦闘機のドップ及び、爆撃機兼モビルスーツ運びのドダイに偵察機のルッグン。やたら高い位置にある砲塔の戦車マゼラアタック。

色々、欠陥の多い戦車らしいけど機械生命体との戦闘では十分の戦果も上げている。

最後に、ギニアスさんが開発したアプサラス。

実験機で武装が取り付けられていないけどあんなデカ物が飛んだのはびっくりしたな。それに、パイロットがあのアイナさんだなんて本当に驚いたよ。

武装の無い物を送られても困るってガルマが愚痴ってたけど。

 

ん?32Sとその保護者が整備を手伝っている。

ちょっと行ってみるか。

 

「やあ、32S。君達も整備の手伝い?」

 

「ん?ああ9Sか。まあね」

 

同じスキャナー型からか32Sとはアッサリ友達となった。

 

「父さんがね、僕を出来るだけ戦場に出さない為に整備士の仕事をさせているんだ」

 

32Sの言葉に僕は父さんと呼ばれたアンドロイドを見る。

整備士のアンドロイドに怒られながらも不器用に機体を整備する。

恐らく、任務の時に自分が死んでも残った32Sが働けるようにしてるんだろう。

チラッと32Sの顔を見ると恐らく気付いているだろう。

僕は、邪魔にならないようそっと、その場を離れる。

 

 

 

 

 

 

 

最後に僕は、メイの居る研究室に入る。

此処では、アンドロイド用の新兵器や論理ウイルスの研究など行われている。

研究室に入った僕は周囲を見回す。

ジオンの科学者や助手のアンドロイドが色々と動き回る。

 

「あ、ナインズ。いらっしゃい」

 

僕を見つけたメイが手を振りながら近づいてくる。

ただ、その横にはあまり居てほしくない人が居た。

 

「やあ、2Bとは別行動かい?9S」

 

「珍しいですね。ジャッカスさんが砂漠にいないのが」

 

メイの隣にアンドロイドの問題児兼爆弾魔のジャッカスさんが居る。

ジャッカスさんとよくいる人曰く、人間と行動を共にするようになって大分大人しくなったそうだが、偶に基地で造った爆弾を爆発させてガルマの悩みの種になってるのを見るととてもそうとは思えない。

 

「ああ、今ちょっとメイと面白い物を作っていてな」

 

「勢いで作っちゃったけど、需要あるのかな?これ」

 

メイがポケットからチップを取り出す。

 

「そのチップの中身はなんですか?」

 

正直、あまり聞きたい事でもなかったけど、S型の好奇心が僕の口を操る。

その言葉にジャッカスさんが笑みを浮かべるのを見て聞くんじゃなかったなと思った。

 

「中身はな、人間の病気だ」

 

「病気?」

 

「厳密に言うと病気を体験できるチップだね」

 

その言葉に僕の好奇心が刺激される。

人間のように病気になれる。

 

「このチップにはな、古今東西あらゆる人間が経験した病気のデータが入っているんだ」

 

「まぁ、幾つかには分けてるけどね。後、酷い物には時間制限を設けてないと。下手するとアンドロイドの精神が壊れちゃう可能性も高いし。それから病気と関係ない刺激も入れちゃったしな」

 

笑顔のジャッカスさんに心配そうな表情のメイ。

幾つかのサンプルを僕に見せてくれた。

 

「どうだ?9S。試してみる気はないか」

 

ジャッカスさんの誘いに僕は…僕は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日の釣りはここまでにしとこうか?ポッド」

 

『了解』

 

せっかく貰った休日を釣りで過ごしちゃったな。ナインズも来れば良かったのに。

私以外にも釣りをしていたジオン兵やアンドロイドも居たが何時の間にか私だけになっていた。

成果は上々、食べられる魚は料理人のアンドロイドに持っていって機械生命体の魚はメイに渡しておこう。

 

魚を全て渡した私は真っ直ぐに部屋へと戻る。

中にはナインズが自分のベッドに座っている。

 

「9S、ただいま」

 

私はナインズに「ただいま」と言うがナインズは黙ったままだ。

おかしい、何時もだったら「お帰りなさい、2B」と子犬のようにじゃれついてくるのに。

 

「今日はね、釣りをしていて…」

 

寂しさを感じた私は、ナインズと会話しようと色々話題を振ろうとするけど、一日中釣りをしていた私にそこまでの話のネタなんてない。

せいぜい、釣りをしていたジオン兵が足を滑らせて川に落ち、それを助けようとしたアンドロイドが二次被害を受けたくらいだ。

何より、私はナインズのようにお喋りではない。

 

それから、暫く話し続けるがナインズは微動だにしない。もしかしてスリープ状態に入ってるのかとも思ったがそれだったらベッドに横になってる筈だ。

私の心に急激な不安が襲ってきた。

ナインズは私がE型だと知っている。ナインズは今迄、多くの9Sを殺した事を知っている。でもナインズはそんな私と一緒に居たいと言ってくれた。

 

それなのに、

 

「9S、如何して私を無視するの!?お願い何か言って、9S!」

 

不安感から私はナインズの肩を揺すり自分の存在をアピールする。

けど、ナインズは僅かに首を動かすだけだった。

 

「……ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」

 

ナインズに嫌われた。

私の頭の中にその考えが浮かんだ瞬間、世界が終わったような感覚がし、私の口からは「ごめんなさい」という言葉しかでない。

まともな思考が出来ない。

頭の中では、如何したらナインズが私に喋ってくれるか?如何したらナインズの機嫌がよくなるのか?如何したらナインズが私を好きになってくれるか?

そんな思考しか私には出来ない。

 

私は今迄、ナインズに甘えてきたんだ。私に好意を示すナインズに私は応える事もせず、ずっとナインズと行動を共にしてきた。

最初は任務の為、秘密を知りすぎた彼を始末する為に、でも彼と行動を共にする内に私は彼に惹かれた。

もう殺す必要もない今は、彼と行動するのがとても楽しい。

私は、もう彼が居ないと生きていけない。私の存在意義は彼と共に居る事だ!

 

「ナインズ!」

 

辛抱たまらなくなった私は彼の愛称を叫び抱き締める。

心の中で「無視しないで!」と叫びながら。

 

「アグッ!」

 

抱き締めたナインズの口から苦しそうな声が漏れた。そんなに力は入れてないのに。

 

「い…痛い…」

 

へ?

 

 

 

 

その後、ナインズはたどたどしくもゆっくりと事情を説明した。

曰く、メイとジャッカスの作った「病気になる」チップを借り容量の低さから沢山付けた。

病気の内容は、口内炎と重度の虫歯、筋肉痛などで口の中が激痛で喋れず、体も激痛で動かせずにいたところを私が帰って来たそうだ。

ナインズらしいといえばナインズらしいと私は溜息を漏らす。

同時に、ナインズに嫌われたのではないと分かりホッとした。

 

「と…ところで…2B」

 

ん?

 

「ぼ…僕の…事を…ナインズ…て」

 

「……言った」

 

少し考えた私はその事を認めた。

痛みで辛い筈なのにナインズは嬉しそうだった。

 

それにしても、人間の病気のチップか。

S型の9Sが興味が惹かれるのも分かる。

 

「……」

 

 

 

 

 

 

「ああ、えらい目に合った。人間の病気が此処まで厄介なんてな」

 

病気の設定時間が過ぎてやっと痛みから解放された事で一息つく。

人間の病気の貴重な体験ともいえるけど、地味にキツかった。

それにしても、2Bが可愛かったな。

口内炎と虫歯の所為で碌に喋れない僕にナインズって言ってくれたんだもん。それを見れただけでも僕は満足だ。

チラッと2Bの方を見ると壁を背にして立ったままもたれかかってる。ベッドに座ればいいのに。

 

「さて、そろそろチップを返しに行くか」

 

僕は借り物のチップを整理し持っていこうとした。

ちゃんとあるかチェックするが、

 

「あれ、一つ足りない?」

 

チップが一つ足りない事に気付いた僕は床や自分のベッドなど探す。

ジャッカスさんの事だから気にしないと思うが借りを作るのが嫌で探すが見つからない。

 

「ポッド、チップが一つ行方不明なんだけど知らない?」

 

『報告;チップ内にある病気は「痔」。それも重度の』

 

いや、病気の内容を知りたい訳じゃなくて、何処にあるのか知りたいんだけど…って痔?

そこで、僕は「ずっと立ちっぱなしだった2B」に目線を向ける。

 

「2B、何か僕に言う事ありませんか?」

 

僕の言葉に2Bが顔を横に向ける。

その仕草で僕は確信した。

 

「お尻…痛い」

 

 

 

 

 

 

後日、人間の病気を再現されたチップはアンドロイド達の間で流行りだすが、戦闘中だろうとつける者が現れガルマが禁止令を出すことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~おまけ~

 

 

 

「これどうしようかね」

 

「捨てるのも勿体ないですしね」

 

テントの一角にケン達が開けた段ボールの前に立ち尽くす。

そこへ、丁度9Sが通りかかった。

 

「如何したんですか?僕に手伝える事なら言ってください」

 

何か困ってると判断した9Sがケン達にそう言う。

言われたケン達は、互いの顔を見合わせ苦笑いを浮かべる。

 

「前の戦いで戦死した部下の私物を整理していたんだが、これをどう処分しようかと思ってな」

 

そう言って、ケンが9Sに段ボールの中身の見せる。

段ボールの中は、細長いパッケージに背中の部分にタイトルが書いている。

 

「あの、これってもしかして!?」

 

「旧世紀の映画のDVDだ。あいつかなりの映画好きだったな」

 

段ボールの中には、映画のDVDがぎっしりと入っていた。

ジャンルはゴチャゴチャでホラー物からコメディー物にアニメ映画まであった。

 

「本来なら遺族に送られるんだが、あいつに家族も親戚も居ないし結婚はおろか恋人も居ないらしいからな。かと言って部隊内で形見分けしようにも、俺達の殆どは映画に興味も無いし、欲しい奴は既に持ってるからな」

 

ケン達は、死んだ部下の私物をどうするか悩んでいた。

捨てるのは簡単だったが、それだと死んだ部下が報われないんじゃないかとも考えていた。

だが、ジオン兵の誰も映画のDVDなぞ欲しがらなかった。

「古臭い」「宇宙世紀になって何年経ってると思ってるのか?」「地球主義的だ」

それぞれの理由で誰も貰おうとはしなかった。

如何した物かと悩んでいたケンにガースキーが肩を叩く。

 

「ん?」

 

「隊長、9Sを見て下さいよ」

 

言われた通りに9Sを見ると興味深そうに、物欲しそうに段ボールを見ていた。

更には、周囲に居たアンドロイド達もチラ見しつつ此方の反応を窺っていた。

 

「ふむ…」

 

その様子を見たケンが暫し思考し、ガルマの下へと行く。

そして、ある相談をすると、ガルマも「面白そうだな」と言って了承した。

 

その直ぐ後に、アンドロイド達にある情報が送られた。

ブリーフィングルームで旧世紀の映画の鑑賞会を行うと。

 

 

 

 

 

 

 

 

「最初の映画ならこれはどうだ?」

ロー〇の休日。

「いや、先ずは短編映画で様子見でしょ」

蒸気船ウィ〇ー。

「此処は思い切って人間と機械の対立とか」

ターミネータ〇。

「ダメダメ、時間の大切さを学べる映画の方がいいよ」

ゴーレ〇。

 

「「「それはやめとけ」」」

「……私の時間返して」

 

 

 

 

 




前回が日常だったので休日を。
軍事基地の中なんて解らないのでかなり適当です。



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13話 人形と戦車乗り

 

 

 

 

西暦11945年7月。

地球侵攻作戦の初期目的を完遂したジオンだったが数に勝る機械生命体の前に戦線が停滞する。

本来なら、超大型機械生命体を除けばモビルスーツの前では他の機械生命体は雑魚も同然である。

しかし、脆弱な補給線に神出鬼没の機械生命体のゲリラに近い戦いの所為で思うように侵攻出来ないジオン。

本来なら、宇宙に置いてる戦力も地上に投入すれば侵攻も可能だろうが、追い詰められた機械生命体が宇宙に出て来ない保証もなく、またアンドロイド達を信用していない一部の上層部の反対により地上への増員が細々としか進まない。

 

そこでジオン上層部は戦力増強の為に、一見無駄とも思えるプランでも無理矢理採用していく。

そして、そのプランの1つが過去に行われた主力機動兵器の選出トライアルで不採用になった兵器群の投入だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヨルハ9号S型です」

 

「ヨルハ2号B型」

 

「…A2だ」

 

「ヨルハ4号S型です」

 

「君達がガルマ大佐から送られた増援か、僕はオリヴァー・マイ。技術中尉だ」

 

「…モニク・キャデラック。特務大尉よ」

 

2Bや9S達は現在、大気圏上空にいた。

ガルマが603技術試験隊に協力として4人のアンドロイドをHLVで打ち上げられた。

データ取りならS型の9Sや4Sが手伝えるだろうし、その護衛に2BとA2が同行する形となった。

 

P1達の試験は引き続きマルティン・プロホノウ艦長がやる手筈になっている。

因みに、4Sは別のヨルハ部隊とチームを組んでいたが工場廃墟の戦いでA2と見事な連携を見せた事からガルマがコンビを組ませた。

 

6人がコムサイへと移動する。

コムサイに積んでいる兵器を中央アフリカで試験をする予定だ。

 

「それで、試験する兵器って何ですか?」

 

「ああ、それはね…」

 

どのような兵器を試験するのか聞かされていなかった9Sがマイに聞く。

 

「超弩級戦闘車両だ」

 

マイが答えようとしたが入り口から薄茶色いジオン軍服を着た男が先に答えた。

 

「!?」

 

「YMT-05、モビルタンク。ヒルドルブ、だろ」

 

「そ、その通りですが貴方は?」

 

「俺がデメジエール・ソンネン少佐だ。ヒルドルブのパイロットを務める」

 

その言葉にマイは敬礼し9S達もそれに続く。

 

「噂のヨルハのアンドロイドか、世話になるぜ」

 

 

 

 

 

 

ソンネンが9S達を連れてコムサイの格納庫に行く。

 

「うわ~」

 

「大きいな」

 

「へへ、どうだ?ヒルドルブは。最高速度110キロ…主砲口径30センチ…モビルタンク。

こいつが量産されりゃ機械生命体共の全滅も夢じゃねえ」

 

格納されてるヒルドルブを見て、9Sと4Sが凝視する。

緑色の巨大な戦車。既に量産されてるマゼラアタックよりも車高以外はでかい。

まさに、超弩級戦闘車両の名にふさわしい。

 

「大きい」

 

「でかいだけのハリボテじゃないといいがな」

 

「なぁに、地上に着いたらお前達にも見せてやるよ。俺とヒルドルブの活躍をな。そうすりゃ頭の固い上層部も納得するさ!へへへ……うっ!」

 

突然、ソンネンの手が震えだし、懐から急いで小さなケースを取り出し中の白い粒を飲み込む。

飲み込んだ直後に震えが落ち着き、呼吸も正常になる。

 

「あ、あの~」

 

突然の事に2B達は固まり9Sが声をかけようとしたが、

 

「ドロップだ。いるか?」

 

ソンネンがケースを揺らし聞く。

これには、9S達も首を横に振るしかなかった。

 

 

 

 

ヒルドルブの話題も終わった事でモニクがコムサイのブリッジより広い格納庫で作戦の説明を始める。

 

「ふう、それでは改めて作戦の確認をします!

これよりヒルドルブを搭載したコムサイを地球へと再突入させます。目標は中央アフリカ、キリマンジャロ基地。

中高度から投下されたヒルドルブは、そのまま地上を走行し射撃を行い各フェイズの移行の流れの検証する予定です。

なお、試験にあたっては……」

 

「上等じゃねえか!」

 

「!…」

 

「その作戦ならヒルドルブの2年前の評価が不当だったって証明できるぜ!」

 

「2年前?」

 

ソンネンの言葉に2Bが疑問を口にする。

 

「ああ、ヒルドルブは2年前に諸々も事情で不採用となった兵器なんだよ。マゼラアタックを超える性能を獲得したけどコストも莫大になったんだ」

 

「その所為で、かなり人を選ぶ機体になったわ。仮に量産する事になっても乗り手が居ないんじゃ意味がないんだけどね」

 

「その時は、また俺が新兵を鍛えればすむ。技術屋なんて連中は、本当の戦闘なんて分かってないからな。そう思わないか?ヨルハのアンドロイドさん達よ」

 

「ああ、それは思いますね、飛行ユニットの射撃補正のデータを使いやすく弄ると整備部が文句を言うんですよね」

 

「おお、分かってくれるか、ああ…」

 

「僕は9Sです」

 

「9Sか、後でヒルドルブに乗せてやるよ」

 

共感して貰えたのが嬉しいのかソンネンは9Sにヒルドルブに乗せてやると言い、9Sも貴重な体験と言う事で「本当ですか!?」と言う。

 

「オホン、地上試験の情報収取はマイ中尉が、補佐としてスキャナー型の4Sと9Sに、コムサイの護衛に2BとA2が担当を。そして、総指揮は私がとります」

 

「あ!?…何だってお前が」

 

「何かご不満でも?」

 

「けっ…」

 

先程まで嬉しそうな顔をしていたソンネンがモニクの言葉に眉をひそめる。

その様子を見て不安を感じるマイと2B達。

場の空気が最悪のまま、コムサイの大気圏突入時間となった。

 

 

 

オリヴァー・マイとモニク・キャデラックがコムサイのブリッジの席に座り、他の席にも2B達が座るが、

 

「9Sがまだ来ていない」

 

「あいつなら、少佐と一緒にデカ物に乗ったぞ」

 

「なら、今頃少佐の説明を興味深そうに聞いてるでしょうね」

 

席に9Sが居ない事に気付く2Bだが、A2が9Sは少佐と一緒にヒルドルブに乗ったと聞き4Sが羨ましそうに呟く。

安全の為に連れ戻そうかと思った2Bだが、

 

「降下とはいえ、ジオンの勢力圏を飛ぶんだし大丈夫だろ」

 

マイの言葉に連れ戻すのを諦める2B。内心後で9Sに文句を言うつもりだった。

 

「コムサイ280、投下姿勢よろし!チェック、オールエンジン、アゴー」

 

「デパーチャーチェックリスト!コンプリート!」

 

コムサイが大気圏へと突入する。

内部は大気圏突入の振動が響く。

 

「…大尉?」

 

「…何?」

 

「その…ソンネン少佐とは、お知り合いですか?」

 

「気になるの?」

 

「え…はい」

 

マイの言葉にモニクが口を開く。

後ろに居る、2B達もモニクに視線が集まる。

 

「覚えておきなさい。あんた達も、鯛は腐っても鯛、軍人は腐ったら野良犬以下よ」

 

その後、モニクはソンネンとの過去を話す。

過去、優秀な戦車乗りだったソンネンは戦車教導団の教官でありモニクも生徒の一人だった。

しかし、モビルスーツパイロットへの転化適性試験に弾かれる。

若手の戦車兵が、次々とモビルスーツパイロットに転向していく事にショックを受け自暴自棄となり今に至る。

 

「少佐にそんな過去が」

 

「若手に置いて行かれたのがショックだったのか」

 

「人間は転向するのが難しいのか」

 

アンドロイドなら、上からの許可しだい別の型に転向できる。

しかし、人間は適性が無ければ転向する事も出来ない。

 

「あの人は、未だに失敗した過去を引きずったまま人生をただ生きてるだけ…。ただの負け犬…犬以下!」

 

その言葉を叫ぶモニクの顔は悔しそうだった。

 

 

 

喋ってる間に大気圏を抜け雲の間に地表を確認する一同。

 

「大気圏突入成功です。このまま降下姿勢を維持します」

 

「キリマンジャロ基地と連絡を!」

 

「了解…ロックオン!?」

 

マイが通信機に手を伸ばした時にコムサイの警報が響き、咄嗟に旋回させる。

直後に巨大な赤いレーザーがコムサイを掠める。

 

「右舷スタビライザーサーモ!動作不能!」

 

最も無傷とは言えなかった。

 

「何今の攻撃!?」

 

「今のは機械生命体の攻撃だ!」

 

モニクの言葉に答えたのは2Bだった。

あのレーザーは機械生命体との戦闘で何度も見てきた。

 

「馬鹿な!此処はジオン勢力圏の筈だ!?」

 

「ちょっとどいて下さい!」

 

マイの悲鳴に4Sがコムサイにハッキングをした。激しく揺れる中、4Sの体を守るA2。

嫌な予感がした4Sが勘違いであって欲しいと思ったが。

 

「やっぱり、論理ウイルスだ!こんな形見たこと無いぞ!」

 

4Sの嫌な予感は的中しコムサイのコンピューターから論理ウイルスを見つけた。

 

「論理ウイルスだって!?」

 

「いつの間に!」

 

これにはマイもモニクも驚愕した。

このコムサイは何度か地球と宇宙を行き来していたが、その度にチェックも欠かさずにいた。

現に、603技術試験隊に送られた時もモニクとマイがチェックしていたのだ。

考えられる事は、

 

「まさか、擬態していたのか」

 

「それじゃまるで生き物じゃない」

 

「論理ウイルス、排除しました!」

 

4Sのウイルス排除宣言と共にコムサイのコンピューターが正常に戻る。

改めて、現在位置を確認したマイは驚愕する。

 

「やられた!此処はキリマンジャロ基地からかなり遠い場所だ。僕達は罠に嵌められたんだ!!」

 

コムサイの情報では、此処はジオンと機械生命体との勢力圏の間である。

それだけではない。

 

「あのウイルス、センサーまで誤魔化してやがった。前方20キロに機械生命体の大部隊を確認した。警報まで乗っ取られてたらアウトだった」

 

「冗談でしょ!?」

 

「機械生命体がそこまでの知恵を?」

 

これには、2B達は驚愕する。

今迄の、論理ウイルスはアンドロイドを暴走させるだけで他の機械にはあまり影響がない。

強いて言うならモビルスーツの標準を敵味方関係なくロックオンさせる程度だ。

しかし、今回のウイルスはまるで人間を騙す為に作られたみたいだ。

 

「直ぐに救難信号を!キリマンジャロ基地に救援を!」

 

「駄目!通信が繋がらない!」

 

「如何して!?この辺りにはミノフスキー粒子も撒かれてないのに」

 

『報告;前方の機械生命体の部隊より妨害電波を感知』

 

マイが救援を呼ぼうとするがポッドが妨害電波を探知した。

このままでは、機械生命体部隊と近い場所に着陸してしまう。

 

『俺とヒルドルブを降ろせ』

 

格納庫のソンネンから有線の通信が入った。

 

「無茶だ!許可できない」

 

『会敵もミッションの内だ!それより…コムサイを軽くすべきだろ』

 

その言葉にモニクは了承せざるえなかった。

 

「ソンネン少佐、高度700フィートで投下します!急ぎチェックを!」

 

マイの言葉にソンネンは「既に出来てる」と言った。

 

 

 

コムサイの格納庫が開き巨大なパラシュートと共にヒルドルブが出てくる。

そして、地面に着くと共にパラシュートが切り離されヒルドルブが大地を走る。

 

「真っ暗だな、暗視カメラ起動」

 

ソンネンが計器を弄り画面がハッキリと映される。

画面には機械生命体の部隊が横切り、幾つかの機械生命体が此方へと進む。

 

「丸見えだぜ、機械共。妨害電波を出してるのは……あれか」

 

カメラには電磁波を纏った大型機械生命体を見つけ狙いを定め引き金を引く。

ヒルドルブの主砲が火を噴き、狙った大型機械生命体の体に大穴を開け爆発する。

これにより、通信出来る様になりマイが急ぎ、キリマンジャロ基地に救援を要請する。

それに気づいた機械生命体の動きが一斉に止まる。

 

「初弾命中!止まってる内に次を撃つ」

 

弾を詰め、引き金を引く。

次に狙ったのは超大型機械生命体2体だ。

一体には直撃し顔に風穴を開け、もう一体は足に命中し片足を破壊し転がされた。

その時には、多数の小型二足と中型二足、2体の大型二足が巻き込まれた。

 

「ちっ、三発目が外れた!大破ならず!砲身の熱が予想より高い!制御するのも一苦労だ」

 

復活した通信機からマイの声がする。

 

『今のデータを解析すれば、射撃プログラムの修正をする事が出来ます!』

 

「…で、今日の射撃はどうするんだ?勘でやれとか言わないだろうな」

 

『それは…』

 

「それは僕がやりますよ」

 

ソンネンの後ろから9Sが顔を出した。

 

『9S!?貴方まだ乗ってたの!?』

 

それに驚く2B達。

 

「コムサイのあの揺れだ、下手にブリッジに戻れば体を叩きつけられるのがオチだ。それより、9Sいけるのか?」

 

「任せて下さい。僕達9Sモデルは優秀な事で有名ですから」

 

「ははははっ、そらいいぜ!なら連中に見せてやろうぜ!優秀な戦車乗りと優秀なアンドロイドのコンビを!」

 

「はい」

 

 

 

 

 

その時、機械生命体の心が人間のようだったらこう思っただろう。

『悪夢』だと。

9Sが射撃プログラムを修正したヒルドルブの前に機械生命体が次々と撃破されていく。

ヒルドルブの主砲が火を噴く度に超大型機械生命体や大型機械生命体、大型飛行体が破壊され仲間を巻き込み爆発する。

小型や中型の機械生命体が数で襲うとするが、砲弾を散弾タイプに切り替えたヒルドルブの砲撃に纏めて破壊された。

ならば、以前にジオン軍との戦闘時に有効だった球体連結型の地中からの奇襲攻撃を行ったがこれも交わされ、ソンネンのスコアの仲間になっただけだった。

 

「やるじゃねえか、9S。このまま戦車乗りになる気は無いか!?俺が鍛えてやるぞ」

 

「いえ、僕は歩兵として造られましたから、お断りします」

 

9Sのサポートにソンネンが戦車乗りに誘うが断る。

ソンネンと一緒に戦うのも楽しいが、やはり2Bと一緒に居たいとも思っていたからだ。

焼夷弾で数体の機械生命体を炎に包み驚かす。

 

 

 

 

 

「凄い戦闘データだ。これだけの戦果なら上層部もきっと…」

 

「確かに凄いけど…このままじゃ不味いわね」

 

コムサイでヒルドルブの戦闘データを収集していたマイ達もこの戦果に驚く。

2B達もモニターでヒルドルブの戦闘に呆気にとられたが、モニクが苦い表情をする。

 

 

 

 

 

「不味いな」

 

「如何したんですか?」

 

次々と機械生命体を撃破するが、ソンネンの表情に焦りが浮かぶ。

 

「弾薬の残りが3分の1を切った。このままじゃ弾切れをおこしちまう」

 

砲弾の無い戦車など走る棺桶だ。

それでも、小型や中型には有効だろうが大型に捕まれば逃げる事も出来ない。

最も、ヒルドルブは格闘戦も出来るよう造られてるが。

 

その後、ショベル・アームユニットでの攻撃も加え、超大型機械生命体を全滅させ他の機械生命体の大多数を撃破する。

途中でヒルドルブのキャタピラに機械生命体の残骸が絡む。

好機と見た機械生命体が一気に来るが散弾の砲弾で次々と返り討ちにしていく。

 

「やりましたね、これで敵影がだいぶ減りました」

 

「ああ、だが弾はもう一発しかねえがな」

 

目の前の敵を次々と撃破し、一息つくソンネンと9S。

直後に、ヒルドルブに衝撃が走った。

 

「な、なに!?」

 

「ちっ、片足を破壊した奴だ!センサーに反応はなかったぞ!」

 

片足を破壊された超大型機械生命体だったが機能停止した訳ではなかった。

両腕を動かし少しずつヒルドルブへ接近し一気に両腕で攻撃した。

9Sが咄嗟にヒルドルブにハッキングすると、センサーのシステムに論理ウイルスを感知、直ぐに取り除くが直後に超大型機械生命体の渾身の一撃がヒルドルブを襲う。

 

「少佐!?」

 

「9S!?」

 

その様子は、コムサイからも確認できた。

2Bがコムサイから降り、助けに行ことしたが何時の間にかコムサイの周りを機械生命体が集まりA2と4Sも、それの排除に回ることにした。

 

 

宙を飛んだヒルドルブは地面へと転がり何とか止まるが中は酷い事になっていた。

幾つもの計器が壊れ火花が散り画面も途切れ途切れに映っていた。

攻撃した、超大型機械生命体はさらに追撃しようと近寄り、腕の届く位置に来ると腕を振り下ろそうとした。

 

直後に、ヒルドルブの砲塔から火が噴き、超大型機械生命体の体に大穴を開ける。

目を何度か光らせた超大型機械生命体はそのまま機能を停止した。

 

「はあ、はあ、9S生きてるか?」

 

「…な、何とか」

 

ソンネンが9Sの無事を確かめる。

最も、二人とも無傷とは言えず、ソンネンは頭から血を流し9Sは擦り傷だらけで片腕があらぬ方向に曲がっている。

 

「ああ、ポッド153も無事じゃないな」

 

9Sの専属ポッドも両方のアームが折れて傷だらけであった。

 

「でけぇのは片付けたが、小型が多数来てるな。戦えそうか?」

 

「ちょっと…無理っぽいですね。そっちは?」

 

「…駄目だ、弾も使い切ってアームも動きやしねえ。お前だけ逃げてもいいんだぜ」

 

「それはちょっと……」

 

9Sとしてはソンネンを置いて逃げる気にはならなかった。

この作戦前に自身のアップロードはしてるので巻き戻りはあまり問題ないが、「2Bが泣いちゃうかな?」と心配した。

そして、小型や中型がヒルドルブを取り囲む。

2BやA2はコムサイに寄って来る機械生命体の処理で未だに来れない。

そして、とうとう大型の機械生命体が近寄り腕を振り上げる。

今の、ボロボロのヒルドルブなら数発のパンチで簡単に潰せるだろう。

 

突然、空が明るくなった。

急なことで機械生命体達も辺りを見回す。

落下音が聞こえてくると共に辺りに爆発が響く。

地響きと共に緑色の巨大な物体が近づき、そこから照明弾が打ち上げられ空をまた照らす。

 

「やっと味方の到着か」

 

ソンネンの呟きに9Sが見方が来た事を悟った。

ジオンの陸船艇ダブデ。

多数のザク及びドムがヒルドルブを取り囲む機械生命体を攻撃しだす。

同じころ、別動隊のモビルスーツ部隊もコムサイへと到着し2BやA2と合流する。

形成を不利とみた機械生命体は一部が撤退しようとするが空中からはドップや戦闘ヘリ、地上ではザクやドムの追撃で次々と数を減らしていく。

 

『よう、新型戦車の奴生きてるか!?』

 

ダブデからの通信に答えたのは9Sだった。

 

「その声!ユーリーさん!?」

 

『ああ!?あの時の坊主か!』

 

以前、バンカーで会ったユーリーケラーネと再会した。

9Sの脳裏に「そういえば第三次降下作戦に参加する」って言ってたなと思い出した。

 

その後、機械生命体の掃討戦が終わり、コムサイとヒルドルブが回収されソンネンは急ぎキリマンジャロ基地の医務室へと運ばれ、9Sも義体の修理に技術室へと送られた。

ヒルドルブの戦闘データは上層部にも送られ戦果を認められたが使いこなせる人員が限られる事から少数が生産されただけであった。

無事に治療が終わったソンネンを見てマイが「まだ負け犬ですか?」とモニクに聞くと「少しはマシになっただけよ」と素っ気なく返すが、その表情は嬉しそうだとマイは思った。

後に少数のヒルドルブは機械生命体から高い戦果を上げた。この辺りに機械生命体が心を獲得した際、大変トラウマとなったらしい。

 

 

そして、義体の修理も終わった9Sは今回の振り返りこう思った。

 

「もう2度と戦車に乗りたくない」

 

ソンネンのサポートをしていたが、戦車の機動に生まれて初めて吐き気を覚え、バンカーでよく乗り物酔いしていた同僚の気持ちが分かった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 




新しい論理ウイルスが登場する話。

ソンネンの病気たぶん治ってないな。


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14話 人形と壺

 

 

 

 

一週間前。

 

「3,2,1…点火!」

 

隕石地帯で巨大な光が起こる。

数秒にも満たないそれが治まると幾つかあった巨大な隕石がバラバラになっていた。

 

「実験成功!報告書を纏めギレン閣下に提出するぞ」

 

隕石地帯から離れた艦で観測していた科学者が書類に実験結果を書き込む。

その書類には、「ジオン製ブラックボックス開発計画」と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暗い夜の星空って綺麗ですね」

 

「…そうだね」

 

キリマンジャロ基地に到着した2Bと9S達はユーリー・ケラーネ達の歓迎を受けた。

基地は目立たぬように鉱山の中に造られ、機械生命体への迎撃能力も高い。

この辺りの岩盤は非常に硬く、資源採掘に苦労するが機械生命体の地中からの襲撃も分かりやすい事から敢えて鉱山の中に基地が造られた。

現在、2Bと9Sは基地の外を散歩しては、夜空の星を見たりしていた。普段付けてるバイザーも外していた。

 

「昼の国では気付きませんでしたけど、星ってこんなに綺麗なんですね」

 

「うん、月もバンカーで見るより綺麗」

 

機械生命体の襲撃に一応警戒はしているが、二人は夜空の星を楽しむ。

任務を終えた以上、もう直ぐ昼の国のジオン軍基地へと帰るだろうと考えていた。

星や月はバンカーでも何度も見てきたが地上で初めて見た時は言葉も出ない程感動した。

敵の気配が無い事に二人は適当な草の上に寝転がり空を見続ける。

 

「こうしてると、デートみたいですね」

 

「…デート?」

 

『デートとは日付の意味』

 

2Bがデートの意味を知らず聞くとポッド042が答える。

 

「日付?」

 

「いえ、確かに日付が最初だったらしいですが、人類が居た頃は婚前の男女が一緒に遊びに行く事を言ったそうです!何でしたらユーリ少将に聞きましょうか!?」

 

2B達がユーリー・ケラーネとの挨拶時、軽く口説かれたが9Sや4Sがパートナーと知りアッサリと引いた。

それ以来、ユーリーは何かと9S達の面倒を見ていた。

 

「婚前?」

 

『婚前とは結婚前の意味』

 

2Bの質問に今度のポッド153が答える。

その、言葉に2Bの顔が少し赤くなる。

結婚という言葉の意味位、2Bも知っている。何より感情が出やすい9Sが昔から自分に好意を寄せてる事も。

そして、そんな9Sに自分も惹かれてる事を。

恥ずかしさから、身を起こし9Sの方を見る。

9Sも何時の間にか身を起こし2Bの顔をジッと見る。

 

「…ナインズ、今の私は君と一緒に居るだけで幸せ。それだけじゃ駄目?」

 

「僕も2Bと一緒に居られるだけで幸せです。でも駄目なんです。2Bは可愛くて綺麗だから…知ってました?アンドロイド達どころかジオン軍の中でも2Bのファンって多いんですよ」

 

ガルマの配下に置かれたヨルハ部隊のアンドロイドは容姿も優れてる事もあり軍内部でも人気は高い。

特に、2Bタイプの人気はトップクラスにありジオン軍人の間でも多くのファンと尻フェチが居る。

 

最も、一番人気があるのは9Sだった。

あの、生放送で撮られた泣き顔やガルマとのやり取りで「養子にしたい」「息子にしたい」「孫にしたい」「弟にしたい」「彼氏にしたい」など2Bを上回るに人気となっていた。

特に、サイド3ではどうやって撮ったのか写真が出回る程であった。

あの放送以来、テレビ局の中には、9Sと2Bをアイドルにしようと計画し、ギレンが潰す事が何度もあった。

最も、この事実は9Sも知らないが。

 

「僕は…僕は2Bがジオン軍の人に取られる気がして。分かってるんです、僕達アンドロイドは人類の為に存在してる。なのに、……僕は2Bが人間に取られるのが嫌なんです!」

 

「…9S」

 

「2B、そこはナインズって言ってほしいです」

 

二人がお互いの顔を見合わせて名前を呼ぶ。

完全に自分達の世界に入っていたが、ポッドから『報告;ガルマ指令からの通信』と報告され二人は慌てて離れた。

急ぎ、バイザーを付けてポッドからガルマの映像が映る。

 

『任務ご苦労だった、報告は603技術試験隊から受けている。……どうかしたか?二人とも』

 

「いえ…何も」

 

「ええ!何もありませんでしたよ!僕としてはもうちょっと空気読んでほしかったですけど!」

 

9Sが頬を膨らませながら、やや不満を言う。

一瞬考えるガルマだが、まぁいいかと思い直し話を続ける。

 

『報告では、ヒルドルブという新型戦車がかなりの戦果を上げたそうじゃないか。9S、後でヒルドルブのデータこっちにも送って置いてくれ。軍全体で共有されるまで時間が掛かる』

 

「分ったよ。それで僕達は何時戻れば良いの?キリマンジャロ基地のHLVで大気圏経由して戻るの?」

 

『ふむ…その事なんだが、君達に別任務に付いて欲しいんだ』

 

「別任務?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガルマとの通信後に2Bと9SにA2と4Sは最近生産されだした攻撃空母ガウに乗っていた。

行先は、ジオン軍地上最大軍事拠点オデッサへ。

 

「う~ん、中が明るいと外の星とか見えないな」

 

「君はアフリカで見たろ。僕なんてコムサイから降りる時もガウに乗る時も基地内部だったから星空なんて全く見てないよ」

 

ガウの窓から、外を見ようとする9Sと4Sだったが真っ暗な外と明るい船内ではアンドロイドといえど簡単に見えなかった。

その様子を見て、笑みを浮かべる2Bと不満タラタラなA2。

 

「ガルマ指令も人使い荒いよな。アフリカに来て少したってからヨーロッパに行けなんて」

 

「ぼやかない、それだけ指令が私達を頼りにしてる証拠」

 

「そ、そうだといいな」

 

人間に頼りにされている。

2Bがそう考えただけで、嬉しさが込み上げる。

A2も同じらしく、流石同型と思った。

ガルマの指令とは、オデッサの司令官マ・クベ大佐がヨルハを派遣して欲しいと要請してきたからだ。

通信越しでは、詳しい事は教えられないということで2B達はマ・クベ大佐に直に命令を聞くこととなった。

 

ガウは真っ直ぐオデッサへと向かう。

元々、オデッサ方面に補給品を載せて送ることがあり、ガルマの手配で2B達も乗せて貰った。

本来なら、ガウの護衛に飛行ユニットに乗って一緒に飛ぶべきだろうが、攻撃空母として造られたガウは飛行型の機械生命体が攻撃しようがビクともしない。

生産されだして日が経ってない為、まだ少数しかないが機械生命体との戦闘ではかなりの戦果を上げている。

護衛のドップ部隊もおりガウを本気で沈めるには機械生命体の大型飛行体が複数必要とまで言われている。

現に、キリマンジャロ基地から出発後、何度か機械生命体の襲撃を受けたが悉くを返り討ちにしていた。

 

「あ、見えてきましたよ。2B」

 

「明るい上に大きいな」

 

9Sと4Sの発言に2BとA2も窓から外を見る。

明るさの所為で見えにくかったが、暗い夜空に幾つもの光の柱があり、闇の中を幻想的に輝く。

そして、ガウは着陸態勢へと入る。

 

 

 

無事着陸したガウから階段状のタラップで降りようと出入り口から出ると、4人が一斉にブルっと震えた。

 

「思いのほか、寒いね此処」

 

「うん、アフリカの方も肌寒かったけど此処はもっと寒い」

 

ガウの中と温度差があった為、身震いしたがアンドロイドゆえにアッサリと対応した。

尤も、排熱の関係でむしろ寒い場所の方が動きやすかったりする。

ガウの荷物を運ぶジオン兵やアンドロイドとは別に一人のジオン兵が2B達に近づく。

 

「ガルマ大佐より派遣されたヨルハ部隊でしょうか?」

 

「はい、そうです」

 

ジオン兵の言葉に9Sが答える。

 

「マ・クベ大佐がお待ちです。ご案内します」

 

「あ、お願いします」

 

ジオン兵の案内で4人は基地の中へと入る。

 

 

 

 

ジオン兵の案内で基地の司令部に入った4人。

そこには、多数のジオン兵と薄い青色の髪型で前髪がヒョロっとした痩せた男が白い壺を見ていた。

 

「あの~、僕達ガルマ大佐より派遣されたヨルハ機体ですけど」

 

9Sが男と会話しようとするが、男は壺を軽く指で弾く。

壺から「ピーン」という音が聞こえ9S達が凝視する。

 

「良い音色だろ、北宋だ」

 

「…ほくそう?」

 

『北宋;嘗て存在した人間の国家のあった時代の名前』

 

「…ふむ、アンドロイドよりポッドの方が物知りだな。ガルマ大佐が送ったアンドロイドだからと期待したが…やはり機械に芸術は理解できんか」

 

2B達の反応に男がガッカリする。

折角、サイド3から自分のコレクションを持ち込んだが、アンドロイドの誰も壺の素晴らしさを理解できない事に。

それに申し訳なく思った9S達が謝罪の言葉を漏らす。

 

「よく分かりませんが、お気を悪くしたのなら申し訳ありません。ええ~」

 

「おっと、名乗っていなかったな。私がこの基地の司令官、マ・クベだ。君達の活躍は色々と聞いている。

何故、ガルマ大佐から君達を遣して貰ったかはブリーフィングルームで後程話そう。それまでこの基地の中を見てくるといい」

 

「は…はあ…」

 

 

 

 

 

 

マ・クベの許可を得て、4人は基地の内部を歩き回る。

基地内部はジオン兵とアンドロイドが一緒に何かしらの作業をしてる事が多く、その姿を見るたびに笑みを浮かべてしまう。

特に目標もなく歩くと4人は格納庫へと入った。

昼の国のジオン軍基地やアフリカのキリマンジャロ基地より大きい格納庫にはザクやグフなども多く9S達も見たこと無い機体まである。

タマネギみたいな形のモビルアーマーがテストで低空だが飛行するのを見て皆で驚いたりした。

しかし、進む内に格納庫に見慣れた物体を発見する。

 

「9S!あれ!」

 

「超大型機械生命体!?」

 

手足が無かったが天井から無数の鎖で繋がれた超大型機械生命体を見つけ近寄る。

そういえば、他のアンドロイドやジオン兵がオデッサ方面で超大型機械生命体の鹵獲に成功した話を思い出す。

格納庫の橋に乗って丁度、超大型機械生命体の顔付近に近づくと、目が光り起動する。

 

「この機械生命体まだ生きてるのか」

 

超大型機械生命体が起動した事にA2が反応する。

 

「珍シイナ、アンドロイドガ私二近ヅクナド。オ前達ハ、何処ノアンドロイドダ?」

 

 

「喋った!?」

「最近の機械生命体は喋る事が多いぞ」

 

超大型機械生命体が喋った事に驚く4Sと落ち着いて機械生命体が喋る事が多い事を伝えるA2。

 

「私達は、ヨルハのガルマ隊」

 

「ヨルハカ、少シ私ト話ヲ、シヨウ」

 

「お前と?何故」

 

「暇ダカラ、モビルスーツ喋ラナイ。アンドロイドハ、私ヲ無視スル。人間ハ、話シテクレルガ頻度ガ少ナイ」

 

人間がわざわざ話してくれてるというのに文句をいう超大型機械生命体にたいして腹が立つが、時間つぶしに話をする。

超大型機械生命体は自らをエンゲルスと名乗り、ジオンとの戦闘後に解体され徹底調査され、組み立てなおされる時に全ての武装を外され機械生命体のネットワークの受信装置も外されて自我に目覚める。

人間との会話は興味深い反面、モビルスーツと会話しようとするが自我どころか人が乗らねば動かない機械が喋る訳も無く、この基地のアンドロイドは敵の機械生命体と喋る者は居らず、人間と会話する以外、ずっと退屈だった。

 

「オ前達ハ、昼ノ国カラ来タノカ?」

 

「そうだけど」

 

「昼間ノ空ニハ、太陽ト呼バレル丸イ物ガ浮カンデルソウダ」

 

「うん、浮かんでるね」

 

「2B!?太陽は恒星で浮かんでるとは違うんですけど!」

 

「私ハ夜ノ国デ戦ッテキタ、ダカラ一度デイイカラ太陽ヲ見テミタイ」

 

言い終えると同時にエンゲルスの目の光が薄れていく。

 

「疲レタ、寝ル」

 

「こいつ…」

 

エンゲルスのマイペースさに2B達が呆れる。

 

 

 

 

 

 

そうこうしてる内に予定の時間も近くなり4人はマップにマークされたブリーフィングルームへと着く。

中へと入ると、既に髭の生えた中年のジオン兵を始めとした複数の人間と資料でみたアンドロイド。

 

「8B…」

 

「…ヨルハ2号と9号に4号か、あと一人は旧型か」

 

8Bを始めとしたバンカーを逃げ出した元同僚だった。

互いの視線が交差する。

 

「どうした、8B。知り合いか」

 

「はい、バンカーに居た頃の同僚です」

 

席に着くジオン兵の一人が質問し8Bがそう喋る。

2BやA2の顔を見て口笛を吹くもの居た。

4人はそれに構わず開いてる席に着く。

8Bの他にも22Bや64Bが2B達の方に視線を向けていたが喋ることも無く、ジオン兵の声だけが室内に響く。

アンドロイド同士の不仲な空気に髭の生えた中年…ランバ・ラルは溜息を漏らす。

 

時間が少し経ち、ブリーフィングルームにマ・クベと付き人らしい眉毛の太いピッチリとした髪型のジオン兵がジュラルミンケースを抱えて入る。

 

「全員いるようだな。これより君達を集めた理由を説明しよう。ウラガン」

 

マ・クベが付き人の男の名前を呼ぶと、傍に居たウラガンがブリーフィングルームのパソコンを操作し、モニターに基地の見取り図が映る。

その見取り図が徐々に小さくなり、基地の外の場所も映りだし、ある一定の場所で止まる。

そして、マ・クベは手にした棒で地図の一定の場所を指す。

 

「先日、敵の基地施設の入り口らしき偽装されたエレベーターを発見したが、到底モビルスーツが入れる大きさではなく、偵察として何名かのアンドロイドを送ったが音信不通となった。

君達には、施設の潜入し調査と無事なアンドロイドが居た場合の保護を頼みたい」

 

マ・クベの言葉に何人かが質問する。

 

「モビルスーツでの破壊は無理ですか?」

 

「先程も言ったがモビルスーツが入れる大きさではない。破壊できるのはエレベーターくらいだろう」

 

「送ったアンドロイドは何名ですか?」

 

「5名だ。それぞれ、潜入や破壊工作の訓練をした者ばかりだ」

 

「入り口を破壊して放置は?」

 

「それも無理だな。生産工場ではないとはいえ目標を放置できん」

 

「目標とは?」

 

「サーバーだ」

 

「!?」

 

サーバーと聞いた途端にやる気の見せなかったA2がジッとマ・クベを凝視する。

マ・クベが言葉を続ける。

今回の作戦は、オデッサ基地の北に位置する小高い丘の地下に置いてあるという機械生命体達のサーバー。

欧州の大部分の機械生命体達のネットワークを管理しており、これを無力化させれば機械生命体の弱体化に繋がる。

既に、出入り口のエレベーターを確保したが当然の様にモビルスーツが入れる大きさではなく、マ・クベは生存率の高そうなアンドロイドを選び送ったが定時連絡も絶たれ、マ・クベは一つの作戦を思いつく。

アンドロイドの精鋭と言われたヨルハ機体とゲリラ戦のプロであるランバ・ラル隊を送り込むことだった。

 

「策謀家の大佐にしては作戦が随分とおざなりでは?」

 

「私とて分かっている。だが情報があまりにも少ない、作戦が成功し無事に戻って来たら上に最新鋭のモビルスーツをまわして貰うよう要請してやろう」

 

「当然、私の部下全員分も、ですよね」

 

「……いいだろう」

 

ランバ・ラルの言葉にマ・クベも苦笑いする。

派閥の違う両者は当然仲が良い訳も無く、お互い出来るだけ借りを作らないようにしていた。

そこへ、A2が質問する。

 

「その情報の出所は!?」

 

「…妙なタレコミだ。私宛に基地にサーバーの情報と施設の位置情報がメールで送られてきた」

 

「送られてきた!?」

 

「それって敵の罠じゃ…」

 

「十中八九そうだろう。しかし、放置出来ないのも事実だ。降下作戦直後に妙な電波が飛んでいたのは確認していたが出所までは判明しなくてな。メールの情報を調べていく内にサーバーの位置情報と一致した。

このサーバーを確保又は破壊すれば現状の膠着した戦線も進む事になるだろう」

 

「サーバーの確保?」

 

「何か不思議かね?敵の罠とはいえサーバーは情報の塊だ。確保に成功すれば、今まで以上に機械生命体へのアドバンテージを握れる。切り札も一応用意してるがね」

 

そう言って、マ・クベは、ウラガンが持っていたジュラルミンケースを受け取りテーブルの上に置く。

確かに、サーバーを調べる事が出来れば機械生命体達のネットワークの内容も分かり機械生命体達の機密情報も筒抜けとなるだろう。

それどころか、機械生命体達の重要拠点も丸裸に出来るかも知れない。

 

2B達とランバ・ラル隊は共同作戦を行う。

 

 

 

 

 




やっぱり、動きが少ないと会話文ばかり多くなる。


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15話 人と人形と端末と

あれこれ詰め込んだら1万4千文字もいった。
読み応えあればいいんですが(汗。


 

 

 

 

 

暗い空をデップリとし左右の大型のローターで飛んでいる航空機がいる。

ジオン軍の輸送機、ファット・アンクルだ。

ファット・アンクルの格納庫に2B達や厚着をしたランバ・ラル隊が待機してる。

 

何故、彼等がファット・アンクルで運ばれてるのか?

目標の丘とはそれなりに離れており、トラックや輸送車で行くには悪路過ぎる。

かと言って、走って行くには2B達はともかく、人間の多いランバ・ラル隊では一緒に着いていくのは不可能に近い。何より無駄に体力を消耗する事でマ・クベが用意した。

 

格納庫での会話は特になく、2Bは格納庫にある小さな窓から外を見ていた。

外は暗かったが格納庫も薄暗く外を見るのが可能だった。と言っても外は暗い空が広がってるだけで何の面白みも無い。

しかし、2Bはそこで白い物が横切る事に気付く。

 

「雪?」

 

「降ってきましたか、寒いですからね」

 

2Bの呟きに傍にいた9Sも窓の外を見る。

吹雪とは言わないが雪がそれなりに振っている。

 

「データでは雪が積もった場所も歩き難いらしいですね」

 

9Sの言葉が格納庫に響く様に感じた2B。

もう間もなく、自分達の乗るファット・アンクルは目標地点に到着する。

 

 

 

 

 

 

 

 

厚着をしたジオン兵がファット・アンクルの音に気付くと両手に持っていた誘導灯のスイッチを入れ、左右に振る。

暫くすると、轟音と共にデップリとした機体がゆっくりと簡易ヘリポートに降りる。

無事に着陸したファット・アンクルは、格納庫のハッチを開く。

外へと出た2Bやランバ・ラル隊の下に別の厚着をしたジオン兵が近寄る。

 

「マ・クベ大佐から報告を受けています。此方へ」

 

迎えに来たジオン兵の後を追う一同。

途中、2Bが白いモビルスーツを見る。

 

「白いザク?」

 

「確か、寒冷地仕様のザクだったかと。本当にバリエーションが豊富ですねザクは」

 

初めて見るザクの名前を9Sから聞く2B。

 

「豊富どころじゃないだろ。バリエーションだけでヨルハ機体の種類も超えてるだろ」

 

「今更ですよ、A2。噂では宇宙専用のザクが稼働してる話もありますよ」

 

その話を聞いた、A2と4Sもザクの話をする。

A2が「宇宙専用か」と呟き空を見上げる。空は白い雪が次々と振り自分の頬に当たる。

 

 

 

 

エレベーターホールには何人かのジオン兵とアンドロイドが待機していた。

 

「お待ちしてました、ランバ・ラル大尉」

 

「報告を頼む、何か変わったことは無いか?」

 

ランバ・ラルの姿を確認したジオン兵が敬礼をし、ランバ・ラルも敬礼をし返す。

そして、何か変わった事は無いか聞いた。

 

「いえ、五日前にマ・クベ指令が送ったアンドロイド達以外特には。大尉、アンドロイド達が生きていたら頼みます。訓練とはいえ経験のあるアンドロイドは貴重ですから」

 

ジオンにとって、アンドロイドは貴重な戦力でもあった。

特に、モビルスーツの入れない場所の戦闘では主役と言っていい。

アンドロイドが死んだ場合は記憶などのバックアップで代わりの義体さえあれば直ぐに復帰出来るが記憶と経験では動きに差があり、ジオンが使いたいのは戦闘経験のあるアンドロイド達だった。

 

ジオン兵の言葉にランバ・ラルも「分かった」と言う。

エレベーターのコンソールは剥き出しにされ何本ものコードが繋がっっており幾つものパソコンが並んでいる。

 

「エレベーターですが多少の大型で15名乗れますが、アンドロイドの重量を考えると10名ずつ分けて降りた方がいいかと」

 

「そうか…」

 

エレベーターの管理をしていたジオン兵が全員で乗れないと言う。

現在、降りる予定の人数はアンドロイドが7体、人間が13人、如何見ても一度に降りれる数ではない。

 

「あの、僕達が先に降りましょうか?降りた場所が安全ともかぎりませんし」

 

分けてエレベーターを降りると聞いた9Sが即座に提案する。

自分達なら敵が待ち伏せしていても対応できる自信があったからだ。

9Sの提案を聞いたランバ・ラルは「フム…」と言って顎に触る。

思考するランバ・ラルは、2B達と8B達に視線を向ける。

相変わらず、視線を合わせない8B達にランバ・ラルは溜息を漏らす。

 

「いや、ワシも行くとしよう。アコース、コズンはワシに続け!クランプ、お前達は武器弾薬を持って降りてこい。下で合流だ」

 

「「「了解」」」

 

ランバ・ラルの言葉に部下たちが返事をし敬礼する。

 

 

 

 

 

 

エレベーターの扉が開き、2Bを始めとした4人、8B等3人、ランバ・ラル達3人の計10人が乗り込む。

小さな揺れと共にエレベーターが下降する。内部は静かで2B達と8B達は互いに距離を取り間にランバ・ラル達が挟まる感じとなっていた。

空気の悪さにランバ・ラルは、また溜息を漏らす。

「どうしたのもか?」と考えた時だった。

 

「ふぅ~」

「きゃ!?何するんですか、少尉!」

 

ランバ・ラルの部下のコズン少尉が8Bの耳に息を吹き掛ける。

突然の事に8Bは耳を押さえ顔を赤くする。

 

「何時まで、仏頂面してる気だ8B。言いたい事があるんだったら言っちまいな」

 

「そんな…私は言いたい事なんて…」

 

「お前が隠し事する時は何時もバイザーを外さないからな。ほれほれ、とっとと話して来い!」

 

「分かりましたよ。ですからお尻を触らないで下さいよ、部下が見てます」

 

コズンにバイザーを外された8Bが2B達に近寄る。

ランバ・ラルがコズンの顔を見ると溜息を漏らしていた。如何やら空気の悪さに耐えるのが馬鹿らしくなったんだろう。

 

「その…2B、司令官は元気か?」

 

「あ…元気だ」

 

8Bとコズンのやり取りを見ていた2B達は固まっていたが、8Bの言葉に辛うじて反応した。

 

「他の皆も元気か?」

 

「脱走者以外は皆元気。皆、ガルマ指令の指示に従っている」

 

それだけ聞くと、8Bは「そうか」と言って元の場所に戻って行く。

 

「聞きたかったのはあれだけか?」

 

「はい、逃げ出した私にはこれだけが精一杯です」

 

コズンの隣に戻った8Bはバイザーを返して貰い付け直す。

その様子を見ていた9Sは思わず声を出す。

 

「あの…お二人の関係は?」

 

「ん?愛人」

 

「しょ、少尉!」

 

9Sの質問にコズンは8Bを抱き寄せ答える。

8Bは恥ずかしそうにするも、コズンの手に身を任せる。それを見て羨ましそうにする22Bと64B。

 

「アンドロイドが愛人…」

 

「オデッサじゃ結構いるぞ。人間とアンドロイドのカップル」

 

9Sの呟きにコズンはそう答える。

 

アンドロイドと関係を持つジオン軍人は意外といる。

ジオン軍人としても容姿の整ったアンドロイドとの付き合いは望むべきものであり慣れぬ地上での活動の補佐もしてくれる。アンドロイドは精神安定や使命を忘れない為などもある。

何より人類を守る使命を持つアンドロイドは人間と関係を持った時、従来のスペック以上の戦闘力を見せる事が多々あり、一時それに目を付けたジオン軍が推奨したりもしたが、とある事情により推奨は取り消しとなった。

 

コズンの愛人宣言に驚いた9S達がランバ・ラルや8B達と会話し出すのを横目で見ていたA2が笑みを浮かべエレベーターの壁にもたれる。

かつての真珠湾降下作戦を思い出していた。

 

 

 

隊長の一号が撃墜されて二号の私が隊長になって十二人の仲間を失って、バンカーに作戦中止を要請したが無駄だった。当然だ、あの戦いは私達の戦闘データでより高性能なヨルハ機体の製造が目的だった。

今、考えれば敵のサーバーの破壊はついでだったのかも知れない。

私と、十六号、二十一号、そして四号が生き残り現地で活動していたアネモネを始めとしたレジスタンスメンバーに会い協力してサーバーの破壊に成功した。

代わりに、ヨルハ機体で私だけ生き残り、レジスタンスもアネモネしか残らなかった。

そして生き残った私は仲間である筈のヨルハに処分される事になり、その度に『2E』と『9S』を殺してきた。

最も、2Bも9Sもその事を知らないようだ。

それでいい。自分を殺した、殺された話なんて聞きたくもないだろう。

 

結局、この世界の人類は滅んだらしいが、違う世界の人類が来た事でアンドロイド達の士気もあがった。そう考えて、私はアンドロイドも単純だなと思った。この世界の人類でない別の世界の人類だろうがアンドロイドは従ってしまう。命令を聞いてしまう。例えそれが宇宙に移民した人類だろうと。

もし、四号が聞いたら如何思うだろうか?呆れるだろうか?私と同じ人間に従うだろうか?それとも…

 

 

 

 

A2の思考はエレベーターの到着により掻き消えた。

着いた場所は外より暗くはないが明るくも無い薄暗い印象だった。

エレベーターが最下層に到着し乗っていた2B達も降り、次に降りてくるクランプ達を待とうとした。

 

 

「あれ?」

 

しかし、待てど暮らせどエレベーターが動くどころか扉すら閉まらない。

 

「駄目です、大尉。何の反応も示しません」

 

エレベーターの操作盤を弄るアコースが報告する。

9Sや4Sもエレベーターにハッキングしようとするが、

 

「ハッキングが出来ない!?」

 

「エレベーターのプログラム自体が此処には無いのか!?」

 

ハッキングも出来ず、ランバ・ラルは持っていた通信機で地上と連絡を取る。

 

「此方、ランバ・ラルだ。クランプ、聞こえるかクランプ!」

 

『…隊長ですか!?』

 

ランバ・ラルの呼びかけに通信機にノイズが聞こえた直後に、クランプの声が聞こえた。

 

「クランプ、此方のエレベーターが停止した。地上で動かせないか!」

 

『動かしたいのはやまやまですが現在、械生命体の襲撃を受け我々はそれに対抗せざるを得ず、暫くエレベーターに行けそうにありません!』

 

「なに!?」

 

そこで、初めてランバ・ラルはクランプの後ろから戦闘音らしきものが聞こえた。

通信機から「飛行型の大部隊を確認!オデッサからドップ部隊を要請しろ!」と聞こえた後に乱雑に通信機が切られた。

 

「ふむ、このタイミングで仕掛けてきたか」

 

「やはり、敵の罠だったんですね」

 

通信機のスイッチを切ったランバ・ラルが呟き、9Sが喋る。

 

「罠を承知で飛び込んだんだ。とはいえ、予想より早く仕掛けてきたか。アコース、コズン。今ある武器は!?」

 

ランバ・ラルの言葉にアコースとコズンは素早く反応する。

 

「はっ、手榴弾と煙幕弾が幾つかあるだけです」

 

「こっちは、ライフル銃がありますが弾がそんなにありません」

 

「そして、ワシが持っているのは拳銃一丁か」

 

マ・クベから渡されたジュラルミンケースもあるが、それは切り札だ。

 

二人の報告を聞いたランバ・ラルは思う。明らかに足りないと。

機械生命体は基本的に数で攻めてくる。モビルスーツがあればある程度は問題ないが、モビルスーツに乗っていない白兵戦時では大問題である。

手榴弾やライフルならある程度数も減らせるがこれだけでは焼け石に水と言っていい。

本来なら、別の重火器をクランプ達が持って合流するだった。

 

「あの…大丈夫ですか?」

 

此方の様子を心配した2B達が話しかける。

最新鋭のアンドロイド、ヨルハ機体が7体いるとはいえ自分達の戦力が頼りないと思った。

 

「ここで道草を食っている暇はあるまい。進むぞ」

 

上の戦闘が片付けばクランプ達も此処に来るだろうが、それが何時なのか分からない。

機械生命体の数はまさに無尽蔵と言える。このまま、クランプ達を待っても戦闘が終わるのが一週間後かも知れない。

食料も無い状況では人間が生きていける筈がない。ならば、前へ進むだけだ。

 

ランバ・ラルが歩き出した事で、2Bや8Bもそれに続く。

エレベーターの前は細い通路が一本道で存在している。

その場に居る全員が周囲を警戒しつつ通路を進む。

 

暫くすると通路の壁を背にした人影らしき物が座っているようだった。

 

「ちょっと待ってください。2B」

 

「うん」

 

9Sと2Bが人影に近づき少し調べて戻って来た。

 

「マ・クベ大佐から探して欲しいと言われていたアンドロイドでした」

 

「でも死んでる。動力部が破壊された痕がある」

 

人影がアンドロイドの死体だと報告する二人。

それを聞いたランバ・ラルは「そうか」と返事をした。

アンドロイド達が入って五日、生きていれば万々歳と言える。元よりあまり期待もしていなかった。

死んだアンドロイドから何か使える物が無いかと漁ったが武器も弾切れだったりで特に無かった。

仕方なく、道を進むが道中にアンドロイドの死体があるだけだった。

そして、5体目のアンドロイドの死体を見つける。

 

「結局、先行したアンドロイド達は全滅か」

 

「…先に進もう。もう少しで敵のサーバーが見えてくる筈だ」

 

その言葉通り、少し行った先は広い空間で何かがある予感がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?何かいる」

 

戦闘を歩いていた2Bが足を止める。後ろに居た9S達が2Bの視線の先に目をやる。

其処には、確かに何か居た。

 

「少女?」

 

同じ赤い服を着た少女が二人。薄暗い筈なのに丈の短いワンピース着る少女が、ハッキリと見えていた。

ジオンの関係者ではない。そもそも地球にはジオン軍の軍人や科学者しか降りていない。何よりこの世界には人類は居ない。

 

「貴様ッ!」

 

2B達の中から一人少女の下へ駆け出す。

A2だ。嘗ての真珠湾降下作戦の時に出会った仲間の仇だ。

そう認識した瞬間、剣を振りかざしそのまま攻撃する。

 

「A2!」

 

しかし、A2の剣は少女の体を素通りするだけで何の意味も無かった。

 

『久しいな、2号。いや…今はA2か』

 

A2の攻撃に意にも介さず少女が喋る。

その声はどこもでも機械的で耳障りな作り物めいていた。

 

『悪いがアンドロイドの君には用はない。我々は人間と会話したいのだよ』

 

そう言って赤い服の二人の少女はランバ・ラル達の方を見る。

咄嗟に、2Bや8B達がランバ・ラルを守るように前に出る。

 

『私達は機械生命体の端末』

『この姿は君達を模して造りだした』

 

交互に喋る少女を模した端末。

9Sや4Sが外へと通信しようとしたがポッドから妨害されてると言われる。

少し考えたランバ・ラルが2Bと8Bの間から体を出し口を開く。

 

「ならば、ワシが話すとしよう」

 

ランバ・ラルを止めようと動く8Bだったがコズンが抑える。

耳元で「大尉に何か考えがあるようだ。暫く様子を見ろ」と言われ大人しくなる。

 

『これはこれは』

『宇宙攻撃軍所属のランバ・ラル大尉と話せるとは幸運だ』

 

少女は左右対称の動きをし、踊るようにその場をくるりと回る。

A2が構わず攻撃しようとするが、

 

「A2!今は引け。どう見ても攻撃が効いてるとは思えん」

 

「し、しかし!」

 

「貴様も軍人ならば命令を聞け!」

 

尚も食い下がろうとしたA2だったがランバ・ラルの喝に委縮してしまう。

 

「部下が失礼したな。しかし、私の事を知っているようだな」

 

『君達が地球に降下した時から見ていた。ずっと』

『気付いていないだろうが、君達の基地の中も私達は把握していた。ずっと』

 

少女の言葉が本当なら、基地内の情報が筒抜けだ。そうなれば作戦も何もあったもんではない。

ただのハッタリならば問題も少ないが以前、赤い彗星が基地から妙な気配を感じると言っていたのを思い出す。

 

『何故、君達は戦うの?』

『何故、君達は死にたがるの?』

 

「死にたがる?」

 

委縮していたA2がふざけるな、と怒鳴る。

 

「全ては機械生命体の手から地球を取り戻す為だ。その為に私達は…人類は戦ってきた!」

 

その言葉を聞いた少女達はクスクスと笑い出す。

 

『君達、ジオンはこの世界の人間じゃないのに』

『君達、この世界の地球から誕生した訳じゃないのに』

 

聞く人間が聞けば、「ジオンの栄光の為」や「我らは大義の為に戦っている」と言うだろうが、

 

「ワシは軍人だ。軍人である以上、上の命令に従う。それにワシの出世は部下達の生活の安定にも繋がる」

 

『ふ~ん』

『つまんない理由』

 

望んだ答えでは無かったのか少女達の興味が急速に無くなった。

 

「機械であるお前達には分らんか!」

 

隠し持っていた拳銃で少女の頭を撃ち抜く。

しかし、弾は少女を素通りして壁に命中する。

 

「やはり、立体映像か」

 

『私達は機械生命体のネットワークから生まれた概念人格』

『ゆえに殺す事は出来ない』

『私の名前はタームα』

『私の名前はタームβ』

『私達は記号』

『私達はそれ以上でもそれ以下でもない』

『それでも戦うの?』

『それでも抗うの?』

 

少女達に返事をしない。

代わりに、拳銃やライフルを構え、アンドロイドも武器を抜く。

 

『そう、じゃあ戦ってごらん』

『君達の為に用意した子がいるの』

 

少女がおいで。とジェスチャーする。

 

「また、あの醜悪な機械生命体か?あの時より私は強く…」

 

以前の戦いの時に、少女が用意した一回り大きい八本足の機械生命体をまた出すのかと身構えた。

しかし、機械生命体の足音とは思えない音が聞こえ、暗闇から姿を現した。

その姿は、

 

「四…四号…」

 

其処には、紛れもない嘗て共に戦った自分と同じ旧型ヨルハ、四号だった。

A2が持っていた剣を落とし四号に近づく。

 

「四号…四号…」

 

まるで夢遊病の人間のような動きで近づくA2。

 

「駄目A2。それは敵!」

 

2BがA2に静止するよう訴える。

事実、四号のバイザーから出している片目は真赤に光っていた。

しかし、2Bの声も聞こえないのかA2は四号の傍まで生き抱き締める。

 

「四号…私、頑張ったんだよ…」

 

もう、二度と会えないと思っていた同僚。

それも親友と言えるほどの関係だった。頭ではわかっている。四号はもう死んでいる。

真珠湾のカアラ山の機械生命体のサーバーを道連れに爆死していた。

分かっている筈なのに、心がどうしようもなく四号を求めてしまう。

A2は腹部の痛みと共に意識を失った。

 

 

 

 

A2は夢を見ていた。厳密に言えば過去の記憶だ。

日々、強化されていく機械生命体に苦戦するアンドロイド達が対抗するために造られた最新鋭。

それが、ヨルハだった。

そんなヨルハ機体として造られたA2は、日々の訓練の中同じタイプの四号と一緒に居る事が多くなる。

同じ様な平凡な成績の所為か、似た者同士だからだろうか、A2は四号が傍にいると不思議と気持ちが落ち着いた。

そんな日々の中、自分達に作戦が舞い込む。

目的は、敵機械生命体のサーバーの破壊。

 

 

 

 

 

「う…うう」

 

そこで、A2が意識を取り戻す。

ハッキリしない頭だったが耳に金属の激しく当たる音と男の声が聞こえた。

 

「旧型が最新型を圧倒してやがるじゃねえか!」

 

「改造でもされたんでしょうか!?」

 

A2が状況を把握しようとして周りを見る。

ランバ・ラル達は引きはがされた鉄の床を盾にして何かを凝視していた。

視線をたどると、

 

「四号!」

 

2Bと四号の剣が激しく火花を上げる。別方向から8Bと22Bが迫るが四号の剣が2Bも纏めて薙ぎ払われる。

死角から64Bが飛び掛かるが、四号は軽く体を動かしてかわし蹴りを放つ。

少し、離れた距離でポッドが射撃、9Sと4Sがハッキングしようとしてるが、

 

「何だ、このプロテクトは!?」

 

「駄目だ、ナインズ!このまま続けたら論理ウイルスが逆流してくる!」

 

旧型のアンドロイドとは思えない程のプロテクトと論理ウイルスによりハッキングは不可能な状態だった。

 

『どう?私達の四号の力』

『君達よりも強いよね』

 

少女たちは、ランバ・ラル達の傍にまで近づいていた。

触る事が出来ない事から余裕を見せてるのだろう。

 

「貴様ッ!四号に何をした!!」

 

『あの時の戦いの時に、彼女のデータを保存していてね』

『あまり興味は無かったが、君達の相手に相応しいと思ってね』

『バンカーや人類会議のサーバーから製造法は分かっていたよ』

『地上にあるヨルハの残骸からでも造れたよ。何しろ動力は私達と近いから』

『ついでに少し、改造しておいた』

『ウイルスにも感染させてるから最新鋭より強いよ』

 

「そんな!バンカーだけでなく人類会議にも!?」

 

「この視線と気配…たまにバンカーで感じてた妙な気配はこいつか!という事はこいつは最初から人類が居ないのを知っていたのか?」

 

『正~解』

『実に滑稽だったよ。君達の戦いは』

 

少女達の馬鹿にしたような声に9Sと4Sが顔を引き攣らせる。

 

「貴様ッ!!」

 

『あれ~、気に入らないの?』

『ん~、気に入らないならこれは如何かな』

 

そう言って、少女が指を鳴らす動作をする。

4号が動きを止め周りを見だす。その目には赤い光が消えていた。

 

「あれ?此処は…私は…二号?あなた二号よね」

 

四号が頭を押さえつつ周りを見て2Bに話しかける。

急に話しかけられた2Bも状況を探るために四号に剣を向けたままにする。

 

「二号、如何して剣を向けているの?」

 

四号が本気で訳が分からないといった表情をする。

 

「四号、二号は私だ!四号!」

 

A2は堪らず四号に自己主張する。

四号の視線がA2を捉える。

 

「二号?」

 

四号の視線はA2と2Bを行ったり来たりする。

 

「死ね!」

 

その隙を逃がさず、8Bが近接武器を持ち四号の背後から攻撃しようとする。

 

「待ってくれ!」

 

しかし、8Bの攻撃は止まってしまう。A2が四号の盾になったのだ。

アンドロイドの大多数はフレンドリーファイアを防ぐ為のプログラムがある。

A2がガルマ隊に編入された時に改めてプログラムされたのだ。

 

「退け、A2!そいつは敵だ!」

 

「違う!四号は敵じゃない!」

 

「話を聞いていただろ!敵に修理されたウイルス持ちだ!」

 

「違う!違う!」

 

「ねえ、二号。状況が分からないんだけど!何で二号が二人いるの?何で二号だけそんなにボロボロなの?この人誰!?」

 

四号が正気に戻った事で、その場が混乱する。

A2は諦めていた仲間が目の前に居る事で、8Bは四号を倒すチャンスの為に、記憶が真珠湾降下作戦時で止まった四号は目の前の状況について。

混沌とした状況に2Bも22Bも64Bも見守るしかなかった。

 

 

そんな状況の中、少女は再び指を鳴らす動作をする。

その瞬間、四号を庇っていたA2の背中に蹴りが入れられ8Bの下に倒れる。

 

「四号!」

 

A2が再び四号の方を見ると目が赤く光り始める。

だが、先程とは違う点があった。

 

「逃げて二号!私の体が私のじゃないみたいなの!?」

 

先程の戦闘と違い四号が喋りながらも戦う。

最も、自分の意志とは関係なく動かされてるが。

2Bや22Bも四号の相手をしようとするが、四号の動きに翻弄され何度も倒れる。

更には、

 

「あああ!?痛い!体中が痛い!」

 

人体の動きを無視した動きに四号が悲鳴をあげる。

 

 

 

『ふふふふ、どうかな。このショーは?』

『論理ウイルスにはこういう使い方も出来るんだ』

 

ランバ・ラル達に自慢げに見せびらかす少女達。

 

「えげつない手を」

 

「随分と悪趣味だな」

 

ランバ・ラル達の言葉を聞いてキョトンとする少女達。

 

『どうして?こういうの人類は大好きなんでしょ?』

『どうして?私達は人類の残した書物に書かれていた事をしてるだけ』

 

「一体どんな書物を読んだんだ。コズン、ライフルの弾は?」

 

「撃ち止めですぜ、大尉。撃った弾、全部避けやがった」

 

「手榴弾と煙幕弾がまだ残ってますが使いますか?」

 

「…いや、ただでさえ使い過ぎて息苦しいんだ。これ以上使えば我々が窒息死してしまう」

 

完全に手をこまねいていた。

拳銃もライフルも弾切れ、手榴弾系は空気が淀み過ぎている。

素手で人間がアンドロイドに勝てる訳がない。最悪、ジェラルミンケースの中の物を使えばあるいは…。

せめて何かないかと、ランバ・ラルがポケットを弄った時に指先に硬い物が当たり取り出すと。

 

「これは…!9S、4S、どっちでもいいからこっちに来い」

 

「え?あ、はい」

 

ランバ・ラルの声を聞いたのは4Sだった。

4Sが急いでランバ・ラルの下へ行くと、

 

「これを使え」

 

「これって、ポッド・プログラム!?」

 

ポッド・プログラム。

ヨルハの随行支援ユニット、ポッドにはデータのインストール次第で様々な攻撃法がある。

ミサイルにレーザーにハンマーなど様々であり、ジオンも試しに制作していた。

その内の一つをランバ・ラルが入手し8B達に渡そうとしていたがマ・クベの緊急任務ですっかり忘れていた。

 

「ポッド!プログラムのインストール開始!」

 

『了解;インストールを開始する』

 

 

 

 

 

2B達は苦戦する。

今迄、多くの機械生命体や汚染された同胞のアンドロイドを潰してきたが、このような手を使ってきた事はなかった。

論理ウイルスとは、勝手に電脳内のデータを書き換えアンドロイドの自我を破壊して義体の制御を奪う。

だが、四号は意識がハッキリと残っているが体の自由がまるでない。

このような事は初めてであった。そして、何よりも悪辣だった。

 

「ああああああ!殺して二号。私を殺して!」

 

「諦めるな、四号!」

 

体中の関節があらぬ方向に曲がり、それでも戦い続ける体に四号は殺してと懇願する。

2Bや8B達の攻撃をA2が捌いてしまい、碌に攻撃が通らない。

それどころか、逆に攻撃をくらってしまう。

 

「うわああああ!」

 

8Bが四号の剣をまともに食らい倒れる。

四号がフラフラしながらも近づき、剣を大きく振りかざす。

 

「逃げて…ニゲテ…」

 

先程よりも声が細いが8Bに逃げるよう訴える四号。

言われる間でもなく直ぐに動こうとしたが足に力が入らない。

見ると、足に深い裂傷があった。先程の戦闘で四号に切られたのだろう。

碌に力も入らず、周りを見るが2B達も倒れて居たり立ち上がろうとしてたりで援護する余裕はなさそうだった。

四号を見ると、剣を突き立てる様に持ち直していた。刺し殺す気だろう。

 

「すまない、少尉。先にいく」

 

覚悟を決めた8Bが目を瞑る。

その直後に鈍い音が聞こえた。しかし、痛みが来ない事に疑問を感じた8Bが瞼を開けると、

 

「少尉!?」

 

「…無事か8B」

 

コズンが8Bを守るように抱き締め、四号の剣が背中に刺さっていた。

 

「コズン!」

 

「少尉!…如何して!?」

 

「…自分の女を守るのに理由が必要か?」

 

口から血を吐きつつコズンが喋る。

 

「何なの?この感触。機械生命体ともアンドロイドとも違う」

 

剣を刺した四号は伝わってくる感触に疑問を抱く。

尤も、四号の体は再び刺す為にコズンに刺さった剣を引き抜く。

 

「当たり前だ!この人は人間だ!人間なんだ!」

 

8Bの叫びに四号の体が止まる。

 

「私は人間を…人類を刺したの?…ああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

『なんだ?』

『制御が効かない?』

 

持っていた剣を捨て頭を押さえる四号。突然、四号の体の制御が出来なくなった少女達。

それは偶然だったのかも知れない。

アンドロイドは、創造主たる人類を敬愛し、我が身に代えても守り抜く忠誠心を予め組み込まれている。

特に、ヨルハ機体はそれが強く刷り込まれており、アンドロイドの中でも特に人類を愛している。

少女達も、そのプログラムには手を加えていなかった。

守るべき人類を刺した事で、四号の電脳に少女にとっても想定以上の過負荷がかかり、オーバーヒートを起こしたのだ。

 

 

『ポッド・プログラム。インストール完了』

 

「四号に向けて撃つんだ。ポッド!」

 

丁度、インストールが終わったポッドに4Sが撃つよう指示する。

ポッドから白い物が撃たれ、それが四号の体に当たる。

人間を刺した事でオーバーヒートを起こしてなければ避けられただろうと4Sが思考する。

当たった白い物は四号を包み込む様に広がり固まる。

 

『何それ?』

『そんなもので、倒せないよ』

 

突然のハプニングだったが、少女達は笑みを浮かべる。

四号の体が再び動き出し、暴れようとするが、

 

『何で?』

『引き剥がせない』

 

幾ら、動こうが四号に取りつく白い物は取れなかった。

 

トリモチ。

それが白い物の名前だった。

本来は、コロニーの外壁に穴が開いた時ようの応急処置の物だったが、アンドロイドの暴走とトリモチの粘着力と強度にジオンが目を付けたのだ。

一々、論理ウイルスで暴走するアンドロイドを破壊するのは経済的とも言えず、近くにスキャナータイプが居るとも限らない。

かと言って放置する訳にもいかない。ならば暴走するアンドロイドのを取り押さえ論理ウイルスを取り払ってしまえばいい。だが、暴走するアンドロイドはリミッターが外れ複数のアンドロイドでも取り押さえるのは困難といえた。

そこで、ジオンはトリモチに目をつけた。近い将来、モビルスーツの動きも止めれると言われたトリモチならばリミッターの外れたアンドロイドも無傷で捕らえる事が出来る筈だと、ジオンの科学者が研究し先日やっと形に出来たのだ。

 

余談だが、トリモチの登場により暴走するアンドロイドの捕獲率が爆発的に上昇する。

 

 

 

身動きがとりずらい筈なのに尚も暴れようとする四号にA2が近づく。

 

「二号…私…私…」

 

「…少し、寝ていろ。目が覚めたら、悪夢も終わる」

 

そう言い終えると共に四号の意識が無くなった。

A2が強制的にシャットダウンさせたのだ。

 

 

 

戦闘が終わったが、8Bはコズンの傷口を押さえようとする。

しかし、血で滑り下手に力を入れ過ぎれば人間の体など潰してしまう事から上手くいかなかった。

 

「誰か!血が…血が止まらないんだ」

 

「ポッド、止血ジェルを」

 

2Bがポッドに止血ジェルを出すよう言うが。

 

『否定;アンドロイド用の止血ジェルは人間には有害。推奨できない』

 

「我々も薬は持ってきていない。急いで地上のクランプ達と合流せねば」

 

「サーバーの中にエレベーターのプログラムがありました。今ならエレベーターも動く筈です」

 

血を流すコズンを中心に各々がそれぞれ口を開く。

エレベーターが起動すれば地上に戻り、コズンの治療が出来るが、そこでコズンが口を開く。

 

「すいませんが、大尉。ジェラルミンケースを…自分に」

 

「ジェラルミンケースを……コズン、お前…まさか…」

 

「大尉…すいませんが自分はここまでのようです」

 

 

その後、ランバ・ラルや2B達が一緒に戻ろうと説得するが、傷の深さとあのエレベーターが上がる速度では長く持たないと言われる。

更には、

 

「ジェラルミンケースの中の奴は操作する人間が必要でしょう。時限式にしたらあれに操作権を奪われるかも知れませんからね」

 

コズンの視線の先には此方のやりとりを興味深そうに見ている二人の少女が居る。

結局、説得に失敗したランバ・ラルと2B達は地上に戻る事になったが、そこでも問題が発生する。

8Bも残ると言い出した。

これには、流石にコズンも反対するが、「私は少尉の居ない世界になんて生きて居たくない」と言われ渋々諦めた。

 

 

ジオン軍が人間とアンドロイドのカップルの推奨を諦めた理由。

それは、アンドロイドの愛がジオンの想定以上に重かった事だ。

地球降下作戦成功時に幾つもの問題があがった。恋人であるジオン兵が死んだ事で残されたアンドロイドの暴走が起き出した。

作戦無視の先行に、命令拒否の継戦に、等問題行動を起こすようになった。中には精神崩壊を起こすアンドロイドも居た。

更には、重傷を負ったジオン兵をカップルのアンドロイドが何処かに連れ去ろうとする事件まで起こり、推奨は取り下げられた。

結局、連れ去ろうとしたアンドロイドは、負傷した兵を後方に送る事で納得させた。

 

 

 

 

「コズン・グラハム少尉と8Bに敬礼!」

 

ランバ・ラルの言葉に2B達は敬礼する。

それも、ヨルハ式のではなく軍隊式の敬礼だ。

敬礼が終ると共に、ランバ・ラル達は急いでエレベーターへと走る。

コズンの命が尽きる前に地上に行かねばならないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、バカだな8Bは。俺と別れりゃもっと良い男と恋人になったかも知れねえのに」

 

「私は少尉が良いんです。少尉が居るから生きていけるんです」

 

8Bの肩を借りてコズンはサーバーの近くに腰を下ろす。

隣に8Bも座る。

ランバ・ラルから渡してもらったジェラルミンケースを開ける。

中には、四角い黒い箱の様な物が二つあった。

ブラックボックスだ。

 

先日、ジオンが独力で完成させたブラックボックスはアンドロイドのエネルギー源以外にも使われだす。

マ・クベが渡したのもそうだ。ある条件でブラックボックスは核兵器並みの破壊エネルギーが生まれる。

ランバ・ラルは、手持ちの武器でサーバーが破壊できなかった時用にマ・クベから渡された。

最も、それは時限式の話でコズンが直接操作して打ち込む必要は無かった。

しかし、ネットワークの端末を名乗る少女の出現にコズンが警戒する。

嘘か誠か警備の厳しい軍基地の内部にも平然と入れる化け物だ、時限式のブラックボックスも干渉できるかもしれない。

 

『何故、そんなに頑張るの?』

『何故、そんなに死にたがるの?』

 

ジェラルミンケースのブラックボックスを弄るコズンに少女が話しかける。

 

『傷は深い』

『君は助からない』

『そして、君の行動は無意味だ』

『そう、君の犠牲は無駄だよ』

『機械生命体のサーバーはここだけじゃない』

『世界中に設置しているよ』

『つまり、この戦いは無駄』

『つまり、君の犠牲は無駄』

『悲しい自己犠牲の精神なの?』

『悲しい自己犠牲の物語なの?』

『笑えるね』

『面白いね』

 

少女達がコズンを煽るように喋る。

しかし、コズンは黙々と操作して口を開く。

 

「端末のガキが随分と喋るな。そんなに俺達に負けたのが気に食わねえのか」

 

コズンの言葉に笑みを浮かべていた少女の顔が真顔になる。

 

『負けた?』

『もう直ぐ君が死ぬのに?』

 

「忘れたか?俺達の目的は此処のサーバーの破壊か奪取。俺と8Bが死のうがサーバーを破壊出来れば俺達の勝ちなんだよ」

 

その言葉に、少女達の顔は変わらなかったが目に怒りが浮かんでいた。

 

「それに、こんな良い女とあの世に行けるんだ。男冥利に尽きるって奴だ」

 

「少尉…」

 

コズンに肩を抱かれた8Bが赤くなりコズンの肩に頭を寄せる。

それを見ていた、少女達の中に訳の分からない物が込み上げてくる。

少女の視線がブラックボックスに向く。システムを乗っ取ろうとした。

 

「もう遅えよ!最初に止めようとしなかった時点でお前の負けだ!」

 

コズンが最後のスイッチを入れた途端、白い光が辺りを包む。

オデッサ基地の北にある丘にて核爆発が起き地表近くにまで被害が及んだ。

幸い、地表のジオン軍は地下から戻ったランバ・ラルの言葉で素早く避難し影響はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか、サーバーは破壊し兵士とアンドロイドを一体ずつ失ったか。それにネットワークの端末か」

 

オデッサ基地へと戻ったランバ・ラルは、作戦の成功と自分の入手した情報をマ・クベに報告していた。

 

「その少女達は…基地の内部も把握していると言ってましたが」

 

「ハッタリの可能性も無きに非ずか。一応ギレン閣下に報告しておく。保護した四号というアンドロイドはどうしている?」

 

四号の意識が途切れた後、A2が四号をオデッサ基地に持ち込んでいた。

ランバ・ラル隊や22B達は良い表情をしなかったが、A2が土下座までして四号を救って欲しいと言い出しランバ・ラルが入れるよう言った。

 

「現在、メディカルルームでウイルスの除去と無茶苦茶になった関節の修理を行っています」

 

「そうか、治り次第HLVで直ぐにガルマ大佐の下へ返す。A2が足を引っ張り過ぎた」

 

現在、オデッサ基地のA2への感情は最悪であった。

何処から漏れたのか、A2がランバ・ラル隊の足を引っ張り、その所為でコズンと8Bを失った事になっていた。

ジオン兵はそこまででもないが、アンドロイドの感情が完全にA2を拒否していた。

こうして、2B達は四号の修理が終ると共に昼の国のジオン基地に戻された。

 

 

 

 

 

後日、

バンカーから新しく送られた8Bは何か違和感を感じていた。

 

「如何したんですか、隊長」

 

22Bが聞くと、

 

「いや、ランバ・ラル隊に戻って来たが何か忘れてるような気がしてな。とても大事な何かが」

 

「そ、そうですか?」

 

「私の心の大事な部分が零れ落ちたような…そんな気がするんだ」

 

コズンの記憶を消された8Bが淡々と告げる。

その眼には涙が流れていた。

真実を言う事を禁じられている22B達は何も言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




コズンが良い男風になっちまった。
アンドロイドは人類を敬愛するようプログラムされてるから付き合いもするさ。たぶん…


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16話 人形と怪物

 

 

3…2…1…0。

オデッサ基地から一機のHLVが打ち上がる。

中には採掘した資源と2B達を始めとしたアンドロイド達が乗っていた。

彼等は、途中で大気圏外で待機しているムサイ級を経由して昼の国に行くHLVに乗り換える事になっていた。

 

四号は二日ほどの治療で全快したが、人間を刺した事を覚えており罪悪感に苛まれた。

更には、オデッサ基地のアンドロイド達も人間達の足を引っ張ったA2や操られてたとはいえ人間を刺した四号を許してはいない。人間の手前、排斥や暴行はされなかったが、そんなアンドロイドの心情を見抜いたマ・クベが急ぎ、HLVを手配した。

 

「つまり、君は私のデータを元に造られたから、私がお姉ちゃんだね」

 

「稼働時間で言えば僕の方が長いですよ」

 

四号と4Sが談笑してる。

内容は、同じ四号型からどちらが姉か兄かという話であった。

尤も、4Sとしては四号が姉になろうが妹になろうがどちらでも良かった。

どちらにせよ、傍目から背の低いスキャナー型の4Sが弟扱いされるだろうから。

尤も、A2の目からは四号が無理してる事に気付いている。

 

操られていたとはいえ守るべき人間を傷つけた事に精神が病んでいた四号は自害も辞さない程追い詰められていたが、ランバ・ラルの叱咤により自害は止めた。

 

『死にたければ勝手に死ねばいい。しかし、お前が死ねばワシの部下のコズンと8Bの死が無駄になる。それだけは忘れるな』

 

正直、A2は上手いと思った。

人間を思慕するようプログラムされたアンドロイドに、その言葉は薬であり麻薬でもあった。

人間の死を無駄にする事なぞ当然出来る筈もなく四号は自害という選択肢を選べなくなった。

尤も、ランバ・ラルにとっては四号を助けたのは偶然でコズンが死んだのも敵のサーバーの破壊が目的であったが。

 

 

 

HLVが大気圏外へと着き、2B達はムサイを経由して昼の国に行くHLVに向かう。

その途中に、四号が周囲を見回す。

真珠湾降下作戦の時までの記憶しかない四号に人間のジオン兵は魅力的であった。

その様子に、A2が笑みを漏らす。

A2も当初は四号の様に周囲を見回したり、ジオン兵の様子を観察したりもしていた。

 

「見て、A2。あの戦艦、変わった形してるよ!」

 

人間が造った戦艦に四号の目が輝く。

 

「あ、ああ、そうだな」

 

初めて見るのはA2も同じだった。

そして、2B達も。

 

「パプワ補給艦を外から見たことありますけど、戦艦も変わってますね」

 

「うん。こんな構造の戦艦なんて見たこと無い」

 

「それ以前に、宇宙戦艦なんてアンドロイド軍も持っていない筈ですけど」

 

ムサイの戦艦内部を見つつ5人は用意されたHLVへと乗り込む。

それぞれ、もう少しムサイの内部を見たかったがアンドロイドで軍人である自分達が我儘を言う訳にはいかない。

5人を乗せたHLVが降下する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無事、HLVが降下し昼の国の基地に到着する。

HLVを降りた2B達に違和感を感じた。

ジオン兵やアンドロイド達が忙しなく動いていたのだ。

キャンプのある場所へと向かうとアネモネが他のアンドロイド達に指示をだしていた。近くにガルマの姿も確認できる。

 

「アネモネ、何かあったの?」

 

2Bがアネモネに話しかける。

ガルマは部下と重要な話をしてるようなのでそっとしといた。

アネモネが2Bに口を開きかけた時に、アネモネの目が四号を捉えた。

 

「四号!報告で聞いていたが本当に生きてたんだな」

 

「あははは…生きていたと言うか生き返されたような」

 

懐かしい顔に会えて笑顔を浮かべるアネモネに比べ四号は苦笑いの表情をする。

人間を傷つけた事を気にしてるのかアネモネの嘗ての仲間を思い出したのだろうとアネモネとA2が考えた。

少し四号と話した後に、アネモネが2Bに視線を向ける。

 

「話が逸れて悪かったな。実はな、我々アンドロイド軍がジオンに譲渡した空母があるんだが、それが近々補給の為に戻って来るんだ」

 

そこで、9Sが「ああ」と何か思い出す。

 

「空母ブルーリッジですよね。データで見たことがあります」

 

しかし、そこで4Sが口を挟む。

 

「ブルーリッジⅡじゃなかったっけ?9S」

 

「4S正解だ。話が早くて助かる」

 

「空母の護衛でもすればいいのか?」

 

「いや、君達に頼みたいのは、海岸沿いに配備されてる補給用ミサイルのほうだ。最近、あの付近で敵性機械生命体の出現が多数報告されていてね。モビルスーツ隊とアンドロイド部隊が対応してるんだが数が足りないらしいんだ」

 

「任せて下さい」

 

9Sが快く引き受ける。

戻って来たばかりだが、オデッサ基地で調整も済んでいるので戦闘には支障ない。

5人は急ぎ、海岸に行こうとしたが、

 

「ちょっと待って、先に物資を補給しといていいかな」

 

4Sがそう言う。

一瞬文句を言いかけた9Sだが、最近の連戦で回復系の物資も尽き欠けていた事を思い出す。

2Bの顔を見ると、まだ余裕がありそうな雰囲気だったが、先に補給した方がいいだろうと判断し道具屋に行く。

 

 

 

「あ、いらっしゃい」

 

道具屋へ来た5人だが、2Bと9Sが少し驚く。

前の道具屋の店主と違い、女性タイプのアンドロイドが店番をしていた。

9Sが以前のお店の人はどうしたのか聞こうとしたが、

 

「お、ヨルハのお二人さん、久しぶりじゃねえか」

 

「へ?…もしかして、前の店主さん義体変えたんですか?」

 

「おうよ!」

 

どうやら、中身はあの時の店主のアンドロイドのようだ。

 

「あの…その義体どうしたんですか?」

 

「いや、こっちの方がジオンの兵隊さんからの人気もあってな。思い切って変えてみた」

 

最近、男性アンドロイドの数が減りつつある。

機械生命体との戦闘で戦死してるのもいるにはいるが、大体の理由がジオン兵と関係していた。

ジオン兵は、基本的に男の兵士が殆どだ。女性の兵も居るが完全に少数派だった。

そんな、男たちが女性型のアンドロイドと仲良くなるのに時間は掛からなかった。そして、男性型のアンドロイド達にある感情が生まれた。

 

嫉妬だ。

 

ジオン兵にではない。同胞である女性型のアンドロイドにだ。

アンドロイドの人類に思慕するプログラムは当然男性タイプにも持たされている。

 

もっと、人間と仲良くなりたい。もっと人間と話したい。もっと人間と…

 

その思いゆえに男性型アンドロイドが女性型の義体に転向する事が多くなった。

店主もその一人だ。

アンドロイドは男女どころか同姓同士の恋愛も珍しくはない。人間の真似もアンドロイドとっては日常の楽しみなのだ。

しかし、本物の人間が居れば話は別である。女性タイプの方がジオン兵と仲良くなれるなら彼等も女性タイプに転向する事に躊躇いなどなかった。

その事実を報告で知らされたガルマは若干引き攣った表情をしていた。

 

「オリジナルパーツに拘っていた人はどこいったんでしょうね」

 

店主の言葉を聞いた9Sが呟く。

尤も、内心女性型になるのもありかな。とも考えていた。女性型になれば2Bが人間の男の事を好きになっても一緒に居られると思ったからだ。

 

話も聞いた一同はさっさと目当ての道具を買い海岸へと急ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5人は、海外沿いの補給用ミサイルが配備されているエリアに入り込む。

通称を「水没都市」と言われている。その名の通り大半の建物は海中に沈んでいる。

9Sが集めた情報曰く、前回の大戦で地盤が破壊され街全体が沈下しつつあるようだ。

地面には、先程破壊された機械生命体の残骸が散らばっている。

空には何機かのドップが飛び交い、地表にはザクやグフが小型の機械生命体を蹴散らしていた。

 

「何、アレ?」

 

そこで、2Bの目にある物を捉えた。

カエルとバッタを足したような機体だ。

機械生命体ではない。ジオン兵が乗っているからだ。

 

「ああ、あれはワッパですよ」

 

2Bの質問に答える9S。

 

「ワッパ?」

 

「言わば、ホバーバイクって奴です。基本的にジオンの歩兵部隊が乗ってるんですけど、アンドロイド達の間でも結構人気があるんですよ」

 

ジオンが開発した起動浮遊機と呼ばれる陸戦兵器である。

コックピットは剥き出しだが前後のローター(ファン)により、機動力や走破性はジオン軍の兵器の中でもトップクラスである。

最大数十メートルの上昇も可能で機械生命体への対応力も高い。

本来は一人の乗りだが、最大四人まで乗れ、アンドロイドでも乗れるよう設計されている。

運転のしやすさや細かいカスタマイズも可能でありアンドロイド達の中にも熱烈なファンがいる。

 

「ホバーバイク」

 

飛行ユニットとは別の乗り物に2Bが呟く。

視線の先には、数機のワッパが機械生命体の飛行型と戦闘をしていた。

 

 

 

未だに多数の敵性機械生命体が徘徊している。まるで機械生命体の見本を並べている様に種類が豊富であった。

それらを片っ端から破壊して、補給用ミサイルの設置場所へと急ぐ。

途中、四号がザクの大きさに驚いたりしたり、負傷したジオン兵やアンドロイドの治療などしつつミサイルの近くまで来た。

直後に、2Bと9Sのポッドから通信画面が表示された。「緊急通信だ」と副指令の声が聞こえた。

 

『現在、我々の保有する空母が機械生命体の攻撃を受けている。モビルスーツ部隊も対応に当たってるが飛行型の数が多すぎる。2Bと9Sは飛行ユニットに乗って空母の護衛をしてほしい。残りは地上の機械生命体の対応にあたってくれ。ガルマ指令の許可も貰っている』

 

そう言い終えると共に通信が切れ目の前に二機の飛行ユニットが降りてくる。

バンカーから既に発進してたのだろう。

 

「副指令って人使い荒いですね」

 

「今に始まった事でもないさ」

 

9SのボヤキにA2が答える。

「私の事、何も言わなかったな…」と四号が寂しそうに言う。「緊急事態だからね」と慰める4S。

飛行ユニットに乗り込み、急いで空母へと向かう二人に引き続き地上の敵性機械生命体の撃破に勤しむ三人。

 

 

 

 

飛行ユニットに乗った2Bと9Sは急ぎ、空母へと向かう。

はっきり言って、空母ブルーリッジⅡが苦戦していた。

飛行型機械生命体が空母の周囲に群がり、引っ切り無しに攻撃をし続けている。

空母の甲板では数機のザクとザクキャノンが機械生命体へ攻撃しているが数に押されてる。

この状況に9Sが「まるで蚊柱みたいだ」と言いつつ、飛行ユニットを機動形態に変え飛行型機械生命体を薙ぎ払う。

ある程度、飛行型機械生命体の排除をした2Bの耳に9Sの「大型の敵」の報告が入る。

大型の飛行兵器が接近してくる。

ジオン軍のガウの登場により撃墜数が上がっているが大型兵器の火力は未だに脅威であり、空母を一撃で大破させることも容易だ。

 

「9S!上昇して!」

 

早めに倒せねばと2Bは飛行ユニットを加速させ、9Sもそれに続く。

小型の飛行型を破壊し大型兵器に接近し砲台の破壊に成功する。

邪魔する小型兵器をあしらい大型兵器への攻撃を続ける。途中にドップ部隊の手助けもあり次々と大型兵器にダメージを与える。

ドップ部隊の攻撃もあり、飛行型機械生命体と大型の飛行体の撃墜に成功した。

 

飛行を維持出来なくなった大型飛行体は海へと叩きつけられるように落ち爆発四散する。

 

「これより空母の支援に移行する」

 

それを確認した2Bが空母に向かおうとしたが、

 

「ちょっと待ってください。何だこの反応」

 

9Sのレーダーが新たな敵影を捉えるが、2Bが周囲を見回すが小型の飛行体だけであった。

9Sの誤報かと思った次の瞬間、緊急広域通信が入った。

 

『此方、マッドアングラー隊隊長、シャア・アズナブルだ!ブルーリッジⅡへ、急ぎ回避運動を取れ!繰り返す…』

 

「マッドアングラー隊?」

 

マッドアングラー隊。

ジオンがアンドロイド達から譲渡された潜水艦を中心とした部隊の一つ。

主に、潜水艦の実験及び機械生命体の海洋戦力殲滅の為に組織された。アトランティスと呼ばれる機械生命体の海上都市の情報を聞いたキシリア少将とドズル中将によって造られた。

隊長は、5機の超大型機械生命体、エンゲルスを破壊した赤い彗星の異名を持つシャア・アズナブル少佐だ。

今迄、3つの海底基地と海の傍にあった機械生命体の拠点破壊など成果をあげており、今回は空母ブルーリッジⅡの護衛をしていた。

 

「!反応が強くなった!」

 

9Sの驚愕の声を上げると共に轟音が響き、同時に目の前の海面が盛り上がる。

一瞬爆発かと考えたが、空母が咥え上げられるように持ちあがる。そこで、初めて「何か」が空母に噛みついたと判断できた。

次の瞬間、船体は噛み千切られ真っ二つにされ爆発し海面へと叩きつけられる。

甲板にいたモビルスーツも一緒に海面に叩きつけられる。

通信機からジオン兵の叫びが聞こえた。

 

「ば、化け物だ!?」

「かあさあああん!!!」

「火…火が、爆発する!」

 

その声も海中に沈みと共に聞こえなくなった。

 

 

 

 

「なに…あれ!?」

 

その姿に2Bも絶句する。

クジラの様な姿の機械生命体だが、今までとは桁違いの大きさなのだ。

三つの大きな目と、その下の小さな四つの目。その目の光が敵である証拠だった。

こいつの前では超大型機械生命体のエンゲルスすら子供に見える。

 

そして、その姿は、水没都市で戦う全てのジオン兵とアンドロイド達も目撃した。

 

「う…撃てぇぇぇぇぇ!!!」

 

アンドロイドが言ったのかジオン兵が言ったのか、モビルスーツ隊もドップ部隊も一斉に新たに表れた機械生命体へと攻撃する。

ザクマシンガンやザクバズーカ、ミサイルなどが、巨大機械生命体に命中するが、それが効いている様子も無く目からレーザーを撃ち、ドップ部隊が死に物狂いで避ける。

 

2B達も巨大機械生命体に近づき攻撃しようとするが、体表の電磁波防壁に近づけず、衛星からのレーザー攻撃でも無傷だった。

ならばと、9Sは海岸沿いに置いてあった迎撃砲で巨大機械生命体を撃つ。

近くのザクも併せて、ミサイルポッドを撃ち援護する。

何度目かの迎撃砲の弾丸が巨大機械生命体の口内に命中し大爆発を起こす。

大量の煙が上がる中、2B達は巨大機械生命体を倒したかとも思ったが、緊急通信が入る。シャア少佐だ。

 

『総員退避しろ!繰り返す、総員退避しろ!化け物にダメージが入ったようすはない!』

 

直後に、煙から飛び出すように巨大機械生命体が姿を現した。

更に、2B達が目を疑った。

巨大機械生命体が立ち上がったのだ。

只でさえ巨大な機械生命体が更に大きくなった。もはや怪獣だ。

 

誰しもが唖然とする中、怪獣の体に光が広がる。

EMP攻撃だ。

その攻撃に、アンドロイドはおろか、EMP対策をしてる筈のドップやザクまで次々と停止していく。

EMP攻撃は海岸に居た、2B達にも及ぶが9Sが咄嗟に張ったバリアで事なきをえる。

その代わり、モビルスーツ隊の多くは停止した。

EMP攻撃を交わした2B達だったが、怪獣は腕を振り回す。

回避も出来なくなったザクが次々と吹き飛ばされ、2B達も標的になった。

二人が急ぎ、飛行ユニットで離脱しようとするが、あと少しというところで吹き飛ばされる。

直前に、飛行ユニットに乗れたが姿勢制御も出来ず落ちるだけだ。

 

地面に叩きつけられると身構えるが、衝撃の代わりに背中が引っ張られる感覚がした。

 

「大丈夫ですか、2Bさん」

 

「パスカル?」

 

2Bはパスカルが、

 

「平気か、ナインズ」

 

「ガルマ?」

 

9Sはガルマのドップが助けていた。それぞれが礼を言い、飛行ユニットを制御して浮かぶ。

助かった事に安堵するが、目の前にはまだ怪獣が居り2Bと9Sが睨みつける。

 

「緊急事態だと聞いてはいたが、何だデカ物は?」

 

「あの巨大な機械生命体は過去に廃棄された兵器なんです」 

 

2Bを助けたパスカルが目の前の怪獣の正体を話す。

 

「アンドロイド殲滅用として造られたんですが、上陸した途端に暴走して敵味方の区別なく攻撃を始めたんです。当時は、私もネットワークに接続していたので覚えていますが、我々も止める事が出来ず深海に投棄する事になったんです」

 

その言葉を聞いた9Sが続けて口を開く。

 

「バンカーに敵の情報を開示してもらったんですが、三百二十年前に上陸が確認されてます。護衛のレジスタンス達が壊滅したとか」

 

「そんな化け物を我々が倒さねばならん。っと言う訳か。パスカル殿、この乱戦だ。巻き込まれる前に退避してくれ」

 

「分かりました」

 

ガルマの言葉にパスカルは安全な場所へと行く。

空を見ると、別のドップ部隊にドダイに乗ったザクとグフが怪獣に攻撃しているが効いてるようには見えない。

飛行ユニットの武装も全く通用しない。最悪、ブラックボックス反応の自爆をしようにも、敵が巨大すぎて全てを破壊出来るとは思えない。

 

「そうだ、ミサイルだ!」

 

2Bが如何したものかと考えていた時に9Sが叫んだ。

9Sは空母に搭載予定だったミサイルの使用を提案する。

ドップに搭載されてる物より大きなミサイルだ。怪獣の口内に命中すればもしやと考えた。

 

「僕が搭載予定のミサイルを試します。2Bとガルマは妨害されないよう、敵のEMP攻撃ユニットの破壊を」

 

9Sの提案に2Bとガルマが頷く。

9Sが急ぎ、ミサイルの設置場所へと急ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

9Sがミサイル設置場所に近づく。

途中で邪魔する飛行型機械生命体しつつ、とうとうミサイルの傍まで来たが、

 

「そ、そんな!?」

 

9Sは自分の目を疑い、運の無さに絶望した。

ミサイルの発射台が拉げ、ミサイルも折れ曲がったり、地面に転がったりしていた。

 

「くっそ!モビルスーツが何でこんなところに!」

 

発射台を潰した原因、機能を停止したザクがミサイルの発射台を潰してしまったのだ。

怪獣に吹き飛ばされたモビルスーツの一機だった。

爆発してないだけ幸運ともいえるが、発射台が使えないとなると9Sの作戦は無駄となる。

 

「何か…何か手は無いのか?」

 

周囲を見回して、何か使える物が無いか探す9Sだったがそんなものはない。っとそこでポッドがある報告をした。

 

『報告;モビルスーツ内に微弱な生命反応あり』

 

「生命反応?…!脱出していないのか!?」

 

近くに飛行ユニットを止め、ザクの方に走る9S。

幸い、コックピットの入り口が上を向いており、開くのに手間は掛からなかった。

コックピット内を見た9Sの目に落下した衝撃の所為かヘルメットが外れ頭から血を流すジオン兵を見た。

 

「シッカリして下さい!今、助けます!」

 

9Sがシートベルトを外してジオン兵の救助に入る。

無事に、ザクから降ろすと同時に別行動していた4S達が近づき、負傷したジオン兵を預けると、9Sは倒れたままのザクを見る。

 

「そうだ、こいつを使えば」

 

 

 

 

 

ザクのモノアイが光りゆっくりとだが立ち上がる。

かなりぎこちない動きに9Sも四苦八苦する。

 

「EMPの所為か、基礎プログラムまで穴らだけだ。…よし、いい子だ」

 

破損したプログラムを応急処置しつつ、9Sがザクをハッキングで動かす。

何度か、メイの手伝いでザクのOSを見ていたから、何とか動かしてはいた。

人が乗って動かすより遥かに遅くぎこちないが、仕方がない。

ザクが地面に転がるミサイルを斜めに支える。

発射台が使えないないならザクを発射台にしようと考えた。

途中で、2BからEMP攻撃ユニットの破壊に成功との報も入り、9Sも急いでいた。

 

『発射;可能』

 

「よし、発射!」

 

ザクのハッキングを止めミサイルのハッキングを行う。

ザクのモノアイ光りが消え、ミサイルのロケットに火が付く。

9Sの目論見通り、ザクがミサイルの発射台として機能し、飛行ユニットでミサイルに取りつく。

役目を果たしたザクはゆっくりと後方に倒れ、発射不能となったミサイルの上に倒れ、直後に爆発音が9Sの耳に入った。

少し、ザクに感謝をしつつ9Sは飛ぶミサイルの制御に入る。

 

「姿勢制御が予想より重い」

 

『警告;障害物に注意』

 

敵のエネルギー弾が飛び交う中、9Sはミサイルの姿勢制御に苦労していた。

後少しで、怪獣まで届くという距離で問題が発生した。

 

『警告;ミサイルの亀裂から燃料漏れ』

 

「そんな!これが一番まともだと思ったのに!」

 

ミサイルのロケット部分から燃料漏れが発生、ポッドが咄嗟に飛行ユニットとミサイルの距離を開けると共に空中爆発した。

9Sはそれを茫然と見つめていた。

 

「9S!ミサイルは?」

 

大きな爆発に気付いた2Bとガルマが茫然とする9Sに近づく。

9Sは首を横に振るしかなかった。

 

「作戦は…失敗です…」

 

「そう…」

 

9Sの悔しそうな声に2Bが呟く。

最早、打つ手なし。絶望が2B達に訪れた。

戦場である筈なのに、一瞬静けさが漂う感覚がした。

 

「ん?あれは…ガウ」

 

そこで、ガルマは此方の援軍として来たガウとドップ部隊に気付き、何かを思いついた。

 

「ナインズ、2B、君達はドップ部隊の掩護をしてくれ。私に一つ考えがある」

 

そう言って、ガルマは2B達の返事を聞かず、ガウ攻撃空母へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガウをあの怪物にぶつけるですって!?」

 

ガウに乗り込んだ、ガルマはブリッジへと行き、艦長たちにこのガウを怪物にぶつけろといった。

艦長を始めとしたクルーはガルマの正気を疑うが、

 

「君達も見た筈だ。あの怪物はガウのメガ粒子砲も効果が無い事を」

 

その言葉に、艦長たちも言葉を詰まらせる。

事実、ガルマがブリッジに到着する前に何発もメガ粒子砲を撃ったが、怪物に当たると共に四散するだけだった。

 

「艦長、投下用の爆弾はまだ使ってはいないのだろう?」

 

「はい、爆弾なら満載です」

 

この時点で、ガルマの言いたい事も分かった。

ガウの質量と投下用の爆弾の破壊力を合わせれば幾らあの化け物でもひとたまりもないだろう。

更に、ガウの動力の熱核反応炉を暴走させて爆発させればさらに良し。

問題は、

 

「後は、オートパイロットであの怪物にぶつかるようセットすれば「ガルマ大佐」…何だ?」

 

「ガウに…ガウにオートパイロットはありません」

 

艦長がガルマにガウの事を説明する。

ガウにはオートパイロットが付けられてなかった。ジオンが論理ウイルスを警戒していたからだ。

事実、コムサイの事件でよりウイルスに対する警戒が跳ね上がった。

長距離を飛ぶ時は、ジオンとアンドロイドの複数のパイロットを搭乗させる事で問題は無かったのだが。

 

艦長の言葉に、ガルマが口を閉じる。

この作戦を実行するということは誰かがガウを操縦する為に残るということだ。

一瞬の沈黙が流れる中、アンドロイドの一人が手を上げる。

 

「自分がガウを操縦します。皆さんは早く脱出を」

 

それを見た他のアンドロイドとジオン兵も挙手する。

 

「お前だけを残していけるか!」

 

「艦長の私も残らねばな」

 

それぞれが言う中、ガルマは懐から拳銃を取り出し突きつける。

 

「いや、ここは言い出しっぺの私が残ろう。諸君はさっさと出ていきたまえ」

 

拳銃を突きつけ出ていくよう言うが、誰もガルマの言う事を聞かず、ブリッジのクルーは配置に付き、他のクルーに脱出するよう艦内放送する。

その放送に、ブリッジのクルー以外のジオン兵とアンドロイドの避難が終了する。

 

「君達…」

 

「申し訳ありませんが、艦長の私が逃げては他のクルーに示しが付きませんので」

 

「第一、ガルマ大佐が一人でガウを動かせるんですか?」

 

ブリッジのクルーに逃げる意思は無く、クルー達も拳銃を使ってまで残ろうとしたガルマを説得するのは不可能だと判断した。

 

 

 

 

 

怪獣の放つ弾幕に臆せずガウは真っ直ぐと怪獣に向かう。

 

「ガルマ、早く逃げるんだ!ガルマ!」

 

直前に通信でガウを怪獣にぶつけると言われた9Sと2Bはガルマ達に脱出するよう言うが通信を切ってるのか繋がらない。

 

「9S、此処は退こう。ガルマの言った通りだったらこの辺も…9S!?」

 

2Bが9Sが自分の近くに居ない事に気付いた。

 

 

 

 

 

 

 

怪獣の弾幕がガウの所々に命中し、小規模な爆発が起こる。

遂には、ブリッジの付近にも命中し、ガラスが砕け操舵手のジオン兵の頭が吹き飛ぶ。

 

「くそ、操舵手が死んだ!」

 

「私がやる」

 

死んだ操舵手の体を退かしガルマが操縦桿を握る。

強烈な風がガルマに吹き付ける中、ガウは少しづつ怪獣へと迫る。

 

「ガルマ!」

 

そこで、ガルマが自分を呼ぶ声に気付く。

 

「ナインズ、何故君がここに!?」

 

「君を助けに!友達だろ!」

 

「何を言っている!危ないから早く「お許しを、ガルマ様」!?」

 

艦長がガルマの首の裏に一撃を与え気絶させる。

気を失ったガルマを9Sに渡すクルー達。

9Sが「すみません、僕一人では貴方達、全員を助ける事は…」と謝罪を口にするが、艦長は首を横に振る。

それを、見た9Sは気絶したガルマを支えガウから離れる。

やっと肩の荷が下りた艦長は操縦桿を握り、怪獣を睨みつける。

 

「ジオン軍人の魂を見よぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

ジオン軍人の気迫に恐怖したのか、威嚇のつもりか怪獣は大きく口を開け咆哮する。

そして、ガウは怪獣の口を塞ぎ、大爆発を起こす。

直後に怪獣の体が連鎖的に爆発を起こす。そして、大爆発の衝撃波が起こり周囲のジオン兵達に襲い掛かる。

2Bも例外ではなく、動作不良を起こした飛行ユニットが停止して海中に投げ出される。

 

大量の海水が口内に入り、沈む2Bの目に赤いカニのようなモビルスーツが見えたのを最後に意識が途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




道具屋のアンドロイドの性別が分かりませんでしたが一人称が俺だったので男性タイプだと思います。


そして、ガルマがまた無茶をする。
モビルスーツ隊も被害が甚大。主にザクが、


ところで、誤字報告って一回見ると消えるんですね。…どうしましょう…


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17話 アダム

 

 

 

あれからどの位、時間が過ぎただろうか?

僕は■号に殺された筈だ。

まだ死にきれていないのか……それともアンドロイドが死んだらこうなるんだろうか。

だとしたら、少し早まったかな。■号に会いたいな。僕を殺した■号だけど、狂った僕を止める為だったし、ああしなきゃいけなかったのも分かる。

 

 

 

 

何度目の思考だろうか?

もう何百回も繰り返した。後悔してるんだろうか?■■■が考えた計画を僕が弄って、アンドロイドにとっての神を作り出した。僕達、■■■機体は神の為に殉教する。

いや、後悔は無い。僕達は殉教者となって他のアンドロイド達の希望になれた筈だ。そうでなければ僕達の生まれた意味が……機械生命体のコアを流用した動力を持つ、僕達の存在って何なんだろう。

 

ねえ、■号。

僕達の生まれた意味ってなんだろう

 

「…生まれた意味が欲しいのかい?」

 

!?

誰!初めて聞く声だ。

また、僕の幻聴かと考えるけど、

 

「もう一度聞く、君は生まれた意味が欲しいのかい?」

 

欲しい!機械生命体と同じ仕組みで動いてる僕達に生きる意味が!

そうすれば、■号も皆も生きてられる。

 

「そうか、君の名前は?」

 

僕は、僕は…九号。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初に聞こえてきたのはノイズだった。

やけに五月蠅いノイズだと思ったが、それが怒号や悲鳴だと気付くのに時間は掛からなかった。

 

「う……」

 

クラクラする頭を押さえ上半身を起こす。

そこで、2Bが自分が簡易ベッドに寝ていた事に気付いた。

 

「ここは…」

 

周囲を見回す2B。此処は間違いなくレジスタンスキャンプのジオン軍基地。

周りには、他のアンドロイドやジオン兵が横たわっている。

中には、治療中らしく怪我をしたジオン兵を治療する医者と暴れないように押さえつけるアンドロイドの助手も居た。

自分が何故ここに居るのか、考える2Bだが同時に記憶が巻き戻る。怪獣の口にガウが突っ込み怪獣の破壊に成功するが、同時に発生したEMP爆発により飛行ユニットが停止して海に投げ出された筈だ。

死んだという訳じゃない。死んだらバンカーで復活する筈だ。

そこまで考えた時に、2Bに声が掛けられた。

 

「2B、目が覚めたのね。良かった」

 

赤い髪の二人の女性アンドロイドが話かける。デボルとポポルだ。

二人に状況を聞こうとしたがそれより早くデボルが口を開く。

 

「悪いけど、目が覚めたなら退いてくれるか?他にもベッドが必要な奴はわんさか居るんだ」

 

デボルとポポルの背後に別のアンドロイドが支えるジオン兵に気付いた。

頭に包帯が巻かれ苦しそうに見えた。

急ぎ、ベッドから降りると、そのジオン兵がベッドに寝かされ上半身の軍服を脱がされる。

 

治療の邪魔になると判断した2Bは治療所の外に出る。

そこで、2Bは目を疑った。

治療所に入りきらなかったアンドロイドやジオン兵がまだ複数いたのだ。

さらに、丁度降下してきたファット・アンクルのハッチが開くと怪我のしてないアンドロイドが急いで駆け寄る。

 

「急には動かすな!脳にダメージ受けてる可能性が高い!」

 

「この足じゃもう切断しかない!急げ」

 

ファット・アンクルで治療をしていた医者がそれぞれのアンドロイドに指示を送る。

 

 

 

一瞬手伝おうかと考えた2Bだが、9SやA2達が傍に居ない事に気付く。

周囲を見回しても姿が見えず、ポッドにバンカーと通信を繋ぐよう指示する。

 

『2Bさん!良かった目を覚ましたんですね!』

 

何だか、久しぶりに聞く気がした6Oの声に2Bも安堵する。

 

『地上の連絡で2Bさんが運ばれたって聞いたから心配していたんですよ!それで大丈夫なんですか!?』

 

「軽いボディチェック済み。問題は見られない」

 

その言葉に6Oも「良かった」と返事をした。

6Oに多大な心配を掛けた事を反省しつつ2Bは冷静に言葉を続ける。

 

「現在の状況の説明を」

 

『はい、海岸に襲来した超大型機械生命体は五時間前のガウの特攻で機能を停止しました。』

 

その言葉に、2Bも「五時間!?」と叫ぶ。

6Oが心配したのも分かる。五時間も前に負傷して治療所に運ばれたと聞けば誰だって心配する。

 

『その際のEMP爆発により多数のモビルスーツや一部の通信施設が停止して、現在復旧作業に入ってます』

 

2Bが意識を失う前に見た爆発を見て納得する。

あれ程の規模だ。アンドロイドが全滅する可能性だってあったのだ。

 

「9SとA2達の居所は?」

 

『……A2さん達は海岸で救助作業を手伝っています。超大型機械生命体との戦いで多数のジオン兵とアンドロイドが戦死して、……9Sさんはガルマ指令を救助した情報があるんですが、通信にも返事が無く行方が分からないんです。かすかなブラックボックス反応はあるんですが…』

 

現在、ガルマ大佐の安否が不明である。

ヨルハ9号S型がガウから連れ出したという目撃情報があるが、超大型機械生命体の爆発でその行方が分からなくなっていた。ガルマが行方不明の間にヨルハ部隊はホワイト副指令が、地上はアネモネとダグラス・ローデン大佐が代理を務めている。

 

「9Sの捜索に入る。副指令に承諾申請を」

 

『既に命令が出ています。ヨルハ部隊も捜索隊として何人かが地上に降りています。9Sさんを見つければガルマ指令も居る可能性がありますから』

 

既に命令が出ていた事に2Bも安堵する。

急ぎ、9Sを探す為に走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サイド3。

執務室に男の怒号が響く。

ドズル・ザビの声だ。

 

『兄貴!まだガルマは見つからんのか!?』

 

「捜索はしてるが、海辺で戦った超大型機械生命体の爆発で現場が混乱している。続報を待て」

 

その言葉に、ドズルはモニター台を叩く。

ガルマがMIAとなってからドズルの心が休まる事はなかった。やはり地上に行かせたのは失敗だったとも考える。

映像で見た超大型機械生命体の戦闘及び爆発の光景が脳裏に過る。

 

『なら、ソロモンの全戦力を送ればガルマを見つける事も…』

 

「落ち着け!現場が余計混乱する。少し休めドズル、お前は少し疲れてるんだ」

 

ギレンがドズルに休むよう言うと通信を切り椅子にもたれ掛かる。

 

「ふぅ、例のゲシュタルト計画やレプリカントの情報も碌に分からん内にこれか」

 

少し前にギレンが命じた調査が一向に進んでいない。

アンドロイド達は協力的だったが人類サーバーの調査に苦戦していた。ジオンの所有してるコンピューターでは力不足なのか中々解析が進まなかった。

せめて、アンドロイドの生き証人が居ればと考えるが5千年以上稼働している可能性は限りなく0に等しいだろう。

少し目を閉じたギレンは一枚の書類を取り出す。

 

「とは言え、準備はしておくか」

 

そう言って溜息をつくギレン。

書類には、「ガルマ国葬の準備」と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

9Sを探す2Bは手掛かりを探す為に海岸の水没都市へと来ていた。

其処で、目にしたのは沖合の上半身が吹き飛んだ超大型機械生命体の残骸とジオン兵の怒号だった。

 

「瓦礫の撤去急げ!潰されたマゼラアタックの中に生存者が居るぞ!」

 

「早くファット・アンクルを呼べ!このままじゃ切断行きだ!」

 

ジオン兵の指示に従うアンドロイド達。

ふと、2Bは道に置かれた黒い袋に気付く。人一人入れる大きさの袋2Bが近づく。

まるで、好奇心旺盛の9Sみたいだなと2Bも自分自身に呆れる。

ジッパーの部分が空いており覗き込む。次の瞬間、息を飲んだ。

ジオン兵の遺体だ。黒い袋が死体袋だと気付く。

更には、袋は一つではなく、無数に置かれていた。

 

ジオン兵が戦死している事は2Bも知っている。

機械生命体とジオン軍が戦争し出して、もう半年となる。しかし、人間の死体を見たのはこれが初めてだった。

2Bが恐る恐るジオン兵の死体に触ろうとした。

 

「止めとけ、悲しくなるだけだ」

 

背後からの声に振り返ると、A2が悲しそうな顔をしていた。

 

「A2…」

 

「機械生命体が破壊した空母にも多数のジオン兵が乗り込んでいたんだ。脱出する間もなくな。それから、戦闘機のパイロットやモビルスーツのパイロットも運悪く死んだ人も多い。今、ジオンの水陸両用モビルスーツが海中に投げ出されたジオン兵とアンドロイドの捜索をしている」

 

そう言って、A2は開いていたジッパーを閉め、死体袋の上にそっと手を置く。

 

「シャア少佐に礼を言っておけよ。海中に投げ出されたお前を助けたんだからな」

 

「私を…」

 

守るべき人類に逆に助けられた。

その思いが2Bの胸に宿る。「人類の足を引っ張ってるんじゃないか?」と不安になった2Bは「その人は何処に?」と聞く。

 

「あそこにモビルスーツが止めてある。ザクとは違って特徴的だから直ぐわかるだろ。赤いモビルスーツの傍で変わった仮面を付けてる軍人が少佐だ」

 

「ありがとう」と返事をして2BはA2が指差した方向に行く。

すると、直ぐに見たことが無いモビルスーツが目に入った。

ザクやグフのような首がなく胴体の上部分にモノアイがあり、腕には指の代わりにカギ爪が付いたモビルスーツだ。9Sが見たら目を輝かせるだろうなと考えつつ2Bは赤いモビルスーツを探す。

そして、見つけた。

気を失う前に見たモビルスーツだと確信する。

A2の言う通り赤いモビルスーツの足元に妙な仮面とヘルメットをかぶった赤い人が居た。

 

「ん?君は」

 

2Bの存在に気付いたシャアが近寄る。

 

「やはり、あの時のアンドロイドか。もう動いて大丈夫なのか?」

 

「はっ、助けていただいてありがとうございます!…ところで、私以外の少年タイプのヨルハ機体を知りませんか?」

 

2Bが敬礼してシャアに礼を言うと同時に9Sを見てないか聞いた。

 

「少年タイプ?残念だが、私も私の部下も女性タイプしか見ていないな。…海に落ちていた人工皮膚の剥げたアンドロイドも複数、陸に上げたがそれも違うのだろうが…確認しとくか?」

 

9Sの手掛かりになるかと「はい」と返事をし回収されたアンドロイドの義体を見せて貰う。

しかし、どれも古く9Sとは到底かけ離れている。

シャアに礼を言ってその場を離れる。

 

 

 

 

2Bの背中を見送るシャアは一人物思いに耽る。

 

ガルマはあのアンドロイドに任せておくか。出来ればこんな所で死んでほしくはないが…ザビ家への復讐は宇宙世紀の世界でやりたいものだ。無事に戻れる保証もないが、その時は…。

 

「少佐、ズゴックの補給完了しました」

 

「了解した、もう暫く生存者の捜索を行うぞ」

 

部下の声にシャアも思考を止め自分の専用機のコックピットに乗り込み海へと出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、4号と4Sにも話を聞いたが9Sの手掛かりは得られず2Bはレジスタンスキャンプのジオン基地へと戻る。

ポッド042のセンサーでは限界を感じ、それと同時にポッドからある報告を聞いた。

微弱な信号を検知できる特殊なスキャナーがレジスタンスキャンプで使われた事があるらしいのだ。

アネモネにそれを使わせて貰おうと戻ったのだが、治療所の方から怒鳴り声が聞こえる。

 

「彼の治療を急いでよ!目を覚まさないの!」

 

「残念だけど人間はアンドロイドのように丈夫じゃないわ。命に別状はないけど意識は何時戻るか…」

 

一人の女性アンドロイドがデボルとポポルに早く治療をと訴える。

軽い診断だったがポポルが命に別状はないと言う。

 

「暫く寝てれば意識も戻るさ」

 

デボルが宥めかすように言うが、女性アンドロイドの目が鋭くなった。

 

「嘘よ!そう言ってあんた達は、また人類を見捨てるんでしょ!」

 

その言葉に、デボルとポポルは愚か周囲のアンドロイドも動きを止め、そのやり取りに目を向ける。

もちろん2Bもだ。

 

「何も知らないと思ってるのかい!あんた達、双子モデルが何らかの計画に関わって同型が暴走して人類が絶滅したんだろ!」

 

「ど…どうしてそれを…」

 

「少し考えたら分かるさ。あんた達、双子が如何してあたし達アンドロイドに嫌われ迫害されてるのか。あんた達は知らないだろうけど一部のアンドロイドの間じゃ有名な話だよ!」

 

デボルとポポルの双子のアンドロイドは初期に作られた。それこそ、この世界の人類がまだ居た頃まで遡る。

双子のアンドロイドはある使命の為に双子モデルとして量産されていた。しかし、とある事情から失敗し、この二人以外のタイプは殆どが処分された。

詳細は、記憶を消去された為、殆ど分からないがデボルとポポルは使命の失敗で他の全てのアンドロイドに憎まれている。

今の生産されてるアンドロイドにデボルとポポルの罪を知らない。

しかし、勘の良いアンドロイドならある程度は推測できる。

そして、そんなアンドロイド達にある憶測が生まれた。

「デボルとポポルはわざと人類を見捨てたのではないか?」

証拠はない。しかし、人類が絶滅して暫く経った頃に人類への忠誠心を持たないアンドロイドが現れたという。

疑うには十分だった。

彼女もその一人だ。

 

「私達は…」

 

「その反応…如何やら本当みたいだね」

 

女性アンドロイドの言葉にデボルとポポルは視線を逸らす。その態度に女性アンドロイドが苛立つ。

「こいつらの所為で人類が滅んだ」そう考えると女性アンドロイドの心に怒りが湧いてくる。

女性アンドロイドが武器に手を掛けた。

 

「いい加減にせんか、貴様たち!此処が何処か忘れたか!」

 

ジオン将兵の怒鳴り声にデボルとポポルに女性アンドロイドがピタリと止まる。

ダグラス・ローデン大佐が青筋立てて近づく。

 

「しかし大佐、この二人の所為で人類が…」

 

「今更責めた所で人類が戻って来るのか!?それより、君にはやるべきことがあろう」

 

ダグラスの目線がベッドで眠るジオン兵に向く。

それに気づいた女性アンドロイドが頷くと寝ているジオン兵の手を取り、ジオン兵の顔をジッと見つめ続ける。

 

「そ…そうだ、それでいいんだ」

 

あっさりと身を引いたアンドロイドにダグラスも苦笑いをする。他にやるべき事もあったが静かになるなら、それで良いだろうとも思う。

 

「すみません、大佐。助かりました」

 

ポポルがダグラスに礼を言う。

 

「いや、君達の治療に多くの将兵が助けられてる。異邦人である我々を受け入れて貰ってるんだ。これ位の事はさせてくれ」

 

「私達は治療・メンテナンスに特化したモデルです。私達の力が貴方方の役に立てるのはとても光栄です」

 

「昔は私達のタイプは大勢いたんです。ですがあのアンドロイドの言葉通り…」

 

「具体的に何があったの?」

 

今迄、傍観していた2Bが口を挟む。

9Sを探す為にアネモネに特殊なスキャナーを借りたいが、主であり敬愛する人類に何があったのか知りたかった。

 

「当時の記録は消去されてるわ、何があったか分からない。私達のモデルは……過去に暴走して事故を起こしてる。それで同型機は事故後に殆どが処理された」

 

その言葉に2Bは残念がる。9Sが居たら多分、自力で真相を暴くだろうか?

人類絶滅の原因がデボルとポポルの同モデルが起こした暴走が原因だと思うと2Bとしても複雑な思いだが、ダグラスの言う通り今更だ。

 

「それで2B、9Sは見つかったの?」

 

「その事でアネモネに頼もうと思ってる事がある」

 

2Bがポッドに聞いたスキャナーの話をする。

それを聞いたデボルとポポルの二人は「ああ」と言う。

 

「何かと思えば前に作ったやつか。アネモネに頼まなくてもそれ位くれてやるよ」

 

そう言い終えるとデボルが立ち上がるが、

 

「9Sって、貴女と一緒にいた男の子?」

 

治療所の簡易ベッドで横になっていた別のヨルハ部隊の一人が2Bに聞く。

髪の色は2Bと似ているが2Bよりも短髪の女性型だった。

 

「貴方、まだ運動系の神経センサーがおかしいから横になってないとダメよ」

 

ポポルがベッドの上で安静にしろと言うが、2Bが彼女の近くに行く。

 

「どんな情報でもいい。知ってる事を教えて」

 

「あの子は爆発時に飛ばされたわ。誰かジオン軍人を抱えてたと思う」

 

彼女が爆発時に9Sを目撃したのは本当のようだ。

ジオン軍人というのは恐らくガルマだろう。

 

「落下予測地点のデータを転送する」

 

「ありがとう。此処は…」

 

ポッドが受け取ったデータを見た2Bは、驚くと同時に納得もする。

9Sの落下予測地点はあの陥没都市の宇宙人の船の方角だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

知れば知る程、わからなくなる。調べれば調べる程、遠くなる。人類という種は、何という不思議さ、不条理に満ちている事か。

この世界の人類もそうだが、ジオンの人間も実に魅力的だ。

 

「さあ、もっとだ!もっと教えてくれ!」

 

さあ、“ガルマ・ザビ”大佐。もっと君達の事を教えてくれ。

 

「…怪我の治療をして貰って恐縮だが、我々は敵同士の筈では?」

 

「承知しているさ。だが私達、機械生命体は人類に興味がある…いや、憧れていると言った方がいいか」

 

調べても調べても興味の尽きない人類。

生憎、別の世界の人類だが人類には変わらない。

 

「ガルマ!こいつ等を信用しちゃいけない!機械生命体は人類にとっても敵だ!」

 

同席させてる9Sがうるさいな。首から下は動けない癖に生意気な奴だ。

やはり、隔離しとくべきだったか?だが、9Sが此処に居なかったらガルマは此方を警戒して口を開かない可能性もある。

 

「にぃちゃん、こいつは壊してもいいんじゃないの?」

 

「待て、イブ。私は冷静に話をしたいんだ」

 

イブを鎮め私は改めてガルマに向き直る。

 

「手始めに君達が宇宙移民者…スペースノイドになった理由を聞きたいな」

 

解体して調べても無駄だった。

以前にジオン兵の死体を入手したが、調べても主な構成物質がタンパク質なことが分かった程度だ。

我々の技術では人間の脳を調べる事は不可能なのかもしれない。

何故、母なる地球から出て行ったのか?

 

「…それ位なら話しても問題ないか、あまり面白い話じゃないんだがな…」

 

それからガルマが話す内容も実に興味がそそられた。

人間の数が増えすぎて地球環境の悪化により、地球の各国は地球連邦政府を組織し宇宙移民計画を始動させる。

逆らう者への弾圧に地球の人口がある程度減ってからの計画の破棄。特権階級の多くの者が地球に残る。

それに対する不満で独立機運が高まるが地球連邦政府は軍を派遣して力で阻止。

地球から最も遠いコロニー郡、サイド3も独立すべく地球連邦政府に宣戦布告しようとしていた矢先にこの世界に来てしまったのか。

 

「ふむ、分からないな。人間はそんなに独立したいのか?」

 

「君達で言うならネットワークの支配からの自由と言った処か」

 

「その為には戦争も辞さないか、やはり人間は変わってるな。『ブリティッシュ作戦』もその一環かい?」

 

「!如何してその単語を知っている?」

 

今迄、冷静だったガルマの顔に初めて焦りが出てきたな。

9Sは初めて聞く単語の「ブリティッシュ作戦?」と呟く。

 

「ガルマ、9Sに教えてやったらどうだ?君達の空前絶後の作戦を」

 

ガルマが9Sの顔を何度も見ている。

9Sも知りたそうな顔にガルマも決断したようだ。

 

「…スペースコロニーを巨大な弾頭に見立てて地球に落とす作戦だ。目標は連邦軍本部ジャブロー…」

 

「え!?」

 

ガルマの予想外な言葉に9Sも言葉を詰まらせたようだ。

 

「聞いたかね、9S!人間とはやはり素晴らしい。機械生命体やアンドロイドが考えもしなかった作戦を思いついたんだ!」

 

機械生命体は単純に宇宙に出ていないし現状やる必要もない。

アンドロイド達はいずれ地球に帰ってくると信じてる人類の為に地球を傷つけるのを嫌がる。

まさに人間しか考えつかない作戦だ。

 

「そんな…コロニーを地球に落とすだなんて…」

 

「言い訳はしない、9S。だがこれだけは言わせて欲しい。地球連邦に比べ我がジオン公国の国力は三十分の一以下だ。兄さん…ギレン総帥は戦争を早期に勝つために、この作戦を考えついた」

 

まさに追い詰められた人類の考えか。

やはり、種としての在り方が我々機械生命体と人類では違い過ぎる。

ネットワークを持たないのに彼等は群れたがる。ギレン・ザビと呼ばれる個体も私を惹きつける。

しかし彼等は個としての自己への執着が気薄にも見られる。

例えば自己複製だ。彼等の自己複製は極めて杜撰で精度が低い。この世界の人類もジオンも完璧な複製を造る技術は持っている。

しかし彼等はその技術を積極的に使わず「生殖」という不完全な自己複製しかしていない。何故だ?

 

「聞きたいことがあるんだが、君達人類は何故、完璧な複製を造らず生殖などと言う不完全な自己複製をしてるんだい?」

 

突然の私の質問にガルマも顎に手を当て考える。何だろうか?この姿をずっと見て居たい気分になる。

 

「完璧な複製……もしかしてクローンの事か?」

 

「人間が残したと思われる記述にもそう書かれていたな」

 

「私もそこまで詳しくはないが、クローン人間はコストと人道的な側面で禁止されてた筈だ」

 

「コストはともかく人道とは?」

 

「人として守らなければならない道のようなものだ。ヒューマニズムと呼ばれてるらしいが、さっきも言ったように私もそこまで詳しくはない」

 

ヒューマニズムか、また調べたい事が増えてしまったな。

人間の考えは我々には想像もつかないのかも知れない。

それは、彼等がオリジナルとコピーを同一視する事を禁じていたのも解せない。

オリジナルを「親」と呼びコピーを「子」と呼ぶ。わざわざ別個の存在と見なしていたらしい。

創造主と被創造物の関係に近いのかもしれない。

人類には、アンドロイドという被創造物があったのに、わざわざ自らの複製を被創造物と同格に貶める必要もないだろうに。理解出来ない。謎と言える。

しかし、好感を持てる。それに比べて我々の創造主の程度の低さよ。

何の謎も残しはしない薄っぺらで多様性もない独創性もなく、ただただつまらない連中だ。

 

人類を理解したい。

その思いが私を突き動かす。その為に私は人類の遺した書物を大量に読んだ。そして一つ気付いた。

人類の書物に頻繁に登場する言葉。「死」だ。

人類もジオンも命懸けの戦いを好む事が多い。その割に死を遠ざけようとする。

人類は死を克服しようと様々な物を生み出した。しかし、克服できなかった。

十分な技術もあったが人類は死と共に在り続けた。

それ程までに死とは手放しづらいのか?魅力的なのか?

 

死。我々機械生命体が理解しずらい概念だろう。

ネットワークに繋がれた我々に死は存在しない。仮にコアを破壊されてもネットワークで繋がっていればバックアップも十分と言える。

しかし、それもミノフスキー粒子の登場により無意味になりつつある。あれは、我々のネットワークを無力化して分断させる。

ジオンとの交戦時に何度もネットワークを無力化されたか。

しかし、これは私にとってもチャンスだろう。

 

「ガルマ、9S、もう直ぐ君達を助ける為にジオン兵や2Bが此処に来るはずだ」

 

「「!」」

 

「私はそこで命を賭けた戦いをする。ネットワークを切った戦いで私は死ぬかもしれん。だがその時こそ私は人類を理解できるかもしれん」

 

「にぃちゃん?」

 

イブが私の顔をジッと見つめる。

当たり前だ。イブにも悟られないよう心に決めていたからな。

 

「アダム、やはり君達は生命とは言えない」

 

突然のガルマの発言に私は思わず絶句する。

 

「9Sから聞いたよ。君達は長年の闘争と学習進化で新たな意識を獲得したそうだな」

 

「そうだ」

 

「命を持つ者は基本、命のバトンを後世に残す為に生きている。死ぬことを目的にしている生物はいない筈だ」

 

「…なら君達、ジオン兵はどうなんだ?命を賭けて戦っていないのか?」

 

そんな筈はない。ジオン兵は常に戦場で戦ってきた。モビルスーツが入れない場所はアンドロイド達に任せてはいたが常に彼等を盾にしてきた訳ではない。

一緒に戦い、勝利してきた。そんなジオン兵にアンドロイド達も人類に従うプログラム以上にジオン兵に忠誠を誓ってる。

 

「確かに、我々兵士は死を覚悟しつつ戦っている。だが、死のうと思った事は一度も無い。私自身、生き残る算段をつけてから行動してるつもりだ」

 

一見矛盾してるような言い方だ。やはり人類の考えは理解出来ん。

だが、同時に惹かれる。何故こうも我々は人類に惹かれるのだ?

人間と殺し合えば答えは見つかるのだろうか?

 

「にぃちゃん…」

 

「イブ」

 

「命を賭けた戦いなんて嘘だよね?嘘だといってよ。にぃちゃ…!」

 

イブを共に連れていく事は出来ない。

私の目的にイブは邪魔になる。ゆえにイブを気絶させた。暫くは目を覚まさない筈だ。

 

「アダム…君はいったい…!」

 

「ガルマ!…!」

 

ガルマと9Sの意識を奪った。

この二人を助けようと2Bやジオン軍人が来るはずだ。

そして、戦いの果てに私は人類を死を理解できるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~NGシーン~

 

「命を持つ者は基本、命のバトンを後世に残す為に生きている。死ぬことを目的にしている生物はいない筈だ」

 

「…」

 

私の言葉にアダムは沈黙している。

出来れば生きて帰りたいが逆上する可能性もあるか。

 

「命のバトンか…興味があるな」

 

ん?

心なしか声が高くなってるような?

 

「ガルマ、私に命のバトンというものを教えてくれないか」(CV植田佳奈)

 

何時の間にか胸に谷間の出来たアダムが私に近づいてくる!

 

「ちょっと待て!アダム、君は男じゃなかったのか!?イブ、早くアダムを止めて…」

 

イブの方を見ると上半身裸の顔立ちが少女になっていたイブがアダムと同じく私に近づいてくる。

 

「にぃちゃんだけ、ずるい。俺も」(CV水樹奈々)

 

お前もか!?

 

「ナ、9S!」

 

私は藁にも縋る思いで9Sに視線を向ける。動くことが出来ない彼に助けを求める程、私も一杯一杯だった。

しかし、9Sは顔を赤らめつつ私の姿を見るだけだった。

 

「止めろ!止め…あ…ああ…ああああああああーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

関係あるか知らないが、ジオンと機械生命体は、この数日後に和平したそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




先ず初めに誤字報告の二度手間、すいませんでした。そして、ありがとうございます。
この場を借りてお礼を申し上げます。
名前を書いていいのか分からないので伏せときます。

ガルマの「命のバトン」とかはNGシーンがやりたかっただけで深い意味はあるいません。適当です。

さて、アダムは誰と戦わせよう。


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18話 機械生命体とモビルスーツ

 

━━━これが■■■が考え僕がアレンジした計画の全貌だよ。

 

「…そうか…色々な疑問が解けたよ」

 

九号は謎の男の声と喋る。

久しぶりに他人と喋る事に九号は夢中だった。

途中、月面人類会議の正体がバレた事は九号としても残念に思う。

 

━━━疑問?

 

「人類会議が急増で造られた形跡があったからね。バンカーと人類会議のサーバーの不自然な繋がりもこれで判明したよ」

 

バンカー

次世代機の完成と共にバックドアを解放して機械生命体に壊滅させる予定の十三番目の衛星基地。

月面に人類が生きてるかのように偽装させる為の人柱でもある。

 

━━━その様子だと、まだバンカーはあるの?

 

「ああ、今はガルマ・ザビ大佐の直属部隊になってる。バックドアも新しく作り替えられて機械生命体も簡単には侵入出来ない筈だ」

 

━━━……そう。

 

まるで人間みたいな名前だなと思いつつ返事をする九号。

 

「君達が何処に配属されるかは分からないけどね」

 

━━━僕に義体は用意されるんですか?

 

「ああ、流石にブラックボックスは交換するけど、今の記憶データの殆どは移植できる筈だ。我々が調べた所、ブラックボックスにはエネルギー炉として以外にも記憶データと綿密な関係がある事が分かった」

 

━━━凄い、何が出来るんです?

 

「僕にも分からない」

 

━━━え?

 

「まだ実験段階だからね。量産しようにもコスト面でノーマルタイプのアンドロイドの動力炉で争ってるんだ」

 

━━━量産?でもブラックボックスは機械生命体のコアを採取して再構成したエネルギー機関なんじゃ…

 

「機械生命体のコア自体製造出来るよ。機械生命体の工場の制圧時にデータも取れたし、捕獲された機械生命体のコアも入手して調べたから製造しようと思えば出来るんだよ。ただ通常のアンドロイドの動力炉に比べるとコストが2~3倍に上がるらしいんだ」

 

その言葉を聞いて九号はホッとした。

人類軍が造ったコアなら自分達はれっきとしたアンドロイドだと思ったからだ。

 

━━━コストか、■■■もそれで悩んでいたな。

 

「少なくとも、その当時よりコストは下がってる筈だけどね。バンカーに9号と2号の義体を送ってくれるよう要請しないと」

 

━━━二号?二号も無事なんですか!?

 

「ああ、君のブラックボックスより状態も良かったから、先に彼女と話してたんだよ。ちょっと待ってくれよ」

 

男が言い終えると共に音が聞こえなくなった。

いきなりの事で九号も慌てて男に言葉を話すが何も聞こえない。

以前の静けさに戻り、九号にとって長時間放置された気分だった。

そんな気分の中に男の声が戻り、九号もホッとした。

 

「よし、これで接続出来た筈だ」

 

━━━接続って何と「九号?」!!

 

その時、九号に女性の声が聞こえた。

それは自分が聞きたかったアンドロイドの声だと直ぐに気付いた。

 

━━━…二号?

 

━━━うん。

 

━━━本当に…二号なんだね…。

 

━━━うん。

 

━━━二号…僕は…僕は…。

 

━━━言わなくていいよ。全部聞こえてた。九号の悩みに気付けなかった私にも落ち度はある。

 

━━━二号…!

 

その後、二号と九号は互いに語りだす。

まるで、数年間会えなかった時間を取り戻すように。男も気を使ったのか二人の会話に参加せずにいた。

それから暫くの時間が経ち、二号と九号が落ち着きだした頃に男は一つのデータを見せた。

二号と九号の関係者にして生みの親とも言えるアンドロイドの記憶だ。

 

それは、ジニアと言われたアンドロイドの記憶だ。

人類軍の技術開発主任担当だった。ヨルハ機体を家族みたいに思っていたが上の方針との板挟みに苦しみ、戦意の下がるアンドロイド達にある計画を考えついた。

しかし、問題があり過ぎた事で破棄しようとしたが偶然見てしまった九号が自分達の出生に絶望して自棄を起こしジニアの計画を完成させてしまった。

 

━━━ジニア…。

 

━━━ごめん…なさい…ジニア。僕は…勘違い…を。

 

「これを君達に見せたのは僕の独断…だね…。九号が勘違いしたままだと悲しいからね、君達に嫌な思いをさせてしまったら申し訳ない」

 

━━━いえ、貴方が謝る必要はありません。

 

━━━むしろ感謝している。…今更だけど貴方は誰?

 

ふと、二号は男が何処のアンドロイド部隊の所属か気になった。

 

「ああ、僕かい?僕はジオン軍・第603技術試験隊所属、オリヴァー・マイ技術中尉だ」

 

━━━ジオン軍?新しいアンドロイド部隊の名前?

 

━━━人間みたいな名前なんですね?

 

「人間みたいって人間だよ、僕」

 

━━━え?

━━━え?

「え?」

 

三人の声は見事に一致した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

9Sが落ちた場所が分かった2Bは急ぎ、陥没都市へと向かう。

ガルマが居る可能性が高い事でダグラス大佐がモビルスーツ隊も同行させようとしたが、海に現れた超大型機械生命体の所為で部隊は再編成の真っ最中であった。

ダグラス大佐の気持ちだけでも受け取った2Bは、その思いを胸に陥没都市に到着した。

 

『報告;9Sのブラックボックス信号を検知』

 

ポッドのスキャナーが9Sの反応をキャッチする。

更に、

 

『モビルスーツ反応;あり』

 

一瞬、ダグラス大佐が送った機体かとも思ったが、自分は真っ直ぐ陥没都市へと来た。

その間、モビルスーツに追い越された覚えはない。

うだうだ考えても仕方ないと2Bは陥没都市の地下洞窟まで行く。どちらにせよ、9Sとガルマは助けなければならない。

 

地下洞窟の入り口のある亀裂まで来た時にポッドの言ったモビルスーツが目に入った。

2機のモビルスーツで一機はドム。もう一機はグフらしかったが今迄、自分が見たグフと微妙に違っていた。

通常のグフより色は薄く、左腕には巨大なガトリング砲が付けられていた。

 

「ポッド、あのモビルスーツのデータはある?」

 

『検索……データあり;型式番号MSー07B3。正式名所グフ・カスタム、別名「B3グフ」。グフの再設計により開発された新型モビルスーツ。グフの問題点であった汎用性の低さを克服した機体』

 

ポッドの回答に2Bがジオンの技術力に驚く。「アンドロイドだってこんなに簡単に新型なんて出来ないのに、新型モビルスーツはポンポンと出来上がる。これが人間の力なんだろうか?」と思った。

 

『ん?あら、お人形ちゃんじゃない。貴方も此処に用があるのかしら』

 

ドムのパイロットが2Bを見つけ喋り出した。

2Bは、ドムのパイロットの声に聞き覚えがある。ニアーライト大尉だ。

 

『人形?…ああ、2Bか。君も此処に来たと言う事は、やはり此処に何かあるんだな』

 

グフの方からはガトー大尉の声がした。

二人の口ぶりからして、やはりダグラス大佐が送った援軍ではなかったようだ。

 

「あの…此処で9Sを見ませんでしたか?」

 

二人が先に此処に来ていたということで、9Sやガルマを見てないか聞いた。

尤も、2B自体あまり期待は出来なかった。

 

『9S?私はまだ見つけていないな』

 

『あの可愛い子なら視界に入れば直ぐ見つけれる自信はあるのよ。ガルマ大佐と一緒ならいいんだけどね』

 

二人が見てないと言い2Bは予想通りだったとはいえ落胆する。

ジオン軍にとって、ガルマは重要な人物だ。発見されていればジオン軍全体に、それこそ自分達にも情報が流れる筈だ。

しかし、9Sのブラックボックス信号はこの辺りから出ていた。

 

『そうだ、2B。君もちょっと洞窟を見てくれないか?』

 

「洞窟を?」

 

ガトーの言葉に2Bは亀裂へと降り、エイリアンシップのある洞窟の方に目をやる。

一瞬、目を疑った。

 

「穴が…広がってる!?」

 

以前に自分達が突入した時より穴は大きく広がっていた。それこそモビルスーツが通れる程に。

哨戒中のガトーが偶然見つけ、近くにいたニアーライトも来た。

更に、

 

『報告;ブラックボックス信号の発信源は、地下通路奥』

 

「奥?」

 

狭かった洞窟の入り口が大きく広げられ、その奥に9Sが居る。

 

『罠ね』

 

ニアーライトが呟く。

納得する2B。9Sが一人だったら興味本位で行くかも知れないが守るべき人間であるガルマも一緒では9Sはそんな軽率な事はしない。

即ち、誰かに連れ去られたが妥当だと判断した。

そういえば、エイリアンシップでアダムと名乗る機械生命体が「横穴はモビルスーツが通れる程の広さが必要か」と呟いた事を思い出した。

 

『「虎穴に入らずんば虎子を得ず」。罠であるなら、それを食い破るのがジオンの戦士だ』

 

『…相変わらず豪快ね』

 

三人は洞窟の中へと入った。

 

 

 

 

 

 

 

暗く足場の悪い洞窟に二機のモビルスーツの足跡が響く。

暗く狭い上に足場の悪さにニアーライトもドムのホバー移動を諦め普通に歩行する。

そんな中、2Bはグフ・カスタムの肩に乗って周囲を警戒していた。

最初は、モビルスーツと同じく歩こうとしていたが、ガトーが肩に乗るよう言い躊躇う2Bに「足元に居られる方が邪魔。モビルスーツに踏まれたいの?」とニアーライトに言われ、グフ・カスタムの肩に移動した。

2Bとしても味方のモビルスーツに踏まれるのは御免であるし、人間の邪魔になるのは更に嫌であった。

広く掘られた洞窟は深く、このままエイリアンシップへと行くのではと錯覚する程だった。

 

途中、ガトーがエイリアンシップを調べてる科学者や護衛が気付かなかったのかとぼやくが、科学者はとっくに本国に帰ったか、基地で研究してるとニアーライトが言った。

エイリアンシップは既にもぬけの殻。

最早、重要視もされず見張りも居なかった事で誰も洞窟の洞穴が広がってる事に気付かなかったのだ。

 

 

 

 

『報告;ブラックボックス信号の発生源は、右方向』

 

途中、ポッドの報告に一同は納得する。

枝分かれした通路があるが、右側だけモビルスーツが通れる大きさでエイリアンシップの道はそのままだった。

罠であることは全員気付いている。

しかし、ガルマや9Sを見つける為には罠でも行くしかない。

右に曲がった一同は大きなエレベーターがある事に気付く。

 

『エレベーターか?』

 

『随分と大きいわね』

 

貨物用のエレベーター以上の大きさに一瞬止まる。

操作パネルを見つけるがモビルスーツに比べ明らかに小さく、ちぐはぐさを感じる三人。

 

「私が操作します」

 

そう言って、グフ・カスタムの肩から降りた2Bが操作パネルを弄る。

数秒もせずにエレベーターの扉が開き二機のモビルスーツが乗り込み、2Bも中へと入る。

下降する感覚が一堂も感じる。

随分と深いと考えてる内にエレベーターが不規則に揺れ停止した。

音を立てて開くと眩しい光が2Bの目に入る。

 

『何なんだ、ここは?』

 

「白い街?」

 

ガトーや2Bが戸惑いの声を漏らす。

予想外の明るさに白一色の街。

奇麗でもあり不気味でもある光景に足を踏み出す。

 

『検知;ケイ素と炭素が含まれる結晶状の物質。詳細はデータ不足の為不明』

 

街を見回す一同にポッドが報告する。

 

『地下にこのような街があるとはな…』

 

『見た感じ軍事基地でもなさそうね。機械生命体が造ったのかしら』

 

アンドロイドが造ったという記録は無い。地上の建造物と比べ風化もしていない事から機械生命体が造った可能性が高い。

地下に作られた奇妙な街にモノアイを動かす。2Bは再びグフ・カスタムの肩に乗り警戒する。

 

『ん?あれは』

 

暫く、道なりを進むとガトーがモニターである物を見つけた。

少し、遅れて2Bがグフ・カスタムの肩から降り、見つけた物に近づく。

白一色の中に複数の色を見つけたのだ。その中には見慣れた黒色も確認できる。

 

「これは…死体?」

 

其処には幾つものアンドロイドの死体があった。

ヨルハからレジスタンスに別の部隊のアンドロイドも居た。そのどれもが機能停止している。

更には、

 

「人間の死体も!?」

 

其処にはジオン兵の死体もあった。

ニアーライトが調べたところ、破壊された空母の搭乗員であった。

海からわざわざ拾ってきたのだろうか。

 

『それにしても妙ね』

 

『ああ、人間の死体だけやけに丁寧だな』

 

どういう訳か、ジオン兵の死体だけ丁寧に置かれていた。

他のアンドロイドの死体は乱雑に放置されていたが、ジオン兵の死体は丁寧に手も組み、周りに数本の花まで置かれていた。

それが、ガトーとニアーライトには不気味に映り、2Bは胸から熱い物が込み上げそうになった。

 

『この者達も、この街に来たのか?』

 

『それは無いわね。ヨルハやレジスタンスの多くは海の巨大機械生命体の戦いで行方が分からなかった子ばかりよ。後で回収班を呼ばなきゃ』

 

『予測;意図的に敵にとって配置されている』

 

この辺りは重要視されていなかった。見張りも居らず入ろうと思えば入れる状態だ。

しかし、アンドロイドの多くは人間の…ジオンの命令が無い限り独断での行動は少ない方であった。

自力で来た訳ではないと言う事は、機械生命体に拉致され連れてこられたということだ。

その考えが頭に過った時、2Bは奥へと走りだしていた。胸からの熱い物も引っ込ませる。

ガルマも心配だが、2Bの思考を占めてるのは9Sの存在だった。

 

『ごめんなさい、その記憶を僕は持っていません』

 

ふと、まだジオン軍と出会う前の9Sの言葉が蘇る。

ある作戦で超大型機械生命体との戦闘により自爆した後、バンカーの通路で9Sと話した時に2Bだけの記憶しかバックアップ出来なかった。

9Sがバンカーに記憶のバックアップしたのは何時か?もし、9Sが破壊されればまた記憶が巻き戻る。

2Bにはそれが耐えられなかった。

 

『ちょっと、待ちなさいよ』

 

突然走り出した2Bに驚きながらもガトーとニアーライトが付かず離れず追っていた。

 

 

 

 

9Sの微弱なブラックボックス信号を辿ると大きな広場にでた。

モビルスーツも余裕で動き回れる程の広場だ。

 

『ここは…広場か?』

 

『少年のお人形ちゃんは、この辺りにいるのかしら?』

 

2Bの後を追った二人も広場へとくる。

見た感じ、誰も居ないように見えたが、

 

『ん?』

 

センサーに何か動く物に反応した。

2Bの視線もそれを追う。

白い大小のキューブが転がっているのだ。まるで風に吹かれる枯草みたいに転がるさまに呆気にとられるが、そのキューブが一か所に集まる。

そして、キューブの山からアダムが現れた。

 

「ようこそ、我が街へ。我が名はアダム」

 

2Bは咄嗟に剣を構え、ガトーとニアーライトも武器を向ける。

 

「私は…私達は人間に興味がある」

 

しかし、そんな事にお構いなくアダムは喋り続ける。

そして2Bが少しずつ間合いをつめていく。

 

「愛や家族、戦争や宗教。人類の記録を読み解けば、他に類を見ない複雑さに魅了される」

 

その言葉に2Bは不快感を覚える。

守るべき人類を分かった風に言う機械に腹を立てていた。

 

「この街も、そうした人類への渇望が生み出した場所…」

 

不快感の理由がもう一つあった。

アダムが服を着ているのだ。以前に戦った時には上半身裸だった。

その姿が、人間とダブり不快でたまらなかった。

機械ごときが人間の真似をしている。

 

「私達は、人類の特徴を学び、模範する。ある者は愛を。ある者は家族を。私も模範した。過去の映像を視聴し、書物を読み、ジオンの兵士たちを見て、死体を弄り……あらゆることをして私は気付いた。人類の本質は闘争。戦い、奪い、殺し合う。それが人間だということに!」

 

アダムの声が次第に熱を帯びてくる。

まるで、演劇でもしてるように両腕を広げる姿に2Bは更に不快に思った。

 

「その口で、人類を語るなッ!」

 

もう沢山だ。そう思った2Bが力任せにアダムに剣を振る。

しかし、剣はアッサリと片手で止められる。

 

「なんだ2B、君も居たのか?悪いが引っ込んでてくれ」

 

今初めて2Bの存在に気付いたとばかりに反応し、2Bに蹴りを入れ後方に吹っ飛ばす。

後方に飛ばされた2Bは床に剣を突き立てなんとか止まる。

 

「さあ、そろそろ殺し合いをしよう!」

 

そう言うと、アダムは合図をするかの様に腕を振った。

瞬間、グフ・カスタムとドムのセンサーが何かを捉えると共に上から何かが降って来た。

 

『ちょ!?何よこれ!』

 

『何故モビルスーツが此処に!?』

 

それは、ジオン軍の量産型モビルスーツ、ザクⅡであった。

 

「君達と戦う為に用意したのさ。……さあ、始めようか」

 

ザクⅡに乗り込んだアダムが動き出す。ザクのモノアイが赤く光る。

こうして、この世界で初めてのモビルスーツ同士の戦いが起こる。

 

当初はジオン軍は損傷したモビルスーツの回収もしていた。だが、戦線が広がるにつれ回収する余裕も無く何時の間にか壊れたモビルスーツは放置され、密かに機械生命体が回収していった。

アダムが出したザクもその一体である。動力である核融合炉が生きているザクを入手し他のザクの部品を使って修復。さらに足りない部品は機械生命体のパーツを代用して修復された。

それ故に性能はお世辞にも高いとは言えなかった。

しかし、

 

『ウソでしょ!』

 

ニアーライトが驚愕する。

ドムのジャイアント・バズで破壊したザクの腕に幾つものキューブが集まり、それが腕となったのだ。

 

「ポッド!ミサイルを!」

 

『了解』

 

2Bはポッドで二人の支援をする。

本当はアダムに詰め寄り9S達の居場所を吐かせたいが、アダムがモビルスーツに乗り込んだ事で不可能に近い。迂闊に近寄れば踏み潰されるのがオチだ。最も、ポッドの支援攻撃も効果があるとは言いずらかったが。

 

ならばと、ガトーはグフ・カスタムのヒートソードを取り出し切りかかる。

対するアダムはザクのヒートホークで防ぎ激しい鍔迫り合いをする。

 

『アダムとやら、貴様の言ってる事は正しいかも知れん!』

 

「認めるのかい?ガトー大尉」

 

調べたのか、名乗ってもいないアナベル・ガトーの名を言うアダム。

しかしガトーはそれに居に介さず言葉を続ける。

 

『人類の歴史は戦いの歴史ともいう。戦いの始まりは全て怨恨に根ざしている…当然のこと!』

 

「嬉しいよ、ガトー大尉。君が私の考えに賛同してくれるなんて『しかし!』!?」

 

『怨恨のみで戦う者に我々は倒せん!我々は義によって立っているからな!!』

 

ガトーのグフ・カスタムのヒートソードがヒートホークを弾き一気にザクの胴体を切り裂こうとする。アダムが咄嗟にブースターを使って後ろに飛んでいなければアダム諸共真っ二つになっていただろう。

尤も、コックピットの入り口の部分が切られ外からでもアダムの姿が見えた。

 

『ちょっと、あたしは義とかは関係ないんだけど』

 

ニアーライトが文句を言いつつドムのバズーカで切り裂かれたコックピットを撃つ。

 

「うわあ!?」

 

バズーカは直撃しアダムの短い悲鳴が聞こえた。

しかし、

 

「素晴らしい!これが闘争!アンドロイド達との戦いとは比べ物にならない!」

 

『再生だと!?』

 

『これがネットワークって奴!?』

 

バズーカの直撃を受けたアダムは体の一部が掛け顔中に破片が突き刺さっていたが少しの時間で元通りになった。

今迄、多くの機械生命体と戦ってきたジオン軍であったが、こんな回復する機械生命体など見たことも無かった。ガトーたちの脳裏に長期戦が浮かんだが。

 

「ネットワークに繋がれた私たち機械生命体は無敵。しかし、これでは生の実感がない。死を理解できない。だから、私はネットワークから自分を切り離す。…最も、モビルスーツに乗るとネットワークの繋がりが悪くなるのだがね」

 

『なに!?』

 

アダムのザクの周りに浮かんでいたキューブが力を無くしたように地面へと転がる。

 

「さあ、本当の殺し合いといこうじゃないか!私に生きている実感を湧かせてくれ!」

 

『…最早、語るまい!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アダムがネットワークを切断してガトー達が有利になったかと言えば、そうでもない。

ザクの両腕から金色に光る糸の様な物を出し、地面につけてガトー達の足元を爆破したり、数本のヒートホークを巧みに操る。

 

『ちょっと!ネットワーク絶対切ってないでしょ!』

 

「これは私の力だよ、ニアーライト大尉」

 

このアダムの戦い方にガトーとニアーライトは苦戦する。

ザクに比べ性能が上の二機だが、従来のザクの戦闘方とは明らかに違う動きに四苦八苦してるのだ。

2Bも何とか援護しようとするがポッドの攻撃は金色の糸に防がれ碌にダメージを与えられない。

イチかバチか接近戦を試みようと考えた2Bにニアーライトから通信が入る。

 

『お人形ちゃん、あんたに指令を送るわ』

 

「指令ですか?」

 

ニアーライトの口から「お人形ちゃん」と言われたが2Bは気にしない。

自分達は自動歩兵人形で人間を守り人間と共に戦うのが役目だと自負している。

 

『あんたは、ガルマ大佐と少年を探しなさい。まだ反応はあるんでしょ?』

 

「ありますが…援護が…」

 

『いいのいいの。あんたの援護は殆ど効いてないわよ。それより、ガルマ大佐と少年の確保が必要なの』

 

「了解しました」

 

ニアーライトの有無を言わせない迫力に2Bが返事をする。

通信が切れ2Bはニアーライトに「何か考えがあるんだろう」と考えポッドに9Sのブラックボックス信号の位置を聞きそこに向かった。

 

『さて、足手まといも別行動にさせたし、そろそろ本気を出さないとね』

 

ニアーライトは今迄、ドムの性能を抑えめにしていた。

ドムの強みはホバー移動による高速戦闘と言える。

この戦法によりドムは機械生命体との戦闘で多大な戦果を上げており、超大型機械生命体を最も撃破している量産機である。

噂では、宇宙用のドムも製造されてるらしい。

ニアーライトは今迄、2Bが近くに居た事でホバー移動はなるべく控えてはいた。

下手すれば轢いてしまうし、何よりガルマのお気に入りだ。もし、何かあれば自分達の評価にも関わる。

だから、ニアーライトは2Bにガルマ達の捜索を命令したのだ。

 

『さあ、見せてあげるわ。ドムの本当の性能を』

 

 

 

 

 

 

 

 

「ははは…如何したんだい?ガトー大尉。もっと本気を出してくれ!」

 

ガトーがグフ・カスタムの左腕のガトリング砲でアダムを撃つがザクの腕に纏わせた金色の糸のようなもので防ぐ。余裕を見せるアダムだったが、背後からの攻撃に後ろを向くとドムがジャイアント・バズを撃ったのだ。

 

『あら御免あそばせ。今更、卑怯だなんて言わないでしょ?』

 

「ははは、勿論だとも」

 

不意打ちを受けたアダムは、まだ余裕を見せるがザクの体勢が崩れる。

 

『今がチャンス、行くぞ!』

 

それを見たガトーは弾の切れたガトリングを捨て、ヒートソードを手にアダムに迫る。

アダムはザクに二本のヒートホークを持たせ構える。

グフ・カスタムのヒートソードをザクが持つ二本のヒートホークをクロスさせ防ぐ。激しい火花が散る。

 

「素晴らしい…素晴らしい戦いだよ。ガトー大尉!」

 

『貴様に語る舌は持たん!戦う意味すら無い男に!』

 

「…戦う意味?意味が無いと戦ってはいけないのかい?」

 

『それが解らない貴様は最早、戦士ですらない!そして、知るがいい!ジオンの崇高なる理想の邪魔だてをする者は私に討たれるということを!うおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』

 

ガトーが気合を入れると同時にザクの二本のヒートホークにひびが入る。

直後に二本のヒートホークが砕けヒートソードが迫る。

アダムは咄嗟に横に僅かに移動させ真っ二つになる事を防いだが右肩を切り裂かれる。

ザクの右肩が切り落とされ地面へと落ちる。

アダムが咄嗟に金色の糸を使って片腕を拾おうとするが、

 

「ぐわっ!?」

 

『あたしが居る事をお忘れなく』

 

ニアーライトのドムのジャイアント・バズの直撃を受ける。

更に、

 

『止め!』

 

ガトーのグフ・カスタムの右腕に内蔵されたワイヤを撃ち出す。ワイヤーはコックピットを貫きアダムに当たる。

ヒートワイヤー。グフの持つヒートロッドと呼ばれる電磁鞭の改良型。

敵の超大型機械生命体との戦闘に重宝され機械生命体キラーとしても注目を集める。

アダムが掴んで放そうとするが、それより早くワイヤーから高圧電流が流れる。

機械生命体であるアダムには効果が抜群であり、アダムの体から煙が噴く。

その電流はザクにもダメージがあり、モノアイが点滅を繰り返し遂に光る事が無くなり後ろに倒れる。

ワイヤーを戻したガトーはザクのコックピットを抉じ開け中を見る。

中には一部が黒焦げになり機械部分が見えるアダムが虫の息だった。

 

『まだ生きてるわね。撃ち込んでおく?』

 

『いや、この様子なら助かるまい。それに少々聞きたい事がある。アダム、死ぬ前に答えろ。何故ネットワークを切った?繋いでいれば我々にも勝てたのではないか?』

 

外部スピーカーの声に虫の息のアダムだがゆっくりと口を開く。

 

「言った…筈だよ。…ネットワーク…を繋いで…いては…生の実感が…ない。…死を…理解できない。…だから私は…ネット…ワークを切り…真剣勝負…をしたんだ。そこに…後悔はない…」

 

『そうか、それだけ聞ければもういい。お前とは別の形で出会いたかった』

 

そう言うと、ガトーはアダムの傍から離れる。

 

「これが…死か…暗くて…冷たい…」

 

死にゆくアダムの顔は満足そうだった。

ある種、憧れのような感情を人間に抱き、人間と戦い人間に敗れた。そこに悔いは無い。

そう考えてる内にくだらないと考えていた造物主に少しは感謝してもいいかと考え機能を停止した。

アダムは最後まで弟のイブが頭の中に浮かばなかった。

 

 

 

『ふぅー』

 

アダムと決着がつき一息入れるニアーライト。

そこへ、2Bから通信が入りガルマと9Sを見つけたと報告が入る。

 

『二人を見つけたなら、とっとと此処を出ましょ。あたし、こういう辛気臭い場所好きじゃないの』

 

「は、はあ…」

 

ガルマを確保した以上、此処にもう用は無い。

ガトーにガルマ発見の報を伝え、2B達を拾い大型エレベーターに乗って外へと出る。

外ではダグラス大佐が編制した部隊が居り無事に合流、ガルマの無事は直ぐにジオン軍全体に伝えられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サイド3、政庁の執務室ではギレンが何か難しそうな顔をして何かしていた。

 

「『我々は一人の兵士を失った!』…これではガルマが一般の兵とごっちゃになるか」

 

ギレンはノートパソコンを開き「ガルマ国葬」用の演説の内容を書いていた。

父のデギンや弟のドズルは諦めていないが万が一ガルマに何かあった場合に用意していた。

紙ではなくノートパソコンに書いてるのはガルマが無事だった場合、内容を直ぐ消せるからだ。紙の場合、破いても丸めてゴミ箱に捨てても文字が残り、それを敵対派閥に拾われては面倒である。

 

「ふむ、『我々は一人の弟を失った!』…駄目だ、ドズルが拗ねる。やはり此処は無難に『英雄』にしとくべきか…」

 

演説の出だしに頭を抱えるギレンだったが突然のドズルの通信が入る。

 

『兄貴ッ!!!』

 

ビクっとしたギレンは急ぎノートパソコンを畳む。危うく親指を挟みかけた。

しかし、そんな事に気付かずドズルがまくしたてる。

 

『兄貴!ガルマが無事に保護されたぞ!!ガトー達がやってくれたんだ!ガルマは怪我の治療をされてたそうだが心配だ、腕の良い医者を遣してやってくれ。それから、ガトー達にジオン十字勲章をやってくれ!うおおお、もう我慢ならん俺も地球に降りるぞ!兄貴!』

 

ドズルは、言うだけ言って通信を切った。

暫しの沈黙の後に、ギレンはノートパソコンのデータを消し、仕事に戻る。

今頃、地球に行こうとするドズルと阻止しようとする部下達で混乱してるだろう。ソロモン内に居るアンドロイド達がどちらの味方になるかは知らないが。

ガルマの行方不明の混乱で溜まっていた書類を片付ける。

 

「統合整備計画か、これも進めておかねばな。…ニュータイプの実績もそろそろ見せて欲しいものだな」

 

キシリアから提案され月面に作られたフラナガン機関からの報告書を呼んでいると、秘書のセシリアが血相を変えて入って来た。

 

「ギレン閣下、緊急です!」

 

「落ち着け、ガルマの事は既に聞いている」

 

「いえ、ガルマ様ではありません。木星船団よりシャリア・ブルが帰還しました!」

 

その報告を聞いたギレンは持っていた書類をテーブルに叩きつけ思わず立ち上がった。




アダムと決着。

今更ですけど、二号や九号は「人形達の記憶」の朗読劇に出てくるキャラです。

ところで、シロッコっていつ頃木星船団にいたんでしょうね?ハイザック作る為に獲得しときたい。

次回は、ちょっとしたif話とかしてみたいですね。内容的にはもし、「地球を調査しようとしていたジオン軍にヨルハが攻撃していたら」といった内容です。
もし、読みたいという感想があったらやってみたいと思います。


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if話 命にふさわしいのは…

久々の復活。


兎に角、18年の夏は暑かった…


全ての存在は滅びるようデザインされている。

 

生と死を繰り返す螺旋に

 

僕達は囚われ続けている。

 

 

 

 

これは呪いか。

 

それとも罰か。

 

 

 

 

不可解なパズルを渡した神に、

 

弓を引いた僕達には最早関係無いのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわああああ!」

 

少年の悲鳴と鈍い打撃音が響く。

嘗て、廃墟地帯と言われた場所に数人の人影が居た。

 

「9S!」

 

地面に倒れる少年に急ぎ近づく少女。

少年は、頬が赤くなり口の端から赤い液体が漏れる。

少年を抱きかかえた少女が元凶に向けキッと睨みつける様に目線を向ける。

尤も、少年も少女も黒い目隠しの様な物を付けてて迫力は無かったが。

 

「何だ、ガラクタ共!その態度は!?」

 

「お前らの所為でこんな事態になったんだぞ!」

 

少女の視線の先には複数の男女が居た。

殴られた少年や少女も含め、全員人間ではない。

 

アンドロイド。

 

人間の姿をした人間の為に働く機械達。

本来は、敵である宇宙人の兵器、機械生命体と戦う為に作られた。

 

「ガラクタの癖に生意気だぞ!」

 

男のアンドロイドが少女の顔に蹴りを入れる。

それに合わせて他のアンドロイドも少女の体に蹴りを入れ出す。

 

「…2B…」

 

殴られた少年はそれを黙って見てるしか出来なかった。

少年と少女は此処にいるアンドロイドとは少し違う。

 

ヨルハタイプ。

 

最新鋭のアンドロイドでヨルハ部隊と呼ばれた彼等は膠着した機械生命体との戦争の為に作られたアンドロイド部隊だった。

それが、今では仲間である筈のアンドロイド達に殴られる存在となっている。

 

「…しょうが…ないよね。…僕達は…愚かで…出来損ないな…機械なんだから…」

 

少年の呟きは虚しく掻き消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全ての始まりは半年前の事だった。

アンドロイドの様な機械生命体を見つけたことをバンカーに報告して砂漠から帰る途中に指令からある通信を受けた。

 

「エイリアン軍の増援ですって!?」

 

『そうだ。まだ、決まった訳じゃないがあの様な技術は人類軍の物じゃない。地球に何かを投下しようとしていたが何とか阻止に成功した。

お前達には其方に落ちてくるエイリアン軍の降下ユニットの調査を頼みたい。大気圏に突入する寸前に爆発したそうだが原型を保ちつつ廃墟都市に落下するようだ。レジスタンス達には此方が伝えておく』

 

了解と答え通信が切れると同時に巨大な火の塊が僕達の頭上を通り過ぎる。

2Bに視線を向けると丁度、2Bの視線に重なり僕と2Bは頷いた。特に言葉は無かった。

それから、僕と2Bは急いで巨大な火の塊が落下した廃墟都市へと急ぐ。

 

早くしなければ機械生命体が群がってくるかもしれない。

そう考えた僕達は砂漠地帯を抜け、廃墟地帯へと入りレジスタンスキャンプへと急ぐ。

全力で走った為、数分足らずでレジスタンスキャンプ近くまで来ると、キャンプ近くの平場に黒煙が上がってるのを見つけ、其処へと移動する。

丁度、落下物はキャンプの目と鼻の先に落ち多数のアンドロイド達がその周りを取り囲んでいた。

 

「ん?2Bと9Sも着いたか」

 

僕達に気付いたレジスタンスのリーダーのアネモネさんが話しかける。

 

「アネモネ、状況は?」

 

アネモネさんの下に近づいた2Bがそう聞いた。

軽く見回してみたが機械生命体の影は見えない。何時もの野良の動き回る機械生命体の影すら無かった。

 

「見ての通り、お前達の指令から一通り聞いた直後にコイツが落ちてきたんだ。コッチも急いで戦える者を集めて包囲したんだが…機械生命体の動きが無いのが妙だな」

 

アネモネさんが周囲を見回しそう言う。

確かに、機械生命体の動きがまるで無い。

せいぜい、数体の機械生命体が興味本位で見て来るだけだ。

 

 

 

直後に、落着した降下ユニットから小規模な爆発が起こる。

 

「爆発した!」

「何かに引火したんでしょうか!?」

 

墜落したユニットから尚も黒煙が上がり炎も上がる。

内部の温度はアンドロイドにも危険なレベルで上がり続けている。

 

「不味いですね。このままでは内部の全てが灰になるんじゃ…」

「調査出来るか疑問」

 

「内部ならあいつ等に行かせてる。何かあれば見つけるだろう」

 

アネモネの言葉に僕達は一瞬絶句する。

ユニットの内部の温度は危険領域だからだ。

 

「そんな、いくら何でもアンドロイドでも危険ですよ!」

 

僕の抗議の声にアネモネさんは「…分かってる」と呟く。

 

「…だが『自分達が行く』と言ったんだ。あいつ等には何時も面倒な事を押し付けてすまないとは思うが…」

 

アネモネさんの言葉に僕と2Bが燃え盛るユニットに目線をやる。

未だに炎を上げ黒煙が上がる。

数秒ほどだろうか?

炎が揺らめきから黒い影が二つ見えた。

 

直後に炎の中から赤い髪の女性アンドロイドが二人飛び出してきた。アネモネが言っていたアンドロイドだろうか。

 

「お前達、何か見つけたのか?」

 

慌てた様子の二人にアネモネさんが声をかけるが、赤い髪のアンドロイドの一人が僕達を見つけた途端、僕に掴みかかってきた。

 

「あんた達、一体何を攻撃したんだい!!」

 

「うわあ!?」

「9S!?」

 

赤い髪のアンドロイドの女性の怒声に僕は驚き、2Bが割って入る。

赤い髪のアンドロイドの見たこと無い剣幕だったんだろうアネモネさんが止めようとするが、

 

「アネモネ!急いで奇麗な水とお湯を用意して!早く!」

 

もう一人の赤い髪の女性アンドロイドがアネモネさんに指示を出す。

その様子に、アネモネは驚きつつ、赤い髪の女性アンドロイドが何かを抱えてる事に気付いた。

自分達の来ていた服を破いて包んだのであろう、二人の女性アンドロイドの服は胸から下が不自然に破れていた。

 

「それは一体……まさか!?」

 

「人間だよ。辛うじて生きてる子供みたいだ」

 

その言葉に僕は一瞬思考が止まってしまった。多分2Bもだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕達アンドロイドが守るべき人類が何故此処に?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人類は皆、月に避難した筈では?このポッドは機械生命体の物では無かったのか?

 

「ポッド!直ぐに司令部に報告を…」

 

僕は急ぎポッド153に司令部と通信を繋げようとしたが、

 

「お前達、其処を動くんじゃない!」

 

アネモネさんの声に止められる。

何時の間にかレジスタンス達が僕達の周りを取り囲み銃を突き付けていた。

 

「アネモネ!?」

 

予想だにしなかった仲間たちの態度に焦る2Bだったけど僕は何処か冷静だった。

アンドロイドは人間の為に存在している。

僕達には人間を愛するようプログラムが組まれ戦いの時はそれを糧にして機械生命体と戦う。

言わば人間とはアンドロイドにとって神だ。

そんな愛すべき人類を僕達は攻撃してしまった。知らなかったでは済まされない事だ。

 

「この二人を拘束しろ!」

 

論理ウイルスに感染したアンドロイドならともかく、通常の状態のアンドロイドを攻撃するのはご法度だ。

2Bもそれを感じてるのか僕達二人は大人しく拘束され何時もの部屋に軟禁状態となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだって、もう一度言ってくれ!」

 

白い服を着た女性の声が辺りに響く。

それまで、喋っていた少年少女も椅子に座っていた女性達も言葉が出ない。

此処は『ヨルハ部隊』の基地であるバンカー。その指令室だった。

白い服の女性の目にはアネモネの顔がモニターに映し出されていた。

 

『何度でも言う、お前達が攻撃したのは人間達が乗っていた降下ポッドだ!死者が多数で少女が一人辛うじて生き残っているが五体満足とはいかない。お前たちが何をしたのか解ってるのか!?』

 

その言葉に次は、どよめきが響く。

バイザーで目元が見えない者たちもいたが、それに関係なく不安がってるのが分かる。

 

「し…指令、何がどうなってるんですか?私たちが攻撃したのは…」

 

 

その質問が一番知りたいのは司令官である自分であった。

そもそも、人類は”既に滅び存在しない”。

自分達は月面で人類が生き残ってる様に見せかける為の部隊。

それなのに何故死体だけでなく生きている少女が居るのだ?

機械生命体の罠?だが、あいつ等に人間を用意出来る訳がない。

分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない!?

 

 

「指令」「指令!」

 

「うるさい!!」

 

 

 

部下たちの問いに怒鳴る事しか出来ない指令。

ヨルハ部隊は完全に機能不全に陥る。

地上でもヨルハ部隊が人間を傷つけた情報が広がりアンドロイド達も間にも亀裂が生じる。

ヨルハ部隊が”デポル””ポポル”以上に嫌われることが決定した。

このアンドロイド達の浮足立ちに敵である機械生命体は不気味な沈黙を保っていた。

 

 

 

 

 

事が動き出したのは一週間近くが経ってからだった。

 

 

 

ヨルハの基地、バンカーに緑色の戦艦『ムサイ』数隻と赤い巨大な戦艦『グワデン』1隻の艦隊が迫って来た。

ジオンが等々動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジオン軍の本拠地サイド3の首都ズム・シティーにある公王庁。その一室にジオン軍の総帥ギレン・ザビが報告書を片手にモニター越しの老人、父のデギン・ザビと話をしていた。

 

「突然、宇宙が変わり地球を調査しようとしたら謎の勢力による攻撃により100人ほど乗っていたHLVは破壊され、そのまま大気圏に突入。

痛ましい事件でした公王陛下」

 

『全て予定通りと言うことだろ。これで、堂々と地球に部隊を派遣し地球資源を巻き上げる。

ダグラス達はその為の生贄にしたのだろう』

 

「生贄とは人聞きが悪い。大気圏突入直前の襲撃は私も予想外でした。

最も、犠牲になったのはダイクン派と外人部隊が殆ど。大した損害はありません」

 

デギンの嫌味にギレンは表情も変えず返す。

ギレンとしても、ザビ家に逆らうダイクン派も忠誠を誓ってるのか疑問な外人部隊もそこまで必要な戦力とは言えなかった。

むしろ内乱の種になると疎ましく思ってたほどだ。

その言葉にデギンは「どうだか」と呟く。

ギレンは言葉を続ける。

 

「もう間もなくドズルの艦隊が敵勢力の衛星を包囲する手筈です。その後、地球侵攻部隊を編成し鉱物資源の確保が出来れば一息もつけましょう」

 

独立戦争をする前に別の宇宙に来た為、物資には余裕があった。

しかし、補給なしでは何時かは干上がってしまう。

今なら奇襲攻撃を受けた事で軍の士気も高い。国民の戦意も。

早めに動くべきだとギレンは考えていた。

 

『兄貴!兄貴、聞こえるか!?』

 

別のモニターに弟のドズル・ザビの顔が映る。

 

「どうした、ドズル。包囲にはまだ時間が掛かる筈だが」

 

『それだが、包囲する前に向こうが旧世紀の国際チャンネルで降伏してきた。どう対応する』

 

「なに!?」

 

突然の奇襲の後、即降伏。

ギレンの脳内に罠という言葉が浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、バンカーの方では酷いものであった。

職務の放棄に喧嘩、虚ろな目で宙を見続ける者。

自暴自棄に自分の頭を壁に打ち付ける。

中でも攻撃に参加していたアンドロイドは刀やペンチで自分の体を傷つけていた。痛みを感じる筈にも関わらず。

 

そんな折にオペレータータイプのアンドロイドの一人がジオンの艦隊に気づき、勝手に通信を入れていた。

 

『降伏します。そして、私たちを裁いてください』

 

もしかしたら、機械生命体やエイリアンの部隊かも知れない。

しかし、ヨルハにとってどうでもいい事であった。

人間を傷つけ殺してしまった。それを考えると自分達の存在意義は無い。

もはや、彼女達は自分たちの防衛すらどうでもよくなっていた。

バンカーにはもう誰一人仕事をしている者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう~、どうするべきか?」

 

一方、艦隊の指揮官であるドズルはギレンとの通信を終え改めてモニターに映った衛星、「バンカー」を見る。

一応、ギレンも「注意しろ」とは言ったが具体的な指示はなかった。

要は現場で対応しろと言うことであろう。

 

突然攻撃してきた癖に一戦も交えず降伏。

兄貴からも言われたが罠の可能性が十分ある。

降伏したように見せかけての不意打ち。

旧世紀の戦場であったと聞く。

 

「とはいえ、手をこまねいていても仕方ないか。ランバ・ラル、いけるか?」

 

『ハッ、私の部隊ならばもしもの時にも動けます!』

 

ドズルの声に別のモニターから中年の男性『ランバ・ラル』が映る。

 

「うむ、貴様なら万が一があった時に直に対応出来よう。いざとなれば貴様のゲリラ戦で一泡吹かしてやれ」

 

もしも、降伏が嘘で騙し討ちされてもランバ・ラルはゲリラ戦のエキスパートでもある。

生き残る確率は自分の部下の中でもトップクラスだとドズルも信頼する程だった。

 

 

 

 

一隻のムサイが分離し、コムサイがバンカーへと近づく。

降伏の通信の情報通りに格納庫のハッチが開き中へと入り、宇宙服を着てコムサイを降りる。

その途端、格納庫のハッチが閉まり空気が入る。

一瞬、罠かと思い一斉に銃を構え辺りを見渡す。

しかし、10秒他党が1分経とうが何の反応もない。

ランバ・ラルが手でサインを送ると何人かの部下が辺りを探索しだす。

 

「…クリア!」「クリア」「クリア」

 

「中尉、妙な機械があります」

 

部下の一人の報告にランバ・ラルが慎重に近寄る。

そこで見たのは、整備中だったのか一見飛行機に見える物だった。

 

「…戦闘機にしては小さいな、無人機か?」

 

「長さは3メートルも無さそうですね。作りかけですかね?」

 

「まあいい、本国の土産に持って帰るか。コムサイの格納庫に運んでおけ」

 

「了解!」

 

数人の兵が集まり、その戦闘機もどきを運び出す準備に入る。

 

「中尉、奥にエレベータを発見。電力も生きてます」

 

「でかした!何人乗れそうだ?」

 

「詰めれば10人はいけるかと」

 

奥の方を探索していた部下の報告にランバ・ラルが急ぎ近づく。

 

「10人か……アコースとコズン、あと何人かはわしに続け。

クランプ、お前はわし達からの定期連絡が無ければコムサイで脱出してドズル閣下と合流しろ。時間は10分間隔だ」

 

「「「了解」」」

 

 

言い終えると同時にランバ・ラルを始めとした10人がエレベーターに乗り込む。

数秒もせずエレベーターが止まり扉が開く。

銃を構えたまま降りて辺りを見回す。

格納庫と同じく薄暗く、やたら白い廊下が左右に伸びている。

 

「…コズン、半分率いて反対側を行け。わし等はこっちに行く」

 

なるべく小声で指示を出す。

コズンは静かに頷くと4人の兵を連れ廊下を歩きだす。

それと同時に、ランバ・ラルも廊下の奥へと進む。

暫く、殺風景な廊下が続くがある物が目に入った。

 

「何だ、あれは?」

 

「…人…ですかね?」

 

廊下の端に黒いものが目に入り近づくとそれは黒い服を着た女性が座って項垂れてる姿だと分かった。

部下たちが銃を構え狙いをつけ、ランバ・ラルが女性に声を掛ける。

 

「君、此処の所属か?他の者は何処にいる?」

 

そう聞くが帰ってくる言葉は無く女性はブツブツと何か呟くだけだった。

ランバ・ラルが目で合図を送ると部下の一人が銃口で女性の頭をつつく。

 

「え?誰」

 

そこでやっと女性が反応し顔を上げる。

女性の顔を見て部下の一人が口笛を吹く。予想より美人だったからだ。

そこで、はじめて自分が囲まれてる事に気づく。

女性は一瞬不安げな顔をしたが、ランバ・ラル達の顔を見て少しずつ体が震えていた。

最初は恐怖かと考えたが顔が妙に嬉しそうな表情をしている。

 

「あ…貴方達は…人類ですか!」

 

女性に問いにランバ・ラルはアコースと顔を見合わせ「そうだが」と答える。

スペースノイドだが人類をやめたつもりは欠片もない。

その問いに何の意味があるのか分からなかったが女性の表情は更に明るくなった。

 

「ようこそ、バンカーに!」

 

「ば、ばんかー?」

 

少女の突然の反応に全員の目が点となる。

それでも女性は口が止まらずアンドロイドや機械生命体にヨルハ部隊の事まで喋りだす。

その勢いにランバ・ラルも「ま、待てぇ」と遮る。

 

「どうしました?」

 

あまりの情報量に脳が追い付かなかったのもそうだが、先ず聞き出さなければならない事がある。

 

「このバンカー?…の指令室か制御室を教えて欲しい「案内します!」んだが…え?」

 

ランバ・ラルの問いに女性は目を輝かせ答える。

そして、直に先導するよう「こっちです!こっち!」と案内しだす。

突然の申し出にランバ・ラル達は益々困惑する。

最も、16Dは唯々人類の役に立ちたかっただけで他意はない。むしろ、役に立って褒められたかったのだ。

自分達にはもうそれしか誇れる事が無いのだから。

 

「犬っぽい女性ですね」

 

部下の言葉に頷くランバ・ラル。

尻尾があれば振り千切れる程喜んでる犬に見えて仕方がない。

 

「こっちです!あ、因みに私の名前は16Dです。どうぞ、そう呼んでください!」

 

「16…D?」「Dって何だ?」「バストのサイズ…じゃ無さそうだな」

 

「…コードネームだろ。たぶん…」

 

ランバ・ラル達の戸惑いをよそに16Dと名乗った女性は見るからにウキウキな様子で歩いていく。

一応、警戒しつつ付いていくが、途中に16Dと同じように通路に何人も項垂れてたり体く座りして虚空を見つめる者達が居た。

不気味に感じつつも”それらを全く気にもしない”16Dに付いていく。

どうやら、此処は外から見た通り円形状で繋がってるようだと感じてると16Dが「着きました!」と言って立ち止まる。

視線の先には自動で開く扉が存在している。

立ち位置的に自分たちの方が早く来れる距離だ。コズン達は少し遅れて来るだろうとランバ・ラルは考えた。

そして、16Dを先頭に扉を開けて中へ進む。

二重の扉を開け進むとランバ・ラル達は言葉を失う。

大きな空間に左右に通信機が幾つもあり正面には巨大なモニターがありそこから指令を出すのだと分かる。

しかし、真面目に働いてるものは皆無で通信機の机に伏せる物や狂った様に奇声を上げる者などがいた。

 

「…地獄絵図だな」「何があったんだ?」

 

「私達はいけない事をしてしまったんです。大好きな守るべき人類を…」

 

部下達の言葉に16Dがそう答える。

いまいちピンと来ないがランバ・ラルは自分の役目を果たす為、懐から別の銃を取り出し天井に向けて発砲する。

念の為、空砲ではあったが大きな発砲音にその場にいた皆が一斉にランバ・ラル達の方を見る。

 

「…誰?」「何処かのアンドロイド?」『生命反応あり;推測;彼らは人間』「人間……!」

 

アンドロイド達が口々に喋り傍に居た浮いてる黒い箱が人間と言う言葉にアンドロイド達の目に光が戻る。

 

「私は、ジオン宇宙攻撃軍所属のランバ・ラル中尉だ!この時をもって指令室は我々が占領する。抵抗せず降伏を要求する!」

 

ランバ・ラルの声が辺りに響く。

暫くの沈黙後、指令室は歓声に包まれる。

 

 

 

 

 

 

「「「やったあああああああああ!!」」」「「人類だ…本物の人類だ!」」「「「「「人類に栄光あれ!人類に栄光あれ!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それぞれ喜ぶアンドロイド達に渋い顔をするランバ・ラル達。

 

「…何の騒ぎですかい、中尉」

 

っとそこへ反対側から回ってきたコズンの隊が合流する。

見れば、コズン達もアンドロイドを連れてきていた。

 

「…もう知らん、ドズル閣下に丸投げしてやる」

 

疲れた表情でそう呟く。

そして、ランバ・ラルは通信機を取り出した。

兎に角、自分たちの仕事は終わった。後は上にさせればいい。

ジオン軍はバンカーの制圧に成功した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、これが例の報告書か」

 

数時間後、ギレンの机にドズルからの報告書が届き目を通す。

西暦が1万年越えやアンドロイドの情報に機械生命体にヨルハ。読み応えは抜群であった。

既にドズルの艦隊が別のアンドロイドの衛星も占領しつつある。

司令官だったアンドロイドも処刑と言う名ばかりの解体。そして分解されて徹底的に調査される。

最早、邪魔者は居ない。

ギレンは通信機を操作する。

 

「デラーズ、例の物の準備は出来たか?」

 

『はっ、暗礁空域より手頃なものを幾つか』

 

その言葉を聞いてニヤリと笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2週間後、ジオンは前代未聞の作戦を実行に移す。

暗礁空域より運び出した複数の隕石を地上に落とす。

アンドロイドや機械生命体すらやらなかった行いであった。

後に、ブリティッシュ作戦と呼ばれる作戦の開始である。

 

 

『これは、愚劣なら機械共にたいする裁きの鉄槌である。神の放ったメギドの火に必ずや機械共は屈するであろう!』

 

突然の事にアンドロイドは愚か機械生命体も対応が遅れる。

一部の機械生命体が迎撃に動くが重力の力で落ちて来る大きな隕石の破壊など不可能に近い。

機械生命体の戦力は大きく目減りする事になる。

 

 

 

 

 

「ブリティッシュ作戦の成功で地上に居る機械共の戦力は大いに減った。今こそ地球侵攻作戦の開始だ!」

 

『それは構いませんが兄上、今回の作戦は少々無茶だったのでは?下手をすれば地球が氷河期に突入するとこでしたが、それに市民に将兵やアンドロイド達の反発もあります』

 

ギレンの言葉にキシリアが反論する。

事実、地上に居たアンドロイド達も大きな被害が出ている。

 

「氷河期に関しては計算やシミュレーションを重ねた物だ、早々失敗はない。市民と将兵に関してはダグラ達の最後を宣伝してやれ、機械共に同情する者も減るだろう。

アンドロイドに関してはこれを見ろ」

 

そう言って、ギレンは手元のスイッチを入れる。

すると、キシリアのモニターに書類の写しが映る。

 

『ヨルハ部隊のアンドロイドの一部を優遇?……!!

成程、分割統治ですか』

 

「『分断して統治せよ』良い言葉だと思わんか?旧世紀のポピュラーな統治方だったそうだ。先人の知恵を使うべきだろう。ついでに月面人類会議の真実も教えてやればいい」

 

ギレンは笑みを浮かべ、キシリアは冷たい目で見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ギレンの企み通り、地球侵攻作戦は途中まで滞り無く成功する。

資源豊かなオデッサ、キリマンジャロなどの制圧にさほど手間は掛からなかった。

しかし、機械生命体はジオンの補給線の脆弱さを知り集中攻撃を行い戦いは停滞気味となる。

アンドロイド達もジオンの為に戦っていたが、ギレンの策略によりヨルハのアンドロイドを恨みジオン兵の見てないとこでは暴力沙汰も珍しくもない。

また、ジオン兵達もダグラスの一件で機械同士の争いごとを積極的に止める者も少なかった。

 

冒頭の2Bと9S達も暴力を振るわれた後アンドロイド達も鬱憤が晴れのか時間がきたのか仕事に戻る。

すると、其処に近づく人影が、

 

「また派手にやられたね、9S。ほら手を出して」

「…出来ればもっと早く来てほしかったよ”9S”」

 

その人影は倒れている9Sと全く同じ姿の9Sだった。

起こされた9Sが2Bの方を見ると、別の”2B”が肩を貸していた。

 

月面人類会議の真実をばらまき、主導権を完全に握ったジオンはヨルハにある指令を送る。

 

同型機の複数運用である。

 

今までヨルハは同型機があっても、それは任務中に破壊された時用に運用していた。何よりコストも掛かっていた。

しかし、ジオンにとってはそんな事はどうでも良かった。

コストもアンドロイド達を扱き使えばいいし、ヨルハ自体も良い囮になる。

記憶データの方も最後まで生き残った者が記録として残して置けばいい。

それに別の方にも評判は良かった。

 

9S達は今、寝床にしているコンテナに戻る。

隕石落としで廃墟地帯にも多大な被害が出たことで他のアンドロイドの手前住むことが出来なくなった9Sと2Bだったが偶々、ジオン軍の破棄したコンテナを見つけ其処で休む事にしたのだ。

前に住んでた部屋に比べれば熱いは埃っぽいはで、住みやすいとは到底言えない環境だったが、複数に増えた9Sや2Bにもう此処しかなかった。

 

「…お帰り」

 

「ただいま、2B」

 

見張りのつもりか入り口付近に立っていた2Bとの短い会話を済ませ4人はコンテナに入る。

其処には当然、自分以外の9Sや2Bが静かに休んでいたが、

 

「あれ、2Bが一人いないけど何処か行った?」

 

9Sの数に比べて2Bが一人足りない事に気づく。

 

「ジオン兵が連れて行ったよ。目的はたぶんアレだね」

 

「そうかぁ」

 

ジオン兵が連れて行った。

つまり、ジオン兵のお楽しみの道具ということだ。

地上に降りたジオン兵達にとってアンドロイドの女性タイプはそれなりに人気がある。

それに、相手をするアンドロイドにとっても人間との触れ合いはどんな形であれ嬉しいものだ。

 

「いいな、2B」

 

偶に物好きなジオン兵が9Sも連れていくが大抵は2Bばかりが連れていかれる。

それが9Sにとって少し羨ましかった。

内心、バンカーがスキャナー型も女の子タイプが出ないかなと思いつつ適当な場所で横になる。

 

 

 

 

戦線は停滞し自分達アンドロイドは囮や雑用に使われるが不思議と嫌な気持ちがない。

むしろ、前に比べれば人間に使われてる方が充実感がある。

この戦争が如何なるかは分からないけど、このままの生活も悪くないと感じる。

他のアンドロイドに殴られるのは仕事だと思えばいいかな。

でも、出来れば平和になった世界も見てみたいな。

僕たちは何処までも愚かなのかもしれない。




地球の氷河期にはギリギリならなったということで。
因みに、ギレンの策略が無くてもアンドロイドは勝手にジオンに懐きます。



一応、最後まで続けたいですね。

ただ、他のネタもあるのでそっちも書くかも…


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19話 人形と勲章 そして憎悪

昼の国。

夜になることのない空に幾つもの煙が上がる。

機体の爆発ではない。

花火であった。

下にある基地から幾つもの花火が上がり、多数のジオン兵にアンドロイドと機械生命体の代表としてパスカルが居た。

アンドロイド達は落ち着きがなく今か今かと何かを待っていた。

彼らが取り囲むように急いで作られたと思しき台に三人、アナベル・ガトー、ニアーライト、そして2Bとダグラスが立っていた。

 

「うぉほん!」

 

ダグラスが咳一咳して手元の紙を広げる。

 

「これより、ガルマ・ザビ救助及び敵の首領格と思われるアダムの撃破を称え、此処に勲章を受章を行う!」

 

その言葉に会場は大盛り上がり。

特に、アンドロイド達は人間以上に大歓声を上げパスカルがちょっと怯えていた。

A2や4S達も拍手して喜ぶ。

 

これにより、ガトーとニアーライトの階級が一つ上がる。

手にした勲章に2Bは僅かに微笑むが直後に空を見る。

その方角は間違いなくバンカーだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいの?授章式に行かなくて。間に合ったんじゃないの?」

 

「…正直無理だと思う。アクセスポイントと飛行ユニットが同時に整備されてた」

 

「うわあ、運がないね」

 

ジオン基地、バンカーのサーバールームに9Sと801、他にも数人のS型[スキャナータイプ]が居た。

アダムに捕まっていた時に何かされてないかと義体チェックとデータオーバーホールを行った後、2Bの勲章授章式を生で見ようとしていたが生憎、地上に行く手段がドッチも使えなかった。

人間が整備していた為、文句も言えずサーバールームへと来たのだ。

今の、サーバールームはジオンの最新情報も入り、スキャナータイプ達にとって宝の様な場所で、少しでも暇を見つけたスキャナータイプはだいたい此処に居る。

 

「一応此処でも授章式の様子は見れるけど、やっぱりアンドロイド達が一番喜んでるね」

 

「無理も無いよ。今まで勲章を貰うことはあっても人間が直接渡してくれることはなかったからね」

 

アンドロイド達が一番歓声を上げた理由もそれだった。

2Bのように『頑張れば認めてもらえる』と認識すれば彼らは更に働くだろう。

 

「それにしても、此処も随分広くなってない?」

 

「ジオン基地になって拡張もしたからね。それに、サイド3と地上基地の中継地点である以上はどうしてもね」

 

現在、地上からの通信はバンカーを通じてソロモン、ア・バオア・クー、月面基地を経由してサイド3に届く。逆もまた然り。

まどろっこしいと思われる事も多いが論理ウイルス対策の為にも必要な事である。

地上と宇宙での通信が爆発的に増えたことでサーバールームは拡張しサーバーの数も何倍にも増えた。

別のスキャナータイプが9Sを遊びに誘うように口を開く。

 

「9Sもやらない?宝探しみたいで面白いよ」

 

「やるってハッキング?まぁ、最近やってなかったしいいけど」

 

ジオンが現れてからはスキャナータイプが機械生命体にハッキングする事が激減していた。

ミノフスキー粒子下では、彼らのハッキングは限りなく難しくなっていた。

スキャナータイプにとってミノフスキー粒子は痛し痒しである。最も、論理ウイルスに感染する事も減ってはいた。

因みに、サーバールームでのハッキングもはジオン何も言わなかった。

 

早速、ハッキングした9Sは次々と新しくきた情報を読んでいく。

 

「ええと、『宇宙攻撃軍と宇宙突撃軍により〇回目の模擬戦開始』『偏屈な機械生命体の自称科学者をジオニック社が勧誘』『超大型空母ドロス完成』」

 

 

 

 

 

ジオン軍が機械生命体との戦争がはじまり10カ月が過ぎる。

戦線は押して押されが何度も起きつつ着実に占領地を広げていくジオン軍。

どの部隊も忙しく動いていたが暇な部隊が存在していた。

宇宙軍だ。

念の為にと機械生命体が宇宙に侵攻した際の迎撃部隊となっているが、待てど暮らせど機械生命体が侵攻どころか宇宙に上がってくる気配すらない。

かと言って、宇宙の部隊を地球に送った途端、機械生命体が宇宙に攻めてこないとも限らない。

その所為で宇宙軍の兵士達が暇を持て余していた。

アンドロイド達の献身的なコミュニケーションにより一部の兵が堕落した。

これに危機感を覚えたドズルがギレンやキシリアに模擬戦を要請。

宇宙攻撃軍や宇宙突撃軍だけでなく、ギレンの親衛隊も模擬戦を何度となくやることになり兵たちの技量やアンドロイド達は立ち回りを憶えた。

 

 

 

 

パスカルの村には、変わった機械生命体が居り、そいつは天才だった。

一見ゴミのような材料から様々な物を作り、噂を聞きつけたジオニック社の社員がスカウト。

近々、ジオニック社の昼の国支部で働く手筈となっている。

 

 

 

 

「超大型空母か、どの位大きんだろう。他には、『ジオニック社、ツィマット、MIPがそれぞれ新型のプチモビを発表。総督府それぞれ量産を命令』」

 

 

 

室内やモビルスーツが入れない場所の戦闘はアンドロイドや歩兵の出番となる。

しかし、損耗率の高さに被害も無視出来なかった。

そこで兵達の間で狭い場所でも戦えるモビルスーツが求められた。

その声に答えたのがモビルスーツを開発しているジオンの軍需産業三社である。

 

 

 

「へえ~プチモビか~、どんな機体なの」

 

「ちょっと待って……ジオニック社は『ザクヘッド』ツィマットは『アーマーシュライク』MIPは『ナイトメアフレーム』だって」

 

「見た感じどれも特徴的だね」

 

 

 

 

ザクヘッド。

ジオニック社が開発したザクの流用版と言えるプチモビ。

元は戦闘で大破したザクの無事な頭部を処分するより活用しようということで試作された。

アタッチメントによりある程度の武装も可能だが、それが無ければ体当たり位しか攻撃手段が無い。

ザクの製造ラインを使うのでコストは安価で済む。

ブレードアンテナを付ければ隊長機にもなる。

 

 

 

 

アーマーシュライク。

ツィマットが開発したプチモビ。

元は、作業用のモビルスーツの簡易版で2~3メートルの高さしかない。

燃料は電気で整備性も高く機動性も悪くない。

半面、コックピットがむき出した状態の上に防御面が劣悪。

テスト時に転倒し背後にあった鉄骨が貫通しテストパイロットが大けがを負った。

ザクヘッドよりコストが更に安くローラー移動により素早い。

 

 

 

 

 

ナイトメアフレーム。

MIPが開発したプチモビ。

高い戦闘性と機動性の確保に成功。

内蔵されてるアンカーを飛ばす事により三次元戦闘を意識した高いポテンシャルの機体。

市街地戦での戦闘は他の2機を圧倒する性能を持つ。

此方もローラー移動だがアーマーシュライクより素早い。

更に、脱出装置も備えておりパイロットの生存率を高めると思われる。

半面、コストも他の2機を圧倒しておりドム一機分に相当する。

 

 

 

 

 

 

「これで、ジオン兵の戦死が激減してくれると良いね」

 

「うん、一緒に戦うアンドロイドのメンタルにも関わるしね」

 

 

 

別のスキャナータイプの言葉を他所に9Sは更に情報を探る。

 

 

 

「『アフリカ、完全制圧完了。降伏した大量の機械生命体を捕虜へ』『ジオン、機械生命体のヨーロッパ最大拠点であったベルファストを攻略!その際、闇夜のフェンリル隊が機械生命体の巨大サーバーを無傷で確保』『ジオン軍、次期主力モビルスーツ決定』。サーバー確保って凄い!」

 

「アフリカの方も凄いよ!」

 

 

 

 

 

ユーリ・ケラーネ率いるジオンのアフリカ方面軍はアフリカ全土を制圧。

好戦的な機械生命体をアフリカから叩き出す事に成功する。

その際、抵抗の意思がない機械生命体が次々と投降し、また問題になっている。

 

 

 

 

 

 

ベルファストの戦いは激戦の一言であった。

海中にも、大型機械生命体エンゲルス型を多数配置して防衛に努め、飛行出来る機械生命体も多数配備していた。

中々近づけずにいたジオン軍だったが、本体を囮に闇夜のフェンリル隊が奇襲に成功。

ミノフスキー粒子下であった為、サーバーへの通信力を高めていた為に場所が把握、中継役だった機械生命体も破壊され連携を完全に潰されジオンの進軍を止められず敗北。

好戦的な機械生命体は玉砕し、抵抗を諦めた機械生命体も多数の捕虜となる。

この地の陥落はヨーロッパ方面の機械生命体にも大打撃を与え、ヨーロッパも完全にジオンの手に落ちることになる。

 

 

 

 

「近い内に、ジオンの科学者やアンドロイドの技術班がサーバーを調べるんだって!」

 

「これが一番の戦果だね。機械生命体の完全降伏も近いかも」

 

 

 

 

自分達が出来なかった事がなされてちょっと悔しい気持ちの9S。

それでも、人間の偉業に嬉しい気持ちもある。

 

 

 

「それにしても、また新しいモビルスーツが造られたの?」

 

「次期主力だって言うからザクの代わりかな?機体名は…『ギャン』?」

 

「あ、待って!…どうやらもう一機主力候補があったみたい。え~と、『ゲルググ』?」

 

 

 

 

 

ジオンは、ザクに代わる主力機の開発を急いでいた。

別段ザクが弱いわけではない。単純に技術力を付ける為である。

本来なら、ギャンではなくゲルググが主力モビルスーツになる筈であったが一つ問題が発生した。

ビーム兵器の開発が遅れに遅れていた。

ビームを収束させるサーベルやナギナタは完成したがゲルググの主武装であるビームライフルの開発は難航していた。

連邦軍が持つエネルギーCAP技術を入手すれば如何にかなったが、それをする前にジオンはこの宇宙に来てしまった。

ビーム兵器が売りのゲルググにとってこれは致命的だった。

結果、ギレンはゲルググの主力化を断念し、より完成度の高いギャンを主力機にする。

既にエース用のギャンも造られ配備されつつある。

最もエース達には兎も角、近接戦闘の苦手な一般兵には受けが悪かった。

 

 

 

 

 

 

「それにしても、またモビルスーツの新型か。人間は凄いね、こんなに早く造れるんだから」

 

「…流石、僕達の創造主だよ」

 

 

ジオンがアンドロイド達を造ったんじゃ無いんだけどな。っと考える9S。

空気を読んで敢えて発言はせず、更にハッキングを行う。

 

 

 

 

 

「次は、『戦後によるアンドロイドと機械生命体の活用法と想定される問題』『デボルポポルタイプアンドロイド再生産許可』『変な宗教に目覚めた機械生命体、制圧された工場を襲撃』…襲撃!?」

 

 

 

「襲撃って!状況は!?人間達は無事なの!?」

 

「落ち着いて、続きがある。『警備をしていたアンドロイドと口論、止めに入ろうとジオン兵が負傷しアンドロイド達が交戦を開始。戦闘は激しくモビルスーツ隊も出動。鎮圧に成功するが機械生命体は壊滅しアンドロイド達も死亡者多数。モビルスーツも一機が大破」

 

「人間に死亡者が居ないのは幸いだったよ」

 

 

 

 

記録の通り、工場で小規模であるが機械生命体との戦闘が起こっていた。

口論したアンドロイドの情報では、『死んで神になろう』と頻りにジオン兵と共に誘われ断ると実力行使に入る。

最初はアンドロイド達で抑えられるだろうと思われたが『神になるんだーーーー!!!』の叫びと共に自爆特攻を仕掛けてきて防衛線の一部が崩壊。

モビルスーツ隊が出撃し殲滅に成功した。

また、記録上降伏する機械生命体は”居なかった”そうだ。

 

 

 

 

「そういえば前から気になってたんだけど、デボルポポルタイプのアンドロイドって何であんなに嫌われてるんだろう?」

 

「過去に何かやらかして殆どが処分されたって聞くけど……情報が完全に消されてるな」

 

 

 

 

デボルポポルと他のアンドロイドとは折り合い悪かった。

嫌、悪いとかそういうレベルすらなかった。

しかし、ジオンにはその話は関係ない。

寧ろ、デボルポポルの処理能力や管理能力はジオンが欲する程であった。

艦長や指揮官の補佐や秘書能力、衛生兵としても理想的、Pタイプの指揮官等。

欲しがらない理由がない。

 

 

 

 

「ところで、戦後の僕達はどうなるんだろう?」

 

「この戦争が終わったら……どうなるんだろう?廃棄処分はされないと思うけど」

 

 

 

 

 

 

ジオンが勝利を重ね、機械生命体が追いつめられる程、アンドロイド達がある不安を抱えだす。

 

 

戦後だ。

 

 

戦いが終われば武器は不要になる。

戦うのが使命だったアンドロイド達も戦いが終われば自分達は不要になるのではないか?

不安視するアンドロイドが増えてきている。

ジオンとしてもアンドロイド達の士気に関わるので慎重にならざる得なかった。

武装の解除後、市民として扱うか宇宙開発で扱うか。

下手をすれば、人間の仕事が奪われアンドロイド達に反感を持つ人間が増えるのは避けがたい。

それなら、人間の嫌がるコロニーの外側の清掃や保守点検の手伝いをさせればと言う議論もある。

こればかりはギレンも慎重に扱っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだまだあるな。『ジオン製アンドロイド、Pタイプの試験終了。正式生産開始』『キシリア少将、フラナガン機関よりニュータイプの実践投入を指示』『統合整備計画、本格的スタート』」

 

 

 

「…新しいアンドロイドか、僕達の後輩が出来るね」

 

「先輩として扱いてやらないと」

 

 

 

軽口をたたくスキャナータイプ達だったが、9Sは何となく不安を感じてた。

「僕達以外のアンドロイド」即ち人間が直に作ったと言うことだ。

 

 

 

必要とされたから造られた。「僕達とは違い…」

 

 

 

9Sが拳を握る。

それは、紛れもなく嫉妬であった。

 

 

 

 

 

「そう言えば、ニュータイプってよく聞くけど何だろう?」

 

冷え切った場の空気を換える為に801Sが質問する。

事実、ジオンの資料をよく読む801Sはニュータイプという言葉をよく目にしていた。

 

 

 

「…以前、ガルマから聞いた話だけど、ニュータイプは人類が過酷な宇宙で生きる為に進化した存在なんだって。人類の革新だとか…」

 

 

「ん~、よくわからいけど人類なら、僕はどうでもいいかな」

 

「あ、オレも」

 

 

場の空気は戻り、9S達も表情が明るくなる。

それと同時にアクセスポイントの整備が終了した連絡が来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サイド3

政庁の執務室ではギレンが書類を片付けている。

その中には、報告書も混じっておりでもその内、ギレンの目を引く物が三つあった。

 

 

 

『10H 活動報告書』

 

『アクセスポイントのヨルハ義体の喪失』

 

『アダムの回収失敗』

 

 

 

 

 

ジオンに保護された10Hは調査の為、技術部に呼ばれる以外ザビ家が出資している孤児院で孤児達の世話をしていた。

事故や貧困、様々な理由で孤児が生まれるのは宇宙世紀でも変わらない。

それを、偶然見つけた10Hが孤児たちの世話をしたいと言い出した。

その言葉にギレンは二つ返事で了承し孤児院の院長に命令する。

孤児院としても子供の世話をしてくれる者は大歓迎であり戦争での人手不足もあり、10Hは喜んで迎えられた。

ギレンとしては如何でもいい事であったが、孤児が大人になり働き手になれば良し、10Hが問題を起こしたのなら責任問題にし、解体してしまえばいい。

最も、報告書には孤児と戯れる10Hの情報しかなく孤児たちも10Hに非常に懐いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

ここ一月程、昼の国及び、オデッサ、キリマンジャロ、ジャブローにてアクセスポイントにあるヨルハ義体の消費が異様に早かった。

ヨルハとてアンドロイド、撃破される事もあるが、消費している数が異様であった。

また、撃破されてない基地のアクセスポイントのヨルハ義体が減ってるため誰かが持ち出してるかも知れないとの報告であった。

何者かが盗んでる可能性が高く、犯人は未だに見つかっていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

白い街と呼ばれる機械生命体の拠点にアダムの残骸を回収する為に回収班が向かった時にはアダムの残骸と思しき物がが何処にも無かった。

消えたか機械生命体側が回収したと見込までアダムの回収は打ち切りとした。

 

 

 

 

 

そこまで、報告書を読んだギレンは肩を鳴らす。

そこで、数時間前の会話を思い出した。

木星から帰った初老の男。部下、シャリア・ブルとの会話を。

 

 

 

『よく帰って来た、道中は問題が無かったか?』

 

『ハっ、滞りなく予定通りですが…何か問題でも?』

 

『ふむ…実はだな…』

 

隠してても意味がないだろうとシャリア・ブルに今までの顛末を話し出す。

最初は驚いていたシャリア・ブルだが今では納得した表情をしだす。

 

『成程、宇宙が…違和感の正体がわかりました』

 

『…それもニュータイプ能力か?』

 

『ただの勘ですよ。ですが、妙ですね。私はつい一月ほど前に木星の船団と長距離通信を行ったのですが…』

 

『!? それは誠か!』

 

 

 

真実を確かめる為にシャリア・ブルには予定を変更して木星方面まで行かせ長距離通信で木星船団の交渉役兼中継役にした。

そして、ギレンは部下に一つの命令を出す。

 

 

 

もし、予想通りならばそろそろ…

 

 

 

その瞬間、部下からの緊急通信が入る。

 

『ギレン閣下!アクシズとの回線が繋がりました!』

 

「やはりな」と呟くギレン。

 

「こちらに繋げ。それからこの事は他言無用だ」

 

その言葉に部下は『ハッ!』と返事をし通信を切る。

入れ替わりに、赤みがかった髪の女性が映る。

 

『アクシズのハマーン・カーンです。お会いできて光栄です』

 

「ハマーン・カーン?アクシズの指導者のマハラジャ・カーンはどうした?」

 

『父は4年前に……』

 

「…語るに落ちたな。マハラジャ・カーンとは2年前に会っている。それにハマーンもまだジュニアスクールに通うような子供だ。騙るのなら姉の方にするべきだったな」

 

『…よく言う、死人を装う貴様に言われる筋合いは無い!』

 

「?…死人だと」

 

『ギレン閣下は8年前にア・バオア・クー防衛線の時に戦死してザビ家の生き残りはミネバ様だけだ』

 

「…8年前にア・バオア・クー防衛線?そっちこそ何を言っている。機械生命体との戦争は1年も経っていないぞ」

 

『機械なんたらは知らん!私が言ってるのは連邦軍だ』

 

「ふむ……想像より面倒な事になっているようだな」

 

『何だと?』

 

「情報交換といこうではないか……」

 

その後、ギレンとハマーンは互いの情報を話す。

最初は信じなかったハマーンもジオンやザビ家でしか知りようのない事も語られ、ハマーンも徐々に警戒を解いていく。

 

『信じがたいですが今は信じましょう。それで、我々に何をしろと?』

 

「一旦地球圏まで戻ってこい。色々と確かめねばならん事が増えた」

 

『了解です』

 

通信が消えると共にギレンは溜息をつき背凭れに体を預ける。

西暦1万年越えと機械生命体やアンドロイドの事はぼかした。

言えば余計に混乱すると思われたのも一つだが、

 

「ジオンは敗北してドズルの子以外死んで8年後のアクシズか…ふっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━月基地━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

「よくやった、引き続きガルマの護衛を行え」

 

地上からの報告にキシリアがニアーライトに指示を出す。

「はっ!」と返事をし、ニアーライトとの通信が終わる。

直後に、キシリアの下に通信が入るが、

 

「…プライベート通信? 父上かガルマ辺りか?『キシリアあああああああああああああああああ!!!』! あ…兄上?」

 

 

 

『もう総帥嫌や!8年前とかアクシズとか何それ!マハラジャは死んでるしハマーンも変に迫力あるし、可愛かった頃のハマーンは何処行った!?何か、デラーズも私亡き後、勝手に暴れたとか!?ドズルの娘が産まれる前なのにアクシズにもう居るみたいだし。コロニー落としたみたいなのに連邦に負けてるし、私も死んでるし。10Hは文句言わないし、孤児にも懐かれてるし、ヨルハ義体の体をパクっくてる奴が居るみたいだわ、アダムの残骸も消えてるし、私死ぬし、胃が痛い。ドズルは地上に行きたがるし、ビーム兵器の開発に難航してゲルググを主力に出来なかったし、中々演説出来ないし、木星に木星船団も居るっぽいし、私死ぬし!夏暑くて書くのサボってたらパスが消えて書けなくなって放置してたら何時の間にか復活してるし、キシリア、総帥変わって!私はもう引退して田舎に引っ込んで縁側でお茶を飲むんだあああああ!!!良い子良い子してええええええええええええええええええええ!!!!』

 

 

 

ギレンの愚痴と文句、弱音を聞いたキシリアは落ち着くのを待って口を開く。

 

「引退は許しません。後、良い子良い子は秘書にでも頼みなさい。全く、兄上は限界がくると何時もこれなんですから。後、メタ発言は止めて下さい」

 

キシリアの冷静な返しにギレンも少しずつ落ち着く。

事情を何となく察し更に続ける。

 

「何時もは、すまし顔で仕事する癖に予想外事には弱いですね。ドズルやガルマにも見せてやりたい」

 

『…それは駄目だ。私はザビ家の長兄、弟達に弱みは見せられん「私には良いので?」うっ!』

 

「兄上のそういう所は嫌いではありません。…ダイクン派に弱みを見せたくないのは分かりますが、もう少し家族を頼っても良いのでは?ハマーン・カーンも父上が話せば分るでしょう」

 

『それは解っている。だが、私はジオン公国総帥だ。今のジオン国民には強い総帥が必要だ』

 

 

別の宇宙に転移して10カ月、ジオン国民も大分落ち着きを取り戻していたが不安に思ってる者もまた多い。

 

 

「全く、男子は直ぐ見栄を張る。素の状態を見せるのは私と父上しか居ない癖に」

 

『文句があるならば、お前が総帥に「謹んで辞退します」な…ノオオオおおおおおおおお!!!』

 

 

月基地の指令室にギレンの絶叫が木霊する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

にいちゃん…兄ちゃん…

 

      なんでしんだんだよ……

 

     おれにはニイチャンがいればよかったのに…

        ニイチャンのいないセカイなんてイラナイ…

 

   ニンゲンもアンドロイドも…ゼンブ…

              キエてしまえ…

ニイチャンをコロシタこのセカイも!




ここにきて、ギレンもとうとうキャラ崩壊。
そしてキシリアが優しい。

この作品ではザビ家はそこまで仲は悪くないです。
…某所で見たザビ家の影響だな…


勲章の授章式も如何いう内容なのか分からずお流れに。
授章式を時間かけてやってるアニメとかあったかな?


今回は、昼の国のジオン以外の動きの説明でした。


プチモビの方ですが、たぶん一番知名の低いアーマーシュライクの設定を

1999年に放送されたBlue Genderという作品が元ネタです。
主人公とヒロイン以外大体死ぬ。(一部例外あり)
マブラブや進撃の巨人の元ネタだとか言われています。
個人的に好きな作品です。


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20話 イブ

「ふあ~~~」

 

「伍長、任務中ですよ」

 

昼の国、ジオン基地の出入り口の門番のジオン兵とアンドロイドの複数が警備をしている。

その最中にジオン兵が欠伸をし、傍に居たアンドロイドがたしなめた。

 

「しょうがねえだろ。昨日遅くまで飲んじまったんだから。それに、機械生命体も早々襲ってこないって」

 

「…だと良いんですけど」

 

しかし、彼等はまだ気付いていない。

目の部分を赤く光らせた機械生命体が徐々に集まってきてる事に、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ~、やっと来れた」

 

整備の終わったアクセスポイントから出た9S。

授章式から大分時間が掛かったが周りはまだお祭り騒ぎである。

ジオン兵同士、アンドロイド同士、または人間とアンドロイドが混じって騒ぐ。

 

「あっ、やっと来たの?9S」

 

自分に声を掛けた方を見ると4Sが近づいていた。

A2と4号も居る。

 

「遅かったね、授章式終わっちゃったよ」

 

「やっぱり?整備が終わって直に来たのにな」

 

4号の言葉に9Sが肩を落とす。

 

「2Bも寂しそうにしてたぞ」

 

「本当ですか!?」

 

「A2、嘘言わないで」

 

「2Bさん」

 

4人の語り合いに2Bも合流する。

 

「嘘…なんですか?」

 

「『寂しそう』じゃなくて寂しかった」

 

「嘘」と言う言葉に9Sが落ち込み掛けるが2Bの訂正した言葉に元気になった。

その反応に、2B以外のアンドロイドは肩をすくめたり溜息をついたりする。

 

今日も何時も通りの任務が待ってるだろうと思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!ウーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

突如響くサイレンにその思いは消えた。

 

「警報!?」

 

「…何時もの奴より、何かおかしい?」

 

昼の国のジオン基地は、周囲を制圧していたが周辺の機械生命体は闊歩し続けていた。

それ故に、基地は度々機械生命体の襲撃は起こっていた。

しかし、小規模での襲撃が主だったので簡単に蹴散らすことが出来た。

大型機械生命体の襲撃事体も2~3回位しかない。

だが、裏を返せば完全に駆逐は不可能であった。

数が多すぎる上に排除しても次の日には別の機械生命体が闊歩しているのだ。

現場からしたら堪ったものではない。

だからこそ、機械生命体の生産拠点と思しき工場廃墟を占領し辺りを闊歩する機械生命体は確実に減り度々鳴っていた基地の警報も静かになっていた。

そして、攻撃してこない機械生命体は放置せざるを得ない。

 

だから、最初は誰もが小規模な機械生命体の群れが来たのだろうと楽観視していた。

 

「おい、何か飛んでくるぞ」

 

一人の兵士が空から何か来るのに気づく。

その声に、他の兵士達も空を見る。

 

「飛行型の機械生命体が他の機械生命体を連れてきてるぞ!!」

 

空を飛ぶ物の正体に気づいた2Bが大声で伝える。

その直後に、慌てた軍人たちが持ち場に戻る。

スピーカーからは『モビルスーツ隊発信せよ』と連呼する。

水没都市以来の本格的な戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「状況はどうなっている!?」

 

「東、南側のゲートにも機械生命体が!」

 

「北側のゲートが突破!?中に押し寄せてきます!」

 

指令室では、ガルマとデボルポポルの二人と数人の部下が情報を集め指示を出していた。

モビルスーツ隊も出ているが機械生命体は今まで以上に数が多く歩兵の銃どころかレジスタンス達の銃すら効かなかった。

 

『て、撤退を!撤退命令を!あいつ等、俺たちを食う気だ!俺の部下が食われてる!…ゲートは持たない!』

 

「落ち着け、何を食うって?アンドロイドか?」

 

『アンドロイドも人間も関係ない!あいつ等、部下達の体を食いちぎってい……こっち来るな、止めろ!寄るな……ぎゃあああああああああああああああががっががががっがhjjhjhdfhhンgf

 

 

 

通信機から断末魔の叫びと共に何かを引き千切る音と咀嚼音が聞こえる。

スイッチを切ったガルマはデボルとポポルに目線を向ける。

 

「……機械生命体はアンドロイドや人間を食べるのか?」

 

「…聞いたことありません」

「攻撃はされてたけど『食い殺された』なんて記録はない」

 

アンドロイドと機械生命体の戦闘は数千年続いている。

その間の、記録にアンドロイドが機械生命体に捕食されたなどの記録は一切無い。

もし、今まで捕食されていたとしたら、それこそネジ一本残らず食われていた事になる。

 

「なら、奴等は突然食にでも目覚めたか旧世紀の映画のゾンビになったというのか?兎に角、出し惜しみしてる余裕はない。全部隊出撃命令だ!本国より送られたプチモビも出撃しろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『全部隊出撃せよ!全部隊出撃せよ!これは演習ではない!繰り返す、これは演習ではない!』

 

拡声器からのポポルの声が基地に響き渡る。

一部、未だ楽観視していた兵も急いで持ち場に戻る。

銃撃戦が起こったりするが、今回の機械生命体は銃の効き目が無かったりするが、援護に来たザクのザクマシンガンの砲弾まで無効に出来ず次々とバラバラにされていく。

そんな中、2Bが数機の機械生命体を切り刻む。

 

「ポッド!」

 

2Bの声にポッドもレーザーで機械生命体を攻撃。

攻撃を受けた機械生命体は爆発四散する。

一息入れる2Bだが、突破されたゲートから赤い目をした機械生命体がワラワラと侵入する。

軍刀を構える2Bだが、機械生命体の群れに巨大な弾丸が降り注ぐ。

後ろを見ると、数機のザクがザクマシンガンを連射していた。

他にも、ドムやグフも出撃し基地に入った機械生命体を掃討している。

もう大丈夫だろうと、軍刀を戻す2B。

 

「こっちは終わったよ2B」

 

っと、少し離れていた場所の機械生命体を相手にしていた9Sが合流する。

A2と4S達は、反対側の方で対応していた。

 

「…被害は?」

「…正直分からない。ゲートの守備隊は壊滅状態。ジオン兵も多数…」

 

そこまで聞いて2Bは奥歯を噛みしめる。

それは、9Sも同じだった。

『人類を守る』というプログラムはアンドロイド達に標準的に組み込まれている。

そのプログラムが、機械生命体を許すなと叫ぶ。

 

『報告:基地に侵入した機械生命体は全滅』

『報告:基地に近づく機械生命体の減少』

 

二人に付いてるポッドが報告する。

辺りを見回すと、各地で煙が上がってるが戦闘音もだいぶ落ち着きつつある。

負傷したジオン兵やアンドロイドが次々と医療室へと運ばれてゆく。

未だ、ザクが忙しなく動き回ってるが一息付いていいだろう。

 

『報告:ガルマ大佐より通信』

 

言い終えると共にポッドがガルマの映像を映し出す。

 

『二人ともご苦労だった。機械生命体の侵攻は何とか食い止められた』

 

「突然の事にビックリしたよ。大型機械生命体は確認された?」

 

9Sが以前の機械生命体の侵攻に大型機械生命体が多数いた事を思い出し警戒して聞く。

それに、ガルマは首を横に振る。

 

『この辺では確認されてないが、どうも同時期に他のジオン基地も襲撃を受けたそうだ。そこでは大型機械生命体も確認された。…尤も既に撃破した報告が来てる』

 

「そうか~」

 

それを聞いて安心する9S。

自分達で大型機械生命体を相手にするのは厳しい。

味方のサポートが出来てもモビルスーツの足元でウロチョロする訳にもいかない。

 

『ところで二人とも、少し頼みがあるんだが』

 

「頼み?」

「何ですか?ガルマ。僕達の仲です、何でも言ってください」

 

ガルマの言葉に9Sが気軽の答える。

やはり、人間に頼られると嬉しくなるのだ。

 

 

 

 

その数分後、

 

 

 

 

 

「いやぁ、よろしくお願いします」

 

「ああ、ハイハイ」

 

パスカルが2Bと9Sにお礼を言い、9Sが素気なく返す。

ガルマの頼みとは、パスカルが村に帰るまでの護衛役だった。

外には未だに赤い目をした機械生命体が襲い掛かってくるからだ。

 

「…パスカル、今回の機械生命体の動き分かる?」

 

すこし考え事をしていた2Bがパスカルに聞く。

それだけ、今回の機械生命体の動きは異常だったのだ。

 

「ガルマ大佐にもお話しましたが、ネットワークに接続されていた機械生命体が一斉に暴走したんです」

 

襲い掛かる機械生命体を切り捨て蹴り上げる。

道すがら半分まで進む。

 

「ネットワーク?ミノフスキー粒子下で?」

 

2Bの疑問に9Sが口を出す。

 

「ミノフスキー粒子はあくまでも戦闘の時にしか撒かない。流石のジオンも四六時中散布は出来ないんだ」

 

ジオンとて、ネットワークや通信端末を使う。

レーザー通信や発光通信では限界があり、戦闘の無い平時まで散布しない。

それを聞いて納得する2B。

 

「じゃあ、暴走ってどういう事?」

 

「はい、正確なところはわかりませんが、全体を統括しているユニットが暴走してたのではないかと。それがネットワークに繋がっていた機械生命体にも伝染したのでは…」

 

パスカルの言葉に9Sは考え込む。

 

 

全体を統括してるユニット。

恐らく、アダムとイブの二人だろう。

アダムは倒れ、残りはイブだけ。

 

 

「あれ?お出かけですか?」

 

何処からともなく少年らしき声がする。

声のした方をみると改造した三輪駆動車に荷物が山積みでやたら目立つ悪い骸骨の様な物を乗せた物が近づく。

一瞬敵かと構える9S達だが、

 

「あ、エミールさん。こんにちは」

 

パスカルの知り合いなのか気軽に声を掛ける。

その車は途中の機械生命体の攻撃も華麗にかわしつつ僕達の目の前に止まる。妙な音楽を流しながら。

でも、何処かで見た事あるような。

 

「こんにちは、パスカルさん。良い天気ですね」

 

「そうですね」

 

2Bと9Sの前で談笑する二体。

 

「パスカル、誰?」

 

途中で2Bがパスカルに「誰?」かと聞く。

そこで、パスカルは「ああ」と言う。

 

「此方は、エミールさんです。商人らしくて、よく私の村やジオン基地に商売しに来てるんですよ」

 

━━━何それ、知らない!

 

誰も話してくれなかった事に軽いショックを受ける9S

それから、少し話をしたエミールに別れを告げるとまた何処かに走っていった。

あまり関係ないが以前、ジオン基地で「自分は人間」だと言ったが子供の冗談(子供の人格の機械生命体だろうと思われた)だと誰も本気にしなかった

 

 

 

 

 

そこから少し歩いていると近場で轟音が聞こえる。

突然の事だったが、廃墟都市の奥の方から響く。

新たな敵かと慎重に壁に隠れつつ近づくと球状のボディの大型機械生命体と大きな盾とビームサーベルに尖がった頭部をしたモビルスーツが戦っていた。

 

「あれもモビルスーツ?」

 

「YMSー15、ジオンの時期主力モビルスーツ、ギャンです」

 

「ギャン?」

 

「量産決定からそんな時間経ってないのにな、…もしや専用機?」

 

ジオンは比較的にエースに専用機が与えられやすい事を思い出す。

あの機体も、データで見た物より青みがかってる。

 

次の瞬間、球状の機械生命体をギャンのビームサーベルが貫く。

暫く暴れる機械生命体だが徐々に動きが小さくなり遂には動かなくなった。

 

『報告:モビルスーツからの交信』

 

『9S、其処で何をしてるんだ?』

 

9Sの返事も聞かず、ポッドから映像と声が出る。

通信相手は、

 

「ガトー大尉!?」

 

『訂正:アナベル・ガトーはこの度、少佐に昇進した』

 

「!?失礼しました!少佐」

 

軍隊での階級の言い間違いは失礼に値する。

だから、9Sは敬礼して謝罪する。

 

『ハハハ、まあ階級は今日上がったばかりだからしかたない。それで、三人はこんな所で何してるんだ?』

 

ガトーの質問に9S達が答える。

一息置き、ガトーが口を開く。

 

『そうか、パスカルの村にか。なら気を付けろ、此奴程ではないが村までのバリケード付近に機械生命体が押し寄せてるのを見た』

 

最後に『気を付けろ』と言い終えると、ガトーは先ほど倒した球状の機械生命体を引っ張って基地に戻る。

見送った9Sと2B、パスカルは急ぎ、パスカルの村と廃墟都市を繋ぐ近道へと行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エイリアンの母船にガルマが囚われていた白い街の入り口がある陥没地帯。

母船の調査やガルマ救出時にジオン兵やアンドロイドが行ったり来たりもしていたが、3機のモビルスーツが蛇の様な機械生命体を撃破していた。

 

「あ~あ、こんなんじゃ手柄にもなんねえぜ」

 

若い一人の兵士がぼやく。

一人前に出世欲はあったのだ。

 

「文句を言うな、アス。また隊長にどやされるぞ」

 

それに中年の兵士が鎮めようとする。

しかし、若い兵士の口から文句が飛び出る。

 

「そうは言うが、何で俺達はこんな辺鄙な所で戦ってるんだよ。UFOの調査も白い街の調査も終わったって聞いたぜ」

 

彼にしてみれば此処を守ろうが調査し終えた物がある場所の防衛など無駄だと考えていた。

足元に群がる機械生命体をアリの様に踏み潰す。

内心、「こんなの幾ら潰しても手柄になんねえだろうな」と考えていた。

と、其処へ女の声が通信機から聞こえる。

 

「ブツクサ文句言ってないで働きな。そんなんだからお前は伍長なんだよ!デル、お前もだよ」

 

ジオンでも珍しい部類に入る女性兵士だ。

女だてらにモビルスーツ隊の小隊長まで昇り詰めている。

 

「でも、トップ隊長。他の部隊じゃグフやドムに乗り換えてるのに俺もデルも未だザクⅡJ型、隊長に至っては旧ザクっすよ。いい加減、新型に乗りたいっすよ」

 

宇宙ではまだ健在だが、地上ではザクから別の機体に乗り換える事は多い。

接近戦の得意なグフや機動性のドム。

どれも、大型機械生命体に有効である。

 

「煩いね、あたしは此奴(旧ザク)の方が乗り慣れてるんだよ。第一、お前に新型を回すくらいなら新兵に渡す方がマシさ」

 

「ひでぇ」

 

二人のやり取りを身が笑いで見守るデル。

その直後に、センサーに反応が出る。

 

「隊長、センサーに反応です。これは……手配されてるアンドロイドもどきです!」

 

「何だと!?」

 

アンドロイドもどき。

ジオンでアダムとイブに付けられたコードネーム兼悪口だ。

それだけ、アダムとイブは機械生命体の形から外れている。

 

「……隊長、居ましたよ」

 

ザクのモノアイを動かしたアスがその姿を見つける。

アスのザクが向く方向に目を向けるとビルの残骸の上に座ってる若い男…イブが居た。

 

「何時の間にあんな所に!?」

 

「何だっていい、手柄を上げるチャンスだ」

 

ザクの右手にヒートホークが握られ少しずつ近づく。

 

「待て、アス!奴はヨルハに任せるべきだ!」

 

アダムとイブのスペックは司令部からも教えられてる。

発見した場合はヨルハ機体を呼び共同で討伐せよと厳命されている。

しかし、アスはその言葉を無視する。

 

「シャア少佐やガトー少佐も手柄を上げて出世したんだ。俺だって!!」

 

ザクを加速させ一気にイブに近づく。

デルとトップは必死に「戻れ」と言うが、ヒートホークを一気に振り下ろす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パスカルの村と廃墟都市を繋ぐ近道にはパスカル達が作ったバリケードがある。

暴走した複数の機械生命体がバリケードを破壊しようと迫るが、2Bと9Sが阻止する。

歩行型が中心だった為、突然の攻撃に対応しようにも方向転換に時間が掛かる。

その間にも、2Bと9Sは難なくその場に居た暴走した機械生命体を殲滅した。

 

「お二人共、ありがとうございます。これで村に帰れます」

 

パスカルが頭を下げ礼を言う。

村へと戻っていく姿を見届けた二人は基地に戻ろうとするが、

 

『報告:緊急通信』

 

ポッドの報告に2B達は直ぐ繋げるよう言う。

 

『緊急事態、緊急事態だ!手配されてたアンドロイドもどきと遭遇、現在戦闘中!!誰でも良いから至急救援を!ザクが一機落とされた!早く救援を!…デル避けろ!!』

 

一方的捲くし立てる通信だったが、それだけ向こうは緊急事態という事だ。

二人は一瞬だけ視線を交わしポッドに場所を聞く。

陥没地帯と聞き二人は急いで向かう。

道中、邪魔する機械生命体も居たが、足止めにもならず撃破される。

 

 

 

 

そして、ポッドの示す位置にまで辿り着くが、

 

「そんな…」

「…全滅!」

 

その場に会ったのは3機のザクの残骸。

それも、どれもコックピットが潰されていた。

そしてそのザクを踏みつける様にイブが居た。

 

「ああ、お前達か」

 

此方に、気付いたイブがゆっくりと顔を向ける。

文章をただ読み上げるような声に2Bと9Sが武器を構える。

しかし、そんな二人を無視する様にイブが言葉を続ける。

 

「お前たちは思わないか?こんな世界、意味がないって」

 

イブがゆっくりと歩きだす。

その顔は笑ってるようにも見えるが悲しそうでもある。

 

「俺にとって…兄ちゃンが…ニイチャンダケガ…」

 

その時、イブの体に異変が起こる。

元々も、体の半分が黒く変色していたが、膨張し体全てを覆う。

だが、2B達が驚いたのは其処ではない。

イブの目から涙が溢れていた。

人間に似せられて造られた自分達なら兎も角、機械生命体にはそういう機能はない。

何故なら、機械生命体は泣く必要がないからだ。

 

周囲の瓦礫やザクの部品が浮かび上がる。

磁石のようにイブの腕に集まり大きな拳を作り上げる。

 

「何デ…ナンで兄チャンがシンで…お前タチが生きてルンダ!!」

2Bと9Sはそれを避け、別々にイブの周囲へと回る。

両方のポッドがビームや弾を撃つが周囲に浮く瓦礫が盾になり上手くいかない。

ならばと、2Bが一気に近づく。

2Bが渾身の力で軍刀を振る。

2Bの体重と重力の力もあり、盾になっていた瓦礫も切られ刃はイブに届く。

体を切り裂かれたイブだが、赤い体液が流れようがお構いなしに2Bに巨大化した拳を振るう。

ギリギリで避けるが2Bは一旦距離をとる。

 

「ニイチャン…にいチャン…」

 

最早、アダムの事しか呟かないイブは2B無数の黒いエネルギー弾を放つ。

その量は尋常でなく機械生命体何十機分に相当する。

これでは、近づく事が出来ない。

 

「ポッド!」

 

自分達に遠距離攻撃する能力はない。

此処は、ポッドに任せるしかない。

しかし、ポッドの攻撃は命中はする物のイブの体は即座に治る。

 

どうすればいいか?

 

考えた瞬間に、黒いエネルギー弾と共に瓦礫も自分達に迫る。

何とか避けていくが、9Sが掠って動きを鈍らせる。

 

「9S!」

「駄目だ!2B、避けて!」

 

一瞬何の事かと疑問を感じたが、視線を戻すと巨大なコンクリートの塊が迫ってきている。

しまった!

9Sを心配して動きを止めてしまった。今から回避行動しても間に合わない。

 

2Bが「ここまでか」と覚悟した瞬間、巨大なコンクリートの塊は爆発四散する。

辛うじて、攻撃を免れた2Bは茫然とするが、

 

「ガトー少佐!」

 

9Sの言葉に視線を向けると、青みがかったギャンが盾を構えて鎮座していた。

 

「遅くなってすまない。アナベル・ガトー、援護する」

 

 

 

 

 

戦線にガトーも加わるが、状況は大して変わってない。

シールドミサイルも逸れるか途中の瓦礫に当たり無効化され、ビームサーベルも弾幕がうっとおしい。

何発も直撃すればモビルスーツとて撃墜される。

一つ、変わったとすれば、

 

「オマエガ、オ前が…兄チャンを!」

 

イブが激高しだした。

 

「兄? アダムの事か!?」

 

「ナンで、ニイチャンをコロシタ!!」

 

「戦場でそれを聞くかァーーーーーーー!!」

 

ビームサーベルで黒い弾幕を掻き消す。

 

「戦いの全ては怨恨に根ざしている、当然の事。しかし、怨恨のみ戦う者に私は倒せん!私は義によって立っている!!」

 

「意味ガわからナイ事を!!」

 

更に激高するイブは、巨大化した腕で殴り掛かる。

ビームサーベルの一閃がイブの体を捉える。

イブの体は横に一刀両断され、下半身が地面へと落ちる。

 

「今だ!」

 

好機と見た9Sが千切れた体のイブに向けポッドの弾幕を喰らわす。

それに、2Bも続き攻撃するが、

 

「ああああああああああああああああアああああAAAAAaaaaaaaaaアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

断末魔の様な声を上げるイブ。

瞬く間に千切れた下半身が回復し元に戻る。

 

更に、

 

「なに!?」

 

イブに破壊されたザクのモノアイが赤く輝き三機のザクが立ち上がる

これには、ガトーもビックリ。

流石の9Sも、これには慌てる。

 

「如何なってるんだ!?」

 

『推測;多数の機械生命体からのエネルギー供給。ザクから論理ウイルスを検知』

 

「論理ウイルスで無理やり動かしてるのか」

 

『可能性大』

 

9Sがイブに操られるザクをジッと見る。

人間が動かす時より動きがぎこちないが、9Sがハッキングした時より動きが速い。

 

 

一機のザクが自分達にザクマシンガンを打ち込む。

すんでの所で避けるが、命中した地面が抉れる。

直撃すれば機械生命体同様アンドロイドもバラバラになる。

ガトーの方に目線を送れば二機のザクを相手にしていた。

ギャンの性能ならザクも圧倒するだろうが、イブが悲鳴と共にエネルギー弾の雨を撃ちまくる。

その所為で、ガトーはザクだけに集中出来ずにいた。

 

「くっ!」

 

2Bが軍刀で切りかかろうとするが、如何しても躊躇ってしまう。

「守るべき人間が乗っていた」自分達(ヨルハ機体)が躊躇うには十分だった。

 

一瞬、ハッキングするべきかと考える9Sだが無茶だと諦める。

イブがガトーに集中してるとはいえ、ハッキング中は一歩も動けない。

動き回るギャンにザクが3機、踏みつぶされずイブに攻撃されない保証など何処にもない。

現に今も、多数のコンクリートの塊を自分達に飛ばしてくる。

 

「くそっ!これじゃジリ貧だ!」

 

この辺りの機械生命体は、それこそ幾らでもいる。

イブは幾らでもエネルギーを補える。

対してこっちは、接近戦とハッキングに遠距離がたいして効いてないポッドが2機。

ガトーの集中力も何時まで持つか…

 

『…つまり、奴のネットワークを如何にかすれば良いんだな?』

 

ポッドの通信から予想だにしない声が聞こえる。

自分達に迫っていたザクに砲弾が命中する。

何発も直撃しザクは再び地に伏した。

ガトーの方も、ザクの背後に砲弾が直撃し爆発、もう一機はギャンのビームサーベルに貫かれた。

更に、上空から飛行機音が響き、上を見ると数機のルッグンがこの辺りを旋回している。

 

 

『報告;ミノフスキー粒子濃度上昇』

『報告;北東の丘』

 

ポッドの言葉に9Sと2Bが北東を見る。

其処には、マゼラアタックの部隊にジオンの高速陸舟艇『ギャロップ』がある。

 

『間に合ったか、9S。我々、ガルマ隊も援護する!』

 

その言葉は、9S達にとって実に頼もしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いは熾烈だった。

ミノフスキー粒子の濃度が上がると共にイブの回復速度が落ちる。

ガトーのギャンとマゼラアタックの部隊の砲撃でイブに確実にダメージを与えている。

 

「報告:敵ネットワークの切断に成功」

 

これで、もう回復は出来ない。

 

「くっ、ギャンが!」

 

 

「如何した、砲撃を続けるんだ!」

 

「もう弾がありません」

 

逃げ続けた事でギャンの関節部が悲鳴を上げ、マゼラアタックの部隊の残弾もゼロになる。

ガルマ達は、動かせる部隊がマゼラアタックの部隊とギャロップだけで残りの部隊は、先の機械生命体の襲撃で基地の防衛や整備に回されていた。

今から増援を呼ぼうにも、イブに逃げられる可能性が高い。

 

「2B!」

 

恐らく、これがイブへの攻撃の最大のチャンスと思った9Sは2Bに声を出す。

頷く仕草をした2Bは軍刀を抜き、一気にイブに飛び掛かる。

砲弾で態勢を崩していたイブが急ぎ、2Bに対応しようとするが、2Bの方が幾分早く軍刀がイブの体を突き刺す。

鈍い音と共にイブの絶叫が響く。しかし、2Bは物ともせずイブの体を切りつける。

致命傷を受けたイブが膝から崩れ、土下座のような姿になる。

 

「ニイ…チャン…」

 

今にも機能が停止しそうなイブがボソリと呟く。

一瞬躊躇う2Bだが、軍刀を握りしめイブの頭部を刺し貫く。

イブの機能は完全に停止した。

 

 

 

 

イブの撃破に誰しもが固唾をのんで見守っていた。

丸で一時間も二時間もその場に居る錯覚する程に。

先に声を出したのはガルマだった。

 

「2Bがイブの撃破に成功した!我々の勝利だ!!」

 

その言葉に他のジオン兵も歓声を上げる。

戦死した者も出たが手配されてた機械生命体を倒したのだ。

 

ジオン兵の歓声を上げる姿を見た後、2Bは9Sも元に戻る。

 

「終わったよ」

「…お疲れ、2B」

 

二人が話した直後に2Bは9Sの隣に寝転んだ。

 

「疲れた」

「僕もです」

 

ジオン兵の歓声を聞き9Sも体を横にする。

正直もう一歩も動きたくない程、二人は消耗していた。

その後、味方が回収するまで二人は横になっていた。

 

 

 

戦いは確実に終わりに向かいつつある。




イブが呆気なく見えますが、作者の技量不足ですね。
というか、ゲームのあの戦闘場面どう表現すれば…

因みに、イブの犠牲となったトップ達は、最初はジーンやデニムにしようかなと思ってましたが、「あっ、オデッサで戦闘してた」という事で、原作でも部下の勝手で全滅したトップ達にしました。


次回は、少しオリジナルの展開にしつつ機械生命体との決戦んでも。

ああ、文才が欲しい。


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21話 人形とサイド3

 

アダムとイブの撃破。

敵ネットワーク基幹ユニットであった両名の撃破でネットワークを繋げていた機械生命体は混乱状態にあり、近々ジオンは残ったユーラシア、オーストラリア、北アメリカ、アジア方面の大規模侵攻を決定。

格アンドロイド達も奮闘せよとの命令に興奮する。

 

そして、ガルマ直属のヨルハ部隊は、

 

「2Bこれがシャトルですよ。感動するな!」

 

「9S、はしゃぎ過ぎ」

 

「僕だけじゃないですよ。スキャナータイプ達は皆、はしゃいでます」

 

ヨルハ部隊はサイド3に行く為にジオンが民間から徴収したシャトルに乗っている。

彼らの姿はサイド3に行くということでジオン軍から配給されたジオンの軍服を着ていた。

彼らにとって、排熱がやや悪いが人間から渡された事と戦いに行く訳ではないので喜んでいた。

 

「…これを着るのか」

「私も着るし平気平気」

 

軍服に文句を言いつつ若干嬉しそうな顔をしたA2。

素直にはしゃぐ4号。

黙って、ジオン軍服を着る4S。

 

 

「はぁー」

 

席に座る、ホワイト副指令が溜息を付く。

もう直ぐ、大規模侵攻作戦が始まる時に何故、自分達はシャトルに乗っているのか。

理由は解ってはいる。

 

 

 

あれは、イブを撃破して二日目の事だった。

 

 

 

 

『諸君の活躍によってアダム及びイブの撃破に成功した。私からも礼を言わせてくれ』

 

指令室の通信機からガルマの映像と言葉にヨルハ達は感激する。

正直、活躍したのは2Bと9Sだけの気もするがヨルハ機体の手柄は皆の手柄だと誤魔化す。

『ジークジオン』の声が暫く鳴りやまなかった。

 

 

少し、落ち着いたタイミングでガルマが再び口を開く。

 

『君達の戦果に私としても何か褒賞を送りたい。諸君らは何が欲しい?または何がしたい?』

 

その言葉にヨルハ達も騒めき出す。

アンドロイド達の願いは基本どれもが同じ。

即ち、「人間と共に居たい」か「人間の役にたちたい」だ。

特にヨルハ機体はその傾向が強い。

 

「どうする♪どうする♪」

 

ヨルハ機体の皆が楽しそうにしながら一人のヨルハ機体が手を上げる。

 

「はいっ!私、サイド3に行きたい!いっぱい人間さんに会いたい!」

 

6Oが元気に発言する。

その言葉に、「え?」という反応するヨルハ達。

 

『成程、サイド3か。これは私の一存では決められんな。暫し待て、兄う…総帥に交渉してくる』

 

通信が切れた後、6Oは他のヨルハ機体に文句を言われるがそこは割愛する。

まあ、仮にサイド3に行ける様になっても戦後辺りだろうと誰もが思っていた。

 

事態が動いたのは翌日だった。

 

「明日に到着するシャトルに乗り、ソロモン経由でサイド3に召喚せよ。ですか」

 

『その通りだ、ソロモン、ア・バオア・クーでそれぞれ論理ウイルスに感染してないか確認してサイド3に来るのだ』

 

通信機にはギレン・ザビが映る。

昨日、ガルマに話した事がギレンに伝わり、ギレンはサイド3に来る事を認めた。

 

「し…しかしギレン閣下、もう直ぐジオンの大規模侵攻作戦があります。無論我々もそれに参加する手筈の筈ですが!」

 

ホワイト副指令としてもサイド3に行きたくない訳ではない。寧ろ率先して行きたいぐらいだ。

しかし、今からサイド3に行っては大規模侵攻の作戦に間に合わない。

 

『ホワイト副指令、物事には順序というものがある。貴様は、命令書通りに従っていればいい』

 

そう言って、ギレンは通信を切る。

その後、ホワイトはギレンからの命令書を受け取る。

 

 

 

 

「はぁー」

 

ギレンとのやり取りを思い出したホワイトはまたもや溜息をつく。

命令とは言え、「人間のやる事は解らない」と思いつつ、ホワイトは席の後ろの方を見る。

 

其処には、赤い髪が特徴のデボルとポポルも居た。

ヨルハ機体ではない二人が何故居るのかと言うと、先日に決定したデボルポポルタイプのアンドロイドの生産の為にサイド3でデータを取る為であった。

地上からデータを送ればいいのではと思われたが論理ウイルスの可能性を否定できない事は危険と判断されヨルハ機体と一緒に運ばれる事となった。

ホワイトにとってやや気が重かった。

それでも、サイド3に行くのが楽しみなのは皆と変わらない。

 

もう間もなくシャトルは発進する。

 

 

 

 

 

シャトルは何の妨害も無くソロモンへと近づきつつある。

窓から見えるソロモンに感動する者や、あんな所を基地にするなんてと感心する者もいる。

一機のモビルスーツがシャトルへと近づき、モノアイを点滅させる。

 

「何してるの?」

 

「モールス信号ですよ、カ・ン・ゲ・イ・ス・ル・…『歓迎する』って言ってます!」

 

9Sの言葉にシャトルの中のヨルハ達は大はしゃぎ。

そのモビルスーツを見ようと誰もが窓側を奪い合う。

その様子を知ってか知らずか、モビルスーツは敬礼の格好をしてシャトルから離れる。

シャトルはソロモンに到着した。

ソロモンの格納庫にはヨルハ達を見ようと整備班だけでなくジオン兵士達も集まっていた。

 

「よく来てくれた、ソロモン要塞の副指令ラコック大佐だ。君たちを歓迎しよう」

 

シャトルから降りるとジオン軍の士官が出迎える。

ホワイト副指令をはじめヨルハ達も敬礼する。

それを見ていたジオン軍兵士達が歓声を上げたり口笛を吹いたりする。

尤も、ソロモンで働いていたアンドロイド達は面白くなさそうだったが、

 

「うおっほん、君達にはウイルス検査をした後、ドズル指令との面談だ」

 

その後、ソロモン内での論理ウイルスの検査をし終えたヨルハ達はソロモンの一室へと向かう。因みに、デボルとポポルも一緒である。

一際立派な扉が開き中に入ると巨漢の男性と腕に何かを抱える妙齢の女性が居た。

 

「おお!よく来てくれたヨルハ諸君。お前たちの活躍はガルマから聞いてるぞ!」

 

そう言うと、4Sを軽々と持ち上げる。

驚く4Sだが、その表情は何処か嬉しそうにも見える。

 

「もしかして、貴方が…」

 

「おっと、名乗りが遅れたな。俺はジオン公国宇宙攻撃軍司令のドズル・ザビだ」

 

ホワイト副指令に名乗るドズル。

ソロモンとの通信が無かったのでホワイト副指令もデータ上ですか知らなかったのだ。

 

「失礼しました」

 

「そう固くならんでいい。序でに紹介しておこう、俺の女房ゼナだ」

 

ドズルが妙齢の女性の紹介をすると女性が近づいて来た。

そこで、女性が持っていたものが分かった。

 

「!これは…」

 

「…赤ん坊ね」

 

ホワイトや他のヨルハが言葉を詰まらす中、デポルが赤ちゃんと口にする。

データ上でしか知らない「赤ちゃん」それが目の前に居る。

ヨルハの誰もがスキャナータイプ以上に興味を示す。

 

「先日にな、俺の可愛い娘でミネバと言う」

 

ドズルが嬉しそうに娘の名を教える。

ようやく授かった可愛い娘を自慢したかったのかもしれない。

因みに、ドズルがミネバの事をギレンに教えてギレンが頭を抱えたそうだが今は関係ない。

 

「ようやくにも手に入れたミネバの為にもこの戦争負ける訳には…ん?」

 

ドズルはそこでヨルハ達の様子に気付いた。

皆の目は女房のゼナ…の腕に抱かれているミネバに集まっていた。

少し思考したドズルはある提案をする。

 

「…少し抱いてみるか?」

 

「「「「「はい!!」」」」」

 

ヨルハだけでなくデボルとポポル、ホワイトまで即答で返事をする。

その声はどこまでも元気いっぱいだった。

 

「ちっちゃい!」「あったかい!」「かわいい!!」

 

ミネバが次々とヨルハ機体やデボルとポポル、ホワイト副指令にも抱かれていく。

中には二度三度抱こうとする者まで現れミネバがとうとう泣いてしまう。

赤ん坊の泣き声にオロオロするアンドロイド達にドズルの妻のゼナが笑みを浮かべてミネバを抱く。

泣いていたミネバも直ぐに大人しくなりアンドロイド達は感心した。

 

「ふむ、もう少し時間があるか。よし、お前達付いて来い!ミネバより劣るが凄いものを見せてやる!」

 

そう言って、部屋を出るドズル。

正直、もう少し赤ん坊と居たかったアンドロイド達もドズルの言うことに従い付いていく。

 

 

 

暫く移動するとドズルとアンドロイド達はソロモンの格納庫に着く。

格納庫の通路を進む中、ヨルハ機体とデボルポポルは周囲の整備されてるモビルスーツを見る。

 

「宇宙なのに…ドム?」

 

「あれは宇宙様に改装されたリック・ドムです」

 

2Bが格納庫でドムを見つけると9Sがリック・ドムだと説明する。

地上で使われていた機体も多いが宇宙ならではの機体も多い。

 

「見てください2B、ガトルですよ。戦闘爆撃機という種類でモビルスーツが造られる前から使われてたそうです」

 

「そう、赤いのね」

 

宇宙専用の戦闘爆撃機を解説する9S。

一目の印象が赤いと呟く2B。

 

「2B、あれはビグロですよ!モビルスーツではなくモビルアーマーと呼ばれてて高速移動での戦闘は評価が高いんです。因みに量産されるようです」

 

「大きくて平たいのね」

 

大型モビルアーマーで、

 

「おお!2B、ザクレロです!ビグロの原型となった機体でどうも期待通りの性能が発揮できず廃棄が決定していたらしいんですが、完成品があるなんて」

 

「黄色くて大きな口ね」

 

試作で終了したモビルアーマーで、

それぞれのアンドロイド達がはしゃぐ。

見たことあるモビルスーツから見たこともないモビルアーマー。

特に、スキャナータイプのヨルハ機体が目を輝かせる程に、

 

そして、ドズルは格納庫の最奥の扉の前まで来た。

 

「最後に貴様たちに見せたかったのはコイツだ」

 

扉が開き中に入った瞬間、アンドロイド達…ヨルハもデボルポポルも言葉を無くす。

そこにはいままで見たモビルスーツや機械生命体でも滅多に見ない程の巨体が佇んでいる。

周りには整備士のジオン兵やアンドロイドが忙しなく機体の整備をしている。

 

「で…でかい…」

 

「水没都市の超大型機械生命体には負けるかも知れないけど、それでも大きい」

 

「コイツこそが、ソロモンの最大の防衛機体となるモビルアーマー。ビグザムだ!」

 

9S達の目前に巨大なモビルアーマーが整備されていた。

巨大な二本の足に巨体の胴体。

機体中央部には大型メガ粒子砲を撃つ砲門。

アンドロイド達はまさに圧倒される。

 

「おい、誰かビグザムの仕様書を持ってこい!」

 

ドズルの言葉に近場に居たジオン兵の整備士が持っていた仕様書を手渡し、ドズルも渡された仕様書を9Sに渡す。

 

「特別に見せてやろう。まだデータベースにも登録されてない最新情報だ」

 

「は、はい!」

 

許可を貰った9Sは早速仕様書に目を通す。

9Sだけでなく他のスキャナータイプも覗くようにみる。

 

「高さ59,6メートル、重量1,936トン、出力35,000KWを4基!推力580,000kg!これ本当なんですか!?」

 

「本当だ。ビグザムが完成すればソロモンの戦力の三分の一を地上に下せる」

 

ドズルの言葉にヨルハ機体とデボルポポル、ホワイトも驚くしかなかった。

ソロモンでドズルとの会話を楽しんだアンドロイド達は名残惜しそうにシャトルに乗り、次の目的地ア・バオア・クーへと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ア・バオア・クーへようこそ。私がア・バオア・クーの司令官ランドルフ・ワイゲルマン中将だ」

 

ア・バオア・クーに着いた2B達は早速司令官への挨拶を済ませる。

どうにも、ソロモンの空気と違うことに2Bが不思議に思う。

 

「9S、此処にアンドロイドは居るの?」

 

地上の昼の国もソロモンも結構な数のアンドロイドがいたが、ア・バオア・クーにはアンドロイドの気配があまりない。

 

「…一応、居るには居るんですけど、…ア・バオア・クーはアンドロイドに対して排他的なんですよね」

 

ジオン軍でも、全ての者がアンドロイドに友好的かと言われれば否定せざる追えない。

人間でもない機械を信用出来るのか?

機械生命体みたいに攻撃してくるんじゃないか?

自分達、人間と取って代わる気じゃないだろか?

etc.

理由など幾らでも出て来る。

ギレンは、ジオン軍内でアンドロイドに懐疑的な者を一か所に集めて自身の子飼いのランドルフ中将に指揮を任せていた。

アンドロイドと問題を起こさないように、万が一アンドロイド達が反旗を翻した時の切り札として。

 

「だから、ここでは大人しくしていた方が良いですね」

 

「…わかった」

 

結局、ヨルハ機体は検査が終わるまでシャトルで時間を潰す事となった。

スキャナータイプ達はぶーたれていたが人間に嫌われるのも嫌なので結局大人しくしていた。

数時間後、無事検査を終えたアンドロイド達はア・バオア・クーを後にしサイド3へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ…8年後のMSは随分と進んでるな」

 

サイド3、ズムシティの執務室ではギレンがアクシズから送られたデータを纏めていた。

内容は、連邦との戦争時の大まかな動きやアクシズで作られたモビルスーツやモビルアーマーのデータ。

戦後の連邦の動きに、分裂したティターンズとエゥーゴの情報など。

 

「連邦め、随分と無茶苦茶な動きをする。グローブでの動きはガス抜きのつもりか?しまいには分裂して内戦か…」

 

幾つかの書類を片付けるギレンは一枚の書類に目をつける。

 

「ハイザック、連邦の技術を取り入れたザクか…武装はマシンガンとビームライフルの換装が可能…ビームライフル?」

 

その後、ギレンは急ぎゲルググの量産も推し進めた。

それだけ、一般兵士からのギャンの評価がよくなかった。

しかし、一部の兵からは好評ではあったのだが。

結局、ジオン軍はゲルググとギャンの両方を量産することが決定した。




ヨルハ機体達とデボルとポポル、ホワイトの忠誠度がMAXを突破しました。


ギレンがアンドロイド達を呼び出した本当の理由は?


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22話 人形とパレード

久々の更新

熱いです! パソコンがヤバい…


暗い宇宙。

空気も無い僅かな岩石が浮かぶ宙域。そこへ、白と黒で塗装されたシャトルが進む。

シャトルは既に月を通り過ぎようとしていた。

 

「…見えた、アレがコロニーだ!」

 

ヨルハの誰かがシャトルの窓からコロニー郡サイド3を見つける。

それを聞いたヨルハやデボル、ポポルとホワイトも窓から外を見ようとする。

 

「あれがコロニー…」

 

「はい、あの円形状のシリンダーが人類の新たなる大地です」

 

窓の外を見た2Bと9Sが感動気味に話す。

この何もない宇宙空間でも人は生きている。

それが溜まらなく嬉しかった。

 

シャトルと行違うようにムサイが通りすぎる。

パトロール艦だ。

その時、9Sがある物を見つけ2Bに教える。

 

「大きい…9S、あれは?」

 

「以前、データで見たドロス級ですよ。実物で見ると大きいなああ」

 

9Sの言葉に他のヨルハの機体も窓から見る。そこには宇宙に浮かぶ巨大空母ドロスが遠目で確認でき周りの艦船から大きさが十分分かり茫然とする。

 

そしてもう間もなく、サイド3の首都1番地、ズム・シティの港につく。

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ、ガルマ隊のヨルハの皆さん。サイド3へ!」

 

宇宙港に着き、シャトルから降りた9Sや2Bたちの前に歓迎の看板を持った少年と、その少年の態度にオロオロする少女、そして少年の行動に頭を抱えたジオン軍人が居る。

歓迎されてるのか煽られてるのか判断が出来ないヨルハ部隊だったが、何人かのヨルハ隊員がその少年が9Sに似てる事に気付く。

 

「2号、何故9号を止めなかった?」

 

「…私もあんな物持ってる事に今気付いた」

 

「え?これよくありませんか?歓迎ですよ、歓迎!人間ってこうして客人を迎えるんじゃないんですか!?」

 

少年…9号と呼ばれた少年の発言に軍人は溜息をつく。どうやら嫌がらせや煽りではないことを知り安堵するヨルハ隊員たち。

 

「はあ、まあいい。ホワイト副指令は居るか?」

 

「あ…自分です」

 

9号の事は無視して話を進めるジオン軍人。名前を呼ばれたホワイトは軍人名前に歩み、自分だと答える。

 

「…総督府でギレン閣下がお待ちです。それからデボルとポポルタイプのアンドロイドも私に付いて来てください」

 

「え?…あ、はい」

 

ホワイトを舐る様に見た後に軍人がそう言って歩き出す。その態度を呆気に取られつつもホワイトは軍人の後を付いて行きデボルとポポルもそれに続く。

三人とも突然の命令だが不満はない、元より人間の命令だ、逆らう気など始めからない。

 

「ありゃりゃ、じゃあ僕達は君達の止まる宿舎に案内するよ」

 

「…付いて来て」

 

上官のジオン軍人を見届けた9号は明るい口調でそう言って2号もそれに続く。

今一納得できない9Sや2Bだったが9号の案内で移動を始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

総督府、ギレンの居るオフィスでは丁度、ギレンが書類と格闘していた。

内容は、アクシズの帰還希望者のリストとドズルの娘、ミネバの成長記録などだ。

 

「…希望者の殆どはサイド3の者か、当然だがこっち(サイド3)の方が若いな、取り合えず保留だ。ドズルにはなんて説明するべきか」

 

書類には、未来のアクシズの人間達の名前が載っておりサイド3に帰りたがってる者も多い。

しかし、当然だが殆どが同姓同名の者であり、中にはこっちでは学徒兵にもなっていない子供と言える若者が多数いる。

ギレンとしては、同一人物同士が会おうがどうでもよかったが、旧暦のSFの話にある同じ人間が会えば対消滅する話を思い出す。

 

「杞憂だといいが…」

 

ギレンとしても創作上の話を鵜呑みにする気はない。しかし、万が一対消滅が起こればコロニーはただでは済まないかも知れない。地球の資源を楽に手に入れられる現状、そうなっては目も当てられない。

考えすぎともいえるが、現にサイド3群は別の世界に転移してるのだ。用心する事に越したことはない。

 

ミネバの件もそうだ。先日、やっと生まれたと喜ぶドズルにお前の娘はもう一人いるなどと、どう言えばいいのか分からなかった。

 

「…公王は喜びそうだな…」

 

ギレンの脳裏に二人のミネバを大事に抱き抱えたデギン・ザビの姿が映る。あまりのお似合いに思わず吹き出しそうになったが、扉がノックされてわざとらしい咳の後に顔を引き締める。

 

「何だ?」

 

「セシリアです。サイド3に到着したホワイト副指令とデボルポポルタイプのアンドロイドがお着きになりました」

 

時計を見て「予定通りか」と呟くギレンは秘書であるセシリアに入るよう命じる。

ギレンの入室の許可を出した直後に、扉が開きブラウンの色をした髪と赤いジオン軍服を着た美しい女性が入る。ギレンの秘書であるセシリアだ。

そして、セシリアの後ろには金髪の後ろ髪の長髪をした女性と赤い髪をした、それぞれ左右のコメカミ部分に白い花を付けた二人の女性が入る。

 

「地球方面軍、ガルマ隊所属ジオン特別軍ヨルハ部隊副指令ホワイト!命令により出頭しました!」

 

「デポルです」

 

「…ポポルです」

 

金髪の女性、ホワイト副指令が完璧な敬礼をする。特注で作られた白いジオン軍服がいやに似合っていた。

そして、それに続いて出赤い髪の女性、デボルとポポルもギレンに敬礼する。こちらは一般的なジオンの軍服だったがこちらも似合う気がした。

 

「よく来てくれた。知っているだろうが改めて名乗ろう。私はジオン公国総帥、ギレン・ザビである」

 

持っていた書類を置いてキリっと睨むようにアンドロイドたちを見るギレン総帥。

その様子にホワイトもデボルポポルも思わず見入ってしまう。デボルポポルはギレンの表情に見とれモニター越しで何度か話したホワイトもギレンに対する評価が限界突破する。

 

「…?」

 

アンドロイドたちの様子が少しおかしいと感じるギレンだったが、二、三話をした後にデボルとポポルにある話を切り出した。

 

「私達の記憶の…」

 

「サルベージですか」

 

「そうだ。月にあったユニットで『白塩化症候群』や『ゲシュタルト計画』までは突き止めた。しかし、それ以上のデータは見つからず調査は難航している。そんな時にデボルポポルのアンドロイドがゲシュタルト計画に関わっていたという情報が得られた」

 

ギレンはアレから10Hが出てきた場所を調べ幾つものデータベースを見つけていた。

それで、白塩化症候群やゲシュタルト計画までは突き止めたが具体的に何をしたのかは謎が多かった。

その時、デボルポポルタイプのアンドロイドが関わってる事を知ったギレンはデボルポポルを調べる事にした。

尤も、デボルポポルタイプのアンドロイドがゲシュタルト計画に関わり大きなミスをして人類に大打撃を与え、その所為でデボルポポルタイプのアンドロイドは殆どが処分され昼の国…ガルマ指令の側近をしている一組以外既に存在していなかった。

 

だからこそ、ギレンはヨルハ部隊を呼ぶついでにデボルポポルの二人を召喚させたのだ。

 

「…私達の記憶が蘇る事がジオンの利益になるのでしょうか?」

 

「絶対とは言い切れん。当時に何が起こったのか?歴史家気取りの馬鹿どもを納得させる為でもあるが、白塩化症候群を防げるのなら防ぎたいだけだ」

 

デボルの問いに冷静に返答するギレン。

ギレンとしては地球に固執してる訳ではない。寧ろ、地下資源しかギレンは興味が無く地球に対する思いなど無い。これは、宇宙に移民したスペースノイドも同じだ。

しかし、何事にも例外はある。

最近、地球に住んでいた記憶を持つ老人たちが地球に帰りたがっている。

父であるデギンは其処まででもないが、サイド3にいるのは若者だけではない。しかし移民時から三十年余りが過ぎ、若かった世代も年を取り地球に住んでいた頃を懐かしみ地球に帰りたがってるのだ。

 

ギレン自身も生産力の無い老人の面倒などアンドロイドたちに丸投げしようと考えるが、もし地球に降り立った年寄りが白塩化症候群にでもなられれば国民が騒ぎ面倒な事になると判断し当時の人間がどのように白塩化症候群に対処していたかが気になったのだ。

 

そんなギレンの言葉にデボルとポポルは頷く。

元より、ギレンの要請を断る気など二人にはなかった。

 

「もう直ぐ、技術部の人間が来る。お前達はそいつに付いて行くがいい」

 

ギレンの言葉に頷く二人。

それから間もなく技術部の兵士が来るとデボルとポポルは執務室から出て行き部屋にはギレンと秘書のセシリア、アンドロイドのホワイトが残る。

デボルとポポルの二人が部屋を出た事で改めて敬礼するホワイト。

 

「楽にしろ、ホワイト副指令。今からそんなに緊張していては本番で倒れてしまうぞ」

 

「はいっ!…本番?」

 

ギレンの言葉に引っ掛かりを覚えるホワイトは思わず呟く。

その声にギレンも反応した。

 

「はて?命令書にも書いていた筈だが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕達が軍事パレードに出るんですか!?」

 

9Sの声が大きく辺りに響く。

その場に居たのが仲間のヨルハ型だけならそれで問題なかっただろうが、

 

「! おぎゃああああ!!」

 

「あ!?ああ、ごめんねっ!!べろべろばあ!」

 

9Sの大声に抱えていた赤ん坊が泣き出し急いであやす。

数秒程の格闘の末に泣いていた赤ん坊がようやく泣き止み9Sの顔を小さな手でペチペチと叩く。

 

「9S、声大きい」

 

「うっ…」

 

その様子に丁度、別の赤ん坊のオムツを変えていた2Bが9Sに小さく注意して他の子供の世話もしていた。

 

何故、ヨルハのアンドロイドである2Bや9Sが子供の世話をしてるのかと言うと、現在ホワイト以外のヨルハタイプはとある孤児院に来ていたのだ。

宿舎へと案内されたヨルハ機体たちが何故孤児院に居るのか?

それは、一部のヨルハ機体に人間と会いたいと駄々をこねる者が続出した為だ。用意された宿舎で缶詰になる位なら人間の手伝いをしたいと思うのがアンドロイドでありヨルハ機体でもある。

そんな隊員たちの要望に頭を抱える2号だったが9号が閃いた。「自分達の仕事を手伝わせよう」

そうして来たのが孤児院だった。

2号も9号も現在は孤児院でボランティア活動として孤児たちの世話を手伝っている。更に、

 

「エーン、オモチャを盗られたよ!ジュウヘイチお姉ちゃん!!」

 

「ああヨシヨシ。ほらA君、C子ちゃんのオモチャを返しなさい。後、私ジュウヘイチじゃなくて10H(テンエイチ)だからね」

 

「飛んで、もっと高く飛んで!ポッド」

 

『これ以上高くは飛びません!!』

 

ギレン総帥の演説時に人気が出た10Hやポッドも孤児院で働いていた。

元から10Hが働いていたが2号と9号もそれに気付くと二人も10Hのように孤児院で働き始めたのだ。

尤も、二人共軍属ということで扱いはボランティアであったが。

 

その孤児院自体はデギンが出資して経営しているが、子供たちの殆どは当然親の居ない子供だ。

税金が払えず失踪や親が犯罪者やダイクン派で逮捕されたり様々な理由で孤児院に居る。

ギレンとしても、働き手になる前の子供の扱いは面倒であったが10Hがやりたいと言うなら特別に許可を与えた。

その所為でジオン国民のアンドロイドに対する好感度が上がったのは皮肉と言えよう。

 

最初の頃は子供相手に右往左往していたヨルハ機体も10Hの指導で段々子供の扱いにも慣れて来た。

そして、2Bや9S以外のヨルハ機体も孤児の面倒を見ている。

 

「お姉ちゃん、遊んで~♪」

 

「ご本読んで」

 

「待って、直ぐには無理だよ。もう、助けて2Bさ~~~~ん!!」

 

「ク~、ク~…」

 

「おや、寝てしまいましたか。可愛らしいですね」

 

ヨルハ機体のオペレーターである6Oは子供たちに引っ張りまわされ、21Oは膝で寝てしまった子供の頭を撫でる。

他にも子供にスカートを捲くられる4号や呆れた様子でイタズラした子供を抱えるA2、何人もの子供に圧し掛かられる4Sなどそれぞれのヨルハ機体が子供たちの相手をしていた。

 

「ブーラ、ブーラ♪」

 

『警告;危険な行動は止めて下さい』

 

「だあ、だあ」

 

『報告;私は食べ物ではありません』

 

彼女たちだけではない、随行支援支援ポッドもまた子供の遊び相手にされていた。

子供たちにとって無機物のポッドもまたかっこうのオモチャになっていた。

 

「アハハハ…」

 

隊員たちのようすに9Sも思わず乾いた笑い声が出る。

ヨルハ隊員は対機械生命体としては精鋭の筈だが子供の遊び相手をしているヨルハ機体たちは今までに無い疲労感を感じていた。

機械生命体と何度も戦った2Bも疲労感が襲うが今までになく充実してる気分だった。

 

そうこうしてる内に、子供たちの昼寝の時間になり皆が息を殺して見る視線の先には布団の中でグッスリと眠る子供たちの姿がある。

寝る直前まで滅茶苦茶グズったり2Bのスカートを翻してレオタードを見て9Sをイラっとさせたりもしたがこうしてると子供たちへの愛情が湧いてくる気分になるのも事実だ。

 

「…やっと寝たね」

 

「疲れた…」

 

「21O、寝かせるの上手くなかった?」

 

「逆にアナタが下手だったのでは?」

 

子供たちが寝むるのを見送ったヨルハ機体たちが後ろ髪を引かれつつ部屋を出て駄弁る。内容は疲れたやら一部の子がイタズラし過ぎと呟いていたが皆の顔は充実した表情でもあった。

周りには同じように子供を寝かしつけたと思わしきヨルハ機体が駄弁っていたりしている。

 

「皆さん、お疲れさまでした」

 

その時、ドアが開くとシスターの服を着た老婆がヨルハ機体たちに労いの言葉を出す。

この孤児院の院長だ。

 

「ああ、院長!」

 

「10Hさんもお疲れ様、暫く休んでなさい」

 

疲労でグロッキーぎみだった10Hも院長の言葉に笑みを浮かべる。

その後に、院長は2Bたちを見回して口を開いた。

 

「疲れたでしょ?遊び盛りの子供の相手は」

 

「あはははは…」

 

「…子供ってパワフルだって情報、間違ってなかった」

 

院長の言葉に苦笑いするヨルハ機体。

ある意味、地上で機械生命体と戦った後より疲労を感じていた。

そんなヨルハ機体達を見たシスターは笑みを浮かべお茶を出していく。

 

「粗茶ですがどうぞ」

 

「へえ、これが粗茶か…」

 

「ええと、粗茶っていうのは元々…」

 

「人間さんが出してくれたら何でも良いよう」

 

出されたお茶を珍しげに見る隊員に粗茶に関するウンチクを言おうとするS型。人間がわざわざ淹れてくれたお茶に感動しつつ飲む隊員など様々である。

 

「…ねえ、シスターさん」

 

「何ですか?」

 

「どうしてあの子達には親が居ないの?」

 

そんな空気の中、2Bがふと疑問に思ったことを聞く。

2Bは今まで地球に何度か足を運んだ際、様々な動物も見て来た。その動物は群れだったり単独だったりするが大抵は子供の傍には親が居て過ごしている。

自分達、アンドロイドは親という存在は居ない。だが、人間には親はいるとデータで知っている。

それにも関わらず、孤児院の子供たちに親が居ないのが不思議だった。

声には出さないが2Bの質問は他のヨルハ機体も気になるようだった。

 

自分の淹れたお茶を一口飲んだシスターはゆっくり語りだす。

 

「経済上の事情とか親が先に亡くなったのもありますが、孤児が増えた最大の原因は宇宙嵐です」

 

「宇宙嵐…」

 

シスターの言葉に9Sがオウム返しする。

一応、アンドロイドの間でも宇宙嵐はある意味有名であった。

謎の宇宙嵐に襲われたのはサイド3群がこの世界に来た原因でもある。

中には宇宙嵐に感謝するアンドロイドも少なくはない。

 

「此方の宇宙に転移した事で出稼ぎに行っていた親たちが帰ることが出来ず、子供たちはアッサリと親を失ったんです」

 

サイド3は月の裏側にあり必然的に地球と最も距離があった。

その所為もあり、サイド3の税金は高い上に物価も高い。それでザビ家が連邦への不満を利用し独立戦争を考えて居たが、一部の人間はギリギリまで稼ごうと月都市で働いており開戦後に戻る予定であった。

それが宇宙嵐でサイド3群がこの宇宙に転移して滅茶苦茶になった。一番の被害者である子供は一斉に親を無くしてしまったのだ。

 

「…そんなことが…」

 

「だいたいギレン閣下も無茶なんだよ、幾らダイクン派がやらかしたからって一斉に逮捕すれば子供を持った家庭なんてアッサリ没落するんだ!案の定、親を失った子供たちが続出して右往左往…それなのに連邦じゃなくて機械生命体との戦争を始めて、兵士も家族持ちが多いから戦死したら当然働き手なんて失うのに!オマケに夫婦そろって入隊してる所も珍しくないから両方戦死したら残されるのは子供ばかり、中には祖父や祖母が残ってる場合もあるけど食べ盛りの子供を養える程じゃない上に絶対数も少ない。なら残された子供はどうなるか?当然、孤児院に引き取られるか、ストリートチルドレンになるのさ。…尤もギレン閣下もストリートチルドレンを放置しなかったけどね…経済だってそうさ、今は戦争というお題目で無茶も出来るけど終戦後どうするのさ?支援金が少し上向こうが子供たちのお腹を満たせるとは言えないし、ボランティアをやってくれる人達も戦後は仕事に呑まれてどの位来てくれるやら。それにね…」

 

世知辛い世の中に9Sが呟いた後にシスターの口からドンドン愚痴が零れていく。

最初は黙って聞いていたヨルハ機体もシスターの愚痴にドンドン引いて行き、誰も何も言えなくなる。

本来なら軍事パレードの事で仲間たちと相談したかった9Sにとってこれは痛かった。

そして、シスターの愚痴が終わる頃には子供たちが起き出してヨルハ機体は、またてんてこ舞いに子供たちの世話をし用意された宿舎に戻ったのは日付が変わる直前だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、翌日。

朝早くからコロニー内の空に祝福の花火が打ち上がる。

空気が貴重なコロニーでは本来花火は禁止されている。しかし、今日に限っては誰も文句を言わず軽快な音楽がコロニー内に流れている。

そして、街の一角では何人もの黒い服の人間…アンドロイドたちが整列し中央には車に乗った白い制服を着たホワイトが居る。

 

「パレードまで…5、4,3,…始まりました!」

 

「総員前進!」

 

運転席にいるジオン軍人の言葉にホワイトは周囲に居るヨルハ機体に命令を下す。

そして全身を始めるヨルハ機体たち。

その先頭にはジオン軍旗と人類軍の軍旗を持って歩く2Bと9Sが居り、その後ろには黒いドレスやタキシードのような制服を着たヨルハ達が続いている。

 

尚、2Bの逆方向には4SとA2が軍旗を握り締めており、直前まで仕立て直されたヨルハ機体の制服をA2は渋い顔をして着る事になった。

そして、行進するヨルハ機体の傍にはポッドも整列し一緒に進み異様な光景とも言えた。

A2は予備のポッドが配属されていた。

 

最後にホワイトが車の上に立ちヨルハ達を見守る様に配置された。

 

ワーーーーーー

        ーーーーーーーーーーー 

                   ーーーーーーーーーー!!! 

 

この瞬間、コロニー内にに歓喜の声が木霊し、まるでコロニー全体が揺れてるような錯覚を感じているようだった。

ヨルハ機体たちの行く手の道の端には何人もの人間が居り、皆がヨルハ機体を見て喜んでいる。

 

 

 

 

軍事パレード。

 

敵機械生命体アダム及びイブが撃破された事で一部の地域の機械生命体の戦線は崩壊し好機と見たギレンが計画したものだった。

とはいえ、人も碌にいない地球上ではなくジオン国民の居るサイド3でやる事になり、更にアンドロイド達の士気上げの為、そして度重なる国民の陳情によりヨルハ機体たちもこのパレードに参加させたのだ。

更にはベルファストで鹵獲したサーバーも使い地球上に居る全機械生命体にジオンの軍事パレードを強制的に見せ戦意を挫く狙いもある。

 

当然、地球にもこの映像が流れ地上のジオン軍もアンドロイド達も見ているのだ。

 

「おお! ヨルハの奴等が人間のパレードを歩いてるぞ!」

 

「羨ましいッ!!」

 

「私達も行きたかったな…」

 

テレビで軍事パレードの様子を見たアンドロイド達は口々にヨルハ機体たちを羨望の眼差しで見守っていた。

人間への思慕をインプットされたアンドロイド達にとってヨルハだけがジオンの軍事パレードに出てる事は嫉妬のような物を彼らの胸に抱えさせた。

実にギレンの目論見通りである。

 

 

 

 

 

 

「パスカルおじちゃん…凄いね…」

 

「ヨルハのアンドロイドも嬉しそう」

 

「…そうですね。 見た事も無いMSもまだまだありそうですね」

 

機械生命体のパスカルの村にもテレビが設置され大小様々な機械生命体がモニターを見守る。

人間の姿やMSを見てはしゃぐ子供たちとは違い、恐怖に震える機械生命体もいる。

その殆どはジオンのMSにコテンパンに降伏した者達だ。

もう逆らう気はないがその時の恐怖はどうにもならない。中には記憶であるメモリーの消去をする者までいた。

 

直後、パスカルはふと考える。

 

 

ギレン閣下も嫌な一手を思いつきましたね。

奪取した機械生命体のサーバーを利用してジオン軍の強大さをアピールして機械生命体の戦意を挫く気ですね。

降伏するなら良し。徹底抗戦なら殲滅も辞さないと。 

…人間とは恐ろしい。

 

 

 

ギレンの目的に感付いたパスカルは一度だけ身震いする。

 

 

 

 

 

場面は戻り、軍事パレードで歩くヨルハ機体はその殆どが緊張している。

見た目は全員寸分狂わず立派に行進しているがヨルハの誰もが人間に見られての行進に緊張している。

それは9Sもそうであったが、横で歩く2Bもそうであった。

 

 

 

…珍しく緊張してるんですか?2B

9S、勝手に機密通信を使わない

アハハハ…すみません。少しでも2Bの緊張をほぐそうとして

もう…

 

 

ヨルハ機体たちの行進はドンドンと進みその度に歓声があがる。

老人夫婦や学生たち、子連れの親まで声を上げている。

 

「おお、ヨルハだ。ヨルハ機体のアンドロイドだ!」

 

「テレビで見た通り黒いドレスよ!可愛いい!」

 

「頑張れよ、アンドロイド達!」

 

人々の歓声を聞いて頬が緩んだり手を振りたい衝動に駆られるヨルハ機体。それだけ人間達の声が嬉しかったのだ。

 

サイド3ではテレビでの9Sの叫び以降、ヨルハ機体の人気が高かった。

9Sの涙ながらの言葉にガルマの返答はサイド3のテレビ局では一番高い数字を誇りそれだけの人間が見ていたのだ。

人間の為に働く彼等をサイド3の人間達は喜んだ。例えそれがプログラムだとしても広い宇宙で孤立しかけていた彼等にとっても希望だったのだ。

 

 

━━━皆さん嬉しそうですね

━━━………

━━━人間の歓声も僕らにとって気持ちいいですね

━━━9S、今は任務を優先して

━━━は~い、…本当は2Bも嬉しいくせに

 

 

 

9Sとの座談を断ち切る2B。

9Sの言う通り照れ隠しもあったが、会話に夢中になり過ぎて何か失態をやっては目も当てられないからだ。

何より、人間の目の前での失態は絶対に嫌だった。

 

 

 

 

 

 

 

軍事パレードは予定通り進み、ヨルハ機体たちは予定されていた場所に到着し全員の足が止まる。

場所はジオン公国政庁であり、周りには既に多数のジオン兵とMSが並んでいる。

目玉でもあったヨルハ機体たちが最後だった。

 

 

━━━見て下さい、2B!あそこにいらっしゃるのは、ギレン閣下の親衛隊長エギユ・デラーズ大佐ですよ!あそこにはジオン公国軍突撃機動軍海兵隊隊長シーマ・ガラハウ少佐が!あの人が初めてアンドロイドに接触したそうですよ!

━━━…9S、落ち着いて

━━━あ!あれが僕達を参考にして作ったというジオン軍製のアンドロイドですか?性能的には僕達の方が上ですね

━━━9S、もう直ぐギレン閣下の演説が始まるから本当に静かにして!

 

 

声には出さないが周りのジオン兵を見てはしゃぎまくる9S。

2Bは知らなかったが、スキャナータイプの殆どは内心はしゃいでおり、ホワイトからの雷が数度落ちていた。

 

そうこうしてる内に用意された壇上の上に一人の人物が現れる。

ギレン・ザビだ。

壇上の上に立ったギレンは兵達を見下ろし黒い箱が飛んでくる。

 

「ポッド?」

 

「随行支援ポッド006ですね。ジオンに回収された後に先日に幾つかが司令官に配給されたそうです」

 

こそこそ話で2Bにポッドの正体を教える9S。

それは、紛れもなく月で回収された随行支援ユニットのポッド006だった。

そのポッド006がギレンの前を飛ぶとマイクのような物が飛び出す。

 

『それではギレン総帥、どうぞ』

 

「うむ」

 

ギレンがポッド006から出たマイクに向けて喋り始める。

 

 

『我が忠勇なるジオン軍兵士並びアンドロイド達よ、私の弟ガルマ・ザビ大佐並びアンドロイドたちの活躍により機械生命体のネットワーク基幹ユニットであった「アダム」及び「イブ」の撃破に成功した。

これは我々の大きな一歩であり、機械生命体にとって取り返しのつかない大きな打撃を与えた。決定的打撃を受けた機械生命体にいかほどの戦力が残っていようと、それはすでに形骸である。…敢えて言おう、カスであると!!それら、軟弱の集団が我々を止める事は出来ないと私は断言する。

機械生命体を導く役割のエイリアンも滅び、機械生命体の戦力は最早風前の灯火となった。

今こそ、地球圏を人間の手に取り戻し機械生命体に引導を渡す時が来た!優良人種たる我々こそが地球圏に未来を作れるのであーる!!

今こそ、人類の力を機械共に見せつけてやるのだっ!!全部隊に対し北アメリカ、アジア、オーストラリアに対し攻略作戦を発動させる!そして、地球を人類の手に取り戻すのだ!!正義は我々にありィ!!ジーク・ジオン!!』

 

 

「「「「「「ジーク・ジオン!!ジーク・ジオン!!ジーク・ジオン!!ジーク・ジオン!!ジーク・ジオン!!ジーク・ジオン!!ジーク・ジオン!!ジーク・ジオン!!ジーク・ジオン!!ジーク・ジオン!!ジーク・ジオン!!ジーク・ジオン!!ジーク・ジオン!!ジーク・ジオン!!ジーク・ジオン!!ジーク・ジオン!!ジーク・ジオン!!ジーク・ジオン!!」」」」」

 

 

ギレンの「ジーク・ジオン」の言葉に誰もがオウムのように繰り返す。

特に、この場に居たヨルハ機体は熱心に繰り返し、地上のアンドロイド達もギレンの読み通り、並みの兵士以上に繰り返し士気を高める事になった。

 

反面、敵である機械生命体側は悲惨の一言だった。

鹵獲されたサーバーにより強制的に軍事パレードを見せられた上に既に幾つもの工場にはミサイル攻撃や月面に急造されたマスドライバーで仲間を増やす事も難しくなった。

 

決定的だったのは、ジオン兵が記録したパスカルの村の映像だった。

映像には、機械生命体を始めアンドロイドや人間が平和に暮らしており、その殆どは戦いから逃げた者ばかりだった。完全なプロパガンダだがジオンを恐れる機械生命体には効果的だった。

 

 

 

 

 

 

『カスだって』

『カスだってね』

『許せないね』

『許さないよ』

『本気出しちゃう?』

『本気だしちゃおっか』

 

 

尤も、それを面白くないと考える者達も居る。

ギレンの演説に沸くアンドロイドたちの背後で半透明な赤い服の少女たちは静かに喋る。

そこへ一台の軍用トラックが通り過ぎるとその少女たちは完全に消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「素晴らしい演説でした。ギレン閣下」

 

「そうか」

 

演説後、政庁の執務室にてギレンは総帥の席に座り、呼ばれたホワイトが演説を褒める。

ギレンも表情には出さないが機嫌は随分と良かった。予定していた事が全て順調にいったからだ。

しかし、ホワイトの脳裏に一つの疑問が浮かぶ。

 

「総帥、一ついいでしょうか?」

 

「何だ?」

 

「我々はこれより地球に戻り敵性機械生命体の掃討作戦に参加しますが、アダムとイブ撃破直後に始めていれば……」

 

ホワイトはギレンがわざわざ自分達を呼び、軍事パレードに参加させて士気上げした事は理解してるが、そのためにアダム及びイブの撃破後、既に一週間以上の時間を機械生命体に与えてしまった。

幾ら、ネットワーク基幹の二人が消えようがそれだけの時間があれば浮足立った機械生命体も冷静になる可能性が高い。

そう思ったのだ。

 

「…覚えておくがいい、ホワイト副指令。勢いだけでは戦争に勝てんよ」

 

その疑問にギレンがそう答える。

今一ギレンの言った意味が分からないホワイトだったが、ギレンはやはり機嫌が良かった。

久しぶりに素晴らしい演説が出来たと思ったからだ。何よりこの演説は地球だけでなく広域に電波を流しアクシズや木星にも届くようにしていた。

ギレンが演説をしジオンは健在だと思わせる為だ。

 

そろそろ、ヨルハ機体を纏め地球に引き返すようホワイトに命令を出そうとするギレン。

その時、執務室に緊急の連絡が入る。

 

『兄上!一大事です、兄上!』

 

連絡してきたのはガルマだった。取り合えず、通信のツイッチを入れるギレン。

 

「どうした?ガルマ」

 

『兄上、エイリアンが乗っていた船の近くの陥没地帯から謎の建造物と三つの巨大な柱のような物が出て来ました!更に周辺で活動していた機械生命体が狂暴化して対応にあたってます!」

 

 

 

ガルマの居る昼の国に巨大な建造物が現れた報告が入る。

機械生命体の反撃が始まるのか?

 

 

 

 




大分遅れての更新。
一応は最終話まではプロットは出来てるんです。後はそれに肉付けしていくだけなんですが…三年ぐらい繋がらなかったのが痛かった!モチベーションが…

恐らくは亀更新になりそうですが一応最後までやる予定です。最後までお付き合いできれば…

2Bや9Sがサイド3に呼ばれたのは軍事パレードと演説の為です。
ギレンの演説はやっぱり「カスである!」と言わせたいね。

尚、このギレンの演説はアクシズや火星にも流れています。

ギレンは戦後、地球に帰りたがる年寄りをアンドロイドに放り投げる気満々です。
ヨルハ機体の就職先は孤児院がダントツかも。基本水さえあればよさそうだし。


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23話 人形+鉄の子宮=大暴れ

久しぶりの更新
今更ながらアニメが面白かった、八話からどうなるかと思ったら最終話までの連続配信の力技!
ボスも予想外で良かったし自分的には満足。

あの後の続編で尺があるのかな…


 

 

 

 

『我が…なる…オン兵たち…』

 

「おい見ろ、ギレン閣下だぞ!!」

 

「ビデオじゃないよな!?デラーズフリートの持っていた過去のギレン閣下の演説集じゃないよな!」

 

大型モニターの前に何人ものノーマルスーツ来た若者たちが集まる。

スーツの色からしてジオン関係者のようだ。

そのどれもが若く全員が新兵に見えるほどだ。

 

皆はモニターに映るギレン・ザビの演説に夢中だ。

此処は、ジオン残党軍最大勢力が居ると言われるアクシズの内部だ。

ミノフスキー粒子の所為か、単純に電波が悪いのかモニターに映るギレンの姿は砂嵐と交互に映像に出る。

 

「あれが…ギレン閣下…」

 

盛り上がるモニター前の一人がギレンの名を呟く。

まだ年若いパイロットの金髪の少年だ。

その少年は目を輝かせながらギレンの演説を眺める。

 

「まさか…本当にギレン閣下か? ならドズル閣下も…」

 

その少し離れた場所では少年と同じくギレンの演説を見ている色黒の中年の男が立っている。

他の者達よりも上官なのか服装が少し違う。

 

その他にも、バラを持った紳士風の青年や何か興奮している猫目の女性も居り少しカオスであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当か?ハマーン。父上に会えるのか!?」

「はい」

 

少女の声が部屋の内部に響く。

少女だけではない、少女の後方に控えていた世話係の女性たちもお互いの顔を見合わせ慌てている。

ハマーンは現在、アクシズのトップである少女…ドズルの忘れ形見ミネバ・ラオ・ザビの前に跪いてジオン公国の話をしていたのだ。

まだ幼いミネバにはジオン公国が復活したとか、過去のジオン公国と接触したと言っても意味が分からず父と母が生きている事を喜ぶ。

 

そんなミネバを傍らにハマーンは懐から一枚の紙を取り出す。

紙は名簿らしく、何人かの名前が刻まれていたがその一つに目印のような物が付いている。

 

(…前の世界では擦れ違いもあったが、此処では関係ない。今の私はお前と同じ年だ、待っていろよ…シャア

 

ミネバには見えないよう舌ナメずりをしたハマーン。その目は見る者が見れば狩人の目だったと言うだろう。

丁度その頃、地上で敵性機械生命体の工場を破壊した某赤いマスクは背筋を冷やしたそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オペレータータイプは急いで持ち場に付け! その他の者達は直ぐに現場に行ってジオン軍のサポートをしろ!!」

 

「「「了解!!」」」

 

バンカーに戻ったホワイトが各員に通達する。

サイド3からオンボロシャトルをかっ飛ばして戻り、慌ただしく動くバンカー内部のジオン兵と合流し手伝いをする。

オペレター席に座っていたジオン兵とスムーズに変わったオペレータータイプのヨルハも直ぐに自分の仕事に戻る。

 

そして、B型及びS型もそれぞれ動く。

ある者は、整備された飛行ユニットで直接地上に降り、ある者はアクセスポイントを使い直接ジオン地上基地へと向かう。

そして、2Bと9Sも、

 

「飛行ユニットの整備完了! 何時でも行けます!」

 

整備士のその言葉に2Bと9Sが頷く。

四号やA2も後から、HLVで合流する事になっている。二人は用意された飛行ユニットに乗り込むとハッチが開き宇宙へと出る。

 

宇宙では、自分と同じ飛行ユニットの乗り込んだヨルハ機体が地球へと向かう姿を何度も見る。

そして、自分たちも昼の国の上空まで来ると大気圏突入ポイントに付く。

同時に、昼の国の上空にジオンのパトロール艦のムサイやティベが何隻も居る事に気付く。

 

『此方、ジオン地球圏第5パトロール艦隊。所属を知られたし』

 

「此方、地球方面軍ガルマ隊所属ヨルハ機体9S並び2Bです。…所属番号…」

 

艦隊の方も此方に気付いたのか通信が入り9Sがそれに答える。

そして、数秒もせず「確認完了」と返事をもらった二人は飛行ユニットで一気に大気圏を降りる。

 

地上は思ったよりも静かで、所々戦闘音や爆発が聞こえる程度だ。

少なくとも、思ったより平和だと二人は思う。

やがて、地下から出て来たという建造物が見えて来た。

 

「これは…」

 

「…大きい」

 

思わず「大きい」と呟く2B。

それもその筈、其処には以前までは存在しなかったネジれた巨大な白い柱のような物が立っており、周囲からは破壊された機械のパーツが吸い込まれているようだ。

更には、巨大な塔とは別に周囲に三つの柱もあり関係性があると思われる。

 

「ポッド、あれが何か分かる?」

 

『不明;あれらも地下から出現した可能性大』

 

ポッドからの返答にがっかりしながらも周囲を飛び回る。

途中、暴走した機械生命体の飛行ユニットが襲い掛かるが、悉くを撃墜していく。

 

『報告;生命反応感知』

 

「生命反応?」

 

「! 柱の真下部分にメイたちが居ます!」

 

「9S!?」

 

そう言い終えると同時に9Sは飛行ユニットの速度を上げ地上に降下する。

9Sの報告に2Bも急いで降下すると、遠目ではあるが3機程のザクと共に何人かの人影を見つける。

 

「メイ!」

 

「あ、ナインズ。やっほ~」

 

地上に降下した9Sがメイに声を掛け、メイも9Sに気付き挨拶をする。

二人の様子を見つつ2Bも地上に降り、改めて巨大な白い塔の様な物を見る。

一見、此処からでは分からない程の巨大さを誇り、天辺も見る事が出来ない。

 

「お、2B~、アンタも来たんだね」

 

「…ジャッカス、アナタも此処に?」

 

2Bが唖然と白い塔の様な物を見ていると横から女性が声を掛け振り向く。

声の主がジャッカスと知り、驚きを隠せない2B。

ジャッカスは基本的には基地で研究しているか砂漠で野良の機械生命体相手に実験するかぐらいにしか動かないアンドロイドだからだ。

 

「いや~ガルマ大佐の命令でね、メイと一緒にコイツを調べていたのさ」

 

そう言うとジャッカスは親指で背後を指差す。

その先には当然、地中から出て来たと言う白い巨大な塔の様な物だ。

 

「あれを…」

 

「それで何か分かった?」

 

「それが全然、ちょっと下がりな。また反応を見るから」

 

2Bの質問に残念そうに答えるジャッカス。

しかし、秘策があるのかジャッカスがそう言い終えると共にメイを始めとした技術者は白い塔から離れ、代わりにザクと2Bの見たこと無い物体が近づく。

 

「何アレ?コックピット剥き出しなんだけど…」

 

「ああ、プチモビですよ。アーマーシュライクタイプですね。もう地上に配備されてたのか…」

 

一見固そうに見える装甲とモビルスーツを小型にしたようにも見えるが顔が丸出しの操縦席が全てを無駄にしている。これにはガルマも絶句、肩にはミサイルポッドが付けられた緑色のアーマーシュライクがミサイルの発射準備に入る。

 

そして、アーマーシュライクやザクが一斉にミサイルやマシンガンを撃つ。

爆風に髪を揺らす2Bと9S。

幾つもの爆発後に煙が蔓延する中、ゆっくりと晴れていくと其処には無傷の柱が

 

「え?無傷!」

 

『報告:損傷なし』

 

これには9Sも驚き、2Bも言葉には出来ないが唖然とする。

あのミサイルの量とザクのザクマシンガン、大型機械生命体も瓦礫に出来る程の威力の筈なのだ。

 

「あ~やっぱりダメか」

 

そんな驚く2Bたちの耳にメイの声が一際響く。

まるで予想通りの展開だという声に9Sが反応した。

 

「メイ、これって一体…」

 

「…見てもらった方が早いかな、ジャッカスさん」

 

何かを聞きたそうだった9Sの姿にメイは少し考えてジャッカスの名を呼んだ。

それに頷いたジャッカスは懐から一丁の拳銃を取り出す。

拳銃の先にはあの白い塔があり、ジャッカスが発砲する。

どうせ、拳銃の弾なんかあの柱にアッサリ弾かれるだろうと考えた2Bと9Sだが、柱に命中する寸前、薄い黄色い色の壁らしき物が出て弾を弾いた。

 

「電磁シールド!?」

「それもかなり強力ですよ!!」

 

これには2Bも9Sもびっくり。

ザクのザクマシンガンもアーマーシュライクのミサイルも全て電磁シールドに阻まれたのだ。

白い柱に傷一つ付かなかったのもこの電磁シールドの所為だと気付く9S。

 

「あのシールドの所為で調査どころか触れる事も出来ないんだよね。今は、機械生命体のネットワークに潜り込んでるけど…プロテクトが予想より硬いんだよね」

 

外から調査が出来ないのならネットワークを使って抉じ開けられないかと考えたジオン軍だが、それもあまり上手くいっていない。

機械生命体のプロテクトがとにかく固く、幾つものノーパソが動かないオブジェになった。

これでは、アンドロイド越しのハッキングも難しく下手すればアンドロイドの神経が焼き切られてしまう。

 

「なら、僕が…」

 

『報告;ガルマ大佐より連絡」

 

9Sが自分もハッキングを手伝うと言いかけた時、ポッド153がガルマから連絡が来たと報告する。

メイとガルマをどちらを取るか悩む9Sは2Bの方に目を向けるが、2Bは「自分で選べば?」という態度で助言の一つもしない。

結局、9Sはポッドの通信を繋げる事にした。

 

「ガルマ、9Sだけど…」

 

『おお、9S戻ったか!軍事パレードは中々良かったぞ』

 

その後、ガルマの幾つかの問い掛けに答える9S。

するとガルマは前髪を掴んで手入れすると本題に入る。

 

『9S、見ての通り現在我が軍は突然の柱と一部の機械生命体の狂暴化でてんてこ舞いだ。君たちは遊撃としてそれぞれの部隊の手助けを頼みた…『ガルマ大佐さ~ん!』パスカル殿?』

 

「パスカル!?」

 

ガルマが各所に散っている部隊の援護を命令しようとした時、パスカルからの緊急通信が入る。

パスカルの言動からもただ事ではないと判断したガルマはパスカルに対応する。

 

『その声は9Sさん!良かった、地球に戻ってたんですね!』

 

パスカルが9Sが地上に戻ってる事に喜ぶが、その通信から爆発音らしき物が聞こえる。

 

「パスカル、いったい何が…」

 

『そうだ、村が…村が大変なんです!!』

 

「「!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在、2Bと9Sは急ぎパスカルの村へと走る。

途中でパスカルとの通信が切れた事で、ガルマが二人に急ぐよう命じたのだ。

9Sも2Bも出来ればメイの手伝いなどしたかったが、それはHLVで地上に向かっているA2や4S達に引き継がせると言われ渋々ながらも命令に従いパスカルの村へと急行しているのだ。

 

「パスカルの村には見張り兼護衛のザクが二機いた筈です、いったい何が…」

 

「無駄口を叩いてる暇はない!」

 

パスカルの村で何があったのか呟く9Sに2Bは無駄口と言って9Sを黙らせる。

そうこうしてる内にパスカルの村のある森林地帯に差し掛かった時に濃い煙が辺りを漂っている事に気付く。

 

「煙?」

 

『報告;経路先に延焼反応』

 

「つまり火事!?」

 

「!?」

 

9Sの「火事」の言葉に2Bはスピードを上げパスカルの村へと急ぐ。

倒れた大木をジャンプして避け、村の入り口である木の橋へと来た。

 

「「!?」」

 

そして、村の様子を見た瞬間二人の体は硬直した。

あっちこっちから火の手が上がり、逃げ惑う機械生命体に赤い目で同胞である村人らしき機械生命体を襲う機械生命体。

ザクの一体が地面に倒れ、そのザクに群がる赤い目の機械生命体。

そして、赤い目をした機械生命体に向けザクマシンガンを撃つザク。

軽く地獄絵図のような光景だ。

 

「一体何が…!」

 

『2Bさーん、9Sさーん!』

 

「「!?」」

 

燃えるパスカルの村を見ていた時、二人の耳に誰かの声が聞こえて来た。

振り向くとそこには飛行パーツを付け飛んでいたパスカルの姿がある。

 

「パスカル!」

 

「良かった、無事!?」

 

『はい、私と子供たちは。ですが大人たちが大勢巻き込まれて…』

 

2Bと9Sがパスカルから事情を話す。

 テレビで、ジオン軍とヨルハの軍事パレードを見て村は大いに盛り上がったが、突如元森の国や別方面から赤い目の光った機械生命体が雪崩込み、パスカルの村の住人である機械生命体に噛み付きだした。

そして、噛み付かれた村人も目を赤くし仲間を噛み付いていく。

 

村に滞在していたジオン兵が即座にザクに乗ってトリモチのザクマシンガンで鎮圧しようとするが数が数、そこまで配備されてなかったザクは足元や駆動系を齧られて無力化されてしまう。

 

パスカルの報告を聞いた2Bと9Sは即座に動く。

パスカルの要望でなるべく壊さず手足を切り落とし、動けなくした後に9Sがハッキングをして正気に戻そうとする。

 

「うわっ!?」

 

しかし、暴れる機械生命体にハッキングした9Sが声を出し即座にハッキングを停止する。

額には汗が流れただ事ではないことは2Bにも分かった。

 

「論理ウイルスだらけで下手にハッキングも出来ない。スキャナータイプでも即座に感染する量ですよ!」

 

機械生命体にハッキングした9Sは即座に理解した。

下手に、ハッキングすればヨルハのスキャナータイプすら逆ハッキングされたちまち論理ウイルスの餌食になる。

9Sですらお手上げである以上、2Bたちは暴れる機械生命体の手足を切り落とし動きを阻害する事しか出来ない。

本来なら、手足を切り落とされても自己修復でまた動くだろうがトリモチのザクマシンガンで完全に包み拘束する。ジオンが開発した新型のトリモチは熱を吸収し耐久力も高い。拘束するにはうってつけだろう。

 

「…暫くはこのままですね」

 

『…ああ、皆が早く戻る事を願います』

 

煤とトリモチだらけとなったパスカルの村。

鎮圧は取り敢えず完了したが、村人たちの機械生命体の論理ウイルスを取り除くまで入る事も許されない。

2Bと9Sはパスカルとと共に機械生命体の子供たちを保護して貰っている工場にいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ア、オジチャンガ カエッテキタ!』

 

『ホントウダ!』

 

2Bたちがパスカルと共に工場に入ると入り口のフロア付近で待機していた機械生命体の子供たちがパスカルに反応して駆け寄ってくる。

その様子に子供たちの相手をしていたであろうジオン兵の兵士がホッとしている様子が2Bと9Sの目に入る。

構造上、見た目だけでは本当に機械生命体の子供なのか判断に迷う事も多い事でジオン兵も緊張していたのだろう。

 

『オジチャン ムラノミンナハ ブジ?』

 

『ええ、お二人の加勢もあって取り敢えず無事拘束出来ました。後は電脳部分を直せば元に戻る筈です』

 

パスカルの報告を聞いた子供たちは全員大喜びする。

当然だ、村に住む機械生命体は仲間であり家族だ。そんな家族が元に戻ると聞けば喜びもする。

中には、機械生命体の世話をしていたジオン兵にも喜びの報告をする。

 

「良かったですね、皆さん」

 

『ウン、オネエチャン アリガトウ』

 

「あ、あの人は…」

 

その一人にはある女性兵士が居り、9Sもその人に気付く。兄であるギニアスの手伝いをしていたアイナ・サハリンだ。

9Sは内心、ガルマの基地で話しかけて来た薄い緑のショートヘアーの女性だと確信した。

 

ウ~~~~~~~~~~~~

            ウ~~~~~~~~~~~~

 

その時、工場のサイレンが鳴り響き、ジオン兵たちが慌ただしく動き出す。

 

『○○方面より敵性機械生命体の大部隊を感知、総員配置に付け!繰り返す総員…』

 

「「「!?」」」

 

工場内の放送で、この工場に敵の機械生命体の大部隊が襲来する事を知る2Bたち、これには一時大人しくしていた機械生命体の子供たちも震えだす。

 

「不味いですね…」

 

「不味いって何がですか?」

 

アイナの呟きに9Sが反応する。

2Bが少しむくれるがアイナの表情は深刻そうでもあり、2Bは耳を傾ける。

 

「現在、工場の戦力は別地点の暴走した敵性機械生命体の殲滅で出払ってます。この工場に残った戦力はノリスのグフ・カスタムがありますが、まだ整備中で…」

 

昼の国に巨大な柱が出現してから、各地の機械生命体が活発に活動していた。

ジオンに与した機械生命体は、別だがその辺を歩く野良の機械生命体は同じ機械生命体だろうと人間に与していればパスカルの村のように敵として襲って来たのだ。

 ジオンは、この機械生命体の動きに後手に回り各地で出動しては鎮圧を繰り返してる。

この工場の戦力も別方面の機械生命体の鎮圧に向かいほぼカラに近い。

 

「なら、僕たちが敵を食い止めます!」

 

『私も子供たちを守る為に…はて、呼び出しが…」

 

工場の戦力は無いに等しい。なら自分たちが機械生命体の相手をすると9Sは言い2Bも静かに頷く。

元より彼らは対機械生命体のヨルハ機体だ。今こそが人間を守るのが使命だと言い出さん位気合が入っている。

パスカルも子供たちを守ろうと戦う準備をしようとするが、誰かがパスカルに用があるらしく工場の奥の方へ消える。

 

「…分かりました。ご武運を」

 

アイナのその言葉に9Sと2Bに気合が入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

工場前、出入り口の前には大きな階段があり何時もは殺風景な場所だ。

今は、その場所で二人のヨルハ機体が迫りくる機械生命体を次々と倒していく。

 

「2B、そっちに行きました!」

 

「!?」

 

9Sの声に振り向くと片腕の切られたドラム缶型の機械生命体が拳を振り上げる。

咄嗟に、機械生命体の拳を回避した2Bは支援ポッドのビームで返り討ちにする。

既に何体もの敵性機械生命体を破壊するが、階段や飛行型が牽引して倒した数を超える敵性機械生命体が増える。

 勿論、2Bと9Sだけが戦っている訳では無い。

別訪問の敵性機械生命体を相手にするジオン軍とアンドロイドの部隊に2Bたちを援護するように工場から弾幕が敵性機械生命体に降り注ぐ。

 

それでも敵性機械生命体は何処から用意したのか大型の者や戦車型まで投下してくる。

 

「ハア…ハア…」

 

「9S、下がって!後は私が…」

 

戦闘型の2Bに比べ、スキャナー型は戦闘よりも調査向けの型だ。

長時間に続く戦闘に9Sの体が悲鳴を上げ始める。

 

『敵影確認;タイプ、戦車型とエンゲルス級が複数』

 

「まだ増援が!?」

 

やっとこさ機械生命体の戦車を破壊したのにポッドから更なる敵の増援に2Bも思わず叫ぶ。

尤も、数で圧し潰すのが機械生命体の戦略でもある。いくら高性能なアンドロイドが造られ運用されようが単純な構造で大量生産される機械生命体の前では消耗の差でいずれはアンドロイドが根負けし鉄くずとなった。それが5千年にも渡るアンドロイドと機械生命体の戦いだ。

 

今回も、機械生命体はそれを狙ってるのか次から次へ戦力を投入している。

いくら、2Bと9Sでも固く大きい弾幕を撃ちまくる機械生命体の戦車が三台もいては防戦一方になってしまう。

遂には、片足にエネルギー弾を受けた9Sが倒れ2Bが庇いに入る。

2Bの目には全ての砲塔が自分たちに向けられてる光景だった。

 

 

 

 

 

 

「人型3…タンクもどき3。さすがのヨルハ達も限界か…よし!」

 

今まさに、三台の戦車からの砲撃が来ると思った瞬間、一台の戦車に石ころが落ちる。

しかし、戦車に乗る機械生命体は気にしない。大方、戦闘維持で撒きあがった小石か同胞である機械生命体の一部だろうと思い込んだ。

 そして、それが決定的な隙となる。

 

2Bは見ていた。

一台の機械生命体の戦車が上から弾丸を何発も撃ち込まれ、水色のモビルスーツが戦車に着地した。

 

「一つッ!!」

 

水色のモビルスーツ…グフカスタムから声が聞こえると同時にヒートサーベルが突き立てられる。機械生命体のオイルがグフカスタムにつき、それが返り血にも見える。

弾幕を撃ち抵抗していた戦車も遂に停止する。

 

仲間が倒されたからか、突然グフカスタムが現れたからか二台の戦車は2Bに向けていた砲塔を急いでグフカスタムへと向けようとするが、

 

「遅いっ!二つ!」

 

取り付いた戦車を沈黙させたグフカスタムは腕のワイヤーをもう一台の戦車に絡ませる。

行動を起こそうとした機械生命体の戦車だったが、直後に許容量以上の電撃によりシステムが停止する。

そしてもう一台の戦車にはグフカスタムの持っていたヒートサーベルが投げられる。

 

「三つッ!!」

 

鈍い金属音と共にヒートサーベルが刺さる戦車、しかし機能停止には至らず火花が散りシステムがエラーしかけてる機械生命体だがそれでもグフカスタムに標準を合わせようとし、機能停止した。

 

「す、凄い!!」

 

2Bはアッサリと三台の機械生命体の戦車を瞬殺した事に驚く。

自分たちでは、こんなに早く倒すのは不可能に近く、モビルスーツでも単機で三台の戦車を沈黙させるのは骨が折れる。

現に、自分たちがジオン軍と接触した時にモビルスーツが出撃したが此処まで早く撃破は出来ていない。

あのグフカスタムに乗っているのは間違いなくエースだと2Bも思った。

 

『無事か、お前たち』

 

三台の戦車を撃破したグフカスタムは立ち上がり戦車に刺さったヒートサーベルを抜くとモノアイを2Bたちに向けそう聞いた。

 

「は、はいッ!」

「た、助けてもらってありがとうございます!!」

 

唖然とする2Bだが、グフカスタムのパイロットの言葉に急いで返事をする。

2Bに抱きかかえられてる9Sも急いで礼を言う。

グフカスタムのデータはあるが改めてエースが動かすグフカスタムの動きに圧倒される二人。

尤も、グフカスタムのモノアイは直ぐに真っ直ぐ向かう。

視線の先には複数のエンゲルス級が居る。その内の一体が巨大ビームを撃とうとしている。

 

「させるかっ!」

 

グフカスタムのパイロットはワイヤーの絡まっている機能停止した戦車を振り回しビームを撃とうとしているエンゲルス級に投げた。

投げられた戦車はエンゲルス級に直撃し爆発したが撃破には至らない、それでも足元を崩すくらいは出来た。

その隙をグフカスタムのパイロットは見逃さなかった。ランドセルのブースターを吹かし一気にエンゲルス級の一体に接近するとヒートサーベルで顔面部分をぶっ刺す。

エンゲルス級はアッサリと停止すると、その停止したエンゲルス級を足場にし別のエンゲルス級に飛び掛かる。

 

「怯えろ、竦めっ!!性能を生かせぬまま死んでいけぇ!!」

 

それからは一方的だった、エンゲルス級もただやられる訳では無くミサイルや掘削用の腕で反撃しようとするが、グフカスタムの巧みな動きに翻弄され一体また一体と倒されていく。

 

元々グフはジオンが対エンゲルス級用に用意した機体だ。

それを更に改良したグフカスタムはまさにエンゲルスキラーと言える機体となった。

尤も、新兵では碌に力を発揮できずベテランの兵に配られる程度だったが、

 

最後の一体のエンゲルス級が海面へと倒れる。

ほぼ無傷で勝利したグフカスタムだが、コックピットでは警報が鳴り響く。

 

「くっ、整備を早々に打ち切った所為か!?」

 

グフカスタムはメンテ整備の途中で敵性機械生命体の軍勢が来た事で早々に打ち切り急いで組み立てた。

その弊害か、エンゲルス級を撃破してる途中コックピットでは警報が鳴りだしたのだ。

パイロット…ノリスは急ぎ機体を戻そうとブースターを吹かせ工場の入り口に戻り。

直後、コックピットでは別の警報が鳴り響いた。

 

『報告;更なる敵影』

『推奨;退却』

 

ポッドたちの報告で更なる敵の襲来を知らされる2Bと9S。コックピットにいるノリスもレーダーから敵を感知するが、一瞬言葉を失う。

2Bも9Sもポッドが退却を推奨した理由が直ぐに分かった。

 エンゲルス級が現れた海の方の空が暗い。雲ではない敵の機械生命体の大軍だ。

空を覆いつくすほどの量の機械生命体に9Sは以前アーカイブで見た「敵で海が見えない!」と言うセリフを思い出す。

言うなれば、「敵が七分に空が三分だ」といったところだろう。

 

「エンゲルス級が、まだあんなに…」

 

飛行型機械生命体だけではない、飛行母艦が牽引するエンゲルス級の姿まで確認できる。

過去に機械生命体戦争でも数の差に敗れたが、この数は今まで以上だ。

 

「6O、急いで飛行ユニットを寄こして!」

 

『…ごめんなさい、2Bさん。現在飛行ユニットは他部隊で運用されて…』

 

2Bがバンカーに飛行ユニットを要請するが、機械生命体の活動は此処だけではない。

ほぼ昼の国全般で起こっており別のヨルハ機体に飛行ユニットが使われ2Bたちに渡す飛行ユニットはない。

飛行ユニットはない、グフカスタムはパイロットのセリフから整備不良のようだ。

打つ手なしかと思われた時、工場の正面の扉が開いた音がする。

 

「!? え…」

 

援軍かと期待した2Bだが振り返った先にはパスカルが保護していた機械生命体の子供たちだった。

皆、震えながらも工場の外に進み同族でありながら敵である機械生命体の部隊を見る。

 

「アナタたちは下がりなさい!」

 

思わず2Bの口からそんな言葉が出る。

パスカルにとって機械生命体の子供たちは宝だ、もし子供たちに何かあればパスカルがどう反応するか予想できない。

 

「ダ…ダイジョウブ ダヨ オネエチャン」

 

「オジチャン ガ イッテタ  ンダ。 カンセイ シタッテ」

 

そんな2Bの声に機械生命体の子供たちはそう返した。

機械生命体の子供たちの言葉を今一理解出来ない2B。

 

「カンセイ? 何が…」

 

2Bが子供たちに「何がカンセイした?」と聞こうとした瞬間、地響きのような物が聞こえ同時に2B達も震えだす。

 

「一体何が…」

 

『報告;工場内部から高エネルギー反応』

 

突然の地響きに慌てる9Sだがポッドから工場から何かが出てくると聞いて2Bたちの視線は工場に向かう。

一見、何の変哲もないただの工場に見えるが、屋根の部分が動き出す。

 

屋上の通路、屋根といった部分が折りたたまれ上から見れば内部が見れるだろう。

 

「なに…」

 

「…改造されてたんですかね?」

 

2Bたちとて、何度か工場に入り機械生命体から奪取したり用事で来たりしているが、このような機能があるとは思ってなかった。

恐らく、占領後ジオン軍が改造したんだと考える。

 

二人の想像を他所に工場の天井が完全に開き切った後、巨大な影が出てくる。

 

「大きい…」

「大型モビルアーマー!?あんなのデータにないぞ…」

 

思わず呟く2Bと見たことないモビルアーマーに少し興奮する9S。

それは、機械生命体の空中母艦を超える大きさに濃い緑の塗装。中央には巨大な窪みとその上にはザクヘッド。

2Bや9Sのデータにも存在しない機体にまたもや唖然とする。

心なしか機械生命体の軍勢も動揺してるようにも見える。

 

「あれはお兄様の夢です」

 

「!? ア、アイナさん!」

 

突然の声に反応すると其処にはジオン軍の関係者が居る。9Sも覚えている女性のアイナだ。

アイナは傍に寄る機械生命体の子供を撫でながらも浮かぶ鉄の塊を見ている。

よく見れば、浮かぶ鉄の塊の周りを機械生命体の空中母艦が何台か浮かんでいる。ご丁寧に艦の横にはジオン軍の印が刻まれている。

 

『アイナ様、ギニアスさまはとうとう?』

 

「ええ、アプサラスを完成させました」

 

グフカスタムのパイロットの言葉にアイナはそう返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、アプサラスの操縦席ではモニターの前でせせら笑うギニアスが居る。

 

「フフフ…私のアプサラスの前ではあの程度の機械生命体など物の数ではない」

 

『あの~ギニアス少将、本当に私が補佐でいいんですか?』

 

すると下の席から電子音じみた声がする。

パスカルだ、工場の出入り口付近で呼び出されたパスカルが下の席に座り幾つかのコードが繋がれている。

 

「パスカル、お前の演算能力と電子頭脳を使いアプサラスはより強固となる。大人しく協力しろ」

 

『協力するのはいいんですが、機械使いが荒いですよ~』

 

ギニアスの強引な手にパスカルは呆れつつもアプサラスの制御に入る。

取り敢えずは、敵陣のど真ん中に標準を合わせる。

 

「大型メガ粒子砲…発射!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たち機械生命体たちは判断に困っていた。

アンドロイドとの戦いは基本数だ、相手を上回る圧倒的数で圧し潰す。数千年以上続くアンドロイドたちとの戦闘の結果であり、例えそれが人間に変わろうとその戦術は正しい…筈。

その為に、この付近に居たサーバーと繋がる機械生命体を掻き集め秘蔵のエンゲルス級も複数用意した。

負ける筈がない。

 

そう考えていた機械生命体だったが、正面のデカブツが光ると共に意識がブラックアウトする。

 

別の機械生命体たちは見ていた。

正面のデカブツが巨大なレーザーを撃ち展開していた同胞である機械生命体を飲み込んだ。

それどころか、直撃を避けられたユニットも余波で爆発が相次ぐ。

完全に予想外の攻撃力に飛行母艦で吊られていたエンゲルス級を予定より早く投下する部隊。

既にミノフスキー粒子は濃く通信により連携は出来ないのが難点だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うわ……』

 

「フフフ…アプサラスの性能は予定通りだ。この大型メガ粒子砲なら地下に隠されたサーバーも意味がない。サハリン家の夢が私の夢が叶うのだ!!ゴホッ!」

 

あまりの惨状にパスカルはアプサラスの性能にドン引きし、ギニアスは興奮してむせる。

その間にもエンゲルス級が反撃のレーザーを撃ったりミサイルを飛ばすが周辺にいたジオンのマークをつけた空中空母が盾になる。

放たれたレーザーは空中母艦に触れると拡散し消滅する。

 

「ふむ、機械生命体の空中母艦に取り付けたIフィールドは問題ないようだな」

 

『…レーザーを完全に弾きましたね』

 

ギニアスの言う通り、ジオンに寝返った機械生命体の空中母艦にはIフィールドが取り付けられアプサラスの護衛を任務としていた。機体強化もされ実体弾も効果が薄くされている。

尤も、Iフィールドをいかすために武装の殆どは下ろされ機銃ぐらいしかない。

 

『おや、敵性機械生命体がバラバラになっていきますよ』

 

「固まっていればアプサラスのメガ粒子砲の餌食になると考えたのだろう。だが無駄だ、奴らに「光のシャワー」を見せてやる!」

 

 

 

 

 

 

固まっていてはダメだ!

エンゲルス以上のレーザーが俺たちの仲間を吹き飛ばしやがった!固まっていると同じ目に合う!

俺の他にもそう考えたんだろう、軍隊として固まっていた飛行ユニットを付けた奴等もなるべく離れ空中母艦からも一気に兵隊を放出している。

これだけ、散開していればあのレーザーでも何割かは生き残…光った幾つもの光に見える…

 

 

 

 

 

 

アプサラスのメガ粒子砲に即座に対応しようとした機械生命体だったが、次はアプサラスの放つ拡散されたレーザーに次々と落とされていく。

 

「拡散メガ粒子砲、素晴らしい威力だ! 私の夢を味わえ、機械生命体どもっ!!」

 

『演算が面倒くさい…標準がまたズレた!?』

 

己の造ったアプサラスの力に酔うギニアスとひたすらビーム角の修正や機体の制御をやらされるパスカル。

 凸凹コンビにも見えるが戦果はドンドン上がっていき、のちに機械生命体でジオンの勲章が貰えたそうだ。

 

 

 

 

 

 

「…一方的ですね」

「…機械生命体がハエみたいに逃げ出してる」

 

最早決着はついた。

地上で見ていた2Bたちもそう感じる程の戦力差。大型とはいえたった一機のモビルアーマーに機械生命体が次々と落とされ遂には戦線は崩壊。

見ていた機械生命体の子供たちは「アレ二 パスカル オジチャン ガ ノッテ ルゾ!」と大興奮だった。

 

 

工場を攻めて来た機械生命体の大部隊は壊滅しミリタリーバランスは完全にジオンに傾いた。

尚、アプサラスの戦闘を見た赤い服の少女は涙目になったそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アクシズにもパレードでのギレンの演説が少し流れました。
アクシズに居るジオン残党にはクリティカルの模様、ハマーンが肉食獣の目になりました。
この時にハマーンって二十歳ぐらいで一年戦争時のシャアも二十歳でしたよね?ブライトが19歳なのは覚えているが…

パスカルの村が原作通り襲撃されました。
何機かザクがいたので被害は軽微です。

アプサラスが完成しました。
何故かパスカルがサブパイにされました。今後もギニアスに扱き使われそうです。
アプサラスのメガ粒子砲も伊達に山をくり抜いた威力はしてません。完全に機械生命体キラーです。

因みに、ジオンに改造された空中母艦ですが、イメージ的には種運命のザムザザーです。
攻撃一辺倒のアプサラスの周囲を飛び回ってアプサラスを守ります。…想像するとデカいファンネルですね。

ビームとレーザーの違いが未だに分からん…


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24話 人形と白い塔 (天井喪失)

ハマーンとシャアの反応がなくて残念。


 

 

 

工場での敵性機械生命体の軍勢を文字通り溶かして消滅させたアプサラス。

呆然とアプサラスの性能を眺めていた2Bと9Sたち。

其処に、アプサラスから通信が入る。

 

『どうかね、私のアプサラスの性能はっ!!このアプサラスが主力となれば、どれだけの数の機械生命体など敵ではないぞッ!!ゴホッ!』

 

『分かりましたから落ち着いてください、ギニアス少将!何度も聞いてますから、…すいません、2Bさん9Sさん。この度はありがとうございます』

 

通信機からはテンションが上がりに上がったギニアスと何とか落ち着けようとし、2Bと9Sにお礼を言うパスカルの声が聞こえる。

アプサラスの圧倒的な性能に度肝を抜いた二人は暫し呆然とした後に返事をする。

尤も、その返事も心ここにあらずといった感じではあったが。

 

その後、工場の危機も去り機械生命体の子供たちも暫く工場で保護後、パスカルの村が落ち着けば帰るといった話になる。

しかしパスカルは、暫くアプサラスのサブパイ…或いはパーツ扱いされ近くの山に隠されてる事が確認された巨大サーバーの破壊及び、白い塔の調査に入るといってそのまま飛行を続ける。

 

仕方がないので、2Bと9Sも持ち場であるメイの所に戻る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人が白い塔のある、廃墟地帯の窪んだ地帯まで戻る。

見たところ、白い塔も変わりなく周囲に居たジオン兵やアンドロイドたちも変わりないように見えた。

しかし、其処には2Bたちが離れる時、居なかった人物がいる。

 

「ん?戻ったか」

 

「A2さんたちも着いていたんですね」

 

其処には、2Bたちより遅れて地上に到着したA2や4Sと4号たちだ。

其処等辺に機械生命体の残骸が散らかってる事から、自分たちが離れた時に襲撃でもあったのだろう。

その後、少しの情報交換をする一行。

 

A2たちからの情報は予想通り、飛行型機械生命体とそれに連れられた小型の機械生命体との戦闘で多数の敵性機械生命体を撃破しメイたちを守っていた事くらいだ。後は、目の前の塔は移動行動物、エレベーターの様な物だと判明した。

逆に2Bや9Sが体験した工場の一件を聞いたA2たちは4S以外顔を歪ませた。

 

「新型の超大型モビルアーマー?」

 

「そいつが、何体ものエンゲルス級を蒸発させて多数の飛行型機械生命体を殲滅?嘘だ~」

 

「…本当」

 

 

 

「…9S、後でアーカイブを頂戴」

 

「いいよ」

 

A2や4号は常識が邪魔をし2Bたちの情報が信じられず、逆に好奇心旺盛なスキャナー型である4Sは9Sに後でその情報を貰えるよう交渉していた。

何より、自分たちの創造主である人間が造ったのだ、そう考えればA2や4号も頭のどこかでは納得してるのかも知れない。

 

此処では特に進展が無い事に溜息をついた9Sがふと上を見る。

上には、白い塔が上り上部付近には幾つもの白い塔と同じ素材で造られてると思われる管の様な物が巻かれ、まるで過去に資料でみた芸術品にも見える。

そして、周囲には何機かのルッグンが飛び調査をしているようだ。

 

9Sが見れば、メイたちも退屈してきたようで一旦基地に戻った方がいいかと考えた時だった。

 

 

 

『こんにちは!『塔』システム管理サービスです!』

 

 

 

上から拡声器でも使ってるのか、少女の声らしき物が辺りに響いた。

突然の声に、パソコンを弄っていたメイとジャッカスは手を止めて上を見て、メイたちを守るように2Bや9Sたちも武器を取り出しメイたちの護衛に入る。

プチモビのアーマーシュライクとザクも武器を片手に周囲を警戒する。

しかし、敵性機械生命体の姿は何処にも見えない。

 

『今日は、塔のためにお集まり頂きありがとうございます!残念ですが現在、『塔』へのアクセスは出来ません!御用の方はそのままお待ちください!』

 

一方的な塔からの宣言の後に音楽の様な物まで聞こえてきて誰しもが唖然とする。

音楽もまた適当な音程で聞いてる者の精神が揺さぶられるような気分となる。

 

『疑問;機械生命体がこんなアナウンスをする理由』

 

「…そんなの私が知りたい」

 

そんな空気の中、2Bの随行支援ポッド042が疑問を口にし2Bも自分の気持ちを話す。

この白い塔を造ったのは間違いなく機械生命体だ。

しかし、調べてる最中に変なアナウンスをし、不気味な沈黙に誰しもが口を閉じている。

 

「ん~~まるで電話みたい」

 

次に呟いたのはメイだった。

 

「メイ、電話みたいって?」

 

それに興味が出たのか9Sがメイに質問する。

2Bを始めとしたヨルハたちも興味津々の様で視線をメイに向けている。

 

「メイがね、軍と偉い人に電話で話すと席に居なかったり担当の人に繋ぐときに待っている間に音楽が流れるんだ。それと同じだと思って」

 

メイとて、小さいながらもモビルスーツの整備を任務としておりモビルスーツ開発局とも話をする事がある。

担当が何時でもいる訳では無いので待つ場合が多いが、その待っている間に流れる音楽をメイは今回で思い出したのだ。

 

「…それじゃ機械生命体は人間のマネでもしてるみたい」

 

「ありえない話じゃないね」

 

4号の呟きにジャッカスが肯定する。

 

「2Bも9Sも見ただろ、砂漠で仮面をつけた機械生命体と変な化粧をしていた機械生命体を」

 

ジャッカスの言葉に2Bと9Sは頷く。

ジオンと接触する前から一部の機械生命体が木でできた仮面をつけて踊っている事があったが、ジオンが地球に来てから、それが爆発的に増えた。

中には、人間風の化粧や遊びなども真似ており、一部のアンドロイドからヘイトも買っていたが。

 

「奴等は人間を見て真似てる。理由は知らないけど…あたしが思うに、ある意味アンドロイド以上の思慕のような物があるのかもね」

 

「…奴等にそんな感情があるもんか」

 

ジャッカスの推測に9Sが吐き捨てるように言う。

この戦争でジオン兵も結構な数が戦死しており、敵である機械生命体が人類を思慕してきてるなんて許せる訳が無い。

それは、9Sだけでなく2BやA2たち、何なら言い出しっぺのジャッカスすら面白くないと言った反応だった。

暫しの沈黙が流れる中、不協和音の音楽が鳴りやんだ。

 

『お待たせしました、『塔』へのアクセス権は『アクセス認証キー』が必要です。現在、『塔』へのアクセスは出来ませんが、特別サービスとして『資源回収ユニット』で『アクセス認証キー』が入手出来ます。皆さん挙って挑戦してください』

 

「資源回収ユニット?…!?」

 

「わあ、何これ!?」

 

アナウンスから聞きなれない言葉を聞いた9Sがオウムのように呟く。直後、9Sや2B、他のアンドロイドの思考にノイズが走る。

それどころか、メイの使っているノートパソコンの画面も歪み1秒もせずに治る。

 

「今のは!?」

 

『報告;敵システムからの強制通信』

 

『彼らの言う、資源回収ユニットの場所の通知』

 

なんて事は無い、機械生命体が9Sたちに資源回収ユニットの場所を教えたのだ。

何処までも舐めた事をしてくれる機械生命体に腹の立つアンドロイドたち。

 

「…あれ?これって…ケンたちから通信?」

 

メイの使うノーパソにも資源回収ユニットの場所が送られ確認するとメイの口から言葉が漏れると同時に仲間であり別行動をしているケンたちから通信が入った。

 

 

 

 

 

 

尚、ほんの数秒前まで、

 

『死ニタクナイ…死ニタクナイ…』

『殺さないで…殺さないで…』

『タスケテ…タスケテ…』

 

何処かの薄暗い通路、その場にいる機械生命体は口々に死にたくないと言い何かに向かって攻撃する。

濃い紫色をした機械生命体の放ったエネルギー弾は目標に接近するがアッサリと回避される。

そして頭部の目…モノアイが赤く光る。

 

「死にたくなくば其処を退けぇッ!!我が行くてを邪魔をする者は死あるのだぁ!!!」

 

背中のランドセルに取り付けてあるブースターが火を噴き、ゲルググは加速しビームナギナタが回転する。

その周辺にいた機械生命体は次々と切り刻まれ爆発していく。

 

「何と他愛ない、鎧袖一触とはこのことか」

 

攻撃を仕掛けていた敵性機械生命体を殲滅したアナベル・ガトーは乗機をそのまま奥へと進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい天気ね…」

 

ドムのコックピットで空の映像をモニターで見る二アーライト少佐。

天気のよさにタバコがあれば吸いたくもなるが今は任務中だ。

二アーライト少佐の乗るドムの周りには無数の機械生命体の残骸が広がっている。

 

「こういう日は、思わず踊りだしたくなるわね。アンタはそう思わない?」

 

そう言って二アーライト少佐はドムの足元の映像を見る。

映像の先には、白く光る玉のような物があった。

白い球の守るようにされていた小さな柱も天井も突破られ、玉は無防備に光るだけだった。

 

『タスケテ…タスケテ…』

 

その玉からは機械音声が聞こえ助けを求める。一見、幼い子供の声にも聞こえるが機械ゆえに見ただけでは分からない。

尤も、二アーライト少佐はその声に一切反応しないが、

 

「つまらない回答ね…何度も言ってるでしょ、嫌よ」

 

二アーライト少佐にとって、光る玉の正体は分からないがどうせ敵性機械生命体だろうと考え、玉からの救援を無視する。

ドムの片手に持っていたヒートサーベルをゆっくりと玉の方に近付ける。

 

『止めろ…止めろ…』

 

機械生命体の残骸の中からか細い声が聞こえると共に何かを引きずる音がする。

溜息をついた二アーライト少佐がモニターを弄ると映像に足を破壊された一体の機械生命体が体を引き摺って玉に近づこうとしている。

 

その場にいる機械生命体の殆どが、光る玉を守る為に二アーライト少佐のドムと戦い…敗れた。

幾ら数が居ようがドラム缶程度の大きさの機械生命体と18mを超えるモビルスーツと戦うのは無謀と言えた。

 

「うるさいわね…何が森の王よ。敗北者風情が!」

 

そう言うと、二アーライト少佐はドムのヒートサーベルで玉を一気に突き刺す。

ヒートサーベルの熱量と玉の放電で、何度か火花が散るとやがて静かになる。

同時に、守ろうとしていた機械生命体も『あ……ア…』と声を漏らした。

 

直後に、二アーライト少佐の下に何機かのドムが寄ってくる。

 

「少佐、内部の敵性機械生命体の殲滅完了しました」

 

「あら、早かったじゃない。じゃあガルマ大佐の下に戻るわよ」

 

部下の報告を聞いて、二アーライト少佐はドムのランドセルのブースターの出力を上げる。

剥き出し上の屋上から侵入した時と同様に屋上から出ようとしてるのだ。

 

『待てっ!!』

 

しかし、そこに待ったをかけた者が居た。

二アーライト少佐が溜息を突きドムのモノアイを向けると、さっきの死にかけの機械生命体が呼び止めたようだ。

 

『殺せ…殺せ!俺を殺せ!!』

 

その口(機械生命体に口はないが)からは自分を殺すよう訴えている。

守るものすら守れず、仲間たちも、もう何も言わない残骸。

最早、自棄になってるのだろうと考えた二アーライト少佐はドムの通信機を弄り外部に声が出るようにする。

 

「アンタ、死にたいの?」

 

『!そうだ、俺を殺せ!殺せ、卑怯者!!』

 

「そう…嫌よ、ヴァ~カ!!」

 

機械生命体の頼みをハッキリと断る二アーライト少佐。

唖然とする機械生命体に二アーライト少佐は続けて言う。

 

「死にたいなら勝手に死ねば?此処なら雨風が吹いて何れは朽ちるわ。何だったら他の仲間の機械生命体が介錯してくれるかもね」

 

守る物も失い、死を乞う機械生命体を嘲笑う如く二アーライト少佐は最後に「ホ~ホホホ」という笑い声まで上げる。

そして、機械生命体に興味が無くなったのか再びランドセルのブースターに火が入る。

 

『卑怯者…卑怯者!! …ああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』

 

機械生命体が断末魔のような声を上げるが、二アーライト少佐は一切気にせずドムのブースターでその場を離れる。

勿論、部下たちのドムも一緒にだ。

 

「…少佐、トドメを刺さずに良いんですか?」

 

「ああいうのは、無駄に助かっても自害を選ぶわ。あの機械生命体みたいな思考、ジオンに多いから詳しいのよ。あんなアナベル・ガトーみたいな機械生命体のいう事になんて従う必要はないわ」

 

二アーライト少佐の回答を聞いて「はぁ…」と答えるマッチモニードの隊員たち。

直後、徹底的に破壊された()()()()()()()()が爆発炎上し地面へと落ちていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ケンたちからの通信で資源回収ユニットって奴を落としたっぽい」

 

「「「「………」」」」

 

メイが通信から聞いた情報に2Bや9Sどころか、他のアンドロイドたちも黙り込む。

『塔』からのアナウンスが流れて一分もせずに目標の一つがクリアされたのだ。ヨルハにとっても肩透かしもいいところだ。

メイの報告を聞いて、複雑な思いを抱いているヨルハたちだが、今度は別の場所から爆音が聞こえ振り向く。

其処には、『塔』と同じく地下から現れた柱…機械生命体曰く資源回収ユニットの一つが炎を上げ落ち行く場面だった。

 

「…ああ、二アーライト少佐のマッチモニード隊が資源回収ユニットを破壊したみたい、それにガトー少佐も資源回収ユニットの攻略が完了したって」

 

目標が全て消えた。

アナウンスの言っていた資源回収ユニットは全て落とされた。速攻で。

2Bも9Sもとくに認証キーの獲得もなく、暫くの間『塔』を見ていた。

『塔』はアナウンス以降、完全に静かになっており何を考えているのか今一分からない。

 

『報告;高エネルギー反応確認』

 

「えぅ!?」

 

沈黙を破ったのはポッドの報告だった。

直後に、上空を突き破るように一筋の光が『塔』の上部を削る様に過ぎ去っていく。

同時に何機ものガウ攻撃空母が光の削った『塔』の天辺へと迫る。

 

「あれって、アプサラスの大型メガ粒子砲?」

 

「あ、あれかな?データで少しだけ見たけど大きいな…」

 

9Sがそう呟いた後、メイが発見して指を差した。釣られて2Bたちもメイの指差した方を見る。

其処には、中央の砲身から蒸気を出したアプサラスがある。

 

『報告;ガルマ大佐から通信』

 

『9Sに2Bたちも居るようだな』

 

「ガルマ!?」

 

そこへ、ポッドからガルマ・ザビが通信してきた事を知らせ映像と声を出す。

その場の一同が映像に映るガルマに釘付けとなった。

 

「ガルマ、一体何が…」

 

『白い塔の周りを浮かぶ鉄の塊を攻略したガトー少佐から報告が入った。白い塔は巨大な砲弾を打ち上げる発射機の役割がある事が分かった。狙いは恐らく月の裏側にあるサイド3だと判断して私が各部隊を集め攻略戦に入った!』

 

「これが発射機!?」

 

ガルマの返答に9Sを始め皆が『塔』を見た。

『塔』自体が巨大な建造物であったが、これが弾丸を発射する為の施設だと言われると、ここまで大規模なのも頷ける。

恐らくは、尻に火が付いた機械生命体が反撃に乗り出したのかも知れない。

そう考えたガルマは、ガトーの報告をギレンに送った後に独断で攻略戦を仕掛けた。

 

『ギニアス少将のアプサラスで、白い塔の天井を消し去った、後はモビルスーツ隊に直接降下させて無力化させる。今ならまだエネルギーの充填で間に合う筈だ』

 

ガウ攻撃空母からは、既にドダイに乗ったザクやグフ、ドムやドップまで降り上部に開いた『塔』の天井から内部に入る。

『塔』の防衛システムである、機械生命体も動き既に戦いは始まっており、爆発音が9Sたちの居る方まで聞こえてくる。

 

「!9S、私たちも飛行ユニットで援護に」

「うん!」

 

戦闘音を聞きいてもたってもいられなくなった2Bが飛行ユニットで自分たちも加勢しようと言う。

2Bの言葉に頷いた9Sがバンカーに通信しようとした。

 

 

 

 

『ダメェェェェェェッーーーーーーーーーーーーーッ!!!!』

 

 

『!?』

 

 

突如、『塔』のアナウンスから大きな声で制止の声が出た。

これには9Sや2Bどころかジャッカスすら驚きの表情をした。

その声はさっきと違い切羽詰まった感じがした。

 

『あなた達は此処から入るの!そして私たちと遊ぶの!!』

『こら、ガンマ(γ)!それ以上は止めろ!』

『これ以上は我々の品位にも関わる、それに侵入した巨大人形の相手もしなければならない』

 

「…言い争い?」

 

「…思い出した、この声オデッサでサーバーの時に現れた赤い服の少女だ!」

 

アナウンスで堂々と口喧嘩を始めた事で2Bが呟くと9Sが思い出したと言う。

9Sの記憶が正しければ、声の主は機械生命体のネットワークから生まれた概念人格。確か名前はタームαとタームβの筈だ。

 

「でも、それなら後一人は誰だ?」

 

オデッサの時は立体映像も含め、確かに二人だった。

それなのにアナウンスから流れる声は明らかに三人分ある。

 

『ヤーなの、ヤーなの!だってαとβも楽しそうに考えていたじゃん。アンドロイドや人間を滅ぼせないからどうやって遊ぶかって!!』

『γ!!』

 

「…滅ぼせない?」

 

「あ、塔の入り口が開いていくよ」

 

途中でアナウンスが切れ、機械生命体の声が途切れるが最後に話していた内容に引っかかる9S。

同時に、メイが電磁シールドで守られていた『塔』の入り口が開きシールドも解除される。

9Sたちの目の前にエレベーターの扉が開き今か今かと待っているように見えた。

 

「…どうする?思いっきり罠だが」

 

「私は行くべきだと思う。上手くいけば上と下で挟撃できるかもだし」

 

あんなアナウンスを聞いたA2がどうするか聞いた後に2Bが行くべきと答える。

機械生命体に何があったかは分からないが、現在『塔』の攻略が始まっている以上自分たちも参加したい。

それが罠でも、自分たちに注意を引いてれば上のジオン軍の安全も高まると考えている。

 

「ガルマ…」

 

『みなまで言うな、9S。ジオン公国地球方面軍ガルマ・ザビ大佐として命令を下す。

ガルマ隊直属2B、9Sを始めとしたヨルハ部隊に機械生命体の罠を食い破り上の部隊と合流せよ!

…生きて帰ってこい』

 

「「「ジオンに栄光あれっ!!!」」」

 

ガルマの一声に2Bや9SはおろかA2や4Sたちも命令を受諾し塔のエレベーターへと入る。

9Sたちに恐怖は無い。全ては自分たちヨルハに命令を下したガルマの為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まさかの機械生命体の概念人格が増える話。

原作通り、資源回収ユニットの天井はガラ空きです。
その結果、制空権の確保もしておらず天井から侵入して攻略というRTA。
尚、ガトーは律儀に出入り口を破壊して侵入。天使文字を読めるジオン兵っているのだろうか?

ガトーと二アーライトの見せ場を作る為に、命乞いする機械生命体と森の王を分けました。
二アーライトなら、殺せと言う機械生命体にあの反応はすると思う。
ジオンでは珍しく武人タイプでもないし。

完全に、機械生命体が舐めプしてますが、原作でも機械生命体はアンドロイドたちに舐めプしているし大丈夫でしょう。

『塔』の上層部をアプサラスで吹き飛ばされ上から侵入されましたが。


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