セバスとツアレのナザリック子育て奮闘記 (デンベ)
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第1話 セバス様、おめでとうございます。
ふんわり楽しんでいただけると幸いです。
この物語は、我らの楽園であり神々が御座す聖域であるナザリック地下大墳墓に不快にも金目当てというくだらない理由で侵入してきたドブネズミ共を潰してから数ヶ月ほど後の話である。
セバスとソリュシャンは近々バハルス帝国と戦争するであろう、きな臭さ漂うリ・エスティーゼ王国の王都での八本指の行動の監督及び偵察任務にあたっていた。
監督と偵察といっても王国の情報はどっかの王女様からダダ漏れだし、しかも八本指は調教の甲斐があってか過労死しそうなレベルで忠実に働いてくれているため、セバスとソリュシャンにとっては正直……暇であった。
もちろん御方のご命令を受け、それを遂行することはナザリックに属するもの全てにとって喜びであるが、こうも手応えがないと……
(アインズ様のことですからきっと深いお考えがあるのでしょうが…………偵察がてらツアレにお土産でも買っていきますか……しかし、何を買えば喜ぶでしょうか……?)
ツアレは今ナザリック地下大墳墓でペストーニャのもとメイド修行の真っ最中である。もちろん彼女は懸命に励んでくれているが、周りの一般メイドたちはあまり快く思ってはいない。
一般メイドの多くは彼女のことを外から自分たちの仕事を奪いにきた存在と考えてるらしいのだ。(ハムスケ調べ)
だから基本ツアレはペストーニャ以外はセバスとしか会話をしないし、ナザリックにセバスがいる時はセバスと一緒にいることが自然と多くなる。
そんな2人の様子を見たアインズは「まだ仲間の予備部屋があるからそこに2人で生活してみたらどうだ」と提案した。
最初はセバスもそこまで御方に気を使われるわけにはいかないと断固拒否していたが、デミウルゴスが「いいではないですか、セバス。これもアインズ様の為なのですよ。」と毎度お馴染みの深読みスキルを発動して完全に言いくるめられたセバスはツアレと2人でその部屋に暮らすこととなった。
これを聞いた守護者統括殿がアインズの自室に……まぁこれはまた別のお話。
そんなこともあって最近では
「2人はもうヤることヤってるっすね! ウヒヒッ」
「もうすでに青少年保護育成条例の向こう側に行ってしまったのでは!?」
とナザリックで普通に噂されている。
買うものを大体決めたセバスは席を立ち
「ここはソリュシャン、あなたがいれば大丈夫でしょう、私は少し外の様子を見に行きますので何かあった時は連絡をしてください。では頼みましたよ」
と言って扉の方に向かった。
「かしこまりま……少しお待ちをセバス様。エントマから
セバスは神妙な顔つきでソリュシャンに手を挙げたことで了解の意を告げた。
御方からの任務かもしれないと2人は真剣な面持ちでエントマの
しかしそんな2人の緊張感すら漂う雰囲気はソリュシャンのつくった驚愕の表情によって霧散していく。
「…………え、そんな……なんですって?...そ、それは本当にその……」
ソリュシャンはチラッチラッと何回かセバスを見る。
セバスも怪訝な表情で様子を窺う。
「ええ……ええ、わかりました。伝えます」
「どうしました?何かありましたか?」
ソリュシャンはその驚きの表情を壊さず、驚愕に彩られた声で言った。
「セバス様、おめでとうございます。ツアレニーニャ・ベイロンが妊娠しました」
「……」
「おめでとうございます。」
「……?」
「セバス様?」
「……!?」
「ですから妊s」
「え゛え゛え゛え゛え゛えええええええええええええええええええ!?!?!?(CV:千葉繁)」
□□□□□□□
同じ頃ナザリックでは??
ナザリック地下大墳墓第9階層──エステからバー、リゾートスパまでありとあらゆる施設が揃い、至高の41人が現実世界に対する理想を詰め込んだ──神々が創りし文字通り神々しい第9階層はいつもとは少し違う……いや、かなり違う様子だった。
アニメ終わってしまいましたが、千葉繁さんの声むっちゃ好きです。
コメントよろしくお願いします。
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第2話 それはおめでとうさんだ
コメントで気付けたのですが、よく考えたらセバスの方が年下やんけ!ってことはこれはおねショタでs(殴
「アインズ様、こちらがコキュートスから届いたリザードマンの村落の報告書でございます」
「うむ。」
アルベドから書類を受け取ったアインズは支配者っぽいと自分が思っている風に頷く。
ここはアインズの執務室である。しっかりとした座り心地抜群の椅子に座るアインズの横には、腰から黒い翼の生えた絶世の美女が微笑みをたたえて立っていた。
(定期的に報告書を提出してくれるのはいいけど、問題なさそうだしそろそろ報告の間隔をあけてもいい頃合だよなぁ……まぁぶっちゃけ何書いてあるかあまり分かってないからっていう理由もあるんだけどな……)
そう最近アインズ、いや正確には鈴木悟はあることに悩まされていた。
智者が増えてる!
という悩みだ。
以前まではアルベドとデミウルゴスの前でだけ気をつけていれば良かったのが、最近では失敗を生かしコキュートスやセバスも学習しており、2人とも日に日に賢くなってきているため油断ならない。
NPCの成長は素直にアインズも嬉しいのだが、アインズの化けの皮が剥がれる危険性が大きくなるというのは鈴木悟にとってはかなり複雑な心境であった。
「……アインズ様?」
「ん? あぁ、すまない。少し考え事をしていたようだ」
「っ! アインズ様の思考を妨げてしまい申し訳ございません!」
「えっ、あ、いや、そう大したことは考え……ゴホン!…………大丈夫だ、アルベド。で、これが今コキュートスが作っている魚の養殖場の進捗状況か。ふむ、うまくいっているようだな」
「はい、アインズ様。デミウルゴスの協力もあり数年以内にはリザードマンの村落で自給自足が可能になります」
「それは素晴らしい」
(アルベドも目を通してるようだし、これならなんも言うことないな!……そういえば俺が復活させたあのリザードマン、ザリュースだっけ? は近々父親になるそうだが、うん、あの白いやつとの子どもだ。レアだな! 産まれたらちょっと見てみたい気もする……)
そんなことを考えながらアインズが報告書のページをめくっていると、扉からノックが聞こえる。アインズは報告書から伏せていた視線を動かし、本日のアインズ当番であるエトワルに目で合図を送ると彼女は扉を少し開け来訪者を確認する。
「アインズ様。ユリ・アルファ様がお目通り願いたいと」
「よい、通せ」
(ユリがここに……? 来いとは言ってないから、何か緊急事態か? ならアルベドがいる時で良かった……)
アインズが入室の許可を出すと、眼鏡をかけ夜会巻きと呼ばれる髪型をしたこれまた天上の美をもつメイドが入ってきた。
「戦闘メイド、ユリ・アルファ、御身の前に。アインズ様、執務中に申し訳ございません」
「よい、それで何かあったのか?」
「あっ……それが……その…………」
ユリはアルベドとアインズを交互にチラチラ見ながら、今伝えようとしていることをアルベドにも伝えて良いのか迷っているようだった。
「問題ない、ユリ。私に伝えておくべきことはアルベドにも伝えておくべきだろう」
「かしこまりました、アインズ様。ではご報告させていただきます。ツアレニーニャ・ベイロンが妊娠した模様です」
「………………ぇ?」
「……」
「……な、なんだって?ユリ、すまないがもう一度言ってくれないか?」
「はい、ツアレニーニャ・ベイロンが妊娠した模様です」
「……お、おう。そ、そ、そうか…………それ……それはおめでとうさんだ...?」
(え、待って、ツアレニーニャってあのツアレニーニャだよな? ってことは……え゛え゛え゛え゛え゛えええ!?……………)
ツアレが子を孕んだことを聞かされ完全に動揺し精神の強制鎮静化まで起きたアインズは恐る恐る己の隣でぷるぷると震えている人物を視界に捉える。
「……な!な!な!なんですってぇえ!? ツアレニーニャが妊娠!? 一体誰との!?」
アルベドの殺気すら含んでいる恐ろしい気配に気圧されながらもユリは己に活を入れアルベドの質問に答える。
「は、はい。おそらくセバス様とのお子かと……」
「チッ、取るに足らない人間如きに先を越されたわ……アインズ様!」
「な、なんだ?アルベド」
「脆弱な人間風情が栄えあるナザリックで子を孕みました。これは早急に私たちも子作りに励むべきかと愚考します!」
「待て待て待て待てアルベド! 待つのだ!」
天井の
アインズはセバスとツアレに子どもが出来たことに加え、アルベドの今にも襲い掛かって来そうな雰囲気に再び完全に動揺し────た心は嘘のように消えていた。
「アルベドよ、少し落ち着くのだ。今はそのようなことを言っている場合ではない。わかるな?」
「っ! はっ、申し訳ございませんアインズ様!」
「うむ、うむ、そうだ、いつなるいかなる時でも冷静さを失わぬように心がけよ。」
「はっ!」
さっきまでの自分に言い聞かせるようにアインズは言った。
「しかし、まさかセバスとツアレに……他種族でも大丈夫なものなのか……? これは直接詳しく話を聞く必要があるな。ユリよ、現在ツアレはどのような状況だ?」
「はい、現在はペストーニャ様が彼女の自室で面倒をみていらっしゃるはずでございます」
「そうか……では私はツアレに会いにいく、2人は私と……いや、やはりやめておこう。ユリはまずツアレの様子を見に行け、ついでにエントマに
「「はっ!」」
(一先ずはこんなもんか……それにしても他種族間でも妊娠できるものなのか……でも直接あんなことやこんなことを聞くのも躊躇われるよなぁ…………だってセクハラだもんな……)
□□□□□□□
連絡を受けたセバスはマーレと入れ代わるように王都を出てナザリック地下大墳墓へ向かう。
しかし、その足取りは非常に重たく、猛禽類のような鋭い瞳の奥には苦悩のようなものが見え隠れしていた。
マーレ「どうかしたんですか?セバスさん」
セバス「コウノトリさんが運んできたんやで……」
コメントお待ちしております。
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第3話 お前はセバスを愛しているか?
今回はツアレのお話です!
ツアレは自室の居間にあたるであろう場所でペストーニャと一緒に向かい合って座っていた。
「気分はどうですかわん」
「は、はい……だいぶ良いです」
「それは良かったですわん。他になにか私にできることはありますかわん」
「と、特にはありません。お気遣いくださりありがとうございます……」
ナザリックでは珍しくカルマ値が善に偏っているペストーニャは脆弱な生き物である人間に対しても非常に優しい。
「もうすぐアインズ様がいらっしゃるはずですねわん」
「っ!…………は……はい」
「アインズ様はこの世で最も尊く最後までこの地に残ってくださった慈悲深きお方です。だからきっと大丈夫です。心配はいりません。…………ぁ、わん」
ツアレはただ黙って頷いた。
というのも10分ほど前にユリがアインズが来ることを告げてから今のツアレを支配しているのはセバスとの間に子どもができた喜びなどではなく、子供ができたという事実さえ忘れ去ってしまうほどの圧倒的な恐怖感だった。
ツアレは以前にも何度かアインズとは顔を合わせている。
自分が玩具としてしか見なされないあの地獄のような暮らしからセバスによって解放され、再び誘拐されたときもまた救われた。
そのうえ、暖かい食事が毎日三食ついて仕事が与えられるだけでなく、まるで神話の世界に入り込んでしまったかのような豪華絢爛という言葉以外表現しようがない神々が創りしナザリック地下大墳墓でセバスと共に暮らすことまで許された。
まさに夢のような生活で、ツアレはこれらを与えてくれたアインズには感謝してもしきれないほどの恩義を感じている。
しかし、それでも死の権化の如きアインズの姿を見ると
「あ、今日私はここで死ぬんだ。」
と死を覚悟してしまうほど、ただの人間のツアレにとってのアインズはただの化け物以外何者でもなかった。
(今日こそきっと私はアインズ様に殺されるんだわ……私だけならともかく、もしセバス様の身にも何かあったら私はどうすればいいの?……私は……わたしは…………セバス様……)
ツアレは必死に涙をこらえる。
怖い、ただそれだけだった。
そして、部屋がノックされる。
「アインズ様がお見えになりました」
□□□□□□□
アインズはアルベドと数体の
「お会いになりたいのであれば、下等な人間如き、お呼びになればよろしいのでは? わざわざアインズ様御自ら足をお運びになる必要はないかと……」
「そうか、そう思うか。……ふむ、アルベドよ。」
「はい、アインズ様」
「前にも言ったと思うが……私は、仲間たちが残したお前達皆を自分の子どものように思っている」
「ア、アインズ様……創造されただけの存在である私たちを子どものようだなんて……」
「うむ。ということは、だ。今回本当にツアレがセバスの子どもを身篭ったなら、その子は私にとって孫にあたるといっても過言ではない。ならば私が足を運ぶことは当然のことではないか」
「っ! なんと慈悲深い……」
「そういうことだ。……そうは言っても気になることは山のようにあるのだが……まぁ続きはツアレの部屋で、だな」
アインズがそのように話しているとツアレの部屋が見えてきた。扉の近くにはユリとエントマが待機している。
2人はアインズの姿を確認すると臣下の礼のポーズをとった。
「アインズ様、お待ちしておりました」
「うむ、入室しても良いか聞いてくれ」
「かしこまりました」
ユリはドアをノックしアインズが来たことを伝えると、中からペストーニャの声が聞こえる。
「アインズ様がお見えになりました」
「どうぞお入りくださいわん」
アインズが部屋に入るとそこにはツアレとペストーニャが跪いていた。
「メイド長、ペストーニャ・
「ツ、ツアレニーニャ・ベイロン、御身の前に」
「うむ。立つが良い、2人とも。ペストーニャよ、苦労をかけたな、感謝するぞ」
「感謝なぞもったいないですわん! 我々はアインズ様に奉仕する忠実なメイド、御身のためと思えば苦労などありませんわん!」
「う、うむ。そうか…今後も忠勤に励むが良い」
「かしこまりましたわん! それでは詳しいツアレの状況の説明を──」
「いや、それはセバスが来てからで良いだろう。やつもここに向かわせている。その時に詳細を教えてくれ」
ツアレはこの時、セバスが来てくれるという安心感と、セバスが来てしまうという不安感に同時に襲われていた。
「……そうだ、ツアレよ。セバスが来る前にお前に一つ聞いておきたいことがあるのだった」
「っ!」
完全に固まってしまった。返事をしないことが無礼であたることは重々承知なのに、喉に張り付き声が全くでない。アインズの後に控えているアルベドからの殺気がそれに拍車をかける。
「大丈夫だ、ツアレ。私はなにも怒ってはないのだ。ただ今から聞く一つの質問に正直に答えて欲しい、嘘偽りなくだ」
「は……はぃ……」
アインズが口調を穏やかにしたことで、なんとか振り絞るように返事ができたツアレは質問を待つ。
「よろしい。では答えてくれ。お前はセバスを愛しているか?」
「…………」
ツアレは一瞬何を聞かれているか分からなかった。それを見てとったのかアインズはもう一度優しい口調で問う。
「お前、ツアレニーニャ・ベイロンはナザリック地下大墳墓の
「わ、私は……!」
質問の内容を理解したツアレは答えるのを逡巡する。もしかしたらこれは試されているのかもしれない。自分の愚かな発言がセバスの、もちろん自分の人生も左右してしまうかもしれないのだ。
人生で一番頭をフル回転させベストなアンサーを考え導き出そうとしたツアレだったが、やはり答えはひとつしかなく、アインズにも自分の感情にも嘘をつけない。
「私はセバス様を愛しております。」
しんと静まりかえった部屋に響いた「私もアインズ様を深く愛しております。」といった小さな第一声をアインズは努めて無視し、ツアレに朗らかな口調で言った。
「そうか、そうか…ははは、それは良かった………感謝するぞ、ツアレ」
「っ!?」
なぜか絶対者に突然感謝されたツアレが目を白黒させていると、再びドアがノックされる。
「アインズ様、セバス様がお越しになられました」
次回も恋にドロップドロップ♪
コメントお待ちしております。
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第4話 よくやった、2人とも。
今回は主にセバスのお話です。
ナザリック地下大墳墓第一階層に到着したセバスは、出迎えてくれたメイドたちとナザリックのシモベたちに挨拶される。しかしセバスは完全に心ここに在らずの状態であった。
(ツアレ……ツアレは無事なのでしょうか……アインズ様が私たちの自室に来るようにと仰られたということはおそらくすでに、アインズ様はツアレと部屋にいらっしゃるはず……)
ナザリックには全域に転移阻害の魔法がかかっているため、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを所持しているか
(愚かなことをしました。ナザリック地下大墳墓は神々が創りし聖域…そこに人間であるツアレを住まわせることを許していただいた。それだけでなく一緒に暮らすことも許されたというのに…私はこの恩義に報いるどころか、勝手に子を作ってしまった…ただ創造されただけの存在である私ごときが子を成すなど不敬……執事失格ですね……)
今のセバスの心を主に占めている感情は己への失望と恐怖である。彼はこう考えているのだ、ナザリック地下大墳墓において生殺与奪の全権を与えられているのは至高の41人のみであり命を創造するという行為は至高の御方々のみが許される特権である、言い換えれば、たかが創造されただけの存在である自分が栄えあるナザリック地下大墳墓で命を育むことなど不敬以外なにものでもない、と。
既に一度失態をおかしている身であるにも関わらず続けて失態を演じってしまったことからくる己への失望、嫌悪感。
失態を続ける腑甲斐ない身に呆れ、他の御方々同様この地をアインズ様が去ってしまうのではないか…という思いからくる恐怖。
それと、もう1つ、今はこれがどんな感情で何からくるものなのか自分でもわからない感情もあった。
(アインズ様……罰なら喜んで私の命を差し出します。ですから、どうか……どうかツアレだけは……)
そんなことを考えていたらあっという間に部屋に到着していたセバスは、扉の近くにいたユリに自分が来たことを伝えさせる。
「アインズ様、セバス様がお越しになられました」
□□□□□□□
入室したセバスは素早く部屋にいる全ての人物を確認し、ツアレがまだ無事であることへの安堵感で後ろに倒れそうになるが、アインズへの忠誠心と鋼の心がそれを許さない。すぐさまアインズの前に跪く。
「アインズ様、お待たせして申し訳ございません」
「うむ、構わん、ちょうどツアレと話をしていたところだ。ではセバスも来たことだし、ペストーニャよ話の続──」
「アインズ様!この度はご迷惑をおかけし誠に申し訳ございませんでした!」
「──きを……え?」
「ツアレは何もしておりません、全てはこの愚かなる身が起こした失態! 今すぐこの命をもって謝罪させていただきます! ですから、どうか……どうかツアレの命は──」
「不敬よ、セバス! それがナザリック地下大墳墓、ひいてはアインズ様に仕える者の態度ですか!」
アルベドの叱咤で幾分か冷静さを取り戻したセバスに再び押し潰されそうな自己嫌悪感が襲う。アインズが話している最中に発言をしてしまったからだ、これは執事としてあるまじき行為である。セバスは重ねて謝罪する。
「……申し訳ございません」
(どうもツアレのこととなると……これは一体……なんなのでしょう、この感情は)
「よいのだアルベド。それにセバス、お前はなにか勘違いしているな?」
「はっ……と、おっしゃいますと?」
「うむ。私はお前とツアレの間に子を成したことを怒ってなどいない。むしろ、誇りに思っている」
「ア、アインズ様……一体なぜ………ナザリックに仕えるためだけに創造された私が子を成すことは不敬にあたります……」
「ふむ、なるほどそう考えるか……セバス、それは違うぞ」
「……?」
理解できないとセバスが首を傾げるとアインズは口調を緩めて言った。
「これは先程アルベドには話したが、セバス、私は仲間たちが残したお前達を子どものように思っている。ということは今回、お前がツアレとの間に成したその子は私にとっては……孫だ……」
「ア、アインズ様……」
「それにセバス、お前を創造したたっちさんもお前と同様、危険な目に遭遇していたある女性を助け、その女性と愛し合い、その人との間に子を成した……私にはお前にあの頃のたっち・みーさんが重なって見えるよ」
「そ、そんな、私とたっち・みー様が、同じなど……畏れ多い……」
至高の41人の話が出たからか、ペストーニャから「おお…」と感嘆の声が聞こえる。後に控えているアルベドからは……特に何も聞こえない。
「要するに、だ。私はお前達2人を怒るつもりも何か罰を与えるつもりもない。誇らしく思っていると言ったのはな、お前達がそれだけお互いのことを思っていて、私に仲間たちの孫にあたる存在を与えてくれたからだ」
異世界に来てアインズは仲間たちの捜索を最優先事項としてかかげているが、内心諦めている節もあった。しかしこうやって仲間たちの影をNPCたちに見ることは、あの黄金期は今もなおここにあるとアインズに再認識させる。
(女の人を助けて奥さん拾っちゃうなんて、まるでたっちさんそのままじゃないか……)
ギルド、アインズ・ウール・ゴウンの在りし日の光景を幻視したアインズは急に嬉しくな────った感情は完全に抑え込まれる。それでも先ほどまでの愉快な気持ちは気のせいではない。
見るからに上機嫌なアインズは未だ跪いているセバスの手を握り立ち上がらせ、ツアレの横に並ばせる。そして2人の肩にポンっと手を乗せ朗らかに
「よくやった、2人とも。」
と言った。この時セバスの頬には涙がつたっていた。セバスは不敬とは分かってはいながらも、アインズを自分の父親のようだと、思わずにはいられなかった。
(ああ、なんと慈悲深い……私はアインズ様の寛大さを理解しきれていなかった……この御方の心はまさに海より深く広い……)
「感謝致します! アインズ様!」
この世における最高の主人に改めて絶対の忠誠を誓ったセバスが再び跪くとツアレも急いで跪こうとする。それをアインズは手で制しながら言った。
「あぁ、跪かなくてもよい、大切な母体にストレスがかかってしまう。初孫に何かあっては私がたっちさんに怒られてしまうではないか」
はははと笑うアインズは、後方から謎のギチィという音を聞いた気がした。が、多分気のせいだろう。
「とは言ってもだ……ここまで話しておいてなんだが、やはり異種間で子ができるというのはな、まるでおとぎ話だ…妊娠と診断したのはペストーニャらしいな?」
「はい、アインズ様。まずツアレニーニャは確実に妊娠していると考えて間違いないですわん」
「ほう、その根拠は?」
「はい、根拠は三つありますわん。……それをご説明させていただく前に、至高の御身が立ったままというのはいささか問題がありますわん。先ほどユリとエントマに、簡易ですが玉座を用意させました、御身はどうぞこちらにおかけくださいわん」
「うむ。それもそうか、ご苦労だったなユリ、エントマ」
アインズはそう言うと堂々たる支配者の風格をもって、少し高い位置に設置された簡易玉座に座る。
「それでは、ペストーニャよ。その三つの根拠とやらを説明してもらおうか」
ごめんなさい、本当は今回ペストーニャからの説明も入るはずだったのですが、まとまりが悪く感じられたので明日にまわしました。ご理解いただきたく思います。
コメントお待ちしております。
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第5話 診断させていただきましたわん
ツア子「あー♪アー♪アッー♪アアア⤴赤ちゃんができちゃった!」
セバ美「ベビベビベイビベイビベイビベイビベイベ」
以前王都で行われた一大作戦ゲヘナでは大量の王国民がナザリックに誘拐された。彼らの誘拐は老若男女問わず行われ、ナザリック地下大墳墓第五階層に送り込まれた瞬間、主の命により苦しみなく殺されていく。
この殺戮行為の対象にはもちろん赤子も含まれていることを知ったペストーニャとニグレドはアインズの「連れていった王国民は“全て”殺せ」という命令を無視し、赤子を保護した。
これを聞いた守護者統括アルベドは激憤しアインズに2人を処罰するよう言ったが、かつてのギルドメンバーにそうあれと創造された2人を処罰する気などさらさらなかったアインズはとりあえず無期限の謹慎処分ということにした。
しかし、ただの謹慎処分ではアルベドが全く納得しなかったので、罰という名目でアインズは、2人は謹慎中
ペストーニャの話はこうだった。
この日もペストーニャはツアレにメイドとしての立ち振る舞いや心構えを先生が授業をするように説いていた。ちょうど話が一段落したところでツアレの様子に異変が起きる。体調が優れないのか明らかに顔色が悪い。
ペストーニャは心配に思い声をかけると、突然ツアレは席を立ち上がり部屋についているバスルームへダッシュした。
そして、
「……っ! うぐっ、ゴホッゴホッ、ゴホッ」
ツアレはトイレで吐いていた。
これは何らかの病気であると判断したペストーニャは素早く高位の治癒魔法をツアレにかける。しかし、ツアレの様子は一向に変わらない。高レベルの神官である自分に治療できない病があるのか、とペストーニャが驚いているとツアレは
「最近、よく……吐き気がするんです……」
と言った。これを聞いたペストーニャは「まさか」と思い色々聞くとツアレは、今まで好物だった食べ物が急に受け付けなくなったとか、すぐに眠たくなるとか、諸々の症状を語った。
これらの症状に加えて治癒魔法が効かないという観点からツアレは妊娠しているとペストーニャは判断した、ということだった。
「──これが一つ目の根拠ですわん」
「ふむ、なるほどな、その吐き気を
「仰る通りですわん」
「…しかしですよ? ペストーニャ。それなら想像妊娠という可能性もあるんじゃないかしら? 思い込みというものは強く身体に影響を及ぼすものよ」
「うむ、アルベドの言う通りだ。その辺も説明できるのか? ペストーニャ」
「はい、それは二つ目の根拠である“基礎体温の上昇”で説明できます…………わん」
今言い忘れたな、とアインズは思いながらペストーニャの説明を聞く。
ツアレが正式にナザリック地下大墳墓で働くことになった時、劣等種族である人間がナザリックで生活することは身体にどのような影響を及ぼすのか調べるべきとデミウルゴスがアインズに進言したことで、ツアレは1日の朝昼晩の三回身体検査を受けることになった。
身体検査といっても心拍数、血圧、呼吸数、体温などの軽いもので、現在ニグレドの保護下にある赤子たちもこの検査と同様のものを受けている。その記録をチェックしてみたところ数週間ほど前からずっと基礎体温の高温期が続いていることを確認できた。
「──一般的な想像妊娠では
(さっぱり何言ってるのか分からないよ、ペストーニャ……)
鈴木悟の脳みそのスペックでは理解しきれなかったため、アインズはこの説明に対するリアクションを己の隣に控えている“できる”人物に丸投げする。
「……ふむ、なるほどな。アルベドはどう思う?」
「アインズ様、恐れながら私は生命の発生についての知識はあまりありません。……ですが、私の準備はいつでもできております!」
「……お、おう、そうか。」
(そういうことではないんだけどなぁ……)
鼻息荒く顔を真っ赤にし漆黒の翼をパタパタと羽ばたかせてアインズに近寄る守護者統括殿を、ペストーニャとツアレは困ったような顔で見守り、セバスは処置なしと手で顔を覆う。このままではいかんとアインズは思い急いで話を戻す。
「う、うむ、その話はまた今度なアルベド。で最後の、三つ目の根拠はなんだ?」
「ぁ、はい、三つ目の根拠こそこの度のツアレの妊娠を決定づけた、〈
「なに? 〈
無詠唱で魔法を発動させたアインズは、ツアレのところから生命体の反応を“二人分”確認する。本来ならば、アンデッド以外の建物内の敵の位置や数を調べる場合などに使われる探知系の魔法だが、こちらの世界では本当に“生命の反応を感知”する効果として発動する。
(なるほどなぁ……これが魔法のフレーバーテキストにある「あらゆる生命体の反応を認識する」なのか……へぇ、ユグドラシルにはなかったなぁ)
そんなことをアインズが考えていると、モジモジしているツアレのことが気になったのかセバスがアインズに問いかける。
「アインズ様、よろしければどのように見えているか私めにも教えていただけませんでしょうか?」
「うむ、構わんぞセバス。本来ならば生命反応というものは一個体に一つだ。しかし今のツアレからは二つ分の生命反応が確認できる。つまりお腹の中にいる子どもの分まで感知しているのだろう」
人体の構造については全くわからないアインズも、ユグドラシルの魔法のことならかなり自信がある。答え合わせのためにペストーニャの方を見ると彼女は歯をむき出しにし──おそらく笑顔で──頷いた。
「アインズ様、仰る通りでございますわん。以上の三つの根拠に基づき、ツアレニーニャは妊娠していると診断させていただきましたわん。これにて説明を終了させていただきますわん」
そう言ってペストーニャはお辞儀をしながら後に下がった。
「うむ、納得した。ペストーニャよ、理路整然としてわかりやすい説明だった。褒めてつかわす」
「おお…もったいなきお言葉でございますわん、アインズ様」
アインズはうむうむと鷹揚に頷きながら内心「二つ目の説明はよくわからないんだけどな」とか考えていた。
「……ふむ、これでツアレがセバスの子どもを身篭ったことは確定だな。ツアレとその子の身の保護のことも考え、このことをナザリックに公表しようと思うがアルベド、どう思う?」
「恐れながらアインズ様、いきなりナザリック地下大墳墓全域に発表するとなると混乱が起きかねません。ですのでまずは階層守護者にのみ公表してはいかがでしょう?」
「ふむ、その言もっともだな。よし、では今から数時間後……遠方で仕事をしているデミウルゴスが帰還する時間も考慮して、今から3時間後に玉座の間に第四、第八を除く全階層守護者を集合させよ」
「はっ、かしこまりました。すぐに連絡いたします」
「頼んだぞ、アルベド……それでは3時間後にセバスも玉座の間に来るように……あ、ツアレはここにいるといい。後ほど料理長に直接私が命じて元気な子どもが生まれるように精のつく料理を作らせ持ってこさせよう」
「っ! そこまでアインズ様のお気をつかわせるわけにはいきません!」
「セバスよ、何度も言わせるな。ツアレが孕むその子は私の、いや私たち至高の41人の孫にあたる存在だ。元気に生まれてきて欲しい」
「ア、アインズ様……」
「そういうことだ。ふむ、アルベドよ、連絡は終わったか?」
「はい、完了いたしました。第四、第八を除く全階層守護者、3時間後に玉座の間にて集合します」
「よろしい。ではセバス、3時間後にな。ペストーニャはもう部屋に戻るがいい」
「しかし、アインズ様……!」
「命令だ。そもそもお前は謹慎処分中ではないか、今日は疲れたろう、部屋でゆっくり休むと良い」
「かしこまりました、わん……」
ペストーニャの耳はみるみる下がっていく。「休む」という行為は、社畜根性のかたまりのようなナザリックに属するものにとって一番理解できない行為だ。
「……それに2人っきりで話したいこともあるだろうしな。私も部屋に戻らせてもらおう、ではまた後でな」
そう言ってアインズはツアレとセバスの部屋をあとにし、それに続くようにアルベドとペストーニャが退出、最後に扉近くで待機していたユリとエントマが扉を閉めながら退出した。
セバスとツアレしかいないその空間は、なんとも言えない雰囲気で満たされていた。
次話は、階層守護者がみんな集まるよ!
コメントお待ちしております。
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第6話 はい、子どもです、はい
皆様のコメントは本当に励みになります!
今回は
・セバスとツアレ
・守護者たち
・アインズ様
の三本です
セバスとツアレはアインズが去ったあともしばらく2人で扉の方に頭を下げたままだったが、ツアレが安堵の息を漏らすと緊張していた空気が少し緩む。2人ほぼ同時に頭をあげると急に安心したのかフラっとツアレが身体のバランスを崩し、それをセバスは自分の胸で受け止める。
「大丈夫ですか、ツアレ!」
「はい……少し立ち眩みが」
「おそらく急に安心したからでしょう。あちらにおかけなさい」
と言ってセバスはツアレを支えながら先程まで彼女が座っていたであろう椅子にツアレを座らせ、自身も向かい合って置かれたペストーニャが座っていたであろう椅子に腰かける。お互い座ったあとしばらく2人は黙っていたが、その沈黙を最初に破ったのはツアレの方だった。
「今日はすみませんでした、ご迷惑をおかけして……」
「ツアレ、あなたは何も悪いことはしていません。もし誰かに非があるならばそれはこの私にあります」
「セバス様こそ何も悪くありません。本当のことを言うと数日ほど前から薄々は気づいていました、でも言うのが怖くて……」
そう言うとツアレは急に泣き始めた。なら早く言ってよ、と思わずセバスは言いそうになったがそれよりもまずやることがある。セバスは席を立ってツアレの前でしゃがみ、丁寧に彼女の頬につたう涙を拭う。
「泣かないでください、ツアレ。大丈夫です。大丈夫」
拭えど拭えど溢れる涙だったが、ツアレはぐしゅぐしゅと鼻をすすり
「うぅ………ひぐっ……あ、ありがとうございます、もう大丈夫です」
そう言うとツアレはセバスに笑ってみせた。
涙こそ流れてはないがまだ顔には涙のあとが残り、そのまるで雨あがりに咲く向日葵のような笑顔を見た途端、またセバスの心は正体不明の暖かくそして少し苦しい、しかしどこか心地よい気持ちに満たされる。
「セバス様、実はですね、セバス様が来る前にアインズ様から1つ質問されました」
「……どんな質問ですか?」
「セバス様を愛しているか? と聞かれました」
「ど、どう答えたのですか?」
セバスが明らかに動揺しているのを見てとったのか、ツアレはさっきの笑顔とは異質の、今度はまるでいたずらっ子のような笑顔で言う。
「それは、秘密です」
「……なぜですか、ツアレ。教えてください」
「いや、です。」
「……むぅ」
セバスは見るからに不満そうだった。そんなセバスの困った顔が可笑しいのかツアレはころころと笑う。それにつられてセバスもなんだか面白くなって笑う。セバスはまたよくわからない、理解できない、それでいてなぜか心地よい気持ちに満たされていく。
セバスとツアレ、そしてもうひとりの部屋は、2人の楽しそうな笑い声で満ちる。
□□□□□□□
ここはナザリック地下大墳墓第十階層、玉座の間への扉手前にある部屋、
そのレメゲトンにはすでに二人の守護者の影があった。シャルティアとアウラである。
二人は赤いスーツを着た背の高い悪魔を視界に捉えると挨拶をする。
「やっほー、デミウルゴス」
「久しぶりでありんすね」
「御二方お久しぶりですね。……少し早く来すぎたようですね」
「何を言ってるんでありんすかデミウルゴス、このチビときたら、集合の2時間も前からいたらしいでありんす。集合時間を間違えたの──」
「違うもん! こ、これはアインズ様への忠義の表れだもん!…………はん、そんなこといったらあんたこそ今日は張り切って偽乳を多めに入れてたからいつもより少し遅かったんでしょ?」
「な、なんで枚数を増やしたことまで知ってるのよ!?」
「ぇ、あ、図星だったんだ…」
デミウルゴスはそんな二人の年中行事を眺めながら疑問に思ったことを素直に口にする。
「話の途中すまないがアウラ、今日はマーレと一緒ではないのかね?」
「ん? ああ、なんかセバスと交代するって言って急いで王都に向かったよ。でもアルベドから連絡きたらしいから時間には間に合うと思う」
「そうかね? それならいいんだが」
「遅クナッテスマナイ」
三人が声の方向に目を向けるとそこに立っていたのはライトブルーの異形、2.5mはあろうその巨体からは空気さえ凍てつくような冷気を放っている。
「やぁコキュートス、久しぶりだね。その後のリザードマンの村落はどうだい?」
「オカゲサマデ、順調ダ。デミウルゴスノ協力モアッテ養殖モ軌道ニノリハジメタ」
「それはよかったよ」
「ム、マーレトセバスガマダノヨウダナ」
「遅くなってごめんなさい!」
声の主を確認すると、その人物はこちらにトトトトトという擬音が似合いそうな可愛い走り方で走ってくる。
「もう! あんたは遅い!」
「え、えぇ、だってぇ…」
「だってじゃない!」
「……うぅ、ごめんなさい、お姉ちゃん」
「セバスもまだ来ていないのだよ? それくらいにしてあげたらどうだね、アウラ。……それより私は今日なぜ偉大なる御方が私たちをお呼びになったのか気になるね」
「確カニ、ソレハ気ニナルナ……」
「あ、僕多分それ知ってます」
「え! なんでマーレが知ってんの!?」
「えへへへ、交代する時セバスさんに聞いたから……」
「え? セバスにでありんすか?」
「コレハドウイウコトダ?」
「ふむ、恐らくだが王国のことではないだろうね。もしそうだったらマーレに引き継がせる理由がわからない」
「え、えっとね、あの、ですね……」
「はっきり言いなさいよ!」
「は、はひぃ!…セバスさんとツアレニーニャ?の間に子供が出来たそうです!」
「「「「……」」」」
「……はい、子どもです、はい」
「「「「……えええぇ!?」」」」
□□□□□□□
アインズはセバスとツアレの部屋を出たあと「私もどうかアインズ様のお情けを」と目をギラギラさせながら迫ってきたアルベドをなんとか振り切って自室に戻り、身体ではなく心の疲れを取るためにベッドに身を預ける。
今は
そう、今のところは……
「……はぁ……セバスとツアレになぁ」
(いやぁ、セバスに子供ができるなんて!なんでできたかは全然わからないけど、ともかくめでたい! ……それにしてももう俺もおじいちゃんかぁ……というか童貞なのにおじいちゃんってどういうことだよ……)
現実世界で恋人も家族はもちろん、友人と呼べる友人もいなかったアインズはこれから生まれてくる子どもとどうやって接すればいいか悩んでいた。
(父親ならともかく、おじいちゃんだもんなぁ……でもNPCはみんな俺の子どもみたいなものだし……アインズおじいちゃんか、意外と悪くないな)
アインズは自分のことをおじいちゃんと呼んで走ってくる子どもを想像する。きっと女の子でも男の子でも可愛い子に違いない。
(……ふふふ、可愛いかもしれない、ふふふ………………ん?)
しばらくアインズが妄想の中で想像の孫と戯れていると、なぜかいつの間にかその可愛いはずだった孫が身長100cmくらいの
「ン〜ナインズおじい様ぁ〜♪」
と高らかに歌うように言いながら走ってくる孫を妄想してしまったアインズはおもむろに拳を作り、自分の寝転ぶベッドを殴る。
(なんで、そう、なるの?! セバスとツアレの子どもだぞ!……孫までそんなオーバーアクションになったらもう多分俺泣いちゃうよ……泣けないけどな!)
ベッドの上で思わず足をバタバタ動かし、あわわわわ、と恥ずかしさのあまり叫びそうになる────ことはなく瞬時に冷静さが戻ってくる。
そんなこれから生まれてくるであろう孫のことを考えていたらあっという間に時間は経ってしまい、部屋がノックされアルベドの声が聞こえる。
「アインズ様、玉座の間にて守護者各員揃いました」
「うむ、今行く」
(うん、孫が産まれてもしばらくはアイツとは会わせないようにしよう)
冷静にそう判断したアインズはベッドから起き上がると支配者の風格をその身に
「では、行くかアルベド。皆の待つ玉座の間へ」
「はいっ!アインズ様!」
ログインしたらお気に入りが400件こえてて本当にびっくりしました!
読んでくださっている方々本当にありがとうございます!
次回はセバスと守護者たちのやりとりがあるはずです
コメントお待ちしております!
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第7話 君はどう考えているんだね?
…守護者たちの会話が好きすぎて、もう
それではふんわりとお楽しみください。
「セバスとツアレに子ども……でありんすか……」
ナザリック地下大墳墓第十階層
当然その驚愕の事実を述べた張本人たるマーレを除いてだが…
「私も信じ難いよ、もちろんセバスとあの人間との関係は時間の問題だと思ってはいたが……」
そして悪魔のその無機質な瞳の輝きは驚愕とはまた別の、異質なものに変わる。
「まさか本当に子どもを作ってしまうとはね……」
デミウルゴスは面白くてしょうがないと言わんばかりにくつくつと嗤う。
「交配実験に関しては今まで望み薄の異形種とニンゲンの交配実験より、まだ可能性のある亜人種との実験だけをしていたが…いや、これでようやく私の牧場も本格的に異形種と人間種の交配実験を行うことができるよ……セバスには本当に感謝だ」
「何ガ、ソンナニオモシロインダ?」
「くくく、何ってそれは友よ、決まっ──」
楽しくて仕方ないといったデミウルゴスの雰囲気はその声の発生源を確認すると瞬時に霧散する。その声の主はガチガチと屈強な顎から警告音を出し、凍てつくような殺気を放っていた。
「──なるほど、そういうことですか。コキュートス」
デミウルゴスは納得すると急に様子を落ち着かせ、普段通りの冷静な彼に戻ったが気のせいかその雰囲気からは少し“怒り”を感じる。コキュートスとデミウルゴスの不思議なやりとりを黙って見守っていた3人は素直に疑問を投げかける。
「どうしたの? 急に2人とも」
「そうでありんす。なんだか怖いでありんすよ」
「ど、どうしたんですか? デミウルゴスさん」
3人の疑問の表情を一つ一つ確認すると、悪魔は肩を上品にすくめ、説明をはじめた。
「……ふむ、コキュートスはこう考えているのだよ。我々は至高の御方々によって創造された身である、それ以上でもそれ以下でもない、とね」
「……なるほど、そういうことでありんすか……」
そう言うとシャルティアの瞳が硬質なものに変わる。しかしそれは一瞬でその後はどこか同情のような哀れみのようなものになった。
「えっ! シャルティアにわかるの?」
「っ! 私を何だと思っているでありんすか……」
「うーん、僕、よくわからないです……」
「あたしも! もっとわかりやすく説明してよ、デミウルゴス」
デミウルゴスはそんな同僚の願いを受け、眼鏡をクイっと上げると柔らかい口調でもう一度説明する。外の世界の者達をとことん見下しているデミウルゴスだが、同じナザリックに属するものに対しては非常に驚くほど優しい。
「いいかい? 我々ナザリックに属するものは創造されただけにすぎない。生命あるものがナザリックで存在できるのは至高の41人に許されたからだ。では勝手に私たちがナザリックに無断で他の生命を持ち込むことは──」
「不敬ダ」
「つまり創造されただけの存在である我々が勝手に生命を、子どもを作ることも──」
「不敬でありんす」
「そういうことだよ」
その説明を聞いた
「ところでマーレ、セバスは君と交代する時、子どものことで他に何か言ってなかったかね?」
「え、えっと、特には、何も言ってなかったと思います、」
「ふむ、そうか……」
「あ! でも、セバスさんに何があったのか聞いたとき、小声で何かボソボソと言ってました」
「ホウ、セバスハ何ト言ッテイタンダ?」
「なんか……コウノトリさんが……なんとか」
「なんのことでありんすか?」
「コウノトリ?……それって鳥だよね?」
「そ、それが僕もよくわからなくて……」
「何カノ比喩カ……ム、デミウルゴスハ心当タリガアルノカ」
「……全く……彼のジョークのセンスはコキュートス並に壊滅的だ…………おそらくマーレに聞かれたからだろうが……」
「何カ言ッタカデミウルゴス?」
「ん? ……いや、何でもないよコキュートス……まぁ彼なりの説明だろう。このことはもう忘れておこう」
コキュートスも他の三人も分かっていることがあるなら説明して欲しかったが、デミウルゴスはピラピラと手を振り全く説明する気が無さそうなので納得はしてないが諦める。
そのやり取りのせいか、なんだか変な空気になってしまったので五人全員黙っているとコツコツと足音が聞こえてくる。
一斉にその音の発生源に目を向けるとそこには今日の主役であり、今回の騒動の原因であり、この変な空気を作った話題の張本人の姿があった。
「皆様、お待たせして申し訳ございません」
執事はその場で深々と頭を下げ謝罪する。
□□□□□□□
「ではツアレ、私は行きますがメイドを一人外に待機させておきます。何かあったら彼女を頼ってください」
「ありがとうございます。では、いってらっしゃいませセバス様」
セバスはにっこりツアレに微笑むと部屋を出る。
一般メイドや戦闘メイドの上司であるセバスはアインズの許しを得てから人員配置を少し調整し、メイドを一人自室の外に待機させておくことにした。彼女はナザリック外の者でありその上自分たちと同じメイドとして入ってきたツアレに一瞬でも仕えることをかなり拒絶していたが、上司であるセバスには逆らえないため渋々この役を受けた。
(フィースには悪いですが、なんと言っても心配ですから……後でアインズ様に直々に労って貰えるようお願いしてみましょう)
アインズと直に話し、今回の懐妊騒動に関してはお咎め無しどころか直接「よくやった」とまで誉められたセバスの足取りはまるで風船のように軽い。
セバスが
「皆様、お待たせして申し訳ございません」
「「「「「……」」」」」
「何かございましたか?」
「ふむ、セバス、一応聞いておくよ。君が
「ええ、間違いありませんデミウルゴス様」
そう答えた瞬間、セバスの背中に冷たいものが流れる。ゾクリと背筋を震わせ五人を確認すると──シャルティアからはそこまで感じないが──そこには隠しきれないほどの殺意が渦巻いていた。あの気弱そうなマーレでさえ、瞳の奥には異常に硬質な輝きがあった。
「…その敬称は必要ないよセバス。それで、君はどう考えているんだね? 今回のことを」
セバスは殺気の原因を理解した。守護者たちは自分がまたもや失態を犯したと思っているのだ。以前王都でツアレニーニャを拾ったことの報告を怠ったがため自分が反旗を翻しているという誤解を生んでしまったあの件と連続してまたツアレニーニャ関連で失態を犯したと。
確かに今回の件を聞いてセバスは冷徹に自分の子どもを産まれる前に殺すことまで考えた。それほど彼らにとってこの懐妊騒動は事件なのだ。
他の守護者たちが自分に対して苛立ちを感じることも無理はない、しかしデミウルゴスに言われるとなんとなく腹がたってしまうため、アインズの許しを得たセバスは前回とはうって変わって強気に答える。
「ではお言葉に甘えて……デミウルゴス、おそらく問題ないと私は考えています」
「ほう、なぜだね? 答えによっては──」
「アインズ様にお許しを貰ったからです」
この言葉の直後さっきまでの殺気が嘘みたいに消えていく。そして皆は驚きの表情をする。
「え! アインズ様とお話したの!?」
「ええ、お話しました……それにお褒めいただきました」
「ほ、褒めてもらったですって!? もっと詳しく説明してくんなまし! セバス!」
先程まで自分と同じく失態を犯したセバスに対し同情心さえ感じていたシャルティアの心にはもうすでに同情心や哀れみなどという感情はなく、嫉妬に近いものに変わっていた。
対してセバスの表情はあまり変わらず感情を隠しているが、デミウルゴスはそれが小さなドヤ顔であることを看破する。
セバスは一つ咳払いすると、
「お前達を誇りに思う、と。そのうえ、アインズ様には私とツアレの子どもを、孫、とまでおっしゃっていただけました」
もう既に五人の顔からは完全に殺気は抜けきっており、あるのはアインズ様に褒めてもらい、しかも自分の子どもを孫と認めてもらえる名誉にあずかったセバスに対しての、羨ましいという感情だけであった。
「ムゥ、孫カ……」
「ま、ま、孫……ですか……」
「ふむ、本当にそうアインズ様がおっしゃっていたのかね?」
デミウルゴスはまだ信じていないらしいがセバスはデミウルゴスのその嫉妬の表情に微笑みで返す。
「ええ、もちろんです。後でアインズ様に確認してもらっても構いません」
「なんか……今日のセバス強気じゃない?」
「そんなことはありません。いつも通りです」
あまり孫という言葉に子どもは実感がわかないのかアウラはセバスの態度にツッコミを入れ、マーレは子どもが産まれたら何で一緒に遊ぼうか考えている。
「セバスさんの子どもかぁ……産まれたら僕絵本とか読んであげたいです!」
「ではその時はよろしくお願いします」
「……ム?コレハモシヤ、好機デハナイカ?…………セバス!」
「どうかしましたか?コキュートス」
「子ガ産マレタラ、コノ私ヲ剣ノ指南役二推薦シテホシイ」
「な、なぜですか?」
マーレのお願いは可愛いが、さすがにこのコキュートスの願いにはセバスも戸惑う。
「イズレアインズ様ノオ世継ギガ産マレタトキ、先ニヤッテオクノトオカナイノトデハ、全ク違ウカラナ…………アァ、コノ爺ガオ教エシマスゾ……」
これまで見たことがない同僚の妄想トリップにセバスが若干ひいていると隣から冷静な声が聞こえる。
「大丈夫だよ、セバス。いつものことだ」
いつもこれなのか、とセバスは再び驚くと今度は叫ぶような
「ああああああ! もう! と、と、とりあえずそろそろ時間でありんす。中でアインズ様をお待ちしんしょう! そこで今の話が本当かどうか、聞くでありんす!」
シャルティアはなぜか鼻息荒く何を思っているのか足で床を何度も踏みつけている。
デミウルゴスもさっきまでの自分を恥じるように身だしなみを整えて言う。
「そうだね、シャルティアの言う通りだ。そろそろ拝謁の際の打ち合わせをしよう……コキュートス、続きは後にしたまえ」
「……ッ!スマナイ、デミウルゴス、モウ大丈夫ダ。トテモ良イ光景ダッタ」
アインズのお世継ぎだけでなくセバスの子に加え、おそらく遠い未来存在しているであろう自分たち守護者の子どもたち全員に、自分が剣の稽古をつけているところまでトリップしたコキュートスは、体内の熱を外に出すかのように息を吐き現実世界へ戻ってくる。
「構わないよ、コキュートス。では皆さんくれぐれも聞き逃すことのないように…まずアインズ様から見て──」
□□□□□□□
玉座の間で守護者たちは片膝をつき頭を垂れ、絶対的主人を待つ。
そして重々しい音とともに扉が開かれる。
「ナザリック地下大墳墓最高支配者アインズ・ウール・ゴウン様、および守護者統括アルベド様のご入室です」
デミウルゴスを活躍させたい…!
次回は恒例のアインズ様腹痛タイムです!
コメントお待ちしております。
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第8話 ご説明させていただきます【前編】
〜前回までのあらすじ〜
アインズ(うわぁ、いまから玉座とか……マジもう無理……)
「ナザリック地下大墳墓最高支配者アインズ・ウール・ゴウン様、および守護者統括アルベド様のご入室です」
戦闘メイドであるユリの声が部屋に響く。
扉が開きコツリコツリと冷たい靴の音とともに杖が床を叩く音、その後をハイヒールのカツカツとした固い音が追いかける。
守護者たちは全員跪き、肉眼で見えそうなほどの敬意の念を示している。
守護者たちが並ぶ横をゆっくりと足音が通り過ぎ、階段上の玉座に座る音がすると、アルベドの声が室内に響き渡る。
「顔を上げ、アインズ・ウール・ゴウン様の御威光に触れなさい」
玉座に坐すこの世の頂点にしてナザリック地下大墳墓の絶対的支配者、自らの崇拝すべき主人の姿を目にするべく一斉に身動きする音がする。
そしてそこには、支配者の証であるスタッフを握り禍々しいオーラでその身を包む、主人の姿があった。
側に控えているアルベドが全員揃っていることを確認すると微笑みながらアインズに顔を向ける。
「第四、第八を除く全階層守護者及び
「うむ、ご苦労だった、アルベド……ではまず緊急の集合にも関わらず私の前に集まってくれた各階層守護者たちに感謝を告げよう。特に遠方で動いていたはずのデミウルゴス、そしてリザードマンの村落にいたコキュートス、忠勤感謝するぞ」
「何をおっしゃいますアインズ様! アインズ様のいらっしゃる場所こそ、私たちが向かう場所でございます。」
「全ク、デミウルゴスノ言ウ通リデス。呼バレレバ即座二参ルノガ、御方へノ忠誠ヲ考エレバ当然ノコトデゴザイマス」
二人とも──コキュートスはあまり表情からは読み取れないが──歓喜に打ち震えていることは間違いない。
「そうか、では今後とも忠勤に励むがよい。加えてマーレ、行ってもらったのにまたすぐにナザリックに呼び戻してすまなかったな」
「っ! い、いえ!アインズ様のためなら僕もどこでも行きます!」
「そうかそうか、感謝するぞ」
「えへへ……」
マーレが照れているのを隣の姉と
「では早速だが本題に入ろう。今日皆をここへ呼んだのは他でもない、セバスとツアレニーニャの件だ」
先程までの各々の歓喜と羨望の表情は一瞬にして消え、その目には皆理解の色があった。
「ふむ、その様子だと皆知っているようだな」
「……アインズ様」
「ん?どうしたシャルティア」
「……セバスとその人間の子を孫とお認めになったのは本当でありんすか?」
「うむ、さすがに耳が早いな。その通りだ、すでに私はその子を自分の孫と考えている」
守護者全員『やはり本当だったか』とセバスから聞いた時ほどの驚きはないが、やはり本人からそう言われると破壊力は抜群で皆驚きの表情を浮かべている。またアルベドとシャルティアに関しては、これほどまでの名誉に授かったセバスに対しての、色で例えるならもはや黒色の嫉妬の感情で塗りつぶされていた。
「私にとって仲間が残したお前達は皆私の子どものような存在、それにはもちろんセバスも該当する。ならその子どもは私にとって孫であると言っても過言ではない。今回はこのことを伝えるために皆を集めた」
セバスは約二名の殺気混じりの羨望の眼差しを努めて無視しアインズに感謝を述べる。特に今は守護者全員に玉座の間で認められたことで実感が湧き、セバスの心は喜びで満ち満ちていた。
「ありがとうございますアインズ様。このナザリック地下大墳墓で子どもを作ったことを許して貰えただけでなく、孫とまで仰ていただけるとは……このセバス、必ずやこの恩義に忠誠をもって応えさせていただきます!」
「うむ、期待しているぞセバス」
「はっ!」
セバスは悦びで昇天しそうであったが、対してデミウルゴスはあまり面白くなさそうな雰囲気であった。
「というわけで守護者各員よ、ツアレニーニャはもちろん、そのセバスの子どもはこのアインズ・ウール・ゴウンの名で保護されたことをナザリック全域に伝えよ」
「「「「「「「はっ!」」」」」」」
「よろしい」
アインズは満足気に頷く。
(これでとりあえず二人の身の安全は確保と……安心だ……)
実はアインズは自室からこの玉座の間までの移動中常人なら押しつぶされてしまいそうなほどのプレッシャーに晒されていた。というのも守護者たちに集合を伝えたあと、アルベドを振り切るためにかなりの時間使ってしまい、そのうえ二人に子どもができたことに動揺しきっていたアインズは玉座の間でどうやってこのことを話すかほとんど考えていなかったのだ。
いつも玉座の間で話す際は、メイドと
それでもぶっつけ本番であることには変わらないので、アンデッドの身でありえない事だが腹痛に襲われていた。
(ああ、とりあえずこれでやるべき事はやったけど……もうこれで解散でいいかな? ……早く部屋に帰ってベッドでゴロゴロしたい)
「ふむ、とりあえず私からの要件は以上だ。皆立つが良い……では他になにか言っておくべきことや聞きたいことはあるか?」
「……恐れながらアインズ様」
「っ!……ん? なんだデミウルゴス」
アインズは完全に安心しきっていたせいか、突然デミウルゴスから声がかかったことに驚き、急だったため瞬時に精神が沈静化される。自分が声をあげなかったことを自ら褒めながらデミウルゴスの言葉を待つ。
「なぜセバスとツアレニーニャの間に子ができたのか、わかっておりません。原因究明はするべきと愚考します」
「んー、確かにわかりんせんわ。どうやってセバスは人間の間に子どもを成すことができたんでありんしょうか……」
「そうね……私も最初に聞いたときは驚いて取り乱してしまったわ」
アインズは密かに身を震わせ慎重にアルベドの様子を伺う。特に今すぐ襲ってきそうではなかったため人知れずほうっとため息をつく。
(そういや最初にセバスのことを聞いた時のアルベドはやばかったな、そもそもなんでそこで即子作りなんだよ……前に守護者で風呂に行った時もなんだかおかしかったけど、やっぱり役職的にストレスたまるのかなぁ……)
そんなことを考えていたせいでアインズはアルベドを少し長い時間、じっと見ていてしまっていた。
「いかがなさいましたか? アインズ様」
「っ! いや、なんでもないなんでもない」
「左様でございますか? 」
「ああ……まぁ私も不思議に思っていたところだ、二人に子どもができたということをな」
「本当に不思議でありんす。チビなら何か知ってるのではありんせんか?」
「な、なんでそこであたしなのよ!」
「そうね、アウラなら色んな生き物を第六階層で飼っているから……なにか心当たりはないかしら」
「うーん……同じ種族間ならあるかもしれないけど異種族だと……ごめん、あたしもあんまりわからない」
「そうよねぇ……」
(そうなんだよ、異形種と人間種……全く違う種族がどうやって子どもを……)
ふいに昔の
『お、モモンガさん、異種姦ですか?』
と言ってくる姿を幻視する。
(ペロロンチーノさんなら喜ぶかな…………って待てよ、セバスとツアレに可能だったならアンデッドの俺も子供作れるんじゃね?)
チラッとアルベドとシャルティアの様子を確認するが特に変わった様子はない。
(いよいよ俺の貞操も危うくなってきたな……ないんだけどな……)
「で、でもですよ? アインズ様なら、もうわかってるんじゃないかな……」
(え! マーレそこで俺に振る!?)
「そうでありんすね! アインズ様、なにかわかってらっしゃるなら教えてくんなまし!」
「そうですアインズ様! あたしにも教えてください!」
「コノ愚カナル身ニモ教エテイタダキタイ」
「自らの子どもであることにも関わらず何も分からないこの身が無様で仕方ありません」
「アインズ様、この私にも教えてください! それに……きっと今回の情報は私たちの子作りにも役立つかと……」
「はん、盛ったおばさんホルスタインはこれだから面倒でありんす……」
「…………なんだと偽乳ウナギ」
「……やんのか大口ゴリラ」
(なんでみんな俺が全部知ってる感じで進行してんの! ……ああどうしよ、二人の喧嘩も始まっちゃったし!)
過度の緊張で精神の強制沈静化が起きたアインズは、二人の年中行事を横目にまだ発言していない人物──唯一の希望──に声をかける。というかもはや丸投げする。
「……ふむ、デミウルゴスは何か気づいているようだな」
「はい、いくつかの仮説はありますが……私如きがアインズ様の思考に追いついていることはないでしょう」
「ぇ、いやそんなこ──」
「ですので、よろしければアインズ様。答え合わせという意味で、アインズ様のお考えを教えてはいただけませんでしょうか?」
「そうですアインズ様! あたし達にも教えてください!」
「あ、あの、僕にもお願いします!」
「ゼヒ、アインズ様ノオ考エヲ」
「ぇ…………」
丸投げしたつもりがブーメランの如く綺麗に自分に返ってきてしまいどうすればいいのか分からず、アインズにありえない事だが立ちくらみが襲う。
(やばい、もう時間が無い! どうする! うわあああ!…………)
過度の興奮は、まるで上から巨大ななにかに押さえつけられたかのように抑え込まれるが、その凪のような冷静さは一瞬で消え、やはりまたすぐに凄まじい動揺を感じるがそれも一瞬で消える。
過緊張と沈静化を幾度となく繰り返したアインズは結局その心の嵐の果てに何も見出すことはできず、『テキトーな事言ってデミウルゴスとアルベドに深読みしてもらう作戦』に完全に切り替える。
「それは………………セバスが人の形をしているからかもしれないな……」
この発言の後の守護者たちと執事──もちろんデミウルゴスとアルベドも含め──の反応を言葉で表すのは簡単だ、まさに文字通り『目が点になる』である。
「……ア、アインズ様、それはどういうことありんすか?」
この発言のあとアインズはものすごい後悔の念に襲われていた。何でもっとまともな事を言えなかったのだろうという後悔だ。後に悔いるから後悔、言ってしまったことは元に戻せない。
(ああ、俺はやっぱり馬鹿だ……よく考えればわかる事じゃないか! ここにいる皆、コキュートスと俺を除いたら皆人間の形! アホだ、今までの支配者ロールプレイが……お腹痛い…………)
そう、なぜ守護者達の目が点になっているかというと、理由は二つある。
一つ目は、疑問の内容は竜人と人間の間に子どもがなぜ出来たのか、であったのにアインズは対象を“セバス”にのみ限定して話したことだ。神のような存在である絶対的支配者がそんな質問の意図をはき違えるはずがない、という思いから目が点になったのだ。
そして二つ目はアインズが『人の形』と言ったことだ。そもそもこの場にいるアインズとコキュートスを除いて皆、大体人の形をしている。つまりこの理論でいくと、どんな条件でも
数十秒、いや、数分の沈黙が玉座の間をのみ込む。
しかし、やはりこの
そんなこと知る由もないアインズはまずいと思い慌てて先程の自らの愚かな発言を訂正しようとする。
「ぁ……今のは冗──」
「さすがはアインズ様、僅かな情報でそこまで……感服いたしました」
「全くデミウルゴスの言う通りでございます。さすがはアインズ様、その叡智私たちの及ぶところではございません」
その訂正はされることなく、デミウルゴスとアルベドの発言によって上塗りされる。これは上手くいったか! とアインズは何がなんだか分からなかったがそう思い、その地獄に垂れ下がった蜘蛛の糸を思いっきり掴む。
「……さすがはデミウルゴス、そしてアルベド。私の言の真意が掴めたようだな」
「アインズ様の今のお考えに比べれば私が立てた仮説などゴミのように感じられてしまいます。まさに端倪すべからざるとはアインズ様のために作られた言葉」
「そこまでお気づきになるなんて……もしかしてアインズ様はセバスとツアレのことを聞いた時からそこまでお考えだったのですか?」
「う、うむ、まぁな……」
声が震えなかった自分を誰か褒めてくれ、とアインズは心の中で叫びながら、この流れだといつもの手が使えると見えないところでガッツポーズをする。
「アインズ様! どういうことでありんすか?」
「ツアレのことです、アインズ様。私めにもお教えいただけませんか」
シャルティアやセバスだけでなく、他の守護者たちも先程までの驚愕ではなくアルベドとデミウルゴスに対する、自らの主人の叡智の領域に少しでも踏み入れている二人への嫉妬に塗れた声で発言する。
「アインズ様! もっとわかりやすくお願いします!」
「ぼ、僕にもお願いします!」
「本来ナラコノ段階デ気付クベキデスガ、ドウカオ願イイタシマス」
ここまで来ればもう大丈夫あとは先生方に任せよう、と安心し誰にも気づかれないようため息をつくとアインズは少し考えるふりをし、手に持つスタッフをデミウルゴスに向け支配者然とした雰囲気で命ずる。
「わかったぞ守護者たちよ。デミウルゴス、おそらくお前と私の考えは同じだ。皆にもわかりやすく説明せよ、わかりやすく、だ」
「かしこまりました。ではご説明させていただきます──」
そして悪魔は今回の懐妊騒動の真相を語る。
長くなった上に色々納得いかず、再度一から書き直したせいで更新が遅くなり、それでも終わらなかったため前後編にしてしまうという……
後編は翌日には更新できると思います!多分!
ということで次回、デミウルゴス深読み絶好調の巻
コメントお待ちしております。
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第8話 ご説明させていただきます【後編】
アインズ「人の形してるから」
一同「……」
アインズ「……(アア、終ワッタ!)」
「かしこまりました。ではご説明させていただきます」
デミウルゴスはそう言うと微笑んで守護者たちの方に身体を向ける。
「まずセバス、今君は何の形態かね?」
質問の意図がわからず、自分の身体をチラッと見てセバスは少し戸惑いを覚えつつ答える。
「……人間形態ですが、それが何か?」
「そう君は今人間形態、この私ももちろんアルベドも今は人間形態だ。つまりそれこそアインズ様の仰っていた“人の形”ということなのだよ」
「つまり……結局どういうことでありんすか? 形態は違っても結局種族は変わりんせん」
「そうそう、シャルティアの言う通りだよ。人間の形をしていても種族は変わらないよ、その証拠にアルベドは羽、デミウルゴスには尻尾が生えてるじゃん」
うーん、と五人の守護者ともう一人はまだ理解できておらず一同『どういうこと?』といった顔をした。それを見てとったのかアルベドがデミウルゴスに助言をする。
「デミウルゴス、その説明の前に“種族の分け方”について説明した方がわかりやすいんじゃないかしら?」
「ふむ……確かにそうですねアルベド。私としたことがアインズ様にご命令されて少し張り切ってしまいました」
デミウルゴスはくいっと眼鏡を上げ、緊張気味だった自分の心を落ち着かせる。彼にとっては今のこの時間は、例えるなら生徒が一生懸命作った答案を目の前で自分が心酔する教師に添削されているようなものだ。体に溜まった熱を自分の息として吐き出し、再び説明を開始する。
「アルベドの言う通り、最初に種族の分け方がどのように行われているかについて考えていこう。今から話すことはあくまでも仮説……いえ、失礼しましたアインズ様のお考えです、仮説ではなくおそらく事実でしょう」
「ぇ…………あ、ああ、い、いやデミウルゴス、私も正直確証はないのだ、あくまでも仮説として進めてくれ」
このナザリックではアインズが黒と言ったらどんなものも黒になってしまう。仮説としたものを事実にされてしまっては、これからアインズは曖昧な表現が全く出来なくなってしまい己の首を締めることになる。というよりそもそもその“仮説”とやらすら分かってないのだ、いきなり自分に振られてびっくりしたアインズだったが上手く対応し、再び全神経を耳に集中させる。
「左様でございますか? ……アインズ様に間違いなどあるはずもございませんが、御身がそう仰るなら、この話はあくまでも仮説ということで進行させていただきます」
「う、うむ……さぁ続けてくれ」
「はっ、ということで種族の分け方ですが……そもそもどの生命体が亜人種で、どのモンスターが異形種か、一体誰が決めたのでしょう──」
アインズの──いや正確にはデミウルゴスの──話はまとめるとこうだ。
ユグドラシル時代、つまり至高の四十一人がいた転移する前、どの生物やモンスターが人間種か亜人種か異形種かは運営が決めており、運営やゲームのことを一切知らない守護者を含めたナザリックに属する者たち、つまりNPCたちにはそれは一般常識として頭に入っている。
しかしそれを決めたのはあくまでもゲーム開発側であり、転移前のナザリックでの常識だったはずのルールも、もはやゲームでなくなった転移後の世界ではそれが通用するのかすら危うい。実際に口の動きや文字は違うのに言葉は通じるという都合が良いルールや、ザイトルクワエやハムスケのようにナザリックひいては一人の元ユグドラシルプレイヤーであるアインズですら知らないモンスターも存在したのだ。では転移後の世界においては人間と亜人と異形の境界線は誰によってどこで引かれているのか……
「た、確かに一体誰が決めたんですかね……」
「そうなのだよ、それこそ今回アインズ様がお立てになった仮説における重要なポイントだ」
デミウルゴスはそう言うとニコッ笑い、問題の正解にたどり着いた自分を褒めて欲しい小学生のような表情を作ってアインズに向き直る。
「さ、さすがだ、デミウルゴス。そこは確かに重要なポイントだな…………?」
(いや、なんとなくもわからないんだけど……結局どういうことなんだ? ……デミウルゴス! 見たこともないような笑顔をこっちに向けないで! 怖いから!)
アインズの心の中の叫びも知らずデミウルゴスはまさに会心の笑みを浮かべ喜びを噛み締める。
「お褒めにあずかり光栄でございます、では話を続けます……つまりこの転生した先のルールではかなりこの三種族間の線引きが曖昧です。しかし、わからないわけではない。実際私は今アインズ様のご命令で聖王国近く亜人をいくつか支配下に置いているのだが、その中に
「ん?魔法?……ああ! そうか!」
「どうしたのマーレ」
「わかったよお姉ちゃん! この世界で種族を決めているのは、魔法なんだよ!」
「あ! そっか! よく考えれば魔法で種族わかるもんね! なんだ、そんなことか……でもならやっぱりセバスは竜人じゃん」
これでは議論が堂々巡り、皆眉間に皺をよせ懸命に頭を働かせるがやはりわからない。しかしこの姿をデミウルゴスは予想していたようで話を続ける。
「そう、魔法でわかる。なら例えば今のセバスに対して人間種にだけ効く魔法をかけた場合それは効くと思うかい?」
「そ、それは……」
もはやシャルティアの脳スペックでは追いつけていないのか何も答えることができない。もちろん誰も知らないがもう約一名追いつけてない人物もいる。
しかし竜人である当の本人には理解できたのか納得し、普段は気に食わない人物だがこれに気づき、自らが敬愛する主人と同じ思考に至ったことに素直に感心する。
「なるほどデミウルゴス、そういうことでしたか……確かにこの形態の状態だと人間種に対する魔法は……効きます」
「そう、つまり今のセバスは──」
「人間形態デアルタメ──」
「竜人という異形種でありながら──」
「に、人間への魔法が効く──」
「人間種としてこの世界から認識されている、ということでありんすか!」
一同はこの結論に驚くが、逆にこれでもともと各NPCの設定を熟読していたアインズは完全に腑に落ち、自分の話が繋がったことへの安心とこれからの自分の支配者ロールプレイへの不安で卒倒しそうに──ならずに冷静になる。
(作ったNPCのラスボス感漂わせるために一時期いくつかの形態を持たせた異形種作るの流行ったもんなぁ……なるほどね。こういうの作ると人間形態の時とか半形態の時はペナルティを受けるけど、この『本気の私の姿を見るがいい』感が逆に良い! ってみんなで騒いでたなぁ……)
アルベドもデミウルゴスも複数の形態を持っているがこの通常の人間態の時も例外なくペナルティを受けている。それはセバスも例外ではなく、その設定で受けているペナルティの一つに『人間種に対する魔法が有効』があったのだ。もちろんセバスのレベルは百だからそんじょそこらの魔法は耐性によって打ち消されるが、高位の魔法となるとさすがに無効化できないということだった。
やっと話に追いつけたアインズはここしかないと発言する。
「その通りだ、守護者たちよ。あくまでも仮説だがな……しかしこれで納得がいくだろう」
「はいアインズ様、セバスに人間種への魔法が有効ならばそのように世界が認識している、ということも納得がいきます。もちろん龍の形態時にはその認識から除外されるとはおもいますが……」
「なるほど、今のセバスは異形種であり、あたしとマーレと同じ人間種でもあるってことね」
「フム、理解シタゾ……シカシナガラソレ二スグ二気付クアインズ様……」
「そうね、私たちがするべき反応は感嘆よ。このことにアインズ様はもうすでにお気づきだった」
「さすがでありんす!」
「すごいですアインズ様!」
「そ、そうです! 僕憧れちゃいます」
「戦闘ノコトダケデナク、コノヨウナ知識ニモ精通シテイルトハ……感服イタシマシタ」
「この身に起きていることをアインズ様はすでにお気付きだった……自分より自分のことをご存知であるとは、さすがとしか言いようがありません……」
守護者たちからのベタ褒めがとてもくすぐったく感じたアインズだが、そんなことおくびにも出さず鷹揚に頷く。
「うむ、まぁそんなところだ、あくまでも仮説だがな。しかしアルベドとデミウルゴスには看破されてしまったようだな」
「何をおっしゃいますかアインズ様! アインズ様があの発言をしなければおそらく気付くことすらできなかったでしょう……」
デミウルゴスは苦笑いで答える。自分の主人は己如きの思考の何歩先にいるのか、と。
「ところでデミウルゴス、あなたが最初に立てていた仮説はなんだったのかしら? 私はそちらも気になるわ」
「アルベドの言う通りだ、私もデミウルゴスの最初に立てた仮説を聞きたいな」
「っ! そんなアインズ様恐れ多い!」
「良いではないかデミウルゴス、私のも仮説なのだ。ぜひ聞かせてくれ」
(というか俺の思いつきよりデミウルゴスが立てた仮説の方が正しいに決まってるじゃん……ってかそもそも俺何も思いついてないし……)
自分の支配者としての化けの皮が剥がれることをなんとしても避けたいアインズが、自分の不甲斐なさに呆れ返っているのをこの場にいる誰も気づくことは出来ない。
「で、では恐れながら……ゴホン、私は最初に広範囲に発動する強力なアイテムの力かと考えました。しかしそれならばセバスとツアレの事例しか確認されていないということが説明できません……次に考えたのはアインズ様が以前お使いになったという〈
「なるほどな、デミウルゴス。確かにかの
「仰る通りでございます」
(もしかしたら言葉が通じなかったことを不便に思った、昔こちらに転生したプレイヤーが何かしらの
やばい、とアインズは瞬時に約二名の女性守護者を確認する。シャルティアは今も自分の叡智を賞賛する声をアウラと共にあげているが、アルベドは……髪の毛に隠れて顔がよく見えない。彼女の立場は守護者統括という上役だ、おそらく大丈夫だとは思うが、アインズは念の為に心のメモ帳に『アイツに宝物殿の警備の強化を命令』と書き込む。
「まぁ時間はたっぷりあるのだ、分からないことは段々調べていけば良いではないか、そうだな? アルベド」
「……」
「アルベド?」
「っ! 何でしょうアインズ様!」
「う、うむ……分からないことは少しずつ調べていけば良いと言ったのだ」
「その通りかと、これからセバスの子どもも生まれてくるのですし」
「そうだね、私も同僚の君の子どもには元気に生まれてきて欲しいよ」
「ありがとうございます」
「まぁ今日のところはこれで解散とする……いや、デミウルゴスとアルベドは残ってくれ、二人には少し話がある、他の守護者たちは各々の持ち場に戻るように。セバスは部屋に帰れ、後の任務はマーレに引き継がせる」
「しかし、アインズ様!」
「良い、セバス。今日は長い一日だった、帰って二人で話すこともあるだろう」
「……お心遣い、感謝致します」
「うむ、ツアレによろしく伝えといてくれ。では各員行動を開始せよ」
「「「「「はっ!」」」」」
そう言うとシャルティア、コキュートス、アウラ、マーレ、セバスの順で玉座の間をあとにする。
扉の閉まる音が響く広い玉座の間にはアインズとアルベドとデミウルゴスの三人の影があった。五人が部屋を出たことを確認するとアルベドがアインズに微笑みながら自分たちを残した理由を問う。
「アインズ様、私たちに何かございましたか?」
「ああ、二人に確認しておきたいことがあってな」
「確認、でございますか?」
「そうだ…………近々起こる、帝国と王国の戦争について確認しておきたいことがある」
今回は独自解釈がてんこ盛りでした……
ここは賛否両論わかれそうです……
よろしければ読んでくださっている皆様の“仮説”もぜひお聞かせください!
というわけで次話はこの玉座の間の一件のあとが描かれるはずです!
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第9話 家族水入らずで食卓を囲むのも
それにしても13巻むちゃくちゃ面白かったですね! ピンポイントで藍蛆が出てきたのは個人的に一番驚きました笑
さすが丸山先生、まさに至高の御方……
先生と私の文章では雲泥の差ですが、ふんわりと楽しんでいただけたら幸いです。
ではどうなる第9話!
「どうやらその戦争では、開戦時に私が最初に魔法を一発王国に向けて放つ予定だ」
「先日帝国から届いた書状のことですね?」
バハルス帝国とリ・エスティーゼ王国の戦争はだいたい三ヶ月後くらいを予定している。戦争の準備期間というものだが、帝国の目的は決して戦争することではなく王国をこの戦争準備期間でじわじわと疲弊させることだった。しかし毎年カッツェ平野で行われるそれも、今年は少し趣向が違っていた。その一つが、戦争には謎の
「そうだ」
アインズはこの書状が来たことを知ったときから何の魔法を打つべきかこの知者二人に相談したかった。
「そこで使う魔法は……〈
二人の瞳は大きく開き、溢れんばかりの尊敬と畏怖をたたえていた。
「さすがでございます、アインズ様! それは素晴らしいお考えかと」
「デミウルゴスの言う通りです。魔法一つにも幾多の意味を持たせるなんて……惚れ直してしまいます」
(お! 意外と好評なんじゃない? これ! いやぁ、やっぱりド派手な魔法選んでよかった……それで……どんな意味を持ってるんだろこれ)
そんなこと聞けるわけがない。アインズは何もかも知っている、このナザリックの絶対的支配者……という設定だ。出来ることは二人の会話からできるだけ情報を集め、自分の化けの皮が剥がれないよう努力することだけだ。
「これで王国の寿命は一気に短くなったわ……もちろん帝国もだけど、くふふ」
「これでモモンの役割がかなり重要になってきますね……もちろん王国の人間共もそうですが、帝国の皇帝も本当にかわいそうだ」
二人ともまるでこれけらピクニックでも行く子どものように楽しそうだが、やっぱりアインズには理解できないため、ありえないことだが頭痛におそわれる。
「も、もう狙いを読まれてしまったか……さすがだな、デミウルゴスとアルベド。お前達に相談しておいて良かった、これで王国との戦争は安心だな」
「相談などお戯れを……私たちに狙いを聞かせておくべきだ、アインズ様はそう判断されただけ……それなのに私たちにお気をつかってくださるとは、慈悲深いお言葉、感謝致します」
「う、うむ、まぁな……」
(いや、そういうつもりじゃなくて普通に相談したかっただけなんです!)
この二人は今だにアインズを自分より遥かに賢いと思っている。違うよ、俺はそんなに賢くないよ、と普段から言っているのになぜか自分自身の偉大さはますます大きくなっていく。
「ところでアインズ様、なぜ私とデミウルゴスだけに聞かせたのでしょう、他の者にも狙いは伝えておくべきでは?」
二人の瞳の色はスっと深くなり、主人の深い意図を掴もうと頭を回転させる。もしかしたらアインズは自分たちとは別で計画を進めているかもしれない。
その様子を見て焦ったアインズは急いで自分の意図を話す。
「あ、あぁ、その事か、別に深い意味は無い。まぁなんだ、せっかく新しい生命の誕生を皆で祝していたのだ。そのような雰囲気の時に命を奪う話をするのが躊躇われた、それだけだ」
アルベドとデミウルゴスは感動に打ち震える。自らの主人は智謀に富むだけでなくこれほど慈悲深い心の持ち主であると再認識させられた彼らは心の中でアインズに再度絶対の忠誠を誓うが、全くそのことにアインズは気付かない。むしろ自分の言動が支配者として正しいのか不安になる。
(よく考えればいつもの手が使えたんだからそんなことしない方が良かったかな……いや、社会人としては空気を読むのはあたりまえ……支配者ロールも厳しいな)
アインズは頭痛だけでなく腹痛にもおそわれる。もうさっさと終わらせて部屋に帰ろうと決心したアインズは念の為に二人に確認をする。
「では二人は他に私に報告しておきたいことはあるか?」
「いえ、特に私の方ではありません。以前提出さていただきました報告書より別段変わったことは起こっておりませんので」
やばい全然しっかり読んでない、と焦ったがそんなことを一切悟らせないようにアインズは慎重に言葉を選ぼうとするが、何も思いつかない。
「そうか……なら良い」
「アインズ様、私から……いえ、私の方も特にはございません」
「そうか? なら今日はこれで解散とする。二人とも持ち場に戻るように」
「「はっ」」
(なんか今言い方変だったような……まぁいいか)
部屋に帰ろうとするとなぜかアルベドが付いてくる。
「アルベドよ、今日は長い一日だった。しばらく一人になりたい、共は許さん」
「! ……かしこまりました……」
見るからにアルベドはシュンとしているがこればかりは仕方がない。アインズのアンデッドである身体は大丈夫でも、鈴木悟の精神は疲労でもう限界だった。
(ああ、もうベッドでゴロゴロしたい……あ、そうだアイツに連絡しないといけないんだった……)
そして、部屋に入るとアインズはため息をして、指輪を使って転移する。
向かう先は宝物殿である。
□□□□□□□
「おかえりなさいませ、セバス様」
「ただいまツアレ……ってそれは、一体?」
「あ、これは……その……」
アインズはセバスとツアレの部屋から出た後すぐに料理長に命じてツアレとセバスに精のつく料理を作らせた。
主人がアンデッドなため自分の活躍の機会に中々恵まれなかった料理長は張り切ってこの任務を遂行し、いや何日分だよ、とツッコミを入れたくなるほどの料理を作って持ってこさせたのだ。何日分といってもそれは量というよりも種類が多く、それはできるだけツアレの好みがわかるようにと中華からフランス料理、日本食など多岐にわたっていた。〈
しかし、セバスが驚いたのはこの料理の量ではなく、ツアレが食べた料理の量だ。
その料理長が作った四、五日分もありそうな料理の約半分を平らげていたのだ。
「ほ、本当はセバス様を待って一緒に食べようと思ってたんです! でもとても美味しそうで、待てなくて……」
いやそこじゃないよ、というツッコミを努めて飲み込んだセバスは改めて確認する。
「あー、気にしないでくださいツアレ。料理というものは温かいうちに食べるのが礼儀というものです」
〈
「ツアレ、それより……この量をたった一人で食べたのですか?」
「は、はい……」
ツアレの顔が見るからに赤くなる。それもそうだろう、常人の二、三日分の食料を一人で平らげのだ。普通の女の子なら恥ずかしくて死にたくなるレベルだろう。
「……なんだか、急にお腹が減ってしまいまして」
またしてもセバスは、いやそこじゃないよ、というツッコミを入れたくなるが頑張って飲み込む。最初はその奇怪なツアレの状況に戸惑ったセバスだったが、さすがに段々と冷静さが戻ってきた。セバスは右手を自身の顎にあて、状況を改めて分析する。
まずそもそも二十もいかないような人間の女性がここまで一人で食べれるわけがない。二食分とかならまだ分かるが食べたのは数日分だ、今までも大食いだったならともかく、むしろ普段小食な彼女にしてはどう考えてもおかしい。
そして、もっとおかしいのはツアレの見た目が全く変わっていないという点だろう。自分の部下のメイドの一人に、人間を取り込みすぎると一気に太って“残念な姿”になってしまうスライムがいるが、ツアレは全くそういった様子がない。
「……それだけ食べても平気、なのですか?」
「はい……それが自分でも不思議で……」
ツアレも全く理解出来てない様子だった。しかし二人とも、その原因はなんとなく理解していた。
「おそらく、私たちの子どもの影響と考えるのが妥当でしょう」
「はい……私もそう思います…………でもまだ食べられます!」
「え、まだ食べられるのですか?」
「はい! よろしければセバス様もご一緒されませんか?」
今日はもう仕事をするな、と主人に暗に言われたセバスは飲食不要のアイテムを外し、ツアレに微笑み返した。
「それもいいですね……家族水入らず食卓を囲むのも」
ツアレは顔を赤くする。その様子を見て、自分の発言を思い返しセバスも少し頬を緩める。
(こういう発言を自然にしてしまうとは……)
この不思議な感情の正体をセバス自身、まだ理解出来ていない。しかしこの感情が決して悪いものではないということは、すでに確信していた。
「で、ではこちらのテーブルへ……」
「しかし、本当に大丈夫なのですか? 少し食べ過ぎては?」
グゥー…………
もはや少しどころの食べ過ぎじゃないが、そのセバスの心配はツアレから聞こえた音で消えていく。ツアレはお腹に手をあて顔を伏せるが、耳まで赤くなっていては伏せてもあまり意味は無い。その様子に対しセバスは優しく話す。
「食べた方が良さそうですね」
「は、はい……」
セバスは案内された食卓にツアレと向かい合わせに座る。
「ではそうですね……今日のアインズ様のお話についてでもしましょうか」
「お願いします」
二人のぎこちない、それでもどこか暖かい会話は二人の食事が終わっても続いた。
ちなみに食事中ツアレが自分の数倍のスピードで食べ続け残りの分も平らげてしまったことにセバスが驚愕したのは、また別のお話である。
□□□□□□□
宝物殿には卵に三つの穴を開けたような顔をして軍服に身を包んだ異形とこのナザリック地下大墳墓の絶対的支配者であるアインズ・ウール・ゴウンの姿があった。前者の方はバッバッという擬音が似合いそうなオーバーな動きをしながら主人を歓迎している。
「ようこそおいでくださいました! 我が創造主! アインズ様!」
「お、おう……やはりここにいたか」
(うわぁ、もう嫌だ、やめてー! くそっ、エ・ランテルにモモンとしていてこっちにはいない可能性にかけたのに……! そうだ、よく考えたら戦争に巻き込まれないように適当に理由つけてこちらに戻れって命令したの、俺だった……)
いま、王国は戦争の準備の真っ最中だ。この後、アインズが国を建設したときモモンがキーパーソンになるということを聞いたアインズは、モモンが巻き込まれないように依頼を受けてエ・ランテルにいないことにしておいた。何かの拍子で戦争にモモンも参加──冒険者は国と関わらないという不文律があるが──ということになった場合面倒なことになると考えたからだ。
「もっちろんです、アインズ様! それがアインズ様のご命令! おかげさまでこうしてマジックアイテムと戯れることができております!」
「そうか、それは良かったな」
(やばい、もう帰ろうかな……ってか俺ここに何しに来たんだっけ、あ、そうだ)
自分の黒歴史のせいで危うく本来の目的を忘れるところだったアインズは要件を口早に言う。
「パンドラズアクターよ、この奥にある
「と、仰いますと?」
「実はな──」
アインズはパンドラズアクターにセバスとツアレの一件を説明する。
「おお! それはそれはおめでたい事にございます! ……しかし、なぜそれが
「普通は異形種と人間種の間に子どもはできない、しかしできた。今回は関係ないと思うが、本当にアイテムが絡んでいないとなぜ断言できる?」
パンドラズアクターは見るからに感心している。全てデミウルゴスの受け売りのアインズとしてはその視線はむず痒い。
「なるほど、さすがはアインズ様、我が主! このナザリックの絶対的支配者!」
なぜかパンドラズアクターは敬礼する。アインズは彼に褒められると他の守護者に褒められた時のようなむず痒さより最終的に恥ずかしさが勝って精神が安定化する。
(なんでこんな設定にしたんだろう……全く慣れない)
アインズは視線をずらし、パンドラズアクターに命令する。
「お前なら大丈夫だろうが、一応念の為だ。この宝物殿最奥部の警備を一段階あげろ。その為ならナザリックの財を使ってもいい、私が許可しよう」
「はっ! かしっこまりました!」
ビシッと踵を鳴らしアインズに敬礼するパンドラズアクターをみて、アインズの頭に子どもというワードが浮かぶ。
「ところでパンドラズアクター、この宝物殿にオモチャとかあるのか?」
「はい?」
パンドラズアクターはものすごく間の抜けた返事をする。それもそうだろう、アインズからオモチャというワードを聞くとは思わなかったからだ。
「あ、いや、産まれてくる子どもは私にとって孫だ、なにか遊ぶものをだな……」
「!……なるほど、さすがアインズ様お優しい! わかりました、子どもにも影響がなさそうな遊べるマジックアイテムの一覧を作って提出しましょう!」
「本当か! パンドラズアクター!」
察する能力はアルベドとデミウルゴスに引けを取らないさすが自分が創造したNPCだ、と少し鼻が高くなる。
「もちろんです、アインズ様! なぜなら私は、アインズ様に唯一創られし、あっ領域っ! ん~守護者でありますから!」
その高くなった鼻は一瞬でへし折られ、精神が強制的に沈静化する。そして一抹の不安がアインズを襲う。
(あれ? 俺こいつにこんなこと頼んでいいのかな……こいつが選んだマジックアイテムなんか使ったら孫もオーバーリアクションになるんじゃないか? ……でもこいつがマジックアイテムについてはNPCの中で一番詳しいからな……仕方ないか……アルベドに任せたら違う意味で暴走しそうだし、シャルティアは別の教育をしそうだし、デミウルゴスは……ダメだ働かさせすぎ、コキュートスは武器だもんな……あ、あの二人がいるな!)
リストをもらったらアウラとマーレに相談しようと決めたアインズはパンドラズアクターに支配者の雰囲気を纏わせて言う。
「……頼んだぞパンドラズアクター」
「お任せ下さい! それに……」
「それに……?」
「それに、その産まれてくる子がアインズ様の孫ならば、アインズ様に創造された私からみてその孫は私の、甥! でございます……これくらいのこと、当然、でございます!」
「えー……」
パンドラズアクターの表情は動かないが、なんとなくドヤ顔なんだろうなというのをアインズは理解し、そして、こいつの甥っ子か、と両手で顔を覆いたくなる言い方をされたアインズはまた精神が沈静化された。
□□□□□□□
窓がひとつもない諜報対策の施された部屋にはこの国の最高権力者とその人の幾人かの直轄の部下の姿があった。
「ロウネ・ヴァミリネンからの報告ですが、アインズ・ウール・ゴウン魔導王の了解を得た、と」
「そうかそうか、それは良かった。ちゃんと“最大の”魔法を使ってくれと言ったか?」
「はっ、その旨、ちゃんと伝えてあるとのことです」
「よし! これで奴の限界がわかるな……どうしたニンブル、なにか不安か?」
機嫌良さそうに報告を聞いていたバハルス帝国皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは自分の直轄の部下の不安そうな顔に問いかける。
「あ、いえ、陛下、なんでもございません」
「そうか?……まぁお前の不安もわかる。奴の強さは底が知れない。だが今回の申し出に応じた、ということはまだ対魔導国包囲網は希望があるということだ」
(王国には悪いが今回の戦争で測らせてもらうぞ、貴様の強さ……!)
帝国も王国も、この後に起こる惨劇を、後に伝説に謳われるほどの最悪の戦争という名の虐殺を自ら起こそうとしていることをこの時はまだ知らない。そして……
──何万人という命が奪われようとしている中、一つの命が誕生しようしていた──
よく考えたらまだ一話目からまだ一日しか経ってなかったんですね……
そして次回、ついに、つ・い・に!
子どもの性別が判明する!?
コメントお待ちしております
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