やる気なしの錬金術師 (厄介な猫さん)
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第一回座談会

本編、番外編、全く関係のない会話形式の話
てな訳でどうぞ


ブレイク「第一回!座談会!ですぞ!!」

 

リィエル「わー、ぱふぱふ」

 

ウィリアム「……何だよ、この空間は?」

 

ブレイク「作者が作った空間ですな。ここは本筋も時系列も関係無しのやりたい放題、死者も生者も参加可能、破壊も殺害も不可能!トーク形式で進行する場所ですぞ!!二次創作ならではの特権ですな!!」

 

ウィリアム「ええー……」

 

ブレイク「と、いうわけで、この場の進行役は、司会を務めるブレイク=シェイクと」

 

ウィリアム「……解説を務めさせていただくウィリアム=アイゼンと」

 

リィエル「同じくかいせつ?のリィエル=レイフォードがお送り致します?」

 

ウィリアム「……リィエル、その台本は?」

 

リィエル「変な猫がわたしに渡してきた。殆ど何も書いてないけど」

 

ウィリアム「作者ぁ……」

 

ブレイク「では、スタート、ですぞ!!第一回目のお題は『主人公の誕生経緯』ですな!!」

 

ウィリアム「最初はそこかぁ……」

 

ブレイク「せっかくですので、ゲストを招いてお話ししましょう!!どうぞ!!」

 

グレン「ハッハッハッーッ!!待たせたな!!皆のお待ちかね、原作主人公のグレン=レーダス超先生だぁあああああああ―――ッ!!!」

 

ウィリアム「清々しいまでのどや顔だなぁ……」

 

リィエル「グレンも参加するの?」

 

グレン「おう!しっかりと仕切らせて―――」

 

ブレイク「ゲストも登場した事ですので、早速始めましょうぞ!!」

 

グレン「最後まで言わせて!?」

 

ウィリアム「俺の誕生経緯かぁ……予想はつくけど少し気になるな」

 

リィエル「ん、わたしも気になる」

 

グレン「しかも無視!?俺、泣いちゃうよ!?」

 

ブレイク「手元の資料によりますと……」

 

グレン「まさかの全員無視!?ゲストなのに!?」

 

ブレイク「この作品のヒロインに合わせたようですな。作者の妄想が爆発し、頭の中だけのものが暴走させたと」

 

ウィリアム「つまり、リィエルに合わせていたのかよ……」

 

ブレイク「最初はグレン殿と同年代、同僚設定の妄想が次第に作者の都合の良い方向に向かっていったようですな」

 

ウィリアム「軍属から犯罪者って……見事な変わりっぷりだなぁ」

 

グレン「そうなった経緯はあるのか?」

 

ブレイク「ええ!勿論ありますぞ!!メタい発言をすれば、特務分室のメンバーにすれば、盛大な矛盾が生じる可能性が高く、強キャラにしたいという願望から犯罪者へとチェンジさせたと、我輩の固有魔術(オリジナル)で作者の記憶を覗いたので間違いありませんぞ!!」

 

グレン「な、なんつうご都合設定……」

 

ウィリアム「……仮に、俺が特務分室のメンバーだった場合、コードネームは何になったんだ?」

 

ブレイク「《剛毅》か《死神》のどちらかだったみたいですぞ。最も、原作の方では《剛毅》のコードネームの噛ませ犬が現れ、今後の展開で《死神》のコードネームの魔導士が現れないとも限らないので、ウィリアム殿のメンバー入りは今後もないでしょうが」

 

ウィリアム「メタぁ……」

 

リィエル「?よくわかんないけど、ウィルがわたしと一緒になることはないってこと?」

 

ブレイク「それは違いますな。軍属(イコール)一緒とは言えませんし、本編では装置のせい(おかげ)でお二人はつ―――」

 

ウィリアム「そこから先は喋るな」

 

ブレイク「おやおやぁ?随分と据わった目で《魔銃ディバイド》を我輩に向けますなぁ?」

 

グレン「ここじゃあ、そこら辺の記憶もバッチリ共有されてるからなぁ……どんな気持ちだったのかなウィリアムくん?リィエルと“ピッー”った時はどんな気持ちだったのかな?」

 

ブレイク「リィエル殿は如何でしたかな?」

 

リィエル「……悪い気分じゃなかった。むしろ、不思議と気持ちよかった」

 

ブレイク「そうですか!では、もっと詳しく―――」

 

ウィリアム「―――死ねッ!!!」

 

 

 

~~~しばらくお待ちください~~~

 

 

 

ウィリアム「……ぜぇ………ぜぇ………」

 

ブレイク「残念でしたなぁ!!この空間では殺害は不可能ですぞ!!·······体中はあちこち痛いですが……」

 

グレン「ぐおおっ……めちゃくちゃ痛ぇ………」

 

リィエル「ウィル、すごい暴れてたけど何で?」

 

ウィリアム「……この場に相応しくないことを言おうとしたからだ」

 

リィエル「そうなの?」

 

ウィリアム「そうだ。だから聞かれても喋るな」

 

リィエル「……わかった」

 

ブレイク「で、では気を取り直して話を続けましょうぞ」

 

ウィリアム「…………」

 

ブレイク「そんな疑わしい目で見なくても大丈夫ですぞ。今から話すのはペンネーム・皆の大天使様からの質問、『ウィリアム君はどんな容姿で、声を割り振るとしたら誰が担当するのかな?』に答えるというものですので」

 

ウィリアム「ようやくマトモに戻ったか……」

 

グレン「ウィリアムの容姿か……後書きで既に出てたよな?」

 

ブレイク「ええ!!具体的な容姿は、とあるゲーム作品の死神と呼ばれるとある海賊のシスコン副船長の背を年相応にしたものでしたな!!勿論、髪と瞳の色は違いますが!!」

 

ウィリアム「作者は絵心が皆無だからな。そうした方が楽だったということなんだろうな。ちなみに声は?」

 

ブレイク「声は作者の好みで、別ゲーム作品の50○○先輩と、全治ネタで有名な研究者(笑)、草○○○の金髪准将を担当した方のようですな」

 

ウィリアム「伏せ字が目立つなぁ……一部誤字もあるし……まぁ、あくまで作者の好みだから、声は読者の想像に任せる方向でも大丈夫だろ」

 

グレン「にしても、この作品の作者って………ロリコン?」

 

ブレイク「どうでしょうなぁ?作者は水色スナイパーや、痴女の生徒会長、乙女な剣士、年齢詐欺の豊満な胸の剣士、天然で純粋無垢な人類最強、同じく天然気質のある氷の魔女等、サブヒロインを好む傾向が強いようですな」

 

ウィリアム「他作品のキャラ紹介ヤメロ」

 

ブレイク「そろそろ時間が近づいてきましたな。最後にちょっとしたゲームをして終わりましょうぞ!!」

 

ウィリアム「……その立て札が幾つか入った数箱は?」

 

ブレイク「これはウィリアム殿がどんな目に合うのかをお題が書かれた札で決めるゲームですぞ!!ご心配なく。やらされるのは全部甘いものですので♪」

 

ウィリアム「作者ぁああああああああああああああ―――ッ!?」

 

ブレイク「そして、最初ですから一緒にゲームをする方はリィエル殿ですぞ!!」

 

リィエル「?ウィルとわたしが遊ぶの?」

 

グレン「面白そうだからさっさと引いちゃおうぜ?」

 

ウィリアム「言ってるそばから札を引くな!?グレンの先公!」

 

グレン「引いたお題を繋げると……『チャイナ服を着て』『ポッキーゲーム』だな」

 

ウィリアム「世界観ガン無視してんじゃねぇよ!?」

 

グレン「この当然出てきた白いチャイナ服はどっちが着るんだ?」

 

ブレイク「無論、ウィリアム殿と一緒にゲームをする方ですぞ」

 

リィエル「わたしがこれを着て、そのぽっきーげーむ?をするの?」

 

ブレイク「ええ!ポッキーゲームとはこのお菓子の先を二人一緒に食べていくゲームですぞ!!」

 

リィエル「……わかった。やる」

 

ブレイク「では、お二人をゲームルームへ転送、ですぞ!!」

 

ウィリアム「勝手に話を―――」

 

グレン「ウィリアムとリィエルが一瞬で消えたな……」

 

ブレイク「では、本日はこれにて!!第二回でお会いしましょうぞ!!」

 

 

ゲームの結果:チャイナ服を着た相方がポッキーを何の躊躇いもなく食べ進め、唇同士が接触しました。

 

 

 




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第二回座談会

てな訳でどうぞ


ブレイク「第二回!座談会!!」

 

リィエル「わーぱふぱふ」

 

ウィリアム「……この(くだり)、毎回やんの?」

 

ブレイク「ええ!様式美ですな!!ですので、司会は我輩、ブレイク=シェイクと」

 

ウィリアム「……解説のウィリアム=アイゼンと、同じく解説のリィエル=レイフォードがお送り致します」

 

リィエル「ん。よろしく」

 

ブレイク「では本日のゲストをお呼びしましょう!どうぞ!!」

 

システィーナ「ええと……本日のゲストのシスティーナ=フィーベルです……」

 

ルミア「同じくゲストのルミア=ティンジェルです。本日はシスティ共々よろしくね」

 

ブレイク「ではゲストを迎えた事で本日のお題、『オリジナル魔術・【詐欺師の工房】編』についてお話しましょうぞ!!」

 

ウィリアム「俺の固有魔術(オリジナル)かー。無難な内容だなー」

 

システィーナ「確かウィリアムの固有魔術(オリジナル)【詐欺師の工房】は……」

 

ウィリアム「ああ。グレンの先公とイヴの先公のパクリだな」

 

ルミア「いきなりぶっちゃけちゃったね……」

 

ブレイク「まぁ、それはさておき話を進めましょうか。ウィリアム殿の固有魔術(オリジナル)【詐欺師の工房】は専用の魔導器である翡翠の石板(エメラルド・タブレット)の術式を読み取り、効果範囲内における錬金術の五工程(クイント・アクション)を完全省略した瞬間錬成を可能にするものでしたな?」

 

ウィリアム「ああ。根源素(オリジン)の数値、元素の配列置、その工程や錬成式等を正しく理解してないと成立しねぇけどな。副次効果による魔薬(ドラッグ)無しの人工精霊(タルパ)召喚も同様だ」

 

システィーナ「改めて聞くと、本当にチートよね……」

 

ウィリアム「勿論、これらは数分経てば勝手に消える上に、あくまで“作る”だけだから【酸毒刺雨】のように降らせることも、【メギドの火】のように放つことも不可能だ」

 

リィエル「?よくわからないけど、ウィルのそれは思ってるより便利じゃないってこと?」

 

ウィリアム「まぁ、そういうことだ」

 

ルミア「……ところでリィエル?何で前回着た白いチャイナ服?を着ているのかな?」

 

リィエル「……変な猫がふぁんさーびす?になるから着てて欲しいと、這いつくばってお願いしてたから、それに頷いたらこうなった」

 

システィーナ「あの作者はぁ……ッ!」

 

ルミア「システィ、落ち着いて。ね?」

 

ウィリアム「作者の願望だだ漏れぇ……」

 

ブレイク「話を進めましょうか。固有魔術(オリジナル)人工精霊(タルパ)を召喚できるように設定した理由ですが、ウィリアム殿が錬金術に特化した設定にした時点で考えていたようですぞ」

 

システィーナ「人工精霊(タルパ)の使用は別にいいんだけど、リスク無しにわざわざする必要があったのかしら?」

 

ブレイク「人工精霊(タルパ)は一歩間違えれば廃人確定の禁呪法ですからな。それを使いまくる理由と、そのままではジャティス殿と何ら変わらないですからこうしたのでしょうな」

 

ウィリアム「それが制限時間付きと強大な存在の具現不可なんだな?」

 

ブレイク「ええ!そうしないとあまりにも都合が良すぎますからな!!」

 

ルミア「その辺りのバランスって本当に難しいんだね……」

 

ウィリアム「これからもその辺りに作者は苦労するだろうな。同情はしないが」

 

ブレイク「話も盛り上がってきたところで質問コーナー!ペンネーム・嫉妬に駆られるクラスの兄貴分さんからの質問!『ウィリア充!!お前はリィエルちゃんとどれだけイチャイチャする気だゴラァッ!?』」

 

ウィリアム「今回のお題全く関係ない質問だろ!これ!!」

 

システィーナ「呆れるしかないわね……」

 

リィエル「ねぇルミア。いちゃいちゃって何?」

 

ルミア「うーん……男女が仲良く一緒にいる事かな……?」

 

リィエル「?つまり、ウィルと一緒に寝てるの事を言うの?」

 

ルミア「そうなる……かなぁ……?」

 

リィエル「それなら、これからもわたしはウィルに抱きついたり、顔を埋めたりしていちゃいちゃ?する」

 

システィーナ「うぅ~~~~~~~ッ!!!」

 

ルミア「あはは……」

 

ウィリアム「結局、こうなるのかよ……」

 

ブレイク「質問に答えたので、最後に作者お待ちかねのゲームタイムですぞ!!」

 

ウィリアム「……本当にやるのかよ?」

 

ブレイク「ええ!ちなみに二回目も相手は既に決まってますぞ!!最初は平等にが、作者の方針ですので!!」

 

ウィリアム「ええー………」

 

ブレイク「まずは何をするかは……オォ!!『十分間、混浴』ですな!!」

 

システィーナ、ルミア「「ッ!?!?」」

 

ウィリアム「ブフゥーーーーーッ!?!?!?」

 

リィエル「?」

 

ブレイク「続いては……『一人サイズの小さな浴槽』……おぉ!!なんという組み合わせ!!若き男女が密着して入浴とは、何と素晴らしいことか!!」

 

システィーナ「そそそッ!?そんなわけないでしょう!?最悪過ぎるでしょ!?大体―――」

 

ルミア「混浴……狭い空間で……密着……うわぁ……うわぁ………」

 

リィエル「…………ムゥ………」

 

ブレイク「では転送ですな♪どうぞごゆっくり♪」

 

ウィリアム「ちょっと待て!!流石にや―――」

 

ルミア「ウィリアム君が消えちゃったね……ところでお相手は……?」

 

ブレイク「ネタ扱いされているこの作品での不遇キャラ、エルザ=ヴィーリフ殿ですぞ」

 

ルミア「そ、そうなんだ……あはは……」

 

リィエル「…………」

 

システィーナ「リィエルの背後に可愛い子犬が揺らめいてるわね……」

 

ブレイク「それでは本日もこれにて!!次は第三回でお会い致しましょうぞ!!」

 

 

ゲームの結果:混浴した裸の二人はあっという間にのぼせ上がり、その後、子犬が不機嫌そうに苺タルトを大量に頬張りました。

 

 

 




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第三回座談会

てな訳でどうぞ


ブレイク「第三回!座談会!!」

 

リィエル「わー、ぱふぱふ」

 

ウィリアム「…………」

 

リィエル「ウィル、どうしたの?テーブルに突っ伏して」

 

ブレイク「どうやら前回のゲームの羞恥から、まだ立ち直れていないようですな」

 

リィエル「?つまり、ウィルは恥ずかしさからこうなっているの?」

 

ブレイク「端的にいえばそうでしょうな」

 

リィエル「……だったら恥ずかしい事で上書きする」

 

 

~~~しばらくお待ち下さい~~~

 

 

ブレイク「では、改めまして。司会は我輩ブレイク=シェイクと」

 

ウィリアム「……解説のウィリアム=アイゼン……」

 

リィエル「同じく解説のリィエル=レイフォードがお送り致します……ウィル、何でやつれてるの?」

 

ウィリアム「誰のせいだと思ってるんだ……」

 

リィエル「?」

 

ブレイク「いやぁ、中々美味しい光景でしたなぁ。リィエル殿がウィリアム殿にキスは勿論、自ら自分の身体を触らせ―――」

 

ウィリアム「それ以上喋るな」

 

ブレイク「おお、怖いですなぁ!ところで、リィエル殿はどこであれを覚えましたのかな?」

 

リィエル「変な猫が、今着ているこのメイド服と一緒に渡してきた薄いピンクの本に書かれてた」

 

ウィリアム「作者ぁ!!!」

 

ブレイク「では場も温まったことで、嫉妬に駆られている今回のゲストをお呼びしましょうぞ!!今回のゲストはこの作品のヒロイン二人ですぞ!!どうぞ!!」

 

オーヴァイ「皆さんこんにちは!!ご紹介に預かりました天才剣士、オーヴァイ=オキタ、只今推参しました!!今日はよろしくお願いしますね!!」

 

エルザ「……前回のゲームに登場したエルザ=ヴィーリフです。今日はオーヴァイさん共々よろしくお願いします」

 

ブレイク「おお!!二人の背後で龍と狼の幻覚が揺らめいていますな!!」

 

ウィリアム「スタン○が出てるなぁ……」

 

ブレイク「それはさておき、本日のお題を発表しましょう!お題は『ラノベにおけるヒロインが複数になる理由』ですぞ!!」

 

ウィリアム「あー、誰もが気になる疑問だなぁ……」

 

オーヴァイ「確かにそうですねー。ここでも先輩含め、ヒロインは複数ですからねー」

 

エルザ「どうして一人だけにしないのでしょうか?」

 

ブレイク「話の関係でしょうな。仮にヒロイン一人だけでずーっといけば、話がマンネリ化してつまらなくなりますので」

 

リィエル「よくわかんないけど、面白くするために仲良くする人が多くなってこと?」

 

オーヴァイ「そうなのかもしれないですね。現に、私もそういった関係でウィリアム先輩争奪戦に加わりましたので」

 

ブレイク「原作では百合の可能性が浮上した彼女―――」

 

エルザ「何か言いました?」

 

ウィリアム「殆ど一瞬で刀をブレイクの野郎に突き付けたな……」

 

ブレイク「ハッハッハッ!!随分と血の気が多いですなぁ!!それでは大分出遅れてしまうのは当然―――」

 

 

~~~しばらくお待ち下さい~~~

 

 

エルザ「司会者が少し席を外しましたので、私が代わりに進行しますね」

 

ウィリアム「あ、あぁ……」

 

リィエル「エルザ、すごかった」

 

オーヴァイ「本当にそうですねー。刀が残像で何十本にも見えましたからねー」

 

エルザ「では質問コーナー。ペンネーム・ドジッ子貴族令嬢様からの質問です。『皆様はウィリアムさんの何処がお好きですか?』」

 

ウィリアム「恥ずかしい質問だなぁ……」

 

オーヴァイ「私は先輩の優しいところが好きですねー」

 

エルザ「わ、私もウィルさんの優しいところが好きです!!」

 

リィエル「ウィルの好きなところ?………多分、全部」

 

ウィリアム「全員すごいあっさり答えたな!?」

 

ブレイク「人が誰かを好きになる時は大した理由等ないでしょうし、別に変なことではないでしょう」

 

ウィリアム「エルザにあれだけやられたのにもう復活したのかよ……」

 

エルザ「チッ………もっと痛めつけておくべきでしたね」

 

ブレイク「あちらの方々は無視して、お待ちかねのゲームタイムですぞ!!」

 

オーヴァイ「待ってましたぁ!!」

 

リィエル「?オーヴァイ。すごく喜んでる」

 

ウィリアム「まさか……」

 

エルザ「……うん。今日ウィルさんとゲームをするのはオーヴァイさんなんだよね……」

 

リィエル「……どうしてかわかんないけど、すごくモヤモヤする」

 

ブレイク「さて、ゲームのお題は………『ウェディング体験』……つまり、結婚式の体験ですな♪」

 

ウィリアム「なぁッ!?」

 

リィエル「……え?」

 

エルザ「!?」

 

オーヴァイ「ええ!?私とウィリアム先輩がウェディング体験を―――ガハァッ!?」

 

ウィリアム「オーヴァイが驚きのあまり、盛大に吐血したぞ!?」

 

ブレイク「おや。相手は倒れてしまってはゲームが成立しませんな。今回は中止―――」

 

オーヴァイ「―――いえ。もう大丈夫です」

 

ウィリアム「復活はやっ!?」

 

ブレイク「オーヴァイ殿が復活したところで、転送ですぞ!!」

 

リィエル「………オーヴァイがシスティーナが着ていたヒラヒラの服を着てウィルとゲーム……何かやだ……」

 

エルザ「ずるいです………羨まし過ぎます………」

 

ブレイク「では本日もこれにて!!次は第四回でお会いしましょうぞ!!」

 

 

ゲームの結果:誓いのキスで花嫁役は興奮して盛大に口から大量に血を吐き、純白の衣装を真っ赤に染めました。その後、花嫁役は子犬と龍によって花婿役から引き離され、手厚く看病されました。

 

 

 




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第四回座談会

完成したので投稿
てな訳でどうぞ


ブレイク「第四回座談会!!」

 

リィエル「わーぱふぱふ」

 

ウィリアム「えー、今回も始まったな」

 

ブレイク「ええ!!司会は今回もこの我輩、ブレイク=シェイクと」

 

ウィリアム「解説のウィリアム=アイゼンと」

 

リィエル「同じく解説のリィエル=レイフォードがお送り致します」

 

ウィリアム「ところでリィエル。今回のその格好(コスプレ)は?」

 

リィエル「よくわかんないけど、今日はひめと同じ格好でやってほしいと変な猫にお願いされた」

 

ウィリアム「まさか今回のゲストは……」

 

ブレイク「半分は当たりですな!では、今回のゲストはかの有名な六英雄、《灰燼の魔女》と《剣の姫》のお二人ですぞ!!では、どうぞ!!」

 

セリカ「ハッーハッハッハッ!!待たせたな!!今紹介された《灰燼の魔女》、セリカ=アルフォネアだ!!今日はよろしく頼むぞ諸君!!」

 

エリエーテ「只今紹介に預りました《剣の姫》エリエーテ=ヘイヴンです。····セリカ、ちゃんとゲートから登場しようよ?」

 

セリカ「堅いこと言うなよエリー。壁を破壊して登場するのが私らしいだろ?」

 

エリエーテ「う、うーん……そうなのかなぁ?セリカがすごく生き生きしているからいいのかなぁ……?」

 

ウィリアム「……この空間は破壊不可能じゃなかったのか?」

 

ブレイク「ご心配なく♪その壁は元々壊す前提で用意したものですので♪」

 

ウィリアム「ご都合ぅ……」

 

リィエル「今日はひめとセリカとお話するの?それなら、嬉しい」

 

エリエーテ「そうだね……ボクも嬉しいよ。こんな形だけど、こうしてキミ達とお話できるのは。ボクはもう死んじゃっているからね」

 

セリカ「おいおい姫。ここではそういった話は基本無しだぜ?」

 

エリエーテ「アハハ……ゴメンね、そうだったね」

 

セリカ「それにしても、格好を整えれば本当にお前とリィエルは瓜二つと言えるな」

 

ウィリアム「確かにそうだなぁ。あくまで作者の印象だが、本当に二人は見た目がよく似てるなぁ」

 

エリエーテ「本当にそうだね。リィエルがボクだった魂の一部を持っているみたいだからこそ、似たのかもしれないね」

 

ウィリアム「それにしても“一部”か……エーテル体が次の命に転生する時は自然に分離する場合があるということなのか?」

 

セリカ「そうとも言えないんじゃないか?リィエルの出自を考えればパラ・オリジンエーテルを精製した結果とも言えるからな」

 

ブレイク「その辺りは未だ不明ですからな。今後の原作で掘り下げられる可能性はあるでしょうが」

 

リィエル「むぅ………難しくてよくわかんない………」

 

ブレイク「これは失敬。前置きが長くなりましたな。それでは本日のお題、『現時点でのこの作品の主人公とメインヒロインのいちゃつき具合』について談笑しましょうぞ!!!」

 

ウィリアム「ッ!?」

 

リィエル「?どうしたのウィル?急に顔を真っ赤に染めて」

 

セリカ「アイツは今、恥ずかしがっているんだよ」

 

エリエーテ「ちょっとセリカ!?」

 

リィエル「……そう。なら、上書きする」

 

エリエーテ「待ってリィエル!!お願いだから·····」

 

セリカ「《全く・大人しくしてろよ・エリー》」

 

エリエーテ「セリカ!?何で【リストリクション】を使ってまで邪魔するの!?」

 

ブレイク「何でそんなに貴女が取り乱すのですかな?ひょっとしてご自身と重ね合わせてしまっているのですかな?」

 

エリエーテ「それ、絶対わかってて言ってるよね!?」

 

リィエル「んちゅ………チュッチュッ、ちゅぅぅ……」

 

エリエーテ「うわ、うわわわわ……」

 

セリカ「《こらこら・目を閉じて・顔を逸らすなよ》」

 

エリエーテ「だからなんで邪魔するの!?」

 

ブレイク「貴女のうぶな反応が面白いからではありませんかな?実際、貴女の顔を真っ赤に恥ずかしがる姿はとても面白く、おいしいですからな」

 

セリカ「お前のその固有魔術(オリジナル)は本当に腹が立つなぁ。人の領域にずかずかと入り込むからな」

 

ブレイク「おや?不満ですかな?それはそうとリィエル殿。ウィリアム殿はまだ恥ずかしがってますぞ?」

 

ウィリアム「ッ!!」

 

リィエル「ちゅる……そうなの?」

 

ブレイク「ええ!ですから、グレン殿とイヴ殿のしていた組手をしながら上書き行動(キス)をすれば良いですぞ!!」

 

ウィリアム「ッ!?」

 

エリエーテ「ちょ、ちょっと!?」

 

セリカ「良くわかっているじゃないか(ニヤニヤ)」

 

リィエル「……わかった。やる」

 

ウィリアム「待てリィエル!!それは―――」

 

リィエル「……えい」

 

ブレイク「おお!何の躊躇いもなくウィリアム殿を押し倒して馬乗りになりましたなぁ!!」

 

セリカ「そして、自分から上の服を大きく開いて薄い黄色のキャミソールを露にしたな」

 

エリエーテ「なんでそんなに平然と解説してるの!?お願いだから、アレを止めてよ!!」

 

リィエル「じゅる……れるれろれろん……ちゅっちゅ、ちゅば……んちゅ……じゅる…れろれろ、むちゅう……」

 

エリエーテ「あ、ああ……うわわわ……」

 

ブレイク「中々美味しい光景ですなぁ!!!目の前で起きている光景をまるで自らがやっているように見えて恥ずかしがっている貴女の反応も!!」

 

セリカ「そんなにモジモジとした反応をするなよ。もっと見てみたくなるじゃないか」

 

エリエーテ「お願いだから面白いという理由だけでやらせないで!!」

 

ブレイク「それではお待ちかねの質問コーナー!!」

 

エリエーテ「無視しないでよ!?それに、殆ど談笑してないよね!?」

 

ブレイク「ペンネーム・毎日がシロッテの枝を食べる教師さんからの質問。『あいつらは何時になったら付き合うのかな?かな?』です―――」

 

エリエーテ「ええッ!?急に手紙が燃えちゃったよ!!」

 

セリカ「天井からカードが落ちてきたな……なになに、『この質問はアウトなのでこの質問で進めて下さい』だと……?…………」

 

エリエーテ「えっとセリカ?」

 

セリカ「……少し出掛けてくる」

 

エリエーテ「出掛ける前にこれ解いてよ!!」

 

 

~~~しばらくお待ち下さい~~~

 

 

セリカ「ちっ!結局質問を戻す事が出来なかったなッ!!」

 

エリエーテ「…………」

 

ブレイク「中々面白いお顔となっておられますなエリエーテ殿。顔を真っ赤に染め、死んだ魚のような瞳になるなど」

 

エリエーテ「…………」

 

セリカ「全く、これくらいでだらしないなエリー」

 

エリエーテ「…………」

 

リィエル「?ひめが元気ない……どうして?」

 

ウィリアム「……誰のせいだと思っているんだ……」

 

リィエル「?」

 

ブレイク「おやおやウィリアム殿。随分と疲れていますなぁ?」

 

ウィリアム「本当に誰のせいだと思っているんだ……」

 

リィエル「??」

 

ブレイク「そろそろ質問コーナーに戻りましょうぞ。もう一度同じペンネームの方から……『それなら、作者はどれくらい駄目なんだ?』」

 

セリカ「作者の駄目っぷりか……投稿した話を書き換えるくらい駄目だな」

 

ウィリアム「……まぁ、読みやすくなるよう、句読点を付けるついでに書き加えたりしていたからな」

 

ブレイク「そこは仕方がないのでは?憑依召喚(ポゼッション)が登場した事で矛盾が生じた以上、修正は当然の摂理かと」

 

セリカ「これ以上の修正はないよな?」

 

ブレイク「それは分かりませんな。リィエル殿のホームレスの下りはまた修正が入る可能性が高いですからな」

 

ウィリアム「作者のミーハー振りが浮き彫りになるなぁ………まぁ、そこら辺は今後の作者次第だな」

 

ブレイク「質問も終わった事で本日のゲームコーナーに突入ですぞ!!」

 

ウィリアム「やっぱりやるのかよ……ハァ……」

 

ブレイク「まずは札を……『王様ゲーム』ですな」

 

リィエル「王様ゲームってなに?」

 

セリカ「王様になった人物が命令するゲームさ」

 

リィエル「……そう」

 

ブレイク「では、王様を決めましょうぞ!!」

 

エリエーテ「……そうだね。王様ならどんな命令をしてもいいよね……」

 

セリカ「随分とやる気だなエリー?」

 

ウィリアム「いきなり不穏な空気全開だな……」

 

ブレイク「では、一斉に引きますぞ!!では………」

 

全員「「「「「王様だーれだ!?…………」」」」」

 

セリカ「私だな」

 

ウィリアム「うげっ!?」

 

エリエーテ「セリカが王様!?もう嫌な予感がするんだけど!!」

 

セリカ「では一番が二番に恋愛のABCを実行し、それを四番が見届ける!!」

 

ウィリアム「!?」

 

エリエーテ「またなの!?」

 

リィエル「ABCってなに?」

 

ブレイク「キス、愛でる、繋がるの略称ですぞ。ちなみにこの作品の本編ではBまでいってますぞ♪」

 

セリカ「と、いう訳で、一番のウィリアムは二番のリィエルにABCを実行し、四番のエリーがそれを見届けたまえ!!ハーハッハッハッハッ!!!!!」

 

ウィリアム「笑いながら―――」

 

エリエーテ「……転送されちゃったね。ボクも巨大なモニターの前で椅子に座らされて立ち上がれないし、顔も動かせないし、瞬きもできないし、手も顔に持っていけないし、視線も逸らせないし……」

 

ブレイク「王様の命令は絶対服従。ですから謎の強制力が働いているのですぞ♪」

 

エリエーテ「……それ、酷すぎないかな?」

 

セリカ「大丈夫だろ。本編では既に夢の中でヤっているからな」

 

エリエーテ「…………」

 

ブレイク「しかし、魔術で札をコントロールするとは、流石は《灰燼の魔女》ですな♪」

 

エリエーテ「えっ!?今なんて―――」

 

ブレイク「では、本日もこれにて!次は第五回でお会いしましょうぞ!!」

 

 

ゲームの結果:妙に艶のある悶えた喘ぎ声が三回程上がりました。そして、その光景を映像で無理矢理見せられていた最強剣士は堪らず○○○○してしまう結果となりました。

 

 

 




やめたまえ!!わた―――

猫が刀を持った龍と狼によってみじん切りにされました

感想お待ちしてます


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第五回(失敗)座談会

てな訳でどうぞ


ブレイク「第五回!座談会!!」

 

チャールズ「わーっ!パチパチパチ!!」

 

ギーゼン「さあ、本日も始まりました座談会」

 

ブレイク「今回も我輩、司会のブレイク=シェイクと」

 

チャールズ「今回臨時で解説を努めさせてもらう、チャールズ=テイラーと」

 

ギーゼン「同じく臨時で解説を努めます、ギーゼン=G=アルバーンがお送りさせて頂きます」

 

ブレイク「では早速、今回のゲストに登場してもらいましょうぞ!!」

 

アルベルト「今回のゲストのアルベルト=フレイザーだ」

 

イヴ「……イヴよ」

 

クリストフ「クリストフ=フラウルです。今回はよろしくお願いします」

 

バーナード「バーナード=ジェスターじゃ。今回はよろしく頼むぞい……憎きウィル坊とリィエルちゃんはどうしたんじゃ?」

 

ギーゼン「あー……その……実はですね……」

 

チャールズ「あの二人は前回のゲームの疲れがまだとれてなくてな。それで今回はお休みなんよ」

 

ブレイク「論より証拠。と言うわけでこちらの記録映像をどうぞ♪」

 

リィエル『はぁ……はぁ……んっ……ぁ……お願い……もっと……』

 

アルベルト「……(無言で目を揉みしだく)」

 

ブレイク「ちなみに、彼女が満足するまでゲームは続きましたぞ♪」

 

バーナード「……(ドンドンッ!)」

 

アルベルト「血涙を流しながら無駄な事をするな翁。壁を殴っても何も変わりはしない」

 

リィエル『んぁ……ぁぁん……ひゃんっ……すごく、気持ち……いい……』

 

クリストフ「……(顔を逸らす)」

 

イヴ「……」

 

チャールズ「この後、もっと激し―――熱ッ!?魔導映写装置が火だるまにぃいいいいい―――ッ!?」

 

ギーゼン「ものすごい勢いで燃えてますねー……」

 

チャールズ「イヴ先生ッ!?何で燃やしたんや!?リィエルちゃんにピントを合わせた痴情シーンやったのにッ!?」

 

イヴ「どうやら全く懲りていないようね……ちょっと此方に来なさい」

 

ギーゼン「あの……?進行は……?」

 

~~~しばらくお待ち下さい~~~

 

チャールズ「…………(プスプス)」

 

ブレイク「見事な黒焦げですなぁ。流石は《紅焔公(ロード・スカーレット)》(笑)と言ったところでしょうな」

 

イヴ「貴方も黒焦げになりたいようね……?」

 

ギーゼン「あの……そろそろ進行したいのですが……」

 

ブレイク「おや?本当に出来ますかなぁ?原作十一巻でグレン殿を押し倒した貴女に?」

 

ギーゼン「ですから……」

 

イヴ「それは明らかに関係ない事でしょう!?」

 

ギーゼン「…………静かにしろ、雑種ども」

 

一同「「「「「!?」」」」」

 

ギーゼン「貴様らは満足に番組を進行する事さえ出来ぬのか?いや、雑種にそれを求めるのは酷であったな」

 

クリストフ「あの、ギーゼンさん……?」

 

ブレイク「どうやら暴君モードとやらに突入したようですな。しかし、見事な変わりようですな。嫌みキャラからポンコツキャラに変わった貴女―――」

 

イヴ「《死ね》ッ!!」

 

アルベルト「また始まったか……」

 

ギーゼン「全く、仕方のない雑種どもめ·······こうなったら、(オレ)が主導で進めてやろう。今回のお題は『人工精霊(タルパ)について』だ」

 

クリストフ「人工精霊(タルパ)ですか……」

 

チャールズ「そのお題は普通、使用者が居る時にするやつやで……」

 

ギーゼン「ウィリアム(ケダモノ)は未だ()()でベッドの中、《正義(ジャティス)》の雑種は『グレンと一緒でなければ参加する価値はない』と抜かしおってな。今から呼ぶのも無駄な労力よ」

 

アルベルト「……賢明だな」

 

ギーゼン「人工精霊(タルパ)は魔術の『等価対応の法則』を逆手に取り、精神に深く作用する特殊な魔薬(ドラッグ)で瞬間的なトランス状態となり、己の深層意識に空想存在を『そこにいる』と強固に暗示認識し、擬似霊素粒子粉末(パラ・エテリオンパウダー)をスクリーンに現実世界に具現召喚する錬金術の奥義だったな?」

 

ブレイク「ハハハッ!!当たりませんぞッ!!」

 

アルベルト「ああ。人工精霊(タルパ)は言ってしまえば極端な妄想の具現化だ。故に、グレンの【愚者の世界】の対象外であり、使用者にとっても強力な手札となる」

 

イヴ「《いい加減に・くたばりなさい》ッ!!」

 

ギーゼン「妄想の具現化だからこそ、バリエーションも豊富となるのであろうな。これは作者の自己解釈だが、神話学に通じなければ無意味であろう」

 

バーナード「……(ドゴォオオオオンッ!!)」

 

アルベルト「同感だな。妄想があやふやでは召喚に時間がかかる可能性が高いからな」

 

ブレイク「随分と雑になってきてますなぁ?身体をまさぐられた事に怒らなかった貴女が」

 

イヴ「《くたばれ》ッ!!」

 

ちゅどおおおおおおおおおおおおんっ!!

 

ギーゼン「ええい!?いい加減にしろ貴様ら!?大人しく番組を進行させる気はないのか!?」

 

バーナード「やかましいわいッ!!」

 

イヴ「引っ込んでなさいッ!!」

 

ぼごぉおおおおおおおおおおおおおおんっ!!

 

ギーゼン「ぎゃあああああああああああああ―――ッ!?」

 

チャールズ「ギーゼン先生が吹っ飛んでしもうたわぁ……」

 

クリストフ「どうやって収めますか?アルベルトさん」

 

アルベルト「放っておくしかあるまい」

 

チャールズ「しゃあないから、僕の渾身の作品で時間を稼ぐで。何枚もの写真を組み合わせて作り上げた合成写真!一糸纏わぬリィエルちゃんが惚けた表情で相手の指を絡めて握り―――アチャァ!?」

 

イヴ「本当に懲りていないわね……!」

 

チャールズ「またお宝が……こうなったら、切り札のご開帳やッ!!合成で作り上げた裸体のイ―――」

 

イヴ「《死ね》ッ!!」

 

チャールズ「あちゃぁああああああああああああ―――ッ!?」

 

クリストフ「……どうしますしょうか、アルベルトさん?」

 

アルベルト「こうなった以上、俺達には何もできない……帰るぞ」

 

 

その後、会場は焔に包まれ、男二名(+巻き添え一名)が黒焦げになりました。

 

 

ギーゼン「結局、番組は中止ですか……胃薬を……そもそも、どうして僕はここにいるのでしょうか……?」

 

 

イヴが暴れていた頃―――

 

 

リィエル『はぁ……はぁ……中が……アツい……』

 

システィーナ「―――(////////////)」

 

ルミア「あわ……あわわわわわわわ········」

 

 

エロ猫と大墮天使様は件の映像を食いつくように凝視していた……

 

 

 




※ちなみにこの時、ウィリアムはリィエルに一度食べられ、次は食べました(この時点では座談会限定)
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番外編
リィエルのバイト


出来上がったので投稿じゃい!
てな訳でどうぞ


とある日の、学院の教職員室にて。

鬼のような形相をしたグレンが、眼前で突っ立ているリィエルを睨み付けていた。

 

 

「どうしたの?グレン。変な顔して」

 

「……リィエル?」

 

 

ぼそりと興味なさそうに応じたリィエルに、ウィリアムはこめかみに青筋を浮かべてその頭に右手を置く。

 

 

「ウィル?」

 

「お前は自分が問題を起こした事をちゃんと分かっているのかな?」

 

「それはウィルの勘違い。わたしは問題なんて起こしていない」

 

「……俺は何時も言っているよな?物は壊すなって」

 

「……そうだっけ?」

 

「それさえ忘れてんのかお前はぁあああああああああああああああ―――ッ!?」

 

 

その瞬間、ウィリアムは右手に力を入れ、万力のようにギリギリとリィエルの頭を締め上げていく。

 

 

「ウィル。痛い」

 

「今週で三度目の器物破損だぞ!?未然に防いだのと合わせれば、十回は余裕で越えてんぞ!?」

 

「そのせいで俺の給料は、監督不行き届きとしてカットされまくりじゃあああああああああああああ―――ッ!!」

 

「あう。痛い痛い」

 

 

グレンも書きかけの始末書を放り投げて参戦し、リィエルの頭を両手の拳で挟み、こめかみをグリグリと抉り始める。

リィエルが教職員室に呼び出されたのは、何時もの一般常識なさからの暴走である。

今回は男子生徒がルミアに付き合ってほしいという告白を、『突き合って』と剣で刺し合うと勘違いを起こしたそうで、その男子生徒に斬りかかり、学院校舎の壁を破壊したのだ。

リィエルの生い立ちから発生する問題行動はグレンとウィリアムの悩みの種となっている。

ウィリアムがリィエルの近くにいる時は物理的に暴走を未然、もしくは最小限の被害で阻止しているが、今回のように近くにいない時は止められる人物がいない為、容赦なく破壊を振り撒いていくのだ。

 

 

「マジでなんとかしないと……このままじゃ精神的疲労で倒れこんじまう」

 

 

どうやってこのバカに一般常識を学ばせるかと頭を悩ませていると。

 

 

「よし、リィエル!アルバイトしろ!」

 

 

突如グレンが閃いたように、リィエルに提案してくる。

リィエルがアルバイトする事自体は決して悪くない提案なのだが、提案した本人はいかにも悪そうな顔で薄笑いしているのだ。

 

 

「……絶対、ロクでもないことを考えてるわね……」

 

「……大方、リィエルのバイト代をピンハネする気だろうよ……」

 

「……十分にありえるわね……」

 

「だけど他に案もねぇし、一番重要なのはリィエルに常識を学ばせる事だ。お金に関しては今回は目を瞑っとこうぜ?」

 

「……そうね。正直、文句を言いたい所だけど……」

 

「あはは……」

 

 

小声でそんな会話をする。

 

 

「よくわからないけど……グレンのいう通り、働く」

 

「やってくれるのか!期待してるぜ!頑張って稼―――勉強してこい!」

 

「ん。頑張る」

 

 

こうして、リィエルに一般常識を身に付けさせる為のアルバイトが決定した。

 

 

「本当にリィエルは素直ね……ウィリアム、しっかり見てあげなさいよ?」

 

「何故そこで俺にふる?」

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

現在、ウィリアム達は学院の薬草園にいる。

いきなり学院の外でアルバイトは無理すぎるということで、最初は学院内の学生向けのアルバイトをやらせる事にした。

それでちょうど学院の法医師、セシリア=ヘスティアが畑仕事のアルバイトを募集していたため、参加したのだが……

 

 

「うっ、げほっ、ごほっ!今年の風邪は厄介ですね……」

 

 

この人は極度の病弱体質であり、ほぼ毎日血を吐いているのだ。

 

 

「この人、死にそう」

 

「言うな」

 

 

そんな先行き不安な状況で、他の生徒達と一緒に畑仕事のアルバイトを始める。

 

 

「ぉおおお……」

 

 

リィエルは鍬二刀流でどんどん畑を耕していく光景に、男子生徒達から驚愕の視線が集まっていく。

リィエルの飛び抜けた身体能力で作業がどんどん進んでいき······

 

 

「み、皆さぁん……そろそろ休憩にしましょう?ごほッごほッ!」

 

 

セシリアが血を吐きながらそう宣言し、終始寝そべっているグレンと頑張って畑を耕すと言ったリィエルをその場に残し、一同は学院のカフェテラスで休憩を取りに行ったのだが·····

 

 

「平和だなぁ……ッ!?」

 

 

カフェテラスでぼんやりとお茶を飲んでいたウィリアムは突如、目を見開いて脂汗を流し始める。

 

 

「ウィリアム?一体どうし―――」

 

 

システィーナの問いかけを無視し、ウィリアムは大急ぎで薬草園へと戻って行く。

実は、念のために正規手順の人工精霊(タルパ)をこっそり具現召喚し、リィエルを監視していたのだが、その人工精霊(タルパ)から見た光景―――リィエルが身体能力強化の魔術を全開にして畑を耕し始めたのだ。……耕してはいけない場所まで。

ウィリアムが向かっている間も、畑は容赦なくリィエルによって耕されており·······

 

 

「リィエルぅううううううううううううう―――ッ!?」

 

「あ、ウィル」

 

 

大急ぎで薬草園に到着した頃には薬草園の全体の半分程が耕されていた。

ウィリアムの叫びにリィエルも鍬を持つ両の手を止め、ウィリアムにへと近づいていく。

 

 

「わたし、皆の為に凄く頑張った。褒めて」

 

「……やり過ぎだど阿呆ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお―――ッ!!!!!!!!!!」

 

 

ギリギリギリギリギリギリギリギリッ!

 

ウィリアムは右手でリィエルにアイアンクローをかまし、容赦なく締め上げていく。

 

 

「すごく痛い」

 

「お前ちゃんと説明聞いてなかったのか!?耕していいのはあの区画だけ!新しく植えた場所やそれ以外は耕したらいけないんだよ!!」

 

「……そうだったの?」

 

「こんのど阿呆がぁああああああああああああああああああああ―――ッ!!!!」

 

「……うるせぇなぁ……静か、に……」

 

 

ウィリアムの叫び声で、畑の畦の上で寝ていたグレンは目を覚まし文句を言おうとするも、畑の光景に言葉を失う。

そんなグレンにウィリアムは、リィエルの顔を掴んだままグレンの方へと近寄り······

 

 

「……」

 

「……言い分は?」

 

「え~と、その……単純な力仕事しか残ってなかったし……おまけに誰もいないから、もうトラブルは起こしようがないと思いまして……」

 

「だから寝ていたと?」

 

「……申し訳ありませんでした!!!!!!」

 

 

ウィリアムから発せられる威圧感を前に、グレンは固有魔術(オリジナル)(笑)【ムーンサルト・ジャンピング土下座】をかます結果となった。

この後も、生徒達に連れられて戻って来たセシリアがショック症状を起こし大騒ぎとなった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

倒れたセシリアの治療費、薬草園の被害額、支払う賃金の立て替えで、グレンの給料がさらに減給される結果となったリィエルの社会勉強第一弾。

第二弾は………

 

 

「……これでいいの?」

 

 

シックで雰囲気の良い内装の店内で、ウェイトレスの制服を身につけたリィエルがグレンにそう聞く。

ここは魔術学院の外。街で大人気のカフェレストラン『アバンチュール』だ。

第二弾はここでウェイトレスのバイトである。

 

 

「……なんで、私達も働く事になったんですか………ッ!?」

 

 

こめかみに青筋を立てて、リィエルと全く同じ制服を着たシスティーナが問い質す。隣にいるルミアも同様に彼女らと同じ制服に着替えている。

 

 

「リィエルに単独でやらせるとか無理じゃん?俺のお金の為に、お前らがついてフォローしてくれないと……」

 

「本当に最低ですね!?ウィリアムも何で止めなかったの!?」

 

「もう荒療治でやっちまえという投げやり思考と、面倒だったので止めませんでした。後悔は………………ない」

 

「ちょっと。今の長い間は何!?絶対後悔してるでしょ!?」

 

 

そんな訳でウェイトレスのバイトが決行されたのだが。

 

 

「いつからそこにいたの!?」

 

「なんで店員の君が客である僕に注文するの!?」

 

「なんで全部苺タルト!?しかも一つかじられているし!?」

 

「またお皿を割っちゃったの!?」

 

「だからそれ、食べちゃ駄目だってばッ!!」

 

 

……たった一時間の間でトラブル続出であった。

 

 

「やっぱり止めるべきだったか……?」

 

 

グレンとは別の席でジャガイモのミートパイを食べながら戦々恐々として様子を見るウィリアム。コーヒー一杯だけしか注文していないグレンとは違い、ウィリアムは幾つか注文して居座っている。

お金がある者とない者との差が如実に現れており、グレンの方は傍迷惑な客であった。

その後もリィエル関連でトラブルが続出するが、システィーナとルミアのフォローにより何とか致命的なミスは未然に防げている。

次第にリィエルもそれなりに仕事を覚えていき、ミスが控えめになっていき……

 

 

「ん。注文の紅茶持ってきた」

 

 

リィエルが、ウィリアムのラストオーダーである紅茶をテーブルの上に置く。

ウィリアムはあの後も、ジュース、パスタ、チップス等を散発的に注文してずっと居座っており、今日の手持ちの懐はかなり軽くなっていた。

対するグレンは最初のコーヒー一杯だけと、最低最悪なお客様の典型図を完成させていた。

 

 

「ありがとさん」

 

「ん。食べ終わったお皿、片付ける」

 

 

リィエルがウィリアムの食べ終わったお皿を片付けようとした時、それは起こった。

 

 

「―――きゃあっ!?」

 

「大げさじゃのう、お嬢ちゃん、ちょっと手がお尻に触れただけで……ぐふふふ……」

 

 

ルミアがガラの悪いチンピラ数人に絡まれており、ルミアを無理矢理自分達の席へと座らせようとしている。

システィーナが猛然と向かって行くが、三人の大男に囲まれてしまう。

 

 

「……リィエル」

 

「……何?」

 

 

その光景を前にウィリアムはウーツ鋼製のフライパンを二つ錬成し、表情が僅かに強張っているリィエルにへと渡す。

フライパンを受け取ったリィエルはウィリアムを見て頷いて、チンピラ達へと向かっていき―――チンピラの一人の脳天を右手のフライパンで叩き落とし、地面にへと沈めた。

 

 

「ルミアとシスティーナをいじめるやつは、許さない」

 

 

フライパンを両手にその場に佇むリィエルに、チンピラ達はなけなしのプライドでリィエルにへと仕掛けていった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

あの大乱闘から数日後。

件のカフェレストランにて、例のウェイトレスの制服を着たグレンが働いていた。

グレンは乱闘を穏便に収めようと介入しようとしたが、チンピラ達に何度も殴り飛ばされた為、堪忍袋の緒が切れ、乱闘に乱入し、店に被害を出したのだ。

その被害金額分を返済するために、グレンは恥ずかしい格好でバイトする事となったのだ。

リィエルの方はバイト代から天引きされた事で無罪放免に落ち着いており、現在店内で苺タルトを満足そうに頬張っている。

 

 

「社会常識をアルバイトで身につけさせる作戦は失敗だな……」

 

「乱闘を手助けしたあんたが言うんじゃないわよ」

 

「まぁまぁ、時間はたくさんあるから、焦らずゆっくりやっていけばいいよ」

 

 

こうしてアルバイト作戦は失敗に終わった。

 

ちなみに、『アバンチュール』には「フライパンを手に持って戦うウェイトレスがいるらしい」という噂が流れ、『アバンチュール』には迷惑な客は来なくなり、来ても店員に絡む事は無いというプラス効果がもたらされる結果となった。

 

 

 




ウェイトレス姿のリィエル可愛い·······
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鎮圧手段検討会

時系列はムチャクチャ
外伝だから別にいいよね!?
てな訳でどうぞ


「……ねぇ、ウィリアム」

 

「……なんだ?」

 

「いつも思っているのだけれど、やり過ぎじゃないのかしら?」

 

「そうだね。もうちょっと穏便に出来ないのかな?」

 

 

システィーナとルミアがそう言いながら、視線を向けるその先には……

 

 

「うきゅう………」

 

 

地面にうつ伏せで倒れているリィエルがいた。近くには錬成した大剣が転がっている。

もうお察しの通り、リィエルが暴走したのでウィリアムが非殺傷弾の銃撃で鎮圧したのである。今回は「ルミアのハート(心)を射止めてみせる」と意気込んでいた男子生徒に斬りかかろうとしたのだ。

ウィリアムは二人の言葉を無視し、リィエルの首から下を金属で埋めるという何時もの拘束手段でリィエルの動きを封じ、繋げた鎖を引きずって、その場から拘束したリィエルを連行し、システィーナとルミアもその後を追いかける。

場所を変え、斬りかかった理由を問い質すと―――

 

 

「だってアイツ、『ルミアのハート(心臓)を射止めてみせる』って、言ってた!アイツを放置していたらルミアの命が危ない!!だから早くこれを解いて!!」

 

「……やっぱりね。うん。予想出来てたけどこれは酷い」

 

「違うよリィエル。あれはね……」

 

 

リィエルのその勘違いはルミアが至極丁寧に説明した為、一応は正すことは出来た。

 

 

「さっきの話の続きだけど、あんな物理的な手段で止めるのはさすがにやり過ぎだと思うわ」

 

「……この馬鹿が口で言ってすぐに止まると思うか?」

 

「……うっ………それは……」

 

 

ウィリアムの最もな意見にシスティーナの言葉が詰まる。脳筋は行動が早すぎるので口での静止より先に被害が出てしまう。

 

 

「じゃ、じゃあせめて【ショック・ボルト】で……」

 

「初級呪文でこいつが止まると思うのか?そもそも当てられるかすら怪しいぞ」

 

「……普通に避けそうだし、止まりそうにないね……」

 

 

ルミアもあっさり撃沈する。リィエルは忘れがちだが現役の宮廷魔導士なのだ。【ショック・ボルト】程度で止まる事はないだろう。

 

 

「だけど、毎回痛い思いをするリィエルが可哀想よ」

 

「……わりとけろっとしているのにか?」

 

「……」

 

 

返答に困り、システィーナはウィリアムから目を逸らす。

 

 

「お願い。これ、早く解いて。ちょっと苦しい」

 

 

そんな中、当の本人は圧迫感から早く解いて欲しいとお願いしていた。

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

―――学院の教職員室にて。

 

 

「―――という訳で、これからリィエルを取り押さえる手段について議論していきましょう!!」

 

 

システィーナ主導による検討会が開かれた。参加者はグレン、ウィリアム、ルミアである。リィエルもその場にいるが、本人は眠たげにぼーっとしているだけである。

 

 

「……別に今のままでいいんじゃね?こいつは人の言いたい事を理解しねぇし、なりより俺が楽出来てるし」

 

 

強制参加のグレンは傍から聞けばロクでもない事を言う。

軍属時代からリィエルを知っているグレンからすれば、当然と言えば当然の言葉ではあるが……

 

 

「そうなったら、私がウィリアムを止めますよ?」

 

「よーしっ!じゃあ早速議論しようじゃないか!!」

 

 

システィーナの発言に、グレンは神速で掌を返し議論への参加表明をする。もしそうなればリィエルがもたらす被害は拡大、給料がさらにカットされ、夢のシロッテ生活が待っているからだ。

 

 

「苺タルトで言うことを聞かせるのはどうかな?」

 

 

ルミアが先陣をきるように餌付け作戦を提案する。リィエルの苺タルト好きを逆手に取った作戦は―――

 

 

「それだと常に苺タルトを用意する必要があるぞ?それも大量に」

 

「さすがに現実的じゃねぇな……」

 

「……ごめんなさいルミア。さすがに擁護できないわ……」

 

 

速攻で否決となった。

 

 

「リィエルを取り押さえるのに人工精霊(タルパ)を使えばいいんじゃねぇか?」

 

 

グレンにしてはまともな案が出てくるも―――

 

 

「アホ。周りになんて言い訳するんだよ?」

 

 

本人からバッサリと却下された。

人工精霊(タルパ)は本来は禁呪法に近い錬金術の奥義だ。いくら固有魔術(オリジナル)による裏技とはいえホイホイと出せば、周りから怪しまれる。

 

 

「第一、こいつの機動力と勘の良さを忘れんじゃねぇよ」

 

「そういやぁ、そうだった……」

 

 

リィエルの勘の良さは本当に厄介なのだ。戦闘中は後ろからの無音火薬(サイレント・パウダー)の銃撃を見ずに避ける程に。

だからこちらに意識していない状態で速攻で沈めているのだ。

 

 

「本当にいい案が出ないわね……」

 

「……まぁ、銃弾以外の手は一つ、あるにはあるんだが……」

 

「あるならそっちを使いなさいよ!?」

 

 

ポツリと洩れたウィリアムの言葉に、溜め息を吐いていたシスティーナはすぐさま食らいつくも。

 

 

「こっちは銃弾以上に駄目なんだよ」

 

「······どういう事よ?」

 

 

システィーナの疑問に、ウィリアムは錬金術で地面の一部の性質を変えて説明を始める。

 

 

「これは粘着性が高いやつだ。これをリィエルの周囲の足下に錬成すれば、その粘着性に足を取られて動きを封じる事が出来るだろうが……」

 

 

ウィリアムはそこでリィエルを見やり、この手法の決定的な問題点を告げる。

 

 

「こいつの機動力からわりと広めに錬成する必要があるし、これにダイブしたリィエルを想像してみろ」

 

 

そこでグレン、システィーナ、ルミアは想像してみる。

 

 

『……ん。何かベタベタする……』

 

 

粘着性の地面に足を取られてダイブし、粘着まみれとなって引っ付いて、動きを封じられたリィエルを―――

 

 

「……アウトだな」

 

「アウトね」

 

「さすがにアウトだね……」

 

「だろ?」

 

 

絵面的にアウトであり、銃弾以上に悲惨だったので、この案は速攻で無かった事にした。

その後も議論を重ねるも……

 

 

「実力行使以外の案が浮かばねぇなぁ……」

 

「その上、全部駄目でしたし……」

 

 

グレンとシスティーナは揃って深い溜め息を吐く。

結局、現状維持で社会常識を少しずつ教えていく、という結論に至る事となった。

 

後日―――

 

 

「お困りなら、私の精神魔術でゴホォッ!?」

 

「この私が開発した『ウルトラ学習キャップ』でグハァッ!?」

 

 

どこからか話を聞きつけてきた変態紳士と変態マスターが殴り飛ばされ、宙に舞う光景が目撃された。

 

 

 




·····エロいな!!
さてこっそりと実行―――

ニュースです
昨夜未明、全身を鈍器のようなもので殴られた身元不明の人物が発見されました
被害者は意識不明の重体で予断を許さない状態とのことです
続きましては―――

感想お待ちしています


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魔導人形バタフライフィールド

リクエストのお話第二弾!
てな訳でどうぞ


「ハンカチが盗まれた」

 

 

教員会議に何故か出席していた天災オーウェルの第一声がそれだった。

 

 

「今朝、私のお気に入りのハンカチが机の上から無くなっていたのだ。恐らく何者かが盗んだに違いない」

 

「はぁ……」

 

「だからハンカチを盗んだ犯人を見つけ出す為の魔導人形を持ってきた!さあ来い!!『バタフライフィールド』よッ!」

 

 

オーウェルの掛け声と共に派手に扉が開けられる。

 

 

『ガッデムッ!!』

 

 

そこに佇んでいたのは厳つい雰囲気を醸し出す黒のスーツに身を包み、頭部に当たる部分に真っ黒の眼鏡をかけた二メトラ近くある銀色の魔導人形だ。

 

 

「この『バタフライフィールド』は対象が嘘をついているか、そいつが犯人かを判別できる優れものなのだ!!開発自体は三日で済んだが、デザインに三年かかってしまったがな!名称は何となくだ!!フハハハハ!」

 

「もうツッコまないぞ……」

 

 

オーウェルの相変わらずの言葉に最近の被害者のグレンは力無くそう口にする。

 

 

「そして犯人には『バタフライフィールド』から、あらゆる魔術防御を無視した制裁のビンタが下されるのだ!!」

 

「あらゆる魔術防御の無視とか······やっぱ使い方間違っているだろ……」

 

「さあ『バタフライフィールド』よッ!!私のハンカチを盗んだ犯人を見つけ出すのだ!!」

 

 

オーウェルの指示を受けた魔導人形はまずはハーレイへと向かっていく。

 

 

『オマエ、名ハ何トイウ?』

 

 

人形なのに凄みのある迫力の前に、ハーレイはたじろぎながら名前を言う。

 

 

「は、ハーレイ=アストレイだ……」

 

『成程。ハーゲイ=アフロレイカ……』

 

「ちょっと待て、今何と言った!?」

 

『ハーゲイ=アフロレイ。オマエガマスターノハンカチヲ盗ンダ犯人カ?』

 

「ハーゲイではない!!ハーレイだ!!ポンコツ人形!!」

 

『質問二答エロ。ハーゲイ、オマエガ犯人カ?』

 

「だから私はハーレイだ!!」

 

『……モウ一度聞ク……ハーゲイ、オマエガ犯人カ?』

 

「いい加減にしろポンコツ人形め!!私はハーレイだと!?」

 

 

魔導人形―――バタフライフィールドは突如、ハーレイの胸ぐらを掴み上げる。

 

 

『ドウヤラオマエハ犯人デハナイガ、質問二答エナイ奴二ハオ仕置キガ必要ダ』

 

 

バタフライフィールドはそのまま右腕を広げていく。それを見たハーレイは慌て始める。

 

 

「ま、待て!!」

 

『覚悟ヲ決メロ、ハーゲイ』

 

「だから私はハべしッ!?」

 

 

バタフライフィールドから無慈悲のビンタが下された。

ビンタをくらい床に倒れたハーレイは、白目をむいて全身をびくびくと痙攣させている。

 

 

 

「「「「…………」」」」

 

『ガッデム!!』

 

 

教員達の間で圧倒的な沈黙が支配するなか、バタフライフィールドは最初に入ってきた時と同じセリフを吐き捨てた。

そしてオーウェルやハーレイ等、一部を除く一同はこう思った。

 

 

(((((逆らったらいけないやつだ、この人形ッ!!!!!!!!!!)))))

 

 

周りが戦々恐々とするなか、バタフライフィールドは続いてツェスト男爵へと向かって行く。

 

 

『オマエノ名前ハ?』

 

「ツェスト=ル=ノワールだ……」

 

『ツエロストル=ノ=ワル。オマエガ犯人カ?』

 

「……ツッコミたいが、私は男のハンカチ等盗んではいない」

 

 

バタフライフィールドはツェスト男爵を凝視し……

 

 

『……ドウヤラ本当ノヨウダナ。昨日ハ幼女ニ魔術デセクハラシテイタミタイダカラナ』

 

 

バタフライフィールドはそう言ってツェスト男爵から離れていく。

 

 

「……何故、わかったんだい?」

 

「「「「おいッ!?この変態を今すぐ制裁しろよ!?」」」」

 

 

バタフライフィールドが次に向かったのは……

 

 

『オマエノ名ハ?』

 

 

学院長のリックだ。

 

 

「わしの名はリック=ウォーケンじゃよ」

 

『リール=トッケン。オマエガ犯人カ?』

 

「……違うぞい」

 

『……オマエモ犯人デハナイヨウダナ……昨日は学院長室デコッソリ精霊デアル妻ト会ッテイタヨウダカラナ』

 

「「「「学院長、どういう事です?」」」」

 

「誤解じゃぞ!?」

 

 

バタフライフィールドが次に狙いを定めたのは……

 

 

『グレン=レーダス。オマエガ犯人カ?』

 

「なんで俺の事知ってんの?」

 

 

マトモに名前を呼ばれたグレンだった。

 

 

『オマエハマスターノソウルフレンドトシテ、登録サレテイル。オマエハ犯人カ?』

 

「……違ぇよ」

 

 

バタフライフィールドの言葉に顔をひきつらせながらグレンは質問に答える。

 

 

『……オマエモチガウヨウダ。昨日ハソコノ金髪女ノ食料庫ヲ食イ漁ッテイタヨウダカラナ』

 

「な、なんの事だかさっぱりだ―――」

 

「成程な……今朝の食料庫が昨日見たより若干少なくなっていたのはそういう事だったのか……」

 

 

バタフライフィールドからもたらされた事実に、セリカは静かな怒りを携えてグレンの背後に立っていた。

 

 

「待ってくれセリカ。これには空より高く、海より深い理由があってだな……」

 

「《とりあえず・吹き飛べ》」

 

「ぎゃああああああああ―――ッ!?」

 

 

魔術で盛大に吹き飛ばされるグレンを無視し、バタフライフィールドは次々と詰問していく。

誰もが変な名前で呼ばれ、昨日の出来事を暴露され、心にダメージを負っていくなか……

 

 

『ココニハ犯人ハイナイヨウダナ……ガッデム!!』

 

 

バタフライフィールドはそう言って外へと向かって行き……

 

 

『犯人ヲ探シテクル』

 

 

そう言って、その場を後にした。

 

 

「……あれ、止めなくていいのかい?」

 

 

誰かが力無く呟くも、誰もバタフライフィールドを止めに行こうとはしなかったが……

 

 

「グレン君、後はよろしく。あれを何とかしないと君、クビね」

 

「学院長!?」

 

 

学院長の鶴の一声で、グレンに押し付けられる事となった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

昼休み真っ只中の中庭で―――

 

 

『ガッデム!!!』

 

「「「「ッ!?!?!?!?!?!?!?」」」」

 

 

バタフライフィールドが空の上から現れ、周りの生徒達が目を白黒させて注目する。バタフライフィールドはそんな事にかまう事なく一人の男子生徒―――カッシュに歩み寄っていく。

 

 

『オマエノ名ハナンダ?』

 

 

相変わらずの迫力ある問いかけに、カッシュは呑まれながらも答えていく。

 

 

「お、俺の名前はカッシュだ……」

 

『ガッシュヨ、オマエガマスターノハンカチヲ盗ンダ犯人カ?』

 

「微妙に違うんだけど……マスターって誰だ?」

 

『ソノ質問ハ最モダ。ヨッテ答エヨウ。マスターノ名前ハオーウェル=シュウザーダ』

 

 

オーウェルの名前が出た瞬間、凄まじく嫌な予感がしたカッシュは全力で逃げようとするも―――

 

 

『質問ニ答エタノニ、オマエハ答エズニ立チ去ロウトスルトハイイ根性ダ。オマエハ犯人デハナイヨウダガ、オマエニハオシオキガ必要ノヨウダナ』

 

 

バタフライフィールドはカッシュの胸ぐらを掴んで持ち上げ、逃げられないようにしていた。そして裁きが下される。

 

 

「や、やめてろはッ!?」

 

 

カッシュの顔にバタフライフィールドのビンタが炸裂し、カッシュは地面を転がり落ち、地面にうつ伏せに大の字に倒れて沈黙した。

 

 

「「「「「…………」」」」」

 

『ガッデム!!』

 

 

周りの生徒達がその光景に沈黙するなか、バタフライフィールドは同じみの言葉を叫び、そのまま次の人物へと向かって行く。

バタフライフィールドが向かう先にいる人物は、苺タルトを頬張っている青髪の少女―――

 

 

―――リィエル=レイフォードであった。

 

 

 




件の天災オーウェルの開発した魔導人形として登場!
次回はどうなる!?
感想お待ちしてます


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魔導人形バタフライフィールド・2

さあ、出来上がったぞ!
欲望のままに書いたぞ!
てな訳でどうぞ


『オマエノ名ハ?』

 

 

バタフライフィールドがリィエルに名前を聞いてくるが……

 

 

「……モグモグ……」

 

 

当の本人は苺タルトに夢中でバタフライフィールドに全く気づいていなかった。

 

 

『モウ一度聞コウ。オマエノ名ハナントイウ?』

 

 

バタフライフィールドはリィエルの間近に迫って聞いてくる。

 

 

「……誰?」

 

 

そこでリィエルはようやくバタフライフィールドに気がつき、質問してきた。

 

 

『オレノ名前ハバタフライフィールド。マスター、オーウェル=シュウザーガ作ッタ魔導人形ダ。オマエノ名ハ?』

 

「リィエル……」

 

『リエル。オマエガマスターノハンカチヲ盗ンダ犯人カ?』

 

「……?」

 

 

リィエルは首を傾げるだけに終わる。

 

 

『黒ト白ノストライプノハンカチニ心当タリガナイカ?』

 

「そんなの知らない」

 

『……本当ニ知ラナイヨウダナ。昨日ハイカガワシイ内容ノ夢ヲ見テイタヨウダカラナ』

 

「「「「その内容、もっと詳しく!!」」」」

 

 

バタフライフィールドは周りの反応を無視し、学院の説教女神―――システィーナへと向かっていく。

 

 

『オマエノ名前ハ?』

 

「し、システィーナ=フィーベルよ……」

 

 

及び腰ながらもシスティーナは自身の名前を答える。

 

 

『システマ=レベル。オマエガ犯人カ?』

 

「違うわよ!色々と!!」

 

『……オマエモ違ウヨウダナ。昨日ハ文才ガ全クナイ、ゴ都合主義全開ノ恋愛内容ノ書物ヲ執筆シテイタヨウダカラナ』

 

「いやぁあああああああああああああ―――ッ!?!?!?!?!?」

 

 

まさかの黒歴史を皆の前で暴露され、システィーナは頭を抱えてその場で蹲る。

そんなシスティーナを置いてバタフライフィールドが次に向かったのは……

 

 

『オマエ、名ハナントイウ?』

 

 

学院の天使、ルミアの前だ。

 

 

「……ルミアです」

 

 

ルミアはバタフライフィールドに物怖じせずに、若干睨んで答えるも……

 

 

『偽名ヲ使ウナ』

 

 

バタフライフィールドは一発で嘘を見抜いた。

 

 

「……私はルミアです」

 

『嘘ヲツクナ』

 

「今の私はルミア=ティンジェルです」

 

『……イイダロウ。オマエハハンカチヲ盗ンダ犯人デハナイガ、嘘ツキニハオシオキガ必要ダ』

 

 

バタフライフィールドはそう言って、ルミアに制裁のビンタを下そうとする。

振り上げられようとしたバタフライフィールドの右腕が突如、誰かに掴まれる。

バタフライフィールドがそちらを向くと、腕を掴んでいたのはリィエルだった。

 

 

「ルミアをいじめるやつは、許さない」

 

 

リィエルはそう言ってバタフライフィールドを投げ飛ばそうとするも―――

 

 

『ドウヤラオマエニモ、オシオキガ必要ノヨウダナ』

 

 

逆にバタフライフィールドに持ち上げられていた。

 

 

「!?く――」

 

 

リィエルは僅かに目を見開き、咄嗟に右腕から手を放し距離を取ろうとするも、バタフライフィールドがそれより早くリィエルの胸ぐらを掴み上げた為、逃げられなくなる。

 

 

「やぁああああああああ―――ッ!!」

 

 

リィエルは直ぐ様大剣を錬成してバタフライフィールドに斬りかかるも―――

 

ガキンッ!ガキンッ!

 

堅い音が響くだけで、バタフライフィールドには傷一つ付けられなかった。

 

 

『オレノ身体ノ主素材ハ真銀(ミスリル)日緋色金(オリハルコン)デ出来テイル。ソノ程度ノ攻撃ハ通用シナイ』

 

 

そのままバタフライフィールドの右腕が振り抜かれる。リィエルは咄嗟に大剣を盾にするも―――

 

 

「あぐぅ―――ッ!?」

 

 

バタフライフィールドのビンタはウーツ鋼の大剣を真っ二つに折り、制裁のビンタを顔に受けたリィエルは真横に吹っ飛ばされる。その先には―――

 

 

「一体何が―――って、うおわッ!?」

 

 

騒動を聞きつけてきたウィリアムがおり、そのまま飛んできたリィエルとぶつかり、絡まりながら派手に転がっていく。

 

 

『ガッデームッ!!!』

 

「……てぇッ!?」

 

 

縺れ合って倒れた先でウィリアムは視界に映った光景からすぐに顔を逸らす。何故なら―――

 

 

「きゅう……」

 

 

バタフライフィールドのビンタをくらって気絶したリィエルのスカートの中身が目前にあったからだ。

 

 

「「「「ラッキースケベ、死して地獄の業火で焼かれるべし!!!」」」」

 

「恨み言より早く助けろよ!?」

 

 

周りの呪詛の言葉にウィリアムはツッコミを入れるなか。

 

 

『覚悟ハイイカ?』

 

 

バタフライフィールドはルミアの前に佇み、ビンタの構えを取っていた。

ルミアは聖女のような顔でその制裁の時を待っていると―――

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおお―――ッ!?」

 

 

駆けつけてきたグレンが、全力の飛び蹴りをバタフライフィールドの顔にあたる部分に叩き込んでいた。

だが―――

 

 

『マスターノソウルフレンド。オマエニモ制裁ガ必要ノヨウダナ』

 

 

バタフライフィールドは微動だにせずに受け止めていた。

バタフライフィールドはそのままグレンの右足を右手で掴み、そのまま身体を引き寄せて左手で胸ぐらを掴みあげてから右手を放し、制裁のビンタの構えを取る。

 

 

「待つんだ。落ち着いて話しをッ!?」

 

『ガッデム!!』

 

 

バタフライフィールドはまたしても無慈悲のビンタを炸裂させ、グレンを叩き飛ばす。

 

 

「えっ!?ちょ――」

 

 

グレンの飛ぶ先にはシスティーナがおり、ビンタで飛ばされたグレンはシスティーナを巻き込んで倒れてしまう。

その結果、グレンはシスティーナの成長が乏しい胸に顔を埋める結果となった。

 

 

「なっ、なっ、なっ………!?」

 

「……固い」

 

 

まさかの事態にシスティーナは顔を真っ赤に硬直するも、グレンが発した言葉で怒りが急転直下に上昇し―――

 

 

「《この・お馬鹿》ぁああああああああああああああああ―――ッ!?!?」

 

「ぎゃあああああああああああああああああ―――ッ!?」

 

 

グレンは再び空へと飛んでいくこととなった。

 

 

「さすが私が開発した、バタフライフィールドだな!!」

 

 

バタフライフィールドの様子を見に来たオーウェルは、軽くかいた汗を、懐から取り出した黒と白のストライプのハンカチで拭きながらバタフライフィールドの性能を称賛する。

 

 

『……マスター、ソノハンカチハ?』

 

「…………あ」

 

 

オーウェルはバタフライフィールドの指摘で盗まれたと思っていた自身のハンカチを凝視する。

バタフライフィールドは流れる動作でオーウェルの胸ぐらを掴みあげ、制裁のビンタの構えを取る。

 

 

『マスターガ、ハンカチヲ盗ンダ犯人トハ……残念ダ』

 

「待つんだバタフライフィールド。これは私の勘違いで―――」

 

『犯人ニハ、全力ノ制裁ノビンタダ』

 

「そうだ。そろそろエネルギーが―――」

 

『オレノ身体ニハ太陽光ヲ魔力ニ変換スル魔晶石ガ取リ付ケラレテイルカラ、エネルギーノ心配ハ無用ダ』

 

「そういえば、あのガラクタを部品合わせに取り付けていたなあ……」

 

『三カライクゾ』

 

「待つんだバタフライフィールドよ。頼むから私の話を」

 

『三ッ!二ィッ!一ッ!!』

 

 

バチィイイイイイイイイイイイイイインッ!!!

 

遂に、バタフライフィールドの全力のビンタが炸裂した。

ビンタをくらったオーウェルは水平に吹き飛ばされ、校舎の壁を貫通し、貫通した向こうにあった壁にめり込んで、沈黙した。

 

 

「「「「……………………」」」」

 

『ガッデームッ!!!!!!』

 

 

バタフライフィールドはもう決めゼリフとなった言葉を吐き捨て、一同が呆然とするなか、ルミアの前に立つ。

バタフライフィールドは右腕を振り上げていき、ルミアは目を瞑って裁きの時を待った。

そして―――

 

ペチンッ

 

 

「……え?」

 

 

まさかの優しいビンタに、ルミアは目を丸くしてバタフライフィールドを見やる。

 

 

『理由ハアレド嘘ツキハ犯罪ノハジマリダ。ソレヲ忘レルナヨ』

 

 

バタフライフィールドはそう言って立ち去っていった。

多くの人に傷を残して……

 

 

―――後日。

 

 

『ガッデム!』

 

 

学院の警備員に謎の魔導人形が混じっているという噂が出たが、真相は定かではない……

 

 

 




バタフライフィールド·······まるで○ーミ○ーターみたいだな
バタフライフィールドは紳士(?)と言えるかな?
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アルベルトの落とし穴:詐欺師編

番外編である!
てな訳でどうぞ


「お疲れ様です。アルベルトさん」

 

 

フェジテの深夜。とある場所で物静かな少年―――クリストフが鷹の目のように鋭い青年―――アルベルトに話しかける。

 

 

「クリストフか。どんな用件だ?」

 

 

アルベルトが淡々と事務的に問い質し、クリストフは苦笑しながら一通の書状をアルベルトに渡す。

アルベルトはそれを受け取り、中身の文章を確認し……

 

 

「……了解した。俺が任務に就いている間の遠隔的な近辺警邏はクリストフ。お前に任せるぞ」

 

「……どのような内容だったのですか?」

 

「『ウィリアム=アイゼンが帝国に害ある存在か、改めて調査せよ』という内容だ」

 

 

アルベルトはそう言って、時間差起動(ディレイ・ブート)した魔術で書状を燃やし尽くす。

 

 

「ウィリアム=アイゼン……あの《詐欺師》ですか……」

 

「お前は概要と報告書でしか奴を知らなかったな」

 

「はい……二年前から何の前触れもなく現れなくなったので……」

 

「そうだな……」

 

 

アルベルトはそう返すも、現れなくなった理由はグレンからもたらされた情報で既に知っている。

《詐欺師》―――ウィリアムは天の智慧研究会に囲われていた人物―――イルシアとシオン、ライネルを件の組織から連れ出す為に活動していた。

だが、イルシアとシオンは粛清により死亡、その研究所もグレンとアルベルトの手で潰し、ライネルの生存は向こうからしたら絶望的だっただろう。

最も、そのライネルが二人を手にかけた張本人であったが……

 

 

「それは兎も角クリストフ。何故書状の内容を把握していなかった?」

 

「その書状はバーナードさんがアルベルトさんに届けるようにと渡してきて。内容もアルベルトさんから聞けと」

 

「……翁が?」

 

 

アルベルトはその瞬間に眉間にシワをよせる。先日、バーナードの偽造書にまんまと騙されたのだから当然の反応と言えよう。

 

 

「……アルベルトさん?」

 

「……いや、何でもない。任務として下った以上、いつも通りに完璧にこなすだけだ」

 

 

訝しげにするクリストフに、アルベルトはいつも通りの冷徹な言葉で返しその場を後にする。

任務内容も然程不自然なものではないし、バーナードもさすがにこんな短期間で同じ真似はしないだろうと考え、任務内容は本物だと判断した。

……その判断は後に間違っていた、認識が甘かったということを感じる事になるとは、この時のアルベルトは思いもしなかった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

次の日。

晴天が広がるフェジテの空。アルザーノ帝国魔術学院の通学路にて。

 

 

「おはよう、ウィリアム君」

 

「ん。おはよう、ウィル」

 

「……おう、おはようさん……」

 

 

ルミアとリィエルの挨拶に、ウィリアムは眠たげに挨拶を返す。

 

 

「もうちょっと早く来なさいよねウィリアム。先生よりは早いけど」

 

「学院に行けば会えるんだから、わざわざ待たなくてもいいだろ」

 

「それだとウィルに早く会えないからやだ」

 

「そうかい……」

 

 

リィエルの言葉に、若干呆れながらも微笑ましい顔をするウィリアム。そんな彼らの様子をベンチに座って新聞を読む人当たりの良い雰囲気を出す紳士然とした青年―――に変装したアルベルトはその鋭い眼光でチラチラと注視していた。

 

 

(今のところはは問題無しだな……)

 

 

前回の浮浪者の失敗から、今回は周囲に合わせたスーツ姿で監視していた。

その後、グレンも彼らと合流し、一同が魔術学院へと向かう中、タイミングを見計らったアルベルトも尾行するため、その場から移動しようとするも……

 

 

「すいません。よろしければ私とお茶を……」

 

「それよりも食事がまだでしたら、私とご一緒に……」

 

「いえいえ私と……」

 

「……申し訳ありません。私にはこの後ご予定が……」

 

 

自身に話しかけてきた女性達への対応で見事に足止めをくらっていた。

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

「―――そんじゃ、今日の授業はここまでだな……あーだるい……」

 

 

何時も通り、やる気なさげに教鞭を執るグレン。

待ちに待った昼食に周りが沸き立ち、教室を後にするなか。

 

 

「先生。折角ですから一緒にどうですか?」

 

 

ルミア達がグレンを昼食へと誘っていた。

 

 

「お?この前のリベンジか?」

 

「はい。今日は砂糖とお塩を間違えていませんよ」

 

「そんじゃ喜んでお相伴にあずからせてもらうぜ」

 

 

そのまま彼らは中庭へと向かって行った。

 

 

(相変わらず迂闊だな……)

 

 

そんな様子を、お気楽な清掃員の青年に変装したアルベルトが見送っていた。

 

 

(ここまで観察しても、ウィリアム=アイゼンが害ある存在か判断できぬな……まだ調査は必要だな……)

 

「新入り!なんだその拭き方は!?誠意が込もっていないぞッ!!」

 

「いえいえ。誠心誠意を込めて磨かせていただいていまーす」

 

「ふざけているのか貴様!?」

 

「いやいや。ちゃーんと真面目に取り組んでますよ?」

 

「……チッ、まあいい。いい加減な拭き方はするんじゃねぇぞ!?」

 

「はいはーい」

 

 

相変わらずのなりきり度で、アルベルトは窓ガラスをせこせこと拭くのであった。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

「……おっ、中々いけるな」

 

「だな。このミートパイが一番頑張ったんじゃね?」

 

「ん。この前のより美味しい」

 

「ちょっとリィエル。あの時のと比べなくていいから」

 

「フフッ……みんなのお口に合って良かったです」

 

 

彼らが和気藹々と食事している現場を……

 

 

(ふむ……ここまでで特に害ある存在とは判断できないな)

 

 

厳つい学院の警備員に変装したアルベルトが、集音の魔術を使って聞き耳を立てて聞いていた。

 

 

「とりあえずウィリアム。明日はリィエルの事を頼むぜ?」

 

「俺が言い出した面倒な事だけどよ……本当に大丈夫なのかよ?」

 

「大丈夫だろ……多分」

 

「おい」

 

(明日?明日は学院は休みだが……)

 

 

リィエルの任務にはルミアの護衛だけでなくウィリアムの監視も含まれている。元々リィエルは撒き餌の意味合いが強い護衛だが、ある程度は一緒にいてもらわなければ困る。

……もっとも、その辺りの判断をリィエルに任せた結果、ホームレス生活をしようとした事には頭を痛めかけたが。

それはともかく、明日はリィエルとウィリアムは二人きりで行動するようである。

 

 

(そして話の流れからして、アイゼン主導の事案のようだ……奴め、リィエルを懐柔する心算か?)

 

 

あり得ない話ではない。

 

 

(兎も角、明日も監視する必要があるな……場合によっては……)

 

 

アルベルトは自身の内心を現すように、拳をきつく握り締め、決意を新たにした。

 

 

「あの警備員さん、すげぇ厳ついよな……」

 

「ああいう御方がいてくれれば学院も安心ですわね」

 

「正に警備員、だな……」

 

 

周りから相当目立ってはいたが……

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

その次の日の休日。

日も昇りきった自然公園内のベンチでウィリアムは眠たげに座っていた。

 

 

「ふわぁ~……」

 

 

呑気に欠伸をするウィリアムを遠くのベンチに座って日向ぼっこしている立派な髭を蓄えた初老の男性―――に変装したアルベルトが注視していた。

 

 

(随分とだらけきっているな……これがあの《詐欺師》だとは思えぬだらけ振りだな……)

 

 

眼光だけは鋭いままウィリアムを注視していると……

 

 

「……ん。お待たせ、ウィル」

 

 

シンプルな白のワンピースを身に纏ったリィエルがヒョコヒョコとウィリアムに近づいて来ていた。

 

 

「おっ、時間通りだな」

 

「ん。ウィルの方が早かったけど」

 

「こういうのは男が先に待つのが礼儀なんだよ」

 

「……そうなの?」

 

「そういうもんだ」

 

 

ウィリアムとリィエルはそのまま一緒に歩いて行く。

 

 

(さて……頃合いを見計らって俺も移動するか……ん?)

 

 

自然公園内の樹木のとある一角に注視すると、そこには帽子や眼鏡で変装したグレン、システィーナ、ルミアの三人が木の陰に隠れてウィリアムとリィエルの二人を注視していた。

 

 

(グレンにフィーベル、王女まで奴らを監視しているのか……?)

 

 

三人の不可解な行動に疑問に思いつつも、アルベルトはウィリアムとリィエルを尾行する為に移動を開始した。

 

 

 

 

「撃っていいかの?グレ坊と《詐欺師》を撃ちに行っていいかの?」

 

「……駄目に決まっているでしょう……」

 

 

 




この話の続きの更新は·····未定である!!
ちょ、やめて!!グーでビンタしないで!!
ちゃんと書くから!!だから筋肉バスターをかけないで!!
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アルベルトの落とし穴:詐欺師編・2

さあ!出来上がったぞッ!!
てな訳でどうぞ


ウィリアムとリィエルが最初に訪れたのはフェジテ南地区にある有名な衣服のお店だ。

 

 

「ヒラヒラの服、いっぱいある」

 

「この中で着てみたいのはあるか?」

 

「今あるのだけでいい」

 

「……その服はシスティーナから借りた服で、お前自身の服じゃないし手持ちの服も殆ど無いだろ」

 

 

ウィリアムは呆れとジト目でツッコミを入れる。

 

 

「そうだけど、わたしには然程必要ない」

 

「……システィーナ達からずっと借りっぱなしという訳にもいかないだろ」

 

「……一理ある」

 

「それじゃあ、興味のある服はあるか?」

 

「じゃあ、これ」

 

「即答かよ……」

 

 

取り敢えずウィリアムはリィエルを試着室へと行かせ、女性店員に頼んでリィエルの試着を手伝ってもらう。

しばらくして……

 

 

「ん。似合う?」

 

 

試着室のカーテンが開き、ノースリーブの白いシャツに青いスカートを試着したリィエルが感想を聞いてくる。

 

 

「お。いいんじゃね?」

 

「お似合いですよお客様」

 

「ん」

 

 

ウィリアムと試着を手伝った店員の感想に、リィエルはいつもの眠たげな表情ながらも、どこか微笑んでいるように見える。

 

 

「他に着てみたいのはあるか?」

 

「じゃあ、あれ」

 

「すぐにお持ちしますね」

 

 

店員がにこやかな笑顔を浮かべてリィエルが指さした服を取りに行く。そんな彼らの様子を臨時のアルバイトの男性店員―――に変装したアルベルトが鋭い眼光で注視していた。

 

 

(ふむ……ここまでで特に目立った動きはないが……それよりも……)

 

 

衣服を両手で抱えたアルベルトがチラリとある方向に目を向けると―――

 

 

「この服とかどうかしら?」

 

「うん。凄く似合うと思うよ」

 

「まあ、見てくれだけはいいからなお前も」

 

「ちょっとそれ、どういう意味です!?」

 

 

ウィリアムとリィエルを尾行していたグレン達もショッピングを楽しんでいた。

 

 

(……あれで大丈夫なのか?いや、周囲に自然に溶け込んでいるという視点から見れば大丈夫なのだろうが……)

 

「ちょっと店員さん。早く服を持ってきてもらえないかしら?いつまで待たせるつもり?」

 

「申し訳ありませんお客様!ただいまお持ち致します―――ッ!!」

 

 

少々怒気を含んだご婦人の要望に、アルベルトはせこせこと頼まれた服をご婦人へと持っていった。

 

一方……

 

 

「ちくしょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお―――ッ!!!あやつらがマジで羨まし過ぎるわいッ!!!!!」

 

 

とある老人は血涙を流して地団駄を踏んでいた。

 

 

「今からあやつらをぶん殴りに行っていいかの!?いいじゃろ!?」

 

「だから駄目だと言っているでしょう……」

 

 

そんな嫉妬に狂う老人を、まんまと悪戯の片棒を担がされた少年は呆れた顔で諌めていた……

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

衣服を買い終えた二人は繁華街を歩いていた。

 

 

「なんでお前はあんま金を持っていないの?仮にも働いてんだからある程度は持っていると思っていたんだが」

 

「……さあ?」

 

「……今度アルベルトに会ったら、こいつの財布について聞いてみるか……」

 

 

買い物袋を片手にそんな会話をしている二人を、貫禄のある紳士に変装したアルベルトが悠然と歩いて尾行していた。

 

 

(衣服の代金を代わりに立て替えるとは……単純だが懐柔するには有効な手だ……クッ……あまり持たせていなかったのが裏目となったか……)

 

 

リィエルの財布はアルベルトが管理している。然程多くはないのだが……

その理由は単純。リィエルは命令違反、作戦行動無視等、ことある事に問題を起こし、繰り返しており、給料は常に天引きされていたからだ。幾ら戦果を上げてもそれを越える問題行動で全部打ち消し、否、マイナスとなっていたのである。

その飛び火はこちらきも飛んできていたが……

 

 

「……なんで俺がお前らの荷物を持ってんの?」

 

「今の私達は兄妹という設定にしたのは先生でしょ!」

 

「……あー、そうだったなー……だりぃ……」

 

「まぁまぁ、お昼は奢って上げますから」

 

「誠心誠意荷物持ちをさせていただきます!」

 

 

後ろの方から聞こえてくる、実に現金な会話を尻目に尾行を続けていると……

 

 

「そこのガキんちょ。随分と可愛い娘と仲良くしてるじゃねぇか」

 

 

ガラの悪いチンピラ達がウィリアムとリィエルに絡んできていた。

 

 

「ちょっと俺らと一緒に、嬢ちゃんと共に向こうへ来てもらおうか?」

 

「……ねぇ、ウィル。こいつら斬っていい?」

 

「……駄目に決まっているだろ。ボコる程度にしとけ。後、乱闘騒ぎは向こうに行ってからだからな?」

 

「ん。わかった」

 

 

ウィリアムとリィエルの二人はそのまま、チンピラ達に路地裏に連れて行かれ……

 

ドカッ!バキッ!バンッ!メキャッ!バゴォオオオオオンッ!

 

派手な音が鳴り響き、少しして二人は何一つ変わらずに路地裏から出てきた。路地裏にはボロボロとなったチンピラ達が転がっている。

 

 

(遠見の魔術で見ていたが、見事な手際だな……)

 

 

リィエルと共にチンピラ達を数分とかからずに叩きのめしたウィリアムの実力を素直に賞賛するが……

 

 

(しかし、何故フライパンを錬成してリィエルに渡していた?リィエルも渡されたフライパンを武器として普通に使っていたし……)

 

 

その珍妙な行動にアルベルトは頭を悩ませるも……

 

 

「うわぁ……」

 

「通報した方がいいのかな……?」

 

「いや、ほっといていいだろ。大した怪我も負ってねぇし」

 

(……あり、なのか……?確かに制圧という観点からすれば、大剣を振り回されるよりは遥かにマシだが……)

 

 

アルベルトが本気でフライパン攻撃の有用性の検討をしていると……

 

 

「とりあえずお昼はどうすっか?」

 

「苺タルトがあればいい」

 

「……苺タルトもある店で食事にするか……ここからだと……」

 

 

先を歩いている二人の会話を魔術で盗み聞きしたアルベルトは、一足先に彼らの目的地へと向かって行った。

 

 

 




まだまだ続くぞ!!
ん?君達は一体―――

『奴らのリア充振りを書く作者に死の鉄槌と血の粛清をッ!!!!!!!!!!!!!!!』

や、やめ―――

“感想お待ちしてます”←血で書いたメッセージ


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アルベルトの落とし穴:詐欺師編・3

一先ずこの話はこれで最後
てな訳でどうぞ


ウィリアムとリィエルは近場のレストランに来ていた。

 

 

「いらっしゃいませ!お二人様ですか?」

 

「はい」

 

「じゃあ、あちらの席にご案内致しますね」

 

 

ウェイター姿の店員に案内された二人は席に着き、ウィリアムがテーブルの上にあるメニュー表をリィエルにへと渡す。

 

 

「苺タルト以外も注文しとけよ」

 

「苺タルトだけでいい」

 

「ちゃんと苺タルト以外も食べろ」

 

 

二人はそのままウェイターを呼び、料理を注文していく。ウィリアムはウェイターの耳元である事をお願いする。

 

 

「えっと……よろしいんでしょうか?」

 

「よろしいですから遠慮なくやって下さい。後……」

 

 

ウィリアムはそう言ってウェイターをマジマジと見つめ……

 

 

「……どこかで会った事ないですか?」

 

「いえ。初対面の筈ですが?」

 

「……そうですか。変な事聞いてすいません。後、お願いしますね」

 

「お気になさらず」

 

 

ウェイターはそう言ってウィリアム達から離れて厨房へと向かっていく。

 

 

(さすがに近づきすぎたか……危うく気付かれるところだったな)

 

 

件のウェイターに変装していたアルベルトは僅かながら冷や汗をかいていた。

 

 

(しかし、アイゼンも珍妙な事を頼んだものだな……『リィエルに差し出す苺タルトを一口かじったような形で出してくれ』等と……)

 

 

一体何が狙いなのか、その意図が読めない。

 

 

「そんじゃ俺はこれとこれとこれを……」

 

「ちょっと!?幾ら注文する気ですか!?」

 

「うっせぇ!食える時に食っとかないとな!!なんたってお前らの奢りだからな!!」

 

「本当に最低ですね!?」

 

「あはは……」

 

(まったく相変わらずだな、アイツは……)

 

 

遠くのテーブルのやり取りに呆れながらもコックにオーダーを伝え……

……そして。

 

 

「お待たせしましたお客様。ご注文のお品になります」

 

 

アルベルトは先ずはリィエルの注文―――魚のパイにサンドイッチ、オレンジジュースに……一口かじられた苺タルトをテーブルの上に並べる。

 

 

「……ねえ」

 

「……モグモグゴックン……なんでしょうかお客様」

 

「どうしてわたしの苺タルトが食べられているの?」

 

 

明らかに不機嫌なリィエルに、アルベルトではなくウィリアムが答える。

 

 

「俺がこうするように店員さんに頼んだ」

 

「……どうして?」

 

「お前、前回のアルバイトでこういうことをやっただろ。それがどんなに相手を嫌な気分にするか実際に体験させて理解させようとな。人の振り見て我が振り直せ······東方の諺だ」

 

「むう……」

 

「実際、こんな苺タルトを差し出されていい気分しなかっただろ?」

 

「ん……」

 

「だから、次こういう機会があったら二度とするなよ?」

 

「……わかった。もう二度としない」

 

(リィエルがアルバイトした事にも驚きだが·····それ以上に、リィエルに常識を理解させただと……!?)

 

 

表情には臆面にも出していないが、アルベルトは戦慄していた。

あのリィエルに常識を理解させる等という難解な事案をやってのけるとは……と。

 

 

(ウィリアム=アイゼン……まさかそこまでのやり手だったとは……このままではリィエルが奴に懐柔されるのも、最早時間の問題か……!?)

 

「……あの?店員さん?御用があるんでしょうか?」

 

「申し訳ありません。少し呆けていました。すぐにお料理をお持ちいたしますね」

 

 

アルベルトはそそくさと一礼し、テーブルから離れていく。

 

 

(くっ……俺とした事が……任務中に呆ける等という無様な真似をするとは……!)

 

 

己の失態に内心毒づきつつ、次の料理を運ぼうと厨房へと向かって行くと。

 

 

「……まさかああやって常識を教えるとはな……」

 

「当たり前すぎて逆に盲点でしたね……」

 

「ふふっ……リィエルの社会勉強は今のところ上手くいっていますね」

 

 

(……何?)

 

 

ルミアから洩れた情報に、アルベルトは硬直しかけるも、かろうじて踏みとどまり、直ぐ様集音の魔術を密かに起動してグレン達の会話を盗み聞きする。

 

 

『そうねルミア。今のところ、ウィリアムが提案したリィエルに一般常識を身に付けさせる作戦は順調ね』

 

『こうした普通の生活を満喫させてやれば、多少は常識を身に付けてくれそうだな。俺ももっと早く、リィエルをこうやって外に触れさせてやっていればよかったな……』

 

『先生……』

 

『そうすりゃ今頃、リィエルをこきつかって、たんまり稼げていたのになぁ』

 

『返して下さい!私のこの気持ちを返して下さい!!!』

 

『まぁまぁ……』

 

 

そんな彼らの会話を盗み聞きしたアルベルトは……

 

 

(……懐柔では無かった、のか……?)

 

 

僅かに脂汗を流していた。

懐柔ではなく社会勉強と考えてウィリアムの行動を振り返ってみる。その結果……

 

 

(……辻褄は合う、な……こんな簡単な事を見抜けぬとは……くっ……)

 

 

思わず顔を覆いたくなる衝動に駆られる事となった。そして……

 

 

(アイゼンにリィエルの手綱を握らせるべきか……?)

 

 

グレンが実行しようとしている考えに至っていた。

そんな思考をしながら、アルベルトはウィリアムが注文した料理を運んでいった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

その後もアルベルトはいろんな店を見て回っている二人を監視するも、社会勉強という前提もあり、ウィリアムが帝国に害ある存在とは判断できなかった。寧ろ、リィエルに振り回されるウィリアムに一種の共感さえ覚えてしまう。

だが……

 

 

(アイゼンへのスカウトはこのままいけば必須事項だな……)

 

 

この事をグレンが知ったらいい顔はしないだろうが……

 

 

(だが、これは必要な事だ。帝国の未来と、俺の苦労の削減の為に……)

 

 

アルベルトはそう思いながら監視を終了し、その場から立ち去った。

 

 

「……言い訳はあるか?お前ら」

 

「「ごめんなさい」」

 

「こんな面白そうなぐはっ!?」

 

 

向こうの会話を聞き流しながら…………

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――その日の夜。

フェジテの某所。建物の屋上にて。

 

 

「……クリストフ。これはどういう事だ?」

 

「あはは……」

 

 

厳しい顔をしたアルベルトと曖昧な笑みを浮かべるクリストフの視線を向ける先には……

 

 

「……………………(ビクン、ビクン)」

 

 

まるで打ち上げられた魚のように痙攣しているバーナードが倒れていた。

 

 

「何故翁がここにいる?」

 

「……すいませんアルベルトさん。後で知ったのですが、あの書状はどうやらバーナードさんが用意した偽の任務書だったようです」

 

「…………」

 

 

再び騙されたと理解したアルベルトは表情を更に険しくしていく。

 

 

「それで、翁は何故ああなっている?」

 

「簡単に説明しますと、彼女達とデートしている二人への嫉妬でああなったんですよ」

 

「……そうか」

 

「大変でしたよ。『なんであやつらが可愛い娘ちゃんにモテて、儂はモテないんじゃあああああああああああああああ―――ッ』って叫んで皆さんの元へ行こうとしていたのを、僕が必死に止めていましたから」

 

「……お前も大変だったな」

 

「いえ。気にしなくて大丈夫ですよ」

 

 

そしてアルベルトはバーナードの元へと歩み寄る。

 

 

「……翁」

 

「…………アル坊か。こんな儂に何のようじゃ?」

 

 

意気消沈状態のバーナードに対し、アルベルトは何かが書かれた一枚のメモ用紙を渡す。

 

 

「……これは?」

 

「とある酒場の場所を書いた用紙だ。そこで接待している人達に翁の写真を見せ、翁の事を話したら一緒に飲みたいと言っていたぞ」

 

「え?マジで!?」

 

「今からそこで飲みに行ってこい。代わりにこんな事は金輪際、二度とするな」

 

「ありがとなアル坊!!今からちょっとそこで飲みに行ってくる!!!」

 

 

バーナードはそう言って、先程の消沈振りが嘘の様に意気揚々とその場から立ち去って行った。

 

 

「珍しいですね。アルベルトさんがそんな事を言うなんて」

 

「……あれは翁への仕返しだ」

 

「仕返し?」

 

「俺が渡した店の住所は有名なゲイバーの店の住所だ。翁に言ったことは全部本当だがな」

 

「……」

 

 

アルベルトが決行した鬼の所業にクリストフは顔をひきつらせ、冷や汗を流した。

そして……

 

 

「朝まで私達と一緒に飲みましょ?心配しないで。アルベルトくんから先にお代は貰っていて今回はタダだから☆」

 

「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおお―――ッ!!!!!!!!!アル坊めッ!!謀りおったなぁああああああああああああああああああああああああああああ―――ッ!!!!!!!!!!!!!!!?」

 

「んもう、こんなに叫んじゃって·····アルベルトくんの言ってた通り照れ屋さんなのね♪」

 

「男前のお爺様一名、彼方のVIP席にご案内よ~」

 

「嫌じゃッ!!!儂は可愛い娘ちゃんと―――」

 

 

深夜、とある酒場で老人の悲鳴がフェジテに木霊するのであった……

 

 

 




感想お待ちしています

『死ねい作者ぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――――――――――ッ!!!!!!!!!!』

作者は修羅と化した老人によって、ミンチとなりました
希望の○~


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修繕活動

最新十四巻は他校の生徒も参戦……来るかな?来るかな?
てな訳でどうぞ


とある日のアルザーノ帝国魔術学院。その校舎内にて。

 

 

「……本当にめんどくせー……」

 

 

破砕された壁や床を、錬金術を主軸として修繕しているウィリアムの姿があった―――

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

―――約一時間前。

魔術学院の東館五階の奥。その学院生徒会室にて。

 

 

「何で俺が呼び出されたのでしょうか、リゼ会長」

 

 

生徒会から呼び出しをくらったウィリアムは、書類と格闘している灰色の髪と黒瞳が特徴的な学院生徒会長―――リゼ=フィルマーに問いかける。

 

 

「実はですね、貴方を呼び出す数十分前に、とある女子生徒が校舎の壁や床を幾つも破壊したのです」

 

「……へ?」

 

 

その時点でウィリアムは猛烈に嫌な予感を覚えて顔がひきつるも、リゼは変わらずに話を進めていく。

 

 

「その原因は男子生徒への暴行です。暴行理由はとある男子生徒を馬鹿にした発言を聞いたからだそうです」

 

「…………」

 

「ちなみに、壁を破壊した方法は大剣で―――」

 

「あんのど阿呆ぉおおおおおおおおおおお―――ッ!?」

 

 

もう何度目かわからなくなった青髪脳筋娘のやらかしに、ウィリアムはその場で頭を抱えた。

ちなみにその青髪脳筋娘は現在、教職員室で始末書がまた増えたロクでなし担任講師の体罰を受けている。

 

 

「ですから、その破壊された壁や床を修繕してもらおうと、呼び出したのですよ」

 

「……フツーにいつもの業者に頼んで修繕すればいいのでは?」

 

「本来ならそうしますが、明日は体験学習の当日の上、目立つ箇所なので早急に修繕する必要があるのですよ。今は生徒会も忙しく早急な手配もできませんので」

 

「あー、そういえば明日だったな……それでも、一不良生徒に頼むのはどうかと思うんだが?」

 

 

リゼの言う通り、明日は魔術学院の入学を目指す子供達に魔術学院の雰囲気を知ってもらうためのごく簡単な魔術の授業や学院の案内を行う、学院生徒会主催の企画の日だ。

だが、各委員会やクラブの会計監査と予算決議、次期生徒会会長選挙戦の準備、クライトス校との生徒交流会等、生徒会の仕事が重なってその目処が立たない内に、学院の本部事務局総務企画部が見切り発車で参加者を募集してしまったのだ。

その為、生徒会も対応が遅れてしまい、肝心の体験授業を行ってくれる人員を確保出来ていない事態となった。

それをリゼに凄く世話になったシスティーナが協力し、後に理由を知ったグレンが昼飯の弁当三日分と引き換えに体験授業の講義と、残り三人の講義者も見繕う事で何とか開催の目処がたったのだ。

ちなみに、入学したてのシスティーナはエリート意識が強く、周りから相当浮いていた。……最も、ウィリアムは面倒くささからシスティーナを最初から無視していたが。

それが原因で、周りも「ああ、ああやって無視していればいいんだな」と、入学四日目でシスティーナを完全に無視するようになったのだが、それを当人達が知るよしはない。

 

 

「今から業者を手配しても絶対に間に合いませんし……何より、貴方なら、材料さえあれば錬金術で()()()()()()の修繕ができますよね?」

 

「…………」

 

「もし受けて貰えれば、学院の貴方に対する評価も上がりますし、バイトとして賃金も払います。決して、悪くない内容だと思いますが?」

 

「物凄く面倒なので拒否します」

 

 

ウィリアムは即座に断って生徒会室を後にしようとするも、リゼは(あや)しく微笑んで、ある事を呟いた。

 

 

「そういえば先週、廃棄予定の用具が忽然(こつぜん)と消えていましたね」

 

「……特に問題は無いんじゃねぇか?」

 

 

その呟きに、ウィリアムはピクッと反応するも、いつも通りの表情で疑問をぶつける。

 

 

「確かに大した問題ではないのですが、問題なのはそれが無断で持ち出されていた事です。それにしても、犯人の動機はなんだったのでしょうね……?まさか『担任の講師に成績を落とすと言われたので、授業に必要な魔術触媒を錬成するための錬成素材にした』……わけでもないでしょうし……?」

 

 

ウィリアムの背中から汗がツゥー……と流れ始めていく。

 

 

「その説明だと、悪いのはその講師のような気がするんだが……?」

 

「確かにそうでしたね。『そのどさくさに紛れて金の素材を抜き取り、着服した』のとは別問題ですね」

 

 

その瞬間、ウィリアムの身体は硬直した。

 

 

「他にも、使い物にならない輝石の小さな欠片とか、一滴程度しかなかった魔術溶液(アルカヘスト)とか、同じく廃棄予定だった宝石の欠片とか……あら?意外と紛失しているものが―――」

 

「わかりました。校舎の修繕、慎んでお受け致します」

 

「ふふっ、お願いしますね」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――そんなわけで。

リゼのにこやかな要請(脅し)に屈し、ウィリアムは破壊された壁や床の修繕をする羽目となった。

破壊された壁や床は本当に粉々と言える程の被害であり、リゼの言う通り、正規の手順では今日中には直せないだろう。

 

 

「あー……本当にかったるい……」

 

 

ウィリアムは文句を言いながらも、破砕された壁に瓦礫を積み、簡単に用意できる魔術製のセメントで接着し、錬金術を使って周りの壁に繋ぎ直していく。

 

 

「これ、意外と楽しい」

 

 

そんなウィリアムのすぐ近くには、金鏝(かなごて)を片手に陥没した床に適当に瓦礫を埋めて魔術製セメントを塗りたくっているリィエルがいる。

リィエルはグレンにぐりぐり付きの説教を受けた後、話を聞いたグレンの指示でウィリアムと一緒に自身が破砕した床や壁を修繕して回っているのである。

ちなみに、今回の修繕で支払われるリィエルの賃金はグレンが受け取る事になっている。

 

 

「……まったく、悪口くらい軽く流せよな」

 

 

ウィリアムは呆れながらリィエルに小言を言い、リィエルが塞いだ床の近くに手を当てる。

途端、塞いだ床から紫電が爆ぜ、床が元の形へと戻っていく。そうして、紫電が収まると、床は破砕される前の姿に戻っていた。

 

 

「それじゃ、次の場所にいくぞ」

 

「ん……」

 

 

ウィリアムとリィエルは金鏝と魔術製セメントが入った容器を手に、次の修繕場所へと向かっていく。

互いに無言で歩いていると、リィエルがポツリと声を洩らす。

 

 

「……だってあいつ、ウィルがいない方がいいって言っていたから……それを取り消してと言っても、聞いてくれなかったから……」

 

「…………」

 

 

リィエルのその言葉に、ウィリアムは内心で納得してしまった。

リィエルはまだ精神的に幼い。『遠征学習』の一件で、心の拠り所であった『兄』を完膚なきまでに砕かれたリィエルは、ルミアやシスティーナにグレン、そして、ウィリアムを新たな心の拠り所として、今度は前に進もうとしている。

だからこそ、リィエルはここまでの暴行に走ったのだろう。

そんな事を考えながら辿り着いた、本日一番と言える大穴が空いた壁の前で、ウィリアムが口を開く。

 

 

「……修繕が全部終わったら、アバンチュールで苺タルト奢ってやる」

 

「!」

 

「だから、早く全部直すぞ」

 

「……ん!」

 

「後、だからといって校舎を破壊するなよ?端から見ればお前が悪いように見えるからな」

 

「……努力する」

 

 

リィエルのその返答にウィリアムは肩を竦め、大穴が空いた壁に魔術製セメントを塗るのであった。

 

 

全ての修繕が終わった後、リィエルの賃金はグレンがピンはねする前にウィリアムが回収。全額リィエルの手元に残る事となり、翌日の体験学習会はセリカ、セシリア、オーウェルが体験授業の講師を務め、波乱の学習会となった。

 

 

 




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ブラックマーケットでの出来事

追想日誌三巻のあの短編
てな訳でどうぞ


とあるフェジテの週末、南地区商店街のさらに奥の奥。

迷路のように入り組んだ道の先にあるブラックマーケット街。そこにある一つの露店にシンプルな長袖の上着とズボンに身を包んだ少年が商品を物色していた。

 

 

「兄ちゃんこれなんかどうだい!?この腕輪、これはあのグラッツ魔術工房の―――」

 

「細部の作りが甘い。後、ルーン文字も適当な刻まれ方だ。完全なパチモンを本物と称して売りつけるな」

 

 

店主の言葉を少年―――ウィリアムはバッサリと切り捨てる。

 

 

「それより、このろ過器はいくらだ?見た限り相場一クレスの中古品だろ?」

 

「……兄ちゃんのような客はホント嫌いだよ」

 

 

店主はうんざりした表情でそう言い、渋々相場の値段でろ過器をウィリアムに販売する。

ウィリアムは購入したろ過器を懐に入れ、店を後にしていく。

ウィリアムが此処に来ているのは、貴重な魔術的な素材を目当てに訪れたのだが、目ぼしいものがなく、せっかくなので錬金術関連の道具を見て回ろうと思ったのだ。

ウィリアムは《詐欺師》時代、そういった道具は荷物となるため持ち歩く事はできず、道具は錬金術で使う時に用意し、その場で使い捨てていた。質の高い道具を錬成するために超有名な錬金術道具を解体するという、魔術師が見たら顔面が真っ青になる行為を平然と実行していた。

結果として、材料さえあれば高品質の錬金術道具を作れるようになっているのだから何とも言えないが……

ちなみにそれを売ったらそこそこいい値段で売れるだろうが、販売用に作るとなると色々と面倒な処理を施す必要もあり、ぶっちゃけ面倒なので実行することはないだろうが……

そんな感じでぶらぶらと見て回っていると、とある露店でよく見知った少女達を見かけたので、せっかくなので声をかけることにする。

 

 

「何してんだ、こんなところで?」

 

 

ウィリアムの呼び掛けに少女達―――私服に身を包んだシスティーナ、ルミア、リィエルが振り返る。

 

 

「あっ、ウィル」

 

「ウィリアム!!見てみなさいこれを!!」

 

 

システィーナは目を輝かせながら、その手に持った銅製の蒸留器をウィリアムに見せつける。

 

 

「これはあのセイラス魔術工房製アルカヘスト蒸留器よ!!今、値段交渉で一リルまで値切ってる途中なのよ!!」

 

 

確かにシスティーナが手に持っている蒸留器にはその証の刻印が刻まれているが……せっかくなので皮肉めいた言葉で伝える事にする。

 

 

「そうか、(社会勉強として)中々いい買い物になるんじゃないか?」

 

「ええ!!中古でも掘り出し物には間違いないからね!」

 

「そうだな。(パチモンだが)作り自体はいいからそれなりの品なのは確かだろうな」

 

「それなりじゃないわよ!!あのセイラス魔術工房製よ!?それなり以上で間違いないでしょ!!」

 

「あくまでも俺の主観だ。大事なのはお前がそれを判断する心だ(商品が本物かどうかは別だが)。人の意見が重要じゃないだろ?」

 

「確かにそうね。ウィリアムはどうやら物を見る目がなさそうだし、そういうのには無頓着みたいだしね」

 

「ハイハイ。(後で騙されたと知ったお前の気持ちは)俺には分からないことだよ」

 

「ふん!そこで指をくわえて見てなさい!!」

 

 

一見すれば噛み合っているように見える会話だが、実際には噛み合っていない。そんなずれている会話をウィリアムは内心で笑い、システィーナはそれに気づかず鼻を鳴らして打ち切り、再び店主との値段交渉に没頭していく。

 

 

「そういえばリィエル。その服と髪は……」

 

「ん、服は自分で選んだ。髪はシスティーナとルミアがやってくれた」

 

「……そうか、似合ってんぞ」

 

「ん!」

 

「ふふっ、良かったねリィエル」

 

 

システィーナが値切り交渉している間、ウィリアムはこの前買った服と靴―――白のブラウスに紺色のキャミソールワンピース、ボーンサンダルに身を包み、何時もは後ろで纏めている髪をおろし、頭にカチューシャを着けたリィエルに素直な感想を伝え、褒められたリィエルは目を僅かに細めて満足げにしていた。

そして、(パチモンの)セイラス魔術工房製のアルカヘスト蒸留器を一リル六クレスにまで値切ったシスティーナはホクホク顔で財布を取り出そうとしたので、ここで明かそうとウィリアムが口を開こうとした矢先―――

 

 

「……オッサン、ガキ相手にえげつない商売するなよ……」

 

 

背中に大きな風呂敷包を背中に抱えたグレンが呆れた声で止めに入った。

そのままグレンはその蒸留器はパチモンの相場五クレスの値段と言い切り、店主もそれを認め、システィーナの面子は見事に潰れるのだが……

 

 

「安心しろシスティーナ。それはお前が良い品だと思えば、それは間違いなくお前にとっては良い品だ」

 

「うるさい!!」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

システィーナの面子が見事に潰された後、グレンが女の子にプレゼントを買いに来たという事実に、システィーナとルミアは固まり、リィエルは……

 

 

「…………」

 

「……あー、うん。気持ちはわかるが……」

 

 

顔をむくれさせ、不機嫌そうにそっぽを向いており、ウィリアムはそんなリィエルの頭を撫でて宥めていた。

リィエルが不機嫌になった理由は、グレンにも感想を聞こうと、自身を見せびらかすようにグレンの前で回ったのだが、グレンは何してるんだ?とデリカシーゼロ発言をかましたからだ。

一先ず、システィーナとルミアは件の『女の子』が誰なのか、プレゼントを送る理由を確かめるためにグレンに付いていく事を決め、話を聞いたリィエルも……

 

 

「突き止めて……斬る」

 

「斬るなドアホッ!!」

 

 

妙に乗り気で物騒極まりない発言をかました瞬間、ウィリアムのツッコミと共に脳天に拳骨が振り下ろされる事となり、ウィリアムはリィエルの暴走阻止のために同行する事となった。

道中で話を聞くと、プレゼントは既に決まっており(その過程でリィエルの格好も褒めたのでリィエルは漸く機嫌を直した)、背中の風呂敷包はオーウェルからポーカーで巻き上げた発明品だそうだ。

 

 

「……危うく失敗しかねなかったけどな……」

 

 

グレンはそう言って、この間の出来事を思い出す―――

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――ポーカーで絶賛連敗中のオーウェルは次の方法で勝負を挑もうとしていた。

 

 

「さあ、次の勝負は……カモォオオオオオオオンッ!!!!バタフライフィールド!!!!」

 

 

オーウェルの呼び声に応え、扉を開けて現れたのは―――

 

 

『ガッデムッ!!!』

 

 

警備官の制服に身を包んだあの時の悪夢の魔導人形、バタフライフィールドであった。

 

 

「バタフライフィールドには学習機能が搭載されているのだ!!ここからはバタフライフィールドにポーカーをやらせるぞ、グレン先生ぃいいいいいいい―――ッ!!!」

 

「ええー……」

 

 

オーウェルの説明に、グレンはひきつりながらもバタフライフィールドとポーカーを始める。

 

 

(ゲッ……全部ブタじゃねぇか……こうなったら捨て山から……)

 

 

グレンは手札が全部外れだったので、カードをすり替えようと―――

 

 

『……(ギロッ!!)』

 

 

―――したが、バタフライフィールドから何故か感じる鋭い視線に、グレンの背中から背中に嫌な予感が猛烈に駆け巡る。それで仕方なく、普通にカードを取り替えると……

 

 

『……未遂ダッタカラ制裁ノビンタハ勘弁シテヤル』

 

(うひぃッ!?完全に気づいてらっしゃる!?)

 

 

バタフライフィールドが明らかにイカサマに気づいている発言をした事で、もしあのまま、イカサマをすれば例のビンタが飛んでいたとグレンは内心でガクガクしていた。

そして、勝負は……

 

 

『フルハウス……ソウルフレンドノフラッシュヨリ上ダ』

 

「ウゲッ!?」

 

 

グレンの敗北であった。続く勝負では……

 

 

『……降リル。オレの手札デハソウルフレンドノ手札ニハ勝テナイ』

 

(嘘だろ!?七のフォアカードなのに、俺の手札がハートのストレートフラッシュだと見抜きやがった!!やべぇぞ!このままだと……ッ!)

 

 

予想外の強敵にグレンが頭をフル回転させて突破口を見出だそうとした矢先―――

 

 

『ムッ?ドウヤラ仕事ノ時間ノヨウダ。失礼スル……ガッデム!!』

 

 

バタフライフィールドは突然立ち上がり、部屋から出ていくのであった……

 

 

「…………」

 

「……さぁ、勝負だグレン先生ッ!!次はこの―――」

 

「いや、ツッコメよ!?」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「……あれは本当に地獄だったな。うん」

 

 

遠い目で語るグレンに、一同は何とも言えない気分(約一名を除く)となる。そうして、プレゼント資金稼ぎのためのグレンの商売が始まるのだが……

 

 

「ん。買って。買わないと……」

 

「脅して売るのは犯罪だドアホォオオオオオオオ―――ッ!!」

 

「あう、痛い痛い」

 

 

リィエルは客に剣を突き立てようとして、それをウィリアムが実力行使で止めるという、実にいつも通りの光景が出来るのであった。

そんなこんなでオーウェルの発明品は完売。グレンは大量の金貨を持ち、そのままプレゼントを買う場所、オークション会場へと向かう。

そのオークション会場で……

 

 

「あ、ハートマン=レイアースト先輩!?」

 

「グレン=レーダス!!貴様、わざとやっているだろぉッ!?」

 

 

ハー………………レイ(?)に遭遇してしまう。ハー何とかもこのオークションに参加するようで、鼻を鳴らして彼らから去っていく。

そうしてオークションが始まり、既に破損したグラッツ魔術工房製の『月光のアミュレット』を―――

 

 

「「宣言――十リルッ(だッ)!!」」

 

 

グレンとハンレイ(?)が同時に宣言していた。二人は驚愕し、そのまま意地に近い形で競り合い始める。

その結果―――グレンはシスティーナに借金して『月光のアミュレット』を競り落とすことが出来た。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――結論から言えば、プレゼントを送る例の女の子はリンであった。

だが、恋愛関係ではなく、実はグレンが競り落とした『月光のアミュレット』は元々は彼女の大切な品で、先日ひったくりに盗まれた物だったそうだ。ブラックマーケットに流れたそれをグレンが探して買い戻した、というのが今回の真相であった。

リンは買い戻すのに使った金額を時間をかけて返すと申し出るも、グレンはタダ同然だったという嘘をついて断った。

その時、グレンに同意を求められたウィリアム達は……

 

 

「……?なんで?グレンは――むぐむぐ」

 

「確かになぁ。悪どい笑みで値切りまくっていたなぁ」

 

「そ、そうね!本当に先生は悪人なんだからっ!」

 

「う、うん!だから気にしなくていいと思うよ!リン!」

 

 

あっさりと喋ろうとしたリィエルの口をウィリアムが塞ぎつつ、平然と嘘をつき、システィーナとルミアも若干どもりながらも同意する。

そんな彼らに、リンは目を瞬かせながらも納得し、そのまま帰路へとつき、グレンの明日からのお昼ご飯はシスティーナ達からの差し入れになるのであった。

 

 

 




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ウィリアムのアルバイト

追想日誌四巻の第一感想は·······二人の妄想の中のリィエルエロいッ!!
あれをオカズにパン十個はいけるッ!!
てな訳でどうぞ


アルザーノ帝国魔術学院のとある日の昼休み。

 

 

「ウィリアムが危ない仕事をしている?」

 

「ええ、ここ数日そのような噂が広がってまして……その発端が恐喝だとも……」

 

 

学院の裏庭でウェンディがもたらした話にシスティーナとルミア、リィエルの三人は首を傾げていた。

正直、ウィリアムがお金に困っている姿が想像出来ない。以前ウィリアムの家に訪れた際、大量の純金と純銀のインゴットを備蓄しているのを見たからだ。

だから普通は根も葉もない噂だと切って捨てるのだが……

 

 

「火のない所に煙は立たないと言いますし……ウィリアムには保護者もおられないようですし……正直、同じクラスメイトとして心配です……」

 

 

ウェンディは三人をまっすぐに見つめ、神妙に言った。

 

 

「学費のやりくりに困ってそのような行為に及んだ可能性もありますし……これも噂ですがクスリに手を出しているというのもあります……ウィリアムと親しい貴女達なら何かわかるのかもしれません……それでは」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――そんな訳で。

システィーナ、ルミア、リィエルの三人はこっそりとウィリアムを尾行する事にした。

リィエルは普通に聞きにいこうとしていたが、システィーナとルミアがそれを止めた。もし、その噂が本当だとしたら絶対に煙に巻くだろうからだ。

そうしてウィリアムの後をこっそりつけていると、辿り着いた場所は中央区にあるフェジテ警邏庁であった。

 

 

「どうしてここに訪れたのかしら……?」

 

「うーん……ここに一体どんな用事があるのかな……?」

 

 

建物の陰に隠れて遠くから様子を窺っていたシスティーナとルミアは揃って首を傾げて頭を捻る。リィエルはいつもの表情でウィリアムが入った建物を見つめている。

やがて、フェジテ警邏庁から出てきたウィリアムはそのままどこかへと足を運んでいき、システィーナ達も尾行を再開する。

辿り着いた先は―――

 

ドパァンッ!ドパァンッ!ドパァンッ!

 

フェジテの地下に迷路のように張り巡らされた下水道内に拳銃の炸裂音が反響する度、魔獣の頭部が爆散して死体が出来上がり、その出来上がった死体は炎を纏った上半身のみの甲冑騎士によって消し炭へと変わっていく。

 

 

『《猛毒の紫蛇よ》』

 

 

ウィリアムが呪文を唱えると、左手から紫色の一本の槍―――錬金改【晶毒槍】が形成され、そのまま放たれた猛毒の槍は巨大ムカデを撃ち抜き、その猛毒の槍に撃ち抜かれた巨大ムカデはバタバタと暴れた後、次第にピクピクと痙攣していき、二度と動かなくなる。

そして、ウィリアムの背後から下水道から飛び出た怪魚が迫るも、ウィリアムは見もせずに右手の拳銃を後ろへと向けて発砲。その脳天を撃ち抜く。

 

 

『これで巨大ネズミが五十、ムカデが三十、狂霊二十五、怪魚が十三、巨大蛇が七、蝙蝠が十八、巨大ローチが六十だな……』

 

 

手帳に討伐した魔獣の種類とその数を記載し終えたウィリアムはそのまま奥へ奥へと進んでいく。道中も魔獣が襲いかかるが、襲撃を受けている当の本人はまるで片手間のように次々と始末していく。

時折、投擲用の剣を錬成して投げ飛ばしたり、錬成したサーベルで直接斬ったりと明らかな鍛練目的で魔獣を討伐しているが……

 

 

「……本当に強いわね」

 

「うん……」

 

 

遠くから黒魔【アキュレイト・スコープ】と黒魔【サウンド・コレクト】を使ってウィリアムの戦闘を観察しているシスティーナとルミアはその実力に感嘆したように呟く。

ちなみにリィエルは錬成した大剣を片手に周囲の警戒に努めている。

 

 

「危ない仕事の正体はこれだったのね……」

 

「地下下水道施設の定期保守作業をやっていただけだったんだね……」

 

 

地下下水道は都市の淀みと不浄が溜まる場所であり、放っておけば、魔獣や狂霊がどんどん湧き、次第に強力となって危険極まりなくなっていく。

そうなる前に、専門の警備隊が区画ごとに定期掃討するのだが、大都市ゆえに人手が足らず、要員を一般公募している、都市機能を正常に保つ重要な仕事である。

噂の一つである危ない仕事の正体がわかり、ホッと息を吐くシスティーナとルミア。

 

 

「だけど、どうして急にこんな仕事をしているのかしら……?」

 

「うーん……特訓のついで、かなぁ……?」

 

 

そんな疑問を他所に、遠くにいるウィリアムは次々と魔獣を討伐していく。

 

巨大な骸骨の狂霊が迫るも―――

 

 

『…………』

 

 

両肩に砲門を装着した一対の幾何学的な羽を持つ上半身のみの甲冑騎士―――人工精霊(タルパ)騎士の誇り(ナイツ・プライド)・砲兵】の砲撃で一瞬で撃退し―――

 

 

『《水の刃よ》』

 

 

錬金【アクア・エッジ】―――射程距離は短いが威力は折り紙つきのC級の軍用魔術でブサイクな巨大カエルを容易く両断していく。

そして、人間の子供くらいの大きさを有する蜂の大群は―――

 

ドゥルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルッ!!

 

《魔導砲ファランクス》でその巣ごと粉砕。【騎士の誇り(ナイツ・プライド)・炎兵】も使い、徹底的に駆除し尽くしていた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

そんなこんなで。

地下下水道の魔獣退治を終えたウィリアムはフェジテ支局に訪れていた。

 

 

「……稼いだお金は何に使うのかな?」

 

「苺タルト」

 

「絶対に違うわよ」

 

 

フェジテ支局の隣の建物の陰に身を隠しているシスティーナ達は、ウィリアムが今日稼いだお金の使い道について議論していた。

 

 

「そういえば、クスリに手を出しているという噂があったわね……」

 

「まさか、そのクスリを手に入れる為に……!?」

 

「……」

 

 

ウェンディから聞いた噂から導きだした可能性にシスティーナとルミアは神妙な顔となり、リィエルも難しげな表情をしている。

そんな中、ウィリアムがフェジテ支局から出てくる。手には貨幣が詰まっているであろう袋を持って。

システィーナ達は再び尾行を開始しようとした―――その矢先。

 

 

「そこの尾行していた三人。さっさと出てこい」

 

 

こちらに向かってウィリアムはそう呼び掛けてきた。システィーナとルミアは驚いて目を見開くも、誰もいないと誤魔化す為に、リィエルの肩を掴んで身を潜める。

 

 

「隠れてやり過ごそうとすんな。システィーナ、ルミア、リィエル。お前達だってわかっているからさっさと出てこい」

 

 

だが、完全にバレているようである。システィーナ達は観念したように建物の陰からすごすごと通りへと姿を現す。

 

 

「……いつから気づいていたの?」

 

「下水道の時だ。リィエルも一緒だってわかっていたから敢えて無視していたんだが……なんで尾行していたんだ……と、言いたいところだが、大方俺に関する噂だろ?」

 

「ん。ウィルが危ない仕事をして、クスリに手を出しているって……その発端が恐喝だって……」

 

「噂に尾ひれ付きすぎだろ……」

 

 

リィエルが告げた噂の内容にウィリアムはうんざりしたように顔を覆っている。

 

 

「まぁ、せっかくだしちょうどいいか。システィーナには相談もあったし……」

 

「え?私に?」

 

「ああ。俺が探すより魔導官僚であるお前の親父さんに頼んだ方が早いからな」

 

「「「?」」」

 

 

全く話が見えず、システィーナ達は揃って首を傾げる。

 

 

「ま、その辺の話は移動しながら説明すっから、着いてきてくれ。さっさと風邪薬を買わなきゃいけねぇし」

 

「「「……風邪薬?」」」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

とりあえず、如何にも怪しげな路地裏で滅多に手に入らない高価な風邪薬を買った後、ウィリアムの案内でとあるアパートへと辿り着いたシスティーナ達。

そのアパートの部屋では―――

 

 

「ほれ、風邪薬だ」

 

「ありがとう、ウィリアムお兄ちゃん!!」

 

「ありがとうございます、ウィリアムさん。何から何まで……」

 

「ただの気まぐれだから気にすんな。本当に感謝しているならしっかり風邪を治して、ちゃんとした所に就職して妹さんを養え」

 

 

ベッドから身を起こしたシスティーナと同い年くらいの少年と、幾ばくか年下の少女……兄妹がウィリアムにお礼を言っていた。

実は、少年―――アルトは先月、父親が急逝した為に魔術学院を中退し、妹―――リアを養う為に働こうとした矢先、運悪く厄介なウイルス性の風邪を患ってしまったのだ。当然、薬を買うお金もなく借地も家賃が払えなくなって追い出され、身寄りもなく路頭に迷っていた所に、たまたま見かけたウィリアムが二人に近寄り、元々目付きの悪いウィリアムにリアが恐怖を露に泣き叫んだのが今回の噂の発端だった。

そんな恐怖に怯えるリアをウィリアムは何とか宥め、アルトの容態を確かめた後、一度自身の家へと連れて行き、高価な風邪薬としっかりとした食事を取らせ、その高価な風邪薬の代金を稼ぐ為に下水道の魔獣退治を行っていたのが今回の真相であった。

 

 

「このアパートも二日前にウィリアムさんが用意してくれて……家賃まで先払いしてくれたんです」

 

「うん!それにお薬も毎日届けてくれたから、おかげでお兄ちゃんが元気になってきたの!」

 

 

アルトとリアの言葉にシスティーナとルミアは微笑ましく見つめる。

アパートに向かう道中でその辺りの事情を聞いたシスティーナとルミアは、どうしてここまで手を貸したのかと、ウィリアムに疑問をぶつけた際―――

 

 

『……ただの自己満足さ』

 

 

ウィリアムは少し黄昏たように、簡潔に言葉を返した。

その答えにシスティーナとルミアは最初は不思議そうにしていたが、リィエルが無言でウィリアムに寄り添った事で、二人はその理由を何となく察する事が出来た。

 

 

「リア。お兄ちゃんはもう少しで元気になるよ。元気になったら、君が魔術学院に通わせられるくらいには……一生懸命働いて頑張るから」

 

「ありがとう、お兄ちゃん!でも、お兄ちゃんが無理しないようにリアも働くから!お兄ちゃんが元気なら、リアは他のものはいらないから!」

 

 

傍目からでもわかる仲睦まじい兄妹。きっとウィリアムはこの兄妹に、かつて助けたかった兄妹を重ね合わせたのだろう。その表情は複雑なものである。

リィエルもその兄妹の様子を、複雑な表情で見つめ、ウィリアムの左手を握りしめている。

そんな二人をシスティーナとルミアは黙って見守るのであった。

 

 

その後はシスティーナが後日、自身の父親であるレナードに相談し、父の伝手でアルトに職を紹介することとなり、リアもアルバイトを探しつつ、魔術学院に入学した際は奨学金を取得できるよう一生懸命勉強する運びとなった。

 

 

 




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······さて、下着一枚、M字で○○し、顔を赤く染めたリィエルを美味し(ドパァンッ!

変態は心臓を撃たれて血溜まりに沈んだ


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《魔王の城》

試し読みで見た追想日誌四巻を見てこう思いました·······偶然は怖い!
てな訳でどうぞ


アルザーノ帝国魔術学院の、とある日。

 

 

「またシュウザー教授からテスト要請がきたのじゃ……最低でも二十人の人手が必要といっての……」

 

 

リックがいかにも深刻で険しい様相で告げた言葉に―――

 

 

「なんですとぉおおおおおおおおお―――ッ!?」

 

「あの男、今度は一体何を作ったんだッ!?」

 

「しかも生け贄が最低でも二十人とは……ッ!?」

 

「嫌だぁあああああああああああ!!選ばれたくないぃいいいいいいいいい―――ッ!!!!!!」

 

「落ち着いてください、ラインハルト先生ッ!!」

 

「誰でもいいですから、早くあの人を始末してくださいよ!!」

 

 

大会議室に集まっていた全教員は一気に大騒ぎ。その場は狂騒の渦へと呑まれていった。

 

 

「あのー、オーウェルの野郎は一体何を作ったのでしょうかねー?二十人も寄越せだなんてー……」

 

「……ちなみに、シュウザー教授はグレン君を指名しておった。なので今回は、グレン君と彼の受け持つクラスにやって貰おうと思うのじゃが…………賛成の方々は挙手を」

 

 

その瞬間、全員が一斉に右手を挙げる。

 

 

「ま、マジで待ってください!!俺はまだしも俺の生徒を巻き添えにするのは―――」

 

「すまんがグレン君、今回は諦めてくれ。代わりに学院からお金を出すから」

 

「謹んでお受け致します」

 

グレンは神速で手のひらを返し、清々しい顔で引き受けるのであった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「―――という訳で、オーウェルの発明品のテストをすることとなった」

 

「「「「ふっざけんなぁああああああああああああああああああああああ―――ッ!?!?」」」」

 

 

午後の授業開始前。二組の教室にて。

教壇の上で実に爽やかな笑顔で告げたグレンに、クラス中から一斉に非難の声が上がった。

 

 

「何で俺達を巻き込んだんですか!?」

 

「天災教授の発明品のモニターなんて嫌ですよ!!」

 

「じょ、冗談じゃありませんわ!!」

 

 

次から次へと上がる生徒達のブーイングの声。当然である。

 

 

「今回ばかりは仕方ねぇんだよ……あの野郎が俺を指名してくれちゃったし、学院長が勝手に決めちゃったし、報酬も掲示してくれちゃったし……お金も入るし……」

 

「本当に最低ですねッ!?」

 

 

グレンの言い分に、システィーナは憤慨を露に、ばんっ!と机を叩いて立ち上がる。

 

 

「そんな訳だから、発明品が設置されている抗議室にこれから移動するぞー。動かなかったら『無理矢理連れていくぞ君』で強引に連れていくとオーウェルは言っていたから諦めてくれ、マジで」

 

 

そんな訳で、グレンを先導とした一同はまるで死刑囚のような気分で件の発明品が設置されている抗議室へと移動したのだが……

 

 

「ねぇ、あれ、凄く見覚えがあるのだけれど……」

 

 

抗議室に入ったシスティーナが懐疑的な瞳で、教卓の上に置かれた(はこ)型のヘンテコ装置を睨み付ける。

細部は微妙に違うがその装置がどんな機能を有しているのか容易に想像できるからだ。

その筐型のヘンテコ装置―――体験学習会で猛威を振るった集団催眠装置が何の前触れもなく、独りでにピコピコと稼働し始める。

 

 

「な、何ですの!?」

 

「まさかこれが例の発明品か!?」

 

 

多くの生徒が突然動いた装置に困惑し、辺りを見渡し始める。この装置を一度体験しているシスティーナとルミアは何が来てもいいように扉に視線を向け、グレンとウィリアムは危険はないとわかって机に突っ伏して平然としている。

そして―――

 

ガシャァアアンッ!!

 

抗議室の扉からではなく、窓から全長三メトラはある巨大な蜘蛛が一同の前に姿を現した。

 

 

「いぃいいやぁああああああああああああああ―――ッ!!!」

 

 

リィエルは直ぐ様大剣を錬成して、その巨大蜘蛛に向かって稲妻のごとく突貫していくも―――

 

プシャアーッ!

 

 

「―――うあっ!?」

 

 

その巨大蜘蛛の口から大量に白い糸が吐き出され、リィエルは瞬く間に絡め取られ、捕らわれてしまった。

リィエルを一瞬で捕らえた巨大蜘蛛はそのまま二射、三射と次々と糸を吐き出していき、ルミア、リン、ウェンディを含めた女子生徒の半数を糸に繋げ―――

 

 

「きゃッ!」

 

「ああっ!?」

 

「ひっ!?」

 

 

俊敏な動作で侵入した窓から抗議室を後にし、糸に繋げた女子生徒達を連れ去っていった。

 

 

「「「「…………」」」」

 

 

そのあまりの早業に残された一同は暫し茫然としていると……

 

 

『こうして……少女達は連れ去られていった……魔王の供物として……』

 

 

どこからともなく、魔術による拡声音響が流れてくる。もはや疑いようがない。

 

 

『そして、残された面々は連れ去られた少女達を救う為に立ち上がるのであった……』

 

「シュウザー先生ッ!!これ、絶対あの時の装置ですよね!?」

 

『その通り!!今回は様々な実験を行う為に改良した集団催眠装置弍号と、弍号の専用ソフトウェア《魔王の城》を君達に試してもらうぞ!!』

 

「今すぐ装置を切ってください!!」

 

『そして、この精神世界を自由に操作できる、ボスキャラの魔王を努めるのはこの方だぁあああああああ―――ッ!!!』

 

 

システィーナの抗議を完全に無視して声を上げるオーウェルの呼びかけに応えるように、波紋のように投射された映像が一同の頭上に現れる。そこに映ったのは―――

 

 

『ごきげんよう。私が魔王である……フヒヒ』

 

 

いかにも魔王らしい衣装に身を包んだツェスト=ル=ノワール男爵であった。そんなツェスト男爵の後ろには、先ほど連れ去られたメンバーが蜘蛛の糸で身体を縛られてそこにいた。―――亀甲縛りで。

 

 

「ちょっと!?どうしてそんな縛り方で捕らえているんですか!?」

 

『勿論、こうした方がそそるからに決まっているだろう!!フヒヒ……』

 

 

じゅるっ。と舌舐めずりするツェスト男爵を見て、女子生徒達は嫌悪感を露に、アイツら殺す!と心の中で強く誓う。

 

 

『そして、ゲームが終わるまで私は彼女達に色んな事をするのだッ!!!ここは精神世界だからあんな事やこんな事をしても大丈夫!!あぁ、本当に素晴らしいぃいいいいいいいいいいい―――ッ!!!!!』

 

 

この時、その場の男子生徒は羨まし過ぎる嫉妬心から、女子生徒は純粋な怒りからこう思った。

―――ツェスト男爵、絶対に殺す!!!!!と。

 

 

「何だとぉおおおおおおおおおおおおお―――ッ!?実に羨まけし―――」

 

「《死んでください》ッ!!」

 

「どぉわぁああああああああああああああ―――ッ!?」

 

『ちなみに、ゲームがクリアされる、もしくは装置が切れるまでこの精神世界から誰も出ていくことはない!!仮に殺られても、その時は手足も出ない幽霊として待機し続けるだけだッ!!!』

 

『まだ捕らわれていない女子生徒の諸君は安心したまえ!!殺さず捕らえて、可愛いがってあげるから!フヒヒ』

 

「全く安心できません!!」

 

『では、ゲェーム・スタァアアアアアアアアットゥ―――ッ!!!!!』

 

 

最早取り合っている暇はないと言わんばかりに一同は一斉に抗議室を後にしていく。グレンはシスティーナの【ゲイル・ブロウ】をくらってのびたままである。

 

 

『この映像は常に諸君の頭上に投射され続けるから、常にこちらの状況は把握できるぞ!!まずはゾンビで彼女達を愛でた後、スライムで衣服を溶かし、一人ずつ犯―――』

 

 

その直後、凄まじい炸裂音が映像から鳴り響いた。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――炸裂音が響く数分前。精神世界の奥の部屋にて。

 

 

「……むぅ、全然解けない。さっきから縄抜けの魔術を使っているのに………それに、動く度にムズムズする」

 

「あはは……」

 

 

力づくで自身を縛っている蜘蛛の糸を引き千切ろうともがき、全く上手くいっていないリィエルの呟きに、隣にいるルミアは困ったような声を洩らす。亀甲縛りで縛られたルミアはその豊満な身体のラインを強調されている状態であり……眼福であった。

 

 

「そして、ゲームが終わるまで私は彼女達に色んな事をするのだッ!!!ここは精神世界だからあんな事やこんな事をしても大丈夫!!あぁ、本当に素晴らしいぃいいいいいいいいいいい―――ッ!!!!!」

 

 

ツェスト男爵の興奮した叫びにこの場にいる女子生徒達は一気に顔を青ざめさせる。

 

 

「お願いです!!止めてくださいましぃいいいいい―――ッ!?!?」

 

「い、いや……ッ」

 

 

これから自分達に起こる事を想像して、彼女達は目尻に涙を浮かべていく。

 

 

「……ッ!」

 

 

リィエルもルミアに危険が迫っていると理解した瞬間、先ほどよりも必死となってもがくも、ギシギシと軋むだけで一向に解ける気配も千切れる気配もない。

 

 

「この映像は常に諸君の頭上に投射されるから、常にこちらの状況は把握できるぞ!!まずはゾンビで彼女達を愛でた後、スライムで衣服を溶かし、一人ずつ犯―――」

 

 

彼女達にとっての死刑宣告をツェスト男爵が興奮気味に宣言する言葉を遮るように、突然扉が蹴破られるとほぼ同時に、一つの炸裂音が響き、ツェスト男爵の頭部が爆発四散した。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――炸裂音が響く数分前。

 

ドゴォンッ!!ドゴォンッ!!ドォオオオオンッ!!

 

精神世界の学院の廊下は壁が壊れたり、窓が吹き飛んだり、一部黒焦げになっていたり、ゾンビやゴブリン、蟲達の欠片が散らばっているといった、見るも無惨な光景が出来上がっていた。その光景最先端には―――

 

 

「…………」

 

 

連れ去られてすぐに抗議室を後にし、身震いするほどの無表情で両手に小銃(ライフル)を携えたウィリアムが【フィジカル・ブースト】全開で突き進んでいた。

ウィリアムは襲いかかる外敵を銃弾や攻性の錬金術で容赦なく瞬殺していき、ゴール前の扉へと辿り着く。

そして、ウィリアムはそのまま扉を蹴破り、間髪入れずにツェスト男爵に銃弾を叩き込んだ。

現実世界に帰還した後、ウィリアムは元凶三名を義手で殴り飛ばし、件の装置とソフトも粉々に破壊。

こうして今回の騒動は幕を閉じた。

 

 

 




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カッシュ達の楽園への道

息抜きで書いた話
当然ツッコミ所満載である
時系列的には原作六巻と七巻の間
てな訳でどうぞ


とある日の放課後、カッシュとカイにロッド、何名かの二組の男子生徒達は学院の一角でとある物を囲んで相談をしていた。

 

 

「高い買い物だったな……」

 

「だけど、俺達の夢に一歩前進したのは確かだぜ……」

 

 

彼らの中心には、小さなレンズのついた箱と、大きな箱の二つが置かれている。

これらの箱の正体は、小さな箱のレンズから撮られた光景を、大きな箱で記録し、中空へと記録映像として投射する魔導装置だ。

そう、彼らの目的は―――女子更衣室の覗きである!!!!!!!!!!

彼らはお金を出しあって、この魔導装置を購入したのだ。

 

 

「問題は、どうやってこれを女子更衣室に設置するか、だよね?」

 

「そこなんだよな……」

 

 

深い溜め息が洩れる。

バレないように設置したり、人目に気づかれないようにするのは、かなり難易度が高いのだが……

 

 

「……俺にいい考えがある」

 

 

カッシュは不敵に笑い、同志達にそう告げる

 

 

「本当か、カッシュッ!?」

 

「ああ。けど、そのためには……」

 

 

カッシュはその案を説明していく。

 

 

「……確かにそれなら、いけるかもしれない」

 

「けど、それはかなり難しいぜ?」

 

「ああ、わかってる。だけど、これが一番確実なんだ」

 

 

カッシュは神妙な面持ちでそう告げた。

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

―――その次の日。

 

 

「は?ファムに引き合わせてくれ?」

 

 

ウィリアムは土下座して頼みこんできたカッシュに、訝しげな顔をする。

 

 

「ああ!この間の謝罪がしたいんだ!」

 

「それなら、アルフォネア邸に行けばいいだけだろ」

 

「いや、教授の家だと緊張するから……」

 

 

カッシュは言葉を濁しながら最もらしい理由を口にする。

 

 

「やだよ。めんどくせぇし」

 

「そこを何とか頼む!」

 

 

必死に食い下がるカッシュに、ウィリアムはうんざりし―――

 

 

「……いそうな場所だけ教えるから、後は自力で何とかしろ」

 

 

ファムがいそうな場所だけ教えることにした。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

その日の放課後。

カッシュは同志で出しあって購入した高級な餌を片手に、ウィリアムが教えたファムがいそうな場所まで来ていた。

 

 

「おーいっ!!ファム様ぁああああッ!!お願いですから、姿を現して下さい!!!」

 

 

誰もいない場所でそう叫ぶカッシュは、端から見れば滑稽だが、本人は必死に呼びかけ続けている。

しかし、幾ら叫んでも、ファムは一向に姿を現さない。

その状態が日が沈むまで続き、カッシュに諦めが過り始めたその時―――

 

 

「―――うわあッ!?」

 

 

突如、カッシュの目の前に一羽の黒い鴉が始めからそこにいたかのように現れた。

 

 

「―――ファム様!!」

 

 

カッシュはその鴉―――ファントム・レイヴンのファムに餌を差し出し、その場で土下座する。

 

 

「お願いがあります!!!どうか力を貸して下さい!!!」

 

 

そんな何とも情けないカッシュの行動に対し、ファムは―――

 

 

「……アホォー」

 

 

餌だけ食って、それだけ鳴いて消え去っていった。

 

 

「ああッ!?頼む!待ってくれぇええええええええええ―――ッ!!?」

 

 

涙目でそう叫ぶカッシュの姿は、相当哀れだった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

ファムとの交渉が失敗に終わり、失意の中登校するカッシュに·····

 

 

「アホォー」

 

 

不意に、カッシュの右耳から鳴き声が聞こえてきた。

カッシュが驚いて顔を向けると、カッシュの右肩に、ファムが留まっていた。

驚くカッシュに、ファムは脚の爪を器用に使い、一回だけという意思を伝える。

カッシュはこの日、感激の涙を流した。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

―――そして、放課後。

カッシュを中心とした男子生徒の一同は学院の隅っこに集まっていた。当然、例の魔導装置もある。

 

 

「じゃあ……いくぞ……?」

 

 

緊張して声が震えるカッシュの言葉に、周りは同意し、カッシュは震える手つきで魔導装置を操作していく。

魔導装置は低い音と共に稼働し、記録映像が中空へ投射される

映し出された色は―――肌色を中心に、赤、白、オレンジ、ピンク、水色、黄色、緑等々、多種多様な色合いであった。

投射された映像には、女子生徒達が絶賛着替え中のハレンチ映像が、バッチリ記録されていた。

 

 

「「「「「「「「よっしゃぁあああああああああああああああああああああああああ―――ッ!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」

 

 

一同全員、歓喜の叫び声を上げる。

カッシュはファムに頼みこみ、撮影用の魔導装置を女子更衣室に仕掛けて貰ったのだ。

 

 

楽園(エデン)だ……楽園(エデン)だ……!」

 

「みんな、凄くキレイだ……ッ!!」

 

「や、ヤバい、鼻血が……ッ!」

 

「おおッ!!システィーナがルミアの胸を揉んでるぞッ!!!」

 

「この光景を記憶に焼き付けるぞッ!!!!」

 

 

見事に撮られたお宝映像に男子一同は感激している。

作戦の立案者たるカッシュも、感激の涙をこれでもかというくらい、流している。

 

 

「やっぱり、ルミアちゃんの胸は大きいなぁ」

 

「テレサの胸も相当だぜ!?」

 

「リンも中々大きいぜ!?着痩せするタイプだったのか!?」

 

「ウェンディは······さすが貴族様だッ!!」

 

「リィエルちゃんは下着一枚で堂々としてるから、逆にグッとくる……」

 

「システィーナは……うん。これはこれでいいな」

 

「「「「「確かに!!!!」」」」」

 

「……何がいいのかしら?」

 

 

映像を見て、和気藹々と語っていた一同の会話に、底冷えするような声が響き渡り、空気が一気に冷え渡る。

カッシュ達が恐る恐る声がした方へと振り向くと、そこにはシスティーナを筆頭とした二組の女子生徒全員が佇んでいた。

システィーナの手には、小さな箱―――例の魔導装置が握られている。

 

 

「な、なんで……」

 

「更衣室に忘れ物を取りにいったら、見つけたのよね」

 

「そして、ここ数日不自然だった貴殿方を探していたのですわ」

 

「さすがに……冗談じゃ済まないよ?」

 

 

淡々とシスティーナ、ウェンディ、ルミアはそう語るが、全身から怒りのオーラが噴き出てきている。周りの女子生徒も同様で、リンでさえ涙目ながらも静かな闘志を携えている。リィエルだけはいつも通りだが。

 

 

「全員、覚悟はいいかしら?」

 

 

システィーナの宣告と同時に、彼女達は左手を構え―――

 

 

 

楽園(エデン)は、一気に地獄(ゲヘナ)へと変わった。

魔導装置は修復不可能なまで破壊され、さらに教師陣からも反省文、大量の課題が渡された。

ちなみに、監督不行き届きとして、グレンの給料がさらに減給される事が決定し、グレンは八つ当たりとしてさらに、カッシュ達に課題を追加した。

そして―――

 

 

「ウィリアムッ!!あんたも関わっていたわねッ!!!?」

 

「一体何の話だぁあああああああああ―――ッ!?」

 

 

カッシュが吐いた手口により、完全なとばっちりを受ける羽目となったウィリアムがいた。

 

 

「アホォーー」

 

 

そんな光景を、彼女達が着替え終わった後、魔導装置をわざとバレる位置に動かしたファムは、自身の存在を遮断して眺めていた―――

 

 

 




これぞ(愉悦の)ギャグ回!!!
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放置は大敵

てな訳でどうぞ


とある晴れた日、学院敷地内のとある場所にて。

 

 

「―――と、いうわけで!今日は『魔導探索術』の探索実習で、お前らにはあの洞窟遺跡を調査してもらう!!」

 

 

グレンが指をさす先には、アルザーノ帝国魔術学院が敷地内で管理している古代遺跡の一つである人工洞窟の入り口がある。

本日は古代魔術(エインシャント)魔法遺産(アーティファクト)に関する調査・研究を行う『魔導考古学』に重要な要素―――地図作成、明かりの確保、周囲の索敵、罠や仕掛けの探知、碑文の解読、戦闘……それらを纏めた『魔導探索術』で魔術師としての実力向上を図るのが今回の授業の目的である。

 

 

「あの、先生……この洞窟遺跡は本当に大丈夫ですか?」

 

「この洞窟遺跡は、学院が生徒達の実習のために管理している訓練用だから大丈夫だ。それじゃあ、もう一度ルールを確認するぞ!」

 

 

ルミアの質問にグレンは真剣な顔で答え、改めて今回の実習のルールを説明していく。

今回の成績評価ポイントは―――

 

1.作製した地図の精度。

2.回ったチェックポイントの数。

3.探索にかかった時間。

4.『黄金苔』の採集量。

 

―――この四点である。

『黄金苔』は文字通り金色に光る苔であり、様々な魔術薬や魔術道具の材料になる貴重な魔法素材の一つである。

 

 

「しつもーん。何で『黄金苔』の採集配点が、他の配点より高いんですかー?」

 

 

システィーナがジト目で至極真っ当な疑問をグレンにぶつけた。

 

 

「そ、そんなの決まってるだろ!?え、ええと……うーんと……あ、アレだっ!『黄金苔』が発生するのは空気中の外界マナ濃度―――」

 

「単に売り捌く為だろ。今、『黄金苔』の価値が品薄のせいで高騰して売り時だからな」

 

 

額から脂汗を滝のように流しながら、言い訳していたグレンの言葉を、顔を明後日の方向に向けていたウィリアムが遮るように告げた。

 

 

「な、何を言っているのかなー、ウィリアムくんっ!?ボクは純粋に学究的な目的で―――」

 

「……つまり、私達を利用して『黄金苔』を集めるつもりなんですね……サイテー……」

 

「さぁ、実習開始ぃいいいいいいいーーッ!!さっさと潜りたまえぇーーっ!!!」

 

 

グレンはキョドりながら、ぱんぱん!と、手を打ち鳴らしながらシスティーナの冷ややかな言葉を無視して、生徒達を促す。

当然、一同はジト目の呆れ顔だが……

 

 

「……『黄金苔』を集めてきたら、グレンは嬉しいの?」

 

 

リィエルだけは事態を何一つ理解しておらず、きょとんとグレンを見つめる。

 

 

「お、おう!『黄金苔』がたくさんあると、懐―――研究が捗るからなっ!」

 

「ん、わかった。グレンのために、頑張って『黄金苔』を集める」

 

「そ、そうかっ!期待してるぜっ!リィエル!」

 

「……ん」

 

 

よしよしとグレンに頭を撫でられ、心なしか目を細めて嬉しそうにするリィエル。

 

 

「悪い男に貢がされる、可哀想な女の子の姿すぎる……ウィリアム、傍でしっかり見ててあげなさいよ」

 

「だから何で俺に振るんだ?」

 

 

そんなこんなで、遺跡探索実習の授業は始まるのであった。

 

 

『…………』

 

 

遠くの岩陰から密かに窺う怪しい人影の存在に気付くことなく……

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

―――洞窟内では。

 

 

「ぎゃーーーッ!?」

 

「むにゃむにゃ……」

 

「し、痺れ針が……」

 

「お、落ちるぅうううううーーッ!?」

 

 

無策で突っ込んだ生徒達の阿鼻叫喚の声が響き渡っていた。

 

 

「まったく……」

 

 

罠の洗礼を受け、死屍累々と倒れている生徒達の傍を通りながら、システィーナは溜め息を吐く。

システィーナ、ルミア、リィエル、ウィリアム……いつものメンバーでパーティーを組んだ彼らは、システィーナをリーダーに洞窟内を進んでいく。

 

かりかり、かりかり……

 

 

「……こけ。いっぱい」

 

「そうだな。あっ、そっち行くなよ。魔術罠(マジック・トラップ)があるから」

 

「ん」

 

 

ウィリアムとリィエルは探索そっちのけで『黄金苔』を瓶に採集していた。ウィリアムが『黄金苔』を採集している理由は“楽”の一言に尽きるからである。

 

 

「……この先は無限ループよ。このまま進んでも同じ場所に戻されて、ぐるぐると回り続けるわ」

 

「うーん……この先は順路だと思うんだけど……」

 

「だとしたら、この先に進めないのは構造的におかしいわ。ひょっとして……」

 

 

かりかり……かりかり……

 

システィーナとルミアの謎解きに我関せずと、ウィリアムとリィエルは変わらずに『黄金苔』の採集を続ける。

 

 

「……こけ、たくさん集まってる。……グレン、褒めてくれるかな?」

 

「褒めるだろうよ。それで苺タルトでも奢ってもらえ」

 

「……ん。そうする」

 

 

そんな談笑をしながら地面に落ちた『黄金苔』もせっせと採集していく。

そろそろこの辺りの『黄金苔』が尽きてきたので、先へ進む事にする。

 

 

「あったわ!これを解呪(ディスペル)すれば先に―――」

 

 

がちゃ。

 

システィーナが嬉々として不可視の法陣を黒魔儀【イレイズ】で解呪(ディスペル)しようとした矢先、ウィリアムがとある壁を押して新しい通路を出現させていた。

 

 

「「…………」」

 

「次はこっちで採集するぞ」

 

「ん」

 

 

かりかり……かりかり、かり……

 

硬直しているシスティーナとルミアを他所に、ウィリアムとリィエルは相変わらず『黄金苔』の採集を続けていく。

 

 

「私達の謎解きが……苔集めの片手間に……ッ」

 

「あはは……システィ、元気だして。ね?」

 

 

凄まじい敗北感からその場で四つん這いとなったシスティーナを、ルミアは曖昧な笑顔で慰める事となった。

ついでに―――

 

 

「く、屈辱ですわ……」

 

 

後方の曲がり角から、ひっそりと窺っていたウェンディも四つん這いとなって崩れ落ちていた。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

そして····時間が幾ばくか経過した、ゴール地点である洞窟最深部の部屋にて。

 

 

「だっははははははーーッ!!リィエル、よくこんなに集めてくれたなっ!!」

 

 

『黄金苔』が詰まった瓶を抱きしめて、ほくほく顔でグレンはバカ笑いしていた。

 

 

「ん。いっぱい集めた。お礼に苺タルト、奢って」

 

「おう!いいぞ!こんなに大量なら―――」

 

「わたしが集めたこけの分だけ」

 

「―――……………………へ?」

 

 

リィエルの言葉を理解できなかったグレンから抜けた声が洩れるも、次第に理解していくかのように、顔から脂汗を流し始めていく。

 

 

「……駄目なの?」

 

 

グレンの反応から、リィエルの瞳が若干不安げに揺れる。その反応にグレンは―――

 

 

「そ、そんな訳ないだろ!?ちゃんと奢ってやるさ!!」

 

「……ん。ありがとう、グレン」

 

 

未だに脂汗を流して渇いた笑みを浮かべるグレンに、心なしか薄く微笑んでお礼を言うリィエル。

 

 

「小悪魔な女の子に(だま)された、憐れな男の姿すぎる……同情はしませんけど」

 

「あはは……」

 

 

入り口での立場が見事に変わった光景に、システィーナはジト目で見やり、ルミアは曖昧に笑う。

 

かりかり……

 

そんな中、ウィリアムは着服目的で『黄金苔』をせっせと採集していた。数日前、とあるお酒と小瓶、コップ等を購入したため、その補填の為でもある。

その際、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……

 

 

「それにしても、皆遅いですね……」

 

 

システィーナの言う通り、ゴールに辿り着いているのはウィリアム達だけであり、他のメンバーは影さえ見せていない。グレンも口では面倒くさそうにしながらも様子を見に行こうとした―――その時。

 

 

『クックックックックッ……』

 

 

不意に、不気味な笑い声が響き渡り、耳障りに反響し、部屋の隅に不気味な人影が現れる。

 

 

「な―――ッ!?」

 

 

グレンは咄嗟にシスティーナとルミアを背後に庇い、身構える。

 

 

「テメェは何者だッ!?」

 

『我ハ《狂王》……コノ墳墓ノ主ナリ……』

 

 

《狂王》は地獄の底から響くような声で、生徒達を全員連れ去り、《魔竜》復活の生贄にするとグレン達に告げ、新たな通路を出現させながら、その場から消えていった……

 

 

「畜生ッ!何でこんな事に―――」

 

「グレン」

 

「どうしたリィエル!?何があった!?」

 

「ウィルがいなくなった」

 

「何だと!?」

 

 

リィエルの告げた言葉にグレンは大急ぎで周囲を見回すと、リィエルの言った通り、ウィリアムの姿が忽然と消えていた。

状況からしてウィリアムも《狂王》に連れ去られた可能性が高く、その事実に戦慄していると……

 

 

「後、こけ。またいっぱい集めた」

 

「今はそれどころじゃねぇだろッ!?このドアホォオオオオオオオオオ―――ッ!?」

 

 

あまりにもいつも通り過ぎるリィエルに、グレンは堪らず叫ぶのであった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

――― 一方その頃。

 

 

「マジでめんどくせぇー……(ブツブツ)」

 

 

ウィリアムは不満たらたらで何らかの準備をしていた。

 

 

 




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放置は大敵・2

てな訳でどうぞ


無数の石棺が所狭しと並んでいる部屋にて。

 

 

「本当に、何でこんな事に……」

 

 

ブツクサと文句を言いながら、ウィリアムは作業をしながら数日前の出来事を思い出す―――

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

―――数日前の日が沈みかけた、フェジテの夕暮れにて。

ウィリアムはちょっとした小包を片手にアルフォネア邸の玄関前に佇んでいた。

小包の中にはとある銘柄のお酒とコップ一杯程度の小さな小瓶、コップ、『スルメ』と呼ばれるイカを乾燥させたつまみが入っている。

ウィリアムは玄関前の呼び鈴を鳴らし少し待っていると、玄関の扉がおもむろに開き、そこから明らかに不機嫌なセリカが現れた。

 

 

「一体、何のようだ?」

 

「……あー、そろそろ師匠の命日なんで、師匠が好きだったお酒を墓に供えてもらおうとファムにお願いに来て……余ったお酒は教授に飲んでもらえないかと……」

 

 

むすっとしたセリカに、ウィリアムは少したじろぎながら今回の来訪理由を話す。

 

 

「……そうか。もうそんな時期か」

 

 

理由を聞いたセリカは懐かしむような顔をする。セリカがユリウスと最後に飲んだのはグレンを引き取って数ヶ月経った時だ。

その時はユリウスのお気に入りの、コメを発酵させて作ったと言われるお酒とスルメをつまみに楽しく飲んだのは、セリカにとってもいい思い出だ。

 

 

「まぁ、ひとまず上がれよ。お茶も出してやる」

 

 

そうして、アルフォネア邸にウィリアムは上がり、必要な物を小箱に詰め、ファムに改めて頼んで翌朝、墓へと運んでくれる事となったが……

 

 

「それで……何で不機嫌だったんですか?」

 

 

余ったスルメをつまみながらお酒を飲むセリカに、ウィリアムは玄関前の不機嫌だった理由を訊く。

 

 

「……グレンが私をほったらかしにしているんだ。通信にも全く応じないし……」

 

「……そうですか」

 

 

あまりにもセリカらしい理由に、ウィリアムは当たり障りのない言葉で返す。下手にグレンを擁護したら矛先がこちらに向くからだ。

 

 

「だから、そんな薄情な息子をお仕置きする必要がある。せっかくだから、お前も手を貸せ」

 

「……え?」

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――そんな訳で。

ウィリアムはセリカの要望(脅し)によって今回のグレンへのお仕置きに強制参加する羽目となった。

 

 

「はぁ……何でこんな茶番劇に……」

 

 

文句を言いながらも、作業を終わらせたウィリアムは部屋を後にし、セリカ達がいる奥の部屋へと向かいながら各部屋の仕掛けの準備や確認をしていく。

その十数分後―――

 

 

『……棺だよな?』

 

『間違いなく棺ですね』

 

 

グレン達は例の部屋の入り口付近に到着していた。ちなみに、音声や映像は各所に設置された小型魔導器からセリカから渡された各種仕掛けも操作できる石板型の魔導演算器に随時送られてくるので、全く問題はない。

 

 

『ふっ……俺は―――生徒達(あいつら)のことを―――』

 

『早ッ!?諦めるの早すぎでしょッ!?』

 

『だって、こんなヤバいものが出てきそうな場所に踏み込むなんて絶対無理だって!』

 

『魔術師が、し、死霊とか怖がるなんて、恥ずかしいと思わないんですか!?』

 

『そういうのは、滅茶苦茶ガクブルしてる膝を隠してから言えよ!?』

 

 

何とも情けない争いをしているグレンとシスティーナを他所に……

 

ぎぃ……かりかり……かりかり……

 

ぎぃ……ばたん。

 

 

『うーん……』

 

 

リィエルは棺の中に生えている『黄金苔』を採集しており、ルミアは棺の中を確認していた。

ルミアの所業に気づいたグレンとシスティーナは大慌てでルミアを取り押さえ、顔を真っ青にして喚き立てるのを見たウィリアムは、こちらの声が怨嗟の声に変換拡声する機能を使って仕掛けた。

 

 

「己·····我らの寝所を荒らす不敬者共よ········汝等に災い在れ·······」

 

 

映像から見事にビビり始めたグレンとシスティーナに追い討ちをかけるように、魔導演算器を操作し、複数人が発する音声機能も使って告げる。

 

 

「災い在れ…………汝等に災い在れぇえええええええッ!」

 

 

ガタガタガタガタガタガタッ!!

 

 

『『ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいーーッ!?』』

 

 

向こうでは無数で響き渡る怨嗟の声と無数の石棺の蓋が同時に揺れ動いた事に、グレンとシスティーナが仲良く抱き合って情けない悲鳴を上げる。

 

 

「ぷっ……くくく……」

 

 

その映像と情けない悲鳴に、ウィリアムは手元の魔導演算器を顔から遠ざけて必死に笑い声を抑える。

なんだかんだでウィリアムもノリノリであった。

 

 

『どうする!?このままじゃ()()()が……ッ!?』

 

()()()が……祟り殺されちゃう……どうしたら……ッ!?』

 

 

失礼な事をしたのはルミアだけではないので、ウィリアムは笑いを堪えながらはっきりと告げる。

 

 

「言っておくが、()()()()だからな……?我等の眠りを妨げただけでなく、我等の寝床を粗末に扱い、我等と、我等の寝床を、散々愚弄したのだからな……ッ!」

 

『『デスヨネ、すみませんでしたぁあああああああああああああーーッ!?』』

 

『い、いくら欲しいんだ!?金ならセリカが払うから―――』

 

『ごめんなさいお祖父様!祟り殺される不甲斐ない私を許してぇえええええええーーっ!?』

 

 

完全にパニックになっているグレンとシスティーナ。そんな二人の姿にウィリアムは―――

 

 

「くくっ……やばい……本当に笑える……ッ」

 

 

必死に笑い声を抑えていた。

そんな中、ルミアが真摯訴えかけて赦しを乞うのだが……

 

かりかり……かりかり……

 

リィエルが未だに『黄金苔』を棺の中から採集しているので説得力がなかった。なので指摘する事にする。

 

 

「なら、今も尚、我等の寝床を粗末に扱っている、その娘の蛮行をどう説明するつもりだ……?」

 

『『え……?』』

 

 

その指摘でグレン達は漸くリィエルの行動に気付き、グレンとシスティーナは顔を再び青ざめさせる。

 

 

『リィエルお前ッ!?マジでなにやってくれちゃってんのぉおおおおおおおおおーーッ!?』

 

『こけ、集めてた』

 

『ごめんなさいごめんなさい!本ッ当にごめんなさぁあああああああああああああいッ!?』

 

『本当にごめんなさい、皆さん。リィエルの行動も私の責任です。先ほど申した通り、そのお怒りは私に向けて下さい』

 

『……ナラ、謝罪シロ。貴様等全員、身体ゴト頭ヲ垂レ、我等ヲ敬ウナラ、特別ニ赦シテヤル』

 

 

ウィリアムではなく、同型の魔導演算器を持つ、最奥の部屋にいるセリカの言葉に―――

 

 

『『誠に申し訳ありませんでしたぁあああああああああああああーーッ!!』』

 

『本当に、申し訳ありませんでした』

 

『……グレン、痛い』

 

 

グレンとシスティーナは神速と思える程の素早い動作で土下座し、ルミアも丁寧に土下座し、リィエルはグレンに頭を掴まれて強引に土下座させられた。

そこから静寂がグレン達がいる部屋を支配し、少しして、グレンとシスティーナはびくびくしながら顔を上げ、ルミアも顔を上げ、聖印を切って祈りを捧げる。

 

 

『……ふふっ、よかった。ちゃんと赦してもらえて』

 

『……ああ、全くだ』

 

『本当によかった……もし、赦してくれなかったら、一体どうなっていたことか……』

 

『その時は浄化(ほろぼ)しますよ、彼らを』

 

 

穏やかな笑顔で、あっさりとルミアはグレン達にそう返す。

その事に絶句するグレンとシスティーナを流し見て、ウィリアムは手元の石板を操作し、棺の蓋を再び揺り動かす。

 

ガタッ!

 

 

『『ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいーーッ!?』』

 

 

グレンとシスティーナは再びビビり、ルミアとリィエルを連れて大急ぎで部屋を後にしていった。

 

 

『あっ、こけ……』

 

『あれはもう置いとけぇえええええええええええええーーッ!?』

 

「ぷぷっ……」

 

 

……リィエルだけはいつも通りであり、ウィリアムは再び笑いを堪えるのであった。

 

 

 




今回は仕掛ける側となったオリ主であった····
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放置は大敵・3

てな訳でどうぞ


全ての部屋の仕掛け等の確認と準備を終えたウィリアムは、セリカ達がいる最深部の部屋に到着した。

 

 

「一応、仕掛けを含めたもん全てを終わらせてきたぞ教授」

 

『今ノ我ハ《狂王》ダゾ、ウィリアム』

 

「ハイハイ、そうでしたね」

 

 

セリカの指摘にウィリアムは投げやりに応答し、部屋の奥にある牢屋の中にいるクラスメイトの方へと歩んでいく。

 

 

「はぁ……とんだ災難ですわ……」

 

「ウィリアムぅ……何で止めなかったんだよ……」

 

「知っているなら、何とかしてほしかったね」

 

 

カッシュとギイブルがウィリアムに文句を言うも……

 

 

「俺に拗ねた教授を止められると?」

 

 

ウィリアムは至極全うな疑問で反論した。

 

 

「……無理、だな……」

 

「……すまない……」

 

「気にすんな……」

 

 

カッシュとギイブルは気まずそうに謝り、ウィリアムは疲れ気味返す。

ウィリアムはそのまま牢屋の中に入ろうとするも―――

 

 

『ウィリアム。オ前ニハマダ手ヲ貸シテモラウゾ?』

 

「……は?」

 

 

セリカがそれを引き留めた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

『何デコンナ格好ヲ……』

 

『中々似合ッテイルゾ、ウィリアム』

 

『ホント、気ガ重イ……ヤッパリヤリタクナ―――』

 

『ヤラナイト、異次元空間ニ追放スルゾ♪』

 

『ココマデキタラ、最後マデヤルカナァ』

 

 

セリカと同様の姿となったウィリアムはあっさりと要望(脅し)に屈した。

ちなみに牢屋組は―――

 

 

「憎い……憎い……」

 

「ここで音を鳴らして……っと」

 

「グレン先生とシスティーナ、スッゲェビビっているなぁ」

 

「さらに落とし穴を起動して……」

 

「ルミアが落ちたけど、胸でつっかえて助かるというオチ……グッジョブッ!!」

 

「リィエルちゃんが古典的な罠にかかって檻の中に……」

 

「起動できる罠は……睡眠、痒み、幻覚、感電、発情……悩むなぁ……ハァハァ……」

 

「ルーゼルゥッ!?悩んでないで早く決めろよ!?」

 

「そうこうしている内にグレン先生が檻を壊して救出しちまったじゃねぇか!!」

 

 

魔導演算器を使って各種仕掛けを起動したりして暇潰しに遊んでいた。

そうとは知らないグレン一行は数々の仕掛けや障害に苦しみながら進んでいく。

 

 

『頼むから同時に押してくれよッ!?人骨が降ってきたり、首なし騎士が襲いかかるとか、もう沢山だ!!』

 

『わかってますよ!一、二の三で押しますよ!?』

 

『『一、二の三!!』』

 

『また失敗かよ!?次は一体なんだ!?』

 

『今度はゾンビぃいいいいいいいいいいい―――ッ!?』

 

 

―――そんなこんなで。

数々の仕掛けに苦しみながらグレン達は一番奥の部屋の扉の前に辿り着いたので、セリカとウィリアムは祭壇に立って待ち構える。

そして、グレンが扉を開き、システィーナ達もそれに続いていく。

 

 

『ヨク此処マデ来タナ……』

 

「へっ……来てやったぜ《狂王》……ッ!覚悟は出来ているだろうな!?」

 

 

牢屋の中に入る生徒達の姿を視界に収めたグレンは、激情のままにセリカとウィリアムを睨み付ける。

 

 

『我ガ直々ニ相手ヲスル前ニ、我ノ腹心タル《邪臣》ヲ倒シテミセルガイイ……ッ!』

 

 

セリカの言葉に、ウィリアムは渋々といった気分でセリカの前に立ち、グレン達と対峙する。

 

 

「そうかよ……いくぜ、《邪臣》―――ッ!」

 

『……』

 

「うぉおおおおおおおおおーーッ!!」

 

 

グレンは雄叫びと共に突進しながら、愚者のアルカナを引き抜く。だが、悲しい事にその愚者のアルカナはセリカがすり替えた偽物。つまり、切り札の【愚者の世界】は展開されていないのである。

なので普通に魔術を使えるのだが、セリカから強者オーラを出せという要望(脅し)から固有魔術(オリジナル)を利用した攻撃で仕掛ける事にする。

 

パチンッ

 

ウィリアムが指を鳴らすと、グレンの正面に爆炎と爆風が巻き上がった。

 

 

「何ぃっ!?」

 

 

グレンは辛うじて踏みとどまった事で爆炎に呑まれずに済んだが、その顔は信じられないといった表情である。

この攻撃は【詐欺師の工房】で錬成した酸素や目に見えない粉塵を、火打石を錬金術を応用して手袋に加工したものを火種として放ったものである。

速効性と隠密性に優れてはいるが、誤爆のリスク、領域内限定、本当の意味での無差別攻撃、即興改変で他者を巻き込まずに済む【ブレイズ・バースト】に威力も大きく劣る為、没案となった攻撃手段だ。

 

 

「な、なんで……ッ!?どうして……ッ!?」

 

「なんで魔術が使えるんだよ……ッ!?しかも、呪文を唱えずに……ッ!?」

 

 

だが、そんな事など露も知らないグレンとシスティーナは魔術が使える事に戦慄の表情を向ける。

 

 

『クク……《貴様達ニ・更ナル絶望ヲ・刻ンデヤロウ》……ッ!』

 

 

そんなグレン達に追い討ちをかけるように、セリカは呪文を唱え、お仕置き魔術の特大火炎を頭上に掲げた。

 

 

「そんなッ!?《狂王》までッ!?」

 

「くそ……ッ!?それでも、俺は―――ッ!!」

 

『サァッ!イサギヨク、逝クガイイッ!!』

 

 

セリカの宣言と共に、お仕置き魔術が脂汗を流すグレンに迫っていく。

グレンは迫ってくる特大火炎を避けようと、右に飛んで避けようとするも―――

 

 

「―――うごっ!?」

 

 

ウィリアムがこっそり錬成した粘着性の足場に足を取られ、ものの見事にずっこける。

そのまま特大火炎はグレンに迫り―――

 

ちゅどぉおおおおおおおおおおおんッ!!!

 

 

「ぎゃああああああああああああああーーっ!?」

 

 

着弾。爆発。壮絶なる爆発音とグレンの断末魔の叫びが辺りに反響した。

 

 

「せ、先せぇええええええええぇぇぇぇぇぃ……?」

 

 

システィーナの悲痛な叫びが響き渡るも、爆発のわりに衝撃がこちらにほとんど来ていない事と、爆発が収まった先のグレンは全身真っ黒焦げになりながらもピクピクと痙攣し、しっかりと生きているので尻すぼみとなっていく。

 

 

『イヤァー、スッキリシタッ!』

 

 

セリカは上機嫌でそう言い、変身を解除してその姿を現していく。

正体を現したセリカにシスティーナとルミアは驚きを露にする。

 

 

「あ、アルフォネア教授ッ!?」

 

「まさか、教授が全部仕組んだのですか?」

 

「その通りだ!【イクスティンクション・レイ】を利用して洞窟を掘り、ウィリアムに内装を整えさせ、オーウェルに融通してもらった仕掛けや小道具を各所に設置して新たな探索領域を作ったのさ!愚者のアルカナもこっそり偽物にすり替えもした!」

 

 

清々しいまでのセリカのネタばらしに、システィーナは激しく脱力しながら訊いた。

 

 

「……ひょっとして、この設定はライツ=ニッヒ著作の小説『狂王の試練』を……」

 

「ああ!」

 

「じゃあ、そこの《邪臣》は……」

 

 

システィーナに懐疑の目を向けられたウィリアムは嘆息とともに変身を解き、姿を現す。

 

 

「やっぱりウィリアムだったのね……」

 

「そうだ。教授に少し用があって家に訪れたら見事に巻き込まれた」

 

「そ、そうだったんだ……」

 

「ちなみに、最初の部屋の声は俺がリアルタイムで流した声だ。謝罪要求の声は教授だが」

 

「ルミア放してッ!こいつを殴れないッ!!」

 

「お、落ち着いてシスティ」

 

 

怒りを露に暴れるシスティーナを、ルミアが後ろから押さえていると―――

 

ビュゴォオオオオオオオオッ!!!

 

剛速剣の一閃がウィリアムに襲いかかった。

 

 

「うおわッ!?」

 

 

ウィリアムは辛うじて避けるも剣圧に煽られ、地面をゴロゴロと転がっていく。

 

 

「いきなり何すんだ、リィエルッ!?」

 

「……」

 

 

ウィリアムの文句に答えず、仕掛人のリィエルはいつも以上の無表情で錬成した大剣を構え直す。

―――巨大骸骨騎士型の魔導人形を粉々にした時に見せた、奇妙な威圧感と迫力を背負って。

 

 

「……ひょっとして、怒っているのか?」

 

「……斬る」

 

 

脂汗を流しながら問い質したウィリアムに答えず、リィエルはそれだけ言って再び斬りかかっていく。

床を、壁を、剛速剣で爆砕させながら、リィエルはウィリアムに襲いかかっていく。

 

 

「悪かった!苺タルトを好きなだけ奢るから許してくれ!!」

 

 

いつも通りではあったが、実際は不安で心配させていた事に気づいたウィリアムは謝罪と共にリィエルに許しを請うも―――

 

 

「やぁあああああああああ―――ッ!!!」

 

 

リィエルは全く止まらずに剣を振り回し続ける。

リィエルにとって、ウィリアムは一番の『拠り所』でもある為、こうなるのはある意味当然の結果である。

 

 

「だったら、今度お前のお願いを一回だけ聞いてやるから!頼むから許してくれ!!」

 

 

その言葉に、リィエルはピタリッと動きを止める。

 

 

「……ホントに?」

 

「ホントホント」

 

「……じゃあ、許す」

 

 

リィエルはそう言って、大剣を魔力の粒子に霧散させて消していき、ウィリアムは脱力して盛大に息を吐くのであった。

 

 

 

―――後日。

目覚めたグレンは再びセリカを怒らせてしまい、放置したお詫びにフィーベル家御用達の超高級料理店で食事をする羽目となり、ウィリアムはリィエルのお願いで今度の週末の休日は二人きりで遊び回る事となった。

勿論、出費は言わずもがなであり、『夜、背後から刺すべき男リスト』に載っているウィリアムの優先順位が上がったのは言うまでもない。

 

 

 




指パチもロマン
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釣りは巣潜りではない

久しぶりだけど番外編
本編は……この作品のヒロインが不在というショックと現状から安易に進めなくなってしまいました
次巻の本編で復帰して欲しいなぁ……
てな訳でどうぞ


―――とある日の晴天のフェジテ。魔術学院の校外のとある森の湖畔にて。

 

 

「―――と、いうわけで、本日の課外授業は『釣り』をしてもらう!!」

 

 

後ろに素人感丸出しの釣竿の束を携え、グレンは連れてきた二組の生徒達に力強く宣言した。

 

 

「……何で釣りをするんですか?釣りと魔術は全く関係ないですよね?」

 

 

システィーナがジト目で指摘すると、一部を除く他の生徒達もうんうんと頷いて同意する。そんな彼らに、グレンは力強い声色のまま語り始めていく。

 

 

「甘いぞお前らッ!まず、竿を振ることで鍛えられる『腕力』!魚が餌に食らいつくまで待つことで培われる『忍耐力』!そして、食らいついた魚を釣り上げることで得られる『集中力』と『駆け引き』!どうだ!?釣りと魔術は無関係じゃないだろ!?」

 

「た、確かに……って、《そんなわけ・あるか》ぁああああああ―――ッ!!」

 

 

あまりにも自信満々なグレンの言葉に、システィーナは一瞬騙されかけるも、すぐに即興改変の【ゲイル・ブロウ】を唱えた。

 

 

「どわぁああああああああああああ―――ッ!?」

 

 

システィーナの【ゲイル・ブロウ】が今回も見事に炸裂し、グレンは情けない悲鳴と共に吹き飛ばされた。

 

 

「どう見ても、私達を使って食料を得ようとしてますよね!?」

 

「うっせーよ!こちとらシロッテの枝で食い繋ぐのも限界に来てるんだよ!!」

 

「最低!最低です!!そもそも、その釣竿はどこから調達したんですか!?」

 

「決まっているだろう?……俺が全部作ったんだよ!」

 

「その情熱を普段の方に回しなさいよ!」

 

 

本当にいつも通りのやり取り。そんなやり取りを前に、我らが大天使ルミアがいつもの笑顔で仲裁に入っていく。

 

 

「システィもみんなも、気分転換には丁度いいんじゃないかな?」

 

「……そうかもな」

 

「……先日のシュウザー教授の騒動は散々だったからな」

 

「……あれは本当にやばかったよな」

 

「うーん……ルミアがそう言うなら……私もあれは早く忘れたいし……」

 

 

先日の『大天使争奪戦争事件』と名付けられた、オーウェル特製惚れ薬を被って、周りから一歩間違えれば貞操を奪われかれなかったルミアの言葉に、薬でまんまと理性が吹き飛んでいた面々は複雑な表情で同意する。

ちなみにウィリアムは、咄嗟に《詐欺師の盾》の絶対防御の魔力障壁を展開して一人難を逃れていたりする。グレンがこのことにぶつくさ文句を垂れて鬱陶しかったので、非殺傷弾で黙らせた後、金ののべ棒一本押し付けて手打ちにさせたが。

 

 

(よし!本命が上手く誤魔化せたぜ!)

 

 

そんな中、グレンは内心でガッツポーズを取っていた。グレンの真の狙いはこの湖畔で目撃されたと噂されている、魔獣ゴールドフィッシャーの捕獲だったからだ。

ゴールドフィッシャーは文字通り、全身が黄金に輝く体長一メートル程の蛇のような魚である。警戒心が非常に強く、中々お目にかかれない魔獣であるが、『黄金錬成』と呼ばれる自身の排泄物が根源素(オリジン)レベルまで黄金であるという生成能力を持った、金の成る木ならぬ金の成る魚である。

さらに、ゴールドフィッシャーの身体の構成物は全て純金。一説では伝説の魔法金属、神鉄(アダマンタイト)を生み出す過程で生まれた魔獣とも呼ばれているが、今はいいだろう。

ちなみにのべ棒はトランプカードを持つバニーガールさんの肥やしとなった。

 

 

「さぁ、頼むぞお前らッ!頑張って俺のご飯を調達してくれよ!!」

 

「もう、隠す気ないんですね……」

 

 

グレンの表向きの動機からの宣言に、システィーナは力なく溜め息を吐く。

 

 

「……わかった。わたしが魚をたくさん釣る」

 

 

今の今まで、蚊帳の外だったリィエルがそう呟くと、皆の前でいそいそと制服を脱ぎ始めた。

 

 

「って、何故服を脱ごうとしているんだ!?」

 

 

そんな羞恥心の欠片もないリィエルの行動を、ウィリアムが大慌てでリィエルの両腕を掴んで強引に中断させる。対するリィエルはきょとんとした表情だ。

 

 

「?魚を釣るためだけど?」

 

「それは釣りじゃなくて巣潜りだ!」

 

 

至極真っ当なウィリアムの言葉に、システィーナとルミアはもちろん、他のクラスメイト達もうんうんと頷いて同意する。

 

 

「そうなの?」

 

「そうだ。だから、今回は釣竿で魚を釣れ」

 

「……わかった」

 

 

ウィリアムの言葉に素直に頷くリィエル。端から見れば、常識のない妹に苦労するお兄さんである。

とりあえず、グレン製の釣竿はあまりにも酷かったので、ウィリアムはお得意の錬金術で釣竿を錬成して釣りをすることにした。

したのだが……

 

 

「……ねぇ、ウィリアム」

 

「ん?どうした、システィーナ?」

 

「なんでアンタの釣竿だけ、皆に用意した釣竿と違うのかしら?一目で便利と分かるものなんだけど」

 

 

システィーナの指摘通り、ウィリアムが皆に用意した釣竿は金属製の竿に糸を付けただけのものなのだが、ウィリアムが手に持っている釣竿は、糸が巻かれている筒のようなものが付いているのだ。加えて、その筒にはレバーのようなものまで付いている。

そんなシスティーナの質問に、ウィリアムはあっけからんとした様子で答えた。

 

 

「釣りは使い慣れたもんを使うのが一番だろ?」

 

「……えぇー……」

 

 

システィーナの力なき呟きに構わず、ウィリアムは竿を振るって釣り針を飛ばす。同時に、釣糸が巻き付いている筒も

回転して釣り針を遠くへと飛ばしていく。

ウィリアムは椅子を錬成してその場に座り、紙煙草モドキを取り出して口に加え、オイルライターで火を付けて煙をふかせていく。その姿は、意外と様になって……

 

 

「って、何しれっと煙草を吸ってるのよ!?」

 

 

あまりにも自然過ぎる動作だった為、思わず流しかけていたシスティーナは我に返ってギャンギャンとウィリアムに吠えたてていく。対するウィリアムは澄まし顔だ。

 

 

「これは紙煙草の形をしたアロマセラピーだ」

 

 

実際、これには依存性も副作用もなく、単にリラックス効果をもたらすだけの“遊び”も兼ねて作った品物だ。たまたま、必要な素材が市場に出回っていたので購入して久しぶりに作ったのである。

断じて、煙草を吸う姿に若干の憧れを感じて作ったわけではないと、念入りにシスティーナに伝える。

 

 

「……あんたも男って訳ね……」

 

 

ウィリアムの説得虚しく、システィーナから若干残念な評価を貰う羽目となった。ついでに周りの目も生暖かい。

そんなこんなで、二組の面々は釣りへと興じていく。

 

 

「おっ、また釣れたぜ!」

 

「……以外とここは釣れやすいのかもしれないな」

 

「……小ぶり、ですわね」

 

 

以外にも魚は大量に釣れていた。

 

 

「……素焼きでもマトモな飯だからよっぽどいけるぜ……モグモグ……」

 

 

グレンはそれなりの大きさの魚を回収しては裁き、焼いて、ガツガツと食べていた。

 

 

「……むぅ、釣れない」

 

「ま、そういう時もあるさ」

 

 

そんな中、リィエルだけは一匹も魚を釣れないでいた。隣で何匹も大きな魚を釣り上げているウィリアムが励ますも、リィエルの眉間は八の字に歪んだままだ。

リィエルは不機嫌そうに釣糸を睨んでいると……

 

ピクンッ!

 

 

「……来た!」

 

 

釣糸が引き寄せられた瞬間、リィエルは力一杯釣竿を引き上げる。

ざぱぁっ!!という音と共に豪快に釣り上げられたのは……全身が金色に輝く蛇のような魚だった。

地面に引き上げられた金の魚はヌルヌル、ピチピチと地面の上で踊る姿を、釣り上げた本人であるリィエルは眠たげな眼で見下ろした。

 

 

「……これ、何?」

 

「ゴールドフィッシャーという魔獣だな。警戒心が非常に強く、滅多に御目にかかれない魔獣なんだが……」

 

「……食べられる?」

 

「こいつの身体は全て純金で構成されている。全く食用に向いていない」

 

「じゃあ、戻す」

 

 

ウィリアムの説明に、リィエルは若干悄気ながらも何の躊躇いもなく、ゴールドフィッシャーを掴んで、湖畔へと放り投げた。

 

 

「ゴールドフィッシャー、カムバァアアアアアアアック!!」

 

 

ゴールドフィッシャーの存在に漸く気付いたグレンが鬼気迫る表情で駆け寄るも、時既に遅し。ゴールドフィッシャーは湖畔の中へと瞬く間に消えていった。

 

 

「うおぉおおおおおおおおおおお―――ッ!!!」

 

 

それにも関わらず、グレンは諦めずに湖畔に飛び込んでゴールドフィッシャーを追いかけて行くのであった。

 

 

「……グレンが釣りに行った……わたしも行く」

 

「行かんでよろしい」

 

 

そんなグレンを目の当たりにして再び制服を脱ごうとしたリィエルを、ウィリアムは頭痛を感じながら止めるのであった。

―――次の日。

グレンは風邪を引いた為に、その日の授業はセリカが代わりに教鞭を取ることとなり、魔のつく授業となったのは言うまでもない。

 

 

 




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ウィリアムとリィエル、仲直り大作戦

またしても番外編
てな訳でどうぞ


学院のとある日。

 

 

「「「「…………」」」」

 

 

授業開始直前であるにも関わらず、二組の教室の空気がそれとなく重かった。

 

 

「……なぁ、ウィリアム」

 

「……なんだ?」

 

「……いや、やっぱり何でもねぇよ」

 

「そうか」

 

 

その重い空気を作っている原因の一人であるウィリアムにカッシュは話しかけるも、ウィリアムの素っ気ない態度の前に、カッシュはすごすごと引き下がった。

 

 

「……ねぇ、リィエル。もういいんじゃないかな?」

 

「うん。もう済んだ事だし、仲直りしても……」

 

「やだ」

 

 

システィーナとルミアが困ったような笑顔を浮かべながら、この空気を作っているもう一人の原因であるリィエルに話しかけるも、リィエルは不機嫌そうにそっぽを向いて拒否するだけだ。

そう、二組の教室内の空気が重いのは、周りが嫉妬する程に共に過ごしているウィリアムとリィエルがあらかさまに距離を置いているのが原因である。

ことの発端は三日前、リィエルが虫歯を患ったことが今回の始まりだった。

虫歯が発覚した一度目の虫歯治療の際、セシリアの施した麻酔が効かなかったことから、魔力駆動式ドリルで削られた瞬間に凄まじい激痛が走り、リィエルは全力で医務室から逃亡したのだ。

その後、二組の教室にある掃除用具ロッカーに閉じ籠り、追いついたグレンとシスティーナ達が説得しようとしたが、リィエルはその痛みから頑なに虫歯の治療を拒んでしまったのだ。

その時、ウィリアムが―――

 

 

『……仕方ない。このまま連れていくか』

 

 

と、錬金術で完全にロッカーを封鎖して、ロッカーごとリィエルを虫歯治療の為に医務室へ連れて行くという行動に出たのだ。紫電がロッカーに爆ぜた瞬間、リィエルは己の失策に気付くも時既に遅し。

当然、ロッカーごと連行されるリィエルは激しく抵抗し、ロッカーを内側から破壊して脱出しようと試みるも、ウィリアムは得意の錬成で凹んだ瞬間に修復。更に追加でロッカーを覆うように分厚い新たな金属をウィリアムが錬成した為に、自力での脱出は不可能となってしまったのだ。

台車に乗せられて運ばれる間も、『出して!出して!!』『やだやだ!!痛いのはやだぁ!!』『どうして!?どうしてなの!?』『助けて!誰か助けて!!』とリィエルは泣き叫んでロッカーをガンガン叩いていたがウィリアムは全部無視。グレン達も良心の叱責に耐えて無視した。加えて、『虫歯治療の為に連行中』という札が取り付けられていた為、周りも納得して動かなかった。

 

 

『フヒヒ……閉じ込められて泣き叫ぶ少女……実にエグブォアッ!?』

 

 

ちなみに、この事態にあの変態男爵が息を荒げて同行しようとしていたが、ウィリアムは速攻で義手で殴り飛ばして排除した。追加で大した威力もない、錬金術で作った即席爆弾も叩き込んで。

そうしてリィエルを医務室に連れ戻した後、窓は錬金術で封鎖、出入口も分厚い透明な壁を錬成し、魔術罠(マジック・トラップ)を設置してからロッカーの封を解いた。解かれた瞬間、リィエルは弾丸の如く飛び出して逃亡を図るも、出入口の分厚い透明な壁にぶち当たり、そのまま魔術罠(マジック・トラップ)―――黒魔儀【リストリクション】で完全に捕縛。

そのまま診療台に厳重に拘束し、頭も固定。口も特殊な器具を嵌めて、強引に開口させた。

 

 

『んん~~ッ!!んんんんんん―――ッ!!んんん~~ッ!んんんんんんんん―――ッ!!!!』

 

『セシリア先生。今の内に虫歯治療してください』

 

『は、はい……』

 

 

必死に抵抗して泣き叫ぶリィエルに構わず、セシリアに虫歯治療をさせると―――

 

 

『あれ?これは乳歯ですね』

 

 

と、虫歯になっていた歯は乳歯であり、加えてすぐ下に新しい歯が生えかけていたことが分かった為、今度はちゃんとリィエルに効く麻酔を施してから乳歯を引き抜いたのだ。

それで虫歯治療が終わり万事解決……とはいかなかった。

 

 

『ウィルなんて……ウィルなんて、だいっ嫌いッ!!!!』

 

 

拘束から解放されたリィエルは開口一番、涙目でウィリアムに向かってそう叫んだ後、そのまま医務室を飛び出すように立ち去ってしまったのだ。

それ以来、ウィリアムとリィエルはずっとこんな調子である。

ちなみにロッカーはちゃんと元通りにしてあるので問題はない。変態男爵も……一応一命はとりとめている。その事実に大多数から舌打ちが入ったが。

 

 

「……そんじゃあ、本日も授業を始めるぞー……」

 

 

グレンも、そんない心地の悪さを感じつつも、気だるげに授業を進めるのであった。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

「―――という訳で、二人を何とか仲直りさせましょう!!」

 

 

そんな訳で。

本日の学院の放課後、ウィリアムとリィエルを除く二組の生徒達は二人の仲直り方法を考える羽目になっていた。

 

 

「うーん……確かにこのままじゃい心地が悪いよな……」

 

「最初は万々歳だったけど、今は滅茶苦茶居づらい雰囲気で心が痛いです……」

 

「お二人が喧嘩したままというのも、あまりよろしくありませんしね……」

 

「まったく、世話がやける……」

 

 

集まったカッシュ達は現状を憂いたり、心を痛めたり、呆れたりしていたが、二人の仲直りには賛同的だった。

 

 

「だが、どうやって仲直りさせるんだい?リィエルは頑なにウィリアムから距離を取っているし、ウィリアムも意固地になっているけど?」

 

「そうね……原因は文字通り、強硬手段だったことなのよね……ウィリアムがそこを謝れば、リィエルも機嫌を直すと思うんだけど……」

 

「でも、リィエルが虫歯治療を完全に拒んだちゃったのも原因なんだよね……ウィリアム君も最初は口で説得しようとしてたし……」

 

 

ルミアの言う通り、ウィリアムは最初から強硬手段に出た訳ではない。最初は口で説得しようとしていたのだが……

 

 

『リィエル。虫歯を直さないとお前の好きな苺タルトが食べられないんだぞ?』

 

『……それは困るけど……やだ』

 

『放置したら今以上に悪化して、そのすごい痛みが常時襲ってくるんだぞ?』

 

『……それでも、やだ』

 

『今回は麻酔の効きが悪かったんだ。ちゃんと麻酔が効けば、痛くないさ』

 

『……ウソ。次もきっと、すごく痛い』

 

『……最悪、命にも関わるんだぞ?』

 

『……痛いのは、いやだから……絶対やだ』

 

『…………』

 

 

と、こんな感じで頑なになってしまったので、仕方なく強硬手段に出た部分もある。一概にウィリアムが全面的に悪いと言い切れないから余計に難しくなってしまったが。

その事実にシスティーナ達が頭を悩ませていると、教室の扉が盛大に開かれる。そこに居たのは……

 

 

「話は聞かせてもらったッ!このグレン大先生に任せるがいいッ!!」

 

 

……丸めた用紙を片手に抱えたグレンだった。

 

 

「……カッコつけてますけど先生、既に知っていることをドヤ顔で言わないで下さい」

 

「まぁまぁ、システィ……」

 

 

ジト目でツッコミを入れるシスティーナを、ルミアが曖昧に笑ってたしなめる。他の生徒達も、呆れたような視線をグレンに送っていた。

そんな中、グレンはドヤ顔していながら、内心ではものすごく焦っていた。

 

 

(あのまま二人が仲違いなんて冗談じゃねーぞっ!?漸く、リィエルの手綱を押し付け……任せられる相手が現れたってのに、このままだと俺の心労が宮廷魔導士時代に戻っちまうじゃねーか!!それだけは、絶対に阻止しねーとマズイ!!)

 

 

……相当ロクでもない理由で、二人を仲直りさせようとしていたのだった。

 

 

「と、とにかく!あの二人を仲直りさせるんだろ!?それなら、既に俺がとっておきの策を用意しているんだッ!!」

 

「……本当ですか?」

 

「ああ!本当だ!これが、そのプランだ!!」

 

 

グレンはそう言って、抱えていた用紙を広げ、黒板へと張り付ける。

大まかな内容は……

 

1.学院の仕事と称して、とある倉庫にウィリアムとリィエル、二人きりでやらせる。

2.そこで仲直りすれば終了。仲直りしなればプラン2に移行。

3.プラン2は密かに作り上げたセリカが用意した特性空間に放り投げ、オーウェル製の仕掛けや小道具で二人にちょっかいを仕掛けていく。

4.最後に大型の魔導人形を倒させてハッピーエンド。

 

……何とも微妙なものであった。

 

 

「……いい加減過ぎませんか?」

 

「あはは……」

 

 

当然、システィーナからは相変わらずのジト目でツッコミを入れられ、ルミアも変わらずに曖昧な笑みを向ける。他の生徒達も似たり寄ったりの反応だ。

だが、これ以外に妙案が思い浮かんでいないのも事実だ。

 

 

「とにかく、実行は明日だ!気合いをいれろよ、諸君!?とにかく、『仲直り大作戦』ッ!!ここにスタートじゃぁああああああああ―――ッ!!!」

 

「「「「ぉおおおおおおおおおおーーッ!!!」」」」

 

 

グレンの力強い宣言に、システィーナ達は半分ヤケになった心境で作戦参加を決め、雄叫びを上げるのであった。

 

 

 




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絶対に笑ってはいけない魔術学院

タイトルでお察し通りギャグ回
てな訳でどうぞ


とある日の学院アリーナにて。

 

 

「今日は何の集まりなんだろうな?」

 

「さぁ?」

 

「急だから何か大変な事でも起きたのかな?」

 

「確かに……先生達の態度がどこかおかしいし……」

 

 

学院アリーナに集まっている全生徒の口から急に開かれた集会に対しての困惑が洩れ続いている。

 

 

「ふぁ~……何だってんだよ急に……」

 

 

壁際にいる教職員はどこか気が重い雰囲気を漂わせている中、グレンだけは欠伸をかいていつも通りである。

そうして、壇上中央に据えられた講壇の前にリックが悠然と立った。

―――巨大マリモと見間違える程のアフロヘアーで。

 

 

「「「「…………は?」」」」

 

「「「「…………ッ!?」」」」

 

 

明らかに普段の髪型ではないリックの姿に生徒の半数以上は目を瞬かせ、それ以外の生徒は何かに気づいたように脂汗を流し始める。

そんな一同の前で―――

 

 

「HEY!!」

 

 

リックは妙にテンションの高い声と共にポーズを決めた。

 

 

「「「「ブフッ!?」」」」

 

 

リックのその奇行に、半数以上の生徒達、ついでにグレンから笑い声が洩れる。その瞬間―――

 

 

「いんッ!?」

 

「あ痛ァッ!?」

 

「痛ぇ!?」

 

 

笑った者全員の尻に棍棒で叩かれたような衝撃が走った。

 

 

「ゴホンッ。もう気づいたと思うが今年もあれを開催する事となった」

 

 

さっきとは売って変わって真面目な声でリックは語り始める。

 

 

「魔術師は常に自身の感情を制御(コントロール)するもの。それを実践する為に本日は―――『絶対に笑ってはいけない魔術学院』を開催させていただく事とする」

 

 

リックが告げた瞬間、場は静寂に包まれる。そして―――

 

 

「な、何だってぇええええええええええええええ―――ッ!?」

 

「今年もやるのかよ!?」

 

「先生達の様子が変だったのはそういう事だったからか!!」

 

「あれが今日やるとわかっていたら、仮病を使って休んでいたのにぃいいいい―――ッ!!」

 

「え?え?本当に何が始まるの!?」

 

「す、凄く嫌な予感がひしひしと感じるんだけど!?」

 

 

多くの生徒が狂騒と困惑の渦へと一気に呑み込まれていった。

 

 

「ま、マジで何が始まるんだよ……?」

 

「ああ、そういえばお前は知らなかったな」

 

 

自身のお尻を擦って疑問をこぼすグレンに、隣にいるセリカがニヤニヤとした表情で答え始める。

 

 

「この行事は三年前から始められていてな。今日の放課後までは“感情が一定値に達する、もしくは笑うと尻に棍棒で叩かれたような衝撃が走る”という『特異法則結界』が働いているんだ。勿論、結界が働いている間は学院から出ていくのは不可能だ」

 

「なんですと!?」

 

「そして、一番尻を叩かせた教員には金貨五十枚の賞金が与えられ、一番叩かれなかった生徒には一ヶ月の間、学食の料金が免除されるのさ」

 

「ようしっ!今日は何が何でもあいつらの尻を叩かせて賞金を手に入れてやるぜッ!!ダーッハッハガァッ!?」

 

 

セリカからもたらされた賞金の金額に、グレンのテンションは上がり、興奮して高笑いし始めるがすぐに尻に衝撃が走って中断される。

 

 

「念のために言っておくが、授業をほったらかしてそればかりやったり、肉体的接触で叩かせるのは減点対象だ。一番笑わせても最下位になるくらいにな」

 

「それだとやらない奴がいるんじゃねぇか?例えばバールン先輩とか」

 

「その場合は叩かせる不幸が襲いかかるな。例を上げるなら突然転んで地面に突き刺さったり、髪型がいつの間にか愉快な形になっていたりとかな」

 

「強制参加かよ……マジウゼェけど……賞金が美味し過ぎるからな……」

 

 

グレンはそのままどうやって笑わせようかと考えを巡らせていく。

その間も―――

 

 

「―――では、諸君の健闘を祈る」

 

 

リックは最後にそう締めくくり、アフロヘアーを取り外した。

カツラであったアフロヘアーを外したリックの毛髪は―――頭の天辺の一本だけであった。

 

 

「「「「……ぶっ!」」」」

 

 

まさかの二重カツラに多くの生徒と教員が笑った瞬間、再び尻に衝撃が走った。

 

 

「あいつも中々やるなぁ。去年は付け髭で笑わせていたからな(ニヤニヤ)」

 

「そういえばセリカは何で普通に笑えてんの?」

 

「一応、病人とか具合が悪い人物は免除されるのさ。代わりに不参加扱いだがな」

 

「マジずりぃ……」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――そんな訳で。

集会が終わった二年二組の教室は微妙に重い空気が蔓延していた。

 

 

「今日は嫌な一日になるなぁ……」

 

「本当にくだらないな。こんな事に一日も使うなんて」

 

「学食の代金が一月タダになるのは魅力的だけど、割に合わないよなぁ……」

 

「女の子に笑わされるならご褒美……ハァハァ」

 

「はぁ……本当に嫌だなぁ……」

 

「全くですわ……」

 

「あはは……」

 

 

そんな中、ウィリアムとリィエルは―――

 

 

「zzz……」

 

「すぅ……」

 

 

寝ていた。ウィリアムは机に突っ伏し、リィエルはそんなウィリアムの肩を枕代わりにして。ある意味正しい対応である。

そして授業開始十分前で教室前方の扉が開き、グレンが入ってくる。

―――整髪用の香油でしっかりと髪を整え、目元に丸い銀縁眼鏡をかけ、ローブをかっちりと着こなした、授業参観の時に見せた真面目な格好で。

 

 

「「「「ブフゥッ!?」」」」

 

 

てっきりキテレツな格好で現れると思っていた一同は、まさかの不意討ちに笑ってしまう。

 

 

「先生……それ、ズル……ププッ……てぇッ!?」

 

「お尻だけじゃなく、お腹も……ククッ……たぁッ!」

 

 

普段のギャップの違いからどうしても笑いが込み上げており、次々と餌食となっていく。

 

 

「皆さん、授業の準備は出来てみゃすか?」

 

「「「「……ぷっ」」」」

 

 

グレンは丁寧な言葉遣いで噛んだ事で一同は再び笑い声が洩れる。当然、尻に再び衝撃が走る。

 

 

「本日だけ皆さんと一緒に授業を受ける子がいますので、紹介致しますね……どうぞ入ってきて下さい」

 

 

グレンの呼びかけで教室前方の扉が再び開き、入ってきたのは―――

 

 

「皆、久しぶりーッ!ロリカだよぉーッ♪」

 

 

制服を着た金髪の幼女―――に変身したセリカであった。

 

 

「「「「―――ッ!!!!!」」」」

 

「「「「ロリカちゃぁああああああん―――ッ!!!―――あいたぁッ!」」」」

 

 

またしてもまさかの幼女(ロリ)天使の登場に一同は興奮しかけ、多くは辛うじて踏みとどまるも何名かは興奮して叫んでしまい、餌食となってしまう。

 

 

「そーだ!皆にこれを聞かせるよう、ママに頼まれていたんだった♪」

 

 

そう言ってセリカ―――『ロリカ』は懐から魔晶石を取り出し、教壇にいつの間にか設置されていた音声再生用の魔導器にセットする。

そして、音声再生機のホーン部分から―――

 

 

『ん……くすぐったい……』

 

 

聞き覚えのある少女の声が響いてきた。

 

 

『あっ……そんなに舐めないで……そんなに―――食べたいの?……ん。……美味しい?…―――気持ちいい……もっと―――耳―――触―――いい……とても―――』

 

「「「「………………」」」」

 

 

圧倒的な静寂が訪れた教室内で再生された音声が響き続ける。

そして―――

 

 

「「「「ウィリアムぅううううううううううううううう―――あだぁッ!?」」」」

 

 

男子生徒達から一斉に怒声が上がり、同時に尻に衝撃が走る。

 

 

「うぃうぃうぃうぃウィリアムぅんッ!?一体いつリィエルとそんな事をひゃうんッ!?」

 

「システィ、一回落ち着こう?ほら、深呼吸、深呼吸」

 

「ルミア!?システィーナはあちらですわよぉんッ!?」

 

 

女子生徒達もパニックとなり、同様に餌食となっていく。

 

 

「皆どうしてこんなに大騒ぎしてるのかなー?」

 

 

ロリカはわかっていながら子供っぽい仕草で惚ける。

もちろん、この音声は意図的にカットして編集されたもの。つまり、断じてそのようなものではないのだが……

 

 

『ウサギ……かわいい……』

 

 

悲しい事に、混乱真っ只中の生徒達には音声再生機から流れたオチの声が届かなかった。

その為―――

 

 

「ウィリアムぅ……今日の帰り道は背中に気をつけろよぉ……?」

 

「いや……今すぐ始末すべきだ……」

 

「……ふん」

 

「ケダモノ……ケダモノですわ……」

 

「…………」

 

 

手酷い誤解が蔓延することとなった。

そして、当の本人達は―――

 

 

「zzz……」

 

「すぅ……」

 

 

未だ夢の中であった。

 

二人が目を覚ましてすぐに例の録音が再生され、その時に誤解だと判明し、大騒ぎした一同は一気に疲労感が襲いかかることとなった。

ちなみに……

 

 

「全員揃ってるな?それでは、本日も授業を始める!」

 

「「「「……ぷっ!」」」」

 

 

去年は参加せず散々な目にあった為、今年はグルグル模様の丸眼鏡をかけて現れたバーテンダー(?)の姿に、一組の口から笑い声が吹き出ていた。

 

 

 

 




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絶対に笑ってはいけない魔術学院・2

てな訳でどうぞ


いつ笑いの攻撃が来るのかわからない状況の中、本日の授業が開始される。

一限目は集会で潰れたため、授業自体は二限目から行われる。

そうして授業が行われるのだが―――

 

 

「ここはこうりゃ―――こうなります」

 

「「「「ぷくっ」」」」

 

 

グレンは丁寧な口調で噛んでいるのだ。それもわざとではなく素で。そのため余計に笑いが込み上げてしまう。

 

 

「くっ……てぇッ!」

 

 

当然、ウィリアムも笑いの餌食となる中―――

 

 

「……やっぱりかわいい」

 

 

リィエルはロリカの頭を撫でていつも通りであった。が……

 

 

「あ、そーだ!ママからパパに伝言があったんだ」

 

 

ロリカが思い出したように告げて、その内容を大きく声に出して伝える。

 

 

「勝手にママのお金を使ったパパには制裁のビンタだって♪」

 

「!?」

 

 

ロリカが満面の笑みで告げたその瞬間―――

 

 

『ガッデムッ!!』

 

 

教室前方の扉が荒々しく開く。そこからバタフライフィールドが現れ、ズカズカと顔が真っ青となっているグレンへと近づいていき、そのまま胸ぐらを掴み上げる。

 

 

『マスターノソウルフレンド、グレン=レーダス。オ前ハセロリ=アスファルトノオ金ヲ勝手ニ使イ、大キナ買イ物ヲシタ罪ガアル……弁明ハ?』

 

「な、ナンノコトダカさっぱりダナー?」

 

『嘘ヲツクナ。オ前ハドクズナ考エノ下、コ―――』

 

「すいません。私は勝手な都合でセリカのお金を使いました許してください」

 

 

バタフライフィールドが『複製人形(コピードール)』の事を喋ろうとしたので、グレンは素の口調で既にバレている勝手な使い込みを謝罪。その使い道を何とか遮る。

 

 

「先生……」

 

「本当に最低ですわね……」

 

「はぁ……」

 

「おもいっきり()たれてください」

 

 

だが、母親代わりの女性のお金を勝手に使った事実に周りから白い視線がグサグサとグレンに突き刺さっていく。

 

 

『デハ、セロリニ謝罪シロ。ソウスレバ一発デ許シテヤル』

 

「……謝らなかったら?」

 

『往復ビンタダ』

 

「セリカさん!貴女のお金を勝手に使って申し訳ありませんでした!」

 

 

グレンが謝罪の言葉を叫んだ瞬間。

 

バチーンッ!!

 

バタフライフィールドの制裁のビンタが炸裂した。

バタフライフィールドのビンタを食らったグレンは顔から眼鏡が飛び、その場で倒れて生徒達を見やる。

―――変顔で。

 

 

「「「「ぷっ」」」」

 

 

その変顔に堪らず笑い声が洩れ、もう何度目かわからない衝撃が尻に襲いかかる。

 

 

『ガッデムッ!!』

 

 

バタフライフィールドは決め台詞を残して教室を後にしていった。

 

 

「パパ、もう悪い事しちゃメッ!だよ?」

 

「……ハイ」

 

 

ロリカに叱られる正装グレンの姿はどこかシュールであった。

ちなみに―――

 

 

「…………(ピクピク)」

 

 

ロリカの登場を聞きつけ、感情が極限まで昂っていたツェスト男爵は尻に連続で走った魔闘術(ブラック・アーツ)並みの衝撃により、白眼を向いて痙攣していた……

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

―――三限目の授業は黒魔術の実践授業だ。

その際には的となる人型ゴーレムが使われるのだが……

 

 

「……なぁ、先公」

 

「どうしましたか?」

 

「なぜ人型ゴーレムの一体の顔部分に俺の顔写真が張ってあるんだ?しかも、そのゴーレムの的が一ヵ所余計な箇所に付いているんだが?」

 

 

こめかみに青筋を浮かべているウィリアムが指摘している通り、五体用意された的となる人型ゴーレムの内の一体には自身の顔写真が張られており、的も脚と脚の付け根の間にも取り付けられているのだ。

 

 

「唯の偶然です」

 

「ふざけんなッ!!明らかにてぇッ!!」

 

 

何処からどう見ても悪意しかないゴーレムにウィリアムは逆上し、尻叩きの餌食となる。

 

 

「では、授業の説明を始めます。呪文はこの距離ですから黒魔術であれば、呪文は基本的に何でも構いませんし、当てる事が出来ます。なので、今回は一分という限られた時間で的に何回当てられるかテストします」

 

 

それを無視したグレンは今回の授業を事細かに説明していき……

 

 

「それでは、始めてくだしゃ―――ください」

 

「「「「プッ」」」」

 

 

最後の方でまた噛み、無かったように締めくくったグレンに一同から再び笑い声が洩れ、またしても餌食となる。

ひとまず、システィーナ、ウェンディ、カッシュ、セシル、ベッキーの五人が定位置に立ち、左手を構える。

 

 

「では、始めッ!」

 

「「「《雷精の紫電よ》ッ!」」」

 

「《凍てつく氷弾よ》ッ!」

 

「《虚空に叫べ・残響為(ざんきょうす)るは・風霊の咆哮》ッ!」

 

 

グレンの合図でシスティーナ、セシル、ベッキーは【ショック・ボルト】を、ウェンディは黒魔【フリーズ・ショット】を、カッシュは黒魔【スタン・ボール】の呪文を唱え、ゴーレムの的に向けて撃ち放つ。

【ショック・ボルト】と【フリーズ・ショット】は無難な位置の的に当たったが、カッシュが放った【スタン・ボール】は真っ直ぐに例の人型ゴーレムの例の的に直撃した。

 

 

「…………」

 

「《雷精の紫電よ》ッ!」

 

 

カッシュは続けざまに【ショック・ボルト】を放ち、再び同じ箇所に呪文を当てる。

その後も呪文を唱え、的に当てていき……

 

 

「―――はいッ!そこまでです!」

 

 

グレンの終了の合図でシスティーナ達は呪文を撃つのを止める。

 

 

「白猫さんは十五回、ウェンディさんは十二回、セシル君は十三回、ベッキーさんは十回、カッシュ君は八回ですね」

 

 

グレンは的に当てた結果を告げながら手元のボートに書き込んでいく。結果だけ見ればカッシュは最下位だが……その顔はとても爽やかであった。

 

 

「……おい、カッシュ」

 

 

反対にウィリアムは苛立ちを押し殺したように震えており、爆発寸前であった。

 

 

「どうしたんだウィリアム?」

 

「何故、執拗にあの的に全部当てていたんだ?」

 

 

そう、カッシュは八回とも例の的に当て続けていたのだ。

理由を問われたカッシュは爽やかな笑顔のままウィリアムに向き合い―――

 

 

「勿論、八つ当たりだけど?」

 

 

さも当然と言わんばかりに、そう言い切った。

 

 

「……ふっざけんなぁあがぁッ!?」

 

 

その返答に当然、ウィリアムは激昂。結果、またしても尻叩きの餌食となる。

その後も男子生徒が我先にとそのゴーレムの例の的を授業関係なく狙い続け、感情が高ぶり続けたウィリアムは魔闘術(ブラック・アーツ)並みの衝撃が走って撃沈。そして―――

 

 

「こういう時は膝枕で慰めるんだってママが言っていたよ♪」

 

「そうなの?」

 

「そうだよ!」

 

「……わかった」

 

 

ロリカの入れ知恵により、リィエルはウィリアムに膝枕をして慰める事となった。

 

 

「「「「(ニヤニヤ)」」」」

 

「「「「ちくしょぉおおおおおお―――あだぁッ!!」」」」

 

 

その光景を女子生徒達はにやついて見守り、男子生徒は絶叫して尻叩きの餌食となった。

 

 

その頃―――

 

 

「ここはこうなってだな……」

 

「「「「…………(スッ)」」」」

 

「「「「……ププッ」」」」

 

 

最初の眼鏡しかしていなかったバレテーラ(?)は呪いによってズボンがずり落ちていた……

 

 

 




まだ続く地獄
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魔獣スペルモンキーのイタズラ

てな訳でどうぞ


アルザーノ帝国魔術学院のとある日。

 

 

「昨日、授業の為に取り寄せていたスペルモンキーが脱走した」

 

 

学院校舎本館の大会議室の議長席でリックが沈痛な面持ちで告げた言葉に、急遽呼び集められた全教職員がざわめき立つ。

スペルモンキーとは、見た目は縞模様の毛並みに目が不釣り合いな程に大きい小猿であり、相応の時間をかければ魔術を扱えるという珍しい魔獣だ。一見すれば使い魔として優秀に見える魔獣なのだが、このスペルモンキーは大のイタズラ好きという傍迷惑な習性を持っているのだ。しかも、無駄に悪知恵が働くというオマケつきで。

 

 

「全く、誰が原因で逃げ出したのだ!!」

 

「…………」

 

 

ハーテンダー(?)の怒りに満ちた言葉に、グレンは若干目を泳がせる。それをハーテンダー(?)は見逃さなかった。

 

 

「グレン=レーダス!!よもや貴様がスペルモンキーを逃がしたのかッ!?そういえば昨日は貴様が授業の為に持ち出していたな!?」

 

「違いますよハーレイチェル先輩ッ!!確かに昨日一回檻の中から取り出しましたけど、ちゃんと鍵は閉めて戻しましたよ!?」

 

「余計な言葉が混じっているぞグレン=レーダス!!兎に角、本当に鍵は閉めたのか!?物理的だけでなく魔術的にも閉めなければ、スペルモンキーは簡単に檻から抜け出すぞ!!」

 

「…………あっ」

 

 

ハーレイチェル(?)の続く言葉にグレンは普通に施錠しただけだと思い出し、抜けた声を洩らす。

ハーレイチェル(?)の言う通りスペルモンキーは悪知恵が働く為、物理的な鍵だけでは魔術を使って簡単に解錠してしまう。

しかも今回取り寄せたスペルモンキーは魔術を結構覚えているのだ。簡易な魔術的施錠なら簡単に解呪(ディスペル)してしまう。

 

 

「やはり貴様が原因かぁあああああああああああ―――ッ!!!!」

 

「イヤ、マジで違いますって!!確かに魔術的施錠は忘れましたけど、そのすぐ後、男爵に渡しましたよ!?」

 

 

グレンのその弁明で一斉に視線がツェスト男爵方へと向く。

 

 

「そうだったのかい?スペルモンキーが大人しかったから、てっきりちゃんと閉まっていると思って、試しに白魔術の使い方を教えたのだが……」

 

「使い方ですか!?まさか……」

 

 

最近新しく赴任したギーゼン=Gアルバーンが焦燥を露に問いかけると、ツェスト男爵は紳士然とした雰囲気で答えた。

 

 

「うむ。女の子を泣かせたり、怖がらせたりする使い方等だ」

 

「さ、最悪だぁあああああああああああああああ―――ッ!?」

 

「あのスペルモンキーになんという事を教えたのですか男爵!?」

 

「……グレン君。責任以てスペルモンキーを捕まえてくるんじゃぞ?捕まえられなかったら減給ね」

 

「そんな!?」

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――同時刻。いつものように賑やかな学生食堂にて。

 

 

「あれ?俺のライ麦パンが消えてるぞ?」

 

「もう食べちゃったんじゃないの?」

 

「そんな筈はないんだけどなぁ……?」

 

 

テーブルに座って食事を摂っていた男子生徒はいつの間にか消えていたライ麦パンに首を傾げながらも地鶏の香草焼きを口に運んでいく。

そんな彼らのテーブルの下には、黒魔【セルフ・トランスパレント】―――自己透明化の魔術で隠れている縞模様の子猿―――件のスペルモンキーがライ麦パンをモグモグと頬張っていた。

そんな中、普段は学院外の高級料亭で食事するウェンディは久々に学生食堂で昼食を摂ろうとしている。

 

 

「《キキキ》ッ」

 

 

スペルモンキーが料理が載ったトレーを手に抱え、空いている席を探しているウェンディに左手を向けて詠唱する。

 

 

「ん……ッ!?」

 

「どうし―――」

 

「え―――」

 

 

すると、周りの生徒達が一斉にウェンディに向ける目が点となり、視線が釘つけとなる。厳密に言えば彼女の下半身に。

 

 

「え……?」

 

 

ウェンディは周りの視線と、突然感じる下半身の涼しさに顔を下に向けると、足下には制服のスカートが落ちていた。

スペルモンキーが白魔【サイ・テレキネシス】でウェンディのスカートを降ろしたのである。

 

 

「―――イヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?!?」

 

 

事態を理解したウェンディは顔を真っ赤に染めて大声を上げ、トレーを手放してその場にしゃがみこむ。

料理が載ったトレーが音を立てて床に落ち、床を汚すも、ウェンディはそれに気も止めずに急いでスカートに手を伸ばす。だが―――

 

 

「ああッ!?待ってくださいましぃいいいいいいい―――ッ!?」

 

 

スカートは何かに引っ張られるようにウェンディから離れていき、そこまま窓の外へと消えていった……

 

 

「《キキ・キキキ・キキウキ》ッ」

 

 

そんな窓に向かって手を伸ばすウェンディに、スペルモンキーは更に呪文を唱える。

すると―――

 

 

「イヤァアアアアアアアアアア―――ッ!?わたくしの身体中に虫がぁああああああああああ―――ッ!?!?」

 

 

白魔【ファンタズマ・フォール】で蜘蛛、バッタ、蟷螂、黒い悪魔、ムカデ、等の昆虫達が身体中にくっつき、這う幻影がウェンディに襲いかかる。

今見えている光景が幻影だと気づいていないウェンディは完全にパニックとなり、身体中に張り付き、服の中に侵入している虫達を振り払おうと必死になっている。

 

 

「《ウキャ・キキキ・キキャー》」

 

 

そんな涙目のウェンディに、スペルモンキーは白魔【マリオネット・ワーク】を唱え、ウェンディにセクシーダンスを無理矢理踊らせていく。

 

 

「お願いですから、見ないでくださいましぃいいいいいいい―――ッ!!!!!」

 

 

もう何が何なのかわからないウェンディはガチ泣きで必死に叫ぶ。

 

 

「《ウキ》」

 

 

スペルモンキーは最後に白魔【スリープ・サウンド】を放ち、パニック真っ只中のウェンディを一気に夢の世界へと旅立たせた。

 

 

「キキッ♪」

 

 

スペルモンキーは上機嫌で鳴き、混乱真っ只中の食堂を後にしていった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「もう既に被害が出ていたとは……」

 

 

医務室のベッドの上で眠っているウェンディを見てグレンは悔やむように声を絞らせ、拳を握り絞めていく。

あの後、学生食堂で騒ぎが起きていると聞き、グレンが急いで駆けつけたのだが、その食堂では自身の生徒であるウェンディが憐れな姿で眠っている光景が広がっていたのだ。

そして、周りの生徒達から詳しい事情を聞き、スペルモンキーの仕業だと気づいたのである。

 

 

「早くスペルモンキーを捕まえないと、被害がどんどん広がっていきますよ」

 

「……ああ、わかっている」

 

 

ギーゼンの言葉にグレンは沈痛な面持ちで同意する。

 

 

「僕はセシリア先生の面倒もありますので、捕獲には参加出来ませんが頑張ってください」

 

「ああ……」

 

 

グレンはその瞳に静かな闘志を宿し、スペルモンキーを捕獲する為に医務室を後にしていった。

 

 

 




オリ主出なかったなぁ·····
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魔獣スペルモンキーのイタズラ・2

てな訳でどうぞ


グレンが決死の表情で医務室を後にした頃―――

 

 

「珍しいなギイブル。俺に質問してくるなんて」

 

「ふん。君に勝つ為なら、これくらいは甘んじて受け入れるさ」

 

 

学院のカフェテラスにウィリアムとギイブルはそれぞれの飲み物とサンドイッチをテーブルの上に載せてそこにいた。

午前の授業が終わった後、ギイブルが先の錬金術の授業でウィリアムに聞きたい事があると言ってきたので、ウィリアムはたまにはいいかと思い、昼食を摂りながら質問に答える事にしたのである。

 

 

「ここの配列式と根源素(オリジン)の数値は大体こんな感じだな……」

 

「なるほど……だが、それだと……」

 

「ああ、それは……」

 

 

そんな会話に夢中になっている二人のそれぞれの飲み物に、何かが混入されるような波紋が広がっているが二人はそれに気づいていない。

 

 

「―――まぁ、大体こんな感じかな?」

 

 

ひとしきり説明を終えたウィリアムは、そのまま手元のコーヒーが入ったカップを持ち、カップを口につけると―――

 

 

「ブフゥ―――ッ!?」

 

 

あまりにもあり得ない辛さに、口に含んでいたコーヒーを一気に噴き出した。

 

 

「どうしたんだいウィリアム?急に―――」

 

 

ギイブルは呆れながらカップの中の紅茶を口に運ぶと―――

 

 

「―――ッ!?ゴホッ、ゲホッ!」

 

 

最初に飲んだ時とは全く違う、あり得ない甘さに噎せて、紅茶を吐き出してしまっていた。

 

 

「ウキキッ♪」

 

 

その光景を、彼らの飲み物に食堂から掠め取った調味料を大量に投入していたスペルモンキーは上機嫌で視界に収めた後、次のイタズラの為にその場から密やかに離れていった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

スペルモンキーが次に訪れたのは中庭であった。そんなスペルモンキーが次に狙いを定めたのは、和気藹々と食事を摂っている三人の女子生徒―――システィーナ、ルミア、リィエルである。

 

 

「だからあの論文はおかしいのよ!!今まで出された論文を総合的に考えれば―――」

 

「あはは……」

 

 

古代遺跡マニアのシスティーナは自身の持論を熱烈に語っており、それを聞いているルミアは曖昧に笑い、話の内容を理解していないリィエルはモグモグとパイを頬張り続けている。

 

 

「《キィキィ・キキャキャ・ウキュー》」

 

 

茂みに隠れたスペルモンキーは、変わらずに鳴き声で呪文を唱える。唱えた呪文は―――白魔【チャーム・マインド】だ。

 

 

「だから―――」

 

 

そんな捲し立てるように熱く語っていたシスティーナの口が不自然に止まった。

 

 

「…………」

 

「?システィ?どうしたの急に?」

 

 

突然静かになったシスティーナにルミアが心配そうに声をかける。すると、ルミアを見るシスティーナの顔がまるで恋する乙女のようになり、そのままゆったりとした動作でルミアに近寄っていく。

 

 

「……ルミア……私は貴女の事がずっと……」

 

「えっ、ちょっ!?システィ!?」

 

 

心無しか、目がハートになっているシスティーナはそのままルミアを押し倒し、彼女の制服の上着に手をかけ始める。

 

 

「ど、どうしたのシスティ!?急にこんな……」

 

「また、育ってる……本当に羨ましいなぁ……」

 

「ひゃん!?駄目だよシスティ……あ、あんッ!」

 

 

システィーナはルミアの制服のボタンを外して、その白い肌と豊満な胸を覆う下着をさらけ出させ、揉んで、顔を埋めていく。

その百合百合しい光景に、中庭にいた男子生徒達は鼻を押さえてその場で蹲った。

その光景をリィエルは不思議そうに見つめていたが……

 

 

「《ウキ・キキウキャ・キュー》」

 

 

そんなリィエルに向かって、スペルモンキーが白魔【コンフュージョン・マインド】を唱えた。

 

 

「……暑い」

 

 

当然、何の備えもしていなかったリィエルはその【コンフュージョン・マインド】をマトモにくらい、熱にうなされたようにポツリッと呟く。

 

 

「……水浴び、したい……」

 

 

リィエルは周りを見渡すが近くに池も噴水も見当たらず、探している間にも感じる暑さがどんどん高くなっていく。

 

 

「……仕方ない。脱ぐ」

 

 

リィエルはそう呟くや否や、自ら制服の上着を脱ぎ始めた。

 

 

「だ、駄目だよリィエル!こんなところで脱いじゃ、あぁんっ!」

 

「……そうなの?だけど、すごく、暑い……」

 

 

システィーナに身体をまさぐられているルミアが制止の声をかけ、リィエルは一度手を止めるも―――

 

 

「……やっぱり、脱ぐ……」

 

 

やはり暑さに耐えきれずに制服を再び脱ぎ始めた。

 

 

「目の前に『楽園(エデン)』があるぞ!!」

 

「たとえ底辺に墜ちようと、この光景を脳裏に焼き付けなければ、悔やんでも悔やみきれない!!」

 

「男子!!今すぐここから立ち去りなさい!!」

 

「しっかりして!!ここでそんな事をしたら駄目だよ!!」

 

 

目の前で出来上がりつつある光景に、男子生徒達は記憶に焼き付けようとしたり、女子生徒達は止めようとしたりと騒動はどんどん大きくなっていく。

 

 

「ウキャキャッ♪」

 

 

その光景をスペルモンキーは大変満足そうに眺めた後、軽い身のこなしで立ち去っていった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

―――再び医務室にて。

 

 

「―――~~~~~~~~ッッッ!!!!!!!!!!!」

 

「涼しい……」

 

 

ベッドの上でシーツにくるまって悶えているシスティーナと、大きな氷嚢に抱きついて眠っているリィエルがいた。

あの後、騒動を聞き駆けつけたグレンと、騒がしさから顔を出したウィリアムにより、その場は何とか収まった。

システィーナは精神を浄化された後、自身の仕出かした行動からの羞恥で悶えまくっており、リィエルも精神を浄化されたがその余韻はまだ残っており、ウィリアムが用意した氷嚢で涼を取って眠りこけてしまっていた。

 

 

「スペルモンキーが脱走とか……本当に面倒臭い事態だろ……」

 

「うん……そうだね……」

 

 

医務室で事態を知ったウィリアムはうんざり気味に呟き、ルミアも複雑な表情で同意する。

ちなみにグレンはシスティーナとリィエルを医務室に運ぶよう指示した後、再びスペルモンキー捕獲の為に動き回っている。

 

 

「しかし、スペルモンキーは何故ここまで卑猥なイタズラを……?男爵の入れ知恵があるとはいえ、ここまで執拗に―――」

 

『ガッデム!!』

 

 

ギーゼンが今回のスペルモンキーの行動に疑問に思っていると、医務室の扉が大きな音を立てて開き、そこからズカズカとオーウェル製の魔導人形『バタフライフィールド』が入って来た。

 

 

「うわ!?何なのですか!?」

 

『マスターノ研究室カラ発明品ガ盗マレタ!オ前達、何カ心当タリハナイカ?』

 

「……何が盗まれたんだ?」

 

 

バタフライフィールドの質問に、ウィリアムは猛烈なまでに嫌な予感を覚えながら盗まれた物を聞く。

 

 

『マスター謹製『ナゼカ服ダケ溶カス液』ダ』

 

 

その瞬間、全員の顔が一気にひきつった。この状況でその液体が盗まれた理由等一つしか浮かばない。

 

 

『ソノ反応、何カ知ッテイルナ?』

 

「えっと……」

 

 

ルミアが代表してそれに答えようとした―――その時。

 

 

「「「「…………きゃああああああああああ―――……」」」」

 

「「「「…………う、うおぉおおおおおおお―――……」」」」

 

 

遠くから叫び声が響いてきていた。

 

 

「「「…………」」」

 

 

その瞬間、ウィリアム、ルミア、ギーゼンは最悪の事態が起きた事を悟った。

この数分後、『対スペルモンキー緊急会議』が生徒会室で開かれる事となった。

 

 

 




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魔獣スペルモンキーのイタズラ・3

てな訳でどうぞ


「……これより、スペルモンキー対策会議を始めます」

 

 

重苦しい雰囲気の中、生徒会長のリゼが口を開く。

 

 

「スペルモンキーは数十分前、学院の屋上から変態マスターの『なぜか服だけ溶かす液』を小雨のようにばら蒔き、中庭にいた多くの生徒の制服を溶かしました……」

 

「現在、服を溶かされた生徒達は学院に置いてある実験用のフード付きローブを着用させて空き教室に男女に分けて待機させてますが……女子生徒達が負った心の傷は甚大です……」

 

 

生徒会役員の一人が痛ましげな表情で報告する。

スペルモンキーはオーウェルの研究室から件の液体が入った瓶を持ち出した後、屋上へと上がり、魔術を使って振り撒いたのだ。

当然、振り撒いた先の中庭に居た生徒達の衣服は溶け、男女の肌色桃源郷が形成された。

全身肌色となった女子生徒達はその場で己の秘所を隠すように蹲り、同じく肌色となった男子生徒達は自身の秘所を隠すのを忘れて充血するほど凝視し、騒動を聞き付けた男子生徒達が女子生徒達の生まれたままの姿を拝みに行くという事態が起きた。

その後は被害にあっていない女子生徒達の迅速な()()の対応でその場は何とか収まったが、このままだとスペルモンキーによる被害は拡大していく一方である。

 

 

「現在、この場にいない生徒会と有志メンバー達がスペルモンキー捕獲に動いていますが……」

 

「この学院にいる全ての人達に【マインド・アップ】を自身に付呪(エンチャント)するよう徹底してください。これ以上の犠牲者を出さないためにも―――」

 

「大変です会長さん!!」

 

 

その会議を中断するように、生徒会に入り浸っているオーヴァイ=オキタが生徒会室へと入って来る。

 

 

「どうしましたか!?まさか、またスペルモンキーの被害が……ッ!?」

 

「はい!今回の犠牲者はハーレイ先生です!!ハーレイ先生の頭に強力な魔術接着剤を塗りたくられたハゲ頭のカツラを被せられて、それをハーレイ先生が無理矢理外した結果、貴重な毛根に甚大なダメージを負いました!!間違いなくスペルモンキーの仕業ですよ!!」

 

「……そうですか」

 

 

スペルモンキーがもたらしたであろう微妙(?)な被害の報告にリゼが力なく応答した矢先、机に置いてあった通信魔導器が音を立てて点滅を繰り返し始める。リゼは慣れた手つきで通信器を操作し、耳へと装着する。

 

 

「どうかしましたか?」

 

『大変ですリゼ会長!!着替え中の女子更衣室に数名の男子生徒が堂々と更衣室に入り、女子生徒達から集団リンチされていました!扉を確認したところ、女子更衣室を示すプレートが男子更衣室を示すプレートにすり替えられており、スペルモンキーの仕業に違いあ―――』

 

『会長!!学院飼育用のラナード蛇が学院の廊下を徘徊しています!!おそらくスペルモンキーが―――』

 

『割り込み失礼します!!こちらは死んだ魚のように倒れている男子生徒二名を発見しました!!周りから事情を聞いたところ、その男子生徒は顔が不自然に距離を詰め、互いに唇を重ね合わせたとの事です!!これもスペルモンキーの仕業―――』

 

『廊下にクリームまみれの女子生徒が―――』

 

『こちらはツェスト男爵がスペルモンキーの仕業に託つけイヤァアアアアアアアアアアアア―――ッ!?!?』

 

『シュウザー教授!!お願いですから何も―――』

 

 

次から次へと上がっていく被害報告。たった一体のスペルモンキーにいいようにやられている現実に、リゼは必死に頭を回転させていく。

一度頭を落ち着かせようと、リゼは手元にある紅茶の入ったカップを口につける。

 

 

「あ、私も頂きますねー」

 

 

オーヴァイも軽い水分補給程度でポットの紅茶をカップに注いで口につける。

そして、リゼが生徒会メンバーに指示を出そうとした―――その直後。

 

 

「ふふっ……」

 

「か、会長……?」

 

 

突然全身を小刻みに震わし始めたリゼに、その場にいるメンバーが困惑した―――次の瞬間。

 

 

「「あーっははははははははははははははははははははははははははははははは―――ッ!?」」

 

 

リゼとオーヴァイが突如、部屋中に響き渡るほどの馬鹿笑いを始めた。

 

 

「か、会ちょーーーーーう―――ッ!?」

 

「い、いきなりどうしたの!?」

 

「ど、どうしたんですか!?急に―――」

 

 

その場にいた全員がリゼとオーヴァイの突然の急変に慌てて駆け寄ろうとした直後、不意に生徒会室の扉に気配を感じ、急いでそちらに目を向けると、開け放たれた扉の前には灰と黒の縞模様、不釣り合いな程に大きな黒い目の子猿―――件のスペルモンキーと小さな妖精がいた。

 

 

「「「「…………」」」」

 

「キキャ♪」

 

 

スペルモンキーは楽しそうな鳴き声を残し、妖精―――召喚した使い魔とともに立ち去っていった。

 

 

「「「「……急いで追いかけろぉおおおおおおおおおお―――ッ!?」」」」

 

 

ようやく我に返った一同は大急ぎでスペルモンキーの後を追いかけていった。

 

 

「あははははははははははははははっ!?あっはははははははははははははははは―――ッ!?」

 

「あははははははあごはぁッ!?あはごはげほっはごほぉッ!?」

 

 

強力な精神高揚剤入りの紅茶を飲んだリゼとオーヴァイを放置したまま……

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――三度医務室にて。

 

 

「す、すいません……御迷惑をおかけしました……ふふっ」

 

「まだ無理しないでくださいね。中和剤は射ったけど、完全にとはいかないからね」

 

「はい……」

 

「うきゅう~……」

 

 

あの後、リゼは何とかオーヴァイを背負って自力で医務室へと訪れ、ギーゼンから精神高揚剤の中和剤を射ってもらい、何とか会話ができるまでには回復した。

オーヴァイも中和剤と治癒魔術を施され、何とか無事である。

 

 

「本当にスペルモンキーの被害が広がっていく一方ですよ……」

 

 

ギーゼンは力なく視線を横へと向けると、未だ夢の中のウェンディ、氷嚢に抱きついて寝ているリィエル、失神しているハーレストア(?)、全身がボロボロとなっている数名の男子生徒、うなされているセシルとハインケル等、多くの犠牲者が医務室に居た。

 

 

「早く解決しないでしょうか……」

 

 

ギーゼンがそう呟いて深く溜め息を吐いた―――その直後。

 

 

「―――イヤァアアアアアアアァァァ…………」

 

 

遠くの方から、羞恥から立ち直り怒りへと転化してスペルモンキー捕獲に参加していたシスティーナの悲鳴が聞こえてきていた。

その数分後―――

 

 

「あは、あははは……」

 

 

壊れたように笑い声を上げるシスティーナが運ばれてきた。

 

 

「……彼女に一体何がありましたか?」

 

「……ラナード蛇に情熱的に巻き付かれていました」

 

 

ギーゼンの質問に彼女を運んできた生徒が痛ましそうに答える。

システィーナはスペルモンキーにラナード蛇が好むフェロモン液を頭からかけられてしまい、それを嗅ぎ付けたラナード蛇が求愛行動で巻き付いた結果、蛇が苦手なシスティーナはその恐怖のパラメーターが振り切れてこうなってしまったのだ。

一先ず、ギーゼンはシスティーナに精神安定剤を投与し、床に敷いたシーツに寝かせると……

 

 

「……上等だ。この(オレ)自ら成敗してくれようぞ」

 

「あのふふっ、ギーゼン先生……?」

 

 

リゼの疑問を無視してギーゼンは王者のような歩みで医務室から出ていった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

学院本館の廊下にて。

 

 

「くぉおおらぁああああ―――ッ!!待ちやがれぇええええ―――ッ!!!」

 

「キキー♪」

 

 

グレンが決死の表情でスペルモンキーを追いかけていた。

現在、グレンは【愚者の世界】を起動しスペルモンキーの魔術を封じているのだが、スペルモンキーは【フィジカル・ブースト】で強化した身体能力で軽々と逃げ回っている。

そんなからかうようにグレンの方に顔を向けるスペルモンキーの前方が突如、空間が波紋のように揺らめき、その揺らめきから三本の剣が発射された。

 

 

「ウキャッ!?」

 

 

その突然の攻撃にスペルモンキーは咄嗟に飛んでかわすも、スペルモンキーの周りの空間が幾つもの波紋の揺らめきが出来上がり、そこから大量のネットがばら蒔かれる。

 

 

「キキャーッ!?」

 

 

そのネットの弾幕にスペルモンキーはなすすべなく捕まり、無様に地面へと這いつくばる。ネットには【ディスペル・フォース】が付呪(エンチャント)されているようであり、スペルモンキーはバタバタと足掻くだけであった。

 

 

「フン。随分と虚仮にしてくれたな、山猿」

 

 

そんなスペルモンキーと、あっさりと捕まった事に茫然となるグレンの前に、口調と雰囲気が見事に変わっているギーゼンが悠然とした足取りで現れる。

 

 

「今からこの(オレ)自ら貴様に躾を施してくれよう。有り難く受け取るがいい」

 

 

ギーゼンはそのまま不適な笑みでスペルモンキーへと歩み寄り―――

 

――― 一時間後。

 

 

「キ、キキャァ……」

 

 

檻の中でガクガクブルブルと震えているスペルモンキーが出来上がっていた。

 

 

「スペルモンキーの捕獲、お疲れ様ですグレン先生」

 

「あー、うん。ソウデスネ……」

 

 

普段の雰囲気に戻ったギーゼンの労いの言葉に、グレンは遠い目で頷く。

ギーゼンはどういうわけかシスティーナに薬を投与した後からの記憶が物の見事に抜け落ちており、躾の一部始終を見ていたグレンはそれに触れてはいけないと思い、その辺りの追及を諦めていた。

こうして、スペルモンキーのイタズラ騒動は幕を……

 

 

『何々……『カッシュ……マイ……フレンド……』ダト?』

 

 

閉じる前にまだ一悶着がありそうであった……

 

―――数分後。

 

 

『カシューナッツヨ。オ前ガ黒幕ダッタカ』

 

「違う!断じて違う!!」

 

『アノ猿ハ、『カッシュ……マイ……フレンド……ダカラ……喜バセタカッタ……』ト言ッテイタゾ』

 

「だから違うと―――」

 

『ソシテ、オ前ハ昨日、『ドウセナラエロイイタズラヲシテクレタライイノニナ』トコノ猿ノ前デ喋ッテイタダロウ』

 

「確かに言ったけど誤解だぁああああああああ―――ッ!!」

 

『三ッ!二ィッ!一ッ!!』

 

 

スパパパパパパパパパパパパパパパパパンッ!!!

 

 

「ブファファファファファファファファファファファファファッ!?」

 

『ガッデムッ!!!!!』

 

 

バタフライフィールドの制裁の往復ビンタを喰らい、顔をタコのように大きく真っ赤に染まった男子生徒が出来上がっていた。

 

 

 




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新人:ギーゼン=G=アルバーンの日記帳

今回はタイトル通りの日記話!
てな訳でどうぞ


○月□日

 

僕の名はギーゼン=G=アルバーン。

今日からアルザーノ帝国魔術学院に赴任する新人教員だ。とは言っても、担当するクラスはなく、基本は医務室に在中するのが僕の仕事だ。

この学院にはセシリア先生という、医療魔術の天才がいるのになんで補佐とはいえ追加する必要があるのだろうか?

そう思っていた時期がありました。

理由は初日早々、セシリア先生が血を吐いて突然倒れたのだ。事前にセシリア先生は病弱体質だとは聞いていたけど、これは集中治療して治すべきレベルだよ!

とりあえずセシリア先生には僕が調合したお薬を飲ませておいたけど大丈夫かな?

まさか初日から仕事がくるとは……相手が生徒ではなく教員だったが。

あ、口から血を吐いた女子生徒が運ばれてきた。

 

 

○月△日

 

今日も教員の治療だ。

その人の名前はグレン先生といい、全身の引っ掻き傷の理由は、女子更衣室で蛇が出たという騒ぎを聞きつけグレン先生が女子更衣室に入った結果だそうだ。

ちなみに蛇を忍ばせたのはアルシャという名の女子生徒だそうだ。

理由は「怯えるお姉様を助けて好感度を上げたかったのです!」という百合全開の傍迷惑なものだった。

怪我をしたグレン先生には傷薬を渡しておいた。

その数時間後、今度は男子生徒達にボコボコにされたグレン先生が再び運び込まれてきた。今度は打撲に効く薬を渡しておいた。

今日もあの子が運ばれてきたなぁ。……胃が痛いなぁ……

 

 

×月▽日

 

何故かチャペルの修理に駆り出された。

とりあえず固有魔術(オリジナル)【王室の宝箱】から修理道具等を取り出して、泣く泣くチャペルの壁を修理していった。

この【王室の宝箱】は“宝箱”と呼んでいるポーチ型の魔導器の事をさし、物理法則を完全無視した量の物を放り込めるのだ。

因みにこの修理に臨時収入はない。泣けてきた。

今日も肌が白い金髪の一年の女子生徒が運ばれてきた。この子は肺が弱いせいかセシリア先生のようにほぼ毎日吐血している。お薬は渡しておいたので大丈夫だろう。……今日は。

念の為、胃薬を飲んでおこう……

 

 

◎月×日

 

今日は休憩中に警備員の格好をした魔導人形に迫られた。

何でもハーレイ先生の菜園を荒らした犯人を探しているそうで何か知らないか聞いてきたのだ。

当然知らないので正直に答えるとその魔導人形は去っていった。……“宝箱”に仕舞っている如何わしい小説を読んでいた事を暴露していって……

周りの視線がすごく痛かった。因みに犯人は脱走した鼠の魔獣だったそうだ。

今日もあの子が医務室に運ばれてきたよ。……彼女を運んで来た生徒に白い目を向けられましたが……

それにしてもあの人形、何で分かったの?人目につかない場所で隠れて読んでいたのに……

今日も胃薬が必要だな……

 

 

△月○日

 

この日は上空に浮かぶ真紅の舟との決戦だったが、何故か僕の記憶が飛んでいた。

最初はこの日の為に調合していた薬を生徒達に渡していた筈なのだが、気が付いた時には学院の校舎の外に居て全てが終わっていた。

念の為に話を聞いたみたところ、『(オレ)の逆鱗にふれたな、木偶人形共ッ!!』とか、『その程度の質が通用すると思ったか!?』とか、『我が宝箱の力、見るがいい!!』とか言って、大量に武器を召喚術のような歪みから飛ばしたり、その歪みから出てきた大量の『魔導士の杖』からの軍用魔術でゴーレム達を殲滅していたようです。

しかも高価な『復活薬』もこれでもかと言うくらい贅沢に使っていたとも。

……うん。確かに“宝箱”にあった『復活薬』の在庫が少なくなってますね。

しかも稀に起こる“暴君モード”になっていたとは…………恥ずかしくて死ぬ!!

今日もあの子とセシリア先生が血を吐いて倒れたよ……

胃薬、今日も飲んでおこうか……

 

 

○月◎日

 

この学院は本当に騒動が多いです。

今日は編入生のチャールズ君とグレン先生が黒焦げの姿になってました。

理由は軍から派遣されたイヴ先生が魔術で制裁したからです。制裁理由は一人の女子生徒の如何わしい写真を撮影していたからだそうです。

幾ら公認とはいえそれは犯罪ですよ?後、ウィリアム君は何で拳銃を持っているのでしょうか?

今日もあの子、オーヴァイ=オキタさんとセシリア先生が吐血してベッドの上にいますよ。

その為、チャールズ君とグレン先生はシーツを敷いた床の上での治療です。

治療には治りが早いけど飛びっきり滲みる薬を使いました。お二人はメチャクチャ痛がってましたので多少すっきりしました。

それでも胃薬は飲みますが……

 

 

×月◇日

 

僕も同じ穴の狢でした。

今日、『チャールズ商会』からイヴ先生の写真を二ダース程購入してしまいました。

教師としてあるまじき行為ですが、漢としての後悔はありません。

金貨八十枚も使ってしまいましたが、それだけの価値は確かにありましたね。

スタイルもいいですし、肌もすごく綺麗です。本当に軍人なのか疑いたくなりますよ。後、下着もすごく似合ってます。

近頃抱いて眠る大きい枕を開発したそうなので、イヴ先生の着替え中の写真の枕を思わず注文してしまいました。

お二人は今日もベッドの上ですが、不思議と胃が軽かったです。

 

 

■月●日

 

注文した枕が目の前で燃やされました。その後、僕自身も彼女の制裁を受けました。

今日は包帯だらけのままやけ酒した後、胃薬を大量に飲みました。

僕のあの頃の平穏は戻ってくるのかな……?

 

 

 




教師、チャールズに毒される!
だけど仕方ないよね、彼も男だから!!
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チャールズ商会

オリキャラにスポットを当てた番外編
てな訳でどうぞ


チャールズ=テイラー。

 

彼は魔術的効果を持つ薬草や毒草等の売買で貴族に成り上がった、テイラー家の三男坊である。

少々訳あってチャールズは家から半場勘当されており、どうしようかと途方に暮れていたところ、マキシムに声をかけられ、チャールズは『マキシム魔導塾』に籍を置く事にした。

チャールズは魔術を教わる事となったのだが、彼は“趣味”として透明化の魔術や認識阻害の魔術、魔導工学等……“武”に関する魔術以外の事を手持ちの教本のみで独自で学習しており、その結果『マキシム魔導塾』内では“異端”に位置を置く人物となった。

チャールズがマキシムの教えとは別に、独学で魔術を学習していた理由は……

 

 

「……ノイズのせいで画質が荒いなぁ。これやと駄目や。もっと鮮明にするには……」

 

 

チャールズの手には同級生の女子達の着替え中の写真が一枚、握られていた。

そう。チャールズが魔術を学んでいる理由は……楽園(エデン)と男のロマンの為である!

チャールズが家から半場勘当されたのも、この貴族として相当恥ずべき行為を何度も繰り返していたからという、自業自得としか言い様がない理由からだ。

『マキシム魔導塾』でもチャールズの根本は一切変わらずにロマンの為に精進し続けていた。

その結果、自作した魔導写真機と動画撮影魔導器の画質は遠距離でも間近で見ているかのように高画質となり、隠蔽に関する魔術の腕前も同級生と比べて高度となった。

当然、模範クラスの一人としてアルザーノ帝国魔術学院に来た時もその行動理念は微塵も変わっておらず、己の欲望の為に行動していた。

イヴが二組の実力を確認するための生徒同士の練習試合の時、魔術で隠れてその場に居たのも、彼女達のベストショットを撮影する為であった。

 

 

(水色のパンモロ写真、イタダキッ!!)

 

 

練習中の彼女達の爽やかな写真だけでなく、身を翻した時の一瞬のパンチラ、光を曲げて撮影したパンモロ写真も撮っていたが……

勿論、彼女達の入浴姿も写真と映像に納めようと魔術で透明化を自身に施して大浴場に向かって行ったが……

 

ちゅっどぉおおおおおおおおおおおおおんっ!

 

 

「ま、魔術罠(マジック・トラップ)やとぉおおおおおおおおおおおお―――ッ!?」

 

 

泊まり込み初日の夜はイヴが設置していた魔術罠(マジック・トラップ)にかかり、見事なまでに宙に吹き飛ばされ、失敗に終わった。

 

二日目―――

 

ちゅっどぉおおおおおおおおおおおおおんっ!

 

 

「うわぁあああああああああああっ!!」

 

 

再び挑んだチャールズはまたしても魔術罠(マジック・トラップ)にかかり、吹き飛ばされるも·····

 

 

「ゴフッ……まだや……!」

 

 

事前に【トライ・レジスト】を付呪(エンチャント)しており、足がガクガク震えながらも再び大浴場に向かうも……

 

ちゅっどぉおおおおおおおおおおおおおおおんっ!!

 

 

「うぎゃああああああああああああああああ―――ッ!!!」

 

 

再び巧妙に隠されていた魔術罠(マジック・トラップ)に引っ掛かり、またしても盛大に吹き飛ばされた。

 

 

「くっ……このまんまじゃ楽園(エデン)に辿り着けへん……」

 

 

大浴場には以前から覗き対策に遠見の魔術を阻害する結界が構築されている。楽園(エデン)を納める為には直接侵入するしか方法がないのだ。そして何より……

 

 

楽園(エデン)はこの目に納めんと僕にとっては意味がないんや……ッ!!」

 

 

カッコよく言ってはいるが、目的が最低なのでその決意の公言も全然カッコよくなかった。

そしてチャールズは学院の授業にこっそりと出席し、寝る間も惜しんで勉学に励んだ。……合間に女子の着替えを隠し撮りしながら……

そうやってチャールズは毎日、楽園(エデン)へと挑み、悉く人知れず撃退されていたが、その歩みは確実に進歩していた。

十一回目の挑戦は『生存戦』を控えている二組の男子生徒達と鉢合わせしたが、チャールズはカッシュ達の反応から同士だと気付き、隠し撮りした写真を何枚か無償で彼らに提供し、無駄な争いを回避した。

 

 

「もうタダでくれないのかよ?」

 

「当たり前やん。これにはごっつぅ金掛かっとるし、流石にタダはもう無理や。因みにこれは有料やで」

 

 

道中の会話でチャールズがそう言って一枚の写真を見せる。それはジト目の下着姿をしたシスティーナが、同じく下着姿をしたルミアの胸を鷲掴みで揉むというスキンシップ写真だ。

 

 

「「「「…………(ゴクリ)」」」」

 

「これはクレス銀貨一枚や。映像の方はリル金貨一枚で取引するで」

 

「「「「映像だと!?しかも高い!!」」」」

 

「リアルで見ているかのような高画質に音声付き。さらに個人で楽しめるようにポケットサイズまで小型化したんや。妥当な金額やと思うんやけど?」

 

「何故お前はそこまでして……!?」

 

「決まっとるやん········そこに楽園(エデン)があるからや!!!僕は楽園(エデン)の為ならどんな努力も惜しまんで!!!!」

 

「ッ!!!!お前……いや、チャールズと呼ばせてもらうぜ……」

 

 

カッシュは感銘を受けたようにチャールズに歩み寄り……

 

 

「お前は模範クラスの人間だが……お前とだけは仲良くやれそうだ」

 

「おおきに」

 

 

カッシュとチャールズは互いに固い握手を交わした。

そんな二人にカイが近寄り……

 

 

「…………(すっ)」

 

 

クレス銀貨一枚をチャールズに差し出した。クレス銀貨を受け取ったチャールズは件のスキンシップ写真をカイに渡した。

 

 

「……これは家宝にするぜ」

 

 

そんなやり取りをしながら一同は楽園(エデン)へと向かうも結果は全体で見れば敗北。チャールズにとってはイヴの風呂上がり直後の姿を写真に納めたので引き分け、そして“件のお宝”も撮影し、トータルで勝ち越しとなった。

 

そして合宿最終日……

 

ちゅどんっ!ちゅどんっ!ちゅっどぉおおおおおおおおおおおおおおおんっ!

 

 

「甘いでッ!!」

 

 

起動した魔術罠(マジック・トラップ)を紙一重でチャールズは避けながら楽園(エデン)へと目指して行く。

チャールズはこの二週間でレベルアップしており、設置された魔術罠(マジック・トラップ)を必死にやり過ごしていく。

そして、遂にチャールズは楽園(エデン)へと辿り着いた。

目に映る光景は彼女達の生まれたままの姿、綺麗な素肌、湯船に浮かぶ数々の二つの連なる山。

チャールズは鼻血と涙を必死に抑え、目の前の桃源郷を次々と写真と映像に納めていく。

そして風呂上がりの着替え写真も納め……

 

 

(僕は……やり遂げたで……!!)

 

 

この日チャールズは完全勝利を収め、最後は魔術罠(マジック・トラップ)に引っ掛かって盛大に吹き飛ばされながらもその顔は実に清々しく笑っていた。

一方イヴはこの最後の爆発を、最後の悪あがきの末の敗北と受け取っていた。

イヴがこう思うのも無理はない。チャールズは常に自己透明化等、自身を隠蔽して挑んでいたため、魔術的な視覚では捉えきれなくなっていたのだ。その分、魔術罠(マジック・トラップ)を大量に設置していたが……

そして『裏学院』の事件に巻き込まれ、多くの模範クラスの生徒達が故郷へと帰るなか―――

 

 

「生徒会長さん。編入試験についてもうちょっと詳しく教えてくれまへんか?」

 

 

チャールズだけは編入試験を受ける気満々で残っていた。理由は勿論、己の欲望の為である。

そんな邪な想いで編入試験を受けたチャールズは一発で試験に合格した。

そして―――

 

 

「チャールズ……このウェンディの着替え写真は?」

 

「その着替え写真はクレス銀貨三枚。今なら彼女のパンチラ写真もセットでついてくるで」

 

「こちらの大浴場の写真は?」

 

「そちらはリル金貨二枚や。十分間の映像の方は金貨十五枚やで」

 

「た、高いけど……それだけの価値が確かにある……!」

 

「……イヴ先生の写真は?」

 

「こちらの黒いレースの下着姿の写真はどうや?値段は金貨三十枚と高いけどな」

 

「高過ぎだろ!!せめて二十枚……」

 

「間をとって二十五枚でどうや?」

 

「足元みやがって……」

 

「毎度あり」

 

 

学院校舎の裏庭の隅で、写真や映像の秘密の売買が行われていた。

『チャールズ商会』。

そう名付けられた秘密の販売店は、男子学生と一部の女子学生の間で絶大な人気を得た。

そして……

 

 

「悪いなリィエル……こんな頼みを聞いてくれてよ……」

 

 

神妙な顔したグレンは医務室のベッドに座っているリィエルに申し訳なさそうにそう告げる。グレンの隣には写真機を手に佇むチャールズがいる。セシリアは諸事情で別のベッドの上で寝込んでいる。

 

 

「ん。問題ない。わたしはグレンの力になると決めたから」

 

「ありがとなリィエル……それじゃあ頼むぜチャールズ……」

 

「了解や」

 

 

チャールズはそう言い……

 

 

「それじゃあリィエルちゃん、まずは自由な体勢でベッドの上で寝転がってぇな」

 

「ん」

 

 

リィエルは素直に頷き、ベッドの上に寝転がる。

 

 

「うーん……もうちょっと色気が欲しいなぁ……ちょっと右手の人差し指を口に添えてみて。後、片方のソックスを半分脱いで」

 

「ん」

 

リィエルはチャールズの指示通りに体勢を整え、片方のソックスを半分脱ぐ。チャールズは直ぐ様、リィエルのその姿を撮影する。

 

 

「……ハイ、オーケーや。次は制服の上のボタンを全部外してぇな。そしてソックスは全部脱いでや」

 

「ん」

 

 

リィエルは素直に頷き、制服の上のボタンを全部外し、ソックスも全部脱ぐ。その間もチャールズは写真を撮り続ける。

 

 

「……そのまま仰向けで、顔はヘッドボードを見上げるようにあげて、脚は閉じて膝折で」

 

「……こう?」

 

 

リィエルはチャールズの指示通りに体勢を整えていく。ベッドの上で仰向けに倒れたまま顔をヘッドボードの方へと向け、膝同士をくっつけたまま折り曲げて、その生足を晒す。

 

 

「いい……!すごくいいで!!」

 

 

チャールズはリィエルの顔が正面、真上、横等、光の屈折を変えた様々な角度で撮影する。

相変わらずの眠たげな無表情だが、それが寝起きのようにも見え、色気がさらに強調される。

 

 

「そんじゃ次は―――」

 

 

チャールズがリィエルに次の指示を出そうとしたその時、ドタドタドタドと廊下からけたたましい音が響き、医務室の扉が激しい音と共に開けられ―――

 

 

「《何してんのよ・この・お馬鹿》ぁああああああああああああああああああああ―――ッ!!!!!!!」

 

 

システィーナの【ゲイル・ブロウ】の二反響唱(ダブル・キャスト)が炸裂し、グレンとチャールズを派手に吹き飛ばした。

 

 

「一体何をしているんですか!?リィエルにこんな格好をさせて!!」

 

 

システィーナは顔を真っ赤にして怒鳴りながら、リィエルにベッドのシーツを被せてそのあられもない姿を隠していく。

 

 

「決まっとるやん……グレン先生公認の撮影会や!!!」

 

「ふざけないで!!先生もどうしてこんな事を公認したんですか!?」

 

「そんなの決まってるだろ……仲介料を得られるからだよ!!」

 

「最低!最低です!!」

 

 

そんな何時ものやり取りに突入しようとした矢先―――

 

 

「―――先公、そしてチャールズ」

 

 

底冷えするような声が医務室に響き、チャールズの後頭部に何かが押し付けられる。

 

 

「チャールズ……その写真を今すぐに消せ」

 

 

チャールズの後頭部に拳銃を突きつけたウィリアムはそう要求するも。

 

 

「ふっ……勿論、お断りやッ!!!!」

 

 

チャールズはそう言って脱兎の如く、その場から逃げ出した。ウィリアムも直ぐ様非殺傷弾を放つも、チャールズは全弾受けながらも、そのスピードを緩めずに離脱していく。

 

 

「逃がすかぁあああああああああああああああああああああああああああああ―――ッ!!!!!!!!」

 

 

ウィリアムも鬼の形相でチャールズを追跡していく。

 

 

「なんでそんなに怒るんや?欲しいなら売ってあげるで?」

 

「いらん!!それと、リィエルの教育に悪い事をしたからだ!!!」

 

「これは……親バカと呼ぶべ―――」

 

 

逃走中の中庭で、突如、チャールズの走っていた地面が爆発し、チャールズが派手に吹き飛ばされる。

 

 

「ぐほぁっ!?なんや急に―――」

 

「……チャールズ」

 

 

地面に落下し、チャールズが見上げたその先には、恐い程の笑顔を浮かべたイヴが佇んでいた。

 

 

「どうやらまだ懲りていないようね」

 

 

こめかみに青筋を浮かべたイヴは右手に炎をたぎらせ、チャールズに近づいて行く。

その後、チャールズは地獄を見た。

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

後日……

 

 

「これが新作……一枚につき、リル金貨十五枚や」

 

「「「「買った!!!!!!」」」」

 

 

件の撮影会の写真は一部の派閥で飛ぶように売れ、その売上の三割は金欠講師に渡り……

 

 

「こんなに貰えるとは……グフフフフフフ……ッ」

 

 

その金欠講師はゲスな笑顔で、そのお金を受け取っていた。

 

 

 




チャールズ様!!!その撮影会の写真を三十枚ほど―――

作者は黒の仮面と紺の外套を纏った人物に、特殊な魔導器で蜂の巣にされ、人工精霊によって空の彼方へと吹き飛ばされました。

“感想お待ちしてます”←無数の黄金の剣が突き刺さり、作られた文字


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セリカの癒し

番外投稿!
てな訳でどうぞ


「……ねえ、セリカ」

 

「どうしたんだ?そんな怖い顔して」

 

 

十歳前後の黒髪の少年の問いかけに、セリカはニヤニヤと笑みを浮かべて対応する。

 

 

「なんで、なんで……僕の身体が若返っているの!?それに口調も昔のに戻ってるし!!」

 

 

その少年―――グレンがその小さな身体でセリカに詰め寄って行くも、その姿では恐怖は微塵も感じられず、寧ろ微笑ましい程だ。

 

 

「昨日、私が作ったスープを飲んだだろう?」

 

「飲んだけど?」

 

「あのスープに変身薬を混ぜておいたのさ。【セルフ・ポリモルフ】を応用した魔術をお前が寝ている間にかけて、お前を昔の子供の姿にした!!」

 

 

全く悪びれずに白状したセリカにグレンがますます近寄って行く。

 

 

「なんでこんな事をしたの!?」

 

「そんなの決まっているだろう?……私の癒しの為さ!!!」

 

 

セリカはそう言ってグレンを抱きしめ、ワシャワシャと撫でまくる。

 

 

「いや~、あのハゲ野郎を叩き潰す為に相当頑張ったからな。少しくらいご褒美があってもいいだろう?獣耳の薬にするか悩んだが、やはり子供の姿が一番だな!!」

 

「意味がわかんないよ!?仕方ないから今日は休んで……」

 

「その姿で仕事してこい。その姿で教鞭を取る姿を私に見せてくれ!」

 

「そんな!?……ん?」

 

 

グレンはそこであることに気付く。

 

 

「ねぇセリカ。ひょっとして他にも薬があるの?」

 

「ああ、あるぞ。獣耳にする薬が数本な」

 

「それじゃあ……」

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

「―――という訳で今日一日はこの姿で授業する事になったから、皆気にしないでよ」

 

 

教壇の前で事情を説明した少年グレンにクラス一同は呆れた視線をしていた。その視線の向かう先はグレンではなくその隣にいるセリカにへと向かっている。

 

 

「どうだ?中々可愛いだろう?」

 

 

親バカモードに突入したセリカはその視線に全く気付かず、母親のようにグレンを自慢している。

 

 

「アルフォネア教授……」

 

「アハハ……御愁傷様です、先生」

 

 

そんなセリカにシスティーナは呆れ、ルミアは愛想笑いを浮かべてグレンに同情していた。

そんな中、リィエルは小瓶の中身を飲んでいた。

 

 

「……なあリィエル。お前は何してるんだ?」

 

「今朝セリカから貰った薬?を飲んでた」

 

 

小瓶の中身を飲み干したリィエルはそう言い、もう一つの小瓶をウィリアムに差し出す。

 

 

「ウィルもこれ、飲も?」

 

「……飲むわけないだろ。すごく嫌な予感がするし」

 

 

ウィリアムは冷や汗を一筋流しながら、そう言って断るも―――

 

 

「《動くな》」

 

 

非常にイヤらしい顔をしたセリカが金縛りの魔術でウィリアムの動きを封じた。

 

 

「おい、まさか……」

 

「さあ、やれ!リィエル!!」

 

「ん」

 

 

頭の中で激しく警鐘が鳴り響くウィリアムの前で、リィエルはセリカの号令に頷いて、小瓶の中身を口に含み―――

 

 

「またこのパターンぐっ!?」

 

 

ウィリアムの唇へと、濃厚に重ね合わせた。

 

 

「「「「きゃあああああああああああああああああああ―――ッ!!!!!!!!?」」」」

 

「「「「ウィリアムぅううううううううううううううう―――ッ!!!!!!!!!!」」」」

 

 

その光景に教室内は一気にカオスとなる。男子生徒達は立ち上がって、二人を引き剥がそうとするも―――

 

 

「《お前たちも・動くな》」

 

 

セリカが再び金縛りの魔術を唱え、嫉妬に狂う男子生徒達の動きを封じた。

その間もウィリアムはその薬を飲まないよう必死に抵抗するも、その分接吻が続き、薬を飲んで接吻から解放されるか、このまま抵抗を続けて接吻し続けるか、その狭間で激しく揺れ動く事となる。

そして……

 

ごくんっ

 

遂にウィリアムはその薬を飲み込んでしまった。抵抗時間はおよそ一分。ロマンチックの欠片が微塵もない、ある意味地獄の時間で女子生徒達の顔は真っ赤に、男子生徒達はその瞳を憎悪で染め上げていた。

そして、セリカが例の悪魔の呪文を唱えた。

 

 

「《陰陽の理は我に在り・万物の創造主に弓引きて・其の躰を造り替えん》―――ッ!」

 

 

セリカのその呪文が唱え終えると同時に、ウィリアムとリィエルから紫電が弾け、モクモクと立ち上がる煙が二人を包み込む。

煙が晴れたその先に居たのは―――

 

 

「一体何を―――って」

 

 

金縛りから解放されたウィリアムが最初に見た光景は―――

 

 

「…………(フリフリ)」

 

 

狐の耳と尻尾を生やしたリィエルであった。リィエルのその姿に、ウィリアムは恐る恐る自身の頭に手を当てると、柔らかい何かが頭の上に二つ生えていた。腰の辺りにも奇妙な感覚がある。

ウィリアムにもリィエル同様、狐の耳と尻尾が生えていたのだ。

 

 

「なんじゃこりゃあああああああああああああああああああああああ―――ッ!?!?!?!?」

 

「ん。お揃い」

 

 

頭を抱えて叫ぶウィリアムに、嬉しそうに尻尾を振るリィエル。

こうして、セリカの癒し目的から始まった波乱の一日が幕を開けた。

 

 

 




元ネタはゼンさん(ロクアカ世界での名前)からだ!
次の更新は······未定である!
ネタ箱を活動報告に設置したので書いて欲しいネタがあればそちらへどうぞ
感想お待ちしてます


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セリカの癒し・2

十二巻の情報がネットに公開され、舞い上がっている作者
長期休暇からスタートとなり、本編は原作スタートが確定してしまったが·······あの子の再会が確定したので修羅場が書ける!!早く原作来い!!
てな訳でどうぞ


「教授ッ!!これは一体どういうつもりだ!?」

 

 

狐の耳と尻尾が追加されたウィリアムは、直ぐ様セリカに詰め寄っていた。

 

 

「どうした?顔が赤いぞ?リィエルとのキスがそんなに嬉しかったのか?」

 

「話を逸らすな!何でこんな事をしたのかと聞いてんだよ!」

 

「グレンからの提案でな。獣耳化させる薬も作っていたから、その薬を何名かに飲ませて獣耳姿に変えよう!とな」

 

「グレンの先公ぅううううううううううううううう―――ッ!?!?」

 

 

ウィリアムは元凶たるグレンに瞬時に詰め寄り、襟首を掴んでガクガクと前後に揺さぶり始める。

 

 

「何故巻き込んだ!?」

 

「僕だけこんな目にあうのは不公平じゃないか。……後、こうしたら面白そうだし」

 

「お前を子供の姿に変えるのもそれはそれで面白そうだったが、その右腕の義手が邪魔になるからな。簡単に済ませられる獣耳化にしたのさ」

 

「リィエルを巻き込んでまで飲ませたかったのか!?」

 

「そんなの決まっているだろう?……そうした方が面白いからだ!!」

 

 

全く悪びれず、清々しいまでのどや顔でセリカはそう言い切った。

 

 

「面白いという理由だけでやらすな!」

 

「いや~。リィエルにこの薬をウィリアムにも飲ませればお揃いにしてやると言ったらすんなりと受け取ったからな。後、ウィリアムは嫌がるだろうから、口移しで強引に飲ませればいいと言っておいたぞ」

 

「そのサムズアップが腹立つぅううううううううううううう―――ッ!!」

 

 

そんなカオス真っ只中の現場に、リィエルがひょこひょことウィリアムに近づいて……

 

モフッ

 

その尻尾をモフッた。

 

 

「ぬおわっ!?」

 

 

奇妙な感覚にウィリアムは思わず姿勢を正して硬直してしまう。

 

 

「モフモフ……気持ちいい……」

 

 

リィエルはそのまま頬擦りまでしてウィリアムの尻尾を堪能していく。

それに対しウィリアムは、馴れない感覚から力が抜け、四つん這いで教室の床に倒れてしまっていた。

 

 

「り、リィエル……それ以上は……ぉおおお……」

 

「……モフモフ……スリスリ……」

 

 

その光景に生徒達は……

 

 

「モフりたい……モフりたいですわ!!」

 

「気持ちよさそう……」

 

「眼福……眼福だけど……」

 

「くそ……リア充め……ッ!」

 

「羨ましい……羨まし過ぎる……ッ!!」

 

 

尻尾を堪能したい者と、血涙を流す者、大きくその二つに別れていた。

 

パシャッ!パシャッ!

 

そんな中、新しい仲間のチャールズはリィエルだけにピントを合わせて、その姿を写真に納めていた。

そんなウィリアムの尻尾を気持ち良さそうに堪能しているリィエルに……

 

 

「ねぇ、リィエル。貴女のその尻尾……触ってもいいかしら?」

 

 

本能を抑えきれずに近寄ってきたシスティーナがおずおずと聞いてきた。

それに対しリィエルは。

 

 

「ん。別にいい」

 

「ほ、本当に!?」

 

「ん」

 

 

リィエルの了承を得たシスティーナは震える手でリィエルの尻尾に触れる。

 

 

「……ん」

 

 

リィエルもその馴れない感覚に、僅かにビクンッ、と身体を震わせる。

 

 

「や、やっぱり駄目だった?」

 

「……大丈夫。ちょっと驚いただけ」

 

「そ、そう?……じゃあ……」

 

 

システィーナはそのままリィエルの尻尾を堪能していく。リィエルはすぐに馴れたのか、ウィリアムの尻尾を堪能しながら、尻尾を触られるがままにしている。

 

 

「リィエル……その耳、触っていいかな?」

 

「ん」

 

 

ルミアも我慢出来なくなり、リィエルの了承を得て、その狐耳を堪能していく。

 

 

「これは……病みつきになりそうだわ……ッ!」

 

「うん……ずっと触っていたくなっちゃいそうだよ……」

 

 

そんな三人娘の戯れる光景に。

 

 

「リィエルちゃんッ!俺も触っていいかな!?」

 

 

カッシュが思いきったようにリィエルに聞くも。

 

 

「ダメ。触っていいのはグレンにセリカ、ウィルとシスティーナにルミア、後はイヴだけ」

 

 

速攻で却下された。触っていい人物の名前を述べられて。

 

 

「ちくしょおおおおおおおお―――ッ!?また先生達かよッ!?」

 

「決着をつけようにも、あんな姿じゃ攻めにいけない!!」

 

「憎い!憎すぎるッ!!」

 

 

男子生徒達の阿鼻叫喚の空間が漂うなか、不意に教室の扉が開けられる。

開けられた教室の扉の前にいたのは……

 

 

「これは……貴方達の仕業かしら……!?」

 

 

顔を真っ赤にし、目尻に涙を浮かべ、こめかみに青筋も浮かべた―――猫耳と尻尾を生やしたイヴだった。

 

「あはははははッ!!!すごく似合ってるよイヴ!!!」

 

「笑ってないで答えなさいッ!!どうして私がこんな事になっているのよ!!」

 

「詳細は伏せるが、お前が教職員室で飲んでいた紅茶に薬を混ぜておいたのさ」

 

 

イヴの詰問に、全く悪びれず、グレンの代わりに清々しい程の悪い笑顔で白状するセリカ。実はセリカが餌を片手にファムに頼んで、イヴの飲んでいた紅茶に例の薬を入れさせたのだ。

薬が入っているとも知らず、イヴはその紅茶を飲み干してしまい、ウィリアムとリィエルの獣耳化と同時に、イヴの身体も変化したのである。

 

 

「今すぐ解呪(ディスペル)しなさい!!」

 

「残念。その薬は発動してから二十四時間はいかなる方法でも解呪(ディスペル)は不可能なんだ。因みに【セルフ・イリュージョン】等の姿を変える魔術は阻害されるから否応なしにその姿で過ごすしかないぞ?あぁ、安心しろ。二十四時間経ったら勝手に戻るから(……本当は一生その姿のままにしたかったがな)」

 

「その説明を聞いてまったく安心出来ないのだけれど!?」

 

 

まさかの丸一日に、イヴはあの時とは別の意味での絶望感に襲われるも、すぐにグレンに詰め寄っていく。ちなみにセリカの最後の言葉は誰の耳にも届いていない。

 

 

「グレン……これは貴方の差し金ね……ッ!?」

 

「そうだよ。だって君が僕のこの姿を見たら絶対にからかうでしょ?だから君にも似たような目に合って貰おうと考えたのさ!!」

 

「……貴方のその腐った性根、今すぐに叩き直して上げるわ……ッ!!」

 

 

イヴはこめかみに青筋をさらに浮かばせながら右手に炎を灯すも。

 

 

「悪いがそろそろ授業が始まるぞ?お前も『軍事教練』の授業があるし、急いだ方がいいんじゃないのか?」

 

「…………」

 

 

セリカが告げた事実にイヴは仏頂面のまま身体を震わせる。少しの沈黙の後、右手の炎を消し……

 

 

「今日の昼休み、覚悟しときなさいグレン!!」

 

 

そう言い残して足早に教室を後にした。

 

 

「リィエル……そろそろ勘弁してくれ……」

 

「……ぎゅうぅ……」

 

「……スリスリ」

 

「モフモフ……」

 

 

その間もリィエルはウィリアムの尻尾を抱き締めて堪能しており、システィーナとルミアもリィエルの耳と尻尾を触って堪能し続けていた。

 

 

「……チャールズ、獣耳写真の金額は?」

 

「今から予約しとけば、何枚かはセルト銅貨で購入できるで」

 

「イヴ先生のあのお姿もですか……?」

 

「モチ。バッチリ撮っとるで」

 

 

イヴの猫耳姿もちゃっかり撮影していたチャールズは、貴重な獣耳写真を大特価で予約販売していた。

 

 

 




イヴの猫耳化······どうや!!
感想お待ちしてます

おまけ


「·····フフフフフフフ·······」

「エルザからまた龍がっ!?」

「ジニー!!早くエルザさんを鎮めなさい!!」

「だから無茶言わないで下さいお嬢様」


女学院の教室で起きた、朝の出来事の一部を抜擢


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セリカの癒し・3

獣耳、獣耳、獣耳、尻尾、獣耳!!
てな訳でどうぞ


獣耳騒動が一先ず収まり、セリカ同伴で授業が開始されるのだが……

 

 

「セリカー、僕を持ち上げてよ。黒板の天辺に手が届かなくて書けないから」

 

 

子供姿のグレンは背が低いため、黒板に上から魔術式を書き連れるに誰かに持ち上げてもらわなければならなかった。

 

 

「……たくっ、しょうがないなぁ」

 

 

そんなグレンにセリカは呆れながらもグレンを持ち上げ、授業の手助けをする。

その後もグレンはいつもの調子で教鞭を取るのだが……

 

 

「どうしてかしら……先生の普段の態度が今日に限って可愛く見えるわ……」

 

「フフッ……そうだね」

 

 

普段のだらしない態度が可愛いらしく見える事に納得がいかない表情をするシスティーナに、そんなシスティーナに同意しながらいつもの笑顔を浮かべるルミア。

 

 

「……すぅ……」

 

「授業中に寝るな……後、人の尻尾を枕にするじゃない……」

 

 

ウィリアムの尻尾を枕にして寝ているリィエルに、力なく注意するウィリアム。その狐の耳も力なく垂れ下がっている。

 

 

「くっ……尻尾で秘境が隠れてるけど……可愛いからええか……(ぼそっ)」

 

 

チャールズはリィエルのその姿を写真ではなく映像に納めていた。狐耳も寝ている間もピコピコと動いているから可愛いさは天に昇る勢い、まさにマスコットの極みであった。

こんな事をしながらも授業はちゃんと受けているのだから、ある意味猛者である。

そんなこんなで授業は進み……

 

かん、かん、かん、かん……

 

 

「……今日はここまでにするよ。明日はこの続きからするからちゃんと復習しといてね。……ハァ~、疲れた……休みたい……」

 

 

午前中の授業を終え、いつも通りであろうセリフを吐くグレン。

気だるげであろうセリフも、子供(?)姿と少年時代の口調のせいで可愛げがあるように聞こえてしまうが、一同はグレンから視線を外し硬直していた。

 

 

「……どうしたの皆?なんで気まずげに……」

 

「あの……先生……」

 

 

首を傾げるグレンに、ルミアが言いづらそうながらも、その理由をはっきりと告げた。

 

 

「先生の頭に……犬の耳と尻尾が……生えています……」

 

「……………………え?」

 

 

ルミアから告げられた言葉に、グレンは理解が追いつかず呆然としていたが、次第に理解していき、慌てて頭と腰に手を当てると。

 

モフッ

 

あら不思議。人間には本来ない筈の犬の耳が二つ、ありました。ご丁寧に尻尾まで。

 

 

「……セリカぁあああああああああああああああああああああああああああ―――ッッッ!?」

 

「まったく、静かにしろよグレン」

 

 

叫び声を上げるグレンにセリカは注意するが、グレンは構わずにセリカに詰め寄っていく。その姿はまるで、子犬が飼い主にじゃれに行っているように見える。

 

 

「僕に飲ませたのは子供にする薬じゃなかったの!?」

 

「いや、確かに昨日のスープに混ぜたのは子供にする薬だぞ?」

 

「じゃあ、何で……」

 

「今朝お前が飲んでいた紅茶に、例の獣耳にする薬を混ぜていたけどな」

 

「セリカぁあああああああああああああああああ―――ッ!!!!」

 

 

二回も薬を盛られていた事実に、グレンはポスポスとセリカの腹を叩くも、力も落ちているため有効なダメージが与えられないでいる。

 

 

「何で僕まで獣耳にしたんだよ!?」

 

「正直に言うとな……最初からこうするつもりだったのさ!!」

 

 

セリカはそのままグレンを抱き締めて頭を撫でまくる。

 

 

「苦労したぞ。変な失敗を起こさないように調合した薬を別々に飲ませて、お前に気づかれないように変化させるのは」

 

 

そう語るセリカの表情は実に幸せそうである。

 

 

「子供の獣耳姿……やはり私の目に狂いはなかった!すごく可愛いぞグレン!!」

 

「や、やめてよセリカ!!」

 

 

セリカの腕の中でグレンは暴れるも、やはり力は落ちているので逃げ出すことが出来ず、犬の尻尾がバタバタと暴れるだけに終わっている。

 

バンッ!

 

 

「さあ、グレン!!覚悟はいい……かし……ら……?」

 

 

授業が終わると略同時に大急ぎで二組の教室に向かい、怒りを露に猫耳姿のイヴが教室に入って来るも、グレンの今の姿を見て、語尾がどんどん萎んでいく。

そして······

 

 

「あっはははははははははははははははははッ!!?何よグレン!?その姿は!?あはははははははははははッ!!!!!」

 

 

腹を抱えてこれでもかというくらい、盛大に笑い声を上げた。

冷徹な鉄仮面も、この時ばかりは見事に外れ、年相応の笑顔を浮かべている。

 

 

「随分と可愛いらしくなったわねグレン!!あはははははッ!!!!」

 

「笑うなよイヴ!」

 

「もういっその事、ずっとその姿のままでいれば!?そうすれば嫁に来てくれる奇特な人が現れるかもしれないわよ!?」

 

 

イヴのその言葉でグレンは凄まじく不機嫌なり、言ってはならないセリフを吐いた。

 

 

「そういうイヴだってその姿でいれば、性格ブスでも売れ残らずに済むかもしれないよ?」

 

 

その瞬間、イヴの顔から笑顔が消え、目尻がたちまちつり上がり、そのまま互いの睨み合いにへと変わる。

 

 

「何よ?子供になっても相変わらずの最低男のようね!」

 

「そっちだって同じだろ?この行き遅れ女め!」

 

 

グレンとイヴはそのまま口喧嘩を始めた。

グレンはセリカに抱き締められたままなので、まるで飼っている子犬と道端の猫が、互いにガンを飛ばしているかのような光景だ。

その光景をセリカはニヤニヤと、システィーナは沸き上がる焦燥感をその背中に感じながら、ルミアは胸中不安を隠すように曖昧に笑いながら、チャールズはイヴ達を写真に納めながら、他の皆は苦笑いで見守っていた。

 

 

「……リィエル、そろそろモフるのは勘弁してくれ……」

 

「……ウィルもわたしの尻尾をもふもふ?していいけど?」

 

「…………」

 

 

そんな中、ウィリアムの狐耳を触って堪能しているリィエルの言葉に、ウィリアムは顔を逸らし己の中で沸き上がる衝動と戦っていた。

 

 

 




グレンも子供状態で獣耳化!!
犬耳、猫耳········(ニヤリ)
感想お待ちしてます


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セリカの癒し・4

獣耳はSAIKYOU
てな訳でどうぞ


グレンの犬耳騒動が一先ず落ち着き、グレン達は中庭でシスティーナが用意したお弁当を食べる事にしたのだが……

 

 

「「「視線が痛い……」」」

 

「?」

 

 

グレン、ウィリアム、イヴの言葉が見事にハモる。

イヴは最初は用事があると言って誘いを断り、人目から隠れて食事するつもりだった。

だが、他の生徒達が食事にこれでもかというくらいに食事に誘ってきたので、「今日は先約がある」と言って断り続けていたが。

 

 

「ひょっとしてグレン先生達とお食事ですか?」

 

「そうよ!だから今日はあなた達とは出来ないのよ!」

 

 

と、自ら逃げ道を塞いでしまった為、仕方なくいつものメンバー+セリカという団体で中庭で食事する事となった。

当然ながらイヴとリィエルの獣耳姿をこの目に納めようとする人達がいるわけで、その結果、中庭はいつも以上に人で溢れかえっていた。

 

 

「……触らないでよ、白猫、ルミア」

 

 

犬耳姿の子供グレンは、サンドイッチを食べながら二人に止めるように言うが。

 

 

「……悔しい、なんか悔しい……」

 

「先生の尻尾も気持ちいいです……!」

 

 

当の本人達には微塵も届いていなかった。

 

 

「……まだモフるのかよ……」

 

「ん。ウィルの尻尾の触り心地、すごくいいから」

 

 

リィエルは食堂で買った苺タルトを頬張りながら、変わらずにウィリアムの尻尾を触っており、もう慣れてしまったウィリアムは静止を諦めており、されるがままにしてミートパイを頬張る。

 

 

「ウィルはわたしの尻尾を触らないの?」

 

「………………、…………アウトだろ。常識的に考えて」

 

 

長い沈黙の後、ウィリアムはそう言うも。

 

 

「別に大丈夫だろ?本人がいいって言っていたんだから」

 

 

悪魔のごとき誘惑の言葉がセリカの口から放たれた。

 

 

「いや、だけど……」

 

「随分とヘタレているなぁ?」

 

「だから常識……」

 

「一緒に毎晩寝ているのにか?……ああ、そうか」

 

 

セリカはそこで非常に悪い顔をして、特大の爆弾を投下した。

 

 

「ベッドの上で楽しむつもりだったのか」

 

「―――ぶほぉっ!?」

 

 

その爆弾発言にウィリアムは盛大吹き出してしまう。

 

 

「いや~、すまなかったな。気がきかなくて」

 

「違う!断じて違う!」

 

「違うのか?じゃあ、リィエルの尻尾には興味が無かったのか。残念だったなリィエル」

 

「そうじゃない!単に我慢して……あっ」

 

 

そこでウィリアムは自ら墓穴を掘ってしまった。

 

 

「ウィル」

 

 

そんなウィリアムに、リィエルは背中を向けて、自身の尻尾をフリフリと振ってスタンバイする。

 

 

「我慢しなくていい。むしろ触ってほしい」

 

 

その瞬間、ウィリアムの今まで我慢していた何かが弾け飛んだ。

ウィリアムは焦点の合わない目となり、リィエルの尻尾を堪能し始めた。

 

 

「……スリスリ……ギュウウ……モフモフ……」

 

「……んん……ぁ……ぅ……ぁん……」

 

 

病的なまでにリィエルの尻尾を頬擦り、抱きつき、お触りして堪能するウィリアムに、いきなりのお触り攻撃に若干顔が強張ったリィエル。

そんな二人の姿を。

 

 

「…………」

 

「……うわぁ」

 

「随分と思いきったなぁ?」

 

「(ニヤニヤ)」

 

「……ハァ、まったく……」

 

 

システィーナは顔を真っ赤に硬直し、ルミアも真っ赤な顔を両手で隠すも指の隙間からその光景を凝視し、元凶たるセリカと、システィーナとルミアから脱出したグレンは悪いにへら顔で、イヴは呆れて見守っていた。

 

 

「「「「ぁあああああああああああああああああ―――ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」

 

 

周りの男子生徒達は目を押さえて盛大にのたうち回って叫んでいたが……

 

 

「きゅ、急に喉が渇いたわね!?」

 

 

システィーナは内心の動揺を隠すように飲んでいた紅茶を一気に飲み干し、ルミアも同様の理由で手元の紅茶を飲み干した。

 

 

「まったく……動揺し過ぎよ」

 

 

そんな二人にイヴが呆れていると。

 

ギュムッ!

 

 

「わきゃあっ!?」

 

 

突然尻尾が握り締められた感覚に思わず悲鳴を上げるイヴ。

見れば悪い顔したグレンがイヴの尻尾を握り締めていた。

 

 

「《吹き飛べ》ッッッ!!!!!!」

 

 

ちゅっどぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!

 

 

「わああああああああああああああああ―――ッ!?」

 

 

イヴの魔術で盛大に空へと吹き飛ぶグレン。

 

 

「……まったく先生は……」

 

「あはは……?」

 

 

その光景にシスティーナが呆れていると、曖昧に笑っていたルミアがシスティーナを見て言葉を失う。

 

 

「どうしたのルミア……?」

 

 

システィーナは疑問に思ってルミアを見やり―――硬直した。

何故ならルミアの身体から、犬の耳と尻尾が生えていたからだ。

 

 

「え……?ルミア……?その犬耳は……?」

 

「システィも……その猫耳は……?」

 

 

ルミアのその言葉に、システィーナは呆然としつつも頭に手を当てると、確かに自身の頭にも猫の耳が生えていた。

二人は慌ててセリカの方へ顔を向けると、当の本人はいい笑顔でサムズアップしていた。

 

 

「「アルフォネア教授ッ!?」」

 

「お前達も中々似合っているぞ?」

 

「まさか、紅茶に薬を入れたんですか!?」

 

 

それに対し、セリカは再びいい笑顔でサムズアップして答えた。

 

 

「どうしてこんな事をしたのですか!?」

 

「面白そうだからだ!!」

 

「ですよねぇ!?」

 

「「「「ありがとうございますアルフォネア教授ッ!!!!!!!」」」」

 

 

こうして第三次獣耳騒動の火蓋が落とされるなか。

 

 

「モフモフ……モフモフ……」

 

「ん……」

 

 

瞳が渦を巻いて正気を失っているウィリアムは周囲に構うことなく、リィエルの狐耳をモフって堪能しまくっていた。

 

 

「……もうヤダ、この学院……胃に穴があいてしまいますよ……」

 

 

そのカオス真っ只中の光景をお腹を右手でおさえて痛そうにしている茶髪の十八歳前後の青年は、社交舞踏会の後、赴任してきた新人の教員だ。

名はギーゼン=G=アルバーン。第五階梯に至った若き天才魔術師である。

ギーゼンは床に伏せがちなセシリア法医師の補助の為にこの学院に赴任したのだ。セシリアが治療の天才であれば、ギーゼンは医薬品等の魔薬調合の天才である。

ギーゼンはもう日課となっている、自身が調合したドリンクタイプの胃薬を“宝箱”から取りだし、現実逃避のように飲んでいった。

 

 

 

午後の授業、正気に戻ったウィリアムは己の行動に顔を真っ赤にして、顔を机の上に突っ伏して悶えていた。

学院の帰り道に一苦労したり、娘達の獣耳姿に父親が暴走したり、二人のベッドの上でのモフりはまた別のお話……

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

「…………(モグモグ)」

 

(エルザの背後にいる龍が滅茶苦茶暴れてるんだけど!?本人の目もすごく据わっているし!!)(泣き)

 

(雷が大量に降り注ぐ幻覚まで見えていますわ!!本当に何が起きているんですの!?)(泣き)

 

(あっ、エルザさんが持っているフォークが曲がりましたね)(現実逃避)

 

(それと同時に、大量の竜巻が吹き荒れる幻覚が!?)

 

「…………フ、フフフッ…………」

 

 

―――某女学院の昼食中に起きた出来事。

 

 

 




この話は一旦ここで終了
次の話は······ガッデム○○かな?早く書かねば········!
感想お待ちしてます


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獣耳騒動:夜のじゃれ愛

タイトル通りのお話!
こういうのもありの筈!!!ブラックコーヒー用意ッ!!
てな訳でどうぞ


学院からの帰り道、全身を覆うフード付きコートを身に纏った四人の集団が帰路についていた。

その四人は、セリカによって獣耳と尻尾を追加されたウィリアム、リィエル、システィーナ、ルミアである。

 

 

「ううぅ……」

 

 

フードが取れないように名一杯、フードの裾を掴んで目元まで被っているシスティーナは顔を真っ赤に涙目となって、唸りながら歩いている。

 

 

「……何でこれを被る必要があるの?」

 

「隠さないと目立つからだよ……」

 

「あはは……」

 

 

リィエルの疑問にウィリアムがうんざりしながら答えており、ルミアも苦笑いしている。

見られたら大騒ぎ間違い無しの獣耳と尻尾をコートで隠して、四人はフィーベル邸へと帰っていく。

 

 

「仕事でお父様達が家に居ない事を今日程感謝した事は無いわ。こんな姿、お父様が見たら絶対暴走するから」

 

「確かに……お義父様が見たら大変な事になるね」

 

「?」

 

 

親バカのレナードが今日も家に居ないであろう事実に、システィーナは感謝し、ルミアはシスティーナに同意し、リィエルはいまいち分からずに首を傾げていた。

 

 

「……何故だろう。凄く嫌な予感がしたんだが……」

 

 

そんなシスティーナの発言に、猛烈な不安をどこからか感じたウィリアムは脂汗を垂らしていた。

その嫌な予感は見事に的中した。

 

 

「ただいまー」

 

「あら、おかえりなさい……って、あら?」

 

 

エントランスホールにはフィリアナがおり、母の声が聞こえた瞬間、システィーナはその場で崩れ落ちた。

 

 

「急にどうしたのシスティ?それに皆もどうしてそんなコートを……?」

 

「……どうして、今日に限って……」

 

「システィ、しっかり!?」

 

「えー、実はですね……」

 

 

ウィリアムがフィリアナに事情を説明しようとした矢先―――

 

 

「やっと帰ったかぁああああああああああああああぁぁぁぁ……?」

 

 

親バカのレナードがホールの奥の階段から駆け下りてくるも、システィーナの様子にレナードも思わずその勢いを弱める。

 

 

「どうしたというのだシスティ?っは!まさか、そこにいる悪魔がシスティに酷い事をしたのか!?許せん!!お父さんが今すぐ成敗―――」

 

 

こきゃ。かくん。

 

レナードがウィリアムに原因があると早とちりして襲いかかろうとした瞬間、フィリアナがレナードを絞め落とした。

 

 

「ウィリアム君。この人の事は気にせずに何があったのか説明して頂戴」

 

「アッ、ハイ」

 

 

相変わらずのフィリアナの謎の迫力にウィリアムは逆らう事なく、コートのフードを取りながら事情を説明していった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「むぅ……まさかそんな事が……」

 

 

食事を終え、事情を聞き終えたレナードは難しい表情をして、ウィリアムを除く、獣耳と尻尾が追加された娘達を見やる。

 

 

「お父様、あんまり見ないで下さい……」

 

 

猫耳を力なく垂れ下がらせたシスティーナは懇願するようにレナードに言う。

 

 

「明日には元に戻るらしいので、この件は……」

 

「許さん」

 

「え?」

 

「絶対に許さん!!愛しい娘達を更に愛しくさせる等断じて許せん!!すぐに写真に残すから少し待ってなさい!!」

 

「やめてお父様ッ!!それはやめてぇえええええええええ―――ッ!!!!」

 

 

レナードの暴走に、システィーナは猫耳と尻尾を逆立たせ、悲鳴に近い懇願叫びを上げると―――

 

こきゃ。かくん。

 

お茶を取りに行っていたフィリアナが再びレナードを絞め落とした。

 

 

「取り敢えずお茶にしましょう?」

 

 

フィリアナはニコニコの笑顔でそう言い、持ってきた紅茶を並べていく。

 

 

「……いただきます」

 

 

逆らう事なく出された紅茶をウィリアムは鬱憤を晴らすように一気に飲み干した。

 

 

「紅茶にちょっとお酒を混ぜてみたけれどどうかしら?」

 

「美味しいれすよ」

 

「「……え?」」

 

「ん?」

 

「あら?」

 

 

ウィリアムの語尾がおかしくなっている事に一同は疑問の声を上げる。

 

 

「……ウィリアム。ひょっとして酔ってる?」

 

「酔ってりゅわけないだろ」

 

 

システィーナは確信した。ウィリアムは確実に酔っぱらっていると。

 

 

「あらあら。お酒は少ししか入れてない筈だけど……?」

 

 

フィリアナの疑問を尻目にウィリアムは不意にリィエルを肩へと担いだ。

 

 

「ん?どうしたのウィル?急にわたしを担いで」

 

「今日はりょくも俺の耳と尻尾をしゃわりまくってくれたにゃ。お返しに今から部屋でその耳を弄りまくってやりゅ」

 

 

ウィリアムはそのまま部屋へと向かって歩いて行く。その足取りは若干ふらついてはいるが。

 

 

「「…………はっ!?」」

 

「正体を現したなこの悪魔め!!今ここで成敗してくれるぅううううううううううう―――ッ!!!!!!」

 

 

その様子を前に、いつの間にか復活していたレナードが、鬼のような形相でウィリアムに襲いかかるも―――

 

 

「じゃみゃ」

 

 

ビタァアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!

 

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああ―――ッ!?」

 

 

ウィリアムは【騎士の腕(ナイツ・アーム)】を具現召喚し、その腕で飛びかかって来たレナードを、床へと容赦なく叩き落とした。

レナードはその不意討ちをマトモに食らってしまい、呆気なく床に沈んで沈黙してしまう。

 

 

「「「…………」」」

 

「そりぇじゃ、じゃみゃするにゃよ?」

 

 

ウィリアムはそう言って、リィエルを担いだまま、食堂を後にした。

食堂に残された一同は……

 

 

「どうしたらいいのかしら……?」

 

「さすがに大丈夫……だよね?」

 

「うふふ、若いわねぇ」

 

「…………(ピクピク)」

 

 

別々の反応をしていた……

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

自身に割り当てられた部屋へと辿り着いたウィリアムは担いできたリィエルをベッドの上に乗せて、そのまま覆い被さるように押し倒した。

 

 

「しゃあ、覚悟はいいかにゃ?リィエル」

 

「ん。いつでもいい」

 

 

ウィリアムの宣告に、リィエルはいまいち理解せずに待ち構えていた。

 

 

「それにゃあ、遠慮にゃく……」

 

 

ウィリアムは呂律の回っていないまま、リィエルの狐耳を触り始める。

 

 

「ん……!」

 

 

昼休みの時よりも容赦のない触り具合に、リィエルは反射的に身体を強張らせる。

 

 

「こにょ程度で感じてりゅのか?」

 

「……ん…………ぁあ…………んん…………」

 

 

ウィリアムは両手で片方の耳を触りまくっており、リィエルも今まで以上に敏感に感じており、悶えた声が洩れていく。

 

 

(何か、変……どうしてこんなに……力が抜けるの……?)

 

 

現在進行形で身体中の力が抜けていっている事にリィエルは疑問に感じるも、酔っているウィリアムはそんな暇を与えないと云わんばかりに、容赦なく攻めていく。

 

 

「こっちも可愛いがりゃないとにゃ……フゥ~」

 

 

ウィリアムはそう言って、リィエルの反対の狐耳に息を吹き掛けていく。

 

 

「んん……ッ!?んあ……ッ!」

 

 

それに対し、リィエルは感じているらしく、身体を仰け反らせて悶えさせていく。

 

 

「どうしゅた?ひょっとしゅて、気持ちいいにょかにゃ?」

 

「……気持ちいい……?」

 

 

ウィリアムの質問に、顔を自然と赤くなっているリィエルはそのまま聞き返す。

 

 

「……ん。嫌な気がしないから、多分、気持ちいいと思う……」

 

「そりぇなりゃ、こりぇはどうかにゃ?」

 

 

ウィリアムはそう言うや否や、リィエルの狐耳にアムアムと甘噛みし始めた。

 

 

「んあっ!?んんん……ッ!?」

 

 

噛みつかれた狐耳から伝わる奇妙な感覚に、リィエルは身を強張らせ、悶えていく。

 

 

「アムアム……ハムハム……」

 

「……ん……ぁあ……ぅぁ…………んく……ぅぅぅ…………ッ!」

 

 

ウィリアムは甘噛みを続けており、耳を噛みつかれているリィエルは完全にされるがままに身を悶えさせている。

 

 

「ムグムグ……不思議と甘いにゃあ……」

 

「……ハァ……ハァ……」

 

 

ウィリアムの声はリィエルには殆ど届いておらず、狐耳を容赦なく攻め続けられたリィエルはイヤらしく感じる吐息を吐いている。

 

 

「せっきゃくだし、こちりゃの仕返しもしとくきゃ……」

 

「……え?」

 

 

ウィリアムはそう言って、自身の唇をゆっくりとリィエルの唇にへと近づけていく。対するリィエルは、不思議と高鳴る鼓動と共に、目を瞑る事なくそれを待ち―――

 

 

 

―――ウィリアムの顔はリィエルの顔のすぐ隣へと沈んだ。

 

 

「…………」

 

「…………すぅ……すぅ……」

 

「むぅ……」

 

 

その結末に、リィエルは何故か不機嫌な気分となる。リィエルはそのまま、まだ力が上手く入らない腕でウィリアムを抱き締める。

 

 

「この気持ち……よくわかんないけど……」

 

 

ウィリアムを可能な限り、力強く抱き締めると、あの時の暖かさが胸の中に満ちていく。

 

 

「すごく……幸せな気分になる……」

 

 

リィエルはそんな暖かい気分のまま、夢の世界へと旅立っていった。

 

 

「~~~~~~~~~ッ!!!!!!?」

 

「……うわあ……うわあ…………すごい……すごすぎるよ……」

 

「ふふふ、本当に熱いわねぇ」

 

 

扉の外野に一切気づかぬまま……

 

 

 

翌日の朝―――

 

 

 

「ぁあああああああああああああああああああああああああああああ―――――――――ッ!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

 

「ウィル、うるさい」

 

 

ウィリアムは自分が仕出かした行為に、顔を赤めて盛大に床をのたうち回って暴れる事となり、リィエルからはうるさいと言われる事となった。

 

 

 




これは······やり過ぎたか······?
しかし後悔はない!
感想お待ちしてます

作者はこの後、塵芥となりました


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MORB団

上手く書けたかな?
てな訳でどうぞ


学院にある資材倉庫の一つ。

その倉庫内には顔を覆面で隠した集団が集まっていた。覆面の下の服は学院の男子の制服だ。

 

 

「……全員揃ったな?」

 

 

その言葉にその場にいる全員が頷く。

 

 

「では報告を」

 

「社交舞踏会の時点で既に判明していたが、今年も奴らが多く存在していた」

 

 

その報告をした人物は拳を堅く握り締め、ブルブルと震わせている。周りの人物達も肩をわなわなと震わせている。

 

 

「その中でも特に注意すべき人物は二人いる……」

 

「その人物は?」

 

「二年二組の担任講師グレン=レーダスとその学生、ウィリアム=アイゼンだ。特に後者が」

 

 

ギリッと歯を噛み締めているのを見る限り、相当な憎悪が宿っているのが一目でわかる。

 

 

「あの二人は確かに注意すべき人物だな。特に後者が」

 

「そうだな……」

 

 

拳をギリギリと堅く握り締める音が辺りに響いていく。

 

 

「アイツにはそんなのとは無縁と思っていた時期があったが……」

 

「今では奴らの筆頭だ……ッ!」

 

「ああ、あの子が来てからウィリアムの奴らの仲間入りが加速していった……ッ!」

 

「教室で寝ている時はウィリアムに添うように一緒に寝ていた……ッ!」

 

「休日には一緒に買い物や食事をしてすごしていたという情報もある……つまり、デートしていたという事だ……ッ!」

 

「社交舞踏会ではダンス・コンペに出場。一緒に踊って、優勝一歩手前だった……ッ!」

 

「詳細不明の女学院の同行前には口移しでのキスを……あの子の方から……ッ!!」

 

「あの事件からはシスティーナの家に居候…………そして、その子と毎日一緒に寝ているときたッ!!!!」

 

「「「「「あのリア充めがッ!!!!!!!!!!!」」」」」

 

 

全員から呪詛の声が一斉に上がる。

この集まりはM(モテない)O(男の)R(リア充)B(爆発しろ)団、つまりモテない男、非リア充同士の集まりである。

 

 

「チクショウッ!!どうしてアイツらばっかりがいい思いするんだよ!?」

 

「グレン先生は我らが大天使とメチャクチャ仲良くしてるし、システィーナとも……ッ!!」

 

「ウィリアムはリィエルちゃんと濃厚なリア充振りを……ッ!!」

 

「先日の獣耳では、リィエルちゃんの耳と尻尾を触っていたし……ッ!!」

 

「しかも本人公認だぞ!?」

 

「「「「羨ましすぎるぞ、チクショウッ!!!」」」」

 

 

全員、覆面の穴から血涙が流れている。

 

 

「しかもこれは噂だが、その日のベッドの上でウィリアムがリィエルちゃんを愛でたようだぞ!?」

 

「「「「何だと!?」」」」

 

「詳細は勿論、真偽も分からない……だが、その翌日のウィリアムの顔は真っ赤となっていたし、起きているのに机の上に突っ伏していたから信憑性は高い!!」

 

「このままではそう遠くない未来、二人がバージンロードの上を歩く事になるぞ!!」

 

「一刻も早く恋愛格差社会に終止符を打たなければ!!」

 

「……待て、お前達」

 

 

場が混沌とするなか、静止の声が静かに響き渡る。

 

 

「誰かは知らねえが止めるな!!」

 

「このうらやま階級をぶち壊し、我らの嘆きと怨嗟を晴らすべきなのだ!!」

 

「確かにその通りだ。だが……」

 

 

落ち着いた声でその人物は語っていく。

 

 

「この彼らの愛を今ここで潰してはいけないのではないか?真の愛なら尚の事。俺達は一度彼らリア充を祝福すべきだ……」

 

「そ、それは……」

 

「そうかもしれない。だけど……」

 

「俺達は……俺達はぁ…………ッ!?」

 

 

苦渋の声があちこちから響き渡る。

 

 

「そして、最高の瞬間で奴らリア充を地獄の底へと叩き落とすのだ!!そうすれば我らの無念を奴らも理解するだろう!!」

 

「「「「外道だッ!!外道がここにいるぞ!?」」」」

 

「「「「だが、異議なし!!!!」」」」

 

「それなら出来立てほやほやのリア充はどうすべきでしょうか!?」

 

「出来立てのリア充は、魔術を使って男の浮気を偽装して、その仲を破壊すればいい!!」

 

「了解であります!!」

 

「了解じゃないですよー」

 

 

不意に少女の声が倉庫内に響き渡った。

 

 

「だ、誰だ!?」

 

 

一同が振り返ったその先に居たのは、学院の制服にブーツ、黒いマフラーを首にかけ、若干長い金髪をポニーテールで括った、肌白い少女だ。

 

 

「一年三組のオーヴァイ=オキタさんです。これから貴方達を叩きのめしますよー」

 

「何故自称天才剣士が俺達を!?」

 

「いやー、見廻りしていたら何やら不穏な会話がこちらから聞こえてきたので聞いてみたら物騒でしたので、この最強無敵、天才のオキタさんが貴方達を成敗しますよー!!!後、自称ではありません。オキタさんは本当に天才ですよ」

 

 

オーヴァイは木刀をブンブンと振り回しており、気合いは十分である。自称呼ばわりされ、若干目が据わっており、最後の声は底冷えしていたが……

 

 

「それにしても丁度良かったです。この間の防衛戦はゴーレム達をバサバサと斬りまくっていましたが、最後のドデカイゴーレムを斬れませんでしたからねー。消化不十分でしたからここであの時の鬱憤を晴らしますよー。あ、後、生徒会長さんからは既に許可は貰ってますよ?『馬鹿している人がいれば叩いていい』と」

 

「用意周到すぎる!?」

 

「それじゃあ、いきますよー」

 

 

オーヴァイは素早い動きで彼らへと仕掛けていった。

·····そこから先は多くは語るまい。

 

 

「奥義、無明三段突き!!」

 

「うぎゃーっ!?」

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

「ふー、スッキリしました」

 

 

いい笑顔をするオーヴァイの周りには死屍累々と男子生徒達が転がっており、ピクピクと痙攣している。

 

 

「……やり過ぎですよ、オキタさん」

 

 

連絡を受けた生徒会長のリゼは呆れたように溜め息をはきながら、オーヴァイに注意している。

 

 

「えー?そうですかぁ?木刀ですし大した怪我は負ってない筈なんですが……」

 

「……それより身体は大丈夫?貴女は体質で身体が弱いから……」

 

「大丈夫ですよ。この程度で倒れたりは―――ゴバハァッ!?」

 

 

会話の途中でオーヴァイは口から血を吐き、その場に倒れてしまう。

 

 

「……やっぱりこうなりましたか……」

 

 

リゼは呆れながらも微笑んでオーヴァイを背中に担ぎ、医務室へと向かって行き……

 

 

「お願いしますね、ギーゼン先生」

 

「……またなのね……」

 

 

ギーゼンは泣く泣く“宝箱”から薬瓶を幾つか取り出し、オーヴァイに飲ませていく。

 

 

「確か彼女、スノリア地方の出身だったよね?」

 

「その筈ですが……」

 

「彼女、薄着で暮らしていたと言っていたんだけど……」

 

「……普通は厚着で過ごすべきでは……?」

 

「この子の身体、本当にどうなっているの……?」

 

 

ギーゼンの疑問に答える者はこの場にはいなかった。

 

 

 




下手に出しすぎると舵を取るのが難しくなってくる········どうすればいいのだ!?(自業自得)
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ルミアから見た大人の階段

番外(?)編完成······?
内容は·······ルミア視点で見た朝の会話である
―――行くぞ読者。コーヒーの貯蔵は十分か?
てな訳でどうぞ


皆さんおはようございます。ルミア=ティンジェルです。

今日は銀竜祭の最終日。祭りの最大の見せ場である奉納舞踊が行われる日です。皆で朝食をとっているんだけど……

 

 

「…………」

 

 

ウィリアム君、朝からずっと顔を俯けたまま何だよね。何かあったのかな?

 

 

「ウィリアム、一体どうしたんだ?昨日のあの後、何かあったのか?」

 

「…………」

 

 

先生がウィリアム君に問い質すけど、変わらず無言だね。一体どうし……あ。

 

 

「そ、それよりも先生!今日の踊りは大丈夫ですか!?一晩寝て忘れたなんて事は無いですよね!?」

 

 

ナイスだよシスティ!!

 

 

「大丈夫だ。あんなスパルタ特訓を受けらされたんだからな」

 

「今日は先生の晴れ舞台ですので、後でしっかりと確認した方がいいですよ?」

 

「……まぁ、そうだな。ホントは出たくないんだけどなぁ……」

 

 

よ、良かった……これで先程の話は無かった方向に―――

 

 

「なぁリィエル。昨日の夜、一体何があったのかな?」

 

 

ア、アルフォネア教授!?そう言えば教授はこういうのには絶対に食らいつく事を忘れてたよ!!

 

 

「昨日?昨日はウィルがあの後目を覚まして、この前の仕返しの続きをしてきた」

 

 

仕返しの続き!?つまりウィリアム君はリィエルに自分の方から……!?

 

 

「どんな仕返しかな?」

 

「唇に―――」

「言うなぁあああああああああああああああああああああッ!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

 

 

ウィリアム君が大声を上げて阻止しようとしてる!本当に昨日は何が起き·····うううん、何をしてたの!?

 

 

「《うるさいなぁ・静かに・してろよな》」

 

「ングッ!?」

 

 

教授が【リストリクション】でウィリアム君を口ごと拘束しちゃったよ。こうなったら私達で止めるしかないよね。システィも頷いてくれたし、教授をここで止めないと!!

 

 

「お前達も気になるだろう?」

 

「「……ハイ」」

 

 

ゴメンウィリアム君。好奇心には勝てなかったよ。ウィリアム君が絶望に染まった目でこちらを見ているのを見ると心が痛いけど、私達じゃ教授を止められないから仕方ないよね。

 

 

「さて、リィエル。昨日は唇に何をされたのかな?」

 

 

教授がすごく悪い顔でリィエルに聞いていくね。唇と仕返しと言っていたから、キスをされたと思うんだけど……

 

 

「キスされた。キスしたまま、舌を口の中に入れて絡ませてきた」

 

 

や、やっぱりキスを…………え?舌を絡ませたって…………まさかのディープキス!?システィの顔が一気に真っ赤に!?

 

 

「そのキスの後は?」

 

「その後?キスしながら背中を撫でられた後、耳を噛まれた。噛まれたまま舐められもした」

 

 

また耳を噛まれていたの!?しかも舐められたの!?す、すごいマニアック……ッ!ウィリアム君が必死に拘束を解こうとしてるけど、解ける気配が全然ないなぁ。

 

 

「他には?」

 

「お尻を触られた。なぞるように優しく」

 

 

お尻も触られたの!?

 

 

「お尻を触られたということは……脱がされたのかな?」

 

 

脱がされた!?まさかリィエルは裸にされて……!?あ、リィエルが首を振っている。どうやら違うみたい……

 

 

「服の中に手を入れて触ってた」

 

 

脱がされてなかったけど、直に触られてた!!ああ!?システィから湯気が!?多分私にも湯気が……

 

 

「胸は触られなかったのかな?」

 

「胸も触られ……た?」

 

 

どうして疑問系なのリィエル?

 

 

「胸の一部を指で挟んで動かしていたから、触られていた……と思う」

 

 

そ、それって……

 

 

「●●を弄くっていたとは……中々やるじゃないかウィリアム」

 

 

や、やっぱり●●を弄くられてたんだ!!ウィリアム君がすごく痙攣してるけど……リィエルは何でそんなに平然として話せるの!?普通は照れるよね!?

 

 

「その後ウィルに『きみょちにょくにゃりたいか?』って聞かれて頷いたら、下のほうに手を入れて擦ってきた」

 

 

下!?それってつまり……

 

 

「擦られたら、どんどんウィルを感じたくなって、気付いたら、わたしの方からウィルの口に舌を入れてキスしてた」

 

 

完全に手●●と呼ばれる行為だよ!!しかもされながらディープキスまでするなんて……ッ!?

 

 

「あまりの気持ちよさから声が出て、同時に擦られていた部分に履いていた下着を濡らした」

 

 

やっぱり×××××××だ!!むしろ絶対に××よね!?あまりにすごい内容にシスティは完全にオーバーヒートしちゃうし……先生も見事にひいちゃってるよ!!私も正直、これ以上は限界だよ……

 

 

「その後は?」

 

 

アルフォネア教授!?その後って!?まさか二人はそのままs……!?

 

 

「濡らした後はそのまま一緒に寝た。起きた時もスッキリした気分だった」

 

 

ど、どうやら二人はそこで止まったみたいだね……ウィリアム君は完全に真っ白になっちゃてるし……リィエルが一気に遠い存在になっちゃったなぁ……Bまでいっちゃったし……

 

 

「そう言えば仕返しの続きと言っていたな?その前は何をされていたんだ?」

 

「わたしの耳を触って、息を吹きかけ、噛まれてた」

 

「何時されたのかな?」

 

「セリカがグレンを子供に変えた時」

 

「そうかそうか……やっぱりベッドの上で楽しんでいたか、ウィリアムくん?」

 

 

ああ……先生達にも知られちゃったね……ウィリアム君大丈夫かな?

 

 

「…………」

 

 

……完全に(精神的に)死んじゃってるよ……幸い、ウィリアム君は舞台に出ないから、今日一日はそっとしておいてあげよう……

……私も先生とそこまでいけたらいいなぁ……その前にシスティとイヴさん、アルフォネア教授に勝たないといけないけど……

 

 

 




r-15でまだ通る······筈
龍のスタンド使いは十体以上の龍が天変地異を起こす幻覚を顕現させ、血が滲む程に刀の柄を握りしめていたと聞く·······周囲の動物達が一目散に逃げ出す程だった
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IFルート:春風再会

タイトル通りのお話
てな訳でどうぞ


これは“もしも”の物語である―――

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

「むぅ……全然当たらない……投げ飛ばしたら一発なのに……」

 

「絶対にするなよ?」

 

「いえーい!また当たりましたよー!!」

 

 

スノリアの銀竜祭初日、遊戯屋台で射的に興じているウィリアムとリィエルとオーヴァイ。そのすぐ隣ではグレンとセリカが射的勝負をしている。

そんな三人に、否、ウィリアムに後ろから一人の少女が飛びついてきた。

 

 

「ッ!?誰だ―――」

 

 

コルク銃を片手で構え、狙いを定めていたウィリアムは突然の後ろからの抱擁に驚きながら顔を後ろへ向ける。

ウィリアムに飛びついてきた少女は、眼鏡をかけ、亜麻色の髪をセミショートにした―――

 

 

「―――って、エルザ!?」

 

 

件の少女を視界に収めたウィリアムは驚きの声を上げて少女の名前を叫ぶ。

そう。この少女は以前、聖リリィ魔術女学院へ赴いた時に出会い、再会を約束した少女、エルザ=ヴィーリフであった。

 

 

「はい!お久しぶりですウィルさん!!」

 

 

名前を呼ばれたエルザも、満面の笑みで肯定する。

 

 

「リィエルも、久し振りだね!」

 

「ん。久し振り、エルザ」

 

 

エルザは続いてリィエルにも挨拶し、リィエルも薄く微笑んで再会を喜んだ。

 

 

「ひょっとしてお知り合いですか?」

 

「まぁな。にしてもエルザ。お前もひょっとして秋休みの旅行か?」

 

「はい!フランシーヌさん達に強く誘われて今回の旅行に参加したんです!」

 

 

そんなこんなで。

予想外の再会で驚きつつも、エルザはオーヴァイとセリカ、グレンに改めて挨拶し、そのまま互いの近況も報告しながら歩いていく。

 

 

「春風一刀流ですかー。是非、手合わせしたいですね!祭りが終わった後でどうでしょうか?」

 

「私もオーヴァイさんの剣術には興味があるから、受けてもいいよ?」

 

「ありがとうございます!」

 

 

そんな中、同じ東方の流派の剣術とあってか、エルザとオーヴァイはあっさりと打ち解けて話しあっている。……エルザはウィリアムの左腕に自身の腕を絡ませながら。

 

 

「わたしも、エルザと手合わせしたい」

 

 

ウィリアムの右腕に自身の腕を絡ませたリィエルも、彼女にしては珍しく積極的に会話に参加している。やはり、久々の友達との再会はやはり嬉しかっただろうし、互いに頑張った成果を見せたいという思いもあるのだろう。

そんな両手に華となっているウィリアムは若干遠い目をしながら二人に引っ張られるように歩いている。

 

 

「モテモテだな~、ウィリアムくん?」

 

「クククッ、全くだなぁ」

 

 

その後ろでは実にイヤらしい笑みでグレンとセリカが見守っている。

そんな和気藹々と談笑する中、話題はあそこへと突入する。

 

 

「そういえば、フェジテでは大変な事が起きていましたけど大丈夫でしたか?」

 

「……あー……」

 

 

エルザの質問に物凄く歯切れの悪い言葉を洩らすウィリアム。ウィリアムのその様子にエルザが首を傾げる。

 

 

「?どうしたんですウィルさん?」

 

「あー、その……なんて言うか……」

 

 

相変わらず物凄く言いにくそうに言葉を濁すウィリアム。そんな状況で、オーヴァイが余計な一言を言う。

 

 

「ああー。その時はウィリアム先輩の家が吹き飛ばされたんでしたね」

 

「え!?大丈夫だったんですか!?」

 

「あー、その……確かに家は吹き飛ばされてしまって…………それでシスティーナの家に居候する事になってな……」

 

 

心配するエルザにウィリアムは未だ歯切れ悪く大丈夫だと伝えようとするも、リィエルが言ってはならない事を言ってしまう。

 

 

「ん。それでウィルと毎日一緒に寝てる」

 

「…………………………え?」

 

 

リィエルの爆弾発言により、エルザは圧倒的な沈黙の後呆けた声を出す。しかし、すぐににこやかな笑みでウィリアムに問い質す。

 

 

「ウィルさん。どういう事ですか?」

 

 

エルザは口調は柔らかだが、冷や汗が出る程の圧倒的な威圧感を放っている。そんなエルザに、ウィリアムが答える前にリィエルが再び爆弾を投下する。

 

 

「昨日も、ウィルと一緒に寝た。この辺りは寒いから抱きしめあって」

 

「……ねぇ、リィエル。他にはどんな事があったのかな?」

 

 

眼鏡をかけているにも関わらず、圧倒的な存在感を放つエルザに、矛先が向いたリィエルは聞かれるがままに喋っていく。

ウィリアムは止めたくても、両手が塞がっている上に、エルザの放つ雰囲気から言葉も出せずにいる。そうして、リィエルの口から容赦なくこれまでの出来事が暴露され········

 

 

「フフフ……リィエルはやっぱり凄いなぁ…………本当に妬けちゃうなぁ……」

 

 

全てを聞き終えたエルザはにこやかに笑い続ける。…………背後に雷雲を纏い、竜巻を起こす巨大な龍の幻覚を出現させながら。

 

 

「……エルザ、凄く強くなってる」

 

「……本当に凄いですねぇ」

 

 

エルザが出現させた龍に、リィエルとオーヴァイはずれた感想を告げ……

 

 

「モテる男はツラいなぁ~ウィリアムくん?」

 

「中々面白い光景だなぁ?」

 

 

グレンとセリカは形成された修羅場を、相変わらず実にイヤらしい笑顔で眺め続け……

 

 

「め、目の錯覚かしら?エルザさんの背後に巨大な蛇、いえ、龍が見えるんだけど……?」

 

「錯覚じゃないよシスティ。私にも見えてるから」

 

 

システィーナとルミアは初めて見る龍の幻覚に困惑し……

 

 

「……またエルザが荒れてるなー」

 

「龍の幻覚が現れていたのはこういう事でしたのね……」

 

「連れて来て大正解でしたねー。…………修羅場になってますが」

 

 

エルザと同じく旅行でスノリアに訪れ、システィーナとルミアと話していたフランシーヌ、コレット、ジニーは遠い目で龍を眺め……

 

 

「…………何でこうなった」

 

 

絶賛修羅場真っ只中のウィリアムは現実逃避していた……

 

 

 




続くかなぁ········?
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無知はやはり恐ろしい

追想日誌四巻の表紙とグレンの隠し子騒動·······うん。なんとなくわかった
てな訳でどうぞ


ウィリア充という不名誉極まりないあだ名が付けられた、その日の夜……

 

 

「……そうか。皆だけじゃなく、その“姫”のお陰でもあるのか」

 

「ん。ひめも励ましてくれたから、わたしは戻ってこられた」

 

 

ウィリアムとリィエルは部屋で今回の事を話し合っていた。

 

 

(リィエルの言っている“姫”は多分、リィエルに導入されていたアストラル・コードの人格なのかもしれないな……その“姫”や学院の皆、システィーナにルミア、グレンとイヴの先公もリィエルの力になってくれたのに……)

 

 

自分は大した力になれなかった。

そういう時もあると頭では理解できても、自身への不甲斐なさと情けなさでウィリアムは暗い気分となっていると……

 

 

「それに、ウィルの絶対に助けるという想いも伝わってきたから……」

 

「…………」

 

 

若干微笑みながら告げたリィエルのその言葉に、ウィリアムは少し呆然となるも、どこか恥ずかしくなってリィエルから顔を背けてしまう。

 

 

「……?どうしたのウィル?」

 

「な、何でもねぇよ」

 

「…………」

 

 

照れたように顔を明後日の方向へと向け、ソッポを向き続けるウィリアム。そんなウィリアムを見たリィエルは……

 

 

「……ん」

 

 

セリカから教わった上書き行動(キス)を実行した。

 

 

「ッ!?!?!?!?」

 

 

リィエルにキスされた事で、漸く自身の失敗に気づいて目を見開くウィリアムに―――

 

 

「ちゅぅ……ん……じゅる……んちゅ……」

 

 

リィエルは唇を重ね合わせたまま、ウィリアムが酔った時に敢行していたディープキスを実行。ウィリアムの口内に舌を入れ、絡めていた。

 

 

「―――」

 

 

ウィリアムはまさかのディープキスに思考が硬直してしまう。

 

 

「れろれろん、ちゅ、ちゅば……んちゅ、くちゅ……んじゅる……れろれるれるれろれろ……ちゅぅぅ」

 

 

そんなウィリアムに構わず、リィエルは濃厚に舌を絡ませ、端から見れば甘ったるいキスを続行し続ける。

そんな濃密な時間は二十秒続き、一頻り終えたリィエルが離れた事で漸く終わった。

 

 

「り、リィエル!?何でまたキスを……ッ!?」

 

 

ウィリアムは直ぐに我に返ってリィエルに先程の行動を問い質すと―――

 

 

「ウィルが恥ずかしがってたから、更に恥ずかしい事で上書きした」

 

「だよなぁ!?」

 

 

予想通りの返答が返ったことでウィリアムは頭を抱えて俯いてしまう。

 

 

「キスというのは基本好きな人同士がするもんだ!!こういう風に気軽に―――」

 

「?だったら問題ない。わたしはウィルのことが一番大好きだから」

 

「ぁあああああああああああ―――ッ!!!!!」

 

 

キスについての知識を教えるも、本当に相変わらずのリィエルにウィリアムは益々頭を抱えていく。

グレンが病気で弱ったリィエルを元気付けるために教えた事がこのような事になるとは……グレンも()()()は思っていなかっただろう。

その後、リィエルが自分はいない方が良かったのかと呟いたり、「過労で倒れた程度の犯罪者を捕まえられなかった連中」とアルベルト達を馬鹿にしていた蒼天十字団(ヘヴンス・クロイツ)のメンバー達の脅迫、無理をして容態を悪化させたリィエルの姿で、そのやり取りはあの発言まで完全に記憶の隅へと消えてしまっていたが……

 

 

「そもそも何でディープキスなんだ!?」

 

「ウィルがこれを仕返しと言ってやったから、更に恥ずかしい事だと思ったからやった」

 

「確かに普通のキスよりかは恥ずかしい事だな!!」

 

「あと、何となく甘かったから、また味わいたかったからやった」

 

「本当にあの時の俺をぶん殴りに行きたいッ!!!」

 

 

ディープキスに味をしめてしまったらしいリィエルに、ウィリアムは頭を抱えたまま項垂れる。

普通は照れたり、気恥ずかしくなるものなのに、ディープキスを実行したリィエルは実に何時も通りの眠たげな表情だから、本当に無知は恐ろしいとウィリアムは改めて実感した。

 

 

「?どうしたのウィル?ひょっとして恥ず―――」

 

「違ぇよ!?」

 

 

その後、辛うじてこれ以上の上書き行動を阻止する事が出来たが、止めさせるまでには至らなかった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

ウィリアムの精神が(色んな意味で)削られ、ウィリアムとリィエルは何時ものように就寝につく。

一緒に寝るのは慣れたのでいい。抱きついて寝るのも……まだ、いいだろう。

だが·····

 

 

「……何で顔を埋めているんだ?」

 

 

自分の胸に顔を埋めて寝ようとしていることに、ウィリアムは疑問の声を洩らす。

 

 

「今日はウィルに甘えて寝たいから」

 

 

対してリィエルはクンクンと匂いを嗅ぎながら、自身の顔をグリグリと擦り付けるようにウィリアムの胸に埋め続けながら、そう答える。

 

 

「ハァ……」

 

 

ウィリアムは呆れたような顔になりながら、リィエルの頭を左手で優しく撫でていく。

今回は色々と大変だったからこれくらいはいいかと、ウィリアムはどこか諦めたかのように、顔を埋めて表情が見えないリィエルの甘えを受け入れ、そのまま一緒に眠りについた……

 

 

 

―――ベッドがギシギシと軋みを上げる。

それに合わせ、ベッドの上にいる二人の○が○○○動き続ける。

 

 

『んっ!んぁ、ああぁ……す、凄く……んぅ……う、動いて……んはッ!?気持ちんんっ!イイ……』

 

『くっ……俺もだ……ッ』

 

『ぃんッ!さ……触られて、なぞられただけで……んああ゛っ!?』

 

『凄いな……こんなにも、感じている……のか……』

 

『ん゛……はぁ……はぁ……ああ……うっ!……欲し、ひぐっ……い……ウィ、ルの、あ゛うっ!ウィルの―――』

 

 

 

「―――ッ!!!………………………夢か」

 

 

リィエルと一緒に寝るようになって以降、何度目かわからない()()()に、ウィリアムは何とも言えない気分となり、右手で顔を覆い溜め息を吐く。

左手は…………リィエルが抱きついて、というか、暖かく柔らかいものに挟まれているせいで動かせない。それでも僅かに動かそうと―――

 

 

「……んッ!……」

 

 

した結果、隣で寝ているリィエルから少しだけ喘ぎ声が洩れ、その身体が僅かに痙攣した。

 

 

「……へ!?」

 

 

ウィリアムはそこで漸く気づく。自身の左手がリィエルの太股に挟まれ、アソコに当たっているという事実に。

それに気づいたウィリアムは大慌てで左手を引き抜くも―――

 

 

「…………ん……?どうしたの、ウィル……?」

 

 

タイミング悪くリィエルが目を覚ましてしまった。その為、多少誤魔化しつつ理由を話した結果―――

 

 

「……んちゅ、ちゅぅ、ぴちゃっ、んん……」

 

 

ウィリアムが恥ずかしがっていたと解釈したリィエルの上書き行動(ディープキス)が炸裂することとなった。

 

 

「「…………(/////)」」

 

 

勿論、何時もの如く、様子を見にきた友達二名は顔を真っ赤に染めて現場を凝視。リィエルの寝間着が、上半身がはだけるほど着崩れしていたこともあり、お盛んだったと朝食まで誤解される事となった。

そして、この夢が後日、記憶に残らぬ、現実味のある夢となる事を知るよしもなかった……

 

 

 

一方、ウィリアムとリィエルが寝ていた頃……

 

 

「それはそうと、翁、クリストフ。今話した事とは無関係だが、少し気になる事がある」

 

「どうしたんじゃアル坊?他にも気になる事があるのか?」

 

「リィエルに一応程度で課せられた《詐欺師》の監視任務についてだが……アイツ(アイゼン)は今、フィーベルの家で居候している」

 

「……ほぉ?」

 

 

その瞬間、バーナードの目が一気に据わったものに変わる。

 

 

「それで、リィエルがアイゼンと一緒に寝ているという事実が浮上したのだが……」

 

「よし。今からフェジテに向かって、ウィル坊をぶん殴りに行ってくるわい」

 

「落ち着いて下さいバーナードさん。流石にそういった関係には発展……」

 

「加えて、フィーベル達から()()話を聞いたのだが、()()()()()光景を目にする事が多いそうだ。リィエルにその自覚はないと、一線は越えていないと、フィーベル達は言っていたが」

 

「…………」

 

 

クリストフは宥めようとするもアルベルトからもたらされた情報に言葉を失う。

ちなみに、アルベルトが近況を聞いた際、システィーナ達が口を濁した為、少々きつめに問い質した結果、イヴが呆れながら濁した理由を説明した事で、仔細は不明なままだが()()()()()事だと把握したのだ。

 

 

「さぁ~て。急いで神鳳(フレスベルグ)の使用許可の申請をせんといかんのぉ。一刻も早くウィル坊をコテンパンにせんといかんからのぅ」

 

「大人げないですよ、バーナードさん……」

 

「やかましいわいクリ坊!!どうせ今もベッドの上でキャキャッウフフな展開になっとるあやつ(ウィル坊)をボコらんと、儂の気が晴れんわい!!」

 

「流石にそこまでは……」

 

「俺もそう思いたいが……それを知る前に、リィエルにアイゼンに甘えればいいと言ってしまったからな。絶対とは言い切れん」

 

「アル坊……何故そんな事を言ったんじゃ?」

 

 

幽鬼のような顔となったバーナードがアルベルトに理由を求める。対するアルベルトは淡々とした口調で理由を話していく。

 

 

「リィエルが今回の事を気に病んでいたからな。それで気休め程度に言ったのだが……」

 

「……二人は付き合っているのでしょうか?」

 

「いや、話を聞いた限りではそうではないようだが……」

 

「フッフッフッ…………どうやら、儂の持つ全てを使って《詐欺師》を叩きのめす必要があるようじゃの……」

 

「だから落ち着いて下さい、バーナードさん」

 

 

(アルベルト)》の報告で《隠者(バーナード)》が瞳から光が消える程の嫉妬に身を焦がし、それを《法皇(クリストフ)》が必死に宥めるという事態が起きる事となった……

 

 

 




案外、外堀が埋まってきている·······?
ウィリアムは現時点ではリィエルに食べられまくっているな·······チッ!
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白猫と大天使の記録帳

最近、こういう話ばかりだなぁ·······後悔はないけど
てな訳でどうぞ


○月×日

今日からとある事に関しての記録をルミアと交代で付ける事にしたわ。

べ、別にあの二人がそうなっても私達には関係ないけれど、万が一の時の証拠として残しておくだけよ!!

昨日は家を爆破されたアイツの居候がリィエルの提案で決定した。

それは別にいいんだけど、一番重要なのはリィエルがアイツ―――ウィリアムと一緒のベッドで寝ていた事が大きな問題だった。

最初は私達にリィエルを引き取らせた後、こっそりと招き入れてBを実行していたのかと思ったのだけれど、実際はリィエルが錬金術を使って部屋に侵入、ウィリアムが寝ているベッドに潜り込んでいただけで少し安心したわ。

その時、どうしてウィリアムと一緒に寝たいのか本人に聞いたら「いつも一緒に寝ているのに、何で駄目だったのかがわからない」と答えたわ。

そういえば学院で寝ている時はリィエルはよくウィリアムの肩を枕にしていたわね……

そういう訳だからウィリアムに釘を刺し、二人が一緒に寝る事を許す事にした。

 

 

△月◎日

今日はお義父(とう)様達が帰って来ました。

義父(とう)様達は私達を心配して殆ど強引に帰省して、私達を見た時、お義父(とう)様は本当に安心した顔をしていたんだけど、すぐに表情を険しくして家の中から男の臭いがすると言ってきたんだよね。

隠し通す事は出来ないから、お義父(とう)様達に正直にウィリアム君が居候する事になった事実とその事情、居候してからの生活をシスティが代表して答えてくれた。

その後、お義父(とう)様とお義母(かあ)様、爆破された家の荷物を回収し終えて帰ってきたウィリアム君の話し合いは穏便(?)に終わり、ウィリアム君の居候は許されました。

けど、リィエルがウィリアム君とまたキスしていたなぁ……ちょっと羨ましいよ。

上書き行動かぁ……無理無理!!恥ずかしくて出来ないよ!!

 

 

□月○日

今日は朝からリィエルがウィリアムと唇を重ね合わせていた。

しかも唇を重ね合わせていた理由が、ウィリアムが恥ずかしがっていたから上書きしたというものだったわ!!

リィエルの顔がくっつく程近かったからウィリアムは顔を背けたようだけど……逆に同情するわね……

ちなみにウィリアムに抵抗しなのかと聞いたら「抵抗する暇もないし、第一、リィエルの素の力が強いから振りほどけない」と半ば納得のいく理由を話したわ。

ある意味地獄だけど……ほ、本当に羨まし心配だわ……

 

 

×月△日

今日から『生存戦』の強化合宿の為、宿泊棟でお泊まりです。

最初、リィエルはどこかに行っていて暫くしたら帰ってきました。リィエルにどこに行っていたのか尋ねたら「ウィルの寝る部屋。一緒に寝ようとしたけどウィルが退学にされると言って追い返された」って答えたよ。

その瞬間、部屋にいた皆が大騒ぎしちゃって、そこから流れるように女子会に突入。皆がリィエルに色々と聞こうとしていたけど、私とシスティが必死になって取り繕ったよ。だって、リィエルに下手に恋愛の知識を教えると大変な事になるからね。皆もその辺りを察してくれたおかげで無事に事なきを得たよ。

 

 

◇月□日

今日深夜、グレン先生に夜食の差し入れを持っていったわ。

そこでイヴ先生がグレン先生を押し倒している現場に遭遇した。二人が言うには転んだ拍子になった結果だって言ってたけど……どうしてこんなにモヤモヤするのかしら?

そのすぐ後、リィエルがウィリアムを押し倒して自ら衣服をはだけさせた時は先生達以上の衝撃を受けたわ。確かに形から入るものだって教えたのは私だけど、それは料理の話よ!!

本当にあの子、無防備すぎるでしょ……

 

 

×月○日

今日はアルフォネア教授の“癒し”で色々と大変でした。

だけど、大変だったのは家に帰ってからだったんだよね。今日は運悪くお義父(とう)様達が帰ってきちゃったのもそうだけど、一番凄かったのはリィエルが酔っぱらったウィリアム君に愛でられた事だったんだよね。

まさか、お酒が含まれた紅茶を一杯飲んだだけであんなに簡単に酔うだなんて……今でもその光景を思い出すだけで頭がふわふわしちゃうよ……

リィエルも幸せそうだったし……本当に羨ましいなぁ……

 

 

▽月×日

また大分間が空いちゃったわね。でも、仕方ないかな、白銀竜の登場で滅亡の危機に瀕していたんだから。

だから、白銀竜が現れる前の出来事も今日記載するわ。

その日の前日、ウィリアムは間違って赤ワインが入ったグラスを飲んじゃってあっという間に酔い潰れちゃったのよね。その酔い潰れたウィリアムをグレン先生が運んで宿泊するホテルに帰ったのだけれど……問題はその後に起きてしまった。

リィエルの話を聞いた限り、ウィリアムは酔いが醒めていない状態で目を覚まして、リィエルに仕返しの続きと言ってディープキスの後、Bを実行したのよね。

本当にリィエルばかりズルが心配になってくるわ……

それと、リィエルに恋のライバルが新しく出てきちゃったわ。彼女―――オーヴァイさんは二人と一緒に寝ていたけど……なんで皆、こんなに積極的なの?

 

 

◎月△日

今回もまた間が空いちゃったね。今回はリィエルが『エーテル乖離症』で死にかけていたから当然だけど……

今日の夜、リィエルがウィリアム君にディープキスを実行していました。

盗み聞話を聞いた限り、すっかり味をしめちゃったみたいだね……

ウィリアム君の事、一番大好きだって皆の前で言っちゃたし……『皆』がなかったらもっと大変な事になっただろうなぁ……

リィエルがどんどん大人になっているよ……

 

 

○月◇日

今日はオーヴァイが勝手に泊まりに来たわ。ちなみに呼び捨てになっているのは本人から呼び捨てで構わないと言ったからよ。って、誰に向かって書いているのかしら?

今日は色々と大変だったけど、今日一番の衝撃はオーヴァイが持ってきたシュウザー教授の装置のあるソフトだった。

そのソフトは男爵だけじゃなくチャールズまで開発に協力した最悪なソフトだった。そのソフトの中でリィエルとウィリアムは□□□□してしまった……それも二回も。

いくら夢の中とはいえ、半ば勢いでやったであろう二人の事を考えると複雑な気分になるわ……本当に羨まし

とりあえず、二人にはあれは夢だったと強く言っておくわ。

 

追記:二人のその記憶が残ってなくて安心したわ……色々な意味で。

 

 

■月●日

今日リィエルが「ウィルに、あの時された仕返しをまたされたい」といつもの表情で言ってきました。

その時は理解が追い付かなかったけど、それを理解した瞬間、私とシスティは大慌てで止めにかかったよ。だって、まだ付き合っていないのにBを望むなんて駄目だからね!!

とりあえず、どれだけ上書きされても仕返しはしてこないとリィエルに教えたから大丈夫だよね!!リィエルも考える素振りをした後、「……わかった」って言ったから諦めただろうし……

本当にリィエルは私とシスティより大分大人の階段を上っているなぁ……

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

「あぅっ!……はぁ……はぁ……」

 

「しきゃえしだかりゃ、もっとしきゃえししてやりゅ」

 

「んっ、くぅ、あっ、んっ!……や、やっぱり……気持ちい……んぁああああああああああああああああああああああああ―――ッ!!!!!」

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

▲月▼日

……認識が甘かったわ。

今日の朝食の時、ウィリアムが俯いていたから嫌な予感にかられながら恐る恐る聞くと「……酒を口移しで飲まされた」と答えた。その瞬間、私とルミアは全てを察した。

リィエルも「ん。昨日の仕返しは凄かった。半分□□□□□、舐められて、特に最後はわたしの□□を□□□□、指を□□□□て□□□て、仕返しの続き以上の気分になったから気持ち良かった」とどこか満足げな表情でそんな事を言うからこっちも変な気分になりかけたわ。

その後、ウィリアムが羞恥からテーブルに突っ伏して、恥ずかしがっていると解釈したリィエルにディープキスされるという悪循環が起きたけど……

リィエルの恋愛に関しての教育を本気で検討する必要性を改めて感じた瞬間だったわ。

ちなみに、酔わされたウィリアムは音声遮断結界を張ってからBを実行したようだった。だから気づけなかったのね。

そして、お酒が入っている場所は今後厳重にしておかないとね……二人の為にも……

 

 

 




「「「「作者に血の粛清と憤怒の裁きをッ!!!!!!!!!!」」」」


血に染まった槍を片手に突撃してくる非リア充達。作者は必死に逃げるも―――

―――感想お待ちしてます←血だまりに浮かんだ文字


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獣耳再び

正真正銘、今年最後の投稿
てな訳でどうぞ


再建されたアルフォネア邸、その一室にて。

 

 

「なぁセリカ。こいつは……」

 

 

グレンは薬瓶を手に持ち、ひきつった表情でセリカに問い質していた。

 

 

「そいつは例の薬の改良型だ。服用した次の日に効力を発揮するようにな」

 

「まさかとは思うが……」

 

 

セリカの何て事はないという感じの説明に、グレンは猛烈なまでに嫌な予感を覚え、続きを促すと……

 

 

「ああ。既に飲ませてあるぞ。お前達のお昼の飲み物にな」

 

「セリカぁああああああああああああああああああ―――ッ!?」

 

 

予想通りのセリカの返答に、グレンは叫び声を上げる。

 

 

「安心しろよ。子供にはならないから」

 

「安心できるかぁッ!?」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――まだ、日が昇らぬ朝のフィーベル邸にて。

 

 

「…………ふぁ……」

 

 

ウィリアムは何時のようにベッドから身体を起こし、背伸びする。腰の辺りに奇妙な違和感があるが、それは起きたばかりで思考が麻痺している故の気のせいだろう。

そして、リィエルを起こそうと視線を向け―――

 

 

「……………………は?」

 

 

ウィリアムはあり得ないものを見たように目が点となって硬直した。

 

 

「いやいやいや。流石にあり得ないだろ。まだ寝惚けているのか?」

 

 

ウィリアムは目の前の現実を否定しようと、目を擦ってから再びリィエルに目を向けるも、そのあり得ないものは未だ存在していた。

 

 

「ハハハッ……どうやら幻覚が見えてるみたいだな……」

 

 

ウィリアムは今度は幻覚と考え、ソレに触れるも―――

 

モフッ。

 

 

「……ん……」

 

 

リィエルの背中にあるソレに触れた瞬間、柔らかい感触と共にリィエルの身体が僅かにピクッと動いた。

 

 

「……ハ、ハハッ……そうか、俺はまだ夢にいるのか……」

 

 

ウィリアムはひきつりながら自身の頬っぺたをつねり、引っ張るも、しっかりと頬から痛みが伝わってきている。

 

 

「……マジでどうなっているんだ……?」

 

 

ウィリアムは目の前の現実を受け入れきれず、頭を抱えた―――その時。

 

ムニッ。

 

 

「…………へ?」

 

 

頭から伝わった奇妙な感触と、手から伝わる柔らかい何かに、ウィリアムは猛烈なまでに嫌な予感を覚え、急いで鏡を見ると―――

 

 

 

―――頭から丸い耳が生えていた。ご丁寧に丸く太い尻尾もウィリアムの後ろからチラチラと見えているというオマケ付きで。

 

 

「―――またなのかぁああああああああああああああああああ―――ッ!?!?!?」

 

 

その瞬間、ウィリアムは一気に原因を理解し、大きな叫び声を上げ、その場に四つん這いで崩れ落ちる。

 

 

「……んむぅ……うるさい……」

 

 

その大声でリィエルが目を覚まし、少し不機嫌そうに起きてウィリアムを見るも、ウィリアムから生えている“狸の耳と尻尾”を前に目を瞬かせ唖然としていた。

 

 

「……ウィル……?それは……?」

 

「……ほぼ間違いなく教授の仕業だ……お前も鏡を見てみろ。お前にも耳と尻尾があるから」

 

 

ウィリアムに言われるまま、リィエルもベッドから起き上がって鏡の前に立ち、姿を確認すると、鏡には“栗鼠の耳と尻尾”が生えた自身の姿が写っていた。

 

 

「……お揃いじゃない」

 

 

ウィリアムとは違う獣の耳と尻尾に、リィエルは悄気たように尻尾を垂らして力なく呟く。

 

 

「……あー……その耳と尻尾も似合っているから……あんまり落ち込むなよ……?」

 

「……ホントに?」

 

 

何とも歯切れの悪い感じでウィリアムはフォローするも、リィエルは何故か探るように聞いてきた。

 

 

「ホントホント」

 

「……じゃあ、触ってほしい」

 

「ッ!?」

 

 

リィエルのまさかの切り返しに、自ら首を絞めてしまったと気づいたウィリアムは絶句してしまう。

だが、ここで躊躇うのと、上書き行動(ディープキス)をされる事を天秤にかけた結果―――

 

 

「……ベッドに座ろうか」

 

 

ベッドの上で尻尾を触るという選択を選ぶ事にした。

 

 

「ん」

 

 

ウィリアムのその言葉に素直に頷き、ベッドの上で女の子座りとなり、尻尾をフリフリと可愛らしく振ってスタンバイする。

そして……

 

 

「……うん。以前の狐の尻尾と比べたら弾力があって、こっちの尻尾も良いな」

 

「……ん」

 

 

ウィリアムはリィエルの尻尾に抱きつくようにその感触を堪能し、リィエルはどこか嬉しそうに目を若干細めてされるがままにしていた。

 

 

「わたしもそろそろウィルの尻尾を触りたい。だから触らせて」

 

「……ハイハイ」

 

 

リィエルのお願いに、ウィリアムは肩を竦めて頷き、リィエルの尻尾から離れ、リィエルに背を向けて胡座をかいてスタンバイ。

それを確認したリィエルは何の躊躇いもなく、ウィリアムの尻尾に抱きつき、その感触を堪能し始める。

 

 

「……ん。この尻尾もモフモフして気持ちいい」

 

「……そうかい」

 

 

リィエルの感想にウィリアムはそう返し、システィーナ達への説明と今朝の通学手段に頭を悩ませていった。

ちなみに……

 

 

「な、な、な、なによこれぇえええええええええええええええ―――ッ!?!?!?」

 

 

早朝特訓の為に目を覚ましたシスティーナは鏡に写った“犬の耳と尻尾”が生えた自身の姿にすっ頓狂な声をあげ……

 

 

「……すぅ……」

 

 

朝に弱い“兎の耳と尻尾”が生えたルミアはすやすやと眠り続け……

 

 

「なっ、なっ、なっ、なっ、なっ…………ッ!?!?」

 

 

イヴは鏡に写った自身の“狐の耳と尻尾”が生えた姿に絶句し……

 

 

「やっぱりこうなったか……」

 

 

グレンは自身に生えた“猫の耳と尻尾”に、諦めたかのように深い溜め息を吐いていた。

またしても、獣耳騒動が幕を開ける事となった。

 

 

 




感想お待ちしてます
そして皆さん、良いお年を!!


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獣耳再び・2

てな訳でどうぞ


ウィリアムとリィエルは一通り互いの尻尾をモフり、ウィリアムがある事実に気付き、リィエルの()()が炸裂した後、制服に着替えて食堂へ向かったのだが……

 

 

「……システィーナ。お前もか……」

 

「……それ以上は言わないで」

 

 

今朝の食事当番で先に訪れていたであろうシスティーナは、犬耳と尻尾を力なく垂れ下げながら気落ちして食堂に居た。勿論、こんな姿なので早朝特訓には行っていない。

 

 

「確実に教授の仕業だよな……」

 

「ええ……そして、先生も一枚噛んでいるでしょうね」

 

「そして、この流れからして……」

 

「うん……ルミアも同じように生えてるでしょうね……」

 

 

精神を削られたような表情のウィリアムの言葉に、システィーナは溜め息と共に概ね同意する。

 

 

「それにしてもウィリアム。私以上に窶れているわよね?……何かあったの?」

 

「…………」

 

 

システィーナの質問にウィリアムは目を逸らして無言を貫く。

実はモフッた後、着替えを促そうとした時にウィリアムは漸く気がついたのだ。リィエルの寝間着のスカートが大きな栗鼠の尻尾によって捲り上がっているという事実に。

当然、スカートの中身が丸見えなわけで、ウィリアムが大慌てで着替えを促した結果―――

 

 

『じゅる……ちゅるちゅる、くちゅれちゅ……ちゅぅぅぅぅぅーー……』

 

 

上書き行動(ディープキス)が炸裂した。

 

 

「……あー…………」

 

 

ウィリアムのその反応に、システィーナは何となく察して顔を赤めながら何とも言えない声を出す。そんな中―――

 

 

「えっと……その……おはよう……」

 

「「…………」」

 

 

兎の耳と尻尾を生やしたルミアが恥ずかしそうに顔を赤めながら食堂に入ってきた。

ルミアの頭にでピョコピョコと動いているウサ耳を見て、ウィリアムとシスティーナはああ、やっぱりと言った感じでルミアに視線を送る。

 

 

「ルミア。すごく似合ってる」

 

「……うん。ありがとう」

 

 

リィエルだけはいつも通りだった。……踵を浮かせて背伸びして手を伸ばし、ウィリアムの獣耳の付け根辺りを触りながら。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

何とも言えない空気の中、朝食を済ませた四人はウィリアムが具現召喚した人工精霊(タルパ)の鳥に乗って学院へと足を運んだ。

そして、真っ先に教職員室に向かったのだが……

 

 

「えっと……イヴ先生?」

 

「…………何も聞かないでちょうだい」

 

 

教職員室にはまだグレンは居らず、代わりにフード付きのローブを被った不審者全開の姿となったイヴがいた。……フードから二つの出っ張りが出来て、尻尾が見え隠れしているが。

 

 

「……取り敢えず、グレンの先公が来たら絶対に問い質す。物理的にな」

 

 

ウィリアムはそう呟いて全長一・二メトラ程あり、中心部分に引き金がある巨大な真っ黒な十字架を右手に錬成する。この十字架は火薬で内蔵した杭を()()()()ウィリアムの初期の近接武装である。もちろん、普通に鈍器としても使える。十字架に使われている材質は特殊な合金であり、その剛性と靭性はウーツ鋼を越えている。

これがお蔵入りになったのは人工精霊(タルパ)の種類が増えた事とこれ自体の取り回しの不便さからである。

現在はこれを元にした新しい魔導器を目下開発中であるが、あまり上手くいってはいない。先日、アルベルトが持ってきていた魔杖《蒼の雷閃(ブルー・ライトニング)》を()()()()見せてもらい、携帯出来るレベルでの劣化版を作ってはいるのだが、それを含む幾つかの機能を上手く統合させるのに苦労しているのが現状だ。

そんな事はさておき、グレンに質問という名の制裁を加えようと待ち構えていると、ついにグレンがその場に現れた。

 

 

「グレンの先公ッ!!どういう事か……」

 

「グレンッ!!覚悟しな……」

 

 

……猫耳と尻尾を生やした状態で。

 

 

「「「「……………………」」」」

 

「……何だよ?」

 

「……グレンの先公も被害者だったのか?」

 

「……ああ。明日の朝になったら消えるんだとよ」

 

「……そう」

 

 

グレンの返答を境に、辺りに何とも言えない空気が漂う。加害者だと思っていた人物(グレン)が自分達と同じ被害者だったのだから当然だろう。

ちなみに……

 

 

「モフモフ……ぎゅうう…………」

 

 

リィエルはウィリアムの尻尾を堪能し続けていた。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

すっきりしない気分のまま、グレン、ウィリアム、システィーナ、ルミア、いつも通りのリィエルは二組の教室へ、イヴは自身の受け持つ軍事教練の授業へと向かう。

二組の教室に入ったグレン達を最初に迎えたのは―――

 

 

「「「「「…………」」」」」

 

 

圧倒的な彼らの沈黙と……

 

パシャッパシャッパシャッパシャッ!

 

魔導撮影器が鳴り響く音であった。

女子学生達はすぐにいつもの事だと察して曖昧な笑顔になるも……

 

 

「「「「「ぺっ」」」」」

 

 

男子生徒達はふて腐れたように、そっぽを向いていた。その理由は勿論。

 

 

「スリスリ……」

 

 

ウィリアムの尻尾に頬擦りしているリィエルの気持ちよさげな顔を見たからである。

 

 

「くそ、ウィリア充め……」

 

「本当に先生とウィリア充ばかりずるい……(泣)」

 

「一体どれだけ僕達を苦しめれば気が済むんだ(号泣)」

 

 

そんな風に彼らが嘆いていると、教室の扉が再び開け放たれる。その扉から二つの影が飛び出し、一つはウィリアムへ、もう一つはシスティーナへと向かっていく。その人影の正体は……

 

 

「うはー!!本当にモフモフしていますねー!!」

 

「お姉様ぁあああああああああああああ―――ッ!!!!」

 

 

話を聞いて駆けつけた自称・天才剣士のオーヴァイと、システィーナに恋愛対象で惚れているアルシャであった。

 

 

「ひゃっ!?ちょ……やめ……」

 

「モフモフ……くんかくんか……やっぱりお姉様は最高です……ハスハス……」

 

「いやっ……そこは……んっ……や……」

 

 

目の前で一方的に展開される百合百合しい展開。そのすぐ近くでは―――

 

 

「スリスリ……ぎゅうう……ああ、幸せです……」

 

「むぅ……」

 

「さ、流石に二人がかりはぁああ……」

 

 

オーヴァイがウィリアムの尻尾を堪能しており、リィエルはそれに対抗するようにウィリアムの尻尾にしがみつき、ウィリアムは容赦のないモフりに四つん這いとなって崩れ落ちていた。········子犬と狼が睨み合う幻覚を出現させながら。

 

 

「なぁ……どうやってウィリア充を始末する?」

 

「刺殺、撲殺、毒殺、絞殺。もしくは社会的抹殺で」

 

「下剤はあったかなぁ……?」

 

「視線で穴が空けられるかなぁ……?」

 

 

その光景に男子生徒達は血涙を流しながら物騒極まりない事を呟き続け……

 

 

「これはすんごい美味しい光景や!!」

 

 

チャールズは目を輝かせながら、百合百合しい光景と修羅場な光景を撮影していった。―――グレンの姿も撮影しながら……

 

 

 




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獣耳再び・3

てな訳でどうぞ


朝の一悶着も何とか収め、午前の授業も嫉妬と興奮が漂う空気の中で終わりを告げる鐘が鳴り、女子学生達は食堂や中庭に向かい、男子学生達は獣耳三人娘を記憶に焼き付けようとガン見している中―――

 

 

「ウィリアム先ぱーーいッ!!!一緒にお昼を食べましょう!!」

 

「え、ちょっ―――」

 

 

二組の教室に再び訪れたオーヴァイが大きめのバスケット片手にウィリアムを昼食に誘い、返事も聞かずにウィリアムの腕を引っ張って連れ出していった。

 

 

「本当に積極的ね……」

 

「あはは……そうだね……」

 

 

オーヴァイの行動力にシスティーナとルミアは頭の獣耳をピクピクと無意識に動かしながら若干羨ましそうに呟く。スノリアの銀竜祭の時は今とは違う理由であったにせよ、ウィリアムとリィエルに平然と混じって祭りを楽しんでいたのだ。恋する乙女になってからは、その行動力にある意味拍車がかかっている。

一例を上げると、一緒にフェジテに帰る際、リィエルより早くウィリアムの左腕に自身の腕を絡ませて列車に乗るくらい積極的になっていたのだ。席に座る際もオーヴァイはウィリアムの左側をちゃっかりと確保したのだが……

 

 

『……リィエル。何で俺の膝の上に座るんだ?』

 

『……ここに座りたいから』

 

 

リィエルはその上をいく、ウィリアムの膝の上に陣取るという行動に出た。そして―――

 

 

『リィエル先輩。普通にウィリアム先輩の右側に座ったらいいんじゃないですかー?』

 

『……大丈夫。わたしはそんなに邪魔にならないから』

 

 

オーヴァイはにこやかな顔で、リィエルはいつもの眠たげな顔で互いを見つめ合い、火花を散らすという状態へと突入していったのだ。

そんな二人の最初の修羅場を思い出しながら、システィーナとルミアはリィエルがいた場所に顔を向けると―――

 

 

「あれ?リィエル?」

 

「……どこにいっちゃたんだろう?」

 

 

その本人はいつの間にか姿を消していた……

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「おいオーヴァイ!!一緒に食べてやるからそんなに引っ張るな!!」

 

「えー?別にいいじゃないですかー。もうすぐ中庭につきますし」

 

 

ウィリアムの抗議をオーヴァイはさらりと受け流しながらウィリアムの左腕を引っ張って中庭へ向かって歩いていく。

 

 

「……むぅ」

 

 

そんな彼らの後ろには、少し小さめのバスケットを持ち、ほんの少し眉根を寄せたリィエルが追従していた。心無しか獣耳と尻尾の毛が若干逆立っている。

そんな彼らが皆の憩いの場である中庭へと到着し、最初に出迎えたのは―――

 

 

「「「「……チッ!!!!」」」」

 

 

モテない男子達の舌打ちであった。

そんな周りの嫉妬の空気等、オーヴァイはお構い無く突き進み、池の近くで漸く足を止めた。

 

 

「それではここで食事にしましょう。もちろん、リィエル先輩もご一緒で」

 

「まぁ、一緒に食べてやると言ったしな」

 

「ん……」

 

 

ウィリアムは仕方ないといった感じで腰を降ろし、リィエルも続いてウィリアムの左側に座ろうと―――

 

 

「……そこはわたしの位置。だから退いて」

 

「残念ながら早い者勝ちですよー」

 

「むぅ……」

 

 

オーヴァイが一足早くウィリアムの左側に座ったので、リィエルは退くように言うもオーヴァイの切り返しで若干むくれてウィリアムの右側に座り直した。

 

 

「それでは、ご開帳です!!」

 

 

オーヴァイはニコニコしながらバスケットの蓋を開ける。

バスケットの中身は滅多に出回っていない“コメ”―――東方や南原の主食を三角形の塊に形を整え、海苔と呼ばれるものを巻いたものがバスケットの約半分を埋めており、残りは薄い黄色い衣に包まれた海老や魚の切身に野菜、具が一切入っていない四角い小さなオムレツ、黄色い半月状に切り分けられた野菜が詰まっていた。

 

 

「見たことないもんばっかだな」

 

「ふっふーん!これらは東方の料理、おにぎり、天ぷら、卵焼に沢庵です!!(……沢庵は食べ飽きてますが……)」

 

 

最後の方だけ小声で呟いてオーヴァイはバスケットの中の料理を胸を張って説明する。

 

 

「まぁ、せっかくだしいただくか」

 

「……ん」

 

 

ウィリアムは苦笑しながら、リィエルはどこか機嫌が悪そうにおにぎりを手に持ち、噛みつく。

 

 

「ん?中に肉を入れているのか?」

 

「ハイ!おにぎりの中には具として鶏の揚げ物を入れたんです!お味はどうですか?」

 

「初めて食べるもんだが、美味いぞ」

 

「良かったです。頑張って作った甲斐がありました」

 

「…………」

 

 

ウィリアムの素直な感想をオーヴァイは微笑んで受け取り、リィエルは無言で黙々とおにぎりを食べている。リィエルがはむはむとおにぎりを頬張るその姿は、耳と尻尾も合わさって完全に栗鼠と化していた。

 

 

「天ぷらはレモンをかけて食べるといいですよー。本当は醤油が一番いいのですが、残念ながら調達出来ませんでしたので」

 

「へー、そうなのか」

 

「…………」

 

 

ウィリアムはオーヴァイの言葉を聞き流しながらパプリカの天ぷらを口にし、リィエルは海老の天ぷらを食べていく。

 

 

「リィエル先輩。お味はどうですか?」

 

「……美味しいけど、何故か悔しい」

 

 

オーヴァイの感想を求める言葉に、リィエルはその瞳を難しげに揺らしながら料理を褒めた。そんなリィエルの反応にオーヴァイは少し苦笑しながら発破をかけ始める。

 

 

「悔しいんでしたら、頑張って料理の腕前を上げればいいんじゃないですかー?」

 

「……ん。そうする」

 

 

オーヴァイの言葉にリィエルは素直に頷いて再びおにぎりを頬張っていく。

ちなみにシスティーナとルミアから聞いた話だが、リィエルの料理の腕前はその経験がなかったからとはいえ、最初の頃は相当酷かったようだ。

包丁ではなく大剣で食材を切ろうとしたり、調理道具を使用不可能にする程ダメにしたり、砂糖や塩等の調味料を容器や袋ごと全部投入したり、食材を全部焦がしたり、逆に火が通ってなかったりと、一人でやらせると悲惨な光景になっていたそうだ。

一番最悪だったのは、捕まえた蛙や蛇、虫を料理に使おうとしたことだったそうだ。

それも、システィーナとルミアの血の滲む努力のおかげで大分マシとなっており、まだ一人でやらせるのは不安だがそこそこはできるようになったと、二人は若干遠い目となって語り、それを聞いたウィリアムは二人に労いの言葉を送る事となった。

 

 

「そういえばリィエル。今朝はシスティーナと一緒に台所に行っていたよな?ひょっとしてそのバスケットの中身は……」

 

 

ウィリアムはそう言って、リィエルが持ってきていたバスケットに目を向ける。

 

 

「……ん。システィーナに見てもらいながら作った」

 

「そっか……開けていいか?」

 

 

ウィリアムの質問にリィエルはコクンッと頷いたので、ウィリアムはバスケットを開ける。

リィエルが持っていたバスケットの中には、少し不恰好なパイが入っており、そのパイをバスケットから取り出し、中に入っていたナイフで切り分けていく。

 

 

「へー、アップルパイか」

 

「ん……」

 

「美味しそうですねー。私も甘いのは大好きなのでいただいていいですか?」

 

「ん」

 

 

ウィリアムとオーヴァイは切り分けたアップルパイをそれぞれの手に持ち、一口かじる。

 

 

「…………」

 

「……うん。美味いな」

 

 

感想を待っていたリィエルに、ウィリアムは短い感想を口にする。本来ならもう少しコメントすべきなのだが、尻尾が左右にフリフリと動いているのでお気に召した事が容易に窺える。

 

 

「本当に美味しいですねー。頑張って作ったのがわかりますよ」

 

「ん……ありがと」

 

 

そんな二人の誉め言葉を貰ったリィエルは、いつもの表情ではあったが尻尾が左右にフリフリと動いているので相当嬉しかった事が一目でわかる。

 

 

((((……可愛い))))

 

 

そんな光景を遠目で眺めながら食事取っていた女子学生やカップル達は小動物を見つめている気分となり……

 

 

「本当に羨ましい……」

 

「……爆発しろ、ウィリア充」

 

「ここは……『地獄(ゲヘナ)』だ……」

 

 

男子生徒達は呪詛の言葉を吐きながら、野獣のようにかぶりついて食事するのであった。

一方その頃……

 

 

「きゃん!ちょっとそれ以上は……!」

 

「ひゃん!!」

 

「本当に触り心地がいいですわね……」

 

「フサフサして凄く気持ちいいですね……」

 

 

システィーナとルミアは、我慢の限界を迎えて爆発したクラスメイトの女子達に耳と尻尾を触れており……

 

 

「うおおおおおッ!?」

 

「本当に敏感なんだなぁ?先生……?」

 

 

グレンは嫉妬に狂う男子生徒達に耳と尻尾を乱暴に触られており……

 

 

「……どうすれば美味しくなるのかしら?」

 

 

イヴは学院の裏手に隠れ、メシマズである自身の料理を食べていた……が。

 

 

「イヴ先せ~い!そんな所にいたんですね?一緒にご飯を食べましょうよ!」

 

「え、ちょ―――」

 

 

イヴを探していた生徒達に見つかってしまい、公の場で食事する羽目となった……

 

 

 




獣耳成分が少ない·····けど、これもありな筈!
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獣耳再び・4

てな訳でどうぞ


和気藹々とした昼食が終わると……

 

 

「……モフモフ」

 

「……ニギニギ」

 

 

リィエルとオーヴァイはウィリアムの狸耳を触っていた。

 

 

「……本当に飽きないのか?」

 

「ハイ。先輩の獣耳、触り心地がいいので飽きないですよー」

 

「ん。それに、ウィルもわたしの耳、触っていいけど?」

 

「……もし恥ずかしいといったら?」

 

「それなら上書きするから大丈夫」

 

 

予想通りのリィエルの返答にウィリアムは溜め息を吐き、そのままリィエルの頭に付いている栗鼠の耳を触り始めた。

 

 

「ん……」

 

 

唐突な触られにも関わらず、リィエルは気持ち良さげに目を若干細め、それに合わせて尻尾もパタパタと、触られていない方の耳がピコピコと動き始める。

 

 

「見ているだけで癒されるね……」

 

「本当ね……」

 

「クソ……ウィリア充め……」

 

「眼福だけど……やっぱり憎い……」

 

 

その光景を半分は微笑ましげに、もう半分はグールのような表情で眺めていた。

 

 

「リィエル先輩。先程言った上書きってなんですか?」

 

「セリカから教わった。恥ずかしい事は更に恥ずかしい事で上書きすればいいって」

 

「……具体的には?」

 

「……キス?」

 

 

その瞬間、周りがザワッ!と一瞬騒がしくなる。

 

 

「そうなんですかー。でしたら、他の方々の恥ずかしさもそうやって上書きするんですかー?」

 

「……どうなんだろ?多分、ウィルにしかしないと思う。どうしてかはわかんないけど」

 

 

オーヴァイのその質問に、リィエルは難しい顔で首を傾げながら答えた。

 

 

「本当に大胆ね……」

 

「凄い情熱的……」

 

「毎日一緒に寝ている噂もあるから当然かな……?」

 

「羨ましい……羨まし過ぎる……ッ!」

 

「アルフォネア教授め……」

 

「本当にズルい……」

 

 

聞き耳を立てていた周りが小声で呟く中、ウィリアムはリィエルとオーヴァイを交互に見つめ、話題を逸らす事も含めて思った事を口にする。

 

 

「リィエルとオーヴァイって基本似た者同士だよな」

 

「?そう?」

 

「そうですか?」

 

 

ウィリアムのその言葉に、リィエルとオーヴァイは揃って首を傾げる。

 

 

「……じゃあ、戦う時何が大事だと思っているんだ?」

 

「?戦いは気合が全てと言える程大事じゃないんですか?剣が折れたら鞘で、鞘が折れたら攻性呪文(アサルト・スペル)で、魔力が切れたら素手で。殺し合いの戦いで相手は待ってくれませんからね。とにかく気合が大事なんですよ!」

 

 

ウィリアムの質問に、オーヴァイは脳筋発言で答えた。

 

 

「ん。何事も気合が大事」

 

 

リィエルも同じくオーヴァイの言葉に同意する。

 

 

「……じゃあ、敵が多い場合は?」

 

「気合で全員斬ります」

 

「ん。気合で全員斬る」

 

「敵の守りが硬い場合は?」

 

「斬れるまで斬り続けます」

 

「気合でその守りごと斬る」

 

「敵が自分より速かったら?」

 

「気合で敵に追い付きます」

 

「気合で敵より速く動く」

 

「罠を張っていたら?」

 

「気合で全部避けます」

 

「気合で罠ごと斬る」

 

「敵が自分より圧倒的に強い場合は?」

 

「気合で斬って倒します」

 

「気合で敵より強くなって斬る」

 

「……以前の雪合戦の超巨大雪玉が大量に降り注いだ場合は?」

 

「あの時は見事にやられましたが、次は気合で凌いでみせます」

 

「ん。次は気合でなんとかする」

 

「……やっぱり似た者同士だわ」

 

 

リィエルとオーヴァイのあまりにも脳筋すぎる発言のオンパレードにウィリアムは呆れたように深い溜め息を吐く。

ウィリアムが二人の事を似た者同士と言ったのは、基本的な戦い方が同じというだけではなく、こういった所も似ているからである。

二人がなんだかんだで物理的排除に動かないのは、こうした部分も含めて仲が良いからなんだろう。

そうして彼等は和やか(?)にお昼休みを過ごしていった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

本日の授業も無事(?)に終わり、ウィリアム達は行きと同じく人工精霊(タルパ)の鳥でフィーベル邸へと帰宅すると。

 

 

「皆、おかえりなさい……あら?」

 

 

帝都から帰宅していたフィリアナが出迎えていた。

 

 

「その格好、ひょっとして……」

 

「……はい。ご想像の通りです」

 

 

フィリアナの予想をウィリアムが肯定した……その直後。

 

ばしゃっ、ばしゃっ、ばしゃっ、ばしゃっ、ばしゃっ!

 

突如奇妙な音が連続でエントランスホールに響き、一同は音がした方向に顔を向けると、階段のすぐ傍で大きな射影機で娘達の写真を撮っているレナードがいた。

 

 

「お父様!?」

 

「まさか、娘達の更に愛しい姿を再び拝めるとは夢にも思わなかった。そして……」

 

 

システィーナの驚愕の声を無視して一通り愛しの娘達を撮り終えたレナードはそのまま、(かたき)を見るような顔でウィリアムに向き直る。

 

 

「まだ居たのか!!我が愛しい娘達をたぶらかす悪魔め!!今日こそは全霊を以て成敗してくれるぅううううううううううう―――ッ!!!」

 

 

レナードは叫びながらウィリアムに向かって左手をかざすも―――

 

コキャ。カクン。

 

いつの間にかレナードの背後に立っていたフィリアナが、相変わらずの見事な手際で絞め落としていた。

 

 

「本当に仕方のない人ね。ウィリアム君も気にしないでね」

 

「あー、はい……」

 

 

もう見慣れた光景に、ウィリアムは気の抜けた返事で返した。

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

「うーん……」

 

 

食事も終わり、風呂にも入り、パジャマに着替えたウィリアムは現在制作中の魔導器の構想に頭を捻らせていた。

 

 

「耐久力の問題から杭で打撃を与えるのはキツイか……?なら、推薬の炸裂で武器そのものの勢いを上げる方向なら……いや、それだと威力が……」

 

 

散々頭を捻らせていると、ガチャリッ、と扉が開く。

リィエルが風呂から上がったのだろうと思い、ウィリアムは扉の方へと目を向け―――固まった。

 

 

「は……?」

 

 

ウィリアムは目を瞬かせ唖然となる。そこに居るのは確かにリィエルだが、その格好は生地が薄い、下着や地肌が透けて見える、どう見ても()()()()()に着るタイプの寝間着(ネグリジェ)であったからだ。

 

 

「……その服はどうした?」

 

「システィーナのお母さんが用意してくれたのを着た」

 

「フィリアナさぁああああああああああああああああん―――ッ!?」

 

 

その瞬間、ウィリアムは膝をついて四つん這いとなった。

実は夕食の時、ウィリアムは言葉を濁しながらリィエルの栗鼠の尻尾の弊害を伝えフィリアナに暗にパジャマを用意して欲しいと頼んだのだが、どうやら全く理解してくれていなかったようだ。

……実際は理解した上で用意しており、楽しそうにリィエルに色々と吹き込んでいたのだが。

そんな事等、一切知らないウィリアムは顔を上げると、心無しか、リィエルの背後ににこやかな顔で微笑んでいるフィリアナの姿が揺らめいて見える。

今からパジャマに着替えてもらう……のは不可能だ。着替えて欲しい理由を話せば、めでたく上書き行動(ディープキス)が炸裂するのは目に見えている。

そんな理由から諦めて就寝についたのだが……

 

 

「ウィル、心臓凄く鳴ってる……病気?」

 

「……気にしなくていい」

 

 

匂いを嗅いでいたリィエルの疑問に、ウィリアムは煙に巻いて誤魔化そうとしたが……

 

 

「……ひょっとして恥ずかしいの?」

 

「ッ!?違う!断じて違うッ!!」

 

 

リィエルの上目遣いに加え、内心を当てられた事にウィリアムは顔を赤めて否定するも―――

 

 

「―――ん」

 

 

フィリアナから「顔を赤めて慌てるのは恥ずかしがっている証拠よ」と教えられていたリィエルは躊躇いなく上書き行動(ディープキス)を実行した。

ちなみに毎回食らっている理由は、リィエルがウィリアムの頭をがっちりと押さえているからである。

その頃……

 

 

「システィもルミアも、リィエルのように積極的にならないとね?」

 

「おおおおお母様!?リィエルに、いいい一体何を―――」

 

「あはは……」

 

 

フィリアナのにこやかに告げた言葉に、システィーナは慌てふためき、ルミアは曖昧に笑っていた。

そして、レナードは―――

 

 

「…………(ピクピク)」

 

 

白目を向いて沈黙していた……

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

次の日。

元の姿に戻ったウィリアム達が教室に入ると―――

 

 

「「「「…………」」」」

 

 

二組の女子学生全員に獣耳と尻尾が生えていた。その種類は猿、狐、犬、猫、栗鼠、兎、狸、熊等、様々である。

そして、教室の隅にはボロボロの姿となった数名の男子生徒達がいた。中でもチャールズが一番ヒドイ有り様であった。

 

 

「……なんでこんな事になっているの?」

 

 

システィーナが代表として問いかけると……

 

 

「そのチャールズ(変態)のせいですわ……」

 

 

犬の耳と尻尾が生えているウェンディが身体を震わせながら答えた。

実は今回の黒幕はチャールズであり、セリカにグレンの高画質の写真と映像(前回の子供獣耳姿)を依頼料として渡して依頼したんである。

更に、今回のグレンの写真と映像も渡して獣耳天国を作ったのである。その時自白してしまい、交渉の為に集まっていた男子生徒諸とも攻性呪文(アサルト・スペル)の集中砲火を浴びる結果となったのである。

こうして、獣耳騒動が続くのだが……それは、また別の話である。

 

 

 




····本当にこの作品のリィエルは積極的だなぁ·····どうしてこうなった?(作者のせい)
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懲りない白猫の新たな禁忌手記(マイレコード)

番外編
てな訳でどうぞ


「まずいわ……」

 

 

学院の廊下をシスティーナは脂汗を流しながら何かを探し歩いていた。システィーナが脂汗を流している理由、それは……

 

 

「あれ以来、ずっと気をつけていたのにまた落とすなんて……」

 

 

秘密の手記帳を再び落としたからである。以前グレンに拾われて中身を読まれ、盛大に笑われて以来、二度と落とさないよう常に注意していたのだが、またしても落としてしまったのだ。

しかも、以前の図書館とは違い何処で落としたのか心当たりがないのである。

 

 

「うう……本当に何処に落としたのかしら……?」

 

 

システィーナは肩を落として廊下を歩き続ける。落とし物に上がっていない以上、まだ誰かに拾われていないと思うのだがグレンの例がある以上、絶対とは言い切れない。

ちなみに、システィーナが一人で手記帳を探している理由はシスティーナ自身が断ったからである。

システィーナがまた手記帳を落としたと分かった時、近くにいたルミア、リィエル、ついでにウィリアムが探そうかと言った際―――

 

 

『だ、大丈夫よ!!こ、これくらいひ、一人で探して見せるから!!』

 

 

システィーナはテンパりながら申し出を断り、そのまま慌てて立ち去っていったからである。そのシスティーナの様子にウィリアムとリィエルは首を傾げ、何となく察したルミアは曖昧な笑顔でシスティーナを見送っていた。

事情を知っているルミアの申し出まで断った理由。それは今回落とした手記帳の内容に大きな問題があるからだ。

 

 

「あれの中身は絶対に知られる訳にはいかないわ……特にあの二人には」

 

 

そう、あの手記帳に書かれた恋愛小説のシチュエーションがとある二人を参考にしてしまっているからである。もし当人に読まれたらと思うと……想像すらしたくない。

 

 

「と、兎に角、しらみ潰しに探さないと……ッ!!」

 

 

システィーナは奥底から沸き上がる焦燥と不安を抑えながら、落とした手記帳を探し続けた。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――学院の附属図書館にて。

 

 

「本当に大丈夫だったのか?宛もなく探すのは相当苦労していると思うんだが」

 

 

書架から幾つか本を抜きながらウィリアムは本を探しているルミアにそう問いかける。

 

 

「あ……はは……だ、大丈夫じゃないかな…………?」

 

「?」

 

 

どこか気まずそうに曖昧に答えるルミアの様子に、ウィリアムの隣にいるリィエルは首を傾げる。

 

 

「……まぁ、本当にまずかったら自ら言いに来るだろうし、いいか」

 

 

内心で面倒臭そうだしと思いながら、ウィリアムはルミアの言葉に納得してあっさりと引き下がる。

そうして、引き抜いた数冊の本を抱えてホールへと戻り、三人で勉強するのだが……

 

 

「…………眠い……」

 

「寝るな」

 

 

魔術の基礎が書かれた本を数ページ読んだだけで眠そうにするリィエルに、対面に座っているウィリアムはリィエルの脳天に右の手刀を落とす。

 

 

「痛い……」

 

「勉強せずに成績が水準以下だったら、また落第退学の話が出てくるかもしれないんだぞ?」

 

 

相変わらずのリィエルにウィリアムは若干呆れつつも以前の話を持ち出す。あの時は様々な思惑から回避できたが、それ以前に口実を与えた事で起こった問題でもあるのだ。暴走は編入当初より大分落ち着いているが成績は相変わらずなので、政治組がまたやらかす可能性もある。なので、口実を与えない為にそれなりに頑張る必要があるのだ。

 

 

「……それはやだ」

 

「いやなら頑張って勉強しろ。分からない事があれば俺が教えるから」

 

「……ん、分かった。それならここを教えて」

 

 

リィエルは素直に頷きながら、本のページの一部を指差しながら教えを請う。ウィリアムは苦笑しながら可能な限り分かりやすく説明してリィエルに教えていく。

その光景をリィエルの隣に座っているルミアは微笑ましく見つめていると―――

 

 

「珍しいですねー。先輩達が此処にいるなんて」

 

 

本を片手に持ったオーヴァイが気づいて話しかけてきた。

 

 

「まぁ、たまにはな。一応勉強しているところだ」

 

 

オーヴァイの質問にウィリアムは何て事のないように返す。オーヴァイはスノリアの旅行以来、ウィリアムに積極的に関わるようになっている。理由は言わずもがなである。

 

 

「そうですかー。あっ、この本返した後でご一緒に勉強していいですか?」

 

「別にかまわないぞ。二人もいいよな?」

 

「うん」

 

「ん」

 

「ありがとうございます。すぐに本を返してきますね」

 

 

了承を得られたオーヴァイはお礼を言いながら本を返しに奥へと行き、数分もしない内にウィリアム達の下へと戻り一緒に勉強を始める。……ウィリアムの隣の席に座って。

 

 

「早速ですがここを教えて下さい、ウィリアム先輩」

 

 

オーヴァイは早々に参考書片手に、わざとらしくウィリアムに近寄りながら教えを請う。

 

 

「いきなり質問かよ……ヒントだけ教えるから後は自分でやれ」

 

 

いきなりの質問にウィリアムは呆れつつも、ヒントを教えようとした矢先、ウィリアムの前にページを開いた本がつき出される。

 

 

「ウィル。ここ、わかんないから答え教えて」

 

 

何故か少しだけ眉をひそめたリィエルが答えを求めてきていた。

 

 

「それじゃ自分の力にならないだろ。ヒントは教えてやるからちゃんと自分で考えろ」

 

「……いじわる」

 

 

その後も一緒に勉強していくのだが……

 

 

「ウィリアム先輩。これの配列式を教えて下さい」

 

「ここ、教えて」

 

「少しは自分で考えてやれよ!?」

 

 

リィエルとオーヴァイが交代でウィリアムに教えを請い続けており、自身の勉強が一切手がつけられないウィリアムは小声でツッコミを入れる。

 

 

「あはは……」

 

 

一人蚊帳の外となっているルミアはオーヴァイとリィエルの内心を察し、子犬と狼の姿を幻視しながら苦笑いして、その光景を見守っていた。

オーヴァイがここまで積極的になっている理由。それはある意味リィエルにある。

リィエルは(無自覚な)大胆行動をウィリアムに起こしているので、それで大きく離されていると実感しているオーヴァイは、勝ち取る為には露骨な程が丁度いいという結論を出しているからだ。

対するリィエルは胸に宿る不快なモヤモヤ感から動いており、その結果、女の戦いがわりと何回も起こっているのである。それでも物理的に排除しようとしない辺り、案外二人の仲は良いのかもしれないが。

 

 

「そういえば、これに心当りはないですか?」

 

 

そんな中、オーヴァイは唐突に鞄から一冊の本、否、手記帳を取り出した。

 

 

「そいつは?」

 

「誰かの落とし物のようでして。気になって中身を拝見した所、内容的には生徒同士の恋愛小説を綴ったものでした。表現も文章も痛々しく、ストーリーもご都合主義とテンプレの連続で相当酷いものでしたね。シチュエーションには憧れましたが」

 

「どんな内容なんだ?」

 

 

オーヴァイの容赦のないダメ出しに、ウィリアムは気になって手記帳の内容を聞く。オーヴァイも律儀に答えていく。

 

 

「ヒロイン視点で進む物語ですが、このヒロインは幼い記憶を失った編入生で、編入初日からモテモテですが、感情の起伏も乏しく、常識も生活能力も皆無の残念な美少女設定ですね」

 

「ふーん」

 

「お相手となる男子生徒は普段からサボってばっかりでやる気の欠片もない、まさに絵にかいた問題児ですが、ヒロインの少女の面倒だけはよく見ていましたね」

 

「…………うん?」

 

「話を読み進めると、実はお二人は昔生き別れた幼馴染みだったんですよ。その後、その記憶を取り戻したヒロインは彼に無自覚な猛アタックを仕掛けていきますね」

 

「…………」

 

「抱きつくのは勿論、口移しのキスに彼の家にお泊まり、果ては馬乗りに同じベッドで寝るという……」

 

「それ以上はヤメロ」

 

 

オーヴァイが語る話の概要を聞き、ウィリアムは能面の顔で打ち切りにかかる。

 

 

「?どうしてなんですか?この後、留学生の眼鏡少女とヒロインの修羅場があるんですが……」

 

「……オーヴァイさん。ページの最後を見てみて」

 

「?はい……」

 

 

手記帳の内容からを全てを察したルミアは物凄く気まずそうに、オーヴァイに最後のページを見るように言う。

オーヴァイは首を傾げながら最後の方のページを開き……

 

 

「……あっ」

 

 

最後のページに書かれていた文字―――“システィーナ”にオーヴァイは一気に察し、何とも言えない表情に変わる。

そう、オーヴァイが拾ったこの手記帳の持ち主はシスティーナであり、手記帳に書かれている話の人物も、どう考えても今この場にいる二人をモデルにして書かれたものである。

 

 

「えっと……その…………御愁傷様です……」

 

「…………言うな」

 

 

オーヴァイの慰めに、ウィリアムはそれだけ言って顔を覆い、机に突っ伏してしまった。

 

 

「?どうしたのウィル?」

 

 

リィエルは話の内容を理解できていなかった為、首を傾げるだけだった。

 

 

―――この一時間後、学院に女子生徒の叫び声が響き渡った。

 

 

 




次はどうしようか·······
IFルートであの子を出す方向の話でも書こうかな·········?
感想お待ちしてます


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W(ウィリアム)O(抹殺)検討会

多分、今年最後の投稿
てな訳でどうぞ


空が赤く染まっている学院の放課後。

その放課後の空き教室にて。

 

 

「では、これより議論を始める」

 

 

血のように真っ赤な文字で『WO』と書かれた、深淵のように真っ黒な覆面を被った謎集団が集っていた。

 

 

「まずは対象(リア充)の概要から」

 

対象(リア充)は前半期でも、俺達に血涙を流させる程のいちゃつき振りを発揮していた」

 

「それは学院内に留まる事はなく、あれ以降は()()僕達の知らぬところでいちゃつくという事態だ」

 

 

言葉の端々から隠しきれない憎悪が滲み出ている。

 

 

「秋休み中は一緒に旅行へ行っていたそうだ……教授と先生の家族旅行に便乗する形で」

 

「だが、あっちは元々先生を旅行に誘うつもりであった以上、結局は変わらないが……」

 

 

ギリッ……。歯を噛み締める音が辺りに響く。

 

 

「同志よ。今回はそちらの議論ではない。それについては後日、改めて議論しよう」

 

「ああ……」

 

 

そこから少し、静寂が漂うがすぐに議論は再開される。

 

 

対象(リア充)はペアルックのペンダントを所有し、仲の良さぶりをアピールしていた……そして、何より…………」

 

リーダー格が覆面越しで顔を俯かせ、ワナワナと震え――― 一気に感情を爆発させた。

 

 

「リィエルちゃんに『一番大好き』と腕を抱きしめられながら言われたウィリア充が、凄まじく憎いぃいいいいいいいいいいい―――ッ!!!!」

 

「「「「ああ、全くだ!!!」」」」

 

「しかも、あんなに幸せそうなリィエルちゃんの顔を向けられていたんだ!!!!だから、ウィリア充は俺達の嘆きと怨嗟をその身を以て知るべきだ!!!」

 

「「「「ああ、全くだ!!!!」」」」

 

「だから、どうやってウィリア充を始末するか、意見を出してくれ!!」

 

 

リーダー格の覆面―――カッシュが己の身を焦がさんばかりの呪詛の叫びを上げて意見を募る。

 

 

「夜、背後から襲うのは!?」

 

「システィーナの家に居候している以上、それは不可能だ!」

 

「なら、放課後に裏手に呼び出して集団でリンチするのは!?」

 

「それも出来ない!そもそも、アイツの実力は俺達とは天地の差だ!!」

 

「そういえばそうだったぁッ!!」

 

「それなら、勉強やら男の付き合いという体で、引き離すのはどうだ!?」

 

「忘れたのか!?アイツは居候中だから、帰れば普通にリィエルちゃんと一緒だぞ!?」

 

「ちくしょぉおおおおおおおおお―――ッ!!!」

 

 

意見は出れど出れど、どれもボツ案である事に、ウィリアム(リア充)への嫉妬を募らせつつ、皆が必死に案を出し合っていると……

 

 

「なら、社会的に抹殺すればいいんじゃないかな?」

 

「「「「それだ!!!」」」」

 

 

ようやく、現実的な案が出てきた。

 

 

「それならウィリア充に致命的なダメージを与えられる!!」

 

「上手くいけばいちゃつき度の低下に繋がる……なんという妙案だ!!」

 

「なら、どうやって社会的に抹殺するか議論するぞ!!」

 

 

希望を見いだした男達は具体的なプランを組み上げ始めていこうとする。

 

 

「まずは事件をでっち上げてウィリア充を女子更衣室に放り込む!!着替えを覗かれれば、リィエルちゃんの心証は下がる筈だ!!」

 

 

彼らは知らない。リィエルが普通に同じ部屋で着替えようとしたのを、ウィリアムが部屋のスペースを理由に阻止した事を。

 

 

「いや、待て!!『システィーナが忘レナ草で可愛くなってた事件』で、グレン先生が着替え中の女子更衣室に突入しても平然としていたという事実があるぞ!!」

 

「「「「あっ!!」」」」

 

 

その言葉で全員がそういえば、っといった声を洩らす。

 

 

「クソッ!!またボツなのか!?」

 

「だが、方向性は悪くない筈だ!!」

 

「それなら、ウィリア充が喋っていたと言って風呂を覗こうとしていたというデマを流すのはどうだ!?」

 

 

彼らは知らない。旅行中、セリカの入れ知恵でリィエルがバスタオルを巻いていたとはいえ、ウィリアムと一緒に浴槽に浸かったことを。その時、ウィリアムが恥ずかしいと言ってしまい、リィエルにキスされたことを。

 

 

「悪くない案だ!!なら、ウィリア充が他の女にも手を出しているという情報を流せばどうだ!?」

 

「現に自称・天才剣士がウィリア充達に積極的に交流を図っているから信憑性は高いぞ!!」

 

 

彼らは知らない。その自称・天才剣士も恋する乙女となっており、小規模な女の戦いが起きていることを。

そして、そんなデマ情報を流せば、桃色空間が加速することを彼らは知らない。だが……

 

 

「その自称・天才剣士だけど……」

 

「ん?どうした?」

 

「その子のウィリア充を見る顔が……なんていうか……虎視眈々とチャンスを狙っている顔だった気が……」

 

「「「「…………」」」」

 

 

その瞬間、圧倒的な沈黙が支配した。

 

 

「……まさか」

 

「そういえば、あの自称・天才剣士はスノリア地方出身だったな……」

 

「加えてスノリアでは大異常気象が起きていた……」

 

「そして、アイツらはそのスノリアに旅行に行っていた……」

 

「つまり…………」

 

「「「「後輩にまで手を出しやがったな!!あの野郎!!!!!!!」」」」

 

 

彼らは漸く気づいた。自称・天才剣士が恋している事に。

 

 

「ちくしょぉおおおおおおおおお―――ッ!!!一体俺達には何が足りないというんだ!?」

 

「これが持つものと持たざるものの宿命なのか!?」

 

「こうなったら実力とか、力量差とか関係ない!!」

 

「数の力を以てウィリア充を始末しにいくぞ!!」

 

「「「「おお!!」」」」

 

「「「「全軍抜刀ッ!!進軍開始ッ!!!」」」」

 

「「「「例え多くの同志が倒れても、ウィリア充を倒せば我らの勝利だッ!!!!」」」」

 

「「「「それだけではないッ!!!全てのリア充達に血の鉄槌を下し、恋愛格差社会に終止符を打つッ!!!それこそが、我らの真の勝利だッ!!!!!!」」」」

 

「「「「おぉおおおおおおおおおおお―――ッ!!!!!!」」」」

 

 

そうして一同は箒やモップ、バケツ等を手に持ち、怒涛の勢いで教室を後にした。

一方その頃……

 

 

「……なぁ、リィエル」

 

「ん?」

 

「何で指を絡ませるように俺の手を握っているんだ?」

 

「仲の良い男女はこうやって繋ぐんだって、セリカが言ってた」

 

「……本当に教授は……」

 

「?」

 

「うぅ~~~~……ッ!」

 

「こうやって握るんだね……うわぁ……」

 

 

ウィリアムはいつものセリカの入れ知恵に頭痛を覚えて右手で顔を覆っており、システィーナとルミアは目の前の『恋人繋ぎ』に複雑な気分を抱いて既に帰路についていた。

その後、暴れていた覆面集団は教師陣に制圧され、こっぴどく怒られたと聞く。

 

 

 




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聖夜祭のプレゼント

少し早いクリスマスネタ
てな訳でどうぞ


聖夜祭前日の学院のある場所にて……

 

 

「ねぇセリカ。グレンとウィルへのプレゼント、何がいいのか教えて」

 

 

リィエルがセリカにプレゼントの相談をしていた。

相談を受けたセリカは少しだけ面食らった顔になるも、直ぐに笑みを浮かべる。

 

 

「珍しいな。こういう話は、システィーナとルミアの二人にするとばかり思っていたんだが」

 

「システィーナとルミアにも聞いたけど、わたしが選んでプレゼントしたらいいって言われたから」

 

「なるほどな」

 

 

リィエルの言い分に、セリカは納得したように頷く。

 

 

「ならまずはその二人のプレゼントが何か知っているのか?」

 

「システィーナは手袋、ルミアはマフラー。どっちもグレンへのプレゼントだって言ってた」

 

「それらは店で買ったものか?」

 

「ううん、手編み。わたしもやってみたけど、全然上手くいかなかった」

 

 

セリカの質問に、リィエルは何時もの眠たげな表情で答えるも、若干悄気たようにも見える。

 

 

「そうかそうか。それなら、グレンは欲しい書物があったから、それをプレゼントすればいいんじゃないか?」

 

「……ん、そうする。ウィルへのプレゼントは?」

 

「アイツへのプレゼントは……()()で大丈夫だろ」

 

 

セリカは非常に悪どい笑みを浮かべながら指をパチンッと鳴らし、幾つもの魔術道具を手元へと召喚する。

 

 

「これが定番のプレゼントなの?」

 

「いや。これはプレゼントの為の必要な道具だ」

 

 

セリカはそう言って、悪どい笑みのまま道具の使い方を教えていき、一通りの使い方とプレゼントの内容を教わったリィエルは頷いてセリカが召喚した魔術道具を持ち、グレンへのプレゼントの本を買う為にセリカと一緒に歩いていった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

聖夜祭当日。

クラスでのパーティーを終え、帰宅したフィーベル邸にて。

 

 

「ふぅ。さっぱりした」

 

 

風呂から上がったウィリアムは自身が借りている部屋へと向かっていた。

 

 

「にしても、リィエルのプレゼントは一体何だろうな?」

 

 

学院でのパーティーの時、オーヴァイが手編みのセーターをウィリアムにプレゼントした際、オーヴァイがリィエルにどんなプレゼントを用意しているのか聞き―――

 

 

『ん。()()のプレゼントを用意した』

 

『定番ですかー。ウィリアム先輩にまだ渡さないんですか?』

 

『このプレゼントは家で渡すものだって聞いたから、ここでは無理』

 

『へー、そうですかー』

 

 

と、言っていたのでどんなプレゼントを用意したのか、若干楽しみである。

ちなみに、ウィリアムは二人にシンプルな髪留めをプレゼントし、オーヴァイははしゃいで、リィエルは薄く微笑んで喜んでいた。ついでにシスティーナとルミアにも世話になっている礼として、わりと高価な茶葉をプレゼントした。

 

 

「リィエルは一体何を用意したんだろうな……グレンの先公には本をプレゼントしていたから、俺のもその辺りかな?」

 

 

そんな感じでリィエルのプレゼントを予想しながら歩いていき、部屋の前へと到着し扉を開けると―――

 

 

「…………」

 

 

人が一人入れるくらいの大きな水色の箱が部屋の中央に鎮座していた。

ウィリアムは猛烈なまでに嫌な予感を覚えながら、箱の蓋を開けると―――

 

 

「ん。メリークリスマス」

 

 

その箱の中にリィエルがいた。薄い手、というか本当にギリギリの寝間着(ネグリジェ)姿で、赤いリボンに全身を巻かれて身動きが封じられた状態で。

 

 

「……リィエル、その格好は?」

 

「クリスマスプレゼント」

 

「………………誰の入れ知恵だ?」

 

「セリカ。この()()のプレゼントがウィルが喜ぶだろうって言ってた」

 

「教授ぅううううううううううううううううううう―――ッ!?!?!?」

 

 

本当に洒落にならないセリカの入れ知恵に、ウィリアムは頭を抱えて叫び声を上げる。確かにある意味、定番のプレゼントだが、これは普通の定番のプレゼントではない。

リィエルはセリカから貰った幾つもの魔道具を持ってウィリアムの部屋に入った後、それらをセリカから教わった通りに使い、現在の格好でウィリアムが来るまで箱の中で待機していたのだ。

一先ず、リィエルに巻かれているリボンをほどこうと、ウィリアムは胸辺りで結ばれたリボンに手を掛けた―――その瞬間。

 

 

「ッ!?」

 

 

心臓が一際高く高鳴り、次いで身体が不自然な程に熱くなっていった。

実は、リィエルの身体に巻かれているリボンには巧妙に隠された呪い(カース)が仕込まれており、その効果は『リボンに最初に触れた男性の性欲を、一定時間刺激する』というものだ。

不純異性行為を本来であれば教職者が率先して後押しすべきではないが、『まぁ、あの二人ならデキちゃっても問題ないし、別にいいだろう』と、セリカは実に軽い感じでスルーしていた。

そうとは知らず、突然沸き上がった性欲にウィリアムはリボンから手を離し、荒い息を吐きつつ胸を抑え、沸き上がる性欲に必死に耐えていると―――

 

 

「ウィル……“わたし”のプレゼント、嬉しくなかったの?」

 

 

リィエルが上目遣いで見上げ、若干不安げな呟く声がウィリアムの耳に届いてしまった。

その瞬間、ウィリアムの何度目かわからない理性の鎖が何本も引き千切れる音が脳内に響き渡り、正気を失ったウィリアムは無言でリィエルを抱き抱えて箱から出し、ベッドの上へと寝かせる。

 

 

「あ……」

 

「……お前の“プレゼント”……本当に貰っていいんだな……?」

 

 

焦点の合わない目で問いかけたウィリアムの言葉に―――

 

 

「……ん……」

 

 

リィエルは短い言葉と共に頷いた。

了承を得たウィリアムは、そのままリィエルに覆い被さり―――

 

 

 

『ん……んぅ……んんんんんんんんんんんんんん゛―――ッ!!!!!!』

 

 

…………盛大にBを実行。身動きの出来ないリィエルの口をディープキスで塞ぎつつ、手●●で●●●●いた……

ちなみに、部屋の鍵は閉まっていなかった為、大天使と白猫にバッチリとこの光景は見られていた。

更に、少女二人は不穏な電波を掴んだ為、龍と狼の幻覚も現れて雄叫びを上げていた……

そして……

 

 

「随分と楽しんでいるなぁ?(ニヤニヤ)」

 

 

最高級の餌で仮サーヴァント契約を結んだファムから送られる光景に、吹き込んだ張本人は酒が入ったグラスを片手にイヤらしい笑みを浮かべていた。

 

 

 




聖夜の夜で盛んな二人·········
―――ハッ!?龍と狼のスタン○使いが刀を構えてこちらに!?
ヤバい!!急いで逃げ―――

“感想お待ちしてます”←地面に刻まれた刀傷


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第一章・やる気なしとロクでなし
一話(改)


初投稿です。どうぞ

*読みやすくするついでに、多少加筆修正する事にしました


北セルフォード大陸に存在するアルザーノ帝国。

その帝国の南部、ヨクシャー地方にはフェジテと呼ばれる、北セルフォード大陸でも有数の学究都市があり、その都市にはアルザーノ帝国魔術学院が設置されている。

常に時代の最先端の魔術を学べる最高峰の学舎として名高く、時の女王アリシア三世の提唱で設立された四百年の歴史を持つ由緒ある学院の東館校舎二階の奥、魔術学士二年次生二組の教室で―――

 

 

「zzzzz……」

 

 

制服を着崩した一人の男子学生が机に突っ伏して寝ていた。うたた寝というレベルではない、まごうことなき爆睡だ。

本来、この学院に在籍する者達の意識は高く、遅刻や居眠り、サボり等の事態等滅多に起きないのだが、この少年に関しては遅刻こそないものの、居眠りとサボりの常習犯であった。

 

 

「起きなさいウィリアム!」

 

 

そんな爆睡している紺髪の少年に、銀髪の少女が怒りを露に声を上げて起こしにかかる。その銀髪の少女の隣にいる金髪少女は、苦笑いしてその光景を見守っている。

 

 

「…………んが……システィーナか……何の用だ?」

 

 

起こされた少年―――ウィリアム=アイゼンは目の前の銀髪の少女―――システィーナ=フィーベルに問いかける。

 

 

「何の用だ?じゃない!何時まで寝ているつもりなのよ!?って言ってるそばから寝ようとするんじゃないわよ!」

 

「まだ教師が来てねえから授業は始まってないだろ?」

 

 

ウィリアムの言葉に金髪の少女―――ルミア=ティンジェルが答える。

 

 

「ウィリアム君、もう授業自体は始まってるんだよ?」

 

「ならなんで教師がいねえんだよ?」

 

「アルフォネア教授が来て、今日から非常勤の講師がくるって言っていたんだけど……」

 

「つまり初日から遅刻していると」

 

「全く!来たら絶対にガツンと言ってやるわ!」

 

 

システィーナが怒りを露にそう息巻いていると、教室の扉が開き一人の黒髪の青年男性が入って来る。

 

 

「悪ぃ悪ぃ、遅れたわー」

 

「やっと来たわね―――って、あ、あ、あ―――貴方は―――ッ!?」

 

「……違います人違いです」

 

 

システィーナとずぶ濡れで着崩れた服、擦り傷、痣、汚れだらけ黒髪の青年のコントのようなやりとりをよそに、ウィリアムは顔こそいつも通りだが内心では驚いていた。

なぜならその青年をウィリアムは知っていたからだ。

 

グレン=レーダス。

 

帝国宮廷魔導士団の一人である目の前の青年の名前であり、向こうから仕掛けてきた厄介な相手だからだ。

 

 

(何で《愚者》がここにきてんだよ!?)

 

 

顔にこそ出てはいないがウィリアムの内心は焦っていた。

まさか、()()()()()が連中にバレ、真偽を確かめる為に来たのではないかと焦燥に駆られたが、グレンの行動と態度でその焦りは一気に霧散する。

 

 

―自習―

 

 

『…………は?』

 

「眠いので本日の授業は自習にしまーす……」

 

 

黒板に大きく『自習』と書き、グレンはそう言って教壇に寝そべり寝始めた。

十秒もしない内に、グレンからいびきが響き始め……

 

 

「って、ちょおっと待てぇえええええええ―――!?」

 

 

圧倒的な沈黙から我にかえったシスティーナがグレンに向かって吠える。対してウィリアムは―――

 

 

(……焦って損した)

 

 

グレンのやる気なさと、興味無さげな死んだ魚の目のような瞳を見て、自分の考えは杞憂だったと安堵していた。

そして―――

 

 

(……寝るか)

 

 

システィーナの叫び声を子守唄に、再び寝ようと机に突っ伏した。

 

 

「って、あんたも寝ようとするなぁあああああああ―――ッ!!!!!」

 

 

それを見たシスティーナは、そうは問屋が下ろさないとばかりに分厚い教科書を両手に持って立ち上がり、大声で吠える。

 

 

「うるせぇなぁ……静かにしろよな」

 

 

システィーナの大声で睡眠を邪魔され、目を覚ましたグレンは気だるげなまま、システィーナに一見マトモな注意をするも―――

 

 

「貴方がそれをいいますか!?」

 

「アハハ……」

 

 

当然、自身を棚に上げた注意にシスティーナはツッコミを入れ、彼女の隣に座っているルミアは曖昧に笑うのであった。

その後、分厚い教科書が寝ようとした二人の脳天に直撃し、結局、脳天に巨大なタンコブを乗せたグレンは渋々と授業自体はすることになった。

が、その授業内容は間延びした声で要領を得ない魔術理論の講釈を読み上げ、黒板には判読不能な汚い文字を書くという、やる気が一切ないグダグダとしたもので、最低最悪な授業であった。

ちなみにグレン同様、システィーナから一撃を喰らったウィリアムは―――

 

 

「zzzzz……」

 

 

巨大なタンコブを脳天に乗せながらも、年季の違いから物ともせずに普通に寝ていた。

 

 

 

これがロクでなしとやる気なしの一方的な再会である。

 

 

 




いかがでしたか?感想お待ちしてます


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二話(改)

イメージはあれど文に表すのが難しい
文才が欲しい
てな訳でどうぞ


「さて、なにを食うかねぇ……」

 

 

午前の授業が終わり、昼食を食べるために食堂へと向かうウィリアムはそう口にする。

 

 

「しっかし、何があったのやら……グレンの先公に」

 

 

錬金術の実技授業があったのだがグレンが不在の為中止となった。しかも、何故かグレンはボロボロでのびていたのだが……

 

 

「まぁいいか。面倒だし」

 

 

ウィリアムはあっさりと思考を放棄した。

そして食堂へと到着し、サンドイッチを三人前とアップルパイを注文して、空いているテーブルを探していると、復活していたグレンに話しかけられる。

 

 

「なあお前、それで足りんの?」

 

「見た目より結構あるとおもうんだが?」

 

 

トレイに料理を大量にのせているグレンの質問に対し、ウィリアムはそう答える。

 

 

「まあ、それもそうだな。ええと……」

 

「ウィリアム=アイゼンだ。改めてよろしく、グレンの先公」

 

「よろしくお願いしますグレン大先生、だろ?ウィリアム君」

 

「無理、面倒」

 

「即答かよ!?」

 

「それで、俺に何か用があるから話しかけたんじゃねえのか?」

 

 

話の流れをバッサリと無視して、ウィリアムは理由を聞き出そうとする。

 

 

「……お前、俺とどっかで会ったことねえか?」

 

「……は?いきなり何をいってんだ?まさか先公はホモ――」

 

「違ぇよ!俺はノーマルだ!」

 

 

わざとらしく後ずさるウィリアムにグレンは即座に否定する。

 

 

「じゃあなんでそんなことを聞くんだよ?俺の顔に見覚えでもあんのかよ?」

 

「いや、ただお前の雰囲気が誰かに似ていたからよ」

 

 

グレンのその言葉に、ウィリアムは内心で冷や汗をかく。

対峙したあの時より体は成長しているし、なにより顔は仮面で隠していた。

それでこれとは……魔導士の勘は恐るべしである。

 

 

「少なくとも俺は先公の事は知らねぇよ」

 

「……そうか、俺の勘違いか……にしても」

 

 

グレンはウィリアムの顔をまじまじと見詰め……

 

 

「お前、結構目付き悪いな」

 

「悪いか」

 

 

小さい頃から気にしている事をグレンにさらっと言われ、ウィリアムはイラッとした顔をする。

これが原因で最初は()()に怖がられたが……

 

 

「…………」

 

「?どうしたんだウィリアム?」

 

「何でもねえよホモ先公」

 

「まだ引きずっていたのかよ!?」

 

 

その後、面倒という理由からグレンと別れて一人で食べた。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

その後のグレンの授業は日を追う事に酷くなっていた。

そんな中でもウィリアムは相変わらず寝るか、本をだらだらと読み流すかのどっちかである。

 

 

「いい加減にしてください!」

 

 

グレンに対し、システィーナの怒りも我慢の限界であった。親の権力をかさに辞職の脅しを懸ける程に。だが―――

 

 

「よろしくお願いします!と伝えてください」

 

 

グレンはお辞儀してそんな事をいってのけ、全く脅しにならず、むしろ早く辞める為にやっていたと分かる始末だ。

そこでシスティーナの我慢の限界はついに迎え、左手の手袋をグレンの顔へと投げ、決闘を仕掛けてきた。

 

 

「貴方にそれが受けられますか?」

 

「……いいぜ。後悔するなよ?」

 

 

グレンは床に落ちていた手袋を拾い、決闘を了承する。

全員が外へと移動する中、ウィリアムに動く気配が全くなかった。

 

 

「面倒だし、興味ねぇ」

 

 

移動を促されたウィリアムの第一声がこれである。

結局、ウィリアムは置いていかれる事となった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

決闘はシスティーナの圧勝で終わった。理由はグレンは三節詠唱しかできなかったからだ。

システィーナの圧勝で、グレンは敗けたにもかかわらず授業はいい加減のままであった。

 

 

「魔術ってそんなに偉大で崇高なのかね?」

 

 

ルーン語の翻訳に辞書をリンに差し出したグレンに、システィーナが軽蔑した発言に対してのグレンの言葉である。

システィーナが嬉々として魔術について語るが―――

 

 

「―――だから、魔術は偉大で崇高な物なのよ」

 

「……何の役に立つんだ?」

 

「え?」

 

「そもそも、魔術は人にどんな恩恵をもたらすんだ?何の役にも立ってないのは俺の気のせいか?」

 

「……ひ、人の役に立つとか立たないとか、そんな次元の低い話ではないわ。もっと高次元な―――」

 

「嘘だよ。魔術は役に立ってるよ―――人殺しにな」

 

 

暗い顔となったグレンは、そのまま魔術の暗黒面をこれでもかと言わんばかりに語っていく。

 

 

「剣術で一人殺す間に魔術は何十人も殺せ、魔導士の一個小隊は戦術で統率された一個師団を戦術ごと焼き尽くせる。ほら、便利だろ!?」

 

「ふざけないでッ!」

 

「ふざけちゃいねぇさ。国の現状、決闘のルール、初等呪文の多くが攻性系、『魔導大戦』、『奉神戦争』、外道魔術師の凶悪な犯罪の件数と内容……魔術と人殺しは腐れ縁なんだよ。切っても切れない、な」

 

「違う……魔術は、そんな……」

 

「魔術は人を殺すことで進化・発展してきたロクでもない技術なんだよ!こんな下らない事に人生費やすくらいなら――」

 

 

ぱぁん

 

グレンの極論と言える発言は、システィーナにビンタされて止められた。

 

 

「……だいっきらい!」

 

 

システィーナは涙を溢しながらそう言い捨て、教室を飛び出していく。グレンも居心地の悪さからか、次いで教室を後にする。気まずい雰囲気が教室に漂う中……

 

 

「……下らね」

 

「何が下らないのかなウィリアム君」

 

 

ウィリアムの小さく冷めた発言がルミアにしっかり届いていたようで、面倒だと思いつつもその訳を話す。

 

 

「学問だろうが殺人だろうが魔術はそういう風に使えるというだけだ。結局のところ、自分がどう使いたいのかの方が重要なんだよ。技術に色はねぇんだからよ」

 

「……じゃあウィリアム君は魔術をどう使いたいのかな?」

 

「……これ以上はダルいから寝るわ」

 

 

ウィリアムはそう言ってルミアのその質問には答えず、机に突っ伏して寝始めた。

 

 

((((図太過ぎる!))))

 

 

ウィリアムのあまりの図太さにクラス一同は同じことを思った。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「魔術をどう使いたいか、か……」

 

 

夕方、帰り道でルミアに聞かれたことを口にするウィリアム。その表情はどこか陰りを感じられる。

 

 

「どう使いたいのかな、俺は……」

 

 

ウィリアムはそう呟いてズボンのポケットからあるものを取り出す。それは手帳サイズの大きさで、内部に小さなルーン文字がびっしりと刻まれている翡翠の石板(エメラルド・タブレット)だ。

魔術をどう使いたいのか。自分はどうしたいのか。

その答えは二年程前に見失い、未だ出せないままであった。

 

 

 




ウィリアムの見た目はTOBのアイゼンをイメージすれば分かりやすいと思います
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三話(改)

欲望のまま連続投稿した駄作者です
てなわけでどうぞ


「昨日はすまなかった」

 

 

翌日、グレンがシスティーナに頭を下げて謝ってきた。

 

 

「その……なんだ、大人げなかったというか……」

 

 

しどろもどろになりながらも、要は悪い、言い過ぎた、だろう。

とにかくシスティーナに謝ったグレンは改めて教壇の前に立つ。

 

 

「授業を初める前に一つだけお前らに言いたい事がある」

 

 

グレンはそう告げて、一呼吸おき―――

 

 

「お前らってホントバカだよな。昨日までの十一日間、お前らの態度見てわかったよ。お前らって魔術のことなんも理解してねぇよな」

 

 

グレンの発言に約一名を除き、全員が硬直する。

 

 

「【ショック・ボルト】程度の一節詠唱できない三流魔術師にいわれたくないね」

 

 

呆れながら言い返したのはギイブルだ。ちなみにギイブルはウィリアムの事を一方的にライバル視している。

その一番の理由はウィリアムの持つ魔術特性(パーソナリティ)からだ。

ウィリアムの魔術特性(パーソナリティ)は【物質の構築・分解】―――錬金術に対し圧倒的なアドバンテージを持っているからである。

加えて錬金術の実技授業をあっさりとやってのけているのもライバル視に拍車を掛けている。

……最も実技の二割程をウィリアムはサボっているのだが今はその話はいいだろう。

 

 

「ま、それを言われると耳が痛い。だがな【ショック・ボルト】『程度』と言ったか?やっぱりバカだわ」

 

 

グレンの煽りに一部を除くクラスのメンバーは苛立っていく。

 

 

「まあ、いいわ。じゃ、今日はその【ショック・ボルト】の呪文について話そうか。《雷精よ・紫電の衝撃以て・打ち倒せ》」

 

 

グレンの左手から紫電が迸る。グレンが三節詠唱で起動した【ショック・ボルト】を見て、生徒のほとんどは軽蔑の視線をグレンへと送る。

 

 

「さて、これが【ショック・ボルト】の基本詠唱だ。センスのあるやつは《雷精の紫電よ》の一節詠唱が可能だ。じゃあここで問題だ」

 

 

《雷精よ・紫電の・衝撃以て・打ち倒せ》

 

グレンは周りの視線を気にもせずに解説を続け、黒板に三節を四節で区切った詠唱を書く。

 

 

「さて、これを唱えると何が起こるか当ててみな?」

 

 

グレンの問いかけに対して誰も答えない。わからないからではなく、なぜそんな事を聞くのかという困惑からである。

 

 

「これはひどい。全滅か?」

 

「その呪文はまともに起動しませんよ。何かしらの形で失敗しますね」

 

「んな事は分かってるんだよ。俺が言いたいのはその失敗がどんな形で起こるのかをきいてんだよ」

 

 

ギイブルが負けじと応戦するも、グレンの切り返しにギイブルは打ちひしがれたかのように、何も言えなくなってしまう。

 

 

「そんなのランダムに決まってますわ!!」

 

「……ブフッ」

 

 

ウェンディの立ち上がってからのランダム発言の直後、一つの笑い声が教室内で洩れる。

 

 

「何が可笑しいんですの!?」

 

 

ウェンディはその笑い声の主―――ウィリアムを怒鳴りつける。

 

 

「イヤ、悪い。ランダムなんて絶対ありえないからつい」

 

「ほー?じゃあお前は分かってるのか?」

 

 

その言葉にグレンは不敵に笑いながらウィリアムに問いかける。ウィリアムはため息をつきつつも、その答えを告げる。

 

 

「……右に曲がる、だろ?」

 

「正解」

 

 

ウィリアムの回答にグレンはあっさりと肯定し、そのまま四節で【ショック・ボルト】を唱えると、ウィリアムが答えた通りに右に曲がる。

 

 

「五節に区切ると?」

 

「射程落ち」

 

 

五節で唱えて、宣言通り射程が低下した【ショック・ボルト】を見せる。

 

 

「一部を消すと?」

 

「出力の極端な低下」

 

 

呪文の一部を消した【ショック・ボルト】を当てられた男子生徒は何も感じていない。またしても宣言通りとなった。

 

 

「まぁ、究めたっつーなら、これぐらいできないとなー?一人はできてるようだが」

 

 

クラス全員のグレンとウィリアムを見る目が完全に変わる。この二人は明らかに自分達には見えていない何かが見えているからだ。

 

 

「魔術ってのは、世界の真理を解き明かすんじゃない。人の心を突き詰めたものなんだよ。そうだな……《まあ・とりあえず・しびれろ》」

 

 

グレンのそのいい加減な詠唱で、【ショック・ボルト】は起動し紫電が迸る。

 

 

「ま、ド基礎ができていればこれぐらいは出来るようになる。なのにそれをすっ飛ばして書き取りだの翻訳だの……」

 

 

そんなことを宣いながら教本を投げ捨てるグレン。それを咎めるものはもう既にいなかった。

 

 

「つー訳で、そのド基礎を教えてやる。興味がないやつは寝てな」

 

 

ロクでなし講師グレンの授業が初まる―――

 

 

「ウィリアム、今日の授業、俺と一緒に教えろ」

 

「……は?」

 

「ちなみに断って寝たら欠席扱いにすんぞ」

 

「仕返しか!?この前の仕返しなのか!?」

 

 

結局、ウィリアムは渋々と捕捉程度でグレンと一緒に教える事となった。

 

 

 




ホント書くのが難しい·····
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四話(改)

相変わらず文才無しの厄介な猫さん(略して厄猫)です
今回はウィリアムの実力の片鱗が見られます
てな訳でどうぞ


グレンが真面目に授業をするようになってから教室は常に満席。空いている机がなくても立ち聞きで受ける学生、教員までくる始末だ。

そんなグレンの高度な授業を後押ししているのがやる気なしの問題児と有名なウィリアムである。

グレンが事あるごとにウィリアムを名指しで質問し、ウィリアムがそれに答える事でより一層分かりやすくなっているのだ。当の本人はめんどくさがっているが……

 

 

『ウィリアムは欠席か』

 

 

黙りを貫くとグレンから欠席扱いされ、そんな感じで脅されて渋々答えているのである。

イベントは常時、実技はたまにサボるウィリアムとしては普段の授業を欠席扱いされるのは痛いのだ。

当然その結果としてウィリアムに質問してくる学生も出てくるわけで……

 

 

「はぁ……」

 

 

本日の授業が終わり人気のない校舎の屋上で夕焼けの空を座ってウィリアムは眺めている。

質問攻めをしてくる学生から逃げ続けるという本人からしたらはた迷惑な日常にため息が洩れる。

グレンの授業は有意義な為外せないのがまた悔しい気分となる。

そんな、自分で自分の首を絞めているのに気づかぬまま……

 

 

「こんなに有意義に教われるのは、師匠の時以来だな」

 

 

今は亡き魔術の師匠に思いを馳せるウィリアム。

自分の願いを聞き入れ、魔術を教え、鍛え上げてくれた。その事には感謝しても仕切れない恩を感じている。

だが、それでも自身の願い、望みには―――届かなかった。

 

 

「……さてと、もう帰るか」

 

 

気分を切り変え、 腕袋に包まれた右腕―――義手の右腕で頭をかきむしりながら立ち上がり帰路に着くウィリアム。

その背中は寂しいものだった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「遅い!」

 

 

システィーナが懐中時計片手に文句を言う。

本日は学院は休みなのだが、二年二組だけはもろ事情により本日も授業がある。

にもかかわらずグレンはまだ来ていない。

どうせ休日と勘違いして寝坊し、まだ来ないだろうと考えウィリアムはおもむろに席から立ち上がる。

 

 

「ちょっとウィリアム。どこに行くつもり?」

 

「トイレ」

 

 

システィーナに対しウィリアムはそう答え、教室を出てトイレへと向かった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「あースッキリした」

 

 

トイレを済ませたウィリアムはそのまま教室へ戻ろうと―――

 

 

「ん?」

 

 

―――したが、妙な違和感を覚えて動きを止める。

 

 

「空気がピリピリとしているな……《彼方は此方へ・怜悧なる眼は・万里を見晴るかす》」

 

 

張り詰めた空気を肌で感じ、ウィリアムは黒魔【アキュレイト・スコープ】―――遠見の黒魔術で教室を覗き込む。

そこに映ったのは怪しい三人―――チンピラ、ダークコート、フードの男共がクラスメイトを脅している所だった。

 

 

「―――ッ」

 

 

それを確認したウィリアムは直ぐに遠見を解除する。長々と見ていると連中に気づかれるからだ。

あの三人は犯罪者と見て間違いない。しかもあの三人―――特にダークコートの男が―――手練れの魔術師だ。

 

 

「ここで隠れて大人しくしているのが、利口だよな……」

 

 

あの三人と戦えば、下手すれば返り討ちに合う可能性の方が高い。

なのでここで隠れてやり過ごすのが現時点での最良の選択だ。馬鹿正直に戦う必要も、出ていく必要もない。

その筈なのに―――

 

 

「……」

 

 

ウィリアムの心が叫んでいる。それでいいのか?クラスの皆を見捨てるのか?と。

 

 

「…………はぁ」

 

 

ウィリアムは何かを諦めたかのように深い溜め息をつき、おもむろに最寄りの壁に手を当てる。

すると壁から紫電が爆ぜり、ウィリアムの手の上で抜き取られた壁の一部が形を変えていく。

紫電が収まり、ウィリアムの手に出来上がったものは――― 一丁の拳銃だった。

その拳銃は現在普及している拳銃よりも大型であり、バレルも長方形とかなり変わっているリボルバー式だ。

ウィリアムはグリップの上部にあるフック部分を降ろすとフレームが半ばから折れる。そしてフレームを元に戻して引き金を引く。すると撃鉄が勝手に降りて叩かれる。

 

 

「久々だったが上手くいったな」

 

 

ウィリアムはあっさりというがこれはそんな簡単な事ではない。

銃は複数のパーツから作られている武器だ。剣のように一色単で作れる武器ではないし、武器錬成の錬成式は複雑怪奇であり簡単なものではない。

それをウィリアムは寸分の狂いもなくあっさりと錬成してやってのけたのだ。しかも拳銃のフレームの材質はウーツ鋼である。ウィリアムの錬金術は明らかに学生の域を越えている。

拳銃の動作確認をしたウィリアムはポケットの中の翡翠の石板(エメラルド・タブレット)を取りだし―――

 

 

「じゃあ……行くか」

 

 

騒動へと足を踏み込んだ。

 

 

 

 

やる気なしが、やる気を出して動き出す。

 

 

 




次回は戦闘シーン
しかし上手く書けるかな······?
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五話(改)

戦闘シーンを書くのは本当に難しい·····
てなわけでどうぞ


一通りの準備を済ませた後、ウィリアムは周りを警戒しながら教室へと向かって廊下を歩いていく。

連中の目的は不明だが、少なくとも殺人が目的ではない筈だ。もしそうだとしたらもっと人が多い日を襲撃する筈だ。

 

 

「とりあえず、まずはあのチンピラかフードのどっちかを―――」

 

 

ボコって吐かせる。そう考えた矢先、虚空から発せられた一条の雷閃がウィリアムに襲いかかる。

 

 

「―――ッ!」

 

 

ウィリアムはすぐさまその雷閃―――【ライトニング・ピアス】を横へと跳んでかわし―――

 

 

「《力よ無に帰せ》!」

 

 

何もない筈の場所に向かって【ディスペル・フォース】を発動させる。すると何もない筈のその場所から―――【セルフ・トランスパレント】で透明となっていたフードの男が現れる。

 

 

「ふむ、学生にしてはそこそこやれるみたいだな」

 

 

フードの男――――フォウルは感心したように呟く。

 

 

「まあいい、大人しく投降しろ。そうすれば実験素材として生かしておいてやる」

 

最初(ハナ)から殺そうとしてきたくせにか?」

 

「他の学生へのみせしめだ。逆らったり抵抗したりすればこうなるというな。それともその玩具で挑むつもりか?」

 

 

フォウルはウィリアムの右手に持つ鈍色に輝く拳銃を視界に納めてそう口にする。

 

 

「試してみるか?」

 

 

ウィリアムが不敵に告げた瞬間、あたりに銃声が鳴り響く。

 

 

「···ふん」

 

 

フォウルは不意討ちに近い形で放たれた銃弾を軽く動く程度でかわす。

 

 

「《雷精の紫電よ》!」

 

 

ウィリアムは追撃といわんばかりに左手から【ショック・ボルト】を飛ばす。フォウルはその一撃を避けようともせずにくらい―――無傷で佇んでいる。

 

 

「残念だったな。その程度では我の【トライ・レジスト】を越えられないぞ」

 

「《大いなる風よ》!」

 

 

フォウルの嘲笑を含んだ言葉を、ウィリアム殆ど無視して呪文を唱え、黒魔【ゲイル・ブロウ】を放つ。

 

 

「《大気の壁よ》」

 

 

フォウルは呆れた感じで【エア・スクリーン】を張り【ゲイル・ブロウ】を容易く防ぐ。

所詮は学生……フォウルは完全に油断していた。その為、ウィリアムが投げつけてきた物への反応が遅れてしまう。

ウィリアムが投げつけた物―――小石が【エア・スクリーン】に当たった瞬間、その小石から圧倒的な光が爆ぜる。

 

 

(閃光石か!?)

 

 

魔術道具を持っていた事に驚きつつも、ここで逃げるつもりなのかと考えるも―――

 

 

「《雷精》ッ!」

 

 

ウィリアムの詠唱によってその考えは否定される。

またしても不意討ちでくらわす腹づもりなのだろうと考え、やはり所詮は学生だと侮りつつ、強力な攻性呪文(アサルト・スペル)を唱えようと―――

 

 

 

―――したが銃声と左腕の感覚が消えた事でその思考は遮られた。

 

 

「……は?」

 

 

思わず左腕の方をを見ると―――肩の先から左腕が血飛沫を上げて吹き飛んでいた。

 

 

「なっ……があぁああああああああああああああ―――ッ!?」

 

 

現実を認識したフォウルは傷口を抑えながら驚愕と激痛による叫び声を上げる。

フォウルは【トライ・レジスト】だけではなく白魔【ボディ・アップ】もかけていたのだ。加えて【エア・スクリーン】も展開されている為、拳銃程度の威力で突破できるものではないし、仮に突破しても【ボディ・アップ】で強化した肉体には効かない筈であった。

そんな驚愕するフォウルに、ウィリアムはここぞとばかりに肉薄して距離を詰め、いつの間にか左腕に装着された蒼銀のガントレットで顔面を殴り飛ばした。

 

 

「―――ごはっ!?」

 

 

その一撃をマトモにくらってしまったフォウルは白目をむいて沈黙した。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「さあ吐け、洗いざらい全部吐け」

 

「……」

 

 

あの後、気絶したフォウルの傷の止血をし、額に黒魔【スペル・シール】―――相手の身体に直接書き込むことで相手の魔術起動を封じる魔術―――を施し、身ぐるみを全部剥いで素っ裸にし、首から下をウーツ鋼で埋め尽くして拘束した後、叩き起こして、額に拳銃をグリグリと押し付けて情報を吐かせようとしている。

 

 

「この学院に何の目的があって来た。“天の智慧研究会”のクソ野郎ども」

 

「……」

 

 

フォウルは無言を貫くが、その正体は身ぐるみを剥ぐさい、背中の蛇が絡みついた短剣の刺青で既にバレている。

 

 

天の智慧研究会。

 

 

魔術を極める為ならどんな非道も嬉々として行い、この帝国で暗躍する最低最悪の魔術組織。

味方でさえ、なんの躊躇いもなく使い捨てにする、殆どの構成員が救いようのない外道連中だ。

 

 

「黙ってないでさっさと吐け」

 

「……フッ」

 

 

ウィリアムの尋問は嘲笑によって返される。

 

 

「……何が可笑しい?」

 

「いや、なに、まさかヤツの正体がこんな小僧だったのかと思うとな」

 

「……」

 

 

フォウルの言葉に今度はウィリアムが黙る番だった。

 

 

「その可能性は浮上していたが、まさか本当に小僧だったとはな……」

 

「……んな事はどうでもいいんだよ。さっさと―――」

 

 

取り合う価値がないとばかりに言い、尋問を再開しようとした矢先、空間の一部がグリャリと曲がる。

ウィリアムはそれに驚き注視すると、そこから骸骨の人形―――ボーン・ゴーレムが次々と出てきた。四、五体ではない、二十を軽く超える数だ。

 

 

「マジかよ……」

 

 

術者のその技量に軽く頬を引きつらせるウィリアム。

 

 

「我もお前もここまでのようだな」

 

 

まだまだボーン・ゴーレムが召喚される中、フォウルはふざけた事を言ってくる。

 

 

「敵も味方もお構い無しかよ」

 

「命令違反をして無様に失敗したのだ。当然の結果だ」

 

「……チッ、そうかよ」

 

 

ウィリアムは舌打ちをしてその場から離れていく。ボーン・ゴーレム共もその後を追いかけていく。

 

 

「やっぱり追いかけるよなチクショウ!」

 

 

愚痴りつつも拳銃を左手へと持ち変え、右手の親指と人差し指を擦るという()()な動作をする。そこから輝く粒子が散布され――― 一対の幾何学的な羽を有する黄金の剣が四体顕れる。

 

 

「行け!」

 

 

ウィリアムの号令と同時に右腕を振るうとそれに応えるかのように黄金の剣達が動き、ボーン・ゴーレムへと向かっていく。

黄金の剣はボーン・ゴーレムを何体か切り裂くも、切り裂く途中で砕けて霧散した。

 

 

「竜の牙製かよ····ホントにめんどくせぇなぁ」

 

 

ウィリアムはうんざりしつつもボーン・ゴーレムへと向きなおり再び黄金の剣―――人工精霊(タルパ)騎士の剣(ナイツ・ソード)】を具現召喚する。

 

 

「来いよ……骨人形共」

 

 

ウィリアムはそのまま【騎士の剣(ナイツ・ソード)】を再びボーン・ゴーレムの群れへと飛ばしていった。

 

 

 




チートじみた戦闘力を持っているオリ主······ありですよね?
これが錬金術だ!(ありなのか?ありですよね!?)
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六話(改)

文字表現に四苦八苦する厄介な猫さんです
今回の話でウィリアムの正体が明かされます
てな訳でどうぞ


骨人形(ボーン・ゴーレム)黄金の剣(ナイツ・ソード)が激しくぶつかり合う。

黄金の剣が一太刀で骨人形を砕き、その骨人形がその黄金の剣を砕く。それが繰り返されている。

 

 

「そろそろいいか……」

 

 

ボーン・ゴーレムの数がいい感じで減った為、ウィリアムは床にわざわざ手をつきあるものを錬成する。

出来上がったのは―――ドッジボールサイズの魔晶石だ。

 

 

「そらよッ!」

 

 

ウィリアムはその魔晶石を残りのボーン・ゴーレムに向かって投げ飛ばす。

そしてすぐさま右手の親指と人差し指を擦り合わせ、一対の幾何学的な羽を有する四角い純白の盾―――人工精霊(タルパ)騎士の楯(ナイツ・シールド)】を具現召喚し、防御障壁を展開させる。

そして投げ飛ばした魔晶石はボーン・ゴーレムへと当たり―――

 

ドガァアアアアアアアアアンッ!

 

凄まじい爆風を発し、残りのボーン・ゴーレムを粉々に吹き飛ばした。

ウィリアムが投げ飛ばした魔晶石は爆晶石という、ちょっとでも衝撃を与えると爆発するという取り扱いが難しいものだ。

しかも威力も大きさに比例して高くなるため、ドッジボールサイズの大きさは相当危険な威力だ。現に爆発地点に軽くクレーターができており、周りの壁にも幾ばくかヒビが入っている上に窓ガラスも砕け散り、【騎士の盾(ナイツ・シールド)】も一発で砕け散った。

 

 

「……加減を間違えたな」

 

 

やはり二年ものブランクが確実に響いている。

できれば制圧、無力化ですませたいが、チンピラはともかくダークコートの方はそれができる程甘い相手ではないだろう。最悪の場合―――殺すしかない。

そう考えていると上の方から破壊音が鳴り響いた。

 

 

「!?」

 

 

ウィリアムは驚き音がした方向を見る。音からして誰かが戦っていると見ていいだろう。

 

 

「……」

 

 

ウィリアムは一瞬の迷いを振り切り音がした方向へと走り出した。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「てめえ、その剣両方かよ」

 

 

空中に浮く五本の魔導器の剣を見てそう見抜くグレン。

 

 

「御名答だ。二本の手動剣と三本の自動剣、これが実戦によって導き出された最適解だ」

 

 

満身創痍のグレンは現在、ダークコートの男―――レイクと一人で戦っている。

先程の破壊音はグレンが黒魔改【イクスティンクション・レイ】でボーン・ゴーレムの大群を一網打尽に破壊した音だったのである。

しかし、分不相応な魔術を裏技で無理矢理使ったためマナ欠乏症に陥ったところをレイクは狙って襲撃してきたのである。

一緒に行動していたシスティーナをある理由から突き落としてその場から逃がし、単身で挑んでいるが当然劣勢を強いられている。

レイクはそんなグレンに考える暇は与えないとばかりに手動剣を差し向け―――

 

キィインッ!!

 

―――たが、銃声とともに剣が弾かれた事でその行動は遮られる。

グレンは予想だにしなかった援護に思わず後ろを向く。そこに居たのは硝煙が昇る拳銃を片手に佇んでいるウィリアムだった。

 

 

「ウィリアムッ!?」

 

「おーおー、死にそうな顔してんなグレンの先公」

 

 

グレンの驚愕をウィリアムはそんな軽口で受け流し、改めてレイクに視線を向ける。

 

 

「ちっ、予想よりも早かったな」

 

「という事はあの骨人形はあんたのかよ」

 

 

忌々しげにするレイクに、ウィリアムはうんざりといった顔をする。

 

 

「学生の分際で人工精霊(タルパ)が使えるのは見事だが、その程度では私には勝てんぞ」

 

 

レイクの言葉にグレンは再び驚く。

人工精霊(タルパ)―――魔術の『等価対応の原則』を逆手にとり、魔薬(ドラッグ)によるトランス状態で深層意識に『そこに居る』と強固に暗示認識し、疑似霊素粒子粉末(パラ・エテリオンパウダー)をスクリーンに空想存在を現実世界に具現召喚するという、一歩間違えれば廃人確定の、禁呪に近い錬金術の奥義だ。

 

 

「じゃあ、試すか?」

 

 

ウィリアムは右手の親指と人差し指を擦り、疑似霊素粒子粉末(パラ・エテリオンパウダー)を辺りに散布し、五体の【騎士の剣(ナイツ・ソード)】を具現召喚し、魔導器の剣へと向かわせ撃ち合わせる。

互いに弾かれ合う魔導器の剣と人工精霊(タルパ)の剣。

その合間にウィリアムはレイクに向けて残り二発の銃弾を叩きこもうとする。

 

 

「ふん」

 

 

レイクは自身へと向かう銃弾を手動剣であっさりと弾き飛ばす。

フォウルとの戦闘で二発、グレンを手動剣から守った二発、そして今の二発で計六発。

もはやあの銃は弾切れ。そして銃は再装填に手間がかかる、魔術師からすれば玩具(オモチャ)でしかない武器だ。

しかし、その考えはあっさりと崩される事となる。

ウィリアムは拳銃のフック部分を降ろす。するとフレームが半ばから折れると同時に回転弾倉から六つの金属製の筒が吐き出される。そして回転弾倉の六つの穴に空中から新たな金属製の筒が装填される。装填されると同時にフレームを元に戻して引き金を二回引くと、銃声と共に二発の銃弾が吐き出された。

 

 

「―――なッ!?」

 

 

レイクは咄嗟に手動剣を盾にして銃弾から身を守る。

金属製の筒。グレンはそれの正体を知っていた。

金属薬莢。金属製の筒の中に火薬を入れ、先端に弾頭を、尻の部分が雷菅という、装填性、安定性に優れた次世代型の銃弾だ。しかし製造法が確立しておらず、安定した供給が出来ないためあまり普及していないのだ。

魔術的な製法での方法も見当されたが、手間と成果が全く釣り合わないため白紙となった。

玩具の為に寸分違わずに錬成するのと、攻性呪文(アサルト・スペル)の精度を高めるのとでは当然後者の方が効率も成果も高い。

だがグレンは一人だけ知っている。それを選び、自由自在に錬金術を行使し、正体もその目的もその一切が不明だった錬金術師を。

 

 

「―――《雷精》」

 

 

そんなグレンをよそにウィリアムは短く呪文を唱える。すると拳銃にバチバチと電撃が迸る。

それを見たレイクは直感であれは不味いと感じ、一本の手動剣を【騎士の剣(ナイツ・ソード)】を掻い潜りながらウィリアムへと向かわせる。

迫りつつある手動剣。

ウィリアムはその手動剣へと拳銃の照準を合わせ―――引き金を引いた。

 

バンッ!

 

銃声と共に、まるで岩石を発破した音と共にその手動剣は粉々に砕け散った。

レイクは驚愕に目を見開く。先程の銃撃は弾速、威力、全てが通常の銃撃を遥かに凌駕している。

ウィリアムはここぞとばかりに人工精霊(タルパ)を予備動作も仕込みも無しで自身の周りに具現召喚し、残りの魔導器の剣を抑え込んでいく。

 

 

「何ッ!?」

 

 

レイクはそのあり得ない光景に再び驚愕する。

人工精霊(タルパ)を使った事にではない。その人工精霊(タルパ)()()()()()()()()()()()()()()事に対して驚愕したのである。

そんなレイクにウィリアムは拳銃の照準を合わせる。

ウィリアムは気づいていた。レイクは本気を出さずこちらを侮っていた事に。遊びの内で殺らなければならない事に。

 

 

「くッ·····《光の障壁――」

 

(おせ)ぇッ!」

 

 

レイクが身を守るために咄嗟に【フォース・シールド】を目の前に張ろうとするも、グレンの持つ愚者のアルカナ―――広範囲の魔術起動を完全封殺する固有魔術(オリジナル)【愚者の世界】によって不発に終わってしまう。

ウィリアムはそのままレイクに向かって引き金を引き―――その心臓を過たずに撃ち抜いた。

 

 

「……見事だ」

 

 

口から血を流すレイクから賞賛の声が上がる。

魔術師の世界では常に勝った方が正義。一対二が卑怯等と言うつもりは無い。

そして自分を打ち負かした二人を一瞥し、何かに納得したように呟き始める。

 

 

「そうか……そこの魔術講師は宮廷魔導士団の魔術師殺し……コードネームは《愚者》………学生の方はあの《詐欺師》か……」

 

 

《詐欺師》の言葉にウィリアムは苦い顔をする。

 

 

《詐欺師》。

それは四年前からの二年間で活動していた、紺の外套に黒の仮面をした正体不明の錬金術師の異名である。

圧倒的な錬成速度と相手を騙すかのような戦い方で幾つもの外道組織を叩き潰しており、つけられた異名が《詐欺師》。

その実力と結果として帝国の益になっていた事から宮廷魔導士団特務分室に目を付けられ、戦力増強の為に捕らえようとしていたが、その都度、あの手この手で逃げられていた。

グレンもその《詐欺師》と一度戦っており、魔術起動を完全封殺したにも関わらず平然と錬金術を行使し、まんまと逃げられた事からグレンにとっては相性の悪い相手である。

 

 

「……何が言いたい?」

 

「……それがどうしたってんだ?」

 

 

そんなレイクの言葉に二人は暗い顔で問いかける。

 

 

「さあな……?」

 

 

レイクはそれだけ言い残し、血だまりの床へと崩れ落ち―――二度と動かなかった。

 

 

「……なにが《詐欺師》だよ……」

 

 

その言葉で、ウィリアムの過去の記憶が呼び起こされる―――

 

 

 




ありなのかと問われるであろうウィリアムの戦闘方法
一応その理由は考えてます
感想お待ちしてます


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七話(改)

ウィリアムの過去が大体わかる過去回です
てな訳でどうぞ


思い起こされるのは過去の記憶。

 

草木をかき分け肘から先が無くなった右腕を抑えながら必死に走り続けるのはウィリアムだ。

 

ウィリアムは息を荒げ、意識が朦朧としながらも必死に追っ手から逃げ続ける。

 

本来の脱走計画では自分一人ではなく、少なくとも三人を連れて件の組織―――天の智慧研究会から逃げ出すつもりであった。

 

元々ウィリアムは実験材料(モルモット)として天の智慧研究会に囲われていた。

しかしウィリアムの魔術特性(パーソナリティ)があまりに有益だった為、魔術研究をして貢献してもらったほうが価値が高いと、研究者へと引き上げた。

ウィリアムに割り当てられた研究で、同じように組織に囲われた三人と知り合った。

ウィリアムは当然この状況を幼いながらも良しとしておらず、組織の目を盗んで脱走計画を立てていた。立てていたつもりであった。

残念ながら逃げ出そうとしていた事自体はとっくにバレており、その反抗心を踏み潰すためにあえてギリギリまで気づかない振りをしていたのである。

 

結果としてウィリアムは一人で逃げており、その過程で右腕を失った。傷口は攻性呪文(アサルト・スペル)で強引に止血しており、その痛みは尋常ではない。

 

疲労と出血、傷の痛みによって身体がついに限界を迎え、地面に倒れこんだ。

自らの死を予感しつつ、一つの後悔と謝罪の元、ウィリアムは意識を手放した。

 

次に意識を取り戻したウィリアムが最初に見た光景は見知らぬ天井だった。

次いで横を見ると無精髭の白髪の老人がいる。何故自分が生きているのかとその老人に聞いたら、『儂が助けた』とアッサリと答えた。

ウィリアムは老人に強いのかと問い、もしそうなら助けたい人達がいるから力を貸してくれと頭を下げて頼みこんだ。

老人はその願いに応える事はできなかった。衰い、衰え続けている今の自分には敵の“迎撃”はできても“仕掛ける”事はできないと。

その答えを聞いたウィリアムは、なら自分を鍛え上げてくれと再び頭を下げて頼みこんだ。

老人は渋ったが、ウィリアムの目が本気であった事、未熟ながらも話を聞いた上での頼みでもあった事等からその願いを聞き入れた。

 

 

ウィリアムは老人―――師匠に魔術や戦い方を教わりながらも必死に強くなる方法を考えていた。

一般的な方法では強くなるには時間が掛かってしまうし、時間にも制限があるからだ。

そこでウィリアムがたどり着いた結論は、適性が一番高い錬金術を中心とした戦闘スタイルの確立だ。

そして錬金術と相性が良さそうで、一定の強さを発揮する武器―――銃に目をつけた。

そして銃での戦い方で試行錯誤する中で、『銃に電気を迸らせたら威力が上がるのでは?』という単純(バカ)な思考の元でやってみたところ予想以上の結果となった。この結果には師匠もさすがに呆れていたが。

その後も、自身の魔術特性(パーソナリティ)を利用した固有魔術(オリジナル)の開発、その使用方法の錯誤等、時間を許す限り自身の実力を上げていった。

 

 

師匠の最後を看取ったウィリアムは、墓を建てた後、自身の願いを叶えるために歩み始める。

 

 

そこからの二年間で帝国のあちこちを周り続けた。

その中で外道組織を叩き潰し、どうしようもない外道魔術師をその手で殺し、心を磨り減らしながらも、不安に駆られながらも己が願いのために進み続けるウィリアム。

必死に足掻き、辿り着いた先は―――

 

 

 

―――雪の上でうつ伏せで倒れこんだ少女の亡骸という、己の願いが永遠に叶わぬ結果であった。

 

 

その失意のままにさ迷い、フェジテへと流れ着いたウィリアムは迷いながらもアルザーノ帝国魔術学院へと入学する。

 

 

これが《詐欺師》ウィリアム=アイゼンの記憶である。

 

 

 




もう誰がヒロインか隠す気のない駄文·····
原作を読んでいる人にはとっくに気づいてるでしょうね······
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八話(改)

文字数が安定しない駄作者です
てなわけでどうぞ


過去の記憶が呼び起こされ、憂鬱な気分になるウィリアム。

だが、直ぐ様首を横に振り、その憂鬱な気分を切り変えようとする。

今は感傷に浸っている場合ではない。事態はまだ終わってはいないのだから。

 

 

「先生ッ!それにウィリアムも!?」

 

 

そんな中、二人に声を上げて近づいてきたのはグレンによってこの場から逃がされていたシスティーナだ。

システィーナはグレンの意図を正しく読み取り、急いでこの場に戻って来たのだが、戻ってみると戦いは既に終わっており、レイクも血を流して床に沈んでいる。

 

 

「ッ!先生、怪我を!?」

 

 

一体何が合ったのか聞きたいところではあったが、グレンが背中に傷を負っていたため一旦後回しにして急いで近寄り、グレンの手を取って白魔【ライフ・アップ】で傷の治療に取りかかる。

そして気になっている事をグレンに問い質す。

 

 

「一体何が合ったんです?急いで戻って来てみたら既に終わってますし……」

 

「俺が殺した」

 

 

システィーナの質問に、レイクを下した張本人であるウィリアムが簡潔にそう答えた。

 

 

「……え?」

 

「俺があの男を、この銃で殺した」

 

 

理解しきれなかったシスティーナに対し、ウィリアムが少し言葉を足して同じ事を口にする。

その言葉で漸く理解したシスティーナは言葉を失ってしまう。

だが、システィーナにはあの男を殺した事自体を責める事はできなかった。相手は自分たちを殺しにきた人間であり、対峙しただけでも相当な実力を持っていると理解できる魔術師だった。下手をしたら床に沈んでいたのは二人であってもおかしくない程に。

 

 

「悪ぃけど状況を説明してくれねぇか?こっちはほとんど掴み切れてねぇんだ」

 

 

ウィリアムのその言葉に二人は頷いて状況を説明する。

連中の目的はどうやらルミアにあるようで、ルミアを連れ去った後、他の生徒はその場で【スペル・シール】と【マジック・ロープ】を使って拘束したそうだ。

システィーナはチンピラ―――ジンに別室に連れていかれ、犯されそうになったところを駆けつけたグレンによって救われたそうだ。

襲撃者の数はおそらく五人でその内の四人は倒しているため、残りは連中を手引きした奴だけだそうだ。

 

 

「問題はルミアが今どこにいるのかという事だな」

 

「ああ。少なくとも学院の何処かにいる筈だ」

 

「……転送搭はどうだ?」

 

 

状況を理解したウィリアムはルミアの現在の居場所に学院の転送搭を上げる。

 

 

「転送搭か……行ってみる価値は十分にあるな」

 

 

システィーナの治療により、傷が塞ぎ顔色が少し良くなったグレンはウィリアムの意見に頷く。

 

 

「まずはそこへ行ってみるか」

 

「そうだな―――」

 

 

方針を決め、行動しようとした矢先、突如、システィーナが地面に向かって倒れこむ。

 

 

「白猫ッ!?」

 

 

グレンは驚き、慌てて顔色が悪くなったシスティーナの様子を見る。

どうやら治癒魔術を使いすぎてマナ欠乏症に陥って気絶しただけのようだ。

 

 

「とりあえず保健室に連れていくか」

 

「ああ、そうだな」

 

 

安全のために気絶したシスティーナを保健室へと連れていく。

システィーナを保健室のベッドの上に寝かせ、グレンとウィリアムは転送搭に向かって走り出す。

 

 

「そんじゃ行くか―――《愚者》の先公」

 

「頼らせてもらうぜ―――《詐欺師》」

 

 

グレンとウィリアムは視線を合わせ、不敵な笑みを互いに浮かべ合う。

 

《愚者》と《詐欺師》。

本当の意味で再会し、二人は手を組み事件解決へと動き出す。

 

 

 




後書きが浮かばない·····
感想お待ちしてます


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九話(改)

今回はオリジナルの魔術が明確に語られる今回
てなわけでどうぞ


「ビンゴ、みたいだな先公」

 

「ああ」

 

 

白亜の転送搭を守るように徘徊する数十体のゴーレムを見てここが当たりであると確信するグレンとウィリアム。

このゴーレムは普段はバラバラの石の欠片として学院の風景に溶け込んでいるのだが、有事の際は学院を守る守護者(ガーディアン)として動く。

だが、現在はその設定を書き換えられたのか、転送搭を守る為に動いている。

 

 

「俺が通り道を作るから先公はそこを通って向かってくれ」

 

 

右手に手頃な片手剣を錬成しながら、ウィリアムはグレンにそんな提案を投げ掛ける。

 

 

「どうやって作るだよ?あいつら見た限り、結構固そうなんですけど」

 

「まずは大雑把に掃除した後、細かい掃除かな」

 

 

そんな軽口で説明し、ウィリアムは剣の切っ先を前方へと向け、左手を剣の柄に添える。

 

 

「《万物を司りし者よ・―――》」

 

 

剣を挟むように二つの円法陣が形成される。今から放たれるのは師匠から伝授された固有魔術(オリジナル)に近い錬金術だ。

 

 

「《万象との縁を断ち・乖離の狭間へ行く道に・―――》」

 

 

円法陣に挟まれた剣は紅い光を放ち始め、円法陣が狭ばると共に徐々に球体へと形を変えていく。

 

 

「《生じし奔流を以て・呑み込まれし者達に・永久の終焉を与えよ―――》ッ!」

 

 

ゴーレム達がこちらに気付き近づいてくるが、既に遅く、剣は紅き光を放つ球体へと完全に形を変え、それに呼応するかのように円法陣も激しく回転している。

 

 

「《点火(イグニッション)》ッ!錬金改、【マテリアル・ブラスター】ァアアアアアア―――ッ!」

 

 

その言葉を区切りに紅き光の球体は凄まじい極太の熱線となり、その射線上にいたゴーレム達を次々と塵も残さず焼き尽くしていく。

搭の直前でその紅い光は収まり、出来上がった光景は焼け焦げた地面と中途半端に射線から外れていたゴーレム達の無残な姿だった。

 

 

【マテリアル・ブラスター】。

物質をエネルギーへと分解変換し、そのエネルギーをぶつけるという固有魔術(オリジナル)に近い錬金改魔術だ。

ウィリアムはこれを明確な媒体がなければ使えないし魔力も大量に消費するのだが―――単純な威力そのものはA級の軍用魔術を凌駕している。

 

 

「…………ウソン」

 

 

目の前の出来上がった光景に、さすがのグレンも顔に冷や汗を垂らしてひきつった表情を見せている。

 

 

「ぼーっとすんな。さっさと行けっつーの、先公」

 

 

両手に錬成した拳銃を持ちながら、ウィリアムは移動を促すためにグレンの尻を蹴り上げる。

 

 

「わかってるての」

 

 

グレンはウィリアムにそう返し、焼け焦げた地面を辿って転送搭を目指す。

しかし、当然ながら、それを射線上から外れていたゴーレム達が群がって止めにかかる。だが······

 

 

「無駄だぜ?」

 

 

ウィリアムはそう呟き、両方の拳銃に電気を迸らせ、ゴーレムに狙いを定めてその引き金を引く。

 

バゴォンッ!バゴォンッ!

 

破壊音と共に二体のゴーレムの上半身が砕け飛ぶ。

ウィリアムは次々と引き金を引いて発砲し、グレンに群がろうとするゴーレムを容赦なく撃ち砕いていく。

拳銃の装弾数を明らかに越える量の弾丸をこれでもかといわんばかりに放ち続けていく。

弾切れを起こさない銃撃。それを可能としているのがウィリアムのもつ固有魔術(オリジナル)である。

 

 

固有魔術(オリジナル)【詐欺師の工房】。

ウィリアムのもつ翡翠の石板(エメラルド・タブレット)型の魔導器の術式を読み取る事で起動するウィリアムの固有魔術(オリジナル)

その効果は自身を起点とした一定範囲内での錬金術における『五工程(クイント・アクション)』を全て省略したイメージによる瞬間錬成を可能とするものだ。

イメージといっても根源素(オリジン)の数値、元素の配列置、製作の工程、構造等を正しく理解していないと意味がない。

そして、この魔術を通して錬成した物は数分しか維持できないという欠点もある。

副次効果として疑似霊素粒子粉末(パラ・エテリオンパウダー)さえあれば人工精霊(タルパ)魔薬(ドラッグ)無しで具現召喚できるのだが、効果範囲内でしかできないため、強大なものは不可能である。

 

 

そんな強力な援護射撃を受けたグレンはすんなりと転送搭の扉へとたどり着き中へと侵入する。

残されたゴーレムはグレンを追いかけるのをやめ、ウィリアムに近づいていく。

ウィリアムはそのままこちらに迫ってくるゴーレムの掃除を続行していった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

事件は無事に解決した

連中を手引きしたのは急に辞めていなくなった二年二組の前担任のヒューイだった。

ルミアを本部へ転送した後、白魔儀【サクリファイス】で学院を爆破するつもりだったようでかなり危ない状況だった。

それもグレンの手によって阻止され、ヒューイは逮捕された。引き渡される際、何故か髪の毛が頭の頂点にある一つだけという笑いを誘う状態になっていたのが担当者には疑問だったがのだが……

そしてその事件が一ヶ月たった現在―――

 

 

「しっかし、ルミアがあのエルミアナ王女とはね……」

 

「ほんっと、面倒な事になったなぁ」

 

 

人気のないベランダ部分でそう呟くのは正式に魔術講師となったグレンとウィリアムだ。

あの後騒動の中心地にいたグレンとウィリアム、システィーナの三人は帝国政府に呼び出され、ルミアの素性を聞かされてその秘密を守るよう要請されたのだ。

 

 

「確かに面倒なことになったな。押し付けられちまったし」

 

「基本ダンマリでいいだろ」

 

「随分といい加減だな、お前らは」

 

 

そんな二人に呆れるように近づいてきたのは、この学院の教授であるセリカである。左肩には一羽の鴉がのっている。

ちなみにウィリアムの素性はグレンとセリカ、学院長のリックしか知らない。

面倒になるからとウィリアムは三人に口止めと口裏を合わせるよう頼んだのである。

グレンは恩着せがましくいい募ろうとしたが―――

 

 

『呑まなきゃ非殺傷弾をぶちこむぞ?』

 

 

と眉間に錬成した銃を押し付けて脅したのである。グレンは直ぐ様土下座して了承した。

 

 

「しかしグレン、意外だな。てっきり教師をやめるとばかり思っていたんだが」

 

「まあ……その、なんだ……ちょっと思うところがあってな。もう魔術のせいにするのはやめたんだよ。それに……」

 

 

グレンはベランダの下を見やり、近づいてくる二人の女子生徒―――システィーナとルミアを見やる。

 

 

「見てみたくなったんだよ。あいつらが将来、何をやってくれるのかをな。続けるには十分な理由だろ?」

 

「だな。一緒にいたらどうしたいのか分かるのかもしれねぇし」

 

 

グレンとウィリアムはそう言ってベランダから飛び降り、二人の元へ降り立つ。

 

 

「そうか。頑張れよ」

 

 

セリカは微笑みながらそう言って、飛び降りた二人を見つめ……

 

 

「お前の弟子は少しだけ立ち直れたようだよ……ユリウス」

 

 

今は亡き友へと言葉を送った。

同時に鴉が空へと飛び立つが、周りはそれに気づいた様子が一切なく、その鴉は自由に飛び回る。

 

 

騒がしくも暖かい日常は今日も続く。

 

 

 




これで原作一巻は終了です
オリジナルの魔術は無理のない範囲の筈だと信じたい
無理矢理感がでたら独自解釈で強引に納得して頂ければ幸いです
感想お待ちしてます


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第二章・魔術競技祭と思わぬ出会い
十話(改)


この妄想だだ漏れの駄作にお気に入り登録が58件も······
嬉しいかぎりです!
てな訳でどうぞ


放課後のアルザーノ帝国魔術学院、二年二組の教室にて。

ウィリアムは現在、机に突っ伏していた。

 

 

「…………」

 

 

端から見れば何時ものように寝ているように見えるが、実際は全く眠っておらず、狸寝入りしているだけである。

何故狸寝入りをしているのか。その理由は今教室で行われている事が関係している。

 

 

「『暗号早解き』に出たい人ー」

 

 

現在、教室では年に三度行われる魔術競技祭の選手決めが行われているからだ。

同学年の各クラスの代表が競い合い、最も優秀なクラスを決める学園行事なのだが、参加する人が全くいない状況となっている。

グレンが『お前らの好きにしろ』と丸々放り投げており、去年参加したシスティーナは、去年はつまらなかったから今回はお祭りらしく楽しもうと、全員参加で参加希望者を募っているのだが誰もが気まずそうに視線を逸らし、名乗りあげていない。

ウィリアムが狸寝入りしているのは、万が一勝手に決められたさい―――

 

 

『その日は風邪を引きそうだから無理』

 

 

―――とサボる気満々の理由でさりげなく辞退するためである。実際、去年の競技祭には観戦にすら来なかったのだからある意味当然である。

最近は授業中の居眠りが少なくなったのだが、相変わらずのやる気なしであった。

 

 

「はぁ……」

 

 

一向に参加種目が決まらない現状にシスティーナからため息が洩れる。

競技祭の開催は来週とあまり時間が残っていないため、何としても今日中に決めなければならない。

書記を務めるルミアもクラスのみんなに参加を促すが―――

 

 

「……無駄だよ」

 

 

ギイブルがうんざりしながら、それに水を差してくる。

ギイブル曰く、みんな最初から負ける戦いをしたくない、今年は女王陛下が見に来るから無様な姿を見せたくない、だから例年通り成績上位者で固めろ、だそうだ。

魔術競技祭は、昔はクラス全体で参加していたそうだが、現在は成績上位者の使い回しという、祭りとは程遠いものとなっている。

その理由は大方、総合優勝したさいの特別賞与欲しさ、名誉と名声に目が眩んだ講師の欲望の結果だとウィリアムは考えている。

そんな事を考えているウィリアムをよそにシスティーナとギイブルの口論は続く。いよいよシスティーナが怒鳴り声を上げようとしたさい―――

 

 

「話は聞かせて貰ったッ!このグレン=レーダス大先生様に任せてもらおうかぁあああああ―――ッ!!!」

 

 

開け放たれた扉から、グレンが謎の決めポーズをして現れた。

丸投げした時の態度とはうって代わり、やる気満々で競技祭の種目決めの指揮を取り始める。

グレンの出した采配はクラス全員参加という一見勝ちに行くようには見えない編成だった。

その流れの中で―――

 

 

「『注文製作』は……ウィリアム一択だな」

 

 

ウィリアムの参加種目まで決められていた。

ギイブルがその事に若干、顔をしかめたがグレンは構わずに進めていった。

 

 

「これで参加種目は全部決まったな。質問はあるか?」

 

 

その言葉を区切りに最大の見せ場と言える『決闘戦』の選抜から外されたウェンディを始めとし、選ばれた理由をグレンに質問するクラスメイト達。

グレンその全部に明確かつ的確な答えを言い、納得させていく。

これで決定、そんな雰囲気になりつつある中、それに水を差す人物が現れる。その人物は当然ギイブルである。

 

 

「……いい加減にしてくれませんかね?先生」

 

 

ギイブルは苛立ちを隠さず、そのまま成績上位者での編成を吐き捨てるように進言する。

それを聞いたグレンは編成を考え直そうとしたが―――

 

 

「ちょっと!折角先生が考えてくれた編成にケチを付ける気!?」

 

(ちょ―――)

 

「皆が活躍できるよう、先生がここまで考えてくれたのに、いつまで情けない理由で尻込みするの!?」

 

(頼むから余計なこと……)

 

「先生はこのクラスを優勝に導いてやるって言ってくれたわ!それは皆でやるからこそ意味があるのよ!―――ですよね!?」

 

「お、おう……」

 

「た、確かに……」

 

「あぁ……システィーナの言うとおりだ……」

 

「やれやれ、好きにすればいいさ」

 

 

システィーナの反抗と純粋な想いと朗らかな笑顔によって、全員参加の編成に決定した。

そんな中、ウィリアムは……

 

 

(タイミングを完全に逃した……)

 

 

狸寝入りしていた事を思いっきり心の内で後悔していた。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

後日、クラス全員が競技祭に向けて練習する中、ウィリアムは木の下で頭を抱えて踞っていた。

今ウィリアムの頭の中では、当日どうやってサボろうかと最低な事を考えているのである。

最初は当日風邪を引くで、サボろうとしたのだが―――

 

 

『みんな参加するんだからウィリアムも絶対参加しなさいよね!』

 

 

とシスティーナの気迫と剣幕、クラス一丸の空気に呑まれてしまい、言えなかったのである。

それでもどうやってサボろうかと考えているあたり、ウィリアムも十分にロクでなしである。

そんな事を考えている時に、一組と二組の間にケンカが勃発した。二組の人数が多いせいで自分達の練習場所が確保出来ない、という事が原因である。

グレンの仲裁により険悪な雰囲気は治まろうとしていたが、一組の担任講師―――ハー某が来たことにより再び険悪な雰囲気に包まれる。

ハー某曰く、勝つ気がないクラスが場所を取る事自体が自分達の邪魔だからさっさと中庭から出ていけ、と一方的に言ってきたのである。

その言い分に、昔の記憶をほじくり返された事もあり頭にきたグレンは、自分のクラスの総合優勝に給料三ヶ月分を賭け、ハー某に決闘を仕掛けた。

グレンに散々煽られたハー某も同じように給料三ヶ月分を賭けこれを了承し、一組共々中庭を後にしていく。

その一部始終を見ていたウィリアムはグレンへと近づき―――

 

 

「先公、競技祭の『注文製作』、ブッチギリで優勝してやる」

 

 

実ににこやかな笑顔で、明確に参加意思を表明した。

 

 

「……マジで?」

 

 

グレンは目を瞬かせ、普通に驚いていた。グレンとしてもどうやってウィリアムを競技祭に参加させようか頭を悩ませていたのだが、まさか自分から参加意思を表明するとは思っていなかったのである。

 

 

「ハー……トレスの先公の言い分に流石にムカついたからな。ブッチギリで優勝して、その鼻をへし折ると同時に毛髪にダメージを与えてやる」

 

 

参加理由を聞き、その理由にグレンは若干苦笑いして引きつつも、確実に取れる種目がでた事に勝ちの目を見出だす。

 

 

 

目指すは総合優勝だ。

 

 

 




貴様(ハーゲイ)の罪(頭髪の減り)は止まらない!(周りの手によって)加速する!
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十一話(改)

矛盾がないと信じたい駄作者
そんなこんなの十一話
てな訳でどうぞ


一週間の練習期間があっという間に過ぎさり、魔術競技祭は当日を迎えた。

魔術競技祭は例年、魔術学院の敷地北東部にある魔術競技場で主に行われている。

その闘技場内部では―――

 

 

『おおっと!ここで二組が大逆転!またしても予想外の展開だ!グレン先生率いる二組の快進撃は一体どこまで続くのでしょうか―――ッ!?』

 

 

拡声音響の魔術によって、実況席にいる実況解説の生徒―――アースの声が響いてた。

 

今行われているのは『飛行競争』だ。

この競技にはカイとロッドが出場しており、今年は例年よりも長い距離を飛行している。

グレンは二人に対して速度ではなくペース配分を重視するよう指示を出し、二人もその指示を守って競技へと挑んだ。

結果、他の生徒が首位争いの終盤でペースが落ちていく中、二人は速度を落とさずに駆け抜ける事ができた。

 

『飛行競争』以外でも一位にはならずとも、二位か三位といった好成績を納め続けている。

二組は全員参加の為ペース配分を考えずに全力で挑めるのに対し、力を温存しなればならない使い回し組は全力で挑めないため、どうしても加減して挑まなければならないのも二組が好成績を収めている要因の一つだろう。

 

そんな快進撃に一番驚いていたのはこの快進撃の立役者であるグレンだった。

本人からしたらこうすればいいんじゃね?程度のアドバイスで予想を越える結果に呆然としている。

そんな自身の株がドンドン上がっていく光景にグサグサと心に刺さりながらも生徒たちの活躍を見守るグレン。

そんな中、ウィリアムが出場する種目『注文製作』の番となり―――

 

 

「頼むぞウィリアム!」

 

「頑張りなさいよ!」

 

「応援してるよ」

 

「……ふん」

 

 

グレンやクラスメイト達の応援を右手をヒラヒラとして返し、ウィリアムは会場へと進んで行く。

 

 

『さあ次の種目『注文製作』!今年はどんなお題となるのでしょうか!?』

 

 

実況解説のアースの声が会場に響き渡る。

 

『注文製作』は出題者が提示した見本のものを、用意された金属を錬金【形質変化法(フォーム・アルタレイション)】を使って再現するという競技だ。

制限時間内で見本のレプリカを作り上げ、その完成度と製作に掛かった時間を競うというものだ。

 

 

『今回のお題は······これだ!』

 

 

箱から取り出されたのは―――ドラゴンの模型であった。

そして出場者たちにドッジボールサイズの鉄の塊が手渡される。

 

 

『制限時間は五分!それでは『注文製作』スタートです!』

 

 

その合図とともにウィリアムを除く選手一同はその場へと座り、【形質変化法(フォーム・アルタレイション)】を駆使して、お題の製作に取りかかる。

そんな中、ウィリアムは立ち続け―――

 

 

「―――ッ!」

 

 

―――爆ぜる紫電とともに鉄の塊を変形させていた。

迸る紫電。それに呼応するように鉄の塊は次第に形を変えていく。

そして紫電が収まり―――見本の倍近い大きさのあるドラゴンの模型が出来上がった。

出来上がったウィリアムの作品に解説者は勿論、周りの選手たちも目を奪われたかのように呆然とする。

 

 

『な、なんということでしょう!?ウィリアム選手があっという間に作り上げてしまったぞぉおおッ!?早い、早すぎる!』

 

 

我に返ったアースの言葉に他の選手も慌てて我に返り製作の続きに取りかかる。

しかし、残り少ない時間でウィリアムの作品を越える作品など作れる筈もなく―――

 

 

『―――そこまで!時間切れです!』

 

 

アースの終了の声が響く。誰が一位なのかはもはや分かりきっている。

 

 

『『注文製作』の一位は、圧倒的な錬金術の技量を見せつけたウィリアム選手だぁあああああああああ―――ッ!!!』

 

 

会場が一斉に歓声に包まれる。

その歓声と悔しがる選手たちの姿を背に、ウィリアムは会場を後にした。

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

「よくやったな、ウィリアム!」

 

「スゴいよ、ウィリアム!」

 

「お、おめでとうウィリアム君……」

 

「本当にお見事でしたわ!」

 

 

ぶっちぎりで優勝を果たしたウィリアムを出迎えたのは、自身を褒め称えるクラスメイトたちであった。

 

 

「全く!そんなに凄いなら、普段からもっとやる気をだしなさいよ!」

 

「ふふ……本当に凄かったよ、ウィリアム君」

 

「……悔しいけど本当に見事だったよ。絶対に君の技量に追い付く、いや追い越してみせるからな」

 

 

そんな様々な称賛を浴び、目を白黒させていたウィリアムは―――

 

 

「……別に。大したことはしてねぇよ」

 

 

顔を背け、首筋を掻きながらそんなことを言う。頬も若干赤く染まっている。

 

 

「照れてるのか?照れているのか?ウィリアム君?」

 

 

そんなウィリアムをグレンはここぞとばかりにからかっていく。

腹立たしい程のにへら顔でからかわれたウィリアムは、顔を益々顔を赤く染め―――

 

 

「ごはぁッ!?」

 

 

グレンの腹に右拳を叩きこんだ。まるで鈍器そのもので殴りつけられた衝撃に、グレンは腹を抱えてその場で踞る。

 

 

「ああもうッ!面倒だからさっさと散れッ!!」

 

 

ウィリアムはそう言いながら、みんなから離れていく。それが照れ隠しであることを見抜いていたみんなは微笑ましい顔でウィリアムを見つめていた。

そんなウィリアムも恥ずかしさを覚えつつも悪くない気分であった。

 

 

その後もウェンディが出場する『暗号早解き』、ルミアが出場した『精神防御』も一位を獲り、午前の部は総合二位で終わった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

―――魔術競技場の観客席を通う通路の一角にて。

黒を基調とした揃いの礼服に身を包む、十代半ばの青髪の少女と二十歳ほどの藍色がかかった黒髪の青年がいた。

 

 

「―――グレン、だな」

 

「……ん」

 

 

その二人の男女はたった今、『精神防御』が終わり、中央競技フィールド上で、二人の少女に挟まれて何か言い合いをしている青年―――グレンに視線を注いでいた。

その青年―――アルベルトは鷹のように鋭い目をグレンから外し、その光景を少し離れた距離で眺めている紺髪の少年―――ウィリアムへと向ける。

青髪の少女は無言のまま、中央のフィールドに向かって歩き始めるも―――

 

 

「……?」

 

 

途中で自らその足を止め、首を傾げた。

 

 

「?どうしたリィエル?」

 

 

少女―――リィエルの後ろ髪を掴んで止めようとしていたアルベルトは、自ら止まったリィエルに疑問をぶつけるも―――

 

 

「……何でもない」

 

 

リィエルは少しも感情を滲ませず、淡々と答えた。あの()()()()()()()()()()()()ような気がするが、思い出せなかったのでリィエルはあっさりとその思考を放棄する。

そして、グレンと決着をつける為に再び歩き出すが、アルベルトに髪を引っ張られて止められる事となった。

 

 

 




オリジナルの競技はいかがでしたか?
錬金術は何でもありである!(作者の暴論)
感想お待ちしてます


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十二話(改)

ようやく彼女との初邂逅·····
てな訳でどうぞ


午前の部が終わった小一時間の昼休み。

学院敷地内の人気のない南西端でウィリアムは昼食を取っていた。

 

 

「今は人のいるところで食事をすると面倒だからなぁ……」

 

 

そんな事をのたまいながら自作のサンドイッチを口へと運んでいく。

単に恥ずかしいだけなのに、面倒という何時もの理由で必死に誤魔化し続けている。

みんなに褒め称えられたあの瞬間、馴れていない状況に恥ずかしさを覚えたのも事実だが、同時に心地よさも感じていた。

 

 

「……今の俺に彼処にいていい資格はあんのかな……?」

 

 

助けたかった人たちを助けられず、むざむざと失った自分にその資格が本当にあるのか。あの日以来、その疑問は尽きる事なく自身に問いかけ続けている。

 

 

「……やめだ、やめ。こんな暗い事を考えるのは今は面倒だ」

 

 

ウィリアムはサンドイッチをほおばり、お茶で強引に流しこんで食事を済ませ、手頃な木の上へと登っていく。

そしてその木に背を預け、ウィリアムは瞳を閉じて寝始めていった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

ざくざくと音を鳴らしながら雪の上を歩く。

今ウィリアムが向かっているのは天の智慧研究会が管理するアジトの一つだ。

ようやく掴んだ彼女らの居場所。

ウィリアムは逸る気持ちを抑えながらそのアジトへと目指して歩いていく。

少し前に一番助けたい彼女とは会えたのだが、その時の状況が状況だっただけに後を追う事はできなかった。

彼女は仮面をしていた自分に気付いていないだろう。精々噂の《詐欺師》、《鋼の再来》だという事くらいだろう。

彼女と対峙して分かった事は彼女は自我を保っていた事、人の心をまだ失っていなかったという事だ。

確証は得られていないが可能性が得られた事で希望がでてきた。

その希望を胸にウィリアムはアジトへと向かっていく。その希望は―――

 

 

 

 

―――赤毛の兄妹の死という絶望へと変わった。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

「……最悪だ」

 

 

夢から目を覚ましたウィリアムの気分は最悪だった。

あの時の絶望の記憶の夢を見たウィリアムは鬱憤とした気分で首を振り――――

 

 

「―――ん?」

 

 

その途中で視界に何かしらの光景が目に入る。目を凝らしてよく見ると誰かがルミアの首もとに細剣(レイピア)を突きつけていた。

その光景を目にしたウィリアムは面倒事になっていると思いつつ、圧縮凍結していた、以前錬成した拳銃と同じ形状である、銃身に幾つものルーン文字が刻まれた黄金に輝く拳銃を解凍した。

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

「抵抗しなければ苦しみは一瞬で済む」

 

 

ルミアは現在、王室親衛隊の手によって処刑されそうになっていた。

親衛隊曰く、ルミアに国家転覆罪により見つけ次第処刑せよ、とのいう女王陛下の勅命でルミアを処刑しようとしていたのだ。

ルミアと一緒にいたグレンは親衛隊に抗議するも気絶させられ、ルミアもその濡れ衣を受け入れて、大人しく処刑されようとしていた。

 

 

(ああ……やっぱり、いやだな……)

 

 

涙を流し、そう思いつつも最後の瞬間を待つ―――

 

ドパンッ!

 

―――その瞬間は一発の銃声によって遮られた。

 

 

「ぐあっ!?」

 

 

それと同時に、ルミアに細剣(レイピア)を突きつけていた親衛隊の隊長格の男が叫び声を上げて倒れ込み、他の親衛隊も突然の事態に慌てて周囲を見回して警戒していく。

そんな彼らが、次々と頭に衝撃を受けたかの様に地面へと倒れ気絶していく。倒れた親衛隊の近くには黒くて小さな球が幾つも転がっている。

気づけば、その場に立っているのはルミアだけとなっていた。

突然の事に彼らと同じ様に困惑していたルミアの前に一人の人物が現れる。

その人物は紺の外套に黒い仮面、右手に少し奇妙な形をした黄金の拳銃を持った、見るからに怪しい人物だ。

 

 

「貴方は……誰なんですか?」

 

 

ルミアは気丈に振る舞いながらも、恐る恐る目の前の人物に素性を問い質すも―――

 

 

「なんでお前がここにいるんだよ……ウィリアム」

 

 

その答えは気絶していた筈のグレンからもたらされた。

 

 

「ええ!?」

 

「ここで寝ていて目を覚ましたら、ルミアが殺されそうになっていたから助けたんだよ」

 

 

驚くルミアを他所に、怪しい人物―――ウィリアムはグレンに面倒臭そうに説明する。

 

 

「ていうか名前で呼ぶな。何の為にこの格好をしてるんだと―――」

 

「いたぞ!」

 

 

ウィリアムがグレンに対して文句を言おうとするも、それを遮るように増援の親衛隊が現れ、此方へと迫ってくる。

 

 

「うわ、もう来たのかよ」

 

「だな、とりあえず……」

 

「「逃げるか」」

 

 

グレンがルミアを抱き抱えると同時に、二人はその場から逃げ出した。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

「分かっているのウィリアム君!?このままだと罪人として殺されるんだよ!?」

 

「元々犯罪者扱いなので、今さらと同時に痛くも痒くもありませーん」

 

 

ルミアの叱責に、事態を知ったウィリアムはそんな軽口で受け流している。

ウィリアムたちは現在、空き家の多い住宅街の路地裏にいる。ちなみにウィリアムは黒い仮面をここにきてから外しており、本当にウィリアムだと分かったルミアは自ら危険に首を突っ込んだ事に怒っていた。

グレンは事態解決のために現在セリカと連絡をとっている。

 

 

「どうだった?グレンの先公?」

 

 

セリカとの連絡を終え、近づいてきたグレンにウィリアムはその結果を問い質す。

 

 

「ダメだった。なんでか分からんが、セリカは動けないらしい」

 

「面倒、厄介、騒動の三拍子がキレイに揃い過ぎだろ」

 

「だな。だが、俺が女王陛下の元に来れれば事態は解決できるらしい。俺だけがこの状況を打破できると言っていた」

 

「先公にしか出来ない事があるって事か……」

 

 

グレンの報告にウィリアムはうんざりしながらも、とりあえず、女王陛下の元へどうやって辿り着くかその方法を考えようとした矢先―――強烈な殺気が襲いかかった。

 

 

「「―――ッ!?」」

 

 

グレンとウィリアムは殺気がした方向へと急いで顔を向けると、そこにいたのは青年と少女の二人組だった。鷹のように目が鋭い長髪の青年は《星》のアルベルトだが、少女の方は―――

 

 

(―――なッ!?)

 

 

その少女を見てウィリアムは驚愕に目を見開く。その少女は長い淡青色の髪を後ろのうなじ辺りで括り、感情が死滅したような無表情だが、その少女の容姿は死んだ彼女と瓜二つ、イヤ、髪と瞳の色が変わっただけと言えるくらい、あまりにも一致し過ぎていた。

 

 

「リィエルにアルベルトか!?」

 

 

グレンが二人の名前を叫ぶ。リィエルと呼ばれた少女は大剣をその手に錬成しながら、こちらに向かって突撃してくる。

 

 

(あの錬金術は!?)

 

 

リィエルが使用した錬金術を見てウィリアムは再び驚愕するも、直ぐに意識を戦闘のものへと切り替え、グレンの前へと立つ。

それを見たリィエルは、邪魔だと言わんばかりにウィリアムに大剣を振り下ろそうと―――

 

ドガキィイイインッ!!

 

―――するも、何時の間にか握られていた黄金の拳銃―――《魔銃ディバイド》の銃撃で大剣はリィエルの手から離れ、後ろの方へと弾き飛ばされる。

ウィリアムはそのままリィエルの肩を掴んで地面へと押し倒し、銃口を額に押し付ける。

 

 

「下手に動くな。抵抗しようとした瞬間、お前を撃つ」

 

 

ウィリアムはより鋭くなった目付きで、抵抗しようとしたリィエルにそう警告する。

 

 

「リィエルといったな……その錬金術、どこで、いや、誰から学んだ?」

 

「……?」

 

 

リィエルはウィリアムの質問の意味が分かっていないのか、首を傾げるだけで何も答えない。

 

 

「なら、質問を変える。お前は『イルシア』という名の少女を知っているか?」

 

「!?」

 

 

ウィリアムの質問に出てきた少女の名前に、ウィリアムの後ろにいるグレンは驚愕に目を見開くが、当然ウィリアムはそれに気づけていない。

 

 

「イルシア……?誰それ?」

 

「……知らないならいい。なら別の質問だ。お前達の目的はなんだ?」

 

 

リィエルの反応から本当に知らないと判断したウィリアムは、アルベルトに警戒しながらも質問を続ける。

 

 

「グレンとの決着をつけに来た」

 

「「……」」

 

 

リィエルがあっさりと答えた瞬間、周りの空気が死んだ。そしてウィリアムはリィエルを見てこう思った。

 

 

(こいつ、バカだ!)

 

 

親衛隊に協力しているのではなく、完全に目の前のリィエル(バカ)の私情だと分かり、一気に疲れた気分となったウィリアムはリィエルから離れていく。

 

 

「グレンの先公に斬りかかったら、その頭に非殺傷弾をぶちこむぞ?」

 

 

割と物騒な警告付きで。リィエルはその警告を無視し再び大剣を錬成しグレンに斬りかかろうとしたので……

 

 

「ぎゃんッ!?」

 

 

非殺傷弾―――ゴム製の銃弾と発砲音が一切しない特殊火薬―――音無火薬(サイレント・パウダー)による問答無用の不意討ちで、その後頭部に三発叩き込んだ。

 

 

「……久しぶりだなグレン。そして、そこのお前はやはり《詐欺師》だな?とりあえず場所を変えるぞ、付いてこい」

 

 

そんなカオスとなった空間に、アルベルトは冷たい声色で二人に挨拶し、移動を促した。

 

 

 




彼女、リィエルとの出会いはウィリアムに一体何をもたらすのか!?(作者次第)
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十三話(改)

こんな駄文の伏線じゃ簡単に先を予想できるんだろうなあ、と思う厄介な猫さんです
てな訳でどうぞ


アルベルトの先導の元、辿り着いたフェジテ西地区にある路地裏の更に奥まった場所に、一同は来ていた。

 

 

「あの……先生、このお二人は……?」

 

「ああ。《戦車》のリィエルに《星》のアルベルト。俺の宮廷魔導士時代の同僚だよ」

 

 

不安と戸惑いの表情を浮かべ二人の事を聞いてきたルミアに、そう答えるグレン。

そんな中ウィリアムは―――

 

 

「……(ジィ~~)」

 

「……」

 

 

移動を含めた現在進行形でリィエルに見つめられて、何とも言えない微妙な気分になっていた。

 

 

「……なんでそんなに俺を見つめるんだ、お前は?」

 

「……何となく?」

 

 

ウィリアムの質問に、リィエルもよく分かっていないような返答で答え、首を傾げる。

さっきからリィエルがこんな感じなので、ウィリアムの調子は狂いっぱなしである。

 

 

「……そろそろ話を進めるぞ。事態は想定以上に深刻だ」

 

 

そんな状況をアルベルトは相変わらずの冷ややかな態度で会話を切り出していく。

アルベルトが調べた限りでは王室親衛隊の総隊長ゼーロスの主導の元、女王陛下を監視下におき、元王女であるルミアを抹殺しようと動いている。その理由としてルミアが魔術とは異なる力―――『異能者』である事が挙げられるが、不敬罪を犯してまで敢行する事なのかという疑問が上がる。

 

 

「考えても仕方ない。わたしが状況を打破する作戦を考えた」

 

「ほう?言ってみ?」

 

 

思索の膠着状態にしびれを切らしたようにリィエルが割って入り、グレンがその続きを促す。そうして、リィエルが提示した作戦は―――

 

 

「まずわたしが突っ込む。その次にグレンが突っ込む。さらにその次にそこの目付きの悪い人が突っ込む。最後にアルベルトが突っ込む……どうッ!?」

 

「それのどこが作戦だ!?唯の無謀な突撃だろうが!!」

 

「……痛い」

 

 

作戦でも何でもない、リィエルの猪発言にウィリアムは青筋を額に浮かべ、リィエルの頭に右腕の拳骨を振りおろした。

その拳骨をマトモに喰らったリィエルは、無表情ながらも若干涙目で頭を抑えている。

 

 

「お前がいなくなってからの俺の苦労……少しは理解したか?」

 

「……うん、ゴメン。本当にゴメン」

 

 

アルベルトの少々怒気の含んだ言葉に、自分が退役してからの苦労を察したグレンは素直アルベルトに謝った。

 

 

「正直、いろいろとお前には言いたい事があるが、今は言わないでおいてやる」

 

「……ああ、悪いな……」

 

 

そんなグレンとアルベルトを他所に、ウィリアムはガミガミとリィエルに言い募る。

 

 

「それと俺にはウィリアム=アイゼンというちゃんとした名前があるんだよ!目付きの悪い人じゃねぇッ!」

 

「……そうなの?」

 

「お前は俺を何だと思っているんだ?」

 

「……容赦なく暴力を振るう人」

 

「自分の行いを振り返ってからいいやがれ」

 

 

その容赦のないウィリアムの言葉に、少し離れた場所で見守っていたルミアは苦笑いを浮かべている。

普段のやる気なさげなウィリアムから大分かけ離れてはいるが、ソコに不穏さはなく、寧ろ微笑ましく見えるくらいである。

 

 

「とにかく俺の名前はウィリアムだ!わかったか!?」

 

「……わかった」

 

 

ウィリアムはそのまま、リィエルとの(一方的な)会話を打ち切り疲れた顔をする。

見た目がイルシアそっくりのリィエルに完全に振り回されてしまっている。

とにかく現状を打破する為に、ウィリアムはグレンとアルベルトの会話へと加わる事にし、ある一つの作戦を立てていった―――

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

現在、二組の午後の成績は下り坂であった。

その理由は、ルミアを探しにいったグレンが戻って来ないため、その勢いは完全に下火であった。

皆の士気が落ちかけ、弛緩した空気が流れ始める中、二組の元に黒を基調とした帝国式の正装に身を包んだアルベルトとリィエル、そしてウィリアムが現れる。

 

 

「ウィリアム、その人たちは……?」

 

「先公のダチで、指揮の代理」

 

 

システィーナの疑問に、どこか上の空で要所しか言わないウィリアムの紹介に、改めてアルベルトとリィエルが二組の面々に挨拶をする。

ここからはアルベルトがグレンの代わりに指揮を取るというが、当然クラスのみんなは不振な目で代理の二人を見つめる。

しかし、リィエルがシスティーナの手を握った際、システィーナが何かを察し、アルベルトの代理指揮を了承した。

当然、クラスメイト達は困惑するが……

 

 

「大丈夫よ、この人達は多分、信頼できる。それに……」

 

 

システィーナはここで負けたらグレンに絶対にバカにされるといい、その怒りで萎えていた二組の闘志に再び火を着けさせた。

そしてアルベルトの指揮の元、二組は再びその勢いを取り戻していった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「どうなっているんだ!?」

 

 

王室親衛隊のベテラン衛士、クロス=ファールスは困惑し、焦っていた。

何の前触れもない抹殺命令に不自然さを感じらがらも、己の責務を果たそうと命令を真っ当しようとしていた。

だが、抹殺対象の少女とそれを妨害した魔術講師と謎の仮面の人物。

その目撃情報があちらこちらから大量に出ているのだ。

その為、数名を一単位とした何十単位もの班に分かれそれぞれ追いかけているのだが、追いかけている途中で急に曲がり門で忽然と消えたりして、他の場所から引き離されたりして包囲網を敷く事が出来ず、情報も混乱し、体力も無駄に消耗してしまっている。

そんなこけにされている現状に苛立ちながらも、クロスは追いかけながら指示を出していった。

 

 

 




メインが近づくにつれ、どの展開にしようか悩んでしまいます
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十四話(改)

ご都合展開感がハンパない······
てな訳でどうぞ


アルベルトの指揮で息を吹き返した二組は怒涛の勢いで盛り返していき、大逆転の総合優勝を掴みとった。

そして競技祭の終了式へと進んでいき、式の最後である賞の授与へと進んでいく。

 

今年は来賓していたアリシア七世女王陛下から直接勲章を授与されるという、名誉高い授賞式。

例年通りであれば担当講師とクラス代表の二名が勲章を受け取りにいくのだが、表彰台に立ったのは、アルベルトとリィエル、ウィリアムの三人であった。

 

 

「あら……?貴方達は……」

 

「……来たか」

 

 

見知っている二人の登場に戸惑い、首を傾げるアリシアに一人呟くセリカ。そして訝しみ、不審に思うゼーロス。

 

 

「申し訳ありません女王陛下。此度はもろもろの事情により、例年とは違う形になっていますが……」

 

「なあ、おっさん」

 

 

ウィリアムの説明を引き継ぐかのように、アルベルトが、アルベルトではない声でゼーロスに話しかける。

 

 

「いい加減、バカ騒ぎは終いにしようぜ?」

 

 

その言葉と同時にアルベルトとリィエル―――二人の周囲が一瞬歪み、そこからグレンとルミアが現れる。

 

 

「馬鹿な!?何故貴様らが―――!」

 

「入れ替わったんだよ。【セルフ・イリュージョン】を使ってな」

 

 

ゼーロスの疑問に正体を明かしたグレンはそう答える。

 

グレン達は女王陛下の前に会うために一つの作戦を考えだした。

グレンとルミア、アルベルトとリィエルが黒魔【セルフ・イリュージョン】―――光を操作して変身したように見せる幻影の魔術―――で互いの姿へと変身し、アルベルト達は親衛隊の引き付け、グレン達は警備が最も手薄となるこの瞬間のために二組の総合優勝を目指すというものである。

ウィリアムは親衛隊を撹乱するために、本来の手法で人工精霊(タルパ)によるグレンとルミア、自身の幻影を大量に具現召喚し、街中のあちこちを走らせていたのだ。

固有魔術(オリジナル)を利用した具現召喚では時間制限が存在するため、長時間使用するために本来の手法と事前に用意していた疑似霊素粒子粉末(パラ・エテリオンパウダー)を全部使って召喚したのだ。

 

 

「くっ、親衛隊、賊を捕らえろ!」

 

 

狼狽していたゼーロスは直ぐ様、女王陛下を背中に庇いながら、親衛隊に指示を出しグレン達を捕らえようとするも―――

 

 

「セリカ、頼む」

 

「……《すっこんでろ》」

 

 

セリカのその一言で断絶結界が周りに張られ、互いの景色が見えなくなった結界内部はグレンとルミアとウィリアム、女王陛下にセリカ、ゼーロスのみとなった。

グレンはセリカに礼をいい、女王陛下に今回の事態を説明する。

 

 

「陛下、これ以上の暴挙を辞めるよう勅命を」

 

「それでは……ならんのだ」

 

 

グレンの進言を苦渋の顔でゼーロスが遮る。

 

 

「何だって?」

 

「事が終われば私は全ての責を負って自害する。だが、陛下だけはなんとしてもお守りしなければならんのだ!」

 

 

まるでそうしなければならないかのようなゼーロスの発言にグレンは訝しむ。

そんな中ウィリアムは必死に頭を回していた。

 

 

(あのおっさんの言い分からして、今回の事はやりたくてやっているのではないように聞こえる。加えてアルフォネア教授は何故動けないといっていた?そして、先公にしか出来ない事はなんだ?先公にしか出来ない事はその場にある魔術起動の―――)

 

 

情報を整理していたウィリアムは、そこで一つの可能性に思いつく。

 

 

「失礼ながら陛下」

 

 

ウィリアムはその可能性を確かめるために、あたりさわりの無い言葉で問いかける。辿り着いた可能性を直接、口に出すのはまずいからである。

 

 

「今身に付けている物の中で『一番のお気に入り』はありますか?」

 

「そうですね……このネックレスが私の『一番のお気に入り』でしょうか」

 

 

ウィリアムの唐突な質問に、嬉々として笑いなが首にあるらネックレスを持ち上げる女王陛下。

女王陛下のその言葉と対応にルミアは顔を暗くして俯き、ゼーロスは焦りの顔を、セリカはほくそ笑むという三者三様の反応をする。

 

 

「そのネックレスですか?正直に申し上げますと陛下の美しさをダメにしてますよ?外したほうがよろしいという程に」

 

「お気に入りですから、()()に外したくありません」

 

「……成る程、そういうことか。陛下、そのネックレスを今から外して差し上げますよ」

 

 

一見すれば何てことのないウィリアムと女王陛下の会話。

だが、その会話で全てを理解したグレンが不敵に笑い、女王陛下に向かって走り出す。

 

 

「余計な事をするな!」

 

 

ゼーロスは焦燥を露に二本の細剣(レイピア)を構えて、グレンを止めに行こうと踏み出そうとするも―――

 

 

「させっかよ!」

 

 

ウィリアムはその切先を妨害するように、ゼーロスに向けていつの間にか握られていた右手の拳銃と左手の小銃(ライフル)を構え、非殺傷弾を放っていく。

 

 

「邪魔をするなぁッ!!」

 

 

ウィリアムの妨害を受けながらも、必死にグレンを止めにいこうとゼーロスは急所を庇いながら飛び込もうとする。

だが、その前に、女王陛下は首にかけてあったネックレスを投げ捨てていた。

 

 

「陛下!?何故―――」

 

「大丈夫ですよ、ゼーロス」

 

 

絶望の表情で驚愕するゼーロスに、女王陛下は何事もないかのように言う。ゼーロスはあり得ない事が起きたかのようにポカンとした顔をする。

そんな中、グレンは捨てられたネックレスを拾いあげ、忌々しげに睨み付ける。

 

 

「やっぱり呪殺具だったか」

 

「大方、解呪条件はルミアの殺害なんだろ?」

 

「その通りだよ。黒幕にまんまと釘を刺されてな」

 

 

二人の言葉にセリカがそれを肯定する。

グレンの言う通り、女王陛下が身につけていたネックレスは解呪条件を満たさなければ装着者を殺す呪殺具であった。

だからこそ、グレンだけが―――あらゆる魔術起動を完全封殺する固有魔術(オリジナル)【愚者の世界】を持つグレンだけが―――この状況を打破出来るとセリカは伝えたのだ。

 

 

「これが原因で親衛隊が暴走したとか……ホンッと面倒な事をしてくれたな」

 

「全くだ、生きた心地が全然しなかったしよ」

 

 

そんな事をグレンとウィリアムは宣いながら、二人は互いに泣き、娘を抱き締める母親の姿を見つめる。

 

 

こうして、国が崩壊する寸前だった騒動は幕を閉じた。

 

 

 




どんどん書くのが難しく感じていく····
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十五話(改)

この妄想と欲望だだ漏れの作品に9評価が付くとは······
嬉しいです!!
てな訳でどうぞ


「やっと解放された……」

 

 

うんざり顔でそんな事を口にしながら夜のフェジテの町を歩くウィリアム。

あの後、女王陛下の巧みな話術による事情説明により、大きな混乱もなく事件は終息した。

当然、事件の中心地におり、事件を解決させたグレンとウィリアムはその功績から勲章を与えられた。

女王陛下がウィリアムに勲章を渡すさい―――

 

 

『流石はあの方の弟子ですね』

 

 

と、周りからすれば意味不明な言葉を口にしていた。当の本人は遠くを見つめる目をしていたが。

 

 

(どんだけ後の事を考えてたんだよ、師匠)

 

 

相当自分に対して手を回していた事に改めて、今は亡き師匠の凄さに逆に呆れていた。

ウィリアムがこの二年間、問題なく暮らせていたのはその師匠がセリカとアリシア女王に少し『お願い』していたのが最大の理由だが、まだそれにウィリアムが気付く事は無い。

その後も詳しい事態の説明や、調書と様々な後処理に付き合わされ、また後日召喚されることにウンザリしていた。

そして―――

 

 

 

「―――なんじゃこりゃぁああああああああああッ!?」

 

 

ようやく解放されたので、クラスの皆が打ち上げをしている店に来れたのだが、その渡された請求書の額に叫び声を上げるグレンと、苦笑いをするルミア、その原因たる酔っぱらったクラスメイトの手に持つあるものを、鼻を抑えながら見るウィリアムがいた。

 

 

「こんなバカ高ぇ酒をこんなに飲んでればな……」

 

 

クラスのみんなは相当高価なワイン―――リュ=サフィーレをこれでもかと云うくらい、大量に飲んでいたのだ。

その結果、グレンの特別賞与とハーゲ(?)との賭けで得た大金は飲み代へと全て消える事となった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

打ち上げが終わり、殆どの生徒が帰路につく中、ウィリアムは未だ店に留まっていた。

その理由はグレンに聞かなければならない事があるからだ。

 

 

「そろそろいいか?」

 

 

店のベランダでいい雰囲気になっていたグレンとルミアに話しかける。

 

 

「ウィリアム……」

 

「ルミア、先公と二人きりで話がしたい。悪いが席を外してくれねえか?」

 

「……うん、わかったよ」

 

 

ルミアは了承し、店の中へと入っていく。ベランダに居るのはグレンとウィリアムだけになった。

 

 

「……さて、先公。早速聞きたいんだが」

 

「……リィエルについて、だろ?」

 

 

グレンのその言葉に、ウィリアムは頷いて肯定する。

 

 

「その前に一つ聞かせてくれ。お前は『イルシア』を知っているのか?」

 

「……ああ、知ってるぜ。彼女の兄貴も、その兄貴の親友もな」

 

 

グレンの質問にウィリアムは正直に答え、そのままグレンを真っ直ぐに見据える。

 

 

「だから教えてくれ。先公が知ってる事、その全部をな」

 

「……分かった」

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「―――これが俺が知る限りの全てだ」

 

「………」

 

 

グレンの話を全て聞いたウィリアムは無言だった。

 

 

「……ウィリアム?」

 

 

ウィリアムのその反応に、本当に話してよかったのかとグレンは不安になる。

 

 

「……悪い先公、まだ整理しきれてねぇんだ」

 

「…………」

 

「とにかくありがとよ、ちゃんと話してくれて」

 

「……俺を責めないのか?」

 

 

神妙な顔でグレンはウィリアムに問いかける。

グレンはイルシアとある約束を交わしたのだが、今のグレンはその約束を果たす所か、事実上、反故にしているのだ。

勿論、それ以外の理由もあるが……

 

 

「そんな資格、俺にはねぇよ、二年前のあの時からな……」

 

 

グレンの問いかけにウィリアムはそう答え、その場を後にする。グレンはそんなウィリアムを不安げに見つめていた。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

「はぁ……」

 

 

夜中の帰り道。ウィリアムはグレンから聞いた、あの時の真実を反復していた。

知り得た真実とそこから浮上した可能性。

二人を殺したのは―――

 

 

「……もし、そうだとしたら俺は一体どうするのかな……」

 

 

ウィリアムは小さく呟いて空を見上げ、複雑な心境で歩き続ける。

その未来は確実に近くに来ているとも知らず―――

 

 

 




これで原作二巻は終了です
次はメイン章·····アソコの展開に頭を悩ませる!
感想お待ちしてます


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第三章・遠征学修とケジメの一撃
十六話(改)


(作者が)待ち望んでいたメインです
てな訳でどうぞ


「……編入生、ですか?」

 

 

学院長室に呼び出され、リックからもたらされた話にグレンは首を傾げる。

 

 

「うむ。明日から来る新しい生徒を、君のクラスで受け入れてくれないかね?……もっとも、拒否権はないがの」

 

 

リックはそう言って、グレンに筒型封筒を渡す。グレンはその封筒の中にある一枚の羊皮紙を取り出して、それを広げ……

 

 

「この文書……軍の人事異動に関する最重要機密文書じゃないすか!?まさか……」

 

「うむ。そのまさかじゃよ」

 

 

驚愕に目を見開くグレンにリックは頷いて、その編入生はルミアの身辺警護とウィリアムの監視で派遣される魔導士だと説明する。

先日の一件でウィリアムの素性が軍にバレた以上、当然といえば当然ではあるが……

 

 

「最も、監視任務はついでで、最重要なのはルミア君の護衛任務じゃがな」

 

 

リックのその言葉にグレンは多少安心し、手元に持った文書に目を通していく。

グレンは件の編入生は《法皇》のクリストフだろうと考えながら、文書を流し読むも―――

 

 

「ちょぉおっと待てぇえええええええええええええええ―――ッ!?」

 

 

文書に書かれてあった、あまりにも予想外過ぎる不向きな人物の名前に、グレンは叫び声を上げるのであった……

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

膝を抱えて踞り、泣き続ける少女。

少年はどうしたのかと聞きながら近づいていく。

少女はそれに気づき顔を上げる。すると―――

 

 

『ひッ!?』

 

 

身を震わせて少年から距離を取った。

少女のその反応に、少年が理由を聞いたら―――

 

 

『ご、ごめんなさい。君の顔が怖かったからつい……』

 

 

そんな理由を聞いた少年はその場で崩れ落ち、膝を抱えていじけ始めた。

少女は慌ててあれこれと言って元気付けようとするが、逆に追い討ちとなっている事に気づけていない。

 

これが少女と少年―――イルシア=レイフォードとウィリアム=アイゼンの最初の出会いであった。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

「……ん?」

 

 

夢から目を覚ましたウィリアムは部屋の周りを見やる。

部屋の周りには積み重なった木箱、巨大な布に隠されたあるものの山、長大な筒のようなもの、表面の金属が錆び付いた、四つ重なった六角形の棺桶の蓋の形状をしたもの、壁に引っ掛けられた紺の外套、そして机の上にはいくつかの紫色の小さな結晶と金属薬莢の銃弾、そして黄金の拳銃と翡翠の石板(エメラルド・タブレット)がある。

どうやら作業中に寝落ちしていたようであり、ウィリアムは部屋の中の時計を見やる。

……丁度朝の時間のようだ。

 

 

「……準備すっか」

 

 

ウィリアムはそのまま、自宅に勝手に追加した作業部屋から出ていった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「……けほっ!……はぁ……はぁ……」

 

 

その日、私は死にかけていた。

○○○○に致命傷を負わされながらも、組織の追っ手を振り切りながら雪の上を歩いていく。

兄の為にと、罪悪感を感じながらも組織の殺し屋を続けていた私。

その兄は○○○○に殺された。

それでも歩き続けるのは、あの時兄○○○の口から語られた―――○○○の○○の可能性からだ。

あの時○○○○○○○○○○○○○○○○。

もし願いが叶うなら―――○○○○、○○○○○○○○。

 

 

「あっ……」

 

 

しかし、そんな偽善者である私の身体が遂に限界を迎え、冷たい雪の上に倒れこむ。

急速に失われていく意識と体温。そして、命の灯火。

 

 

「助けて…兄…さん……○○……○……」

 

 

その呟きを最後に意識を手放そうと―――

 

 

「そこにいるのは誰だ!?」

 

「……え?」

 

 

―――したが、声がした方へ必死に顔を動かす。

そこに居たのは兄にそっくりな男性だった―――

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「……ん」

 

 

馬車の中で寝ていた少女は目を覚ます。

随分と懐かしい過去の在りし日の夢を見ていた気がするが、よく思い出せない。

 

 

「お嬢ちゃん、そろそろ着くよ」

 

 

そんな馬車の御者の声に少女は馬車の外へと身を乗り出す。

その淡青色の長い髪を後ろで括った少女はアルザーノ帝国魔術学院の制服を着ていた―――

 

 

 




相変わらず安定しない駄文ですいません
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十七話(改)

この状態、いつまで続くかな····?
てな訳でどうぞ


晴天の通学路。

そんな通学路を、ホットドッグを食べながらその道を歩いている男子学生がいる。

その学生は、学院ではやる気なし生徒で有名なウィリアムである。

一通りの準備を済ませたウィリアムは、ここ最近はいつもより早い時間帯から登校している。

その理由はあのクソ集団がルミアを執拗に狙っていることが分かったため、その護衛をグレン同様に進んでやっているからである。そんな理由を知らない周り、特に男子生徒から殺意を抱かれているのだが当の本人は面倒だからスルーしている。

 

そんなウィリアムは頭の中である事の見積りを立てていく。その見積りは―――《詐欺師》時代に使っていた武具の修繕時間の見積りである。

 

その武具のほとんどがそのままでは使用不可能な状態になっており、競技祭の時点では外套の新調と《魔銃ディバイド》の修繕だけしか済んでいなかった。仮面の方は錬金術による即興である。

《詐欺師の盾》はその要たる魔術金属《ディバイド・スチール》の新調の為、まだ相当修繕に時間が掛かるが、《魔導砲ファランクス》は完了間近、自戒のために二年前まで作り続けていた魔術火薬『ダストの玉薬』は放置のままでいい。そう考えていると―――

 

 

「……」

 

 

見覚えのある青髪の少女が前を歩いていた。しかも、学院の制服を着て。

 

 

「……おい」

 

 

さすがに無視する訳にはいかないのでその青髪の少女―――リィエルに声をかける。

が、リィエルは自分に声をかけていると思っていないのか、ウィリアムの呼び掛けを無視して歩き続けている。

 

 

「おい!そこの青髪猪娘!無視すんな!今、『誰のことだろう?』と云わんばかりに周囲を見回しているお前だ!!」

 

 

そこで漸く、リィエルは自分に声がかけられている事に気付き、こちらへと顔を向ける。

その顔は相変わらずの眠たげな無表情であった。

 

 

「……誰?」

 

「……魔術競技祭の時に、一度会ってんだろうが」

 

「……思い出した。グレンとの決着を邪魔してきた、目付きの悪い暴力を振るう人」

 

「ケンカ売ってんのか?」

 

 

リィエルの失礼極まりない言葉に、ウィリアムはこめかみに青筋を浮かべ、その脳天を叩き殴りたい衝動に駆られていく。

ウィリアムはその衝動をどうにか抑え、最初に感じていた疑問をリィエルにぶつける。

 

 

「なんでお前がここにいるんだ?しかも学院の制服を着て」

 

「グレンを守りにきた」

 

「……もうヤダ、コイツ」

 

 

返ってきた願望駄々漏れのリィエルの言葉に、ウィリアムは頭を抱える。

おそらくだが、ルミアの護衛と自身の監視、あわよくば軍への勧誘の為に軍が派遣したのだろう。

相当な人選ミスだが…………

 

 

「……とりあえず一緒にいくか?先公らとは一回合流するし」

 

「わかった、行く」

 

 

そんな感じで一緒に行く事となったウィリアムとリィエル。

 

 

「……(ジィ~~)」

 

「……だから何でそんなに見詰めるんだ?」

 

「……何でだろう?」

 

 

ウィリアムの疑問にリィエルは疑問で返し、ウィリアムは溜め息をついてそこら辺の追及を諦めることにした。下手をすれば彼女自身もしらない()()に触れてしまうからだ。

そんな中、ウィリアムは念のためにリィエルに釘を刺しにかかる。

 

 

「念のため言っておくが、グレンの先公に絶対斬りかかるなよ?」

 

「なんで?」

 

「なんで?じゃない!いいか絶対に先公に―――」

 

「―――あっ!グレン!」

 

 

そんなウィリアムの念押しを、リィエルは向こうの十字路にいるグレンを見つけた瞬間、あっさりと無視し、その手に大剣を錬成してグレン達へと突撃して行った。

その瞬間、ウィリアムはリィエルのその行動で遂に堪忍袋の尾が切れ、【詐欺師の工房】で拳銃、非殺傷弾、無音火薬(サイレント・パウダー)を瞬間錬成し、素早く銃弾をその後頭部に全弾叩き込んだ。

 

 

「うぎゃあッ!!?」

 

 

その非殺傷弾全てをマトモに喰らったリィエルは大剣を手放して地面にダイブする。

 

 

「「「……」」」

 

 

あまりの一瞬の出来事に、呆然としているグレンとシスティーナ、ルミアを余所に、既に錬成した拳銃を消し去ったウィリアムは、痙攣して倒れこむリィエルへと近づき―――

 

 

「人の注意を無視してんじゃねぇぞおおおおッ!!!」

 

 

リィエルの頭を右手で鷲掴みにして持ち上げ、全力で握り絞めていた。

 

 

「痛い、やめてー」

 

 

鷲掴みにされたリィエルは棒読みながらも、若干痛そうな顔で抗議する。

そんなぶっ飛んだ光景にシスティーナは未だ呆然、ルミアは苦笑い、リィエルに斬りかかられていたグレンはウィリアムにリィエルを押し付けたらいいのでは?っと、ロクでもない事を考えていた。

 

 

「頭が駄目なら身体に叩きこんでやろうかぁあああああああああ―――ッ!?」

 

「お願い、放してー」

 

 

……日常は物騒な朝から始まる。

 

 

 




リィエルにホント容赦がないオリ主····どうしてこうなった?(作者のせい)
感想お待ちしてます


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十八話(改)

お気に入りがまさかの100件越え!
こんな駄作を気に入ってくれて嬉しい限りです!
てな訳でどうぞ


あの騒動の後、グレンがリィエルを改めてシスティーナとルミアに紹介し、その後も一悶着があったが面倒なのでいいだろう。

 

 

「今日から編入する編入生のリィエルだ。仲良くしてやってくれ」

 

 

グレンが気怠げにリィエルを紹介する。

一見すれば人形のような可憐さを持つリィエルにクラスの殆ど、特に男子生徒があわめき立つ。

そんな中、リィエルの中身を知っているウィリアムは疲れきった気分で机の上に突っ伏していた。

今朝、リィエルがグレンに斬りかかろうとした理由はアルベルトから教わった()()だとの事であり、そんな常識の欠片や境界線が微塵もないリィエルの残念過ぎる事実に、ウィリアムは相当まいっていたのだ。

むしろ嫌がらせのために寄越したのかとさえ思えてくる。だとしたら大成功である。

そんなウィリアムを尻目にリィエルの紹介は続いていく。

 

 

「……リィエル=レイフォード…………………………………」

 

「……続きは?」

 

「……もう終わった」

 

「名前以外も紹介しろよッ!?」

 

「……わかった。わたしの名前はリィエル=レイフォード。帝国軍が一翼―――」

 

「だあぁあああああああああああああああ―――ッ!!!」

 

 

案の定、自己紹介も普通に自身の正体を明かそうとし、グレンの耳打ちをそのまま棒読みで言うという、グダグダなものであった。

ウェンディがリィエルに家族について質問してきたが―――

 

 

「兄の名前……名前は……」

 

「悪い、今のコイツに身寄りは無いんだ」

 

 

そんな感じでグレンが取りなして、非常に危うかった質問を煙に巻いた。

次にグレンとリィエルの関係に対しての質問がカッシュから飛び―――

 

 

「グレンはわたしの全て。わたしはグレンのために生きると決めた」

 

 

グレンが答える前に、リィエルがそんな爆弾発言をした事により教室は一気にカオスとなった。

誰もが興奮し、収集がつかなくなっている中―――

 

 

(……善意や好意、思慕からなら、まだ良かったんだがなぁ……)

 

 

リィエルの発言の意味を正しく読み取ったウィリアムは、その『危うさ』に一抹の不安を感じることとなった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

グレンが早くリィエルがクラスに馴染めるよう今日の授業を実践授業にしたさい、そのリィエルが盛大にやらかした。

【ショック・ボルト】を二百メトラ先の人型ゴーレムの的に当てるものだが、リィエルは壊滅的な黒魔術の腕を披露し、一発も当たらない事に不満を抱きあの錬金術―――()()()()()隠す爪(ハイドゥン・クロウ)】でお馴染みの大剣を錬成し、ゴーレムにぶん投げて破壊したのである。

 

 

「ん。六分の六」

 

 

どこか満足そうにするリィエルに、ウィリアムは無言で近づき―――

 

 

「ぎゃん!?」

 

 

能面の表情で、その脳天に拳を振り降ろした。

 

 

「痛い。何するの?」

 

「あれのどこが攻性呪文(アサルト・スペル)だ?」

 

「どこからどう見ても立派な攻性呪文(アサルト・スペル)。錬金術で作った剣を使っているから」

 

「どこからどう見ても、力任せにぶん投げただけだろうがぁあああああッ!!」

 

「痛い、やめて、放してー」

 

 

頭を押さえながらのリィエルの言い分に、ウィリアムは本日二度目の怒りの咆哮と共にリィエルの顔を右手で締め上げていく。

そんな普段のウィリアムからかけ離れた行為に、周りは目を白黒しつつも―――

 

 

(((((ひょっとして、ただのバカ?)))))

 

 

と、リィエルに対する全員の印象が、危ない子から頭が残念な子へと変わった。

それでもあの行為には皆がドン引きだった為、リィエルは完全にクラスから浮き、孤立してしまう。

そんなリィエルをルミアが食事にへと誘い、そこで気に入ったのか、苺タルトをリスの様に大量に頬張っていく。そんなリィエルの姿にクラスも歩み寄り始めていく。

そんな光景を、ウィリアム遠くの席から見つめていた。

 

 

(このまま学院でみんなと過ごしていけば……)

 

 

いずれリィエルに伝えるべきとある“事実”を乗り越えられる。そんな思いを胸にウィリアムはパスタを口へと運んだ。

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

今日の夕方、ウィリアムは何となくフェジテ東地区の郊外に広がる自然公園に立ち寄って見ると……

 

 

「……何でお前がここにいるんだ?」

 

「?」

 

 

リィエルがいた。旅行鞄を持って。

 

 

「……お前は何処で寝泊まりするつもりなんだ?」

 

「ん?向こうで天幕(テント)を立てて生活する。大丈夫、サバイバルには慣れてる」

 

「……………………」

 

 

さも当然と云わんばかりに、鬱蒼と茂る森の方向に指を指して告げたリィエルの返答にウィリアムは表情を消し、そのままリィエルの首根っこを引っ捕まえて引き摺り始める。

 

 

「あう。急に何するの?」

 

 

リィエルの抗議にウィリアムは耳を貸さず、リィエルを引き摺ったまま、その足でフィーベル邸へと赴き―――

 

 

「この野宿しようとしたバカを、お前らで面倒見ろ」

 

 

家に住む二人にそう告げ、右手でぶら下げたリィエルを突き付けた。

それだけで色々と察した二人は苦笑いで、未だによくわかっていないように首を傾げるリィエルを迎え入れた。

 

 

 




ここで今さらながらウィリアムの使う拳銃についてはっきりとした説明
ウィリアムの使う拳銃の構造は中折れ式のダブルアクション方式という、この世界感では(おそらく)まだ存在しない構造の拳銃です
大きさは具体的にはデザートイーグルぐらいの大きさです
〈魔銃ディバイド〉も同様の構造と大きさです
耐久力の問題に関しては····一応考えています
感想お待ちしてます


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十八・五話

私の素人振りが滲み出る········
てな訳でどうぞ


本日の最後の授業だった錬金術の授業が終わった放課後。

二組の教室では数人の生徒達がリィエルの席に寄り集まり、リィエルの錬金術―――高速武器錬成の魔術式の解説を受けていた。

 

 

「……ここの元素配列式をマルキオス演算展開して……こうやって算出した火素(フラメア)水素(アクエス)土素(ソイレ)気素(エアル)霊素(エテリオ)根源素(オリジン)属性値の各戻り値を……こんな感じで根源素(オリジン)を再配列して……物質を再構築……わかった?」

 

「まったくわからん」

 

 

羽ペンを紙面に走らせながらのリィエルの説明に、途中から完全放棄していたカッシュがやたら爽やかに返す。

 

 

「本当に凄すぎるよ……」

 

「一体、誰がこんな術式を作ったの……?」

 

 

座学だけは優秀なセシルや、学年トップクラスの成績優秀者のシスティーナ等の、グレンのマニアックな授業を受け、ある程度は辛うじて理解出来る生徒達は驚愕に顔を強張らせていた。

 

 

「まさかルーン語のバグすら利用していたなんて……道理で帝国軍にも配備されていない術式だと思ったよ……」

 

「リィエル……いつもこんなことをやっていたの?これ一歩間違えたら、脳内演算処理しきれずに意識が飛んで、数日は確実に寝込んでしまうわよ?最悪の場合、廃人よ?」

 

 

セシルは脂汗を浮かべながら感嘆の息を吐き、システィーナが険しい顔で記載された術式の危険性を指摘するも。

 

 

「……そうなの?」

 

「そうよ!!」

 

「……だけど、こうした方がまだ安全だって·····わたしにこれを教えてくれた人はそう言ってた」

 

 

何の感慨もなく、リィエルはそう呟く。

 

 

「ちょっと待って。この術式がまだ安全の部類だって言うなら、これよりもっと危ない術式があるというの?」

 

「んと……」

 

 

リィエルが再び羽ペンを紙面に走らせ、その術式を記載していく。そして―――

 

 

「なんなのこの術式は!?こっちの術式は術者の安全を全く考慮していない、一歩間違えたら廃人確定じゃない!!これなら、最初の術式の方が遥かにマシだわ!!」

 

 

リィエルが再び羽ペンを走らせて書き終えた術式―――()()の【隠す爪(ハイドゥン・クロウ)】の魔術式―――を見たシスティーナは激しく憤慨する。

新しく記載された術式の錬成速度は前者のより僅かに上だが、術者へのリスクが前者よりも高い。

片方は失敗すれば意識が飛んで数日は寝込む、もしくは廃人になる危険性。もう片方は失敗すれば確実に廃人となる危険性。どっちが優れた術式なのかは言うまでもない。

 

 

「見比べてみると本当に凄いね……この術式は間違いなくこっちの術式の安全性を向上させた術式(もの)だよ。この術式を教えた人は間違いなく天才だよ」

 

 

記載された二つの術式を見比べてたセシルは感服したように呟く。

この二つの術式には共通点があまりにも多く、最初に記載された術式が今記載された術式を改良したものであることが容易に理解できるからだ。

 

 

「本当にその通りね。一度会ってみたいくらいだわ」

 

「リィエルちゃん、その人はどこにいるか知っているか?」

 

 

システィーナもセシルの意見に同意し、話の内容から凄い事だけは理解したカッシュは好奇心からその人物に対しての質問をする。

その質問を受けたリィエルは、彼女にしては珍しくどこか憂いを含んだ瞳になっていた。

 

 

「……」

 

「……リィエルちゃん?」

 

「……その人は死んだ。もう大分昔に」

 

「あ……」

 

 

リィエルのその返答に、周りにいた生徒達は一気に気まずくなり、重い空気が流れ始める。

 

 

「その……ゴメンな……嫌な事思い出させちまって……」

 

「……大丈夫」

 

 

カッシュは申し訳なさそうにリィエルに謝罪し、リィエルはポツリと呟いて応じるも、一度形成された重い空気はそう簡単には晴れない。

 

 

「どっちにしろ、この術式を使いこなすには錬金術に対して圧倒的な天賦のセンスがいるから真似できないわね。もう固有魔術(オリジナル)と言っても過言じゃないわ」

 

 

そんな空気を破るために、システィーナが場のまとめにかかる。

 

 

「真似なんかできねーよ……」

 

「多分、ウィリアムにしか真似できないよ……」

 

 

カッシュとセシルがシスティーナの言葉に同意した、その時だ。

 

がたん!

 

リィエルから少し離れた場所の席に座っていたギイブルが荒々しく席を立ったのは。

 

 

「ギイブル?」

 

「……帰る。君達もそんな暇があるなら、帰って魔術の勉強をしたらどうだい?」

 

 

どこか苛立ったように言いながら、ギイブルは苛立ちを発散するかのように荷物を鞄に詰め込み始める。

鞄に荷物を詰め込み終えたギイブルは踵を返して歩き去ろうとするも……

 

 

「これ、落とした」

 

「~~~~ッ!」

 

 

リィエルがギイブルが落とした羽ペンを拾って差し出し、ギイブルは顔を真っ赤に染めて羽ペンをひったくるように奪い取り、荒々しく教室を出ていった。

 

 

「なんなの?一体?」

 

「多分、リィエルちゃんに嫉妬してるんじゃねーか?あんな凄い錬金術を見せられてさ」

 

「それ、絶対に本人の前で言っちゃ駄目だよ?」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

学院の人気のない屋上にて。

 

 

「まー、やっぱこうなるよなー……」

 

 

【アキュレイト・スコープ】で教室を覗き見ていたウィリアムは軽く息を吐きながら呟いていた。

リィエルの実力ははっきり言って滅茶苦茶だ。魔術自体の腕前は大したことはないが、本気でやり合えば完敗を喫することは最初の授業で証明されてしまっている。そんなリィエルに魔術師としてのプライドを傷つけられた生徒はすんなりと受け入れられる筈がない。

ちなみに、ウィリアムが屋上にいる理由はリィエルが使ったあの錬金術の話題が上がり、それに対する面倒事を避けるためである。

実はリィエルが使っているあの錬金術―――【隠す爪(ハイドゥン・クロウ)】は、ウィリアムが手を加えてイルシアに教えた【隠す爪(ハイドゥン・クロウ)】であり、ウィリアム自身も扱えるからだ。

だからこそ、リィエルがあれを使った時は本当に信じられなかったし問い質しもした。その答えはグレンがもたらしたが。

 

 

「さてと……もう帰るか」

 

 

【アキュレイト・スコープ】を解除し、ウィリアムは背伸びしながら屋上を去って帰路につくのであった……

 

 

 




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十九話(改)

書く度にオリ主の能力が原作主人公のパクりだと感じている作者です
そんな駄作を気に入ってくれた皆様には感謝してもしきれない
てな訳でどうぞ


『遠征学修』

 

それは魔導研究所へと赴き、見学とそれに関する講義を受けにいく―――必修講座という名の旅行である。

 

そんな旅行の二組の行き先はサイネリア島にある白金魔導研究所という、白魔術と錬金術を複合した『白金術』による研究を行う場所だ。

観光地としても有名なサイネリア島で、女子の水着姿が拝めると男子の乗る馬車の中が浮わつき立つ中―――

 

 

「zzzz……」

 

 

ウィリアムはここ最近の気疲れから普通に寝ていた。

その最たる原因は言わずもがな、リィエルにある。

リィエルはその常識、理性のなさぶりから学院破壊、グレンをバカにした生徒や教師への暴行と数々の問題を起こしている。

その都度、口での静止を諦めているウィリアムが実力行使でリィエルを叩きのめして被害を最小限に抑えているのだ。

真っ向からでは相当時間がかかり被害も拡大するため、後ろからの遠距離射撃の不意討ちで毎回沈めているのである。

そして首から下を金属の箱で埋めつくし、説教するというのが新しい日常になりつつあり、そんな行為に周りからは『生首少女』、『銃を持ち歩く学生がいる』という噂が出来つつあるのだ。

最近は『身体が地面の床に埋まっている青髪少女』という噂まで出始めている。

その噂の真実を知っている二組の女子は憐れみの視線を、男子は憐れみと同時に嫉妬の視線をその渦中の男子生徒にぶつけている事態になっている。

そんな状況でグレンは―――

 

 

『これからもリィエルの事を頼むぜ?』

 

 

と、いい笑顔でそんな事を宣い、速攻で非殺傷弾によってその場で沈められる事となった。

自重が無くなって来ているのはウィリアムも同じであった。

 

そんな翌日の港にて―――

 

 

「お嬢さん達~。出発するまで僕とお話しない?」

 

 

如何にも軽薄そうなナンパ男が現れ、そのナンパ男はいきなり現れたグレンに路地裏に連れていかれるのだが―――

 

 

(また面倒事がやってくるのか……?)

 

 

そのナンパ男の正体に半信半疑で気づいたウィリアムは、うんざり気分で天を仰いでいた。

 

そんな気分で乗り込んだ船の上にて―――

 

 

「お願い、これ解いてー」

 

「却下だ、この脳筋娘」

 

 

またしてもリィエルが暴走しかけたため、ウィリアムが速攻で叩きのめし、今回は魔法金属で首から下を長方形の棚ぐらいの大きさで埋め尽くされて転がされているバカ娘(リィエル)と、そこに座って監視する鬼畜男(ウィリアム)が目撃される事となった。

 

 

「グレン、助けてー」

 

 

保護者はそんな光景と懇願に、気づかぬ振りをした。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

サイネリア島に到着した翌日。

昨日は一騒ぎがあったようだが、風呂から上がって早々に就寝したのでウィリアムは昨日の事は大まかにしか把握していない。

そんな騒動の翌日のビーチに広がる楽園の中―――

 

 

「……zzz」

 

 

ウィリアムは水着にも着替えず木の影で寝ていた。

そもそもウィリアムは水着を持ってきていない。泳げないからではなく、面倒という理由からだ。

そして表面上は右腕の義手が錆びるからだとみんなには説明している。

ウィリアムの右腕が義手である事は既に周知の事実であり、義手の理由もみんなが気を使って聞いてこないのだ。

最も、そんなヤワな義手ではないのだが、色々と面倒だったので隠している。

 

 

「おーい、ウィリアム!」

 

 

そんなウィリアムに水着姿の三人―――システィーナとルミアとリィエルが近づいてくる。

三人は今からビーチバレーをするから一緒にやろうと、ウィリアムを誘いに来たのである。

ウィリアムはやる気がないから断ろうとしたが―――

 

 

「……一緒にやろ?」

 

 

と、リィエルの謎の気迫に圧されて思わず了承してしまう。

そこから仁義なき戦いが始まった。

 

 

「……えい」

 

 

ずこどむっ!と、ハエ叩きみたいな動作で炸裂するリィエルの殺人スパイク。

そのスパイクは何故かウィリアムに狙いすませたかのように飛んでいき―――

 

ばちぃいいいんっ!

 

―――ネットの境界あたりで見えないなにかにぶつかったかのようにボールが弾かれて、コートへと返ってきた。

 

 

「ええっ!?」

 

 

システィーナが慌てて返ってきたボールをトスするも再び見えないなにかにぶつかったかのようにボールが弾かれ、地面に落ちてしまう。

 

 

「ウィリアム!!あんた一体どんなズルをしているのよ!?」

 

「言ってる事がちっともわかりませーん」

 

 

システィーナの抗議をウィリアムは棒読みでさらっと受け流す。

ウィリアムは固有魔術(オリジナル)【詐欺師の工房】を使って、透明な人工精霊(タルパ)を直前で具現召喚しボールを弾き飛ばすという、反則すれすれの暴挙を敢行しているのだ。

同じチームのグレンはそんなウィリアムに、非常にいい笑顔を浮かべて無言でサムズアップする。

グレンも同じく悪のりして、固有魔術(オリジナル)【愚者の世界】を使って相手チームの魔術を封じるという暴挙にでており、一方的なゲームを作り上げていく。

まさに卑怯極まりない二人であった。

 

 

結局、グレンの不正がバレてチームは反則負けとなった。

その後、宿のトランプゲームでもウィリアムは(イカサマを使って)圧勝した。

 

 

 




刻々と近づくあの瞬間·····
オリ主により細かい流れはどう変わっていく?
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二十話(改)

無理矢理感が感じる展開····
こうするしかない自身の才の無さが憎い(血涙)
てな訳でどうぞ


あの仁義なき戦いの翌日、見学のために一同が白金魔導研究所に向かう中―――

 

 

「みんな、大ッキライ!」

 

 

リィエルが昨日とはうって変わり、周りを拒絶する態度をとり、システィーナとルミアにも敵意を向けていた。

一体何があったのかとウィリアムは思っていると―――

 

 

「スマン……俺が昨日、あいつを怒らせちまったんだ……」

 

「先公……」

 

 

グレンのシスティーナとルミアへの謝罪でウィリアムは大方の事情を察した。

 

リィエルがグレンに依存している事は編入初日の自己紹介でとっくに気づいており、その理由も察している。

当然、リィエルのその依存心を不用意につつけば、間違いなく癇癪を起こす事も予想できていたため、ウィリアムは敢えて無視していたのだがグレンがそこをつついてしまったのだろう。

 

 

「できれば愛想を尽かさないでやってくれ……あいつはまだ子どもなんだ……」

 

 

そんな苦い顔で懇願するグレンにルミアは大丈夫だと言い、システィーナも早く仲直りするように言う。ウィリアムも面倒臭そうな顔で―――

 

 

「そんな面倒な事、できるか」

 

 

と何時も通りとも見える理由で了承した。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「みなさん、ようこそお越し下さいました」

 

 

白金魔導研究所で出迎えたのは、ここの所長であるバークス=ブラウモンだった。

所長自ら案内するという、中々の好々爺の印象なのだが、一瞬だけルミアに個人的な視線を向けていた事がどうにも気になる。加えてあのナンパ男の存在のせいでバークスの態度に胡散臭さを感じてしまう。

その中であの禁忌の研究―――『Project(プロジェクト):Revive(リヴァイヴ) Life(ライフ)』についての話題が上がる。

 

『Project:Revive Life』とは簡単に言ってしまえば、数人の魂を犠牲に死者を疑似蘇生させるというものだ。

だが、復活対象の遺伝情報から採取した『ジーン・コード』を基に錬金術的に作った肉体、同じく復活対象の精神情報を変換した『アストラル・コード』、複数人の魂から加工・精錬した霊魂体『アルター・エーテル』の統合がルーン語の機能限界、一人の復活に何人もの生者を犠牲にするという倫理的な問題から破棄されたプロジェクトである。

 

 

「噂ではとある魔術組織がこのプロジェクトを成功させたとか……」

 

「……所詮、唯の噂だ」

 

「だな。もしそうなら死んだ人間の目撃情報があちこちから出てくるだろしな」

 

「ハハッ、確かにそうですな」

 

 

そんなやり取りをしながら、研究所の見学は続いていった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

本日の見学が終わった日の暮れ。

ルミアはリィエルに話しかけるも、リィエルは露骨に拒絶し離れようとする。

 

 

「……さすがにいい加減にしろよ?」

 

 

そんなリィエルを、ウィリアムが肩を掴んで引き止める。

 

 

「……ッ…………。…………離して」

 

「先公と何があったかは知らねぇが、それで何か解決したのか?」

 

「……うるさい」

 

「思い通りにならないから周りに八つ当たりして、それでいいと本当に―――」

 

「うるさい!!!」

 

 

若干、厳しい声で詰問するウィリアムの手をリィエルは振り払い、そのままその場から逃げるように走り去ってしまう。

ウィリアムは直ぐ様、リィエルの後を追いかけようとするも―――

 

 

「悪いウィリアム。ここは俺に任せてくれねぇか?アイツをあんな風にしちまったのは、俺が原因だからな……」

 

 

グレンがそう言ってウィリアムを引き止め、返事も聞かずにリィエルを追いかけに行ってしまう。

 

 

「ウィリアム君も行ってあげて」

 

 

ルミアの言葉に思わず目を白黒させてしまうウィリアム。ウィリアムとしては願ったり叶ったりだが、さすがにこの状況でルミアを一人にさせるわけにはいかない。

そう考えるも―――

 

 

「多分、先生の次に仲が良かったのはウィリアム君だから……」

 

「……あれがそう見えるのかよ」

 

 

ルミアのそんな言葉に呆れつつも、背中を押されたウィリアムは……

 

 

「ありがとよ……」

 

 

ルミアに礼を言い、リィエルを追いかけていった。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

あいつらはわたしからグレンを奪った。

そのせいでグレンはわたしのもとから去ってしまった。

だから、悪いのはあいつらでわたしは悪くない。

その筈なのに―――

 

 

「なんで……こんなに、苦しいの……?」

 

 

システィーナとルミアを拒絶した時の事を思い出す度に、息が詰まり、胸が苦しくなり、目尻が熱くなる。

そして―――

 

 

「なん……で……あの時…………言葉が……詰まったの……?」

 

 

あいつに肩を掴まれたあの時、嫌いと言おうとしたのに、何故か言葉が詰まって出てこなかった。

あいつはわたしに容赦なく暴力を振るうのに、なんでグレンと似たような心地良さを感じていたのか、わからない。

そんな答えの出ない葛藤を抱えたまま、リィエルは辿り着いた旧開発地区の旧港で静かに泣き続ける。

そんなリィエルに、一人の青い髪の青年が近づいて来ていた―――

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

「うげ……」

 

 

ルミアに背中を押され、リィエルを探していたウィリアムはヤバい気持ちになっていた。

どうせグレンは全うな道から探しているだろうから、自分はそれを埋めるように立ち入り禁止区域から探していたのだが、面倒なものを見つけてしまった。

その面倒なものとは―――人払いの結界魔術である。

このような場所にこんなものがあるということは確実に面倒事がこの先にある。

ウィリアムは直ぐ様立ち去ろうとするも―――

 

 

「キシャァアアアアアアアアアア―――ッ!!!」

 

 

金切り声とともにウィリアムに何かが襲いかかってきた。

ウィリアムは直ぐ様横に跳んで回避し、その何かを視界に納める。

 

 

「―――ッ!チィッ!」

 

 

それにウィリアムは軽く舌打ちし、直ぐ様拳銃を構え、電撃を拳銃に迸らせ、その何か―――女の死者に向かって引き金を引く。

放たれる銃弾。鳴り響く銃声。

その銃撃をくらい、死者は腐肉を爆散させて倒れこむ。それを切っ掛けにわらわらと女の死者達がウィリアムの前へと湧き出て来る。

 

 

「くそッ!!」

 

 

ウィリアムは苛立ちながらも電撃を迸らせた―――雷加速による銃撃を次々とくらわしていく。

銃撃は一発で何体もの死者を撃ち抜いていき、その腐肉を爆散させていく。

ウィリアムは誘いこまれたのを承知で結界内部へと足を踏み入れ、奥へと進んでいく。

この女の死者達は死霊術で呼び出されたもの。術者を叩かないとこのままだとキリがないからだ。

死者を駆逐しながら術者を探し、たどり着いた先は―――

 

 

「フフ……ようこそお越しくださいました《詐欺師》様?」

 

「……」

 

 

楽しげに笑うメイド服を着た女性とウィリアムを睨み付けるアルベルトが対峙する場所であった。

 

 

「この前の暗殺未遂の下手人かよ……」

 

 

ウィリアムは死霊術の術者であるメイド―――エレノアに苦い顔をする。

 

 

「どうしてお前がここにいる?」

 

「あのバカ探して近くを通りかかって、マンマと誘いこまれたんだよ」

 

 

アルベルトの質問にウィリアムは簡潔に答える。アルベルトは少し考える仕草をする。そして―――

 

 

「なら丁度いい。俺がリィエルの今居る場所を知っている。早く向かいたいなら力を貸せ」

 

「……しゃあねぇか」

 

 

アルベルトの要請にウィリアムは仕方ないとばかりに了承し、圧縮凍結していたある魔導器をとりだして解凍する。

その魔導器は銃身らしきものが六つ、それが環状に並べられており、固定の為の円盤が三つ程はめられている。

一・六メトラ近くあるそれは何かしらの銃火器だと思わせるものであった。

 

《魔導砲ファランクス》―――銃弾をほとんど自動で連続発射させる、ウィリアムお手製の魔導器である。

 

その《ファランクス》を、ウィリアムは新たに出現した死者達へと向ける。

 

 

「時間はかけねぇ……速攻で叩きのめす」

 

 

《星》と《詐欺師》の共闘が始まる。

 

 

 




この世界感での魔導器の文字表現が本当に難しい······
《魔導砲ファランクス》はハッキリ申し上げてガトリングガンです
どこのありふれなのやら(すっとぼけ)
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二十一話(改)

相変わらず安定しない文字数とクオリティ······
てな訳でどうぞ


立ち上る火の手。

穿たれたように倒壊された木々。

そしてその破壊された一面に散らばった大量の腐肉の欠片。

次から次へと湧き上がってくる大量の女の死者達。

その死者の群れは青年と少年を主の指示に従い襲いかかるも―――

 

 

「―――おらおらおらぁ!!」

 

 

その少年―――ウィリアムが左腕で腰だめに構えている《魔導砲ファランクス》から形成される雷加速による圧倒的な威力による弾幕によって、前方の死者の群れは次々と穿たれ、唯の肉塊へと次々と変えられていく。

弾幕が形成されていない、二人の後ろの方にいる死者達が襲いかかろうとするが、まるで自分から刃物に飛び込んだかのように見えない何かに斬り裂かれており、二人に近づききれていない。

 

 

「《―――・天に舞って踊れ》」

 

 

その間に青年―――アルベルトの詠唱が完成し、あたり一面に雷撃が降り注ぎ死者達を殲滅していく。

その詠唱直後のアルベルトの隙をエレノアは狙おうとするも―――

 

 

「―――ッ!」

 

 

ウィリアムの右手に持つ電撃を迸らせた拳銃が自身に向けられたのを見て、直ぐ様回避行動を取る。

一発のつんざく銃声。エレノアはそれを回避するも、音のない二発目によって左腕を吹き飛ばされる。

 

 

(本当に厄介ですわ……)

 

 

ウィリアムは先程から音のある銃撃、音のない銃撃、その両方の空撃ちをランダムでエレノアへと向けているのだ。

そんな事をされたらいつも以上に神経を研ぎ澄まさなければならず、精神的な疲労が積み重なっていく。

そんなエレノアに―――

 

 

「《吠えよ炎獅子》」

 

 

アルベルトがエレノアに向かって黒魔【ブレイズ・バースト】を放ってくる。

 

 

「《出でよ赤き獣の王》ッ!」

 

 

エレノアも直ぐ様同様の魔術を放ち、互いにぶつけさせ大爆発を引き起こす。

 

 

「ち……」

 

 

アルベルトは軽く舌打ちするも、ウィリアムが人工精霊(タルパ)騎士の楯(ナイツ・シールド)】を囲むように具現召喚し、防御障壁を展開させたため、アルベルトは直ぐ様詠唱を紡いでいく。

 

 

「《―――・いざ・召され》―――ッ!」

 

「《・―――舞って踊れ》」

 

 

そんな爆風にお構い無く詠唱していた、エレノアの呪文が完成すると同時にアルベルトは先程、死者の群れを殲滅した呪文―――B級軍用魔術、黒魔【プラズマ・フィールド】を完成させ、先程と同じように新たに召喚された死者の群れを殲滅させていく。

 

 

(まさか、此処まで合わせられるとは……)

 

 

エレノアにとっての最大の誤算はこの二人―――アルベルトとウィリアムが思いの外、連携が取れていた事だ。

ウィリアムはたった一人だけで戦い続けていた強者。つまり他者との連携には相当疎い筈だとエレノアは読んでいた。だからわざわざこちらへと誘いこんだのだ。互いに足を引っ張り合わせる状況も狙って。

ウィリアムはエレノアが睨んだ通り、確かにその辺りの経験は疎い。しかしウィリアムの師匠の施した修行―――脅威クラスの魔獣の巣窟に放り込むというぶっ飛んだ修行法によって相当な対応力と判断力をつけさせられていたのだ。

そしてアルベルトがそんなウィリアムに合わせた事により、拙いながらも淀みない連携が取れていたのである。

 

 

「……もてなしはもう終わりか?随分と舐められたものだな」

 

 

淡々と鋭い目でアルベルトは言う。

 

 

「いえ……私の想像を遥かに超えていただけですわ……もう壊れちゃいそう……」

 

「もうとっくに壊れてんだろ、ゾンビ女」

 

 

そんな身悶えるエレノアに冷めきった目でウィリアムが言う。

エレノアに先程から深手を負わせている筈なのだが、いくらやっても血を出さず、変わりに黒い霧が漏れでて傷を治しているのだ。現に吹き飛ばした筈の左腕もいつの間にか元通りになっている。

このように時間だけがイタズラに過ぎている状況にウィリアムは内心苛立っていた。

そんな折に―――

 

 

「―――ッ!」

 

 

アルベルトが何かに一瞬目を奪われたかのように硬直する。そんなアルベルトにウィリアムも思わず目を向けてしまう。

 

 

「―――《爆》ッ!」

 

 

そんな一瞬をつかれ、エレノアの周囲から爆炎が上がり、辺りの視界が封じられる。

黒魔【クイック・イグニッション】。緊急回避的な用途で運用される、最速最短の呪文で起動可能なC級軍用魔術だ。

 

 

「―――チィッ!」

 

 

ウィリアムが苦し紛れにエレノアがいるであろう場所に銃撃を放つ。

放たれた銃弾は爆炎を穿つもそれだけであり、爆炎が収まった頃にはすでにエレノアもおらず、まんまと逃げられてしまっていた。

 

 

「まんまとしてやられたな……」

 

「……何に目を奪われていた?」

 

「リィエルが裏切り、グレンをその手で手にかけた」

 

 

アルベルトの言葉にウィリアムは驚愕に目を見開く。

 

 

「……何故そうなった?」

 

「リィエルに妙な青い髪の男が接触していた。そいつに何かを吹き込まれたのだろう」

 

 

その言葉にウィリアムは一気に苦い顔をした。

青い髪の男、リィエルの真実と今の状態、そして依存していたグレンを手にかけるという暴挙。

これらを合わせれば、容易に何が吹き込まれたのか想像がつく。

 

 

「……ここからどう動くつもりだ?」

 

 

ウィリアムはその想像を口に出さず、これからの事をアルベルトに聞く。

 

 

「奴は、王女はなるべく生かしておきたいと言っていた」

 

 

その言葉で今後の方針を察し、共にその場から駆け出した。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「もう少し安全運転をしろ、《詐欺師》」

 

「うっせぇッ!急がないと先公がくたばっちまうだろうが!!」

 

 

そんなやり取りをしながら、一頭の青白い幽体の馬―――人工精霊(タルパ)の馬に乗って駆け抜けているのは、ウィリアムとアルベルトだ。

アルベルトの背中には、致命傷を負い、血色の悪くなったグレンが背負われている。

あの後、アルベルトの先導の元、現場へとたどり着き、海に放り投げられたグレンを引き上げた。

グレンは既に『死神の鎌に捕まっており』、通常の治癒魔術が効かなくなっている危篤状態だった。

そんなグレンを救うために、彼らはある場所へと急いで向かっている。

その場所―――ウィリアム達が泊まる宿にたどり着くと、ある部屋の扉を開ける。

 

 

「―――ひッ!?」

 

 

襲撃があったかのように、メチャクチャとなった部屋にいたシスティーナが突然の訪問に悲鳴を上げる。

 

 

「何がどうなって……キャァアアアアア―――ッ!?先生!?」

 

 

そんなシスティーナをよそにアルベルトはグレンをベッドへと放り込み、システィーナに協力を要請するのだが―――

 

 

「何よ!?もう何なのよッ!?」

 

 

システィーナはパニックを起こし、話をろくに聞こうとしなかった。

 

 

「もう嫌よ!嫌、嫌、い―――」

 

 

そんなシスティーナに、ウィリアムが左手で頬を叩いた。

 

 

「―――ッ!?」

 

「……ちったぁ頭が冷えたか?」

 

 

そんなシスティーナにウィリアムが淡々と告げる。

 

 

「まだ先公を救う手はある。だからこそここへ来た。そしてその為にはお前の魔力容量(キャパシティ)が必要だ……だからその手を貸せ、システィーナ!先公を救う為にな!!!」

 

「……ぐ、具体的に、何をする、つもりなの……?」

 

 

ウィリアムの叱責によってなんとか持ち直したシスティーナはその方法を聞いてくる。

そこからアルベルトが白魔儀【リヴァイヴァー】―――施術者の生命力を被術者へ増幅移植する儀式魔術―――の説明をする。

その最中で息が止まったグレンに、時間を稼ぐための人工呼吸をシスティーナへと任せ―――

 

 

「お前は大まかに術式を書け。細かい所は俺が調整する」

 

「あいよ」

 

 

アルベルトとウィリアムは二人がかりで【リヴァイヴァー】の術式を書いていく。

 

 

長い夜は始まったばかりだ。

 

 

 




ウィリアムの魔力容量は平均以上、優秀以下とそこまで多くの魔力を保有していません
そこらへんの問題に関しては一応考えています
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二十二話(改)

この展開に無理はない、無理はない筈だ(切実)
てな訳でどうぞ


白魔儀【リヴァイヴァー】は無事に成功した。

命の危機を脱したグレンの呼吸は安定したものへと落ち着いており、仮サーヴァント契約で霊絡(パス)だけ繋いで魔力を供給していたシスティーナも疲労困憊からグレンの寝るベッドにもたれかかって眠っている。

アルベルトは壁を背にもたれかかっており、ウィリアムも椅子に座り、紫の小さな結晶を使って魔力を回復していた。

 

《マナ・クリスタリウム》―――外界マナを結晶化した紫の結晶体は、ウィリアムの魔術特性(パーソナリティ)を利用して作りあげられた独自の回復アイテムである。

しかし、これにももちろん欠点がある。

使用者の外界マナの親和性、一回使うと霧散する一度きりの使い捨て、連続で使い過ぎるとマナ・バイオリズムがしばらくの間乱れ続けるという一概に便利とは言えないものである。

 

 

「……う」

 

「ふん、相変わらずのしぶとさだな」

 

 

そんな回復に努める中、目を覚ましたグレンにアルベルトは不機嫌全開の皮肉をぶつける。

 

 

「俺は……確かリィエルのアホに斬られて……」

 

 

そこから状況がアルベルトの口から説明されていく。

そして、アルベルトが肝心なことを問いただす。

 

 

「リィエルは何故裏切った?」

 

「……アイツの『兄貴』が現れやがった」

 

 

グレンのその言葉に、ウィリアムは相当苦い顔をする。

アルベルトからリィエルの裏切りを聞いた時点でその予想が出来ており、見事に的中したからだ。

その『兄』を名乗った人物はほぼ間違いなく『アイツ』と見ていいだろう。

正直、否定したい可能性が現実になりつつある中、アルベルトはさらに状況を説明していく。

 

白金魔導研究所の所長であるバークスが裏で件の組織(天の智慧研究会)と繋がっている可能性があり、軍はその尻尾を掴むためにリィエルを囮にルミアを撒き餌としたこと、クロならリィエルとアルベルトでそこをおさえる算段を立てていたのだ。

だが軍は、グレンがリィエルに関するとある事実を隠蔽したため、リィエルに存在する爆弾については知らなかった。

 

その結果が―――今の状況である。

 

 

「なんで止めなかった!?」

 

「軍が一度決めた事を変えると思うか?それとも、真実を話してでも止めるべきだったか?」

 

 

その言葉にグレンは怯む。もし真実を話せばリィエルは確実にモルモットにされてしまうからだ。

 

 

「とにかく俺はこれから王女を奪還しに行く。リィエルが立ちはだかるなら、俺は全力を以て奴を殺す……以上だ」

 

 

アルベルトはそれだけ言って、部屋から出て行こうと踵を返す。

 

 

「「……待てよ」」

 

 

そんなアルベルトをグレンとウィリアムが呼び止めた。

 

 

「なんだ?」

 

「一緒に連れてけ。そしてあのバカと話をさせろ」

 

「ああ。アイツの勘違いを正して連れ戻す」

 

 

そんな二人の言葉を―――

 

 

「よくそんな事が言えるな」

 

 

アルベルトは冷たい言葉で返した。

 

 

「グレン。お前が去った理由には薄々予想が付いている。その甘ったれな考えを否定する気はないが……お前は逃げた」

 

「!」

 

「お前は勝手な都合で何一つ語る事なく戦友達を捨てて逃げた。リィエルの裏切りも間接的にはそれが原因だ。さらに言えば、お前の自己満足で肝心な情報を伏せ、()()()の責任を放棄したのも原因だ。違うか?」

 

「そ、それは……」

 

 

アルベルトの容赦のない指摘にグレンは口ごもり、そんなグレンを脇目にアルベルトは続いてウィリアムにその鋭い視線を向ける。

 

 

「そして《詐欺師》。お前がいくら()()()()に関わりがあるとはいえ、俺がそれを容認すると思っているのか?」

 

「……」

 

「お前は何の権利があってリィエルに関わろうとする?リィエルをあの女と重―――」

 

「ちげぇよッ!!!!」

 

 

アルベルトの言葉をウィリアムは怒鳴り声で遮る。

 

 

「アイツはイルシアじゃねえ!確かに容姿は瓜二つだが、バカで、常識の欠片もなくて、事ある事に暴走するし、問題ばかり起こすし、中身が全くっていいほど全然似てねぇよ!」

 

「なら何故関わろうとする?」

 

「そんなん―――後悔したくねぇからだッ!!!!」

 

 

ウィリアムの脳裏に思い起こされるのは二年前のあの記憶。

雪の上で彼女の遺体を抱きしめ、泣き叫ぶ己の姿――――

 

 

「ここでアイツを見捨てたら俺は確実に後悔する!そんな面倒な思い、これ以上したくねぇし、するつもりもねぇ!だからあのバカを叩きのめして連れ戻す!!!それだけだ!!!」

 

「……」

 

「……アルベルト」

 

 

無言でウィリアムを睨むアルベルトに、グレンが再び話しかける。

 

 

「今の俺は教師だ……そしてリィエルも今は俺の生徒なんだ。アイツらを泣かせる真似だけは絶対にしたくねぇ……俺のことが気にいならいならぶん殴ってでも止めればいい……だけどウィリアムだけは連れて行ってやってくれ……」

 

 

頼む、とグレンは頭を下げアルベルトに懇願する。

そんなアルベルトの答えは―――

 

 

「ふん……」

 

 

そんな言葉と共に、グレンを殴り飛ばすことであった。

 

 

「何も言わずに去った落とし前は、これで勘弁してやる」

 

 

アルベルトはそう言い、懐からあるものを放り投げる。

それはパーカッション式のリボルバー拳銃―――グレンのかつて愛用していた《魔銃ペネトレイター》だった。

 

 

「これは……ッ!?」

 

「条件は二つ。俺は王女奪還を最優先する。状況がリィエル排除を余儀なくしたら俺は迷わずリィエルを討つ。以上の事を邪魔しなければ、リィエルはお前達に任せる」

 

 

アルベルトが事務的に、淡々と告げた言葉に、二人は呆然とし―――

 

 

「ハハ……」

 

「そういえばお前は結構、義理堅いやつだったな……」

 

 

ウィリアムは笑みを、グレンは思い出したかのように呆れていた。

よくよく考えれば、一人でやるつもりならグレンを助けたりはしないし、目覚めるまで待たないだろう。

そんな簡単な事にも気づかなかった事に、相当自分も頭にきていた事にウィリアムは今さらながら気がつく。

 

 

「黙れ。このままリィエルという『戦力』を失うのが惜しいのと、ここで《詐欺師》に恩を売っておけば、こちらに引き込めやすくなると判断したまでだ」

 

 

アルベルトはそれだけ言い、部屋から出ていった。

 

 

「それ言っちゃあ、意味ねぇだろ……」

 

 

その建前と口実に呆れつつも、圧縮してあった紺色の外套を取りだし羽織っていく。

この外套には黒魔【トライ・レジスト】等が永続付呪(パーマネンス)してあり、宮廷魔導士の礼服に勝らずとも劣らない性能を有している。

そして銃のホルスターも装着し、そこに《魔銃ディバイド》を仕舞う。

 

 

「先行っとくぜ、先公」

 

 

ウィリアムはグレンにそう言って、部屋から出ていく。

宿から出ると、クラスのみんなが不安げな顔で集まっていた。

 

 

「ウィリアム、その格好は……?」

 

「先公とそのダチと一緒にあのバカを探しに行くだけだ」

 

 

カッシュの疑問にウィリアムはそれだけ言って、アルベルトと同じく前庭(アプローチ)でグレンを待つ。

そして遅れて出てきたグレンはみんなにリィエルの事を聞き、皆がリィエルを受け入れてくれていると改めて知ったグレンは、明日には全部元通りと皆に言い、その場を後にする。

 

三人は人気のない道を歩いていく。

 

 

「頼りにしてるぜ」

 

「寝言は寝て言え」

 

「精々気張るとすっか」

 

 

 

《詐欺師》。譲れぬものの為、《愚者》と《星》と共に敵の拠点を目指す。

 

 

 




向かうは三人
蹂躙劇はどう変わる?
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二十三話(改)

「行くぞバークス、合成魔獣の貯蔵は十分か?」――――by某正義のセリフ改変
てな訳でどうぞ


アルベルトを先導に、グレンとウィリアムは樹海の中を走り抜けていく。

 

 

「おい、アルベルト。微妙に白金魔導研究所からずれている気がするんだが……?」

 

 

グレンが走りながらアルベルトにそう問いかけると―――

 

 

「「…………」」

 

 

アルベルトとウィリアムは揃って冷めた視線をグレンに送っていた。

 

 

「な、何だよ?」

 

「阿呆か貴様は?公的機関に連れ込むバカがどこにいる?一発で露見するだろうが」

 

「ぐ……じゃ、じゃあ、どうやって居場所が分かるんだよ!?」

 

「簡単な事だ。こっそり付呪(エンチャント)しておいた魔力信号を頼りに向かっている」

 

「……ひょっとしてあの時か?」

 

 

グレンはあの時―――アルベルトがナンパ男に変装していたあの港の出来事を思い返して問いかける。

その時にウィリアムの事も話していたのだが、今はいいだろう。

 

 

「確かにあの時、王女に魔力信号を付呪(エンチャント)しておいたがそっちはとっくに解呪(ディスペル)されている。俺が追いかけているのはもうひとつの方だ」

 

「もうひとつ?」

 

 

訝しむグレンにアルベルトは淡々と説明していく。

先のエレノアとの戦闘の際、どさくさに紛れて、ルミアに付呪(エンチャント)したものより更に強力な魔力隠蔽効果を施した魔力信号を付呪(エンチャント)しておいたと。

 

 

「それでどこから発信されているんだ?」

 

「地下の方からだ。大方バークスが極秘裏に作り上げた地下研究所だろう」

 

「地下だと!?どうやってその入り口を探すつもりなんだよ!?」

 

「……バカ正直に探さなくていいだろ、先公」

 

 

グレンの頭の鈍さに、さすがに呆れとうんざりさ含ませた言葉をウィリアムは発した。

 

 

「は?」

 

「全く、少しは《詐欺師》のように頭を使え」

 

 

まだ気づかないグレンにアルベルトは呆れながらも、バークスの研究分野の性質上から存在する地下水路からの侵入を説明する。

そして、三人は一つの湖畔にたどり着く。

 

 

「この湖の南西方面に地下水路の入り口がある筈だ。理解したか?」

 

「へいへい、じゃ、野郎三人の海水浴かね」

 

「ここは湖だけどな」

 

 

そして、三人は【エア・スクリーン】を球体状にはり、湖の中へと潜っていった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

潜ってから暫くして不自然な水の流れを見つけ、それを辿って水路の奥にたどり着き、水の底から浮上する。

水から出たその場所は昼間の白金魔導研究所と酷似しており、バークスの秘密の地下研究所だと改めて確信する。

これからの方針を相談しようとするも―――

 

 

「……」

 

 

アルベルトが無言のまま近くの水路を見つめる。

 

 

「ど、どうした?」

 

「マジかよ……」

 

「……来る」

 

 

その直後、水路から盛大な水柱が上がる。

グレンは慌てて身構え、アルベルトとウィリアムは素早くその場から飛び下がる。

水柱から現れたのは、三対のハサミをもつ巨大蟹だった。

 

 

「なんじゃこのクリーチャーはぁあああああ――――ッ!?」

 

「―――《雷精》ッ!」

 

 

グレンの驚愕を他所にウィリアムはホルスターから拳銃を取りだし、呪文を紡いで電撃を迸らせる。

ウィリアムはそのまま巨大蟹に銃口を向け、引き金を引く。

雷加速された銃弾は、巨大蟹の片側の脚をまとめて吹き飛ばした。

 

 

「《吠えよ炎獅子》!」

 

 

アルベルトの詠唱と同時にグレンは慌てながらも、淀みなくその場から飛び離れる。

直後、【ブレイズ・バースト】が脚を吹き飛ばされてバランスを崩していた巨大蟹を呑み込み、爆炎が収まると、巨大蟹の丸焼きが出来上がっていた。

 

 

「遅い。平和ボケし過ぎだ」

 

「ほっとけ、っていうかウィリアム、お前のソレ、ホントにどうなってんの?」

 

 

憎まれ口を憎まれ口で返しながらグレンはウィリアムに問いかける。

実はグレンも過去に一回、ウィリアムと同じ手法を試したのだが、その威力はウィリアムのより明らかに劣っており、大した威力ではなかった。そのため、どうやってあの威力を出しているのか、疑問だったのである。

 

ウィリアムの拳銃のバレルには電気を浴びると、その電気を増幅して暫くの間放出する性質の特殊な魔晶石がレール状に内蔵されている。試行錯誤を重ねて今の形に落ち着いたのだ。

ウィリアムのその話を聞き、《魔銃ペネトレイター》の大幅な改造が必須な為諦めていると、水路から次々と多種多様な生物が湧いて出てきた。

 

 

「団体様のお出ましだ……」

 

「どうやらここは合成魔獣(キメラ)の廃棄区画だったようだな」

 

「獣との戯れか……馴れてるけど」

 

 

三人はキメラの群れを見やり、猛然と駆け出す。

そこから蹂躙劇が始まった。

 

 

「《雷槍よ》!」

 

 

アルベルトが獅子の合成魔獣(キメラ)に向かって【ライトニング・ピアス】を二重詠唱(ダブル・キャスト)で放つ。

獅子の合成魔獣(キメラ)は難なく、二条の雷閃を跳躍してかわすも―――

 

 

「《猛き雷帝よ・極光の閃槍以て・刺し穿て》!」

 

 

グレンの【ライトニング・ピアス】で脳天を貫かれ、絶命する。

そんなグレンに頭が二つある狼のキメラが襲いかかるも―――

 

ドパッドパンッ!

 

ウィリアムの雷加速弾の連発によって頭部を二つとも爆散され、あっさりと始末される。

その直後、三人を挟み撃ちするように人間の姿をした植物の合成魔獣(キメラ)が数体現れる。

ウィリアムは直ぐ様拳銃のフレームを半ばで折って薬莢を排出し、素早く手作業で新たな薬莢―――魔術弾を装填する。

再装填を済ませ、間髪入れずに植物の合成魔獣(キメラ)に向かって魔術弾を放つ。

 

轟ッ!

 

着弾と同時に、爆炎が上がり植物の合成魔獣(キメラ)を包み込む。

爆炎が収まった頃には、植物の合成魔獣(キメラ)は焼け焦げて生き絶えたいた。

そして、ウィリアムの死角から二対の羽を持つ人並みサイズのコウモリの合成魔獣(キメラ)が襲いかかる。

 

 

(おせ)ぇ!」

 

 

だが、そのコウモリの合成魔獣(キメラ)を黒魔【タイム・アクセライト】―――自身の時間を加速した後、魔導第二法則により同じ時間減速する瞬間付呪(インスタント)の魔術で加速したグレンが素早く殴り飛ばす。

殴り飛ばされ、体勢を崩したコウモリの合成魔獣(キメラ)に、アルベルトが雷閃を脳天へと放ち、瞬時にその命を刈り取る。

三人はそんな風に合成魔獣(キメラ)を駆逐しながら奥へと進んでいき―――

 

 

「……こいつは、ヘヴィかなー?」

 

 

大部屋にいた宝石のようなもので構成された大亀に、グレンは頬を引きつらせていた。

 

 

「宝石獣か……」

 

「性質は?」

 

「殆どの攻性呪文(アサルト・スペル)が効かん。そして硬い」

 

 

そんなやり取りを無視するように、宝石獣は後ろ足で立ち、その豪腕をグレン達に叩き付けようと―――

 

ドオオオオオンッ!

 

―――したが、凄まじい音と共に頭部が爆散し、その衝撃で頭部を失った宝石獣は後ろへと倒れこんだ。

 

 

「なら、日緋色金(オリハルコン)の銃弾で殺ればいいだけだろ?」

 

 

ウィリアムは左手に錬成した、硝煙と電撃の余韻が残っている二メトラ近くある大口径の小銃(ライフル)を放り捨てながらそんな事を宣う。

ウィリアムは数分だけであれば魔法金属を再現できる。しかし、数分では普通は使い道がない。今みたいな銃弾として使う以外には。

そんなウィリアムの脳筋発言に、グレンとアルベルトは魔法金属を錬成できる事に驚くより先に呆れていた。

一方―――

 

 

「なっ……なっ……なっ……!」

 

 

研究室の水晶壁に映し出された、自身の自慢の最高傑作が、ものの数秒であまりにもあっさりと沈められた光景に、バークスは顔を真っ赤にして震えていた。

 

 

 




この世界のレールガンはこういう感じにし、ただ迸らせただけではコイルガン並みの威力という設定にしております
こうしておかないと平凡なグレンも使いまくるからです
それとウィリアムは元々はリィエルよりかはマシな脳筋です
師匠の施した地獄の修行によって相当修正されたのです
感想お待ちしてます


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二十四話(改)

「本心なら、行動で示し証明しろ!!」――byツンデレ雄狐のセリフ
てな訳でどうぞ


宝石獣をウィリアムが日緋色金(オリハルコン)の雷加速弾で瞬殺した後、三人は部屋の奥にあった扉から部屋を出て、先へと進んでいた。

 

 

「敵はさっきので品切れだったみてぇだな」

 

「あんなのが何体もいてたまるか、メンドイし」

 

 

そんなグレンとウィリアムのやり取りの中、アルベルトを含めた三人は進んでいく。

そして、薄暗く、液体で満たされたガラス円筒が、規則正しく、無数に立ち並んでいる、何かの保管庫のような部屋にたどり着いた。

 

 

「これは……?」

 

 

グレンが訝しげにガラス円筒に近づき、その中を覗きこみ―――

 

 

「―――ッ!?」

 

 

―――中身を確認したその瞬間、グレンは口元を抑えて後退った。

ウィリアムもその中身を知った瞬間に目を見開いて絶句し、アルベルトもいつも以上に表情を険しくする。

ガラス円筒の中にあったのは―――人間の脳髄だったのだ。

そしてガラス円筒に貼られたラベルから、この者達は『異能者』の成れの果てであることが分かった。

アルベルトの口からバークスは相当な異能嫌いで、典型的な異能差別主義者であった事が語られる。

 

 

「この国では何故か異能は『嫌悪』の対象……理由がある故か、そうなるよう誰かが仕向け――」

 

「今はンなこと、どうでもいい!」

 

 

アルベルトの考察にグレンはそう叫んだ直後、何かに気付く。

 

 

「おい、見ろ!あいつ、まだ生きてるぞ!早く――」

 

 

そのガラス円筒に近づいたグレンの言葉はそこで途切れ、言葉を飲み込んだ。

ガラス円筒の中にいたのは少女だが、その少女は魔術的に無理矢理『生かされて』おり、既に『死んで』いたのだ。

 

 

コ、ロ、シ、テ。

 

 

少女の口がそう言ったかのように、弱々しく動く。

ウィリアムは苦渋の顔で拳銃に手をかけようとし―――

 

 

「“牢記されよ、我は大いなる主の意を代弁する者なり――”」

 

 

―――たが、アルベルトがそれを手で制し、粛々と聖句らしき言葉を紡いでいく。

そして―――

 

 

「“――真に、かくあれかし(ファー・ラン)”」

 

 

―――その言葉と共に少女の心臓を雷閃で撃ち抜き、少女に永遠の眠りを与えた。

やるせない感傷が三人の間を支配していた―――その時。

 

 

「貴様らぁ!?なんてことをしてくれた!?」

 

 

そんな場違いな罵声が部屋中に響き渡る。

声がした方向に一同が顔を向けると、そこにはこの研究所の主であるバークスが怒りを露に姿を現していた。

 

 

「貴様らが壊したサンプルがいかに貴重なのか、それすら理解できんのか!?絶対に許さんぞッ!この駄犬共めがッ!」

 

 

そんなバークスの人を人と思わぬ発言に、グレンは罪の意識があるのかと問う。その問に、バークスは寧ろ自分に貢献できたのだから感謝しろと、ぬけぬけと言い放つ。

その答えにウィリアムとグレンは―――

 

 

「……テメェは魔術師じゃねぇ、ただの――」

 

「本物だよ、本物の――」

 

「「――クズだ」」

 

 

その溢れる黒い衝動のまま、バークスに攻撃を仕掛けようとし―――

 

 

「待て、お前達は先に進め」

 

 

アルベルトがそれを制し、グレンとウィリアムに移動を促した。

 

 

「お前達はリィエルを説得するんだろう?王女の件もある以上、今は時間が惜しい。このクズの相手は―――俺が務める」

 

 

先程よりも冷徹な雰囲気を纏ったアルベルトに、頭の冷えた二人は素直に頷き、一気に駆け出した。

 

 

「バカめ!通すと―――」

 

「《気高く・吠えよ炎獅子》!」

 

 

バークスの言葉は、二人の真後ろにある火球―――アルベルトが放った【ブレイズ・バースト】によって止められる。

直後、火球は床に着弾して炸裂するも、嵐のように渦巻く爆炎はバークスだけを呑み込み、二人はそのまま、その場から立ち去った。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

ウィリアムはグレンと共に廊下を走り抜ける。

そんなウィリアムの心中には、あの時からの後悔が巡っていた。

 

 

もし、あの時、無理でも追いかけていたら、

 

もし、あの時、逸る気持ちを抑えずに駆けつけていたら、

 

もし、あの時、もっと上手くやっていたら、

 

 

救えた、助けられたのではないか?その後悔が二年前からずっと己の胸の内にあるのだ。

 

助けられず、目的を見失い、宛もなくさ迷い続けながらも、譲れないものがある。

 

 

―――なにもせずに、大切と思えるものを失う事だけはしたくない。

 

 

たとえ、この先に否定したかった可能性が、この先にあるのだとしても、その可能性から逃げて、大切と思えるものを失えば、その想いまで否定してしまえば、今度こそ自分が分からなくなる。

 

 

ぞんな想いを胸に走り続け、遂に最後の扉が見え―――

 

 

「「だらっしゃぁああああ―――ッ!!!」」

 

 

その扉をグレン共々乱暴に蹴り開け、部屋へと突入する。

 

 

「さあ、この茶番劇にケリをつけようか」

 

 

 

《詐欺師》、遂に邂逅する。

 

 

 




ついに邂逅する者たち
彼らの結末はどうなる?
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二十五話(改)

「命は、何にだって一つだ!」――by大和のセリフ
てな訳でどうぞ


蹴り開けた扉の部屋の中には、天井から延びる鎖に拘束されたルミア、宮廷魔導士の礼服に身を包んだリィエル、そして魔導演算機の前に立つ青い髪の青年がいた。

 

 

「先生っ!?それにウィリアム君も!?」

 

 

今のルミアは衣服がボロボロで、あられもない姿にされているのだが、それ以上に、ウィリアムは青年を睨み付けていた。

青い髪だが、顔の輪郭は『アイツ』の面影がある。そして、状況から見てこの青年が、リィエルの『兄』を名乗ったと見ていい。

……最早、疑いようがない。二人を殺したのはコイツだ。そして部屋の奥にある六本の氷晶石柱も視界に納め―――

 

 

「……相当、好き勝手やってたみたいだな……」

 

 

沸々と沸き上がる激情を必死に抑えながらも、目付きの悪いその銀眼を、より一層鋭くし、怒気を宿して目の前の青年を睨み付ける。両の拳は相当堅く握られており、相当な怒りを抱いている事が窺える。

 

 

「……ああ。俺の生徒にも、随分と洒落たコーディネートをかましてくれやがったしな……」

 

 

グレンもウィリアムのその怒りと言葉の意味を正確に読み取り、同じように青年を睨み付ける。

 

 

「うう……バカな……何故、あなたがたがここに……」

 

 

その睨みをマトモに受け、その『兄』は顔を青ざめさせて後退る。明らかに怖じ気づく『兄』に、ウィリアムは近づこうと一歩踏み出す。が―――

 

 

「それ以上……兄さんに近づかないで」

 

 

リィエルが錬成した大剣を向け、ウィリアムの前へと立ちはだかった。

 

 

「本気でソイツの為に戦うつもりか……?」

 

「さすがにオイタが過ぎるんじゃねぇか?」

 

 

そんなグレンとウィリアムの静かな問いかけの言葉を―――

 

 

「なんとでも言って。わたしは兄さんのために戦う」

 

 

リィエルは二人を虚ろに見つめたまま、盲目的な言葉で返した。

そんなリィエルに、ウィリアムは容赦なく怒声を上げて言い返した。

 

 

「アホか!ソイツはお前の兄なんかじゃねぇよ!」

 

「え?」

 

「お前の兄と呼べる奴は二年前に死んだんだ!死んだ人間は生き返ったりしねぇッ!!」

 

「で、でも……現に生きて……」

 

「こんな事をあっさりとやる奴が、本当にお前の記憶にある優しい兄だと断言できるのか!?」

 

「ウィリアムの言う通りだ!どうせ、よく思い出せもしなかったくせに!」

 

「……うるさい……」

 

 

ウィリアムとグレンの容赦ない指摘に、リィエルは―――

 

 

「うるさいうるさいうるさいッ!わたしには兄さんしかいないの!兄さんの邪魔をするなら―――斬る!」

 

 

逆上して、二人に剣を向けて構える。

ウィリアムは、やっぱりか、という気分になっていた。

こうなると、リィエルはロクに話を聞かないだろう。いくら“真実”を言っても寝耳に水でしかない。だから、一回叩きのめす必要があるのだが……

 

 

(正直……キツイんだよな……)

 

 

ウィリアムは、魔術による肉弾戦は得意ではない。自身の魔術特性(パーソナリティ)の影響で、召喚魔術、白魔術への適性が低いからだ。

相手の動きを見切る目は相当培われており、技巧自体もそれなりにあるが、経験による我流の動きなため、純粋な格闘戦能力は二流レベルである。

殺し合いであれば然程問題ではないのだが、制圧となれば、その弱所が浮きぼりとなってしまう。

加えて、雷加速は非殺傷弾では使えない。非殺傷弾はその材質から、威力が強すぎると、耐えきれずに砕け散ってしまうからだ。

グレンも同様に、リィエルとの相性は最悪だ。

 

 

(それでも、やるしかねぇんだよ!)

 

 

だが、どうせ殺すと決めても土壇場で躊躇ってしまい、逆にやられてしまうのがオチだ。

なら、最後まで貫ける方を取る。

リィエルをぶん殴ってでも連れ戻し、ルミアを助け、『アイツ』に落とし前をつける。それ以外の選択は不要だ。

 

 

「こいよブラコン!ここまで迷惑かけてんだ、拳骨一発で済むとは思うなよ!?」

 

「ウィリアム――ッ!」

 

 

ぞの言葉を区切りに、リィエルは大剣を振りかざしてウィリアムに突撃する。

リィエルはその大剣を、稲妻の如く降り下ろす。

ウィリアムはホルスターの拳銃を引き抜き―――日緋色金(オリハルコン)で構成されたフレームでその大剣を受け止め、横へと受け流していく。

交錯する銃と剣。激しく飛び散る火花。

そして、そのまま流れるように、ウィリアムは後ろをとり、非殺傷弾を放とうとするも―――

 

 

「――ッ!」

 

 

リィエルは斬りかかった勢いを活かし、その場から離脱して駆け抜けており―――

 

 

「いぃやぁあああああああああああ―――ッ!」

 

 

その超機動でグレンの後ろを取り、斬りかかろうとする。

 

 

「うげッ!?」

 

 

グレンは慌てて横に跳んで、その一撃から逃れるも、リィエルは床に手をつき、大剣をもう一本錬成すると、手に持っていた二本の大剣をグレンに向かって投げ飛ばす。

ウィリアムはすぐさま、炸裂量を調整した高威力の通常弾を猛回転して飛来する大剣に向けて発砲してその軌道を変え、グレンを守る。

リィエルはその間に、ウィリアムに肉薄し、新たに錬成した大剣を横凪ぎに振るう。

ウィリアムはその大剣に向かって銃撃し、大剣をその手から弾き飛ばす。

それに対しリィエルは、大剣をすぐさま錬成し、その場で一回転してウィリアムへと再び斬りかかる。

 

 

「ぬおあッ!?」

 

 

ウィリアムはその斬撃をなんとか拳銃で受け止めるも、その勢いを捌き切れず、その場から吹き飛ばされてしまう。

ウィリアムは吹き飛ばされながらも、体勢を整え、追撃を防ぐためにリィエルに向かって非殺傷弾の銃撃を連続で放つ。

しかし、リィエルは既にその場にはおらず、再びグレンに斬りかかっていた。

 

 

(ああクソッ!本当に面倒だな!!)

 

 

二対一なのに、五分五分になっている事に、ウィリアムはリィエルの戦闘能力の高さを実感する。

リィエルの剛剣技にほぼ初見で対応できている辺り、ウィリアムも相当ではあるのだがそんな事は今のこの状況では全く関係ない。

そんな思考を隅へと放り投げ、必死にリィエルの隙を作る算段をウィリアムは立てようとする。

 

 

 

戦いは始まったばかりである。

 

 

 




望んだ明日を掴めるか
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二十六話(改)

欲望と妄想が暴走した駄作
可能な限り、矛盾がないように考えたつもりでも、やっぱりでてくるツッコミ
まあ、当然である
てな訳でどうぞ


(ナンツー出鱈目なんだよ!)

 

 

リィエルの怒涛の斬撃をかわしながら、ウィリアムは心の中で叫び声を上げる。

リィエルの邪道の極地といえる剛剣技は、正に一撃必殺と呼ぶにふさわしいものだ。

先程から、牽制の人工精霊(タルパ)や、非殺傷弾の銃撃、あちらは一人に対し、こちらは二人という優位性。にも関わらず、ウィリアムとグレンはリィエルを攻め切れないでいた。

 

 

「やぁああああああああああああ―――ッ!!!」

 

 

襲いかかってくる数体の人工精霊(タルパ)騎士の剣(ナイツ・ソード)】を、リィエルはその剛閃で纏めて斬り砕く。

ウィリアムはすぐさま、拳銃をリィエルに向けて引き金を引き発砲するも―――

 

 

「――ッ!」

 

 

リィエルは既にその場から離脱しており、銃弾は空しく中を切るだけに終わる。

リィエルはそのまま、グレンへと斬りかかっていく。

 

 

「――っあっぶ!?」

 

 

グレンは自身に迫ってきていた大剣の一閃を紙一重でかわすも、その剣圧に煽られ、吹き飛ばされる。

リィエルはグレンを追撃しようと―――

 

 

「!」

 

 

―――したが、すぐさま横へ跳び、後ろから放たれていた銃弾を見もせずに避ける。

 

 

(意識しているだけで、こんなに違うのかよ!)

 

 

不意討ちで沈めていた無音の銃撃が、今のリィエルに全く通用していない。

以前グレンから、リィエルは勘で戦っているとは聞いていたが、その勘だけで避けるから、本当にうんざりするレベルの勘の良さだ。

普段からリィエルの暴走を阻止していた行動が、ここにきて嫌な形で返ってきていた。

 

 

(やっぱり、この手しかないか……)

 

 

そんな今のリィエルから、確実に隙を作る手が一つある。

この状況限定であり、使うには心苦しい手だがその為に敢えて使える手札(カード)を隠している。

そして、このまま戦っていても状況は変わらず、奥にあるもの次第では状況が悪化する可能性がある以上、躊躇っている場合ではない。

 

 

(リィエルが乗り越えられるかはわからない。もし駄目だったら――)

 

 

自分がリィエルを守る。あんな思いは二度とゴメンだ。

意を決したウィリアムは、了承を得るためにグレンに視線を送る。その視線の意味を理解したグレンは苦渋な顔で悩みながらも、頷いて了承した。

 

 

「……全く、どんだけブラコン何だよお前は」

 

 

グレンから了承を得たウィリアムは、リィエルが食いつくであろう言葉を紡いでいく。

 

 

「黙って。兄さんはわたしの全てだから」

 

「なら、なーんで名前付きで兄と呼ばないんだ?」

 

 

案の定、食いついてきたリィエルにウィリアムはさらに言葉を紡いでいく。

 

 

「……何が言いたいの?」

 

「いや、なに。時折、名前付きで呼んでいたのに『兄さん』しか呼んでねぇから疑問に思ってよ。ひょっとして大好きなお兄さんの名前を忘れでもしたか?」

 

「そんな事ない!何でそんな事を知っているの!?」

 

 

ウィリアムのその言葉にリィエルが声をキツくして問いつめる。知らない筈の事を知っていれば、誰もがそうなるだろう。

 

 

「教えてほしけりゃ、そこにいる兄の名前を言ってみな。そうすりゃ教えてやるし、今後一切関わらない。先公連れて帰ってやるよ」

 

「……わかった。わたしの兄さんの『名前』は……」

 

 

一見、そんな破格とも言えるウィリアムの言葉に、リィエルは真に受けて告げようとするも―――

 

 

「『名前』は……」

 

 

リィエルの口から、一向にその兄の『名前』が出てこない。

 

 

「どうした?本当に忘れたのか?」

 

「違う!わたしの兄さんの『名前』は……ッ!……な、なんで……?」

 

 

表情を苦痛に歪め、脂汗を浮かべ始めるリィエルに、ウィリアムは容赦なく今の状態を指摘し始める。

 

 

「感覚では兄の名前を覚えてるのに、いざ思い出そうとするとその名前が出てこない。しかもそこは不自然な空白になっていて、無理やり思い出そうとしたら頭が痛くなる、だろ?」

 

「ッ!な、なんで……」

 

「しかもその空白は兄の『名前』だけじゃない。兄を殺した奴の『名前』も、その瞬間の記憶も、だろ?」

 

「ッ!?ど、どうして、そこまで……!?」

 

 

ピシャピシャと的確に当てられていく事に、リィエルはますます動揺していく。

 

 

「どうしてかって?そりゃ――」

 

「り、リィエル!耳を貸すんじゃない!」

 

 

ウィリアムの言葉を遮るように、その『兄』が金切り声で叫んだ。

 

 

「に、兄さん……」

 

 

リィエルは背後の『兄』に視線を送る。―――ウィリアムから視線を外して。

その瞬間、ウィリアムは拳銃をリィエルへと向け、引き金を引く。

リィエルはその不意討ちを咄嗟に横に跳んで何とか回避する。だが、無理な回避行動だったため、その体勢は大きく崩れてしまっている。

そして、大剣を盾にしてリィエルはウィリアムへと突撃を開始する。

ウィリアムは銃撃で迎撃するも、リィエルの突撃は止まらず、そのままウィリアムへと肉薄し―――

 

 

「やぁああああああああああああ―――ッ!」

 

 

大剣を振りかぶり、重斬撃でウィリアムを両断しようとする。

降り下ろされる死の一撃に、ウィリアムは拳銃を手放し―――

 

ガキィイイイイッ!

 

―――甲高い金属音と共に、右の(てのひら)で振り下ろされた大剣を受け止めた。

予想外の現実に、リィエルは一瞬硬直してしまう。しかし、すぐさまその場から離れようと、足に力を入れ―――

 

 

「――うあッ!?」

 

 

―――た瞬間、急に感じた浮遊感により、バランスを崩してその場に倒れこんでしまう。

見ればリィエルの足元の床が不自然に凹んでおり、リィエルはそれに足を取られてしまったのだ。

勿論、この凹みはウィリアムがお得意の錬成で意図的に作り上げたものだ。

ウィリアムは倒れこんだリィエルにそのまま跨がり―――

 

 

「《天秤は右舷に傾く》!」

 

 

黒魔【グラビティ・コントロール】で、リィエルにかかる重力を加重して封じ込めた。

 

 

「く……」

 

「いくらバカ力があっても、この状態から脱出出来ねぇよ」

 

 

逃れようとするリィエルに、ウィリアムは不可能だと言い放つ。

 

 

「この義手は相当頑丈でな……ウーツ鋼程度じゃあ傷一つつかねぇんだよ……この話を持ち出せば、確実にアイツがしゃしゃり出るのは分かっていたからな。これでようやく話が出来るな」

 

 

その様子を見ていた『兄』が金切り声を上げ始める。

 

 

「僕の妹から離れ―――」

 

「―――るせぇッ!テメェは黙ってろ、()()()()!!」

 

 

その金切り声を遮るように放たれたウィリアムの言葉に、ライネルと呼ばれた『兄』は驚愕に慄く。

 

 

「な、何を言って……」

 

「髪色変えた程度で気づかねぇとでも思っていたのか!?それとも、素で気づいてねぇだけか!?どっちでもいいが、テメェが二人に何をしたのかもうとっくにわかってんだよ!!!」

 

「ッ!?まさか、本当にお前は……ッ!?」

 

 

ウィリアムの憤怒の籠った視線とともに放たれた怒声に、『兄』はますます顔を歪め、後退っていく。

そんなウィリアムと『兄』のやり取りを前にして、リィエルは恐ろしい予感に駆られながらも恐る恐る聞く。

 

 

「い、一体……何の……話を……して……?」

 

「……『シオン』」

 

「え?」

 

「これは先公から聞いた話だが、二年前、己の身と引き換えにして、組織に囲われていた妹と親友のライネルを逃がそうと、当時宮廷魔導士だったグレンの先公に接触し、結果、組織に粛清された稀代の天才錬金術師シオンが……お前の記憶の中の兄の名前だ」

 

 

ウィリアムから告げられたその言葉にリィエルは呆然としていたが、次第に目を見開き、身体を震わせていく。

 

 

「何、今の……?わたしの事をイルシアって……?それに……どうして、わたしの記憶にわたしが……?」

 

「……どんな記憶かは検討がつく。それでも先公から聞くべきだろうよ」

 

 

ウィリアムは【グラビティ・コントロール】を解除し、リィエルから離れる。そこから、グレンの口から真実が語られ始めた。

 

 

リィエルの正体―――シオンの妹、イレッセの大雪林で息を引き取ったイルシアを元に生み出された魔造人間であること。

『Project:Revive Life』、通称『Re=L(リィエル)計画』の世界初の成功例であること。リィエルに本当の兄は存在しない事、その全てが語られた。

 

 

「うそ……そんなの、うそ……」

 

「嘘じゃねぇ。それに、思い出した記憶は少なくとも、シオンがライネルに殺さ――」

 

「う……うるさいうるさいうるさい!」

 

 

またしても当てられそうになったリィエルは必死に否定しようと、ウィリアムの言葉を遮るように叫び声を上げ、すがるような視線を『兄』―――ライネルへと送る。

その視線を受けたライネルは―――

 

 

「……やっぱりあの時、シオンを安直に始末したのは()の最大の失敗だったな」

 

 

本来の口調でぬけぬけと、そんな事を言い放っていた。

 

 

「……え?」

 

「術式はシオンの固有魔術(オリジナル)同然になったいたから、そのままでは使えないし……『イルシア』のコピー品であるお前の名前を『リィエル』と安直に設定していたから、無駄に改竄箇所が増えるし……『キーワード封印』で改竄した記憶も、ちょっとでも切っ掛けがあれば簡単に封印が解けるから、色々と小細工をしたのに……本当に上手くいかないもんだな」

 

「あ、ああ……」

 

 

ライネルは冷めた目で、頭を抱え狼狽えるリィエルを尻目に、ウィリアムを睨み付ける。

 

 

「よく似ているとは思っていたが、まさかシオンが言っていた通り、本当に生きていたとはな。しかも《詐欺師》と呼ばれ、ソッチ側にいるとは予想外にも程がある。念のためにお前に関する記憶も改竄しておかなかったら、計画が早々に頓挫していた所だ。それについては正解だったな」

 

「……ああ、そうかよ」

 

 

ウィリアムは落としていた拳銃を拾い上げる。その目には凄まじい怒りが宿り、言葉にも隠しきれない怒りが滲んでいる。

 

 

「うそ……だよね……?」

 

 

現実を認められず、弱々しく呟くリィエルにライネルは―――

 

 

「リィエル、君はもういらないや」

 

 

にこやかな顔で、嘲笑うように、無情な言葉でリィエルに向かって言い捨てた。

 

 

「テメェエエエエエエエエエエエ―――ッ!」

 

 

グレンの怒りの咆哮と共に、ウィリアムはライネルに向かって銃撃を放つ。

狂いもなくライネルに向かう非殺傷弾。

そのゴムの弾丸は不意に割って入った影によって弾かれる。

 

ウィリアムとグレンは目の前の光景に硬直する。

 

 

「だって、()()()()()()()()()()

 

 

そこには、ライネルを守るように立つ、ボンテージ姿の三体のリィエルという、悪夢の光景が広がっていた。

 

 

 




剣術とかの武術は相応の下地と基礎がないと発揮しない、と自分は考えてます
当時の主人公にはそれが全く無い
そんな主人公が、僅か数年で渡り合う為に目をつけたのが、最初から一定の強さを発揮する銃なんです
そして、武器の性能を上げる事で技量の低さをカバーしたんですよ
この設定でも無理あるかな······?
感想お待ちしてます


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二十七話(改)

二番煎じ、お約束·····そんな風にしか書けない低脳作者······それが私である
てな訳でどうぞ


「成功、してる……だと!?」

 

 

目の前の現実に、グレンは目を見開き驚愕し、ウィリアムも絶句している。

『Project:Revive Life』―――シオンの固有魔術(オリジナル)がなければ、成立しない筈の儀式魔術が、目の前で成功したのだから。

 

 

「残念だったな!?もうこれはシオンだけのものじゃない!!この、ルミアという部品のおかげでな!」

 

 

そんな硬直する二人に、ライネルはさらに声を上げる。

 

 

「これでいくらでも俺はリィエルを作り出せる!こいつらから余計なものは、念入りに削除してあるからな!俺だけの操り人形だ!この無限の力で俺は組織をのし上がる!お前達はその足掛かりだ!!」

 

「あ……あぁ……ぁあああああああああああああああああああああ―――ッ!?」

 

 

ライネルのその言葉で、ついにリィエルの理性が限界に達し、悲痛な叫び声が響き渡る。

 

 

「さあ、やれ!そいつらを始末しろ――ッ!」

 

 

ライネルの号令で、レプリカ達は俊敏に動き、その内の一体がリィエルへと肉薄し、斬りかかる。

脳天に迫る白刃。稲妻の如く振り下ろされる剣を、リィエルは虚ろな目で呆然と見つめ―――

 

ガキィイインッ!

 

ウィリアムがすぐさまその間に割って入り、手に持っていた拳銃で、その大剣を受け止め、軌道をリィエルから逸らす。

 

 

「―――らぁッ!」

 

 

そしてそのまま、流れるようにレプリカの腹に蹴りを入れ、レプリカを蹴り飛ばして追い払う。

 

 

「ボケッとすんな!さっさとここから逃げろ!」

 

 

ウィリアムはそんなリィエルに、この場から逃げるよう促すが……

 

 

「…………」

 

 

リィエル虚ろな瞳のままで、一向に動く気配がなかった。

 

 

「―――くそッ!先公!二人を連れて、ここから離れてくれ!」

 

 

一人では動けない状態と判断し、ウィリアムはグレンにルミアとリィエルを連れて立ち去るよう告げる。

 

 

「バカ野郎ッ!ここで一人で戦うつもりか!?それは教師である俺の役目だ!」

 

「アホか!先公じゃ、こいつらと相性が最悪過ぎんだろうが!?」

 

 

そんな互いに一歩も譲らぬやり取りに―――

 

 

「バカめ!逃がすと思っているのか!?」

 

 

愉悦に表情を歪めたライネルがそう言い放つと同時に、奥にある砕けていなかった残り三本の氷晶石柱が砕け散り、ソコから新たにリィエル・レプリカが三体現れる。

計六体となったレプリカ達は俊敏な動作でウィリアム達を囲むように包囲し、彼らを始末せんと餓浪(がろう)のごとき瞬動で殺到し、一斉に襲いかかってくる。

嵐のごとく襲いかかる剣戟乱舞。その猛攻からリィエルを守るために、ウィリアムとグレンは必死に食い下がっていく。

 

 

(クソッ!どうやって抑えこむ!?)

 

 

レプリカ達の怒涛の斬撃の嵐を銃撃と銃身の受け流しで捌き、対処しきれずに浅い傷を負いながらも、ウィリアムは打開策を考える。

レプリカを瞬殺するのは可能だ。だが、心が崩壊しているリィエルにそんな光景を見せれば、彼女の心が完全に砕け散るのかもしれない。それでは意味が無い以上、殺す訳にはいかない。

彼女達を殺す行為自体、正直心苦しいのだが、ライネルの手によって人格と感情を失い、人として生きていく事が出来なくなっている以上、殺す事が彼女達の救いなのだ。

最も、この状況では出来ないのだが……

 

 

「……どうして……わたしを……守っているの?」

 

 

そんな手詰まりに近い状況で、リィエルはウィリアムの背中を見つめながら、ポツリと疑問の声を洩らす。

 

 

「わたしは、何もない……人形、なのに……」

 

「ンなもん、知るかボケェッ!」

 

「人形がそんなつらそうな顔をする訳ねぇだろ!」

 

 

グレンはレプリカを殴り飛ばし、ウィリアムは義手で大剣を受け止め、左手に錬成した拳銃をレプリカの胸元に向け、非殺傷弾を叩き込んで、怯ませる。

ウィリアムはここにきて、二年ものブランクが響き始めているが、それでも的確に銃弾で牽制して必死に対処していく。

 

 

「グレンにヒドイことをして……クラスのみんなにも……ヒドイことを言ったし……」

 

「なら全員に頭下げて謝れ!」

 

「俺は許さねぇぞ!むっちゃッ痛かったんだからな!お尻ペンペンするまで絶対許さん!!」

 

「ドサクサに紛れて尻を触るつもりか!?このセクハラ教師が!!」

 

 

そんなやり取りをしながらも、グレンは白羽取り、ウィリアムは両手の拳銃を交差させ、レプリカの大剣を受け止める。

そして、グレンは頭突きと掌低で、ウィリアムは肘内で突き放す。

 

 

「わたしは……生まれた意味がわからない……」

 

 

ウィリアムが袈裟斬りの斬閃を銃撃で大剣を弾き飛ばす事でいなし、レプリカの額に非殺傷弾を撃ち込む―――

 

 

「兄さんのためだけに生きてきて……だけど、その兄さんは初めからいなくて……」

 

 

右から迫る横一文字の斬閃を再び義手で受け止める。義手の付け根が悲鳴を上げるが構わずにレプリカの懐に潜り込み、体当たりで吹き飛ばす―――

 

 

「他人の記憶で……死んだ人のコピーで……」

 

 

左右から同時に襲いかかるレプリカの大剣を銃撃で辛うじて弾いて払い、片方は非殺傷弾で追い払いながら、もう片方を蹴り飛ばす―――

 

 

「人間じゃないわたしは……もう……自分がなんなのか…………」

 

「いつまで無いもんバッカに目を向けてんだ、このど阿呆!!いい加減、自分の心に目を向けやがれ!!」

 

 

自分を見失い、絶望しているリィエルに、レプリカに右大腿部を軽く斬られ、銃撃で追い払ったウィリアムの怒声が響き渡る。

 

 

「お前の心は何を言っている!?何を叫んでいる!?グレンの先公と出会い、保護されてからのお前自身の記憶の中でさえ、何もないというのか!?」

 

「何もない奴は絶望なんかしねぇんだよ!リィエル!」

 

 

迫り続く猛攻を捌きながら、ウィリアムとグレンはリィエルに向かって声を上げ続ける。

 

 

「俺がお前を守るのは、イルシアのコピーだからじゃない!お前が―――リィエル=レイフォードという名の『人間』が、もう俺の中の大切に含まれているからだ!!!」

 

「自分が大切だと思うなにかのために生きてみろ!世界は結構単純なんだよ!」

 

「「だから、お前は人形なんかじゃねぇんだよッ!この大馬鹿野郎がぁあああああああああああああ―――ッ!?」」

 

 

グレンとウィリアムの魂の叫びが部屋中に響き渡る。その魂の叫びは―――

 

 

「うっ……あぁ……」

 

 

頑なに凍てついていたリィエルの心を溶かしていき、目尻から涙を溢れ始めさせていた。

 

 

そんなリィエルの目の前で、六つの凶刃がグレンとウィリアムに容赦なく襲いかかる―――

 

 

 




魔法金属の錬成について
追想日誌にて、あの明後日方向のベルトから錬成自体は不可能ではないと判断しました
本物が出回っており、錬金術に特化した魔術特性、数分という短い時間なら何とかいけるのでは······と考えました
不可能を可能にするのが固有魔術なので······
それでも無理でしたら独自解釈で強引に納得してください
当然あの矛盾金属は作れません。実物を知らないから当然です
感想お待ちしてます


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二十八話(改)

オリジナリティは·······あまりないなぁ·······パクりだなぁ·······
てな訳でどうぞ

*少し改変しました


「わ、わたしは……」

 

 

自分を、兄を、全てを失ったわたし。その上でわたしは何を願うのか。

素直に自分の心に目を向けてみる。

そこに浮かんだのは、魔術学院に来てからの生活、呆れるグレン、怒るシスティーナ、笑いかけるルミア、自分に話しかけるクラスのみんな、容赦のなく折檻するウィリアム、そんなみんながいるあの場所に―――

 

 

―――また一緒に居たい、遊びたい。

 

 

(あ……)

 

 

ソコでようやく気がつく。あの暖かい世界が自分にとって、かけがえのない大切なモノだということに。

そして、再び思い出されるイルシアの記憶―――

 

 

 

 

―――いつか、ウィルと再会してほしい。

 

―――僕もそう思っていた。けど、組織の話を偶然聞いたんだ。

 

―――四年程前、一人の老人に妨害され殺せなかった、組織から逃げ出した子供がいたと。殺した事にして、他の人が裏切れないよう釘を指したということを。

 

―――もしかしたらウィルは……ウィリアムは今も生きているかもしれないんだ……

 

 

 

 

イルシアの記憶の中の兄の言葉。そして―――

 

 

 

『そ、そうだ!君の名前は何て言うのかな?』

 

『……ウィリアム=アイゼン』

 

『ウィリアム、かぁ…………それならウィルだね』

 

『……は?何でだよ?』

 

『えっと、怖がっちゃったお詫びなんだけど……ダメかな?』

 

『……好きにしろ』

 

『ありがとうウィル!』

 

『ふん……』

 

 

 

イルシアの記憶の中にある靄の取れた紺髪銀目の少年との最初の出会い。そのイルシアの記憶の中の少年と、大切だから守ると言って、目の前で戦い続けているウィリアムが重なっていく。

 

 

(ああ……)

 

 

どうしてウィリアムにグレンと似たような心地よさを感じていたのか、今、はっきりとわかった。

ウィリアムはあの時の―――死んだと思っていた彼だったんだ―――

わたしは、もう、ルミアとシスティーナ、クラスのみんなと一緒にいられないけど。

ウィリアムに対するこの気持ちは、イルシアのものかもしれないけど。

ルミアとシスティーナが悲しい顔をするのは、クラスのみんなから笑顔が消えるのは、すごく嫌だ。

ウィリアムが死ぬ姿を見るのは―――すごく、嫌だ。

 

 

「……ぅ」

 

 

そして、湧き起こる激情と燃え上がる熱情が、リィエルに力を与えていく。

その胸の内に宿った想いのままに、リィエルは改良型の【隠す爪(ハイドゥン・クロウ)】を起動。

錬成した大剣を手に立ち上がり、残像すら置き去りにする挙動で躍動した。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

―――風が吹き上がった。

 

その風は瞬く間に、グレンとウィリアムを斬ろうとしたレプリカ達を、盛大に咲いた血華と共に吹き飛ばした。

 

 

「は……?」

 

 

その目の前の現実―――リィエルによって、一瞬で斬り伏せられたレプリカ達の姿にライネルは呆然とするが、次第に顔を歪めていき―――

 

 

「ば、ば、馬鹿なぁあああああああああああ―――ッ!?」

 

 

信じられないと云わんばかりに、叫び声を上げた。

 

 

「何故だ!?コイツらは、そこのリィエル(ガラクタ)と同じ性能なんだぞ!?なのに何故!?」

 

「アホか」

 

 

そんな喚き散らすライネルに、全身ボロボロとなっているウィリアムは冷め気味で答えを口にする。

 

 

「人間は成長するもんだ。リィエルは『人間』だから、むしろこうなって当然だろ」

 

 

リィエルはグレンに保護されてからずっと、宮廷魔導士として戦い続けていた。当然、実力は自然と上がる。

それに対し、レプリカは当時―――二年前の『イルシア』のデータで作られていた。

ライネルの言葉と、最初のレプリカとの攻防でウィリアムはそれに気づいていたのだが、リィエルの事があり、レプリカ達を殺せなかっただけである。

 

 

「『人間』……わたしが……」

 

「ふ、ふざけるな!人形が成長なんてする筈―――」

 

「……お前と議論するつもりはねぇ……今重要なのは……」

 

 

ウィリアムはそのままライネルの前に立ち、据わった目で睨み付け、右手の拳銃をライネルへと向ける。

 

 

「ケジメをチッキリつけてもらう事の方だ……」

 

「ひ……た、《猛き雷帝よ・極光の閃槍以て・刺し穿て》―――ッ!」

 

 

ライネルは怯みながらも、左手を構え、呪文を紡ぐ。

左手から放たれる雷閃―――黒魔【ライトニング・ピアス】。

ライネルから放たれたその一条の雷閃は、突如顕れた幾何学的な羽を有する盾―――【騎士の楯(ナイツ・シールド)】によって弾かれる。

 

 

「なッ!?」

 

「人の十八番(オハコ)くらい把握しとけ、このマヌケ」

 

 

ウィリアムはそう言い、いつの間に持ち変えたのか、左手に持つ淡く発光する翡翠の石板(エメラルド・タブレット)を見せつける。

固有魔術(オリジナル)【詐欺師の工房】。術者を中心とした効果領域内で人工精霊(タルパ)すら生み出す、五工程(クイント・アクション)省略のイメージによる瞬間錬成。

 

 

「じょ、冗談なんだろ?俺を―――」

 

 

ドゴォオオオオオンッ!!!

 

ライネルの言葉は、凄まじい銃声と後ろの破砕音で返された。

ライネルは脂汗を流しながら、恐る恐る後ろへと振り向くと、後ろの壁には大きな窪みが出来上がっていた。

そして、改めてウィリアムへ顔を向け直すと、拳銃から立ち上る硝煙と、その拳銃の上に一対の羽を持つ紫色の重四角錐の小さな何かが留まって電気を放出している。

人工精霊(タルパ)招雷霊(ヴォルト)(フェイク)】―――雷の精霊ヴォルトを人工精霊(タルパ)として具現召喚したものだ。

 

 

「ひぃいいいッ!?」

 

 

ウィリアムが本気と分かり、身を震わせながら悲鳴を上げるライネル。そのウィリアムは懐から金属薬莢の銃弾を取りだし、拳銃へと手作業で装填する。

そして装填を終え、再びライネルへと拳銃を向ける。

 

 

「駄目だよウィリアム君!!復讐なんて―――」

 

「ルミア、目を瞑ってろ」

 

 

今までの会話から、事情を察したルミアがウィリアムに静止の声をかけるが、ウィリアムは取り合わずにルミアにそう言い、がちり、と撃鉄を引く。

 

 

「ゆ、許してくれ……俺は……」

 

 

そんなウィリアムに、ライネルは命乞いを始める。

 

 

「アイツが羨ましかった……常に俺の先を行くアイツが……」

 

「……」

 

 

嫉妬と羨望、様々な感情が混じったライネルの吐露をウィリアムは無言で聞く。

 

 

「アイツは本当の天才だった!だから簡単に目の前の成功を手放せたんだ!!俺には出来なかった!お前のように、誰かの為に戦うことも!!シオンのように、自由の為に捨てることも!!そんな強さは俺には……!」

 

「言いたいことはそれだけか?」

 

 

ライネルの告白を、ウィリアムはそんな無情な言葉で返した。

 

 

「『家族』をその手にかけた時点で俺はお前を許す気は一切ないんだよ……」

 

 

その言葉を区切りに、ウィリアムは銃の引き金に力を入れていく。

その迫り来る死に、ライネルは逃げる事も出来ず、ガタガタと身体を震わせ……

 

 

「い……嫌だぁあああああああああああああああああああああ―――ッ!!!?」

 

 

ドォオオオオオオオオンッ!!!!

 

引き金が引かれ、凄まじい銃声が再び鳴り響く。ルミアは最悪の光景を覚悟し、恐る恐る目を見開くも……

 

 

「……え?」

 

 

ルミアの目に映った光景は、硝煙の昇る拳銃を構えたウィリアムと……

 

 

「あ……ぅあ……」

 

 

腰が抜け、床に尻餅をつき、憔悴した顔ながらも確かに生きているライネルの姿だった。

 

 

「空砲だ。火薬だけの空撃ちだバーロー」

 

「あ……あ……ああ……」

 

「俺はお前と同じ『家族』殺しのクズになる気は更々ねぇんだよ。だから、お前に送るのは銃弾じゃなく……」

 

 

ウィリアムは拳銃をホルスターに仕舞いながら、経垂れ込むライネルの胸ぐらを左手で掴み上げ―――

 

 

「この()()だ、馬鹿野郎」

 

 

そのままライネルの顔面を引き絞った右拳で、全力で殴り飛ばした。

 

 

「うごはッ!?」

 

 

()()の鉄拳で派手に殴り飛ばされたライネルは、口から白い物体を幾つか吐き出しながら地面を転がり、白目を向いて沈黙した。

 

 

「……正直、肝が冷えたぞウィリアム」

 

 

見守っていたグレンは深い溜め息をつく。最初の銃撃をわざと外し、見せつけるように銃弾を装填していた時点でウィリアムの魂胆をある程度見抜いていたのだが、それでも、本当にライネルを殺すのではないかと不安だったのだ。

 

 

「それで、先公はどうする?」

 

「モチロン、最後の仕上げだ」

 

 

先程までの雰囲気を霧散させたウィリアムの質問に、グレンはそう言ってロープを取り出す。そんなグレンにウィリアムは―――

 

 

「じゃあ、ちょっとだけ『手入れ』をするか。と、その前に……」

 

 

ハサミとクシをその手に錬成したウィリアムは、ルミアを解放し、その場から消えようとしたリィエルの走る道に錬金術で窪みを作る。

リィエルはその窪みに足を取られてしまい、地面へ顔面からダイブする。見事なまでに足を取られ、地面と口づけしたリィエルに、ルミアが覆い被さって抱きつき、これからもリィエルと一緒に居たいという思いを伝える。

そんなルミアの優しさに、リィエルは大粒の涙を流して泣き始める。

その光景を尻目に二人は『作品』作りにせっせと取りかかっていった。

 

 

 

――――――

 

 

 

出来上がった東方由来の『落武者』の髪型の『作品』に製作者の二人は大爆笑、リィエルは首を傾げ、ルミアは目を反らしながら苦笑い、アルベルトは呆れていた。

 

 

ちなみにある部署の魔導士の老人はその『作品』の写真を見て―――

 

 

「ぷぎゃーーーーっはっはっはっ!こりゃ傑作じゃわい!!」

 

 

腹を抱えて爆笑していた。

 

 

 




落武者ヘアであの作品······どう思います?
笑えるのは私だけでしょうか?
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二十九話(改)

うーん、こんなんで大丈夫なのかな·····?
文才無しの妄想の権化とはいえ······
てな訳でどうぞ


明け方に彼らは帰ってきた。

アルベルトは事後処理等の事情で別れており、旅籠にはグレンとウィリアム、ルミアにリィエルの四人だけだ。

全員、ボロボロの格好で帰ってきたのだから出迎えた一同は当然驚いたが、すぐに無事に戻ってきた事に安堵する。

そしてシスティーナが駆け寄ってすぐさまリィエルの頬を叩き、そのまま涙ぐみながらリィエルに抱きついた。

リィエルも、あれだけ酷いことをしたにも関わらず許してくれた事に、涙を零していく。

その光景だけで、クラスメイトは何も聞かず、無条件で受け入れてくれた。

 

 

「ホンット、俺のクラスはお人よしな奴らばかりだよな……」

 

 

ウィリアムはボソリと、誰に言うわけでもなく呟き、抱き合って泣いている三人の姿を見守り続けた。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

遠征学修は中止となった。

その最たる理由は、研究所所長のバークスが突然『失踪』したからだ(実際はアルベルトがバークスを始末した)。

その為、サイネリアは研究所内の『不幸な事故』の調査の為、現在ゴタゴタとしており、島にいる全員に退去命令が出ている。

しかし、観光地でもあるため人数も相当な数であり、退去にはそれなりの時間がかかる。

そのため、ウィリアム達には丸一日の自由時間が出来上がる事となった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

現在浜辺にてビーチバレーが行われている。

リィエルの殺人スパイクがまたも炸裂し、相手の男子チームは派手に吹き飛んでいく。

そんな光景を少し離れた場所でウィリアムは一人で眺めていた。

 

 

「おおう、相変わらずの威力だ」

 

 

ウィリアムはそんな事を呟きながら日除けの石屋根の下で腰かけている。当然、この石屋根はウィリアムが錬金術で作ったものだ。

そんな無駄な事に錬金術を使ったウィリアムに、一人の少女が近づいてくる。

 

 

「休憩か?」

 

「ん」

 

 

その少女―――リィエルは短く頷き、ウィリアムの隣へ膝を抱えるように腰かける。

 

 

「休憩が終わったら試合しよ?ボールを当てたいから」

 

「日頃の仕返しのつもりなら、自分の行いを振り返ってから言え」

 

「暴力を振るう方が悪い」

 

「破壊を振り撒くお前が言うなぁあああああッ!!」

 

「痛い、また暴力を振るった」

 

 

リィエルの頭をウィリアムは右手で鷲掴みにして締め上げる。

相変わらずのそんなやりとりの中、不意にリィエルはポツリと呟く。

 

 

「……ねえ、わたしは本当にこの場所にいていいのかな?」

 

 

その呟きにウィリアムは―――

 

 

「知らん。お前がいたいか、いたくないかだけの話だ」

 

 

一見、無情ともとれる言葉で返した。

 

 

「……」

 

「みんなに酷い事をした、その過去はもう変わらねぇんだ。もしこの場所にいたいと本気で思ってんなら……」

 

 

そこでウィリアムはリィエルの頭を締め上げていた手を緩め、優しく頭を撫でる。

 

 

「昔はこんな事もあった、とみんなが笑って語れるくらい頑張ってみろ」

 

「……ん、わかった。そうなるくらい、頑張ってみる」

 

 

リィエルはその言葉に力強く頷く。

 

 

「とりあえず、ルミアとシスティーナを守る。そして、グレンの力になりたいし、ウィリアムの事も守りたい」

 

「……理由は?」

 

「わたしがそうしたいから。代わりとかじゃなくわたし自身がそうしたいと思ったから……ウィリアムの事はちょっとわからないけど」

 

「なんじゃそりゃ」

 

 

自分に関して曖昧な事にウィリアムは思わず呆れた声を出す。そんなウィリアムにリィエルは言葉を続けていく。

 

 

「ウィリアムの事を守りたい……この想いはイルシアのものなのか、わたし自身のものなのか、よく分からないけど……ちゃんと分かりたいからまずは守ってみる……ダメかな?」

 

「……好きにしろ」

 

「ん、わかった。好きにする。あと……ウィルってわたしも呼んでいいかな?」

 

「どうぞご自由に」

 

 

ほとんど投げやりな感じで返すウィリアムに―――

 

 

「ありがとう、ウィル」

 

 

リィエルは微笑んで、お礼を言った。

そんなやりとりの中、ウィリアムの口は微かに笑っていた―――

 

 

―――ちなみに、ウィリアムがリィエルに愛称で呼ばれる事を知った一同は、女子生徒は興奮気味に邪推し、男子生徒は嫉妬に駆られて詰め寄ってくる事となった。

 

 

 




これで原作三、四巻は終了です
ここから先はどうなることやら·······続くかな······?(続いたらいいなぁ)
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幕間・《詐欺師》のお金事情
三十話


オリジナル回ですね
面白く書けたらいいなぁ······
てな訳でどうぞ


あの遠征学修から学院に帰還して三日経った昼頃。その中庭にて―――

 

 

「ウィリアム頼む!俺に昼飯を奢ってくれ!」

 

 

ウィリアムの脚にしがみつき、昼食代をタカるグレンがいた。

 

 

「生徒にタカるな!ダメ先公!」

 

 

そんなグレンをウィリアムは無情に切り捨てようとする。まあ、当然である。

 

 

「リィエルのせいで俺の給料が天引きされてヤベェんだッ!セリカのやつは助けてくれねぇし、あのクソ鴉は俺を馬鹿にするように鳴くし!」

 

 

グレンはリィエルの事を話題に出せば、ウィリアムは渋々ながらも奢ってくれるだろうとロクでもない事を考えていた。

 

 

「その給料をギャンブルに注ぎ込んでるくせに何言ってやがる!!」

 

 

しかし、その目論見はあっさりと崩れ去った。

 

 

「何でその事を知っているんだ!?」

 

「学院中で噂になってんだよ。ちなみに出所は教授からだ」

 

「セリカァアアアアアアアアアアアアアアア―――ッ!!?」

 

「つう訳で先公には―――」

 

「そこをドウカァアアアアアアアアアア―――ッ!このままじゃ餓え死にしちゃうぅうううううううううううううう―――ッ!!!」

 

 

ウィリアムの腰にしがみつきながら、必死に涙目で懇願するグレン。

あまりのしつこさにウィリアムはうんざりし、結局、銅貨三枚分の食事を奢る事となった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「なあ白猫、ルミア。アイツは何かバイトでもやっているのか?」

 

 

本日の授業が全て終わった放課後。グレンはシスティーナとルミアにそんな事を聞く。

 

 

「いきなり何です?藪から棒に」

 

「ひょっとしてウィリアム君のことですか?」

 

 

グレンの突然の質問にシスティーナは訝しみ、ルミアはウィリアムのことなのかと問う。

 

 

「ああ。それでどうなんだ?」

 

「いえ、そんな話は聞いたことが無いですね……どうしてそのような事を?」

 

「いや、アイツの金回りに関してちょっと疑問に思ってよ……」

 

 

グレンのその言葉にそういえば、と二人は納得する。

システィーナとルミアもウィリアムの素性は遠征学修の一件からグレンとリィエル、本人によって大まかに知っている。それだけに疑問が浮かぶのだ。

ウィリアムには保護者もいない、奨学金や学費の免除等、アレでは絶対に降りない。それ以前に普段の生活もある。なら、どうやって決して安くない学費を納めているのだろうか。

 

 

「……よし」

 

 

そんな中、グレンは何かを閃いた顔となる。

 

 

「今度の休み、アイツの家に行くぞ」

 

 

グレンが思いついたのは、まさかのお宅訪問だった。

 

 

「アイツの家に行って、金回りの秘密を聞き出す。これしかない」

 

「……そんな事をしなくても普通に聞けばいいんじゃないかしら?」

 

「甘いぞ白猫。普通に聞いても絶対にはぐらかすに決まっている。なら現場を押さえて聞き出さない限り、喋ろうとしない筈だ」

 

 

最もらしい言葉でシスティーナの提案に反論するグレン。そんなグレンにはある目論見があった。

 

 

(アイツの金はおそらくグレーゾーン……《詐欺師》時代で手にした、手を出されても文句の言えない金の筈だ!ならその金を()()いただいても何も言えない筈……!フッ、我ながらなんという名案だ!!)

 

 

……相当ロクでもない事を考えていた。

 

 

「……先生、またロクでもない事考えてません?」

 

「アハハ……」

 

 

そんな悪どい笑みを浮かべるグレンの様子に、システィーナは疑惑の目を向け、ルミアは苦笑いをしている。

 

 

「?ウィルの家に行くの?なら行ってみたい」

 

 

今まで会話に参加していなかったリィエルから、そんな声が上がる。

 

 

「ウィルがどんな家に住んでいるのか、見てみたい」

 

「ほら!リィエルもこう言っているんだ!せっかくだからウィリアムの家に行こうぜ!?」

 

 

グレンはリィエルの言葉に、我が意を得たりと言わんばかりに捲し立てていく。

 

 

「まぁ、リィエルがそう言うのなら……」

 

「せっかくだし、遊びにいこうかな?」

 

 

二人もそんな感じで了承し、今度の休日はウィリアムの電撃お宅訪問に決まった。

 

 

 




何事にも金がいる
そのお金は何処から出している?そんな感じの回です
感想お待ちしてます


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三十一話

何事も
帳尻合わせの
天秤あり
てな訳でどうぞ


電撃お宅訪問が決まった日から数日たった休日。

フェジテ西地区―――賑やかな住宅街から少し離れた、空き家が目立つ地域。

そのなかの一つ、少し古い家の前にグレン達は私服姿で来ていた。

 

 

「此処にアイツが住んでいる筈だ」

 

 

学院の資料等から事前に把握していたグレンは家を見上げて呟く。

目指すはこの家にある筈のお宝(お金)である!!

 

そんなドクズな事を考えるグレンを尻目に、三人は玄関の前に立ち、システィーナから拝借したブラウスとスカートに身を包んだリィエルが代表して扉を叩く。

少しして、がちゃりっ。と玄関の扉が開く。

 

 

「……何しに来たんだ?」

 

「遊びに来た」

 

 

家の家主―――半袖姿で突然の訪問に訝しむウィリアムに、リィエルはそう答えた。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「それで、一体何しにこんな所まで来たんだ?先公と一緒に」

 

 

とりあえずリィエル達を家に上げ、訪問目的を聞くウィリアム。一応紅茶を出したのだが―――

 

 

『微妙』

 

 

と、見事にハモった感想に若干不機嫌になっていた。

 

 

「ん。ウィルの住んでいる家に来てみたかった」

 

「そんなリィエルに、俺らは付き添ったんだよ!コイツ一人じゃどうなるか分からないからな!!そうだろ、お前ら!?」

 

 

リィエルの純粋な理由に、グレンは便乗するように理由を話す。

 

 

「え、ええ!その通りよ!」

 

「う、うん。リィエル一人で辿り着けるか心配だったし!」

 

「むう……」

 

 

便乗しつつ、失礼極まりないシスティーナとルミアの物言いにリィエルは頬を若干膨らませて、ふて腐れる。

 

 

「……まあ、そうだな」

 

 

その理由にウィリアムも理解を示し、一応は納得した。

 

 

「まあ、たいした持て成しは出来ねぇがゆっくりしとけ」

 

 

ウィリアムは布袋に包まれていない義手の右腕でヒラヒラと手を振る。義手の右腕は灰色であることをを除けば、普通の腕と何ら見た目が変わっていなかった。

 

 

「……どう見てもヤワには見えないわよ、その腕」

 

「こんなん堂々と見せたら流石に怪しまれるっつーの」

 

 

システィーナのツッコミにウィリアムはそう返す。

システィーナは確かに、と納得する。神経と霊絡(パス)が義手と繋がっているだけでも凄いのに、ここまで普通の腕と似ていたら、流石に怪しむ。

 

 

「それにしてもウィリアム君、髪伸びてない?」

 

 

ルミアがウィリアムにそう聞く。まずは日常的な会話から進んでいき、本命を聞く。いきなり本命を切り出せば話さないだろうという考えからだ。

 

 

「そういえばそうだな。近々切るか」

 

「どこで髪を切っているのかな?」

 

「自分で切ってる」

 

「……へ?」

 

 

ウィリアムの予想外の返しに、ルミアは思わず呆けた声が洩れる。

 

 

「で、でも、後ろとか自分で切れないよね?」

 

 

ルミアのそんな最もな指摘に、ウィリアムは翡翠の石板(エメラルド・タブレット)を取り出す。

翡翠の石板(エメラルド・タブレット)が淡く発光すると同時に人工精霊(タルパ)―――上半身のみの、ゴツい甲冑をきた幾何学的な羽を有する騎士を具現召喚する。

 

 

「視覚を同調させた人工精霊(タルパ)を使って髪を切っている。理解したか?」

 

 

その説明と同時に具現召喚した人工精霊(タルパ)を消去る。だから妙に散髪技術が高かったのかと、グレンとルミアは納得した。

 

 

「しかし、魔薬(ドラッグ)無しで人工精霊(タルパ)召喚をやるとか、今でも信じられねぇよ」

 

 

グレンがウィリアムの裏技にそんな事を言う。実はウィリアム自身、試しにやってみたら出来たという、偶発による産物なのだ。

 

翡翠の石板(エメラルド・タブレット)により展開される領域は、一種の疑似深層意識領域(パラ・キャパシティ)となっている。術者のイメージが相当反映されやすい領域となっており、だから疑似霊素粒子粉末(パラ・エテリオンパウダー)があれば人工精霊(タルパ)が具現召喚可能となっているのだ。

 

当然ながら、リスクがない代わりの欠点も幾つか存在する。具現時間の制限に強大な人工精霊(タルパ)の召喚不可である。

疑似霊素粒子粉末(パラ・エテリオンパウダー)をスクリーンとして具現召喚する人工精霊(タルパ)は、当然、大きい存在ならそれ相応のスクリーンが必須だ。【詐欺師の工房】ではそのスクリーンが小さい。だから天使クラスの人工精霊(タルパ)が限界であり、それ以上の存在―――神の具現化等、不可能である。そして、一度に呼び出せる量にも限りがあるのだ。

 

 

「そうだウィリアム!!貴方のその固有魔術(オリジナル)なら空想上の古代魔法遺産のアレを作れるんじゃない!?」

 

 

古代文明マニアのシスティーナが何を思いついたのか、あの魔法金属を作れるんじゃないのかと訊いてくる。

それに対しウィリアムは―――

 

 

「アホか。知らないモンを作れるわけねぇだろ」

 

 

バッサリと否定した。

ウィリアムのこの固有魔術(オリジナル)は願えば何でも作れる、そんな便利なものではない。

仮に銃を錬成する場合、形状は勿論、その内部の構造、構成する材質に、それに対する根源素(オリジン)の数値と元素の配列等、具体的かつ正確な知識とイメージが必要なのだ。

これを組んだ最初の頃は、イメージと全然違っていたり、中身が全く成立していないガラクタだったり、全く別のものが出来上がったりと、散々な結果だったのだ。

だから、名前だけで中身を全く知らないものなど作れる筈がない。その説明を受けたシスティーナは肩を下ろす結果となった。

 

 

 

彼らの休日はまだまだ続く。

 

 

 




こんな感じの説明会
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三十二話

ホント、都合の良い事しか書かないなぁ······
てな訳でどうぞ


「しかし、銃を錬成するなんて、どう考えたらソコにいきつくんだよ?」

 

 

グレンが最もらしい疑問を聞く。

その疑問にもウィリアムは答えていく。

 

六年前の時点では、魔術の下地は研究に必要な事しかほとんど教えられず、脆いものだった

加えて戦闘経験も武術の心得も一切無いのだ。加えて師匠にも剣術の心得はなかった。

それを僅か数年で大人数の魔術師を相手に一人で挑もうというのだ。相当無謀な行為である

だからまずは最も効率良く使える錬金術を中心とした戦い方を目指す必要があった。

だが、【隠す爪(ハイドゥン・クロウ)】のような高速武器錬成の錬金術は十全に扱う事は出来ない。問題は錬成そのものではなく、その後の武器の扱いだ。

武術には、相応の下地と土台がいる。それを僅か数年で何の下地もない状態で超一流レベルに達するなど、天才でもなければ不可能だ。

現に【騎士の剣(ナイツ・ソード)】は〔振るう〕のではなく、基本は〔発射〕する使い方しか有効に使えない。ボーン・ゴーレムは簡単な動き故、レイクの時は不意討ちと、あり得ない事による動揺で抑えこめていただけである。

加えて、魔術特性(パーソナリティ)の影響で白魔術の適性は低い以上、その方法で強くなるには無理がある。

かといって攻性呪文(アサルト・スペル)の錬金術を使うだけでは、大人数の魔術師相手では勝ち目はない。必要なのは相手の油断と速攻の不意討ち、そして物理攻撃だ。

だからこそ、一流の魔術師には玩具同然の銃に目を付けたのだ。

銃なら火薬の量次第で簡単に高威力を出す事が出来、相手の油断も誘えるからだ。

……最も、「剣が無理なら銃。そして銃と錬金術の相性って良さそうだ」という単純思考が始まりなのだが……

 

 

「お前も結構単純なんだな……」

 

「ほっとけ」

 

 

この話を聞いたグレンもさすがに呆れていた。

 

 

「にしても……」

 

 

グレンがそう言い周りを見回す。室内の壁はかなりしっかりとした物であり、家の外見と全く合っていない。

これについてウィリアムは―――

 

 

「錬金術で勝手に作り変えた」

 

 

とツッコミどころ満載の解答で返し、グレン達は逆にツッコム気が失せていた。そして一枚の写真を見つける。

その写真には老人と子供が写っており、子供の方はウィリアムの面影がある。老人の方はおそらく、ウィリアムの魔術の師匠だろう。

 

 

「……このじいさん、どっかで見た気がするんだが……」

 

 

写真の老人とにらめっこするグレン。老人の肩には非常に見覚えのある鴉も乗っている。その鴉はアルフォネア邸に住み着いている魔獣―――ファントム・レイヴンだ。

 

魔獣〈ファントム・レイヴン〉。この魔獣の能力は―――『存在遮断』。

簡単に言えば、この魔獣はあらゆる探知に引っ掛からずに姿を消して動けるのだ。

戦闘能力は一切無いが、その隠蔽能力から偵察にもってこいであり、使い魔にするために何人もの魔術師が捕獲に動いたのだが、その強力すぎる隠蔽能力と知性の高さから捕獲は不可能だった、まさに喉から手が出るほど欲しい魔獣である。

セリカ曰く、『コイツは使い魔ではない』という事から、グレンも自分の使い魔にしようと狙ったのだが、その悉くが失敗しており、その上、馬鹿にするように鳴くから、もう『殆ど』諦めている。

そんな思考を隅に置き、グレンは写真の老人とにらめっこを続け……

 

 

「ああ―――ッ!?コイツ、セリカと一緒に飲んでた奴だ!!!」

 

 

不意に思い出したかのように声を上げる。

この写真の老人、グレンがセリカに引き取られてからしばらくして、家にやって来てセリカと一緒に酒を飲んでいたあの老人だったのだ。

まさかのつながりにグレンは驚愕せざるを得ない。

 

実はこの鴉、この老人の伝書鴉であり、セリカとはある程度手紙のやり取りをしていたのだ。

最も、グレンを引き取るまでは老人の一方的なものであったのだが、今は良いだろう。

 

 

「ホンット、世界が狭すぎだろ……」

 

 

この家に来てから何度目かわからないため息が洩れる。

そんなグレンを尻目に休日はまだ続く。

 

 

 




あの鴉はオリ魔獣でした
そしてこの鴉、相当気まぐれです
まあ、所詮鳥という事で·····
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三十三話

こんな感じでダイジョウブ?
モンダイナイ?
てな訳でどうぞ


「お腹空いた」

 

 

お昼が近づく頃合いに、リィエルがそう口にする。

 

 

「じゃあ、外で飯を食いにいくか。食材もそんな多くねぇし」

 

 

そんなリィエルに、ウィリアムは外での食事を提案するも……

 

 

「いや待て!どうせ今日一日ここにいるんだ!なら、外に食べに行くより買いに行った方がいいんじゃないか!?」

 

 

グレンが静止し、そんな提案をする。もちろん理由がある。

 

 

(このままウィリアムに買いに行かせれば、その間に家を調べられる!そして金、もしくは金目のものを頂く……完璧な作戦だ!!)

 

 

やはりこの男、最低なゴミでゴ(ピーー)以下の人間である。

 

 

「そうなると買い物はシス―――」

 

「いやウィリアム!お前が行くんだ!!そしてお前の作る料理を俺達に食わせろ!!」

 

「……一体何を考えてんだ先公?」

 

 

さすがに明らかにおかしい為、ウィリアムはグレンに疑惑の目を向ける。

 

 

「ひょっとして料理一つ作れないのかな?ウィリアム君?」

 

 

そんなウィリアムに、グレンは非常に苛つくセリフで煽ろうとするも―――

 

 

「五人分作るのが面倒なだけだ」

 

 

バッサリと返した。ウィリアムも相変わらずであった。

 

 

「なら、お茶のリベンジで作るのはどうかしら?」

 

 

システィーナが意外にも煽っていく。システィーナもグレンの狙い(一欠片)に気づいており、便乗したのだ。

 

 

「だから言っただろ、面倒だって」

 

「でも、このままだと料理下手と思われるけどいいのかな?」

 

「もうそれで―――」

 

 

ルミアも同様に煽るも、ウィリアムは全く靡かず断ろうとするも―――

 

 

「ウィルの料理、食べてみたい」

 

「……」

 

 

リィエルの要望一つでウィリアムは無言となった。グレン達はここぞとばかりにたたみかける

 

「ほら、リィエルもこう言ってるんだ!」

 

「リィエルのお願いを無下にするつもりかしら!?」

 

「リィエルに手料理を振る舞うと思って、ね?」

 

 

そんな三人の推しに―――

 

 

「……しゃあねぇか」

 

 

ウィリアムは折れた。相変わらず推しに弱いウィリアムであった。

 

 

「じゃあ、全員で」

 

「折角だし、リィエルと二人きりで買い物に行ってきなさいよ!!」

 

「……もう、それでいいか」

 

 

ウィリアムはこれ以上のやり取りが面倒なのか、システィーナの提案にあっさり了承した。

 

 

「念のために言っとくが家を荒らすなよ?」

 

 

ウィリアムはそう言い残して、リィエルと二人で南地区へと食材の調達に出掛けて行った。

残った三人は無言で頷き合い、一人は金欲しさに、二人は好奇心から、家の捜索を開始した。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「野菜が多い……」

 

「文句いうな。ちゃんと肉や魚もあるだろ」

 

「わたし、野菜、キライ……」

 

「好き嫌いしてたら、長生きできないぞ」

 

「……じゃあ苺タルト買って」

 

「……食後のデザートとして買っておくか。その変わり、野菜もちゃんと食べろよ?」

 

「……わかった」

 

 

そんなやり取りをしながら二人は材料を調達していく。

 

 

(シオンもイルシアに対してこういう気持ちになっていたのかな?)

 

 

まるで妹を相手にしているかのような気分にウィリアムはそう思う。最もウィリアムには血の繋がった家族の記憶は一切ないのだが。

連中に囲われる前、何も覚えていなかった自分を拾い、名前を与えてくれた二人と暮らしていた、幼い記憶に耽っていると―――

 

 

「ねぇ、ウィルはどうしてそんなにお金を持ってるの?」

 

「……んあ?」

 

 

リィエルの突然の質問に、ウィリアムは思わず呆けた声を出してしまう。

 

 

「グレン達が気にしていたから……」

 

「あいつら……それが目的だったのかよ……」

 

 

あっさり目的をばらしたリィエルに、ウィリアムはここにいない三人の顔を浮かべ、ウンザリした顔をする。

 

 

「……理由は家に帰ってから教えてやる」

 

「ん。わかった」

 

 

ウィリアムは少し考え、彼らには教えていいだろうと判断する。

リィエルも素直に頷き、二人は買い物を再開した。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

一方、その頃……

 

 

「何も……ない、だと……!?」

 

 

勝手に家を捜索し、何も見つからなかった事にグレンは愕然としていた。

あれから隅々まで調べたが、見事に空振ったのだ。

 

 

「あ、ありえない……このままでは俺の華麗なる横領計画が……!?」

 

「やっぱりロクでもない事を考えていたんですね!?まさかお金を盗むつもりだったんですか!?」

 

「あはは……」

 

 

グレンは思わず口を滑らせ、それを聞いたシスティーナが激しく問い詰める。ルミアはそれを苦笑いで見守っていた。

 

 

「……いや、待てよ?」

 

 

不意にグレンは何かに気づいて考えこむ。そして―――

 

 

「……そうか、地下か!!」

 

「へ?先生、いきなり何を言ってるんです!?」

 

 

驚くシスティーナを余所に、グレンは怪しいと睨んだ床にあるカーペットを捲り取る。

カーペットの下の床には不自然な切れ目があった。その切れ目は扉の形をとっていた。

 

 

「ビンゴ!!!」

 

 

グレンはそう言い、切れ目の手前にあるボタンらしきモノを押す。

 

 

ガコンッ

 

 

その音と共に切れ目のある床が沈み、奥へとスライドしていく。

現れたのは地下へと続く階段だった。

 

 

「はっはーーーッ!やっぱり俺様は天才だぜ!!」

 

 

グレンはそう言って地下空間へと降りていく。

呆然としていた二人も、すぐさま我に返って急いでグレンの後を追っていくのだった。

 

 

 




地下部屋は·····ロマンです
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三十四話

矛盾や問題は·····無い筈ですよね·····?
てな訳でどうぞ


地下への階段を降り、一つの扉へとたどり着いたグレン。

後ろから二人も駆けつけてくる。

 

 

「まさかこの家にこんなものがあるなんて……」

 

「イヤ、よく考えれば分かることだぞ白猫」

 

 

システィーナの呟きにグレンがそう返す。

さっきまで捜索していた場所には何もなかった―――拳銃も、魔導器も、外套さえもだ。

魔術的な細工も見つかなければ、可能性は絞られていく―――地下空間の存在へと。

つまりこの扉の向こうの部屋は保管庫兼作成部屋の筈だ。

 

 

「じゃあ……開けるぞ?」

 

 

グレンはそう言いドアノブに手をかけ、扉を開ける。

扉を開けると、そこは―――作業部屋だった。

積み上げられた木箱。大きな布に覆い隠された何か。四枚の棺桶の蓋らしきもの。床に書かれた小さな魔術法陣。壁に掛けられた数着の紺色の外套。《魔導砲ファランクス》もあり、机の上には金属薬莢がいくつも散らばっている。

 

 

「……こいつは?」

 

 

グレンは大きな布に覆い隠された何かに近づき、その大きな布を取る。

 

 

「なッ!?」

 

「ええ!?」

 

「嘘……!?」

 

 

その布の中身を見て三人は驚愕する。その布の中身は―――

 

 

 

 

―――ピカピカと輝く大量の純金と純銀のインゴットの山だった。

 

 

 

「ヨッシャアァアアアアアアアアアアア―――ッ!!お宝じゃあぁあああああああああ―――ッ!!!!」

 

「ま、まさか錬金術で……ッ!?」

 

「そ、そんな……」

 

 

グレンは歓喜の声を上げ、システィーナとルミアは、ウィリアムが魔導法第二十三条乙項等を破って犯罪に手を染めていた事にショックを受けた声を上げる。

 

 

「フッ、心配するな。これは責任を以て俺が全て回収する!」

 

「って、ドサクサに紛れて盗むつもりですか!?」

 

 

何時ものやり取りに突入しようとした、その矢先―――

 

 

「何してるんだ、お前ら?」

 

 

若干怒りに満ちたその言葉に、三人は部屋の入り口に目を向ける。

ソコにいたのはこの家の家主―――ウィリアムと一緒に出掛けていたリィエルの二人だった。

 

 

「フッ、犯罪の現場は押さえたぞウィリアム君!バラされたく―――」

 

 

指を指し脅迫するグレンを無視し、ウィリアムは積み上げられていた木箱の一つを床に降ろし、その蓋を開ける。

木箱の中には、金粉が箱いっぱいに入っていた。

 

 

「「「……へ?」」」

 

 

その言葉も無視し、ウィリアムは手にインゴットの金型を錬金術で作りだし、その金型に金粉を入れていく。

そして炎の魔術を浴びせたり、凍結の魔術で冷やしたりしていき……

 

 

「「「……」」」

 

 

最後に金型を消すと、一本の純金のインゴットが出来上がっていた。錬金術は金型以外には使われていなかった。

 

 

「「「………………」」」

 

「……何か言うことは?」

 

「「「すいませんでした!!!!」」」

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「さあ食え、冒険した料理をたらふく食え」

 

 

グレン、システィーナ、ルミアの三人の前に新たな料理が出される。勝手に家を捜索した罰に、試作の料理を食べさせられている。出され続けている試作の料理を前に三人は―――

 

 

「「「もう、勘弁して(くれ)(ください)……」」」

 

 

相当参り、弱音を吐いていた。

 

 

「?なんでみんなそんなに辛そうなの?」

 

 

唯一、マトモな料理を食べているリィエルはそんな三人の様子に首を傾げる。

 

 

「気にしなくていいんだよ。それより料理の感想は?」

 

「意外といける」

 

「意外とはなんだ、意外とは」

 

 

そんな他愛ないウィリアムとリィエルのやり取りの中―――

 

 

「まさか、錬金術を利用して、金粉や銀粉を集めてからインゴットに作り直して売るとか……」

 

「こんな事なら、最初から普通に聞くべきだっ、たね……」

 

「もう……限……界…………体、重……が……」

 

 

グレンとシスティーナ、ルミアの三人は絶賛、己の行動を後悔していた。

 

 

 

 

そんなこんなで休日は過ぎていった―――――

 

 

 




オリジナルはこれにて終了です
金の錬成が犯罪なら、魔術を利用した治金術ならセーフでは?という考えから書きました
けど、グレーゾーンでしょうね、これもおそらく·····
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第四章・結婚騒動に正義と美学。居たい場所
三十五話(改)


章によってクオリティが変わるとか····駄作の極みだなぁ····
てな訳でどうぞ


学院の前庭の隅っこ。そこに男性教師と女子生徒―――グレンとリィエルがいた。

 

 

「リィエル頼む……お前の力を貸してくれ」

 

 

グレンは真剣な表情でリィエルに何かを頼みこんでいる。

 

 

「……ん。わかった」

 

 

それに対し、リィエルはグレンの頼みにあっさりと了承する。そのまま手身近な石を拾って、錬金術で自身の手のひらの石ころを金塊へと錬成する。

この金欠講師(グレン)は金欲しさから、教え子(リィエル)に法で禁止されている金の錬成を頼みこんだのである。

その錬成された金をグレンが手に取ろうとした瞬間―――

 

 

「《何・考えてるんですか・このお馬鹿》ァアアアアアア―――ッ!!?」

 

 

システィーナの即興改変による【ゲイル・ブロウ】が炸裂し、グレンを噴水へと吹き飛ばした。

 

 

「リィエルに金を錬成させてどうするつもりですか!?」

 

「決まってんだろ?……売るんだよ!」

 

「犯罪ですよ!?そもそも――」

 

 

システィーナがグレンにいつものように説教している最中―――

 

 

「一体、なにをしていたのかなぁ?リィエル君?」

 

 

にこやかな顔で、未だに状況を理解していないリィエルの頭に右手を置くウィリアムがいた。

 

 

「グレンが困っていたから力になった」

 

「……金の錬成は犯罪行為だって教わっている筈だが?」

 

「……そうだっけ?」

 

「その頭は飾りか!?飾りなのかぁああああああああ―――ッ!!!?」

 

「痛い、やめてー」

 

 

ウィリアムは右手に力を入れ、万力のように絞め上げていく。頭を絞めつけられているリィエルも相変わらずの棒読みで痛がっている。

その光景に、周りはああまたか、と最早どちらもおなじみと成りつつあるやり取りに、嘆息を洩らして去っていく。

リィエルの暴走を実力行使でウィリアムは止めているのだが、ここしばらくは耐性が出来てきたのか、非殺傷弾一シリンダー分くらっても動きが鈍る程度になってきており、鎮圧に時間がかかり始めた。

今は落とし穴戦法で対処しているが、このままだといずれ、その類い稀な勘で落とし穴を避けられるようになってしまう。

その為、《詐欺師》時代の武具の修繕と同時に、高威力でも砕けない非殺傷弾の開発がウィリアムの急務となりつつあった。

威力を落とした軍用魔術をぶちこんだ方が本来は早いのだが、ウィリアムの魔術の遠距離狙撃の技量はそれほど高くない上、近くから放てばあっさりと避けられてしまう。

そのため、銃弾作りの方がウィリアムにとっては手っ取り早いのである。

 

 

 

「隙あり―――!」

 

「あ!?」

 

 

そんな事を尻目にグレンは隙を見て逃亡。リィエルが落とした金塊もチャッカリ回収してである。

その後をシスティーナは【ショック・ボルト】を飛ばしながら慌てて追いかける。

いつもなら、目的を果たして逃げ切られるのだが……

 

 

「全く……」

 

 

その逃亡劇をウィリアムは呆れた目で見ており、左手にはいつの間にかリィエルが錬成した金塊が握られている。

実はグレンが金塊を拾い、この場から逃げようとする直前でウィリアムが金塊とその辺の石ころをすり替えたのである。

 

 

「んなッ!?なんで金が石ころに戻ってるのぉ!?」

 

 

そんな事とは知らず、金塊が石ころに戻ったと思い込んだグレンは、後ろから放たれる攻性呪文(アサルト・スペル)もあり、前方の注意が疎かになってしまう。その為、グレンは前方の馬車に轢かれかける事態となった。

幸い、大惨事は回避できたのだが、馬車から下りてきた金髪の男性により周りは騒然となる。

 

 

「私はレオス=クライトス。この学院に招かれた特別講師で……システィーナの……婚約者(フィアンセ)です」

 

 

その金髪の男性―――特別赴任講師レオスの爆弾発言により、一気に場が騒がしくなり、野次馬も集まりだす。

 

 

 

面倒事が再びこの学院にやってきた。

 

 

 




支離滅裂にはなってないと信じたいなぁ········
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三十六話(改)

お気に入りが200を越えるとは····嬉しいですね
こんな駄作をこれからもよろしくお願いいたします
てな訳でどうぞ



レオスの授業は見事の一言だった。

魔導兵でさえ理解しきれていない物理作用力(マテリアル・フォース)理論を学生に分かりやすく、完璧に理解させたのだ……約一名を除いて。

 

 

「完璧だ……」

 

 

グレンでさえレオスの講師としての力量を認める程だが、あまりいい顔ではなかった。

レオスの講義はその内容を美化しすぎているのだ。それがもたらす結果を―――初等呪文でも人が殺せるという事実を言葉巧みに上手く隠していた。

当然、この授業を受けた生徒の何人かは気づいている。【ショック・ボルト】でさえ、やり方次第で人を殺す事が出来るという事に。

 

 

「なんで重要な部分を教えねぇんだよ……」

 

 

ウィリアムもそんな苦言を洩らす。ウィリアムもこの授業にいい印象を持てなかった。

力には相応の覚悟が必要だとウィリアムは考えている。でなければ、自身の裏にある悪意に気づけないからだ。

その悪意を忘れない為にあの魔術火薬―――『ダストの玉薬』を完成させてからの効力を試して以降、使わずに自戒のために作っていたのだから。

 

 

「大丈夫ですよ」

 

 

そんな二人にルミアは言う。グレンの教えを受けた人達なら大丈夫だと。もっと自分達を信じてほしいと。

 

 

「……別に、嫉妬しているだけだし」

 

「……まあ、あれこれ考えるのも面倒だしいいか」

 

 

そんな二人の相変わらずとも言える返答にルミアはクスクスと笑う。

 

 

「よかったな白猫!スゲェいい買い物だぜ?」

 

「だから違うと言ってるでしょう!?」

 

 

そんなルミアから逃げるように、グレンは後ろにいたシスティーナをからかう。システィーナは婚約者である事を必死に否定しようとするも―――

 

 

「どうでしたか?システィーナ」

 

 

レオスがにこやかな笑みでシスティーナに歩み寄っていた。

レオスの熱烈なアプローチにタジタジのシスティーナは、そのまま渋々といった感じでレオスと一緒に教室を去っていく。

 

 

「あの、先生……」

 

 

そんな中、ルミアがグレンに対し、あるお願いをした。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「なーんで、こんにゃ事せにゃならんのだ……」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「全く、どうして俺らまで……」

 

「……?」

 

 

現在、グレン達四人はルミアからのお願いでレオスとシスティーナの様子を隠れて見ている。

ルミアはどうやら、レオスにバークスと同じ嫌な予感を感じたから不安で覗き見を頼んだのだ。

 

 

「わかった、ルミア。アイツ斬―――」

 

 

大剣片手にリィエルがレオスの元へ行こうとした瞬間、足下に急にできた落とし穴へと落ち、落とし穴から顔を出した瞬間、周りが金属で覆い埋めつくされ生首状態となり、落とし穴からでなれなくなる。

 

 

「お願い、出してー」

 

「大人しくしてるなら、そこから出してやる」

 

「……わかった」

 

 

そんな相変わらずのウィリアムとリィエルのやり取りを他所に、レオスとシスティーナの会話に変化が現れる。

レオスが穏やかな笑顔でシスティーナに自分と結婚してほしいとプロポーズするも、システィーナは魔導考古学と祖父との約束からこの申し出を断ろうとする。しかし―――

 

 

「貴女はまだそんな夢みたいな事を言っているのですか?」

 

 

レオスは先程と変わらぬ笑顔でシスティーナの夢を真っ向から否定する。

そんな事は不可能、自分と結婚した方が幸せだと、レオスは気遣っているつもりで言い放つ。

 

 

「詭弁言ってんじゃねぞ」

 

 

その様子に、グレンが二人の間に割って入る。

レオスは、関係のない部外者は下がるように言い、詳細を知らないグレンはどうすべきか考えていると―――

 

 

「関係ならあるわ……実は私達、恋人同士なの!!」

 

 

システィーナがグレンの腕に抱きつき、顔を真っ赤にそんな爆弾発言を投下した。

その後、話を合わせたグレンの煽りでシスティーナが恋愛のA(キス)を自爆で言ってしまい、場が混沌(カオス)となっていく。

その流れで、グレンとレオスがシスティーナを賭けた決闘をする事となった。

そんな中―――

 

 

「ABCってなに?」

 

「知らなくていいことだ」

 

「?」

 

 

状況を理解していないリィエルに、ウィリアムは教えたらやりかねないリィエル(バカ)にそんな事を言っていた。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

本日の夕暮れ、グレンとウィリアムは珍しく一緒に帰路についていた。

 

 

「なんであんな事したんだよ先公?」

 

「言っただろう?逆玉だよ、逆玉!」

 

 

相変わらずのロクでなし発言をするグレンにウィリアムは―――

 

 

「……《女帝》と関係があるのか?」

 

 

一歩踏み込んだ発言をする。すると、グレンは顔を暗くし急に押し黙った。

 

 

「……これ以上は野暮か」

 

 

それだけで大方の理由を察したウィリアムは、これ以上つつかないようにあっさりと引き下がる。

 

 

「悪いな……」

 

 

グレンもそんなウィリアムに素直に礼を言った。

ウィリアムは二年前から裏世界に関わっていない。だからリィエルの存在も知らなかったし、グレンにとっての絶望の事件も知らないのだ

そんな微妙な空気の中、二人は別れていった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

―――とある高級ホテルにて。

 

 

「凄いですね。貴方は預言者ですか?」

 

「いや、ただの行動予測さ」

 

 

レオスは馬車の御者の青年と話し合っていた。

 

 

「レオス、精々踊ってくれ。僕の『正義』の礎の為にね……」

 

 

青年はそう言い、レオスに背を向け立ち去って行こうとする。その青年に―――

 

 

「フフ、随分と滑稽ですなぁ」

 

「……それは僕の事を言っているのかな?」

 

 

かけられた声に、青年は忌々しく敵を見る目でその声の主を睨み付ける。

その声の主はブーツにマント、羽根つき帽といった、どこぞの吟遊詩人を想わせる格好をした中年男性だ。

 

 

「いえいえ。貴方にではなくそこの()()()に言ったのですよ」

 

「……ふん、まあいい。本当は直ぐにでも君に対して『正義』を執行したいんだけど、『悪』と呼ぶには微妙だからね。精々僕の『正義』の為に利用させてもらうよ」

 

「ええ。貴方は己が『正義』の為、我輩は『美学』の為、互いに利用し合う関係だ!だから我輩は、貴方の『正義』の美しさを『観察』するために手を貸す!だから存分にかの《愚者》に『挑戦』して頂きたい!!」

 

「分かっているだろうけど……」

 

「ええ、邪魔は一切致しません!我輩はお邪魔虫の足止めをいたしましょうぞ!!」

 

 

そんな青年と中年の不穏なやり取りをレオスは気にも留めずに見続けていた。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

アルベルトから呼び出されたグレンは驚愕していた。

一年前、失伝魔術(ロスト・ミスティック)となった筈の『天使の塵(エンジェル・ダスト)』が、このフェジテに持ち込まれたという話を聞かされたのだ。しかも―――

 

 

「その『天使の塵(エンジェル・ダスト)』に関する目撃情報で、黒の仮面と紺の外套を着た人物が目撃されている」

 

「馬鹿な!アイツはそんな事をする奴じゃねぇし、そもそも作りもしねぇッ!!!」

 

「分かっている。だが、可能性として軍はアイツを疑っている」

 

「クソ……!」

 

「とにかく、注意はしておけ。何が起きるか分からないからな……」

 

 

 

不穏は確実に迫って来ていた―――

 

 

 




あえて言おう·····これはヒドイ、と
ご都合展開の極みというべきか·····
しかし、この低脳にはこういうのしか浮かばないのだよ·····
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三十七話(改)

おかしな所は·····ない筈·····
てな訳でどうぞ


―――夢を見る。

それはウィリアムにとって、辛い過去の記憶の夢だ。

 

最初の記憶は二人に拾われ、村で暮らしていた。

二人は記憶のない自分に『ウィリアム』という名前を与えた。

ウィリアムは二人の優しさに触れて一緒に暮らし始めた。

しかし、その幸せは直ぐに崩れ去った。

 

とある魔術師が快楽目的で村を襲撃したのだ。

二人はウィリアムに逃げるように促した。ウィリアムは涙ぐみながら、二人を『見捨てて』その場から逃げ出した。

そして、天の智慧研究会にモルモットとして捕らえられた。

 

その後、魔術特性(パーソナリティ)の有用性から研究者として上げられ、彼ら三人と出会った。

三人は常に悲しみ、苦しんでいた。だから三人の心からの笑顔の為に脱走計画を立てていった

しかし気付かれ、組織に対する恐怖から、ウィリアムは彼らを『見捨てて』組織から逃げ出した。

 

そしてその『見捨てた』罪悪感から、自分を助けてくれた老人(師匠)に教えを請うたのだ。

『見捨てた』彼らを今度こそ助けて救い、守る為に。

 

辿り着いた先は―――

 

 

 

「嘘だ……」

 

 

イレッセの大雪林にて吹き荒れる雪の中、ウィリアムはイルシアの遺体を抱き上げていた。

ウィリアムは無駄だと分かっていながら、法医呪文(ヒーラー・スペル)を唱える。当然ながら変化はない。

そして抱き上げる前の彼女の雪の積もり具合から、死んでからそこまで経っていないのも分かる。

 

 

「そんな……」

 

 

胸中に激しい悲しみと後悔が渦巻く。そこに熱はない。

様々な思いが渦巻く中、ウィリアムの心に、一つの罪禍の十字架が突き刺さる。

 

これは罰なのか?『見捨てて』逃げ出した自分への……

 

助ける為に、救う為に、守る為に。

 

その思いで足掻き、自らの意思で裏社会に踏み込み、この手を血で汚す事も許容して、力を付けたのに……

 

 

「イルシアが死んでいるということは……シオンとライネルも、もう……」

 

 

その結果がこれとは―――喜劇もいいところである。

 

 

「……何が《詐欺師》だ……ちくしょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお―――ッ!!!!!」

 

 

この日、雪林で一つの涙と後悔の叫びが響き渡った。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「―――ッ」

 

 

目が覚める。

目に入ったのは家の天井。一年半前から住んでいる、自分の家の寝床の部屋だ。

 

 

「ハァ……」

 

 

ウィリアムは鬱憤とした気分をため息と共に吐き出そうとする。しかし、何時も通り気分は晴れない。

この前の遠征学修で『ケジメ』はつけたが、『罪』が消える訳ではない。

結局、彼らを『見捨てた』事には変わりはないのだから当然だ。

当時から復讐の意志は芽生えなかった。それ自体が『筋違い』だと既に理解していたからだ。

だから焦ったし、短い期間で力を付けようとした。絶望と罪しか掴めなかったが。

 

 

「……本当に俺は此処にいていいんだろうか……?」

 

 

ウィリアムは胸中の不安を洩らす。それに答えるものはいなかった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「「「「「ふっざけんあぁああああああああああ―――ッ!!?」」」」」

 

 

グレンがシスティーナを賭けた魔導兵団戦の説明を受けたクラスメイトの開口一番がそれだった。

自分たちを巻き込んだグレンに全員文句をぶつけられても、仕方がない事だから当然の結果である。

 

 

「ふん……どうせ無駄ですよ」

 

 

ギイブルが冷ややかな言葉で無駄だという。

決闘相手であるレオスの得意分野、クラスの個々の実力差、同条件での競い合いを挙げていき、勝てる要素がないと言い切る。

だが、グレンは特に気にすることなく特別授業を始めていく。

 

 

「魔術師の戦場に英雄はいない」

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

―――放課後。

 

 

「《雷精よ・紫電の衝撃以て・撃ち倒せ》」

 

 

リィエルが放った【ショック・ボルト】が二百メトラ先に立っている丸太へと向かう。しかし不意に曲がって手前に着弾する。

 

 

「むう……」

 

「相変わらず壊滅的だなぁ……」

 

 

リィエルの黒魔術の腕前に、ウィリアムは最早ため息しか出て来なくなってきている。

魔導兵団戦ではお得意の錬金術、格闘戦は禁止であるため、リィエルが戦力外にならないようなんとかしようとしているのだが、【ショック・ボルト】を十回以上撃っても、丸太には一つも掠りもしなかった。

 

 

「……やっぱ、こうするしかないか……」

 

 

マトモに使えないなら、マトモに使わなければいい。

そんな考えの元、ウィリアムはリィエルにある事を試させた。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

―――魔導兵団戦が当日を迎えた、アストリア湖南端付近の湖畔。

その湖畔から北西部にある学院保有の魔術の演習場にて、ハンペン(?)先生から魔導兵団戦のルールが説明がされていく。

 

 

「頼みましたぞレオス先生。ぜひこの男に一泡吹かせてやって下さい!」

 

 

ハンペン(?)からすれば、グレンの行為は最低なものだが、グレンの内心を大体察しているウィリアムからすれば、相当滑稽なセリフである。

 

 

「よぉしッ!頼むぞお前ら!俺が逆玉に乗れるよう頑張ってくれ!!」

 

 

……道化を演じているグレンもグレンではあるが。

そんなこんなで魔導兵団戦が始まり―――

 

 

「そんじゃいくか」

 

「ん」

 

 

ウィリアムとリィエルは東の丘ルートへと進軍していった。

 

 

 




文才無いとはいえ·····矛盾は無いと信じたい
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三十八話(改)

書いてて思う·····この章、都合の塊だ!
てな訳でどうぞ


「くっ……」

 

 

レオスは現在、歯噛みしていた

グレンの最初の布陣を確認したレオスは全戦力を各個撃破の為に投入した。

しかし、それが裏目となってしまった。

こちらが一般的には強い三人一組(スリーマンセル)の編成に対し、グレンは『仕方なく』使う二人一組(エレメント)の編成をぶつけてきたのだ。

本来は三人一組(スリーマンセル)一戦術単位(ワンユニット)の方が二人一組(エレメント)一戦術単位(ワンユニット)より強いのだが、練度の差で戦況が拮抗していた。

 

 

「リト君、丘の制圧状況はどうなっていますか?」

 

 

レオスは通信魔導器で丘の制圧チームの隊長役の生徒に連絡を取る。返ってきた言葉は―――

 

 

『…………リト君ではありませーん。ウィリアム君でーす』

 

「な……!?」

 

 

全く予想だにしていなかった返事だった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

――――時は遡る。

 

 

「《雷精の紫電よ》!!」

 

 

四組の丘の制圧組が【ショック・ボルト】を幾つも飛ばしていくが―――

 

 

「……ん」

 

 

リィエルは眠たげな表情のまま、ひらりひらりとかわしていき、敵兵へと近づいていく。

そして―――

 

 

「《雷精よ・紫電の衝撃以て・撃ち倒せ》」

 

 

【ショック・ボルト】を超至近距離で撃ち放った。

 

 

「アババッ!?」

 

 

その【ショック・ボルト】をマトモにくらってしまい、一人脱落してしまう。

他のメンバーはソコを狙って攻性呪文(アサルト・スペル)を飛ばしていくも、彼女に張られている【エア・スクリーン】によって阻まれて、ダメージを与えられずにいる。

ならば、もう一人の方―――ウィリアムに狙いを定めようとするも―――

 

 

「ん」

 

 

リィエルがその場で地面に思いっきり踏み込んでその場から離れると―――

 

バンッ!

 

その場に衝撃気流―――魔術罠(マジック・トラップ)【スタン・フロア】が炸裂し、何名か吹き飛ばされていく。

その近距離から放つ攻性呪文(アサルト・スペル)魔術罠(マジック・トラップ)のコンボによって、四組の制圧組は全員脱落した。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「くっ……まさかグレン先生はこのような駒まで用意していたとは……」

 

 

予想だにしていなかった強力な伏兵にレオスは苦々しい顔をする。しかし、敵が強すぎる等と文句は言えない。

丘の惨敗に歯噛みしながらも、必死に指示を飛ばしていく。

そこにもはや最初の余裕はなくなっていた。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「先公、丘の戦闘は俺らの勝利だ」

 

『……ホント、お前も敵に回したくねぇと改めて思ったわ』

 

 

通信魔導器越しでグレンはそんな事を口にする。今頃、グレンの顔はひきつっているだろう。

ウィリアムがリィエル用に考えた戦法は―――

 

・当たらないなら当たる距離から撃て。

・自身は対抗呪文(カウンター・スペル)魔術罠(マジック・トラップ)に徹する。

・罠の起動はリィエルが好きなタイミングで踏み込んで起動しろ。

 

―――と、実際には通用するか相当怪しい戦法である。

こんな戦法、リィエル以外でやる等無謀の極みだ。

リィエルの身体能力と天性の勘を生かし、かつ一応の戦力にするには十分であった。

……最も殆ど零距離だったのはウィリアム自身も思う所があるのだが……

 

 

「予定通り、俺とリィエルはこの場で待機しとくぜ」

 

 

この戦法、防衛ならまだしも、こちらから攻めるには付け焼き刃ということもあり無理がありすぎる。

レオスも丘の制圧は諦めて、他の戦場に戦力を向かわせる筈だ。

 

 

『ああ。頭上を抑えられたら勝ち目が無くなるし、レオスも丘を利用した戦術を練っていた筈だからな』

 

「後、堂々とサボれるしな」

 

『……お前も相変わらずだな』

 

 

グレンはそれだけ言い、別の通信器の方へ指示を飛ばす。

サボれるようになったウィリアムは、リィエルの今後の魔術戦について考えてみる。

やはり、どう考えても遠距離戦はリィエルには一向に向いていない。

もういっその事、魔闘術(ブラック・アーツ)の剣バージョンをやらせたらいいのでは?と、現時点では不可能な事を考えながらウィリアムは戦場を見ていた。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

魔導兵団戦はグレンがあの手この手を使った事で引き分けという結果に終わった。

 

 

「けど、これでよかったのか?先生」

 

「……あぁ、それは……」

 

 

おそらく、元々引き分けにするつもりだったであろうグレンは何かを言いかけようとするも―――

 

 

「まだ勝負は終わっていませんよ!?」

 

 

顔色が悪くなっているレオスがグレンに詰め寄っていく。

グレンが引き分けでお互いシスティーナから身を引くよういうも、レオスは左手の手袋を投げ飛ばし、グレンに決闘を申し込んだ。

 

 

「……いいぜ、何だかんだで逆玉は魅力的だからな」

 

 

グレンは道化を演じたまま、その決闘を受け入れた。

それに対しシスティーナは―――

 

 

「……最低!」

 

 

グレンの頬を叩いてその場から去っていった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「何故こうなった……?」

 

「すぅ……」

 

 

帰りのコーチ馬車の中、ウィリアムは現状に頭を悩ませる。

ウィリアムの膝の上にはリィエルが眠りこけており、正面には不機嫌なシスティーナと悲しげなルミアがいる。

ウィリアムとしては他の馬車に乗るつもりだったのだが、リィエルに腕を引かれて花畑に乗る事となった。

当然、男子生徒から凄まじい嫉妬の視線がグサグサと突き刺さったが……

 

 

「システィ……」

 

 

ルミアがシスティーナにあの日の事を教え、グレンともう一度話し合うように言う。

それでウィリアムもちょっとだけ話す事にした。

 

 

「もし、先公と話し合うなら覚悟しておいた方がいいぞ」

 

「?どういうことよ?ウィリアム」

 

「確実に先公の傷に触れるからだ」

 

 

ウィリアムのその言葉でシスティーナは息を呑む。

 

 

「わりぃが俺に言えるのはここまで。これ以上は予想でしかないし、無暗に話していいことじゃないしな」

 

「……それでも、ちゃんと先生と話し合ってみる」

 

 

確かな目で決意するシスティーナに―――

 

 

「あっそ」

 

 

ウィリアムは軽い言葉で返した。

 

 

 

 

 

その翌日、レオスとシスティーナの婚約が正式に発表された。

 

 

 




先に出させる暴挙······
リィエルの魔術戦、現実になりそうでこわいなぁ·····
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三十九話(改)

この流れ、私でもこう思う。強引だと
てな訳でどうぞ


あの兵団戦から三日。

学院はレオスとシスティーナの結婚の話題で持ちきりだった。

だが、二組を含む何人かが、何かおかしいと感じており、システィーナに問い詰めても影のある笑顔でやんわりと結婚話を肯定するだけだ。

 

 

「やぁ、システィーナ。すいませんが式の打ち合わせが……」

 

「えぇ……」

 

 

二組の教室に訪れたレオスがにこやかな顔でシスティーナを連れて教室を後にする。その様子に―――

 

 

「ルミア……アイツ……斬っていい?……アイツは……きっと、敵!」

 

「駄目だよ!」

 

 

レオスに突撃しようとしたリィエルをルミアが慌ててひき止める。

 

 

「……もう少しだけ待ってあげて……きっと先生が……」

 

 

ルミアは三日前、グレンにシスティーナの突然のレオスとの結婚に嫌な予感を感じ、グレンに相談したのだが―――

 

 

「でも、グレンは三日前からどっか行った。ウィルも昨日からいなくなってるし……」

 

「……」

 

 

リィエルの言う通り、グレンは三日前から姿を消しており、ウィリアムも何故か昨日から学院に来ていないのだ。

家にも行ったが留守だった為、その足取りは不明のままだ。

 

 

「大丈夫……信じて待とう……」

 

 

ルミアは自身の不安を押し殺すように、リィエルに言い聞かせた。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

ルミアから事情を訊いたグレンはすぐさま行動を開始していた。

決闘をわざとすっぽかし、レオスの周辺に使い魔を放って調べたら、ルミアとリィエルの素性を盾に脅されている事が判明した。

レオスが倒さなければならない『敵』だと判ったが、状況は最悪だった。

セリカは迷宮探索、アルベルトは連絡つかず、システィーナの両親は各地を転々としている。

リィエルにはルミアの護衛があり、ウィリアムも例の件がありこちらからは巻き込めない。

あまりにも出来すぎた状況に気持ち悪くなりながらも、グレンはレオスと『本気』で闘うために準備を進めていく。

消費付呪(シール)型の巻物(スクロール)、宝石を加工した護符(アミュレット)、魔晶石や、シリンダー等、時間と金が許す限り、かつての装備を整えていった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

明らかにおかしい状況にウィリアムは疑問に思った。

まずは情報収集の為、アルフォネア邸に住んでいるファントム・レイヴンに『高い餌』をあげ、一時的にサーヴァント契約を結んだ。

ファントム・レイヴン―――ファムにレオスを監視させ調べさせたら、レオスが二人の素性を盾に脅して結婚を迫った事が判った。

だが、何故グレンは自分に何も言わなかったのか、疑問に思いその他の情報も集めた。

そこで知ることとなった。フェジテに『天使の塵(エンジェル・ダスト)』が持ち込まれている事、それに関する情報で自身と同じ格好の人物が目撃された事を。

もちろんウィリアム自身、そんな事はしたこともないし、第一あの最悪の魔薬(ドラッグ)を作れもしない。

グレンは自分も守る為にあえて何も言わなかったのだろう。

だが、このまま指をくわえて見ている訳にはいかない。

おそらくだがレオスは相当な強敵と見るべきだ。ちぐはぐ感が否めないが、そう考えて行動するべきだ。

故に『万全』で挑むべきだが、『盾』の修繕は間に合わないだろうし、それ以外の魔道具も用意する必要がある。

だから『盾』の修繕は一回やめ、消費付呪(シール)型の巻物(スクロール)護符(アミュレット)、魔術弾等を揃える事にした。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

―――結婚式当日。

 

 

「―――レオス。お前に白猫は渡さねーよ」

 

 

魔術学院の講師用ローブをちっきりと着こなしたグレンはそう言って、レオスとシスティーナの結婚式に割って入り、システィーナを強引に連れて教会から逃走した。

 

 

 




強引感が半端ない······
しかし、この低脳ではこうするしかできなかった·····
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四十話(改)

「皆の者!妄想の元に集え!!」―――――草P金髪のセリフ改変(話に関係無し)
てな訳でどうぞ


「離してッ!先生、もういい加減にしてッ!」

 

「……どぉ~して、こうなっちまったのやら……」

 

 

フェジテの西地区のとある路地裏まで逃げていたグレンは、抱えていたシスティーナを降ろし既に事情は知っていると説明していると―――

 

 

「邪魔するぜ?」

 

 

紺の外套を羽織ったウィリアムが屋根から飛び降りて来た。

 

 

「ウィリアム!?」

 

「ウィリアム!?何でお前がここに!?」

 

あの野郎(レオス)をぶちのめすため」

 

 

驚く二人にウィリアムは軽い感じで返す。

 

 

「一応、把握している。そっちの事情も、今の俺の状況もな」

 

「なら、どうして大人しくしていなかった!?下手すりゃ―――」

 

「そんな見捨てる真似できるか、アホ」

 

「ハァ……」

 

 

グレンはため息を吐き、文句を後回しにしてレオスの目的について議論していく。

グレン曰く、この手は貴族としては相当な悪手であり、レオス自身の得と損失の天秤が全く釣り合っていないとの事だ。

ウィリアムはそこには疎いが、少なくとも損失の方が大きすぎる事くらいは分かっていた。

グレンはそうまでしてレオスがシスティーナと結婚したかった可能性を挙げるが、システィーナはそれを寂しげに否定した。

 

 

「あの人は私を愛していない…………まるで別人みたいだった……」

 

「別人……?」

 

 

その言葉でグレンの顔色が変わっていく。

何に気づいたのか、ウィリアムがグレンに聞こうとするも―――

 

 

「ふ、二人共……ッ!」

 

 

システィーナの怯えた声によって遮られる。

いつの間にか、路地裏の奥から土気色の顔色をした一般市民風の人間が数名、近づいてきていた。手には包丁や鉈等を持って武装しており、全身から網目のごとく血管が浮いている。

 

 

「「な……!?」」

 

 

その人間達を見てグレンとウィリアムは驚愕する。なぜなら彼ら全員―――『天使の塵(エンジェル・ダスト)』を投与された末期中毒症状者だったからだ。

 

 

「止まれッ!」

「それ以上、近づくなッ!」

 

 

二人は銃を向けて警告するも、中毒者達は一向に止まる気配は無い。

 

 

「な、なんですか……?あの人達は……?」

 

「……薬によってゾンビにされた奴らだ」

 

 

システィーナの疑問にウィリアムが苦々しい顔で簡潔に答える。

天使の塵(エンジェル・ダスト)』は一度投与されると死ぬまで主人の命令に従い続ける廃人となる。そして人体のリミットも外されており、痛覚も麻痺している。

そんな彼らを確実に止めるには……

 

 

「白猫ッ!お前は逃げろ!」

 

「ここにいたら、見たくないもんを見ることになるぞ!」

 

 

それをシスティーナの目の前でするわけにはいかない為、逃げるように促すも―――

 

 

「大丈夫よッ!私だって!《大いなる――》」

 

 

システィーナは聞かずに呪文を唱えた瞬間、中毒者達が一斉にシスティーナへと襲い掛かって来ていた。

 

 

「……え?」

 

 

中毒者達の俊敏な動きに、システィーナは呆然とする。

中毒者達はそのままシスティーナへと肉薄し―――

 

「《駆けよ風――・》」

 

 

その時、グレンが壁を蹴り上がり、空中の中毒者を蹴り落とす。

ウィリアムは鋼線を錬成し、中毒者の足を絡めとり、力一杯に地面へと叩きつける。

 

 

「《―――・撃ち据えよ》ッ!」

 

 

その間にグレンの【ゲイル・ブロウ】が起動。壮絶な突風が炸裂し、残りの中毒者を吹き飛ばした。

 

 

「あ……」

 

「何をしているッ!?」

 

「ぼうっとすんなッ!」

 

 

一瞬の出来事に呆然とするシスティーナを二人は一喝し、グレンが手を引いてその場から走り去っていく。

中毒者達はそんな彼らの後を追いかけていった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

「くそッ!」

 

 

苛立ちを露にウィリアムは襲い掛かる中毒者達を攻撃する。ウィリアムの近くにはグレンとシスティーナの姿は無い。

あの後、絶妙なタイミングでの襲撃で二人と引き離されてしまったのだ。

合流しようとしても中毒者達がそれを邪魔するように襲い掛かってくる。

 

 

「《美しき水精よ・―――》」

 

 

そんな中毒者達に銃弾を脳天に向けて放ちながら、呪文を紡いでいく。

 

 

「《その蒼き弓を以て・―――》」

 

 

銃弾は中毒者の脳天を撃ち抜き、次々と地面に沈んでいく。

 

 

「《撃ち射抜け》―――ッ!」

 

 

そして後ろに左の人差し指を向け、高水圧弾を放つC級軍用魔術―――錬金【アクア・バレット】を後ろから襲ってきた中毒者の脳天へと放つ。

脳天を貫かれた中毒者はそのまま地面へと倒れこむ。

 

 

「チィ―――ッ!」

 

 

まるで相手の思惑通りに動いている現状に苛立ちながらウィリアムは銃に魔術弾を装填し、すぐさま中毒者の足下へと放つ。

 

ガシャアアアアンッ!

 

中毒者の足下から氷柱が突きだし、氷塊の中へと閉じ込める。

ウィリアムは中毒者達を捌きながら、二人に追いつく為に奥へ奥へと進んでいった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

ウィリアムは旧住宅地区画へと辿り着いた。

しかし、グレン達とは合流出来ていない。

沸き上がる苛立ちと焦りを一回沈めようと―――

 

 

「いやはや。彼の予測通り、見事に此処にきましたなぁ」

 

 

―――した矢先、突然の声にウィリアムはすぐさま声がした方向に目を向ける。

 

 

「……誰だよ、アンタ」

 

 

そこにいたのは、ブーツにマント、羽根つき帽を被り、左手に分厚い本を持ち、吟遊詩人を連想させる格好をした、顎髭を蓄えた中年男性だ。

 

 

「おや失敬。では自己紹介から始めましょうぞ」

 

 

男性は優雅に一礼し、名乗る。

 

 

 

「我輩の名はブレイク=シェイク。人呼んで《美の商人(ブローカー)》である」

 

 

 




オリキャラ登場である!
モデルは予想通りのあの作家!!
タグ追加した方がいいのかな·······?
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四十一話(改)

大丈夫····大丈夫の筈
てな訳でどうぞ


「《美の商人(ブローカー)》……だと?」

 

 

ブレイクの名乗りにウィリアムは訝しげな表情となる。

 

 

「どうやら我輩の事はご存知のようですなぁ」

 

 

ブレイクの言う通り、ウィリアムは目の前の男―――《美の商人(ブローカー)》についてある程度知っている。

 

美の商人(ブローカー)》。外道魔術師等に魔術関連の品を売り渡し、犯罪行為を助長している者の二つ名だ。

しかし、奴自身は直接、その犯罪行為に加担しておらず、時として売り渡した相手を殺しすらする。

そして、売り渡す時に必ずこう口にするそうだ。『貴方の美しさを観察させてもらう』と。

故に《美の商人(ブローカー)》と呼ばれている。

 

 

「アンタがこの茶番劇の黒幕か?」

 

「外れですな。我輩はお手伝いでありますぞ」

 

「……じゃあ、誰の手伝いだ?」

 

「ジャティス=ロウファン」

 

 

ブレイクの回答にウィリアムは面をくらった顔をする。しかしすぐさま、目を鋭くさせる。

 

 

「あのぶっ飛んだ野郎が、どういう目的でこんな事をやらかした?」

 

 

その問いにブレイクは歌うように語っていく。

 

 

「《愚者》への『挑戦』ですぞ。彼の者(ジャティス殿)は己が『正義』を確固たるものへと、揺るぎなきものへと昇華するために、そして『禁忌教典(アカシックレコード)』を手にする資格を得る為に、自身を倒した《愚者》にリベンジを果たす為、このシナリオを描いたのです。ああ、ちなみに『天使の塵(エンジェル・ダスト)』で目撃された貴方そっくりの人物は我輩が作った人形ですぞ」

 

「……色々と突っ込みたいが、『禁忌教典(アカシックレコード)』ってなんなんだよ?」

 

「残念ながら、口で語れるものではありませんなぁ。強いていうなら…………最も美しき存在、ですかな?」

 

「じゃあ、アンタはそれを掠めとろうという魂胆か?」

 

 

ウィリアムのその言葉に、ブレイクは心外と言わんばかりに語る。

 

 

「まさか!アレは手に届かぬからこそ美しい存在!我輩はアレを手にするつもりは毛頭ありませんぞ!」

 

「……」

 

「だが、同時にある疑問も浮かび上がるのです。誰かがアレを手にした時、その美しさは一体どうなるのかと」

 

「……」

 

「あの酷く醜く穢れたかの組織の手に落ちれば、その美しさが穢れるのは一目瞭然。かといって我輩が仮に手にしてもその美しさを観察する事はできない。その悩みの最中、彼と出会ったのです」

 

「……」

 

「彼は真実を知りながらも腐らず、己の心血を注ぐ確かな信念と自らを誤魔化さない意思を持っていた。周りは彼を狂人と呼ぶが、信念に殉じる者はみな元より狂人の類いだ!それをマトモと呼ぶなら彼も我輩も十分マトモな人間だ!!そしてそういった己を信じ、己の命を賭け、己であり続ける信念を持っている者はとても美しい!だから我輩は彼の者に手を貸す!我輩の人生において最大の『美』の探究の為に!!!その為なら多少の実力行使の手助けも致し方無しですぞ!!!!!」

 

「……じゃあ、手にしてソレが穢れたらどうするつもりだ?」

 

「もちろん―――殺しますぞ」

 

 

ブレイクは当たり前と言わんばかりにあっさりと言い切った。

 

 

「無論、彼もそれは承知の上。だから我輩と彼との間には信頼も信用も一切無い。ただ、目的の為に利用し合う、隙あらば殺す、そういった関係なのです」

 

「……滅茶苦茶だな」

 

 

ウィリアムは長話にうんざりしながら、ブレイクに拳銃を向ける。

 

 

「まぁ兎に角、アンタをぶっ飛ばして先公らの元へ急ぐだけだ」

 

「出来ますかなぁ?中途半端な貴方に」

 

「……何が言いたい?」

 

「では問いましょう。貴方は何故、中毒者達の最初の襲撃で生温い手で迎撃したのかを」

 

「そんなん、システィーナに配慮した―――」

 

「いいや違う。貴方は―――拒絶されるのを恐れただけだ」

 

 

持っている本を開いたブレイクの指摘に、ウィリアムは息を呑んでしまう。そんなウィリアムを余所にブレイクは容赦なく指摘していく。

 

 

「貴方は大切な人達を『見捨てた』罪悪感から力をつけた。そして同時に恐れていた。助けたい大切な人達から拒絶される事を」

 

「……」

 

「実際、二人と引き離されてから貴方は容赦なく中毒者を始末していた。それが何よりの証だ」

 

「……」

 

「《戦車》の時もそうだ。彼女にかけられた暗示を解き、心が壊れるのを恐れていたのと同時に、彼女に恨まれ、嫌われ、拒絶される事を心の奥底で恐れていた。だからあのような事態に陥るまで―――何もせずに放置した」

 

「……れ」

 

「自分可愛さから『見捨てて』おきながら、失いたくないと願いながら、自分可愛さから拒絶を恐れる。これを中途半端と言わずなんというのでしょうか?」

 

「黙れェエエエエエエエエエエエ―――ッ!!!」

 

 

ウィリアムは咆哮と共に銃弾をブレイクへと放つ。

しかし、ブレイクの前に瞬時に召喚されたゴーレムによって防がれてしまう。

 

 

「デタラメ言ってんじゃねぇよッ!」

 

「デタラメかどうかは……貴方が一番ご存知だと思いますが?」

 

 

その言葉にウィリアムは歯軋りするしかなかった。ブレイクの指摘は―――見事なまでに的中していたからだ。

 

 

「……兎に角、テメェはぶっ潰す!!」

 

「フハハハッ!!では、貴方の『美しさ』を観察すると致しましょうぞ!!!」

 

 

 

激情と探究がぶつかり合い、激戦の幕が切って落とされる―――

 

 

 




精神攻撃は基本(愉悦)
やっぱりタグを追加するべきか····?
感想お待ちしてます


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四十二話(改)

ツッコミ所満載だろうな·····
面白く書けてたら免罪符になるかな·······?
てな訳でどうぞ


「行きますぞ!!」

 

 

ブレイクの周りから人型、鳥型、獅子型等、多種多様なゴーレムが大量に召喚されていく。

ウィリアムは《魔導砲ファランクス》を取りだそうとするも―――

 

 

「―――ッ!チィッ!」

 

 

上空に突如現れたゴーレムの斬りかかりにより、回避を余儀なくされる。

回避しながら【招雷霊(ヴォルト)(フェイク)】による雷加速弾をゴーレムの(コア)にむけて発砲する。

人工精霊(タルパ)による雷加速は出力の調整が難しいが、速攻性に優れている。

その雷加速によって、ゴーレムは(コア)を撃ち抜かれて崩れ落ちるも、獅子型のゴーレム三体が襲い掛かってくる。

 

ウィリアムは自身の周りにクレイモア・ソードを両手に持った幾何学的な羽を持つ上半身のみの甲冑騎士―――人工精霊(タルパ)騎士の誇り(ナイツ・プライド)・剣兵】を三体具現召喚し、迎撃させる。

甲冑騎士の斬撃によって獅子型のゴーレムは斬り裂かれるも、斬られると同時にゴーレムは爆発し甲冑騎士を砕け散らせる。

間髪入れずに鳥型のゴーレム達が口から雷閃を放ち、ウィリアムに攻撃をしかける。

 

ウィリアムは巻物(スクロール)を取りだして目の前で広げていき、魔力障壁を展開させその幾条もの雷閃を防ぐ。

そして【騎士の剣(ナイツ・ソード)】を数体具現召喚し、鳥型ゴーレムに向けて発射させ、刺し貫いて落としていく。

 

 

「甘いですぞッ!」

 

 

ブレイクが芝居がかかったように両手を振るい、それに呼応するように人型のゴーレムが俊敏な動作でウィリアムへと殺到していく。

ウィリアムはそれに向かって雷加速弾の連射でゴーレムの手足を粉砕していく。

その内の何発かをブレイクに迫っていくも魔力障壁によって阻まれる。

ブレイクの背中からいつの間にか多関節の人形の腕が四本あり、何かしらの魔導器を背負っていた。その腕の掌には魔晶石らしきものが埋め込まれている。

ウィリアムは魔力遮断物質である真銀(ミスリル)の銃弾を錬成し、ブレイクに向けて撃とうとしても、他のゴーレムが妨害したり盾になるせいでブレイクに撃ち込めずにいる。

 

 

「どうしたのです?随分と噂より弱いでは無いですか。まぁ、当然でしょうな。貴方は事前の準備、先手必勝の速攻の不意討ち、そういった戦いで勝ってきたのですから」

 

 

ブレイクはさらに新たにゴーレムを召喚していく。

それに対しウィリアムは、両手に小銃を持った幾何学的な羽を持つ上半身のみの甲冑騎士―――人工精霊(タルパ)騎士の誇り(ナイツ・プライド)・銃兵】を二体具現召喚し、的確にゴーレムの(コア)を撃ち抜いていく。

 

 

「《魔導砲ファランクス》は多少厄介ですが、取り回しのしづらさと様々な消費量から多用はできない。もうこの状況下では使うのは下策となる」

 

 

その解説と同時に狼型のゴーレムの口から凍気のブレスを吐かせる。

ウィリアムはそのブレスを炎を纏う甲冑騎士―――人工精霊(タルパ)騎士の誇り(ナイツ・プライド)・炎兵】をぶつけて相殺させる。

視界が蒸気で塞がると同時に、ウィリアムは無音火薬(サイレント・パウダー)による真銀(ミスリル)の雷加速弾を連続でブレイクがいる方向に向けて撃ち放ていく。

高威力の無音の銃撃は、途中で重力に引かれたかの様に地面の方向へと曲がり、着弾の衝撃と共に地面に穴を穿つに終わる。

 

 

「加えて、今の貴方は準備不足に加えてブランク、そしてあの絶対防御の《盾》と自らの負の象徴たるあの火薬を持っていない!『殺す』為のあの火薬はまだしも、それを誤魔化す為に作った《盾》がないのは大きな痛手!弱くなるのは必然だ!!」

 

「本当に黙ってろッ!!」

 

 

誰も知らない事までズカズカと言い当てられる現実に苛立ちを増しながら、ウィリアムは地面に落とし穴を作り、ゴーレム達を落とそうとする。

しかし、読まれていたかのように鳥型ゴーレムが他のゴーレムを掴んでおり、一体も落ちなかった。

 

 

「我輩の前では隠し事は不可能!!その心は筒抜けである!!だから素直に貴方の『美しさ』を見せていただきたい!!」

 

「いい加減に失せろォオオオオオオオオオオオ―――ッ!!!」

 

 

激情を吐き出すように吠えるウィリアムに、ブレイクは容赦なくゴーレムを向かわせる。

ゴーレム達の動きは俊敏で素早く、人型に至っては達人に匹敵する動きだ。

ウィリアムは苛立ちを露に、錬成した大型の小銃(ライフル)による雷加速弾で襲い掛かるゴーレムを纏めて撃ち砕いていく。

《詐欺師》と《美の商人(ブローカー)》の戦いは際限なく加熱していく―――

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「……」

 

「リィエル、どうしたの?」

 

 

現在、結婚式に参加していた二組の面々はグレン達を心配し、その後を追いかけている。

そんな中、リィエルの悩ましげな様子からルミアが聞いてきたのだ。

 

 

「……凄く嫌な予感がする。急がないといけない嫌な予感が……」

 

「……」

 

「だけど、ルミアを守らないといけないし、グレンにも頼まれたし……」

 

 

リィエルはその不安から急いで向かいたい。だけどルミアから離れる訳にはいかない。その葛藤がリィエルを悩ませているのだ。

そんなリィエルにルミアは―――

 

 

「リィエル、早く向かってあげて」

 

 

優しくその背中を押した。

 

 

「で、でも……」

 

「本当に嫌な予感がするなら、急いで向かった方がいいと思う。それに……」

 

 

未だ迷いを見せるリィエルに、ルミアは微笑みながら言葉を口にする。

 

 

「みんなには、無事に帰ってきてほしいから」

 

「……ありがとう、ルミア」

 

 

リィエルはルミアにお礼を言い、【フィジカル・ブースト】を全開にして向かっていった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

「勝負有り、ですな」

 

 

壁際で座りこむボロボロのウィリアムにブレイクは勝利宣言をする。

ブレイクの背中の四本の腕を突き付けられ、掌から火球が燃えたぎっている。

更に近くには、ブレイクを守るようにゴーレムも佇んでいる。

……誰が見ても、完全な詰み(チェック・メイト)であった。

 

 

「……それで、俺をどうするつもりだ?」

 

 

今までの激情が嘘であるかのようにウィリアムが力無くブレイクに問いかける。

追い詰められた時点からその激情が一気に沈下していったからだ。

 

 

「別に殺せと言われている訳ではありませんが、観察に集中したいので……始末させてもらいますぞ」

 

「……あっそ」

 

 

最早、ウィリアムから抵抗する気力すら無くなっている。

心を容赦なく抉られ、戦いに敗けてしまったからだ。

 

 

(ホンット、俺にお似合い過ぎる最後だよ……)

 

 

見捨てて、望んだものも掴めず、無惨に散って逝く。

その最後に、ウィリアムは瞳を閉じようと―――

 

 

「いぃいいいやぁあああああああああああああああ―――ッ!!!!」

 

 

した矢先、咆哮と共に何かがブレイクに肉薄し、手に持つ大剣を力任せに振り抜く。

 

 

「なんとぉッ!?」

 

 

その不意討ちにブレイクは、ゴーレムを咄嗟に盾にするも彼方へと吹き飛ばされていく。

 

 

「……なッ!?」

 

 

ウィリアムは己の窮地を救った人物を視界に収め、目を見開く。その人物は―――

 

 

 

 

―――帝国宮廷魔導士団、特務分室所属、執行官ナンバー7、《戦車》のリィエル=レイフォードだった。

 

 

 




あの《正義》をこの主人公にぶつけるのは、行動理念からして無理があると思ったが故のオリキャラ戦
蚊帳の外にはしたくない、けどぶつけるには強引さが強く出過ぎてしまう·····故のこの暴挙
ホント色々と情けないですよね
感想お待ちしてます


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四十三話(改)

いいよね?この展開でいいよね?
てな訳でどうぞ


「な、何でお前が……!?」

 

「ん。勘」

 

 

ウィリアムの口から洩れた疑問に、リィエルは事も無げにそう答える。

 

 

「そんな事を訊いてるんじゃねぇッ!!ルミアをほったらかしにして何で此処に来たのか訊いてんだよ!!」

 

「……凄く嫌な予感がしたから」

 

「それだけで、此処に来たのかよ!?」

 

 

口論をする二人に、不意討ちで吹き飛ばされたブレイクが近寄っていく。

 

 

「いやはや、凄い一撃でしたなぁ。流石は特務分室のエース、といったところでしょうか?」

 

 

賞賛するブレイクに、リィエルは無言で大剣を構えて対峙する。

 

 

「おや、ひょっとして彼を守るつもりですかな?そこの彼は貴女の元となった彼女と、近しい人達を『見捨てた』人間ですぞ?」

 

「……」

 

 

ブレイクの言葉にリィエルは変わらず無言を貫く。

その沈黙をウィリアムが破る。

 

 

「……アイツの言う通り、俺は自分可愛さで『見捨てた』人間なんだ。だから、俺にはアソコにいる資格もねぇんだよ……」

 

 

ウィリアムの弱々しい吐露に、リィエルはウィリアムを見て問いかける。

 

 

「……ウィルはアソコに居たいの?居たくないの?」

 

 

リィエルから出された、以前リィエルに言った自身の言葉を返された事に、ウィリアムは豆鉄砲をくらった顔になる。

 

 

「それに、『見捨てた』のは―――同じだから」

 

「……え?」

 

「イルシアも、シオン兄さんも、ウィルを『見捨てた』事を凄く後悔してた。泣いて自分を責める程に」

 

「…………」

 

「自分達を助けようとしてくれたのに、助けなかった事を悔やんでた」

 

「…………」

 

「ウィルを守りたいのは、イルシアのその想いからなのか、わたし自身がそう想っているからか、まだよくわからないけど……」

 

 

リィエルはウィリアムへと向き直り、その瑠璃色の瞳でウィリアムの顔を真っ直ぐに見つめてその想いを口にする。

 

 

「ここでウィルを守らなかったら、後悔する事だけはわかるから。だから後悔しない為にウィルを守る」

 

「リィ、エル……」

 

 

その記憶の告白を受け、兄妹の想いを知ったウィリアムは呆然となっていた。

 

 

「これは―――美しいですな」

 

 

ブレイクは歓喜を抑えるように、身体を震わせている。

 

 

「人形同然だった筈の貴女からそんなセリフが出てくるとは!!これだからこそ人間は美しい!!ぜひ貴女の『美しさ』を観察させて頂きたい!!」

 

「……ハァ~……」

 

 

舞い上がるブレイクを尻目に、ウィリアムは深い溜め息を洩らしながら立ち上がる。

その顔はどこか呆れたかのようになっており、先程までの弱々しさが消えていた。

 

 

「全く、勘で此処(ここ)を当てたり、状況無視して突っ込んで来たり……ホンット、お前はバカだよ」

 

「むぅ、バカ言う方がバカ」

 

「うっせぇ。ほっとけ」

 

 

そんなやり取りをしながら、ウィリアムは再びブレイクと対峙する。

 

 

「ぶっちゃけ、今の俺じゃアイツを一人で倒すとか無理。現にボロボロだし、追い詰められちまってたし。つう訳で……」

 

 

ウィリアムはそのままリィエルへと告げる。

 

 

二人一組(エレメント)の前衛、頼めるか?取り敢えずお前の突貫行動に、俺が援護に集中すればなんとかなんだろ」

 

「ん。わかった!」

 

 

ウィリアムの提案にリィエルは素直に頷き、大剣を再び構える。

 

 

「そういやぁ、アソコに居たいか、居たくないかの質問だが……」

 

「……」

 

「……居たいさ。だから、目の前のアイツをさっさとぶっ飛ばして、先公らと一緒にみんなで帰るぞ!!」

 

「……ん!!」

 

 

先程のリィエルの質問にウィリアムは力強くそう答え、答えを受けたリィエルも力強く頷き、互いに微笑み合う。

そのまま、ブレイクに向かって一斉に駆け出した。

 

 

「正面突破とは―――下策ですぞッ!」

 

 

ブレイクはゴーレムを再び召喚し、放ってくる。

正面から人型ゴーレムが襲いかかるも―――

 

 

「やぁああああああああ―――ッ!!」

 

 

リィエルの剛閃によって一気に両断され、斬り倒されていく。その隙を狼型ゴーレムが仕掛けるも―――

 

ドパンッ!ドパンッ!

 

ウィリアムの銃撃による援護で妨げられてしまう。

 

 

「く――ッ」

 

 

ブレイクは正面に左上部の人形腕で重力場を形成するも、リィエルはその重力場をものともせずに突っ込んでいく。

それを見たブレイクは右下部の人形腕の魔力障壁を展開する。

 

 

「あぁあああああああああああ―――ッ!!」

 

 

だが、展開された魔力障壁はウィリアムによって表面に真銀(ミスリル)コーティングを施されていた大剣により、紙のように斬り裂かれてしまう。

 

 

「な――ッ!?」

 

 

驚くブレイクに、リィエルの剣戟乱舞が容赦なく襲いかかる。

ブレイクは人形腕で必死に対処し、上空の鳥型ゴーレム達からの幾条もの雷閃をリィエルへと放っていく。

リィエルは後ろへ跳躍してその雷閃をかわし、空中に瞬時に顕れた【騎士の楯(ナイツ・シールド)】を足場にさらに跳躍して、力任せに鳥型ゴーレムを斬り飛ばしながら、再びブレイクにへと斬りかかる。

ブレイクはリィエルを迎撃しようにも、ウィリアムの援護射撃もあって押されっぱなしとなっている状況だ。

 

 

「なんというアドリブ……!なんという脳筋……!!」

 

 

リィエルはさっきから考えて行動していない。殆ど勘と本能で襲いかかってきている。実際、今のリィエルが考えている事は「斬る」()()であり、どう斬るのか、どこから斬りかかるのか、そういった考えが一切無い。

ウィリアムもそんなリィエルに思いつきで合わせるという、作戦?連携?なにそれ食えんの?と云わんばかりの、考え無しの滅茶苦茶だ。

だが、そこには互いの信頼が確かに存在している。互いにこうすると信じ合い、行動に移しているのだ。

 

 

「……仕方ありませんな。ここは我輩の現時点での最高傑作で迎え撃ちましょうぞ!!」

 

 

ブレイクの正面に巨大な魔術法陣が形成され、リィエルは咄嗟にウィリアムの元へと飛び下がる。

その魔術法陣からは巨大なドラゴン型のゴーレムが召喚され、その口からは白い光の奔流が溢れている。

 

 

「……おいおい、冗談だろ?」

 

「……アレ、なんかヤバイ」

 

 

その白い光の奔流の正体にウィリアムはひきつり、リィエルは直感で不味いと察している。

 

 

「さあ、行きますぞ!!」

 

 

ブレイクの合図と共に、ドラゴン型ゴーレムから白い光の奔流―――黒魔改【イクスティンクション・レイ】が二人に向かって放たれる。

放たれた分解消滅の光は地面を削りとっていく。

光が収まり、出来上がった光景は削り取られた地面と余波によって壊れた建物。そこに二人の姿は無かった。

 

 

「ふむ、一発で機能不全に陥りましたか。もっと改良―――」

 

 

ブレイクは決着がついたと判断し、動きが悪くなったドラゴン型ゴーレムの考察をしていると―――

 

 

―――目の前の地面に斜め方向の穴が現れ、その穴の中から物凄い速度で飛んでくるウィリアムが迫って来ていた。

実はくらう直前で足下の地面に穴を錬成してかわしており、ブレイクへの直通の穴を錬成してから、リィエルのフルパワーで投げ飛ばしてもらい強襲をかけたのだ。

そのまま、ウィリアムはブレイクへと迫り―――

 

 

「ぶっふぉあ―――ッ!!?」

 

 

その顔面に右拳を全力でぶちこんだ。

その一撃をマトモにくらったブレイクは身体を回転させながら、建物へと吹き飛ばされていき、激突した。

 

 

 




····うん、パクりだ
見事なまでの三流だ
感想お待ちしてます


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四十四話(改)

書くのは相変わらず難しい
てな訳でどうぞ


「倒した?」

 

 

穴から出てきたリィエルはウィリアムにそう尋ねてくる。

 

 

「さすがにアレだけで倒れねぇだろ」

 

 

ウィリアムはそう言い切り、ぶっ飛ばした方向へと目を向ける。

立ち昇る土煙から立ち上がる人影にウィリアムとリィエルは警戒して構える。

土煙が晴れたその先には、首が霰もない方向に曲がって立っているブレイクがいた。

 

 

「「!?」」

 

 

その光景に二人は驚きに目を見開く。

 

 

「ご心配なく。この我輩は人形ですので」

 

 

ブレイクの種明かしにウィリアムはウンザリとした顔になる。

 

 

「まさか、最初から人形と戦っていたって事なのかよ?」

 

「その通り!だってこうしなければ、《正義》と《愚者》の『美しさ』を観察できませんでしたからな!!ちなみに姿形は本物の我輩と同じですぞ!」

 

 

その説明に、ウィリアムはコケにされていた怒りよりも、無駄に疲れた気分が襲ってくる。

 

 

「サービス情報として、あちらは《正義》が敗北を認めて終わりましたぞ」

 

「……そうかよ」

 

「では、我輩も撤収の準備をしなければいけませんのでこれにて!!次合間見えた時もあなた方の『美しさ』を観察させてもらいましょう!!その『美しさ』がどこまで高みに昇るのかも楽しみにさせて貰いますぞ♪」

 

 

その言葉と同時にブレイク人形(ゴーレム)から火が上がる。

あの人形腕は既に無く、その他のゴーレムも消えている。

ブレイク人形(ゴーレム)はそのまま燃え上がり、燃えカスとなって消えていった。

 

 

「終わった?」

 

「……みたいだな」

 

 

リィエルの問いかけに疲れぎみにウィリアムは答える。

 

 

「……帰るか」

 

「……ん」

 

 

ウィリアムとリィエルはそう言って頷き合い、再開発地区を並んで歩いていく。

互いに無言で歩く中、ウィリアムがポツリと言葉を洩らす。

 

 

「俺は……本当にあの暖かい場所に居ていいのかな……?」

 

「わたしは、居てほしいと思ってる」

 

「…………そうか」

 

 

その言葉を区切りに再び無言となる。

当然、過去を振り切れはしない。失ったものと、今まで背負ってきたものが大きいからだ。

それでも、不思議と心が幾ばくか軽くなった気がするのは気のせいではないだろう。

途中でシスティーナを背負ったグレンと合流し、お互い何も言わずに一緒に歩く。

そして四人は帰っていく。居たい、居てほしいと思ったあの優しく、暖かいあの場所に―――

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

フェジテ郊外の、とある雑木林でジャティスとアルベルトが戦っていた。

アルベルトはジャティスに一年前の事件の動機を聞き出そうとする。

それに対し、ジャティスは『禁忌教典(アカシックレコード)』を追い、真実を知れば分かると言い、その場を離脱しようとする。

アルベルトが問答無用と、ジャティスに【ライトニング・ピアス】を放とうと―――

 

 

「―――ッ」

 

 

―――して、視界に僧服姿の初老の男が映り一瞬、目を奪われてしまう。

しかしすぐさまジャティスに視界を戻すも、既に鳥らしきものと共に上空へと滑空していた。

 

 

「チッ、《美の商人(ブローカー)》か……」

 

 

アルベルトはその男の姿をした人形を改めて見て、この人形の作り手の名を忌々しく呟いた······

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「いやはや、貴方も我輩もまだまだですなぁ」

 

「……いちいち癪に触る事しか言わないね、君は」

 

 

巨大な鳥型ゴーレムの背中で、ブレイクの言葉を憎々しげにジャティスは返していく。

 

 

「《愚者》の真の牙は、誰かを守る為の牙。復讐の牙では無かったとはっきり分かっただけでも、十分に価値ある観察でしたぞ!」

 

「ひょっとして、最初から気付いてたのかな?」

 

 

目付きを鋭くさせたジャティスの問いかけに、ブレイクはあっさりと明かしていく。

 

 

「ええ!彼の者は人の救いと助けによって応える者!!復讐が彼の真の力を発揮するのかは疑問でしたな!!最も、これは我輩の主観による予想ではありましたがな!!!」

 

「……本当に忌々しいな。だけど……」

 

 

ジャティスは態度を一転させ、歓喜の表情へとその顔を変える。

 

 

「確かに僕はそんな当たり前の事を見落としていた。神聖な儀式を危うく自らの手で台無しにするところだったよ」

 

 

ジャティスはそのまま両腕を広げ、高らかに宣言する。

 

 

「グレン、君とは必ず僕の『正義』で決着をつけよう。最も相応しい、最高の舞台で!」

 

「では、これからも観察させて貰いますぞ!!我輩の『美』の探究の為に!!!」

 

「……水を指さないでくれないかなぁ……?」

 

 

再び険悪な雰囲気となりながら、《正義》と《美の商人(ブローカー)》は共に去っていった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

―――あの結婚騒動から数日がたった昼頃。

 

 

「ホントにいい加減にしやがれ!!!」

 

「むぅ……」

 

 

中庭にて何時もの如く説教するウィリアムと、首から下を金属の箱で覆われ、生首状態となったリィエルがいた。

もうお察しの通り、何時もの暴走阻止の後の説教である。

今回、通常より硬いゴムの非殺傷弾の不意討ちにより一撃で沈める事ができ、より早く鎮圧に成功していた。

 

 

「全く……」

 

 

ウィリアムは頭を抱えてウンザリとした顔をする。

そんなウィリアムの様子にリィエルは首を傾げる。

 

 

「?どうしてそんなにウンザリしてるの?」

 

「誰のせいだと思ってるんだ……」

 

「?」

 

「目が離せないというだけだ」

 

 

ウィリアムは呆れたようにそれだけ言って、リィエルを箱埋めから解放する。

 

 

「そろそろ飯を食いに行かないとな」

 

「ん。今日も苺タルト食べる」

 

「苺タルト以外もちゃんと食え!!」

 

 

そんな何時ものやり取りのまま、二人は食堂へと向かって行った―――

 

 

 




これで原作五巻は終了
この先で思う事は·····チートだなぁ····
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第五章・遺跡調査と碧き盾
四十五話(改)


ここから原作六巻
てな訳でどうぞ


ああ……此処に居ていいんだな。

あの優しく、穏やかで暖かい、あの日向の世界に。

見捨てた罪悪感から悩み、背を向けようとして―――

それを、救えなかった彼女の記憶を受け継いだ少女が引き留めてくれた。

そんな暖かな居場所である教室でウィリアムは―――

 

 

「zzzzzz…………」

 

 

……普通に寝ていた。授業開始前ではあるが。

 

 

「すぅ……」

 

 

しかも、リィエルもウィリアムの肩を枕変わりにして一緒に寝ているという、何とも言えない光景ができていた。

そんな二人の仲睦まじい光景に女子は微笑ましい目を、男子は血涙を流さんと言わんばかりの嫉妬の目を向けている。

特に、端から見ればバッカプルのような二人に、男子達の精神(ライフ)はガリガリと削られている。

そんな思春期特有の空気が漂う中、ウィリアムは開始の十分程前で目を覚ます。

 

 

「……ふぁ~……」

 

 

ウィリアムは軽く欠伸をし、次いでまだ寝ているリィエルを肩を揺すって起こしにかかる。

 

 

「ん……」

 

 

リィエルも目を覚まし、相変わらずの眠たげな表情のままウィリアムを見やる。

 

 

「……もっと寝たかった」

 

「あんだけ寝たのに、開口一番で文句かよ。それと授業中は寝るんじゃねぇぞ」

 

「……ん。頑張ってみる」

 

 

本当に相変わらずのリィエルに、ウィリアムは背伸びしながら呆れた顔となる。

成績だって結構ヤバいのに、普段の行動にも問題があるから進級できるのか相当心配している。

どうやってリィエルの残念な頭に知識を詰め込むか、頭を悩ませていると―――

 

 

「はぁ~~……」

 

 

前の席にいるシスティーナから元気の無いため息が洩れていた。

しかも机に突っ伏しており、落ち込んでいるようだ。

 

 

「システィーナ、元気ない……どうしたの?」

 

 

その様子に、リィエルがシスティーナに理由を聞こうとする。その理由はシスティーナの隣に座っているルミアが教えてくれた。

どうやら、システィーナはB++ランクの遺跡調査に参加しようと立候補したが、今回も落選したため落ち込んでいたそうだ。

難癖に近い事も言われたそうだが……

 

 

「まぁ、当然の結果だろうな。お前は下手すりゃ、興奮して一人で勝手に進みそうだし」

 

「うぅ……」

 

 

ウィリアムの指摘に、システィーナは言い返せずに唸る。

遺跡調査は常に危険が付きまとう。経験も浅く、力量も低いシスティーナが落選するのは必然ともいえた。

そんなシスティーナをルミアが励ましていると―――

 

 

「お早う、諸君!」

 

 

グレンが颯爽と現れ、教壇へと立つ。

そして学院から遺跡調査を頼まれ、『タウムの天文神殿』への調査隊員をこのクラスの有志で募るのだが―――

 

 

「……やれやれ。相変わらずですね、先生」

 

 

ギイブルが皮肉めいた発言する。

そして、昨日からの噂―――グレンが魔術研究の成果をまとめた定期報告論文を書いて、否、研究自体をしておらず、講師を免職になりかけており、今回の遺跡調査でそれを逃れようとしている事を告げる。

それに対しグレンは―――

 

 

「な、なんのことだか、サッパリだなー!?」

 

 

滅茶苦茶動揺していた。

ギイブルによって容赦なく実情をバラされたグレンは恥も外聞もなく、ジャンピング土下座をかまして生徒に同行を頼みこんできた。

そんなグレンにルミアは自ら同行を申し出て、リィエルもルミアに続くように参加表明し―――

 

 

「ウィルも一緒にいこ?」

 

「……まぁ、そうだな。折角だし行ってみるか」

 

 

リィエルの誘いにあっさりと了承し、ウィリアムも遺跡調査に参加する事にした。

リィエルに対して甘くなっていると自覚しつつも―――

 

 

(上手くいけば普段の授業よりサボれるしな)

 

 

……ウィリアムもグレン同様、そこまで変わっていなかった。

その後も、ギイブル、カッシュ、セシル、リンにテレサと参加者が決まっていき―――

 

 

「ウェンディ。お前にも同行してもらいたい」

 

 

グレンがウェンディを名指しで指名し、グレンの最初に提示した人数に達する。

その後、見栄とプライドで参加表明の機会を逃してしまったシスティーナは、ルミアのフォローとそれに気づいたグレンの煽りにより、無事に遺跡調査に参加する事ができた。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

―――遺跡調査の出発前日、地下の作業部屋にて。

 

 

「ふぅ……これで修繕は終わったな」

 

 

ウィリアムは目の前に並べられた、一・七メトラ近くある四枚の六角形の棺桶の蓋らしきもの―――大盾型の魔導器《詐欺師の盾》を見やる。

表面はルーン文字が幾つか刻まれた碧い金属が差し込む様に取り付けられており、裏面には持ち手部分と外付けされた箱、その箱の左右に小銃(ライフル)らしきものが取り付けられている。

 

 

「まずは確認だな……《目覚めよ盾・我が意に従い・我が身を守れ》」

 

 

ウィリアムが三節で詠唱すると、外付けの箱と左右の小銃が光り、四枚の盾が空中へと浮き上がる。

外付けの箱には魔導演算器と魔力増幅回路が内臓されており、半自動制御で動かす事ができる。

 

 

「続いて本命っと……《解の封鎖(ロック)》」

 

 

ウィリアムがそう詠唱すると、碧い金属―――《ディバイド・スチール》に刻まれたルーン文字が一瞬光る。

ウィリアムは拳銃で《ディバイド・スチール》を叩くと、カンッ、と心地いい音を鳴らす。

 

 

「こっちは問題無し……《解の開放(オープン)》」

 

 

別の呪文を詠唱すると、先程と同じようにルーン文字が一瞬光る。

先程と同じように叩くも、今度は音も無く受け止められる。

 

 

「問題なく特性は機能しているな……《楯壁展開(ロード)》」

 

 

今度は《ディバイド・スチール》全体が光り、盾を中心として、周囲に碧色の魔力障壁が半球状に形成される。

その魔力障壁に錬成した銃弾を撃ち込むと、先程と同じように音も無く受け止められ、それと同時に錬成した銃弾が崩れて消えていく。

 

 

「最後に、《楯壁解除(レリース)》」

 

 

そう唱えると光りが収まり、同時に魔力障壁も解除される。

全て問題無し、長い修繕もようやく終わった。

これで守りに関してはぐっと楽になる。

この魔術金属《ディバイド・スチール》は防御だけに関しては、ほぼ絶対的な効力を有しているからだ。

だが……

 

 

「……まさか特性を封印した状態だと錆びやすく、特性も失われるとはなぁ……」

 

 

修繕が面倒だったから、今後からはほったらかさずにちゃんと手入れしておこう。

そう誓うウィリアムであった。

 

 

 




考案して思った
この盾······チートだ
もちろん、強力故の欠点も存在するが······
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四十六話(改)

大丈夫かなぁ·····?
てな訳でどうぞ


遺跡調査の当日を迎えた大型の貸し馬車の一階にて、仁義なき死闘(ゲーム)が繰り広げられていた。

 

 

「うふふ……フルハウスです」

 

「マジかよ!?」

 

「このタイミングで!?」

 

 

グレンを含む男子一同は、テレサを交えてポーカーに興じているのだが、テレサの引き運に男子の殆どが連敗していた。

 

 

「……四と五のフルハウス。テレサのKとAのフルハウスには勝てないな」

 

「うふふ……今回は私の勝ちですね?」

 

 

そんな中で、ウィリアムは七分の五の確率でテレサに負けていた。

ウィリアムは顔こそ平然としているが、内心では汗だくになるほど驚愕していた。

ウィリアムもグレン同様、イカサマを使っているのだが、テレサに殆ど通用せず、ウィリアムが親番の時にカードを全部操作したり、テレサの札を見てから瞬時に捨て山からカードを入れ替える等して、辛うじて勝ちを拾えている状態なのだ。

 

 

(資金調達と情報収集の為に行き来していた、イカサマありの闇カジノで鍛えた腕があんまり通用しないとか……どんだけ強運なんだよ!?)

 

 

テレサのあまりの天運と剛運の良さに、ポーカーフェイスを維持しながらも内心で戦々恐々するウィリアム。

そしてグレンが親番となり、ウィリアムに配られたカードの手役はAと五のフルハウスであった。

勿論、罠だと見抜いているので……

 

 

「先公、四枚交換だ」

 

 

スペードのA以外を捨て山に捨てると同時に、デッキに素早く細工を施す。

テレサも五枚全て、捨て山へと捨てていく。

グレンは内心の恐怖を隠しながら、二人に新しいカードを配っていき……

 

 

「スペードのロイヤルストレートフラッシュだ」

 

「私はハートのロイヤルストレートフラッシュですから……今回は私の負けですね」

 

「ふっざけんなぁああああああああああああああ―――ッ!!?」

 

 

あり得ない最強手札の応酬に、チップを全賭けしていたグレンは手札を捨てて絶叫する。

 

 

「お前ら!何かイカサマしてるんじゃねぇのか!?」

 

「負けたからイカサマって……さすがにどうかと思うぜ?」

 

 

グレンは、自身のイカサマを棚に上げて詰め寄るも、ウィリアムの返しに何も言えなくなってしまう。

ウィリアムは実際にイカサマをしているが、イカサマが平然と行われる闇カジノで鍛えられた高度なイカサマであり、公営カジノ程度で通用するイカサマレベルでは、グレンに見抜く事は出来ない。

……最も、イカサマ無しだと全部ブタ、全部交換してもブタ、素の引き運は周りが哀れむ程、金に関する賭けには滅法運が悪いのだが。

そんな仁義なきポーカーを続けていると……

 

 

「シャ、シャドウ・ウルフ!?」

 

 

馬車の二階にいるシスティーナの焦り声が聞こえてきた。

窓の外を見ると、何時の間にか街道から外れた薄暗い森の中で、しかもシスティーナの言った通り、狼の魔獣―――シャドウ・ウルフが数匹いる。

シャドウ・ウルフは『恐怖察知』という標的の自分達に対する恐怖の感情を敏感に察知する能力で獲物を判断する魔獣だ。

そのシャドウ・ウルフに囲まれた光景を見ても、ウィリアムは特に心配していなかった。

何故なら、出発した時から馬車の御者の肩に乗るよく知る鴉に、御者と自分以外は誰も気づいていないからだ。

外の様子に気づいたグレンは颯爽(さっそう)と外に出るも、見事なまでに足首をくじいて着地に失敗する。

御者の肩に乗っていた鴉―――ファントム・レイヴンは御者の肩から離れ、グレンにも自身の存在を認識させて近づき―――

 

 

「アホォー」

 

 

……馬鹿にするように鳴いた。

ファントム・レイヴンの『存在遮断』は仲間等に存在を知らせる為、任意で認識させる相手を選べるのだ。

今もウィリアムとグレン、御者以外はこの鴉の存在に気づいていない。

 

 

「マジかよ……」

 

 

グレンもファントム・レイヴンがこの場にいた事を知り、馬鹿にされた怒りよりも、御者の正体に気づいて呆れていた。

 

 

「《罪深き我・逢魔(おうま)の黄昏に独り・(なれ)を偲ぶ》―――」

 

 

その御者は呪文を呟くと、神業の動きで真銀(ミスリル)片手半剣(バスタードソード)を振るい、シャドウ・ウルフを一気に殲滅していく。

実用性と芸術性、二つの属性を遥かなる高次元で融合させた十字架型の柄(クロス・ヒルト)の宝剣を、単純(シンプル)な鋭さと重さを極限まで研ぎ澄ませた剛速剣の剣技で振るっていく。

 

 

「す、すごい剣技……」

 

「あれは剣技じゃねぇ、魔術だ」

 

 

御者の剣技に見惚れていたシスティーナに、馬車まで下がっていたグレンが否定する。

白魔()【ロード・エクスペリエンス】―――物品の思念と記憶情報を読み取り、一時的に憑依させる魔術で、真銀(ミスリル)の剣に宿る記憶を読み取り、かつての剣の使い手の技を再現しているだけだと。

 

 

「あの御者は……一体……!?」

 

 

システィーナの疑問は御者が最後のシャドウ・ウルフを斬り裂いき、御者のフードがずり落ちた事で解ける事となる。

金の長髪をたなびかせ、黒のゴシックドレスを着たその女性は―――

 

 

「やーれやれ。もうバレちゃったか」

 

「ア、アルフォネア教授ッ!?」

 

 

世界最高の魔術師、第七階梯(セプテンデ)に至った女性、セリカ=アルフォネアであった。

 

 

 

本来の御者と入れ替わっていたセリカはそのまま、同行する事となった。

 

 

 




イカサマが相当得意なオリ主でした
多分、原作でテレサの剛運に勝てるのは《隠者》くらいだと私は思います
当然、イカサマの腕は《隠者》の方が上です
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四十七話(改)

相変わらずの駄文である
てな訳でどうぞ


現在、馬車内は圧倒的な気まずい空気に包まれていた。

その原因は、余裕の表情で本を読んでいるセリカにある。

セリカには様々な伝説と魔術師としての凄まじい力量、それらがもたらす背景に周りが完全に萎縮しているからだ。

システィーナがこの空気を何とかしようとセリカに話しかけるも―――

 

 

「さっきの魔獣退治の時、どうして剣を使ったんですか?」

 

「?いや、私が攻性呪文(アサルト・スペル)をブッパしたら、お前達まで吹っ飛んじゃうじゃん?地形も霊脈(レイライン)も変わっちゃうし」

 

 

ぶっ飛んだ返しで逆効果に終わる。

そんな空気の中でも、ウィリアムはジト目で()()()()()のセリカの左肩を見つめている。

 

 

「……誰も何もしねぇから普通に姿を見せとけよ……ファム」

 

 

ウィリアムの言葉にセリカ以外がいぶかしんでいると、セリカの左肩から一羽の鴉が最初から留まっているかのように突然現れる。

突然現れた鴉に周りが目を白黒させていると―――

 

 

「その鴉、ひょっとして……ファントム・レイヴン!?」

 

 

システィーナがその鴉―――ファムの正体を見抜いた事で一気にファムに驚愕の視線が注がれる。

 

 

「マジかよ……!」

 

 

カッシュが目を煌めかせてファムに近づいていくと……

 

 

「あ、あれ?」

 

 

不意にファムを見失ったかのように周りをキョロキョロと見回し始める。

ファムは自身の能力を使って、カッシュにだけ自分の存在を遮断したのだ。そのままファムは、カッシュの頭に近づいて―――

 

 

「イッテェッ!?」

 

 

嘴で思いっきり、カッシュの頭をつついた。

 

 

「……ファムに契約する気はないぞ。今のはその意思表示だ」

 

 

痛みで頭を抑えるカッシュにウィリアムがそう説明する。

前回の一時契約も旧知の仲と、高級魚で作られた高価な餌を一週間与える約束で実現できたものだ。

一時でさえそれなのだから、使い魔契約等、夢のまた夢なのだ。

セリカもファムのその意思を尊重して、本当に必要だと感じた時以外は、契約を結ぼうと迫りはしない。亡くなった友の盟友というのもあるが。

 

 

「そういや教授は俺の師匠と知り合いだったよな?」

 

「ああ。アイツの持ってくる酒はどれも絶品だったぞ」

 

 

あぁ、やっぱり手紙のやり取りで知ってたんだな、と思いつつ話を進める。

 

 

「師匠は相当な放浪癖を持ってたみたいだからなぁ。色々知ってたんだよな、東方の文化とか」

 

「……前々から思ってたけど、ウィリアムの師匠って一体誰なのよ?」

 

「……あ~、そいつは……」

 

 

システィーナの質問に、ウィリアムは言葉を濁して誤魔化そうとするも―――

 

 

「コイツはユリウス=エンデの弟子だよ」

 

 

セリカがアッサリとバラした事で周りが騒然となる。

 

ユリウス=エンデ。

 

第七階梯(セプテンデ)に至った人物で、《消滅の守護者》と恐れられていた錬金術師だ。

ウィリアムは再び重くなった空気に頭を抱える。言えば確実にこうなると分かっていたから言葉を濁したのに、わざとバラしたセリカのせいで台無しとなった。

 

 

「……ん……?……セリカ……?……いたの?」

 

 

そんな空気を、目を覚ましたリィエルが解きほぐしてくれた。

セリカが読んでいた本―――『メルガリウスの魔法使い』からグレンの昔話へと広がっていき、セリカがグレンの昔話に華を咲かせて、周りの緊張が解れていった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

―――到着した『タウムの天文神殿』内にて。

 

 

「《我は射手・原初の力よ・我が指先に集え》!」

 

「《魔弾よ》!」

 

 

調査組は、黒魔【マジック・バレット】で襲いかかってくる狂霊を掃討していた。

どうやら長年放置されたせいで、狂霊達がわんさか湧いていたようだ。

 

 

「メンドクセ……《魔弾よ》」

 

 

ウィリアムはうんざりしながら、【マジック・バレット】で狂霊を撃ち抜いていく。

本音を言えば人工精霊(タルパ)でさっさと掃除したいが、実戦経験を積ませるいい機会という事と、人工精霊(タルパ)を使った後の周りへの言い訳が凄まじく面倒なため、敢えて【マジック・バレット】で狂霊を倒していた。

途中、セリカのぶっ飛んだ技量に呆然としつつも、遺跡内を進んでいく。

遺跡の説明の中、リィエルが壁を壊せばいいと物騒な事を呟くも、霊素皮膜処理(エテリオ・コーティング)によって完全固定されているから不可能だとセリカは説明する。

そんなやり取りをしながら、一行は第一祭儀場の入り口へと辿り着く。

 

 

「一応、俺が安全確認してくるから、お前らはここで待ってろ」

 

 

グレンが安全確認の為、そう言って一人で部屋の中へと入って行く。

そして安全の確認がとれ、第一祭儀場の調査が開始される。

ウィリアムはリィエルと一緒に入り口を見張る事にした。比較的楽という理由で。

祭儀場に入った際、グレンの様子がちょっとおかしかったが、ウィリアムは特に気にしなかった、が……

 

 

「…………」

 

「?ウィル、どうしたの?」

 

 

祭儀場の入り口で周りを見渡すウィリアムに、リィエルが不思議に思い問いかけてくる。

 

 

「イヤ……何か妙な視線を感じるというか……」

 

「?」

 

 

ウィリアムの要領の得ない言葉にリィエルは首を傾げる。

さっきから誰かに見られているかのような視線をウィリアムは感じているのだが、周りを見渡しても誰もいないのだ。

 

 

「ワリ、どうやら気のせいみたいだ」

 

 

ウィリアムは自分の勘違いと判断し、一応の見張りに務める事にした。

そんなウィリアムを―――

 

 

『…………』

 

 

異形の翼を持つ一人の少女が探るように見つめていた……

 

 

 




·····うんヒドイな、うん
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四十八話(改)

いい加減だよ、ホント
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遺跡調査五日目の真夜中。

 

 

「あぁ~、癒されるぅ~」

 

 

ウィリアムは現在、セリカが先日発見した温泉に一人で浸かっていた。

一人で温泉に浸かっているのは、師匠との過去の思い出に耽りたかったからだ。

義手を隠す腕袋を外していない辺り、一応万が一には警戒しているが……

 

 

「……いたのかよ、ウィリアム……」

 

 

突然の落胆したような声が聞こえ、緩くなった頭で声のした方を向くと肩を落とした一糸纏わぬ姿のグレンがそこにいた。

 

 

「貸し切りに水を差して悪いな、先公」

 

 

グレンの肩を落とした理由を当てながらも出る気配のないウィリアムに、グレンはため息を吐きながら温泉へと入っていく。

互いに無言で温泉を堪能していると―――

 

 

「……ん?」

 

 

グレンが新たな人の気配を感じ、ウィリアムもそちらに視線を向けると……

 

 

「――げっ!?」

 

「――ッ!?」

 

「なんだ、いたのか」

 

 

一糸纏わぬセリカがいた事に、ウィリアムの緩くなっていた頭が一気に覚醒した。

ウィリアムは慌てて後ろへと向き、グレンもテンパり同じように背を向ける。

そんな二人にセリカは気にする事なく近づいていき、グレンと背中合わせで浸かっていく。

ウィリアムは堪らずに離れようとするも―――

 

 

「まぁまぁ、折角なんだしお前もいろよ」

 

 

とセリカに引き留められた為、逃げられなくなる。

グレンとセリカはなにやら語り合っているが、緊張のせいでロクに言葉が入って来ない。

セリカが色々と不安を吐露している事だけは理解できたので、ウィリアムは少しだけ会話に加わることにした。

 

 

「そんなんじゃ幸せが逃げちまうぞ、もっと気楽にしとった方がええぞ。って師匠が言いそうだな」

 

「……ハハ、アイツなら確かにそう言うだろうな」

 

 

そんな茶化し言葉を、セリカは懐かしむように受け取った。

セリカはグレンともう少し話をして、先に温泉から上がっていった。

ウィリアムもそろそろ上がろうと立ち上がろうした矢先、向こうの岩影から複数の人の気配が近づいてくる。

 

 

「「…………は?」」

 

「システィ、早く~」

 

「急かさないでよ~」

 

「温泉は逃げたりしませんわよ」

 

「ええ、ですからゆっくり楽しみましょう?」

 

 

岩影からシスティーナとルミアの声が聞こえてくる。しかもそれに続いて、ウェンディとテレサの声も聞こえてきた。声は聞こえてこないが、リィエルとリンもいる可能性は高い。

 

 

「ま―――」

 

 

ウィリアムは咄嗟に叫ぼうとするも、それより早くグレンに肩を掴まれ、湯の中に引き摺りこまれてしまった。

 

 

(どういうつもりだ先公!?)

 

(す、スマン!!つい咄嗟に……!)

 

 

手話でグレンの真意を問うウィリアムに、グレンも手話で自身が指してしまった最悪の一手を素直に謝る。

そうしている間に彼女達は入浴してしまい、取り囲まれてしまった。

 

 

(ど、どうすんだよ先公!?)

 

(ウィリアム!お前が透明な通気口を錬成して……)

 

(無理だ!通常錬成じゃ確実に紫電が飛び散るし、瞬間錬成の鍵たる翡翠の石板(エメラルド・タブレット)も今手元にねぇッ!!)

 

(じゃあ【ウォーター・ブリージング】で……)

 

(今、水中詠唱なんぞしたら確実にバレるぞ!!)

 

(そうだったぁあああっ!!もう耐えるしかねぇのか!?)

 

(全員風呂から出るまで俺らの息が保つのか!?)

 

 

二人は地獄からの脱出案を模索するも一向に妙案が出てこない。

そんな事など露知らず、温泉を堪能している彼女達は会話に華を咲かせていく。

 

 

「そういえば、カッシュさんが覗きにくるんじゃ……」

 

「大丈夫よ。縛って吊るしておいたから」

 

「どうせなら火炙りにしていただければ、よろしかったのに♪」

 

「あはは、確かにそうね」

 

((お、鬼か!?))

 

 

彼女達の物騒な会話に二人は自分達の未来を想像し、萎縮する。

カッシュは先日、女子風呂を覗こうとして見事に迎撃されていたのだ。

カッシュが今日やたらとファムを探していたのは、契約を結んで視覚を同調し、女子風呂を覗く魂胆だったのだろう。

まぁ、当然失敗しているのだが。

 

 

(って、そんな事考えてる場合じゃねぇ!!)

 

 

ウィリアムはそんなどうでもいい事を頭の隅へと放棄し、見つかれば殺されるこの状況から脱出する為、グレンと一緒に案を出しまくる。

あれも無理、これも無理とボツ案しか出ず、無情に時間が過ぎ、限界が近づいていく。

そして……

 

 

「だぁあああああああああああああああ―――ッ!?」

「ぬあぁああああああああああああああ―――ッ!?」

 

 

遂に限界を迎え、二人は新鮮な空気を求め、湯柱を上げて浮上した。

 

 

「「ゼハァー…………ハァー………ハァー………」」

 

 

二人は深呼吸し、新鮮な空気を身体に入れていく。

 

 

「「「「「「……………………」」」」」」

 

 

その光景に温泉を堪能していた彼女達の時間が止まる。

二人は目の前の光景を視界に収め―――

 

 

「……正解(ビンゴ)

 

「……フッ」

 

 

グレンは実に眩く、清々しく、ウィリアムはどこか諦めたかのような達観した笑みの、漢の顔となった。

 

 

 

その直後、グレンには暴風が、ウィリアムには大剣の腹の横殴りが襲い掛かり、哀れな二つの悲鳴が岩山に響き渡った。

後に大剣で殴り飛ばした少女はこう答えた。

 

 

 

「よくわかんないけど、こうするべきだと思った」

 

「アハハ……」

 

 

若干不機嫌な顔で答えたその少女に、天使の如き少女は苦笑いするしかなかった……

 

 

 




この流れもありの筈
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四十九話(改)

簡略って本当に難しい
てな訳でどうぞ


遺跡調査最終日。

一行は遺跡の最深部―――大天象儀(プラネタリウム)場へと辿り着いた。

大部屋の中央には古代魔術(エインシャント)が生み出した、巨大な天秤の形をした天象儀(プラネタリウム)装置がある。

グレンが天象儀(プラネタリウム)装置を、手にした論文通りに操作すると、小宇宙のような幻想的な空間が顕現する。

誰もがその光景に見惚れる中、セリカが装置を操作して機能を停止させる。

そのままセリカの音頭で部屋の調査が開始される。

ウィリアムとリィエルは何時も通り入り口の見張りなのだが、今のウィリアムにとっては見張りはキツかった。

何かに没頭しないと、昨日の出来事を思い出してしまうからだ。本人としてはさっさと忘れたいのにだ。

 

 

(こうなったら、《ファランクス》の小型化について考えるか!)

 

 

ウィリアムは兎に角、昨日の出来事を考えないようにするため、別の事を考える事で誤魔化そうとする。

機構自体は同じにして、銃口を小さくしたり、砲身等を短くしたりすれば、取り回しが利き易くなるだろう。

その分、威力や射程が落ちるだろうが、前回のような戦闘でなら、十分牽制の役割を果たせる筈だ。

そんな見張りを殆どそっちのけで考え続け、具体的な構成を整えていると―――

 

きん、きん、きん――

 

魔力反響音が聞こえてきた。

ウィリアムは音のした方に目を向けると―――

 

 

「―――なッ!?」

 

 

あの天象儀《プラネタリウム》装置が先程とは違う動作で動いていた。その装置の近くには呆けたシスティーナとルミアがいる。

呆気に取られた周りを尻目に、天象儀《プラネタリウム》装置は駆動し続け―――

部屋の北側に、蒼い光で三次元的に投射された『扉』が現れた。

そしてその『扉』は、どこか切羽詰まったセリカが、通った事で閉じられていった……

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

セリカが『扉』の向こうへ消えた後、グレンは事情聴取のため、システィーナとルミアを音声遮断結界を張った自身の天幕へと招き入れていた。

ウィリアムとリィエルも同席しているが、問題は無い。

 

 

「お前らが何をしたのか……話してもらおうか?」

 

「はい……」

 

 

グレンの問いかけにシスティーナは答えていく。

システィーナの話を要約するとこうだ。

システィーナはルミアの『異能』―――『感応増幅』を使ってあの装置を魔術解析したら今まで見えなかった術式が見えるようになり、その驚きのまま装置を操作したら、あの『扉』が現れたそうだ。

話を聞いたグレンとウィリアムはやっぱり、という気分だった。

『感応増幅』は単に魔力を増やすだけの能力。出来ない事を出来るようにする能力ではない。

だが、あの遠征学修の一件―――ルミアの『異能』により、ルーン語の機能限界で不可能だった筈の魔術儀式、『Project:Revive Life』を成功させていた。

つまり、ルミアの『異能』は『感応増幅』と似て非なる別の『異能』だろう。

だが今はその事ではなく、これからの事が重要だ。

話を聞き終えたグレンは一人でセリカを連れ戻しに行くと言ってきた。

それに対し、システィーナとルミア、リィエルは同行を申し出る。

 

 

「俺も行くぜ。戦力は少しでも多い方がいいだろ?」

 

 

当然、ウィリアムも同行を申し出るも―――

 

 

「駄目だ」

 

 

グレンはキッパリと拒絶した。

戦闘能力の高いウィリアムとリィエルはまだしも、システィーナとルミアを連れていくわけには行かず、他の生徒の事もあるのだ。

 

グレンは正論を言って天幕から出ると、他の皆が物言いたげな顔で集まっていた。

グレンが一人でセリカを連れ戻しに行くと言った途端、カッシュが盛大にグレンに飛び蹴りを放つ。

そして、自分達は大丈夫だからセリカを連れ戻す為にシスティーナ、ルミア、リィエル、ウィリアムを連れて行けと言う。

他の皆もカッシュと似たような事を言い、その思いを受けたグレンは―――

 

 

「頼む……力を貸してくれ。セリカは、俺の唯一の家族なんだ……」

 

 

その懇願に近いグレンの言葉に、四人は強く頷いて返した。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

準備をすませ、天文遺跡の最深部から例の『扉』を開き、光の回廊を踏破した先に広がった最初の光景は―――

 

 

「――ッ」

 

 

独特な衣装と杖を持つ、大量のミイラだった。

この地獄の光景の空間に一同は(約一名を除き)呑まれかけていると―――

 

ずる、……り……

 

と、後方から這うような音が聞こえてきた

一同は咄嗟に振り替えると、後方の曲がり角から、下半身の無く、左腕もなくした長い金髪の女だった。

 

 

「きゃああああああああああああああ―――ッ!?」

 

 

システィーナの悲鳴を皮切りに、その女は素早い動作でグレンへと右腕一本で跳躍して迫り、髪を伸ばしてグレンの口と首を絞め上げる。

 

 

『憎イ―――憎ィイイイイイ―――ッ!アノ女サエ居ナケレバァアアアアア―――ッ!!』

 

 

そんな意味不明な事を口走る女にリィエルは大剣を振りかざし、その女を斬り伏せようとするも―――

 

 

「―――うあッ!?」

 

 

突如、壁から生えた無数の腕がリィエルの全身に絡み付き、壁へと引っ張り拘束する。

 

 

「チィ―――ッ!」

 

 

ウィリアムは這い上がってくる悪寒を抑え、直ぐ様翡翠の石板(エメラルド・タブレット)に触れて【詐欺師の工房】を起動する。

そして、全体的に細身であり手を祈るように組んだ上半身のみの甲冑騎士―――人工精霊(タルパ)騎士の祈り(ナイツ・プレアー)】を二体、その場に具現召喚する。

その甲冑騎士達から歌声が奏でられると―――

 

 

『ギャァアアアアアアアア―――ッ!?』

 

 

足元で動き出していたミイラも含めて、亡霊達が一斉に苦しみだす。

騎士の祈り(ナイツ・プレアー)】は祓魔用の人工精霊(タルパ)だが、浄化までには至らない。精々、動きを鈍くする程度だ。

ウィリアムはそのまま【騎士の誇り(ナイツ・プライド)・剣兵】を具現召喚しようとするも―――

 

 

「《送り火よ・彼等を黄泉に導け・その旅路を照らしたまえ》」

 

 

その前に、ルミアが香油を少しずつ垂らすように振りかけながら白魔【セイント・ファイア】を詠唱し、橙色の聖なる炎が死者達を焼き尽くしていく。

炎が収まると、その場にいた死者達は残らず消滅しており、辺りの穢れも清められていた。

 

 

「……あ、ありがとう……」

 

「ん。助かった」

 

 

ゾンビに触れられパニックを起こしていたシスティーナと拘束されていたリィエルが、二人にお礼を言う。

 

その後、近くの小型モノリスを調査し、帰れる事を確認してから、一同は通路の奥へと進んでいった。

 

 

 




人工精霊は本当に便利である
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五十話(改)

ホント、妄想だだ漏れだよ
てな訳でどうぞ


セリカのものと思しき新しい足跡を頼りに五人は進んでいく。

時折、襲い掛かってくるミイラ達を撃退しつつ、まるで『塔』のような建造物を踏破していく。

そうして、時間の感覚があやふやになる程下を目指して歩いていると、通路の奥から低い地鳴りのような轟音が響いた。

 

 

「今のは……ッ!?」

 

「……多分、セリカの魔術だ……」

 

 

グレンの言葉で一斉に駆け出し、通路の奥にあるアーチ型の出入口をくぐり抜ける。

くぐり抜けた先は、闘技場のような大広間で、正反対に位置する巨大な門の前で、セリカは大量の死者達と戦っていた。

 

 

「《 《 《失せろ》 》 》ッ!!」

 

 

その一言の詠唱で、収束稲妻砲撃(【プラズマ・カノン】)が、灼熱業火の津波(【インフェルノ・フレア】)が、絶対零度の結界(【フリージング・ベル】)が同時に起動し、襲いかかる死者達を力づくで破壊していく。

その光景に呆然としていると、部屋全体に霊的な奈落―――霊的存在を問答無用で虚無の奈落へと引きずり堕とすというコンセプトから禁呪指定された召喚儀【ゲヘナ・ゲート】―――が形成され、残りの死者達が奈落へと落ちていく。

静寂が訪れ、死者達を蹂躙しつくしたセリカに一同は駆けよっていく。

 

 

「セリカ!」

 

「…………グレン……?」

 

 

グレンの呼び掛けでこちらに気づいたセリカは、緩慢な動作で振り返る。

グレンがセリカの軽率な行動を咎めて帰るよう促すも―――

 

 

「グレン!私はやっと、失われた過去の手がかりを見つけたんだ!」

 

 

セリカの突然の言葉に、硬直してしまう。

セリカはそんな周りを気にすることなく語り始める。

 

セリカ曰く、あの光の扉―――《星の回廊》を行き来していたことを漠然と思い出した事。

そして、此処はアルザーノ帝国魔術学院の地下迷宮、その地下八十九階との事。

あの地下十階から地下四十九階―――構造が定期的に変化し続ける《愚者の試練》の階層を超えていると。

―――そして、この『門』の向こうに自分の全てがあるということを。

セリカはそのまま、吸い寄せられるように、巨大の門へと歩み寄ろうとするも―――

 

 

「駄目だ」

 

 

グレンがそんなセリカの腕を掴んで引き留める。

今までの死者達の言葉から、セリカの過去は相当ロクでもないことを伝え、自分にはそんなのは関係無いから一緒に帰るよう、セリカを説得しようとするも―――

 

 

「嫌だ……ッ!それじゃあ、私は…………」

 

 

セリカはグレンの言葉を拒絶して手を振りほどき、詠唱しながら門へ向かって駆け出す。

セリカの左手から放たれた光の衝撃波―――【イクスティンクション・レイ】が門へと直撃する。

光の衝撃波を受けた扉は―――無傷。

何事も無かったかのようにそびえ立っていた。

悔しがるセリカにグレンは近づき、再び説得しようとしていると―――

 

 

『門に触れるな、下郎共』

 

 

地獄の底から響くような声と共に、闘技場の中央から緋色のノーブで全身を包んだ謎の存在が現れた。

その存在―――魔人が放つ異質性にウィリアムは直感で悟る。

 

 

―――ヤバすぎる、と

 

 

あの魔人は自分達とは格が違いすぎる。例えるなら、何も知らない子供がドラゴンに襲われるくらいの差を、あの魔人から感じられる。

それをグレンとシスティーナ、ルミアにリィエルも感じ取っており、魔人の放つ雰囲気に呑まれかけている。

セリカだけは、普段の冷静さが失われいるせいか、それに気づけていない。

 

 

『……貴女は……(セリカ)か。我が主に相応しき者よ』

 

 

魔人はセリカを見て、そう呟く。

 

 

「は……?」

 

『だが、今の汝にその門を潜る資格無し……お引き取り願おう……』

 

 

魔人は一方的に言い、彼らへと向き直る。

その手には、いつの間にか刀が握られており、左手に紅の魔刀、右手に漆黒の魔刀を携えている。

 

 

『愚者の民よ。生きて帰れると思わぬ事だ……亡者と化し、この《嘆きの塔》を永久に彷徨うがいい―――』

 

 

明確な敵意と殺意が魔人からぶつけられる。

セリカはそれにも気づかず、魔人へと突進し、B級軍用魔術の超高熱の紅炎を魔人へと放つも―――

 

 

『……児戯』

 

 

左の刀をその紅炎へと軽く振るって―――かき消した。

 

 

「――ハッ、対抗呪文(カウンター・スペル)の腕は相当だなッ!?」

 

 

セリカは今のを対抗呪文(カウンター・スペル)と解釈したが、今のはそんなものでは無い。

対抗呪文(カウンター・スペル)は一定の威力規格を超える攻性呪文(アサルト・スペル)は打ち消すことは出来ない。

セリカが放ったのは、B級の軍用魔術―――打ち消せない威力の魔術だ。

 

 

「違うぞセリカ!今のは対抗呪文(カウンター・スペル)じゃないッ!!」

 

 

グレンが警告するも、セリカは聞く耳持たず。【ノード・エクスペリエンス】で真銀(ミスリル)の剣の記憶された剣技を憑依させ、魔人に斬りかかる。

甲高い音と共に両者がすれ違うと、セリカは狼狽えた顔となった。

 

 

「な、なんで解呪(ディスペル)されて……」

 

『……我が左の魔刀に、そのような小賢しい児戯は通じぬ……そして、(セリカ)よ……ッ!我は汝に対する失望と憤怒を抑えきれぬ……ッ!!』

 

 

魔人はそれだけ言い、瞬時にセリカの後ろへと回り、右手の魔刀を稲妻の如く振るう。

セリカはかろうじて避けて、背中の小さな傷だけで済んだが、急に力が抜け落ちたかのように倒れてしまう。

 

 

『……我が右手の魔刀に、触れた貴様はもう終わりだ……』

 

 

魔人はそのままセリカに近づき、右手の魔刀を首筋に当て、トドメをさそうと―――

 

 

「っざっけんなぁああああああああああ―――ッ!!」

 

 

したその時、グレンの早撃ち(クイック・ドロウ)からのファニングが炸裂し、六条の火閃が魔人へと迫る。

 

 

『ム―――ッ!?』

 

 

その不意討ちにより、一発が魔人の心臓を貫抜くも、残りの五発の銃弾は魔人の剣線によって弾かれる。

 

 

『なんだ、その妙な武器は?爆裂の魔術で鉛玉を飛ばす魔導器か?』

 

 

後退しながら、魔人はグレンの銃を注意深く見る。

心臓を貫抜いても平然としている魔人に、グレンは焦燥に急かされ、弾倉を交換しようとするも、魔人は一気にグレンにへと肉薄する。

 

 

「させるか!」

 

 

ウィリアムは【騎士の剣(ナイツ・ソード)】をすぐさま何体も具現召喚し、魔人に向けて発射するも―――

 

 

『―――児戯!!』

 

 

魔人の剣線により、黄金の剣は瞬時に砕かれたり、左の魔刀に触れた瞬間に霧散する。

その間にシスティーナがルミアのアシストを受けた【ブラスト・ブロウ】を放つも、左の魔刀でアッサリと防がれる。

その後、リィエルの奇策で魔人は斬り飛ばされるも―――

 

 

『―――見事なり』

 

 

魔人はやはり健在。負傷が初めから無いかのようにまったく見えない。

 

 

『……行くぞ、愚者の子らよ…《■■■―――》……』

 

 

魔人が呪文らしきものを唱えると、頭上から太陽のような燃え輝く球体が形成されていく。

 

 

(あれはマズイ―――ッ!!)

 

 

ウィリアムは間に合うか判らぬまま、圧縮凍結を施して持ってきていた《盾》を取りだそうとするも、グレンが愚者のアルカナを取りだそうとする光景を見て思わず動きを止めてしまう。

その一瞬が命取りとなった。

 

 

『《――■■■■》……逝ね』

 

 

魔人の魔術が完成し、頭上の太陽球が一際強く輝く。

ウィリアムはもう間に合わないと悟りながらも《盾》を取りだそうと―――

 

 

「……え?」

 

 

したが、いつの間にか世界がモロクロ調に染まり、魔人も、その頭上の太陽も停止している。

その不可解な現象に戸惑っていると―――

 

 

『……早く来なさい。貴方達』

 

 

不意に響いてきた声に、全員が背後を振り返る。

そこにいたのは、真っ白な髪、暗く淀んだ赤い瞳。極薄の衣と背中から異形の翼が生えている少女だった。

そして、その少女の顔は―――

 

 

 

―――ルミアと瓜二つだった。

 

 

 




魔術ではない人工精霊は、あの魔刀の影響を受けるかは正直微妙な所でした
主人公の裏技で出す人工精霊は魔術扱いなので魔刀の影響を普通に受けます
ちなみに主人公が普通に使えてるのは、空気中に漂う元素や物質をかき集める様にして錬成しているからです
そんな無茶振りだから長時間の固定は出来ないのですよ
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五十一話(改)

····多分、相当ヒドイんだろうな
てな訳でどうぞ


ルミアそっくりの少女の手引きによってその場から離脱した一同。

モロクロ調の世界が元に戻る頃に、少女に何者かと問うと―――

 

 

『そうね……今はナムルスと名乗っておくわ』

 

 

あらかさまな偽名で返された。

その後も質問しても彼女はのらりくらりとかわしていくし、喋ろうとしない。

分かったのは精々、遺跡限定の幽霊という事と、ルミアを相当嫌っているという事位だ。

そんな敵意をぶつけられても、ルミアは助けてくれた礼をナムルスに伝える。

ナムルスはこのまま教えた通りに進むよう、頭を冷やしてくると言って、その場から消えていった。

 

 

「……う…ん……?」

 

 

その直後にセリカが目を覚まし、グレンがセリカに容態を聞く。

どうやら、あの魔人の右の魔刀は斬った相手の霊魂を喰らって、自らの力として吸収するようであり、その為、セリカは霊魂に多大なダメージを負っており、下手したら魔術が二度と振るえない程だそうだ。

そして、セリカは足手まといとなった自分を置いていくように言い出す。

 

 

「……そんな事、できるかよ」

 

 

グレンはセリカの弱音をキッパリと拒絶する。

その後もセリカは置いていくように言い続けるも、グレンは全く曲げずに、家族だからという理由で突っぱねる。

 

 

「本当に……私達は……家族、なのか……?」

 

 

セリカはそのまま、胸の想いを吐露する。

遺跡探索に拘っていたのは、最初は『内なる声』によるものだが、今は自分の秘密を解き明かし、グレンと同じ時を生きる『人間』になりたかったのだと。

そんなセリカにグレンははっきりと大切な『家族』だと伝える。

永遠者(イモータリスト)』だろうと、悪魔だろうと、魔王だろうと、大切なたった一人の『家族』だと。

グレンの心からの言葉を受けたセリカは再び眠りにつく。

それを生暖かい目で見つめられていた事に、グレンは気恥ずかしそうに顔を背ける。

そして、再び現れたナムルスと共に、地下迷宮を進んで行く。

 

暫く進んでいると、遂に背後からあの魔人の気配が伝わってきた。

まだ出口まで辿り着くには遠く、確実に追いつかれる。

グレンが自ら足止めを買って出るも、ナムルスがそれを引き止める。

ナムルスとしては、グレンとセリカには生き伸びてほしいそうだ。

なら―――

 

 

「だったら、俺がここに残る」

 

「ウィリアムッ!?」

 

「しゃあねぇだろ。議論する時間すら勿体ねぇんだ。なら、俺が時間を稼ぐしかねぇだろ」

 

 

ウィリアムは覚悟を決めてグレン達にそう告げ、《詐欺師の盾》を一つ解凍し、左手に携える。

 

 

「これが何処までアイツに通じるか判らねぇが、防御と足止めに徹すりゃ多少は時間を稼げるはずだ」

 

 

この《盾》なら、少なくともあの太陽球は防げる筈。

そう伝えようとした矢先―――

 

 

『……貴方、その盾の金属、どこで手にいれたの?』

 

 

ナムルスがいきなり問い質してきた。

 

 

「は?」

 

『早く答えなさい。その盾に取り付けられた碧い金属を、一体どこで手にいれたの?』

 

 

懐疑的な目を向けてくるナムルスに、ウィリアムは時間が惜しいから手早く答える。

 

 

「自分で作ったもんだ。分かったら早く先公らを連れて行け」

 

『自分で作った?…………』

 

 

ウィリアムの答えに、ナムルスは考える仕草をする。そして―――

 

 

『だったら、貴方もここで死ぬわけにはいかないわ』

 

「はぁ!?ふざけてんのか!?」

 

『ふざけてないわよ!それを本当に貴方が作ったのなら、貴方にも生き伸びてもらわなきゃ困るのよッ!!』

 

「ならどうするつもりだ!?このまま追い付かれて全滅させるつもりか!?」

 

『ならせめて、アイツを倒せる手段をこの場で出しなさい!!』

 

「あの不死身ヤローを倒せる手段なんざ持ってねぇよ!!」

 

 

ナムルスの意味不明な言葉に苛立ちを増しながら、ウィリアムは激しく言葉をぶつける。

そこにグレンも混ざり、まさに一触即発の激しい言い争いになろうとした時、ずっと考え込むように黙っていたスティーナが割って入る。

 

 

「だったら……みんなであの魔人と戦って、倒しましょう……私の推測が正しければ……」

 

 

システィーナは『メルガリウスの魔法使い』の本を取りだし、あの魔人が物語に登場する魔将星の一人―――魔煌刃将アール=カーンの可能性を指摘していく。

二振りの魔刀とあの不死性―――物語のアール=カーンは十三の命を持っているとの事。

確かにあの魔人がアール=カーンなら打倒する手段と攻略法は存在する。

物語では七回死んでおり、闘技場では二回殺したので、命のストックは残り四つ。

勝機の芽は十分にあるが、これは賭けである。

本当にあの魔人がアール=カーンなら、今の段階で高確率で三回は殺せる。だが、四回目が怪しいのだ。

そんな思い悩むグレンに―――

 

 

「先公、上手くいけば奴を倒せるかもしれねぇ…………相当、危険な賭けだが」

 

 

ウィリアムがその言葉と共に、その危険な賭けを話した。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

迷宮内の空中庭園らしき場所。

そこで彼らは魔人を迎え討つ事にした。

広間にはグレンとリィエルにウィリアム、広間から少し離れた二、三メトラ程高い位置にシスティーナとルミアが待機している。

ウィリアムは四つの《詐欺師の盾》を浮遊状態にし、隠蔽の魔術を施して、二つを広間の隅に、一つは後方のシスティーナ達の近くに、残りの一つは眠っているセリカの傍に待機させている。

ウィリアムのあの策は最終手段―――ギリギリの策だ。そうなる前に本人も含め、あの魔人と決着をつけなければならない。

やがて、魔人が遂に階段から姿を現した。

 

 

『我に立ち向かうか……我に敵わぬと知り、牙剥くその蛮勇は愚か。だが、天晴れ』

 

 

魔人はそう言い、ゆっくりと階段を登ってくる。

そんな魔人に、グレンは精一杯、余裕の演技で小馬鹿にするように言い放つ。

 

 

「そうかねえ?あと四回殺せば、テメェは死ぬんだろ?」

 

『……』

 

「古代の英雄サマに俺一人じゃ無理だろうが、五人で戦えば、テメェに勝てる。命が残り四つなら……なんとかしてやるぜ?」

 

 

グレンの渾身の釜賭けに魔人は―――

 

 

『……良いだろう。汝等がいかに我が秘中を知ったかは与り知らぬが……その群の力を以て、我を四度殺してみせよ。愚者の民草共よ』

 

 

見事に引っ掛かり、決定的な言葉を吐いた。

 

 

「さぁ、行くぞッ!!」

 

「ん。任せて!」

 

「ああ!」

 

「援護するわよ!」

 

「うん!」

 

 

グレンの号令により、壮絶なる戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 

 




感想、欲しいなぁ·······(高望み)
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五十二話(改)

ご都合過ぎない·····よね?
てな訳でどうぞ


グレンが右から魔力を付呪(エンチャント)した拳で、リィエルが左からセリカの真銀(ミスリル)の剣で、魔人へと仕掛けていく。

ウィリアムも【騎士の剣(ナイツ・ソード)】を何体か具現召喚し、二人の猛攻を援護する。

魔人はその猛攻を踊るように、舞うように、捌き、かわしていく。

この戦法は、魔人が刀を持ち替えられたら一発でアウトだ。

だが、システィーナ曰く、魔人の魔刀は決まった手で振るわなければ、その効力を発揮しないそうだ。

現に、魔人は微かに苛立ちながらも、持ち替える気配が微塵もないのだ。

しかし、魔人は一瞬の隙を突き、グレンに蹴りを叩き込み、リィエルを刀の柄で殴り、吹き飛ばされ、転がっていく。

 

 

「げっ……ゲホッ!?」

 

「……い……痛い……」

 

 

魔人の攻撃を受け動けなくなった二人に、魔人は一番厄介と見定めたリィエルへと向かおうと―――

 

 

「させっかよ!!」

 

 

ウィリアムが魔人の頭上から一対の巨大な籠手―――人工精霊(タルパ)騎士の腕(ナイツ・アーム)】をいくつも具現召喚し、魔人に向かって振り下ろしていく。

さらにシスティーナが、ルミアのアシストにより蒼い雷閃と化した【ライトニング・ピアス】を三連射で放つ。

 

 

『いと、小賢し!』

 

 

魔人はその攻撃を体捌きと、左の魔刀―――魔術師殺し(ウィ・ザイヤ)で防いでいく。

その隙に、ルミアが白魔【ライフ・ウェイブ】でグレンとリィエルを癒していく。

治療された二人は再び、魔人にへと襲いかかる。

 

 

『愚者共もなかなか、やる……』

 

 

グレン達の猛攻を捌きながら、そう呟く魔人。完全に舐められている。

だからこそ、舐められている内に仕留めなければならない。

 

 

「リィエルッ!」

 

「んっ!」

 

 

グレンの合図で、合図を発したグレンとリィエルは互いの立ち位置にへとスイッチする。

グレンはすぐさま拳銃抜き、魔人を撃ち抜こうとするも―――

 

 

『させぬ』

 

 

魔人が左の魔刀で拳銃を弾く。

グレンは下がって距離を取り、引き金を引くも不発に終わる。

それを見て取り、魔人がリィエルに向き直った瞬間、グレンがトリプルショットで魔人の右の魔刀―――魂喰らい(ソ・ルート)を弾き飛ばした。

 

 

『な、に―――?』

 

 

銃という武器の性質を間違えていた魔人は、予想外だと云わんばかりに驚愕する。

 

 

「いぃいいやぁああああああああああ―――ッ!」

 

 

そんな魔人にリィエルが容赦なく斬りかかり、魔人は防御できずに容赦なく斬られ、命を一つ失う。

 

 

『ち―――』

 

 

魔人はすぐさま、弾き飛ばされた魔刀を拾いにいくも、システィーナの【ゲイル・ブロウ】によりさらに遠くへと飛ばされる。

そこにグレンが魔人に銃撃を放つも、魔人は何とか跳躍して銃撃をかわす。

さらにウィリアムが魔人に向かって【招雷霊(ヴォルト)(フェイク)】による雷加速の銃撃を連続で放つ。

 

 

『小癪な……!』

 

 

魔人は苛立ちと共に、左の魔刀を振るう。

錬金術によって作られた銃弾は、触れた瞬間に消えるも、その衝撃の余波までは消えず、その余波が魔人を襲う。

 

 

『く―――』

 

 

その余波に煽られた隙に、リィエルが再び突撃して魔人を斬り裂き、二つ目の命を奪う。

魔人は空中で体勢を整え、着地すると同時にあの呪文を詠唱する。

すると、その頭上に、あの太陽球が形成され―――

 

 

「させるか――ッ!」

 

 

グレンがすぐさま、即興の改変で上方の範囲を狭めた【愚者の世界】を発動。魔術起動を封殺された事で形成されていた太陽球が消滅していく。

自身の魔術が無効化された事に狼狽える魔人に、リィエルが容赦なく斬りかかる。

リィエルの重斬撃をかろうじて防ぐも、【愚者の世界】の効果領域外からのシスティーナの【ライトニング・ピアス】を心臓部に喰らってしまい、三つ目の命を失う。

ウィリアムがさらに、【愚者の世界】発動前に起動していた《魔導砲ファランクス》による弾幕で追撃するも、魔人は体捌きでかわし、刀で防いでいく。

 

 

『一体、何をした……!?』

 

「実は俺、『相手の魔術だけを遠距離から封殺できる魔術』を使えるんだよ」

 

 

魔人の問い掛けに対し、グレンはハッタリで答える。

そのハッタリを真に受け、魔人は悔しげな雰囲気を発する。

 

 

『……いいだろう。真なる主すら知らぬ秘中を知り、我を五度も殺した汝等を我が障害と認めよう』

 

 

魔刀を構える魔人の雰囲気が変わり、本気になった事を悟る。

ここからが正念場。全力で最後の命を奪いにいく。

そうしなければ、最後の策は成立しない。

それでも、その最後の策を使わずに済ませるため、彼らは全力で魔人に挑んでいく。

その結果は―――

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

『よくぞ、此処まで我に食らいついた……』

 

 

追い詰めた筈の魔人に、逆に追い詰められていた。

グレンはボロボロ、率先して矢面に立ち続けたリィエルは意識を失い、魔術で援護していたシスティーナとルミアはマナ欠乏症。

ウィリアムもグレンとリィエル程ではないが、ボロボロになっており、《ファランクス》もその砲身を切断されてしまっている。

グレンの【愚者の世界】も時間切れで現在は効力を失っている。

 

 

『……成る程……まんまと欺されたぞ…………』

 

 

不意に、魔人はそう言い、グレン達より高い場所に降り立つ。

 

 

「―――ッ!?」

 

『ふっ……やはり、そうであったか』

 

 

グレンが顔色を変えた事で、魔人は魔術封殺のカラクリを確信した。

 

 

『汝等は間違いなく強者であった!その褒美に苦痛なき死を!!』

 

 

そして、魔人は呪文を唱え、例の太陽球を頭上に形成していく―――

 

 

「《解の開放(オープン)》ッ!」

 

 

その瞬間、ウィリアムが呪文を唱える。

直後、《詐欺師の盾》に施されていた隠蔽の魔術が崩れるように解除され、事前にルミアのアシストで起動していた盾は、凄まじい速度で移動し、二つはウィリアム達に、一つはシスティーナ達に、最後の一つは意識を取り戻し、【私の世界】を起動しようとしていたセリカの傍に赴く。

 

 

『往生際が悪いぞ!愚者よッ!!』

 

 

魔人は最後の悪あがきと受け取り、その完成した太陽球を解き放つ。

 

 

「《楯壁展開(ロード)》―――ッ!!」

 

 

ほぼ同時に、ウィリアムも《盾》による碧い魔力障壁を展開する。

展開された魔力障壁は三つ。それぞれに赴いた《盾》であり、ウィリアム達の方は一つしか展開していない。

放たれた灼熱の極光は辺り一面を呑み込む。

全てを焼き尽くす炎。その中で碧い魔力障壁は―――

 

 

 

 

―――変わらずにその存在を保っていた。

炎を通さず、熱も伝わってこない。

この魔力障壁はあの太陽球を完全に防いでいた。

 

 

「マジかよ……」

 

 

事前に説明を受けていたとはいえ、目の前の現実に呆然とするグレンを尻目に、ウィリアムは、錬成で真銀(ミスリル)をコーティングした本物の銃弾を、まるで銃弾を覆うようにロングバレルの小銃(ライフル)を錬成し、魔人がいた方向へと向け、その引き金を引く。

雷加速と無音火薬(サイレント・パウダー)によって発射された銃弾は、音も無く、凄まじい速度で発射される。

銃弾は魔力障壁を通過すると同時に、真銀(ミスリル)のコーティングが剥がれるように消えていく。

銃弾は高温に晒され、溶解しながらも突き進み―――

 

 

―――魔人の胸を撃ち抜いた。

 

 

 




セリカの見せ場が消えた!作者のロクでなし!!

セリカ「《 《 《見せ場を返せ》 》 》!!!」
主人公の背に隠れ
作者「頼んだ」
ウィリアム「ふざけんな!!」
襲いかかる猛攻を例の障壁で防いでいく

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五十三話(改)

·····これ、ありなのかなぁ······?
てな訳でどうぞ


―――魔人と戦う前に遡る。

 

ウィリアムが提示した策。それは、こちらが追い詰められ、相手が勝利を確信した瞬間を攻撃するというものだった。

具体的には、あの太陽球を妨害されずに発動させた時だと。

 

 

「ふざけてんのかウィリアム!?」

 

 

グレンがこう言うのも無理はない。

確かに勝利を確信した攻撃を放てば、注意力は散漫となり気は緩んでしまう。

だが、あの太陽球は、確実にこちらの防御を余裕で破壊する威力なのは想像に難くない。

そんなものを撃たせたら即、ゲームオーバーだ。

 

 

「話を最後まで聞けよ。あの太陽球はおそらく防げる……この《盾》でな」

 

 

ウィリアムは左手に持つ《詐欺師の盾》をつき出してそう告げる。

 

 

「この盾の碧い金属……魔術金属《ディバイド・スチール》の特性は“あらゆるエネルギーの分解”と“あらゆる魔術要素に崩壊の構築”、そして“その特性を有した魔力障壁を展開”する事ができる」

 

 

その説明を受け、一部を除くメンバーは息を呑む。

この話が本当なら、この盾はあらゆる攻撃を防ぐことができるからだ。

 

当然ながら強力故の欠点もある。

まずこの金属は“あらゆるエネルギーを分解”する為、攻撃能力は一切無い。どんなに鋭利にしても痛み一つ、傷一つ与えられない。受け止められた時も反動は無く、力が抜けたような感覚となる。

次に“あらゆる魔術要素に崩壊の構築”は精神攻撃も防げるが、金属自体に特性として組み込んだもの以外は容赦なく崩していく。だから、特性を封印しなければ、圧縮凍結を施す事すら出来ない。

《ディバイド・スチール》と浮遊制御の魔導器を直接繋げていないのも上記の理由からだ。

魔力障壁の展開は言わずもがな、展開すると金属はそこから動かなくなり、こちらの攻撃も障壁で止めてしまう。

当然、指示も届かなくなるので手動制御オンリーだと一切動かせなくなる

そしてこの障壁はあくまで魔力障壁―――あの魔人の左の魔刀と魔力遮断物質である真銀(ミスリル)の攻撃は通してしまう。

 

この《盾》がウィリアムのもう一つの異名―――《鋼の再来》と言われた最大の理由であった。

それでも、魔人のあの攻撃を本当に防げるのかと悩みを見せるグレンに―――

 

 

『大丈夫よグレン。その金属なら()()に防げるから』

 

 

ナムルスが妙に確信した物言いで肯定していた。

こうして、最後の策は可決された。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

―――そして、現在。

 

 

『な……に……?』

 

 

魔術を妨害されることなく放つ事ができ、終わったと判断してしまった魔人は自身の胸に出来た穴に驚愕の声を洩らす。

 

 

『―――ッ!そ、そうか……その《盾》は……』

 

 

魔人は全身から黒い霧を上げながら、魔力障壁が解かれたウィリアムの《盾》を見て、何かに気づいた素振りをする。

 

 

『まさか、貴様がいたとは……気づけなかったぞ……』

 

 

魔人がウィリアムを見て、意味不明な言葉を口にする。

 

 

『愚者の民達よ……この身は()()()()であり、この者の力があったとはいえ、よくぞ我を殺しきった―――実に見事なり!』

 

 

魔人は左手の刀を落として両腕を広げ、同時に身体から出る黒い霧がどんどん勢いを増し―――消滅していく。

 

 

『尊き《門》の向こうで我は待つ!―――そして、次はあの剣を用意しておけ!』

 

 

魔人はウィリアムを見やったまま、その場から消滅した。

 

 

「……終わった、のか……?」

 

 

グレンの言葉で、全員がその場で崩れ落ちる。

魔人との戦いはようやく終わった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

辛うじて魔人を撃退し、無事に全員、野営場へと帰還した。

野営場で丸一日、待ってくれていたみんなと共にフェジテへと帰路についている。

 

システィーナとルミア以外は全員、疲れから寝ており、グレンは馬の手綱を握り、セリカはグレンの隣で寄り添うように座っている。

ウィリアムとリィエルも互いに肩を寄り添って寝てしまっている。

システィーナはルミアに少々からかわれながらも、『メルガリウスの魔法使い』に書かれていた、ある事を考えていた。

 

 

―――全てを防ぐ碧き盾と、奇妙な柄の剣を持った、名も無き旅人。

 

―――その旅人はかの夜天の乙女の加護を受けた魔人に、己の敗北を認めさせた。

 

 

(偶然……よね?)

 

 

幾つかの疑問を残しながら、遺跡調査は終わりを告げた―――

 

 

 




これにて原作六巻は終了です
このツッコミどころ満載であろう盾の“崩壊”はあくまで崩すだけ。解呪ではありません
領域系の魔術は、障壁を展開した内部しか効力を発揮せず、障壁を解くと元に戻ります
感想お待ちしてます


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第六章・社交舞踏会と強制参加
五十四話(改)


ここから原作七巻
そしてお気に入りが三百越え
てな訳でどうぞ


『社交舞踏会』

 

それは毎年、学院で行われている伝統行事の一つだ。

他校の生徒や学院の卒業生、時には要人すら顔を出す大規模なパーティーだ。

そしてこのパーティーにはダンス・コンペがあり、優勝したカップルの女性は『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』の一夜限定の着用権が与えられる。

そしてこのドレスを勝ち取った男女は、将来、幸せに結ばれるというジンクスがある。

何故この話をしているのかと云うと―――

 

 

「リィエル、次はこれを運ぶぞ」

 

「ん。わかった」

 

 

現在、そのパーティーの準備の為、倉庫から必要な物を運んでいるからだ。

ウィリアムは本来なら準備に参加しないのだが、リィエルの監視の為に参加している。

リィエルは最初、ルミア達と一緒に銀の燭台磨きだったのだが、最初に磨こうとした銀の燭台をグリャリと曲げた時点で、ウィリアムが速攻で力仕事の方へと連れていった(曲げた燭台は錬金術で元に戻した)。

リィエルはその力で一度に大量に運んでいるため、作業は効率良く進んでいる。

見上げる程に積み上がったテーブルを、リィエルは楽々と抱えて運んでいく。

ウィリアムは椅子を幾つか同時に運ぼうとするも―――

 

 

「なんでアンタが此処にいるんだよ?」

 

「…………」

 

 

用務員に化けたアルベルトを見つけてしまった事で、ウィリアムは面倒事の予感に襲われる。

アルベルトはサボっていたグレンにも正体を明かし、ついてくるように言う。

 

 

「その格好……何とも思わないの?」

 

「…………」

 

 

そんなアルベルトの先導で連れてこられたのは、人払いの結界を張った、学院の裏庭だ。

そこでアルベルトは、天の智慧研究会が『社交舞踏会』でルミアを暗殺する動きがある事を告げた。

アルベルトの話によれば、『急進派』と呼ばれる奴らの一部が組織全体の方針を無視して、ルミア殺害を実行しようとしているそうだ。

 

 

「……ちょっと待て。そこまで掴んでながら、なんで平然とパーティーの準備が進められてんだよ?」

 

 

ウィリアムの指摘に、この事を学院に通達するために去ろうとしたグレンは足を止める。

 

 

「それは―――」

 

「そこからは私が説明するわ」

 

 

アルベルトの言葉を遮るように告げて木陰から現れたのは、アルベルトと同じ礼服を纏う、二十歳前後の真紅の髪の女性だ。

 

 

「てめぇは……《魔術師》イヴ……ッ!」

 

「久し振りね、グレン。そして、そこの《詐欺師》もね」

 

 

グレンの烈火のごとき睨みを受け流すその女性の名はイヴ=イグナイト。宮廷魔導士団特務分室室長―――執行官ナンバー1《魔術師》のコードネームを持つ女性だ。

ウィリアムもイヴとは一度対峙している。……引火しやすい可燃性物質と超絶なまでの悪臭を放つ液体で隙を作って、速攻で逃げたが。

グレンが一年前の《正義(ジャティス)》の件で食って掛かるも、イヴはそれもさらりと受け流し、説明していく。

今回、第二団(アデプタス・)地位(オーダー)》が直接動いているから、『社交舞踏会』をこのまま開催させソイツを捕らえると。既にこの作戦の承認は取っているそうだ。

アルベルトは納得しないまでも、黙認する方向のようである。

 

 

「お前らの思惑なんざ知るか。今から学院に―――」

 

「あら?外部に漏らすつもりなら、この場で始末しなければならないけど?」

 

「上等だ……」

 

 

グレンが懐に手を入れ、イヴに振り返った瞬間―――

グレンの左、右、背後から灼熱の紅蓮炎壁が燃え上がり、ほぼ同時に、イヴの周りに小銃(ライフル)を両手に持ち、上半身のみの一対の羽を持つ、四体の甲冑騎士が現れ、片方の小銃(ライフル)をイヴへと突きつける。

 

 

「あら、貴方もグレンと同じかしら?」

 

「…………」

 

 

物怖じしないイヴの問いかけに、ウィリアムは無言を貫く。

指定領域内の炎熱系魔術の『五工程(クイント・アクション)』を全て破棄する眷属秘呪(シークレット)、【第七園】を起動しているイヴに現時点で対抗できるのは、固有魔術(オリジナル)【詐欺師の工房】を起動させたウィリアムだけだ。

ウィリアムも周りを危険に晒すこの作戦を認める気は無い。人工精霊(タルパ)を具現召喚したのがその証だ。

 

 

「まぁ、こうしている時点でそうよね。グレンは私の敵じゃないけど、《詐欺師》は正直厄介なのよね。ここで始末するのも得策じゃないし……だから、こっちのカードを切るわ」

 

 

イヴはそう言い、グレンの周りの炎を消す。

ウィリアムも下手に刺激しないよう、【騎士の誇り(ナイツ・プライド)・銃兵】を霧散させる。

 

 

「リィエルについてなんだけど、少し見ない内に随分と人間らしくなったわね……()()()()()()()()()()、ね」

 

「ッ!?」

 

「な……ッ!?」

 

 

イヴの言葉に、ウィリアムは辛うじて顔にこそ出さなかったが、驚愕していた。

この口ぶり、イヴはリィエルの正体を知っている。

一瞬、アルベルトが喋ったのかと思ったが、それなら、遠征学修の時に喋っている筈だ。なら―――

案の定、イヴは自力でリィエルの正体に辿り着いていた。

 

 

「さて、リィエルの正体を、上に報告してもいいかしら?」

 

「てめぇ……ッ!?」

 

「……ッ!」

 

「リィエルは使える駒で失うのは痛いんだけど……彼女は世界初の『Project:Revive Life』の成功例……実験用モルモットか標本として献上するのは、それはそれで多大な戦果だと思わない?」

 

 

ウィリアムはこの時点でこちらの敗北を悟った。この状況でリィエルを人質にされれば、もうどうしようもない。

 

 

「そんな恐い顔しないの。私とてリィエルという駒は惜しいの。それに上手くいけば《詐欺師(新しい駒)》を手に入れられるチャンスも失いたくないしね。全ての事が上手くいけば問題ないのよ?」

 

「……チッ」

 

 

ウィリアムは自身の内情まで把握しているらしいイヴに向かって、苦々しい顔で舌打ちをかます。

そんなイヴが次に何を言ってくるのか、さすがに分かる。そして、それを拒否する事も出来ない事も。

予想通り、イヴはこちらに協力しろと言ってきた。

グレンは噛みつくも、軍の権限と二人の命運を盾にされ、あっさりとイヴに封殺される。

 

 

「それで、《詐欺師》のウィリアムはどうなのかしら?」

 

「……変わりに要求を一つだけ呑んでもらうぞ。『リィエルの正体を今後一切誰にも明かさない』……それが最低条件だ」

 

「もし断ったら?」

 

「言わなくてもわかんだろ?」

 

 

ウィリアムは敢えて起動中の翡翠の石板(エメラルド・タブレット)を見せつける。

ここで戦うのは得策でないなら、それを活かして、リィエルの今後の安全をある程度確保する為にイヴと交渉する。

 

 

「……いいわ。ただし、作戦に口出ししたら、直ぐに破棄するわ」

 

「『今回の作戦だけ』、だよな?」

 

「……ええ」

 

「オーケー」

 

 

何とかリィエルの安全を掴み取れた事で、ウィリアムは【詐欺師の工房】を解除する。

もちろん約束が守られる保証は無い。あくまで釘さし程度だろう。それでも、このカードを何度も使われると堪ったものではない。

だから、釘を指しただけでも意味がある。

そのまま、イヴはグレンにある事を要請した。

 

 

 

その半刻後、グレンは表向きは賞金目当てというロクでもない理由でルミアをコンペへと誘い、システィーナに吹き飛ばされた。

 

 

 




自然にできてるかなぁ······?
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五十五話(改)

自然?不自然?
自然に見えるかなぁ······?
てな訳でどうぞ


グレンとルミアのコンペ参加が決まった次の日。

放課後、グレンはルミアの手を引き、ダンスの練習の為、学院校舎の中庭に来ていた。

中庭には既にコンペに参加する予定のカップル達のダンスを練習する姿と、パートナー探しに奔走している男子生徒達の姿がある。

そんな中で―――

 

 

「……なんでお前らまでついてきてんの……?」

 

「……別に?」

 

 

システィーナが二人の後を不機嫌全開にしてついてきていた。

そんなシスティーナの隣にはリィエルもおり、その後ろにはウィリアムもいる。

ウィリアムはコンペに参加する気は欠片もないが、リィエルの今までのパターンから、また何かやらかす可能性からついてきたのだ。

リィエルの監視がすっかり板についてしまっている。本来は逆なのだが。

それを他所に、システィーナはグレンにダンスを教えるといい、シルフ・ワルツの一番をグレンと一踊りするのだが―――

 

 

「……行くぞ」

 

「な―――」

 

 

グレンのダンスの動きは荒々しくも、情熱的であった。

グレンを引っ張り回すつもりであったシスティーナは、逆にグレンのダンスに翻弄されてしまっている。

 

 

「本当にシルフ・ワルツですの……?」

 

「妙に荒っぽいけど、振り付けはシルフ・ワルツだね……いちおう……」

 

「なんか、すげぇ惹きつけられる……ッ!?」

 

「あれはシルフ・ワルツというより……」

 

 

ダンスの練習をしていた周囲の生徒達も、グレンのダンスに目を奪われ、魅了されていく。

そしてそのまま、グレンは力強くフィニッシュを決めた。

 

 

「はぁー……はぁー……」

 

「どうだ?なかなかだろ?」

 

 

グレンは得意げな顔で、昔の同僚にシルフ・ワルツの原型―――『大いなる風霊の舞(バイレ・デル・ヴィエント)』を相当仕込まれた事をどや顔で明かし、システィーナに対して勝ち誇る。

そんな悔しがるシスティーナと、どや顔のグレンを見つめていたリィエルがグレンに近づき……

 

 

「ん。全然だめ。わたしが相手になる」

 

 

負けじと、グレンに組みついていく。

 

 

「ちょっと待て」

 

 

そんなリィエルに、落ちを予想したウィリアムが後ろから肩を掴んで引き止めた。

 

 

「?どうしたの、ウィル?」

 

「……念の為に言うが、これは組手じゃないぞ」

 

「……違うの?」

 

「「「「……………………」」」」

 

 

予想通り勘違いしていた事に、沈黙が一気に周りを漂っていく。

 

 

「……とりあえず、先公から軽くダンスを教えてもらえ」

 

「ん。わかった」

 

 

そんな沈黙をウィリアムが破り、ウィリアムの音頭でグレンがリィエルにダンスを教えていく。

先程と同じシルフ・ワルツの一番だが、ダンス初心者のリィエルに合わせ、システィーナの時よりかは大人しい挙動でリードしていく。

リィエルも初めてのダンスに多少ぎこちないながらも、グレンの動きにしっかりついてきていた。

 

 

「初めてにしては中々やるじゃねぇか、リィエル」

 

「ん」

 

 

踊り終わったグレンの誉め言葉に、リィエルは若干得意げな顔で頷く。

 

 

「「「「講師死すべし。慈悲はない」」」」

 

 

相方のいない負け組の呪詛の言葉が響くが気に止める必要はないだろう。

グレンは呪詛の言葉を無視してそのまま、コンペの相方であるルミアとダンスの練習を始めていく。

 

 

「「「「おおおぉ……」」」」

 

 

グレンとルミアのダンスは、グレンが情熱的なダンスにルミアがそれを引き立たせる優雅さと気品さが合わさり、システィーナの時より、相当魅力的なダンスとなっていた。

比翼連理。そんな言葉がぴったりと当てはまる。

これなら当日は勝ち続けられるな、とウィリアムが思って見守っていると―――

 

 

「……ウィル。楽しそうだから、一緒にだんす?を踊ろ?」

 

 

グレンとルミアのダンスを見ていたリィエルが、ウィリアムをダンスに誘ってきた。

 

 

「そうだな……一回やってみるか」

 

 

ウィリアムも軽い気持ちで、リィエルの誘いに乗った。

ウィリアムも去年のパーティーには食事目的で参加しており、ダンスもルール状、求められたら踊っていたくらいだ。

……最も、目付きの悪さから誘ってくる相手が少なく、数回くらいしか踊っていないが。

そんな事を考えながら、シルフ・ワルツの一番をリィエルと一緒に踊り始めると―――

 

 

「―――んおッ!?」

 

 

ウィリアムから驚愕の声が洩れる。

リィエルは、先程グレンと一緒に踊ったシルフ・ワルツの一番の動きを完璧に再現していた。

その正確無比な動きに、ウィリアムは即興で動きを合わせていく。

 

 

「リィエルちゃんはダンス初心者だったよな……?」

 

「二回目であんなに踊れるなんて……」

 

「ウィリアムもしっかり着いていってるし……」

 

「動きが人形じみているけど……目が離せない……ッ!?」

 

「嘘だろ……ッ!?」

 

「…………」

 

 

そんな二人の動きは意外にもマッチしており、グレンを含めた周りの他の生徒達も思わず目を止めてしまっていた。

そんな周りの視線を集めたウィリアムとリィエルは、綺麗にダンス・フィニッシュを決めた。

 

 

「お前……あれを一発で覚えたのかよ……」

 

 

リィエルの物覚えの早さに、踊り終えたウィリアムは呆れと感嘆が混じった声を洩らす。

 

 

「リィエル……お前、マジかよ……?」

 

 

グレンも同様に、リィエルが素人が簡単にできないダンスを一発で覚えた事に驚いている。

この覚えの早さを少しでも頭の方に回って欲しいと、若干どや顔しているように感じるリィエルを見て、ウィリアムが思っていると―――

 

 

「二人共ッ!!」

 

 

システィーナが鬼気迫る表情で、ウィリアムとリィエルに近づいてきていた。

システィーナはそのまま、二人の肩を掴み―――

 

 

「当日のダンス・コンペ、あなた達も参加しなさい!!!」

 

「は?」

「ん?」

 

 

いきなり意味不明な事を言ってきた。

 

 

「あなた達なら、今から練習すれば十分に優勝が狙えるわ!!」

 

「……イヤ、何言ってんだよ?ダンス自体、あんましやった事ねぇんだぞ?」

 

「大丈夫よ!!私が手取り足取り教えるから!!」

 

「そもそも、コンペに参加する事自体、面倒だし……」

 

「リィエルに『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』を着せてあげたいとは思わないのかしら!?」

 

「イヤ、だから面倒……」

 

 

ウィリアムはいつもの理由を上げて断ろうとするも、システィーナは何故か、しつこく食い下がってくる。

ウィリアムとしては、コンペに参加する訳にはいかない。ルミアを連中から守る為には、グレンがコンペで勝ち続けて護衛する必要があるからだ。

社交舞踏会は誰かからダンスを求められれば、一度はダンスの相手を務めなければならず、拒否し続ければ会場から追い出されてしまう。だが、この伝統行事であるコンペの参加者は、参加権を有する限りは任意で拒否する事ができ、勝ち続けている間はルミアの安全を確保することができる。

だから、自らルミアの命の危険を引き上げる真似をしたくないのだが……

 

 

「い・い・か・らっ!当日のコンペに参加し・な・さ・い!!」

 

 

そんなウィリアムの内心を知らないシスティーナは鬼の形相でコンペ参加を迫ってくる。

そのシスティーナの凄まじい剣幕に―――

 

 

「お、おおう……」

 

 

ウィリアムはその剣幕に圧されて思わず、了承とも取れる返事で返してしまった。

 

 

「よーしッ!それじゃあ、早く練習しましょう!心配しないで!ちゃんと二人に教えてあげるから!!」

 

 

その返答に一気に上機嫌となったシスティーナは、そのままウィリアムとリィエルの腕を掴んで引っ張っていく。

それをルミアは微笑ましく見つめ、グレンは非難の眼差しをウィリアムにぶつける。

 

 

「「「「チッ!!」」」」

 

 

相方のいない負け組が、憎々しげな表情で露骨に舌打ちをするなか―――

 

 

(なんでこうなったぁああああああああああ―――ッ!?)

 

 

コンペの参加がほぼ強制的に決定し、ダンスの練習をする羽目になった事に、ウィリアムは心の中で叫び声を上げていた。

 

 

 




相変わらずの押しに弱い主人公(黒い笑み)
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五十六話(改)

作者自身、よく続いていると思う
てな訳でどうぞ


ウィリアムがシスティーナによって、ダンス・コンペへの参加が決まってしまった、その日の深夜。

ウィリアムはフェジテの南地区郊外の倉庫街にある木造倉庫の内の一つ、その扉の前に来ていた。その隣にはここに向かう途中で合流した礼服姿のリィエルもいる。

ウィリアムはその扉に、鍵ルーンを自分の血で三文字書く。

すると、扉がひとりでに開き、ウィリアムはすぐさま倉庫の中へと入って行く。リィエルも続いて中に入り、二人は倉庫の奥へと進んで行く。

ランタンの炎で照らされた倉庫の奥には、アルベルトとイヴ、同い年くらいの少年、筋骨隆々の老人が既に来ていた。

少年の方は知らないが、老人の方は知っている。

執行官ナンバー9《隠者》のバーナード=ジェスター。魔闘術(ブラック・アーツ)を極限まで極めた歴戦の魔導士だ。

 

 

「こうして面として会うのは初めてじゃのう《詐欺師》」

 

「確かにそうだな《隠者》のじいさん」

 

 

バーナードの挨拶にウィリアムも無難に返す。

ウィリアムは《詐欺師》の証の一つとも言える紺の外套を、一応の証明の為羽織ってきている。

 

 

「それにしても残念じゃわい。正体不明の《詐欺師》はカワイイ娘ちゃんと期待しとったのに……実はオン――」

 

 

その瞬間、バーナードが仰け反るように、仰向けに地面へと倒れた。

ウィリアムの右手には硝煙が立ち昇る拳銃が握られている。

 

 

「ちょッ!?」

 

 

木箱の上に腰かけていた少年はその暴挙に驚き腰を上げようとするも、バーナードが額を抑えて転がり回っているのを見て、安心の溜め息を吐いてその場に留まる。

 

 

「いきなり何をするんじゃ!?」

 

「じいさん」

 

 

何処か据わった目付きのウィリアムは、上半身を起き上がらせたバーナードの言葉を無視して錬成した拳銃を霧散させ、全長一メトラまで小型化し、取り回しがしやすくなった《魔導砲ファランクス》―――《魔導砲ファランクス・ミクロ》を解凍し、その六門の銃口をバーナードへと突きつける。

 

 

「次、同じような事を言ったら、非殺傷弾の弾幕をたらふく喰らわせてやる」

 

「……冗談じゃろ?」

 

「―――《駆動》」

 

 

ウィリアムの詠唱で《ファランクス・ミクロ》は起動状態となり、低い駆動音が唸りを上げ始める。

 

 

「わ、分かった!!もう言わんから、それを下げてくれ!!」

 

「よろしい」

 

 

目の前の脅しに屈したバーナードの言葉を、ウィリアムは険しい表情のまま素直に受け取り、《ファランクス・ミクロ》の起動状態を解除する。

そして、《ファランクス・ミクロ》に再び圧縮凍結の魔術を施した後、木箱に座っている少年の方へと近づいていく。

 

 

「もう知っているだろうが初めまして。ウィリアム=アイゼンだ」

 

「クリストフ=フラウルです。執行官ナンバーは5、《法皇》です。よろしくお願いします、ウィリアム君」

 

 

その少年―――クリストフは苦笑いしながらも木箱から降り、礼儀正しく自己紹介をする。

 

 

「呼び捨てでいいし、敬語もいらねぇ。年も近いだろうし」

 

「分かったよ、ウィリアム……それと、すみません。軍属じゃないのに特例条項で引っ張り出してしまって……」

 

「……お前が謝るのは筋違いだし、もう済んだ話だ。だから気にすんな」

 

 

謝ってきたクリストフに対し、ウィリアムは呆れ目でそう伝える。

本当の理由を隠す為、表向きの理由は特例条項によるものということにしている。

自己紹介を済ませたウィリアムはイヴに近づき、リィエルとコンペに参加する羽目になった事を伝える。

その報告に対しイヴは―――

 

 

「そう。作戦には特に問題ないわ」

 

 

涼しげな顔であっさりと受け流した。

この反応からして、ルミアを囮にする類の策も用意していると見ていいだろう。

文句はあるが、あの交渉でウィリアムは今回の作戦に口出し出来ない。出来るのは今のような報告と、人形のように指示通りに動く事だけだ。

その後、グレンもこの場に到着し、グレンはバーナードとクリストフと旧交を温め合い、イヴの音頭で作戦会議が始まった。

 

この一件は一部の『急進派』の先走りであり、首謀者が組織の内陣(インナー)たる第二団(アデプタス・)地位(オーダー)》である以上、今回は『暗殺』に拘らなければならない事。

敵の戦力は四人で、今回捕らえるべき首謀者は《魔の右手》の異名を持つ、暗殺特化の外道魔術師であるザイードとの事。

ザイードの暗殺方法は未だに不明だが、イヴが会場一帯に、一定領域内の負の感情を炎の揺らめきとして感知する眷属秘呪(シークレット)【イーラの炎】と【第七園】を多重起動(マルチ・タスク)して予め仕掛けておくとの事。

会場内にはグレンとリィエル、ウィリアムがルミアの近くに待機し、念のために備える事。

外部はアルベルト、バーナード、クリストフが対処するとの事。

 

 

「……つまり、どういう事?」

 

 

イヴの作戦の内容をよく理解できていないリィエルが、ウィリアムにそう聞いてくる。

 

 

「……つまり、舞踏会当日はここにいるメンバーでルミアを守ろうという事だ。俺とお前、グレンの先公は近くでルミアを守る役、いつも通りという訳だ」

 

「……わかった。いざという時はルミアとシスティーナはわたしが守る。敵は全員斬る」

 

「……それでいいから、当日は頼むぞ」

 

「ん。任せて」

 

 

とりあえず、リィエルに話を大まかに理解させ、溜め息を吐いていると―――

 

ガシッ

 

ウィリアムの肩が突如、後ろから誰かに掴まれる。ウィリアムは訝しげな表情で振り向くと、バーナードが真剣な表情でウィリアムの肩を掴んでいた。

 

 

「《詐欺師》、イヤ、ウィル坊と呼ばせてもらうぞ……お主……」

 

 

一体なんなんだと、ウィリアムが怪訝(げげん)に思っていると―――

 

 

「特務分室に来てくれんか!?割とマジで!!」

 

「……は?」

 

 

いきなりの勧誘にウィリアムは戸惑っていると―――

 

 

「僕からもお願いします」

 

 

バーナードに続いて、クリストフが頭を下げて勧誘してきた。

 

 

「やはりお前を引き入れるのは、帝国軍にとってかなりの益となるな」

 

「……本音は?」

 

「お前が居てくれれば、俺の苦労が大幅に減るからだ」

 

「つまり、リィエルの手綱を握れと」

 

 

アルベルトの本音に、ウィリアムはウンザリした顔となる。

 

その後、作戦会議は滞りなく終え、解散し帰路につく中―――

 

 

「ウィリアム。お前、ホントになにやってくれたんだよ」

 

 

グレンがウィリアムに、今日の放課後の事に文句を言っていた。

 

 

「俺だって、こんな危険を呼び込む真似はしたくねぇよ」

 

「だったら、今からでも……」

 

「あのシスティーナを前に出来ると思うか?」

 

「……無理、だな」

 

 

あの時のシスティーナの剣幕を思い出したグレンとウィリアムは揃って溜め息を吐く。

ダンスの練習もシスティーナが教えているから、手を抜いたら即一発でバレるし、練習の時も凄く睨んでいたので、ぶっちゃけ怖くて手が抜けない。

頭や胃が痛くなる想いの中、とりあえず途中でかち合わないよう、二人は天に祈るしかなかった……

 

 

 




····問題ない筈
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五十七話(改)

簡略化が手抜きかどうか、不安に感じる厄介な猫さんである
てな訳でどうぞ


―――遂に迎えてしまった、社交舞踏会当日。

 

 

「どうですか?このわたくしに相応しい逸品でしょう?」

 

「まぁ、良い生地。さすがね……私が持ってきたドレスはどうでしょうか?」

 

「……何度見ても凄いですわね……」

 

「うふふ……あら?リン、貴女のドレス……」

 

「わ、私のドレス……これしかなくて……ウェンディやテレサから見たら……」

 

「いいドレスですわね」

 

「ええ。そのドレスからは人の歴史を感じます。きっと、御先祖様が代々、大切にしてきたドレスでしょう?」

 

「……わかるの?」

 

「ええ。その古さは誇りですから、堂々としていなさいな」

 

「……あ、ありがとう……」

 

 

女子更衣室が数多くの女子生徒達で賑わう中―――

 

 

「システィーナ……まだ、動いちゃ駄目なの?」

 

「もう少しだけじっとしててね」

 

 

奥の部屋で、リィエルは既にドレスに着替え終えたシスティーナにおめかしされていた。

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

「ハァ……」

 

 

会場の入り口前で疲れたため息を吐いているのは、システィーナが用意した燕尾服(えんびふく)を少々着崩して、着用したウィリアムだ。

入り口前にいるのは、一応怪しい人物がいないかの確認の為である。

システィーナの熱の入った指導により、ウィリアムは身体を動かす事自体には相当馴れていた事もあり、シルフ・ワルツの八番以外は踊れるようになった。リィエルも練習初日同様、一発でダンスの動きを再現していたのであっさりと振り付けをマスターしていた。

システィーナ曰く、「これなら優勝を狙える!」との事。

本音を言えばコンペなんぞボイコットしたい。昨日もそれとなく辞退の話をしても―――

 

 

『何か言った?』

 

 

と非常ににこやかな怖い笑みで返され、口を閉ざす結果となった。

そんな重たい気分でいるウィリアムに二人の少女が近づいてくる。

空色を基調とした華やかなドレスを着た少女はシスティーナだが、もう一人の水色を基調としたドレスを着た少女は―――

 

 

「……は?」

 

 

ウィリアムの口から間抜けな声が出て、水色のドレスを着た少女―――リィエルに目が釘付けとなる。

ドレスもさることながら、髪型も普段の後ろに一つに結ったものから、左右に分ける二つ結びになっており、幼さがより強調されたものとなっている。

加えて、人形のような可憐さとも見事に合わさり、とても魅力的になっていた。

 

 

「……?どうしたの、ウィル?」

 

「……あ……いや、その……」

 

 

そんなウィリアムの様子にリィエルが首を傾げ、我に返ったウィリアムは言葉を濁してしまっている。

 

 

「フッフーンッ!どう?私の渾身のプロデュースは!!」

 

 

そんなウィリアムに、システィーナがどや顔で胸を張って自慢している。

 

 

「あ、ああ……ホント、すげぇよ……思わず、見惚れちまった……」

 

 

もう誤魔化すのもなんなので、ウィリアムは素直に答える。

 

 

「そういやあ、ドレスを着た感想はどうだ?リィエル」

 

「ん。少し動きにくいけど、悪くない」

 

「ハハ……そうか」

 

 

心なしか、リィエルが若干微笑んでいるように見える。

そんな少々気恥ずかしい雰囲気のまま、ウィリアムはシスティーナとリィエルと一緒に会場へと入る。

会場内では、楽奏団が場を盛り上げるために演奏しており、既に盛り上がっていた。

 

 

「よう、ウィリアム!お前もリィエルちゃんと一緒に参加するんだって聞いたぜ?」

 

「……成り行き、だけどな」

 

 

声をかけてきた、少しサイズが合っていない燕尾服に身を包んだカッシュに対して、ウィリアムは嘆息と共にそう答える。

 

 

「実はな、お前もグレン先生同様、『夜、背後から刺すべき男リスト』に載ってたぜ?」

 

「ちょっと待て。そんな物騒なリストに載せられる理由は無い筈だ」

 

 

ウィリアムの反論に、カッシュは俯いて肩を震わせていく。

 

 

「理由が無い?馬鹿言うなよウィリアム。お前は何時もリィエルちゃんと仲良くしてるじゃないか……リストに載るには十分過ぎる理由だろ?」

 

「まさかとは思うが、お前がそのリストに俺を載せたんじゃねぇよな?」

 

 

少々目が据わったカッシュに、ウィリアムは疑惑の目を向けるも、当の本人は据わった目を引っ込め、悪戯坊主のように口の端を吊り上げていた。

 

 

「まぁ、それより今は重要な作戦があるんだよ……『任務(ミッション)・先生を金銭的に乾そうぜ!INダンスパーティー』という作戦がな」

 

「……なんだよ、そのふざけた名の作戦は?」

 

 

猛烈に嫌な予感を覚えつつも、ウィリアムはカッシュに問い質す。

 

 

「具体的には二組のほぼ全員がダンス・コンペに参加して、憧れの天使ちゃんを小遣い稼ぎのためにかっさらった先生を蹴落とそうという作戦だ」

 

(な、なんつう余計なことを……)

 

 

内容を聞いたウィリアムは、顔にこそ出さなかったが、本当に余計なことをしてくれたカッシュに、内心で文句を言っていた。

 

 

「なんだかんだで皆盛り上がるし、基本くじ引きでカップルを決めるとはいえ、女の子と手を繋げられるし、我ながら英断だったぜ!」

 

 

……何故か、カッシュの言葉に哀れみを感じてしまった。

その後、システィーナの音頭でダンスを披露する事となり、ウィリアムとリィエルは流れる曲に合わせて踊り始める。

リィエルの人形じみた動きも、本人の美貌と、ウィリアムが積極的にリードを取り、ウィリアム自身のダンスの技量も上がった事で、最初に踊った時よりも相当マッチしていた。

 

 

「う、羨ましい……」

 

「たった数日であんなに踊れるようになるだなんて……ッ!?」

 

「可憐……可憐だ……」

 

「いつもの悪い目付きも、クールに見える……」

 

「本当に似合い過ぎる……ッ!!」

 

 

そうして、会場中の視線を集めていく中、ウィリアムとリィエルは華麗にダンス・フィニッシュを決める。

 

ぱちぱちぱちぱち―――ッ!!

 

おおおおおおおおおおおおおおおおおお―――っ!!

 

踊り終えた瞬間、会場中から、拍手と感嘆の声が上がっていく。

 

 

「「「「リア充死すべし。慈悲はない」」」」

 

 

……拍手喝采と感嘆の声の中に、物騒なセリフが混じっていたのは気のせいだろう。

一踊りしてシスティーナ達の元に戻ると、グレンとルミアも既に来ていた。

 

 

「どお?ウィリアムとリィエルも優勝候補と思えるでしょ?私のおかげでね!!」

 

「なんでお前が威張ってんだよ……?」

 

 

グレンはシスティーナの挑発的な態度に呆れており、ルミアは苦笑いしている。

 

 

「ルミア!貴女の『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』にかける想いは知ってるけど……今年の『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』を着るのはリィエルよ!!」

 

 

システィーナはルミアにそう告げ、ウィリアム達の方へと向き直る。

 

 

「二人共ッ!!絶対に優勝しなさい!先生の甘い野望を打ち砕くためにも、手加減なんて絶対にするんじゃないわよ!?」

 

「……そんなにやる気があんなら、カッシュの作戦に乗って、参加すればよかったんじゃねぇのか?」

 

 

ウィリアムの最もな指摘に、システィーナはバツが悪そうな顔で答える。

 

 

「え~と、その……二人の指導に熱が入ってて、その事を知らなかったというか……」

 

「一緒に踊る相方がいないと」

 

「うう……」

 

 

ウィリアムの見も蓋もない言葉に、システィーナは若干悄気るも、直ぐに気勢を取り戻す。

 

 

「そんな訳だから、絶対に勝ち残りなさい!」

 

「スゲェ、他力本願」

 

 

呆れを通り越して、逆に哀れである。

 

 

そんな流れの中、長い夜となる、陰謀渦巻く社交舞踏会の幕が上がる―――

 

 

 




リィエルのドレス姿······これでオーケー?いける?
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五十八話(改)

·····大丈夫だと信じたい
てな訳でどうぞ


生徒会長のリゼの音頭で社交舞踏会が開催され、会場は華やかな雰囲気に包まれる。

 

 

「…………♪」

 

「こういう場で、あんま言いたくねぇが……食い尽くすなよ?」

 

 

テーブルの皿の上に見上げるほど高く積み上がった苺タルトの巨塔の前で、上機嫌に苺タルトを食べるリィエルにウィリアムは呆れ目で注意していく。

 

 

「なんで?」

 

「他の人達だって食べるだろうし、お前だって食べようと思ってた苺タルトが既に無くなってたら嫌だろ?」

 

「……わかった。せめて半分くらい残しとく」

 

 

リィエルは素直に頷き、再び苺タルトにかじりつく。

ウィリアムは微笑ましい顔で、皿の上に盛った肉を口に運ぶ。

チラリと見れば、グレンとシスティーナは何時ものやり取りをしており、ルミアも微笑ましげに見守っている。

クラスのみんなもなんだかんだで楽しんでいるようだ。

 

 

『皆様。お待たせいたしました。ただ今より、魔術学院社交舞踏会伝統のダンス・コンペ、予選一回戦を開始します―――……』

 

 

リゼのアナウンスが音声魔術で会場に流れ、ついにダンス・コンペが開催される。

 

 

「絶対に予選を突破しなさいよ!!」

 

「わかったから、そんな恐い顔で睨むなよ……」

 

「システィーナ、すごい気迫……」

 

 

システィーナから発せられるプレッシャーをひしひしと感じながら、ウィリアムとリィエルはダンスを披露していき―――

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

「予選突破おめでとう!!」

 

「……どうも」

 

「ん」

 

 

予選突破を賞賛するシスティーナにそう返すウィリアムとリィエル。

周りのダンスの技量が高かったから、ひょっとしたらという思いが芽生えたが、そんなに甘くなかった。

わざとミスしたり、手を抜けば脱落できるだろうが、それを実行すれば、目の前の少女が東方の般若となって襲ってきそうで怖い。

ちなみに貴族のお嬢様筆頭のウェンディは、カッシュとペアを組んだがいつものドジをかまし、予選敗退となった。

遠目からグレン達を見ると、同い年くらいの人の良さそうな少年がグレンと右手で握手していた。

……妙にピリピリとした雰囲気を出していたが。

正直気にはなるが、下手にイヴに伝えれば『口出し』になる可能性がある。

ウィリアムは歯がゆい思いを抱いたまま、再びコンペへと挑み―――

 

 

 

その後の予選も突破してしまい、本選への出場が決まってしまった。

先程の予選三回戦では、グレン&ルミアのペアと同グループで踊ったのだが……

 

 

「どう?先生?二人もなかなかやるでしょ?」

 

 

システィーナがどや顔でグレンに突っかかっている。

先程のチェック数はまさかの同数……互角という結果だった。

ウィリアムは正直手を抜きたかったのだが、システィーナの鋭い視線が終始、グサグサと刺さり続けて出来なかった。

グレンも分かってはいても、リスクを助長させてしまっているウィリアムに非難の視線を送ってしまう。

 

 

「先生、ひょっとしてビビってます?これなら、今年の『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』はリィエルのものかしらね~?」

 

「……それはどうかな?システィ」

 

 

システィーナの煽りに、意外にも反応したのはルミアだった。

 

 

「私と先生のペアは負けないよ?……ですよね?」

 

「……お、おう……?」

 

 

グレンの腕に絡みつくハイテンションのルミアに、グレンは戸惑いながらも頷く。

 

 

「むむむ……むぅ~~~っ!!」

 

 

その光景に、システィーナは拗ねたように頬を膨らませ、胸元で両拳を固めていき……

 

 

「二人共!!絶対に負けないでよ!?」

 

「わ、わかったから、そんな睨むなよ!」

 

 

システィーナの何度目か分からない、鬼のように感じる剣幕に、ウィリアムは押されっぱなしであった。

その後、システィーナ、ルミア、リィエルと一緒に食事を取りにいったのだが……

 

 

「俺が散々食ってたの、さっき見てたろ?」

 

 

安堵の息を吐いたグレンの言葉に、そういえばという疑問が浮かび上がる。

グレンの様子からして、自分たちは敵の術中に嵌まっていた可能性が高い。

今グレンがイヴに報告しているだろうが、グレンのあの様子からして切り捨てられている可能性が高いだろう。

仮に報告しても、口裏を合わせたと言われて、切って捨てられるのがオチだ。

できればグレンと情報を共有したいが、話し合うのは難しく、通信もイヴを通さないと出来ないので共有はほぼ不可能だ。

そんな思いを抱いたまま、コンペへと挑み―――

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

コンペは順調に進み、本選準決勝戦が終了した。

勝ち残ったのは、グレン&ルミアペア、ウィリアム&リィエルペア。

この二組が決勝で争う事となった。

 

 

「頼むぜ、ウィリアム!このままだと先生を金銭的に乾せない!!」

 

「先生!何としても勝ってくださいまし!」

 

「ここまで来たんだから絶対に勝ちなさいよ!!」

 

 

クラスのみんなが、わいわいと沸き立ち、興奮気味に盛り上がる。

 

 

「なぁなぁ!?みんな、どっちの『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』姿が見てみたい!?」

 

「当然ルミアちゃんだ!」

 

「リィエルに一票!」

 

「どっちも見てみたい!!」

 

 

そんな楽しい雰囲気にウィリアムも思わず和んでしまう。

そんな中で、イヴから敵の計画が完全に潰れた事が伝えられる。

 

 

『……それでは、良い夜を』

 

 

イヴはそう言って、一方的に通信を切る。

黒幕を捕らえ、外の方もほぼ完全勝利で終わったらしい。

正直、妙に上手く行き過ぎている感が否めない。

このまま最後まで終わって欲しいと思いながら、決勝へと挑む――――

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

迎えた決勝戦。

ウィリアムは意外にも全力で挑んでいた。

最初はシスティーナの気迫に呑まれて、気が進まない参加だったのだが―――

 

 

(……結局、俺もリィエルの『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』を着る姿を見たかったという事かな?)

 

 

そんな事を思いながらスッテプを刻んでいき、リィエルと共にダンスを踊っていく。

それにルミアも、コンペが始まってから終始真剣だった。ここまで来たら、真剣には真剣で返すのが礼儀えある。

その思いでダンスへと没頭していき――――

 

 

―――結果は僅かな差で、グレン&ルミアペアの勝利だった。

 

 

「おめでとう、完敗だ」

 

「ん。よくわからないけど……負けた。ルミアすごい」

 

 

清々しい気分で、優勝者に賞賛の声を送るウィリアムと、どこか祝福するように見つめるリィエル。

システィーナもすなおに、優勝したルミアを褒め称えるも―――

 

 

「白猫ちゅわ~~~ん?今どんな気持ちかなぁ?」

 

 

グレンがシスティーナをおちょくった事で少々台無しとなった。

 

今年の『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』はルミアが勝ち取り、着る事となった。

 

 

 




····何も言うまい
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五十九話(改)

都合のいいことしか書かないなぁ·······
てな訳でどうぞ


「むぅ……」

 

「気持ちは分かるが、我慢してくれ」

 

 

不服そうなリィエルを、ウィリアムが宥めている。

あの後、ルミアの『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』姿を拝めたのだが、イヴから通信でアルベルト達と合流しろと言ってきたため、二人は会場を後にし、アルベルト達がいる学生会館の屋根の上へと向かっていた。

本当は『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』をもっと見たかったが、指示は聞かないといけない。

因みに、ウィリアムは学生服に紺の外套、リィエルは魔導士の礼服へと既に着替えている。

リィエルは壁を蹴り上がり、ウィリアムは【騎士の楯(ナイツ・シールド)】を足場にして飛び上がり、屋根上へと降り立つ。

 

 

「おお、二人共。お疲れさん!」

 

 

バーナードが降り立った二人に労いの言葉をかけ、リィエルの頭をわしわしとなでていく。

 

 

「それにしてもグレ坊がマジで羨ましいわい。ウィル坊もリィエルと一緒に踊っとったそうじゃし……一発殴っていいかの?」

 

 

バーナードが拳を握りしめた瞬間、頭の後ろから何かが突き当てられる。

 

 

「殴るなら先公だけ殴れ。殴ろうとした瞬間に撃つぞ」

 

 

ウィリアムはバーナードの後ろに【騎士の誇り(ナイツ・プライド)・銃兵】を具現召喚し、小銃を後頭部へと突きつけていた。

本当の戦闘ならあまり出来はしないが、こういった場でならできる芸当だ。

 

 

「後ろからとは、卑怯じゃぞ!?」

 

「卑怯で結構。生きるか死ぬかの戦いに、真っ向からそうやれるか」

 

 

バーナードの文句をウィリアムはあっさりと受け流す。

それを尻目に、アルベルトがイヴに定期報告するが、イヴが通信に応じなかった。

その後、アルベルトがイヴを探しに会場へ行く。

暫くしてアルベルトから通信で伝えられた、システィーナからもたらされた情報に一同は驚愕した。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

宿泊フロアのとある一室。

ウィリアムはクリストフとリィエルと一緒にそこに来ていた。

その部屋には、捕らえて気絶させられた、ザイードを名乗った少年―――カイトと真の黒幕と伝えられたローレンスが転がっているが、イヴはその部屋に居なかった。

そして、部屋には蓄音機―――編曲(アレンジ)された『交響曲シルフィード』が録音された―――が置かれてあった。

 

 

「クソッ!完全にやられた……!」

 

 

ウィリアムは苛立ちを露に、床に拳を叩きつける。

システィーナからの情報―――『交響曲シルフィード』に、魔法遺産(アーティファクト)『魔曲』と呼ばれる他人を操る古代魔術(エインシャイト)の『魔旋律』が入っていたと言うのだ。

つまり、《魔の右手》の正体は―――演奏の指揮者。

ザイードは音楽でその場の人達を操り、操った人達に『暗殺』をやらせていたのだ。

クリストフが通信で報告していると―――

 

 

「気合いでソイツを斬りに行ってくる」

 

 

リィエルが事前に錬成していた大剣を肩に担いで部屋から出ていこうとしていた。

ウィリアムは咄嗟にリィエルの襟首を掴んで引き留める。

 

 

「?どうして止めるの?ウィル」

 

「相手はその気合いごと操ってくるんだ。しかも確実に操った人達を壁にしてくる。下手すりゃ、捕まって操り人形にされかねないぞ」

 

「……どうしよう、困った」

 

「とにかく今は、一人で行動しないでくれ」

 

「……ん。わかった」

 

 

その光景を、通信で報告しながら見ていたクリストフは―――

 

 

「…………」

 

 

声を失う程、愕然としていた。

その後、三人は急造の精神防御を施した後、バーナードと合流し、急いで会場へと向かっていく。

バーナードとクリストフの通信魔導器から流れる会場内の会話で、ザイードは七つの『魔曲』を聞かせたその場の全ての人間の意識と記憶を余すことなく掌握できるそうだ。

ウィリアムはその説明に嫌な予感を覚え、演奏が止まっている間に【詐欺師の工房】を起動させる。

直後、演奏は再開されるも……

 

 

「……よし、いける」

 

 

問題無く【詐欺師の工房】は機能している。

通信から『魔曲』―――固有魔術(オリジナル)呪われし夜の楽奏団(ペリオーデン・オーケストラ)】が奏でられる限り、もう魔術は振るえないとザイードは嬉々として語る。

四人は会場の入り口前に辿り着くと、会場内の人達は虚な目で会場内のある場所へと向かっている。

バーナードはマスケット銃を二丁解凍し、ウィリアムへと投げ渡す。

 

 

「以前、わしが作った『重力結界弾』入りのマスケット銃じゃ」

 

「……それ、実際に作成したのは僕なんですけど……」

 

 

バーナードの説明にクリストフは嘆息しているが、ウィリアムは直ぐに意図を察する。

その直後、舞台の中央辺りで甲高い音が鳴り響いた。

 

 

「あの辺りか」

 

「おっけ、把握」

 

 

ウィリアムとバーナードは撃鉄を引き上げ、マスケット銃の引き金を引く。

会場内に鳴り響く四つの銃声。

直後、着弾地点を中心に重力結界が形成され、操られた人達は一気に両手両膝をつく。

 

 

「じじい!?クリストフ!?リィエル!?ウィリアム!?」

 

「今の内に逃げるぞ、グレ坊!」

 

 

バーナードの言葉を区切りにリィエルが力ずくのごり押しでルミアを連れていく。

事前に体重を落としたシスティーナもそれに続き、グレンとアルベルトも特殊な体術で結界の境目を抜けていき―――

 

 

「そんじゃ、出入口は一時封鎖だ」

 

 

全員、廊下へ出た直後でウィリアムが【詐欺師の工房】による瞬間錬成で、入り口を分厚いウーツ鋼の壁で塞ぐ。

そのまま、彼らは会場を後にした。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

学園敷地の東端の雑木林の中で、会場から逃げた一同は息を潜めていた。

外では操られた人達がひっきりなしにうろうろしている。

しかも、『魔曲』も微かだがしっかりと聞こえてくる。演奏が届く限り殆どの魔術は封じられ、時間が経てば、いずれ意識も乗っ取られてしまう。

そんな中―――

 

 

「ぐすっ……ひっく……うぅ……」

 

 

ルミアは声を押し殺して、静かに泣いていた。

こうなったのは自分のせいだと。あの時、ちゃんとグレンに問い詰めていれば、こんな事にはならなかったと。

それに対しグレンはお前は何一つ悪くない、怒っていいんだと元気づける。

 

 

「何でもかんでも自分のせいにすんな。周りの不始末まで背負うなアホ」

 

 

ウィリアムもルミアにそんな呆れ言葉を送る。

そして、グレンとアルベルトがこの状況を打破するやり取りをする。

グレンがシスティーナに説明しようとした矢先、大勢の傀儡達がついに、雑木林へと踏み込んで来た。

グレンはシスティーナに要点だけを伝え、アルベルトはシスティーナをつれ、グレンはルミア、ウィリアム、リィエル、バーナード、クリストフをつれ、二手に別れた。

 

 

 




······ひどくないと信じたい
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六十話(改)

ホント、よく続いていると我ながら思う
てな訳でどうぞ


グレン、リィエル、ウィリアム、バーナードがルミアを守るように四方を固め、クリストフはルミアのすぐ傍に付き、学院内の道を、北の方向へとかけていく。

時折、ザイードに操られた人達が襲いかかってくるも、グレンが足を払って転がし、バーナードが手刀で意識を刈り取り、ウィリアムが無音火薬(サイレント・パウダー)の非殺傷弾で撃ち落とし、リィエルが片手で突き飛ばして迎撃している。

クリストフは、事前に張っていた索敵結界に注力し、敵の様子を窺っている。

そして、クリストフの報告で別れたアルベルトとシスティーナは問題なく学院敷地内から脱出したそうだ。

六人はそのまま、北へと進んでいく。

そして……

 

 

「西、距離四百メトラ!敵影三、こちらに向かって来ています!!」

 

「予想通り、来よったかいっ!ルミアちゃんっ!ここでいったん、お別れじゃっ!!」

 

 

バーナード、クリストフ、リィエル、ウィリアムの四人は、グレンとルミアから離れ、西に向かって駆けていく。

四人はそのまま、西から迫る脅威へと立ち向かいにいった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

そこは地獄となっていた。

極低温の吹雪が吹き荒れ、超高熱の爆炎が上がり、炎を纏った甲冑騎士がさらに突っ込んで相殺する。

激しく稲光る拳と超重圧の大剣が正面から激突し合う。

炎嵐が渦巻き、それを凍気を纏った甲冑騎士が突撃して弱め―――弱った炎嵐を光の壁が遮蔽する。

四人が迎え撃ったのは、右腕が巨大な鋼の小手となっている《咆哮》のゼト。

壊れた笑みを浮かべ、猛烈な吹雪を纏う《冬の女王》のグレイシア。

そして、最後の一人は―――

 

 

「……………………」

 

「こりゃああああああああ―――っ!何やっとるかぁ!?」

 

「さらっと油断しやがってぇえええええええ―――ッ!!!」

 

 

『魔曲』によって操られたイヴであった。

操られたイヴは容赦なく炎の魔術を振るってくる。

それをウィリアムが凍気を纏った甲冑騎士―――人工精霊(タルパ)騎士の誇り(ナイツ・プライド)・氷兵】で炎の威力を落とし、そこにバーナードが事前作成した『対抗呪文(バニッシュ)弾』で打ち消していく。

迫りくる圧倒的な冷気を【騎士の誇り(ナイツ・プライド)・炎兵】で弱め、両腕に盾を填めた甲冑騎士―――人工精霊(タルパ)騎士の誇り(ナイツ・プライド)・楯兵】から展開された【騎士の楯(ナイツ・シールド)】よりも強力な防御障壁で遮り、クリストフも巻物(スクロール)を広げて、防御結界を展開し、さらに防いでいく。

『魔曲』によって彼らは多くの魔術を封じられている。魔術の五工程(クイント・アクション)の内の第三工程―――識域改変(インタベーション)が『魔曲』の妨害を受けているからだ。

ウィリアムは『魔曲』に妨害される前に成立させた【詐欺師の工房】による人工精霊(タルパ)で猛攻を捌き、バーナードとクリストフは、その作成時に第三工程まで成立している魔道具を駆使してウィリアムを援護している。

ちなみにリィエルは……

 

 

「はぁああああああああああ―――ッ!!」

 

「いいぞ、いいぞぉおおおおおおおおお―――ッ!!!」

 

 

·····ゼトと妙な世界を作り上げていた

 

 

「んもう♪私とクリストフ様の愛の育みを☆邪魔しないで♪もらます?」

 

 

グレイシアはそう言いながら、氷の剣を無数に形成していく。

ウィリアムは右手にドッジボールサイズの謎の球体を錬成し、氷の剣へと投げつけ、さらに人工精霊(タルパ)爆焔霊(サラマンダー)(フェイク)】―――火の精霊サラマンダーを人工精霊(タルパ)として具現召喚したもの―――を球体に向かわせる。

その球体と【爆焔霊(サラマンダー)(フェイク)】がぶつかった瞬間―――

 

ドゴォオオオオオオンッ!!!!

 

凄まじい爆炎と衝撃波が上がり、氷の剣を砕き、圧縮されていた凍気も爆発の衝撃波でグレイシアもろとも、彼方後方へと吹き飛ばしていく。

球体の中身には着火すると超高温で燃え上がる燃焼物が圧縮錬成されていたのだ。

その爆発にイヴも巻き込まれ、派手に吹き飛ばされていた。

 

 

「ウィル坊!?お主、何やっとるんじゃああああッ!?」

 

「ちょっとッ!?イヴさんを巻き込んでますよ!?」

 

「いや、あれくらいなら平気だと思ったし、強い衝撃を与えたら、ひょっとしたら正気に戻る事も期待してやった。後悔は無い」

 

 

バーナードとクリストフの文句をシレッと受け流すウィリアム。

そんな何とも言えないやり取りの中―――

 

 

「やぁああああああああああああああ―――ッ!!」

 

「面白い、面白いぞぉおおおおおおお―――ッ!!《戦車》のリィエルぅううううううううう―――ッ!!!!」

 

 

リィエルとゼトは変わらず、盛り上がっていた。

リィエルとゼトは互いに一度、距離を取る。

ウィリアムの方へと下がったリィエルはその直後、手に持っていた大剣をゼトに向かって投げ飛ばした。

 

 

「ぬんッ!!」

 

 

ゼトは苦も無く、大剣を鋼の小手で弾き飛ばす。

ゼトはそのまま、獲物を失ったリィエルに突撃しようとしたが―――

 

 

「何!?」

 

 

リィエルの両手には、いつの間にか蒼銀に輝く双大剣が握られており、再び力任せに投げ飛ばし、さらに返しで再び、両手に現れた黄金の剣を投げ飛ばす。

猛回転しながら迫る四本の剣をゼトは、最初の二本の蒼銀―――真銀(ミスリル)の大剣は弾き飛ばし、残りの二本の黄金の剣は体捌きでかわす。

しかし黄金の剣―――【騎士の剣(ナイツ・ソード)】は投げ飛ばされた勢いを活かしたまま、楕円運動で再びゼトへと迫っていく。

 

 

「―――くそッ!」

 

 

ゼトは電撃を漲らせた拳で【騎士の剣(ナイツ・ソード)】を叩き割る。

直後、ゼトの後ろから、先程リィエルが投げ飛ばしたウーツ鋼の大剣を持った【騎士の腕(ナイツ・アーム)】が突撃してくる。

ゼトは咄嗟にしゃがんでかわすも、【騎士の腕(ナイツ・アーム)】はそのままリィエルへと向かい、途中で霧散する。

 

 

「いぃいいいいいやぁああああああああああああ―――ッ!!!」

 

 

リィエルは何の迷いもなく突撃しており、中に放り出されたウーツ鋼の大剣を再び手に持ち、ゼトへと再び斬りかかる。

 

 

「ウィル坊……いつの間にリィエルと打ち合わせておったんじゃ?」

 

「打ち合わせ?んなもんしてねぇぞ?」

 

「「…………………」」

 

 

ウィリアムの言葉にバーナードとクリストフは言葉を失う。

あの流れるかのような攻撃が完全なアドリブだったからだ。

 

 

「……お主ら、いいコンビになりそうじゃの」

 

「ははは……」

 

「……褒められてる気がしねぇ」

 

 

釈然としないまま、一際大きい幾何学的な羽を有した甲冑騎士―――人工精霊(タルパ)騎士の誇り(ナイツ・プライド)・風兵】を具現召喚し、羽を羽ばたかせ、生み出した突風で迫ってきていた炎と凍気を吹き飛ばす。

バーナードは迫り来る氷の剣をマスケット銃で撃ち落とし、クリストフは巻物(スクロール)の防御結界で攻撃を遮断する。

 

 

「まったく……今回もぎりぎりじゃわい……」

 

「最近、キツイ戦闘ばっかだよ……」

 

「だけど……もうすぐ終わりますよ」

 

「違いない」

 

「確かに」

 

 

互いに不敵に笑い合い、さらに立ち向かう。

 

そんな決死の足止めを続けていると―――

 

 

「ん?」

 

「む?」

 

 

『魔曲』の音楽が不意に届かなくなり、操られたイヴも動きを止める。

ゼトとグレイシアはその直後、大量の粉塵と吹雪を巻き上げ、収まると二人は既にいなかった。

 

 

「漸く、終わったか……」

 

 

ウィリアムはその場で嘆息する。

茶番劇はようやく終わった。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

ザイードの捕縛は成功した。

グレンが囮となってザイードを誘き出し、街のグレンデル時計塔に登っていたアルベルトが黒魔改【ホークアイ・ピアス】と呼ばれる狙撃魔術で『魔曲』の核たる指揮棒を破壊して無力化、そこをグレンがザイードを殴り飛ばした。

『魔曲』に操られていた人達も我に返り、夢見心地のまま会場へと戻っていく。

前後の記憶があやふやどころか、森にいた事実さえ忘れさせていく『魔曲』の威力は恐ろしいものである。

そんな事でパーティーを中止にできず、土で全身が汚れ、まんまとしてやられたショックからか、放心状態となっているイヴに変わって、バーナードがリゼにある程度事情を話して再開を要請し、リゼも直ぐに事態を把握して了承し、パーティーの再開を急がせる。

……その間にグレンがアルベルトに文句を言っていたが、別にいいだろう。

そんな感じでフィナーレ・ダンスは再開され―――

 

 

「ホント、見事なもんだ」

 

「ん。ルミア、すごくキレイ」

 

 

ウィリアムとリィエルはそんな感想を言いながら、グレンとルミアのダンスを見る。

二人がダンス・フィニッシュを決めると、会場から一気に拍手と歓声が沸き上がる。

社交舞踏会は、裏の陰謀を知らぬまま、大盛況でその幕を降ろした。

 

 

 




これにて原作七巻は終了です
次は······(愉悦)
感想お待ちしてます


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第七章・教師補佐と春風の剣士
六十一話(改)


ここから原作八巻
皆の者、ブラックコーヒーの準備はいいか?
てな訳でどうぞ

*少し書き加えました


―――――――――――――――――――――――――――――

~緊急通知~

対象者:リィエル=レイフォード

内容:()()退()()(今年度前期の終了より執行)

理由:一定水準の学力非保持故の在籍資格失効

                      以上

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「どういう事だ、学院長!?」

 

 

掲示板の通達を見たグレンとウィリアムは、学院長室にロックもせずに入室し、学院長に詰め寄っていた。

 

 

「まぁ、来るとは思っていたよ」

 

「学院長!あの掲示板の通知は本当にどういう事だ!?いくらなんでもおかしいだろ!?」

 

「そうですよ!?期末試験を待たずに落第退学なんて、さすがにおかしいっすよ!?」

 

 

一緒に連れてこられたリィエルはいつもの表情のままで、何が起きているのかわかっていない。

『落第退学』は文字通り、学院を退学させられる処分だ。だが、本来は余程の事がない限りその処分が下る事はない筈なのだ。

一緒についてきたシスティーナとルミアも必死に嘆願するも……

 

 

「実はのう……」

 

 

学院長はため息と共に説明する。

リィエルの属している国軍省と政治抗争している魔道省が、リィエルの問題行動と成績不良を口実に、かなり強引に追い込んだそうだ。

リィエルも、落第退学が何なのかをシスティーナから聞かされた途端、今にも泣き出しそうな顔になる。

そんな彼らに、学院長が聖リリィ魔術女学院からリィエルを名指しで短期留学のオファーが来ている事を話す。

 

 

「よかったな、リィエル!聖リリィ魔術女学院に短期留学を成功させれば何とかなるぞ!!」

 

「……タンキリューガクって何?」

 

 

リィエルの質問に、ルミアが、一時的に別の学校へ通うことだと説明した直後―――

 

 

「やだ……リューガク?……したくない」

 

 

眉間に僅かにしわを寄せ、短期留学を強く拒絶した。

ウィリアムがその理由を聞こうとするも、グレンによって遮られてしまう。

そしてグレンの叱責に……

 

 

「絶対、やだ!」

 

 

リィエルは癇癪を起こして、学院長室を飛び出していった。

 

 

「おい!?待てよ、リィエル!」

 

 

ウィリアムは慌てて、逃げ出したリィエルを大急ぎで追いかけた。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「ん―――っ!!」

 

「……頼むから一回落ち着け」

 

 

ウィリアムは現在、黒魔儀【リストリクション】で捕らえられたリィエルと共に、学院に設けられたチャペル内の講壇の裏側にいる。

学院長室から出た後、何とかリィエルを補足し、追いかけていたところで、アルベルトがリィエルを取り押さえる現場に遭遇した。

アルベルトはグレン達にも今回の件について話すという事で、指示に従い、ここで待機している。

 

 

「お前達に話がある。……出てきていいぞ」

 

 

アルベルトの呼び出しで、拘束されたリィエルの襟首を掴んで講壇内から外へ出る。

 

 

「「ええええ―――っ!?」」

 

「……これやったの、アルベルトだからな。ここに隠れるよう言ったのも」

 

 

目を丸くして驚くシスティーナとルミアに、ウィリアムは嘆息と共に説明する。

 

 

「……マシな監禁場所なかったのか?神様に喧嘩売り過ぎじゃね?」

 

「信仰など、とうの昔に捨てた」

 

 

グレンのツッコミにアルベルトはそう返して指を鳴らし、リィエルを縛めていた【リストリクション】を解く。

アルベルトを交えてのリィエルの今後の話し合いは、やはり短期留学を成功させる以外にないそうだ。

その事実を改めて確認したグレンは、リィエルに短期留学を促すも、リィエルはウィリアムの後ろに隠れ、泣き出しそうな顔で短期留学を拒絶する。

グレンはリィエルを諭そうとすると―――

 

 

「ストップだ、先公」

 

 

ウィリアムが手をつきだして、それを制した。

 

 

「ウィリアム?」

 

「リィエル。ちゃんと嫌な理由を言え。いつでも察せるわけじゃねぇんだ」

 

「……わ、わたし……は……みんなと……離れたく、ない……一人になるのが…………怖い……から……」

 

 

リィエルから絞り出された言葉に、グレンはようやく気づいて押し黙る。

忘れがちだが、リィエルはイルシアを元に生み出された人間だ。そのイルシアも『拠り所』を守る為に、罪の意識に苦しみながら、組織の命令に従っていたのだ。

そんな幼いリィエルに『拠り所』を一時的とはいえ、離れるのは相当、酷な事である。

 

 

「……悪かったな、リィエル。ろくに話も聞かずに、無理強いしようとして」

 

「ん……」

 

「だが、どうすんだ?このままだと……」

 

 

振り出しに戻った問題に、グレンが悩ませていると、ルミアが、自分とシスティーナも一緒に行けばいいのでは?と提案する。

アルベルトもシスティーナとルミアにも短期留学のオファーが来るよう、既に手は回しているという。

システィーナとルミアが一緒なら何とかなると思ったが―――

 

 

「……グレンとウィルは?二人も一緒じゃないと……」

 

「……すまん。こればっかりはどうしようもねぇ」

 

 

リィエルの縋るような言葉に、ウィリアムは苦い顔で答える。

聖リリィ魔術女学院は文字通りお嬢様学校、男子禁制である。男であるグレンとウィリアムは敷地内にすら入れないのだ。

さすがに諦めてもらうしかないのだが……

 

 

「問題無い。お前達も、臨時教師と体験実習の教師補佐として同行してもらう」

 

「「は?」」

 

 

アルベルトの意味不明な言葉に呆けた言葉が洩れた直後、チャペルの壁が爆破される。

 

 

「ジャジャジャジャーンッ!!」

 

 

壁の大穴から現れたのは、ようやく復帰したセリカであった。肩には羽を広げてポーズを決めているファムもいる。

セリカはグレンに向かって歩き、胸の谷間から取り出した小瓶の中身を口内に含み、グレンを抱きしめて―――キスをした。

その三秒後、何かを口移しで飲まされたグレンはセリカを振りほどくも―――

 

 

「《陰陽(いんよう)(ことわり)は我に在り・万物の創造主に弓引きて・其の(からだ)を造り替えん》―――ッ!」

 

 

セリカが得意げに呪文を唱えた直後、グレンの全身から煙が立ち上り、奇妙な音が響いていく。そして、煙が晴れた先には―――女性がいた。

 

 

「……なんじゃこりゃあああああああああああああ―――っ!?」

 

 

その女性―――グレンの身に起こった光景を見て、ウィリアムは猛烈に嫌な予感を覚え、その場から急いで逃げようとするも―――

 

 

「《動くな》」

 

 

セリカの金縛りの魔術によって、セリカが開けた大穴に向かう途中で動けなくなり、ウィリアムはあっさりと捕まってしまう。

セリカは胸元からもう一本の小瓶を取り出し、そのままウィリアムへと近づいて行く。

 

 

「さあ!私の口移しか、自ら飲むか選ばせて上げよう!」

 

 

セリカが笑いながら告げた地獄の選択に、ウィリアムが脂汗を流していると―――

 

 

「……待って、セリカ」

 

 

リィエルがセリカの腕を掴んで引き止めた。

 

 

「リィエル?」

 

「そのくちうつし?は、さっきグレンにした事なの?」

 

「そうだが?」

 

「……だったら、わたしがそのくちうつし?をする」

 

 

リィエルの口から出たのは静止の言葉ではなく、まさかの立候補発言だった。

それを聞いたセリカは目を見開くも、一気に悪い顔となり、小瓶を渡しながらリィエルの耳元で何かを吹き込み始める。

ウィリアムは必死に金縛りから逃れようとするも、同じく悪い顔になった女体化グレンが、動けないウィリアムの顔の位置をリィエルの身長に合わせて調整していく。

そして、セリカに何かを吹き込まれたリィエルは、ウィリアムに近寄りながら手渡された小瓶の中身を口内に含み―――

ウィリアムの頬に手を置き、自らの顔を近づけ―――

 

 

「―――ん」

 

 

セリカ同様、一切の躊躇いもなくウィリアムにキスをした。しかも十五秒もの間、たっぷりと。心無しか、ぶっちゅううううぅぅぅ…………という空耳が響いているような気がするが、気のせいだろう。

その光景にシスティーナは更に混乱、ルミアは「リィエルまで先に大人の階段を……」と呟き、セリカとグレンはいやらしい笑みを浮かべ、アルベルトはリィエルの行動に少なからず驚いていた。

リィエルにキスをされたウィリアムは、頭の中が一気に真っ白となってしまい、そのまま例の小瓶の中身を飲み込んでしまう。

接吻を終え、金縛りから解放されても、ウィリアムは顔を真っ赤にし、硬直したまま動かなくなっている。

対するリィエルは何時もの能面だが、心なしか、どこか満足げに見える。

そして、セリカは再び詠唱し、ウィリアムもグレン同様、女の姿へと変えた。

女に変えられたウィリアムは、髪が肩の所まで伸び、胸の大きさは……システィーナよりはあるがそこまで大きくない。

全体的な見た目は、スレンダーなクールビューティーの少女となった。

 

 

「これで問題は無いな?」

 

「「問題大ありだッ!?」」

 

 

アルベルトの言葉に、グレンと我に返ったウィリアムが詰め寄っていく。

 

 

「まったく……少しは察しろ。単なる嫌がらせでこんな事をすると、本気で思うか?」

 

「「…………」」

 

「グレンに対しては、半分は俺の嫌がらせだが」

 

「おい!?」

 

「……じゃあ、俺は?」

 

「半分はイヴからの厳命だ。余程、異臭を放つ液体を頭から被せ、丸三日も取れなかった事を未だ根に持っていると見える」

 

「…………」

 

 

アルベルトの明かした理由に、ウィリアムは視線を明後日の方へと向けた。

そして、アルベルトから今回のタイミングが良すぎる短期留学のオファーの疑惑を指摘され、グレンとウィリアムはしょうがないと、同行する事を決める。

こうして、ウィリアムはグレンの補佐として、同行する事となった。

 

 

「因みに、何で補佐なんだ?」

 

「そっちの方が都合がいいだろう。精神上でな」

 

「……気遣いどうもありがとう」

 

 

 




おかしい·····思ったより砂糖の出が少ない····
これが雰囲気の力か!?
ツッコミは出来ればスルーの方向で
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六十二話(改)

読者は甘いものが好き
それを前回の話で感じた作者です
てな訳でどうぞ


あの珍事の後、短期留学と臨時派遣は問題無く進んだ。

カッシュを筆頭とした一部の男子生徒は、グレンとウィリアム―――特にグレンが暴露したウィリアムとリィエルのキス話―――への嫉妬と羨望が鰻登りで上昇し、血涙を大量に流す勢いで地面をのたうち回ってはいたが……

 

 

「……あー、めんどくせぇ……」

 

 

フェジテを発った馬車内で、やる気なくぼやいているのはウィリアムだ。

ウィリアムの現在の格好は、学院から借りたアルザーノ帝国魔術学院の男性用の講師服をだらしなく着崩している状態だ。

グレンも同様にいつもの格好だ。

ルミアがにこやかな顔でグレンとウィリアムにおめかしを進めたが、その一線を越えたくなかった二人は頑として拒絶した。

因みに、グレンは『レーン・グレダス』、ウィリアムは『ウィリー・アームゼン』という偽名にしている。

約一秒で決めた偽名に、周りはそれでいいのかとつっこんだが、二人は特に気にしなかった。

そんな相変わらずのウィリアムに―――

 

 

「……ごめん」

 

 

隣に座っていた聖リリィ魔術女学院の制服―――修道服にも似た華やかなワンピースとベレー帽―――を着たリィエルが謝ってきた。

リィエルは、自分のせいでみんなを巻き込んだ事に負い目を感じている事。みんなに迷惑をかけて嫌われて一人になるのが怖い事。一人で短期留学するのが怖い事を消え入るような声で吐露していく。

それに対しウィリアムは、ちょっと呆れ目で、左手をリィエルの頭に置く。

 

 

「ウィル……?」

 

「本当に嫌ってたらこうしてついてこねぇよ。二人も短期留学を進めたのはお前と一緒に居たかったからだ」

 

「ウィリア……ウィリーの言う通りだぞ、リィエル」

 

 

前の席に座っていたグレンも、偽名で言い直しながら、ウィリアムの言葉に同意する。

 

 

「そうかな……?」

 

「そうだよ。それでも負い目に感じるなら……」

 

 

リィエルの頭を撫でながら、微笑んで言う。

 

 

「向こうで二人や俺らに頼らずに、友達の一人くらい作ってみな。そうすりゃ二人も喜ぶさ」

 

「……ん。頑張ってみる……」

 

 

ウィリアムの言葉を、リィエルは微笑んで受けとめる。

そんな二人の仲睦まじい光景を、グレンは笑って見守―――

 

 

「そういやぁウィリー君?リィエルとのキスの味はどうだったかな?」

 

 

―――らず、いやらしい笑みであの時の事を聞いてきた。

それに対しウィリアムは―――

 

 

「―――――~~~~~~~ッ!!!」

 

 

あの時、真っ白になりながらも感じていた、唇の柔らかい感触を思い出して顔を真っ赤にし、身悶えながら、明後日の方向へと顔を向けていた。

 

 

「リィエル。お前があんな行動に出るのは正直驚いたぜ?」

 

「……よくわかんないけど、ウィルとセリカが口移しをする光景をどうしてか見たくなかった。よくわかんないけど」

 

 

リィエルはどうやら、自身の気持ちを把握仕切れず、もて余しているようであった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

フェジテを発って四日後、一同は帝都オルランドに到着し、そこから鉄道で聖リリィ魔術女学院へと向かうのだが……

 

 

「……リィエルはどこに行った?」

 

「「「えっ?」」」

 

 

五番線のホームに着いた矢先、リィエルの姿が見えない事にウィリアムが気付き、グレン達に聞くも、そんな言葉しか返ってこなかった。

ウィリアムは直ぐ様記憶を再生させる。

そこで、ここに向かう途中にあった、駅構内の苺タルトの屋台を思い出し―――

 

 

「あそこかぁあああああああああああ―――ッ!?」

 

 

はぐれた場所に思い至ったウィリアムはグレン達を置いて、大急ぎでそこへと向かって走っていく。

急いで苺タルトの屋台があった場所に向かうと、案の定、リィエルはその場にいた。

リィエルのすぐ近くには、聖リリィ魔術女学院の制服を着た眼鏡をかけた少女もいたが、おそらく女学院の生徒だろう。

 

 

「いいいたぁあああああああああ―――ッ!!」

 

「あ」

 

「!?」

 

 

ウィリアムは敢えて大声で叫んで二人に近づいていく。

 

 

「しれっと迷子になるな!目を離した俺らにも責があるが……!」

 

「違う。迷子になったのはウィル達の方」

 

「……じゃあ、五番線ホームはどっちの方角だ?」

 

「……どっち?」

 

「それが!迷子になった!というんだよ!このアホ!!」

 

「むぅ……」

 

 

ウィリアムの説教に、リィエルは不貞腐れるも―――

 

 

「兎に角、説教は後回しだ!今は急いでホームへ向かうぞ!!そこのあんたも聖リリィの学生だろ!?急がないと乗り遅れるぞ!!」

 

「え、ちょッ!?」

 

 

ウィリアムは右手でリィエルの、左手で眼鏡の少女の腕を掴み、大急ぎで五番線ホームへと向かって行った。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

あの後、無事に五番線ホームに到着し、問題無く列車に乗る事が出来た。

今は眼鏡の少女―――エルザと一緒に腰を落ち着ける場所を探していく。

 

 

「あれ?ですが、リィエルさんはお二人のことを……」

 

「ああ。それはただの愛称だから気にしないでくれ」

 

「は、はぁ……」

 

 

リィエルが普通にグレンとウィリアムを何時もの名前で読んだ事を誤魔化しつつ、互いに自己紹介と身の上話等をしながら列車内を歩いていく。

そして、オープンサロンタイプ車両へと入り、グレンが席に座るよう促すと、金髪の縦ロールの少女を筆頭とした集団が現れ、この車両は自分たち『白百合会』のものだから出ていけという、公共ルールガン無視発言をかましていた。

それに続いて、男勝りの黒い長髪の少女を筆頭とした『黒百合会』と名乗る集団が現れ、こちらも指定席さえも座るという、同じく公共ルールガン無視発言をかましている。

金髪と黒髪の少女―――フランシーヌとコレットはそのまま喧嘩を初め、周りもそれに追従する。

グレン達はジニーという名の少女から後方車両に避難するよう助言を受け、後方車両へと避難した。

そこで一同はようやく腰を下ろし、ゆっくりと寛いでいく。そんな中―――

 

 

「…………」

 

「?ウィリーさん、私の顔に何かついてます?」

 

 

ウィリアムはエルザの顔を探るように凝視していた。

 

 

「……(わり)ぃ、なんでもねぇ」

 

 

ウィリアムはそう言ってエルザから視線を外す。

 

 

(他人の空似だよな?もし()()()の娘なら―――)

 

 

()()に瓜二つのリィエルに、あんな親しげな態度は取れない筈。

やはり、顔が似ているだけの別人だと判断して、ウィリアムはそのまま眠りこけた。

 

 

 




リィエルがいつも通りなのは、恋愛知識の疎さと純粋無垢故である
でなきゃ、あんな濃厚なキスはしない
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六十三話(改)

····ありの筈
てな訳でどうぞ


「嫌ぁあああああああああ―――ッ!」

 

 

燃え盛る炎に、焼け落ちていく我が家、血だまりの中に沈んだ生き絶えた父と母。

 

 

「貴女……ッ!よくも……よくもッ!!」

 

 

私は恐怖や混乱、憤怒や憎悪等、様々な感情が渦巻く中、打刀を手に取り、父と母を殺した、赤毛の少女に斬りかかる。

しかし、少女は手に持ったいた大剣を無造作に振るい、私の刀は弾かれ、手元から飛んでいってしまう。

その一瞬で実力差を理解してしまい、私は一気に戦意を喪失し、尻餅をつく。

 

 

「い、嫌っ……来ないで……い、命だけは……」

 

 

私は後退りしながら、惨めに命乞いするも、その少女は虚無の瞳のまま、私に近づき、大剣を振り上げる。

 

 

「あ、……ああ…………ぁあああ……」

 

 

全てが真紅に染まった、炎が燃えたぎる世界で―――少女は大剣を振り下ろす。

私の脳天目掛け、振り下ろされた大剣は―――

 

 

 

一発の銃声と共に、少女の手から弾き飛ばされた。

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

「――はぁッ!?」

 

 

毛布を跳ね飛ばすように夢から目を覚ました私は、自室内を見回すと同時に枕元に置いてあった、とある色のハンカチを握り締める。

そのハンカチの色は、あの時、助けてくれた人物が着ていた服の色と同じ紺色だ。

 

 

「……また……あの夢……」

 

 

ハンカチを握り締めた事で幾分か気分は楽になるも、陰鬱な気分は完全に晴れなかった。

私を今も尚、苛まやせる『炎の記憶』。

この手で必ず決着をつけて、終わらせる。

そのために、()()()()()()()()()()()()()()()の提案を呑んだ。

忌まわしい過去に決着をつけ、私の人生を新たにスタートさせるために―――

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

聖リリィ魔術女学院に到着した次の日。

 

 

「ようこそ、おいで下さいました」

 

 

聖リリィ魔術女学院の学院長室で、学院長のマリアンヌがグレン達に挨拶する。

グレンがリィエルに短期留学のオファーを出した理由を聞いてみると、リィエルが優秀な生徒と聞き及んだからだそうだ。

相当きな臭いが、確かめる術が今のところ無い以上、周りに注意するしかない。

その後、マリアンヌからこの学院の問題点―――この学院の閉鎖的な空間、厳格なる規則、硬直したカリキュラム、学院内の生徒全てが上流階級出身という、特殊な環境で形成された『派閥』による問題点を聞かされた。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

定番の自己紹介の後、ウィリアムは担当となった二年次月組で、グレンの補佐として一緒に授業を行うのだが……

 

 

「おーっほっほっほ!中々良いお味ですわ!」

 

「よっしゃ、いい引きっ!」

 

 

……右側の『白百合会』はお茶会を、左側の『黒百合会』はトランプゲームをしており、全く授業になっていなかった。

 

 

「お前ら授業中だぞッ!?」

 

「真面目にする気あんのか!?」

 

「うるさいですわよ『黒百合会』ッ!あと、先生がたも!」

 

「それは『白百合会』のてめぇらだろ!?あと、先生たちもなっ!」

 

 

グレンとウィリアムが注意しても、彼女達は二人をオマケ扱いして全く聞く耳を持たず、派閥の小競り合いをする始末である。

グレンがこめかみに青筋を浮かべながら、間に割って入ろうとするも―――

 

 

「「「「「「「「「部外者の貴女は黙ってて下さいっ!」」」」」」」」」

 

 

魔術が一斉に飛んできて吹き飛ばされ、元の場所に戻される結果となった。

ウィリアム自身、授業をマトモに受けなかった自覚はあるが、彼女達は自覚無しだから余計に酷い。

 

 

「……そ、その……申し訳ありません……」

 

 

そんな彼らに、このクラスの一員だったエルザがグレンに謝ってくる。

エルザはどうやら派閥には所属していないらしい。

エルザは自身を落ちこぼれと言い、皆の中に入ること自体に躊躇いがあるそうだ。

 

 

「一体どういう……」

 

「余計な詮索は野暮ですよ、レーン先生」

 

 

グレンが思わず深入りしようとするが、ジニーがそれをたしなめ、グレンも素直に切り上げる。

ジニーは彼女達に関わらず放置しとくよう、全くありがたくないアドバイスを残して、フランシーヌの元へ駆け寄っていく。

無論、そんな事は出来ない。

授業が成立しなければ、単位を取得できず、リィエルの落第退学を取り消す事が出来ないからだ。

 

 

「……先公、この状況を打破するいい考えが浮かんだんだが」

 

「……奇遇だな。俺もだ」

 

「「フ、フフフフフフ…………」」

 

 

グレンとウィリアムは互いに笑いあった後―――

 

 

「「実力行使じゃあああああああああああ―――ッ!!!!」」

 

 

二人はブチ切れ、凄まじい動作でティーセットやトランプ等の遊具をひったくり、窓の外へと放り捨てていた。

 

 

「「「「「……………………」」」」」

 

「「授業中はお静かに☆」」

 

 

呆然とする彼女達に、二人はとても良い笑顔でサムズアップし、教壇へと戻っていく。

直後、我に返ったフランシーヌとコレットが二人に詰め寄るも―――

 

 

「えー、この構文を分解整理するとだな……」

 

 

グレンが解説し、ウィリアムがそれを黒板に書き連れていく。

二人のガン無視して授業をする行動を、コレットはグレンの胸ぐらを掴み上げ、フランシーヌは抜き放った細剣(レイピア)をウィリアムの首筋に当てて、強引に中断させる。

ウィリアムは一応正面へと向き直ると、リィエルが暴走寸前だったので、【騎士の腕(ナイツ・アーム)】をその頭に落として鎮圧しようと考えた矢先、エルザがリィエルを諌めた事で事なきを得た。

それを尻目に、フランシーヌとコレットは自分達こそが『魔術師』に相応しいといい、二人はおろか、システィーナ達も馬鹿にするも―――

 

 

「あ、あれっ……?」

 

「な……ッ!?」

 

 

コレットのグレンを胸ぐらを掴んでいた手は外され、フランシーヌがウィリアムの首筋に当てていた細剣(レイピア)は、その当てていた本人に鞘まで奪われていた。

 

 

「『魔術師』ねぇ……ちょっと強い力を持っていい気になっているだけのチンピラが何をいってるのやら……」

 

 

奪った細剣(レイピア)を鞘に納めてフランシーヌに放り返しながら、ウィリアムは呆れ目で二人にそう告げる。

 

 

「確かに、与えられたもんの使い方だけは必死に練習するのに、それ以外に目が向かないなんて·····中途半端なチンピラだなぁ……」

 

 

グレンとウィリアムの煽りに殆どの生徒達に剣呑な空気が流れ始める。

そこでグレンは『魔導戦教練』による三対三のパーティー戦の提案をする。

負ければグレンとウィリアムは学院から出ていき、勝てばこちらの要求を一つ聞く提案に、フランシーヌとコレットは了承した。

 

 

 




····うん、隠す気ゼロだな
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六十四話(改)

相変わらずである
てな訳でどうぞ


聖リリィ魔術女学院敷地内にある、広々とした運動場で『魔導戦教練』の授業は行われる。

簡単なルール説明が行われる中、フランシーヌから炎熱系魔術の使用禁止というルールの追加を頼んできた。

 

 

(そういやぁ、先公吹っ飛ばした時も炎熱系統は使ってなかったな……)

 

 

ウィリアムが疑問に感じている間に、グレンはハンデとしてリィエルは攻撃禁止のルールを追加した。

そして、グレンは対戦相手として一番強いであろうフランシーヌ、コレット、ジニーを指名して、模擬戦が始まった。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

結果はこちら側の勝利で終わった。

接戦、善戦ではない。最後まで相手に手玉に取られ続けた、向こうの惨敗、完敗である。

フランシーヌとコレットは地面に這いつくばって打ちひしがれており、彼女達の取り巻きもこの結果に動揺している。

グレンが次の試合を促したら、取り巻き達は一斉に白旗を上げた。

すっかり弱気になった取り巻き達はグレンに言われるまま、フランシーヌとコレットをグレンとウィリアムの前に連れてきて、直ぐ様離れていく。

 

 

「さぁて……約束はちゃ~んと守って貰うぞ……?」

 

「散々うっちゃらかしてくれたしなぁ……?」

 

「「ひぃいッ!?」」

 

 

自信を完膚なきまでに打ち砕かれたフランシーヌとコレットの二人は、すっかり弱気となっている。

そんな弱気の二人にグレンは先程の模擬戦の問題点を指摘していく。

フランシーヌは感情が出過ぎ、コレットは単純すぎると。

グレンは続いて、巻き込んだジニーの戦況判断の悪さも指摘する。

ジニーは『シノビ』の誇り云々と言ってきたので―――

 

 

「アホか。そんな味方の足を引っ張る自惚れ、とっととゴミ箱に捨てとけ。捨てられないなら、山奥で一人でやってろ」

 

 

ウィリアムが容赦なく切り捨てた。おまけに『誇り』を『自惚れ』扱いされ、ジニーは絶句してしまう。

 

 

「実力で勝てないなら、別の手段を考えろ。最善の為じゃなく、単に己の実力を証明するだけの行動……それがシノビのいう『誇り』か?お前自身の『自惚れ』の間違いだろ」

 

 

そんなぐぅの根も出ない正論に、自分が『シノビ』の誇りに泥を塗っていると言われ、ジニーは項垂れてしまう。

グレンは彼女達を見渡し、『魔術』に『使われている』だけの『魔術使い』のチンピラと言い切り、短い期間だが『魔術師』のなんたるかくらいは教えると告げる。

そんなグレンに彼女達は心酔し……

 

 

「わたくし達に教えを……」

 

「私達を指導してくれ……」

 

「『白百合会』で!」

「『黒百合会』で!」

 

 

フランシーヌとコレットは、何か決定的に食い違った言葉を放つ。

再び、彼女達の間に剣呑な空気が流れ、火花が飛び散った瞬間―――

 

 

「いたぁッ!?」

 

「てぇッ!?」

 

 

頭上から金属の鍋らしきものが彼女達に落ちてきて、ぶつかった衝撃による痛みから、頭を抑えて蹲る。

その場で蹲った彼女達に、錬成して落とした張本人であるウィリアムが、にこやかな顔で近づいて行く。

 

 

「どっちが相応しいとか言ってる暇があるなら、全員、レーンの先公の授業を素直に受けろ。俺から言わせりゃ、どっちも同じだ」

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

「返事はッ!?」

 

「「「「「「は、はぃいいいいいいい―――ッ!!!」」」」」」

 

 

ウィリアムから発せられていた雰囲気に呑まれていた彼女達は直立不動で、素直に返事を返した。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

あの模擬戦から数日たった昼頃。

本日も『白百合会』と『黒百合会』、システィーナとルミアによるグレン争奪戦が没初しかけたが―――

 

 

「ケンカなら、他・所・で・や・れ」

 

 

ウィリアムの怒気全開で笑顔を浮かべた注意と、聞かない相手には錬成した鍋を連続で頭に落とすという物理制裁で、争奪戦を毎回沈めていた。

 

 

「「「「お姉様……ッ!」」」」

 

 

……そんなウィリアムの耳に不穏なセリフは聞こえない。聞こえないのだ。

そんなこんなでグレン達と食堂に向かい、一緒に昼食を食べるのだが、リィエルは別のテーブルで、エルザと一緒に食事している。

 

 

「おい、見ろよ……」

 

「ええ……」

 

 

そんな二人の様子を見たフランシーヌとコレットは何故か安堵している。

フランシーヌとコレットの話によれば、エルザは少し心に問題を抱えているようで、それが原因でみんなから一歩退いて独りでいるそうだ。

だから、エルザがリィエルと仲良くしている事に安堵したそうだ。

そんな二人に、ウィリアムは一歩踏み込んだ質問をする。

 

 

「先日の炎熱系魔術の使用禁止……その辺りが関係しているのか?」

 

 

それに対し、フランシーヌとコレットは―――

 

 

「「…………」」

 

 

無言を貫いた。

 

 

「……大体察した。これ以上は聞かねぇ」

 

 

ウィリアムはそこで詮索は切り上げるも、ある不安が芽生えつつあった。

エルザはおそらく、炎に対して何かしらのトラウマを抱いている。

エルザがもし()()()()()なら、アレがトラウマの原因と見ていい。

だが、本当にあの時の娘なら、リィエルにあんなに親しげに接することは出来ない筈。よくて他所よそしい態度になる筈だ。

ぶっちゃけ、唯の勘違いであって欲しいとウィリアムは思う。

エルザは、リィエルが一人の力で初めて作ろうとしている友達だ。だから、そんな友達を無暗に疑いたくない。

だが、どうしてもエルザがあの時の娘と重なってしまうのだ。

 

 

(あのきな臭いオファーのせいなのかね……)

 

 

ウィリアムは心の中で嘆息しながら、この事は自身の胸中だけに留める事にし、ライ麦パンを口に運んだ。

 

 

 

 

その数日後、ウィリアムはリィエルの様子を見に行く途中で、女性に変身させられた時の異変が起きた為、慌てて持っていた維持薬を再服用し、事なきを得た。

その後、談話室でリィエルがエルザと一緒に勉強している光景を見て、ウィリアムはこの時ばかりは邪魔をしないよう、静かにその場を後にした。

 

 

その頃、グレンは入浴中に変身魔術が解けて元の姿に戻るという事態が起きていた。

 

 

 




都合良すぎかな?
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六十五話(改)

相変わらず不安に感じながらも投稿する駄作者である
てな訳でどうぞ


グレンは男バレを『過去の変身魔術の後遺症で、お湯を被ると男の身体になってしまう』という、実に苦しい言い訳で誤魔化して事なきを得た。

留学も十四日目となり、前日のテストのリィエルの点数は百点中六十五点。今までのリィエルからしたら格段の進歩だ。

そのままグレンの音頭で、クラス全員でマグス・バレー大会を開催するのだが……

 

 

「…………」

 

「どーこに行こうとしているのかなぁ?」

 

 

エルザが一人、その輪の中から離れようとしていたのでウィリアムがそれを引き留める。

エルザが資格云々とか言って渋っていたので―――

 

 

「資格とかそんなん知らん。お前が入りたいか、入りたくないかだけだ」

 

 

ウィリアムはそう言い切り、エルザの背中を押して強引に連行し、皆の輪の中へと放り込んだ。

皆もエルザをにこやかに受け入れ、リィエルのお願いにも根負けしたエルザは一緒に皆と遊ぶ事となった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

短期留学最終日。

グレンが担当した生徒達は、学院敷地内のオープンカフェでグレン達の送別パーティーを開いていた。

リィエルの短期留学も無事に成功し、落第退学を免れたのである。

 

 

「ところで……リィエルは?」

 

 

リィエルはいつの間にかいなくなっており、ウィリアムが辺りを見渡して探していると、システィーナが、リィエルはエルザと一緒に散歩へと行ったと告げる。

 

 

「じゃあ、ちょっと探しに行くか。あいつにはちゃんと礼を言っときてぇしな」

 

「ひょっとしてヤキモチ?」

 

「うっせぇ」

 

 

システィーナのからかいを軽く受け流し、ウィリアムはリィエルとエルザを探しに行った。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

鉄道列車駅の駅前広場にて。

エルザはリィエル―――『イルシア』と戦っていた。

エルザはリィエルに自身の過去と、復讐、敵討ちの為に近づいたことを明かした。

 

 

「あの日以来、私の人生は無茶苦茶となったッ!(ろく)でもない親戚達が父と母の財産を全て奪い、私は政略結婚の道具として、通っていた軍学校からこんな下らない学校に押し込められたッ!何より―――『炎の記憶』が今も尚、私を苦しめ続けている……ッ!あの時、私を貴女の凶刃から助けてくれた人を連想させる紺色と、自己暗示装置の眼鏡がなければ、日常生活でさえ満足に送ることが出来ない程に……ッ!!」

 

 

そして、瞳を憎悪に染めたエルザは『春風一刀流』と呼ばれる東方剣士(サムライ)の剣術を駆使して、リィエルに斬りかかった。

エルザはリィエルの剣技の底を見切り、勝てると思っていた。だが、リィエルの強さを見誤った。

その結果、エルザは劣勢に立たされる事となった。

エルザは必死にリィエルの力まかせの重剣の連激を捌くも、遂に捌ききれず、強烈な衝撃によって尻から地面に叩き付けられる。

そして、リィエルは大剣を大上段に振り上げている。

その光景―――『炎の記憶』の焼き直しにエルザは思わず目を閉ざしてしまう。

あの時と違うのは、助けは来ない事だけ。

あの時は黒い仮面をつけた正体不明の人物に助けられたが、そんな都合のいいことは二度も起きはしない。

エルザは死を覚悟するも―――

 

 

(……?)

 

 

死の衝撃が来ない事に、エルザは恐る恐る目を開くと、リィエルはエルザの目の前で大剣を寸前で止め―――泣いていた。

 

 

「お願いエルザ……話を聞いて……わたしは……エルザを傷つけたくない……」

 

 

リィエルのその姿に、エルザの『炎の記憶』―――大剣が弾き飛ばされたあの時、イルシアが泣いていた記憶―――が甦り、再び怒りが再燃する。

その瞬間、エルザの刀が衝動的に跳ね上がり、リィエルは慌てて跳び下がって避ける。

エルザはそのまま、刀を頭上で旋回させ納刀しようとした瞬間―――

 

 

 

一発の銃声と共に、エルザの手から刀が弾き飛ばされた。

 

 

「!?」

 

 

エルザは驚愕し、刀を拾うことも忘れ、急いで銃声がした方向に顔を向けると―――

 

 

「……何でこう、当たって欲しくない事ばかりが当たるんだよ……」

 

 

硝煙が立ち昇る黄金の拳銃を構え、苦い顔でこちらに歩いて近づいてくるウィリアムがいた。

 

 

「……ウィリーさん、何のつもりですか……?」

 

「いや、普通止めに入るだろ」

 

 

烈火の瞳で睨んでくるエルザに対し、ウィリアムは至極当然の事を口にする。

エルザは激情のまま、リィエルの悪行を叫ぼうと口を開こうとした矢先、ウィリアムの静かな言葉で止まる事となった。

 

 

「それと、今お前がしている事は復讐、敵討ちですらねぇからな?」

 

「……は?」

 

「リィエルはお前の両親を殺したイルシアじゃない。そこにいるリィエルは本質的の別人、イルシア本人じゃないんだよ」

 

「何訳のわからない事を言ってるんです!?そもそもどうして貴女はその事を―――」

 

「お前からしたらそうだろうな。あの時、俺は仮面で顔を隠してたからな」

 

 

ウィリアムはそう言い、左手に《詐欺師》時代に使っていた黒の仮面を錬成する。

 

 

「…………え?」

 

 

その黒の仮面を見たエルザは目を見開く。

その仮面は二年前のあの時、あの凶刃から救い、朦朧とする意識の中、燃えたぎる我が家から両親の遺体ごと連れ出してくれた、謎の恩人が被っていた仮面だったからだ。

 

 

「あ、貴女は……まさか……」

 

「その様子からして覚えてるようだな。この仮面と紺の外套を羽織っていた俺の事を」

 

 

ウィリアムはそう言いながら、仮面を霧散させ、構えていた拳銃を降ろす。

 

 

「話の続きだが、イルシアはもうこの世の何処にもいない。二年前、致命傷で死んだからな……」

 

「!?何を言ってるんです!?イルシアはそこにいる―――」

 

「容姿が記憶と一致しているだけで本人か?それとも、それ以外の根拠があるのか?」

 

 

ウィリアムの言葉にエルザは言い返せずに言葉を詰まらせる。

リィエルがイルシアだという情報は、あの女が一方的に教えたもの。自身が確かめた事ではない。容姿が記憶と一致しているだけで鵜呑みにしただけだ。

そんなエルザに、ウィリアムは彼女にとって、残酷な事実を口にする。

 

 

「リィエルはイルシアを元に生まれた人間……『Project:Revive Life』、通称、『Re=L(リィエル)計画』の世界初の成功例だ……だから、お前のしようとした事はただの狼藉なんだよ」

 

 

ウィリアムの口から淡々と語られたリィエルの秘密にエルザは……

 

 

「う、嘘です……そんなの、嘘に決まって……」

 

 

弱々しく首を振り、否定しようとしていた。

だが、薄々変だと感じていた事が、糾弾した際のリィエルのイルシアの語り口が、ウィリアムの言葉が虚言ではないことを如実に証明してしまっている。

それでも、エルザはその事実を認めたくなかった。

認めてしまえば、イルシアを打倒する為に鍛え続けた二年間は無駄だったという事実、何より、自身を未だ苛ませる『炎の記憶』に打ち克つ機会が、もうないという事を認める事になるからだ。

 

 

「エルザ……」

 

 

リィエルが心配げにエルザを見つめていると―――

 

 

「全く。とんだ期待外れだったわ、エルザ」

 

 

広場に侮蔑の声が聞こえてきた。

一同は声がした方へと顔を向けると、そこには眼鏡を踏み潰したマリアンヌと、彼女に付き従う月組以外の女子生徒達がいた。

 

 

「……成程、そういう事か……」

 

 

その光景を視界に収めたウィリアムの雰囲気が、徐々に怒気へと染まっていく。

 

 

「この茶番劇はアンタが仕組んだんだな?何が目的だ?」

 

「もう大方分かっているんでしょう?彼女を実験サンプルとして欲しがってるのよ……蒼天十字団(ヘヴンス・クロイツ)がね」

 

 

マリアンヌはそのまま、自身が元、蒼天十字団(ヘヴンス・クロイツ)の研究員だった事も明かし、リィエルを捕獲すれば自身が復帰できる事も明かす。

 

 

「でも、本当に計算外だったわ。おかげで計画を少々修正しなければいけなくなったのだから」

 

 

マリアンヌに付き従っている女子生徒達は一斉に、ウィリアム達に向かって細剣(レイピア)と魔術を構えていく。

 

 

「ウィリーさん。あなたとそこで無様に打ちひしがれているエルザを人質にすれば、彼女も大人しく同行してくれるでしょうから、大人しく捕まってちょうだい?」

 

 

マリアンヌは嫌味たらしくそう告げる。

マリアンヌにまんまと利用されていた事を知ったエルザは、マリアンヌの言葉通り、膝を付いて打ちひしがれている。

そんな状況で、ウィリアムは軽く嘆息し―――

 

 

「きゃあッ!?」

 

「あぐぅッ!?」

 

 

同時に数名の女子生徒から紫電が飛び散り、地面へと倒れていく。

その近くには数体の【招雷霊(ヴォルト)(フェイク)】が浮遊していた。

 

 

「……は?」

 

 

いきなりの光景にマリアンヌから呆けた声が洩れる。

 

 

「《起きよ盾霊(じゅんれい)》―――《解の開放(オープン)》」

 

 

それを尻目に、ウィリアムは《詐欺師の盾》を全部解凍し、直ぐ様浮遊状態にして特性の封印を解く。

我に返った女子生徒達は次々に攻撃を仕掛けるも、かわされたり、《盾》で防がれたりして、攻撃を当てられないでいる。

その間にも、ウィリアムは拳銃や《盾》に取り付けられている小銃(ライフル)から非殺傷弾を放ち、【招雷霊(ヴォルト)(フェイク)】の電撃や【騎士の腕(ナイツ・アーム)】の殴り飛ばしで、女子生徒達は次々と地面に沈んでいく。

《盾》に取り付けられている小銃(ライフル)は単発式で、銃弾を遠隔操作か自動で発射される。弾は【詐欺師の工房】で作り出すので、攻撃手段は併用が前提となっている。

 

 

「いぃいいいいいやぁああああああああ―――ッ!!!!」

 

 

リィエルも刃引きをかけた大剣を振るい、女子生徒達を同じく地面に沈めていっている。

 

 

「な……な……な……!?」

 

 

目の前の蹂躙劇にマリアンヌは信じられない思いで絶句している。

あの三流魔術講師と同じく、リィエルのお目付け役として来た学生。

所詮は学生、やる気なし―――計画に支障は無いと判断し、黙認した。

その結果が―――この事態である。

 

 

「よくもやってくれたわねッ!?ウィリアム=アイゼンんんんんんん―――ッ!?」

 

「下調べはちゃんとしとけ、クソババアッ!!」

 

 

絶叫するマリアンヌに、女子生徒の意識を刈り取りながらウィリアムはそう返す。

この場にいた女子生徒達は全員地面にへと沈み、残るのはマリアンヌ一人だけ。

ウィリアムは地面に沈んだ女子生徒達を【騎士の誇り(ナイツ・プライド)・風兵】でこの場から吹き飛ばしていく。

 

 

「さあ、いい加減、この茶番劇にケリをつけようか?」

 

 

 




列車の出番が潰れた!作者のものでなし!!
·····やっぱり都合良すぎ?
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六十六話(改)

このまま最新の巻までいけるかな?
てな訳でどうぞ


「ふ、ふふふ……」

 

 

ウィリアムの宣言に対し、マリアンヌは不気味な笑い声で返し、腰に吊っていた古風の剣に手をかける。

 

 

「エルザへの牽制の為に持ってきてたんだけど……本当に大正解だったわねッ!!」

 

 

マリアンヌがその剣を抜いた―――その瞬間。

 

轟ッ!!

 

その剣から強烈な熱波を放つ、圧倒的な炎が噴き上がり、マリアンヌの周囲を渦巻いていく。

 

 

「驚いたかしら?この剣の銘は《炎の剣(フレイ・ヴード)》。分かりやすく言うなら、『メルガリウスの魔法使い』に登場する魔将星、炎魔帝将ヴィーア=ドォルが振るったという『百の炎』の一つ……炎を操る魔法遺産(アーティファクト)の魔剣よ」

 

 

戸惑っていたウィリアム達にマリアンヌが嘲笑しながら説明する。

さらに、マリアンヌはこの《炎の剣(フレイ・ウード)》から、戦闘技術を不完全ながらも半永久的に自身に憑依させるのに成功したと明かし、姿を霞み消しながら、ウィリアム達に襲いかかる。

リィエルが直ぐ様反応し、マリアンヌの一撃を受け止めるも、マリアンヌの剣から炎が噴き出す。

その炎はリィエルを飲み込まんと―――

 

 

「《大気の壁よ》ッ!」

 

 

―――するも、ウィリアムがリィエルに【エア・スクリーン】を張った事で、辛うじてその炎から免れる。

ウィリアムは【騎士の剣(ナイツ・ソード)】を四体具現召喚し、マリアンヌに向かわせるも、マリアンヌは神速の動きで避けていく。

マリアンヌは再び剣から炎を放ち、【騎士の剣(ナイツ・ソード)】を焼き尽くすと同時に、その炎は生き物のように、広場を覆っていき―――

ドーム状の壁となって、ウィリアム達を炎の世界にへと閉じ込めた。

 

 

「逃がさないわよぉ……?貴方達を、程好くトーストして、実験サンプルとして連れてってあげるんだから……」

 

(炎の結界かよ!?こいつはまずい……!)

 

 

完全に閉じ込められた事にウィリアムが冷や汗をかいていると―――

 

 

「あ……ああ……」

 

 

一緒に閉じ込められたエルザが顔を青くし、蹲ったまま全身を震わせている。

やっぱり、あれが強烈なトラウマになっていたか、とウィリアムは思いつつ、圧縮してあった紺の外套を取り出し、エルザの頭へと被せる。

 

 

「取り敢えず、それ被っとけ。【トライ・レジスト】等付呪(エンチャント)してるから、熱気は多少和らぐ筈だ」

 

 

ウィリアムはエルザにそう言い、マリアンヌと再び対峙する。

 

 

「リィエル、二人でやるぞ。エルザを守りながらあのババアをぶちのめすぞ」

 

「ん。もちろん」

 

 

リィエルは力強く頷き、ウィリアムの隣に立つ。

 

 

「ご、ごめんなさい……私……」

 

 

声を震わせながら、エルザが謝ってくる。

 

 

「気にすんな。あのクソババアをさっさと黙らせて、キツイビンタを食らわす機会を用意すっからよ」

 

「ん。ちゃんと守るから。だから大丈夫、だから心配しなくていい」

 

「ふ、二人とも……」

 

 

そして―――エルザが見守る中、戦いの火蓋が落とされた。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

―――炎の結界の外側にて。

学院敷地内の駅前広場を中心に、あちこちの建物から火の手が上がっていた。

 

 

「―――《白き冬の嵐よ》ッ!」

 

「《大気の壁よ》ッ!」

 

 

女子生徒達は黒魔【ホワイト・アウト】で炎を消火し、【エア・スクリーン】で火の手の拡大を防いでいる。

 

 

「早くッ!こっちですわ!!」

 

 

消火活動をしながら、店の人達の避難誘導も行っている。

その中でも、月組の生徒達が率先して避難活動や消火活動を行い、人的被害は今の所出ていなかった。

 

 

「クソッ!!俺とした事が……!」

 

 

黒魔【アイス・ブリザード】で燃え盛る炎を消しながら、グレンは苛立ちを露に呟く。

あの後、三人の帰りが妙に遅かったため、皆で手分けして探していたところ、駅前広場が不自然に明るくなっていた為急いで駆けつけると、広場にはドーム状に燃え盛る炎があり、離れた所には気絶している女子生徒達がいたのだ。

先に現場にいたジニーから話を聞いたグレンは、今回の一件の思惑を全て察し、最初は炎の結界内への侵入を試みたのだが、炎の結界を突破する事は出来なかった。

しかも、炎の結界の燃えたぎる炎が他の建物へと燃え移っていった為、被害を拡大させない為に総出で消火活動に中ることとなったのである。

グレンはそんな歯痒い思いの中、彼女達に指示を出し、消火と避難を効率良く行っていく事しか出来なかった。

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

「あっはははははははっ!」

 

 

マリアンヌは哄笑と共に剣から炎を噴き出し、超高温の紅蓮の炎をウィリアム達へと襲わせる。その迫り来る炎を―――

 

 

「《楯壁展開(ロード)》―――ッ!」

 

 

ウィリアムは直ぐ様、《詐欺師の盾》からの碧い魔力障壁を展開して防いでいく。

炎は碧の魔力障壁によって、完全に塞き止められ、熱気さえも通さない。

 

 

「《楯壁解除(レリース)》―――ッ」

 

 

魔力障壁を解除し、展開中に具現召喚した【騎士の誇り(ナイツ・プライド)・氷兵】をマリアンヌに向かって突撃させるも―――

 

 

「しぃ―――ッ!」

 

 

マリアンヌは容易く【騎士の誇り(ナイツ・プライド)・氷兵】を斬り裂き、砕け散ってしまう。

 

 

「やぁああああああああああ―――ッ!!」

 

 

騎士の誇り(ナイツ・プライド)・氷兵】のすぐ後ろから突撃していたリィエルが、マリアンヌに斬りかかろうとするも―――

 

 

「あははははは!?」

 

 

炎の剣(フレイ・ウード)》から再び炎を噴き出させ、超高温の紅蓮の炎を浴びせようとする。

 

 

「《大気の壁よ》ッ!」

 

 

ウィリアムが直ぐ様【エア・スクリーン】をリィエルに張り、灼熱の炎から守る。

しかし、その空気の障壁もマリアンヌが直ぐ様斬り裂き、霧散してしまう。

再び炎の津波が襲いかかるも、リィエルは急いでウィリアムの元まで下がり―――

 

 

「《楯壁展開(ロード)》ッ!!」

 

 

ウィリアムが再び魔力障壁を展開し、襲いかかってきた炎の津波を完全に遮断する。

 

 

「くそ、このままじゃじり貧だ……」

 

 

ウィリアムは現状に苦い顔をする。

炎は完全に防げてはいるが、防いでいる間はこちらから攻撃する手段が無くなってしまう。

かといって【エア・スクリーン】を張って仕掛けていっても、物理的な衝撃に弱い為すぐに切り裂かれて消滅させられてしまう。

加えて、ウィリアムの攻撃手段は大きく制限されている。

雷加速弾はこの炎の結界のせいで外の状況が掴めない為、下手に撃てば外側にどんな被害がでるかわからないからだ。

その上、《炎の剣(フレイ・ウード)》から噴き出される炎はかなりの熱量を持っており、【騎士の楯(ナイツ・シールド)】や【騎士の誇り(ナイツ・プライド)・楯兵】ではその熱気までは遮断しきれなかった。

その上―――

 

 

「《楯壁解除(レリース)》―――」

 

「あっはははは!?燃えろぉおおおおおおおおお―――ッ!?」

 

「く―――《楯壁展開(ロード)》ッ!」

 

 

障壁を解除した瞬間にマリアンヌが剣から炎を放ち、凄まじい炎嵐を叩き込もうとしており、再展開を余儀なくされているのだ。

その為に攻撃のチャンスが少なくなり、完全に防戦一方となってしまっている状況だ。

ウィリアムは障壁の展開中に、自身とリィエル、エルザに【エア・スクリーン】を張り、障壁を解除すると同時にウィリアムとリィエルは左右に散開し、ウィリアムは幾何学的な羽を有した騎槍(ランス)を構えた上半身のみの甲冑騎士―――人工精霊(タルパ)騎士の誇り(ナイツ・プライド)・槍兵】を二体具現召喚する。

騎士の誇り(ナイツ・プライド)・槍兵】は凄まじい勢いでマリアンヌに突進するも、マリアンヌは華麗に捌き、斬り裂いていく。

そのマリアンヌの後ろからリィエルが斬りかかるも、マリアンヌは体捌きでかわし、ウィリアムの右手の拳銃と、左手の《詐欺師の盾》に取り付けられた小銃(ライフル)による、通常威力の非殺傷弾も剣で受け止められてしまう。

 

 

「ひゃっははははははは―――ッ!!」

 

 

マリアンヌは高笑いしながら、エルザに向かって炎を放つ。

 

 

「―――《楯壁展開(ロード)》ッ!」

 

 

ウィリアムはエルザの近くに設置している《盾》の魔力障壁を展開し、襲いかかってきた炎からエルザを守る。

ウィリアムとリィエルは直ぐ様、エルザの元まで下がり―――

 

 

「《楯壁展開(ロード)》―――《楯壁解除(レリース)》ッ!」

 

 

別の《盾》から三人を覆うように魔力障壁を展開し、エルザを守っていた魔力障壁を解除する。

マリアンヌはこの様に、トラウマで動けないエルザを執拗に狙ってきているのだ。

 

 

「~~~~~~―――ッ!?~~~~~~―――ッ!?」

 

 

マリアンヌは高笑いしているのか、それに呼応するように炎の結界も激しく勢いを増し、燃え上がり続けている。

 

 

「あのババア、この一帯を火の海にでもするつもりか……!?」

 

 

激しくのたうち回る炎の光景に、ウィリアムは焦りと共に毒づく。

《ディバイド・スチール》から展開される障壁は()()()()。当然ながら魔力の出所はウィリアムからだ。

ウィリアムがマナ欠乏症に陥れば、その時点で詰みとなってしまう。

 

 

「ウィル。こうなったらわたしが突貫して―――」

 

「アホか!どう見ても【トライ・レジスト】で耐えきれる熱量じゃねぇだろ!?」

 

 

リィエルの案をウィリアムは叫んで却下する。

ウィリアムの言う通り、《炎の剣(フレイ・ウード)》から放たれる炎の熱量は黒魔【トライ・レジスト】の軽減量を余裕で超えているのだ。

加えて、近接戦闘能力も剣に宿るの戦闘技術を憑依させたマリアンヌの独壇場であり、確実に先に火だるまとなってしまう。

手詰まり、じり貧の中、ウィリアムは必死に打開策を考える―――

 

 

 




····書く事が浮かばない!!
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六十七話(改)

····確実に出てくるだろうな(この話とは無関係な呟き)
てな訳でどうぞ


ウィリアムとリィエルが戦っている中……

 

 

(赤い……怖い……怖いよ……)

 

 

エルザは、頭から被せられた紺の外套の襟を握って、ぶるぶると震えていた。

紺の外套のお陰で目眩と吐き気は収まっているが、手足は震え、身体に力は入らず、動かない。

理性ではわかっているのだ。自分も二人と一緒に戦うべきだと。

だが、エルザの中の『炎の記憶』がそれを阻み、あざ笑い続けている。

その上、マリアンヌが動けないエルザを狙い、その結果、二人の足を引っ張っている事もわかっている。

 

 

「ふ、二人、とも……」

 

 

エルザは震える声で、ウィリアムとリィエルに話しかける。

 

 

「わ、私の事は放っておいて……いい、から……」

 

 

エルザは自分を見捨てるよう、二人に言うも―――

 

 

「却下だ」

「やだ」

 

 

ウィリアムとリィエルはきっぱりと、エルザの提案を拒絶した。

 

 

「ど、どうして……?」

 

「だって、友達だから。それに、守るって言ったから」

 

「……ッ!?」

 

 

リィエルのさも当たり前と言わんばかりの返答に、エルザは呆然となるしかなかった。

 

 

「俺は『見捨てる』選択は御免なんだよ。だから、それで得た勝利なんざくそ食らえだ」

 

 

ウィリアムはエルザに視線を向けてそう言い切り、障壁を解除して、リィエルと二人で再び、マリアンヌに攻撃を仕掛けていく。

だが、再び押され気味となりどうしてもあと一歩が足りない状態となる。

そんな必死に戦い続けるウィリアムとリィエルをエルザは再び見つめる。

エルザの中にある『炎の記憶』の焼き直しといえる光景。

その『炎の記憶』の中で二人は戦っている。

一度は命を狙い、騙したのに、友達だから守ると言ってくれた本当の友達が。

二年前のあの時、助けてくれた恩人が。

エルザを守る為に必死に戦っている。

 

 

―――エルザ……守るために剣を振るいなさい。人を活かす剣を振るいなさい―――

 

 

そんな二人の後ろ姿に、父の生前の言葉が甦り―――

復讐に身を焦がし、私利私欲のために剣を振るい、父の顔に……誇り高き剣に泥を塗り、その上、何もせずに、怯えて、震えて、泣いて、父の名と技を―――

 

 

「これ以上……ッ!穢して……たまるかぁあああああああああ―――ッ!!!」

 

 

エルザは泣きながら、吼えて、立ち上がった。

立ち上がった事で、頭から被っていた紺の外套はずり落ちてしまい、身体の震えだけでなく、目眩と吐き気も襲いかかってくる。

 

 

「「エルザ!?」」

 

 

気付いたウィリアムとリィエルが叫ぶが、エルザは恐怖に耐え、立ち続ける。

二人はすぐにエルザの元まで下がり、ウィリアムが再び碧の魔力障壁を展開する。

 

 

「……二人……とも……」

 

 

エルザは襲いかかる恐怖に必死に耐えながら二人に告げる。

 

 

「私も……一緒に……戦い……ます……」

 

 

その言葉にウィリアムとリィエルは目を丸くするも―――

 

 

「……出来んのか?」

 

 

過呼吸にあえぎ、顔を真っ青に青ざめ、滝のように脂汗を流しながらも、決意の瞳を宿しているエルザを見たウィリアムは、そう聞いてくる。

 

 

「はい……!……だけど、その為には刀がないと……」

 

 

エルザの刀は今、炎の結界の外に転がっている。

その事実に気づいたエルザは、立ち向かう決意をしたのに……と、悔しい思いに支配されていると……

 

 

「……刀があれば、何とかなるのか?」

 

 

ウィリアムがそう言うと同時に、地面に手を当てる。

そこから円方陣と、爆ぜる紫電が飛び散っていき、紫電が収まると、ウィリアムの手には鞘に納まった一本の刀が錬成されていた。

ウィリアムは錬成した刀をエルザへと突きだし、エルザは震える手でそれを受け取る。

 

 

「使えるか?」

 

 

ウィリアムの問いにエルザは―――

 

 

「はい……使えます……使いこなしてみせます……ッ!!」

 

 

震える手で刀を鞘から抜き、打刀と同じ形状の刀剣の感触を確かめ、震える声ではっきりと告げる。

 

 

「二人は……先程のように……戦ってください……『機』を見て……私が必ず、あの女に隙を作らせます……!」

 

「……わかった。頼むぞ、エルザ」

 

 

ウィリアムはそう告げ、再びマリアンヌに向き直る。

 

 

「ありがとうウィル。エルザを信じてくれて」

 

「あんな決意を宿した瞳を見たら、無下に出来なかっただけだ」

 

 

リィエルのお礼に、ウィリアムはそう返し障壁を解除し、再びマリアンヌへと突撃する。

ウィリアムは【騎士の誇り(ナイツ・プライド)・氷兵】と【騎士の誇り(ナイツ・プライド)・風兵】、【エア・スクリーン】に【トライ・レジスト】を駆使し、灼熱地獄に立ち向かっていく。

リィエルも【トライ・レジスト】を全開にして、ウィリアムと一緒に立ち向かっていく。

《詐欺師の盾》はエルザを信じて浮遊状態を解除し、空いた深層意識領域(エリア)リソースをこの地獄に留まる為に使っている。

エルザはその光景の中、父親の教えを思い出しつつ、技の構えを作っていく。

 

 

(……ありがとう、リィエル……ウィリーさん……信じてくれて……)

 

 

エルザは心の中で礼を言い、その動きを止める。

準備は整い、心も落ち着いている。

そして―――その『機』はきた。

 

 

「はぁあああああああああああああああああああああ―――ッ!!」

 

 

裂帛の気合いと共に、エルザは『春風一刀流』の奥義―――剃刀のように薄く鋭い刀剣を様々な体術・術理を尽くしてひねり出した常識を逸した『力』と『速度』。それらをまったく減衰させずに刀に乗せ、魔力で増幅(エンハンス)することで、遠間を斬り裂く風の刃を繰り出す絶技―――『神風』を繰り出す。

 

ひゅぱッ!

 

その刹那、空気が鳴り、ウィリアムとリィエルを呑み込まんとした炎の津波を左右に割り、マリアンヌの半身を斬り裂いた。

マリアンヌは咄嗟にかわした為、直撃には至らなかったが―――道は拓かれた。

 

 

「らぁああああああああああ―――ッ!!」

「いぃいいいやぁあああああああ―――ッ!!」

 

 

ウィリアムとリィエルは直ぐ様、咆哮と共に、マリアンヌに向かって突撃していく。

 

 

「がぁああああああああああ―――ッ!?」

 

 

マリアンヌは迎撃しようと剣を振り上げるも、リィエルが一瞬早く大剣を振り上げ、マリアンヌの剣を上空へと弾き飛ばす。

ウィリアムはそのまま、拳銃と《盾》を手放して、マリアンヌの胸ぐらを左手で掴み―――

 

 

「ッ!?」

 

「――さあ、歯ァ喰いしばれッ!!」

 

 

限界まで引き絞った右腕の―――義手の拳を、マリアンヌの顔面へと容赦のなく、全力で殴りつける。

殴り飛ばされたマリアンヌは、激しく地面とバウンドしながら、その意識を手放していき―――沈黙した。

 

―――キィインッ!

 

弾き飛ばされた《炎の剣(フレイ・ウード)》が地面に突き刺さると同時に、ウィリアム達を閉じ込めていた炎の結界もその火勢を弱めていき、外の景色が露となる。

建物のあちこちが焼け焦げおり、全焼した建物もあるが、多くの建物はその存在を保っていた。

 

 

「……止まった……?」

 

 

エルザは信じられない思いで、未だ燃え(くすぶ)っている炎の中にいるにも関わらず、一切震えていない自分の手を見つめる。

 

 

「……ん。炎、ようやく止まった」

 

「いえ……そうではなく……」

 

 

戸惑うエルザに、ウィリアムもゆっくりと歩いて近づいていく。

 

 

「助かったぜエルザ。お陰で何とかなった」

 

 

ウィリアムはエルザに礼を言うが……

 

 

「……え?……ウィリー、さん……ですよね……?」

 

 

エルザは何故か、ウィリアムを見て戸惑っていた。

 

 

「ん?そうだ―――」

 

 

自身の低い声で、ウィリアムは今の自分の状態にようやく気がついた。

 

 

「―――あっ」

 

 

ウィリアムはあの戦闘中、セリカが施した変身魔術が解けており、元の男の姿に戻ってしまっていたのだが、窮地だった為、自身も含めて気付いていなかったのだ。

 

 

「無事か、お前らッ!?…………」

 

「三人とも無事!?…………あ」

 

「…………えーと」

 

「エルザッ!リィエルッ!お姉さ、ま……?」

 

「無事なの……か……?」

 

「「「「……………………え?」」」」

 

 

更に運の悪い事に月組の生徒とグレン達が駆け寄って来ており、月組の生徒達はウィリアムの姿に目を丸くしてしまっている。

どうやって誤魔化そうかと、ウィリアムは疲れきった状態で言い訳を考える羽目となった―――

 

 

 




さあ、主人公の明日はどうなる?
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六十八話(改)

さあ皆の者、壁の用意はいいか?
てな訳でどうぞ


結論から言うと、ウィリアムが普通に男だということが、バレてしまった。

理由はリィエルが『ウィルは悪くない。わたしが無理を言って一緒に着いてきてもらった』と、ウィリアムが誤魔化す前に両手を広げて庇ったからである。

その時点でウィリアムはブタ箱行きを覚悟したのだが、システィーナやルミア、グレンも嫌がるウィリアムを強引に女に変えて同行させたという有無の事情説明。実害ゼロ、何より月組の女子学生達が、グレン程ではないがウィリアムにも心酔していたお陰で不問となり、周りへの口裏合わせにも協力してくれる事となった。

その代わり、『お姉様』から月組の面子のみの限定で『お兄様』呼びになってしまったが……

そんな感じで正体がバレたウィリアムに、月組の女子学生達から『ひょっとして、レーン先生も……』と出てきたので、グレンもこれ幸いにと本当の事を言おうとしたが―――

 

 

『先生はれっきとした女性ですよ?』

 

『うん。レーン先生は女性だよ』

 

 

と、何故かシスティーナとルミアがグレンを女性と言い切った為、グレンだけは『レーン』のままとなっている。

そして現在―――

 

 

「―――これで、全部だと思う」

 

「…………」

 

 

エルザはリィエルから、イルシアの話を聞いていた。

全てを聞き終えたエルザは複雑な表情となっている。

 

 

「……無理にイルシアの事を、許さなくていいぞ?」

 

 

同席していたウィリアムがエルザの内心を察し、そんな言葉をかける。

 

 

「……え?」

 

「イルシアだって自分のしている事の自覚はあったんだ。だから『自分の命に意味はなかった』って言ったんだ。俺だって二人を殺したアイツの事を許してねぇし、自分に出来てない事を人にやれ、なんて言えないさ」

 

「……その人は今……」

 

「バカやってたから、ぶん殴ってブタ箱に放り込んだ」

 

 

あっさりと言うウィリアムに、エルザはもはや苦笑いだ。

確かに両親を殺したイルシアの事は許せない。だけど、彼女は人でなしの悪鬼じゃなかった。

あの時、イルシアが泣いていた理由も今なら分かる。

彼女のことが知れて良かったと、エルザは心から思った。

そして……

 

 

「あの時、助けてくれて……ありがとうございました」

 

 

エルザはあの時―――二年前に助けてくれたお礼をウィリアムへと伝えた。その言葉を―――

 

 

「……ッ(ポリポリッ)」

 

 

ウィリアムは少し照れくさそうに頬を掻きながら、素直にお礼を受け取っていた。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

―――諸々の後始末等も終わり、遂にアルザーノ帝国魔術学院へと帰還する日となった。

月組の生徒達は全員総出で見送りに来ている。

互いに別れの挨拶をし、グレンを中心に例の争奪戦の空気が流れる中―――

 

 

「本当に色々あったなぁ……」

 

「ん……色々あってよくわかんないけど……退学にならなくて良かった」

 

「そうだな……」

 

 

最後は面倒なので、目の前で起きている争奪戦を我関せずと見守っているウィリアムと、隣で一緒に見守っているリィエルはそう呟く。

ウィリアムが左手でリィエルの頭を撫でていると、不意に左腕が誰かに引き寄せられ、抱きしめられる。

 

 

「えっと……エルザさん?なんで俺の腕に抱きついてるのでしょうか?」

 

「別に、何でもないですよ?ウィルさん」

 

 

思わず敬語で問うウィリアムに、エルザはにこやかな笑みでそう返してくる。しかもウィルという呼び名で。

 

 

「…………」

 

 

リィエルはそれを見つめて何を思ったのか、ウィリアムの右腕へと抱きついた。

 

 

「リィエル……?」

 

「なんかよくわかんないけど、こうしないといけない気がした」

 

 

そんな両手に花となった状況を、グレン達が無言のニヤニヤ顔で見守っている。

 

 

「それと……これは今回のお礼です」

 

 

エルザはそう言って、ウィリアムの頬に―――口づけをした。

予想外のお礼にウィリアムは目を見開いて頬を真っ赤にし、周りはキャーキャーとはしゃぎ、エルザ本人もやってしまった……という感じで顔を赤くしている。

そんな状況にリィエルは―――

 

 

「……頬と唇、どっちがよかったの?」

 

 

いつもの眠たげな表情で、とんでもない爆弾をこの場に投下した。

 

 

「…………ウィルさん、どういう事です?」

 

「いや……その……」

 

「わたしが、ウィルと口移しをした」

 

 

リィエル、いつもの表情で再び爆弾投下。いつもの眠たげな表情が逆に勝者の顔に見えてしまう。

 

 

「……ふふ。やっぱり、リィエルは凄いなぁ」

 

 

エルザはそう言ってにこやかな笑みを浮かべたままだが、超低温の空気が発せられて流れてきており、凄く怖い。

周りの生徒達も、「修羅場ですわ!!」、「恋の三角関係だわ!」、「大胆!!」、等と叫んで騒いでおり、リィエルの投下した爆弾発言によってカオスとなっている。

グレンは矛先がウィリアムへと変わった事で余裕ができ、腹立たしい程のにへら顔で修羅場となった空間を眺めている。

そんなこんなで、時間があっという間に過ぎ、別れの時となる。

互いに別れの挨拶を告げ、グレン達は列車へと乗り込んでいき……

 

 

「二人ともッ!」

 

 

最後に列車に乗り込もうとしたウィリアムとリィエルを、エルザが呼び止める。

 

 

「また、会えるよね!?」

 

 

エルザのその問いに―――

 

 

「……ああ」

 

「ん。また……いつか、会おう。……エルザ」

 

 

二人は笑顔と共にそう返し―――

 

 

「……うん!」

 

 

エルザは涙を浮かべながら、向日葵(ひまわり)のように笑ってその言葉を受け止めた。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

帰りの列車内にて。

グレン達は行きとは少し違って、個室席を二つ占拠し、二組に別れていた。

 

 

「ん……」

 

 

リィエルはウィリアムと二人きりであり、今はウィリアムの膝を枕として、幸せそうに眠りこけている。

ウィリアムはそんなリィエルを、手元の翡翠の石板(エメラルド・タブレット)を器用に指の上で回しながら、笑みを浮かべて見つめていた。

 

 

 




原作八巻はこれにて終了
都合良すぎかなぁ······?
おいしい展開(愉悦の意味で)ならいいですよね!?
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第八章・最悪の序章と破滅の火
六十九話(改)


ここから原作九巻
お気に入りも四百超えたなぁ······
てな訳でどうぞ


「本日の『黒魔術』の授業は『ドッジボール』とする!」

 

 

中庭に集められた生徒達に、ボールを抱えたグレンがそう宣言する。

前期末試がすぐそばに控えているため、生徒の殆どが乗り気ではなかったのだが、ルミアのフォローによりそれなりに納得してドッジボールへと興じる。

一度始めると、勉強漬けの鬱憤を晴らすように皆はドッジボールへと熱中していく。

 

 

「おらぁッ!!」

 

 

リィエルの勉強を見ていて気疲れ気味だったウィリアムも、ノリノリで参加している。

 

 

「あ、リィエルにボールが……」

 

「えい」

 

 

リィエルがボールを投げ、投げたボールはウィリアムへと迫るも―――

 

 

「甘ェッ!!」

 

 

ウィリアムはその殺人アタックをかわすも―――

 

 

「どぎゃあああああああああああああああ―――ッ!?」

 

「……あ」

 

 

ちょうど後ろにいたグレンに殺人アタックは直撃し、派手に吹き飛ばされていった……

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

―――その日の夜。

 

 

「―――ごちそうさんっと」

 

 

ウィリアムは自宅で適当に料理を作り、食べ終わっていた。

この家に住み始めてから、そろそろ二年くらいになる我が家。

ウィリアムは近頃、一人による寂しさを感じていた。

 

 

「……一人だと寂しいもんだな……」

 

 

使った食器を片付けながら、独り言を呟く。

そんな独り言にウィリアム自身、思わず苦笑してしまう。

 

 

(随分と贅沢になってきているなぁ)

 

 

あの時の自分からは想像もしていなかった今の自分。そんな今の自分は、この世界で満たされている。

 

 

(出来れば、この平穏な世界が続いてくれたらいいな……)

 

 

そんな穏やかな気持ちのまま、食器を洗い終え、お茶を淹れて飲もうと―――

 

ガッシャアアアアアアアンッ!!

 

した矢先、それを破るかのように窓ガラスの割れる音が鳴り響いた。

 

 

「―――ッ!?」

 

 

その突然の音にウィリアムは驚きつつも、意識を戦闘のものに切り替え、右手に拳銃を錬成しながら、周囲を警戒する。

 

 

「キシャアアアアアアアアア―――ッ!!」

 

 

扉から、黒い外套と顔を白い仮面で隠した年齢も性別も不明な人物が、獣のような奇声をあげながら両手の鉤爪を構えて、ウィリアムへと肉薄する。

ウィリアムはその外見から、すぐに敵の正体を割り出し、すぐさま拳銃をその襲撃者に向けて発砲する。

襲撃者は弾丸を流れるような動作でかわすも、突如、身体が上半身と下半身に両断されて地面へと転がっていく。

それを区切りに同様の格好をした人物が次々と現れ、その手にある双剣や鎌、短剣等多種多様な武器を構えていく。

 

 

「『掃除屋(スイーパー)』の団体かよ……」

 

 

ウィリアムは苦い顔をしながら、そう呟く。

この襲撃者達は天の智慧研究会の暗殺部隊―――イルシアが無理矢理所属させられていた部隊の連中だ。

その多くは本来の【隠す爪(ハイドゥン・クロウ)】の習得時点で廃人となっており、組織の命令に従うだけの人形になっている。

そんな苦い顔のウィリアムに―――

 

 

「「「シャアアアアアアア―――ッ!!」」」

 

 

彼らは獲物を構え、容赦なくウィリアムにへと迫る。

しかし、誰もがその途中で見えない何かに斬り裂かれるかのように斬り傷を負い、さらに放たれる銃弾により劣勢となる。

ウィリアムは自身を中心に、人工精霊(タルパ)見えざる神の剣(スコトーマ・セイバー)】―――質量ゼロの不可視の刃―――をこの部屋一帯に具現召喚し、あちこちに配置していたのだ。

彼らは次々と不可視の刃と銃弾の餌食となり、全員、血の海に沈んだ。

 

 

「なんで急にこいつらが……?」

 

 

ウィリアムは苦い顔のまま【見えざる神の剣(スコトーマ・セイバー)】を消し去り、掃除屋(スイーパー)の一人に近づく。

掃除屋(スイーパー)の捲れた袖の中の腕にはルーン文字が書かれた札が幾つも張られて―――

 

 

「―――やべぇッ!?」

 

 

ウィリアムがその札の正体に気付いた、その瞬間―――

 

 

 

―――ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!!!!

 

 

 

掃除屋(スイーパー)達に大量に張られていた、爆晶石を加工して作られた特殊な呪符が一斉に起動し、凄まじい爆発を起こした。

その日、ウィリアムの家は跡形もなく吹き飛ばされた。

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

「あの程度でよかったのか?」

 

 

フェジテの西地区。住宅街から少し離れた場所から上がる煙を眺めながら、フードの男が聖騎士装束を纏った壮年に問いかける。

 

 

「別に生き延びていようと問題はない。最低でも奴はすぐには動けないだろうからな……では、この計画の最大の障害の排除に行くとしよう」

 

 

壮年はそういって、計画の最大障害たるセリカ=アルフォネアがいるアルフォネア邸へと向かって行った。

 

 

その後、アルフォネア邸は光の塔によってこの日、消滅した。

 

 

 




······派手に吹き飛ばしてもいいだろう?
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七十話(改)

あーいかわらずのー、だーぶんだなぁー♪
てな訳でどうぞ


暗闇に包まれた下水道の通路。

その通路を指先に灯した魔術の光を頼りに、紺の外套を羽織った一人の少年が歩いていた。

 

 

「くそ……人ん家を爆破して駄目にしやがって……」

 

 

そう毒づく紺髪の少年は―――ウィリアムだ。

ウィリアムはあの爆発の瞬間、【詐欺師の工房】で足元の床に穴を開けて落ち、難を逃れていた。本来ならすぐに難を逃れる事が出来たのだが、部屋にあった()()()()()を守ることにも割いてしまった為、脱出が僅かに遅れて怪我を負ってしまった。

その後、地下の作業部屋まで落ち、爆発の衝撃で負った怪我を魔術で一通り治した後、作業部屋に置いていた魔術弾や以前作成して、使わずに残っていた巻物(スクロール)護符(アミュレット)疑似霊素粒子粉末(パラ・エテリオンパウダー)が入った試験管のような金属の筒、マナ・クリスタリウムに魔薬(ドラッグ)、魔導器は圧縮凍結を施し、持ち出せる物は可能な限り携帯し、一通りの準備を終えてから地下部屋から下水道へと降り、今は下水道からフィーベル邸へと向かっている。

鼠の使い魔を使って外の情報も集めてはいるが、気付かれないように収集させている為、まだ少し時間がかかる。

 

 

「システィーナ達は無事なのか……?」

 

 

ウィリアムは不安に駆られながらも、マンホールの蓋を開け、周囲を油断なく確認してから地上へと出る。

あの襲撃から時間も経っており、既に明け方となっている。

ウィリアムは隠れながらフィーベル邸へと向かい……

 

 

「な……!?」

 

 

フィーベル邸に施されている筈の防御結界が無くなっている事に、ウィリアムは焦燥を露に急いでフィーベル邸へと駆け込んだ。

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

「リィエル……」

 

 

フィーベル邸へと駆け込んだウィリアムが見つけたのは、重傷を負い、ベッドの上で眠っているリィエルだけだった。

システィーナとルミアは何処にもおらず、さらに使い魔からの情報で、アルフォネア邸も更地となっており、セリカとグレンも消息不明だ。

 

 

「くそ……」

 

 

ウィリアムが焦燥を露に苛立っていると……

 

 

「……ん……」

 

 

意識を取り戻したのか、リィエルがうっすらと目を開けた。

 

 

「……ウィル?何でウィルがここに……?」

 

「……後で説明すっから、何が起きたのか話してくんねぇか?」

 

 

ウィリアムは安堵の息を洩らしつつも、状況を知る為にリィエルに説明を促す。

リィエルは不器用ながらも、何が起きたのか説明した。

あの時の結婚騒動の首謀者であるジャティスが防御結界を破ってフィーベル邸へと侵入し、リィエルが迎撃に赴いたのだが、ものの見事に返り討ちに合い、意識を失ったそうだ。

リィエルは斬られてない筈なのに斬られた事に疑問を浮かべていたが……

 

 

「【見えざる神の剣(スコトーマ・セイバー)】だな……」

 

 

話を聞いたウィリアムは、リィエルがやられた手品にある程度の目星をつけていた。

グレンの話では、ジャティスは予知に近い行動予測が可能だそうだ。

ジャティスはリィエルの行動を予測し、予め【見えざる神の剣(スコトーマ・セイバー)】を配置し、リィエルは自らその群れに突っ込んだとみていいだろう。

肉眼では捉えられない不可視の刃に予知に近い行動予測。まさに凶悪な組み合わせだ。

 

 

(今はその事は後回しだ。重要なのは……)

 

 

状況からして、天の智慧研究会とジャティスは同時に動いている。

ジャティスが動いている以上、あの《美の商人(ブローカー)》―――ブレイクもジャティスと一緒に動いている筈だ。

ウィリアムはリィエルに自分の状況も説明し―――

 

 

「……とにかくリィエルは休んでろ。システィーナ達は俺が探すし、この騒動の連中もこの手でぶちのめす」

 

 

最後にそう言い、どす黒い感情を宿したまま、探しに行こうと椅子から立ち上がろうするが、リィエルが何故かウィリアムの手を掴んで引き留めた。

 

 

「……リィエル?」

 

「わたしも……一緒に行く……」

 

「馬鹿いうな。お前はまだ傷が癒えてないだろ」

 

 

ウィリアムはそう言い、突っぱねるもリィエルはウィリアムの手を放さず掴み続ける。

 

 

「リィエル、早く手を放せ。時間が惜しいんだよ」

 

「やだ……」

 

「我儘をいうな。幾ら―――」

 

「だって、今のウィルを見てると、凄く不安だから……」

 

「……は?不安?」

 

 

リィエルから出された言葉にウィリアムは訝しむも、次の言葉で驚愕に変わる。

 

 

「ん……ウィルからあの時の、凄く嫌な予感を感じるから……」

 

「―――ッ!!」

 

 

あの時―――結婚騒動の時に感じた予感がウィリアムから発せられていると言われてしまい、ウィリアムは言葉を失ってしまう。

 

 

「……ウィルがいなくなりそうで……怖いから……」

 

 

そんなリィエルの不安の言葉と瞳に……

 

 

「……(わり)ぃ。不安にさせちまったな」

 

 

ウィリアムは素直に謝り、椅子へと座り直した。

この急激な事態と皆の安否、リィエルが重傷を負っていた事実に、かなり追いつめられていたようだ。

頭が冷えたウィリアムは、強引に皆を探しに行けば、無理して同行するであろうリィエルの事を考え、この場に留まる事を決める。

どす黒い感情も霧散し、穏やかな笑みをリィエルへと向ける。

 

 

「とりあえず、お前の怪我がある程度癒えてから一緒に皆を探しに行こうか。今のお前に無理させて怪我を悪化させたら、元も子もねぇしな」

 

「ん……わかった……」

 

 

ウィリアムのその提案に、リィエルは素直に頷く。

ウィリアムは暫し、使い魔の情報収集に専念する事にした。

暫く情報を集めていると―――

 

 

「何……ッ!?」

 

 

グレンがフェジテ市庁舎を爆破し、さらに身代金を払わなければルミアの素性を明かすという投書が警邏庁と各マスコミに届いていたらしい。

その為、グレンが指名手配され、警邏庁に追われる立場となっているそうだ。

ウィリアムがその情報に驚愕した、その直後―――

 

キン、キン、キン―――

 

通信魔術の着信音が部屋内に響き渡った。

 

 

 




ありだよね?ありだよね!?
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七十一話(改)

······大丈夫かな?
てな訳でどうぞ


「どこから……!?」

 

 

謎の着信音に戸惑いながらもウィリアムは耳を澄ませ、音の出所らしき机の引き出しを開けると、引き出しの中に点滅して着信音を立てている、半割れの宝石があった。

ウィリアムは警戒しながらその宝石―――通信魔導器を操作すると―――

 

 

『フハハハハッ!!ご機嫌はいかがですかな?』

 

 

通信魔導器からテンションの高い妙に気取った声が聞こえてくる。

この声は間違いない―――あの男の声だ。

 

 

「ブレイク……ッ!」

 

『いやはや、久しぶりですなぁウィリアム殿?』

 

「……こっちは声すら聴きたくなかったがな」

 

『おや?これは手厳しい挨拶ですな』

 

 

ウィリアムの呪詛のような声色にも、ブレイクは平然と受け流している。

 

 

『では、貴方が知りたい話を始めましょうか。ルミア嬢はジャティス殿と共におり、グレン殿とシスティーナ嬢は無事で一緒、セリカ殿は消息不明ですぞ』

 

 

ブレイクの情報提供により、グレンとシスティーナの無事が分かるも、厳しい声のままウィリアムはブレイクに問い質す。

 

 

「市庁舎の爆破もテメェらの仕業だな?」

 

『正確には彼の手、ですがな』

 

「お前らの今回の目的はなんだ!?ルミアを連れ去って何をするつもりだ!?」

 

 

おそらくコイツらと連中は手を組んではいない。

今考えられるのは、連中の目的に乗じて何かをやろうとしている事くらいだが―――

 

 

『目的ですか?彼の言葉を借りるなら、このフェジテを救う為ですぞ』

 

「……は?フェジテを救う?」

 

 

ブレイクの発した予想外の言葉に、ウィリアムは呆けた声で聞き返す。

 

 

『ええ!!詳しく知りたければ早く行動すべきですぞ!!』

 

「テメェが教えやが―――」

 

『では我輩はこれにて失礼しますぞ!!』

 

 

ブレイクはウィリアムの問いかけに応じず、一方的に通信を切った。

 

 

「マジでなにが目的だ……」

 

 

謎が多いが、こうなった以上じっとしているわけにはいかなくなった為、ウィリアムはベッドの上で寝ているリィエルへと向き直る。

 

 

「わりぃ、リィエル。先に一人で先公達と合流する為に動くわ」

 

「だったら、わたしも……」

 

「さっきも言ったが、お前は怪我がある程度治るまではじっとしといてくれ。ルミア達を心配させたくないだろ?」

 

「だけど……」

 

「大丈夫だ」

 

 

不安がるリィエルを、ウィリアムは安心させるように、微笑みながらその頭を撫でる。

そんなウィリアムを見たリィエルは……

 

 

「……ん、わかった。……動けるようになったら直ぐに追いかける……」

 

 

安心したようにそう言い、目を瞑って再び深い眠りについた。

ウィリアムは微笑ましげにリィエルを見つめ続けた後、フィーベル邸を後にした。

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

フィーベル邸を後にしたウィリアムは、グレン達と合流しようと動いたのだが……

 

 

「あんの野郎……!」

 

 

中央区が騒がしくなっていた為遠見の魔術で確認したところ、グレンが警備官と追いかけっこしている姿を発見した為、苦い顔となる。

グレンのあの行動はジャティスの指示と見ていいだろう。本当に何がしたいのかとツッコミを入れたい気分だ。

しかも警備官達は細剣(レイピア)や拳銃を使ってグレンを殺そうとしているのだ。

警邏庁はこの一連の事件をグレンの仕業と考えている以上、その動機を尋問する為、まずは逮捕、制圧に動く筈なのにだ。

少なくとも、いきなり殺害前提の行動には移さない筈だ。だから、今の状況に疑問がわき上がる。

考えながらも、ウィリアムは警備官の目を盗んで進んでいく。だが、警備官達がグレンを次第に包囲していっている為、グレンに近づく事が出来ない。

まるで警備官全員が、グレンの居場所を把握しているかのように正確に動いている。

 

 

(……そういう事かよ)

 

 

警備官の不自然な動きのタネ―――暗示魔術による無意識の共有―――に気づいたウィリアムはうんざりする。

そんな気分の中、遠見の魔術で捉えていたグレンが、街路灯の根元の石畳を魔術で吹き飛ばし始める。

その行動に驚くも直ぐにグレンの意図に気付き、合流する為の行動を再開していった。

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

―――フェジテ西地区の人気のない住宅地にて。

 

 

「―――第二の『マナ活性供給式(ブーストサプライヤー)』はどこだい?」

 

 

ジャティスはユアン=べリス警邏正―――天の智慧研究会、第二団(アデプタス・)地位(オーダー)》の外道魔術師―――を人工精霊(タルパ)彼女の御使い(ハーズ・エンジェル)・磔刑】で拘束し、質問という名の拷問をしていた。

ユアンは左目を細剣(レイピア)で刺されながらも、嘘の設置場所を教え―――

 

 

「本当にそこにあるのかい?」

 

「ああ、本当だ!!だから―――」

 

「―――だそうだけど、どうかな?」

 

 

ジャティスはユアンを無視し、右肩に乗っている土気色の小鳥―――鳥型のゴーレムに語りかける。

 

 

『嘘ですな。第二の『マナ活性供給式(ブーストサプライヤー)』はリントン記念公園。そこの東側の藪の中。隠蔽の魔術を使って隠してますぞ』

 

 

鳥型のゴーレム―――ブレイクからもたらされた情報にユアンは一気に表情を青ざめる。

なぜならそこに、ユアンが担当している『マナ活性供給式(ブーストサプライヤー)』があるからだ。

ジャティスは冷めきった瞳のまま、ユアンの脳幹を細剣(レイピア)で串刺しにし、その命を刈り取った。

 

 

「どうして、殺したんですか……?」

 

 

ジャティスの後方で佇んでいたルミアが、臆せずに問い詰めるも―――

 

 

「あんな邪悪は死んで当然……そんな奴を絶対正義たる僕が、生かしておくわけないだろう?」

 

 

ジャティスはさも当たり前と云わんばかりに答える。

非難しても全く会話にならないどころか……

 

 

『自分に嘘をついている醜い貴女の言葉には、何の力もありませんぞ?』

 

「……ッ!?」

 

 

逆にブレイクの言葉に容赦なく心を抉られる結果となった。

ルミアは諦念に目を閉じるしかなかった……

 

 

――――――――――――――

 

 

 

――――フェジテの某所にて。

 

 

「イヴ=イグナイトが、介入したようだ」

 

 

聖騎士装束を纏った壮年―――ラザール=アスティールがそう呟く。

事前に手を打ちながらも自分たちの思惑を超えたイヴを賞賛しつつも、自分たちの計画には然程、問題は無いとラザールは口にする。

 

 

「それよりも、()()()()()()()()、イレギュラーたるグレン=レーダスと生き延びていたウィリアム=アイゼン、そして背後で糸を引く何者かを、表向きこのままというわけにはいくまい……」

 

 

ラザールはダークコート、チンピラ、フードの男を見やる。

 

 

「無論だ」

 

「その為に、我らを()()()であろう?」

 

 

ダークコートとフードの男は頷いて踵を返し、ダークコートの男はチンピラの男に背後で糸を引く者を叩くよう指示するが、チンピラは苛立ったように食らいついてくる。

 

 

「……あ?てめぇが俺に指図すんじゃねぇぞ……あいつら程度、俺一人で……」

 

「その程度の相手に、完封なきまでに負けたのは誰だ?」

 

「ああ。その慢心ゆえに、私達は殺られたのだ」

 

「はぁ!?てめぇが言うなッ!!」

 

 

チンピラの男はキレてダークコートの男の胸ぐらを掴み上げるも、ダークコートの男から放たれた絶対的な氷の威圧感にたちまち萎縮してしまう。

そのダークコートの男の威圧感を前にしても平然としていたフードの男が二人の間に割って入る。

 

 

「これ以上、下らぬ事に時間を割くわけにはいかぬ。早々に行くべきだと我は思うが?」

 

「……そうだな。今度こそぬかるなよ」

 

「……ちっ!」

 

 

そうして―――最凶の三人がついに動きだした。

 

 

 




原作の伏線張りは本当に見事ですよね
感想お待ちしてます


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七十二話(改)

·····低脳である!!!
てな訳でどうぞ


旧下水道の通路を魔術の灯りを頼りに進むグレン。

グレンはあの辺りに旧下水道があると睨み、見事に探し当てていた。

その旧下水道の入り口のマンホールを、黒魔【イリュージョン・イメージ】で隠蔽し、そこに逃げ込む事で警備官達を撒いたのである。

地上―――南地区の倉庫街へと出たグレンは休憩がてら、通信でシスティーナに説明していると―――

 

ガコッ

 

マンホールの蓋が再び動いた。

グレンは慌てて警戒するも―――

 

 

「ようやく合流できた……」

 

 

そう呟きながら出てきたのは、グレンの行動の意図を理解して、旧下水道を通って合流に動いたウィリアムだった。

 

 

「ウィリアムッ!?お前、無事だったのか!?」

 

 

グレンは驚きを露にウィリアムをみやる。

ウィリアムの事はシスティーナから、家が爆破で吹き飛んでおり消息不明の状態だと聞かされていたのだ。

 

 

「なんとかな。危うく自爆テロで吹き飛ぶとこだったけどよ」

 

 

軽口を叩く本人の無事の姿にグレンは安堵の息を洩らす。

セリカもファムが届けた本人からの手紙で、暫く動けないながらも無事である事をグレンは既に把握している。

全員生きている事にグレンは安堵していると―――

 

 

『いやぁ、見事だよグレン!よく切り抜けたね』

 

 

その安堵の心をジャティスの耳障りな声が水を差す。

ジャティスは第二の課題はクリアだと伝え―――

 

 

『そろそろ《詐欺師》もグレンと合流する事も“読んでいた”し、ここからは二人で課題に取り組んでくれ……次の課題の時間が迫ってるからね』

 

 

何かしらの不穏を感じながらも、状況的に従うしかないのだろう。

ウィリアムはグレンと一緒にジャティスが指示した倉庫へと辿り着き、中へと入る。

倉庫内には古びた木箱が山と積まれているが、倉庫の中央には明らかに雰囲気の違う鞄が一つ置かれている。

 

 

『あの鞄を開けてくれ……あれは善意でグレン、君に用意したものなんだ……僕を信じてくれ(トラスト・ミー)

 

 

一応、魔術的対抗策を取ってから鞄を開くと、中には飛針、鋼糸一式、巻物(スクロール)護符(アミュレット)、魔術火薬、魔導士礼服等、武器や防具の数々が、ぎっしりと詰まっていた。

 

 

「これは……どういう……つもりだ……?」

 

『ごめんよ、グレン。君がこれを突きつけられて、怒るのはわかってはいたんだが―――』

 

 

その途端、辺りの空気が鉛のように重く、氷のように冷たくなっていく―――

 

 

『―――わかるだろう?今は、そんな場合じゃない事は』

 

「くっ!?」

 

 

迫り来る圧倒的な存在感に、グレンは大急ぎで鞄の中の装備を身につけ始め、ウィリアムは倉庫の入り口を警戒する。

 

 

『グレン。今の君にそれを押し付けるのは本当は不本意なんだ……だが、()()はそんな生温いことが言える相手じゃない·······君達が彼らを打倒しえたのは、様々な要素が奇跡的にかさなっただけの……ただのまぐれなのだから』

 

 

グレンの準備が終わると同時に、倉庫の扉が開け放たれる。

開け放たれた扉の前には、二人の男が佇んでいた。

その人としての領分を超えた圧倒的な存在感を放つ、ダークコートの男とフードの男は―――

 

 

「なん、だと……!?」

 

「レイク=フォーエンハイムに、フォウル=クラーク……天の智慧研究会、第二団(アデプタス・)地位(オーダー)》――《竜帝》レイクに、第一団(ポータルス・)(オーダー)》――《憑霊》フォウルだと……ッ!?」

 

「「……」」

 

 

グレンとウィリアムの切羽詰まった言葉に、レイクとフォウルは何も反応せず、二人を見据えている。

 

 

「なんでお前達が生きている……ッ!?お前達はあの時、確かに死んだ筈だ……ッ!」

 

「ああ、この目で確認したんだッ!間違えるはずが……ッ!!」

 

 

そんなグレンとウィリアムの言葉を―――

 

 

「我らの前でそんな些事を気にしている場合か?」

 

「貴様達が直視すべき現実は、私達は黄泉から舞い戻り、今はお前達を殺すために、ここにいるということだ」

 

 

レイクとフォウルはぐぅの音も出ない正論で返し、諭される結果となった。

死人が蘇る可能性は、グレンとウィリアムの中では一つしか浮かばない。

だがあれは、シオンの固有魔術(オリジナル)かルミアの『異能』が不可欠の筈―――

そこでウィリアムはバークスの研究を思い出す。

 

 

(……まさか!?いや、それよりも今は、目の前のこいつらだ……ッ!)

 

 

ウィリアムは思考を切り替え、あの事件の後、レイクとフォウルに関する情報を思い出す。

レイクの家は、伝統的にドラゴンの研究を行う魔術師の大家だったようだ。

その過程で、フォーエンハイム家はその血筋に古き竜の血を入れ、禁断の力を手にした。

それが、竜の力を得る代わりに、次第に身も心も暴虐の竜へと成り果てる呪い―――『竜化の呪い(ドラゴナイズド)』である。

そして、フォウルは―――

 

 

「ご丁寧に、ちゃっかり概念存在を『憑依』させてきやがったな……」

 

「……察しがいいな」

 

 

ウィリアムの指摘をフォウルはあっさりと肯定する。

概念存在の召喚には相応の手順と手間、そして維持にはかなりの代償が必要となる。

召喚魔術の中には憑依召喚(ポゼッション)と呼ばれる、己の身に概念存在を降ろす手法がある。しかし、その手法でも真名持ち(ネームド)の存在を憑依顕現させるのは事実上不可能である。

だが、クラーク家には、専用の触媒を使う事で術者自身の肉体と精神の負荷、一歩でも間違えれば概念存在に肉体と精神を乗っ取られるリスクと引き換えに、概念存在の力のみを行使できる秘伝魔術を有していたそうだ。

フォウルはその秘伝魔術―――【(とばり)の道標】と呼ばれる魔術の使い手だったのである。

しかもレイクも、『竜化の呪い(ドラゴナイズド)』の進行を防ぐ三つある封印式―――【竜鎖封印式】の一つを解き、竜の力を顕現させている。

 

 

「さすがに過剰戦力じゃねぇか?」

 

「どっちも精神的に響くのに、そんなもん迂闊に使っていいのかよ?」

 

「構わん」

 

「貴様達はそれに値する人間だ。何の問題もない」

 

 

レイクとフォウルは即答だった。

自分たちはあの時、侮った結果負けたのだからこの選択は当然だと、対峙するグレンとウィリアムにはっきりと告げる。

 

 

「というか、アンタを殺したのは隣にいる奴の筈だが?」

 

「勝手な行動をし、作戦に支障をきたしたのだ。あまつさえ敗北したのだから、我の処遇は当然の結果だ」

 

「「割り切りすぎだろ……」」

 

 

仲違いを狙うも、フォウルの達観した返しにグレンとウィリアムは呆れるしかない。

 

 

「構えろ。貴様達との戦いで、私が目指す世界を見せてくれ」

 

「前回のようにいくとは思わない事だ」

 

「チィ―――ッ!」

 

「―――ッ!」

 

 

グレンは早撃ち(クイック・ドロウ)からのファニング、ウィリアムは【騎士の誇り(ナイツ・プライド)・銃兵】を数体具現召喚し―――

 

 

「《――■■■》」

 

「―――」

 

 

レイクは獣の声に似た人外の言語を呟き、フォウルは右手から黒い稲妻を放出し―――

その倉庫が―――爆光と黒雷と共に、空へと吹き飛んだ。

 

 

 




ザコと思わせての実は強キャラ·····ありの筈!!
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七十三話(改)

ツッコミは止まらない!増加する!
てな訳でどうぞ


「ぉおおおおお―――ッ!」

 

 

グレンは雄叫びを上げながら【フィジカル・ブースト】全開で地面を駆け、ウィリアムは青白い大鷲―――移動用の人工精霊(タルパ)の鳥の背中に乗って空を駆ける。

騎士の誇り(ナイツ・プライド)】シリーズは攻撃と防御能力は高いが、例外はあれどその分機動力が低く、こういった移動には向いていないのだ。

グレンは肉体の限界を超えた速度で、レイクの左方へと回り込み、魔術火薬―――灰色火薬(アッシュパウダー)の高速ファニングによる全弾掃射(フルブレット)をレイクに叩き込むも―――

 

 

「――遅い」

 

 

レイクはその銃弾を、一瞬の動作で右手でつかみとる。

レイクの肌は『竜化の呪い(ドラゴナイズド)』により、竜の麟のように堅くなっている為、その右手の掌には傷一つついていない。

ウィリアムはそんなレイクに向かって、日緋色金(オリハルコン)製の弾丸による小銃(ライフル)の雷加速弾を放つ。

不安定な足場により、ウィリアムはその背中から落ちてしまうも、弾丸はレイクに向かっている。

絶対的硬度を誇る日緋色金(オリハルコン)による雷加速弾をまともに食らえば、幾らレイクといえど無事では済まないが―――

 

 

「――甘い」

 

 

フォウルの身体から顕れた黒い異形の半幽体の腕がレイクに迫っていた弾丸を弾き飛ばす。

フォウルの身体から顕れたのは―――悪魔の腕だ。

概念存在には現世の理に依る、物理的な攻撃や魔術はほぼ通じない。

 

 

「チィ―――ッ!!」

 

 

ウィリアムは舌打ちし、【騎士の剣(ナイツ・ソード)】を数体、具現召喚する。

空想存在である人工精霊(タルパ)なら、フォウルに攻撃が通る筈。

だが―――

 

 

「《―――■■■》!」

 

 

レイクが獣の底吠えにしか聞こえない呪文――――竜言語魔術(ドラグイッシュ)を唱え、辺りを猛烈な嵐を吹かせる。

荒れ狂う雷嵐が【騎士の剣(ナイツ・ソード)】をガラスのように砕き、その稲妻が容赦なく襲いかかる―――

 

 

「―――うげぇッ!?」

 

「マジで洒落になってねえぞ、これぇえええええ―――ッ!?」

 

 

グレンは【フォース・シールド】と守りの護符(アミュレット)を、ウィリアムは【騎士の楯(ナイツ・シールド)】と【騎士の誇り(ナイツ・プライド)・楯兵】を使うも、魔術的な防御は紙のように破られていく。

 

 

「《――来たれ》」

 

 

フォウルが呪文を唱えると、フォウルの周囲からゴブリンや一つ目の蝙蝠の群れ―――下級悪魔が顕れ、ゴブリンと蝙蝠の大群は雷嵐の中、一斉に彼らへと向かっていく。

 

 

「今度は悪魔の団体様かよッ!?」

 

「あの野郎が憑依させたのは、上級悪魔の概念かよ!?ドチクショウッ!!」

 

 

【帳の道標】は憑依させた概念存在の力を自由に使えるだけではない。その存在に連なる下位の概念存在を、代償無しで召喚出来るようになるのだ。

そんな下級悪魔の大群に、ウィリアムは一対の幾何学的な羽を有する、鶏冠がついたフルフェイスの兜―――人工精霊(タルパ)騎士の憤怒(ナイツ・フューリー)】を幾つか具現召喚し、次々と向かわせる。

空想存在の爆破攻撃で悪魔の大群は次々と吹き飛ばされていくも―――

 

 

「《―――■■■■》」

 

 

レイクが再び竜言語魔術(ドラグイッシュ)を唱え、嵐がピタリと止むとほぼ同時に周囲の倉庫が焔を上げて燃え盛り、みるみる焼け崩れていく。

 

 

「お次は山火事って……冗談にも程があるぞッ!?」

 

「もう泣きたい!!」

 

 

マグマのように濃厚な炎が竜の尻尾のようにうねって、襲いかかり―――

 

 

「《楯壁展開(ロード)》!!」

 

 

ウィリアムが堪らず、既に解凍、封印解除し、左手に持っていた《詐欺師の盾》による魔力障壁を展開し、その炎嵐を防ぐ。

その間にグレンが防御の巻物(スクロール)を何枚も広げ、ウィリアムは移動用の人工精霊(タルパ)の鳥を具現召喚し―――

 

 

「―――《楯壁解除(レリース)》!」

 

 

準備が終わると、ウィリアムは《盾》の障壁を解除する。

炎嵐は、グレンが張った防御を悉く破壊していくも、二人は大鷲の背中に乗ってその場から離れている。

 

 

「~~~」

 

 

フォウルが口笛を吹くと、地面が血のように真っ赤な液体のようなものが広がっていき、そこから血の杭ともいえる真っ赤な杭が伸び、あるいは打ち上げられた後、上空から降り注ぎ、容赦なく襲いかかる。

 

 

「何でもありかぁああああああ―――ッ!?」

 

「マジでふざけんなよ!?チクショォオオオオオオ―――ッ!?」

 

 

襲いかかる血の杭を【騎士の楯(ナイツ・シールド)】や護符(アミュレット)で必死に捌いていると、竜麟の剣を手にしたレイクが、跳躍して近づき剣を振り上げていた。

咄嗟にバレルノールさせてかわすも、そのまま地面へと叩きつけられたレイクの剣は地面を裂き、文字通り倉庫街が真っ二つに割れる。

 

 

「あんなん食らったら粉微塵じゃねぇか!!」

 

「あいつら倒せたの、マジで運がよかっただけなんだな、チクショウッ!!」

 

 

片や、竜の力を宿した者。片や、概念存在をその身に宿した者。

どちらも災厄そのものと呼ぶに相応しい。

 

 

「《―――■■■■■》!!」

 

 

そんな二人を他所に、レイクが再び竜言語魔術(ドラグイッシュ)を唱える。

今度は辺り一面の空気が氷点下を優に振り切り、氷結地獄が形成される。

さらに巨大な氷塊が次々と上空に作り出され―――

 

 

「逝ねッ!!」

 

 

レイクが腕を振るうと同時に氷塊が次々と襲いかかってくる。

その上、フォウルが新たに召喚したゴブリン達が目や口から血らしきものを溢しながら、狂ったように迫ってくる。

 

 

「ホント、やになるッ!!」

 

 

ウィリアムは文句を言いながらも【騎士の祈り(ナイツ・プレアー)】を二体具現召喚し、さらに奏でられる歌声で動きが鈍くなったゴブリン達に【騎士の誇り(ナイツ・プライド)・剣兵】を四体突撃させ、クレイモア・ソードを両手に持った甲冑騎士は独楽(こま)のように回転しながらゴブリン達を斬り裂いていく。

そのままフォウルへと向かって行くも、氷塊や本人から伸びる悪魔の手によって砕かれ、霧散していく。

グレンも【ブレイズ・バースト】と鋼糸を駆使して氷塊をバラバラに切り裂いて防ぐ。

二人はそのまま、倉庫の陰に隠れてこの状況を打破する為の作戦会議をする。

 

 

「あいつらは旧き竜と大悪魔と考えるべきだな……」

 

「それに連なる弱点は……」

 

 

そのまま二人は情報を照らし合わせていく。

作戦会議を終え、二人は倉庫の陰から一気に身を乗り出す。

ウィリアムが正面から《盾》に取りつけられた小銃(ライフル)から、火薬を高圧縮した高威力の日緋色金(オリハルコン)の銃弾を撃ちまくるも、フォウルの身体の右半分から伸びる悪魔の腕が弾き飛ばしていく。

その悪魔の腕に、ウィリアムは右手に錬成したクロスボウを使って、十字の黒剣を射ち出す。

その黒剣を、割って入ったレイクが竜麟の剣で叩き落とした。

そんなレイクに、グレンが反射跳弾による銃撃でレイクの背後を狙う。

そのレイクの背後から迫った跳弾はフォウルの悪魔の腕が弾き飛ばして防ぐ。

 

 

「へっ……防いだな……?」

 

「やっぱ、ドラゴンの弱点である逆鱗を狙われたり、ナルキスの主君たるメイヴェスを連想させる黒剣は流石にまずいってか……?」

 

 

そんなグレンとウィリアムの言葉に、レイクとフォウルはほんの一瞬、顔を鋭くする。

その反応を見てグレンとウィリアムはほくそ笑み、勝ちを拾える可能性を確信した。

グレンは予備シリンダーを握りながらある呪文を唱え、ウィリアムは悪魔の腕で払うしかないように銃撃を放ち、フォウルの右側の腰から伸びている悪魔の腕に黒剣を射ち込もうとする。

 

 

「嫌になる戦力差だが……」

 

「だが……諦めて……たまるかよぉおおおおおおおおおおおおおお―――ッ!!!」

 

 

《愚者》と《詐欺師》は勝利を掴み取るため、目の前の脅威に立ち向かう―――

 

 

 




······いいのかな·····?
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七十四話(改)

面白味に欠けるかなぁ·······?
てな訳でどうぞ


災害そのものと呼ぶべき者達との戦いはついに佳境を迎えた。

 

 

「ぉおおおおおおおおおお―――ッ!!」

 

 

ウィリアムは烈迫の咆哮と共に、銃撃を放ち、迫りくる血の杭を避けながら、フォウルとの距離を詰め―――

 

 

「食らいやがれ―――ッ!!」

 

 

すれ違いざまに黒剣の矢をフォウルへと叩き込んだ。

その結果は―――

 

 

「……ッ!?」

 

「……残念だったな」

 

 

フォウルは―――無傷。

黒剣はフォウルを貫かず、足下に転がっていた。

ウィリアムは直ぐ様後ろへと下がり、フォウルとの距離を取る。

そして、レイクと対峙していたグレンと背中合わせとなる。

 

 

「『逆鱗』は竜の身体構造から生じる弱点……【帳の道標】はその概念存在の力のみ……どちらも私達には通用しない」

 

「概念存在の真名を見抜いたのは見事。だが、汝達は読み違えた」

 

「「…………」」

 

 

レイクとフォウルはそう告げながら、二人を挟み込むように距離を詰める。

もはや絶対絶命となった状況にグレンとウィリアムは―――

 

 

「「……それはどうかな?」」

 

 

突如、不適に笑い、グレンは愚者のアルカナを掲げ、ウィリアムは右手に握っていたある物を見せつける。

 

 

「「―――まさかッ!?」」

 

「ここからはスピード勝負だ……」

 

 

ウィリアムが告げた瞬間に、全てを察したレイクとフォウルが鬼気迫る表情でグレンとウィリアムに襲いかかる。

グレンは《魔銃ペネトレイター》を構えてトリプルショットを放ち、ウィリアムは右手に握ったある物―――フォウルから掠め取った専用の触媒を握り潰し、《魔銃ディバイド》の雷加速弾を放つ。

その結果は―――

 

 

「……貴様達の勝ちだ」

 

「一杯喰わされていたのは我達のほうだったか……」

 

 

レイクとフォウルは心臓を撃ち抜かれていた。

 

 

「ああ……『竜化の呪い(ドラゴナイズド)』は精神に根ざす呪い……【帳の道標】は専用の触媒が必要不可欠……」

 

「なら、精神強度を上げたり、専用の触媒を奪って破壊しちまえばなんとかなるだろ?」

 

「最初から【マインド・アップ】を付呪(エンチャント)した弾丸の有効性と、触媒の場所を探っていたという事か……」

 

 

レイクとフォウルはその場で膝をつき、口から血を吐き出し、告げた。

 

 

「……グレン=レーダス、『イヴ・カイズルの玉薬』を持って来い……ウィリアム=アイゼンはその銃の真価を見せろ……」

 

「「――ッ!?」」

 

「『イヴ・カイズルの玉薬』は《愚者》の外せぬ切り札(ラスト・カード)……《詐欺師》のそのルーン文字が刻まれた黄金の拳銃……《魔銃》としての真価を発揮していまい……」

 

「「…………」」

 

「我達は保存(セーブ)されている……何時でも戻って来られる以上、これは忠告だ……」

 

「本気を出せ……()()()に……更なる世界を見せろ……ッ!」

 

 

二人はそう言い、血だまりの地面へと沈み―――絶命した。

グレンとウィリアムはどこか苦々しい表情を浮かべながらも、気分を切り替え、グレンがシスティーナと通信するも……

 

 

「……白猫?……おい、返事をしろ白猫ッ!?」

 

 

システィーナは通信に応じなかった

システィーナも襲撃されている可能性を失念していた二人は直ぐ様、中央区へ駆け出そうとするが―――

 

 

「……安心しなよ、システィーナは無事だよ。まぁ、結果は彼女が動いて少し“読めなかった”けどね」

 

 

そう言いながら、半壊した倉庫と倉庫の隙間からフロックコートと山高帽をまとった青年―――ジャティスがルミアを連れて現れた。

 

 

「ジャティスゥウウウウウウウウ―――ッ!!」

 

 

グレンはその瞬間、迅雷の挙動でジャティスに殴りかかるも、ジャティスはそれをひらりとかわして、半壊した倉庫の上に降り立つ。

グレンはそのまま、ルミアを背後にジャティスと対峙する。

 

 

「テメェの目的はなんだ!?あの野郎が言ってたフェジテを救うとはどういう意味だ!?」

 

 

ウィリアムがグレンの横に立ちながらジャティスにそう問い質す。

 

 

「言葉通りの意味さ……このフェジテは今、滅びの危機に瀕している。誰かがそれを止めなければ、フェジテは地図から消え、全ての人間が死に絶える……今はその瀬戸際なんだ」

 

「……なんだと?」

 

「僕は『正義の執行者』として、これを止めたい……まずは見せたいものがあるから、少しご足労願えないかな?」

 

 

ジャティス求めに応じる義理も義務もない。だが―――

 

 

「……今は応じてあげてください……本当に未曾有の危機に陥っているんです……」

 

 

ルミアにそう言われ、状況を確かめる為にも、二人は仕方なくジャティスの言に従い、大人しくついていくのであった。

 

 

 




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七十五話(改)

······文才がないのは辛い
てな訳でどうぞ


道中、ジャティスからシスティーナの状況を聞かされた。

システィーナはジン=ガニスと交戦し勝利した後、イヴに保護されたとの事。

グレンは自分たちだけでなく、システィーナすら巻き込んだジャティスに憤りを露にするが―――

 

 

「万が一の時は人工精霊(タルパ)を使ってフォローはするつもりだったさ。それに、君にとって彼女は所詮、セラの代替―――」

 

「ジャティス」

 

 

グレンが異質に底冷えする声で、ジャティスの言葉を遮る。

 

 

「それ以上言ったら……今、ここで……お前を殺す」

 

「……失言だったね。心から謝罪しよう。申し訳ない」

 

 

相変わらずの険悪な雰囲気の中、一行は下水道から地上へと上がる。

上がった先にあったのは、南地区の外れにある古びた商館だった。

ジャティスは何の迷いもなく表玄関へと向かうが……

 

 

「……おい」

 

「ふっ……大分、昔の勘が戻ってきているね?」

 

 

ジャティスは背中越しにそう言い、玄関口を開く。

 

 

「フハハハッ!お待ちしておりましたぞッ!!」

 

 

玄関の先にいたのはブーツにマント、羽根つき帽を被った中年―――両手を広げてブレイクが佇んでいた。

エントランスホールには血の跡がいくつも散らばっており、充満していた血と焼け焦げたかのような匂いからここで何があったか想像がつく。

 

 

「ええ!ご想像の通り、この商館にはあの醜い者共がいたのでジャティス殿が掃除をしていましたぞ!!我輩はその後片付けをしておりました!あんな塵どもを放置するのは我輩の『美学』に反しますので!」

 

「まぁ、関係のない人間もいたようだけど……『正義』の前には必要経費だよ」

 

 

ジャティスはそう言い商館の中を歩いていき、ブレイクもそれに追従し、グレンとウィリアムは憤怒を抑えて、ルミアは悲痛な顔をして彼らの後を追っていく。

そして、ジャティスは絨毯の下に隠されていた床板を動かし、地下への階段を露にさせる。

 

 

「ここには魔術的な隠蔽も施されていましたが、我輩の前には無意味でしたぞ」

 

 

そんなブレイクの自慢を無視して、一行は地下へと降りていく。

辿り着いた小部屋には、巨大な魔術法陣が敷設されており―――

 

 

「……なんだ、こりゃ?」

 

 

グレンは謎の法陣に戸惑っているが……

 

 

「―――」

 

 

ウィリアムはその法陣を見て言葉を失っていた。そして絞り出すようにその法陣の正体を口ずさんでいく。

 

 

「……嘘だろ……!?なんでここに、【メギドの火】の術式が……ッ!?」

 

「!?」

 

 

ウィリアムの言葉にグレンも驚愕し、急いで法陣のルーンの羅列と術式を追い、目の前の法陣が【メギドの火】―――正式名称、錬金【連鎖分裂核熱式(アトミック・フレア)】―――の『マナ活性供給式(ブーストサプライヤー)』と判り一気に血の気が引いていく。

 

 

「その通りだよ。今からこれをルミアの力を使って解呪(ディスペル)する」

 

 

ジャティスはそう告げ、ルミアの『異能』で強化された黒魔儀【イレイズ】で、目の前の法陣を解呪(ディスペル)した。

 

 

「《詐欺師》ならすぐに気づいて当然だと“読んでいたよ”。だって君は個人レベルに堕とし込んだ【メギドの火】―――錬金改【マテリアル・ブラスター】を使えるんだからね」

 

 

ジャティスがもたらされた言葉にグレンは驚愕の表情でウィリアムを見やり、ウィリアムは苦々しい烈火の瞳でジャティスを睨みつける。

 

【メギドの火】―――原子崩壊の際に生じる質量欠損による莫大な破壊エネルギーを生み出す、災厄の錬金術。

【マテリアル・ブラスター】は端的に言えば、その【メギドの火】を個人で扱えるよう、大幅に劣化縮小させた錬金術である。

無論、表面上の術式には偽装を施している上、滅多に使えないから普通はその正体にたどり着けない筈だが……

 

 

「情報源はテメェか?」

 

「ええ。その通りですぞ」

 

 

ウィリアムはブレイクを睨みつけながら問い質すと、ブレイクはあっさりと肯定した。

ブレイクは【イクスティンクション・レイ】をあの時の戦いでゴーレムに使わせていた。

あの魔術は本来、開発した本人であるセリカとその弟子であるグレンにしか使えない筈だ。にも関わらずブレイクは使えていた。

しかも、誰も知り得ない筈の過去の出来事までブレイクは知っていたのだ。

まるで記憶を覗いているかのように……

そんなウィリアムを尻目に、ジャティスが今フェジテに起きている事―――『急進派』によるルミアを殺す為の自爆テロを説明していき……

 

 

「今、この時に限り、利害は一致しているだろう……?ここは一つ、共同戦線と洒落込まないかい?」

 

 

ジャティスが善人面をして、共闘の提案をしてくる。

 

 

「この計画の首謀者たる『第三団(ヘヴンス・)天位(オーダー)》』も直接動いていますからな。我輩達二人でもさすがに『核熱点火式(イグニッション・プラグ)』を日没までに解呪(ディスペル)できるか、ジャティス殿の予測でも怪しいですからな」

 

 

ブレイクがもたらした情報に三人は再び驚愕する。

都市伝説と呼ばれている、天の智慧研究会幻の最高位階が、このフェジテで暗躍していたというのだから当然の反応といえる。

正直、ジャティス達は気にくわないし、今すぐにでも叩きのめしたい。

だが、ここで争っても長期戦になるのは必須。それでフェジテが滅んだら元も子もない。

そして、この瞬間も刻一刻と滅びのタイムリミットが迫ってきているのだ。

彼らは苦々しい気分でジャティスの共同戦線の提案を呑むこととなった―――

 

 

 




【マテリアル・ブラスター】の元ネタは某お兄様のあの魔法
【メギドの火】とあの魔法は似てると思いません?
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七十六話(改)

····微妙なのかな、やっぱり····
てな訳でどうぞ


―――フェジテの裏通りを、ジャティスが具現召喚した人工精霊(タルパ)の馬が、グレン達を乗せた荷馬車を引いて疾走している。

 

 

「……始まったようだね……」

 

 

御者台で人工精霊(タルパ)の馬の手綱を引くジャティスが北の上空を見上げて呟く。

北の上空―――『核熱点火式(イグニッション・プラグ)』が敷設されているアルザーノ帝国魔術学院の上空は、【メギドの火】の『二次起動(セミ・ブート)』により、大地から立ち上る幾条もの紅の閃光によって、紅蓮に染まっている。

そんな急ぐ彼らに『掃除屋(スイーパー)』達が襲いかかってくるが―――

 

 

「《白銀の氷狼よ・吹雪纏いて・疾駆()け抜けよ》―――ッ!」

 

 

グレンの呪文と銃撃が―――

 

 

「さぁ、踊れ!僕の彼女の御使い(ハーズ・エンジェル)達よ……ッ!」

 

 

ジャティスの人工精霊(タルパ)の天使達が―――

 

 

「《駆動》―――ッ!!」

 

 

ウィリアムの《魔導砲ファランクス・ミクロ》の弾幕と人工精霊(タルパ)の騎士達が―――

 

 

「醜い者はお断り、ですぞ―――ッ!」

 

 

ブレイクの鳥型のゴーレム達が―――

 

襲いかかってくる掃除屋(スイーパー)達を次々と返り討ちにしていく。

ウィリアムが拳銃で放った魔術弾を掃除屋(スイーパー)はその手に持った剣で受け止めるも―――

 

バチィッ!!

 

電撃が迸り、電撃をくらった掃除屋(スイーパー)は身体を硬直してしまう。

そこをすかさず、グレンがその掃除屋(スイーパー)の頭を撃ち抜いて、その命を一瞬で刈り取る。

掃除屋(スイーパー)達を迎撃しながら、彼らはアルザーノ帝国魔術学院を目指し、次第に見慣れた風景が入り混じり始める。

ようやく学院まで眼と鼻の先の距離となったところで―――

 

 

「……やれやれ……ここで来るのは“読んでいた”けどさ」

 

 

ジャティスがそう呟いた瞬間に、彼らの乗っていた馬車が、突如、天を衝かんばかりの炎柱に呑み込まれた。

 

 

「うおわ―――ッ!?」

 

「なんだ、いきなり!?」

 

 

グレンが咄嗟にルミアを抱き抱え、ウィリアム共々荷台から跳び降り、事なきを得る。

 

 

「無粋ですなぁ」

 

「まったくだよ……もう少し、このシチュエーションを楽しみたかったのになぁ」

 

 

ブレイクは鳥型ゴーレムの脚に、ジャティスは【彼女の御使い(ハーズ・エンジェル)】の肩を片手で捕まって荷台から離脱しており、ゆっくりと地面に降り立つ。

 

 

「……捉えたわよ、ついに……ふふふ……ッ!」

 

 

そんな彼らに、昏い歓喜で身を震わせる女性―――《魔術師》のイヴが歩み寄って来ていた。

猛烈に面倒な事になると思ったが、イヴは既にこちらの事情を把握しており、グレンがシスティーナに渡した通信魔導器で逆探知し、ここで待ち伏せていたようだ。

 

 

「そうかっ!だったら―――」

 

 

グレンとイヴは同時に告げた―――

 

 

「俺に協力しろ!」

「私に協力しなさい」

 

 

―――まったく、噛み合っていない言葉を。

 

 

「……は?」

 

「お前に協力って……何言ってんだ?今、俺達は【メギドの火】を防ぐために―――」

 

「【メギドの火】の案件は二の次……今、最優先すべきは、そこの二人の確保、もしくは、抹殺なのよ」

 

 

イヴの信じられない言葉にグレンとウィリアムは呆気に取られ……

 

 

「……それ、この状況知ってて、ガチで言ってんのか?コイツらさえ殺れれば、周りはどうなってもいいってか?」

 

「まさかとは思うが……クソくだらねえ手柄に固執してんのか?……あの時、セラを見捨てたお前は大嫌いだが……超えちゃいけねえ一線だけは、決して超えないやつだと……そう思ってたんだが」

 

 

心底、失望したようなその言葉に、イヴは焦るかのように弁明を始める。

 

 

「も、もちろん、【メギドの火】も、放置するつもりはないわ!だけど、そこのジャティスとブレイクを押さえる方が、先決なのよ!」

 

「ンなわけねーだろ!?」

 

「先公の言う通りだ!今優先すべきは、こっちじゃねーだろ!?」

 

「千載一遇の好機なのよッ!この一帯はすでに私の【第七園】の領域ッ!!だからそこの二人を料理した後で【メギドの火】に対処すれば―――」

 

「そんな訳あるかッ!!!」

 

 

イヴの勝利を確信した物言いを遮り、ウィリアムが反論する。

 

 

「ジャティスの野郎は“読んでいた”と言っていた!!つまり、あんたの待ち伏せは予想できていたという事だ!それでもコイツらに勝てると思うのかッ!?」

 

「ウィリアムの言う通りだ!だから今、こいつらに構っている暇は、一分一秒たりとも無いッ!!」

 

「うるさいわねッッッ!?誰よりも優秀で強い私ならできるのよッ!……そのくらいできなきゃ……誰も私を認めてくれないんだから……ッ!!」

 

 

明らかに様子のおかしいイヴに戸惑う二人に、イヴは切羽詰まった声で告げる。

 

 

「だから私に協力しなさいッ!!今、この場で、ジャティスとブレイクを倒すのよッッッ!!!!そうしないと、私は……ッ!私はぁあああ―――ッッッ!!」

 

「……諦めろ、イヴ……」

 

「今は【メギドの火】を止めようぜ……?その後なら、協力してやるからよ……」

 

「どうしてわからないのッ!?」

 

 

イヴはヒステリーに叫びながらも、そのまま、グレンにジャティスに対する憎悪を指摘する。

対して、グレンは―――

 

 

「……ああ、憎いさ。だけど、関係ねえんだよ、今は。……俺は、敵討ちより生徒達(あいつら)の方が大事だ」

 

 

揺るぎない、静かな意思をはっきりと、真っ直ぐにイヴを見つめて、そう告げた。

そんなグレンにイヴは怯むも、すぐにどこか据わった目となり、再度協力しろと命令してくる。

当然、グレンはきっぱりと拒絶した。

イヴは最早、懇願に近い声で喚くも―――

 

 

「学院に急ぐぞ……時間が惜しい……」

 

 

グレンはその懇願を完全に無視し、ウィリアムとルミアを促す。

ウィリアムは複雑な表情でイヴを見て、ルミアも複雑な表情でイヴに一礼して、グレンの後へと続く。

 

 

「イヴ。どうしてもって言うなら、もう止めねえ……せめて、()()()()?」

 

 

グレン達三人はそのまま、その場を立ち去った。

そんなフラれたイヴに、ジャティスの哄笑が山彦のように響き渡る。

 

 

「フラれて当然だよ!『正義の魔法使い(グレン)』は人の救いをもとめる声にこそ応えるんだから!!自ら地獄に向かう者を救うのは―――『(ぎぜんしゃ)』だけさ!!」

 

「本当に滑稽ですなあッ!!!貴女のそんな地獄行きの提案を、彼の者は絶対に賛同しない事はわかりきっていたことでしょうにッ!!!!」

 

 

ブレイクも嘲りに満ちた表情で、そんなイヴの愚かさを指摘する。

イヴはそんな二人に、全てを呪い殺す勢いで睨みつけるも―――

 

 

「唯一尊敬する魔術師、グレンの顔を立てて……警告してあげるよ……()()()()()()()。最弱の魔術師……僕の前からとっとと失せろ」

 

 

ジャティスは慇懃(いんぎん)に正して、イヴに向かってはっきりと告げる。

その侮辱にイヴの目尻がたちまちつり上がっていく。

 

 

「私が……最弱、ですって……ッ!?」

 

「ああ。今の君は最近まで最弱だった《戦車(リィエル)》より……いや、システィーナより弱い」

 

「確かに最弱ですなぁ。貴女は楽な道に逃げ続けている、醜き弱者ですから」

 

「……どうやら、死にたいようね、貴方達」

 

 

イヴの左手が激しく燃え上がると同時に、ジャティスとブレイクを囲むように炎の壁が燃え上がっていく。

 

 

「せっかくですから、貴女が『美しき者』か、改めて観察しましょうぞ」

 

「弱い者いじめは趣味じゃないけど……君の最弱を証明してあげるよ」

 

「やってみなさいッ!!この《紅焔公(ロード・スカーレット)》相手にできるならね―――ッ!!」

 

 

《魔術師》は、《正義》と《美の商人(ブローカー)》と激突する―――

 

 

 




《魔術師》対《正義》と《美の商人》
イヴは一体どうなる?
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七十七話(改)

朝更新の最新話
てな訳でどうぞ


―――アルザーノ帝国魔術学院の中庭にて。

 

 

「……なかなかやるな」

 

 

真紅に輝く、巨大な魔術法陣の中心で、輝く槍と十字架の印章が入った白き大盾を持った聖騎士装束を纏った壮年―――ラザールはそう言い放つ。

 

 

「くっ……」

 

「……むぅ、まさかこれほどとは……」

 

 

ラザールに対峙しているハーレイとツェスト男爵は、酷く疲弊し、ボロボロであった。

この事態に大勢の講師や教授達は戦いを挑んだのだが、ハーレイとツェスト男爵以外は全員、ラザールによって倒されてしまった。

倒された者達は、ツェスト男爵の遠隔転送術で安全地帯に退避させられている為、死人は一人も出ていない。

 

 

「《吠えよ炎獅子》―――《集》!」

 

 

そんな圧倒的に不利な状況で、ハーレイは【ブレイズ・バースト】を『収束起動』で小さなガラス玉サイズに凝縮し、ラザールに向けて放つも、ラザールが左手に構えた盾によって受け止められる。

小さな赤玉は盾に着弾し爆発するも、着弾地点を中心に七色の光が放たれ、渦巻く熱波が完全に防がれる。

 

 

「きっとあの盾は日緋色金(オリハルコン)製だぞ……?」

 

「それだけでは魔術の範囲攻撃を完全に防げないはず……何か仕掛けがあるはずです」

 

 

冷静に状況を分析していく二人にラザールが槍を構えると同時に、ツェスト男爵もステッキを構えるも、ラザールは『攻撃したと錯覚させる』精神支配術は見切ったと告げ、法力がみなぎる槍を振るって衝撃波を放つ。

二人は慌てて【フォース・シールド】を張るも、魔力障壁は衝撃波によってあっさりと破られ、二人は吹き飛ばされる。

その瞬間―――

 

 

「《……―――・いざ森羅の万象は須く此処に散滅せよ・遥かな虚無の果てに》―――ッ!!」

 

 

ラザールの背後から白い光の奔流―――【イクスティンクション・レイ】が迫ってきた。

 

 

「―――なに!?」

 

 

ラザールは驚愕しつつも咄嗟に盾をそれに向かって構え、分解消滅の光を受け止める。

ぶつかった瞬間、再び七色の光が放たれ、光の奔流はそのまま勢いを弱めて……消滅した。

 

 

「げ!?防いじまうのかよ!?」

 

「攻撃の無効化とか……すんげえ、めんどくせぇ相手じゃねぇか……」

 

 

光の奔流が放たれた、その先に居たのは―――

 

 

「まぁ、とりあえず……」

 

「馬鹿騒ぎは―――終いにしようぜ?」

 

 

グレンとウィリアム、ルミアの三人だった。

 

 

「見た限り、確かに【メギドの火】の『核熱点火式(イグニッション・プラグ)』だな……」

 

「単刀直入に聞くぜ?てめぇが、今回の黒幕か……ッ!?」

 

 

拳銃を構えるグレンの問いに対し、ラザールは威風堂々と答える。

 

 

「いかにも。この私、天の智慧研究会、第三団(ヘヴンス・)天位(オーダー)》、《鋼の聖騎士》ラザールが此度の計画の首謀者だ」

 

 

ラザールの名乗りに、あの情報が本当だった事にグレンとウィリアムは苦い顔をする。

そんなグレンとウィリアムに、ハーレイとツェスト男爵は自分達がラザールをなんとかして押さえ込むから、その間に『核熱点火式(イグニッション・プラグ)』を解呪(ディスペル)するよう告げる。

だが―――

 

 

(あの盾は【イクスティンクション・レイ】を普通に防いでいた……つまり、何かしらの法則で防いでいるという事だ……ッ!)

 

 

その法則を見抜かないと、勝負にならない。

まずは、魔力遮断物質たる真銀(ミスリル)の弾丸で仕掛けようとした矢先、ラザールがグレンの眼前に姿を現し、圧倒的な法力がみなぎった槍を振り上げている。

 

 

(間に合え―――ッ!?)

 

 

ウィリアムは左手の《詐欺師の盾》で、その一撃を受け止めようと、二人の間に割って入ろうとするが、それよりも早く、ボロボロのドレスを纏った黄金色の髪の女性―――セリカが、細腕に携えられた蒼銀の剣でその槍を受け止めていた。

さらに―――

 

 

「いぃいいいいいやぁああああああああ―――ッ!!!」

 

 

ラザールの頭上から、咆哮と共に、リィエルが全身の発条(ばね)を振り絞って、大剣を振り下ろす。

ラザールはその一撃を同じように盾で防ぐも、警戒してその場から飛び下がる。

 

 

「遅ぇぞセリカ!!」

 

「よくここにいるってわかったな?」

 

 

グレンとウィリアムのそんな物言いに―――

 

 

「ったく、相変わらずだな、お前は……」

 

「ん!怪我が治って探し回ってたら、セリカに会ったから一緒に来た!」

 

 

セリカは呆れ気味に、リィエルは実にいつも通りで言葉を返した。

 

 

「……本当に大丈夫なんだよな?無理してここに来たわけじゃねぇよな……?」

 

「大丈夫だ。今の私は、あまり魔術は使えないが……突破口くらいは切り開けるさ」

 

 

セリカは自信ありげにそう告げ、真銀(ミスリル)の宝剣を構え、ラザールの絶対防御の秘密―――《力天使の盾》について説明していく。

《力天使の盾》はあらゆるエネルギーを吸収し、百パーセントの変換率で光に還元して周囲に拡散する魔力場を自身の周囲に形成するそうだ。

 

 

「そんなふざけたもん、どうやって攻略すれば……ッ!?」

 

「いや、タネさえわかればやりようがあるぜ?」

 

 

ウィリアムはそう言い、既に解凍した右手の《魔導砲ファランクス・ミクロ》の銃口をラザールへと構え、セリカも見せつけるように剣をかざして見せる。

 

 

「―――そうか!?」

 

 

グレンが理解した瞬間、セリカの姿が霞み消え、ラザールの背後から一陣の旋風と共に、血華が上がった。

 

 

「―――《駆動》―――《雷精》ッ!!」

 

 

ウィリアムも《ファランクス・ミクロ》を起動状態にし、砲身に電撃を迸らせ、グリップの引き金を引き――― 一気に火を吹かせた。

 

 

「ぬぅおおおおおおおおおッ!!?」

 

 

ラザールは盾を構えるも、真銀(ミスリル)の弾丸による雷加速弾の衝撃が盾から伝わり続ける。

 

 

「今だハーレイッ!」

 

「!?―――《紅蓮の獅子よ》ッ!」

 

 

セリカの突然の指示にハーレイは咄嗟に呪文を唱え、超高温の火球を、真銀(ミスリル)の弾幕を防いでいるラザールへと放つ。

火球はラザールの盾へと着弾し、激しい爆発と爆炎が上がる。

爆炎が晴れた先には、先程の呪文によってダメージを負ったラザールがいた。

 

 

真銀(ミスリル)を通せば、その一瞬は確実に魔力場は乱れるってか!」

 

「そういう事だ。私とウィリアムの攻撃に合わせれば他の攻撃も通る」

 

 

セリカのその言葉にツェスト男爵は首を捻る。

 

 

「しかし、セリカ君はまだしも、ウィリアム君は何故……?」

 

「数分なら真銀(ミスリル)を再現できるだけだが?」

 

「なんと!?」

 

「ウィリアム=アイゼンッ!それは一体どういう事だ!?」

 

「今はいいだろ?重要なのは、あの野郎に攻撃を通せることだろ?」

 

「ん!よくわからないけど!セリカとウィルがいれば、あいつを斬れるってこと!?」

 

「……まぁ、そういう事だ」

 

 

相変わらずのリィエルに、ウィリアムはもはや苦笑いだ。

 

 

「ちっ……理屈ではそうだが、我が槍術を前に、そう簡単には―――」

 

「そう簡単には?」

 

 

ラザールの言葉を遮るように、剣の記憶を憑依させた、神速の動きでセリカが斬りかかる。

その間にウィリアムは残りの《詐欺師の盾》を解凍、起動、開放する。

セリカとラザールは激しく剣と槍をぶつけあっていると―――

 

 

「いいいいいいいいいいやぁあああああああああああ―――ッ!!」

 

 

リィエルが一瞬の隙をつき、ラザールの懐へと飛び込み、大剣を剛閃する。

ラザールはその剛閃を盾で受け止めるも―――

 

 

「なぁああああああにぃいいいいいいいい―――ッ!!?」

 

 

還元されずに、蹴飛ばされたボールように吹き飛ばされた事にラザールは驚愕する。

リィエルの攻撃が通ったのは、いつぞやでやった、真銀(ミスリル)コーティングの大剣だったからだ。

ラザールは吹き飛ばされながらも、槍を振るい、リィエルに向かって衝撃波を飛ばす。

衝撃波は容赦なく、リィエルに迫るが、間に割って入った《盾》によって、その衝撃波は防がれる。

 

 

「悪いが、こっちも絶対防御を持ってるんだよ」

 

「ちぃ―――ッ!!」

 

 

ラザールは地面を削りながら体勢を整え、忌々しげに攻撃を放とうとするも、セリカが割って入って妨害する。

ラザールが押さえ込まれた事で絶好の好機となり、グレンは『核熱点火式(イグニッション・プラグ)』へと向きなおるのであった―――

 

 

 

 




次回はあっちの場面に移ります
イヴのライフは······
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七十八話(改)

我慢できずに連続投稿
イヴのライフはどこまで削られる?
てな訳でどうぞ


周囲の建物が無残に焼け焦げた、燃えさしのような世界の中心で、ジャティスは蹲り、ブレイクはうつ伏せで倒れていた。

どちらも全身が激しく焼け焦げており、誰の目から見ても致命傷だった。

 

 

「……はっ!弱っ……さんざん大口叩いておいてその程度?」

 

 

終始、一方的に彼らを焼き続けたイヴが、嘲弄するような声を浴びせる。

 

 

「やっぱり、グレンみたいな三流の使えない駄犬なんていならかったのよ……時間も充分に余裕があるし、これでイグナイト家の―――」

 

「くっくっくっ……」

 

 

そんなご機嫌なイヴに、ジャティスの突然の低い声が水を差した。

 

 

「本当は、このままグレンに免じて、()()()()()()()()()()()んだけどね……実際、僕にとって君は道端の石ころにも劣るカスだから……どうでもよかったんだけど……」

 

「……は?」

 

「だけど……気が変わった。君の―――その無意味なプライドを完膚なきまでに、へし折って、惨めに這いつくばらせて殺してやるよ……きひひひひ……ッ!ひゃーっはははははははははははははははは……ッ!!!」

 

 

そんなジャティスの様子に、イヴは恐怖を感じるも、必死に自分の勝利を言い聞かせる。

イヴはそのまま、壊れた人形のように立ち上がったジャティスの予言通りに、建物の屋根の上へと飛び乗り、炎をたぎらせた左手をジャティスに向かって降り下ろす。

その結果は―――

 

 

「……えっ?」

 

 

自身の肘から先の左腕が斬り落とされるという、残酷な現実だった。

 

 

「あ……?……あ、ああ……ぁああああああああああああああああああああ――――ッ!!!?」

 

 

その現実を認識し、絶叫を上げるイヴにジャティスは淡々と種明かしを始めていく。

見えざる神の剣(スコトーマ・セイバー)】を自身の数秘術による行動予測で、予めイヴの左手が落ちる位置に配置していたと。

数秘術は『既存情報を組み合わせ結果、予想される未来を観測する』魔術学問。精度の低さから『数を使った占い』程度の認識だが、ジャティスはかつて、その数秘術を極めれば、どんな未来も観測できると考えたそうだ。

イヴは、人間には自由意思があると反論するも―――

 

 

「それすらも、脳内電気信号と生体化学反応の集積。そう考えれば数値化できて、人の未来も数秘術で予測可能―――そうは思わないかい?」

 

「……え?」

 

 

突然、背後から聞こえたジャティスの声に、イヴは恐る恐る振り返ると……そこに()()のジャティスが佇んでいた。

 

 

「これが【ユースティアの天秤】……“僕の目に映るあらゆる事象・現象・具象を数値化・数式化して取得する”、僕の固有魔術(オリジナル)さ」

 

 

イヴが反射的に眼下を再び見ると、そこに居たジャティスが、光の粒子となって砕けていた。

完全に一杯食わされていた事に気づき、イヴは絶望感に囚われるも、一矢報いようと右手を動かすも、今度は右掌に不可視の刃が突き刺さる。

そんなイヴに、ジャティスはイヴを除く特務分室のメンバーの素晴らしさを語っていく。

 

 

《星》のアルベルトは正義を尊いながらも、報われない茨の道を歩み続ける復讐鬼(聖者)だと。

《法皇》のクリストフは心臓さえも女王陛下に捧げる、真の忠義に生きる者だと。

《隠者》のバーナードは生と死の狭間でしか生きている実感を得られない、究極のスリルジャンキーだと。

《戦車》のリィエルは《詐欺師》やシスティーナ達と出会った事で、本当の意味で命をかけるに値する、かけがえのない何かを手に入れつつあると。

最後に、《愚者》のグレンはイレギュラーの塊だと、ジャティスは興奮を抑えきれずに高笑いする。

 

 

「―――月並みだけど、運命を超えるのは『人間の強き意思』なのさ。だから、彼らは素晴らしく、脅威なんだ。さて……」

 

「ま、まだよ……ッ!まだ終わって―――」

 

「―――いいや、貴女はもう終わりですぞ」

 

 

イヴの負け惜しみのような言葉を、横から聞こえてきた声が遮る。

イヴはまさかと思い、恐る恐る横を見やると、ジャティスと同じく、()()のブレイクがその場に佇んでいた。

 

 

「貴女が焼いていた我輩は、我輩が作った生体人形(フレッシュ・ゴーレム)ですぞ。つまり最初から手のひらの上にいたということです」

 

「そ、そんな……」

 

「せっかくですので、貴女が誰よりも弱い理由を教えて差し上げましょう。その理由は、貴女には己を貫き通す意思が微塵もないからなのですよ」

 

 

ボロボロのイヴに、ブレイクは容赦なく心の傷を抉り始めていく。

 

 

「貴女は誰も自分を認めてくれないと仰っていましたが、貴女を見てくれていた仲間は確かに存在していた。彼の《女帝》はその一人だった」

 

「や、やめて……」

 

「だが、貴女はその仲間を、友と呼べる唯一の存在を、父親の恐怖に屈して見殺しにした!!自らの安楽を守る為にセラ=シルヴァース(親友)を見捨てたのだ!!」

 

「それ以上は……ッ!」

 

 

自らの心を致命的なまでに暴かれていくブレイクの物言いを、イヴは首を振ってやめるよう懇願するも、ブレイクは止めずに容赦なく告げる。

 

 

「そんな他者によって押しつけられた望まぬ道が、彼の《愚者》はおろか、自らの意思で選びとり、もしくは折り合いをつけて道を歩む者の上となるわけがないッッッ!己を貫く為の『立ち向かう意思』が無く、植えつけられた恐怖に屈し、己の真の望みさえも忘れ、自ら切り捨てておきながら、孤独と思い込んでいるから貴女は最弱なのだッッッ!!!!!!!」

 

「いやぁああああああああああああああああああああ――――ッッッ!!!!!」

 

 

イヴは堪らず叫び声を上げ、必死に誤魔化すように、右手で頭を抑え、激しく首を振りかぶる。

心の内に閉まっていた事を、目の前の男に暴露された。知りえない筈なのに―――

 

 

「何故我輩がしっているのか疑問でしょうなぁ。その答えは、貴女の記憶という情報を覗いたからなのですよ」

 

 

ブレイクは左手に持っている分厚い本―――魔導書をイヴに突きつける。

 

 

「我輩はこの魔導書を介することで、対象のあらゆる情報を閲覧し、自由にこの魔導書等に記録することができるのですよ。それは対象の記憶だけでなく魔術式さえも記録することもでき、幾つかの魔術を再現して使えるようにもなります。今も貴女が我輩の説明を嘘だ、あり得ないと考え、否定しようとしていることも筒抜けですぞ?……これこそが、我輩の固有魔術(オリジナル)詩人の日誌(ポエマー・オブ・ジャーナル)】である」

 

 

それによって、イヴはようやく理解した。何故、ジャティスがこの男(ブレイク)を始末していないのかを。

この男には、謀りごとが通用せず、隠しごとが出来ない。どれだけ行動を予測して、周到に策を練り、入念に準備しても、それ自体が筒抜けとなっていては意味がないからだ。

 

 

「ええ、大当たりですぞ。ですから、ジャティス殿は御自身の『正義』のために、我輩を利用しているのですよ。本当は家の事など―――」

 

 

再び思考を当てられたイヴは、これ以上の内心を暴露される恐怖から逃れるために、屋根上から飛び降り、着地と同時に跳び下がる。

 

ブシャ

 

だが、また予め配置されていた不可視の刃に、両脚の腱を斬られて、血が噴き出していく。

 

 

「……あ……」

 

 

身体を支える力を失ったイヴはその場で崩れ落ち、瞳からも全ての感情が消えていく。

そこにいるのは、肉体的にも、精神的にも追い詰められ、心を完膚なきまでへし折られた、哀れな女だった。

そんなイヴに、ジャティスは魔術師の在り方を問いかける。

イヴは裁判官のような風格を漂わすジャティスの姿に怯えながら、イグナイト家の名誉のためと、もうそれしかないと言った途端―――

 

 

「はぁ~~~~~……やっぱり見込み違いか……」

 

「あれだけ指摘して、答えがそれですか……」

 

 

ジャティスとブレイクは盛大な溜め息を吐いて、呆れていた。

そして、ジャティスはグレンを侮辱したイヴに死刑判決を下し、憤怒の表情で両腕を振るい、大量の疑似霊素粒子粉末(パラ・エテリオンパウダー)をばらまいていく。

顕れたのは、左手に黄金の剣、右手に銀の吊り天秤、背中に七つの翼を頂いた、目隠しをした女神―――

 

 

具現(コール)ッ!人工聖霊(イド)正義の女神(レディ・ジャスティス)ユースティア】―――裁けよ我が神ッ!いざ―――死刑執行ッッッ!!!」

 

 

偽りの女神が剣を掲げた、その瞬間―――

 

 

 

――― 一条の雷閃が、ジャティスの頭部へと迫ってきていた。

 

 

 

「―――ッ!?」

 

 

ジャティスは咄嗟にかわすも、集中が途切れたため、偽りの女神はその形を失い、霧散していく。

 

 

「―――おおっとぉッ!?」

 

 

更に、遅れてもう一条の雷閃がブレイクへと迫り、ブレイクは軽い身のこなしで回避する。

 

 

「ちっ……“読めなかった”よ……ッ!」

 

 

ジャティスは忌々しげに、雷閃が飛来してきた方向を睨み付ける。

 

 

「ふむ……どうやら、もうじき《法皇》と《隠者》のお二方がこちらに到着するようですぞ?」

 

 

明後日の方向を見て呟くブレイクに、ジャティスは忌々しげにイヴと、フェジテ城壁にいるアルベルトを睨み、ブレイクと共にその場を離脱した。

 

 

 




いかがでしたか?
相手の考えがリアルタイムで覗ける······厄介の極みだと私は思います
嵌めたと思っていたら、逆に嵌められていた上に、背けていた事を突き付けられたら、堪ったもんじゃないと思いません?
まぁ、《正義》の狂人は幾ら指摘しても、微塵も揺るがないでしょうが
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七十九話(改)

·····これでいいかな?
てな訳でどうぞ


「ぬぅんッ!!」

 

 

ラザールが槍を振るって、衝撃波をハーレイ達に向けて飛ばすも―――

 

 

「《楯壁展開(ロード)》ッ!」

 

 

ウィリアムが正面に《詐欺師の盾》の魔力障壁を展開し、難なく防いでいく。

このように、ラザールとの戦いは拮抗状態となっており、安定している。

セリカの動きは次第に悪くなってきているが、皆が上手く援護しているため問題は無い。

ウィリアムは戦いながら、遠見の魔術を起動し、グレンとルミアの様子を見る。

グレンの口からは笑みが浮かんでおり、どうやら時間内に解呪(ディスペル)できそうな感じだ。

グレンは左手首を浅く切り、血を魔術触媒化し、その血を指先に伝わらせて―――

 

 

 

―――そこで、グレンは動きを止めた。

 

 

(先公……?)

 

 

ウィリアムは不意に動きを止めたグレンに最初は訝しげるも―――

 

 

(……あれ?……何か、おかしくね?)

 

 

ウィリアムの中で一連の騒動に対する疑惑が浮上した。

グレンの一連の動作から、グレンは『核熱点火式(イグニッション・プラグ)』をそのまま解呪(ディスペル)しようとしていた。

ルミアの『異能』を使おうとせずにだ。

つまり、あれの解呪(ディスペル)はルミアの『異能』無しでも容易いということになる。

『マナ活性供給式(ブーストサプライヤー)』には普通の解呪(ディスペル)だと数日はかかる程のプロテクトが掛けられていたのに、肝心要の『核熱点火式(イグニッション・プラグ)』の守りが薄いのは明らかにおかしい。

そして――――

 

 

(あの野郎は何で焦りの雰囲気があんなに薄いんだ!?)

 

 

ここまで大掛かりな計画が頓挫する寸前の筈なのに、ラザールからそういった雰囲気が薄すぎる。

まるで、計画通りに進ませるために敢えて戦っているかのような感じである。

そんなあまりにも都合が良すぎる展開に、あの『核熱点火式(イグニッション・プラグ)』を解呪(ディスペル)させていいのか、不安になってくる。

こうしている間にも、貴重な時間は刻一刻と消費している。

一番確実なのは、あの『核熱点火式(イグニッション・プラグ)』を精査してから判断することだが、ルミアの『異能』を使わなければ、確実に間に合わない。

周りが動かないグレンに焦燥と苛立ちの視線が集まっていく中、ルミアの身体から黄金色の光が放たれ始め、その状態でルミアがグレンの手を握りしめる。

ルミアが自身の身を顧みずに『異能』を使ったことにウィリアムは複雑な気分になりながらも、ラザールの足止めをセリカ達と共に続ける。

そして―――

 

 

『……これから、こいつを解呪(ディスペル)せずに()()する』

 

 

遠耳の魔術で聞こえてきたグレンの言葉は一見、信じられないものだった。

グレンはそのまま、ルミアのアシストを受けたまま、目の前の魔術法陣を起動する為の行動を開始していく。

ハーレイとツェスト男爵はグレンの暴挙に慌てるも―――

 

 

「構うなッ!!」

 

「止めるなッ!!」

 

 

セリカとウィリアムは、グレンが起動作業を開始して、明らかに先程より焦っているラザールの猛攻を、セリカが剣で槍撃を叩き落とし、ウィリアムが《盾》で飛んでくる衝撃波を防ぎながら、叫ぶ。

 

 

「おのれぇ……ッ!?そこをどけいッ!!」

 

「そこまで焦るってことは……あれは【メギドの火】に偽装した別の術式だな!?」

 

 

苛立ちを露にするラザールに、ウィリアムが決定的な言葉を放つ。

その言葉にますます苛立ちを露にするラザールに、リィエルの横殴りの一撃が直撃し、さらにグレンとは真逆の方向へかっ飛ばされていく。

さらにウィリアムが《魔導砲ファランクス・ミクロ》による追撃を与え、ラザールは体勢を整えきれずにどんどんグレンから引き離されていく。

その間にも、グレンは起動する為に、魔術法陣上に血のルーン文字を必死に書き連ねていき―――

 

 

「間に合えよぉおおおおおおおおおおおおおお―――ッ!!!」

 

 

遂にグレンが最後のルーン文字を括り、その魔術法陣を起動させる。

起動された『核熱点火式(イグニッション・プラグ)』に偽装された魔術法陣から白い光が溢れ―――

 

 

 

溜め込まれていた大量のマナが、嵐のように渦巻き、活火山の噴火ように吹き出しながら、大気中へと拡散されていく結果だった。

 

 

「おのれぇええええええええええッ!!!?グレン=レーダスぅうううううううううううううう―――ッ!!!?」

 

 

その光景にラザールは憤怒に身を焦がしながら、叫び声を上げる。

だが、突如、硝子の割れ砕けるかのような高音が響き渡り、ラザールに大量のマナ光が降り注いでいく。

 

 

「まさか、あれは『マナ堰堤式(ダム)』だったのか!?」

 

「我々はまんまと騙されていたという事か……」

 

 

ハーレイの驚愕とツェスト男爵の呟きを尻目に、ラザールは大量のマナが降り注ぐ一本の鍵を取り出す。

 

 

「……致し方あるまい。今こそ我は、汝が『内なる声』に耳を傾けよう……ッ!」

 

 

ラザールはそう告げ、その鍵を己の胸に―――差し込んだ。

そのまま鍵を回した瞬間、ラザールの全身からどす黒い魔力が溢れ、ラザールを呑み込んでいく。

その黒き魔力はラザールからどんどん溢れ、ラザールに溶け込んでいき―――

 

 

―――頑健な漆黒の全身鎧、緋色のローブ、バイザーを身につけた、一人の魔人が再誕した。

 

 

「……ラザール……?」

 

 

セリカの呆けたような問いに、ラザールだった魔人は槍を大地に突き立てて、宣言する。

 

 

『否。今の私は《鉄騎剛将》アセロ=イエロ……『内なる声』を受け入れ、魔将星の魂と融合した、至高の存在として、新たに生まれ変わった……』

 

「……()()()……()……だと……?一体、どういう意味だ!?」

 

 

魔人はセリカの詰問を無視して手を掲げ、何事かを呟く。

それと同時に、猛烈な紅い稲妻が空を縦横無尽に幾条も走り、船の形を形成していく。

そして、稲妻は徐々に弱まっていくと同時に、船は徐々に実体を得ていき……

フェジテの大空に、巨大な箱舟となって、現れた。

 

 

『ふははははははははははははははは―――っ!!!!』

 

 

周りがその箱舟の存在に呑まれる中、魔人の哄笑が辺りに響き渡った―――

 

 

 




原作九巻はこれにて終了
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第九章・神鉄の魔人と二枚のカード
八十話


ここから原作十巻
書き方にちょっとご指摘があったので、今回からちょっと変えています
てな訳でどうぞ


「ホントになんなんだよ……」

 

 

ウィリアムは上空に顕現した真紅の箱舟を見上げ、力無く呟く。

そんな思考放棄寸前の状態で周りを見やると殆どの人が、この現実に呆然としており、学院校舎の生徒達に至っては、失神したり、失禁したものまでいる。

ウィリアムは呆然とした思考のまま、件の魔人に目を向けると――――

 

 

魔人が手に持っていた槍と盾を粉々に握り潰していた。

 

 

「「……は?」」

 

 

魔人のその行動に、辛うじて正気だったグレンの呆けた声と重なる。

 

 

「……バカか、テメェ?」

 

 

グレンは呆れた声を出すも……

 

 

「―――ッ」

 

 

ウィリアムはその有り得ない筈の行動で逆に正気に戻り、脂汗を流して戦慄していた。

今、あの魔人は自らの武具を()()()()で砕いた。セリカの説明では、《力天使の盾》は日緋色金(オリハルコン)製の筈。

それが意味する事は……

 

 

(あの野郎の身体の硬度は少なくとも日緋色金(オリハルコン)以上、イヤ、余裕で越えている事になるぞ!?)

 

 

日緋色金(オリハルコン)以上の硬度を有しているのは伝説の()()以外思いつかない。もし、あの魔人の身体がアレで構成されているとしたら―――勝てない。

何故なら、アレは存在が確認されていない究極の魔法金属だからだ。

そんな中、グレンが魔人に攻撃を仕掛け―――

 

 

「―――ッ!駄目だ、先公ッ!!」

 

 

ウィリアムが大声で制止を呼びかけるも―――

 

 

「ぐっ――ぁああああああああッ!!」

 

 

時、既に遅く。グレンは右手の手刀を魔人に放ち、逆に右手を壊される結果となった。

ルミアが急いで駆け寄り、グレンの右手の治療にかかるが、すぐに癒せる傷ではない。

ウィリアムは一か八かで、剣をその手に錬成し、呪文を唱え始める。

その間に、セリカとリィエル、ハーレイにツェスト男爵も我に返り、さらにアルベルト、バーナード、クリストフがこの場に現れる。

そして、システィーナも駆けつけたその瞬間――――

 

 

「―――》全員その場から離れろッ!――――《点火(イグニッション)》ッ!!!」

 

 

ウィリアムの前方に形成された紅い球体を見て、全員が一斉に魔人から離れる。

同時に、錬金改【マテリアル・ブラスター】―――劣化縮小版の【メギドの火】が放たれる。

圧倒的な破壊エネルギーの奔流が、魔人の身体を余さず呑み込むも―――

 

 

「―――ッ」

 

『愚者の民がそれを放てるとは……我が《炎の船》の砲と比べるべくもないが、賞賛に値するぞ』

 

 

魔人は―――無傷。

先程と何一つ変わらず、悠然と佇んでいた。その現実にウィリアムは歯軋りする。

もはや認めるしかない。

 

 

「やはり……テメェの身体は……」

 

 

根底を蝕んでいく絶望に必死に耐え、その憶測を口に出す。

 

 

神鉄(アダマンタイト)で構成されている……違うか?」

 

 

神鉄(アダマンタイト)―――竜の鱗より遥かに高く、水銀のような流動性を内包する、古代ロマンと称される幻の魔法金属。

日緋色金(オリハルコン)真銀(ミスリル)でさえ、神鉄(アダマンタイト)を生み出す過程で生じた副産物という一説まであるほどだ。

 

 

『その通りだ。我が身体は不滅の神鉄(アダマンタイト)で出来ている。先程の【メギドの火】であろうとも……この身を滅ぼすことは叶わぬ』

 

 

魔人はあっさりとウィリアムの言葉を肯定した。

それを皮切りに、アルベルト、ハーレイ、システィーナ、セリカが攻性呪文(アサルト・スペル)を唱え、魔人にぶつけるも―――

 

 

『……』

 

 

魔人は、無傷。

直ぐ様、ツェスト男爵が白魔【マインド・ブラスト】を全力で魔人にぶつけ、その隙をついてバーナードが無数の鋼糸で魔人を縛り、リィエルが超特大剣を魔人の脳天へと叩き込み、クリストフが間髪容れず、魔人の周囲に玉式結界魔術【菫青石牢獄界(アイオライト・プリズン)】―――超重力結界を形成する。

魔人はその超重力の結界内でも悠然としており、出来上がったクレーターの側面を平然と歩いてきている。

 

 

「リィエルッ!!」

 

 

ウィリアムはその場に超特大サイズの戦槌を錬成する。

柄頭の叩く部分は直径八メトラ近くあり、中身はゼリー状のようになっている。

リィエルはその戦槌の柄を握り――――

 

 

「いいいいいいやぁあああああああああああああ―――ッ!!!!!」

 

 

【フィジカル・ブースト】全開で、全身の発条(ばね)を使い、魔人に向かって降り下ろした。

魔人はその戦槌の中にズブリ、と押し入れられ―――

 

 

「生き埋めだッ!!」

 

 

ウィリアムがすかさず戦槌の柄に触れ、戦槌の材質を全てウーツ鋼へと変え、魔人を金属漬けにする。

その魔人を閉じ込めた金属が壊れないよう、クリストフはすぐに結界を解除しようとするも―――

 

ビキッ!

 

その魔人を閉じ込めた金属からヒビが入り、そのまま破砕音と共にバラバラに砕け散ってしまった。

 

 

『……残念だったな?』

 

 

自力で脱出した魔人は、埃を手で軽く払いながら平然と告げる。

その後も無数の火球、絶対零度の凍気、乱舞する稲妻、踊り狂う風の刃、大気を焦がす爆熱、酸の雨や塊、毒の霧や槍、隕石、銃弾、神速の剣技、エネルギーの矢、石化の呪い等、ありとあらゆる攻撃をぶつけていくも、魔人の身体には傷一つつかない。

さらにセリカが黒魔改【イクスティンクション・レイ】をぶつけるも―――

 

 

『……無駄だ』

 

 

魔人は―――尚、無傷。何一つ通用しなかった。

そして、遂に魔人が攻性へと転じ―――

 

 

「ぐぉおおおおおおおおおお―――ッ!?」

 

「あ、ぐぅうううう―――ッ!?」

 

 

その攻撃により、バーナードは両腕を、リィエルは肋骨と右腕を砕かれ、吹き飛ばされていく。

さらに魔人はウィリアムにへと迫り―――

 

 

「くっ―――」

 

 

ウィリアムは咄嗟に左手の《詐欺師の盾》をかざして、魔人の拳打を受け止める。

 

 

『……チッ』

 

 

音も無く止められた拳打に、魔人は少々苛立ちを見せるも、再び霞と消え、次に現れたのは―――《盾》の防御が間に合わない、超至近距離。

迫る拳の正面に弾力性の強い参考書サイズの板を錬成するも―――

 

 

「ごはぁ―――ッ!!?」

 

 

派手に殴り飛ばされ、校舎の壁に激突する。

壁にめり込む程の凄まじい衝撃に、全身が痺れてしまい、その上拳打を受けた肋骨部分にもヒビも入り、動きが一気に鈍くなる。

魔人はそのまま、アルベルトにも襲いかかり、アルベルトは魔術と併用して辛うじて捌くも、左手に手酷い重症を負った。

その状況にルミアは自分を殺して皆を見逃すよう、魔人に懇願するも、魔人はルミアだけでなく、このフェジテを贄として滅ぼすから無意味と告げる。

そんな魔人からルミアを守るため、グレンとアルベルトは魔人と対峙し、ウィリアムも身体に鞭を入れて彼らの元へ近寄っていく。

 

 

『待ちなさい』

 

 

突如、対峙する彼らとの間に異形の翼を抱く少女―――ナムルスが突然現れる。

 

 

『む。貴女は……』

 

『“名無し(ナムルス)”よ。今世ではそう名乗ってるわ……今は退きなさい』

 

 

ナムルスは魔人にそう告げる。しかし、魔人は殺気と威圧感を放ち、要求を突っぱねようとするも·····

 

 

()()()()()

 

 

ナムルスはそう凄み、白い手を差し出すと、圧倒的な黄金の光がその手から放たれ、“黄金色に光輝く鍵”が現れる。

 

 

『その《黄金の鍵》は!?』

 

『ええ、そうよ。貴方達が持っている“紛い物の鍵”ではなく、世界に二つだけある“本物の鍵”の一つよ』

 

 

意表をつかれた魔人にナムルスはさらに言い放つ。

 

 

『今の私でも、完全消滅を覚悟すれば、マナ不足で魔将星との融合がまだ不完全な今の貴方程度なら、刺し違えるくらいのことはできるわ。それとも、ここで私と戦うつもりかしら?』

 

『……いいだろう。《■■■■・■・■■■■………》』

 

 

魔人はナムルスの要求に応じ、得体の知れない言語で、何事かを呟く。

途端、《炎の船》の船底の紋様から、無数の赤い光が放たれ、四方八方の地平線と空が真紅に染まっていく。

 

 

『……さらばだ。精々、残り少ない生を謳歌すればいい……』

 

 

魔人はそう言い残し、《炎の船》から伸びた光の柱を通って、その場から立ち去っていった。

 

 

「くそ……あいつは一体、何をするつもりなんだ……!?」

 

 

グレンの口から洩れた疑問を、ナムルスが説明していく。

今、フェジテそのものが断絶結界の中に閉じ込められ、その状態で《炎の船》から【メギドの火】を放つ魂胆とのこと。

ナムルス曰く、【メギドの火】は元々、あの《炎の船》の主砲であり、本家本元との事。

そんな絶望的な状況で、ナムルスはまだ終わってないと告げる。グレンが一矢報いた事ですぐには【メギドの火】は撃てず、今から明後日の正午までは大丈夫との事。

その間に、アセロ=イエロを打倒する方法を考えろと。

 

 

『私にはその方法がわからないけど……グレン、ウィリアム、少なくとも“貴方達はアセロ=イエロを倒せるはず”なのよ……特にグレン、“貴方は倒せなきゃおかしい”』

 

「……は?」

 

「一体、どういうことだ……?」

 

『むしろ、私の方が聞きたいくらいよ。そっちはあのアセロ=イエロが露骨に対峙するのを避けていたから、おそらくの部類だし』

 

 

そんな意味不明な事を言うだけ言って、ナムルスは歩き去っていく。

魔人が姿を消した事で誰もがその場で膝をついて脱力している状況で、ウィリアムは《盾》を杖代わりに地面を付きながら、倒れ伏しているリィエルに近寄っていき、ウィリアムは残り少ない魔力で、リィエルに応急処置を施していく。

向こうで何か怒鳴り声が聞こえるが、今はそれに向ける程の精神的余裕がない。

 

魔人との戦いは完全敗北で終わった――――

 

 

 




これでどう感じるのかな?
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八十一話

何度でも言おう。文才を私にくれぇッ!!!!
てな訳でどうぞ


魔人との完全敗北から時間が経ち、生徒達に下った緊急待機令で、不安と混乱が漂う夜にて、生徒達は学院に待機している。

そんな中、二組の面々は全員教室に集まっており、その視線の先には、グレン、ルミア、ウィリアム、リィエル、システィーナがいる。

 

 

「……話して……くれるよな?」

 

「……わたくし達も知るべき頃だと思うんですの」

 

「先生達は……何者なんです?」

 

 

全員が真相を聞くまで引かない……そんな頑な雰囲気を滲みだしている。

 

 

「……これ以上は隠せねぇか……」

 

「流石に誤魔化しきれねえし……わかったよ」

 

 

その雰囲気に観念したかのように、話し始める。

 

 

「まず……俺は、元・帝国軍の魔導士、軍人だ……退役した後、セリカの横暴でこの魔術学院の講師をすることになった……」

 

「次に俺だが……二年前まで、個人であの外道連中にケンカを売っていた……わかりやすく言えば犯罪者だ。だからその関係で先公の事は顔見知り程度で知っていた……ここで再会したのは全くの偶然だけどな」

 

 

グレンとウィリアムが明かした事実に周りは……

 

 

「まぁ、先生がそっち関係の人だって、何となくわかってたけど……」

 

「ウィリアムの方は予想の斜め上だったね……」

 

 

そんな言葉を呟く。

そして、リィエルはルミアの護衛とウィリアムの監視の為に派遣された現役の軍人。システィーナの家はルミアの預かり先だと明かしていき……

 

 

「肝心なことが抜けてませんか?」

 

 

ギイブルが少々苛立ちを露に抗議する。自分達が知りたいのはそこではないと。

 

 

「私から話します。それが義務だと思うから」

 

 

ルミアはそう言い、ゆっくりと語り始めた。

自分が元・王家の人間であり『異能者』であること。

その自身の『異能』を、天の智慧研究会が狙っていること。

自分という存在が周りを巻き込んでしまっているということ。

その全てを包み隠さず話した。

その事実を聞いたクラスの第一声は―――

 

 

「どうして、もっと早く教えてくれなかったんですの!?」

 

「えっ?」

 

 

自分達を信用してくれなかった事に対する憤りだった。

その後から上がる声もルミアそのものを責める言葉ではなく、信じてくれなかった事への呆れだったり、ルミアに同情したりと、皆がルミアを受け入れている言葉だった。

そんな彼らに、ルミアは本当にここに居てもいいのかと聞き、それに対しても当たり前だと、あっけからんと皆は笑って返す。

その光景を見たウィリアムは……

 

 

(……守りたい……)

 

 

自然と、そう強く思った。

 

 

(この暖かい、優しい世界を……あのクソ野郎の手から守りたい……ッ!)

 

 

その思いを現すように、拳を強く握り締める。

 

 

(絶対に、この世界を壊させやしねぇ……ッ!その為なら、使える手は全部使ってやる……ッ!!)

 

 

強い誓いを胸に、ウィリアムは皆と一緒に食堂へと向かっていった。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

日付が変わった真夜中。

学院の大会議室にて、対《炎の船》緊急対策会議が行われていた。

現在、フェジテは解呪(ディスペル)不可能の断絶結界に、地中深くまで囲まれ孤立状態であり、自分達だけで魔人を打倒するしかないこと。

《炎の船》はあの魔人によって『同位相異次元空間にある船を、マナでこの空間に物質化(マテリアライズ)したもの』であること。

《炎の船》の内部には、大量の飛行型ゴーレムが配備されており、おまけに解析・解呪(ディスペル)不可能な空間歪曲があるとのこと。

クリストフからもたらされた報告に、周りが絶望に沈む中……

 

 

「……船に乗り込むことは可能だ」

 

 

セリカの口からそんな言葉が呟かれた。

自分なら、それらを突破し、何人か連れていけると。

その為の準備には時間がかかり、【メギドの火】が放たれる時間までかかると。

 

 

「なんとかならないかなぁ?なぁ、ハーレイ?」

 

 

そんなセリカに鬱陶しそうにしながらも、ハーレイは条件付きで【メギドの火】を防げることを明かす。

その方法は、《力天使の盾》のエネルギー還元力場の劣化レプリカ版を、防御結界としてフェジテ上空に張るというものだ。

さらに、ナムルスが突如現れ、ルミアの真の力を使えば、内部の歪曲空間は突破できると一方的に告げる。

そして、肝心にして最大の問題である魔人を倒す方法は……

 

 

「白猫……『メルガリウスの魔法使い』で、アセロ=イエロは、どうやって倒された?」

 

「そ、それは……」

 

 

システィーナから返ってきた答えは、アセロ=イエロは突拍子もなく現れた正義の魔法使いの“弟子”が小さな棒で魔人の胸を突いたら、突然死んだという、意味不明の参考にならないものだった。

あまりにもご都合主義(デウス・エクス・マキナ)過ぎる話の内容に、グレンが頭を抱えていると。

 

 

「その魔人を倒す手段に、一つだけ心当たりがあるんだがな」

 

 

アルベルトはそう言ってグレンに視線を向ける。

周囲からも視線が集まり、グレンは微かに苦々しく表情を歪めるも、意を決し、可能性のある手段を持っていることを告げる。

そして―――

 

 

「……」

 

 

ウィリアムがおもむろに、手を挙げていた。

 

 

「ウィリアム君?」

 

「同じく進言が遅れてすいません。俺も、奴に通用する可能性がある手段を……持っています」

 

「そ、それは本当かね!?」

 

「あくまで可能性で、実際に聞いて判断する必要が当然、ありますが……」

 

 

状況を打破できるピースが揃い、それぞれの手段の妥当性を検討し、具体的なプランが打ち立てられていく。

そんな中―――

 

 

「「…………」」

 

 

グレンとウィリアムの表情は、どこか暗く、陰鬱なものであった……

 

 

 




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八十二話

·····パクリ感丸出しだなぁ······
てな訳でどうぞ


長い夜が明けた早朝から、学院にある魔術薬調合室の一室にウィリアムは引き籠り、『ダストの玉薬』を作る為の下準備をしていた。

『ダストの玉薬』は錬金術試薬を調合してできる魔術火薬。

ルーン文字を刻んだ専用の金属薬莢等も同時に作る必要があるため、早々に取りかかればならなかった。

 

 

(まさか……これに頼らざるを得ないとはな……)

 

 

そんなことを思いながら下準備を終え、ウィリアムは調合に必要な試薬の調合に取りかかる。

錬金術的に作り出された、『剥離の粉』と命名した純白の粉、『分解再結晶法』に必須の結合促進触媒。

この二つが、『ダストの玉薬』を作るのに絶対に欠かせない材料である。

昨夜の会議で、グレンの『イヴ・カイズルの玉薬』は確実、ウィリアムの『ダストの玉薬』は可能性として、魔人への対抗手段として可決された。

だから、わかっている。

この『ダストの玉薬』を調合し、使わなければならないことは。

そして、あの時の記憶が呼び起こされる―――

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

「―――完成だ」

 

 

その日、ウィリアムは魔術的隠蔽を施したどこぞの穴蔵で、ルーン文字が刻まれた金属薬莢の弾丸―――『ダストの玉薬』を完成させた。後は、その効力がその通りに発揮するのか、確認するだけだ。

 

 

「にしても……これ、銃弾としては失敗作だよな」

 

 

ウィリアムはそんなことをぼやきながら、『ダストの玉薬』が詰まった金属薬莢の弾丸を《魔銃ディバイド》に装填する。

ウィリアムはそのまま、穴蔵の外―――樹海の中へと出て、周りを見やり、一匹の熊の姿をした魔獣を見つける。

ウィリアムはその魔獣に狙いを定め……

 

 

「《一の追求(セット)》……」

 

 

呪文を唱え、撃鉄を引く。

一瞬だけ、何ともいえない、不吉な魔力が拳銃に胎動する。

ウィリアムはそのまま、魔獣へと向かい―――

 

 

―――……

 

 

『ダストの玉薬』の効力は問題無く機能した。目の前の地面には塵の山がある。その塵は魔獣だったものの塵だ。

これで、敵を殺す―――

 

 

「――え?」

 

 

ウィリアムはその思考に一瞬呆然とし、次第に身体を震わせていった。

思い返せば―――

今までは『守る』ため、『助ける』ために、魔術を学び、力をつけてきた。もう既に人を殺している時点で正義面するつもりは微塵もない。悪党、外道と罵られて当然とさえ考えている。

それでも、尊い意思は存在していた―――だが、『ダストの玉薬』には、それが一切ない。

格上の相手を確実に『殺す』―――ただそれだけの、自身の願いとは真逆の、漆黒の殺意と悪意だけで作り上げた、暗黒の結晶だった。

ウィリアムはその自身に潜んでいた悪意にこの時点で、ようやく気づいたのである。

 

 

「……あ……あぁ……」

 

 

身体を震わせながらも、辛うじて残っていた理性で、一目散に穴蔵の中へと飛び込んでいき―――

 

 

「ぅおげぇええええええ―――ッ!?げほっ!ごぼぁ―――ッ!?」

 

 

拳銃を手放し、堪らず、胃の中身を吐き出す。

次に襲ってきたのは、凄まじい寒気と恐怖。

これを使って人を殺せば、自分はどうしようもない『外道』、『殺人者』へと堕ちて、戻れなくなる。

 

 

「ぁああああああああああああああ―――ッ!?ごほぁあああああああああああ―――ッ!?」

 

 

吐瀉物を撒き散らしながら、その半狂乱の恐慌状態は、丸一日続いた―――

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

「―――ッ」

 

 

思い出した記憶に、手元が狂いそうになるも、辛うじて気持ちを抑え、深く深呼吸をする。

 

 

(落ち着け……落ち着くんだ……)

 

 

作るだけなら大丈夫だと、必死に己に言い聞かせる。二年前まで自戒のために作り、持ち続けていたのだからと、必死に考える。

そんな追い詰められたかのような心情で、必要な材料を作り続け―――

 

ガチャ

 

しばらくして、扉の開く音が聞こえた。そちらを向くと、大量の苺タルトをトレイに載せて持ってきたリィエルがいた。

 

 

「ご飯持ってきた」

 

「……なんで苺タルトばっかなんだ?」

 

 

思わずそう突っ込むも、丁度お昼だったこともあり、素直に一緒に頂くことにする。

 

 

「…………」

 

「……そんなに見つめてどうしたんだ?」

 

「……ウィル、元気なさそうに見えるけど、大丈夫?」

 

「……、……ちょっと疲れているだけだから、大丈夫だ……」

 

 

リィエルの問いに対して、ウィリアムはそんな嘘で返した。

食事を終え、リィエルは調合室を後にし、ウィリアムは作業を再開した―――

 

 

 




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八十三話

いけるかな······?
てな訳でどうぞ


―――日が沈みかけている夕暮れにて、ようやく必要な材料を作り終えた。

 

 

「ここからだな……」

 

 

ウィリアムは気を引き締めて、そう呟く。

ここまでの作業は全て準備でしかない。『ダストの玉薬』の調合作業はここからが本番である。

ウィリアムは必要な材料を調合台の上に並べていき、特殊なルーン文字が刻まれた乳鉢と乳棒、小瓶を調合台の上へと置いていく。

準備が整い、ウィリアムは『ダストの玉薬』の調合を開始する。

 

 

「“硝石を三、剥離の粉を一、粉末状にした紫炎晶石を二。それらを封爆のルーンを描くように混ぜ合わせ、同じく粉末状にした爆晶石を四、投入する―――”」

 

 

作るのは二年振りだが、淀みなく調合手順を進めていく。

 

 

「“―――作成した粉塵に、白炎綿を二、木炭とアマランスの灰を一加え、結合促進触媒を一ずつ五回投入しながら、右に三回、上下に二回混ぜ、その粉塵をルーン文字が刻まれた別の乳鉢に入れ替え、その乳鉢を軍神マルスの象徴が描かれた布の上に置く―――”」

 

 

調合作業を淡々と、無感情で進めていく。

 

 

「“―――氷晶水を三、硫黄を二、剥離の粉を一。それらを最初の乳鉢に入れ、ヴァルの印を結んだ後、水銀を一加え、左に六回ゆっくりとかき混ぜ―――”」

 

 

その後も問題無く調合を進めていき、最後の手順に到達する。

 

 

「“―――出来上がった二つの試薬を三つ目の乳鉢に静かに同時に投入し、ゆっくりと右にかき混ぜながら、呪文を唱える―――”」

 

 

ウィリアムは調合式通りに進め、仕上げに入る。

 

 

「“―――《律と理・始源と根源・五素の―――》”」

 

 

突如、『ダストの玉薬』を初めて使った光景がフラッシュバックする。

 

 

「―――ッ!!?」

 

 

その瞬間、寒気と目眩が一気に襲いかかり、思わずその場から飛び下がってしまう。

それと同時に、寒気と目眩が治まっていく。

 

 

「くそ……」

 

 

今ので調合は失敗してしまった。『ダストの玉薬』はデリケートであり、完成するまでミスは許されない試薬なのだ。

こうなった以上、最初からやり直しだ。

 

 

(だけど……作れるのか……今の俺に……?)

 

 

不意に、そんな不安が過り、初めて『ダストの玉薬』を使った、あの時の恐怖が胸中を支配していく。

 

 

(何を考えてんだ!?俺が持つ手札(カード)の中で、あの魔人に通用する可能性があるのはこれだけなんだぞ!?)

 

 

ウィリアムは自身を叱責し、再び調合台の前に座り込み、再度、調合に取りかかる。

 

 

「“硝石を三、剥離の粉を一、粉末状にした―――…………”」

 

 

…………

 

何度調合しても。

自戒の為と何度も騙し、言い聞かせても。

どうしても、最後の過程でフラッシュバックに加え、凄まじい悪寒に目眩、吐き気まで襲ってくる。

その度に、手元とマナ・バイオリズムが狂い、調合は失敗してしまう。

それどころか、調合の途中にこれらが起こる始末だ。

 

 

「ぁああああああああああああああああ―――ッ!!!」

 

 

苛立ちと恐怖、それらが混ざり合った感情を吐き出すように、調合台に拳を叩き付け、叫び声を上げる。

 

 

「ハァ……ハァ……ちくしょうが……ッ!」

 

 

何度目かわからなくなった失敗作を、荒い息を上げながら睨み付ける。

 

 

「俺は一体何をしているんだ!?使える手は全部使うんじゃなかったのか!?先公だけに全部押し付けるつもりか!?俺の覚悟は、決意はその程度のものだったのか!?」

 

 

ウィリアムは最悪な気分のまま、調合台と改めて向き合う。

材料はもう残り少ない。これ以上の失敗は許されない。

追い詰められたような表情で調合に取りかかろうとして……

 

 

「!?」

 

 

不意に気配を感じ振り返ると、扉が開いており、その扉の先にはリィエルが立っていた。手にはサンドイッチや苺タルト、魚のパイ等が載ったトレイがある。

 

 

「……いつからそこにいたんだ……?」

 

「叫んでた辺りから。遅かったから、ルミアに言われてご飯を持ってきた」

 

 

震える声で問いかけるウィリアムに、リィエルは淡々と返すも、その瞳は若干不安げに揺れていた。

 

 

「ウィル……お昼の時よりも元気がない……そんなにそれ、難しいの?」

 

「……それは…………」

 

 

心配そうに問いかけるリィエルに、ウィリアムは堪らずに白状した。

 

 

「難しいんじゃない……“びびっている”んだ……この『ダストの玉薬』を調合して……実際に使うことを」

 

 

ウィリアムはそのまま、『ダストの玉薬』が自分にとって、どういうものかを語っていく。

 

 

「これは……俺の暗黒の象徴……試しに使うまで気づかなかった、悪意と殺意だけで作り上げたものなんだ……」

 

 

その悪意を忘れ、繰り返さないために、使うことのない自戒用として作り、持ち続けた。

そして、これのコンセプトを防御に向けて作り上げたのが、魔術金属《ディバイド・スチール》である。

 

 

「これをどんな形であれ、もう一度使ってしまえば……俺は道を決定的に間違えて、戻れなくなる……そんな確信めいた恐怖と予感があるんだ……どんな力も使い方次第だというのは、理解してるんだけどよ……」

 

 

もしそうなれば。

自分を止めてくれる人間は―――いない。

だから、一度でも使えば、どうしようもないところまで堕ちていってしまうだろう。

 

 

「情けねえだろ……?自分から言い出して起きながら、これなんだからよ……」

 

「……わたしには、よくわかんないけど……」

 

 

自嘲気味に、力なく頭を下げて答えたウィリアムに、リィエルはウィリアムを見つめ、突拍子もなく告げた。

 

 

「ウィルは間違えない、と思う」

 

「……は?」

 

「……んと……うまく言えないけど……みんながいるから、多分、大丈夫だと思う……どうしてかはわからないけど……」

 

「……自分で言ってわからないのかよ……」

 

 

相変わらずのリィエルに、ウィリアムは溜め息と共に呆れ、先程までの悩みが何故か、馬鹿馬鹿しく感じてしまう。

 

 

「……とりあえずもう一度やってみる。残りの材料からして、多分、これが最後のチャンスだ」

 

 

ウィリアムはそのまま、『ダストの玉薬』の調合を開始していく。

 

…………

 

 

「“―――出来上がった二つの試薬を三つ目の乳鉢に静かに同時に投入し、ゆっくりと右にかき混ぜながら、呪文を唱える―――”」

 

 

ここまでは問題なく調合は進んだ。だけど、問題はここからなのだ。

そんな思い詰めた表情をするウィリアムに―――

 

 

「…………」

 

 

リィエルが後ろから、椅子越しでウィリアムを抱き締めた。

 

 

「……リィエル?」

 

「こうすれば落ち着くって……誰かが言っていた気がする」

 

「誰だよ、それ言ったやつ……」

 

 

若干呆れながらも、リィエルの両腕から伝わる温もりに、先程までの陰鬱な気分が霧散していく。

そして―――

 

 

「“――《律と理・始源と根源・五素の標を元に・認識せよ・我は摂理を握りしもの・粉は群の縁を解き放つもの・与えるは紡がれた縁を断ち・親密な縁へと拡げ伝える・微細な象へと帰還させるものなり・……》―――”」

 

 

リィエルから伝わる温もりからか、フラッシュバックは一度も起きず、今までの不安定さが嘘のように進んでいく。

そのまま呪文を唱え終え……

 

 

「“―――最後に専用の容器に詰めることで、『ダストの玉薬』はここに完成する”」

 

 

ルーン文字が刻まれた小瓶に詰め込み、蓋を閉める。

 

 

「……ありがとな、リィエル。お陰で助かった……」

 

「ん。ウィルの役にたててよかった」

 

 

ウィリアムのお礼に、リィエルは薄く微笑んで受け取った。

ウィリアムはそのままリィエルを見つめ……

 

 

「……お前って、ホント馬鹿だよな」

 

 

突然、失礼極まりない言葉を口にした。

 

 

「いや、イルシアも何だかんだで、突拍子もないことを言い出す時もあったし……いや、でも、イルシアのほうは学習はしていたな、うん」

 

 

そんな言葉に、リィエルは頬を膨らませ、不満げな表情になる。

 

 

「だけど……お前は学習しない馬鹿だけど、的だけはついてるんだよな……」

 

 

ウィリアムは椅子から立ち上がり、左手をリィエルの頭の上に置く。

 

 

「みんながいる……確かにその通りだったな。今の俺にはお前やグレンの先公、システィーナにルミア、それにクラスのみんなも……間違えたら、ぶん殴ってでも正して、連れ戻してくれる人達がいる。そんな大事な事を、お前に言われるまで俺は気づけなかったよ……」

 

「……」

 

「だから、俺は守りたいもんを守る為に、この『ダストの玉薬』を確かな意思と決意をもって使う。こいつであの魔人に、一泡吹かせてやるさ」

 

 

そんな穏やかな笑みを浮かべるウィリアムを見て、リィエルは胸の内が暖かくなるのを感じる。

システィーナやルミア、グレンと一緒にいる時とは違う暖かさ。

あの時以上にもやもやするけど、それ以上にすごく暖かい。

リィエルはその暖かさがもたらす衝動のまま、ウィリアムに抱きついた。

 

 

「リィエル?いきなりどうした?」

 

「……不思議とこうしたいと思った。ウィルもわたしを抱き締めてほしい」

 

 

リィエルのそのお願いに、ウィリアムは呆れた顔になりながらも、抱き締め返すことで応えた。

ウィリアムから伝わる温もりに、リィエルの表情は自然と満面の笑みへと変わっていく。

二人はそのまま、互いの温もりから湧き出る衝動のまま、抱き締めあい……

 

 

 

グゥ~~~~~~~~…………

 

 

 

……その甘い雰囲気は、二つのお腹の鳴る、情けない音で霧散した。

 

 

「……腹、減ったな……」

 

「……ん……」

 

 

何ともいえない微妙な空気が部屋一面に流れる。

 

 

「……とりあえず、お前が持って来てくれた飯を食うか」

 

「ん」

 

 

ウィリアムとリィエルはそのまま、二人で遅い夕食を食べ始めた。

そんな二人の姿を……

 

 

(ふふ……とってもお似合いだよ……二人とも……)

 

 

部屋の外から、にこやかな顔でルミアが覗き見ていた。

ルミアは穏やかな気持ちのまま、その場からコッソリと後にした―――

 

 

 




甘い?甘くない?どっち?
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八十四話

·····あまり進行してないなぁ
てな訳でどうぞ


―――ついに決戦の日が訪れる。

アルザーノ帝国魔術学院では、今日のフェジテ防衛戦のため、防衛組の生徒達にはマントコート状の『魔導士のローブ』と、細剣(レイピア)のような『魔導士の杖』を装備し、学院教師陣と共に、東西南北の各校舎に整列し、その時を待ち構えている。

 

 

 

学院校舎北館―――

 

 

「私も、このスーパー魔導人形『グレンロボ』で諸君らの力になろうッッッ!!」

 

『俺ノ生徒ニ、手ェ出シテンジャネーヨ』

 

「すごく不安だ……」

 

 

変態マスターの異名を持つ、魔導工学教授のオーウェルが用意した魔導人形に、生徒達は不安しか感じず……

 

 

 

学院校舎東館―――

 

 

『彼の妻のセルフィです♪』

 

「「「「「「「「犯罪だぁああああああああああああ―――ッ!!!!?」」」」」」」」

 

「見損なったぞ学院長ッ!?羨ましす――じゃない、許されんぞ!?このロリコンめぇええええええッ―――ッ!!?」

 

「彼女は水の精霊じゃぞ!?だから合法だ、合法!!」

 

 

リックが召喚した水の精霊の少女に、場は阿鼻叫喚となり……

 

 

 

学院校舎西館―――

 

 

「まったく、緊張感が足りん!!」

 

「まぁまぁ、おかげで、向こうは程好く緊張が解れているかと」

 

「惰弱なッ!!」

 

「ふん……」

 

 

相変わらずの神経質のハーレイを、リゼが宥め、不良生徒のジャイルはその様子を流し見……

 

 

 

学院校舎南館―――

 

 

「……」

 

「本当にあの方が、特務分室の室長なんですの?」

 

(どうせ、私なんて……)

 

 

ウェンディの陰口を、覇気の無くなったイヴは、学院の法医師セシリアによって繋ぎ治された、精神的な問題で魔力が通らなくなった左手をぼんやりと眺めながら、聞き……

 

 

 

学院中庭―――

 

 

「総大将は、相変わらず面倒臭いのう……はぁ~」

 

「バーナードさん、そう言わずに」

 

 

溜め息を吐くバーナードを、中庭に敷設された魔術法陣の中央に手をついているクリストフは宥めるが……

 

 

「……ところで、バーナードさん。それ、どうしたんです?」

 

 

クリストフは堪らず、バーナードが背負っている魔導器らしきものを指摘する。バーナードが後ろに背負っているものは―――《魔導砲ファランクス》だ。

 

 

「おお、これか!ウィル坊に頼んで貸してもらったんじゃわい!!正直、このままお持ち帰りしたいのう」

 

「···それ、金属薬莢の弾じゃないと、使えませんよね?」

 

「そうなんじゃよなあ。一応、弾は大量に持たせてもろうとるが…………。クリ坊、こいつの弾丸作れんかの?」

 

「無茶言わないで下さい」

 

 

バーナードの要望をクリストフは珍しくばっさりと切り捨て……

 

 

 

魔術学院の北、迷いの森―――

 

 

「…………」

 

 

全身をなんらかの血液で紋様を描いたセリカは、山の斜面に描いた魔術法陣の中で印を結んで座禅し、静かに瞑想していた。

すぐそばには上空を見上げるグレン、ウィリアム、システィーナ、ルミア、リィエル、ナムルスがいる。

グレンとウィリアムのそれぞれの拳銃には既に、魔人への切り札たる魔術火薬が装填済みである。

誰もが緊張するなか、ついに正午となる。

フェジテの遥か上空に浮かぶ《炎の船》の船底に真紅の光の球体が形成され、どんどん成長していき―――

真紅の光の球体―――【メギドの火】が光の速度でフェジテに落とされ―――

 

白 熱。

 

【メギドの火】が炸裂した。

しかし、その【メギドの火】はフェジテ全体を覆っている蒼く輝く魔力場が、完全に防ぎきった。

【ルシエルの聖域】―――ハーレイとクリストフ、大勢の者達によって構築された《力天使の盾》の術式を劣化レプリカで再現したエネルギー還元力場の結界が、【メギドの火】に抗する最後の切り札。

その為、この結界が維持できる間に魔人を倒さねばならない。

フェジテが無事と知るや否や、《炎の船》から無数のゴーレムが投下されていき、それらが学院へと向かっていく。

ナムルス曰く、《炎の船》に配備されているゴーレムは然程質は高くないとのこと。

そして―――

 

 

「……待たせたな、ようやくいける」

 

 

セリカは薄ら目を開けてそう告げ、静かに、何事かの呪文を唱える。

キン、という甲高い音と共に、魔術法陣と紋様が真紅に輝いき、その光がセリカを包み込む。

セリカの身体音を立てて変わっていき……

 

 

『ォオオオオオオオオオオオオオオ―――ッ!』

 

 

一体の金色のドラゴンへと、その姿を変えた。セリカは竜の血を触媒に、【セルフ・ポリモルフ】でドラゴンに変身したのである。

セリカドラゴンの背中にナムルスを除く面々は次々と背中に飛び乗り……

 

 

『―――しっかり掴まっていろよ!』

 

 

五人を乗せたセリカが圧倒的なパワーをもって、空へと翔ていった。

 

 

『……頼んだわよ……』

 

 

ナムルスはそう呟き、彼らを見送るのであった。

 

 

 




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八十五話

よくもっていると、我ながら思う
てな訳でどうぞ


飛行魔術とは比べものにならない圧倒的な加速が襲いかかる。

事前に呼吸補助の魔術を喉に付呪(エンチャント)していなければ、あっという間に高山病と呼吸困難に陥っていたところだ。

セリカはさらに暴力的に加速し、そのまま乱気流へと突撃する。

 

 

『おいおい、根性見せろよ―――ッ!』

 

 

セリカの叱咤を受け、必死にその背にしがみつき、その風圧に耐え抜き、乱気流を抜ける。

抜けた先には、あの《炎の船》が自分たちと同じ目の高さにあった。

 

 

『ッ!?……掴まってろッ!!』

 

 

セリカドラゴンが急に警告を発し、猛速度で急旋回する。

直後、《炎の船》の側面の幾つから、圧倒的な熱量を持った、真紅の極太熱線が数本、高速殺到する。

 

 

「《炎の船》の対空砲火かよッ!?」

 

 

視界が九十度傾いた状態でグレンが叫く。

魔術的視覚を強化すれば、確かに、扉のような開閉式の魔導砲らしきものが何門も設置されている。

再び熱線砲撃が放たれ、セリカが必死にかわしていく。

 

 

『チッ……まるで小規模な【メギドの火】……【マテリアル・ブラスター】の上位版だな、アレは。……こりゃ強引に突っ切れないな』

 

「なんですとぉ!?」

 

 

セリカの言葉に、グレンが素っ頓狂な声を上げる。

さらに厄介な事に、《炎の船》から大量の豆粒―――飛行に特化したゴーレムが空を埋めつくすような数で迫ってきている。

 

 

「団体様のお出ましだぁあああああああ―――ッ!?」

 

「グレン、うるさい」

 

「う、うーん……大きな星が……むにゃ……」

 

「おい!?ここで気絶してる場合か!?」

 

「システィ、しっかり!?」

 

 

てんやわんやしている間にも、無数の極太熱線は容赦なくセリカドラゴンへと放たれていく。

セリカは熱線砲撃を回避していくも、無数のゴーレム達が距離を詰めてきている。

 

 

「くそ……やるしかねぇか……ッ!」

 

「だな」

 

 

グレンの言葉にウィリアムは同意し、《魔導砲ファランクス・ミクロ》を解凍し、右手に携える。

そこから、壮絶な空中戦が始まった。

前方はセリカドラゴンの炎のブレス、背後はシスティーナの【ライトニング・ピアス】、右はウィリアムの《ファランクス・ミクロ》の雷加速弾の弾幕、左はグレンの【アイス・ブリザード】、リィエルは錬成した大剣をぶん投げて群がってくるゴーレム達を片っ端から落としていく。

そうしている間にも《炎の船》からの砲撃は止まらず、セリカを撃ち落とそうと容赦なく熱線を放ち続けている。

セリカはバレルロールしたりして、猛速度でかわし続けているが、一向に距離を縮めることが出来ない。

砲門を潰そうにも、開くのは熱線を放つ瞬間だけ。撃ってすぐ閉じる上、足を止められないからこれだけの距離でその瞬間を狙い撃ちするのはほぼ不可能だ。

このままだとセリカが限界を迎え、撤退するしかなくなる。

そんな焦りが湧き出てくる中、突如、地上から真っ直ぐ昇る雷閃が上がった。

突然の【ライトニング・ピアス】に一同が戸惑うなか……

 

 

「……セリカ、今から俺の指示するとおりに飛んでくれ」

 

 

グレンだけは合点がいったかのような顔をし、そのままセリカに《炎の船》に一度、一気に突進するように飛ぶように言ってきた。

 

 

「気が狂ったんじゃないかと思っているだろうが……頼む、信じてくれ」

 

『……私が死んだら、ちゃんと責任とれよ?』

 

 

セリカはグレンの言葉を信じ、指示どおりに《炎の船》へと猛突進する。

当然、《炎の船》から熱線が発射され、セリカは必死に避けていく。熱線は次第にセリカへと掠めていき、次の一射で撃ち落とされると覚悟した、その時。

 

 

「……あれ?」

 

『……不発か?』

 

 

とどめの一射がこなかった事にグレンとウィリアムを除く一同が不思議そうに目を瞬かせる。

 

 

「まじかよ……」

 

「やってくれると思ってたけどよ……アホかよ」

 

 

ウィリアムは唖然とし、グレンは訳知り顔で笑う。

ウィリアムは撃ち落とされると覚悟した瞬間に見たのだ。《炎の船》の砲門が開いた瞬間に、蒼い雷閃が砲門を潰したその瞬間を。

こんな芸当ができるのは、アルベルトしかいない。

その後もグレンが的確にセリカを誘導し、《炎の船》が砲門を開いたその瞬間に、蒼い雷閃が破壊していく。

《詐欺師》時代にもし、グレンとアルベルトが一緒に襲ってきていたら、捕まっていたなと、ウィリアムは戦慄しながらあるものを錬成していく。

その間にも、ゴーレム達が群がるように迫ってきているが……

 

 

「えい」

 

 

ウィリアムが錬成した、刀身が爆晶石で構成された大剣を、リィエルが勘で的確に大量に巻き込むようにゴーレム達へと次々と投げ飛ばしていき、容赦なく吹き飛ばしていく。

その光景をシスティーナが何故か呆れ半分、悔しさ半分で眺めている。

やがて、《炎の船》の砲が全て潰され―――

 

 

「突撃ぃいいいいいいいいい―――ッ!!」

 

 

グレンの雄叫びと共に、セリカドラゴンは《炎の船》へと突撃するのであった。

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

地上では―――

 

 

「《術式起動(ブート)爆破炎弾(ブレイズ・バースト)》ッ!」

 

「《術式起動(ブート)貫通雷閃(ライトニング・ピアス)》ッ!」

 

「《術式起動(ブート)凍気氷嵐(アイス・ブリザード)》ッ!」

 

 

生徒達は《魔導士の杖》に組み込まれている軍用魔術の弾幕でゴーレム達を撃ち落とし、講師達も持てる力を駆使してゴーレム達を撃ち落としているなか……

 

 

「ヒャッハァ――――――――――ッ!!」

 

 

バーナードはワイヤーアクションによる変態機動でマスケット銃の魔術弾や、鋼糸、魔闘術(ブラック・アーツ)、ウィリアムから借りた《魔導砲ファランクス》を駆使して、校舎に群がるゴーレムを片っ端から解体しまくっていた。

それらの光景を、《炎の船》の最奥にいる魔人は忌々しげに、眺めていた―――

 

 

 




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八十六話

梅雨がきあなぁ······
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「……着いたぜ!」

 

 

《炎の船》へと到達し、セリカドラゴンの背から飛び降り、メイン甲板に降り立ったグレンが叫ぶ。

《炎の船》は、言葉で表すなら、マストと帆のない巨大な戦列艦であり、使われている材質も一切不明の紅い石のような金属で造られており、表面全体に奇妙な幾何学紋様や文字がびっしりと刻まれている。

ここまで運んでくれたセリカは活動休眠状態に移行し、セリカを除く一行は先の構造物を目指して駆け出す。

誰もいない甲板をしばらく駆け続け、幾何学構造物の門が目前に迫ったその時―――門の傍に、人がいた。

 

 

「誰だ……ッ!?」

 

 

一目でもう死んでいるとわかるほど、左胸に大穴を開け、壁を背に倒れている人物は―――ジャティスだ。

グレンは驚愕しつつも、慎重にジャティスの遺体を検分していき……

 

 

「ジャティスだ……まごうことなき本人だ……」

 

「ほ、本当に……ッ!?」

 

 

信じられないとばかりに、言葉を失うシスティーナにグレンは頷いて肯定する。

魔人を一人で討つつもりだったのか、別の目的かはわからないが、確実なのはジャティスは間違いなく死んだということ。

ブレイクがいないのは少々気にはなるが、今は先に進むべく、一同は門をくぐって船の内部へと潜入する。

内部を少し進むと、一行はいつの間にか、壁も通路も床も無い、以前、タウムの天文神殿で通った《星の回廊》に似た奇妙な空間の中にいた。

ルミアがしずしずと前に出て……

 

 

「《門より生まれ出づりて・空より来たりし我・第一の鎖を引き千切らん》……」

 

 

不思議な響きの呪文を唱えた。

その直後、ルミアの祈るように組んでいた両手が銀色に輝き始め、そこから一本の、ナムルスが見せた《黄金の鍵》と瓜二つの、白銀に輝く“鍵”が現れる。

 

 

「―――応えてッ!《銀の鍵》ッ!」

 

 

ルミアがその《銀の鍵》を、何かを差し込むような仕草で前へと突き出して……くるりと回す。

すると、ガラスが砕けるような音と共に、空間がばらばらに砕け散り、ごくごく普通の通路となる。

目の前の人知を超えた現象に呆然とするなか、ルミアは“鍵”について説明していく。

この《銀の鍵》はナムルスが一日限定で使えるようにした、ルミアの真の力とのこと。

“空間を支配し、操る力”がこの《銀の鍵》にあること。

そして、この力についてはそれ以上はわからないとのこと。

この力を使って皆を命に代えても守る為に戦うとルミアは宣言するが……どこか、危うい。

そんな不安のなか、通路の奥からゴーレムの群れが押し寄せてきた。

ルミアは虚ろな瞳で、《銀の鍵》をゴーレム達に向けた……その時。

 

 

「やめて」

 

 

リィエルが、敵を見据えながら、ルミアの手を掴んでいた。

 

 

「よくわかんないけど……ルミア、お願い……もっと、自分を大事にして?」

 

「…………」

 

 

リィエルの懇願に対し、ルミアは……無言。

覚悟を決めた聖者のような顔をするだけだった。

そんなルミアを、リィエルは微かに痛ましく流し見て……

 

 

「わたしがやる」

 

 

その宣言と共に、リィエルはゴーレムの群れへと正面から突貫していった。

 

 

「くそッ!」

 

 

ウィリアムは直ぐ様、リィエルの援護行動へと移り、直ぐ様小銃(ライフル)を錬成し、雷加速弾と、具現召喚した数体の【騎士の誇り(ナイツ・プライド)・銃兵】による銃撃でリィエルを援護していく。

ゴーレム達を適当に蹴散らした後、船内の廊下を駆け抜けていくも、廊下の前後から隊列を組んだゴーレム達が迫ってきている。

前方のゴーレム達を、リィエルとグレンが、斬撃と拳打で一時的に足止めし、二人が離脱してすぐ、システィーナの真空の刃―――黒魔【エア・ブレード】とウィリアムが具現召喚した、帯電している甲冑騎士―――人工精霊(タルパ)騎士の誇り(ナイツ・プライド)・雷兵】の爆ぜる雷撃で、前方のゴーレム達を一気に殲滅する。

そのまま流れるように後方のゴーレム達へと振り向くと、ルミアが一人で、そっちへと歩み寄っていた。

 

 

「ルミアッ!下が―――」

 

 

グレンが警告を発しようとした―――その瞬間。

ルミアは《銀の鍵》を前に差し出し、がちり、と回すような仕草をする。

その瞬間、ゴーレム達がいる廊下の風景が、光の枠で長方形型に切り取られ、そのまま回転扉のように回転する。

回転が終わると、ゴーレム達だけが、その場から消え去っていた。

その“異常過ぎる力”にぽかんとしていると、ルミアが、彼らを異次元空間に追放したと説明する。

 

 

「……私も戦います。そして、皆を守ります。この命に代えても……」

 

 

そんなルミアに、グレンはもう《銀の鍵》を使うな、もっと俺達を頼れというも……

 

 

「それじゃ駄目なんです」

 

 

ルミアは頑なに聞かなかった。

 

 

「……私が……皆を助けないと……そのためなら―――」

 

「ルミア」

 

 

そんなルミアの言葉を、ウィリアムが若干、怒気が宿った声で遮る。

 

 

「お前は、自分が犠牲になって救えば、皆が喜ぶと本気で思っているのか?お前がいなくなった後、俺らやクラスの皆がどんな気持ちになるか、わかっていってんのか?」

 

 

ウィリアムの詰問に対し……

 

 

「…………」

 

 

ルミアは……無言。

その揺るぎない高潔な決意に満ちた表情を、一片足りとも変えなかった。

これ以上問答する暇はない為、ルミアを除く一同は苦い気分で先へと進んで行く。

先の戦闘から、敵の攻勢は嘘のように止まっている。

その不気味さに、一同は警戒しながら進んでいると……

 

 

「せ、先生っ!」

 

「どうした!?」

 

「すみませんっ!あの魔人は、《炎の船》内部の空間を自由に操れることを、今思い出したんです!!」

 

 

システィーナの警告で一同は気づいた―――ルミアがいなくなっていることに。

焦燥にかられるシスティーナをグレンが宥め、一同はルミアに追い付くため、再び駆け出し始める。

その頃―――

 

 

『―――その命、貰い受けるッ!』

 

「―――私が貴方を滅ぼします……この命に代えてもッ!!」

 

 

ルミアは一人、魔人と対峙し、激戦の火蓋を切っていた。

 

 

 




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八十七話

連続投稿です
てな訳でどうぞ


「……クソッ!切りがねぇッ!!」

 

「いいいいいいいやぁああああああ―――ッ!!」

 

 

グレンと拳打と、リィエルの剛閃が、津波のように押し寄せるゴーレム達を蹴散らし―――

 

 

「いけッ!!」

 

「《集え暴風・戦槌となりて・撃ち据えよ》―――ッ!」

 

 

ウィリアムの【騎士の誇り(ナイツ・プライド)・風兵】の突風と【騎士の憤怒(ナイツ・フューリ)】の爆撃に雷加速弾、システィーナの【ブラスト・ブロウ】がさらにゴーレム達を吹き飛ばし、砕いていく。

 

 

「くそったれッ!!完全な消耗戦じゃねぇかッ!」

 

「まったくだッ!!どこまで行けばいいんだッ!?ド畜生ッ!」

 

 

グレンとウィリアムは苛立ちげに、果てしなく続く単調な直線通路を睨み付ける。

ゴーレム自体は大した強さではないが、ゴールが見えずずっと戦い続ければ、長くは保たない。

 

 

「飽きた」

 

「おそらく空間が歪んでいるんです……もうどこにも……」

 

「くそっ!」

 

 

苛立ちをぶつけるようにゴーレム達を吹き飛ばしていくも、状況の改善には全く繋がらない。

そんな状況がしばらく続き……

 

 

『……って……ない……!あの子を……ッ!?』

 

『お……を……ようと……あ……悲しそう…顔でッッッ!!』

 

 

不意に、誰かの声が聞こえ、一同は動きを止める。

そのまま、耳を澄ませると……

 

 

『ルミアァアアアアアアアアア―――ッ!!!負けるなぁああああああああ―――ッ!!!』

 

『また、皆で一緒に、学院に通いましょうッ!!』

 

『絶対、生きて帰ってこぉおおおおおおおおおい―――ッ!!!!』

 

 

聞こえない筈の、地上にいる生徒達の、ルミアを応援し、帰りを待っている叫びが聞こえてきた。

そして―――

 

 

『嫌だッ!自分を失いたくないッッッ!!!帰りたい……大好きな皆がいるあの学院に帰りたいよッッッ!!!!!!』

 

 

ルミアの、本心からの、強烈な思いの声も、届いてきた。

 

 

『……“皆と一緒に生きたい……私が大好きな、優しいこの世界で”―――』

 

 

その願いが聞こえてきた直後、目の前に巨大な『門』が現れ、開いていく。

グレン達は直感的に、あの『門』の向こうの先にルミアがいると感じ、躊躇いなく『門』を潜り、光の道を駆け抜け―――

 

 

「ルミアぁああああああああああ―――ッ!!!」

 

「悪い、遅くなったッ!!!」

 

「遅れてごめんッ!!」

 

「後は任せてッ!!」

 

 

グレン、ウィリアム、システィーナ、リィエルの順に光の道を抜け、ルミアと魔人がいる大広間に躍り出て、ルミアを守るように魔人と対峙する。

 

 

『馬鹿な……ッ!?貴様らは次元の狭間に追放したはず……そんな不完全な状態で連れ戻せるはずが……ッ!?』

 

『だから、言ってるでしょう?……人間、舐めすぎだって』

 

 

何故かこの場にいるナムルスが、狼狽える魔人にそう告げる。

 

 

「行くぞッ!システィーナッ!ウィリアムッ!リィエルッ!」

 

「はいッ!」

 

「おうッ!」

 

「んッ!」

 

 

グレンを先頭に彼らは勇ましく身構える。

そんな彼らに、ルミアも、一緒に戦うと言い、両手から黄金の光が溢れ出し、その光が、降り注ぎ―――宿っていく。

 

 

「今の私なら、《王者の法(アルス・マグナ)》を触れずとも、先生達に付与できますッ!!」

 

『なん……だとぉ……ッ!?なぜ……その領域に至れ……ッ!?』

 

 

相変わらず狼狽える魔人に、グレンが火蓋を切るように、壮絶な魔力を宿した拳を振り上げ―――突進していく。

魔人は嘲りながら、正面から拳をぶつけ合うも―――

 

 

『な……ッ!?』

 

 

拳同士は拮抗し―――砕けない。その現実に驚愕する魔人に、同じように突進していたリィエルが、錬成した大剣を剛閃し、魔人を吹き飛ばす。

魔人を吹き飛ばしたリィエルの剣もグレンの拳同様、全く砕けず、曲がってすらいない。

 

 

『一体何がどうなって―――』

 

「これでも喰らっとけッ!!」

 

「《集え暴風・戦槌となりて・撃ち据えよ》―――《打て(ツヴァイ)》ッ!《叩け(ドライ)》ッ!」

 

 

吹き飛んでいく魔人に、ウィリアムとシスティーナが、雷加速弾の連射と【ブラスト・ブロウ】の三連撃で容赦なく打ちのめしていき、滑稽な人形のように踊り狂わせる。

さらにグレンとリィエルがそんな魔人に追撃し、一方的に押さえ込んでいく。

そして、頭上に展開されている地上の映像も、地上制圧の切り札である巨人ゴーレムが、まだ動ける学院の教師と生徒、特務分室メンバー達の反撃によって同様に動きを押さえ込まれている。

 

 

『オノレェエエエエエエエエエエエ―――ッ!!!』

 

 

魔人は苛立ちげに黒い斬撃を放つが、既に開放、浮遊状態に起動していた《詐欺師の盾》によって容易く防がれる。その隙をつき、魔人は後ろへと跳び下がり、グレン達と距離を取る。

 

 

『何故だッ!?私は人間共など歯牙にもかけぬ至高の存在になった筈だ!!なのに何故、ここまで食い下がられる!?私には禁忌教典(アカシックレコード)を―――真なる神を大導師様に捧げる、崇高なる使命があるのだッ!!!その邪魔をするなァアアアアアアアアアアアアアア―――ッ!!!』

 

「テメェのいうそれが何なんかはさっぱりだけどよ……」

 

「馬鹿騒ぎは……これで終いだ」

 

 

グレンとウィリアムは、肩を並べるように、狂乱する魔人の正面に向き直り、互いに拳銃を抜く。

そして、グレンは両手で握って頭上に掲げ、ウィリアムは右手でぶら下げたまま、とある呪文を同時に唱えながら、親指で撃鉄を引いた。

 

 

「《0の専心(セット)》……」

「《一の追求(セット)》……」

 

 

それぞれの拳銃に、何ともいえない魔力が胎動する。

 

 

『……なんだ、それは?』

 

「あんたをぶっ倒す、切り札だ」

 

『……私を倒す、だと?……くくくく……通用すると思うのか?この神鉄(アダマンタイト)の身体に』

 

「……どうだか」

 

「やってみなけりゃ、わかんねぇだろ」

 

 

グレンとウィリアムのその言葉を、魔人は虚勢と受け取り、全員この手で皆殺しにしてから、【メギドの火】でフェジテを焼き払うと宣言し、闇の力を高めていく。

だが……

 

 

「なぁんか、相当頭にきてるようだけどよぉ……」

 

「ふざけんなよ?俺の生徒に手を出されて、怒ってるのはこっちの方なんだぜ?」

 

『……ッ!?』

 

 

グレンとウィリアムは不思議な威圧感を放ちながら、銃口を魔人へと向ける。

魔人は、一瞬言葉を失うも、見下したように笑い、闇の闘気を高めていき―――

 

 

『死ねッ!人間んんんんんんん―――ッ!!!』

 

 

神速の動作で、グレンとウィリアムに目掛けて、突進を開始する。

ルミアの《王者の法(アルス・マグナ)》のアシストにより、二人は魔人の動きを捉え、真っ直ぐ突っ込んでくる魔人に、標準を合わせ、引き金を引く。

互いの魔術火薬によって発射された弾丸は、魔人の胸部へと突き進み……

 

カカンッ!

 

 

「「――ッ!?」」

 

 

あっさりと、弾かれる。

 

 

『奢ったな、人間ッッッ!!』

 

 

その結果に、魔人は勝利を確信し、さらに距離を詰めて行く。

距離を詰めていく魔人に、リィエルが大剣を振りかざして飛びかかり、システィーナが【ライトニング・ピアス】を放つも、魔人はあっさりと手刀で弾き返していく。

魔人はそのまま、距離を詰めようとし―――

 

 

「《一の追求(セット)》ッ!」

 

 

ウィリアムが再び呪文を唱えて撃鉄を引き、前に踊り出ている事に気付く。

 

 

『愚かなッ!!』

 

 

魔人はやけくそと判断し、右の手刀を振るおうとして―――気づいた。

ウィリアムの持つ拳銃の銃口から伸びるように、一本の刃があることに。

 

 

「食らっとけ――固有魔術(オリジナル)詐欺師の(ディス)―――」

 

 

そのまま、魔人の右腕と突き出された拳銃の刃の先がぶつかった瞬間―――

 

 

「――騙し討ち(パージョン)】―――ッ!!」

 

 

ウィリアムは引き金を引いた。

すると、信じられない事が起きた。

『ダストの玉薬』に着火した瞬間、拳銃の刃が魔人の右腕に、絶対不滅の神鉄(アダマンタイト)で構成された、その右腕に、()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 

『―――ッ!?!?』

 

 

あり得なざぬその現実に、魔人は驚愕し、その動きを止めてしまう。

硬直する魔人に、いつの間にか魔人に近づいてたグレンは、拳銃を胸部にへと突き立てる。

 

 

『ッ!?』

 

「終わりだ――固有魔術(オリジナル)愚者の(ペネト)―――」

 

 

 

その時、システィーナは気づいてしまった。

グレンが拳銃で―――()()()()で魔人の胸部を突く光景と、ウィリアムが《詐欺師の盾》と銃口から刃が生えた拳銃―――全てを防ぐ碧き盾と、()()()()()()を持っていることに。

彼らはまるで―――

 

 

 

「――一刺し(レイター)】ァアアアアアアアアアアアアアア―――ッ!!!!!」

 

 

裂帛の気迫と共に、グレンは引き金を引く。

『イヴ・カイズルの玉薬』によって発射された弾丸は―――

 

魔人の身体を、まるで幽霊のようにすり抜けていった―――

 

 

 




貫通した理由については次話で
だけど、納得できるかなぁ······?
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八十八話

よく投稿するなぁ······
固有魔術に関する、この説明で納得いくかも疑問である
てな訳でどうぞ


『馬鹿な……』

 

 

魔人は信じられないといった様子で声を震わせて後退していく。

その間にも、ウィリアムの刃に貫かれた右腕が、刺し貫かれた箇所から徐々に粒子となり、崩れていっている。

 

 

神鉄(アダマンタイト)は不滅の金属……何者にも滅ぼせぬ、世界最高の神の金属……その筈なのに……ッ!?』

 

 

魔人は、その穴からボロボロと崩れ拡がっていき、崩れ落ちた右腕と、同様に崩壊していく左手を見―――

 

 

『何故、私が滅びるのだッ!?貴様ら、一体、何をしたぁあああああああああああああああああ―――ッ!?』

 

 

堪らずに叫び声を上げる。

 

 

「……別に?魔術特性(パーソナリティ)で攻撃しただけだが?」

 

 

そんな魔人に、ウィリアムはそのタネを明かす。

 

 

『……は?』

 

「【愚者の一刺し(ペネトレイター)】……『イヴ・カイズルの玉薬』によって発射された弾丸は、“あらゆる物理エネルギー変化が停止”し、同時に、“あらゆる霊的要素に破滅の停滞”をもたらす」

 

「俺の【詐欺師の騙し討ち(ディスパージョン)】……『ダストの玉薬』によって直接衝撃を与えた物体に、“あらゆる構成要素に喪失の分解”と、“その効果を伝搬する構築”の効力をもたらす」

 

『ま、まさか……ッ!?』

 

「そのまさか。先公の弾丸は霊体のみを撃ち抜き……俺の刃は食らわせた対象の統一性を喪わせる……あんたの神鉄(アダマンタイト)自体に損傷はないんだよ」

 

『―――ッ!?』

 

 

その説明に魔人は絶句する。

霊体と肉体は重ね合わせで出来ており、統一性を喪うということは対象に傷が付くということ。どちらも不滅の神鉄(アダマンタイト)に対して不可能だ。

だが―――どちらの固有魔術(オリジナル)もそれを可能とした。グレンの魔弾は防御を無視し、ウィリアムの魔剣はその形そのものを崩すことによって。

 

 

「ただ、どちらもある欠点があってな……俺の魔弾は外界に晒されると、効力が刹那の間に急激に失うし、ウィリアムのにいたっては着火した、その一瞬のみしか発揮しないんだとよ」

 

「つまり、俺らの一撃はこうするしか使えないんだよ」

 

魔人はこの時、完全に一杯くわされた事に気が付いた。

銃としてあり得ない行動―――零距離射撃と銃口の刃を最初から実行すれば、流石に何かあると警戒する。

だから先に無意味な攻撃を放ったのだ。通用しないと錯覚させ、油断させる為に。

 

 

『あ、あり得ぬ……この私が……アセロ=イエロが滅びる等…………そ、そうか……思い出したぞ……貴様らは……ッ!?貴様らは……あの……うぉおおおおおおおおおおおおお―――ッ!?』

 

 

魔人は断末魔を上げながら、真っ黒な爆光に包まれて、四散し、呆気なく消滅した。

三人娘が沈黙する中、グレンとウィリアムはぼそりと言う。

この固有魔術(オリジナル)は、相手がどんな防御を構えていても関係なく殺す、その為に作った、自分の悪意と殺意の塊の術だと。

愚者の一刺し(ペネトレイター)】に【詐欺師の騙し討ち(ディスパージョン)】。

どちらも相当皮肉が効いた名称だ。

愚者の考えなしの一撃は、時に賢者のあらゆる知恵をもってしても防げず、詐欺師に一度騙されると、賢者ですら被害が出るまで気づかない。

三人はなんて声をかけたらいいか分からず、戸惑っていると。

 

 

「まぁ、だけど……」

 

「ルミアを守れた!それでいいよなっ!?」

 

 

グレンとウィリアムは、吹っ切れたかのような、清々しい笑顔で振り返っていた。

グレンはルミアに近づき、我が儘でいいと、皆で幸せを掴める方法を考えようと告げ……

 

 

「さぁ、一緒に帰ろうぜ?」

 

 

グレンのその言葉で、ルミアは大粒の涙を流しながらグレンへと抱きついた。

その光景を、ウィリアムは微笑み、リィエルとシスティーナは涙ぐみながら見守っていると、《炎の船》が激しく揺れ始め、そこかしこが、光の粒子となって、崩壊を始めていく。

ウィリアムは裏技ではなく正規手順で、青白い幽体の蛇のような生物―――東方に伝わる『龍』の姿をした人工精霊(タルパ)を具現召喚し、その背にまたがる。

続いてリィエル、システィーナもビクビクしながらその背に乗り―――

 

 

「先公ッ!早くしないと置いていくぞぉッ!?」

 

「薄情な事言うなぁッ!?」

 

 

グレンとルミアも慌ててその背に乗り、グレンはナムルスも呼ぼうとしたら、当の本人はいつの間にか姿を消していた。

一同はそのまま、脱出するため、その場を離れていった―――

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

アルザーノ帝国魔術学院の北にあるアウストラス連峰。

その山々の一つである、万年雪の降り積もった、山頂付近の殺風景な場所に―――

 

 

『はぁ……ッ!はぁ……!危なかった……ッ!』

 

 

魔人―――ラザールは生きていた。

ラザールはあの時、自分の身体を霊体化し、グレンの魔弾とウィリアムの魔剣で犯された箇所を抉りとって大量に放棄し、《炎の船》のマナを回収し、そのマナで霊魂を補填した。

再び物質化した身体はすこぶる絶不調。特に右腕は構成する要素をウィリアムの魔剣によって喪っているため、肘から先は失われた状態だ。

だが―――存在は辛うじて保てている。

 

 

『まだだ……私はこの世界に、確たる“神”の―――』

 

「―――存在を見出だす。随分と的外れな事を考えますなぁ」

 

 

ラザールの言葉を継ぐように突如、男の声が遮った。

ラザールが声がした方向を向くと、そこに居たのは、ブーツにマント、羽付き帽を纏った中年男性―――ブレイクだった。

 

 

「まったく、今の貴方は二百年前の貴方より醜く―――弱い」

 

『なん……だとぉ……ッ!?』

 

「神は千差万別……正義の女神、時の女神、戦の神、邪神……貴方がかつて信仰した全智全能の神……人の数だけ神がいるもの。そもそも信仰は人が迷わず生きていくための道標。心の拠り所なのですよ?」

 

『貴様は一体何が言いたいッ!?』

 

「結論を申しますと、貴方が最初に信じるべきは禁忌教典(アカシックレコード)ではなく、己の歩んだ道だったのですよ。だが貴方は己の歩んだ道から答えを出さず、ポッと出の……与えられた答えにすがりついた……その時から貴方の『美しさ』は失われたのですよ。邪神に殺された妻子も、今の貴方を見たら嘆くでしょうな?」

 

『言わせておけば……ッ!!』

 

 

ラザールは憤怒に身を焦がし、構えていくも、ブレイクは涼しげな表情を崩さない。

 

 

「貴方を始末するのは我輩ではない。貴方の後ろにいる《正義》ですぞ?」

 

『何……ッ!?』

 

 

ラザールが不意に気配を感じて後ろを振り向くと、あり得ない現実―――この手で殺した筈のジャティスが二の足でそこに立っていた。

 

 

『何故貴様が生きているッ!?まさか、『Project:Revive Life』―――ッ!?』

 

「そんなわけないだろう……僕は正真正銘、ジャティス=ロウファン本人さ」

 

 

狼狽えるラザールに、ジャティスは自身の存在の本質である己の霊魂を二つに割り、錬金術で用意した肉体に容れ、己の存在を二つに分けていたと説明する。

信じられないと吠えるラザールに、ジャティスはそれが『正義』だからとあっさりと言う。

 

 

「己の信念に命を賭す……何らあり得ない話ではないでしょう?まあ、己を捨てた貴方にはもう分からぬ事でしょうが」

 

 

ブレイクの言葉にラザールは苛立ちながらも、神速の動作で左手の手刀を振るい、ジャティスの肘から先の左腕を斬り落とす。

その直後、あの時殺したジャティスの血で汚れた部分の左腕が、禍々しく輝き、粒子となって解けていき……ジャティスの左腕へと集まり、新たな左腕として形成されていく。

 

 

「さあ、ラザール。刑の執行時間だ」

 

 

ジャティスは神鉄(アダマンタイト)で構成された左手の甲から、黒い剣―――神鉄(アダマンタイト)の剣を携え、ラザールへと近づいていく。

右腕を喪い、左腕を奪われたラザールは奥底から湧き出る恐怖から逃れるように、その場から逃げ出そうとするも、ジャティスはそれよりも早くラザールを斬り刻む。

 

 

『あ……ぁあ……』

 

 

バラバラに斬り裂かれたラザールは、そのまま黒い霧状に蒸発し、消滅していった。

 

 

「いやはや、見事なお手前ですなぁ!!」

 

「……ふん」

 

 

ブレイクの賞賛を、ジャティスは不満げに鼻を鳴らして返す。

 

 

「おやぁ?フェジテが丸々無事だと“読めなかった”のがそんなに悔しげでしたかな?」

 

「……分かってて言う君に対して苛立っているんだよ」

 

「ええ分かってますとも。貴方はグレン殿に賞賛と羨望を抱いている事も。我輩に今すぐ『正義』を執行したいという事も」

 

「……」

 

「だが、我輩にはまだ利用価値があり、我輩が手にした“面白いもの”から、我輩の判決を保留にするのも分かってますぞ!!」

 

「本当に人を苛立たせるね……」

 

「これぐらいでなければ、『美しさ』を観察出来ませんからなッ!ふはははははははははは―――ッ!!!」

 

 

陽気に笑うブレイクを尻目に、ジャティスは苛立ちを隠さずに下山し、ブレイクもそれに追従する。

彼らの行き先は……誰も知らない。

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

セリカドラゴンの背に乗って地上に帰ってきた彼らを迎えたのは―――

 

 

「「「「「皆、お帰り―――ッ!!!!!!!」」」」」

 

 

学院の生徒達の大歓声あった。

セリカが中庭に降り立つと、二組全員が集まり、大はしゃぎで囲んでいく。

その直後、セリカの変身魔術が解け、一糸纏わぬ姿となって別の意味で大騒ぎにもなったが、それでも、確かに全員無事にこの学院へと帰ってきた。

 

 

「さぁ、このグレン=レーダス超先生を、救世主様と崇め奉るがいいッ!!!ぎゃっはははははははは―――ッ!!!!!」

 

 

相当ハイテンションで調子に乗っていたグレンは、生徒達から胴上げされることとなり……

 

 

「「「「せーのっ!わっしょぉおおおおおおおおおおおおいい―――ッ!!!」」」」

 

「――ぁああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ―――ッ!?」

 

 

身体強化された全力胴上げで、空の彼方へと打ち上げられていった。

そんな光景をウィリアムは呆れた表情で眺めていると。

 

 

「あれ、楽しそう……一緒にやってもらお?」

 

「ちょっ……おいッ!?」

 

 

リィエルはそう言って、ウィリアムの腕を引っ張って、グレン達の方へと向かっていく。

ウィリアムはそのまま、連れて行かれて……

 

 

「おっ!ウィリアムッ!!お前も胴上げしてやるぜ!?」

 

 

カッシュを筆頭に、二組の男子生徒達がウィリアムの身体を持ち上げていく。

 

 

「……一応聞くが、何で強化したまま、胴上げしようとしてんだ?」

 

「そりゃあ勿論……」

 

「「「「吹き飛べ、リア充ッ!!!!!!!!!!」」」」

 

「ふっざけんなぁあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ―――ッ!!!!!」

 

 

グレン同様、空へと打ち上げられたウィリアムは、怒声の雄叫びを上げる。

しかし、その顔はどこか、呆れながらも笑っていた―――

 

 

 




これにて原作十巻は終了です
オリジナルを少し挟んでから原作十一巻に入ります
オリジナル話のヒントは·····家である
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幕間二・居候とベッド
八十九話


オリジナル話です
とりあえず········ブラックコーヒーを用意したまえ
てな訳でどうぞ


バーナードに貸していた《魔導砲ファランクス》を回収したウィリアムは現在、深刻な問題に直面していた。その問題は……

 

 

「家がない……」

 

 

そう、家がないのである。

ウィリアムの住んでいた家は、連中の自爆攻撃のせいで木っ端微塵に吹き飛んだため、ホームレス一歩手前である

生徒会長のリゼに学院の宿泊施設を借りられないか聞いてみたが、哀れまれながらも出来ないと言われてしまった。……制服と教材一式は無償で支給してくれるよう手配してはくれたが。

学生寮も満室状態。さらに最悪な事にあの辺りも再開発地区の候補に上がっていた為、彼処に新しく家を建て直す事も出来そうにない。

土地は買い取られるだろうが、新しく家を買い直したり、一緒に吹き飛んだ私服や生活用品も買い直さなければならない。軽く費用を見積もっても……

 

 

「……足りるかなぁ?」

 

 

ぶっちゃけかなりキツい。今後の生活や学費も考えるとますますキツい。宿やアパートを借りるにしても、決して安くない出費がかかる。

その現実に頭を悩ませていると……

 

 

「?ウィル、何でそんなに頭を抱えているの?」

 

「随分と辛気臭い顔をしているわね。ウィリアム」

 

 

リィエル、システィーナが話しかけてきていた。

ウィリアムは溜め息と共に、自身の現状を説明し……

 

 

「……という訳でホームレス一歩手前の状態だ」

 

「ア、アハハ……」

 

 

一緒にいたルミアも苦笑いするしかなかった。

もう自然公園で野宿するしかないかな、とウィリアムが考えた矢先―――

 

 

「だったら、ウィルもシスティーナの家に住めばいいと思う」

 

「ぶほぉ―――ッ!?」

 

 

リィエルが斜め上のまさかの発言をし、ウィリアムは思わず吹き出してしまう。

幾らなんでもそれはまずい。色々と、本当に色々とまずい。具体的には、あの親バカなシスティーナの父親が襲いかかってくるという危険が付きまとう程に。

それがなくとも、少女三人が住んでいる家に野郎一人が新しく住む等、それだけでアウトだ。

ウィリアムはリィエルに諦めてもらうよう、システィーナとルミアに懇願の視線を向けるも……

 

 

「この場合は……仕方が、ないのかしら……?」

 

「さすがに野宿させるよりかは……マシ……なのかな……?」

 

 

まさかの前向きな検討発言。

ウィリアムはそのまま、なし崩し的に、フィーベル邸への居候が決定してしまった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

「一緒に寝よ?」

 

「さすがにアウトだバカヤロウ」

 

 

フィーベル邸にあった服を借り、割り当てられた部屋で寛いでいたウィリアムは、部屋に訪れた寝間着姿のリィエルの開口一番の言葉を、速攻で却下した。

 

 

「なんで?」

 

「なんで?じゃない。兎に角、さすがに夜、一緒に寝るのは駄目だ」

 

「むぅ……」

 

 

リィエルは不満げに頬を膨らませるが、駄目なものは駄目なのだ。

そんなリィエルをシスティーナとルミアに引き取らせ、ウィリアムは部屋の扉の鍵を閉めて就寝についた。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

―――夜が明けた早朝。

 

 

「……んお…………」

 

 

目を覚ますと、最初に映ったのは見知らぬ天井だ。昨日、フィーベル邸に居候する事になっていたと思い出し、身体を起こそうとして―――左腕が妙に重い事に気づく。しかも暖かい。

 

 

「ん……ッ!?!?!?」

 

 

ぼんやりとした思考のままそちらを向いたウィリアムは、それを視界に納めた瞬間、一気に眠気が吹き飛んでいった。

何故なら―――

 

 

「すぅ……」

 

 

その左腕に抱きつくように、リィエルが隣で寝ていたからだ。

ウィリアムは部屋の扉を急いで見ると、扉にある筈の鍵をかける部分が、円状にくり抜かれたかのように消えており、錠としての機能を損ない、扉は開いていた。

ウィリアムは扉の状態から、リィエルは力任せに壊したのではなく、その部分を錬成の素材として抜き取ったという事に気づく。

まさかの頭脳プレイに戦慄していると……

 

 

「…………ん……おはよう、ウィル……」

 

「おはよう、じゃねぇだろッ!!このドアホォ―――――――――ッ!!!!!」

 

 

目を覚まして、普通に挨拶してきたリィエルに、ウィリアムは身体を起き上がらせ、リィエルの肩を掴んでガシガシとシェイクする。

リィエルの寝間着は着崩れしているが、今はそんな事はどうでもいい。

リィエルの無防備かつ、全く理解していない行動にウィリアムが憤っていると―――

 

 

「ウィリアム君、どうし―――」

 

「急に大声あ―――」

 

 

ルミアとシスティーナが、ウィリアムの大声から何があったのかと、部屋へと駆けつけて来ていた。

 

 

「「「……………………」」」

 

 

ウィリアムも二人が来た事でリィエルの肩を掴んだまま動きを止め、ウィリアム、ルミア、システィーナの間に、圧倒的な沈黙が訪れる。

男女が二人きりでベッドの上、リィエルの着崩れした寝間着姿……普通に誤解される問題案件である。

状況を全く理解していないリィエルが首を傾げたのを皮切りに。

 

 

「ウィリアムッ!!?アンタ一体、何をしていたのぉおおおおおおおおおおおお―――ッ!?」

 

「ま、まさか、大人の階段を……ッ!?」

 

 

システィーナは素っ頓狂な叫びを上げ、ルミアは顔を真っ赤にしウィリアムとリィエルを見つめている。

 

 

「ま、まさかBを、じじじ、実行していたのかしらッ!?駄目よ!それはさすがに―――ッ!?」

 

「リィエルがどんどん先に……私もシスティも早く……」

 

「誤解だぁああああああああああああああ―――ッ!!!!!!」

 

 

未だ混乱の渦中にあるシスティーナとルミアに、ウィリアムは必死に声を上げて弁明する。

フィーベル邸初日の朝は、大騒動から始まることとなった。

 

 

「……大人の階段?Bって、何?美味しいの?」

 

 

そんな中、リィエルは未だに状況を理解していなかった。

 

 

 




男女が同じベッドの上·······舌打ち案件でありますな
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九十話

ニヤニヤがやめられない、止まらない
てな訳でどうぞ


あの後、辛うじて誤解を解く事が出来たが凄まじく疲れた。

ちなみに、リィエルにあの侵入方法を実行した理由を問い質すと―――

 

 

『最初は扉を斬って入ろうと思ったけど、起きて追い返される気がして、どうしようかと悩んでいたら思いついた』

 

 

との事。素直に喜べない成長である。

そんなこんなでウィリアムは現在、それらの気疲れから教室の机の上に突っ伏していた。

 

 

「……ウィル、元気ないけどどうしたの?」

 

「誰のせいだと思ってるんだ……」

 

「?」

 

 

ウィリアムの呟きに、元凶たる張本人(リィエル)は首を傾げるだけで、自分が原因であることに全く気づいていない。そんなウィリアムにカッシュが話しかけてくる。

 

 

「そういやあウィリアム。お前ん家、確か吹き飛ばされただろ?昨日は何処に泊まったんだ?」

 

 

カッシュの質問に対し、ウィリアムは―――

 

 

「…………」

 

 

無言。

馬鹿正直にフィーベル邸に居候する事になったと言えるわけがない。

 

 

「?なんでシスティーナの家に泊まっている事を言わないの?」

 

「……おい、ウィリアム……。どういうことだ……?」

 

 

そんなウィリアムの心情を知らずリィエルが喋ったことで、それを聞いたカッシュの目が一気に据わったものに変わる。

 

 

「勘違いすんな。俺から頼んだんじゃねえ。なし崩し的に居候する事になってしまったんだよ」

 

「……そうかそうか……一緒に寝るなんていうラッキーな事もなかったんだな?」

 

「ん?一緒に寝たけど?」

 

 

ピンポイントで当てたカッシュに、リィエルがあっさりと肯定した。その瞬間―――

 

 

「「「「きゃあああああああああ―――ッ!!!」」」」

 

「「「「ウィリアムてめぇえええええええええええええ―――ッ!!!!!!」」」」

 

 

女子達から黄色い叫びが、男子達からは怨嗟の叫び声が上がる。

 

 

「大胆ッ!大胆ですわッ!!」

 

「そ、そこまで進んでいるの·····ッ!?」

 

「女の子と一つベッドの上で寝るとか……このリア充の極みめぇええええええ―――ッ!!!」

 

「許すまじッ!!絶対に許すまじッ!!!!!」

 

「違うッ!!!このバカが、俺が寝てる間に部屋の錠を壊して、勝手に潜り込んだだけだッ!!!」

 

 

ウィリアムがそう弁明した瞬間……

 

 

「リィエルさん、なんて積極的なッ!!!?」

 

「リィエルちゃんから行くとは……羨まし過ぎるぞッッッ!!!!」

 

「憎い……ッ!!ウィリアムが凄まじく憎いッッッ!!!」

 

「『夜、集団でリンチすべき男リスト』にウィリアムの名前を新たに載せるぞッ!!!」

 

「「「「異議なしッッッ!!!!!!!!!!」」」」

 

「お前らいい加減に落ち着けッ!?」

 

「お前は黙ってろッ!!このリア充めがッ!!!!」

 

「リィエルちゃんの貞操を守るために、今ここでウィリアムを抹殺するべきと提案する!!!」

 

「お待ちなさいッ!!二人の仲を引き裂くべきではありませんわッ!!!!」

 

「止めるないでくれッ!!!」

 

「リア充は撲滅すべき俺らの敵なんだッ!!!」

 

「この前のキスの話に加え、今回はベッドの上で一夜を共にする……これ以上放置してはいけない案件なんだよッ!!!」

 

「僕達は一致団結して―――」

 

 

突如、派手な銃声が教室内に響き渡る。クラス全員、音がした方を向くと、ウィリアムが拳銃を頭上に掲げており、銃口からは硝煙が上がっている。

 

 

「これ以上、この話題で騒ぐというなら……」

 

 

ウィリアムは据わった目で、隠す必要が無くなった人工精霊(タルパ)の騎士を周囲に何体も具現召喚し、凄まじい威圧感を発して周りを睥睨し……

 

 

「容赦なくぶちのめすぞ?」

 

 

ウィリアムの放つ雰囲気から、冗談抜きでガチだと悟った一同は、素直にコクコクと頷いた。

ウィリアムは人工精霊(タルパ)を消し、そのままリィエルの方へと向き直り……

 

 

「お前はどれだけ爆弾を投下したら気が済むんだ?」

 

「爆弾?わたしは爆弾なんて持ってない」

 

「……言い方を変えよう。お前は何で場を引っ掻き回すような発言しか言わないんだ?」

 

「それはウィルの勘違い。わたしはそんなこと言ってない」

 

「んなわけあるかぁあああああああああああああああ―――ッ!?!?!?」

 

「痛い、やめてー」

 

 

堪忍袋の尾が切れ、リィエルの頭を右手で万力のように締め上げていくウィリアム。対するリィエルは相変わらずの棒読みで痛がっている。

実にいつも通りの光景だった。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

―――その日の夜。

 

 

「……何で背中を向けているの?」

 

「……別にいいだろ」

 

 

ウィリアムが色々と諦めた結果、最初からリィエルと同じベッドの上で寝る事が決定してしまった。

システィーナからは「絶対に間違いを起こすんじゃないわよッ!?」と言っていたが、間違いを起こす気は毛頭無い。リィエルは意味がわからず首を傾げていたが。

 

 

(本当にどうしてこうなるんだよ……)

 

 

下手に恋愛の知識を教えるわけにもいかず、かといってバリケードを作っても突破される可能性が高い状況。

出来る限り、新しい家を早く探そうと心に誓うウィリアムであった。

ちなみにリィエルは……

 

 

「……♪」

 

 

普段からは想像出来ない程の、幸せそうな顔をしてウィリアムの背中にくっついていた―――

 

 

 




あれ?おかしいなあ?後ろから刃物を持った集団が―――(この後、作者は病院に緊急搬送されました)
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九十一話

リンチなんぞ恐くない。いつでも来い!!
てな訳でどうぞ


地下部屋の荷物と大事な写真を回収した居候四日の夜。遂に恐れていたことが現実となった。

 

 

「君がウィリアム=アイゼン君か」

 

「……ハイ」

 

 

フィーベル邸の食堂のテーブルを挟んで、ウィリアムが向かい合っている人物はレナード=フィーベル。システィーナの父親だ。

レナードとその妻であるフィリアナは、娘達を心配して急遽帰省したのだが、居候することになったウィリアムのことは当然ながら知らなかった。

そのため、レナードからは重苦しい空気が流れている。

 

 

「君の事情は娘から聞いている。家が吹き飛んで災難だったね」

 

「……お気遣いどうも」

 

「その上で、君には聞かねばならない事があるのだよ」

 

 

レナードの纏っている雰囲気がより一層重くなる。

 

 

「娘達の事をどう思っているのかな?」

 

「……唯のクラスメイトの友人です」

 

 

無難な回答を返すウィリアム。だが……

 

 

「…………」

 

 

対するレナードは……無言。雰囲気をさらに一層重くしていた。

 

 

「嘘はよしたまえ。唯のクラスメイトの友人では無いだろう?……特にリィエルに関しては」

 

「……いえ、妹のような唯の友人です」

 

「唯の友人なら、夜一緒にベッドの上で寝たりはしない」

 

「……誰から聞いたんです?」

 

「娘からだ」

 

「でしたら聞いてますよね。下手したら屋敷の扉が毎回壊れる事も」

 

「……そうだな。だが、それを差し引いても……」

 

 

レナードはそう言った瞬間、クワッ!と目を見開かせる。

 

 

「男女が同じ屋根の下、同じベッドの上で寝る等言語道断だッッッ!!!貴様は娘達をたぶらかす悪魔に違いない!!この場で私が成敗―――」

 

 

コキャ。カクン。

 

その直後、レナードがフィリアナによって絞め落とされた。

 

 

「ウィリアム君。この人の事は気にしなくていいから。だから新しい家が手に入るまでここで暮らしていいわよ」

 

 

にこやかな笑顔で言うフィリアナに対し……

 

 

「アッ、ハイ。アリガトウゴザイマス……」

 

 

ウィリアムは素直に返事を返すしかなかった。

 

 

「ちなみに、どこまで進んでいるのかしら?」

 

「そういう関係じゃないですからッ!!!」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「お願いだからこっち向いて」

 

「……断る」

 

 

ウィリアムは相変わらずリィエルに背中を向けて横になって寝ており、リィエルはそんなウィリアムに若干不満なようである。

 

 

「どうしてこっちを向いてくれないの?」

 

「……気恥ずかしいからだ」

 

「気恥ずかしい?」

 

 

ウィリアムが口にしたその理由に、リィエルはそのまま聞き返す。

 

 

「女の子と同じベッドの上で寝ること自体、恥ずかしい事なんだよ。だから一緒に寝ているだけで勘弁してくれ」

 

「…………」

 

 

それに対し、リィエルは考える仕草をし、何か思いついたのかのようにウィリアムを自身の方へ向かせ―――

 

 

「リィエル?い―――」

 

 

唇と唇を重ね合わせた。

 

 

「!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

 

 

ウィリアムは驚愕に目を見開き、慌てて引き剥がそうとするも、リィエルに頭をがっちりとホールドされ引き剥がせない。

その状態が暫く続き……

 

 

「――ぷはっ!?いきなり何すんだ!?」

 

 

リィエルがホールドを緩めた事でようやく解放されたウィリアムは顔を真っ赤にしたままリィエルに問い質す。さすがに二回目とあって思考停止には陥らなかったが。

 

 

「恥ずかしい事は、さらに恥ずかしい事で上書きすればいいって、セリカが言ってた」

 

「教授ぅううううううううううううううううう―――ッ!!!?」

 

 

またしてもセリカの入れ知恵に、ウィリアムは堪らず叫び声を上げる。

 

 

「わかった!!今日からこっち向いて寝るから、軽々しくキスをすんな!!」

 

「ん」

 

 

……そんな二人の光景を。

 

 

「あわ、あわわわわわわわわわわわわ…………」

 

「うわあ……眩しい……リィエルが凄く眩しいよ……」

 

 

壊れたままの扉の影から約二名、顔を赤めて、覗き見ていた……

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

「すぅ……」

 

「まったく……」

 

 

早々と眠りについたリィエルの寝顔を、ウィリアムは呆れ顔で眺めていた。

 

 

「将来が凄く心配だ……」

 

 

ウィリアムはリィエルの軽はずみかつ、無防備な行動にあの時とは別の意味で不安となる。

……もっとも、リィエルのこれらの行動はウィリアムにしかしない事は当の本人も含めて気づいていないが。

ウィリアムはそんな気分のまま、睡眠魔術を使って強引に眠りについた……

 

 

 

 

『じゃあ……いくぞ?』

 

『ん……』

 

『絞まってて、キツいな……』

 

『い、痛い……けど……凄く、気―――』

 

 

 

 

「―――うおわぁッ!?……ゆ、夢か……」

 

 

なんであんな夢を見たんだと、ウィリアムは顔を真っ赤にし頭を抱えた。隣で寝ているリィエルは―――

 

 

「…………んむぅ……」

 

 

顔を赤めて、身をよじっていた……

 

 

 




これでオリジナルは終了です
最後のアレはご想像にお任せします
感想お待ちしてます
·······セーフだよね?セーフ―――(この直後、魔導士の杖を装備した集団に軍用魔術の集中砲火を浴び、緊急搬送されました)


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第十章・裏学院と左遷教官
九十二話


ここから原作十一巻
更新頻度が落ちそう······
てな訳でどうぞ


後の“フェジテ最悪の三日間”から早一週間。

 

 

「……時折こう思うんだよな……裏技ばっか使わず、偶には正規の手法を使う事も……」

 

 

誰に言う訳でもなく、一人言を口にする―――本を片手に学院の屋上で寝そべるウィリアム。

 

 

「――だから全校集会は正規手順の人工精霊(タルパ)に任せて、俺はここで本を読む!」

 

 

早い話、面倒だからサボったのである。ちなみに屋上にいるのは、グレンが中庭のベンチの上でサボっていたため、見つかると面倒だったからである。

 

 

「……あれ、人形だろ……」

 

 

時間差起動(ディレイ・ブート)詠唱済み(スペル・ストック)に関するページを流し読みながら、視覚聴覚を同調した人工精霊(タルパ)から見る学院アリーナの光景にぼやく。そこにグレンもいるが、無表情で直立状態なのだ。容易に人形だと想像がつく。

ちなみにこの人形は、とある魔術工房から、グレンがセリカの金を勝手に使って購入した『複製人形(コピー・ドール)』と呼ばれる魔導人形であり、グレンはこの『複製人形(コピー・ドール)』に働かせ、自分はサボる計画―――『Puroject:G』を実行しようとテスト起動中の最中である。

 

 

「しかし、先公が来てから色々ありすぎだろ……」

 

 

前期過程を振り返ってみる。学院爆破未遂、女王暗殺未遂、サイネリア島のイザコザ、結婚騒動、遺跡探索、集団催眠、講師補佐、そして先日の騒動―――それにより家が吹っ飛ばされ、フィーベル家への居候と、本当にロクな事がない。

まあ、出会えて良かったと思えることもあったが……

 

 

「しっかし、何でこのタイミングで全校集会を開くんだよ?」

 

 

本を流し読みながらウィリアムが疑問に思っていると、見慣れない初老の男性が講壇の前に立った。

 

 

『私はマキシム=ティラーノ。昨日、更迭処分となったリック=ウォーケンに変わって本日から、この学院の学院長を勤める者である』

 

「……はぁああああああああああああああああ―――ッ!?」

 

 

その男――マキシムが告げたとんでもない言葉に、ウィリアムは学院アリーナの生徒達同様、素っ頓狂な叫び声を上げる。

マキシムは学院全体を侮辱し、自分が学院をより発展できると自信満々に告げ、自身の改革案を打ち上げていく。

マキシムの改革は、端的に言えば魔術の『力』だけを求め、武力に直結しないものは容赦なく切り捨てていくというものだ。

そんな横暴極まりないマキシムの暴挙にウィリアムの苛立ちは最高潮に達していた。

 

 

「……ん?」

 

 

ウィリアムはふとマキシムの頭髪に違和感を感じ、まじまじと見つめ……

 

 

「……(ニヤリ)」

 

 

非常に悪い笑みを浮かべ、学院アリーナへと向かって行った―――

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

―――現在、学院アリーナはグレン(人形)の煽りによって一致団結していた。

 

 

「くっ……いくら君が一人で反発したところで……ッ!?」

 

 

グレン(人形)が生み出した圧倒的な反逆空気にマキシムが怯んでいると、グレン(人形)がギクシャクした動作でマキシムの脳天を鷲掴み……

 

すぽーん。

 

マキシムのカツラを無慈悲にむしり取り、不毛の脳天を露にした。

 

 

「……え?」

 

 

マキシムは自身の脳天に、恐る恐る手を当てていると……

 

シュボッ。

 

カツラから突如、火の手が上がり、カツラがメラメラと燃えていく。

グレン(人形)はそのカツラを手放し……

 

 

「―――」

 

 

マキシムは理解が追いつかず呆然とし―――

 

 

「―――なぁああああああああああああああああ―――ッ!?」

 

 

理解した瞬間、素っ頓狂な叫び声を上げ、大慌てでカツラの火を消しにかかるも時すでに遅く。カツラは灰となって消えていった。

 

 

「「「「…………」」」」

 

 

暫し、辺りは沈黙するも……

 

 

「「「「……ぎゃはははははははははははははははは―――ッ!!!」」」」

 

 

会場中から一斉に、お腹がよじ切れ死ぬと言わんばかりの笑い声が上がった。

 

 

「よ、よくも……この私に生き恥をかかせてくれたねぇ、グレン=レーダスぅうううううう―――ッ!?」

 

 

マキシムは不毛の脳天を隠す事も忘れ、憤怒の表情でグレンを睨みつける。

これでは懐柔する前からマキシムの解職請求(リコール)が出るのは明白だ。

そこでマキシムは、『裏学院』を自身が手にした『アリシア三世の手記』で解放し、グレン(人形)が提示した決闘の具体的な内容―――互いの育てた生徒同士の『生存戦』を行い、自身が負けたら学院改革の取り下げ、グレンが負けたらクビという条件を突きつけた。

会場の誰もが息を呑んで動向を見守る中、壇上に猛烈な煙が巻き起こり―――

 

どかっ!ばきっ!どがっしゃあああああああああんっ!!

 

叩き壊す音が煙幕の向こう側で盛大に響き渡り、煙が晴れると、憔悴しきったグレン(本物)と、バラバラに壊れた木偶人形(元・グレン人形)がいた。

 

 

「グレン君……その足下の奇妙なガラクタは?」

 

「あれーーっ?なぁんで、こんなところにゴミが散らかっているのかなぁーーっ!?」

 

 

グレン(本物)は取り繕いながら、どうしようかと考えていると。

 

 

「いやぁ。見事なハゲ頭ですなぁ?新学院長殿?」

 

 

いつの間にか、壇上の上に立っていたウィリアムがマキシムを盛大に煽っていた。

 

 

「むっ!?君は……?」

 

「ウィリアム=アイゼンです。貴方の大事な大事なカツラを燃やした張本人ですよ」

 

 

ウィリアムは非常にイラつく笑みで、カツラを燃やしたと自白した。

 

 

「何だと!?君は何のつもりで―――」

 

「それにしても見事な脳天ですなぁ。貴方の無能さを現すように」

 

「な……ッ!?」

 

 

ウィリアムの侮辱に、マキシムはこめかみに青筋を浮かべる。ウィリアムは構わずに煽っていく。

 

 

「あんたは教育のきょの字も理解してないようだし?そんなあんたは『指導者』というより『支配者』だ。盛大にズレまくっているし、人望も薄そうだし……どうせ賄賂で支持を得たんだろ?」

 

 

意図せず大正解を言い当てたウィリアムに、マキシムは内心怯むも顔には出さず、ウィリアムを睨みつける。それに対し、ウィリアムは平然と受け流している。

 

 

「そういえば、君はそこのグレン君のクラスの生徒だったね……『生存戦』の勝敗に君の退学も追加させて貰おうか」

 

 

マキシムは思い付いたように、新たな条件を提示してきた。その条件にウィリアムは―――

 

 

「かまわねぇぜ?変わりにこっちが勝ったら、あんたは素直に退陣してくれるよな?」

 

 

一歩も引かずに受け入れ、マキシムのクビを引き出してきた。

ウィリアムはこの改革を受け入れる気は毛頭無い。この改革が実行されれば、大多数の十人十色の夢が踏みにじられるからだ。

一体自分はどうしたいのか、ウィリアムの『答え』はまだ出ていないが、大切な居場所をこのまま壊されるのを黙って見る気は毛頭無い。

そんな腹を括ったウィリアムに、グレンも触発され……

 

 

「……いいぜ?後悔すんなよ?」

 

 

グレンは左手の手袋をマキシムの顔面に投げ飛ばし、決闘を受け入れた。

彼らの我が身を顧みぬ行動に、誰もが感極まる中……

 

 

(……やっちまったなぁ…………もう、どうにでもなれぇ……)

 

 

ウィリアムは自身の勢い任せの考え無しの行動に、内心自棄っぱちになっていた。

そんな光景を、女性用講師服を身に纏った、二十歳前ほどの娘が遠くから呆れた様子で眺めていた。

 

 

 




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九十三話

まだ、もちそうだ
てな訳でどうぞ


「ウィーリーアームゥ……。お前、何やってくれてんだよぉー……」

 

「イラついて勢いでやった。後悔はないんだけどよぉ……」

 

 

例の集会が終わった学院の裏庭にて、グレンとウィリアムは湿っぽい雰囲気に包まれていた。

グレンからマキシムに関する情報を聞いたウィリアムは現時点で『生存戦』に勝てるのか相当怪しくなってしまった。制限無しならマキシムの『模範クラス』共に圧勝できるのだが……

 

 

「随分とバカな真似をしたわね。二人とも」

 

 

グレンとウィリアムの耳に聞き覚えのある声が聞こえ、弾かれたように声がした方向を向くと、そこにいたのは、女性用講師服に身を包んだ女性であった。

逆光のせいで顔はよく見えないが、あの声は―――

 

 

「イヴ……なのか……ッ!?なんでお前がこんな所にいるんだよッ!?」

 

 

グレンが恫喝するように叫びながら、こちらに近づいてきた女性―――イヴを睨みつける。

 

 

「今度は何しに来たんだよ?しかも学院の講師服着て」

 

 

ウィリアムも、また面倒事が追加されるのかと身構えていると……

 

 

「わからないの?……クビになったのよ」

 

 

イヴが覇気なく、力なくそう言った。

 

 

「「は?」」

 

 

イヴはそのまま、先の事件の独断専行の責任を取らせれ特務分室をクビになった事、イグナイト家からも勘当された事も明かす。

 

 

「……馬鹿みたい……ずっと……イグナイトのために……そのために……セラすらも……犠牲にして……それ……な……のに……ッ!」

 

 

そんな様子のイヴを見ていられず、グレンがイヴに歩み寄ろうとするも、イヴはヒステリックに叫んで拒絶する。

イヴはグレンに後ろを向き、ウィリアムにはここから立ち去るよう、一方的に命令と言い放つ。

ウィリアムもグレン同様、イヴが目尻に涙を浮かべていたのを見たため、半分だけ聞くことにし、落ち着くまで隠れる事にした。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

念の為に予備で用意していた、全く整っていない不自然さ全開のカツラを被ったマキシムが学院長室で先日の出来事を思い出していると、一人の学院制服姿の少女が入室してくる。

 

 

「失礼します。“メイベル=クロイツェル”です、マキシム先生」

 

「……私になんの用かね?メイベル」

 

 

マキシムは一瞬間を開けるも、すぐに不機嫌そうに応じる。

メイベルはマキシムに、アリシア三世の噂を理由に『裏学院』を利用する事に反対するも、マキシムは聞く耳持たず、入室してきた模範クラスの面々も同様であり、自分達の勝利と栄光を何一つ疑っていなかった。

メイベルがマキシムをじっと見つめるなか……

 

 

「あんな可愛い娘、おったかなぁ……?」

 

 

模範クラス所属で唯一といえる、良識がある緑髪の少年―――チャールズ=テイラーはメイベルを見て、首を傾げていたが……

 

 

「まあ、ええか。それよりも、早く撮影しなければ……!」

 

 

チャールズは魔導写真機等を手に持ち、メイベルを写真に納めてから、学院の乙女の写真を撮るために学院長室を後にした―――

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

「要するに左遷か……」

 

「うるさい」

 

 

ようやく落ち着いたイヴから話を聞いたグレンの第一声に、イヴは拗ねたように言う。

ウィリアムはもう面倒なので隠れたままでいる。

イヴはそのまま、帝国の現状と、改めてマキシムの教え子はアマチュア軍人である事を説明していき……

 

 

「意地を張らずにそこで隠れているウィリアム共々、マキシムに頭を下げれば?()()()()()()でも守ろうとした居場所なのでしょう?」

 

 

イヴの皮肉げな辛辣な言葉を前に、ウィリアムは嘆息しながらグレンとイヴの前に姿を現し、その気は無い事を言おうとした矢先。

 

 

「ここにいたんですね!?探してたんですよッ!?」

 

 

校舎の壁の向こう側から、システィーナ、ルミア、リィエルが現れ、一目散に駆け寄ってくる。

グレンは相変わらずの三人を見て、迷いなくマキシムと戦う決意をする。

 

 

「呆れた。勝ち目がないのに?」

 

「ああ。俺は教師として、あいつらの夢を潰させるわけにはいかねーんだよ」

 

「先公の言う通りだ。あんなハゲジジイの都合であいつらの大事なもんを壊されてたまるか。だから退く気は一切ねぇよ」

 

 

グレンとウィリアムはそう言い残し、三人娘達へと向かっていく。

それを目の当たりにしたイヴは不意に立ち上がり、グレン達に力を貸すと申し出た―――

 

 

 




ギャグ要員のオリキャラ参・上!
感想お待ちしてます


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九十四話

····最新巻の最後、あれの時期は後期なのかな?
てな訳でどうぞ


「と、いうわけで、来期から開講される『軍事教練』の講師として、帝国軍より出向してきた、イヴだ」

 

「イヴ=ディストーレ従騎士長よ。どうかよろしく―――」

 

「「「「うぉおおおおおおおおおおおおお―――っ!!!!」」」」

 

「い、一体何!?」

 

 

突如上がった男子生徒からの歓声に、イヴは目を瞬かせ戦く。

 

 

「どんなゴリラな鬼教官かと思えば、滅茶苦茶美人じゃねーかぁあああああああ―――っ!?」

 

「まさに、酸いも甘いも噛み分けた、大人の女性だ……」

 

「でも、軍人で教官だから、訓練では酷い罵倒を浴びせたり、血ヘドが出るまでしごかれるかも……」

 

「「「「だけど、興奮するから良しっ!!!」」」」

 

 

男子生徒達から上がった大歓喜の言葉に、それを聞いたイヴは一気に半眼で無表情となる。

男子が沸き立つなか、ウェンディとテレサが立ち上がり、イヴは先の戦いで自分たちを助けてくれた大恩人だから変な目を向けるのをやめるように言い、今度は徐々に尊敬の目が集まり始めていく。

イヴは面と向かって賞賛された事に気恥ずかしさを覚え、それを誤魔化すように話を例の決闘へと変える。

 

 

「断言するわ。今の貴方達じゃ絶対、勝てない」

 

 

イヴの容赦ない言葉に生徒達は息を呑む。イヴはそのまま、先の戦いとグレンの存在から生じている緊張感の無さと自惚れを指摘していき、自分が教官として力を貸す事を伝える。

 

 

「今日から、学院で泊まり込みの強化合宿に参加してもらうわ。これから死ぬ気で特訓すれば、あるいは……」

 

 

イヴは最後に投げやりに締めくくろうとすると。

 

 

「よろしくお願いしますッ!」

 

 

カッシュが頭を下げ、他のみんなもイヴに頭を下げていく。

 

 

「どういう風の吹き回しか知らんが……あんがとな」

 

 

グレンがそっぽを向きながらイヴに礼を言うと。

 

 

「勘違いしないでちょうだい。私は私の目的の為に動いているだけ。大嫌いな貴方のためじゃないわ」

 

「な……ッ!?こっちだってお前のことは大嫌いだからな!?そんなんだから行き遅れるんだよ!」

 

 

……口喧嘩が始まった。

 

 

「はぁ!?私、まだ十九だし!?しかも、余計なお世話だし!?」

 

「断言してやる。お前は絶対、売れ残るね!性格ブスだし!」

 

「貴方だって、お嫁に来てくれる人なんて絶対、いないでしょうね!根っからの駄目人間だし!」

 

「あ?やんのか?」

 

「何よ?」

 

 

そんなグレンとイヴの子供のようなやり取りを見たウィリアムは。

 

 

(……本当は仲良いんじゃね?この二人……)

 

 

本人達からしたらふざけているとしか取れない失礼極まりない事を考えていた。

ちなみに、システィーナは戦々恐々、ルミアは苦笑い、リィエルはシスティーナとルミアの様子に不思議そうに首を傾げていた。

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

その日、一旦解散し、夕方頃にグレン達の準備が終わり、魔術競技場へと集められる。

イヴは、一同の魔術師としての武力の程を再確認するため、サブストの一対一の決闘をやらせ始める。

ウィリアムも当然ながら参戦し……

 

 

「《雷精よ》、《二》、《三》、《四》、《五》―――っ」

 

「あばばばばばば―――ッ!!」

 

 

【ショック・ボルト】の五連唱(ラピッド・ファイヤ)を食らわせ、対戦相手を地面に撃沈させる。

ウィリアムのマナ・バイオリズムの調整技術はかなり高い。その理由は固有魔術(オリジナル)【詐欺師の工房】を使い続けた結果である。【詐欺師の工房】は五工程(クイント・アクション)を無視出来るが、マナ・バイオリズムまで無視できるものではない。一つ錬成すれば当然、ロウからカオス状態になる。

ウィリアムは《魔導砲ファランクス》を使う際の銃弾の連続錬成の為に磨き続けた結果、素早くロウ状態に持っていけるようになったのである。

 

 

「やっぱり実力が高いわね。さすがは《詐欺師》といったところかしら?」

 

「ああ。あいつが文句無しで一番実力があるんだよな」

 

「だけど、制限がつく生存戦では、彼一人だけで勝利するのは厳しいわよ」

 

「わーってるよ」

 

 

グレンとイヴは他の魔術戦も見ていき……

 

 

「……あれは貴方の入れ知恵かしら?」

 

 

イヴがグレンにそう聞いてきたのは、リィエルの試合―――至近、否、零距離から放つ【ショック・ボルト】戦法である。

 

 

「いいや。あれはウィリアムの入れ知恵だ」

 

「……まあ、何も出来ないよりはマシね。あれがなかったら彼女、避けるだけしかできないところだったから」

 

「最終的には魔闘術(ブラック・アーツ)の剣バージョンが出来れば恩の字だとウィリアムは言っていたな」

 

「不可能な気もするけど……確かに出来れば今より強くなるでしょうね」

 

 

リィエルの素の身体能力に魔術の破壊力が加われば、確かに今より脅威となる。

イヴは最後にシスティーナを見て、そろそろ彼女は頭打ちになるとグレンに伝え、改めて今のままでは勝てないと言おうとした矢先。

 

 

「ちぃ~~~~っす」

 

 

いかにも軽薄そうな挨拶がその場に響き渡った。

見れば二十名程の模範クラスの面々がこの場に来ていた。

彼らの話から、どうやらメイベルからの提案で二組と模擬戦をしにきたようだ。ここで実力差を見せつければ、自分達に挑む気がなくなるんじゃないかと。

その申し出をイヴは受け入れ、一対一の個人戦を二十回行う団体戦を提案した。

イヴはその団体戦のメンバーにウィリアムを入れず、二組と模範クラスの決闘戦が始まった―――

 

 

 

結果は、二組の惨敗だった。

マキシムの教え子達は魔術の『武器』としての使い方だけを鍛えられてきたのだ。そんな()()()()()()の出だしが早い連中に、まだ()()()()()を使い馴れていない二組の惨敗は必然だった。

特にシスティーナと対戦したメイベルは群を抜いていた。技量が明らかに学生離れしている。

二組に圧勝した模範クラスの生徒―――ザックを筆頭とした取り巻き達は二組の女子生徒達に絡み始めていた。

 

 

「これから俺達とお―――」

 

 

ザックが嫌がるウェンディの腕を掴んで迫っていると、不意にザックの頭が何かに鷲掴みにされる。

 

 

「あ?誰だ―――」

 

 

ザックが不機嫌そうに後ろを向こうとした直後、ザックの頭を鷲掴みにしていた【騎士の腕(ナイツ・アーム)】が万力のようにザックの頭を締め上げ、その痛みからウェンディの手を離した瞬間、派手に投げ飛ばした。

 

 

「―――てぇなぁ!?誰だよ!?邪魔した奴は!?」

 

 

派手に投げ飛ばされて喚くザックを無視し、ウィリアムは割って入るように彼らの前に立ち塞がる。

 

 

「もう用はすんだだろ?用が済んだらとっとと帰れ。俺らはこれから反省会をしなければいけねぇんだ」

 

 

有無を言わさないその物言いに、模範クラスは苛立ちを露にし、ウィリアムに詰め寄って行く。

 

 

「さっきのはテメェの仕業か?」

 

「ザコが粋がってんじゃねぇよ」

 

「テメェもあいつらと同じように―――」

 

 

突如、ザック達の周りに一対の幾何学的な羽を有する上半身のみの甲冑騎士が何体も具現召喚され、その内の一体が取り巻きの一人を派手に投げ飛ばした。

 

 

「手荒いのがお望みなら、容赦なく相手になるぞ?」

 

「へっ……こ、後悔すんな―――」

 

「そこまでにしときなさい」

 

 

一触即発の空気が流れ始めたその時、イヴが割って入り、模範クラスにこれ以上は妨害だと告げ立ち去るようにいうも、ザック達はイヴを見下し自分達に逆らわない方がいいというと―――

 

 

「―――そういうことかしら?」

 

 

イヴはそのまま模範クラスとほぼ全員を同時に模擬戦をし、【ショック・ボルト】だけで地面に沈めていった。

倒れた模範クラスはメイベルと、いつの間にかいたチャールズという模範クラスの男子生徒が回収して立ち去っていった。

模範クラスの連中が立ち去り、お通夜のような空気が流れるなか、イヴは二組と模範クラスの魔術の技量にそれほど差がないことを言い、単純に判断力で負けていただけと指摘する。

 

 

「そして、連中の強さはもう()()()。あれ以上は今のままだともう伸びない。貴方達とは違ってね」

 

 

イヴが確信をもって告げた言葉に一同は困惑し、互いに顔を見合わせる。

 

 

「ただ、最初から魔術で隠れてこちらを見ていたチャールズという男子生徒は貴方達が戦った連中よりかは多少マシ、メイベルは完全な規格外だけど……それ以外の連中は魔術そのものの土台が非常に脆弱だから、あれ以上のモノは積められないのよ。逆に、グレンのおかげで土台がしっかりしている貴方達なら連中以上のモノを積む事ができる」

 

 

そしてイヴは、これから二週間でその土台にモノを積む訓練をみっちり施せば、見違えるほど伸びると言う。

イヴのその説明を受けた一同は……

 

 

「「「「よろしくお願いしますッ!!イヴ先生ッ!!!」」」」

 

 

一斉にイヴに頭を下げた。

イヴによって先程の空気は見事に吹き飛び、一同は意気揚々と合宿所へと戻っていくなか、グレンは素直にイヴに対して礼を言い、イヴも素っ気なく応じるも……

 

 

「……お前、本当にイヴか?」

 

「……どういう意味よ?」

 

 

グレンはそのままイヴに対し、失礼極まりない事を言い、偽物と判断してイヴの身体をまさぐり始め……

 

 

「《死ね》ッッッ!」

 

 

盛大に、イヴの魔術で吹き飛ばされた。

グレンとイヴはそのまま口喧嘩を始めていく。

 

 

(セクハラはスルーなのか……やっぱり仲良くね?)

 

 

二人の喧嘩に対して、ウィリアムはそんな感想を抱いていた。

システィーナとルミアは二人の喧嘩を汗を流して見つめ……

 

 

「ねぇウィル。システィーナとルミアの様子がおかしいんだけど、どうしてなの?」

 

「……複雑な乙女心というやつだ」

 

「……?」

 

 

リィエルの問いかけにウィリアムは曖昧な答えで返し、それに対しリィエルは首を傾げていた。

 

 

その後の就寝時間にて、リィエルが普通にウィリアムが泊まる部屋に来て一緒に寝ようとしていたので、退学話を持ち出して(一応)納得させ、本来の部屋へと帰らせた。

 

 

 




な、何故だ?甘いシーンは無いのに、向こうから黒い―――(作者はこの直後、突然発生したブラックコーヒーの津波に巻き込まれ、彼方へと流されました)

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九十五話

いいのかな?これで
てな訳でどうぞ


―――強化合宿初日。

皆が競技場でイヴを相手に朝のスパルタ猛特訓をするなか……

 

 

「ねぇ、なんで、わたしだけ……皆とは別のことをしているの?」

 

「お前が今すべきなのは勉強なんだよ。オーケー?」

 

 

視聴覚室の部屋の隅の机で参考書の山に囲まれ、ノートを広げ、眉を八の字にして不満そうにしているリィエルに、ウィリアムはきっぱりと言い放った。

 

 

「ほらほら、集中しなきゃだめよ」

 

 

リィエルの隣にいる生徒会長のリゼも、グレンの要請からウィリアムと一緒にリィエルの勉強を見ている。

リィエルはこの前、エルザと一緒に学んだ事の八割を吹っ飛ばしてしまっている。つまりほぼ一からやり直しだ。

 

 

「たくっ……いい加減、【ショック・ボルト】位はマトモに使えるようになって欲しいもんだ」

 

 

競技場の地稽古の様子を遠隔で撮影しているグレンも呆れ気味に呟く。

それから一時間後、早朝のスパルタ猛特訓を終えた一同が視聴覚室に入って来て、再生された先程の地稽古の映像を見て、皆、顔を真っ赤にして頭を抱えていた。そんなに彼らにグレンは一つ一つ丁寧に指摘し、対処法を教えていく。

 

 

「う~、わたしも交ざりたい……」

 

「我慢しろ」

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

昼休み―――

 

 

「《雷精よ・紫電の衝撃以て・打ち倒せ》」

 

 

リィエルは五メトラ先の大きめの的に【ショック・ボルト】を飛ばすも、的の中心には当たらず、少々ずれた位置に着弾する。

リィエルの昼休みは学んだ事の実践―――感覚で運用法を覚えさせるという非効率な方法で叩き込んでいた。

 

 

「むぅ……」

 

「ふて腐れてないでもう一回だ。お前の場合、感覚で覚えさせたほうが確実なんだからよ」

 

「……わかってる。《雷精よ・―――》」

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

放課後―――

二組の殆どがイヴと魔術戦の地稽古をするなか―――

 

 

「そんじゃ使う魔術は【ショック・ボルト】だけ……いいな?」

 

「ん」

 

 

ウィリアムの言葉に、リィエルは素直に頷き、【ショック・ボルト】限定の魔術戦を始めていく。

ウィリアムは時間差起動(ディレイ・ブート)予唱呪文(ストック・スペル)の練習、リィエルは動きまくりながら呪文を唱える為の練習と互いに特訓していく―――

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

そんな日々が続いた十日目の晩。

反省会にて初日と現在の違いを映像と見比べて成長したと感じた男子生徒の多くが、今の自分たちを試す為にある場所へと向かって行っていたのだが。

 

 

「ん?君らは……」

 

 

その道中で模範クラスの一人であるチャールズと鉢合わせた。

 

 

「なんで模範クラスのお前がここにいるんだよ?」

 

 

敵対心をむき出しに、カッシュが問いつめると。

 

 

「決まっとるやん……この先の楽園(エデン)を写真や映像に納めるためや」

 

「……なんだと?」

 

 

チャールズはいぶかしむカッシュ達に自身が隠し撮りした女性の写真を渡す。カッシュ達はその着替え中の女性の写真を無表情で受け取り……

 

 

「模範クラスの事は気に食わないが、この時だけは同じ目的のために動く同志だ」

 

「おおきに。ベストなもんが撮れたら、売ってあげるわ」

 

 

カッシュとチャールズは互いに手を固く握りあい、一同は楽園(エデン)へと目指していった。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

大浴場でイヴを中心に女子生徒達がはしゃぐなか。

 

ちゅっどぉおおおおおおおおおおおおんっ!!!!

 

 

「ぎゃああああああああああああああ―――ッ!?」

 

「ルーゼルぅううううう―――ッ!?」

 

「だから止まるよう言うたんや!!この辺りからは覗き対策に魔術罠(マジック・トラップ)が設置されとるんや!!!」

 

「なんだと!?」

 

「毎日挑んでたから間違いないんや!!だけど……この程度で楽園(エデン)を諦める気は無いで!!」

 

「……!そうだ。この程度で、負けてたまるかぁあああああああああ―――ッ!!」

 

 

大浴場の外で爆発音と悲鳴が聞こえた……ような気がした。

その音に対し、女子生徒達は戸惑うも、仕掛人たるイヴは湯に深く身を沈めてすまし顔だった。

そんなイヴにシスティーナ、ルミア、リィエルが隣に入浴し、イヴも突っぱねる理由もないので許容する。

システィーナとルミアが遠回しにグレンとの関係を聞くなか……

 

 

「ねぇ、イヴはグレンのことが好ごもぐぅっ?」

 

 

どストレートに聞こうとしたリィエルの両肩をシスティーナとルミアが掴んで、顔の下半分を湯船に沈めて、強引に口を塞いだ。

 

 

(リィエルも年頃なのかしら……?まあ、最近は《詐欺師》のウィリアムに大分懐いているようだけど……)

 

 

イヴはそんな事を考えながら、システィーナとルミアに対し、グレンとの関係を否定していると。

 

ちゅっどぉおおおおおおおおおおおおおんっ!

 

 

「「「「ぎゃああああああああああああああ―――ッ!!!」」」」

 

「くそッ!ここもかなのか―――ぎゃああああああああああッ!!」

 

「くっ……だけどこのままうわぁあああああああああああああ―――ッ!!!!」

 

 

大浴場の外で爆発音と悲鳴が聞こえた……ような気がした。

イヴはすまし顔で湯船から上がり、自分は最低女とシスティーナ達に言い残して浴場を後にした。

風呂から上がって着替えたイヴが、廊下を歩くなか。

 

 

「……今回は……ドロー……や……がく」

 

 

(すす)だらけとなって倒れていたチャールズは、イヴの風呂上がりの姿を気力を振り絞って撮影し、気絶した。

 

 

 




さて。私も楽園をこの目で―――(この後、魔術罠に引っ掛かり、彼方へと飛んで行きました)
『感想お待ちしてます』←手紙


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九十六話

作者は安全部屋に閉じ籠った
てな訳でどうぞ


割り当てられた部屋でウィリアムが寛いでいると。

 

 

「ウィル。システィーナとルミアと一緒にグレンへの夜食を作ろ?」

 

 

部屋に来たリィエルがそう言って誘ってきたので、断る理由もなく三人娘と一緒にグレンへの夜食を作ることにしたのだが。

 

 

「……なぁ、明らかに量が多くないか?」

 

「そ、そんな事ないわよッ!」

 

「う、うん!先生は沢山食べる方だしこれくらいないとね!」

 

「ハァ……そういう事にしとくか」

 

 

絶対、グレンと一緒に食べるために作った大量のサンドイッチをバスケットに詰め、四人はグレンが宿泊している部屋へと向かって行く。

 

 

「……ん?」

 

 

途中、ウィリアムは誰かの視線を感じて後ろを振り向くが、誰もいなかったため、気のせいと判断した。そのまま四人はグレンがいる部屋の扉の前へと到着し、扉を開けると―――

 

 

「先生―――っ!夜遅くまで―――」

 

「ふふっ、皆で―――」

 

「ん。……ん?」

 

「先こー。失れ―――」

 

 

―――顔を真っ赤にしたイヴがはだけた格好で、仰向けで床に倒れているグレンに馬乗りとなり、組み敷いていた。

どう見ても、イヴがグレンを誘惑して押し倒している構図に……

 

 

「「「「「……………………」」」」」

 

 

リィエルを除く五人の間に、圧倒的な沈黙が訪れる。

ウィリアムはこの状況に、軽くデジャウを感じていると。

 

 

「い、イヴさぁああああああん!?一体何をぉおおおおおおおおおおおお―――ッ!?これが大人の女性の攻め方だと―――ッ!?」

 

「うわぁ……うわぁ……やっぱりイヴさん……先生のことが……」

 

 

システィーナから素っ頓狂な叫びが、ルミアは顔を両手で隠しながらも指の間からしっかり凝視していた。そんな二人にウィリアムはますますデジャウを感じていると。

 

 

「……?よくわかんないけど、イヴとグレンがしているあの組み手?は好きな男女がするものなの?」

 

「待てリィエル。あれはしなくていい。しなくていいんだ」

 

 

リィエルのその言動に、猛烈にイヤな予感を覚えたウィリアムは速攻で釘を差しにかかるも。

 

 

「…………えい」

 

 

リィエルは何かを考える仕草をし、その直後、無表情のままウィリアムに飛びついて床へと押し倒した。

リィエルに床へと押し倒され、馬乗りに組み敷かれたウィリアムは早くどくよう言おうとするも―――

 

 

「―――」

 

 

リィエルを視界に納めた瞬間、心臓が高鳴り無言となってしまう。

顔を赤めて硬直するウィリアムの前で、リィエルはイヴの真似をするかのように制服のボタンを外し、制服の下のキャミソールを露にする。

その光景に、ウィリアムの心臓がますます高鳴っていき、身体がますます動かなくなってしまう。

突然の行動に周りが呆然とするなか、リィエルは―――

 

 

「ねえイヴ。この後、どうすればいいの?」

 

 

イヴの方を見て続きを聞いてきていた……

 

 

「リィエル!?バカな真似はやめなさい!!!」

 

 

その言葉で現実に復帰し、グレンから離れたイヴがリィエルの両腕を掴み、全力でウィリアムから引き剥がす。

 

 

「リィエル!お前マジで何やってんの!?」

 

 

同じように現実に復帰したグレンも泡を食ったかのような顔でリィエルに問い詰める。

 

 

「ん?グレンとイヴの真似だけど?」

 

「仮にそうだとしても、制服のボタンを外す必要はどこにもないでしょ!?」

 

「システィーナが、何事も形から入るものだって言ってたから」

 

「間違ってないけど何か違うわよ!!」

 

 

一周して逆に冷静になったシスティーナがツッコミを入れる。

 

 

「……私とシスティも、あれくらい行った方がいいのかな……?」

 

「ルミア!?早く現実に戻ってきて!!」

 

「ってかイヴ!お前は早くその格好をどうにかしろッ!!」

 

「言われなくても分かってるわよッ!!」

 

 

リィエルによって、さらに場が混沌とするなか、ウィリアムは未だ現実に復帰出来ないでいた。

 

 

(こんなお宝と巡りあえるなんて……グッジョブッ!!)

 

 

そんな混沌とした光景の一部(約二名のはだけた姿)を、あの後復活し、魔術で隠れてウィリアム達を尾行していたチャールズは写真に納め、感謝の祈りを捧げた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

その後、グレンとイヴの誤解は何とか解け、リィエルにも、あの行動は退学にさせられる可能性をしっかりと教えて、もうやらないように釘を差し、一同は夜食をとる事にしたのだが……

 

 

「……?」

 

「ハァ……」

 

 

その配置はイヴの対面にリィエル、右隣にウィリアム。

イヴの斜向かいにグレンが居て、グレンの対面にはシスティーナ、右隣にルミアという何ともいえない配置である。

そんな微妙な空気のなか、サンドイッチを食し続けるのだが……

 

 

「……おい、イヴ」

 

 

ウィリアムがリィエルの作った苺タルトサンドをかじっていると、グレンが唐突に、イヴの鼻先に一枚のメモ用紙を突きつけた。

ウィリアムも気になってそのメモ用紙に目を向けると、非常に読みづらい文章が書かれていた。

読める部分だけ拾うと、『裏学院』は罠で足を踏み入れるなとか、絶対に火を使うなとか、アリシア三世に気をつけろという内容だった。

悪戯(いたずら)にしては明らかにおかしいメモに、ウィリアムは猛烈に嫌な予感を覚えていく。

次の日から、特訓の際、『裏学院』での炎熱系魔術の使用厳禁を二組全員に厳命される事となった。

 

 

 




馬鹿な!?どうやってこの部屋に―――(作者はオカマの大群に襲われる精神攻撃の幻覚により、精神科に緊急搬送されました)
『感想お待ちしてます』←部屋の床の血のメッセージ


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九十七話

この程度で、折れはしないぞ!
てな訳でどうぞ


遂に迎えた『生存戦』当日。

グレン率いる二組の面々は緊張と静かな闘志を湛えて佇んでおり、対して模範クラスのほぼ全員は怠惰と慢心に浸かりきっている。

そんななかで『生存戦』のルールが説明されていき、マキシムが脱落基準を単純な戦闘不能のみというルールを追加してくる。

グレンも例の怪文書の存在から炎熱系魔術の使用禁止のルール追加を要求すると。

 

 

「……やはりあのメモ書きの悪戯(いたずら)は君の仕業だったか。チャールズが君の所にもあったと言っていたが、大方君の自作自演なのだろう?」

 

 

マキシムの言葉にグレンが目を見開き、直ぐに訝しげな表情をする。

まさか自分達の特訓を見張っていたのかと考えたが……

 

 

「チャールズ?ほぼ毎日、女子の大浴場を覗こうとしていた、そこにいる変態生徒のことかしら?」

 

 

イヴからもたらされた情報で、その可能性はすぐに霧散した。その代わり、新たな疑問が浮上した。

 

 

「ちょっと待て。まさかと思うが、あれを見たのか……?」

 

 

グレンの問いかけに対しチャールズは……

 

 

「おいしく撮らせていただきました」

 

 

ペコリ、と頭を下げた。

その瞬間、グレンとイヴ、ウィリアムから凄まじい量の汗が流れ始める。

あれを撮られたのだとしたら、あれが不特定多数に広められてしまう危険がある。

特にウィリアムとリィエルのあれは教師陣にバレたら停学、もしくは退学ものだ。

 

 

「「「今すぐ消せ(消しなさい)ッ!!!!!」」」

 

「嫌や!!こんなお宝、消すのも手放すのもお断りやッ!!」

 

「……と、兎に角、君の要求を聞く気は―――」

 

 

女子生徒から汚物を見るような視線がチャールズに集まるなか、マキシムは気を取り直してグレンの要求を突っぱねようとするも、イヴが自分が景品となるといい、炎熱系魔術の使用禁止ルールの追加が承認された。

そして一同はマキシムの持つ『アリシア三世の手記』により『裏学院』へと入っていく。

足を踏み入れた『裏学院』の偉容さに、ただ一人を除き唖然とするなか、マキシムは圧倒されながらも『アリシア三世の手記』を使い、ランダムワープ用の『門』を出現させる。『生存戦』は『門』を全員が潜り、配置されてから開始される。

生徒一同は、この『扉』を潜っていき―――

 

 

――たんっ!

 

 

同様に潜ったウィリアムも広々とした古めかしい教室内に降り立った。ウィリアムはそのまま周囲を見回していると、黒板近くに貼られた一枚の用紙に気付く。

その用紙には、火遊び禁止。火を使ったら“裁断の刑”に処すという不穏さ全開の内容だった。

やはりこの『裏学院』には何かある。そんな予感を感じながら、ウィリアムは呪文を唱え、幾つか呪文をストックしていく。

幾つか呪文を予唱(ストック)し終えたウィリアムは、索敵結界を展開しつつ教室を出て、廊下をゆっくりと歩き始める。

暫く歩き続け、階段を下った先に―――

 

 

「よお」

 

 

模範クラスの生徒の一人が待ち構えていた。さらに後ろの階段からも二人現れ、ウィリアムを挟み撃ちにする。

 

 

「お前には投げ飛ばされた借りがあるからよぉ。利子をつけて返してやるぜ?」

 

「この生存戦じゃあれはルール違反で使えない……あれがなきゃこっちのもんだぜ」

 

「俺らに歯向―――」

 

 

最後の一人が言い終わる前に、ウィリアムが【ゲイル・ブロウ】を時間差起動(ディレイ・ブート)し、放たれた突風の戦槌が容赦なく吹き飛ばし、壁に叩きつけられた生徒はその一撃で意識を刈り取られ、最後まで紡がれなかった。

 

 

「なッ!?時間差起動(ディレイ・ブート)だとッ!?そんな高等技術―――」

 

「《雷精よ》―――《五連射》」

 

「ぐわぁあああああああ―――ッ!?」

 

 

間髪入れずにウィリアムは【ショック・ボルト】の五連唱(ラピッド・ファイヤ)を食らわせ、もう一人の意識も刈り取る。

 

 

「くそっ!?《凍てつく氷弾よ》―――ッ!」

 

 

最後の一人が凍気弾―――黒魔【フリーズ・ショット】を放つも、ウィリアムは体捌きで近づきながら回避し、至近距離で【スタン・ボール】を時間差起動(ディレイ・ブート)し、最後の一人の意識も刈り取った。

最初の遭遇戦はウィリアムの圧勝。ウィリアムは警戒しながら次の標的を探し始めた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「《雷精の紫電よ》―――ッ!」

 

「……《雷精よ・紫電の衝撃以て・―――》」

 

 

飛んでくる紫電を、リィエルはヒラリヒラリと避けながら詠唱し、不意に姿が霞み消え―――

 

 

「《撃ち倒せ》―――ッ」

 

 

背後から至近、否、零距離で【ショック・ボルト】を起動し、放った。

 

 

「あぎゃぁあああああああああ―――ッ!?」

 

 

リィエルを見失った模範クラスの生徒はその紫電をマトモに受け、ばたりと床に倒れる。

 

 

「ん。上手くいった。頑張って勉強と特訓をした甲斐があった」

 

 

リィエルは誇らしげに呟き、次の獲物を探しに行った。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「何故だ!?何故私の“正しい教育”で教えられた生徒達が、こんな“間違った教育”で育てられた連中に、何故逆に圧倒されているのだ!?」

 

 

エントランスホールの投射映像に映し出された模範クラスの生徒達が、どの映像でも二組の生徒達に次々と討ち取られていく光景にマキシムは驚愕と屈辱を露にして吠えたてる。

 

 

「簡単な話よ。土台作りを切り捨てた貴方の方針と土台作りをしっかりしてきたグレンの方針。家に例えるなら、脆弱な地盤と強靭な地盤に同じ速度、同じ家を建てた時、どちらが安定した家となるか……ただそれだけよ」

 

「ぐ……」

 

「いい加減認めたら?貴方の教育方針は、最初から“間違っていた”という事に」

 

「そ、そんなはずがぁ……ッ!?」

 

 

マキシムは映像を凝視するも、現実は変わらずまた一人、また一人と討ち取られていく。

結果は火を見るより明らかだった。

 

 

 

そんななか、恐るべき現実が刻一刻と迫ってきていた―――

 

 

 




チャールズよ、そのお宝いい値で―――(この直後、殴り飛ばされ、銃弾になぶられ、炎で消し炭となりました)
『感想お待ちしてます』←灰の上に突き立てられた看板


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九十八話

ホラーな奴らがやってくる!
てな訳でどうぞ


遭遇した模範クラスを次々と返り討ちにし、快進撃を続け、『裏学院』の第三階層を歩くウィリアムは……

 

 

「―――《大いなる風よ》ッ!!」

 

 

突如、何もない筈の廊下に向かって【ゲイル・ブロウ】を放つ。

放たれた突風は何も起きずそのまま通り過ぎていく。

 

 

「《力よ無に帰せ》ッ!」

 

 

廊下のとある一角―――索敵結界にひっかかり、先ほどの【ゲイル・ブロウ】で当たりをつけた箇所に【ディスペル・フォース】をぶつけると、その場所から一人の男子生徒―――チャールズが現れる。

 

 

「隠れていたのはお前だったのかぁ…………フッ、フフフフフフフ……」

 

「な、何で笑うてるんや……?」

 

「一番会いたかったからに決まってんだろ?お前の記憶と持っているお宝とやらを消去する為にな」

 

「僕は今の聞いて、めっさ会いとうなかったがやけんど……」

 

「まあ、そう―――」

 

 

言葉の途中でウィリアムは急に目を細め、その後大きく目を見開いた。

 

 

「きゅ、急にどない―――」

 

「《大いなる風よ》―――ッ!!」

 

 

その反応に戸惑うチャールズを他所に、ウィリアムはチャールズの後ろに突如現れた怪物―――人の姿を象った本の怪物に【ゲイル・ブロウ】を放って、その怪物をチャールズから引き離した。

 

 

「な、なんやこいつはぁあああああああああああ―――ッ!?」

 

 

その怪物を視界に納めたチャールズは、恐怖から絶叫の声を上げ、腰を抜かしてその場から後ずさりする。

 

 

「知るか、んなもんッ!!」

 

 

ウィリアムも正気を削る異形の怪物を前に、緊急事態と判断し、翡翠の石板(エメラルド・タブレット)を取りだし、固有魔術(オリジナル)【詐欺師の工房】を起動。【騎士の剣(ナイツ・ソード)】を数体、具現召喚し、黄金の剣を本の怪物に飛ばして斬り裂こうとするも―――

 

 

「何ッ!?」

 

 

怪物は―――無傷。貫けていないどころか掠り傷一つ付いていない。

 

 

「あわわ、ぐ、《紅蓮の―――」

 

「やめろッ!」

 

 

チャールズが恐怖から炎熱系魔術を使おうとしたので、ウィリアムはチャールズの脳天を殴り、強引に術をキャンセルさせる。

 

 

「ふぐおっ!?」

 

「この『裏学院』内で炎熱系魔術を使うなッ!“裁断の刑”が何なのか分からねぇ以上、使うべきじゃねぇ!!」

 

「じゃ、じゃあどないして……!?」

 

「いつでも【ホワイト・アウト】を撃てる準備をしとけッ!いいなッ!?」

 

「わ、分かった……」

 

 

チャールズが素直に頷いたのを確認したウィリアムは、右手にドッチボールサイズの球体を錬成し、先程の怪物と新たに現れた三体の本の怪物に向かってその球体を投げ飛ばす。

その球体が本の怪物にぶつかった瞬間破裂し、中にあった水が怪物どもにかぶっていく。

 

 

「今だ!」

 

「りょ、了解やッ!《白き冬の嵐よ》―――ッ!!」

 

 

ウィリアムの指示でチャールズは【ホワイト・アウト】を水をかぶった本の怪物達にぶつける。

本の怪物達はたちどころに凍っていき、その怪物達は氷の中に閉じ込められて、沈黙した。

 

 

「おお……ッ!」

 

「こうすりゃ低級呪文でも氷漬けに出来るんだよ。倒せないなら閉じ込めるだけだ」

 

 

ウィリアムはチャールズにそう答え、グレンから渡されていた通信魔導器を起動する。

 

 

「先公ッ!緊急事態だ!」

 

『ああ!既にこちらでも把握しているッ!あちこちに妙な化け物が現れて、何人もその化け物に触れられて、姿を一冊の本に変えられているッ!!』

 

「なんだと!?」

 

『お前らはそこから西側の廊下を進んで、二つ目の曲がり角の左側を進んだ先にいる白猫と合流してくれッ!!そこから改めて指示を出すッ!!それと、絶対に火は使うな!!使った瞬間、本の頁にされて巨大なハサミに切り刻まれるぞ!!』

 

 

グレンはそれだけ言い、一方的に通信を切る。

 

 

「聞こえてたな!?すぐにここから移動するぞ!」

 

 

チャールズは素直に頷き、ウィリアムと共に行動を開始する。

向かう途中で例の怪物達に遭遇したが、人工精霊(タルパ)の騎士で怪物達の足止めをして、そのままシスティーナの元へと向かっていく。

見えた先でシスティーナがいたが、怪物達に対し完全に硬直していた。

 

 

「《水神に仕えし蒼白の竜よ・その猛威と怒りと共に・荒れ狂う水流と化せ》―――ッ!」

 

 

ウィリアムはすぐさま左手を突きだし、錬金【アクシス・カノン】―――極太の高水圧激流を直線上に放つB級の軍用魔術を起動する。

まともに食らえば、全身の骨を砕き、四肢をネジ切り、壁を容易く撃ち抜く威力の水圧砲がシスティーナに目前まで迫っていた怪物達を廊下の最奥へと押し流していった。

実は、ウィリアムは錬金術系統の軍用魔術を幾つも習得している。あまり使わないのは単に、現在の戦法と比べて隙が大きいからだ。

だから時間差起動(ディレイ・ブート)や、予唱呪文(ストック・スペル)といった超高等技術は当時は諦めていた。今回の『生存戦』のための強化合宿で一応習得できたが、付け焼き刃程度の精度なので、現在の技量では初級呪文しかストックできない。

 

 

「システィーナ!呆然としてんじゃねぇ!」

 

 

危うく本に変えられる直前だった為、肝を冷したウィリアムの語気は荒くなっている。

 

 

「システィ!」

 

「システィーナ!」

 

 

ウィリアム達とは別の通路から現れたルミアとリィエルの呼び掛けで、システィーナはようやく我に返り、深く呼吸をする。

そこで再びグレンから通信が繋がり、グレンはそこから第二階層の中央にある大講義室を目指すように指示する。

その直後、再び通路の奥から本の怪物達が姿を現し、ずるり、ずるりと迫って来ている。

そんな迫り来る怪物達を、彼らは突風や嵐のごとき剛閃、氷漬けで対処し、大講義室を目指して行った―――

 

 

 




都合良すぎかな?ちなみにチャールズよ。どんな写真があるかな?

「美少女の生着替え写真」

よし!いい値で―――(この後、集団に判別出来ないほど二人はボコられ、病院へ搬送されました)
感···想······お待ち·····し·····てま·····す·······ガクッ


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九十九話

番外編を合わせて百話目です。よくここまで続いたなぁ·····
てな訳でどうぞ


位置と構造的に、グレンが避難場所に適していると判断した第二階層、南の大講義室にて。

 

 

「……簡易的ですが結界を張りました。チャールズさんの認識阻害魔術と組み合わせましたから、しばらくはあの化け物達はここにいる私達に気づきませんし、入ってこれないでしょう」

 

 

メイベルはこの場に避難してきたチャールズに協力を要請し、ウィリアム達と一緒に行動した事で比較的落ち着くことが出来たチャールズは素直に頷き、メイベルの指示の元、メイベルと共に扉に細工を施していった。

最終的にここに辿り着けたのは三十名弱。半分以上の人数が例の怪物により本に変えられてしまった。

割合としては二組の方が圧倒的に多く生き残っており、本当の実戦経験の差が露骨に現れた結果となった。

グレンの思惑としては、ここに生き残りを集めて、マキシムの『アリシア三世の手記』でここから一回脱出する予定だったのだが、マキシムの持っていた『アリシア三世の手記』は、例の怪物へと形を変えた為、脱出手段が失われてしまった。

そんな状況を、メイベルはこうなることがわかっていたという。そしてあの怪文書の差出人も自分であることも明かした。

グレンがメイベルに、知っている事を話せと促すと。

 

 

「私の正体は……本物の『アリシア三世の手記』なのです」

 

 

メイベルはそう言って自身の左手を右手で爪弾くと、その左手が本の(ページ)のようにめくれた。

自身は人間ではなく“本”と言い切ったメイベルはそのまま、自身が知りうる事全てを話していく。

 

生前のアリシア三世は『魔導考古学』を研究するうちに、“何らかの真実”に気付き、そのせいで二重人格者となり、狂気に陥ったアリシア三世の人格は“何らかの真実”に対抗するために、人間を参考文献に、禁忌教典(アカシックレコード)に限りなく近づいた『Aの奥義書』と呼ばれる狂気の人格をベースとした魔導書、その為の巨大な魔術儀式場―――異なる法則で支配する魔術『特異法則結界』を組み込んだ『裏学院』を作りあげ、その狂気の計画を実行しようとしたが、正気のアリシア三世の人格がメイベルを生み出した後、『Aの奥義書』を『裏学院』に閉じ込め、『裏学院』そのものを封印した後、火打ち石式拳銃(フリントロック・ピストル)で自殺したと。

完全に隔離されていた『裏学院』は、先の異変の学院校舎損壊でほんの僅かな次元の隙間が生じてしまい、『Aの奥義書』がマキシムに自身の断片を渡して出入り口を開けさせたと。

このまま『Aの奥義書』を放置すれば、学院そのものが魔術儀式場となってしまうと。

『Aの奥義書』を消滅させれば、メイベルの持つ機能で脱出と本に変えられた生徒達も元に戻せるという―――“裁断の刑”に処されなかった者以外は。

“裁断の刑”は、あらゆる攻撃に無敵になるという無茶な特性で設計した結果、炎に極端に弱くなってしまった為、それを補うために作った“ルール”だという。

“裁断の刑”に処されたのは全員模範クラスの連中だ。横暴な余所者だが、それでも、助けられたのではないか?という苦い気分になる。

だが、今は感傷に浸っている場合ではないため、気を取り直し、事態解決のため、グレンはメイベルに『Aの奥義書』まで案内するように言う。

 

 

「協力……してくれるのですか?」

 

「それ以外に、手があるのかよ?」

 

「こんな傍迷惑な置き土産、ほっとけるかアホ」

 

 

グレンとウィリアムは、ズレた発言をしたメイベルにそう告げる。

 

 

「さてと……」

 

 

グレンが作戦を考えながら一同を見回していると、何時ものメンバーに加え、カッシュ達も一緒に連れて行ってくれと、グレンに進言する。

グレンはそんな彼らの成長を内心喜びつつ、素直に力を貸してくれと頼み込む。

グレンからの頼みに二組の生徒達が沸き立つなか、心が折れたマキシムがそれに水を差す。模範クラスの生徒達も同様に心が折れており、その場で蹲ったままだ。

 

 

「もうお終いだ……いっそ……」

 

「ンなこと言ってる場合か!?」

 

「口で散々偉ぶっておきながら、結局それか!?」

 

 

グレンとウィリアムは苛立ちを露に、マキシムに吐き捨てる。

 

 

「う、うるさいっ!何故、あんな狂った存在に立ち向かえる!?どうして戦いを挑めるんだ!?」

 

「教師だからだ!!」

「大切なもんを守る為だ!!」

 

 

マキシムの問いに、二人はキッパリと言い放つ。

 

 

「生徒を守んのは教師の務めだ!!それに、“真の魔術師”が何なのか、生徒達が俺の背中を見て、その目で問いかけてんだよ!」

 

「ここで立ち向かわなかったら、俺は大切なもんを失っちまう!だから大切なもんを守る為に戦う、それが俺の信念だ!」

 

「―――ッ!?」

 

 

二人の答えに、マキシムは打ちひしがれたように、絶句する。

―――そして。

戦闘が特に苦手な生徒達、結界維持要員のチャールズ、心が折れたマキシムや模範クラスの生徒達を、安全な大講義室に待機させ、グレン達、総勢十数名は、メイベルの案内の下、『Aの奥義書』が潜んでいる区画へと向かって行く。

その道中でグレンがメイベルに、何故もっと早く公にしなかったのかと聞くと、メイベルは狂気のアリシア三世によって気づかぬ内に行動原理を書き換えられていた為、アリシア三世が作った魔術インクで自身を再編纂(さいへんさん)するまで、できなかったと言い、その魔術インクが入ったインク壺を取り出し、このインクが『Aの奥義書』への唯一の対抗手段であると伝える。

 

 

「そのインクの残りはそれだけですから、あまり無駄遣いはしないで下さい。」

 

 

グレンとウィリアムは素直に頷き、小さいビー玉状のインク弾をそれぞれの銃へと装填していった。

 

 

 




チャールズさんや、他にはどんな写真があるのかな?

「生まれたままの姿、パンチラ、スキンシップ等選り取り見取や!!!」

よし!全部買わせウヴァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア―――ッ!!!(チュドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドンッ!!!!)
感想、お待ちしてます··········(○望の○が~)


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百話

お気に入りが五百越え·······
てな訳でどうぞ


メイベルの案内で一同は『Aの奥義書』が潜んでいる図書室へと辿り着いた。

 

 

「この部屋の最奥に『Aの奥義書』が……狂気に満ちたもう一人の私がいます」

 

 

メイベルがそう告げた図書室は、両脇にある、果てが全く見えない大量の本が詰まった無数の書架で図書館と呼ぶべき程だ。

その書架から本が幾つも勝手に抜け落ち、件の怪物にへと姿を変えていく。通路の奥からも同様に本の怪物が迫ってきている。

 

 

「ここが正念場だ……頼りにしてるぜ、お前ら!」

 

 

グレンが【ウェポン・エンチャント】を付呪(エンチャント)した拳を打ち合わせながら告げ、グレンはそのまま本の怪物の群れへと駆け出し、殴り飛ばしていく。

リィエルもグレンに続き、錬成した大剣を旋風のように振るい、同様に本の怪物達を吹き飛ばしていく。

纏めて襲いかかろうとすれば、システィーナが、ルミアの《王者の法(アルス・マグナ)》によってブーストされた【ブラスト・ブロウ】で纏めて空へと吹き飛ばす。

ウィリアムも【騎士の誇り(ナイツ・プライド)・氷兵】と【騎士の誇り(ナイツ・プライド)・風兵】を具現召喚し、本の怪物達を吹き飛ばす、または氷漬けにして捌いていく。

カッシュ達も【ゲイル・ブロウ】を放ち、突風の弾幕で押し寄せる本の怪物達を押し返していく。

イヴはそんな彼らをフォローするように、黒魔【アイシクル・コフィン】―――冷凍光線で対象を氷漬けにするB級軍用魔術で、攻撃を抜けて迫ってきた本の怪物達だけを撃ち、氷漬けにする。

 

 

「《水神に仕えし蒼白の竜よ・その猛威と怒りと共に・荒れ狂う水流と化せ》―――ッ!!」

 

 

ウィリアムが背後から迫って来ていた本の怪物達に【アクシス・カノン】を放ち、極太の水流で一気に押し流していく。

 

 

「《蒼銀の氷精よ・冬の円舞曲(ワルツ)を奏で・静寂を捧げよ》ッ!」

 

 

イヴがその水流に向かって【アイシクル・コフィン】を放ち、その水流を凍らせる事で、水流の中にいた本の怪物達を大量に氷漬けにし、巨大氷柱へと閉じ込める。

そうやって本の怪物達を触れずに捌きながら、一同はメイベルの案内に従い、奥へと目指して駆け抜けていくのだが……

 

 

「しっかし、倒せないのは厄介だな!」

 

「先生の【イクスティンクション・レイ】や、ウィリアムの【マテリアル・ブラスター】でも駄目なんでしょうか?」

 

 

システィーナから洩れた疑問に。

 

 

「無理だ。どっちも火遊び禁止のルールに抵触する可能性が高い。特に俺のは確実だ」

 

 

ウィリアムははっきりとそう告げる。拳銃はルール的にセーフだったそうだが、三属性複合呪文の【イクスティンクション・レイ】と、【メギドの火】の劣化縮小版である【マテリアル・ブラスター】は抵触する可能性が高く、使用するにはリスクが高すぎる。

虚量石(ホローツ)を取り出しかけたグレンも、ウィリアムの言葉で渋々と虚量石(ホローツ)をしまう。

本の怪物達は強くはないが、炎と特殊インク弾以外では倒すことが出来ない、この特異法則結界空間限定の不死身さに増え続ける底なしの物量。

それでも必死に本の怪物達を捌いていくが……

 

 

「イヴ先生ぇええええええ―――っ!グレン先生を―――」

 

 

遂に、グレンを助ける為に本の怪物達に囲まれたカッシュが餌食となり、脱落した。

それを皮切りに、疲労とマナ欠乏症で、一人……また一人と、前へと進ませる為に犠牲となり、脱落していく。

誰もが先に進む者たちを信じて、前へと送り出す。

そして、グレン、ウィリアム、システィーナ、ルミア、リィエル、イヴ、メイベルだけとなり、沸き上がる怒りを抑え、奥へと進んでいくと―――

 

 

「ふ―――ッ!」

 

 

突然、メイベルが自身の右肘から先を千切り取り、その右手は無数の(ページ)と解けて散っていき、彼らの背後で五芒星法陣の結界となり、後ろから追って来ていた怪物達の行く手を阻む。

 

 

「メイベル!?」

 

「私は“本”ですから、この程度は大丈夫です。それよりも……」

 

 

メイベルが前を見据えた事で、一同もそちらに目を向けると、ホールのように開けた空間にある机の前に、一人の女性が羽根ペンで書き物を行っている。

 

 

「……ようこそお越しくださいました。我がアルザーノ帝国魔術学院の皆様」

 

 

その女性は羽根ペンをインク壺に置き、眼鏡を外して、席を立ってこちらへと向き、にこやかに挨拶をする。

この女性こそが―――

 

 

「お前が『Aの奥義書』とやらの本体か?」

 

「ええ。私こそが、アリシア三世の意志を継いだ……彼女そのものと言っていい存在ですわ」

 

「冗談じゃないです」

 

 

その後、メイベルがそのアリシア三世と口論するが、話は平行線であり、説得は不可能であると悟らせる。

そして、アリシア三世に呼応するように、本の怪物達が現れ、大量の本が宙に浮かび、彼女の周りで回転し始める。

グレンとウィリアムは温存していた特殊インク弾装填済みの拳銃を引き抜き、システィーナとルミアは左手を、リィエルは大剣を、イヴは右手を構える。

今、本に姿を変えられた者達を救う、戦いの火蓋が切って落とされた―――

 

 

 




······生きてるって素晴らしい!!
感想お待ちしてます


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百一話

どんなBGMが合うのかな?
てな訳でどうぞ


本の怪物達が押し寄せてくる。

 

 

「いぃいいいいいやぁあああああああああ―――ッ!!」

 

 

リィエルが大剣を振るい、迫り来る怪物達を薙ぎ払い―――

 

 

「《集え暴風・戦槌となりて・撃ち据えよ》―――ッ!」

 

 

システィーナが【ブラスト・ブロウ】でアリシア三世の前で壁を作る怪物達をまとめて吹き飛ばし―――

 

 

「《悪辣なる鬼女よ・其の呪われし腕で・彼の者を抱擁せよ》―――ッ!」

 

 

ルミアが白魔【ホールド・モーション】―――金縛りの念動場の呪文で、強引に近づいてくる怪物達の動きを一時的に封じ―――

 

 

「《蒼銀の氷精よ・冬の円舞曲(ワルツ)を奏で・静寂を捧げよ》―――ッ!」

 

 

イヴが【アイシクル・コフィン】でアリシア三世の周りを浮遊する全ての本と、アリシア三世の足下を凍らせる。

グレンとウィリアムはすかさず拳銃の引き金を引き、インク弾を撃ち出すも―――

 

ばしゃっ!ばしゃっ!

 

そのインク弾は、書架から高速で飛んできた本によって防がれた。

 

 

「くそッ!またかッ!!」

 

 

ウィリアムは苛立ちを露に拳銃から空薬莢を排出し、新たなインク弾を装填していく。

このように、戦い始めてから幾ら連携して隙を作り出そうとしても、この空間にある大量の本が悉く、インク弾を防いでいくのだ。

メイベルが張った結界である程度分断されてはいるが、天辺が全く見えない本棚には、ぎっしりと本が詰められている。

それでも一同は活路を見いだそうと、必死に戦い続ける。

グレンが拳で、ウィリアムは人工精霊(タルパ)の騎士で、リィエルは大剣で、システィーナは風の呪文で怪物達を吹き飛ばし、ルミアは金縛りの魔術で動きを封じ、イヴは魔術技巧を尽くして隙を作ろうとする。

その間にもメイベルは、自身の身体を引き千切って結界を構築し、ウィリアムも《詐欺師の盾》の魔力障壁を正面のみに展開して、怪物達の洪水を押し留める。

そして―――

 

 

「らぁああああああああああ―――ッ!」

 

 

攻防の果てに、一縷(いちる)の好機を見いだし、ウィリアムは拳銃のインク弾全てを、アリシア三世に向かって撃ち出す。

インク弾は当然、彼女の周りの本で全て防がれるが、その隙にグレンが天高く跳躍し、アリシア三世の頭上を取る。

唯一存在した死角に、グレンは拳銃の引き金を引き絞るも―――

 

ばしゃっ!

 

 

「―――か、ぁ…………」

 

「残念」

 

 

その一撃は、無情にも外されてしまった。本がグレンの脇腹に向かって突撃し、めり込ませ、その衝撃で狙いが外されてしまったのだ。

さらに追い討ちをかけるように、無数の本がグレンに殺到し、本の怪物達の群れへとグレンを吹き飛ばす。

吹き飛ばされたグレンはシスティーナ達のフォローで何とか難を逃れたが、その表情は暗い。

 

 

「……急いデ……下サイ……そろソロ、私モ、限界デス…………」

 

 

身を張って結界を構築していたメイベルも、言語機能に支障を来すほど、限界が迫ってきている。

そんななか、アリシア三世がインクで汚した人も“裁断の刑”に処するようにする新しいルールを作ると言い、机につき、羽根ペンで書き始める。

このままではインクさえも使えなくなるという絶望的な状況に……

 

 

「……イヴ、ウィリアム。後の事は頼むぞ」

 

 

グレンはそう言って、イヴに自身の拳銃のグリップを突きつけた。

 

 

「……何のつもり?」

 

「俺は―――炎熱系魔術を全力で撃って、奴らの数を減らす」

 

「先公ッ!?」

 

「駄目ですよ!ここで炎を使ったら―――」

 

「このままじゃ、もう全滅だ!他の手段を考える時間がない以上、もうそれしか手がねぇッ!!」

 

 

グレンは、はっきりとそう断言し、イヴに拳銃を押し付けようとする。

それに対し、イヴは―――

 

 

「……ええ、私に任せなさい―――」

 

 

不敵に微笑みながら手を伸ばし―――グレンとすれ違った。

 

 

「え?」

 

「―――ただし、こっちの方をね」

 

 

その瞬間、イヴの掌の上に火が灯り、業火となって渦を巻いていく。

 

 

「イヴ!?お前、何を―――ッ!?」

 

 

――有罪(ギルティ)

 

 

イヴの耳元でその言葉が囁かれた瞬間、イヴの手足が本の(ページ)へと変わり始める。

 

 

「適材適所よ。ここは炎の魔術の大家イグナイトの出番。貴方よりよっぽど適任よ。それに……」

 

 

イヴは切なげに微笑んで、グレンにへと振り返る。

 

 

「グレン。貴方はまだ、あの子達に必要なのよ。だから、何の価値もない、最低な私が……」

 

「止めろぉおおおおおおおお―――ッ!?」

 

 

グレンの必死の静止の叫びを無視し、イヴは魔力全開で、呪文を唱えた。

 

 

「《真紅の炎帝よ・劫火(ごうか)の軍旗掲げ・(あけ)に蹂躙せよ》―――ッ!」

 

 

B級軍用黒魔術【インフェルノ・フレア】。

超高熱の灼熱劫火の津波がイヴを中心に燃え広がり。

床を、書架を、天井を、ありとあらゆる場所を、容赦なくその炎で燃やしていく。

 

 

「わ、私の本がぁあああああああああああああああああああああああああああ―――ッ!?おのれぇえええええええええええええええ―――ッ!?」

 

 

アリシア三世の悲鳴と同時に、(ページ)化していくイヴに、無数のハサミが飛んできて迫り、イヴだった頁を容赦なく切り刻んでいく。

 

 

「やめてぇえええええええええええ―――ッ!?」

 

「……そん……な…………ッ!?」

 

「嘘……?」

 

 

“裁断の刑”によって自身の終わりを痛感していくイヴは、この二週間の出来事を思い出し、不思議と満たされていく。

そんな思いを抱いたまま、イヴの意識は暗闇に消えていった。

そんななか―――

 

 

「イヴ。本当はお前のこと―――」

 

「ひっ!?」

 

 

アリシア三世は、グレンが自身の額に押し当てた銃口から逃れようとするも―――

 

 

「―――逃がさねぇよ」

 

 

無数の【騎士の剣(ナイツ・ソード)】がアリシア三世の周囲に突き刺さり、その場から動けなくする。

 

 

「や、やめて―――」

 

 

逃げ場を失ったアリシア三世は命乞いをするも。

 

 

「―――()()()()()()()()()

 

 

グレンは聞かず、引き金を引く。

燃え盛る炎の世界で、一発の銃声が、空しく響き渡った―――

 

 

 




そういえばチャールズよ。お前の写真はすべてベストな角度で撮られているのだが?

「魔術を使って、光の角度を調整したんや!」

······ナイスだぁああああああああああああああああああ―――ッ!!!?
感想、お待ちしてます········(○望の○が~)


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百二話

····遂に追いついちゃったよ
てな訳でどうぞ


全てが焼かれた、図書室の奥で―――

 

 

「「…………」」

 

 

グレンとウィリアムはどの頁もインクで汚れた『Aの奥義書』に見向きもせず、切り刻まれ、小山のように積み重なった紙くずの傍らの前に立つ。

その紙くずの山は、“裁断の刑”に処されたイヴだったものだ。

 

 

「……イヴの先公……」

 

「……馬鹿野郎」

 

 

とても重く、暗い雰囲気に包まれるなか―――

 

 

「先生ぇええええええええええええ―――ッ!!」

 

 

本から元の姿に戻ったカッシュ達が、歓喜の表情で駆け寄ってくる。

今回も無事に解決したと彼らが喜びで沸き立つなか―――

 

 

「あの……グレン先生。イヴ先生は一体どこに?」

 

 

セシルの問いかけに、喜びに浸っていた生徒達が我に返って気付き……

 

 

「そういやあ……イヴ先生はどこに……?」

 

「辺りも焼け焦げていますし……」

 

「確か、火を使えば“裁断の刑”が……」

 

「まさか……その紙くずは……?」

 

「おい、冗談だろ……?なぁ、先生……?」

 

 

状況を理解し始めた生徒達は、必死にその可能性を否定しようとするも、無情にもその現実が彼らの両肩にのし掛かっていく。

 

 

「イヴさんは……炎の魔術を……私達を守るために……」

 

 

システィーナが声を震わせながら告げた言葉に、彼らも全てを悟り、紙くずの前で涙を流し始める。

ウィリアムもその場で膝をつき、やるせない思いで拳を床に突き立てる。

誰もが悲しみに暮れるなか、千切った(ページ)を回収し、『Aの奥義書』をその腕に抱いたメイベルが、その紙くずの小山に手を乗せ―――

 

 

「この学院の学院長、アリシア三世の権能をもって……“貴女達の火遊びの違反行為を不問に致し……()()()()”」

 

 

メイベルがそう宣言した瞬間、紙くずの小山が優しい黄金色の光に包まれ、切り刻まれた(ページ)が元通りにくっついていく。

そして、元通りとなった(ページ)は人の姿を形作っていき―――

 

 

「……何……?なんだか頭がぼうっとして……」

 

 

イヴは元通りとなり、ぼんやりとした表情で周りを見やる。

 

 

「……?貴方達、なんで泣いて……?」

 

「「「「わぁあああああああああああああああああああああああ―――ッ!!!!」」」」

 

「わきゃあ!?ちょっと何!?なんな―――」

 

「良かった!良かったよぉおおおおおおお―――ッ!!!」

 

「イヴ先生~~ッ!」

 

「ぐすっ、うわぁあああああああああんっ!」

 

「ちょっと!お願いだから放れて、苦し―――」

 

 

目を白黒させながらイヴは怒鳴るが、生徒達は一向に放れず、抱きつき、もみくちゃにしていく。

そんな光景を、ウィリアムも安堵の表情で眺める。

『裏学院』での騒動は全員生還で、ようやく幕を閉じた―――

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

例の騒動から後日、マキシムと武断派の教導省官僚十数名と学院理事会の有力者との間に、かなりの収賄があったことが露呈した。

リゼから依頼を受けたセリカが、様々な手段を使って不正行為の証拠をかき集めてきたのだ。

ファムもセリカの証拠集めに以外にも協力し(後に餌で協力していた事が分かった)、相当な量の有力な証拠が集まっていた。

リゼがその証拠を元に、的確に関係各位へと働きかけマキシムを糾弾、失脚へと追い込み、リックはめでたく学院長復帰となった。

勿論、全面衝突していたら、結果はどうなっていたかはわからない。だがマキシムはその糾弾をあっさりと受け入れ、素直に退陣していった。

 

 

「私には足りないものが多すぎた…………零からやり直しだ」

 

 

……そんな言葉を残して。

マキシムの退陣により模範クラスも当然廃止。件の事件に巻き込まれた模範クラスの生徒達も、心に多大なダメージを負い、リゼから渡された編入試験案内要項一式を手土産に、故郷へと帰ることとなった。……約一名を除いて。

 

 

「本日からこのクラスでお世話になるチャールズ=テイラーです。以後よろしゅうお願いします」

 

 

模範クラスの一人だったチャールズはすぐさま編入試験を受け、見事合格し、改めて学院の生徒となったのだ。

チャールズを受け持つことになったグレンは当初、彼がクラスに馴染めるのか心配だったのだが。

 

 

「「…………」」(ガシッ!)

 

 

カッシュとチャールズは無言で握手を交わし、周りの男子生徒も、以外にもチャールズを受け入れていた。……写真が入った封筒を片手に。

女子生徒達も、最初は訝しげな目でチャールズを見ていたが、チャールズが渡してきた写真―――教導中のイヴの写真―――を咳払いしながら受け取り、あっさりと受け入れた。

そのやり取りで、すっかり忘れていた事―――例の“お宝”を思い出したウィリアムはチャールズに詰め寄り、即刻消すよう脅迫するも。

 

 

「勿論……お断りやッ!!!」

 

 

チャールズはそう叫ぶと同時に、何処に隠していたのかと云わんばかりの大量の写真を、教室全体にばら蒔く。ばら蒔かれたその大量の写真は―――イヴとリィエルのあの時の写真だ。どちらも見上げるかのように撮られており、色っぽさに拍車がかかっている。しかもイヴとリィエルのツーショット写真までばら蒔かれている。

 

 

「こ、これはッ!?」

 

「は、ハレンチですわッ!!」

 

「ありがとうございますチャールズ様ッ!!」

 

「この体勢、誰かを押し倒してないか!?」

 

「まさか……」

 

「お察しの通り、イヴ先生はグレン先生を、リィエルちゃんは今僕の胸ぐらを掴んでいるウィリアム君を押し倒している構図です」

 

「「「「よし、死ねッ!!リア充のクソ野郎共ッ!!!!!!!!!」」」」

 

「「チャールズ貴様ぁああああああああああああああ―――ッ!!!!!」」

 

 

そんな感じでチャールズはあっさりと二組へと馴染んでいった。

この後チャールズは、グレンとウィリアム、事態を知ったイヴによって完膚なきまでに制裁され、件の“お宝”はイヴの手によって全て永遠に抹消された。

 

ちなみに、チャールズの下宿先はツェスト男爵が手配する事となったそうだ。

 

 

「こんな素晴らしい美少女の涙目写真をダースで渡され―――ゴホンッ、身寄りのない人物を無下にするなど帝国紳士のすべきことではない!!」

 

 

……ちゃっかりと買収されていたようであった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

国の方針で新しく追加された授業―――『軍事教練』は、生徒達からすんなりと受け入れられた。

理由は簡単、それを受け持つ派遣された軍人―――イヴのスタイルと面倒見の良さからだ。

現に―――

 

 

「「「「イヴ先生ぇ~~ッ!!」」」」

 

「ちょっとッ!?引っ張らないで頂戴!?」

 

 

このように、イヴがあちこちで生徒達に振り回されているのだ。もう人気者である。

 

 

「……グレンの先公、それは?」

 

 

そんな光景を眺めていたウィリアムは、グレンがその手に持っている手帳に気付き、問いかける。

 

 

「メイベルの本来の姿、っていやあわかるか?」

 

「オッケ、把握した」

 

 

その手帳―――『アリシア三世の手記』をグレンは風車のように回しながら……

 

 

「厄介ごとはもう打ち止めにしてほしいんだけどなぁ……?」

 

「……また、来るんだろうなぁ……」

 

「……ですよねぇ~……」

 

「「ハァ……」」

 

 

グレンとウィリアムは、揃って深い溜め息を吐いた。

 

 

 




十一巻はこれにて終了
ここからは原作のあらすじ待ちですね(もしくは外伝)
それ次第ではオリジナルを挟んでから原作になるかもしれません
考えている話の構成は長期休暇中の·······修羅場(バレバレ)
感想お待ちしてます

件の“お宝”は回収した。これは我が家宝にしよう

―――この後、燃やされました


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第十一章・旅行と白銀竜
百三話


原作読んで思った事がある·········修羅場はお預けだったよ········ガクッ
てな訳でどうぞ


「―――本日を持って前学期を終了する。明日から学期間長期休暇……秋休みに―――」

 

 

学院長職に復帰したリックが、前学期終業式の結びの講話を行っている。

全校の生徒も講師も学院アリーナに集っている中、ウィリアムは……

 

 

「…………人工精霊(タルパ)は便利。これ重要」

 

 

またしても人工精霊(タルパ)を使い、今度は教室に居残り。机の上に突っ伏してサボっていた。

今回サボった理由は面倒……というのも勿論あるが、一番の理由は一人になりたかったからである。数日前の騒動―――特にその日の夜の黒歴史を未だ完全に処理仕切れていないからである。その日は偶然酒が入っていた紅茶を知らずに飲んでしまい―――

 

 

「~~~~~~~~ッッッッッッ!?!?!?!?!?!?!?(/////////)」

 

 

自身がやらかした行為を思い出し、ウィリアムは発散するように机の上をバンバンと叩く。変わり身の人工精霊(タルパ)が消えてしまいかねない程に動揺しており、相当堪えていた。……辱しめを受けた筈の少女は実に何時も通りだったが。

 

 

「アレは酒のせいだ、うん。酒のせいだからさっさと忘れよう、うん」

 

 

ウィリアムは自身のあの行動を酒のせいとして、一秒でも早く記憶の奥底に封じる事を決めた。

 

 

「本当にトラブルが多すぎるよな……」

 

 

先日の裏学院の事件を思い出しながらウィリアムは呟く。

 

 

(メイベル……『アリシア三世の手記』が言ってた事も気にはなるがそれ以上に……)

 

 

 

“―――まさか、貴様がいたとは……気づけなかったぞ……”

 

 

 

“―――……思い出したぞ……貴様らは……ッ!?貴様らは……あの……”

 

 

 

ウィリアムの脳裏に過ったのは対峙した魔人―――アール=カーンとアセロ=イエロの言葉。まるで自身を知っているかのような言葉に、ウィリアムは難しい表情で考え込むも……

 

 

(何考えてんだ俺は?ただ単に奴らが昔に会った奴と間違えているだけだろ?真面目に受け取る必要はない筈だ)

 

 

この時のウィリアムは連中の言葉をただの人違いと結論付けた。

 

 

「っていうか家を早く何とかしないとな……何時までも居候という訳にも……」

 

 

ウィリアムは家の事を思い出し、そこから連鎖的に端から見れば甘~い生活が思い出され……

 

 

「……ぁあああああああああああああああああああああああああああああ―――ッ!?!?!?!?!?!?」

 

 

ウィリアムは再び頭を抱えてのたうち回るのであった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

その後、アリーナに集っていた一同も教室に戻り、本日最後のHRも終えた教室は明日からの休暇に話を咲かす生徒達で賑わっていた。

 

 

「明日からの休み、どう過ごすんだ?」

 

「課題と来期の予習をするに決まってるだろ」

 

「じゃあ、一緒にやってもええか?編入したばっかやから色々と覚えなあかん事がぎょうさんやし、ついでに教えてぇな」

 

 

ギイブルの言葉に新しく二組に編入した、マキシムの元・模範クラスの生徒―――チャールズがそう頼みこんでくる。

 

 

「別に構わないさ……復習に丁度いいしね」

 

「ありがとうな!お礼に今度、僕の持っとる秘蔵の写真をタダであげたるわ!!」

 

「卑猥な写真なんか欲しくない!!」

 

 

チャールズのお礼にギイブルは顔を真っ赤にして拒絶する。

 

 

「何だと!?だったら俺も教えるぜ!!」

 

「僕も教えるからその秘蔵の写真を下さい!!」

 

 

話を聞いていた男子生徒達がお礼の写真に目が眩み、自ら名乗り挙げていく。こんな感じでチャールズはすっかりクラスに馴染んでおり、ギクシャクとした雰囲気は一切無い。女子生徒達からは汚物を見るような目をよく向けられているが……

そんな浮わつく中、システィーナとルミアは真剣な表情でだらしなく教卓にいるグレンを見つめていた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

昨夜の深夜、ウィリアムがお風呂に入っている間にそれは起きていた。

 

 

「システィ。私達、このままじゃ駄目だと思う」

 

「急にどうしたのルミア?」

 

 

何時になく真剣な表情で宣言するルミアに、システィーナは目を瞬かせながら問いかける。リィエルはソファーでうとうとと眠りかけている。

 

 

「このまま受け身のスタンスだと、イヴさんに追い越されると思うの」

 

「る、ルミア!?いきなり何を―――ッ!?」

 

 

ルミアの言葉にシスティーナが動揺していると。

 

 

「お風呂空いたぞー」

 

 

談話室にお風呂から上がったウィリアムが入ってきて、空いた事を伝えに来ていた。

勿論、浴槽のお湯は入れ替えてある。

 

 

「わきゃあッ!?」

 

「?どうしたんだ、変な声出して?」

 

「あはは……何でもないよ」

 

 

ウィリアムの疑問をルミアが何時もの笑顔で受け答える。

 

 

「……ん?お風呂、空いたの?じゃあ、わたしが入ってくる……」

 

 

うとうとしていたリィエルが目を覚まし、寝惚けたままお風呂場へと向かって行く。それを確認したウィリアムはそのまま割り当てられている自室へと向かって行った。

 

 

「話を戻すけど、グレン先生とイヴさん、今はいがみ合っているけど……何か切っ掛けがあると、感情がくるっとひっくり返ってそのまま……って気がするの」

 

「……う」

 

「今すぐどうこうという訳じゃないけど、とにかく、このままだと女の子扱いされないと思うの」

 

「それは、確かに……」

 

「先生と生徒だから、リィエルがウィリアム君にやっている事を先生にするのは逆に悪手になるから……」

 

「ちょっとルミア!?何でそこで二人を引き合いにだすの!?」

 

「でも、本人に自覚がないとはいえ、リィエルが私達より大分先に進んでいるのは事実だよ?」

 

「うぐっ!?」

 

 

ルミアの指摘にシスティーナは胸を抑えて項垂れる。キス、一緒にベッドで寝る、酒が原因とはいえ、愛でられる……間違いなくリィエルは自分達の先を進んでいる。

 

 

「だから先生に少しでも私達の事を女の子として見てもらう為には―――」

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――そんな訳で、システィーナとルミアはこの長期休暇を利用してグレンを旅行に誘うという、現時点での攻めの作戦をルミア主導の元で立案した。旅行自体は二人にも今朝話している。

そして満を持してグレンを旅行へと誘い、本人も了承したその矢先―――

 

 

「グレーーーーーーーーンッ!!!!親子水入らずで旅行に行くぞーーーーーーーッ!!!」

 

 

グレンの母親代わり、セリカが上機嫌で現れ、グレンを旅行に誘ってきていた。セリカはあの騒動の後、再びどっかに行っていたのだが、どうやら二人きりの旅行の準備をしていたようであった。しかも行き先は既に決めているという。

 

 

「ちなみに切符はもう取ってあるから拒否権はないぞ?」

 

 

しかも相手の都合なんぞ知ったことじゃないと云わんばかりの横暴さ付きで。

ここでようやく、システィーナとルミアは最大のライバルはイヴではなくセリカである事に気付き、自分達の作戦の出鼻を見事にへし折られた事を悟る。最早二人に出来る事はただ一つ―――

 

 

「「アルフォネア教授ッ!!私達も一緒に連れて行って下さい!!」」

 

 

セリカとグレンの旅行に同行する。これしかなかった……

 

 

「ああ、いいぞ!グレンが喜ぶからな!」

 

 

セリカもあっさりと了承し、秋休みの旅行はセリカ主導で行くこととなった。

 

 

「ん。皆一緒で楽しみ」

 

「二人は初っぱなから疲れているようだけどな……」

 

 

そんな中、リィエルは楽しそうに目を細め、ウィリアムは二人の心情を察して深い溜め息を吐いていた。

 

 

 




本当にあの子との再会は何時になるのかな······?原作待ちだなぁ······(泣)
秋休み期間はどこまでいくのかな·····?
感想お待ちしてます


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百四話

完成したので更新!
てな訳でどうぞ


セリカの鶴の一声で旅行へ行くことになったグレン達。

セリカ曰く、今回の旅行先はアルザーノ帝国に存在する辺境小地方の一つスノリアである。

やたらハイテンションなセリカに引きずられる勢いで、翌日にフェジテを発ったのだが。

 

 

「あれ~?先生達じゃないですか!」

 

 

馬車の中で一人の肌白い、金髪の少女に話しかけられていた。

 

 

「お前は確か……」

 

「ハイ!一年の天才剣士、オーヴァイ=オキタさんですよ!!」

 

 

その金髪の少女―――オーヴァイが胸を張って自己紹介していく。

 

 

「ひょっとして里帰りか?」

 

「ハイ!久しぶりにスノリアに帰るところなんですよ!今からお母さん達に会うのが楽しみで楽しみで!!」

 

「え!?今スノリアって言わなかった!?」

 

「ハイ。そう言いましたが」

 

「私達、ちょうどスノリアに旅行に行くところなんだけど……」

 

「そうなんですか?ということは『銀竜祭』に参加されるんですね!?」

 

 

システィーナの言葉にオーヴァイは目を輝かせて訊いてくる。

 

 

「ああ。この時期はちょうど『銀竜祭』が開催される時期だからな」

 

「でしたらこのオキタさんに説明させて下さい!!なんたって地元ですからね!!」

 

「……そうだな。せっかくだから説明してもらおうか」

 

「ありがとうございます!それでは説明させて頂きますね!!」

 

 

オーヴァイはそのまま『銀竜祭』について説明を始めていく。

 

 

「『銀竜祭』は元々はスノリアに伝わる土着地方宗教に根ざした、白銀竜と呼ばれる竜の神様を崇める伝統祭事でしたが、今の市長さんが観光事業の一環として外から来る方も楽しめるお祭りとして復活させたんです!おかげでスノリアは近年話題の観光地として広がっていっているんですよ!!」

 

「そうね。確かにスノリアが観光名所として有名になったのは本当に最近だものね」

 

「ハイ!ただ、その弊害も現れてはいるんですが……」

 

 

オーヴァイは若干肩を落とす。

 

 

「弊害?」

 

「ハイ。年配の方々が反発しているというか……白銀竜信仰を極端に拗らせた集団が今の『銀竜祭』をぶち壊そうとしているというか……」

 

「……ほう?せっかくの旅行を台無しにする輩がいるのか?」

 

 

オーヴァイの沈んだ言葉にセリカが反応し、その両目を一気に据わらせる。それを見たオーヴァイは慌てて弁明していく。

 

 

「だ、大丈夫ですよ!現役の警備官たる私のお母さんが、その連中が迷惑な行動を起こしたら、即刻ぶちのめしていますので!!だから今年も大丈夫の筈です!!」

 

「そうかそうか。もし祭りが中止になったら、怒りでその街を地図から抹消しそうだからな」

 

「抹消!?お願いですから止めて下さい―――カハッ!?」

 

「オーヴァイさん!?」

 

 

セリカの物騒な発言にオーヴァイは懇願するも、吐血。目の前で吐血された事でシスティーナが大慌てでオーヴァイに駆け寄っていく。

 

 

「オーヴァイさん、しっかりして!?」

 

「だ、大丈夫です……ちょっと動揺しただけですので……」

 

「ルミア!!急いで治療して!!」

 

「う、うん!」

 

 

システィーナの呼び掛けでルミアは大急ぎでオーヴァイに治癒魔術を施していく。

 

 

「まったく。この程度で吐血するとは情けないな~。やるとしても地図から半分消えるくらいさ」

 

「消す時点でアウトだからな!?」

 

「頼むからそんな物騒なジョークは今はやめてくれ!!」

 

「ん?わりと本気だが?」

 

「ゴハァッ!?」

 

「オーヴァイさぁああああああああああん―――ッ!?」

 

 

セリカのブラックジョーク(?)にオーヴァイはさらに吐血。場がさらに混沌とするなか。

 

 

「…………すぅ……」

 

 

約一名は夢の中であった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

馬車で数日、帝都から鉄道で何時間も時間をかけ、オーヴァイを加えた一行はスノリアでもっとも発展した地方都市であり観光目的地でもあるホワイトタウンに到着した。

 

 

「ここがホワイトタウンなのね!?」

 

 

防寒具をしっかりと身に纏い、駅前広場に出たシスティーナが歓喜の声を震わせる。

街は既にお祭り騒ぎであり、あちこちに雪だるまや色とりどりのキャンドルや屋台が並んでいる。

 

 

「あそこで大道芸をやっている人がいるよ!」

 

「苺タルトの屋台……どこにあるの?」

 

「この時期のスノリアには見所が多いからな。きっと楽しい旅行になるぞ?」

 

 

ルミア、リィエル、セリカもばっちりと防寒具に身を固め、街の楽しげな雰囲気を堪能している。そんな中―――

 

 

「さっぶぅうううううううううううううううううーーッ!?」

 

「だらしないですね、グレン先生は」

 

「そんな薄着じゃ当然の結果だろ」

 

 

グレンは講師服のローブを纏っただけという、寒冷地を舐めきった格好で寒さにガチガチと震えており、オーヴァイはシスティーナ達と比べたら薄い手の防寒具にも関わらず平然としており、旅行前日に買った防寒具を身に付けたウィリアムは仏頂面で呆れていた。

ちなみにファムは今回はフェジテでお留守番である。

 

 

「オーヴァイ。お前はそんな薄着で平気なのかよ?」

 

「地元なので慣れてますから平気です!本当は薄手でも大丈夫なんですが、それだと周りが騒いでしまいますからね!!」

 

「……本当に身体が弱いのか、疑わしくなる台詞なんだが」

 

 

オーヴァイとウィリアムのそんな会話を尻目に、セリカは寒さで震えるグレンに後で防寒具を買うと約束し、そのままグレンの腕を自身の腕へと絡ませて予約していたホテルへと向かっていく。

 

 

「…………」

 

 

リィエルはそんな二人を見て何を思ったのか、自身の腕をウィリアムの左腕へと絡ませた。

 

 

「急にどうしたんだ?リィエル」

 

「不思議とやってみたくなった。このまま一緒にいこ?」

 

「……だったら力を緩めてくれ。凄く痛い」

 

「ん」

 

 

リィエルは素直に力を緩め、そのままウィリアムとリィエルは腕を組んだまま、グレンとセリカの後を追いかける。その様は、端から見ればまるで、というより、まさに恋人同士である。

 

 

「~~~~~~ッ!!」

 

「……やっぱり、このままじゃ駄目だよね……」

 

「うわぁ!お熱いですね!!」

 

 

その光景にシスティーナは唸り、ルミアは決意を改め、オーヴァイははしゃいでいた。

そんな一行はシャトースノリア―――スノリアの最高級ホテルへと向かうのだが……

 

 

「このホテルは、我々《銀竜教団(S・D・K)》が占拠したッ!」

 

「このスノリアの地は、我らが白銀竜様の神聖な聖域ッ!!」

 

「故に、余所者は立ち去り、偽りの『銀竜祭』を即刻中止すべきであるッ!!」

 

「不届きもの達に竜罰をッ!!」

 

「「「「S・D・Kッ!!S・D・Kッ!!!」」」」

 

 

その高級ホテル前広場には何故かバリケードが張られており、その内側にいる白頭巾で顔を隠した変態集団がそう叫んでホテルを占拠していた。

 

 

「あれは一体何なの……?」

 

「……あれがお話しした傍迷惑な連中ですよ。だけど心配ありません!すぐにお母さんが解決しますので!!」

 

 

オーヴァイはシスティーナにそう言って辺りを見回し、対策本部らしきテントにいる、長い金髪をポニーテールに結び、自身の身長を優に超える刀剣―――東方の刀『大太刀』を帯刀している女性へと近づいていく。

 

 

「お母さーーーーーーーんッ!!」

 

 

オーヴァイはそう声をあげながらその女性へと飛び込んで抱きついていく。

 

 

「オーヴァイ!?」

 

 

その女性はオーヴァイを視界に収め、驚きを露に彼女の名前を口にする。

 

 

「すいません!お仕事中に邪魔しちゃって……!」

 

 

慌ててオーヴァイの後を追いかけたグレン達は、その女性へとグレンが代表として謝罪する。

 

 

「すまないが貴殿方は……?」

 

「分かりやすく言えば貴女の娘さんが通っている学校の講師と、彼女の先輩達です」

 

 

グレンの簡潔な説明で理解した彼女は微笑み、そのまま自己紹介していく。

 

 

「そうか。この状況だが自己紹介させてもらおう。私の名はオルビス=オキタ。この子の母親であり、スノリア警備官隊の総括者を務めさせてもらっている者だ」

 

「お母さん!さっさと連中をぶちのめして解決しちゃって下さい!」

 

 

オーヴァイは母親―――オルビスに子供のように頼み込むも。

 

 

「……残念ながら今回は不可能なんだ」

 

 

オルビスから出された言葉は無念に彩られたものだった。

 

 

「どうしてなんですか!?」

 

「連中はホテル内の人達を各フロアで軟禁している。それだけならまだ何とかなるのだが……」

 

 

オルビスは苦い顔で一番の障害を口にする。

 

 

「連中は炸炎黒石を用意しているんだ……」

 

「なんだと!?」

 

「マジかよ……」

 

 

オルビスからもたらされた情報にグレンは驚愕に目を見開き、ウィリアムは危険物を用意していた事にうんざりする。炸炎黒石は爆晶石より段違いの爆発力があり、魔力量や術式で威力や指向性も自由自在、おまけに解呪(ディスペル)には超一流の解呪師が何人も時間をかける必要がある厄介極まりない魔道具だからだ。

 

 

「まさか連中がここまでして銀竜祭を中止にさせよう等とは流石に予想していなかった。これは私達の落ち度だ」

 

 

オルビスは申し訳なさそうにそう言うが、元々《銀竜教団(S・D・K)》はテロリストというよりちょっと過激なプロ市民団体のような集団だ。その連中が炸炎黒石を持ち出す等、予想出来ていなくても責められるものではなかった。

 

 

「だから今年の銀竜祭は連中の要求に従い、中止にするしか方法がない。せっかく来てくれた方々には申し訳ないが、人命には替えられないからな」

 

「……こればっかりは素直に帰るしかないな。完全に宮廷魔導士団の案件だし」

 

「そうですね……流石に帰るしか……」

 

 

グレンの真剣な言葉に、想像以上に深刻な事態だと察したシスティーナも今回ばかりは素直に同意し、諦める事にする。

 

 

「つー訳で、セリカ。悪いが今回の旅行は―――」

 

 

グレンはセリカに話しかけ、途中で言葉を止めてしまう。何故ならそのセリカ本人から凄まじい怒りのオーラが溢れていたからだ。

 

 

 

《灰塵の魔女》による蹂躙劇の開幕はすぐ傍まで来ていた。

 

 

 




オキタさんズ、親子として登場!!母親は勿論オルタさん!
理由は母は強い、それが世界の真理であるからだ!
感想お待ちしてます


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百五話

さあ、魔女が暴れる(?)ぞ!!
てな訳でどうぞ


「つまり、あの連中は私とグレンの楽しい楽しい旅行をぶち壊そうとしているという事だな?」

 

 

怒りと不機嫌さ全開のオーラに身を包んだセリカは据わった目と底冷えするような声でオルビスに問いかける。

 

 

「貴女からすればそうだろうな……炸炎黒石さえどうにか出来れば何とか出来るんだが……」

 

「つまりその下らない玩具さえなければ問題なしと……」

 

「ああ。連中の配置場所も、人質達の居場所も既に把握している。炸炎黒石は最上階のスイートルームに居座っている、この騒動のリーダー格の教団員が持っている事もな」

 

「そこまで把握しているのに何で手をこまねいているんだ?」

 

「情けない話なんだが、私に一因があるんだ……」

 

 

オルビスはそう言って溜め息と共に理由を語っていく。

 

 

「連中が騒動を起こす度に私達が素早く制圧していてな……今回の炸炎黒石はその対抗手段として用意されたものなんだ。私達が制圧に踏み込んだ瞬間に爆発させると言っていたから間違いないだろう」

 

「転移、もしくは転送魔術で直接最上階に行くのは?」

 

「その場合も同様だ。そいつはずっと炸炎黒石を手に持っている上に既に起動状態なんだ。だから大人しく要求に従う以外に手がないんだ」

 

 

オルビスの詳細な説明にセリカを除く一同は息を呑む。確かにそんな状況では相手の要求を呑むしか方法がない。

 

 

「そんな玩具、私なら一瞬で解呪(ディスペル)できるぞ」

 

 

……この場に世界最高峰の魔術師、セリカ=アルフォネアが居なければだが。

 

 

「……それは本当か?」

 

「ああ。ついでに連中も軽く一捻りしてやってもいいぞ?」

 

「俄には信じ難いが……いや……」

 

 

オルビスは思案の途中でセリカの顔をまじまじと見つめ、ひょっとしてという感じで目を見開き言葉を口にしていく。

 

 

「まさか貴女は彼の有名なセリカ=アルフォネアか……?」

 

「そうだけど?」

 

 

セリカはオルビスの言葉をあっさりと肯定し、オルビスも確認の為にグレン達に視線を送る。グレン達もその視線の意味を正しく理解し、頷いて肯定する。

 

 

「申し訳ないが、貴女のお力をお貸し頂けないだろうか?私の転送魔術で貴女を最上階のスイートルームに送る。そしてすぐに炸炎黒石を解呪(ディスペル)してほしいのだが」

 

解呪(ディスペル)した後は連中を半殺しにしてもいいか?」

 

 

了承の返事より先に蹂躙を容認させようとする辺り、セリカはやはりご立腹のようである。

 

 

「申し訳ないがそれは控えて頂きたい。下手に死者が出たり、流血沙汰にすると祭りが中止になる恐れがある。建物の倒壊も同様だ」

 

「ちっ……いささか面倒だな」

 

「だが、先の言葉に抵触しなければ貴女の好きにして構わない。用は建物が無傷、犯人共は死ななければいいのだからな」

 

「ふっ、任せておけ!私の手にかかれば連中を殺さず無力化する等、朝飯前さ!!」

 

 

オルビスの警備官らしからぬ許可発言に、セリカは先程とは売って変わって満面の笑みで了承する。そのままオルビスは制圧作戦を事細かに詰め、警備官全員に作戦を伝え終え、それぞれの持ち場に就かせる。

 

 

「ではいくぞ……《転送》ッ!」

 

 

全ての準備を終えたオルビスはセリカに手をかざし、瞬時に最上階へと転送する。それとほぼ同時に持ち場に待機していた警備官達が、実に洗練された動きでバリケードを悠々と乗り越え、広場にいた教団員達を次々と失神させて無力化していく。

 

 

「正気か!?そんな事をすればこの付近は―――」

 

 

教団員の一人がそういいかけるも、その途中で空から何かが降り落ち、雪の地面へと仰向けに沈み込む。その何かは何てことはない。セリカによって炸炎黒石を解呪(ディスペル)され、その上でコテンパンにボコボコにされ、グレンの『作品』のような格好にされた上で、無様に最上階から落とされたリーダー格の教団員であった。厚く積もった雪の上ということもあり、一応は死んでいないが。

 

 

「残念だったな。最大の障害は飛び切りの助っ人によって排除された。もう貴様達に付き合う必要はない!」

 

「そ、そんな―――ッ!?」

 

 

教団員の叫びは警備官が繰り出した、警棒の八連突きで遮られ、そのまま意識を失った。

広場を制圧した警備官達は流れる動作でホテル内部へと突入し、中にいた教団員も外の連中同様に無力化していく。

教団員は人質を盾にしようとしても警備官達はそれより早く人質達の元に辿り着いており、手出しできない状態となり、なすすべなく制圧されていく。

勿論、それだけにはとどまらず―――

 

ちゅっどぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!!!!!!

 

 

「「「「ぎゃあああああああああああああああああああああ―――ッ!?」」」」

 

「よくも私とグレンが泊まるホテルで好き勝手してくれたな!?《全員・覚悟はできている・だろうな》ッ!?」

 

「「「「うぎゃああああああああああああああああああああ―――ッ!?」」」」

 

「マッチョが……暑苦しいマッチョが俺の顔にぃいいいいいいいいいいッ!?」

 

「いやだぁああああああああああああッ!?オカマと抱き合いたくないぃいいいいいいいいいいい―――ッ!!!!」

 

「ママーーーーーーーーッ!?」

 

 

最上階へと転送され、上から下へ向かっているセリカによるお仕置き魔術や憑依魔術による英雄の動き、身の毛も弥立つ精神支配魔術で、教団員達は次から次へと吹き飛ばされ、意識を刈り取られ、覚めぬ悪夢に囚われて蹂躙されていく。

こうして、その日に起きた《銀竜教団(S・D・K)》によるホテル・シャトースノリア占拠事件は、発生から僅か二時間で解決。怪我人は教団員のみで死亡者ゼロ、実被害ゼロで幕を下ろした。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

――《銀竜教団(S・D・K)》によるホテル占拠事件が無事に終結し、人々の混乱も落ち着いき、ホテルも大きな問題なく営業を再開したその夜。

 

 

「こうしてお会いできて本当に光栄です、セリカさん。そして、貴女のお陰で事件も早期解決し、今年の『銀竜祭』も問題なく開催する事ができます……心よりお礼を申し上げます。……本当にありがとうございました」

 

「私からも礼を言わせてほしい……貴女のご助力に感謝致します」

 

 

自らセリカが宿泊するスイートルームに赴いた、スノリアの現市長のジョンとオルビスは深々とセリカに頭を下げてお礼を言う。

 

 

「そして、貴方がたに目一杯、スノリアでの秋休み休暇を楽しんで頂けるよう、精一杯便座を図る事も約束致します。この程度で恩を返せたとは思えませんが……」

 

「いえいえ!?既に十分過ぎる程、恩を返してますよ!?」

 

 

ジョンの聖人君子ぶりにグレンは堪らず謙虚する。既に事件を早期解決したお礼としてホテルに関する賃金は全てタダという十分過ぎるお礼を貰っているのだ。

 

 

「どうしてそこまで『銀竜祭』の開催に拘るんですか?」

 

 

同席していたシスティーナが疑問に思い、ジョンに遠慮がちに聞いてみると。

 

 

「……『銀竜祭』は今のスノリアの生命線だからです」

 

 

ジョンの代わりに、彼の秘書であるミリアが答える。

 

 

「少し暗い話になるが、元々スノリアは近代化の波に取り残された地域。過疎化も年々進み、そう遠くない未来に帝国から消えゆく……ジョン市長が観光名所として町おこしするまではそんな地方だったんだ」

 

「あ……」

 

 

オルビスが引き継ぐように以前のスノリアの状況を説明した事で、馬車でのオーヴァイの話もあり、システィーナも含む彼らは大体の事情を察した。

 

 

「その……ごめんなさい……少し無神経な質問をしてしまって……」

 

「謝らなくていいですよ。余所からきた方々には当然の疑問でしょうし」

 

「どうしても気にやむなら、明日からの『銀竜祭』を目一杯楽しんで行ってくれ。皆が楽しんでもらえれば私達も嬉しいからな」

 

「……はい」

 

 

ジョンとオルビスの穏やかな心遣いの直後。

 

 

「失礼しまーーすッ!!おやつの羊羮や饅頭等をお持ちしましたよーーッ!!」

 

 

元気一杯に扉が開けられ、ニコニコ顔のオーヴァイがトレイの上にある帝国では珍しいお菓子やお茶をテーブルの上へと並べていく。

 

 

「これが噂に聞く東方のお菓子なのね……!」

 

「ハイ!私のお父さんがお母さんから聞いた話を元に再現したものですが、味は保証しますよ!」

 

「少し苦味が強い茶と一緒に食べるといいぞ」

 

「結構甘いなこれ(モグモグ)」

 

「何一人で先に食べちゃってんのぉおおおおッ!?」

 

「はむはむ……美味しいけど苺タルトの方がいい」

 

「こっちもかよ!?しかも失礼な事まで言いやがって!?」

 

 

先ほどの微妙な雰囲気は嘘のように消え、一同はそのまま、出されたお菓子を楽しんでいった。

 

 

ちなみにこの後、セリカが勝手に二人部屋を二つ、追加で取っていた事、その部屋割りを知ったウィリアムはその場でうちひしがれる事となった。

 

 

 




部屋割りはお察しの通りだよ(ニヤリ)
感想お待ちしてます


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百六話

これでいいかのかなぁ?
てな訳でどうぞ


ウィリアムは現在、セリカによって用意された部屋で項垂れながら秋休みの課題に取り組んでいる。ウィリアムが項垂れている、その訳は……

 

 

「どうしたのウィル?そんなに項垂れて」

 

 

対面でウィリアムと同じように課題をやっている、寝間着姿のリィエルが首を傾げて不思議そうに聞いてくる。

そう、セリカが勝手に部屋割りを決め、ウィリアムはリィエルと二人きりの部屋で寝泊まりする羽目になったのである。

 

 

「はぁ……教授は本当に……」

 

「あはは……」

 

 

同じく課題をやるために、ウィリアムとリィエルが泊まる部屋に訪れたシスティーナとルミアはウィリアムの内心を察し、多少は同情していた。……それ以上に複雑な感情が胸の内に宿っていたが。

 

 

「……ちょっと疲れているだけだから気にしないでくれ……」

 

 

ウィリアムは力なくリィエルにそう言いながら課題を終わらせていく。錬金術に関する課題はとっくに終了しており、それ以外の課題も三人よりも早く済ませていっているのだ。

 

 

「……何でそんなに早く解けるのよ……」

 

「師匠のお陰で知識自体は結構あるからな。使えるかは全くの別問題だが」

 

 

ウィリアムは遠い目となってシスティーナの質問に答える。

師匠―――ユリウスの修行は、望んだ事とはいえ本当に地獄であった。幼少期とはいえ竜を単身で倒させようとしたり、当時は苦戦したシャドウ・ウルフの群れへと放り込んだり、尋常じゃない怪力を持つ熊の魔獣に挑ませたり、一度教えたら即刻で実践させたり……と、本当にロクな修行ではなかった。

ウィリアムのその様子に、システィーナは地雷を踏んでしまったとすぐに理解した。

 

 

「あ、明日から『銀竜祭』だから勉強も程々にしないとね!!」

 

「……ああ、そうだな」

 

 

システィーナは明日からの銀竜祭に話題を変えるも、ウィリアムの表情に然程変化がない。そんな中、ルミアがおずおずと切り込んでいく。

 

 

「……ウィリアム君。スノリアに来てから殆どその顔だよね?」

 

「…………」

 

 

ルミアの指摘に、ウィリアムは無言を貫いている。ルミアが言った通り、ウィリアムはこのスノリア地方に来てから殆ど仏頂面で過ごしており、今もその顔のままなのだ。

 

 

「ん。ウィル、あんまりいい顔してない。今回の旅行、そんなに嫌だったの?」

 

「……旅行自体は別に良いんだよ。単に雪景色であの時の事を思い出しちまっているだけだ……」

 

 

ウィリアムは溜め息と共に、スノリアにきてから仏頂面だった理由を小声で明かす。

ウィリアムの言うあの時の事とは、当然約二年前―――イルシアが亡くなった時の事である。

 

 

「頭じゃ理解してんだけど、どうしてもな……」

 

「「「…………」」」

 

 

ウィリアムの明かした理由にシスティーナとルミアは複雑な気分で顔を沈め、リィエルは何時もの眠たげな表情で何かを考え込んでいる。

 

 

「ホント悪いな……暗い気分にさせちまって……」

 

 

ウィリアムが三人に対して頭を下げて謝っていると。

 

 

「それなら、明日は沢山遊ぼ?」

 

 

考え込んでいたリィエルが思い付いたようにそう言ってきた。

 

 

「……は?」

 

 

リィエルの言葉に、ウィリアムは呆けた顔となってリィエルの顔を見詰める。

 

 

「辛い事は楽しい事で癒せばいい……と思う」

 

「……そうだな」

 

 

リィエルのその言葉に、ウィリアムはスノリアに来てから初めての心からの優しい顔になって同意した。

 

 

「……どうしようルミア。今の私達、すごいお邪魔虫の気がするのだけれど」

 

「あはは……確かにそうだね……」

 

 

システィーナとルミアは口ではそう言いながらも、先ほどの空気が霧散した事に安堵の笑みを浮かべていた。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

勉強会もお開きとなり、ウィリアムとリィエルは就寝に就くのだが。

 

 

「……やっぱりこうなるんだな……」

 

「?」

 

 

ウィリアムの呟きに、すぐ傍にいるリィエルは何時もの如く不思議そうにする。最上階のスイートルーム程ではないにせよ、格式の高い二人部屋だ。当然ながらベッドも二つあるのだが、現在使われているベッドは一つだけ。もうお察しの通り、二人は今夜も同じベッドで一緒に寝ているのである。

 

 

「今日は何で抱きついてんの?」

 

 

しかも今夜は互いにただ向き合って寝ているのではなく、リィエルがウィリアムに抱きついて寝ているのである。

 

 

「この辺りの夜は寒いから抱きついたら温かく寝れるって、セリカが言ってた」

 

「また教授なのかよ……」

 

 

もう何度目か分からないセリカの入れ知恵にウィリアムは溜め息を洩らす。

ウィリアムはもうリィエルのこういった行動の静止は殆ど諦めている。嫌いだから止めろ。等という心にも無いことなんて絶対に言いたくないし、恥ずかしいと言えば上書き行動を起こすのだから基本的には諦めるしか道がないのだ。

 

 

「だから、抱き締め合って寝よ?」

 

「……はいはい」

 

 

そんな訳で、その日は互いに抱き締め合って寝る事となった。

 

 

 

―――その頃、最上階のスイートルームでは……

 

 

「そんなに照れるなよ。昔はこうして一緒に寝ていただろ?」

 

「昔の事を持ち出すんじゃねぇよ!?」

 

 

セリカはグレンの背中に抱きつき、一つのベッドで寝ていた……

 

 

「……ううう~~~~~~ッッッ!!!!!」

 

「……会話の内容からして、先生と教授は同じベッドで寝ているみたいだね……あの二人のように……」

 

 

その向こうの扉には二人の少女が聞き耳を立てて、中の様子を探っていた……

 

 

 

ちなみに……

 

 

「………………ッ!!(ガバッ!)」

 

 

とある地にて山籠りの修行をしていた少女は、龍の幻覚を出現させながら飛び起きていたそうだ……

 

 

「……どうして何でしょう。スノリアへの旅行の参加を辞退した事を悔やまれる気分に襲われるなんて……」

 

 

何時もの如く、不穏な電波を掴んだ状態で……

 

 

 




恋する乙女の勘はどこに居ても発揮する!
ホンット、修羅場を書きたいなぁ·······(鬼!悪魔!作者!!)
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百七話

駄文だけど更新!
てな訳でどうぞ


次の日の早朝。

銀竜祭開催のセレモニーが始まり、スノリアの各集落方面からの代表者である巫女役の少女達が聖火を掲げながら市内へと入来した。

三人の巫女と、その従者達はホワイトタウン中央大広場に築かれた祭壇へと辿り着き、聖火と燻製等の供物を一つに纏め、祭壇で待機していた巫女が北の山脈の入り口の麓に築かれた《竜の祠》へと納めるそうだ。

 

 

「あの儀式は―――」

 

「あの儀式はこのスノリア地方の守護者、白銀竜に感謝を捧げる儀式だ」

 

 

システィーナが胸を貼って説明しようとすると、セリカが先んじてあっさりと言ってしまう。

セリカはそのまま白銀竜がどういった存在か、メインイベントの一つであり、『メルガリウスの魔法使い』にも書かれている奉納舞踊についても説明していく。

 

 

「……っと、説明している間にセレモニーは終わったな。せっかくだから、各種イベントを回ってみようぜ」

 

「あっ!?待てって、こら!引っ張るなよ!?……ったく、ガキのようにはしゃぎやがって……」

 

 

セリカはそう言ってグレンの右手を引いて歩き出し、セリカに引っ張られているグレンも口で言う割には嫌そうでもなくそのまま一緒に歩いて行く。

 

 

「今日はいっぱい遊ぶから早くいこ?」

 

「はいはい」

 

 

そんなセリカとグレンの後を追いかけるようにリィエルも続き、ウィリアムもリィエルに引っ張られるように歩いて行く。

 

 

「うぬぬぬぬぬ……」

 

「あはは……」

 

「中々お熱いですねぇ~」

 

 

そんな二組を、システィーナは悔しげに、ルミアは苦笑いで、その場で合流していたオーヴァイは笑顔で見送るのであった。

そんな感じで本格的に始まったスノリアの銀竜祭を見て回っていく一同なのだが……

 

 

「グレン!北地区の高台に上ってみないか!?アイスリア山の絶景はお前も見たいだろ!?」

 

「はいはい。我が師匠(マスター)

 

「わたしたちもいこ?」

 

「ああ、そうだな」

 

「高台の最短ルートはこっちですよー」

 

 

「お前の分までアイスを買ってきてやったぞ?せっかくだからあーんして食わせてやろうか?」

 

「なんでこんなところでアイスなんだよ!?それと一人で食えるわ!!」

 

「苺タルトいっぱい買ってきた。一緒に食べよ?」

 

「苺タルトだけかよ……」

 

「せっかくですから苺大福もどうですか?」

 

「オーヴァイ!?いつの間に俺の隣に!?」

 

「この機会にお二人と仲良くなりたいと思いまして。そして手合わせを願えれば……」

 

「しかも理由が物騒!!」

 

「?」

 

 

こんな感じで祭りを回って楽しんでいるのだが、不満げな人物が約二名いた。云わずもがな、システィーナとルミアである。

 

 

「これじゃあ、完全にお邪魔虫じゃない……!」

 

「今の私たち、完全に引っ付き虫だよね……」

 

「このままじゃ、女の子として見てもらえるどころか、一緒に居たという記憶すら、先生の頭に残らないわ!」

 

「そうだね……このままじゃ駄目だよね!」

 

 

システィーナは拳を握り絞めて悔しげに顔を歪ませ、ルミアもいつになく表情を引き締めて彼らを見やると……

 

 

「いえ~い!私の勝ちだなグレン!!」

 

「ずりぃぞセリカ!?今のコルク弾、明らかに途中であり得ない曲がり方をしたぞ!?ぜってぇ今の、魔術を使っただろ!!」

 

 

グレンとセリカは遊戯屋台で射的勝負をしており……

 

 

「むぅ……全然当たらない……投げ飛ばしたら一発なのに……」

 

「絶対にするなよ?」

 

「いえーい!また当たりましたよー!!」

 

 

その隣では、リィエルはコルク銃を構えたまま不満げに頬を膨らませ、ウィリアムがそんなリィエルを宥め、オーヴァイはまた当てた事にはしゃいでいた。

 

 

「何とかしてオーヴァイさんのように割り込まないと……!」

 

「でも……今の教授、楽しんでいるけど、すごく焦っているように見えるんだよね……」

 

「え?教授が焦ってる?」

 

 

ルミアのその言葉に、必死に頭をフル回転させていたシスティーナは思考を中断してルミアに聞き返す。

 

 

「うん……まるでこの機会を逃したら、もう二度と、先生とこんな時間を過ごす機会がない·····そんな感じに見えるんだよね……」

 

「…………」

 

 

ルミアの気のせい、とは一言では片付けられなかった。ルミアはこれまで他者のそういった予感を当てているのだからルミアがそう言うのであればそうなのかもしれない。

とは言え……

 

 

「……だけど、このままじゃいけないのはルミアも同じでしょ?せっかく旅行に来たのに……(私だって、先生と一緒に遊びたいし……)」

 

「……システィ?」

 

「はっ!?な、なんでもないわよ!なんでもないの、あはは……ッ!」

 

 

最後の呟きを拾われそうになり、システィーナは慌てて手を振って誤魔化す。

 

 

「でも、どうやって割り込んだらいいのかしら?全然、隙がなさそうに見えるんだけ―――」

 

「「あああああああああああああああああーーッ!?」」

 

 

背中からの突然の大声に、システィーナとルミアは驚いて思わず振り返る。そこに居たのは……

 

 

「フランシーヌにコレット!?それにジニーまで!?」

 

 

以前聖リリィ女学院へ短期留学した時に出会った、三人の少女達であった。

 

 

「システィーナにルミア!久しぶりだなぁーーっ!?」

 

「まさか、こんな所で再会するとは思いませんでしたわ!」

 

「どうもー、お久しぶりです」

 

 

フランシーヌとコレットは歓喜に満ち、ジニーは相変わらず気だるげに近寄っていく。

 

 

「どうして貴女達がこんな所に!?」

 

「理由は多分、お前らと一緒だろうよ!」

 

「わたくし達も、スノリアに旅行に来たんですの!」

 

「……おかげでバカお嬢のお世話なので、やってられませんね(ぼそっ)」

 

「え……ジニー?今―――」

 

 

ジニーがボソリと吐いた毒舌に、フランシーヌが聞き返そうとした矢先。

 

 

「あれ?フランシーヌにコレットにジニーか?」

 

「ひょっとしてお知り合いですか?」

 

 

ウィリアム、リィエル、オーヴァイの三人が彼女達の元に近寄って来ていた。

 

 

「リィエルにお兄様!」

 

「やっぱりお二人も来ていたのですね!」

 

「ご無沙汰してます、ウィリアムさん」

 

「はは……本当に久しぶりだな」

 

「ん。久しぶり」

 

 

そんなこんなの再会で、オーヴァイがフランシーヌ達に自己紹介した後、彼らは互いの近況を報告しあいながら歩いて行く。

 

 

「エルザは来てないの?」

 

「エルザさんは今回の旅行には参加されていません。今頃は故郷で山ごもりの修行を積んでおられる筈です……参加するよう強く言ったんですが……」

 

「あれ以来、エルザは鍛練に励み、腕を上げられています。思わず萎縮する程に……」

 

「軍のスカウトからも声がかかったみたいだし、この休暇中にまた腕をあげるんだろうなぁ……今度は天変地異の幻覚が見えるかもな……」

 

 

何故か三人の目がどこか遠くを見つめていた。そんな彼女らの様子に、ウィリアム達が疑問に思っていると。

 

 

「ウィリアムさん。つかぬことをお聞きしますが、リィエルさんとは何処まで進んでいるのですか?」

 

「……は?……ッ!い、いきなり何を……ッ!?」

 

 

現実に復帰したジニーの唐突な質問に、ウィリアムは思わず面くらうも、その意味を理解した途端、動揺してしまう。

 

 

「……進んでいるって、何?」

 

 

首を傾げるリィエルに、続いて現実に復帰したフランシーヌが例を上げる。

 

 

「そうですわね……例えば一緒に寝ている、とか」

 

「ん?一緒に寝ているけど?」

 

「「「……え?」」」

 

 

リィエルがあっさりと答えたその瞬間、彼女らの空気が一気に凍った。

 

 

「ちょっと待って下さい。一緒に寝ているって、夜、ベッドの上で?」

 

「そうだけど?」

 

「ど、どのくらい一緒に寝ているのですの……?」

 

「……一月くらい前?」

 

「ほ、他には……?」

 

「ウィルにむぐっ」

 

「頼むからそれ以上喋らないでくれ!!」

 

 

これ以上の暴露を防ぐ為にウィリアムは強引にリィエルの口を塞ぐ。

 

 

「お兄様!!詳細な説明を要求致しますわ!」

 

「特に一週間くらい前の事を詳しく!!」

 

「申し訳ありませんが喋って下さい。これは私たちのこれからの生活に関わりますので」

 

「黙秘する!!っていうか、何でそ―――」

 

「一週間くらい前って、ひょっとしてあれですかね?先輩方が獣耳と尻尾を生やし、ウィリアム先輩がリィエル先輩の尻尾をモフッていた」

 

 

フランシーヌ達の追及から何とか逃れようとした矢先、オーヴァイがさりげなく特大の爆弾をこの場にへと投下してしまった。

 

 

「……マジですか?」

 

「……本当ですの?」

 

「……本当なのか?」

 

 

フランシーヌ達の言葉に、未だ口を塞がれているリィエルはコクコクと頷いて肯定する。その直後、三人はその場で崩れ落ちた。

 

 

「ど、どうしたのよ急に!?」

 

「あれはそういう事でしたのね……」

 

「龍の幻覚が見えていた時は、リィエルとお兄様がそういう事になっていた時だったのか……」

 

「やっぱり無理矢理にでも今回の旅行に連れていくべきでしたね。もう後の祭りですが……」

 

「今頃、エルザは荒れていますね……」

 

「ああ。絶対に察知してるよな……」

 

「これからも龍の幻覚に怯える日々が続くんですね……」

 

 

三人の呟きに、ウィリアムは猛烈に嫌な予感を覚えながらも。

 

 

「は、早く現実に帰ってこいッ!?すごく目立ってるぞ!!」

 

 

必死に現実に呼び戻そうとしていた……

 

 

 

……とある地にて。

 

 

「…………はぁあああああああああ―――ッ!!!!!!!!」

 

 

その頃、山の木が開拓するように斬り倒されている光景が広がっていた……

 

 

 




彼女達はついに龍の出現タイミングを知りました
まさに好奇心は猫をも殺す、というやつかな?(多分違う)
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百八話

書くのが早いなぁっと
てな訳でどうぞ


あの後、なんとか彼女達を現実へと復帰させ、エルザの詳しい近況を聞いた五人は……

 

 

「え、エルザさん……」

 

「こ、恋する乙女ってやっぱりすごいんだね……」

 

「エルザ、すごく強くなってる」

 

「次会った時が怖いんだが……」

 

「そのエルザさんという方とも会ってぜひ、手合わせしたいですね!!」

 

 

システィーナとルミアは苦笑い、リィエルはずれた事を言い、ウィリアムはやがて訪れる修羅場に戦々恐々とし、オーヴァイはいつも通りの反応だった。

 

 

「そうですわね……恋する乙女はすごいのだと身に染みて実感いたしましたわ……」

 

「修羅場って、本人達だけじゃなく周りにも被害を及ぼすんだってようやくわかったよ……」

 

「もし貴方達の学院から短期留学のオファーのお話が来たら、可能な限りエルザさんを行かせられるよう働きかけさせてもらいます。わた―――お嬢様の平和を守るために」

 

「じ、ジニー……?今、私のと言いかけましたわよね!?」

 

 

ここにいない少女の話題に振り回されながらも、話は例の件―――グレンへと向かう。

 

 

「ところで……レーン先生はおられるのですか?」

 

「お前達がいるんだし……レーン先生も来ているんじゃないかと……」

 

 

フランシーヌとコレットは顔を赤らめながらレーン―――グレンがいないかを聞いてくる。

 

 

「先公はあそこだ……」

 

 

ウィリアムが指をさした先には、グレンとセリカは露店の装飾工芸品を物色していた。

 

 

「あれ?レーン先生はまだ女性に戻られてないんですの?」

 

「しかも、金髪の女性がレーン先生に妙に馴れ馴れしくしてるし……」

 

「……正直、話したくないんだけど」

 

「だけど、話さなきゃ流石に面倒だぞ」

 

「そうよね、ハァ……」

 

 

システィーナは溜め息を吐きながら、どこから話そうかと頭を悩ませる事となった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「「嘘ぉおおおおおおおおーーッ!?レーン先生は本当に男性だったのぉおおおおおおおおーーッ!?」」

 

「いや、普通に気付くでしょ。風呂場の時といい、ウィリアムさんの男性バレの時といい、どんだけ鈍いんですか」

 

 

フランシーヌとコレットは予想通り驚愕しており、ジニーは冷めたツッコミを入れていた。

 

 

「つ、つまり先生は本当に殿方だから、わたくしとも、むむむ結ばれる可能性が―――」

 

「そ、それって、まままマジでワンチャンありありあり―――」

 

「……こうなるから話したくなかったんだけど」

 

「あはは……」

 

 

フランシーヌとコレットの予想通りの反応に、複雑な気分となるシスティーナとルミアだった。

ちなみに、リィエルがウィリアムを引っ張って再び遊び始め、オーヴァイもそんな二人に付いていったのでこの場には既にいない。

 

 

「そういうことでしたら、なおさら許せませんの!わたくしの愛しい先生を独り占めするなんて言語道断ですわ!!」

 

「ああッ!!先生はアタシのもんだッ!!」

 

「……別に、貴女達のものでもありませんし、修羅場を率先して作るんじゃないですよ。発情期の雌犬共が」

 

「よ、容赦ないわねジニー……とにかく、どうしようかなって思っているの」

 

「このままじゃ、何も進展せずに旅行が終わりそうなんだよね。それに……」

 

 

ルミアが視線を向けた先には……

 

 

「だ、大凶だとぉおおおおおお―――ッ!?」

 

「いやぁ~、残念だったなグレン!」

 

「俺は中吉かよ……」

 

「わたしは吉だけど、これ、何の意味があるの?」

 

「やたーーッ!!!大吉ですよーーッ!!いいことがありそうです!!!」

 

 

屋台のおみくじで自らの運勢を占っており、グレンは崩れ落ち、大吉を引いたセリカはニヤニヤ顔でからかい、ウィリアムは先の話の関係から素直に喜べず、リィエルは首を傾げ、オーヴァイははしゃいでいた。

 

 

「……完全に劣勢なんだよね……」

 

 

ルミアはそう言うと同時に、システィーナ共々深い溜め息を吐く。

セリカの圧倒的攻勢を前に、オーヴァイのように強制介入も出来ないシスティーナとルミアの落ち込む姿はまさに正しく敗者であった。

そんな二人に……

 

 

「なるほど、でしたら……」

 

「アタシ達に少し考えがあるぜ?」

 

 

フランシーヌとコレットはそう言い、ある作戦を話していった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

グレンがセリカの言いつけで、全員分の昼食を買いに行かされ、その場から姿を消していた時。

 

 

「『ホワイトタウン最強決定大雪合戦大会』?」

 

「はい。その大会で私達と勝負をしませんか?この大会でもっとも好成績を残した人が……明日一日、先生と一緒に祭りを見て回れる権利を得られる……という勝負を!!」

 

「ほう?」

 

「わ、私は別に教授が先生と遊んでいようがどうでもいいんですけど!とにかく勝負です!」

 

「教授……私達にもチャンスを下さい」

 

「ん、よくわかんないけどセリカ、勝負」

 

「せっかくなので私も参加しますよーー!!」

 

 

四者四様の反応にセリカは四人の顔と我関せずと傍観を決め込んでいるウィリアムを見回し、ニヤニヤ顔で了承する。

 

 

「これなら大丈夫だな……私が私でなくなっても……」

 

「え……?教授、今なんて―――」

 

「だが、やるからには全力だぞ。お前たちも助っ人や久々のお友達でも何でも使って私を倒してみろ!」

 

 

一瞬、セリカが寂しげに何かを呟くも、すぐに勝ち誇った笑みを浮かべて全力勝負だと伝える。

追及の機会を完全に逃し、一同は会場である東のリーネ雑木林へと向かっていった。

 

 

「……酷くね?これ、新手のいじめなの?」

 

 

……ただ一人、グレンをおいてけぼりにして……

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

『皆様、ようこそお越しくださいました。これより、ホワイトタウン最強決定大雪合戦大会を開催いたします!』

 

 

大会運営者が拡声器を使い、ルール説明をしていく。

 

 

『皆様がお付けになられたゼッケンには、身体に雪玉を当てられると、着用者の身体を次第に重くしていく魔術的仕組みがございます。無論、ゼッケンを無断に外せばその時点で失格です。ゆえにルールは単純、最後まで立っておられた方、もしくは途中で参加されるゼッケン零番を倒した方が優勝です』

 

 

大会進行者の最後の言葉で周りがざわめきたつ。大会進行者はそのざわめきを無視してルールを説明していき……

 

 

『攻撃手段は雪玉のみ。それ以外で攻撃した時点で失格となります。あと、大会中に魔術を起動すればその時点でも失格となります』

 

『は?』

 

「……え、マジで?」

 

 

大会進行者から出された言葉に参加者の殆どが何を言っているんだ?という声が流れ、セリカはまさかの魔術起動禁止ルールに思わず面食らってしまう。

 

 

「実はですね。去年この大会に、魔術師の方も参加されていまして……零番の方を倒す為に攻性呪文(アサルト・スペル)以外の魔術を使って挑んだんですよ……結局、零番の方は倒せませんでしたが。今回のルールは一応、ちゃんとした雪合戦にするための措置なんです。お母さんの方針で」

 

 

オーヴァイの説明を受けたシスティーナとルミアは、ありがとうございますオルビスさん!っと、心の中でお礼を捧げていた。

 

 

「……大会中の魔術起動は禁止……それなら……(ブツブツ)」

 

 

セリカは顔を俯け、何かをブツブツと呟いているが、小声という事もあり、周りには聞こえていない。

そんな中、リィエルに引っ張られて参加する羽目となったウィリアムがオーヴァイに話しかけていく。

 

 

「オーヴァイ……まさかとは思うがそのルール……」

 

「……はい。ご想像の通りです。そして零番も想像通りの方ですよ」

 

「やっぱりか……」

 

「?」

 

「さぁ、勝つわよルミア!!」

 

「うん!!」

 

 

オーヴァイの言葉にウィリアムは深い溜め息をつき、リィエルはよくわからずに首を傾げ、システィーナとルミアはこれならセリカに勝てる!と意気込んでいた。

 

 

「《罪深――・~…》……」

 

『―――以上の事を守って頂ければ、共謀、結託、挟撃等何でもござれ!それではホワイトタウン最強決定大雪合戦大会、スタートですッ!!!!!!』

 

 

司会者の音頭で雪合戦大会の幕が開いた。

しかし、システィーナ達はまだ知らない。魔術起動禁止ルールの意図的な穴と、ゼッケン番号零番がどれだけ並外れた存在なのかを……

 

 

 




大会のルール改変!大会は一体どうなる!?
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百九話

雪合戦開始!
てな訳でどうぞ


大会が始まってすぐ、システィーナとルミアはフランシーヌ達と密かに合流していた。

 

 

「考えたわね、コレット!有効な攻撃手段が雪玉しかない上、魔術が使えないなら頭数で有利な私達に勝ち目があるわ!!」

 

「だろ?このルールなら大会中は魔術の起動は出来ないからな!」

 

「そして、アルフォネア教授を直接倒した者が明日の銀竜祭を先生と見て回れる権利を得られる……恨みっこなしですわ!!」

 

「はぁ……面倒臭いですね……」

 

(……あれ?何か重要な事を見落としているような……)

 

 

笑顔のシスティーナと何故か悪い笑顔に見えるフランシーヌとコレット、そんなシスティーナをどこか哀れんだように見るジニーを見て、ルミアの頭に不安が過っていく。

 

 

「それにしても落ちているものは防御手段として使っていいなんて、随分変わっているわね」

 

 

システィーナが周りを見渡せば所々に一メトラ程の長さがある木の板や木の棒が幾つも落ちている。

 

 

「より白熱した雪合戦をするための措置なのでしょうね」

 

「いかにして相手に雪玉を当てるか、本人の腕の見せどころだな!」

 

「そうね。これ程有利ならアルフォネア教授に勝てる筈よね!!」

 

「ええ!リィエルとお兄様、オーヴァイさんとはまだ合流出来ていませんが……」

 

「まずは―――」

 

「―――邪魔な部外者達を全員、片付けるわッ!!」

 

 

一同は走っていた先にいた数名の参加者の集団を取り囲むように散開し、走りながら作った雪玉を猛然と投げ飛ばす。

その光景は雪玉の流星群。

恋する乙女達は目的の為に雪玉を投げ続けた。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

雪合戦は混戦状態となり、システィーナは現在ルミア達とはぐれ、一人でセリカを探していた。

開始から小一時間程で参加者は殆ど脱落しており、残り人数も僅か。システィーナは木の板と雪玉を手に持ち、木の陰から様子を窺っていた。

 

 

「勝負はこれからよ……いくら教授が魔術師として規格外でも、魔術が起動出来ないなら私にも―――」

 

 

その胸の決意を確かめるように呟いていたシスティーナはそこでふと気付く。

 

 

「あれ……?そういえば、どうして魔術の使用じゃなく起動が禁止なのかしら……?」

 

 

大会中の魔術起動禁止。ゼッケン番号零番。そして、オーヴァイの語り口……

それらの情報が混ざりあい、一つの結論へと導かれていく。

 

 

「……ちょっと待って……そ、そんな筈が……」

 

 

その可能性に至ったシスティーナはどんどん顔を青ざめさせていく。彼女はようやく気付いてしまった。魔術起動禁止ルールの意図的な穴に。

 

 

「どうしたんだシスティーナ?そんなに顔を青ざめさせて」

 

「うひぃッ!?」

 

 

突然の背後からの声に、システィーナは慌ててその場から飛び下がりながら後ろの方へと向く。そこにいたのは圧倒的な存在感と威圧感を放っているセリカだった。

 

 

「あ、アルフォネア教授……」

 

「どうした?私を倒すんじゃないのか?」

 

 

セリカはそう言うや否や、手に持っていた雪玉を達人の剣技のような正確無比にシスティーナの顔すれすれを通過するように投げ飛ばした。

 

 

「あ、アルフォネア教授!?今の絶対に魔術を使ってますよね!?ルール違反ですよ!?」

 

「はははッ!何を言っているんだシスティーナ?魔術起動禁止ルールには一切抵触してないぞ?これは大会前に起動した術だからな」

 

 

予想はしていたが信じたくはなかった言葉にシスティーナは一気に絶望の淵に落とされる。確かにルールで禁止にしているのは魔術の()()、魔術の使()()が禁止ではない。

 

 

「その通りだ。戦いは開催前から既に始まっていたのだよ」

 

 

突然の上からの声に、システィーナはすぐに声がした方へと顔を上げると、そこにいたのは、零番のゼッケンを身に付け、右手に木の棒を手にした―――

 

 

「お、オルビスさんッ!?」

 

 

オルビス=オキタその人であった。

 

 

「成程。お前がホワイトタウン最強だな?」

 

「ああ。去年の大会は魔術戦となって特に白熱した戦いだった。私は楽しかったから今年も魔術は全般的にありでも良かったが、一般の参加者はそれでは楽しめないからな。だから今回のルールを追加したのさ」

 

 

オルビスからもたらされた事実に、セリカは不敵に笑い、システィーナは涙目で震えている。

 

 

「さぁ私を倒してみせろ。私を倒せば、その時点でその者が優勝だ」

 

 

オルビスは二人の前に降り立ち、挑発的に言い放つ。

 

 

「その余裕がいつまで続くのかな?今の私はエリエーテの能力と技術をこの身に降ろしているからな」

 

 

セリカはそう言い、木の棒と雪玉を手に持つ。セリカは現在、剣の欠片から【ロード・エクスペリエンス】を使っている。彼女(エリエーテ)の形見たる真銀(ミスリル)の宝剣はあの時のアセロ=イエロへの集中攻撃のさい、セリカが苛立ち紛れにアセロ=イエロに向かって剣を振るい、ものの見事に真っ二つに折れてしまったのだ。

 

 

「かの有名な《剣の姫》の力の一端と戦えるとは……剣士としてまさに光栄の極みだな」

 

 

オルビスも微笑み、雪玉を新たに手に持つ。緊迫の空気が漂い始める中、セリカとオルビスが霞と消え、風を切る音、雪玉が砕ける音が辺りにしばし響き渡る。

 

 

「驚いたな。再現度が相当落ちているとはいえ、ここまで着いてこられるとはな」

 

「いや、相当落ちているのに互角なのだから私もまだまださ」

 

 

互いに雪玉を投げ、迫り来る雪玉を木の棒で叩き落としながらそう言い合う二人は目にも映らぬ速さだ。

どうやって勝ちを拾えればいいのかと、必死に頭をフル回転させていると。

 

 

「システィーナ。ここにいましたのね」

 

 

いつの間にかフランシーヌとコレットがシスティーナのすぐ近くに佇んでいた。……大量の雪の妖精(スノーホワイト)達を携えた状態で。

 

 

「ま、まさか……」

 

「その様子だとやっぱり気付いていなかったみてぇだな?」

 

「すっかり油断してましたわねシスティーナ?」

 

 

フランシーヌとコレットが非常に悪い笑顔となって自身を見詰めている姿を見て、システィーナはようやく自身の大きな間違いに気付いた。

この戦いは大会が始まる前から既に始まっており、自身の持ちうる英智を総動員すべき魔術戦であったと。この雪の妖精(スノーホワイト)達も大会が始まる前に事前に喚んでいたのであろう。

 

 

「申し訳ありませんが貴女にはここで脱落してもらいますわ」

 

「今のお前じゃあれを見た限り、あの人達に瞬殺されそうだからな。この場合、ライバルは少ない方がいいだろ?」

 

「うう……」

 

 

フランシーヌとコレットからの死刑宣告にもうシスティーナは唸るしかない。

いざ処刑タイム!という矢先。

 

 

「うぎゃーーッ!!!」

 

 

向こうからジニーの声が響き渡る。少しして大きな雪玉に頭だけ残して埋まり、白目を剥いたジニーが転がってくる。

 

 

「「「……え?」」」

 

 

フランシーヌとコレットは信じれない思いで、システィーナは希望に満ちた思いでジニーが転がってきた方向に目を向けると―――

 

 

「やたー!今回はお母さんと戦えますよーーッ!!」

 

「ん。勝負」

 

「考えてたようだが、少し甘かったみたいだな?」

 

「あはは……」

 

 

木の棒を構えたリィエルとオーヴァイ、淡く発光している翡翠の石板(エメラルド・タブレット)を器用に指の上で回しながら大量の人工精霊(タルパ)を携えたウィリアム、人工精霊(タルパ)の後ろから苦笑いでこちらをみるルミアがいた。

 

 

 




雪合戦(という名の魔術戦)は一体どうなる!?
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百十話

雪合戦はどんな結末を迎える?
てな訳でどうぞ


―――時間は遡る。

 

 

「うーん。これは少しずるい気がしますねー」

 

「とか言いつつも、ちゃっかりここにいるんだな」

 

「……暇」

 

 

そんな感じでのんびりと談話しているのはウィリアムにリィエル、オーヴァイの三人である。雪合戦の真っ只中の筈なのにここまでのんびりと出来ている理由は、三人は現在雪の下―――地下空間にいるからだ。

この地下空間は開始してから三十分くらい経った頃、ウィリアムが競技フィールドの中心に近い場所を大会前に起動した【詐欺師の工房】でくり貫く部分を取っ手付きの別素材に変え、それをリィエルが素の身体能力で引き抜いた後、その中に飛び込んで最後に雪をガチガチに固めて作った板で蓋をして人工精霊(タルパ)を使い、雪で出入口の蓋を隠したのだ。

 

 

「魔術の使用自体は問題なくて、ゼッケン零番がお前の母親とか……大会を私物化してないか?」

 

「あはは……お母さんは楽しめればそれでいい人ですので」

 

「オーヴァイって毎年参加しているの?」

 

「ハイ。毎年参加してますが毎回途中で棄権になって……」

 

「なんで?」

 

「大方大会中に吐血したとか、ぶっ倒れたとかその辺りだろ」

 

「……ハイ。ウィリアム先輩の言う通りです……ですが、今年はこうして休めてますから最後までいけそうです!!」

 

 

そんな感じで大会そっちのけで談話を続け、時間を見計らって三人は地上へと出ると。

 

 

「「「「あっ」」」」

 

「?」

 

 

出てすぐ先に、両手に雪玉を手に持つジニーと木の板を構えたルミアがいた。

 

 

「……今の私達、すごいタイミングで水を差してしまいましたか?」

 

「う、うーん……私としてはすごく助かったような……」

 

 

気まずげに聞くオーヴァイにルミアは曖昧な笑顔で答えていく。

 

 

「うわぁ、まさかウィリアムさん達がすぐ近くにおられたとは……お嬢様からライバルを排除するよう命令されていますが、多勢に無勢ですので一時撤退させてもらいますね」

 

 

ジニーはそう言って退こうとするも……

 

 

「あ、これ無理です」

 

 

いつの間にか上半身のみの甲冑騎士や巨大な腕といった、雪玉を携えた大量の人工精霊(タルパ)に包囲され、ご丁寧に氷の壁を人工精霊(タルパ)によって設置されている光景を半目で見て、一気に諦めの境地に達した。

 

 

「一応お聞きしますが、ルールは守ってます?」

 

「守ってるぞ。これらは俺の起動中の固有魔術(オリジナル)から生み出したものだし」

 

「なんですか、そのチート魔術は……」

 

 

ウィリアムの固有魔術(オリジナル)の存在に、ジニーは完全に諦めて空を見上げ……

 

 

「うぎゃーーッ!!!」

 

 

雪玉の集中砲火をその一身に浴びた。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――そして、現在。

 

 

「お、お兄様……」

 

「さて、この状況をお前達はどうするのかな?」

 

 

ウィリアムはそう言って固有魔術(オリジナル)人工精霊(タルパ)を召喚し、その人工精霊(タルパ)を使って雪玉を目の前で作っていく。

 

 

「お兄様!?それはルール違反では―――」

 

「ハハハ。これは俺の固有魔術(オリジナル)【詐欺師の工房】によって召喚された人工精霊(タルパ)だ。その効力は効果領域内における錬金術の五工程(クイント・アクション)を破棄したイメージ投射の瞬間錬成。人工精霊(タルパ)召喚はその副次効果さ。だからルール的には大丈夫なのさ」

 

「なんなんですの!?そのとんでもない魔術は!?」

 

「やべぇぞ……アタシらもミスっちまってたな……さすがお兄様だぜ……」

 

 

とんでもない強敵にフランシーヌは驚愕、コレットは渇いた笑みでウィリアムを見やる。

 

 

「中々面白い話をしているな?」

 

「折角だから私達も混ぜてもらえないだろうか?」

 

 

そんな緊迫感漂う雰囲気の中、戦っていた筈のセリカとオルビスが彼らの間に割って入って来る。

 

 

「話を聞いた限り、お前達はデート権を賭けて戦っているそうだな。なら……」

 

「私達が一緒になってお前達に立ちはだかれば面白そうだという話になってな」

 

「そういう訳で、ここからは私達は手を組んでお前達と戦う事になった」

 

 

まさかの共闘発言に一同は……

 

 

「ちょ、ちょっと!?」

 

「うわぁ……」

 

「お、お二人が組むだなんて……」

 

「やべぇぞ……本格的に……」

 

「マジかー」

 

「ん。負けない」

 

「わくわくしてきましたよー!!」

 

 

驚いたり、呆れたり、恐れたり、気合いを入れたりと別々の反応をしていた。

 

 

「どうした?この程度でビビっているのか?」

 

「怖じけついている暇はないぞ。ここは戦場。互いの主義主張は関係ない、己の願いを叶える為の戦いの場だ」

 

 

圧倒的強者オーラ全快でセリカとオルビスは言い放つ。お二人共、完全にノリノリである。

 

 

「じゃあ、遠慮なく」

 

 

ウィリアムはそう言うや否や、人工精霊(タルパ)が持つ大量の雪玉を二人に向けて一斉に投げ飛ばしていく。

セリカとオルビスは襲いかかる雪玉をよけ、木の棒で叩き落として悉く防いでいく。

ルミアも必死に投げ飛ばし、フランシーヌも召喚した雪の妖精(スノーホワイト)達に雪玉を抱えさせて二人に向かわせていくも、木の棒で妖精ごと叩き落とされていっている。時折合間を縫うようにセリカ達から雪玉が投げ飛ばされていくも。

 

 

「ハァッ!!」

 

「おっとぉ!!」

 

「ひぃいいッ!?」

 

 

オーヴァイが叩き落としたり、コレットと涙目のシスティーナが木の板を盾にして防いでいく。

 

 

「いぃいいいいいいやぁああああああああああああ―――ッ!!!」

 

 

リィエルは身の丈の三倍もある超特大雪玉を烈迫の咆哮と共にセリカ達に向けて投げ飛ばす。セリカとオルビスは一呼吸入れ、迫り来る超特大雪玉を二人がかりで切り裂いて防いでしまった。

 

 

「ハハハ、残念だったな!」

 

「悪くはなかったが、この程度で―――」

 

 

不意に上空が暗くなったのでセリカ達は何かと思って頭上を見上げると、超特大雪玉のが隙間なく辺り一帯に、殆ど同時に大量に落ちてきていた。

 

 

「これは避けようも防ぎようもないな。ハハハ……」

 

「フッ、これは一本取られたな」

 

 

その光景にセリカとオルビスは観念したように笑って呟き……

 

 

「わ、私達も巻き添え!?」

 

「これを仕掛けたのって……」

 

「?ウィル、どこ?」

 

「見事にやられましたねー」

 

「は、早く防御を……!?」

 

「早く木の板を……って、回収されていってる!?」

 

 

システィーナは巻き添えに驚愕、ルミアは苦笑い、リィエルはいなくなっているウィリアムを探し、オーヴァイは額に手を当てて笑い、フランシーヌは木の板を求めて辺りを見渡し、コレットは人工精霊(タルパ)に回収されている現場を目撃していた。

直後、彼女達は超特大雪玉の下敷きとなった。

 

 

「これで大会は俺の優勝、かな?」

 

 

龍の人工精霊(タルパ)の背に乗り、上空へと逃げていた仕掛けの張本人はそんな事を言っていた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「……という訳で、今年のホワイトタウン最強決定大雪合戦大会の優勝者はゼッケン百九十番のウィリアムさんです」

 

 

責任者は盛大に疲れた顔でウィリアムの優勝を伝える。

 

 

「く、悔しい~……」

 

「この場合、デート権はどうなるのかな?」

 

「そりゃあ、優勝したアイツに権利があるさ」

 

「明日はウィルとグレンが一緒に遊ぶの?」

 

「ある意味一番良い決着かもしれませんわね……」

 

「明日は先生とお兄様が一緒に見て回るのかぁ……」

 

「お母さんを最初に倒すのは私の予定だったんですが……」

 

「ハァ……すごく疲れました……」

 

 

グレンデート権をかけて破れた者達は口ではそう言いながらも拍手して優勝者を祝福した。……納得はしていないが。

 

 

「それでは優勝商品であるこちらの白銀竜を模した一組のペンダントを贈呈いたします」

 

 

責任者はそう言い、一つの箱に入った二つのペンダントをウィリアムに贈呈する。

 

 

「このペンダント……ペアルックか?」

 

「はい。その通りです」

 

 

その答えを聞いたウィリアムは少し考える素振りをしながら、優勝商品であるペアルックのペンダントを受け取った。

ちなみに来年からは魔術の使用が一切禁止される事になるのだが、今の彼らには知るよしもなかった。

 

 

 




雪合戦終了。この結末で大丈夫かな?
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百十一話

出来たぞ!!さぁ、ブラックコーヒーの準備はいいか!?
てな訳でどうぞ


銀竜祭一日目が終了し、オーヴァイ達と別れたグレン一行はホテルへの帰路についている。

 

 

「……俺をほっぽって、お前達だけで楽しそうなコトしやがって……」

 

「あはは、ごめんなさい先生……」

 

 

独り寂しく置いてきぼりをくらったグレンは完全にふて腐れて殿を歩いており、そんなグレンをルミアが謝りながら慰めている。

 

 

「明日も楽しみだなぁ!男同士の会話を盗み聞きできるいい機会だからな!」

 

「元気ですね、教授は……」

 

 

先頭を歩くセリカは堂々とグレンとウィリアムの尾行を宣言しており、そんなセリカにシスティーナは疲れた顔で嘆息していた。

 

 

「zzz……」

 

「まったく、気持ち良さげに寝やがって……」

 

 

リィエルは遊び疲れたのかウィリアムの背負われすやすやと幸せそうに寝息を立てている。そんなリィエルにウィリアムは肩をすくめ、首もとに視線を向ける。

防寒具で隠れてはいるがウィリアムとリィエルの首には雪合戦大会の優勝賞品である白銀竜を模したペンダントがかけられている。ウィリアムがリィエルに渡した理由は思い出作りと単に箱に閉まっておくのがもったいなかっただけである。このペンダント、意匠がかなり凝っている上に主素材は真銀(ミスリル)、ペンダントからの凍傷や火傷を引き起こさない為の魔術も永続付呪(パーマネンス)されているのでまさに豪華賞品である。

リィエルにこれを首にかけて(一応)プレゼントしたさい、リィエルは微笑んでお礼を言い、周りは相当はしゃいでいたが、次の瞬間、リィエル、セリカ、グレン、オーヴァイを除く一同の背中に凄まじい悪寒が駆け巡った。その理由は明白、故郷で山ごもりの修行をしている少女が再び察知したのである。

その可能性に思い至ったウィリアムは背中の冷や汗を感じながら露店で売られていた腕輪を購入、彼女に渡すよう言い、フランシーヌ達に預かってもらう事にしたのだ。同じくその可能性に至っているフランシーヌ達はコクコクと頷いてこれを了承した。グレン達との再会は隠し通せるものではない、というか確実にバレる。そうなればまず間違いなく荒れる。具体的には龍の数が増えて天変地異の幻覚が見えるという確信がある程に。

そんな感じで一同は歩き続け、宿泊中のホテルが見え始めたところで―――

 

 

「―――アルフォネア教授!今から市長邸に来てください!!教授のお力が必要なんです!!」

 

 

全速力で来たであろうオーヴァイが土下座する勢いで頭を下げてセリカに助力を願い出ていた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

銀竜祭二日目。祭り最終日に行われる銀竜降臨演舞が行われる中央広場の大舞台。

その大舞台は今大きなテントで外からは見えないように隠されており、その中では―――

 

 

「ふ――」

 

 

セリカが演舞指導を受けながら、舞踊を舞うセリカの姿があった。

昨日オーヴァイからのお願いでセリカはグレン達と一緒に市長邸へと赴き、そこでジョン市長達から最終日に行われる銀竜降臨演舞の白銀竜役のダンサーの代役を依頼されたのだ。

本来、白銀竜役のダンサーを務める筈の一流プロバレリーナのマリーを中心に多くのスタッフが突如契約を反故してスノリアから立ち去ってしまったのだ。

秘書のミリア曰く、この妨害も《銀竜教団(S・D・K)》の仕業だとの事。恫喝か買収かは分からないが、とにかくメインダンサー達がいなくなった事で奉納舞踊に大きな問題が発生したのだ。

その事を聞いたオーヴァイが頭を悩ませていた市長達にセリカをマリーの代役にしたらいいのではと提案してきたのだ。セリカなら知名度も高いし、舞踊も魔術を使えば完璧にこなせる筈と。

その提案に市長達は賛成し、失礼な形ではあったがセリカを市長邸に呼び、事情を説明して頭を下げ、マリーの代役を依頼したのである。

セリカはその依頼に面白そうだからと、一つの条件を出してこれを了承した。その条件は―――

 

 

「ぎゃああああああああああーーッ!?」

 

 

……今、足をもつれらせて倒れたグレンを正義の魔法使い役として起用するという条件であった。

 

 

「倒れている暇はないぞ。しっかりと練習してもらわねばいけないからな。だから立ち上がって早く身体を動かせ」

 

 

そう言いながら倒れているグレンを強引に立たせ、踊りの練習を強引に敢行しているのは魔王役を務めるオルビスである。

オルビスは奉納舞踊の動きを全部覚えているのでこうしてグレンの指導に当たっているのである。

 

 

「たった一日で昨日まで見たこともない辺境の伝統舞踊なんざ、出来るわきゃーねぇ――」

 

「心配するな。私の手にかかれば素人でも立派に踊れるようになる」

 

 

オルビスはそう言うや否や、自身の身体をグレンの身体にぴったりと後ろからくっつき、互いの手足等を【マジック・ロープ】で括って固定する。

 

 

「私が今から正義の魔法使いの踊りをする。その動きを身体で感じ感覚で覚えろ」

 

「……あのー、警備官としてのお仕事は大丈夫なんでしょうか?本来のお仕事をすっぽかして……」

 

「問題ない。部下達は優秀だからな。私がいなくてもちゃんと回せていってるさ」

 

「……さいですか……」

 

「では、いくぞ!」

 

「ちょっと待って!?まだ心の準備がぁあああああああああ―――ッ!?」

 

 

グレンの制止も虚しく、オルビスは素早いステップで文字通り、手取り足取りでグレンに伝統舞踊を叩き込んでいく。

 

 

「ちょ、早い早い!!早すぎだって!?」

 

「泣き言を洩らすな!!今は舞踊の動きを身体で感じろ!!時間は待ってはくれないぞ!!」

 

「ひぃいいいいいいいいいいい―――ッ!?」

 

 

オルビスの鬼のような扱きにグレンは涙目となりながらも伝統舞踊を強引に叩き込まれていく。

それ以外にもシスティーナ達も、応援に駆けつけてくれた聖リリィ女学院の生徒達も協力して準備を進めていっている。

そんな中、ウィリアムは……

 

 

「ここのセッティングはこうですね」

 

「はい。そこはそうして……」

 

 

大舞台のセッティングに努めていた。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「それでは明日の成功を祈りまして……乾杯!!」

 

「「「「乾杯!」」」」

 

 

ジョン市長の取り計らいで関係者一同の軽い宴会が開かれ、楽しく談笑しあっている。

 

 

「つ、疲れた……」

 

「お疲れ先公。演舞の方は大丈夫か?」

 

 

皆が沸き立つ中、グレンはぐったりとしており、そんなグレンにウィリアムが話しかけ、今日の成果を聞く。首には優勝賞品のペンダントがかけられている。

 

 

「ああ。まさか本当に一日で振り付けを全部覚えられるとはな……明日もチェックすると言われてるし……」

 

 

疲れきった顔でグレンは遠い目となって成果を語る。グレンはオルビスのスパルタの猛特訓のおかげで全パートの振り付けをマスターし、最後に行われたリハーサルでも周りが感嘆するレベルに仕立て上げられたのだ。それでも急造の付け焼き刃なので忘れていないかのチェックが待っているのだが。

 

 

「お母さんはスパルタですからねー。鍛えるなら基本は徹底的というくらいの」

 

「お前もそんな感じだったのか?」

 

「いえ。さすがに身体の事もあり、無理をさせない範囲で鍛えてくれまし―――」

 

 

二人の会話に割り込んだオーヴァイがそう語っていると―――

 

 

「しぇんしぇぃ~~、おにいしゃまぁ~~、いっしょにのみましょお~~」

 

「あらしがおしゃくすりゅぜぇ~~」

 

 

完全に酔っぱらっているフランシーヌとコレットが、グレンとウィリアム(特にグレン)に絡んできていた。

 

 

「うおっ!?酒くせぇ!?」

 

「お前ら、さては飲んだな!?」

 

「いいじゃにゃいでしゅか~~」

 

「かちゃいこちょいわじゅにしゃあ~~」

 

 

完全な絡み酒と化しグレンに引っ付いている二人に、ウィリアムは我関せずの方針を決めその場から距離を取る。

案の定、フランシーヌとコレット、システィーナとルミアによるグレン争奪戦となった現場を尻目に黙々と料理を口にしていくと。

 

 

「ウィル。苺タルト、一緒に食べよ?」

 

 

例のペンダントを首に下げたリィエルが、大皿に山と盛られた苺タルトを持ってきて差し出してきていた。

 

 

「……そうだな。せっかくだしいただくとするか」

 

「ん」

 

 

端からみれば甘い雰囲気に包まれている二人はそのまま一緒に苺タルトを食べていった。

 

 

 

ちなみにこの後、間違って赤ワインを飲んだウィリアムは酔い潰れてダウン、グレンに背負われて帰ったホテルの部屋で、酔いが覚めきってない状態で目を覚まし、まだ眠りについていなかったリィエルにこの前の続きと言って覆い被さり……

 

 

「……ん、ん……じゅる……」

 

「んっ……んぅぅ……じゅる……んぁ……」

 

 

仕返しの濃厚(ディープ)キスを敢行していた……

そのガチキスの後、Bを実行、成立させたウィリアムは再び眠りに付き、ウィリアムは当然の事ながら、盛大に床をのたうち回ることとなった。

 

 

 




最後はこれだけ。後はご想像にお任せいたします(脱ぎは無し)
感想お待ちしてます


―――夜、十体の龍が嵐を携え、激しく暴れ回る幻覚が目撃されたという·········


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百十二話

この先の展開にわりと悩んでいます
てな訳でどうぞ


日が暮れた銀竜祭最終日。その中央広場には大勢の観光客が集まっている。もっとも観客達はメインイベントだから一応集まった感じなので、奉納舞踊が始まれば観客達は次々と席を立っていく可能性が高い。

 

 

「マジでやるのかよ……」

 

 

正義の魔法使い役の衣装に身を包んだグレンは舞台の楽屋裏から観客席を見て、頬をひきつらせながらぼやく。

 

 

「心配するな。最後のリハーサルの演舞は座長も太鼓判を押すくらいに踊れていたからな」

 

「ええ。付け焼き刃とは思えない演舞でしたから自信を持って下さい」

 

「頑張って下さい、グレン先生!!あんなに練習したんですから大丈夫ですよ!!」

 

 

魔王役の衣装に身を包んだオルビスとハイネ座長、見学のオーヴァイは嘘偽りのない言葉でグレンを激励していく。

 

 

「そうですよ!ちゃんと踊れていたんですから弱音を吐かないで下さい!」

 

「オーヴァイさんの言う通り大丈夫ですよ。だから頑張りましょう、先生」

 

 

バックダンサーの衣装に身を包んだシスティーナとルミアもグレンを元気づけようとする。

そんな中、ウィリアムは……

 

 

「……………………」

 

 

口から魂が抜け出ているのではないのかと言うくらい真っ白となって椅子に座っていた。酔っていたとはいえ、リィエルにBを実行してしまったウィリアムは、最初は俯いた状態でシスティーナ達と朝食を取っていた。ウィリアムのその様子にグレンが疑問に感じて何があったのかと問い質したが、ウィリアムは当然黙秘した。あれを知っているシスティーナとルミアは何となく察してこの話題は打ち切りの方向に持っていこうとしたが、セリカが非常に悪い笑みとなってリィエルに昨日の事を問い質したのだ。

 

 

『昨日?昨日はウィルがあの後目を覚まして、この前の仕返しの続きをしてきた』

 

『どんな仕返しかな?』

 

『唇に―――』

『言うなぁあああああああああああああああああああああああッ!?!?!?!?!?!?』

 

 

あれの意味をまったく理解していないリィエルは何時もの表情で暴露しようとしたのをウィリアムは大声を上げて阻止しようとしたが、セリカが【リストリクション】でウィリアムを口ごと拘束し、セリカは改めてリィエルに問い質した。

その結果、昨日の出来事―――ディープキスと身体中を触られ、撫でられ、愛でられた事を盛大に暴露された。その内容を聞いたシスティーナとルミアは顔を真っ赤にし、セリカは嫌らしい笑顔でさらに獣耳の一件も暴露させ、グレンは流石にウィリアムに同情するという光景が出来上がった。それ以来、ウィリアムはずっとこの状態となったのである。

 

 

「ウィル。朝からずっとそんな感じだけど大丈夫?」

 

「……大丈夫じゃないでしょうか?時間が経てば復活する筈です」

 

 

魔王の配下役の衣装に身を包んだリィエルはウィリアムの心配をし、同じ衣装に身を包んだジニーは嘆息しながらもどこか同情するように呟いていた。

 

 

「お兄様……」

 

「さすがに同情するぜ……」

 

 

フランシーヌとコレットも同情するようにウィリアムに視線を送る。聞いた訳ではないが彼らの様子から何となく察し、聞かない事にしたのだ。下手に知れば、後日、凶暴な龍が大量に降臨しかねないからだ。

 

 

「待たせたな」

 

 

白銀竜役の衣装に着替え終わったセリカが楽屋裏に現れ、その存在感と次元の違う美しさに周りは圧倒される。

セリカは時間が迫っていたのですぐに楽屋裏から立ち去っていくも……

 

 

「セリカ、すっごく綺麗だった」

 

「お母さんも負けてませんよー!!」

 

「どうすれば、女性として勝てるの……!?」

 

「もっと自己研鑽しなきゃ……!」

 

「く、悔しいですわ……!」

 

「どうすりゃいいんだ……!?」

 

「次元が違いますね。色々と」

 

 

約半分を除き、少女達はセリカとの圧倒的な差にうちひしがれていた。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

日が完全に沈み、メインイベントである奉納舞踊が開始される。

観客達は最初はセリカを嘲笑うつもりであったが、蓋を開けてみるとセリカの圧倒的な存在感により見事に魅了されてしまったのだ。

第一楽章は見事に成功し、続く第二楽章も魔王役のオルビスと白銀竜役のセリカの舞踊は圧倒的すぎた。配下役のリィエルとジニーも必死に頑張っているが二人の存在感が圧倒的すぎる為完全に霞んでいる。

 

 

「す、凄い……凄すぎる……ッ!」

 

「今年の奉納舞踊は最高の完成度なんじゃないか!?」

 

 

観光客達が否応なく期待を高めていくなか……

 

 

「……マジでセリカの相方をすんの?これから最後のシーンまで?」

 

「……だ、大丈夫ですよ……リハーサルでは先生もしっかり踊れてましたし……」

 

「リハーサルの時と全然レベルが違いすぎるんですけど……」

 

「…………」

 

 

グレンは頭を抱えて蹲まり、システィーナは何とか元気づけようとするもグレンの次の言葉に黙りとなってしまう。

 

 

「と、とにかく覚悟を決めて頑張って下さい!!」

 

「……いやだぁ……おしまいだぁ……」

 

 

そんな気弱な会話を尻目に、まだ復活しきれていないウィリアムはぼんやりと舞台を覗いていた。

 

 

(ホント、見事なもんだよ……)

 

 

ぼんやりとした思考のままウィリアムはセリカ達の舞踊を見続け―――

 

 

―――不意にセリカの動きが止まった。

 

 

前触れのないセリカの突然の停止に観客達はざわめき、オルビス達も舞踊を中断せざるを得なくなる。

いつまで経ってもセリカは動かないままなので、心配となって一同はセリカの元へと寄って来る。

 

 

「セリカ、一体どうしたんだ!?」

 

 

グレンも楽屋裏から飛び出しセリカに呼びかけるも、セリカの目は何か別のものを見ているかのように、焦点があっていなかった。ウィリアムも流石にこの事態で復活し、セリカの元へと歩み寄る。

 

 

「セリカッ!?しっかりしろ、セリカ!!」

 

 

グレンはセリカを揺さぶりながら必死に呼び掛け続け……

 

 

「――はっ!?」

 

 

セリカは漸くグレンの呼び掛けに気付いて激しく周囲を見回した後、頭を振りながら息を吐いていた。

 

 

「……やっぱ、疲れてたんだよ」

 

「……すまん……私のせいで……」

 

「気にしないで下さい。元々無理を言って頼んだ事ですから……」

 

「オーヴァイの言う通りだ。お前は帰って休んどけ」

 

 

グレンがそう言ってセリカに肩を貸し、立たせようとした、その時、遥か彼方の上空から恐ろしい咆哮が、響き渡った。

その突然の咆哮に周りが動揺するなか、周りの気温がみるみる内に下がっていき、ダイヤモンドダスト現象が発生し、空が急に発生した厚い雲に覆われ、猛烈に吹雪き始める。

そして、再び咆哮が響き渡り、空から圧倒的な存在感を持つ何かが迫ってくる。

 

 

「……来る」

 

 

リィエルは大剣を錬成して空を見上げ、グレンもすぐに身構え、システィーナは黒魔【トーチ・ライト】を唱え、暗闇と化した空間を照らす。

ウィリアムは()()()が見えた瞬間、既に錬成した長大な小銃(ライフル)を構え、そいつの翼を狙って雷加速した日緋色金(オリハルコン)の弾丸を撃ち出す。

しかしそいつ―――白銀の竜はまるで分かっていたかのように弾丸をバレルロールしてかわし、舞台に降り立ちざまに巨木のように太い前足をウィリアムに叩きつけようとした。

ウィリアムは咄嗟に【騎士の誇り(ナイツ・プライド)・楯兵】を具現召喚するも―――

 

 

「―――があッ!!」

 

 

騎士の誇り(ナイツ・プライド)・楯兵】は容易く砕け散り、弾力性の高い壁を錬成する間もなく前足が叩きつけられ、ウィリアムは容赦なくその場から叩き飛ばされてしまう。

ウィリアムは派手に雪の積もった地面をバウンドしながら飛んでいき、そのまま意識を手放してしまった。

 

 

 




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百十三話

気持ちが怠いと色々と重くなる·······
てな訳でどうぞ


「うっ……」

 

 

肌を刺す寒さと全身の気だるさを覚えながらウィリアムは意識を取り戻した。

目に映ったのは見知らぬ天井。どうやらベッドの上で寝ているようだ。

 

 

「ウィル。気が付いた?」

 

 

声がした方へと顔を向けると、そこには椅子に座り防寒具に身を包んだリィエルがおり、心配そうな顔を向けていた。近くにはカンカンに焚かれている石炭ストーブがあるが、本当に燃えているのか怪しいくらい、部屋は寒いままだ。

 

 

「確か……白銀の竜が現れて……そいつにぶっ飛ばされて……」

 

 

ウィリアムはあの時の事を思い出しながら、身体から感じる倦怠感を振り切るように身体を起こす。だが……

 

 

()ぅ……ッ」

 

 

義手の右腕から激痛が走ったため、思わず顔をしかめてしまう。見れば右腕の義手の腕袋は外されており、その灰色の義手は至る所にヒビが入っている。

確かあの時、白銀竜の攻撃から咄嗟に右腕を前に出していたと思い出したウィリアムは、義手の調子を確認していく。

 

 

「……大丈夫、ウィル?身体はセリカが治療したけど……」

 

「そうか……おかげで身体の方はもう少ししたら大丈夫だし、義手も時間と魔力をかければ元通りだが……」

 

 

ウィリアムはそう言いながら窓の外を見やる。外は猛然と吹雪いており、とんでもない寒波が襲っているのが容易に想像出来る。この状況で下手に魔力を消費する訳にはいかない。可能な限り温存すべきだ。

そう判断したウィリアムはリィエルから軽く状況を訊いた後防寒具に身を包み、右腕を骨折した時にする形で固定し、リィエルに連れられて皆がいる談話室へと向かって行く。談話室の扉を開けるとそこにはグレン、システィーナ、ルミア、厚手の防寒具に身を包んだオーヴァイ、フランシーヌ、コレット、ジニー達が石炭ストーブで暖を取っていた。

 

 

「起きたかウィリアム。身体の調子はどうだ?」

 

「まだ少し怠いし、義手の方は結構酷いが大丈夫だ。それよりあの後、何があったか説明してくれねぇか?」

 

 

ウィリアムの言葉にグレンは素直に頷き、ウィリアムが気絶した後の事を説明する。

あの白銀竜は竜の咆哮(ドラゴンズ・シャウト)打ちのめす叫び(スタン・スローター)】であの場に居た九割以上の者達を行動不能にさせ、『メルガリウスの魔法使い』に登場する魔将星―――“白銀竜将ル=シルバ”と名乗り、セリカに怨みの言葉を告げ、約束の地で決着を付けようと宣戦布告して立ち去ったそうだ。

そして、この異常気象はおそらくあの白銀竜が起こしている事も。

今までの状況証拠からしてもはや疑いようがない。『メルガリウスの魔法使い』は単なる童話ではなく、古代の文明の一定の真実を描いた“記録”だという事を。

魔将星も、彼らを従えていた魔王も実在した人物という事になる。おそらく“正義の魔法使い”に該当する人物も実在していた可能性が高い。しかし同時に何故連中がセリカを知っているのかという疑問が浮上する。グレンの話を聞いた限りでもあの竜は勘違いではなくはっきりとセリカを知っているのだ。

そんな中、雪にまみれたジョン市長と秘書のミリアの二人が談話室へと入ってくる。

ジョン市長は改めてグレンからこの状況が白銀竜の仕業であると確認し、自警団と警備官に白銀竜討伐の編制を指示を伝えるようミリアに言いかけるも……

 

 

「駄目だッ!竜相手に“量”に挑んでも意味がねぇッ!求められるのはひたすらな“質”……この状況でまともに動けるのは俺達魔術師だけだ」

 

 

グレンはキッパリとそう断言し、ウィリアム達に顔を向ける。

 

 

「ちょ……待ってください!!いくらなんでも―――」

 

「大丈夫だ。魔術師のレベルだけなら、とっくに俺を超えているさ。それに矢面に立つのは、当然俺と世界最強の魔術師様だ」

 

 

グレンの不敵な言葉にジョン市長とミリアはハッとした表情になる。

グレンはそのまま世界最強の魔術師たるセリカが今いる部屋へと赴いたのだが、すぐに泡を喰った顔で戻り、セリカがいなかった事を告げた、その直後―――

 

ずんっ!!

 

不意に地響きが鳴り渡り、その場の一同は弾かれたように外へと出ると。

 

 

「皆、あれ!?」

 

 

システィーナが指をさした先には、遥か遠く向こう側に、燃え上がった紅蓮の猛火が小さく一点を灯す光景が見えた。

アヴェスタ山峰の麓辺りで上がる灯火を見て、グレンはあれはセリカの攻性呪文(アサルト・スペル)だと確信して皆へと伝える。

さらにこの猛吹雪の中、数名の自警団が慌てた様子で駆けてきた。

 

 

「た、大変です市長!!アヴェスタ山峰の方角から化け物の群れが……ッ!!オルビス総隊長と『気』を多少使える警備官達が食い止めていますが……ッ!!」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

ホワイトタウン、北の玄関口となる北区画街にて。

その大広場にて、“氷で形作られた骸骨”達が警備官達に襲いかかってくるのだが。

 

 

「炎王煉獄斬!!」

 

 

オルビスは炎を纏った大太刀を振るい、襲いかからんとしていた氷の骸骨達を火柱に包み込み容赦なく溶かしていく。

 

 

「ハァッ!」

 

「シィ―――ッ!」

 

 

彼女と共に戦う警備官達も、手に持つサーベルには不可思議な揺らめきを発しており、そのサーベルで容赦なく氷の骸骨達を切り刻んでいく。

 

 

「この化け物達は『気』を使った攻撃でしか倒せないのが厄介だな……!」

 

「だが、総隊長から『気』を学んでいなければ足止めしか出来なかったところだ!」

 

 

警備官達はそう言いながらも襲いかかってくる骸骨達を切り飛ばしていく。最初は普通に斬っていたのだが、バラバラにした氷の骸骨がひとりでに組上がって復活したのを見た時点から『気』を使った攻撃でバラバラにした所、復活する気配が感じられなかったので、現在は『気』を使える者を中心に応戦しているのである。『気』を使えない方の警備官は市民の避難誘導や『気』を使える方の警備官の援護に回っている。

 

 

「しかし数が多いな。このままでは追い詰め―――」

 

 

警備官の一人がそう呟いた、その時―――

 

 

「ぅおおおおおおおおおおおおおおおーーッ!」

 

「いいいいいいやぁあああああああああーーッ!」

 

「はぁあああああああああああああああーーッ!」

 

 

駆けつけたグレン、リィエル、オーヴァイの魔力を付呪(エンチャント)した一撃が氷の骸骨達を吹き飛ばし、粉砕し―――

 

 

「焼き尽くせッ!!」

 

「《紅蓮の獅子よ・()()()()()()()()()・吼え狂え》―――ッ!」

 

「《聖なる送り火よ・彼等を黄泉に導け・その旅路を照らし賜え》―――ッ!」

 

 

続いてウィリアムの【騎士の誇り(ナイツ・プライド)・炎兵】、システィーナの黒魔()【セイクリッド・バースト】、ルミアの白魔【セイント・ファイア】が氷の骸骨達を容赦なく呑み込み、溶かしていく。

さらにフランシーヌ達も参戦し、氷の骸骨達は一気にその数を減らしていく。

 

 

「ここはわたくし達に任せてください!」

 

「先生はアルフォネア教授を助けに行ってきてくれ!」

 

 

彼女達の頼もしい言葉にグレンは素直に頷き、何時ものメンバーを連れて行こうとするも。

 

 

「待ってください!私も連れて行って下さい!」

 

 

オーヴァイが同行を求めて彼らを引き留めた。

 

 

「オーヴァイ!?」

 

「アヴェスタを登るなら案内する人がいた方がいい筈です!戦力にもなりますし、損はない筈です!」

 

 

オーヴァイの申し出にグレンは悩ましげな顔となる。確かにオーヴァイの申し出は有難いが、彼女自身はそこまで身体は強くなかった筈だからだ。登山途中で倒れでもしたらそこでアウトとなる。だが……

 

 

「……今は状況が状況だし少しでも戦力は必要だ……オルビスさんすいません。貴女の娘さんをお借りします!!」

 

 

グレンは悩みながらもオーヴァイの同行を許可し、オルビスに向かって頭を下げた。

 

 

「了解した。どうか娘の事をよろしく頼む、グレン先生」

 

 

オルビスは氷の骸骨を十体近く同時に斬り倒しながら了承する。

 

 

「はいッ!!行くぞ、白猫、ルミア、リィエル、ウィリアム、オーヴァイ!!」

 

 

グレンの掛け声に五人は素直に頷き、オーヴァイを加えた六人はその場を後にした。

 

 

 




大丈夫だよな·······?『気』なら使えても問題なく、骸骨達も倒せる筈········!
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百十四話

遅くなりました
夏バテのせいか色々と怠くなっていますが失踪しないよう頑張ります
てな訳でどうぞ


「ここがアヴェスタ山峰へ続くルートの登山口か?」

 

「ハイ。目的の山頂へ行くにはこの道しかありません」

 

 

シルヴァスノ山脈の(ふもと)にあるいと高きに聳え立つ白の巨峰の前でグレンは地図を広げてオーヴァイに確認し、オーヴァイも肯定する。この超悪天候では徒歩でしか頂上へと辿り着けない以上、セリカはまず間違いなくこのルートを通る筈だ。

グレンは携帯コンパスで慎重に方角を確認し、鉛筆で地図上に磁北線を引き、一同に【エア・コンディショニング】を切らさないよう注意し、呼吸法でマナを慎重に取り込むように言う。

 

 

「俺が先頭、リィエルが殿だ。オーヴァイは登山ルートの確認、ルミアは回復役だから魔力はなるべく温存。ウィリアムは病み上がりだから無理せずに魔力を温存しとけ。白猫は【スペーシャル・パーセプション】で常に周囲の地形確認だ。……お前が俺達の命綱だ」

 

「任せてください……」

 

「わかりました」

 

「了解」

 

「ん」

 

「ハイ」

 

「雪山は、魔術師である俺達にとってはそう怖いものじゃない。……行くぞ」

 

 

そうして、一同は雪山の頂上を目がげて歩き始めた。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

登る。

……ただ、登る。

白き死の銀世界を登り続ける。

道標のように散らばっている氷の亡霊の残骸を踏み越えながら、たまに現れる氷の亡霊を退けながら彼らは進んで行く。

そして五度目の戦闘。遭遇早々にウィリアムは高威力の銃弾で氷の亡霊の手足を撃ち砕いていく。銃弾に魔力は付呪(エンチャント)されていないのでこのままだと復元されるが―――

 

 

「ふ―――ッ!」

 

「いぃいいやぁああああああ―――ッ!」

 

「ハァ―――ッ!」

 

 

復元される前に、グレンの拳とリィエルの大剣、オーヴァイの刀が手足が砕けている氷の亡霊を粉砕し、止めをさしていく。

こうする事で全体の消耗率を抑え込んでいるが、一戦ごとの消耗は普段よりも激しい。特にグレンは平凡な魔力容量(キャパシティ)と自身の魔術特性(パーソナリティ)から呼吸法での魔力回復の効率も悪く一番消耗が激しい。ウィリアムの魔力容量(キャパシティ)も高い方ではないが呼吸法でマナをしっかり取り入れられているのでまだ余裕がある。

そんなグレンの消耗に気付いたルミアが《王者の法(アルス・マグナ)》でグレンの持続付呪(ディレーション)をアシストし、グレンの魔力回復の手助けをする。

途中でリィエル主導の強引な休憩を挟みながら一同は雪山をひたすらに登って行く。

そして……

 

ずん……

 

唐突に強大な地響きが一同の元に届いた。

 

 

「せ、先生……今のは……」

 

「セリカだな。今のは……周囲に注意を払ってくれ」

 

 

グレンが警告し、一同は足を止める。

眼前の小高い尾根の向こう側から、地響きを立てて爆炎が上がるのが見えた直後、一同はそこにセリカがいると判断し、大急ぎでそこへと向かって行く。

やがて天辺に辿り着いた一同が見下ろした先には、セリカの後ろ姿と巨人のような巨大な氷の骸骨が立ちはだかっている光景だった。

 

 

「なんだありゃあ!?デカすぎだろ!?」

 

「あれはきっと集合霊です!!アルフォネア教授を止めるために、この一帯の亡霊達が寄り集まったんですよ!」

 

 

システィーナの説明を聞いた一同は急いでセリカの援護に向かおうとした、その時。

 

 

「《くたばれ》ぇええええええええええええ―――ッ!!」

 

 

セリカが何事か呪文を叫び、巨人を中心に炎の線が縦横無尽に奔り、雪原一杯に巨大な魔術法陣を形成した。

その魔術法陣から天を衝かんばかりの真紅の紅炎が上がり、氷の巨人を瞬時に消滅させた。

セリカの規格外すぎる実力に一同は何ともいえない気持ちに陥っていると、不意にセリカの身体が糸が切れた人形のようにその場に倒れ伏してた。

 

 

「―――ッ!?セリカ!?」

 

 

グレンが慌ててセリカの元へと駆け寄り、ウィリアム達もグレンの後に続くようにセリカの元へと駆け寄って行く。

 

 

「……ッ!?不味いぞ!?こいつ、マナ欠乏症に加えて低体温症まで起きてやがる!このままじゃマジで命に関わるぞ!?」

 

 

グレンの切羽詰まった言葉に、一同はセリカを救おうと大慌てで動き始める。

だが、その時、低い地鳴りが一同の耳にへと届く。

 

 

「こ、この音は……?」

 

「まさか、白銀竜……?」

 

 

システィーナとルミアは不安げに辺りを見見回し、リィエルは大剣を深く低く構え、油断なく見回す。

だが、グレンとウィリアム、オーヴァイは愕然として、山頂へ続く急斜面の方へ顔を向けていた。

 

 

「嘘だろ……!?」

 

 

グレンは真っ青な顔で頬を引きつらせ、見上げている先には―――

 

 

「不味いですよ!!あの雪崩、真っ直ぐこちらに向かってますよ!?」

 

 

洪水の如き大量の雪が流れ落ちるように下り、一同を呑み込まんと迫って来ていた。

 

 

「白猫!ルミアを担いで《疾風脚(シュトロム)》であっちの尾根の上に登れッ!リィエルは白猫のフォロー!ウィリアムとオーヴァイも白猫達に続いて安全地帯に上がれ!セリカは俺が何とかする!!」

 

 

グレンが一際高い尾根を指さし、ぐったりしているセリカを背負いながら指示を飛ばしていく。

 

 

「急げッ!!このままじゃ雪崩に呑み込まれて全滅だ―――ッ!!」

 

 

グレンの逼迫した叫びに押されるように、ウィリアム達はグレンが指さした尾根を目指して駆け出す。

システィーナはルミアを担いで《疾風脚(シュトロム)》で斜面を飛ぶように駆け上がり、後から続くリィエルとオーヴァイは素早く雪上を移動し、ウィリアムは若干遅れながらも幾つもの【騎士の楯(ナイツ・シールド)】を足場代わりにして尾根へと目指していく。

だが……

 

 

「―――カハッ!?」

 

 

オーヴァイが途中で吐血と同時にその場で倒れ込んでしまう。

 

 

「オーヴァイ!?」

 

 

その光景に後ろにいたウィリアムは驚き、すぐにオーヴァイの隣に駆け寄る。状態を確認する時間すら惜しいので、人工精霊(タルパ)を使ってオーヴァイを何とか左肩へと担ぎ、再び尾根へと目指すがその歩みは先程よりも遅くなっている。

 

 

「急いで!!早くしないと雪崩に……ッ!?」

 

 

システィーナがウィリアムとまだ遥か下にいるグレンにへと必死に呼びかけるも、雪崩は無慈悲に彼らに迫る。

その状況にシスティーナとリィエルは居ても立ってもいられず、システィーナは《疾風脚(シュトロム)》で、リィエルは【フィジカル・ブースト】全開で駆けつけようとするも―――

 

 

「来るなッ!!もう間に合わねえ!!」

 

「今からじゃ巻き込まれる人数が増えるだけだ!!」

 

 

冷静に判断したグレンとウィリアムがそれを止める。

 

 

「心配するな!!この程度でくたばるかよッ!」

 

「リィエル!ちゃんと生きて合流するから二人の事をしっかり―――」

 

 

その言葉を最後に。

グレンとセリカ、ウィリアムとオーヴァイは雪崩の中に呑み込まれていった―――

 

 

 




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百十五話

完成したので投稿
てな訳でどうぞ


―――雪崩から少し時間が経過した頃。

雪が積もったとある一ヵ所から紫電が飛び散り、一つの穴が開いていく。

 

 

「何とか上手くいったか……」

 

 

そう言いながら這いずるように穴から出てきたのは、黒魔【マジック・ロープ】でオーヴァイを背のうを背負った背中にへとくくりつけたウィリアムである。

雪崩に呑み込まれる直前、ウィリアムは十八番(オハコ)の錬金術で自分達を覆うように金属ボールを錬成し雪に埋もれて身動きが出来なくなるという最悪の展開を逃れたのだ。その後は止まったのを見計らって通り道を錬成して出てきたのである。

 

 

「……やっぱり大分流されてしまったか……」

 

 

周囲を確認しながら登山ルートから外れてしまった事を改めて確認したウィリアムは再び錬金術を使い、大きめのかまくらを作り上げる。

作り上げたかまくらの中に避難したウィリアムは中央の辺りを石にへと錬成し直しそこにオーヴァイを下ろしてからぶつぶつと呪文を唱えながらその場に魔術法陣を刻んでいく。魔術法陣が刻んだ線に従って赤熱し始めたのを確認したウィリアムは背のうから紅燃(こうねん)石と呼ばれる魔晶石を幾つか取り出し、魔術法陣にくべていく。

くべられた紅燃石は激しく燃えあがり、焚き火となった。

 

 

「暖はこれで確保できたな。後は……」

 

 

ウィリアムは然程得意ではない治癒魔術を顔色が未だに悪いオーヴァイに施していく。オーヴァイの顔色が幾ばくか良くなり、呼吸も落ち着いたのを確認したウィリアムはそこで治癒魔術をやめ、取り出したタオルケットを、左手だけで何とかオーヴァイに巻き付けてから漸く腰を下ろし、自身の回復に努めていった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「…………ん……」

 

「目が覚めたか?」

 

 

意識が覚醒していないまま、オーヴァイが声がした方へ顔を向けるとそこに居たのは紫の小さな結晶―――《マナ・クリスタリウム》を左手に持ち、こちらを見ているウィリアムだった。

 

 

「……先輩……?」

 

「身体の調子はどうだ?どこか悪い所はないか?」

 

 

ウィリアムのその言葉でオーヴァイはぼんやりとしたまま自身の記憶を辿っていき、自分が吐血して倒れた事を思い出す。

 

 

「先輩が治癒してくれたんですか……?」

 

「ああ。あまり治癒魔術は得意じゃないから効果には不安があるけどな」

 

 

ウィリアムはそのまま雪崩に呑まれた事、グレン達とはぐれた事も説明していく。

 

 

「……すいません、ご迷惑をおかけしました……」

 

「後輩を守るのは先輩の義務みたいなもんだからあんま気にするな」

 

 

ウィリアムは謝ってきたオーヴァイにそんな言葉を口にする。

そこから二人の間に沈黙が漂うも……

 

 

「……オーヴァイ、お前はどうして学院に来たんだ?」

 

 

唐突にウィリアムはオーヴァイにそんな事を問い質す。

 

 

「単に気になっただけだから無理に話す必要はないが……」

 

「……お母さんのように強くなりたいからです」

 

 

オーヴァイは呟くように言いながら自虐的に笑う。

 

 

「私の身体は知っての通り弱くて……激しく動き過ぎたり、無理をすると吐血してしまうんです。それで何度も迷惑かけて……周りはそんな身体で揉め事は危険だって気遣って……」

 

「…………」

 

「そんな身体にも関わらず、お母さんは笑って私に剣を教えてくれたんです……『娘の願いを叶える手伝いをするのが親の役目』だって。その時からお母さんは私のヒーローなんです」

 

「つまる所、学院に来たのも母親絡みなのか?」

 

「ハイ……お母さんが通った学院がどんな所か知りたかったのもありますが……」

 

 

ウィリアムの直球すぎる言葉に、オーヴァイは自虐的な笑みのまま肯定する。

 

 

「学院生活は楽しいか?」

 

「とっても楽しいですよ。ここ最近は大変でしたけどね……」

 

「確かにな」

 

 

ここ最近の学院の出来事を思い出し、ウィリアムは苦笑してしまう。

 

 

「お前が学院に来た理由は分かった。オルビスさんのように強く、立派になりたいなんて立派な目標だな」

 

 

ウィリアムが微笑みながらそう口にすると、オーヴァイは少し驚いた顔になった。

 

 

「……本当にそう思うんですか?」

 

「?俺のように何がしたいのか分からなくなっているより奴よりずっと立派だろ?」

 

 

さも当たり前と云わんばかりのウィリアムの言葉に、オーヴァイは子供のような微笑みを浮かべた。

 

 

「……先輩って、目つきが悪い顔に似合わず優しいんですね」

 

「人の気にしている事をさらりと言うな後輩」

 

 

自覚があるとはいえ、はっきりと指摘されるのはやはりいい気分ではないので、ウィリアムは不機嫌そうにむすっとする。

 

 

「アハハ……すみません。お詫びに先輩を温めて上げますのでそれで許してください」

 

 

オーヴァイはそう言って起き上がり、ウィリアムの返事を待たずに自身を巻いていたタオルケットを使い、あっという間に背中合わせで一緒に包み込んだ。

 

 

「おいおい……」

 

「十分に温まってから先生達を探しに行きましょう。私達がこうして無事ですから先生達も無事の筈です」

 

「……そうだな」

 

 

もう少し体力を回復させてから外の様子を見て、グレン達を探しに行こうと考えた……その時。

 

 

「ぁあああああああああああああああああああーーッ!?あなた達、何をやっているのぉおおおおおおおおおおおおおーーッ!?」

 

 

突然の叫び声に、ウィリアムとオーヴァイは驚いて叫び声が聞こえたかまくらの出入り口に顔を向けると。

 

 

「人がすごく心配していたのに、オーヴァイさんと何してるのよウィリアムゥウウウウウウウウウ―――ッ!?」

 

「これはひょっとして……アレ、なのかな……?」

 

「…………」

 

 

顔を真っ赤にして騒ぐシスティーナと、同じく顔を真っ赤にしてこちらを見るルミア、心なしか不機嫌そうな顔をしているリィエルがいた。

システィーナの叫び具合から何を想像しているのか大方察し、ウィリアムは深い溜め息を吐く。

 

 

「……システィーナ、周りをよく見ろ。俺達の服は何処にもないだろ」

 

「……あ」

 

 

ウィリアムがタオルケットから左手を取り出し、頭に手を当てながらの指摘に、システィーナはウィリアムの防寒具付きの左手と周りに衣類が無い事に自身の想像が勘違いである事にやっと気づく。

 

 

「そうですよー。単にウィリアム先輩を温めていただけですよー」

 

「そ、そうなんだ……あはは……」

 

 

オーヴァイも弁明し、ルミアも誤解であった事で恥ずかしそうに顔を背けながら苦笑いする。

そんな中、リィエルが無言でウィリアムとオーヴァイに近づき、タオルケットの中に潜り込み、ウィリアムの顔のすぐ隣に顔を出す。

 

 

「お、おいリィエル……?」

 

「……すごく心配した。ウィルがいなくなると思って……」

 

 

リィエルの眠たげな瞳が不安げに揺れていたので、ウィリアムは一気にいたたまれない気分になる。

 

 

「……悪い、心配かけちまったな。すぐに連絡すべきだった」

 

「ん……」

 

 

ウィリアムは謝りながらリィエルの頭を撫でながら謝り、リィエルもその不安が消え、薄く微笑む。その直後、背中の方が妙に動きまわり、抱きつかれる感触が襲う。

 

 

「ウィリアム先輩。しっかりと温めさせてもらいますよー!」

 

 

オーヴァイのその言葉にウィリアムが後ろを向くと、オーヴァイが背中に抱きついてきていた。それを見たリィエルももぞもぞと動き、ウィリアムの左腕に抱きつく。

 

 

「なら、わたしもウィルをしっかりと温める」

 

「ウィリアム先輩の身体に抱きついている私のほうがしっかりと温められますよ?」

 

「……むぅ……」

 

 

オーヴァイのその言葉に、リィエルは不機嫌そうに頬を膨らませる。

 

 

「なんでこうなった……」

 

 

まさかの事態に、ウィリアムはかまくらの天井を見上げ、現実逃避をする事にした。

 

 

「……あれってリィエルの新しいライバル?」

 

「あはは……」

 

 

そんな三人に、システィーナとルミアの小さな呟きは届かなかった……

 

 

 




文才ないとやっぱりキツいなぁ········
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百十六話

······セーフ、ですよね?
てな訳でどうぞ


システィーナ、ルミア、リィエルと合流したウィリアムとオーヴァイは、そのまま彼女達と一緒に通信魔導器を利用してグレンとセリカが居るであろう場所へと向かっていき、崖下の岩陰にあった洞穴を見つける。一行はその洞穴内を道なりに進み―――

 

 

「せ、せ、先生ッ!?アルフォネア教授と一体何をッ!?そんなのずる―――じゃなく、最低ですぅううううううううううーーッ!?」

 

 

―――グレンとセリカが一つのタオルケットの中で裸で抱き合うという光景を発見した。すぐ近くには衣類が吊るされているというおまけ付きで。

 

 

「そっ、そんな感じなんだ……」

 

「ま、まさか本当に……ッ!?」

 

「マジなのか?先公……」

 

「グレンとセリカ、裸で何をしているの?」

 

 

そんな彼らの反応にグレンは……

 

 

「どうみても()()だな」

 

 

そう言いながら掌で顔を覆い、盛大な溜め息を吐いた。

 

 

「最低ぃいいいいいいいいいいーーッ!?最低最低最低最低最低最低最低最低最低―――」

 

「これが大人なんだ……大人の……」

 

 

その言葉を皮切りにシスティーナはグレンにへと詰め寄り、ギャンギャン吠えたてる。ルミアは顔を真っ赤にしたまま、グレン達を顔を覆った指の隙間から覗いている。

 

 

「ねぇ。どうしてグレン達は裸なの?」

 

「……教授を温めていたんだろうな。あの時点で教授の身体は大分冷えていたし、先公の魔力もヤバかったみたいだしな」

 

「……ああ~。確かに、あの時のアルフォネア教授の身体は本当に冷えていましたね」

 

 

リィエルの疑問に、先程のグレンの言葉と雪崩に呑まれる前の出来事から答えを導き出したウィリアムはリィエルにそう答え、オーヴァイもその答えに同意する。

どうやってこのカオスを治めようかとウィリアムが頭を悩ませた矢先、それは起こった。

 

 

「バカバカバカバカバカぁーーッ!?なんでこの状況でウィリアム以上の事をやらかしたんですかぁああああああああーーッ!?」

 

「ッ!?ちょ―――」

 

「誤解だって言ってんだろ!?俺はウィリアムのようにアソコを触ってねぇよ!?」

 

「お、おい―――」

 

「じゃあ一体何をしていたんですかッ!?アルフォネア教授と抱き合って、〈ピーーー〉をしてたんじゃないいですか!?」

 

「してねぇよ!?第一、俺は酔っ払ったアイツのようにディープキスしたり、耳を舐めて甘噛みしたり、尻を触ったり、背中を撫でたり、胸を揉んで●●を弄くったり、○○○○を擦って×××××してねぇよッ!!」

 

「うわぁ……うわぁ……改めて聞くと、やっぱり、リィエルは私達よりずっと大人の階段を……」

 

「……ひょっとしてウィリアム先輩はケダモノなんですか?というか、リィエル先輩は大丈夫だったんですか?」

 

「?よくわかんないけど、アレは悪い気分じゃなかった。むしろ不思議と心地良かった」

 

 

グレンとシスティーナの口喧嘩にルミアはさらに顔を真っ赤にし、オーヴァイも顔を真っ赤にしながらリィエルに問い質し、対するリィエルは何時も通りの顔で答える。

そして、引き合いに出され、流れ弾をこれでもかというくらい大量に食らったウィリアムは……

 

 

「……お前ら、いい加減に黙りやがれぇえええええええええええええええええええ―――ッ!?!?!?!?」

 

 

ぐるぐるに目を回して顔を真っ赤にし、拳銃の空砲を放ちまくって強引に騒動を鎮静化しようとしていた。

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

その後騒動を強引に鎮め、色んな誤解を(辛うじて)解いたのだが……

 

 

「……何時までもここに留まれませんよ?早く白銀竜を倒さないといけないし…………それに、私達の貞操も危ないし?」

 

 

システィーナは含むものがありまくる言葉を投げ掛ける。

 

 

「……畜生め」

 

「……蒸し返さないでくれ」

 

 

微妙な空気が漂う中、一同はこれからの方針を話し合うのだが、雪崩のせいで大きく流されたせいで、ここから山頂へ向かうには大きく迂回する必要がある事、これ以上疲労すれば白銀竜に勝てないという薄々感じている事実に頭を悩ませていると、洞穴の奥を見つめていたセリカが不意に立ち上がって奥へ向かって歩き始める。そんなセリカをグレン達は追いかけるように進んでいくと……

 

 

「ここは……ッ!?」

 

 

複雑な紋様が刻まれた円柱が幾本も聳え立った、石積みで作られた円形の空間に辿り着いた。

 

 

「嘘!?こんなところに古代遺跡が―――ッ!?」

 

 

システィーナはその空間に、一瞬だけ驚きと歓喜に満ちた叫びを上げるも、すぐに顔を真っ青にして言葉を失ってしまう。何故なら―――

 

 

「……酷ぇな」

 

 

この円形空間には、無惨に干からびたミイラが、大量に転がっていたからだ。

その光景にグレンとウィリアムは顔をしかめ、ルミアは口を押さえて息を呑み、リィエルは無言で周囲を警戒し、オーヴァイは目を逸らして言葉を失っていた。

そして、ミイラの服装から察するに……

 

 

「《銀竜教団(S・D・K)》?コイツら、全員、《銀竜教団(S・D・K)》のメンバーか……?」

 

 

その惨状を前に戸惑っている間にセリカは空間の中央へと進み、巨大な祭壇の天辺へと登る。すぐに追いかけたグレンとの間に奇妙な空気が漂うも。

 

 

「さて。お前達……準備しろ。竜退治だ」

 

 

セリカが突然そんな事を言い出す。そして、遥か高く闇に吸い込まれて見えない頭上の先に白銀竜が居るといい、飛行魔導器である一本の古びた箒を召喚する。

 

 

「過去、因縁、怨恨、罪……そんなものはもう知らん。今を生きるお前達のために、私はあの竜をブチ殺す……それが、私の『正義の魔法使い』としての初仕事だ。……だから、お前達も、私に力を貸してくれ」

 

 

セリカのその言葉に、グレン達は迷いなく、頷いて答えた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

上昇する。上昇する。上昇する。

箒に横座りするセリカと、その左右に同じく横座りしてセリカにしがみつくシスティーナとルミア。その箒の尻辺りにはグレンとウィリアムが片手でぶら下がり、リィエルはグレンに小脇で抱えられ、オーヴァイはウィリアムの腰辺りにしがみついている。……リィエルは若干不満そうではあったが。

そんな無茶な飛び方で一同は暗闇の中を圧倒的なパワーで上昇していく。

やがて、唐突に、暗闇は白銀の世界にへと変貌した。抜け出た先は―――アヴェスタ山峰の頂上であった。

その直後、地上とは比べ物にならない猛吹雪の爆風が襲いかかり―――

 

 

「あー、やっぱ、無理だわ。降ろすぞ」

 

 

セリカはそう言い、そのまま近場の地面へ急降下で向かった。結果、グレン達は雪面に叩き付けられるように着地し、その勢いで周囲に投げ出された。

 

 

「もっと、スマートに下ろせよ、セリカ!」

 

「こんなデタラメな嵐で誰も死なせなかっただけ、褒め称えて欲しいね」

 

 

グレンは文句を言うも、セリカは悪びれず、すまし顔で答える。

 

 

「オーヴァイ早くどいてくれ。起き上がれない」

 

「すいません。すぐにどきます」

 

 

ウィリアムはオーヴァイにのしかかられる形で雪の中に埋もれており、オーヴァイは謝りながらどいていく。

そんな一同に、竜の咆哮と共に、白銀竜が姿を現す。白銀竜はセリカに恨み辛みの言葉を投げ飛ばすも―――

 

 

「……あ?うっさいな、トカゲ風情が」

 

 

セリカはさらりと受け流し、鬱陶しそうに言った。その後もふてぶてしい尊大な態度でバッサリと切り捨て、迷惑だから倒すと言い、親指で喉元をカッ切る仕草をする。

 

 

『ぉ―――ぉおおおおおおおおお―――ッ!!(セリカ)ぁああああああああああああああああ―――ッ!』

 

 

そんな事を言われ、絶句していた白銀竜は、この世全てを焼き尽くさんばかりの憎悪と憤怒を撒き散らすのであった。

 

 

「あ、アルフォネア教授……」

 

「あ、あはは……」

 

 

セリカの酷すぎる物言いに、システィーナとルミアは何とも言えない表情となる。

 

 

「流石に、これは酷すぎる気がするのですが……」

 

「まぁ……教授だから……なぁ……」

 

「?」

 

 

オーヴァイはさすがに白銀竜の方に同情し、ウィリアムは諦めたように溜め息を吐き、リィエルはよくわかってないようで首を傾げている。

何とも言えない空気となる中、スノリアの命運をかけた壮絶な戦いの火蓋が、切って落とされた。

 

 

 




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百十七話

オリ主、あまり活躍させられなかったなぁ·····
てな訳でどうぞ


「《 《 《吹き飛べ》 》 》―――ッ!!」

 

 

セリカは黒魔【プラズマ・カノン】、【インフェルノ・フレア】、【フリージング・ベル】を三重唱(トリプル・スペル)で同時起動し、白銀竜に向けて放つも―――

 

 

『カ―――――ッ!!』

 

 

白銀竜はあらゆるエネルギー操作系の攻性系黒魔術を問答無用で打ち消す竜の咆哮(ドラゴンズ・シャウト)凍てつく吐息(バニシング・フォース)】で打ち消してしまう。

セリカはすぐに【イクスティンクション・レイ】を放つも先程と同じく【凍てつく吐息(バニシング・フォース)】の波動によって打ち消される。

 

 

『《■■■■■》―――ッ!!』

 

 

白銀竜は竜言語魔法(ドラグイッシュ)を唱え、億千本の真空刃と化した吹雪の渦、落雷の乱舞、億百の鋭き氷の刃がセリカ達に襲いかかる。

 

 

「《楯壁展開(ロード)》!」

 

 

だが、ウィリアムが左手に持つ《詐欺師の盾》を起動。展開した碧き魔力障壁で竜言語魔法(ドラグイッシュ)の威力を悉く防いでいく。その碧き魔力障壁に白銀竜は突進し、爪と顎を突き立てるも、当然ながら微動だにしない。

 

 

「ウィリアム。私の合図で障壁を解除しろ」

 

 

そう言ってくるセリカの左手には、高出力エネルギーで形成された、黄金色に輝く光の剣があった。

それを見た白銀竜が、障壁から爪と顎を離した瞬間―――

 

 

「―――今だッ!」

 

「《楯壁解除(レリース)》!」

 

 

セリカの合図で障壁を解除。セリカはそのまま、光の剣―――黒魔改【イクスティンクション・ブレード】を【ロード・エクスペリエンス】で英雄(エリエーテ)の剣技を乗せて一閃する。

 

 

『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア―――ッ!?』

 

 

その一閃は離脱仕掛けていた白銀竜の胴を薙ぎ、竜鱗を切り裂いた。

 

 

『己……ッ!己ぇえええええええええええーーッ!!』

 

 

白銀竜は怒りを露にしながら上空へと離脱。巨大な氷の刃を雨霰と降り落とすも―――

 

 

「《 《極光の隔壁よ》 》!」

 

 

その氷の刃を全方位防御魔術―――黒魔【インパクト・ブロック】の二重唱(ダブル・スペル)で悠然と受け止める。

セリカはついでと云わんばかりに指を鳴らし、白銀竜の頭部に隕石―――召喚【メテオ・スウォーム】を激突させる。

古き竜(エインシャント・ドラゴン)である白銀竜相手にセリカは完全に拮抗どころか、むしろ圧倒している。

セリカはアール=カーンによって魔力容量(キャパシティ)が大きく制限されているにも関わらずここまで戦えるのは、システィーナとルミアが仮サーヴァント契約で、セリカの従者となっているからである。

その霊的な繋がりで、ルミアは《王者の法(アルス・マグナ)》でアシスト、システィーナは自身が練った魔力を片っ端からセリカに供給する事で全盛期に及ばないながらも、全神経を白銀竜に注ぐ事で圧倒しているのだ。

その為、竜の呼び声に応じて、山の(ふもと)から押し寄せてくる氷の亡霊への対処は今のセリカには不可能だが―――

 

 

「ふっ―――ッ!」

 

「いいいいいやぁあああああああーーッ!!」

 

「ハァアアアアアアアアアアア―――ッ!」

 

 

グレンの拳が、リィエルの大剣が、オーヴァイの刀が、ウィリアムの【騎士の誇り(ナイツ・プライド)・炎兵】が氷の亡霊達を撃破していき、セリカに指一本触れさせない。

彼らはそれぞれの戦場で己の持つ力を振るい続けた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

――――――。

 

―――セリカはふと気付くと、かつてナムルスと会った己の精神世界にいた。

今回見えているのは見たこともない黒いローブを纏う自分と、白銀竜役の衣装に似た白き衣を纏った幼い少女、そして、ナムルスの幻覚だ。断片的に見える光景には三人は常に一緒で、旅をしていた。

幻の自分は常に素っ気ない態度を取っているのに、幻の少女は親愛に満ちた目でついていく。

途中、ローブで全身を纏い、顔もフードでよく見えず、そのフードから僅かに銀色の眼が見える人物が、その幻の少女と指切りをしており、それを見ている幻の自分は突き放す目なのにどこか不機嫌そうに見える光景も見えたが、肝心の記憶は一切思い出せない。

自分が何者なのか、何故少女を白銀竜将ル=シルバに変えたのか、思い出せないが―――

 

 

「お前に負けるわけにはいかないんだよ」

 

 

セリカは決意と共に毅然(きぜん)と言い、グレンを守り、グレンにとっての『正義の魔法使い』でいると心の形を口にした、その瞬間。

セリカはかつて白銀竜を仕留めた、自身の得意技であろう魔術を思い出した―――

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――その指示は唐突だった。

 

 

「今だ、グレン―――ッ!」

 

「―――ッ!?いいのか!?まだ、氷の亡霊の数が―――」

 

「私を信じろッ!!」

 

 

グレンは驚愕しながらも、セリカの力強い言葉を信じ、白銀竜の方へと駆け抜け、グレンを含む前方上空のみに効果範囲を限定した固有魔術(オリジナル)【愚者の世界】を起動。白銀竜の起動しかけた竜言語魔法(ドラグイッシュ)を封殺する。

当然、守りががら空きとなった事で、氷の亡霊達は怒濤の如くセリカに殺到するも―――

 

 

「《■■■■■■》……」

 

 

セリカが聞きなれない呟き―――古代魔術(エインシャイト)の呪文を唱えた、その瞬間。

セリカの足下に紅の線が迸り、瞬時に星形の法陣が展開される。

セリカの掲げた左腕から、【インフェルノ・フレア】など比較にならない圧倒的な熱量を持った炎が燃え上がり、周囲の雪と氷の亡霊達を溶かし、蒸発させていく。

その炎は一本の槍となり、そして―――

 

 

「穿て―――【クトガの牙】ッ!!」

 

 

セリカは、その炎槍を、白銀竜に向かって投擲した。

その音速をゆうに超えた槍は真っ直ぐに進み、白銀竜の心臓を情け容赦なく貫通した。

 

 

『ギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア―――ッ!!!!!!』

 

 

白銀竜は断末魔を上げ、死の猛吹雪が冗談のように止んでしまう。

そのまま白銀竜は力を失い、その身体をマナの粒子と化して霧散しながら、墜落していく。

 

 

「凄い……」

 

「今の呪文は……?」

 

 

グレン達が驚愕に震える中、不意にドサッ、と倒れる音が聞こえる。彼らは驚いてそちらに顔を向けると、オーヴァイが雪の上に倒れていた。

 

 

「!?オーヴァイ!?」

 

「す、すいません……気が抜けてしまって……」

 

 

吐血した様子もないのでオーヴァイの言葉通り、緊張の糸が切れ、疲労で倒れてしまっただけなのであろう。

 

 

「……立てるか?」

 

 

ウィリアムの言葉にオーヴァイは……

 

 

「正直力が抜けてうまく身体を動かせないので、おぶってください。ウィリアム先輩」

 

 

自身を背負うようお願いしてきた。しかもいい笑顔で。

 

 

「……この状態でおぶるのはキツいんだが……」

 

「後輩を労ってください」

 

 

厚かましいオーヴァイのお願い(?)に、ウィリアムは嘆息しながらもタオルケットを取り出そうとした矢先、リィエルが無言でオーヴァイを背負った。

 

 

「え?え?リィエル先輩?」

 

「わたしが背負う」

 

「わ、私はウィリアム先輩に―――」

 

「わたしが、背負う」

 

「いえ、ですから―――」

 

「わたしが、貴女を、背負う」

 

「……ハイ」

 

 

リィエルの有無を言わさぬ言葉に、オーヴァイはしょんぼりとした顔となって折れた。

その後、白銀竜が落下した付近で、全裸で衰弱した少女もセリカが保護し、こうして一同はアヴェスタ山峰を下山していった。

 

 

 




原作十二巻はここで終了とさせていただきます
本編の次巻は一体どうなるのでしょうね········《星》が一切出てないのは《星》がメインのエピソードの前触れかな?
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百十七・五話

久々の投稿
最新刊の表紙は気絶(?)しているリィエルをお姫様抱っこするグレン。にもかかわらず内容はアルベルトがメイン···········これは何を意味しているのか、想像が尽きない!!
てな訳でどうぞ


アヴェスタ山峰を下山し、ホワイトタウンに帰還したウィリアム達は出迎えた人々の称賛を浴びた後、市長の計らいでそのまま市長宅で泥のように眠りについた。

下山した時点から彼らの思考は疲労によって麻痺しており、寝る際にウィリアムに付いていく二人に、当人も含め誰も気に止めていない、否、気づいていなかった……

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

「……zzz……」

 

「……スゥ…………」

 

「……ムニャ……」

 

 

市長宅の寝室の一つ、そこで現在進行形で寝ているのはウィリアム、リィエル、オーヴァイの三人であった。使われているベッドは一つだけ。もう言わなくても分かるだろうがあえて言おう。

ウィリアムは左にリィエル、右にオーヴァイと羨まけしからん状態で爆睡しているのだ。寝ている三人の格好は登山時のままな辺り、相当な疲労であった事は想像に難くないが、美少女に挟まれて寝る等、嫉妬のバーゲンセールである。

現に、彼方の場所に居る少女は赤い龍の幻覚を出現させて修行に打ち込んでいるのだから……

ちなみにオルビスは「フフ、娘に春が来始めたのか」と微笑んでスルーしていた。

そして―――

 

 

「「…………(ニヤニヤ)」」

 

「アワ……アワワワワ……」

 

「うわぁ……」

 

 

先に目覚め、ウィリアム達が寝ている部屋に起こしに来たグレンとセリカは悪どい笑みを浮かべ、システィーナとルミアは相変わらず顔を真っ赤にして硬直していた。

そして、お約束の展開も守られる。

 

 

「……んぁ……先公達か……」

 

 

ウィリアムが寝ぼけたまま目を覚まし、顔だけを上げてグレン達に気づいて左手をついて起き上がる。

 

 

「ちょ、ちょっとウィリアム!?」

 

「?」

 

 

何故か狼狽するシスティーナに疑問に思いつつもベッドから出ようとしたウィリアムは―――そこで漸く現状に気がついた。

一緒に寝ているリィエルとオーヴァイ、そして、自身の左手がついている箇所はリィエルの胸辺りである事に。

 

 

「―――うおわっ!?」

 

 

漸く頭が目覚めたウィリアムは大慌てで左手をのける。だが、時既に遅し。

 

 

「《この・お馬鹿》ぁああああああああああ―――ッ!!!」

 

「どわぁあああああああああああ―――ッ!?」

 

 

ウィリアムは目覚めて早々、システィーナの【ゲイル・ブロウ】をくらう羽目となった。

 

 

「……ん……」

 

「……ウヘヘ……」

 

 

そんな大騒ぎにもかかわらず、ベッドの二人は未だ夢の中であった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

強烈な目覚ましの後、リィエルとオーヴァイも目覚め、ウィリアムがリィエルに謝罪し(当の本人は首を傾げたが)、ラウンジで食事を終えたウィリアム達はひとまず宿泊しているホテルにへと戻り、ウィリアムは宿泊している部屋に籠って義手の修繕に努めていた。

バチバチと紫電を迸らせながらヒビを修繕していく。

 

 

「…………(ジーッ)」

 

「そうやって修繕していくんですねー」

 

 

その光景をリィエルと、一緒に付いてきていたオーヴァイが眺めていた。

 

「……見てて飽きないのか?」

 

 

ウィリアムは少し気まずそうにリィエルとオーヴァイに問いかける。義手の修繕には半日以上かかる為、見ている分にはつまらない光景が続くからシスティーナ達と談笑やら宿題を片付けたら良いのではないかと思うのだが……

 

 

「……(ウトウト)」

 

「……フワァ……」

 

 

何故かリィエルとオーヴァイは修繕光景を眠気に襲われながら見続けるだけでウィリアムの質問に答えなかった。まだ疲れているだろうと判断したウィリアムはそのまま義手の修繕に没頭していった。

まさか、その間に後ろであんな事が起こっていようとは思いもしなかった……

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

「……よし。ちゃんと直ったな」

 

 

ヒビ一つなくなった義手の手を握ったり開いたりして調子を確かめる。違和感もなく淀みなく動く義手に修繕が完了したと判断したウィリアムはリィエルとオーヴァイの方に顔を向けると―――

 

 

「……すぅ…………」

 

「……ムフフ……」

 

 

二人はベッドの上で寝ていた。それは別にいい。だが、顔に()()()()()()()()()()()()()()()()()()寝ているのが問題だった。

 

 

「…………」

 

 

その光景にウィリアムはおもむろに立ち上がり、無表情で寝ている二人に近づく。近づいたウィリアムは自分の衣服を二人の顔から引き剥がし、そのまま二人の顔を鷲掴みにし―――

 

 

ギリギリギリギリギリギリッ!!!

 

 

「…………痛い」

 

「わぎゃぁあああああああああ!?」

 

 

全力でアイアンクローを炸裂させ、二人を強引に起こした。

 

 

「目が覚めたか?人の服に顔を埋めた変態ども」

 

 

ウィリアムは非情ににこやかな笑みを浮かべながらアイアンクローを続行し続ける。リィエルはいつも通りの眠たげな表情だが、オーヴァイは涙目で痛がっていた。

 

 

「それで?何で俺の服に顔を押し付けていたんだ?」

 

「す、すいません!ちょーっと、ウィリアム先輩の匂いが気になってしまって!それでつい!」

 

「オーヴァイがウィルの服を嗅いでいたからわたしも試しに嗅いでみた。不思議と嗅ぎ続けたくなって堪能?していたらいつの間にか寝てた」

 

 

……どうやら発端はオーヴァイのようであった。

それを聞いたウィリアムはにこやかな笑みのまま、額に青筋を浮かべ……

 

 

「この変態どもがぁあああああああああああ―――ッ!!」

 

 

アイアンクローを更に強めて締め上げを続行した。容赦なく顔を締め上げられ、襲いかかる痛みに……

 

 

「痛い。やめてー」

 

「いだだだだだだだだ!!ごめんなさい!本当にごめんなさぁああああああああい―――ッ!!!」

 

 

リィエルはいつも通りの言葉を、オーヴァイは必死に謝罪の言葉を口にするのであった。

この一件以来、リィエルがウィリアムと一緒に寝る際、ウィリアムの匂いを嗅ぐようになってしまった事に、ウィリアムは頭を抱える事となった。

 

 

 




リィエルは匂いを嗅ぐ事を覚えた
······次は何を覚えるのかな?
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第十二章・月の幻と彼女の絆
百十八話


一先ず出来たので投稿
てな訳でどうぞ


秋休みが終わり、後期学期がスタートしたアルザーノ帝国魔術学院。その昼休みの二組の教室では―――

 

 

「はぁあああああーーッ!?竜退治~~ッ!?」

 

「嘘でしょう!?」

 

「ふふん!嘘じゃないわよ!?……実際に倒したのはアルフォネア教授だけど……」

 

 

ウィリアム達の秋休み中に起きた出来事で大いに盛り上がっていた。

 

 

「ハハ……」

 

 

そんな中、ウィリアムは若干呆れながらも、再開した学院での日常に頬を緩めていた。ちなみにこの話題が朝ではなく昼休みになったのは、朝はリィエルの首にかけられているペンダントで話題になったからである。

 

 

『リィエル?そのペンダントはどうしたんですの?』

 

『ん。ウィルから貰った。おそろい』

 

 

ウェンディの質問に、リィエルがうっすらと微笑んで答えたその瞬間―――

 

 

『『『『キャァアアアアアアアアアアッ!!ペアルックゥウウウウウウウウ―――ッ!!!』』』』

 

『『『『くたばれ!!クソリア充ぅうううううううううう―――ッ!!!!!!』』』』

 

 

……っと、こんな風に大騒ぎになったからである。ちなみにあの夜の事も暴露されかけたが、ウィリアムがリィエルの口を塞いで辛うじて阻止する事は出来た。

……女性陣は顔を真っ赤に、男性陣は全身が憎悪に染まっていたが。

実に何時も通りの懐かしい光景であったが、勿論気がかりな事もある。

白銀竜を倒した後にセリカが拾った少女は未だ眠ったままだし、セリカもあの戦いで再び体調を崩してしまったのだ。セリカ達は再建したアルフォネア邸で安静にしているが少々心配ではある。それに、あの白銀竜は最初の遭遇の時、何故ウィリアムの攻撃が読めていたのかも気になる。

それでも、今はこの日常を堪能しよう。

そう思い、ウィリアムは隣にいるリィエルに顔を向け―――

 

 

「―――え?」

 

 

ウィリアムは抜けた声とともに動きを止めた。何故なら、隣に座っているリィエルの顔色が明らかに悪かったからだ。リィエルはそのまま身体を傾け、床に倒れ伏そうとする。

 

 

「――ッ!リィエル!?」

 

 

ウィリアムは我に返り、急いでリィエルを抱き抱える。抱き抱えたリィエルは意識を失い、荒い息を吐き―――身体はとても冷たかった。

ウィリアムの大声に周りは一斉にウィリアムの方に顔を向けるが、今のウィリアムはそれに気づく余裕はなかった。

 

 

「リィエル!?一体どうしたんだ!?リィエル!!」

 

 

ウィリアムはリィエルの身体を揺さぶりそうになる衝動を必死に抑えて、意識を失ってぐったりとしているリィエルに何度も問いかける。

 

 

「しっかりしろリィエル!!本当に何が――」

 

「落ち着けウィリアム!!」

 

 

何度目かの問いかけで、ウィリアムの肩に何かが置かれる感覚が伝わり、ウィリアムは振りかぶる勢いで顔を向けると、グレンが焦りを抑えた表情でウィリアムの後ろにいた。

 

 

「気持ちはわかるが、今は急いでセシリア先生達の下へ行くぞ」

 

「あ、ああ……」

 

 

言葉からでも焦りを抑えているとわかるグレンの言葉に、ようやく落ち着いたウィリアムは頷き、リィエルを担いで急いで医務室へと向かった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「……法医師として正直に言います。リィエルさんは、もう…………()()()()()()

 

 

セシリアが痛ましそうに断言した言葉に、ウィリアムは地面が崩落して虚空に放り出されるような感覚が襲う。

医務室に向かう途中、法医呪文(ヒーラー・スペル)をリィエルにかけたのだが、今のリィエルは法医呪文(ヒーラー・スペル)を一切受け付けず、霊的な視覚で見たリィエルの体内マナはかつてない程弱々しく、寿命が尽きかけているようであった。

今のリィエルはあらゆる装置が全身に物理的にも霊的にも繋がれており、必死に命を繋ぎ止められている状態である。

システィーナがその事実を前にセシリアに詰め寄り、ルミアが取り押さえた事でウィリアムはなんとか気持ちを持ち直す。

 

 

「……何で……助からないん……だよ……」

 

 

ウィリアムは拳を強く握り、必死に感情を押し殺してセシリアに理由を問い質す。その問いに答えたのはセシリアではなく、彼女の隣に座っているギーゼンであった。

 

 

「……リィエルさんの患った病は……『エーテル乖離症』です……」

 

 

『エーテル乖離症』は肉体と霊魂の結合が緩み、霊魂が肉体から乖離していくという、恐ろしい魔術性疾患だ。

この病は魂に負担をかけ続けてきた魔術師が晩年にかかる病気なのだが……

 

 

「それなら、治療法は既に確立してありますよね?」

 

 

グレンが目を瞬かせながら疑問を口にする。グレンの言う通り、この病気の治療法は既に確立されており、老魔術師ならともかく、若いリィエルを治せない筈がないのだ。

 

 

「はい……ですが、リィエルさんの霊魂が……エーテル構造が解析できなくて……そのせいで彼女の施術に必要な霊域図版(セフィラ・マップ)を作れないんです……」

 

「解析できない……?」

 

「法医術の権威とも言えるセシリア先生が……?」

 

「はい……」

 

 

セシリアの痛ましげなその言葉に、ウィリアムは凄まじい悪寒が駆け巡っていき、声を震わせて恐る恐る問いかける。

 

 

「……リィエルの……魂……霊魂は……どういう……状態……なん……だ……?」

 

「……十の霊域(セフィラ)の境界がぐちゃぐちゃで、まるで複数の魂を無理矢理重ね合わせたようなものになっている状態なんです。そのせいで彼女の霊魂の全体像が把握出来ないんです……こんなめちゃくちゃな霊魂、今まで見たことがありません……」

 

 

ギーゼンからもたらされた言葉でウィリアムは理解してしまった。リィエルが何故『エーテル乖離症』を患ったのか。

グレンもセシリアの説明で同様の可能性に至り、思わず『Project:Revive Life』の単語を口に出してしまう。

 

 

「……リィエルさんの霊魂について、何かご存知なのですか?」

 

「……知っているなら話してくれませんか?今は少しでも手がかりが必要なんです」

 

 

グレンのウィリアムの顔色が変わった事を察したセシリアとギーゼンが、声のトーンを抑えて問う。

リィエルの真実は絶対に知られてはいけないことだが、この緊急事態には是非もなく、セシリアとギーゼンに他言無用を約束させ、リィエルの全てを語っていく。

 

 

「……にわかには信じがたいことですが……そういうことだったんですね……」

 

「……僕もセシリア先生と同じ気持ちですが……それなら説明がつきますね……」

 

 

話を聞き終えたセシリアとギーゼンが合点がいったように頷く。

リィエルはシオンの固有魔術(オリジナル)で生み出された魔造人間。特に霊魂体(エーテル)の代替物たる『アルター・エーテル』は複数人の霊魂から精製されたものだ。リィエルのエーテル構造が複雑怪奇なのも頷けるし、おそらくシオンの固有魔術(オリジナル)に僅かな隙があり、それが時間経過で肉体(マテリアル)霊魂体(エーテル)の結合のズレとして現れたのだろう。

それがリィエルが『エーテル乖離症』を患った理由である。

症状自体はただの『エーテル乖離症』だが、リィエルのエーテル構造が複雑怪奇なため霊域図版(セフィラ・マップ)が作れず、治療が出来ないというセシリアとギーゼンに、ウィリアムは俯きながらも、二人に問いかける。

 

 

霊域図版(セフィラ・マップ)さえあれば、なんとかなるんだな……?」

 

「……ええ……それさえ出来ればすぐにでも治療できるんですが……」

 

「最大の問題は彼女の霊域図版(セフィラ・マップ)が作れないことなので……あくまで現時点で、ですが……」

 

「だったら……!」

 

 

ウィリアムは顔を上げ、決然とした表情で告げる。

 

 

「不可能だと言われても、リィエルの霊域図版(セフィラ・マップ)を作るしかない!このまま指をくわえて見ているだけなんて、死んでも出来るか!!」

 

「……そうだな」

 

 

ウィリアムのその言葉に、グレンも意を決した表情ではっきりと告げる。

 

 

「魔術はいつだって不可能を可能にしようと発展するんだ。ウィリアムの言う通り、たとえ不可能でも、俺達はリィエルの霊魂を解析して、霊域図版(セフィラ・マップ)を作るしかねぇんだ」

 

 

こうして―――ウィリアム達のリィエルを救う苦闘の日々が始まるのであった。

 

 

 




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百十九話

妄想がつきない。加速する
てな訳でどうぞ


グレンとセシリア、ギーゼンが日夜問わずにリィエルの霊魂の解析に尽力し、システィーナとルミアは図書館に籠ってエーテル関係の最新の論文を徹夜で読み進め、要点をまとめ上げていく。

ウィリアムも片っ端から医学関連の書物を読み上げ、手がかりを探しつつ、マナが抜けていくリィエルに限界までマナを供給し、終われば再び図書館の書物を読み漁る。

もちろん、彼らだけではない。

 

 

「彼女に必要な『アストラル・コード分離術式』回りは私が開発を進めよう……可愛い女の子を失うのは、人類の損失だからね」

 

「魔導演算器の機能拡張は、このオーウェル=シュウザーに任せるがいい!」

 

「これを持っていけ……勘違いするなよ?きっちり落とし前をつける前に、勝手に逝かれてはたまらんからなっ!!」

 

「頑張れよ、リィエルちゃん……」

 

「……勝ち逃げは許さないからな」

 

「大丈夫……大丈夫ですわ」

 

「早く、元気になって……」

 

「また、一緒に学院生活を過ごそうよ……」

 

「皆、待っとるけんな……」

 

「気合いで頑張ってください、リィエル先輩」

 

 

学院の者達も一丸となってリィエルを救うために尽力していくが、霊魂解析は遅々として進まず、時間だけが無情に過ぎていった―――

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

リィエルが倒れて丁度一週間。夜空に白く寒々しい月が輝く夜に、それは容赦なく告げられた。

 

 

「それは無理だ。諦めろ」

 

 

うず高く資料と文献が積み上がり、足の踏み場もない魔術式研究棟の一室で、学院にふらりと姿を現したセリカが、はっきりとウィリアムとグレンにそう告げた。

 

 

「なん……だとぉ……?」

 

「…………」

 

 

グレンはセリカにふらふらな足取りで歩み寄り、その胸ぐらを力なく掴み、ウィリアムは取り合っている暇はないと言わんばかりに、必死に資料に目を通し続けている。どちらの目元にも色濃い隈が出来上がっており、不眠不休であることが窺える。

 

 

「……お前達のやっていることは理論的に矛盾しているんだ……本当はもうとっくに気づいているんだろ?」

 

 

セリカが痛ましげに告げたその言葉に、グレンは膝を折り、手足をついて項垂れ、ウィリアムは身体を震わせながら資料に目を通し続けているが、その資料は所々、濡れたように滲み初めている。

本当はわかっている。リィエルを助けることは出来ないのだと。今やっているこの作業を例えるなら、ジクソーパズルの一ピースから、完成形を完全に再現するようなものだ。当然、最初から気づいていたが、それでも……諦めたくなかったのだ。

そして、グレンのやるせない咆哮が響き、ウィリアムも机に顔を埋め、嗚咽を洩らし始める。

 

 

「……グッ……ウゥ……アァ……ッ」

 

「何でなんだよ!?リィエルは漸く、日向の世界を歩み始めたのに……ッ!!」

 

 

二人のやるせない思いが部屋の中をしばらくの間支配し続けた……その時であった。

 

 

「全く……ピーピー泣いて情けないわね……」

 

 

その部屋に、どこか呆れを含ませながらイヴが入ってきたのは。

 

 

「……イヴ……?」

 

「……イヴの先公……?」

 

「本当に大馬鹿ね。グレンはまだしもウィリアムまでこんな無駄な行動に時間を費やすなんてね。それだけ今回の事に気が動転していたということでしょうけど」

 

「おい……少し黙れよ、お前」

 

 

腕を組んで未だに呆れた表情を見せるイヴに、セリカが地獄の底から響くような声色とともに睨み付ける。

 

 

「私はグレンを苦しめたお前の事が本当は大嫌いなんだ……それに、今は機嫌がすこぶる悪い……だからとっとと失せろ。物理的に消滅したくないならな」

 

 

並の人間なら即、死を覚悟させるセリカの圧倒的な殺界がこの場に形成され、机に突っ伏して眠っていたシスティーナとルミアもその重圧にたちまち目を覚まし、ただならぬ様子の室内で怯えることになる。

だが、その重圧をイヴは受け止めつつ、強気で鼻を鳴らして突っぱね、本題へと切り出した。

 

 

「貴方達が無駄な行動に時間を費やしている間に、私がか細いけど、リィエルを救う糸口を見つけてきてあげたわ」

 

 

イヴからもたらされた言葉に、その場の一同が驚愕の視線を一斉にイヴへと向ける。だが、セリカだけはイヴを睨み付けたままであった。

 

 

「おい、適当なことをぬかすなよ?……最初から全体像を知らない限り、ルミアのアシストを受けた私ですら不可能なこと何だぞ?」

 

「だったら、その全体像を最初から持ってくればいいだけでしょう?」

 

 

一見、突拍子のないイヴの言葉だが、ウィリアムは気付いたのか、目から鱗が落ちたような顔となってその可能性の道筋の言葉を口に出して呟く。

 

 

「まさか……シオンの研究データ……?」

 

「「「「!!」」」」

 

 

その呟きを聞いたグレン達は思い至ったように目を見開き、イヴは正解を言い当てたウィリアムに視線を移した。

 

 

「正解よ。それで、そのことについてなんだけど――」

 

 

イヴが話を進めようとした次の瞬間、乱暴に部屋の扉を開ける音が響き渡る。ウィリアム達は何かと思ってそちらに目を向けると、荒い息を吐いて扉の前にいたのはオーヴァイだった。

 

 

「大変です皆さん!!突然、軍人のような人達が押し掛けてきて、リィエル先輩をどこかに連れて行こうとしているんです!!」

 

 

オーヴァイのその言葉に、グレンは焦燥を露に猛然と部屋から出ていき、ウィリアムもそれに付いていこうとするが、立ち上がった瞬間、その場でよろめいて膝をついてしまう。それでも立ち上がってグレンの後を追いかけようとするも……

 

 

「止めときなさい。貴方、グレン以上に無茶をしていたのでしょ?そんな状態で向かっても迷惑なだけよ」

 

 

イヴが厳しい声でウィリアムを引き留めた。イヴの言う通り、リィエルが倒れてから殆ど徹夜で動き続け、リィエルにマナの供給もしていたのだからある意味当然であった。

ウィリアムもそれが頭でわかっていながらも、身体を引きずるように歩いてリィエルの下へと向かおうとする。そんなウィリアムにイヴは本当に呆れたように溜め息を吐き、ウィリアムの肩を掴んで引き留める。ウィリアムはイヴの手を振りほどこうとするも力が思うように入らず振りほどけないでいる。

 

 

「……そこの貴女。確かオーヴァイという名前だったわよね?どうして押し掛けてきた人達が軍人だと思ったのかしら?」

 

「えっと、それは……あの人達が来ていた服がアルベルトさんや以前イヴ先生が来ていた礼服と同じだったので……」

 

 

イヴの質問に答えたオーヴァイのその言葉に、イヴは思案顔となり、やがて、不敵な笑みを浮かべた。

 

 

「もしそうなら好都合だわ……オーヴァイ、貴女はそこの疲労困憊の馬鹿をここで見張って起きなさい。セリカ=アルフォネアは一緒に来てもらうわ」

 

「おい、小娘……この私を顎で使おうとするとはいい度胸じゃないか……」

 

「これはリィエルを救うために必要なことよ。もしあの男がここに来ているなら、リィエルの霊域図版(セフィラ・マップ)を手に入れられるきっかけを作る千載一遇の好機だから」

 

「…………」

 

 

イヴからもたらされた言葉に、セリカは不機嫌極まりない顔で無言を貫く。イヴはそのダンマリを了承と受け取り、セリカと一緒に部屋を出ていく。

一連を見守っていたシスティーナとルミアも、ウィリアムのことを心配しつつも、今はリィエルの方が心配なのでイヴ達の後を追って部屋を出ていく。部屋に残ったのはウィリアムとオーヴァイだけとなった。

 

 

「…………」

 

「……先輩、無茶し過ぎですよ……いつもの先輩でしたら多分、とっくにグレン先生と一緒となって向かっている筈ですから……」

 

「…………」

 

「それに、気づいてましたか?ウィリアム先輩がリィエル先輩にマナを送っている間のリィエル先輩の顔、すごく辛そうなお顔でしたよ?」

 

「!?」

 

 

オーヴァイが告げたその言葉に、ウィリアムは鈍器で頭を殴られたかのような衝撃を覚える。

 

 

「日に日に酷くなっていくお顔を見せたら誰だって心配になりますよ……気持ちはわかりますけど、ちゃんと自分の事も考えて下さい。先輩がそれで倒れたら本末転倒もいいところですし」

 

「……ワリィ……」

 

 

オーヴァイに諭された事で、ウィリアムはその場で崩れ落ちて項垂れ、そのまま時間が過ぎていく。どのくらいたったのか、沈黙が支配していた部屋にイヴとグレンが戻って来た。

 

 

「どうやらちゃんと大人しくしていたようね?今から場所を変えるけど、動けるかしら?」

 

 

イヴのその言葉に、ウィリアムはふらつきながらも両足で立ち上がり、行動で示す。それを見たイヴは目を見開いていたグレンとウィリアムを連れて部屋を後にし、オーヴァイはイヴに論されて仕方無く彼らと別れた。

 

 

 




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百二十話

だんだん寒くなってくる頃ごろ······
てな訳でどうぞ


イヴに連れられたグレンとウィリアムは校舎裏の雑木林が茂る薄暗い空間に来ていた。そこでリィエルが新しく配属された特務分室の者達に連れて行かれたと聞かされたが、ウィリアムは沸き上がる激情を押し殺して話を促す。

イヴも話を切り出し、軍が押収したシオンの研究データ―――通称『シオン・ライブラリー』が軍の資料室からごっそりと消えており、誰かに横流しした可能性が高く、その証拠は握り潰されて存在しないことを伝える。

 

 

「……サイラス=シュマッハか?」

 

 

グレンのその言葉に、イヴは頷いて肯定する。

 

 

「ええ。元・宮廷魔導士団、魔導技術開発室室長にして、現在の特務分室の室長であるサイラスがシオン・ライブラリーを独占している可能が高い。限りなく黒に近いグレーでね」

 

 

イヴはそのまま、サイラスはかつて訪れたサイネリアの白金魔導研究所の魔導技術開発派遣武官であったことも明かしていく。

明らかに臭すぎる人物だが、今はそこを議論すべき状況ではない。話を聞く限り、グレンがサイラスの取引に応じなければ、リィエルの霊域図版(セフィラ・マップ)を手に入れることは出来ないという事実と、その取引の内容が女王暗殺を目論み、バーナードとクリストフを殺害したアルベルトの討伐という、聞けば信じられない内容だったからだ。

リィエルが倒れた時期と同じ時期で何故そんな行動に出たのかは分からない。だが、リィエルはグレンを従わせる人質として同行させるとサイラスは言っていたそうだ。

だが、ウィリアムはそこで疑問が浮かび上がった。

 

 

「グレンの先公を従わせるためだけなら……何故、霊域図版(セフィラ・マップ)を最初から掲示しなかったんだ……?」

 

「あ……ッ!い、言われてみれば……ッ!?」

 

「ようやく調子を取り戻したようねウィリアム。そう、従わせるだけならリィエルの霊域図版(セフィラ・マップ)を掲示するだけで十分なのよ。ここで仮説。サイラスがシオン・ライブラリーを持っているとしたら、リィエルが倒れる時期も容易に予測出来る筈よ」

 

「そうだな。リィエルの正体と、それを読み解く専門知識があれば、それくらいは可能だろう」

 

「加えて、このタイミングでの討伐任務……あまりにも状況が出来すぎている」

 

「ええ。おそらくリィエルを中心に何かがある筈よ。そして、そこに突破口があるのも理解出来るでしょ?」

 

 

イヴのその言葉に、グレンは何故か納得したような顔へと変わる。

 

 

「成る程な……何で過労で意識を失って倒れたと聞いたウィリアムがもう目覚めたのかと思っていたんだが……そういう事だったんだな」

 

「そうよ。あそこで嘘をついたのは自由に動ける戦力を確保するため。なら、もうすべきことは決まっているでしょう?」

 

 

グレンが部屋に来た時の驚いた理由がわかり、イヴの用意周到さにグレンとウィリアムは脱力するしかない。

 

 

「まずは真実を見極める。俺は連中の傍で真実を探り、ウィリアムは裏で動いて探っていく……そうなんだろ?」

 

「だったら、やるしかないな……」

 

 

強い瞳を宿したグレンとウィリアムに、イヴは奇妙な事を言い出した。

 

 

「……さて、私も色々と準備しないとね」

 

「……え?」

 

「は……?」

 

「……何よ?二人してそんな目で私を見て」

 

「いや、その……ひょっとしてお前、着いてくる気なのか?」

 

 

二人の意外そうな表情に、イヴはしかめっ面で答える。

 

 

「当然よ。今のウィリアムには手綱を握る人物が必要でしょうし、疲労も相当溜まっているのも事実なのよ?準備なんて出来そうにないし、また暴走したら本末転倒もいいところでしょ?」

 

「うぐ……ッ」

 

 

イヴのもっともな指摘にウィリアムはたじろいでしまう。オーヴァイの指摘で幾ばくか落ち着いたが、また暴走しないとも限らないとも分かるから言い返せない。

その後、グレンが失礼な事を言ってイヴの爆炎に吹き飛ばされ、こっそり後をつけ、盗み聞きしていたシスティーナとルミアの同行も決まる。そして……

 

 

「っと、そうだウィリアム。忘れるところだった」

 

 

グレンはそう言ってズボンのポケットに手を入れ、何かを取り出してウィリアムに渡す。

 

 

「これは……!」

 

 

グレンが渡したのは、あの時リィエルにプレゼントした白銀竜を模したペンダントだった。

 

 

「ああ。俺が回収しておいた。今のリィエルの手元に置いていたら連中に捨てられる可能性が高いし、俺よりお前が持ってた方がいいだろしな」

 

「ああ……ありがとよ先公……」

 

 

ウィリアムはペンダントを左手で強く握り絞め、改めてリィエルを救うことを強く誓うのであった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――翌日の日も上りきっていない早朝、魔術学院の中庭にて。

そこには旅支度を整えてイヴ、ウィリアム、システィーナ、ルミアの四人が集まっていた。

そして、イヴが手に持つ水晶玉から窓のようから送られてくる映像―――担架に拘束され、貨物運搬用の神鳳(フレスベルグ)に積載されようとしているリィエルの姿に、お馴染みの紺の外套を身に纏ったウィリアムは拳に血が滲まんばかりの力を込めて握りしめていた。

 

 

『……ぐ、れん…………わたし……を……どこに……つれて……いく……の……?…………うぃる……は……どこに……いる……の……?』

 

『心配するな!ゆっくり寝てろッ!必ず助けてやるから、今はゆっくり休んでろッ!俺()を信じてくれ!!』

 

『…………ん……』

 

 

イヴと仮サーヴァント契約をし、イヴの使い魔になっているグレンの言葉に安心したように、不安げだったリィエルはゆっくりと目を閉じて……再び深い眠りについた。

 

 

「…………」

 

 

その映像を前に、ウィリアムはあの時の―――二人を救えなかった時の無力感が襲いかかり、歯を食いしばって身体を震わせる。

 

 

「ウィリアム……」

 

「ウィリアム君……」

 

 

そんなウィリアムをシスティーナとルミアは不安そうに見詰め、イヴは特に何も言ってこない。興味がないのではなく、下手な言葉は逆に追い詰めるのと、ウィリアム自身が冷静になろうと努めようとしていると分かっているから、敢えて何も言わないのだ。

その間も映像は流れ続け、サイラスがグレンに白々しい謝罪をしてきている。

 

 

『―――俺達とは学院の人達のことですかね?あんな生徒に負担をかける方法を取らなくても、こちらで彼女の延命措置は用意していましたのに』

 

 

リィエルは現在、セシリアが組んだ術式によって遠隔のマナ供給を受けている。セシリアが過労で倒れた今、術式の制御はセリカとギーゼンが担当し、生徒達が必死にリィエルに自分達のマナを送っている状態である。

サイラスの言葉にグレンは信用できないと言って突っぱねるが、サイラスの口から最初からリィエルが倒れることを知っていたと匂わせる発言を洩らしたことでますます疑いが強くなる。

そして、グレン達はアルベルトが潜伏している場所―――東部カンターレの遺跡都市マレスに向かって神鳳(フレスベルグ)を飛ばして行く。

 

 

「さて……私達もいきましょう」

 

 

それを確認したイヴが水晶玉の映像を切り、澄まし顔でポケットへとしまう。

 

 

「で、でも、どうやって先生達を追うんですか……?」

 

「馬車で追いかけたんじゃ、到底間に合わない……」

 

 

あまりに的外れなことを言うシスティーナとルミアにウィリアムは脱力。イヴは呆れたように溜め息を吐いた後―――

 

 

「《いざ来たれり・翼持つ誇り高き風の朋友(ほうゆう)・我汝の契約を此処に果たせ》――」

 

 

呪文を唱えながら右手で複雑な印を結び、その右手を地面につけて、自身の神鳳(フレスベルグ)を召喚する。

こうして、ウィリアム達はイヴの神鳳(フレスベルグ)に乗ってグレン達の後を追いかけて行った。

 

 

「―――っきゃああああああああああああああああああーーッ!?」

 

 

……システィーナの悲鳴を聞き流しながら。

 

 

 




書き加減が難しい······
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百二十一話

てな訳でどうぞ


―――そこはほぼ真っ白な世界だった。

空も白、真っ平らな地平に一つだけぼんやりと何かが見える気がするが、やっぱり白。

空と地を隔てる一本の線だけが存在し、何もかもが白で構成されている、何もない世界。

それが……わたしの世界だった。

 

 

「…………」

 

 

それに……すごく、眠い。

眠くなっていく度に、わたしの真っ白な世界は……少しずつヒビが入り、壊れていく。

倒れることも出来ないわたしは、それを黙って見ていることしかできない。

壊れていくこの世界に、何か大事なものを忘れている気がするが気のせいだろう。

だって……この世界には何もないはずだから。別に壊れてもいい、なくなってもいい世界のはずだから。

 

 

「…………」

 

 

もう、このまま眠りたい。

眠ろうとすると、もの凄い喪失感があるけど。寂しく哀しく、胸が痛くなる気がするけど。

眠ってはいけない……そんな警鐘が鳴っている気がするけど。

やっぱり、眠いのだ。

わたしは胸の痛みを感じながら、そっと……目を閉じようと……

 

 

「……それでいいの?キミは本当に」

 

 

……したが、誰かの声が聞こえ、閉じかけていた瞳を開けた。

 

 

「……?」

 

 

いつの間にいたのか、わたしの目の前に、一人の女の人が、わたしに背を向けて立っていた。

わたしと同じ青い髪を後ろにまとめて垂らし、背中に変な模様の入ったマントを纏い、どこかで見たことのある剣を腰に吊っている女の人が。

この人がぼんやりとした何かだと思ったけど、そのぼんやりした何かはわたしのすぐそばで揺らめいているから、違う。

 

 

「お邪魔します……と言えばいいのかな?」

 

 

その女の人に誰?とわたしが聞くと、その女の人は“ひめ”と呼んでと言った。その後、ひめはよくわからないことを言う。

わたしは再び胸の痛みを感じながら、眠ろうとするも、ひめがそれを止めてくる。

 

 

「駄目だよ。キミが寝ちゃったら、この世界は完全に壊れてなくなっちゃう」

 

 

……どうして駄目なの?空っぽで何もない世界のはずなのに?

別になくなってもいい……世界のはず……

 

 

「……本当にそうかな?キミは今、泣いているのに?」

 

 

……泣いている?わたしが?どうして?

確かに目の端から一筋の涙があるけど、どうして何だろう?

 

 

「今、君が見えている隣の()をちゃんと見てみて。この世界は絶対に空っぽで何もない世界じゃない……キミにとって、大切な世界のはずだから」

 

 

ひめにそう言われ、わたしはひめが彼と言った、そのぼんやりとした何かに、眠気をこらえて目を凝らして見る。

そのぼんやりとした何かは、確かに人の形をしていて、紺色の髪を生やした銀眼の―――

 

 

「……あ」

 

 

その人が誰なのか、分かった瞬間、はっきりと輪郭が現れて揺らめきが消え、姿がはっきりとした少年を中心に、見慣れた教室の光景が、大事な友達とクラスメートの皆、教壇に立つ青年がわたしを見ている姿と共に広がっていく。

そして、クラスメート達の声が聞こえ、どんどん大きくなっていく。

 

 

「…………ぁ……ぁぁ…………」

 

 

わたしの目から、涙がぼろぼろと溢れていく。

何でこんな大事で、大切なことを忘れていたんだろう。

今はこの世界が壊れることが、彼に対して感じるこの暖かい気持ちが何なのか、わからないまま壊れることが、凄く、凄く、怖い。

 

 

「ほら?空っぽ、じゃなかったでしょ?……だから、寝ちゃ駄目だよ。頑張って」

 

「ん……」

 

 

ひめはそう言ってわたしを抱きしめ、優しく頭をなで続けてくれた―――

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

グレン達が人里離れたどこぞの湖畔の岸辺に野営を取った場所から北へ五キロス。高く切り立つ崖の天辺のその淵瀬に、ウィリアム達は野営をしていた。が……

 

 

「…………」

 

 

ウィリアムは現在、苦痛に歪んだ表情で地面に義手の拳を打ち付けていた。

その理由は、グレンから送られてくる水晶体の映像にあり、その映像でリィエルがグレンを助ける為に無茶をして倒れたからだ。

グレンは新特務分室メンバーにほとんど脅しで模擬戦を申し込まれ、リィエルを手にかけることを匂わされた為、グレンはやむ無く模擬戦を受けることとなった。

その模擬戦で《剛毅》のファーガス、《太陽》のニコル、《節制》のシャルロッテにグレンは手も足もでずに一方的になぶられ、強大な概念存在―――第二位:主天使(キュリオテース)《断罪の天使》アトスを憑依させたシャルロッテに殺されそうになった瞬間、リィエルが文字通り死力を尽くしてシャルロッテを吹き飛ばし、その直後、血を吐いて倒れたのだ。

その後、イヴの同期にあたるらしい亜麻色の髪の少女―――《月》のイリアが割って入ったおかげでその場は収まったが、ウィリアムはリィエルに何もできない今の自分に強い憤りを覚えてこうなってしまったのだ。

 

 

「「…………」」

 

 

そんなウィリアムに何て声をかければいいのか、システィーナとルミアは互いの顔を窺い、頭を悩ませることとなり、イヴはやっぱり一人で行かせなくて正解だったと改めて思っていた。

もし一人だったら、後先考えずに彼方へと向かったことは容易に想像がつくし、一人ではなかったからこそ、こうして留まっていることも理解できる。

なので、イヴは本当に仕方なく、ウィリアムにガス抜きを施すことにした。

 

 

「全く、頭に血が上りすぎよ。いい加減おちつきなさい」

 

「…………」

 

 

イヴの言葉にウィリアムは一切答えず、無言で地面を殴り続ける。

 

 

「そんなだから、リィエルの尻尾を見境なく触ることになるのよ」

 

「………………。…………ッ!?い、イヴの先公ッ!?いきなり何を……!?」

 

 

全く関係ない筈の黒歴史の公開に、ウィリアムは最初は理解できなかったが、理解した瞬間、泡を食った表情となる。

 

 

「あら?我をなくして、リィエルの尻尾を触ったり、頬擦りしたり、顔を埋めたり、匂いを嗅いだりしたのはどこの誰だったかしら?」

 

「あが……あが……あが……ッ!」

 

 

イヴの容赦のない指摘に、ウィリアムは顔を真っ赤にし意味不明な言葉を洩らし始める。

 

 

「あの子もちょっと無防備だし、このままじゃ、リィエルが貴方に食べられるんじゃないかと心配になってくるわ」

 

「食べねぇよッ!?」

 

 

ウィリアムは必死な顔で即座に否定するも、二人の()()を知っているシスティーナとルミアは何とも言えない表情で視線を明後日の方向へと逸らす。それに気づいたイヴは、まるで悪魔のような笑みでウィリアムを見つめ直した。

 

 

「……どうやら相当進んでいるみたいね?」

 

「ッ!?違う!!あれは酒のせいであって、断じて違う!!」

 

「つまり、お酒のせいでそうなったということね」

 

「ッ!!ぬぁあああああ……ッ!!」

 

 

見事に自爆してしまったウィリアムは頭を抱えてその場でゴロゴロと羞恥で転げ回る。そんなウィリアムを、イヴは呆れた目で見詰める。

 

 

(ハァ……グレンといい、ウィリアムといい……男ってどうしてこんなに鈍感なのかしら?まぁ、リィエルもそこら辺の感情は薄いみたいだから、あっちも気づいていないでしょうけど……)

 

 

グレンから送られてくる映像には、勿論リィエルとのやり取りもあり、リィエルはか細い声でウィルから貰ったペンダントはどこ?とか、ウィルに会いたい。とか色々言っていたのもばっちり送られていた。その時点からウィリアムの顔は苦渋に歪んでおり、その後のアレで感情が爆発寸前になるのは、流石に責めきれるものではなかった。

 

その映像とガス抜きの会話で二人の無自覚な感情に気づく辺り、イヴの眼は確かである。だが、中立の第三者が見ればこう思うだろう。……それはお前もだと。気づいたら気づいたらで、また別の意味で大変となるのだが……今はいいだろう。

 

その後、リィエルの容態も比較的安定したことが窺える映像も見たことでウィリアムもようやく落ち着きを取り戻し、水晶体の映像に注視していく。本当はファムも使い魔にして探りを入れられるようにしたかったのだが、ファムの人見知り激しさ、ファムと交渉できる人物はどちらも交渉に行けない状態だった為、実現は不可能だった。

 

そんな事情はさておき、話を聞く限り、イリアもグレンの夢を支えた人物の一人のようだが、どこか違和感がある。それはイリアがグレンの固有魔術(オリジナル)愚者の一刺し(ペネトレイター)】をあっさりと口に出して話題にしたからだ。

 

グレンはその固有魔術(オリジナル)に、おそらく、ウィリアムが自身の固有魔術(オリジナル)詐欺師の騙し討ち(ディスパージョン)】に抱いている恐怖と似たような感情を抱いていると、ウィリアムは《炎の舟》での決着の時にそう感じた。

 

そんなトラウマに近いものを、本当に支えた人物があんな簡単に口にして話題にするのだろうか。勿論、向こうの内情なんて知らないのだから、ただの考え過ぎだと言われればそれまでだ。

だが、その答えはグレンからもたらされた。

 

 

「……グレン?」

 

「……?」

 

 

グレンから送られるイリアとの談笑の映像にシスティーナとルミアがもやもやする中、グレンから送られる音声に、時折、変な小さな音が交じっている。

この音をウィリアムが理解することは出来ないが、軍属のイヴはその音の意味を理解しているようで、モニターの映像を凝視し続けている。

後からイヴにその内容を聞くと、一見すれば奇妙な指示であり、同時に納得のいくものであった。

 

 

 




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百二十二話

駄文だけどそれでも投稿
てな訳でどうぞ


グレンから指示を受けた翌日。

ウィリアム達は先回りして、遺跡都市マレスの都市区画北側の崩れかかっている古代塔の中腹に降り立ち、拠点を構えており、ウィリアムは今得ている情報を整理していた。

 

 

(まず、この騒動の起点となっているのはアルベルトの女王陛下暗殺未遂と、リィエルのエーテル乖離症を患ったこと……)

 

 

ウィリアムはそう考えながら二つの石ころを置く。

師匠曰く、「戦場と敵地で考える時は頭の中、拠点で考える時は盤上のようにして考えるのが吉」との事。なのでこうして石ころを情報に見立てて整理していく。

 

 

(続いて、サイラス達の編成は調査目的の編成を、討伐目的を加えて再編成したようなもの……)

 

 

ウィリアムは新たに石ころを地面に置く。

 

 

(そして、初日の出発の言動からリィエルが倒れる事は既に予期していた……にも関わらず、リィエルを無理矢理連同行させた……)

 

 

奥底から激情が沸き上がって来るが、ウィリアムは深く息を吐いて気持ちを静め、更に三つの石ころを置く。

 

 

(サイラスはグレンが裏切らない保険と言っていたが、リィエルの霊域図版(セフィラ・マップ)を掲示すれば一発でクリアできていた……にも関わらず連れて来たのは……元々、リィエルをこの地へ連れて来るつもりだったのか?)

 

 

ウィリアムはそう思案しながら、石ころを一つ弾き飛ばす。

 

 

(そして、イヴの先公の遠見の魔術の確認だと、アルベルトは“復活の神殿”と呼ばれる神殿の天辺の屋上に堂々と佇んでいた……)

 

 

マレスの中心地にある巨大な台形型神殿にアルベルトは隠れるのではなく、待ち構えているかのような行動に、ウィリアムは一つの可能性に至り始める。

 

 

(……だが、まだピースが足りない。そして、イヴの先公から聞いたグレンの先公の指示……)

 

 

その指示の結果次第では―――真相が一気に見えてくる筈だ。

イヴのその調査結果を待つ間、ウィリアムは自身の装備の点検と整備に時間を費やす事にする。

ウィリアムは今、とある理由からイヴ達と少し距離を置いており、現在の情報収集には不参加だからだ。

そんなわけでしばらく自身の武器の点検をしていると……

 

 

「……本当に、魔術師らしくない装備ね」

 

 

《詐欺師の盾》を点検していたウィリアムの背後から、イヴの呆れた声が聞こえてくる。ウィリアムがイヴ達から離れる際、グレンの要件の結果がわかったら呼んでくれと言っていたので、その結果が出たということだ。

 

 

「……イヴの先公。グレンの先公の指示の結果、どうだった?」

 

 

本当に一方的な聞き方にイヴは盛大に溜め息を吐きながら、その結果を伝える。

 

 

「……グレンの睨んだ通りだったわ。ホントッ、普段は鈍感なのにここぞという時は鋭いんだから……」

 

 

イヴはそのまま、グレンの指示からの調査結果を伝え、一緒に来ていたシスティーナとルミアと共に状況証拠から一つの結論にへと至る。

 

 

「……つまり、あの人達の目的は初めからリィエルだったということね……」

 

「ああ。そして、連中にはその瞬間までは手出しが出来ず、好き勝手させるしかないこともな」

 

 

ウィリアムは声色こそ静かだが、拳を強く握りしめている辺り、相当悔しいことが窺える。

 

 

「ウィリアム。わかってるとは思うけど……」

 

「わかってる。その時は絶対に暴走しない。リィエルの命がかかっているんだ。そんなヘマをして取り零すなんて、あまりにも情けなさ過ぎるだろ」

 

 

ウィリアムのその力強い決意の言葉に、イヴは内心で臭いセリフだと呆れながらも心配ないと判断して話を進める。

 

 

「……わかってるとは思うけど、相手はとんでもない強敵よ。それに気づいた今でもまだ信じられないくらいだから」

 

「だろうよ。俺だって同意見だし、おそらく近づいたら終わりのレベルだと思うぞ」

 

「そうね。あの男がこんな愚策しか取らないという事は、その可能性は十分にあり得るわね」

 

 

あの男―――アルベルトは間違いなくグレン達の存在に気づいている筈だ。

にも関わらず、一切動かず、ただ“待っている”だけというのはそれだけ危険な相手だという可能性は十分にあり得る話なのだ。

 

 

「一番確実なのは“食らわない”こと。どんな強力でも仕掛ける対象に向かなかったら、空振りに終わるだけだからな」

 

「だけど、やり合う以上、こちらの存在は間違いなく攻撃の時点で認識される。それは避けて通れない道だけど……」

 

 

イヴはそう言って、右手の人差し指に小さな炎を灯す。

 

 

「今ある手札を上手く使えば連中を出し抜くことが出来る筈よ。こちらの手札も明かすからウィリアムも手札を明かしなさい。この状況で有効に使える手札をね」

 

 

イヴのその言葉に、ウィリアムは仕方ないと頷き、有効な手札を何枚か明かし、イヴも自身の秘密の手札を明かしてリィエル救出の作戦を立てていくのであった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

作戦の概要が大まかに決まり、日が沈み、討伐隊に参加していたグレンと、拠点で待機していたサイラスとイリア以外がアルベルト一人に全滅したその日の夜。

全滅からそう時間を置かず、グレンは今度は単身でアルベルトに挑んでいた。

グレンの固有魔術(オリジナル)【愚者の世界】の有効範囲は半径五十メトラ。その中に入ってしまえばいかなる魔術起動が完全封殺される。つまり、グレンとアルベルトの戦いは距離の奪い合いであり、グレンがこの距離の争奪戦を制しなければリィエルを救う扉を開くことが出来ないのだ。

互いの手の内を知りつくした二人。その二人が激しくぶつかりあう。

グレンとアルベルトが激突する最中―――

 

 

「……では行きますよ」

 

 

サイラスと二十代前後の黒髪の女の魔導士が手足を拘束したリィエルを抱えて、“復活の神殿”へ向かって密かに移動し始め……

 

 

「こちらも手筈通り行くわよ。絶対に勝手に動かないで頂戴」

 

「ああ」

 

 

同時にウィリアム達もリィエルを救う為に動き始める。

ウィリアムにとって、絶対に負けられない戦いが再び幕を開ける―――

 

 

 




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百二十三話

てな訳でどうぞ


互いを知り尽くしたギリギリの駆け引きの戦い。その戦いを制したのは―――

 

 

「やっと射程に捉えたぜ、この野郎」

 

 

アルベルトが本気の狙撃で対象を殺す時の癖を見事に読み切ったグレンであった。

 

 

「言っておくが……俺は近接格闘戦でも強いぞ?」

 

 

【愚者の世界】の効果範囲内にアルベルトを捉え、帝国式軍隊格闘術の構えをとるグレンに、アルベルトは東方の武術の構え―――骨法の構えをとる。

そして、二人の男は互いの信念と覚悟を乗せて殴り合う―――

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

グレンとアルベルトが怒涛の格闘戦を繰り広げる中、サイラス達は“復活の神殿”の内部―――ドーム状の祭儀室に辿り着いていた。

サイラスはその部屋の中央にある、左右に黒いモノリスが聳え立つ祭壇の上にリィエルを横たわせ、慣れた手つきでモノリスを操作、祭壇部屋の何かを起動していく。

 

 

「件のアストラル・コードは?」

 

「すでに導入(インストール)済みだ。……想定よりも素体(リィエル)への定着が上手くいかなかったが問題ない。許容範囲内だ」

 

「そうですか……」

 

 

そんなやり取りをしながら、サイラスと魔導士の女は次々と作業を終わらせていき、サイラスは懐から魔晶石を取り出し、リィエルの胸部に載せる。

すると、その魔晶石は、リィエルの体内へと埋没していき、サイラスが高らかに呪文を唱えると、魔晶石から無数の光の線が四方に放たれ―――リィエルの霊域図版(セフィラ・マップ)が展開される。

 

 

「ふふ、本当に美しい霊域図版(セフィラ・マップ)だ……」

 

「シオン=レイフォード……やはり稀代の天才だな。研究の過程で『原初の魂』の複製に至っていたとはな」

 

「さぁ、始めましょう―――英霊再臨の儀である心霊手術をッ!!」

 

 

サイラスは高ぶった気分のまま、同伴していた魔導士の女と共に、作業を再開しようとした―――その瞬間。

 

轟ッ!!

 

灼熱の業炎が、サイラスと魔導士の女の前に立つモノリスを包むように燃え上がった。

 

 

「なぁ―――ッ!?」

 

「―――ッ!?」

 

 

サイラスと魔導士の女はその灼熱の業炎から飛び下がった瞬間―――

 

ドパパパパパパパパパンッ!!!

 

銃声の音が連続で鳴り響き、再び咄嗟にサイラス達は横に飛ぶと、サイラス達がいた場所を幾つもの銃弾が通過していき、壁やモノリスにぶつかっていく。

勿論、この神殿には霊素皮膜処理(エテリオ・コーティング)が施されているため、破壊されることがないが―――モノリスが炎に包まれたせいで作業が出来なくなる。

そんな祭儀室の出入り口から二人の声が響き渡る。

 

 

「ようやく出したわね、リィエルの霊域図版(セフィラ・マップ)を……」

 

「ようやく、この茶番劇にケリがつけられるな……」

 

 

そう言ってサイラス達の前に姿を現したのは……

 

 

「イヴ!?イヴ=イグナイト!?」

 

「《詐欺師》ウィリアム=アイゼン……お前は過労で倒れた筈では……」

 

 

悠然とした態度でサイラス達へと歩むイヴと、二丁の拳銃を構えてイヴと同じくサイラス達へと近づくウィリアムであった。

 

 

「リィエルは返してもらうわ!!」

 

「これ以上、貴方達の好きにはさせません!!」

 

 

続いてシスティーナとルミアが通路奥から駆け寄り、ウィリアム達に並び立つ。

彼らが対峙した直後、()()()()()()()()()()()()が息せき切って、現れる。彼女はそのままイヴの横に並び立ち、サイラスに怒りの目を向けて糾弾するも―――

 

 

「ねぇ、イリア。―――そういう茶番はもういいの」

 

 

イヴが無表情で後輩のイリアの肩に右手を置き、炎熱系魔術を遅延起動(ディレイ・ブート)する。

たちまち起動した炎の魔術は後輩のイリアを呑み込んでいき、後輩のイリアの叫び声が木霊するが、その途中で、彼女の姿が揺らめいて歪んでいき、まるで始めから存在しなかったかのように消えていったのだ。

 

 

()()()()()()……当時、《月》の席は空席だったことをね」

 

 

イヴはそう言って魔導士の女―――状況からして本物の《月》のイリア=イルージュに鋭い視線を送る。

本物のイリアはご名答と答え、自身の固有魔術(オリジナル)―――月の光を触媒に世界そのものに幻術を仕掛ける究極の幻術【月読ノ揺リ籠(ムーン・クレイドル)】の効力を説明する。

 

 

「しかし、見事だ。よくぞ私の幻術を見破った。流石は元・《魔術師》―――」

 

「違うわ。最初に見破ったのはグレンよ」

 

「……何?」

 

 

イヴはそう言ってイリアに、グレンとセラの絆を土足で踏みにじったこと、違和感に気づいたグレンの指示で監視対象をリィエルに変え、リィエルの霊魂に妙なアストラル・コードが導入されているのに気付き、それを霊的に介護している後輩のイリアがその異変に気付かない筈がないから、後輩のイリアの存在を疑ったのだと告げる。

ウィリアムがイヴ達から距離を取ったのは、リィエルそのものの監視で冷静さを保てるか、自分でも不安だったからである。

それらの状況証拠と、この“復活の神殿”の成り立ちから、サイラス達の目的がリィエルを使って、誰かを蘇生するのだと見抜き、それを糾弾してサイラスに素性を問い質すと、サイラスは余裕の笑みで答えた。

 

 

「私の本当の肩書きは、蒼天十字団(ヘヴンス・クロイツ)。その団長です。そして、『Project:Revive Life』―――これはもう、我々の中では確立された技術なのですよ」

 

 

サイラスのそんな言葉をシスティーナはすぐに否定するも、以前からその可能性に至っていたウィリアムはトーンを落とした声で答えあわせをする。

 

 

「……バークスの研究とルミアの異能だな?」

 

「「!?」」

 

「正解ですよ。彼の研究で抽出したルミアさんの異能でね。勿論、劣化複製したものですが」

 

 

ウィリアムの言葉にサイラスはあっさりと肯定し、ルミアから抽出、複製した劣化異能―――《僭主の法(パラ・アルスマグナ)》によって自分達が完成させた『Project:Revive Life』の重大な欠陥―――霊的な拒絶反応による崩壊と、それを解決するのが、リィエルの霊魂が高精度で再現された『原初人類の霊魂』―――『パラ・オリジンエーテル』であることを嬉々として語り、この儀式を以て真の完成を果たすと言う。

リィエルの人格と記憶が消えること―――リィエルの『死』―――を些細だと言い切り、壊れた哄笑を上げ続けるサイラスに、ウィリアムは鬼の形相で睨み付ける。

 

 

「……させると思うのかよ?」

 

 

地獄の底から響くような声を滲ませ、ウィリアムは両手の拳銃の銃口をサイラス達に向ける。イヴも右手を突きだし、システィーナ達も左手を突きだして臨戦体勢へと移る。

 

 

「……ククッ……本当に滑稽ですね……ねぇ、イリア?」

 

 

サイラスが余裕を崩さずにそう言うと同時に、イリアが無言で手を振るう。

その瞬間、世界がガラスのように割れていき、ウィリアム達は虚無の虚空へと呑まれていく。

そうして、再び世界が形を取り戻すと、既に儀式が始まっている光景が広がっていた。

 

 

「ッ!?」

 

「残念でしたねぇ!?儀式はとっくに始まっていたんですよ!!そして―――」

 

 

サイラスの言葉を無視して、ウィリアム達が祭壇へ駆けつけようとした瞬間、ウィリアム達の目が虚ろとなり、その場で跪いしまう。

 

 

「……油断したな。【月読ノ揺リ籠(ムーン・クレイドル)】は通常の幻術と同じように個人にもかけられる。この場合は月の光の触媒は必要ない。そして、“あらゆる精神防御を貫通する”この幻術から逃れることは不可能だ」

 

 

人差し指に灯す白い光を掲げ、感慨なくウィリアム達を見下ろすイリア。

沈黙したまま、微動だしないウィリアム達に、サイラスは悠然と歩み寄り―――

 

 

「栄光の礎となって……死ねぇええええええええええええええええ―――ッ!!!」

 

 

引き抜いたナイフをイヴの後頭部へと容赦なく降り下ろした―――

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

眠い。

わたしの意識を蝕む眠気が、暴力的なまでにわたしを襲い、ボロボロの崩れかけであるわたしの大好きな世界をひめの身体から広がっている……たぶん、ひめの世界が塗り替えていっている。

このままだと、わたしの大好きな世界は消えてなくなって……たぶん、わたしも消えてしまうだろう。

 

 

「……ごめん……本当にごめんね、リィエル。ボクも抑えようとしているんだけど…………今のボクは複製された記録情報(アストラル・コード)に過ぎないから……命令に抗えないんだ……」

 

 

ひめはわたしを抱きしめたまま、本当に申し訳なさそうに、辛そうに、謝り続けている。

だけど、まだ、わたしに命を送ってくれている大好きなクラスメートの皆の声が聞こえてくるから。

わたしの大好きな友達が近くにいることが、確かに感じられるから。

わたしの大好きなあの人が、今もきっと、わたしを助けるために戦ってくれているから。

そして―――わたしの世界にいた、一番大好きな彼の存在が近くに感じられ、絶対に助けるという強い想いが伝わり続けているから。

 

 

「だから……大丈夫」

 

 

わたしは眠気をこらえながらそう言って、この世界にある、彼からの贈り物を握りしめる。

 

 

「そう……なら、ボクも一緒に信じるよ。キミの大好きな人達を……キミの一番大好きな彼のことを」

 

「ん……」

 

 

そう言って、わたしとひめは互いの存在を確かめ合うように抱きしめ続けた―――

 

 

 




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百二十四話

連投である。自己満足でありますが······個人的な解釈も遺憾無く発揮してますし······
てな訳でどうぞ


サイラスがイヴの後頭部に、容赦なくナイフを突き刺した―――その瞬間。

 

パリン!

 

イヴの身体がガラスのようにひび割れ、光の粒子となって消えていった。

 

 

「……は?」

 

 

描いていた光景と違う結果に間抜けな顔となるサイラス。そんなサイラスの真横の、何もない筈の空間が、銃声と共にガラスのように割れて穴があき、ほぼ同時にサイラスのこめかみに強い衝撃が走る。

 

 

「――ぐあっ!?」

 

 

こめかみに強い衝撃を受けたサイラス、はこめかみに手を当ててその場でよろめく。同時に穴があいた空間のすぐ横から帯状の炎が突き破るように飛び出し、サイラスの身体に蛇のように巻き付いていく。

帯状の炎はそのままサイラスの腕を、胴を、首を、足を、口を容赦なく締め上げていく。

 

 

「ん~~~~~~ッ!?ぅ――――――ッ!?んぐぅ~~~~~ッ!?」

 

「全く……大の男が、この程度でピーピーみっともないわね」

 

 

完全に黒魔【フレイム・バインド】―――焼き焦がす痛覚だけを与え、対象を拘束・無力化する拷問用の炎の魔術―――で縛られ、無様に転げ回るサイラスを他所に、女性の呆れた声と共に再びガラスが砕け散る音が響き渡る。

すると、何も無かった筈の空間が光の粒子となって砕け散り、そこから右手を突きだしたイヴと、《詐欺師の盾》を携え、硝煙が昇る拳銃を構えたウィリアムが現れた。

 

 

「馬鹿な……ッ!?人工精霊(タルパ)の幻影だと……!?それは常に注視していた!!見逃す筈が―――」

 

 

イリアの言う通り、彼女とサイラスはウィリアムがいたことから人工精霊(タルパ)の存在に注意しており、幻術に沈めた時も彼らが本物だと、そう()()していた。

 

 

人工精霊(タルパ)だけなら、ね」

 

 

明らかに動揺し、狼狽えるイリアに、イヴは不敵に笑いながら指を立て、その指先に小さな炎を灯しながらタネを明かす。

 

 

「秘伝【火幻術】……火の揺らめきで相手に催眠をかける、秘密の奥の手……これで貴女達の認識を誤魔化したのよ」

 

「火の揺らめきだと!?ま、まさか―――ッ!?」

 

「ご明察。最初に放った炎は攻撃ではなく催眠。サイラスがご高説し始めてから()()人工精霊(タルパ)とすり変わったのよ。これは《詐欺師(ウィリアム)》の言葉だけど、どれだけ強力でも仕掛ける対象に向かなかったら、空振りに終わるだけだそうよ?」

 

「すり変わった後は光を曲げて周囲の景色と同化する壁―――人工精霊(タルパ)迷彩の壁(ステルス・ウォール)】で隠れていた。俺だけなら即効でバレただろうが、イヴの先公の幻術のお陰でテメェらの認識を誤魔化せた……儀式の発動を許してしまったのは痛恨だけどな」

 

 

幻術は基本的には個人に仕掛ける魔術だ。世界そのものを欺く幻術とは違い、その対象に向けなければ如何に強力でも意味がない。あまりに単純だが有効な一手ではあった。

 

 

「くっ……!?いや、待て!()()だと……ッ!?まさか―――ッ!?」

 

 

イヴの種明かしに含まれていた一つの言葉に、イリアは驚愕と焦燥を露にリィエルが横たわる祭壇へと急いで目を向ける。

すると、膝をついて虚ろな目をした人工精霊(タルパ)のウィリアム達が拳銃のみを残して一斉に砕け散り、同時に祭壇の一部の光景がウィリアムとイヴが現れた時と同じように砕け散る。

砕け散った先には―――リィエルに向き合っているシスティーナと()()()()()()()()()()ルミアの姿があった。

 

 

「―――ッ!!!」

 

 

その光景を見て、イリアはようやく悟る。最初の銃弾は自分達を排除するためではなく、自分達を祭壇から引き離すためのもので、油断していたのは自分達の方だったと。

そんな、完全にしてやられたと目を見開くイリアに、ウィリアムが《詐欺師の盾》を前につき出して身体を隠し、【騎士の誇り(ナイツ・プライド)・風兵】の突風で自身を吹き飛ばして突貫して迫って来る。

 

 

「おのれぇえええええええ―――ッ!!―――【月読ノ揺リ籠(ムーン・クレイドル)】ッ!!」

 

 

ウィリアムとイヴに幻術使いとしてのプライドを傷つけられ、見事なまでに欺かれて激高したイリアが、先に戦闘力の高い厄介な邪魔者達から排除するため、指先に白い月のような光を灯し、そう叫ぶ。

放たれるあらゆる精神防御を貫通する幻力。だが、ウィリアムとイリアの間に挟まている《詐欺師の盾》が―――“あらゆる魔術要素に崩壊の構築”をもたらす《ディバイド・スチール》の絶対防御の盾が、その絶対の幻力を崩壊させ、彗星のように切り裂いて、イリアへと迫っていく。

 

 

(馬鹿なッ!?私の【月読ノ揺リ籠(ムーン・クレイドル)】が防がれているだと!?あり得ん!!いや、あの《盾》が原因なら―――)

 

 

手応えから、あらゆる精神防御を貫通する絶対幻術の幻力が防御された現実にイリアは思考が硬直しかけるも、すぐに防御された原因を突き止め、《盾》の横に周り込んでから【月読ノ揺リ籠(ムーン・クレイドル)】を改めてウィリアムにぶつけようと左側に向かって跳ぶ。

イヴは【火幻術】を放っていたが、イリアの幻術に呑まれかけており、《盾》を挟まなければ通ると見抜いたイリアは勝利を確信し、ウィリアムに再び【月読ノ揺リ籠(ムーン・クレイドル)】をぶつけようとする。

だが、《盾》に隠れていたウィリアムの身体が《盾》と拳銃を残し、光の粒子となって砕け散った。

 

 

「!?」

 

「マトモにやり合うわけねぇだろ。このドアホ」

 

 

再び驚愕するイリアに、そんな呆れた声と共に、背後からガラスが割れる音と共に、勢いが乗った【騎士の腕(ナイツ・アーム)】の右拳が現れ、そのままイリアを殴りつけ、壁に拳ごと叩きつけた。

 

 

「ガ、ァ―――ッ!?」

 

 

全力で叩きつけられ、骨も幾つも折られたイリアは血ヘドを吐きながら意識を失い、【騎士の腕(ナイツ・アーム)】が砕けて霧散すると同時に手足を広げ、床に崩れ落ちた。

 

 

「……本当にチート過ぎるでしょ、それ」

 

「考えている程、便利なもんじゃねぇぞ」

 

 

幻術が解除されたイヴの呆れ言葉を、【詐欺師の工房】を解き、同時に【迷彩の壁(ステルス・ウォール)】も消えて姿を現したウィリアムは、床に転がった拳銃を回収しながら溜め息混じりにそう答える。

《詐欺師の盾》は精神攻撃も防げるが、魔力障壁を展開しなければ正面以外は防げず、正面の場合も《盾》に完全に隠れてなければ普通に食らってしまう。

障壁を展開すればイリアの絶対幻術は確実に防げるが、その場合、一切動けなくなるのでリィエルを助けることが出来なくなってしまう。その為、障壁の展開は事実上不可能であり、最終手段であった。

念のためにルミアの《王者の法(アルス・マグナ)》で超強化した【マインド・アップ】を施してはいたが、わざわざ食らいに行く必要はないのだ。

ちなみに、止めの一撃が【騎士の腕(ナイツ・アーム)】だったのは、今までの溜まりに溜まった鬱憤を晴らしたいがため、敢えて直接操作系の人工精霊(タルパ)を使っただけという、もの凄く個人的な理由からである。

意識を失ったイリア達に(じたばたしていたサイラスは義手で顔面を全力で何回も殴り飛ばして意識を刈り取ってから)【スペル・シール】等を施して完全に無力化したウィリアムは、迷うことなくシスティーナとルミアが作業をしている祭壇へと向かって行く。

 

 

「システィーナ、ルミア……リィエルは?」

 

 

ウィリアムの不安げな言葉に、作業をしていたシスティーナとルミアは安心させるように笑って答える。

 

 

「リィエルは無事よ!少し深層意識が上書きされていたけど、表層の人格部分の書き換えには至ってなかったから十分に間に合ったわ!今はリィエルに導入されていたアストラル・コードを削除しているところよ!」

 

「うん!その後は、セシリア先生から教わった治療法を施せばリィエルは助かるよ!」

 

「そうか……」

 

 

二人の力強い返答にウィリアムは安心したように呟き、その場に崩れ落ちる。そして、作業の邪魔をしないように、立ち上がって祭壇から少し離れようとするも……

 

 

「ちょっとウィリアム。何処に行くつもり?」

 

「いや、俺がいても邪魔なだけだろ……もう俺に出来ることねぇし」

 

「あるよ、一つだけ……リィエルの手を握って上げるということがね」

 

「……へ?」

 

 

ルミアが微笑みながら告げた言葉にウィリアムは目点となり、間抜けな表情となる。

 

 

「ちょっと待て。何で手を握る必要があるんだ?」

 

 

そんなウィリアムの疑問に、システィーナとルミアはジットリとした視線を送り始める。その視線に凄く居心地の悪さを感じたウィリアムは深い溜め息とともに、治療が終わるまでの間、リィエルの手を握りしめる事となった―――

 

 

―――治療が終わった後、再び行動を強要されることになることを、この時のウィリアムは予想だにしていなかった……

 

 

 




····絶対貫通の幻術と絶対防御の盾·······まさに矛盾の言葉が当てはまる
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百二十五話

ひめさんの挿絵は尊い。理由は·····あれがリィエルが成長(身体的に)した姿を連想出来るから
てな訳でどうぞ


―――世界が戻る。

わたしの世界を塗り替えようとしたひめの世界がゆっくりと崩れて消えていき、わたしの大好きな世界が同じ速度で元の形へと戻っていく。

 

 

「本当に、よく頑張ったね。リィエル」

 

 

わたしを抱きしめ、頭を撫でてくれているひめの姿は、少しずつ、ゆっくりと消えていっている。

ひめはわたしが強かったから、わたしの世界が消えずに済んだと言ったけど、それは多分、わたしの力じゃない。

よくわからない糸を通してわたしに力をくれたクラスの皆の声が聞こえたから。

わたしを必死に助けようとしてくれたシスティーナやルミア、イヴの存在を近くに感じられたから。

グレンが助けてくれたから。

そして、ウィルの存在を近くに感じ、ウィルの想いがわたしに伝わってきて、わたしを助けてくれたから。

そう、ひめに伝える。

 

 

「……そっか、そうだね。キミは空っぽじゃない。大切な物がたくさんあって、一番大好きな人もいるからね」

 

 

ひめはそう言ってわたしから離れ、曖昧な顔で気まずそうに笑う。ひめは自分はお節介のお邪魔虫だって言ったけど……

 

 

「……それに、ひめも励ましてくれたから」

 

「……え?」

 

「ひめがいてくれたから……ひめが教えてくれたから、わたしはわたしでいられた…………ありがとう」

 

「……そう。なら……ボクも現れた甲斐があったかな」

 

 

そんなひめに、どうしてわたしを助けてくれようとしたのかと聞くと、ひめはわたしがひめの知っている女性と似ていたから、性分もあったから助けようとしたと言う。

そんなひめの姿がどんどん希薄になっていき、もう会えないのかと聞くと、ひめはよくわからないことを言ってもしかしたら残るかもしれないと言ったので、ひめがわたしの中に残るよう頑張ることにする。

忘れないために、ひめの本当の名前も聞いてみたけど、長かったのでやっぱりひめで覚えることにする。ひめは何故か転びそうになって呆れていたけど。

 

 

「それじゃ……さようなら、リィエル。またいつか」

 

 

そうして、ひめは光の中へと消えていき、わたしは手から伝わる一番大好きな人の存在を感じながら、ひめを見送るのであった―――

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「……そういう事か」

 

「そういう事だ。もう俺達がやり合う必要はねぇんだよ」

 

 

激しい殴り合いを制したグレンの説明に、完敗を喫したアルベルトは安心したように納得していた。

そうしてグレンとアルベルトは互いの事情を明かしていき、アルベルトの女王暗殺未遂が極秘任務―――蒼天十字団(ヘヴンス・クロイツ)撲滅作戦のための狂言であったことも明かされていく。

 

 

「全く、ご苦労なこって……」

 

「……ふん。お前は相変わらず気楽だな。…………」

 

 

そこから暫し、沈黙がグレンとアルベルトの間に漂うも、アルベルトが再び口を開く。

 

 

「グレン……俺は絶対に妥協しない」

 

「…………」

 

「俺はこれからも九を救うために一を切る。……たとえ、地獄に落ちようとな」

 

「…………」

 

「それが気に食わないなら……」

 

 

自分を殺してでも止めろ……アルベルトはそう続けようとするも、その前にグレンがきっぱりと告げた。

 

 

「ああ、そん時は俺を呼べ。俺とお前の二人なら、最悪な状況も、多少はマシになんだろ……今回はアイツらのお陰で回避出来たけどな」

 

「……やはり、敵わんな」

 

 

先の敗北と、グレンの言葉を思い出したアルベルトはそんな事を呟く。

そして、再び沈黙がグレンとアルベルトの間を漂っていく。

 

 

「あ、いたいた!」

 

「先生!アルベルトさんも!」

 

「ホント、しぶとい男達ね……」

 

 

暫くすると、遠くからシスティーナとルミアが二人の下に駆け寄り、溜め息混じりにイヴも歩み寄ってくる。そして、ウィリアムは―――

 

 

「何でこうなった……」

 

「…………すぅ……」

 

 

安らかな表情で寝息をたてているリィエルをお姫様抱っこして歩いて来ていた。

エーテル乖離症も無事治療され、ウィリアムがリィエルをおぶって運ぼうとした際、システィーナとルミアが「そこはお姫様抱っこでしょ(だよ)!!」と何故か非難してきたからだ。

その上、イヴも何故か空気を読みなさいと云わんばかりの呆れた視線をウィリアムに送ったので、ウィリアムは仕方なく、本当に仕方なく、リィエルをお姫様抱っこで運ぶことにしたのである。

 

 

「おや~?ウィリアムくん、中々絵になりますなぁ~。可愛い囚われのお姫様を助けだした王子様みたいになぁ~?」

 

「…………」

 

 

当然、それを目撃したグレンはにやついた笑みでウィリアムを盛大にからかうのだが、ウィリアムは動揺せずに……無言で器用に懐から翡翠の石板(エメラルド・タブレット)を取り出す。

そして、翡翠の石板(エメラルド・タブレット)は淡く発光し、ウィリアムの周囲に【騎士の腕(ナイツ・アーム)】が数体具現召喚される。

 

 

「―――いいっ!?」

 

「そんなに元気なら丁度いいな。正直、まだまだ鬱憤が溜まっているから、グレンの先公をしこたまブン殴って発散させてもらうぜ」

 

「ちょっ、待って!タンマッ!タンマッ!タンマァアアアアアアアアアアアアア―――ッ!!!!」

 

 

グレンの静止の叫びも虚しく、【騎士の腕(ナイツ・アーム)】達は容赦なくグレンに襲いかかり、グレンは痛む身体に鞭を打ってかわし、そのまま必死に逃げ続ける。

そんな、空に輝く月が見守る下で新たに繰り広げられる、二人の馬鹿な争いを、システィーナ達は呆れた溜め息を吐いて傍観するのであった―――

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

ウィリアム達が学院に帰還するや否や、リィエルはクラスの皆に盛大に無事を祝われ、もみくちゃにされることとなった。そんなリィエルの首もとには、例のペンダントがしっかりと戻ってきていた。

リィエルも、皆のお陰で帰ってこれたと言い、特上の笑顔でお礼と、また皆と一緒にいられる嬉しさを伝えると、再び大騒ぎとなる。

そんなリィエルの様子を、ウィリアム達は少し離れた場所から見守っているのだが……

 

 

「オーヴァイ……何で此方に来てるんだ?」

 

 

一緒に出迎えたオーヴァイは何故かリィエルの方ではなく、ウィリアムの方へと歩み寄って来ていた。

 

 

「アハハ……少し落ち着いてから改めてリィエル先輩の無事を祝おうと思いまして……その間、ウィリアム先輩の隣に陣取っておこうかと……」

 

 

オーヴァイは最もな理由を伝え、ウィリアムの左側に近づき、寄り添おうとした瞬間―――

 

 

「へっ!?」

 

 

いつの間にか、皆の輪から抜け出ていたリィエルが割り込んで、ウィリアムの左腕にしがみついていた。その事実に、オーヴァイは驚愕の声を洩らす。

 

 

「り、リィエル先輩、いつの間に!?」

 

「…………」

 

 

オーヴァイの質問に無言を貫くリィエル。そんなリィエルに、ウィリアムは若干動揺しながら理由を問い質す。

 

 

「えーと、リィエル?何で急に此方に来たんだ?」

 

「よくわかんないけど、ウィルのことが一番大好きだから、こうしないといけない気がした」

 

「ええー………………ん?」

 

 

何度目かわからない、本人すら把握してないという事実に、ウィリアムは何とも言えない言葉を洩らすも、何か引っ掛かりを覚えた、次の瞬間―――

 

 

「「「「「「キャアアアアアアアアアアアアアアアア―――ッ!!!!大たぁあああああああああああああああん―――ッ!!!!」」」」」」

 

「「「「「「一番大好きだとぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお―――ッ!?!?」」」」」」

 

 

リィエルの言葉をしっかり拾っていた一同は、女子生徒達は桃色の叫びを、男子生徒達は憎悪をたぎらせた叫び声を上げる。

 

 

「へっ!?……えっ!?あっ!?ちょ……おいッ!?」

 

 

突然の一番大好き発言を漸く理解したウィリアムは、頭が半ば混乱の渦に呑まれてしまっている。だが、続くリィエルの言葉で一気に沈下する。

 

 

「ん。大好きな皆の中で、ウィルが一番大好き」

 

「「「「「「「「……………………」」」」」」」」

 

 

……どうやら、リィエルがウィリアムに言った“一番大好き”は皆の中でという意味だったようだ。

その理由は、イヴに黒歴史を指摘されたあの夜にある。グレンがリィエルを看病していた時、学院やクラスの皆に感じている気持ちを、グレンが“好き”だと教えた際―――

 

 

『……じゃあ……ウィルの……ことも……好き……なの……かな……?……ウィルと……いると……すごく……ふわふわして……胸がすごく……暖かく……なる、から……』

 

『……そうなんだろうな。多分、ウィリアムのことが一番好きなんだろ?』

 

『……一番、好き……?』

 

『ああ』

 

『……ん。そうかも……皆の中で……ウィルのことが……一番、好き……』

 

 

―――というやり取りがあったのだが、ウィリアムは容態の悪いリィエルの姿を前に、そのやり取りがほとんど耳に入っておらず、その後の例の模擬戦もあり、そのやり取りは記憶の隅に消えていたのだ。……だからこそ、イヴはリィエルのウィリアムに対する無自覚な感情に、確信に近い形で気づいたのだが。

そして、一番大好きの前のやり取りからリィエルは自分の感情を微妙に間違えて理解したのである。彼女が本当の意味で自身の気持ちに気付くのはまだまだ先であった……

 

 

「……ホッ。どうやら俺達の勘違いだったみたいだな……」

 

「いや待て。このままだと確実にそういう関係に発展するんじゃないのか?」

 

「た、確かに……!」

 

「つまり、今の内に芽を摘んでおくべきだ……」

 

「「「「「だから…………」」」」」

 

 

一部を除く男子生徒全員がゾンビのように、にっこりと笑っているリィエルに左腕を抱きしめられているウィリアムに、一斉に顔を向け……

 

 

「「「「「「「「「今すぐくたばれ!!!リア充野郎ッ!!!!!!」」」」」」」」」

 

「だと思ったよチクショウッ!!」

 

 

呪詛の如き叫びと共に、一斉に男子生徒達がウィリアムへと襲いかかり、そんな彼らをまともに相手したくないウィリアムは、未だ左腕にしがみついているリィエルを抱き抱えてその場から一気に逃げ出していく。

 

 

「「「「「「「キャアアアアアアアアアアアアアアアア―――ッ!!!愛の逃避行よぉおおおおおおおおおおお―――ッ!!!!!!」」」」」」」

 

「逃がすなぁッ!!!!地の果てまで追いかけろぉおおおおおおおおおおおおおおおお―――ッ!!!!!!」

 

「「「「「「「Sir!!Yes Sir!!!!!!!」」」」」」」

 

 

リィエルを抱えて逃げ出したウィリアムに、女子生徒達は黄色い声援を送り、男子生徒達は憎き仇敵を仕留めんとばかりに追いかけ始める。その光景を……

 

 

「……これは……色々と……」

 

「アハハ……うん……大変だね……」

 

 

システィーナとルミアは曖昧な顔で見守り……

 

 

「よぉーしお前らッ!!!このグレン大先生がアイツを追い詰める指示を送ってやる!!この場でリア充共の筆頭と言えるウィリアムくんを叩き潰すぞ!!」

 

 

グレンは先日の仕返しを果たすために嫉妬に燃える男子生徒達を煽動し……

 

 

(ホンット、馬鹿ばっかり……)

 

 

イヴは相変わらずの馬鹿騒ぎの光景に呆れて溜め息を吐き……

 

 

「アハハ……やっぱりリィエル先輩は強敵ですね……ですが、負けませんよー!」

 

 

オーヴァイは改めて闘志を燃やして逃げた二人を見つめていた。

そして、ウィリアムに抱き抱えられたリィエルはとても幸せな笑顔でウィリアムを見つめていた。

 

 

「「「「「ウィリア充!!大人しく血の鉄槌を受けろぉおおおおおおおおおおおお―――ッ!!!!」」」」」

 

「変なあだ名をつけてんじゃねぇよッ!?」

 

 

……悲しいことに、逃亡に全力を注ぐウィリアムはリィエルのその笑顔に気づく事はなかった……

 

 

 




これで十三巻は終了です
······日常を挟もうかな·······?構成は休日、一日の内容で
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幕間三・《詐欺師》の最悪(笑)の一日
百二十六話


オリジナル回第三弾!
てな訳でどうぞ


学院の休日。

晴天の空模様。

フィーベル邸のそれなりに場所が開けた中庭。

もうすぐ昼が近づく頃合いにて……

 

 

「いぃいいやぁああああああああああああああああああ―――ッ!!!!!」

 

「ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア―――ッ!!!!!」

 

 

青と金の激しい剣戟が繰りひろげられていた。

青の斬撃は圧倒的なパワーで炸裂し、金の斬撃は圧倒的なスピードで炸裂し互いに拮抗している。

 

 

「なんでこうなった……」

 

 

その激しいぶつかりあいをどこか遠い目で見詰めながら、ウィリアムはこうなるまでの出来事を遡る―――

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「……んぁ……もう朝か……」

 

 

休日の朝。いつも通りの時間でウィリアムは目を覚ましてベッドから上体を起こす。そして、自身の左で寝ている青髪の少女―――リィエルを起こしにかかる。

 

 

「リィエル、朝だぞ。起きろ」

 

「…………ん……」

 

 

ウィリアムに肩を揺すられ、リィエルはうっすらと目を開け、相変わらずの眠たげな表情のままベッドから身体を起こす。

 

 

「……おはよう……ウィル……」

 

「おう、おはようさん。目が覚めたなら、早いとこ部屋行って着替えてこい」

 

「ん……」

 

 

ベッドから起き上がったリィエルは素直に頷き、自分の衣服がある部屋に行くため、ウィリアムが借りている部屋から出ていく。

ちなみに、ちゃんと二人とも寝間着は着ているので、お楽しみとか、そういう展開は一切ない。……ごくたまにリィエルの寝相が悪いと、ギリギリな格好やら状態になってはいるが。

具体的な例を上げるなら、寝間着が着崩れして下着用のキャミソールが見えていたり、頬と頬、もしくは唇同士が接触するほど近かったり、特に左腕に抱きついている時、ウィリアムの左手がアソコに当たりかけたりといった具合である。勿論それを指摘すれば、めでたく上書き行動(濃厚キス)が待っているので口を閉ざして黙っている……というか、一回指摘してやられてしまったから、それ以降、基本は諦める事にしたのだ。

その事件が起きたのは居候六日目の朝、目が覚めると、リィエルがウィリアムに覆い被さるように抱きついて寝ており、しかも、リィエルの顔がウィリアムの顔にくっつく程近かった為、ウィリアムが恥ずかしさから顔を逸らした時に、丁度、というか運悪く目を覚ましたリィエルにそれを見られてしまい、つい正直に理由を言った直後―――

 

 

『―――んっ』

 

 

両手で顔を向かい合わせ、濃厚に唇を重ね合わせたのだ。がっちりとホールドして三十秒程。その時、目撃者二名は顔を真っ赤に硬直していたが、別にいいだろう。

 

 

「……にしても……この状況に慣れてきてしまってるなぁ……」

 

 

一人となったことで私服に着替えながら、どこか遠い目となったウィリアムは独り言を呟く。リィエルと一緒に寝るのが最早当たり前になってしまっており、家の件も手頃な物件が見つからず、度重なる騒動のせいもあって中々踏ん切りがつかない状況なのだ。

その事をフィリアナは特に気にしていないが、親バカたるレナードはその事を快く思っておらず、家に帰ってくる度に、レナードはまだ居候を続けるウィリアムに制裁を下そうとするが、フィリアナによって毎回沈められている。

そんな現状にウィリアムは溜め息を吐きながら着替えを終えて、食堂へと向かっていった―――

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

朝食も済ませ、ウィリアムは自室で《魔銃ディバイド》の分解整備をしている。《魔銃ディバイド》はフレームや重要な部品は日緋色金(オリハルコン)で構成されているが、バネ等の幾つかの部品の材質は一般的に出回っている物と同じだ。

なので、内蔵されている魔晶石の確認等、一度、本格的に整備する必要があるのだが……

 

 

「……前にも言ったと思うが……見てて飽きないのか?」

 

 

分解して部品の状態を確認していたウィリアムは、傍で作業の様子を見ているリィエルに問いかける。

 

 

「…………」

 

 

対してリィエルはいつもの表情で無言のまま見つめ続けている。そんなリィエルにウィリアムは肩を竦め、再び部品の状態を確認していく。

ウィリアムの使っている拳銃は引き金を引くだけで銃弾を放てるが、その構造上、グレンが使うファニングやトリプルショットといった銃技は一切使えない。変わりに片手だけでも扱えるというメリットが出来ているし、早撃ちや反動の受け流し等の技術に集中できたが。

続いてウィリアムは雷加速弾の要といえる魔晶石の状態も確認していく。ウィリアムの拳銃から放つ銃弾の発射初速は毎秒五百メトラを超え、拳銃で放てる雷加速の限界速度はその十倍―――毎秒五千メトラに達する速さだ。威力の方は言うまでもない。

そんな高威力の弾丸をC級軍用攻性呪文(アサルト・スペル)の消費魔力以下で、しかも連続で放てるものだから、玩具と見くびると相当痛い目に合いかねないのだ。

その分、模擬戦で人に向けて発射するのは流石に不味いし、威力の調節等ほとんど不可能ではあるが。

そんな各種部品を確認している部屋に、システィーナとルミアが紅茶を持って訪れる。

 

 

「……先生もそうだけど、ウィリアムも魔術師らしくないわよね」

 

「自覚はあるさ。まともな方法じゃ無理があったんだからな」

 

 

システィーナの呆れに、ウィリアムはあっさりとそう返す。

 

 

「でも、何度見ても先生が使う銃と全然違うね」

 

「まぁ、何度も試行錯誤したからな」

 

 

ルミアの言葉にウィリアムは少し苦笑して返す。

パーカッション式だと強度は単純に高いが、再装填には手間がかかるという欠点がある。勿論、まるごと錬成することは出来るが、金属薬莢を使う形にしたのは魔術弾を扱うことも想定したからだ。

《隠者》のバーナードのような装填済みの場合、大量の銃を圧縮凍結を施す必要がある上に荷物がかさばってしまう。しかも使った後は回収する暇等ないから色々と効率が悪かったのだ。なので、装填と持ち運びのしやすい金属薬莢製で魔術弾を携帯するという形に落ち着いたのだ。フレームが中折れ式なのは再装填のしやすさと、左右どちらの手でも使えるようにした結果である。耐久力の低さは絶対硬度を誇る日緋色金(オリハルコン)で補っている。

 

 

「……色々と考えた結果、なのね」

 

「そりゃそうだ。短期間で強くなるための工夫なんだからな」

 

 

納得したように頷くシスティーナにウィリアムは最後にそう締めくくって紅茶を飲んだ後、再び作業に集中していく。

整備も終わり、組み直した頃合いに一人の少女がフィーベル邸を訪ねて来た。その少女は―――

 

 

「こんにちわーッ!!遊びに来ましたよーッ!!」

 

 

大きめの鞄を下げ、お菓子等の手土産を持った、後輩のオーヴァイ=オキタであった。

 

 

 




こんな感じの休日回······ありだよね?
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百二十七話

甘い話と修羅場突入回
てな訳でどうぞ


「いらっしゃいオーヴァイ。よく来たわね」

 

 

アポなしの訪問にも関わらず、システィーナはオーヴァイを快く迎え入れ、現在はラウンジでオーヴァイが手土産で持持ってきたクッキーや苺タルトを皆で食べていた。

 

 

「ごめんねオーヴァイ。気を遣わせちゃって」

 

「いえいえ。これは回復祝いも兼ねてますので気にしないで下さい」

 

「ああ、だから苺タルトが割と多くあるのか」

 

「……♪」

 

 

どうやら手土産のお菓子は逃走劇で祝いそびれたリィエルの回復祝いだったようで、ウィリアムの左隣に座っているリィエルは上機嫌で苺タルトを頬張っている。

 

 

「この間は本当に御愁傷様でしたね。出来れば私も先輩達について行きたかったのですが……」

 

「ええと、気持ちは嬉しいんだけど……」

 

「わかってますよ。先輩達には先輩達なりの事情があったでしょうし、まだ一年の私じゃ多分、皆さんの足を引っ張ったでしょうし……」

 

「だけど、お前もリィエルに率先してマナを送ってくれてただろ?」

 

 

苦笑い気味に自嘲するオーヴァイにウィリアムはクッキーを口に運びながら少し笑いながら言う。リィエルにマナを供給して命を繋いでいた時、二組の皆に次いで、一番リィエルにマナを注いでいたのはオーヴァイだと後から聞いたのだ。

 

 

「ん。オーヴァイの声も聞こえてた」

 

 

ウィリアムに同意するように、リィエルが不思議発言をする。リィエル曰く、皆と“姫”のお陰で自分は助かったと言っており、それをウィリアムは弱っていた時の幻覚や幻聴だとは思ったが、多分、本当に皆の声が聞こえており、その“姫”もあのアストラル・コードの人格なのかもしれないと、不思議とそう思い、心の中で“姫”にお礼を伝えた。

……その後、ウィリアムの想いも伝わっていたとリィエルが薄く微笑んで言った時は気恥ずかしさから、ソッポを向いてしまい―――

 

 

『……?どうしたのウィル?』

 

『な、何でもねぇよ』

 

『…………』

 

 

顔を赤めて明後日の方向を向くウィリアムを、リィエルはじっと見詰め·······

 

 

『……ん』

 

 

そのままウィリアムの顔に手を当てて自身にへと向かせ、実に自然な動作で唇を重ね合わせた。

 

 

『ッ!?!?!?!?』

 

『ちゅぅ……ん……じゅる……んちゅ……』

 

 

ウィリアムは自らの失敗に漸く気づくが時既に遅し。リィエルはウィリアムの口に舌を入れる―――ウィリアムがスノリアで酔った時に敢行したディープキスを実行していた。

素の力が強いリィエルの押さえ込みから逃れるのは不可能な上、まさかのディープキスにかなり動揺したウィリアムはされるがまま、二十秒もリィエルとディープキスをすることとなった。

解放された後も軽く思考停止に陥っていたが、すぐに我に返って問い質す。

 

 

『り、リィエル!?何でまたキスを……ッ!?』

 

『ウィルが恥ずかしがってたから、更に恥ずかしい事で上書きした』

 

『だよなぁ!?』

 

 

リィエルの予想通りの解答に、ウィリアムは頭を抱え、堪らずキスについての知識を教える。

 

 

『キスというのは基本好きな人同士がするもんだ!!こういう風に気軽に―――』

 

『?だったら問題ない。わたしはウィルのことが一番大好きだから』

 

『ぁあああああああああああ―――ッ!!!!!』

 

 

本当に相変わらずのリィエルに、ウィリアムはますます頭を抱えて叫び声を上げる。

結局、上書き行動に関しては恥ずかしがる素振りを見せない以外に手の打ちようがないという結論に至る羽目となった。

ちなみに、この出来事は逃亡劇からの生還、フィーベル邸での夜の出来事だったため他の人達には知られていない。……二人を除いて。

その目撃者たる二人は当然ながら顔は真っ赤に染めながら現場を凝視、静かに部屋へと戻った後で……

 

 

『ど、どうしようルミア!?リィエルがどんどん大人の階段を上っているんだけど!?』

 

『う、うん…………そうだね……ディープキスってあんな感じなんだ……』

 

『リィエルがうらや―――心配だわ!!このままだとウィリアムに本当に襲われてしまうわ!!』

 

『本当に……リィエルは凄いなぁ……どんどん大人に……うわぁ……』

 

 

完全に動揺してしまって会話が噛み合っていなかった。

その日は寝る時もリィエルがウィリアムにしがみつき、ウィリアムの胸に顔を埋めて甘えていたが、今は別にいいだろう。

そんな黒歴史に関係なく、一同は和気藹々と談笑し……

 

 

「ところでオーヴァイ……その荷物は?」

 

 

その話の中でウィリアムはオーヴァイに気になっていた事―――手土産とは別の大きめの鞄について聞いた。

ウィリアムのその質問に、オーヴァイはあっさりと答えた。

 

 

「お泊まりセットです」

 

「「……は?」」

 

「……え?」

 

「…………(モグモグ)」

 

 

オーヴァイのどや顔して放った言葉に、苺タルトを食べ続けているリィエル以外は目が点となる。

 

 

「お泊まりセットです。学院の許可もありますので、今日は此処に泊まらせて下さい」

 

「「「……えええええええええッ!?」」」

 

「勿論、理由はありますよ。実はリィエル先輩やウィリアム先輩と手合わせしたくて訪れまして。どうせならこのまま泊まっていこうかと」

 

「いや、ちょっと待て!そればかりは流石にシスティーナの事前了承無しでやるのはまずいんじゃないのか!?部屋だって―――」

 

「部屋はウィリアム先輩がお借りしている部屋に泊まらせて貰いますので大丈夫です」

 

「勝手に話を決めないでちょうだい!!」

 

「宿泊代もちゃんと出しますので本当に大丈夫ですよ」

 

「だから勝手に話を進めないで!!」

 

「ですので、寝る時はウィリアム先輩の左側で寝かせて貰いますね」

 

 

オーヴァイはシスティーナのツッコミを完全に無視し、ニッコリと笑ってウィリアムに顔を向ける。本当に自分の道を突き進むオーヴァイにウィリアムが呆れていると―――

 

 

「ダメ。ウィルの左側はわたしの位置だから」

 

 

リィエルがどこか不機嫌そうにオーヴァイの要望を却下していた。それに対し、オーヴァイはにこやかな笑みのままリィエルに話しかけた。

 

 

「リィエル先輩は毎日ウィリアム先輩と一緒に寝てるじゃないですかー。一日くらい譲って下さいよー」

 

「ヤダ」

 

 

オーヴァイの要望をリィエルはとりつく島も無いと云わんばかりに再び却下する。

 

 

「それなら、模擬戦の勝敗で決めませんかー?勝った方が、ウィリアム先輩の左側を今日一日独占するという内容で」

 

「……ん。わかった、受けて立つ」

 

 

オーヴァイが掲示した妥協案にリィエルは頷いて了承。二人の間に火花が飛び散る幻覚が見え始める。……愛嬌高い可愛い子犬と風を纏う狼の幻影が二人の後ろに現れ、睨みあって対峙する光景と一緒に。

 

 

「ねぇ、ルミア。これって……」

 

「うん……完全に修羅場だね……(私達もあれくらい、強引にいった方がいいのかな……?)」

 

「……どうしてこうなった」

 

 

システィーナの曖昧な言葉にルミアは同意しつつ、小声で何かを呟き、ウィリアムは形成された修羅場に遠い目となった……

 

 

 




ついに二人のスタン○出現!ちなみに―――

「フ、フフフフフフフフフ···········」

自室で勉強中、部屋の空気が急転直下で重くなり、顔だけで部屋が埋る程の巨大な龍のスタン○が出現し、廊下を通った人達は扉から放つプレッシャーに萎縮する事となった·····

「ヤベェ!!エルザがまた荒れてるぞ!?」

「ジニー!!何とかしなさい!!」

「だから無茶言わないで下さいお嬢様(またリィエルさんとウィリアムさんがいい雰囲気になったのでしょうね·······ハァ·······)」

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百二十八話

戦闘回
てな訳でどうぞ


―――そして、時間は現在へと巻き戻る。

 

 

「はぁあああああああああ―――ッ!!」

 

 

リィエルが【フィジカル・ブースト】で強化された腕力で、振りかぶった大剣をオーヴァイに向かって稲妻の如く振り下ろし―――

 

 

「シィ―――ッ!!」

 

 

オーヴァイは直前で身体を左に捌いてかわし、間髪入れずに刀を水平に振るう。横凪ぎに振るわれた刀は―――

 

 

「ふっ―――ッ!」

 

 

リィエルが前転跳躍したことで空しく宙を斬り、リィエルは前転途中で身体のバネを利用してオーヴァイに斬りかかる。

再びオーヴァイに迫る大剣。その大剣をオーヴァイは焦りもせずに後退しながら刀で受け流して対処し、そのまま一度距離を取る。

 

 

「「…………」」

 

 

互いに間合いが空き、二人は隙を窺い、睨み合う。……可愛い子犬がまん丸お目めで睨み付け、厳つい狼が唸り声を上げて威嚇する幻覚と共に。

 

 

「凄いわねオーヴァイ……リィエルと互角にやり合うなんて……」

 

「うん……本当に天才剣士だったんだね……」

 

「ルミア先輩!?オキタさんは正真正銘の天才剣士だと何時も言ってましたよ!?」

 

 

リィエルとオーヴァイの模擬戦にシスティーナは唖然とし、リィエルと互角にやり合うオーヴァイにルミアは少し失礼なことを言ってしまい、オーヴァイはその事にツッコミを入れていた。

普通に考えれば決定的な隙なのだが、リィエルは敢えて動かない。これは模擬戦であり、(無自覚な)女の戦いでもあるのだ。そんな形で勝っても遺恨が残るとリィエルは本能的に察し、文句のつけようがない形で決着をつける事を互いに望んでいるのである。

 

 

「あ、すいません。待たせてしまいましたね」

 

「……大丈夫。気にしてない」

 

「ありがとうございます。では―――」

 

「ん―――」

 

 

リィエルとオーヴァイは互いに武器を構え直し、ほぼ同時に放たれた矢の如く突進し、激しい剣戟を再び繰り広げていく。

リィエルの驚異的な力による斬り返しを、オーヴァイは体捌き、または刀の受け流し、その合間を縫うように斬りかかる。リィエルも大剣を盾にして防ぎ、力で弾き飛ばして再び斬りかかる。

リィエルは素の身体能力と【フィジカル・ブースト】で強化された動きに対し、オーヴァイは東方の武術―――『縮地』と呼ばれる高速移動歩法と技巧によってリィエルを超える機動力で対抗している。

 

 

「本当に凄いですねリィエル先輩。オキタさんのこの超機動に対応できるとは」

 

「ん。勘でなんとなくオーヴァイの仕掛けるタイミングがわかるから」

 

「本当に凄い勘ですねー」

 

 

そんな軽口を叩きながらオーヴァイは背後に瞬時に回り込んで突きを放ち、リィエルはその背後からの突きをあっさりと振り返りながら弾き飛ばす。リィエルはそのまま返しの刃で斬りかかるも、オーヴァイは既に離脱しており空しく宙を切る。

 

 

「本当に何でこうなった……」

 

 

そんな模擬戦をウィリアムは遠い目で見守っている。ちなみにこれは現実であって現実ではない。その理由は―――

 

 

「本当に用意周到過ぎるでしょ、オーヴァイさん……」

 

「あはは……」

 

 

システィーナが呆れ、ルミアが曖昧な笑顔でフィーベル邸に目をやる。フィーベル邸の中、そのラウンジには変な水晶がたくさん取り付けられた(はこ)型のヘンテコ装置―――オーヴァイがオーウェルから拝借した、改良された集団幻覚装置:伍号機―――がピコピコと動いている。

つまり、ここは集団幻覚装置が生み出した精神世界の中である。オーヴァイの血を吐く要望により、対戦型のソフトウェアが新たに開発され、インストールされている。対戦者同士の勝負がつけば解除される仕組みとなっているそうであり、ボスキャラとか、そういった類いはこのソフトウェアにはないようである。

早い話、ここなら全力でやりあえるという、オーウェルにしては一番マトモな発明でリィエルとオーヴァイは全力の模擬戦をしているのだ。……正直、この装置にはいい思い出はないが。

 

 

「本当に、何でこうなったんだろうな……ハァ……」

 

 

ウィリアムからすれば何でこうなったのかと疑問に感じているのだが、寝る時、ウィリアムの体温を直に感じられるのは左からなので、ウィリアムの体温を感じたい二人からすればこの激突はある意味必然である。

そんなウィリアムの疑問を隅に、リィエルとオーヴァイの戦いは白熱していく。二人が再び距離を取った時、オーヴァイが勝負を仕掛けてきた。

 

 

「一歩音越え―――」

 

 

オーヴァイが縮地と強化された身体能力で地を蹴り―――

 

 

「二歩無間―――」

 

 

続く二歩目で更に加速し―――

 

 

「三歩絶刀―――!」

 

 

最後の三歩目の踏み込みで更に加速。リィエルとの距離を一気に詰め、必殺の剣技を放つ。

 

 

「―――『無明、三段突き』!!」

 

 

その声と共に、オーヴァイは()()()()()三つの平突きをリィエルの胸部に向けて放つ。同時に放つ三つの突きは防御不可能の必殺の一撃。魔法金属以外で受ければ、受けた箇所は“消滅”するその技を―――

 

 

「―――ッ」

 

 

リィエルは持ち前の勘でギリギリでかわした。リィエルはそのままオーヴァイを斬ろうとするも―――

 

 

「想定内ですよッ!!」

 

 

それより早くオーヴァイが刀を手放して背後を取り、首のマフラーをほどいてリィエルの首に素早く巻き付け、宙吊りで一気に絞め上げた。

 

 

「ッ!?あ―――ぐぅ……ッ!?」

 

「このまま締め落としますよッ!!」

 

 

オーヴァイは事前に【ウェポン・エンチャント】を施していたマフラーを【フィジカル・ブースト】全開で引き絞っていく。リィエルは必死に逃れようとするも、マフラーがしっかりと首に絡みついているために指を入れられず、引き剥がすことが出来ないでいる。その上宙吊りなため暴れても空しく宙を切るだけになっている。

普通なら決着がついたと誰もが思うだろうが……

 

 

「くっ…………ん……ぐぅ……ッ!!」

 

 

リィエルは大剣を手放し、左右でマフラーの引っ張られている部分を掴み、首もとへと寄せていこうとする。

 

 

「ッ!!そうはいきませんよッ!!」

 

 

リィエルのその行動の思惑をオーヴァイはすぐに見抜き、負けじと引き絞っていく。だが、素の力が強いリィエルの方が力比べでは上手であり、リィエルの首を絞めているマフラーがリィエルの首もとに引き寄せられ、若干の隙間が空く。リィエルはすぐにマフラーの隙間に指を入れて掴み―――

 

 

「―――ぁああああああああああああああああああッ!!!」

 

 

全力で引っ張り、自身の首を絞めていたオーヴァイのマフラーを引きちぎった。

 

 

「嘘ッ!?」

 

 

事前に強化していたマフラーを引きちぎって絞め上げから逃れた事に、オーヴァイは流石に驚愕し硬直してしまう。絞め上げから逃れたリィエルは咳き込む衝動を抑えて直ぐ様大剣を錬成し、着地と同時に振りかぶる。

 

 

「しま―――」

 

 

オーヴァイはすぐに後退しようとするも時、既に遅し。リィエルの大剣はオーヴァイを捉え、見事に切り裂いた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「オキタさん、大敗北ですぅ…………グスンッ」

 

 

オーヴァイが切り裂かれると同時に一同は現実世界へと帰還。帰還して早々、リィエルに敗北を喫したオーヴァイは膝を抱えて落ち込んでいた。

 

 

「あはは……惜しかったね、オーヴァイさん」

 

「本当に凄かったわよオーヴァイ。流石にあの時はリィエルが負けると思ったもの」

 

「慰めは結構ですよー……」

 

 

そんなオーヴァイをシスティーナとルミアは正直な感想で励ますも、オーヴァイは落ち込んだままである。

 

 

「……まぁ、大分いい線いっていたと思うぞ。リィエル程のバカ力じゃなければ、多分、あれで決まっていたと思うぞ」

 

「……ん。あの時は本当にまずいと思った。勝てて良かった」

 

 

ウィリアムも先の勝負の感想を伝え、勝ったリィエルも同意している。

 

 

「あれは初見殺しの技みたいなものなんです。それを使ったのに勝てなかったのは正直悔しいですけど……」

 

 

そこでオーヴァイは立ち上がり、決然とした声で告げる。

 

 

「何時までもクヨクヨしててもしょうがないですッ!!次はもっと強くなってリィエル先輩に勝って、ウィリアム先輩の左側を手に入れますよーーッ!!!」

 

「次もやるのかよ……」

 

「……ん、何時でも受けて立つ」

 

 

オーヴァイの不退転の決意にウィリアムは呆れ、リィエルはどこか得意げに見える表情で受け止めた。

 

 

「それじゃあ、そろそろお昼の準備をしてくるね」

 

 

ルミアは笑いながらそう言って調理場へと向かい、ルミアが作った料理を皆は美味しくいただいた。

 

 

 




修羅場戦はリィエルの勝利
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百二十九話

天災の発明品は本当に便利である·····
てな訳でどうぞ


昼食を取っている途中でオーヴァイは思い出したように口を開く。

 

 

「あっ。そういえば、この装置をお借りする際、シュウザー教授からモニターを頼まれていたソフトがありました」

 

「…………どんなソフトを頼まれたんだ?」

 

 

ウィリアムは警戒心丸出しで聞き、システィーナは顔を顰め、ルミアは曖昧な笑みを、リィエルは変わらずにキャッシュをリスのように頬張り続ける。

そんな一同の反応に関わらずオーヴァイは話を進めていく。

 

 

「頼まれたのは……《ゾンビの館X》、《スライムの学院IV》、《昆虫の洞窟II》、《ゴブリンの墓場III》……」

 

 

タイトルからして不穏さ全開のソフトにシスティーナとルミアはひきつり、ウィリアムも顰めっ面となる。リィエルは変わらず食べ続けている。

 

 

「後はこれですね!《恐怖のサマービーチ》!!」

 

「……まさか、それ全部モニターしろとか言うんじゃないよな?」

 

「いえ。これらの中から一つだけでいいそうです。確か……“共通深層意識野に特定の環境を作り出す”でしたかね?早い話がこことは違う光景をリアリティーに再現してゲームを楽しむソフトのモニターです。これとは別にもう一つモニターして欲しいソフトがありますがこっちは別にやらなくていいそうです」

 

 

全部やらなくて済む事に一先ずは安堵するウィリアム達。本音を言えばモニターなんかしたくはない。

これらのソフトは間違いなく、オーウェルとツェスト男爵合作のソフト。つまり、少女が泣き叫ぶ系のソフトである事は想像に固くないからだ。……実際は盗撮魔の学生も協力した最悪なソフトだが。

しかし……

 

 

「なぁ、オーヴァイ。俺達が断ったら、それを一人でモニターするつもりか?」

 

「ハイ。せっかく貸してくれたんですから、これくらいは協力しないとバチが当たりますので」

 

 

ウィリアムの質問に即答するオーヴァイ。自ら生け贄となるオーヴァイにウィリアムは深く溜め息を吐き、しょうがないといった感じで肩を竦める。

 

 

「……俺もモニターに協力してやるよ。後輩一人にやらせるのは流石に気が引けるからな」

 

「ありがとうございます。ウィリアム先輩」

 

 

ウィリアムの協力にニッコリと笑うオーヴァイ。

 

 

「……なら、わたしも一緒にもにたー?に協力する」

 

「リィエル先輩も、ありがとうございます」

 

「……ん」

 

 

リィエルもどこか奮然とした様子で名乗りを上げ、オーヴァイもリィエルにお礼を伝える。……また子犬と狼の幻覚が揺らめいているが。

そんな光景にシスティーナは溜め息を吐き、ルミアは苦笑いしつつ……

 

 

「……しょうがないわね。私も協力するわ」

 

「うん……ウィリアム君の言う通り、流石に気が引けるからね……」

 

「システィーナ先輩もルミア先輩もありがとうございます」

 

 

結局、全員参加で天災教授と変態男爵の発明品のモニターをする事となった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

昼食も終わり、再びラウンジでオーヴァイは例の魔導装置を操作していく。

今回挿入された魔導ソフトウェアプレートは《恐怖のサマービーチ》。モニターを頼まれたソフトの中で、タイトルからしてこれが一番マシだというシスティーナの判断からだ。

 

 

「それでは、起動しますよ!!」

 

 

オーヴァイは対戦型ソフトウェアで何度もモニターしていたせいか、手慣れた感じで魔導装置を起動する。ピコピコと稼働する魔導装置を一同は凝視し続けていると、いつの間にか、周りの景色がフィーベル邸のラウンジではなく、海辺の砂浜に変わっていた。

 

 

「……凄いわね、本当に……」

 

「うん……ここが精神世界の中とは思えないくらいだよ……」

 

 

燦々(さんさん)と輝く太陽と青い空。焼けた白い砂浜に千変万化する波の色の景色を前に、こんなに凄い才能を持っているのに常に明後日の方向に爆走しているオーウェルに、システィーナとルミアは何とも言えない気分になる。

 

 

「だけど、確かにここは精神世界の中みたいだぞ」

 

 

ウィリアムはそう言って適当な方向に進み、途中で見えない壁のような何かに突き当たる。先の模擬戦でも精神世界上のフィーベル邸も敷地を隔てる壁に、同様の見えない壁があって外へ出ることは出来なかった。この見えない壁が、ここが精神世界だと認識出来る特徴の一つなのだ。

 

 

「それにしてもこのビーチ、サイネリア島のビーチに似てないかしら?」

 

「まぁ、サイネリアは有名なリゾート地だし、イメージとして組み込みやすかったんじゃねぇか?」

 

「サイネリアか……ふふっ、懐かしいなぁ……」

 

「ん……」

 

 

ウィリアムとシスティーナ、ルミアは少し懐かしむように海辺を眺め、リィエルは心なしか、若干悄気た感じで頷く。

リィエルが若干悄気た理由―――かつてクラスの皆に酷いことを言った事を思い出したのだろう。そんなリィエルに、ウィリアムは苦笑しながら左手を頭にポンッと、手を乗せる。

 

 

「あ……」

 

「あの時も言っただろ?もう過去は変えられないから、昔はこんな事もあったと笑って語れるくらい頑張ってみろって」

 

「ん……」

 

「現に、お前が倒れた時、皆が必死となってお前を助けてくれてただろ?」

 

「……うん」

 

 

ウィリアムのその言葉に、リィエルも薄く微笑む。そんな二人の光景をシスティーナとルミアは暖かい眼差しで見守っていると……

 

 

「先輩方ーッ!!せっかくですので水着に着替えましょうよー!!ちょうど更衣室もありますから!!」

 

 

オーヴァイが手を振りながら元気な声でウィリアム達を呼ぶ。確かに彼女のすぐ近くには更衣室らしき建造物が建てられているが……

 

 

「……水着まであるなんて……逆に不安なんだけど」

 

「あはは……」

 

 

システィーナは警戒心丸出しで建造物を睨み、ルミアは曖昧に笑う。少し忘れかけていたが、ここはあの変態マスター達が作った精神世界。むしろ、水着が用意されている時点で絶対に何かある。

 

 

「ですが、このままで過ごすのももったいないですし、楽しめる時に楽しめないのは損ですよー?」

 

「……それもそうね」

 

 

オーヴァイの意見に、システィーナは何かあれば速攻で攻性呪文(アサルト・スペル)で沈めればいいと納得し、一同は用意されている水着に着替えてこの精神世界を楽しむ事にした。

ちなみに……

 

 

「随分適当だな……」

 

 

男子更衣室に用意された水着はサーフタイプとボクサータイプ、上着のパーカーしか種類がなく……

 

 

「随分と多いわね……」

 

「そうだね……」

 

「ん、いっぱいある」

 

「選び放題ですねー。悩んでしまいそうです」

 

 

女子更衣室に用意された水着はこれでもかというくらい、種類もデザインも豊富であった。

変態男爵が興奮して荒い息を上げている姿を幻視しながら、システィーナ達は水着を選んでいった……

 

 

 




次回は水着回
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百三十話

唐突に思いついた章ごとの絵の構成

一章・ローブ無しで学生服を着、エメラルドタブレットを右手に持ったウィリアムの立ち姿
二章・紺色の外套を纏い、黒の仮面をずらして着用して拳銃を構えたウィリアム
三章・背中合わせのウィリアムとイルシア
四章・大剣を携えた制服姿のリィエルと紺の外套を羽織ったウィリアム
五章・《盾》と拳銃を携え、グレンとセリカと背中合わせするウィリアム
六章・燕尾服に身を包んだウィリアムとドレス姿のリィエルと一緒に踊る姿
七章・学院の講師服を着たウィリーと居合いの構えを取ったエルザ
八章・大剣を振りかぶる礼服姿のリィエルと《ファランクス・ミクロ》を構えたウィリアム
九章・互いの拳銃を構え、背中合わせとなるウィリアムとグレン。真ん中には《鍵》を手にしたルミア
十章・喧嘩するグレンとイヴを半目で見つめるウィリアム
十一章・防寒具姿のウィリアムに後ろから抱きつくオーヴァイ
十二章・紺の外套を纏ったウィリアムとお姫様抱っこで抱えられた眠ったリィエル。周りには浮遊する四つの《詐欺師の盾》

絵心ないから描けないけど、ムフフとなって妄想した絵図
てな訳でどうぞ


サーフタイプの黒の水着と紺色のパーカーを身につけたウィリアムは浜辺で胡座を掻いて海を眺めながらシスティーナ達を待つ。今のところ物騒な存在も見当たらない。

 

 

「お待たせー、ウィリアム!」

 

 

しばらくしてシスティーナの声が聞こえたので後ろを振り向くと、薄いピンクのパレオの水着を纏ったシスティーナと、チューブトップタイプの紫の水着を着たルミアがいた。

 

 

「おおう。中々似合ってんな」

 

「ふふ、ありがとう」

 

「そういや、リィエルとオーヴァイは?」

 

「二人はもう少ししたら来るわ」

 

 

二人とそう話している間に、件の二人も姿を現す。

 

 

「お待たせしましたー!!どうですか、似合ってますか!?」

 

 

オーヴァイは水色のシンプルなホルタータイプの水着を、リィエルは可愛らしいフリルのついた黒のフレアビキニを身に纏っていた。

 

 

「ああ、似合ってるぞオーヴァイ」

 

「ありがとうございますッ!!」

 

 

ウィリアムの誉め言葉をオーヴァイはどや顔で受け取る。リィエルは無言でウィリアムに近づき、いつもの眠たげな表情で上半身を突き出すようにウィリアムを見詰める。

今までの流れから、水着を誉めてほしいと察したウィリアムは素直な感想を伝える。

 

 

「安心しろ。お前もちゃんと似合ってるぞ」

 

「…………」

 

 

誉めたにも関わらず、リィエルは何故か少しだけ不機嫌そうに眉をひそめ……

 

 

「……?」

 

「……もういい」

 

 

むくれてウィリアムからそっぽを向いた。

 

 

「……どうして不機嫌になったんだ?」

 

 

誉めたにも関わらず、機嫌が悪くなった事にウィリアムが戸惑う。リィエルが今着ている水着は本人の体躯と可憐さが合わさってとてもマッチしていると感じているし、首にかけられた白銀竜のペンダントもアクセントとして加わり、他の三人に全く負けず劣らずに魅力的になっていると、ウィリアムは少なくともそう感じている。

 

 

「ハァ……」

 

「あはは……」

 

「これは……先輩が悪いですね……」

 

 

システィーナ達はリィエルが水着を真剣に選んでいたのを知っていた為、微妙なところで鈍感なウィリアムに呆れと非難が混ざった視線を送る。

 

 

「まぁ、とりあえず遊びましょうか!!」

 

 

そんな微妙な空気を吹き飛ばすようにオーヴァイが声を上げ、ウィリアムを除く一同は海へと向かい……

 

 

「それー!!」

 

「やったわね!!えい!!」

 

「ん、お返し」

 

「やりましたねぇ~?こっちもお返しですッ!!」

 

 

システィーナ達は水を掛け合って楽しんでいた。燦々と輝く太陽に照らされる水飛沫。水と戯れている彼女達の綺麗な白い肌。……うん。

 

 

「凄い役得感だな」

 

 

完全にお得なこの状況にウィリアムは砂浜の上で感慨深げに頷く。彼女達のキャッキャウフフしているこの光景を、こうやって眺めているだけでも十分楽しめる。そう思っていると……

 

 

「わきゃあッ!?」

 

 

システィーナが突然身体を強張らせ、叫び声を上げる。

 

 

「システィ?急にどうしたの?」

 

「い、今、足に何かヌメッとしたものが……」

 

 

システィーナがビクビクしながらルミアの質問に答えたその直後、海から盛大に水柱が上がる。水柱が治まるとそこにいたのは……

 

 

「「「「タ、タコ!?」」」」

 

「?」

 

 

体長五メトラはありそうな巨大なタコだった。その巨大タコはタコ足を伸ばしてシスティーナとルミアを瞬く間に絡め取った。

 

 

「いやぁああああああああああああああ―――ッ!?」

 

「お、落ち着いてシスティ!?」

 

「ッ!!―――《唸れ暴風の戦槌》ッ!!」

 

 

ルミアの呼び掛けでシスティーナはすぐに呪文を唱え、黒魔【ブラスト・ブロウ】を巨大タコに叩き込むも―――

 

ボヨンッ

 

そんな音が鳴るだけで大したダメージを与える事は出来なかった。

 

 

「嘘ッ!?」

 

 

システィーナの驚愕を他所に、巨大タコはリィエルとオーヴァイにタコ足を伸ばすも―――

 

 

「いぃいやぁあああああああああああああああ―――ッ!!!」

 

「はぁああああああああああああああああ―――ッ!!!」

 

 

リィエルは錬成した大剣で、オーヴァイは瞬間召喚(フラッシュ)した刀で自分達に迫ってきていたタコ足を切り落とした。

 

 

「……結局、こうなるのか……」

 

 

ウィリアムは深い溜め息を吐きながら大口径の全長三メトラ近くある小銃(ライフル)―――長銃(ロングライフル)を錬成し、片膝をついた体勢となり巨大タコに狙いを定める。

 

 

「《雷帝》」

 

 

ウィリアムは短く呪文を唱え、錬成した長銃(ロングライフル)に電気を迸らせ、引き金を引く。

 

ドォオオオオンッ!!!

 

大きな炸裂音と共に雷加速弾が発射され、毎秒五十キロスに匹敵する火線が寸分狂わず巨大タコの頭部へと迫っていく。

先端が尖った日緋色金(オリハルコン)製の弾丸はそのまま巨大タコの頭部に突き刺さり、巨大タコの頭部を爆散させながら通過していった。

 

 

「た、助かったわ……」

 

「そ、そうだね……」

 

 

タコ足から無事に解放されたシスティーナとルミアが、海面に浮かびながら一先ず安心していると―――

 

ザパァッ!ザパァッ!ザパァッ!ザパァッ!

 

海面から次々と水柱が噴き上がっていく。そこから現れたのは、先程の巨大タコ、巨大タコと同様のサイズの巨大イカ、ゾンビと言うほどグロテクスな二・五メトラ近くあるサメ、触手が大量に生やした謎生物達の大群だった。

 

 

「《冴えよ風神・剣振るいて・天駆けよ》―――ッ!!」

 

 

流石に二度目あってか、システィーナは取り乱さず、ルミアのアシストを受けた黒魔【エア・ブレード】で目の前に現れた大群を切り裂いていくも―――

 

 

「ま、またこうなるの!?」

 

「うわぁ……また捕まっちゃった……」

 

 

如何せん、数が多かったため謎生物の触手にあっさりと捕まってしまい、身動きが再び封じられる。

 

 

「ちょ、ちょっと!どこ触ってひぃんッ!!」

 

「しょ、触手がアソコに……んっ」

 

 

しかも、触手はご丁寧に二人の全身に絡み付き、まさぐるかのように動いている。

 

 

「……ん、ヌメヌメして気持ち悪い」

 

「うわわっ!?水着が取られそうですッ!!」

 

 

それだけでなく、リィエルとオーヴァイ側に馬鹿デカイ貝が姿を現し、謎生物と同様の触手を伸ばしてシスティーナとルミア同様に、リィエルとオーヴァイに絡み付いて動いていた。

 

 

「……恐怖というより、イヤらしいだろ、これ……」

 

 

出来上がった地獄絵図(?)にウィリアムは何とも言えない気分になりつつも、雷加速弾で現れた大群の駆除に謹んでいった。

ちなみに、これらの光景は……

 

 

「嫌がる少女達の姿と悲鳴……なんという美味ッ!!」

 

「すごくおいしい光景、感謝するで!!」

 

「しかし、最初にタコから出したのは失敗だった……」

 

「せやなぁ、次回作はグロテクスなサメや巨大なカニを最初に登場させる方がええですね。恐怖でビビらせてから生理的嫌悪を与えたらもっとええ光景が出来るかも……」

 

「ではその方向で改良しよう……フヒヒ」

 

 

変態男爵と盗撮魔の学生にちゃっかり見られていた。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

ボスモンスターを倒して現実へと帰還したウィリアム達は、精神的な疲れからソファーに身体を預けていた。

 

 

「すごく疲れた……」

 

「そうですね……」

 

「……うう……感触がまだ残ってるわ……」

 

「そうだね……」

 

「ん……」

 

「……とりあえず、レポートに纏めましょうか……」

 

「……ああ」

 

「そうね……」

 

「うん……」

 

「……ん」

 

 

一同は重い空気の中、今回のソフトウェアの感想を書き上げていった……

 

 

 




この次はどうしようかな·······
戦闘を挟むか、オチへと一気にいくか·····ウ~ム、悩みます·······
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百三十一話

悩んだ結果、少し戦闘を挟んでからオチへいく方向にしました
てな訳でどうぞ


レポートを書き上げたウィリアム達は、再び集団催眠装置を起動していた。

 

 

「そういやぁ、お前とガチでやり合うのは久しぶりだな」

 

「ん」

 

 

対戦型ソフトウェアが作り出した仮想のフィーベル邸の中庭で向かい合っているのは、紺の外套を羽織ったウィリアムと礼服姿のリィエルである。

ウィリアムはオーヴァイと模擬戦をする前に、自身の手札を多少明かして条件をタイにしようという配慮から、最初にリィエルと一度模擬戦をする事にしたのである。

まぁ、実際は決闘に近い形だが別にいいだろう。

 

 

「それじゃ、そろそろ始めるか」

 

 

ウィリアムはそう言って右手の《魔銃ディバイド》を、左手には錬成した《魔銃ディバイド》と同形状のウーツ鋼製の拳銃を構える。リィエルも大剣を錬成して万全の構えを取る。

 

 

「「―――ッ」」

 

 

二人は暫し様子を窺い合い、静寂が辺りを支配する。その静寂を最初に破ったのはウィリアムだった。

ウィリアムは二丁の拳銃をリィエルの足へと照準を合わせ間髪入れずに発砲する。

炸裂音と共に吐き出されるウーツ鋼製の銃弾。その二条の火線は―――

 

 

「―――ッ!」

 

 

既にリィエルは横へと跳んで駆け出していたため、空しく宙を切るだけに終わる。

 

 

「《雷精》ッ!」

 

 

ウィリアムは直ぐ様詠唱し、拳銃に電気を迸らせ雷加速弾を次々と放ち始める。通常の弾速を遥かに超える幾条もの火線をリィエルは尽く見切ってウィリアムとの距離を詰めていき―――

 

 

「いぃいいやぁああああああああああああ―――ッ!!!」

 

 

白兵の間合いで、大剣を横凪ぎで振り抜こうとするも―――

 

ドゴォオンッ!

 

後退しながら迫る白刃に銃口を合わせたウィリアムの雷加速の銃撃により、大剣は半ばから折られ、その超威力の衝撃でリィエルは折れた大剣を手放してしまう。

しかし、リィエルはすぐに大剣を再び錬成し、ウィリアムへと肉薄していく。

 

 

「《咲き乱れろ刃》ッ!!」

 

 

ウィリアムが一節でそう詠唱して踏み込むと、ウィリアムの前方の地面から幾本もの大剣の刃が生えるように錬成されていき、それを見たリィエルは地面を蹴って後ろへと下がって地面からの凶刃を逃れる。

 

錬金改【大地の牙(ガイア・ファング)】―――高速武器錬成の錬金術を直接攻撃に改変した改変魔術である。

 

ウィリアムは直ぐ様空薬莢を排出し、素早く魔術弾を装填する。装填が終わると同時に、ウィリアムは右側の数メトラ先の地面へ拳銃を向け、何の躊躇いもなく全弾撃ち出す。

地面に着弾すると同時に魔術弾は起動し、瞬く間に氷柱が出来上がる。その氷柱の向こう側にはリィエルがおり、ウィリアムに迫って来ていたリィエルは氷柱に閉じ込められる寸前で回避。後ろに回り込みつつ、大剣を投げ飛ばす。

ウィリアムは飛んできた大剣を銃撃で軌道を変えて逃れるも、両手に二本のクロス・クレイモアを構えたリィエルの接近を許してしまう。

 

 

「やぁああああああああああああああ―――ッ!!」

 

 

リィエルはそのまま稲妻の如く右手の剣を振り降ろす。ウィリアムもすぐに銃撃で右手の剣を弾き飛ばすも、リィエルは右手に再び剣を錬成しながら左の剣を振るい、ウィリアムも再び同様の方法で弾き飛ばす。

 

弾く。かわす。流す。弾く。弾く。流す。弾く。かわす。

 

リィエルの力任せの双剣による剣戟乱舞を、ウィリアムは二丁拳銃で対処していく。炸裂音が響く度に剣が飛んでいき、地面は紫電が爆ぜ続け、辺りは剣の残骸で埋まっていく。

何度目かの打ち合いで、ウィリアムは魔術弾の装填と同時に起動していた【詐欺師の工房】でリィエルの頭上に【騎士の剣(ナイツ・ソード)】を四体具現召喚し、リィエルに向かって発射する。

リィエルはその【騎士の剣(ナイツ・ソード)】を見もせずに後ろではなく右に跳んでかわし、両手のクロス・クレイモアをウィリアムに向かって投げ飛ばし、再びいつもの大剣を錬成して肉薄していく。

ウィリアムは迫り来る二本のクロス・クレイモアを銃撃で軌道を再び逸らし、拳銃を交差させて敢えて受け止める。

リィエルはすぐに斬り返そう動くも―――

 

 

「うあッ!?」

 

 

足が何かに捕られてしまいバランスを崩して倒れてしまう。見れば、リィエルの足下の地面が粘着物に変わっており、リィエルの靴底に引っ付いていた。

 

 

「これで詰み(チェック)だ」

 

 

ウィリアムはそれだけ言い、リィエルの身体に銃弾を撃ち込んだ―――

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「むぅ……負けた……」

 

 

現実に戻ったリィエルは頬を若干膨らませ、悔しそうにしていた。

 

 

「近接の対策くらいはきっちりしてるからな。【見えざる神の剣(スコトーマ・セイバー)】だったり、決め手となった粘着物だったりな」

 

 

ウィリアムは事も無げにそう口にする。実はあの打ち合いの間にウィリアムはリィエルの背後に【見えざる神の剣(スコトーマ・セイバー)】を何体も具現召喚して配置しており、もし、あのまま後退していればもれなく不可視の刃の餌食となっていたのだ。

 

 

「肉眼で捉えられない刃って凶悪ですねー」

 

「リィエルはどうやってソレに気づいたの?」

 

 

観戦していたオーヴァイが【見えざる神の剣(スコトーマ・セイバー)】の感想を洩らし、システィーナが疑問に思ってリィエルに気づいた理由を問いかける。

 

 

「勘。あのまま下がったら斬られる気がした」

 

 

リィエルはいつもの勘だとあっさりと明かす。以前、ジャティスにやられた経験がしっかりと活きていた(?)ようでなりよりである。

双剣による打ち合いもウィリアムに以前、大剣を弾き飛ばされたり粉砕された経験から、手数を増やせばいい、という考えからの戦法のようであり、脳筋寄りではあるがリィエルなりに成長しているようである。

 

 

「それはそうと、次は私の番ですよー!!ウィリアム先輩ッ!手合わせお願いします!!」

 

「了解。……ホントは面倒だけど(ボソッ)」

 

「ん?何か言いましたか?」

 

「別に?それより、さっさと起動したらどうだ?」

 

「それもそうですね。ではちゃちゃっとやりますよー!!」

 

 

オーヴァイは楽しそうに装置を起動し、ウィリアムと模擬戦をした。

結果は……落とし穴と爆晶石のコンボが炸裂したとだけ言っておこう。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

あれからあっという間に時間が過ぎ、夕食も終わったその日の夜。

オーヴァイはウィリアムが借りている部屋でウキウキして荷物を置いていた。

 

 

「ムフフー。今日はウィリアム先輩と一緒に寝られますよー!……残念な事に左じゃないですが······」

 

 

女の戦いでリィエルに負けた事を思い出し、オーヴァイは若干悄気るも、すぐに気持ちを持ち直す。

 

 

「まぁ、終わった事でくよくよしてても仕方ないです!チャンスはまだありますからね!!それにしても……」

 

 

オーヴァイは思い出したように、妙な形のソフトウェアを取り出して眺める。形状は凸状となっており、装置に差し込んではみ出るであろう部分には半球の水晶が取り付けられている。

 

 

「このソフトは何なのでしょうね?こちらも可能であればモニターして欲しいとシュウザー教授は仰っていましたが……」

 

 

オーヴァイは好奇心からそのソフトウェアを装置に差し込み、手慣れた手つきで装置を動かそうとするも……

 

 

「あれ?動きませんね?」

 

 

装置はウンともスンとも云わず、沈黙を保っていた。

 

 

「どうして何でしょう?後で手渡されていたマニュアルレポートを確認しますか。それよりもお風呂です!!」

 

 

オーヴァイはそのまま沈黙を保ったままの装置をほったらかしにして部屋を出ていった。

それから少しして、寝間着姿のウィリアムとリィエルが部屋へと入り、扉を閉めた瞬間―――

 

 

―――二人はその場で倒れこんだ。

 

 

 




二人が倒れた理由は次回で!
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百三十二話

これはセーフの筈·····!
てな訳でどうぞ


「ふぅ~。さっぱりしました!!」

 

 

お風呂から上がり、まだ身体から湯気が昇っているオーヴァイは上機嫌で寝泊まりする部屋へと向かっていた。

 

 

「せっかくですから思い切って抱きついちゃいましょうか。これくらいしないと……ムフフ」

 

 

若干怪しく笑いながらオーヴァイは部屋へと辿り着き、そのまま部屋の扉を開けると……

 

 

「……ヘッ!?」

 

 

部屋の入口のすぐそばでウィリアムとリィエルは床に倒れている光景が目に入ってきた。

 

 

「ウィリアム先輩!?リィエル先輩!?一体どうしたんですか!?」

 

 

オーヴァイは慌てて倒れている二人に近づき、しゃがんで声をかけるも二人は眠ったままで一切の反応がない。試しに激しく身体を揺すっても目覚める気配が一向にない。

 

 

「本当に何で……!?急いでシスティーナ先輩とルミア先輩に知らせないと……ッ!」

 

 

オーヴァイはそう言って踵を返し、急いでシスティーナとルミアの下へと駆けていった。

…………ピコピコと動いている集団催眠装置に気づかぬまま。

そうして、オーヴァイから早口でウィリアムとリィエルが倒れたと聞いたシスティーナとルミアは大急ぎで部屋に赴き、二人の容態を確認し、ベッドの上に寝かせたところで―――

 

 

「……ねぇ、オーヴァイ。何であの装置が動いているのかしら?」

 

 

システィーナが絶賛稼働中の集団催眠装置に気付き、訝しげな視線で装置を睨み付けた。

 

 

「ああ!?お風呂に行く前に、試しに起動しようとして動かなかったソフトが差し込まれた装置が動いてます!」

 

「ひょっとして二人は装置が作り出した精神世界に……?」

 

 

オーヴァイの叫びにルミアはベッドの上に寝かせたウィリアムとリィエルに視線を送りながらそう呟く。寝ている二人の顔色は具合が悪いとかそういった表情ではなく、気持ち良さげに寝ていたから容態が悪いとは考えにくかったのだ。

 

 

「……状況からしてそうでしょうね。一体何のソフトをインストールしたのよ?」

 

「ちょっと待って下さい。今すぐマニュアルレポートを読んで確認しますので」

 

 

オーヴァイはそう言って自身の荷物を漁り、纏められた用紙を取り出して確認していく。

 

 

「これですね。ええと……《男女のお試し!初夜の営み》……ッ!?」

 

 

マニュアルレポートから見つけて読み上げたソフトのタイトルにオーヴァイは驚愕し、システィーナとルミアも顔を真っ赤にして驚愕する。

 

 

「『これは、踏ん切りがつかず、初夜を躊躇う恋仲の男女を精神世界の中で後押しして迎えちゃおう!という私の気遣いから男爵とチャールズ少年と協力して完成させたソフトだ!!このソフトは男女二人きりの時に起動し、その二人だけを強力な催淫効果のある精神世界へ三時間程閉じ込める画期的な発明なのだ!!ちなみにはみ出ているプレートの水晶部分からその世界の映像を見ることが出来るぞ!!フハハハハハハッ!!』……だそうです……」

 

 

書かれていた事を丸々読み上げたオーヴァイは恥ずかしい気分となり、オーウェルが無理にモニターしなくていいと言ったのは、このソフトが起動する条件がこういう理由だからだとも理解し、顔を真っ赤にしたまま俯いてしまう。

 

 

「本当になんてものを作ってくれたのよ!?」

 

 

本当にとんでもないソフトを作ってくれた三人に、システィーナは頭を抱えて叫ぶ。幾ら精神世界の中で現実ではないとはいえ、そんな事を勢いでやらせる等、最悪としか言い様がない。

 

 

「と、兎に角、この装置破壊してでも止めないと!?」

 

「そ、そうだね!流石にこれはまずいよね!!」

 

 

システィーナとルミアは顔を真っ赤に染めたまま、装置を破壊しようと動きかけるも―――

 

 

「ですが、気になりませんか?正直、オキタさんは見てみたいです……」

 

「「………………」」

 

 

オーヴァイの言葉で二人は無言となって動きを止め、そのまま装置の前へと座る。それを確認したオーヴァイも装置の前に座ってマニュアルを見ながら操作し、プレートの水晶部分から四角い窓のような映像を宙へと投射する。そこに映っていたのは……

 

 

 

*ここからは外野の言葉でお楽しみ下さい。

 

 

 

「ああ!?二人とも既に何も身につけていないよ!?」

 

「服や下着は……ベッドや床に落ちてますね……」

 

「ウィリアム!?明らかにリィエルの×××に●を入れてるわよね!?」

 

「リィエルがあんなに悶えて……うわぁ……」

 

「絞まってるってそんなに……!?」

 

「こ、これが本番のための準備なんですね……」

 

「こ、これが大人の儀式……!」

 

「リィエル!?自分から◇◇◇を掴むの!?」

 

「アツいって……やっぱりそうなんだね……うわぁ……」

 

「うわぁ……リィエル先輩が盛大に……」

 

「あっ、お二人が焦点が合わない目で見つめあって互いに頷きましたね……」

 

「ウィリアム君?も、もしかして……」

 

「リィエルも、まさか……」

 

「「「…………(ゴクリッ)」」」

 

「あ、アレがアソコにゆっくりと○○○……ッ!?」

 

「ああ!?二人が□□□□□□□□!?」

 

「リィエルが涙目になっているわ……やっぱり、痛いのね……」

 

「あっ、ウィリアム君が××に◇◇◇◇たよ!?」

 

「ウィリアムが◇◇たびに、リィエルから声が漏れでて……ッ!」

 

「それに合わせて、リィエル先輩のお顔がどんどんすごい事に……ッ!」

 

「本当にずる――なんてことを!?」

 

「す、凄い喘ぎ声……うわぁ……」

 

「あんなにも○○○んですね……」

 

「あっ!?二人同時に凄い声が出たよ!?」

 

「あ、あれが○○……どんどん××××××……」

 

「こ、これが初夜……」

 

「あれが××し……」

 

「うん……あれが●●●●なんだね……」

 

「そ、そうね……見ていたこっちが変な気分になったわ……」

 

「で、ですが、勉強にはなりましたね!!」

 

「で、でもどうするの!?明日になったら色々と大変なことになるわ!!」

 

「そ、そういえばどうしよう……!?」

 

「お二人には夢と説明しましょう!!大丈夫です!実際にこれは夢物語なんですから!!」

 

「そうね!!これは現実じゃないのは事実だからね!」

 

「うん!少しだけ誤魔化して伝えようか!!」

 

「あっ!?そうこうしている内に、今度はリィエル先輩が馬乗りで……!!」

 

「今度はリィエルが○○に△△△……」

 

「ウィリアムが鷲掴みにして更に……ッ!?」

 

「また盛大に!?」

 

「二人はそのまま抱きしめ合って……」

 

「あっ、映像が消えましたね……」

 

「装置も止まったわね……」

 

「「「…………………………」」」

 

「……………………もう、寝ましょう」

 

「……………………うん、そうだね」

 

「……………………ハイ。ソフトは抜いておきますね」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――次の日。

 

 

「…………もう朝か……」

 

 

ウィリアムは目を擦りながら身体を起こし、背中を伸ばす。

 

 

「にしても……何時寝たんだ……?部屋に入ってからの記憶が一切ないんだけど……」

 

 

ウィリアムは自身の隣で寝ているリィエルとオーヴァイに視線を向けながら首を傾げる。

……どうやら、催淫効果が強力過ぎて記憶に残らなかったようである。それが幸か不幸かはわからないが。

試しにオーヴァイやシスティーナ達に何があったのか聞いてみるが……

 

 

「私が部屋に来た時には、お二人は床に倒れてましたよ。多分、疲れとかがまだ残っていたんだと思います」

 

「ええそうよ!!すごく心配したんだから!!」

 

「全くだよ。特に異常がなかったから安心したけど、二人が床に倒れたとオーヴァイさんから聞いた時は本当に心配したんだよ?」

 

 

……と、口を揃えてこう言っており、リィエルも同様に部屋に入ってからの記憶がなかったので、ウィリアムとリィエルは二人揃って、三人に心配をかけた事を謝るのであった。

ちなみに……

 

 

「これが新作。一枚八セルトの特別価格や」

 

「「「「買った!!!!!」」」」

 

 

チャールズ商会で新たに販売された四人の水着写真は男子生徒達に飛ぶように売れていた。

 

 

 




オリジナルはこれで終了
最大の黒歴史が爆誕!当然、当人にその記憶はない
そして、向こうの地にて、龍の幻覚が咆哮を上げ、幻聴として響き渡ったという話が浮上したそうだ········

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幕間四・《隠者》と《法皇》の調査記録
百三十三話


また日常章。だけど、視点は主人公ではない
てな訳でどうぞ


日も昇っていないフェジテの肌寒い朝。

そのとある建物の屋上に二つの人陰があり、その内の一つは何かしらの道具を持って膝をついていた。その道具が向いている先は―――フィーベル邸であった。

 

 

「…………(ギリギリギリッ!)」

 

 

その道具を顔に押し付けて膝をついている人陰―――黒を基調としたスーツと外套に身を包んだ老人は凄まじい形相で歯軋りしている。

その老人の憎悪に燃える瞳に映っている光景は―――リィエルとウィリアムが一つのベッドの上で一緒に寝ている姿であった。

 

 

「……本当にキャッキャッウフフしていたようじゃのう……」

 

 

その老人―――バーナードから底冷えするほどの呪詛の声が洩れる。

アルベルトから話を聞いたバーナードはあの手この手を使い、《詐欺師(ウィリアム)》の一日調査の許可を掴み取ったのだ。理由は《戦車(リィエル)》が懐柔されていないかで。

それだけの為に神鳳(フレスベルグ)を使ってフェジテに赴き、調査に適した各種魔導器の使用申請まで通して持ち出したのだ。

 

 

「バーナードさん……分かっていると思いますが……」

 

「分かっとるわいクリ坊。ちゃんと一定の距離を保って監視に徹するわい」

 

 

もう一つの人陰―――補佐として連れて来られたクリストフの言葉にバーナードは見向きもせずに答える。

クリストフはそんなバーナードに困ったような笑みを浮かべ、同様にその光景を筒の形をした魔導器を使って視界に収める。この魔導器を通して遠見の魔術を使えば、結界の阻害と探知をすり抜けることができる、まさに監視に適した魔導器である。

クリストフが収めた光景は、リィエルが自分からウィリアムに抱きつき、安らかな表情で寝ている姿であった。

 

 

「……本当にそういった関係ではないんでしょうか?」

 

「……アル坊が聞いた限りではそうなってはいないようじゃが……気付かぬ内にそうなっておる可能性もあるからのう……」

 

 

ちなみにアルベルトは先の撲滅作戦で一番の功労者だった為、女王陛下から特別休暇も与えられ休養中である。

アルベルトは最初は辞退しようとしたが、バーナードが「休める時に休むのも重要じゃ。もちろん鍛練も無しじゃぞ?」と言われたので今回は大人しく身体を休めている。

 

 

「あっ、リィエルが寝返りをうってウィリアムに覆い被さりましたね」

 

「顔があんなに近く……ッ!!(ギリギリギリギリッ!!!!)」

 

 

端から見れば羨まし過ぎる状態にバーナードは歯軋りと共に血涙を流し、クリストフは何とも言えない気分で見つめる。

クリストフは一先ず、盗聴用の魔導器も起動して二人の声も聞こえるようにする。

 

 

『zzz……』

 

『すぅ……』

 

 

ホーン部分から聞こえてくる二人の寝息。それだけ聴けば和やかな気分になるのだが……

 

 

「あっ、リィエルが頬擦りしましたね」

 

「あんなに微笑ましい顔で……ッ!(ワナワナッ)」

 

 

バーナードが剣呑な雰囲気を発しているので全く和めない。むしろ怖い。

 

 

『ん……』

 

 

そうしている間にリィエルが目を覚ました。普段はウィリアムが先に目を覚ますのだが、今日は眠りが深いようである。

 

 

『おはよう、ウィル……』

 

『zzz……』

 

 

リィエルが肩を揺すってウィリアムを起こそうとするも、今日に限っては本当に眠りが深いようで軽く身動ぎした程度で睡眠を続行していた。

 

 

『…………』

 

 

そんなウィリアムをリィエルは何時もの表情でじっと見つめ―――

おもむろにウィリアムの顔に両手を置いて自らへと向き合わせ―――

 

 

『……ん』

 

 

何の躊躇いもなく顔を近づけ、唇を重ね合わせた。

 

 

「―――」

 

「……本当にあの二人は付き合っていないのでしょうか?」

 

 

今まさに出来上がった羨まけしからん光景に、バーナードの思考は硬直し、クリストフは二人の関係に改めて疑惑を持つ。

 

 

『…………んぐ……む……?…………………………ッッッ!?!?!?!?!?!?!?』

 

 

そうこうしている内にウィリアムが息のしづらさから目を覚まし、リィエルとキスしている現実から目を瞬かせ、現実と理解して一気に眠気が飛んだように両目を見開く。

リィエルもウィリアムが起きた事で接吻を止めて離れる。

 

 

『おはよう、ウィル』

 

『ああ、おはよう。じゃ、なくてっ!!何でキスしていたんだ!?』

 

『ウィルがすぐに起きなかったから、セリカから教わった方法で起こした』

 

『……まさか、その方法は』

 

『ん。仲の良い男女は、すぐに起きなかったらキスで起こすものだって言ってた』

 

『本当にいい加減にしてくれ教授ぅうううううううううううううう―――ッ!!!!!』

 

『?』

 

 

ウィリアムの叫び声がホーン部分から大きく響いてくる。もし、音声遮断の結界を周囲に張ってなければ周りに聞こえる程と言えるくらい大きかった。

 

 

「……う~ん……このやり取りからして、リィエルは教わった事を実践しているだけのようですね」

 

「―――」

 

「バーナードさん。現実に戻ってきてください」

 

「―――はっ!?おのれウィル坊……朝から女の子にキスされるとは……やっぱり今すぐぶん殴りに行ってくるわい」

 

「あくまで調査任務ですから駄目ですよ。殴るなら別の機会で」

 

 

思考の空白から復帰して殺る気をみせるバーナードをクリストフは愛想笑いしながら宥めていく。

 

 

「……ん?ウィル坊とリィエルちゃんの首もとに何かかけられておるのぉ……」

 

「……ペンダントですね。どっちも同じ意匠の」

 

「つまり、ペアルックというわけか……」

 

「……本当に仲が良いですね。どっちがプレゼントしたんでしょうか?」

 

「ウィル坊の方に決まっとるわい。リィエルちゃんはああいうのには疎かったからのぉ」

 

「……確かに」

 

 

バーナードの推察にクリストフは納得して頷く。自分達が知っている限り、リィエルが件の組織の暗殺者として扱われていた過去を考えれば当然だ。

 

 

「それにしても、どうしてあの二人はあれほど仲が良いのでしょうか?」

 

「……そうじゃのう。何で儂は可愛い子ちゃんにモテんのじゃのうな」

 

 

クリストフの疑問にバーナードは的外れな言葉で返す。その間も―――

 

 

『……何で朝から俺の匂いを嗅いでいるんだ?』

 

『……何となく?だけど、不思議といい匂い』

 

『……ハァ……』

 

 

端から見ればイチャイチャしている光景が続いていた。

 

 

「……これは、リィエルが懐柔しようとしているように見えますね」

 

 

ウィリアムの胸元に顔を埋めて匂いを嗅いでいるリィエルの姿にクリストフは真面目に考察を続ける。

対してバーナードは―――

 

 

「……ずるい……羨ましい……マジで代わってくれんかのぉ……?(ブツブツ)」

 

 

夢のような光景に、嫉妬で静かに狂っていた。

 

 

「あっ、システィーナさんが帰宅しましたね」

 

「白猫ちゃんか……朝からグレ坊とイヴちゃんと特訓していたのは確認しとったが……」

 

 

バーナードはそう言って魔導器を降ろして少し感慨げに呟く。

 

 

「室長から降ろされて、一族から見限られたイヴちゃんが元気そうで本当に良かったわい」

 

「そうですね。左手で魔術を使う事が出来なくなって左遷されたと聞いた時は心配でしたが、その左遷先がグレン先輩達がいる学院だと聞いて安心しましたからね」

 

「これからも色々と大変じゃろうがの。……アル坊から聞いたあの話を含めてのぉ」

 

「……えぇ」

 

「ひとまずは、今日一日はがっつりと監視してリィエルちゃんが懐柔されていないかどうか、しっかりと見極めないとのぉ」

 

「あはは……」

 

 

相変わらずのバーナードに、クリストフは苦笑いしながら再び調査を再開するのであった。

 

 

 




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百三十四話

やっぱり一度はやってみたいネタ
てな訳でどうぞ


制服に着替えてシスティーナが作った朝食を取る一同。

 

 

「……普通じゃの」

 

「普通ですね」

 

 

その光景を魔導器を使って視界に収めているバーナードとクリストフは感想を揃って口にする。

もちろん着替えの光景は覗いていない。……バーナードは頭を抱えて苦悩していたが。

 

 

「てっきり、あーんがあると覚悟しておったのじゃが……」

 

「普通に食べていますね。リィエルも無言で食べてますし」

 

「行動がちぐはぐじゃのう……」

 

「ちぐはぐというより、リィエルが自身の行動をあまり理解していないと言った方が正しい気が……」

 

 

……実に平和であった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

学院への通学中も特に大きな問題もなく、バーナードとクリストフは学院の近くにある建物の屋上に陣取って監視を継続していた。

 

 

『えー、本日も授業を―――』

 

 

ドォオオオオオオオオオオオンッ!!

 

ホーンからでも伝わるだらけきった雰囲気。グレンが気だるげに授業を始めようとした直後、学院全体に響いたのではないかという程の衝撃音が伝わってきた。

 

 

『『『『…………』』』』

 

『……悪いが少し様子を見に行ってくる。くれぐれも勝手な行動はするなよ?』

 

 

グレンは真面目な顔で生徒達にそう告げ、教室を後にしていく。

 

 

「うーん……何が起こったんじゃのうのう?」

 

「あれほど派手な音ですからね。近くは大騒ぎになっていると思いますが……」

 

 

襲撃ではないと最初からわかっているバーナードとクリストフは、音の原因を考察しながら二組の教室内を視界に収め続ける。

 

 

『……大丈夫かな?』

 

『多分大丈夫だろ。こんなのは何時もの事だし』

 

 

ウィリアムがそう言ってリィエルの頭に手を置いた―――その瞬間。

 

ポンッ!

 

そんな音と共にウィリアムとリィエルの間に三歳くらいの子供が突然現れた。その子供は眠たげな銀眼に青い髪で白いシンプルなワンピースを着ていた。服装からして女の子のようである。

 

 

『『『『…………』』』』

 

パシャ!パシャ!パシャ!パシャ!

 

『おかーさん、抱っこぉ…………』

 

 

シャッター音が教室内で響く中、その女の子はリィエルを見上げながら可愛い声でおねだりする。

その声で。突然の事態で思考回路が完全凍結していた全員の、思考が回転し始める。

 

1.リィエルをお母さんと呼ぶ突然現れた幼女。

2.青い髪、銀色の瞳、顔のつくり……明らかにリィエルとウィリアムの特徴を持っている。

 

以上の二点から導き出される結論は―――

 

 

『うぃうぃうぃウィリアムぅううううううううう―――ッ!?いつの間にリィエルとの子供を―――』

 

『ちょっと待てぇえええええええええ―――ッ!?!?明らかにおかしいだろッ!?』

 

『あはは、落ち着いてシスティ?子供はコウノトリさんが目にも止まらない速さで……』

 

『ルミアさん?私はシスティーナさんではありませんよ?』

 

『ウィリア充ぅ……今日がお前の命日だ……』

 

『やっぱり、リィエルちゃんとデキていたんだなぁ……?』

 

『放課後……いや、昼休みに覚悟しておけよぉ……?』

 

『頼むから一回落ち着いてくれよッ!?』

 

 

ものの見事に大騒動の渦へと呑まれていった。

 

 

「よし、今すぐウィル坊の元に行って始末してくるわい」

 

「落ち着いてくださいバーナードさん。普通に考えてあり得ませんから。年齢的にも」

 

 

その光景を見ていたバーナードも完全に据わった目で物騒な事を呟き、唯一冷静であるクリストフはそんなバーナードを諌めていた。

 

 

『……よしよし』

 

『ん……』

 

 

リィエルはそれを他所に、謎の幼女を抱っこして頭を撫でていた。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

『……さっきの音はオーウェルの野郎の発明品が起動する音だったそうだ……』

 

『……一体何の発明なんですか?』

 

 

戻ってきたグレンの説明に、システィーナは今はウィリアムに引っ付いている幼女に視線を向けながら問い質す。

 

 

『端的に言うとな……『触った二人の特徴を有した子供の姿をした妖精が召喚される領域が展開される』装置、だそうだ……』

 

『つまり、この子は妖精なのか……』

 

『おとーさん、あったかぁい……』

 

 

疲れたように呟くウィリアムに、召喚された妖精は満面の笑みでウィリアムに頬を擦り付ける。

 

 

『『『『……可愛い過ぎる』』』』

 

『『『『そして、凄まじく憎いッ!!』』』』

 

 

その妖精の仕草に半分は見惚れ、もう半分は怨念の籠った声でウィリアムを睨み付ける。

 

 

『……ッ』

 

 

その睨みに妖精が怯え、ウィリアムに顔を埋めて震え始める。

そんな妖精の様子に、ウィリアムはにっこりと笑って妖精の頭を撫で―――

 

 

『ふぎゃっ!?』

 

 

何の躊躇いもなくカッシュに非殺傷弾を額に六発叩き込んだ。

 

 

「見事な早撃ちじゃのう……」

 

「本当にそうですね。もしかしたらグレン先輩やバーナードさんより早いかもしれないですね」

 

『今睨んでいるやつ全員、今すぐそれを止めろよな。この子が怖がっているから』

 

 

にこやかに、明るい口調で告げるウィリアム。だが、そのにこやかな顔は―――とても恐かった。

リィエルもいつの間にか大剣を錬成して構えており、その眠たげな瞳はどこか据わっている。

そんな二人の様子に男子一同は一斉に睨むのを止め、ついでに笑顔を向けていく。

 

 

『もう大丈夫だぞ』

 

 

ウィリアムの言葉に妖精は少し躊躇いがちに男子生徒達に顔を向ける。

彼らの笑顔を視界に収めた妖精はじっと見つめ、安心したようににっこりと笑った。

 

 

『『『『やっぱり可愛い……』』』』

 

『……ん。かわいい』

 

 

周りの感想に、大剣を霧散させたリィエルも同意して妖精の頭を撫でていく。

 

 

『ん……』

 

 

リィエルに頭を撫でられている妖精も気持ち良さげに目を細めており、実に幸せそうである。

 

 

「本当に可愛いのう。できれば儂も撫でに行きたいわい」

 

「あはは……確かに本当に可愛いですね」

 

『……ところで先生。この子はいつまでいるんですか?』

 

『装置が切れたら消えるそうだが……あの野郎、データ収集の為に後一時間は起動するとか抜かしやがってな。止めようにも()()魔導人形が装置を守っているから止められないんだよ』

 

『あー、そうなのですか……』

 

 

グレンの説明に、システィーナはどこか納得したように顔をかくんっ、と俯ける。

 

 

『そんな訳だからこのまま授業を始める―――』

 

『ここにとびきり可愛い幼女がいると聞いてぇえええええええええええーーッ!!!』

 

 

グレンの言葉を遮るように、ツェスト男爵が実に危ない顔で教室に入ってきた瞬間―――

 

 

『ゴフォッ!?』

 

 

リィエルが直ぐ様錬成した大剣の峰打ちによる剛閃で、ツェスト男爵は速攻で教室の外へと殴り飛ばされ―――

 

 

『アバババババッ!?』

 

 

ウィリアムが具現召喚した数体の【招雷霊(ヴォルト)(フェイク)】の電撃で瞬く間に撃退されていた。

 

 

『?おとーさん。向こーから凄い声が聞こえてきたけど何かあったの?』

 

『さっきのは空耳だから気にしなくていいぞ』

 

『ん。空耳』

 

『……ん!わかった!』

 

 

にこやかに笑うウィリアムとうっすらと微笑んでいるリィエルの言葉に素直に頷く妖精。もう完全に親子である。

 

 

『この程度で屈しは―――ギャアアアアアッ!?』

 

「相変わらず実力が高いのう……」

 

「本当にそうですね……確かあれは固有魔術(オリジナル)による裏技でしたね?」

 

「ウィル坊から聞いた限りではのう」

 

 

人工精霊(タルパ)にボコボコにされていくツェスト男爵を眺めながら、バーナードとクリストフは改めてウィリアムの実力を評価していった。

この一時間後―――

 

 

『おとーさん、おかーさん……バイバイ……』

 

『……バイバイ』

 

『……ん。バイバイ』

 

『『「『……グスッ』」』』

 

 

妖精はウィリアムとリィエルに抱きしめられてお別れをした際、誰もが不覚にも涙を流す事となった。

ちなみに後日、この妖精の写真は大盛況で売れていったそうだ。

 

 

 




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百三十五話

子供ネタは凄いなと感じた頃ごろ
お気に入りも800超え·····駄文の自己満足の作品ですがこれからもよろしくお願いします
てな訳でどうぞ


妖精騒動が収まった昼休み。

食堂でグレン、システィーナ、ルミア、ウィリアム、リィエル、オーヴァイが食事を取っているのだが……

 

 

『『…………』』

 

 

ウィリアムとリィエルは心ここにあらずといった感じで淡々と食事をしていた。

 

 

「随分と元気がないのぉ。ある意味当然じゃが」

 

「あははっ、確かにそうですね」

 

 

買ってきたライ麦パンや揚げ鶏等を片手に談笑しながら監視を続けるバーナードとクリストフ。相変わらず平和である。

 

 

『ウィリアム先輩、リィエル先輩?何かあったのですか?』

 

 

ウィリアムの隣に座って食事しているオーヴァイが少し心配げに話しかける。それに答えたのはシスティーナだった。

 

 

『……シュウザー教授の発明の話は聞いているわよね?』

 

『?はい。確か触れただけで妖精が召喚される領域が学院全体に……あっ、そういう事ですかー』

 

『うん。ウィリアム君とリィエルにその妖精が現れてね。その子とお別れしてからこうなっちゃったの』

 

『……すごーく羨ましいですね。私もその妖精をウィリアム先輩とで召喚したかったですね……そういえばシスティーナ先輩とルミア先輩は、グレン先生とでその妖精を召喚しなかったのですか?』

 

 

オーヴァイがシスティーナとルミアにそう聞いた瞬間―――

 

 

『すすす、するわけないでしょう!?私が先生との妖精をつくるわけ―――』

 

『あはは……そういえば試さなかったなぁ……』

 

 

システィーナは慌てふためき、ルミアは曖昧に笑って返していた。

 

 

「ちっ、グレ坊もモテててズルいわい……いつか絶対に殴る。全力で」

 

「その時は僕も手伝いますね」

 

 

嫉妬で舌打ちするバーナードに、笑いながら参加を決めるクリストフ。本当に平和である。

 

 

『その召喚は最初に触れた時しか成立しないとオーウェルの野郎が言っていてな。俺がオーウェルに触れた瞬間にその妖精が召喚されたから、仮に白猫達が俺に触っても何も起きねぇよ。ウィリアムとリィエルも同様だ』

 

『どっちにしろ今回は無理でしたかー……ガクッ』

 

『そ、そうだったんだ。あはは……』

 

『……ちなみにその妖精は?』

 

 

グレンの説明にオーヴァイは項垂れ、ルミアは少し残念そうにし、システィーナは当然の疑問をグレンにぶつける。

 

 

『……相当な悪ガキだった。ぶっちゃけ、関わりたくなかった』

 

『……そうですか』

 

 

物凄く遠い目となって答えたグレンの態度を前に、システィーナはそれ以上の詮索を止めた。

 

 

『また、会えるかな……?』

 

『……会えたらいいなぁ……』

 

『ん……』

 

『また会えると思いますよ?その装置をお蔵入りにするのを、ノワール男爵とテイラー先輩が黙って見ているとは思えませんからね』

 

 

未だ心ここにあらずのウィリアムとリィエルの呟きに、オーヴァイは憶測を口にして励ます。

 

 

『……どうしてかしら。後日、凄い事になる予感がするのだけれど……』

 

 

オーヴァイが口にした大当たりであろう憶測に、システィーナは脂汗を垂らしながら乾いた笑みを浮かべる。

実際、その予感は間違っていない。ツェスト男爵とチャールズは(よこしま)な願望の下、現在進行形でオーウェルとその装置についての交渉に没頭しているのだから。

 

 

『……そうだな。それに、あんまりくよくよしているとあの子に対して情けないからな』

 

『……ん』

 

 

だが、オーヴァイの励ましの効果はあったようで、ウィリアムとリィエルは気分を切り替えたように食事を再開していく。

 

 

「ありがとうございます、バーナードさん」

 

「なんじゃクリ坊?いきなりお礼なんぞ言いおって」

 

 

クリストフの唐突なお礼にバーナードは訝しそうにするも、クリストフは変わらずに言葉を続けていく。

 

 

「今回の調査、僕の息抜きの為にしてくれたんですよね?先日のアルベルトさんの話······この国の根幹で潰れないように」

 

「……そんなんじゃないわい。単にキャッキャッウフフしているかもしれんウィル坊が気にくわんかっただけじゃわい。現に……」

 

 

バーナードがそう言って魔導器ごしに収めた視界の先には……

 

 

『せっかくですからあーんして食べさせてあげますよ、ウィリアム先輩♪』

 

『……いや、普通に食べられるから』

 

『ひょっとして照れているんですか~?』

 

『そう言いながら俺に身体を押し付けながら食べさせようとするな!?』

 

『……わたしもウィルにあーん?、する』

 

『張り合うなよ!?』

 

「両手に華じゃからのう」

 

「あはは……」

 

 

ドスの効いた声で桃色空間を睨み付けるバーナードに、クリストフは困ったように苦笑いしつつ、改めてバーナードに感謝した。

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

学院の授業もつつがなく全て終わった放課後。

ウィリアム達はそのままフィーベル邸に帰宅―――という訳ではなかった。

 

 

『悪いが先に帰っててくれ。俺は少しばかしバイトしていくからよ』

 

『バイト?もしかして下水道の保守作業の?』

 

『ああ』

 

『どうして急に?』

 

『近々点検……というより更新だな。義手の長さも左腕とずれてきたし、一度新調する必要があるからな。それに新しく作ってる魔導器の材料費も確保しときたいし』

 

『後者はともかく、前者はあの時にやっていれば·····』

 

『いや、素材も必要だし色々と面倒だから両手があった方が都合がいいし……何より、神経と霊絡(パス)を繋げる時が凄く痛いんだよ』

 

 

システィーナの指摘にウィリアムはうんざり気味に理由を口にする。

 

 

『……どれくらい痛いの?』

 

『例えるなら……神経に直接【ライトニング・ピアス】を叩き込んだくらいの激痛だな。そんな痛み、進んで受けたくないだろ?』

 

『……確かにそうね』

 

 

ウィリアムの説明にシスティーナはひきつり気味に納得する。

 

 

「ふむ。ウィル坊はここで別行動―――」

 

『それなら私もお供しますねー』

 

「『……は?』」

 

 

突然現れたオーヴァイの申し出に、バーナードと盗聴器から聞こえるウィリアムの声が見事に被る。

 

 

『鍛練にちょうどいいですし、お金も入りますからね。まさに一石二鳥です!!』

 

『いやいや。わりと危ないんだぞ?流石に―――』

 

『強い敵と戦えるなら、むしろ望むところです』

 

『ええー……』

 

 

清々しいまでの笑顔で言い切ったオーヴァイに、ウィリアムは何とも言えない表情となっていると……

 

 

『……なら、わたしも一緒に行く』

 

 

リィエルが参加表明の意を示した。

 

 

『リィエル先輩も特訓ですかー?ご予定はないんですかー?』

 

『大丈夫。予定は特にない』

 

 

そうしてリィエルとオーヴァイは互いに見つめあう······子犬と狼の幻覚を漂わせながら。

 

 

「幻覚が見えるとは中々じゃの……爆発しろウィル坊」

 

「うーん……やっぱりリィエルはウィリアムのことが……」

 

 

初めて見る幻覚にバーナードは物騒な台詞を呟き、クリストフは真面目に二人の関係を考察していた。

 

 

『……二人とも。悪いが同行してくれないか?オーヴァイも付いてくるとなると回復役は必須だからな』

 

『……そうね。よくわかるわ』

 

『あはは……』

 

『ひどくないですか!?事実ですけど!』

 

 

こうして、ウィリアム達の放課後は下水道の魔獣退治となった。

 

 

「……本当に羨ましすぎるわい……どさくさに紛れて一発ぶちかますかのぉ……?」

 

「駄目ですよバーナードさん」

 

 

それを監視しているバーナードとクリストフはいつものやり取りをしていた。

 

 

 




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百三十六話

てな訳でどうぞ


―――地下下水道に送り込んだ使い魔の鼠達から送られてくる映像には。

 

 

『いぃいやぁああああああああああああああああ―――ッ!!!』

 

『ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア―――ッ!!!』

 

 

リィエルとオーヴァイは競いあうように数多の魔獣を次々と瞬殺していく姿が映っていた。

 

 

『もうちょっと考えろよな……』

 

 

ウィリアムは呆れながら【騎士の剣(ナイツ・ソード)】を飛ばし、猪突猛進の二人をフォローしていく。

 

 

『……前にも思ったけど、明らかに手強そうな相手ばかり出てくるわね』

 

『まぁ、今掃討している区画は他の区画と比べて強力なやつが徘徊している場所だからな』

 

 

ウィリアムはシスティーナにそう説明しながら、こちらへと迫りくる狂霊に銀色の銃弾を数発撃ち込み、その銃弾を撃ち込まれた狂霊は浄化の炎に包まれて滅されていく。

疑似浄銀弾(パラ・シルバーブレット)。錬金術で疑似的に再現された不浄を滅する聖なる弾丸であり、その効力は正規の浄銀弾なら一発で済む相手でも数発撃ち込まなければならないくらい大きく劣っている。

本来、この疑似浄銀は錬成に時間がかかる品物だが、ウィリアムはこれまでの戦闘から必要だと判断し、これを戦闘中に錬成できるレベルにまで改良し、本日せっかくなので実際に使う事にしたのである。

 

 

「本当にウィル坊の錬金術は大分ぶっ飛んでおるのぉ……」

 

「ええ」

 

 

わりと格式の高い料理店で食事をしながら使い魔で監視を続けるバーナードとクリストフ。使い魔から送られてくる映像は自身の視覚を共有しているので問題はない。

 

 

『ここでは雷加速弾(レールガン)、だったかな?あれは使わないの?』

 

『ああ。あれは基本的に威力が高すぎるからな。下手すりゃあちこち壊しちまう』

 

『……以前尾行していた時、それを一切使わなかったのはそういう事だったのね』

 

『そういう事だ。―――《水弓よ》―――《踊れ》』

 

 

ウィリアムはルミアとシスティーナの疑問に答えながら錬金【アクア・バレット】を三発同時起動(シンクロノス・ブースト)し、放たれた高水圧の水の弾丸は、迫ってきていた三体の牙が大きい蝙蝠の頭部を同時に撃ち抜く。

 

 

『……普通は【ライトニング・ピアス】じゃないかしら?ウィリアムも使えるでしょ?』

 

『確かに使えるが、俺にとってはこいつの方が消費する魔力が少なくて済むんだよ』

 

 

システィーナのツッコミにウィリアムは簡潔に返す。その間も―――

 

 

『ふ―――ッ!』

 

『シィ―――ッ!』

 

 

リィエルとオーヴァイは変わらずに魔獣を切り伏せていた。

そんな無双を続ける二人の前に、紫の体毛の巨大蜘蛛が大量の小蜘蛛と共に現れた。

 

 

『うはー!強敵ですね―――って、ええッ!?』

 

 

オーヴァイが歓喜に満ちて突撃しようとした矢先、リィエルがオーヴァイの首根っこを掴んで迷わず後退した。

 

 

『リィエル先輩!?なぜ―――』

 

 

オーヴァイが文句を言おうとした瞬間、【騎士の誇り(ナイツ・プライド)・炎兵】の炎が蜘蛛達を余さず呑み込んだ。

 

 

『やぁああああああああああ―――ッ!!!』

 

 

炎が止むと同時にリィエルは迷わず突貫し、まだ生きていた巨大蜘蛛の頭部を大剣を振りおろして叩き斬りトドメを刺した。

 

 

『……どうやって気付いたのですか?』

 

『勘。ウィルならこうすると思った』

 

『……改めて差を感じますねー。オキタさんヘコみそうです……』

 

「本当にいいコンビじゃのう……」

 

「僕もそう思います」

 

 

コンタクトも打ち合わせもないウィリアムとリィエルの連携(?)にバーナードとクリストフは何とも言えない気分となる。

 

 

「にしても、あの子『オキタ』と言っておったのぉ。もしかしてオルビスちゃんの子かの?」

 

「知り合いですか、バーナードさん?」

 

「一度だけのう。とびっきりの美人じゃったから、誘ったのじゃが……」

 

 

その瞬間、バーナードは遠くを見つめる目となって言葉を続けていく。

 

 

「彼女はお酒ではなく、模擬戦の誘いと解釈しての……あの時はマジで殺されると思ったわい……しかも、既婚者だったのもショックじゃったしのぉ……」

 

「あはは……御愁傷様です……」

 

『その差を埋める為にも鍛れ―――ゴハァッ!?』

 

 

取り敢えず、クリストフがバーナードを慰めていると、使い魔から送られてくる映像でオーヴァイが盛大に吐血した。

 

 

『……ここで吐血かよ……ルミア、悪いが頼む』

 

『あはは……』

 

 

ルミアは苦笑いしながらオーヴァイに法医呪文(ヒーラー・スペル)を施していく。

 

 

『すいません。ご迷惑をおかけしました。もう大丈夫です』

 

『……取り敢えず、オーヴァイはもう戦闘は中止な?また吐血されたら困るし……』

 

 

ウィリアムがチラリ、と視線を奥の方へと向けると、その先には壁や天井を這う巨大な蜥蜴(とかげ)、下水道を泳ぐ真っ黒な(わに)、巨大な鋏を有するザリガニ等、多種多様な魔獣の大群が迫ってきていた。

 

 

『血の臭いを嗅ぎ付けてきた連中が集まってきてるしな』

 

『いいいいやぁあああああああああああああ―――ッ!!!!』

 

 

ウィリアムが呟くと同時にリィエルが大剣を掲げて魔獣の群れへと突貫し、大剣を振り回していく。

鎧袖一触。

独楽のように振り回される大剣は迫りくる魔獣を悉く粉砕していく。

ウィリアムは突撃こそしないが、拳銃を構えて次々と銃弾を放っていく。放たれた銃弾は暴嵐の如き剛閃をまるですり抜けるように掻い潜り、リィエルの先にいる魔獣の頭部を撃ち抜いていき、リィエルを援護していく。

 

 

『本当に凄いですね……』

 

『そうね……』

 

 

次々と始末されていく魔獣達を前に、後方で見守っているオーヴァイとシスティーナはどこか悔しそうに呟く。

リィエルは全力で戦っているが、深追いせずに押し止めるように大剣を振るっており足止めに徹している節がある。

ウィリアムはリィエルが囲われないように銃撃を繰り出しており、的確に援護している。

そんな彼らに、人の顔くらいの大きさの蝿の魔獣が新たに現れ、大群で迫ってくるも―――

 

 

『《駆動》』

 

 

ウィリアムが魔導器を解凍して呪文を唱え、リィエルが下がった瞬間―――

 

ドゥルルルルルルルルルルルルルルルルルルルッ!

 

《魔導砲ファランクス・ミクロ》が火を吹き弾幕を形成。蝿の大群を他の魔獣諸とも尽く吹き飛ばし、僅か数分で駆逐した。

 

 

『ねぇ、ウィリアム』

 

『……なんだ、システィーナ?』

 

『以前の蜂の大群や少し前の蜘蛛の大群を始末していた時もそうだったけど、虫に対して妙にオーバーキルな攻撃を仕掛けている気がするんだけど……?』

 

『…………』

 

『……ひょっとして、虫が苦手なの?ウィリアム君』

 

『……悪いか』

 

『ん。ウィルはむかむぐっ』

 

『喋らんでよろしい』

 

 

リィエルが喋ろうとしたのをウィリアムが口を塞いで強引に遮る。

 

 

『男のプライドですか?ウィリアム先輩』

 

『……別にいいだろ』

 

『そうですか』

 

 

オーヴァイの指摘にウィリアムは素っ気なく返し、オーヴァイも納得して引き下がる。

ウィリアムがこうした本当の理由は、話が非常にややこしく、面倒になるからであるが。

 

 

「ウィル坊は虫が苦手と……いいネタを掴めたわい」

 

「バーナードさん、どうか程々に」

 

 

悪戯小僧のような笑みを浮かべるバーナードに、クリストフは苦笑しながら諌めていた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

保守作業が終了し、フェジテ支局に報告し、受け取った報酬を公正に分配し終えた一同はそれぞれの帰路へと着いた。

オーヴァイと別れたウィリアム達はフィーベル邸に帰宅し、大きな問題もなく夕食を済ませる。

だが、ウィリアムが風呂に入っている間―――

 

 

『ウィルに、あの時された仕返しをまたされたい』

 

 

リィエルがとんでもない事を口にしていた。

 

 

 




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百三十七話

······後悔はない
てな訳でどうぞ


「仕返し?」

 

「一体、どういう事なのでしょうか?」

 

 

リィエルが呟いた言葉に、バーナードとクリストフは揃って首を捻っていると―――

 

 

『だ、駄目よ、リィエルぅうううううううう―――ッ!?』

 

『そ、そうだよ!!そんな事望んじゃ駄目だよ!?』

 

 

理解が追い付かず茫然としていたシスティーナとルミアが、顔を真っ赤にして大慌てで止めにかかっていた。

 

 

『そもそも、どうしていきなりそんな事を言うのッ!?』

 

『不思議とまた体験したくなったからだけど?』

 

『だ、だからって駄目だよッ!?ウィリアム君だって頼まれても絶対やらないから!!』

 

『?どうして?』

 

『恥ずかしい事だからよ!!』

 

『?それなら上書きすれば大丈夫だと思う』

 

『上書き!?それって、キキキ……』

 

『ん。キスする』

 

『キスしても絶対に仕返しはしないよ!!』

 

『そうなの?なら、仕返ししてくれるまで上書きする』

 

『それってつまり、何度も……!?』

 

『あわ、あわ、あわ……』

 

 

リィエルの言葉に、システィーナとルミアは再び思考停止に陥るも―――

 

 

『『…………は!?』』

 

 

直ぐに我に返り、再びリィエルの説得に取りかかる。

 

 

『と、兎に角、仕返しを求めるなんて駄目よ、リィエルッ!!』

 

『それにウィリアム君だって、何度上書きしても仕返しはしてこないよッ!!』

 

『?なんで?』

 

『あれはキス以上に恥ずかしい事だからだよッ!!』

 

『それに、ウィリアムが仕返ししていた時はお酒を飲んで酔っていたでしょッ!?』

 

『うん!ウィリアム君はお酒のせいでああなっただけだから、普通はあんな事しないよ!!』

 

 

システィーナとルミアは鬼気迫る表情で必死に説得を続ける。リィエルは暫し難しい顔をして……

 

 

『……わかった』

 

 

了承と取れる言葉を返した。その言葉を聞いたシスティーナとルミアは安心した表情で安堵の息を吐いた。

 

 

「……完全に聞いてはいけない内容でしたね」

 

 

盗聴した会話とシスティーナとルミアの反応から仕返しの意味を理解したクリストフは物凄く気まずそうな表情をする。対してバーナードは―――

 

 

「……殺す、殺す、殺す、殺す、コロス……」

 

 

嫉妬と憎悪で目が据わっており、呪詛の言葉を吐き続けていた。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――時間が経過し、お風呂から上がったリィエルがウィリアムの部屋に入って早々、とんでもない事を言い出した。

 

 

『ウィル』

 

『ん?どうしたリィエル』

 

『あの時した仕返しを、またわたしにして欲しい』

 

『……………………は?』

 

 

リィエルの言葉が理解出来ず、長い沈黙から抜けた声を洩らすウィリアム。

そこから圧倒的な静寂が訪れる。そして―――

 

『いきなり何を言い出すんだ!?あれは絶対にしないぞ!?』

 

『……』

 

 

言葉の意味を漸く理解したウィリアムは泡を食った顔でそのお願いを全力で断った。

そんなウィリアムに、リィエルは手に持っていた小瓶を口に付け、その中身を口内に含み―――

ウィリアムの顔を両手でホールドし―――

おもいっきり、接吻した。

 

 

『―――ッ!?――――――ッ!!!!!!!』

 

 

濃厚に唇を重ね合わせられたウィリアムは、最初はまたかッ!?といった感じの表情だったが、直ぐに焦りの表情へと変わり、本気でリィエルを引き剥がそうと暴れ始める。

だが、リィエルの方が力が強い上、身体強化の呪文も接吻のせいで唱えられない為、引き剥がす事が出来ずにいた。

それでも、ウィリアムは抵抗を続けていたが、次第に弱まっていき、最後は微動だにしなくなった。

 

 

『……』

 

 

接吻を終えたウィリアムは、妙におぼつかない足取りで引き出しの方へと向かい、その中から魔晶石を四つ取り出し、部屋の四方に配置した。

 

 

「あれは……音声遮断結界ですね。これでは盗聴できないですね」

 

「一体何のつもりじゃ?ウィル坊のやつ」

 

 

突然の行動にバーナードとクリストフは訝しむも、ひとまず読唇術でウィリアムの声を拾う事にする。

 

 

『こりぇで、おちょがそちょにもりぇにゃいにゃ』

 

「「……ん?」」

 

 

読唇術で読み取ったウィリアムの言葉が明らかにおかしい。バーナードとクリストフは嫌な予感を覚えながら読唇術でウィリアムの言葉を読み取っていく。

 

 

『おにょじょみぢょうり、おりぇにおちゃけをにょまちぇたおみゃえに、しきゃえししちぇやりゅ』

 

「おちゃけって……ひょっとしてお酒ですか!?」

 

「まさか、リィエルちゃんが口に入れた小瓶の中身は……ッ!?」

 

 

そう、リィエルがウィリアムに口移しで飲ませたのはお酒だったのだ。

リィエルはお風呂から上がってすぐ、お酒の保管場所へと向かい、適当に選んだお酒を小瓶に入れて持ってきていたのである。

こうまでして仕返しされたいリィエルに、バーナードとクリストフは本当に何とも言えない気分となる。

 

 

「……取り敢えず、どうしますかバーナードさん?」

 

「……監視を続ける。プロの軍人は如何なる状況でも任務を全うすべきじゃからの」

 

「……そうですか。申し訳ありませんが、これ以上は無理です。流石に刺激が強すぎますから」

 

「心配するなクリ坊。儂がきっちり続けるわい」

 

「はい……」

 

 

申し訳なさそうにするクリストフに、バーナードは監視を続けたまま労う。だが、バーナードの目は完全に憎悪に染まっている。

監視されていると知らず完全に酔っているウィリアムは、明らかに期待の眼差しをしているリィエルの背後へと陣取り―――

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

調査報告

 

《戦車》が《詐欺師》に懐柔されている可能性は低く、《戦車》が色仕掛けで懐柔に動いている可能性がある。

むしろ、《詐欺師》が《戦車》に振り回されているという事実が判明し、危険性は低いと判断する。

後、《詐欺師》は酒に著しく弱いことも判明した。

 

以上

――――――――――――――――――――――――

 

――――――――――――――――――――――――

追記

 

リィエルちゃんに酒を口移しで飲まされて見事に酔ったウィル坊は、部屋に音声遮断結界を張ってから行為に走った。

音声遮断結界を張った後、ウィル坊はベッドの上でリィエルちゃんの手を黒魔【マジック・ロープ】を使って後ろに縛りあげおった。理由はお仕置きも兼ねてじゃそうじゃ。

リィエルちゃんを拘束したウィル坊は背後からリィエルちゃんの寝間着をずり下ろした後、胸を揉み上げ、ディープキスをしながら●●を弄くりおった。

身体を撫で回し、尻も揉み、耳も強めに噛み、太股も付け根近くで擦り、顔を舐めたウィル坊はリィエルちゃんの●●に●を●●●●、擦って●●●●●●わ。

●●●●後もウィル坊は手を緩めず、●●●●●●覆い被さる体勢へと変わり、ウィル坊はそのままリィエルちゃんの●●を●●し、●を●●●の●に●●●●●。

そのまま●●●●を●●●、同時に身体を●●、●●を●●●して悶えさせ、最後は●●●●●●を●●●●●●●●リィエルちゃんを再び●●させよった。

そこでウィル坊は酔い潰れて眠りにつきおった……幸いかどうか不明じゃが、その拍子で●●●に●●●●●●●●は●●●●●からそのままにはならんかった。

翌朝、目を覚ましたウィル坊は盛大に床をのたうち回っておったが……ウィル坊はいつか殺す、絶対に。

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「……」

 

 

アルベルトは無言で、バーナードが書いた二枚目の報告書を燃やし、別の意味でリィエルを心配するのであった。

 

 

 




····もう一度言う····後悔は、ない!!!!!!
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第十三章・選抜試験と未来の空
百三十八話


ネットの試し読みで彼女の登場が確定し、修羅場がかけるようになった(ニヤニヤ)
思いついた妄想表紙は互いの剣を交差させて肩を合わせるリィエルとエルザ。
てな訳でどうぞ


魔術祭典。

かつて北セルフォード大陸の諸国間で行われていた、参加各国から魔術師十名で構成された代表選手団でいくつかの魔術的試練に挑むという、世界的な競技大会。

この恒久なる平穏と安寧を願う“平和の祭典”は、アルザーノ帝国と聖レザリア王国が冷戦状態となってから、何十年も開催されていなかった。

だが、両国の関係改善のため、水面下で尽力していたアリシア七世女王陛下によって、この祭典の復活と同時に首脳会談も行われることとなった。

なぜその話をしているのかと言うと―――

 

 

「―――というわけで、俺は代表選抜試験の監督員を務めることになった。本当にだりぃ……」

 

 

グレンが本当に面倒くさそうに魔術祭典の説明をしているからである。

誰もが魔術祭典の開催に沸き立つ中……

 

 

「悪いが俺はパスだ。正直面倒くせぇし……応援等はしてやるが」

 

 

ウィリアムは平常運転であった。

 

 

「お前も相変わらずだな……もっとも、お前は諸事情でメンバーに選ばれていないようだがな」

 

「そうかい、安心した」

 

 

グレンのその言葉に、ウィリアムは肩を竦めて受け取る。

ウィリアムは今でこそ学院に通う生徒だが、元は宮廷魔導士団に目を付けられていた犯罪者なのだ。加えて『魔術師』としても異色であり、保有する『戦力』としても明かしたくないのだろう。

リィエルは現役の軍人。ルミアも元・王族の異能者という、国の根本を大きく揺るがす存在であるために、選抜候補には選ばれないだろう。

もっとも、リィエルはそうなっても特に気にしないだろう。ルミアもそれを受け入れ、グレンのサポートに回って活動するだろうが。

 

 

「ま、これで安心して楽できるから万々歳だな」

 

 

今話した理由も事実だが、もう一つ理由がある。

その理由は、何かあった時の為にすぐに動けるように自由(フリー)になっておきたいというものだ。

実際、度重なる騒動から新しい魔導器も目下開発中であり、何かが起きた時に備えておきたいのだ。

それに、先日の件で少し気になることがある。

 

 

(リィエルの霊魂……『パラ・オリジンエーテル』の解析に本当にああする必要があったのか、少し疑問なんだよな)

 

 

先日の蒼天十字団(ヘヴンス・クロイツ)での一件。ウィリアムは改めて情報を整理した際、そんな疑問が生じたのだ。

聖リリィ魔術女学院の前学院長であり、元・蒼天十字団(ヘヴンス・クロイツ)の研究員であったマリアンヌが実行しようとしたリィエルの誘拐。おそらく天の智慧研究会との取引で、『フェジテ最悪の三日間』が起きることを事前に把握していたからこそ、先に回収しようとしていたのは理解できる。

だが、そうなればリィエルがエーテル乖離症で倒れてからマレスに運べば、発覚のリスクがあまりにも高い。イリアの世界支配の幻術でリィエルの存在を誤魔化そうにも、術者本人でさえ欺くほど強力だからその方法は使えない。

そもそも、リィエルの霊域図版(セフィラ・マップ)と霊的結合が緩んだ『パラ・オリジンエーテル』。この二つがあれば、十分なデータが取れるのではないか?そんな疑問が浮かんだのだ。

だが、それを確かめようにもサイラス達は何者かに暗殺され、イリアは忽然と姿を消して消息不明となっており、確かめる術は失われてしまっている。

 

 

(一応、この事はグレンとイヴの先公に話して頭には入れてもらってはいるが……それ以上はリィエルの秘密に触れるから出来ねぇんだよな……)

 

 

これ以上、この件を進めることは出来ないだろう。それより、ある意味小さく、ある意味大きい、非常に頭を悩ませている事案がある。

魔術祭典の代表選手はアルザーノ帝国魔術学院だけでなく、クライトス魔術学院、聖リリィ魔術女学院からも選ばれ、その代表選抜試験はここ、アルザーノ帝国魔術学院で行われる。

つまり……

 

 

(絶対来るよなぁ……エルザも……)

 

 

聖リリィ魔術女学院への短期留学で再会し、また再会することを約束した少女、エルザ=ヴィーリフもここに来る可能性は濃厚、いや、間違いなく代表選抜候補者としてこの学院に来るだろう。

こちら側の話もスノリアで再会したフランシーヌ達から聞いているだろうから……

 

 

(まず間違いなく……荒れる……ッ!!)

 

 

リィエルがフランシーヌ達に暴露した同居生活、端から見れば旅行デートのスノリア。無論、それだけではなく、リィエルとの痴情、オーヴァイとの交流、チャールズが撮った写真、そして……()()。修羅場を生み出す起爆剤がそこら中にあるのだ。特に最初と最後の二つはトップクラスだ。

さすがに再会早々、荒れはしないとは思うが、いつ【メギドの火】の如く爆発するかわからない。そんな爆弾の存在に、ウィリアムは机に突っ伏して頭を抱える。その様子を―――

 

 

「?どうしたのウィル?」

 

『?おとーさん?』

 

 

隣に座っているリィエルと、リィエルの膝の上に座って抱えられている三歳くらいの青髪銀眼の幼女―――妖精が不思議そうに見つめていた。

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

―――時は昨日に遡る。

その日は授業が全て終わり、夕暮れが綺麗な放課後となっていた。

 

 

「そんじゃあ、帰るか」

 

「ん」

 

 

いつも通り、ウィリアムはシスティーナ、ルミア、リィエルと共に帰路につこうとした―――その時。

 

ドゴォオオオオオオオオオオオンッ!!!

 

凄まじい爆発音が学院中に響き渡った。

 

 

「「「「…………」」」」

 

「な、何なのですの!?」

 

「また何か起きたのか!?」

 

 

沈黙の後、困惑の声が教室内に響き渡る。

 

 

「…………」

 

 

この爆発にデジャウを感じたウィリアムはつい、リィエルの手に触れるのだが……

 

 

「……?」

 

「……何も起きないな」

 

 

何の変化も起きず、手を握られたリィエルは首を傾げ、ウィリアムは少し残念そうに呟いた。

 

 

「急にどうしたのよウィリアム?リィエルの手を握って?」

 

「……あー、あの爆発音聞いて、ひょっとしたらあの子に会えるかなぁー……と」

 

「……あー」

 

 

リィエルの手を放しながらのウィリアムの説明に、システィーナは納得して微妙な声を出す。

先日のオーウェルの発明と、授業が終わってすぐ、チャールズが教室を脱兎の如く後にしたからその可能性は濃厚であったが、何も起きていないので違うのだろう。

 

 

「……取り敢えず、どうしようか?」

 

「ここで待機するしかないよな。可能性は低いが、万が一の場合もある」

 

「そうよね……はぁ」

 

 

ルミアの質問にウィリアムが答え、システィーナが溜め息混じりに同意する。何もなければ、音声拡張魔術で学院中に伝えるだろう。そう考えた矢先―――

 

 

『びぃああああああああああんっ!!』

 

 

廊下から幼い女の子の泣き声が響き渡った。少しして教室の扉から飛翔する何かが飛び出し、そのままウィリアムに体当たりする。

 

 

「ええっ!?」

 

「……ッ!」

 

「嘘ッ!?」

 

「な……ッ!?」

 

 

その体当たりした何かを視界に収めたウィリアム達は驚きに目を見開く。何故なら、その体当たりしてきたものの正体は―――

 

 

『グスッ、グズッ……だずげで、おどうざぁ~ん!!』

 

 

背中に霊的な小さな羽を生やし、グショグショに泣いている青髪銀眼の幼女―――あの時の妖精だった。

 

 

 




……色々と大丈夫かな?
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百三十九話

思いついた幕間の表紙。

一.買い物袋を抱えて一緒に歩く私服姿のウィリアムとリィエル。
二.一緒に寝ているウィリアムとリィエル。場面は早朝。
三.子犬と狼と一緒に互いに睨み合うリィエルとオーヴァイ。
四.魔導器を顔に押し付けて監視するバーナードと、苦笑いしながら同じく監視しているクリストフ。

てな訳でどうぞ


『だずげで、おどうざぁ~ん!!ごわい人達がおいがげでぐるのぉ~……!』

 

「怖い人達?」

 

 

妖精の震えながらの言葉に、ウィリアムを含めた一同が首を傾げていると、教室の扉からグレンが入って来る。

 

 

「お前ら、無事かッ!?…………え?」

 

 

グレンは焦った表情で教室を見回すも、教室中の懐疑的な冷めた視線と、ウィリアムに顔を埋めて泣いている妖精の存在に戸惑いを見せ始める。

 

 

「先公……まさかとは思うが……」

 

「……グレンがこの子を泣かせたの?」

 

「え!?いや、マジで違うから!何かが横切って、その何かが教室の方向に向かってたから、それを追いかけただけだから!!だからその物騒なものをしまって下さい!!」

 

 

ウィリアムとリィエルがお得意の錬金術を使い、小銃(ライフル)と大剣を錬成してそれぞれの手に構えたのを見て、グレンは事態が呑み込めないながら慌てて取り繕う。

 

 

「……本当か?」

 

「……本当に?」

 

「本当です!!お願いですから信じて下さい!!」

 

 

懐疑的な視線を向けて小銃(ライフル)の銃口を向けるウィリアムと、どこか据わった目のリィエルが大剣を構えてにじり寄ってくる姿に、グレンは恐れをなして固有魔術(オリジナル)(笑)【ムーンサルト・ジャンピング土下座】を起動する。

身を捻りながら天井高く跳躍からの、月面宙返りからの両手両膝額五点着地。

そんなグレンの姿を見ても、親バカと言ってもいい状態のウィリアムとリィエルは止まらない。ウィリアムは引き金にかかる指に力を入れ始め、リィエルはがしゃり、と大剣を深く低く構えていく。

 

 

『グスッ……おとーさん、おかーさん。怖い人はあのおにーちゃんじゃないの……』

 

 

だが、グレンをチラ見した妖精がそれを止めた。

 

 

「……そうなのか?」

 

「……そうなの?」

 

『ん……』

 

「そうか……悪かったな先公」

 

「ん……グレン、ごめん」

 

「お、おう……わかってくれればいいんだよ……」

 

 

ウィリアムとリィエルが謝ると同時に構えを解き、小銃(ライフル)と大剣を霧散させたのを見て、グレンは土下座したまま安堵の息を吐く。

その直後であった。

 

 

「フハハハハハッ!!やっと追い付いたぞ!!」

 

「ああ!!怯えて泣く幼女の姿は極上の主食!!まさに天の食材ッ!!エクスタシィイイイイイイイイ―――ッ!!!」

 

「やっと写真に収められるで……ッ!!」

 

 

そんな声と共に教室の扉から入って来たのは、ツェスト男爵、チャールズ、オーウェル……学院で最早有名となった変態三人衆だ。

 

 

『ひうっ!?』

 

 

変態三人衆の顔を見た妖精は、怯えてウィリアムに更にしがみつく。その様子を見たウィリアムは鋭い目付きで変態三人衆に問い質した。

 

 

「……これはあんた達の仕業か?」

 

「その通り!実は、協力して改良した筈の召喚装置が起動した途端、爆発して壊れてな……」

 

「で、その爆発した装置の中心に、その子が座っておったんよ」

 

「それで、その子を保護しようと囲ったのだが、見事に泣きながら逃げ出してしまってね……だから追いかけて来たのだよ……ムフフ」

 

「このような事態はこの天才でも予測不能だったのでな!だから原因を解明する必要があるのだよ、フハハハハハハハッ!!」

 

 

ウィリアムのどこか迫力を感じされる声色の質問に、変態三人衆はそれに全く気づかずに答える。

 

 

『グズッ……ヒック……おどぅざぁ~ん。あ゛のひどだち、ごわいよぉ~……グスッ』

 

 

妖精は余程怖いのか、ぐずぐずとウィリアムの胸元に顔を埋めて再び泣き出してしまう。

 

 

「怖くないよぉ?大丈夫だからおじちゃんに……」

 

「大丈夫やで~?ただ写真を撮らせてもらうだけやから……」

 

「安心したまえ!痛い事は全くしないぞ!!」

 

 

そんな妖精に爛々(らんらん)と瞳を輝かせ、ジリジリと此方へと迫ってくる変態三人衆。そんな三人に―――

 

 

「……リィエル」

 

「……ん。斬る」

 

 

ウィリアムは据わった目で妖精を抱いたまま再錬成した小銃(ライフル)の銃口を向け、自身の周りに両手に鎚矛(メイス)を携えた一対の幾何学的な羽を有する上半身のみの甲冑騎士―――人工精霊(タルパ)騎士の誇り(ナイツ・プライド)・棍兵】と、戦鎚(ウォーハンマー)を携えた一対の幾何学的な羽を有する上半身のみの甲冑騎士―――人工精霊(タルパ)騎士の誇り(ナイツ・プライド)・鎚兵】。そして【招雷霊(ヴォルト)(フェイク)】に【騎士の腕(ナイツ・アーム)】等の人工精霊(タルパ)固有魔術(オリジナル)【詐欺師の工房】で多数具現召喚し、リィエルも迫力を感じる無表情で再錬成した大剣を振り上げる。そして―――

 

 

「「「ぎゃあああああああああああ―――ッ!?」」」

 

 

学院中に、変態三人衆の断末魔の叫びが響き渡った。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

変態三人衆をコテンパンにして医務室のベッド送りにした後、ウィリアム達は療養中のセリカを急遽呼び出し、今後の事も考えた結果、学院長室で妖精の状態を確認していた。

 

 

「ふむ……私が調べた限りでは、この子は存在が定着しているな。加えて、契約者の設定が出来ない」

 

「つまり……」

 

「ああ、この子は誰にも制御されない特異な妖精として召喚されてしまったんだ」

 

 

魔術的に解析し終えたセリカの説明に、ウィリアム達(約二名を除いて)は複雑な表情となる。

妖精や精霊といった存在は、霊脈(レイライン)やマナバランス等の影響で狂化し、狂霊という仇なす存在となってしまう可能性がある。

その狂化を防ぐ意味でも契約者設定は必要なのだが、この妖精はそれができないのだ。

 

 

「おいおい、そんな湿気た面をするなよ?制御できないとは言ったが、狂化するとは一言も言っていないぞ?」

 

「「「「は?」」」」

 

「ほお?」

 

「オーウェルの壊れたあの装置も調べてみたが、どうやら狂化しないように設定されていてな。その設定をこの妖精は見事に受けているんだ。だから、この子を討伐する……なんていう展開にはならないさ」

 

 

セリカのその言葉を受け、一同は安堵の息を吐く。

 

 

『ぐすっ……』

 

「よしよし……」

 

「本当にお二人にそっくりですねー」

 

 

余程変態三人衆が怖かったのか、妖精は未だリィエルの胸に顔を埋めて泣いており、リィエルも抱きしめて頭を撫でてあやしている。そして、いつの間にかいたオーヴァイが妖精の様子を窺っている。

 

 

「キャラメル食べますか?甘くて美味しいですよー」

 

『きゃらめる?』

 

「ハイ。リィエル先輩も一緒にどうです?」

 

「……ん。食べる」

 

 

オーヴァイもリィエルと一緒に妖精をあやしてくれているので、ウィリアムはリック学院長にあることをお願いをする。

 

 

「あの、学院長……少しお願いしたい事が……」

 

「その子について……じゃろ?」

 

「はい……。正直、この子を一人にするわけにはいかないので……それで、良ければ学院に連れてきていいでしょうか?」

 

「構わんよ。事情が事情じゃし、その子は仮にも妖精じゃから然程文句も出てこんじゃろう」

 

「ありがとうございます、学院長」

 

 

ウィリアムは深々と快く承諾してくれたリックに頭を下げてお礼を言った。

 

 

『おかーさん。キャラメル美味しい!』

 

「ん、美味しい。けど、苺タルトの方が美味しい」

 

『いちごたると?』

 

「君のお母さんの大好きな食べ物ですよー」

 

『おかーさんの大好きな食べ物……食べたい!』

 

「お父さん達と帰ったら食べられますよ、ええと……」

 

 

オーヴァイは急に悩ましげな顔となり、ウィリアムの方へと顔を向ける。

 

 

「ウィリアム先輩。この子のお名前は何ですか?」

 

「……あー、そういえば知らなかったなぁ……」

 

「確かにこの子の名前を知らないわね……」

 

「ねぇ、お名前はなんていうのかな」

 

 

ルミアが代表して、微笑みながら妖精に名前を尋ねるも―――

 

 

『名前?……名前って、何?』

 

 

妖精は首を傾げて逆に聞いてきていた。

 

 

「うーん……この様子からして名前がないのかも……」

 

「名前がないと色々不便よね」

 

「ウィリアム。仮にも父親のお前が決めたらどうだ?」

 

「マジかよ……ええと……」

 

 

ウィリアムは呆れた口調ながらも、思案顔となって妖精の名前を考えていく。

少しして、思い付いたのか、ウィリアムは口を開く。

 

 

「……エル、でどうだ?」

 

「……それ、絶対リィエルからとっただろ……」

 

「ネーミングに関しては先生に言う資格はないですよ」

 

「あはは……でも、いい名前だと思いますよ?」

 

「名前付けの定番ですから良いと思いますよー」

 

「……ん。エル……悪くない」

 

 

何とも微妙ながらも決して悪くない名前に、グレン達は賛同の意を示す。

 

 

『エル……それが名前?』

 

「ああ。嫌か?」

 

『……エル……ん!エルはエル!』

 

 

妖精―――エルは満面の笑みで名前を受け取った。

こうして、名前も無事に決まり、暖かい雰囲気が辺りに暫し漂った。

 

 

 




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百四十話

外堀が確実に埋まっていくなぁ……
てな訳でどうぞ


そんなわけで。

学院の珍事も一先ず解決し、エルを連れて帰ったフィーベル邸にて。

 

 

「おかえりなさい……あら?」

 

「おかえりぃいいいいいいいいい―――ッ!!我が愛しの娘達よぉおおおおおおぉぉぉ……?」

 

 

玄関口広場(エントランスホール)で娘達を出迎えたフィリアナとレナードは案の定、ウィリアムに抱きかかえられたエルを見て、見事に固まった。

 

 

「「…………」」

 

『おとーさん、この人たちは?』

 

 

エルはウィリアムを見上げて、レナードとフィリアナのことを聞く。

ここで、凍結していたレナードの完璧ではあるが、娘のこととなると残念となる思考が、暴走回転し始めていく。

 

1.愛しの娘達をたぶらかす悪魔(ウィリアム)をおとーさんと呼ぶ謎の幼女。

2.淡青色の髪、眠たげな瞳、顔立ち……もうリィエルそっくり。

3.その幼女の瞳の色は銀色と、悪魔(ウィリアム)の特徴も持っている。

4.そして、悪魔(ウィリアム)とリィエルは毎日一緒に寝ているという事実。

5.幼女は見た目からして年齢は三歳程だが、そんなことは一切関係ない。

6.娘達が平然としていることから、それなりの日数が経過している筈。

7.幼女は娘達に負けず劣らず可愛いが、今は関係ない。

8.妊娠?出産?日数?現実?全く関係ない。

 

以上の点から、導き出される結論は……

 

 

「この、大悪魔めぇええええええええええ―――ッ!?学生でありながら子供を作るとは!?許さんッ!!絶対に許さんぞッ!!今すぐ成敗―――」

 

 

コキャ。カクン。

 

ここも案の定、レナードは暴走し、鬼気迫る凄まじい形相でウィリアムに詰め寄ろうとするも、それよりも圧倒的に早くフィリアナに絞め落とされ、沈黙することとなった。

 

 

「全くしょうがない人ね。……ウィリアムくん、ちゃんと説明して頂戴ね?」

 

 

レナードを絞め落としたフィリアナはニコニコと笑って、優しげに説明を求める。

 

 

「はい。勿論です」

 

 

当然、ウィリアムは素直に頷いた。

 

 

「もちろん、二人の()()()()初夜はいつだったのかもね」

 

「違いますから!!」

 

 

冷静に勘違いしていたフィリアナの言葉を、ウィリアムはすぐに否定した。

 

 

『……?』

 

 

その光景を前に、レナードに気圧され少し涙目だったエルは不思議そうに小首を傾げ……

 

 

「やっぱり、こうなるわよね……」

 

「あはは……」

 

 

両親の予想通りの反応に、システィーナは頭を押さえ、ルミアは曖昧に笑い……

 

 

「……初夜って、何?美味しいの?」

 

「リィエル。貴女はまだ知らなくていいことよ」

 

「うん……リィエルにはまだちょっと早いかなぁ……?」

 

「……?」

 

 

いまいち状況を理解していないリィエルは、エルと同じく不思議そうに小首を傾げるのであった。

フィリアナの、システィーナの部屋を掃除した際、()()記録帳を読んだという事実に誰も気づかないまま……

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――談話室(ラウンジ)にて。

 

 

「―――と、いうわけです」

 

「あらあら、そういうことだったのね。てっきり、二人の愛の―――」

 

「違いますから」

 

 

フィリアナの言葉を遮って、説明し終えたウィリアムは否定する。

 

 

「…………」

 

 

あの後、復活し、フィリアナと一緒に話を聞き終えたレナードは難しい表情でウィリアムを睨み付けていた。その理由は―――

 

 

『おじちゃん……おとーさんのこと、キライなの?』

 

 

ウィリアムとリィエルに挟まってソファーに座っている、システィーナの幼少期のお古の服に着替えたエルが泣き出しそうな顔でレナードを見つめているからだ。

 

 

「……フィリアナ。私はどうすればいいのだ?私はこいつを認めたくない。だが、この子を泣かせたくもない。一体どうすれば……ッ!?」

 

 

レナードは頭を抱えて悩んでいく。そんなレナードを他所にフィリアナは話を進めていく。

 

 

「それで、その子……エルちゃんをどうするのかしら?」

 

「もちろん育てますよ。諸事情から学院に連れて来ることも学院長から許可を頂いていますし、一人にはさせませんよ」

 

「それを聞いて安心したわ」

 

 

相変わらずにこやかな笑みを浮かべるフィリアナ。

 

 

「ふふ。でも、この年で私達、お祖母ちゃんとお祖父ちゃんになっちゃったわね」

 

「……あー、そうなりますね」

 

 

エルは確かに娘のような存在だ。リィエルも娘として受け入れているレナードとフィリアナからすれば、エルは孫にあたるだろう。

 

 

「私がお祖父ちゃんだと!?確かにこの子のお祖父ちゃんになるのは大歓迎だが、この悪魔を認める等……ッ!」

 

『おじーちゃん……やっぱり、おとーさんのこと、キライなの?』

 

「そんなわけないじゃないか」

 

 

エルが泣きそうな声に、レナードは百八十度変わってにこやかな笑みをエルに向けて否定した。……同時に手話で「お前を認めてはいないからな!あくまでこの子の為だ!!」とウィリアムに向かって表現していたが。

こうして、レナードとフィリアナも快くエルを迎え入れ、一同は談話室(ラウンジ)から移動し、食堂で団欒の時を過ごす。

テーブルの配置はウィリアム、エル、リィエル。向かいにはレナード、システィーナ、ルミア、フィリアナという家族で構成された配置だ。テーブルにはローストビーフ、魚のパイ、サラダ、スープ等、色とりどりの料理が並んでいる。

 

 

『美味しい!』

 

「ふふっ、腕によりをかけた甲斐があったわ」

 

 

最初は見よう見まねで出された料理を口に運んだエルは、今は満面の笑みで料理を食べていっており、フィリアナもニコニコと笑って見守っている。

 

 

「はは、口の周りが汚れてるぞ?」

 

「わたしが拭き取る」

 

『ん……』

 

 

リィエルがハンカチでエルの口の周りについたカスを拭き取っていく。

 

 

『おとーさん、この魚のパイをとって?』

 

「はいはい」

 

 

ウィリアムそう言って魚のパイを銀の皿によそい、エルが食べられるくらいの大きさにナイフでカットしてエルの前に出す。

 

 

「ふふっ、懐かしいわね。昔はああやってシスティに食べさせていたわね」

 

「……そうだな」

 

 

フィリアナは楽しそうに笑いながらウィリアム達を見つめ、レナードは不貞腐れたように視線を正面から外す。……チラチラと娘と孫を見てはいるが。

 

 

「リィエルがどんどん遠くに行ってるわね……」

 

「あはは……そうだね」

 

 

フィリアナとレナードに挟まれて食事しているシスティーナとルミアは、本当に複雑そうに目の前の“親子”の光景を眺めながら料理を口に運んでいた。

 

その後、夜の寝室でも。

 

 

『おとーさん、おかーさん……ぎゅっして?』

 

「はいはい」

 

「ん」

 

 

その日は当然のごとく、ウィリアム、リィエル、エルの三人で一緒に眠りについた。

明日からは混乱を避けるために認識阻害の魔術等を使って登校しなければならないが、エルの幸せそうな寝顔の前には些細な苦労となる。

この新しい変化を、ウィリアムは穏やかな気分で受け入れた。

 

 

―――この穏やかな変化は翌日、炸炎黒石を優に越える爆弾に変化するなど、この時のウィリアムは思いもしなかった。

 

 

 




「……ふふふ」

「きゅ、急にどうしたのかしら?全身から汗が……」

「綺麗な夜空なのに、雷や風の音、謎の咆哮が……」

「やべぇ!?エルザがまた荒れているぞ!?」

「ジニーッ!!早くなんとかしなさい!!」

「だから無理ですって」

通達の前夜に起きた出来事。

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百四十一話

最新刊を読んで章タイトルを変更する素人……それが私だ
てな訳でどうぞ


―――そして、時間は現在へと巻き戻る。

 

 

『おとーさん、頭が痛いの?』

 

「いや、頭が痛いんじゃなく、これからのことで気が重いんだ……」

 

『?』

 

 

頭を抱えたままのウィリアムの力なき言葉に、心配していたエルは小首を傾げる。

 

 

「どうしたんだウィリア充?随分頭を抱えているなぁ?」

 

 

そんなウィリアムにカッシュが嫌な笑みで話しかける。ちなみにリィエルの一番大好き発言以降、『ウィリア充』という不本意極まりないあだ名がすっかり一部の男子生徒達に定着してしまっている。

 

 

「何でもないから気にすんな……」

 

 

馬鹿正直に話せば、カッシュ達が血涙を流して暴れる姿が見えている。当然、ウィリアムはカッシュにも力のない言葉で返して、机へと突っ伏した。

 

 

「本当につれないなぁ……それより、クライトス魔術学院と聖リリィ魔術女学院からどんな子達が来るんだろうな!?」

 

「聖リリィ魔術女学院は女子生徒しかいないから、可愛い子達が来て欲しいな!」

 

「クライトス魔術学院も出来れば女子生徒が多くいたらいいよな!!」

 

「それで、可愛い子達とお近づきになるんだッ!」

 

「そして、罵られたい……ハァハァ……」

 

 

カッシュを筆頭とし、相変わらず興奮して騒ぐ男子生徒達に、多くの女子生徒達は呆れた視線を送っていく。

 

 

「まったく……そのような下品な考えはおよしなさいな。そのような態度で迎えられると、お越しになった皆様のこの学院に対する印象が下がってしまいますわよ?ですから、変態(チャールズ)をナーブレス家の力を使い、祭典が終わるまで監禁致しますわ」

 

「具体的にどこに監禁するのかしら、ウェンディ?」

 

「それは今から探す必要がありますので、まだ決まっていませんわ」

 

「それなら、ちょうど倉庫街に空きがありますのでそこに監禁させればいいんじゃないかしら?監禁用の檻等の必要なものは実家のレイディ商会が用意します……採算度外視で♪」

 

「あら、名案ですわね。流石テレサですわ♪」

 

「それは止めてぇなッ!お願いやから監禁せんといてッ!!」

 

 

ウェンディとテレサの物騒な発言を前に、チャールズはグレンの固有魔術(オリジナル)(笑)【ムーンサルト・ジャンピング土下座】を起動する。

グレンに勝るとも劣らない、身を捻りながら天井高く跳躍してからの、月面宙返りからの両手両膝額五点着地。

実に二組は何時も通りであった。

 

――――――。

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

――――――。

 

 

「―――ウィル」

 

「……んお?」

 

 

肩を揺すられたウィリアムは十日前の記憶から意識を今へと戻し、肩を揺すっていたリィエルに顔を向ける。

 

 

「ぼーっとしてたけど大丈夫?」

 

「あー、大丈夫だ。ちょっと物思いに耽ってただけがからよ……」

 

 

リィエルにそう言いながら、ウィリアムは教卓で寝そべっていたグレンと、ギャンギャン吼えるシスティーナ、そんなシスティーナを諌めるルミア、他のクラスメイト達を見やる。

 

 

「グレン、かわいそう」

 

『グレンおにーちゃん、だいじょーぶ?』

 

 

リィエルがそんなグレンにぼそりと(こぼ)し、リィエルの膝の上に座っている、特注で用意してくれた制服に身を包んだエルも心配げに呟く。ちなみに服装は幼子という事も考慮して、丈長のワンピースに学院のローブを羽織るという仕様だ。

 

 

「にしても、先公の顔色が悪いよなぁ……」

 

 

グレンはこの十日間、これから一週間は大忙しだから精神的に気が重いのだろう。……寝ていたにしては顔色が悪いが。

 

 

「まぁ、取り敢えず頑張れ、グレンの先公。後、候補に選ばれたシスティーナにギイブル、ウェンディにカッシュも」

 

 

代表選抜戦は各魔術学院から二十名ずつ選んだ、計六十名の代表選手候補で行われ、その中から代表が十名選ばれる。

その代表選手候補にシスティーナとギイブルにウェンディ、カッシュは繰り上がりで候補入りしている。リィエルとルミアは予想通りの理由で候補から外されていた。

ついでにオーヴァイは病弱を理由に選考から外されており、その事実にオーヴァイがウィリアムに慰めて欲しいと泣きついてきたのは記憶に新しい。

 

 

『わたしも慰める』

 

『オーヴァイおねーちゃん、よしよし』

 

 

……リィエルとエルもオーヴァイを一緒に慰めるという珍事も起きたが。

それは兎も角。

魔術祭典はその選ばれた十名の内、最も優れた魔術師がメイン・ウィザードとなって競技に挑み、残りの九人はサブ・ウィザードとなりメイン・ウィザードを補佐する。

システィーナはそのメイン・ウィザードになろうと気合いが入っている。理由はルミアがこっそり教えたのだが、システィーナの祖父であるレドルフも学生時代にメイン・ウィザードに選ばれたようで、そんな祖父に少しでも追い付きたいという当たり前な理由であった。

 

カン、カン、カン……

 

 

『後小一時間ほどで、予定通り各学院の代表選手候補団が到着します。学院総出で―――……』

 

 

魔術による拡声音響のアナウンスの通達が響き渡り、通達を受けた生徒達が代表選手候補団を出迎える為に前庭移動を始めていく。

ウィリアムも面倒くさいと思いつつ、移動するが―――

 

 

「…………」

 

(……先公?)

 

 

どこか陰りがある表情のグレンに、ウィリアムは一抹の不安を覚えた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

代表選手候補団が到着し、出迎えた生徒達の多くが事務的な拍手を送る中……

 

 

「やっぱり、聖リリィの子達、滅茶苦茶可愛いな!?」

 

「ああ、そうだな!カッシュ!」

 

「くぅ~~っ!何としてもお近づきになりたいぜ!」

 

 

パシャ!パシャ!パシャ!パシャ!

 

 

「クライトス校の男子生徒達、皆イケメン!」

 

「特に先頭を歩くレヴィン=クライトス様が超☆素敵ぃ~~ッ!!」

 

 

……二組だけは何時も通りであった。

その後、学生会館の大広間で顔合わせの交流歓迎会が開かれ、総勢二百名近い大規模な歓迎会となり……

 

 

「―――四人の代表選手候補入りを祝してぇ~~、乾杯ぃ~~っ!」

 

「「「「乾杯ぃ~~っ!」」」」

 

 

交流歓迎会会場の一角のすえられたテーブルで代表選手候補に選ばれた四人と、くじ引きで参加を引き当てた二組の面々が集まっていた。

皆が皆、和気藹々と話し、明日からの試験に静かな闘志を燃やしている中―――

 

 

(マジでどうしたんだ?グレンの先公……)

 

 

ウィリアムはどこか苦虫を噛み潰したように食事しているグレンに違和感を感じていた。普段のグレンならここぞとばかりに食べ漁っていくのに、今のグレンはもどかしい気分で食事しているかのようだ。

そんな中―――

 

 

「「せ、ん、せぇ~~~~ッ!!」」

 

 

代表選手候補入りしていたフランシーヌとコレットの二人が甘い声と共にグレンに飛び付き、他の聖リリィの生徒達も津波のごとくグレンに突撃していく。

本当に相変わらずだなー……と、ウィリアムが思っていると、亜麻色の髪に眼鏡、左腕に腕輪を着けた少女が近寄って来る。

 

 

「エルザ。お前もやっぱり来てたんだな」

 

 

ウィリアムはその近寄って来た少女―――エルザに声をかけた。

 

 

「はい……お久しぶりです、ウィルさん」

 

 

亜麻色の髪を少し伸ばしたエルザは頬を染め、潤む目でウィリアムを見つめる。その姿は、完全に恋する乙女である。

 

 

「お前もシスティーナ達のように候補団に選ばれたのか?」

 

「いえ……私は、その……諸事情で代表候補入りしていませんが……聖リリィの皆さんの世話係とか、そういう役目でついてきたんです。フランシーヌさん達からの提案で」

 

 

その瞬間、フランシーヌ達の冷や汗を流しながら提案する姿が脳裏に浮かび、ウィリアムは何とも言えない気分となる。

 

 

「エルザ……会いたかった」

 

 

そんなウィリアムとエルザの二人に、リィエルが音もなくエルザの隣に回り込んだ。―――エルを抱きかかえた状態で。

 

 

「リィエル!……………………え?」

 

 

リィエルに顔を向けたエルザも、抱きかかえられたエルを見て見事に固まり、グレンに殺到していた聖リリィの生徒達もエルを見て見事に固まった。

 

 

「「「「……………………」」」」

 

『おかーさん。このおねーちゃんは?』

 

 

圧倒的な沈黙。その沈黙の中でエルの声が響き渡る。

修羅場発生まで、後、一分。

 

 

 




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百四十二話

原作では百合、こちらは龍と雷……どっちがお好み?
てな訳でどうぞ


会場内を支配した圧倒的な沈黙。それを最初に破ったのはリィエルだった。

 

 

「わたしの友達」

 

『ともだち?システィーナおねーちゃんとルミアおねーちゃんみたいに?』

 

「ん。エルザは、わたしの友達」

 

『おとーさんとも?』

 

「ん」

 

『はじめまして、エルザおねーちゃん!!エルはエルです!!』

 

 

エルの無邪気な笑顔の挨拶に、固まっていた他校の代表選手候補達の真っ当な思考が暴走回転し始めていく。

 

1.リィエルをお母さんと呼ぶ、リィエルに抱きかかえられたエルという名前の幼女。

2.エルの発言からお父さんもいる。

3.エルのその顔はリィエルそっくりだが、瞳の色は銀とウィリアムの特徴をもっている。

 

この三点から、誰もが辿り着く結論は……

 

 

「……ウィルさん。これはどういうことです?いつの間にリィエルと子供を作ったのですか?」

 

 

見事に勘違いしたエルザがにこやかな笑顔で眼鏡をかけたまま、ウィリアムに詰め寄っていた。……圧倒的な存在感と、ここ一帯の空気が氷点下まで鋭く冷え、背後に龍の幻影を出現させて。

 

 

「落ち着けエルザ。この子は妖精で―――」

 

「確かに妖精のように可愛い子ですね」

 

「頼むから最後まで聞いてくれ!?」

 

 

空気が今もなお冷えていき、龍の幻影が雷雲と暴風を纏っていく姿を前に、周りの生徒達は冷や汗を流し、息を呑みながら、そこから一歩ずつ下がっていく。

 

 

「今日もエルザは荒れてるなぁー……」

 

「そ、そうですわね。今日も一段と龍の幻影が凄いですわね」

 

「まぁ、しばらくしたら落ち着くでしょう。触らぬ神に祟りなしですので、今日のエルザさんはウィリアムさんにお任せします。毎回鎮めるのに苦労したので、その苦労を味わってください」

 

 

普段から見慣れている聖リリィ組は、若干冷や汗を流しながらもグレンからは離れずに見守っている。ジニーだけは毒を吐いて何時も通りだが。

 

 

「あ、あれはなんなのですの……?」

 

「幻覚だろう。最近のリィエルやオーヴァイからたまに出てくる、子犬や狼と同類の」

 

「……ウィリア充、そのままくたばれ」

 

「あれがコレット達から聞いた龍の幻影ね……」

 

「うん……恋する乙女はやっぱり凄いんだね……」

 

 

最近のリィエルとオーヴァイが発する幻影に見慣れている二組の面々も、龍の存在に若干呑まれながらも何時も通りであった。……瞳を憎悪に染めたカッシュの後ろから、陽炎のように鼠が揺らめいているが。

 

 

「……エルザ、やっぱりすごく強くなってる」

 

『?』

 

 

そんな状況でもリィエルは何時も通りであり、ずれた感想を告げる。エルは龍の幻影が自身に向いていない事で、怖がらずに不思議そうに小首を傾げる。

 

 

「ふふ、リィエルにはまだまだ敵わないよ。ところで、エルちゃんは生後何ヵ月?」

 

「?たぶん、十一日」

 

「……子供の成長って早いんだね」

 

 

明らかにおかしい日数を聞いても誤解は一向に解けず、エルザに呼応して、背後の龍の幻影が天に向かって大きな咆哮を上げる。

 

 

「な、何だ!?」

 

「雄叫びと共に、凄い轟音が響いたぞ!?」

 

「幻聴まで聞こえてきましたわね……」

 

「だ、大丈夫なのかしら……?」

 

「多分大丈夫でしょ。精神はガリガリと削られるでしょうが」

 

「本当に相変わらずだね、ジニー……」

 

「……()()()、こうなるんだな」

 

 

外野は相変わらず動揺し、遠目で見守る中、一人の猛者が雷が落ち続ける修羅場へと突撃する。

 

 

「本当に凄いですねー。私も混ぜてくださいよー」

 

 

形成された修羅場を前にしたにも関わらず、給士係として歓迎会に参加している、給士服に身を包んだオーヴァイがにこやかにエルザ達に話しかける。

……前言撤回。修羅場に突撃したのは猛者ではなく、更なる起爆剤であった。

 

 

「……すいませんが貴女は?」

 

「アルザーノ帝国魔術学院一年、オーヴァイ=オキタさんです。貴女のお話はウィリアム先輩達から伺っておられます、エルザさん」

 

「そうなんだ……オーヴァイさん、悪いけど邪魔しないでくれるかな?私はウィルさんと大事な話をしているので」

 

「そんなつれない事を言わず、私も仲間に入れて下さいよー。私も()()()()()()

 

「そうなんだ~。……うふふふふ」

 

「あはははは」

 

 

オーヴァイの発言で、同じ恋敵だと理解したエルザは笑みを浮かべ、オーヴァイと互いに笑いあう……背後に極太の稲妻を大量に落とし続ける黒き龍と、幾つもの嵐を吹かせて、龍を睨み付けて唸り声を上げる金色の狼を携えながら。

 

 

「室内なのに、何でこんなに轟音が響いているんだ!?」

 

「それに空気もどこか冷たいし……」

 

「今日のエルザ、今までで一番荒れてるなぁ……」

 

「完全に絵に書いたような展開だね……」

 

「まさに恋の三角関係……いえ、恋の三角錐関係ですわ!!」

 

「そのままリィエルちゃん達に後ろから刺されろ、ウィリア充」

 

「本当に見ているだけで胃が痛てぇ……部外者なのにな……」

 

 

外野は蚊帳の外で言いたい放題だ。

 

 

「そういえばオーヴァイさん。何時からですか?」

 

「秋休み中です。エルザさんは?」

 

「私は短期留学中ですね」

 

「なるほど。では、スキンシップのレベルは?」

 

「……頬に口付けをしました」

 

「すごいですねー。私はまだハグとベッドインしか出来ていないんですよー。リィエル先輩はBまで行っちゃってますが」

 

「B?Cの間違いじゃないかな?エルちゃんがいるんだし」

 

「エルちゃんは十一日前に、この学院の変態教授達が開発した装置で召喚された妖精なんですよ。ですからそこまで行っていないんですよ」

 

「そうだったんだー……その装置は今どうなっています?」

 

 

エルに関しての誤解は解けたようだが、修羅場は収まる気配は微塵もなく、逆にどんどん大きくなっていく。

 

 

「残念ながらその日に壊れてしまったんですよー。おかげで私とウィリアム先輩の妖精は誕生していないんですよ」

 

「本当に残念だなぁ……健在だったら私とウィルさんの妖精が見れたのに……ちなみにBの経緯は?」

 

「ウィリアム先輩が酔っぱらったからです。ウィリアム先輩はお酒に滅法弱いようでして。赤ワイン一杯だけで酔いつぶれるくらいに」

 

「そうなんだぁ~……リィエル、ウィルさんに愛でられてどうだった?」

 

「?よくわかんないけど仕返しのこと?それならすごく気持ちよかった。この前のお仕置きも兼ねた仕返しも含めて」

 

 

エルザの質問にリィエルが小首を傾げながらも答えた瞬間、周りの空気が絶対零度に達した。

 

 

「ちょっ、リィエル!?それは他言無用だと釘を指していただろ!?」

 

「?そうだっけ?」

 

 

リィエルの暴露にウィリアムは焦りを見せるが既に遅い。何故なら―――

 

 

「……ウィルさん、詳しい説明を要求します」

 

「それはオキタさんも詳しく聞きたいですねー。ですので、包み隠さず話してください。あと、エルちゃんは少しシスティーナ先輩達のところに行ってきてくれませんか?お姉ちゃん達はこれから大事なお話をしないといけないので」

 

『だいじなお話?』

 

「うん。とても大事なお話なの。だから少しお父さん達と離れてくれないかな?」

 

『……わかったの。エルはシスティーナおねーちゃん達のところに行ってくるの』

 

「ありがとう。本当にエルちゃんはいい子だね」

 

『ん!エルはいい子!!』

 

 

エルザに頭を撫でられたエルは満面の笑みでそう言って、霊的な羽をパタパタと動かしてシスティーナ達の下へと飛んで向かっていく。

 

 

「それでウィルさん。この前のお仕置きも兼ねた仕返しとはどういう事です?」

 

「そ、それは……また酔ってしまった結果で……」

 

「どんな経緯でお酒を飲んでしまったのですか?」

 

「そ、それは……」

 

「わたしが口移しで飲ませた。ウィルに仕返しされたかったから」

 

「……また唇なんですね」

 

「エルザさん。またではなく、何度もです。リィエル先輩は上書き行動で何度もウィリアム先輩に接吻していますから。……おそらく、濃厚な方の接吻を」

 

「……本当にリィエルは凄いなぁ」

 

「それに関しては本当に同感です。リィエル先輩は物凄い強敵ですので」

 

「?」

 

 

龍と狼が咆哮を上げ続け、雷と嵐が轟き続ける光景に、その場にいる誰もが汗を大量に流して我関せずと、震えながら交流を続けていく。その会場を支配し続けている修羅場に勇者―――柔らかな金髪、まるで彫像のように整った甘く美しい顔立ちの美少年―――レヴィン=クライトスが近づいていく。

 

 

「せっかくの歓迎会なのですから、もっと穏やかに―――」

 

「「部外者は引っ込んでいてください」」

 

「よくわかんないけど、邪魔しないで」

 

「あっ、はい……」

 

 

不敵な笑みで話しかけたレヴィンの言葉を有無を言わさず遮る、にこやかな笑顔を向けるエルザとオーヴァイ、いつもの表情のリィエル。そんな彼女達の背後には、凄まじい威圧感を放ってレヴィンを睨み付けてくる龍と狼、そして、レヴィンを上から見下ろす可愛らしい巨大な子犬(?)が佇んでいる。その三匹の幻影を前に、レヴィンは一気に萎縮してすごすごと引き下がった。

普通ならカッコ悪いと幻滅するだろうが、あれは仕方がないと誰もが思った。むしろ、あれに挑もうとしたこと自体が敬礼ものだ。

 

 

「ほっほっほっ……若いですなぁ」

 

「ええ、本当に……」

 

 

現に、アルザーノ帝国魔術学院学院長リックと、聖リリィ魔術女学院新学院長ローナ=ローゼンバーグですら僅かに汗を流して眺めるだけなのだから。つまり、今の彼女達には誰も関わりたくないのである。

ウィリアムは思わず周りに助けの視線を送るが、誰もがサッと顔と視線を逸らして明後日の方を向く。この場にウィリアムの味方はいなかった。

 

 

「さて、ウィルさん」

 

「お話を続けましょうか」

 

 

邪魔者を追い払ったエルザとオーヴァイは己の幻影をバックにウィリアムに再び詰め寄り、“お話”を再開した。

 

 

―――交流会はたった一つの修羅場によって、最後まで重苦しい空気のまま終わった。

 

 

 




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百四十三話

実にありふれた展開だ
てな訳でどうぞ


修羅場によって重苦しい空気のまま終わった交流歓迎会の翌日。

ウィリアムはルミアとリィエル、オーヴァイと一緒となってグレンの補佐として、『魔力測定』を行う会場へと向かっていた。

 

 

「…………」

 

「先生、大丈夫ですか?どこか顔色が悪いような……」

 

「……大丈夫だ」

 

 

相変わらず顔色が良くないグレンをルミアが心配するも、グレンはどこか感情を押し殺したように返すだけだ。

 

 

(本当にどうしたんだよ、先公……)

 

 

ウィリアムはそんなグレンの様子に疑問を感じつつも、何を言う訳でもなく付いていく。……苺タルトを栗鼠のようにモグモグと食べているエルを肩車した状態で。

やがて、試験を行う魔術競技場の姿が視界一杯に迫ってきた……その時。

 

ざっ!

 

 

「ふん。君を待っていた」

 

 

どこか陰鬱なダウナー系の雰囲気だが、情熱が奥底で燻るように燃えている男―――学院の魔導考古学教授であり、タイプは違うがツェスト男爵やオーウェル、チャールズ並みの変態、フォーゼル=ルフォイが立ちはだかった。

ちなみに、フォーゼルはシスティーナと同類の人間である。

 

 

「君がグレンだな?話は聞いたぞ、僕に付いて来るんだ」

 

 

フォーゼルはそう言ってグレンの胸ぐらを、不作法にひっ掴み―――

 

 

「そぉおおおおおいいいいっ!」

 

「ぎゃーーーーーーーーーーーーーッ!?」

 

 

間髪入れず、グレンは全く躊躇わずにフォーゼルを投げ飛ばした。

 

 

「ほら……行くぞ」

 

 

投げ飛ばされて気絶したフォーゼルを放置して、ウィリアム達はグレンに続いて会場へと辿り着く。

そして、代表候補達の魔力測定を行うのだが……

 

 

魔力容量(キャパシティ):9850. MP》

魔力濃度(デンシティ):188. AMP》

 

 

「な……」

 

 

その内の一人―――金髪を三つ編みに纏めたクライトス校の女子生徒の測定結果に誰もが絶句していた。

その女子生徒―――エレン=クライトスが出した結果に、他のクライトス校の生徒達は本当に信じられないといった表情だ。

彼らの話を聞く限りでは、一月前の測定で出たエレンの数値は、魔力容量(キャパシティ)―――呪文を多く放つための魔力の容量―――は900、魔力濃度(デンシティ)―――強い呪文を放つための魔力の濃さ―――は40と、辛うじて魔術師を名乗れるレベルだったそうだ。

 

 

「凄い努力をしたのよ……文字通り、“地獄”のね……」

 

 

背筋が凍る凄絶な笑みで、エレンは動揺している周りにそう答える。

確かに魔力錬成(ノック)を毎日ひたすらに繰り返せば、霊的感覚は鍛え上げられ、魔力容量(キャパシティ)魔力濃度(デンシティ)の上限は上げられるのだが、一月で彼処まで伸ばすのは不可能の筈だ。

 

 

「システィーナ……()()()()貴女に勝つ……ッ!首を洗って待っていなさい……ッ!!」

 

 

エレンは憎悪と憤怒の感情と、積年の恨み辛みが燃えるような(くら)く冷たい目を幼なじみである筈のシスティーナに向けた後、背を向けて去っていった。

その後ろ姿を―――

 

 

「…………」

 

 

グレンは苦虫を噛み潰した表情で見つめていた……

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

その日の深夜の職員室。

 

 

「『すぅ……すぅ……』」

 

「全く……まぁ、仕方ないか……」

 

 

グレンの手伝いをしていて、途中でぐっすりと眠ってしまったリィエルとエルに、ウィリアムは呆れながらも微笑ましげな笑顔を向ける。

 

 

「先生……この問題だけ、もの凄く難しくないですか?」

 

 

グレンに紅茶を注いでいたルミアが、明日のテストの問題用紙を見て、苦笑いしながら問いかける。

 

 

「ああ……その問題だけは俺でもさっぱりだ。魔導演算器でランダムに選出され、もう色々準備しちまったから変えられん」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 

どこか投げやり気味にグレンはそう返し、ルミアは苦笑いしたまま受け止める。

ウィリアムは普段なら流すところではあったが、どうも様子がおかしく感じるグレンを前にどうも気になってしまい、グレンとルミアの下へと近寄っていく。

 

 

「……こりゃ、確かに解けんわ」

 

 

ルミアの横からテストの問題用紙を覗きこんだウィリアムは、()()()()()()()()()()()()()()を見た瞬間、ゲンナリとなる。

 

 

「そうだな……()()なら絶対解けん問題だ」

 

 

グレンはそう言って書類を整理していき、ウィリアム達は揃って帰路につくのであった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

そして―――次の日の座学試験。

午前中を目一杯使った座学試験が終わった昼休みの学生食堂にて。

 

 

「……えーと、この配置は?」

 

「『?』」

 

「平等に考えた結果です」

 

「うん。平等に考えた結果だよ」

 

 

ウィリアムは右隣にリィエル、左隣にエルザ、対面にオーヴァイ、膝の上にエルという配置で一つのテーブルを陣取っていた。

スペース的にはまだ空いているが、そのテーブルには誰も近寄らない。というか、近寄れない。近づいた瞬間、龍と狼の幻影が威嚇するからである。もちろん、龍と狼の背後には巨大子犬もいる。

ちなみに、カッシュが血涙流して近づこうとした瞬間、龍と狼が吼え、背後の鼠が吹き飛ぶと同時に踵を返したのは言うまでもない。

つまり、近寄るな、危険!!である。

 

 

「ほら、あーん」

 

『あーん』

 

 

そこら辺の思考を放棄したウィリアムは切り分けたミートパイをエルの口に運んで食べさせていく。それを見たエルザとオーヴァイは無言で頷きあい……

 

 

「ウィルさん、忙しそうですね。なので私達が食べさせてあげます」

 

「ええ。遠慮せずご厚意を受け取ってください、ウィリアム先輩」

 

 

にこやかな笑顔で、ウィリアムにそう提案していた。

 

 

「……?よくわかんないけど、わたしもウィルに食べさせる」

 

 

さらに、リィエルもよくわかっていないにも関わらずに名乗りを上げる。

その後は……エルザとオーヴァイが惚けた笑顔で食事していたことで察するべしだろう。

そして、昼休みが終わると同時に発表された座学試験の結果は―――

 

 

……

システィーナ=フィーベル 950点 二位

 

……

エレン=クライトス 1000点 一位

 

 

「…………は?」

 

 

玄関広間(エントランス・ホール)にある掲示板に出された試験の結果に、ウィリアムは目が点となった。

何故なら、この数字だけは絶対にあり得ないからだ。

 

 

「……悪い、ちょっと行ってくる」

 

「?ウィル?」

 

『?おとーさん?』

 

 

ウィリアムはよく理解していないリィエルとエルにそう言ってその場を離れ、エレンを探し始める。

少しして、廊下を歩くエレンを見つけたのでウィリアムはすぐに声をかけた。

 

 

「おい!」

 

「え?……ッ!?貴方は確か……」

 

「ウィリアム=アイゼンだ。こうして話すのは初めてだな、エレンさん……なあ、エレンさんよ。今日のテストの二十問目……あれ、どうやって解いた?」

 

「……実力で解いたんですよ。凄く勉強して」

 

「へー、実力かぁ。だとしたら凄いな、お前。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「!?」

 

 

ウィリアムのその言葉に、エレンは驚愕に目を見開く。

 

 

「実はその問題、昔一度見て知っているんだよ。俺の師匠がアルフォネア教授と友人だったからな。教授がからかい目的で師匠に渡してやらしてからかって、その師匠が更に、俺をからかう為に渡してやらせたんだよ。だから、昨日、問題用紙を見てその問題だとすぐに気づいた。当時はそんな解けない問題(もん)出してマジでふざけんな!と憤慨したもんだが……今はそれはどうでもいいんだよ」

 

「…………」

 

「正直、めんどくせぇがあんたを無視する訳にはいかねぇ。この事は、この三日間、どこか様子がおかしかったグレンの先公に話させてもらうぜ?」

 

「……私が不正をしたと?証拠はあるんですか?」

 

「ねぇよ。証拠は何処にもない。だけど、急成長のトリックも存在しない。人の急成長には他の人とは違う何かが存在する。優秀な師だったり、一点だけを集中的に鍛えたりな……それすらないから怪しいんだよ」

 

「…………」

 

「お前は絶対に何かを隠している。悪いがそれをはっきりさせてもらう。それが不正のものじゃないなら掲示しても大丈夫だろ?」

 

 

すると。

 

 

「……()()()()()()ですね。まさか()()()()()()()()、これに感づく人が現れるなんて」

 

「……何だと?」

 

 

エレンの意味不明な言葉に、ウィリアムは一瞬目を見開くが、すぐに目付きを鋭くさせる。

 

 

「一応、善意で伝えておきます、ウィリアム君。グレン先生共々、私に関わらないでください……お願いします」

 

「……断る。どうやらお前には、色々と聞く必要があるからな」

 

 

ウィリアムが険しい表情で決然と告げ、エレンに近寄って、肩を掴む。

同時に風が廊下を駆け抜け―――

 

ぼんっ!

 

そんな音とともに、ウィリアムの身体に凄まじい衝撃が襲い、自身の胸に大穴が出来上がった。

 

 

「……は?」

 

 

ウィリアムの口の端から血が伝っていき、そのまま床に背を向けて倒れこむ。

 

 

「本当に……グレン先生のように勘が鋭いんですね。私、貴方のことも嫌いです」

 

 

どこか諦観と倦怠を滲ませたエレンの言葉に、ウィリアムは鉛のように重くなった頭を必死に上げると、エレンの背後に奇妙な異形が立っていた。

その奇妙な異形は、身体の半分が歯車やゼンマイ、ネジにバネ等の部品によって機械化され、全身が拷問拘束具で拘束され、その拘束具も虚空から伸びる無数の鎖で繋がっており、目隠しと猿轡までされた、背中に羽を生やした少女だった。

 

 

「そいつ……は……一体……ッ?」

 

番人(ルーラー)ですよ……もっとも、()になったら、貴方は覚えていないでしょうが」

 

番人(ルーラー)……?次……?一体どういう……)

 

「ウィリアムッ!?」

 

 

意識が暗く、沈んでいく中、グレンの焦燥の声が聞こえてくる。

 

 

「ウィリアムッ!しっかりしろ、ウィリアムッ!!」

 

「グレン先生……()は貴方も気をつけてください。でなければ……()()、彼は死にますよ?」

 

「くそ……くそ……くそぉッ!!」

 

 

グレンの悲痛な叫びとエレンの意味不明な声が聞こえてくるが……最早、どうでもよかった。

 

 

(……本当に……俺は……死ぬのか?)

 

 

今までにない死の実感を前に、ウィリアムの心と魂が押し潰されていく。

そんなウィリアムの脳裏に、イルシアにシオン、ユリウス、グレン、アルベルト、イヴ、システィーナにルミア、セリカ、オーヴァイにエルザ、エル……今まで出会った人達が次々と現れて浮かんでいき……

最後に―――淡青髪の少女がウィリアムに薄く微笑んで。

 

 

(ごめ……ん……な……)

 

 

それを最後に、ウィリアムの意識は永遠の闇の中に消えていった―――

 

――――――。

 

 

 




「共同戦線をはりましょう」

「わかりました」

二日目の放課後、学院の裏庭で『三人にさせない同盟』を結んだエルザとオーヴァイの図。

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百四十四話

筆がよく進む
てな訳でどうぞ


――――――。

 

 

「―――ウィル」

 

「……んお?」

 

 

肩を揺すられたウィリアムは意識を今へと戻し、肩を揺すっていたリィエルに顔を向ける。

 

 

「ぼーっとしてたけど大丈夫?」

 

「……あー、大丈夫だ。ちょっと変なもんが見えただけだから。白昼夢を見るとか疲れてんのかな」

 

 

()()()()()()()()()()()ウィリアムは目をほぐした後、グレンに向かってぎゃんぎゃん吼えるシスティーナ、そんなシスティーナを諌めるルミア、他のクラスメイトに、ウィリアムを見てどこか安堵しているようなグレンを見やる。

 

 

「グレン、かわいそう」

 

『グレンおにーちゃん、だいじょーぶ?』

 

 

リィエルがぼそりと零し、特注の制服に身を包んだエルも心配げに呟く。

 

 

「にしても、先公の顔色が悪いよな……」

 

 

十日間の疲れか、これからのことでか、寝ていた割には顔色が悪いグレンの様子にウィリアムは訝しむも……

 

 

「まぁ、とりあえず頑張れ」

 

 

一応の激励を送るのであった―――

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――そして、修羅場によって重苦しい雰囲気のまま交流歓迎会が終わり、宴の片付けも終わった深夜。

 

 

「本当に胃が痛かった……」

 

 

ウィリアムはお腹に手を当てながら、夜のフェジテの街中を歩いていた。

 

 

「そう?わたしはエルザに会えて、よかった」

 

「そ、そうね、良かったわね、リィエル。……見ていてすごく怖かったけど」

 

「?なんで?」

 

「あはは……あれは確かにすごかったね……あれが本当の修羅場なんだね……」

 

「?」

 

『すぅ……』

 

 

そんなウィリアムのすぐ近くにはシスティーナとルミア、すっかり眠っているエルを抱き上げているリィエルが並んで歩いている。グレンは用事が残っているといってまだ学院にとどまっていてこの場にはいない。

そんな最中で。

 

 

(しかし……交流会の時、クライトス魔術学院の学院長といたあの女子生徒……時々、こっちに鋭い視線を送っていたよな……)

 

 

誰もがあの修羅場を視界から外す中、金髪を三つ編みで纏めた女子生徒だけは鋭い視線を送っている事にウィリアムは気づいていた。

 

 

(それに、グレンの先公の様子もおかしかったし……本当に何なんだよ……)

 

 

どうもすっきりしない気分で、ウィリアムはそんな気分を払うように周りを見渡しながら歩いていると―――

 

 

「―――は?」

 

 

路地の奥に背中に異形の翼を生やした少女―――ナムルスがいた。ただし、見た目は普段のはっきりとした霊体ではなく、淡く青白く発光する半透明だ。

 

 

「?ウィル、急にどうしたの?」

 

「いや、あの路地にあり得ないもんが……」

 

 

ウィリアムのその言葉に、三人娘はナムルスが佇んでいる路地に視線を向けるも―――

 

 

「?何もないけど?」

 

「一体どこにあり得ないものがあるのよ、ウィリアム?」

 

(ナムルスの姿が見えていない?一体どういうことだよ!?)

 

 

嘘を言っているようには見えない彼女達にウィリアムは混乱しかけるも、改めてナムルスがいる筈の路地の奥に視線を向ける。

改めて視線を向けると、やはりそこに佇んでいたナムルスは人差し指を立てて口元に当てた後、人差し指をくいくいと自分の方へ傾ける仕草をしていた。

 

 

(……黙ってついてこい?)

 

 

ナムルスのジェスチャーにウィリアムは微かに小首を傾げると、ナムルスはくるりと背を向け、さらに路地の奥へゆっくり移動を開始していく。

よくわからないが、ナムルスはウィリアムだけに用があるみたいだ。

 

 

「…………」

 

「どうしたのよウィリアム?急に黙りこんで……」

 

「あー……悪い。どうやら見間違いだったみたいだ」

 

「何よそれ、しっかりしなさいよね!」

 

「あはは……」

 

「悪かったよ……げっ!?」

 

「今度は何!?」

 

「学院に忘れもんがあった!!今からそれを取りに戻ってくから、お前らは先に帰っててくれ!!」

 

「あ、ちょっ!?」

 

 

ウィリアムは小芝居をうってリィエル達から離れ、ナムルスの後を追うのであった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

複雑に入り組んだ路地裏を駆け抜けた、小さな広場にて。

 

 

『遅いわよ、ウィリアム……前と違って時間がないんだから早くしなさいよね』

 

「会って早々文句かよ……それで、俺に何のようがあるんだよ?ナムルス」

 

 

その中央で待っていたナムルスの意味不明な辛辣な言葉に、ウィリアムはうんざりしながらも息を整え、ナムルスに歩み寄る。

 

 

『……やっぱりね。一度は切れていたけど、一応私と“縁”がある貴方が殺された時、グレン同様に“見えなかった”からもしやと思ったけど……思った通り、回線が一時的に繋がったわ』

 

「いきなり何わかんねぇこと言ってんだよ?そもそも、お前は遺跡にしか姿を現せない筈じゃないのか?」

 

『悪いけど、貴方の質問に答えてる暇はないの。だから必要なことだけ伝えるわ』

 

 

相変わらず意味不明なことを口にするナムルスは、どこかうんざりしたような仕草で、言った。

 

 

『5051回』

 

「……は?」

 

『5051回よ。この一週間を繰り返(ループ)した回数。六回前にようやく接触できたグレンと同じ反応をしないで』

 

「…………」

 

 

ナムルスの呆れたように告げた言葉に、ウィリアムは言葉を失った。

 

 

「……えーと、よくわからんが、今日から一週間後を、俺達はその5051回?繰り返していると?あの俺が殺される夢は実際に起きていたと?」

 

『そうよ。グレンと違って理解しようとしてくれて助かるわ……正直、グレンと接触した時より時間がないから、グレンと同じ方法で貴方の記憶を蘇らせる。その後はグレンから聞きなさい』

 

「ちょっ、おい―――」

 

 

ナムルスは取り合わずに半透明の指をウィリアムの額につけ―――

 

ばちり!

 

次の瞬間、ウィリアムの脳内に稲妻のような衝撃が走り、走馬灯のように記憶が蘇る。

―――閉ざされた一週間の記憶が。

 

 

「な―――」

 

 

最初の数回のループは、ほとんど同じ展開。

リィエルに肩を揺すられ意識を今へ戻すところから始まり(A)、メイン・ウィザードにシスティーナの名前が発表され、その瞬間、全てが暗転して終わる(Ω)

そして―――

 

 

―――ウィル。

 

―――……んお?

 

 

―――初日の繰り返しの始まり(A)へと戻る。

だが、七回前からの繰り返しは違っていた。

七回前の座学試験で、このループの中で唯一変化があるエレンが満点を叩き出し、その放課後の屋上で―――グレンが胸に大きな穴を空けて血だまりに沈んで死んでいたのだ。誰もがグレンの死に動揺し、泣き叫ぶ中、そこで終わり(Ω)始まり(A)へと戻った。

六回前はグレンが帰り道でナムルスがいたと叫んだ翌日、グレンがエレンに接触した瞬間、グレンの胸に大きな穴を空けて倒れ、その場にいたエレン以外が阿鼻叫喚に包まれる中、そこで終わった(Ω)

五回から二回前も同様に、初日、二日でグレンがエレンに接触した瞬間に死んで終わり(Ω)始まり(A)へと戻っていく。

だが、前回のループで死んだのはグレンではなく―――ウィリアムだ。

座学試験の前日、グレンの様子がおかしかったから、ウィリアムは今までの繰り返しで無視していた問題用紙に初めて目を向け、セリカが作った絶対に解けない問題を見て満点は絶対にないと確信した。

だが、エレンはその座学試験で満点を叩き出した為、ウィリアムはエレンに接触し探ろうとした。

その結果―――ウィリアムはエレンの背後にいつの間にかいた異形の存在に、おそらくグレンと同じ手段で殺されたのだ。

そこでウィリアムの視点で前回のループは終わり(Ω)始まり(A)へと戻った。

 

 

「ぅ……ぉおええぇ……ッ!?」

 

 

全ての記憶を思い出した訳ではないが、あの時の死の感触も思い出したウィリアムは口元を押さえて蹲った。

 

 

『……ちゃんと思い出してくれたようね。後はグレンから―――』

 

 

いつの間にか蜃気楼のように揺らめいていたナムルスは最後にそう言い残して―――完全に消滅した。

 

 

「まじでどうなっているんだよ……ッ!?最後までちゃんと説明してから消えろよ……ッ!」

 

 

一方的にしか教えなかったナムルスに悪態を吐きつつも、ウィリアムは何とか気持ちを整え立ち上がる。

 

 

「とにかく、今は先公に会って話を聞くしかないか……幸い、学院に忘れもんをしたと嘘をついて別れたから、多少時間がかかっても大丈夫の筈だ」

 

 

ウィリアムはそう呟いて、まだグレンがいる筈の学院に向かうのであった。

 

 

 




キリがいいのでここで切ります
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百四十五話

てな訳でどうぞ


ナムルスによって繰り返される一週間を思い出したウィリアムは現在、学院の校門前にいた。

 

 

「まだ居てくれよ……」

 

 

ウィリアムはそう呟きながら門を潜る―――前にグレンがタイミングよく現れたので、すぐに声を上げてグレンに近寄っていく。

 

 

「先公ッ!!」

 

「……ウィリアムか。こんな時間にどうしたんだ?」

 

 

ウィリアムの呼び掛けにグレンは力なく応じるも、すぐに違和感に気付いて目を見開く。

 

 

「……ちょっと待て。何でお前が此処に来てるんだ……?」

 

「ナムルスに会った」

 

 

途端、グレンの顔が驚きに染まる。

 

 

「ナムルスに会っただと!?つまり、お前も……ッ!?」

 

「ああ、()()()()()()()()。だけどアイツ、一方的に記憶を思い出させて消えやがったからほとんどさっぱりだ」

 

「マジかよ……」

 

「だから教えてくれ先公。今のこの状況を」

 

「……わかった。だけど、ここじゃなんだから場所を変えるぞ」

 

 

グレンはそう言って歩き始め、ウィリアムもグレンの後に続いていく。

そして、学院の裏手で今の状況を聞かされた。

 

 

「……つまり、端的に言えばこの切り離された時空間が限界に近づいていて、このままだとこの一週間を永劫繰り返すだけになると……」

 

「ああ」

 

「本当に最悪過ぎんだろ……」

 

 

グレンが明かした現在の状況に、ウィリアムは頭を抱えてしまう。

エレンの急成長のカラクリも、このループによって蓄積された知覚経験によって得られたものであること。

そして、エレンの目的がシスティーナに勝ち、自身がメイン・ウィザードになること。

それまではこの繰り返される一週間が続くという事実に、ウィリアムの頭は本当に痛くなる。

 

 

「てか、前回お前が死んだ時、本当に大変だったんだからな。あの後、駆けつけたアイツらも泣いて騒いで、特にオーヴァイとエルザにエル、リィエルの騒ぎぶりと泣き顔は、わかっていてもすごく辛かったんだからな」

 

「六回も皆を泣かせた先公が言うな」

 

 

互いに憎まれ口を叩くも状況は最悪だ。

 

 

「エレンが持っていたその竜頭のない奇妙な懐中時計……おそらく魔法遺産(アーティファクト)の類だろうな」

 

「ああ。古代語で“ル=キル”と刻まれていたその時計がこのループの要なんだろうが……奪おうとした瞬間、あの番人(ルーラー)が出てきて殺され、悉く失敗した」

 

「それも事前に施した魔術防御を無視して、か……」

 

「ウィリアム、お前の《盾》でなんとかならないか?」

 

「たぶん、無理だ。《盾》は全身を守るものでない以上、別方向からその攻撃をぶつけてくるだけだ。障壁展開も手出しできなくなるから論外だ」

 

「だよな……」

 

 

グレンとウィリアムは揃って溜め息を吐く。

グレンの話を聞いた限り、件の懐中時計は番人(ルーラー)そのものと見ていいだろう。

エレンがシスティーナに勝利してメイン・ウィザードに選ばれればこのループは終わるだろうが、その可能性はゼロだ。

何故なら、システィーナは魔術師として本当の天才。連続起動(ラピッド・ファイヤ)疾風脚(シュトロム)二反響唱(ダブル・キャスト)、場に展開された駐在型魔術の術式に介入して制御権を奪う“術式介入(スペル・インタベンション)”―――数々の高等魔術技巧を習得している。

それらの魔術技巧は凡人が我流で扱える技能ではなく、知っている者にやり方を学ばなければ習得できない。

ウィリアムだって、生前のユリウスにやり方自体は教えてもらったからこそ、使えているのだ。

加えて応用が利く風の魔術に抜群の適性を持ち、修羅場も潜り抜けたシスティーナに、凡人のエレンが敵う道理はない。もちろん絶対とは言わないが、この限られた一週間ではシスティーナに勝ち星を得ることはできない。

 

 

「とにかく、協力者ができて助かった。何とかしてこのクソッタレなループを終わらせねぇとな」

 

「ああ。あいつらの未来を潰させてたまるかよ」

 

 

こうして、グレンとウィリアムは解決のために、協力して動くのであった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

――――――。

 

 

―――状況は進展せず、次第に最悪へとゆっくりと向かっていた。

 

 

『がんばれー!システィーナおねぇーちゃーんっ!!』

 

 

観客席で、リィエルの膝の上に座って応援しているエルの声が聞こえてくるが、隣に座っているウィリアムは死んだ魚のような瞳でシスティーナとエレンの試合を眺めていた。

 

 

(……飽きた)

 

 

何度も繰り返されたループで、もう色々と精神をすり減らしているウィリアムはだいぶ参っていた。

何度かグレンと協力してエレンの持つ時計を奪取しようとしたが、やはりあの番人(ルーラー)が現れて瞬殺されて終わるだけ。

試しに《詐欺師の盾》を持ち出して迫ってみた結果、最初こそ防げたが、横から風が一際強く吹いた瞬間に腕や胸が分断されて終わるだけだった。

それにより、あの謎の攻撃が風と関連があるとわかったが、それだけ。

もちろん、判明した事はそれだけではない。

このループの例外に関する起動条件が、“第三者が、エレンを妨害した時”、“第三者が、このループの情報を入手した時”であることが判明している。

後者の条件はグレンがイヴに相談し、イヴが番人(ルーラー)に殺されたことで判明したのだ。

グレンとウィリアムはナムルスによって“思い出した”だけであり、もう既に知っているからルールに抵触しなかっただけ。

このループを律儀に繰り返すエレンに接触出来ず、番人(ルーラー)の正体もわからない。グレン以外にはこの状況を明かせない。

……完全に手詰まりであった。

 

 

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーッ!!

 

 

『やったのーッ!システィーナおねーちゃんが勝ったのーッ!!』

 

 

それを他所に、何度も聞いた、観戦していた人達の歓声と、エルのはしゃぐ声が耳に届いてくる。どうやら今回もシスティーナの勝利で終わったようだ。

 

 

「……ん。システィーナが勝った」

 

「ええ。本当にシスティーナ先輩は凄いですねー!」

 

 

エル抱くリィエルと、一緒に観戦していたオーヴァイも頷いて同意し、隣に座っているウィリアムに顔を向ける。

 

 

「……ウィル?」

 

「……ウィリアム先輩、まだ顔色が悪いですね。大丈夫ですか?」

 

『おとーさん、だいじょーぶ……?』

 

「……大丈夫だ……大丈夫だから……」

 

 

自身を心配する彼女達に、ウィリアムは感情を押し殺したように言葉を返す。

ここ最近のループでは、グレンとウィリアムは二人きりの時、互いの鬱憤を晴らすように激しく罵り合うようになっている。そうでもしなければ、とてもじゃないがやっていられなかった。

ナムルスがグレンに接触した時、不謹慎な事を言っていたそうだが、今ならその気持ちも理解できる。エレンやナムルスと比べて回数が浅い自分達ですらこれなのだから、一人でこのループを眺め続けたナムルスもそう考えなければやっていられなかったのだろう。

 

 

「「『…………』」」

 

 

そんなウィリアムの様子を、彼女達は心配げに見つめていた。

そして、いつものようにメイン・ウィザードが発表され―――

 

 

―――そして、いつものように終わり(Ω)始まり(A)に戻る―――

 

 

 

――――――。

 

 

「―――ウィル」

 

 

いつものように、肩を揺するリィエル。

いつものように、ここへと戻る意識。

 

 

「……どうしたの、ウィル?なんか元気な―――」

 

「悪い……放っておいてくれ……」

 

 

グレン以外に八つ当たりしたくないウィリアムはそれだけ言って、頭を抱えて机に突っ伏す。

 

 

「……ウィル……?」

 

『……おとーさん……?』

 

 

そんなウィリアムの様子を、リィエルとエルは心配そうに見つめる。

そして、また始まる、選抜会の一週間。

それをウィリアムは眺める―――眺めるしか出来なかった―――

 

 

 




「むむむむ……」

紺のハンカチを噛み締め、龍を背後に睨み付けるエルザの図。

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百四十六話

てな訳でどうぞ


―――とある周回の二日目。

いつものように、魔力測定が行われる会場へ向かっていたのだが、今回は少し違っていた。

 

 

「―――と、いうわけで。どうしてもメイン・ウィザードになりたいんです」

 

 

今までの周回では、魔力測定の準備のために先に会場入りしているシスティーナが何故か一緒に行動しているのだ。

 

 

「傲慢かもしれませんが、私はお祖父様に追いつきたくて……」

 

「……それなら、何でお前はここにいるんだよ?」

 

 

グレンの顔色を窺いながら話しかけるシスティーナに、いつもと同じようにエルを肩車しているウィリアムは疑問をぶつける。ただし、エルはいつもなら苺タルトを頬張っているが、今回は心配げにウィリアムを見つめている。

 

 

「ウィリアムの言う通りだ。そんなに大切なら、お前にはやるべきことがあったんじゃないのか?」

 

 

グレンも同様の疑問を感じてシスティーナにぶつける。それに対し、システィーナは少し押し黙った後、ぼそりと呟く。

 

 

「だって……放っておけないですよ。そんな酷い顔をされては」

 

「「…………」」

 

「それも、昨日からウィリアムと一緒で唐突です。それまではいつも通りだったのに……心配して当然じゃないですか」

 

 

システィーナのその言葉に、不安げな表情のリィエルもこくり、と頷く。

どうやら、今回の自分達の顔は、予定を変更してまで構いたくなるほど、過去最悪のものだったようだ。

それに対し、グレンとウィリアムは……

 

 

「「…………」」

 

 

気まずそうに顔を逸らし、無言を貫いた。

ここ最近の周回では互いに罵り合うことすら億劫になってしまい、心がとても疲れていて―――重たかった。

ルミアやオーヴァイ、エルの悲しげな雰囲気が伝わってくるが……どうしようもないほど、精神的余裕が今のグレンとウィリアムにはなかった。

このままだと心が壊れてしまうと、どこか他人事のように考えていると……

 

ざっ!

 

 

「ふん。君を待っていた」

 

 

いつものように、フォーゼルがグレンの前に現れていた。

とある周回から、フォーゼルを交代でグレンは投げ飛ばして、ウィリアムは【騎士の腕(ナイツ・アーム)】で殴り飛ばして憂さ晴らししている。今回はグレンの番なので、グレンがフォーゼルを投げ飛ばそうとした―――その矢先。

 

 

「……え?帰ってたんですか!?フォーゼル先生!!」

 

 

システィーナが驚きを露にフォーゼルを凝視していた。

 

 

「む?システィーナ=フィーベルか?僕に何か用か?」

 

 

フォーゼルがシスティーナに気づいて尊大に睨み返し、システィーナも目を怒らせて睨み返す。

 

 

「僕に何か用か?じゃないですよ!私、忘れてませんよ!?以前、貴方が私の論文に難癖つけて、私を遺跡調査隊から不当に落選させたことを!」

 

「ふん、女の君にそんな危険な真似をさせられるわけがないだろう?女は黙って、安全な場所で家事等をすればいい。命を賭けるのは男の役目だ」

 

「だから、その考えは古いって何度も言っているんです!」

 

「まったく……僕は忙しいんだ。見ろ、この像を」

 

「!そ、それは―――天空の双生児(タウム)の眷属ッ!?」

 

「ほう?一目で気づくとはなかなかやるな」

 

「当たり前ですッ!こんなの常識ですよ!天空の双生児(タウム)は魔導考古学の謎の最大の鍵なんですから!」

 

「……ほう?“わかっている”ようだな。世間一般の認識では、異端扱いの考えを」

 

「異端ですって!?そんなの、世界が間違っているんですッ!」

 

「その通りだッ!僕達が―――」

 

「私達が―――」

 

「「神だッ!!」」

 

 

「……何、このノリ……」

 

「……似たもん同士め……」

 

 

この今までとは違う展開に、グレンはジト目で、ウィリアムは呆れたように見守るしかない。

そんなシスティーナとフォーゼルのやり取りを背に、グレンとウィリアムはルミア達を連れて立ち去ろうとするも……

 

 

「―――って、待つんだ、グレン先生!」

 

 

フォーゼルはそれを見逃さず、素早くグレンの肩を掴んだ。

 

 

「今回の論文を書くには封印書庫の利用が不可欠なんだ。だが、無許可だから100%帰って来られない自信がある。だから、荒事に長けた君の力が必要なんだ」

 

「俺はこれから、魔力測定の監督を……」

 

「頼む!論文が書けないのは嫌なんだ!」

 

 

グレンとフォーゼルのやり取りに、もう面倒になったウィリアムが順番無視してぶっ飛ばそうか……と、考えた矢先。

 

 

「……ねぇ、魔力測定が終わった後で、フォーゼル先生を助けてあげませんか?私と先生、ウィリアムとリィエルで」

 

「「……は?」」

 

 

システィーナがいきなり意味不明なことを言い始めた。

 

 

「フォーゼル先生は色々と問題を起こしていますけど、この人のクビは魔導考古学会の損失なんですよ。それに……」

 

 

システィーナはそこで、グレンとウィリアムを真っ直ぐに見て、言った。

 

 

「今の二人に必要なのは、きっと、息抜きです」

 

「……悪いが、そんなことしている暇は―――」

 

「ウィル」

 

 

ウィリアムがシスティーナの申し出を断ろうとして、いつの間にか正面に回り込んでいたリィエルがそれを遮った。

 

 

「今のウィル、すごく苦しんでいる……その理由はわたしにはわかんないけど……今のウィルを見ていると凄く辛い。だから、システィーナの言う通りにすべきだと思う」

 

「そうですよウィリアム先輩。ここはシスティーナ先輩の提案に乗ってください。エルちゃんは私とルミア先輩の二人でちゃんと面倒みますから」

 

『ん。おとーさん、エルはオーヴァイおねーちゃん達といい子で待ってるから、おかーさん達といきぬきしてきて?』

 

 

リィエルだけでなく、後輩と娘にまでここまで言われてしまうと、ウィリアムは本当に情けない気分となる。

だが、今までと違う変化に、疲れきった心に僅かな活力が戻った気がして……

 

 

「はぁ……わかったよ……」

 

 

溜め息とともに、同意するのであった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――魔力測定が終わり、赴いた魔術学院付属図書館の地下書庫区画。その禁断封印書庫にて。

 

 

「おい、グレン先生!あっちの棚にあるはずの『旧古代大ルーン外法辞典』を早く取ってきてくれ!大至急だ!!」

 

「ウィリアムは『古代象徴学秘術書』を探してきて!リィエルはこの本全部、目録番号順に元の場所に返してきて!」

 

「……へいへい」

 

「……あいよ」

 

「ん。わかった」

 

 

グレンとウィリアム、リィエルは、フォーゼルとシスティーナのパシリに成り下がっていた。

今回のフォーゼルの調査目的はクライトス領から盗掘した像のモデルとなった、古代の神の眷属の真名看破である。

本当に好き勝手に調べていくシスティーナとフォーゼルに、グレンとウィリアムうんざりしながらも渋々手伝っていく。リィエルだけはいつも通りだが。

システィーナ達曰く、《時の天使》ラ=ティリカと《空の天使》レ=ファリアが天空の双生児(タウム)という説があること。

この、今調べている像が、《時の天使》ラ=ティリカの眷属である可能性があることが語られる。

 

 

「この不気味な像のモデルがねぇ……」

 

 

ウィリアムはシスティーナとフォーゼルの長ったらしい解説と横暴振りにうんざりしながらも、件の像を観察する。

まるで、少女と鳥類を交配させたかのような、禍々しさを感じる冒涜的な像だ。

 

 

(しかし……この像……どこかで見た気がするんだよな……それも、何度も見たような……)

 

 

不思議な既視感を覚えつつ、ウィリアムはまじまじとその像を観察していく。

 

 

(見た……というより似ている……?あの―――)

 

 

その瞬間、脳裏に鈍器で叩かれたかのような衝撃と共に気づいた。この像が、エレンの背後にいたあの番人(ルーラー)に良く似ていることに。

 

 

「―――先公ッ!!」

 

「……どうしたんだよ、ウィリアム?急に大声上げて―――」

 

「この像!あの番人(ルーラー)と良く似てないか!?」

 

「―――ッ!?」

 

 

ウィリアムのその言葉に、グレンは驚きに目を見開いて、その像を目に穴が空くではないかというくらい凝視し始める。

 

 

「どっかで見たことあると思っていたが……確かにこの像、あのクソッタレな怪物にそっくりだ!!」

 

「……?どうしたのグレン、ウィル。急に大声上げて」

 

 

本を片付けて戻ってきたリィエルの疑問に、グレンとウィリアムは慌てて口を押さえる。下手に話せばリィエル達まで殺される。

だが、今までの経験から、繰り返しにさえ気づかせなければ大丈夫の筈だ。せっかく見えた糸口なのだから慎重にしなければならない。

そんなグレンとウィリアムに、更なる情報が耳に飛び込んでくる。

 

 

「どうしたのだ、グレン先生にアイゼン。今しがた判ったその子の名前……“ル=キル”の像をそんなに見つめて」

 

 

フォーゼルの疑問に混じっていた“ル=キル”の単語に、グレンとウィリアムは食い付くようにフォーゼルに詰め寄っていく。

 

 

「なぁ、フォーゼル。そのル=キルってのはなんだ?」

 

 

グレンのその言葉に、フォーゼルは前提知識を与えながらル=キルについて解説し始める。

魔術師の理論としては神や悪魔は存在しないが、ごく一部に“本物の神”が存在する。

天空の双生児(タウム)や二百年前に現れた邪神達も、フォーゼル曰く、“本物の神”であり、“本物の神”である天空の双生児(タウム)は遥か昔、『賢王ティトゥス=クルォー』に力を貸し、加護する“王”の為に多くの眷属を作って与えたそうだ。

ル=キルはその内の一つ―――《時の天使》ラ=ティリカの眷属だというのだ。

さらにシスティーナとフォーゼルに調べてもらうと、“滅びをもたらす風の翼(ル=キル)”は限定的に時間を操る能力を持っており、ル=キルは王に逆らった結果、“時間を巻き戻す”時計型の魔法遺産(アーティファクト)《ル=キル時計》に改造されてしまったということがわかった。

そして、その伝承はクリュトゥース地方―――()()()()()の源流となった地方名によく伝わっており、《ル=キル時計》の図面も、あの巻き戻しの時に垣間見た時計と酷似していることも判明した。

だが、ここまでわかっても手詰まりのまま。ループとエレンを止めようとした瞬間、あの番人(ルーラー)に殺されて終わってしまう。

ウィリアムは歯痒い思いで写本の図面を睨んでいて……気付いた。

 

 

「この図面の時計……()()()()()よな……?」

 

「確かにあるな……」

 

 

かなり特徴的な竜頭の図面に、グレンとウィリアムはまじまじと見つめる。

竜頭は時計の機能を操作・調整するための必須の部品。だが、エレンのあの時計には竜頭はなかった。

 

 

「……いや、竜頭がなくて何になるんだ?」

 

「だよな。昔のもんだからなくなっても……」

 

 

そう思いかけ……グレンとウィリアムは押し黙った。

時計を操作するための竜頭。

結果が少しずつ落ちてきているにも関わらず、一向にループを続けているエレン。

もし、エレンはループを()()()()のではなく、()()()()()()のだとしたら……?

 

 

「「…………」」

 

 

グレンとウィリアムは互いの顔を見つめ合う。互いに同じ考えに至ったようだ。

 

 

「さて、今日の目的は《ル=キル時計》ではない。この像から導き出される―――」

 

「待ってくれ、フォーゼルの先公」

 

「頼む。このまま《ル=キル時計》の機能をこの図面で分析してくれ!この通りだ!!」

 

 

封印書庫のさらなる奥に行こうとしたフォーゼルを引き止め、頭を下げて頼みこむグレンとウィリアム。

 

 

「断る。誰かの言うことを聞くのは嫌いなんだ」

 

 

だが、フォーゼルはけんもほろろに要求を突っぱね、立ち去ろうとした……その時。

 

 

「わたしからもお願い……」

 

 

今まで蚊帳の外だったリィエルが、同様に頭を下げていた。

 

 

「リィエル……!?」

 

「……私からもお願いします、フォーゼル先生。どうか、頼みを聞いてあげてください」

 

「白猫、お前まで……」

 

 

リィエルに続くようにシスティーナも頭を下げ、フォーゼルにお願いする。

しかし、相変わらず渋るフォーゼルに、システィーナが祖父レドルフの秘蔵論文の閲覧と引き換えに改めてグレンとウィリアムの頼みを聞いてもらうように頼みこむ。

だが、フォーゼルにとってそれは逆鱗であり、本来なら逆効果であったが、その心意気に免じてタダで《ル=キル時計》の機能分析を引き受けてくれた。

 

 

「さぁ、君達!三期のディク・ストーン写本を参考に解読するから、片端から持って来てくれ!早く!!」

 

 

完全にスイッチが入ったフォーゼルに追い立てられ、四人は慌てて駆け出していく。

 

 

「えーと、その……なんだ……」

 

「ありがとよ……二人とも……」

 

 

グレンとウィリアムの素直なお礼を……

 

 

「ん」

 

「ふふ」

 

 

システィーナとリィエルは微笑んで受け止めるのであった。

 

 

 




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百四十七話

……今回は長いです。
キリが良いところまで書いていたらここまでになってしまった……
てな訳でどうぞ


―――三日目。

座学試験がいつものように終わり、試験結果も発表されたとある時間帯。

ウィリアムはグレンの先導である場所へと向かっていた。

 

 

「間違いなくそこに、()()()はいるんだな?」

 

「ああ。この時間帯なら、確実に()()()はこの先にいる」

 

 

グレンとウィリアムは確認を取りながら、目的の場所―――屋上へと出る扉の前に立つ。

 

 

「行くぜ……覚悟はできてるな?」

 

「ああ」

 

 

そしてグレンとウィリアムは互いに頷き合い―――屋上への扉を力を込めて押し開いた。

 

ばぁんっ!

 

大反響を立てて押し開いた扉の先には―――

 

 

「……あ」

 

「な!?」

 

 

エレンと、彼女の祖父であり、クライトス魔術学院の学院長、ゲイソン=ル=クライトスが驚いたようにこちらを見ていた。

 

 

「さぁ、馬鹿騒ぎは終いにしようぜ?」

 

 

呆気に取られるエレンとゲイソンに言い放ったグレンと共に、ウィリアムは二人に対峙する。

 

 

「な!?二人とも、また死にたいんですか!?帰ってください!!」

 

 

苛立ったように言い放つエレンに、ウィリアムは極めて冷静に言い返し始める。

 

 

「問題ねぇよ。《ル=キル時計》の機能は大方把握した。お前の行動を妨害しなきゃ、設定した命令でしか動けない番人(ルーラー)は動かない。それに……用があるのはお前じゃないんだよ。俺達が今回、用があるのは、そこにいるジジイだ」

 

「ああ。だから、現クライトス当主ゲイソン……“とっとと、竜頭を出せ”。《ル=キル時計》の機能を操作・制御する“竜頭”をな」

 

 

その言葉に、エレンは呆けたように呟いた。

 

 

「なんで……わかったんですか……?」

 

「そんな難しい話じゃないさ」

 

 

エレンが懐から取り出した、件の竜頭のない懐中時計を流し見ながら、ウィリアムは答えていく。

 

 

「神の眷属を時計型へと作り替えられた魔法遺産(アーティファクト)……なら、使い方も普通の時計と同じように使う筈だ。だが、その時計には本来竜頭がある箇所には、穴だけで“竜頭”がない。なら、どうやってその時計を操作するのか?そこである仮説に至った。“その時計の竜頭を持っている人物が、時計を遠隔的に操作しているんじゃないか?”という仮説に」

 

「その仮説もフォーゼルの野郎に《ル=キル時計》の構造を調べてもらったことで裏が取れた。思った通り、時計の魔術機能の操作・制御は竜頭に集約され……記憶継承の効果はその時計本体だけだった。つまり、エレン、お前は黒幕ではなく、時計を持たされてループに巻き込まれた被害者だ。そうだろ?」

 

 

グレンの言葉に、エレンの顔色が変わる。

 

 

「そして、その“竜頭”の持ち主は記憶継承出来ないのにループを繰り返す理由だが……記憶を継承しているエレンの存在と、この選抜試験を繰り返す状況ですっかり他の可能性を失念していたが、ようやく気づいた。一番利益があり、その竜頭を持っているであろう人物にな」

 

「それがお前だ、ゲイソン。“エレンがメイン・ウィザードに選ばれた展開”が出るまで竜頭を操作して、時間を巻き戻し続ける……それだけで、記憶を継承しないアンタにとっては、全てが理想の形で終わるんだ。……孫娘(エレン)だけが地獄の苦しみを味わうこと以外はな。……テメェ、孫娘を何だと思ってるんだ?」

 

「さっきから何を言っているんだ!?無礼にも―――」

 

 

ドパンッ!

 

いきり立ったゲイソンに、ウィリアムが拳銃の非殺傷弾を顔すれすれに放って強引に黙らせる。

 

 

「芝居はいいんだよ。このループを順調に回す為に、“エレンを妨害した者の殺害”と“ループ情報を得た第三者の殺害”という、番人(ルーラー)に設定されたであろう令呪(コマンド)があるにも関わらず……この暴露話でお前がまだ生きているのが最大の証拠だ!」

 

「ああ。今から身体の隅々まで調べさせてもらうぜ。拒否権は―――……」

 

 

お互いに拳銃をゲイソンに向けて構え、グレンとウィリアムは距離を詰めていく。

すると……

 

 

「……やれやれ。まさか、この私の思惑に気付き、ここまで真実に到達できる者達がいたとは」

 

 

ゲイソンは薄ら寒く、実に俗っぽい下卑た形相へと表情を変える。

そして、ゲイソンは懐から不思議な魔力の光でぼんやりと発光し、ちりちりと燐光を零しながら宙に浮く小さな歯車―――《ル=キル時計》の竜頭を取り出した。

ゲイソンは下卑た表情のまま、何の罪悪感も感じていない様子で、クライトスの繁栄の為に分家筋のレヴィンではなく、直系のエレンを当主にするために、エレンがメイン・ウィザードに選ばれるまで繰り返す()()()()()()と明かす。

その上、エレンの父、グラハムと兄のレオスに代わって庇護した恩を傘に、エレンにループを強要するというヘドが出る光景まで見せていく。

 

 

「そのために……この少し辛い試練、耐えてくれるな?エレン」

 

「……は、はい……私、頑張りますから……」

 

 

ゲイソンの言葉に、エレンは目尻に涙を浮かべ、掠れた声で呟いた。

それが、限界だった。

 

 

「良い子だ、エレン。愛しているよ、我が愛しい孫娘……」

 

 

ゲイソンはエレンの返答に満足して、我が意を得たとばかりに、グレンとウィリアムに振り返った―――その瞬間。

 

 

「ぐぎゃあああああああああああーーッ!?」

 

 

ウィリアムが【詐欺師の世界】で具現召喚した【騎士の腕(ナイツ・アーム)】に殴り飛ばされ、ゲイソンは派手に転がっていた。

 

 

「いい加減にしろよ……?愛しているだと?あんな顔の孫娘に、恩を傘にループを強要しているのにか?テメェが愛しているのは“理想のクライトス家”だけだろうがッ!!そのために、孫娘(エレン)を利用しているだけだろうがッ!!このクソジジイッ!!」

 

 

ゲイソンに向かって、怒りの咆哮を上げるウィリアムに続くように、グレンがエレンに向かって吠えかかる。

 

 

「エレン!お前は本当にそれでいいのかッ!?大事な友達だった白猫……システィーナを逆恨みして、憎み続けながら、この老害の言いなりで繰り返し続けるつもりか!?お前もわかってんだろ!?この閉じた一週間じゃ、システィーナに絶対勝てないことは!?」

 

「―――ッ!だ、だけど……私は、こうするしか……ッ!」

 

「足踏みは止めろッ!未来で足掻けッ!」

 

「―――ッ!?」

 

 

グレンの叱責に、エレンは思わず呼吸を忘れた。そんなエレンに、ウィリアムが更に言葉をぶつけていく。

 

 

「立ち止まって足踏みしても、何も得られないし、何一つ変わらないんだよ!未来に向かって足掻くことでしか……背負うもん背負って前に進むことでしか、変えることが出来ないんだよ!!」

 

「確かにお前は人よりハンデを背負っているが……それでも一歩一歩歩き続けるしかねえんだよ!生まれや環境や才能のせいにしても、何も変わらねえし、誰も変えてくれねえんだよ!……もう一度聞くぜ?エレン……まだ繰り返すつもりか?」

 

「……嫌……です……もうこんな繰り返しは嫌……ッ!誰か……誰か助けてよぉおおおおおおお―――ッ!!」

 

 

グレンとウィリアムの言葉に、ついにエレンは頭を抱えて、己の心情を吐露するのであった。

その言葉を受け、グレンとウィリアムはゲイソンに近づこうとした……その時。

 

 

「げほっ……ぐははは……これだから最近の若者は……敬うべき人生の先達に対してこの仕打ち……実に嘆かわしい」

 

 

倒れていたゲイソンがにやりと笑いながら、ゆっくりと立ち上がっていた。

 

 

「……黙れ、クソジジイ」

 

「若者にも敬う相手を選ぶ権利があるぞ、老害」

 

 

すると、ゲイソンは蔑むように言った。

 

 

「君達は一つ勘違いしているよ……君達は、《ル=キル時計》の番人(ルーラー)は設定した命令でしか動かないと……本当にそう思うかね?」

 

「「―――ッ!?」」

 

 

ゲイソンのその言葉に、グレンとウィリアムはようやく()()に気付き、ゲイソンの掌の竜頭が不穏な魔力を漲らせ、猛回転しているのを視界に収めた瞬間、咄嗟に互いに離れるように横へと飛び跳ねた。

瞬間、微かな風の流れを、ウィリアムは右肩に、グレンは左肩に感じ―――

ぼんっ!互いに風を感じた肩が突然弾け、血花が咲いた。

 

 

「ぐぁあああああ―――ッ!?」

 

「がぁあああああ―――ッ!?」

 

 

グレンとウィリアムが苦悶の叫びを上げた、次の瞬間。

ばぁんっ!屋上の扉が開け放たれる。そこに現れたのは―――

 

 

「な……ッ!?」

 

「システィーナにリィエルッ!?」

 

 

システィーナとリィエルの二人だった。

 

 

「せ、先生!?」

 

「ウィル!」

 

 

そんなグレンとウィリアムの驚き他所に、システィーナはグレンに、リィエルはウィリアムに急いで駆け寄っていく。

 

 

「ウィル、酷い怪我……ッ!なんで、どうして……ッ!?」

 

「リィエル!お前はシスティーナを連れて急いでここから逃げろ!」

 

 

ウィリアムは弾け飛んだ右肩を押さえながら立ち上がる。振り返った先には―――

 

 

「あ、あぁ……ッ!?」

 

 

驚愕のエレンと、そんなエレンの頭上に浮遊して凄まじい魔力を漲らせる《ル=キル時計》。

そして、その時計が今までの異形の人形から、時計に変形する時の逆の挙動で番人(ルーラー)が―――墜ちた神の眷属、ル=キルが顕現する。

 

 

「何、あれ……?敵……?」

 

 

リィエルは微かに震えながらも、大剣を錬成してル=キルに向けて構える。

 

 

「この竜頭があれば、彼女―――ル=キルを私の意思で自在に操ることができる……」

 

「だから、エレンは黙って従ってたんだな……ッ!逆らえば、そいつを使って殺すと言ってッ!?」

 

「そして、そいつはやっぱり……フォーゼルが盗んできたあの像に瓜二つだ!やはり、その時計はル=キルそのものなんだな……ッ!」

 

 

ル=キルを睨み据えるグレンとウィリアムに、ゲイソンは下卑た笑みで答えていく。

 

 

「ご名答だよ。時間を操る神の眷属ル=キルが、魔法遺産(アーティファクト)へと作り替えられた存在―――《ル=キル時計》こそが、我がクライトス主家の当主にのみ受け継がれてきた秘宝。当然、この時計の使い方も熟知している……このようにな!」

 

 

ゲイソンがそう告げると同時に竜頭が回転し、その回転に応じて、ル=キルの鎖で縛られたクズ鉄の翼が羽ばたき、風を起こし始める。

ウィリアムは今までの情報から、風を受けてはいけないと判断し―――

 

 

「リィエル―――ッ!」

 

「うあっ?」

 

 

ウィリアムは身体能力強化魔術を全開にし、リィエルを抱きかかえて横へ飛んだ。

リィエルは辛うじて風の範囲から外れたが―――ル=キルが巻き起こした風は、ウィリアムの背中と、リィエルの大剣を撫でた。

 

 

「が―――ッ!?」

 

 

ぼんっ!リィエルの大剣が穴が空いたように真っ二つに折れ、ウィリアムの背中が弾け飛ぶ。……致命傷だ。

背中から大量の血が流れ、ウィリアムは立ち上がることさえ出来なくなる。

 

 

「ウィルッ!?何で急に、酷い傷が!?」

 

「リィ、エルッ!はや、く……ごふっ!シス、ティーナを、連れ、て……にげ、ろ……ッ!俺と、先公を、置いて……ッ!」

 

 

ウィリアムは血ヘドを吐きながら、すぐ近くで、脇腹に致命傷を負ったグレンに縋るシスティーナに視線を向けながら伝えるも。

 

 

「やだ……やだやだッ!絶対、やだッ!!ウィルとグレンを置いていくなんて、絶対、やだッ!!」

 

 

リィエルは悲痛な顔で拒絶し、ウィリアムから離れようとしなかった。システィーナもグレンに請け合わず、法医呪文(ヒーラー・スペル)をかけ続ける。

そんな四人にゲイソンは高笑いして、竜頭をさらに回転させていく。同時にル=キルが再び風を起こし―――

 

 

「ぐ―――ッ!《解の開放(オープン)》―――ッ!《楯壁展開(ロード)》―――ッ!」

 

 

ウィリアムは何とか左手を動かして、圧縮凍結状態の《詐欺師の盾》を取り出し、解凍して元の大きさに戻して封印を解除し、《盾》の魔力障壁を展開する。

ウィリアム達を守るように、全方位に展開された絶対防御の魔力障壁が、迫る風を受け止めるも―――

 

ぴっ。ぴっ。ぴしっ。

 

風にあたった絶対防御の魔力障壁に、ちょっとずつヒビが走っていく―――

 

 

(“あらゆるエネルギーを分解”する特性を再現した魔力障壁にヒビが入るとか……ッ!?やっぱりこれは物理的な破壊じゃないッ!別の理屈で起こしている“滅び”だ……ッ!)

 

 

このままでは、障壁が破られる。

 

 

「―――~~?――――――~~~?―――、―――~~!」

 

 

障壁の外にいるゲイソンの持つ竜頭がさらに回転数を上げ、それに呼応するようにル=キルの羽ばたきがさらに強まり、クズ鉄の翼から羽根まで飛ばし始めていく。

飛ばされた羽根も障壁にあたった瞬間、そこからヒビが入って障壁を壊していく。

そして、滅びの風と羽根により、魔力障壁のひび割れがどんどん大きく、広がっていく―――

 

 

「このままだと……がはっ!破られるッ!」

 

「ごほっ!白猫……げほっ!お前の風の魔術であの風を受け止めろ!風には風だ……ッ!」

 

「な、何を言ってるんですか……ッ!?今治療を止めたら……ッ!」

 

「大丈夫だ!大丈夫だから―――」

 

「でも……でもぉ……ッ!」

 

 

グレンの要請をシスティーナが涙目で拒絶している間に―――

 

ばきぃんっ!!

 

絶対防御の魔力障壁は遂に限界に達し、砕け散ってしまった。

 

 

「ふははははははは―――ッ!中々耐えたようだが、所詮ここまで!我らがクライトスの威光にひれ伏して―――死ねッ!」

 

 

ゲイソンが哄笑と共に竜頭をさらに回転させようとした―――その時。

ぴたり、と。ル=キルの翼の動きと、滅びの風と羽根が止まった。

びきり、と。ル=キルを戒める拘束具と鎖に、ヒビが入った。

そのヒビに呼応するように、竜頭がかつてないほどの回転を始め―――ル=キルを戒めていた拘束が次々と弾け飛び、首輪と、首輪についた鎖以外の拘束が、全て破壊された。

 

 

「い、一体何が―――」

 

 

驚愕するゲイソンの言葉は最後まで紡がれず、ほぼ自由になったル=キルが巻き起こした風でこの世から消し去られてしまう。

 

 

「ヨウヤクデス……えれんの、オ陰デ……出テ来ラレタ……モウ少シ繰リ返セバ……完全ニ、自由ニ、ナレル……ダカラ……一緒ニ、繰リ返シマショウ、えれん……永遠ニ……」

 

「やだ……もう繰り返すのは嫌ぁあああああああああ―――ッ!」

 

 

身体の半分以上が機械化され、肉に歯車やらが覗く、悍ましい姿のル=キルと、そのル=キルから背後で抱きしめられるエレンのやり取りを前に、グレンとウィリアムは遂に限界に達する。

 

 

「先生ッ!しっかりして、先生ッ!!」

 

「ウィルッ!死なないで、ウィルッ!!」

 

 

システィーナとリィエルが縋り付いてくるが、最早、グレンとウィリアムの身体は動かない。

今起きた現象は単純だ。

時計に改造されて封印状態だったであろうル=キルが、何千回と使い続けた結果、その封印に綻びが生じ、その綻びを突いて封印を破壊したのだ。

そして、この世界は終わり(Ω)始まり(A)へと戻る―――

そんな、昏く落ち行く世界の真ん中で―――

 

 

「大丈夫だ、白猫……信じろ……」

 

「“次”こそ……このふざけた世界をぶっ壊して……お前や皆の未来を守ってやるから……」

 

 

グレンとウィリアムは最後の力で、それぞれに縋る少女の手を握りしめる。

そんな二人に対し……

 

 

「……わかりました、信じます」

 

「……わたしにはよくわかんないけど……その時は、ウィルの力になる……」

 

 

少女達は力強く手を握り返した。

その言葉にグレンとウィリアムは安堵し、心に潤いが戻っていくと同時に、意識は闇へと落ちるのであった―――

 

 

 




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百四十八話

てな訳でどうぞ


――――――。

―――ふと、気付く。

 

 

「「……?」」

 

 

グレンとウィリアムは、いつの間にか見知らぬ世界に立っていた。

無限に広がる草原に所々、地面から生えるように色とりどりの鉱物が幾つも散らばっており、遠くには山々が連なる世界だ。

前方には緩くうねるような街道が地平線の果てまで続いており、その街道の遠くの先には、良く見えないが、妙な柄の剣らしきものが刺さっている。

グレンの足下には金色の毛並みの可愛い子犬が懐くように寄り添い、ウィリアムの足下には薄い金色の毛並みの子狼が構ってほしいように見上げている。

ウィリアムの肩には、瑠璃色の瞳を眠たげに細めた子リスが、縋り付くように乗っており、少し離れた道の先で、真っ白な毛並みの子猫が、ちょこんと座り、つんとしたすまし顔でグレンに向かって振り返っている。

そして、空は無限の星で煌めき、どこまでも大きく広がっている―――

 

 

「……どこだよ、ここ……」

 

『ここは、貴方達の精神世界が混ざり合った場所よ、グレン、ウィリアム』

 

 

グレンの呟きに、背後から聞こえた声が答え、グレンとウィリアムが振り返ると、ナムルスが立っていた。

 

 

『夢と現実の狭間、意識と無意識の境界に存在する領地……今は貴方達の心象風景が混ざりあって生み出された、外界を流れる時間とは切り離された世界……とはいえ、貴方達以外の誰かさん達の意識も少し混ざっているみたいだけど』

 

 

ちらり、とナムルスが視線を子リスと子猫に向ける。

瑠璃色の瞳を眠たげに細めた子リスはウィリアムをじっと見つめ、真っ白な毛並みの子猫は物言いたげにグレンを見ていた。

 

 

「本当に、何でもありなんだな、ナムルス」

 

『……さて。ようやく真実に辿り着いたみたいね』

 

 

ウィリアムの嘆息をナムルスは軽く流して、本題へと切り出す。

 

 

「……見てたのか?」

 

『ええ、見えたわ。あの子……ル=キルが今回の元凶ね』

 

「「?」」

 

 

ナムルスの奇妙な表現に、グレンとウィリアムは揃って首を傾げるが、ナムルスは構わずに話を続けていく。

今のル=キルに理性はなく、エレンに取り憑いて、与えられた命令の延長線上でしか思考出来ないこと。

本来は厄介である時間操作能力も、この一週間の繰り返しだけで、厄介なのはあの翼の滅びの風と羽根だけだと。

 

 

「それが絶望的なんだが?」

 

『今のあの子の力は、時間が常に内包している滅びの“概念”を極微少の根源素粒子―――第三虚数質量物質《時素(ルイン)》として翼で物質化し、風に乗せて飛ばすだけ……羽根も風と似たようなものよ。だから、()()ウィリアムの碧い金属そのもので十分耐えられるわ』

 

「……ああ。だから不完全でも魔力障壁で防げたんだな」

 

 

ナムルスの説明に、ウィリアムは納得がいく。

エネルギーは物質の移動・振動である以上、滅びの概念を宿した《時素(ルイン)》という物質を飛ばしているだけだからこそ、止めることが出来たのだ。

《ディバイド・スチール》本体なら、あの滅びの風と羽根を確かに止められるだろうが、所詮金属。限られた範囲でしか防げない。

 

 

「結局、発生したての風に触れなきゃ大丈夫なのか?」

 

「ああ。滅びを内包しているから、物質化した《時素(ルイン)》も、自らの滅びで消えるんだからな」

 

「なるほどな……」

 

『そういうこと。かつてのように、近過去へ不可視の攻撃をしてくる力もないから、安心なさい』

 

「近過去への攻撃って……まさか、過去を攻撃して、攻撃されたという現在を作るってか?」

 

「神の眷属は何でもありかよ……」

 

 

頬を引きつらせるグレンとウィリアムに、ナムルスが訴えるように告げる。

 

 

『貴方達ならきっと対策を打てるはず……それに、薄々わかってるでしょ?私が再び現れた理由に』

 

「……限界、なんだろ?」

 

『ええ。恐らく次の繰り返しで、貴方達の存在する時空間が完全にねじ切れる。そうなれば、この一週間はあの子に関係なく永遠に繰り返され……どこにも向かわない』

 

「もう、後がないんだな……」

 

「……ホンっと、ヘヴィだぜ……」

 

『ル=キルを倒して。幸い、今のあの子は予め決められた機能と命令しか実行できない、ただの時計よ。()()グレンには手に負えない時間操作能力もループ機能だけ……まったく勝ち目がないわけじゃない……あの子を楽にしてあげて……』

 

 

湿ったものが混ざったナムルスの態度と言葉に、グレンとウィリアムは引っかかりを覚える。

 

 

「ナムルス……やっぱり、ル=キルのことを何か知っているんだな?」

 

『さぁ?』

 

 

グレンの問いかけにナムルスは答えず、くるりと背を向ける。おそらく、いつもの“答えられない”だろうから、素直に諦めることにする。

 

 

『……お願い……グレン、ウィリアム……貴方達は自身の過去と未来のために、あの子を倒して、未来を掴んで……』

 

「……善処はするぜ」

 

「……やるだけやるさ」

 

 

ナムルスの懇願に、グレンとウィリアムが応じると、二人のいた世界は真っ白に白熱していった―――

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

――――――。

 

 

「―――ウィル。……?」

 

「…………」

 

 

再び、初日に戻る。

そこは、いつもの教室。

いつものように皆が居て。

隣には、エルを膝の上に座らせたリィエルが居る……

 

 

「…………」

 

『おかーさん?』

 

 

リィエルはなぜか自身の手とウィリアムを交互に見比べているが……それどころではない。

今回で何としても、あのル=キルを倒さなければ、この世界は一週間を永劫繰り返すだけの世界となってしまうからだ。

 

 

(第三者へのループ情報開示のルール……おそらく、まだ生きているだろうな……ナムルスが今のあいつは与えられた命令延長線上でしか思考出来ないと言っていたから、ゲイソンから離れた今もそのルールは引き継いでいると見ていい……いや、そう見るべきだ)

 

 

希望的観測で行動して、ループ情報を第三者に掲示した瞬間、次のループが始まれば、そこで全てが終わってしまう。

今の状況で動けるのは、周回の記憶を残しているグレンとウィリアムだけ。たった一人で挑むより遥かにマシだが、それでも、頼れる人物達の力を借りられないのは痛過ぎる。

特に、ル=キルの滅びの風対策に最も適した人物―――システィーナの力を借りられないのが一番痛い。

 

 

「ああ、クソ……ッ!」

 

「一体どうすれば……!?このままじゃ―――ッ!」

 

 

ウィリアムは同じ考えであろうグレン共々、頭を抱えて、机に突っ伏した、その時。

 

 

「先生……少し、お話ししましょう」

 

 

グレンと自身の手を見比べて、どこか様子のおかしかったシスティーナが、グレンの手を突然取って、引き始めたのだ。

そのシスティーナがちらり、とリィエルとウィリアムに視線を向けてから、グレンを教室の外へと連れていこうとする。

システィーナの謎の行動にウィリアムが戸惑っていると……

 

 

「……エル。ごめんだけど、ルミアのところで待ってて。わたしとウィルは、グレンとシスティーナに付いていく」

 

『?わかったの。ルミアおねーちゃんのところで、エル、待ってる』

 

 

リィエルの突然のその言葉に、エルは小首を傾げながらも素直に頷いて、霊的な羽を動かして、リィエルからルミアの下へ飛んで向かっていく。

それを確認したリィエルは、そのまま、ウィリアムの手を引っ張って、グレンとシスティーナの後へと続くのであった。

 

 

(……一体どうなってんだ?こんな展開、一度も……)

 

 

ラスト・ループに来て、完全に初めての展開にウィリアムは、システィーナに引っ張られているグレン共々、戸惑うしかなかった。

 

 

 




「「「…………」」」

草葉の陰からじっと見つめている、真っ白な毛並みの子犬と赤い毛並みの子リス、亜麻色の毛並みの子狼の図

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百四十九話

てな訳でどうぞ


閑散とした寂しげな裏庭。そこにグレンとウィリアム、システィーナとリィエルがいた。

 

 

「ったく、何の用事だよ?」

 

「同感だ。一体どういう―――」

 

 

グレンとウィリアムの投げやり気味の言葉に、システィーナは戸惑いながら、リィエルはよくわかっていなさそうに言葉を口にする。

 

 

「私……先生を起こそうとした一瞬……夢を見たんです。先生とウィリアムが何か恐ろしい敵と戦っている……そんな夢を」

 

「ん、わたしも夢……?を見た。グレンとウィルが敵にボロボロにされて、最後までウィルがわたしの手を握ってくれたのを……一瞬だけど」

 

「「!?」」

 

 

システィーナとリィエルのその言葉に、グレンとウィリアムは目を剥いて愕然とする。

 

 

(前回のループの記憶が少し残っている!?最後まで俺や先公と一緒だったことが原因なのか……ッ!?)

 

 

理屈はわからないし、そもそも、周回の記憶を残すようになった原因も不明なのだ。

そんな困惑するグレンとウィリアムに構うことなく、システィーナとリィエルは言葉を続けていく。

 

 

「もの凄くリアルな夢で……不思議とリィエルも同じ夢を見た気がして……」

 

「グレンとウィルを助けたい……そう強く感じる夢?だった……ウィルの最後まで握ってくれた手の温もりが、強く感じるほどに」

 

「あの夢の中で握ってくれた先生の手の感触が……今もはっきりと残っているんです!もし、何か隠しているなら……話してくれませんか?」

 

 

そんなシスティーナとリィエルに対し、グレンとウィリアムは―――

 

 

「「…………」」

 

 

……黙りを貫いて、気まずそうに目を逸らした。

システィーナとリィエルが前回の記憶の一部を継承したのには驚いたが……結局は事情を話せない。話せば、ループが始まってしまう。彼女達の力を借りることは出来ない。

墜ちた神の眷属、滅びの風をもたらすル=キル。

そのル=キルに対抗できる可能性があるのはシスティーナだ。

リィエルも、ル=キルに対抗できる手段を用意してやれるが、それもシスティーナの協力がなければ意味がない。

そして、システィーナにはあることをやってもらわなければ、今のままではル=キルに対抗することが出来ない。

しかも、それをやるにはハードルが高すぎるのだ。

詳しい事情を明かせない以上、どうしようもない。

仮に頼んでも、それを受け入れてくれるかどうか……

 

 

「…………」

 

「……もう、話さなくていいです」

 

 

何も語らないグレンとウィリアムを前に、リィエルが目を伏せ、システィーナがぼそりと呟いた。

ここまで真剣に真摯に向き合ったのに、話すらしないのだ。誰だって愛想を尽かして当然だ。

グレンとウィリアムは、システィーナとリィエルに本当に申し訳ない気分になっていく。

だが、これでいい。これでいいのだ。元からこれはそういう戦いなのだから。

かなり厳しいが、人工精霊(タルパ)で何とか滅びの風を抑えて、必滅の一刺しを叩き込むしかない。

グレンとウィリアムは寂しげに、無言で立ち去ろうとした……その時だった。

 

 

「……それで?私は何をやればいいんですか?」

 

「……ん。何をやればいいのか、教えて」

 

 

あまりにも意外過ぎる言葉が、グレンとウィリアムの背中を叩いたのであった。

 

 

「「は?」」

 

 

その言葉に、グレンとウィリアムが思わず振り返る。

そこにあったのは、苛立ったり悲しんだりしたものではなく、無限の信頼を瞳に灯した二人の姿だった。

 

 

「何をやればって……」

 

「そもそも話してねぇのに……なのに、どうして……?」

 

「肝心な所で嘘が下手すぎですよ。何かあるのは二人の態度で確信しましたから。それがきっと……あの夢にあることも」

 

「ん。たぶん、グレンとウィルは“話せない”んだと思う……勘だけど」

 

「「!」」

 

「だったらわたしは何も聞かずグレンとウィルの力になる。そうしたいと、わたし自身が思うから」

 

「その理由はさっぱりですけど……そのくらいはわかるというか……信頼しているっていうか……そういうことですから察してください!それで、何をすればいいんですか?」

 

 

相変わらずのリィエルと突然怒ったシスティーナに、グレンとウィリアムは目をぱちくりとしてしまう。

そして、グレンとウィリアムは頼みを口にする。

 

 

「……システィーナ。選抜会を辞退してくれ」

 

「……リィエル。今日から学院を休むぞ」

 

「!……わかりました。辞退しますね」

 

「ん。わかった」

 

 

あまりにもあっさりと承諾したシスティーナとリィエルに、ウィリアムはかくん、と口を開き、グレンは思わず転びそうになる。

 

 

「何でそんなにあっさり!?」

 

「お前はメイン・ウィザードになりたいんだろ!?本当にわかっているのか!?理由も話さず、頼みも滅茶苦茶……なのに、どうしてなんだ!?どうして、そんなに信じてくれているんだ!?」

 

「ウィリアムはともかく、先生がなんで私の意気込みを知っているのか凄く気になるんですが……先生だからですよ」

 

「ん。グレンとウィルだから……だから、信じる」

 

「「…………ッ!?」」

 

 

システィーナとリィエルのその言葉に、グレンとウィリアムはただただ圧倒され、二人の顔を見つめるしかない。

 

 

「ほら!先生!早く行きますよ!」

 

「ん。わたし達も行こ、ウィル」

 

 

グレンとウィリアムはそれぞれの少女に手を引かれて。

本当に敵わないな……と、互いに同じことを思うのであった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

四日目の、第三の試験―――総当たり模擬魔術戦。

代表候補の生徒達の白熱した試合を多くの生徒達が観客席から見守っている。

 

 

『皆すごいの!ファイトぉ~、なのッ!』

 

 

その観客席の一つから、オーヴァイに抱きかかえられたエルの声援が響いている。

 

 

「本当に凄いですねぇ、皆さん。オキタさんも戦いたかったですー」

 

「あはは。本当に凄いね、皆」

 

 

オーヴァイは羨ましげに、ルミアは朗らかに笑いながら試合を見守っている。

 

 

「……でも、本当にどうしたのかな?システィが選抜会を急に辞退するなんて……」

 

「はい。それもグレン先生と朝から晩まで図書館に籠って……同時にウィリアム先輩とリィエル先輩も学院を休んでますし……」

 

 

ルミアとオーヴァイの間に微妙な空気が流れ始めるも……

 

 

「だけど、きっと何か理由がある筈だよ。そうしないといけない理由が」

 

「はい。正直、不満やら自身への情けなさやらで胸が一杯ですが、今は信じましょう。先生達を」

 

「うん……そうだね」

 

『う?』

 

 

ルミアとオーヴァイは微笑みながら、よくわかってなさそうに小首を傾げるエルと共に彼らを想うのであった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――七日目。選抜会の最終日。

魔術競技場でより白熱した模擬魔術選が行われる中、エレンは魔術学院校舎屋上から、黄昏に燃えるフェジテの街並みを涙と共に眺めていた。

 

 

「泣カナイデ、えれん……怖クナイカラ……一緒ニ、繰リ返シマショウ……繰リ返セバ、アノ御方ニ、何時カ、会エルカラ……」

 

 

そんなエレンを、掌にあの竜頭を収めているル=キルが背後から抱きしめている。

会話も全く成立せず、エレンの胸にはただただ、悔恨と絶望、皆の未来を奪ってしまったことへの罪悪感しかなかった。

 

 

「ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

 

自分勝手な願望がもたらした結果に、エレンは鉄柵に縋り付き、燃える黄昏に向かってひたすら涙を流し、永遠に続くであろう謝罪の言葉を繰り返していると……

 

がちゃ……

 

背後から扉が開かれる音が聞こえてきた。

誰かが入ってくる気配を感じ、エレンは、力なく背後へと振り返る。

 

 

「……え?」

 

 

そこに居たのは、グレンと―――システィーナ。

そして、後ろには紺の外套を羽織ったウィリアムと、鞘に納まっている十字架型の柄(クロス・ヒルト)を設えた剣を腰に吊ったリィエルだった。

 

 

「……どうして、システィーナがここに……?」

 

 

エレンの口から疑問の声が洩れる。

グレンとウィリアムは、何度も顔を合わせたから、まだ理解できる。

リィエルという名前の少女は……理解はできないが許容はできる。

だが、システィーナがこの場にいることだけは―――理解も許容もできなかった。

そんなエレンの心情に構うことなく、システィーナが口を開く。

 

 

「久しぶりね、エレン。貴女を助けに来たわ。先生とウィリアムが何も教えてくれないから、詳しい事情はわからないけど」

 

「…………」

 

「待っててね、エレン。今すぐ、その怪物を倒して助けるから」

 

「……どうしてなの?どうして貴女がここにいるの!?貴女は選抜戦に出場しているはず!貴女にとってこの選抜戦は、何物にも代えがたいものの筈なのに……ッ!私は、散々、貴女に酷いことを言って、傷つけたのに……ッ!なのに、どうして、私なんかを助けに―――ッ!?」

 

「……ごめん、エレン。正直、貴女の言っている意味が全然わからない。間違いなく知らない所で色々あったのね。だけど、“友達を助ける”……それだけで、私にとっては十二分に過ぎる理由よ」

 

 

「あ……」

 

 

いまいち事情が呑み込めないまでも、はっきりと告げたシスティーナのその言葉に、何千回もの繰り返しで化石と化して乾ききったエレンの心に、急速に潤いが取り戻され、優しく溶かしていく。

そして―――

 

 

「システィ……ぐすっ……ごめん、ごめんね……」

 

 

エレンは辛さと後悔で顔を歪めて泣いていた。

そんなエレンの姿に、システィーナは口元に優しげな笑みを浮かべ、呼吸と共に、静かに魔力を高め始める。

エレンとシスティーナのやり取りを見守っていたグレンとウィリアム、リィエルもシスティーナに続くように、グレンとウィリアムは互いの拳銃を抜き、リィエルは腰に吊った剣を鞘から抜いて構えていく。

リィエルが持つその剣は、片手半剣(バスタードソード)状の刀身で、その刀身はルーン文字が幾つも刻まれた碧い金属で構成されている。

 

 

「さあ、行きますよ、先生!ウィリアム!リィエル!」

 

「へっ、頼りにしてるぜ?()()

 

「もちろんだ」

 

「ん。任せて」

 

 

そんな一同の言葉と動きに、エレンはぎょっとして叫びを上げる。

 

 

「待って!待ってくださいっ!まさか、本当にこの怪物と戦うつもりなんですか!?」

 

「そうに決まってんだろ」

 

「そもそも倒さないとマズイだろ。後、そいつへの対抗策はもう用意してあるんだよ」

 

「対抗策……ッ!?この人を超えた異次元の力に、どうやって……ッ!?」

 

 

わけがわからないと困惑するエレンに、システィーナが自信に満ちた声で告げる。

 

 

「大丈夫よ、エレン。選抜会を棄権して、先生と一緒に、新しい魔術を作ってきたから」

 

「はぁ!?棄権!?」

 

「私には、今まで先生と一緒に積んだ、とても大きな土台がある。先生も一緒なら、この一週間で、そんな怪物に対抗する魔術を編み出すくらい、わけないわ!だから……絶対に、貴女を救ってみせる!!」

 

 

そんな威風堂々としているシスティーナの姿を、エレンは遠く眩しいものを見るように、ぼんやりと見つめる。

 

 

「―――そういうわけだ。この茶番劇にケリをつけようぜ……ル=キル」

 

 

ウィリアムが不敵に笑って、ル=キルを見据えると―――ル=キルが遂に動いた。

 

 

『敵性反応、検知。処刑もーどニ移行シマス。―――《滅ビノ風》行使権能―――発動』

 

 

途端、ル=キルの掌の竜頭が、猛回転を始め―――背中の翼がばさりと広がり、容赦なく羽ばたかせた。

今までとは違う、エレン以外を吹き飛ばそうと荒れ狂う、渦巻く嵐が、彼らを呑み込まんと迫る―――

 

 

 




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百五十話

てな訳でどうぞ


滅びの風が放たれ、ル=キルとエレンを中心に、屋上の床がぼろぼろの灰燼と化していく。

 

 

「逃げてぇえええええええええ―――ッ!!」

 

 

エレンの悲痛な叫びが上がった―――その時。

 

 

「《我に従え・風の民よ・我は風統べる姫なり》!」

 

 

システィーナが両手を広げて、呪文を叫んだ。

瞬間、システィーナの足下に魔力の光が迸って瞬時に魔術法陣が展開され、それがシスティーナを軸に回転し始めていく。

 

 

「いっけぇえええええええええええ―――ッ!!」

 

 

そして、システィーナが何かを分けるように両手を大きく広げると、猛然と迫っていた滅びの風が二つに分かれ、ウィリアム達を避けて流れていった。

システィーナのお得意の改変呪文、黒魔改【ストーム・ウォール】。

その魔術をさらに発展改変した、その場のあらゆる風の流れを知覚し、風を支配できるという、その場における風の完全支配を行う魔術―――黒魔改弐【ストーム・グラスパー】。

グレンとシスティーナが一週間の突貫工事で編み出し、システィーナの魔術特性(パーソナリティ)【流転の加速・支配】ゆえに習得できた、ル=キルの滅びの風に対しての最大の切り札だ。

 

 

「うそ……」

 

「へっ……滅びの風と大層な名がついていても風……風そのものは気圧差で発生する空気の流れに過ぎねえんだよ!」

 

「あくまで滅びを内包した時素(ルイン)を風で飛ばしているだけだから、それに触れなければいいだけの話だ!」

 

「悪いんですけど、この術、すっごく魔力を食うんですから、あんまり長く展開できませんからね!ドヤってる暇はないんですからね!?」

 

「ん。早くあいつを倒すべき」

 

 

妙に緊張感のないやり取りをするグレンとウィリアム、システィーナにリィエル。

そんな彼らに構うことなく、ル=キルはさらに翼をはためかせ、爆風を巻き起こしていく。

 

 

「ふ―――ッ!」

 

 

だが、いくら巻き起こしても所詮、風。システィーナの前には児戯同然。

滅びの爆風は分断され、方向を曲げられ、あらぬ方向へと流される。

だが、滅びの風を受けていた校舎が、度重なる損壊から、灰燼と化しながら崩れ落ちていく。

 

 

「おっと!」

 

 

だが、ウィリアムが正規の手法で大きな鳥の人工精霊(タルパ)を二羽、その場に具現召喚し、それぞれの背中にグレンとシスティーナ、ウィリアムとリィエルを乗せて滞空する。

 

 

「ギ―――」

 

 

一方、ル=キルはエレンを抱きかかえて飛び、上空から滅びの風を叩き付けんとするも―――

 

 

「《剣の乙女よ・空に刃振るいて・大地に踊れ》―――ッ!」

 

 

システィーナが【エア・ブレード】を改変強化した、全方位から迫る風の刃―――黒魔改【ブレード・ダンサー】でル=キルだけを切り刻んで妨害する。

 

 

「グガァアアアアアアアアアアア―――ッ!?」

 

 

無数の風の刃になます斬りにされたル=キルは苦悶の悲鳴を上げ、無数の部品をボロボロと零していく。

 

 

「凄い……」

 

「白猫ッ!アレを頼むぜッ!」

 

「はいっ!」

 

 

グレンの要請に、システィーナは他者に遠隔的に【ラピッド・ストリーム】をかける改変魔術―――黒魔改【スウィフト・ストリーム】を疾風脚(シュトロム)でグレンにかけ、二人三脚の疾風脚(シュトロム)でグレンはル=キルに向かってカッ飛んでいく。

 

 

「ギ―――」

 

 

ル=キルは迎撃とばかりに、滅びの風と、滅びの羽根を自身に迫ってくるグレンに向かって飛ばしていく。

だが、滅びの風はシスティーナの【ストーム・グラスパー】で捌かれ、滅びの羽根はグレンとシスティーナの阿吽の呼吸による三次元機動で悉くかわされてしまう。

 

 

「ギ―――排除―――優先対象―――変更」

 

 

それならば、と言わんばかりに、ル=キルは滅びの羽根をグレンだけでなく、システィーナに向かって大量に飛ばし始めていく。

 

 

「《剣の乙女よ・刃振るいて・大地に踊れ》―――ッ!」

 

 

システィーナが【ブレード・ダンサー】で切り払って、叩き落としていく。だが、それでも全ては落としきれず、滅びの羽根はシスティーナに迫っていく。

 

 

「やぁああああああああああああ―――ッ!」

 

 

だが、その迫りくる滅びの羽根を、ウィリアムが召喚した人工精霊(タルパ)を足場にして空を駆けるリィエルが、碧い剣を剛速で振るい、システィーナに迫る滅びの羽根を悉く叩き落として、システィーナを守っていく。

その滅びの羽根を受けた刀身は―――無傷。

灰燼に帰さずにその存在を保っていた。

この刀身に使われている碧い金属の正体は―――魔術金属《ディバイド・スチール》。

《詐欺師の盾》に取り付けられていた絶対防御の金属を、ウィリアムは刀剣に造り直し、リィエルに持たせたのだ。

名付けるなら―――魔剣《不傷の碧剣》。

決して斬れない碧い剣は―――この滅びを捌くには十分であった。

 

 

「ん。上手くいった。頑張って特訓した甲斐があった」

 

 

滅びの羽根を捌ききったリィエルは、人工精霊(タルパ)の上で若干胸を張って、得意げに呟く。

リィエルが呟いた特訓とは何てことはない。《魔導砲ファランクス》と《魔導砲ファランクス・ミクロ》で形成した非殺傷弾の弾幕を、避けずに全て剣で捌くというふざけた特訓だ。

この一週間、ウィリアムはリィエルにその特訓を毎日施し、同時に《不傷の碧剣》も作成していたのだ。

そして、その特訓と比べれば、あの程度の滅びの羽根の弾幕は―――リィエルにとっては容易かった。

 

 

「ガ―――排除―――ッ!?」

 

 

ル=キルはさらに翼をはためかせ、風と羽根を飛ばしていくも結果は同じ。

滅びの風は明後日の方向に流され、滅びの羽根もかわされ、もしくは叩き落とされて防がれていく。

ル=キルはグレン達から逃げるように上昇するも、システィーナのアシストによる移動の方が速く、グレン達はみるみるうちに迫っていく。

だが、ここまでしても、神の眷属には決定力がない。ル=キルに決定力を持っているのは―――グレンとウィリアムだけだ。

 

 

「《0の専心(セット)》―――ッ!」

 

 

グレンが拳銃の撃鉄を引きながら、呪文を呟くと、その拳銃に不穏な魔力が胎動する。

そのまま、グレンはさらに空を蹴って―――ついに、ル=キルの頭上を取る。

 

 

「ギィイイイイイイイイイイイイイ―――ッ!!」

 

 

逃げ切れないと判断したのか、ル=キルが苦し紛れの攻撃を突然やめ、大量の羽根を自身の周囲に撒き散らしていく。

すると、滅びの羽根が絡み合うようにくっついていき―――自身とエレンを覆う繭を形成してしまった。

 

 

「な―――ッ!?」

 

 

これには流石にシスティーナも絶句する。あれではグレンは近づけないし、【ブレード・ダンサー】で斬り飛ばそうにも、下手に放てばエレンにも当たって、傷を負わせてしまいかねない。

だが、それもほんの一瞬。システィーナはすぐにウィリアムに向かって叫んだ。

 

 

「ウィリアムッ!」

 

「ああ、わかってる―――《一の追求(セット)》ッ!」

 

 

ウィリアムが呪文を呟くと同時に拳銃の撃鉄を引くと、その拳銃に不吉な魔力が宿る。そして、拳銃に錬成される刃。

ほぼ同時に、リィエルが《不傷の碧剣》を鞘に仕舞い、ウィリアムが乗っている人工精霊(タルパ)の鳥の背に着地する。

そのままウィリアムの腕を掴んで一回転し―――

 

 

「やぁああああああああああああ―――ッ!!」

 

 

全身の発条(ばね)を使って、上空へと投げ飛ばした。

 

 

「《吹き抜ける風よ》―――ッ!」

 

 

さらに、システィーナが即興改変の風の魔術をウィリアムに向けて放ち、ウィリアムを滅びの繭に向かって飛ばしていく。

ウィリアムは刃が付いた拳銃を構えていく。そんなウィリアムの耳に―――

 

 

「……私には空なんてないの?望んではいけなかったの?ずっと籠の中なの?ねぇ、システィ……」

 

 

そんなエレンの呟きが耳に届いてくる。それに対し―――

 

 

「あるだろ、誰もが持っている―――“未来”という名前の空が」

 

 

どこか呆れを含ませながらも告げた力強い言葉とともに、ウィリアムはその滅びの繭に銃口から生え、銃床で固定されている独特の刃を滅びの繭に向かって構えたまま、触れた瞬間に引き金を引く。

咆哮する銃声。すれ違っていくウィリアム。同時に崩れゆく刃と繭。

固有魔術(オリジナル)詐欺師の騙し討ち(ディスパージョン)】―――発動。

あらゆる構成要素を喪失させる必滅の魔剣が、ル=キルとエレンを包み込んでいた滅びの繭をマナの粒子へと成り下がらせ―――ル=キルとエレンを燃える黄昏の下に晒していく。

 

 

「ぁ―――」

 

「ああ。そのためにも……この“籠”をぶち壊さねぇと……なっ!」

 

 

天より舞い降りたグレンが、黄昏に晒されたル=キルの額に銃口を押し当て、引き金を引く。

火を噴く銃口。咆哮する銃声。ル=キルを通り抜ける弾丸。

固有魔術(オリジナル)愚者の一刺し(ペネトレイター)】―――発動。

あらゆる霊的要素を破滅させる必滅の魔弾が、ル=キルの存在本質を撃ち抜き、ズタズタに引き裂いた。

 

 

「ァ―――……」

 

 

そのままル=キルは、エレンを手放して、墜落。

墜落しながら、その身体をマナの粒子に分解されていき……呆気なく消滅した。

 

 

「エレン―――ッ!」

 

 

投げ出されたエレンを、システィーナが疾風脚(シュトロム)で空を飛び駆け、空中で抱き止める。

それを尻目に、ウィリアムは人工精霊(タルパ)の鳥を操作し、緩やかに落下するグレン共々、リィエルが乗っている人工精霊(タルパ)の鳥の背に着地する。

 

 

「ようやく、終わったな……」

 

「ああ……今回の騒動もこれで終いみたいだな……」

 

 

そう言いながら、改めて空を見ると、周囲の風景がゆっくりと回転し―――みるみるうちに加速していく。

 

 

「な、なんですか、これ!?」

 

「ねぇ、何が起きているの?」

 

「だいじょーぶ、だいじょーぶ」

 

「多分、繰り返すループで歪んだ時空が、あるべき元の形に戻っているんだろうな」

 

「はぁ!?何を言ってるのか、さっぱりわからないですっ!」

 

「ん。よくわかんないけど、大丈夫ってこと?」

 

「ああ」

 

「そこは信じて大丈夫だ」

 

「もう!後でちゃんと説明してくださいね!?」

 

「それは構わねぇが……」

 

「全部元に戻った時、覚えてんのかなぁ……?」

 

「?」

 

 

なんとも締まらないやり取りの中。

世界は―――完全なる闇の中へ閉ざされていくのであった。

 

 

「次、会う時は……正々堂々競い合おうね、システィ」

 

「……うん。受けて立つわ、エレン」

 

 

最後に、そんなやり取りを残して―――

 

 

 




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百五十一話

連続投稿
てな訳でどうぞ


――――――。

 

 

「―――ウィル」

 

「……んお?」

 

 

肩を揺すられたウィリアムは意識を今へと戻し、肩を揺すっていたリィエルに顔を向ける。

 

 

「ぼーっとしてたけど大丈夫?」

 

「あー、大丈夫だ。ちょっと物思いに耽っていただけだからよ……」

 

 

リィエルにそう言いながら、ウィリアムは教卓で寝そべっていたグレンと、ギャンギャン吼えるシスティーナ、そんなシスティーナを諌めるルミア、他のクラスメイト達を見やる。

 

 

「グレン、かわいそう」

 

『グレンおにーちゃん、だいじょーぶ?』

 

 

リィエルがそんなグレンにぼそりと零し、リィエルの膝の上に座っている、特注で用意してくれた制服に身を包んだエルも心配げに呟く。

 

 

「本当に相変わらずだな……」

 

 

本当に相変わらずの光景に、ウィリアムが大きく背伸びした―――その時。

 

 

『?おかーさん、すごく嬉しそう。どうして?』

 

 

不意に、エルのそんな疑問の声がウィリアムの耳に届いてきた。

ウィリアムが疑問に思い、リィエルに改めて顔を向けると―――そこには、はっきりとわかるほどに笑みを浮かべていたリィエルがいた。

 

 

「何でもない、秘密」

 

「『?』」

 

 

普段とは違うリィエルに、ウィリアムとエルは揃って首を傾げるしかない。

だが、リィエルは笑ったまま、ウィリアムに近づいてくっついた。

 

 

「おいおい……」

 

「ふふ……」

 

 

肩を擦り寄せてくっついたリィエルに、ウィリアムは困惑しながらも、まぁいいかと、リィエルの甘えを、システィーナに引っ張られるグレンを見送りながら受け入れるのであった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

――――――。

 

そして、いつもどおり始まった交流歓迎会。

いつも通り始まった―――修羅場の最中にて。

 

 

「さて、ウィルさん」

 

「お話を続けましょうか」

 

 

己の幻影をバックに、エルザとオーヴァイはウィリアムに詰め寄って来る。

 

 

「エ、エルザ。オーヴァイ。頼むから落ち着いて―――」

 

「落ち着いてますよ?」

 

「ええ。エルザさんの言う通りですよ?ウィリアム先輩」

 

「だったら、背後のそれを消してくれ!?」

 

 

何度味わっても全く慣れず、精神を削られ続けた光景に、ウィリアムは冷や汗を流して叫ぶ。

 

 

「ちょっと、貴女達!?何時まで先生にくっついているつもりなの!?」

 

「そうだよ!少しくっつき過ぎだよ!」

 

「ふっ!決まっているだろう?アタシ達の先生になってもらうためさ!」

 

「そうですわ!既に転勤手続きの書類は、わたくし達が揃えております!後は先生のサインだけです!」

 

 

それを他所に、否、目の前の修羅場のフェードアウトも兼ねて、グレンの取り合いを初めていく聖リリィ組と、システィーナとルミア。

 

 

「おっと?それは聞き捨てならねぇーなぁ?」

 

「先生に狼藉を働く輩は、誰であっても許しませんわ」

 

 

そんな一触即発の場に、カッシュやウェンディを筆頭とした二組の生徒達も集まっていき、そのまま二つの集団が形成され……

 

 

「「「「戦争じゃあああああああああああああああーーッ!!」」」」

 

 

そんな(とき)の大声が上がると共に―――

 

 

「すいませんが、少し静かにしてもらえませんか?」

 

「ええ。こちらの会話が遮られてしまうので」

 

「「「「あっ、はい……」」」」

 

 

エルザとオーヴァイの静かな声が響き渡り、龍と狼の幻影が睨み付けてきたことで、二つの集団の熱気は一気に鎮火し、大人しくなった。

 

 

「僕が気圧されるなんて……しかも、代表候補ではない生徒三人に……」

 

「仕方ねぇよ。あれは誰だって気圧されるさ」

 

「むしろ、あれに挑もうとしたこと自体が表彰ものだよ、レヴィン」

 

 

名誉挽回に格好よく止めようとし、見事に挫かれたレヴィンも分かりやすく落ち込んでおり、周りのクライトス校の生徒達に慰められている。

 

 

「では、ウィリアム先輩。この前のお仕置き兼ねた仕返しについて、詳細な説明を要求します」

 

「うん。まさかCに到達していませんよね?」

 

「いってないいってない!そこまでいっていないッ!!」

 

「じゃあ、どこまでやっているんですか?」

 

「この前の仕返しは、指をい―――」

 

「言うなぁあああああああああああああああああーーッ!?」

 

 

本当にあっさり話そうとするリィエルの言葉を、ウィリアムは叫んで強引に遮る。だが……

 

 

「先輩。それはやり過ぎですよ?」

 

「そうだね。付き合っていないのに、それはやり過ぎですよ、ウィルさん?」

 

 

それだけでエルザとオーヴァイはウィリアムの所業を理解し、本当に怖い笑顔と、天変地異を起こさんばかりに暴れている幻影を背後にますます詰め寄っていく。

 

 

「?そうなの?だけど、すごく気持ちよかった。わたしの腕を縛ってウィルの好きにされるのも、悪くなかった」

 

「……へー」

 

「……ふーん」

 

「だから何で喋るんだよ!?」

 

 

本当に口の軽いリィエルに、ウィリアムの精神はガリガリと削られていく。エルザとオーヴァイが放つ威圧感が膨れ上がるとともに。

 

 

「本当にお兄様は凄いですわ……」

 

「ああ……まさに“(おとこ)”だぜ……」

 

「改めて聞くと、やっぱり凄いよ……」

 

「ウィリア充、いや、ウィリ野獣ぅ~……」

 

「本当に大丈夫かな……?」

 

『?』

 

 

周りが修羅場に気圧され、ウィリアムの評価が悪い意味で上がっていくなか……

 

 

「ねぇ、システィ……あれ、どうしたらいいの……?」

 

「あれは触れない方がいいわ、エレン」

 

「そ、そうだね……」

 

 

システィーナとエレンも遠くから修羅場を眺めていた。

あの様子からして、エレンの繰り返しの記憶は失われてしまっているようだ。

つまり、この選抜会で起きた事を知っているのはグレンとウィリアムだけ(?)となった。

ウィリアムはグレンに、繰り返しで得た、目での意思疏通で、グレンに助けを求めるも―――

 

 

が、ん、ば、れ。

 

 

非常に悪い笑顔でそう返し、顔をウィリアムから外した。……突き立てた親指を下にして。

地獄に落ちろ……そんなグレンのメッセージに、ウィリアムは内心で苛立ってグレンを睨み付けていると……

 

 

「野郎共ッ!!今日こそはウィリ野獣に血の鉄槌を下し、リィエルちゃんを奴の毒牙から守るぞッ!!」

 

「「「「応ッ!!」」」」

 

「俺達も加勢するぞッ!」

 

「ああッ!我らクライトス校も参戦する!」

 

「感謝するぜッ!!」

 

「「「「全軍抜刀ッ!!突撃開始ッ!!うおおおおおおおおおおおおお―――ッ!!!」」」」

 

 

クライトス校も含めた男子生徒達が、瞳に憎悪を宿してウィリアムに突撃した―――その瞬間。

 

 

「「「「グハッ!?」」」」

 

 

剛速の一撃が、神速の居合が、三連撃の衝撃が突出していたカッシュを含む数名の男子生徒達に襲いかかった。

 

 

「「「「…………」」」」

 

「すいませんが、邪魔をしないでもらえませんか?」

 

「ええ。邪魔をされるなら、今のように実力で排除しますので」

 

「ん。よくわかんないけど、ウィルに手を出すなら……斬る」

 

「「「「は、はい……すみませんでした……」」」」

 

 

目の前の瞬殺劇と、龍と狼、子犬の幻影が放つ威圧感を前に、突撃しかけた男子生徒達は素直に引き下がった。

ついでに、今度こそ格好よく止めようとし、再び出鼻を挫かれたレヴィンは人目を憚らずに泣いている。

その隙に、ウィリアムは逃げようとするも―――

 

 

「駄目ですよ、ウィルさん?」

 

「まだ、お話は終わっていませんよ?ウィリアム先輩?」

 

 

エルザとオーヴァイにあっさりと捕まった。

やっぱりまったく勝てない……と、ウィリアムは魂が抜け出そうな気分でそう思うのであった……

 

 

 




ひとまず、十四巻はこれで終了
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幕間五・人生双六で息抜き
百五十二話


オリジナルのお話。これもやっぱりやってみたかった
てな訳でどうぞ


―――本当の選抜会の三日目。

選抜会の座学試験の発表も無事に終わり、明日から総当たり魔術決闘戦に備え、午後の授業が休講となった放課後にて。

 

 

「せっかくなので、この双六でもやりませんか?中々変わっていて楽しいですよ。上がりで競うのではなく、持ち前の資産で競う双六です」

 

 

聖リリィ魔術女学院組も含めた二組の面々に向かってオーヴァイがそう言い、大きめの箱から取り出したのは、ルーレット等が取り付けられた盤面―――繰り返しで何度も見た、オーウェルお手製『人生双六』というタイトルの双六だ。

 

 

「……見た目からして、すごく怪しいんだけど」

 

「これは何処から持ってきたの?」

 

 

前回の『恐怖のサマービーチ』や最悪のソフトの件から、システィーナはジト目に、ルミアは困ったような笑顔でこの双六の出所を聞く。

 

 

「お察しの通り、シュウザー教授の発明品です。ですが安心してください。これは教授が本当に暇潰しに作ったもので、一度試しに遊んで、安全は確認してますので」

 

「よく無事でいられるな……」

 

 

毎回進んで生贄になるオーヴァイに、ウィリアム以外のアルザーノ組は本当に何とも言えない気分になる。

 

 

「なあ、そのシュウザー教授ってのは誰なんだ?」

 

「係わってはいけない人物トップ3に入っている人物よ」

 

 

コレットの質問に、システィーナが切り捨て気味に答える。

ちなみに、オーウェル、ツェスト男爵、チャールズが不動の同率一位、四位はフォーゼルである。……あくまで生徒間ではだが。

 

 

「その双六はどうやって遊ぶのですか?」

 

「先程も言った通り、上がり順ではなく、最終的な手持ちの資金で競い合うゲームです。最初に職業を選んでからマスを進んで、様々なイベントをこなしながらゴールを目指します」

 

 

ウィリアムは繰り返しでこれの安全性は知っており、()()以外は問題ないことは知っているので、その辺りは聞き流している。

 

 

「どんな職業があるんだ?」

 

「職業は教師、考古学者、小説家、鍛冶師、軍人、研究員、料理人等、色々ありますよー。どうですか?」

 

 

オーヴァイが一同を見回して確認すると。

 

 

「面白そうだからやってみようぜ!!」

 

「ええ!息抜きには丁度いいですわ!」

 

「安全なら一回やってみるか!」

 

「ふん、下らないな。そんな暇があるくらいなら……」

 

「でも、根を詰めすぎても良くないから、気分転換にやってみたら?」

 

「そうね。息抜きには丁度いいわね。エレンもどう?」

 

「どうしようかな……」

 

「わたしもやる。ウィルとエルは?」

 

「……せっかくだし、やるか」

 

『エルもやる!』

 

「私も……やってみようかな」

 

 

そんな訳で。

ウィリアムは鍛冶師、リィエルはパティシエ、エルは小説家、オーヴァイは料理人。

システィーナは考古学者、ルミアは医師。

カッシュは農家、ウェンディはプロダンサー、セシルは研究員、テレサは行商人、ギイブルは学者。

エルザ、ジニーは軍人、フランシーヌ、コレットは教師。

エレンは細工師。

この職業で『人生双六』をする事となった。

 

 

「最初はわたくしからですわ!」

 

 

ウェンディがそう息巻いてルーレットを回す。1~8の数字が刻まれたルーレットの針が示したのは……4だ。

 

 

「まずは四マスですわね」

 

 

ウェンディが自身の駒を四マス進め、ドクロのマスで止まると、盤面の外側にある石板から文字が浮かび上がる。

 

 

『練習中、足首を捻って劇場を休むこととなった。よって、今回は一回休みとなり、給付金が下がります』

 

「……え?」

 

 

ウェンディがその文字に呆けていると、別のルーレットが起動してぐるぐると回っていく。

このルーレットはボタンを押す、もしくは暫く放置すると止まり、結果が表示される。オーヴァイ曰く、放置すれば大抵、悪い結果が出やすいとのことだ。

 

 

「えっと、これでしたわね!?」

 

 

ウェンディは慌て気味にルーレットを止めるボタンを押す。結果は……

 

 

『マイナス三リル四クレス。よって次回からの給付金は十四リル六クレスとなります』

 

「ちらりと見えた六リル七クレスと比べれば、今回のマイナスはまだマシですわね」

 

 

ウェンディは強気にそう口にする。ちなみに全員の初期の給付金は十八リルである。

 

 

「次は私ね……それ!」

 

 

二番手のシスティーナがルーレットを回し、3の数字が出たので三マス進む。結果は……

 

 

「やった!給付金が二リル五クレス上がったわ!」

 

 

お金のマスで止まって、給付金アップという、幸先のいいスタートであった。

 

 

「次は俺か……(確か、ここで出た数字は……)」

 

 

三番手のウィリアムは、繰り返しの記憶を思い出しながらルーレットを回す。

出た数字は……7だ。

 

 

(七は確か、アイテムマスだったな……繰り返しに気付いてからはやらなくなったが、この辺りは同じなんだな……)

 

 

ウィリアムは繰り返しに気付く前の記憶を掘り起こしながら、駒を七マス目まで進め、イベント用のルーレットが回り始める。

 

 

(ここで出たのは……『スカ』という、何も貰えない結果だったな……)

 

 

そう考えながら、ウィリアムはボタンを押して、ルーレットを止めると―――

 

 

『衝動買い』

 

「…………は?」

 

 

記憶と全く違う結果に、ウィリアムは思わず目が点となった。

 

 

『このアイテムは自動で発動します。よって、衝動買いにより、貴方は有名な画家の絵を六十リルで購入してしまった』

 

「…………」

 

『そして、お金が足りず、貴方は四十二リルの借金を負ってしまった。頑張って返済しましょう』

 

「……なぁあああああああああああああッ!?」

 

 

繰り返しの時とは全く違う、借金を背負うという結果に、ウィリアムは思わず叫んでしまい、そのまま四つん這いとなった。

 

 

「ウィル……ついてない」

 

『おとーさん、元気出して?』

 

「えっと……御愁傷様ですウィルさん」

 

「幸先悪いスタートですねー、ウィリアム先輩。頑張ってください」

 

 

リィエル達の慰めの声が聞こえてくるが、ウィリアムショックから気付けていない。

 

 

(なんで違うアイテムがでたんだよ!?繰り返しで参加してなかったエレンが今回参加しているからか!?)

 

 

よくよく考えれば、少し違うだけでも結果は変わることは度々あった。その上、これは運の要素もあるから違う結果が出やすいこともすっかり失念していたのだ。

 

 

「いい様だなウィリ野獣ッ!!次は俺だッ!」

 

 

カッシュが意気揚々とルーレットを回し……

 

 

『マイナス十リル。よって、次回からの給付金は八リルとなります』

 

「ちくしょぉおおおおおおおおおおおおお―――ッ!!」

 

 

ウェンディと同じマスで止まり、見事に撃沈した。そんなカッシュにさらに追い討ちがかかる。

 

 

『さらに運の悪いことに、作物が猪の被害にあった!』

 

「へ?」

 

『その建て直しに三十リルの出費がかかった!そして、お金が足りず、貴方は十二リルの借金を負ってしまった。頑張って返済しましょう』

 

「最悪だぁあああああああああああああ―――ッ!?」

 

 

減給だけでなく、借金まで背負ったことに、カッシュは頭を抱えて天井を見上げた。

 

 

「いきなり波乱万丈ですねー……それ!」

 

 

それを尻目に、オーヴァイがルーレットを回すと……

 

 

『プラス四リル。よって、次回からの給付金は二十二リルとなります』

 

「やたー!給料アップです!」

 

「次は私だね」

 

 

上機嫌なオーヴァイに続くように、エルザがルーレットを回すと……

 

 

『『お守り』。このアイテムは一度だけ貴女を不幸から守ります』

 

「まずまずだね……」

 

「次は私ね」

 

 

今回参加しているエレンがルーレットを回すと……

 

 

『プラス三リル二クレス。よって、次回からの給付金は二十一リル二クレスとなります。さらに、顧客を確保したことで、三十リルが特別賞与で与えられます』

 

「凄いじゃないエレン!」

 

「うん……そうだね」

 

 

かなり幸先のいいスタートとなり、システィーナからも褒められて、エレンはゲームと言えど、照れ臭くなってしまう。

 

 

『エルもーッ!』

 

 

そんなエレンに続こうと、エルがルーレットを回すも……

 

 

『マイナス一リル七クレス。よって、次回からの給付金は十六リル三クレスとなります』

 

『うわーんッ!』

 

 

悪い結果に、エルは泣き出してしまった。

 

 

「よしよし……」

 

「泣かない泣かない。ゲームはまだまだこれからだから、次で挽回すればいいさ」

 

『グスッ……うん……』

 

 

リィエルが頭を撫で、ウィリアムが励ましたことにより、エルは素直に頷いて泣き止んだ。

 

 

「親子ですねー」

 

「うん、親子ですね……」

 

 

……若干、羨望の視線がウィリアムに突き刺さっていたが。

 

 

「じゃあ、回しますねー」

 

 

ジニーが無視してルーレットを回すと……

 

 

「二リルアップですか。ぼちぼちですね」

 

「次は私だね……」

 

 

ルミアがルーレットを回すと……

 

 

『『運命の赤い糸』。このアイテムを持って結婚マスに行くと、一発で選んだ相手と結婚できます』

 

「…………」

 

「次はわたくしですわ!」

 

 

顔を真っ赤に固まるルミアを脇に、フランシーヌがルーレットを回すも……

 

 

『衝動買い』

 

「いやぁあああああああああああ―――ッ!?」

 

 

ウィリアムと同じアイテムを引き当ててしまい、フランシーヌは叫んで頭を振った。

続けてギイブルがルーレットを回すと……

 

 

「十八リルアップか……まずまずだね」

 

「よぉーしッ!次はアタシだな!見てろよッ!」

 

 

コレットがやる気満々でルーレットを回すと……

 

 

『衝動買い』

 

「ちくしょぉおおおおおおおおおおおおお―――ッ!?」

 

「次は私ね」

 

 

崩れ落ちたコレットを無視して、テレサがルーレットを回すと……

 

 

『大手との商談に成功。よって次回からの給付金は七十八リルとなり、臨時収入で百リル追加されます』

 

「うふふ……幸先がいいですね」

 

 

持ち前の剛運で、見事に幸運に恵まれていた。

 

 

「次は僕だね……」

 

 

このゲームの一番の強敵を実感しつつ、セシルがルーレットを回すと……

 

 

「四リル三クレスアップだね」

 

「最後はわたし。えい」

 

 

一番最後のリィエルがルーレットを回し、アイテムマスで止まる。そして、イベント用のルーレットを止めると……

 

 

『援助金』

 

「ん?」

 

『このアイテムは自動で発動します。よって、一番資産のある人物から半分の資産を援助金として贈与されます』

 

「あらあら……せっかくのお金が持っていかれましたね」

 

 

アイテムの効果によって、一番資産があったテレサからお金を貰い、リィエルはトップに踊り出た。

 

ゲームはまだ始まったばかりである。

 

 

 




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百五十三話

てな訳でどうぞ


暫く人生双六を続け、中間地点に差し掛かっていた。

 

 

「うふふ、上々ですわね」

 

 

現在トップのテレサが上機嫌に紅茶を飲む。ちなみに現在の順位は以下の通りである。

 

一位 テレサ 所持金:8756リル(財産+6462リル)

二位 システィーナ 所持金:5028リル(財産+658リル)

三位 エルザ 所持金:4987リル(財産+962リル)

四位 ギイブル 所持金:4892リル(財産+829リル)

五位 リィエル 所持金:4852リル(財産+387リル)

六位 フランシーヌ 所持金:4798リル(財産+589リル)

七位 エレン 所持金:4785リル(財産+1215リル)

八位 セシル 所持金:4726リル(財産+328リル)

九位 エル 所持金:4683リル(財産+680リル)

十位 コレット 所持金:4599リル(財産+486リル)

十一位 ウェンディ 所持金:4387リル(財産+956リル)

十二位 ジニー 所持金:4221リル(財産+406リル)

十三位 オーヴァイ 所持金:4015リル(財産+251リル)

十四位 ルミア 所持金:3985リル(財産+687リル)

十五位 カッシュ 所持金:1589リル(財産+924リル)

十六位 ウィリアム 所持金:-4259リル(財産+12854リル)

 

財産は現在は含まれていないが、最終集計時には含まれる。それを考えれば見た通りではないにしろ、剛運のテレサがダントツのトップである。

 

 

「借金が辛い……完済できるかなぁ……?」

 

「何言ってやがるウィリ野獣。お前には財産があるじゃねえか?」

 

 

現在最下位のウィリアムの呟きに、カッシュが神経を逆撫でする声色で指摘する。

ウィリアムはアイテムマスに止まると、ほぼ『衝動買い』のアイテムを引いてしまっている。たまに別のアイテムを引くも、それも『災害』や『火災』、『事故』等の不幸を引き寄せるアイテムのオンパレードである。

しかも、財産は売れない為、借金返済の役には一切立たない。その上、借金の多さからか、ルーレットの数字がウィリアムの時だけ1~4だけと、不幸街道まっしぐらである。

ルーレットもボタンを押して回すタイプというのもあり、まさにウィリアムの素の引き運の悪さがおもいっきり出てきた結果となっていた。

 

 

「よしよし」

 

『おとーさん、元気だして?』

 

 

そんなウィリアムに、リィエルとエルが頭を撫でて慰めるという、情けなくも微笑ましい光景が出来上がっている。

 

 

「元気出してください、ウィルさん」

 

「そうですよー。これはゲームですからもっと気楽にいきましょう、ウィリアム先輩」

 

 

エルザもウィリアムに紅茶を差し出し、オーヴァイもお茶菓子を出してウィリアムを元気づけようとしている。

 

 

「……ありがとなー…………」

 

 

ウィリアムは若干涙目でお礼を言い、紅茶とお菓子を口にしていった。

あの記憶の展開では借金はなかったので、ここまで違うと本当に泣けてしまう。

 

 

「本当に同情するわ……」

 

「一人だけ大量に借金があるからね……」

 

「これで勝っても嬉しくないな……」

 

「……もっと不幸になれ、ウィリ野獣(ボソッ)」

 

 

そんなウィリアムに、多くは同情していた……約一名は背後に鼠の幻影を揺らめかせ、怨嗟の声を零していたが。

 

 

「もうじき結婚マスですねー……」

 

「……うん。そうだね」

 

 

そんな中、エルザとオーヴァイは中間地点にあるマスと、自身の駒を交互に見比べながら話し合う。

結婚マス。このマスは基本的にはここで一度止まり、プレイヤー同士、もしくは双六内のキャラクターと文字通り結婚できるマスだ。

プレイヤー同士なら財産と借金が共有され、双六内のキャラクターなら、給付金の追加とランダムでイベントが起こるようになる。勿論、結婚しないという選択肢もある。

大抵の場合は双六内のキャラクターと結婚するのだが、エルザとオーヴァイは勿論、一人のプレイヤーとの結婚を狙っていた。

例え、盤面でのイベント、ゲームの中とはいえ、好きな人と結婚できるのだ。ごく当たり前の感情である。

 

 

「じゃあ、回すね……えい」

 

 

現在一番マスを進んでいるルミアがルーレットを回し、最初に結婚マスへと到達する。

 

 

『結婚マスに到達しました。ここではプレイヤー、もしくは双六内のキャラクターと結婚できます。双六内の男性キャラクターは以下の通りです』

 

 

――――――――――――――――――――――――

レイン=グーダス 職業:教師 ギャンブル好きの青年。

ツースト=ル=ノエール 職業:教授 年下好きの紳士。

オーウル=センダー 職業:発明家 常にトラブルを起こす青年。

ファンゼル=ルークス 職業:考古学者 無断で遺跡を調査する弾かれ者。

ハーゲン=ピカレイア 職業:準教授 生え際が後退している神経質な青年。

ギル=G=アルバート 職業:医者 苦労人の青年。

チャトル=テイスター 職業:芸術家 常に女性の神秘を追っている紳士。

カット=ビンガー 職業:農家 気さくだが女好きの青年。

ウィスター=メイデン 職業:大工 基本やる気のない青年。

リッツ=オールトン 職業:…………

…………

――――――――――――――――――――――――

 

 

「「「「…………」」」」

 

 

石板に表示された、明らかに実在している人物をモデルにしているキャラクター達のプロフィールに、一同は何とも言えない気分になる。

 

 

「それじゃあ、このレインさんと……」

 

「ちょっと待ってルミアッ!?このキャラクターはどう見ても外れでしょ!?」

 

「そうですわ!ここは一番安全そうなギルさんにすべきではなくて!?」

 

「そうだぜ!?ここは慎重に行くべきだ!!」

 

 

ルミアが迷わずにレイン=グーダスに告白しようとボタンを押そうとしたところで、システィーナとフランシーヌ、コレットの三人が止めにかかる。

 

 

「これはゲームだしルミアがどうしようと私には関係ないけどッ!そのキャラクターだけは選んではいけないわ!生贄には私がなるから!!」

 

「そうですわ!このキャラクターだけは選んではいけません!!ですから、レインさんはわたくしがもらいます!!」

 

「いや、アタシが犠牲になる!!レインさんはアタシのもんだッ!!」

 

「おもいっきり本音が洩れてますよ、発情期の雌犬共」

 

 

欲望が滲み出ているシスティーナ達に、ジニーが辛辣なツッコミを入れる。

 

 

「……ごめんね」

 

 

ルミアはそう言って、一切躊躇わずにボタンを押した。

 

 

「あああああーーッ!?」

 

「ルミア、本当に押しちゃったの!?」

 

「お、落ち着け!告白しても一発で成功するわけが―――」

 

『所持していたアイテム『運命の赤い糸』により、レイン=グーダスへの告白に成功。無事に結婚しました』

 

「ええええええええええええ―――ッ!?」

 

「しまったぁああああああああああ―――ッ!?」

 

「ルミアさんが最初に手に入れたあのアイテムの存在を、すっかり忘れていましたわーーッ!?」

 

『皆さんから祝儀も送られました。これからの人生、頑張ってください』

 

「はい」

 

 

システィーナ達が騒ぐ中、全員から計百リルの祝儀を受け取ったルミアは天使のような笑みを浮かべていた。

 

 

「まったく、ただのゲームで……」

 

「ですが、気持ちは何となくわかりますわ」

 

「うふふ……私はどうしようかしら?」

 

「ほらお嬢様。次はお嬢様の番ですからさっさと回してください」

 

 

一部を覗く面々は朗らかな気分で双六を続けていく。

だが……

 

 

「この『小悪魔』のアイテムでエルザさんの移動を二巡するまで封じますね」

 

「……チッ。でしたら、『後退』アイテムをオーヴァイさんに使います」

 

「やりますねー。出てきた数字は……五、ですか……」

 

「これでオーヴァイさんは最低でも二回回さないと到達できませんね。リィエルは最低三回回さないと到達できませんから、私が先に到達できそうです」

 

「ですが、止まったマスはアイテムマスなのでまだわかりませんよー?……『ダブルルーレット』、ルーレットを二回回せるアイテムですねー」

 

「運が良いですね、オーヴァイさん……うふふ」

 

「いえいえ、そんなことないですよー……あはは」

 

 

エルザとオーヴァイの小競り合いにより、一気に重苦しくなっていた。

 

 

「……すっかり失念していたわね」

 

「うん……」

 

「だから、たかがゲームで―――」

 

「「何か言いました(か)?」」

 

「……何でもない」

 

「本当に何が違うんだよ……」

 

「あはは……」

 

 

そんな重苦しい空気の中、順当にルーレットを回して駒を進めていき、リィエルの番となる。

 

 

「えい」

 

 

リィエルがルーレットを回してアイテムマスに止まり、アイテムを引くと……

 

 

『『ハネムーン』。このアイテムは自動で発動します。このアイテムにより、貴女は結婚可能となりました』

 

「ん?」

 

「「……え?」」

 

 

出てきたアイテムにリィエルは首を傾げ、エルザとオーヴァイは目を見開いて固まった。

 

 

『プレイヤーと双六内のキャラクター、どちらと結婚致しますか?』

 

「じゃあ、ウィルと結婚?する」

 

「……は?何で俺となんだ?」

 

 

まさかの即答に、ウィリアムは思わず目が点となって問い詰めてしまう。

そんなウィリアムに、リィエルが上目遣いで聞き返す。

 

 

「……嫌なの?」

 

「いや……そういう訳じゃないが……」

 

「じゃあ、問題ない」

 

 

リィエルはそう言ってボタンを押し、ウィリアムもなし崩し的にボタンを押して……

 

 

『貴女はプレイヤーと結婚しました。よって、財産と借金は共有となり、貴女の資金は借金返済に使われました』

 

 

プレイヤー同士の結婚が成立した。

 

 

「やっぱり、リィエルは凄いなぁ……(ボソッ)」

 

「最早、運命ですかね……(ボソッ)」

 

「だけど……」

 

「ええ……」

 

「「現実では愛人という路線も存在しますから!(ボソリッ)」」

 

 

エルザとオーヴァイが小声で何かを呟いており、内容は聞き取れなかったが、物凄く不穏なことを言っていた感じがした。

その後、エルザはウィスター=メイデンと結婚。オーヴァイは独身を選ぶこととなった。

ゲームは、まだまだ続く。

 

 

 




たくましい剣士二人……主に無自覚に大胆行動をおこす青髪剣士のせいで
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百五十四話

てな訳でどうぞ


結婚マスを全員が通過し、双六は中盤戦に差し掛かった。

 

 

「では、いきますわよ!」

 

 

ウェンディが自信満々にルーレットを回し、出た数字に従って駒を進めていく。

 

 

「今回はランダムイベントマスですわね」

 

 

ランダムイベントマス。

このマスは文字通り、イベントがランダムで発生するマスだ。

 

 

『有名な劇場で大成功を収め、貴女は一躍有名になった!それにより、給付金が三百リルアップしました』

 

「やりましたわ!」

 

『しかし、次の劇場でドジをかましてしまい、貴女は『ドジッ子ダンサー』の称号を獲得した。この称号により、ドジをかましても減給しなくなります』

 

「きぃいいいいいいい―――ッ!?」

 

 

双六にまでドジッ子扱いされ、ウェンディは喜びから一転、ハンカチを噛んで苛立ちを発散していた。

 

 

「落ち着いて、ウェンディ」

 

「プラスに働く称号だから良かったじゃないか」

 

「そういう問題ではありません!!」

 

「じゃあ、次は私ね」

 

 

そんなやり取りを他所に、二番手のシスティーナがルーレットを回す。

 

 

「『ストーカー』……一番進んでいるプレイヤーの手前のマスまで進めアイテムね……凄く複雑だけど」

 

 

アイテムマスで出てきたアイテムに、システィーナは何とも微妙な気持ちになっていると……

 

 

『ファンゼルが貴重な遺跡から古代の壺を盗掘し、その責任を連帯で負わされてしまった。よって賠償金として五百リル支払いました』

 

「ちょっとぉおおおおおおおおおお―――ッ!?」

 

 

お見合いで成立した双六内のキャラクターのイベントに、システィーナはすっ頓狂な叫びを上げる。

 

 

「それじゃあ俺だなー」

 

 

リィエルによって借金が帳消しとなったウィリアムがルーレットを回し、クイズマスに止まる。

 

 

『クイズです。時晶石(クォーク)根源素(オリジン)の数値を以下の四択から選んでください。制限時間は十秒です』

 

「これだろ」

 

 

ウィリアムは迷わずに石板を操作し、正解の選択を指定してボタンを押す。

 

 

『正解です。賞金として千五百リルが贈呈されます』

 

「こういった問題には本当に強いわね、ウィリアム……」

 

『おとーさん、すごいの!』

 

「次は俺だ!」

 

 

カッシュが続けてルーレットを回し、同じくクイズマスに止まると……

 

 

『この時間と空間の想定極値の思考実験の答えをこの四択から選んでください。制限時間は三十秒です』

 

「ちょっと待てぇえええええええええええええ―――ッ!?」

 

 

出された問題にカッシュは絶叫する。何故なら、この問題は今日の座学試験に出ていた二十問目の問題だったからだ。

 

 

「何でこの双六に、今日出た問題が出てくるんだよ!?」

 

「たぶん、適当に選んだんでしょうねー……」

 

「……これ、アルフォネア教授が作った絶対解けない問題じゃねぇか」

 

 

石板に表示された問題を見て、既に知っていたことを自然に伝えたウィリアムの言葉に、今日試験を受けた者達は愕然とする。

 

 

「この問題、アルフォネア教授が作ったの!?」

 

「あの有名な方が作った問題ですか。それなら解けなくて当然ですね」

 

「ウィリアム君はどうしてそれを知っているの?昨日は問題用紙を見てないよね?」

 

「昔、俺の師匠がからかい目的でその問題をやらせたんだよ。ネタバレした時は本気で殴りかかったもんだ」

 

「そ、そうなんだ……」

 

『残り十秒です』

 

「やばいッ!こうなったら、確率四分の一だ!」

 

 

カッシュはヤケ気味に解答を選び、ボタンを押すも―――

 

 

『不正解です』

 

「ちくしょぉおおおおおおおおお―――ッ!」

 

「次は私ですねー」

 

 

崩れ落ちるカッシュを無視して、オーヴァイがルーレットを回すと……

 

 

『病を患い、病院に搬送された。その治療費に八十リル支払い、治療の為に三回休みます。その間は給付金は支給されません』

 

「…………」

 

 

ドクロマスで止まった結果に、オーヴァイは見事に固まった。

 

 

「……ウィリアム先輩、頭を撫でて慰めてください。それが嫌なら、ハグさせてください」

 

 

……ちゃっかりとスキンシップを所望していた。

 

 

「はぁ……」

 

 

ウィリアムは溜め息と共にまだマシな方を取り、頭を撫でてオーヴァイを慰めた。

 

 

「…………」

 

「……次は私だね」

 

 

その光景にリィエルは若干不機嫌そうに頬を膨らませ、ぼんやりと龍の幻影を出現させながらエルザはルーレットを回す。

ルーレットに出た数字に従って止まったマスは……ラッキーマスだ。

 

 

「……給付金が三十リルアップですか……ふふふ」

 

 

不幸を願っていたエルザは昏く嗤っていると、イベントが発生する。

 

 

『ウィスターが貴女にネックレスをプレゼントしました。このネックレスは不幸を五回防ぎます』

 

「わーい……プレゼントですねー……」

 

「よ、良かったなエルザ……」

 

 

そんなエルザに、軽く冷や汗を流しているウィリアムが頭を軽く撫でる。途端、昏い雰囲気は一気に霧散し、龍の幻覚も霧散するように消えていく。

 

 

「……もっと撫でてください」

 

 

向日葵のように笑うエルザの要望に、ウィリアムは撫で続けることで応える。

 

 

「……天然の女たらし?」

 

「いえ、あの場合は尻に敷かれていると言った方が正しいのでは?」

 

「苦労しそうね……」

 

「ウィリ野獣ぅ~……」

 

 

周りからボソボソと何かが呟かれているが、気にしたら負けな気がするので、ウィリアムは兎に角無視することを決める。

 

 

「じゃあ、次は私ね」

 

 

エレンがルーレットを回し、アイテムマスで『通行止め』のアイテムを引き当てる。そして、イベントが発生する。

 

 

『レオ=クランベールが新しい魔術理論を発表し、教授達に評価されました。それにより、レオの収入が百リルアップしました』

 

『エルも続くのー!』

 

 

エレンの上々な展開に続くよう、エルも元気良くルーレットを回し……

 

 

『貴女の書いた幻想小説が累計五千万部を超え、サイン会も開催されました。その臨時収入で一億リルを得ました』

 

『やったのー!おとーさん、誉めてー!』

 

「ああ、凄いぞ、エル」

 

『わーい!』

 

 

ウィリアムに高い高いされ、エルは更に喜んでおおはしゃぎする。

 

 

「本当に親子ね……」

 

「うん……」

 

「微笑ましいね……」

 

「ええ。和みますねー」

 

 

父と娘の光景に、一同は生暖かい視線を送る。

 

 

「「「「「……フフフフフ」」」」」

 

「……はっ!?何考えているのよ私!?どうしてあいつなんかと―――ッ!?」

 

 

内、何名かは何かを想像して頬を綻ばせ、約一名は頭を抱えて悶々としながら、叫んでいたが。

その後、ジニー達もルーレットを回し、無難な結果で終わっていく。……ルミアはレインのプレゼントイベントに頬を緩めていたが。

そして、トリのリィエルが同じようにルーレットを回し、ラッキーマスで止まったことで給付金が上昇し、いつものようにイベントが発生する。

 

 

『おめでとうございます。貴女は妊娠しました』

 

「ん?」

 

「「!?」」

 

 

石板に掲示された文章にリィエルは首を傾げ、エルザとオーヴァイは目を見開く。

 

 

『それにより給付金が減少し、ルーレットの数字も上限が五になりますが、出産するまではドクロマスに止まってもイベントは発生しません』

 

「よくわかんないけど、何となく嬉しい」

 

「良かったな、リィエル」

 

「ん……」

 

 

ウィリアムはそう言ってリィエルの頭を撫でていく。リィエルも嬉しそうに目を細め、その感触を味わっていく。

 

 

「ねぇ、ウィル」

 

「?何だ?」

 

「子供って、どうやって作るの?」

 

「「「「「「「「「「「「ぶふぅ!?」」」」」」」」」」」」

 

『?』

 

 

リィエルの唐突な質問に、殆どが息を吹き出し、エルはよくわかってなさそうに小首を傾げる。

 

 

「リリリ、リィエル!?それは、お前にはまだ早いというか、何と言うか……」

 

「?」

 

 

ウィリアムの動揺しまくっている状態に、リィエルは不思議そうに小首を傾げる。そんな中、石板から余計な情報が掲示される。

 

 

『子供を作る為には、男性と女性が繋がる必要があります。まず、男性の象徴を、女性―――』

 

 

ドパンッ!!

 

その余計な情報が掲示された石板に向かって、ウィリアムが速攻で錬成した拳銃で銃弾を放ち、ド真ん中で撃ち抜いて強引に情報を遮断した。

 

 

「うわぁ……強硬手段ですか……」

 

「でも、どうしてそこまでする必要があるのですか?」

 

「リィエル先輩はそういった方面の知識が皆無な上、教えたら即実行する程無知なんですよー……」

 

「つまり、それを教えたら……」

 

「ええ。絶対にヤってしまうわ」

 

 

システィーナ達がボソボソと何かを呟いているが、ウィリアムはそれに聞き耳を立てる余裕はなかった。何故なら……

 

 

『びぃああああああああああんっ!!!おどーざんがずごろくを壊じだぁーーッ!!!』

 

「ああっ!?ごめんなっ!本当にごめんなぁあああああああああ―――ッ!!」

 

 

大泣きしだしたエルをあやすのに必死だったからだ。

こうして、人生双六は破壊という結果で幕を閉じる事となった。

ちなみに、エルをあやすのに一時間以上かかり、エルのお願いにより、家族でお風呂に入る羽目となった。

 

 

 




オリジナルはここで終了。ここからは基本は原作待ちですね
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第十四章・魔術祭典と王国の騎士
百五十五話


てな訳でどうぞ
※本編の都合から少し変更しました


快晴の大空。アルザーノ帝国魔術学院の魔術競技場にて。

 

ドォン!ドォン!ドォン!

 

 

「ほらほらどうした?そろそろ一本取ってみろよ、二人とも」

 

 

銃、というより砲と呼ぶに相応しい武器を二丁、両手に構えたウィリアムは目の前で対峙する二人―――システィーナとレヴィンにその砲口を向けていた。

 

 

「分かってますよ!―――《大いなる風よ》ッ!」

 

 

代表入りしたクライトス校のレヴィンが黒魔【ゲイル・ブロウ】の突風を放つも、ウィリアムは足で軽く地面を叩くだけで分厚い鋼鉄の壁を錬成してあっさりと防ぐ。

 

 

「甘いわよウィリアム!」

 

 

そんな声と共にシスティーナはウィリアムの右側に回り込んで左手をかざしているも、それより早く、ウィリアムは見もせずにその砲口をシスティーナに向けていた。

轟音と共に放たれるドッジボールサイズの非殺傷弾。システィーナはこの一週間で何度も見ていたので動揺せず、【エア・ブロック】を足場に高く跳躍してその砲弾をかわす。

ウィリアムはその事を特に気にすることなく跳躍しながら砲弾を放ってシスティーナを牽制していき、左手の武器を手放して、レヴィンに空いた左手の人差し指を向ける。

 

 

「《雷精よ》―――《踊れ》」

 

 

【ショック・ボルト】を四射同時起動し、七つの紫電をレヴィンの周囲に落としてその場に釘つけにする。そして、瞬時に左手に拳銃を錬成し、鍛え抜かれた早撃ち(クイックドロウ)で非殺傷弾を全弾放つ。

 

 

「《大気の壁よ》ッ!―――《雷精の紫電よ》ッ!」

 

 

レヴィンは【エア・スクリーン】でその非殺傷弾をあっさりと防ぎ、すぐさまマナ・バイオリズムを整えて地面に着地したウィリアムに紫電を飛ばす。

ウィリアムは紫電を体捌きで難なくかわし、続いて迫ったもう一つの紫電を【トライ・レジスト】を付呪(エンチャント)していた右手の武器であっさりと防いだ。

 

 

「まさか、これ程強い人が彼女以外にいたとは……!」

 

 

覚えたばかりである、二反詠唱(ダブル・キャスト)による【ショック・ボルト】をいとも簡単に対応された事にレヴィンは悔しげに呟くも、ウィリアムは何てことのないように答える。

 

 

「強くなきゃ特別コーチとして参加させられていねぇよ。……もの凄く面倒だけどな」

 

 

そう、代表選手団でもないウィリアムがこの場にいるのは、代表選手団の総監督を務める羽目になったグレンと魔術選インストラクターに選ばれたイヴからの要請だからである。

元々、普段の授業をサボる為にマネージャーとして参加しようとしたのだが、総監督に選ばれたグレンはそれの八つ当たりのようにウィリアムをコーチとして参加するよう命令してきたのだ。

イヴも右手に炎を宿してコーチをしろと言ってきたので、ウィリアムは仕方なく、本っ当に仕方なくコーチをする羽目になったのである。

 

 

「……まさかとは思いますが、面倒だから代表入りを辞退したのではないでしょうね?」

 

「……どうだろうな?」

 

 

レヴィンの疑わしげな視線をウィリアムはしれっと受け流し、後ろに向かって左手を向けて予唱呪文(ストック)していた【ホワイト・アウト】を放つ。同時に非殺傷弾をレヴィンの顔面に向けて放つ。

 

 

「《大気の壁よ》ッ!!」

 

 

後ろから攻撃を仕掛けようとしていたシスティーナはすぐに【エア・スクリーン】を張って防ぎ、レヴィンは咄嗟に横に飛んで迫ってきていた非殺傷弾を避ける。

 

 

「《拒み阻めよ・嵐の壁よ・その下肢に安らぎを》―――ッ!」

 

 

システィーナは視界が悪い状況のまま、黒魔改【ストーム・ウォール】を使い、ウィリアムをその場に縛り付けた―――筈だった。

 

ズボッ!

 

 

「―――ッ!?」

 

 

地面から腕が生え、足首をがっしりと掴まれた事にシスティーナは驚愕するも、その腕は容赦なくシスティーナを地面の中へと引き摺り込んだ。

 

 

「システィーナッ!?」

 

 

視界が良好となって早々、生首のような状態で地面に埋められたシスティーナの姿にレヴィンが目を奪われた瞬間、地面から鋼鉄が生え、レヴィンの手足を容赦なく鋼鉄の中へと閉じ込めた。

 

 

「ま、また負けですか……」

 

「本当に反則でしょ、その錬成速度……」

 

 

またしても負けを喫したことにレヴィンとシスティーナは悔しげに呟く。

タネは簡単。ウィリアムは二人の視界から外れた瞬間に錬金術を使って地面の中に潜り、下から仕掛けたのだ。ご丁寧に【イリュージョン・イメージ】の偽物を残して。

そんな見事にやられた二人の前で、地面から紫電が爆ぜて一つの穴が出来上がる。その穴からウィリアムが身軽な動作で飛び出て来た。

 

 

「自分の持つ手札を最大限に活かせる使い方をしているからな。如何に自分の土俵とペースに持っていくかも―――」

 

「ひぃああああああああ―――ッ!!」

 

 

ウィリアムの言葉を遮るように大きく、情けない悲鳴が響き渡る。

その声にウィリアムは呆れたように視線を向けると、そこには仄かに桃色がかった、色素の薄い髪のアルザーノ帝国魔術学院の制服を来た一年の女子生徒が、ウィリアムが用意したハリセンを持って眠たげな無表情のリィエルに後ろから追いかけられていた。

そして、その少女はリィエルに追いつかれ……

 

バチーンッ!!

 

 

「いったぁッ!?」

 

 

無慈悲に頭をハリセンで叩かれ、その場で蹲った。

 

 

「うぅ……死んじゃう……このままだと私、死んじゃいますよぉ~~~ッ!」

 

「……ん、死ぬの?なら、埋める穴を今すぐ用意する」

 

「助けて!助けてください!グレン先生ぇ~~~ッ!!」

 

 

完全に涙目のその少女は助けを求めるようにグレンに向かって走っていき、そのまま縋るように抱きついた。

 

 

「あー、また先公に泣きついてるのかよ。あの一年……」

 

 

何とも情けない少女の姿に、ウィリアムはうんざり気味に溜め息を吐く。

彼女の名前はマリア=ルーテル。代表選手団に選ばれた才女なのだが、一年次生ゆえに体力と経験が劣っているので、ド地味で、とてつもなくキツいメニューが主体となっている。

それゆえに、マリアは頻繁に音を上げてグレンに泣きついてくるのだ。

……そのド地味で、とてつもなくキツいメニューを組んだのはグレンとウィリアムではあるのだが。

なので、ウィリアムは面倒くさげにグレンとマリアに近づき、マリアを容赦なくグレンから引き剥がした。

 

 

「ああ!?またですかウィリアム先輩!!また私をリィエル先輩を使って苛めるんですね!?」

 

「文句を言ってないで、さっさと訓練に戻れ」

 

 

毎回同じやり取りをしているため、ウィリアムは今回もマリアの言葉は基本的には無視してさっさと再開するように促していく。当然ながら、マリアは駄々を捏ねて反発する。

 

 

「嫌ですよぉ!身体強化魔術を維持したままフィールド百週に加え、後ろからハリセンを持ったリィエル先輩に追いかけられるのはもう嫌です!!もう死んだ方がマシです」

 

「そんなに文句を言う程元気なら、重しを追加してやろうか?」

 

「悪魔!悪魔が目の前にいます!!こんなに冷たい仕打ちなのに、リィエル先輩とはベッドの上であんな事やこんな事を―――」

 

 

ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!

 

マリアの唐突な事実無根(?)の言葉に、ウィリアムはこめかみにはっきりと青筋を浮かべ、容赦なく非殺傷弾(威力、最大)をマリアに浴びせていった。

 

 

「痛い痛い!!ウィリアム先輩、痛いですぅ!!」

 

「ほぉ?まだ喋れる余裕があるのか。なら、電撃も追加してやる」

 

 

バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリッ!!!

 

 

「アビャビャビャビャビャビャビャビャビャビャビャッ!!」

 

 

以外としぶとく、頑丈なマリアに、ウィリアムは固有魔術(オリジナル)【詐欺師の工房】で具現召喚した【招雷霊(ヴォルト)(フェイク)】の電撃(手加減)も追加し、電撃も喰らったマリアは奇怪な悲鳴を上げていく。

少しして電撃と非殺傷弾が止み、制裁されたマリアは白煙を上げて地面に突っ伏しているも、ビクンッビクンッと痙攣している。

 

 

「……うぅ、酷いですよ。こんなか弱い女の子である私にここまで手を上げるなんて……主もウィリアム先輩は、救いの手を差しのべないグレン先生と共に地獄に落ちるべきだと仰っています」

 

 

目を閉じて―――実際は薄目でグレンをチラチラと見て―――仰向けとなり、胸元で手を組んで十字の聖印を握りしめ、足を真っ直ぐに揃えて、そんなことを宣うマリアに……

 

 

「よし。生き埋めか水没、どっちがいいか選べ」

 

「今すぐ穴を掘ってやるからどっちにするか考えておけ。リィエルはそいつが逃げないように押さえておいてくれ」

 

「ん。わかった」

 

「ひやぁあああああああああああああ!?だ、誰か助けてぇええええええええええええーーッ!!!」

 

 

グレンとウィリアムが錬成したウーツ鋼のスコップを使って目の前で穴を掘っていく。その光景に、リィエルに取り押さえられたマリアは涙目で暴れて抵抗するも、素の身体能力でも勝てる筈もなく、バタバタと体を暴れさせるだけで逃げ出すことは出来ない。

と、そこに、マリアにとっての救世主が現れる。

 

 

「あはは。その辺にしてあげませんか?」

 

「マリアさんはこれでも真面目に頑張ってますから、そのくらいで勘弁したらどうです?少し早いですが休憩しましょうよー」

 

 

大きなケトルに水を汲んだルミアと、人数分のタオルを持ってきたオーヴァイにグレンとウィリアムは疲れ気味に応じる。

 

 

「はぁ、わぁーったよ」

 

「区切りとしては丁度いいし休憩にするか……」

 

 

ルミアとオーヴァイに毒気を抜かれたグレンとウィリアムがそう応じた途端。

 

 

「大好きですぅ、二人ともぉ~~~ッ!!お二人は私の天使ですぅ~~~!!」

 

 

大歓喜して喜びを表現する、マリアの現金すぎる姿にグレンとウィリアムは深い溜め息を吐くのであった。

 

 

 




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百五十六話

久々の本編投稿
てな訳でどうぞ


そんなこんなで、一同は休憩時間に入った。

 

 

「お疲れ様です、ウィリアム先輩。リィエル先輩」

 

『おとーさん。おかーさん。はい、お水ー』

 

「サンキュー」

 

「ん」

 

 

オーヴァイとエルから受け取ったカップの水をウィリアムは一気に、リィエルはコクコクと飲み干していく。

やはり、身体を動かし続けて渇いた喉に冷たい水は美味い。

 

 

「で?どうですか?皆さんの特訓は?」

 

 

オーヴァイが沢庵を差し出しながら聞いてくる。

 

 

「ああ、今んとこ順調じゃないか?」

 

 

差し出された沢庵をかじりながら、ウィリアムはフィールドのあちこちで休憩している皆を順に眺めながら答える。

実際、代表に選ばれたメンバーは総じて実力が高く、その中でも一番秀でているのはメイン・ウィザードに選ばれたシスティーナだろう。

 

 

「システィ!システィ!今回も惜しかったね!!」

 

 

そのシスティーナは現在、マネージャーとして参加しているエレンの世話を受けていた。

クライトス本家から虐待されていたエレンの処遇は、グレンがシスティーナの父、レナードに相談した結果、クライトス本家から離れ、アルザーノ帝国魔術学院に長期留学することが決まりつつあるそうだ。

無限ループで得た力と経験を全て失いはしたが……システィーナをマッサージしている彼女はとても晴れやかな笑顔を浮かべている。無限ループの時の昏い顔よりずっといい顔だった。

 

 

「ああ、システィ……本当に綺麗な肌だね……」

 

「ちょ、エレン!?どこ触って……きゃん!?」

 

 

……百合に目覚めているような気がしなくもないが。

 

 

(というか、エレンのやつ。ループの記憶が若干残っているんじゃないのか?)

 

 

そもそもループの記憶が残っている理由も未だに不明なのだが。ナムルスが残した……とも思えない。自身とグレンだけならまだしも、怪しい人物が数名いるのだ。ナムルスは基本的には必要最小限の手出ししかしないのだからわざわざそんな事をするとは思えなかった。

まあ、これに関しても今は放置するしかないだろう。何故なら―――

 

 

「ウィリアム先ぱ~い。私が先輩をマッサージして上げましょうか~?」

 

 

オーヴァイが甘い声でそんなことを宣っているからだ。マネージャーならコーチではなく代表選手の世話をしろ!とツッコミを入れたいところだが、当の本人は柳に風と受け流す始末なのである。

 

 

「……ん?なら、わたしもマッサージ?する」

 

 

加えて、リィエルが何故かオーヴァイに対抗するように加わるのだから、その心労は堪ったものではなかった。

 

 

「ちょ、ちょっと待て!マッサージが必要なほど疲れて―――」

 

「それでは背中をマッサージしますねー」

 

「なら、わたしは腰」

 

 

ウィリアムの言葉を無視してオーヴァイとリィエルはウィリアムを強引に横にし、ウィリアムにマッサージを施していく。

 

 

「あぎゃあああああっ!?ちょ、力!力入れすぎ!強すぎ!!逆効果、逆効果ぁああああああああああああ―――ッ!!!」

 

 

若干、というかハッキリとミシミシという軋む音がウィリアムから聞こえてきている。主に背中と腰辺りから。

どう見てもマッサージではない。

 

 

「おおおおおおおおッ!!へ、Help!Help me!!誰でもいいから、この二人を止めてくれぇえええ゛え゛え゛え゛え゛―――ッ!!」

 

 

ウィリアムは大声で周りに助けを求めるも……

 

 

「「「「…………」」」」

 

 

全員、顔を背けるだけであった。理由は単純。彼らの目にはいつもの子犬と狼の幻影が見えているからだ。

触らぬ神に祟りなし……東方の諺がピッタリと当てはまる状況だった。

 

 

『おとーさん、すごく痛がってるけどだいじょーぶ?』

 

「大丈夫ですよー。マッサージは疲れが溜まっているほど痛く感じますから」

 

 

ちなみにエルはオーヴァイから微妙に違った知識を教えられており、止めに入る気配はなかった。

 

 

「本当にイチャイチャしてますねぇ~~」

 

「いやぁ~~、モテる男は本当に大変だなぁ?ウィリアム君?」

 

「あはは……」

 

 

マリアはニヤニヤと、グレンは非常に腹立つイヤらしい笑みで、ルミアは曖昧な笑顔でその光景を見守っていた。ちなみにイヴは我関せずで無視し続けている。

明らかに楽しんで見ているマリアとグレンに、ウィリアムは青筋を浮かべながら、マリアには重しを追加してのランニングを、グレンには人工精霊(タルパ)の電気マッサージをプレゼントしてやると固く誓う。

 

 

(にしても……本当に周りはどんどん未来に進んでいるな……)

 

 

父のような立派な軍人になりたいエルザ。

母のように強くなりたいオーヴァイ。

自分のしたいことを探し続けるリィエル。

システィーナとルミアも、他のクラスメイトもそれぞれが自分の夢や未来に向かって進んでいる。

 

対して自分は?

少しづつ前に進んでいるとは思うが、未だに夢らしい“夢”は存在しない。

騒動をグレンと共に解決し、色々と注目を集めてはいるが……期待されても困るだけだ。

別に英雄になりたいわけでもないし、そんなことの為に動いたわけでもない。

 

 

(……本当に、俺は変わっているのかな……?)

 

 

もし、このまま卒業したら……一体どうなるのだろう?

 

 

(……イルシア……シオン……俺は……)

 

 

ウィリアムは遠くを見つめる目で、懐かしき兄妹の顔を幻視していた……その時。

 

 

「あれ?もしかして効いていないんですか?」

 

「なら、もっと強くする」

 

 

ある意味、物騒な発言がウィリアムの耳に届いた。

途端、背中と腰がメキメキと悲鳴を上げ始めていく。

 

 

「ぎぃやぁああああああああああああああああああッ!?だから、力入れすぎだって言ってるだろぉおおおおおおおお゛お゛お゛お゛お゛―――ッ!!!」

 

 

ウィリアムは地面を叩いて全力で抗議する。わりと本気で命の危険を感じて。

ちなみにエルザは帝都へ赴いているのでこの場にはいない。理由は軍のスカウトを受け、特務分室への入室が決定したからだ。つまり、今後エルザとリィエルは部下と上司という関係になる。

……立場が逆になる気がしなくもないが。

 

リィエルも軍の再編成の関係で戻らればならず、明日にはフェジテを発つことになっている。

その間のエルの世話はオーヴァイやルミアと協力して行うことになっているので、当面は問題ではない。

いや、その際に相当空気が冷え込んだが今はいいだろう。

その後、何とか無事(?)に解放されたウィリアムは……

 

 

「やっぱり、ウィリアム先輩は悪魔ですぅうううううううううう―――ッ!!!」

 

「アビャビャビャビャビャビャビャビャビャビャビャビャッ!? !? !?」

 

 

マリアとグレンに対して容赦なく考えていたことを実行していた。

そして翌日―――

 

 

『いってらしゃい!おかーさん!』

 

「……ん。いってくる」

 

「エルちゃんはルミア先輩も協力してくれますので安心して下さい!」

 

「……ん。お願い」

 

 

エルとオーヴァイに見送りを受け―――

 

 

「…………」

 

「ん?どうした?」

 

「……ギュッして?」

 

「…………」

 

 

ウィリアムに抱きしめてもらったリィエルは帝都へ赴くのであった。

 

 

 




「…………」

「すごい気迫だな、彼女は」

「流石、即戦力としてスカウトされただけはあるな」

(……二人は絶対にウィルさんとイチャついてますよね……しかも、オーヴァイは明日から独占……負けませんよ……剣も……恋も……)

「幻覚が見えるとは……気合いは十分のようだな」

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百六十七話

てな訳でどうぞ


あれからもてんやわんやとなりながらもあっという間に時間が過ぎ、帝国代表選手団は北セルフォード大陸南東部にある連合国家『セリア同盟』の中で一際大きな力を持つ、自由都市ミラーノに到着していた。

魔術祭典は、伝統的にこの自由都市ミラーノにて行われる。

 

 

「なんで、魔術祭典がこのミラーノで行われるか、先生は知ってますか!?」

 

 

ミラーノ入りして開口一番、テンションが上がっているシスティーナがグレンに話しかけていた。

 

 

「ウィリアム先輩。確かこの地は二百年前、魔導大戦の最終決戦地だったんですよね?」

 

「そうだな。帝国はもちろん、レザリア王国、セリア同盟、東方諸国……全大陸の国々が協力して邪神と戦い、世界滅亡に立ち向かった。故にここミラーノが、平和の祭典である魔術祭典の開催地になっているんだ」

 

 

オーヴァイの質問に答えながら、ウィリアムは周囲を見回していく。

自由都市ミラーノ……この地はアルザーノ帝国とレザリア王国の政治的緩衝地帯であり、さらにエリサレス新教と旧教が入り交じる宗教的緩衝地帯でもある。

 

そして、東西の文化交流地点でもあるため、都市を挙げて芸術家達を保護・活動を推奨しているため、その街並みは華やかに洗練されている。

最新の建築様式で建てられ、絢爛華美の言葉が相応しい、多様されている変化に富んだアーケード。

 

煌びやかな天使像や聖母像があちこちに設置されている大通りでは、絶えることなくピアノやバイオリンの音色が響き、若い画家達がキャンバスを立てて絵を描いている。

加えて、久々の魔術祭典の開催で外国からの観光客も非常に多く、街は賑わいに賑わっていた。

 

 

「本当に凄いですねー。故郷の銀竜祭の比じゃないくらい賑わってますよ!」

 

『おとーさん、苺タルトー』

 

 

その空前絶後の活況ぶりに、オーヴァイは楽しそうに呟き、ウィリアムに抱きかかえられているエルは目を瞬かせながらも苺タルトをウィリアムに所望していた。

ミラーノは宗教的緩衝地帯であるがゆえ、やたら聖堂や寺院が多いのも特徴の一つである。著名な建築士達が腕を競って建立したそのバロック調宗教的建造物は、どれもこれもが豪奢で荘厳な威風を誇っている。なので、寺院巡りだけでも一ヶ月は経ってしまうだろう。

システィーナを筆頭とする帝国代表選手団の誰もが、そんな街並みと偉容に圧倒され、目を瞬かせる中―――

 

 

(……あの彫刻、錬金術で形だけは再現できそうだな。あの建物は耐久性が高そうだ……)

 

 

ウィリアムはそんなことを考えていた。

 

 

『……おとーさん?』

 

「ん?ああ、悪い。苺タルトだったな?ホテルにある筈だから少し我慢してくれ」

 

『ん!わかった!』

 

 

エルと微笑ましく会話していた―――その時。

 

 

「―――というわけで、ここでお別れだ。グレン先生、後は任せたぞ」

 

「ちょっと待てい」

 

 

このあいだのル=キル像の無断拝借がバレ、その不始末の埋め合わせでグレンの補佐役にされた筈のフォーゼルが、グレンに襟首を引っ掴まれていた。

 

 

「どこ行く気だ?」

 

「離せグレン先生。僕が一体、何の為にここまで同行してやったと思ってるんだ?……遺跡調査のために決まっているだろう!?」

 

「違うだろ!?代表選手団の監督補佐として来たんだろうが!?」

 

「この僕がそんな殊勝な真似をするわけないだろ!?少しは常識―――あべしっ!?」

 

 

あまりにも酷いフォーゼルの言い分に、ウィリアムは思わず無音火薬(サイレントパウダー)による非殺傷弾を、額に三発叩き込んだ。

 

 

「面倒だから、気絶させてから強引に連れていくぞ。先公」

 

「……そうだな。このまま―――」

 

 

ぐったりとしたフォーゼルの襟首を掴んだまま、グレンはウィリアムの言葉に同意するも―――

 

 

「ふははははははっ!!では、さらばだ!!グレン先生にアイゼン!」

 

 

フォーゼルは即復活し、どひゅん!と、リィエル以上の瞬発力で、猛ダッシュでその場を立ち去るのであった。

 

 

「「…………」」

 

「放っておきなさい、あんなクズ男。一緒にいるより好きにさせていた方が精神衛生的にずっといいわ」

 

 

そのフォーゼルの後ろ姿をグレンとウィリアムは絶句して見送り、イヴはむっつり顔で放置するように進言していた。

 

 

(……本当に大丈夫なのかよ……グレンの先公……)

 

 

先日、グレンに『アリシア三世の手記』の進展具合を聞いたところ、どうやらフォーゼルがあの暗号を解読できるとのことで、写本を渡したそうだ。

何故、フォーゼルが解読できるのかグレンに問い質したところ、当の本人は煙に撒いて答えなかった。

たぶん、解読できる理由はフォーゼル本人から口止めされているのだろうと察し、それ以上の追及はしなかった。

だが……

 

 

「ウッヒョォオオオオオオ、漲ってキタァアアアアアアアアアーーッ!?」

 

 

向こうから聞こえてくる、テンションMAXなフォーゼルの叫び声に、ウィリアムは不安しか感じなかった。

 

 

「むしろ、ここであの学院の産業廃棄物を遺棄すべきよ」

 

「お前……本当に、アイツのこと嫌いなんだな……」

 

「貴方がマシに思えてくるくらいにはね。そんなことより急ぐわよ」

 

 

つんと髪をかき上げ、イヴが歩き出したので、ウィリアム達もイヴに続いて歩き始めていく。

 

 

『おとーさん。さんぎょーはいきぶつってなぁに?』

 

「今は知らなくていいんだよ」

 

『?』

 

 

エルの質問にウィリアムは優しげな表情で知らなくていいと答えた。

そのまましばらく歩き続け、一同は予定していたホテルへと到着した。

魔術祭典運営委員会から、各国の選手団ごとに指定配分され、一つの建物が貸し切りとなっているホテルだ。

ここが、魔術祭典開催中の帝国代表選手団専用の拠点となるのだが……

 

 

「おおう……マジでここを使うのか……」

 

 

ミラーノの一等地を贅沢に使い、貴族城館のような豪奢なホテルを、ウィリアムは半目で見上げていた。

 

 

「凄いですねー。シャトー・スノリア並みのホテルですねぇ」

 

「本来は、富裕層のミラーノ観光客向けに造られた公営の高級ホテルらしいわよ」

 

「……え?マジで?そんなすげぇホテルを俺達が貸し切りとか……マジで?」

 

 

オーヴァイの言葉にイヴがつんとすました言葉で答え、それを拾ったグレンはたちまち萎縮してしまう。

 

 

「当たり前でしょ。私達は帝国代表選手団―――帝国の代表。言わば“公賓”なのよ?このくらいの待遇は当然でしょう?」

 

 

まったく普段通りのイヴは、さっさとホテルの入り口へと向かっていく。

 

 

「それじゃあ、私達も行きましょうかー。ウィリアム先輩」

 

 

オーヴァイもそう言って、ウィリアムの手を握ってホテルへと向かっていく。

 

 

(ホテルかぁ……今回は大丈夫だよな……?)

 

 

シャトー・スノリアの件が黒歴史となっているウィリアムとしては、これ以上は増えてほしくないとわりと切実に願うのであった。

勿論、その願いは儚くも崩れ落ちることは決まっていた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――同時刻。

ティリカ=ファリア大聖堂の屋根の上にて。

 

 

「フフフ……此度の美の探究はどうなりましょうな?天の智惠……七世……焔……正義……愚者……それぞれがぶつかりし時、どのような美しさを醸し出すのか……胸が踊りますな。……そして、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

髭を蓄えた吟遊詩人のような服装に身を纏った男性は、その手に持つ一冊の本を眺めるように見つめながら、誰に言うわけでもなく呟く。

 

 

「我輩はいつものように観察させて頂きますぞ。我輩の“美”の為に……」

 

 

その呟きを最後に、男性はその場から優雅に立ち去るのであった―――

 

 

 




「……チャールズ。今回の新作は?」

「三剣士の制服写真や」

「……いくらだ?」

「特別価格で金貨五枚や」

「高ぇ……でも、その価値は確かにあるぜ」

「でもどうやってこれを?」

「…………」

「チャールズ?」

「ハハ、チョットシタ交渉デナ。代ワリニ男ノ写真ヲ撮ル羽目ニナッタケドナ」

「チャールズ!?片言の上、身体が凄く震えてるぞ!?」

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百六十八話

てな訳でどうぞ


ホテルのチェックインも一人一部屋(無論、エルはウィリアムと一緒)と確認して無事に終わった後、一行は水路のゴンドラと、コーチ馬車を使って、都市北西部へと向かう。

程なくして、ウィリアム達は、アルザーノ帝国魔術学院の魔術競技場などとは比べ物にならないほどの規模の、豪奢な石造りの円形競技場へとたどり着いた。

 

セリカ=エリエーテ大競技場。

自由都市ミラーノが誇るその大競技場が、かつて連綿と魔術祭典が開催され続け、数多の若き魔術師達が腕を競い合ってきた、由緒ある場所である。

 

ここが二百年前の魔導大戦で、最後に残った二人の英雄が、邪神との最終決戦地に挑んだ場所で、この大競技場はその跡地に建てられたらしい。

 

 

(……どうみても、アルフォネア教授と《剣の姫》エリエーテ=ヘイヴンが名前の由来だろ……)

 

 

なんとも分かりやすいネーミングに、ウィリアムは苦笑しながら、グレン達と共に、来賓口から大競技場の中へと進入する。

各種手続きを済ませ……

 

 

「……そちらのお子さんは?」

 

『う?』

 

「妖精ですので気にしないで下さい」

 

「は、はぁ……そうですか」

 

 

……各種手続きを済ませ、一同は控え室の大部屋へと通される。

部屋には、各国の選手や監督達がすでに集まっており、独特な緊張感とピリピリした空気が張り詰めていた。

 

これから、開会セレモニーの事前説明と打ち合わせがあるらしいのだが……自国のチーム以外は国の威信をかけて世界の頂点を目指して競い合う敵同士。この空気となるのは無理もない話であった。

 

 

「こんなことなら、サボって観光にでも行けば良かったかな……」

 

 

そんな中、ウィリアムは面倒くさそうに小声でそんなことをぼやいていた。

 

 

「一人サボろうとすんなよ、ウィリアム。大会中は、徹底的にこき使ってやるから覚悟しとけよ?」

 

 

ちゃっかり耳に届いていたらしい緊張感ゼロのグレンに、サボり精神を加速させる釘を刺されていたが。

 

 

「まったく……本当にマイペースですね」

 

「ふふ、羨ましい限りですね」

 

「ある意味、ここにいる誰よりも大物ですね」

 

 

システィーナ、リゼ、ギイブルは、そんなグレンとウィリアムを見て苦笑する。

 

 

「おかげで肩の力が程よく抜けていると思いますよ?……あちらはガチガチですが」

 

 

オーヴァイがフォローしつつ、苦笑しながら視線を向けた先には……

 

 

「ど、どの方も強そうですわ……ッ!」

 

「ば、バカ野郎!び、び、ビビってんじゃねーぞ!?」

 

「はぁ~、いつもの女を投げ捨てた図太さはどこいったんですか?ほら、深呼吸です。深呼吸。ひっひっふー」

 

 

ひたすらビビりまくっているフランシーヌとコレットを、いつも通りのジニーが鬱陶しげに宥めているところだった。

 

 

「緊張で見事に無様を晒していますね。少しは彼らを見習ってほしいものです」

 

「……ふん」

 

 

レヴィンとジャイルはそんな聖リリィ組の代表に呆れたような視線を向けていた。

そんな代表選手団の衣装は、いつもの制服ではなく、黒と白を基調とした実質剛健な意匠のコートローブだ。これが、魔術祭典における伝統的な帝国礼装とのことである。

もっとも、マネージャーとコーチには関係ないものだが。

 

 

「いやー、本当に凄いですね。これが世界なんですね」

 

 

隣で感慨深げに見つめるオーヴァイの言葉を聞き流しながら、ウィリアムはそれとなく周りを見やる。

それぞれの国の礼服に身を包んだ、若き魔術師達。

その誰もが恐るべき才覚を秘めているのが一目でわかる。

 

 

(……ホンッと、世界は広いな……)

 

 

今回の魔術祭典に参加するのは、北大陸の主要八ヵ国。過去の祭典の最大規模時は十五ヵ国が参戦していたから、ここにいる者達は氷山の一角だろう。

まぁ、ウィリアム個人としては、本当にどうでもいいことだが。

 

 

(てか、レザリアの連中も来るんだよなー……本当に関わりたくない)

 

 

むしろ、この場に来るであろうレザリア王国の代表団に対しての不安が強かった。

レザリア王国、具体的には旧教の一部に、他宗教に対して、極端なまでに排他的で閉鎖的な信者がいる。

 

帝国ではそういった連中を、蔑みを込めて“狂信者”と呼んでいるのだが、ウィリアムとしてもあまり関わりたくない人種である。

エルの教育に、物凄く悪いから。

 

 

「ふん……この穢らわしい異端者どもが」

 

 

予想通りというか、なんというか。全く聖職者に見えない、侮蔑と嫌悪に染まった顔をした僧服の少年がシスティーナに吐き捨てていた。

 

 

「やれやれ、お前が、勝手な教義を作って至高神に泥を塗った、裏切り者のアルザーノの連中か……予想通り、隠しきれない悪徳が顔に出ているよ。この場で聖伐されない幸運を、我等が神に感謝して欲しいな」

 

 

「なっ……ッ!?」

 

 

壮絶な侮辱。それをいきなりぶつけられたシスティーナは呆気に取られてしまっている。

 

 

「まぁ、異端者は異端者同士で仲良くやっているがいいさ。ああ、こんな悪魔の手先の群れの中で待ってろだなんて、気分が悪いったらありゃしない」

 

 

システィーナが我慢して黙っているのをいいことに、徳が全く無さそうな僧服の少年は容赦なく侮辱し続ける。

たちまち、その場の雰囲気が悪くなっていく。

 

 

「やれやれ、どうして、旧教の人間はいつもそうなんだろうね?」

 

 

この空気に耐えかれたのか、頭にターバン、全身をマントで包んだ浅黒い肌のエキゾチックな美少年―――砂漠の国、ハラサの代表選手がシスティーナの代わりに反論していた。

 

 

「我等が神は、その慈悲深さと高徳さゆえに、他宗教に対して寛大だというのに」

 

「は?間違った神を奉ずる悪魔共に、配慮する必要がないだろ?」

 

「……()()()()()……だと?」

 

 

僧服の少年の返しに、サハラ代表の少年の眉がたちまち吊り上がった。

 

 

「おい……我等がエル=ラドの神への侮辱だけは、死をもって償わなければならないぞ?」

 

「……()()と侮辱したのは君が先なんだがね?穢らわしい異端者が」

 

 

サハラ代表の少年が腰の刀の柄に手をかけ、僧服の少年が手に持っていた聖書を開く。

二人の間に、壮絶な殺気と圧力が漲り、会場全体の気温が氷点下まで下がった。

―――その時だった。

 

ドパァアアンッ!!

 

 

「「!?」」

 

 

突然の耳をつんざく銃声に、件の二人は勿論、止めに入ろうとしていたシスティーナと陰陽師と呼ばれる正装に身を包んだ黒髪の少女も思わず身体を膠着させてしまう。

 

 

「おいこら。ここでドンパチしようとすんな。周りに迷惑がかかるだろうが」

 

 

そして、その銃声を放った張本人であるウィリアムは、右手の硝煙がまだ上っている拳銃を掲げたまま、ジト目で件の二人に近寄っていた。

 

 

「……今のは君が……?」

 

「そうだけど?後、空砲だから音以外は何にもないぞ」

 

 

サハラ代表の少年の問いかけに、ウィリアムは拳銃をガンスピンさせながら呆れた表情のまま答える。

こんな面倒ごと、本当なら進んで関わりたくない。だが、流血沙汰にでもなったら流石に洒落にならない。そんな光景は、エルの教育に悪影響でしかない。

 

 

「ふん。そんな玩具を使うだなんて……帝国はよっぽど地に堕ちているようだね?流石、人の皮を被った悪魔の手先だ」

 

「これは俺個人のだから、これで測られても困るんだけど?」

 

 

僧服の少年の侮辱に、ウィリアムは特に何てことのないように言い返す。

それが癪に触ったのか、僧服の少年は眉を吊り上げていく。

 

 

「穢らわしい異端者のくせに随分と余裕じゃないか?……ああ、そういえば、お前はそこの穢れの塊と一緒にいた異端者だな?本当に、愚劣極まりない悪魔達だよ」

 

 

僧服の少年は侮蔑を含んだ視線をオーヴァイに抱かれているエルに向け、嫌悪感を露に容赦なく吐き捨てる。

対して、ウィリアムは―――

 

 

「僻み精神か?もっと心に余裕を持ったらどうだ?いくら緊張してるからって周りに当たるなよ」

 

 

内心では、その幸が皆無そうな顔をぶん殴りたい衝動を堪えながら、心底呆れたように言葉を返していた。

ウィリアムのその返しに、システィーナと黒髪の少女は苦笑い。サハラ代表の少年は毒気を抜かれたようにちょっと間抜けな顔になっていた。

 

 

(……これ、絶対に向こうが手を出したら、容赦なくやる気だわ……)

 

 

……ウィリアムのこめかみに、うっすらと浮かんでいる青筋に気づいたシスティーナは内心で引き攣っていたが。

 

 

「……ッ!……言うじゃないか。この異端者風情が」

 

 

僧服の少年は今にも襲いかからんばかりに睨んでいたが。

 

 

「そこまでにしておきなさい。マルコフ」

 

 

そんなマルコフと呼ばれた僧服の少年を宥めるように、いつの間にかいた一人の司祭が、後ろからマルコフの肩に手を置いていた。

 

 

「マルコフ。魔術祭典は平和の祭典です。なのに、このようなことは本末転倒です。“己を愛するが如くに、隣人を愛すべし”……主の教えを忘れましたか?」

 

「……ファイス司教枢機卿猊下ッ!!」

 

 

マルコフが、どこか非難するような目で、後ろの司祭―――ファイスを睨む。

だが、ファイスはそんなマルコフに構わず、サハラ代表の少年とウィリアムに向かって深々と頭を下げた。

 

 

「……こちら側に非礼があったようですね。本当に申し訳ありませんでした」

 

「……いえ。こちらこそすみませんでした。つい頭に血が上ってしまって……」

 

「あー……司教様が悪いわけじゃないから頭を下げないでください」

 

 

エリサレス旧教の枢機卿が頭を下げるという有り得ない光景に、頭が冷えていたサハラ代表の少年も深々と頭を下げ、ウィリアムは困ったように言った。

 

 

「猊下ッ!?なぜです!?なぜ、そんな愚劣な異端者共、特に裏切り者のアルザーノの人間に頭を下げるのですか!我等が神の正義は―――ッ!!」

 

「黙りなさい」

 

 

マルコフが糾弾の叫びを上げるも、ファイスの有無を言わせない迫力の叱責を前に、悔しげに押し黙る。

 

 

(この状況になっても、トップに頭を下げさせた申し訳なさより敵意が勝つのかよ……)

 

 

ウィリアムはそんなマルコフに怒りを通り越して、顔に出さず内心で心底呆れていたが。

そして、ファイスは会場を見渡しながら、穏やかに言った。

 

 

「さて、才気に溢れる若き魔術師の皆さん。遠路はるばる、今回の魔術祭典にご参加いただき、ありがとうございます。皆様のご活躍とご健闘が、これからの世界をより良い方向へと導く礎となることを、私は願っております。早速ですが―――」

 

 

こうして。

ファイスの大人の対応によって、場を包んでいた緊迫感は完全に解かれ、開会セレモニーについての説明と打ち合わせが始まるのであった。

 

 

 




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百六十九話

てな訳でどうぞ


開会セレモニーの事前打ち合わせはつつがなく終了。程なくして、ついに魔術祭典開催の運びとなった。

楕円形のフィールドをぐるりと囲む観客席は世界中から集まった観光客達でいっぱい。空にはひっきりなしに花火が打ち上げられ、その花火の音すら聞こえない観客の大歓声を上げる程、活気と熱気に包まれている。

 

何十年ぶりに開催された魔術祭典は、規模こそ縮小気味だが、その期待は過去最高のものではなかろうか。

やがて、フィールドでショータイムが始まり、何百人からなるダンサーやサーカスが次々と芸を披露していく。

それが終わると、パレードと共に、各国の代表選手団が入場していく。

 

緊張のあまり、フランシーヌがコレットを巻き込んで転んでしまうというハプニングが起きもしたが、各国の代表選手団は観客達に顔を見せるようにフィールドを一周し、中央で整列。

やがて、式典が始まり、魔術祭典組織委員長、ミラーノ市長、各国来賓による、開会宣言やスピーチなどが始まる。

 

その中で、アリシア七世女王陛下と、レザリア王国の聖エリサレス教会教皇庁フューネラル=ハウザー教皇聖下が、大衆の前で握手を交わし合うという会場が騒然となるパフォーマンスまであった。

 

 

「いや~、無事に開催されて良かった良かった。開催前に乱闘が起きて流血騒ぎなんぞになったら、大変面倒になるとこだったからなぁ」

 

『みんな、凄い賑わっているのー!!』

 

「そうですねー。本当に賑わってますねー」

 

 

そんな気の抜けたことを宣いながら、エルを抱きかかえたオーヴァイと共に歩いていた。

諸々の手続き関係から、最初はイヴとエレンと共に行動し、ある程度手続きに目処がついたので、ウィリアムとオーヴァイは先にセレモニーを先に観戦しているグレンとルミアの下へ向かっている。

 

 

「代表の先輩方も、ますます気持ちが引き締まるでしょうねー」

 

「そうだな―――」

 

 

オーヴァイの言葉に、ウィリアムが頷きかけていた―――その時。

 

 

「ッ!?」

 

 

不意に、背中に悪寒が走った。

ウィリアムは反射的に背後へと振り返りながら、隠し持っていた拳銃を構えた。

 

 

「先輩……ッ!?」

 

 

オーヴァイはウィリアムの前触れのない行動に最初は訝しみかけるも、いつの間にか、本当にいつの間にかウィリアムの背後に立っていた一人の少年に気づき、瞬時に距離を取った。

 

 

「へぇ……私に気付きますか。その反応と勘は素直に称賛しますが……」

 

 

眉間に拳銃を突き付けられた黒い髪に紫の瞳、左目を聖十字の意匠があしらわれた眼帯で隠し、グレーのコートを身に纏った少年は、柄の両方に刀身をあしらえた長物の武器―――双刃槍(ダブルランサー)を既にウィリアムの首筋に当てていた。

 

 

「どっちが速いでしょうね?―――もっとも、私の眉間に傷一つ付かないでしょうが」

 

「くっ……」

 

 

涼しげに告げる少年の言葉に、眉間に拳銃を突き付けているウィリアムは苦々しい表情で唸る。

《詐欺師》として修羅場を潜ってきたウィリアムの直感が容赦なく告げているのだ。

―――この少年は規格外の化け物だと。

 

 

「お前は……何者だ?」

 

「聖エリサレス教会聖堂騎士団・第十三聖伐実行隊(ラスト・クルセイダース)所属。ヴァン=ヴォーダン」

 

「っ……」

 

 

少年が明かした正体に、ウィリアムは益々苦々しい表情になる。

第十三聖伐実行隊(ラスト・クルセイダース)

聖エリサレス教会教皇庁聖堂騎士団が誇る、異端者、悪魔、不死者を、片端から苅り尽くすという絶殺機関にして、最強最悪の切り札(ラスト・カード)

その実力は、帝国宮廷魔導士団特務分室を上回ると噂されるほどだ。

 

 

(なんでそんな連中がここにいるんだよ!?)

 

 

意図的に殺意と殺気、威圧感を徐々に放ち始めていくヴァンに、ウィリアムはヴァンに隙を見せないように周囲を探っていく。

観客席の人間は……全く気付いていない。おそらく、認識操作の結界が既に展開されているのだろう。

 

「君のことは色々と調べさせてもらったよ。《詐欺師》ウィリアム=アイゼン。かの《愚者》のことと一緒にね」

 

「…………」

 

「確かに人間のわりにはそれなりにできるようだけど……やっぱり幾ばくか誇張されただけのようだね。所詮、運が良く、恵まれただけの犯罪者だよ、君は」

 

「……?」

 

 

ヴァンの言葉に、どこか個人的な感情が含まれていることに、ウィリアムは内心で首を傾げるしかない。

だが、この状況でそんな疑問に頭を回す余裕はない。

 

オーヴァイはウィリアムが動いた瞬間に瞬速召喚(フラッシュ)した刀をいつでも抜けるよう、抜刀術の構えを取ってエルを庇うように自身の後ろへ移動させているが、その額からは脂汗が滲み出ている。

 

彼女も、ヴァンが規格外の存在だと理解しているからだ。

その上、観客席の方からも規格外の存在を二つも肌で感じ取れているのだ。

限りなく、最悪に近い事態だ。

 

 

「……何が目的だ?」

 

 

喉奥から絞り出すように、ウィリアムはヴァンに問いかける。

 

 

「そうだね……それは、向こうと交えて話そうか」

 

 

ヴァンが事も無げにそう言った瞬間。

身体がぶれて見える程の速さで、ウィリアムの鳩尾を空いていた腕で殴り飛ばした。

 

 

「ぐほぁ―――ッ!?」

 

 

殴り飛ばされたウィリアムはそのまま吹き飛ばされ、観客席を横断する通路まで飛ばされてしまう。

 

 

「ゲホッ!ゴホッ!」

 

「ウィリアムッ!?」

 

 

何とか受け身を取り、殴られた鳩尾を押さえながら咳き込むウィリアムに、グレンが驚きと焦燥を露に叫ぶ。

 

 

「あら?丁度いいタイミングだったわね、ヴァン」

 

「そのようですね。ルナ……さんにチェイスさん」

 

 

白い法衣に身に包んだ金髪の少女―――ルナの嬉々とした言葉に、ルナの近くに降り立ったヴァンは何てことのないように返す。

 

見れば、ルミアはまるで金縛りにあったかのように動きが止まっており、そのルミアの背後には黒ずくめの灰のような髪色の青年が立っている。

予想以上の最悪の状況に、ウィリアムは歯噛みするしかない。

 

 

「それで、総監督さんへの“頼み”なんだけどね……()()()()退()()()()()()()()()()?」

 

「……は?」

 

「なんだと?」

 

 

冷笑と共に突き付けられたルナの意味不明な要求に、グレンとウィリアムは呆気に取られてしまう。

 

 

「正直、困るのよね……貴方達が試合に勝ち残るとさぁ?」

 

「まぁ……こちらの“頼み”を突っぱねるのでしたら……()()()()をするだけですが」

 

 

ヴァンはそう言って、ルミアに視線を移す。

それだけで、見せしめの意味を理解した。

 

 

「……ッ!」

 

「てめぇ……ッ!」

 

「素直に折れた方がいいわよ?ヴァンは可愛い女の子の臭いに欲情し、涎を垂らして見境なく貪るケダモノだし、チェイスに至ってはそういう女の子を切り刻んで血を啜るのが大好きな変態よ?どう?そんなの嫌でしょう?……ま、異端者のクソ雑巾どもがどれだけ死のうが、知ったことじゃないけどね……ふふふ……」

 

 

どこまでも酷薄な笑みを浮かべるルナに、グレンとウィリアムが睨み付けた―――その瞬間だった。

 

ごッ!

 

唐突に猛火が巻き起こり、観客達を巻き込んでウィリアム達を呑み込んだ。

だが、グレンとウィリアム、ルミア、観客達には火傷の一つもなく、むしろ観客達は突然の炎に困惑して周囲をキョロキョロしていた。

 

 

「グレン、ウィリアム、構えなさいッ!!」

 

 

この炎を放った人物―――観客席を横断する通路に現れたイヴが何時になく引き締まった顔でこちらを見下ろしていた。

そして、攻撃の対象だったルナとヴァン、チェイスと呼ばれた青年は、イヴが立つ通路の二十メトラ先に、いつの間にか移動していた。

 

 

「へぇ?()()()デキるようね?あの赤髪の女は……いいわよ?遊んであげる。格の違いを見せてあげるわ。平和ボケした軟弱な帝国人の貴方達に、ね……」

 

 

ルナはそう言って、余裕の佇まいで煌びやかな装飾が施された籠柄(スウェプトヒルト)十字鍔(クロスガード)の細身の長剣―――聖剣を構える。

 

 

「言葉が過ぎますよルナ……さん。今回はあくまで()()に来ただけなのですから」

 

「ヴァンの言う通りだ。それに、さっきの炎で結界にかなりのヒビも入っている。これ以上の荒事は、観客達にバレてしまう」

 

 

だが、そんなルナをヴァンとチェイスが引き留めていた。

 

 

「……分かっているわよ。とりあえず警告はしたから、しっかり辞退してよね?辞退しなかったら……貴方達にきっと不幸が降りかかるわよ」

 

 

ルナは不服そうにしつつも素直に剣を納め、そのままチェイスが足下に展開した沼のような影の中に、ヴァンと共に潜るように姿を消すのだった。

 

 

「……はぁ……ッ!」

 

「……ふぅ……ッ!」

 

 

三人の気配が完全に去ったことを確認し、グレンとウィリアムは揃って息を吐いた。

 

 

「大丈夫ですか!?先生!」

 

 

金縛りが解けたルミアが、顔を蒼白にさせてグレンの下へと急いで駆け寄る。

 

 

「……素直に引いてくれて助かったわ。この状況で連中とやり合うのは得策じゃなかったからね」

 

「……イヴの先公……エルとオーヴァイは?」

 

「二人は私が張った結界に保護してるわ。オーヴァイの話を聞いた時は、本当に肝が冷えたわよ……教会の異端狩りの切り札がでしゃばるなんてね……」

 

「そうか……ありがとよ、イヴの先公」

 

「別に礼なんかいらないわよ。今の私は教師なのよ?生徒の安全を確保するのは教師として当然でしょ?」

 

 

ウィリアムのお礼を、イヴは髪をかき上げながら、澄まし顔で平然と返す。

 

 

「厄介ごとは、本当に勘弁してもらいたいんだが……」

 

「この魔術祭典……確実に、何かが起きるぜ?」

 

 

忌々しげに会場を見下ろしながら、確信とともに放たれたグレンの言葉は、大歓声の洪水に呑み込まれるのであった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

自由都市ミラーノの、夜の、とある人気のない薄暗い路地裏にて。

 

 

「どうだった!?私の追い込みは!あれだけ圧をかければ、軟弱な守銭奴の帝国人どもなんかに舐められないでしょ!?」

 

「……はしゃぎ過ぎだよ、ルナ()()()。後……」

 

 

無邪気な様子ではしゃぐルナに、ヴァンはムスッとした表情のまま、ルナの脇腹をつまみ上げた。

 

 

「誰が“可愛い女の子の臭いに欲情し、涎を垂らして見境なく貪るケダモノ”だよ。完全に盛ってるよね?後、やっぱり少し太ったよね?」

 

「ちょっ!痛い痛い!義理の姉に対して何てことをするのよ!?しかもまた太ったって言ったわね!?それと、女の子の臭いに興奮するのは事実でしょ!!」

 

「だとしても盛りすぎだよ!!涎も垂らさないし、貪りもしないし!!後、()は知ってるんだよ!姉さんがほぼ毎晩、ある人の来ていた衣服の臭いを嗅いで胆嚢していること!どう見ても姉さんの方がケダモノだよ!!」

 

「ちょっ!?何で知ってるのよ!?」

 

 

ギャンギャンと互いに吠えたてるルナとヴァン。その光景は、さながら姉弟喧嘩である。

 

 

「まぁまぁ……僕なんか“女の子を切り刻んで血を啜るのが大好きな変態”なんだよ。後、ルナも程々にしてね。色々と複雑な気分だからさ……」

 

 

そんな二人を、チェイスは呆れながら宥めるのだった。

 

 

 




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百七十話

てな訳でどうぞ


第十三聖伐実行隊(ラスト・クルセイダース)に帝国代表団の辞退を要求された、次の日。

自由都市ミラーノに設けられた、アルザーノ帝国領事館にて。

 

 

「死ねい!!ウィル坊ぉおおおおおおおおおおおおおおおおお―――ッ!!!」

 

 

一人の老人が怨嗟の声を上げながら、紅蓮の炎を纏った拳をウィリアムの顔面目がげて放ってきていた。

 

 

「危なッ!?」

 

 

部屋に入って早々、憎悪を瞳に宿したバーナードの襲撃に、ウィリアムは咄嗟に身体を捻ってその拳を避ける。

 

 

「……翁」

 

「バーナードさん……」

 

 

部屋にいたアルベルトとクリストフはそんなバーナードに呆れたように溜め息を吐いており、今回密かに面会しに来たアリシア七世女王陛下も困ったように笑みを浮かべていた。

 

 

「え?え?」

 

「何やってんだよ、ジジイ……」

 

 

無論、ウィリアムと一緒だったルミアは目を瞬かせ、グレンもアルベルト達同様に呆れていたが。

普段ならグレンも参加して煽るところだが、女王陛下の手前、流石に悪ふざけできるほどグレンの精神はそこまで図太くなかった。

 

 

「いきなり何すんだ!?」

 

「リィエルちゃんと甘々な日々を送りおって!!一発殴らんと儂の気が治まらんのじゃ!!」

 

「嫉妬かよ!?それで魔闘術(ブラック・アーツ)で殴ろうとすんなよ!」

 

 

どうやら、バーナードは大人気ない嫉妬心と憎悪でウィリアムに襲いかかったようである。血涙を流さんばかの修羅の形相が、それを物語っている。

 

 

「加えて、リィエルちゃんにあんなエロチックな事をしおったお主は一度地獄に―――」

 

 

―――その瞬間、空気が凍った。

 

 

「……《隠者》のじいさん。そのエロチックな事ってなんだ?」

 

 

まるで絶対零度の世界の如く、重く、寒くなった空気の中、ウィリアムの声がよく響く。

そんな空気を、嫉妬に駆られてか、全く気付いていないバーナードはそのまま地雷を踏み抜くこととなる。

 

 

「聞かんでも分かるじゃろ!?白猫ちゃんの家で、ベッドの上でやっていたことじゃ!!儂だって、若いキャワイイ子と―――」

 

「……何で酒に酔わされてやってしまったことを、じいさんが知っているんだ?まさかとは思うが……監視していたのか?」

 

「…………」

 

 

その瞬間、バーナードは口を滑らせたことと底冷えした空気に気付くも既に遅い。むしろ、その沈黙が逆にウィリアムの質問を肯定していた。

 

 

「……オーケー。その記憶、今すぐ抹消してやる」

 

 

忘れ去りたい黒歴史をバーナードが知っていると確信したウィリアムは、圧縮凍結してあったある魔導器を解凍する。

その魔導器は、長銃(ロングライフル)の形状をしている。表面には無数のルーン文字が刻まれており、銃口は普及している銃の十倍近い大きさであった。

 

 

「……何じゃそれは?」

 

「新しい魔導器だ。《魔銃ケヴァルト》……それがこいつの名称だ」

 

 

《魔銃ケヴァルト》は《魔銃ディバイド》とは違い、雷加速弾(レールガン)を高威力で放つことのみに重点を置いた魔銃だ。魔杖《蒼の雷閃(ブルーライトニング)》の増幅機構を組み込み、電撃系統の魔術を極限まで増幅させられる事が可能だが、雷閃を放つことは不可能な作りにしている。加えて、弾の装填方法は錬金術の使用を前提にしている、かなりビーキーな仕様である。

そして、この魔銃の真髄は杭を錬成することで近接戦を行えることである。

 

 

「待つんじゃウィル坊!!それは流石に洒落になっとらんぞ!?」

 

「安心しろ。硬質ゴム製の杭を頭にぶちこむぶちこむだけだ。百回もやれば、流石に記憶が飛ぶだろ?」

 

「完全に儂を殺す気じゃろ!?」

 

 

その物騒なものの銃口を、バーナードの顔面に向けながらにジリジリと近寄っていくウィリアム。バーナードもそれに合わせてジリジリと後退していく。

もはや、逃げられないと悟ったバーナードは……

 

 

「クリ坊だって監視しとったのに!」

 

「ちょっ!?バーナードさん!?」

 

 

道連れという、仲間意識の欠片もない選択をとるのであった。

 

 

「……本当か?」

 

 

当然、ウィリアムは幽鬼の如く、ゆらりとクリストフに顔を向ける。その据わった目が、嘘は許さないと如実に語っている。

 

 

「……は、はい。ですが……()()に関してだけは、バーナードさんだけ監視して……バーナードさんが書いた報告書もアルベルトさんが焼却処分しました……」

 

 

素直に喋ったクリストフへの判決は……

 

 

「……そうか。なら、絶対に他言無用だぞ?もし、誰かに喋りでもしたら……地獄の果てまででも追って、その記憶を抹消してやる」

 

「わ、わかり、ました……」

 

 

脅しであった。バーナードは?もちろん有罪である。

 

 

「な、なぁ、ウィル坊。儂も―――」

 

 

ズゴォンッ!!

 

 

「ブホァッ!?」

 

「……向こうの馬鹿二人は放置して話を進めるぞ。時間も限られているしな」

 

 

ウィリアムとバーナードを放置して今回の極秘会談の一番の理由である、第十三聖伐実行隊(ラスト・クルセイダース)の要求について話し合っていく。

結論としては、首脳会談のためにも、帝国代表選手団の魔術祭典の辞退は許可しないとのこと。

 

母として、人として失格でも、女王としてやらなければならないと。

そして、自身の護衛兵力の一部を、自身へのリスクを承知で代表選手団に回す事を決める。

 

 

「しかし、随分と厄介な連中に絡まれたな。第十三聖伐実行隊(ラスト・クルセイダース)……敵対するとしたら、これ以上最悪の相手は他に無い」

 

 

あのアルベルトさえ、そこまで言わせる者達であることに、ルミアは驚きを露にする。

 

 

「あの人達って、そんなに凄い人達なんですか?」

 

 

そんなルミアの疑問を、アルベルトの代わりに、クリストフが説明を始める。

 

 

「ええ、その通りです。エルミアナ王女殿下。第十三聖伐実行隊(ラスト・クルセイダース)……聖エリサレス教会教皇庁が誇る聖騎士団の中でも、最強の処刑部隊です……本来はたった二人からなる隊ですけどね」

 

「二人……?」

 

「本来はということは……三人いるのは普通じゃないということか?」

 

 

クリストフが明かした情報にルミアが首を傾げ、やり取りはちゃんと聞いていたらしいウィリアムも疑問を露に会話に参加する。

バーナード?錬成で作った壁に、半分顔が埋まってビクンビクンッ!と痙攣している。

 

 

「はい。ですが、たった二人でも、何百、何千騎からなる他の部隊を押しのけて、そう呼ばれているのです。それが今は三人……その力は推して知るべきでしょう」

 

「くそ、ふざけやがって……教皇庁に文句入れてやろうぜ!?」

 

 

グレンが教皇庁に今回の件を抗議するよう、至極真っ当な意見を出すも、アルベルトが第十三聖伐実行隊(ラスト・クルセイダース)は表向きは()()()()()()()()な為、連中を捕まえて、決定的な証拠を掴まない限りは知らぬ存ぜぬで突っぱねられるだけだと返される。

 

 

「あいつらを捕まえるとか無理ゲー過ぎるわ!」

 

「せめて、連中の素性と能力くらいについてわかればいいんだけどなぁ……」

 

 

ウィリアムは肩を落としながら、空中に配列した宝石で作った魔術法陣―――簡易の魔導演算器(マギピューター)を凝視しているクリストフに視線を向ける。

 

 

「駄目ですね。霊脈(レイ・ライン)回線を通して、帝都の情報局緊急アクセスしましたが……確かに聖堂騎士団の中にルナ=フレアー、チェイス=フォスター、ヴァン=ヴォーダンの名は確認できたのですが……記録上では、四年前に戦死しているんです」

 

「四年前……現・教皇フューネラルが、教皇選挙(コンクラーペ)で奇跡の勝利を収めた頃か」

 

「それはどうでもいいが、戦死!?連中、ピンピンしてたぞ!?」

 

「いや、表向きは存在しない部隊だから、それくらいの偽装はするだろ」

 

 

グレンに対して、至極真っ当なツッコミを入れるウィリアム。この分だと、連中を捕まえても無駄骨に終わる可能性が高そうだ。

 

 

「それに、もう一つ気になる点が。チェイス=フォスターは、確かに聖堂騎士団でもその名を馳せた凄腕中の凄腕―――エース格だったようで、ヴァン=ヴォーダンは十一歳という若さで騎士団に入団し、当時から頭角を現していた期待の聖堂騎士だったようです」

 

「天才かよ……」

 

「だろうな。めっちゃ強者の風格だったし」

 

「ですが……ルナ=フレアーは、情報によれば、聖堂騎士としては三流で……言葉を濁さずに言えば、落ちこぼれの騎士だったそうです」

 

「……おい、どう考えてもデータが狂ってるぞ。情報局の連中も当てにならんわ」

 

「……四年前に急激に強くなったとか?」

 

「いや、流石に無理がありすぎるだろ」

 

 

そもそも、第十三聖伐実行隊(ラスト・クルセイダース)が、帝国代表選手団の出場辞退を要求してきた理由は何なのか。

アリシア女王陛下は、王国側の和平反対派が暴走し、首脳会談の帝国側の心証を下げるためと、素直に読んでみたが、理由としては少し弱いとのこと。

 

そもそも、あの異端絶殺機関が、警告だけで済ませたのも妙である。出場されると困ると言っていたが、都合の悪い人物がいたからなのか?

その可能性が一番高いのはルミアだが、連中はルミアにあまり感心を持っていなかったので違うだろう。

 

誰もが次々と考察を続けるも、どれも憶測の域を出ず、決定打は出てこなかった。

バーナード?床で陸に打ち上げられた魚のように痙攣したままだ。

 

それでも、やることは変わらないので、アリシア女王陛下は深々とグレンに頭を下げて彼らを守ってくれるようにお願いした。

そんなアリシア女王陛下に、グレンは慌てて首を振って、アリシア女王陛下の要請を引き受けるのだった。

 

 

「ウィリアム。貴方もグレンの力になってあげてください……お願いします」

 

「わかりました。女王陛下」

 

 

ウィリアムも、慇懃に礼をしてアリシア女王陛下の要請を引き受けるのであった。

その後、ルミアとアリシア女王陛下の親子の会話では……

 

 

「……誘惑して押し倒すくらいでちょうど良いと思いますよ?先に事実を作れば、貴女の勝ちです」

 

「お、おおお、お母さん!?」

 

「それに、ちょうど参考にできる出来事もあったのでしょう?それを元に彼に迫れば……」

 

「む、むむむ、無理だよ!?それは心の準備が―――ッ!!!」

 

 

色々と、とんでもない発言で、ルミアは顔を真っ赤にして動揺しまくるのであった。

 

 

 




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百七十一話

てな訳でどうぞ


女王陛下との極秘会談も終わり、グレンとルミア、ウィリアムは、アルベルトの先導で、領事館の外へと向かって館内を歩いていた。

 

 

「そういえば、リィエルとエルザは元気か?」

 

 

ウィリアムは、今は軍にいる彼女達のことをアルベルトに尋ねた。

 

 

「ああ、リィエルも息災だ。抜擢されたヴィーリフも、そろそろ軍の訓練課程が終了する頃合いだ。おそらくだが、護衛の件はリィエルとヴィーリフに任命されるだろう」

 

「確かに。リィエルはルミアの護衛もあるし、自然に代表団を護衛するならそれが妥当だろうな……」

 

 

その分、一応、監視されるウィリアムの心労は大幅に上がってしまうだろうが。具体的には修羅場の中心に立たされるという意味で。

もっとも、監視任務の方は事実上、形だけであり、勧誘の方に移行しかけているが。

 

 

「そうか……俺としてはお前もこっちに回ってくれたらなぁ……そうなれば、あんなイカれた狂信者のクソ共に、目に物見せてやれるんだが……」

 

「グレン。すまないが……」

 

「わぁーってるよ。あの嫁き遅れヒス女も、最近はちったぁ信用できるみてーだし、こっちはこっちでなんとかするさ」

 

 

やれやれ、といった感じで肩を竦めるグレン。この二人は、本当にいつも通りである。

 

 

「しっかし、お前らも本当にご苦労様だよな。女王陛下の護衛は……まぁ、妥当なんだろうが、最近、お前らばっかりコキ使われてねぇか?他の特務分室の連中はどうしたよ?」

 

「…………」

 

 

アルベルトは少し押し黙り、声を潜めて言った。

 

 

「最近、帝国上層部では、陛下の敵が多い」

 

「……敵?」

 

「……どういうことだよ?」

 

 

不穏なアルベルトの言葉に、グレンとウィリアムが揃って眉を顰める。

 

 

「そうだ。グレン、以前も言ったが、俺達は一枚岩ではないのだ。誰が味方で、誰が敵なのかわからぬ状況……陛下が完全に信頼できる人材は、限られている」

 

「馬鹿な。あの陛下に敵だと?今、帝国上層部で一体、何が起きて―――ッ!?」

 

 

グレンが少し声を荒げてアルベルトに詰め寄ろうとしたところで、通路の向こう側から、一人の赤毛の男が悠然と歩いて来ていた。

 

 

(確かあのおっさんは……)

 

 

新聞に取り上げられていた、女王府国軍大臣兼、国軍省統合参謀本部長、アゼル=ル=イグナイト卿。

帝国軍のトップにて……イヴの実の父親だった筈だ。

ウィリアムはグレン達と共に壁際に寄り、儀礼的な一礼をして、すれ違うイグナイト卿をやり過ごす。

 

 

(……そういえば、例の蒼天十字団(ヘヴンス・クロイツ)を運営していたバートレイという人物を殺ったのも、このおっさんだったな……)

 

 

イグナイト卿を無難にやり過ごした後、ウィリアムはぼんやりとそんな事を考える。

生かして捕らえることもなく、イグナイト卿に抹殺されたバートレイ。

運営者がいなくなったにも関わらず、危ない橋を渡ろうとしていた蒼天十字団(ヘヴンス・クロイツ)

 

リィエルの『パラ・オリジンエーテル』のデータ解析に対する疑問。

まるで口封じのように獄中で殺されたサイラス達と、行方不明のイリア。

そして……あの一件で一番得をしたのは誰なのか。

 

 

(……まさか、な……)

 

 

もしそうなら、質の悪いマッチポンプである。

そして、これが事実なら、イリアはイグナイト卿の駒である可能性が高い。天の智恵研究会の手先とするには、あまりにも回りくど過ぎる。

 

ウィリアムは考え過ぎだとは思いつつも、一応は警戒しておくことを心に決め、アルベルトの後に従って歩き続ける。

そして、領事館の外にて、アルベルトと別れる運びとなった。

 

 

「俺達も可能な限り即応出来るよう、色々と準備はしておく。ここは帝国領内ではない以上、何が起きても不思議ではない。……お前達もくれぐれも気を抜くな」

 

「……肝に銘じておくぜ」

 

「了解」

 

「ありがとうございました、アルベルトさん」

 

 

アルベルトの忠告を受けながら、グレンとウィリアム、ルミアは踵を返し、その場を立ち去ろうとする。

 

 

「……グレン」

 

 

だが、意外にもアルベルトが、グレンを引き留めてた。

 

 

「なんだ?」

 

「…………。……女王陛下について……お前に少し話しておきたい事がある」

 

「女王陛下ぁ……?なんだよ、いきなり?」

 

 

アルベルトにしては珍しく、言葉を選ぶように瞬巡して言った言葉に、グレンは眉を顰めるも、アルベルトはそのまま、歯切れの悪い物言いで言葉を続けていく。

 

 

「帝国王家の……ひいてはアルザーノ帝国の根幹に関わることだ。正直、眉唾ものの話だが……お前の見解も聞いておきたい。今は論じている暇は互いに無い……ゆえに、今回の件が終わったら、改めてお前に話す」

 

「ま、まぁ……別にいいけどよ……」

 

 

グレンが訝しみながらも了承したことで、アルベルトはその場を去って行くのであった。

そして、アルベルトと別れたウィリアム達は他愛ない話に興じながらホテルへと戻っていると……

 

 

「あれ?」

 

「ん?どうした、ルミア?急に立ち止まって?」

 

「え、ええと……あそこ……」

 

「あそこ……って、マリア!?」

 

 

その道中で、周囲をキョロキョロしながら、行き交うふ人達を縫うように、マリアが一人、通りを歩いているのを見つけた。

 

 

「あのバカ、一人で何をやって……ッ!?なるべく皆と一緒にいろって、言っただろうが……ッ!」

 

「先生、ウィリアム君、追いましょう!」

 

 

そんなわけで、何故か単独行動をしていたマリアの後を追いかけ始める。

幸い、ウィリアムが視覚を同調させた人工精霊(タルパ)で上空からマリアを追跡したので、マリアを見失うこともなく、加えて、必死に追い縋ったこともあり、マリアが聖ポーリィス聖堂の中へ入っていくのを目撃していた。

 

 

「……妙だな。道中で他にも聖堂があったはずなのに」

 

 

疑問に首を傾げるグレンの言う通り、ここへ向かう道中でも、大小様々な聖堂・寺院があった。

にも関わらず、マリアは迷うことなくこの聖堂へと足を運んだ。

そんな疑問を感じつつも、マリアを確保しようと、ウィリアム達は聖堂の中へと入る。

 

 

「―――天にまします我らの神よ、願わくは―――」

 

 

聖堂の中で、件のマリアは、普段のウザさが嘘のように一心不乱に祈りを捧げていた。

そして―――

 

 

「……真にかくあれかし(ファー・ラン)

 

 

マリアの祈りは終わり、胸元で二度十字を切った。

二度の礼拝、祈りの後に二度切った十字、エリサレス教カノン派―――“旧教”の聖堂。

ここまで揃えば、確定だろう。

マリアは、旧教信者の人間だ。

 

 

「は、はぅうううううううううううーーッ!?」

 

 

そんな事をウィリアムが考えていると、マリアの素っ頓狂な声が聖堂内に響き渡る。どうやら、自分達に気付いたようである。

 

 

「な、な、な、なんで!?どうしてここに!?」

 

「どうしてじゃない。一人でほっつき歩くなアホ。いくら評判良くないカノン派だからって、単独行動を起こすな」

 

「え、ぇええええええ、えーっと……な、な、な、何のことですか?私、あの芋臭いガチ信者じゃないデスヨー?」

 

 

呆れながらウィリアムが答えるも、マリアはわざとらしくすっとぼけようとする。

だが、グレンが止めを差した。

 

 

「誤魔化さなくていいぞ、マリア。全部最後まで見てたし、帝国でも、少数とはいえ旧教信者はいるんだからよ」

 

「う、ぅううぅ……ぅうううううう…………だって、あんまり可愛くないじゃないですか……せっかく、垢抜けた都会派の女の子を目指していたのに……」

 

「安心しろ。お前は宗教関係なく、最初から可愛くない、ウザいだけの女の子だ」

 

「酷いですウィリアム先輩!!やっぱり、ウィリアム先輩は悪魔ですぅ!!流石、グレン先生と同じ女の子を泣かせる女の敵―――」

 

 

ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリッ!!

 

 

「ひぎゃぁああああああああああああッ!?痛い痛い!!アイアンクローは止めてくださぁ~~~いッ!!!」

 

「誰が女の敵だ、ウザい後輩」

 

 

本当にこの後輩はウザいと、義手でアイアンクローを続けながら、ウィリアムはじっとりとした目つきで睨み続けるのであった。

 

―――その後。

 

マリアの身の上話でウィリアム達が気持ちを新たにした後、ホテルに帰ったマリアはシスティーナとイヴに大説教をもらい、試合前とは思えない地獄の特訓を課せられることになるのだった。

 

 

 




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百七十二話

てな訳でどうぞ


次の日。

 

 

「……くぁあああ~~……」

 

 

まだ日も昇りきらぬ早朝。グッスリと寝てスッキリした気分のウィリアムは体を起こして背伸びする。

そして、隣にはグッスリと眠っているエルと―――

 

 

「……うへへへへへ~~……」

 

「…………」

 

 

……割り当てられた部屋で寝ている筈のオーヴァイがいた。

ウィリアムは清々しい気分から一転、能面のような表情で眠っているオーヴァイを見下ろし……

 

 

「むひゃひゃ……いひゃいいひゃいれすぅ~~~~ッ!!」

 

 

その頬っぺをおもいっきり引っ張って、叩き起こすのであった。

 

 

「オーヴァイ。色々と聞きたいことがあるが、先ず一つ。どうやって部屋に入った?」

 

「も、もちりょんひっきんぐで……いひゃいいひゃい!ウィリアミュせんぴゃい、ちかりゃをつりょくしないひぇ~~ッ!」

 

『……すぅ……』

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「今回のルールは、端的に言えばメイン・ウィザードを戦闘不能にした方が勝ちとなる。フィールド内には、召喚術で支配召喚された多くの魔獣が放し飼いにされている。召喚された魔獣達は、人を見たら殺さない程度に襲うように命令されている」

 

「まぁ、簡単にまとめれば、魔獣を撃退、もしくはやり過ごしながら、いかに相手のメイン・ウィザードを撃破するか……いかに、自分達のメイン・ウィザードを守るか……これが勝負の鍵になる。以上が、俺達の初戦で行われる、試合内容とルールだ」

 

 

セリカ=エリエーテ大競技場の選手待機室にて、グレンとウィリアムは今朝になって通達された、初戦の試合内容とルールを説明していた。

 

 

「後、ハラサは《星天術》と呼ばれる魔術を使う。《星天術》は“誓約”……まぁ、分かりやすく言えば“不利なルール”を自分に課して、その“不利なルール分”の力を発揮する魔術だ。自分に課したルールが厳しければ厳しい程、《星天術》は強い力を発揮するんだ」

 

 

加えて、ウィリアムは亡き師匠、ユリウスから教えてもらっていたハラサの魔術についても説明していた。

ユリウスは大陸のあちこちを旅していたので、様々な国の知識を持っていた。その知識を、知っておいては損はないとウィリアムに教えており、今回、それが見事に役立っていた。

 

 

「しっかし、通達された時から思っていたけど、なんつうルールだ……下手すりゃ死人が出るぞ……このルールを考えたやつは、ドSのアホだろ」

 

「グレン。魔術祭典で死傷者が出るなんて、別に、昔からままあったことでしょう?」

 

「まぁ、戦いという性質の勝負上、死傷の可能性は常について回るしなぁ。運営側も、その辺りのフォロー態勢は可能な限り敷いているようだし」

 

「そういうこと。即死でもない限り、なんとかなるから、面倒臭い過保護はやめてよね?グレン」

 

「わぁーってるよ。ここにいる連中は覚悟してこの場に立ってんだからな。覚悟決めて戦いに挑むやつに、俺がどうこう言う資格はねぇよ」

 

 

グレンはそう言って、溜め息交じりにシスティーナ達に振り返る。

 

 

「だから、俺からお前らに言うことは一つ。気をつけろよ?特に白猫、お前はな」

 

「……あ、はい。大丈夫です」

 

「……やっぱり、お前、緊張で頭が働いてねぇんじゃねーのか?普段なら、噛みついてくるくせに……」

 

 

グレンが言葉少ないシスティーナに訝しげな視線を向けた―――次の瞬間。

 

ばぁんっ!

 

 

「ようっ!先生ぇ~~ッ!!」

 

「無事に間に合って良かったですわ!!」

 

 

カッシュとウェンディを筆頭に、テレサ、セシル、リン、チャールズが勢いよく入室してきた。

 

 

「はぁあああああーーッ!?」

 

「……一応聞くが、どうしてお前達がここにいるんだ?」

 

 

カッシュ達の唐突な登場に、グレンは驚きまくり、ウィリアムは呆れたような顔で理由を問い質した。

 

 

「決まってるだろ!?休学届け出して、応援に来たんだよ!」

 

「移動は、私の実家の伝手を利用して……ね」

 

「で、可愛いマネージャーさん達に頼んで、通してもろうたんや!!」

 

「このわたくしを差し置いて選ばれたんですから、きっちり優勝していただかないと、納得できませんわ!!」

 

「やっぱり、皆が活躍するところを、僕もこの目で見たくてさ……」

 

「うん……が、頑張ってね……」

 

 

カッシュ達が、口々に激励の言葉を送る。

 

 

「……ふん、相変わらず暇な連中だ」

 

 

ギイブルは口こそ相変わらずだが、満更ではなさそうである。

男のツンデレなぞ、需要は無いが。

 

 

「で?どうよ?レヴィンさんよ?調子は?自信の程は?」

 

「ふっ……まぁまぁ、でしょうかね?」

 

「コレット、フランシーヌ、貴女達は大丈夫ですの?」

 

「ぜ、ぜ、全然、おっけーだぜ!?な!?」

 

「も、もちろんですわ!?わたくし達にかかれば、こんな試合―――」

 

「マリアさんも、ジャイルさんも、応援しますから頑張ってくださいね?」

 

「あ、ありがとうございますぅ~~ッ!!感謝感激雨嵐!!」

 

「……ふん」

 

 

思わぬ応援団の駆けつけにより、待機室はにわかに騒がしくなり、システィーナ達の緊張が良い感じにほぐれていく。

 

 

「……うぅ~~……」

 

『よちよち』

 

 

ちなみに、涙目のオーヴァイは、今朝の無断侵入の件でイヴにこってり絞られた後、頭にタンコブ(作り物)を乗せた状態で部屋の隅で正座させられ、エルに頭を撫でられて慰められていた。

……オーヴァイが反省しているかどうかは微妙であるが。

 

 

「……なぁ、なんであの子は隅で正座させられているんだ?」

 

「……節度のない行動を取ったからです」

 

「……ウィリ野獣の関与は?」

 

「あります」

 

「死ねぇええええええええええーーッ!!ウィリ野獣!!」

 

 

レヴィンから話を聞いたカッシュは、鼠の幻影を背に、血涙を流して、リィエルに匹敵する瞬発力でウィリアムに襲いかかっていく。

―――十秒後。

 

 

「……おぶふぅ……」

 

「いい加減、懲りろ」

 

 

非殺傷弾と義手のアッパーのコンボで、仰向けに倒れる鼠の幻影を横に、ビクンッ!ビクンッ!と床に倒れて痙攣する白目を剥くカッシュに、ウィリアムは呆れたように呟くのだった。

 

 

「うふふ。本当に彼は人気ですね」

 

「アハハ。ハイ、ソウデスネ」

 

 

ちなみにマリアは、例の如くはしゃいでウィリアムに制裁を貰った後である。

そんな感じに、和気藹々としていると。

 

 

「そろそろお時間です。本日の試合に挑むアルザーノ帝国代表選手団の皆様、試合会場への移動をお願いします」

 

 

係の者が待機室にやって来て、移動を促してくる。

いよいよ、世界を舞台にした戦い……その第一戦が始まろうとしていた。

 

 

「システィーナ……頑張れよ」

 

「はいっ!行ってきます、お師匠様!なぁんてね♪」

 

 

グレンのエールに、システィーナは不敵に笑っておどけたように敬礼し、部屋を後にするのであった。

システィーナ達を見送った後、ウィリアム達は選手関係者の観客席へと向かう。

観客席から見えるフィールドは、魔術で空間を歪めているので、その光景はまるでミニチュアだ。

 

それ故に、会場の空にはまるで窓のような映像が、光の魔術で無数に投射されている。

それらは、選手視点の映像だったり、フィールド視点の映像だったりと、あらゆる種類の映像があって、試合や全体の流れを誰もが把握できるようになっている。

加えて、フィールドには断絶結界が敷かれており、観客席からの干渉は不可能だし、しようとすれば筒抜けである。

 

 

「……超望遠で撮影なら、なんとかいけるで。これでベストショットを―――」

 

「《死になさい》」

 

「あちゃああああああああああああ―――ッ!?」

 

 

……後ろで露骨に写真を撮ろうとしていたバカは、イヴに燃やされていたが。

 

 

「一先ずは大丈夫そうですね。一昨日の人達の妨害も、今のところはなさそうです」

 

「ああ。複雑だが、試合中はあの連中に対しては安全だな。干渉すれば、一発でバレるからな」

 

 

エルに聞こえないよう、小さな声で言い合うオーヴァイとウィリアム。その気分は、とても複雑である。

 

 

「あ、皆さん、索敵と掃討の二手に分かれましたね」

 

「魔獣は、自分の領域(テリトリー)を守るからな。縄張りと安全地帯の把握は、早々に知っておくべきだからな。これは好判断だな」

 

 

頭上の映像に映し出される光景を見ながら、システィーナの判断を賞賛する。

 

 

「対して、あちらは中途半端ですね」

 

 

オーヴァイがそう言いながら、ハラサのチームが映し出されている映像に視線を向ける。

ハラサのチームは、攻勢的な動きではなく、かと言って、メイン・ウィザードを大事に守る穴熊作戦でもない。

オーヴァイの言う通り、実に中途半端な立ち回りだ。

 

 

「……ん?」

 

 

なんともおかしい、ハラサのチームの立ち回りに疑問を感じながら頭上の映像を凝視していたウィリアムは、一枚の映像を見つけ、それの意味を理解して、顔を手で覆って天を仰いだ。

 

 

「……バカだろ、アイツ。いや、ルールを鑑みれば、アリと言えばアリなんだが……」

 

「へ?……ああ、成る程。大将の特攻ですね?」

 

 

呆れたようなウィリアムの呟きに、オーヴァイは最初こそ首を傾げたが、すぐに理解して曖昧に笑いながら問いかけた。

 

実際、システィーナのいる掃討班に、マルコフと一触即発寸前だったハラサの少年―――メイン・ウィザードのアディルが単騎でシスティーナ達の前に立ちはだかったのだから。

加えて、左手に持っていた四つの宝玉で断絶結界を張って、見事にシスティーナとのタイマンに持っていったのだ。

 

 

「正解。加えて、あの結界は直接破壊することはできないだろうな」

 

「例の“誓約”……というやつですね」

 

 

実際、コレットとフランシーヌが結界を破壊しようと魔闘術(ブラック・アーツ)やマルアハでぶん殴ってもびくともせず、他のハラサの選手が掃討班に襲いかかっている。

 

 

「あのアディルとかいうやつ……本当にアホだろ」

 

「貴方が言えるのかしら?そのアホなことを、毎回やっていが貴方が」

 

 

頭を押さえるグレンの呟きに、イヴがばっさりと切り捨てる。

 

 

「システィ!!そこ!後ろ!きゃあああああ!?あっ!そうだよ、やったぁあああああああああーーッ!?」

 

『みんなぁあああ、ファイトなのーーッ!!』

 

 

エレンとエルは、きゃーきゃーはしゃいでいるが。

しかし、状況はあまり楽観はできない。

事前に聞いていたとはいえ、アディルの頭上に描く星図に、奇妙な韻を踏む呪文―――初めて見る《星天術》にシスティーナは戸惑っている。

 

いつ、勝負がついてもおかしくないが、システィーナは不敵な笑みを浮かべながらアディルに向かって魔術を放っていく。

どちらに勝負が傾くか、それは予測がつかないものであった―――

 

 

「……そろそろかな」

 

 

大競技場の某所に佇む、一人の男以外は―――

 

 

 




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百七十三話

てな訳でどうぞ


―――戦いは白熱していた。

システィーナが暴風の防壁ごしに雷閃を連続に放ち、アディルは魔術によって強化された豹のような動きで岩山を蹴り上がって避ける。

 

アディルは距離を取りながら、口を動かし、頭上の星図を弄っていく。おそらく、《星天術》を発動しようとしているのだろう。

事実、システィーナの周りに、激しい炎の嵐が取り囲むように巻き起こったのだから。

 

しかし、それらの炎は、システィーナが黒魔改【ストーム・ウォール】であっさりと周囲へと吹き散らして四散させる。

システィーナはそのまま疾風脚(シュトロム)でアディルを追いかけるも、アディルの柔軟な体術と、それを補佐する緻密な身体能力強化術で簡単に振り切ってしまう。

 

追いつけないと判断したシスティーナは、黒魔【ブラスト・ブロウ】を連続起動(ラピッド・ファイヤ)し、風の破城鎚を三撃放つ。

それをアディルは、独特の魔術でかわし、少し離れた場所に降り立つ。

まさに、互いに一歩も譲らない戦いだ。

 

 

「……凄いですね。システィーナ先輩」

 

「そうだな―――」

 

 

オーヴァイの感嘆の呟きにウィリアムが同意しかけた、その時。

 

 

「……ん?あの銀の飛竜(シルバー・ワイバーン)、様子がおかしくないか?」

 

 

上空に映し出されている、無数のフィールド視点の映像の一つにグレンが訝しげな視線を向けながら呟く。

銀の飛竜(シルバー・ワイバーン)は、その巨体な見た目とは裏腹に、実は草食で、自身の縄張りに侵入した者にしか、その牙を剥かない魔獣だ。

 

その自身の縄張りでゆっくりとしていた銀の飛竜(シルバー・ワイバーン)が何の前触れもなく起き上がり、その巨体からは信じられない敏捷さで、空へと飛び上がった。

 

 

「「……は?」」

 

 

グレンと、同じくその映像に気づいたウィリアムは銀の飛竜(シルバー・ワイバーン)のあり得ない動きに目が点になる。

その銀の飛竜(シルバー・ワイバーン)の向かう先は―――システィーナとアディルの戦いの要の結界を維持している守手の一人だ。

 

銀の飛竜(シルバー・ワイバーン)は口を大きく開け、咆哮―――竜の咆哮(ドラゴンズ・シャウト)で守手の一人に容赦なく放って打ち倒す。

当然、システィーナとアディルを閉じ込めていた結界は消失。銀の飛竜(シルバー・ワイバーン)は気絶した守手に一瞥もくれず、そのままシスティーナとアディルの下へ飛び―――システィーナへと襲いかかった。

 

 

「なっ!?」

 

「ええッ!?」

 

「システィ!!」

 

『システィーナおねーちゃん!!』

 

 

カッシュ達が驚愕を露に叫ぶ中、システィーナは黒魔【ラピッド・ストリーム】を連続起動(ラピッド・ファイヤ)―――疾風脚(シュトロム)銀の飛竜(シルバー・ワイバーン)の丸太のような双牙の一撃をかわすも、銀の飛竜(シルバー・ワイバーン)は完全にシスティーナに狙いを定めており、執拗に追いかけていく。

 

 

「イカサマだ!?今すぐ試合を止めろッ!!」

 

 

当然、グレンは声を荒げて立ち上がり、中止を叫ぶ。

だが、それをイヴが冷水を浴びせるように言った。

 

 

「……落ち着きなさい。これが敵チームの魔術戦略という可能性があるわ。精神支配系か召喚系の魔術で……」

 

「ンなわけねぇだろ!?ハラサの連中だって、どう見ても予想外ですってツラじゃねぇか!?」

 

「だから落ち着きなさいって。それもわかっているから」

 

 

システィーナの危機にひたすら動揺するグレンに、どこまでも冷静に言葉を告げるイヴ。

そこで、ウィリアムはイヴが何を言いたいのか理解ができた。

 

 

「……つまり、運営側はハラサ側の作戦だとしか判断できないってことか」

 

「!?」

 

「ご明察。フィールドは外部からの干渉を完全に遮断する強固な断絶結界で仕切られている。特に、魔術に関しては厳しい上に、昨日の試合のサクヤ=コノハは、強固なプロテクトで守られていたゴーレムを片端から支配していた。だから、運営側は試合を止めるわけにはいかないのよ」

 

「……あの規格外は例外だろうが……ッ!?」

 

 

グレンは悪態をつくも、イヴの言い分を理解してか、それ以上の反論が出来ない。

あれが、“誓約”による結果という可能性も十分にあるからだ。

 

 

「だけど……どうやって干渉したんだ?」

 

「そうね。第十三聖伐実行隊(ラスト・クルセイダース)……どうやって仕掛けたのかしら……?」

 

 

その額に冷や汗を滲ませながら、姿形を見せぬ、得体の知れない敵の仕掛けに思考を巡らせるグレンとイヴにウィリアム。

その間も、システィーナは銀の飛竜(シルバー・ワイバーン)と壮絶な鬼ごっこを続けている。

 

ハラサ側はこれを好機と見て、メイン・ウィザードのアディルを前面に押し出し、攻勢に出てきている。

いくら魔力容量(キャパシティ)が怪物じみているシスティーナとはいえ、このまま銀の飛竜(シルバー・ワイバーン)に追いかけ続けられれば、遠からず魔力が枯渇してしまう。

 

 

「どうするの?グレン。総監督には、試合放棄をする権利がある。止めるなら……棄権するなら、今よ?」

 

「……クッ!」

 

 

一度は座っていたグレンは再び立ち上がる。手には、棄権を表明する照明信号弾を空に打ち上げる筒が握られている。

状況は既に詰んでしまっている。この状況を打開する手がない以上、試合を棄権して止めるしかない。

 

 

「―――な!?」

 

 

だが、グレンは空に投射される映像に写し出されたシスティーナを見た途端、絶句していた。

見れば、システィーナの眼は全く諦めていない。勝利への意志に溢れていた。

 

 

「……システィーナ……いいぜ……やってみやがれ!」

 

 

グレンが照明信号弾の筒を降ろしてそう告げた直後、システィーナは銀の飛竜(シルバー・ワイバーン)から逃げ続けながら、右手の指を印を結ぶように次々折り、複雑に変化させていく。

 

 

「……ッ!?」

 

「符丁ね。あれは、グレンとシスティーナの間で決めているオリジナルでしょ?」

 

「それで、先公。システィーナは何を伝えてきたんだ?」

 

「あ、ああ……“竜”、“動キ”……“不自然”……“規則アリ”?」

 

「つまり、竜の動きに規則的な不自然さがあるのか?システィーナから見て」

 

 

ウィリアムの呟きに、イヴが何かに気付いたように、口元を押さえる。

 

 

「そう言えば……銀の飛竜(シルバー・ワイバーン)は、時折、奇妙なタイミングで見失ったように動きが鈍ることが何度かあったわ」

 

「俺達はてっきり、白猫がたまたま死角に隠れたからと思っていたが……まさかッ!?」

 

 

そこで、グレンは手元の地図とシスティーナの映像を見比べていく。

システィーナも、検証してくれていると信じ切っているかのように、銀の飛竜(シルバー・ワイバーン)を引き連れて、フィールドのあちこちを駆け回っていく。

 

その結果、銀の飛竜(シルバー・ワイバーン)の不自然な動きは、起伏の多いフィールドに存在する遮蔽物の、すぐ北西付近にのみ存在していることが判明した。

 

 

「……カラクリが見えてきたぜ。銀の飛竜(シルバー・ワイバーン)は、観客席の南東から見た死角に入った時に、動きが不自然になる」

 

「南東の観客席側に、銀の飛竜(シルバー・ワイバーン)を操っているやつがいるってことか……」

 

「ああ……南東の観客席を捜すぞ!」

 

 

グレンが確信を持って立ち上がるも、イヴが冷水を浴びせるように言い放つ。

 

 

「無理よ!大まかな位置を割り出せても、それでも何千人もの観客がいるのよ!?いちいち一人一人確認するつもり!?」

 

「…………」

 

「しかも、敵は魔術で仕掛けているんじゃない!魔力の逆探知すら出来ない以上、敵を捜すのは不可能よ!」

 

「……いや、ルミアとイヴがいれば、絶対に見つけられる」

 

「……は?」

 

「え?」

 

「先生?」

 

 

不敵に笑うグレンの態度に、イヴとウィリアム、ルミアの三人は揃って間抜けな声を洩らす。

そんな彼らに構わず、グレンはニヤニヤ笑いながら確信を持って告げる。

 

 

「“異様に体温が低いやつ”が、銀の飛竜(シルバー・ワイバーン)を操っている敵さんだ」

 

「は?」

 

 

グレンの確信持って告げた言葉に、イヴが眉を顰める。

ルミアも目をぱちくりさせて困惑している。

だが、ウィリアムはグレンが何を言いたいのかを、ここで理解した。

 

 

「……“吸血鬼”か!?」

 

「「!?」」

 

 

ウィリアムの言葉に、イヴとルミアは驚愕に目を見開く。

吸血鬼には、不死性、再生能力、吸血行為による眷属化、影の操作、毒、変身能力、絶大な闇の力、元素支配、身体能力―――そして、魅了の魔眼がある。

 

魔術ではなく能力である上に、光自体は通っている以上、断絶結界に引っかからずに干渉ができる。

そんな彼らの反応に、グレンはますます得意げな笑みを浮かべて告げていく。

 

 

「ああ。おそらく、な。あの女の言葉……“血を啜るのが大好きな変態”なら、まず確定だ」

 

「あの脅し文句か……」

 

 

まさか、つい零した言葉がヒントになったとは、向こうは夢にも思っていないだろう。

 

 

「……ほんっと、普段は鈍いのに、肝心なところで冴えているわね……」

 

 

イヴもウィリアムと同じことを考えてか、心底呆れたように言葉を零す。

 

 

「だけど、それだけ条件が絞れていれば、見つけるのは容易いわ」

 

 

イヴはそう言って、グレン同様に立ち上がる。

 

 

「場所を変えるわよ。ここで探知するより、近くで探知する方が効率的だから」

 

「おう。ルミアとウィリアムも一緒に来てくれ」

 

「はい」

 

「あいよ」

 

 

グレンの呼び掛けに、ルミアとウィリアムも頷いて立ち上がる。

そして、場所を移動し、イヴの熱源探知で、通路から立ち見でフィールドそのものを直接見下ろしているように見える、かっぷくの良い老人が引っ掛かった。

 

そして、グレンはルミアの王者の法(アルス・マグナ)で隠蔽魔術を強化して、ルミアと共にその老人の下へと向かっていく。

そして、ウィリアムは―――

 

 

「―――位置についた。何かあれば直ぐに狙撃する」

 

 

北西側の観客席のエリアで、隠蔽魔術を使った状態で《魔銃ケヴァルト》を構えて、その老人に狙いを定めていた。

もちろん、使用する銃弾は疑似銀浄弾(パラ・シルバーブレット)である。

 

 

『ああ。戦闘になったらきっちり援護してくれよ?』

 

「当たり前だ」

 

 

通信魔導器から聞こえてくるグレンの言葉にそう返し、魔術で視力を強化した目で件の老人を見つめる。

やがて、後ろからグレンとルミアがその老人の背後に現れ、老人―――チェイスは変身を解いて本来の姿へと戻り、少しして身体を黒い霧状にしてその場から消え去っていった。

 

 

「……逃げたか」

 

 

相手が逃げたと確信し、ウィリアムは銃を降ろす。

そして、妨害がなくなったことでようやく自由となったシスティーナが仲間の下に駆けつけ、渾身の【ブレード・ダンサー】でアディルを下し、奇跡の逆転勝利を収めるのだった。

 

だが、連中の妨害は続くだろう。

今回は素直に退いたが、次も素直に退くとは限らない。

ルナにヴァン……吸血鬼であるチェイスに匹敵する化け物二人の力が未だ未知数なのだから。

 

 

(……“女の子の臭いに欲情し、涎を垂らして見境なく貪るケダモノ”……これが事実なら……)

 

 

もし、ヴァンの正体がウィリアムの予想通りだとしたら、相当面倒な相手になるだろう。

 

 

(だが、そんなのは関係ねぇ!あいつらの邪魔をするなら、容赦なくぶっ飛ばしてやる!!)

 

 

ウィリアムはパァン!と義手の拳を掌にぶつけ、決意を新たにするのであった。

 

 

 




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百七十四話

こっちは二年ぶりの投稿ですね。
てな訳でどうぞ。


ハラサ代表選手団との激闘を制した、その夜。

アルザーノ帝国代表選手団が宿泊しているホテルにて―――

 

「えー、まずはお前ら。初戦突破お疲れさん~」

「「「「乾杯~っ!」」」」

『なの~っ!』

 

そこは、ホテル内にある高級感溢れる談話室。

テーブルに、屋台で買ってきたジュースやら軽食やらを並べ、ウィリアム達はちょっとした祝賀会を開いていた。

 

「いや~、無事に一回戦突破おめでとうございます!」

『みんな凄かったのー!』

 

オーヴァイとエルが笑顔でシスティーナ達を褒め称える。

 

「そりゃそうだ!あたしがいるんだからな!」

「そうですわ!わたくしがいれば、一回戦の勝利も当然ですわ!」

「……試合開始直前まで、ガチガチに震えていたでしょうが」

 

褒め称えられて気が大きくなったコレットとフランシーヌに、ジニーのいつもの毒舌が炸裂する。

 

「まったく……気を抜きすぎだろ。まだ一回戦に勝利しただけというのに」

「息抜きは必要よ。貴方もよく頑張ったわ」

「…………まぁ、イヴ教官がそう言うなら」

 

ギイブルは不機嫌そうに言葉を洩らすも、イヴに(たしな)められて素直に引き下がる。

 

「システィ!一時はどうなることかと思ってたけど……やっぱり、レヴィンみたいな口だけ男とは大違いだね!」

「エレン……す、少しは従兄妹に対する配慮を……」

「システィに、一度でも勝ってから言ってね☆」

 

システィーナにべったりするエレンの言葉に、レヴィンは苦笑いの表情で苦言を呈するもあっさりと一蹴される。

 

「しっかし、あの奇跡の大逆転劇!やっぱ、システィーナはスゲェよ!」

「せやせや!素晴らしい写真もこの―――」

「没収ですわ!」

「あーッ!?」

 

カッシュの称賛に便乗するようにチャールズが魔導カメラを掲げた瞬間、ウェンディにすぐさま取り上げられる。

 

「ふふ、お疲れ様です、ジャイル、ハインケル」

「ふん」

「……どうも」

 

リゼが寡黙組のジャイルやハインケルに声をかけたりと、皆が思い思いに一時の休息を楽しんでいた。

 

「いやぁ、それにしても、本当にしんどかったですぅ!それにしても、あの飛竜さん……どう考えても動きがおかしかったですよね?システィーナ先輩ばっかり狙って……一体なんだったのでしょうか?」

「……さあな?」

 

マリアの疑問に対し、横にいたグレンは気まずそうに言葉を濁す。端で聞いていたウィリアムも視線を横へと逸らす。

あれが第十三聖伐実行隊(ラスト・クルセイダース)の妨害工作だと、皆に明かすわけにはいかないのだから当然だ。

さすがにその一人であるヴァンと対面したオーヴァイは察しているが、口止めしていたので黙ってくれている。

 

「あ、あの……先生、お客さんです」

 

そんな中、ルミアがある人物を連れて、グレンの前へとやってくる。

その人物は―――ファイス司教枢機卿であった。

 

 

 

――――――

 

 

 

グレンとファイスは談話室の外のベランダで、向かい合う。

イヴも硝子越しで二人の様子を窺う中、ウィリアムもこっそりと人工精霊(タルパ)を召喚し、聴覚を同調させて盗み聞きをしていた。

 

(何であのオッサンはこのタイミングで現れたんだ……?)

 

第十三聖伐実行隊(ラスト・クルセイダース)の妨害を受けて間もないにも関わらず、グレンに会いに来た理由が分からない。

 

「では、皆さんの勝利祈願の意も込めて、舞を披露しますね!!」

 

オーヴァイが鞘に納められた刀と扇子を手に舞を披露する中、ファイスが現れた理由がファイス自身からもたらされた。

 

『……やはり、警戒されいるようですね。無理もありません。我々の手の者が、貴方達に大変な迷惑をかけて申し訳ない』

 

人工精霊(タルパ)越しに伝わる、ファイスの申し訳なさそうな言葉。そこに打算と思惑は感じ取れなかった。

 

『……なるほど。少なくとも表向き、昼間のアレはアンタの本意じゃねえってことか』

『ええ。信じていただけないかもしれませんが……私は今回の首脳会談、両国の平和の為に是非とも成功させたい……本気でそう考えています』

 

ファイスはグレンに腹を割って話すと言い、第十三聖伐実行隊(ラスト・クルセイダース)は教皇庁教皇聖下の認可で司教枢機卿であるファイスが動かす独自の部隊であること。

 

その彼女たちが先日から連絡がつかなくなっており、今の第十三聖伐実行隊(ラスト・クルセイダース)の手綱を握っていそうな人物は、教皇庁強硬派の筆頭であるアーチボルトである可能性があることをグレンに明かしていく。

話の流れからして、強硬派は帝国と戦争がしたいようだ。

 

(向こうの切り札(ラスト・カード)をどういった手段で取り込んだのかも気になるが……今はアーチボルトの“狙い”の方が重要だよな)

 

今回の妨害は確かに帝国への警告にはなるが、第十三聖伐実行隊(ラスト・クルセイダース)を使うにしては弱い。むしろ、その圧倒的な力を利用して人質等といった強行策を取る方が普通だ。

にも関わらず、アーチボルトは回りくどい手を取った。つまり、狙いは別にある可能性が高い。少なくとも、直接的な首脳会談の破談が狙いとは考えにくい。

 

『アーチボルトの本当の目的……アンタなら知っているとまではいかずとも、何か心当たりはねーか?』

『……いえ。正直、彼の考えは、まったく想像もつきません』

 

グレンもその辺りをファイスに投げ掛けていたが、ファイスは心当たりはないと返していた。

声だけでは本当に知らないのか、知っている、もしくは心当たりがあるが隠しているのかのどちらなのか、判断がつかない。

 

―――がたんっ!

 

『誰だッ!?』

『ぴゃあああああああああーーッ!?』

 

人工精霊(タルパ)越しの物音とグレンの鋭い声。そして、情けない悲鳴を上げるマリアの声にウィリアムは思わず滑りそうになった。

良く見れば、談話室にはマリアの姿がない。というか、誰もマリアがいなくなっている事に気付いていない。オーヴァイの舞に目が向いているからであろう。

 

硝子越しに様子を窺っていたイヴも同じようで、軽く溜め息を吐いている。

こうなった以上、話し合いを続けるのは困難だろう。下手に追い返せば、いらぬ不安を与えかねないからだ。

ウィリアムはそう判断し、向こうの話は聞き流す程度に引き下げ、オーヴァイの舞へと目を向ける。

 

(確か……東方舞踊の剣舞、だったか?)

 

(よこしま)な気を祓い、己が精神と剣気を高める。うろ覚えだがそういった舞踊だった筈だ。

中々様になっており、『社交舞踏会』とも『銀竜祭』の時とも違う踊りに感心していると―――

 

キン―――

 

そんな耳鳴りが何の前触れもなく鳴ると同時に―――世界が変わった。

 

「……ッ!?」

 

ウィリアムは思わず耳を押さえるも、歌が聞こえてくる。

 

―――La…LaLaLa,Lala…Ah,LaLaLa,Laha…♪

 

意味がまったく取れない、得体の知れない言語の歌。

にも関わらず、歌の意味が理解できる。

 

―――ALa,…EleElelalala,Lala…AhAa,LaLa…♪

 

眠れ、眠れ、安らかに、安寧に。

眠れ、眠れ、安らかに、揺り籠の中で。

そんな子守唄のような歌が、魂に直接浸透するように響いていく。

 

―――LaLa,…AaLaLa,LaLuLu…Ah,LaLaLa,Aaha…LaLaLah…♪

 

暴力的な睡魔が、ウィリアムを襲う。

眠ってはならないと、その不自然過ぎる眠気に抗おうとするも、意識がどんどん暗転していく。

ウィリアムはその場で膝を付き、抗え切れずにそのまま意識を……

 

『ウィリアム!私と、セコい上に自堕落な引きこもり以外の神性に簡単に心を持っていかれるんじゃないわよ!』

 

―――手放そうとしたところで脳内で叩き起こすような叱責が飛び、ウィリアムの意識は覚醒する。

 

(今の声はナムルス!?)

 

あの遺跡限定の幽霊少女の叱責に、ウィリアムは頭を振りながら周囲を確認する。

 

「な……ッ!?」

 

ナムルスの姿は見えなかったが、ルミアとオーヴァイ、イヴ以外は不自然な体勢で眠ってしまっていた。

 

「システィ!?しっかりして!」

「皆さん!?どうして急に眠ってしまわれたんですか!?」

 

ルミアとオーヴァイは眠ってしまった彼らを揺すって呼び掛けるも、目覚める気配が微塵もない。

例の歌声は未だ脳内に響き続けているが、先程までの不自然な眠気はもうない。

 

「まさか、この歌声が原因なのか……?」

「その可能性は濃厚でしょうね。すぐにグレンの方へ向かうわよ。あの馬鹿の状態も確認しないと駄目だし」

 

イヴの言葉にウィリアム達は頷き、グレンがいる外のベランダへと向かうのであった。

 

 

 

――――――

 

 

 

眠り落ちていなかったグレンとファイス、マリアと合流し、ウィリアム達アルザーノ組はファイスから今起きている事態の説明を受けていた。

今、脳に直接流れ込むように聞こえてくる歌は、天使言語魔法(エンジェリック・オラクル)の【子守唄】―――ルナ=フレアーの術であること。

 

天使言語(エンジェリッシュ)は『原初の魂』―――原初の音(オリジン・メロディ)により近い音であり、それによる天使言語魔法(エンジェリック・オラクル)は恐ろしく高射程で強力無比。特定の相手に狙い打ちすることも高範囲を無差別に制圧することも可能であること。

そして、一度術に囚われると術者を叩かない限り絶対に逃れられず、囚われている時間が長いほど深い眠りとなる事を説明していく。

 

(……全員、人外に足を踏み込んでいるのかよ)

 

吸血鬼に続いて、人間には決して扱えない天使言語(エンジェリッシュ)。もはや、疑いようがない。

 

「さすがは音に高き魔導大国、アルザーノ帝国の方々ですね。まさか、彼女の【子守唄】に抵抗できる方が、こんなにいるとは……」

 

ファイスの言葉に、ウィリアムは内心で引き攣る。危うく【子守唄】にやられかけていたからだ。

 

(イヴの先公とグレンの先公は当然として……ルミアも精神防御は高いから妥当。オーヴァイは祓いの効果もある舞を踊っていたから抵抗できていたんだろう。ファイスのオッサンも抵抗できて不思議じゃないが……)

 

ウィリアムは視線をマリアに向ける。

 

(なぜ、このウザい後輩も抵抗に成功したんだ?)

 

精神力が強いジャイルだけでなく、成長が著しいシスティーナまでもが【子守唄】にやられたのだ。少なくともあの不意討ちに耐えきれるとは思えない。

正直気にはなるが、言及する暇はない。

 

向こうは狙いはメイン・ウィザード―――システィーナの不参加による帝国の不戦敗。アーチボルトの狙いがますます不明となるがこのままという訳にもいかない。

 

「なら、さっさと連中をブチのめすぞ。このくだらねえバカ騒ぎを終わりにしないといけないからな!」

「ふん、今回ばかりは素直に同意するわ。あの連中に目にもの見せてやろうじゃない?」

 

グレンは拳と掌を合わせて力強く告げ、イヴも髪をかき上げながら不敵な笑みで同意する。

 

「俺も行くぞ、グレンの先公。三人も相手にするのは無理がありすぎるからな」

「私もお手伝いいたします!」

「それなら私も!身体の調子も良いですし、皆さんの足は引っ張りませんよ!」

 

ウィリアムが拳銃片手に申し出ると、ルミアとオーヴァイも続くように名乗りを上げる。

ルミアの《王者の法(アルス・マグナ)》はあの三人と戦うには必須だし、オーヴァイも体質を除けば上位に入る実力者だ。

 

「ああ、頼むぜ」

「どちらも実力は申し分ないわ」

 

グレンとイヴが頷いたことで、マリアが腹を括った表情をする。

 

「あ、あの……っ!だ、だったら私も―――ッ!」

「駄目です、マリアさん。貴女はここに残りなさい」

 

ファイスはマリアの実力はグレン達の領域に達してはいないと彼女を窘め、ルナの【葬送歌】等といった直接的な攻撃から【子守唄】で眠っているシスティーナ達を守る為にこの場に残ることを告げる。

 

グレンは真意を探るように睨み付けていると、マリアは根拠はないけどファイスは信用できるとグレンに訴える。

結果……

 

「ファイスさん。俺はあんたを信用する」

「……信用していただき、ありがとうございます。グレン先生」

 

こうして。

ホテル内に結界を張った後、ウィリアム達は結界の維持や後のことをファイスとマリアに任せ、夜の街へと飛び出すのであった。

 

 

 




『すー……』
「エルちゃんもぐっすり眠ってるね……」
「非常事態ですけど、可愛い寝顔ですねー」
「ええ。幼き者の寝顔は、本来は素晴らしいものです」
「可愛い過ぎて、頬擦りしたくなっちゃいだだだだだだっ!?」
「白猫の親父さんばりの親バカだな……ウィリアム」
「馬鹿やってないで、早く結界を張りなさい」


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百七十五話

てな訳でどうぞ。


ウィリアム、グレン、ルミア、オーヴァイ、イヴの五人が閑散とした夜のミラーノを駆ける。

聞こえてくる【子守唄】を頼りに、彼女達がいる場所を目指して駆ける。

 

「うわー……街の人、全員眠ってますよ」

「一戦交えるのは想定済みなんだろうよ」

 

道ばたで不自然に倒れて眠っている人達を流し見るオーヴァイの呟きに、ウィリアムは溜め息混じりに返す。

そうして辿り着いた場所は―――セリカ=エリエーテ大競技場。

昼間、魔術祭典が行われていた場所だ。

 

「確かにここなら、互いに気兼ねなく、全力でやれるわね」

「お敵さんも本気ってことか」

 

イヴの言葉にグレンは肩を竦めて返し、大競技場の壁を蹴り上がって上っていく。

観客席のへりにウィリアム達は降り立ち、中央の競技フィールドを見下ろす。

そのフィールドの中央には、腕組みをして目を閉じているチェイスと、月明かりの空を見上げているヴァン。

そして―――【子守唄】を歌っているルナがいた。

 

まるで見えない観客席に届けるように歌っていたルナは、不意に歌うことそのものはやめる。

彼女達が自分達に気付いたと察したウィリアム達は頷き合い、観客席の最前列へと向かう階段を降りていく。

階段が尽きると、断絶結界が切られていた競技フィールドへと降り立ち、ゆっくりと歩いていく。

約十五メトラ地点でウィリアム達は足を止め、彼女達と対峙した。

 

「……来たわね。今さらだけどね……私達、貴方達を―――」

 

その瞬間、ルナが後ろに仰け反りながら後方へと吹き飛んだ。

 

「ルナ!?」

「姉さん!?」

 

予想外の展開に、チェイスとヴァンが揃ってルナが吹き飛んだ方向へと顔を向ける。

その間に下手人―――オーヴァイが残像さえ残さない速さでウィリアム達のもとへと戻る。

 

「ウィリアム先輩!グレン先生にイヴ先生!ルミア先輩も!さっそく元凶を倒しましたよ!!」

「「ええー……」」

 

既に抜いていた刀を片手に、笑顔で報告したオーヴァイの空気を読まない先手必勝にルミアは当然、グレンとウィリアム、イヴでさえもドン引きしていた。

 

「オーヴァイ……さすがに今のは……」

「え?この人たちを倒さないといけないんですよね?どうせ戦うんですから、先手必勝が一番では?マトモに戦えば苦戦は必須ですし」

「確かにそうだが……今のは……」

「間違ってはいないけど……貴女もリィエル並の突撃思考ね……」

 

イヴはこの瞬間、オーヴァイはリィエルと同類だと確信した。

いや。ある程度頭が回る分、リィエルより質が悪い。

リィエルは良くも悪くも単純なので止めれば一応は大人しくなるが、オーヴァイは逆に相手を丸め込んで突撃していく可能性がある。

実際、言い分だけ聞けば至極真っ当なのだから。

 

「後、残念だけど倒せていないわ。【子守唄】がまだリフレインしているからね」

「言われてみれば確かに……せっかく大金星を上げたと思ったのにぃッ!!」

 

奇襲が無駄になったとオーヴァイが嘆く中、吹き飛ばされたルナは立ち上がりながら額を押さえ、涙目で睨み付けていた。

 

「人が神妙に話している途中で攻撃するってどうなの!?しかも額を思い切り突いたわよね!?私じゃなかったら即死だったじゃない!!」

 

青筋を立てて怒りを露にするルナ。その様子からして、相当ご立腹のようである。

 

「もう頭きたッ!これを見て、心底後悔するといいわ!!」

 

ルナはそう言って、腰の聖剣を引き抜く。同時にルナの背中から極光が華咲き、三対六翼の白い翼が展開される。

その刹那、強大な存在感と圧倒的な法力が膨れ上がり、羽ばたく光の翼が巻き起こす撃風が吹き荒ぶ。

 

「……《戦天使》ッ!?伝説には知っていたけど―――でも、まさかッ!?」

 

明らかに異様で強大な姿に、イヴが震えを禁じ得ない様子で叫ぶ。

《戦天使》イシェル―――エリサレス聖書の旧約神譚録にて語られる、六魔王の《黒剣の魔王》や《葬姫》らと戦った最強の天使。その強大な概念存在の名だ。

 

「確か、二百年前の魔導大戦で活躍した六英雄の中にも居たな!?《戦天使》イシェル=クロイス―――神話の天使と同名だったヤツが!」

「つまり、一種の世襲制……当代の《戦天使》様ってことか!」

「何ですかそれー!?ちょっとズルじゃないですかー!」

「ズルって……オーヴァイさん、それは違うんじゃないかな……?」

 

オーヴァイのずれた文句にルミアは苦笑いする。しかし、状況が変わる筈もない。

 

「そうよ。私は《戦天使》で、チェイスは真祖の吸血鬼。そして―――」

 

ルナはそう言ってヴァンに視線を向ける。

ヴァンは無言で左目の眼帯を外すと―――青い虹彩に角ばった瞳孔をした瞳をウィリアム達に向ける。

同時に法力と魔力……圧倒的な二つの力を滾らせていく。

法力は全身からだが、魔力はその左目から溢れ出ている。

 

「その左目……魔法遺産(アーティファクト)ね?」

「正解ですよ。かつて、聖エリサレス教会で封印管理されていた禁遺物《ミゼアの邪眼》……それを左目に移植した事により、私は“狼男”となった」

 

ヴァンはイヴの質問にそう答え、背中に背負っていた双刃槍(ダブルランサー)を抜いて構える。

その魔法遺産(アーティファクト)の詳細は不明だが……強力無比であることには間違いない。

 

「天使に吸血鬼、挙げ句の果てに狼男……人外のバーゲンセールかよ!」

「これで分かったでしょ?私達全員、人間としての規格を大きく外れた怪物であることが」

 

ルナは勝敗は既に決まっていると言わんばかりに告げる。

 

「最後にもう一度だけ警告するわ。退きなさい!貴方達ただの人間に勝ち目なんて、万が一にもないわ!」

「は!うるせえな、バカ!」

 

ルナの圧力と共に放たれた最後通告を、グレンは受け流しながら堂々と告げた。

 

「お前達にも退けない、譲れない事情があるのと同様に……俺達にも退けない、譲れないもんがあるんだよ!それは荷物の重みや大事さじゃねえ!背負った責任からだ!!」

 

堂々とルナに向かって啖呵を切るグレンに、ウィリアムも拳銃を抜いて告げる。

 

「第一、人間辞めた程度で勝ち目がないなんてほざく時点でズレてんだよ!こちとら、そういった連中に勝ち星拾ってんだからな!」

 

そして、グレンがルミアをちらりと見て叫んだ。

 

「ルミア、頼むぜ!」

「わかりました!私の力、受け取ってください!」

 

ルミアが差し出した両手から眩い黄金色の光が溢れる。

ルミアの力―――《王者の法(アルス・マグナ)》の遠隔付与の光がグレンとウィリアム、イヴとオーヴァイに降り注ぎ、宿っていく。

 

「な―――」

 

膨れ上がったウィリアム達の存在感に、ルナ達は驚愕に震える。

 

「へ!借り物の力で粋がっている奴らが、人間舐めんじゃねーぞ!」

「現在進行形で、借り物の力で粋がっているのはどっちよ……」

 

偉そうに中指を立てるグレンに、イヴが呆れ気味にツッコミを入れる。

 

「俺達はいいの!だって、正義の陣営だから!」

「酷いダブスタだなぁ……」

「グレン先生……発言には一貫性を持ちましょうよ~……」

 

見事なダブルスタンダードなグレンの発言に、ウィリアムとオーヴァイは揃って呆れてしまう。ルミアでさえ苦笑する始末だ。

それでも、意識は彼女達から離していない。

グレンはルナ、ウィリアムはヴァン、イヴとオーヴァイは二振りの長剣を構えたチェイスへと。

 

「“汝、望まば、他者の望みを炉にくべよ”……魔術師らしく、俺達の邪魔する奴らはぶっ潰すぞ!」

「私には……負けられない理由があるのよ」

 

ルナはそう呟くと同時に背中の翼を羽ばたかせ、爆発的な推進力でグレンへと突撃する。対するグレンは拳を振りかざして迎え撃つ。

 

「ハァッ!!」

 

ヴァンは両手で握りしめた双刃槍(ダブルランサー)の片方の切っ先から漲らせた法力によって形成された光の刃―――法力剣(フォース・セイバー)をウィリアムに向かって薙ぎ払うように剛速で振り下ろす。

 

「《解の開放(オープン)》ッ!!」

 

ウィリアムは《詐欺師の楯》をすぐさま取り出して解凍、封印を解除してヴァンの法力剣(フォース・セイバー)を真正面から受け止める。

 

「ふ―――ッ!」

「し―――ッ!」

 

チェイスはまるで闇に消える影のような挙動で迫り、オーヴァイがその場から消えるような挙動で動き、互いの得物をぶつけて合う。

 

「《炎獅子よ》ッ!」

 

そのまま鍔競り合いに持っていかずにすぐにオーヴァイが退いた直後で、イヴが炎の魔術をチェイスに向かって放つ。

こうして、夜の最強決定戦と呼ぶに相応しい、激闘の火蓋が切って落とされた。

 

 

 

――――――

 

 

 

―――駆ける。

(はや)く、(はや)く、(はや)く、駆ける。

チェイスは残像を生むような速度で駆けるのに対し、オーヴァイは姿を消し去るような速度で駆けている。

 

「く―――ッ!」

 

オーヴァイの姿を全く捉えられないチェイスは、魔術師としての実力が高いイヴを先に潰そうとするが、オーヴァイが機先を制するように斬りかかってくる。

 

「し―――ッ!」

 

チェイスは右手に持つ長剣でオーヴァイの刀を受け止め、左手の長剣で斬り裂こうと振り下ろす。

しかし、そこにオーヴァイの姿は既になく、振り下ろされた長剣は虚しく宙を切る。

 

「《吠えよ炎獅子》ッ!!」

 

イヴの黒魔【ブレイズ・バースト】がチェイスを捉える。

灼熱の火柱が空を焦がさんばかりに上がるも、すぐに左右真っ二つに割れる。

 

「そこ!」

「甘い」

 

すぐさま詰めた距離で姿を現したオーヴァイが素早く刀を連続で振るい、チェイスは双剣で打ち払う。

ただ振るわれるだけならチェイスの吸血鬼としての身体能力の敵ではない。

だが、振るわれる度にオーヴァイの位置が大きく変わっているのだ。そのせいで捉えきることが出来ずにいる。

最早、瞬間移動の域である。

 

「はぁああああ―――ッ!!」

 

チェイスはならばと言わんばかりに、周囲を斬り裂くように横薙ぎに剣を振るう。当然、空振りに終わる。

 

「《真紅の炎帝よ・劫火の軍旗掲げ・朱に蹂躙せよ》―――ッ!」

 

そのタイミングでイヴが、黒魔【インフェルノ・フレア】を唱える。

B級軍用攻性魔術(アサルト・スペル)に相応しい、巨大な滝のように燃え盛る灼熱劫火が津波となってチェイスに襲いかかるも―――

 

「かぁ―――ッ!!」

 

チェイスは純粋な腕力による剣の一振りで破り、蹴散らしてしまう。

イヴの超高熱の火炎を斬ったせいで、剣は真っ赤に燃えて、どろどろに溶解しつつある。

チェイスはそれを捨て、何かを念じると、足下の影が立体的にチェイスの手元へと伸びていく。

 

「ッ!?」

 

その影が二振りの鋼の剣に変質すると同時に、チェイスの右脇腹に風穴が空く。

身体を捻っていたチェイスの後ろから少し離れた先には、刀を突き出した構えのオーヴァイが残心している。

 

「くッ!」

 

咄嗟に身体を捻って急所を避けていたチェイスは、双剣を握りしめてオーヴァイに斬りかかろうとするも、その隙を付くように三本の炎剣が背中に突き刺さる。

さすがにチェイスは堪らずにその場から飛び上がり、観客席へと降り立つ。

 

「帝国の魔術に東方剣士(サムライ)の剣技……本当に一筋縄ではいかないものだ」

 

チェイスは背中に刺さった十字架型の短剣を無造作に引き抜きながら、イヴと隣に立ったオーヴァイを見下ろしながらそう言葉を発する。

 

「お褒めに与りどうも」

 

イヴは不敵に言葉を返しながらも、内心では苦い顔をしていた。

 

(イグナイト秘伝の【十字聖火】がまるで効いていないだなんて……)

 

それもルミアの《王者の法(アルス・マグナ)》も乗せた、特別製だ。通常でも並の吸血鬼を十回滅ぼせてお釣りが来るにも関わらず、チェイスに効いている様子が感じられない。

だが、チェイスも内心で苦い顔をしていた。

 

(あの子の動きが全然捉えられないのは厄介だな。東方の【縮地】……それも二つある歩法が噛み合うとこれ程の機動力となるとは……)

 

【縮地】には魔術的な歩法と武術的な歩法の二種類が存在する。特に後者の方は難易度が高いと風の噂で聞いたことがある。

その両方の【縮地】を一寸のズレもなく使えれば―――空間跳躍と見間違う程の域に達することも。

 

(それに一瞬だけ見えた()()()……あれが見えた後の攻撃はマトモに受けるのは避けた方がいい)

 

実際、それが見えた後に受けた右脇腹の傷の治りが悪いのだ。どのような原理なのかは不明だが、万が一が起こらないとも限らない。

故にチェイスは全力で相手にすることを決め、足下から沼のような濃厚な影を広げていく。

そして、その影の沼から、あらゆる動物達を形取った影の魔獣を次々と生み出し、オーヴァイとイヴの周囲を囲っていく。

 

「……どうやら、あちらは全力でお相手するみたいですね」

「そのようね。随分と余裕がない吸血鬼様だこと」

 

オーヴァイは油断なく刀を構え、イヴも冷静に状況を見ながら次に繰り出す呪文を脳内検索していく。

 

「僭越ながら、吸血鬼の闘争というものを教授させてもらうよ」

 

チェイスはそう言って、双剣を閃かせて突撃していく。同時に影の魔獣達も二人に目掛けて、一斉に襲い掛かってくる。

 

「《真紅の炎帝よ・劫火の軍旗掲げ・朱に蹂躙せよ》ッ!」

 

イヴは魔術の爆炎を上げて、影の魔獣達を灼熱の炎へと呑み込んでいく。

その炎をチェイスは片方の長剣で斬り裂き、もう片方の長剣で神速の動きで斬り掛かるオーヴァイを迎え撃つのだった―――

 

 

 




(本当にルミア先輩の力は凄いですね。おかげで本気の【縮地】が使い放題ですよ)
(あの子、いくら何でも疾すぎるでしょ……おかげで戦闘が楽になってるけど)


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百七十六話

てな訳でどうぞ。


「ふ―――ッ!」

 

ウィリアムのお得意の雷加速弾(レールガン)

圧縮火薬(プレス・パウダー)日緋色金(オリハルコン)製の弾丸と相まって、その威力は鋼鉄の塊でさえ容易に砕く破壊力となった弾丸の三連射。

その音速を優に超える弾丸を―――ヴァンは突撃しながら軽々とかわす。

 

「ぉおおおおおおおお―――ッ!!」

 

ヴァンはそのまま、法力が漲る双刃槍(ダブルランサー)をウィリアムへと振り下ろす。

ウィリアムは当然、《詐欺師の楯》で音もなくその一撃を受け止める。

 

その直後、ヴァンの左目から発せられている魔力が狼の姿を形作り、そのまま伸びるように回り込んでウィリアムの後ろから襲い掛かる。

 

「ちぃ!」

 

ウィリアムは舌打ちしつつ、既に起動した【詐欺師の工房】で具現召喚した【騎士の盾(ナイツ・シールド)】で受け止めようとするが、その防御障壁はあっさりと破られる。

ウィリアムは《詐欺師の楯》を手放しつつ、その場から横に飛んで魔力の狼をかわす。

 

かわしたタイミングで、跳躍していたヴァンが双刃槍(ダブルランサー)をウィリアムに突き刺そうとする。

ウィリアムは地面を転がって避けるも、大きなクレーターが出来上がる程の衝撃を受けて吹き飛ばされてしまう。

 

(マトモに受けてたら大きな風穴が空いてたぞ!?)

 

ウィリアムは内心で引き攣りつつも、新たに錬成した拳銃と【招雷霊(ヴォルト)(フェイク)】による雷加速弾(レールガン)の連射をヴァンの周辺の足下に叩き込む。

地面が捲れ上がり、土煙が巻き起こる。

 

ヴァンの視界を遮った隙にウィリアムは人工精霊(タルパ)による分身を作り出し、その分身に紛れるように散開する。

しかし、土煙から飛び出したヴァンは何の迷いもなく本物のウィリアムへと迫り、法力が漲る左拳を叩き込もうとする。

 

「なっ!?」

 

ウィリアムは咄嗟に両手の拳銃を盾にしてその拳を受け止めるが、衝撃を流しきれずに再度吹き飛ばされる。

ヴァンはそのまま左腕を引き絞り、鉤の手で振り下ろす。

 

ウィリアムは咄嗟の判断で人工精霊(タルパ)による軽度の爆発で強引に方向を変えた直後、そのままだとぶつかっていたであろう壁に獣の爪で引き裂かれたような跡が深々と刻まれた。

 

そんな残心するヴァンに、ウィリアムは小銃(ライフル)による雷加速弾(レールガン)を右手に向かって放つ。

威力は拳銃の時よりも高いそれは、ヴァンの右手に当たると同時に弾かれてしまった。

 

「マジか……」

 

おそらく、法力と魔力の二段構えを全身に纏って防御力を高めているであろう。それでも傷一つないことには戦慄を覚えてしまうが。

 

「……これが人間と狼男の違いだよ。そこで佇んでいる彼女の妙な能力で強化されても―――」

 

これ見よがしに話すヴァンに構わず、ウィリアムはヴァンの頭上に瞬間錬成した不純物がたっぷりの水の塊を被せ、紫電を纏う上半身のみの甲冑騎士―――【騎士の誇り(ナイツ・プライド)・雷兵】の雷撃を叩き込む。

 

「あばばばばば!?」

 

突然水を被せられ、感電しやすくなった状態で雷撃を叩き込まれて奇怪な声を上げるヴァン。

 

「……ふん。この程度の雷撃が効く筈がないだろ。勝ち目はないんだから素直に―――」

 

ドドドドドンッ!

今度は周りに錬成された大量の爆晶石で、普通なら肉片になる程の爆風と衝撃がヴァンに叩き込まれる。

 

「……だから、いくらやっても無駄だよ。私達は君達を殺す気は―――」

 

ドゴォンッ!

《魔銃ケヴァルト》によって放たれた雷加速された砲弾がヴァンの顔面に激突する。

 

「君は何度、人の言葉を遮れば気が済むんだい!?普通は最後まで聞くものだよね!?」

 

顔に張り付くレベルめり込んでいたウーツ鋼製の砲弾を魔力の獣の顎で砕きながら、ヴァンは怒りを露に吼える。

 

「戦いの最中で一々会話に付き合う義理も義務もねえだろ。そんな暇があるなら、お前をぶっ飛ばす事を優先するわ」

「正論だけど、無性に腹が立つよ……ッ!」

 

こめかみと額にビキビキと青筋を立て、双刃槍(ダブルランサー)に法力を漲らせていくヴァン。

そして、長大な光の柱を形成する。

 

「このまま、全員吹き飛ばしてやる!!」

 

ヴァンはそう叫ぶと、長大な光の柱―――法力剣(フォース・セイバー)をその場にいる全員を呑み込むように振るおうとする。

 

「ちょっ、ヴァン!?」

「ヴァン!?帝国の守銭奴連中だけじゃなく、私とチェイスも巻き込んでるわよ!」

 

オーヴァイと斬り結んでいたチェイスとグレンの拳を剣で競り合っていたルナが、ヴァンに驚いたように視線を向けている。

どちらも相手への意識を逸らしていないが。

 

「大丈夫、ちゃんと加減してるから!それにチェイスさんなら簡単に避けられるし、ルナ姉さんも無駄に硬いから傷一つ付かないよ!」

「無駄に硬いって何よ!?もっと姉を大事にしなさいよ!」

 

そんなやり取りをしつつ。

どちらも互いの相手から距離を取ると、チェイスはそのまま黒い霧となり、ルナは背中の翼をはためかせてヴァンの法力剣(フォース・セイバー)から逃れようとする。

対してウィリアム達は―――回避行動すら取らなかった。

 

「《起きよ盾霊》―――《解の開放(オープン)》ッ!」

 

ウィリアムは残りの《詐欺師の楯》も展開、浮遊状態にしてヴァンの法力剣(フォース・セイバー)の進行を完全に防ぐ。

 

「な……ッ!?」

 

加減していたとはいえ、かなりの法力を込めた一撃がいとも容易く止められた事に、ヴァンだけでなく滞空しているルナと実体化したチェイスも言葉を失ってしまう。

 

「《天に満ちし怒りよ》ッ!!」

 

そのタイミングでイヴが黒魔【メテオ・フレイム】を発動。空から無数の炎弾を降り注いでいく。

 

「―――ぜあっ!!」

 

その無数の炎弾を、飛び上がったヴァンが法力剣(フォース・セイバー)の一振りで薙ぎ払う。

ウィリアムはすかさず真銀(ミスリル)製の弾丸と数本の【騎士の剣(ナイツ・ソード)】を放つも、力任せに振るわれた双刃槍(ダブルランサー)の風圧で弾道がずれて明後日の方向へと流れ、【騎士の剣(ナイツ・ソード)】もバランスを崩す。

 

「《睡毒の紫蛇よ》ッ!―――《進め(ツヴァイ)》ッ!《這え(ドライ)》ッ!」

 

ウィリアムは睡魔に襲われる毒に改変した結晶化した毒の槍―――錬金改【晶毒槍】を連続起動(ラピッド・ファイヤ)でヴァンへと放つ。

双刃槍(ダブルランサー)を振り切ったヴァンは落下しながら息を深く吸い込み―――

 

「―――かぁあああああああああッ!」

 

鼓膜が張り裂けんばかりの咆哮を迫り来る毒の槍に向かって放つ。

その咆哮を受けた毒の槍は粉々に砕け、吹き飛ばされる。

 

「《咲き乱れる銀色の刃》ッ!」

 

ウィリアムは再度呪文を唱える。

ヴァンの着地地点から、鋭い銀の刃が伸びるように飛び出てくる。

ヴァンはそれを魔力の獣で払おうとするも、魔力の獣は触れた瞬間に容易く霧散する。

 

「……チッ」

 

ヴァンは舌打ちすると、法力を漲らせた足で苦もなく砕いてそのまま地面へと着地する。

 

「……これでも、まだ分からないのかい?」

「何が分かるって?まだ勝負は序の口だろ」

 

ヴァンの言葉にウィリアムが皮肉で返すと、ヴァンの表情が苛立ちを露にするように顔を顰めた。

 

「……何でだよ」

「あ?」

「何で諦めないんだよ!?圧倒的な力の前に、人間は抗うだけ無駄なのに!!お前みたいな犯罪者風情が何でなんだよ!?」

 

いきなり意味が分からないことを喚いたヴァンに、ウィリアムは訝しむしかない。

そんなウィリアムに、ヴァンは独白するように言葉を紡いだ。

 

「……僕はただ、守れるだけでよかったんだ」

「…………」

「師匠に姉さん達……僕の大切な人達を守れるだけでよかったんだ。その為に必死に修行して、聖堂騎士団に入団して、周りから期待の星と呼ばれて……それでも、守れなかった」

「…………」

「だから僕は、人間を捨てて化け物になる事を選んだ。大切な人を……ルナ姉さんを一人にさせない為に」

 

そう告げたヴァンは、ウィリアムを睨みつけた。

 

「それなのに……お前は何で《愚者》と共にあれだけの事を人間のままで成し遂げられたんだ!?妥協して妥協して、親い人達まで喪った姉さんと、お前達と何が違うんだよ!?そんなお前達なんかに、負けるわけにはいかないんだよ!」

 

そんなヴァンの叫びに対し。

ウィリアムは呆れたように溜め息を吐いた。

 

「妙に突っ掛かるような態度だったのが……まさかの言いがかりと八つ当たりかよ」

「言いがかりでも八つ当たりでも構わない!成功ばかりしているお前達なんかに―――」

「確かにグレンの先公と再会してからの活躍は、さぞかし素晴らしく見えるだろうよ。けど、何も失っていないと思っていたら大間違いだ、ボケ」

 

成功ばかりならグレンは軍を退役していないし、ウィリアムだって目的を果たせていたらこの場にはいない。

そんな事を存外に告げるウィリアムに、ヴァンは厳しい目を向け続ける。

 

「何を言ってるんだ?実際―――」

「俺にもかつて、助けたい人達が、守りたい人達がいた。その為に力を付け、犯罪者と呼ばれてでもそれに手を伸ばし続けて……結局は届かなかった」

「―――ッ!?」

「その事に絶望して色々と見失って……生きる意味もないまま流されるままに生きて……迷いながら魔術学院に入って……」

「…………」

「そんな俺を、あいつらは笑って受け入れてくれたんだ」

「!?」

「だから、あいつらの想いをここで潰えさせはしない。俺は俺の譲れないものの為に、お前をぶっ飛ばす。それが今の俺の戦う理由だ」

 

そんなウィリアムの宣言に。

ヴァンはギシリ、と歯を噛み締める。

 

「……やっぱり、お前は気に食わない……ッ!」

「気に入られようとは思わねーよ」

 

苛立ちを露にするヴァンの鋭い視線を、柳に風のように受け流すウィリアム。その態度が逆にヴァンの神経を逆撫でていく。

 

「絶対に潰してやる……ッ!この力で、お前の心をへし折ってやるッ!」

 

ヴァンが憎々しげにそう叫んだ直後、ヴァンの右目が左目同様に青く染まる。

それと同時にヴァンの顔の左半分が突如生えた(くろ)い体毛に覆われ、法力と魔力―――二つの力が混ざり合うかの如く、ヴァンの身体を覆っていく。

 

「グゥルルルル……ッ!」

 

まるで―――ではなく、完全な獣の呻き声。

それに応えるように、瓦礫や観客席から冒涜的な姿の霊的な獣が、滲み出るように次々と姿を現し始めていく。

 

「ここに来て、戦力の増加かよ!?」

 

ウィリアムは焦りを覚えながらも、【騎士の誇り(ナイツ・プライド)・砲兵】や【騎士の誇り(ナイツ・プライド)・剣兵】といった人工精霊(タルパ)を召喚していく。

あの霊的な獣達がどのような存在なのかは不明だが、少なくとも物理に偏った手段は通用しない筈だ。

 

「オオォーンッ!!」

 

そんな遠吠えがヴァンを中心に大競技場に響き渡ると同時に、霊的な獣達がウィリアムに群がるように突撃してくる。

同時にヴァンも四つん這いとなるように駆け出し、獣の如く迫ってくる。

 

「クソッタレ!」

 

ウィリアムは疑似浄銀弾(パラ・シルバーブレット)を弾倉内に錬成してすぐに矢継ぎ早に撃ち放ち、人工精霊(タルパ)の騎士達も群がる霊的な獣達を狩らんと動いていく。

霊的な獣が爪を立てて噛み付き、人工精霊(タルパ)の騎士達も剣や大砲等を駆使して吹き飛ばす。

 

ヴァンも魔力と法力が混じり合った双刃槍(ダブルランサー)と、黎い体毛が生えたことで獣じみた見た目となった左手を腕力と膂力に任せるままに振るっていく。

ウィリアムは《魔銃ケヴァルト》を手放し、直ぐ様錬成した拳銃と合わせた二丁拳銃で対処していく。

槍も鉤の手のどちらも必殺の域に達しているヴァンの攻撃を、ウィリアムは全神経を集中させて決死に捌いていく。

 

(どう見ても理性が飛んでるよな、これ)

 

ヴァンの今の動きは技術が介在していない、力任せの直線的だ。

狼男の話の中には、理性を失うといったものがある。おそらく、“左目”の力を強く引き出すと理性が薄くなっていくのだろう。

それでも、ルナが再び歌い出した事を流し見た辺り、敵味方の区別くらいは出来ているようだが。

 

(なら、勝機はある。ルミアが本当に《銀の鍵》を制御して使えれば……それが向こうの隙になる)

 

元々、オーヴァイが言った通り第十三聖伐実行隊(ラスト・クルセイダース)と戦えば苦戦するのは必須だ。

大競技場へ向かう際に、ルミアが《銀の鍵》を使う事を提案したのだ。

 

前のような自身を蔑ろにした義務や自己犠牲で使うのではなく、自身の希望と意志に従って使うのだと。

そんなルミアの決意を、グレンはぶっつけ本番になる事を指摘した上で問い質し、確かな覚悟で頷いたルミアをグレンは信じて託した。

 

(今のルミアなら……大丈夫だ。なら、俺もそれを信じて戦うさ)

 

ウィリアムは人工精霊(タルパ)を生み出し、銃撃を放ちながらヴァンと激突し続けるのだった―――

 

 

 



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百七十七話

てな訳でどうぞ。


「し―――ッ!」

 

逸らす。流す。弾く。避ける。ずらす。

稲妻の如く振るわれるチェイスの双剣の剣閃を、オーヴァイは一振りの刀と体捌きで完璧に対処していく。

 

チェイスは双剣を振るいながら足元の影も操り、鋭い刃の如く鋭利な形状へと操作した影を瞬時に放つも影は空しく宙を切る。

同時に、背中に激痛が走る。

 

「く―――ッ!」

 

背中を三度斬られたチェイスは影の獣を再度呼び出しつつ、後ろへと飛び下がる。

そこに、影の獣や霊的な獣を燃やしていた筈のイヴが二振りの【十字聖火】を手に斬りかかる。

 

「ッ!?」

 

完全に予想の範疇から外れていたイヴの行動に、チェイスは咄嗟に双剣を交差させて受け止める。

しかし、それは悪手であった。

 

「《炎帝の名に従えよ》」

 

イヴが詠唱すると、【十字聖火】の炎がまるで生き物のように動き、チェイスの双剣から腕を伝い、全身を燃やすように包み込まんとする。

 

「ずっと後ろで炎を放つだけと思ってたのかしら?」

「クッ!」

 

チェイスは堪らずに炎から逃れるように飛び下がるが、そこに更なる追撃が迫る。

 

「―――『無明、三段突き』ッ!」

 

オーヴァイの必殺の剣技―――『無明三段突き』がチェイスの身体を貫く。

貫かれた箇所は心臓―――ではなく左肩。手には刀身が半ばから“消滅”したように折れた双剣が握られている。

 

「捕らえたッ!」

 

チェイスは漸く捉えたオーヴァイを捕まえる為に、使い物にならなくなった長剣を手放した右手をその首に伸ばす。

だが、オーヴァイは何の迷いもなく刀を手放して瞬時に姿を消し、チェイスの手から逃れた。

 

「《来たれ》」

 

イヴの隣に姿を現したオーヴァイは呪文を唱え、チェイスの刺さったままの刀を手元に瞬速召喚(フラッシュ)する。

 

「……やっぱりね。確かに普通の吸血鬼と比べたら頑丈だけど、吸血鬼の能力の一つである【元素操作】で弱点の炎をギリギリで押し止めていた。それが貴方の炎に対しての無敵の正体よ」

「…………」

 

イヴのその説明に、闇の魔力で炎を振り払ったチェイスは無言を貫く。それは肯定の証だった。

 

(後、どういう理屈かは不明だけどオーヴァイ……彼女の“突き”も通用している。彼女が突きで傷を付けた箇所の治りが他と比べて治りが大分遅い。そして……)

 

イヴは更なる憶測をチェイスに向かって解き放つ。

 

「貴方、()()()()()になっているわね?そこに()()()()()()()()()()()()()()()から」

 

その言葉にチェイスの目が僅かに見開かれる。予想を多分に含んだカマカケであったが、全くの的外れでなかった事にイヴは内心でほくそ笑む。

 

「その反応……どうやら当たり見たいね」

「……だとしても、僕の心臓を簡単には潰せないよ。それに、ルナの【賛美歌】が紡がれ続ける限り、時間が経てば経つ程こちらが有利となる。ヴァンも“左目”の力を大きく解放しているしね」

 

天使言語魔法(エンジェリッシュ・オラクル)【賛美歌】。

歌っている間は歌い手の能力を少しずつさせていく、上限がない強力な自己強化術。歌を止めれば、即座に強化は解けてしまうが、それを加味しても強力な術であることには変わりない。

 

実際、【賛美歌】を紡いでいるルナはグレンを圧倒している。ヴァンが召喚したらしい霊的な獣は、チェイスの影の獣よりも動きが素早く、何処から途もなく飛び出てくるので厄介だ。

 

《銀の鍵》を引き出そうと瞑想しているルミアに襲いかかっていないのは幸いだ。だが、このままルミアが《銀の鍵》を使えないまま時間を掛ければ、どちらが不利になるかは明白だ。

だが―――

 

「なら、気合いでどうにかしますよ。戦場は気合いが全てなんですから」

「それに、時間が経てば有利になるのはそっちとも限らないわよ?」

 

オーヴァイは特に気にした様子もなく刀を構え直し、イヴも優雅に髪をかき上げる。

そして再び、炎と剣が激突するのだった―――

 

――――――

 

 

 

「らぁああああ―――ッ!」

「グルアアアアアアア―――ッ!」

 

銃声、銃声、銃声―――

ウィリアムが放つ銃撃は悉く弾かれ、ヴァンの力任せの攻撃が迫る。

ウィリアムは地面から伸びるように錬成した杭で強引にヴァンの身体を押し出し、無理矢理攻撃の軌道から逃れる。

 

そんなウィリアムに霊的な獣達が噛み千切らんと猛然と迫るが、疑似浄銀弾で撃ち落とす、もしくは人工精霊(タルパ)の騎士で吹き飛ばしていく。

ヴァンは双刃槍(ダブルランサー)や腕を振るった風圧で壁や地面を抉る程の衝撃を放っていくが、《詐欺師の楯》の絶対防御も駆使して凌いでいく。

 

(なんで、なんで―――折れないんだ!?諦めないんだ!?)

 

ヴァンは()()()()()()()()()()()()()()()()の中で、全く折れずに戦い続けているウィリアムに対して吠える。

 

(ルナ姉さんの【賛美歌】が耳に届いている筈なのに!次第にお前達が不利になっている事を肌で感じている筈なのに!なのに、なんで戦える!?どうしてそんな強い目で立ち向かえるんだ!?)

 

ルナと直接戦っているグレンも、チェイスと二人がかりで挑んでいるイヴとオーヴァイも、全く戦意を衰えさせずに戦う姿にヴァンは困惑を更に強めていく。

 

(負けられない……ッ!絶対に負けられないんだ!チェイスさん……ルナ姉さんの為にもッ!)

 

そんなヴァンの脳裏に、絶対に忘れられない、ある記憶が過る―――

 

 

―――ゴメンね、ヴァン。私が弱かったから……私に、皆を守れる力がなかったから……

―――だから、私は孤独な怪物なるわ。力を得る為に【天使転生】を受ける。

―――さようなら、ヴァン。

 

 

(これ以上、姉さんの“大切”を失わせるものか!独りにさせるものか!絶対に、絶対に潰すッ!!)

 

ヴァンは残像を生み出す程の速度でウィリアムに迫り、見えない透明な何かを砕きながら鉤の手でウィリアムの胸の中央を貫かんとする。

ウィリアムはその凶手を拳銃を交差させて受け止め、後ろに倒れると同時にヴァンの腹部を蹴り、ともえ投げの要領で後ろへと蹴り飛ばす。

 

「グルゥッ!?」

「このくらいで殺られるかよ!」

 

数本の【騎士の剣(ナイツ・ソード)】で飛びかかって来ていた霊的な獣達を突き飛ばしながら、ウィリアムはヴァンに対してそう言葉を飛ばす。

 

「グラァッ!!」

 

ヴァンは言葉を返さずに吠え、法力と魔力、両方の力を漲らせた双刃槍(ダブルランサー)をウィリアムに叩きつけようとする。

ウィリアムはそれを高速で滑り込ませた《詐欺師の楯》で受け止める。

 

「グルルル……ッ!!」

 

ヴァンは本能的に感じる怒りからか、苛立ちを露にした表情でウィリアムを睨み付ける。

 

「グゥオオオオオオオオオオオン―――ッ!!」

 

耳をつんざくような、天へと向かう咆哮。

その咆哮に答えるように―――先程までとは比にならない数の霊的な獣達が姿を現す。

 

(これで終わりだッ!圧倒的な力の前に―――)

 

―――キン!

そんな金属音のような音が響き渡り―――グレンに止めを刺さんとしていたルナの動きが、氷漬けとなったように止まる。

 

グルゥ(姉さん)ッ!?」

 

まさかの事態にヴァンが思わずルナの方へと顔を向け、動きが止まる。

その隙に、ウィリアムが地面に捨ててあった《魔銃ケヴァルト》を拾い上げ、直ぐ様砲弾のような銃弾を放つ。

 

「ッ!?」

 

ヴァンは咄嗟に双刃槍(ダブルランサー)でその銃弾を叩き潰す。

銃弾はいとも簡単に潰れ―――中から周りを覆いつくすような黒い粉塵が飛び散る。

 

(視界を潰そうと無駄だ!お前の臭いで位置を簡単に把握―――)

 

ヴァンがウィリアムの臭いを嗅ごうとするも、迫り来る鉛の臭いから再び銃撃を放ってきたと察する。

 

「グルァッ!」

 

ヴァンはその迫って来ていた鉛の砲弾を左手で叩き落とした瞬間、中から透明な液体が飛び散った。

 

「グゥ……?」

 

その液体にヴァンが訝しんだ―――その直後。

 

「ぐぎゃああああああああああああ―――ッ!?」

 

ヴァンは叫び声を上げながら、空いていた左手で鼻を被った。

 

(な、なんて酷い悪臭なんだ……ッ!?たった一嗅ぎした程度で、意識が飛びかけるだなんて……狼男としての嗅覚の良さが裏目に……ッ!)

 

ヴァンはこの嗅覚の良さでウィリアムの偽物を区別し、位置を把握していた。

ほんの僅かな臭いですら知覚できる嗅覚―――それが、逆手に取られてしまった。

 

「ぐぅおおお……」

 

あまりの悪臭の酷さに、身体をよろめかせるヴァン。今は意識を繋ぎ止めるのに精一杯だ。

 

「ようやく、決定的な隙を晒してくれたな?」

 

そんなウィリアムの声が、すぐ近くから聞こえてくる。

 

(―――しまった!?)

 

ヴァンはここで、気付く。

意識が途切れたことで《狼化》が解け、それによって呼び出した獣達も消え、自身を守る法力と魔力の鎧も霧散していることに。

回避も防御も―――間に合わない。

 

「吹き飛べッ!!」

 

そんなウィリアムの宣言と共に、紫電が弾けている《魔銃ケヴァルト》から銀色の杭が放たれる。

ほぼ零距離から放たれた杭は、ヴァンの無防備となった腹へとめり込み、そのまま後ろへと吹き飛ばした。

 

「ごは―――ッ!?」

 

身体をくの字に折り曲げ、宙へと浮かび上がるヴァン。

そのまま仰け反るような姿勢となり、地面を転がっていく。

そして、転がりが終わったヴァンはうつ伏せの状態で地面に伏した。

 

「ぐ……うっ……」

 

予想外に重たい一撃を受けたヴァンは何とか立ち上がろうとするが、思うように力が入らない。

そんなヴァンに、全身がボロボロとなったチェイスが降り立つ。

 

「チェイス……さん……」

「…………」

 

ヴァンの言葉にチェイスは何も返さず、ヴァンの肩を担いで直ぐ様移動する。

次に降り立ったのは……グレンに殴り飛ばされて吹き飛ばされていたルナの下だった。

チェイスは空いていた手と身体を上手く使い、ルナを身体を受け止める。

そんな満身創痍となった三人に、グレン達が踊り出る。

 

「ちっ!ここで吸血鬼と狼男かよ!」

「悪いグレンの先公!」

「本当にタフな吸血鬼ね!」

「それでも追い詰めましたよ!このまま成敗です!」

 

拳や拳銃、炎と刀を携え、真っ向から対峙する四人。ルミアも小さな《銀の鍵》―――ルミアの意思で自由に使える《私の鍵》を携えて向かい合っている。

 

「…………」

「ぐっ……!」

「チェ……イス……私の、剣を……!私は、まだ……」

 

無言で五人を見据えるチェイスに、ヴァンとルナはまだ戦おうと足掻く。

しかし、その動きは弱々しく、もはや戦えないのは明白だ。

 

「もう、いい。もういいんだ」

「う、ぅ……」

「だ、めだ……このままじゃ……」

「もう分かっているだろう?僕達の負けだ」

 

チェイスの諭すような言葉に、ルナとヴァンは諦めたように首をガックリと落とす。

しかしルナは、首を上げてグレンを憎々しげに睨み付けた。

 

「ずるい……ずるいわよ……ッ!赤い魔術師に変な鍵を持つ子……ッ!東方剣士(サムライ)の少女に犯罪者の錬金術師……ッ!全部、貴方の力じゃないじゃない……ッ!おんぶに抱っこで、周りに支えられて、いい気になってるだけじゃない……ッ!そんな、自分一人じゃ何も出来ないやつに……ッ!」

「……それの何が悪いんだ?」

 

呆れたようなグレンの言葉に、涙目でぐずっていたルナは抜けた顔となる。

 

「……え?」

「そりゃ、俺一人じゃ何も出来ねぇよ。けど、一人じゃ出来ない事があって当たり前だろ?月並みだけど、皆で支え合って成し遂げる……それが人間じゃねーのかよ?」

「皆……で……?皆……ぁ……ぁ……ぁ、ぁあああああああああああああああああ―――ッ!」

 

グレンの言葉を復唱していたルナは、涙を零しながら吠えるように慟哭する。

ヴァンも、苦渋に満ちた表情で歯を食いしばっている。

 

「な、なんだ……?」

 

そんなルナとヴァンに、グレンはもちろん、他の面子も戸惑いを隠せずにいる。

 

「……気にしないでくれ。あくまでこちらの事情だ。君達には関係ない」

 

チェイスはあくまで淡々と告げ、ルナとヴァンに軽く視線を向けてから再び口を開く。

 

「僕達はこの件から身を引く。もう君達には手出ししないと約束する」

「それを信じられると思うのか?」

 

チェイスの言葉をウィリアムは正面から否定し、拳銃を突きつける。

裏で手を引いているアーチボルトがこのまま引くとは思えず、それが出来るなら寝返り自体起きていないからだ。

 

「……虫の良い話だし、信用できないのも分かる。だけど、その上で見逃してくれないか?でないと……この身が灰になるまで抵抗するだけになる」

「ウィリアム。手負いとはいえ吸血鬼よ。退いてくれるに越したことはないわ」

「……分かったよ、イヴの先公」

 

ウィリアムはそう言って拳銃を下ろす。

 

「グレンも良いわね?」

「わぁーってるよ。それに、目的は果たせたしな」

 

仕方ないといった感じで了承するグレンの言葉通り、こちら側の目的は果たしている。

脳内でリフレインしていた【子守唄】……それが綺麗さっぱり消えているからだ。

 

「…………ありがとう。【子守唄】もそんなに深くはかかってない筈だから、明日の試合開始前には目覚めると思うよ」

 

チェイスは最後にそう言って、ルナとヴァンを器用に抱えてその場から立ち去っていく。

 

「……終わったな」

「ああ……」

 

三人の姿が見えなくなった事で、グレンとウィリアムは揃ってその場で疲れたように腰を下ろす。

 

「本当に男二人は情けないわね」

 

そんな二人の姿にイヴは呆れたように視線を向ける。

 

「そうは言うが、こっちはサシ同然だったんだぞ?」

「最近まで軍属だったお前と一緒にするなよ。それでも、今回はマジで助かったけどよ」

「……ふん」

 

グレンの言葉に、イヴは頬を少しだけ赤く染めてそっぽを向く。

 

「オキタさん達の大ショーリィッ!この天才無敵の私がこはっ」

「オーヴァイさん!?」

 

ピースサインでテンション高めであったオーヴァイが吐血して倒れた事で、グレンとイヴの二人を微笑ましく見つめていたルミアが焦った声を上げる。

 

「す、すいません……気が抜けてつい……」

「ついで吐血する!?普通!」

 

オーヴァイのその言葉に、イヴが至極当然のツッコミを入れる。

 

「あ……曾祖父ちゃんが手を振ってる姿が……」

「それ、見えちゃダメなやつ!」

「ルミア!早く法医呪文(ヒーラー・スペル)を!!」

「う、うん!」

 

こうして。

夜の裏魔術祭典は最後は締まらないながらもウィリアム達の勝利で終わるのであった―――

 

 



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