黄金の力でヒロアカ無双 (アルアール)
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一話 転生

ここは、新世界・赤い土の大陸(レッドライン)付近に存在する大きな島である。

半径五十キロほどの大きさでその大地の六割ほどが緑で覆われており、この島の中央には正義のマークが刻まれた旗を昂然(こうぜん)(なび)かせる海軍本部が置かれている。

そして今この島では、()()()()の処刑が執行されようとしていた。

 

 

 

島の中央にある処刑台には、ボサボサになった金色の髪を風で揺らしながら座らされている男がいる。

その周りでは一般市民がその処刑に歓喜の声を上げている。

 

彼の名はマネトリア・ゴルディ。

悪魔の実の能力者であり、一海賊団の船長だ。

いや、ゴルディの悪魔の実の能力のお零れに預かろうと集まった海賊達が1万を超え、天竜人を操るほどの力を有する組織(グループ)を一海賊と見るのは最早不可能だ。

ゴルゴルの実と言われる、黄金を自在に操る悪魔の実に魅了され、利用しようとし、様々な思惑の元出来上がった組織はリーダーのゴルディのみならず、懸賞金十億ベリーを超えるような能力者が何人も所属する大規模なものとなっていた。

それ程の組織(力を有する者達)は既に、今まで三大勢力と言われてきた海軍、王下七武海、四皇とは別勢力と数えられ、四大勢力とまで言われている。

 

 

 

そんな世界に名を轟かせ、金の力で世の中を操っていた組織ではあるが、遂にその組織に幕が降りようとしていた。

 

 

 

「おい何か言い残すことはあるか?」

海桜石の鎖で繋がれたゴルディの隣に立つ海軍所属の海兵が大きな剣を振り上げて、今か今かとその時を待つ。

 

「この歓声が心地いいぜ。あぁ、あるさ。今度はうまくやってやる。こんなクソつまんねぇとこで終わるのは癪だが、まぁいい。少しの間俺の死の余韻に浸ってるがいい!

この世界は再び動く!

混沌へ向けて止まる事のない針が動き出したぜ!

再びお前らに告げよう!

 

五百年も前のセリフだが、今がふさわしい。

 

オレの財宝か?欲しけりゃくれてやる。探せ!この世のすべてをそこへ置いてきた!!

 

見つければこの世の全てを支配できる。そんな物をな」

ゴルディは口角を吊り上げて不敵に笑った。

 

言いたいことを言い終え瞳を閉じたゴルディの脳裏に次々と今までの記憶が走馬灯として蘇ってきている。

生まれてから今この瞬間までの、自他共に認める波乱万丈な日々。

世間一般的にみると極悪人と言われることもやってきたはずだが、自分の信念、理念の元行動してきた彼に後悔はない。

 

ーーーあぁ、終に終わったかぁ。まだいろんな世界を見たかったなぁ。

若干の心残りを見せつつも、ゴルディの顔には笑顔を浮かんでいた。

 

 

 

市民の罵詈雑言がここら一体に響く中、今まで待機していた海兵が無慈悲にもその笑みを遮るようにゴルディの首筋に刃を落とした。

 

 

 

これがゴルディの最後のセリフであり、彼が築き上げてきた組織の幕切れであると同時に、五百年前の悲劇である大海賊時代以上の混沌とした世界の幕開けとなった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

ゴルディは確かにこの瞬間死んだ。それは確かだ。

どんな魂であれ、死んだら輪廻の輪に加わり全てが浄化され、その後新たなる生命(いのち)として生まれることになる。

それは彼の魂も例外ではない。

しかし、なんの因果か彼の魂は浄化されずに生命(いのち)を得てしまうことになる。

悪魔の実という歪な力は浄化される事なく魂に残され、いや、輪廻の輪を潜ったことにより、更に魂と混ざり合い歪な形状となった。

其れがこれから彼の人生、次の世界にどのような影響を及ぼすかは神のみぞ知ることであろう。

しかし、その魂がたどる人生が平穏無事に終わることはないと言うことは明確である。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

ここは東京都内にある孤児院の院長室。

この孤児院の院長である男が書類整理をデスクでしていると、突然目の前の扉が乱暴にバッと開かれた。

何事だと書類から顔を上げると、慌てた様子の女性が息を切らして立っていた。

まだ十代でも通用しそうなほど若い見た目の女性であり、この孤児院の職員だ。

 

「た、大変です院長先生! 金成(かなる)君が高熱を出しちゃったみたいで!」

 

「な、なんだと?! 今行く!」

それを聞いた男は、慌てて院長室から出ると彼を呼びにきた若い女性の職員に案内され金成と呼ばれた少年の元へと向かう。

 

男が院内の保健室の扉を慌てて開けると、そこには五歳ほどの年齢の金成(かなる)と呼ばれた少年がベットの上で苦しそうにうなされていた。

体温の上昇により暑苦しいのか布団を跳ね除けていて、全身からは大量の汗が噴き出してベッドシーツを濡らしていた。

 

御手洗(みたらい)先生は、氷と汗を拭くためのタオルを持ってきてくれ。俺がこの子の治療を行う」

 

「は、はい!」

御手洗と呼ばれた先ほどの女性が慌てて部屋から飛び出すのを確認すると、男はベットの上でうなされている金成の元へ近づいてすぐ脇で膝をつき、彼の額に手を乗せた。

すると、その手から段々と淡い青色のような光が出てきて、彼の体を包み込むように広がる。

其れが一分ほど経つころには、彼の表情は先ほどの辛そうなものから一変し、落ち着いたものになっていた。

 

「院長先生、これって多分‘個性’が発動した副作用なんじゃ?」

 

「あぁ、多分そうだな。五歳というとちょうどその時期だろうし」

 

「そ、そうですか。よかったぁ」

いつの間にか戻ってきた御手洗が、原因不明の病とかではなく単なる‘個性’の副作用による熱ということがわかり、安堵の息を漏らす。

 

「それにしても、こんなに熱が出るなんて……」

御手洗は持ってきたタオルで金成の体に浮かんだ汗を拭きつつ‘個性‘について思い出す。

一般的に‘個性‘は自然と使えるようになっていることが多いが、稀に暴走する時がある。

それが強力な‘個性‘な時で、アメリカにある‘個性‘の研究を主に行う大学が二十代の強力な‘個性‘を持つ者にアンケートを取ったところによるとその九十%が‘個性‘の発動時に暴走したことがあると答えたそうだ。

そのために彼女と男が思うのは将来への期待と不安である。

力を有する者には同時に強い心が必要になる。

強力な力であっても、その力に溺れ、飲み込まれるようでは意味がないのだ。

 

「たぶんそうなんだろうな。でもどのような‘個性’であれ優しい子に育ってほしいものだ」

院長と呼ばれていた男、来栖(くるす)は目尻にシワを作り優しそうに微笑みながら穏やかな表情で眠る少年の頭を撫で続けていた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

金成として目が覚めたゴルディは今とても混乱していた。

それは、海兵の剣が自分の首に落ちて意識が途絶えた後に再び目を覚ましたからだ。

目を覚まして初めに気がついたことは自分がベッドに寝かされていることだ。

 

ーーーおかしい、自分はあの時確かに処刑されたはずだ。いや、もしかしてアイツら(仲間達)が助けにきたのか?

ゴルディは上半身をベッドから起こし首筋を擦りながら、未だ鮮明に思い出すことができるあの首を切られる感覚を思い出していた。

 

ーーー首はしっかりつながってるしなぁ。って、え……?

ゴルディが自分の首筋に手を当てるとおかしな感覚に襲われる。

首を触った感触が明らかに以前の自分と異なることだ。

不思議に思った彼が目の前に手を持ってくると彼の瞳に映ったのはきめ細やかな白い肌の小さな手だ。

 

「え、手が小さい。いや、なんだこの声?! 子供か?!」

ゴルディは今自分に起こっている異常事態に咄嗟に口から驚きの声を上げてしまうが、口から出た声は今までに聞いたことのないような高い声。

それを聞いた彼は現実逃避するかのようにこの部屋を見渡すが、瞳に映るのはタンスと扉、あとはきれいなガラスでできた窓だ。

 

「は、ははは。なんだこれ……」

この異常事態を受け入れる事ができないゴルディは、次に先ほど瞳に映った手を見た。

 

ーーーなんだこれは。手も小さい、いや体全体が小さい。それに声がすごい高い。

真っ白な小さい手を見たゴルディは次に視線を下げて身体を見渡す。

彼の瞳に映ったのは今までのような成人男性の身体、腕ではなく、自分がいるベッドと比較するとよくわかる小さな体。

寝巻である青いパジャマの上から全身を触るように手を這わせると子供特有のプニプニとした肉体であることがよくわかる。

 

ーーー俺は子供になっちまったっていうのかよ。

そうすることで、やっと自分が子供の姿になっている事が理解できた。

理解できたが納得はできない。

自分が処刑から逃れることができたのはよかったが、それで子供に戻りたいと願った訳ではないのだ。

 

ーーーそれに何だこの部屋は。ここはどこだよ。

子供になったという現状を一旦置いてゴルディは自分がどこにいるか調べようとするが、この部屋だけではよくわからない。

少なくとも自分の今まで住んでいた家、又は仲間の家でないことは経験でわかる。

彼はただぼんやりして居る訳にもいかないので、ベットから降りようとするがうまく体が動かなった。

 

ーーー起き上がるときに感じたが、何だこの怠さは。子供ってこんなんだったか?

この体が高熱を出して寝込んだことを知らないゴルディは、体に感じる倦怠感に首を傾げた。

 

「ぐっ、いってぇ!」

動くこともできなく今はベッドで寝ていることしかできないと感じた彼は、仕方がなくあの処刑のあとに何が起こったのか思い出そうとすると、突然激しい頭痛に襲われて頭を抱えた。

其れが数分程続き痛みが頭から引くと、今まで自分が見てきたゴルディとしての記憶の他に、以前のこの体の持ち主である金成としての記憶があることに気がつく。

 

「そうか……。そういう事か。俺がいた世界と違うとこに生まれたのか。それに金成の記憶、いや俺の記憶があるのか」

そこでやっとこの現状を正確に理解することができ、ゴルディが今いるこの世界は今までにいた世界とは全く別の世界であることが分かった。

 

「だから、俺は子供になっちまったのか」

ゴルディは自分が子供の姿になった理由が、生まれかわった事が原因と分かり、病気や人体実験とかではないことに安堵した。

 

先ほどまでの慌てた感情が落ち着き、もっと詳しくこの世界を知ろうと金成としての記憶を思い出そうと思考すると、ゴルディは驚愕の表情を顔に浮かべた。

 

これほど発展しているのか、と。

ゴルディの眼に浮かぶのはきちんと都市開発された街に立ち並ぶ高層ビル。

それにあの時代では考えられないような繊細な衣服や精密に計算された造形物など。

 

これを知って驚くことしかできない。

 

他にも、モノの在り方が変わっている事に驚く。

此方の世界では、海賊はすでに過去の産物であり、今世の中を騒がすのは(ヴィラン)と呼ばれる悪党だ。

彼らは、今や世界人口の約八割が持つと言われている超常的な力である‘個性’を悪用して暴れる者達のことを指している。

 

「‘個性’か……。まるで悪魔の実のようじゃないか」

‘個性’とは言ってしまえばピンキリだ。

首を伸ばす‘個性’、ライトを灯す‘個性’などほぼ無害である物もあれば、力を入れれば超人レベルまで筋力が倍増する‘個性’、炎を出す‘個性’など使用自体が危ない物など多岐にわたる。

 

それを制御するために政府が発効したのが個性使用許可証だ。

基本的に‘個性’を使用するためにはこれが必要となる。

しかし日常生活の中、公共の場で‘個性’を使うことなどほとんどないため普通の人は取ることは少ない。

基本的にというのは、小さなことであれば公共の場であってもある程度見逃してもらえるために、日常生活に使うレベルから逸脱しない限り許可証など必要ないからだ。

‘個性‘の中には、異形系と言う体に特徴が現れ常時‘個性‘を発動した状態の者もいるため厳密に規制することなどできなかった。

もしそれすら規制してしまえば異形系である本人や、親族や友人などから暴動が起きるのは目に見えており、それ以前に憲法にも反してしまう。

 

 

一方で彼がいたところの、海軍にあたるものがヒーローと呼ばれる人たちだ。

彼らは全世界に‘個性‘が現れた事を皮切りに徐々に増えていった‘個性‘を使った犯罪を犯す(ヴィラン)を、国のトップである国会議員がどのように対処するかもたついて警察が思うように動けなかった中、颯爽とコミックのように現れて逮捕したのが彼らである。

彼らはそのコミックのような活躍からヒーローと呼ばれるようになり徐々に世間に浸透していき、終には職業の一つにまでなるようになっていた。

 

個性使用許可証、通称‘資格‘を必要とするのがこのヒーロー達であり、ヒーローを目指す者はヒーロー育成を目的としたヒーロー科がある高校へ通って国が行う試験に合格する必要がある。

 

 

 

ゴルディはこの世界について五歳までにある程度得ていた知識で理解すると、先程までの動揺は無くなっていた。

 

「なるほどなぁ、さすがに今世で暴れる訳に行かないよなぁ。ヒーローか、なんか面白そうだな」

流石に前世で一万人をまとめ上げた男であっても全く異なる世界で再び暴れるほど愚かではない。

 

元々、ゴルディが組織を作り、大きくしたのは単純に暇つぶしがしたかったからだ。

彼の悪魔の実があれば金に困らない。安全な場所に住み、美味しい料理を食べ、美しいものを愛でる生活だってできた。

しかし彼はそれが我慢できなかった。

彼が悪魔の実を食べた十五歳から二十歳までは能力を使って豪遊しまくっていたが、ある時ふと思ったのだ。

もしかして死ぬまでこの生活を続けるのだろうか、と。

そのことを考えた彼は途端に目の前にあるモノ達がすべて色あせていった。

つまらない、つまらなすぎる、と。

 

ならばこの生活を捨てて外に出ればいい。

世界を回れば今までに見たことないモノや、自分を興奮させてくれるモノに出会えるのではないか。

 

そう思ったゴルディは思い立ったが吉日とばかりに、その日に家を飛び出し海に出て海賊となった。

 

 

 

そんなゴルディがこのような摩訶不思議な体験、別世界にいるという事実に興奮しない訳がない。

先ほどまであった感情はすべて消えて、いま彼の中にあるのはこれからの期待だ。

 

ーーーこんな世界があったのか、また人生を歩めるのか。今度はうまくやろう。退屈な人生ほどつまらないものはない。

ゴルディは前世の、あの楽しかった海賊生活を思い浮かべながら、今世について思いを巡らす。

 

「あぁ、今度の人生も波乱万丈でありますように。」

ゴルディが願うのはただそれだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




時代設定は、ルフィ達がいた500年後です。


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二話 エイミィ・グランドーラ

ゴルディが金成(かなる)として転生を果たしてから既に一週間ほどが立っていた。

 

金成がこの一週間で行ったことと言えば、まず初めは記憶による人間関係の確認作業だ。

最初は中身が変わっていると思われる訳にはいかなかったのであまり言葉を発する事はできなかった。

そのせいで教員や孤児院にいる他の子供達に不審に思われもしたが、まだ体調が優れない旨を伝えると納得してくれた。

初めは様子見と言った形で、少しずつだが記憶と自分の口調をすり合わせながら生活することで次第に慣れていった。

 

その他に行ったことは、自分の‘個性’を把握することだ。

いや、以前の悪魔の実の能力、それに覇王色、見聞色、武装色の覇気が使えるかの確認だ。

世界を超えた為に使用の感触、方法などが変わっている恐れがあり、最悪使えない可能性すらある。

 

せめて使えることを祈りながら、孤児院に在る裏庭で誰もいない時に確認したが思った以上の成果があった。

 

 

 

「この世界でもゴルゴルの実が使えるのか…。いや、ゴルゴルの実が‘個性’として発現したのか。それに一通りの覇気は以前と遜色ないくらい使える」

金成は手の中から一キロほどの液状の黄金を生み出し、操りながら以前の感覚を思い出す。

自在に黄金を体から生み出し、鎧を形作るように体に這わせたり、先端を尖らせ鞭のように操ったりと、前世の使い方を今世の体に覚えこませる。

 

ーーー以前と同様に使える。いや、()()()()に使えてる。何でだ?

前世の感覚に従い操った黄金だが、明らかに黄金の動きがおかしい。

まるで体の一部のように自然と操ることができ、以前より精密さが増していた。

金成はやる気になれば黄金で精巧な人形だってできる気がしている。

 

ーーーまぁ、別に悪いことじゃないからいいけど。

操作性が増したことにデメリットは特に感じていなかったので、転生が良い方向に作用した結果と自分を納得させて次に移ることにした。

 

 

 

ある程度感覚を取り戻すと、次は覇気の検証だ。

以前の感覚を思い出しながら、最初は武装色を発動する。

すると両腕がまるで鉄のように暗い黒色に変色し硬化した。

 

「ふんっ」

試しに地面を殴ってみると少しの振動とともに、地面が陥没する。

 

「おっと、結構抉ったな」

思っていた通りの効果を得ることができたので、そのままどこまでいけるか検証して見る事にした。

試しに脚に武装色を発動すると、太ももくらいまで鉄色に染まり、強固になった。

以前は全身に出来たが、まぁこの体ではこんなもんだろうと思う。

 

「まぁ、こんなもんか。次は見聞色と覇王色か」

武装色の覇気を解くと次に行ったのは見聞色だ。

目を閉じて精神を集中させる。

風の音、草木の音、院内から聞こえる子供達の声。

その音を逃さないようどんどん範囲を広げていく。

最終的には子供達の心の声が断片的にではあるが分かるようになり、一キロ先の声が微かではあるが感じ取れた。

 

「ふぅ…。流石に疲れたか。まだ体が完成してねぇからなぁ。よし、最後の覇王色だが…。ここじゃまずいな。また今度実験できるところを探すか」

これまでの成果により、覇王色も以前使えていた為今世も使えるだろうとあたりをつけた。

覇王色はもともと自身を中心に放射状に伸ばすことしかできない為に、ここで実験を行うと確実にバレる恐れがある為に今回は諦める事にした。

 

それでも体が出来上がっていない為、覇気系はある程度劣化してはいるが成長したら以前と同様に使えるだろうと思っている。

 

ーーーまぁ、覇王色は後で実験するとして…。それ以外に武装色に見聞色が使えればなんとかなるから大丈夫か。

金成にとっては世界が変わったため前世の技術は使えないと思っていたが、使えるだけで幸いである。

 

 

 

再び実験を再開しようと思っていると、ガチャと金成がいる裏庭へ繋がる扉が開いた。

 

「おーい。金成。予定が決まったぞ。明日だ。明日‘個性’判別テストを受けにいくから準備しとけよー」

 

「はーい。わかったー」

扉から少し顔を出した院長の来栖(くるす)は金成の答えに満足すると再び院内へ戻っていく。

 

「あぁ、子供言葉が難しいよなぁ。まぁ慣れるの待つしかないか」

金成は頭をぽりぽりと掻きながら呟くと、再び精密な検証のために悪魔の実いや、‘個性‘、覇気を発動させていく。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

次の日の‘個性’把握テストは問題なく行われた。

‘個性’把握テストとは、各家庭で子供が‘個性を発現したら国家機関で精密な診断を行い正確に’個性‘を把握する為のテストだ。

このテストは任意であるが、小学校一年、中学校一年の時に各学校で強制的にテストをする為、それで国は各個人の’個性‘をデータとして管理している。

’個性‘の発現は基本的に四、五歳であることが多いが、まれに十歳など、遅れて発現することがあるために二回行う必要が出てくる。

 

金成が来栖と向かった先は孤児院から一番近い国営の‘個性’専門機関だ。

 

様々な検査を終えて、今は専門機関の人に結果を聞いている。

 

「ふむ。身体能力の大幅の上昇に、それに腕の硬化。一般的にありふれた身体機能のブースト系の個性でしょうね」

今回行われた検査で金成がゴルゴルの実の能力を見せる事はなく、覇気だけの能力を見せる事にした。

前世からの経験で、この能力を公に見せるのは危険と判断したためだ。

 

「ふむ、そうですか。ありがとうございました。よし、金成帰るか」

 

「うん。わかった」

専門機関の先生の説明を終えると、来栖と金成は専門機関を後にする。

 

 

金成はこの一週間でいろいろなことを学んだ。

元海賊としての癖なのか、一番に警察機関、ヒーローについて調べた。

それで分かったことだが、前世よりも遥かに警察系が優秀であり市民の平和は維持されている事だ。

 

その事が分かっていた為に金成は本来のゴルゴルの実についての能力を誰にも見せなかった。

やったことといえば、見聞色に武将色の覇気といった、ありふれていそうな能力だ。

ここでゴルゴルの実の力を見せたら自分がどのように扱われるかは目に見えている。

表裏問わず、様々なものから狙われるだろう。

そんなことになれば今いる自分の居場所が危険な目にさらされる恐れがあるため、迂闊に能力を使えなくなった。

 

「まぁ流石に子供を危ない目に合わせるのは心が痛いよなぁ。それに、ここで家を失ったら本気でやばい」

 

ーーーなんだよ戸籍って。信用のためってなんだよ。そんな面倒なのがあんのかよ。

彼の思考は平和と引き換えに管理された戸籍のことで頭がいっぱいだった。

 

そのような考えもあって、金成がこの能力を使うのは身分がバレないように、アンダーグラウンドな場所でのみであろうと思っている。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

今は金成(かなる)が小学校入学を控えた冬の頃、ゴルディの意識が目覚めてから二週間ほどが経っていた。

彼は今、自分が住んでいる地域から大きく外れて治安が悪いと噂の地域の路地裏を彷徨っていた。

 

「あぁ、全然みつからねぇなぁ。ほんとチンピラでいいから来いよなぁ」

時々見かける、敷いたダンボールに座ったホームレス以外はほとんど人通りがない。

たまにカップルらしき者達が乳繰り合っているが、金成には関係ない。

何かわからないような液体が溢れていたり、ゴミが散乱していたり、通路の壁が悪戯書きされていたりと、如何にも、悪が住んでる!と言った場所だと思っていたが。

意外といないのか、全然出会う気配がない。

 

 

「くそっ。あぁ、せっかく換金しようとしたのによ。出所不明のものでも買い取ってくれる質屋を探してるんだが、全然ねぇなぁ」

顔を隠すためにフードを深くかぶりマスクをしているため、その鬱陶しさと相まって金成は非常にイライラしている。

 

背丈から子供とわかる少年がフードを被りマスクをしてこんなとこにいるのは怪しさ満点ではあるが。

 

「やっぱ繁華街の近くじゃぁダメかぁ。どうすっかなぁー」

金成が道にあったダンボールに腰を下ろしこの後について考えていると、若者たちの声が遠くの通路先から聞こえた。

 

 

 

見聞色を発動していたため、彼らの声が遠くから正確に聞こえてくる。

 

ーーーたくよぉ!!もっといいやつとって来いやぼけ!!

 

ーーーテメェみたいな孤児を面倒見てやってるんだからよぉ、もっと役に立ってくれねぇか?

 

ーーーで、でもこれ以上はボクにはむりだよ!

 

ーーーはぁ?!生意気言ってんじゃねーぞ!

 

「おぉ、いい感じにチンピラなんじゃねぇか?なんか揉めてそうだがボコったら従うだろ」

金成は自分が求めていた人材と思わしき声を聴きチンピラに出会えたことにラッキーと思いながら声の方向へ向かう。

 

金成は裏路地を進み声のもとに近づくと、角を曲がった先で三人ほどの若者たちが丸くなっている子供を蹴り飛ばしていた。

 

「ギャハハ! こいつよく飛ぶなぁ! こいつ、‘個性’だけは一丁前に良いの持ってやがってよぉ! 余計にイラつくんだよなぁ!」

 

「ぐふっ。けほけほ」

 

「ほらさっさとこっちこいや!」

金髪のヤンキーが子供の腹に蹴りを入れて壁際まで吹き飛ばす。

あのような幼児であれば既に肋骨を何本も骨折して今すぐ治療しなければいけないであろうが、咳き込むのみで目立った怪我がない。

 

ーーーふむ、仲間割れか?まぁいい。ここはこいつらから情報を聞き出すと同時に覇気の実験でもするか。あれ、結局出来なかったし。

 

 

「おいおい! 俺も混ぜてくれよ! なぁ!」

金成は自分の存在を知らせるべく声を上げて、そのまま近づくために一歩を踏み出した。

 

「はぁ?!なんだガキが、なんか文句でm.....‼︎」

 

すると金成の体から漏れ出す蒸気のようなオーラと共に、金成の覇王色の覇気が発動した。

そのまま湯気が放射状に広がり、チンピラの三人は驚くほど弱かったのか彼の覇気がぶつかると共に白目を向いて倒れてしまった。

 

「ありゃ、思った以上に弱かったかぁ。こりゃ、起きるの時間かかるか?いや、叩き起こすか」

 

 

「けほけほ。う、うぅ」

金成が気絶した彼らの元へ叩き起こそうと近づくと、壁際でごそごそと子供が体を動かしているのに気がついた。

 

「へぇ。あの子供、このチンピラ達よりかはやるのか?まぁいい、一人いれば十分か」

 

「おい、そこの子供聞こえてるか?お前に聞きたいことがあるんだが」

金成はチンピラ達から標的を変えて壁際に近づくと、子供の体を起こし顔を見つめて笑った。

 

 

 

 

「おい、お前。で、結局知ってるのか?」

 

「う、うん。前あの人達に連れて行ってもらったから覚えてるよ」

 

今、金成(かなる)達はチンピラが倒れているところから少し離れた路地裏で話し合っていた。

今金成は非合法な質屋の場所を聞き出している。

 

金成がダンボールに座って目の前にいる子供を淡々と見つめている。

一方で子供の方は先ほどの覇気に当てられたのか、未だにビクビクと震えてこちらの様子を窺っている。

 

ーーー同い年か?見た目は俺と同じ五歳くらいか。

何日風呂に入ってないのか知らないが服はボロボロ、体は土ぼこりで汚れてる。元々は赤だったであろう髪だが、汚れでボサボサで、暗い赤をしている。

この様子から親がいない孤児かもしれない。

 

ーーーまぁ、いいか。

 

「おい、お前。じゃぁそこへ連れて行ってくれ」

 

「お、お前じゃないよ!ボ、ボクはエイミィ!エイミィ・グランドーラ!き、君は?」

薄汚れてわからなかったがそう言われてみれば若干日本人離れした容姿であることがわかる。

全身が薄汚れている一方で、瞳の方は薄い紅色が覆っているような綺麗な瞳がこちらを見つめている。

 

「エイミィ・グランドーラ?なんだ日本人じゃないのか?あぁ、じゃぁゴルディって呼んでくれ。」

流石に本名を明かす訳にはいかない為、金成はとっさに聞かれた名前を以前の名前で答える。

 

 

「わ、わかんない。この()()()()()に名前が書いてあるんだ。ずっと持ってたし多分ボクのだと思うし。ずっと一人ぼっちだったから...」

 

エイミィは服の中から、軍人が持っている認識票の様な()()()()()を取り出し金成に見せると、今までまともな人と接してこなかったのを思い出し落ち込んでいる。

 

「ふーん。まぁいい。じゃぁ行くぞ」

 

「え?う、うん」

 

金成にとっては親がいないなど普通であり、まともな人間と接してきたことなど数える程もいなく、その為そんな事情で落ち込んでいるのが意味がわからない。

 

 

ーーーうぅ、なんか冷たい...。

エイミィはそっけない対応に涙目になりながらも歩き出した金成の後ろについていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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三話 400万円の純金

エイミィに連れられ裏路地を歩いていくと、次第に人が増えてきた。

 

ーーーまぁ、真っ当な人かって聞かれると口を閉じるしかないが。

 

幅二メートルほどの裏路地を進んでいくと少し大きめの広場に出た。

 

そこには酒場にあるような丸テーブルが所々に置かれていて、昼間から酒を飲んで仲間達と話に興じている男たちがいる。

金成(かなる)の格好が怪しいのか、年齢的にも注目を浴びている。

彼らにも縄張りがあるのだろう。新入りと見られているのかもしれない。

 

金成が彼らの横を通り過ぎようとするとき声がかかった。

 

「おい、お前。新入りか?ならまずわよぉ、挨拶があんだろ?だせ」

脚をびろんと伸ばし彼らの道を封鎖する。

酒に酔っているらしく顔を赤くしながらニヤニヤとしている。

 

「あぁ、そうだな。俺も挨拶が必要と思ってたんだよ。ここのボスはどこにいる?」

金成はすでに案内人ががいるので、これ以上絡まれるのは面倒な為さっさとけりをつけたいと思ってる。

 

「あぁ?!なに言ってんだてめぇ!いいから金出せや!!」

男はばかにされたと思ったのか、先ほど以上に顔を赤くして殴りかかろうと椅子から立ち上がる。

 

「おいおい、ここまで低レベルなのか?こりゃぁここのボスもたかが知れてるなぁ」

 

「んだとこらぁ!お前らやるぞ!」

金成の見え透いた挑発に乗ったのか、周りにいたチンピラ達も‘個性’を発動して戦闘態勢に入った。

 

「ご、ゴルディ!!やばいよ!あ、謝ろう?ね?」

 

「ん?あぁ、ちょっと黙ってろ。ここで舐められたら終わりだ」

エイミィが慌てて金成に近寄ってくるが、ここまで挑発して引いたんじゃぁ、意味がない。

 

先程まで金成と話していた男は殴りかかろうとしてきた。それに合わせるように周りも一斉に飛びかかる。

「くそががあああっっっ.....!」

 

 

「頭が高いんじゃないのか?」

金成が男が動き出すと同時に覇気を発動させると、体から蒸気のようなオーラが溢れ出し、一瞬にして周りへ広がる。

 

 

覇気が広がり、それに触れたものから白目を向いて気絶していく。

何人か気を失わないようとしているが、覇気をもう一段強めに放つと耐えられなくなったのか、そのまま気絶した。

 

「な、なんだこれ...!くっそ...!」

 

先ほどの男が倒れながらも気絶せずにいた。

 

「へぇ、お前もちょっとは出来そうだな。まぁこれくらいで倒れるようじゃぁ、億越えすら無理だがな」

彼以外わからないであろうことを言ったが、今倒れている男にとってはどうでもいい。

 

何故自分が倒れているのか。

何故これほどあの少年からの威圧が凄いのか。

 

気絶寸前の状態の頭をフル回転させ思考するが、結局はそれに結論を出すことなく意識を落とした。

 

「あーあ。落ちたか。まぁいい。おい、エイミィいくぞって、お前も気絶してんのかよ」

先ほど耐えた程度に覇気を抑えていたが耐えられなかったらしい。

 

ーーーこいつが耐えられる様に抑えたんだがなぁ。

 

後ろを振り向いた時には、エイミィは周りの男達同様に白目をむいて気絶していた。

 

「まぁいい。よっと。たく、取り敢えずいくか」

金成は気絶しているエイミィを肩に担いで行こうとしていた道を進んでいく。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「ここか?換金できるところは」

 

「そうだよ。ここなら価値のあるものなら少し安いけど買ってくれる」

 

途中で起きたエイミィに連れられてやってきたのは、古い駄菓子屋のような一軒家だ。

金成らがガラガラと扉を開けて中に入ると一人の老人が座っていた。

 

「なんじゃ、エイミィか。ん?そこの隣のやつはなんじゃ?」

 

流石にグレーで取引されているところにいるためか、金成を見つけると不審そうに鋭い視線を送る。

 

「いや、特に怪しいものじゃないけどさ、ここはなんでも換金してくれるっていうのは本当か?身分証なしで」

 

「あぁ、金になるもんなら買い取ってやるわ。ただし、若干安めに買い叩くがのぉ」

老人が意地悪そうな笑みで金成を見つめるがどうって言うことはない。

いくらで買い取られても必要な額だけ()()()()()()()

 

「そうか。じゃぁ換金を頼む。因みに上限はいくらだ?」

 

「なんじゃ。そんな大層なもの持ってきたのか?一億くらいまでならいけるがのぉ」

この店の様子から全くわからないが矢張り相当儲かっているらしく、外見から不相応な金額を言われた為若干驚いてしまう。

精々一千万まで買取できたらいいと思っていたくらいだ。

 

 

「わかった。じゃぁ換金を頼む」

金成はそう言いながらパーカーのチャックを開いて前を開くと、懐に手を伸ばす。

勿論そんなとこに入れていたわけでない。

服の中で即座に液状の黄金を受けて生み出し、延べ棒状に形成してあたかも初めからあったかの様に取り出した。

 

「...ほう。ちょっと待っとれ。いま検査しとくる。お前さんらはそこらへんに座っとれ」

金成が取り出した金の延べ棒を見て冷やかしでないと分かると真剣な眼差しになり、金成たちに近くにある椅子を指差して、査定する為に延べ棒を持って奥の部屋へ行った。

 

「ゴルディ、あんなの持ってたんだね。ボクと年齢変わんないのに凄いね!」

エイミィは隣に座る金成の事を尊敬の眼差しで見てくる。

エイミィは純金の値段などわかりはしないがものすごく高いということだけは理解している。

 

「まぁな。あぁそうだ。仲介料はいくら欲しい?」

 

「そ、そんなのいらないよ!道案内しただけだし」

エイミィが慌てて断りを入れてくるが、金成はタダより高いものはないと以前に散々思い知らされてきたため、ここはしっかり清算しておく為に無理にでも金を受け取らせるつもりでいる。

 

「いや、だめだ。いくらだ?希望の金額言ってくれ」

 

「ううぅぅ、じゃ、じゃぁ一万円」

エイミィにとっては万を超えるだけで大金という認識である為、それは烏滸がましいだろうと、ビクビクしながらもこちらの様子を伺ってくる。

 

「.....。わかった。それでいい」

ここまで謙虚、いやものを知らないのか?と若干不安になるがそこまで親しくはないため別に何かを言うことはない。

 

「あ、ありがとう!やったぁ!美味しいご飯が食べられる!」

ここまで純粋に感謝されるといっそ憐れみすら生まれてくる。

それにこのような性格でよくこれまで生き延びていたもんだと思う。

 

「....。なぁこれからも裏道案内してくれるなら金払ってもいいぞ」

流石にこの年齢で哀れだと思った金成は、チャンスではないがここで一つ手助けをしてやろうと思った。

 

ーーーそれに、見込みがありそうだし一旦様子みるか。

それに、エイミィは一度だが金成の覇気を耐えてみせた実績がある。

それを省みると、ここで手駒にして育てたら裏切らない強い私兵が出来る可能性がある。

 

「ほ、ほんと?! うん! わかった! するよ!」

その台詞を聞いたエイミィは、危ない仕事をせず、しかもいつも以上にお金がもらえることに興奮を止められない。

 

「....これからよろしく」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「おい、そこの子供。換金できたぞ」

奥の襖を開けて現れた爺さんが査定の結果を告げにきた。

あれから一時間ほどは経っていて既に午後の四時は過ぎていて、金成はそろそろ門限があるため帰りたかった。

 

「で、いくらだった?」

 

「そうじゃの。純金の延べ棒1キロ。まぁ、400万てところじゃのぉ」

 

「...そうか。それでいい。じゃぁ換金を頼む」

 

「わかった。ちとまっとれ」

 

換金に来る前に少し調べていたが、一キロの延べ棒を売る場合は平均四百八十万だった。

グレーな店で八十万を搾取するのは安いのか高いのかわからないが、そこまで騒ぎ立てることはないためその額で満足している。

 

 

それから爺さんから日本円を受け取るとエイミィに札束の中から一枚を取り出し渡す。

受け取る時に、エイミィは面白いくらいに飛び上がり興奮を表していたため少し笑ってしまった。

 

それから彼女を連れて換金屋を出ると、そのまま今来た道を戻る。

 

「じゃぁねー!ゴルディ!また明日!」

エイミィをあった場所まで戻ってくると、次に会う為に時間と場所を決めてそのまま別れる事になった。

初めの頃には考えられない程、エイミィは親しげに接して来て大きく手を振っている。

 

「あぁ、またな」

金成がそれを見てなんとちょろいのかと驚きながらも、初めにきた道を戻って行った。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

金成が孤児院へ帰宅するとすでに孤児院の子供達は学校から帰って来ていて、みんなでリビングにあるテレビを見ていた。

 

「ただいまー」

 

「あ、金成。おかえり」

「金成くんおかえり〜」

「おう、お前もこっち来てテレビ見ようぜ!」

リビングに入った金成が挨拶すると、子供らしく元気な声が帰ってきた。

 

テレビの前には五人の子供がいた。

男の高校生が一人。

男女の中学生が二人。

男一人と女二人の小学生が三人。

 

この孤児院は金成を合わせて子供が六人、院長と職員一人ずつの計八人で住んでいて生活をしている。

その為この孤児院は大家族用に広く作られていて、未だに部屋数が少し余るほどの大きさだ。

 

「うん!ちょっと部屋に行ってからくるねー!」

 

金成はリビングから立ち去ると自分の部屋に入った。

この部屋は三人の男たちと共同で使用している部屋だ。

15畳ほどの大部屋で、二段ベットが二つにデスクが四つあり本棚が一つあるが、ちゃんと動けるスペースが残されている。

 

「んー。まぁ取り敢えず、屋根裏でいいか」

屋根には隅の方に天井を開けられる取っ手があり、そこを開けて天井に札束を隠しておくことにした。

天井に向かって思いっきりジャンプをして取っ手を掴むと、天井板を蹴り上げてそのまま両手を使って天井裏によじ登り、一番奥にある木の支柱の陰に札束の入った袋を置いた。

再び天井裏から降りる時にそのまま取っ手をしめつつ、部屋に降りる。

 

その後は、隠し終わると怪しまれないためにリビングへ戻り、他の子供らと戯れて過ごした。

 

この数週間で子供の口調もだいぶ慣れ、違和感を感じなくなった。

子供らもこちらを気にすることなく話しかけてくるので大丈夫だろうと金成は判断した。

これで、怪しまれることもないため良かったと思う金成であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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四話 マネトリアカンパニー

「えー、じゃぁこの問題は来栖(くるす)くん。答えてみて」

 

「はい」

 

金成(かなる)は椅子から立ち上がり黒板の前まで移動すると、目の前の数式を解いていく。

カタカタとチョークの音が教室に響く。

 

彼、金成は今自分が通っている学校の教室にいた。

今は入学してから一年ほどが経っていて、二年も半ばに迫ろうとする頃だ。

 

「はい。よくできました。戻っていいですよ」

男の若い教師に言われて金成は席に着く。

 

「あぁ、退屈だなぁ」

続きを教師が解説する声が教室に響く中、金成は窓の外を眺め、あまりの平和、退屈さに声が漏れてしまった。

幸い声が小さかったので誰かに聞こえることはなかったが、本当に退屈していた。

今まで何かを学べる機会がなく、初めのうちは楽しんでいたが一年が経つ頃には飽きていた。

これを後五年も続けるのかと。

しかし、今の時代高校、大学と進学しないと社会人としてやっていけない。それを考えると、後十年以上は学ばなければいけないだろうが、金成ならいつだってやめられる。

前世から慣れ親しんだ力で順調に、彼の勢力が増えていってる。

その紹介はまた後でするが、経験談より圧倒的速度で彼の手がこの街へ浸透していった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

彼は授業が終わり帰りの時間になると、孤児院に帰ることなくある場所へ向かっている。

途中で駅のコインロッカーにカバン類を入れて中にしまってあった衣服を取りトイレで着替える。

 

彼は人通りが少ない所に来ると、誰からも見られていないことを見聞色の覇気を利用して確認すると、手に持っていた目元しか見えない仮面をかぶる。真っ白な丸い仮面をベースに、黒色をしたバラやツルの模様が描かれていて少し不気味さを感じさせている。

 

仮面を被った後は誰かに居場所を知らせるように覇王色の覇気を微弱に発しながら街を歩く。

 

彼がそのまま人気の少ない道を歩いていると馴染みのある気配を感じたので声をかけることにした。

そのまま近くの路地裏に入ると自身の影に向かって声を発する。

 

日陰(ひかげ)か」

 

彼がそう声をかけると、金成の影が一瞬揺らぎを作るとそのまま影が浮き上がり人の形を形成していき、そのまま真っ黒の人影が色付くように女性のシルエットが浮かび出していった。

 

出て来た女性は黒子のような衣装のため顔はよく見えないが、唯一見える鋭い目元が力強い印象を与え、そして少しばかり覗かせた白い肌がまだ若い女性という事を知らせていた。

 

「ボス、お迎えにあがりました」

 

「あぁそうか、じゃぁ行こうか。連れていってくれ」

金成の許可を得た黒子服の女性は金成に触れて共に影の中に入った。

 

彼らが次に現れたところはあるビルの一室。

ビルの窓枠でできる影の中から二人が出るとその一室にいたメンバーは揃って一列に並んだ。

 

「あぁ、ご苦労。自由にしてくれ」

金成が影から出ると一番大きなデスクにある椅子に座ると整列していたメンバーに声をかけた。

 

この中に小学生であるからと彼を侮るやつなどいない。

経済力でもそうではあるが、そもそも納得しない奴は力でねじ伏せた。

裏の世界じゃ力があれば結構自由がきく。

この‘個性’が普通となりつつある社会において、裏社会ではその傾向が顕著に現れている。

 

 

この部屋にいるメンバーは全て彼がこの1年弱で集めたメンバーだ。

普通に雇ったのではない。

勿論、路地裏にいるようなメンバーから厳選して金で雇い入れた奴らだ。

まぁ簡単に雇い入れたわけではなく、それぞれ色々と大変な目にはあったが。

黒子を合わせて総勢五人。

男が二人で女が三人だ。

その中にはやはりと言ったところか、エイミィの姿が見える。

前より若干身長が伸び、赤い髪も伸ばしているのか肩を越えたあたりまで伸びていた。

彼女は自分の戸籍を持っていないので小学校には通えていないため、普段は事務所の一部屋を生活スペースとして確保し、そこで寝てもらっている。

まぁここにいるメンバーはそんな訳ありが多いんだが。

 

今この事務所にはいないがほかに手下となるメンバーはいる。

しかし、そのどれもが金で一時的に雇うのみで、所謂正規社員は彼らのみだ。

 

ここの部屋は事務室として使用している。

金成は自由に自分の金を捌くために質屋という名目で企業として立ち上げた。会社名はマネトリアカンパニーだ。見てわかる通り、前世の名前を利用した。

 

まぁ小学生なので代表はこの中にいる比較的まともな人物で通したが。

 

 

「じゃぁ、今日の報告を始めてくれ」

金成の合図とともにそれぞれが報告を上げていく。

 

「では私から。今月売りさばいた金塊、総量100キロについてですが、怪しまれないよう全国の質屋に回って売りさばいて来ました。

手数料を全て抜いての総額は、4億円となります」

黒子姿のまま日陰が報告をあげる。

彼女の役割は主に金塊の売却だ。

彼女の個性である影を操る能力を応用して、影の中からの自由移動、所謂ワープを行ない、全国各地へ足を運んでいる。

 

それを利用して全国か各地にあり正規問わず、金塊を売りさばいている。

彼女も出所は知らないが、毎月100キロもの金塊が一企業から売りさばかれていたら不審すぎる。

彼女もその不気味さがわかっているため、全国を回って怪しまれないように売っている。

彼女自身もその金塊がどこから来るのか興味はあるが、世の中には知らないほうが良いことがある。

彼女はそれをよく知っているため、出所を聞くことなく仕事を全うしている。

 

 

「ふむ。わかった。じゃぁ来月分の金塊はいつも通りの所に置いておく。次」

 

 

「では次、僕で。先日やっとこの区のヴィラン、チンピラ達との顔合わせが終わりました。一応指示された金額で納得しないもの達については死なない程度痛めつけておいたので、多分大丈夫だと思うっす」

彼の仕事は主に、裏に通じてるヴィラン、チンピラ、ヤクザなどの面通しだ。自分の縄張り広めるために近くの者達から回っている。

ざ・チンピラといった傷んだ茶髪をワックスで決めたチャラい系の男である。

 

「あの金額で納得しない奴がいたのか。まぁいい。あまり鬱憤を溜めさせるようにするなよ?荒戸(あらと)の役割は橋渡しだ。なるべくこちら側に抱き込め。じゃぁ次」

 

 

「はい。次は私ですが、やはり正規の企業を抱き込むのは無理ですねぇ。実績、信頼ともに足りないですね。全部門前払いです。金だけじゃぁきつかったです」

10代後半といった見た目のキリッとした印象を与える黒髪の女性だ。

 

彼女の仕事は正規の企業に質屋として挨拶に回るだけだが、できれば賄賂ができるやつを探すのが仕事だ。

まぁ、正規の会社に関わることがないのだが、一応表向きは質屋だ。

怪しまれない程度には動かなくてはならない。

 

「やはりそうか。まぁ表にはそこまで手を出さないから気にしない。それにまだ1年だ。美流(みる)はそのまま続けてくれ。次」

 

「じゃ最後に俺が。一応部下達の教育はある程度順調です。まぁ反抗的な奴らもいますけど、大体は拳で解決です。」

大柄のいかつい顔の男が報告をあげる。低い声とその見た目と相俟って、初対面の人に必ずビビられる見た目だ。

 

「ふむ、どのくらいの戦力になりそうだ?」

 

「人数だと大体10人ほどですが、一応ヒーローの相棒(サイドキック)並には使えるくらいです」

 

「そうか。よし。剣司(けんじ)はそのまま部下の教育を続けていくれ。今月の定例会は以上だ。各人仕事へ戻ってくれ」

 

「「「はい!」」」

 

エイミィ以外のメンバーは金成の合図で、それぞれが仕事へ戻るため部屋から出ていく。

 

「ね、ねぇ私ここにいていいのかな?何もできないんだけど」

 

「ん?訓練はしてるだろ。一応お前はうちの最高戦力だ。今の体格で剣司とまともにやり合えるのはお前くらいだろ。期待しているぞ、うちの最高戦力」

 

「そ、そうかなぁ?えへへ、じゃぁ私もっと強くなるから!!訓練して来るね!!」

エイミィは金成に褒められる嬉しくなり、テンションを上げて訓練へ向かった。

 

本当に大した拾い物だった。

初めは哀れみの感情で付き合ってはいたが彼女の個性が本当に強力であったため、アメ、アメ、アメを与えてこちら側に来るようにした。

 

「本当に、強いなぁ。あれ。あの伝説の海軍並みに強くなるか?」

金成は500年前の有名な海軍を思い出しなら彼女の個性を思い出していた。

まぁいい、今世でのスタートはすでに始まった。

 

今度はどんな結末を迎えるのか。

 

「本当に、楽しくなってきたよ」

金成は事務室を見渡しながら笑顔になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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五話 無念の普通科推薦

桜が咲くには少し早く、未だ蕾で春の訪れを待つ今日。

金成(かなる)は遂に中学校の卒業を間近に迎えていた。

しかしながら、卒業式の前に大抵の中学生にあるのが高校受験である。

勿論、金成は受験せずとも自身が立ち上げた企業もあり、悪魔の実の能力もあるため行く必要はない。

孤児院も随分前から部下の一人を通して慈善活動の体でマネトリアカンパニーから少しばかりのお金を送っている。

そんな理由もあり基本行く必要がないのだが、彼の根底にあるのは好奇心だ。

彼が望んでいるのは平和ではない。

いや、その言い方には語弊があるが彼は波乱万丈な人生を求めている。

これは前世からの業のようなもので今更変えられない。

 

そういった理由もあり彼は高校進学を選んだ。

では彼がどの高校を選んだのか。

勿論彼なりの選定基準があるためしっかり考えて決めた。

ならその選定基準とは何か?

しつこいようだが彼が求めているのは未知との遭遇。

ならそれを満たす高校しかありえない。

ならこの国で一番面白いことが起こりそうなのはどこか?

そんなの決まっている、雄英高校に他ならない。

ここで雄英高校の説明をしようか。

かの高校は国が経営する由緒正しきヒーロー育成高校だ。

勿論、ヒーロー育成のためのヒーロー科のみでなく、ヒーローを支えるための開発を行う開発科、世間一般にある普通科、そして経営について主に学ぶ経営科と計4種類ある。

総合偏差値75もある日本トップの学力を誇り、ヒーロー科においては入試人数が、倍率300倍になる程の超難関校である。

 

 

 

しかしここで一つ問題がある。

彼、金成は勉強ができない。

いや偏差値でいうと65と世間から見たら平均以上であるため優秀に見えるだろう。しかし雄英高校のヒーロー科においては偏差値75は必要であり圧倒的に足りない。

普通科の専願であれば彼の成績であれば、金成が通っている中学校から数枠ほどだが推薦がある。

しかしこれを受けてしまうとヒーロー科には行くことができない。

 

「はぁ、どうすっかなぁ。普通科かぁ」

金成は自分の会社の社長室の椅子に座り項垂れていた。

別にヒーロー科でなくてはならない訳ではない。普通科でも同じ高校であればあの有名な文化祭にも出られるし、間近で面白いことに遭遇できるかもしれない。

 

「そもそも勉強なんてなんでやんなきゃいけないんだよ。必要ないだろ」

金成は未だ不満げな表情でブツブツと不満を垂れる。

 

「ボス、仕方ないよ!私も普通科に行くから!ね?一緒に行けるしラッキーって感じ!!」

「それに普通科でもいいとこいっぱいあるよ!文化祭にも出られるし、もしヒーロー科につくとプロヒーローが一杯いるしこっちの内情までバレちゃうかもよ?うちって結構グレーだしやばいよー?」

項垂れる彼の前で身振り手振り動かしながらご機嫌をとるかのように言葉をかける少女がいた。

彼を慰めたのはあれから大きく成長を遂げたエイミィである。

光に反射して煌々と輝く深みのある真紅の長髪は腰まで伸ばし、外国人の特徴である、真っ白い肌。

日本人のだれもが羨むような長い足に高い腰の位置。

未だ幼さが残る輪郭ではあるがメリハリのある顔立ち。

身長も167と平均よりも大きい。

 

彼女はもともと戸籍がなく学校に通えてなかったが、金成が5年の時についに市役所にまで手を伸ばすことに成功したため秘密裏に戸籍を取得した。

金成は彼女を同じ中学校に通わせている。

同じ学校の方が何かと都合がよく、彼女の戦闘力はもはやマネトリアカンパニーの戦闘科を務める剣司(けんじ)を上回っており、護衛に丁度いいと考えていた。

通っている中学校では普通科に三人、経営科に一人、と4枠の推薦枠があるため、彼女の成績でも推薦はもらえる。彼女も同じ高校にボスと通えるのが嬉しいらしく、ヒーロー科を目指さないようちょくちょく普通科の良いところを語っている。

 

「うーん。そうだな。まぁ普通科でもいいか。よし!じゃぁ飯食い行くか。エイミィ日陰に車を出すよう連絡してくれ」

 

「うんわかったー!」

金成もそこまでヒーロー科を所望しているわけではないためそれで妥協することにした。

そう心に決めると、気分転換に昼食へ向かうことにした。

 

金成はエイミィが電話を終えると、共に社長室からでるために金で縁を囲った重厚感のある木製の扉を開ける。

レッドカーペットが敷かれた長い廊下を歩き、そのまま社長室専用エレベーターに乗り込むと地下のB1ボタンを押した。

ウィーンとエレベーターが動く音が響く。

 

「そう言えば、本当に大きくなったよね。うちの会社。まぁほとんどの社員は裏、本来の事業を知らないでいるし、会社の顔である社長を美流と勘違いしてるけどね」

 

「まぁ、そうだな。別に表の事業なんてどうでもいいしな。金ならいくらでもあるし、いくら投資しても構わないからなのか結構な研究員から人気が出たなぁ」

 

「そうだよね、うちの収益の7割が社長の金塊だもんね」

 

あれから8年ほど経っていて、金成の会社もでかくなった。

前使っていた事務室はもはやなく、今は東京の調布に15階建の大きなビルを建てて、そこを拠点としている。

何十億とかかったがそんなのすぐに集まる。

金成が4年の時に建設を始め、2年もかからず完了した。

 

未だに金塊の秘密は誰にも教えてないが幹部連中は慣れてしまったため気にしない。

まぁ普通の社員からしたらこの企業の資金源が七不思議として囁かれるほど謎めいているが。

止めどないほどの研究資金が来るからだ。

彼が今行なっている事業は、裏では金塊を定期的に捌き、裏のチンピラやヴィランの統制を図り、自分の部隊の育成。

表では、ヒーローの活動を支えるためのアイテムの開発を主に執り行っている。

まぁ本来の目的は裏の主力部隊の武器調達のためだが、いつのまにか表に供給するほど大きくなってしまっていた。

 

金成が社長であることがバレないために地下と社長室の直通のエレベーターを降りると用意してあった黒の車に乗った。

茶色の高級そうなシートに腰をかけ、車が動き出す。

 

「ボス、本日はどこへ向かいますか?」

運転席から本日の行き先を訪ねる声が聞こえた。

 

「エイミィはどこがいい?」

 

「うーん、私は美味しいならどこでもいいよ!」

隣に座るエイミィに尋ねるが一番困る答えが来てしまった。

それが一番困るんだけどなぁ。

まぁいいか。

 

「んー、じゃぁ新宿にあるレストランで。日陰も昼食まだだろ?一緒に食べようか」

 

「わかりました」

 

車を運転するのは、彼と長い付き合いのある日陰だ。

今は流石に黒子服を着ていなく素顔がミラーから見えている。

茶色のボブカットで、綺麗な二重が特徴の女性だ。

無表情のため怖い印象であり、まだ若いため彼女がマネトリアカンパニーの秘書だとわかる人は少ない。

 

そうして彼女たちが乗る車はビルの地下にある駐車場を出て新宿へ向かった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「じゃぁ雄英高校の普通科の推薦を受けるでいいんだな、二人とも」

 

「えぇ、間違いありません」

 

「私もです」

それから翌日にはエイミィとともに自分の通う中学校で雄英高校の推薦を受けたく思っている申し出をした。

 

教師も、雄英高校に進学することに驚いているが目の前の二人は成績優秀であるため推薦を出すことに戸惑いはない。

 

「そうか、わかった。校長にはそう伝えておく。戻っていいぞ」

この中学校はヒーロー科合格者は居ないものの普通科や経営科、などは毎年何人もいるので推薦枠を何枠か獲得していた。

教師も自分のクラスから推薦希望者が出て嬉しいのだろう、若干笑顔でいる。

 

 

 

それから1ヶ月後に推薦入試を終えて彼らは晴れて雄英高校の合格通知を受け取った。

金成達にとっても雄英高校に受かったのが嬉しかったのでその日は幹部連中を集めて高級レストランでのディナーを楽しんだ。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「ふん!!はっ!」

 

「ぐっかはっ!」

 

訓練部の剣司は金成の回し蹴りを両手でガードしたが、勢いが強すぎたためそのまま体を浮かせて壁に激突した。

 

今金成達がいるのはマネトリアカンパニーの地下2階にある訓練部屋。

200メートル四方の正方形のような部屋であり、特殊な素材でできているためちょっとやそっとじゃ壊れない。

 

何故金成達が戦闘を行っているかというと今は入学を控えた春休みだからだ。

あまりにも暇であったため金成が剣司との訓練を希望したため行われている。

 

「っと、おーい!大丈夫かー?剣司!」

 

「う、うむ。大丈夫だボス。なんとも、重い一撃だった」

剣司は数回咳払いをした後に埃を払うような仕草で立ち上がった。

 

今回の目的は個性の使用なしでの格闘技の訓練だ。

たまに金成はこうして訓練に参加している。

今は剣司以外いないが、普段は戦闘員が数十人ほどが訓練に参加している。

元々金成が訓練に参加していたのは覇気ならこの世界の人にも使えるのではないか?というか思惑の元参加したのだが結果は散々だった。

使える以前にまったく理解されなかったからだ。

金成は理論派であるが覇気についてはほぼ感覚であるため説明が難しかった。

まぁ、使えないなら使えないで個性を伸ばせばいいのだが。

 

「あー、ボスー!水持って来たよー!剣司もはい!」

 

金成達が訓練を終えると入り口からペットボトルを持ったエイミィが現れた。

 

「あぁサンキュー」

 

「すまない」

 

「いいよいいよー!それより次は私とやろうよー!ボス!」

 

金成達が地面に座って休憩していると、エイミィは自分も訓練したいと申し出て来た。

しかし彼女は格闘技が苦手なためエイミィと訓練するときは個性ありで行なっている。

この空間でも彼女の個性に耐えられるかわからないためいつもは人がいない山の奥地で行なっている。

 

「やだよ。エイミィ格闘技できないだろ。個性なんて使ったらここが悲惨な状況になるのが目に見えている。まずはここでも使えるよう個性のコントロールをしてくれ」

 

「えぇー。ぶー」

エイミィは頬を膨らませて不満を漏らすがしょうがない。

彼女は個性は強力ではあるがそれ故かコントロールを苦手としてる。

 

「それより、ボス達は準備は終わったのか?明日入学式と聞いたが」

 

「ん?あぁそっちの方はできてるよ」

隣に座っていた剣司はエイミィのコントロールのなさを知っているため、話題を変えようと話を振った。

 

「そもそも、ボスは会社があるし進学しないと思ってたが」

珍しく剣司が話すなと思いつつ金成は思っていたことを口にする。

 

「あぁ、雄英高校なら面白そうだろ?ヴィランとか襲撃して来たりしてなー」

珍しくも、楽しそうに剣司に笑顔を向けた。

 

「なんかボス楽しそうだな。でもヴィランの襲撃はないだろ。ここら辺一帯は大体掌握してる。まぁヴィラン連合が攻めてくるなら有り得るが...」

ヴィラン連合とは金成達に付かなかった連中だ。

なんでも、『先生』という存在に心酔しているメンバーが多いらしく、金では動かなかった連中だ。

 

「まぁ、あいつらはないか。そこそこ大きい組織だし、プロヒーローが集まるとこに襲撃なんて馬鹿な真似する訳ないか」

 

「まぁ、あいつら来ても私の個性で燃やし尽くしちゃうよ!!!」

ほとんど可能性はないと思っているが、もし彼らが襲撃して来たらエイミィは出させないと決めている。

 

「おいおい、エイミィの場合だとヴィラン連合を撃退できるがこっちの被害が凄くなるだろ。やめろよ?」

 

「え?やれだって?わかったよ!私頑張るよ!」

 

「いや、フリじゃねーよ!!たく」

金成は元気なエイミィにため息を漏らす。

 

 

 

その後はエイミィがどうしても訓練したいと言って来て、態々日陰を呼び出してワープすると言った面倒ごとがあったが、次の日に備えてそこそこ訓練するとその日は終わった。

 

 

 



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六話 入学式

「春の訪れを感じさせる桜が咲き誇る中、今日この雄英高校の入学を迎えましたことを心からお祝い申し上げます。・・・」

 

ホール状の体育館で今、雄英高校の入学式が執り行われている。

今は、シロクマのような見た目の校長先生がホールの中央で、入学を迎えた生徒へ向けて答辞を読んでいる。

誰もが雄英高校に入学できた喜びを胸に抱きこれからの学校生活を夢見てる中、金成(かなる)は隣に座るエイミィと共に退屈そうに話を聞き流している。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「じゃぁいってきまーす!」

金成は入学式に遅刻しなように孤児院を早めに出ようとしていた。

 

「時間は10時だよな?ちゃんと着くように行くから」

 

「うん、そうだよ」

 

「よし、いってこい!」

 

今日の入学式に院長の来栖努が参加することになっている。

孤児院であるため、親代わりの努は院にいる子供全員の入学式と卒業式には参加するようにしている。

もし、日にちが被った場合は、母代わりになっている、女性職員の御手洗先生と二手に分かれて子供達を見ているのだ。

 

そんな訳で今日は努が雄英高校の入学式に参加するため、金成は迂闊なことはできないと思っていた。

努に関してそう思ってはいるが、この数年で金成もこの院の事は家族のように思えるようになっていたため、彼が金成のためにわざわざ足を運んでくれることが純粋に嬉しい。

 

まぁ、それでも会社関係の事は一切隠し通しているが。

 

「うん。まってるよ。じゃぁいってくるから」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

雄英高校の正門には新入生となる生徒達がピシッとした制服を身に纏い、緊張した面持ちでその門をくぐって行く。

金成が正面に着くと、そこには一人の少女が門の脇で立っていた。

やはり、顔立ちや肌などで日本人ではないとわかり、なおかつ美形であるためか結構目立っていた。

門を通る生徒は立ち止まる事はないが、ほとんどの生徒がチラッと視線を向けている。

 

 

「よぉ、またせたな。」

 

「あ、ボス!じゃなかった、金成くん!えへへ。」

エイミィが思わずボスと呼んでしまったため、金成が睨みつけるように視線を向けると、慌てて呼び直した。

中学校の時もそうだが、普段から金成の事をボスと呼んでいるためか時々そう呼ばれてクラスメイト達に不審に思われた。

あだ名という言い訳を並べても流石にボス呼びはなかなか信用してもらえなかった。

 

「はぁ...。気をつけてくれよ...。まぁいい、クラス見に行くぞ」

金成はため息を漏らし、エイミィを連れてクラス表を見に行く。

門を抜けた先には長い一本道があり、両脇に満開の桜が植えられている。

 

「あ、一緒だね!よかったぁ」

 

「あぁそうだな、よし。教室に行くか」

 

金成達は運が良かったらしく、同じクラスになることができた。

エイミィとしては、金成と同じクラスである事は嬉しいが、それ以上に護衛という任務がある以上同じクラスになれたことに安堵していた。

 

 

 

教室につくとエイミィが視線を集めるが、気にする事なくそれぞれの席へ着く。

 

「入学式楽しみだねー。ガイダンスとか何があるかな!」

 

「んー、どうだろ。まぁ今年はオールマイトが雄英に就任するって情報科の日陰から聞いたからきっと面白いことになるんじゃないか?」

 

「あぁ、確かいってたね!そっかぁ、でもオールマイトが普通科にはこないよねぇー」

 

「まぁしょうがないだろ」

 

エイミィは席につくとすぐに金成の元へ近づき、普段通りに会話を弾ませる。

周りの好奇な視線に怯むことがないのはなんとも肝が座ってるな。

まぁ小さい頃からの環境のせいもあるか。

 

結局、誰にも話しかけられることなく教師がきた。

そのままある程度挨拶をすませると教師の指示で体育館へ向かう。

 

金成は移動中に単なる興味本位で見聞色の覇気で校内全体の様子を見る。

 

「へぇ、流石に雄英高校と言ったところか。」

 

「ん?どうしたの?」

隣を歩くエイミィが不思議そうに聞いて来る。

 

「いや、校内全体を調べたんだが、結構できそうなのがいるぞ。多分オールマイトもいる。大きい気配を感じるし」

 

「ほーほー。どんくらいできるかな?私戦って見たいかも。」

 

「.....全力を出せばいい勝負ができるんじゃないか?」

 

「ちょっと何その目。なんかすごい傷ついた!」

 

エイミィは随分戦闘狂となってしまったのか。

そう疑問に思うほど最近特に戦闘好きになってしまったな。

まぁ、別に護衛をしっかりすればいいんじゃないかとは思う。

 

 

「いや、すまんすまん」

 

「なんか素っ気ないなぁ。ボスたまにそういうとこあるよね!」

はぁ。コイツはちゃんと隠す気があるのか?

再びのボス呼びにため息をつき、だれかに聞かれたときどうしようかと考えを巡らせる。

その後もエイミィが騒ぎ立てたためか教師から怒られて、やっと静かになる。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

体育館に着くと長い入学式が始まった。

有名校であるためか、偉い方々が多く訪れているため入学証書を貰うまでが本当に長い。

意味もないような挨拶が長々とされているため退屈している。

予定では1時間30ほどかかるらしい。

 

「はぁ....。退屈だ」

 

「しょうがないよボス。ちゃんと聞いてあげなきゃ可哀想だよ」

エイミィも否定はしないため、退屈なことに変わりないらしい。

 

それから数分と立つがついに我慢ができなくなった。

暇つぶしのため、覇気を広げて校内の様子を探る。

 

「ほぉ、ヒーロー科が校庭で何かしている」

 

「へぇ、何してるんだろ?」

 

「さぁ、でも時々気配が大きくなるから個性を使ってるんじゃないか?」

 

「ふーん。」

 

エイミィはそれほど興味が無かったのかそれだけ言って前を向く。

金成は興味があったため詳しく知るために覇気を強める。

見聞色の覇気は元々は人の心の声が聞こえるというものであったが、それを利用して周りの様子を探ることができる。

 

ーーーほう、個性ありの身体測定か。なんだそれ、面白そうじゃねぇか。

あぁ、俺も参加したかったなぁ。

 

そうして他人の心を覗きながら自分も近くで見てるような感覚になって行く。

 

ーーーへぇ、爆豪ねぇ。結構いい力じゃないか。それに、爆豪を止めた教師の個性。相手の個性を消すのか?ふむふむ。

 

生徒の力に驚きながらも楽しんで行く。

 

ーーーん?なんだこの気配。オールマイトと似てる。親子か?いやこれは...

 

緑色の天パの少年がボール投げをしようとした時に急にオールマイトと似た気配を感じた。

不思議に思ってその少年の心を詳しく見るようにした。

 

ーーーくっくっく。そうか!ふはは!あぁ、そんな個性まであるのか!!!後継者ねぇ。

 

緑の彼の個性は元々オールマイトのものだったらしい。

平和の象徴と言われる、NO1ヒーローの個性は代々引き継がれているものだ。

人から人へ、それぞれが極まれし力を蓄えて次へ繋げるものらしい。

 

ーーーほうほうほう、へぇ。こんな個性もあるのか。あいつのもいいなぁ、俺の部隊に欲しいな。

 

次々と行われる個性把握テストで生徒が見せる個性に一喜一憂しながらも楽しんで行く。

 

「ふはは」

 

「ん?ボスどうしたの?」

どうやら声が漏れたらしい。

それほど金成がは興奮していた。

 

「いやなに、ちょっとヒーロー科の様子を探ってたんだが結構面白いのがいる。いい個性だ。うちに欲しいなぁ」

 

「ほぉほぉ。そう言えば、体育祭で生徒同士で戦えるらしいからそん時に勧誘でもしようか!」

 

「いやいや、どう言って勧誘するんだよ。冗談だよ。うちの会社は表では戦闘部隊なんてないことになってるんだから」

元々の戦闘部隊はチンピラやヴィランを、精神を叩き折ってから鍛え直した奴らだ。

それに裏について少し知ってしまっているため、マネトリアカンパニーの社員寮に全員詰め込んでる。

まぁ、元々家がない奴も結構いたから反抗がなく喜んで訓練している奴が多いが。

 

 

 

金成がそうやって暇つぶしをしているとやっと入学式が終わった。

 

それが終わると揃って教室へ戻る。

そのあとは休み時間を挟み、ガイダンスが始まった。

普通科であるため特にこれといった面白い事はなく、一般教養の授業内容についての説明だ。

まぁ、その教師がみんなプロヒーローって言う一風変わった事があるんだが、まぁいい。

 

 

入学式が終わり教室でのガイダンスを終えると、帰るために校門へ向かう。

そこで連絡を取っていた努にあった。

エイミィを連れていたためニヤニヤしながらも弄られたが普通に友達で通した。

それから努に用事があるといってエイミィと共にマネトリアカンパニーへ向かう。

 

 

雄英から離れると、路地裏へ入る。

其処には黒子服を着た日陰が待っていた。

 

「ボス、それにエイミィ。お迎えにあがりました」

 

「あ、日陰ちゃん!やっほー!」

 

「あぁ、よし、行くか」

 

日陰は一礼をすると、そのまま金成たちを掴み影に引きずり込んだ。

 

次に気がつくと其処は社長室であった。

 

「よし、予定通り幹部会議だ。会議室へ向かう。30分以内に集まってくれ」

 

「わかりました」

 

日陰は了承するとそのまま影に入り込んで幹部達を連れてくるために個性を使った。

 

「じゃぁその間に着替えるぞ」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

30分後、社長室がある階にある会議室で金成は待っていた。

服装は、黒をベースにしたスーツで、目元だけ隠したパーティなどで使うような仮面をかぶって待っている。

すでに幹部達には顔を見せているが、なんとなくだ。

こっちの方が雰囲気がいいしカッコいいからな。

 

そうしているうちに次々と幹部が部屋に入ってきて、それぞれ指定された席へ座る。

 

「よし、席に着いたな。では幹部定例会議を始める」

金成は威厳が出るよう若干低めの声を出し、始まりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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七話 幹部定例会議

「よし、幹部定例会議を始める。じゃぁ日陰から」

会議室の机はコの字になっており、金成(かなる)を中心に左右に2、3と分かれている。

ちょうど女性男性と言った感じだ。

 

金成(かなる)の合図で黒子服姿の日陰は立ち上がり報告書を片手に言葉にする。

「はい。では我々情報部からの報告を。今まで情報収集のため全国に支店となる場所を設けてきましたが、先月最後の沖縄支店の建設を終えました。北海道に1、東北に2、関東地方は本部のみの1、中部は2、関西は2、中国は1、四国は1、九州は1、沖縄は1と計12店舗の建設が完了しました。本部に十人、それ以外だと五人ずつ情報収集に長けた個性持ちを配属しました。人数では、65人ほどです」

 

以前は金を捌くための仕事をしていたが、今は彼女自身の個性を活かし、情報収集のための部隊のトップを務めている。

茶髪のボブカットに若々しい肌で、弛むことのない肉体。以前と変わらずの見た目ではあるが今はすでに実年齢は23歳だ。

しかし、本人の強い希望で‘ある個性’により見た目が10代と言っていいほど若々しく保っている。

 

ーーー意外と年齢気にするんだな。まぁ女性はみんな若くいたいか。

 

「ふむ、これで日本の支店は完了したか。よくやった。今度は各支店の練度を高めるためそれぞれに回って指導してくれ」

 

「畏まりました」

日陰は大きく一礼をして席に座った。

 

「じゃぁ次は、美流。報告を上げてくれ」

日陰の隣に座っていた美流は金成の言葉を受け立ち上がる。

 

「はい。では表側を代表する私から。まずメインとなっているアイテム開発事業についてですが、利益が順調に右肩上がりで好調です。最初は懸念しておりましたが、余程資金が潤沢で嬉しかったのか研究員が張り切ったため売れ行きがいいですね。純利益では、年間5億ほどですね。私の予想では後3年ほどで10億に届くでしょう。次に貿易事業に関してはダメですね。すでに他の企業のラインができているため入る隙はないです。年内には撤退します。最後に現時点で社員と研究員数は、五十人と二十人の計七十人となります。」

 

元からであったか、この会社の社長として登録しているのは彼女だ。

その為表の事業に関しては彼女に一任している。

以前と変わらずの、美しい黒髪に顔立ち、若々しい見た目ではあるがその鋭い印象を与える目によって他の企業の社長から美しい女社長と言われているらしい。

まぁその見た目は彼女の個性によるものだが。因みに日陰が若い理由がこれだ。美流と日陰は結構仲がいいらしい。

無表情同士通ずるものがあるのか?

 

彼女の個性は金成の金を生み出す個性の次に有用だ。

世間に知れたら表裏問わず狙われることに間違いない。

彼女の個性は自他問わず年齢を変えることができる。

これでわかるだろう?これの力がどれだけ素晴らしいか。まぁその代わり、その力を知っているのは幹部連中までだが一応のため十人ほど影から護衛をつけている。

彼女の戦闘力は正直一般人と等しい為しょうがない。

 

「んー。やっぱ貿易は無理だったか。まぁいい。表の事業は資金がある限り自由にしていい。次もある程度計画立てたら持ってきてくれ。余程のことがない限り君に一任しよう」

 

「....はい。わかりました」

金成のあまりの信用に驚いてしまい、一瞬固まるがすぐに着席した。

 

ーーーそんなに信用されてるのかしら、なんか嬉しいわね。

 

「美流、顔」

 

「うるさい」

 

「ぐふっ」

 

横から日陰が無表情でチャチャを入れてくるが肘打ちで黙らされた。

 

「....。つぎに荒戸。報告してくれ」

金成は見なかったことにして次の報告のため荒戸を促す。

 

「うっす。じゃぁ次は僕の軍部から報告します。一応東京都内の区画はある程度掌握しました。従属とまではいかないけど、こちらを襲わないように約束させたので大体は大丈夫だと思います。まぁヴィラン連合って例外が東京に住み着いてるらしいですが、奴らの先生?と呼ばれる人物以外は多分雑魚っす」

荒戸が任されているのは軍部だ。ここでいう軍部とは剣司が務める訓練部隊上がりの戦闘員を指揮するとこだ。

彼が主に担当するのは以前とは変わらず、裏の連中の制御だ。

彼も彼女ら然り、以前と同様の、痛んだ茶髪をワックスで固めたチャラい感じの男だ。実年齢は二十五は超えているが見た目は20代になったばかりといったところだ。

こいつが年齢操作を希望していたことに最初は驚いた。思わず理由を聞いてしまい、帰ってきた言葉に呆れてしまった。

ーーー若い方がモテるっぽくないっすか?

なんか戦闘力の維持のためという答えに期待した金成は悪くないと思う。

 

「ん?やっぱヴィラン連合がいるかぁ。その先生ってやつはどんなやつなんだ?」

不思議に思って聞き返すがそれに答えたのは日陰。

 

「それは私が。こちらの情報部で調べたんですが、これといった情報が入ってきませんでした。それ以外のメンバーの情報は結構容易に入手が可能ですが、さすがトップといったところか情報が来ません」

日陰はヴィラン連合について報告をあげるとそのまま座る。

 

「んー。そうかぁ。まぁ日陰は引き続きヴィラン連合の先生とやらの情報を集めてくれ。じゃぁ荒戸続きを」

 

「はい。それ以外ですと、先月にアメリカへ派遣した部隊が戻ってきました。交戦があったとのことですが軽症者2名のみでした。それと思わぬ収穫があったっすね。結構使える個性持ちのヴィランを捕らえたので、訓練部送りにしときました。個性については手元の資料にまとめといたっす。あ、剣司よろしく〜」

荒戸は報告を終えて椅子に座ると、剣司に体を向けるとフニャっとした笑顔で手を振っている。

 

「ほう。軽症者2名と。その二人はこっちのに送っとけ。鍛え直す。それと捕虜の方は悪感情の抜ける個性持ちがいるし精神へし折ってこちらにつける。まぁ監視付きだが」

 

「...まぁあの二人も頑張ったからお手柔らかに頼むっすよ」

流石に軽症のみでそれはかわいそうと思ったのか、顔が引きつっていた。

 

「うん。いい個性だな。よし剣司頼むぞ。監視もつけとけよ。うまく懐柔してくれ。荒戸、海外遠征部隊については引き続きメンバーを入れ替えて他の国に送ってくれ」

裏の制御の他に行なっているのは海外遠征だ。

 

ーーー本当は自分から海外へ向かいたかったのだが残念だなぁ。

 

主な任務は海外のヒーロー、ヴィランについての情報収集と、子供の孤児、物乞いなど生活に困ってる奴らの中で使える個性がいるなら衣食住の保障の条件をつけてこちらにつけることだ。

子供のうちだと、スパイという可能性は低いし、その頃からだと情操教育がしやすい。

そういった理由で強個性持ちを訓練部に送り心身ともに鍛えている。

 

「うっす。あ、現時点での軍部人数は遠征部隊に含めて六十人っす」

荒戸は人数報告を忘れていたため慌てて報告した。

 

「じゃぁ最後は剣司。頼む」

 

「わかった。じゃぁ訓練部から。以前から計画していた社員寮の増築が済んだため、戦闘員からの不満はある程度消えた。以前加入した悪感情を減らす個性持ちのおかげて教育がしやすくなった。以前はヴィランであったためか反発も多かったが今じゃほとんどない。給料も、有休もある程度与えているし大丈夫だ。訓練は順調だ。

最後に現時点での人数は、訓練生五十五人。これで報告を終える」

彼はこちらに引き入れた連中の教育、訓練が主な仕事だ。

流石にバカだといけないのでそれ以外にも臨時の教員を雇って一般教養を教えている。

 

ちなみに彼は若返りを希望しなかったため若干老けて30代だ。

厳つさに、ダンディさが加わったため結構いい格好をしている。

 

「よし。わかった。じゃぁ大体報告は以上だな。じゃぁ今月の定例会議を終える。各人は仕事へ戻ってくれ」

 

「「「はい!」」」

 

それぞれは緊張の糸が切れたのか体を伸ばすものがいたり、即座に部屋から出て仕事に戻ったりするものがいたりと色々だ。

 

「ふぅ。終わったねぇ。じゃぁそろそろお昼ご飯に行こうよ〜。もう1時過ぎちゃったし」

今まで黙って座ってたエイミィが疲れた様子で声をかける。エイミィは金成の護衛のみである為本当はこの会議に参加しなくていいのだが本人の希望により参加している。

 

「んー。もう1時か。よしじゃぁいくか。今日はどこがいい?」

 

「今日はお寿司がいいなぁー!」

 

「ん。そうか、じゃぁ今から寿司屋に行くか。じゃぁ日陰に車を回すように連絡してくれ」

 

「わかったー!」

エイミィは寿司に行けるのが嬉しいため、少しはしゃぎながら日陰に連絡をつけるため携帯を取りだし、連絡しだした。

 

金成も会議は疲れるため高級な椅子に座りなおすと、若干力を抜いてダレる。

 

「...あぁ疲れたぁ。身体動かしたいなぁ。俺が遠征したいなぁ」

金成は報告だけではなく自分も行きたいため不満が止まることがない。

 

「もう!ボスきいてる?日陰ちゃんが車回したから行こうよ!」

エイミィは無視されたと思ったらしく少し怒っている。

 

「ん、あぁわりぃ。じゃぁ行くか」

 

「もう!」

金成はエイミィの機嫌が直るようにと祈りながら頭を撫でると若干頬が緩んだため、そのままエイミィを連れて地下の車をがあるところへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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八話 1年D組、そしてUSJ見学

今は入学式を終えた次の日の朝。

金成(かなる)とエイミィは自分のクラスである1年D組の扉を開けて中へ入った。

すると、まだ二日目であるためかエイミィに少しばかりの注目が集まっている。

しかし、金成達は気にすることなく、自分の席へ向かった。

エイミィが自分の席へかばんを置きいつもと同様に金成と教師が来るまでに話でもしようかと歩き出そうとすると横から声がかかった。

 

「あ、あのグランドールさんだよね?よろしく。私は阿久津美亜(あくつみあ)っていうの。これからよろしくね?」

異形系の個性なのか額から鬼のような赤い角をはやした女の子だ。

彼女もクラスで友人も誰もいなく、初めての隣の席の子がすらっとした美人で驚いていた。

しかしこれから1年は一緒にいることが分かっているため勇気を振り絞って話しかけたのだ。

 

「うん、よろしく!でもグランドールは呼びにくいと思うからエイミィでいいよ。これからよろしくね?」

エイミィは頑張ってくれたんだなと思ったのでいつも以上に笑顔を向ける。

エイミィもこんなに初めから話しかけられるとは思っていなかったらしく若干驚いたけれど、うれしいことには変わりない。

 

「そ。そっか、うん。わかったよ!じゃぁエイミィって呼ぶね!」

美亜はエイミィが笑ってくれたので嫌がっていないってことが分かったらしく、少しあった緊張がほどけて自然に会話ができるようになっていた。

彼女の様子をうかがっていた周りの女生徒達もエイミィが普通に話してくれることが分かったらしく次々と自己紹介が始まっていく。

 

ーーーなんだ。早速友人ができたのか。じゃぁ俺も何人かと話そうかな。暇だし。

 

金成は手始めに隣に座っているおとなしそうな男子生徒に話しかけることにした。

 

「よぉ、俺は来栖金成っていうんだ、よろしくな」

 

「ん?あぁこちらこそ。俺は夢大智(ゆめだいち)だよ。よろしく」

隣の男子生徒はこの個性社会では珍しいいたって普通の風貌をしていた。

以前の日本人の特徴であった黒髪で、あまり特徴のない顔立ちをしている。

彼は隣から話しかけられたので、横を向いて自己紹介を始めた。

 

「大智かよろしく。俺は金成でいいよ」

それからは教師が来るまで大智と共に話していく。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「うーん。やっぱ席が埋まってるなぁ。エイミィどうする?」

 

「じゃぁボスは席探しといて!私はご飯を取ってくるね」

 

金成達がいるのは雄英高校の食堂だ。

さすが雄英であったか、ここの食堂には1から3年まですべての生徒が昼食を取りに来るため、大変にぎわっていた。

席は螺旋階段を昇れば上フロアで食べられるにもかかわらずほとんどの席が埋まっていた。

この食堂の特徴はクック系ヒーローと呼ばれるプロヒーローが格安で昼食を提供してくれるのだ。

そのため、生徒のほとんどは弁当を持ってくることなくここで昼食をとっていた。

 

金成は昼食を受け取るための行列へ並びに行ったエイミィを見送ると席探しを始める。

がやがやと周りが騒がしい中、見聞色の覇気を発動した。

 

ーーーん?あそこが空きそうだな。

 

他人の心を読んで食べ終わろうとしている生徒を探し当て、彼らが立ち上がると同時に2席分確保する。

 

「ふぅ、やっと取れたか。エイミィ場所わかるか?」

金成は椅子に座ると一息ついた。

席が取れたはいいもののこの人混みだ、こちらまでたどり着けるか不安である。

 

「あ、ボスーー!持ってきたよー!ラーメン好きだよね?」

数分席に座って待っていると、エイミィが両手にラーメンを持ってきた。

 

「おい、ちょっとは人の目を気にしろよ...。ボスって言うな」

 

「え、えへへ。まぁいいじゃん!食べようよ!」

 

「まぁいいか。じゃぁ食べるか」

エイミィのボス呼びに、声が大きかったため結構遠くの方の席の人もこちらをチラッと見ていた。若干の恥ずかしさを覚えながら食事を取って行く。

「そう言えば、どうだった授業?」

 

「そうだなぁ、勉強は嫌いだから退屈だな。早く文化祭こねぇかなぁ」

麺をすすりながら器用にため息をついた。

 

「あはは、そう言えば先生から聞いたんだけど、体育祭でヒーロー科以外の生徒がいい成績出すとヒーロー科に転科できるらしいよ」

 

「...へぇ、いいじゃないか。ならちょっと本気出そうか?」

 

「ぼ、ボスの本気はちょっと危ないかなぁ」

 

エイミィは金成の本気を想像して冷や汗をかく。

エイミィが知っている金成の本気は覇王色の覇気を纏いながらの戦闘と知っているからだ。常時覇王色を発動しながら武装色で身を固めている姿は、蒸気も相まって裏ボス感が半端ないのだ。

 

ーーーそれじゃぁ、観客全員気絶しちゃうよ。

 

 

「ま、まぁじゃぁそこそこに頑張ろうよ!二人で!」

 

「いや、エイミィが本気出したら死傷者大量発生だろ」

 

「ちょ、ひどいーーー!わたし前より制御上手くなったんですけどー!!」

エイミィは心外だとばかりに立ち上がり反発する。

 

「あぁわりぃわりぃ」

 

「ほらまた素っ気ないなぁー!」

 

「くふははは!」

ーーーあぁ楽しい、何でこんな弄り甲斐があるんだろ。

 

二人は周りからかなり目立っているが、気にすることなく食事を再開した。

 

「はぁ....。これをあと何日続けるんだぁ...」

金成は授業終わりのチャイムと同時に机へ項垂れ文句を垂れる。

 

「ボス、頑張ろうよ。」

エイミィがご機嫌を取るように優しく聞いているが、今金成の頭の中にあるのは、ヒーロー科には入れなかった自分の学力への後悔と、体育祭でどうやってアピールするかで頭がいっぱいだった。

 

 

 

その後の授業は面白みもなく終えて1日を終えた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「ん?通信がきた」

 

「あ、わたしも」

 

次の日の午前中の授業を終えて、エイミィと二人で昼食をとっていると、脳内に声が響いた。

 

《ボス、それにエイミィ様、緊急事態です。先程我ら情報部がマークしていたヴィラン連合に動きがありました》

情報部にいる念話の個性持ちからの通信だ。念話といっても目印となる物を持っている人と回線をつなぐため一方通行ではない。

因みに目印は指輪だ。

金成とエイミィは人差し指にシンプルなシルバーの指輪を付けている。

シンプルとは言え、裏には社員ナンバーが記され、リングの芯を金成の黄金で構成し、その表面を銀でコーティングしている特注だが。

それより、

ーーーヴィラン連合が動いた?いや、それだけで緊急事態か?

 

《緊急事態って何だ?》

 

《うんうん!なにかな!》

.....エイミィも大概だな。

 

《...それが100名ほどのヴィラン達がある場所に向かうらしく、慌ただしく準備を進めています。》

 

《ん?ある場所ってどこだ?》

言いずらいどころか?戸惑っているように思われる。

 

《....ボス達がいる雄英高校らしいです。午後からヒーロー科で行われる演習場に向かって、そこに共に向かうオールマイトの殺害が目的です》

 

ーーーオールマイトの殺害?そんな事がか?そこまでプロヒーローが集まる雄英に襲撃するほどの価値があるのか?

 

情報部からの報告に一瞬驚くも、これからどうするかについて考える。

それも一瞬、すでに考えは決まった。

 

《じゃぁ、日陰に伝えてくれ。監視だけを付けろと。後は、俺たちが直接行く》

 

《おおおお!!いいね!ボス!私も襲撃が見たかったんだ!》

 

 

「ふっははははは!!!」

金成達は無言で笑っている。

 

「おっと、声が出たか。」

周りの生徒がギョッとした目で見たが既に視覚に入っていない。

 

《分かりました。そうお伝えしておきます。では、報告を終えます》

 

「よし、エイミィ早く食べ終わるぞ。その後の教師に早退届を出しに行く」

 

「うん!」

それを合図に二人は勢いよく食べていった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

緑豊かな森の中に東京ドーム5個分ほどはあるであろうホール状の壮大な建造物が居をかまえている。

その上空に様々なバラ模様が描かれた仮面を被った人たちがいた。

 

今、金成達はヒーロー科が演習を行う大きなホールに来ていた。

ここは雄英高校がある校舎からバスで10分程にある森の中にあった。

 

「へぇ、災害訓練かぁ。これだけでも面白そうじゃん」

金成は巨大ホールを上から見下ろしている。

 

「あ、生徒達のバスがきたよ」

 

「ボス、バレるのでもうすこし上に行きます」

 

金成達は上空に浮かぶ赤いソファに座っている。

金成に声をかけた軍部の男性が個性を発動させる。

彼の個性は触れた無機物を自由に操る事ができる能力だ。

彼の能力でソファを浮かせてそこに座っていた。

 

生徒たちが続々降りてきてホールの入り口に集まる。

 

「あれ、オールマイトがいないな」

 

「本当だ、ヴィラン連合が間違えたのかな?」

不思議に思って見聞色の覇気を利用し、今いる教師二人の会話を覗き見る。

 

ーーーオールマイトは時間いっぱいに活動したらしく、授業の最後のみくるらしいです。

 

「へぇ、オールマイトって活動限界あったのか」

 

「ん?そうなの?」

 

「あぁ、教師の話によるとそうらしい」

 

まぁそんな事がどうでもいい。

そうしているうちに教師達による説明が終わったらしく、彼らはホールの大きな扉を開く。

 

金成たちも中の様子が良く見えるように、ホール上空はガラス張りのため、上空へ移動する。

するとすぐに、ワープの個性持ちのヴィランの力で続々とヴィラン達が現れてきた。

 

「あ、現れたみたいだよ!ヴィラン連合!どうする?!私たちも戦う?」

 

「いや、流石に仮面つけてるといってもバレるかもしれないだろ。ここは見学だ」

 

流石にここでバレたくない。その為今回は見学に徹しようと決めた。

流石に命の危険が来たら助けに入ろうと思うが、多分大丈夫だろう。

 

臥雲(がうん)、雄英高校の校長室に手紙を届けたか?」

 

「...はい。日陰様によるとついさっき送り届けたそうです。」

物を浮かせる個性の男、臥雲(がうん)に聞いたところ、知らせることに成功したらしい。

 

ーーーここまで大規模に襲撃を起こす連中だ。通信手段を傍受するのは基本だ。

 

念のために日陰に校長に手紙を出させていた。

あの校長は緩そうではあるがあんな手紙が来たからには、一応のために確認に来るだろうと思っている。

 

 

 

 

 

「さぁ、ヴィラン連合がどれだけできるか、ヒーロー科がどれだけ抵抗できるか。見てみようじゃないか!」

金成はカッコつけるように腕をソファに乗せ、足を組んで不敵に笑う。

 

「ボス!狭いから足組まないで!」

 

「......。臥雲(がうん)望遠鏡ちょうだい。」

 

「は、はい」

臥雲はいまのを聞かなかったことにして、懐から二つの望遠鏡を取り出しふたりにわたした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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九話 USJの終結、そして宣戦布告

ヴィラン連合が現れるとすぐに生徒たちは個性によって、ホール内の各地に飛ばされた。

そこでは何人ものヴィランが待ち受けており、ヴィラン連合は数で生徒達を倒す気でいるらしい。

 

「へぇ、あのワープの個性強いなぁ。まぁ日陰の方が強いが」

 

「日陰ちゃんと比べたら可哀想だよ。日陰ちゃんのワープって個性の応用だからあれが本気じゃないし」

二人は望遠鏡を覗きながら戦況を眺める。

 

ーーーほう、あの緑髪のやつやっぱつえぇなぁ。やっぱ気配がオールマイトにそっくりなんだよなぁ。

 

いずれその事についても探りを入れてみようかと考える。

 

ーーーあの個性を消す教師、やはりプロヒーローなだけはある。格闘技と、あの特殊なマフラーで何十人のヴィランとやりあってるなぁ。

 

あのマフラーはヒーロー用アイテムなのだろうか。

金成は自身の開発局でも作らせてみようと良く構造を覚えておく。

 

「あ、先生がやられちゃった。そろそろやばそうだけどどうする?行ったほうがいいかな?」

 

「んー、......いやいい。援軍がくるぞ」

エイミィが心配そうに聞いて来たが心配いらない。

金成は念話で入った情報に口角を上げて笑う。

 

「そろそろ本番だ!くるぞ、平和の象徴、オールマイトがな!」

 

 

 

 

 

 

 

それからすぐにホールの入り口がぶち開けられる。

土煙が舞う中、大きな影が現れる。

誰もがその音に沈黙を保つ中、希望の声が響く。

 

「大丈夫!!私が来た!」

 

ヒーローにとっても、そしてヴィランにとっても待ちわびた声だ。

 

 

「さぁどうするよ。ヴィラン連合」

 

 

 

 

 

 

 

ヴィラン連合がオールマイト対策で特殊なヴィランを連れて来て一時オールマイトはピンチに陥ったが生徒達が思わぬ活躍をしたらしく、特殊ヴィランの脳無(のうむ)とやりあっている。

 

「うぉぉー!!速いねぇ!殴るの!私勝てるかなぁ?」

エイミィは闘いにしか興味ないのかと、少し呆れるが金成はエイミィは負けないと思ってる。

 

「そもそも肉体系に対してはエイミィは無敵だろ。殴られた時点で相手はほぼ重傷を負っちまうだろ」

 

「いやぁ、どうだろー!あぁ、いつ戦えるかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「っとあぶない!臥雲(がうん)、避けろ!!」

 

「っ、はい!」

 

そばにいた臥雲は金成の声で咄嗟にソファを動かす。

直後に、そこを黒い物体がホールの天井をぶち破り、横を通り過ぎていく。

オールマイトと戦っていた脳無だ。彼対策しているとはいえ、流石に敵わなかったらしい。オールマイトにぶっ飛ばされた。

 

「うひゃ、よく飛んだなぁ。っと、臥雲。あのヴィランはオールマイトのために特殊な改造をされたらしい。うちの会社で回収してくれ。あ、通信機とか気をつけろよ?追跡されるな」

 

「了解しました」

 

金成は先ほどのオールマイトの戦闘で十分満足した。

 

ーーーいやぁ、いいものが見れた。やっぱ面白いかったなぁ。

 

「あ、他の教師達も来たか。ヴィラン連合も撤退したし俺たちも帰るか。」

 

「そうだねー!」

オールマイトに続くように、校長を筆頭にプロヒーロー達が集まって来た。

それを機にヴィラン連合のリーダーらしき青年をワープ個性持ちが回収して撤退して行った。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

金成達はそのまま本社へ戻る。

社長室で待っていると、黒子服姿の日陰が入ってくる。

 

「ボス、脳無を無事捕獲しました。通信機のようなものも有りません。これから解析に入ります」

日陰は扉を丁寧に閉めると、書類を片手に報告していく。

 

「そうか、じゃぁあとは任せようか。結果が出次第報告してくれ。あ、それとこれから夕食に行くから車出してくれ。日陰もまだだろ?行くぞ」

 

「かしこまりました。すぐに車を玄関に回します」

日陰が一礼をして部屋から出ると、金成は高級な椅子で背筋を伸ばして体をほぐす。

「んー!疲れた。いいものが見れたなぁ」

 

「あ、ボス!明日休みらしいよ!学校。多分襲撃があったからだと思う」

部屋のソファに座るエイミィが携帯に送られて来た雄英からのメールを眺めて金成に内容を知らせた。

 

「そうかぁ。まぁいい。それより、体育祭は1週間後らしいぞ。どうなるんだ。中止とかはないよな?」

 

別に1日休みでも構わない。勉強が好きではないため逆に好都合だ。

それよりも重要なのは1週間後の体育祭の開催だ。せっかく楽しみにしていた企画だ。延期ならまだいいが中止となっては怒りのためヴィラン連合を壊滅させに動こうかと考えるほどだ。

 

「んー。大丈夫らしいよ!メールには1週間後の体育祭には影響がありません。って書いてあるし」

 

「ん?そうかそうか!よしじゃぁ着替えて飯食い行くぞ!」

その一言で機嫌を直した金成は即座に着替えて部屋を出た。

 

「あー!もうまってよ!」

エイミィも急いで着替えて金成を追った。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

雄英高校の体育祭は全国に生中継されるほど日本中から楽しみにされている。

かつてはスポーツの祭典とされて来たオリンピックは個性の発現により、人数も規模も大幅に縮小してしまった。

 

しかしそれに変わるように日本では、個性を使ったスポーツ、特に雄英高校の体育祭が人気を博したのだ。

 

会場は観客が何万人も入るようなホールで行われ、それに便乗するように屋台や、宿泊施設、警備会社などの社会へもたらす利益が膨大になる。それに、ここは雄英高校生にとってもただの体育祭じゃない。

ここにくるのは一般人だけでなく、ヒーロー事務所のスカウトが何人も訪れ生徒達を観察し、評価するのだ。

うまく行くと、夏にあるヒーロー事務所の見学に招待されることもある。

そのためヒーロー科だけでなく、ヒーロー科に落ちた普通科や、自分のアイテムを売り込みたい開発科の生徒達も張り切って参加する。

まぁ経営科は殆ど蚊帳の外だが。

 

その為、襲撃くらいでは中止にならないのであろう。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

臨時休校の次の日、金成達は退屈な授業を終えて帰り支度をしていた。

 

登校した時に何故突然二人揃って早退したのかと、若干意味深げに聞いて来たが、エイミィが体調不良を起こし幼馴染の自分が看病のため早退と嘘をついてなんとか誤魔化した。

 

教科書をカバンに詰めて帰ろうと廊下へ出るとやけに騒がしいのに気がついた。

 

「ん?なんだこの騒ぎ。人がうじゃうじゃいるぞ」

 

「ん?なにかな。あ、ヒーロー科があるA組の前が一番騒がしいよ!」

エイミィは大きくジャンプして何が起こっているのか把握する。

 

「へぇ、面白そうじゃん。ちょっと見に行くか。エイミィも行くか?」

 

「うん!勿論!」

 

金成達は人ごみの中を器用に通ってA組の前まで移動する。

「っと、すまんすまん。通してくれよ。お、なんだこれ」

 

「ぷはあ!やっと出れた」

エイミィは息を切らして人の隙間から出て来た。

 

「なぁこの騒ぎ何?」

 

「はぁ?知らないでこの人ごみの中前に出たのかよ....。まぁいい。私らはあの襲撃を追い返したA組みをちょっと見に来たわけよ」

隣にいたオレンジの髪をサイドテールにしている健康的な体躯の少女に声をかけた。

 

「へぇ。そんなに気になるのか」

ここにいる生徒は今か今かとA組の扉が開くのを待っているらしい。

 

「あんたは気にならないの?私はヒーロー科B組の拳藤一佳。あんたは?」

少女はこの人ごみの中前に出た男に興味を持ったので名前を訪ねる。

 

「ん?俺か、俺はD組普通科の来栖金成。よろしく。まぁそんな気にならねぇなぁ」

金成が答えると同時に、A組の扉が開いた。

 

 

 

 

 

 

「なんだこりゃぁ?!」

 

「出れねーじゃねーか!!」

A組の生徒もこの集まりように驚いているようだ。

 

A組が自分らのクラスの前に集まる人の数に驚きの声を上げていると、その奥から声が不機嫌を隠そうともせず敵意丸出しの声が上がる。

 

「敵情視察だろ、ざこ。ヴィランの襲撃を耐え抜いた連中だもんな。体育祭の前に見ときてえんだろ。意味ねぇからどけ、モブども。

 

奥から薄暗い金髪を爆発させたような、服を着崩したヤンキーのような見た目の少年が挑発しながら前に出た。

 

ーーーふーん。そうか体育祭の前に見ときたかったんだ。

金成は襲撃だけでなく体育祭のための敵情視察も含まれてるのかと気がついた。

 

「んー。なんかあの子口悪いねぇ。雑魚のくせに」

エイミィは少し癇に障ったのか口が悪くなった。

 

「おいおい、言ってやるなって。あれがヤンキーって言うんだよ。覚えとけよ」

バカにするようにニヤッと笑った。

金成も暇だったためそれに乗ることにした。

 

「おー!あれがヤンキーなんだ!ボス詳しいねー!」

エイミィは裏がないのか純粋にヤンキーに会えて喜んでる。

 

ーーーあれ?こいつ挑発しようとしてたんじゃないのかよ。恥ずかしい。

エイミィが挑発しようとしてたと勘違いした自分が恥ずかしい。

 

ブチブチブチブチ

 

「んだとこらあああああ!!!!?!?!」

ふとあの少年を見るとこちらの声が聞こえたらしく完全にキレてる。

つり目の鋭い瞳が、怒りの感情でより一層険しく吊り上っている。

ーーーあはは、どうすっかなぁ。まぁいっか。

 

 

「お、おい爆豪!落ち着けって!」

A組の少年が爆豪と呼ばれた少年を止める。

 

金成はそのまま挑発しようかと思っていると脇から声がかかる。

 

「ヒーロー科に在籍する奴はみんなこうなのかい?こう言うの見ちゃうとちょっと幻滅するなぁ。普通科とか他の科ってヒーロー科に落ちたやつが結構いるの知ってた?体育祭のリザルトによっちゃぁ、ヒーロー科編入も検討してくれるらしいよ?まぁ逆もまた然り」

 

ーーーおうおう、めっちゃ挑発するじゃん。まぁ俺も編入希望だけどさ。

隣の振り切った挑発をする少年に少し驚く。

 

「あの子めっちゃ言うね!」

 

「あぁそうだな」

 

 

 

 

 

「敵情視察?少なくとも普通科(おれ)調子のってっと、足元ゴッソリ(すく)っちゃうぞっつー宣戦布告に来たつもり

 

「雑魚が!何言ってんだ」

爆豪が睨みつける。

目の前で二人が対峙している。

 

 

 

 

 

「うひゃぁ、どうする?!ボスもなんか言う?!何言おうっか!」

 

「バカ、何も言わないよ。これ以上火に油注いでどうする」

いつものエイミィに少し呆れてしまう。

 

でも少しばかり荒れてた(前世)を思い出してしまい、少し感傷に浸ってしまう。

昔はこんな風に挑発したなぁ。と少し羨んでしまった。

まぁ楽しいしいっか。

 

 

「ま、いいや。見るもん見たし帰るぞ。エイミィ。っとすんませーん。通りまーっす!」

 

「あ、ちょ!ボスー!」

エイミィの腕を掴んで再び人ごみの中に消えていった。

 

 

 

ーーーなんだったんだあいつら?

 

ーーーただのバカップルじゃね?

 

ーーーカップルかぁ、体育祭の新しい標的ができたわ。

 

ーーーおいおい、なんか悲しいからやめとけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうしてあっという間に、1週間は過ぎていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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十話 体育祭の始まり

「なぁ、金成(かなる)。なんでこんなに騒がしいんだろうな。」

 

「いや、来週体育祭だからじゃないの?」

 

休み時間になると生徒たちは友達同士で来週の体育祭についての話で盛り上がっている。

エイミィの周りにも数名の女子が集まり会話を弾ませている。

 

「いやいや、うちの体育祭って言っちゃうとヒーロー科がメインじゃん?俺たちが活躍することなんてないし、辛いだけだろ」

諦めの感情を滲ませた声を絞るように漏らす。

 

きいたところによると、大智は元々はヒーロー科志望であり、落ちたために普通科に入ったらしい。

若干のネガティブ思考がある。

 

「いや聞いたところ、頑張ったらヒーロー科に入れるらしいじゃん。それに、屋台とか、色々出るし選手じゃなくてもお祭り騒ぎて楽しいんだろ」

まぁ、金成はバリバリヒーロー科編入狙ってるが。

 

「いや、聞いてないの?ヒーロー科に編入したのここ10年ないらしいぞ。無茶だろ...。」

若干顔を俯かせながら言葉を漏らした。

 

「あちゃー、まじかぁ。それは聞いてないなぁ。そもそもどこまで活躍すればいいかわかんないよなぁ」

まさか、10年はないとは思わなかった。

金成が本気を出したら優勝できる自信がある。よほど相性が悪くなければだけど。

問題はどこまで力を出すかだ。流石に覇気はバリバリ使うが、ゴルゴルの実を使うかが悩ましいところだ。

使ってもその金色の流動体が黄金ってバレなきゃ問題はない。

しかし全国放送だ、必ず気がつく奴が出てくる、と思う。

 

「っと、先生が来た」

 

そこで前の扉から先生が入って来て授業開始にチャイムが鳴った。

 

 

 

 

 

金成は孤児院に帰宅する前に一旦マネトリアカンパニーに来ている。

今は社長室の椅子に座って部下から上がって来た報告書を読んでいる。

 

エイミィは暇つぶしに、中央のソファで報告書を持って来た日陰を誘ってジェンガをしている。

 

「ふーん。衝撃吸収に、超再生ねぇ。日陰、この情報はあってるの?」

 

「はい、我が部隊が調べた限りほぼ合ってます」

机から目を離し金成と目を合わせる。

 

「人体改造でここまでできるかぁ。じゃぁこの報告を元にアイテム開発に役立ててくれたらいいよ」

 

「わかりました。其れで脳無はどうしましょう?処分しますか?」

日陰が立ち上がった拍子にジェンガが崩れてしまい、ついでにエイミィも床に崩れ落ちる。

ーーー崩れたぁああああ!!

 

「....。いや、できる限り矯正の方向で持ってってくれ。もし無理そうならあとはそっちに任せる」

 

「かしこまりました。

ではエイミィ私はこれで」

日陰はそのまま影の中へ消えて言った。

 

その日はテンションが低いエイミィの為に美味しいレストランで夕食をしてからの帰宅となった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

それからあっという間に日が過ぎ、体育祭当日の朝を迎える。

 

 

雄英高校の前には一目、生徒たちの熱い戦いを見ようと訪れた人々で長蛇の列が出来ている。中にはメディアの人達もいる。

先日に、ヴィラン襲撃事件があった為入場の際には厳重な検査が行われているのだ。

 

雄英高校までの道路も今は封鎖され、屋台がずらっと並んでいる。

そこにいる人たちの間を縫って金成達は校舎を目指す。

 

「はぁ、すっごいひと。なんか酔って来ちゃうよ。うおっぷ」

エイミィは自身の口を手で塞ぎながら重い足取りで金成について行く。

 

「本当に、ここまで多いとはなぁ」

 

本当にすごい。校舎裏から打ち上がる花火や、そこら中から聞こえる人の声。

今回の警備にプロヒーローがたくさん集められた為、至る所で彼らからサインをもらおうとする子供達が多い。

 

試合会場となる、何万人と入るホールは敷地内にあるらしく、直に観戦したい人は午前2時から入場を始めている人もいる。

まぁ至る所に観戦用のモニターがある休憩所があるため敷地外でも楽しめるが。

 

「本当雄英って敷地でかいよなぁ。1学年で一つのホールだってよ」

 

「うっぷ。そうだね...。それより早く行こうよ。じゃないと口から目玉焼きがでちゃうよぉ〜」

青い顔をしながら赤い髪を揺らしている。今日の朝食は目玉焼きだったらしく、若干涙を滲ませながら口を押さえている。

 

「あぁそうだな。じゃぁ生徒用入り口へ急ぐか」

流石にこれ以上はエイミィにはきついと判断した金成は早々に控え室へ向かおうと足を動かした。

 

生徒用入り口は大きな一般用入り口の隣にあるためそちらへ足を運ぶ。

すると長蛇の列の横を通る時に声が聞こえてきた。

 

「やっぱ今回の注目は1年A組ね!ヴィラン襲撃を撃退したクラス!絶対数字でるわよ!」

 

「それにしても入場検査長いっすねぇ」

 

「仕方ないじゃない。あんな事あったんだし、こんなことにもなるわよ。そもそも開催を危ぶまれていたくらいだし」

男女のペアのカメラを持ったマスコミの声が聞こえる。

 

ーーーやっぱヒーロー科は目立つなぁ。まぁ楽しめるならどうでもいいや。

 

「おっと、よし急ぐぞ!」

エイミィが酔っていること思い出したため、先ほどの会話を頭の片隅からデリートして敷地の中へ入って行く。

 

 

「うひゃぁ。中も多いなぁ」

まるで文化祭のようなイメージだ。

中に入ると、外程の人数ではないが生徒や、観光客、プロヒーローなどで溢れかえっている。

 

ホールまでの案内板を持った人がいたり、屋台で売り込み中の女性、プロヒーローとの記念撮影、カップルが仲良くたこ焼きを食べあいっこなど、本当にお祭り状態だ。

 

流石に時間がないため急いでホールにある、1年D組のクラスの控え室へ向かう。

 

控え室へ入るとすでにほとんどの人が揃っていた。

それぞれが緊張をほぐすためか体を動かすものがいたり、音楽を聴いているものがいたりと気合が入っている。

「っと、エイミィ大丈夫?!顔が真っ青だよ?!」

 

「あぁ、人ごみで酔ったらしい。ちょっと座らせてやってくれ」

エイミィの様子に驚き駆け寄って来た美亜へエイミィの症状を教えてる。

 

「う、うん!ほらエイミィあっちに行こうね」

 

「うっぷ。だめ、やばい」

青い顔のエイミィに肩を貸して椅子へ向かう。

周りも心配していたのか、女子達が心配して集まって来た。

 

金成はエイミィを美亜に預けると空いてるパイプ椅子へと座った。

 

「よ、遅かったな。それよりあれ大丈夫か?」

 

「ん?大丈夫だろ。アイツ体丈夫だし」

 

「いや、今回は精神的なやつだろ...」

近寄って来た大智は具合が悪そうなエイミィを指差しながら近くの椅子に座る。

 

「で、どうよ。やる気出た?」

金成は、大智は本番になればやる気が出るだろうと思っていた。

 

「んー。やる気以前にちょっと緊張して来た」

 

「ふははは!そうかそうか。まぁ楽しめ。本当に楽しいなぁ。体育祭」

まだ始まってすらいないのに金成は少しテンションが上がっている。

こういうイベントが大好きなのである。

 

「まだ始まってもないだろ....。っとそろそろ入場の時間だ」

 

時間になったため係員が入場の時間を告げに来た。

 

ふと気になりエイミィの方を見るとすっかり元気になっていて、友人達とお喋りしてた。

 

ーーーやっぱ元気か。よし!いっちょ行ったるかーーー!!

 

金成は気合を入れて体をほぐした。

 

 

 

 

 

 

 

A組から順番に入場して行く。

 

ーーー1年ステージ!遂に入場だーーー!!!

プレゼントマイクの声がこちらまで聞こえてくる。

 

ーーーわーわー。きゃーきゃー。

 

まだ入場口まで遠いにもかかわらず歓声が凄い。

A組が人気なのかこれが普通なのか分からないが、段々と楽しくなってくる。

「歓声が凄いね!やっと始まったって感じだよ!」

 

「そうだな。なんの種目があるんだろ。毎年ランダムって言うからなぁ」

すっかり元気になったエイミィは跳ねるように今の感情を体で表現する。

 

「っとそろそろ俺たちもだ。エイミィ」

 

「ん?なに?」

エイミィは金成に呼ばれて首をかしげる。

 

「いっちょてっぺん取ろうか!」

 

「もちろん!!!!」

金成の楽しそうな笑顔につられてエイミィも笑ってしまった。

 

 

 

 

 

 

『じゃぁ次は普通科のD組の入場だーーー!』

金成達は暗い通路を抜けて会場へ入って行く。

会場に入ると、晴天のため暖かな光が注いでいる。

周りを360度見渡せば客席には人で埋め尽くされていて、歓声が巻き起こっている。

まぁ、ヒーロー科が終わったから若干小さいが。

 

 

「ウォー!凄い人ーー!多いなぁ!これ日陰ちゃん達も見てるかな?」

 

「ん?どうだろ、いちおう幹部連中は俺たちが雄英に行ってること知ってるし暇なら見るんじゃね」

エイミィはあまりの人の多さ、歓声の高さに驚きの声を上げている。

 

アイツらは見るのだろうか。うちも一応新参者ではあるがアイテム開発を行なっているためスカウトをすることはできるが、そこのところは美流にすべて任せているため分からない。

でも悪いことにはならないだろうと思う。

 

全生徒が中央に集まるが、いまだに興奮した歓声がやまない。

 

『雄英高校体育祭!ヒーローの卵となる者達が我こそはとシノギを削る一大イベント!!開催だぁぁあああああ!!!』

 

プロヒーロー、プレゼントマイクの合図でより一層会場が湧き上がった。

 

 

 

ビシッ。

 

「選手宣誓!!!」

 

 

中央のホールに登った18禁ヒーローと呼ばれる色気があるお姉さんが、艶のある声で宣言すると鍛えられた軍隊のごとく静かになった。

 

ーーーおー!今年の主審は18禁ヒーローかぁ!

 

ーーー18禁なのに高校にいていいのかな?

 

ーーーんー、可愛いしおkだろ。

 

ざわざわと小声でそのような噂が飛び交う。

 

金成は以前も教室で見ていたがヒーローコスチュームのミッドナイトは初めて見たため若干驚いている。

 

ーーー18禁ってあの格好が由来か?

 

全身が強調されるようなパツパツのスーツが特徴だ。

 

「うひゃぁ。おっぱい大きいね!バインバインだよ!ボス!」

 

「ちょ、恥ずかしいからやめろ!」

エイミィはミッドナイトの胸の大きさを自身の胸の上で山を作って表現する。

普段はそこまで馬鹿ではないが、周りの熱気に当てられたらしく、異様にテンションが高い。

 

ーーーこいつ大丈夫かぁ?

 

若干心配になるが今は選手宣誓を聞こうと前を向いた。

 

「選手代表爆豪勝己!!!」

ミッドナイトの呼び声であの、金髪のザ・ヤンキーが宣誓台へ上がる。

 

「へぇ、アイツが代表かぁ。ってことは頭いいのか」

 

「凄いね!ボスより頭いいのかな?」

 

「いいだろうなぁ。意外だな。人は見かけによらないってこの事か」

金成達は驚愕の事実に驚きながらも耳を傾ける。

 

 

「せんせー、俺が一位になる!」

 

ーーーうっせーー!

 

ーーーふじゃけんじゃねーぞーー!

 

ーーーくそA組がぁ!舐められたもんだなぁ!!

 

両手をポケットに突っ込んで、挑発まがいな宣誓を行ったため、クラス問わずブーイングが巻き起こる。

 

「ふっはっはは!あぁアイツ面白いなぁ!」

まさかこれほど多くいる観客、生徒の前であれだけ啖呵を切るとは思わなかった金成は思わず吹き出してしまった。

 

「ボス楽しそうだねぇ」

あまりの面白さに笑ってしまう。

あそこまで突き抜けるか。

 

ーーーやっと始まったよ。体育祭。最初の種目は何か、まぁ何でもいい。トップを取るのは俺だ。

 

 

 

 

 

 

 

こいつもこいつで自信過剰らしい。

 

 

 

 

 



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十一話 第一種目、覇気無双

「さーてそれじゃぁ早速第一種目行きましょう」

大きなモニターの前に立ったミッドナイトは説明を始める。

 

「所謂予選よ!毎年ここで多くの生徒が涙を飲むわ(ティアドリンク)。さて、運命の第一種目!今年は......これよ!!!」

モニターをびしっと指差したミッドナイトの先には、障害物競走と大きく出ていた。

 

「へぇ、障害物競走か」

 

 

「計11クラスでの総当たりレースよ!コースはこのスタジアムの外周役4キロ!我が校は自由さが売り文句!うふふ...。

コースさえ守れば()()()()()()構わないわ!」

何をしてもかなわないらしい。本当にいいのだろうか。けが人とかは出るのか?と思いながら、金成はミッドナイトが指差したスタート口を見る。

 

そこにあったのは幅が4メートルほどの外へと繋がるトンネルのようなもの。

ここに居るのは、およそ200名以上。この人数があれを一斉に通るのは無理がある。

位置取りの時点で試合は始まって居るらしい。

 

金成は隣にいるエイミィを引っ張って急いで入り口の最前列に出た。

 

「ひゃぁ!」

 

多分ここで最低でも半分の100名は落とされる。

なら先手必勝が必要だ。

何でもしていいらしいからな。

 

「さぁさぁ位置につきまくりなさい!!」

ミッドナイトの合図にそれぞれ準備態勢に入る。

 

「エイミィ!あれ使うぞ!」

 

「...え?!あれってまさかあれ?!」

 

ーーーピッ

 

金成は先頭で後ろを向いて不敵に笑う。

 

「あぁ、あれだ。準備しとけよ!」

 

「えーー!ボ、ボスいきなりそれはやばいんじゃないの?!」

エイミィがそれだけで金成のやろうとしていることを察することができたが、察した内容は最悪だ。最悪自分にまで被害が及ぶ。

 

エイミィは慌てて押さえようとするが金成のニヒルな表情から無駄と判断すると、即座に慌てて心を強く持ろうと歯をくいしばる。

 

ーーーピッ

 

「アイツなんで後ろ向いてるんだ?」

 

「さ、さぁ」

金成達以外も少しでも前に出ようと大勢の生徒がスタート地点へ集まっており、それぞれが合図を待っている。

そんな中、一番前を陣取っていた生徒が突然後ろを振り向き、隣の女性が慌てて彼から離れようとしている。

これだけでも怪しさマックスであるため、不審げに周りの生徒が言葉を漏らす。

 

ーーーピッ

 

 

「この試合は妨害が自由なんだよなぁ?悪く思うなよ」

金成はせめてもの慈悲なのか宣戦布告とも取れるセリフを周りに聞こえるように漏らす。

彼の体からは、沸騰したヤカンの様に異様な蒸気が浮き上がってくる。

次第に彼の周りの空間が熱によるためか景色が揺れる。

 

 

「や、やばい!!アイツ開始早々なんかやるつもりだ!!」

 

「くっそ!離れろお!」

彼らは、それで漸く金成が何かすることに気がついたらしく慌てて下がろうとしている。しかし時すでに遅し。

彼の異常事態に気がついたものは最前線にいたものだけであり、慌てて後ろへ逃げようにも後ろのメンバーは気がついていないため下がることはできない。

さすがと言えるのか、今更慌てだしたメンバーは普通科、経営科などの生徒が多く、一方のヒーロー科はすでに警戒のため身を構えていた。

彼らが状況に対応しようと右往左往している中、無慈悲にも戦いの火蓋は切って落とされる。

 

 

『スターーーーーーーート!!!!!』

その瞬間金成のナニカから逃げる為と、スタートダッシュのために一瞬にして何人かが飛び出したが関係ない。

金成は一瞬さえあればどうとでもなく、その一瞬で開いた距離が彼の範囲内で無いわけがない。

 

「くっそぉーー!間に合え!!」

何人かの生徒が必死に地面を蹴り、距離を取ろうとしているが無意味である。

 

「耐えられるもんなら耐えてみろよ!覇王色、覇気!」

彼のセリフの数瞬後には一瞬にして、体に蒸気が爆発する様に覇王色の覇気をホール中に広げた。

彼の周りに溜まりに溜まったエネルギー源とも言える蒸気が彼を原点に爆発が起こったかの様に一瞬で、大規模に広がりを見せた。

 

あまりの興奮に変なことを口走ってしまったが、もういい。

 

ーーーあぁ楽しいぜ!耐えてみろよ!こんくらいはよぉ!

 

「んぐっ!」

 

「な、なんだとっ...!」

彼らも雄英高校に入ったヒーローの卵の端くれである為か、ヒーロー科の生徒らは突然の威圧に意識を刈り取られない様踏ん張るが少しばかり力量不足であったらしい。

普通科、経営科、サポート科が倒れ伏した、屍の山に重なる様にして地面に伏した。

 

これによってすでに立っているものは少ない。金成はエイミィに影響を少なくするため弱めに発動した為か、ヒーロー科のメンバーは酔ったように地面に伏したが、完全に意識を手放していないものが何名かいるらしく、立ち上がろうと足や腕を動かしている。

 

普通科や、サポート科、経営科は言わずもがな、ほとんどが白眼をむいて倒れた。

流石に観客までは遠かったのでほとんど影響はなかった。

 

 

「な、なんだよこれぇぇ!!!」

 

「くっそ!!!」

気合いを入れる為か、ギリギリ意識を保っている者は地面に向かって現状を嘆く声をあげる。

彼らの焦った声からは若干の畏怖の念が見え隠れしている。

 

『お、おぉぉおおおっとぉおお!!!何が起こったっーーー!一瞬にしてほとんどの生徒が倒れたぞぉおーーー!!』

流石の出来事にプロヒーローであるプレゼントマイクも予想の斜め上を行き過ぎた為上ずった声で驚きの声を上げる。

 

ーーーうぉぉぉおおおおお!

この一瞬の出来事を肌で、目で見て感じた彼ら観客は悲鳴にも感じられるほどの歓声を上げる。

流石にプロヒーロー達はある程度彼が何をしたのか把握できただろうが一般人には無理な話だが、観客には関係ない。

この異常事態は体育祭では恒例であり、この異常とも言える雰囲気を楽しみにしている者達が大半である。

 

 

『まさかまさか!!!いきなりヒーロー科じゃない普通科の生徒が何かをしたぁぁ!!!いきなりの超展開ダァ!』

プレゼントマイクはこの盛り上がりを欠かせずに、より一層観客に興奮を届けるために声をあげる。

 

「百五十人くらいか?まぁいいか。おい!エイミィいくぞ!!」

金成は覇気を納め隣にいたエイミィに話しかけ、足に力を入れて駆け出す。

一方のエイミィの方は、流石に金成が調整し、自分が準備した為それと言った影響はなかったが若干の足のふらつきを体に残している。

 

金成より先に飛び出したのは5名ほどか。

驚くことに、彼の覇気を耐えたのか、運良く距離で効果を下げることに成功したのか数名が一瞬で意識を失ったがすぐに回復して走りだしていた。

勿論飛び出したのはヒーロー科である。

思った以上にヒーロー科の出来は良いらしい。

 

 

「うぅぅ、待ってよぉ〜!」

エイミィは金成を見失わない様に慌てて後に続く為に走り出す。

 

走っている金成達の前には、先に飛び出した生徒が何かしたのか凍った地面が広がっている。ただ凍ってるだけでなく、厚い氷が不規則にも地面を凸凹にしている為、普通であればこれ以上は走ることができず、這う這うの体で進むしかない。

 

「エイミィ!!」

しかし金成は足を止めることなく、即座に思考を働かせて対処法を見出す。

彼単体でもどうとでもできるが、最も効率がいいのは彼の背中を任された少女だ。

彼は氷の前まで来ると一瞬足を止めて一瞬にして彼女と場所を入れ替えた。

 

「うん!わかった!」

それだけで彼がなにを言いたいのか理解したエイミィはこの状況に最適な‘個性’を発動させた。

 

彼女の“個性‘の発動と同時に、足元から真っ赤なマグマが溢れ出し、周囲を溶かしていく。

土の地面、分厚い氷の地面問わずに、すべてのものを覆い尽くす様に真っ赤な溶岩は広がっていく。

氷などは一瞬にして水蒸気へと姿を変え、それ以上に地面は黒煙を上げながらマグマで覆い尽くされていった。

 

 

 

 

 

 

 

思わず足からマグマを広げていった為か、彼女の靴が燃え尽くされて靴が溶けてしまったが、諦めるしかない。

彼女の履いていたニーソックスと靴は姿を消し、彼女の綺麗な素足が姿を見せる。

 

普通であればこの体育祭は公平を期すため、普通の体操服で挑まなければならない。

そうでなければ各自で自分が有利な服装で身を固めることができ、金銭的余裕がある家庭が明らかに有利になってしまう為だ。

 

しかし以前の放送事故の教訓によるものか、個性を使えば全裸になってしまうと申告したら、彼女は服だけは耐熱に特化した特殊な物を許されていた。

 

以前に個性のせいで全裸になってしまった生徒がいて、それが国中に放送されてしまい一時期批判された。

それで、そういう個性の子だけは許されるようになっていたのだ。

 

 

 

 

 

マグマにより氷は溶かされ、とかした瞬間からエイミィがマグマを操り一人分の道を作る。

それを先導する様に彼女が走り、金成はその後に続く。

 

流石にマグマを操っているとはいえ地面には所々にマグマ残りがある為、金成は自分の靴がマグマで溶けない様に、足に武装色の覇気を発動し、耐熱性をあげることで対処する。

 

 

彼らはそのまま走っていくと、目の前では大きなロボット型の機械が道を封鎖していた。

高さが10メートルほどの巨大なロボットが10体ほどで道を塞いでいた。

巨大なロボットには流石に対処に悩むらしく、未だ金成の覇気をなんとか逃れた生徒達が動揺の声を漏らして佇んでいる。

 

ーーー追いついたか。意外と早く差が縮まったな。

金成はあれくらいのロボットであればすぐに対処して乗り越えると思っていたが、流石に驚いたのだろう。

ヒーロー科の生徒であれ一瞬足を止めた為に金成が追いつくのを許してしまった。

 

 

『っと!!驚いてるだけではない!第一関門!巨大ロボットだぁ!!さぁ君らはどう切り抜けるかぁあああ!』

エイミィの’個性‘や彼女の個性の操作技術に明らかに学生の範疇を超えているだろと内心冷や汗を流したプレゼントマイクは驚いているだけでは自分の存在意義を問われることになる為、即座に解説するためにマイクを手に声をあげる。

 

ーーーおいおい!でかすぎだろ!!!

 

ーーー雄英すげぇなぁーー!

たかが体育祭、されど雄英高校の体育祭だ。

観客は毎年恒例ながらも体育祭に莫大な資金を投資する雄英高校に興奮や驚きの声をあげる。

 

ーーーどうすっかなぁ。またマグマで潰すのは芸ないか?

一辺倒ではあるがエイミィのマグマでどうにかできないわけがない。

しかしながら、エンターテインメント性を楽しみにしている観客のためにそれでいいのかの金成は自問自答をする。

彼は優勝を目指しているが、それがつまらない勝利では自分も観客も不満が残る。

しかし、まだ第1種目だ。

ふはは、まだ勿体ぶってもいいだろう。

 

 

金成はそう結論づけ目の前に視線を向けるとそこでは、白と赤の両端で分かれている髪色の生徒が‘個性’を発動させていた。

 

「何するつもりだ?」

 

その白赤少年が地面に手をつくと、そこから冷気が広がって目の前の1体が凍りついた。

先ほどの氷の地面は彼の仕業らしい。

あれを考え、今のロボットを凍りつかせる規模を見るに随分と強い個性らしい。

 

そのまま少年は凍りついたロボットの体を器用に登り、上から越えていく。

 

「へぇ、やるじゃないか」

学生でこれほどの規模で発動できる’個性‘持ちがいる事に若干の驚きの声をあげる。

 

「ボスどうする?」

金成の前を走っていたエイミィは、ロボットの前に立ち止まると金成の指示を仰ごうとこちらを向く。

 

ーーー氷でロボットをぶっ壊したなら、こっちは炎だよなぁ?!

目の前で行われた光景に少しの対抗意識を感じさせ、今の光景に驚いた観客を気持ちを全て奪いたくなった金成。

 

「ふはは、目の前には生徒はいねぇ!エイミィ全部ぶち壊せ!!」

金成は悪役の様な高笑いをあげながら指示をすると、エイミィも力を出せることが嬉しいのか、大きく肩を唸らせながら腕まくりをする。

 

「じゃぁいくよぉぉ!!!!」

エイミィが腕まくりを終えると、両手が真っ赤なマグマに変化する。両手を広げ振るうと腕から明らかに体の質量以上のものの膨大な量のマグマが噴き出し、巨大ロボットの殆どに向かって飛んでいく。

腕から出たマグマが地面を縫う様に津波の様にロボットに襲いかかった。

 

当たった側からジュワッと音をあげて飲み込まれていく。

機械部分に触れた順から爆発していき、黒煙が立ち込めていく。

 

ーーー逃げろおーーーーー!マグマだぁ!!

先にきていた生徒は白赤髪の生徒に続こうと身を乗り出していたが、金成達がナニカやろうとしたことに気がつき慌てて距離をとる。

 

 

『おっとーーー!!轟少年が冷気で一体を氷づけにしたと思ったら、次はマグマで溶かされぁぁ!!何だあの少女は!!何だ、普通科は今回やばいぞおーおぉ!!!ヒーロー科がほとんど立ち止まってるじゃねぇかかあああ!!!』

 

白赤少年は轟って言うらしい。

 

 

 

「ボス!終わったよ!行こう!」

 

「よし、道を開けてくれ!」

エイミィはマグマでロボットを戦闘不能に追い込むと今度はマグマで道を開ける。

 

後続に続く奴らは空を飛べない限り、マグマが冷えるまで待つか、大きく迂回するしかない。

 

これでトップ五はほとんど確定だ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

『おいおいおい!やばいんじゃねぇの普通科!全部マグマで潰すとかワイルドすぎだろぉ!!へい、ミイラマン!!』

実況席ではイレイザーヘッドホンとプレゼントマイクが実況していた。

 

『ミイラマンはやめろ。それにしても普通科にあんなのがいたのか...。あそこまで強力な個性で普通科落ちなんてありえないんだが』

イレイザーヘッドもこれほど強力な個性持ちたちが普通科にいることがありえないと思っていた。

あれで入試を突破できないわけがないと。

 

『ここで今クールな活躍を見せる生徒の情報が来たぜー!おおっと!何と普通科の専願で入ってやがるぜ!!!』

 

『そのためか...。ヒーロー科に興味がなかったか、他に何か理由があるのか知らないが、今回の体育祭は一筋縄ではいかないぞ』

イレイザーヘッドが納得の声を漏らす。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

金成達は森を走り抜けると、そこで見たものは断崖絶壁の崖だ。

それが数百メートルも続いている。

 

 

『じゃぁ次は第二関門だぜーー!!落ちればアウト!それが嫌なら這いずりな!!その名もザ・フォール!!!』

 

所々に岩の塔が立っていて、そこをロープで繋がれている。

それで向こうの崖まで渡れと言うことらしい。

 

「ボスどうしよう!わたし絶対落ちちゃうよ!!」

エイミィはバランス感覚が無いため、この箇所は落ちてしまう可能性が高い。

 

「んー。轟ってやつは氷を利用して滑ってるか。塔までの距離は15メートルか。エイミィ!捕まれ!飛ぶぞ!!」

塔までの距離は凡そ、15メートルずつに位置されている。

金成は崖の淵にたち、エイミィを横抱きにすると、全力で飛んだ。

 

「ひゃあああ!!」

エイミィが涙目になっている。

「っと、どかねぁか!!!」

あと3メートル程で急速に落下していく。

金成は落ちる重力を利用して、咄嗟にロープを掴んで体を回転させてもう一度空を飛ぶ。

 

「っよっし!!エイミィ!このまま行くぞ!!」

 

「よ、酔っちゃう!」

数メートル先を探して轟が走り抜けている。

エイミィが少し辛そうだがしょうがない。これしか方法がない。

 

「すまんな!いくぞぉー!」

金成は先ほどと同じように動こうともう一度飛び出した。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『抜けたーー!トップが轟少年!その背中を追うのは今回最大のイレギュラーたちの普通科の生徒だぁーーー!!これは、仲がいいのか?!互いに協力しながらクリアして行くぞーー!!もしやカップルか?!』

プレゼントマイクがある程度協力している二人を弄りつつ解説を続けて行く。

 

『おおおーー!なんと、スタート早々気絶していた生徒達が何名か起き上がってる!これから巻き返しはなるかぁ?!』

金成の覇気によって気絶していた生徒らが、気の強いものから順に起き上がって行く。

 

『アイツらに気絶させられた人数は、およそ百八十人。そしてその後に、アイツらが作り出したマグマの沼を抜けたものが六人。今回は本当にイレギュラーだが、ここで何名落とすか知らないが全然挽回の余地がある。未だ、第二関門に挑戦している人数が4名と非常に少ない』

そう、本当なら第一関門はすでに突破し、第二関門であたふたしている生徒で賑わっているはずのタイムだ。

それがあの少年によって一気に崩された。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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十二話 第一種目終了

金成達がザ・フォールの第二関門を突破する頃にはほとんど轟との距離はゼロに等しかった。

最後の岩の塔を飛び越え向こう側の崖に着地すると、脇でぐったりしているエイミィを地面に下ろす。

「ぐうぇっ」

何度も上下に衝撃が加わり三半規管がやられたらしく、少し青ざめた顔をしている。

それでも彼女の肉体的能力ゆえか直ぐに悪かった顔色が引いていき、いつもの綺麗な白い肌に戻っていく。

「っと、エイミィそろそろあいつ追うぞ!」

金成はこれでも一番先頭を走っている白赤少年に追いつけなかったことに若干のプライドを傷つけられた為若干の不機嫌を顔に浮かばせている。

 

そうしているうちにエイミィの体調も治り、すぐに走り出した。

走って数分もしないうちに、流石の体力か金成達の視線にあの特徴的とも言える髪を捉える。

「みえた!」

息も切らさずに走り続ける金成は最後の目標を見定めだ。

前を走る轟少年は個性では圧倒的にとも言える力を見せたが、流石に学生ゆえか始めほどの速度は見られない様に思われる。

 

ーーーこれはもう抜けるか?

 

 

「っち。」

轟が後ろを走る金成とエイミィの存在に気がつき、走りながら後ろを振り向き彼らを確認する。

後ろを振り向いた瞬間に彼らと視線が合うと、金成は挑発気味に口角をあげたために、轟は自分の体力の低下や、内心で抱く彼らへの敗北感を感じ苛立ちを表す様に舌打ちをする。

 

初めはこんなに苦戦するとは思わなかった。

これが轟の本音である。

 

 

「よしエイミィ!駆け抜けるぞ!!」

金成は轟との一瞬目が合うが、すぐに正面を見据える。目指すはトップだ。

「うん!」

金成が駆け抜けるのに続いて、エイミィも後を追う。

 

轟はこれ以上近づける訳にはいかないので妨害しようと個性の冷気を発動させ、地面もろとも凍らせにかかる。

それを見た金成はそんなことでは止まらないとでもいう様にさらに速度を上げて対処にかかる。

 

「エイミィ!道を作れ!」

エイミィはそれを合図に走りながら金成の横に並ぶ。

エイミィも何度も行なったため言われなくてもわかった。

 

先ほどと同様に一直線にマグマを飛ばし急速に氷を溶かす。

直ぐに金成も走れるようにするため、マグマが固まる前に横へ退かす。

轟との距離は、彼が冷気を発動するために一瞬足を止めたことにより、大幅に縮まっていた。

 

「くっ!」

轟もこれ以上は無駄とわかったのか妨害を諦め、縮まった距離を再び離そうとより力を入れて地面を蹴って前に進む。

 

 

轟を先頭に、金成とエイミィが後に続き、ついに残すところは最終関門のみとなった。

 

『ついにラスト関門に登場だーー!!一面地雷原!怒りのアフガンだ!!!地雷の場所はよく見りゃ分かつようになってるぞ!!目と脚を酷使しろよ!!』

 

はじめに到着した轟は自分が通る道を一直線に凍らせてそこを滑るように走る。凍らせることによって地雷の電子機器の故障を起こし、地雷原自体を不能にして前に進む。

 

一方で、金成達の方は平行で走っていたのを金成が前に出ている。

今度はエイミィではなく自分で何かをするらしい。

 

広場が見えると同時に、金成は見聞色の覇気を発動する。

一瞬にして五感全てが強化され、膨大な情報が脳に流れ込んでくる。

プレゼントマイクの解説、前を走る轟の心音、隣を走るエイミィの感情が。

それ以上に、地面から感じる地雷源であるエネルギーが金成に自分の居場所を知らせている。

 

それによって得た情報により、金成は正確に地雷源の場所を把握した。

「エイミィ!後ろに続け!俺が踏んだ地面に続けよ!」

 

「わかったよ!ボス!」

エイミィはボスの言うことは絶対である。

ボスが何をしたのか正確には把握してはいないが、エイミィの中では金成は地雷源の場所を把握していると感じている。

 

金成は気配を感じる。

走る速度を最高に保ちつつ、地雷を避けて行く。

前を走る轟であったが、彼は氷を利用していたので足が遅くなり、すでに隣に並んだ。

 

「よぉ!並んじまったな!」

金成は興奮のあまり、話しかける。

 

「っ!」

轟の方は一瞬睨みつけるのみで前を向くのみ。

 

「もうゴールは直ぐだ!エイミィ!ペースを上げるぞ!」

ゴールが目に見えた金成はより鋭く前に出るようスピードを上げる。

 

ここで氷と地面の差が出たか金成が一歩分追い越した。

 

 

『うぉぉおおお!遂にカップルチームが轟少年を抜いたーー!!!』

このまま金成達が差を広げてゴールを決めるかと思われたが、そうはいかなかった。

残すところはあと50メートルほどになったところで異常事態が起こった。

突然背後から何かが破裂した様な巨大な爆音とともに爆風が巻き起こったのだ。

 

 

「ん?!なに?!マジかよ!!」

金成は咄嗟に覇気で気配を探ると、一つの気配が爆風に飛ばされ、急接近してくる。

それも地面から数メートルも離れているため妨害もできない。

ここで妨害したら轟に抜かされてしまうし、エイミィは妨害なんてしたら重傷のため危険行為で退場させられてしまう。

金成はいまほど悪魔の実を使いたいと思ったことはない。

 

金成がゴールの目前に迫ることには彼の気配がちょうど真上に来ている。

もうあと出来るのは最後まで走ることだけだ。

彼は少しでもゴールに近付こうと手を伸ばした。

 

 

 

 

『ゴーーーーーーーール!!!!!何とここで一位となったのは思いもしなかった生徒だ!!!緑谷出久!!!』

 

プレゼントマイクの声を皮切りに会場中から爆発のような歓声が響き渡る。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「あ、そろそろ始まりますねー」

 

ここは今回の警備のために召集されたプロヒーローたちの休憩室だ。

ドリンクバー、軽食を取れる自販機、それに体育祭が中継されるモニターなどが揃っている。

中継されるモニターの前のテーブルには、女性が一人と男性が二人休憩のために一服していた。

その中の女性、プロヒーロー、Mt.レディ(マウントレディ)が屋台で買ったたこ焼きを食べながら中継モニターを見ていた。

 

「ん?あぁそろそろか。今一番注目されてる1年か。今回の警備依頼が来なかったら直で見たかったぜ」

向かいに座る大柄のプロヒーローがタバコを加えながら不満を漏らした。

 

「タバコ臭いですー。確か1年A組ですよね。今回の注目株は」

Mt.レディは、向かいの男から漂ってくるタバコの煙を手で払っている。

今回のプロヒーロー達での注目株は勿論ヴィラン連合を退けたA組である。

 

 

「他のクラスも注目したいが今回はAクラスが注目をかっさらったって感じなぁ。あの事件が大々的に知れ渡ってるしよぉ」

 

「そうですよねー。あ、カウントダウン始まりますよ」

主審を務めるミッドナイトが説明をして始め、それを終えると生徒達に指示を出し始める。

生徒達は指示に従い、スタート地点に集まった。

 

Mt.レディ達は、障害物競争の合図を待っている生徒達に注目する。

 

「ん?なんか、一番前の少年後ろを向いてますね。それになんか笑ってる」

モニターを見ていたMt.レディの視線に不思議な光景が映る。

一人の少年と少女が一番前にいるにもかかわらず後ろを向いているのだ。

普通であればここは前を向き気持ちを整える頃だろう。

 

「あぁ、アイツ何かするつもりか?」

一番前に並んだ少年がスタートラインではなく、後ろに集まる生徒達に体を向けて何かをしようとしていたのだ。

 

Mt.レディ達が注目している中、スタートの合図が響き渡る。

それと同時に生徒達が我先にと飛び出すと思ったが、そうなることはなかった。

あの少年の蒸気が一瞬で広がるとともに、後ろにいた生徒がほぼ、地面に倒れ伏したのだ。

 

「....え?」

Mt.レディは予想外の展開に口を開けることしかできない。

たこ焼きが口から落ちた。

 

「え、えっー!な、何が起きたの?!」

思わず立ち上がるほど驚くが、それを見ていた周りのプロヒーロー達も思わず声を上げてしまう。

 

ーーーなぁ、今何が起きたんだ?

 

ーーー‘個性’か?

 

 

「おいおい!今ので百五十人以上はダウンしたぞ!」

Mt.レディの向かいの男は興奮した様子で立ち上がる。

 

 

 

 

それからは怒涛の展開だった。

次に驚いたのは彼の隣にいる赤髪の女子生徒だ。彼と協力してクリアするつもりなのか彼とともに行動している。

彼らの前に巨大な仮想ヴィランが立ちはだかると流石に止まるだろうと思ったが、赤髪の彼女が先ほどの金髪の少年の前に出ると腕まくりを始める。

‘個性’を使うかと身構えていると、彼女の腕がいきなり真っ赤なマグマ状の液体になった。

 

そのまま腕を振り抜くと、膨大な量のマグマが吹き出し、目の前の巨大な仮想ヴィランたちを覆い被さる様に襲いかかった。

 

「うぉ、でけーな!」

 

「そうですね。とても強力な‘個性’ですね」

すでに彼らは後ろの生徒たちに注目することなく、彼らに目を奪われる。

 

 

「いやぁ!凄かったなぁ。アイツら。結局一位にはなれなかったが、二人で二位、三位とっちまったぜ!」

 

「そうですね。それに二人とも普通科と言うことには驚きましたね」

 

第一種目を終えたあと、Mt.レディ達は感想を述べて行く。

これがヒーロー科なら将来有望だと、オファーを出すことにするのだが、問題なのは彼らが普通科であったことだ。

これだけの活躍だ、普通はヒーロー科のはずと思っていたが、途中の解説の時に彼らが普通科と聞いて本当に驚いた。

これだけの‘個性’を持ちながら普通科にいたことが信じられなかった。

 

 

プロヒーローの休憩室が思わぬ興奮に包まれていたが、直ぐに第2種目の騎馬戦が始まると聞いて、再びモニターに注目したのだった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ここはマネトリアカンパニーの社長室がある斎場にある会議室。

そこには幹部達である、日陰、美流、剣司、荒戸が揃って大きなモニターを見ている。

 

「そう言えば、そろそろですかね?ボス達の出番」

 

「うーん、そうじゃないっすかね?」

日陰の質問に答えたのはチャラい見た目の荒戸。

今日に雄英高校の体育祭があると聞いて時間を作り集まったのだ。

彼女たちは自分は体育祭という学校のイベントの様なこのような経験をしたことがないため、ボス達が出ると聞き、緊張を表している。

 

「そう言えば美流、うちってこの区じゃ一番のサポートアイテム制作会社ってことになってるけど、うちから職場体験の申し込みって出すの?」

 

「うーん、どうかしらね。そこはボスが私に一任したから自由だけど迷ってるわ」

開始前の時間で日陰は疑問に思ったことを聞いた。

 

そもそも、彼らが本拠地を置く足立区は元々は治安が悪いことで有名であった。

そのため皮肉なことにヒーロ事務所も多く点在し、プロヒーロー達が多くいたがそれは5年以上も前の話。

金成が事業を立ち上げ、急激に裏に手を伸ばしてからヴィラン達を制御し出したため、この区での犯罪率が激減したのだ。

その為、先見の明があったプロヒーローたちは次第にこの区から消えて言った。

残ったのは数名ほどの中小事務所のみ。

 

まぁ、急激に治安が良くなったことで、国からの再開発の事業の話が国会で上がってきているらしいが。

 

 

そのような事もあり、この区から職場体験の話が行くとしたら、うちくらいか?思った為、なんとなく聞いただけである。

 

「あ、そろそろ始まるわ。ボスたちが出る第一種目」

そう言っている間に、モニターの向こうでは始まりの鐘が鳴った。

 

 

 

 

「やっぱ思ったっすけど、ボスのあれってずるいっすよねー」

金成の覇気を見た荒戸が引きつった笑みで呟く。

画面の向こうでは金成の覇気でほとんどの生徒が地に倒れ伏している。

 

「まぁ生徒相手だし弱めてると思うけど、ボスの本気のあれって意識しても一瞬で気を失うわよね。そもそもプロヒーローでも多分気絶するんじゃないかしら?」

 

「前実験したが、俺が試したところ100メートル離れればボスの本気は耐えられる。でも20メートルを切ったら一瞬で意識を失ったがな。まぁボスも本気のあれをやるときは戦闘中は無理って言ってたし、最初の牽制くらいには使えるだろうって言ってた」

今まで黙ってた剣司が珍しく長々と流したので、周りが少し驚く。

それ以上に彼が行なった実験結果に驚きの感情を表す。

剣司は我ら幹部の中ではダントツの戦闘能力を誇る故に、彼が20メートルを切ると気絶すると聞き、自分らのボスの強さを再び再確認する。

 

「....牽制であれってボスの本気ってどんくらいっすかね?」

 

「....分からない。前に一度聞いたが、あれは‘個性’じゃないらしい。個性はあまりにも危険だから使わないと言ってた。腕を黒くして強化する奴も‘個性’じゃないと」

 

「...あ、あはは。今思うっすけどあん時大人しくこっちについてよかったって思うっすよ」

疑問に思って聞いたが、帰ってきた言葉に笑うことしかできない。

 

「...そうね。そもそも私達はボスがいなければのたれ死んでた奴か、実験材料のモルモットになってたやつばかりよ」

ボスがどれだけ秘密があろうとも、どれだけ強いとも、結局はこの一言に尽きる。

大小あれ、彼に救われ(計算された打算)今ここにいるメンバーが殆どだ。その為、怖がることはなかった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、ふぅ。負けちゃったかぁ。悔しいなぁ」

金成は二位でのゴールで、今はゴール脇の椅子に座って休憩している。

最後で、1位は確信した金成ではあるがあれは予想できなかった。

流石にあんな接近の仕方はないだろう。

それに彼は確かオールマイトの力を受け継ぎしものだ。

 

 

「ボスー!惜しかったねー!いやぁ、でも二位も凄いよ!」

エイミィは自分が三位であったことが嬉しかったらしく、気落ちした様子を見せない。

金成はそんな様子を見て、楽しめたしいいかという思考へと落ち着いた。

「そうだな。多分これで予選は突破だろ。次はトップ取ろうな」

 

「そうだね!次の競技はなにかな?」

金成達は疲れた体を癒しつつ、次の競技について話し合い始めた。

 

緑谷、金成、エイミィ、轟とゴールをすると、すぐに五位である爆豪がゴールした。

 

「はぁ、はぁ、くそ!!」

息を切らせながらも自分が一位じゃないのが悔しく、悪態つきながら緑谷を睨みつけて、最後にこちらを向いた。

一瞬でも殴りかかってくるか、と警戒したがすぐに視線を逸らして自分も休憩をしだす。

 

ーーーなんだったんだ?まぁいっか。

 

「それにしてもあのヤンキーくん以外が全然来ないねぇ」

 

「あぁ、最初の方でほとんど気絶したからなぁ、あはは」

流石にやりすぎたと思い、反省をする。

 

 

『ここで後続組もゴールだぁ!』

 

それから5分ほどたち、やっと後続組が来る。

しかしそれらは初めに金成の覇気を逃れたもの達だ。

エイミィのマグマを何とか回避してゴールを目指していた。

 

 

 

これでまだゴール者は十五人ほど。

未だに終わりの合図が聞こえないことを考えるとまだまだ予選通過者を出すつもりらしい。

 

『....。おっと。次のゴール者だ。んー。次で最後だぞー!頑張れー!』

 

それからは異例とも言える、30分後にやっと規定の人数を突破したらしく、やっと予選が終わった。

流石のプレゼントマイクもテンションが切れたらしく、若干声が低かった。

 

 

 

『えぇー、今やっとゴールが終えたぜ!!何とも驚きの30分越えだったが、まぁしょうがないか。じゃぁちゃっちゃと順位を発表するからな!モニターを見てくれ!!』

ゴールを終えた少年を見ると、プレゼントマイクは順位をモニターに映し出した。

 

一位 緑谷出久

二位 来栖金成

三位 エイミィ・グランドーラ

四位 轟焦凍

五位 爆豪勝己

・・・・・

二十六位 阿久津美亜

・・・・・

三十四位 夢大智

・・・・・

 

「あ、大智が通過してた」

 

「こっちも!美亜ちゃんが通過してるよ!」

順位を見ていた金成とエイミィが揃って声を上げる。

緑谷という奴が目立つのは勿論の事、普通科の二人が他のヒーロー科を抑えたのが凄いらしく、他の生徒からの視線が多かった。

 

ーーーおい、あれが普通科で予選二位と三位で突破した奴らか?

 

ーーーあぁ、俺見たけどアイツらヤベェよ。女なんて手からマグマ出してたぜ?マグマ。

 

ーーーマグマってそれはヤベェな。

 

 

「うーん。見られてるな」

 

「そうだね」

金成は楽しいことは好きだが、観察されるのは好きではないため、早く次に行きたいと思っている。

エイミィも若干照れ臭そうにしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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十三話 第二種目

第1種目を終え、フィールドの後かたづけなどの時間を終え、ついに第2種目が始まろうとしている。

 

「予選通過者は42名よ!残念ながら落ちちゃった人もまだ見せ場が残ってるわ!そしていよいよ次から本戦!こっから取材陣も白熱して行くわよ!気張りなさい!!」

モニターの前に立ったミッドナイトはマイクを片手に声を上げる。

ついでに癖なのか知らないが鞭を度々しならせているために、彼女の声に今までバラバラに位置取っていた生徒らは素早く整列し直した。

 

「じゃぁ第2種目を発表するわよ!次はこれ!!」

彼女の合図と同時に金成達は、ミッドナイトが指差したモニターを見ると、そこに映っていたのは騎馬戦であった。

 

ーーー騎馬戦かぁ

 

ーーー個人競技じゃないけどどうやるのかしら

 

生徒達から戸惑いの声が漏れる。

騎馬戦は基本的に三人の馬と一人の将で構成されるため個人戦とは言えない。明らかにチーム戦であり、前持って知らされなかった生徒達はどうするのだろうか。

 

そこはやはりヒーロー志望の彼らは出来合いのチームを作るしかない。

元々のヒーローの役目は災害救助や、ヴィラン退治であり、普通はヒーローは単独行動が多いが苦戦を強いられると即席チームを作って対応することが求められる。

 

その為、この騎馬戦は即席でチームメイトを集めるコミュニケーション、其々が互いをサポートしつつ戦う協調性など様々なヒーローとしての資質が問われる競技であろう。

 

 

 

「騎馬戦かぁ。ってことはチーム戦。エイミィ後の人数はどうする?」

その事をある程度理解した金成は確定メンバーであるエイミィの他にあと2名のメンバーを探すために思考しだす。

エイミィは明らかに攻撃特化であり、この乱戦が予想される競技では不利である可能性が高い。

それに金成の場合はあの力を第二種目くらいで使うのは憚られるため、彼の主な戦闘手段は通常通りの覇気系による戦闘だ。

これだけでもバリバリの脳筋戦士が集まっているため、あと必要なメンバーは自ずと限られてくる。

サポーターである。

 

「うーん。じゃぁこっちは美亜ちゃん誘うよ!」

そう考えているとエイミィと仲が良く、このヒーロー科が多く出場する第二種目の中で生き残った友人である美亜を誘うといった。

そもそもこの種目に出れるメンバーで個性を知っていて且つ、一緒に出てくれるメンバーなどほとんどいないだろう。

それならある程度仲が良いメンバーを選んだほうがいいのかもしれない。

「そうだな、じゃぁこっちは大智でも呼ぶか」

なら金成が仲がいいと言えるのは大智のみであろう。

 

 

 

ミッドナイトの説明によると、騎馬戦は三から四人で組み、それぞれゴールした順でポイントが違うため、全員のポイントを合わせた点数がその騎馬のポイントらしい。

四十二位が5p、次が10pと5pずつ上がって行くらしい。

 

「そして何と一位は....1000万ポイントよ!!!!」

彼女の勿体ぶるような溜めに、一瞬ときが止まったように感じたが、次の瞬間殆どの通過者が緑谷をギョッと見つめて声を上げる。

なんと一位は1000万ポイントらしい。

成る程、運営である雄英高校はここでもなお選択を迫っているらしい。

ーーーマジかよ?!

 

ーーーこれは使い所がむずいなぁ。

 

1000万pはそれを持っているだけで勝ち確定ではあるが、何分あるか知らないがずっと狙われ続けることになる。

1000万ポイントを所有するなら最初から最後まで狙われ続けるため、どれだけ防衛戦を上手くできるか。

そうでない場合は時間内にあの1000万ポイントを虎視眈眈と目を光らせて狙い続ける戦いになる。

どちらを選ぶにしろ、この戦いの中心となるのは一位を獲得した綠谷出久だろう。

そんな彼の個性は未知数であり、それ以前に身体の威力で不安が大きいとヒーロー科A組のメンバーは知っているため彼を選ぶのは余程の自信家か生粋のギャンブラーくらいだろう。

 

その為彼と組みたいと思うメンバーはほとんどいなかった。

 

 

それからチーム決めのため、20分ほど猶予が与えられた。

「よしじゃぁ、メンバー集めるぞ!」

金成達はそれぞれ決めていた美亜と、大智を探すために散った。

 

 

 

「お!おーい!大智こっちだ!きてくれ!」

金成はメンバーを探そうとオロオロしている大智を見つけたので声をかけた。

正直、D組で予選突破したのは、4名しかいないため、大智も初めから金成達を探していた。

「あ、金成!よかったぁ。D組は俺たちしかいないし、もし違う人と組んでたらどうしようかと思ったよ」

金成を見つけられて安堵の息を漏らすが、すぐに予選時のことについて聞いて来る。

 

「それより、お前あんな強かったのか。最初の奴、あれ何?一瞬で気を失うし、目がさめるとほとんどの人が同じく気絶してるし恐怖だわ!」

 

「いやぁ、すまんすまん。まぁよかったじゃねぇか!それよりチーム組むってことでいいんだよね?」

金成は正直話すより、作戦会議がしたかったため早めに会話を切り上げる。

 

「ん?勿論!逆に組んでくれなきゃ困ってたわ」

話を逸らされたことに若干の寂しさを感じながらも話に乗る。

まだ出会って間もないためおいそれと個性について詳しく聞くのは失礼なのだろうかと考えた。

 

「よし、じゃぁエイミィが待ってるから行こう」

金成はすぐに大智を連れて先ほどの場所へ戻った。

 

 

エイミィは金成と別れた後すぐに美亜を探す。

幸いにも直ぐに見つけられたが、美亜は誰かと話していたため積極的に話しかけられなかった。

もしかして既にメンバーを決めてるかもしれないため、この後どうしようと悩んでいると美亜が肩を下ろしてそのグループから離れたので声をかけるために向かった。

どうやら失敗したらしい。

 

「美亜!よかったぁ。チーム組もうよ!」

 

「あ、エイミィ!!よかったぁ。さっきのチームに断られるしどうしようかと思ってたよぉ〜!」

若干涙目の美亜がエイミィを見つけて泣きつく。

エイミィの大きめの胸に顔を埋めて居るため直ぐに息苦しくなったらしく顔を離した。

 

「お、おぉ、おぉ!うんうん。じゃぁメンバーってことでいいんだよね?よし行こう!」

エイミィは突然の出来事に若干困惑しながらも、メンバーになってくれることに安堵して泣きついている美亜に肩を貸して、先ほどいたところへ戻った。

 

 

 

 

 

そしてそれぞれがそのメンバーを連れてきて会議を行うことにした。

 

「それじゃぁ作戦会議を始めるが正直おれはエイミィ以外の個性は知らないんだ。だから個性の照らし合わせから始めよう。まずは俺からだが、出来ることがスタート時にやったみたいに威圧で相手を気絶させることだ。でもこれは結構無差別だから今回は使えない。

ほかは身体強化に、周りの状況把握能力ってとこだ」

金成は自分の個性について、誤魔化してはいるがこれしか言えないためそれを言うと、促すようにエイミィの方を見る。

別にここで本当のことを言ってもいいが、今試合では使うつもりが無いため、いう必要性を感じなかったから言わなかった。

「じゃぁ私はね、全身マグマにすることができる。だから基本的に物理攻撃は効かないかな。マグマを飛ばしたりとか。そんな感じ!ハイ次、美亜ちゃん!」

 

美亜は自分の番にきたため額のツノを見せるように髪を分けながら話し始める。

「私はこれを見ての通り、鬼なんだよね。だから鬼ぽいことは大体できるよ。限定的だけど雷落としたりとか、後は身体がすっごい頑丈になったり、誰かの姿に変化したりとか」

元来鬼とは諸説あるが空想上の妖怪であり、怪力や幻、神、カミナリなど伝えられた地方によって異なるが共通して言えるのが獰猛であり最強の存在として描かれている。

もし本当に鬼という概念として力を使えるのなら強力なことこの上ない。

美亜は話し終わると、ふうっと息を吐き隣の大智に次と言うことを促す。

 

「.....俺は、目を合わせた相手の体を5秒間だけ乗っとる能力。でもその間本体は制御できないから無防備だし、5秒じゃあんまり役に立たないけど...。てか、俺らってD組じゃん?俺って勝ち残ったのってほとんど金成が最初に出てみんな戦闘不能にしたから勝てたってのもあるんだけど、正直金成とかエイミィ、美亜ってヒーロー科でもトップ狙える個性だよね。なんで普通科なの?」

大智は時間制限のある中やはりすごくそのことが気になっていたため聞かずにはいられなかった。

若干の罪悪感がありながらも聞いた。

 

「んー。俺とエイミィは学力が足りなかったからうちの学校で出てた普通科の専願受けただけなんだよなぁ」

金成は頭をかきながら、恥ずかしそうに理由を言った。

 

「あ!私も一緒!!!どうせ筆記で落ちるなら推薦で通りそうな普通科選んだんだよねー!!」

思わぬところで気があったらしく、エイミィと、美亜はねー!と仲良く手を合わせていた。

 

「....。そっか。なんか色々納得したよ。ごめんな話遮って。作戦会議の続きをしよう」

思わぬ理由に自分が落ち込んでいたことに馬鹿らしくなったため、少し晴れた気持ちになる。

別に普通科にいる人が誰しもがヒーロー科落ちとは限らない。

 

大智も、色々これでスッキリしたので話の続きを促した。

 

 

 

 

 

「よし、じゃぁある程度はこれでいいか」

 

「うん、いい感じ!」

残り数分を残すところで作戦会議を終えた。

周りを見渡すとそれぞれが作戦会議を終えて準備運動をしている。

それ以外だと、それぞれが敵になりそうなグループを観察する様に見ていた。

一位の緑谷達も周囲の視線に晒されながらも作戦会議を終えたらしく、既にストレッチを始めている。

 

ーーーまぁ、こんなもんか。

金成は全体を見渡して状況を把握すると、これといった強敵の雰囲気を感じなかった為に、先ほど立てた作戦で大丈夫だろうと当たりをつけた。

 

完璧とは言えないものの、今の最善と言える作戦を立てることができたので結構いけると思う。

 

 

 

 

制限時間の15分が経過したため、ミッドナイトがステージの中央に立ってマイクを片手に鞭をしならせる。

 

「15分たったわ。それじゃあいよいよ始めるわよ」

 

『15分のチーム決め兼作戦タイムを経て、フィールドに12組の騎馬並び立った!』

頃合いを見たプレゼントマイクが観客の意識を集める為に声をあげる。

 

すでに、12組のグループは騎手を決め、それを支える様に騎馬を組んでいる。

騎馬戦の決められた枠の中に収まりながら、それぞれが開始の合図を今か今かと待ち望む。

金成も両手で足を支えながら前を見据えている。

そう、今回の金成の役目は足である。

正直遠距離の戦闘能力が今は使えない状態である為、騎手になる必要がないのだ。

 

金成は見聞色の覇気を利用し、緑谷を騎手とするグループと、爆豪を騎手とするグループ、轟のグループ、あとは知らないが全てのグループが頭の中に、俯瞰してみる視点が浮かび上がる。

 

ーーー良く見えるな。緑谷って言ったか?アイツが一位になったやつか。

金成は悔しさの私情で若干多めに緑谷を観察したが始まりの合図まで、それぞれの思惑をできる限り把握して行く。

 

ーーー....ほう。物間に、それに同じ普通科の心操ってやつは結構作戦が繊細だな。まぁいい。

 

「みんな聞いてくれ。あそこにいる男、物間って言うんだが、アイツの‘個性’は触れた相手の個性を5分間使い放題使えるらしい。触られない様に気をつけろ。あと、あの髪が立ってる男、心操って奴は洗脳の‘個性’だ。自分と会話した相手を操れる。絶対喋るなよ」

金成はみんなにだけ聞こえる様に小声で情報をリークして行く。

 

ーーーまぁ、情報戦ってやつ?悪く思うなよ。

 

「...それは助かるがよくわかったな」

 

「本当に!ボスすごいね!!」

 

「来栖君ってそんなこともできたのね。...ボス?」

金成の上にいる大智が若干の呆れを見せ、後ろにいたエイミィと美亜は単純に驚いている。

 

「....。それはあだ名だ。気にしないでくれ」

金成はため息混じりにエイミィを睨みながら答える。

 

「あ、あはは」

それを受けたエイミィが横を向き口笛を吹くが吹けていない。哀れなり。

「っと、そろそろ始まる。じゃぁ大智、気張ってけよ!!ハチマキ、全部取る気で行くぞ!」

金成は最後の一押しとばかりにメンバーに気合いを入れる。

 

「「「おーーー!」」」

エイミィ達も気合いを入れるために声を上げた。

 

 

 

『よーし!組み終わったな?!準備はいいかなんてきかねぇぞ!!行くぜ!残虐バトルロワイヤルカウントダウン!!』

プレゼントマイクの掛け声に観客達もドンドンテンションを上げて行く。

それぞれが応援するグループの声が大きくなる。

 

『3!!!』

 

ーーー3!!!

 

心地いい緊張が金成の心に響く。

 

『2!!!』

 

ーーー2!!!

 

お馴染みとなりつつある、覇王色の覇気を準備させる。

体から漏れ出す蒸気が視界を遮る。

 

『1!!!』

 

ーーー1!!!

 

「...っ!常闇君!!二位の彼があれを出すつもりだ!!」

 

「またあのクソやろうか!!!舐めんじゃねぇぞ!!!」

気がついた奴らがいる様だがもう遅い。

金成の口角は自然と釣り上がる。

 

『START!!!!!!』

 

緑谷は始まりの合図とともに後ろへ後退する。

逆に、爆豪の方は金成の行為を挑発と受け取ったのか大智のハチマキを奪いかかろうと寄ってくる。

 

「バーカ!!大智!いけ!!」

発動すると思われた覇王色の覇気は急になりを潜めて金成は獲物を捕らえたように笑う。

 

「おう!!」

それを合図にに大智の体が意識を失ったかの様に崩れ落ちそうになるが、3人で支える。

そのまま、作戦通りに爆豪達へと接近する。

 

「おい!爆豪!アイツら来たぜ!どうするよ?!...おい爆豪!!」

爆豪の騎馬が指揮を仰ごうと爆豪に語りかけるが反応がない。

 

「そうだなぁ。まぁあとは頑張れや!!」

爆豪が答えたかと思ったらなんと自分のハチマキを首から外すと、目の前に迫った金成達へめがけて思いっきり投げる。

爆豪はすぐに意識を失うかの様に崩れ落ち、一方の先程まで意識がなかった大智が投げられたハチマキを上手に掴み首にかける。

 

 

 

 

『な、何が起きたーーーー?!?!始まった途端2グループがぶつかると思ったが爆豪のやつ自分のハチマキ相手のぶん投げやがったぜ?!爆発で頭がやられちまったのかーーー!!!』

 

他のグループもそれぞれ作戦を実行しようと動き出していたが、その解説を聞いて一瞬で金成たちへ注目した。

 

近くで見ていた緑谷は何かを察したらしく、騎馬へ慌てて指示を出し離れ出す。

 

「金成!665pゲットだぜ!!」

 

突然の爆豪の暴挙に一瞬会場が静まり返ったためか、イレイザーヘッドが解説を入れる。

『今のは、あいつ、夢大智の‘個性’によるものだ。あいつの個性で爆豪の体を一瞬にして乗っ取り、自分の方へハチマキを投げたんだ。やつの圏内は15メートルと聞いている。そしてこの試合会場は30x30のフィールドだ。この個性はこの種目だと圧倒的だろうな。....。それに乗っ取りやすいように普通科のあいつが力を使おうと見せかけて注目集めたな。本当にあの入試は不合理だってわかるよ。こんないい個性が普通科に落とされるんだからな』

 

それを聞いた観客にいるプロヒーローたちはその能力、範囲に驚愕し、フィールドにいる生徒たちはこの試合でのもっとも危険なグループへの警戒を強める。

 

ーーー15メートル。何て強力な個性の上に、範囲。ぜひうちに欲しいな

ーーーあとはどれほどの強敵までなら乗っ取れるかだな

 

 

「くそがぁ!!!!!!切島ぁ!!!!いけぇ!!!ぶっ殺す!!!」

自分が一瞬で乗っ取られたことにひどい怒りを覚えた爆豪はすでに緑谷や、轟のことは頭になく、どうやって金成たちをぶっ飛ばすしかで頭がいっぱいだった。

 

 

金成は初めの作戦が決まったことに安堵し、次への行動を開始する。

 

「エイミィ、美亜!次だ!」

 

「いつでもいいよ!ボス!」

 

「おっけーだよー!」

金成はエイミィと美亜の了承を得て、下半身を武装色の覇気で覆って行く。

 

金成が次の行動を起こすまでに、上では大智が届く範囲のチームを次々乗っ取り、ハチマキを奪って行く。

 

「おーらよ!」

金成が覇気を纏い終わると、左足でバランスよく立ちながら覇気を纏った右足を全力で地面にかかと落としをした。

 

腹に響く様な低い轟音と共に、金成を中心に地面が陥没し、地割れが発生する。

 

「ば、爆豪ダメだ!一旦ひくぞ!!」

 

「ふざけんじゃねぇ!!」

爆豪チームは地面が揺れると同時に騎馬の独断で逃げて行く。

 

一方で先程まで近くにいた緑谷はチームメイトにサポート科がいたらしく、アイテムで空中へ逃げた。

 

『地割れダァああああ!!!まだ始まって1分しか経ってないのにこのカオス具合!!今回の普通科はやっぱりなんかヤベェ!!足で地割れ作りやがった!』

 

 

ーーー身体強化の‘個性’か?

 

ーーー単純だがあれだけの力。随分と強い個性だな

 

ーーー足が黒くなってたし、鉄化とかかしら?

 

 

「っく!っとあぶねぇ、エイミィ、美亜!大丈夫か?」

 

「私たちは大丈夫だよ、ボス!」

金成たちが地割れの中心で、打撃点も調整したため、陥没の影響だけで済んだ。

 

爆豪や、緑谷の様な咄嗟に逃げたメンバーはすぐに立ち直ったが、動けなかったメンバーは騎馬を崩すことはなかったが、地割れに足を挟まれたものが多く、動けないでいた。

 

そこからの金成たちは単純に逃げ回っていた。

金成とエイミィは普段から訓練を行っているため、足元が不安定でも走れる様になっている。まぁ、エイミィは綱渡りで分かったと思うがバランス感覚が悪いので、ギリギリだが。

美亜の方も、‘個性’が鬼であるため、身体が驚くほど強い。足腰が強いため、安定して移動できる。

 

爆豪以外のチームは最早金成たちのチームのハチマキ奪取を諦め、それぞれが取れそうなチームへ向かって行く。

爆音や、雷などが会場に響く。

 

爆豪たちのチームは、ほかのチームからハチマキを奪いつつ、こちらを睨みつけている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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十四話 第二種目終了

『じゃぁ7分が経ったからここで中間発表を行うぜ!モニターを見てくれ!』

プレゼントマイクの声と同時に、巨大モニターにポイントと順位が現れた。

 

一位 緑谷チーム 10000325p

二位 夢チーム 1450p

三位 鉄哲チーム 750p

四位 拳藤チーム 685p

五位 轟チーム 615p

六位 物間チーム 470p

七位 爆豪チーム 0p

・・・・・

 

 

 

ーーー順調に上がってるが、やっぱ一位の1000万はどうすっかなぁ。

敵から逃げ回りながらも見聞色の覇気でモニターの様子を窺った金成は、ここで取りに行ってもいいが、まだ様子見の段階でいようと考える。

 

「っと、大智!きた!」

 

金成は後ろから気配を感じ取り、瞬時に身体を移動させる。

前を見据えて目に入ったのは轟チームの左翼側の騎馬を担当する上鳴が‘個性’を使った無差別放電をする直前だった。

 

金成は予め決めていた通りに、美亜に声をかける。

「美亜!雷だ!!」

 

「うっし!わかったよー!!」

金成の指示を聞いた美亜は‘個性’を発動させる。

 

轟チームの上鳴が放電すると同時に、轟チームと金成達を遮る様に、間に大きな雷が落ちた。

 

一瞬聞こえる轟音がホール中に響く。

あまりの爆音にフィールドに居た生徒らは一瞬意識を奪われて、体勢を崩すが其々が集中力が上がって居た為になんとか持ちこたえる。

 

「な、なんだ?!」

あらゆるチームから狙われて居た緑谷達も意識を奪われた。

 

「デクくん!後ろ!」

彼を下で支えて居た麗日は背後から近づく気配を感じ取り、慌てて彼に伝える。

そのままサポート科の生徒である発明の作品であるジェットシューズで上空に浮かび上がって難を逃れていた。

 

 

上鳴によって生み出された電気がより大きい雷に吸収され、金成の元へ届くことはなかった。

上鳴は範囲的な攻撃であり、なおかつ静電気を利用した攻撃のため、純粋な雷である落雷にはボルト数が敵うわけもなく、吸収されていった。

 

「ふぅ。美亜。大丈夫か?」

 

「う、うん。ちょっと疲れたけど」

若干、疲労のため汗をかいてはいるがまだ騎馬として行けそうだった。

これは元々いざという時のための、陽動、襲撃用に美亜に初めから準備させていたがこんなとこで役に立つとは思わなかった。

金成は見聞色で相手の思考が読めるために一手先に理解したが、金成の合図だけで反応した美亜はよく分かったものだ。あの台詞だけで。

 

万が一美亜が間に合わなかった時は電気により生まれる発光の隙に黄金を生み出して地面に電気を逃がそうかと考えていたが、なんとかなったらしい。

 

金成達は何とか放電を遮ったが、ほかのチームからはそうは行かない。

「う、くぅ...」

彼らはなんとか馬を崩すことは無かったもののほとんどの馬が膝をつき体の痺れで動けないでいる。

 

金成達は放電で痺れているチーム達からハチマキを奪おうと動き出す。

しかし、大元の轟チームもそのつもりであったため、轟は作戦通りに行動をしていた。

 

轟は腕を振ると一瞬で冷気が広がり痺れて動けないチームの足を凍らす。

金成達のところにもあと一歩で届こうとしたところで、突然目の前にマグマがせり上がった。

マグマに触れた冷気で空気分子が蒸発をして辺り一面に水蒸気が広がる。

 

「っち!!」

この作戦では感電したチームをしっかりと氷で固定してハチマキを奪う予定だったが、思わぬ伏兵により、視界を奪われてしまった。

 

金成はナイスアシストのエイミィを心で賞賛しつつ、行動に移る。

 

この視界が奪われた空間を覇気で状況を把握し、一番近かった拳藤のチームへ近づき、大智にハチマキを掠め取らせた。

 

「あっ!!!」

拳藤が慌てて頭を抑えるがもう遅い。

 

霧が晴れる頃には既に金成達は端っこの方まで逃げていた。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ...。取れた...」

端へ移動した大智は咄嗟の行動にもかかわらずできたことに安堵する。

「よくやった、大智!もう一回逃げるぞ」

 

金成の合図に再び逃げの一手に戻る。

 

 

 

『初めは緑谷チームが全チームに狙われて、奴らが逃げ回るのを想像していたが、夢チーム!!場を乱しに乱しまくってる!!!さぁ、残るは1分となったがどうする?!』

 

 

 

既に残り時間は1分を切っている。

金成達はうまく足場を利用し、逃げまくっているため、ポイントとも奪われてなく既に安全圏だ。このまま逃げ続ければ次の種目に進出はできる。

 

ーーーでもこのままじゃつまんないんだよなぁ。

 

「....じゃぁ、ちょっと行ってみるか?」

思わず声に出ていたらしく、大智から声が返ってくる。

 

「んー。このまま終わったらちょっと面白くないんだよなぁ」

 

「じゃぁ、最後派手に行こうよ!」

 

「私はいいよ。もう既に楽しんだし、チャレンジしても。」

大智に続き、エイミィや美亜まで乗り切りであったため、金成の心は決まった。

 

 

「よし!じゃぁ最後に行くか!!」

 

 

 

 

 

いま、フィールドの中央では緑谷チームと轟チームが対峙している。

轟の氷によって、壁を作ることにより他チームと離されたのだ。

 

初めに動いたのは轟チームだ。

轟チームは飯田の‘個性’によって一瞬で緑谷チームの横をすれ違う瞬間に、轟が緑谷の額から1000万ハチマキを掠め取った。

 

緑谷は取られたことに気がつき、取り返そうと向かう。

轟チームは先程の瞬発の副作用で飯田が動けなくなったため、防衛しようと轟が構える。

 

緑谷がハチマキを奪い返そうと腕を伸ばすが、それを拒むように轟の手が動く。

しかし、緑谷はもう一方の手で防ごうとしていた轟の手を弾き、彼の首にかかっているハチマキを奪い返した。

70pハチマキを。

 

「なっ!!!」

 

「奪い返されないようにハチマキの位置は変えておきましたわ!甘いですわね!」

緑谷の驚きに、騎馬の八百万が答える。

 

これで、緑谷の勝利の可能性がほぼ潰え始める。

 

既に残り時間は10秒を切っていたらしく、プレゼントマイクと共に、観客はカウントダウンを始めていた。

 

残り時間はあと6秒。

 

緑谷チームは最後のあがきとばかりに、再び轟のチームへ向かう。

轟チームも奪われないように構える。

 

残り時間はあと5秒。

 

ほかのチームも必死に近くのチームへ食らいつく。

緑谷と轟チームの距離が1メートルになった。

 

残り時間はあと4秒。

 

「えっっっっっ!」

「んぐっ!!!!」

 

奪おうとする緑谷の手と、それを防ごうとする轟の手が交差しようとした瞬間、彼らは異様な殺気に晒されて身を萎縮してしまった。

 

轟はその気の緩んだ一瞬で意識を失った。

 

残り時間はあと3秒。

轟は倒れかけた身体を素早く起こすと、首にある1000万ポイントハチマキを迷いなく掴み首から外す。

 

「しまった!飯田さん!夢さんの個性ですわ!轟さんが乗っ取られました!」

焦った様子で、八百万が声をあげるがもう遅い。

 

「大智!投げろーーー!!!」

轟は思いっきりハチマキを金成の元へ投げる。

 

残り時間はあと2秒。

 

金成は未だに全方位を探っていた覇気で近づく気配を察する。

それを感じた金成は、その方向を向くと必死に手を伸ばす緑谷が目に入る。

「とらせるかよぉ!!!」

アドレナリンの分泌により加速した思考の中で金成は残り時間を確認し決心する。

 

残り時間はあと1秒。

 

瞬時に身体から溢れ出す、今まで見たことないような量のオーラが金成の全身から溢れ出す。

 

「エイミィ、美亜!耐えてくれよぉ!!」

 

全身からあふれ出した、殺気にも感じられる威圧が一番近くにいた緑谷にぶつかる。

金成は此処で緑谷は気を失い、ハチマキにが届くことはないと確信した。

 

しかし、緑谷が白眼をむいて気絶しそうになると、彼の体から感じていたオールマイトに似たような気配が急に強くなった。

 

「なにっ!!!」

その事実に気がつくがもう遅い。

 

緑谷は一旦は失った意識を立て直すと震えで動かない身体を咄嗟に動かし、ハチマキを裏拳で弾いた。

 

意識を取り戻した大地の元へ向かっていたハチマキは方向を変えて、ちょうど真下へ落ちる。

 

「くっそ!!!」

金成は最後のあがきで足を伸ばしたが、ハチマキに触れたと同時にタイムアップを迎えた。

 

 

『タイムアップーーーーー!!!!!』

最後の怒涛の展開に、観客は今までにないほど湧き上がっていた。

 

しかし生徒の方はそれとは対照的に、静かだ。

ほとんどの生徒が地に伏し気絶していたからだ。

その場に立ってるのは大智をお姫様抱っこで抱える金成のみだった。

 

 

 

 

 

 

『えーーーふむふむ。んっ!!生徒のほとんどが気絶であるので大丈夫だぜみんな!!』

あまりの光景に、会場が一瞬静まり返るが、気絶してるとわかると一気に再び湧き上がる。

 

ーーーまさか、またあいつのか?!

 

ーーーあぁ!俺見たぞ!来栖ってやつが第一種目でほとんどの生徒を気絶させたところ!!!

 

ーーー俺も見たぜ!!

金成だけが立っていることから推理した観客たちが再び湧き上がる。

 

金成は気がつかなかったが審議のために審判をしていた、ミッドナイトが一瞬気絶して膝をついたため、その様子を見た他のヒーローが慌てて飛び出していた。

すぐにミッドナイトは立ち上がったが、それを見ていた観客席のプロヒーローたちはそれほどの威力かと慄いていた。

 

 

そこから、厳正な審査をするため少しばかりの休憩が入った。

 

 

 

 

「おーい。エイミィ起きてっかー?」

床で気絶しているエイミィの頬をペチペチと叩くと、一瞬うめき声をあげて起き上がった。

 

「...また使ったー!!初めに言ってよー!!」

起き上がったエイミィは周りの惨事を見て事態を把握し、その元凶へモンクを飛ばす。

 

「いやぁごめん。お前は落ちないと思ったんだけどなぁ」

 

「うー...」

少し悪びれた表情で謝る金成に対し、自分も若干耐えられなかったことが悔しかったので頬を膨らませるだけにとどめる。

 

「んー?それよりこれどういう状況?」

 

「いやぁ、俺がみんな気絶させちゃったし、最後の1000万pは俺が足で受け取ったんだよねぇ。だから、最後のが妨害工作になるか、足でのキャッチが有効かの審議かな?」

 

現状を理解するためにエイミィが質問すると、金成もわかってはいないがそうであろうと予測を立てて答えた。

 

 

 

それから20分ほどで審議が終わったらしくプレゼントマイクが声をあげる。

 

『待たせたなー!じゃぁ、第二種目の騎馬戦の結果を発表するぜ!!!』

この頃にはすでに生徒が全員起き上がっている。

 

『一位は......夢チーム!!二位は轟チーム!!!三位は爆豪チーム!!おぉ、爆豪巻き返してやがったか!...んっ!!そして四位緑谷チーム!!以上4チームが最終種目へ進出だーーー!!!』

 

『1時間ほど昼休憩の時挟んだ後に午後の部だ!じゃぁな!』

 

 

「...ふぅ。」

失格にはならなかったらしい。

 

「おぉ!やったな金成!!!」

 

「エイミィやったね!」

 

「うん!」

大智達はよほど嬉しいらしく、一位という結果を噛みしめている。

最後の必死ようから見て緑谷はチームは落ちたと思っていたが、常闇が自身の陰で最後にハチマキをかすめ取ってたらしい。

 

ーーー今更だけど、騎手以外ハチマキとっていいんだな。

 

 

 

そのまま解散になったため金成達は自分達の入り口から帰ろうと足を動かす。

「いやぁ、楽しかったなぁ!特に最後のあの緊張感はいいな!」

金成は大満足である。すでに、ヒーロー科編入の事など忘れているほどだ。

 

「そうだね!ボス!お昼はどうする?」

 

「んーじゃぁ、屋台でも回るかぁ」

一旦控え室へ戻り、クラスメイトらと色々話し終わると、昼食をとるために金成はエイミィを連れてホールを出た。

仲良く歩いていると、周りからの視線を強く感じる。

観客からの好機な視線も多いが、プロヒーロー、警備員からの観察するような視線が多い。

それでも気にする事なく、金成達は屋台からたこ焼き、焼きそばなどを購入しベンチに座った。

木陰に隠れ、涼しい風が流れるベストスポットだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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十五話 最終種目 エイミィVS緑谷

現在の金の採掘量は年間2000〜2500トンと言われています。
現在金成達が捌いているのは年間凡そ1.2トン弱。多くても二トンほどでしょう。
今現在までに採掘された量は凡そ17万トンであり、今後採掘できる量は6、7万トンと言われています。

今現在の金の価値は年々上昇傾向にあり、これは金が限られた存在であるからであり個人的な見解ではありますが、年間2000トン採掘されている中に1トン増えたところでなんら変化はないと思われます。

金の主な利用方法は、美術品や宝飾品などの他に、電子機器や通信機器に多く使われており、
ここでご都合的見解を述べますと、個性の発現により誕生したサポートアイテムは電子機器、及び電気関連のアイテムであることから金の使用量が増え、逆に金の価値が高まっていると考えています。

まぁ捌いた金は御都合主義的に、全体的に分散している為、出所不明。と判断してください。




「ボス、こっちのフランクフルトも美味しいよー。はい」

エイミィは隣に座って焼きそばを食べている金成に、今まで自分が食べていたフランクフルトを躊躇いもなく差し出す。

手渡しするのではなく彼が食べやすいように口へ近づけた。

 

「ん?あぁ、さんきゅ。ん、あむ」

話しかけられた金成の方も慣れているのか素直に口を運んでフランクフルトを食す。

 

ーーーん。本当にうまいな。

フランクフルトが美味しいか美味しくないかを分ける特徴は、個人的にではあるは皮にあると思っている。食は味覚だけでなく、聴覚や視覚などで楽しむものであり、このフランクフルトは十分に金成の聴覚的食欲を満たしてくれたらしい。

 

「ふむ。満足である」

今日は特に機嫌がいいらしく、金成は腕を腰に当てて胸を張りながら、普段しないような少しおちゃらけたボケを挟んだ。

 

「は、ははー!」

エイミィの方は一瞬キョトンとしながら内心彼の普段は見ないお茶目な姿にきゅんとしつつもそれに答えた。

 

ーーーふふ、ボス。なんか楽しそう。

金成は入学してから、厳密には中学校も含めて学校にいるときはいつもつまらなそうにしている。

つまらなそうとは言っても人並み以上に整った容姿をしており、彼もそれを利用している節があるため不満そうな表情を周りに見せることは少ない。

しかし、そうは言ってもエイミィは長い付き合いであるため、ある程度は彼の気持ちはわかると自負している。

 

彼女は初めて出会った時から彼はヒーローである。

自分の、ゴミ溜めで生活していた、これからの未来に希望が持てなかったあの絶望の空間から引き上げてくれた恩人にあたる人だ。

例え、金成に打算があったとしてもだ。

 

まぁ、今ではただのヒーローではなく、ダークヒーローと思っているけれど。

 

そんな彼が、雄英高校に入学してから笑う数が増えた。

それが彼女にとっては一番嬉しいのだ。

 

「ボス、日陰ちゃんや美流ちゃんも見てるかな?」

ーーーこのボスが楽しそうにしてる顔を。

 

「ん?あぁ、多分見てると思うぞ」

突然の問いかけにキョトンとしながらも答えた金成。

 

「そうだよね」

ーーーふふ、日陰ちゃんと美流ちゃんもボスの顔を見たら驚くかな?

普段は見せない純粋な金成の笑顔を彼女たちにも見て欲しいと願っているエイミィである。

 

 

 

金成達がベンチで一時の休息を楽しんでいると、チャイムが聞こえてきた。

休憩が終わった合図だ。

 

金成たちが残っていた食べ物を急いで食べ終わると、すぐさま先ほどいたホールへと向かう。

道中は同じく昼食を終えた観客たちもいて大変混雑していたが、生徒用の通路があったためそこから直で金成たちはホールへと向かう。

通路を通ってホールへと向かうと、敗戦した生徒たちも含めた全ての生徒がいた。

 

「あれ、他の生徒もいっぱいいるな」

 

「あれ?なんでだろうね?」

エイミィの方も理解していなくキョトンと首を傾げた。

綺麗な赤い髪が拍子に靡く。

 

『最終種目の発表の前に予選落ちの皆へ朗報だ!あくまで体育祭!ちゃんと全員参加のレクリエーションも準備してんのさ!本場アメリカからチアリーダーもっ...て、どうした、A組みぃ?!』

そうだ。どうやらまだレクリエーションが残っているらしい。

 

「ん?なんだ?」

プレゼントマイクが説明を始めると、突然A組と叫んだので、金成達は問題のA組の方向を向く。

どうやら金成たち以外はそれぞれがある程度ではあるがクラス別に並んでいたらしく、すぐにA組を見つけた。

いや、すぐに見つけるほど親しいわけではないが、プレゼントマイクの叫んだ原因と思われる特徴が見えたためだ。

 

「....何やってるんだ?アイツら」

 

「おー可愛いね、ボス!私もあれ着たいなぁ!」

 

そこにいたのは本来は体操服を着ているはずのA組女子が全員、チアリーダー服を着てポンポンも持っていた。

それぞれが赤と白をベースのチアの服を着ていて超ミニスカであるため彼女たちの太ももが露わである。

1名ほど服だけが浮いている状態の人がいたが概ね全員がそんな格好である。

 

自分らも不本意なのか若干恥ずかしそうにしながら肩を下ろしている。

金成はそんな彼女達の姿に呆れたように見ているが、エイミィの方は純粋に彼女達の可愛らしいチアリーダー姿を羨んでいた。

エイミィも女の子である。

チアは格好は着ると恥ずかしいであろうが、見る分には充分かわいい。

それにエイミィは大事なところが隠れていて、其処まで露出が多く無ければ気にしない性格をしているため、純粋な気持ちで羨んでいる。

 

「まぁ、確かに可愛いけど...」

実際この学校の女子は全員が平均以上の顔立ちをしている。

異形種である女子生徒らも実際同じ異形種の男性陣からのアプローチが多いらしく、形問わず美形ぞろいだ。

そもそも美形の遺伝子は選りすぐりの、選び抜かれた優秀な遺伝子同士が組み合わさって引き継がれて行ったものであるため、優秀な個性を持つ、優秀な人材が集まるこの学校に通う生徒は身体的に優れた、見た目が優れたものが多くなるのはある種の必然である。

 

まぁ、その為幸か不幸かチアリーダー服が似合う結果になってしまい着る羽目になったが。

 

エイミィも海外の血の為か身長も高い上、足が長く肉つきのバランスが良く、スタイルがいい。

足を特徴とするチアリーダーの服装にはもってこいのスタイルではあるが、残念なことに今現在金成はチアリーダー服など持っていない。

いや、会社にもない。

 

残念ながら、着ても似合うが服がない為諦めてもらうしかない。

 

「エイミィ服がないから諦めるしか...」

目を煌めかすエイミィを諦めさせるのに若干の申し訳なさを感じて、声が尻すぼみしてしまう。

 

「お、お前!なんて事!そこの女子、あれが着たいんだな?!ちょっと待ってろ!!」

金成が諦めるように促そうとするが、近くにいた100センチほどの身長の生徒が声を荒げてA組のチアリーダーグループへ走っていく。

若干の目の血走り様から察するに、金成が諦めさせようとしたのに怒ったらしい。

とんだエロガキだ。

 

「な、なんだあれ」

優秀な遺伝子だろうが、あれだけエロを前面に出しては雄英高校の生徒がモテるといっても無理がある。

 

「んー、なんでもいいよ!私も着れるのかな?」

金成は突然の出来事に驚くがエイミィは彼の視線など気にも留めないらしく、着れるなら良いらしい。

 

 

 

「なぁ八百万!この子にもアレ作ってくれよぉ〜!」

先ほどの少年がA組から一人の女性を連れてきて、腰に泣きついている。

なんとも情けない姿だ。

 

「ま、まぁいいですけれど。ちょっと失礼しますね。はいありがとうございます」

連れられて来た女性とは彼の情けなさに若干呆れていたけれど自分の仲間(犠牲者)が増えることに賛成である為、エイミィの体に触れスリーサイズを確認すると、腹の部分から同じチアリーダー服を取り出した。

 

 

「やったー!ありがとー!じゃぁ、私着てくるね!」

エイミィはそれを嬉しそうに受け取ると、即座に更衣室へ走って行った。

 

『えー、5分ほど休憩を挟むか...』

彼女らの様子を眺めていたプレゼントマイクは突然の出来事に苦笑しながらも華が増えることには賛成のため休憩を延長することに決めた。

観客も女生徒がチアリーダーになってくれるなら文句がないらしく、黙って待っている。

他のクラスは呆れた様子で此方を見てきてるが。

 

 

「あー、その」

 

「八百万ですわ」

あの少年はエイミィのコスプレが見れるのが嬉しいのか喜びの咆哮を上げている。

この場に残された金成はエイミィが来るまでの間を繋ぐことにした。

流石にずっと沈黙では辛い。

 

「八百万、すまんな。無駄に‘個性’使わせて」

 

「いえ、そんな気にすることはありませんわ。まぁ、私達も仲間が増えることが嬉しいというか...」

 

「......」

これ以上話の種が見つからなく途絶える会話。

観客の方も訓練された軍隊のごとく黙って待っている。

 

ーーーあぁエイミィ早く戻ってきてくれ...。どうすんだこのホールの空気!!!

隣でエロの咆哮をあげる彼に習って自分もエイミィを呼ぶ声をあげたくなった金成であった。

 

 

 

 

 

『えー、じゃぁ、うぉっほん!いくぜーー!じゃぁさっきの続きだが、レクリエーションの後は最終種目だ!進出4チームの総勢16名からなるトーナメント形式!!一対一のガチバトルだーーー!!』

先ほどまでの茶番劇がなかったかの様に、観客や、生徒達がそれに興奮を表して声をあげる。

エイミィがチアリーダーの格好になり戻ってくると、それを見計らうように再び始まった。

 

 

ちなみにエイミィは八百万に連れられてA組の中に交じって行った。

ーーーアイツって誰とでも仲良くなれるよな。

金成は、A組で早速仲よさそうに肩を組んで足を上げているエイミィを見ると、彼女のコミュ力に戦慄を覚えてしまった。

 

 

ーーートーナメントか!毎年テレビで見てるアレか!!

 

ーーー形式は違えど毎年サシの勝負だよな。

今までに散って行った生徒達は落ち込みはするが体育祭自体は楽しいものである為レクリエーションを楽しみに待つ。

 

 

「じゃぁくじで決めるわよ!レクリエーションを挟んでの開始になります!」

プレゼントマイクの説明を引き継ぎ、中央にいるミッドナイトがくじ引きを引かせる。それぞれ勝ち残った生徒達が中央のステージへ足を運んで一人一人引いていく。

 

 

 

それの結果総勢16名からなるトーナメントが発表された。

 

左グループ

緑谷VSグランドーラ

轟VS瀬呂

阿久津VS上鳴

飯田VS発目

 

右グループ

芦戸VS来栖

常闇VS八百万

夢VS切島

麗日VS爆豪

 

「...ほう。綺麗に分かれたな。D組のメンバー」

どうやらD組は綺麗に別れたらしい。

全員が一回戦突破すると綺麗に2回戦での対決になる。しかも、エイミィと金成は決勝でないと対決出来ない。

それぞれの生徒が自分の対戦相手を探し考えを巡らす。

 

『よーしそれじゃあトーナメントはひとまず置いといてイッツ束の間、楽しく遊ぶぞレクリエーション!!!』

プレゼントマイクがレクリエーションの開始を宣言すると同時に、校舎裏から花火が打ち上がり空を彩った。

 

 

 

 

 

 

まぁそうは言っても最終種目出場者は出席しなくてもいい為、金成達は準備のために不参加だった。

金成達が控え室で寛いでいたがエイミィはA組の彼女らと仲良くなっていたらしく、A組女子と一緒に生徒らに与えられた観戦スペースの最前列で踊っていた。

随分と綺麗に踊っている。

まるで事前に打ち合わせしたかの様なシンクロ率だ。

A組はそれぞれの息が分かっているらしいから出来るが、見るからにエイミィは横目で確認しつつ合わせている。

 

ーーーこういう所は優秀だよなぁ。

普段はおバカっぽい一面ではあるが流石はマネトリアカンパニーの幹部だ。

幹部である称号は伊達ではない。

 

 

「アイツ、元気だなぁ」

 

「...あぁ、まさか阿久津も着替えるとはな」

 

そう、阿久津もあの後すぐにエイミィに連れられて更衣室に連れていかれたのだ。

今はエイミィの隣で元気に踊っている。

彼女は若干遅れながらも周りに合わせている。

流石は雄英に入っただけはある。

それから30分ほどでレクリエーションが終わった。

 

 

 

『色々やってきましたが最後はやっぱりガチンコ勝負!じゃぁ始めるぜ!』

最終種目とあって観客の興奮は最骨頂に達している。

まだ試合のない金成は大智と共に生徒用の観客席に座っていた。

 

『第1試合!!成績の割になんだその顔!!ヒーロ科緑谷出久!

対、今大会のイレギュラー!ヒーロ科に思わぬ刺客か?!赤い髪の元気っ子!!グランドーラ・エイミィ!!!』

 

二人は左右に分かれてホールの入り口から現れる。

そのまま、中央に位置された、コンクリートで作られた試合会場の階段を上っていく。

縦横20メートルほどの正方形の形をしていて、これはコンクリートを操るプロヒーローによって作られている。

その為か、壊れてもすぐ直せる為ある程度力の制限はされていない。

されていることといえば観客席まで届く攻撃の禁止と、直接死を与える様な強力な技の禁止だ。

これは審判の判断でするらしい。

 

すぐにプレゼントマイクはルールの説明を始めた。

相手を場外に送るか、戦闘不能にすると勝利らしい。

リカバリーガールと呼ばれる治癒の能力を持つ人もいるため派手にやってもいいが、命に関わることはもちろんアウト。

ヒーローは敵を捉えるのが仕事だからだ。

 

ーーーんー、エイミィにとっては不利なのか?アイツの‘個性’ってバリバリの危険性だからなぁ。アレは手加減のしようがないし...。

エイミィが派手にやったら火山の噴火並みの大惨事だ。

勿論言われなくても力など制限するしかない。

 

「あはは、だよねぇ。どうしよう」

フィールドへ登った、先ほどまでのチアリーダー服姿から体操服へ着替えたエイミィのつぶやきが聞こえた。

 

「ねぇ、危ないと思ったらちゃんと棄権してね?」

 

「ど、どういうことだ!」

エイミィは単に怪我の心配しているだけだが、それを受け取った緑谷は挑発と受け取ったのか悔しそうに唇を噛んでいる。

 

「んー、そのまんまの意味だよ。じゃぁやろっか!」

今のは明らかに自分は絶対に勝つ。

尚且つ相手は負けると確信しているとの宣言と同義である。

エイミィは其処のところは全く気づかずにスルーした。

 

『そんじゃぁ早速始めよか!!』

その言葉を合図にフィールド、観客席は静寂に支配された。

ヒリヒリする様な緊張感が緑谷の背筋を走る。

一方のエイミィは普段通りの調子で少し足を開いて立っている。

 

数秒とも感じられる様な緊張感は始まりの合図とともに弾けた。

 

『レディィーー!!!START!!!!!』

 

始まりの合図と共に緑谷は警戒のために大きくバックステップをして距離を取る。今まで少しは彼女の個性を見てきた為、近距離は危険と判断した。

流石に体からマグマを出されたら付着しただけで大怪我でリタイヤだ。

そうなるわけにはいかない。

 

「あれ?離れちゃうんだ」

エイミィは腕の袖をまくると、早速手をマグマにする。

 

ーーーやっぱ離れるよなぁ。あの‘個性’を見て近距離で挑む奴は少ないもんな。

 

 

緑谷はエイミィの個性をある程度見ていたため、腕と足をマグマ状にする‘個性’と推測している。

マグマを自由に遠距離で操っていたところを見るに、体の体積以上に生み出し操れると思ってる。

 

エイミィと対戦が決まってから、レクリエーション中に対策を講じていた。

しかし、ただでさえ強力な個性なのに情報が少なすぎる。

その為まともに対策を講じられなかったため、結局は‘個性’による風圧で吹き飛ばそうと決めた。

 

 

「じゃぁ、こっちからいくよ!はぁ!!」

エイミィは腕を振ることで、腕から生み出したマグマを制御して弾丸状にして緑谷の方向へ打ち出した。腕の振るう速度から想像ができないほどに早いマグマが目前に迫る。

 

「くっ!」

緑谷は咄嗟に横へ転がることでそれを回避する。

 

「なんて威力だ...!」

エイミィが打ち出したマグマは地面を溶かしていた。

それを見た緑谷は歯ぎしりをする。

あれだけ強力な上に、あの速度。

それに以前見た限り大量に扱っていた。

それなら1発しか同時に扱えない、なんて事はない。

初めは様子見のつもりなのか手加減されたのだろう。

 

 

緑谷が悩む一方で、エイミィもまた悩んでいる。

ーーーんー!どうしよう。私の個性じゃ何やっても怪我じゃすまないだろうし。拘束手段もないからなぁ、降参してくれないかなぁ。

 

 

 

「エイミィ勝てるかな?」

 

「負けはしない。勝てるかもわからんがな」

隣にいた美亜が心配そうに聞いてくるがそれしか言いようがない。

 

「アイツの‘個性’ってマグマっていうのはわかるだろ?これを操って拘束するにしてもマグマに触れた瞬間肉が焦げ落ちで大怪我だからなぁ。正直対人戦だと相性が悪すぎる」

 

「...そっかぁ」

まぁ、緑谷が命を投げ出すようなやつでない限りなんとでもやりようがあるが...。

 

ーーー聞いたところによると、‘個性’使うたびに大怪我してるからなぁ。どうせ治るからって突っ込んでくるだろうなぁ。

 

 

 

 

エイミィはその後も次々とマグマを飛ばしていく。

初めは1発のみだったが、次々と、2発、3発と増えていく。

最終的には20発ほど同時に飛ばされてくる。

 

靴に少し弾いたらしくジュワッと音を立てながら溶かされていく。

緑谷も初めの頃はうまく避けていたが次第に避けられなくなってくる。

「あっちぃ!!!!!」

靴を貫通しマグマの液体が肉を焦がしているのがわかる。

 

 

「ねー、棄権してよー!じゃないともっと痛いよ?」

 

まるで弾幕のようにくるマグマを反射神経だけで避けていくが、体力の限界を心配しだす。

ーーーダメだ!このままじゃジリ貧だ!!

 

そして緑谷は遂に動きだす。

弾幕の一瞬途切れる瞬間を利用して前に飛び出す。

 

「ぐぁ!!」

地面にあるマグマで靴を焦がし、弾幕の再開により飛んでくるマグマの避けきれなかったものが太ももを焦がす。

 

そのままエイミィとの距離が2メートル程になると、デコピンをするような動きをする。

エイミィは緑谷の‘個性’を見ていない為その行為の意味がわからない。

エイミィは不思議に思いながらも、何が来てもいいように緑谷との間からマグマを吹き出し壁を作った。

そのままバックステップを取り距離を取る。

 

「いっけぇ!!!」

緑谷は思いっきり指を打ち出すように指を振り抜く。

 

その瞬間、指から衝撃波のような風圧が思いっきりマグマをぶち抜きエイミィに直撃した。

 

『当たったー!!防戦一方出会った緑谷が遂に反撃をしたか!!!エイミィはいまどうなっ...!!!』

 

緑谷はボロボロになった指の痛みに我慢しながら、ビチャっと地面に落ちたマグマにより見えるようになったエイミィの様子を窺った。

 

「なっ!!!」

緑谷の目に映ったのは、頭をなくしたエイミィだった。

 

 

 

 

 

 

 



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十六話 最終種目 美亜と大智と金成

その光景を見ていた観客もヒーローも一瞬言葉を失う。

緑谷が放った風圧の一撃がマグマの壁をも吹き飛ばし、重い一撃を彼女に与えたのだ。

この光景を見ていた誰もが今までの彼女の体捌きや強力な個性により対処すると思い込んでいたためか、彼らに思った以上の衝撃を与えた。

そもそもが見た限り個性による衝撃波、もしくは風圧の筈ではあるが、それが顔面をも吹き飛ばす結果になりうるのだろうか。

冷静でいれば疑問に思う点がいくつか上がるだろうが、この衝撃的な光景に冷静でいられるものはあまり多くはなかった。

冷静でいられたのは現場歴が長い古株のヒーローか、この状況でも冷静を保つ審判であるミッドナイト、後は意味深げに口角を釣り上げている金成くらいである。

 

「え、嘘だろ....?」

何処からか喉の奥から絞り出す様な声が、沈黙を守る観客席に響く。

この声を皮切りに次第に悲鳴や戸惑いの声が上がり出す。

 

時が止まった様に意識が真っ白に染められていた緑谷は自分がやってしまった惨状に気がつく。

 

「な、なんてことを....!」

今までにない自分が巻き起こしてしまったこの力による暴力を目の当たりにし、心に渦巻く罪悪感や、絶望とも言える感情に囚われている。

今までの緑谷で有れば、いくら全力100%の衝撃波であれ、あそこまでの惨状を作り出すのは不可能であると気がつく筈だ。

全力とはいえたかが指一本である。

緑谷は指に感じる痛みを感じる暇もなく茫然自失になっている。

 

緑谷が漠然と失格の合図を待っていると、彼女の首の断面図がおかしいことに気がつく。

彼女の首は明らかに血であるはずがないぐつぐつ煮えたぐっている様な気泡を発しながら大きく蠢いていた。

 

「な、なんだ?!」

思わず声をあげた緑谷。

その光景を見た観客も思わず身を乗り出して見入る。

 

『なんだぁ?!マグマがまだ動いている!!おぉ!!先ほどなかった顔がマグマで復元されてく!!!』

観客たちが固唾を飲んで見守る中、首筋からマグマが溢れ出し、そのままエイミィの顔を形作って顔を作った。

 

「おぉー!すごい威力だね!びっくりしたよ!!」

エイミィはなんでもないように威力に驚いていたが、緑谷を含め観客やヒーローは別のことに驚く。

 

ーーー体自体がマグマなのか?!

 

ーーーこれ物理きかねぇんじゃねーの?!

 

「...そうか。今まで発動型の個性と思ってたけど、この個性は‘あの時のヘドロ‘と一緒の異形型の個性だったのか」

気がつくとなんとでも無い事であるが、自分がやってしまった事が大事にならなかった安堵とともにこれ以上ない危機感が緑谷に湧いて来る。

この個性のアドバンテージは普通の人間に擬態できる事だろう。

普通の液体状の異形型とで有れば人間の形を擬似的に形作ることはできる。

しかし明らかに人間の肌質を持ち、完全なる人間型を保っている。

その為初見の相手は殆どが今回の緑谷同様に発動型と勘違いするはずだ。

今までは支柱となる身体に一撃を与えればダウンさせられると思っていたが、これでは物理攻撃しか持たない緑谷の勝ち目がぐんと下がって来る。

物理攻撃が主な緑谷にとってこれほど強敵はいない。

 

いやしかしながら手がないわけではない。

緑谷の頭の中に一つの作戦が思い浮かんだ。

いや、’あの時の光景‘が重なって見える。

 

でもその作戦を実行しようものなら、確実に腕を丸々1本ダメにしてしまう。

この試合が決勝なら実行したかもしれないが、1回戦だ。躊躇わないわけがない。

しかし、このままじゃ1回戦敗北は必至。

 

どう足掻いても手がそれしか浮かび上がらず、それ以上にこのままでは決勝以前に一回戦敗退である緑谷は決断した。

 

ーーーくそ!!やるしかない!!

復活したエイミィが再び打ち出して来る弾幕上のマグマを必死に避けながら緑谷は決心をする。

 

あの日のオールマイトを思い出しながら。

 

避けるたびに、地面に残っている大量のマグマで身体は焦がされ、それを踏んでいる足からはとめどなく肉を焼いた様な匂いとともに煙を上げる。

 

ギリギリとも言える攻防なんとかさ避けつつ時を見計らう緑谷。

 

「...きた!」

癖によるものなのか、エイミィはおよそ1分程すると休憩を挟む様に一瞬弾幕を途切れさす。

 

緑谷は先ほどと同じように、マグマの弾幕が切れる一瞬で前に飛び出す。

 

ーーーまた同じかぁ。そろそろ終わらせたいなぁ。

 

それを見たエイミィはあえて先ほどと同じようにマグマの壁を作る。

エイミィは次に緑谷がすることをある程度理解する。

もしも、先ほどの風圧が指だけではなく腕なら。

それなら体全部を吹き飛ばせるだろう。

しかし、単純とも言える力技をエイミィが対処できないわけがない。

 

これでもエイミィは金成の護衛であり、マネトリアカンパニー最強だ。今まで個性が発動せず、いや個性を発動させていたとしてもただの学生に過ぎない緑谷とは潜ってきた修羅場の数が、実践、経験の深さが違かった。

 

「くそっ!」

前と同じ状況を作られたことに若干のイラつきを覚えながらこの作戦しかない緑谷は一縷の望みに掛けて敢えてその行動に乗ることにする。相手が液状の異形型で有れば肉体的損傷を省みなければリミッターを掛けずに全力のパワーを出すことができる。

緑谷はオールマイトから受け継いだ力、それに自分もただ学校生活を過ごしてきたわけじゃないという自負から、そのままマグマの壁に接近すると同時に、右手を大きく振りかぶり振り抜いた。

 

「いっけーーー!!!.....へ?」

緑谷は、腕を振り切ってマグマごとエイミィを吹き飛ばそうと発動させた風圧を作るも、そこにはエイミィは居なかった。

気合の入った声から一転し、口から変な声が漏れる。

 

ーーーなんで?!絶対に当たる様にマグマの左右から飛び出ないか見ていたはずだ!

そうは言っても目の前にいないことには変わりない。

 

それを認識すると同時に、背後から現れたエイミィが緑谷のがら空きの背中に思いっきり回し蹴りを決める。

明らかに生身で出せないだろ、と思うような衝撃が緑谷の背中に叩きつけられた。

そのまま緑谷は背筋をくの字に曲げながら吹き飛び、フィールドを超えてその先の壁に激突した。

 

この時緑谷が感じられたことは背中に感じる痛みとともに、目前に迫る壁による自分の敗北だけであった。

 

 

 

 

「緑谷くん!場外!勝者、エイミィ・グランドーラ!!!」

主審を務めて居たミッドナイトの声に、会場は大きく湧き上がった。

一回戦ながらも例年にない盛り上がりを見せている。

 

「やったー!」

フィールド上のエイミィが勝利を噛み締めた喜びの声をあげる。

同じくこの試合の勝者である選手に目を向けた観客たちは先ほどの歓声とはまた違った、驚きや興奮の声をあげた。

 

「ちょ!貴方服を着なさい!」

その声質の変化に気が付いた審判のミッドナイトは、緑谷から視線をエイミィに移すと、先程までの凛とした表情から一転し、慌てて彼女に声をかける。

 

「あ、あはは」

ミッドナイトの注意により自分が今どんな格好をしているのかエイミィは気がつく。

エイミィの今の姿は、人一倍白い肌とは対照的な黒いスパッツに、着痩せするタイプなのかジャージの姿では感じられないほど綺麗な膨らみを見せる胸を覆う黒いスポーツブラのみであった。

 

先程まで来ていたジャージは何処かへ消え去っていた。

一瞬水着にも見えなくはないが、エイミィも恥ずかしいらしく慌てて控え室へ走っていった。

 

ーーーアイツ、今来ている服がいつもの防熱性の服じゃない事を忘れてたな。

 

 

『.....。いやぁほんとに初戦かっていうくらい盛り上げてくれたな!取り敢えず両者の健闘を称えてクラップユアハンズ!!!』

プレゼントマイクが讃えると共に会場中から拍手が巻き起こり、第1試合を終えた。

 

 

 

「ま、待ってくれ!最後どうやって...!」

更衣室から出てきたエイミィに緑谷は声をかけて居た。

負けたことは仕方がない。自分の実力がなかっただけだ。

しかし、なぜ負けたのかは知りたかった。

 

「んー?わたし全身マグマなんだよねぇ。まぁ、見えるだけが全てじゃないよ!わたしボスに報告しなきゃいけないからバイバイ!」

エイミィは別に教えていいけど逆に教える必要性もない為、ヒントだけ与えて走り去っていった。

 

暫く通路脇でなぜ突然背後から攻撃するに至ったか思考に徹する。

彼の癖なのか、ブツブツと思考を口から垂れ流しつつフィールド場がマグマだらけになっていたことに気がついた。

「...!そうか..!」

 

そう、よく考えてみれば全身がマグマにできるなら突然背後を取ることが可能だ。

マグマ状になり、地面にあるマグマを伝えば簡単に移動できる。

緑谷も気がついたが、エイミィは全身をマグマにして移動しただけである。

こんな簡単なことに気がつかなかった緑谷は悔しさを感じるが、直ぐにその感情は引いていく。

「....ここまで個性を使いこなせなきゃ一回戦突破なんて夢のまた夢だよね」

今になってようやく、自分が個性の制御すらまともに出来ずここに居ることが恥ずかしくなって来る。

 

「今回突破できたのは偶然が重なった運に過ぎない。ここからだ」

今までの、制御なんてできなくていい、治して貰えばいいと言った甘ったれた考えを捨てたのか、彼の目には試合前以上に闘志の篭った目をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボスー!勝ったよー!」

予備のジャージに着替えたエイミィが元気よく生徒用の観客席へ来て声をあげる。

 

「あぁよくやったな」

観客席にいた金成はエイミィの声に気がつくと振り返って彼女を出迎えると自分達が座っているところへ誘導した。

 

「エイミィすごかったよ!」

それからはクラスメイトがエイミィをそれぞれ賞賛していった。

彼らはあの試合に魅入られたのだ。

自分達は所詮普通科、どれだけ足掻いても意味がない。

失礼ではあるが、エイミィでさえヒーロー科には敵わないと思っていたクラスメイト。

しかし、試合が進むにつれてエイミィの力を目の当たりにした彼らは次第に彼女なら勝てるのではないかという思考にたどり着く。

そうして結果は圧勝。

これでクラスメイトが興奮しないわけがない。

 

「ありがとう。次も頑張るね!」

彼らの興奮の篭った感想に感謝しつつ、金成が座っている席に近づくと隣に腰を落とす。

 

 

「あ、そう言えば、あの後ミッドナイト先生から耐熱性の服を着ていいって言われたから日陰ちゃんに連絡したよ」

あの後ミッドナイトからもし耐熱性の服があるなら特別に使っていいと許可をもらっていたエイミィは右手に光る指輪から感じる気配をたどって、直ぐに服を持って来てほしいと言った旨の念話を送った。

 

「ん?そうか?よかったな。流石に何度も肌晒せないだろ」

 

「んー、ボスのエッチ」

頬を膨らませながらもジト目の視線を飛ばすエイミィ。

 

「.....。よし、次は美亜の試合か」

ただ思ったことを口に出した金成だが、予想外の返答に口を吃らせて話をそらす。

 

「もー、なんか反応してよボス!!」

 

側から見たらカップルにしか見えない事を普通にやっていることに、彼らを見ていたクラスメイトは驚愕した。

先程までの羨望の眼差しから生暖かい目になっていくのがわかる。

近くにいた大智も若干呆れながらも、温かく見守っている。

 

「それよりお前、わざと攻撃を食らっただろ」

 

「ぎく!!!」

金成の質問にわかりやすいほどの反応を示す。

横を向いて口笛を吹いているが、よくこれ程典型的なものをできたものだ。

 

「..まぁいい。次からちゃんとやれよ?」

 

「うぅ。だって、怪我させないようにやるとか私にはこのルールじゃ厳しくて...」

 

「...はぁ。まぁ、どうしてもダメなら格闘技だけでいけばいい。うちでは下手な方だがここではかなり上位だと思うしな」

しょぼくれたエイミィを慰めるように頭を撫でる。

正直うちの会社で比べると、エイミィは格闘技は下手な部類に入る。

でも、金成の会社にいる戦闘員は正直言って一人一人がプロ並みであり、そこと比べること自体間違っている。

その為、いくらヒーロー科の生徒達が戦闘訓練に勤しんでいるとはいえ、エイミィが負けるとは思っていない金成。

 

「...そうだね。じゃぁ次は格闘技メインで行こうかな!」

単純なのか、金成の言葉にすぐに元気になったエイミィは笑顔を向けてきた。

 

ーーー単純だなぁ。

 

 

 

 

美亜の試合が始まると、彼女は速攻で勝利を決めた。

相手は上鳴と言う電気を操る‘個性’持ちであったが、彼は自分の中にある電気を放電することしかできない。それも方向性を決められるわけではない為美亜の敵ではなかった。

 

美亜の方は自身が雷を使える事によりある程度電気に耐性があったため彼の無差別な放電を耐え抜き、そのまま強力な身体能力に物を言わせ、場外まで殴り飛ばした。

 

「げふっ!!」

綺麗に決まったのか、顔面から放物線を描き地面に落下した。

 

 

 

 

 

第二試合の終了の合図とともに、自分の試合が近づいていた金成は控え室に向かう為立ち上がった。

「よし、じゃぁ俺も準備があるから選手控室に行ってくるわ」

 

「うん!行ってらっしゃーい!」

 

立ち上がった金成にエイミィや他の生徒達が応援の言葉を投げかけている。

ーーー応援されるのも悪くないな。

その声に心地良い感情を抱きつつ、感謝の言葉を返した金成は早速控え室へ向かう。

 

今他の生徒が第三試合で戦っておりそれが終わると10分後に自分の試合が始まるため、待機してなくてはならないからだ。

 

 

今回の金成の試合相手は芦戸というA組の女の子で、異形系らしくピンク色の肌が特徴であるらしい。

あまり他人に興味がない金成が試合前に大智に聞いた情報を思い出してフィールドの前に立つ。

一方の反対側も、芦戸と思われる情報通り肌がピンクの女の子がこちらに目を向けていた。

一瞬視線が重なるも金成はフィールド全体を見渡す為視線を外した。

 

ーーーやっぱ観客は多いなぁ。

別にそれで緊張すると言ったわけではないが、ここまで注目されて戦うのは前世以来である為少しばかりの懐かしい感情を抱く。

 

 

プレゼントマイクの合図で二人はフィールドへ上がる。

その後にプレゼントマイクの説明がありすぐに試合開始となった。

 

 

まぁ結論から言うと勝った。

開始早々、こちらに駆け寄ってきて酸のような液状をかけようとしてきたが、金成は開始と同時に全身を覇気で纏い、相手の背後へ一瞬で移動する。

彼女の眼にはその動きが捉えられなかったらしく、直ぐに金成を探そうとキョロキョロ見渡し自分の背後にいることに気がついた。

 

その後、再び酸による攻撃を仕掛けるためにこちらへ向かって来ていた芦戸の服の襟を掴み、そのまま場外へ投げ飛ばし試合終了。

 

案外呆気ない試合展開に観客席からの歓声が小さくなるも彼の素早い移動に感嘆の声を漏らすプロヒーローが多数いた。

流石にここまで俯瞰できる状況で見失う事はないものの、駆け出しのヒーローで近くで有れば見逃すような速さだ。

その俊敏性に第二種目で見せた彼の力の時以上に自分達の会社にほしいと願う。

個性だけなら幾らでも強い人はいるだろう。

しかし、見た限り個性の発動を感じられなかったプロヒーロー達はあれを自前の力と勘違いする。

そのため、それほどの力を手に入れるまで相当の努力を重ねたと思ったのだ。

自分の力に溺れずに努力ができる。

これほどいい人材はそれほど多くない。

 

 

汗を掻くことなく試合を終えた金成は再び席へと戻る。

帰ると待っていたエイミィに喜ばれながらも、次の大智の試合を見る。

 

大智は緊張することなくフィールドへ上がる。

相手も上がるのを確認したプレゼントマイクいつもと同様に選手紹介しながらパフォーマンスをしていた。

 

相手はA組の切島という単純な肉体の強化系の生徒だ。

 

試合開始の合図とともに、彼は大智へと駆け出す。

 

「ん?アイツ、大智の‘個性’知らないのか?」

もしかしてバカなのだろうかと若干呆れながらも、迷いなく一直線で走って行ったため何か策があるのだろうと金成は考えた。

 

 

考えたが....普通に体を乗っ取らせて場外。

本当にあっけない試合に終わった。

 

「ただのバカだったね」

 

「....あぁ」

本当にバカだったらしい、いや脳筋だったらしい。多分気合いでなんとかなると思ったのだろう。

 

 

 

その後も順調に試合が進み1回戦が終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今更だけど、エイミィの外見はハイスクールDxDのリアスグレモリーをイメージしています。

追記
イメージとしてはリアスグレモリーと言いましたが、自分の中ではあのリアスのスタイルを控えめにした感じです。
あそこまで巨乳では無いです。
スタイルでいうならアーシアくらいです。

そもそもエイミィというキャラに巨乳は合いませんよね。


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十七話 最終種目 エイミィVS轟焦凍

順調に事が運び2回戦が始まろうとしている。

2回戦の初めの試合は、エイミィとA組の轟焦凍の試合となる。

 

今彼女らはフィールドでお互いに向かい合っている。

轟が普通のジャージなのに対し、エイミィは熱耐性がある服を着ている。動きやすいようにジャージのような水色の服を着ていて、着慣れた感がある。それもそのはず、それは彼女が普段訓練をするときに使っているものだからだ。

 

日陰へ連絡して急いで持って来てもらったのだ。

日陰の方も会議室のモニターで見ていたため呼ばれると思い待機していたのだ。

 

二人が対峙するとプレゼントマイクのアナウンスが会場を満たす。

 

『じゃあ第2回戦いくぜー!初めはこいつらだ!ヒーロー科のクールな男!初戦では巨大な氷を見せてくれたが今回はどうする?!轟焦凍!

対するは普通科の刺客!1回戦では無敵とも見えた全身マグマ少女!エイミィ・グランドーラ!!!』

エイミィと轟は自然体で向かい合い、開始の合図を待っている。

エイミィが笑顔なのに対し、轟は無表情で相手の顔を見つめる。

 

「グランドーラ。俺が氷に対してお前はマグマ。相性的には最悪だ。だが、勝てないわけじゃ無い」

見つめ合っていた二人だが、轟が自分を納得させるかの様につぶやいた。

彼は、先の彼女の戦いをただ見ていたわけじゃ無い。

万全とは言い難いがしっかりと相手の個性を把握したはずだ。

 

「そうだね。相性は最悪だろうね。何か策でもあるのかな?」

 

元々が戦闘好きであるエイミィは彼の宣言に少し昂ぶってくる。

その証拠に先ほどまでのニコニコとした笑顔に少しの獰猛さが見え隠れしているのがわかる。

 

 

ーーーエイミィ、アイツ本当好きだよなぁ……。

それを遠くから見ていた金成が少しのため息とともに呆れる。

 

 

彼女の表情の変化を目の当たりにした轟は内心では少し驚きながらも、顔には出さず自分が思っていることを口にしようとしたが此処で待ったがかかる。

どうやら時間が迫っている為早く始めなければならないらしい。

 

残念ではあるが後は試合に集中するべきだろう。

 

 

 

 

『じゃあ準備はいいか?!レディィィ!!START!!!』

 

開始の合図と共に、轟は腕から冷気を飛ばしエイミィの全身を氷で覆う為襲いかかる。

腕から伸びた冷気が地面を伝って彼女に急接近していっている。

それを何を思ったか、エイミィは口角をニッと上げて微動だにせず立ち尽くすのみ。

 

一体何するつもりだ?と疑問に思った轟だが、結局はなんの抵抗もせずに分厚い氷に閉じ込められる結果に終わった。

 

ーーーなんだ?これで終わりのはずがない。

 

そう、これで終わるとは流石に思っていない轟。

こんな攻撃で終わっている様じゃあ、あの緑谷にすら勝てない。

 

轟は警戒を解こうとはせずじっと氷を見つめる。

ーーーおいおい、もう終わりかよ。

 

ーーー馬鹿、んなわけねぇだろ。

 

突然の試合模様に驚いた観客ではあるが、彼らも彼女の個性を知っているのでやられるとは思っておらず、固唾を飲んで見守っている。

 

 

ーーーピキ、ピキ

 

そんな中微かに小さな破裂音が鳴る。

この音を聞いたのは近くにいる轟と審判のミッドナイトのみであろう。

 

「やはりか……」

 

ーーーバキッ。

その音を聞いた轟が構えると同時に、ひびが勢いよく広がっていきそのまま中から勢いよくマグマが吹き出す。

 

割れ目から吹き出す様に漏れるマグマが瞬時に触れた氷を蒸発させ溶かしていく。

その瞬間氷が水蒸気へと変化して辺り一面を霧で覆う。

マグマから漏れる黒煙と、氷の蒸発により生じた蒸気が混ざり合い彼の視界を若干鈍らせる。

 

「……チッ」

思わず舌打ちをしてしまったがそんなことをしている暇はない。

彼は微かにかすれる視線の先を何一つ見逃さないと言った瞳で凝視している。

 

 

「くそ、やはりか。一筋縄ではいかねぇな」

轟が水蒸気が出来る時に発生した爆風に耐えながら霧の中を見つめる。

霧が晴れるとそこにいたのは下半身をマグマに変化させ、こちらへ向かってくるエイミィだ。

走るより早いらしく、蒸気と黒煙で出来た空気を割きながら瞬時に迫っていく。

 

「氷じゃあ、無理だよ!」

 

迫ってくるエイミィを止める為に先端を尖らせた氷を飛ばすが、無駄に終わってしまう。

エイミィはきた順からマグマで瞬時に溶かし、弾き落としているからだ。

 

「無駄か」

ダメだと判断した轟は目の前に大きな氷の壁を作る。

 

厚さ50センチはあるであろう分厚い氷の壁が瞬時にせり上がって形成される。

 

「追い詰められたか」

その氷の壁からバックステップで後退するがいつのまにかフィールドの端ギリギリに迫っていたらしく、それ以上下がれない事に気がついた。

 

後ろに飛ばした視線を前に移し目前の氷の壁を見ると、氷の中心が赤くなって行ったと思うと、そこからマグマでできた巨大な腕が貫通して氷が崩れ落ちる。

急激に熱せられたせいか、バキっという破裂音とともに壁が崩れ、彼女の姿が露わになる。

 

両腕はマグマでできた綺麗な拳の形であり、それを突き出して此方を見ている。

 

彼女の平然とした、まるでこれで終わりかといった視線が轟の心に突き刺さる。

 

「だから氷じゃ弱いんだよなぁ。棄権してほしいな?」

エイミィはこれ以上無駄とわかっているため棄権を促す。

大人気ないようだが、普通の学生には少し酷と感じられるほどの実力差。

 

 

あまりの実力差に、一瞬ではあるが氷ではダメかと考えてしまう。

忌々しい事に片側を占領する赤い髪が視線に入り、脳裏に男の姿が一瞬浮かんだ。

 

ーーークソ……!氷だけじゃ無理なのか?

 

轟の個性は氷を生み出すことではない。いや、生み出すことはあっているが、彼は炎も生み出すことができ、表裏一体なのだ。

轟は目の前の圧倒的な熱量を感じてとっさに自分の左側である、炎について考えてしまった。

自分が嫌悪する、使わないと決めた左側を。

 

 

 

 

 

 

 

『おっと!やはりマグマの前には全てが無意味か?!あの轟が追い詰められている!!』

プレゼントマイクの解説は轟の耳に届かなかった。

 

氷をぶち破ったエイミィはこれからどうしようかと考えていた。

金成が楽しんでいたため自分も参加していたが、正直これ以上攻めると弱いものいじめにしか見えない。

別に、正義がどうのとか関係がなく、これじゃあつまらないのだ。

 

金成の方を確認すると、こちらの勝ちを確信した目で見つめていたが、それ以上に若干力量差があるためか詰まらなそうにしている。

 

ーーーんー。やっぱ公平さって大事だよね。

 

『ん?なんだ?グランドーラが個性を解いて構えてる?!なんだ、これからは格闘技で攻めるのか?!』

 

『...手加減か』

こういう不合理的なことが嫌いなのか若干不機嫌そうにイレイザーヘッドが言葉に漏らす。

 

「っ!!」

その言葉は彼の心をえぐる。

自分で氷だけで戦い勝利すると決めていたが、それ以前に手加減されるほどの実力差なのか。

手加減される、その事実が再び彼の心をえぐる。

 

「……おい。手加減のつもりか?」

 

「うーん。だってこのままだと面白くないんじゃない?ボスも楽しくなさそうだし」

構えたエイミィから少しのため息が漏れるのを見た轟は今までにないほどの怒りを覚えている。

 

ボスとは誰なのか知らないが、こいつは楽しさを求めているらしい。

確かに客観的に見たら自分が一方的にやられているだけのリンチに見えるのか。

 

「……。それがどこまで続くか見ものだな」

意趣返しのつもりに少しの煽りを入れるが、これではただの負け犬の遠吠えになってしまう。

 

「じゃあ、私に個性使わせて見てね?」

エイミィは挑発気味に笑顔を向けると、そのまま轟の方に駆け出す。

腰を低くして直ぐにでも戦闘態勢に移行できる走り方だ。

どうやら本気で格闘技で挑むらしい。

 

別にそのスタイルに轟は合わせる必要はない。

 

そのため轟は腕から何十もの氷を作り出しエイミィへ向かって打ち出すが、彼女はそれをことごとく避ける。

 

スピードを落とす事なく半身を動かすだけで避ける最小の動きは様になっている。

 

そのまま速度を落とすことなく迫ってきて、腕を大きく振りかぶり殴りかかる。

その腕を轟は右手で掴みかかろうとするが、エイミィはわかっていたのか殴りかかろうとした体勢のまましゃがみこみ足払いをかけた。

人間にできるのかと言われそうな強引な動きである為、咄嗟にできた隙を突かれてしまった。

 

「なにっ……?!」

それをまともに食らってしまった轟は背中から地面に向かって倒れかかる。

 

「ぐはっ」

背中から落ちた衝撃で肺の中の空気が一瞬で吐き出される。

すぐに咳き込んで息を整えようとするが、それを許さないようにエイミィは払った足を再び一周させて倒れている轟を蹴ろうとした。

「……くっ!」

 

それを轟は空いている左手で止めようとしてしまう。

彼の意地なのか一瞬左手を包んだ炎が消えるのがエイミィから見えた。

 

 

 

「ぐふっ!」

体勢が悪かったのかあまり蹴りに力が乗らなかったため、場外になることなく手前で止まった。

 

「君ってさ、右手でしか氷が出せないの?いつも氷を使うときに右手を何かしら動かすし」

これまでの戦いで分析したエイミィが話しかけるが、蹴りをまともに食らった轟は咳き込むのみ。

 

「それに、左手。炎が一瞬見えたけど、本当は炎と氷が使えるんじゃないの?なんで左使わないの?」

なぜ左を使わないのか、はっきり言って手加減してます。っていう状況じゃない。

エイミィは圧倒的な力があるために手加減で楽しもうとしているが、轟はそんな余裕はないはずだ。

 

「それで、優勝できると思ってるの?」

 

「ゲホッ、お前には関係ないだろ」

咳き込みながら立ち上がる轟は関係ないだろとばかりに睨みつける。

 

「そんなんで楽しいの?笑えるの?全然楽しくなさそう」

エイミィは金成の影響で若干の快楽主義的思考になっている。

なぜ、勝てない試合でまで力を制限するのか、全く意味がわからない。

 

「……楽しい?戦いが楽しいわけないだろ」

本当に彼女は何を言っているのかわからなかった。

戦うことを楽しんでいるのか?まるでヴィランじゃないか。

彼の中での戦闘は義務であり、目的の為の必要なプロセスに過ぎない。

 

「楽しんでなくてもさ、嫌々個性使うならヒーロなんか目指さなきゃいいのに。君の憧れたヒーローはそんなちゃっちいものなんだ」

ヒーローを目指していなくて、ただの暇潰し、金成と一緒に学校に行くためにこの高校に入った彼女が言えた義理ではないが、余裕もないのに手加減するなんてヒーローとしての資質を疑ってしまうエイミィ。

 

若干の呆れた表情を見せたエイミィに轟は我慢ができなかった。

 

「俺の憧れたヒーローはそんなんじゃねぇ……!そんなクソ親父じゃねぇ……!」

唸るような低い声で呟くが、すでに彼への興味が失せたエイミィには聞こえなかった。

 

 

 

「うーん。じゃあ最後におっきいのやるよ!きみの固執する右側だけで耐えてみてね!」

エイミィはそろそろ決着をつけようと動く。

もうこんなつまらない試合は終わらせよう。

そして早くボスと戦いたい。

そんな思いが募ってくる。

 

彼女は一杯一杯まで後ろへ下り、先程まで消していた個性を発動させる。

すでに楽しむ必要はない。

ただこの試合を終わらせるのみだ。

 

 

「じゃあ、耐えてね!」

エイミィの体から大量のマグマを吹き出し、地面に溢れ出す。

コンクリートの床を焦がしながら広がって行く。

しかし、ある程度広がったと思うと、そのあふれんばかりのマグマが意思を持ったかのように大きな津波のように轟へ襲いかかる。

 

『な、なんだこの津波はぁ!てか、轟のやつ耐えられるのかー!!』

驚きの声を上げるプレゼントマイクの声が聞こえてくるが、今はそんな暇はない。

 

「なに……!」

流石の巨大さに驚愕の表情を露わにする轟。

轟はあの量を見て一瞬左も使おうとするが、彼の因縁はそれくらいでは崩れなかった。

すぐさま自分の最大限の力を発揮し、マグマに対抗するように氷を放つ。

 

方や津波の様なマグマ、方や迫り来る氷の冷気。

 

それがちょうど中間あたりで二つが衝突した。

 

激突したその瞬間に水蒸気爆発が起こり、爆風になる。

その爆風にエイミィは瞬時に体をマグマ化し耐えて、一方轟の方は力を使い果たしたのかその風で場外まで吹き飛んでしまった。

 

 

 

「試合終了!轟の場外により、勝者エイミィ・グランドーラ!」

その言葉を合図に観客席が盛り上がる。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「なぁイレイザー。今回の普通科なんかやばくね?強すぎね?」

マイクを切ったプレゼントマイクが、隣のイレイザーヘッドのブラシこと相澤に語りかける。

「……。あぁ、それにあれは相当戦い慣れていた。ヒーロー科には実習があるから戦い慣れててもわかるが普通科にそれはないはずだ」

相澤は何か神妙な面持ちで考える。

 

「やべぇなぁあれ。ぜってぇこの後にヒーロー科に誘った方がいいんじゃねぇのか?良くも悪くも普通科がここまでできるとヒーロー科の士気に関わるしよぉ」

 

「……。あぁあいつらがそれを望むならそうするつもりだが……。職場体験には間に合うかどうか……」

 

 

2回戦に進出した8名の選手のうち、4名が普通科という事からそのことの異常さがよくわかる。

こんなことここ数十年起こっていなく、プレゼントマイクも初めての経験だった。

 

「……。4名中3名は普通科の推薦入試か……。この後の職場体験で、彼らは普通科だから参加はないって説明するのか……。頭がいたいな」

これほど活躍し、そのどれもが強力な個性である。その為、ヒーロー科ではなくても彼らにきて欲しいって言う要望が出ることは目に見えている。

それの説明のことを思うと頭が痛くなる相澤であった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

試合を終えたエイミィは金成の元へ戻るために通路を歩いていると、轟と緑谷と思わしき声が聞こえてきた。

何を言っているのかわからなかったが緑谷が声を荒げているのがわかった。

 

「うーん。これが青春ってやつかな!」

エイミィは単純にそう思い込みその場を後にし、観客席への階段を上って言った。

 

 

 



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十八話 最終種目 金成出番なし、そして脳無

「おーい!ボスー!勝ったよぉ〜」

疲れた様子も見せず、ニコニコとした笑顔で近づくエイミィ。

 

「あぁ、お疲れ。次は大智の試合だから一緒に見ようか」

エイミィが戻ると、金成は隣にエイミィを座らせ、次の試合である大智対飯田の試合を見るために前を向いた。

 

「ふーん、大智くん勝つかな?」

隣に座ったエイミィがあまり興味がないのか素っ気なく聞いてくる。

 

ーーー友達として見てるんだろうけど、もうちっと興味もってやれよなぁ。

 

流石に可哀想に思う金成。

 

「……大智の個性は強いけど、弱点がないわけじゃない。今回の相手は大智にとって強敵だろうな」

弱点のことは悪いが騎馬戦の時に見聞色を利用し確認していた。

あの強力な個性に対し、その弱点はそれほど問題はないだろう。

立ち回り次第でどうとでもなる。まぁそれは味方が複数の場合、身を隠した状態ならだが。

 

 

 

会場の興奮のざわめきが冷めない中、プレゼントマイクの紹介が始まり試合が始まる。

 

 

 

 

 

 

「……。あぁやっぱりか」

 

「ねーボス、結局弱点ってなんだったの?」

 

 

 

試合はすぐに終わった。

試合開始の合図とともに、飯田は全力でブーストし、瞬時に大智の襟を掴み場外へ放り出したのだ。

 

 

「大智の‘個性’は見つめた相手を5秒間乗っ取る能力だ。まぁ、見つめる時間が5秒必要だがな。一度でも目を離すと再び5秒やり直し。だから相手が素早い奴、姿を隠せるやつには通用しない」

 

「そっかぁ」

金成は同じD組として勝利して欲しかったが、それも仕方ない。

 

その後暗そうな表情で戻ってきた大智をみんなで慰めるという事があったが金成は次が自分の試合のため急いで移動することにした。

 

 

 

 

 

 

金成はプレゼントマイクの選手紹介を落ち着いて聞いている。

目の前にいるのは自分の対戦相手である、ヒーロー科の常闇と言う奴だ。

 

ーーー影か。日陰の能力と似てるな。まぁ常闇の方は自在に形を操れるって訳じゃあないけど。

卑怯ではあるがある程度見聞色で情報を集めていたため、緊張することなく立っている。

既に対策はバッチリだ。

まぁ対策なんてなくとも力づくでどうとでもなるであろうが。

 

 

一方で相手も相手で、今回派手に名を挙げた金成を前にしても緊張は見られない。

ーーー来栖金成。今体育祭でのイレギュラー。普通科がここまでやるとは。いや、この思考自体が怠慢と言うもの。全力で相手をするまでだ。

 

 

『レディィィーーーー!!!START!!!』

始まりの合図とともに二人は同時に動く。

 

金成は全身を覇気で強化し、腕を武装色の覇気で覆い走り出す。

腕先から黒く染まって行く様子は、‘個性’を使っているかわかりやすいと思った常闇ではあるが、強化系ならそれほど関係ないかもしれない。

 

「ふんっ!」

一方の常闇は自分の‘個性’である影を出し、意識を持ち、獣のような見た目を持つ影が金成に襲いかかる。

 

「おら!」

金成は来ることがわかっていたため慌てることなく、覇気を纏った腕で思いっきり影を殴り飛ばす。

 

殴られた影の方がグェッと唸り声をあげて横に吹き飛ばされた。

金成の方はそのまま止まることなく走り続ける。

 

「っく!!」

グェッと悲鳴をあげた影を一瞬見た後に再び影で追撃しようとするが時すでに遅し。

気がついたら腹部に強烈な衝撃を感じ、後方へ吹き飛ばされそのまま地面を擦りながら場外に落ちた。

 

「……。ふぅ。悪いな。俺格闘技得意なんだわ」

一瞬で終わったため汗一つかくことなく金成は試合を終えた。

 

ーーーあいつ、格闘技もできんだな。

 

ーーーまぁあの生徒を気絶させた方法は知らんが、‘個性’は身体強化系だろ。バリバリの近距離だからな。

 

会場から湧き上がる声援を背にして金成はフィールドを後にし、控え室へ戻って行く。

どんどん選手が減って行くため、観客席に戻る時間がどんどん短くなって行く。

いっそ通路脇で待っていようかと思うほどだ。

 

「うーん。次は誰だっけ?」

金成は控え室で、パイプイスに座りながら次の対戦相手は誰かと考える。

控え室に設置されているモニターでは次の試合が映し出されていた。

 

「あ、次は美亜の番だったか」

モニターの中では美亜と爆豪が対峙している。

 

美亜は純粋な力で戦っている。

始まりの合図とともに美亜は駆け出す。

 

美亜は素の身体能力が高いため、爆豪との距離を瞬時に詰めそのまま殴りかかるが爆豪の方も素の戦闘センスが極めて高いため瞬時に避ける。

爆豪はそのまま手を爆破させ、爆風を利用し回し蹴りを繰り出す。

美亜の方も殴りかかった体勢から、腕を交差させて蹴りをガードし、足を掴む。

爆豪はそれを予見していたかのように、慌てることなく美亜の目前で爆破をする。

 

「グウッ...。この!!」

 

若干のダメージが入ったらしく、苦しそうな表情を見せるが離すことのなかった足を思いっきり振り回し地面へ叩きつけた。

 

「グハッ……!」

 

しかしタダでやられる爆豪ではなく、そのまま空いている方の足で掴んでいた手に蹴りを入れて足を離させる。

美亜の方も若干の手は赤くしているがそのまま距離を開けることなく詰め寄る。

 

 

「美亜ってバリバリ近接型だよなぁ。格闘技に関しては学生にしてはレベル高いし」

なんとも上からの感想ではあるが、金成達は裏で実践を腐るほど経験したために格闘技は磨いてきたが、美亜は隠れて実践を経験するような感じには見えなかった。

純粋に訓練で身につけたか、‘個性’が鬼のためか本能で戦えるのかもしれない。

そうした攻防は3分ほど続き、どちらも息を荒げている。

 

 

「クソ端役の分際でなめんじゃねぇぞ!」

思いもよらなかった相手に苦戦しているのが癪にさわるらしくイライラしている爆豪。

 

「戦闘訓練があるヒーロー科が普通の授業しか無い普通科にここまでやられるなんて、ちょっと練習が足りないんじゃないの?」

汗を流し疲れた表情を見せながら、爆豪のセリフにイラついた美亜は挑発し返す。

 

「……ざけんなクソが!ぶっ殺す!!」

爆豪は戦闘センスは抜群ではあるが、ものすごく短気であるため、すぐにブチ切れる。

 

爆豪は両手を後ろに向けて爆破の風圧を利用し瞬時に美亜の前へ移動する。

美亜は見えてはいたが思った以上に疲労していたらしく、防御態勢に入るが途端に足から力が抜け無防備になってしまった。

 

「くっ、きゃあっ!」

爆豪が空中で繰り出した蹴りがお腹へまともに入ってしまい、場外まで吹っ飛んでしまった。

 

「はぁ……。はぁ……。端役は眠ってろ!」

爆豪は若干スッキリしたのか、主審のミッドナイトが爆轟の勝利を告げると颯爽と帰っていった。

女子の腹部に思いっきり蹴りを入れた爆豪に対する会場から聞こえるブーイングを物ともせずに。

 

「爆豪が勝ったか。じゃあ次の相手はあいつか」

金成はまともに蹴りを食らった美亜を若干心配しながらも、次の相手は強そうだと思い体をほぐし始めた。

 

 

 

次の試合は準決勝。

ホールの中央にあるフィールドには男女が向き合っている。

一方は今まで、ヒーロー科をバタバタとなぎ倒しジャイアントキリングを成し遂げてきた普通科のエイミィ・グランドーラという少女。

片や、実直な戦闘により勝ち星を挙げてきたヒーロー科の飯田天哉という少年。

 

準決勝という事もあり、立ち見も溢れるほどの観客が見ている。

 

「今まできみの戦闘を見てきて、非常に悔しいが僕には君の‘個性’の対処法が見つからなかった。しかし、僕は全力で挑ませてもらう」

 

「わかったよ、じゃあよろしくね」

エイミィは飯田から滲み出る生真面目さに若干慄いたが、すぐに戦闘の意識に切り替える。

 

二人が揃うと共にプレゼントマイクの選手紹介が始まり、試合の開始を告げた。

 

 

結果から言うと、勿論エイミィの勝利だ。

そもそも飯田の‘個性’はスピードを極端に上げるだけだ。

勿論視界から外れ思わぬ反撃を食らうことになるだろうが、エイミィはそこまで弱くない。飯田の全力のスピードだって認識することができるし目で追える。

その時点で勝利が決まったようなものだが、基本物理が効かないエイミィに格闘技だけで勝てるわけがなかった。

 

「うん、次頑張ってね」

こうしてエイミィは会場中から注目を集めながらも勝利を収め、フィールドを後にした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「あ、エイミィ準決勝突破したわね」

 

「いやぁ、やっぱ強いっすよねぇ。あの個性ずるいっすよ」

マネトリアカンパニーの会議室にいるメンバーがエイミィの決勝進出を見届けた。

ロングの黒髪を揺らしながらエイミィの勝利を信じて疑わなかった美流が淡々と述べる一方で、チャラい男の荒戸が反応した。

 

「そもそも、この程度の相手に負けるようじゃボスの護衛は務まりません」

 

「勝つのは当たり前だ」

黒子服姿の日陰や、巨体な剣司もエイミィの勝利を疑っていなかった。

まぁ、この会社で一番強いエイミィが負けるなんてありえないと思っていて、もし負けるようじゃあ、この会社の戦闘員が学生以下になってしまうため、エイミィも楽しみながらではあるが絶対に負けるわけにはいかないって思っていた。

 

試合も終わり、次の金成の準決勝を見届けようとした時、日陰に情報部から念話で通信が入った。

 

隣にいた美流が一瞬動いた日陰の挙動で馴染みである念話が入ったことに気がついた。

 

「どうしたの?緊急事態?」

 

「いえ、例の脳無の調査結果が上がってきたの」

通話を終えた日陰は内容をここにいる幹部へ伝えるため情報を話す。

 

「DNAの結果から二人以上の反応が出ました。‘個性’も超再生と衝撃吸収と二つ所持していることから、人体実験でDNAを取り組むことにより個性を持たせたらしいですね。まぁそのせいか意識がほとんどなく、機械のような肉塊に変えられてますが」

 

「……ふむ。じゃあ処分してもいいんじゃないか?ある程度サンプルも取っただろうし、意識がないなら用済みだ」

情報部によって結論づけられた報告を聞き、剣司が処分する方向で話を持っていくが日陰から声がかかった。

 

「なら、私がもらいます。丁度肉体が強い個体が欲しかったので」

 

「貴方、また増やすの?置き場は大丈夫なの?」

 

「ボスから専用の場所を与えられたから大丈夫。それに、戦力強化にもなるし」

美流は日陰に若干呆れながらも納得した。

 

そもそも日陰の個性を正確に箇条書きで述べると、

 

・対象の影を切り取ることが出来る

・切り取った影はゾンビ兵に注入して、その動力に出来る

・切り取った影を自分に入れて強化したりも出来る

・切り取られた側は日光に当たると消滅してしまう

・その他、影を操作して攻撃したり守備したり出来る

・自分が認識している影の中を移動することができる。

・ただし「塩」に弱い

 

といった感じに、破格の能力を備えている。

このことから分かるように、こういったことでないと影が手に入ったり強力な個体が手に入らないため、処分するのなら日陰が受け取るのが最も利益がある。

いくらグレーな会社といえど、派手に行動するとすぐにヒーローにばれ、それにボスに迷惑がかかると思っているため、非合法な連中にしかできず、そもそも最近は非合法な連中も身を潜めていたため、久しぶりの収穫になるのだ。

情報部が出来るとほとんど指揮に回っていたため実戦に参加できなくこういった機会がなかった。

 

 

 

「あ、次ボスの番すよ。モニター見ましょうか」

そうしているうちに次の試合が始まるらしく、脳無の事など頭の隅に追いやり、幹部らはモニターに注目した。

 

 

 

 

 

 

 



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十九話 最終種目 金成VS爆豪勝己

誤字が多くてごめんなさい


エイミィが試合を終え10分ほどが経ち、次の準決勝となる試合が始まろうとしている。

 

「いやぁ、遂にここまできたなぁ」

試合会場の中心にあるフィールドには二人の男が立っている。

一方は不機嫌そうに眉間にしわをつくりながら立ってるのに対し、一方は周りの観客席を見渡して楽しそうにしている。

 

前回のエイミィの時と同様に観客の数が驚くほど多い。

その分、まだ試合も始まってはいないが雑踏とした声がうるさい。

しかし、この観客の数は例年にも見ないであろう人数である。

何故それほど人数が多いのか、それはもしこの試合で金成が勝つことになったら前代未聞である普通科同士の決勝となるからだ。

今までも最終種目は形式は違えど一対一の力勝負と決まっているため、ヒーロー科とそれ以外という入試の時点で決められた力の差が決め手となり、ヒーロー科が決勝を行うことが当たり前となっていた。

それが覆そうとしているのだから多いのも納得できるだろう。

 

 

 

 

ーーーあぁ、次どうしよ。エイミィのマグマと戦うなら覇気だけでも行けそうだがこの世界の体って基本的に前世より動きづらいからなぁ。

金成にとっては爆豪といえど眼中にないらしい。すでに次の決勝のことについて考えていた。

 

今更だが、この世界の体については異形系や超人的な身体強化系でもない限り人外な動きはできない。

前世のあの世界みたいに、刀だけで竜巻を起こしたり、悪魔の実を持っていなくても超人的な動きができるわけではない。

 

その為、ゴルゴルの実が‘個性’として発現したからといっても、覇気を用いなければ人外の領域に達することはないのだ。

その事もあり、マグマの能力に覇気だけで対抗するにはできなくはないが少しきつい。

その為、エイミィと模擬戦をするときは限定的ではあるがゴルゴルの実の能力を使い、全身を鎧のように覆い、身体強化を行なっていたのだ。

 

 

次の試合について悩んでいるとプレゼントマイクの声が届く。

 

『じゃあ次の準決勝もやるぜー!次の対戦はこいつらだ!普通科にして、各種目で異様な活躍を見せるヒーローキラー、来栖金成!一方は超人的な戦闘センスを見せつけ上位に位置しながら上がってきたヒーロー科の最後の希望、爆豪勝己!』

 

ーーーヒーローキラーって、そこまではやってないがグレーな感じで否定できないなぁ。

 

ーーーこのクソ金髪。騎馬戦の借りはゼッテー返す!!!

 

『レディィーー!!!START!!!!』

金成と爆豪がそれぞれの気持ちを持ちながら試合開始の声が響いた。

 

始まりとともに、動き出したのは爆豪だ。

手の爆破を利用し高速的な移動で接近してくるのに対し、金成は武装色の覇気で腕を覆うと待ち構える。

 

爆豪が殴りかかる腕の動きを見せると金成はその腕を摑みかかるようにするが掴める事はなかった。

爆豪は近くに迫ると、殴りかかろうとした腕で爆破を起こし目くらましをして反対の腕でも爆破を起こし上空へ身体を吹き上げる。

 

ーーーおぉ、こいつ上手いなぁ。でもただの目くらましじゃ意味がないんだよなぁ。

 

爆豪が接近した勢いを殺すために、金成の後ろにくると逆側で爆破を起こし、同時に金成の背後に攻撃しようと腕を構える。

 

金成にとっては目くらましなど意味をなさず、その程度の動きは前世でごまんと見てきた。

覚えている記憶に体をトレースするように、爆豪が上空にいた時点で足を大きく動かして回し蹴りの体勢に入った。

金成はそのまま爆豪が背後に回ったのを確認するとみぞおちにつま先をめり込ませるようにして蹴り飛ばした。

 

「ウガッ!」

蹴り飛ばされら衝撃で肺の中にある空気が一気に吐き出されてはいるものの、空中でなんとか態勢を立て直し、足で地面に着地する。

 

「お、綺麗に決まったか。おーい、大丈夫かぁ」

 

「クソがっ」

なんとか身を立て直した爆豪であったが綺麗に急所に決まったため、膝を地面につき咳き込んでいる。

 

金成は絶対的自信があるのか、一歩一歩近づくように歩いて行く。

 

 

 

『クリティカルヒットだ!あの目くらましを物ともせず、背後から迫る爆豪に回し蹴りを決めた!爆豪は早くもダウンかぁ?!膝をついてるぞ!』

 

『爆豪は言動には難があるが戦闘センスはピカイチだ。あの立体機動的動きもかなり上出来だったがあれに対処するだけでなく反撃したか』

プレゼントマイクや相澤の解説が始まる。

 

 

 

そのセリフを聞き、実際にその光景を見ていた観客席にいる緑谷は驚きの表情を見せている。

「来栖くんはあれを対処するだけでなく、予見していたかのように動いた。確かに今までは見てわかる通りに身体強化系の’個性‘だと思ってたけど、違うのか?いやそれとも自然に動けるまでに実戦経験があるのか?ブツブツブツブツ……」

緑谷の癖とも言える分析で声が漏れる光景は異様であったが、A組は慣れているために気にしていない。

 

「あれでもうちのクラスで一番強いんだがなぁ。爆豪!いけーー!」

 

「なにあの動き、才能マン、才能マンなの、ねぇ?」

 

「確かエイミィさんから聞いたのですけど、来栖さんはヒーロー科編入を目指しているらしいですわ。もしかしなくてもあり得るかもしれませんわね」

ヒーロー基礎学というヒーローになる為の戦闘訓練や、前のヴィラン連合襲撃事件で成長したと思っていた面々ではあるが、まだまだ上がいることを思い知らされ、それが訓練を行っていない普通科であることに悔しさを滲ませながら爆豪の応援をしていた。

 

 

 

 

それからの試合運びは、金成は苦戦することなく爆豪を追い詰める。

爆豪がいくら戦闘センスがあっても、それを追える目、膨大な戦闘経験がある金成には無きに等しい。

爆豪の爆破による空間的な立体的な動きに丁寧に対処していき、反撃を与えて行く。

 

「……はぁ。……はぁ」

金成が息を切らさないでいる一方、ボロボロになっている爆豪は荒い息を漏らしている。

 

 

ーーーなんだこいつ!!ざけんじゃねぇぞ!トップになるのは俺だ!絶対的な一位じゃなきゃ意味がねぇ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「爆豪場外!勝者、来栖!!」

審判のミッドナイトの判定を聞き、今までにないほど会場が盛り上がる。

すでにテレビ局のスタッフたちは慌てて電話を始め、プロヒーローたちに至っては自分の相棒(サイドキック)に連絡をし始めて彼の情報を集めようと動き出す。

 

『き、決まったあぁぁーーー!遂に決勝のカードは決まったぜ!なんと普通科同士の決勝だぁ!』

 

心で気合いを入れ直すもそれから金成に反撃となる一撃を入れられることなく、最終的に場外へ吹き飛ばされて試合を終える。

 

「ふぅ、なかなか強かったなぁ」

汗一つかいてないが、実際原石とも言えるセンスを持っている為楽しく戦えた。

あれを鍛えればエイミィや剣司並みの格闘スキルになるなぁ、思った金成。

実際、そう思えるほど彼の才能は抜きんでていた。

 

金成はそのまま直ぐに次の決勝がある為に、自分の控え室へと向かった。

対戦相手の爆豪の方は吹き飛ばされた拍子に意識を飛ばした為に保健室へ運ばれてこの試合は終わった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「先輩、今回の体育祭凄いことになりましたね」

プロヒーローの休憩室では顔を机の上に乗せるような体勢でいるMt.レディが向かいのマッチョに声をかけた。

 

「あぁ、是非うちにスカウトしたいぜ。職場体験によべぇねぇかな」

 

「……先輩、職場体験があるのはヒーロー科だけですよ、あの子は普通科です。まぁでも、一応名前を出して見たらいかがですか?」

 

「んー、そうだな一応出してみっか」

自分も自分の事務所に呼びたいと思っている為、ヒーロー科では無くても一度学校の方に要請を出してみようと考えている。

まぁ他のヒーローたちも万が一があるかもしれない為、要請は出しておこうと思っている事だろう。

 

「もう一人の女の子も見た目がかなり良い上に、スタイルもいい。その上あの強さ。ウワバミさんとかが好きそうですね」

 

「あぁ、あいつかぁ。アイツ芸能活動もやってるからなぁ」

ウワバミとはヒーローではあるが芸能活動に力を入れている変わった女ヒーローだ。その為自分の事務所には美少女を積極的に取り入れている。

 

そうしてプロヒーローの休憩室では決勝までの間ずっと彼らの話題で持ちきりだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

一方、ヒーロー科最後の爆豪がやられて、A組やB組では若干のしんみりとした空気が漂っている。

「はははは!どうしたA組ぃ!!なんだいそのテンションは!よほど普通科にやられたことが悔しいようだねぇ!」

 

「オメェもヒーロー科じゃねぇか!」

B組の物間は自分もヒーロー科ではあるが、悔しがるよりも憎っくきA組を煽る方が優先らしく、積極的に煽って行く。

 

「まったく、あのヴィラン連合を退けたっていうから少しは期待したけど、普通科にもやられる奴が……うぐっ!」

次々と煽り文句を楽しそうに述べていた物間であるが、同じB組の委員長である拳藤に手刀を降ろされ気絶させられた。

「いやぁ、うちの物間がごめんな。アイツ、爆豪がやられた瞬間楽しそうに席を立ち上がったからさぁ、何をするかと思ったけどやっぱりだったよ。じゃあ私はこいつを連れて行くからすまんね」

若干申し訳なさそうな表情をしながら拳藤は物間を横抱きに抱えてB組の観客スペースへ連れて行った。

 

物間に言われたことは悔しいが間違ってはいない。

そういった感情がA組に広がる中予見していたかのようにオールマイトが現れた。

 

「私が普通に観客席に来た!!!」

 

「オールマイト!!」

思わぬ登場でA組はテンションを上げているなか、オールマイトは続けてA組を慰め、激励する為に口を動かす。

 

「別に悔しがることじゃない。彼らに負けたからといって腐っていてはヒーローなんてやっていけないぞ。上には上がいる。強いやつに負けたならそれ以上に強くなればいいさ!体育祭明けのヒーロー基礎学は気合入れて挑むぞ!」

そのセリフに再び心に火を灯し、自分のライバルになるであろう少年少女の試合を見る為に前を向いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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二十話 最終種目終結 エイミィVS金成

『最終種目決勝戦、エイミィ・グランドーラ対、来栖金成!もう説明は不要だよな!普通科の期待の星である彼らがこの体育祭の頂点を決める戦いが始まるぜ!』

覚めぬ熱気に再び火を灯す様に、観客へ向けて声を発するプレゼントマイク。

彼も興奮を隠し切れていない。

 

 

金成とエイミィはすでにフィールドに上がっており、共に向かい合う形で佇んでいる。

どちらも観客の好奇な視線など物ともせず、自然体でいられる様子は見る人に強さを感じさせる。

観客席は人で埋め尽くされ遂には上空に中継ヘリまで飛んでる。

普通の中継カメラでは物足りなく思った報道局が、少しでもいい絵を他より撮ろうとヘリを出していた。

なんて言ったって普通科同士の決勝だ。

中継チャンネルが数多くある中全てを合わせると視聴率は40%を超えており、これは前代未聞である。

オールマイトが雄英高校に居ると言った噂の為随分と宣伝効果があっただろうが、それでもこれは多い。

 

「ボス、ついに来ちゃったね!どうしよっか、ボスと戦ったら大惨事だよ」

 

「それだよなぁ、正直言って俺とエイミィが戦うならこの10倍の広さが欲しいよなぁ」

エイミィも金成も経験からこれだけのフィールドでは到底足りないと思っている。

エイミィが本気を出せばあたり一帯はマグマ地帯に姿を変え、それに対処する金成の戦法はマグマを覇気で吹き飛ばす、もしくは縦横無尽に動いての攻撃。

そうである為共に広さが欲しいと思っている。

 

プレゼントマイクは決勝であるためか、口の動きから彼らが話しているのがわかったため、彼らの話が終わるまで待っている。

 

「よし、じゃぁ俺らで追加ルール決めるか。俺は鎧と武器のみ使用の、大きさも制限。で、エイミィはフィールドを覆い尽くすような大きさのマグマ使用不可で、後はなんでもあり」

これは会社の地下施設での戦闘時のルールである為、難しいことはない。

「うーん。そうだね!じゃぁそれで!」

このくらいであれば周りの被害は出ないだろうし、ちょうどいいのではないかと思いエイミィも同意する。

エイミィとしてはもう少し力を使って戦いたかったが、そこまでわがままを言うわけにはいかないが、それ以上にこのフィールドで対戦できる為それで十分である。

 

ある程度ルールを決めると、二人は準備に入る為適切な距離をとる。

そろそろ始めてもいいと思った金成は視線をプレゼントマイクへ向けて合図する。

 

 

彼らが準備を終えたことを察したプレゼントマイクはテンションマックスで開始の合図を述べる。

 

『じゃぁ、いくぜぇ!レディィィーーーー!!STARY!!!!』

静寂を保ったフィールドに戦いの合図が響く。

はじめに動いたのはエイミィ。初めから全力で行くとばかりに全身をマグマにして攻撃態勢に入る。

 

「じゃぁ、いくよー!どうするよ、ボス!」

腕から溢れ出るマグマを緑谷戦で使ったように弾幕のように大量のマグマを飛ばした。少し違うと言えば、容赦などないと言わんばかりに数十では聞かないほど一斉に発射する。

 

「はぁっ!」

気合を込めて腕を振った。

 

観客もこれにはどう対応するかと固唾を飲んで金成を見つめていると、突如黄金のような輝きが彼から漏れるのが見えた。

 

ーーーなんだあれ?

 

ーーー光?いや、なんか持ってるぞ!!!

 

金成は体から瞬時に液体状の黄金を生み出し、それで形成された大きな盾を持っていた。全長2メートルはありそうな巨大な盾があり、無機質な形ながらもその黄金の美しさが、華美な印象を与える。

 

 

金成はまるで羽を持つかの様に自在に動かすと、腰を下げて地面に盾を固定する。

「こうするんだよ!」

 

ドンッと明らかに重い音を立てて置く様子を観客は驚き見た。

 

ーーーめっちゃ重そうじゃねーか!

目前まで迫ったマグマは全て盾で防御されて盾に少しの焦げを残すも地面に落ちていく。金成はそのまま盾についたマグマを黄金を再び液状にすることで払い落とす。

 

その液状の黄金はそのまま空中で蠢くと、次第に直径2メートル程の槍を形成した。形状はやり投げに使われる様な細身ながらも、持ちやすい様に取っ手がつけられている。

 

金成はそれを掴むと、感覚を確かめる様に器用に振り回す。

 

「こっからが本番ってやつだ」

彼は吹っ切れた様に笑った。

 

 

「やっぱボスには通用しないかぁ。まぁしょうがないか」

あまり悔しそうではないため、エイミィもそのことはわかっていたのだろう。

 

「あとボスそれ出しちゃっていいの?」

今更ではあるが、彼女は今まで隠していた力を使っていいのかと心配になる。

エイミィはその力が個性であることは前から何となく察していた。

それに、あれが何なのかも。

直接言われたことはないが、戦闘訓練時度々使っている為考える機会は多くある。

まぁ、同じこの力を見たことがある幹部連中は、暗黙の了解であることがわかっている為、その力について口に出すことはない。

 

「まぁ、別にそこまで絶対隠したいわけじゃないしな。それに、エイミィもある程度強くなった。それに日陰がいつも俺たちの事‘観てる’だろ?」

本当は隠した方がいいには良いが、それまでだ。絶対ではないし、この場で隠して闘うなんてつまらない。

こんな楽しい状況で妥協など彼が許さなかった。

 

『な、なんだぁ?!いきなり来栖の体から金色の液体が出たかと思うと盾や槍のような形になったぞ?!もしかして’個性‘か?!』

 

ーーー身体強化系の個性じゃねぇのかよ!

 

ーーーじゃぁあの腕が黒くなるやつと、気絶させるやつは別口か?!

 

今まで金成の’個性‘を勘違いしていた、会場にいるほとんどの観客は驚きの声を上げている。

 

 

「そんな...!じゃぁあの身体能力はなんなんだ。いや、あれも‘個性’?いやでも個性は一つしか持てないし、二つ目な訳がない。じゃぁ一体あれは何だ。もしかして自前の力なのか?でもそこまで筋肉質には見えないけど、いやまさか個性による副作用での力なのか。ブツブツブツ」

目を見開く緑谷の様子は彼の奇行に慣れていないと不気味な印象を与えるが幸いなことにここは学生用の観客席だ。

 

「うぉー、金色だねー!デクくん!って、またか、あはは...」

 

「やっべぇよ!なんだありゃぁ!」

 

「あれは個性でしょうか?でも始めの時の威圧感やあの身体能力は何でしょうか?」

観客席に交じった緑谷一行は驚きの表情を浮かべている。

隣に座っていた麗日は興奮気味に立ち上がり目を見開く。

近くで上鳴と一緒にいた切島も小並感ではあるが感想を述べ、八百万が小さく声を漏らす。

 

 

「じゃぁ、時間もそんなかけられねぇし、さっさと行くか!」

金成は大きな黄金の槍を構えてエイミィへ向けて駆け出す。その走りは驚くほど軽やかだ。

エイミィの方も牽制の意味で大量のマグマの弾幕を仕掛けるが金成は避けられる分は避け、残りはやりで弾き飛ばし前へ進む。

 

 

ここで武装色を使えば簡単だろと思うかもしれないがそれはあの世界の話である。

武装色はもともと悪魔の実に対抗できるだけであって’個性‘に通用するわけじゃない。

いや、完全に意味ないかと言うとそうではないが、それでも攻撃は入るがあちらと比べれば十分の一程とかなり少なめだ。

殴ればマグマを貫通する訳ではないが水風船を殴ったような鈍い効果しかなく、掴めば粘土を掴んだような緩い影響しか与えない。

される側も鈍い痛みのため、そこまで致命傷ではないが数で攻められたらきついと思う。

 

まぁそんな事もあり、今回の金成の基本戦法は黄金に武装色を纏わせての体力を削りきる事だ。

 

金成が目前に迫るとエイミィは自身の背後で作っていた大きな拳状のマグマを金成めがけて殴りかかった。

それでも、通用しないとわかっているため、そのまま横へずれて金成との距離をとる。

金成も槍を即座に溶かし黄金の小盾を作るとそれでマグマをガードし、もう一方の手で黄金を高速でエイミィ目掛けて噴出する。

先は鋭く尖っており、明らかに肉体的損傷を伴う攻撃だ。

 

「うぐっ!」

血は出ないが黄金が体に刺さった場所から鈍い痛みが身体に走る。

すぐにマグマを動かし黄金の槍を抜く。

その槍は意思があるかのごとく金成の腕の中に収まるように飛んで行った。

「もー、ボスずるいよ!それ!ちょっと痛かったよ!」

 

「これ使わないと、エイミィにダメージ入んないじゃねぇか!ズルじゃねぇよ!!」

若干痛がりながら抗議するエイミィだが、金成もそれでは自分に勝ち筋がないと思うため意味がなかった。

 

それからも、エイミィはマグマ状の弾幕を作ったり、マグマの腕で殴りかかったりと攻撃して行く。

一方の金成も体から黄金を自在に生み出し、武器を生成し反撃して行く。

 

 

会場は彼らの攻防に目を奪われて興奮の声を上げている。

 

ーーーすげぇ!動きが速すぎだろ!

 

ーーー後ろに目でもあるのかよ!

 

金成達の体の動きは準決勝とは比べようがないほど早く、鋭い動きをしている。

 

ーーー普通科って戦闘訓練ってなかったよな?

 

ーーーあ、あぁ。そのはずだ。

 

プロヒーローもうまい格闘技、素早い動きや反射神経などに驚きを表すが、それ以上に驚いているのがこれだけの激しい動きをしながらも、マグマやあの金色の液体を正確に操り、ミスをしていないことが驚きだった。

未だ高校1年生であり、15歳であれだけのコントロールや集中力、それと明らかに戦闘慣れした動きに将来性を見出していた。

 

 

十分ほどの攻防を行いエイミィの体力は順調に減っていっている。

金成は、エイミィに攻撃を与えてはいるが、自分は器用に対処しているため、実質的に動いた分の疲労しかなく、それだけでは全然体力が尽きそうもない。

たった十分ではあるが、フィールドはマグマの溶岩が所々にあり焦がされている。

 

『もうすでに十分もの攻防が続いているが、グランドーラは体力切れか?!息が荒れてるぞぉ!』

 

「エイミィそろそろ終わらせるか!全力で来いよ!!」

時間的にこれ以上は単なる冗長になる為、ここで終わらせようと決める。金成は快楽主義者であるが、元エンターテイナーである。ちゃんと見せ場や盛り上がり時を考えて戦っている。

 

「わ、わかったよ!」

エイミィの体力も減ってきているのがわかったので、最後は派手に決めようとエイミィに暗に知らせるように言葉を発すると、エイミィも意味がわかったらしく疲れた表情を見せながらも広角をニィッとあげる。

 

「まぁ最後は派手に行くか」

金成は今まで生成した黄金を一つの球状に一旦まとめるとすぐに形を変えていく。そうして出来たのは直径3メートルほどの巨大な拳だ。

それを観たエイミィも、金成の意図を察したのか同じようにマグマで巨大な拳を作り出した。

 

これは派手だ。

 

二つの巨大な拳が出来上がる光景を、観客達が固唾を飲んで見守っている中、二人は同時に動き出す。

 

 

「黄金の拳!!」

 

「大噴火!!」

 

二人ともエンターテイメント性を考えて技名を叫びながら繰り出した。

二人に恥ずかしさなどは無い。

金成じゃ単純に前世では技名を叫ぶの人が多くいたし、一方のエイミィは単純に羞恥心が薄い。

 

空中に浮かんでいた拳同士が磁石のように急接近して衝突したのだ。

二つがぶつかると同時に、衝撃波が生まれ爆風を巻き起こす。

 

『巨大な拳がぶつかったぁ!!!フィールドは煙でよく見えないぞ!』

マグマの巨大な熱量により出来た煙によってフィールドが見えないでいたが、次第に見えるようになってきた。

 

 

 

 

 

「エイミィ・グランドーラ場外!よって勝者、来栖金成!」

霧が晴れるとそこにはフィールドに立っている金成と、場外で座っているエイミィがいた。

あの爆風により、体力が減っていたエイミィは風に耐えたが、金成は拳の陰に隠れる様に小さな黄金の拳を隠していた。

それを蒸気に乗じて、見聞色でエイミィの位置を察すると目元を腕で隠すエイミィを投げ飛ばしていた。

 

状況を把握した審判のミッドナイトが声を上げた。

 

『以上で全ての競技が終了!今年度雄英体育祭一年優勝は、D組来栖金成!!!』

ミッドナイトの声を合図にプレゼントマイクが締めのセリフと言った。

 

今大会の優勝者が決まると同時に、会場から拍手喝采が上がった。

 

ーーーよくやったぁ!かっこよかったぜ!

 

ーーーエイミィちゃーん!かわいいよー!

 

ーーー最後の熱かったぜ!

 

 

「大噴火って何だよ」

 

「ボスこそ黄金の拳って安直」

 

「うっせ」

金成は座り込んでいるエイミィの腕を引っ張り立ち上がらせる。

 

それを見た観客はそれに熱い気持ちを感じ取りより歓声が巻き起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先ほどのフィールドがあった会場はプロヒーローによってフィールドが取り除かれ、初めて同じような形戻され、されど中央には表彰台らしき、高さが違う台が三つ置かれている。

 

「それではこれより!!表彰式に移ります!」

校舎裏からの大量の花火が打ち上がり、ミッドナイトの合図により今大会のメダル授与が行われることになった。

 

「三位には爆豪君の他にもう一人飯田君がいるんだけど、ちょっとお家の事情で早退になっちゃったのでご了承くださいな」

表彰式の台に立っているのは上から順に金成、エイミィ、爆豪である。

金成とエイミィが嬉しそうなのに反し、爆豪の方は何やら鎖で体がつながれ、口を塞がれていながら暴れている。

 

「何だあれ?あいつ何してんだ?」

 

「ボス、きっとあれがヤンキーの習性だよ!」

隣で暴れる爆豪をナチュラルに煽っていくエイミィに少し引きながら、まぁいいかと忘れることにした。

 

 

ーーー爆豪あいつ何やってんだよ。

 

ーーーA組恥ずかしいなぁ。

流石の生徒も異様な爆豪に引き気味にボヤいている。

 

「メダル授与よ!今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!」

 

私がメダルを持って来「我らがヒーローオールマイトォ!」

メダルを持って来たのはやはり今世間に通目されているオールマイトであった。

「む、むぅ...」

強靭な肉体でいつも笑顔な表情ではあるが、今はミッドナイトとセリフが被り少ししょんぼりしていた。

 

気を取り直したオールマイトは表彰台に近づき、爆豪の前に立ち止まると口を押さえている拘束具を外した。

 

「さて、爆豪少年!見事に伏線回収とはいかなかったが、三位とて素晴らしい成績だ誇って良いぞ!」

爆豪は開会式で自分が一位になると宣言していたことを言っているのだろう。

 

「オールマイトォ...!こんなんじゃ意味ねぇ、圧倒的一位じゃなきゃこんな三位なんて意味ねぇんだよ!!世間がどれだけ評価しようが俺が認めなきゃゴミなんだよ!」

今にも血管がブチ切れそうなほどに怒りで顔を歪ませて、腹の底からくるような低い声を出している。

 

「うむ!相対評価に晒され続けるこの世界で普遍の絶対評価を持ち続けられる人間はそう多くない。受け取っておけよ!傷として!君が三位を認めなければ次で一位を取れば良い!これは忘れないための鎖と思っておくと良い!」

爆豪は、そのままクビに掛けようとするオールマイトに抵抗するが結局は口に引っ掛けられる形で収まる。

それからも文句を垂れるが次へ移る。

 

「さて、グランドーラ君!二位おめでとう!強いな君は!本当に強いが君のその強力な‘個性’ももっと周りに被害が出ないような調整が必要だな!まぁそれでもおめでとう!」

 

「ありがとうございます!」

オールマイトは必ずエイミィの試合後に残る巨大な溶岩の固まったものを思い出し若干頬をひくつかせていた。

それでも、これだけの多くの強敵を抑え、ヒーロー科ではないにもかかわらずここまで勝ち上がった力を純粋に評価している。

 

 

「よし、じゃぁ最後に来栖少年!優勝おめでとう!第一種目で見せた力、第二種目で見せた連携能力、そして最終種目で見せた純粋な戦闘力!文句なしだったよ!来栖少年、楽しかったか?」

 

「えぇ、楽しめました。本当に。今回体育祭に出れて本当よかったです」

オールマイトは金成が純粋にこの体育祭を楽しんでいたことがわかったため聞いたが、金成は一瞬キョトンとしながらも今までにないくらいのキラキラとした表情で述べる姿を見て、この子ならいい方向に向かうだろうと思った。

 

表彰を終えたオールマイトはクルッと後ろを向いて生徒に向き直る。

 

 

「さぁ今回は彼らだった!しかし皆さん!今回一位と二位に普通科が入ったのを見て分かったと思うが、この場には誰でも立つ可能性があった!競い!高め合い!さらに先へと登っていくその姿!!次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしてる!

てな感じで最後に一言!みなさんご唱和ください!

せーの、お疲れ様でした!!」

 

オールマイトが後ろを振り返り、全生徒へ激励の言葉を送った後に声を揃えようとしたが、生徒がこの高校の校訓であるplus ultra と言おうとしたのに対し、オールマイトが普通に挨拶したために若干の締まりのなさで今体育祭が幕を下すことになった。

 

 

「ボス!!楽しかったね!」

 

「あぁ、楽しかった。またこんなイベントがこねぇかなぁ」

 

「あはは、そんなすぐには来ないよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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二十一話 会社の視察、表側

雄英体育祭が終わり観客はそれぞれの帰路へ就き、屋台を出していた人は片づけに入る。警備を担当していた人も、それぞれの役割を終え、自らが守るべき地へと帰っていく。

 

それでも未だ、興奮の感情が残る雄英高校の生徒たちはそれぞれのクラスへ赴き、帰りのホームルームを行うために席について教師の到着を待っている。

 

「いやぁ、やっぱ金成もエイミィも凄いな。優勝と準優勝だろ?」

 

「まぁね。大智だってヒーロー科を差し置いてベスト8進出だろ?それに、美亜だって」

 

ーーーまぁ始めから俺とエイミィは優勝と準優勝するだろう事はほぼ確信していたが、こいつらがここまでやるとはなぁ。意外というかなんというか。まぁ、元気ならいいんだけど。

 

大智からは体育祭が始まる前の、自信なさげのどんよりとした空気は感じられない。

今までの、ヒーロー科に落ちたというコンプレックスが今日で解消されたのだろう。

一応友達の金成としては腐ることなく一歩前に進めたことに良かったと思っている。

 

金成達が話している一方でも、エイミィが座る場所では、エイミィと美亜を中心として話をし、今日の話で持ちきりだった。

 

そうしているうちに教師が前の扉から入ってきたため、それぞれが席へ着く。

 

「えぇ、先程体育祭が終わり、明日明後日は休校となります。それと、休み明けには次週の職場体験で自分がどこに行きたいかしっかり決めておいてください」

先生が言っているが、普通科といえど職場体験がないわけではない。元々は、全クラス共通して学校が指定するところで職場体験を行なっていたのだが、ヒーロー科はどうせするならヒーロー事務所で体験したらいい、という事になりヒーロー科だけが少し特殊になっていたのだ。

金成は前から回ってきた職場体験コースをつまらなそうに眺めながら、明日明後日をどう過ごそうかと考えていると、突然先生から声が掛かる。

 

「では今日のホームルームはこれで終わりです。では解散。....それとも来栖くんとグランドーラ君は少しついてきてください」

エイミィと金成は互いに顔を見合わせ疑問に思いながらも先生の後へついていった。

 

ーーーなんだろ。流石に普通科が目立ちすぎだ!って怒られるか?っていや、そうだ。活躍したらヒーロー科編入出来るんだっけか?

 

今まですっかり忘れていたが、そのようなことがあったなと思い出した。

金成は、エイミィが初めから考える気がないのかボンヤリとしながらついてくる事に若干呆れる。

 

先生が会議室へ入り、エイミィと並ぶように席へ座ると、向かいに座っている先生が若干頬を綻ばせているの気がつく。

 

「じゃぁ、わかっているかもしれないが、君らが大変活躍したことでヒーローかを編入に話が来ることは間違いない。それで君たちの意見を聞かせてほしい」

 

「僕たちは無論それを希望しますが...。同じく活躍した大智と美亜には話がこないんですか?」

 

「ん?あぁ、勿論彼らにも話はいってる。元々、彼らは最終種目で出場が決まった時に本人から希望があったから今は呼んでないんだ」

もしや、あの成果でもきついのかと疑問に思いきいてみたが杞憂に終わった。

金成は元々ヒーロー科編入のために頑張ろうと決めていたが、体育祭をしていくうちに純粋に楽しんで忘れてしまっていた。

それでも、すでに答えは決まっている。エイミィも金成が行くならいくと決めているため問題ない。

 

「僕たちはもちろん希望します」

 

「そうかわかったよ。私の方から校長に知らせておくよ。それとなんだが、次週の職場体験について話があってな」

自分のクラスから四人もヒーロー科へ編入出来る生徒が出た事に誇りがあるため、若干嬉しそうにしていた。

 

「ん?どうしたんですか?」

今度はエイミィも疑問に思ったために言葉にした。

 

「本当は、原則ヒーロー事務所に職場体験へ行くのはヒーロー科って決まってたんだがな、今回の件で流石に君らを行かせない訳にはいかなくなると思うんだ」

今までの傾向で、順位が高い方からヒーロー事務所からの応募で出ることが多い。金成達は普通科であるため、初めから候補にないと事務所側も分かってはいるが必ず応募が来る、というのが先生の考えらしい。

その為、特例ではあるがヒーロー科編入を希望する四人には編入を前倒ししてしまおうということらしい。

本来であれば、夏休み明けの2学期からの編入が定例だ。

 

そのような事情もあって、金成達へ事前に話を通したのだ。

 

「わかりました。ではこれで」

エイミィと金成はその事について何も問題がない為、そう言葉にして会議室を後にした。

会議室を後にした。

 

 

 

 

金成達は今2人で帰路についている。

校門を出た時に未だ残っていた観客や、取材陣がいて一悶着あったが、無事に切り抜けていた。

 

「ん、じゃぁまた明日。会社に行くから日陰に朝いつものとこにくるよういっておいてくれよ」

 

「うん、わかったよ!じゃぁまたね、ボス!」

普段休みの日などは、会社へ行くために日陰に来てもらっている。

孤児院のメンバーにそのことを隠すために、孤児院から離れた人目がないところを利用していた。

 

2人は別れ道まで来て、金成はエイミィが元気良く返事をするのを確認するとそのまま孤児院への道を進んでいった。

 

 

 

 

 

翌日の朝の十時頃、金成は自身の社長室で寛いでいると目の前の扉が開き、日陰が入ってきた。

今日は珍しく黒子服姿ではないため、普段は見れない綺麗な顔が金成を見つめている。

 

「ボス、先日の脳無についての報告が上がったので報告しにきました」

 

「ん?あぁ、わかった。続けてくれ」

金成は日陰が手に持っていた資料を受け取りながら続きを促した。

 

「先日の脳無については資料の通りDNAによって複数‘個性’を所持していることがわかりました。あと、ほとんど意識がないらしく、うちで使うのは無理と判断したため、私が直接いただいたのですがよろしいでしょうか?」

 

「ん?まぁいいが、あまり増やすなよ?」

別にこれ以上日陰の私兵が増えても問題はないが、一応形として注意はしておく。別に部屋は増やせばいいし、いいかと考えて再び資料に目を落とした。

 

 

「ん?この脳無の遺伝子を利用した商品開発ってなんだ?」

 

「それは、美流からの報告書です。あれのサンプルを研究したところ、利用価値があるのではないかという判断より実験の許可が欲しいといっていました」

 

「そうか。わかった。でも実験報告は逐一あげるようにいっておいてくれ」

 

「わかりました」

金成は、二枚目に書かれた項目を見て疑問に思ったため聞いたところ、表側で何やらやるらしい。商品開発か、新たな事業か。

金成は別に実験くらいならいいかと思っていて、資金も十分あるため許可を与える事にした。

日陰が報告を終えて部屋を出ていってしまったため、金成は退屈になっていた。

 

「うーむ。どうするか」

普段は金成のそばにいるエイミィだが、今日は剣司が指揮する訓練部隊が、実践演習のため海外へ赴くという事でそれについていきたいとのことで、今この会社にはいなかった。

 

そのため話し相手がいないので、退屈しのぎに会社の抜き打ち視察に行く事にする。勿論表側で働く社員らには金成の存在を認識していないために、来客カードを首から下げて、行く事にした。

 

「じゃぁまずは、美流かな!」

若干いたずら小僧のような笑みを浮かべて金成は社長室から出ていった。

 

「うわぁ、久々に来たけど結構人増えたなぁ」

今まで社長室以外を訪れたことが初期に数回あったくらいのため、金成の記憶とはかけ離れたものになっていた。

 

金成は全部見ようと思ったために、ビルの正面入り口から見て行く事にした。

しっかりと清掃がされているらしく、ガラス張りのビルは太陽光を綺麗に反射していて少し眩しい。

「...。へぇ、しっかりされてるじゃん。いつも裏から入ってるからわからなかった」

正面入り口ではサラリーマンらしき男性が行き来しており、活発な印象を受ける。

金成は彼らから若干訝しげな表情で見られながら入り口を抜けると、吹き抜けとなっているエントランスに出た。

エントランスには受付を担当している若い女性職員が2人いて、来客の対応をしていた。

 

「あの、社長から招待されてきました。来栖と申します」

 

「かしこまりました。こちらでお待ちください。....。はい。えぇ、分かりました。では案内は不要という事なのでご自由にお通りください」

初めは明らかに高校生らしい見た目の少年が社長に招待されている事に不審に思ったが、社長に事情を聞いたために丁寧に対応する。

 

ーーー確か、あの体育祭で優勝した子ね。その為ね。

美流は突然の金成の訪問に驚いた為、咄嗟に体育祭のことで招待したといってしまった。

その為、受付嬢が勘違いしてしまったのだ。

 

そのまま金成はエントランスを抜けて会社の見学を開始する。

1階には来客用のテーブルがいくつか用意されていて、他にも寛げるソファがいくつか置いてある。

2階へ上がるとそこは事務室と、営業の社員が仕事をする部屋がいくつかあった。

またもや彼らからジロジロ見られる金成であったが丁寧に仕事を見て行く。

 

ーーーうん。職場の雰囲気もいい感じだ。それに怪しい奴はいないか。

見聞色の覇気を利用しながら、万が一のために内部調査も進めて行く。

 

3階、4階と2階同様に社員らの職場になっている。

 

5、6、7階では食堂、簡易的なジム、子持ちの社員の託児場となっていてしっかりと社員らを考えて作ってある。

まぁ別にジムとかいらないと思ったが、金があったため試しに作ってみたら思いのほか好評だったらしく、世間のこの会社の評価が思った以上にいい。

まだ新参の企業で安定しているとは思われてはいないが、安定した利益高、残業も少なく、社員のことが考えられたジムや託児場。

この単なる思いつきで、金があったために作った施設が好評であったため世間から驚くほどのホワイト企業と見なされている。

その為、毎年の募集が驚くほど多いらしい。

 

8階からは幹部専用に部屋になっていて、8階から順に剣司、荒戸、日陰、美流、エイミィ、社長室といった部屋割りになっている。

一応、金成とエイミィ以外は社員名簿になまえがあるにはあるがほとんど見たものが少なく、8階からは専用のエレベーターで特別なキーが必要な為普通の社員じゃ入れなくなっている。

その為、社員らではホワイトの中の唯一の黒い噂とされている。

 

「うーん。終わったか。じゃぁ次は研究所に行くか」

会社を1階から全て見終わった金成は、次は研究所に行くために地下へ向かった。

普通用のエレベーターから地下1階へ降りる、研究室がいくつもあり、それぞれがグループを組んで開発に勤しんでいるらしい。

 

ーーーすごいやる気が伝わってくるなぁ。まぁ資金を豊富に与えたからか。

 

地下2階も同じく研究室になっていたため同じように視察を終える。

 

研究所の視察も終え、全ての表面を終えると、次はグレーな裏面の視察へ向かう事にする。

 

 

 

 

 

 



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二十二話 会社の視察、裏側

金成は再びエントランスへ戻ると、幹部用である特別エレベーターに乗って先ほどより深く降りていく。

地下3階の位置でエレベーターが止まり、降りると白い壁の一本道が目の前にある。

「あ、ボス。ようこそおいでくださいました。美流様はあちらです」

 

「あぁ、すまないな」

一本道の先には厳重に閉じられた扉があり、その正面には守衛の男が立ち塞がっていた。

 

扉を開けるとそこは大きな部屋で有り、事務室のようなデスクにPCと設置されていて、そこでは研究員と思われる白衣を着た人々が忙しなく手を動かしている。

ここは研究成果をまとめたりとする事務的な部屋だ。

 

その部屋の向かいにある扉を抜けた先にあったのは実験室らしく、部屋の両サイドを強化ガラスで遮り、その中では防護服を身に纏った職員がいた。

 

再び迎えにある扉を開けて通るとそこは若干薄暗い部屋で、大きなケーブルがいたるところから伸びているのが見える。

ケーブルを踏まないように先へ進み、三度向かい側にある扉をを抜けると、人が入りそうなポッド並んでいる部屋に着く。

 

 

「あ、ボス。ようこそいらっしゃいました。それで今日はどうして..?」

 

「ん?あぁ暇つぶしだよ。まぁ視察って奴?」

 

「は、はぁ」

大きなポッドの前で椅子に座りながら待ち受けていた美流は普段は金成が来ることがないために若干驚いた様子で尋ねるが、斜め上をいく理由に若干キョトンとした。

 

「それより、あの報告書見たけど、どんな実験するの?」

 

「あ、もう目を通されましたか。あの脳無が持っていた超再生、衝撃吸収の‘個性’をアイテム開発でうまくできないかと思いまして。今までにも‘個性’からのアイテム開発をしようとしたのですが、実験しても問題が出ない人間となる‘個性’持ちがいなかったため出来ませんでした」

こんなに早く返事が返ってきた事に嬉しく思いながらも、美流は説明をする。

 

ーーーまぁグレーって言っても流石に生身の人間を人体実験するほどじゃないからなぁ。それ思うと今回の脳無は結構なひろいもんだったか?

 

「わかった。じゃぁ何かできたら報告あげてくれよー。じゃぁ俺はまだ見てくから」

それから普段は来ない研究室を、楽しみながら見て回った。

 

 

 

 

次に訪れたのは、地下3階以下である、四、五、六階だ。

ここは主に剣司が担当する訓練部の訓練部屋として使われている。

 

金成がエレベーターを降り、先ほどと同様に通路を通って守衛に扉を開けさせて中に入る。

扉を開けた先にあった部屋は、他に余分なスペースがいらないと言わんばかりに、縦にも横にも広かった。

直径100x100x5といった感じの正四角柱の形で有り、一部例外は部屋の環境を変えるためのモニター室だ。

金成が部屋に入ると、数十人の訓練生が、監督に見守られながら個性発動の訓練を行っていた。

 

訓練を見る監督は、流石に剣司だけでは見れないために、軍部に上がった訓練部の卒業生がローテーションを組んで指導する事になっている。

 

「しゃーっす!!」

金成を発見するとばりっばりの運動部のノリで挨拶をして来る訓練生と卒業生。

挨拶を返し、そのまま一通り訓練生の実力を把握すると次の階へ降りる。

5階でも4階と同じように監督と訓練生が訓練を行っていた。

とは言っても4階で行なっていたのが個性のコントロールの育成であったのに対し、ここで行なっている訓練は個性を戦闘中でも維持ができ、なおかつ繊細なコントロールを身につけるための訓練だ。

 

これで気がついたと思うが、四、五、六階といった風に上から弱い順と言った強さのランク付けを行い、訓練生を鼓舞しているらしい。

それで腐るやつがいると思ったかもしれないが、元々訓練部に入れるのはある程度の才能を見出したメンバーであるため、いつまでも同じ階にくすぶっている奴はいない。

 

ーーーあ、なかなかいい個性がいるな。あいつは個性は強いがまだ制御が甘い。あっちのやつは個性の扱いが異様にうまいな。

 

金成はある程度心の中で訓練生の評価を終えると次の階へ向かう。

エレベーターで6階まで降りると、そこでは剣司が卒業間近に控えた訓練生を相手に指導を行っていた。

 

剣司を中心に置き、五人ほどの訓練生が四方から襲いかかっている。

それぞれが互いをほとんど確認する事なく、剣司に反撃の隙を与えないように途切れる事なく攻撃を仕掛けていく。

1人は、衝撃波での牽制。

1人は粘土のようなものを生み出しての拘束。

1人は精神系の個性で相手の動きを読む。

1人は、伝達系の個性で、全員の思考をつなげてリアルタイムで相手の動きを共有する。

こういった風に、一つ一つが大した個性でなくとも、鍛え抜かれた格闘技、訓練された連携、選び抜かれた相性。

それらを余す事なく使って剣司を追い詰めていく。

6階までのレベルになると、訓練生はプロヒーローの相棒(サイドキック)以上の練度を持っており、即戦力と観れるほどだ。

 

そんな彼らは今、剣司に向かって襲いかかっている。

 

ーーーほぉ、うまいなぁ。

それぞれが他人をカバーしつつも、決定打になりそうに一撃を与えようと動いていて、周りをよく観ているのがわかる。

 

その為、剣司は生身だけでは耐えられなくなったのか、1人を他の他人の視線にかぶるように投げ飛ばした隙に、‘個性’を発動させた。

その瞬間、体が跳ね上がるように全体的な筋力が増えてでかくなり、全身を覆うように、茶と金色のメッシュのような体毛が生えてくる。

 

剣司の個性は、名前をつけるなら‘チーター’だ。

異形系の変化ができる’個性‘であり、‘個性‘を発動するとチーターのような見た目になり、チーターのような事ならなんでもできると言ったものだ。

 

変化を終えた剣司は先ほどとは比べられないほどのスピードで、訓練生を翻弄しながら攻撃を与えていく。

 

彼らに落ち度はない。連携も、’個性‘の制御も、作戦も最善ではあるが、唯一足りなかったことといえば経験だけだ。

今までにその速度を経験したことがなかった為、目がなれる暇さえ与えられずに傷を重ねていった。

 

 

「剣司様それはずるいっすよーーー!!」

訓練室には彼らの悲鳴が響き渡っていた。

 

 

 

 

 

「おーい!剣司、どうだ?そいつらは」

ある程度訓練を終えたところで、脇の方で見学していた金成は声をかけた。

 

「あとちょっとだ。最後のシミュレーション訓練を突破したら卒業だ」

 

「ふむ、そうか。いい感じに育ったじゃないか」

今は訓練後のため疲労で倒れているが、戦っている様子から彼らがなかなかできることがわかったため、金成は満足している。

 

 

実は学校ではないが、ここには卒業試験がある。

その内容とはグループで、想定しうる仮定の状況をいくつかやらせて、成功率が90%を超えると卒業できると言ったものだ。

勿論1発で合格できる方が少なく何度も挑戦してクリアするメンバーの方が今まで多かった。

一応、週一で卒業試験を受けられるために、6階まで上がってきたメンバーは規定の人数でメンバーを揃えて挑んでいる。

仲の良いメンバーで組んでもいいし、相性だけで組んでもいい。

元々同じ寮で住んでおり、かならず同室のメンバーがいるため、そのメンバーで組むことが多いが。

 

 

 

余談だが、彼らの社員寮は、マネトリアカンパニーの裏手にあるマンションで地下から繋がっていて、周りにはバレないようになっている。

一方、普通の社員に用意された寮は会社の隣にあるマンションだ。

 

 

 

 

 

 

 

剣司の訓練部の見学をある程度終えると、次は荒戸の軍部や日陰の情報部を見たかったが、ほとんどが遠征のために出払っていたため少し見た後帰る事にした。

海外遠征でほとんど連れていくため、残るメンバーが少ない。残ったメンバーも訓練部の監督として残っているために、地下七、八階である軍部はほぼスカスカの状態だ。

 

それと同様に、情報部はもともと人数が少なくそれぞれが情報集めに忙しいため普段部屋にいることが少ないのだ。その上、通信系の‘個性’持ち達が遠征に付いて行ってるため、同じように地下9階の情報部にもほとんど人がいないのだ。因みに、日陰は全国の情報部を回って報告書の作成中である。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

次の日遠征から帰ってきたエイミィと社長室で遊んでいると、ガチャと音を立てて扉が開く。

 

「ボス、報告があります」

 

「ん?なんだ?」

 

「あ、日陰ちゃん」

扉をあけて入ってきた黒子服姿の日陰が、ソファに座っていた金成に手に持っていた報告書を手渡す。

エイミィの方は向かいのソファにトランプを片手に深く座り、日陰からもう一部の報告書を受け取る。

 

日陰は金成に促されると同時に、何のことか話し始めた。

今回の報告とは、東京の23区内にいるあるヴィランが派手に動き回り始めたというものらしい。

 

「へぇ、どんなやつなの?」

若干ただのヴィランかと思って興味が薄れるが、トップが聞かない訳にはいかないため続きを促す。

正直、自分達が今いる区以外はほとんど興味がなく、干渉も少ない。やったことと言えば、この区には近づかず、うちの管轄には手を出すなという事を金と物理で分からせたくらいだ。

 

「それが..」

 

「へぇ、‘ヒーロー殺し’ねぇ」

日陰から聞くところによると、そいつは積極的にヒーローを殺し回っているらしい。

一般人には手を出さずにヒーローだけを殺すということは余程ヒーローに恨みがあるのか。

 

「じゃぁ、あんま干渉しなくていいよ。監視だけつけといてくれ」

 

「畏まりました」

目の前で金成の指示を待っていた日陰は、それに頷くと一礼をして社長室の扉を開けて退出した。

 

「ねぇボス!どんな奴かな?その‘ヒーロー殺し’って」

 

「ん、こんなやつだよ」

目の前のソファに座るエイミィが興味深そうに聞いてきたので、2枚目の資料に写っている隠し撮り写真をエイミィに見せる。

 

「うわぁ、如何にもな見た目だねぇ」

それを見たエイミィは若干引き気味に資料を返してくる。

2枚目に写っていた写真の‘ヒーロー殺し’は、刀を腰に差していて薄汚れた包帯を顔に巻いてる男だ。

 

「まぁこいつの目的はヒーローらしいし大丈夫だろ。うちの区ほとんどヒーローいないしな」

金成はそう結論づけると、史料をエイミィのソファとの間にあるテーブルに置いた。

 

「ふーん。あ、じゃぁ次はボスがシャッフルしてね」

 

「別にいいが....2人ババ抜きって楽しいか?」

エイミィが渡してきたトランプの束を受け取りシャッフルしつつも、若干呆れ顔でいた

 

「勿論!」

嘘などないような、純粋な笑顔を見せてきたので、ため息をつきつつ、シャッフルしたカードを配っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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二十三話 職場体験 逆指名

「なぁ、これってあれかな?ヒーロー科にある職場体験の逆指名って奴か?」

 

「ちょっと、あんた鬱陶しいからやめて!」

金成に、エイミィ。大智と美亜が前後に並んで学校の廊下を歩いている。

大智は興奮のあまりグワッと隣にいる美亜に顔を近づけたために、隣にいた美亜が思わずほっぺをビンタした。

 

「何してんだ...」

前を歩く金成は後ろから聞こえる乾いたビンタ音に思わずため息を吐いてしまった。

 

 

 

雄英体育祭が終わり2日の休校が明け学校に来た彼らは、昼休みに話があるということで教師に呼ばれていた。

金成も以前に職場体験について聞いたために、きっとそのことだろうと思っている。

 

職員室へ行く過程で、学年問わずに結構注目を浴びていた。

こちらをチラチラと窺いつつ、何か話しているのがわかる。

金成とエイミィは普段と変わらない様子で足を進めるが、大智は若干の優越感を感じ、美亜は少し恥ずかしそうにしながら歩いていた。

 

 

「ん、あぁ。こっちだ。来てくれ」

金成達が指定された会議室に着き、扉をあけて中に入ると待っていたのは三人の教師だった。

中央に横長のテーブルがあり向こう側に三人座っている。

D組の担任教師を挟むように座っていて、左から順に、無造作に伸ばしたかのようなロン毛の髪の教師で、A組担当のイレイザーヘッドこと相澤先生。

右には清潔感を思わせる短髪に鍛えられたマッチョを持つ男である、B組担当のブラドキングこと管先生だ。

 

先生らに促され金成達は彼らの向かいにある椅子に、金成、エイミィ、美亜、大智といった順で座る。

 

「じゃぁまずこれを見てくれ。君たちに来た事務所からの逆指名数だ」

真ん中にいたD組教師が金成達にそれぞれプリントを配って行く。

そこに書いてあったのは彼ら四人の逆指名数と、逆指名して来た事務所名だった。

 

来栖金成 3480

エイミィ・グランドーラ 2860

阿久津美亜 360

夢大智 240

 

「結構多いなぁ」

それを見た金成は思わず声に漏らし、他の3人からも同じような声が聞こえた。

金成とエイミィはそもそもの4桁を超える事務所があったことに驚いていて、美亜と大智は自分にこれだけ指命が来たことに驚いていた。

元々金成とエイミィはそこまでヒーローに興味がなかったため知らなかったのだ。

 

ちなみにだが、事務所数が4桁に行っていることは正しいが、5桁に行くことは無い。

指名の仕方だが一事務所三人までと決まっていて、どの事務所も金成とエイミィのどちらかには入れているためにこういった偏った結果になったのだ。

 

 

「今回は思った以上に集中したらしくてな。それよりこれが君らが来週に行く職場体験のリストだ。今週までに決めて置いてくれ」

金成達は先生の言葉に納得して、再び紙に目を下ろす。

 

ーーーうーん。多すぎてわかんないよぉ。まぁボスについてけばいいよね。

エイミィはプリントを見ているがはなからそこまで興味がなかったために、ボスと一緒のとこでいいか、と考えていた。

 

「そのプリントは後で見といてくれ。それより君たちが編入するのはヒーロー科があるクラスのA組とB組となる。だから今回はちょっとした面談って感じだ。そのために2人にきてもらったんだ」

四人はプリントをテーブルに置き目の前に座ってた二人に視線を送る。

 

「俺はB組担任の菅だ。よろしくな!」

 

「A組の相澤だ。それよりいろいろ聞きたいことがある」

 

「ん?聞きたいことですか?」

相澤の問いに疑問に思った金成は聞き返す。

 

「まず一つ、来栖、グランドーラ、阿久津は入学時普通科に推薦で入ったが、ヒーロー科に編入ってことでいいのか?」

 

「あぁ、それは単に学力が足りなくて学校に来ていた推薦で入ったんです。ヒーロー科は普通科より偏差値十は離れてますし、無理だと思ったんで」

あぁそこのことかと思った金成は、三人を代表するように答えた。

実際には実技では余裕で入れたと思っていたが、三人とも共通して学力が足りなかったのが理由である。

その理由で納得したのか、三人の教師は納得げな顔をしていた。

 

「じゃぁ最後に、来栖。あの体育祭の最後に使った‘個性’はなんだ?市役所の個性届けはただの身体強化になっていた。もしかして検査以降にわかったのか?なら市役所に変更の申し出を出しとけ」

 

「いいえ。あれは敢えて身体強化で届出を出しました。」

 

「...なんだと?」

金成が答えた途端に三人の教師は明らかに険しい顔になり、大智と美亜も戸惑った表情を金成に向けた。

 

国では個性の把握のために、小学校1年生、中学校1年生で全国一斉検査をおこなる。

国の平和を維持するために個性の把握は大事であり、明らかな嘘の報告は逮捕まではいかないが明らかなグレーである。

そのために教師である彼らは険しい顔をしたのだ。

 

「...それは一体どういう事だ?」

明らかな怒気を含んだ声で相澤が聞いてきた。

 

「それはこの‘個性’は明らかに危険なものだからです。あの時俺が生み出した金色の物体はどんな物質だと思いましたか?」

 

金成はこの機会に教師には知らせておこうかと思った。

すでに、自身の戦闘力は前世に迫るほど完成していて、それにこんな時のために会社を作り、軍部を作った。

正直、金成の全勢力を使ったら一国くらいは楽に落とせる自信がある。

だから別に、自衛手段は完璧である為いいかなと思ったのだ。

それにこれから3年間を隠し通すのは無理と思ったのも理由である。

因みに美亜と大智はある程度信頼できるかなと思った為だ。

彼らには悪いが、彼らがどのような人物であるか知るために共にいるときは常に心を覗いていたため、大丈夫と判断した。

 

ーーーまぁ、もし裏切ったら俺の会社からの刺客が向かうがな!!

 

と、冗談を思い浮かべつつ金成は真剣な顔で教師に聞いた。

大智と美亜は気がつかず困惑しているが、さすが教師である為かその‘個性’の真実に気がついた。

 

「...まさかそれが金だとでもいうのか?」

 

「ええ、黄金です。あり得ないでしょうがそれが真実です。これがもし市役所から漏れたらどうなると思いますか?それとも国が動き出すか。明らかに危険なんですよ。まぁ、’個性‘から金が生まれるっていうありえない事だからか、多分気がつく人は少ないでしょうけど」

金成は証明する為に掌を上に向けて液状の黄金を生み出して操って見せる。

その黄金は光に照らされて神秘的なほどきらびやかに輝いていて信じる以外にはないだろう。

 

「...まじかよ。そんなヤベェやつなのか」

 

「...だからか。親も知ってるのか?」

そのことを聞いたエイミィ以外のメンバーは一様に顔を引きつらせ、美亜や大智に至っては青ざめていた。

 

「いえ、知ってるのはエイミィだけです」

 

「...。そうか。事情はわかった。なら聞くが、そんなデメリットを抱えつつ本当にヒーロー科を希望するのか?」

今聞いただけでも、十分なデメリットがあることがわかる。

もしバレたら。もし残骸を拾われたら。

それでもヒーロー科に入りたいのかと相澤は聞いてくるが、金成の答えは変わらない。

 

「勿論。ヒーローになることが最も身を守れる道。合理的判断です」

もう一押しとばかりに、前から知っていた相澤がよく使う言葉とともに思いを告げた。

 

 

 

 

ある程度話を終えた彼らはこれからのことについて話し始める。

その過程でどのようなクラス分けになるのか決めることになったが、エイミィが金成と同じクラスを強く希望し、同じく金成も希望したために同じクラスになることになった。

そのとき、優勝、準優勝が同じクラスでは戦力が分散できないと教師らから苦言が入ったが、エイミィがどうしても一緒じゃなければダメと意見を押し通した為に渋々同じクラスという事になった。

 

ーーー意外とすんなり行ったな。もっと反対されるかと思ったけど。

教師らは既に先ほどの金成の’個性‘を見て若干疲労していた為、そこまで反対せずに承諾した。

 

因みにクラスはA組みらしい。

面倒ごとが起きた場合は相澤の方が処置に向いてる’個性‘である為、そう決まった。

 

「じゃぁ一応クラス変更は夏休み明けからだけど、君らは職場体験に参加してもらう事になる。どうせ夏休み明けから異動になるし、これは経験しといたほうがいいからな」

あれ以降は相澤も聞き役に徹したのか、D組担任が話を進める。

 

「わかりました」

金成達が声を揃えて同意すると同時に昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

 

因みにその後の美亜と大智が少しソワソワしく、面倒であったと言うことだけ言っておこうか。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「じゃぁこれが職場体験の指名されたやつだ」

あの後すぐに相澤は自分のクラスへ赴き、午後からあるヒーロー基礎学を行なっていた。普段のヒーロー基礎学は実技が多く、座学と察した生徒らは若干気落ちした姿を見せていた。

しかし、職場体験の指名と聞いて驚くほどのテンションを上げている。

 

爆豪勝己 460

轟焦凍 213

飯田天哉 67

 

 

 

 

 

「お、おぉー!けどなんかちと少なくねぇか?」

黒板のモニターに表示されたものをそれぞれが自分もあるか、とドキドキさせながらも注目していた。

確かに指名は来ているけれど、数千あるうちこれしか来ていないのかと疑問に思った生徒も多く、それを代表するように切島が声を上げた。

 

「ん、あぁ。例年だと偏ることなく綺麗にバラけるもんだが、今回は色々とイレギュラーがいただろ。殆どの種目で目立ってたから殆どの票がそっちに流れたんだ、来栖とグランドーラ。後は阿久津と夢だな」

 

「あぁ、あいつらみんな強かったからなぁ!って、みんなどうしたよ!」

切島は単純に彼らの強さに共感する中、ヒーロー科に受かった事へのプライドがある生徒が多くそれぞれが気落ちした表情を見せる。

「....。」

 

「っち!」

 

ーーー彼らはあんなに活躍したのに...!僕はせっかくオールマイトに鍛えてもらったのに!!

 

このクラスで票をとった轟はなんとも無いと言った表情で、爆豪の方はいまにも爆発しそうなほど怒気を孕んだ表情を浮かべている。

緑谷に至っては唇をかみしめて俯いている。

 

「相澤先生!そもそもヒーロー事務所への職場体験は、ヒーロー科のみが行うと認識しておりましたが、そこはどうなのでしょうか!!」

クラスの学級委員長である飯田がカクカクとした動きで大きく腕を上げている。

 

「あぁ、そのことか。体育祭で活躍したらヒーロー科編入が出来るって聞いたか?あいつらは編入することになっている。普通は夏休み明けからでヒーロー事務所の職場体験は無いんだが...。仕方がないんだ。思った以上にあいつらに来て欲しいって事務所が多くてな。職場体験に参加することになってる」

 

ーーーあの人達がこれからうちのクラスに来るのか。ライバルって事か。いや、まだそのレベルにすら立っていない。

 

生徒らは、金成らが規定通りにできないほど世間に評価されていることに納得しながらも、同じくヒーロー科へ編入することに驚いた。

 

「マジかよ!あいつら来るのか!賑やかになんじゃねーか!」

 

「うぉー!美人な赤髪のボインねーちゃん来るのかよ!!オイラ鼻血が出そうだぜ...」

純粋にクラスメイトが増えることに驚く切島ではあるが、一方の変態で有名である峰田に若干引くクラスメイト達。

 

「まぁなんだ。うちのクラスに来るのは来栖とグランドーラだ。仲良くしろよ。それと気負うんじゃないぞ。お前らはまだ1年だ。あいつらに追いつき、追い越せるようになればいい」

エイミィについてはA組女子と仲がいいため、うまくやっていけるだろう。それに金成の方は人当たりがいいからこっちも大丈夫か。

と、若干強張った表情を見せた生徒らを相澤なりに慰めつつ、そんな評価を下していた。

 

ーーー取り敢えず今できることをしなくちゃ!

そう決心する緑谷は取り敢えず空気椅子をすることにした。

 

 

 

 

 

 



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二十四話 エンデヴァー事務所

教師らから職場体験について聞いた翌日の教室。

 

「なぁ、金成はどうする?全然決まらねぇ」

 

「俺は面倒いから、一番有名なところにする」

隣に座っている大智が机に項垂れながら逆指名された事務所の載ったプリントを眺めてため息を吐く。

 

「でも意外だな。大智は結構すぐ決まると思ったんだが」

 

「意外でもねぇよ。欲張りな話だが行きたいとこが多すぎて逆になぁ」

大智は初めからヒーロー科に入りたかったと聞いていたので、これっていう憧れのヒーローがいるとばかり思っていたが逆に多すぎたらしい。

金成はその贅沢な悩みに苦笑いを浮かべている。

 

ーーーまぁ俺も多いがそこまで希望はねぇし、面白そうなところがいいけどなぁ。

 

 

「あ、そんなことよりヒーロースーツ決まったか?」

金成は先ほど見ていたプリントとは別のものを眺めて隣にいる大智へ話しかけた。

このプリントはヒーロー科から入学前に渡されるもので、被服控除という制度のもと、学校側からこちらの希望に合ったヒーローコスチュームを無料で提供してくれるものだ。

ヒーロー科編入に当たってヒーローコスチュームが必要になることから、決まったらすぐに出すように言われていたのだ。

 

「あぁ、そっちは決まってる。ほら」

大智に渡されたプリントには事細かく記されていて、意外と絵が上手いのか外見もしっかりわかるようになっている。

大智の個性は体を奪うと自分の体の制御が利かなくなるために、重装備のような全身を覆いつつもしっかり動けるような見た目になっており、個性が発動できるようにしっかりと視界は確保された物になっている。

 

「へぇ。しっかり考えてるんだな」

 

「金成はどうすんだ?」

 

「ほら」

金成は手に持っているプリントを隣の大智に渡した。

正直金成とエイミィはマネトリアカンパニーで自分専用の調整された戦闘服があるために必要はないのだが、一学生でそれは可笑しいために希望を出すことにする。

今回の被服控除で出す奴は、自分用の戦闘服と同じ作りを希望している。

会社の戦闘服は今までの経験から一番最適な作りになっていると自負しているからだ。

 

「へぇ、かっこいいな。でも、ほとんど希望つけないんだな」

大智が眺めたプリントにはスーツのような見た目になっていた。

 

最適とは言ったがそこまで凝った作りはしていない。

金成の主な戦闘方法は、覇気を使った近接格闘か、黄金を使った遠距離戦闘が主になる。金成自体が素で強い為に、余計な補助は逆に足手まといになるからだ。

 

エイミィの方も自分の動きを阻害しないように、基本的に超耐熱仕様がかかった服という事のみだ。

もともと物理は効かないから必要ないのだ。

必要なのは自分のマグマに焼き尽くされないような服のみ。

 

金成がエイミィも合わせて機能をほぼつけない理由を説明すると、大智は納得しながらも頬をひきつらせる。

 

ーーーコイツら素で強いからなぁ。

 

 

 

その後の職場体験までは平穏に日常が過ぎていく。

詰まらない学校の授業を終えて、会社に行き色々と上がってくる報告書を眺める。

この区の状況であったり、全国の情報部から上がってくる面白そうな情報、週一で全国へ演習に向かう荒戸達軍部の報告書であったりと。

 

その中にあの‘ヒーロー殺し’と呼ばれるヴィランの情報もあった。

ヴィラン名、ステインがあのヴィラン連合と接触を図ったとのことで、今現在は彼らと共に行動しているらしい。

 

「まぁべつにあれが加わってもそこまで脅威ではないか」

そう結論づけると次の書類に目を通すが、思わずと動きが止まってしまった。

 

「へぇ、うまく行けば改良が出来ると」

その報告書には脳無の身体データが事細かく記されている。

その情報によると、脳無は基本的に二つの個性、または強靭な肉体になるためにほとんど意識がなくなってしまうらしい。

しかし、それは無理をした結果によるもので、無理をしなければ意識を保ちつつ身体能力を上げられる可能性があると書かれている。

その為に、できれば他の脳無のサンプルが欲しいとの要望だ。

 

ーーーんー。じゃぁ、いっそのことヴィラン連合に乗り込んで脳無の情報を奪いにいくか?でもなぁ...。

 

あのヴィラン連合の襲撃事件以降、前以上に彼らの監視に注意を入れているので、現在地、主なメンバー、脳無製作所など情報が逐一上がっている為、襲撃はたやすい。

普段の金成であればこの時点で襲撃をかけるのだが、それをしないのには理由がある。

金成は自分の会社の情報部には絶対的な自信がある。彼らに調べさせたら国家の秘密事項であれど、10日もあれば丸裸にできるだろう。

そんな彼らがヴィラン連合についてわからないことがあるのだ。

 

ヴィラ連合のトップである先生という人物だ。

今まで上がってきた情報では、

何十年も生きている。

他人の個性を奪える。

他人に個性を与えられる。

オールマイトと深い関係がある。

など、少し危険な報告が上がっているのだ。

流石に全部が全部本当とは思えないが、この情報が本当であれば襲撃は危険と考えている。

 

その為に金成は躊躇しているのだ。

 

ーーーせめて個性を奪える条件がわかればなぁ。

別に長寿であったり、オールマイトと繋がりあったりとはどうでもいい。

うちのも年齢操作できる奴がいるし。

 

しかし個性を奪えるのはまずい。

今まで築き上げてきた会社が崩壊するかもしれないからだ。

 

ーーーまぁまだ様子見だな。

 

金成は報告書に、

”できるなら確保することを許可する。ただし、まだヴィラン連合とことを構えるのはダメ。“

とだけ返事を書いて次の報告書へ目を通した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

職場体験当日の朝、金成とエイミィは東京駅に向かっていた。

A組では一旦ここに集合してからそれぞれが向かうべき所へ向かう事になるらしい。

B組も東京駅集合らしいが場所が違う為、大智と美亜とは先ほど別れてきた。

金成達が集合場所へ向かっていると、東京駅前の一角に雄英の生徒らしき人らが集まっているのが見える。

 

「あ、見えたね!いこう!」

 

「あぁ、そうだな」

エイミィに手を引かれてあのグループへと近づくと、あちらも気がついたらしく、目が合う。

 

「ちゃんとした自己紹介はした事なかったな、D組の来栖金成だ。宜しくな」

 

「私は同じくD組のエイミィ・グランドーラ!宜しく!」

いつまでも見つめあっていては仕方なく、これから3年間一緒に過ごすはずなので、仲良くなる為に自己紹介をする事にした。

 

「あぁ、宜しく!俺はA組学級委員長の飯田天哉だ!わからないことがあったらなんでも聞いてくれ!」

 

「こっちこそ宜しくな!俺は切島鋭児郎だ!」

彼らを皮切りに若干もどかしくはあったものの、自己紹介で少しずつ馴染めていく。

 

 

集合時間になるまでにエイミィは女子グループと、金成は人懐っこい切島や、真面目な飯田らとともに友好を深めていく。

 

「エイミィさん。久しぶりですわ。私は副委員長の八百万百です。何かあったら私を頼ってくださいね」

 

「うん!宜しく!チアリーダー以来だね!」

 

「そ、そうですわね」

チアリーダーと聞き若干顔をひきつらせるが、見た感じ仲良くできていそうである。

 

 

 

集合時間になると担任である相澤が姿を現した。

「よし、揃ったな。来栖とグランドーラもそろってるな。全員ヒーローコスチュームは持ったな?本来なら公共の場での着用厳禁の身だ。絶対に落とすなよ。それと体験先でくれぐれも失礼のないように!じゃぁ行け」

 

「はい!」

生徒らは返事をするとそれぞれが乗るべき電車のホームへと向かって歩く。

 

 

 

 

 

「ねぇ、ボス。エンデヴァーの事務所には何分くらいで着くかな?」

 

「んー。多分三十分くらいだ。っと、この新幹線だ。乗るぞ」

金成は人ごみを避けながらも、エイミィの手を引き新幹線に乗り込む。

 

金成達が選んだ事務所はエンデヴァー事務所だ。

特に理由はないが、指名がきた中で最も有名であったため選んだだけである。

 

金成達が指定席に座るとななめ前に見覚えのある後ろ姿が見えた。

赤い髪と白い髪のツートンヘアーである後ろ姿は、雄英高校の制服を着用していた。

 

「ねぇ、ボス。あれって見覚えあるんだけど誰だっけ?」

 

「...。お前、体育祭で戦っただろ。覚えてないのかよ...。」

 

「あ、あはは」

そっぽを向いて若干引きつった笑みを浮かべるエイミィに、金成は呆れてしまう。

流石にこんなに早く忘れるとは、エイミィがバカなのか、それともそれほど印象が薄い試合だったのか。

 

金成は再びエイミィからツートンカラーの轟に視線を向けた。

確か、聞いた話によると轟はエンデヴァーの息子で会うため、体験先が一緒なのだろうと思った。

 

金成はこれから一緒になる為に挨拶はしておこうと席を立ち上がり、彼に近づく。

 

「よお。俺はD組の来栖だ。あっちのはわかるだろうけど、エイミィ・グランドーラだ」

エイミィの方に視線を向けると手をヒラヒラとさせて挨拶をしてくる。

 

「ん、俺は轟焦凍だ。よろしく」

後ろから声をかけられた轟は、振り返ると淡々と自己紹介を返してきた。

 

「轟は、多分エンデヴァー事務所だろ?俺たちもだ、これから1週間宜しくな」

 

「お前ら、親父の事務所なのか。まぁ、よろしくな」

轟はエンデヴァー事務所に行く事に若干驚きを見せるも、直ぐに表情を戻した。

 

金成はそのあとはこれ以上通路にいては邪魔になる為に再び自分の席へ戻った。

 

 

 

 

 

「ここがエンデヴァー事務所か」

今金成達はあの後最寄駅に降りると、歩いて十分ほどの距離にあるエンデヴァー事務所に来ている。

およそ10階建てにオフィスビルのような外観をしている。

駅からそれほど離れていない為に、周囲には飲食店や色々なショップが立ち並んでいて、人が多く賑わいを見せている。

 

その中に一軒だけ10階ほどのオフィスビルと若干の威容を醸し出してはいるが、それがヒーローがいるという一種の警告になっているようだ。

 

「じゃ行くぞ」

同じ場所である為共にきていた轟が先頭きって中に入っていく。

中に入るとロビーが広がっていて、受付嬢が正面に居を構えている。

 

 

「職場体験できた。親父に知らせてくれ」

 

「ようこそいらっしゃいました。すでにお伺いしております。4階でお待ちです。お通りください」

轟が挨拶をすると、相手もエンデヴァーの息子ということがわかっていて、職場体験と聞くと直ぐに通された。

 

「顔パスか。なんかカッコいいね!前もきたことあるの?」

 

「いや、ほとんどきたことはねぇが、親父の息子ってことで目立つんだ」

エレベーターに乗っている間にエイミィが轟に声をかけると、慣れているとばかりに返答した。

実際父親が有名である為に、顔パスと言った特別扱いは慣れている。

それがいいことかは別ではあるが。

 

「ボス!私もあんな顔パスやってみたい!」

 

「ん、また今度な」

流石に轟がいる前では気をつけていたエイミィは会社名を出すことはなかったが、暗に自分も会社でやってみたいと言ってきた。

轟はいまの会話を気にすることはなかったが、たまにこういう危ないことがある為ドキドキハラハラである。

 

そうしている間に4階についてエレベーターが開いた。

エレベーターを降りた一行は目の前の大きな扉をノックして中に入ると、目の前にいたのはエンデヴァー本人と相棒(サイドキック)が数十人が中でソファに座って待っていた。

この階は休憩室なのか、ソファに自販機など寛げるスペースになっていた。

 

「おぉ、きたか!焦凍!それに、残り二人。じゃぁ説明するからこっちへ来い」

轟は親子仲が悪いために素直に返事ができなかったが、素直にエンデヴァーが座ると向かいの席へ座り、金成たちもそれに続くように同じソファへ座る。

 

ーーーこっち見ないなぁ。

金成はエンデヴァーがほぼ轟のことしか見ていなかったため、若干の苦笑を浮かべていた。

 

 

エンデヴァーの説明によると、金成達がすることはサイドキックのメンバーに連れられてヒーローらしく町の見回りが主な事らしい。

一方轟はエンデヴァーの希望により、エンデヴァーと直接戦闘訓練するとのこと。

 

金成とエイミィはその事が明らかな身内贔屓と思ったが別になんとも思っていないために、気にせずにいた。

 

 

「じゃぁな轟。また後で」

 

「ん、あぁ」

金成達は話が終わると、若干の不機嫌そうな轟はと別れた。

 

 

「轟くんってエンデヴァーさんと仲悪いのかな?」

 

「さぁな」

エイミィが先程の轟の態度に親子仲が悪いかと思い金成に尋ねるが金成ははぐらかした。

実際は見聞色で心を読んである程度の事情を察したが、流石にプライベート過ぎるためエイミィは言えなかった。

 

ーーーまぁ、他人は他人だしどうでもいいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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二十五話 保須市へ出張

「それでどこへ行くんですか?三木さん」

 

「あぁ、取り敢えず事務所の案内かな。1階からとりあえず案内するから」

 

「おぉー!楽しみだね、ボス!」

金成は目の前で歩くエンデヴァー事務所のサイドキックである三木という男性に連れられて歩いていた。

この人は金成達の案内役、兼教育係に選ばれているらしい。

エンデヴァー事務所には数十人のサイドキックがいるが、その中で選ばれているだけであってかなり強そうだ。

 

「ん?君は確か来栖って名前だと聞いたが…ボスって言うのか?」

 

「あ、あはは。これは渾名です。わかりにくくてすみません」

またやったなと思いエイミィの後ろから背中を叩いて怒りを表す。

毎度のことながらも、苦笑いでごまかすエイミィ呆れつつやはり無理かと諦める。

 

ーーーまったく...。

 

 

 

 

「ここは見ての通り、ロビーだな。依頼を受け付けたり、来訪客の対応するとこな」

エレベーターに乗り、1階に着くと三木は説明を開始する。

 

1階がロビー。

2階、3階が事務処理を行う事務室。

4階が休憩スペース。

5、6、7階が戦闘訓練を行う部屋。

そして、8階がエンデヴァー専用の訓練部屋。

9階は仮眠室で、10階はエンデヴァーの私室。

 

「よし、一通り説明を終えたし、じゃぁ実際の見回りに行ってみるか」

全階の説明を終えた三木は一旦ロビーへ降りると、来客用のソファに座ると目の前に座っている金成とエイミィを見渡す。

 

「質問なんですけど、見回りってどんなことやるんですか?」

一言見回りと言われてもよくわからないために、エイミィが質問した。金成もそのことが気になったために三木を見つめて頷く。

 

「あぁ、それは多分普通だと思うよ。駅前であったり、繁華街など人が集まるところは争い事がよく起こるから見回りするだけだ」

 

ーーー警察みたいだな。

ヒーローというためもっとそれらしいことすると思ったために少しキョトンとしてしまった。

 

「あはは、こんなもんだよ。常にヴィランと戦うだけが仕事じゃないしね。街の平和を守るのが仕事だから」

金成の表情を見た三木はこういう体験授業の説明をよく経験しているため、みんな初めはそのようなことを言う事が分かっていたからスラスラと答えた。

 

その後は三木に連れられて街を見回ることになった。

「やっぱ人が多いね」

 

「あぁ、だがその分争い事が多いらしいからな」

事務所を出る初めに駅まで見回りするらしく、三木の後ろを歩きながらついて行く。

エイミィと金成は人の多さに若干気圧されながらも初めての経験のためか、真剣に取り組んでいる。

 

ーーー普通のヒーロー事務所はこんな感じなのか。

エイミィと金成は自分の会社で行っている見回りとは少し違うことに驚いている。

基本的に金成の会社で行う見回りは探知系の個性持ちが区内全域に捜査の網を広げているため、こうやって歩き回ることなどほとんどないのだ。

 

 

その日は先ほどと同様に、見回りだけを終えて1日を終えた。

事務所へ戻ってきて再び4階へ戻ると、轟が疲れた様子でソファに腰をかけていた。

エンデヴァーは近くにいないらしく、姿が見えないがみっちり訓練を行ったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃぁ今日はうちのサイドキック達との訓練をやってみるか」

1日目の見回りを終えて、2日目も同じと思っていた金成とエイミィ。

しかし今日は訓練らしく今は6階の訓練室で多くのサイドキック達と向き合っていた。

部屋はシンプルな衝撃吸収する素材を使われた白い壁でできている。

広さは20メートルの正方形の形だ。

 

 

「訓練ですか?どう言ったものでしょうか?」

 

「取り敢えず格闘技の訓練かな。流石にグランドーラの個性に耐えられる作りにはなってないからな」

金成達の個性を知っているためか、若干頬を引きつらせながら説明して行く。

取り敢えず、一対一の組手を繰り返し行って行くらしい。

 

「じゃぁ先ずはどんな感じか来栖からやってみようか。おい、ブランやってみろ」

金成が呼ばれたために一歩前に出て組手の準備を行う。

一方で三木に呼ばれたブランという男は話によるとまだ入社して半年ほどのサイドキックらしい。

少し大柄の男ではあり、こちらをみる目は真剣そのものであった。

 

ーーー学生だからって傲りが全くないなぁ。

そのことに若干の驚きを見せるがすぐに顔を直して準備運動を終えた。

周りは10メートルほど離れており、その円の中央に二人は向き合っている。

周りのサイドキックからこちらを窺うような視線が多く、注目しているのが分かった。

多分あの体育祭の中継を見ていたのだろう。

 

「ボス頑張ってねー!」

無邪気な応援が聞こえてくるが、金成は今は目の前に集中する。

 

 

 

「では、はじめ!」

審判をすることになった三木が両者の準備を終えたのを確認すると始まりの合図を告げた。

 

合図とともに二人は動き出したが、明らかに金成のほうが初動が早く、金成の拳がすでに目前に迫っている。

ブランもそれに気がつき、後手に回ったことに若干悔しがりながらも

すでに避けることは不可能と思ったために腕を交差して防御態勢に入ったがそこに衝撃がくることはなかった。

 

「んぐあっ!」

ブランは突然背後から鋭い衝撃を受けて肺の空気を全て吐き出す。

とっさに背後に向き直るがすでに相手の姿はなく、今度は脇腹に衝撃を感じ意識を手放した。

 

 

ーーーやっぱやべぇよ!

 

ーーーほんとに学生かよ。早すぎんだろ。

 

「そこまで!いやぁ、ほんとに強いね。まだ学生だっていうのに」

三木は学生にしては異常な強さである金成に驚きながらも祝福する。

これほどの逸材がいて、且つまだ1年。これからどれほど成長するかが楽しみであり、焦りでもある。

 

「ボス!おめでとう!」

 

「あぁ、サンキュー」

駆け寄ってきたエイミィを撫でつつ、今の試合を振り返る。

まだ駆け出しのサイドキックとはいえ、少しお粗末だなと感じていた。

今回金成がやったことはスピードで翻弄することだけだ。

初動が遅れた時点で、スピードでは負けており、相手は無理にでも前に出て反撃するしか勝利は無かった。

両手でガードした為相手から視線が外れてしまい、簡単に背後に回れてしまったのだ。

 

ーーー剣司だったら激怒もんだな...。

マネトリアカンパニーの鬼教官と言われている訓練部のトップを思い浮かべて苦笑いを浮かべた。

 

その後はエイミィがやる事になったが、予想通り大して苦戦する事なく勝利を収める。

金成にとっては驚きはなかったが、他のサイドキックらにとっては個性により近接は苦手と思っていたが、重い一撃に巧みな体捌きと意外にもできるために驚きを隠せない。

 

それ以降はペアを変えながらもずっと格闘技をしてその日を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・という風に、彼らに鼓舞されたのか凄いほど訓練に熱心でしたね」

三木は夜になると、目の前の社長席に座るエンデヴァーに今日の報告をしていた。同じサイドキックらは学生に負けられないと、いつも以上の訓練を行ったために、三木も彼らを指導する身としては嬉しい事この上ない。

 

「そうか。わかった。それより、明日保須市へ向かう事にしたから準備をしてくれ」

 

「....わかりましたけど、理由を聞いてもいいですか?」

突然の話題転換に驚きながら首をかしげる。

 

「ステインを知っているだろ。定例通りなら奴はまだ現れる。出張に行くぞ」

ヒーローらしく頼りになる声色のエンデヴァーである。

髭のあたりで炎が燃えているために威圧感がすごいが、三木は慣れているために指示通りに動く事にした。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「え、これから保須市に出張ですか?」

 

「あぁ、殆どのメンバーも連れて行くらしくてね、君らも一応見学じゃあないけど着いてきてね」

次の日も朝起きていつも通りに4階に行くとそこにはコスチュームを纏ったエンデヴァーやサイドキックらが揃っていた。

一体なんだと若干訝しみながらも理由を聞いて見ると、エンデヴァーがあの‘ヒーロー殺し’で有名なステインが出ると予想したらしく、出張という名目で捕らえに行くらしい。

 

ーーーステインねぇ。あいつそんなに捕まえたいのか?

聞いた事によると昨日突然思いついたらしく、そのことを聞いた金成はなんとも言えない気持ちになってしまう。

 

ーーーヒーローって意外と自由なんだなぁ。

 

「なんかヒーローって意外と自由ですね!」

一瞬自分の声が漏れたかと思った金成だが、それを発したのは隣のエイミィだった。

 

「あ、あはは。まぁ臨機応変って言うか、ヒーローは身軽さが大事だからね」

後ろ髪が若干跳ねて可愛らしくはあるがなんとも遠慮がなく、金成は身内がおバカなことを恥ずかしく思い、少し居心地が悪い。

これ以外にも思い当たる節がある為に、三木も強く否定することはできなかった。

 

 

「じゃぁこれから保須市へ向かう!市へ連絡を入れろ!それとビルの前に車を回しとけよ!出発は1時間後だ!」

エンデヴァーは彼の特徴であるヒーローコスチュームを纏っている。

顎髭以外にも、目元であったり、腕、足といった至る所から若干火を出し纏っている。

エンデヴァーの指示を聞いたサイドキックらはハキハキと行動を開始した。

「かっこいいなぁ」

純粋に見た目だけでかっこいいと思った金成は声に漏らす。

 

「でしょ。あれでもNo.2ヒーローだからな」

三木は金成が漏らした声がヒーローとしてかっこいいと勘違いして、エンデヴァーを褒めまくるが、流石に違うとは言えない為に話を合わせ続ける金成だった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

《ボス、報告があります》

 

《ん?津奈(つな)か?》

 

《あ、津奈ちゃん!》

金成達がビル前に止められた大きな車に乗り組むと、情報部であり念話の‘個性’持ちである津奈から念話が届く。

横にいたエイミィは突然の念話に一瞬ピクンと体を動かしてしまったが、同じ車に乗っているサイドキックらが気がつくことはなかった。

 

ーーーまだ慣れてなかったか。

 

《それよりどうした?津奈が念話で飛ばしたって事は緊急か?》

基本的に報告は全て書類で行い、後で見る為に念話まで使う事はなく、使うのは緊急時がほとんどである。

 

《ステインが合流したヴィラン連合が動くらしいです。時間は凡そ午後の四時頃。今が十二時なので四時間後ですね。襲撃場所は保須市です。メンバーはリーダーの男とワープの‘個性’を持った男。それにステインと脳無複数です》

なんともまぁエンデヴァーの予想はドンピシャであった。

野生の勘なのかヒーローの感なのか兎に角びっくりである。

 

ーーー意外と早く動いたなぁ。それに‘先生’は動かないか。

 

これは脳無を手に入れるまたとないチャンスである。

それに元々は奴らの戦力を少し削ろうかと思っていた為金成達が動くなら‘先生’が動かない今しかない。

金成は瞬時に脳内でメリットデメリットを天秤にかける。

メリットは、脳無の確保、戦力を削れる。

デメリットは、おそらく多くのヒーローが出てくる為に身バレ、又は確保される。

因みに負けると言う考えはほぼない。一応のため出すなら最大戦力を出すからだ。

ーーーよし、いっちょやってみるか。

 

色々と理由を並べたが、金成がこの戦いに参戦する最大の理由はーーー

 

《津奈、こちらも動くと軍部の荒戸に伝えてくれ。確か今日は会社にいたはずだからな。あとお前が直接いってこい。と伝えてくれ。目標は脳無の確保。あと出来れば敵の排除。ヒーローには身バレ、逮捕に気をつけろと伝えておけ》

 

《畏まりました。ボスは如何致しますか?》

そんなの聞くまでもなく金成の答えは決まっている。

隣のエイミィも決まっているらしく、少し楽しそうに笑みを浮かべている。

 

《行くに決まってるだろ》

金成は若干カッコつけたニヒルな笑みを浮かべて念話を終えた。

 

 

ーーー第三勢力ってなんかかっこいいよな!

と言う、なんともくだらない理由である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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二十六話 保須市 放たれた狂気

「・・・との事で、今直ぐ向かったほうがよろしいかと」

金成達が津奈からヴィラン連合について報告を受けた数十分後、軍部の隊員である臥雲が目の前に軍部のトップである荒戸に報告を上げていた。

「うへぇ。昨日遠征終わったばっかなのになぁ」

グデーっとデスクに身を投げ出しだらけた声をあげて俯いている。

目の前に部下である臥雲が居るが、そんな情けない姿を見せてもいいのだろうか、と臥雲は思うが既に慣れてしまって居るために気にしていない。

 

「それで連れて行くメンバーはどうしましょうか?」

 

「んー。流石にボスからの命令だし、適当なメンバーじゃダメだよなぁ」

すでに命令で下されて居るため、これ以上荒戸が駄々をこねることはなく佇まいを正し背筋を伸ばす。

 

先程までのだらしない表情ではなく、確かに軍部のトップなんだと思うような威厳のある表情で考え出す。

金成から命令が下ることはあるが、軍部のトップである荒戸自らが行けというような命令など滅多にない。

その事からも、金成がどれだけ力を入れるか、相手の力量が見えて来る。

ーーーまぁ臥雲に任せておけばいいか。

考えるには考えたが、元から頭を使うのは好まない為に、目の前の自分の右腕である臥雲に託す事にした。

 

「じゃぁ、俺と臥雲、後はそっちで任せる。一応十五人くらい選んでくれ」

 

「畏まりました。では三十分後に裏のロビーでお待ちください」

臥雲は一礼をすると、すでに頭に浮かんだメンバーを集める為に荒戸の執務室から退出した。

 

「‘先生’ねぇ」

臥雲が荒戸の部屋から退出すると、荒戸は報告書を片手に椅子に体重をかける。

この報告書は金成が見たやつと同様であり、ヴィラン連合についての詳細が書かれている。

 

「でもまぁ、ボスなら負けないんだろうなぁ」

どれほど‘先生’がやばいやつかはこの報告書を見ただけでわかる。

しかし荒戸に不安などはなく、脳裏に浮かぶのはあの頼りになる後ろ姿に、綺麗に輝き靡く金髪。

普段は飄々としては居るが、彼は初めて金成に出会った時から思う気持ちは変わらない。

 

「さてと!命令ですからねぇ。頑張るっすよ!!」

勢いよく椅子から立ち上がると、部屋にあるコスチュームがしまっているタンスを勢いよく開けた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「ついたか」

 

 

金成達が保須市へ着いたのは午後の一時三十分ころで、津奈によると襲撃は四時らしいからまだ二時間三十分の猶予がある。

金成達の車が初めに向かったのは保須市の市役所であり、今は市役所の車庫に車を入れて各自が車から降りている。

 

「んー、長かったねぇ」

車から降りると、エイミィは大きく背伸びをして身体をほぐしているが、プロ達は慣れているのか直ぐにそれぞれの装備の点検に入った。

 

「それよりボスどうする?」

 

「まずは一緒に動く。まぁ後は隙を見つけて逸れた風を装えばいける」

隣に来たエイミィが耳を寄せて囁くように聞いて来た。

そんなあからさまなポーズはやめて欲しいが、まぁ誰もこちらに注目していなかったため別にいい。

 

それより、金成達と一緒に職場体験に来た轟は何かあった時は自分も参戦するつもりか、しっかり装備で身を固めて、市役所の職員と話すエンデヴァーの斜め後ろあたりで話を窺っている。

一方で金成達の姿はジャージである。

流石に一週間でコスチュームは届かないために、職場体験には学校のジャージで参加していた。

 

「...はぁ。」

 

「どうしたの?」

 

「いや、うちのコスチュームを着たかったなって」

自分の社長室においてあるだろう、自慢の一品を着れない事に溜息を漏らしてしまうが、わがままを言える状況ではない。

エイミィは残念そうに呟く金成の視線が轟の方を向いてるのを確認して面白そうに微笑んだ。

 

ーーーボスって意外と子どもっぽいよねぇ。

 

 

 

 

あの後、市の許可をもらったエンデヴァー一行はそれぞれがチームを組んでの見回りとなった。

轟は勿論エンデヴァーのチームでついて行くことになり、金成達はここ数日で仲良くなった三木を筆頭とするチームだ。

 

「よろしくお願いします」

 

「あぁ、宜しく。でも絶対来るってわけじゃないからね。気負わなくてもいいよ」

金成達が礼儀正しく挨拶したのを緊張のせいと勘違いした三木は緊張をほぐそうといつも以上の笑顔で話しかけて来るが、申し訳ない。

金成達はヴィラン連合が来た時は逸れるつもりなので、その時は迷惑をかける為に丁寧に挨拶したのだ。

 

ーーーいやぁ、あとで怒られるかなぁ。まぁいっか。

 

それから直ぐにチームメンバーの顔合わせとなった。

「じゃぁ一応紹介しとくか。こっちは同じサイドキックの甘城。主に災害救助での活躍が多い。で、こっちは風紀、医療系の‘個性’だから怪我した時に言えよ」

三木は金成とエイミィの為に同じサイドキックである仲間を紹介する。

 

「おっす。宜しくな。頼りにしてるぜ」

 

「よろしく〜。怪我の時はこっち来てね〜」

甘城と紹介された男は少しチャラそうな荒戸に似た雰囲気を感じた。

若干いたずら猫のような表情ではあるが、しっかりと鍛えられている肉体である為、頼りになりそうな雰囲気を纏っている。

一方の風紀と紹介された女は若干頼りなさそうな感じだ。

垂れ目の上にジト目のような半目であるために、眠そうな印象しかない。

その上、狙ってるのか猫型のパーカーを見に纏っているために、既に軒先で日光浴を楽しむ猫そのものだな、と金成は感じた。

 

ーーーでも、強そうだなぁ。うちの訓練生とどっこいどっこいか。

 

この二人と三木、金成とエイミィを加えた五人でのパトロールをする事になった。

他のチームも四、五人が基本となりチームを組んでいて、既に準備ができたのか、それぞれまとまって市役所を出発して行った。

 

「じゃぁ俺らも行くか。まずは西の方からな」

 

「はい。」「うっす。」「は〜い。」「レッツゴー!」

三木は端末を片手に行き先を決めて先頭を歩き出し出そうとしたが、それぞれが締まりのない返事をしたために初めの一歩を踏み外した。

 

「三木ださいなぁ」

 

「うぷぷ。何やってんの〜」

仲間の二人は口を抑えたバカにしたような口調で、バカにする。

 

「お前らのせいだろ!しっかり合わせろよ!」

三木の方は立ち上がると直ぐにイラついた感情を爆発させて二人に詰め寄るがいつもの事であるのか、受け流すように話を流して再び歩き出した。

 

「ボス、なんかこの人ら大丈夫かな?」

 

「ま、まぁ戦闘になれば大丈夫だろ」

本当に逸れてしまう事に若干の不安を覚えつつも、前の三人について行った。

 

 

 

 

「何も出ないな」

 

「うーん。ヴィラン一人でないね」

あれから2時間ほど見回りをして続けているが何も問題が起こる事なく時間が過ぎて行った。

まぁ、四時になると出て来ることはわかっている為に、このセリフはあえて三木達に聞かせる為に呟いただけだが。

 

「まぁ、今回は一応の警備だからね。出ないこともあるよ」

三木達も出ない事に若干気を緩ませているがサボるようなことはなく、次の警戒するポイントへと足を進める。

 

「よし、エイミィ行くぞ」

 

「ふわぁ、うん」

エイミィは流石に退屈なのか大きくあくびを漏らしつつ、隣の金成に歩調を合わせて歩き出した。

 

 

鮮やかな青色であった空色だが、次第に暗雲が立ち込めるように雲行きが怪しくなって行く。

まだ茜色に染まるには早い午後四時。

この街が悲鳴の渦で包まれるまでもうほんの少し。

 

 

 

保須市にあるビルの屋上にある貯水タンクの上で、突然人影が3つ現れる。

 

「保須市って意外と栄えてるんだな」

 

「この街を正すにはまだ犠牲がいる」

ヴィラン連合のリーダーである死柄木が思いの外栄えている街に感嘆の声を漏らし、一方で狂気に満ちた気配を纏わせた‘ヒーロー殺し’のステインは刀を引き抜き舌で舐めた。

 

「ヒーローとは偉業を成し遂げた者のみが与えられる称号!多すぎるんだよ...。英雄気取りの拝金主義者が!この世が自らの誤りに気がつくまで俺は現れ続ける」

そう言葉を切るとビルから飛び降りていった。

 

「あれだけ語ってやることは草の根運動とは泣けるねぇ。あぁむかつく。黒霧、脳無を出せ。大暴れ競争だ。あんたの面子と矜持を潰してやるぜ、大先輩」

死柄木が不機嫌な声で、後ろに控えた黒霧は自分の‘個性’で黒い靄から三人の脳無を出すと、彼らは街に散っていった。

 

そうしてこの街に一つの狂気と、三つの怪物が放たれた。

 

 

「それより、死柄木。あの件はどうしますか?」

 

「あの件ってなんだ?」

背後から黒霧が訪ねて来るが、本当に死柄木にはわからなかったらしく、首をかしげる。

 

「先生が言ってたでしょう。ここは足立区に近い。奴らが出張るかもしれません」

 

「....。アイツらか。なんだか知らないが、俺ら以外のヴィランを纏めてるんだって?お前もそうだが、珍しく先生が警戒していた」

先生や黒霧が異様に金成の私部隊を警戒しているが、死柄木はなぜ警戒しているか理解できない。

ただただ居座っているだけでなにも行動を起こさない、腑抜けにしか思っていないのだ。

 

「来るなら来い。俺がぶっ壊してやる」

 

「...。はぁ。仕方ない」

明らかな慢心を見せる死柄木に不安を抱きつつ、奴らが現れたら逃げればいいと考える黒霧の中だが、先生にとってはこれも慢心。

 

ーーー奴らにはまだ手を出すな。見つかったら逃げろ。

黒霧は異様に控えめな先生を思い出していた。

普段は好戦的な一面を見せるが、こういう警戒した面を見せるのは珍しいからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

きゃぁああああ!!!!

 

金成達が警備のために街を歩いていると、前方より悲鳴が聞こえた。

耳をつんざくような声に反応するように全員が身構える。

 

「なに?!悲鳴だ!みんな行くぞ!」

突然の悲鳴に一瞬驚くが、三木は瞬時に状況を察する。

きっとステインが現れたのだろう、と。

 

「わかった!おい、金成に、エイミィ、お前らは今すぐ市役所に行って報告をしてくれ!」

それを聞いた甘城は即座に金成らに市役所へ行って報告をあげるように指示をするが、それは建前に過ぎない。

結局は金成とエイミィは学生であり、ヒーロー資格を持っていない。

その為に戦闘することは許されないから、市役所に向かわせることにした。

 

ーーー生徒には戦闘はさせられない、か。好都合だ!

 

「っ、はい!エイミィいくぞ!」

 

「うん!」

思わぬ展開に、都合が良かったので三木らに反対することなく返事をすると、そのまま後ろを振り返り市役所の方向へ走り出す。

 

 

 

それを確認した三木らは悲鳴のした方向に視線を向け、こちらに逃げて来る人ごみを確認するとそれを避けるように走り出す。

 

「皆さん!落ち着いて避難してください!私たちはエンデヴァー事務所のサイドキックです!」

 

 

 

 

 

 

人を避けるように金成とエイミィは市役所の方向へ走っているが、市役所へ向かっているわけではない。

金成は悲鳴が聞こえた途端に見聞色の覇気をこの街中に発動していたのだ。

 

「ボス!どこ向かってるの?」

 

「あぁ、今回の元凶へ向かってるんだ。エイミィも下っ端の脳無はつまらないだろ?」

 

「勿論!」

後ろを走るエイミィからの質問に足を止めることなく答えていて、声からも楽しそうな雰囲気がうかがえる。

 

金成は現在も覇気を発動しつつ、元凶と思える気配の元へ向かっている。それによると保須市の中心あたりにあるビルの屋上に現れたらしく、そこから脳無が放射状に放たれていった。

その脳無には既に荒戸に命令して居たために、自分らは元凶へ向かうことにしたのだ。

 

四方から黒煙が上がり、悲鳴が聞こえて来る。

自分らが走っていると、慌てて逃げる人々とすれ違って行く。

 

そうして気配の方向に走っていると、上空から別の大きな気配を感じる。

 

「来たか。アイツ、空船を出したか」

 

「おー!あれできたのかぁ!」

ピタっと足を止めた金成らは上空を見上げると、そこには大きな船が浮かんで居た。

上空500メートルほどで直径15メートルほどの鉄製の船がまるで空を泳ぐかのように動いていた。

まぁ浮かんでいるといっても、金成は覇気で気配を感じ、エイミィも金成の声に反応したに過ぎない。

実際は透明で、ほとんど何があるか見えない。

 

あの空船は臥雲の‘個性’によって浮かばせていて、一人の戦闘員の‘個性’、触れたものを透明にする能力で姿を隠している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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二十七話 保須市 軍部出動

《ボス。軍部も行動を開始します。目標はこの街に放たれた3匹の脳無で宜しかったでしょうか?》

空船を確認した金成達が再び走り出すと、情報部の津奈から念話が届いた。

 

《あぁ、それでいい。俺らが元凶のやつがいたとこに向かうから。あんま目立つなよって言っといてくれ》

 

《津奈ちゃん。またね〜》

 

《了解です》

それ以降は再び前を向くと人ごみを避けつつ目標へ向かって走り出した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「荒戸様、ボスはこのまま元凶に向かうため、脳無の確保は任せる、とのこと。あと目立つな、との伝言です」

上空に浮かぶ空船の先端部分の椅子に座る荒戸に報告をするのは、後ろに控えて整列している人々に混じる情報部の津奈だ。

黒いリクルートスーツを見にまとい、オレンジ色の長髪が風に靡いている。

真面目そうな表情ではあるが、優しそうなオーラが滲み出るような、綺麗な顔をしていた。

 

「んー。そうかぁ。じゃぁ決められた3部隊で向かってくれ。俺がステインってやつがいるとこ。臥雲はエンデヴァーってヒーローが相手をする脳無。後の2部隊はそれぞれが脳無を確保しろ」

威厳を含ませた声で、目の前の黒煙が上がる街を見下ろしながら指示を出して行く。

今回連れて来たメンバーは、荒戸、臥雲、津奈、残り八人の戦闘員。

荒戸に一人、臥雲に一人、残り2名ずつで組んだ4チームで動くことになる。津奈はこの船に残って情報塔の役割であり、残りの二人の戦闘員は津奈の警備だ。

 

それぞれの戦闘員が指揮を聞くとそれぞれが配置に着く。

 

「荒戸様、くれぐれも目立たないように」

 

「あー、わかってるって」

 

「はぁ...。絶対わかってない」

列にいた臥雲は不安を隠しきれずに荒戸に忠告するが明らかに話を流している。

これはマズイかな、とは思うがいつもそうであるため期待しているしかない。

 

それを横目で見ていた津奈は自分も日陰の面倒を見ているため、同じ境遇なのかと思ってシンパシーを感じた。

 

 

「よし。行動を開始する!目標は脳無の確保!行け!」

その合図と同時に、船の淵に立っていたメンバーはそれぞれ船から飛び降りた。

 

上級500メートルから飛び降りたの荒戸は体中に風圧を感じながら地上へ向けて降りていく。

 

「うひょぉ。やっぱこえぇなぁー!」

 

「え?なんですかー?!聞こえないです!」

 

「んぁ?!なんでもねーよー!」

 

荒戸は大きな声で興奮を表すが風圧により生じた音で隣にいる戦闘員、グランは声が聞こえていない。

唯一わかることは風圧で荒戸の表情が歪みながらも楽しそうにしているために、楽しんでいるであろうことがわかる。

 

ーーーほんと気楽だなぁ。荒戸様は。

この戦闘員は普段は遠征で参加してはいるが、このようなボスに指示されて、日本での戦闘はほとんどないために緊張を隠せないでいる。

 

周りを見渡すと同じように飛び出したメンバーがそれぞれが標的とする方向に移動しながら落下していく。

 

ーーーそろそろか。

すでに地面までの距離は100メートルもない。

荒戸はビルとビルの間の路地裏に狙いをつけると態勢を立て直し、腕を伸ばすと‘個性‘を発動させる。

すると指からピアノ線のような鋭く細い糸が5本の指から伸びてきて、そのままネットのように動かしてビルとビルの間に張り付けた。

荒戸の‘個性‘は糸を体から生み出し自在に操ることができる能力であり、その生み出された糸は刃物のように鋭く物体を切り裂くことができ操り方によっては自分の分身を作って操ることもできる。

 

 

「...ふぅ。着地成功」

ネットの中から飛び降りて地面に軽やかに着地を成功させると、懐から白い仮面を取り出し顔へつけ、仲間のグランが着地するであろう方向を向く。

荒戸が向いたころはちょうど着地をするところだったらしく、グランは地面に衝突する寸前に掌を地面に当てると掌の先から衝撃波のようなものが発生してその風圧で着地をした。

グランの‘個性‘はあらゆるものを弾き飛ばす能力であり、自分を弾き飛ばし疑似瞬間移動をすることができ、物体でなくても気体であったり、疲労、痛みなど形の無いものを吹き飛ばすことも可能である。

 

「荒戸様、では向かいましょうか」

着地を決めたグランは、荒戸と同様に懐から取り出した白い仮面を顔へ付けると、荒戸に視線を向けて早く任務を遂行しようと先を促す。

 

 

「よし、じゃあいくか。っとあっちか!」

荒戸が先ほど上空で確認したステインが戦闘を行っているであろう方向を見ると、爆破音が聞こえて戦闘のすさまじさを物語っている。

同じくその音を確認したグランは音を確認して走り出した荒戸に続くように後を追った。

 

 

 

 

戦闘が行われているだろう現場まで行くと、ステインと雄英高校の生徒である緑谷と飯田が戦闘を繰り広げていたために、通路脇に身を隠す。

「さてどうするか。今回の目標は脳無で、こっちはついでだからなぁ」

そう、今回ステインの方へ自ら赴いた理由は単なる興味である。

他の脳無の方はどうなのかと言うと、事前に日陰が操る脳無である程度の戦闘能力を図っていたため、前回と大きく変わってない限り大丈夫と判断したのだ。

 

「どうしますか?此処はボスの要望通り目立たないために引くのが吉ですが...」

控えめに言ってグランはボスに怒られたくないために、自らの上司に進言をするが、ダメなんだろうなと思っている。

この上司はお遊びが好きなのだ。

任務が遂行できるなら余計なことまでやってしまうのである。

まぁ、そうは言っても殆ど影響が出ないために、自分含む他の部員は目を瞑っていたが、流石に今回はボスからの直の命令だ。

あまり多ごとにはしたくない。

 

 

「あっ」

荒戸が声を発したためグランが荒戸が向いている方向へ向くと、荒戸らの目前に氷が迫ってくる瞬間であった。

その氷を放ったのは荒戸たちとは反対方向にいる轟が‘個性’で放った氷だ。

先程は飯田と緑谷のみでステインと戦っていたが、援護に来たらしく、先制攻撃とばかりに氷を放ったのだ。

ステインに放った氷は、ステインが避けたために彼から10メートルほど離れた位置にいた荒戸達に届こうとしていた。

 

 

 

「っと危ないなぁ」

戦闘を覗くために身を乗り出していた荒戸は目前に迫った氷を咄嗟に‘個性’で生み出した糸でバラバラに切り裂いた。

 

当然そんなことをすればバレるのは必至である為、ステインも彼と戦っていた緑谷達も一瞬体を硬直させてこちらに振り向く。

 

 

「だ、だれだ?!お前らの仲間か!」

緑谷が同じくこちらを向いているステインに怒鳴りかけるが、ステインは答えを持っていない。

 

「ハァ....なんだお前ら、ハァ....お前らも英雄気取りのヒーローか?」

ステインの方もわかっていない様子を見た緑谷は混乱する。

荒戸らは怪しげな白い仮面を被った二人組であり、そんなヒーローは聞いたことがない為、明らかにヴィラン側と思っていたのだ。

緑谷はあれほどの強そうな個性を見たために、既にヒーローかヴィランかと言う選択しか頭になかった。

 

「いやー、悪いっすねー。戦い邪魔しちゃって。でも氷がきたもんで」

一歩前に踏み出した荒戸は仮面の下でヘラヘラとした笑みを浮かべながら、ペコペコと頭を下げる。

 

「....はぁ。どうなっても知りませんからね」

既に関与してしまったからにはどうしようもない。あとは成るように成るだろうと、諦めの感情を抱きつつグランは荒戸の隣に並ぶように前に出た。

 

 

「ハァ...。関係ないなら、ハァ...早く去れ。じゃないと殺す」

ステインは既に自分の敵かと思われる荒戸らの出現により囲まれる形になったために、さっさと彼らには立ち去って欲しいと思っている。

 

「いやぁ。特に用はないんだけどね。きみステインって奴でしょ。ちょっと暇潰しにヤり合おうかなって。それにピンチっぽいし助けてあげようかと」

 

「....暇つぶしって」

明らかに場違いなセリフに緑谷は若干フリーズしてしまう。

 

「なんなんだ君らは!遊びで来るようなところではない!早く立ち去ってくれ!」

腕を負傷している飯田は痛みに耐えながらも荒戸らに注意するがそれは意味をなさない。

 

 

暇つぶしと聞いた瞬間に引かせることを無理と判断したのかステインが錆び付いた刀を手に持ち地面を蹴って荒戸に斬りかかる。

 

「避けて!」

 

「まだ遅いんだよなぁ。それにもう此処、俺の領域内なんだよね」

緑谷が咄嗟に叫ぶが、ステインの刃が届くことはなく既にこの通路に張り巡らされた糸によって止められてしまう。

 

「なんだ?ハァ...。糸か、面倒な。...クッ!」

ステインは咄嗟に身を引こうとするが動けないでいることに気がつく。

彼の首筋から一滴の血が垂れてきている。

 

「それ以上動くと、首が落ちちゃうよ」

既にステインは荒戸の手の中であり、首、腕、足、と鋭い糸で巻きつかれている。

 

 

「なんだ?!ステインはなぜ動かない!」

 

「あれは...。糸だ。よく見てみろ、若干日の光に反射してるのがわかる。いつの間に貼りやがった。さっきまではなかったはずだ」

飯田の疑問に彼の隣まで歩いてきた轟が冷静に答えるが、警戒はより一層強まる。明らかにステインを簡単に拘束したことから自分らより格上ということがわかる。

ステインの味方ではないがこちらの味方とは限らないため、迂闊に動けないでいた。

 

 

「それでステイン。ちょっとした疑問なんだけど、なんでヒーローだけ殺して回ってるの?恨みでもあるんすかね?」

 

「....ハァ、今世に溢れるヒーローと呼ばれる奴らは虚像に過ぎない。本来ヒーローとは見返りを求めず、選ばれた、試練を乗り越えたもののみが与えられる称号だ。こんな腐りきった世に溢れるヒーロー像など無意味、いや、害でしかない。俺はこいつらを殺し、真の平和をもたらすことが宿命なんだ」

頭の中でこの糸から逃れる方法を探しつつ、時間稼ぎのために質問に答える。

抜け出そうと考えるが一向に見つからない。少しでも動かせば肌が切れて血が滲み服が綺麗に裂ける。

 

「あちゃぁ、こいつは狂信者って奴か?なぁ相棒(グラン)

 

「そうですね。まぁ普通のヴィランより目的がある分恐ろしいですね」

仮面をかけているため、ここは即席の呼称を決めて言葉にする。

 

彼らが話をしている一方で緑谷達はこれからどうするか必死に頭を動かす。

先程まではステインに負傷を負わされ、正直あの状況では渡りに船であった。

しかしながらその状況を一変させたのが味方かどうかもわからない二人の仮面男。

 

 

「なぜお前が此処にいる?!座ってろっつったろ!」

 

「グラントリノ...ングフッ!」

突然聞こえてきた声は、緑谷の背後からであった。

身長が100センチ前後のヒーローコスチュームを身に纏ったご老人が緑谷の顔面に蹴りを入れる。

 

「それより、今ステインと戦ってたんだけど、変な人たちが入ってきて...」

 

「ステインと戦っただと?!...ん?変な人?」

グラントリノの足の裏からの緑谷の声に、ステインがいる事だけでなく仮面を被った二人組がいることに気がつく。

 

グラントリノは瞬時に状況を把握する為に頭を動かす。

目の前にはピアノ線のような糸に絡まれたステイン。

その前には余裕の態度で佇む二人。

 

「何もんだ。お前ら」

グラントリノはすぐさま緑谷達の前に出て、荒戸たちを睨みつけるように構える。

 

ーーーんー、増えてきたなぁ。そろそろ脳無の回収も終わりそうだし、撤収しようかな。

 

「何者って言われてもっすねー、ただの社員っすよ。派遣社員って奴?」

会社名を出すわけにいかず社員と答えたが間違ってはいない。

派遣社員も、しょっちゅう遠征に向かっているので正しいはずだ。

自分で言っといてなんだが海外派遣が週一以上ある派遣社員と字面だけでは結構なブラックでは無いだろうか、と考える荒戸である。

 

 

「...。社員?組織に属してるっつーことか」

 

ーーーヴィラン連合?ではないな。そしたらそれとは別の組織があるのか?じゃぁなんのために今回動いた?ヴィラン連合と手を組んだのか?それとも....

 

「あっ。上司様(荒戸様)情報塔(津奈さん)から連絡で結構なお怒りです。脳無は既に確保したので遊んでないで帰ってきてください。との事です」

グラントリノが色々と考えていると、荒戸の隣に立っていたグランに津奈からの念話が届いたので荒戸に伝えた。

 

「あちゃぁ、じゃあ帰るか。じゃぁ俺たちは帰るんで!またねー」

荒戸も流石に目立ちすぎたと思っているため、即座に立ち去ろうと決めた。

 

「あ、おい!」

グラントリノの制止も虚しく、荒戸らは通路に貼っていた糸を即座に回収すると、隣にいたグランが個性による擬似瞬間移動を利用して、自分との荒戸らはを即座に上空へ押し上げて姿を隠した。

 

「行っちまったかって、くっ!」

脅威が立ち去ったのはいいが同じく脅威によって制御されてた脅威が解き放たれため、グラントリノ達は捕らえるために動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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二十八話 保須市 終結

荒戸が轟の氷を切り裂いた同時刻、金成らはついに元凶と言える死柄木らがいるビルの下まで辿り着いていた。

いつもなら会社員などで賑わっているビル前ではあるが今は脳無らの襲撃により一時避難誘導がなされて閑散としてほとんど人影が見えない。

 

「よし、ついたな」

 

「ここにいるの?」

 

「あぁ屋上に二人」

ビルの目の前には金成がおり、隣にエイミィが立って質問を投げかけてくる。

エイミィは探査能力がないため敵がどこにいるかなどほとんど分からない。

一方金成の方は先程から発動している見聞色の覇気により二人の会話などを把握して現在の状況を分析する。

 

ーーーなんだ?こいつらは様子見か。

今確認したところ、死柄木の目的は脳無に暴れさせて目立つことが重要であるらしい。

目立つことによってヴィラン連合を世間に印象付けてヒーローの立場を危うくすることができるためだ。

 

「...はぁ」

あまりのつまらない理由に肩を落としてため息を吐いてしまう。

そのままビルの入り口の階段に腰を下ろす。

 

「ん?ボスどうしたの?」

急にため息をついた金成を心配して、自分も金成が座った階段の横に腰を下ろすと心配そうに顔を覗き込んできた。

 

「ん?いや、なんでもないけどさ」

 

「ん、そっか」

エイミィにちゃんと理由を話さずとも、こうやって隣にただいるだけで居てくれることが金成はたまにいい女だなと思う。

まぁ普段のおばか加減を知っておるため、プラスマイナスゼロ合わさってイーブンではあるが。

 

それよりも死柄木達がやろうとしていることである。

金成としてはここまで大規模に襲撃してきたから、もっと大きな目的があって動いていると思っていたが正直しょうもない。

ーーーなんだよあの死柄木ってやつ。本当にリーダーかよ。

金成はてっきりこの街を落とすとか、この混乱は囮であり真の目的は別の場所での工作である、のようなことを想像していたのだ。

ちょっとばかり前世のようなワクワクを期待したのは馬鹿だったらしい。

 

ーーーまぁ、先生って奴はどうかは知らないが。

金成は既に死柄木がトップの器ではないと思っているために、なぜ‘先生’が死柄木を立てているのかが理解できない。

 

既に金成のテンションは最初と比べて雲泥の差である。

 

「よし、まぁ様子見だけでもしてくるか」

 

「そうだね!バトルだよ!バトル!」

せっかく来たからには何かしたいために、取り敢えず接触はしてみることにする。

立ち上がった金成は尻についた土埃を払って懐に手を入れると、そこから取り出したのは一つの仮面。

それを固定するように顔に付けて準備を完了する。

エイミィの方も同じように懐にしまっていた仮面を取り出すと顔に付けた。

カナルの方は白い仮面に目と口の穴が空いていて、全体を金色の薔薇のような紋様が描かれた不気味なもので、一方のエイミィの方は紅色の薔薇のような物が描かれたものである。

 

「よし、エイミィ持ち上げるぞ」

 

「うん!っと!」

金成はエイミィの横に立つと背中と膝裏に腕を回してお姫様抱っこのように体を持ち上げ、エイミィは安定するために首に手を回して態勢を保つ。

 

まだビルの屋上で待機している二人はこちらに気がついた様子はない。

 

ーーーおいおい。これだけ話しといて気がつかないのかよ...。

勿論普通では聞こえることはないように小さめの声で話し、できる限り気配を消しているが、相手は組織ぐるみで襲撃するような奴らであり、それに見た感じ幹部とリーダーであるからこちらに気がつく技術くらいは持っていると思ったが、なんとも稚拙な警戒である。

 

ーーー少しは警戒要員くらい置いとけよ。

と、余りの警戒の甘さに少し心配してしまう。

 

このままずっとエイミィをお姫様だっこしているわけにはいかないので、先制攻撃を仕掛けることにした。

 

金成は足から黄金の液体を生み出し地面に垂らし始める。

そのまま体を押し上げるように地面に黄金で圧力をかけて一気に上空へ登って行く。

側から見たら黄金の噴水が吹き上がっているような感じだ。

 

一気に屋上から10メートルほど上まであがり、既に目下には屋上の貯水タンクの上に佇む二人が見えた。

流石にこの状況まで行くと気がつくらしく、咄嗟に後ろに振り向きこちらを見たのがわかったが既に遅い。

 

「気づくのが遅いなぁ!」

金成が上空に達した頃には液状の黄金が鞭のように唸り二人めがけて襲いかかって行く。

 

「っく!」

突然の攻撃に驚いた二人ではあるが、流石にこれを躱せない二人ではない。

咄嗟に貯水タンクを盾にするように後ろにジャンプして屋上に着地する。

ムチのようにしならせた黄金はタンクを気にすることなく吹き飛ばすように薙ぎ払い、当たると同時に水が噴水のように巻き上がった。

 

「なぁ、あんたらが脳無を街に放ったヴィラン連合で合ってるよな?」

 

「ちょっとボス!水で服がビチョビチョ!」

既に死柄木らの10メートルほど離れた位置に着地をした金成はシリアスな雰囲気を醸しつつヴィラン連合との初対面を果たすが、エイミィは気にすることなく上空から降り注いだ水によって濡れた服を気にしている。

 

「....。ジャージだから我慢してくれ」

 

「ジャージでも濡れるのは嫌なの!」

 

「....。あとで服買ってやるからこの雰囲気を壊さないでくれ....」

その台詞でやっと頬を膨らませながらも身を引いたエイミィではあるが折角のかっこいいシーンが台無しである。

 

ーーーーーせっかくカッコ良く決めたのによぉ。

 

「なんだお前ら、クソガキかよ。俺はガキは嫌いなんだよ。あっちいけ」

締まりのない登場に呆れて追い返そうとする死柄木である一方で、黒霧の方は内心焦りが出始めている。

 

ーーーあの仮面....。見覚えがある。それに指にはめてあるリング。あの組織の特徴と一致している。

 

基本的にマネトリアカンパニーが裏を目的として動く時は仮面をつけるのが鉄則であり、リングは位置の把握のため必須。

 

「これはこれは、招かれざる客が来ましたね、死柄木」

 

「仮面なんかしちゃってムカつくなぁ。まぁちょうど暇してた頃だ。ヒーロー達への手向けとしようか」

内心の焦りを悟られないように話を進める黒霧だが、一方の死柄木の方は相手が誰だか全く気がつく様子がなく、すでに戦闘態勢に入っている。

黒霧とて自分らが負けるとは思ってはいないが、あの謎の多い組織であり、かつ‘先生’が戦うなといった相手だ。

警戒して当然であり、なるべく撤退の方向に話を持って行きたかったが、死柄木の様子を見る限り無理そうである。

 

ーーーやばくなったら、ワープで逃げますか。

 

「じゃぁエイミィ、相手方もやる気だしちょっと一戦やってくか」

 

「そうだね!でも今回は任せてよ!一人で行けそうだし!」

金成はこちらが二人で、あちらみ二人であるために丁度いいかと思ったがエイミィはかなりのやる気らしく腕をまくりつつ前にでる。

 

ーーーまぁ、いいか。なんか今回はちょっと冷めちゃったし、正直言って弱いしなぁ。

 

エイミィだけで大丈夫と判断した金成は後方へ大きく距離を取るようにジャンプして、成り行きを見守ることにした。

 

エイミィが一人でこちらに向かう様子を自分らを舐めてると思った死柄木はそのイライラを発散させようと、一発で相手をへし折ってやれるような致命傷になる顔面めがけて手を伸ばす。

「死ね!」

 

あの10メートルを一瞬で縮める死柄ではあるは、エイミィがそれをかわせないはずがなく頭を下げて回避するとそのまま相手の溝内に向かって拳を叩き込む。

「遅いよ!」

 

「っぐふっ!!.....。捕まえたぁ!」

その衝撃で一瞬体を浮かせ肺の空気を全て吐き出す死柄木ではあるが、ただでやられるわけでもなくそのままもう片方の腕でエイミィの腕を掴んだ。

そのまま死柄木は‘個性’を発動しつつ勝利を確信しており、あとはどれだけいたぶるかしか頭にない。

彼の個性は触れたものを粉々にする能力であり、人の場合は崩れるように肉、骨といった順で崩れていく。

 

 

「....あ、れ?ぐ、ぐあぁぁああ!!」

 

「ごめんねー、わたし物理は効かないのよ」

勝利を確信した死柄木の歪んだ笑みが直ぐに唖然とした表情へ変わる。

死柄木が掴んだ、直ぐに崩れて使い物にならなくなるであろうと思った腕は崩れることなく、直ぐにマグマ色になって死柄木の腕を飲み込んでいく。

 

ーーーものを崩す能力って言っても効かなきゃ意味ないよな。

 

黒煙を上げつつ肉を焼けるような音が上がり自分の腕が焼かれていることに気がついた死柄木は痛みに我慢しつつ腕を引っこ抜くがすでに所々から白いものが覗いている。

 

「死柄木!」

先程から様子を伺っていた黒霧は死柄木が悲鳴をあげると同時に彼の足元にワープゲートを開いて自分の横に移動させた。

黒霧は痛みを抑えるように腕を締め上げている死柄木のすでに使い物にならない腕を持て即座に判断する。

 

ーーー撤退しかない。

 

「死柄木、今回は撤退しましょう」

 

「は、早くしろよ!」

 

「はい」

痛みにのたうち回る死柄木は既に勝てないことを理解した。

 

ーーーなんだよあれ!チートじゃんかよ!くそ!

 

「あれ、もう帰っちゃうの?」

距離を取り、こちらを警戒しつつ撤退しようとワープゲートを開いている黒霧にエイミィは早すぎる終戦に若干の不満を漏らす。

 

「えぇ、我々の目的はすでに達しましたので」

黒霧は死柄木を脇に抱えて、街から登る黒煙を一瞥するとワープゲートをくぐって撤退していった。

 

「ボス、返して良かったの?」

戦闘を終えたエイミィはマグマ化を解き、腕まくりを直しつつ背後を振り返って金成の方向へ歩いてくる。

 

「別にいいよ。捕らえても要らないだけだし、正直言って‘先生’って奴以外脅威じゃない」

すでに興味をなくした金成は詰まらなそうに立ち上がってエイミィに近づいていくと突然脳内に念話が繋がる。

 

《ボス、こちらの任務は終了しました。脳無の確保は二体のみで一体の確保は失敗したらしいです。エンデヴァー率いるチームが多く集まっていたため、回収は不可能と判断しました》

二人に届いたため、金成とエイミィは足を止めた。

 

《うーん、二体か...。まぁそれだけいれば十分か...。わかった。じゃぁ後は撤退してくれ。もう戦いは終わる》

 

《了解しました》

 

金成はビルの上から黒煙が立ち上る街を眺める。

その風景、夕焼けに照らされてオレンジ色に染められ、街の至る所から上がる黒煙、聞こえる叫び声が金成の記憶を呼び起こす。

今まではありふれた光景ではあったが、この世界に住む人にとっては大事なのであろう。

 

ーーーこういう争いごとを楽しんでる俺って結構イカれてるのかなぁ。まぁ別に良いけどさ。

 

ビルの屋上から眺めた風景を見てみて一瞬ナイーブな気持ちになるが、直ぐに立ち直る。

 

「じゃぁボス、どうする?」

 

「ん?じゃぁ俺らも戻るか。そろそろ戻らないと三木さんらも心配するだろうからな」

隣に来たエイミィに応えるように、振り返って歩き出していった。

 

 

 




今思えば矛盾だらけな展開ですが、気になさらないでください。
突っ込まれると思いますが、何で仮面付けといて特徴的な個性使ってるんだよ!って思ったかもしれませんが、大丈夫です。
自分も誤字探してる時そう思いました。
いやはや、2ヶ月前の自分は何を書いていたのでしょうw
この話書いたの2ヶ月前でして今までちょいちょいストック出している状態でした。
それでなんですけれど、今は他に書きたいものができまして今回はここで未完の状態で一時終わらせていただきます。

天翔る竜、黄金の力でヒロアカ無双共々再びこの設定で描きたくなった時矛盾点を探してリメイクするのでもしその時見かけたらよろしくお願いします。

ちなみにではありますが次はダンまち書きます。
ではでは。


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