艦娘(?)を匿うことにした (肉羊)
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第一話 艦娘拾った

小説を書くのは初めてなので拙い文章にはご容赦を


20××年、突如現れた深海棲艦により世界は大混乱に陥った。

 

連中は何処からともなく沸き出てきて、恨み言を呟やきながら、見た物全てを破壊する異常な存在で、おまけにどういう訳か、通常兵器が一切効かないそいつらが、世界のシーレーンを破壊するのにそう時間は掛からなかった。

 

特に島国である日本はその打撃をもろに受け、一時期は経済危機やらで大変だった。

 

いつの間にか現れた艦娘と名乗る少女達や、艦娘達を指揮する提督によって、世紀末な世界になるような事態は回避こそできたものの、当時平サラリーマンだった俺は深海棲艦による混乱で起こった経済危機の影響であっさりと上にクビ宣告された。

 

いやホント、クビ宣告された時はリアルに目の前が真っ暗になったよ……(死の宣告は現実の技だったのか)

 

それなりに頑張ってきた会社からクビにされ、自暴自棄になった俺は逃げるように

田舎のボロ家に移り住んだ。

 

元々数少なかった貯金と退職金は吹き飛んだが、個人的には良い選択だったと思う。

 

今は少ない街の住人に新聞を配ったり、内職したりして生計を立てている。

 

元来活気が無かった上に、海が近いせいで一層過疎化が進んだ小さな街だが、それなりに落ち着く場所で、今じゃここから離れて暮らすことなど考えられない。

 

このまま静かな暮らしを老いるまで続けて恐らくはここに骨を埋めるだろうと思っている。

 

そんな人によっては退屈かもしれない日を過ごし続けて、今日に至る。

 

今日は休日だったのに、変に目が冴えて直ぐに起きてしまった、ゴロゴロしている内にふと、思い立った。

 

朝食も取らずに家から出て、ばったり出くわした顔見知りの爺さん婆さんに会釈して足早に通り過ぎ、何かに呼ばれている様にある場所を目指した、今ではすっかり危険な場所と化した海に。

 

別に死にたくなったわけでもなく、理由はただ間近で見たくなっただけ。

 

一年ほど住んでて深海棲艦がこの街を襲ったという事が一切なかったので慢心してたのかも知れない。

 

あるいは数km離れた場所に鎮守府があるため安全だと思っていたのかも知れない、正直な所、非常に軽率な行動だとは思ったが足取りは妙に軽かった。

 

______

 

 

 

 

まあ、んな訳で今、海岸に居るわけだが……こうして海を眺めてみるとやっぱり綺麗だなと思う。

 

今この瞬間にも、この美しい水平線の向こうで艦娘と深海棲艦がドンパチしているのだろうか?

 

そんな物騒な場所にはやはり見えない、ただこんな綺麗な海なのに、平時と違い見ようとする人が殆どいない所を見ると、やはり血生臭い闘争が起こってるんだという事実は分かる。

 

頭では分かるが……ああ、やっぱり綺麗だ、澄んだ潮の香りに何処までも続く青い水平線、うつ伏せにぶっ倒れてる黒いネグリジェ着てる女性……心が浄化されていくようだ……。

 

ん?女性?

 

「どういう事だよおい……え?何これ、刺激的な恰好……じゃなくて!」

 

ぶっ倒れてるなら助けなきゃ、いや凄い青白いし手遅れなのかも……やべぇよやべぇよ、やっぱ海めっちゃデンジャラスですやん……海舐めてましたすいませんマジ。

 

「え、えと……あの、大丈夫ですか?なんだったら救急車お呼びしましょうか?あ」

 

おどおどしながら声を掛けて、このタイミングで携帯を持ってきてない事に気付く、そうだよねぇだって数分で帰ろうと思ってたんだもの!

 

反応が無かったのでひとまず体に触れて脈を確かめてみると、脈はある(正常かは知らん)。

ほっとした後、次は意識の確認をするために体の向きを変えた。

 

そして体の向きを変えて頭に変なものがくっ付いているのに気が付いた、そしてそれが「角」であり、この女性の頭に生えているのだと気が付くのにそう、時間は掛からなかった。

 

なんで角が生えてるんだ?凝視すると悪いと思って見てなかった胸元にもよく見れば変なものが生えてるし。(いやぁ邪魔な物は付いてるが素晴らしいバストだ)

 

もしかすると、これが艦娘か?深海棲艦と戦ってる人外の少女、鎮守府も近いし・・おお!繋がってきたぞ。

 

つまり鎮守府に所属してる艦娘が、戦いやらなにやらでここまで流されてきたんだろう、こんな麗しい美人が常日頃から血で血を洗う戦闘行為を繰り広げてるとは、頭が上がらないなぁ。

 

とはいえここに放置していたらまた波に流されるかもしれないので、ひとまず家に運ぶことにした。

病院まではかなり遠いし、鎮守府までこの艦娘を運ぶのはまず無理だと判断したからだ。

 

「えーと、どっこいせ……ん?おいおい軽いな」

 

俗にいうお姫様抱っこで持ち上げてみると、妙に軽い、スレンダーな体系をしているが、それにしたって軽すぎる、小学生でも抱きかかえてるのかと錯覚するくらい手ごたえが無い。

 

家にまで連れ帰って、朝方にめんどくさくて畳んでいなかった布団に寝かせると(後で布団干さなきゃ……)連絡するために床に無造作に置いてあったスマホを拾った、119か鎮守府に電話をしようとスマホの電源を付けると、背後に気配を感じた。

 

なんとなく振り返ってみると寝ていたはずの美人がいつの間にか真後ろに立っていた。

 

ここで想像してほしい、何気なく振り返ってみると真後ろに青白い顔した女性が居る……これが肝が小さい人にとってどれだけダメージになるか。

 

「ネエ……」

「ほんぎゃあああああああああああああ!?」

「イヤアアアアアアアアアアア!?何、ナンナノ!?」

 

目を覚ましたら見知らぬ天井で、運び込んだっぽい人に話しかけたら叫ばれるとか、相当怖かっただろうね、でもこっちも死ぬほどビビったから勘弁してよ……

 

俺は心の中で謝罪と言い訳をした。

 

 

 

 

 

 



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第二話 鎮守府がブラックかと思ったら……

スレンダーな美人を拾った元社畜君!


犬も歩けば棒に当たるという諺をご存じだろう。

何かをしようとすれば不幸な目に遭う事が多い、という意味で使われたり、真逆の意味で

出歩けば幸運に巡り合う、という意味で使われたりもする。

 

ところで疑問だが

慣れない散歩をして、海で美人な艦娘(?)を見つけた挙句に保護する羽目になった俺に対してこの諺を使う場合、どっちの意味で使えばいいのだろうか。

 

 

 

「モウ!叫ブナンテ……酷イジャナイノ」

「いやぁ、すいません本当に、でもこっちもビックリしたんですよ?ええ、人生でもトップレベルで、でも助けたのは俺ですからね?」

 

思いっきり驚かせた艦娘さんに問い詰められる俺、だがしかーし!意識混濁して危なそうな所を助けたのは事実だからその分マウント取れるのだ!コラそこ、厚かましい上に恩着せがましいとか言うんじゃありません。

 

「フーン?トコロデ、ココハドコカシラ?」

「ここは俺の家ですよ、貴方が倒れてた海の近くでですね、一応病院とか連れて行こうとは思ったんですけど、その時には連絡手段が無くてですね、放置してると危なそうなんで一旦家に運び込んだ次第です」

「ソウ……」

「本当なのにぃ」

 

胡散臭いと思ってるのかジトーっとした目で見てくる女性。

 

事実なのにジト目で見られたよ、何で?視線なら「まだ」下の方に行ってないよ?

 

「ドウデモ良イノダケレド、貴方ハ私ヲドウスルツモリナノ?」

「いや、どうもしませんって、お体の調子がよろしいなら別に構いませんが」

「本当ニ何モシナイノネ?」

「いや、本当ですって、なんなら今お帰りになられてもよろしいですよ」

 

全く、なんでこうも人を疑ってくるんだろう、俺が乱暴するような奴に見えるのか!

 

いや、シチュエーションは完全に危ない人だけどさぁ・・・いや、100%善意だったからね?おい待て警察は呼ばないで!二回も社会的に死にたくないんだって!

 

「ひとまず鎮守府に連絡してもいいですかね?あっちも心配してるでしょうし」

「チンジュフ?……!」

「え?何か問題がイテッ」

体は大丈夫そうなので、ひとまず鎮守府に連絡しようと電話番号を調べるべく、スマホで鎮守府の検索を掛けようとしたが、何故か腕をがっしり掴まれた(しかし力強いなオイ)

 

「鎮守府ニ連絡スルノハ止メナサイ!」

「え?いやでもあっちも探してると思いますよ?」

「イイカラ!連絡ハシナイデ、オ願イヨ……」

 

なんか知らないが哀願されたよ、嫌な予感はしてたが……もしかして訳有りか?(脱兵とか)

確かにクジラと神話生物の混血みたいな化け物と延々戦ってたら嫌になるのも分かるし逃げたくなるのも分かるが……いやでも俺にどうしろってんだよ畜生めぇ!

 

それとも労働基準法ガン無視なブラック企業、いや、ブラック鎮守府って奴だったのか?

 

なら、上司に馬車馬みたいに使われて、ほんの少し問題が起こったらポイされた者同士仲良く出来そうだ。

 

一つ言えるのは……だ、か弱い小市民の俺をどうか巻き込まないでくれ。

 

「ええ、分かりましたよ連絡はしませんとも、はいはい、それで?もうお帰りになるんで?」

「アリガトウ、ソレト、ココニ住ンデモイイカシラ?」

「ええ、分かってますとも勿論……Huh?いや今なんて?」

「ココニ住マワセテ」

 

さらっと、爆弾発言をぶち込んでくる艦娘。

 

噓だと言ってよバァァァァァニィィィィ!倒れてる美人が艦娘になって艦娘が面倒事になったよ!一回社会的に死んでるおじさん相手に何を要求してるんだ此奴はぁ!?

 

絶対に駄目だぞ!?こんなの面倒事以外の何事でもないんだが!?

 

「いやいやいやいや、無理ですって!訳有なのは分かるんですが、巻き込まないでくださいよ本当に!」

「ココガ私ノ部屋ネ、ソコモ私ノ部屋、貴方ノ部屋ハソコトソコデ良イカシラ?」

「おい待て何一人で交渉進めて部屋割りしてんだ、修学旅行の陽キャか」

「アア、コレ(布団)気ニ入ッタカラ明日カラ使ウワネ」

「ま る で 話 が 通 じ な い」

 

これが会話の砲雷撃戦か、いやはや、理不尽ですなぁ……ざけんな!

 

「いい加減にしてくれよ、もういいからさ、鎮守府に、いや警察に連絡すっからな……おい何するんだ返せ!」

「コレデ……連絡ヲスルノネ?」

 

余りに横暴だったので、俺も流石にプッツン来て、脅し抜きにスマホを取り出して警察にダイヤルをしようとするも、信じられない速度でスマホを奪われてしまった

 

「モウ一度言ウケレド、コレカラ此処ニ住ムワ、良イワネ?」

「何言ってんだそういうのは……ヒィ!?」

 

何か言い返そうとしたが、頭に浮かんできた反論は、恐ろしい力で握り潰されたスマホを見てもれなく反抗する意志共々消沈した。

 

どんな握力だよ、花山かな?

 

「貴方ニハ感謝シテルワ、ダカラ余リ乱暴ナ事ハシタクナイノ……ネ?」

「いえすまむ」

 

感謝の言葉じゃなくてどう見ても脅しだが、相手が言うには感謝されてるらしい、やったね!こんな美人に感謝された挙句に同居できるなんて夢みたいだぁ!いや、むしろ夢であってくれ、そして早く覚めてくれお願いだから。

 

「万ガ一助ケヲ呼ンダラ、貴方ヲ協力者トイウ事ニスルワ」

「そ、そうなると俺はどうなるんだ……ですか」

「サァ?ドウナル事デショウネ、貴方ガ上手ニ弁明スレバ、モシカシタラ処刑ハサレナインジャナイカシラ?」

「あはは、御冗談を……冗談だよね?」

 

やっぱりこうなったよ、これはブラック鎮守府じゃなくて、脱兵の方だな間違いない

 

一時的にとはいえ家に連れ帰って保護したのは事実だし、どれくらいの期間保護していたのか分からないんじゃ、最悪仲間扱いされて今度は物理的に首が飛びかねない。

 

いやこのご時世だ、俺みたいな消えても問題にならない奴に対しては「疑わしきは罰せよ」の精神で来るだろう。

あれ?外堀埋められるどころか、一手で王手決められてね?俺詰みすぎワロタwwwワロタ……

 

「私ノ名ハ戦艦棲姫、コレカラドウゾヨロシクオ願イネ、協・力・者・サ・ン・?」

 

センカンセイキさん(名前的に戦艦の艦娘か?)は、俺が困惑と絶望と恐怖で吐きそうになっていることを知ってか知らずか、唇に手を当てながらクスクスと悪戯っぽく笑った。

 

凄く色っぽいよ畜生……




別嬪さんと同居だなんて羨ましいなぁ(ゲス顔)


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第三話 我が家の姫様(貧乏舌)

艦娘(?)を匿うことにした・・・というより、匿う羽目になった?
タイトル変えた方がいいかな


深海棲艦共の脅威は、以前に比べれば大分収まってきたとはいえ、まだまだ油断のできない状況、依然として深海棲艦の攻撃は止まず、戦況は未だ艦娘頼りと言える。

そんな台風の目ともいえる艦娘様(?)の一人は今現在・・・

 

「ネェ、コレデ終ワリナノ?マダマダ食ベ足リナイノダケレド」

「一円でも俺に貢いでから言ってくれよ、この女版ぬらりひょんが」

「ヌラリヒョンッテ……何ヨ?」

「妖怪の総大将扱いされたりする高貴な妖怪だよ」(あっちはすぐ居なくなる分マシだがな!)

 

人様の家で家主よりも家主らしく振舞っていた。

 

先程の一方的すぎる交渉(脅迫)から数十分、早くも飯をねだり始めた戦艦棲姫(漢字で書くとこうらしい)

 

最初は怒りの余り軒先に生えてる雑草でも食わせてやろうかと思ったが、下手に機嫌を損ねたくないので(命に係わるし)買い溜めしていたパスタを作ることにした。(ナポリタンの魔術師とは俺の事よ)

 

結構作った筈なんだが、この艦娘型ブラックホールはあっさり平らげやがったよ!

おまけにまだパスタを要求してきやがる。

 

「総大将ネェ……フフン、上位種ノワタシニ相応シイ呼ビ名ダワ」

「へ、へぇ……上位種って?」

 

キレそうになりながら追加のパスタを茹でていると、「戦艦ぬらりひょん」が気になることを言ってきたので、聞き返してしまった。

 

上位種?HR4位で解放されたりするんだろうか?狩猟できるものなら、目の前の高慢ちきを今すぐにでも討伐してやりたいが。

 

「私ノヨウナ強大ナ力ヲ持ッテ産マレタ者ハ、下位種達カラ畏敬ノ念ヲ込メテ、姫ト呼バレルノヨ、ドウ?凄イデショウ」

「実力主義なのかよ、ブラックの典型じゃないか」

「(ブラック?)姫ノ中デモ私ミタイナ特ニ、強力ナ潜在能力ヲ秘メテイル者ハ、特殊ナ改造ガ施サレルノヨ、フフフ……ソンナ私ノ直近ノ部下ニナレルナンテ、本当ナラ凄イ栄誉ヨ?貴方ノ料理ノ腕ハ気ニ入ッタカラ専属ノ料理人トシテ雇ッテアゲヨウカシラ?」

(訳:一部のエリートは姫と呼ばれるよ!貴方ご飯美味しいから雇おうかな!)

 

「はいはい、機会があれば是非お願いしたいもんですね~ほれほれ、追加のパスタだぞ~味変えてみたからね~」

「アラアリガトウ、……!コレモオイシイワネェ」

 

鎮守府って実力主義の上にカースト制度付きかよ、その組織構成的に人類の正義の味方ってよりも黒幕組織の方が似合ってそうなんだが、んで、こいつは敵幹部の噛ませポジションか?

いやいや、それ以前に業務スーパーで買ったスパゲティに舌鼓を打ってるこいつが姫とか片腹痛いわ。

もしかすると、海岸で行き倒れになってたのもこの自己中心的な性格が災いしてなのかもしれないなぁ……何か黒歴史を見てるようで哀れになってきた、ほんの少しだけ優しくしてやるかぁ。

 

「フゥ、オ腹一杯ニナッタワ、ゴ馳走様、本当ニオイシカッタ」

「あい、お粗末様でした」

謙遜抜きに粗末な食事。だのにここまで喜んでくれるんだ、ちゃんとした料理食わせたらどんな反応するのだろうか?

やばい……ちょっと興味が沸いてきたぞ。

 

「ネェ、次ハデザート作ッテ」

「は?」

「デザート」

「ティッシュでも食ってろよ、甘いぞ?」

 

前言撤回だこの野郎、次からこいつの主食はドクダミにしよう。

 

 

_ _ _ _  

 

 

 

戦艦棲姫にとってはご機嫌な昼食を終え(ティッシュは食わなかった)今度は俺が昼食を取る番だ、チャーハンでも作ろうかなぁ……と、作るのを決めた瞬間からチャーハン作りの鬼才(自称)の俺の腕が光る!意味もなく鉢巻をすると腕を捲りながら戸棚からもう一つのフライパンを取り出す。

 

俺様の圧倒的なチャーハン作りの気迫に圧倒されろぉそして酔いしれるがいい!

フハハハハハァ!ゲハハハハハハハァ! (絶叫チャーハン作りは現実逃避したい時におすすめです)

 

「ネェ、何作ッテルノ?」

発狂しながらチャーハンを作っていると、悪魔が再び顔を出して来やがった。

お前ついさっきお腹一杯って言ったじゃん、ねえってば!

 

「うん、何でもないからそこで待ってろよ、お前パスタ食っただろうが」

「ネェ、一口ダケダカラ・・・ネ?良イデショウ?」

「あらあら随分浅ましい姫だこと!ああ・・・もう、一口だけだからな?」

 

猫みたいな性格してる癖にこういう所だけ犬っぽいんだなこいつ。

 

 

 

_ _ _ _  

 

 

 

 

 

うるさい奴が部屋の物色を始めたので、これからの事を改めて熟考、ちょっとドタバタしたが、ハッキリ言おう、俺は戦艦棲姫の事をなめ始めている。

 

最初の一局で絶望させられたが、こいつは正直な所、恐らく頭の方は余り宜しくない。

 

演技して懐柔しようとしている可能性も勿論あるが、俺を手駒にするなら恐怖で支配した方が手っ取り早いだろう、だがしかし仮に恐怖で支配するなら俺に口答えなんて絶対にさせない筈だ。

 

いやでも、万が一本当に馬鹿ならもっと決定的な隙を見せてそうなんだよなぁ……

 

一貫性が無さすぎて行動できねぇぇ!

 

いっそ賭けで一回逃げてみるか?奴にとっては一つしかない駒だ、一度の逃亡くらいじゃ殺しは……

 

いや駄目だ、恐らく隙を突いて逃げても追いつかれる可能性大だ、あいつが俺のスマホを盗った時の異常な身体能力を思い出せ。

 

だがしかし、そんな分が悪すぎる賭けよりも確実なチャンスが一つある。

 

物資の補給だ、そう、それしかない。

奴は大食い、この調子で行けば今日か明日にでも買い物に行かないと食糧が尽きる。

 

このまま完全に懐柔されたフリをして世話をする、そして完全に油断したタイミングで物資を買いに行くことを名目に外へ出て、そのまま高飛びだ!行ける・・・もしかして俺って天才か?(最後の恩情で鎮守府に連絡するのは勘弁したらぁ)

 

 

よし、そうと決まれば早速……!??!?!?

背中に気配を感じたが、今度は振り返れなかった、いや怖すぎて。(殺気ってこの感覚の事だったんだぁ……)

 

「貴方ハ私ノ事ヲ簡単ニ欺ケルト思ッテイルノデショウ?」

 

!?後ろから耳元に優しく囁かれた、いや、優しく聞こえるだけで思いっきり釘刺された。

完全に凍り付いて喋れなくなってる俺の正面にゆっくりと回り込んでくる、そして吐息が当たるような距離まで顔を近づけると、甘ったるい声で続ける。

 

「カマヲ掛ケタツモリダッタノダケレド、図星・・・ネ?本当ニ残念ヨ・・・」

まずい、まずい、どうしよう、逃げなきゃいけないのに足が固まって動かない

弁明しなきゃいけないのに舌が張り付いて機能しない。

駄目だこうしてる間に相手は手を上げて、その手を振り降ろ・・・されなかった。

 

「貴方ハ恩人ダカラ……貴方ガドウ思ッテテモイイノ、イツカ・・・私モ恩ヲ返スカラ、()()()()()()()()()()()()

 

代わりに俺の頭を優しく撫でると、さらに顔を近づけてきた、そのせいでこっちの額に相手の角が当たる。

 

そうして俺の目を見ながら、あくまで諭すようにそう言った。

まるで俺の目を通して心の奥を見られているようで、視線を逸らしてしまいたくなったのに、何故かできなかった。

 

こっちが緊張と恐怖で固まる一方で、どれほど時間が経っただろうか・・・どうやら俺は解放されたようで、戦艦棲姫はまたあの悪戯っぽい笑みを浮かべると、部屋の物色に戻って行った。

 

 

お父さん、お母さん、俺が赤ん坊のころはおしめを取り換えてくれたね。

今は自分で処理できるようになったけど、二十数年ぶりに完全に漏らしたよ・・・

 

あいつ強かすぎんだろぉ!9割方馬鹿だと思ってた危ねええええええええええ!

あんな切れ者なのになんで脱兵なんかしてんだよぉ!

 

不平不満はいくらでも沸いてくるが、今度はあの自称姫の艦娘に軽口を叩く勇気は無かった。あいつめ、覚えてろ……

 

ちなみにヤツの角の感触はあれだ、生えかけのシカの角みたいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




深海棲艦の台詞、最初は原作通り全部カタカナでも行けるかな?と、思ったんです。
無理でした、書いてる時にもう混乱して読めない。なので漢字+カタカナの、自我持ちスタンド形式の喋り方にさせていただきました。

【悲報】主人公君、同棲してるのに死亡フラグ以外のフラグが建たない


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第四話 楽しいショッ(ク)ピング

投稿遅れてすいませんでした


20XX年 日本某所 鎮守府内執務室

 

「はぁ……ここ最近、鎮守府近海に出没する深海棲艦がどういう訳か強力な個体になっているようだ、実際戦ってみてどうだったかな、大淀」

「はい、間違いなくelite個体やflagship個体と言った強化個体でしょう」

 

煙草の煙が充満した執務室内で秘書官の報告を聞いた提督は、うんざりとした感じで短くなった煙草を灰皿で押し潰すと、懐から煙草の箱を取り出し中身を探る、しかし生憎中身は入って無かったようで、苦々しそうに箱をゴミ箱に投げ捨てた。

そして引き出しの中から新たな煙草の箱を取り出すと慣れた手つきでパックをひん剥く。

 

「提督、少々吸い過ぎでは?体を壊してしまいますよ」

「いやでも、ヤニがないとやってないからさぁ……本当なら蒸留酒か睡眠薬でも呷って意識を飛ばしたいくらいなんだがね」

 

大淀と呼ばれる艦娘が心配して注意するも暖簾に腕押しといった体である「そんなことより」と提督は付け加えて続ける。

 

「連中が何故いきなり強くなったかだがね、付近に上位種がいるんじゃないかと思うんだ」

「上位種……鬼や姫と言った個体ですね?」

「その通り、比較的平和だった海域に突然強力な個体が集まり出すのはその近辺に上位種が居る証拠だよ」

 

紫煙を吐き出しながら提督はゆっくりと続ける

 

「まぁ、確定はできんがね、実際我々の本丸を前にして上位種本体が何のアクションも起こさないのは不自然だ」

「上位種本体は何らかの原因で潜伏している、という線は?」

 

淡々と語っていく提督に大淀は恐る恐る、といった感じで尋ねる。

 

「そうかもしれないな、いずれにしても飛んでいるコバエを潰してもキリがない、蛆の発生源を知らない事には始まらないさ」

「提督、この後の艦隊へのご指示は?」

「引き続き鎮守府周辺の哨戒にあたってくれ、ああ、それと大淀、他の艦娘たちに指示を伝えたら君はそろそろ休んでいいぞ」

「承知しました、ありがとうございます、提督も無理をなさらずに」

 

綺麗な一礼をして執務室から出ていく大淀、タバコ臭い執務室から一転してクリーンな空気の廊下に出たため一瞬ひるんだが、すぐに歩き出した。

 

「どう探しても近海で見つからないのなら本土に侵入されている可能性も出てくるな、胃が痛くなってきたよ……」

大淀を見送った提督は若干白髪が交った髪を掻き毟ると頭を抱える、彼が熟睡できる日は遠そうだ。

 

 

 

 

_________所変わって日本某所 ボロ家内

 

 

 

 

 

ついさっきの恐怖体験から大分経ったが(ズボンは履き替えた)

ようやくまともに戦艦棲姫の奴を直視できるようになった、多分話しかけられたら再び膀胱を空にする羽目になるだろうが。

 

「ネェ、アナタ」

「ふぇヒィッ!」

 

前言撤回、いきなり話しかけられても漏らさなかったよ!(死ぬほど怖かったが)ひとまず奴は俺の事を処分する気はないようだ。

 

「食糧モ家具モ足リ無イヨウネ、二人デ住ムヨウニナッタノダカラ当然ナノダケド」

「あ、ああそうだな……」

 

勘定は早いんだね、いやそもそもこの家に住む事を前提で話すのが間違ってると思うんだ、マジで

まぁ口には出さないけどね!(怖いし)

いや、だが物資不足は否めないな、一週間は持つと思ってたんだがなぁ・・・いったい誰のせいなんだか。

 

「んじゃぁ買い物に行こうか、色々買い出しに行ってくるから留守番を」(そしてあわよくば逃げ……)

「私モ付イテイクワネ」

「もう勝手にして……」

 

うん知ってた、まぁぶっちゃけあんなえげつない恐怖体験した後なだけに、俺のパーフェクト☆エスケープ作戦を実行に移そうとする意志は90パーセントぐらい折れてるんだけどね。

 

ところで、こいつが付いてくるなら付いてくるで仕方がないが、こんな分かりやすい人外が町を歩いてたらいくら町が過疎ってると言ってもバレるだろう。

 

「いやでも、バレるでしょ?角とか生えてたら、いくら楽観主義の爺さん婆さん達が相手でも、隠し通すのは厳しいんじゃないかなぁ……」

 

「ソレモソウネェ・・・アア、アレヲ付ケテイクコトニスルワネ」

そういって戦艦棲姫が指さしたのは俺が日曜大工の時によく付けている手拭だった

いやアンタが良いなら異論は無いんだけどさぁ……

 

「ネェ、角ハ隠レテル?」

「うん、ばっちり隠れてるけど」

 

角は隠れてるけど、正直女海賊にしか見えない、それか職人さんか?ワゴン車とか運転してそうな、いずれにしても限りなく姫からは遠いよその格好。

 

「サァ、行キマショウカ」

「ああ、どうか誰にもバレませんように……」

 

俺の祈りよどうか通じてください

 

「ソレト手、繋イデ行キマショウ?」

「うぇ!?、あ、ああデートにゃ理想のシチュエーションですねー特に別嬪さんと手を握るのは夢に見てたよ」

 

手を差し出してくる戦艦棲姫、え?これなんてラノベ?

 

「嬉シイ事言ッテクレルワネェ、デモ逃ゲヨウトシタラ握ッタ手ヲソノママ握リ潰シチャウカ……モ」

「折角現実逃避して妄想に浸ろうとしてたのにどうしてそう言っちゃうかなぁ!?」

 

妄想に逃げるともれなく脅迫して現実に戻してくれる、いやぁ気が利いてるなぁ……利いてるってか精神的に効いてるが。

逃げようとしたらデート(逢引)じゃなくて合挽きにされるのか、やっぱり女海賊じゃないか……

 

「ホラ、早ク握ッテ?」

「何もしないから握りつぶさないでね?いやマジで」

 

恐る恐る差し出された手を握る、手が凄い柔らかい、結構理想的なシチュエーションなのに全く嬉しくねぇ・・・

 

どうでもいいが異様に手が冷たいなこいつ、まるで血が通ってないみたいだなぁ、血も涙もないって意味なら同じ血が流れてると思えないが。

 

 

 

_ _ _ _ _

 

 

 

 

 

ん?遠くに人影が、あれは……ゲッ

近所のおばさんじゃないか、普段なら世間話の一つはするだろうが、今この状況で話しかけられるのは非常に困る、おばさんの情報網は凄まじいし怪しまれたら当分噂されるぞ。

 

頼む、見つかるな、見つかってもスルーしてくれ

 

「あら彼女?こんな美人さんを捕まえるなんて隅に置けないわねぇ!」

「いや、彼女じゃなイデデデデデェ!(腕が握りつぶされるゥ!)」

 

俺の腕がスマホ君と同じ末路を辿っちまううううう!

おまけにおばさんに見つかった上に話しかけられたぁ!せめて話を合わせれば良かったのに咄嗟に否定しちゃったよ!あ、人生終わったかもしれない。

 

「エエ、最近越シテキマシタ、ホラ早ク買イ物ニ行クワヨ?」

「うふふ、仲がいいのね、ほら彼女さんを待たせちゃいけないから行ってらっしゃいな」

 

どうやら解放されたようだ、腕も潰れずにそのままだし、助かったの・・・か?

というかこいつ愛想笑いなんて出来たんだな、いくらなんでも往来で殺しはできないか。

 

「サァ、行キマショウカ」

「分かった行くから、行くからそんな強く引っ張らないでって!腕がメキメキ鳴ってるからぁ!」

 

えげつない力で引っ張られるせいで腕が外れそうになる、無理矢理散歩に連れられる犬の気分だよ。

 

 

 




ガバガバプロットの書き直しを余儀なくされました


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第五話 楽しいショッ(ク)ピング2

そろそろ話を本格的に動かしたい……でもプロットの繋ぎ部分がスカスカすぎた。


田舎のスーパーは無駄に大きい、老人しかいない上に宅配だのネットスーパーだのが流行ってる今のご時世で辛うじてとはいえ、この規模の店舗を経営できてるのは奇跡なんじゃないかなぁ……

今そんな無駄に大きなスーパーに居る。

 

スーパーまでは結構遠くて相変わらず嫌になるが、燃料がバカ高いから買い物如きで車に乗るわけにもいかない。

まして食費が異常に掛かる奴を抱えてるんだから尚更財布の紐を締めて行かなきゃ。

 

「~♪」

「ああ、俺の労働時間が……俺が汗水たらして稼いだ金が……」

 

数十分後、そこには言ったそばから食料品だけで既に使用金額が万を越えそうになって卒倒しかけた哀れな男が居た!

 

だってこの子自重という物を知らないんだもん、鼻歌歌いながらポンポン買い物かごに商品ぶち込みやがってぇ

会計のパートさんも顔引きつってたぞ!?

 

はぁ……はぁ……まぁ、悲観してもしょうがないか、食料品に関してはあの食欲を目の当たりにした分覚悟はできてたさ、問題は次だな、家具類だ。

 

当然使う金額も食料品とは比べ物にならないだろう、うわぁ想像したくねぇ。

 

「さ、次は家具や日用品類だな、隣のホームセンターで買うとするか」

「エエ、行キマショウ」

 

手を繋いで仲良くショッピングする様は事情を知らない人が見れば仲睦まじく見えるだろう、正直な所、自分もこのシチュエーションに若干心高ぶってない訳でもないさ。

でも、自分の行動次第で手首から先が消失するかもって考えるといまいち嬉しくないのよ……

 

「ソロソロ手ヲ離シマショウカ」

「え?おい、いきなりなんで手を放すんだ、いいのか?」

 

パッといきなり手を放される、手錠が外れたみたいで凄い解放感だが、一体どういう風の吹き回しなんだ?

 

「貴方ハモウ絶対ニ逃ゲレナイ」

「え、いや待て、それどういう事だって」

 

待って?マジでどういう事?逃げれないって、え またカマ掛けてるの?

頭にいくつもクエスチョンが浮かんでは消えていく、そうして俺の少なめの脳みそが導き出した答えは……

 

「もういいや、次行こう」

「ウフフ」

 

選ばれたのは諦めでした(まるで急須で淹れた茶の様に心が濁っていく)

 

最後通告されてるのに逃げるなんて真似は怖すぎてできないって。

完全にやられたなぁ、助けを呼べば協力者扱いされて最悪道連れに、自分一人で逃げれるか逃げられないか確かめる手段もない(賭けに出るのは怖すぎる)つまり俺に残された手はあのド外道戦艦娘を匿う事だけだ。

 

おばさんにも目撃されたし、スーパーの監視カメラにも映った、言い逃れは不可能だろうなぁ……事情はどうであれ、映像を見れば10人に見せれば10人が仲良く手を繋いでる映像だと思うだろう。

 

どん詰まりである事が嫌でも理解できて自分の目と心が腐っていくのを実感しながら、俺は隣のホームセンターへと歩み出した。

 

 

 

_ _ _ _ _ _

 

所は変わってホームセンター内、相変わらず人は少ないが、無いと不便だ。

 

ところで、ホームセンター独特の香りってあるだろう、俺はあの香りが結構好きなんだが、残念ながら隣の姫様にはお気に召さなかったようだ、顔をしかめさせている。

その職人さんっぽい格好からしてホームセンターにしょっちゅう入り浸ってそうなんだが。

 

「来客用があるから布団は買わないぞ?」

「使ウノハ、貴方ガ来客用ネ」

「いやいや、家主は俺だから、お前が来客用だ」

「ムムム……」

 

分かりやすく『ぐぬぬ』って感じの顔になる戦艦棲姫、こういう所は抜けてるのにいきなり鋭くなったりする。まるで二重人格みたいな奴だな。

 

そのままの流れで陳列スペースを通り抜けていく、ついでに必要なものを見つけてはホームセンター用の異様に大きい買い物カートに入れていく(勿論できるだけ安いやつを)

 

そうしてクッションコーナーに着いた時に、戦艦棲姫は急に立ち止まる、そして一点を凝視しだした。

 

「なにやってるんだ?」

 

戦艦棲姫の視線の先をなんとなく見てみると、『こんなの買うやつ居るの?』って感じの大きなリスのぬいぐるみが陳列されていた。

 

「買ッテ頂戴」

「だ め だ」

「ドウシテモ?」

「だめだって」

「ダメナノネ……」

 

クソ!買わされてたまるか!

 

「お前これいくらすると思ってるんだ!これを買う金は俺がニ時間労働せにゃ稼げないんだぞ!」

「ネェ、オ願イ」

 

袖を引っ張りながら上目使いで懇願してくる戦艦棲姫、おお……これが上目使いか、なんという破壊力だ、一種神々しさすら感ぜられるよ、いやぁご馳走様です。

 

まぁ買わないんだけどね

 

「エ、待ッテ買ウ流レジャナイノ?」

「威力的にはお前の上目使い<ぬいぐるみの値段だからな、今の所俺を引っ張り回してしかないお前さんに上目使いされてもなぁ~ ん?」

 

ってムカつく感じに煽ってみても内心は滅茶苦茶アガってる、こういう所とか美人ってホントずるいよなぁ……

 

「ム~、アナタガ買ウマデ動カナイワ」

「子供か!さっきまでのカリスマは何処へ行ったんだよ!ああ、もう分かったよ」

「買ッテクレルノ?」

「ただ~し、明日の内職でお前さんも手伝えよ、いいか?」

「……?承知シタワ」

 

交渉成立、精々こき使ってやるわぁ!フハハハハ!

いやしかし、血も涙もないと思ってたが意外と可愛い一面もあるんだな、気になるのはリスのぬいぐるみに対して可愛いと思う感情も確かにあるんだろうが、それよりもむしろ懐かしそうにしてたような……?

まぁ、どうでもいいか、交渉成立した以上個人の意思決定にケチ付ける気はないし。

 

 

「フフン、可愛イデチュネェ~♡」

「おう、ウン千円は可愛いか」

 

大事そうにぬいぐるみを抱きかかえる戦艦棲姫、そのせいでもう一方の手だけで結構な重量の荷物を持ってる筈だが全然重そうにしていない、むしろ軽々とぶら下げている、やっぱり艦娘の身体能力は凄まじいな、走って逃げようとしなくて正解だった。

 

まったく……ウン千円を後生大事にしとけよ、ちなみにお会計で俺の意識は再び吹っ飛びそうになった。

 

買うべきものは大方買えてホームセンターを後にする、次は服屋だが、もう金ないぞ?

いくら偉大なる我らが『安い服屋』様でもこの残高でフルコーデは無理じゃないかな。

 

 

_ _ _ _ _

 

 

 

 

入店すると目に飛び込んでくる様々な衣服類、バッチリ過疎の影響を受けて全く賑わず、心なしか店員もやる気を無さそうにしている。

まさしく大衆の洋服店って感じの店内だ、ところが戦艦棲姫は格安の衣服類の数々に目を輝かせている。

 

お前はもう姫名乗るの止めろよ、戦艦民間人とか戦艦一般人とかに改名しろよ、どう見ても姫じゃなくて

田舎から出てきたばかりの田舎者に見えるぞ、俺は都会から田舎に引っ込んだんだがね!(どうした、笑えよ)

 

試着室に行けば試着が出来ると教えてやると、気に入った服を見つけては試着して見せてくる。

「ドウ?似合ウ?」

「おお、似合うんじゃないかな、いやマジで似合ってるから困る」

 

正直な所何を着ても想像以上に着こなしてくる、原因は多分、恐ろしいほど整ったボディラインと顔立ちのせいだろう。

下手なファッションモデルでは勝てないエレガントさに一々度肝を抜かれる、信じられるか?この服そこらの服屋の売り物なんだぜ?

 

少しでも高かったら却下してやろうと思っていたが、一種脅迫じみた魅力に圧倒されて結局大半を買う事になった。

こんなところでファッションモデルの宣伝効果がいかに重要かを知ることになるなんて夢にも思わなかったんだけど……

 

ちなみに金額?ああ、財布からついに完全に札が消えたよ。

 

さぁ、家に帰るか

俺は涙を拭いて重い足取りで家に向かって歩き出した。




本編の解説

大まかな設定
艦娘は人造人間で妖精さんが資材を憑代に色々すると誕生。

戦争は人類側が大分優勢で、経済危機こそ起こってもバブル崩壊やリーマンショックに比べればまだまだってレベルで、内地はほぼ安全、国の新兵器の開発も進んでいる。

研究が進んでそのうち深海棲艦にも効く兵器とかが開発されるんじゃないですかね
そうなった場合、そこからは戦争どころか一方的な蹂躙になるでしょうが・・・



艦娘
:ご存じ艦の擬人化した娘達、艦娘の運用方法をそのまま報道されたら非人道的と批判される事が懸念されているので報道規制が厳しい、ながもん可愛い

深海棲艦
:これもみなさんご存じ人類の敵、混乱を防ぐため人間型の深海棲艦は公表されていない、ただし人外型の深海棲艦は公表されている(例:駆逐イ級)
どういうわけか上位種(鬼~姫)の周りに他の強力な個体が集まってくる傾向がある。
そういえば上位種が確認されたのって艦娘が登場してかららしいですよ、連中も対艦娘の為に進化してるのかなぁ。

戦艦棲姫
:本編に出てくる子は厳密には戦艦棲姫「改」
ちなみに性能は人間並の知能と凄まじい戦闘力がある(ポンコツに見えて超エリート)
しかし本当に凄いのは知性よりも理性があることで、大半の上位種が折角の知性を戦闘にしか使わないのに対して、この戦艦棲姫に限って言えば「純粋に食事を楽しむ」「ショッピングに胸を高ぶらせる」など、良い意味で人間臭い行動を取る傾向がある。

貧乏舌

主人公
:元リーマン(なおブラック企業勤め)メンタル弱い、サブカルチャー好き(サブカル脳)で、「艦娘は人外の少女」という噂から想像した結果が俗にいう『人外キャラ』だった為、角が生えてる戦艦棲姫に対して余り驚かなかった。
本人は真面目に戦艦棲姫の事を「脱兵してきた戦艦の艦娘」だと思っている。

彼は自分の事を不幸だと思っているが、実際こんな事件に巻き込まれて財布がすっからかんになるだけで済んでるだけで結構な強運かと。(もし主人公が拾ったのが好戦的な種類や、知能が余りないノーマル下位種等、話が通じない種類だったら撃たれて主人公ミンチルート)

提督
:本人の能力は平凡、彼の鎮守府は上位種による深海棲艦の強化現象の影響をモロに受けている為、秘書艦の大淀と共に精神をゴリゴリ削られながら対応中、そのストレスにより胃袋に穴がプチプチと空いている。(まぁ、そうなるな)


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番外編:自分の事を提督だと思い込んでる元提督のお爺さんと自分の事を那珂ちゃんだと思い込んでいる軽巡棲鬼

世界観は同じですが本編主人公たちとは全く関係ないストーリーです。
要望があれば別のシリーズとして書いていきます。


かつて、眉雪の鬼と呼ばれた提督が居た。

 

とてつもない提督適正ゆえ国から声が掛かり、着任時点で70を超える老齢でありながら彼が指揮した戦闘は常勝無敗、彼は軍人として己を曲げず、誰にも媚びず、彼の生き方は寸分違わず英雄であった。

 

しかし誰もが英雄視していた彼も本格的な老いには勝てず退役する事となった。

そんな彼はその後、静かに己の終焉の時を待ったか?

 

否、常に戦という物に向き合っていた彼は、退役した後も周りの俗物に交じる事を良しとしなかった。

 

彼は本土とは離れた小島に住み、己という物に向き合い続けた。

人とは殆ど関わらず、ひたすらに散って行った戦友達へと祈りを捧げた

所が、彼はそのような俗世と離れた生活をしていたため思考回路が混濁してしまった。

 

平たく言えば彼はすっかりボケてしまったのである。

 

そんな彼は未だに自分の事を提督だと思い込んで静かに暮らしている。

 

彼も本当に一人であるなら、ひょっとすれば何処かおかしいと気付けたのかもしれない。

彼が自分の事を提督だと信じて疑わないのは未だ風化しない壮絶な過去の経験と、彼を提督だと慕う者の存在が大いに関係している。

 

 

 

 

 

 

 

またある所に、もう一人鬼の名を冠する者がいた

 

軽巡棲鬼と言われた彼女は、敵対する者に容赦という物は無く、軽巡と言うには無理はあるオーバースペックとそれを10割以上発揮する戦闘センスを存分に振るい、当時彼女は無敗であったという。

 

そんな軽巡として無双の強さを持った彼女も激戦の最中、頭部に砲撃を受けてあっさりと敗北を味わう事となった。

 

彼女は敗北の味を知ってしまったが、一切悔しがるような事は無かった。

 

と、いうよりそもそも彼女は余りにも良い砲撃を食らいすぎて記憶を遥か彼方に吹っ飛ばしてしまったのである。

 

記憶がぶっ飛んだ彼女は、何故か自分が艦隊のアイドルとして宜しくやっていた様な記憶が引っかかり、長らく思い悩んでいたが、たまたま出くわした他所の那珂を見て確信に変わった。

 

そう、自分は艦隊のアイドル那珂ちゃんなんだ、と

 

自分が那珂であると思い込んだ彼女の行動は早かった、自分が仕えるべき提督を探すべく、近海を航行した。

 

なんの変哲もない小島を通りかかった時に、彼女は強い気配を感じた。

砂浜を見れば尋常ならざる気配と提督適正を持った老人が海を眺めて座っている、それを見た彼女は一種運命の様なものを感じたのか、老人に部下として付いていくことを決めた。

 

「艦隊ノアイドル那珂チャンダヨ~ヨッロシクゥ~!」

 

記憶を辿って、出来るだけフレンドリーに、アイドルらしく老人に話しかけた。

老人も相手が那珂であると言えば、疑う事を知らずに軽巡棲鬼の事を那珂ちゃんだと思い込んだ。

 

「うむ、私は××鎮守府所属の……以後宜しく頼むぞ那珂ちゃんや」

 

かつての経歴を語った元提督、非常にシュールな光景だが本人たちは至って真面目なので目を瞑って欲しい。

そしてこれがかつて鬼と呼ばれた者同士の奇妙な関係の始まりであった。

 

 

奇妙な会遇から早数か月が経った、互いの関係は拗れることなく、絶妙なお互いのすれ違いにより奇妙な関係が成り立っている。

 

「マルロクマルマル、アッサデー……」

「おはよう、では朝食後に事務作業を始めようか」

「ム~那珂チャンハアイドルナノニ~提督ノ方ガ忙シソウ~」

 

二人の朝は早い、どうせ仕事なんて無いのに無駄に早い。(多分片方老人で片方深海棲艦だから)

起床した二人は仲良く食卓を囲んで、小さいテレビを見ながら朝食を取る、情報収集を欠かしては勝つ戦いにも勝てないというのが彼らの談である。

 

「ご馳走様」

「ゴ馳走様デシタ、那珂チャン食後ノボイトレ行ッキマース」

「よし、聞こうじゃないか那珂ちゃん」

 

食後のボイトレを始める軽巡棲鬼、食器を片づけながらそれに聞き入る元提督、お互いまともであった頃は顔を合わせれば殺し合いを始めていたのに、皮肉にも敵同士という前提を取り除けば祖父と孫の様に微笑ましい間柄に早変わりする。

 

ボイトレが終われば島の見廻り、自主訓練とルーティン化された習慣を続けていく。

昼食を挟んで、午後が始まり、全ての業務を終えるのは夕方頃になる、そしてその頃には提督も書いていた「報告書」を書き終わる。

後はもう夕食食べて、晩酌して、軽巡棲鬼の一人コンサートを老人も楽しんで・・・ニの字になって(もう一人居れば川の字だったか)仲良く寝る。

そんなこんなで一日は終了する。

 

明日もまた規則正しい時間に起きて二人で「業務作業」をするのだろう、そしてお互いの大事にしながら励まし合い、一つの目的の為に協力するのだろう。

誰も見向きもしないような島で、深海棲艦と人間。両者間で、ある意味理想的な共存関係が築かれている事は、本土の人間には恐らく知る由もない。

 

彼女らの終わりの無い奇妙な「戦い」は当分続く。

 

 

 

 




軽巡棲鬼:自分の事を艦隊のアイドル那珂ちゃんだと思い込んでいる深海棲艦、砲撃を頭部に受けて記憶が見事に混乱してる。
元提督の事は本気で慕っているようで、意外と命令に忠実。
普通に考えれば自分を那珂ちゃんだと思い込んだ所で、那珂ちゃんの細部まで真似できるはずがない、しかし行動は完全に那珂ちゃんのそれ。
もしかして、昔は本当に那珂ちゃんだった・・・?


眉雪の鬼:昔は有能な提督だった、今はボケてる。
本人的には真面目に提督業務をしているつもり、「匿う」主人公と違って深海棲艦の正体も知ってたが、そういった記憶も全部ボケて定かじゃなくなってる。
文字通りチラシの裏に業務報告を書き込んだりして、極秘文書として、ぶっ壊れて存在も忘れ去られたポストに投入したりする。(当然届かないが)

余談ですが事の進み方によっては鬼~姫級が懐柔できる可能性も出てくるという事実が大本営に知れれば大ニュースどころか戦争終了の絡め手になるでしょう。
まぁ、そんな日が来ればですが。


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第六話 これからの方針決まったヲ!

三か月くらい……遅れてもバレへんか


人類の敵である深海棲艦、最初の個体が発見されてから10年以上経つも未だその実態は誰にも知られることが無く、上位種に至ってはごく一部の人間しかその存在すら知られていない。

 

そんな上位種の深海棲艦と直接面を合わせたことがある人は更に極々僅かだろう。

しかし僅かながらも全く居ないわけではない。

 

第一に(純粋な人であるかは別として)艦娘、練度の高い艦娘は鬼~姫級との戦いが主となるため、必然的に接触する機会が多くなる(交流という意味ではないが)。

 

第二に艦娘を指揮する提督、深海棲艦と直接対峙し、迎撃する職業についてるだけに、上位種に攻め込まれるなり、逆に攻め込むなりで直接お目にかかる機会も多くなる(この場合大半はその体験談を冥土の土産としてあの世に直送する事になるが)

 

第三に、中でもこれはレアケース中のレアケースだが、原因は不明ながらも人類と敵対しない個体が存在する。

例えばネズミと仲が良い猫が存在するように、或いは特に調教したわけでもないのに人に慣れてくる野生動物が居るように、一体何処で分岐したのかは分からないが、人を襲う訳でもなく思い思いの行動をする。

そういった敵意のない個体と交流した者が居る。

 

とはいえこれは前述の通りレアケース中のレアケースであり、悲しいかな上位種含む人型の深海棲艦の存在に情報規制が敷かれている事も相まって接触した人間はそもそも話し相手がまさか深海棲艦である等とは思いもしないし、余程の事が無ければ相手も敵対している人間と不用意に接触するようなリスキーな真似はしない。

 

万が一敵意のない個体に出会えれば奇跡だろう

 

そう、奇跡だ。

 

 

 

 

____________

 

 

 

 

 

 

 

買い物の後、静まり返った道をトボトボ歩いてボロ家に着く、屋根の瓦は所々剥げていて、使われている木材は少し腐食している、庭や玄関前には草が生い茂っていてプチジャングルと化しており、おまけに付近の道などが暗いのも相まって昼なのに幽霊の一人二人出そうなくらい迫力があるが、今の所そういった怪異が起こったことは(あまり)ない。

 

幽霊なんて怖くないし、むしろしょっちゅう出没するカマドウマ(バッタ目・カマドウマ科検索しちゃだめだぞ☆)の方が怖い位だよーHAHAHA!

噓です、本当はカマドウマも幽霊も怖いです、でも金銭とか諸々の理由で引っ越せないんだよ……

 

元々度胸試しの一環や改造車で暴走しに来る田舎DQN、おまけにオカルト的な意味でヤバそうな物を呼び寄せる事に関しては物凄い町だが、愉快な(やべえ)仲間たちにもう一人加わったのが、俺の隣にいる改めて家の全貌を見てギョッとしてる自称姫の艦娘だ。

 

「ネ、ネエ、ココニ本当ニ入ルノ?ココデ寝ルノ?」

「嫌なら出てけばいいんじゃないかな、むしろ大歓迎だったりするんだけど」

「遠慮シテオクワ……」

 

あからさまに嫌そうな顔をして冷や汗まで流している戦艦棲姫、青白い肌とか黒づくめの服とか真夜中に見たら驚かれる側だぞその見た目。

実際の所最初に見た時は死人かと思ったし、異様に冷たい体温も相まってバリバリ幽霊っぽい。

 

「仕方ガナイ、ア、コレ返スワネ」

 

戦艦棲姫が頭に着けていた手拭を外したので必然的に露わになる角、明確に角であると主張するそれに視線が吸い寄せられる。

角の事忘れてたわ~物の怪だね、幽霊通り越して。

 

「なぁ、その角的にむしろお化けサイドだろ、怖がられる側でしょ、というか鬼の友達がいるんじゃあないか?」

「……」

なんて冗談半分に聞いてみる、もう半分は角や生い立ちについての純粋な好奇心。

それと談笑の流れであわよくば鎮守府の内部事情なんて聞きだせないかな~なんて。

談笑のつもりだったんだが、鬼という単語にギョッとした顔になった後に急に無口になった。

 

怒るか反論するか笑うかしてくれなきゃ申し訳ない気分になるんだが。

 

あんまり踏みこんじゃいけない領域に踏み込んじゃったようだ、あれ?マジで鬼とかなの?

 

「サテト、貴方ハ恩人デ協力者ダカラ」

「いや待って、協力したくてしてるんじゃないんだけど」

「トモカク恩ハ返スワ、本当ニネ、要求ヤオ願イハ聞クワヨ?」

 

静寂を切り裂くように話し始める戦艦棲姫、戦艦田舎娘モード全開だったつい先程と違って真面目な顔をして話すもんだから調子が狂う。

ただツッコミ入れるべき所はツッコませてもらうぞ、俺は協力したくてしてるんじゃないし、恩を売ってる訳でもない、まぁ貰えるものは病気以外なら貰っておく主義だし、本人から恩を返したいと言ってくるなら要求しよっかなぁ~

 

なんだよ、プライドで飯が食えるか!

 

いや・・・やっぱりやめた、奴が要求(脅迫混じり)して俺が泣く泣くそれに応えるギブギブ(give-give)状態だからこそ俺には被害者感があるが、これがgive&takeの関係になったらそれこそまさしく協力者になっちまう。

既に世間には言い訳不可能だが一線だけはまだ越えたくない、一線越えれば自他ともに認める犯罪者だ。

 

そう考えを巡らせて玄関に入ろうとすると、遠くから爆音が近づいてきた。

頭悪そうなネオンを付けた車に乗って、パラリパラリうるさいラッパホーンに爆音改造マフラーをブンブン言わせてる典型的な田舎珍走団って感じの馬鹿ドライバーだが、こういうナーバスな時に近くを通られると頭にくる。

 

「ああいう連中マジで消えてくれないかな、くたばっちまえよ本当に」

 

それでつい毒を吐いてしまった

あ、勘違いするなよ?ただ爆音改造車を見かけただけで本気の殺意を抱くようなサイコパスじゃない。

 

「ツマリ、アノウルサイノガキエレバイイノネ?」

「まぁ、さっさと消えてほしいね、ああいう輩は」

 

今まで以上に平坦な口調で話す戦艦棲姫を訝しみながらも俺はポケットから玄関の鍵を出す。

 

予防線貼っておくがさっきの爆音ドライバーが消えてほしいってのも俺は「爆音を止めてほしい」くらいのニュアンスで言ってる。

 

玄関の鍵を開けようとしてそこでハッと違和感に気付いて振り返ると、あいつは砲塔とクリーチャーが合わさった様な物(生物?)を後ろに出して、爆音車に照準を合わせていた、それも人形のような無表情で。

 

「おい止めろ馬鹿!」

「ヤメルノネ?」

察しも頭も悪いと自負してる俺でもこいつが何をしようとしていたのか気付けた、間違いない、俺がここでストップ掛けなければ、冗談抜きに残り数秒であの車は吹っ飛んでいたろう。

 

何故こいつは車を吹っ飛ばそうとしたのか?

簡単だ、俺が消えてほしいと言ったからだ。

 

こいつは冗談でも俺がGOサインを出せば絶対に従う、従ってその要求を満たそうとする。

 

心底ゾッとしたのは、こいつは命令(要求)一つで人を殺そうとした、更に殺そうとしたのを俺に止められたのに何も疑問に思っていない、つまりそれだけ盲目的に従ったわけだ。

 

まるで機械だ、所持者が指示を出せば言葉通りの事をする、そこに本体の意志は存在していない。

 

ただの脱兵者だったらどれだけ良かったか・・・問題児ってレベルを遥かに飛び越したぞこれは。

俺はようやく消えかけた緊張感がまた蘇ってきてカチカチになった手で玄関の鍵を何とか開けた。

 

……慣れたから漏らしてなんかないぞ?

 

 

 

____________

 

 

 

 

それから何分経ったのか、現在時刻は12:30頃昼飯時だ

先程見せた無機質さはどこへやら、俺が適当に作ってやった山盛りのカレー(レトルト)をおいしそうに頬張る戦艦棲姫。

感情あるじゃないか(呆れ)

黙っていれば可愛いのに、いや黙るとさっきの無表情を思い出しちゃうから可愛くなくてもいいから喋ってろ。

 

「オイシイワネ」

「お、おうサンキューな、仮に不味いって言ってたらキレてたけど……」

 

なんで平常心でいられるんだこいつ、おまけにレトルト食に舌鼓打つのはテンプレか何かなのか……?

 

とりあえず切り替えよう、俺がこの戦艦貧乏舌とやっていくにはどうするかも視野に入れないといけない、どうせ一緒に居る所も見られてるし防犯カメラにも映ってるんだ。

脅されていたから一緒に買い物をした、これは事実だが世間様に認められる可能性は低い。

 

いや待てよ?こいつは本当に脱兵者なのか?

近くに鎮守府がある、海岸でぶっ倒れてた、明らかに艤装っぽいものを出してた。

これだけの要素で艦娘の脱兵者と決めつけるのは・・・いやそうじゃなきゃ何なんだ、上の命令なら少なくともほとんど世間に公表されてない艦娘を辺境の町にいきなり放り出すようなことはしないわけだし、戦闘とかで行き倒れてただけなら本部に戻ろうとするし。

 

うん、脱兵者だな、間違いない。  

戦闘が嫌になったかあっちで問題を起こしたかで逃げてきたんだろう。

 

いやそんなことはいい、この爆弾娘曰く(もし上手く弁論できれば処刑されないかも)らしい、どんな理由があるにしろ、鎮守府にバレちゃならない+この戦艦一般人を敵に回してもいけない。

最初は絶望したが、この二つさえしなきゃ良い訳だ。

なーに、俺なら大丈夫さ、多分、恐らく、ひょっとしたら、もしかすると・・・いや無理かも

 

考えもまとまったし、ひとまずはこいつを刺激したりしないようにしつつ、怪しまれずに日常を過ごす!

中身は別としてルックスは良いんだ、別嬪さんと同居してると思えばそのうち癒しに変わるかも。

 

 

さて、何気なく目線をテレビに移してニュースを見てみるとニュースキャスターが真面目な顔をして現在の戦況を説明している、あ、今テロップ間違えたな。

最初はテレビから目が離せなかった深海棲艦関連のニュースも、今じゃテロップ間違いの方に目が行っちゃう程度だ、随分人事になったもんだよ。

ま、実際本土が襲撃されたの何てここ数年ないけどな。

 

「深海棲艦関連ノ情報ハドコマデ知ッテイルノ?」

 

あん?急だな、当事者の艦娘が一番色々知ってると思うんだが。

「戦況は人類側優勢、深海棲艦にも効く新兵器の開発も進んでて、今じゃシーレーンも7割方奪還してる」

「艦娘ニツイテハ?」

「あんまり知らない、情報規制が敷かれててさ、艤装出せて深海棲艦にも攻撃が通る女の子」

「聞クケレド、深海棲艦ノ見タ目は公表サレテルノ?」

 

深海棲艦の見た目?ああ、すっげえグロイよな、直に見たら多分SANチェック入るだろうねあれは。

「公表されてるよ、クジラを土台に触手とか霊長類の腕とか色々くっつけた見た目してるよな、キモイ」

「後ハ、何故私ヲ拾ッタノ?」

 

何故拾ったか?最初はまっとうな艦娘かと思ったからだよバーカ!なんて言ったら引き裂かれそうだから、ボカしておこうかな、拾ったは100%善意からだったのは本当だし。

 

「最初に話した通り、100%善意だよ、見かけたのは偶然だし」

「……エ、エエ、善意?」

「最初は一般人かと思ったんだよ、で、顔立ち見て外国人かと思って、角を見かけて最終的に艦娘だと思った、そんでもって救急車呼ぶか病院に連れてこうと思ったんだよ、ほらお前顔青白いだろ?」

「続ケテ」

「それで、携帯を家に忘れてきて救急車を呼べない事に気付いた、病院も遠いし、それで携帯を取りに戻るついでに安全な自宅に運んだってわけ」

 

まぁ、その後俺の携帯はこいつに握りつぶされることになったんだがな、あれ?こいつ疫病神じゃね?

 

「……ソレデ?」

「いや、自宅に運んだ直後にお前は目を覚ましたから、後はお前の記憶通りで、事の顛末は語り終わったよ」

 

うん、こうして思い返すといくつものIFが重なってこんな状況になってるわけだ、海を間近で見たくなったとかふざけんなよ当時の俺は、いくら気持ちのいい朝だからって海に行くとか論外だわ。

 

「俺は全部語ったんだからこっちも聞いていいよな?」

「……」

「だんまりは通じないぞ、黙秘権は取り調べで使いな、俺はお前曰く協力者なんだろ?」

「……可能ナ限リハ話スワ、ソレデドコマデ聞キタイノ?」

 

ようやくここまで持ち込めた、ここまで来たんだ、聞けるだけ聞いてやるぞ。

 

「まず、お前はなんで海岸で倒れてたんだ?」

俺の推測だとここから最寄りの鎮守府から脱兵してきて行き倒れた、だが?

 

「戦イデ撃タレテ、失神シテ例ノ海岸マデ流サレテキタ」

「ん?その理由だと鎮守府戻らないのは何故なんだ?」

「察シテイルデショウケド、戦イガ嫌ニナッタカラ」

 

まぁ、8割正解って所か、こいつが鎮守府の実態という国家機密を知ってる以上、何としてでも国サイドはこいつを取り返そうとするってわけだ。

 

「どうして俺の家を隠れ蓑にしたんだ?いやこれは大体わかるが」

「マァ、アナタノ想像通リ目立ツ外見ヲシテイルカラ、サッキハ目撃サセテ証人ヲ作ッテ、アナタヲ逃ガサナイヨウニスルタメニ外出シタケレド、モウ表ニハ出ナイワ」

「やっぱりわざと目撃させてやがったのかクソ……他には……ウーン何もないな」

 

何か聞けることは無いか?まぁ残りは思いつく度に聞いていくとしよう。

 

今度は天気予報に切り替わった映ったテレビを見るために振り返る、海も山も近いから天気が不安定なんだよねこの辺、お天気アナの話を聞いていると、玄関のドアが叩かれた。

 

トントントン トンドンドゴォ!

 

居留守使おうかと思ったけど、戸を叩いて出てこないならもっと強く叩けばいいと言わんばかりに強くドアを叩かれたものだから、たまらず出ることに。

 

「出テ」

「言われなくても、不安だけど」

 

このタイミングでの訪問者は凄い不穏だ、N○K集金人とかセールスであって欲しいと思ったのは人生で初めてかも知れない。

「はいはい今出ますよ」

不安を隠して何事も無いように扉を開けた

「ヲ!」

閉めた

 

うん、俺の目は腐ってる、抉り出して代わりにキャンディでも詰めときたい

目の前に少女が立ってるなんてファンタジーやメルヘンの世界じゃないんだからさ。

もう一度開けてみる

「ヲ!」

 

変わらぬ景色だった。

 

相変わらず目の前には女の子が立っている。

目の前に立ってる女の子で、まず目に入るのがクラゲのようなグロテスクな被り物、魔女の杖の様なスティック、ハイヒール。

何よりオーラみたいなものが出てて左目から比喩表現抜きに眼光を放っている。

 

間違いねえ艦娘だ。

 

そしてこのタイミングで訪れてくるってことはつまり・・・

 

 

 

ガサ入れ来ちゃったあああああああああああああ!?!

「ヲ?」

目の前が真っ暗になった!




戦艦に空母、エンゲル係数がマッハだね、良かったね


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第七話 ストレス倍プッシュ

急に伸びててビビった、狂いそう・・・!(歓喜)


情報規制により今は世間には実態が知られていない艦娘、芸能人の情報はどっからでも仕入れてくるマスコミも、国ぐるみでの隠蔽には流石に手も足も出ないようで、情報が出回ったことは知ってる限りでは一度もない。

 

一応ネットにも噂は色々転がってるがイルミナティだの、アメリカの生物兵器だの、日本生類創研が作り出したSCPだの、実は深海棲艦と艦娘はグルだので信憑性があるのは見かけない。

 

つまり何が言いたいかというとだ、世間じゃそんな伝説の生き物と化してる艦娘の内二人と会話できたのは宝くじの特等を連続で当てるような凄まじい運だろう。(しかも一人と同居してる)

 

どうせ運使うならこんなのじゃなくて普通に宝くじ特等が欲しかったよ……

 

__________

 

 

やべぇよやべぇよ……ガサ入れ来ちゃったよぉ!

いや待て、ガサ入れじゃないかもしれない、その可能性に賭けるんだ。

 

「どういったご用件で?」

「ヲッ」

「あの、どうかなさいましたか?」

「ヲッヲッ……ヲッ!」

 

ま る で 話 が 通 じ な い

ひょっとしてこれはおちょくられてるのか?

 

「大丈夫ですか?」

「ヲ!」

頷くヲの人

とりあえず言葉は通じているようだ。

 

目の前の艦娘(?)は相変わらず「ヲ」しか話さないが、それなのに声自体が鈴の音の様に綺麗だからか不思議と不快にはならない。

 

「今はちょっと立て込んでるんで、すいませんが日を改めてください」

「ヲ~?」

 

駄目だこれ、ポカーンとしてるわ

でも心のどこかで安心した、取調べとかガサ入れなら此奴みたいな、ちょっと抜けてる艦娘一人にやらせるはずがない。

 

あれ?でもそれなら国家機密そのものが家を訪ねてくる理由は何だ?

 

さっきは焦ってたから気付かなかったが、親方日の丸が絡んでるんだったら警察とかそれらしい奴らを使って、もっとそれらしい方法で調べるはずだよな、麻薬の取調べです~とか言ってさ。

 

そうでなくとも艦娘一人で現場に来るはずがない、目立つ格好だし、仮に戦闘もやむなしと判断されてるならもっと大がかりな人数で来るだろう。

つまり……あれ?なんで来たんだろう

 

「どうしてここに来たの?」

「ヲ~」

 

こっちの言葉は伝わってるみたいだけど、会話が一方的すぎる……

何言ってるのか分からないわ、口が聞けないらしいけど。

 

何やら家の中を指を指している、ああ、中に入りたいのね?

却 下 す る

 

今回は艦娘という見えてる地雷には何があろうとも絶対に触れないぞ、ただでさえ俺の後ろにゃ誘爆しそうな奴が約一名控えてるんだ。(そいつは今頃まったりしてるが)

 

適当に言いくるめてヲ引き取り……いやお引き取り願おう、目立つ格好だからそのうち通報か何かで保護者が来て元鞘に収まるだろ。

 

「いや~家の中に入れてあげたいのは山々なんだけど急なもんで、ロクなおもてなしできないから……ダメダメダメ!」

「ヲッ」

 

話し始めたら何故か俺を押しのけて家の中に入ってきやがった。

俺が家の中に入れてあげたいって言ったから?

 

お決まりのフレーズが通じてねええええええ!

あ、ハイヒール履いたままだこいつ、靴脱いで!せめて靴脱いで!ねえ!

 

「ちょいちょいちょい!待ってくれ、色々あるからさぁ!別の日に」

「ヲ?ヲッ!」

 

振り返ってこっちに歩み寄ってくるヲの艦娘、まじまじと見てみると顔立ちはまるで人形のように整っているし、どっかの貧乏舌程ではないがナイスバディだ、街を歩けばナンパの嵐だろう。

 

少し見惚れているとヲの人はポンポンと軽く肩を叩いてくる

俺が頭に?マークを浮かべていると、キリッとした表情で両手のサムズアップをしてきた。

 

ええと、ニュアンス的には「大丈夫だよ」か

 

そうじゃないんだよなぁ……

 

またズカズカと歩き出すヲの艦娘、このままだと本当に戦艦棲姫の所に行かれる!こいつらを接触させるのはまずい!本能が二人を合わせてはいけないと警告してきてやがる。

 

ヲの艦娘は戦艦棲姫のいる部屋のドアを開けて……あ、終わった

 

「何事ナノ?エ、ヲ級?何故コンナトコロニ?」

「ヲッ」

「は?」

 

想定外だった、お互いは既知の関係だったらしい、戦艦棲姫はヲキューを一瞥すると急に顎に手を当てて思索に耽りだした。

とりあえず話に着いていけないので質問をしてみる

 

「ええと、知り合いなの?」

「エエ、ソノ子ノ名前ハ空母ヲ級」

「くうぼをきゅー?ああ、空母ヲ級ね、いやそのネーミングは深海棲艦っぽくない?」

「……マ、マァウン、ソウネ」

 

まったく、空母ヲ級ってなんだよ、軽空母ヌ級とかと同じ系列にされてこの娘もさぞ不満だろう。

深海棲艦みたいな名前にされたら俺が名付けられる立場なら名付け親を殴ってるね。

 

あれ?なんで汗かいてるんだこのバカ舌。

 

「ヲ!」

心なしかヲ級の目が輝いている、顔見知りと再会できて嬉しそうだ、しかしこの二人の関係が全く想像できない。

 

というか待てよ、この流れはマズくないか?

仲良しなのは良いことだが、何度も接触されたらそこから足がつくかもしれない。

 

ひとまずもうこの家に来ないように誘導して……

 

「私ノ元部下ヨ、決メタワ、コノ子曰ク逃ゲテキタヨウダシ、コノ子モ匿ッテアゲテ」

「は?寝言は寝て言え」

 

何言ってるんだこいつは、お前一人養うだけでもストレスが臨界点なのにこれ以上何を望んでいるんだこの貧乏舌が。

まさか本気で言ってないよな?その眼を見ればジョークかどうかすぐに分かるぜ。

 

こいつ、本気で言ってやがる……

 

「ヲッ」

ヲ級はニコッとした笑顔で俺の片手を握ってブンブンと上下に振ってきた、なるほど握手か

これはこれは、どうもご丁寧に。

いや、そういう問題じゃないんだが。

 

「ヨロシク、デスッテ」

「いや養わないぞ?絶対に。そもそも勝手に引き抜きみたいなことをして良いのかよ?」

「構ワナイワ、彼女曰ク自分ヲ追イカケテ来タラシイシ」

「いや、理由があってもこっちの財力的に……」

「ドノ道、コノ子ガ見ツカレバ捜査ノ手ガコッチマデ来ルワ、金銭ヨリモ捕マラナイコトガ重要デショウ」

 

ああ、糞やっぱりこうなってしまった、その通りだな。

 

仮にこの子が捕まれば、芋蔓式にこっちが捕まる可能性がある、黒づくめとはいえかなり一般人っぽい格好をしている戦艦棲姫と違ってこの子はかなり目立つ外見をしているからな。

 

はぁ・・・まぁいいか純朴そうな子だし、見捨てて最悪、野垂れ死なれちゃ後味悪いとは思ってた部分もあるから仕方がないか。

さぁて、金銭面をどうやってやりくりするかね……

 

「とりあえずよろしくねヲ級さん」

「ヲ!」

ぐぅぅぅと狙い澄ましたようなタイミングで腹の虫が鳴ったヲ級、言った傍から食費が掛かるとは。

 

まぁ、腹減ってるなら飯にするかな。

 

「ヲッ」

相変わらずヲしか喋らないヲ級、まったく、これから先どうなる事やら、まさか二人も艦娘を匿う事になることなんてな……

いや待って、本当にこれからどうなるのか分からない、一寸先はあの世だわこれ。

 

 

 

________

 

 

 

戦艦は大食いだ。

 

これは提督であるならば、いや戦艦という物を知っている人物ならば常識と言っていいだろう、深海棲艦側の戦艦も例に違わず大食いであった、では、次点での大食いの艦種と言えば何か?

 

答えは空母だ、これも至って有名な話だ、どこかの正規食う母、いや正規空母が大食いネタで日々いじられていることも、裏を返せばそれだけ初運用した時の提督の衝撃が大きかったことを意味する。

 

通常、戦艦及び空母の運用方法だとかは予め学校なりで学ぶ上に、そもそも戦艦・空母を数人運用するだけでヒイヒイ言っていては、何時まで経っても素人の域を出れないだろう。

 

しかし、今回戦艦・空母を養っているのは何のノウハウも後ろ盾もない一般人だ。

 

そしてもう一つ忘れてはいけない要素が、艦娘は性能が高ければ、基本、資源消費量が多いという点である。

 

これも深海棲艦サイドであってとしても変わらず、一部を除き、性能が高い艦は消費する資源量が多い。

 

さて、想像してほしい、生半端な攻撃を全てカスダメにする凄まじい装甲と大和型だろうが平然とワンパン大破してくる火力(あと吸引力)を併せ持った怪物と、凄まじい制空力と地味に凶悪な装甲で幾多の艦娘と提督の毛髪を葬った化け物。

 

こいつらを両方、前述の通りの一般人が養っていくとすれば、どうなるか。

 

当然こうなる

 

 

 

_________

 

 

 

 

「返してくれよォ!俺のザビーゼ……食材ぃ!」

「ヲ~ヲッ」

 

実は小食なのではないのかとほんの少し期待してたが、案の定この空母ヲ級とやらもかなり素晴らしい食べっぷりだ、なまじおいしそうに食べてる分止めるタイミングが見つからないのがズルい。

 

あれ?食材の消費スピードが加速してね?ついでに俺の寿命が尽きるスピードも食費に比例してどんどん増えている気がする。

食費倍プッシュですか、アカギじゃないんだからさぁ!倍プッシュはいらないんだよ!

 

ああ、こいつら容赦ねえ。

 

「なあ」

 

微妙に聞きたいことができたので、食器を洗いながら戦艦棲姫に声を掛ける。

 

「もう一回聞くけど、ヲ級はお前の元部下なんだな?」

「エエ、『ヲ』シカ喋レナイケレド、良イ子ヨ?」

「つまり、唐突に砲撃してきたりはしないんだな?」

「ソウネ」

 

俺は元々ストレスに弱いタイプなんだよ、メンタル攻撃されると命と精神が持たない。

 

「間違っても問題とかはやらかさないでくれよ?トラブルメーカーが二人いると俺はこのままじゃ()()()を履いて過ごすことになるわ」

「……ナルベク善処スルワ」

 

『こんな生活続けてたら体壊しちゃうよ、無理しないでね××さん』

 

「……?貴方何カ言ッタ?」

「いや、トラブルだけは勘弁してくれって話だよ」

「ソウ、ネ」

「まだ納得いってなさそうな顔だな?」

 

今何か言ったか?俺、オムツ云々が引っかかったのか?いやそんな筈ないな。

 

「ヲ」

「お、おう?」

 

肩を叩いてくるヲ級、俺が手に持っている食器を指さしてくる。

ん~と、「手伝う」って言いたいのかな?

 

「手伝ってくれるのか?」

「ヲ!」

 

頷くヲ級、無駄に優雅にお茶啜ってるどこかの貧乏舌にも、ヲ級の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいね。

 

「ごほん、えへん」

当てつけの意味でわざとらしく咳払いしてやる

 

「風邪カシラ?」

「ヲ……?」

 

そうじゃねえよ

 

まったく……何にしても久しぶりに人と一緒に昼飯を食べたな、騒がしかったけど

まぁ、たまには悪くないな。

 

 

_______________

 

 

 

 

昼下がりの鎮守府。

この時間帯は街などが一番活気がある時間だ、当然鎮守府も例外でなく、出撃をしていない艦娘達のワイワイと話す声が聞こえてくる。

 

艦娘が食事後にひと時の休息を挟む中、一人簡素な食事をさっさと済ませて執務作業に戻る提督。

 

「提督、そろそろ休まないと本当に体を壊すわよ?」

「大淀にも言われたよ、でも本当に心配は無用だから心配しないで」

 

執務室に入ってくる艦娘、表情などから艦娘が提督の事を本当に心配してるのが見て取れる、しかし提督はあくまで心配はないと訴える。

 

「ほら、駆逐艦達も提督の事を気にかけていたわ、だからたまには執務を私たちに任せて、あの子達と遊んでも……」

「うん、その内ね」

 

相槌は打っていたものの恐らく言葉通り休むことは当分ないだろう、それを察しているのか黙り込む艦娘。

 

「……まだ、あの時の事を引きずっているの?」

「七割正解かな、意外とまだ頑張れそうだから純粋に頑張っているってのもあるさ」

 

少しツラそうに語り出す提督、机に置いた手が小刻みに震えている。

 

「あれは、仕方がなかったの、どれだけ気を付けていても一つの事故で状況はひっくり返る、それは当時の私たちも理解していたじゃない、だから」

 

「だからこそ俺は二度とあんな思いをしたくないんだ、というより休んでると頭にチラつくんだよ、あの日あの人と最後に交わした言葉がさ」

 

心配かけちゃって悪いね、と無理に笑顔を作って続ける

 

「心配しなくてもヤバいと思ったら休むさ、だから今は、お願いだから僕に続けさせてくれ」

 

「……ヤバそうなのに休んでなかったら、絞め落としてでも寝かせるからね?」

 

仕方がない、と諦める艦娘、この男の強情さを知ってるからこその判断だ。

 

「はは、強引だなぁ」

「とりあえず、私は訓練に戻るわね」

「ああ、行ってらっしゃい」

 

絶対に無理をするなと念入りに釘を刺してから退出する艦娘。

 

「君が一番つらい筈だろうに、僕と違って強いね陸奥は、だからこそ僕は休めない」

 

もう見えなくなった背中に提督は呟いた。




こうして見るとガバガバすぎる文章だぁ、文法の勉強しなきゃ(震え声)


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第八話 上位種(下戸)

艦これ二次創作での人間サイドのタイプ

タイプA クウガ型       人類が断然優勢で途中から新兵器とかも作られる

タイプB アメコミ型     艦娘は英雄、艦娘いなけりゃ戦いが成り立たない

タイプC カタストロフィ型  もう完全敗北寸前か既に手遅れ

皆はどれすき

僕はね、Aーッ!(キュピーン)
勿論二つもすき(ワイトもそう思います)

分からなかった人はジャガーマンで検索検索ぅ!



何気ない食事の時間からかなり長く経った、日も随分傾いてきて電気を点けないと暗い。

 

ここまで来ると流石に自分でも感性が麻痺し始めたのか、この状況でもリラックスできるようになってるのに気付く、いやぁ~慣れって怖いね。

 

艦娘に脅迫されて同棲することになるなんて今朝目を覚ました時点の俺は思いもしなかったな。

 

そういえばそろそろ風呂の時間だ、今日は色々あったから今日は早く寝たいね、肉体疲労よりはどっちかというと精神疲労の方が多かったけど。

 

多分風呂上がりの夕飯の仕込みは地獄になるだろうな、ブラックホールが二匹居るわけだし。

しかも明日から仕事始まるから救いが無い。

 

「ちょっと先に風呂に入ってくるわ」

「行ッテラッシャイ」

「ヲッ」

 

足早に部屋を出てお風呂場にダッシュ、そのまま高速脱衣からの掛け湯&浴槽へダイブ。

浴槽内で一息つく俺、生き返るなぁ……

 

お風呂好きな自分にとっては風呂は一日の内のちょっとした楽しみになっている、風呂上がりの温まった体をビール・チューハイやらコーラやらでキュッと冷やすのは一度味わえば誰も抗えない。

 

経済状況からしてアルコール類は量を減らさないといけないけど・・・飲酒を完全に止めるつもりはない、というか完全に止めたらストレスで死ぬ。

 

風呂から出てストレッチをしていると、何故か胸騒ぎがしてきた、強烈に嫌な予感がして慌てて着替えて風呂場から出る、台所には奴らが居る。

 

「なんだよ、心配して損した」

 

そこまで言いかけてハッとなる、やけに静かだ。

 

「ヲ~ッ」

「うお、ヲ級!」

 

何やら慌てて俺に駆け寄ってくるヲ級

言ってることは分からないが、ニュアンスは分かる、こいつはヘルプを求めてるな?ヲ級が心配そうに指を指す、そこに居たのは

 

「ウップ・・・気持チ悪イ」

「いや何やってるんだよマジで!?」

 

泥酔している戦艦棲姫だった。

 

 

_________

 

 

 

さて、この深海棲艦に何があったのか、時は30分前まで遡る。

 

男が風呂へと向かった直後、戦艦棲姫はあるものを求めていた、大半の女性が好きな物、そして海では一切手に入らなかったもの、すなわち「甘味」である。

 

最初の内は曲りなりともプライドがあるため、家の中の食糧を無断で頂くような真似だけはしなかったが、その内理性では抗えないほどまでに欲求は増していく。

 

男という唯一止める事の出来る人間が居なくなったことによりついに食欲は爆発した。

 

ゾンビのように冷蔵庫の前へ向かうと、中の物を物色し始める、ヲ級はそれを見て一瞬止めようとするが、冷蔵庫の中身を見た瞬間に目を輝かせる、この時点でヲ級の脳内は 正義感<好奇心 である。

 

「ウッ……ヤッパリ駄目ネ、姫タルモノ人間ノ食糧ヲ漁ルナド……浅マシイ」

「ヲ~!」

 

そして一旦は理性が勝ち、冷蔵庫を閉じようとしたときに、目の前にある物が映った、おいしそうな果物がいくつも描いてあるそれは、口に入る前から明確に「甘味である」と主張していた。

 

「コレハ……!」

 

今度ばかりは理性が完全敗北したようである。

 

この時点でもう少し冷静になって缶を見ていれば、チューハイこれはお酒です、と書かれた一文を見つけられただろうに、あろうことか戦艦棲姫はそれを開封すると一気に喉に流し込んだ!

 

「ゴフッ!?」

「ヲ!?ヲ!?」

 

そしておそらく生まれて初めて摂取したであろうアルコールが容赦なく戦艦棲姫の喉を焼き払った。

 

その上おまけに実は下戸であったことが発覚し、継続ダメージを受けて、今に至るのである。

 

 

 

_________

 

 

 

 

「ウ~モットサスッテ……」

「いきなりチューハイを一気飲みする馬鹿が居るかよ!?」

 

俺が風呂から上がった後にすっかり体中に酔いが回った戦艦棲姫は、完全にノックダウンしていた、アルコール中毒とか発症してこの馬鹿に逝かれたら俺はどうすりゃいいんだよ!

 

「まったく、しかも下戸だったなんてなお前」

『まったく、下戸なのに無理するからだよ』

「エ?アナタノ声ガ二重ニ聞コエル……」

 

そりゃ重症だ、二重に聞こえるとか重症も重症だぞ、でも会話は普通に成立してるし、大丈夫かな?

 

「そりゃ随分酔ってるな、今日は早く寝た方が良いぞ?」

「ソウスル事ニ……ウッ、シヨウカシラ……?」

 

顔がどんどん青ざめていく戦艦下戸棲姫、おいこれもしかして……?

 

「胃ガ痛イ……ウップ」

「おい待てストッ」

 

この後は語らない、ハッピーエンドでもビターエンドでもゲロリバースでもご自由に。

 

一つだけ言えるのは、俺はこの先何があってもこのアホに酒は飲ませないという事である。

 

 

 

_________

 

 

 

 

時刻は午後七時ごろ、夕食の時間だ

 

あの下戸がノックダウンしていれば食費は半分で済むと思ったが、文字通りにリバースしやがって、食卓に平然と並んでいる。

 

「本当に大丈夫なのか?」

「エエ、キット大丈夫ヨ」

「ヲ~?」

 

とりあえず、今回の献立はベーコンエッグ、コンソメスープ、山盛りのキャベツ(和風ドレッシング)、ご飯だ

物凄く朝っぽいけど夕食だぞ。

 

「ヲ!ヲ!」

 

嬉しそうにはしゃぐヲ級、空母って名前の割にどちらかといえば子供っぽい性格をしてる、今度気が向いたらご飯に旗でも刺してやろうかな?

 

ま、それはいいとして

 

「いただきます」

「イタダキマス」

「ヲ!」

 

こうして見ると、確かに戦艦棲姫の食べ方はなんというか、大食いだが品のある食い方をしている。

 

対してヲ級の方は決して見れない程がっついている訳ではないが、少なくとも綺麗ではない食べ方をしているし、ほっぺたにご飯とか付けてて、抜けてる印象を受ける。

 

性格とか育ちの違いかな?いや

 

「とりあえず今日一日お疲れ様!かな?」

「ヲ、ヲ!ヲーッ!」

 

ちょっと興奮気味に話しかけてくるヲ級

ゴメン、ヲ級、何か真面目そうな顔で話してるけど何言ってるのか分からない

 

「ココノゴ飯ハドレモオイシイ、デスッテ」

「お?ありがとうな、いや何で通じてるんだよ……」

「ヲ~」

 

謎の言語で会話が成立している、ここではリントの言葉で話せ。

 

この後は普通に食事は終わった。

普通に食事は終わった、家計は無事ではない

 

「あははっ……軽く一升食いきったよこの馬鹿共……」

「ヲ~」

「フウ、ゴ馳走様、デザートハ?」

 

もうあれだ、今日は早く寝よう。

 

明日には事態が好転してると信じて、俺は現実逃避することにした。

 




シナリオを動かしたいけどその前に一回やりたかったネタをした、反省はしている、後悔はしていない。

これからリアルが忙しくなる前に慌てて書いたから更に文章ガバってるけどお許しください!
(リクエストされたほっぽネタは考え中です)


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第九話 Two Fleet girls

リスのぬいぐるみ(4桁円税込)
値段はアレだが可愛いし、抱き心地も最高※メイドインチャイナ

鎮守府にも民間の団体から感謝の気持ちの意を込めて送られている、送られたぬいぐるみに、どこかの生真面目な戦艦の艦娘はご熱心だったとか……


ここは何処だろうか?やけにタバコの匂いがするが……

 

気が付くと俺はどこか堅苦しい室内に居た、おいくらなの?と尋ねたくなるような古めかしい置時計がコチコチと時間を刻んでいて、物々しい机にはいくつも書類を乗っけてある。

 

これでもかと言わんばかりに机に乗っている書類を見て、軽くブラック企業勤め時代の古傷が開いた、思わぬところで精神的ダメージを受けつつ、このままじゃいけないので俺は部屋でうろうろし始める。

 

「本当にここは何処なんだ?波の音が聞こえるけど……誰かいるのか?」

 

そこで嫌な予感がした、自分はもしかして誘拐されたか、そうでなくとも別の事件に巻き込まれたんじゃないか?

 

あるいはここに泥酔して勘違いしたりなんなりで迷い込んだのであれば、この家の家主に見つかれば警察沙汰だ、そう思うと一気に緊張で心拍数が上がる。

 

そしてハッと目が覚めた。

 

「夢かよ畜生……」

 

枕元にあるデジタル目覚まし時計を見ると午前二時過ぎ辺り、明日は新聞配りの日じゃないし、まだまだ全然眠れる時間だ。

 

しかしさぁ、子供の頃は悪夢を見たと言えば何かに追われるだとか、どこかから落ちるだとかの直接的な悪夢しかなかったが、どうして大人になると見る悪夢がこうも生々しくなるんだ?

 

「まぁ、どうでもいいや、二度寝するか」

 

二度寝する時の心地よさだけは認めるがね、そのまま俺は深い眠りに着いた。

 

 

今度はなんなんだ?また場面が変わった、下を見ると水だった、海か湖のように広い水面の上に俺は居た。

 

「うお!?」

 

沈む!?と、焦ったがどういう訳か俺は水面の上に立てた、ここまでおかしいと流石に夢だな、と気付く。

 

夢であると自覚できる夢、明晰夢ってやつか?

 

適当にそこに佇んでいると、急に真後ろから爆音が響いた。

 

「今度は何だ、花火でも見れるのか?」

 

興味本位で振り返ってみると、変な兵器?を背負った黒髪の女性が通り過ぎて行った。

 

腰まであるロングストレートの黒髪が目に付く、夢だからか、顔はあんまりハッキリとは見えない。

 

お~あの人後姿がうちの馬鹿舌にそっくりだな、あの人も大食らいなのかな?

 

そんなくだらない事を考えていると、また爆音が響く、何だろうと思って見てみれば、長い黒髪の女性ともう一人、これまた姿は詳しくは見えないが、肌も髪もまっ白の女性(アルビノか?)が背中に背負った砲台を使って互いに向かい合ってドンパチを繰り広げていた。

 

黒髪は機械的な砲台を背負い、白髪は生物的な武器?を背負い、どちらも退かずに背中に着けた砲を撃ちあって、素人目で見ても戦況は五分五分だった。

 

物騒な夢だなぁ……

永遠に続くかと思える戦闘だったがその内決着が付いたようで、黒髪が放った砲弾が白髪の方に着弾したのか、白髪の女は爆発炎上して沈んでいった。

 

爆発炎上して沈むなんて、特撮の怪獣じゃないんだからさぁ……仮面ライダー辺りの見過ぎか?モロ夢に反映されてるな~まったく。

 

ともあれ戦闘は黒髪の勝ちに終わった、しかし戦闘に勝利した黒髪の方も無事じゃなかったらしい、よろめきながら数歩分進むと、その場(水面?)に倒れ伏した。

 

体を見れば、いくつか砲撃を貰ったのだろう、服は所々破けて、破れ目から流血しているのが分かるし、背負っていた砲台はボロボロで、もはや砲としての機能を果たしているかさえ怪しい有様だった。

 

え、ここまでリアルだといくら夢でも怖いし可哀想なんだけど

 

「私もついにここまでか、しかし今度は戦いの中で終われる、ふ、本望だな」

 

見るからに弱っている黒髪の人、おいおい大丈夫かな?いくら夢でも助けたくなってきた、どうせ俺が見てる夢だし、俺の思い通りにならないかな?

 

「一つ心残りがあるとすれば提督、貴方にまた、会いたい……」

 

おいおい黒髪さん沈みかけてるぞ!このままじゃ本当に逝っちまうんじゃないか!?クソッタレ、ついさっきの夢の方が心が痛まない分まだマシだったよ!

 

「ねえ?」

 

なんだよ、誰だうるさいなぁ?俺はあの人を助けないと行けないんだよ、見てやがれ今に夢が捻じ曲がるぞ!

 

「ネエ?」

 

うるさいって、あと一時間寝かせてくれよ……せめてあの人を救うまでは

 

「起キナサイ」

 

ああ、うるさいんだよなぁ……

 

イライラしながら目を開ける、さて、朝起きたら誰かが自分の顔を覗き込んでいたら、誰でもビビることは間違いないだろう、まして顔を覗き込んでいるのは青白い肌をした女の顔(角も生えてるよ!)だぞ?

 

「起キタカシラ?」

「ひええええええ!?」

「キャアア!?ダカラナンナノヨ!」

 

まぁ、つまり、ビビって跳び起きるってことだ。

毎朝これじゃ身が持たない。

 

 

 

 

____________

 

 

 

 

デジタル時計を見れば今は午前七時ちょい過ぎ位、今日は仕事があるから辛い。

欠伸を噛み殺しながらのそのそと起きて朝食を作る、今日の献立はスクランブルエッグ、パン、ウインナー、ヨーグルト

 

実に朝飯らしい朝飯だな。

 

「マダデキナイノ~?」

「ヲ~」

「生でよければベーコンあるからそのまま齧ってろ、ついでに食中毒でおっ死ね」

 

気持ちのいい朝のムードを徹底的にぶっ壊す奴が居るのは寝る前と変わらないが

 

そうこうしている内に、朝食を作り上げて、席に着く

 

皿の上に乗せたウインナーとスクランブルエッグを、ぼ~っと眺めながら今朝見た夢を回想する

 

夢に出てきた黒髪の女の人が気になるなぁ、顔はあまり見えなかったけど良い尻してたなぁ……

 

あれ?夢の中の黒髪の女の人は何してたんだっけ、忘れちゃったよ。

ま、夢ってのは起床してから数十分で殆ど忘れちゃうらしいし、別におかしなことじゃないか。

 

「ヲ?」

「ウン、ソウネ」

 

顔を合わせて日本語ではない原語を使って戦艦棲姫と会話しだすヲ級

だから謎言語で話されると訳分からないんだってば、来日したばっかりの留学生かよお前らはぁ

 

「何カアッタノ?ヲ級モ言ッテルケド、何カ思ウ事デモ?」

「何かって、いや何てことはないんだよ」

 

こんな夢を見ました~なんて言っても変な目で見られるだけだもんな、夢十夜じゃあるまいし。

 

でも言わなけりゃ怪しまれるし、そうなったら馬鹿舌は、またあのシリアスモードに入るのかな?いやいやそんなまさか……

入ったら嫌だなぁ……よし、正直に話すか。

 

「分かったよ、変な目で見るなよ?俺は妙な夢を見たんだ」

『××さん、××さん、僕は変な夢を見たんだよ』

 

こんな夢を見た。なんて、夏目漱石のような綺麗な切り口とはいかなかったが、とりあえず覚えてるだけの夢の内容を話した、真実を話したのだから信じてくれなきゃ困る。

 

「……?エ、エエ、ソウネ信ジルワ」

「ヲ~?」

「信じてくれて何よりだよ」

 

まぁいいか、とりあえずさっさと朝飯を食っちまおう。

 

時間がもったいないと豪快に飯を掻き込む俺、今日の内職でノルマの三倍超えてくれなきゃ割に合わない、このアホ共を養っていく為にそろそろ本格的に働かなきゃいけないか?

 

名残惜しいが休日は終わったんだ、これからは気を引き締めて行かなきゃな。

 

「飯とか顔洗いとか終わったら内職するからお前らも手伝えよ?」

「嫌ヨ」

「ヲ!」

 

……まぁ、知ってた

 

「一宿一飯って言葉知ってるかお前ら」

「知ラナイ」

「ヲ?」

「ヲ級ハ内職手伝ウラシイワヨ」

 

ナチュラルに仲間を売りやがったよこの畜生め、だがしかーし!昨日の時点で俺の内職を手伝ってくれることを確約してるんだよなこれがぁ……

 

「リスのぬいぐるみの件は?」

「ウッ」

「気に入ってたよな~?あれ、お前が約束を破るなら返品しよっかなぁ~」

『随分気に入ったんだね、そのぬいぐるみ』

「リス?ヌイグルミ?あナたは……?一体何者ナんダ?」

 

俺はリスのぬいぐるみをチラチラと見ながら勝ち誇ったように言ってやる

完全に痛い所を突いてやったね、指摘された戦艦棲姫はポカンとした顔でとぼけてやがる。

 

「忘れたとは言わせないぞ姫様よぉ、昨日俺の財布の中身を生贄に内職を手伝うように言ったじゃないか」

「姫……私ハ姫……アア、ソウネ、私ハ確カニ昨日手伝ウト言ッタワ」

 

すっとぼけてたが、ついに認めたなぁ?

さ、戦艦内職姫の言質も取れたし内職するかぁ

 

 

 

____________

 

 

 

 

「お、意外と上手いじゃん二人とも、この調子で一人でやってた時のノルマの三倍以上を目指すぞ」

「分カッタワ」

「ヲッ」

 

今日の内職はアクセサリーの制作だが、思ったより二人が器用だった、勝手な想像で不器用だと思ってたが嬉しい誤算だな。

 

こいつらの名前は今日から装飾屋ヲ級と内職棲姫にしてやろう、存分に名乗るがいい。

なんてジョークを本人に言うと間違いなく拗ねるだろうから口が裂けても言えないけどな!

 

まぁ、仕事が円滑に進むと雑談する余裕が生まれるわけで。

 

「そういえば、元に所属してた組織じゃ何やってたんだ?娯楽とかあるのか?」

「エ?エエト……」

「ヲ?」

「鎮守府って海に面してるし、敷地内でビーチバレーとかさ?」

「ビーチバレーネェ……ウウ」

『水着で浜辺に集合だ!』

 

暇だから自分から雑談を切り出した

 

ビーチバレーとか楽しそうだよな、スイカ割りとか砂でお城作ったりさ、惜しむらくはそれらを一緒にやる人間関係が俺にはもうない事なんだけどね、ハハハ!

 

失踪しない方がよかったような気がしてくるから人間関係の話は止めよう……

 

「何でもいいや、とりあえず前に居たところはどうだった?」

「ソウネ、嫌イデハナカッタカモ」

「嫌いじゃない、かぁ……中途半端な答えだなぁ、戦い自体は嫌になったけど組織は好きって奴?」

「エエト、マァ、ソウネ」

 

煮え切らない態度の戦艦棲姫、これ可能性としては元の鎮守府でボッチこじらせてたってのもあるな、うわ詮索するのが可哀想になってきた、この辺にしとこ。

 

「ヲ~」

 

モゾモゾと体を動かすヲ級、これは内職に飽きだしてるな、かれこれ一時間近く作業を続けてたし無理はないが。

 

確かに同じ作業の繰り返しって飽きるよね、俺も最初に内職始めた時は地獄だと思ったよ。

でもそのうち精神が研ぎ澄まされてくるんだわ、これが。

 

とはいえ、ヲ級は自分の意志で手伝ってくれてるし、この際何か旨味がなきゃ以降のやる気は出ないよな?

それならそれで考えはあるさ。

 

「ほれ、ヲ級集中しなさい、終わったらアイスあげるからさ」

「ヲ!?」

「エ!?」

「いや、何でお前まで食いついてるんだよ」

 

目をキラキラと輝かせるヲ級と戦艦棲姫、子供っぽいヲ級の反応は予想できたが、自称姫まで釣れるとは思わなかった。

 

甘味で釣られるとか子供か!お前はぁ……いや、この際やる気出してくれるならどっちもアイスで釣るか、丁度いいし。

 

「まぁ、それは一人の時のノルマの三倍を超えられたらの話で」

「ヲッ!」

「命ニ掛ケテモ!」

 

言い切る前から凄まじい集中力を発揮して内職に打ちこむ二人、ちょろすぎじゃないですかねぇ……

ちなみにこいつらには言ってないが、格安アイスだぜ!

 

こいつらにはハー○ンダッツはやらねえ!

 

「どんだけアイス好きなんだよ」

『本当に間宮アイスが好きね、隠れて食べないで堂々と食べればいいのに』

 

「アイスクリーム……間宮?」

「あん?マンマミーヤ?ああ、マミヤね、いやなんなのか分からないんだけど」

「ヲ?」

 

マミヤ?何だよそれ、人名なら北斗の拳か何か?

 

「間宮、間宮……何カヲ思イ出セソウナノニ……」

「まぁ、こういう時って思い出そうと頭を捻っても絡まるだけだぞ、数日後ぐらいに思い出したりするから今は内職しろって」

 

忘れたことってのは思い出そうとしてる時は大抵、別の記憶が邪魔して思い出せないもんな。

 

その後は雑談を挟みつつ、内職を進めた、こいつらが意外と器用で内職の効率が想像以上に上がることが分かった

おかげでこの馬鹿共が来てから初めて家計がプラスになるかも?という希望が湧いてきた。

 

戦艦棲姫の言ってることが妙に気になるが……その内思い出すだろ。

 

 

 

 

____________

 

 

 

 

 

鎮守府内、艦娘達は昨日と違うメンバーと一緒に、昨日とは違うメニューの朝食を摂る、そんな中でも昨日と変わらないのが仕事内容である。

 

その中でも更に前日と変わらない事をしているのが鎮守府の提督でもあるこの男だ。

 

しかし、どうやら今日ばかりは進展があったようだ、随分と嬉しそうな顔をしている。

 

「やっぱりそうだ、上位種が下位種に与える強化効果の範囲はだいぶ綺麗な形で表せられる、つまりこのまま鎮守府近海の外を探索させて、上位種の効果が及んでるかどうかのギリギリの範囲を地図にメモしていけば、その中心に忌々しい上位種本体がいる」

 

少なくとも今のこの男の心境は、桃源郷を彷徨っているかのような幸福に包まれていた、なんなら遅れて朝食を取っている艦娘達を連れてきて進展を見せつけてやりたいくらいだった。

 

「ようやくこんな仕事からも解放される、ああ、疲れた」

 

椅子に倒れ込むように深々と座りなおす提督、しかしここから上位種の場所を絞り込んでいくのに更に長い時間を拘束される羽目になるとは、この時有頂天であった彼には思いもしない事だった。




輪廻転生(りんねてんせい、りんねてんしょう)

転生輪廻(てんしょうりんね)とも言い、人が生まれ変わり、死に変わりし続けること。


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第十話 ヲ祭りに行こう!

夏祭りってwhiteberryの曲じゃなかったのか……(驚愕)


我が家の戦艦とヲ級に内職を手伝わさせてから更に二週間が経った。

相変わらず戦艦棲姫は我儘だし、ヲ級も子供っぽいままだ。

 

ヲ級や戦艦棲姫に朝叩き起こされるのも慣れたもんだ、何なら一人暮らしの寂しさが紛れたとすら思えるようになってきた。

 

まぁ、とにかく生活が安定するのは良いことだ、自分はストレス耐性が皆無だから考え方はネガティブよりもポジティブなほうが断然得だと思っている。

 

色々な考えを巡らせてると、家の錆び付いた郵便受けにチラシが入っているのに気付いた。

 

「ん?何だこりゃ、ああ、町の祭りだっけ?よくやるよなぁこんなご時勢だってのによ」

 

チラシの内容は簡単にまとめると「今日から四日間お祭りします、皆来てね」って事が書いてある、確かにお祭りは良いけど、いくら町が深海棲艦に襲撃されたことがないからって少し迂闊すぎじゃないかなぁ?

 

家の馬鹿舌曰くつい最近戦闘があったらしいし。

 

ぶっちゃけどっちだっていいや、どうせ行かないし。

 

そりゃあそうだ、ただでさえ人込みは苦手だってのに、今回は国家機密まで抱えてるんだから行きたくてもいけないわな。

 

「何ガ書カレテイルノ?」

「ん?今日は祭りがあるんだってさ」

『今日はお祭りがあるみたいだ、たまには行ってみなよ××さん』

「祭リ……祭リ?ウウ……」

 

急に頭を抱えだす戦艦棲姫、会話の途中で頭を抱えることが多々あるが、偏頭痛持ちなんだろうか?

 

「ワタシヲ、マ、祭リニ連レテ行ッテ」

「は?」

 

え?何それは……

いやいやいやいや無理だって!強制ショッピングの時でも何度肝を潰したのか分からないってのにあんな人込みに突っ込んでいくのは自殺行為だって。

 

「オ願イ」

「いやぁ、マジで無理だと思うぞ?今回ばかりは本当に」

「本当ニオ願イヨ……」

 

妙に真剣な眼差しでこっちを見てくる、何か訳有か?

 

「どうしたんだよ、また、何か思い出しそうなのか?」

「エエ……」

 

どうすっかこれ、でも今までにない真剣さだし、忘れた記憶ってのが余程引っかかってるんだろうな……

 

仕方がない、今回だけだ、今回だけリスクを冒すとしようか。

 

「分かった、ただし今回だけだからな?」

「!……本当ニ!?」

「ああ、でも勿論変装はしてもらうぜ?」

「アリガトウ!」

 

マスクとニット帽を付けてもらう、勿論そのネグリジェっぽいドレス?も着替えてもらわなきゃな。

 

角が見えなきゃ肌色が異様に青白いだけの女性にしか見えないんだ、特に夜なら肌色なんてほとんど分かりゃしないよね。

 

よね?

 

「問題はなんだけどさあ、ヲ級はどうするの?」

「ヲ?」

「オ留守番ハ……無理ソウネェ」

 

うん、こいつが居たわ、精神年齢が子供な奴が。

 

「ヲ!ヲ~ヲ~ヲッ!」

「ん?何言ってるんだこれ」

 

物凄い勢いよく身振り手振りをするヲ級、何かを伝えようとしているのは分かる、分かるんだけど何言ってるのかが分からない。

 

いや、ニュアンスは分かるんだよ、多分……

 

「私モ連レテ行ッテ、デスッテ」

 

自分も連れていけって所だろ

ほら当たってた、うーん、流石に無理そうだ

 

「これは流石に無理じゃないかなぁ?ほら、頭のそれは滅茶苦茶目立つし」

 

クラゲみたいな被り物?をどうにかしない事にはどうしょうもないと思うんだ、マミられる一歩寸前というか、見てて物凄く怖い。

 

「ヲ?ヲ!」

 

両手でのサムズアップをしてくるヲ級、何が大丈夫なんだろうか、無駄にキリッとした顔なのが腹立つ、真顔だと人形っぽくて怖いから、そうやって何かしら表情を付けててほしい。

 

顔が整いすぎてると一周まわって真顔が怖くなるって初めて知ったわ。

 

「ヲ~ッヲ~ッ ヲ!」

「何をそんなに気張って……ファッ!?」

 

ヲ級が被っているクラゲのような帽子(?)が一瞬にして消え去った、戦艦棲姫の艤装みたいに一瞬で着脱可能なのか、それ。

 

いや、それともその被り物自体が艤装だったの?

 

つくづく艦娘って謎だよなぁ~

 

「ま、まぁとりあえず祭りに行くのは夜からだから、それまで時間つぶそうか?」

「了解シタワ」

「ヲッ!」

 

 

 

__________________

 

 

 

 

さて、時刻は午後六時過ぎ、暗くなったので祭りに来てみたが、予想していた倍混んでいた。

 

「おいおい、やたら混んでるな、ジジババしかいない町なのになんでここまで混むんだ?祭りがここまで活気あるなら、過疎なんてしないでしょうに……」

「ヲ~!」

 

俺がぼやいていると、ヲ級が目を輝かせながら俺の袖を引いてくる、力強っ

 

連れてこられた先は甘い香りのする屋台だった、旨そうなチョコバナナがいくつも台に刺さっていて、こわもてのオッサンが野太い声で接客をしている、THE・屋台って感じの屋台。

 

ああ、チョコバナナが食べたいのね?まぁ、それくらいならいいけど

 

「ヘイらっしゃい!旦那もお連れさん達に一本どうだい?200円で一本、じゃんけんに勝てばもう一本付いてくる!」

 

こういうタイプね、200円で一本て高くないか?

ま、こういう所で買うんだから多少ノボっててもいいよな。

 

「チョコバナナネェ……ン?チョコバナナ?」

 

『チョコバナナね、××さん甘いもの好きだったっけ?』

『ふ、あなたならそれを笑わないんだろう?』

 

「提督……?行カナきゃ」

 

「ヲ!」

 

ん、ヲ級は青いチョコバナナを指差してる、それにするんだな

 

「んじゃ、このチョコバナナを下さい」

「まいど!さぁお譲さん、じゃーんけん!」

「ヲ!」

 

おー勝った勝った、んじゃもう一本はバカ舌にでもあげるとするか

 

「おい、戦艦棲姫?」

「ヲ?」

 

あれ?さっきまで居たのに、馬鹿舌が居なくなってる

 

あいつ目を離した隙に何処行ったんだよ

 

「あれ?バカ舌?」

「お連れさんなら、さっきあっちの方へ駆けてったよ」

 

まったく、急にどうしちまったんだよあの戦艦内職姫、この人込みじゃ見つけんのも一苦労だぜ?

 

「ヲ?」

「とりあえずあのバカを探すぞヲ級!」

「ヲ!」

 

こうしちゃいられねえ、あの戦艦国家機密を探し出さなきゃ、あのアホが何しだすか分からん!連絡手段もないし、完全に迷われたら本格的に詰んじまう!

 

「畜生、だから来たくなかったんだよこんな陽キャの集まりには!」

 

ずかずかとチョコバナナのおっちゃんが指を指していた方向を歩きだす

 

「ヲ?ヲ!」

「全く、あのバカ舌め、今度の料理にはあいつの苦手な食材をたっぷり入れてやろう」

 

頭に来たので、今度の料理にはあいつの嫌いな物をたっぷりぶち込むことにした。

 

「フン、あいつに姫って称号を与えた奴はきっとトチ狂ってたに違いない」

「だよな?ヲきゅ」

 

同意を求める意味で、ヲ級が居た方向を向く

 

「あれ?ヲ級?」

 

さっきまで居たヲ級も忽然と姿を消していた、どんだけ自由なんだよあいつらは

 

「クソが!どいつもこいつも協調性って概念がないのか!?」

 

迷い人探しに保護者センターは……いや(精神年齢はともかくとして)二人の見た目年齢は高いんだ、保護者センターにいる方がおかしい。

 

 

「見つけました!しれぇ!」

「あーまったく……あの馬鹿舌にアホ食う母め」

「しれぇ!一体どこに行っちゃったのかと思いましたよ~」

 

「あれ?陸奥さん達は何処ですか?」

 

ん?もしかして俺に声かけてるのか?一瞬「死ねェ!」って言われてるのかと思って何事かと思ったけど。

 

呼びかけて来た方向を見てれば、声の主は随分と可愛い見た目をした少女だった。

 

セーラー服の様なワンピースを身に着けていて、片手には双眼鏡、これらも充分特徴的だったが、快活そうな笑顔の口元からのぞかせる、どこかげっ歯類を思わせる前歯が何よりも目を引いた。

 

しかし、ハムスターの様な歯が顔の良さを邪魔している、というよりは、むしろアクセントとなって可愛げを増幅させている様にも感ぜられる。

 

将来有望だなぁ、いや何を考えてるんだ俺は

 

「しれぇ?あれ?」

「いや、申し訳ないけど多分初めて会うよ、お嬢ちゃん」

 

うん、やっぱりこの顔は知らないな、少なくとも印象は薄くない顔だから一度見たら忘れないだろう。

 

「うん、ほら」

「ええ!?もしかして人違いでしたか!?」

 

近づいてよく顔を見せてやる、女の子はようやく人違いに気付いたらしく、あたふたしている。

 

分かるよ、フレンドリーに話しかけてみたら別人だった時って、物凄くこっ恥ずかしい

よね?

 

「誰か、人を探してるのかい?」

「はい!しれ……親戚のおじさんを探してるんです」

「へえ~見つかるといいね、それじゃ、おじさんもう行くから」

 

ちょっとしたトラブルは有ったが、ひとまず解決したのでバカ舌達をまた探しだす。

 

「あ、ちょっと待ってください、しれ……おじさん!」

「うん?どうしたの?」

 

数歩歩いたところで、さっきの少女にまた声を掛けられる、何事だろうか?

 

「もしかしておじさんも人探しですか?」

「え、そうだけど?」

「じゃあ雪風と一緒に探しましょう!」

「ゑ?」

 

ぽんぽんと自分の胸を叩く少女、ちょいと無警戒過ぎないかね、俺が悪い人だったら最悪ハイエースされちゃうよ?

 

ロリコンでも犯罪者でもないから自分目線なら心配ないけど

 

「いや、俺は問題ないけど、嬢ちゃんにとって俺は知らない人だよね?」

「はい!でも良い人だって分かります!」

 

その根拠のない自信はどこから来るんだよ……

止めろ!そんな穢れのない目で俺を見るな!

 

「それじゃ、宜しくお願いしますね!し……おじさん!」

「あ、ああうん、よろしくね、えーと?」

「雪風です!」

「うん、宜しくね雪風ちゃん」

 

押しが強すぎて、つい了承してしまったが、これ警察呼ばれる案件なんじゃないかな?

 

二度目の社会的な死が間近に迫るぜ!目の前の少女が死神に見えてきたぁ!

……マジ通報だけは勘弁してくれよ?

 

 

 

__________________

 

 

 

 

少女と出会ってからどれだけ経っただろうか?

 

相変わらず雪風と名乗る少女は俺の後を雛鳥の様に付いて回っている。

 

「おじさんはこの辺に住んでいる人なんですか?」

「うん、この辺に家があるんだよ」

 

ピーチクパーチク話しかけてくるところも、雛鳥感を増幅させてる、うっとおしさを感じさせないのは純朴そうな性格ゆえか?

 

ここまで良い子だとあっち行けとも言えないし

 

「おじさんは雪風の知ってる人に雰囲気がよく似てます!」

「へぇ~どんな人なんだい?」

 

そういえば、この子が俺に話しかけてきた理由は親戚のおじさんと間違えたんだっけ?

どんな人なんだろうか、興味がある。

 

「えーと、大変な仕事に就いてるのに、決して逃げたり妥協する事が無くて偉い人です!受けた仕事は絶対にやり遂げちゃうんですから!」

「ゴフゥッ!?」

「ええ!?おじさんどうしちゃったんですかっ!?」

「いや、気にしないで、そうだよねそうだよね……逃げないのは良い事だよね……ゲフッ」

 

少女が唐突にえげつない言葉でのボディブローを食らわせてきたので思わずむせてしまった。

 

一発クビ宣告食らっただけでメンタルブレイクして蒸発した俺の人生なんてクソッタレだよね……アハハ。

 

少女の曇りない眼差しが限りなく痛い、心に深く突き刺さるわ。

 

「雪風ちゃんはどの辺に住んでるの?」

「えーと、こっから少し離れた所に住んでます!」

 

ヲ級に戦艦棲姫を探しているのでキョロキョロと辺りを見回しながら道を行く、屋台の通りはまだまだ続く。

 

「うん、親戚のおじさん見つかるといいね」

「ちなみに、おじさんはどんな人を探してるんですか?」

 

どんな人を探してる……か、いやあれは人であるかすら危ういと思うが、いや人型の知的生命体ではあるな、両方共

 

どっちにせよ「艦娘を匿ってるよ僕ちんww国家機密を二つも抱えてまぁすww」

なんて、言えるはずもないわな。

 

適当に噓ついとこ

 

「おじさんは、妹と来てるよ」

「妹ですかぁ!雪風にも妹が居るんです!」

「ほ、ほえ~妹いるんだ……」

 

あ、やっちまったかも、下の子あるあるトークとかされたら答えられる自信ねーわ

どうすっぺ?

 

「はい!妹も姉も沢山います!」

「へえ、何人姉妹なの?」

「17人姉妹です!」

「ウェ!?17人?7人でも多いのに」

「あ!いえいえ7人姉妹です間違えました!」

 

しまった、という顔で慌てて訂正する雪風ちゃん、そうだよね?17人ってハプスブルク家じゃないんだからさぁ、あ~ビビった。

 

その後は容赦なく振られる妹あるあるトークを、必死にエア妹(つまり妄想)の知識で乗り切っていたが、中継地点の広場で妹トークは急に打ち切られることになった。

 

「あ、居ました!しれぇ!」

「ん?親戚のおじさん見つかったのかい?」

「はい!ありがとうございますねおじさん!おじさんも妹に会えるといいですね!」

 

しれえ、って人を見つけたらしい、ともかく雪風ちゃんとはこれでお別れかな?

 

バカ舌共とはぐれて、何やかんや寂しかったのが会話できて紛れたし、あの純朴で底なしの明るさは独り身にはありがたかった。

 

願わくばああいう子には幸せになって欲しいね。

 

「すいませんねウチの親類がお世話になったみたいで」

 

そっと立ち去ろうとしたときに、男性の声に呼び止められた。

 

「いえいえ、こちらも寂しさが紛れて良かったですよ、良い子ですね」

 

大方話しかけてきた人物には察しがついてるので、返答して振り返って相手の顔を見る、そこで思わず鏡なのかと思う程に似通った顔があったもんで、俺は驚いた。

 

相手も似てると思っているのかギョッとした顔だ。

 

ああ、確かに似てるな、いやほんと気持ち悪いぐらいに。

 

「えーと」

「アッハイ……」

 

すぐに言葉に詰まって気の抜けた返事をする所も。

 

「アハハ、いや本当に似てますね、キモチワルイクライニ」

「そうですね、世界にゃ三人は自分と瓜二つの人が居ると言いますが……」

 

動揺すると引き攣った笑顔になるところも、なんなら声も

 

「本当に似てますね!しれえも、おじさんも!」

 

この時の雪風ちゃんの台詞にしれえって人も心の中で大きく頷いていたと思う

 

自分もそうだったから。




縁(えにし)

物事のつながり。かかわりあい。ゆかり。


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第十一話 戦艦棲姫

十一話目です、まさか一年も間をあけることになるとは…






この世には三人は瓜二つな人間がいるらしい、元々妙な説得力がある言葉だったが、今日この日を以て俺の中では完全にこの言葉は真実と化した。

 

何故かって?そりゃぁ…

 

目の前に言葉を裏付けるように自分と瓜二つな男が立ってるからだよ。

 

言っちゃ悪いけど、すっげえ不気味!

 

_________________________

 

 

 

 

「ほえ~警備員のお仕事をなさってるんですか?」

「ええ、この近隣に勤務してます」

 

顔が瓜二つの警備員務めさん(以下警備員さん)

ズボンにTシャツ、ある意味サービス業だからおしゃれには気を使ってるのか?服装はともかくとして、髪型とかは妙に小奇麗だけど…いや判断しようにも肝心の俺がセンスないせいでなんとも言い難い。

 

顔だけじゃなくて、表情が俺に比べてどこか昔の俺に似てるような気がする。

目の前の現実から逃げたいような、でも逃げるには忍びない荷物を抱えてる、自分は全部どうでも良くなる瞬間が来て、あろうことか人間関係含めて全部置いてきてしまったが、まあ人間誰しもそんな瞬間が来るんだろうと思ってる。

 

まあ、そんなに煤けた顔ができるようになるって事は、こいつ多分俺と同じブラック企業勤めだな、イイノヨォ……コッチ(人生の敗者)ニキタラァ……?

 

「もしかして普段忙しかったりしてますかね?」

「いやぁ、最近どうも仕事が増えましてね…」

「忙しい中親戚のお世話ですか、いやぁそれは大変そうだ」

「鎮守、家に籠もってようとも思ったんですが、心配性の陸…同居人に連れ出されましてねぇあの人は心配性だから」

 

警備会社の仕事が増えたって怖いなおい、田舎ヤンキー共がまたイキりだしたのか?

 

困ったようにポリポリと頭をかく警備員さんはやっぱりどこかくたびれている。

ご飯に黒ゴマをいくつかパラパラとまぶしたかのように少し白髪が交じった髪の毛とくっきりと刻まれた目元の隈が苦労を物語っている。

 

可哀想に

 

いやそんな事よりも、えーと、何か忘れたことがあったような…あ

 

早くあの自称姫の貧乏舌とクラゲ頭を見つけて説教しなきゃいつ艦娘だとバレちまうかも分からない!

 

「ああ!あのバカ何処行きやがったんだ!すいません…人探し中なんでここらで!」

「え、ええ…お気をつけて」

 

しまった、急に大きな声を出したせいで警備員さんが驚いてる、いや申し訳ないけど構ってられない!

 

困惑する警備員さんを尻目に、俺は走り出した。

 

雪風ちゃんもそうだけど、なんか喋ってて気持ちいい人だったな(それこそ数十分あるかないかの関係だったけど)

 

そこまで歳は離れてない筈なのに、すげえ安心感があるんだ、守られているような錯覚を覚えるっていうか……あの人が警備員の仕事してるからかな?

 

あ、そういえば雪風ちゃんに別れの挨拶してねえや、それだけが心残りかな。

 

 

 

_____

 

屋台通りの中間地点にある広場にて

 

「あ、陸奥さん来ましたよ!しれぇ!…あれ?おじさんは?」

「行っちゃったよ、何やら急いでたみたいだけど」

「ええ!?今度はおじさんの探してる人を探そうと思ったのに!探してきますね!」

「ちょっと待っ…早いなぁ」

 

そう言って、提督はついさっきもそういう風に駆け出したっきり迷子になった雪風の背中を眺めながら、待ち合わせ場所から動くわけにもいかないので椅子に腰を下ろした

_____

 

 

 

 

 

ああ、糞、居ない、居ない、居ない!

 

早く見つけて説教しなきゃ気が気でならないってのに見つからねえええ!

あのバカどこ行きやがった?

 

早歩きで屋台が並ぶ道を進む、走って探せればいいんだけど注目されそうなので早歩きに留めておく。

 

「あの馬鹿舌め…」

 

賑わった屋台を横目にズカズカと進んでいると、普段なら目につかない小道が妙に気になってきた

大通りを布とするならば、この小道は糸が一本だけぴょこりと飛び出しているに等しい、それほどまでに小さく、暗く、それでいて人気のない不気味とも神秘的ともつかない奇妙な雰囲気をまとった道だった。

 

「ん?」

 

時に人は経験や知識とは別の第六感的なものに頼る事があるというが、今回この小道に第六感が反応した

 

というか根拠はないんだけどこの先にあのクソッタレ共がいる感じがする。

 

よくわからない感覚だ

 

いや、前にも一度こんな感覚を覚えたことがある

退屈からの解放を求めていたのか

自分でもよくわからない内にあの綺麗な海を目指していた。

 

まさにあの時の感覚と同じだ、思えばあれもこんな感じで引き寄せられていたのかもしれない。

 

「行ってみるか」

 

そうと分かれば進んでみなけりゃな

 

中央通りの喧騒が嘘のように静まり返った小道は、薄暗く申し訳程度の街灯が細々と蛍のように行く先を照らしている。

 

俺の家も中々にホラーだったが、この小道もまた迫力あるわ

振り返ったら魂取られたりしない?大丈夫これ?

 

まあいいや、行ってみっか!

 

そう行って俺は歩みだした。

 

歩き始めたが、小道はさっきも言った通り暗くてしょうがない、大通りに比べればか細い小道といってもその気になればワゴンくらいは通れそうな大きさなので、こんな小さい街灯では力不足だろう、建て替えないのは市だか県だかの予算不足なのだろうか?それとも苦情が出てない、ないし出しても取り合ってもらえない位の人数しかこの近辺には住んでないのだろうか。

 

 

どっちでもいいけどね、どうせあいつら二人組を回収したら二度とこないし、少なくとも夜のうちは。

 

考えつつも足を進める、怖さを紛らわせるために色々考えておこう…

怖いんだよぉ!電柱付近にそこそこ影ができるのとか狙ってるとしか思えんわ!

 

まず、雪風ちゃんの可愛さ…

 

じゃなくて

 

あの「二人は艦娘俺の心マックスブロークンハート」のことだよ、今までは思考停止してたけど

あの二人組は一体どこから来て、なんで俺の家にたどり着いたんだ?

いや、戦艦棲姫の方は俺が連れてきた、だがヲ級の方はどうだ?あいつは自分からやってきた

 

この時点で二つの可能性が考えられる、一つ戦艦棲姫の方からコンタクトを取った(驚いたのは演技である)

もう一つはあっち(ヲ級)から探知する手段を持っていた。

 

どっちも考えたくないな、特に後者はその探知を使えば誰でも追跡してこれることになる。

でも前者は色々無理があるんだよなぁ、こっちはこっちで色々あれだし

だって連絡手段があるってことは俺が知らんうちに連絡してたってことだろ?

 

裏でなんの作戦を立ててたのか分かったもんじゃない、俺の家に住み着いたことといい意図が分からん。

 

ん?マジでなんで俺の家だったんだ

俺を駒にするとか、ばれないようにするとか、協力者に仕立て上げてやり過ごすとか

警戒レベルにしては鎮守府に近い俺の家に住むって事そのものが釣り合ってない。

矛盾してるぞ、戦いが嫌になって逃げてきたって(脱走をした)って言うのなら想定される追跡者が間近の俺の家に住むのは得策じゃあない。

 

明らかに追っ手とかの存在を警戒しているムーブをしてる割に、拠点が最悪の場所にある

 

本来脱獄とかするにしても、まず初めにやることは遠くまで逃げることのはずだ、そうじゃないと検問とか、そういうのに引っ掛かって逃げられなくなるし、目撃情報とかからどんどん潜伏場所を絞られて見つかるはずなんだ、まして鎮守府から1kmも離れていないここを拠点にするなんて見つけてくださいと言ってるようなもんだし。

 

おかしい、明らかに

追っ手を警戒してるのに近い位置って、それじゃまるで鎮守府がこの事を知っていないみたいじゃないか、でもその一方で演技とは思えないビビり方をしている。

 

そんならバレるかもしれないここに住むメリットって何なんだ?

 

鎮守府から隠れつつ、かつ鎮守府近辺に拠点を構える理由

まさか鎮守府に対して自分が何かしら好くない行動を起こそうとしているんじゃないか?

 

あるいはアイツがそこに居ることそのものが鎮守府にとって大きな影響を及ぼしているか。

 

好ましくない影響を理解したうえで留まるって、それじゃまるで、アイツが鎮守府の敵みたいじゃ

 

ゴツン!

 

そこまで考えていたら、目の玉から火花が出たんじゃないかと錯覚するほど強かに爪先と頭を打ち付けた

「いってえ!なんだよこれ」

 

俺は怨敵を見るような目で俺が頭を打ち付けた対象を見た、怒りに任せてそれを蹴っ飛ばしてやろうとして

慌てて足をひっこめた。

 

「ええ?なんでこんなところに鳥居が?」

 

そこにあったのは、一基の鳥居だった

 

「どうしてこんなところに神社があるんだよ…」

 

暗いとはいえ神社を見逃すほど俺の目は曇っちゃいないような気もするが、まああるんだからしょうがない

 

そもそもなんでこんなところにあるんだろう、神社ってのは何だかんだ参拝されてナンボな筈だ

それなのにこんな所に建てたんじゃ、誰も来やしないんじゃないか?

 

えーっと、この神社で行き止まりなのか、でもここまで来たんだから進むしかないだろ。

 

石段を数えながら上る、といっても五段もないんだが

 

神社といってもそれほど大きくはない、ただ狛犬と社と賽銭箱とがある簡素な造りだ

 

「えーと、手を洗う場所は…あったあった、あちゃー…水が枯れてら」

 

どうやらあんまり整備されてないようだ、そら立地が悪すぎるよ、当然寂れるわな。

 

ともかく先へ進もう、ついでに参拝しよう

 

前へ踏み出したとき、明らかに人影が見えた

 

「ほ、ほげえええええええええええええええええええええ!!!??」

 

思いっきりブルった俺は、足腰ガタガタになり、その場から動けずにいた

 

「か、勘弁してください神様ぁ!」

 

神様なら目の前(社)にいるだろう、というか何回目のお祈りだよ。

心の中で神頼みとツッコミを繰り返していたが、そこで影の正体に気が付く

 

「戦艦棲…バカ舌か…びっくりさせんなよテメェ!」

 

幽霊の正体見たりバカ舌、ビジュアルは完全に幽霊のそれだっただけに、戦艦棲姫にガチビビりしてしまった、その事実が後から悔しくなってくる。

 

「おい?」

 

怒りをぶつけてやろうとした、余程怒鳴りつけてやろうとしたが、明らかに様子がおかしい

「あれ?うわぁ!」

 

そうこうしてるうちに、戦艦棲姫が抱き着いてきた

信じられない行動なもんで、しばらく頭が空っぽになる

そうしてようやく事態が飲み込めたとき、俺は我に返って引きはがそうとした

 

「おい、何やってんだよバカ!離れろよ!…離れ…」

 

あの高慢ちきが抱き着いてきただけでもおかしいのに

 

「ッ…ウ」

「お前、泣いてんのか?」

 

俺の胸に顔を埋めてすすり泣いていた

ごめん角がめり込んで痛い、割と痛い。

 

「何があったんだよ、な?」

こうなると俺は弱い、女の涙が弱点なもんで怒りやらが全部抜けちまった。

「スン」

泣いてる戦艦棲姫を宥めようとする、どうして泣いてるんだろう

 

「な、ヲ級はどこにいるんだ」

抱き着かれている俺に、女の甘い香りが漂ってく…甘い香りが…甘…

 

「磯くせぇ!」

凄い磯の香りがする、この数十分で海水浴でもなさって来たんですかって感じだ

 

「ワタシハ…沈ンダト思ッテイタ」

「あん?」

 

俺が固まっていると、しゃくりあげながらもポツリポツリと喋りだす戦艦棲姫

どうしたんだよマジで

 

「冷タクテ」

「うん、俺今マジで冷たいよ、冷え性だろお前」

「独リデ」

「俺とヲ級はアウトオブ眼中かよ、ひでえなおい」

「デモ、戻ッテコレタ」

「回収したの俺だよね?」

 

よくわからないが、でもこいつが泣くってことは相当の何かがあったんだろうな

 

「よくわかんないけどさ、もう一人じゃないだろ、お前」

「…ウン」

 

とりあえず慰める、クソッタレとはいえ一週間以上同居してたら流石に情も湧く

 

それに…なんか寂しそうだし、こいつ

 

「さ、行こうか、この神社にどうしても来たかったんだろ?」

「ああ、ヲ級のやつはどこ行ったんだよ」

 

聞くと、戦艦棲姫は暗がりを指差してきた、そこにはヲ級が無言で佇んでいた。

 

あっちも怖いわ

 

「ヲッ」

 

こっちが気付くとあっちも手を振ってきた、どうやら空気を読んで黙っていたらしい

いや抜けてそうな見た目してる癖にやけに気が回るな、おい

 

「まあよぉ、もう帰ろうぜ、祭りは十分見て回ったろ?そもそも何で祭りの日なんだ?神社だけなら別の日にでも良いだろ、一般人の目にも警戒してたんじゃねえのかよ」

 

そう素朴な疑問を口にする、何故今日なのか

 

「今日ジャなきゃだめなんだ、祭りの後に訪れたんだ」

「ん?今何か言って…お前風邪ひいたか?」

 

何かを口にする戦艦棲姫、その声の調子が変わったので俺は風邪をひいたのかな?と思ったが声が枯れるとか、掠れるというよりも、声帯がまるきり別の人の物に変わったように聞こえるのでちょっと困惑する。

 

「おい、ちょっとおでこ出せ」

「ん…」

 

ひとまず現実的に風邪を疑い、帽子を除け、角の生えた額に触れる

その瞬間、生えていた角のうちの片割れがポトリと落ちる

 

「ごめん!角抜けたんだけど!」

 

謝って済む話じゃないかも知れないがひとまず謝る、どうしよう声の件も相まって艦娘特有の病気とかだったら俺には治しようがねえよ、というか普通のインフルとかでも病院連れてけねえし詰むぞ…どうか生え変わりの時期とかでありますように。

 

「ヲ~」

 

ヲ級に話しかけられてハッとする、どの道帰らなきゃ

病気なら病気で意地で家で看病するしかねえ、尚更連れて帰らなきゃ

 

そうして未だに俺にしがみ付いたままの戦艦棲姫を引き剥がそうとした所

 

「動かないでください!」

 

可愛らしい叫び声が聞こえる、叫び声の先に視線を送ると、そこには真剣な表情でこちらに何かを向ける雪風ちゃんがいた。




この世界でのドロップは素体のある深海棲艦(上位種)が倒された後に艦娘に戻る事です
しかし(馬鹿舌の)戦艦棲姫の場合は半分のみドロップしたような状態で留まっています。

それ以降は艦娘としての記憶が強く出るか、深海棲艦としての精神面が強く出るかによって深海棲艦か艦娘かどちらかになる事となります。

顔や声、なんなら素の性格という所まで瓜二つな男と出会った戦艦棲姫は記憶を揺さぶられ、このまま行けばそのうち艦娘へと戻るでしょう。

このままいけば


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第十二話 こいつは艦娘じゃない 

雪風ちゃんに深海棲艦と居ることがバレた男!
これ詰んだんでは?


「その人から離れてください!」

 

そう言って大砲をちっちゃくしたような、おもちゃの筒のような物を向けてくる雪風ちゃん

何をしているんだろうか、こちらに何を向けているのか、暗いせいでいまいちよくわからない

 

背中に何かを背負っているのは分かるんだけど

 

「もう一度言います!その人から離れてください!」

 

こちらが何も行動を起こさなかったせいか、語気をより強めたうえで雪風ちゃんはこちらにもう一度警告してくる。

 

「な、なあちょっとどうしたの?というかさっきぶりだね雪風ちゃん」

 

取りあえずこの張り詰めた空気をなんとかしたかったので、俺は何となく雪風ちゃんに話しかけてみる

 

「おじさん、大丈夫です」

「何が?」

 

なるべく刺激しないように話しかけたが、あくまで緊張は解いてくれない

つい数十分前に出会った時の可愛らしい笑みの一切を消し、こちらを憎き怨敵のような目で見てくる。

何が大丈夫なのか分からない、これ凄い心に来るよ、何が辛いって幼気な少女に殺意浴びせられるのが。

 

「おじさん、そいつらから離れてください!」

「えっ」

 

そして雪風ちゃんの突き刺すような視線が俺でなく、俺の傍に居る二人に向けられている事に気づいた

 

気づいてしまった。

 

「ヲッ」

 

最初に俺が見たのはただでさえ人形のように整いすぎて一周回って不気味さすら感じられる顔から

尚のこと一切の感情をそぎ落としたような顔で頭についているクラゲのようなものを出すヲ級

次に見たのは、俺にしがみついていた戦艦棲姫がいつの間にか俺の体から離れ、いつか見たような無表情で巨大な、生物とも無機物とも形容できない恐ろしい物体を出しているところだった。

 

「おいおいおい皆待てって!状況が飲み込めないんだよ!」

 

そして自分の口からそこまで出て察してしまった、雪風ちゃんが持っているものはこの目の前に居るヲ級と戦艦棲姫の物とは形こそ違えど、明らかに殺傷能力があるのだろうという事、つまり艦娘の使う艤装であるという事に。

 

「おじさん、その二人は空母ヲ級と戦艦棲姫」

「あ、ああ」

 

二人の名前を連ねる雪風ちゃん、なるほど、全部分かった

 

「深海棲艦です」

「そうなのか!?知らなかっ」

 

脱走した二人を追いかけてきたんだろう!この場はすっとぼけて乗りきってやる!

……(しばし熟考)

えっ

 

「ちょっと待て、今何て?深海棲艦?」

「はい、今人類と戦っている深海棲艦です」

 

神妙な顔で語る雪風、本来なら謎が大きすぎて飲み込めないが、合点がいってしまった。

欠けていたパズルのピースが見つかり、埋まったような感覚を覚える。

 

行き倒れていた、角やクラゲ頭など人とは思えない器官をもっている、死人のように冷たい肌、俺が深海棲艦のような名をしていると感じた空母ヲ級も、鎮守府からの逃走にしては奇怪な立ち回りをしていたが為に自分が鎮守府とまるで敵対関係にあるようだと感じたのも。

 

全て深海棲艦であるのなら、辻褄があってしまう

 

数十分前に出会ったばかりの雪風の話を信じてしまう程、この一言は衝撃的で、かつ納得のいくものであった。

 

「なあ、お前ら……嘘だよな?」

「ソウネェ、コレカラ ドウシヨウカシラ?」

「そんな平坦な声で言うなよ、怖いから……。」

 

助けを求めるように戦艦棲姫に尋ねるもいつか見た不愛想を通り越して無表情な面で返される。いや否定してよ、敵確定しちゃったよ……。

 

 

「ちょっと待てよって、そもそも世間で報道されてる深海棲艦像と余りにもかけ離れてないか?俺は人型してるとか知らんぞ」

 

辻褄は合うが納得いかない、確かに艦娘の正体を軍事機密だとして秘匿する理由は何となくわかる、技術漏洩の防止やら何やらできっと必要なんだろう

 

でも、万が一この姫級(笑)の馬鹿舌棲姫共が深海棲艦だったとしてこいつらの情報を隠蔽する必要性ってなんだ?

大体今回みたいに内地に侵入されるなら、スパイ対策に公表して人民の目を張り巡らせた方が余程有益じゃないか?

 

「なんで公表されてないの?いやアホ共が認めてる以上嘘じゃないかもしれんけど」

 

ウンコ漏らしそうな程怖いけど聞いてみる

 

「本来なら言うべきですよね。ですが今まではその必要がないと思われていたんです」

「必要がない?内地に潜り込まれてるのに?」

「はい」

 

必要がないとはどういう事だ?

ウチの深海棲艦ほぼ確定の馬鹿舌共は人間並みのオツムが…まぁ、あるなぁ

だから俺は世間一般の深海棲艦だなんて気づかなかった。騙される奴も多そうだが

 

「まさかこんな風に内地にまで潜むとは思いませんでした。いえ、そもそも陸地に戦艦や空母型が上がるだなんて」

「え?つまり連中は、深海棲艦は地上に上がらないと思われていたの?」

「はい、その筈でした。地上型を除けば…いえ地上型ですらここまで極端に…」

 

なるほどねぇ、え!?大問題じゃないの?

というか今更言われても困る。というかもっと本土に居るかもしれないんじゃ…

詰んでね?いやでも破壊活動を行うならもっと早くやってそうだし

 

「とにかく!こんな事は初めてです」

 

あと地味に砲塔向けられてるのが怖い

俺もこんな事初めてだよ。でもなんか慣れてる自分が居る

というか無表情じゃない分マシに感じる!不思議!

 

「だから、おじさんを離して!」

「エエ、ハナスワ」

 

雪風ちゃんの言葉に戦艦棲姫があくまでも平坦な声で答えるのと、俺が突き飛ばされるのは

ほぼ同じタイミングだった。雪風ちゃんは咄嗟の事で砲塔が明後日の方向に向いた

反射的に俺を撃たないように射線をずらしてしまったのかもしれない

突き飛ばされてよろける俺を突風を伴うような速度で追い越した戦艦棲姫が

雪風ちゃんの首を絞めて片腕だけで持ち上げた。

 

「がっ…はっ…」

「ホントウニアマイ ソイツゴト ウテバイイモノヲ」

 

片腕で平然と子供を持ち上げる。あの戦艦棲姫の白い細腕の何処にそんな力があるのかと

状況についていけない俺はただ、そんなことを考えていた。

 

「フフフ…」

「あっがっ…」

「あ、おい馬鹿!」

 

片腕で絞めているためか、動脈を絞めれていなかったか気道が少し開いていたか

専門家じゃないから良くわからない。でもそのせいか雪風ちゃんから漏れる悲痛そうな声を聴いたことで俺は我に返った。

 

「こんのぉ!」

 

俺は数週間一緒に暮らした戦艦棲姫に助走込みでドロップキックを繰り出した

どうせ言葉なんて通じない。考えるより勘がもう叫んでいた。

 

蹴りは当たった。足に響いてきた衝撃は痛いくらいだったし、一瞬はやりすぎたかも、とすら思った

 

「…」

 

戦艦棲姫は当然のように無傷、どころか一歩も動いていない

まるで蹴られる前と変わらないように、いたいけな少女の首を絞め続けていた

 

「離せオラぁ!」

 

俺はだいぶ怯んだが、もう一発、今度は拳で殴り掛かった

横面を思いっきり殴ってやった。依然奴はノーリアクション

むしろ殴ったこっちの拳の皮がべロリと剥け、すでに血が滲み始めている有様だった

 

「この…」

 

次は何をしようとしたか、自分でもよくわからないし、何かする前にヲ級に腕を掴まれて止められた

 

「俺を止めてないで、お前はあっちを止めやがれ」

 

助けを求めるつもりでヲ級の顔を見る。一瞬にして無駄だと悟った

 

ヲ級はいつの日か見た、あの感情というものの一切を削ぎ落したような顔でこっちを見ていた

そして気づいた。こいつの目が俺を品定めしている事

それ次第じゃ今度は俺がこいつに殺される事、そして不可解だった。この整っている筈なのに

おぞましいと感じてしまう顔の正体が。

 

「お前…やっぱり…」

 

この目は猛獣の目に近い、が猛獣の目なんて生易しいものじゃない

猛獣は人を糧にすることもあるが、こいつは違う、人間しか見ていない

人間を殺すために作られて、人間を殺すためだけに進化している生き物ですらない「ナニカ」だ。

そしてその目が雄弁に語っていた「邪魔をするな」と

 

「ひぃっ…」

 

蛇に睨まれた蛙、人間の目とデザインは違わないはずなのに、どうしてここまで何考えているか読み取れない目になるのか。

 

恐怖で立ちすくむ俺、その奥では依然として無表情で雪風ちゃんの首を締め上げる戦艦棲姫

 

もうだめだ…

 

そう思った時

 

「ながとさん?」

 

雪風ちゃんが消えかかりそうな声でそう絞り出した。聞こえたというか心に響いた

多分実際はきっと普通なら聞き取れないような…そんな小さな声だった。

 

「ナッ…」

 

動揺

明らかに動揺していた。戦艦棲姫は腕の力を急に抜いたらしく、雪風ちゃんが重力に従って地面に落ちる

 

解放されたが意識はないようで、むせ込みこそするが、仰向けに倒れたままほとんど身動きは取らなかった。

 

「マァ、イイワ」

 

向き直ってとどめの一撃を加えんと握りこぶしを振り上げる戦艦棲姫

そしてその拳を振り下ろさんとする

 

俺はその一瞬、あの嫌な圧力が消えたような感じがして、また戦艦棲姫を止めようとする勇気が

ほんの少し湧いてきた。ヲ級もあのおっかない目ではなく、俺を止めようともしなかった。

 

だから俺は奴の腕を狙ってタックルをした

 

「…」

「止まった?」

 

俺のタックルが多少なりとも軌道をずらしたのか、戦艦棲姫の拳は雪風ちゃんの顔面から外れていた

ただ、軌道云々を抜きにしても、そもそも雪風ちゃんの顔面の5、6寸ばかりで拳は止まっていた

きっと、俺がタックルをしなくても当たらなかったのだろう

 

「良かった。流石にお前でもこんな女の子の顔面を叩き潰すなんてことは…おい?」

 

違和感を感じた、何かと思って見てみると戦艦棲姫の肩が震えている

 

一瞬怒らせたのかと思い、これから殺されるのかとの思いが浮かんだが

すぐにそうではないと分かった。

 

「お前?」

 

また、戦艦棲姫は泣いていた

流した涙がちょうど雪風の顔に当たって弾ける

 

俺は気付いてしまったかもしれない

何となくだけど、戦艦棲姫は化け物になり切れていない、あるいは化け物から変わりつつある

 

「何となく分かったよ、お前は化け物じゃないんだな、深海棲艦と言いつつもお前…」

 

こいつの本能的な敵意や殺意の裏に、人間的な感情がしっかりとある

二面性と言えば話は早いが、それだけじゃない

 

「深海棲艦としての敵意と、人間臭いユーモアや感情、どっちもあるから今のお前なんだよな」

「何故私ヲ信ジルの?逃ゲナイノ?」

「ああん?逃げねぇよ」

「何デ…?」

 

ああ、なんでだろうな…強いて言えば

 

「俺がお前を匿ってる、協・力・者さんだからだよ。テメェらの食い意地に数週間も付き合えば情も湧くわ」

「それに、深海棲艦だって艦娘が認める存在だったとして、そいつを匿ってた俺が捕まったらどうなる?艦娘の雪風ちゃんも昏倒させちゃった手前タダじゃすまねぇだろ…いや、そうじゃねえな」

「?」

 

何を言ってるんだという風な顔でこちらを見てくる二人、馬鹿舌棲姫はともかくとして、ヲ級までそんな顔で見てくんな。

 

「単純に、カ、カ、カゾク…ダカラ…だよ!!!!」

 

恥ずかしくて小声になった

 

「こっちは一人暮らし寂しかったんだよ。一人で蒸発してよぉ!この静かな田舎で!一人暮らしだぜぇ!」

 

もうそこからは止まらなかった。言ってるうちに涙が出てきた

 

「もう見捨てらんねぇんだ!たった数週間の関係なのにだよ!下手なホームステイより短いぜこんなの!」

「大体なんだよ、脱走してきたから匿えだ!?スマホを握りつぶしやがって6万したんだぜあれ!」

「挙句一人でもやべぇのにヲ級まで来やがった!それでなんだ!?お次は深海棲艦ですだぁ!?」

「もう慣れっこだよ。今更どういう態度で接するように変えてくださいってんだ?なぁ馬鹿舌にアホみたいに食う母(くうぼ)」

 

息が続かなくなってきたから一旦切り上げる

 

「ハァー…説教は家に帰ってからだ、帰るぞ」

「エ、エエ」

「テメェの方が力強いんだから雪風ちゃんを背負えよ?」

「背負ウ?」

 

戦艦棲姫にドロップキックした時に足を若干くじいたし、拳はもう血でベトベトだ

こんなボロボロの俺がまさか雪風ちゃんを持つはずがない

 

「ヲッ!」

 

さて、この状況をどうするか考えつつ、拳のけがの具合を暗がりで目を凝らしてみていると、ヲ級が指を指す

見ると雪風ちゃんはぼんやりとではあるが、目を開けてこちらを見ていた

 

「おじ…さん?けがは大丈夫ですか?」

「え?俺は大丈夫だけど…」

 

驚いたけど、自分のケガよりも俺の心配をしてくれる雪風ちゃんにまた涙が出そうになる

とりあえずさっき垂れ流した分の涙を拭いつつ、応答する

 

「じゃあ、一人で帰れる?」

「帰してくれるんですか?」

「そりゃ、こっちはそうして五体満足で帰って貰うためにあの二人を止めたわけで」

 

少なくとも始末はしないだろうなぁ、というか戦艦棲姫から助けるために拳と足首犠牲にしたんだ

今更「気が変わったわ!死ね雪風!」(チュドーン)なんて事になるわけもなく…

 

「今回、戦艦棲姫と空母ヲ級を匿っていたのは俺の一存だし、上官とかに伝えてもいいんだけど…」

 

せめて情状酌量の余地ありで初犯を考慮すべきと説明してく…

 

「いいです、報告しません」

「エッ!?いいの!?報告しなくても?」

「本当は報告しないと怒られちゃいます」

 

少し柔らかくなった表情で報告しないと言ってくる雪風ちゃん

言葉通りなら嬉しいけど

 

「って、俺らの前では言っておいて後でバッチリ伝えるとか?」

「違いますよ」

 

一言でバッサリ切られる俺、いや良いの?ぶっちゃけ人類の敵匿ってるとか人類悪じゃね俺

 

「おじさん達は大丈夫そうです!」

「なんじゃそら」

 

満面の笑みで大丈夫だと言われても、なんじゃそら、としか言いようがない。本当にいい笑顔で言うから思わず納得しそうになる

 

「ああ、でもおじさん」

「何?」

「仲良しさんは良いけれど、別れが辛くなっちゃいますよ!」

「え?ああ、うん、辛くなるかもね」

「それじゃ、おじさん!さようなら!」

 

すっくりと立ち上がって、そのまま立ち去る雪風ちゃん。どこまでも元気のいい子供だ。

と、同時になんとなーく艦娘の情報が隠されてる理由が分かった気がする。

あんな子が戦いに身を投じることになるとか、絶対反対されるわ。

 

「あ、戦艦棲姫…さん?」

「…何カシラ?」

「待ってますよ、長門さん」

「…」

 

最後にガッツポーズをしながら意味深なことを言って走り去っていく雪風ちゃん

 

「ヲ?」

「俺に聞くなよ、ヲ級」

 

その真意を測りかねた俺は、同じような疑問を持ったであろうヲ級と(こいつの場合それすらわかって無さそうだが)

きょとんとして顔を見合わせていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『幸運』にも戦艦棲姫と空母ヲ級とのエンカウントを無傷で切り抜けた雪風は暗い夜道を駆け抜けていた

 

「きっとあの人たちなら大丈夫です!」

 

一見根拠の無さそうな言葉。しかし雪風は放置していても一連の現象はすぐ収まるだろうと確信していた

その確信について

『自分たちが放っておいてもすぐに戦艦棲姫は浄化されるので、きっと大丈夫だろう

下手にアクションを起こしてこのまま艦隊での戦闘になれば、なし崩し的に市街地で暴れられるだろうし

そうなるよりは自然浄化させたほうが遥かにスマートだ…ましてあの深海棲艦の素体があの長門さんであるならば尚…』という所までは言語化できていないようだが。

 

 

 




時間が空けばあくほど何書こうとしたのか忘れる
皆も一年以上空けるのは…辞めようね!


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第十三話 おうち帰ぅ!

匿ってたのが深海棲艦だと気づいてしまった男


遡る事1年前、ある艦隊は大規模な深海棲艦の軍勢と戦闘中であった

敵も姫級をはじめとした強大なものであったが、艦娘側も長門を旗艦とした持ちうる戦力の内精鋭ばかりを集めたものであり、まさに頂上決戦といった風だ。

 

「このまま正面へ向かい、一斉射で薙ぎ払うぞ!行くぞ陸奥!」

「任せて!」

 

そう言ってタービンを回す長門はこのまま射程圏に入った直後に陸奥と阿吽の呼吸で放つ砲撃により敵を半壊させ、そのまま撃ち合って夜戦まで持ち込みフィニッシャーがとどめを刺す必勝の流れへと持ち運ぼうとしていた。

夜までに敵戦力が残ったとしても自分の後ろにはフィニッシャーとして信頼している雪風までいる、敵本隊を討ち取れるという確かな自信が長門にはあった。

 

だがそのプランは一発の魚雷によって砕かれることとなった

 

「ぐあっ!!!」

 

旗艦である長門に一発、信じられないような距離から放たれた魚雷が命中し

一撃で中破状態へと追い込まれる

 

艦隊の面面は食らった長門本人含めて一度は潜水艦を疑った。

 

長門は随伴艦に目配せするが帰ってきたのは「潜水艦を見落としてはいない」というもので、自分が信頼する随伴艦のソナー・索敵では潜水艦の存在を確認できない以上やはり敵の水雷戦隊による攻撃だとしか思えなかった

 

だが、戦艦ですら攻撃が届かない距離の、それも動いてる標的に単発当てる事のできる魚雷など

あったのだろうか

 

彼女たちの記憶の中にもそんなものはなかった、いや、無かったという事にしていたのだろう

本当は覚えていたし、幾度も思い出したことはある、だからこそ戦闘中に一つの結論に行き着いた

 

なるべくなら思い出したくもない記憶のはずだ

 

回天(中に人が入っている)という兵器の事は

 

追い詰められた深海棲艦はかつて自らの前世がそうしたような方法で反撃に出た

倫理といった物が基本的にない深海棲艦がなぜ今まで使用してこなかったのか

それは分からない、しかし今、まさに長門たちはそれによって一転して窮地においやられた

 

 

 

とはいえこの艦隊は艦娘としてはほとんど並び立つ者はいないというほどの強者揃い

 

「ッ…確かに効いたが…まだやれるぞッ!陸奥、みんな!まだ行けるなッ?」

「え、ええ!」

「はい!長門さん!」

 

未だ戦意は衰えず、敵の喉元に食らいつこうと再び敵へと急接近を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______________時は今へと戻って雪風と別れた後

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

「なぁよぉ質問いいか?」

「…」

「ヲ?」

「いや、ヲ級じゃねえんだ、俺まだヲ級語はネイティブレベルじゃないからある程度しか解らんし」

 

家へと帰る俺は、沈黙に耐えれなくなりあれ以来すっかりしおらしくなった戦艦棲姫にいくつか湧いた疑問をぶつけた

(ちなみに足をくじいたので反省してもらうのも兼ねてヲ級におんぶしてもらっている、人が通る道にまで出たら降りるけど)

 

「まずよ、おまえが深海棲艦なのは良いんだ、いや本当は良くないんだけどそこはもうなんか認めるよ」

「…」

「何でおれの家に転がり込んだ?お前が深海棲艦だとすると、こんな祭りに来たくらいで艦娘とエンカウントしちまうような場所を潜伏場所にするのは立地的に最悪じゃねえか?」

「…ソウネ」

 

まずは簡単な所から、なんで俺の家を潜伏場所に選んだのかだ

これはこいつが脱兵者だと仮定してた頃から実は疑問には思ってた事で、この部分が解せない。

 

「ソレハ…「偶然俺に拾われたからだろ?」…ソウネ」

「最初に俺の家に住み着くことになったきっかけはそうかもしれないな、だが定住する理由にはならない」

「ヘェ」

「傷を治すなら治るまで、包囲網か何かで捜索されたくないなら警戒が緩むまで、そういう何か時間が解決してくれる目的を達成するまでの潜伏先としては俺の家は使えたかもしれない」

 

「だがお前は無傷だし何か計画を練っている形跡もない、雪風ちゃんの様子を見る限りだと鎮守府側には認識されてすらいなかった、ならニアミスで見つかる可能性のあるここを選んだ理由はなんだ?」

 

ヲ級の背中で揺られながら、俺は意を決して深掘りした

ぶっちゃけ怖いのでヲ級にしがみつく腕の力が強くなる。

 

「…深海棲艦ノ強化ノ為ヨ」

「深海棲艦の強化?パワーアップって事か?」

 

ここに潜伏するだけで深海棲艦のパワーアップ?おいおいバイキルトとかスクルトとか、バフでも掛けてるのか?

 

「自然発生スル深海棲艦ハ、上位種ノ…ソバニ居ルダケデ強クナル」

「おいおいおい!?じゃあ俺敵の強化の片棒担いでいたって事か!?」

 

やべぇよやべぇよ…これ俺やっぱ地の底まで追いかけられて殺されるんじゃねえの

処刑コースだってこれ絶対、死刑免れないでしょこれ、下手なテロリストの隠れ家よりヤバいよ俺の家。

 

「デモ、陸地ニ定着シテ、暫ク経ッタカラ…後ハ効果モ 薄レテイクワ…力(チカラ)モ使ッテイナイシ…」

「陸地に定着して暫くたったから効果は薄れるねぇ…それ信用して良いんだな?」

「信用シテ、オ願イ」

「ふーん…」

 

流石に悩む俺、こいつの言ってることが本気であるなら俺はとんでもない事をやらかしてる

それに、もう効果がないなんて全くもって口だけかもしれない…しれないんだが…

 

なんか、こいつのいう事が本当か嘘なのか分かっちまうんだよな、こいつは現状嘘は言ってない

これ自分の感性だけで決めていいはずないけど、まぁ四の五の言ったって始まらないし

仮に義憤を抱いて襲い掛かったって返り討ちだし、今更垂れ込んだって碌な事にもならないし…おう詰みじゃねえか

 

「信じるよ」

「イイノ?」

「良くねぇよ、何があったら口約束だけで信じるってんだよ…いやでも信じて毒を食らわば皿までで行かないと俺がそろそろ精神的に危ないからさ、あとまぁなんかお前らを見捨ててもおけないし…」

 

なんかこっ恥ずかしくなってきた、さっきも家族だから(キリッ)とか言ってしまったし

出会って一か月で家族宣言 ^戦艦棲姫空母ヲ級 ってか?売れなそうなタイトルだな

 

「次にだけど、お前って子供の頃とかどうだったの?」

「ドウッテ?」

「お前だってオギャーと産まれてミルク吸ってた頃くらいあるだろ?いや哺乳類か怪しいけどまぁ、いずれにしても赤ん坊の時はあったろ」

 

次はもっと単純に、深海棲艦に子供とかあるのか聞いてみる、べつに詮索したって良いだろ

 

「最初ノ記憶ハ…戦艦棲姫トシテダッタワ」

「は?物心ついたとき的な?ああ、生まれながらにその姿なのね」

「他には?」

「イエ…海デ戦イ続ケテ…強クナッテ…今ニ至ルワ」

「ええと…他には…? おおう…それ以外に記憶がないのか…」

 

なんというか、戦いしか考えてないっていう半生を送ってらっしゃる

まぁ深海棲艦ってのはそういうもんなのか、というか生まれながらに姫とかすごいな

いや、現実の姫も大体血統とかで生まれながらにしてなってるもんか…こいつの親はなんなんだろ。

 

「…」

「…」

 

疑問はまだあったけどなんか気の毒になって黙ってしまう

戦艦棲姫も黙っているので再び気まずい沈黙が流れてしまった

二人分の足音だけが響いてくる。

 

「ヲッ」

 

背負われている俺の位置がずれてきているのかヲ級が腕を動かして俺が背中の中心に来るように調整する。

 

こいつの過去はなんか悲惨だけど、今こいつらはどう思ってるんだろう

 

 

「悪いねヲ級…じゃ、じゃあさ、じゃあさ、お前ら、今の生活はどうだよ」

「?」

「俺と暮らしてさ、お前らは楽しいか?」

 

何だかんだ理不尽になれてくると一人よりは良いんじゃないかと俺は思い始めてしまった

じゃあ、こいつらはどうなんだろうか、こんな田舎町で隠居人みたいな暮らしをして楽しいと思ってるんだろうか。

 

「楽シイワ」

「え?」

「アナタト居ルノハ楽シイワ」

 

楽しい…か、そうかぁ

正直俺も楽しいよ、大食らいだし、なんか底が知れなくて、地雷踏むともっと底知れなくなって

でも馬鹿舌だし憎めなくなる時もある、そんなお前らと過ごすのも悪くない。

 

「ヲッ」

 

今のヲッは賛同するって意味のヲッだな、もうヲッだけで何言ってるのか分かるようになりつつある。

最早ヲ級の身振り手振りが無くてもいう事が分かるということは、ヲ級語検定準一級くらいは取得できるようになったのではないだろうか、そんなものないけど。

一か月も経たないうちにこんなに気心知れた関係になれちまうもんなのかな?

ともかく…

 

「ありがとうな」

 

断言してくれて嬉しかったよ

 

そこで会話が途切れた、さっき交わした言葉を頭の中で反芻して、また恥ずかしくなってきたので気を紛らわせるように、俺を背負っているヲ級の首のあたりを見る

 

深海棲艦…艦娘である雪風ちゃんと比べると確かに人の形をしているが、あれよりも違和感を覚えるデザインだ

色白、というには些か白すぎるこの肌、丁度今着ている黒い服と比べると碁石を盤面に並べたような

そんなコントラストになる、人の肌から一切を漂白してもここまでは白くならないだろう。

 

今、首をまじまじとみてそれが何故か分かった気がする

血色だ

 

これだけ色白なのに血管がまず見当たらない、ヲ級にしがみついてる俺の腕と見比べてみる

俺の腕には肌の色に混じって緑とも青とも付かない筋が確かに見える

が、ヲ級を見た限りでは一本も見当たらない、ただ白い柔肌が拡がってるだけだ。

風呂上りなどに誤差程度に色が良くなるので血は通っている事には違いないとは思うが。

 

次に首のあたりに触れてみる

 

「ヲ?」

 

共に生活していたので肌に触れたことは何度もある、至って普通の感触だ、やけにすべすべしている気もするが…

手に残るのは肌に触れた感触よりも冷たさだ、戦艦棲姫を最初に家に運んだ時もそうだった

死人かと思うほどに冷たい、よくよく触れてみれば温かみとまではいかなくとも体温があることは分かる

ただ、一緒にいると体温を奪われていくような、吸い込まれていくような冷たさを感じる。

 

「冷たいな、やっぱり」

「ヲ~」

 

この冷たさは海での暮らしに適応したからだろうか、たまに素肌に触れられるとびっくりするからもうちょっと温かみを帯びてほしい。

 

さて、それはそれとして

 

「まぁ、もうお祭りは良いだろうよ、雪風ちゃんは何となく俺らの存在をチクらなそうだけど他の子とか、上の人とか、護衛だかなんだかが勘づいてるかもしれない」

 

一回艦娘と出くわしちゃった以上、こんなところにいられるか!

雪風ちゃんは黙ってくれるみたいだけど、他の艦娘にバレたら今度こそ殺される!

 

いやぁ二人の事を報告しないと言ってくれた雪風ちゃんは天使だよ全く

なんで雪風ちゃんが黙ってくれることにしたのかとか、そういうのは全部考えないことにする

何故って、そこ突き詰めていくと実は雪風ちゃんは嘘ついてて、次の日にはライフル銃で武装した機動隊に囲まれてました!っていうビジョンが見えてくるから!マジでどういう風の吹き回しでお目こぼしされたんだろうね。

 

「エエ、私モコレ以上ハ望マナイワ」

「ヲ~!!ヲッヲッ」

 

戦艦棲姫も状況はしっかり理解してるのか、帰ることに賛成らしい

ただヲ級だけは納得していないようで、後生だからあと少しだけ見せてほしいとせがんでくる。

まぁ戦艦棲姫は何だかんだチョコバナナ買ったけど(食ったとは言ってない、あれは結局チョコが溶けたんで道中で食った)

ヲ級に関してはマジで付き添いで来ただけになってるから気の毒だ。

 

「分かってくれよヲ級、一緒に来たいと泣きついてきたくらいだし、さぞ楽しみにしてたんだろうけど今回ばかりは駄目だって次見つかったら撃ち殺されちまうかもしれないんだぜ?おうち帰ったらお菓子食べようよ、な?」

「ヲ…ヲ…」

「ヲ級、ゴメンナサイ…」

 

かつてないほど悲しそうな顔をするヲ級を必死に宥める

 

「おうち帰ったらヲ級の好きなアニメを見よう!んで、ヲ級の嫌いな野菜もアイツ(戦艦棲姫)が食うから!」

「ソウヨ!布団モ イツモヨリ 大キク使ッテイイワ!彼ノ部分ヲ!」

 

その過程でとてつもないヲ級への譲歩と擦り付け合いが始まる、どっちも負い目を感じているのはいいが

しわ寄せをなるべく相手に押し付けようとしてるのは自分でもいかがなもんかと思う。

 

いやでも俺悪く無くね?

 

「ヲ…」

 

そんな感じでぎゃーぎゃーやってると、ヲ級は立ち直ったらしくすごすごと歩き始める

 

「ヲ?ヲ!」

 

数歩歩いたところでヲ級が何かに気が付いたらしく、声を上げて俺らに知らせる

 

「ヲ!ヲ!ヲ!ヲ?」

「翻訳イルカシラ?」

 

例にもよってヲ!しか言ってないわけだが

 

「いや、分かった」

 

今回は何言ってるのか完全に分かってしまった

 

「「このまま大通りに出たら艦娘と鉢合わせない?」って所か…」

 

そこまで言った所でハッとなって戦艦棲姫と顔を見合わせる

戦艦棲姫も気が付いたらしく明らかに顔に焦りが出ていた

 

灯台下暗しとは言うが、手元の暗がりには死活問題が転がってるもんだ

 

いやまったく、どうやって帰ったもんか…

 

 

 




ヲ級成分が足りねぇ!(シュコーシュコー)



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