遠野物語(四季に憑依) (チョコラBB)
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おや、誰か来たようだ。

 

視界がアカク染る。

 

目の前には片腕を抑えて、呻いているアイツと・・・

 

アイツに駆け寄って、化物みたかのように、顔に嫌悪と恐怖の色を浮かべる少女達。

 

この状況はどういうことだ?

 

そう思いながら自分の手に付着した血液、おそらくアイツの物と思われる、を眺めながら俺の意識

は暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、シリアスな出来事から今日で1週間ほど経過した。

現在は見覚えのない部屋に軟禁されているようだ。

 

部屋はビジネスホテルのような造りで風呂場やトイレ、ベッド、また簡単なシンクもある。

間取りも一般的なアパートなどよりも広く、機能的かつ中々に住みやすい部屋だといえる。

 

まあ穿った見方をすれば、住人を一切外に出す必要がない、とも言えるのだが。

 

 

さて今の俺の状況を一言で表すなら、

 

「月姫という作品を知っている『俺』が遠野四季(8)に憑依してしまった。」

 

という二次創作のような状況である。

 

正直、意味がわからない。

ぶっちゃけ混乱しまくって意味もなく叫んだり、泣いたりしていた三日前と比較すると

大分落ち着いているが、未だに意味がわからない。

 

俺は一般的な会社員で、休日にPCを立ち上げた次の瞬間あのアカイ世界だった。

もちろん神様的な存在にあった記憶もないし、死ぬような目にもあっていない。

なのに次の瞬間ゲームの世界って・・・

 

いったいどういうことだってばよ!?

 

 

・・・いや現実かどうかは不明だが、現実逃避はよろしくない。

とりあえず自分の現状を把握しよう。

 

まずあの最初の場面。

あれはおそらく作品「月姫」の中で「遠野四季」が反転し、妹の遠野秋葉を襲い、それを庇った

親友七夜志貴を殺してしまう場面だろう。

 

確か原作では遠野の「人外の血」を濃く継承していた「遠野四季」今後は「シキ」としよう、は

死徒27祖の番外、無限転生者ことミハイル・ロア・バルダムヨォンという吸血鬼の転生体となる。

そしてロアの覚醒と共に「人間としてのシキ」が消滅し、反転。「鬼としてのシキ」が生まれてしまう。

その結果、秋葉を攻撃、庇った志貴を殺害してしまい掟に従って遠野槙久殺されかけるが、能力を使用して志貴と繋がり生きながらえる。以後8年間は幽閉され、ロアもしくはシキとして敵役となる。

といった感じだった気がする。

 

だが俺が憑依したせいか、志貴は怪我だけで済み、「シキ」は父親の遠野槙久に殺害されず、監禁されただけである。

殺されないのは嬉しいが、これからどうなるのだろうか?

また俺は元の肉体に戻れるのだろうか?

・・・ダメなんだろうなあ。

 

次に俺の肉体状況だ。

 

まず俺の肉体は吸血鬼ではない。

通常、吸血鬼の呪いを受けた時点で魂は汚染され、その影響は肉体にも及び、ゾンビやらグールを経て完全な吸血鬼=死徒となる。

 

おそらく感覚的に俺が憑依した時点で

 

【人】「シキ」(人格消滅)<【化物】「人外の血」+「ロア」(ヒャッハーッ!)

 

から

 

【人】「シキ」(人格消滅)+「俺」(憑依 )>【化物】「人外の血」+「ロア」(´・ω・`)

              ↓

 

【人】「シキ」(人格消滅)+「俺」(定着)>【化物】「人外の血」(休眠)+「ロア」(消滅or休眠?)

 

 

ってな感じだろう。

 

なんで汚染されていないのか、もしくは実は汚染されていて徐々に吸血鬼化しているのだろうか

とか、一瞬とは言え反転してしまった自分の今後の処遇が気になるとか、色々思う所があるが、

おそらく大丈夫だろう。

完全に反転した原作でも殺されなかったんだ。

とりあえず死ぬことはないだろう。

 

さて時間は有り余っているのだから、もっとこの体でどんなことが出来るのか調べなきゃな。

テレビも本もないから他にやることもないし。

 

まあ、いざとなったら泣き落としでも使えばロリコン親父とか余裕だろうwwww

・・・おや、誰か来たようだ。

 

時間も遅いし夕飯かな?

 

 

 

 



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頑張れ、慎久、マジ頑張れ!

能力などはwikiを引用させていただいています。


 

さて皆さんいかがお過ごしだろうか?

 

俺こと遠野四季は絶賛軟禁中である。

監禁よりも待遇は良くなったが、やはり自由な生活が恋しい。

 

実は目が覚めてから、すでに2ヶ月ほど経過している。

どうやら夢オチとかではなかったようだ。

目覚めてからおよそ1週間が経過したある日の夜、父親、遠野槙久が俺の部屋にやってきた。

 

俺は殺されるのか!?と漏らさなかったことが不思議な位ガクブルしていると

槙久は静かに俺を抱きしめて、済まないと謝ってきた。

 

俺は意図が掴めず、キョトンとしながら槙久の顔を見ると、

彼は眉間にしわを寄せて、また、済まない、と謝った。

 

俺は意味が分からず「何を謝っているのか?」と聞くと

彼は静かに語りだした。

 

遠野はかつて祖先が「鬼」と呼ばれる人外と交わって生まれた混血であること。

混血はいずれ「鬼」の部分が「人」の部分より勝り、「魔」と呼ばれる化物になってしまうこと。

それを「反転」といい、俺が反転し、秋葉と志貴を襲ったこと。

あとそれを止めるために自分が俺を気絶させたこと。

今は落ち着いているが、一度反転した俺はしばらく監視、悪くて一生幽閉になるかもしれない

などの事柄についてだ。

 

だいたい原作知識で知っていたが、とりあえず驚いたふりをしておいた。

実際は遠野槙久という人間が良い父親であることに一番驚いた。

 

確か原作のイメージでは幼い琥珀をレイプし続けたロリコンで、実子のシキを幽閉し、志貴の記憶を奪い、有馬の家に追放した、反転して暴力を振るったなど腐れ外道のイメージが強かったのだが、これが反転する前の真っ当な遠野慎久だったのだろうか?

良い父親じゃないか。

 

驚いている自分を見て何を誤解したのか、槙久は静かに俺に言った。

これからしばらくはこの部屋に篭ってもらう。

何事もなければ、そのうちきっと元の生活に戻れるあろうと。

 

それからというもの、俺は言われたとおり静かに過ごし、

こっそり自分の身体や取りまく環境を調査し始めた。

 

自分の環境は、現在は軟禁及び監視の身で、今後の処遇は保留状態である。

俺を処刑という案もあったらしいが、槙久が反転が収まっていることを理由に反対しているようだ。

 

頑張れ、慎久、マジ頑張れ!

 

そして俺の身体であるが、中々に壊れ性能であることが判明した。

まず原作と同様に反転したことで、混血として目覚めた異能として「不死」と「共融」が備わっている。

 

要するに簡単には死なない体質で、傷ついた肉体を再生させるのではなく、その部分がなくても生きていけるように作り替える「拒死性肉体」と他人の肉体を摂取し、自身の肉体に還元することが可能な「共融」の発展型である接触融合呪詛「蝕離」がある。

この2つの能力のコンボで外部からの供給さえあれば、恐ろしく死ににくい身体であろう。

まあ俺に生きた他人の肉体を奪えるとは思えないので、脳死状態のドナーとか、可能なら死体とか

だろうけど。

他にも「不死」と「共融」の「自身の肉体を自在に動かす」という性質を応用し、血液を硬質化・変形することが出来たり、微妙に身体能力が強化されていたりする。

 

そしてここからは誰にも言っていないのだが、

俺の中には「ミハイル・ロア・バルダムヨォンの記憶が記録されている。」

単に記憶だけで能力などは一切引き継がれていないが、

原作ではミハイル・ロア・バルダムヨォンは魔術師としてはかなりの天才で、

その魔術知識は魔術協会の階位で最上位の「王冠(グランド)」に匹敵すると言われている。

また初代ロアの肉体スペックは、並の魔術師の百倍の魔力量を誇る公式チートのシエルと同等以上

を誇ったこれまた公式チートである。

つまりその魔術を全て再現することは難しいだろうが、混血として血が濃いと言われるこの肉体

ならば少なくとも魔術に対する適正が全く無いということはないだろう。

 

しかし天然チートに匂いが仄かにするのだが、

なんで原作の「シキ」はあんなに雑魚キャラっぽかったのだろう?

 

今後の方針として、これまでは異能やら身体能力の把握・制御ばかりしていたので

今後は魔術の適正も調査してみよう。

自分の属性や起源の調べ方、鍛錬方法などもロアの記憶に記録されているので会得できればかなり有用だろう。

てかやっぱり魔術があるなら使ってみたいのがロマンだろう?

フッフッフ、廚2病が刺激されてテンションが上がってきたぜ!

 

おおっぴらに鍛錬したり身体を鍛錬するのは、無駄に警戒されてしまうので出来ないが、

部屋内で静かに魔術の鍛錬や異能の練習する分には大丈夫だろう。

 

とりあえずこんな死亡フラグの多い世界、いや現在進行形で死亡フラグが立っている俺は

自分を守るために少しでも強くならなければない。

 

目指せ!強キャラ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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不穏の気配

 

 

事件から3ヶ月が経過して正式に俺こと「遠野四季」の処遇が決まった。

 

結果は「お咎めなし。ただし、まだしばらくは監視付」

理由としては事件から一度も反転せず、落ち着いていること。

また遠野家の長男であり、その当主の遠野慎久が処刑に反対していることが挙げられる。

 

そうそう先日慎久に伴われ、久しぶりに七夜志貴、遠野秋葉、琥珀、翡翠の4人にあった。

久しぶりに会ってみると、みんなにお帰りなさいと言われて少し嬉しかった。

 

しかし、しばらく会話を楽しんでいると違和感を感じた。

秋葉と翡翠はたまに何かに怯えているような素振りを見せ、接し方も「シキ」の記憶と

比較するとどこか余所余所しい気がする。

志貴は以前通り、琥珀は・・・原作知識があるせいか人形と話している気分になる。

やはり原作通り、慎久に・・・。

 

琥珀の件は確証がないので保留だが、どうやら秋葉と翡翠は俺に怯えているようだ。

まあこれが普通の反応で、以前通りの志貴の反応が異常なのだ。

「シキ」の記憶はあっても「俺」の主観では初めて会う人物なためかそこまでショックは

無いが、彼女たちが慣れるまでは少し距離を置いた方が良いのかもしれない。

 

それ以降も何度か監視付きで彼女たちと話しているが、あまり改善されていない。

また確証もないままだが、琥珀に対する違和感が増してきている。

 

 

 

 

 

 

事件から半年が経過した。

もう監視はほとんど無くなったが、あまりお手伝いさんや一部の例外以外とは会話する機会がない。

というか遠野の屋敷自体空気が澱んでおり、徐々に滞在している親族等人の数が少なくなっている

せいだ。

その大きな要因は慎久がここ最近様子がおかしく、感情の落差が激しかったりと奇行が多くなっているからで、おそらく慎久は「反転」が始まったのだろう。

それを察して、親族たちも距離を置いていると考えられる。

 

また以前よりも改善されているが、秋葉と翡翠は未だ俺に対してギコちない。

トラウマにでもなってしまったのだろうか?

8歳児の身体に引きずられているのか、少々ショックである。

 

琥珀は慎久の悪化と共に、加速度的に人形のようになっている。

やはり原作通りということなのだろう。

やはり事態を把握している者としては琥珀や慎久を放っておくことは出来ない。

慎久の反転の一因は間違いなく俺にもあるだろうし、良い父親としての彼には恩も感謝もある。

それにそのせいで犠牲になっている琥珀を見ないふりするなんていくらなんでも後味が悪すぎる。

主に俺の胃がマッハでヤバイし、忘れていたが琥珀こそが原作の「シキ」にとって

最大の死亡フラグなのだから。

今夜の鍛錬で目標がうまく達成できれば準備が始められる。

もう少しの辛抱だ。

 

 

 

既に夜半。

今俺はこの半年間の鍛錬に一つの節目を迎えることとなる。

 

この半年間をふりかえってみる。

 

異能に関しては、一人での外出は禁止されているので遠野家の庭で身体を鍛えながら鍛錬した。

といっても肉体に関しては成人男性並の身体能力はあったので筋トレ、庭をランニング、柔軟、など簡単な身体作りだけである。

教えてくれる人もいないし、さすがにロアも格闘技は経験していないようだった。

残念!

 

「不死」と「共融」。

前者は試しようがないの詳しくは不明だが、体が疲れにくくなっている・・・気がする。

後者は原作で行っていた「血刀」や血のトゲを生成することが可能で、硬くする以外にも変化させたり、予想よりも遥かに硬かったりと良い意味で予想外な結果だった。

思うに原作の「シキ」は長年幽閉されており、生来の能力を鍛錬していなかった。

そのため鍛錬した俺の方がより精密に、より硬度を高くしたりできるようになったのではない

だろうか?

 

他にも原作との相違点として「偽直死の魔眼」を持っていないことだ。

この魔眼は生物を生かしている部分(=命)を視覚化し、干渉することができる魔眼で線や点を切ることで生命そのものを直接削ることができる対生物には鬼畜使用なくせに反動が一切ない魔眼である。反面、死徒とか無生物には見るべき生命が無いため、ただの眼であるが。

何故だろう?

志貴と繋がってない影響か?

期待していただけにマジ残念なんだけど。

 

そしてお待ちかねの「魔術」。

これに関しては良い結果と悪い結果がある。

 

まず悪い結果から。

簡単に言うと俺には魔力が少ない。

少ないといっても一般的な魔術師程度は十分にあるのだが、初代ロアや同じ転生体のシエルと比較するとあまりにも普通すぎる。

クソッ俺tueeeee!とは夢だったのか!!

 

次に魔術の素養。

いくら初代ロアの記憶があるからといって、後で語るが、そもそも俺と初代ロアは属性とか起源とか違っているため、ある程度魔術の難易度が上がってくると、そのプロセスが全く違うのだ。

 

例えば俺の属性が「風」、ロアが「火」としよう。

ロアは「モノを燃やす」という結果のために、単純に「火」の属性に含まれる「燃やす」という性質を行使すれば良い。

しかし俺の場合は「風」という属性に「燃やす」という性質は含まれないため

風を操り、圧縮し、熱を生み出さなければ同じ結果が得られない。

 

そのような違いがあるため、ぶっちゃけ初歩的なもの以外はロアの記憶をもとに自分で手探り

である。

 

属性ェ

 

しかし悪いことばかりではない。

いくつか良い結果もあった。

 

第一にロアの知識、そして記憶越しの擬似的な魔術行使の感覚。

 

どういうことかというと

魔術回路を開いて属性があまり関係ない初歩の魔術なら鍛錬を始めて数日で完全にマスターした。

また試行錯誤はあったもののより難易度が高い魔術もある程度は行使できるようになった。

8歳の子供が師も付けず独力で半年で一人前の魔術師クラスの力量を身につけている。

そのことを考えると、ロアの記憶にはチート具合がよくわかる。

だって疑問や事例を思い浮かべると勝手にそれに関わることが思い浮かんでくる。

 

今度から脳内でグーグル先生、いやロア先生・・・ゴロが悪いな。

う~ん、もう脳内wikiでいいや。

 

 

第二に異能との相性。

 

俺の属性は「水」、特性は「吸収」、起源はなんか怖くて調べていない。

どこかの蟲ジジイとかなり近くて嫌なのだが異能の強化や変質には恐ろしい程相性がいい。

特に俺の武器は血液。

液体である血液ならば水で干渉しやすく、強力な武器となるだろう。

 

 

長くなったが、これで状況説明は終わり。

 

さて目標「異能と魔術の複合」に挑戦するか!!

 

 

 



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反転

少しいつもと書き方を変えてみた。



今晩俺は今生の父、慎久に会いにいく。

社会人としての俺からすると作品の中の故人、しかもヒロインの一人に性的虐待を繰り返し主人公の実の家族を皆殺しにした張本人。

まったく好意を持つ要素のない人物である。

しかしここにいる慎久は違う。

正気を失うことをおそれ、我が子の将来を憂いている一人の父親であった。

俺もこの体に引きずられているのか彼を憎むことができない。

 

 

随分と久しぶりに顔を合わす気もする。

実際同じ屋敷にいるのに1週間くらい姿すら見ていないだろう。

 

時刻は既に0時を回っている。

俺も含め、屋敷の子供は普段はもう寝ている時間だ。

また使用人たちも屋敷の空気が澱んでいくにつれて暇を出されていった。

今では数人残った使用人が朝から夕方まで働き、夜は帰宅するというシフトに変更されているため薄暗い屋敷の廊下には人の気配というものがない。

 

琥珀の部屋を確認すると寝ていた。

つい先日部屋に呼ばれているのは確認している。

やはり予想通り今晩は慎久に呼ばれていないようだ。

 

琥珀も秋葉達も使用人達もいない。

つまり今から俺と慎久の対話の邪魔は入らないということだ。

 

 

 

コンコン。

 

慎久の書斎をノックする。

誰も起きていないはずの夜間にイキナリのノックだ。

驚いたのか少しの間を置いて返事があった。

 

「・・・誰だ?」

 

「父さん。俺です。四季です。」

 

「四季か?一体どうしたんだこんな時間に。」

 

慎久が扉を開ける。

彼は心底不思議そうな顔をしている。

 

「怖い夢でも見たのか?とりあえず入りなさい。」

 

「うん」

 

書斎に入る。

そこには難しそうな書籍が並んでいる書棚。

重厚な暗い色彩の執務机とその上に置かれている書類。

そして俺なら3・4人は並んで座れそうな大きなソファー。

 

慎久は俺をそのソファーに座らせると、向かいに座り口を開く。

 

「四季どうしたんだ?」

 

「うん。少し父さんにお願いがあって。」

 

「お願い?何だい、言ってみなさい。」

 

慎久は微笑を浮かべながら俺に先を促す。

その笑顔は何も知らなければ、優しい父親と感じていただろう。

だが俺は知ってしまっている。

その為、俺は一度深呼吸をすると、一息で言い切った。

 

「父さん。琥珀にもう手を出さないでくれ。」

 

瞬間書斎の空気が凍った。

もう戻れない。

 

「な・・・」

 

お前が何を言ってるのか分からない。

そんな顔の慎久が口をポカンと開け、言葉を紡ごうとしている。

 

「俺、全部知ってるんだ。父さんが反転しそうなことも、それを防ぐために琥珀にしてることも。」

 

俺がそう言うと慎久は今度こそ完全に絶句した。

そのまま慎久の言葉を待つ。

 

10分ほど経過しただろうか。

いや時計を見ると1分も経ってない。

緊張で時間の感覚がおかしくなっているようだ。

 

「そうか。知っていたのか。」

 

「うん。」

 

背中に冷や汗がにじむ。

背中や尻とソファーの接地面はおそらく変色するほどに濡れているだろうな。

ふとどうでもいいことを考えた。

 

「ならば答えは分かっているだろう。親族の誰が教えたか知らないが私たち遠野の一族も含まて混血というものは大なり小なり反転の危険性がある。そして反転を防止するため巫浄の感応能力は必要不可欠なのだ。」

 

「だけど!」

 

「今それを止めたら私は「魔」に堕ち、遠野の家は親族という魑魅魍魎どもの食物とされる。故にお前の願いを聞くことは出来ない。諦めるんだ。」

 

俺は絶句した。

断られたからではない。

そんなことは予想済みだし、その理由も予想通り。

俺が驚いたのは、今の言葉を放ったのがいつも見ていた良い父親などでなく、

有数の財閥の当主にして混血たる遠野家の当主としてのに覇気に満ちた「遠野慎久」という男だったからだ。

 

ヤバイ、俺は彼のことを嘗めていた。

実はいい父親だったから、何だかんだ言って息子である俺がお願いすればいうことを聞いてくれるだろうと。

ああ帰りたい、そしてベッドに潜り込んで夢オチにしたい。

切実に。

 

「父さん・・・でも・・・。」

 

「四季。褒められたことでないのは分かっている。だが私が「魔」に堕ちれば遠野の家が終わる。それは当主として認めることは出来ない。」

 

「う、ああ。」

 

慎久が言っていることは何度も言うが予想の範疇を超えていない。

反論も考えてきたはずなのに、思考がまとめれない。

 

「そもそもアレとアレの妹はその為に引き取ったのだ。いずれはお前も…秋葉もアレらかアレらの娘を使うことになるだろう。このままではお前たちがつらくなるだけだ。そのような考えは捨てろ。」

 

原作のことを思うにそれは紛れもない真実なのだろう。

だがそれを認めることは出来ないのだ。

いや、認めてしまえば俺という「誰か」が不確かになってしまうのだ。

個人的な記憶すら以前よりも曖昧になって遠い昔のことのように摩耗していっている俺が、これ以上四季という役割に染まってはいけない。

 

「アレらは反転衝動を抑えるための道具だと思え。」

 

俺がお前や原作の四季のように流されるだけの存在にはなってはならない。

混血の血や反転衝動などというものに負けてはならないのだ。

 

「諦めるんだ、四季。その考えを捨てなければいずれお前の番になったときお前自身が苦しむだけだ。」

 

沸騰した。

苦しむからと言って物語の運命に負けてはいけない。

例え記憶が無くなろうとも、()()()()()()ために。

 

「ふざけるなよ!!何だかんだ言って自分を正当化したいだけだろ!体液の交換なら血液を吸うのむだけでも効果あるだろう!?」

 

「・・・ああ。それでも効果があるだろうな。しかし性交と比較すればその効果は段違いだ。いずれそれすら効かなくなる。」

 

「うるせえ!ただ堕ちるのが怖いから琥珀に八つ当たりしてるだけだろ!?俺のためとか言ってるんだろう!?俺はあんたのようにはならない!俺は混血なんてものに負けない!」

 

「ッ!?愚かなことを言うな四季!勿論怖いに決まっているだろう!?だがお前もいずれはこうなるのだぞ!?もう一度言う!」

 

慎久は立ち上がると、静かに俺を見下ろし言い放つ。

 

駄目だ。

失敗だ。

いつもの良い父親していた慎久なら多少厳しくても代替案を出せば、最後には情を出して折れてくれると考えていた。

 

慎久は一人の臆病な男で同時に遠野家の当主であり。

 

「諦めろ。お前のためだ。」

 

同時にどうしようもなく俺の父親(みらいのすがた)であった。

 

結局は同族嫌悪だ。

後味が悪いとかではない。

今回は運よく収まったが、俺もいつか混血として反転衝動に負けてしまう。

それは死ぬ間際かもしれないし明日かもしれない。

俺が俺でなくなってしまう。

それが怖かったのだ。

それが怖くてたまらないから同じように怯えて、無様にも他人に八つ当たりをしている慎久の姿を見たくなかったのだ。

 

自分の未来を見ているようだから。

 

「うわああああ!!」

 

世界がアカク染る。

 

「四季!?」

 

俺は反転した。

 

 

 

 




おかしいな。慎久を小物にしようと思っていたのに
主人公の方が小物になってしまった。

主人公の反転はただの癇癪です。
規模も性質もえぐいですが。


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選択

感想ありがとうございます。
嬉しいです。
今後も頑張りたいと思います。

また意見の中に
「ロアは何度も転生してるんだから、初代との属性の違いはすでに問題ないんじゃ?」と
意見がありましたが、ぶっちゃけ失念してました。
ほら、原作では初代とシエル、四季しか登場しないじゃん?



 

 

俺の拳が霞み、一瞬で慎久の頭部を打つ。

いや寸前で慎久の腕でガードされた。

全く効いていない。

 

俺はその反動を利用して、後ろに飛んで距離を取り、

着地と同時に足を折り曲げ、力を貯める。

限界まで折りたたまれ、引き絞られた俺の両足。

声なき咆哮を上げ、一気に力を開放する!

 

ドン!

 

地鳴りのような音と共に俺の身体はまっすぐ慎久に向かって跳ぶ。

その勢いはまさしく銃弾。

少なくとも常人には反応すら出来ない速度だろう。

 

通常なら俺でも視認などとても出来ない加速の中で何故か慎久と目があった。

その目には深い苦悩が透けて見える気がする。

その目がえらく気に障り、俺は・・・目が合う!?

 

完全に捉えられている!?

 

恐るべきことに慎久は銃弾のような速度で向ってくる俺を視認しており、

冷静に再び自分と俺の間に腕を構えている。

おそらく攻撃を防いで、動きの止まった一瞬に迎撃するつもりなのだろう。

 

「ッ!」

 

俺はとっさにあらかじめ小さく切っていた背中の傷口から血液を操作し、細い糸を生成する。

それを床面に打ち込み、再び操作。

 

ギュンッ!

 

糸が巻き取られ、強制的に俺の身体が床面に向かって引っ張られる。

あまりに急なGで背骨が背中から飛び出しそうだ。

先程と同様にまた両足を折り曲げ、跳ぶ。

 

今度こそ慎久は慌てて、ガードしようとする。

しかし俺が予想外の変則的な動きをしたため、対応が遅い。

 

「がああ!」

 

拳は一直線に慎ひさの胴体へ。

しかも今度は血液を操作して筋力を高め、同時に拳の表面に硬化した血液で覆う。

追加で魔術による強化も施す。

これが今の俺に出来る最大の一撃。

 

「ベキャ」

 

とっさに腕を挟めたようだが、そんなもの関係なく妙に軽い音を上げながら俺の拳が慎久に突き刺さる。枯れ木を折ったような感触がした。

 

慎久はそのまま壁に叩きつけられ床にずり落ちた。

身動き一つせず、座り込むような格好で動かない。

ガードした腕はほとんど皮だけで繋がっているような無残なもの。

胴体も確実にアバラをを折っており、口から血を出しているのでおそらく内蔵にもダメージがあるだろう。

 

「あっああ、と、父さん?」

 

俺は慎久の姿に急に冷静になってしまった。

俺は一体何をしたんだ?

視界が赤く染まって、それでカッとなって・・・

 

「父さん、大丈夫!?」

 

俺は慎久に駆け寄る。

もう何がなんだか分からず泣きそうだ。

 

「父さ」

 

アカイ何かにぶっ飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気を失っていたようだ。

さっきまで書斎にいたのに今は屋敷の中庭でうつ伏せに寝転がっている。

視界が赤い。

反転したのではなく、頭部から出血し、目に入っているためだと考えられる。

気持ち悪い。

吐きそう。

四肢はある。だが動かない。

胴体が痛い。

おそらく先ほどの慎久のようにアバラは折れ、内蔵も痛めている。

服の下に血液の装甲を薄くではあるが纏っていたにも関わらずこの状態。

装甲に使っていた血液も完全に吹き飛んだみたいだ。

ああ痛い。

痛い。

痛い。

痛い。

痛い。

 

マジ痛え!?

 

なんで俺中庭で倒れてるんだ!?

身体中が死ぬほど痛え!?

動けない!?ダメージか?それとも貧血!?

あまりの状況に素の精神状況に戻ったようだ。

さっきまでの俺は明らかにまともじゃなかった。

 

 

ジャリッ、ジャリッ、ジャリッ。

 

誰かが歩いてくる。

痛みから意識を逸らせるために首だけ動かしそちらを見る。

慎久が何事もないようにゆっくり歩いてくる。

幹久は巻戻したかのように腕が治っており、その両目は赤く染まっている。

 

「残念だ。本当に残念だ、四季。」

 

そう言いながらも徐々に近づいてくる。

 

「お前は私と同じ内界に干渉するタイプの能力者だ。」

 

俺の傍まで歩み寄ると止まり、俺を見下ろす。

表情は見えず、その両目の赤い光だけが見える。

 

「私はお前のように血液を器用に操作したりはできない。お前のように肺が潰れたのになにか別の器官で機能を補うこともできない。」

 

ああ「不死」の能力かな。

やっぱ発動してるんだな。

むしろ肺が潰れているってなんだよ。痛いはずじゃねえか。

 

「ただ己の内界に働きかけて、身体機能や治癒力を高めるだけだ。精々異国の代行者という連中と同等といったところか。」

 

だから書斎と違って元気なんだな。

てか代行者と同等って化物じゃないか。

 

「とはいえ同じ内界干渉系の異能だ。共通な部分も多い。息子とのキャッチボールみたいに私はお前に能力を使うコツを教えたりするのを想像したりしていたんだ。」

 

少し嬉しい。

 

「お前の年齢でここまで能力を使いこなすことは珍しい。またとっさの機転や柔軟な思考も素晴らしかった。」

 

そのまま慎久は屈み、片手で俺を持ち上げて話す。

首を指で圧迫されて苦しい。

 

「最後だ、四季。巫浄の能力は反転衝動を抑えるために必要不可欠。もし止めれば私は衝動に呑まれお前や秋葉を殺してしまうかもしれない。」

 

「いずれお前も衝動に呑まれる。お前はどうする?」

 

身体は動かない。

呂律も回らない。

意識は朦朧としている。

 

「お、俺は・・・」

 

意識が白む。

痛みももう感じない。

 

「俺は・・・あんたと同じじゃない。俺は・・・あんたを、超えてやる。そして秋葉も、琥珀も、みんな守ってや・・・。」

 

「そうか。」

 

意識が落ちる。

 

暗転する意識の中、慎久は笑っている気がした。

 

 

 

 

 

 

 




おかしい。
慎久が格好良くなっている。
本当におかしいな、慎久はここで主人公に殺される予定だったのに。

あと志貴と翡翠が空気です。
慎久さん、外道ではありませんが基本血を分けた身内以外はそこまで気を払っていません。
あくまで本気で心配しているのは自分と秋葉と主人公だけです。


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日守家の皆さん

日守秋星が好きです。
DDDの最新刊はいつでるのでしょうか。


 

みんなー俺だよ俺。

四季だよー。

 

 

慎久に半殺しにされて、起きたら遠野家を追放されていた。

まあ反転して当主に殺意込めて襲いかかったんだ。

殺されてもおかしくない。

というか追放で済んでいるこの状況の方がおかしい気がする。

 

現在、俺は表向き「四季は反転衝動が安定せず、遠野家の当主として不適格。しかし徐々に収まってきてはいるので様子見。」という玉虫色な理由で慎久の知人に預けられている。

実際は遠野家からの放逐だろう。

 

さて、何故前回あれだけ殺伐とした殺し愛(家族愛)空間だったのに、何故今の俺がこんなに安らかかというと琥珀についての懸案事項が解決したからだ。

慎久や秋葉、志貴達からの手紙によると、慎久の所業が秋葉にバレたらしい。

俺達が派手にドンパチしていたため、秋葉と志貴にバレた。

まあ当たり前か。

幼いといえど混血とそれを狩る暗殺者の家系だもん。

寝室から距離があっても、窓ガラスとか割ってたらそりゃ起きるわ。

 

その結果

①俺は生き残る。

②紅赤朱な秋葉により慎久問い詰められ、諸々ゲロ。

③今後琥珀と翡翠は秋葉付きの従者として、志貴は護衛として育成される。

④今後は血液による反転衝動の防止。

となった。

 

俺の怪我とはなんだったのか、最初から秋葉に頼ってればよかったのか?

なんとも複雑な気分である。

まあ俺とガチ殺し愛(家族愛)をしたため、反転衝動がかなり減少したというのが一番の理由

らしいがそんなストレス解消みたいな方法で良いのだろうか?

また今回の件で、慎久は理由があるとは言え、琥珀に非道を行ったため、秋葉から汚物を見るような目で見られている。翡翠はそのことについて知らないらしい。

慎久はそういった環境のため胃痛を患っている。

自業自得とは言えまた反転衝動が悪化しないか心配である。

慎久にサンドバックを送ることを考えておこう。

 

次に慎久とは逆に俺の株がうなぎ登りとなっている。

秋葉からは見直され、志貴からはヒーローのような扱いとなっているらしい。

また琥珀からは手紙で「助けてくれてありがとう」ときた。

正直、気絶している間にデウス・エクス・マキナな妹様のおかげで問題が解決していたため、実感が薄い。

善意ではなく、ただの慎久に対する同族嫌悪の結果ということもあり、純粋な好意でマジ俺のストレスがマッハ。

やはり自分用も含めてサンドバックは購入しよう、3つくらい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4時間ほど車に揺られて、着いたのは山奥の小さな町。

その中でも最も奥、山の麓に位置する大きな屋敷がこれから俺が生活する「日守家」の屋敷だ。

この家は日本では珍しい魔術師の家系で、

何でも「全ての因子を収集していけば最終的には根源にたどり着くんじゃね?」という思想の元、様々な分野で突出した才能や特性を持つ者を善悪問わず、一族に向かい入れていわゆる「超人」を創りだすことを目的としている。

その為、魔術協会や退魔組織、混血たちとそれぞれに広く繋がりを持ち、窓口のような役割を持っているとのこと。

慎久もその関係で知り合っており、俺の話をしたところ、遠野の血を引く俺か俺の子供を

一族に向かい入れれるならばと喜んで俺を引き取ったそうだ。

新しい環境で不安もあるが、成長するにはうってつけの環境だ。

頑張ろう!

 

 

 

 

日守家に来て2年経過したが、

この日守家の住人は皆何かしらの分野で才を持つ人間ばかりだった。

 

日守家当主 魔術師 日守秋星

当代の当主。魔術師で広く浅く魔術を習得しており、小ワザを得意としている。御年72歳

株等で巨額の富を稼いだらしいが、どうみても髪が生えて血色のいい臓硯である。

未だに慣れない。

 

日守桜夏

長女。一流のピアニストで音大の講師もしているそうだ。今年で26歳。指揮者の恋人がいるらしい。

関係ないが、ロアの記憶にピアノを練習していた記憶があった。

美人だが、なんかムラムラしない。

 

日守弥一郎

長男。魔術回路が多く、魔力量も豊富で魔術師として期待されていたが魔術のセンスが壊滅的

だったので諦めたらしい。現在は体を鍛え、プロ格闘家をしている。

なんとマジカル八極拳の使い手で俺も教えてもらっている。2年前の慎久より強い気がする。

「武術で根源に至ろうとした」遠坂永人の話をしたら、感銘を受けて冬木に出かけていった。

半年経っても帰ってこない。(;´Д`)

 

「因子の収集」とやらで出自の善悪の性質関係なく、優秀な血を入れてきたからだろうか。

才能豊かかつ癖の強い面々だ。

 

 

 

 

 

 




次回はギャグになりそうです。


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遠野家地下帝国

○月○日 晴れ

 

秋葉たちから手紙が来た。

何かもう何年もあってないみたいで寂しい。

皆からの手紙をまとめると、

 

秋葉は次期当主として帝王学を初めとして色々なことを学び始めたようだ。

慎久からの手紙には、遠野財閥の仕事等を教える内に父親としての尊厳が回復してきて嬉しいと

あった。何故か涙が出そうになった。

 

同じくして琥珀や翡翠もお手伝いさんの見習いとして働きはじめたらしい。

といってもバイトみたいな感じらしいが、原作通り琥珀は掃除が、翡翠は料理が苦手らしい。

というか性格が原作と全く逆のようだ。面白いなあ。

 

志貴は護衛として鍛え始めたらしい。

原作と異なり直死の魔眼がないけど、七夜としての体術を鍛えているので原作が始まる頃には

恐ろしいことになっているんじゃないだろうか?

むしろロア居ないから原作始まるのか?

いや始まっても直死の魔眼ないからネロ・カオスとか詰むけど

 

皆元気そうで嬉しい。

皆もそれぞれの将来に向けて頑張っているのだから、俺も頑張ろう。

 

 

 

 

△月三△日 曇り

 

先日、久しぶりに遠野の屋敷に遊びに行った。

やはりあそこも故郷なのだと感じた。

前の世界の家族は元気だろうか?

 

秋葉はまだ小学生ながら一人前に働いていた。

未だ慎久の補佐という立場だが文字通り高校生になる頃には女帝になっているだろう。

長男たる俺の責務を秋葉に押し付けているので申し訳ない気分になった。

ストレスが溜まっているようだった。

 

慎久はもっと悲惨だった。

秋葉が仕事を覚え、また扱いが悪くなっており、また琥珀にはひどく怯えられて、翡翠にも琥珀が怯えているので良い感情を持たれていないらしい。

何度も言うが自業自得である。

年頃の娘に、父親がその友人を無理やり手を出したと知られればこの扱いでもまだマシと言える。

・・・二人には俺愛用のサンドバックを送っておこう。

 

琥珀と翡翠は既に一人前といえる腕前だった。

掃除と料理の腕は原作通り、アレだが原作のように壊滅的ではない。

やはり先輩のお手伝いさんがいることがいい影響を与えているのだろう。

未だに二人の性格に違和感を感じるが、二人は癒しだ。

 

志貴は恐ろしく強くなっていた。

秋葉や皆を守ると気合を入れていた。

あまりに素直で可愛らしく、ショタに目覚めそうだ。

ただ音もなく背後に立ったり、、目の前で俺のサンドバックを一七分割しないで欲しい。

目標は俺らしいが勝てる気がしない。

 

 

 

□月三□日 曇りのち雨

 

慎久が壊れた!この外道!

慎久があまりのストレスに「外れた混血狩り」に積極的に取り組みだした。

身体も鍛え始め、軋間紅摩みたいな筋肉モリモリのマッチョマンになっており、

最近、遠野家は退魔組織から警戒されているようだ。

慎久を超えれない気がしてきた今日このごろ。

 

秋葉は本格的に仕事を手伝い始めた。

ただ言い方は悪いが、慎久でストレス解消が出来ない為、機嫌が悪かった。

拳の握り方を教えたらサンドバックのパシパシ叩き始めて、

満面の笑みで「ありがとうございます!兄さん!」と行ってきた。

今なら慎久にも勝てる気がする。

・・・ごめんなさい。無理です。

 

琥珀と翡翠はいつもどおり癒しだ。

琥珀は何か悩み事があるみたいだが大丈夫だろうか。

後琥珀に手作りの弁当をもらった。

旨え。

 

志貴は慎久と混血刈りに精を出している。

最近は慎久の強さに憧れているらしい。

本当の親子のようになっており、少し悔しい。

つい嫉妬からあんな「筋肉モリモリのマッチョマン」になるのかと意地悪を言ったら、

真顔で「あれは嫌だ。」と言われた。

慎久ェ・・・

 

 

 

●月●日 雨

 

もう駄目だぁ。おしまいだぁ。

久しぶりに会った慎久は普通のジェントルマンだった。

血色も良くどうしたのか聞くと琥珀に許されたらしい。

未だに怖がられることもあるが、罪を憎んで人を憎まずらしい。

マジ琥珀さん聖女やでぇ。

尚、それに伴い、秋葉と翡翠との関係も改善されてきているらしい。

本当に良かった。安心した。

傍から見ているとギコチなさはあるが彼と彼女は家族のようだった。

 

秋葉も血色がよかった。

最近関係が改善した慎久と混血狩りや死徒狩りでストレスを解消しているらしい。

「にいさん」と言いながら駆け寄ってくる様は萌える。

 

琥珀と翡翠も可愛い。

最近どうも翡翠は志貴が気になっている様子だ。

ニマニマしながら見ている俺は気持ち悪いと思う。

 

志貴はより強くなっており、「殺人貴」と呼ばれているらしい。

正直時代を先取りしすぎだろうと思った。

 

 

数週間後、志貴から手紙が届いた。

どうも最近悩みがあるらしく相談したいことがあるとのこと。

読んでみると、俺も頭を抱えた。

最近秋葉が家で鍛錬し始めたらしく、夜な夜などう見ても100キロ以上あるサンドバッグを殴ってはド派手に吹っ飛ばしており、護衛とか七夜の誇りどかどうでも良くなってきたらしい。

その際秋葉は「兄さん・・・フフフ」と不気味に呟いていたらしいが、兄さんというのが俺なのか、志貴なのかハッキリして欲しい。

別のtype moon作品の妹様を思い出してしまった。

 

追伸

先日、異能と体術、そいて魔術を組み合わせて「エスメラルダ式血凍道」を再現することに成功した。威力を試すため、照星さんに頼み込んで死徒討伐にいったが死徒が速攻凍りついて砕けた。

氷漬けのまま保持出来るよう、威力の調節が今後の課題だ。

強くならなければいつか片腕を妹に食われるかもしれない。治るけど。

 

 

 

★月●日 アンリマユ

 

久しぶりに帰ってきた弥次郎と話していると最近の遠野家の噂を聞いた。

最近は慎久と秋葉の二大当主の活躍で遠野財閥の規模が拡大している。

やはり原作と違い、慎久が存命だからだろうか。

また裏の世界では慎久が「どうあがいても絶望」秋葉が「赤い悪魔憑き」

志貴が「殺人貴」と呼ばれ恐れられているようだ。

噂ではいつのまにか音もなく切り刻まれてたり、身体が動かなくなって赤い何かにサンドバックにされたりして次の瞬間ブッ飛んだりするらしい。

あの家で普通なのは翡翠と琥珀、そして俺だけだと思う。

 

 

 

 

 




慎久以外もおかしくなってきた。
夢オチとか無理かなあ。

ちなみに普通とか言いながら、主人公は鍛錬で人外三人と互角にやりあっています。


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挫折と決意

 

 

迫り来る闇色の魔弾。

計三発のソレがわずかにタイミングをずらし迫り来る。

だがそれは常人にとって勢いのある投石程度の威力、常人を超える耐久力を持つ俺にとっては

牽制にすらならない。

無造作に右手だ払いながら、魔弾の影から迫り来る敵を見る。

 

ネチャア。

 

!?

右手に予想外の感触。

見ると払ったはずの魔弾がコールタールのように右手にへばりついている。

動揺しながらも分析。

 

-痛みは無し。特に変化も見慣れない。おそらく動きを阻害するものか?

いや、

 

自分なりに分析するも、迫り来る敵への注意を怠らない。

先ほど見たときのペースのまま、敵はこちらに手を向ける。

 

俺の注意をそらす意図だったのだろうが甘い!

俺も敵に爪を振るう。

振るった瞬間、指先から血液を刃状に硬質化させ、間合いを増やす。

 

殺った!!

 

そう思った瞬間、爪には空を切る感触。

敵は伸びた間合いのさらに手前で止まり、手を再び振るう。

 

ボア!

 

右手についてモノは本当にコールタールだったようだ。

瞬間的に着火し、一瞬で俺の全身が炎に包まれる。

ガガガガッ!

反射的に呼吸してしまい、喉と肺を焼かれる。

 

熱い!

 

全身を燃やされ、また一瞬で火が消える。

どうやら火の勢いが強い分、時間は短いようだ。

地獄のような痛みの中、意地だけで後ろに下がりながら敵を睨む。

そこには・・・

 

日守家当主 秋星秋星が厳しい表情で再び腕を振るっていた。

 

 

 

いつもどおりの俺の鍛錬。

通常、いくら魔術の鍛錬が命懸けといっても、こんな殺し合いはしない。

なのにこんなことをしている理由は簡単。

俺の魔術の技量が既に日守秋星を超えたからだ。

 

ここで日守秋星の名誉にために注釈を付けるが、日守秋星は魔術師として凡才ではない。

確かにその技量は一般的な魔術師程度だが、他に類を見ないほど幅広い魔術を習得しており、

手数の多さならば型月世界屈指の魔術師だろう。

では、そんな彼を超えたというのは何故か?

それはさらに簡単な理由だ。

 

俺の魔術に対するセンスも破格だったが、それ以上にロアの記憶がさらに破格、いやチートだった。

 

以前も述べたが、俺にはロアの魔術の知識、擬似的な魔術行使の感覚がある。

通常は長い期間をかけて、魔術に対する感覚、そして術式を組み上げるための知識を

身体と魂に覚え込ませるのだが、俺の場合はロアの記憶により一度それらを学ぶだけで「思い出し」その上で自分なりにアレンジすることが出来るのだ。

例えるならば巨大な基礎が既に出来、必要な資材や道具を用意された上で城を建てるようなものである。

そんな恵まれた状況の結果、俺は魔力量の関係で出来ないものを除き、ロアの魔術を大体習得することに成功した。

 

おっと話が脱線した。

とにかくで俺は魔術の技量において日守秋星を超えた。

その結果、

「じゃあ今度はいざという時実践できるようバトルしようぜ!」

という流れになり、冒頭の戦闘につながる。

 

あの後はコールタール燃焼時に生まれた煤や水素を錬金→爆破のコンボをくらい大怪我を負った。

その前は空気中の水分を戦闘中長い時間かけて錬金し、いつの間にか吸い込まされた上で体内で結晶化。俺の両肺と心臓がアボンした。

 

今のところ、秋星に対して勝ち星がない。

魔術の腕も、身体のスペックも俺が上で異能まであるのに勝てない、ということは俺はそれらの能力を使いこなせてないのだろう。

最近は実家の連中が常識外な進化をしてしまい、焦りも感じるし、俺も自己の方向性を今一度考え直して強くなろう。

 

目指すは打倒TOONO!!・・・は無理でも秋星を余裕で倒せるようにはなりたいなあ。

 




主人公の起源は「再現」
その為、オリジナルを生み出すのは不得意ですが、既存のものを習得し「再現」するのは得意です。
またそれらを組み合わせるのも得意です。
本編ではロアの知識からロアの魔術を「再現」しているため異常な成長を遂げているように見えますし、また異能と魔術を組み合わせた「エスメラルダ式血凍道」を編み出したことで秋星は才能を感じていますが、それもあくまで憑依前に漫画で見たものを「再現」しているだけです。

魔術に対する理解力や制御能力などは天性のもので十分チートですが、「再現」に関しては作者がオリジナルの技を考えるのがメンドくさいので既存の技をパクるために何かそれっぽい理屈をつけただけです。
それっぽいでしょう?(笑)








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四季 TOONO化

久しぶりに投下


俺は先日から、秋星より魔術の「実践的」な鍛錬と称して黒焦げにされたり体の内側から吹き飛ばされたりされているワケだ。

 

そうやって身体を破壊され、直していく内に俺は一つの変化に気づいた。

僅かだが治癒力の強化、そして血液量の増加見られたのだ。

 

前者は言葉通り、治癒力の強化。長期間にわたり、何度も身体が破壊され続けることでいい加減それに適応してしまった結果なのだろう。

後者は血液の生成量が増えたとかではなく、単純に身体の内部に予備の血液を蓄える臓器が増えていた。これは鍛錬や怪我等で大量の血液を消費していたからだろう。元々血液の生成量は一般人のソレよりもかなり多かったのだが、それでは消費に追いつかず気絶することもよく有った。

その為、身体が学習して新たに予備を備える機能を拡張したと考えられる。

俺が注目したのはこの機能の強化および拡張という現象其のもの、そしてその発生に新たな異能が関係していたことである。

 

以前にも述べたが、俺の異能は2つある。

傷ついた肉体を再生させるのではなく、その部分がなくても生きていけるように作り替える「拒死性肉体」と他人の肉体を摂取し、自身の肉体に還元することが可能な「共融」の発展型である接触融合呪詛「蝕離」である。

今までは、それら2つに共通している「自身の肉体を自在に動かす」という性質を応用して血液を操作・変質させていたのだが、今回その範囲が無意識であるが肉体全体に及んでいた。

厳密に言えば、新たな異能ではなく、異能の進化なのだろうか?

 

まあそんな些細なことは置いておこう。

それに気づいた俺は「実践的」な鍛錬を行いながら、身体を治す際に意図的に

「みんなが考える俺tueeeな主人公」・・・じゃなくて「常に最強の自分」をイメージして

直してみた。

またここ最近体術や魔術も目に見えて上達することがなくなりマンネリ気味だったので俺はその状況を打破するために異能の習熟、身体の改造に積極的に時間を割いた。

そして意識的な身体の破壊と再生および改造の結果、俺はTOONOと名乗る為の最低ライン(自分で考える)をクリアしたのだ。

 

ではその後約1年間(実質生まれて12年?)の変化をダイジェストで紹介しよう。

 

・鍛錬を始めてひと月、全体的に身体能力が上がってきた。ただし、意図的な筋組織や骨組織の進化の反動か常に空腹だった。おそらく変化が終わり、安定してくればそれ相応に落ち着くであろう。

 

・半年目、ここまでの期間、身体能力及び治癒力・柔軟性等の強化及びそれに付随する細胞そのも

 のの変質を妄執的の行った。

 個人的には某アサシンのように腕を伸ばしたりしたかったが我慢した。

 そのおかげか予定通りの身体機能やらなんやらを得たのだが、相変わらず空腹がひどく、見た目

 以上に体重が重かった。

 

・6ヶ月目、俺は失敗した。

 身体機能を上げすぎて燃費が超悪くなった。全力で戦闘を始めた場合3分しか持たなかった。

 どこのウルトラマンだ、俺は。

 

・7ヶ月目、かなり調整してみたが全力戦闘は7分と少しが限界だった。

 この先時間制限ありの戦闘者とか、噛ませ役かラスボスだけどその弱点を突かれて倒される

 ビジョンしか見えてこない。

 

 全力で動けないので、血液の操作を行っていたところ遠隔操作が5m位なら可能になった。

 また精密操作や固体化及び気体化等の血液の変質が可能となった。具体的には気化した血液を

 対象の肺に満たし、爆破または固形化による破壊が可能となった。以前やられたアレだ。

 

・8ヶ月目、発想の転換。

 今までは「どれだけ燃費を良くするか」というテーマで肉体改造を行ってきたが発想から

 「エネルギーが足りないなら他所から持ってくればイイじゃない」というテーマにシフトした。

 ということで外部ENタンクについて構想をまとめてみる。

 

 脳内wikiことロアの知識、そして俺の知識を総動員してどういったENタンクを作るか考えて

 みた。オーソドックスに遠坂家の宝石が思いついたが、俺はあまり「転換」の魔術は得意では

 ないので貯蔵できる魔力には限りがある。後金欠のイメージがあるのでボツ。

 ※一応、四季は遠野財閥の御曹司です。

 

 そこで俺は自らの血液そのものを使用して純粋に生命力そのものを体内に貯蔵する方式を取った。

 俺にとって血液には特別な意味がある。

 俺の異能は内界に干渉するタイプであるため、最もイメージしやすいものは俺に

 とって傷を癒し、武器にも鎧にもなる血液なのだ。

 また俺の魔術との親和性が高いことも重要である。

 俺の魔術のトリガーは「血液を循環させるイメージ」だ。人によっては「銃の撃鉄」

 「心臓にナイフを刺す」「回転」だったりするがおれにとってはやはり血液に直結している。

 他にも肉体改造や異能の行使により、俺の血液は俺の生命力に恐ろしく親和性が高くなっている。 そのため、特に「転換」しなくても理論上エネルギーの貯蔵は可能なのだ。

 

・10ヶ月目、遂に、遂に出来た!!みwなwぎwっwてwきwたwwww

 失礼。徹夜明けのテンションだ。忘れて欲しい。

 何度も血液を爆発させたが、・・・同時に強化により頑丈になった身体も爆発したが、

 遂に血液中に大量の生命力=精製前の魔力の貯蔵に成功した。 

 作り方は簡単。

 

 ①大量の血液を用意します。

 ②大量の生命力を込めつつ、異能で圧縮、結晶化します。

 ③ね、簡単でしょう?

 

 うん、割と簡単そうだけど俺以外はまず無理だろうな。

 だって魔力ならばちょっとした魔術師ならモノに貯めるのは可能だが、魔力に精製する前の

 生命力ならば話は別。まっとうな人間にはまず無理だろう。

 純粋なエネルギーな分、効率もいいし、魔力と同様に生命力というエネルギーは当人の血液や精液などに体液に溶けやすい性質を持っている。

後俺魔力は普通だけど、生命力は文字通り人外レベルなのも理由の一つ。

 もう一つ。それは俺の特別性の血液。俺の生命力と根源を同じものとするため、生命力が溶ける、 溶ける。また異能により血液も大量生産で生成も効率良くできるので、ENタンクのコスト削減に利便がいい。

 以上により、外部ENタンク「血晶」が完成した。

 良い点として、俺にとって破格のENタンクであること、いざというとき血液の補充出来ること

 悪い点として、俺以外に使用できないどころか害にしかならないこと、重量がかさむこと

 圧縮するだけで体積は減るが、重量は変わらないからね。

 

 12ヶ月目、順調に「血晶」を生成している。またこれまでの血液操作・変質の結果、

 血液に毒性や酸性を持たせることに成功した。

 

 尚、人間の形を保ったままで得ることのできる性能面で限界を迎えてしまった。

 俺の肉体は異能により強化しているが、その仕組みについては物理学や生物学に基づいた、

 いわゆる現実的な仕組みなのだ。

 ちなみに慎久の書斎にあった医学書、ロアがネロ・カオスと「創世の土」開発の時に学んだ

 生物学を参考に、また実際に異能で昆虫や動物を取り込んで分析し、その機能を再現してみた。

 今後はジャングルの奥地に行ったり、バグズ手術を受ける必要があるかもしれない。

 

 

 とりあえず、肉体改造は一旦終了。

 慎久からも呼ばれているので一度実家に帰ろうと思う。

 なんでも混血として、とある厄介事を調査しに行かなければならないらしいが忙しい上に

 ちょうどいい人材がいないらしい。

 バイト代高いといいな。

 

 

 追伸、刃牙は通常の理論では再現できなかった。

 

 



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四季 働く

直しました。


お久しぶりです。

四季です。

 

現在、新幹線や車を乗り継いでとある地方都市に向かっている最中である。

俺は窓から背後に流れていく風景を尻目に手元の書類に目を落とす。

 

「冬木市」

表向きはどこにでもある周囲を山と海に囲まれた自然豊かな地方都市である。

市の中央を流れる未遠川を境界線に東側が近代的に発展した「新都」、西側が古くからの町並みを残す「深山町」となっている。

しかし裏の世界では表と違いその道のものからはかなり有名な土地である。

冬木市は日本でも有数の霊地であり、根源に至るほどではないが「あと一押し」というレベルの歪みを抱えており、また質の高い霊脈が通っている。

またそれほどの霊地でもあるにも関わらず魔術協会や聖堂教会に目を付けられ難い極東の地であり、そのため魔術師の大家アインツベルン、土地の管理者である遠坂、また令呪の作成に関わるマキリの御三家と呼ばれる魔術師たちにより冬木市は聖杯戦争という大魔術儀式の舞台となっているからである。

 

そうあのfateの舞台としてビルがデモリッションされたり、連続児童行方不明事件が起きたり、冬木の大火災、自衛隊の戦闘機墜落、アンリマユなど錚々たる大惨事に見舞われる冬木市だ。

俺にとっては生前?によく読んでいた様々な二次創作の舞台となっている有名な場所であり、現在俺はその場所に向かっている最中である。

 

俺が慎久に頼まれた仕事とは「第4次聖杯戦争」の監視役である。

説明すると、冬木の聖杯戦争は魔術師協会と教会の主導で毎回監視、隠蔽が行われる。

しかしいくら魔術師のオーナーがいるとは言え、広義的には日本の一都市で遠野も含めた日本古来からある退魔組織や混血の勢力下であることも事実なのである。

また事件のもみ消し等の関係上、日本の勢力と魔術師協会、教会他様々な組織の監視役が公式、非公式問わず協力しているのである。

 

ちなみに俺が選ばれたのは、追放されたとは言え混血の大家「遠野」の長男であり、

それなりの戦闘力を持っているため儀礼的な意味でも戦力的な意味でも都合が良かったためである。

実際、偶に英霊同士の戦いに巻き込まれたり、各勢力の暗闘が発生して死亡率が低いとは言えない笑えない状況らしい。

実のところ、この話が来たとき俺は断ることは出来た。

しかし俺にとっていくつかメリットがあるのでこの仕事を受けてみることにした。

メリットというのは

 

① 英霊同士の戦いが見れる。

②ケイネス先生の魔術工房(笑)の跡地やアインツベルン城、雨竜の実家から礼装や魔術の

資料を入手できる可能性がある。

② 将来の大物ウェイバーとか遠坂凛などとコネを持てる。

 

① ③については特に問題ない。

②については監視役の仕事上あまり干渉できないのだが雨竜に関してのみ大手を振って干渉できるので後で暇を見つけては可能な限り誘拐を防いだり、雨竜家の資料をあさろうと思っている。また冷酷なようだが遠坂葵や桜、間桐雁夜とは別に知り合いでもないのでわざわざ虫ジジイと事を構えるつもりもない。下手に干渉して予定外にアンリマユが誕生されても困るし。まあなるようになるだろう。

そもそも監視という仕事で来ているため聖堂教会、魔術師協会のエージェント達、俺他数人の退魔組織の連中で緊急時の対応や顔見せなどの打ち合わせがあり、意外と仕事以外を行う暇はないのだ、俺は。

 

夕方、打ち合わせを終え、ほかの連中とも別れて俺は冬木郊外にあるホテルに戻っていた。

言峰神父の話だと、既に全部のサーヴァントが召喚されているらしい。

既に原作知識から埠頭、教会、遠坂家、間桐家に使い魔と監視カメラ等を設置しており、コーラとポップコーンを持って画面の前でZERO冒頭のサーヴァント集結を今か今かと待っている。監視役としてのお仕事なんだからなんら問題はない。

 

ちなみに協会、教会共にかなり遠距離から魔術を使用して監視している。

こいつら馬鹿だろうか?

監視カメラとか衛宮切嗣みたいにスコープで覗くとかすればもっと安全に監視できるのに。

何故魔術に敏感なサーヴァント達が多くいる鉄火場を更に刺激するような真似をするのか。

俺には理解できない連中である。

まあ自己責任だし良いか。

 

定期連絡を行い、部屋の中にこもって魔術と異能の鍛練をしつつダラダラして翌日の深夜。

埠頭では神話の戦いが再現されていた。

踊るは二本の槍のようなものを振るう美丈夫。受けるは青と銀の女騎士。

そのひと振りはアスファルトを切り裂き、当たらずともその余波だけで周辺に積まれたコンテナが吹き飛ぶ。

そんな人間が触れれば一瞬で肉塊になり果てる斬撃の応酬の中、二人の騎士はお互いを称え、微笑を浮かべながらさらなる斬撃を繰り出す。

 

俺はその光景を使い魔越しに注視し・・・VHSに録画していた。

だってZEROの序盤の名場面ですよ?ファンならば当たり前ですよね?

しばらくの間、俺は目をキラキラさせながら事態の推移を見ていた。

原作とまったく変わらない流れにホッとしていたのだが、俺は二つの事柄に意識を持って行かれてしまった。

 

一つ、英霊の動きが意外と見えること

流石に戦いの場に参加していれば厳しいだろうが、カメラ越しに落ち着いて俯瞰している分には彼らの超人的な戦いをなんとか認識できている。

正直駆け引きとか、技術とか全く分からないが凄いというのだけは分かる。

VHSも取れたし大きな財産となるだろう。

 

二つ、令呪の分析ができた。

打ち合わせの際に言峰神父の令呪を見た時からロアの記憶を元に分析していたのだが、普通に仕組みが理解できてしまった。おそらく分割とかも可能だし、その気になれば令呪擬きが作れると思う。

あれ?間桐の家の存在価値が・・・いやゾウケンとか百害あって一利なしの害虫だし、真面目に潰すか?

 

 

軽く原作破壊のメリットとデメリットを考えていると、いつの間にか金ピカが出てきていた。そこからの推移も原作と特に差異もなく進み、埠頭での戦いは終局を迎えた。

俺はそれを確認すると録画したVHSをしまって上着を着て、鏡の前に立つ。

鍛えているためか、それとも混血のせいなのか12歳という実年齢よりも年上に見える

大体15歳程度だろうか?

まあ仮に15歳だとしてもこんな深夜に外出していれば補導待ったなしなのだけれど。

俺は認識阻害の魔術を自身にかけて窓からこっそりと外出する。

 

さあ楽しい楽しい仕事(隠蔽)の時間だ!!

 



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雨生家お宅訪問 意外な発見

ガス会社は犠牲になったのだ。

聖杯戦争の隠蔽、その犠牲にな・・・。

 

冬木の聖杯戦争はアレから原作通り推移した。

キャスターを除く全サーヴァント集合からのギルガメッシュによるGOB(ゲートオブバビロン)によって埠頭はお釈迦になってしまった。

各陣営が退散して、寒風吹きすさぶまっくらな港。

そんな場所で今から俺たち隠蔽班のお仕事である。

ボコボコの路面を魔術で復元し、コンテナなどの被害を偽装し、それらの原因を冬木市のガス会社に被せる。

それらの仕事を12時ころまで続けて、やっとこさホテルへ帰宅。

さあ今から熱いシャワーを浴びて疲れを癒そう!

というところで魔術師殺しによりホテルの爆破。

再度俺たち隠蔽班は集まって偽装。

再度冬木市のガス会社には犠牲になってもらったのだが、協会・教会・退魔組織の衛宮切嗣へのヘイトがヤバい。

少し想像してみてほしい。

聖杯戦争の参加者がやりたい放題した後始末を終えて、さあ寝ようかとしたところへホテル爆破である。偽装は勿論、大勢のホテル関係者への暗示など地獄である。

・・・さらに深夜4時帰宅したところでキャスター陣営の一般人への誘拐祭り。

俺(とその他陣営)の怒りが有頂天である。

 

「「「ぶっころ」」」

 

俺たちからの圧力により、原作よりもかなり早くからキャスター陣営討伐の動きが始まった。

 

 

 

とりあえず言峰神父がシレっと各陣営を焚きつけているころ、俺は一足早く雨生君の実家を見つけ出し侵入していた。

でもアレだよね。

願望器たる聖杯を根源への探求にしか興味のない正統派魔術師たる遠坂時臣に獲得してもらい、世界への悪影響の可能性を低減する。

まあ納得できる部分もある反面、他の参加者からしたら激怒確定な上に遠坂時臣なら大丈夫っていう判断基準が言峰神父の主観でしかないという時点で話にならないよね。

そもそも本気で問題ないと思っているなら利害が一致している他の教会関係者にも協力を仰ぐべきだろうし。

していないということは一応後ろめたいことをしている自覚くらいはあるのだろう。

まあ何を言いたいかというと遠坂陣営を有利にしたいとはいえキャスターの情報を秘匿して一般市民の被害を増やし、さらにその対処で俺の睡眠時間を削る聖職者((笑)なんて死ねばいいと思う。

あ、ケイネス先生に殺される予定だわ。

 

 

一般人の雨生君の両親に暗示をかけて雨生宅を調査したが特に魔術の匂いのするものは発見できなかった。そこで次に同じ敷地内にあった倉を捜索したところ普通にミイラを発見し、俺はすわトラップかと焦って構えてしまった。

唯の死体だった。

・・・そういえばうっすら思い出してきたが、雨生君は自分の姉を殺害していた気がする。

よく見るとミイラも女性っぽいし間違いないだろう。

 

「・・・家の倉に娘の遺体が隠されているのに気づかない両親の愚かさを嗤うべきか、隠し通している雨生君の腕前を褒めるべきか・・・。まあ後者ということにしておくか。」

 

しばらく倉の中を探し回るが召喚に関する資料と第二次聖杯戦争に参加したと思われる雨生君の祖先の手記と微妙な物しか発見できなかった。

 

「ん~?」

 

どうにも俺の勘が反応している。

仮定であるが、もしも雨生君の先祖がかつて聖杯戦争の参加者ならばそれなりの魔術師であったはずだ。第四次の雨生君やあり得るかもしれない未来の衛宮士郎など魔術に一切かかわりがない存在のほうが稀有な例外なのだ。

とするとこの蔵には魔術関連のモノが少なすぎる。

誰かに奪われた?

それにしては雨生君の一族は健在だ。

今はともかく昔はそれなりに魔術回路が備わっていたはずなので、魔術を使えない魔術師(肉体のみ)など他の魔術師の格好の研究資材である。

逆説的に雨生君の一族が無事というのは些か可笑しい。

 

「っとすると・・・水よ。」

 

俺は魔術により空気中の湿気を周囲から集めて水球を作る。

そしてそこに俺の血液を混ぜた上で蔵の床へと垂らす。

水球は床に落ちると徐々に範囲を広げ、十数秒ほどで床を覆いつくした。

 

「・・・見っけっおお!魔術トラップか!・・・解除。」

 

すぐに魔術的に隠蔽され、またその隠蔽術式に干渉された場合、蔵毎爆発するという古き良きお約束を踏襲した罠が駆けられた地下室を発見した。

 

「爆発落ちなんてサイテー。」

 

俺はそのまま術式に干渉してオーナー権限を奪い取る。

中々独創的な術式構成で大変だったが、流石はロアだ。

彼の知識を使えばなんとか解除できた。

術式の解除と共に床の隅に扉が開く。

 

「・・・!?ああこりゃあ・・・原作の雨生君が()()ジル・ド・レェを呼び出したのも納得だわ。」

 

埃っぽい隠し部屋には様々な魔術的資材が所狭しと並べられていた。

その質・量ともに中々のものだ。

そして俺はそれらを調べた結果、雨生君がジル・ド・レェを呼び出せたのは彼本人の破綻した人格故にだと思っていたがどちらかというとその血筋が原因なのではないかと思った。

 

「象牙の書・・・写本か?なんでこんなところに?」

 

どうやら雨生君の祖先はかなりゲテモノ魔術師だった可能性が高い。

プレラーティとかそっち系の。

 

・・・どう考えても厄ネタじゃないですかやだー。

 

 




今更ですが主人公はFGOを欠片も知らないのでクトゥルフ神話自体はデモンベイン経由で知っている程度です。
つまりフォーリナーとか、鉄棒ぬらぬらとか存在自体知りません。


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隠蔽ってどうやるんですかねえ(震え)

「よし他の連中にも連絡しよう。」

 

あれから価値のありそうなものは根こそぎ確保して俺の拠点へと運び込んだ。

ちなみにそこは遠野の名義で隣町に確保した古い洋館で一応俺の工房としている場所である。

象牙の書?あんなSAN値が減りそうなもの一切読まずに封印ですよ。

変な魔力を帯びてて燃えないので処分できないし。

若い身空で破滅したくないし、いやハヅキちゃんとかみたいなドエロリ精霊が出るのなら片目くらい・・・いや落ち着け。

 

 

残りの処分を後続の部隊に引き継いで帰宅。

しばらくしてキャスターの拠点をライダー陣営が補足、襲撃したとの連絡が来た。

残念ながらキャスターとそのマスターは不在(しってた)だったが、しばらくして帰還した彼らを補足。

現在は追跡中らしく、俺も含めて応援を頼まれた。

とりまキャスターやほかの陣営と争う可能性が高いので完全装備で向かうとしよう。

念のため、血晶は三つほど持っていくとしよう。

 

 

小林いぃぃぃ!!

そして仰木いぃぃぃ!!

巨大海魔とバーサーカーのせいで一機約120億円の戦闘機2機がぶっ壊れた・・・。

そりゃあ見事に。

コレ隠蔽ってどうするんだよ・・・。

流石に戦闘機の墜落にガス会社の不備は無理があるし・・・。

ま、まあそこらへんは偉い人に考えてもらおう!

ボク下っ端だからよくわからない。

 

 

さて現在は未遠川にて巨大海魔との戦闘である。

てかもうケイネス先生起源弾されて更に聖杯問答でのセイバー虐めが終わった後なのか。

まだ本格的に始まって3日しかたってないのだが早すぎませんかね?

 

・・・話が脱線したが現在我ら隠蔽班は茫然自失である。

大体みんな先ほどまでの俺と同様に戦闘機の値段を考えて真っ青になったり、巨大海魔を大勢の市民が目撃したりしている状況である。

なお、俺も含めて「これどうやって隠蔽しろっていうんだよ・・・」と死んだ魚(きりつぐ)のような目をしている。

あ、雨生君が狙撃されてキャスターがエクスカリバられた。

物ごっつい派手かつ目撃者多数だが今更その程度誤差の範囲である。

むしろ俺も含めて隠蔽班の連中はソレを為したセイバーと衛宮切嗣へ拍手喝采の嵐を送っている。

やったね!切嗣。俺たちのヘイトが減ったよ!

今君は「正義(俺たちの)の味方」だ。

 

 

絶望的な隠ぺいを終えて次の日の朝。

俺は今回の件を出汁に大きな災害が起きた時の避難計画や隠蔽計画などを隠蔽班の上に提出した。通常ならば一笑されそうな規模に対しての計画であったが、今回の大海魔やホテル破壊の件で割と真剣に閲覧された。

とりあえず聖杯解体を上手い事実施するためにも原作通りことを進めるつもりなのだが、この計画で少しは被害者が減れば幸いである。

 

ブランチを食べていると

言峰神父が銃殺されているのが発見された。

どうやら定時連絡がないので不審に思った教会の人間が発見したらしい。

 

「いよいよ大詰めだな。」

 

言峰神父が死んだということはそろそろランサー陣営が墜ち、バーサーカー、ライダーとどんどん各陣営が敗退していくはずだ。

そして、その後は冬木市民会館での最終決戦が始まるのだろう。

さて俺としては将来のためにこのタイミングで動くべきだな。

ケイネスについてはエルメロイ2世誕生にもかかわるかもしれないからウェイバー君に任せるとして、俺はウェイバー君に恩を売る方向で動くか。

雁屋については冷たいようだが特に旨味もないし放っておこう。

恐らくすでに廃人だろうから助けても意味がない。

よっしゃ!とりあえず冬木大橋は何が地雷なのかよく分からない英雄王がいるからスルーして、マッケンジー夫妻のところに行くか!

原作でも生存していたから大丈夫だろうけど一応聖杯の泥に巻き込まれないように結界を張ったり準備しとこう。

後は・・・直接顔を合わせられないのは残念だが、ウェイバーにはメモで残しておいて俺の存在だけでも知っておいて貰えばいいか。

なぜなら冬木市民会館に行かなければならないからだ。

監督役の言峰神父が何者かに殺害された上に、決戦の場所。

そして其のうち聖杯の泥などという異常が発生する場所でもあるのだ。

そんな場所を放っておいてマッケンジー宅に居たら流石に不信すぎる。

最悪は査問に掛けられて、何も関係ない大海魔とかの責任まで取らされかねない。

一応まじめに働いているポーズはとっておくとしよう。

 

「まずはマッケンジー宅へ。」

 

俺は魔術で更に強化した混血の脚力で大地を蹴る。

コンクリート舗装が円周上ひび割れたが見なかったことにして俺はそのまま跳んだ。

一瞬ごとに風景が後ろに流れていき、数分後にはマッケンジー宅のチャイムを押していたのだった。

 



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第四次聖杯戦争終結(巻き風味)

魔導書をセラエノ断章から象牙の書に変更しました。


原作通り大火災が発生した。

隠蔽班も大多数が殉職、きっといまも対処に右往左往しているだろう。

ただし俺が提出した書類などのおかげで正確には分からないが恐らく原作よりも死傷者が減っているようである。

偽善ではあるが一人でも多くの人が生きているのならばうれしい限りである。

 

さてそんなことを胸の内で語りつつ俺は現在何をしているか?

答えは簡単。

間桐家、すなわちマキリへの襲撃である。

なぜこうなったのか?

説明すると意外と簡単なことである。

大火災発生。

どさくさに紛れてアインツベルンとかケイネス先生の魔術的資産をネコババ出来ないだろうか?

→既に協会も動き出しており予想以上に警戒が強い、またはすでに確保済みのため無理。

→マキリは襲撃してもどこからも文句が来ないし、今なら聖杯戦争終わって油断してるのでは!?

→急な悪寒と共に意識が遠のく

→意識が戻ると間桐の地下室で火の海now!

 

どういうことだ!?まるで意味が分からんぞ!?

いやどうしてこうなったのか記憶はあるのだ。

確か・・・俺の目の前に象牙の書が浮かんでて・・・ダウトっ!!

原因が分かった。

俺はクソ魔導書によってSAN値が尽きて一時的発狂状態に陥っていたのだろう。

そして一時的に正気を失い、完全に反転した俺はそのまま間桐家へカチコミ。

魔術で間桐家の魔術的防衛処置をすべて無効化、地下室にて異能を今までと桁違いのレベルで発動させて全身をボロボロにしながらも共融により蟲共を喰らって肉体を補填しつつ、更に鬼の血がなせる業か自滅前提で炎を発生させて地下室そのものを火の海にかえた。

 

「そしてこうなるのか・・・。」

 

そして最後に俺から隠れ逃げようとしたゾウケンの身体の大半を燃やし尽くし、半死のアイツを象牙の書の力によって俺の使い魔にしてしまった。

ヤツは現在魂だけで俺の肉体に囚われているような状態で奴の魂に蓄えられた知識や技術が俺に流れ込んできている。

流石はゾウケン、腐っても鯛というべきか、方向こそ違えどロアに勝るとも劣らない魔術の知識である。

その優れた英知を全て絞り出しヤツそのものは完全に自意識を奪って俺の使い魔とした。

魂すらも俺に囚われているが特にこれ以上ジジイを苦しめるような趣味もないので眠らせた。

まあ、いつか俺が死ぬような目にあったとき、俺の致命傷を肩代わりして貰うその時まで俺の中で眠り続けてもらうとしよう。

 

意図したものの全く俺の意志とは関係ない過程を経てゾウケンを倒して使い魔にしてしまった。

・・・うん、どうしよう?

 

 

 

冬木の大火災が発生して、言い換えるならば第四次聖杯戦が終了して半年が経過した。

俺はというとあれから表向きには日守家に戻り、その後日守の分家として聖杯戦争時に使用した隣町の洋館を拠点として独立した。

その際に遠野四季から日守四季へと名前を改めて、正式に遠野の一族から除名されることとなった。

次に裏側ではクトゥルフ的手法によって使い魔にしたゾウケンに引き続き間桐を支配させて俺は基本的に表に出ず間桐の地下室を正式に俺の工房へと改装した。

何しろ工房としてみる限りは良質な場所であったし、同じ水属性魔術師の工房なのでよく俺に馴染んだ。

気味の悪い蟲も俺か、それとも魔導書の影響か形状が変化した。

なんというか男性器に似たR18的な形状が外宇宙的な意味でのR18G的な形状に変化してしまった。

これについてはまた詳細に説明する機会を設けるとしよう。

次にゾウケン。

命令を与えておけば今まで通りに思考し振舞うことが出来るが、命令しなければずっと座ったまま身動き一つせず置物のように停止している。

魂を俺に握られているので基本的に自由意志などなく反逆の恐れもない便利な駒扱いである。

反面、存在の根本を俺に抑えられて創造性や自律性が損なわれたが魔導書の魔力炉からの供給によって人食いの必要性が激減した。

まあ完全にゼロではないので偶に外道に堕ちた魔術師でも食わしとけば維持する分には問題ないだろう。

最後に間桐家と他の面々。

間桐鶴野と慎二は家を出て正式に一般人になった。

一応連絡を取り合っているが、生存確認程度である。

なお俺と間桐家の現状は鶴野には教えている。

最後に間桐桜は日守と間桐を行き来してまっとうに(?)魔術師としての道を歩ませている。

本人が拒否するのなら無理に魔術を教える気はなかったが、どうせこのままではほかの魔術師にホルマリン漬けにされるだけと説明して俺(ゾウケン)や日守秋星に魔術を師事している。

偶に遠野に連れて行ったりしたが琥珀、翡翠、秋葉、桜の四人が並んでいる風景は原作を知っている者からしたら、なんというか…名状しがたい気分になる。

 

他の面々は大体原作通りで武家屋敷には衛宮切嗣と士郎が住んでいる。

ウェイバー君とはコンタクトがついた。

大火災時に全裸の英雄王を遠めに見ながら被災者や彼を救助した際に初めて顔を合わせたのだ。

マッケンジーさんについての説明とケイネス先生の顛末を教えて連絡先の交換を行っただけであるが、まあ恩も売ったしファーストコンタクトとしては及第点だろう。

 

遠坂については原作と少し様変わりしている。

遠坂時臣は原作通り亡くなり、遠坂葵も廃人となった。

遠坂凛は原作通り気丈に母親の介護や魔術師としての鍛錬を行っているようだが原作よりもかなり経済状況が良いいようだ。

それは以前遠坂を訪ねていった日守弥一郎の影響である。

弥一郎は生前の時臣と親交を結んでいたようで独りになった凛の世話を何かと焼いていた。

どっかの愉悦神父と違い真っ当な人格者であるため二束三文で土地を売ったりせず素人ながらちゃんと資産運用をしていたからだろう。

原作とは比べ物にならないほど経済状況はいいようだ。

・・・まあ大半の資産は格安でゾウケン(俺)が買い取ったので、この事実を知った時の彼女のリアクションが楽しみでならない(愉悦)。

一応俺も弥一郎が旅に出る前に挨拶を行ったが、せいぜい自身の恩人の親戚で隣町を拠点にしている新米魔術師という認識だろう。

 

色々と思考していると脳裏に頭痛のような信号を受け取る。

俺は名前を遠野四季から日守四季に改めた。

正式に遠野から除名された結果、色々な方面からお客さんが来るようになったのだ。

遠野は一時よりはマシだが結構恨まれてるだろうし、現存する力ある混血とか魔術師連中からしたら恰好の研究対象だもんね、しょうがないネ。

今回も中々の実力者のようであるがロアの知識を基に俺が全力で構築した魔術工房で一部は魔導書により異界常識すら反映させているのだ。

例え封印指定でも殺せる自信がある。

・・・ホラコイツも変質した蟲に対処しきれず身体の自由を奪われた。

 

「さてまた侵入者を捕獲したな。魔術師か…どこぞの混血か…。まあ敵に対しては慈悲はない。奪えるものは奪って外道ならばゾウケンの餌にでもするか。」

 

まあ予想されたことだし敵対者は大概外道なので人道をあまり考慮せず対処できる。

奪えるものは知識はもちろん資産から、身体から、魔術刻印まで全てを奪いつくして有効活用してやろう。

逆に最近は質のいい生贄が多く来ることを祈るほどだ。

 

「クク、クハハハ、ハーハッハッハッハッハ!!」

 

これから侵入者から得られるだろう利益に心躍らせ、

間桐の地下工房に俺の嗤い声が響き渡る。

 

そしてそんな俺の嗤い声が落ち着いた頃、1階地上部分へと繋がる入口から

鈴のなるような可愛らしい声がかけられた。

 

「・・・あの、四季さんは小悪党っぽいので悪役ムーヴしても微妙ですよ?・・・正直少しキモいです。」

 

「アッハイ。」

 

ウチの桜ちゃんは声は可愛らしいけど辛辣です。

 




魔導書の封印がナチュラルに解除されました。
少し影響を受けていますが、強固な自意識でまだ大丈夫です。
ただしマイルールに抵触した相手(明確に敵対してきた相手)には一部名状しがたい外道行為の制限が解除されます。

ウチの桜ちゃんにはBBちゃんがインストールされ始めました。
計算式:桜+幼少時の虐待+外道風味小悪党系保護者+TOONO=BBちゃん


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時計塔にて

どうも遠野四季改め日守四季です。

最近は介護、エコ、PCなど元の世界でこれから発展する分野の株式を買い集めて大儲けしています。でもゾウケンやロアの知識があるからかやりたいことが多すぎて常に素寒貧状態だったりします。

魔術って金食い虫だね、本当に。

さて聖杯戦争から3年が経過して俺も15歳。

一応義務教育期間は学生も兼務していたけど、正式に遠野から出ることになったし本格的に魔術を鍛錬し始めようかと思う。そのためにも時計塔に留学しようかと考えているのだが俺には伝手というものがないことに今更ながら気づいてしまった。

普通は親や師匠なる存在がいてそういった存在から魔術世界への繋がりを引き継ぐのである。

しかし俺にとって師とは脳内wikiことロア先生の魂の記録なので馬鹿正直に説明なんかしたらホルマリン漬け待ったなしである。

そこで俺はかつて恩を売った彼、ウェイバー君に国際電話をかけることにした。

 

「・・・ハロー?ミスター遠野かい?用件は聞かしてもらったがどういうことか説明してくれないか?」

 

「やあウェイバー君。久しぶり。用件と言っても手紙に書いた通り俺の師はもぐりの魔術師でね?時計塔とかのことは聞いていたけどこの業界の伝手とか特別教えてくれないまま死んでしまってね。正直魔術を学ぶために時計塔に入りたいんだけど全然繋がりがないんだよ!あははは!」

 

「・・・なぜそこで笑うのか君は!・・・まあ私も君には恩があるし、今の私の立場なら一人くらい入学させることも難しくない。それ相応の金を払えるのなら君の箔付けに協力しよう。だが最低限の実力は示せるのだろうな?君の腕っぷしが強いことは知っているが魔術師としては君が初代、新興なのだろう?大体・・・・。」

 

それからしばらくウェイバー君の話を聞いていたが、どうにも俺が金持ちのぼっちゃんかつそこそこ魔術の腕が良いことで舐めた気持ちで時計塔に入って箔付けしたいと考えていると思われているようだ。

ついでにウェイバー君本人も時計塔内部に権力闘争でストレスが溜まっているようで、そんな時に俺から能天気と思われる連絡が来てご立腹らしい。

うん、気持ちは分かる。

気持ちは分かるが、それはそれとして俺が八つ当たりされる謂れはない。

 

「分かりやすい功績だオラァ!後今は遠野じゃなくて日守なんでヨロシク!!」

 

数日後、渡英して社畜みたいな顔したウェイバー君の顔を、終わりのクロニクル7巻並みの厚さのレポートで殴ったらグーで殴り返された。

 

 

 

 

渡英1日目

空港に到着した。

生憎の曇り空だが、それが逆に産業革命時の霧の都ロンドンという印象に重なる。

俺はタクシーに乗って住所を運転手に伝えると後ろに流れていく灰色の街並みを眺めながらこれからのことを考えた。

これから俺はフラット、イギリスでのアパートメントのこと、を借りて時計塔へ通うという生活スタイルになる。俺のこれからの住処になる場所は、都市の中心部からはそれなりに離れている場所で、更に近所にドルイドストリートという少し治安の悪い場所がある。

まあそのおかげで物件の規模の割に格安で借りることが出来たし、庶民派の市場なども近所にあるので個人的には満足している。

今日のところはフラットの片づけをして簡易的ではあるが工房を設置するとしよう。

そして明日は時計塔とウェイバー君に挨拶や手続きをして・・・とりあえずは現代魔術論学科に所属するかな。

 

因みに時計塔とは魔術協会における三大部門の一角でロンドンに拠点を置いている。

「時代に適応し、人類史と共に魔術を積み上げる事を是とした魔術師たち(比較的)」が多く所属しており他の部門よりも門戸が広い。

此処は三大部門の中では最も新しい、と言っても設立は西暦元年で現在は魔術協会総本部とされ、魔術世界における最大勢力でもある。

その為21世紀において魔術協会と言えばロンドンの時計塔を示すほどの権威があり、そこに所属することは世界中の魔術師たちの中で一種のステータスとなっているのだ。

また原作では「ロンドン郊外に位置する中世と近代の入り混じった街、四十を超える学生寮(カレッジ)と百を超える学術棟と、そこに住む人々を潤す商業で成り立つ」という巨大な学園都市と「大英博物館の地下に築かれたダンジョン」の二つの施設があるとされており、俺は主に前者で過ごすつもりだ。

前者の学園都市には、時計塔では必修である「全体基礎」──魔術全体の共通常識、類感魔術と感染魔術、地脈、マナ学など──を第一とした十二の学部に分けられ、以下「個体基礎」「降霊」「鉱石」「動物」「伝承」「植物」「天体」「創造」「呪詛」「考古学」「現代魔術論」の十二の学部の関連施設がエリア分けされて存在している。

また十二の学部それぞれが独自の権力、独自の自治区画を持ち、十二人の君主(ロード)に管理されているらしく血統やら格式やらが優先されるドロドロした権力争いを繰り広げているらしいので歴史が浅い処か俺自身が初代の魔術師一族なぞ血統至上主義の魔術師たちには基本相手にもされないだろう。

故にそう言った風潮が少なく、また原作で有名だったエルメロイ教室がある現代魔術論学科に俺は所属したいと考えている

 

 

なお後者は、前情報集めるだけでも実力の高い魔術師の個人的な工房や研究室が多くあるらしい。まあ本来の工房は自分たちの実家などにあるためサブ的な工房ばかりだろう。

(それでも恐らく危険度が天元突破しているだろうけど)

噂では工房のほとんどは地下にあり、下へ行けばいくほど狂気度が増すダンジョンと化しているとか、最深部には封印指定をされた者を閉じ込める『橋の底』と呼ばれる特別区画があり、封印指定された魔術師たちが幽閉されているとか、俺には破滅願望がないので好き好んで近づきたいと思わない。

 

 

渡英■日目

時計塔に所属してそこそこの期間が経過した。

生活や時計塔の授業にも慣れてきたが未だにイギリス料理にはなれない。

世界一不味いという噂に違わぬゲロマズな料理だったが、意外に旨い料理もいくつかあった。ただ全体的に素朴というか雑というか・・・なんというかシンプル過ぎる傾向がある。

まあこれには諸説あるがイギリスは元々作物が育ちにくい土地であるため新鮮な野菜などが手に入りにくくまた種類も少なかった。

その為、超絶素朴なものや保存を主眼に置いた素材の味や栄養素に恨みでもあるかのような物、あと牛肉料理が多い。

また英国の支配層にいた貴族たちの間には他の国と異なり質素な食事こそが尊ばれていた時代があった。このため料理が発展することもなく、上の者たちが質素なのに庶民の間で豪勢な食事がはやるわけでもなくどんどん料理の文化廃れていったのだ。

さて俺がここまで力説しているが、ぶっちゃけると一応良い所のぼっちゃんである俺の口には合わないものが多くストレスなのだ。(※日本有数の財閥の御曹司でした。)

騎士王が腹ペコ王にクラスチェンジするのも納得ですわ。

 

渡英■△日目

ウェイバー君のこと舐めてた。

未だ三級講師ながら彼の教えは非常に理解しやすく実践的で素晴らしい。

今まで俺の中のロアとゾウケンの現役のロードすら凌駕している魔道の深淵ともいえる知識はあった。だがやはり天才仕様というものであるため、俺のような凡人には馴染みにくい部分も多かったのだ。

だがウェイバー君の考え方や魔術構成へのアプローチは分かりやすく、例えるならPCのプリグラムに近いモノで、ピッタリと凡人たる俺の感性と先人の英知の隙間を埋めてくれるのだ。

その結果、渡英して1年も経たないうちに自分でもビビる位異常な勢いで魔術の腕が上達して「開位」を得た。

・・・ウェイバー君、いやウェイバー先生。教え子に位階を抜かされて悔しいのは分かるが人の顔を見るたびに舌打ちするのはやめてほしい。

一応は俺の評判はエルメロイ教室の評判にも繋がるんだぜ?

 

渡英△日目

日本から秋葉や槙久たちから手紙が来た。

変わりなく元気なようだ。

また最近は桜もよく入り浸っておりメイド服を着た服が同封されていた。

・・・ふむ大丈夫だとは思うが天然ジゴロの志貴には一応忠告しておくか。

ちょうど先ほど返り討ちにした何処かの派閥からの刺客たちがいる。

防音結界を敷いたうえで普段魔導書内に取り込んでいる蟲共の餌にしている最中だが、丁度いい。

刺客の血液を少し掬うと志貴へ手紙を書く。

 

『ウチの 桜 手を出す 秋葉の人形に 殺 』

 

志貴への手紙を懐にしまう。

血液なので文字が擦れてしまったが意味は通じるだろう。

わざと逃がした刺客には潜虫仕込んでるし今度お礼参りしにいこう。そうしよう。

 

渡英△△日目

本日は俺と同じくエルメロイ教室に所属しているスヴィン・グラシュエート君の研究に協力した。

以前からも何度か協力していたが、彼は自らの内側から獣性を引き出し、魔力を纏うことによって疑似的に人狼のような能力を得る「獣性魔術」といわれる魔術の使い手で王子様風の甘いイケメンだ。

ただし獣性魔術を使用すると筋肉が膨れ上がり異常な密度の魔力を纏ってまさしく人狼みたくなるので密かに格好いいなあと思っている。

なお俺が協力したのはロアの知識内にあった今は飛散した獣性魔術の知識の提供、魔力を纏うという手法の確立方法、そして制御に失敗した際にスヴィン君の(物理的に)制止することである。

ほら最近忘れかけてるけど俺混血だから肉体言語も得意なんだよ。

獣性を引き出したものの制御ミスって暴走したスヴィン君を殴ったり、暴走したスヴィン君を燃やしたり、暴走したスヴィン君をなんちゃって血闘術で氷漬けにしたりして止めてた。

まあこちらも結構ボロボロになるのだが段々身体の強度が上がっているし、異能も向上していっている。反転の傾向もないし万々歳だ。

・・・実際は封印しても封印しても気づくと枕元にある魔導書のせいで急速に対精神汚染とかナニかそんな感じのスキルがついたせいだとおもう。

 

最近は魔導書を主人に懐いてどこまでも着いてくる大型犬に脳内で置き換えて考えるようにしている。

 

 




鬼蟲
間桐のエロ蟲から進化した。
刻印蟲より二回りほど大きく力も強く鎧のような甲殻で覆われている。
また頭に鬼の角のようなものが1本生えておりとにかく獰猛。
特別な能力などない脳筋であるがその危険性は高い。イメージはピラニア。

潜蟲
生物の脳内に寄生し宿主の意識を本人に気づかれないまま誘導したり、四季に情報を送ったりする能力がある。生物としての性能は脆弱で寄生できないと数分で死ぬ。
なお外見はハリガネムシで意識を誘導すると言っても何となくレベルしか強制力を持たない。なお本当に恐ろしいのは時計塔で暗闘を繰り返す魔術師たちの間ではよくある手法であるらしく、四季さん自分のこと全力で棚に上げてドン引きした。


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研究(略奪)と邂逅。

渡英△年

時計塔での生活にも慣れてきた。

ただやはり食生活が貧しい。

素材の味を活かしすぎている料理の数々。

かと思えばケチャップなどをドバドバかけて濃すぎる味付け。

白米とみそ汁が食いたい。

 

つい先日時計塔内に個人の部屋を入手した。

久しぶりに混血である俺をサンプルにしようと襲撃してきた魔術師を返り討ちにしたからだ。

 

その時の事を振り返ると、襲撃してきた魔術師は40台くらいのアッシュグレーの髪をオールバックに纏めた英国紳士といった外見で、俺としてもこういう年齢の取り方をしたいと思わせるほどに気品溢れるイケメンだった。

 

とある早朝、俺が住んでいるフラットから少し離れた郊外をランニングしていた時だ。

うっすら霧が掛かっている森を一人走っていると、いくつもの黒い車輪が霧の中から飛んできたのだ。

ただ俺にとってはよくあることだったので最初から周囲の霧から魔力を読み取り車輪を防ぐ。

次いで足元が急に隆起したり黒い縄やら熱線が襲ってきたが、これも混血の身体能力で木々の中を飛び跳ねて回避した。

とりあえずその日は体を動かしたい気分だったのでそのまま飛び跳ねながら、空気中に粒子化した血液を魔術で散布。

しばらくすると散布した血液を媒介に魔術を実行、周囲を解析すると、現在地から1㎞くらい離れた森の中に1か所だけ粒子が近寄れない場所を発見した。

すぐさま足元に転がっていた石(電子レンジくらい)に魔力を込めて投擲。

投擲した石は俺の予定通り周囲の樹木ごと隠れていた魔術師本人もくの字に吹き飛ばしたが、魔術師は血を吐きながらも何かの魔術を発動させようとした。

俺は粒子化した血を着火、一瞬だけの燃焼発光で魔術師の目を潰してからのシャイニングウィザードで決着だった。

タロットカードのような礼装が周囲に散らばっていたので仮称「タロット紳士」とするが、「タロット紳士」は首が折れて死亡していた。

彼を工房に運び込み、礼装やら金目の物、眼球も「魅了」の魔眼だったので丁寧に回収した。ついでに研究成果やら資産やらすべて回収しようと脳みそに術をかけてみた段階で、なんとこの時計塔に個室を持っている学友だということが判明し現在に至ったのである。

 

「挨拶代わりに学友をサンプルにしようとするとか時計塔終わってんな。」

 

即座に部屋の結界を解除して乗取った。

研究資料も貴重な礼装なども美味しく頂いたが、魔術師本人の遺体は返却した。

それというのも、返り討ちにした魔術師の血族から申し入れがあったことと流石に魔術師にとって命より大切な魔術刻印を奪ったら他の魔術師が警戒してしまい時計塔での活動に支障が出るという法政課からの交渉人の言葉に従った結果だ。

少し残念だったが仕様がないと諦める。

 

渡英△年と半年

俺は封印指定執行者として業務に携わっていた。

北に町一つを占拠して死徒の研究をしている外道魔術師がいればエスメラルダ式血凍道で氷結粉砕して、南に人を攫い腑分けして悍ましい生物を製造している人外がいれば混血ジャーマンスープレックスからの爆砕、東は魔術師の派閥同士の抗争に殴り込んで魔術で陣地の支配権ごと奪って蟲の餌にしたりした。

ついでに新宿でも現地の女性を生贄にして魔術儀式をしようとしていた相良何某という魔術師がいたので膝の皿を割ってやった。

一度大物死徒、この世界では27祖という言葉はないらしい、の領地へ偵察などにも行ったが裏切り者がいたせいで何十人単位の死徒に包囲殲滅戦されてしまった。

魔力も血晶も使い果たし、異能を使いすぎて貧血気味。体も各所打撲に裂傷、アバラも何本か折れていたのに味方は皆合挽ミンチ状態という酷い状況だった。

意識が朦朧として覚えていないが久しぶりに混血としての衝動を完全に開放してあばれに暴れたような気がする。

まあ次の日起きると四肢の関節が10か所くらい増えて視覚も味覚も喉も機能してなかったが生きていたのでヨシとしよう。

 

渡英△年と6か月

死にかけたあの日から、味方も含めて無防備状態で他人に見つかるとモルモットにされかねないので蟲を使役してセルフ土葬していた。

混血としての生命力と小さな蟲を使役して文字通り蟲やら泥やらを何でも食んで傷が癒えるのを待っていたが、どうやら地上はドンパチしすぎて魔力汚染が酷いため今のところ気づかれる恐れがないようだ。

とりあえず傷が治ったら裏切り者を処さなければならない…。

 

渡英△年と7か月

傷が癒えた俺は土中から脱出、全力で死徒の領地から逃走した。

秘密裏に時計塔に帰還後、事のあらましを報告して久しぶりのシャワーを堪能した。

その後、俺は昏い笑みを浮かべながら裏切り者を探したがあっさりと見つけることが出来た。

なんと件の裏切り者は用無しになったからか死徒によって既に殺されていたのだ。

どうにも俺が大暴れしているときには既に殺されていたようで、ざまあと思いつつも自分の手で処すことが出来なかったことがモヤモヤする。

今日のところはビールとフィッシュアンドチップスで酔っぱらいたい気分だ。

 

だけどウナギのゼリー寄せ、手前は駄目だ!

 

渡英〇年目

 

時計塔に留学して早〇年。

封印指定執行者として荒事をこなしつつもエルメロイ2世の教えを受けて研究を進める毎日だった。

やはりエルメロイ2世は人に教える天才だ。

俺にはロアと臓兼という天才たちの知識と記憶があるとはいえ、俺自身は彼らとは全くの別人なのだ。

そのため、以前から彼ら天才のすべを自分が使用できるように理解・最適化もしくは再構成すること第一としてきた。

エルメロイ2世は当人が非才な為か、通常なら魔術師として当たり前の感覚で処理する基礎的な工程ですら理論として理解し、分析し、実行する。

そういった彼の組み上げた理論こそが俺と天才たちの隙間を埋めることに重要だったのだ。

彼らの記憶から俺自身が分かった気になっていた部分を改めて理解し工夫することが出来たことで俺の魔術師としての階梯はトントン拍子で駆け上がることが出来たのだ。

そうして俺はこの度時計塔を引き払い、日本に帰ることにした。

あと数年で第5次聖杯戦争始まるだろうから準備もしなきゃならなないしね。

あ、志貴についてだが原作が始まったらしい。

最近秋葉から志貴が金髪美女や香辛料臭い眼鏡と仲良くデートをしているので処さなきゃ…という手紙が来るのだ。

うん、いつの間にかネロも滅ぼされたんだろうなあ。

出来れば彼の「混沌」のサンプルを入手したかったのだが俺と彼には縁が無かったのだろう。

まあ気づいてもアルクに問答無用で俺の中のロア毎殺されそうなので行かなかっただろうけど。

 

さて話が実家の愉快な現状へと脱線したが、一応恩師にして友人のエルメロイ2世に挨拶をするべく、彼の研究室をノックする。

 

「エルメロイ2世失礼する。少し話が有るんだが入れてもらって良いか?」

 

少し間が開いて返事が返ってくる。

 

「…ああ、シキか。構わないとも、丁度こちらも紹介したい人物がいるのだ。」

 

俺は結界が解けたのを確認してから、古びたオーク製の扉を開ける。

研究室に入室してソファーに座るエルメロイ2世を見ると彼の脇に影法師のように立つフード姿が一人。

彼(彼女)が先ほど言っていた紹介したい人物か…折角だが来月には此処を離れてしまうので、まあ普通に挨拶すればいいだろうと思い、件の人物の顔を見る。

 

「お邪魔します。紹介したい人物って、ファッ!?」

 

一瞬でミステリアスかつ時計塔に留学して僅か数年で天才(笑)と呼ばれる逸材としての顔を剥がされ、いや完全にぶっ壊されてしまった。

なんとフードの人物の顔が型月のドル箱、アルトリアと瓜二つだったのだ。

 

「アイエエエエ! キシオウ!? キシオウナンデ!?」

 

何⁉

俺知らないよ?

UBW編終わるの早くない?

なんでさ⁉

 

「そういえば君は聖杯戦争の監視役だったから彼の騎士王の顔を知っているんだったな。彼女はグレイ。少々生まれは特殊だが彼女はれっきとした人間だ。サーヴァントではない。」

 

「セイバーじゃない?本当に?切りかかってこない?」

 

「彼女はセイバーではない。」

 

エルメロイ2世の言葉を聞いてなんとか落ち着きを取り戻す。

きっとFateの続編とかが出たのだろうか。

セイバー顔だから絶対この娘ヒロインじゃん!

エルメロイ2世はヒロインじゃなかった…?

ダブルヒロイン制?

 

「あ、あの拙は何か気に障ることをした、のでしょうか?」

 

「い、いや昔の知人によく似ていたものでね…申し訳ない。」

 

俺はグレイ嬢を誤魔化しながら、思った。

グレイ嬢とエルメロイ2世はこれから絶対何かトラブルに巻き込まれるであろうから早く離れよう、と。

 

 

 

 

 

 




お久しぶりです。
いろいろと忙しくなって、そのまま再開するモチベーションが起きませんでした。
またのんびり不定期に書こうと思っています。
よろしくお願いします。


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