変境で育てられた自称常識人 (レイジャック)
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ゴミ捨て場にあった汚れた書物

この物語はとてもシリアス展開が少なくなっているので注意して下さい



原因は作者がシリアスについて無能な事が原因なので、暖かく見守ってくださいね……


タイトル:毎日鏡にその者を見てしまう恐怖……

 

 

この世には、異形の化け物・荒魂を祓う刀使(とじ)と呼ばれる少女たちがいる。特別祭祀機動隊に所属する彼女たちは、全国5か所にある中高一貫校にて訓練を積む傍ら、有事の際は御刀と特殊能力を持って荒魂から人々を護っていた。これは最近になって行われている訳ではなく、古くから続く伝統の様なものだ。

 

 

ここで1つ記しておこうと思う。刀使とは誰でもなれるという事ではなく、御刀に選ばれたものにしかなれない。今までも、そしてこれからも選ばれる者は全て女であり男がなったという記録はどこにもない……探してないだけだが……

 

 

とにかく!荒魂を祓うのは刀使でありそれ以外の人は基本的にサポートをする事、荒魂との戦闘は刀使が行うので多少の被害で済み危険度は低い。その為、やはり刀使が殉職する事はよくあるがサポート役の者が殉職するという事は滅多にないのだ。あったとしても、それは流れ弾が当たってしまったというような間接的な被害を受けた者だけだろう……興味ないから探してないけど……

 

 

 

さて、少し長くなってしまったがここまで読めば勘の良い者であれば予想出来るのではないかな?

 

 

 

そう、これまで記した者に該当しない者が極稀に存在しているのだ。今の所、把握しているのは1人だけだが実在している。無論その人物をこの目で直に見たから間違いない……

 

 

 

その人物については詳しく知っているのでここに記しておこうと思ったが、正直なところ文章にすると指が疲れるので宝探しのように己の力で見つけて欲しい……もう疲れたよ……

 

このままではどの人物か分からないと思うので少しだけヒントを与えようと思う、ヒントはとても分かりやすいから直ぐに見つかる筈だ。

 

ヒント

その人物はかなり疲れていて少し猫背気味?

 

美少女のお願いなら大抵聞いてしまう程の馬鹿

 

若干中二病……若干だからな?

 

男性なのに刀を持っている……頭があれな訳ではないぞ!

 

さて、ここまで言えば分かるだろう……これで見つけられない訳がない!見つけられないならあれだ、もう一度小学校からやり直せば見つかるようになるさ……たぶん……

 

 

願わくば、これが良き理解者に読まれるよう切実に願う……他人事だと思って読んでるあなた、次はあなたかもしれませんよ?

 

 

追記 この物語はフィクションではありませんのでご注意下さい。

 

 

_________________________________________

 

 

 




今回は欲望に忠実に書いたのでかなり危ないラインだ…


だけどね、仕方ないじゃない…だって、書きたくなったのだもの…


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始まりは突然、苦悩は運命、理解者は0……
苦悩の始まり


早めに書き終えることが出来たので投稿します!


せめてアニメの9話までの時間軸まではかきたいなぁ……


人は一生を終えると輪廻の輪に戻り、魂は新たな場所に送られ生まれ変わる。人はそれを転生という……

 

転生すると前世の記憶がないままに生まれ変わるが、絶対ではなく例外として前世の記憶を有したままの魂もある。そして、その記憶は生まれてから持っっている者もいればひょっとした事から思い出す者もいるらしい……

 

 

 

そして、俺はどうやら後者だったらしい……

 

 

「零次、やっと起きたか」

 

「えっと……おはようございます?」

 

「まだ寝ぼけてるのか?」

 

「もう!心配させないでちょうだい!お母さんビックリして人工呼吸するとこだったんだから!」

 

「ははっ、母さんは心配しすぎだ」

 

「そんな事言ってるけど、お父さんも慌てて119じゃなくて117に電話かけていたじゃない」

 

「ちょっとお母さん!それは言わない約束だろ!」

 

「ふんっ!お父さんだけ恥を掻かないなんて不平等です!」

 

「???」

 

「悪かったよお母さん!許してくれ!」

 

「知りません!」

 

「そ、そんな〜……」

 

今目の前でラブコメディが展開されているのを見ている……こんなの現実で見たら爆発しろ!エ○スプロージョン!と言う自信があるのだが……あまりにもそれ以上の事に思考が向いていて今はこの状況を理解する事で精一杯だ。

 

 

 

数時間後、あれからも長きに渡る2人のラブコメディをBGMに1人状況を整理していたお陰でようやく今になって1つの真実に辿り着いた。

 

 

俺は……

 

 

「転生したという事か……普通は自称神に会うのがセオリーじゃないのか?」

 

低脳な俺がこの結論に辿り着いたのは、今のこの5歳児の体ではない姿でこんにゃく○リーを食べ、苦しくなって意識を失った記憶が鮮明に思い出せたという事と見たことない家に居る事の2つ。某名探偵のように毒を飲まされた後に誘拐され、記憶をいじらない限りこれを説明出来る事はこれ以外にない。それに、俺の知る限りそのような技術は不可能だ……それこそ魔法やらのオカルト要素が実現すればこんな事は赤子の手をひねる……いや、手を握るくらい簡単な事だがこれは漫画でもアニメでもない……現実なのだ……

 

「おーい、零次聞いているか?」

 

今までリーマンに負けず劣らず平謝りしていたこの男性は、今世の俺の父親 らしい……正直、俺にとってはいきなり再婚が決まった相手を紹介されてる様な感覚なので実感が湧かないが、前世の記憶が戻るまでの記憶の中によく登場していたので間違いはないはずだ……これがドッキリだったら大成功だなぁとか少し考えていた時期があったが、このコミュニケーションは家族以外に出来はしない。

 

「お父さん……何か変な物でも食べさせたの?」

 

「そんな事はない!……たぶん……本当だ!信じてくれ!」

 

「本当に?」

 

もう1人、絶賛家族の勢力図で頂点に立つ者に相応しいオーラを纏っている女性が今世の母親……こちらも同じくよく記憶の中に登場していたので母親の筈だ。母さんと呼んでいたみたいだから、変な趣味をこの女性が持っていなければ間違いない……それに、こんなに綺麗な女性が母親ならば例え趣味で母さんと呼ばせているとしても喜んで俺は……世の男性は歓迎するさ!男なら分かるだろ?……たまに笑顔なのに体の震えが止まらない時があるけど、そこは……根性でなんとかなる!……嘘です、最初見た時チビりそうになりました……

 

「大丈夫だよ母さん、父さんの事は疑う様にしてるから」

 

「そうなの?なら安心ね」

 

「お父さんの心はその発言に安心出来ないけど……」

 

「そんな些細な事は置いといて、お父さんから何があったか教えてあげて」

 

「些細な事ではないんだけど……まあいい、それよりも今は零次に聞きたい事があるんだ」

 

「聞きたい事?何が聞きたいんです……聞きたいの?」

 

「零次が倒れた理由だよ、何か心あたりはあるかい?」

 

「んー……分からない!」

 

「まあそうなるよな……やっぱり疲れていたのが原因なのかな?」

 

「たぶんそうだよ、これからは無理しない程度にやるよ」

 

「そうしてくれ、せめて後2年は倒れないでくれよ?」

 

「2年?分かったけど、どうして2年なの?」

 

「それはだな……「私達の仕事がひと段落するからよ」お母さん、俺のセリフを取らないでくれ」

 

「いいじゃない別に、どうせ話を長引かせてから言おうとしてたのでしょ?そんな事すれば零次が途中で寝てしまうかもしれないじゃない」

 

「うっ!それを言われると何も言い返せないな」

 

「仕事?何か関係があるの?」

 

「ええそうよ!よくぞ聞いてくれました!私達……仕事がひと段落したら海外旅行を始めます!」

 

「へ?」

 

ごめん、全く理解出来ない。どうしてそれと関係があるんだ?海外旅行に行ったら何かが解決するわけでもないのでは?

 

「お母さん、説明不足だよ……いいかい零次、零次ももう5歳だ。ある程度の事はこれから1人で出来るようにならないといけないんだ……分かるな?」

 

「うん、全然わかんない」

 

「そうか、分かってくれるか「いや、だからわかんないんだけど……」つまり、1人で生きていける技術をこの2年で身につけて貰う事にした。本当は1年でやって貰おうとしていたんだけど、今回倒れたのを見て1年では少し無理かもしれないと判断して2年にするようにしたんだ」

 

「そんな話聞いてないんだけど……というか、あの全然理解出来てないというか……」

 

「はっはっは!零次が倒れて寝ている時に決めたからな!」

 

「聞いていないのも当たり前よ!」

 

あ、駄目だこの人達……そういえば記憶の中でも話を聞いてくれない事があったけど、子供だから仕方ないのか?とか思っていたが……そうか、元々こういう人達だったのか……見てくれは2人とも良いけど性格があれじゃ駄目だな、よく結ばれたなこの人達……お互いがこれだから結ばれたのか?

 

「ちなみに、お母さん達の仕事は研究員よ!それも超エリート!」

 

「自分でエリートと言う人は親に信じるなって言われてるので……嘘だよね?知ってるよ、父さんに無理やり言わされてるんでしょ?もういいんだ、正直に話そう……ね?」

 

「ちょっとお父さん!零次が!零次が信じてくれない……うわぁ〜〜ん」

 

「おっと、よしよし……あ〜、その、なんだ……零次、もうお父さんに対する評価は何も言わないからお母さんの事は信じてくれ、と言うか本当の事だぞ」

 

「やっぱり……お父さんが無理やり……」

 

「そっちじゃない!お母さんが言った事だよ!」

 

「へーそうなんだー……リアリー?」

 

「イエス!っていつの間に英語を覚えたんだ?」

 

「あっ、これはその、ほら!テレビでやってたんだよ!丁度その時と同じ状況だったから言ってみたんだ!」

 

「はあ……」

 

「そ、それにしても2人とも凄いね!エリート研究員なんて俺は素敵な両親の子供になれて嬉しいな〜……ちなみにどこで働いているの?」

 

「どこでって言われても言っても分からないと思うぞ?あの伝説の刀使、折紙紫様の下で働いているんだ」

 

「は?伝説?刀使?紫様?」

 

○○ックユーベイベ!!何を言ってるか分からないと思うが俺は今出て来た単語のどれ1つとして知らないんだ……そう言えば、木刀(子供バージョン)の素振りや足さばきのし過ぎで先程倒れたが、今考えれば異常だ……何故刀に興味を持っても変な目で見られないか疑問に感じていたが、これは両親がおかしいんじゃなくて……考えたくはないがこの世界では刀という存在が日常的に使われる物なのではないか?

 

「なんだ?知らないのか?まあ、刀を振る事が好きで他の事には興味を持っていないからな、零次は」

 

それは誤解だ父さん!ただおもちゃがなくて暇だったから刀を触っていただけだ。しかも、幼い頃だから興味を持っただけで刀を振る事が好きなのではない!その時に前世の記憶が戻っていたら刀よりも女性の神秘に興味を持っていたよ!!くそう!!だから、毎日刀を振るわせたり書物を絵本がわりに聞かされていたのか!!何という勘違い!今この場で勘違いだと言っておこう、今後の為に!

 

「父さん!この際だから言わせていただきます!「そういう事だから、その事は明日にでも来る剣の指導をしてくれる人に聞いてくれ」……」

 

「悪い、何か言おうとしてたな。それで、どうしたんだ?」

 

「か、刀って……良いよね!!!」

 

「そうか、やはり好きな事があるのは良い事だな……これで、お父さんとお母さんが無理言ってあの人に頼んだ事が無駄にならずに済んだ」

 

「わ、わ〜い、僕嬉しすぎて涙が出てくるよ〜」

 

「お母さん、零次がこんなに喜んでいるよ!」

 

「ぐすっ、本当?……こんなに喜んでくれるなんてお母さん嬉しい!」

 

「お母さんがやっと立ち直ってくれてお父さんも嬉しいよ、あはは……」

 

前・言・撤・回!!!無理だ!精一杯の抵抗で涙を流しても感動していると勘違いされる始末だ。それに、誰かは知らないが人に頼んだという事はどうあがいても断るのは得策ではない……ああ、どうしてこうも面倒事が増えていくのだろう。少しでいいから休ませてください……まさに今の俺はブラック!RX!……間違えたブラックに勤める社員だ……俺はかなり疲れているみたいだ……誰でもいいから代わってくれませんか?

 

その日はもう精神も身体も疲れて夜ご飯も食べずに寝た……これが夢であることを祈りながら……

 

 

 

「あぁ、知らない天井……ではないけど見慣れない天井だ……夢ではなかったのか」

 

次の日の朝、若干の希望を胸に秘めて目を開けるが姿は5歳児のままだった……俺の希望は朝日に照らされながら粉々に散っていた。

 

昨日は早めに寝ていたお陰で眠くはなく二度寝も不可能、不自然だと怪しまれないように仕方なくいつもの様に日課となってる朝の素振りをするために着替えリビングに行くと……蛇がいた……

 

「BIGBOSS……」

 

「BOSSだと?小僧、何故その呼び名を知っている?」

 

「い、いや違くてですね……そういえば、今日はBIGなBOSSのコーヒーが飲みたいな〜と考えてたんですよ!声に出てたみたいでお恥ずかしいです、あはは」

 

「なるほど、そういう事か……敵だと思ったぞ」

 

「まさか、そんなわけありませんよ。それに俺はまだ5歳ですよ?」

 

誰が敵だ、こんなにピュアピュアな5歳児が敵なわけないだろ……それよりも、あんたこそ誰だか分からないのに何でリビングでコーヒー飲んでるんだよ!その姿も蛇にしか見えないしめちゃくちゃビビったわ!敬礼するぞコラァ!

 

俺の心情も知らずに呑気にコーヒーを飲んでるこの爺さん?を睨んでいると両親が洋菓子を持ってきた。俺の大好きなモンブランケーキだ!ナイス母さん!朝からテンション下がりまくりだから甘いもの食べたかったんだよね!

 

「あら、零次起きてきたのね」

 

「うん。何だか寝すぎたみたいで少し早めに起きちゃった」

 

「お父さんは零次が楽しみ過ぎて眠れないと思っていたよ」

 

「楽しみ?」

 

楽しみとは何がだ?ケーキの事なら楽しみにもなるが眠れない事はない「はいジャックさん、良かったらこれどうぞ」ってアンタが食べるんかい!!俺のじゃなかったのかよ!?

 

「ありがとう、それでは頂こう」

 

いやいや、俺の好物を見ず知らずの人にやるなんて狂ってるのかこの両親は!?本当にこの人誰なの?凄い勢いでケーキを食べ……終わってる……何者?フードファイターなの?

 

「そうだ、零次。この人が今日からお前の剣の指導をしてくれる御方だ」

 

「剣の指導?」

 

「あれ?昨日教えたよね?」

 

「あー。そういえばそんな事言ってたような気がする」

 

「おいおい、しっかりしてくれ……それじゃ自己紹介しようか」

 

あまり覚えてない、昨日の事は夢であってほしいと願う事に集中し過ぎて頭が疲れているのかもしれない。まあ、怪しい人……だけど、両親の知り合いみたいだから自己紹介ぐらいしておくか。

 

「初めまして、神条零次です。よろしくお願いします」

 

何をどうよろしくなのかは分からないが形式上の自己紹介をしてみた。すると、先程からこちらを見ている爺さんが何も言わないでそのまま沈黙が流れる。

 

「あの?何かおかしかったですか?」

 

「お前……本当にこの2人の子か?」

 

「えっ!?」

 

ま、まさか!この人は人を見抜く特殊な能力の持ち主なのでは!?正体がバレるじゃないか!?マズイ、たかが怪しい爺さんと侮っていた……どうにか誤魔化さないといけない……

 

「悪いな、あまりにもこの2人と違って常識人だったのでつい」

 

あ。これ両親の子なのに変じゃなかったから疑われたのか……俺の両親は本当に何者なんだ?

 

「こちらも自己紹介させてもらう、俺はジャック……本当はもう少し長い名前だが面倒だからジャックとだけ覚えておけばいい……まあ、すぐに忘れると思うがな」

 

「すぐに忘れるほどの名前ではないと思いますが?」

 

「なぁに、すぐに忘れるようにしてやるさ……さて、それでは始めるか」

 

「え?え?」

 

「それじゃ零次、お父さん達は仕事に行かないといけないから戸締りだけ頼むよ」

 

「ご飯は冷蔵庫の中にあるから終わったら食べてちょうだい」

 

「ちょっ!どういう事!?」

 

「「それじゃあ行ってきます」」

 

『スキル!マイペース発動!発動後、しばらく相手は自分のペースで物事を進ませる事が出来る強力なスキルじゃ!!』

 

あれ?今何かマサラな街の博士の声が聞こえたような……そんな事気にしているといつの間にか両親が、玄関のドアを閉めて出て行った後だった。残されたのは5歳児と爺さん、2人だけ……これが爺さんじゃなく美少女や美女なら俺のリビドーがヒャッハーだった!

 

「さあ、外に出て始めるぞ」

 

「……はい」

 

5歳児に味方はいない……歩いている少年の姿は歳よりももっと小さく見えた気がした。

 

こうして、俺の人生の歯車は周りの人の勘違いにより大きく変わっていった……5歳ではなくもう少し後に転生したかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




原作キャラが登場しないとこんなにも文章長くなるのはなぜ


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本能が告げている、このままでは死ぬぞ……

もう吹っ切れましたよ!俺は!


ここから先は……自重も設定も何もかも御構い無しだ!


今こそ見せてやる……本当のご都合主義とやらを!!


初めて俺に剣の指導をしてくれる事になったあの日からジャックと名乗る爺さんを師匠と呼ばされ、過酷な訓練の日々が始まった。

 

師匠は日帰りではなく泊まり込みで雇われたみたいで訓練というより修行と呼ぶのが相応しい程の事を、朝と夜、休日は朝から夜まで半強制的にやらされた。弱音を吐けば体を動かせと言われ休もうとすれば別の事をやらされて休む暇がなくなり、泣きじゃくるものなら問答無用で近接格闘術?とかいうのでこの術を体に直接叩き込むと言って抵抗出来ないまま投げられたり、ひどい時は4股の関節全てを外された後に自分でどうにかしろと言って放置される事もあった……あれは鬼だ、しかも人が通らない場所でこの状態にされれば最悪餓死する。最初はどうせその内迎えに来ると思ってたけど、夜になっても誰も人が来なかった。暗闇の中で1人になったせいで気配に敏感になってしまった。1日過ぎても来なくて段々と死の恐怖を感じ体を動かすも関節を外されたままでは何も出来ない。大声で助けを呼ぶも誰も人が通らない場所なので意味がない。そして、疲れてしまって寝て起きると状況は変わらず2日過ぎた。人は3日食べなくても生きていけると言うが、それは安全で安堵出来る場所に居るからであってこのような絶望的な環境では生きていけない……最早精神が崩壊しそうになりかけながらも必死にあの手この手を使ったりした……まあ、手は動かせないんだけど……今度は無意味に動くのではなく利用できるものは利用してみた。手足が動かせないなら頭を使って這いずり、コンクリートの壁まで近づいた後は動かせる体の部位をフル動員して体をひねり壁にぶつける。少しずつずらしながら何回も体をぶつけているとようやく腕の右側が戻った。痛みには既にその時には慣れていたので容赦なく腕の左、右足、左足の順に戻してから立ち上がり、フラフラになりながら家に帰還した。はっきりこの出来事は二度と体験したくない……それから帰宅して師匠に会うと何故か凄い驚かれた。いや、これやったのアンタだろ……詳しく聞くと、次の日に迎えに行って説教するつもりでいたらしい。大抵の人はこれで黙るとか恐ろしい事を言っていたがスルーした。怖くて聞けやしない……あれから2年が過ぎて俺も丸くなった……泣きじゃくるなんてしたらどうなるか知っていればそりゃ丸くなるのも無理はないだろうけどさ……

 

今日もいつものように無茶難題を押し付けられて修行をこなす。師匠も流石は俺の両親が雇っただけはありネジが何本も飛んでいる。最近こっそり耳にしたが、どこまで鍛えられるかそれが今の1番の楽しみだ、なんて事を両親と酒を飲みながら言っていた。この時俺は決心した、早くこの家から出て行こう!と……

 

「まあ、それも今日までだけどね」

 

そうなのだ、あれから2年という事は両親が海外旅行に行く……つまり!この日々ともおさらば出来るという事だ!!今日はそのせいでいつも以上にランニングのペースも早くなりこれなら余裕で修行も終わる。嬉し過ぎて思わず他人の家の屋根から別の屋根に飛び移ってしまうぐらいだ!!常識?俺は常識人だよ?

 

「おい、今子供が飛んでなかったか?」

 

「ちょっwwwお前www忍者じゃないんだからそんなわけないだろwwwアニメの見過ぎだwwww」

 

「いやでも、確かにあそこに……あれいない?見間違いか?」

 

「あたりまえだwwwwwバァーローーwwww」

 

「てめぇ!!笑い過ぎだろ!!」

 

「あれあれ?おこ?おこなの?沸点低すぎwww」

 

危ない危ないどうやら人がいたみたいだ、師匠から人に見つからないように走るように言われていたのに少し調子に乗りすぎたな。何か喧嘩してるみたいだけど……俺は悪くない!!

 

「さてと、そろそろ帰るか……帰りは師匠から教わった瞬進で見つからないようにして帰ろう」

 

今度は見つからないように師匠以外には目で追えない、瞬進を使って住宅街を移動して自宅に戻ったが、この事が荒魂と間違われていた事を彼は知らない……

 

 

「おいwww今何か飛んでたwww荒魂じゃねwww」

 

「おいおいそれはないだろ……たぶん」

 

「いやいや、忍者みたいな子供よりは1十分アリエールジェルウォッシュwwww」

 

「てめぇの口も洗ってやるぞこの野郎!!!」

 

「上等だwwwかかってこいやwwww俺はお前の頭の中を洗ってやるwwww」

 

もう一つ、ここで壮絶なバトルがあった事も彼は知らない……

 

 

 

 

 

帰宅後、シャワーを浴びたあとに事件は起こった……

 

「私達2人だけで旅行に行くから零次はちゃんと学校に通うように、それと今から親戚に会いに行くので準備してね♪」

 

 

「……嘘だ!!」

 

「いいえ本当よ、私の姉妹の家族に会いに行く事はお父さんから聞いている筈なんだけど……ねぇ?」

 

「ええと、お父さんは先週あたりに零次に伝えたんだけど」

 

「……嘘だ!」

 

「いや伝えたよ……その時凄い喜んで外に出て木刀振ってたじゃないか」

 

「……あっ」

 

「思い出したかい?」

 

思い出したけど、あの時喜んでいたのはあと1週間で修行も終わるから喜んでいただけなのだ。ふっ、全く、勘違いされるとは思っていなかったぜ!

 

「そんな事はいいよ、それよりも2人だけで旅行に行くのは「それもその時言ったよ」え?」

 

「しかも、寂しいならもう少し後にしようか聞いたけど、もう1人で大丈夫だから心配しないで2人で楽しんできてって言ってくれたじゃないか」

 

「そんな事は……言ってましたね……うん……」

 

「零次はどこか具合でも悪いのかい?こんな大事な事を忘れるなんて、病院に連れて行った方がいいのかな?」

 

「そうね、そうした方が良さそうね」

 

「大丈夫大丈夫!今のはその、ほらちょっとど忘れしたみたいなボケだから!」

 

「そ、そうか……なんとも分かりづらいボケだね」

 

「ま、まあね……それよりも、2人が居なくなると家事は俺がやる事になるんだよね。出来るかな?」

 

「ふふっ、心配しなくても大丈夫よ!そんな事もあろうかと既にある人に頼んでいるから」

 

「おいおいおい、それってまさか……」

 

「そう!零次もご存知のジャックさん!」

 

「嘘……だーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」

 

その時、転生して2度目の希望を打ち砕かれた……そして俺は、何かに目覚めてしまう……

 

「そうだ、子供ならイタズラしても心配かけても文句を言われるのが普通なんだ……よし、家出しよう」

 

「零次、ぶつぶつ言い出してどうかしたのか?やはり病院に……」

 

「ううん!何でもない!早くその親戚に会いたいなぁって!今すぐ準備してくるね!」

 

両親の返事も待たずに部屋に戻り準備を始めた。

 

「くっくっく、こうなれば家出を成功させてサバイバル生活を始めた方がマシだ。丁度師匠からは剣術以外にも格闘術とか教えてもらっているから大丈夫だろう……だが、師匠は手強いから入念な準備が必要だ。少し時間がかかるが人生がかかっているから慎重にしないといけないな……今に見てろよ師匠、師匠から教わった術がどれ程のものか教えた事を後悔させてやる……ふっふっふ!フーーーーハッハッハッハッハ!!!」

 

「零次ー近所迷惑よーー」

 

「ごめんなさーい!!……少し興奮してしまったな、一先ずは親戚に会いに行った後に考えるか……」

 

着替えを済ませ特に他に荷物がないのでそのまま出て行く。

 

「よしっ!準備OKだよ!母さん、父さん」

 

「それじゃ、みんなの準備も出来たので行きましょうか」

 

「そういえば、師匠は?」

 

「それなら大丈夫よ、今日は古い友人に会いに行くって言っていたからね。帰りは明日の夜になるんじゃないかな」

 

「明日の夜か……」

 

「零次は寂しいのかな?」

 

「全然全くこれっぽっちもそんな考えはないよ」

 

「そんなに言う事ないんじゃないかな……」

 

「2人とも早く行くわよ〜」

 

「はーい、お父さん達も行こうか」

 

「了解!!」

 

「……もう何も聞かないでおくよ」

 

何故か渋い顔をしながら父さんにそう言われた。普通にしていたつもりなんだがどこかおかしかっただろうか?まあいい、まずは親戚に会いに行くミッションを達成するのが先決だ……神条零次!出る!!

 

 

 

 

To be continue……

 




誤字も脱字もそんな確認してる暇はない!!


早く投稿しなきゃいけない使命感が俺を突き動かす!


秘技!ブラインドタッチ!!


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目の前にいるのはもしかして……なんだ、天使か……

さあ、貴様ら!マイクの準備は出来ているか???


Let`s Shout!!!!



車を走らせて数時間もしないうちに目的地に辿り着いた。

 

「こんにちは〜遊びに来たわよ〜」

 

相変わらずマイペースな奥様こと、俺の母さんは家から出てきた女性に声をかけていた。このコミュニケーション能力だけは見習いたいものだ。

 

「いらっしゃい姉さん、さあ入って」

 

「お邪魔しま〜す」

 

「「お邪魔します」」

 

おいおい、あの父さんでさえこんなに礼儀正しいぞ。その上をいくというのかこの人は!?さすが家族勢力図の頂点に立つ御方だ……そんなバカな事を考えている間に居間に通され、座って下さいと言われたのでお言葉に甘えてそこにある3人がけのソファに座った。おうふ、何だこのソファは柔らかいぞ?こいつ、生きてる!?……まあそんな事ないんだけどね。

 

さてさて、ここからどのような事が既に予想できる俺は出されたお菓子を黙々と食べて、砂糖とミルクが入ったコーヒーを飲んでいる。他にやる事がないから仕方ない、このソファに座った時点でこうなる事は予想できていた。

 

「初対面の相手だからこれぐらいしかやる事ないな……話長いし、同い年の子はいないし、意外とお菓子が美味しくてやめられないし……うん、悪くない。パクッ」

 

このミルクたっぷりママの味は最高だ、これは賞与ものだ。思わず店長呼んできてと言いたくなる。この場合は製作者か?

 

ここで話始めてから数分後、やっとひと段落ついてお口直しに各々が飲み物を飲んでいると先程から感じる気配にあちらの女性が気づいたようで手招きしてる。特に興味がない俺は気にせずにミルクたっぷりママの味を堪能していると何やら周りが騒がしい。

 

「ほら、零次自己紹介しなさい」

 

「ふぇ、いふぁふぉろ?」

 

「口の中に入れながら喋らないの。みっともないわよ」

 

「ごくっ……美味しいから仕方ない、悪いのは俺じゃなくこのお菓子さ!」

 

「はぁ、そんなにこのお菓子が気にいったの?」

 

「もちろんサー!!」

 

「まったく、この子ったら……ごめんなさい、その、ちょっとこの子変わっているから」

 

なんだと!少なくともまだまだ常識人の範疇だ!少なくともあなた達よりはマシだからね!……最近自分でも変な子供だよなぁとか思う時もあったけど、少しだけだから!ほんの少ししか変じゃないから!

 

「あら、姉さん、面白い子でいいじゃない」

 

「そう?」

 

「ええ、そう思うわよ。ねぇあなた」

 

「ああ、そうだな。それに元気がありそうだ」

 

「ははは、確かに元気な子に育ってくれましたね」

 

「いや〜照れますね〜」

 

「もう!調子に乗らないの」

 

「ははっ、愉快な子だね」

 

「ふふっ、そうね。それじゃ先にうちの子を紹介させてもらうわね。ほら、隠れてないで出てきなさい」

 

「うぅ〜〜」

 

ん?いつの間に……いや、俺がお菓子に夢中になっている時に来ていたのか……まあ、女の子の声だし一緒に遊ぶにも何もないから別に紹介してくれなくてもいいんだけどね……自分でも驚くほど俺はドライだな……ア〇〇スーパードラァイィ!!!

 

「初めまして……燕 結芽です……よろしくお願いします」

 

なぬっ!ユメだと!?あのお団子2つの髪型の!?ここはD.C.の世界だったのか!ならばこの出会いを大事にしなくてはならないな……ごめん義之……お前は弟君と呼ぶ女性と幸せになってくれ……

 

お菓子の包装を開けようとしていた手を止めてそちらを見るとそこには……天使が降臨していた……うん、お団子ヘアーじゃなかったけど別にいいや……知ってるか?この世は可愛いが正義になるんだぜ?

 

「あらあらとても可愛い子じゃない」

 

「ああ、最初見た時天使かと思ってしまったよ……零次もそう思うだろ?」

 

「父さん、天使にあったマナーを俺は知らないんだけど……この時はどうすればいいのかな?」

 

「いや、今のは冗談だったんだけど……」

 

「そうなの?俺は本気かと思ってたよ……思わず天にも登りそうだった」

 

「危ないねっ!?登っちゃ駄目だからね!それは片道切符だから絶対駄目だよ!?」

 

「父さん、今のは冗談だよ」

 

「そ、そうだよな。悪い少し興奮してしまったね」

 

「大丈夫だよ父さん、いつもの事……でしょ?」

 

「いや、人を万年発情してる人みたいに言わないでくれるかな?誤解されるじゃないか」

 

「それはどっかに投げ捨てて置いて、俺の自己紹介がまだだよね」

 

「零次、何だか最近お父さんに冷たくない?」

 

「お父さん、零次も成長してるって事よ」

 

「こんな成長の仕方嬉しくないんだけど……」

 

父さんが落ち込んでいるみたいだけど構わずに自己紹介しよう、天使様の前でみっともない姿は見せられないからな!……さっきからみっともない食い意地は見られているけどね……

 

「初めまして皆さん、私、神条零次と申します。以後お見知りおきを」

 

決まったーーーーーーー!!!!!これはもうパーフェクトだろ!絶対そうだ!だってほら、みんな唖然として何も言わない……あれ?何で誰も何も言わないんだ?もしかして言葉遣い間違えた?……oh my god!!

 

「そうだ!あ、あの!燕結芽ちゃん……でいいんだよね?よかったらこれ食べて下さい!」

 

そうだよ、まずは餌付けすればまず間違いはない……俺はなんて天才なんだ!恐るべし頭脳プレー!開けようとして手に持っていたミルクたっぷりママの味のお菓子を少女の元へ行き手渡した……だが動きがない、ただの屍のようだ……人生上手くはいかないものだな。

 

「もしかして嫌いだった?」

 

「え?ううん、そんな事ないけど……いいの?」

 

「ああ、美味しいから是非食べて欲しい!」

 

こうなればヤケだ!どんな手段を使ってもその可愛いお口に入れるまで、俺は諦めない!!テンションがおかしくなってるがそれは気のせいだ……

 

「ふふっ、変な人だね。ありがとうお兄さん!」

 

「へ、変な人……だと……!?」

 

手段を選ばないとは言ったが、無邪気な子に変な人呼ばわりされると……かなりショックだ……しばらく立ち直れそうにない……けど、せっかくのチャンスだ何か会話しないと!!前世で鍛えあげたギャルゲーのトーク術を見せる時!

 

「あはは、喜んでもらえて良かったよ。ところで、何故にお兄さん?」

 

はい!俺のトークなんてこんなもんですよ……だってギャルゲーは選択肢選ぶだけで自分が会話してるわけじゃないし、ヒロインが聞き上手なだけだしこうなるよね……うん、知ってたよ?でもさ、夢ぐらい見たっていいだろ?

 

「だってお兄さんはお兄さんでしょ?」

 

はい来ました!結芽ちゃんマジ天使確定!もうねこの子、この歳で聞き上手な時点で将来有望だね!それにちゃんづけで呼んでもそれについて聞いてこないとか……あれっすわ、ヒロインの中のヒロインっすわ……さっきまで手段を選ばないとか考えていた自分を殴りたい。

 

「ええと、俺は今8歳だけど結芽ちゃんは何歳?」

 

「私は5歳だよ」

 

「3つ、いや4つ年下か?それならお兄さんで間違ってはないんだけど……俺の事は名前で呼び捨てにしてもいいよ?」

 

「お兄さんじゃ駄目なの?」

 

首を傾げながらのポーズでそんな事言われたら駄目とは言えない……でも。お兄さんなんて呼ばれる程俺は立派な人間でもないし……困った……

 

「いやいや駄目じゃないよ、好きに呼んでくれて構わない」

 

「う〜ん、じゃあ零兄!」

 

「零兄?俺の名前は零次だよ?」

 

「知ってるよ。零次だから零兄……ダメかな?」

 

「グフッ!?」

 

こ、これは伝説の上目遣いと首を傾げるの究極の技!!この歳でこれ程までの高等技術を習得しているとは……結芽ちゃん、君、世界狙えるぜ……やべっ、鼻からトマトジュースが出そうだ。

 

「そんな事ないよ、凄く気に入ったよ!」

 

「本当!じゃあ、これからは零兄って呼ぶね!」

 

「ああ、よろしく結芽ちゃん」

 

……もう、俺死んでも悔いはないかもしれない……初めて転生して良かったと思えた。今までの苦悩はこの日の為にあったんだ……そうに違いない!師匠、家出するなんて考えてごめん、俺、これからも頑張るよ……

 

「あらあら、すっかり仲良しね零次」

 

「さすがはお父さんの息子だな!」

 

「良かったわね結芽、これからも仲良くするのよ」

 

「仲良きことは美しきかなだな」

 

さっきまで唖然としていた両親達は既に元どおりになっていたみたいだ。それに気付かないなんて……これが燕結芽の力!?恐るべしパワーだ。

 

「そうだわ!大人達の会話で暇していたみたいだから、零次は結芽ちゃんと遊んだらどうかしら?」

 

何!?天使と遊ぶだと!?つまり俺は……抱きつけばいいんだな?……駄目だ、思考が乱れている、一先ず深呼吸して落ち着かせよう。吸って〜……何だかほのかに香る清涼な匂いだ……って、これじゃただの変態じゃないか!!落ち着くどころか逆に興奮しちゃうじゃないか!俺にどうしろと言うんだ!!……そうだ、息を止めよう。何だ、こんなにも簡単な事に気づかないなんて、俺ってばお茶目だな!!……キモいですね、すみません……

 

「零兄遊んでくれるの!」

 

「もちろんサー!」

 

美少女の頼みとあらば例え火の中海の中でも期待に応える、それが、男ってもんだろ?YESは言ってもNOとは言わない……これ常識!

 

「それじゃあね、刀使ごっこしよ!」

 

「刀使ごっこ?あの荒魂を祓う刀使の事?」

 

「うん!私が刀使で零兄が荒魂ね!」

 

おいいい!!俺斬られる役かよ!?いくらなんでも流石に酷過ぎだろ……まったく、ここは1つハッキリ言って断ろう。

 

「俺が荒魂だね……よーしっ!それじゃやりますか!いくぞ結芽ちゃん!ガオ〜!!」

 

ふっ!断れるわけないだろ?だって俺、常識人だもの……YESは言ってもNOは言わない……これは常識、つまり常識人である俺に断るという選択肢はないのだ!!だからせめて、結芽ちゃんを楽しませるように精一杯襲ってやるぞ!性的な意味ではないからな!

 

「わぁっ!?いきなりなんてずるい!」

 

「甘いね結芽ちゃん、荒魂に常識なんて通じないよ」

 

師匠から聞いた話では荒魂は常識では考えられない行動をすると言っていたからこんなものだろう。さあ、エンターテイナーとして全力で演じてやりますか!

 

「休んでいる暇はないぞ〜!武器もない今こそこちらの好機だ。ガオ〜!」

 

「くっ!なんて強さ!せめて武器があれば……」

 

「結芽!これを使って戦うのよ!」

 

「これは御刀、ありがとうママ!」

 

「ママに出来るのはここまでよ、頑張って結芽。応援してるわよ」

 

「うん!私頑張る!」

 

「結芽、お前なら絶対に倒せる。信じているぞ」

 

「結芽ちゃん、頑張ってくれ!そこの変な喋る荒魂に負けるな!」

 

「結芽ちゃんファイト!そんなへなちょこ荒魂なんかコテンパンにしてちょうだい!」

 

大人達がいつの間にか俺達の遊びに混ざっている……と言うか、結芽ちゃんの両親も乗り気だけど俺の両親が地味にディスるのはやめてくれませんかね?何か恨みでもあるの?……日頃の恨みはあるか……何だか涙が出てくる、ここにいる荒魂にも心があるんだよ?

 

「さあ、荒魂さん。ここからは私の番だよ!」

 

「ふん、戯言を……ならば見せてみるがいい、刀使の実力とやらを」

 

「言われなくても!やぁぁ!」

 

あれ?これごっこだよね?本気じゃなくて遊びだよね?結芽ちゃんのおもちゃだけど刀を振るスピード早くないですか?

 

「ちょっと結芽ちゃんストップ!?」

 

「問答無用だよ!ハッ!」

 

「あだっ!」

 

あまりの威力のある一太刀は避ける暇もなく直撃して、俺は地に伏した。

 

「ふふ〜ん!これぐらい私にかかれば簡単だったよ」

 

「流石ね結芽、これで安心して暮らせるわね」

 

「ああ、結芽のおかげで助かったな」

 

「結芽ちゃんお見事!少しだけスッキリしたよ」

 

「結芽ちゃんは凄いのね、荒魂の方はもう少し頑張ってやられて欲しかったわ」

 

ほほう、ここにいる皆でそんな事を言いますか……いいでしょう、不肖荒魂役の真骨頂を見せてやりますよ!!

 

「ふははははは、やるな刀使、今のは正直驚いた」

 

「そんな!倒したはずじゃなかったの!?」

 

「残念ながら先程の姿は本気ではない。まだ私には第2第3形態があるのだ。さあ、ここからが本番だ!第3形態の私に勝てると思うなよ!」

 

「その姿は……」

 

「そう、これこそが第3形態……四足歩行、通称獣モードだ!先程より機動性と速度が格段に上がっているのだ」

 

ネーミングセンスが壊滅的なところはツッコまないでくれ……

 

「例え強くても私は負けない!」

 

「いいぞー結芽ちゃん!急所を狙って攻撃だー!!」

 

「結芽ちゃん、手加減はいらないわ……連撃を与えるのよ!そうすればきっと倒せるはずよ!!」

 

「うん!やってみる!いやぁぁぁ!!」

 

「いや、流石にちょっとそれはまずいってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「荒魂さん!覚悟ぉ!」

 

「ぎゃああああああああ!!!!」

 

こうして長く激しい戦い……ではないが、俺の悲痛な叫びで終わりを告げた……どうして俺はこうなるのだろう……

 

 

 

あれから連撃を結芽ちゃんからもらい倒れていた俺が回復した頃には、大人達は会話に華を咲かせながらコーヒーを飲んでいて俺の傍には結芽ちゃんしか残っていなかった。

 

「いてててて、少し赤くなってるな」

 

「ごめん零兄!こんなにやるはずじゃなかったんだけど、ママ達に応援されて嬉しくてやり過ぎちゃった……グスッ」

 

応援していた本人達は全然気にしていないようだからそこまで落ち込まなくていいと思うんだけどね。大方俺の両親が大丈夫だから気にしなくていいとか言ったのだろう……普段はこれ以上に辛い師匠の修行を毎日見ていればそうなるか……

 

「これぐらい平気だから気にするな」

 

「……本当?」

 

「本当だよ、でも心配してくれて嬉しいよ。結芽ちゃんは優しいな」

 

「だって私のせいだから……私の事嫌いになった?」

 

「まさか、俺が結芽ちゃんの事嫌いになるなんてあり得ないよ」

 

「そうなの?」

 

「そうなんです。だからさ、そんな顔するなって……可愛い顔が台無しだ、ほら笑顔笑顔」

 

「可愛い……えへへ」

 

「そうそう、やっぱり可愛い女の子には笑顔が1番似合ってるよ」

 

「私、可愛い?」

 

「?あぁ、思わず頭を撫でたくなるくらい可愛いよ」

 

「えへへ〜、頭撫でられるの好き」

 

「そうかそうか、もっと撫でてやろうじゃないか」

 

「うん!お願い!」

 

「よしよし」

 

やばいこれ、結芽ちゃんの頭を撫でているとか罰が当たりそう……でも、撫で心地が良過ぎてやめられない止まらない……これは中毒になりそうだ。

 

「さて、日も傾いてきたしそろそろ帰るわね」

 

「あら、もうこんな時間になっていたのね。楽しくて時間を忘れていたわ」

 

「私もよ……零次〜帰るわよ〜」

 

こんな至福のひと時もいつしか終わりが来ることは分かっていたが、今ではなくてもいいのではないか?だが、この家の子じゃない俺が駄々をこねても情けない姿を晒して終わるので、せめて結芽ちゃんの前では恥を晒さないように素直に帰る事にした。

 

「は〜い、それじゃ結芽ちゃん俺はもう帰らないといけないみたいだ」

 

「ええ〜、もう帰っちゃうの〜?」

 

「本当は帰りたくないんだけどね……また遊びに来るからさ」

 

「またきてくれるの!」

 

「もちろんだ!だから今日は帰るね」

 

「は〜い」

 

「うむ、素直でよろしい」

 

「零次、そろそろいいかな?」

 

「ごめん父さん、今いくよ……それじゃ結芽ちゃん、またね」

 

「うん!零兄!また遊びに来てね!約束だよ!」

 

「分かった、約束するよ!それじゃあね」

 

「ばいば〜い」

 

非常に帰りたくない、だが、帰らないといつまでもこの家に留まり迷惑をかけてしまう……また遊びに来ればいいのだから……そう自分に言い聞かせて俺はこの燕家を出た。

 

帰りの車の中、到着するまで久しぶりに心地良い眠りにつけた気がする……

 

 

 

 

これが、燕 結芽という少女との出会い……そして、彼女の運命が変わり始めた事に誰も気づかないまま時間は過ぎていく……

 

 

 

Next stage ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ふぅ……


『作者は完全燃焼しました。』


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ずしりと重い一撃……それとも鋭くはやい一撃……悩んでる暇はなかった!!

前回までのあらすじ

零次の前に天使が現れた!!しかし、混乱している零次は何も出来ず為すがままに流れに身を任せ……見事天使と仲良くなった。幸運な出会いに感謝しながら帰宅すると、今度は鬼が現れる……果たして零次は無事に生き残れるだろうか……


常識人零次の日常(波乱)、始まります……


心地の良い一日を過ごしてから数年後……

 

 

あの時に俺の運全てを注ぎ込んだと今の俺は思っていた。いや、まだ残っているのかもしれない……というか残っている。何故ならあれ以来年に4回以上は大天使様にお会いする機会を得ているからだ。

 

俺が心身ともに疲れ果てた時に自ずと足が勝手に動き出し、気がつくといつも神々しく優しいオーラを常時放出している建物の前にいるのだ……そして、まるでプログラムされたロボットのようにインターホンを押し、まず始めに耳が癒され、玄関のドアが開きその姿を目にすると白黒の世界に色が戻り、無邪気に抱きつかれ俺という人間が浄化される……いきなりの訪問でも嫌な顔せずに対応してくれて思わず涙が出てくる……本当に生まれてきてくれてありがとう……本当にありがとう……

 

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 

やばい、禁断症状が!落ち着け俺!!!俺は一振りの刃……目を閉じて精神を研ぎ澄ませ、深く深呼吸をする。

 

 

「すぅ〜、はぁ〜……よしっ!大分落ち着いてきた」

 

 

何とか自分自身を落ち着かせる事に成功した。ゆっくりと目を開けて周りの状況を確認する……周りには木、後ろも前も右も左も木……

 

 

「そうだ、俺……やっとここまで来れたんだ……ははっ」

 

 

現在、やっとの思いで何年もかけて緻密に計画していた任務を達成し、栄光を堪能している最中なのだ。

 

両親が海外旅行に出かけてからというもの、家事全般を身につけるだけのはずだが、何故か師匠の修行がより一層厳しいものになった。今までは両親の目があったから手加減していたらしい、いわば両親はストッパーがわりの役割を持っていたという事だ。だが、その両親ももういない。 つまり、これからは師匠の独壇場……

 

毎日の修行は鬼の所業の如く、完全に限界以上の内容ばかりやらされた。最早時間という概念などなく、学校がない日は倒れるまで延々と走らされたり、師匠を地に伏せるまでの組手、他にも師匠に参ったと言わせるまでの真剣による命がけの斬り合いなどもあった……結局1度も師匠に勝てなかったけど……1番やばかったのは俺だけが刀を持たないで制限時間まで逃げきるサバイバル訓練……マジで殺しにかかってきたから今までの経験フル動員させて何とか死なずに済んだが、あれは人間のやる事じゃない……逃げても逃げてもすぐに隠れてる場所が見つかり斬りかかってくるし、致命傷を受けた時に師匠は刀を振るう事は流石にしなかったが加減なしに投げ飛ばしたり蹴り飛ばしたりしてきた……最初は冗談きついな〜とか考えていたが、ここまでくればそんな考えは消え、ただただ死なない為に動かない体にムチをうって動かし、血が流れていようが少しでも距離を稼ぐ為、生きるために逃げ続けた……もう二度と師匠に会いたくないという衝動が過去最高記録を更新したのがこの時だ……後で聞いたが、予め俺にGPSを取付けていたとか……それを聞いた時は頭にきて殴り飛ばそうとしたのはいい思い出だ……結局一発も当たらないで逆に殴り飛ばされたけどね……

 

 

 

この鬼のような地獄の修行を経たお陰か、俺は毎日の修行に力を入れて取り組むようになった。ただこなすだけではなく、あの日味わった死の恐怖……ただただ生きたいと願ったが、力がなければ何も出来ずに死ぬだけ……そんなのは絶対に嫌なので修行の他に力を身につける特訓もしている。特に何に対してかは分からないが、とりあえずの目標として師匠を超える事を目標にして今は刀を振るい、たった1秒されど1秒でも早く体を動かせるように足捌きや筋肉や関節などの体のありとあらゆる部位の動きを洗練した……そのせいで、俺の剣はただただ殺す事に特化した剣になってしまったのは失敗したと思っている……だが、そうでもしないと師匠を超えるのは不可能だ。

 

 

そして、今日……大天使に会う以外にやる事が修行以外になくて、このままではただ息をして動いているだけの奴隷のような生活に不安と不満が爆発し、いつの日かの為に計画していた家出を決行する事にした……しかし、気が動転していた事もありこれは決行直後に問題が発生した……

 

これから何処へ向かうか……そればかり考えて第1の関門である師匠への言い訳でうっかり家出してくると言ってしまったのだ。

 

当然こんな事を言えば師匠も黙ってはいない、だからと言ってここでやめてしまえば絶対に警戒されて次の機会は永遠に来ない……ならばここでこの人物を倒すしか道はない……

 

そう思って行動しようとしたら予想外の展開になった。なんと!あの師匠から逆に提案されたのだ!

 

『俺に勝てたら家出も何でも好きにすればいい……だが、負けたら寝る時以外、食事の時も修行にする……どうする?』

 

流石にここまで言われれば俺も男なので引くなんてことは出来ず……

 

『ふっ、そんなもの決まっている……貴様を倒して好き放題やらせてもらおうではないか』

 

とか言っちゃったぜ!別に後悔はないが、少しというかかなり口調が変わって自分でもビックリした。気がつかないうちに俺は、性格が変わっていたみたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

……その後、真剣勝負での決闘を人のいない夜の廃墟で行い、長きに渡る激闘の末、鍛え上げた重く鋭く速い一撃が師匠の剣を真っ二つにして決着がついた……と喜んで油断していたとこに、師匠から刀をひっ取られて投げ飛ばされてしまい……最後は殴り合いの戦いになった。お互いに全ての技術を使って殴ってはかわし、蹴ってはいなす……避ければ引き寄せて投げ飛ばされば受け身をとる……だが全ては防ぎきれずにお互いに傷つき徐々に疲れてきた。そして、年の差がここにきて響いて師匠に隙が出来た。このチャンスを逃さず必殺のゼロ距離無反動掌底を決め……師匠は倒れた……

 

 

まだ痛くて動きにくい体を休ませることもせず、地に伏した師匠に背を向けて、俺は……家出した……

 

 

 

そして、現在目的もなく気の向くままに歩いていたら森の中に迷い込んでいるのだ……

 

 

「でも、何故だろう……凄く気分が良い……空気が美味しいーーーーーーーー!!!!!!」

 

 

師匠がいないだけでこれ程までに世界は美しいと感じられた……思わず涙が出てきそうだよ。

 

物思いにふけるのもやめる。この森に迷い込んだのも何かの縁かもしれない……それならばここを少し探索する事にしよう!それがいい、そうしよう!別に四方八方どこに歩けば出られるか分からなくて諦めた訳じゃないんだからな?

 

「それではここで活躍してもらいましょう……伝説の木の棒倒し〜……なんだか虚しい……気を取り直してさっそく木の棒を垂直に立てて、指を離す!……倒れネェェェェェ!!!俺に空の彼方まで飛んで行けとでも言うのかよ!?無理だろ!」

 

 

あらぬ事に木の棒が直立不動のまま一切動かない状態になってしまった。こうなっては無理矢理自分で倒してその方向に進むしかないが、それでいいのか?……だがこのままでは拉致があかないので仕方なく自分で倒そうとした時に、変化があった。

 

「木の棒が揺れている?風もないし地面も揺れてないのに?……まるで吸引力の変わらないただ一つの掃除機に吸われているような感じだ、あっ、倒れた……俺の勘が告げている、そっちへ行けばまたこの先辛い事が待っていると……でも、ここが何処だか夜だから真っ暗で分からないし、もう腹が減り過ぎて動けなくなりそうだし……俺は……木の棒を信じる!」

 

そうだ、信じるものは救われるんだ……だから俺はこの道を進む事にした。あばよとっつぁん!!

 

 

 

 

 

 

そこからの道のりはとても険しい道で、立ち入り禁止のテープが落ちているのを見かける事もあったがきっと気のせいだよな……周りに生き物の気配を一切感じないのもたまたま冬眠しているたげだ、間違いない!!

 

その後もかなりの時間歩いたが一向に森を抜けない、思わずどんだけ〜と言ってしまう程だ……IKKOだけに……くだらな!

 

1人で自分自身にツッコミをいれながらも歩みを進めていると、ようやく森の向こうにひとつだけ小さな小屋が見えてきた。これで誰かいれば道案内してもらえるかもしれないと希望が見えてきたのでスピードを上げ小屋に近づいていく、だが、小屋から半径5mに入った時俺の勘が危険だとアラームを鳴り響かせた。さっきまで小屋だと思っていたのがあと少しという場所で急に異質な空気に変わり、小屋の隙間からは時折見える光が嫌な雰囲気をプンプン匂わせていた。

 

「おいおい、ここに来てまさかの展開だな……木の棒、お前は俺をどうするつもりだ?……答えろよ、答えてくれよ!ウッドスティック!!」

 

俺は必死に問いかけるが誰も答えてくれない……だって、木の棒だもの……だが、この小屋には何か惹かれる物があるのか危険だと分かっていても何故かその中に入ってみたい衝動にかられる。

 

「毒を食らわば皿までって言うし、十分警戒すれば問題ない……よな?……漢、神条零次、行きまーす!!」

 

 

ここまで来た事を無駄にしたくなかった……木の棒の思惑でただ躍らされただけなんて笑われ者だ、そんな事を知られれば大天使様に失望されて面会拒絶になってしまう……それだけはダメだ!絶対に!腹を括って自分の勘を無視して小屋の中に入って行った……

 

 

「ちわーっす!三◯屋でーす!……よし、誰もいないな……」

 

 

念のため大声を出しながら扉を開けるも案の定無人でホッとしている。そうと分かればあとは拝見させてもらおうじゃないか……もしかしたら保存食があるかもしれないからな!

 

無人の小屋の中を軽く見て回り、役に立ちそうなものを探したが何も無かった。あるのは先程外から見えた怪しく光る小さな割れた鏡と1つの書物と縦長の木の箱、箱の蓋には何やら書いてあるが汚くて読めないので放置し、まだ読めそうな書物を手に取り読み始める。

 

「えーと、『取…明…禁』取扱説明書の事か?禁っていうのが気になるけど、たぶん禁止事項みたいなことだろ……となると……やっぱりあの箱の中身のことだよな〜、とりあえず流し読みするか」

 

一通り目を通し始める。3分後、読めない場所は飛ばしながら読んだのであまり時間はかからないで済んだ。書かれていた内容は箱の中身についてなのか分からない程内容がぶっ飛んでいた。

 

曰く、これは悪しき力が宿るものであり触れれば精神が崩壊して廃人とかすので絶対に触れるな!とか、曰く、糧となる供物を差し出せば絶大な力を有し、もう一振りの刀と合わせれば命さえも具現しうる程の代物だが、その代償は所有者の生命力であり失敗すればそのまま永遠の闇に呑まれる……だが、稀に命尽きないものがいる……らしい……考えるな、感じろとか、最早ファンタジーな作品のネタを書き殴っている痛い作者の書物である。いわゆる厨二病という病が発症したんだろう……そうとしか思えない程の内容だった……それより、らしいってなんだよ!?絶対作者の妄想じゃねーか!

 

 

だが、もしもここに書かれている事が本当なのであれば……高く売って一生遊んで暮らせる!!思い立ったが吉日というし、ここは1つ、確認してみようじゃないか!

 

「まずは直ぐに実感が出来るものから検証すれば良いか。たしか持った瞬間に精神崩壊するんだよな?」

 

俺は木の箱の蓋をゆっくりと開ける。すると、中から出てきたのは一本の刀だった。正直玉手箱のような物を期待していたのでがっかりしたが、今はそれよりも検証するのが先決なので気を取り直して恐る恐る刀を持ち上げる。

 

「…………何も起きないんだが……まあそれはそうだろうな……ん?何か箱の下に紙があるぞ?『取扱説明書 弍式』」

 

弌式は何処いった!?いきなり次の説明しようとしてるよこれ!?あれ?でもよく見ると何か挟まってるぞ?

 

「『説明書 弌式』……あったけど破れてるじゃねーか!!しかも、何でタイトル以外破れたあとなの!?栞がわりに使うなよ!!……はぁ、さっきの書物の物はこれじゃないやつだったのか……はぁぁぁぁぁぁ」

 

ため息しか出ない、やはりあの書物はただの妄想を書いただけだったのだろう。考えてみれば当然だ、そんな馬鹿げた物がこの世に存在するはずない……まだまだ俺も子供だな……

 

「まあ仕方ないから取説読むか。いきなり弐式だけど……」

 

まだ読んでいない取説をとりあえず読み始める事にしてページを開く……しかし、読み終えた後に俺はとんでもない勘違いに気づいた……この刀が想像をはるかに超えた物であることに……

 

「ノロ殺しの刀、祖滅狂眼だと!?……読み方分かんないけど、これを使えばあの巷で有名なノロを倒せるって事だよな……凄いなこれ……」

 

 

まさかの掘り出し物だ、見た目は普通の刀と大差ないが用法用量を守れば全くの別物になると書いてあった。まずは直ぐにその用途を身につけるために、説明書の内容を思い出しながら刀を抜く。

 

 

「刀を抜いたらまず初めに血を流しますだったよな、それじゃ血を流すか……っておかしいだろ!!いきなり血を流すとかこれを書いたやつは狂ってんのかよ!馬鹿なの!?……でも、このままじゃ何も出来ないから仕方ない……血を一滴流すだけでも大丈夫だよな?」

 

アホな説明書通りに従い、抜いた刀で指先を薄く切り血を一滴刀身に流す。付着した血はまるで生きているかのように吸い込まれていき、血がなくなると怪しく光出した。

 

「おお!マジで説明書通りになった、なんか負けた気分だ……くっ!だが本番はこれからだ!さあ次だ次!」

 

まるで新しいおもちゃを貰った子供のように、それから俺は説明書通りに従いながらいろいろ実践して、日が昇る頃になってようやく刀から手を離して深呼吸をする。

 

「もう朝になったのか……少し集中し過ぎていたみたいだな……さて、一通りの事は試した事だからここから出るとしよう」

 

説明書の内容は全て把握できたので、この小屋に用がなくなり出ることにした俺は最後に肩慣らしとして落ちてあった埃だらけの書物を取って、上空に投げ捨てた後に切り刻む。

 

「ふっ!……ちっ、埃が邪魔で少し斬れなかったか……もう少しこの刀を使いこなせるように体に馴染ませなければな」

 

上空に投げ捨てた書物は一部を残して全てが細切れになり地面に落ちていた。誰もいない事を良いことに散らばるクズを片付けずに小屋を出る。そして、外に出ると眩いほどの日差しに照らされ体が軽くなる。周りを見れば大きな木が一本あったのでその木の頂上まで飛び乗り周囲を見渡した。

 

「最初からこうしていれば良かった……あれは俺の知っている学校……ここから真っ直ぐに行けば辿り着く筈だな」

 

ようやく見知った場所が見えたので、一目散にそこへ向かって木から木へと飛び移りながら移動して駆けていく……あの導いてくれた木の棒を置いて……

 

その後、学校に近くなるとようやく俺の知っている道に出たのでそれから目的地を変更して自宅へと帰還する。

 

 

だが、彼は知らない……最後に切り刻んだ書物に重要な内容が書かれていたことに……

 

 

一部だけ残っていた紙にはこう書かれていた……

 

 

『取扱説明書 禁 に続く』

 

 




今宵、この身に無限に広がる空の彼方より舞い降りた


我、古の記憶を使い全ての道しるべから1つの可能性に繋がる語りをここに記す!!


唸れ!己の指!アクセルフィンガー!!!!





(厨二病ってたまにやると楽しいよね!)


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別れ、そして別れ……

出会いがあれば別れがあるのは必然、どんな者にも訪れる……


だが、それは悲しむだけのものだけではない。嬉しい別れというのもこの世にはあるのだから……



立ちはだかる壁を前にしても、どんな事があろうとも零次は歩み続ける事をやめない。例え己が運命が過酷なものになろうとも……


常識人?零次の物語、今、開幕せよ!!


俺がとある小屋から刀だけを無断で一生拝借し、我が家に帰還した次の日……奴が現れた。

 

「師匠……」

 

その者こそ俺の師にして究極の天敵、己の人生の大半を狂わせた災厄をもたらす憎むべき存在……だが、少し様子がおかしい。いつもはここで修行をするように促す筈だが今日の師匠は何も言わず、リビングでまったりとコーヒーを飲んでいる俺とは反対側の椅子に座った。

 

「……」

 

「……」

 

お互いに会話という会話が今まで修行以外なかったので必然的に無言になる。しばらくの間そのままの時が流れ、我慢が出来なくなった俺は口を開こうとすると師匠が先に話しかけてきた。

 

「零次、お前も小学6年だ……」

 

「えっと、いきなりどうしたんですか?ボケですか?病院行きますか?」

 

「人が真面目な話をしようとしている時に茶化すな」

 

「えぇ〜〜そんなん分からんですわ……」

 

「まあいい。お前も小学6年だ」

 

「そこから始めるのかよ!」

 

「いいから黙って聞け」

 

「……はい」

 

無茶苦茶怖い、あんなに死ぬかもしれない決闘をした事もあるのに今が1番覇気があるんだが……もしかして、あれはわざと負けたのか?……この人の底が見えないぞ……

 

「小学6年にもなれば人により受験をする奴もいる。お前はこの先どうするつもりだ?」

 

「え?普通に近くの中学に進学するつもりだけど?」

 

「そうか……実はお前の両親からはしばらく帰れないから面倒見てやってくれと頼まれている」

 

「しばらく帰れない?あの人達は何処で何をやっているんだよ……」

 

「今はここの反対側でバカンスを楽しんでいると言っていたぞ」

 

日本の反対側って……ブラジルか!?あの人達は息子を置いて何処まで行くんだよ!俺も綺麗なチャンネーとバカンスしたいぞこの野郎!!

 

「どうやらお前の両親は世界の国々を全て巡るみたいだぞ」

 

「191カ国をか!?」

 

「いや、正確にはその数ではないが……そんなことはどうでもいい」

 

「あの、俺にとってはどうでも良くないんですけど……」

 

「……とにかく、今後もお前の面倒は俺に一任されている。つまり、お前の進路についてもだ」

 

「いやいや、だから言ったよね?普通に近くの中学に進学するつもりだって」

 

「ああ、昨日までの俺も同じ考えだった」

 

「昨日まで?」

 

「そうだ……だが、昨日の模擬戦でお前の実力を見せてもらって考えが変わった」

 

あれ模擬戦だったの!?初耳なんですけど!?絶対実戦だよね!?何なのこの人、あれが模擬戦って……これ以上考えるのはやめよう、師匠は師匠、それでいいじゃない……だって、人間だもの……

 

「そこでだ、お前には近くの中学校ではなく他の学校に進学してもらう」

 

「他の学校?それは一体……」

 

「名前はお前も耳にしているだろう……美濃関学院だ」

 

「な、何だってーー!!……ごめん、知らないや」

 

「零次、お前は少し勉強が足らないぞ」

 

それをあなたが言いますか!日頃から家事と修行しかやらせなかったくせに!!……とは言えず、だんまりを決め込む。仕方ないじゃないか、両親に加えて師匠も非常識人なんだから……あれ?俺って意外と非常識人に育ってるのか?……いや、そんな事はない!あれだ、反面教師を間近に見て育ったから常識人なはずだ、うん。

 

「だが、昨日お前と殺り合う前に約束した事もある。だから、俺1人の判断で勝手に決める事は出来ない……あとはお前が決めろ」

 

「師匠……でも、今更遅くないか?」

 

「安心しろ、受験の申し込みは年明けいっぱいまでなら可能だ。今は年を越す前だから十分間に合う、勉強についてもしっかりサポートするから心配するな」

 

「絶対勉強もスパルタになるよね!?」

 

「今はそんな些細な事は考えるな、行くか行かないかだけを考えろ」

 

「そんな事急に言われても、まだ申し込みまで時間があるし今度でよくない?」

 

「甘いな……その慢心が命取りになるぞ?」

 

「そんな大げさな事じゃないだろ」

 

「さあ、今この場で決めろ。異論は認めん」

 

「横暴だ!……でも受験嫌だしな〜……ちなみにメリットは何かあるの?」

 

「そうだな……中高一貫校だから高校受験は受けなくてもいいぐらいだな」

 

「高校受験を受けなくていいだと!?つまり、今のレベルの学力で受験すれば高校のレベルの受験をしなくていい……つまり、他の人が高校受験を受けている時にのんびり出来ると言う事!!行きます!いえ、行かせてください!師匠!」

 

「変わり身早いなお前……まあいい、受験すると言う事でいいんだな?」

 

「はい!!」

 

「今までで1番威勢が良くないか?」

 

「そんな事ありません!さあ師匠!すぐに申し込みに行きましょう!!戦士に休息はありませんよ!!」

 

「いや、申し込みはハガキで送るんだが」

 

「……では、すぐに書きましょう!書いてポストに投函しましょう!!郵便配達員は待ってはくれませんよ!」

 

「はぁ。分かった分かった、少し落ち着け。一応お前の両親に連絡して承諾を得なくてはならないからな」

 

「大丈夫ですよ師匠!だって、俺の両親ですよ!絶対OK出してくれますよ!」

 

「仮にそうだとしてもだ。礼儀として確認は取らないといけない」

 

「礼儀ですか……では、仕方ありませんね」

 

「分かればいい……お前は何か書くものを用意しておけ」

 

「了解!!」

 

「……はぁ」

 

何故だかため息を吐いていたが理由が分からない、きっと疲れているんだ。今日の夕飯は肉料理にしよう。

 

 

言われた通りにボールペンを用意して待っていると、連絡を終えた師匠が戻ってきた。どうやら了承は貰えたらしくハガキと学校のパンフレットを持って椅子に座り、テーブルにハガキを自分の手前に置きパンフレットは俺に渡してきた。

 

「師匠これは?」

 

「それは美濃関学院のパンフレットだ、そこではいろいろな課があるみたいだから俺が書いている間に見ておけ」

 

そう言うと師匠はボールペンを持ちハガキに必要事項を書いていく。中高一貫校という事以外興味はないが一応パンフレットを読み始める。

 

「へぇ、刀匠課程は細分化されているんだ〜。てっきり一本の刀を完成させるまでの技術を学ぶだけかと思った。まったく、この学校の学長は一体どんな人なのかな?何処かに書かれてると思うんだけど……こ、これは!?」

 

学長の写真!しかも美人ではないか!これはもう俺が受験するのはここに確定だな……美人学長がいる学校……excellent!!!!

 

「どうした?」

 

「いや!ちょっと興味あるのがあっただけだよ!」

 

「お前の目を惹く程のものか……興味深い、見せてみろ」

 

「ふぁ!?えっと……そう!この研師っていうのが凄く気に入ったんだ!」

 

嘘だ……興味なんて微塵も感じない……だが本当の事を師匠に言えば最悪受験させてくれないかもしれない……そんな事になれば美人学長とイチャイチャ楽しく授業を教えてもらうという俺の夢が叶わなくなってしまう!絶対に阻止せねば!

 

「研師か……」

 

「そうそう!研師っていうけどコンピュータもいじるんだって!まさにアナログとデジタルを使いこなすハイブリットヒューマン!イエス!ハイブリットヒューマン!ワンダフォー!!」

 

「そ、そうか……では、ここの課でいいんだな?」

 

「イエス!オフコース!」

 

「……よしこれで全て書き終えたな。では投函してくるか」

 

「え?」

 

おいおいおいおい、やばいやばいぞ!このままではマジで研師コースになるじゃないか!仕方ない、どこか途中で師匠から気づかれないように奪い取って捨てよう。そうすればまた書き直しになるからその時にやっぱり他のが良いと言えば変えられる!パンフレットに載ってた他の課には美少女が写っていたのがあるからそれにしたいしな!……研師は野郎ばかりしか写ってなかったから……

 

「お前には留守を頼んだぞ」

 

「ま、待って!俺も行くよ!」

 

「気にするな1人で十分だ、それに少し他に用事が出来たからな……行ってくる」

 

「いやちょっと……行ってしまった……ジーザス!!師匠いつも鍵を持ち歩くから鍵掛けられない……鍵をかけてないから誰かが留守番しないといけない……今この家にいるのは俺だけ……俺の輝かしい未来がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!鍵だけ置いていけよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

家の中には俺の悲痛な叫びが木霊して、叫ぶ事に気力を使い果たした俺はテーブルに突っ伏し目を閉じながら泣いた……俺は美少女とのラブコメディ展開に憧れていたのに……

 

 

この日を境に夜の修行が無くなり、代わりにスパルタな勉強が始まる事になったのだが……小学6年の勉強なんて楽勝な俺にとって1教科を除きスパルタ授業を受ける事はなかった……その1教科とは……そう、歴史である……これだけはどうしようもない、俺の知る世界と違うのだから……

 

「お前は人が教えている時に考え事か?」

 

「ちゃうねん!これはあれや!首が疲れたからちょっとそのコリをほぐそうと思い出そうとしただけや!」

 

「真面目に聞け!」

 

「すんませんした!!」

 

 

「まったく、いいか零次。問題だ、特別祭祀機動隊はどこの所属だ?」

 

「折神紫様……だろ?」

 

「お前は馬鹿か……いや、馬鹿だったな」

 

「酷い!じゃあ正解は何だよ!?」

 

「特別刀剣類管理局だ」

 

「それってあれだろ?局長が折神紫様のやつ……やっぱり正解じゃん」

 

「それは屁理屈だ、明日からは勉強時間を増やすか」

 

「嫌だぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

完全に専門外な勉強をスパルタにやらされる事が度々ありながらも時間は黙々と過ぎていき……受験当日になった。

 

 

「おい零次、ハンカチは持ったか?」

 

「あんたは俺の母親か!ちゃんと持ったよ!!」

 

「そうか……筆記用具は持ったか?」

 

「当たり前だ!そんなに心配しなくても大丈夫だから!」

 

「そう言われてもな、お前は、その、なんだ……馬鹿だから」

 

「おい!ここで言わなくてもいいだろ!地味に傷つくんだぞ!!間違ってないけど……」

 

「そうなのか……よしっ!行ってこい!」

 

「急だな!もういい、行ってきます」

 

「カンニングはするなよ」

 

「しないよ!」

 

いつも以上にしつこい師匠を振り切り家を出て受験場所まで行き、今、開始のチャイムが鳴る。

 

「こ、これは……」

 

流石は俺の師匠、歴史の問題は俺が1人でやっていたら勉強してないとこばかりが問題になっている。しかし、俺の勉強の指導者が師匠であったので問題は容易に解け、最難関の歴史が終わると後はスラスラとペンが走り、やがて受験終了のチャイムが鳴り、無事に終了した俺は1人歩いて帰宅した。

 

帰宅後、師匠からカンニングしていないか聞かれてきたのにはイラッときたが、師匠の助力があったからこそ問題が解けたのでしてないとだけ伝えて部屋に戻りベットに寝転んだ。勉強に頭を使い過ぎて疲れていた俺はそのまま安らかな眠りにつき、起きた時にはすでに朝日が真上に登る頃になった。

 

 

受験日から数週間後、受験結果の日になると意識はしてないが不思議と緊張している。まるでお見合い相手に会う前のようだ……お見合いした事ないけど……

 

「なんだ零次、緊張してるのか?」

 

「べ、別に緊張なんてしてないんだからね!」

 

「すまん、零次……今のは流石に気持ち悪くなった」

 

「……ごめん」

 

「さて、覚悟はいいか?」

 

「お、おう!どんとこいや!」

 

「よし、では受験結果のページを開くぞ」

 

「ゴクっ……」

 

思わず喉が鳴る。そういえば思い出すなぁ、あの日も唾を無意識に飲み込んでいたっけ……まあ、唾じゃなくてゼリーを飲み込んでポックリ逝ったけど……もうあれから長い時間過ぎたなぁ……俺は何を思いふけっているんだろう?

 

「これは!?」

 

「どうしたオ○コン!」

 

「お前がどうした零次、というかそいつは誰だ?」

 

「いや今のは何でもないから気にしないで」

 

「あぁ……それよりこれを見ろ」

 

「んん?……んん?んんんんんんんんんんんんんんんんん!?」

 

「零次、その反応はおかしいぞ」

 

「いやだって、これ……俺の番号だよね?つまり受かったという事なんだよね?ね?」

 

「まあ。イタズラではなければそう「いよっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」……喚くな」

 

「だが断る!待ってろよ!俺のキャン○スライフゥゥゥゥゥ!!!」

 

「いや待て、お前が通うのは大学じゃないぞ」

 

師匠が何か言ってるが俺は気にしない、俺は俺のやりたいようにやるだけだ!もう今の俺ならル○ンダイブで火の海に飛び込むことも出来る気がする!!

 

 

しばらくの間喜んで騒いでいた俺は、我慢の限界に達した師匠に締められ意識を失い。後日目が覚めるとベットの上にいた……やり過ぎたとは思うが後悔はしていない!!

 

 

見事受験に合格した俺は入学までの間、寝る時と食事以外は常に刀を振り続けながら入学までの間を過ごす。だが、あと2週間もない時に残酷な宣告を師匠から告げられた。

 

「引っ越す?誰が……」

 

「お前だ馬鹿」

 

「ねぇ師匠、知ってる?俺の名前は零次だよ?馬鹿が名前じゃないんだよ?」

 

「それがどうした?」

 

「どうしたじゃないだろ!最近俺を呼ぶときはいつも馬鹿って呼んでるよね!」

 

 

「それの何が悪い」

 

「悪いから!あんたって人は……ふぅ。今は我慢しよう……それで、何故に俺は引っ越すのですか?」

 

「学校から遠いと何かと不便だろ?だから 近くに家を用意した、俺からの入学祝いとでも思ってくれ。礼はいらない」

 

「はっ!?家を用意したって何さらっととんでもないこと言ってるの!?」

 

「安心しろ、お前の両親から預かっている中身から出しているから遠慮はいらない」

 

「ふぁ!?俺の両親は師匠にどんだけ預けたんだよ!馬鹿なの!?」

 

「聞かない方がいいぞ……あと、俺もそれに関しては同じ考えだ……まさか、息子1人にこれ程までの資金を預けるとは……流石は俺を探し出しただけあって変わった奴らだ」

 

「今凄い発言を聞いたんだけど……」

 

「気にするな」

 

「うん、聞かなかった事にするよ……それでどこにその家があるの?この家はどうするの?」

 

「新しい家は岐阜にある。それと、たまに帰ることもあるからこの家はそのままにしておいてくれと言っていた」

 

「……もう驚かないぞ、俺の両親は凄い……それでいいんだ……」

 

「そうしておけ……それでだ、早くても来週あたりには引っ越してあっちで不便にならないように土地勘を身につけろ」

 

「来週だと!?早くない?」

 

「仕方ないだろ、これからお前は1人で暮らすんだからな」

 

「あれ?師匠は?」

 

「俺はそろそろ帰らないといけないからな、あいつらが帰ってこいとうるさいんだ」

 

「師匠が帰る……いよっし、んん!そうなのかー、師匠にもプライベートがあるから仕方ないかー」

 

「今喜んでなかったか?……まあいいか、俺は明後日にここを発つ。引越しの荷物があるなら明日までに言えば手伝うがその後は自分で何とかしろ。それと……これをお前に渡しておく」

 

「通帳と印鑑?それに防弾グローブ……最後のこれは要らないだろ」

 

「念の為だ、通帳にはお前の両親から預かっていた資金が残ってるがあまり無駄遣いするとすぐになくなるぞ」

 

「すぐに無くなるって一体どれだけ……ん?俺は今夢でも見ているのか?」

 

「現実だ馬鹿」

 

「いやだって、え?これがすぐに無くなる?Why?」

 

「さっきのは釘を刺しただけだ……それともお前は非常識な人間になりたいのか?」

 

「そんな者に、私はなりたくありませ〜ん!!」

 

「それなら無駄遣いしないようにしろよ」

 

「イエッサーボス!」

 

「 お前、本当に俺の正体を知らないんだろうな……はぁ、別れの挨拶をする奴がいるなら早めにしておけよ」

 

「そんな相手俺にいるわけ……あ!大天使様」

 

「誰だそいつは?」

 

「大天使様は俺の大天使様です!この世に2人と存在しない凄い御方です!」

 

「いやそんな事俺に力説されても……なら、さっさと挨拶してこい。忘れると後で面倒になるぞ」

 

「じゃあ明後日行ってきます!」

 

「そうか、それじゃ伝えたいことは伝えたから俺は出かけてくるぞ」

 

「また用事が出来たのか?」

 

「いいや、今日はただの散歩だ。行ってくる」

 

「いってら〜……って、また鍵を持って行きやがった!はぁ、おとなしく留守番してるか」

 

1人残された俺は引越しの荷物を選定する作業をしなくてはならないので自室に戻り、持っていくものだけ床に並べ始めた。

 

 

「これで最後っと……案外少ないな、何があって何がないかも分からないからとりあえずは着替えさえあれば大丈夫のはず……後は暇になるから刀と……他に持ち物がない!?……あっちに行ったら何か趣味でも探そう……それよりも、結芽ちゃんに気軽に会えなくなるのか……死活問題じゃね?というか結芽ちゃんに何て言おう……ちょっと練習するか」

 

あった時に何を言えば分からないという恥ずかしい姿を見せたくないので、刀を壁に立て掛けそれを結芽ちゃんに見立ててイメージトレーニングを始める。

 

「えー、本日は御日柄もよく大変にお別れ日和となりましたね……お別れにいい日があるわけないだろ!ボツだな……やあ。今日も可愛いね結芽ちゃん!実は今日君に伝えなくちゃいけない事があるんだ、実は俺……引越しします!……ないな、それに結芽ちゃんが可愛いのはいつもの事だからいつも言っていると嫌われるかもしれない……俺、神条零次は……引越しします!引越しはしても、神条零次の事は嫌いにならないでください!!……おぇぇぇぇぇ……駄目だ気持ち悪くなる……へーいそこの彼女〜、俺とお茶でもしな〜い?俺引っ越すからさ〜。な?いいだろ?……何がいいかさっぱり分からん!チャラいな!……あった時の気分で変わる事もあるし、その時に思った事を言えばいいよな?」

 

結局イメージが定まらないので、考えるのをやめてベットに寝転び枕に顔を埋めた。どう考えてもイメージがわかないまま、気がつかないうちに眠りにつく。次の日、引越しの荷物を運んでもらう為師匠に頼み、師匠がどこかに連絡してから数時間後の昼過ぎあたりにトラックが家の前に止まっいた。

 

荷物を運ぶのは業者に頼んだ方が早いという事でトラックの後ろに荷物を入れてもらい、トラック運転手と師匠と俺は運転席側に乗り新たな家に向かって出発した。その後、まだ眠かった俺は運転手と師匠の間の席で1人だけ眠っていて、到着した時に師匠に起こされた。

 

「おい起きろ。荷物を運ぶぞ」

 

「うい〜す」

 

寝起きで少しだけだるい体を動かす。トラックから降りてトラックに乗せていた荷物を持って新たな家とご対面する。

 

「ここが新たな我が家……凄く……大きいという訳ではなくて安心です……」

 

「当たり前だ、ほら、さっさと終わらせるぞ」

 

「おいっす」

 

早く荷物を片付ける為、きびきびと動き家の中に荷物を運ぶ。次々と荷物を運び、全て運び終えた後に今度は自分の荷物を二階の一室に持っていって片付ける。部屋には既に必要なベットやらクローゼットが置いてあり、これなら住むのには困らない。色々と持ってきた着替えと、不思議な刀を片付け、部屋を出ると師匠が文句を言わずにリビングで待っていてくれた。終わった事を告げる。

 

「では帰るぞ」

 

「帰るのはいいけど、何で帰るの?」

 

「そうだな……いい機会だから電車を乗り継いで帰ってみるか」

 

「嘘だろ……乗り遅れないように走ったりとかしないよね?」

 

「そうだな、今日は乗り遅れてもいいか」

 

「よしっ!じゃあ帰りますか」

 

「ああ、行くか」

 

家を出て鍵を閉めた後、駅に向かい駅を乗り継いで家に帰宅し、今日は帰りに買ったコンビニ弁当を食べ、食事の後は風呂に入り明日が早い師匠に合わせて俺も寝た。

 

 

 

次の日の朝、起きると既に師匠は居なくなっていた。別れの挨拶ぐらいさせてほしかったがこれでよかったのかもしれない……もしかしたら泣いてしまうかも……絶対にないな、天地がひっくり返ってもあり得ない……

 

「そんな事は問題じゃない、それよりも今日は挨拶に行く日だった……何で昨日寝ちまったんだよ!やべぇ、結局なんて言おうか考えてねぇ……とりあえず行くか……いざとなったら今度スイーツを提供する約束をすれば納得してくれるはず!よし!それじゃ行くぞ!」

 

気合いを入れてから家を出て大天使様の家へ向かい走り出す。走りながらも無駄とは分かりながらも考えて考えて考えてみたが、やっぱり無理でした。もう目の前には大天使様の住む建物がある。

 

「すぅ〜はぁ〜俺はやれば出来る……よしっ!押すぞ!」

 

インターホンを震える指で押すと直ぐに結芽ちゃんが出てきた。

 

「零兄!」

 

「やあ結芽ちゃん久しぶ……グホッ!!」

 

「零兄!会いたかった!」

 

「ゴホゴホっ、いきなり抱きつくのは危ないからやめた方がいいよって前も言った気がするんだが」

 

「大丈夫だよっ!だって零兄が受け止めてくれるもんっ!ね!」

 

「ええと、それはそうだけどさ……」

 

「もしかして零兄は私に抱きつかれるの嫌だった?」

 

「そんなわけない!結芽ちゃんならいつでもウェルカムさ!」

 

「本当!それじゃあこれからも抱きついていいの?」

 

「ふっ!愚問だな……もちろんOKさ!」

 

「やったぁ!」

 

いいか、よく聞け!美少女の頼み事はNOとは答えない、それが……常識ってもんよ!

 

「ふっ、決まった……」

 

「何が決まったの?」

 

「え?あー、そのあれだ、引越しが決まったって事だ、うん」

 

「ええっ!?零兄引っ越しちゃうの!?」

 

「あっ……今のは違……わないけど……そうは言っても引っ越すのは来週だよ?」

 

「来週なの?」

 

「しまった!?それは……そうなんだけど……」

 

「そうなんだ……」

 

「結芽ちゃん……ごめん」

 

「ううん、零兄は悪くないよ!でも、寂しいなぁ……」

 

「本当にごめん、しばらくは来れないかも知れない……でも、いつか絶対会いにくるから!」

 

「本当に?また私と遊んでくれるの?」

 

「ああもちろんだ!」

 

「うん、分かった……じゃあじゃあ、今日はいっぱい遊ぼうね!」

 

「了解だ!何して遊ぶ?」

 

「今日は刀を使って模擬戦したい!」

 

「へ?刀?何故に?」

 

「あのねあのね!私御刀に選ばれたんだよ!凄いでしょ!」

 

「へ、へぇ〜そうなのか。凄いな結芽ちゃんは」

 

「えへへ〜」

 

刀使の事については最近の勉強で学んだが、はっきり言って何がどう凄いのかよく分からないまま俺は結芽ちゃんの頭を撫でる……

 

「それと模擬戦はどういった関係があるんだい?」

 

「せっかくだから私の実力を見せようと思ったの!」

 

「ほう、結芽ちゃんの実力は確かに興味がある……が、俺はえんり「でしょ!じゃあ早速お庭でやろう!」ちょっ!待って!」

 

「?心配しなくても大丈夫!御刀も零兄の分の刀もあるから!」

 

「いやそこは別に心配してないんだが……そうじゃなくて「ほらほら、早く行こう!零兄!」あれ!?俺の話はまだなんだけど!?そんなに引っ張られるとこけるから!?」

 

「零兄との模擬戦楽しみだな〜」

 

「あの、結芽さん?少しでいいから話を聞いて……」

 

「♪〜♪♪」

 

駄目だ、これは俺がもっともよく知っている……俺の両親と同じく話が聞こえてないやつだ……こうなれば俺に残された選択肢は1つだけ……諦めるしかない……

 

 

 

 

結芽ちゃんに強引に手を引かれて広い庭へ行き、俺を残して刀を取りに行く結芽ちゃんを呆然と眺めながら1人寂しく庭で空を見上げながら立ち尽くしていた。

 

「どうしてこうなった……」

 

「どうしたの零兄?」

 

「いや何でもない……早かったね」

 

「うん!庭の近くに置いてたからね!はいこれ!零兄の分」

 

「あ、はい……真剣?」

 

「そうだよ〜、じゃあ私はあっちに行くね!」

 

「はい」

 

どうしてか、今の俺は切なくなっていた。いつの間に戦闘狂になったんだよ……あの頃のピュアピュアな結芽ちゃんが遠い場所へ行ってしまうような気がした。

 

「そう言えば結芽ちゃん、真剣使うのは危なくない?怪我するよ?」

 

「うーん……じゃあ私は寸止めするよ!」

 

「私は?俺もじゃない?」

 

「それは大丈夫……ほら!」

 

「それは……たしか写しだったかな?」

 

「せいか〜い!だから寸止めしなくても零兄はいいよ〜」

 

いや良くないだろ……写しとは御刀の力を使って斬られても実体へのダメージはないと勉強したが、痛みは感じるはずだ。たとえこの身が斬り裂かれようとも絶対に斬らない事を心の中で誓う……

 

「どうしたの零兄?何だか難しい顔してたよ」

 

「ははっ、まさか。少し気合いを入れてただけだよ、せめて少しでも結芽ちゃんに楽しんでもらう?ために……」

 

楽しませてどうするんだよ俺!!マジでこれじゃ結芽ちゃんが戦闘狂になっちゃうじゃないか!そんな結芽ちゃん俺は

……いや、意外とありだな……

 

「そうなんだ!それじゃ早く始めよう!」

 

「ああ、俺はもう(心の)準備出来てるよ」

 

「よーしっ!それじゃあいっくよー!!」

 

そう言うと今もなお少し体が光ってる結芽ちゃんが消え……てはいない。日頃の修行の成果か、こちらに向かってきている姿が目に見えていた。横薙ぎしてきた刀を焦らずに俺の手にある刀で防ぐ。

 

「おっと……」

 

「嘘っ!?」

 

「はい隙あり」

 

動揺して隙が出来た拍子に刀の柄部分で頭を軽く小突く。

 

「あっ……」

 

「俺の勝ちだな結芽ちゃん」

 

「〜〜!!!ずる〜い!!」

 

「いや何もズルしてないんだけど」

 

「もう一回やろ!ね!」

 

「もう一回やるの?」

 

「まだ私の実力見せてないもんっ!だからやろうよ〜」

 

「分かった分かったから!?刀を振り回さないで!?」

 

「やったぁ!!次は負けないから!」

 

「あはは……いつまで続くことになるんだろう……」

 

少し苦笑いした後、再び位置についたので構え直して警戒する……

 

 

 

 

 

模擬戦を始めてから時間が経ち、刀を鞘に収めた頃、空はオレンジ色になっていた。あれからずっと模擬戦だけをやって、毎回結芽ちゃんが負けるともう一度と言ってきたので仕方なく付き合っていたが、どうやら俺も夢中になっていたみたいだ。師匠以外とは今まで模擬戦をやった事がなくてつい嬉しくなったのは秘密だ……

 

 

「もう帰らないとな」

 

「そんなぁ……零兄にまだ勝ててないのに!」

 

「元気だね結芽ちゃん……じゃあ、今度会うときまた模擬戦をやろうか」

 

「いいの!絶対だよ!」

 

「ああ、約束する。その時は俺を負かしてくれよ?」

 

「うん!任せて!その時は零兄の事叩き斬るよ!」

 

「物凄い物騒な発言だね!?……さてと、それじゃ帰るか」

 

「次は絶対勝つからね!」

 

「楽しみにしてるよ、またね」

 

「またね〜」

 

 

こうして無事に引越しの事を告げ、おまけに模擬戦をして遊んだ後、俺は自宅に帰った……

 

 

 

それから数日後には今まで住んでいた家を離れて新しい家に引越し、師匠に言われたように土地勘を身につける為数日かけて家の周りや少し遠い場所を散歩して覚えた。

 

 

そして、今日入学の日を迎えた。

 

 

「身だしなみも整えて鍵もしたな、よしっ!それじゃ、行ってきます!」

 

新しい制服に身を包み新たに通い始める学校へ歩き出す……

 

 

 

俺は今日、中学生になりこの世界についてあまり知らないながらも学校生活を懸命に過ごした。

 

 

それから1年後、この学校で2度目の春を迎え知識も身につき、この世界の情勢に多少の疑問を持ちはじめた頃……

 

 

この時を境に、俺の中の運命の歯車が動き出す……

 

 

 

 

 

 

 

 




次回!ゆっかり〜ん登場!


「存在感薄いやつだとでも言いたいのか?……斬るぞ?」


……次回もまた見てね!


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MY NAME IS ZERO!!
激動の日々、苦難の始まり


後書きに続く!!!





それでいいのか作者よ……


俺、神条零次が中学2年に無事進級し、研師としての技術を磨き青春を謳歌しながら生きている今日この頃、季節も夏に近づいていた……

 

 

今日とて俺は、やりたくもない授業を見たくもない野郎たちと汗水流しながら取り組む。授業中は無言になりながらも必至に先生の話を聞き、必要であればメモをとる。そんな変わらない日常を送りながらも世界は変わらず今日も平和だ。最近は登下校の道で荒魂が現れたというニュースも見て、本当に俺の知っている世界と違う事を再認識する事もあったが平和だ。

 

そう、平和なのだ……誰も異常だと考える事もなく日常を過ごしている……たった1人を除いて……

 

 

俺が違和感を覚えたのは去年の冬、授業の中で大の苦手な歴史の教科書を読んでいた時が始まりだったと思う。御刀と呼ばれる刀剣類が管理されているのはそれとなく知っていた。だが、ここでふと疑問に思う内容が目に飛び込んできた。

 

「ノロを一箇所に集める?分散させるのではなく?」

 

「おい、神条、教科書ばかり見ていないでノートに写せ〜、黒板消すぞ〜」

 

「ういっす〜」

 

教科書と睨めっこをしていたのが先生にばれたので、まだ書いていないとこを写し書きする。丁度俺が書き終えてペンを置くと同時に先生が黒板を消した。その後、先生は再び雑談を入れながら教科書の内容を読み上げる。その間は寝ている生徒やノートに落書きしている生徒もいるので、俺も疑問を感じた内容について考える。

 

警察庁刀剣類管理局、御刀の管理をしている。そして、その本部では現在御刀の管理だけでなく他に、ノロを各地から集めて折紙家主導の下で管理しているらしい。だが、ノロはたくさん集まり結合する事で荒魂化するもの。それを何故一箇所に集めるのかそれが理解できない……そしてその指示を出した者こそ今の局長であり、20年前に起こった大事件、相模湾岸大災厄において大荒魂を討伐する特務隊の隊長を務めた最強の刀使として知られいる人物……

 

「折神紫……俺の両親が働いていたとこの上司か……この人は何を考えているんだ?」

 

その人物が指示した理由が分からない。授業後、その事について先生や他の生徒に質問をするも全員が全員俺らには縁も縁もないから気にするなと言われた。誰も気にしていない事について俺が間違っているのかと思い、それからしばらくは考え過ぎだと自分自身に言い聞かせて過ごしていた……今日までは……

 

再び疑問が生じたのは家で呑気にテレビのニュースを流し、ポテチとコーラを食べて飲んでゲップをしていた時、テレビから流れていたどこかの専門家が言った一言だった。

 

「ええ、刀剣とノロの管理を一任している折紙紫は政治も容認するぐらいですからね、これ以上の人物はこの先現れないかもしれませね」

 

「政治が容認している?刀剣とノロの管理2つを?……おかしい、政治家も馬鹿じゃない筈だ。ノロの危険性についても多少なりとも知っている筈なのに……」

 

この世界の政治家が馬鹿なだけか、折紙紫が本当に凄いのか……凄いのは確かだが馬鹿な可能性もありえるな……どちらにせよ本人に聞かなければ何も分からない……

 

「俺が馬鹿だからこれぐらいしか予想できないのは痛い……だが、これ以上考えても分からないし……そうだ!聞きに行こう!俺ってば天才だな!」

 

そうと決まれば話は簡単だ!せっかくの休日だから今から管理局本部に行けばまだ間に合う。すぐに財布とスマホを持って家を出る。電車に数時間乗って目的地近くの駅で降り、歩いて向かう。そして、目的地に到着しいざ入ろうとした、その時!

 

「ちょっと君、ここに何か用かい?」

 

「はい。紫様に聞きたいことがあって来ました」

 

「はぁ、悪いけどそれは出来ないよ」

 

「な!?どうしてですか!?」

 

「あのね、紫様だって暇じゃないんだ。それに、一般人である君が会える様な御方じゃない事ぐらい君もわかるだろ?ほら、帰った帰った」

 

「そんなぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

警備の人に強制的に追い出され完全に八方塞がりの状況に陥る。

 

「詰んだ……考えれば紫様って凄い人なんだっけ……俺みたいな一般人が気軽に会える筈ないじゃんか。どうしよう……何か手段はないのか?こうやって追い出される事なく見つからないように会う方法……あるじゃないか。師匠から教えてもらったあれが……」

 

可能性の1つを模索して結論に至った俺は、一度この場から離れて家に帰宅し準備を始める。準備を終えた後、再び目的地に赴く。

 

「やっと着いた……さて、あたりは暗くなってきて絶好のチャンスだ」

 

持ってきた身長より少し短い竹刀を収納する袋から、俺が唯一持っている一本の刀を取り出し体操着袋ぐらいの大きさの袋からフード付きの黒のコートを取り出して身につける。最後に師匠から貰った防弾グローブつけ準備が完了した。

 

「おっと、危ない危ない、忘れるところだったな……素顔がバレれば最悪刑務所行きになってしまうからつけておかないとな」

 

とり忘れていた気味の悪い下半分がない仮面をコートを取り出した袋から取り出して顔につける。今度こそ準備が完了した。

 

「さあ始めるぞ……スニーキングミッション……スタート!!」

 

折神紫がいる建物は現在ライトアップしていて下手に進めば見つかるので、まずは光が当たらない場所で様子を伺い人と監視カメラのおおよその場所を把握する。人がこちらを見ていないすきにカメラの死角を移動して少しづつ建物に近づきながら、外から折紙紫の姿を確認しそこを目指す。しかし、姿を見つけるも隙が一切なく潜入できない状態で行き詰まりになった。

 

「どうする?このままでは見つかるのも時間の問題だ……何か排気口でもあればいいのだが……ん?動いたか……これはチャンスだな」

 

目標の人物が席を立ち部屋から出たのを確認した後、その部屋にある窓までジャンプして飛び移り窓に張り付くがここで1つ問題が生じる。

 

「何だこの窓は!?これでは中に入れないではないか!……仕方あるまい、この刀の力を使って正面から入るか……」

 

正面以外に入る場所がないので、とりあえず正面入り口の頂上まで移動する。そこから下を見下ろし人が出てくるまでの間に念のためグローブを片方外して指を薄く切り、血を一滴刀に流す。

 

「準備は万全だ……あとは人が出るまで待つのみ」

 

一瞬も気を抜かず人が出てくるまで観察し、ポケットからコインを1つ取り出す。数分後、やっと1人職員が出てきたのを確認しその人の付近にコインを投げる。

 

「ん?今の音は何だ?」

 

職員が音のなる方を向いている隙に力を使い自身を強化しその場から飛び降りる。そして、自動ドアが閉じる前に強化した体を最大限活かして駆けた。

 

「まずは中に入る事が出来たが……運がいい。誰もいないな……好都合だ、折神紫が戻る前にあの部屋に潜入するか」

 

見つからないように警戒しながら壁伝いに歩き、気配がない事を確認して階段を使わずに2階へジャンプして移動する。それから目標地点まで気を緩めず一気に駆け抜ける。

 

「外から見た場所では確かここだったな……さて、鬼が出るか蛇が出るか。それとも何も居ないか……一か八か賭けてみるか」

 

目の前にあるドアの取ってを握りゆっくりと開ける。

 

「……誰も居ないか……一先ずのところは安心だな。あとは本人の目的さえ聞ければここから出るのは容易だ……来るまでそこにある本でも読んで待つか」

 

他にやる事もなくなったので大人しく備え付けの本棚にある一冊をとり読み始める。

 

 

「ほう、意外と漫画以外も面白いものだな……」

 

適当に取った本が面白く本来の目的も忘れて読みふける。だからこそ、誰かが入ってきて話しかけるまで気がつかなかった。

 

「おい、そこのお前、ここで何をしている」

 

あっ、そういえば目的忘れてた……どうしよう……

 

「まずは中に入ったらどうだ?」

 

誰かに聞かれたらまずいので中に入るよう促すと、その人物は思いのほか素直に聞き入れられて中に入ってドアを閉めた。こちらもいつまでも本を読んでいるのは失礼なので本を閉じる。

 

「お前が折神紫……本人に相違ないな」

 

「ああそうだ……それがどうした?」

 

「何、そんなに難しい事ではない。1つ貴様に聞いておきたい事があって確認しにきただけだ」

 

本を元の場所に戻しながら答えたけど大丈夫だよな?怒ってないよな?

 

「確認だと?」

 

「ああそうだ……単刀直入に聞く……貴様の目的はなんだ」

 

「目的?何の事だ?」

 

「惚けるな、貴様が刀剣だけではなくノロも集めて管理しているのは知っている。どちらか片方だけならば別に気にも留なかったが、どちらもとなれば話は別だ。特にノロを一箇所に集める事はどう考えてもリスクがあり過ぎる……」

 

「目的なんて大層なものはなにもない」

 

「それが折神紫の答えか……なるほどな……では今度は別のものに聞こうとするか……」

 

「何?」

 

「もう一度問おう、貴様の目的は何だ?折神紫……いや、大荒魂と呼んだ方がいいか?」

 

「貴様……どこでそれを」

 

「何、気づいたのは今さっきだ……貴様も知っているこれを使った」

 

そう言って去年の秋頃にアンティーク店に一個だけ置いてあり、購入したものをポケットから取り出して見せる。

 

「スペクトラム計……」

 

「念のために持ってきたが、まさか役に立つとはな……」

 

実際はポケットに入れてたのを忘れていて、さっき本を片付けている時に取り出して気づいただけとは言えない。それに、普通の荒魂以上にビンビン反応してたから大荒魂と勝手に名付けたのも言わないでおこう。

 

「それで、私をどうするつもりだ?」

 

「先程から言っているだろ?貴様の目的は何だ、と……返答次第では今この場で貴様を斬る」

 

「ふっ、斬るだと……ならばやってみるがいい」

 

「いいのか?言っておくが俺は加減が苦手だ……死ぬかもしれないぞ?」

 

仕方ないがこう言われるとは想定外だ、それにあっちもハッタリで言っただけだろう。ならこっちもハッタリをすれば正直に答えてくれるはず!

 

「ああ構わない」

 

死ぬかもしれない事をそんな容易く答えるなよ!……まったく、師匠の言った通りだ。荒魂に常識は通じないな……

 

「そうか……後悔するなよ……」

 

「馬鹿なっ!?」

 

「だから言ってるだろ、加減は苦手だと……では答えてもらおうか、貴様の目的を……」

 

一瞬で背後をとり折神紫の首元に刀を当てながら、駄目元で答えるように促す。

 

「……復活を果たす……それだけだ」

 

「それがお前の目的なのか?」

 

「そうだ」

 

「そうか……」

 

目的が分かったので俺は刀を鞘に収め、折神紫に背を向けて扉の前まで歩く。

 

「何の真似だ?」

 

「何がだ?」

 

「貴様は私を斬るのではなかったのか?」

 

「はぁ……本当に話を聞いてない奴だな……言っただろ?返答次第では斬ると……それに、意識してやってるわけではないだろうが、貴様の行いのお陰で被害が少なくなったのは事実だ……危害を加えていない奴を斬る趣味は俺にはない」

 

まあ最初から斬るつもりなかったけどね!ただのハッタリで、正直に答えてもらおうと言っただけなのに勘違いしすぎじゃないか?

 

「だから斬らないと?」

 

「そうだ」

 

「ふっ……貴様面白いな……」

 

「……そりゃどうも、ではこれで失礼する」

 

ドアの取っ手を握り開けようとした時、何故か呼び止められる。

 

「待て」

 

「何か用か?」

 

まあ、不法侵入したのに返してはくれないか……やり過ごせると思ったのに!くそう!!

 

「貴様に1つ提案がある……私の部下にならないか?」

 

「……は?」

 

何を言ってるんだこの人は?俺が部下だと?何故に?真意を問いたださねばならん。

 

「一応聞くが何故俺なんだ?」

 

「なに、貴様は他の奴とは(雰囲気が)違うみたいだからな」

 

 

「ほう、俺が他の奴らと(常識が)違うだと?……言っておくが、今斬らないのは貴様が危害を加えていなからだ。世の人々に危害を加えればすぐにでも貴様を斬る……それでもか?」

 

「ああ、そうしてもらって構わない」

 

少しは構えよ!側に自分を斬る相手を側に置くとかいかれてやがるぜ!!

 

「悪いが俺にメリットがあるように思えない……だから断らせてもらおう」

 

「メリットか……では、ここの職員より給料をはずませよう」

 

「何?……つまり、俺を雇うという事か?」

 

「そういう事だ」

 

これは願ってもない事だ。まさか卒業後の就職先が今の内から約束されるとは……就活と言う名の苦行をせずに済むなんて、そんな誘惑にこの俺が負けるわけ……

 

「いいだろう……ただし条件がある」

 

まあ誘惑に勝てるほど俺と言う人間は出来ていないからこうなるよね。知ってたけどあれだね……人間のクズだね!ニートじゃないだけマシのはず!

 

しかし、ここまで執着されると何か嫌な予感がするので無理難題を押し付けて諦めてもらおう……これで今の発言を撤回してくれる気にもなるだろ。やっぱり辛くても就活はしないとだしね!

 

 

「条件か、言ってみろ」

 

「1つ、今から最低でも2年の間は土日以外は働かなくていい事」

 

「土日だけか……それぐらいなら問題ない」

 

「では、2つ目。俺が絶対に命令に従わなくてもいい事」

 

「つまり自由行動をさせろと言う事か?」

 

「そうだ、俺の判断で物事は決めさせてもらう……」

 

「わかった、それを許そう」

 

「……最後に1つ、貴様が世の人に危害を加えれば俺は貴様の敵になり、貴様を討つ」

 

ここまで言えば流石に相手も渋るだろ……とか思っていた自分もいましたよ。でもそこは荒魂、全然俺の常識が通用しない……

 

「ふっ、いいだろう。その時は私を討ってもらって構わない……他には何かあるか?」

 

「……ではもう1つ、俺の正体について詮索はするな……それでもいいなら素直に雇われよう」

 

ここで切り札、素性の知らない奴という最強カードを出す。流石にこれなら警戒して雇わないだろ……

 

「わかった」

 

「……この姿のまま過ごすぞ?いいのか?」

 

「別に構わない、その刀も携帯していい」

 

だから構えよ!!……もうダメっすわ、手札に何もないっすわ……

 

「……」

 

「他には無いようだな……では、来週からさっそく働いてもらう」

 

「……了解だ。俺は帰らせてもらう」

 

「待て」

 

「……まだ何か?」

 

「貴様の名を聞いてない」

 

「……ゼロ……そう呼んでくれ」

 

「ゼロと言うと偽名か……まあいい、来週からよろしく頼んだゼロ」

 

「ああ、給料分は働くさ……それでは紫様、失礼する」

 

酷く疲れが押し寄せてきた体を動かし、今度こそ扉を開けて退室する。出た後に1度だけため息をついてから正面入り口へと歩き出す。

 

正面入り口まで誰とも会う事はなく外に出て、1度袋を置いたままの場所まで行き、コートを脱いで袋にしまい刀は竹刀を入れる袋にしまう。すっかりいつもの制服姿になった俺はそのまま駅に行って電車に乗り、家の近くで降りて家まで重い足取りで歩いて帰る。自宅に着くと何もやる気が起きずに自室のベットに倒れてすぐに寝た。

 

 

次の週から俺は……休みなど無くなった……

 

職員との初顔合わせとして、初日に職員を集め全員の前で紹介される事になった俺は、この服では流石に怪しまれるという事で紫様からスーツを手渡されそれに着替えてから、職員の集まる会場でお披露目された……お披露目前、どうしてスーツのサイズを知っているのか不気味に思えたがそこはスーパー刀使という事で無理やり納得する事にした……

 

「今日からここの臨時職員となる者を皆に紹介する。自己紹介しろ」

 

「本日からここの臨時職員になったゼロだ……給料分の働きはする。以上だ」

 

「そう言う事だ、仲良くやれとは言わないが色々と指導してやれ。まずは一通り覚えてもらう為、数ヶ月置きに各部署に配属する。配属された部署の職員は彼が仕事をこなせるようにしてやれ」

 

聞いてないんですけどぉぉぉぉぉぉ!!!!いきなり無茶振りですか!?全然笑えねぇぇぇ!!

 

「まずはここでオペレーターとして仕事してもらうから面倒を見てやってくれ。それと、彼の素性については詮索するな……以上だ」

 

以上じゃねーーーーーー!!!お前は現場でいきなり仕事をやらせるつもりか!そこは研修期間とか儲けようぜ?な?

 

「紫様、その話は聞いてないぞ……」

 

「それはそうだ、今初めて職員にも言ったからな……この前のお返しだ」

 

意外とこの人は根に持つらしいです。でもいくら何でもやりすぎやしませんかね?泣くぞ?

 

「では、そこのお前。この者を指導してやれ、私は部屋に戻る……期待しているぞ、ゼロ」

 

俺の返事も待たずにこの場から出て行き1人残された俺を、警戒してか誰も話しかけてこない……当然だ、素顔を仮面で隠している相手に気軽に話しかける事が出来たらそいつはこの先一生困らないで暮らせるだろう……仕方ないので自分から、先程指導するように言われた職員の元まで歩き、無礼がないよう慎重に話しかける。

 

「貴様が俺の指導をしてくれるという事だが……」

 

「え?あ、はい。あなたの指導を任された沖田と言います。よろしくお願いします」

 

「……ゼロだ、ここについて何も知らないから色々教えてくれ……それと敬語はいらない」

 

「えっと、よろしいのですか?」

 

「構わない」

 

「そういう事なら分かりました。改めてよろしく、ゼロさん」

 

「ゼロでいい、さん付けは不要だ」

 

「そうなのか?じゃあ、よろしくゼロ」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

まだあまり会話を交わしていないが今ので十分わかった。この人は絶対に良い人だ。人当たりも良くて性格も良い……なるほど、紫様は適当に選んだ訳ではなかったのか……少しだけ見直した。

 

「どうかしたか?」

 

「……いや、何でもない。それよりも仕事の内容について詳しく教えてくれ」

 

「ああ、分かった。それじゃまずはモニター室へ行こうか、僕達オペレーターはそこで刀使や警備隊と連絡をとって、被害状況や現場までのナビ等をするんだ……僕の説明よりも実際に見てもらった方が早いかもね」

 

「なるほど、中々に重要な役割を担っているのか……興味深いな」

 

連絡を取りあいながらリアルタイムで指示や情報を伝えるのは戦場において重要な事だ。まさに情報を制するもの戦いを制するだな……うん、何言ってるんだろ俺?

 

その後、沖田と名乗る職員の指示に従いながら仕事をこなす。やる事は多いが案外楽しく、毎週土日だけだが朝から晩までずっと働き詰めになった。

 

それから数ヶ月後、初日に紫様が言ったように他部署に配属され同じくその部署の1人から指導教育を受け仕事をこなす……それを毎週土日だけ行い2年の月日が流れた……

 

 

 

 

 

そして、今日、中学3年も終わり春休みになった頃にようやく全ての部署を制覇した。

そこから先は部署配属ではなくフリーの状態になり、書類の整理などの雑務の仕事をやるだけで暇になる事も増えた。必要であれば駆り出される事があるが、大抵の場合が警備隊からの要請ばかりである。被害があった場所の撤去作業や修繕活動、極稀に荒魂との戦闘もあったが、ほとんど避難誘導だけで危険はない。何故ならいつも刀使が先に現場にいて戦っているからだ。本来であれば加勢するのがセオリーかもしれないが、特に危機的状況ではなかったので放置した。

 

 

そうして、春休みも過ぎて高校1年になり、同じような日々を過ごす。今日とて平和な日常を過ごす事数ヶ月後……夏も終わり間近となり、俺はとある試験を受けて結果通知を待つ。そして、今日の昼過ぎごろに休暇でまったりしていた自宅に一通の封筒が届いた。

 

封筒を開け、中身を取り出し確認する。

 

「ご、ご、ご、GOーです!!じゃなくて!合格だ……よしっ!これで俺は自由の身だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

試験が合格した事に舞喜びながら家の中を軽快なステップであちこち移動する……が、階段で足を滑らせて床に頭をぶつけて気絶した。次に目を覚ました時には既に外は太陽が昇る頃になっていた。どうやら1日気絶したようだ……それから徐々に頭が覚醒し、今日が仕事の日だったのを思い出して急いで身支度を整えて出かけ、時刻ギリギリに到着した。1度大きく深呼吸して息を整えてから建物の中に入って、すれ違う職員には片手を上げるだけの挨拶をする。俺も偉くなったものだ……最初はこの挨拶の仕方について陰口を言っている者も見受けられたが、今ではこの挨拶にたいして陰口を叩く者もいない……

 

 

少しだけ当初の思い出に浸りながらもいつものように所定の場所へ行く……折神紫のいる部屋だ……1度ノックをして入る許可を貰ってから中に入ると、今日も変わらず老けていない女性が座っていた。

 

「時間ギリギリとは珍しいな」

 

「少し大事な用があってな……それより、紫様に報告がある」

 

「報告か……言ってみろ」

 

「これからは土日以外も働けるようになった」

 

「そうなのか、随分と急だな」

 

「本来であれば昨日の時点で報告するつもりだったが、あいにく非番だったのでな」

 

うん、嘘だね。気絶してたからだね。でも、非番だったのは本当だから大丈夫……何が大丈夫なんだ?……まだ頭が完全に覚醒していないみたいだな……

 

「そういえば昨日はいなかったな……それではこれからは毎日働けるんだな?」

 

「そうだ……と言いたいところだが、それは無理だ」

 

「何故だ?」

 

「俺は毎日通勤するのはごめんだ、正直疲れる」

 

通勤時間に何時間掛かるか分かるか?バチを使ったゲームが何十回も出来るんだぞこのヤロウ!!それに俺は朝に弱いんだからな!そこんとこよろしく!!

 

「なるほどな……では、通勤がなくなればいいのだな」

 

「?それが出来るなら別に構わないが……」

 

おいおい、そんなのタヌキの使うピンクのドア以外ないじゃねーか……もしかしてこやつ……持っているのか?

 

 

「ふふっ、言質は取ったぞ……では明日からここに住み込みで働いてもらおうか」

 

「何……だと……!?」

 

「それであれば通勤する必要もないだろ?」

 

「それはそうだが……部屋はあるのか?」

 

「安心しろ、部屋の1つぐらいすぐに用意できる。そうだな、今日の仕事は引っ越し作業でもしてもらうとするか」

 

「何?引っ越し作業だと?」

 

「ああ、無論お前の引っ越しだがな。給料分の仕事はするんだろ?」

 

「……分かった。今日からここで世話になるぞ……」

 

「ああ、好きに使うがいい」

 

「……それでは作業があるから失礼する」

 

こうして俺は折神紫に一杯食わされてここでの生活が、今、始まる……始まってしまった……

 

 

だがこの時、俺は知らなかった……1人の少女が苦しんでいることに……

 

 

 

 

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自分なりに予測してみたが、たぶんこの年月の何処かであのシーンが入るはずだと思う……


明確になっていないから分からないまま書いたけど、たぶん間違いではないはず……


p.s.判断材料は身長と身体的特徴の一部と髪の長さです……


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1を知って10を知るのは不可能だ……

拾う神あれば捨てる神あり、人はこの言葉を使う時何を思うのか……


そして、人は常に拾う神の立場になる事ばかりで捨てる神になろうとはしない……


だからこそ、要らぬ事ばかりを拾い世に浸透してしまう……



この男の願いとは逆に……


眩い太陽の光が差し込み部屋の中が明るくなると、1日が始まったと感じられる今日この頃.……

 

昨日とは違う風景でもいつものように朝の支度をして部屋を出る。朝食がわりに缶コーヒーをコンビニに行って買って飲み、目が覚めてきたら少し運動がてらランニングしながら帰宅する。初めてここで迎える朝は心地よく気分が高揚していく……訳もなく、今日とて雑務をこなす為、作業部屋へ向かう。いつも書類や連絡はこの部屋に誰かが来るのでそれまでが俺の癒しの時間……

 

「今が永遠に続けばいい……『ゼロ、居るか?』いつだって現実というものは残酷だ……入っていいぞ」

 

働き始めてから仮面をつけてる間、この厨二病な口調でいたので今ではしっかり板についた……仮面をつければゼロとして職員と接するのが俺の日課だ……最近は、仮面を取っても口調が戻らない時もあるが決してわざとではない。

 

 

「失礼します。」

 

「ああ、沖田か……やはり今日も書類を持ってきたのか?」

 

「あはは、残念ながら今日は違うよ。ゼロにとってはいい事かどうか分からないけど他の仕事を持ってきたんだ」

 

「他の仕事?今までにない仕事とでも言うのか?」

 

「正解、しかも、かなり厄介なね……これを見てくれ」

 

いつも通りの人物が仕事を持ってきたが仕事自体はいつも通りではなく、沖田という最初に世話になった相手から一枚の紙を渡される。

 

「これはどういう事だ?」

 

「それはこっちの台詞だよ、ゼロは一体紫様に何をしたんだい?」

 

「何もしていない……強いて言えば、今日からは土日以外も働けると伝えた事だけだ」

 

「そういう事か……ゼロ、ドンマイ」

 

「おい、どういう事だ?」

 

「そのままの意味だよ。1つ言える事は、これから先は楽な仕事が少なくなるって事だね……それじゃ、僕も仕事があるから戻るね」

 

「待て、その事について詳しく教えろ」

 

「ゼロ、百聞は一見にしかずだよ。それと、あと10分で支度をして外に出ていないと強制連行されるから気をつけてね〜」

 

それだけ言うと沖田は部屋から出て行く。

 

「まだ話は……行ってしまったか。仕方ない、言われた通りにしておくか……それにしても、機動隊との連携作業とは一体?」

 

紙に書かれている内容をじっくり読みながら1人呟く。機動隊、その文字からして肉体労働になるのは明白だ。だが、今までこの部署があるとは聞いていなかったので多少の不安が押し寄せる。

 

「……何も起きない事を願おうか」

 

いつもの仕事着、スーツ姿に仮面をつけた状態で念のため刀を持ち、準備が整うと指定された場所まで移動した。

 

 

この世には言霊という言葉がある。放った言葉には力があり、それが現実に起こりうる事がある……それは時に些細な言葉でさえも……

 

指定された場所に着いた俺は、既に何台かの車が停まっているのを不思議に思いながらも、今まであまり見たことのない軍用車に目を惹かれ思わず凝視していた。

 

「これがバンピー……最大何人乗れるのだろうか?」

 

車の性能に興味が湧き始めた頃、戦前に行く兵士のような服に身を包んだ1人の男性から声がかかった。

 

「久しぶりだな、ゼロ」

 

「お前は……確か警備隊の遠坂だったか?」

 

「遠山だ。ついこの間まで一緒に仕事した仲なんだから覚えておいてくれよ……」

 

「断る。俺には野郎の名前を覚えている暇がない」

 

「どんな理由だよそれ……まあ今更じゃないからいいけどさ」

 

「それよりこれは何だ?今からピクニックにでも行くのか?野郎だけで」

 

「うわぁ、野郎だけでピクニックとかないわ〜……じゃなくて、今から現場に急行するんだよ」

 

「何?現場だと?」

 

「そう、実は……悪い、準備できたみたいだから詳しい話は車の中でしよう、さあ、ゼロも乗ってくれ」

 

「俺も行くだと?聞いてないぞ」

 

「あれ?紫様から今日から強力な助っ人が1人加わるって聞いていたんだけど……ゼロじゃなかったのか?」

 

あんの女狐ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!

 

「とにかく乗ってくれ。これ以上は時間がない」

 

「……仕方ない、行くだけ行ってみる事にするか」

 

「よしっ!ゼロ、こっちだ。ついてきてくれ!」

 

「……はぁ。今日からこれではこの先生きていく自信がないぞ………」

 

喜ぶ1隊員とは逆に憂鬱になりながら案内された車両に乗り込み現場へ出発した。

 

現場に到着するまでの間、俺は詳しい内容を確認する為遠山に話しかける。

 

「きん……遠山、さっきの話だが」

 

「今きんって言ったよね!?」

 

「……気にするな、大した事じゃない」

 

「こっちとしては大した事なんだけど……」

 

「それよりもだ、俺は今回機動隊との連携とだけしか聞いていない……一体今から何をするのだ?」

 

「あ、誤魔化した……今日は、というか今日からはゼロに警備隊の他に刀使と連携して被害を抑える為に協力してもらう事になっている」

 

「刀使だと?現場と言うのはまさか……」

 

「その考えで間違ってはいないけど、俺たち警備隊は主に避難誘導だからそれほど危険ではない」

 

「そうか、なら安心「警備隊はね……」……おい、今の発言はどういう意味だ?」

 

「それは……いいか、ゼロ。冷静になって聞いてくれ……紫様からはより安全に避難誘導できるように有効活用してくれと言われているんだ」

 

「何……だと……!?それは何の冗談だ?」

 

「現実なのよ、これ……そう言うわけだから頑張れ、陰ながら応援してる」

 

「……ふっ、いいだろう……給料分、いや、給料以上の働きをしてみせようじゃないか」

 

もうここまでくると怒りを通り越してしまう。そっちがその気なら俺はその上をいってやろうじゃないか……見てろよ女狐、俺が貴様の掌の上で踊らされるだけの存在ではないという事を証明してやる!

 

「お、おう。よろしく頼むぞ……それと、紫様からは臨機応変に対応させるように言われてるから、危なくなったら引けよ?」

 

「敵を前にして引くだと?笑わせるな、敵を前にしたら殲滅あるのみ……地獄をみせてやろう……ハハハハハ!!」

 

「お、おい!?正気に戻れゼロ!」

 

「何を言っている貴様、俺は正気だ……何なら刀使より先に荒魂を倒してしまっても構わないのだろう?」

 

「それ死亡フラグだからな!?まあ、やる気になってくれたのはいいが……あまり無理はするなよ?」

 

「ふんっ、たかだか荒魂如き恐るるに足りんな」

 

「お前本当にどうした?何かキャラ変わってない?」

 

「戯言を……俺は俺だ……それ以上でもそれ以下でもない……」

 

「……もう好きにしてくれ」

 

「そうさせてもらおう」

 

「はぁ、紫様は人選間違えたんじゃないか?」

 

どうしてか、遠山はまだ動いてもいないのに疲れている。どうしたのだろう?日頃の疲れが溜まっているのか?それならば、少しでも負担を減らす為に俺が頑張らねばならないな!

 

折紙紫が勝手に仕組んだ事を知る事が出来て、今度仕返しをすると考えている最中も車は走り、やがて現場付近に到着し車が停まる。ここからは足を使っての移動となる為、隊員一同と俺は車から降りて現場まで駆ける。現場に近づくに連れて戦闘音と思わしき効果音がだんだんと大きくなり、人々の悲鳴も聞こえてきた。

 

「俺が荒魂の相手をする。異論はないな?」

 

「分かった、こちらは人々の誘導完了後合流する。それまで死ぬなよ」

 

「誰に向かって言っている……心配した事を後悔させてやろう」

 

「ああ、そうしてくれ……健闘を祈る!」

 

「貴様もな、遠坂……」

 

途中で二手に分かれて行動を開始する。別れ際に俺は遠山……とか聞こえたが気のせいだろう。警備隊と別れた後、目標の荒魂を目視出来るとこまで来ると、そこには制服を着た少女達が一体の荒魂と交戦中で金属音が鳴り響いていた。

 

「くっ!何て強さなの……皆!陣形を崩さないでちょうだい!」

 

「そうは言っても!この大きさの荒魂相手にこの人数では不利よ!」

 

「まさかこんなのがいるなんて聞いてない!」

 

「一体どうなってんだよ……っと!」

 

「今はそんな事考えないで集中して!4人だけしかいないけど、今応援を要請しているからすぐに増援が来るわ。それまで持ちこたえるのよ!」

 

「そうは言っても……こっちはもう限界よ」

 

「もうここで私の人生終わるのかな……」

 

「縁起でもない事言わないで!……きゃっ!」

 

「隊長!ぐっ!こいつ……」

 

「仕方ありません……私が相手している間にあなたが隊長を救助して!」

 

「わかりました!」

 

「行きますよ!はぁ!!!」

 

「うわっ、危ない!もう!素早い上に体が大きいとか反則だよ!……隊長、しっかりして!」

 

「すみません……迷惑をかけてしまって……」

 

「そんな事気にしないで。さあ、彼女が相手している内に体制を整えよう!」

 

「ええ、そうね……「きゃぁぁぁぁ!!」そんな!?」

 

「でりゃぁ!!おい!早く逃げろ!!くそっ!こっちばっか狙ってくんなよな」

 

「何をしているの!早く逃げなさい!」

 

「分かってるけど!『@¥#:%&$!”#$%&#』あ……」

 

「いやぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

……俺は今、近くまで来て少女達の戦いを見ているのだが……え?あれが素早いの?しかも大きさが良くて9m位しかないぞ?この前見た荒魂は全長何十メートルもあるムカデみたいな奴なのに、この荒魂は見てて思わず笑いがこみ上げてきそうなんだけど……嘘だろ……最初見た時劇団の稽古か何かだと思ったんだけど……仕方ない、遠何とかに言った手前相手しないとな……

 

「はぁ……期待はずれだ……」

 

「え?」

 

ゴリラのような形をした荒魂(笑)を頭から足まで一閃し、活動できなくなった荒魂が力なく倒れていく。完全に機能停止した事を確認した後、車の中で貰って片耳につけたインカムに指を当てて任務完了を報告する。

 

「こちらゼロ、任務完了。これより帰還する」

 

『こちら本部、荒魂の反応消失を確認しました。ご苦労様です。帰還してください』

 

「了解……呆気なかったな」

 

まるで手応えがない敵に失望しながら、残骸と固まっている少女達を放置してその場を離れ警備隊と合流した。

 

「ゼロ、荒魂は刀使の御刀が唯一の対抗策だ……お前は一体……いや、詮索するのはやめよう」

 

「何をゴチャゴチャ言っている、早く作業を終わらせて帰るぞ」

 

「ゼロって俺が隊長になってから冷たいよね?」

 

「何を言っているんだ貴様は?前も今も変わらん」

 

「……そうだな。それではこれより修繕活動に移行する。まだ住民の確認が終わっていないので慎重に行え。もしかしたら瓦礫の下敷きになっているかもしれないからな」

 

「了解した」

 

警備隊と合流した後、任務は修繕活動へと移行して作業を行い、それから夕方までは時折休憩を入れながら瓦礫の撤去や被害の大きい場所の資材の手配等を行った。そして、作業もひと段落すると今日の作業を明日へと持ち越しにして再び警備隊と一緒に車で帰還する。

 

 

帰還後、報告は警備隊に任せて自室へと戻りベットに寝転ぶ。これから毎日働き詰めになるので定時で上がれる時にはそうするように心掛けているので今日はゆっくりと休んだ。

 

 

今回の出来事が原因で変な噂になるとも知らずに……

 

 

……………………

 

 

 

「以上で報告は終わりです」

 

 

「そうか、戻っていいぞ」

 

 

「はい、失礼します」

 

 

報告に来た職員は彼女に丁寧にお辞儀をしたあとにその部屋から退室した。

 

「荒魂を討伐するとは予想外だ……ふふっ、ゼロ、貴様はつくづく私を楽しませてくれる面白い奴だな……」

 

夜の空を窓越しに見上げながら彼女、折神紫は1人楽しそうに笑う……今までにない程に彼女は今回の出来事に関心を持ちながら、今後の事について考え始めた。

 

 

「さて、今月中には迎える準備を整えておかないとな……親衛隊……その内奴にも何か席を用意するのも面白そうだな……」

 

その手元には2枚の書類が握られていて、そこには少女の顔写真とその少女に対する情報が書き記されていた。

 

「この者達は力を望むか否か……どんな選択を取るか楽しみにしているぞ……」

 

手元に握られていた書類を机に置き部屋を出る……その紙にはその少女達の名前がこう書いてあった……

 

 

 

 

 

『平城学館高等部一年 獅堂真希』

 

 

『綾小路武芸学舎一年 此花寿々花』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________________________________

 

とある病院の一室にて……

 

 

「ケホッケホッ…………苦しいよぉ…………パパ……ママ……零兄……助けて……………………」

 

 

 

 

 

 

 

Dead or Alive …………

 




最後が何故か短編集というか4コマ漫画みたいになってきた!


喜怒哀楽の展開が始めと終わりとで急激に変わりすぎていてやばい……





これからはシリアス展開も書く!……ようになれる文才が欲しい……


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明日へと続く重り……

日々溜まっていく疲れ、そしてピークに達した頃に迎える土日という休息日……


溜まっているものすべてを吐き出して気分がスッキリした頃に奴がやってくる……



サ◯エでございま〜す!!!!




俺にとってのデスマーチ……それは魚介類の名前のアニメでした……


俺の生活はこの前の出撃から変わった……

 

あれから2つほど月をまたぎ、今日も俺の1日は車に揺られながら始まる。今では一台の車の助手席は俺の特等席となりつつある……途中で降ろしてもらいそこからは己の足を使って要請のあった現場まで向かう。

 

「機動隊と連携するように言われていたが……単独行動とは聞いていないぞ……ちっ!これでは殆ど連携の意味がないではないか!」

 

悪態をつきながらも要請がある場所まで走りながら別行動の機動隊員に連絡する。

 

「こちらゼロ、そちらの状況はどうなってる」

 

『こちらは現在、刀使と共に荒魂と交戦中……今は何とか持ちこたえているが徐々に押され始めている。至急応援を!!』

 

「現在そちらに向かっている。後3分、いや、1分で合流する。それまで持ちこたえろ……クソッ!どうして連日続いて荒魂が現れる……それよりも……何故俺に出動要請がくるんだ……ストームアーマーを使えばすぐに片が着くだろうに……折紙紫は機動隊にどんな指示を出しているんだ……」

 

紫様の命令が最優先事項なのは分かるが、その通りに動かなくてもいいだろ……沖田の言っていたのはこういう事か……

 

『!”#$%&’#`@”#$』

 

「全員攻撃の手を緩めるな!あと少しで増援が来る!それまで持ちこたえろ!!」

 

「「「「了解!!!」」」

 

「隊長!」

 

「どうした?」

 

「増援は何人ほどですか?」

 

「増援は1人だ……だが、心配する必要はない」

 

「どういう事ですか?増援が1人だけではこの状況は変わらないのではないですか?」

 

「そうだろうな……だが、例の人物が増援に来るという事だから心配は要らない」

 

「例の人物というと……あの、対荒魂戦闘員の事ですか?」

 

「そうだ、だからその者が来るまで何としても持ちこたえるぞ!!!」

 

「「「おおぉぉぉぉぉ!!!」」」

 

俺が現場に駆けつけた時に、機動隊員の間で何か盛り上がってるがどうしたというのだ?まだ、荒魂と交戦中だと言うのに……気が狂ったか?

 

「おい、何をそんなに盛り上がっている?」

 

「!?全員聞け!増援が……ゼロが到着したぞ!!!」

 

「何を言って……」

 

「何!?ゼロだと!?」

 

「あのゼロが……終焉がきたのか!!」

 

「これなら勝てる!勝てるぞぉぉぉぉぉ!!!」

 

「は?終焉?」

 

初めて聞いたぞそんなの!?誰だその厨二ネームを勝手につけた奴!この刀で頭髪全て切り落とすぞ!!

 

「おい、これはどう言う事だ?」

 

「はっ!失礼しました!現在荒魂と交戦するも苦戦中……刀使達の援護はしているのですが予想以上に敵が強く、このままでは負傷者が出てきます」

 

「いや、その事ではな「増援感謝致します!」……はぁ……敵はあの一体だけだな?」

 

「はい!」

 

「……これより荒魂を殲滅する。後始末は任せるぞ」

 

「了解!」

 

もうこれ以上問い詰めても答えてはくれないと感じたので、機動隊員との話を切り上げ交戦中の刀使達の元へ向かった……

 

「遊撃手、一度後退して!深追いしすぎよ!」

 

「了解!」

 

「このままではまずいわね……「おい、そこの貴様離れていろ」誰!?」

 

「答える義理はない。さっさと全員後退させろ……怪我をしても知らんぞ」

 

「いきなり何を言っているのよ!あなたこそ怪我するわよ!」

 

「心配は不要だ……タイムリミットだ、忠告はしたぞ」

 

1番周りをよく見て指示を出している刀使に忠告するも素直に聞き入れてもらえないまま、やむを得ず刀を抜く。そして、ゆっくりと歩きながら右手に鞘を、左手に刀を握りしめ荒魂の前まで近づいた。

 

「いつ見ても慣れないな……骨もないのにどうやって体勢を維持するのか教えて欲しいものだ……教えてくれればこの場で斬らないが、どうする荒魂よ……」

 

『!”#$%&’`#%』

 

「それが貴様の答えか……残念だ」

 

突如ターゲットを俺に変え突進してくる荒魂に対してその場から動かずに待つ。後ろで何か叫んでいた刀使はしばらくして駆けつけた機動隊員の1人に何か言われると途端に黙った……グッジョブ隊員!

 

荒魂の顔と思われる部分が後数メートルの位置で大きく口を開き出し、その状態で襲いかかる……が、素直にやられるはずもなく片足に力を入れて地面を蹴り荒魂よりも速い速度で懐に飛び込み刀を振るう。

 

『”#$%&’(@#%$』

 

「休んでる暇はないぞ……」

 

胴体を切り刻み半身が無くなるも悲鳴じみた叫びを上げる荒魂に間髪いれずに、次は手足みたいな部位を切り落とし、体勢を保てなくなり重力に従って倒れてくる。荒魂の顔部分に移動し、倒れてくる荒魂とは逆方向に刀で斬り上げて顔を斜め半分に断つ。丁度地面に落ちると同時に荒魂の顔が斜めにスライドしながら分かれた。刀についた血を払うように振った後、刀の持ち手をくるりと回して逆手に持ってゆっくりと鞘に収めた。刀を収めた頃には荒魂の体は何やら泥のようなものに変わり始める。

 

「つまらないものを斬ってしまった……」

 

現場に到着してまだ数十分も掛からないうちに対象を殲滅し、いつものように本部へ連絡して帰還する許可を得たので帰る前に一度声をかけて置くために現場の者と接触する。

 

「任務は完了したのでこれより帰還する……先程言った通り、後始末は任せるぞ」

 

「了解!

 

一声かけ後始末を全て任せた後、特に急ぐ必要もないので徒歩で帰った。

 

 

「あの、今の人は一体?」

 

「今の人は我々機動隊と連携して、荒魂の対処をしている紫様直属の部下だ……対荒魂戦闘員ゼロだ」

 

「ゼロですって!?あの終焉の!?」

 

「知っているのか?」

 

「はい!今や刀使達の間で有名ですよ!幾多もの刀使達の窮地に現れて瞬く間に荒魂を倒す……私達刀使の間では終焉のゼロと呼んでいます」

 

「そうだったのか。では、君達刀使の噂がこちらにも流れてきていたようだね」

 

「そうなのですか?」

 

「ああ、隊員の1人があの人の事を終焉と呼んでいたから間違いないだろう……それでは、我々はこれよりノロの回収作業に移るので失礼する」

 

「ご苦労様です!……それにしても、流石は終焉と呼ばれるだけはありますね……私達が苦戦していた相手をたった1人で倒してしまうなんて……それに、あの剣筋も見事でした。帰ったら皆さんに自慢しましょう!」

 

彼が知らない間にまた1つ噂に尾ひれがつく事になろうとは知る由もなく時間は過ぎていく……

 

 

 

次の日、今日も車に揺られながら1日が始まる……と思っていたが、今日は特にそんな事もなく久しぶりに楽な雑務をこなしながら優雅にコーヒーを飲んで過ごしていた。

 

「やはりコーヒーは座りながら飲むものだな……」

 

「いきなりどうしたんだ?」

 

「改めてコーヒーの美味しさを実感しただけだ、気にするな」

 

「そ、そうか……」

 

先程追加で書類を持ってきた沖田にもコーヒーを差し入れ、2人以外いないこの部屋でしばし休憩をとる。しばらく余韻に浸りながらこの時間を過ごしていると、沖田から本部内の世間話を振られた。

 

「そういえばゼロ、知ってる?」

 

「知らん……」

 

「まだ何も言ってないんだけど……」

 

「ふんっ、どうせこの本部での事だろ?」

 

「その通りなんだけどさ……」

 

「ならば、殆どの時間を外で過ごしている俺には知る由もない……違うか?」

 

「それは自慢する事じゃないと思うよ?」

 

「……それで、何か話そうとしてはいなかったか?」

 

「ゼロのせいで話が逸れたんだけど……そんな事言っても意味ないよね……それはそれとして、最近本部内に紫様の親衛隊が結成されたんだよ」

 

「ほう、親衛隊が……その必要はないと思うが?」

 

「そうは言っても紫様だって体面上の都合というものがあったんじゃないかな?」

 

「やれやれ、これだから高い地位に着く者は面倒なものだな……それで、その親衛隊がどうしたんだ?」

 

 

「その親衛隊って、当初は3人だったんだけどこの前また新たに1人メンバーが加わったんだよ。しかも来年中学1年になるって話だよ」

 

「来年中学1年になるだと?紫様は何を考えている?」

 

「それは分からない……だけど、あの紫様が直に勧誘したって聞いたから理由はある筈だよ」

 

「直に勧誘だと?俺が外を駆け回っている時にか?」

 

「あー、たぶん、というかその時以外は外出してなかったからそうじゃないか?」

 

「……いいご身分だな……」

 

「あはは、そんなに怒るなよ。それよりも、親衛隊の人達について何か聞いてない?」

 

「そんなものに興味ない、こちらは定時で終わらせる事に必死だったからな」

 

「その頑張り方は間違ってると思う……せっかくだし、教えようか?」

 

「そうだな……この書類もすぐに終わって暇になる事だから少しぐらい話に付き合ってやろう」

 

「そこは素直に聞きたいでいいんじゃない?……それじゃまず誰について聞きたい?」

 

「ぬかせ!名前すら誰1人として知らん!」

 

「……そこまで大変だとは知らなかったよ……」

 

「貴様は何故俺をそんな目で見ているんだ?」

 

「いいんだよ、俺の前では無理しなくて……分かっているから……」

 

「無理などしていない」

 

「うん、そういう事にしておこうか……さて、それじゃまずは初期メンバーから教えよう」

 

「おい、勝手に話を進めるな」

 

「じゃあ、聞きたくないのか?」

 

「……好きにしろ」

 

「そうさせてもらうよ。最初の1人目は名前を聞けば……って、誰も知らないんだった……親衛隊第一席、平城学館高等部1年の獅堂真希……刀使による全国剣術大会で前回・前々回と優勝した実力者だ、現在は紫様の護衛と荒魂討伐の作戦指揮が主であまり前線に出ることは少ないけど、荒魂相手に引けをとる事はないよ」

 

「全国大会二連覇の猛者か……何故作戦指揮を執っている?前線に出れば俺がこんなに忙しくならないのではないか?」

 

「それは本人に聞いてくれ……次は親衛隊第二席、綾小路武芸学舎高等部1年の此花寿々花……彼女もまたかなりの実力者の刀使で、現在は紫様の政治活動に同行しているんだ。他にも荒魂討伐の陣頭指揮なんかもやっている」

 

「第二席と言うからには荒魂を相手するのも問題ない筈だ……その者も何故前線に出てこない」

 

「だから本人に聞いてくれ!……次の人を紹介するね、親衛隊第三席、皐月夜見……彼女については……悪いけどよく分かっていないんだ」

 

「何?知らないのか?」

 

「あぁ、あまり彼女についての話は聞かないからね。分かっているのは彼女が中等部3年である事と、紫様と一緒にいるところを良く見かける事だけかな?親衛隊に居るから実力者ではあると思うけど、どれぐらいかは分からない」

 

「そうか……だが、彼女も実力者ならば何故前線に出てこない?」

 

「だ・か・ら!本人に聞いてくれ!……んんっ!気を取り直して、最後の人を紹介する。親衛隊第四席、綾小路武芸学舎に在籍している燕結芽」

 

「ふあっ!?」

 

「え!?何?どうかした?」

 

「いや……少しむせただけだ……」

 

「そうなのか?急いで飲むとむせるんだから気をつけろよ?」

 

「あぁ、了解した……」

 

思わずコーヒーを吹き出しそうになった……俺の知ってる名前をいきなり出すな!心臓止まるかと思ったぞ!?いや、それはいい……それよりも、何故結芽ちゃんが親衛隊に居るんだ?訳がわからないぞ?

 

「……そう言えば先程、新たに1人加入したと言っていたが……もしや、それが紫様が勧誘したという者か?」

 

「察しがいいね。ゼロの言った通りだ。そして、それが第四席の燕結芽だよ」

 

「……そうか」

 

「?そういえばまだ詳しく紹介してなかったね。最後に親衛隊入りを果たした燕結芽についてだけど……実はまだ11歳なんだよ」

 

「……11歳か……他の親衛隊達とは年が離れているな」

 

「そうなんだよ、でも紫様が勧誘した程だから実力者なのは間違いない……それに、彼女には噂があるんだ」

 

「噂だと?内容は?」

 

 

「いいか、驚かないで聞いてくれよ……実は彼女、第四席ではあるけど親衛隊の中で1番強いらしいんだ」

 

「第一席よりもか?……まさかな」

 

「あくまでも噂だ。本当かどうか分からないけど、もしもそうだったとしたら紫様が勧誘した理由がそれなんじゃないか?」

 

「……一理あるな」

 

「まあ、これ以上は親衛隊に聞くしかないけどね。丁度いい時間だしそろそろ戻るよ」

 

「あぁ、いい暇つぶしになった。礼を言う」

 

「どういたしまして。それじゃ仕事頑張れよ」

 

「貴様もな」

 

「分かってるよ。それと、コーヒーご馳走さま、美味しかったよ……失礼します」

 

「……行ったか……それにしても、親衛隊か……第四席に心当たりがあるが、気のせいだ……俺の知る人物が戦闘狂でもない限りあり得ないな」

 

親衛隊の中に聞き覚えのある名前があったのはただの偶然、同じ名前の人間は世界中1人や2人いる者だと思い込み作業を再開した……

 

 

「書類はこれで最後か……やはり俺は、外より部屋にこもっていた方が気が楽になるな……」

 

仕事を終え後片付けをし、少し時間が余ったので席を立ち何気なく外を眺める。久しぶりの楽な仕事は思いの外楽しかった……そんな事を考えていると誰かが扉をノックした。

 

「……入っていいぞ」

 

「失礼します」

 

ノックをした本人が扉を開け中に入る。窓ガラスに反射した姿を見ると、沖田ではない知らない男性職員が扉の前で姿勢正しく立っている。

 

「何か用か?」

 

「紫様から伝言を頼まれてきました」

 

「そうか……内容は?」

 

「明日の午前、部屋に来るようにとの事です」

 

「明日の午前か……了解した。足を運ばせてしまってすまないな」

 

「いえ、お気になさらず。それでは失礼します」

 

「……紫様からの呼び出しか……また何か企んでいるのか?」

 

どのような意図があるかは分からないが、どうせ断れない……なので、今日は自室に戻り明日に備えて休息をとることにした。

 

 

しかし、明日に呼び出されたのは彼だけではなく他の者にも声がかかっているとは思いもしないだろう……果たして彼は正気でいられるだろうか……

 

 

 

 

 




大変長らくお待たせいたしました。次回は親衛隊を少しだけ登場させてみます。


だが、原作開始まで先は遠いんだよね……



早く原作改変して書きたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!


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Are You Ready?

……今の季節って夏だったか?春の季節だと俺の中では認識しているんだが?




気温28度は最早夏じゃねーか!!!!!




あ、暑い〜液◯窒素を〜〜!!


昨日、早めに休息をとった事もあり窓から光が差し込む時よりも早く起きてしまった。だが、体調は最高に良く体を動かしたい気分なので日が昇る前なのも気にせず部屋着のまま外に出て昔を思い出しながら久しぶりにランニングや素振りをした。汗も少しかいてきたので刀を鞘にしまい近くの銭湯によって汗を流してから本部に戻る。

 

戻ってきた頃には日も昇って自室の窓から輝かしい太陽の光が入り、部屋は明るくなっていた。部屋着を着替えいつものスーツに身を包み込み準備を整えた後、少しだけ自室で本を読んで時間まで過ごし、そろそろ頃合いに近づいて来たので本をしまい昨日言われた通り折紙紫のいる部屋まで向かった。

 

 

_____________________________________

 

 

ある一室にて重苦しい空気の中、1人の女性……折紙紫がその場にいる他の者に告げた。

 

「……真希、寿々花。今回お前たちは箱根で、荒魂を一掃する作戦を指揮しろ。この作戦は、親衛隊結成以来、これまでにないほど大規模なものになる予定だ。そのため、舞台には多くの刀使を用意した。装備や兵糧も十分なはずだ」

 

「重要な任務をお与えいただき、ありがとうございます」

 

「今回の作戦、必ず成功させてご覧に入れますわ」

 

「期待しているぞ」

 

彼女達に指揮を任せ話も終わったのと同時にノックの音が聞こえた。

 

「……来たか。真希、寿々花。作戦前にお前達に紹介しておく者がいる。あと少しだけ付き合ってもらう」

 

「分かりました」

 

「分かりましたわ」

 

「……入れ」

 

「失礼する」

 

一言告げた後。扉を開け部屋の中に1人のスーツ姿に仮面をつけた怪しい人物が入ってきた。

 

「先約がいたか……出直した方がいいか?」

 

「いや、いい。今回はお前を2人に紹介する為に呼びだした」

 

「ほう、また何か企んでいるかと思っていたぞ」

 

「貴様!紫様に失礼だぞ!」

 

「真希。これが奴とのいつものやりとりだ、気にするな」

 

「ですが!」

 

「いいと言っている」

 

「くっ……分かりました。紫様がそう仰るのであれば……」

 

「……そろそろ話を進めないか?生憎、俺にもやる事がある」

 

「ふっ、何を言っている?今日は雑務以外特にやる事もないだろ」

 

「それを言われると胸が痛むな」

 

「これしきの事でお前が傷つくとは思えないな」

 

「……いいから話を進めろ」

 

「貴様!無礼にも程があるぞ!」

 

「ええ、そうですわね。少し、紫様に失礼ではなくて?」

 

「真希、寿々花」

 

「……失礼しました」

 

「……失礼致しました」

 

「それでは本題に入ろう。見てわかると思うが、ここにいる彼女達が親衛隊の第一席と第二席だ。2人とも自己紹介をしておけ」

 

「はい。折紙紫親衛隊第一席、獅堂真希……よろしくお願いします」

 

「同じく親衛隊第二席、此花寿々花。よろしくお願い致します」

 

「この2人が例の親衛隊か……第三席と第四席はどうした?」

 

「今回はここにいる2人に作戦を任せるついでにお前の事を紹介しておこうとしただけだから、他の2人は呼んでいない」

 

「俺の紹介はおまけ程度とはな……ふっ、まあいい。改めて自己紹介させてもらう、ここの本部で働く職員のゼロだ……以上だ」

 

「相変わらず自己紹介が簡素だな」

 

「放っておけ。あまり自己紹介は得意ではない」

 

「ゼロ……だと……!?」

 

おい、そこの一席!何……だと……!?みたいに言うな!バカにしているのか?ああん?

 

「何だ貴様、俺の事を知っているのか?」

 

「はい。親衛隊に入隊する前に学校でゼロ……様の噂を耳にした事があったので……」

 

「私もゼロ様の噂は聞いた事がありますわ」

 

「そうか……それについては聞かないでおく。それよりも第一席と第二席、俺を様付けで呼ぶな。ゼロでいい……それと敬語は不要だ」

 

「よろしいのですか?」

 

「敬語を使われるのは好かん……タメで話せ、その方が楽だ」

 

「分かりました……では、遠慮なくそうさせてもらう」

 

「そうですわね。本人から許可を頂いのですからそのようにさせてもらいますわ」

 

「ああ、第一席と第二席は理解が早くて助かるぞ」

 

「ゼロ、僕の事は名前で呼び捨てにしてくれて構わない」

 

「私も名前で呼び捨てにしてくれて構いませんわよ」

 

無茶振りキタコレ!そんな事すんなりできるのはDQNだけだ!……だが、ここで遠慮すれば舐めプされてしまう……腹を括るしかない!

 

「……分かった。お言葉に甘えよう……悪いが用が済んだなら俺は戻るぞ」

 

「そう焦るな。実はお前にもう一つ言い忘れた事がある」

 

「何?……また面倒な事ではないだろうな?」

 

「さあどうだろうな?……そういえば、お前にはちゃんとした席を用意していなかったな」

 

「……まさか、紫様!」

 

「ご明察通りだ……ゼロ、お前にはこれから親衛隊のサポート要員として働いてもらう。さしずめ、第0席とでも読んでおこうか」

 

「何……だと……!?それでは今までの業務はどうするつもりだ……」

 

「それについては心配はいらない。通常、お前には今まで通り過ごしてもらい、有事の際に親衛隊と共に行動してもらう予定だ。その為のサポート要員というわけだ」

 

「くっ!それならば確かに可能だが……因みに拒否権はあるのか?」

 

「別に断ってもらっても構わない……だが、その場合はまた前のように外に出る機会が増えるかもしれないがな」

 

「……いいだろう。紫様の命令に従おう」

 

「賢明な判断だ。さて、そう言う事でこれから親衛隊と共に行動する事があるかもしれないが、2人とも何か意見があるなら聞いておこう」

 

「僕は紫様の判断にお任せします」

 

「私もですわ。それに、あの噂が本当ならば私としても心強いですから」

 

「なるほど、それでは今後は奴と共に任務を遂行しろ。言っておくがあいつは気まぐれに行動する曲者だ。くれぐれもどんな事でも協力してくれるとは考えるな」

 

「分かりました」

 

「分かりましたわ」

 

「……おい、人をひねくれ者みたいに言うな。俺は物事を自分で決めて行動しているだけだ」

 

「ああ、そういう事にしておこうか」

 

「……もういい、俺は戻るぞ」

 

「そうしてくれて構わない。ご苦労だったな」

 

「気にするな……そこの2人共、あくまでも俺はサポート要員だという事を忘れるな。できない事は断るが無理でなければ協力する……これからよろしく頼む、真希、寿々花」

 

「ああ、僕もあまり無理をさせないように努力するよ」

 

「そうですわね。私も極力負担を減らすように努力致しますわ」

 

「そうしてくれ……だが、無理だけはするな。無理をするくらいなら俺が手を貸してやる……それでは失礼する」

 

用が済み紫様から退室の許可を得られたので、名前呼びをした恥ずかしさから逃げるように部屋を出て行った。立て続けに残った親衛隊の2人も部屋から退室して扉を閉めた後、廊下の窓から外を眺め先程の人物について語る。

 

「あれが噂のゼロか……」

 

「私、初めて見ましたが噂とは少し違いましたわね。もう少し怖い人だと思っていましたわ」

 

「案外気さくな人だったね……」

 

「そうですわね……真希さん、いろいろ考える事もありますが今は作戦に集中しますわよ」

 

「そうだね。紫様からお任せされたこの作戦、絶対に成功させてみせるさ。行くぞ寿々花、まずは作戦本部で策を練るぞ」

 

「分かりましたわ」

 

2人は気を引きしめ直し今回の作戦計画の為、作戦本部へと向かっていった。

 

 

________________________________________

 

俺が紫様の用事を済ませた後、昨日と同じく書類作業をする部屋に行き、椅子に座ると同時に来訪してきたいつもの職員から書類を手渡され、職員が退室してから作業に没頭した。

 

作業に没頭しすぎて昼食を摂り損ねたままだったので、作業も終盤に差し掛かった頃になって腹が鳴った。

 

「……もうこんな時間になっていたのか……少しぐらい休憩しても問題ないだろ」

 

作業を一度中断しそこまで食欲が湧かなかったので一先ず机に突っ伏して一眠りしようとした……が、突然の激しいノック音によって眠気が覚め慌てて作業をしている素振りに戻る。いつもならここで、入室許可を出してから入ってくるのだが、今回は許可も待たずに扉を開けて部屋の中に1人の職員が入ってきた。

 

「作業中すみません、緊急の要件だったので許可もなく入室事をお許しください」

 

「許す。それで、緊急の要件とは?」

 

「はい、紫様からゼロを今すぐ連れてくるようにと……」

 

「そうか……了解した。ではすぐに向かおうか」

 

「ありがとうございます」

 

「いやなに、丁度休憩をしようとしていたところだったのでな。気にする必要はない……それでは行くか」

 

「はい!」

 

内容も分からないがこの職員の慌てようから冗談ではない事だけは確かだと判断し、すぐに壁に立て掛けてある刀を持って部屋を出て諸君の案内の元紫様がいる場所にに向かった。

 

 

とある一室、今朝も来た部屋の扉を開けて中に入ると紫様が席に座って待っていた。

 

「紫様、ゼロをお連れしました」

 

「ああ、ご苦労だった。持ち場に戻っていいぞ」

 

「はい、失礼します」

 

一緒に来た職員は紫様に俺を連れて来た事を報告した後、俺を置いてすぐに自分の持ち場に戻っていった。……薄情な奴だな、俺も早く戻りたい……

 

「緊急との事だが、何かあったのか?」

 

「ああ、単刀直入に言う……今すぐ警備隊と共に箱根まで向かえ」

 

「箱根だと?宝探しでもしているのか?」

 

「いいや、荒魂を一掃の作戦中だ。だが、少し問題が生じてな……2名の刀使が部隊からはぐれた」

 

「部隊からはぐれたならすぐに合流するよう連絡すればいいではないか」

 

「それはできない。現在その刀使達は荒魂の相手をするだけで精一杯だ。他の刀使達もその2人が指揮を執っていたので、指揮が不在になり自分の事で精一杯の状況だ」

 

「なるほどな……それほど荒魂が手強いのか?」

 

「いや、荒魂自体そうでもないが数が多すぎる」

 

「……今から向かったとして、その2人を無事に救出できる保証はしないぞ」

 

「ああ、それでいい……引き受けてくれるな」

 

「ふん、好きにしろ……警備隊の準備はどうなっている?」

 

「既に整っている。ではこれより警備隊と共に箱根へ向かえ。あとの指示は他の者に私が直接指示を出すのでそれに従ってくれ」

 

「了解した……では失礼する」

 

「健闘を祈る」

 

紫様からの労いの言葉を聞いてから扉を閉め、警備隊の元に駆け足で向かった。

 

警備隊の待つ場所を途中歩いていた職員に聞いて急いで向かうと、一つのヘリだけが俺の事を待っていた。急いで来たのにも関わらず大遅刻をしてしまった事に焦っていると、ヘリの操縦士に早く乗るように伝えられたので今はとにかく考えないようにして中に乗り込みドア付近にに腰を落とす。しばらくして、ヘリが上昇を始め段々と地上との距離が開いていき旋回しながら徐々に目的地に向かって加速してきた所でドアを閉める。

 

「ふぅ、まさかヘリで移動する事になるとはな……それにしても、警備隊は何処にいる?」

 

中から外を見回してみるが、見える範囲で他のヘリの姿が見当たらない。疑問に思ったのでヘリの操縦士に訪ねてみたところ、どうやらとっくの前に他の警備隊などは既に出発していてこのヘリは急に用意させたものらしい。俺が遅れた訳ではない事が分かったので、この後の移動中ずっと気負いなく睡眠をとった。

 

目的地付近に到着すると、地上には刀使と思われる少女2人と警備隊が共に進行している最中だった。すぐに俺も飛び降りても問題ない高さになってからドアを開けてダイビングし、少しでも衝撃を和らげるため猫のように足から着地して膝を曲げ上体を低くし衝撃を全身に分散する。上手く衝撃が逃げた後、遅れを取り戻すため急いで警備隊のいる場所まで駆けた。

 

 

やっと追いついたと思っていたのもほんの数秒の事で、今度は突然先程よりも進行速度が早くなった。仕方なく警備隊の後ろからその早さに合わせてすすんでいると前方の方から何やら声が聞こえてくる。

 

「あははははっ!荒魂を倒しまくるぞー!とりゃー!」

 

あれっ?何だか不思議だ、この声を聞いていると昔を思い出す。

 

「……むむっ!この荒魂、意外と強い!でも、結芽の相手じゃないね!」

 

ゆめ?……何処かで聞いたようななまえだが……そうか、お団子ヘアーの女の子の名前と一緒だったな……

 

「わっ!いきなり後ろから襲ってきた!エッチな荒魂!」

 

何だとっ!!!!駆逐してやる!!生まれた事が罪だと感じるまで斬って斬って斬り刻んでやる……気がつかないうちに足が早くなっていて、気がつくと警備隊の先頭まで移動していた。

 

「うわぁ!……って、ゼロかよ。驚かせないでくれ」

 

「何のことだ?」

 

「今後ろから恐ろしい程の殺気を感じたんだけど……」

 

「すまん、少し冷静さを欠いていたようだ」

 

「謝らないでくれ。あれ程の数の荒魂を前にしたらそうなるさ……現に俺も少し冷静ではないからな」

 

「そうか……ところで、徐々に前方の2人と距離が開いてきていないか?」

 

「ああ、2人のスピードが速すぎてな……俺もそろそろ辛くなってきた。ゼロは大丈夫なの?」

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

「……今のは聞かなかった事にしよう」

 

「何のことだ?」

 

「いや、何でもない……それよりも、ゼロは先に行ってくれ」

 

「いいのか?お前達はどうする?」

 

「俺達じゃ追いつけないからこのまま無理ではないぐらいの速さで進むから安心して先に行ってくれ」

 

「そうか……分かった、何かあれば大声をだして助けを呼べ」

 

「ああ、そうさせてもらう」

 

「では、また後で会おう」

 

「ああ、ゼロ……彼女達の事は任せた」

 

「気が向いたらな……またな、加藤……」

 

「俺は遠山……また居なくなってる……はぁ、いつになったら覚えてくれるんだよ……」

 

加藤と呼んだ警備隊員と別れ、前方にいる刀使2名を見失わないように走る。

 

 

あれからかなり走っていたが、特に問題はなく進んだ……しかし、警備隊はやはり追いついてこれなかったようで、今は付近に見当たらない。俺自身も予想外で、まさかここに来るまでの道中に数体しか荒魂の相手をしなくてもいいとは思っていなかった……これならば、荒魂討伐をやってもいいと考えてしまう。そして、スムーズに進めるようにした当の本人達が前方で何やら話している。

 

「ところでさ、結芽のスピードに付いてこれるなんて、おねーさんもなかなかやるね!おねーさんって下の名前、なんていうんだっけ?」

 

「……前に自己紹介したのですが覚えてもらってなかったんですね……夜見です。私は皐月夜見と言います。」

 

「うん、覚えたよ夜見おねーさん!」

 

「今度は忘れないでくださいね」

 

「はーい!それにしても……そっちのおにーさん?もなかなかやるね!」

 

「おにーさん?」

 

「……気づいていたのか」

 

「もちろん!だっておにーさん?はずっと結芽達から離れなかったからね!」

 

「いや待て、その発言は誤解を招く」

 

「どうして?」

 

「それは……はぁ。もういい、今のは忘れてくれ」

 

「う〜ん、よく分かんないけどおにーさん?がそう言うなら分かったよ!……それでおにーさん?の名前は何て言うの?」

 

「……ゼロだ」

 

「ゼロ……あなただったのですか」

 

「夜見おねーさん知ってるの?」

 

「はい。今回の作戦において協力者を用意したから行動を共にするように、紫様から伝えられています」

 

「なるほど。ならば貴様が紫様の言っていた人物か……改めて紹介する。今回行動を共にする事になったゼロだ。無理な事で無ければ指示に従うので遠慮なく言ってくれて構わない」

 

「分かりました。私は親衛隊第三席の皐月夜見です。今回はよろしくお願いします」

 

「じゃあ次は結芽の番ね!親衛隊第四席、燕結芽。四席って言っても親衛隊の中で1番強いけどね!」

 

「……本人か」

 

間近で見て分かったが……本人ですねこれ。見間違いようない、ここにいる第四席は何処からどう見ても俺の知る人物だ。しばらく会っていなかったから身長も髪も伸びて最後に会った頃とは見た目が変わっていたが、少しばかり面影がある。それにこの人懐っこい性格は以前のままだったのですぐに分かった……どうしよう、ここで正体を明かしておいた方が良いか?……いや、駄目だな。そんな事すれば危険に晒されるかもしれない、仕方ないがここは我慢しよう……ごめんよ、結芽ちゃん。

 

「あの、どうかしましたか?」

 

「……いや、何でもない。それよりもここから先はこの3人だけで行動するのだな?」

 

「はい。これ以上時間をかけるのは危険ですので」

 

「そうか……ならばここからは三席の指示に従って行動しよう」

 

「私のですか?」

 

「それが1番効率的だ……生憎指示を出すような経験が無いのでな。任せたぞ三席」

 

「……分かりました。それと、私の事は夜見とお呼びください」

 

「分かった。俺の事はゼロと呼んでくれて構わない。それと、俺に対してはさん付けも敬語も不要だ」

 

「それではゼロと呼ばせていただきます」

 

「ああ、それでいい」

 

「むー!2人して結芽を仲間外れにしないでよー!」

 

「別に四席を仲間外れにした覚えはないのだが……」

 

「もう!結芽でいいよ、ゼロおにーさん!」

 

「あ、あぁ……結芽、夜見にも言ったが敬語は不要だ」

 

「はーい!分かったよ、ゼロおにーさん!」

 

「……おにーさんは不要だ。ゼロでいい」

 

「えー!ゼロおにーさんじゃ駄目なのー?」

 

「いや、別に駄目ではないが呼びづらいだろ?」

 

「全然そんな事ないよー!」

 

「そうか……なら好きに呼んでくれ」

 

「うん!よろしくね、ゼロおにーさん!」

 

「……よろしく、結芽」

 

俺の過ごしてきた古い記憶から蘇ってくる。お前には諦めるしか選択肢がないと……そんな言葉が頭の中で響いて、それに対して妙に納得してしまった俺は、これ以上時間を無駄にしない為にも呼び方について考えるのを放棄した。

 

「お二人共、そろそろ目的地まで向かいたいのですがよろしいですか?」

 

「すまん、待たせたな」

 

「結芽はいつでも行けるよー!」

 

「そうですか、それではこれより2人の救出に向かいます。先程と同じく結芽さんが道を切り開いて先導して下さい」

 

「りょーかーい!!それじゃ行くぞー!」

 

「……俺達はどうするんだ?」

 

「結芽さんの後に続いて相手をしていない荒魂を倒しながら進みましょう」

 

「了解した……それでは先に行ってしまった結芽を追いかけるか」

 

「ええ、そうですね」

 

「では行くぞ」

 

「はい」

 

夜見からの指示を受けた後、先に飛び出して行ってしまった結芽の後を追って救助を待つ2人の元まで、道中の荒魂を殲滅しながら3人で進んだ。

 

 

_________________________________________

 

真希と寿々花が本体から分断されて、約半日後。

 

「はぁ……はぁ……、……クソッ……いくら斬っても……終わらない……」

 

「手足が鉛のよう……御刀を持つ手に……力が入らなくなってきましたわ……」

 

「スマホは充電切れか……はぁ……はぁ……水も……食料も……」

 

「わたくしたち……、このままでは……どうせなら……なるべく……道連れに……他の場所で戦っている刀使たちを……、少しでも……楽に……!」

 

「寿々花……何を考えている……?」

 

「……あなたとおそらく同じことですわ……!」

 

「そうか…………寿々花、これだけ言っておきたい。さっきは助けてもらったのに……暴言を吐いてすまなかった。」

 

「っ!……いえ、私の方こそ、大人げなかったですわ…………さぁ、最後の力を振り絞って、一花咲かせましょう!」

 

「ょし…………それじゃあ、行くぞっ!!うらああああああああっ!!」

 

「いやあああああああああっ!!」

 

「2人とも!助けに来たよ!」

 

「……へっ?」

 

まさか疲労のせいで幻覚が……!?

 

「お待たせいたしました。もう大丈夫です。すぐ後ろに警備隊もいます」

 

「ヒーローは遅れて登場するものだからね!結芽は女の子だけど!」

 

「……夜見と結芽!?どうして君たちがここに……!?」

 

「紫様のご命令で、お2人を救出に参りました」

 

「そういうこと!……それにしても、2人ともずいぶんボロボロだね!荒魂との戦いでそんなになるなんて、おねーさんたちもまだまだだね〜」

 

「う……、うるさいぞ……!助けに来たのか、憎まれ口を叩きに来たのかどっちなんだ……!」

 

「あはは!それだけ言い返す余裕があるなら大丈夫そうだね!それじゃ、後の事は結芽たちにまかせて!」

 

「でもどうやってここまで来ましたの?」

 

「それは私の方から説明致します」

 

夜見はここまでの経緯を一言一句違えずに真希と寿々花に告げた……

 

 

「……そんな感じで紫様に支持されながらここまで進んできて、おねーさんたちと合流できたの!」

 

「紫様の指揮は常に的確でした」

 

「……そう、だったのか……」

 

「みなさん……ありがとう……ございました……」

 

「あれれ?2人とも、だいぶお疲れ?」

 

「お2人は半日近くも戦い続けていたんです。疲れているというレベルではないでしょう」

 

「そう……だね。実は結構前から、手足の感覚がほとんどないんだ」

 

「半死半生とはこういうことかもしれませんわね」

 

「そっか!じゃあさ、結芽が荒魂を倒すところをそこで休みながら見ててっ!」

 

結芽は疲れて動けない2人にそう告げてから荒魂の元へ向かい相手をした。

 

「それにしても、話ではもう1人と一緒だと聞いたんだけど……まさか途中で……」

 

「いえ、獅堂さんの心配している事は起きていません。今はお2人の様子を確認する時間稼ぎをしてくれています」

 

「そうなのか……よかった……」

 

「それで、その方は何処にいるのかしら?」

 

「あそこです」

 

夜見が指差す方向を見てみると、結芽から少し離れた場所でスーツ姿に仮面をつけた人物が荒魂を次々と斬り倒していた。

 

「あれは……!?」

 

「ゼロ……!?」

 

「ご存知でしたか」

 

「ああ、今朝紫様から紹介されたんだ」

 

「でも、どうしてあの方がここにいるのですか?」

 

「道中聞いた話によると、紫様から命令を受けてお2人の救出に来たそうです」

 

「……そうなのか……」

 

「はい。それでは私は燕さんの元へ向かいます」

 

夜見も2人に一声かけてから結芽の元へ向かった。

 

「あははははっ!とりゃー!」

 

「機嫌が良いな……結芽、2人は無事だったのか?」

 

「うん!2人とも生きてるよー!」

 

「そうか……あとは帰るだけだな」

 

「えー!せっかくなんだからもう少し遊びたーい!」

 

「それは荒魂との戦いの事を言っているのか?」

 

「そうだよー!まあ、結芽の相手じゃないけどね!おっとと!」

 

「……燕さん。私たちの任務はお2人の救出です。ここで荒魂を倒す必要はありません」

 

「夜見か……良いのではないか?この先荒魂が出てくる可能性もある……それならここで少しでも数を減らしておいた方が楽になるぞ」

 

「そうだよ!それに結芽はもっと遊びたいの!固いこと言わないでよ、夜見おねーさん!」

 

「……わかりました。離脱の最中に背後から攻撃を受けても面倒ですし、まずは付近の荒魂を殲滅しましょう」

 

「わーい!そうこなくっちゃ!よーし、暴れるぞー!」

 

「私はただ、壊すだけ……はぁっ!」

 

「……2人とも無理だけはするなよ……ふっ!」

 

「……さすが、夜見と結芽だ」

 

「ええ……助かりましたわ……」

 

「そうだね……それにしても、ゼロの噂はどうやら本当みたいだね」

 

「そうですわね……流石、終焉の異名を持つお方、まるで剣筋が見えませんわ」

 

「ああ、本当にあの3人には感謝してるよ」

 

「「…………」」

 

「……はは」

 

「……ふふふっ」

 

2人の無事を確認した後、付近の荒魂を殲滅して荒魂の反応がない事を確認してから警備隊の元まで警戒しながら1人に肩を貸し、もう1人は抱えながら歩く。

 

「すまない夜見、歩きづらくはないか?」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「そうか、もう少しだけ肩を貸してくれ」

 

「分かりました」

 

「安心しておねーさんたち、荒魂が現れても結芽がすぐに倒しちゃうから!」

 

「ああ、頼りにしてるよ結芽」

 

「任せて!……それより、寿々花おねーさん大丈夫?何だか顔が赤いような気がするけど」

 

「べべ別に、大丈夫ですからご心配入りませんわよ!?」

 

「寿々花、体調が優れないならすぐに言え……無理に我慢しなくていい」

 

「大丈夫ですのでお気になさらないで下さい!!」

 

「お、おお……それならいいが、何かあればすぐに伝えろ」

 

「わ、分かりましたわ……どうして私がこんな格好をしているんですの……」

 

「仕方ないよ寿々花、君が一歩も歩けないんだから。文句は言えないだろ」

 

「はい。この場合、力のあるゼロに運んでもらうのが1番効率的です」

 

「結芽が寿々花おねーさんを運べたら良かったんだけどねー!まあ、遊べるから結芽はこっちの方がいいけどね!」

 

「もうしばらくの辛抱だ……それまで耐えてくれ」

 

「……はい」

 

とりあえず今は耐えてもらいながら警備隊のいる場所まで戻った。その後、2人は応急処置を受けて歩ける程度に回復したので後の事は警備隊に任せる。

 

「さて、それでは帰るとするか」

 

「ゼロ」

 

「……夜見か。どうした、何か用か?」

 

「はい。紫様からの伝令をお伝えしに参りました」

 

「……それで内容は」

 

「現在行われている作戦に参加し、荒魂を一掃するようにと」

 

「……最初からこれが狙いだったのか……チッ!やはりこうなったか……夜見、これから任務を遂行する。あの2人を連れてお前達は先に戻れ」

 

「分かりました。では、お気をつけて」

 

「ああ、またな……」

 

仕方なく命令に従い今も尚、荒魂と戦っている刀使達の元へ行く。

 

それからは刀使達と共に荒魂全てを殲滅し、任務が完了したので来た時と同じくヘリに乗って今や第三の我が家となった本部に帰投した。……俺を除く親衛隊のメンバーはあの後、温泉にはいっていたと聞いたのは次の日の事だった……

 

 

 

 

その日からよく親衛隊と行動を共にする事も増え、本部でも比較的話すようになり親睦が深まったと思う今日この頃……途中、モクサ?とか呼ばれる造反分子の調査の為研究所に赴き、過労のため倒れそうになる寸前にそこの爺さんに近場の椅子を借りて仮眠をとる事があったが、それはまた別の機会に……そんなこんな日々を過ごす事もあったが無事に今日を迎える事が出来た。

 

季節も春になり桜が散り、新たな芽から緑の葉が顔を出している。そして、天気も絶好の晴れ日和となり、年に1回行われる一大行事が開催した。その名も……

 

「全国剣術大会……獅堂真希が二連覇を果たした大会だったな。まあそれは俺には関係ない……今日は刀使だけだから男の俺は非番……うむ、コーヒーが美味い!」

 

一大行事が開催されているのにも関わらず、1人まったりとコーヒーを啜っていた。

 

 

この日を境に激務になるのを彼は知らない……

 

 

今から約半日後、物語は動き出す……

 

 

 

 

 

It’s a show time ……!!

 

 

 

 

 

 

 

 




かなり省いた部分も変わっている部分もあるけど、気にするな!


やっと次から原作突入だぜ!オラ、ワクワクすっぞ!!

少しだけ番外編もやろうかなと思ってるけど、果たして上手く書けるだろうか?

研究所で倒れそうになったのを番外編にするつもりですが完成はまだまだ先になります……


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READY GO!!!

時は夕刻……ではないが夕方以降は気力が湧いてくる。


今の俺ならいける!さあやるぞ!


エンビエントサウンドモード!!!オン!!!!!

しまった!?これではタッチセンサーが誤認識して再生される!!


その後、俺の耳は耳鳴りがしばらく止まなかった……


本日は晴天なり……その日のコーヒーはいつもより2倍マシぐらいに美味しくついつい飲みすぎてしまった。午後の休憩が終わり作業を再開して少し経つと、飲み過ぎたコーヒーのせいでトイレに行きたくなったので1度作業を中断して席を立つ。

 

 

「1度は本場のコーヒーを、採れたての状態から挽いて飲みたいものだな……それにしてもやけに騒々しいが……俺には関係ない事だ。紫様からの呼び出しが無いならそれほど大したことはないだろう」

 

廊下を歩いている最中に聞こえる声がいつもより大きい事も気にせずにトイレに向かい、用を済ませた後部屋へと戻る……すると、中には沖田がコーヒーを飲みながら待っていた。

 

「……何をしている」

 

「やあ、ゼロ。今はコーヒーを飲みながら休憩していたんだ」

 

「別にコーヒーを飲んでいるのは構わないが、何故ここで休憩をとるんだ?」

 

「だって、ここにはゼロしかいないから気を使わなくていいからね」

 

「……貴様の中で俺はどうなっている」

 

「ぼっち……嘘嘘!冗談だから刀を置いて!?」

 

「ふん、命拾いしたな」

 

「冗談一つで斬ろうとするなんて予想してなかったよ……さて、冗談はこれぐらいにしておいて……ゼロ、紫様からの伝令だ。」

 

「何?……今日は大会で不在ではなかったのか?」

 

「予定ではそうだね……だけど、その大会の決勝戦で問題が起きたんだよ」

 

「……今日は楽出来ると思っていたんだがな……」

 

「ドンマイ……」

 

「まあいい、それで伝令の内容は何だ」

 

「ああ、決勝戦で紫様に御刀を向けた人物とその共犯者の2名の捜索の為、親衛隊と共に行動するように……だってさ。」

 

「ほう、あの紫様に御刀を向けるとはなかなか度胸のある奴だな。興味深い」

 

「確かに度胸あるよね。そんな事出来るのはここでは親衛隊の第四席の人とゼロぐらいだもんね」

 

「……否定はしないが、向けた事はないからな」

 

「分かってるよ。それじゃ、そろそろ戻らないと文句を言われるから失礼するよ」

 

「そうか……貴様は楽そうだな……」

 

「そんな事はない、これから忙しくなるんだよ……ゼロ程じゃないけどね……またな、ゼロ。頑張ってくれ」

 

沖田が退室した後、自分以外いないのを確認してから大きく溜息を吐く。

 

「はぁぁ……最近人使いが荒いな。これなら何処かにあるもう一振りの刀を探していた方がまだマシだ……とにかく今は、親衛隊と合流して話を聞いてから考えようか」

 

念のためいつもの準備を整えて、運が良ければもう捕まっているかもしれないと少しだけ期待しながら部屋を出た。

 

 

 

廊下を歩いていると、前方に目標の人物の1人を見つけたので声を掛ける。

 

「夜見」

 

「ゼロ、丁度良かったです。あなたを探していました」

 

「俺もだ……話はある程度聞いているが、本当なのか?」

 

「はい。紫様に御刀を向けた刀使2名は現在捜索中です」

 

「そこで俺は親衛隊と共にその2人を探せばいいんだな?」

 

「そうです。ご協力お願いします」

 

「了解した。それで……具体的に何をすればいいのだ?」

 

「今は情報がありませんので情報収集をお願いします」

 

「それは構わないが、俺のやり方でやらせてもらうが問題ないな?」

 

「はい。それではよろしくお願いします」

 

「ああ……夜見、何かあれば力を貸すから遠慮はするなよ」

 

「必要な時はそうさせてもらいます」

 

「そうしてくれ……それではまたな」

 

夜見に無理をしないように遠回しで言ったが、果たして伝わっているのかどうか……とりあえずやるべき事は把握したので、夜見と別れた後、俺は俺のやり方で独自に情報収集を始めた。

 

 

「……しばらくの間情報収集をしてはみたものの、そう簡単に見つかるはずもないか……それにしても、中学生とは知らなかった……中学生の刀使が身近に1人いるが、まだTPOをわきまえている……はず。それでも公の場で御刀は向けない……何か理由があるのか?」

 

寝る前に1人部屋で考えてみたが情報が少な過ぎて御刀を向けた理由が分からなくなる。

 

「もしかして、折紙紫の正体を知っているのか?……いや、まさかな……今日は寝るか」

 

眠気もだんだんと強くなり考えるのもだるくなってきたので寝床についた。

 

 

 

 

 

翌日、あまり気持ちよくもない朝になり眼を覚ます。今日の天気は曇りで気分が良くないのにも納得した。

 

「今日の天気は嫌いではないのだけどな……情報収集も手詰まりな事だ。今日は作戦本部へ足を運ぶか」

 

作戦本部に情報を共有してもらう為、身だしなみを整えてから部屋を出て行く。

 

 

無駄に長い廊下を歩いていると、前方に見た事がある人物が見えた。

 

「な!?羽島学長……何故ここにいる?それに、結芽も部屋から出ているとは……今日は雨でも降りそうだな」

 

今の俺は素顔を仮面で隠しているが一応挨拶をしておこうと思い近づいていくと、いきなり結芽が抜刀し、羽島学長の隣にいる生徒の首元で寸止めした。

 

「はぁ、流石にこれは度が過ぎている……」

 

結芽の行動に呆れながら気づかれないように一瞬で背後に移動する。

 

「成敗……」

 

適当に一声入れてから結芽の頭に少し強くチョップをかます。

 

「いったーい!いきなり何するの!」

 

「おはよう結芽」

 

「ゼロおにーさん!?どうしてここに!?」

 

「今から作戦本部に行こうと思ってな……それで、貴様は何をしていたんだ?」

 

「こ、これは……その……」

 

「はぁ……御刀を抜くのは構わないがTPOをわきまえろ」

 

「うぅ、ごめんなさい……」

 

「次からは気をつけろ……後でスイーツを持っていくから今は部屋に戻れ」

 

「本当!やったー!それじゃ私、部屋で待ってるよ!」

 

「あ、ああ……」

 

「それじゃ、またね!」

 

本当は相手側に謝罪して欲しかったが……返事を聞いた後すぐに部屋へ歩いて行ってしまった。どうして親衛隊はこうも心配事ばかり増やしていくんだ……

 

「はぁぁ……美濃関の学長と美濃関の生徒であっているな?」

 

「は、はい!」

 

「えぇそうよ。あなたは?」

 

「ここで働いている職員のゼロだ」

 

「ゼロ!?」

 

「まさか!?あなたがあのゼロなの!?」

 

「どの事を言っているかは知らんが恐らくそうだ……それで、先程結芽……第四席が美濃関の生徒に失礼な事をしてすまなかった」

 

「いえ!私は大丈夫なので頭を上げてください!」

 

「……分かった……それと、信じられないかもしれないが第四席に悪気はないので大目に見てくれ」

 

「そうなのですか?」

 

「ああ……やはり信じられないか?」

 

「そんな事はありません!私は……ゼロ様を信じます」

 

「ふふっ、私もゼロ様を信じます」

 

「ありがとう感謝する……それと、様付けは止せ……ゼロでいい。それと敬語も不要だ」

 

「え?よろしいのですか?」

 

「構わん、その方が楽だ」

 

「……分かりました」

 

「分かりました。これからはゼロと呼ぶわね」

 

「それでいい……悪いが第四席と約束してしまったのでこれで失礼する」

 

第四席、結芽のフォローをしてから2人と別れ、作戦本部には行かず自室に備えつけてある冷蔵庫にある好物のモンブランケーキSPを取りに行き、泣く泣く持ち歩き結芽が待つ部屋にスイーツを差し入れる。さらば俺のスイーツ……

 

 

「うっ……うっ……お前のことは忘れない……マイスイーツ……」

 

 

この前休暇の1日を使って並び苦労して手に入れたモンブランケーキSPは惜しくも、俺ではなく今も尚美味しくいただいている少女の口の中に入り消えていった。これ以上見ている事が出来なくなった俺は先程少女のいる部屋からそっと退室し、作戦本部に向かう……

 

「そろそろ気を引き締め直さないとな……そういえばこの部屋には美濃関と平城の学長達が居るんだったな。今度こそきちんと挨拶しておこうか……鎌府学長だったらこんな気にもならないのだがな……」

 

ようやく気分も落ち着きドアを開くと、各校の生徒達と両学長の他に寿々花と真希、そして……鎌府学長がいた……

 

「ついてない……」

 

「あら、ゼロ。何か御用で?」

 

「あぁ、情報を共有しようと思ってな……対象の刀使だが以前から面識はなく、大会の日が初対面だと判明した。両名の所在地付近で聞き込みしたが、片方は見た事があっても片方は知らなかったみたいだから間違いない」

 

「数日前まで見かけないとは思っていたけど、そこまでしていたとは知らなかったよ」

 

「真希。己の目や耳を使って得た情報程確かなものはない……そっちは何か分かったか?」

 

「逃亡中の刀使2名の潜伏先はある程度把握した」

 

「あとは時間の問題ですわ」

 

「……そうか」

 

くそっ!これが現代!流石に俺1人の力とは違って居場所まで分かっているとは……これでは立つ瀬がないな。

 

「ゼロ!紫様の役に立つ事も出来ない恥知らずが!」

 

何の突拍子もなく1人の女性が声を荒げる。だいたい予想はつくが一応確認のためそちらを向いた。

 

「……鎌府学長もいたのか」

 

「気づいていませんでしたの?」

 

「気づかなくても支障はないだろ?」

 

「何だと貴様!おまけの分際で!」

 

うん知ってる。でもそこまで大声出して言わなくても良くない?全員こっち見るからやめてほしい……ホント、マジで……八つ当たり、ダメ、絶対!最初は何だか落ち込んでるように見えたんだけどな……

 

「まったく、何故紫様はこんな無能共に任務を与えたのかしら。こんな無能共よりも私の方が「……おい」あらぁ、事実を言われて悔しいの?」

 

「確かに俺が無能なのは認めよう」

 

「ふん!最初からそう言えば「だが貴様は無能共と言ったな?」……え、ええ。それがどうしたの」

 

「無能共と言ったのを取り消せ」

 

「はぁ?何故そんな事……」

 

「2度も言わせるな……無能共と言ったのを取り消せ」

 

2度目はほんの少し殺気を混ぜながら言って見ると鎌府学長だけでなく、この部屋にいる全員が固まっていた。師匠のように殺気だけで相手を気絶させる事は出来ないが、あと一押しすればいけそうな気がしたので、今度は腕を組んで少し冗談も入れながら話す。

 

「鎌府学長……YES or DIE ?」

 

「あ、あの……「YES or DIE ?」……YES……」

 

「ふん、くだらない事を言っている暇があるなら他の事に費やせ……たかが知れるぞ?」

 

「……はぃ」

 

先程の威勢は何処へいったのか、その後は何も言い返さず静かになった。

 

「ツッコミを待っていたんだがな……」

 

「ゼ、ゼロ。何か言いまして?」

 

「いや何でもない……寿々花は何故そんなに怯えている?他の者も先程から静かだが何かあったのか?」

 

「気づいていないんですの?」

 

「何の話だ?」

 

「……いえ、気づいていないのならそれでいいですわ」

 

「そうか……そう言えば美濃関学長には挨拶したが平城の学長にはまだだったな。知っているかは知らんがここで働いているゼロだ」

 

「……初めましてゼロ様、私五條いろは言います。お会いできて光栄です」

 

「そんなにかしこまらなくてもいい。様付けも敬語も不要だ。美濃関の学長にもそう言っている」

 

「そうなの江麻ちゃん?」

 

「え、ええ。だから私はそうしているわよ」

 

「そう。ほならそうさせてもう」

 

「そうしてくれ、その方が楽だ」

 

「ふふっ、ゼロは変わったお人やなぁ」

 

「そうか?特に自覚はないんだがな」

 

どうやら平城学長には変人認定されてしまったようだ。まさか知らぬ間に俺は何かしでかしたのか?

 

ここにいる鎌府学長以外の学長とはこの先仲良くやっていけそうだと感じた時、周りがざわつき始めた。何か起きたのか聞こうとすると、真希に先を越される。

 

「どうした」

 

「横須賀基地から問い合わせが……南伊豆の山中にたいしてS装備の射出があったか……と」

 

「S装備だと!?」

 

「何の報告も受けていませんわ」

 

「こちらが映像です」

 

奥にあるモニターに問題になっているS装備射出の画像が映し出され、この場にいる全員が注目した。

 

「確かに、射出用コンテナっぽいなぁ」

 

「撤収は延期だ!その正確な着地点を割り出せ!」

 

何と言う事でしょう、先程まで意気消沈気味だった人物が一枚の画像を見る事によって元気になったではありませんか……本当にこの人のメンタル半端ないな……

 

少しだけそのメンタルを分けてもらえないか割と真面目に考えていると、誰かが扉を開けてこの部屋に入ってきた。

 

「獅堂さん、此花さん。紫様より出動命令が出ました。ご準備願います」

 

何……だと……!?この場に俺だけ残すことは許さん!気まず過ぎるぞ!ええい、こうなれば俺もこれに乗じて退散する!

 

「夜見、俺も同行して構わないか?」

 

「はい。是非お願いします」

 

「何!?ゼロも来てくれるのか!」

 

「ああ、少し事情があってな……」

 

この場から離れるという事情がな!

 

「あら、それはありがたいですわね」

 

「ゼロに来ていただければ私も心強いです」

 

「世辞はいらん……それより、ここで時間を潰していていいのか?」

 

「そうだね。夜見、出発の準備は整っているのか?」

 

「はい。あとは私達の準備が整えば直ぐにでも向かう事が出来ます」

 

「そうか。それでは行くぞ3人共」

 

真希が率先して部屋を出たのに続き、夜見と寿々花と俺はその後を追って部屋を出た。

 

 

 

部屋を出てから一直線に現場まで向かう為の足となる車両まで、前に寿々花と真希、後ろに夜見と俺が並び歩いていた。

 

「今になって私達を出すなんて、紫様もずいぶん勿体つけましたわね」

 

「君が紫様のお側を離れるとは珍しい」

 

「索敵には私の力が役立ちます」

 

「確かにそうだな……だが、あまり無理はするなよ」

 

「心配いりません。これも紫様の為ですから」

 

「……何かあれば力は貸す。それだけは忘れるな」

 

「ありがとうございます」

 

今度は直接言ってみたが、夜見は変わらず気づいていない……こうなれば目を光らせて無理をしないようにするまでだ……

 

「結芽は居残りですの?」

 

「彼女が出ると、不必要な血が流れますので……」

 

「確かに……しかし、あり得ないですわ。折紙家管轄外のS装備が存在するなんて……」

 

「折紙家と管理局以外、あれを開発、運用できる組織などない……あるとすれば管理局内?」

 

「例の舞草、ですわね」

 

「連中が噂通り、特祭隊内部の造反分子であるならあり得なくもない」

 

「紫様は十条姫和達が彼らと接触すると踏んで泳がせていた……という事なのかもしれませんわね」

 

「十条姫和達は紫様の掌の上で踊らされていたという事か……見事な手腕だがやり方としてはあまり褒められたものではないな」

 

「ゼロは紫様のやり方に不満があるのですか?」

 

「当然だ。いくら中学生と言えど戦闘訓練を受けた刀使だ。一般のの大人であっても取り押さえるのは難しい……下手をすれば死者を出していたかもしれない。そんな奴らを野放しにするのは危険だ」

 

「確かに……ゼロの言う通りだ」

 

「そう……ですわね」

 

「今回は死傷者が出ずに済んだが、これから先も同じとは限らない……この際だから言っておく。俺は俺のやり方でやらせてもらう。人々を危険に晒すならば協力出来ない。例え紫様からの命令だとしても……だ……」

 

「ゼロ……」

 

「……安心しろ、今のは例え話だ。それに、紫様とて人々を危険に晒す真似はしないはずだ」

 

「そうだね。紫様が そんな事するはずがない」

 

「それならば今後も協力する……必要の際は遠慮なく言ってくれ」

 

「ふふっ、分かりましたわ」

 

「それでは今後ともよろしくお願いします」

 

「頼りにしてるよゼロ」

 

「任せろ……さて、着いたな」

 

長い道路を歩き続け、ようやく移動の為の車両がある場所についた。既に他の隊員達がスタンバイしていたので、二手に分かれてそれぞれの車両に乗り出発した。

 

 

車が走り始めてからというもの、目的地まであと1時間くらいあるのでひと眠りしておこうと思ったのだが……

 

「夜見は何故こっちの車両に乗っているんだ?」

 

「2人一組で行動するのが最善と判断しました。あちらには獅堂さんと此花さんが乗っていますのでこちらに乗るのが最適かと」

 

「そうかもしれないが、何も隣に座らなくてもいいのではないだろうか……」

 

「……万事の際の備えです。すぐ側に居れば連携もスムーズにいきますので」

 

「おい、それは今思いついた事だろ」

 

「……そんな事はありません」

 

「……まあいい、目的地まで時間がある。俺はひと眠りする」

 

「分かりました。到着した時に起こしますのでごゆっくりお休みください」

 

「ああ、頼んだぞ……」

 

起こしてもらえるならば安心して眠れると思い、ゆっくりと目を瞑り座ったままの状態で少し首を傾け楽な姿勢になってから眠ろうとする……

 

「…………」

 

「…………」

 

どういうわけか眠気が一向に来ない……それもそのはず、何せ先程から隣から視線を感じてゆっくりも出来ないのだから……

 

「……はぁ、何か用か?」

 

「!?」

 

「先程からこっちを見ていただろ」

 

「気づいていましたか……」

 

「当前だ。それで、何か用でもあったのか?」

 

「一つだけお聞きしたい事が……」

 

「聞きたい事だと?何が聞きたい」

 

「ゼロは寝る時も仮面をつけたままなのですか?」

 

「なるほど、確かに仮面をしたまま寝れば気にはなるか……基本的に仮面は自室以外では外さないからどう答えればいいか困る」

 

「部屋では外すのですか?」

 

「そうだな。時々取り忘れる事もあるが自室では外しているぞ」

 

「そうなんですか……」

 

「流石に寝る時は外さないとゆっくり休めないからな……他に聞きたい事はあるか?」

 

「それではもう一つだけ……何故今回同行してくれたのですか?」

 

「……お前達に何かあった時の保険だ……」

 

「保険?」

 

「そうだ。もしもの時近くにいればどうにか出来るかもしれないだろ?……一応、名目上は親衛隊のサポート要員だからな」

 

「ゼロ……ありがとうございます」

 

「気にするな。それに、一度は直に目にしておきたかったからな」

 

「例の2人をですか?」

 

「ああ、どうも情報が少なすぎてどういった者なのか分からない。だからこそ、己自身で判断したかった。俺の敵になるか、それとも否か……」

 

「彼女達は敵です。紫様に御刀を向けたのですから」

 

「それは分かっている。だが、紫様に御刀を向けた理由はわからないだろ?俺はその理由が知りたい……」

 

「理由ですか……例えどんな理由があるとしても紫様に御刀を向けた罪は変わりません」

 

「そうだな。理由があれば何でも許されるほど世の中甘くはない……それでも、公の場であるにも関わらず行動した。それ程の事をしなければならない理由があったのかどうか……これは単に俺が知りたいだけだから気にするな。もしも親衛隊の夜見達が傷つく事があれば容赦はしない……例え誰であろうとな……」

 

「……ゼロは何故そこまでしてくれるのですか?」

 

「俺も親衛隊だから……なんてな。今のは冗談だ……ふむ、つい話し込んでしまったようだ」

 

長く話し込んでいたようで、いつの間にか目的地付近に到着していて車両が止まっていた。

 

「着いたか……夜見、一つだけ言っておきたい事がある」

 

「何ですか?」

 

「例え何があろうと親衛隊は俺にとって大切な存在だ……だから、無理だけはしないと約束してくれ」

 

「……善処します。ですが、絶対にとは言い切れません」

 

「それで構わない……ありがとな、夜見」

 

手を伸ばし夜見の頭を撫でる。だが、夜見は何故か下を向いてしまった。どうやら機嫌を損ねたみたいだ……

 

「あぁ、すまない……気分を害してしまったな」

 

「いえ……大丈夫、です……」

 

「そうなのか?だが、顔が赤いようだが……やはり何か気に触る事をしていたのではないか?」

 

「……お気になさらないでください。私は……大丈夫ですので……」

 

「……夜見がそう言うのなら信じるが、何か気に触った事があるのなら言ってくれ……改善するように努力する」

 

「はい、その時は遠慮なく申し上げます」

 

「あ、ああ……さて、それでは先に降りて待っている。気分が落ち着いたら合流しよう……また後でな」

 

夜見の顔色を伺い、特に問題もないと判断して別れた後は他の男性隊員の簡易設備の設置を手伝った。

 

「……こんな事初めてです。ゼロ、あなたという人は……いつまでもここに居ては獅童さんと此花さんに申し訳ありません。私も合流しましょう……」

 

ゼロと別れて少し経ち、気分も落ち着いてきた頃には簡易設備も完成していたので車を降り、少し急ぎ足になりながら親衛隊の寿々花と真希の元へ向かった。

 

 

 

 

 

簡易設備の準備も隊分けも済み、万全な状態になった頃……事態は動き出す。

 

「丁度、雨が上がりましたわね……」

 

「さあ、山狩りだ……」

 

 

こうして捜索対象の少女達を探し出す作戦が開始した……

 

 

「……野生の熊が出ないように鈴を持っていた方がいいのか、鈴の音でバレないように持っていかない方がいいのか……悩むな」

 

 

この中で1人だけ所持する物を真剣に悩む者もいたと、隊員の1人が言っていたのは少し後になって知ることになる……

 

 




キタキタキタキタきたきつねいいよね!!

……ごほん!やっとアニメ第1話入れた!嬉しすぎてブリッジしちまったぜ!

ここからが正念場、少しづつ、でも確実にヒロイン要素を増やさなくてはいけないからな!


最近は1話から見直しているけど……さやかちゃんの表情の変わりようぱねぇ……新OPの時の笑顔が1番輝いてますよね1!



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番外編:勤務時間でも休んで良いんですよ?

少し休憩がてら執筆したものなので過度な期待はしないよう、ご注意ください


ネタが浮かんでこないんだよね……


これはまだ、俺が親衛隊のサポート要員になる前の事である。昨日もいつも通り車に揺られ朝から晩まで荒魂の相手をしてから自室に戻ると時刻はここ三日連続で時計の針が10を指していた。だが、ここで終わりと思いきや3日外に出ていてやれなかった書類が作業部屋の上に綺麗に置かれ、おまけに明日までに終わらせるようにメモまで書き置きがある。期限まで時間もなく寝る間も惜しんで作業をして、終わる頃には鬱陶しく感じるほどに輝いている朝日が窓の外から差し込んでいた。

 

「……朝か……さて、寝るとしよう」

 

「ゼロ、何逃げようとしてるの?」

 

「……疲れてるようだな。沖田とそっくりの人物が目の前にいるが……これは幻だな」

 

「本物だよ!……疲れてるのは分かるけど今日だけは頑張ってくれ。明日は休みだから」

 

「嘘だ……ゼロの休日はゼロ……は、ハハハハハハハハ!!」

 

「おい!正気に戻れ!ゼロぉぉぉぉ!!」

 

「!?俺は一体何を?」

 

「正気に戻ったか」

 

「ああ。何とか持ちこたえた……それで、今日は書類を持っていないみたいだが……もしや、今日は!」

 

「期待してるとこ悪いけど休みではないからね」

 

「……我が生涯に悔いは「言わせないよ!?」……チッ」

 

「何故舌打ちしたの!?」

 

「何故だか無性に舌打ちしたくなったからだ……他に理由はあまりない」

 

「あまりって事は何かあるの?」

 

「ファントムが見えるこの現状に舌打ちしたくなっただけだ」

 

「だから本物だよ!幻じゃないから!!……はぁ、今度はこっちが疲れてきたから早く用事を済ませよう……」

 

「沖田……人間には活動限界がある事を知っているか?」

 

「あーはいはい。知ってますから用件を伝えるね」

 

「……仕方ない、腹を括るか……くっ!話せ!」

 

「……リアクションしてやらないからな?」

 

「……つまらない奴だな……それで、今日はどんな仕事をすればいいんだ?」

 

「最近ちょっとした噂が出回っていてね。それの調査だよ」

 

「噂か……聞いたことない」

 

「ゼロは外に居るから聞かないのかもね。知らないゼロの為に教えておくけどあくまで噂だという事なのを忘れないでね」

 

「分かった。その噂の内容を教えてくれ」

 

「了解。その噂の内容は……管理局内に反折紙紫派の者達が集まって組織を結成していると言われている」

 

「反折紙紫派……その噂の信憑性はどうなんだ?」

 

「悪いけど今のところ証拠もないから薄いね。だけど、このまま放置出来るものでもない……」

 

「だからこその調査か……それならば仕方ないが、手掛かりは何か無いのか?」

 

「うーん、あるのはあるけどほぼあり得ないんだよね」

 

「この世に絶対というものはない……それに何もないよりあるだけマシだからな」

 

「そう言われると何も言い返せないね。ゼロ、これは俺個人で調べた結果だからあまり当てにしないで」

 

「……分かった」

 

「それじゃあこの写真を見てくれ」

 

「これは?」

 

「これに写っているのは数年前から行方を眩ませている人物だ……リチャード・フリードマン……S装備開発に携わった科学者だ」

 

「それは凄い事だよな?」

 

「そうだね、この人物がいなければ開発も順調に進まなかったかもしれない程の重要人物だよ……だけど、開発技術のレベルが向上した頃から様子がおかしくなったんだ」

 

「それは歳のせいだろ」

 

「いや、確かにその可能性もなくはないけど……そうじゃなくて、科学こそが生きがいみたいな人だったんだけどさ、S装備開発後からの行動に少し違和感があったんだ」

 

「歳のせいではなく?」

 

「そうだよ!……こほん、とにかく違和感を感じたから少し監視していたんだけど特に怪しい事はしていなかったんだ……消息不明になる少し前まではね」

 

「……その人物が……いや、他の誰かと手を組んで反折紙紫派の組織を結成する為に消息不明になったとでも言いたいのか?」

 

「おそらく……あくまでも勘なんだけどね……だけど最近、この人物を目撃したという情報を耳にしてね。その近くには若い女性もいたとか」

 

「それはあれだ……肉体は衰えても精神は衰えてないという奴だろ」

 

「そういうのじゃない……他にも長船学長と接触しているという情報もあるんだよ」

 

「ただの偶然……にしては出来過ぎているか……それでその若い女性とは誰なんだ?」

 

「それなんだけど……可能性は0に等しい程の人物なんだよね」

 

「まさか……俺か?」

 

「そんな訳ないだろ!まったく、ゼロ繋がりって意味じゃないんだよ」

 

「悪い……今のは冗談だ」

 

「……まあ今更だけどね」

 

「……それで、俺以外となると誰なんだ?」

 

「それは……紫様の妹、折紙朱音様だよ」

 

「妹だと?見間違いか瓜二つの人物じゃないのか?」

 

「証拠がないからそうとも言い切れないんだよ……そこで、今回ゼロにはこの写真の人物と接触して情報を引き出して欲しい」

 

「今日の仕事は調査か……紫様には言ってあるのか?」

 

「流石に不確かな事は言ってないよ。今回の調査も実は内緒にしているんだ」

 

「いいのかそれで……俺の今日の仕事はどうする?要請が来たら行かなくてはいけないんだが?」

 

「そこは大丈夫、書類作業も朝終わらせたみたいだから今日はフリーだ。それに、要請がきた時は調査を切り上げて向かってくれていいよ」

 

「……仕方ない。本来ならば断るとこだが、無関係でもないみたいだからな……その依頼引き受けよう」

 

「ありがとうゼロ。さっそくで悪いけど今すぐにこの場所に向かってくれ。この前、フリードマンに似た人物を偶然見かけたという情報があったんだ。これが本当ならそこに居るはず」

 

「そういっても、無関係の者は入れないのでは」

 

「安心して!今回は視察という名目で訪ねる事になってるから大丈夫だよ」

 

「紫様に内緒ではなかったのか?」

 

「そうだよ。だから、丁度視察する予定があったからこっちでゼロを任命しておいたんだ」

 

「……用意周到だな。今日はフリーではないのか?」

 

「それはここでの話だよ。悪いとは思ってるけど、本当に反折紙紫派の組織があればここも危険だからね」

 

「そうだな……それではそろそろ出発するが、何か言い忘れた事はないか?」

 

「そういえば1つだけ、今回はあくまで視察だから武装しないで向かってほしい」

 

「……生身1つでどうにかしろという事か?」

 

「そうしないと立入禁止になってしまうんだ……悪いね」

 

「別に構わん……他には?」

 

「あとはないかな」

 

「そうか、それではこれより現地に向かう」

 

「ああ、何か分かったら出来る限り教えてくれ」

 

「……覚えていたらな」

 

沖田を1人部屋に残し指定された移動に使う車両へ向かい乗り込む。ドライバーの隊員は乗った事を確認してからエンジンをかけ車を発進させ、目的地まで法定速度を厳守しながらゆっくり向かった。

 

 

 

車で向かってからは話相手も同乗していない事もあり暇を持て余しながら、着くまでの間中ずっと窓の外を眺めながら何も考えず呆然としていた……

 

「……人員補充して欲しい……はっ!?」

 

現状の体制についての本音が思わず漏れてしまい我に帰り、運転手を見ると何かを口ずさんでハンドルを握っていたので聞かれなかったと思う……運転手とは対照的な気分になりながらもう一度外の景色を見ようとすると急に車が大きな建物の前で停車した。

 

「ゼロ、目的地に到着したぜ!」

 

「そうか……それにしてもやけに機嫌がいいな」

 

「おっ?分かっちまうか?実はこの後の時間はゼロが帰るまで自由行動なんだよ。だからこの辺の美味い料理を食べに行こうと考えていたら……悪い、思わず涎が」

 

「……帰るときに連絡する。その時は頼んだぞ」

 

「おうよ!任せとけって!」

 

悪態の1つでも言いたくなったが必死に堪え車を降り、目的地の建物の正面入り口に向かう。

 

「ここか……それにしてもやけに金がかかってそうな場所だな……特別希少金属研究開発機構、か……科学者にはいい思い出がないからさっさと用件を済ませて帰るか」

 

入り口前で止まっていても不審者扱いされて通報されるかもしれないので、建物観察をやめて中に入る。中に入りあたりを見回していると1人の男性ががこちらに気づき歩み寄ってきた。

 

「やあ、君がゼロ様だね」

 

「様づけはやめろ、ゼロでいい……その前にお前は誰だ?」

 

「HAHAHA!これは失礼。僕はフリードマン、見てわかる通り科学者だ」

 

「最近の科学者は白衣を着ないのが主流なのか?」

 

「Oh、痛いとこをつくねゼロ。確かに白衣は着てないけど科学者なのは本当だよ」

 

そこは知っている。沖田から聞いているからな……それよりも沖田の見せた写真と全然違う。写真ではもっと若々しく写ってたけど目の前の人は面影はあるが白衣も着ていない爺さんって感じだ。何より……ピンクのシャツを着ているぞ!お笑いから始まりボディビルダーにでもなるつもりか?……あれはピンクのセーターだったから違うか……

 

「ふん、そんな事はどうでもいい……それより、今回案内するのは貴様なのか?」

 

「That’s light!!本当は他の人がする予定だったんだけど、僕が無理言って代わってもらったんだ」

 

「何故だ?」

 

「実は前からゼロに一度会ってみたかったんだ。噂を聞いているうちに興味が湧いてね」

 

「悪いが俺にそっちの趣味はない、他を当たってくれ」

 

「そういう意味じゃないよ!?」

 

「……他に理由があるのか?」

 

「Of course!君という人間がどんな人物か知っておきたくてね……今後の為に」

 

「今後の為?」

 

「おっと、今のは忘れて!こっちの話さ……ところで、さっきからフレンドリーに話しているけど大丈夫かい?」

 

「今更だな、そのままでいい。俺としても敬語で話されるより気が楽だ」

 

「そうなのかい?それならこのまま話すよ」

 

「そうしてくれ」

 

「ん〜……やっぱり噂は当てに出来ないな〜」

 

「何のことだ?」

 

「実は噂ではゼロの事を悪魔も泣いてしまう存在だから、絶対に近づくな……って言われているんだよ」

 

噂は噂、その内消えると思っていたが……まさか逆に尾ひれがついて広まっているとは知らなかった……何だか目の前が暗くなっていく気分だ……

 

「……」

 

「あ、あれ?ゼロ?」

 

「あ、あぁ悪い……少し目眩がしただけだ、気にするな」

 

「大丈夫かい?」

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

「それならいいけど……もしもこれから見て回る時に気分が優れない時は言ってくれれば休憩するから、無理はしないでくれ」

 

「分かった」

 

「よし!このままここにいてもつまらないだろうから行こうか」

 

「そうだな。それでは案内を頼むぞ、フリードマン」

 

「任せてくれ!」

 

急に気合が入ったフリードマンと一緒にフリードマン案内の元この施設を歩き回る。途中に目についた場所があれば嫌な顔をせず、親切丁寧に説明をしてくれる事もあり時間がかかってしまったがとても有意義な時間を過ごせた。やはり知らない物というのは新鮮味があってどれも輝いて見える。そう、例えば今見ている武装に備え付けてあるノロのような物体でも輝いて……

 

「いや待ておかしいだろ」

 

「ゼロ、どうしたんだい?」

 

「フリードマン、何故ノロがあそこにあるんだ?」

 

「もしかしてゼロ、S装備は初めてかい?」

 

「……言葉は知っている程度だ」

 

「そうか、それなら驚くのも仕方ないね。あそこにあるのはS装備、正式名称はストームアーマーと言って刀使専用の装備なんだ」

 

「それは知っている……荒魂殲滅用の強襲装備で短時間だが装着者の身体能力と防御力を飛躍的に向上させる」

 

「そうだね、ゼロの言った通りの性能が備わっている……しかし、それだけのものを稼働する為にはどうしても必要なものがあるんだ」

 

「それがノロ……」

 

「正解!……こればかりは他に代用が効かなくてね」

 

「……科学者も苦労しているんだな」

 

「分かってくれるかゼロ……」

 

「俺にも少し似たような経験があってな……だが、これがあれば荒魂の被害が拡大する前に討伐出来るようになるのか。これさえあれば俺も外に出る機会が減るはず……」

 

「ゼロ?」

 

「んん!何でもない……それにしても、フリードマンは顔が広いのだな」

 

「まあね。これでもS装備開発に携わった1人だからよく話しかけられるんだ」

 

「ほう、そうか。それならば、若い女性にも声を掛けられるのも納得がいく」

 

「……何を言っているんだいゼロ?」

 

「丁度いい、全て見回った事だから帰る前に聞いておこうか……フリードマン、貴様は一体何をするつもりだ?」

 

「悪いけどゼロの言っている意味が分からない」

 

「とぼけるつもりか?貴様は現在消息不明となっている……それに、刀使や長船の学長、それとある人物とも接触していると情報があった」

 

「ある人物?」

 

「ああそうだ。流石にこの名前を聞けば少しは尻尾を見せるだろうな」

 

「そんな事はしていないんだけどね」

 

「あくまでもしらを切るか……フリードマン、貴様はとある女性とここ最近接触はしたか?」

 

「とある女性と言われても誰の事か分からないから答えようがないよ?」

 

「……折紙朱音と言えば分かるか?」

 

「なっ!?」

 

「ビンゴ……やっと尻尾を見せたな……もう一度聞くが何をするつもりだ?」

 

「……ゼロ、君は僕をどうするつもりだい」

 

「質問しているのはこちらの方だ……答えろ、貴様は管理局をどうするつもりだ」

 

「……ははっ、僕の負けだ。降参するよ……僕は……僕達はとある目的があるんだ。管理局は別にどうこうするつもりはない」

 

「管理局は?」

 

「そうだよ。僕はある人物、朱音様に従って組織を結成した。十数年前にやり残した事を果たすための備えとしてね……」

 

「その目的を果たす為に世の人々を危険に晒すつもりはないのか?」

 

「ああ、そのつもりはないよ……そう言っても信じてもらえないかもしれないけど……どうか見逃してくれないだろうか?」

 

「分かった、見逃してやろう」

 

「え?」

 

「どうした?信じてやると言っているんだぞ?」

 

「それはありがたいんだけど……いいのかい?」

 

「いいも何も、人々を危険に晒すわけではないのだろ?」

 

「そうだけど……」

 

「ならば問題ない」

 

「……僕達が何をしようとしてるか聞かなくていいのかい?」

 

「人々が危険に晒されないのなら聞く意味がない」

 

「……ゼロは……本当に見逃してくれるのか?」

 

「くどい!俺は貴様達のやろうとしてる事に首を突っ込む気もないし興味もない。被害が出なければそれでいい」

 

「……はははっ!」

 

「なぜ笑う?」

 

「これは失礼……ゼロ、君は噂通り本当に変わってるね」

 

「……その言葉は言われ慣れている」

 

「そうか。言われ慣れてるのか……ゼロ」

 

「何だ?早く帰って休息を取りたいのだが?」

 

「1つ頼みがあるんだ。聞いてくれないか?」

 

「……手短になら聞いてやる」

 

「ありがとう。それじゃあ単刀直入に言う……僕達に協力して欲しい」

 

「……いきなりどうした?」

 

「今日一日君という人物を観察させてもらったけど、敵に回したら為すすべもない事を十分理解出来た」

 

「そうか……」

 

「だけど、それと同時に味方になってもらえればとても心強い事も分かったんだ……だから、協力を申し出たんだ」

 

「……敵に回さない為にか?」

 

「それは違うよゼロ。僕は純粋に君に仲間になってもらいたいんだ」

 

「俺は管理局の人間だ……必要とあらば貴様達に刃を向ける事もあるんだぞ?」

 

「そうかもしれない。それでも、その間だけでも仲間になって欲しいんだ……頼めないか?」

 

「……俺はほとんど毎日暇な時間がない。だから、あまり頼りにするな」

 

「それって……」

 

「目の届かない所で何か面倒事を起こされるよりはまだマシだからな……これからは無謀な事をするなよ?」

 

「ありがとうゼロ!」

 

「礼はいらん……それより、協力するからには何をするか聞いていた方がいいのか?」

 

「そうだね、そうした方が今後頼みたい事がある時に何かと都合が良くなるかもしれないね」

 

「まあほとんど協力は出来ないと思うがな……」

 

「それでも一応伝えておくよ……僕達の組織は舞草と呼ばれていて、先程も言ったように準備を整えているんだ……ある荒魂討伐の為にね」

 

「その荒魂は手強いのか?」

 

「手強いというより最大の敵と言った方が正しい、何せ十数年間もの間力を蓄えているから」

 

「随分と大きな目的だな……だが、悪くない。少し興味が湧いた」

 

「君はこういう事には無関心だと思っていたよ」

 

「そんな事はない……やる事については大体分かったが、1つ聞いておきたい事がある」

 

「ん?何が聞きたいんだい?」

 

「協力するのはいいが連絡はどうやって取ればいい?俺の持っているスマホは管理局から支給されたものだから足がついてバレるぞ」

 

「それは安心してくれ。今からゼロ用に用意する」

 

「……時間はどれくらいかかる?」

 

「ん〜、今からだと2時間くらい掛かるかな?それまでは悪いけどここに残ってくれたまえ」

 

「それならば仕方ない……「そうだ!」どうした?」

 

「良かったら休憩室で仮眠をとっていてはどうだろうか?」

 

「何!?良いのか?」

 

「もちろんだとも。今の時間は誰も使わないから安心して使ってくれ」

 

「感謝する。この借りはいずれ返す」

 

「そんな大袈裟な事では無いんだけど……せっかくだし貸しにしておくよ」

 

「承知した。それでは後で休憩室に来てくれ、俺はそこで待っている」

 

「OK、それではまたあとで会おう」

 

「御意……では失礼する」

 

そこでフリードマンと一旦別れ1分でも仮眠をとるために急ぎ休憩室に向かい、備えつけのイスに横になってしばし仮眠をとる。勤務中に仮眠をとれるなんて……協力する事にして良かった。これだけで元は取れる……はずだ。

 

 

 

「……ロ……きてくれ」

 

誰かの声が聞こえゆっくりと覚醒して状態を起こしていく。

 

「……フリードマンか」

 

「やっと起きたか……先程用意できたから届けにきたよ」

 

「そうか……もう少し遅くても良かったのだがな……」

 

「悪いね、この後僕にも予定があるんだ」

 

「……それで、例の物はその手に持っているものか?」

 

「その通り。見た目は管理局と区別がつかなくなると思って黒色にしてあるから安心してくれ」

 

「それはありがたい。これなら連絡をとっても足がつかないんだな?」

 

「ああ、これは問題なく連絡をとれるようにカスタマイズしてあるから大丈夫だよ。でも、くれぐれも他人に見つからないようにしてほしい」

 

「ふん、安心しろ。そんなヘマはしない……さてそれでは帰るとするか」

 

「もう帰るのかい?」

 

「ここに残る意味がなくなったからな……フリードマン、今日は有意義な時間を過ごせた。感謝する」

 

「それはこちらのセリフだ。中々に楽しい時間を過ごせたよ」

 

「それは何よりだ……ではまたな、フリードマン」

 

「また会おう、ゼロ」

 

フリードマンと別れの挨拶を済ませた後、正面入り口に1人歩いて行った。そして、外に出てから送迎の車を手配してもらうと数分後にきた時と同じ車が到着して、それに乗り込んで本部に帰る。

 

 

本部に到着した後、車を降りてから一直線に作業部屋へ向かうと予想通り沖田が待っていた。

 

「お疲れ様、ゼロ……それでどうだった?」

 

「……特に目立ったものはなかったな。例の人物も見当たらない」

 

それもそのはず、写真よりも年老いた姿なのだから見つかるわけがない……だから、俺は嘘は言っていない。

 

「そうか〜、やっぱり居ないか……はぁ」

 

「残念だったな……悪いが俺は疲れたから部屋に戻るぞ」

 

「ああ、うん。ゆっくり休んでくれ」

 

「そのつもりだ……じゃあな」

 

今も落ち込んでいる沖田を残し、多少の罪悪感が残るまま部屋を出て自室に戻る。

 

「悪いな沖田……だが、お前の見せてくれた写真が悪いんだからな」

 

自室に戻り少しばかりの愚痴を吐いてから部屋着に着替え、寝床につくと先程仮眠をとったにも関わらず、すぐに睡魔が押し寄せて眠りについた……

 

 

これが、フリードマンという人物と初めて出会った日の事……そして、過酷な労働を強いられていた時期の思い出だ……

 

 

 

 

 

 

 




番外編なのについ力を入れてしまった……

後悔はしてないがもう少し短くできるように努力する……


次があればね……


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Stop a injection!?

頭が痛いーーーーーー喉も痛いいーーーーーーでも、ゴールデンウィークだヒャッハーーーーーーー!!!!!



……特にやることもないんですけどね!!


雨が上がって傘もレインコートも必要なくなり、周りの景色も見える範囲が広がる。湿ったアスファルトの道路を通る人も車も少ないこの場所……山中のある一箇所。その場所に簡易設備を設置し、現在は雨が降っていない為設備の外に整列している隊員たちの正面に仮面を付けたスーツ姿の男が立っていた。

 

「……何故俺まで前に立たなくてはいけないのだ。まだ準備が整っていないんだが……」

 

準備途中に急に集合がかかり不本意ながら立たされている現状に少しばかり不満を持つ……が、今現在隣にいる人物が一歩前に出てこれからの予定を全員に伝えている最中なので我慢する。

 

「それにしても流石指揮経験者だ、俺には真似できないな……これで同年代なのだから世の中は本当に広いな」

 

見つめた先にいる人物はとてもさまになっていて思わず拍手の1つや2つしてやりたくなる。最近小耳に挟んだ男女問わず人気があると言う噂にもこれを見れば納得する他ない……噂の信憑性に現実味を感じてきた頃ようやく話が終わり、隊員は各々が自分の役割を全うするため持ち場に着く。あるものはここに立ち入らない様に道路にあるカラーコーンの脇で監視をし、あるものは簡易設備であるテントの中で本部と連絡を取ったりするためのパソコンを随時監視している。かく言う俺はと言うと……親衛隊のメンバーで集まりトークに華を咲かせていた。

 

「流石親衛隊第一席なだけあって、中々に様になっているな真希」

 

「ゼロ!からかわないでくれ!」

 

「そう怒るな、今のは本心だ」

 

「本当かい?」

 

「嘘を言っている様に見えるか?」

 

「……はぁ、分かった。ゼロを信じるよ」

 

「そうしてくれ……それで、3人集まっていたから来たが俺は不要だったか?」

 

「はい。ゼロに来て頂く必要性はありません」

 

「夜見、気のせいかもしれんが俺に対して当たりが強くなってないか?」

 

「そんな事はありません。私はただ、こわ……事実を述べたまでです」

 

「今何か言いかけてなかったか?」

 

「気のせいです。ゼロの聴力が低下したのではないでしょうか」

 

「……やはり当たりが強いな。何か気に触る事でもしたのか?」

 

「……そんな事はありません」

 

「ゼロ、あなたは一体夜見に何をしたんですの?」

 

「それは僕も気になるね。こんなに夜見が話しているところなんて今まで見た事ない」

 

「おい待て、俺が何かした事を前提に聞いてくるな。それに本当に心当たりがない」

 

「獅堂さん、此花さん。ゼロの言う通り、私は何もされていないので大丈夫です」

 

「本当ですの?脅されて言わないようにされているわけではありませんのね?」

 

「無理はしなくていいんだよ夜見、僕達は夜見の味方だから安心して真実を話してくれ」

 

「……貴様らは俺を悪逆非道な人間だと思っていたのか?」

 

「ふふふっ、今のは冗談ですわ」

 

「冗談だと?」

 

「はい。冗談ですのでお気になさらないでください」

 

「ははっ、ごめんゼロ。本当はこんな事するつもりはなかったんだけど、寿々花が驚かせたいって言うから、つい興味を持って協力したんだ」

 

「ちょっと真希さん!?」

 

「此花さんの提案は興味深い事だったので私も協力させてもらいました」

 

「夜見まで!?違うんですのよゼロ!ただ私は驚いたところを見てみたいと言っただけですの!」

 

「……だが、実行しただろ?」

 

「それは……そうですけど……」

 

「確かに言ったのは寿々花なのかもしれないが、実行した貴様らにも責任があるのを忘れるなよ?」

 

「うっ……そうなるか……」

 

「……如何なる罰もお受けしましょう。必要とあらばご随意に」

 

「はぁぁ……別に気にしてないからその必要はない」

 

「許して……くれるんですの?」

 

「許すも何も冗談を言っただけだろ……それだけの事に腹をたてる程、心は狭くないつもりだ」

 

「ありがとうゼロ!」

 

「礼を言われる様な事は何もしていないぞ?……それで、結局のところ俺はここに集まらなくてもいいのか?」

 

「はい。先程申し上げた様にゼロにはこの場に来て頂かなくても結構です」

 

「そうか……夜見はよく誤解されそうだな」

 

「何の話ですか?」

 

「無自覚か……いや、何でもない」

 

「そうですか……そういえばゼロと共に行動するのはこれが初めてでしたね」

 

「そうかもしれないな。大抵は本部内でしか会う機会もなかったからな……それがどうしたんだ?」

 

「今回の作戦の為に連絡を取りあえるようにしておいた方がよろしいかと」

 

「連絡先を交換するという事か?」

 

「その通りです。如何なさいますか?」

 

「確かに夜見の言う事にも一理あるな……では、連絡先を交換しようか」

 

この瞬間を待っていた!!如何にも興味はないけど交換する必要性があるように演じた俺は、スマホをポケットから取り出す。

 

「此花さん、獅堂さん。2人も連絡先を交換しては如何でしょうか?」

 

「僕達もか!?」

 

真希が声を大きくしながら驚く表情を見ていると胸が痛くなった……まさかここまで嫌われてるとは予想外で思わず涙腺が崩壊しかけた。

 

「はい。万が一に単独行動になった時の保険として交換しておくべきかと思います」

 

「確かに夜見の言う通りですわね……常に2人以上で行動出来るとも限りませんし」

 

連絡先交換でここまで悩む人初めて見たが、これは異常だ……しかも、夜見の考えが保険として交換するとか本人の前でそれを言うか?俺に対する親衛隊からの好感度は思った以上に低かったようだな……おぉ、大天使様。俺にはあなたしかいないようです……

 

「そ、それでは仕方ありませんわね。私も交換するといたしましょう」

 

「寿々花と夜見が交換するなら僕も交換しないとだね、うん」

 

真希と寿々花は少しばかりぎこちなくなりながらスマホを取り出す。俺に対する親衛隊からの認識を改めた事により、今の俺はこれしきの行動にも動揺する事はなくなった……無我の境地へ辿り着いた俺はそのまま夜見に従い、3人と連絡先を交換した。

 

「それでは今後何かあれば連絡を下さい」

 

「私にも連絡下さって構いませんが、その、殿方とは初めてですのでご迷惑をお掛けするかもしれませんが……」

 

「僕にもいつでも連絡してくれて構わないよ」

 

「……ああ、必要な時は連絡する。3人も何かあれば連絡してくれて構わない……悪いが準備が途中なのでここで失礼する」

 

現在の無我の境地に至った俺は、先程から我慢している涙を見られたくなかったので急いでその場を離れ、準備中であった物資が置いてあるテントの中に戻り仮面を取って段々と溢れ出てくる涙をハンカチで拭った。今の心境はとても複雑で、連絡先を交換できた喜びの涙と親衛隊からの好感度を知ってしまった悲しみの涙が同時に目から溢れていた……

 

ようやく涙も止まり、まだ鈴を選定している最中だったのでハンカチをしまい仮面をつけてから作業を始める。現在も思案中の鈴の有無に1人で唸りながら悩んでいると後ろから声を掛けられた。

 

「ゼロ、何をしているんだ?」

 

「ん?何だ、真希か……見ての通り、鈴を持つべきか悩んでいる最中だ」

 

「鈴?そんなの何に使うんだい?」

 

「そんなの決まっている、熊対策の為だ」

 

「そ、そうか……一応言っておくけど、今回僕達の任務は衛藤可奈美、十条姫和の両名を捕らえる事だ。そんなもの持ち歩いていれば逃げられるよ」

 

「なるほど、それではいかんな……ではここに置いておくとしよう」

 

「それは自前かい?」

 

「無論だ。常に俺は最悪の状況を想定して最善を尽くす事を念頭に準備をするからな。そして今回は山中と言う事で用意していたんだが……まあ、そんなことはどうでもいい……何か用か?」

 

「あぁ、これから夜見に索敵してもらい僕と寿々花は2名を捕らえに行く……ゼロはどうする?」

 

「3人とも不在となると、残って居た方がいいだろ。それに準備も途中だったからな……」

 

「そうか。それじゃ悪いけど留守の間はこの場を頼んだよ」

 

「了解した。真希達も無理はするなよ……無理をするくらいなら俺が「手を貸してやる、でしょ?」……」

 

「ちゃんと覚えているよ。もしも力が必要な時は連絡する」

 

「そうか……気をつけろよ」

 

「ありがとうゼロ……それじゃ行ってくる」

 

真希は一言挨拶をしてからテントを出て行き、又も1人だけになった。

 

「油断して返り討ちに合わなければいいのだが……3人とも無事に戻ってこいよ……せっかくの機会だ、帰ってくるまではここで寝ているか」

 

先程から真希以外誰も来ない事をいい事に、戻ってくるまでの間だけその場にあった物資の中から折りたたんである段ボール箱を地面に敷いて寝た。まるでキャンプに来た様な気分になり、3人が戻るまでぐっすりと眠れた……

 

 

起床はテントの外から微かに聞こえた隊員の話し声で目を覚ました。

 

「おい、先程戻ってきた第一席の様子がおかしくなかったか?」

 

「そうか?別にいつも通りだと思っていたけど」

 

「いやいや、あれは絶対に何かあったに違いない。今まであんなお姿見たことない」

 

「そうは言うけど、お前は今回初めて一緒になったばかりじゃないか」

 

「……それはあれだ。第六感的な?」

 

「分かったからさっさと持ち場に戻るぞ」

 

「了解、了解」

 

会話をしていた隊員達が遠ざかった後、段ボールを片付けながら先程の会話の内容を思い返す。

 

「真希の様子がおかしいだと?……念のため確認してくるか……」

 

テントの中を綺麗にして寝ていた痕跡を無くしてから真希の元へ向かった。

 

 

テントを出て周りを見回すと1つのテントだけ厳重に警備が固められていた。本来の目的から離れるが気になったので、1度真希を探すのを中断してその場にいる隊員に話しかける。

 

「何かあったのか?」

 

「ゼロ!今までどこにいたんだ?」

 

言えない……今まで昼寝していたなんて口が裂けても言えない……どうにか誤魔化さないと!

 

「ふっ、少し野暮用でな……俺の事よりもこのテントの事を教えろ。何故ここだけ厳重に警備されている?」

 

秘技!話をすり替える!これで問い詰められまい……どうだ!

 

「それなんだが、少し前に1人の刀使がここに来たんだ。だが、どうも怪しくてな……それで、先程から第二席の方が尋問している」

 

「ほう、刀使がここに来ていたのか。しかし、何故寿々花が尋問している?」

 

「それは分からない。ただ、第一席の方は少し気が立っていたからそれと関係してるのでは?」

 

「そうなのか?今は何処にいるか分かるか?」

 

「すまん、尋問が始まる前に何処かに行ってしまったから分からない……第二席の方なら知っているんじゃないか?」

 

「そうか……この中に入っても大丈夫か?」

 

「う〜ん、ゼロだから大丈夫じゃないか?」

 

「……安心しろ、このテントから脱走させはしない」

 

「それなら問題ない。だが、あまり長居はするなよ?」

 

「了解した。それでは行ってくる」

 

「ああ、気をつけろよ」

 

隊員から無事許可を貰えたので、開いている入り口から中に入る。すると、用が済んだのか入り口付近で例の刀使に向かって何やら凄い発言をしている寿々花がいた。

 

「万死に値するというのはいささか言い過ぎではないか?」

 

「!?ゼロ!どうしてここに?」

 

「ゼロ?」

 

そこまで驚くことではないと思うんだが……それよりも、ゼロという名を聞いても驚かないそっちの座ってる刀使……ナイスなバス……おほんっ!チャーミングなカチューシャですね!

 

「俺が野暮用で離れている間にここだけ警備が厳重になっていたから様子を見に来た……それで、そこにいるのは何者なんだ?」

 

「長船の刀使ですわ。あの子が言うには賊どもを捕らえにきただけみたいですわよ」

 

「例の刀使2名の事か……まあ、それが嘘か本当かはこの際どうでもいい。それよりも寿々花に聞きたい事がある」

 

「私に?何ですの?」

 

「真希の様子がおかしいと聞いたが、今何処にいるか知らないか?」

 

「さあ?私には頭を冷やしてくるとだけ言って何処かに行ってしまわれたので場所は分かりませんわ」

 

「頭を冷やす?」

 

「ええ、先程の事を気にしていたみたいでしたので今はそっとしておいた方がよろしいですわよ」

 

「先程というのは例の刀使を探しに行った時のことか?」

 

「そうですわ」

 

「そうか……何があったかは知らんが、今は寿々花の言う通りそっとしておくか」

 

「それがよろしいかと……私はこれから真希さんを探しに行くのですがゼロはどうしますの?」

 

「特に予定はないが、いざという時に動けるよう少し周辺を捜索でもするとしよう」

 

「あら?てっきり一緒についてくると思いましたわ」

 

「俺も少しはデリカシーというものを理解しているからな。その場に居なかった俺が今の真希に会わない方が面倒にならないだろう」

 

「ふふふっ、ゼロは本当によく分からない人ですわね」

 

「それはどういう意味だ?」

 

「さあ?ご想像にお任せしますわ」

 

「……ふん、もういい。寿々花、もし真希の頭が冷えていたら伝えてくれ。生きてさえいればチャンスはまた訪れる。と……では、失礼する」

 

凄く青臭いセリフを吐いて恥ずかしくなった俺は、ポーカーフェイスを貫いたままそのテントを出て行き周辺の森の中を捜索し始めた。

 

「失敗を責める事もせず相手を気遣うなんて……本当によくわからない人ですわね。ゼロ」

 

「あの〜、スミマセーン。今の人ってもしかして、あの噂のゼロ様ですか?」

 

「ええ、そうよ。あなたも知っていますのね」

 

「ハイ!よく噂は耳にしているので!……それにしても噂とは全然印象が違いますね〜」

 

「そうかもしれませんわね。言っておきますけど彼も親衛隊ですから御刀を向けないように注意した方がよろしいですわよ」

 

「え?親衛隊なんですか?」

 

「あら?知りませんの?彼は親衛隊第0席ですのよ」

 

「そんな話聞いたことありません」

 

「ふふふっ、それはそうですわ。名目上は親衛隊のサポート要員ですもの」

 

「サポート要員?親衛隊なのにですか?」

 

「そうよ。だからと言って甘く見ない方が良いですわよ?……それでは私はこれで失礼しますわ。またお話ししましょう」

 

ゼロが居なくなった後、彼の知らない間に無駄に彼の評価を上げてから寿々花は武装した隊員を残し真希を探しに行った……

 

 

 

 

 

周辺の森の中を捜索し始めてから数分後、一本の電話が入った。

 

「……何の用だ?」

 

『ハロー!久しぶりだねゼロ』

 

「ああ、そうだな。それでは切るぞ」

 

『stop! まだ用件を伝えていないじゃないか』

 

「挨拶が用件ではなかったのか?」

 

『そんな用件だけで君に電話はしないよ』

 

「はぁ……それで、用件は?」

 

『実は少し困ったことになってしまったんだ』

 

「S装備の事か?」

 

『それは問題ない。既にこちらで回収してあるから大丈夫だ』

 

「早いな……となると、ここに来ていた長船の刀使が関係しているのか?」

 

『流石ゼロ、耳が早いね』

 

「別にそんな事はない。長船の刀使1名と先程会ったばかりだから知っているだけだ」

 

『何!?それは本当かい!?』

 

「こんな時に嘘は言わん」

 

『そうか……その長船の刀使はどうなったんだい?』

 

「今はこちらで取り調べを行なっている最中だ……安心しろ、危害を加えるつもりはない」

 

『そうか、それは良かった……おっと、話が逸れてしまったね。悪いけど少し協力してくれないか?』

 

「出来る範囲でなら構わん」

 

『ありがとう!ではさっそくで悪いが、そこに向かった長船の刀使2人をどうにかして見逃してくれ』

 

「2人か……1人は今取り調べ中なんだが?」

 

『そこを何とかしてくれ!頼むよ!』

 

「……俺が協力している事を貴様の組織で知っている人間は?」

 

『君の事をかい?僕以外にはある人物が協力してくれたとしか言ってないから僕だけだね。どうしてそんな事を?』

 

「今後の予定のためだ……貴様以外信用できないからな。もし偶然居合わせた時、裏切られる可能性を考慮しなくてはならない」

 

『用心深いんだね、君は』

 

「そういう生き方をしてきたからな……途中まではこちらで何とかしてみるが、後の回収はそちらでどうにかしろ」

 

『おお!やってくれるのか!』

 

「……貴様には借りがあるからな」

 

『ありがとうゼロ!』

 

「借りを返すだけだ。礼は無事送り届いてからにしろ」

 

『ははは、それもそうだね。それじゃ、付近まで迎えに行くからそこまでは頼んだよ』

 

「承知した。見逃しはするが、こちらにも事情はある。もしも、死者を出せば、その時は容赦しない……いいな?」

 

『……分かったよ、絶対にないとは言えないけどそんな事する子達ではないから心配しないでくれ』

 

「そうだといいがな……1つ言い忘れていたが今後も貴様以外には俺の事を口外するなよ」

 

『本当に君は信用していないんだね……肝に命じておくよ。それでは良い結果を期待してる』

 

「善処する。ではな」

 

スマホの通話終了を押して電源をスリープ状態にしてからポケットにしまい、これからの事を考えながら尋問されていた長船の刀使がいるテントへ進路を変えて歩き出す。

 

「あんな事言ってみたものの、これからどうするか……あの数の隊員が居れば容易には逃す事が出来ない。それこそ、荒魂みたいなのが現れて混乱してる隙をつくしか方法はないが、周辺に荒魂の反応もないから無理だな……せめて自力で人の目が少ないところまで移動してもらえればどうにかなるんだがな……詰みだな」

 

あれこれとプランを模索しながら必至になって考えて歩いていると車のエンジン音が聞こえてきた。

 

「例の刀使を見つけたのか?……好都合だ、人が少なくなる今の内にどうにかして逃すか」

 

絶好のチャンスが舞い降り、車を何台か残してエンジンのかかった車はテントのある場所から遠ざかって行く。この時であれば、人1人までなら煙幕でも撒けば容易に逃がせると考え少し急ぎ足になりながら向かった。そして、目的のテントの中に入ってみるとそこには誰もいなかった。もしかして先程ここから移動した車の中にでも連れていかれたのではないかと考えていると、突然テントの外から刀の打ち合う音が聞こえてきたので急いでテントを出る。

 

「おい!何があった?」

 

「ゼロ!取り調べ中の刀使が脱走した!」

 

「何だと?協力者でもいたのか?」

 

「分からない、気がついたら他の隊員達は気絶していたんだ」

 

「……隊員に怪我はないのか?」

 

「まだ確認していないが、見たところ全員意識を失ってるだけだ……俺が注意していればこんな事にはならずに済んだのに……」

 

話しかけた隊員は悔しそうに自分を責めていたが、別に死人が出たわけではないからそこまで責めなくてもいいんじゃないか?

 

「過ぎた事を悔やんでも仕方ない、まずは倒れている隊員達を一箇所に集めるぞ」

 

「了解!」

 

未だに鳴り止まない森の中から聞こえる打ち合う音を気にせずに、隊員とともに倒れている者を一箇所に集めはじめた。

 

 

「……特に怪我している者はいないようだな」

 

「ああ、全員気絶してるだけで良かった……本当に……」

 

やはり、事態を重く捉えてしまっている隊員は今にも泣きそうになりながら、倒れていた隊員達の無事に喜んでいた。そんな隊員をフォローしてやるために一声かけようとした時、突如森の中から上空に向かって赤黒い炎ではない何かが柱となって吹き出した。

 

「今のは……ちっ、貴様達はこの場から離れるな」

 

「え?ゼロはどうするんだ?」

 

「俺は逃げた刀使を追う……悪いが貴様達はこの場を頼む」

 

「ゼロ、本当に行くのか?相手は少女とはいえ刀使だぞ」

 

「ふん、下らん。たかが刀使に遅れをとるほど俺はヤワじゃない……それに、夜見がいるなら尚更引くわけにはいかん……後は頼んだぞ」

 

「了解!ご武運を!」

 

「……要らぬ心配だな。だが、感謝する」

 

隊員からの応援に礼を言い、対象の刀使と夜見が向かった森の中へと駆けて行った……夜見には説教してやらないとだな。

 

 

先程の異常があった場所へ向かいひたすら森の中を駆けて行くと……対象の刀使の他に見たことのない刀使と思われる少女3人の背中が見えた。そして、その先には……右目から何かを生やしている夜見がいた……

 

「……開いた口が塞がらないとはこのような時に使うのだな……そんな冗談言っている場合ではないな、一刻も早くどうにかしなくては……」

 

細心の注意を払い音を立てずにその場に近づいて行く。そして、ようやく座り込んでいる刀使の近くの木までたどり着いた時、事態は急展開した。木に隠れて目を離している隙に何があったのか、夜見が1人の少女を押し倒している構図が俺の目に映った……

 

「……これが俗に言う百合展開……悪くない……はぁ、俺は疲れて夢でも見ているのか?」

 

目の前に広がる光景に頭の中で整理がつかず困惑する。それでも目は離さずにいると、夜見が少女の顔の前に切っ先を構えた。

 

「これ以上はまずいな……仕方ないが力づくで止めるほかない……許せ、夜見」

 

右手に持つ鞘を180度回して持ち替え、抜刀した際に峰打ち出来るようにしてから木の陰から出ようとすると、夜見がいきなり苦しみだした。

 

「まさか!あのポーズは……窒息のサインだったか?……仕方ない、早く人工呼吸をしてやらねばならんな、うん」

 

まだ混乱している俺は、場違いな対処法を考えながら夜見の元へ歩みだした……別に人工呼吸がしたいわけじゃない、夜見を助けたいだけだ!勘違いするな!

 

 

三歩程歩き、近づくに連れて胸の高鳴りが大きくなっていく中、またもや夜見に異変が生じた。突然、夜見の体から何かが吹き荒れて夜見と近くにいた少女が夜見に抱きつきそれに覆われた。

 

「くっ!流石は夜見、危機察知能力が高いな!」

 

自分でも何を言っているのか分からなくなりながらも、今起こっている状況を分析する為、力を行使する。

 

「『真眼』……2人とも生きてはいるか……」

 

他の人とは景色が違って見えるようになり、その目を使って2人の姿も確認出来た。だが、未だに消えない何かを消さなければ近づくのは危険な為様子を見守る事にした。

 

様子を見守る事にしてからすぐに変化が現れ、徐々に勢いがなくなり、やがて吹き荒れていた何かは地面に液体だけをのこし消滅した。

 

 

「助かった、の?」

 

「そうみたいです。たぶん、ノロの力とバランスが取れなくなったんですネ。人の体にノロを入れるなんて、無茶にも程がありマス」

 

「荒魂をあんな風に使うからだ」

 

「ねー」

 

目の前の刀使達は皆無事に生き残り各々に感想を言っている。最後の方に聞こえたのは誰が言ったのか分からないが、身長の丈よりも長い御刀を持っている少女から聞こえたような気がしたのだが気のせいか?すっかり出るタイミングを逃した俺は、気づかれないように木の陰に再び隠れて出る機会を待つ事にした……

 

「よかった、生きてるよ」

 

「これからどうする?この騒ぎだ、すぐに他の親衛隊が駆けつけるぞ」

 

……すまん、実はもうこの場に来ている……

 

「問題ない。エレン」

 

「ねねっ」

 

「はい!了解デース!タクシー1台至急手配願いマース!」

 

「タクシー?」

 

タクシー?こんな場所まで来るのか?……それよりも、また声が聞こえたぞ?幻聴か?まったく、どうやら俺は疲れているようだな……休みが欲しい……

 

「ねぇ、この人はどうするの?」

 

「置いていけ、どうせ親衛隊が連れて行くはずだ」

 

「そうだな、流石に連れてはいけないだろ」

 

「そうですネ。薫とひよよんの言う通りです」

 

「それはそうなんだけど……大丈夫かなぁ?」

 

夜見の心配をする少女は困った様に他の刀使達の言う事に了承しかねている。すると、突然どこからか声が聞こえてきた。

 

「それならばこちらで預かるとしよう」

 

「誰だ!」

 

刀使の問いかけに答える為、預けていた背を木から離して刀使達の目の前に姿を現わす。

 

「……お前は何者だ」

 

「そうだな。そこにいる女の仲間とでも言っておこうか」

 

倒れている少女を指差して質問に答えると、刀使達の警戒がより一層増した。

 

「くそっ!管理局の奴か!……悪いがお前には少し痛い目をみてもらう」

 

先程から質問を投げる刀使は迅移を張り、切っ先を仮面をつけた人物に向けた。

 

「……ほう、中々様になっているな」

 

「黙れ!これ以上時間をかけている暇はない……すぐに終わらせる」

 

「それもそうだな。貴様の遊戯に付き合う程、こちらも暇ではない」

 

「貴様ー!」

 

「駄目ですひよよん!!」

 

「何故止める!こいつは管理局の奴らの仲間なんだぞ!」

 

「それはそうですが……でも、駄目なんです……」

 

「もしかして、奴に対して情でも湧いたのか?」

 

「いえ、そう言うわけではなくて……」

 

「どうしたエレン?あいつについて何か知っているのか?」

 

「はい。彼は……親衛隊の人です……」

 

「何?親衛隊だと!?」

 

「それは本当かエレン」

 

「本当です……彼は、親衛隊第0席のゼロです……」

 

「な!?」

 

「おいおいマジかよ……」

 

「……悪いが貴様達のガールズトークに付き合う暇はない。通らせてもらうぞ」

 

律儀に待っていたが、痺れを切らし宣言してから強行突破する事にして夜見の元へ歩み出す。歩きだしてからも警戒は止まず、1人の刀使は常に構えを取ったままの状態でいたが、構わずに足を進めた。そんな中、遂に俺は幻聴の正体を知る事になる。

 

「それは……荒魂か?何故ここに……」

 

ツインテールの少女の近くまで来てようやく気づく。その少女の側には小動物のような荒魂が存在していた。

 

「違う。ねねはオレのペットだ」

 

「ねねっ!」

 

「何?ペットだと?荒魂なのにか?」

 

「そうだ」

 

「……ふむ、それならば問題はないな」

 

「え?」

 

「ね?」

 

荒魂をペット言い放つ少女の瞳には揺るぎのない意志を感じたのでペット認定してやると、今まで警戒していた表情の少女の顔は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔になった。

 

「どうした?俺を笑わせるつもりか?」

 

「はっ!?そんな訳ないだろ!」

 

「……冗談だ。気にするな」

 

割と本気で怒鳴られ少しだけショックを受けたので、これ以上関わらない様に再び歩み出す……

 

 

「お、おい!」

 

「……何か用か?」

 

「お前は……ねねを斬らないのか?」

 

「何故そんな事をしなければならない?」

 

「だって、ねねは荒魂なんだぞ?」

 

「だが、貴様のペットなんだろう?」

 

「それはそうなんだが……」

 

「ならば斬る必要はない……それに、被害を出しているわけでもないからな……もう行っていいか?」

 

「あ、ああ……」

 

「では失礼する」

 

呼びかけられたので仕方なく少女に付き合い、用がなくなるとすぐに背を向けて歩み出す。僅かな距離であるにも関わらず時間が少しかかり、今やっと夜見の元に辿り着いた。

 

「可奈美!逃げろ!」

 

「え?」

 

突然の叫びに戸惑う少女……しかし、そんな事構わず、相手の心情も知らずに話しかけた。

 

「貴様が共犯者か……確か衛藤と言ったか?」

 

 

「そうですが……あなたがあの噂のゼロ様なんですか?」

 

「どう言われてるか知らんが噂は噂だ。様付けするな、ゼロでいい」

 

「え?いいんですか?」

 

「別に構わん。敬語も使わなくていい」

 

「えーっと?それじゃあ、ゼロって呼ぶね?」

 

「そうしてくれ……早速だがそこの女……夜見を渡してもらうぞ」

 

「あ、はい……」

 

了承を少女から得た俺は、衛藤から夜見を預かり地面に寝かせて念のため脈を測る。脈は弱々しくだが感じ取る事が出来たので一安心していると、隣から視線を感じた。

 

「やはり心配か?」

 

「……うん」

 

もの凄く落ち込んでいる少女は不安気な眼差しを夜見に向けながら答えた。その姿を見て、もっと早くに対処していれば良かったと罪悪感を感じ、せめて目の前の少女が落ち込まなくても済むようにと、少女の頭に手を置いてフォローの言葉を掛ける。

 

「貴様が斬らなかったから夜見は今生きている。気に止むことはない……夜見のことは任せろ。絶対に死なせはしない」

 

「ゼロ……うん、その人の事をお願いします」

 

「承知した……それより、何だか顔が赤くなってないか?」

 

「えっ!?そ、そんな事ないよ!!」

 

「……まあ、本人がそういうなら信じよう……さて、俺は夜見を連れて戻るとしよう」

 

寝かせていた夜見を抱えて立ち上がり、少女達に背を向けて歩き出した。

 

「待て!」

 

「……はぁ、今度は何だ?」

 

「貴様は私達を捕らえに来たのではないのか?」

 

「あぁ、そうだな。確かに貴様の言う通り、逃走中の貴様達2人とそこの脱走した1人を捕らえるつもりだ」

 

「やはりか……」

 

「だが、事情が変わった。ある人物からの依頼で今回は見逃してやる事にした」

 

「ある人物?」

 

「……それじゃあ、ゼロは私達を見逃してくれるの?」

 

「本来ならばそっちの長船だけを見逃す予定だったがな……夜見を助けてくれた礼だ。今回は全員見逃す」

 

「ありがとう!ゼロ!」

 

「……貴様の本当の目的は何だ?」

 

「今言った通りだが?」

 

「ふざけているのか?貴様も親衛隊ならばどんな手を使ってでも捕らえるはずだ」

 

「ひよりちゃん……」

 

「なるほど……生憎だが、俺は親衛隊とは名ばかりで本来の役目は親衛隊のサポートだ」

 

「サポートだと?」

 

「そうだ。納得できないならば、今回は倒れた夜見の手当てを優先する事にしたとでも解釈してくれ」

 

「……いいだろう、貴様を信じてやる」

 

「もう!ひよりちゃんは少し心配し過ぎだよ」

 

「何を言っている。これが当たり前なんだ」

 

「確かにこの状況ではそこの刀使の考えが正しいな……」

 

「ゼロまで!?」

 

「話がわかる奴だな……姫和でいい……」

 

「突然どうした?」

 

「私のことは姫和と呼んでいいと言っている。少しだけだが貴様は信じられるからな……」

 

「……それならばこちらもゼロと呼んでくれて構わない」

 

「ああ、そうさせてもらう」

 

「うぅ〜。ひよりちゃんだけずるいよ!ゼロ!私のことも可奈美でいいよ!」

 

「そ、そうか……分かったからあまり大声を出すな」

 

「ごめんなさい……」

 

「いや、分かれば良い……俺が協力できるのはここまでだ。後は自力でなんとかしろ」

 

「待って下さい!」

 

「……そろそろ他の奴らがここに来るぞ?」

 

「最後に1つだけ聞かせて下さい……どうして私達刀使を逃す手助けをしようとしたんですか?」

 

「……先程も言ったがある人物の依頼だからだ……奴には借りがあるからな」

 

「借り……ですか?」

 

「そうだ。……ああ、そう言えば1つ伝言を頼みたい」

 

「伝言?」

 

「ああ、誰でも構わん。奴に会ったら借りは返したと伝えてくれ」

 

「おい、奴って誰だよ」

 

「……科学者に見えない服装をした爺さんだ。では失礼する」

 

これ以上引き留められると夜見の容態が悪化してしまうかもしれないと思い、今度は歩きはせずに森の中を駆け出す。

 

「科学者に見えない服装?」

 

「おいエレン……」

 

「そんなまさか!?……これは後で詳しく聞かなければいけませんネ……」

 

「エレンちゃん達は知っているの?」

 

「ああ、予想だが合ってるだろ」

 

「そうですネ。かなみんとひよよんもすぐに会えますよ!」

 

「そうなの?」

 

「まあまあ、話は後デース!まずはタクシーの所まで向かいましょう!」

 

「おぉー」

 

「ねねー」

 

「タクシーで奴らに追いつかれないのか?」

 

「それは大丈夫デース!とにかく今は集合地点まで行きましょう!」

 

「……本当に大丈夫なのか?」

 

「まあまあ、ひよりちゃん。今はほかに行く当てもないから行くだけ行ってみようよ」

 

「……仕方ない、そうするか」

 

ノロの残骸だけを残し、ゼロが去った方向とは逆方向に4人は歩き出した。

 

 

 

 

 

森の中を駆けてから数分もしないうちに見慣れた場所が木々の間から見え、そこへ向けて走るスピードを上げ、森の中から抜け出した。もしも、車が通っていれば引かれていたかもしれないが、そんな事を気にせずに治療できるテントの中に運び夜見を寝かせる。

 

「ゼロ!やはり君だったのか。あまりの速さに隊員達が動揺していたぞ」

 

「それは悪かった。緊急事態だったのでな……」

 

「緊急事態?……な!?夜見!?どうしたんだこの怪我は!?」

 

「……俺が着いた時には既に倒れていた。安心しろ、息はある」

 

「そうか……良かった。他に誰か居なかったか?」

 

「悪いが見ていない……本当なら追うべきだが、夜見が危ういので戻る事にした。すまない」

 

「謝らないでくれ、ゼロ。確かに例の刀使を捕まえることも大事だが夜見も僕達の大事な仲間だ。ゼロの判断は正しいよ」

 

「そう言ってくれるとこちらとしても助かる……ありがとう、真希」

 

「別にお礼は要らないよ……悪いけど夜見の事は任せてもいいかな?」

 

「それは構わないが……追うのか?」

 

「ああ、このまま逃すわけにはいかない……夜見の分もあるからね」

 

「そうか……気をつけろよ」

 

「分かってるよ。それじゃあ行ってくる」

 

真希は逃走中の刀使達を追うべく、テントから出た後車に寿々花と一緒に乗り込み捜索を再開した。

 

「……罪悪感で心が折れそうだ……今は治療する事に専念しておこう……」

 

真実を知る者はこの場でただ1人、真実を胸の内に秘めまずは目の前の女性を治療する事に専念した……

 

 

応急処置程度の治療が終わってからしばらく経つと、テントの外からこちらに向かって近づいてくるエンジン音が聞こえてきた。やがて、車が止まり中から誰かが降りてこのテントに近づいてくる足音がした。

 

「ゼロ、夜見の方はどうだい?」

 

「簡易的だが応急処置は済ませた。今は呼吸も安定している」

 

「そうか……ゼロ、目標の刀使達に逃げられた」

 

「……お前達が無事なだけで十分だ。それに、これはお前だけの失態ではない、俺にも責任がある。あまり気負い過ぎるな」

 

「そんな事はない!僕があの時油断していなければ……」

 

「真希さん……」

 

急に自分自身を責め始めて周りが見えなくなったみたいで、暗い顔をしながら俯いてしまっている。このままでは精神が病んでしまう恐れがあるので、夜見の側で椅子に座っていた俺は重い腰を上げて真希の前まで近づき、左手の中指を曲げて親指で抑えたままの状態で真希のおでこまで移動させる。

 

「おい、真希。こっちを見ろ」

 

「僕が……あの時……」

 

「はぁ……天誅」

 

「痛っ⁉︎いきなり何をするんだゼロ!」

 

「貴様は馬鹿か?」

 

「何だと!?」

 

「この世に完璧な人間なんて存在しない、人間誰しも失敗する事はある……いいか真希、お前は大切な事を忘れている」

 

「大切な事?」

 

「ああ、そうだ。何か分かるか?」

 

「……心当たりがないな。一体僕は何を忘れていると言うのさ」

 

「ふん、仕方ないから特別に教えてやろう……貴様が忘れている事はだな……貴様は1人ではないという事だ」

 

「1人じゃない?」

 

「そうだ、貴様は常に自分1人で成し遂げようとしている節が見られる……心当たりがあるのではないか?」

 

「……確かに。ゼロの言う通りだ。でもそれの何が悪い……僕は親衛隊の一員としてやらなくてはいけないんだ」

 

「その考えは間違いだ」

 

「……僕のやろうとしてる事が間違えているだと?」

 

「そうではない、貴様がどんな事でも1人でやろうとしている事が間違いだと言っている……意気込みは評価するが貴様は無理をし過ぎだ。少しだけでいい、仲間を頼れ」

 

「ゼロ……でも、そんなの迷惑じゃないか」

 

「そう思う奴は放っておけ。俺がその分力を貸してやる」

 

「……いいのかい?」

 

「ふっ、愚問だな。俺は貴様ら親衛隊のサポート要員だぞ?断る理由がどこにある……」

 

「……ははっ」

 

「ふふっ」

 

「……貴様ら、今ので笑う要素が何処かにあったか?」

 

「ごめんゼロ、つい可笑しくて……そうだね、僕は1人ではないんだ」

 

「そうですわよ真希さん、私達は同じ親衛隊の仲間ですわよ?必要な時は力をお貸ししますわ」

 

「ありがとう寿々花……ゼロもありがとう」

 

「礼を言われるような事はしていない……それに失敗したならば次にそれを活かせばいいだけだ」

 

「生きてさえいればチャンスはまた訪れる、だったよね」

 

「……寿々花から聞いていたか」

 

「ああ、寿々花が僕を呼びに来た時にね……今回は失敗したけど次は絶対に捕えてみせるさ。その時は2人とも力を貸してくれないか?」

 

「勿論ですわ」

 

「ふん、気が向いたらな……」

 

「ありがとう寿々花、ゼロ……さあ、帰って紫様に報告しないとだね」

 

「そうですわね、それに夜見の治療も設備が整っている場所の方がよろしいですわね」

 

「そうだな。いつ何が起きるか分からないからな……さっさと帰った方が夜見の為だ」

 

「そうだね、夜見も大切な仲間だから……よしっ、撤収だ!2人とも準備を整えろ!」

 

「先程までとは正反対に元気ですわね」

 

「それは……夜見が心配だからなのではないか?」

 

「そうかもしれませんわね……はぁ、私は真希さんと撤収作業の指揮をとりますのでこれで失礼しますわ」

 

既にいつもの覇気を取り戻しテントの外から威勢のある声がする場所へ寿々花は向かった。

 

「さて、俺も準備するか……まずは夜見を車の中に移動させるか……」

 

現在も寝息を立てている夜見を抱え、車の中に運ぶ事にした俺はテントの後片付けを丸投げして一台の車両に向かい歩いた。そして、夜見を寝かせるためのスペースを確保した座席にそっと降ろしてから、他の隊員達と撤収作業に勤しむ。荷物やテントなど全て片付けた後は心配だったので夜見の乗っている車に乗り本部へ帰還した……

 

 

 

 

 

本部に到着後、早々に夜見を治療室へ運び込み専門のスタッフに丸投げしてから一度自室に戻り一眠りした。

 

「……後で夜見の様子を確認しに行くか。それまでは少しだけ……寝てもいいだろ……」

 

いつもより疲れが残っていたのか、ベットインするとすぐに眠りにつくことが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




長文過ぎてごめんなさい。思った以上に長くなってしまったよ……

だがしかし!ここは自分が1番か2番目位に書きたかったとこなので力を入れてしまうのは仕方ないのだ!!!


少しだけだが、主人公?サイドの面々との絡みがかけて満足満足、一本満足バー!

こ、これで俺も……安心して寝れる……おやすみ……


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内職とコーヒー=優雅な時間?

前話NG集

「我ら親衛隊に刃を向ける事は、即ち紫様に刃を向ける事……その罪はバ◯シーに値します!」

「バ◯ァァァァァァァジィィィィィィィィィ!!!!!」

「ゼロ!?突然どうしたんですの!?応答して下さい!ゼロ!ゼロォォォォォォォォォォ!!!」


……これやってたら絶対怒られる……


少し前、対象の刀使に逃げられ止む無く本部に帰還してから一眠りした後、寝る前に設定していたスマホのアラーム音で起こされた。

 

「『叶え〜られない約束なら〜、そう約束じゃなく戯〜れ言』えいっ……まだ眠い……だが、夜見が心配だから行こうか……もしかしたら無理して動いているかもしれないしな……なんてな」

 

ベットから身を乗り出して立ち上がり大きく伸びをして体をほぐした後、刀は今回部屋に置いて少しだけ身軽になった格好で夜見の居る治療室に向かった。

 

 

 

一眠りする前に来た場所を思い出しながら廊下を1人歩き目的の場所まで辿り着いた俺は、中にいる人物の姿を確認するため扉を開けて一声入れながら入った……

 

「体の調子はどうだ……不在だと?ちっ、まだ本調子でもないのに何処へ行った……いや、待てよ?お花を摘みに行っただけの可能性もあるか?……どちらにせよ1度会って確認した方が良さそうだな。もしも後者の場合は……全力で謝るか……夜見ならきっと分かってくれる筈だ」

 

目当ての人物が不在だったため、その部屋から退室して夜見の向かいそうな場所に移動する。

 

「それ程付き合いが長い訳ではないが、心当たりがあるとすれば……やはり、紫様のいる部屋か作戦本部だな……紫様に会えばまた面倒事を押し付けらる可能性もあるので、先に作戦本部へ行くか……どうか居てくれよ、俺の為に……」

 

この選択した場所に夜見がいなければ絶対に面倒事に巻き込まれる未来しか見えない俺は、祈りながら作戦本部まで向かった……

 

 

 

作戦本部まであと少し、未だ目標は確認できず段々と運命のカウントダウンが始まる中、廊下の角を曲がれば後は一直線に歩けば着くという場所でも聞こえるほどの罵声が聞こえてきた。

 

「忘れるな!沙耶香さえ居れば、お前達など必要ない事を!!」

 

かなり顔を合わせたくない人物の声が聞こえこの廊下を通るのに躊躇いが生じていると、足音がこちらに近づいて来たのですぐさま近くにある部屋の一室に入りやり過ごす……

 

 

「……行ったか」

 

「何が行ったんだい?」

 

「な!?貴様!いつからそこに!?」

 

「さっきからここに居たんだけど……何してるのゼロ?」

 

「それは、あれだ……体が勝手に動いたという奴だ……気にするな沖田」

 

「いや、凄く気になるんだけど……誰かに見つからない為にここに隠れたんでしょ?」

 

「そうだな……少し、いやかなり会いたくないからな……鎌府学長には……」

 

「……それには同意するよ、僕もあの人が苦手だからね」

 

「分かってくれるか……」

 

「まあね、こっちも散々怒鳴られたから会いたいとは思わなくなるさ。それよりも、今なら出て行っても大丈夫なんじゃない?」

 

「そうだな……仕事中に邪魔して悪かったな」

 

「気にしないで、資料を取りに来ただけだから」

 

「そうか、それは良かった。では失礼する」

 

「またね、後で仕事を持って行くから期待していてくれ」

 

「……せっかく忘れていたんだがな。分かった、用を済ませた後に部屋に戻るとしよう」

 

最近手付かずになっていた書類整理などの雑務を思い出し、少し鬱になりながらゆっくりと扉を開け外の様子を確認し、誰もいない事を確認してから部屋を出て作戦本部へ歩き出した。

 

「まあ、鎌府学長に会うよりも仕事をしていた方がマシだから良しとするか……それよりも今は夜見を探さないといけないんだが……ん?あの服装は……夜見か?だが、俺が運んだ時と違う格好だな……確認してみるか」

 

目的地の扉の近くで両手を顔に当てている格好をしている女性が1人佇んでいた。だが、背中越しの為顔を確認できず夜見本人と断定できないので近くまで歩き声を掛けた。

 

「夜見、こんなところで何をしている?」

 

「ゼロ?」

 

問いかけに応じてこちらを振り返る女性は探していた人物であった夜見本人だと分かりほっとする。

 

「夜見の様子を見に行ったが不在だったので探したぞ……おい、その顔はどうした?」

 

「……いえ、何でもありません」

 

「嘘をつくな。赤くなってるのだから見れば分かる……もしや、鎌府学長の仕業か?」

 

「それは……」

 

「やはり奴の仕業か……ちっ!夜見、お前はここで待っていろ。少し用事を思い出した」

 

「待ってください……私は、大丈夫ですので……」

 

「夜見……本当に大丈夫なのか?」

 

「はい」

 

「そうか……当事者である貴様がそう言うのであれば部外者の俺はこれ以上何も言わん。だが、もしも困った事があればすぐに言え……いいな?」

 

「はい……ありがとうございます。ゼロ」

 

「礼は要らん……それにしても、かなり強くやられたようだな」

 

両手を退けている夜見の顔を見てみると、威力が強かったのか遠くから目で見ても分かるほど赤くなっている。とても痛そうな夜見の頬に俺は腫れ具合を確認する為手を添えた。

 

「あ、あの、ゼロ……」

 

「ああ、悪い……やはりまだ痛みがあるか。いきなり触ってすまない」

 

「いえ……大丈夫です……」

 

「そう言ってくれると助かる……だが、先程よりも赤くなっていないか?見た感じ反対側まで赤くなっているような気が……」

 

「……そんな事はありません……気のせいです」

 

「そう……なのか?まあいい、では行くぞ」

 

「ゼロ……何処へ行かれるのですか?」

 

「何を寝ぼけた事を言っている?無論貴様を送り届けに行くという事だ……そうでもしないとまた知らない場所で無理して倒れるかもしれんからな」

 

「……すみません」

 

「謝罪は要らん。こちらも貴様に負担を掛け過ぎた責任がある……だから、今回はおあいこだ」

 

「おあいこですか?」

 

「……そういう事にしておけ、異論は認めんぞ」

 

「はい。分かりました」

 

「これ以上長居していては埒が明かない、さあ行くぞ」

 

「あっ……あの、ゼロ」

 

「話なら後で聞いてやる。今は黙って歩け」

 

「……はい」

 

夜見の性格上、例えその場では理解していても絶対に無理はしないなんて出来ない。紫様の為であれば躊躇わない事を今回の件で知る事が出来たので、ここは強引にでも手を引っ張り逃げられないようにして夜見の寝ていた部屋へと向かった……

 

「着いたな……それで、何か先程言いたい事があったようだが?」

 

「……手が」

 

「手?それがどうし……先に言っておくがわざとではない!断じて!」

 

「……そうですね。ゼロはそんな事しない人です」

 

「何だか信じていないような気がするのは気のせいか?」

 

「安心してください、私は信じています」

 

「それならいいんだがな……それでは俺はここで失礼する。ちゃんと体を休めるように、いいな?」

 

「……はい」

 

「……少し心配だが今は信じて戻る事にするか……またな」

 

夜見を無事送り届ける事に成功し、若干のトラブルはあったもののそれ以外に問題はなく無事に作業部屋へと戻る。

 

 

「……やはりあの時と同じですね。私は一体どうしたのでしょうか?」

 

残された女性は先程まで握られていた手を見つめながら現状、自分の体に起きている事に疑問を持つ。

 

「私は疲れているのでしょうか?……ゼロとの約束もあるので少しだけ休憩しましょう」

 

答えを知る者は誰もいない部屋の中、女性の呟きだけが木霊した……

 

 

 

 

 

夜見と別れてから作業部屋に戻った俺は、既に部屋の中で待っていた沖田から仕事を渡されひたすら作業に没頭していた。

 

「コーヒーが旨く感じない……だと……!?おかしい、前はあんなにも美味しかったのに……酸化でもして味が落ちたか?」

 

以前飲んだコーヒーとは違い、あまり美味しく感じなくなったコーヒーを飲みながら一息をつく。それでもまだ美味しいと感じられる事に喜びを得ているとまたもや来訪があった。

 

「入っていいぞ。沖田」

 

「あれ?何で分かったの?」

 

「……最近よく出歩いているのが貴様しか思い浮かばなかったからな」

 

「あはは、ゼロにそう言われるとはね。僕も落ちた者だ」

 

「その発言聞き捨てならないな。どういう意味だ?」

 

「ええと、今のは何というか……こほんっ!ゼロ、紫様がお呼びだ。それじゃ!」

 

「あ、おい!クソッ!逃げられた……はぁぁ。奴の事は後回しにするとして、紫様の呼び出しか……嫌な予感しかしない」

 

心休まるひと時を過ごしていた最中に余計な重荷を残していった沖田を恨みながらも、重い腰を上げて紫様の待つ部屋へと向かった……

 

 

とある一室の前で一呼吸してから震える手を必死に抑えノックをする。

 

「入れ」

 

「失礼する」

 

「来たか……今回の任務は失敗したと聞いたぞ」

 

「……そうだな、その責任は俺にある。罰なら俺だけが受けよう」

 

「別にそれについては構わない」

 

「何?それでいいのか?」

 

「問題ない……だが、そうだな。せっかくだからゼロには罰を与えてやろう」

 

「……遠慮する」

 

「そう構えるな、特段無理な事はさせない」

 

「それは紫様にとってだろ?俺にとっては違う」

 

「どう捉えるかは勝手だが、これは決定事項だ」

 

「くっ!これが権力というものか!……いいだろう、受けて立つ」

 

「ゼロ。お前は何と戦うつもりだ?」

 

「ワールド!」

 

「……そうか」

 

「……」

 

「……」

 

「さて、用件を伝えるぞ」

 

「おい、今スルーしただろ?」

 

「今回は特別にお前の見せ場を多く用意した。感謝しろ」

 

「この人聞いてないな……いや待て、見せ場?何のだ?」

 

「そんなの決まっている……お前の雄姿を見せる場だ」

 

「待て待て待て、それはつまり前のように休みがなくなるという事だろ」

 

「察しがいいな。現在は他の事にばかり人員を割いている為、荒魂による被害がここ数日対処に遅れている」

 

「それで俺は荒魂討伐の任に就くようにと?」

 

「そうだ。しばらくの間はそちらを優先してくれ。親衛隊だけでももう1つの件は対処できる」

 

「……少し心配だが、確かに荒魂を放っては置けないな。仕方ない、その任務、お受けしよう」

 

「それは助かる。ゼロ、本時刻を持って荒魂討伐の任へと就くものとする。早速だが、少し前に要請が来ていたのでそこへ向かえ」

 

「了解した……要らぬ心配かも知れんが貴様も気をつけろよ」

 

「……ははははっ、本当に要らないな。まったく、やはり面白い奴だな。ゼロ」

 

「こちらとしては割と本気だったのだがな……では、失礼する」

 

こちらが心配している事を笑う女性に背を向けて部屋を退室し、悲しみを紛らわせる為手配されているいつもの車が待っている場所に駆け出した。

 

 

それからというもの、隊員に有無を言わさずすぐに俺の特等席になっている車の席に乗り込み現場まで隊員の運転で向かう。車内には不穏な空気が流れはじめて誰も口を開けないでいると運転手がその空気を打ち破り口を開いた。

 

「と、到着しました!ゼロ!」

 

「……もう着いたのか。早いな」

 

「すみませんが、ここ以外にも荒魂が出現していると報告があるので近場から送り届けるよう指示されているのです」

 

「……そういえば多くの見せ場を用意したとか言ってたな…はぁぁ。少しここで待機してろ。すぐ戻る」

 

「え?は、はい!お気をつけて!」

 

隊員に返事も返さないまま車を降りて荒魂の元まで駆けて行く……現場まで時間もあまり掛からずに到着すると、刀使達が懸命に荒魂と対峙していた。だが、見た限り劣勢のようで徐々に刀使が1人、また1人と飛ばされて地面にぶつかり気絶して写しが無くなる。つい最近から活動するようになった刀使達がいると沖田から聞いていたが、もしかしたら目の前の刀使達なのではないか?

 

「……人員だけ補充しても仕事が楽になるとは限らないのか。勉強になったな」

 

人員補充ばかり気にしていた自分に間違いがある事に気付き、1人反省している間にもまた1人飛ばされる。そして、最後の1人になった刀使は在ろう事か攻撃を防ぎきれずに尻もちをついて御刀を手放してしまった。御刀が無ければ何処にでもいる少女となったその刀使に荒魂は容赦するはずもなく頭で叩き潰しにきた。それでも刀使はその場から離れないままただ目の前で起きている事を見ているだけでいた。

 

「あっ……私、死ぬんだ……っ!」

 

このままでは写しを張っていたとしても危険なので刀使の元まで駆けつけている最中、他人事みたいな感想を言いながら目を閉じてただ待つだけの格好を晒していた事に呆れながらも荒魂を刀で受け止める。

 

「……あれ?痛くない?私死んじゃったのかな?」

 

「三流芝居はそこまでにしておけ」

 

「え?あ、あなたは!?ゼロ様!?」

 

「……苦戦しているみたいだな。すぐに終わらせる」

 

荒魂を押し返し、切っ先を向けて挑発してみる。

 

「図体だけがでかい愚か者が……少し遊んでやる」

 

挑発が効果あったのか、荒魂がくねり出した後俺の方に近づいてきたので、そのまま刀使との距離を離す為荒魂を人のいない場所に誘導した後立ち止まって向かい合うと、突然荒魂が突進してきた。

 

「……下がガラ空きだ」

 

突進を避けて荒魂の腹下まで潜り込み、切っ先で突き刺す。刃の部分が全て貫通して通らなくなったところで柄から手を離してバク転して両手をつき、肘を曲げてから勢いよく伸ばして勢いをつけて足で柄に衝撃を加えてさらに押し込む。予想とは違い貫通はしないまま荒魂の体が宙に浮く。一緒に宙に浮いた俺は刺さってる部分の近くを足場にして柄を握り1度刀を抜いてから、今度は斬り刻んでいく。回転しながら斬って足がつけば向きを変えて足に力を入れて蹴り回転して斬る……段々と重力に従って落ちて行く荒魂と地面との距離が近づいてくると、1度その場から離れ距離を取る。地面に落ちた荒魂が動けない間に飛んで背に乗り刀を突き刺して力を入れながら胴体の後ろまで突き刺したまま一直線に走り、荒魂の体から刀が抜けると今度は大きく後方に飛んで頭の上空から縦一閃に刀を振り落とす。片膝をついた状態から立ち上がり刀を1度汚れを落とすように振ってから刀を鞘に戻す。荒魂の状態を確認もせず背を向けて歩き出していく。

 

「後は任せる」

 

「え?は、はい!」

 

「頼んだぞ……」

 

荒魂は他でも出現していると聞いていたので、後のことは先に居た現場の人間に任せて今も待っている車の場所まで走った。

 

「悪い、少し遅れた……」

 

「いやいや、遅れたとかそんなレベルじゃないから!」

 

「そうは言ってもかなり早く終わらせたつもりでいたんだが、遅すぎたか?」

 

「逆だよ!早すぎなんだよ!」

 

「そうでもないだろ。親衛隊の第一席と第二席はこれ以上の荒魂を相手にした事があるが、それよりは遅いと思うぞ?」

 

「おかしいから!?比較対象間違えてるよそれ!」

 

「おいおい、そんな大声を出すな……耳が痛い」

 

「わ、悪い……はぁぁ。いくら言っても意味がないって沖田さんから聞いていたけど本当だったな」

 

「沖田がどうした?」

 

「いや、何でもない。こっちの話だ……それじゃ次に向かうよ」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

「了解」

 

まだ存在している荒魂は他に数箇所もあるので、急ぎ車を急発進させて向かった……

 

 

それからも荒魂を次々と相手して回収作業などは全て他の隊員や刀使に任せて帰還した俺は、すぐさま部屋へと一直線に向かい刀を大雑把にベットに放り投げて倒れ込む。

 

「……明日からどうなるんだこれ?もう今日だけでかなりしんどい……機会があれば紫様に進言して親衛隊の中から1人回してもらうかなぁ。……無理だな、親衛隊は全員紫様の為にしか動かない信者ばかりだった……でも待てよ?確か結芽ちゃんだけは違ったな。だけど最近調子悪そうだし無理はさせられないよなぁ……はぁぁ。仕方ないけど1人で頑張りますか。それに、少なからずこれで沖田に仕事が回るはずだからな!そう考えるとやる気が出てきた!よしっ!今日は寝る!頑張れ明日からの俺!」

 

少しだけこの任務にやる意味を見出した俺は、明日からの激務に備えカロリーメイトと野菜ジュースを夕食がわりにとってから、景気付けに銭湯へ行って風呂に入り帰って歯を磨き、眠くなるまでの間だけ一冊の古い書物を読み始める。

 

「そういえば本を読むのも久しぶりだな……読んでる本はあれだけど……それにしても、まさかこの前の任務の山に昔行った事がある小屋にあった書物の切れ端を見つけるとはね……もう考えたら負けだなこれは、意味がわからない。どうしてこんな離れた場所にこれがあったんだよ!?しかも、全部揃っていて翻訳というか読みやすいようになって置いてあったし……せめてもう一本の刀があれば良かったんだけどな……ともかく、これで全巻コンプリートだ!弍式はもうマスターしたから、弌式といきたいところだがまずはこの読みやすくなった禁を読むか……別に変な想像はしていない。興味があるというか保険だ保険!」

 

作者が2人いたのか、それとも誰かが持ち去って書き写したのか分からないが予想もつかない場所にある小屋で見つけた本を一冊選んで読み出す。

 

「フリードマンには感謝だな。あそこで電話がなかったら歩き回りはしなかったからな……本当に偶然か、それともこれは運命なのか?……ふぅ、とにかく今は考えないようにしよう」

 

電話中に見つけた小屋は草むらの影に隠れていてよく見なければ分からなかっただろう、そんな事を思い返しながら1ページまた1ページめくって読み進める。大体は見たことあるものばかりであったが、もう1つの書物には無かった記載が目に留まった。

 

「『注 この刀はどちらか片方が存在しなければ効力は半減する』……なんだこの、RPGに出てくる設定みたいなの。せめて半減した効力を詳しく書けよな……ふぁぁ、眠くなってきたしそろそろ寝るか」

 

書物をしまいベットインしてリモコンで明かりを消す。

 

「どうか、激務ではありませんように……おやすみ……」

 

例え叶わなくとも願いながら目を閉じて眠りについた……

 

 

 

 

 

 

 




とうとうここまで来てしまった……嬉しいような悲しいような……

かなりのご都合主義が今回あり過ぎることに悔いはない!!


後残り2話位で1クール終わると思うけどこれで良いのか少し不安になってきた!!


……それでも続けるけどね!!


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駆ける事こそ我が使命……ではない!

今回で書き終えなかったので次話で胎動編はフィナーレだ!


始めと終わりのギャップが激しいが気にしないでくれ……これが仕様だ……






次の朝、分かっていた事ではあるが荒魂が出現したと起床早々作業部屋に入る前に声がかかり、すぐさま準備して現場に車に乗って向かった……

 

「……運動、少し良いか?」

 

「いや俺安藤だからな?運転手だからって混同させるなよゼロ」

 

「……冗談だ」

 

「今の間は何だ?」

 

「そんな些細な事はどうでもいい、最近の荒魂はここに集まって出現していないか?」

 

「良くないが今は我慢しよう……そうだな、確かに最近ここら辺をよく車を走らせてる気がするな。ま、偶然だ偶然」

 

「それはどうだろうな?」

 

「どういう事だ?もしかして、ゼロは何か知っているのか?」

 

「いや、知らん」

 

「知らないんかい!!だったらそんな発言するな!!」

 

「勝手に勘違いしたのは貴様ではないか」

 

「うっ……そうだけどさ。あれ?これは俺が悪いのか?」

 

「無論だ。お前はよそ見をせずに運転しろ、運行」

 

「アウト!!ギリギリアウトだよ!!安藤だってさっき言ったばかりじゃん!!!何なのあんたは!?」

 

「ゼロ……それ以上でもそれ以下でもない」

 

「そういう意味じゃねーー!!!……はぁ、はぁ、はぁ」

 

「運転してるだけで疲れるやつ初めて見たぞ」

 

「誰のせいだ、誰の……はぁぁ、遠山の気持ちが良く分かった」

 

「誰だそいつは?」

 

「……可哀想な遠山、俺は覚えてるから安心して眠れ……」

 

「よく分からない奴だな貴様は」

 

「どうもありがとう……それで、荒魂がどうしたってんだよ?」

 

「いや何、もしも原因が分かればそれをどうにかしてこんな日々とはお別れしたいと思ってな……他に何か情報はないか?」

 

「そう言われてもな、大体が運転だけだからなぁ……あ、でも最近は変な噂を聞いたな」

 

「噂?」

 

「ああ、まあ荒魂とはあまり関係ないと思うけどね」

 

「構わん、教えてくれ」

 

「お、おう……えーと、確か舞草が動き出し始めたとか何とか」

 

「……それはどこからの情報だ」

 

「いやだから、噂だって言ったでしょ。根も葉もないぞ?」

 

「そうか……」

 

「何だ何だ?もしかして、ゼロはそういうの信じる奴なのか?」

 

「否!断じて否だ!」

 

「す、すまん。まさかそこまで否定するとは思ってなかった」

 

「分かればいい……どうやら現場に着いたようだな」

 

「ありゃ、本当だ。それじゃ、俺はここで待機してるから頑張れ」

 

「……羨ましいな。すぐに戻る、それまでしっかり待ってろよ?……では行ってくる労働」

 

「だから二文字しか合ってなーーーーーーーーい!!!!!」

 

運転手の絶叫を背にして現場へ向かった。

 

 

 

今日はインカムを持って来ていたので耳に装着し、現場にいる隊員達と通信をとる。

 

「こちらゼロ、これより加勢する。指示を」

 

『こちらアルファ1、現在避難誘導は完了した。我が隊だけでは抑えきれない。合流後、すぐに荒魂を殲滅してくれ』

 

「もう後ろに居るんだが?」

 

「な!?いつの間に!?」

 

「特に距離が無かったぞ?」

 

「そうだったのか……これより我が隊は荒魂の注意を引きつける。その間にゼロは荒魂を始末しろ」

 

「了解した……それでは背後に回り込み攻撃を仕掛ける。タイミングが整い次第合図をくれ」

 

「了解、みんな喜べ!ゼロが加勢するぞ!!もう少しの辛抱だ、踏ん張れ馬鹿ども!!!」

 

「「「「「「「おおおおおおお!!!!!!!!」」」」」」」」

 

「……移動するか」

 

隊員達の暑苦しい熱気にやられその場から離れて荒魂に気づかれないように背後に回り込む。移動している間、隊員達が荒魂に攻撃を加えて注意を引きつけながら後退し、荒魂も共に隊員達と距離を詰める為ゆっくり動き出す。

 

「こちらゼロ、配置についた。いつでもいける」

 

『こちらアルファ1、これよりタイミングを見計らって合図を出す。それまで待機しろ』

 

「了解した……ふぅぅぅ……」

 

合図が来るまで精神統一の為に深く息を吐いて刀を鞘から抜き構える。

 

『全隊員攻撃止め!!やれ、ゼロ!』

 

「了解した」

 

合図と共に駆け出し、その勢いを利用して胸の高さにある左手に持つ刀の切っ先を右に向けながら荒魂を一直線に斬りながら駆け抜ける……

 

「……少し力を入れすぎたな」

 

斬り抜けて隊員達の前まで来てから刀を振って鞘に戻す。斬られた荒魂は徐々に声が小さくなり倒れ込む。その後、体が溶け出して液体だけがその場に残った。

 

「流石は荒魂戦闘要員なだけはあるな……どうだ、うちの隊に入らないか?」

 

「断る!俺はデスクワークの方が好みだ」

 

「そうなのか?なんでまた荒魂討伐なんて事している?」

 

「……事情があってな……悪いが貴様の隊には入らない」

 

「そうか、それは惜しいが仕方ない」

 

「……そんな事よりも、刀使が見当たらないがどうした?」

 

「それなんだが、他の場所に優先して向かわせたみたいでな。ここには我が隊しかいない」

 

「よく生きていたな」

 

「まあな、他の隊とは違ってヤワな鍛え方はしていないからこの程度の相手なら死にはしない」

 

「……凄いな。俺が来なくても良かったのではないか?」

 

「馬鹿な事をいうな。いくら死ななくても荒魂を倒せるわけではない。ゼロ、来てくれてありがとう。感謝してる」

 

「無駄足ではなかったならそれでいい……そういえば、少し聞きたい事があるんだがいいか?」

 

「ゼロには助けられたから答えられる範囲でならいいぞ」

 

「それでは、ここ最近の何か情報が欲しい」

 

「情報?」

 

「ああ、噂でも何でも構わない。何かないか?」

 

「情報か……そう言えば住民の誰かが変な事を言っていたな」

 

「それでもいい、教えてくれ」

 

「分かった、避難誘導してる時の事だが、避難してる時に浜辺にいた刀使さんがいれば……とか言ってたぞ」

 

「浜辺??」

 

「ああ、何でもその人は今朝方浜辺に行ったのか、釣り道具を持っていたから妄想ではないだろ」

 

「……それはどんな刀使かわかるか?」

 

「残念ながらそこまで聞こえなかった」

 

「そうか……悪いな、時間を取らせた」

 

「構わんよ。この後も他の場所へ行くのか?」

 

「ああ、放置していては被害が増す一方だからな……終わっていればいいんだが」

 

「ご苦労様。あとはこっちでやっておく」

 

「任せた。それでは失礼する」

 

「おう、気をつけろよ」

 

意外と見た目とは裏腹にフレンドリーな隊長と思わしき人物と別れ、今も暇を持て余している羨ましい運転手の待つ車へ戻った……

 

 

「今戻ったぞ」

 

「早っ!?」

 

「どうした?早く戻っては都合が悪かったのか?」

 

「いやいや、そんな訳ないだろ。あはははは」

 

「怪しいな」

 

「そ、そんな事より!ゼロに吉報だ!」

 

「……荒魂が増えたと言ったら斬るぞ?」

 

「恐ろしいなお前!?そうじゃなくて逆だよ逆、他に刀使を回せた事で無事に各地の荒魂を討伐できたって先程本部から連絡が入った」

 

「嘘……だろ……!?帰れるのか俺は!」

 

「そうだぜ!さあ、帰るぞゼロ!俺達に待っているのは残すは帰還することのみだ!」

 

「よし!発進しろ安藤!!」

 

「覚えてくれたか!よっしゃ!かっ飛ばして行くぜ!!」

 

テンションが上がった2人は速度制限の表記を無視して本部へと帰還する……

 

 

本部に帰還して安藤と別れ有頂天気味な俺はスキップをしそうなぐらいに軽い足取りで部屋へ向かう。その途中、俺は奴に会ってしまった……

 

「あれ?ゼロ?今日は早いね」

 

「ふん、俺にかかれば一瞬だからな」

 

「とか言ってるけど一箇所しか行ってないだろ。聞いたよ?他の場所に刀使を増員させたおかげで無事に討伐出来たって」

 

「……知っていたなら最初からそう言え」

 

「ごめんごめん、それじゃゼロはもう今日は暇なんだね」

 

「また荒魂が出るまではな……それがどうした?」

 

「言質はとったよゼロ。それじゃ書類は部屋に運んで置いたから後はよろしく、それじゃ」

 

「は?……書類を運んで置いただと?おい!……いない、クソッ!嵌められた!」

 

言い返す暇もなく沖田は逃走していた……

 

「はぁぁ……やはりゼロの休みはゼロだったか……ギャグを言ってないで早く終わらせるか」

 

誰もいない廊下で1人俯きながら作業部屋と戻り置かれてあった書類を1つずつ終わらせていった……

 

 

 

次の日、また次の日からも同じように荒魂が現れれば出動し、時間が空けば部屋で書類整理の日々を過ごす事となった。

 

「……ペンが重い……だと……!?」

 

「馬鹿なことやってないで仕事しなよゼロ」

 

「誰のせいだ誰の……まあ、やるがな」

 

「ゼロって変なところで律儀だよね」

 

「……もうどうとでも言え。こんなのすぐに終わらせてやる」

 

「良くやってくれてるよゼロは……おかげで職員達は少し楽ができる」

 

「職員の中に貴様が含まれていなければ喜んでいたのだがな」

 

「まあまあ、そんな事言うなって……誰か来たみたいだよ」

 

「これ以上増やして欲しくはないのだが……入っていいぞ」

 

ノックした相手に心当たりがないがこのまま扉の前に立たせるのも悪いので、沖田との会話を中断して入るよう促す。

 

「失礼します」

 

「珍しいね、僕以外がこの時間にここに来るなんて」

 

「貴様は少し見習え……それで、何か用か?」

 

「はい。ゼロ、紫様からの伝言です。現在の任を離れ再度親衛隊のサポートに入るようにと」

 

「……そうか、伝言感謝する」

 

「いえ、それでは失礼します」

 

伝言を伝えた後、職員はすぐに戻っていった。

 

「そう言うことだ」

 

「うわぁ、凄い嬉しそうだね」

 

「まさか、正直今も震えている。ここから離れなくてはならないとは残念だ。だが仕方ない、紫様からの命令だからな」

 

「はいはい、それじゃ僕は戻るね……あ、言っておくけどそこにあるのはやらないからね」

 

「何?」

 

「当たり前だよ。仕事の引き継ぎをすれば効率悪くなるだけだからね。それじゃ頑張って」

 

「待て!……まあいい、これさえ終われば俺は……ふ、ふふ、ふははははははは!!!!」

 

もう終われば自由になれる事を知った俺を止める者はいない!!さあ、始めよう!

 

「ゼロから、いや、ゼロへと終わらせるデスクワークの再開だ!!」

 

沖田が居なくなった後だからではないが、ペンが軽くなったような気がして書類を今日の内に終わらせて久しぶりに早めに部屋へ戻って寝てしまった。

 

 

 

 

 

 

次の日、目を覚ましてスーツに着替え仮面をつける。それから刀を所持して部屋を出てみるとなにやら騒がしくなっていた。気のせいか、昨日より空気がピリピリしている。だが、今の俺には関係無いので指示があるまで作業部屋で待機する。

 

「まったく、これだから……暇な事は最高な事だ!今日の朝日は輝いているな。まるで俺を祝福しているかのようだ」

 

気分良く椅子に座りながら手を組んで目を閉じてこれまでの事を思い返して感傷に浸っていると電話が入った。

 

「誰だこんな時に……あ?こっちのスマホという事は……また面倒事じゃないだろうな」

 

画面にはフリードマンという文字が映し出されていた。

 

「……よし、無視しよう。どうせろくな事ではないだろう」

 

しばらく机にスマホを置いて鳴り止むのを待つ。しかし、いくら待っていても鳴り止む事がなく煩く感じてきて痺れを切らし、通話のボタンを押す。

 

『やっと出てくれたか』

 

「……貴様も邪魔をするか」

 

『何の事だい?』

 

「……悪い、何でもない。何かあったのか?」

 

『……ゼロ、君にまた頼みたい事がある』

 

「はぁぁ。やはりそうなるか……それで?」

 

『実は……今夜、そちらに6人の刀使達を向かわせる事にした』

 

「そうか……はぁ!今何と言った!?」

 

『だから刀使達をそちらに向かわせると言ったんだ』

 

「……すまないが理解できない。馬鹿なのか?」

 

『普通はそうなるよね。だけど、こちらにもこれしか打つ手がなくなってしまってね。止む無くだよ』

 

「打つ手なし?舞草の連中はどうした?」

 

『今は折神家の監視が強化されて動けないんだ。他にも美濃関は刀使の御刀を滞納させられている』

 

「……俺の知らない間になにがあった?」

 

『それは僕が聞きたいよ。とにかく本部に送り届けるから後は頼んだよ』

 

「待て、前に言ったがこちらにも事情がある。今回ばかりはどうにもならん」

 

『そうだね……だから、君にはそこへ向かう刀使達に手出ししないで欲しいんだ。お願いできないかな?』

 

「……他の親衛隊はどうする?」

 

『そこは彼女達に頑張ってもらうしかないね』

 

「……覚悟は出来ているんだな?」

 

『勿論だよ。彼女達自身から言い出した事だからね』

 

「……いいだろう。俺は手出ししない。その代わりそいつらがどうなろうとも手を貸さない……死んでも恨むなよ」

 

『分かってるよ……それじゃあね』

 

「一応健闘を祈ると言っておこう」

 

『ありがとう。この事は内密に頼むよ』

 

「承知した……」

 

まだ理解できてはいないが一度通話を終了してスマホをポケットにしまい1人悩む。

 

「……馬鹿なの?死ぬ気なの?……でも覚悟は出来ているみたいだったな……それに手出しは出来ない……俺は本当に見ているだけでいいのか?……今夜と言っていたな。それまでまだ時間はある……よし、ここで寝て考えるか」

 

どうせまだ時間がたっぷりとあるので机に突っ伏しながら考える事にした。

 

 

 

いつの間にか寝ていたようで気がつくと外は暗くなって月が綺麗に光っていた。

 

「月が綺麗だ……こんな時は団子でも食べたくなるな……どうすんのよ俺?もう夜になってるんだが……時間が無くなったか……ふん、ここは俺の得意な臨機応変でいくか」

 

俺は……考える事を放棄した。もう何も怖くない!

今はまず状況がどうなっているのか知るため席を立つと何気なく外を見てみると、遠くの空から何かが飛んできているのが見えた。

 

「早いな。時速何キロだ?……6つもあるが……6つ?まさか!?ちっ!来るのが早すぎだ!!」

 

すぐに支度を整えてから、今し方本殿近くに落ちた場所まで走り出す。

 

 

走り出してからしばらくの間、周りを気にせずに本殿まで来たが、幸いな事に誰とも会わずに来れた。

 

「うっ、さっき走りながら食べたカロリーメイトが……ごくっ……はぁ、危ないもう少しでカロリーゼロになるところだった……確かここ辺りに落ちたと思うんだが……フリードマン、貴様は本当に科学者だな。コンテナに乗せる発想は俺には無かったぞ……」

 

周囲を見回すと部屋の窓から見えた数と同じく、地面に6つ突き刺さっているコンテナを見つけた。

 

「……まあ、中に乗っている刀使は既にいないか。向かうとすれば……祭殿か?だが、あそこには折神家ご当主しか入れない場所だが……何か手掛かりがないかコンテナを調べるか」

 

明確な目的を聞いていない為、少しでも情報が欲しい俺はコンテナの中を全て調べる。

 

「……始まったか……今行ったところで何も手を出せない事だから、今はコンテナを調べるのに専念するか……それにしても、コンテナ毎に香りが違うがこれは何の香りだ?消臭剤を使い分けているのか?……やはり、科学者の考えることは理解できないな」

 

本殿の方角から聞こえる刀の打ち合う音をBGMに、再びコンテナ全てを調べる事にした。

 

 

コンテナ全てを調べ終え、月を見上げながらひと息つく。

 

「……やはり手掛かりはないか……そういえば、音が止んだが決着が着いたか?……せめて供養してやるか」

 

コンテナから離れ先程まで聞こえていた場所である本殿内に跳んで屋根を乗り越えて入る。

 

「さっき聞こえた声が結芽だったような気もするが……気のせいだったか。この荒……ペットには見覚えがある……確か長船の刀使のペットだったな……南無……さて、運ぶか」

 

放置していて気分が良いものでもないので、倒れてる刀使達の元に近づいて運ぼうとすると、声が聞こえた。

 

「ね、ねー」

 

「こいつ、生きていたのか!?見た目によらずタフだな……という事はこいつらも……温かいな。まだ生きてるのか……仕方ない、端の方にでも寄せておくか。ここでは通行人の邪魔になるだろう」

 

まだ息がある刀使達とペットを順番に端の方へと運んだ後、また音が聞こえる場所へと歩く。

 

「寒いが我慢しろよ……これ以上は面倒見なくてもいいだろう……ん?これは何だ?」

 

歩いている途中、足元に何か手の跡があったので観察してみる。

 

「この手形は……熊ではないだろうし、どんな動物なんだ?それにこれは血だな。しかもそれ程時間が経っていない……向かった場所は祭殿の方だな……やはり何かあるのか?あそこに何があるか今まで聞いていなかったが……暇だから確認しに行くか」

 

祭殿に何かがあると踏んだ俺はこの目で確かめる為向かう。途中から血があちこちで見受けられたが自分にありはトマトジュースだと暗示をかけてあまり見ないように歩いた。

 

「あの建物でも音が聞こえるが面倒だ、屋根からショートカットして行くか」

 

中には入ってはいけないと頭の中にアラームが鳴り響いていたのでそれに従い、屋根を伝って祭殿へ向かう。

 

 

それから歩き続けていると、前方には階段に立っている寿々花と木に背を預けて休んでいる結芽と、それを暗い顔をして見ている真希の姿があった。

 

「どういう事だ?……いや、分かっているが認めたくはない…………結芽……」

 

真実を知った俺が遠くを見つめながら呆然としていると、真希が祭殿の方へと走り出した。

 

「この状況でも行動できるとは凄いな……俺は動けないのにな……ははは……せめて命を差し出せれば良かったんだがな……そうだ、まだこいつがあった……諦めるのはまだ早いか……だが、一本しかないがいけるか?それに、俺が耐えられるかどうか……覚悟決めるか」

 

1度目を閉じて深呼吸し心を落ち着かせ、ゆっくりと息を吐いて目を開ける。そして、結芽のいる木の場所まで歩き出した。

 

「ゼロ……ですの?」

 

「悪い、遅れた……真希は祭殿に行ったのか?」

 

「ええそうですわ」

 

「そうか。それは良かった」

 

「どういう意味ですの?」

 

「……今からやることを黙って見ていないだろうからな、真希は」

 

「ゼロ?」

 

「……寿々花、約束して欲しいことがある」

 

「約束?こんな時に一体何を……」

 

「いいから黙って聞け……これからやる事に手出しはするな。何が起きてもそこで見ていろ……いいな?」

 

「そう言われましても、何をするんですの?」

 

「それは言えない……それで、貴様は約束できるのか?できないのであればすぐさまここから立ち去れ」

 

「……本気のようですわね。分かりましたわ、約束しますわ」

 

「そうか……それともう1つだけ、出来ればこの事は他言無用で頼む」

 

寿々花の返事を待たずに鞘から刀を抜いて、鞘はその場で離して両手で柄を握りながら結芽の前まで移動する。

 

「ゼロ、あなたは……」

 

「言っておくが貴様の考えている事とは違うからな……なあ、寿々花。知っているか?死後は特別な理由がなければ24時間経過するまで火葬してはいけない……何故だか分かるか?」

 

「それがどうしたんですの?結芽はもう……」

 

「死んでいるな……だが、24時間は経過していない。先程の答え合わせだが……24時間以内であれば蘇生する可能性があるとされているからだ」

 

「まさかあなたは、結芽が生き返るとでもいいますの?」

 

「普通は不可能だろうな……だが、俺にはこれがある」

 

「御刀?」

 

「厳密には違うがな……俺は可能性が僅かでもあれば絶対に諦めない。例えこの身が朽ちる果てる事になったとしてもな……」

 

「ゼロ!何をする気ですの!?」

 

「それはだな……」

 

そう言って両手を上げて刀を構え、逆手持ちに変える。

 

「……こうするんだ!!」

 

そのまま振り下ろし、そして……己の腹を深く突き刺した。

 

「ガハッ……」

 

「ゼロ!!」

 

「来るな!!……はぁ……寿々花、約束を忘れたのか……」

 

「ですが!?」

 

「……はぁ……いいから……黙って見てろ……ゴフッ……はぁ……」

 

「……ゼロ……」

 

「はぁ ……はぁ……さぁ、ここからが正念場……だ……」

 

多量の血が腹から流れ出し、もう立っていられなくなり地面に倒れる。少しずつ呼吸も弱くなり、やがて息が止まった……

 

「………………」

 

「そんな……嘘ですわ……ゼロ……」

 

階段をゆっくりと降りてゼロの元へ近づき、屈んでゼロを見下ろす。

 

「……私があの時止めていれば……ゼロ……」

 

寿々花が自分を責めて唇を噛み締めながら地面を見つめている間に、ゼロの体の一部に変化が現れる。突き刺さった刀が徐々に光を帯びて輝き出した。

 

「これは……何ですの?」

 

「……ガハッ」

 

「ゼロ!!」

 

「はぁ、はぁ……貴様は約束も守れないのか……はぁ……」

 

口についた血を服の裾で拭い取り、呼吸を無理にでもして肺に酸素を入れる。何度も呼吸をして少し楽になると輝いている刀を腹から引き抜き立ち上がる。

 

「……ここまでは書物通りだな」

 

「何のことですの?」

 

「こっちの話だ……最後の仕上げだ、今度は約束を破るなよ」

 

「……はぁ、分かりましたわ」

 

「……やるぞ」

 

右足を引き胸の高さで刀を構え、上半身を右にひねりながら腕を引く。切っ先を結芽に向けてひと呼吸してから禁忌の力を行使する……

 

「『オートラベス……バァァァァス!!!』」

 

掛け声と共に結芽の心臓に刀を突き刺す。刺さったところからは血が流れずに、その場を軸として円状に結芽の体が刀と同じ光を纏い始める。

 

「何が起きてますの!?」

 

「……ガハッ……まだだ……」

 

刀に何かが吸い取られて少しずつ思考が定まらなくなっていくのにも構わず、突き刺したままの状態を保つ……だが、やがて刀の輝きが弱くなっていき、ついに刀から光が失われた……尚も体が光続けている結芽から刀を引き抜く。

 

「……クソッ!やはり駄目か……すまん、寿々花……結芽を救えなかった……後は頼む……」

 

鞘を拾い刀を鞘に戻してその場から逃げるように祭壇の場所へと歩いていく……

 

「ゼロ!待ちなさい!聞いていますの!」

 

「……寿々花、ここでお別れだ……さよなら」

 

「ゼロ!!」

 

最後の望みに託してみたが上手くいかずに失敗に終わる。もう全てがどうでもよくなりながらもふらふらと祭壇へ歩いていく……ただ1つの感情だけを残して……

 

「折神紫……いや、大荒魂……貴様が無理をさせなければ結芽は……貴様だけは絶対に許さん……ガハッ……」

 

 

 

 

 

 

 

____________________________________________

 

ゼロが立ち去った後、残された寿々花は1人呆然としていた。

 

「……そうですわ、結芽の処置をしなくては……」

 

何を考えればいいのか分からなくなり、今目の前で起きた出来事の整理を止めて結芽に近づき、思いつめた顔をしながら少女を見つめる。

 

「結芽……あなたは幸せでしたの?……私はあなたに会えて幸せでしたわ……だから、せめて荒魂になる前に安らかに眠りなさい」

 

今まで過ごした日々を思い出しながらそっと結芽の顔に触れる。しかし、予想とは反した感触が寿々花の手に伝わってきた。

 

「そんな!?……今動きましたわよね?……これは夢ですの?」

 

今度は脈を測るため頚動脈を触って確認する。

 

「やはり脈がありますわ……ゼロ、あなたは一体何をしたんですの?」

 

共に過ごした仲間でありながら何一つ詳しい事を知らない人物が、先程歩いて行った場所を見つめながら寿々花が呟いた言葉は、風に吹かれて消えていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




……この後どうなるか……作者は今も考え続ける……

本当にどうしよう?マジで分からなくなってきた……


早く波瀾編が書きたくてネタが思いつかない作者はこの後どうするのか?……続く!!


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最後の任務……

……最後の方がおかしくなった……でも、もういいや。諦めよう ……


人間、諦めが肝心と誰かが言っていたから大丈夫だろ!


最近寝不足で頭が働かないんだけど、どうすんのよ俺!?



正解は〜……Cエごほんっ、本編の後!!


暗く長い道を黙々と進み、血を撒き散らしながらも体を動かし続ける。

 

「……はぁ……はぁ……あそこか……」

 

前方から聞こえてくる音に向かって歩み続ける。鞘を持つ右手に自然と力が入り、痛みを堪える為歯を食いしばる。

 

「……はぁ……はぁ…………あれは……真希か……ガハッ」

 

尚も歩き続けていると見慣れぬ場所に辿り着き、そこで見知った人物を見つけた。

 

「ここで何をしている……」

 

「ゼロか……その怪我はどうしたんだ!?」

 

「気にするな……ただのかすり傷だ……ガハッ」

 

「そんなわけないだろ!早く手当てしないと!」

 

「要らん……それよりここで何をしている……」

 

「それは……」

 

「そっちに何かあるのか?……あれは……紫様か……」

 

「……ゼロはあれを見ても驚かないんだね」

 

「まあな……そうか、奴は……大荒魂は……やはりこうなったか」

 

「ゼロ、君は知っていたのか?」

 

「最初から知っている……これで奴とも終わりだな……」

 

「知っているだと?それなら何故……ゼロは今まで共に行動していたんだ!」

 

「……契約だ……人々に危害を加えなければ協力すると……」

 

「……なんでそんな事を?」

 

「皮肉な話、奴のお陰で荒魂による被害は減った……だから、協力していた……それもここでおしまいだがな……最後に貴様に会えて良かった」

 

「ゼロ?」

 

「別れの挨拶ぐらいはしておきたかったからな……さよならだ、真希」

 

「何を言っているんだ?おい!待ってくれ!ゼロ!」

 

真希の呼び止めに応じず、その場から紫様……大荒魂がいるフロアへと飛び降りる。

 

「お前の剣は私に届く事はない。折神紫を超える刀使は……」

 

「大荒魂が刀使を名乗るとは……世も末だな」

 

苦しくて息もままならないながらも、必至に平静を装いながら大荒魂を挑発する。

 

「貴様は……ゼロ……」

 

「久しいな、紫様……今は大荒魂と言った方が良いか?」

 

「な!?ゼロ、お前は気づいていたのか!?」

 

「無論だ……紫様に初めてあった時から気づいていた……そうだよな、大荒魂」

 

「そうだ。ゼロ、貴様は初めて会った時から私の正体に気づけた唯一の人物だ」

 

「最初からだと?それならどうして奴に協力していた!?答えろゼロ!!」

 

「……あの時の奴は無害だったからな……奴のお陰で無駄な血を流す者も減った。故に、協力したまでだ」

 

「やはり貴様は敵だったのか……」

 

「……そう解釈するのが自然か……別に恨んでも構わない……だが、今は先にやる事があるので話は後だ」

 

「……何をするつもりだ」

 

「奴に一矢報いるだけだ……大荒魂よ、初めて会った時の契約を覚えているか?」

 

「ああ、覚えているぞ」

 

「そうか……それでは、人々に危害を加えた時……貴様を斬ると言ったのも覚えているな?」

 

「ふん、そんな事も言っていたな……それがどうした?」

 

「……ここに倒れている刀使達も同じく人だ……先程から見ていたが、貴様自ら危害を加えていた……故に、俺は契約通り貴様の敵となり貴様を討つ……異論はあるか?」

 

「ふん、戯言を……今の貴様に何が出来る?そんな体で私を討てるとでも?」

 

「確かに無理かもしれない……だが、それでも俺は……全身全霊をもって貴様を討つ!」

 

「まさか貴様がここまで愚かだったとはな……やってみるがいい」

 

「そのつもりだ……出し惜しみしている暇が俺にはない……悪いが手加減なしで相手させてもらうぞ!」

 

鞘から刀を抜き出して切っ先を向け、今も余裕な態度を見せている相手を仮面越しに睨みつける。

 

「……せいぜい足掻いてみせろ」

 

「……ふん、俺に猶予を与えた事を後悔するなよ?」

 

刀を握る左手と鞘を持つ右手を下ろして深呼吸し、大きく息を吐いてから地を思い切り蹴って相手の懐に移動する。

 

「はぁぁ!!」

 

思い切りよく刀を振り上げて胴体を斬ろうとするも、簡単に刀で受け止められ残りの5本の刀がそれぞれ別の方向から斬りかかってくる。

 

「遅い!」

 

5本の剣を見極めて避け、避けきれなければ鞘で軌道を変えて逸らし、下段からの斬り上げには自身の持つ刀を振り下ろして弾く。突きの攻撃を仕掛けられれば刀で逸らして横に受け流し、上段からの振り下ろされた攻撃は半歩程体をずらして最低限の動きで躱す。

 

「……なぜ当たらない」

 

「ふん、貴様の攻撃は手数が多すぎる……だからこそ、重ならないようにする為僅かな隙が出来ているのだ……刀が多ければ勝てるとでも思ったか?」

 

「貴様っ!!」

 

挑発にのった大荒魂が先程よりも速度を上げて斬りかかるも、今度は腕を下ろしたまま全てを躱しながら徐々に距離を詰めていく。そして、自身の間合いに入ったところで斬り上げてまずは左腕を肩から分断し、そのまま体を回転させて攻撃を避けた後に切り上げた状態のままの腕を振り下ろして右腕を肩から切り離す。

 

「……凄い……これがゼロの実力……」

 

「あり得ない……貴様は一体何者だ……」

 

「貴様がよく知っているはずだ……親衛隊第0席のゼロだ……今は、元だがな」

 

「おのれゼロ……刀使でもない貴様に何故勝てない……」

 

「それは俺が人間だからだ……貴様には分かるまい……これこそが人という脆弱なる存在の力だ……」

 

「……ゼロ、貴様は絶対に排除しなくてはならない」

 

「ふん、やってみるがいい……荒魂である貴様に出来るか?」

 

「貴様ぁ!!」

 

尚も写しを張り直せない様に斬り続ける事で、大荒魂は残った4本の刀で対処するのが精一杯の中互いに語り合う。それからも繰り広げられる目の前の異様な光景に、少女は刀を持ちながらも目を奪われていた。

 

「これがあいつの……終焉の異名を持つゼロの戦い……一体何者なんだ?」

 

幾度も打ち合う中、負傷しながらも傷1つつけられていない人物を見ながら少女は呟く……これならば大荒魂を倒せるのではないかと思った矢先、事態は最悪な結末へと向かった。

 

「……くっ!」

 

「……終わりだ、大荒魂よ」

 

4本のみとなり先程より隙が生じるようになった大荒魂が、全ての攻撃を今まで避けていた人物の行動が予測できず、避けられると思った4本の刀全てを弾かれて互いにぶつかり合う。まるで軌道を読んでいたかのような剣さばきに驚愕して隙を生んでしまい、それを見逃すはずもないゼロは切っ先を大荒魂が取り憑いている折神紫の心臓に向けて突きを放った……

 

「……な!?」

 

だが、突然ゼロの体から急激に力が抜けていき動きが鈍くなる。人であれば気づかない程の変化であったが、目の前の大荒魂には見抜かれてしまい、一本の刀に全神経を集中させて隙が生じているゼロの腹を突き刺した……

 

「……ガハッ……タイムリミットか……」

 

「ふん、残念だったな」

 

「……流石に分が悪かったか……」

 

大荒魂が刀を抜くとゼロは膝をつき前のめりに倒れた。

 

「ゼロ!」

 

「……ゴホッゴホッ……やはり最強の……刀使と言われるだけの実力があるな……」

 

「……貴様が最後、刺し違えていれば倒せたかもしれなかったものを……ゼロ、何故貴様は最後躊躇した?」

 

「……はぁ、はぁ……共に過ごした仲だから……憎くても貴様を……殺したくないと思ってしまった……ゴフッ……はぁ……」

 

「ふん、本当に貴様は面白い奴だな……荒魂相手にそんな事を言うのは貴様ぐらいだ」

 

「……俺は……己の心に従ったまでだ……はぁ……はぁ…………」

 

「ゼロ、せめてもの情けだ……お前はそのまま果てるがいい」

 

「………………」

 

「ゼロ!!」

 

「無意味だ。その人物は既に虫の息だ……もうじき息絶えるだろう……」

 

「そんな……」

 

「人の心配をしている暇があるのか?次はお前だ……十条姫和」

 

「……ああ、そうだな。お前は私が倒す!!」

 

「姫和……逃げ……ろ……」

 

「……すまないゼロ……私はここで逃げるわけにはいかない!」

 

「お前に出来るのか?……ゼロが動けない今、折神紫に敵う者はこの世に……」

 

大荒魂が最後まで言い切る直前、後ろから物音が聞こえてきた。

 

「紫、久しぶり!」

 

先程まで倒れていた少女が立ち上がりながら刀を左右交互に持ち替え、友達に挨拶するような気軽さで話しかけてきた。

 

「……湊」

 

「……可奈美?」

 

「……貴様は……誰……だ……」

 

共に戦ってきた仲間である少女の雰囲気の変わりように、姫和と俺は違和感を覚える。

 

「……あり得ない」

 

大荒魂から発せられる言葉の意味が分からず困惑するのも束の間、限界間近の状態で意識を繋ぎとめていた俺に突然の目眩が襲ってきた。

 

「……クソッ……まだ……終わってない……のに……」

 

突然の目眩に抵抗できず、結末を見届けられないまま俺は……意識を手放した……

 

 

 

 

 

 

_____________________________________

 

次に目覚める事はないと思っていたが、眩い光が瞼越しに伝わってきたせいで無理矢理覚醒させられて意識が戻り始める。

 

「……案外俺もタフだな……」

 

意識を失った後、どれ程の時間が過ぎていたのかも分からずにいる俺は、何よりも気にしていた2人の少女達の生死を確認する為目を開けて周囲を僅かに動く首を動かして確認する。

 

「……いた……ここからじゃ分からないな……っ!」

 

体に力を入れると腹が痛み、悲鳴をあげそうになるのを我慢しながらゆっくりと体を動かし、両手をついて身を起こす。そして、両手に鞘と刀を持ち、刀の切っ先を地面に突き刺して自身の体を支えながら足に力を入れて立ち上がろうとするも、バランスを崩して倒れる。それでも諦めずに再度立ち上がろうと試みるが上手くいかず時間がかかり、何度目かになってようやく立ち上がる事が出来た。まだ不安定なバランスの足取りでゆっくりと倒れている2人の元まで歩み寄り見下ろすと2人の吐息が僅かに聞こえてきた。

 

「……はぁ……はぁ……生きているな……だが……一体何が起きた?」

 

そこには2人の少女の他にもう1人、大荒魂でもあった折神紫が近くで倒れていた。細心の注意を払いながらその姿を観察していると、そちらも僅かに胸が上下していたので刀を構える。

 

「……攻撃してこないか……だが、安心はできないな」

 

先程までの姿と違い、今は普通の人にしか見えない折神紫相手であっても警戒を解くような真似はせず、ポケットに隠し持っていたスペクトラム計を取り出して荒魂の存在を確認する。

 

「……反応しないだと?……あり得ない……奴は……折神紫の体から離れたのか……それとも、この2人が……荒魂だけを消し去ったのか?」

 

今も目を開けないまま息をしている2人を見ながら現状を分析するも、見ていなかった俺に分かるわけがないと結論づけて考えるのを止めた。

 

「まあいい……これでようやく終わりだ……見ていてくれたか……結芽」

 

救えなかった少女の名を呟き上を見上げる。本当は自身の手で終止符を打ちたかったが、同じ結末を迎える事が出来たので素直にその事実を受け入れた。

 

「……ゼロとして生きるのもこれで終わりだな……さようなら……紫様」

 

今まで共に過ごしてきた人物であったのが、今ここにいる折神紫なのかは分からない。それでも、礼儀として本人に聞こえずとも別れの挨拶を告げ、その場から立ち去った……

 

 

 

 

 

______________________________________________

 

立ち去った後、親衛隊ではなくなったので荷物を片付ける為本部へと戻る。途中、周囲を見回している真希や意気消沈している鎌府学長とその傍に居る夜見、結芽を抱えながら歩いている寿々花を見かけたが、全て遠回りしながら会わないように移動した。合わせる顔がない……今までどんな顔をして接していたかも分からなくなっていたので、会わないのが最良だと自分に言い聞かせ、本部にある自室まで誰にも会わないようにして戻った……

 

 

「……廊下とかに血痕をつけてしまったが、沖田に後は任せるか……着替えも部屋着と替えのスーツ1着しかないから軽いな……本当に俺には休日が体を休める為のものでしかなかったのだな……これ以上考えないようにしよう……」

 

血のついたスーツを脱いで袋に入れて縛り、怪我した場所を包帯で巻いてから部屋にあった替えのスーツに着替え、部屋着などは大きめのボストンバックに詰め込む。刀は竹刀袋に入れて怪しまれないように隠し、二台のスマホを初めから備え付けてあった机の上に置く。最後に本を何冊かバックの中に詰めてから持ち上げ、竹刀袋を肩にかけてから締めに掛かる。

 

「……これでもうここには2度と足を踏み入れないだろう……アディオス」

 

名残惜しいがこれ以上ここにいてはいつまでも、結芽の死を思い出し引きずってしまいそうだったので窓を全開にして逃げるように飛び降りた。地面に着地すると間髪入れずにその場から走り出して敷地から遠く離れた場所まで逃げる。追っ手が来ることも考慮して、とにかく走って走って走り続ける……

 

 

体力が尽きるまで闇雲に走り続けていた体が限界に近づき、思わず何もない所で躓いて盛大に転び、荷物を全て手放した。

 

「どわぁ!……痛っ、俺にはドジっ子の才能でもあったのかよ……はぁぁぁ」

 

倒れて仰向けになりながら夜空を見上げると、星々が無数に輝いていて少しの間眺めていた。

 

「本当に色々あったな……親衛隊はこれからどうなるんだ?……いや、俺にはもう関係ない事か。そもそも人1人も救えない俺が考える事自体間違っている……それに、あの3人なら何とかなるだろ……結芽ちゃんには生きていて欲しかったな……」

 

最後の時も側に居る事が出来なかったのを悔やみ、自分を責めた。そんな事しても意味が無いとは知っていても自分の不甲斐なさを責めずにはいられない……

 

「過ぎた事を考えていても生き返る訳じゃないんだ、前を向いて歩かないと……それは分かってはいるんだけどな ……はぁぁぁ、これからどうするかな?」

 

今後の予定を決めないまま逃げ出した俺は、これからの人生を夜空を見上げながら1人、山の上で考える……

 

 

「……決めた。次があるか分からないけど、今度は誰も失わないように自分を磨こう……」

 

時間を確認する事もなくひたすら悩み続けた結果、2度と同じ過ちを繰り返さないために今度はゼロとしてではなく、神条零次として生きていく事にした。

 

「そうと決まれば家に帰るとするか……でも、後少しだけここで気持ちの整理をしてからだな……」

 

酷く疲れきった心を癒す為、もうしばらく星を眺めながら1人だけの時間を過ごしてから家に帰った……

 




そうだ、寝ればいいじゃない……だって、PTSDの患者だって寝ていたら治ったと聞いたことあるもん!!


……まあまあ、そんな事を気にしていても仕方ないので放置しておいて……



やっとこれで波瀾編に次から突入だーーーーーーー!!!!!!


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職人からのスタート……その名は零次!
再スタート


今回はまだ波瀾編に突入していません。ご注意下さい。



……学校生活は今まで書いていなかった事にさっき気づいた。



さあ、今回は久しぶりにホワイト展開だ!!!


親衛隊を脱退してから早くも2日が過ぎた……

 

「暇だな〜」

 

家でだらだらとテレビを見ながらそう呟く俺は、今日が平日なのも気にせずにコーヒーにミルクを入れて口にする。

 

「たまにはミルク入りコーヒーもいいものだな……おっと、つい口調が変わっちゃったな。いつまでもこの口調じゃなくてもいいのに……癖がついたみたいだな。まあ、知り合いと会う事もないだろうし別に気にしなくていいか」

 

本部での生活が抜けきれず思わず喋り方が変わる事を気にもとめず、再びコーヒーを飲む。朝のテレビのニュースはどこも先日の事を取り上げてばかりでつまらなくなり、やる事も特にないのでテレビを消して映画を観に行く事にした。

 

「確か今はあれが上映中だったよな。二刀流の銃も使う覆面男のミュータント……続編楽しみだったんだよね」

 

お目当ての映画が上映開始される時間が後1時間後であるのをネットで確認し、映画館まで少し時間が掛かるのですぐに着替えて準備をする。昨日宅配で送られてきた両親からのプレゼントであるスマホをポケットにしまい、最後に家の中の窓の戸締まりを確認しているとインターホンが鳴った。

 

「こんな時間に誰だ?」

 

確認を中断してモニターを覗くのも面倒なので玄関まで向かい、躊躇もせずにドアを開けた。

 

「はいは〜い、どちら様です……か……」

 

「こんな時間にお前は何をしているんだ」

 

「え?先生?なんで?」

 

目の前には幾度かは顔を合わせた事がある人物の担任教師がだるそうに立っていた。

 

「それはこっちの台詞だ……久しぶりだな神条、死んだと思ってたぞ」

 

「いきなり失礼だなあんた!?じゃなくて、どうしてここに?」

 

「お前は馬鹿か……事情は知らないが神条がここ最近は補習に来ないから、生きているか確認に来たんだ」

 

そう言って大きなため息を吐く担任教師は心底面倒な態度を隠しもしない。

 

「いや生きてますから、そんな少し補習に出なかった位で大袈裟ですよ」

 

「大袈裟な者か、生徒が連絡もなく長い間休んだら心配もする」

 

「先生……」

 

「まあ、文句を言うついでにサボる口実も出来たからこっちとしてはありがたいけどな」

 

「今の俺の感動を返せ!」

 

「勘違いしたお前が悪い……それに、1年の頃から休日嫌々補習に付き合った恩人にその態度はどうなんだ?ん?」

 

「うっ……そうは言っても、これでも俺の休日全てを補習に回したんだ……」

 

「それだけじゃない、出席日数を稼ぐ為なのに出れない日があるのも考慮してスケジュール調整したり、進級テストの範囲をギリギリセーフのラインで教えたり、学長のお叱りを毎度毎度我慢しながら受けたりしたんだぞ!!俺のせいではないのにな……」

 

「すみませんでしたーー!!」

 

「分かればよろしい。早速だが制服に着替えてこい」

 

「いや、自分これから映画を観に行くんで」

 

「いいからさっさと着替えてこい!!」

 

「分かりました!!全力で着替えてくるであります!!」

 

担任教師の気迫に有無も言う事が出来ず、直ぐさま部屋へ向かい制服に着替え直して玄関までダッシュで戻る。

 

「着替えて来ましたであります!!」

 

「うむ、それでは行くぞ」

 

「えーっと、何処へ?」

 

「決まっている……学校だ」

 

「な、何だってぇぇぇぇ!?」

 

「いいから黙ってついてこい!!」

 

「サー!イエス!サー!」

 

本日の予定が大幅に変更され、行き先が映画館から学校に変わってしまう。抗議しようにも担任教師には恩もあるので黙って渋々後に続き、担任教師の車に乗り込んで学校へ向かった……

 

 

 

 

車の中でお互いに喋らないまま車に揺られ数時間後、目的地に到着していた。

 

「……久しぶりに来たような感覚だ」

 

「神条は補習に来ているんだからそれは錯覚だ」

 

「それはそうだけどさ、なんかこう……分かるだろ?」

 

「いや、さっぱり分からん」

 

「少しでいいから考える素振りを見せてくれてもいいだろ!?」

 

「どうでもいい、早く行くぞ……これでお叱りを免れる事が出来る……」

 

「はぃ?どういう事だよそれ?」

 

何やら急いでる様に見える担任教師は俺の言葉も耳に入らず、慣れた足取りで校舎内へと入って行く。

 

「ちょ!待って!置いて行くなよ!?」

 

1人取り残された俺は、急いで担任教師の後を追った。

 

校舎内に入り今回も履き慣れた来客用のスリッパに履き替えて廊下を歩く。

 

「それより先生、授業はどうしたんですか?」

 

「自習だ」

 

「……それでいいのか?」

 

「誰のせいだ!……朝来たと思ったら学長から生徒の安否を確認するように言われて急に決まったんだ。仕方ないだろ」

 

「心中お察しします……先生も大変ですね」

 

「喧嘩売ってるのか?」

 

「そ、そんな訳ないじゃないですかー。心配してるだけですよー」

 

「……そういう事にしておこう……さて、着いたぞ」

 

心から先生の苦労を理解しての言葉だったが気に障ったようだ。これからは気をつけて言葉を選ぶようにしようと心の中で決意している最中に目的地に着いていたらしい。

 

「着いたって……ここ教室じゃないですよ?」

 

「……ここに連れて来るように言われているんだ」

 

「俺を?何故?」

 

「神条の両親に電話して聞いても不登校の理由が分からず、その上両親からは神条自身の好きなようにしていいと了承されている。担任としては親が認めているならば口を挟めない。それをこの前学長に話したら、学長自ら話を聞くと言い出してしまったんだ」

 

「そんな事が……あれ?でも今まではどうして言わなかったんですか?」

 

「今までは特に聞かれるような事がなかったからな……だが、2年になってからも来ない事を心配されて聞いてきたんだ」

 

「羽島学長……」

 

「ほら、さっさと中に入って挨拶するぞ」

 

「はい!」

 

自分を心配してくれていた事につい嬉しくなって元気よく返事してしまった。そんな俺を見て苦笑いしながら担任教師は学長室をノックした。中から綺麗な声で入室の許可を告げられたので、俺と担任教師はドアを開けて中に入る。

 

「失礼します」

「失礼します」

 

「あら、そちらの生徒はあまり見かけない顔ね」

 

「学長、先日お話ししていた生徒を連れてきました」

 

「そう、あの時の……」

 

「それでは私は授業があるのでこれで失礼します」

 

「ご苦労様、悪いわね」

 

「いえ、私の生徒なので当然の事をしたまでです。それでは失礼します」

 

まだ入室して間もないのにも関わらず担任教師は退室していった。まるで何かから逃げるように……

 

「あなたが神条零次君ね」

 

「はい!お久しぶりです羽島学長、神条零次です」

 

「久しぶり、と言っても直接こうして会うのは初めてね」

 

「え?ああ、そうですね!ここで会うのが初めてですね!いやぁ、ついこの間会ったような気がしたけど気のせいでしたー」

 

「おかしな事を言う人ね。でもそうね、何故か神条君とはつい最近会ったような気がするわ」

 

「あははは、もしかしたら街ですれ違った事があるのかもしれませんねー」

 

「ふふっ、そうかもしれないわね」

 

ついこの間本部で会ったが、その時はゼロとして会っていた事を思い出して慌てて否定した。もう少しで正体がバレるとこだった、もしバレたら敬語も使わない生徒と低評価されてしまう!……少し慎重になって話そう……

 

「さて、それでは本題に入るわね。実はあなたに聞きたい事があってここに呼び出したの」

 

「聞きたい事?」

 

「そうよ。入学してから少し後に神条君は登校しなくなったみたいだけど、理由を聞かせてもらえないかしら」

 

「それは何と言いますか、そのですね……そう、家庭の事情と言うような、言わないような……」

 

「ハッキリしないわね……理由は教えてもらえないのかしら?」

 

「えーと、ちょっと込み入った事情がありまして……すみません」

 

「はぁ、まあいいわ。これだけは聞かせて頂戴、あなたはこの学校を辞めるわけではないのね?」

 

「それはないです!」

 

「……そう、分かったわ。それじゃこの話はこれでおしまいよ」

 

「え?もう終わりでいいんですか?」

 

「聞きたいことは聞けたわ、それに後は本人自身の問題ですからね。これ以上は口を挟めないわ」

 

「そうですか……それじゃ俺はもう家に帰ってもいいんですね?」

 

「馬鹿な事を言わないで、今日は平日よ?しっかり授業を受けなさい」

 

「えぇ〜」

 

「何か文句でもある?」

 

「よーし!俺はこれから授業を受けるぞー!」

 

「はぁ、まったく……これからは平日も登校してきなさい。いいわね?」

 

「すみません、俺には家でダラダラすると言う任務があるんで」

 

「い・い・わ・ね?」

 

「了解!神条零次!明日から……今日から毎日登校してきます!」

 

「……先が思いやられるわ」

 

「どうしたんですか?頭痛ですか?保健室まで連れて行きましょうか?」

 

「結構よ。ほら、早く教室に戻りなさい」

 

「そう言われても……教室が分からないどころか机があるかどうかも……」

 

「用意してあります!教室も科で別れてるからすぐに分かるわ」

 

「そうなんだぁー」

 

「そうなんです!」

 

「それではこれで失礼します!!」

 

学長の顔が引きつっているのを見てこれ以上の長居は危険と判断し、お辞儀をしてすぐに部屋から退室した。

 

「あれ?先生こんな所で何してるの?」

 

「そういえば神条に教室案内するの忘れていたから、こうして待っていたんだ」

 

「律儀だねー」

 

「そうでもない……ほら、行くぞ」

 

「へぇーい」

 

本当にそれだけの理由で待っていたのか不明だが、こちらとしては有り難い。学長室から出た後、先生の後を着いていき教室に向かった。教室の前まで来ると1度全員に自己紹介するのかと思いきや、ほとんど同じ顔ぶれしかいないと言う事で先生と共に中に入り指定された席に着く。

 

「久しぶりだな零次」

 

「お前は!?半蔵!?」

 

「達夫だよ!服部だからって全員半蔵って名前だと思うなよ!?」

 

「すまんすまん……それにしても久しぶりだな」

 

「まったくだ。今まで何で来なかったんだよ、皆心配してたんだぞ?」

 

「野郎が野郎を心配するだと?嘘だな……第1、お前らが俺の心配をするような奴じゃないだろ?」

 

「……悪い、全員心配してなかった」

 

「分かってはいたけど……お前らは本当ブレないよな!どうせ御刀いじりに夢中だったんだろ!」

 

「おっしゃる通りで……ちょっと、いや、かなりの時間を御刀の為に費やすような人ばかりだからな」

 

「だと思った!……別にいいけどな」

 

「そうは言っても零次を心配する理由がないからな〜」

 

「そうなのか?」

 

「そうだぜ、入学してから次の日には大遅刻しても悪びれた素振りも見せずに自分の席で寝始めるし、御刀を研ぐ事になると砥石使用高速化と言いながらひたすら御刀を研いだり、挙げ句の果てには研いだ御刀で素振りを始めるし、素振りも素人のやるような感じでもなかったからな。こいつなら荒魂も倒せるんじゃねーのかとか皆思ってるぞ?」

 

「……俺は刀使ではないんだぞ?」

 

「そうなんだけどさ、零次も知っているだろ?刀使でもないのに荒魂を倒している人物の事?」

 

「そんな人物がいるのか?」

 

「なんだ、知らないのか?刀使達の中では有名らしいぞ?何でも荒魂の前に現れては1人で相手したり、刀使の中には窮地を救ってもらった人もいるみたいだ。そして、他にもいろいろと噂があるんだ」

 

「……へぇ、すごいなぁ〜、一体何者なんだろうなぁ〜」

 

「さあな。俺も刀使の娘から聞いた話だからな……あ、でも名前なら知ってるぞ。確か終焉のゼロとか言われてるみたいだ」

 

「……そ、そうなんだぁ」

 

「悪いけどこれ以上は知らないから今度、うちの刀使科の生徒にでも聞いてみてくれ」

 

「お、おう。暇な時にな……」

 

「ま、そういう事で零次も倒せるんじゃないのかとか思ってるわけよ。だから心配していなかったんだ」

 

「そうだったのかー」

 

「納得してくれたようだな。まあ、なんだ……これからまたよろしくな、零次」

 

「ああ、よろしく達……美」

 

「惜しい!夫だよ達夫!」

 

「……達夫、せいぜい足を引っ張るなよ」

 

「何でお前は偉そうなの!?」

 

久しぶりの学友と少しばかり親睦を深めていると、チャイムが鳴り授業が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、俺の学校生活が再スタートした……

 

「砥石使用高速化、砥石使用高速化、砥石使用高速化、砥石使用高速化」

 

「前よりも早くなってる!?」

 

「達夫、人は日々成長するものだ……お前もどうだ?」

 

「やらねーよ!!」

 

今日も御刀を磨く職人、神条零次の磨きが速くなる一方で世間の刀使に対する風当たりが強くなっていく。それでも彼は磨き続ける……

 

 

そう、何故なら彼は……

 

「職人だからな……今日の御刀は眩しいぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

 




ブラックじゃない展開はこんなにも美しい……


これからの生活がどうなっていくのか思考中……


最近作者は長船の生徒にゾッコン中なのでどうにかして絡ませたいと思います。

エターナルさんとは……何処かで書く予定?


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刀は友達!!時々トラブルの元……

書くようなことはないので前書きは割愛します!!





許せ……読者……


学校生活が始まって4ヶ月過ぎた今日、職人、神条零次の朝は早い……

 

本日は朝から気分のいい目覚めである。早朝からご近所をランニングしてまずはウォーミングアップをする。次に自宅にて素振りをし、汗が流れ始めるとシャワー浴びて制服に着替えて朝食をとる。登校する前にコーヒーを飲みながらテレビをつけて優雅なひと時を過ごす。これが職人の日課だ……職人要素が皆無なのは気のせいだ。

 

「コーヒーが美味い!この一杯の為に生きていると言っても過言ではないな……」

 

朝から飲むコーヒーの美味しさに機嫌が良くなりながらテレビを見ると、丁度ニュースが始まった。

 

「……このニュースは確か授業が始まる時間だったような気がするが、気のせいだな。うん」

 

わざと右上にある時間表記を見ずにニュースに集中してコーヒーを飲む。この時だけが至福なので誰にも邪魔はさせないと1人馬鹿な事を考えていると、今見ているニュースから最近テレビで見るようになった人物と政治家との口論が繰り広げられていた。

 

「朱音様も大変だよなぁ、危機を救う為に身を挺したのにこの仕打ちとか……無いわぁ、マジあり得ないわぁ。つーか、政治家の掌返しっぷりが凄すぎて最早尊敬するレベルだわぁ」

 

他人事のように感想を言いながらも見ていて気分が悪くなったので、テレビを消した。

 

「さてと、俺も現実見ないといけないよな……行っても先生に叱られるし、行かなくても羽島学長から叱られるとか……詰んだわぁ」

 

そんな事言いながらも準備を整えて残りのコーヒーを全て飲み干し、歯を磨いてから学校へ向かった。

 

 

学校に着くと毎度の遅刻してきた時と同じく自然に教室に入り席に着く。いつ頃かは忘れたが、最初の方は先生に見つかって説教されていたのも今ではため息を吐くだけで何も言われなくなっていた。後で叱られるから今は何も言わないだけなんだけどね……

 

「おはよう遅刻の常習犯」

 

「たっつんか……おはよう」

 

「たっつんとか言うなよ、一瞬背筋が凍ったぞ……」

 

「じゃあ半蔵で」

 

「だから、半蔵言うな!!俺は達夫だ!!」

 

「はいはい、朝から元気だな達夫」

 

「何で零次はそんなに平然としていられるんだ?お前遅刻だからな?」

 

「達夫、人と言うのはどんな事でもすぐに適応してしまう存在だ……慣れって怖いよな」

 

「そんな事に慣れんなよ!?少しは改善しろよな」

 

「だが断る!!」

 

「お前な……はぁ、やっぱもういいや」

 

「達夫、人間諦めが肝心だぜ?」

 

「何か腹立つ」

 

「巨人の元監督?」

 

「それは原辰の……ってそんなことはどうでもいいんだよ!」

 

「分かってるよ、本当は名前が分からないんだろ?大丈夫、それでも俺はお前の友人だ。だから落ち着こう……な?」

 

「名前ぐらい知ってるわ!巨人舐めんなよ!!」

 

「分かった分かった、一旦落ち着け。Be cool」

 

「何でだろう、今なら荒魂を倒せる気がしてきた」

 

「それじゃあ行ってみようか!」

 

「行かねーよ!……はぁ、零次の相手は疲れる」

 

「疲れたのか?保健室で休んできたらどうだ?」

 

「……もういい。一々反応していたらキリがない」

 

「ふっ、やっと気づいたか」

 

「わざとか!?わざとなのか!?」

 

「……それよりさ、最近学校の生徒の人数少なくなってないか」

 

「無視するなよ……そういえばそうだな」

 

「達夫は何か知らないのか?」

 

「ん〜、思い当たるとすればアレしかないな」

 

「アレって?」

 

「ほら、今朝もニュースでやってただろ?刀使に対する世論調査のインタビュー」

 

「……今日もやっていたのか」

 

「見てないのか?」

 

「その時は寝てた」

 

「その時間に起きてないのかよ……そりゃ遅刻もするか」

 

「今日はたまたまだ!何時もは起きてるぞ?」

 

「怪しいな……」

 

「マジだって!信じてくれよ」

 

「まあそういう事にしておく」

 

「絶対信じてないだろ……それで、どうしてそのインタビューとここの生徒が少なくなっているのが関係あるんだ?」

 

「それは単純な事だ。刀使に対する風当たりが悪くなればそんなとこに親が通わせたいと思わなくなるだろ?」

 

「まあ、普通の親ならそうだな」

 

「その結果、転校させる親が続出してここから人が少なくなったんじゃないか?ま、俺の予想だけどな」

 

「そういう事か……酷い話だな」

 

「確かにな、刀使のお陰で荒魂の被害が少なくなっているのにな……まあ、あんな事があったから仕方ないとは思うけど」

 

「……4ヶ月前の事か」

 

「そうそう、あの事件から刀使が批判されるようになったんだよな……これからどうなるのやら」

 

「まあ、なるようにしかならないだろ……それに、刀使が命賭けて守ってるんだ。今は無理でも少しずつ理解してくれると思うぞ?」

 

「……零次って偶にいい事言うよな」

 

「そうか?別にこれくらい普通だろ」

 

「……本当お前は変わった奴だな」

 

「どうした急に?」

 

「いや、何でもない。気にしないでくれ」

 

「お、おう」

 

達夫の態度の変化に戸惑うが、本人から気にしないように言われたのでその事に触れないようにして、現在実施中の先生による授業に関係ない雑談に耳を向ける。

 

「そう言う事だから、御刀は荒魂に対抗する為の唯一の武器なんだ。刀使にしか使えないとは言っても文字通り刀として使えるんだけどな」

 

「本当に授業に関係無い雑談だな……」

 

「それは今更だろ零次……そうだ、御刀の事で零次に頼みたい事があるんだった」

 

「頼み?職人の俺に頼むからには当然相応の対価を要求する」

 

「いや、払わないからな」

 

「それではその依頼を拒否するしかないな」

 

「面倒な奴だな……それじゃあ、頼まないよ。あーあ、せっかく美人な科学者のいる所に行ってほし「よし、依頼を受けるぞ!用件を教えろ!いや、教えて下さい!」……本当にブレないな」

 

「美人が居るところに神条零次は存在する、これ常識」

 

「そんな常識あってたまるか!……依頼を受けてくれるという事でいいんだな?」

 

「合点だ!べらんめぇ!」

 

「キャラ変わってない?まあいいや、依頼を受けてくれるなら」

 

「おうよ!どんな事でもどんと来いや!」

 

「お、おう。それじゃあまずは依頼内容を説明しないとな……零次、今から話す内容は他言無用で「俺、口、堅い、早く教えろ」……実は今から数ヶ月前に御刀を拾ったんだ」

 

「拾った?御刀を?」

 

「まあ信じられないよな。俺も未だに信じられないんだけどね。でも山奥にあったんだよ、通常とは違う状態で」

 

「おお、運が良いな」

 

「最初は俺もそう思ったさ、だけどその御刀は鞘に収まっていたにもかかわらず錆びていたんだ」

 

「鞘に入っているのに錆びている?誰かがわざとそうしたのか?」

 

「そうだろうな、と言うかそれしか考えられない。錆びているのが御刀だけで鞘は綺麗なまま箱に入っていたからな」

 

「ん?もしかして、拾ったんじゃなくて盗んだのか?御刀が入っている箱を……」

 

「……仕方ないじゃないか!箱の中身が御刀なんて知らなかったんだよ!俺はてっきりお宝か財宝が入っていると思ってたんだ……」

 

「まさかまさか、山奥とは言っても建物から持ち帰ったなんて事は……流石にないか」

 

「……」

 

「おいおい、冗談だろ……よし、この話は聞かなかった事にする」

 

「待って!お願いだから話を聞いてくれ!」

 

「いやだって、これ以上聞いたら共犯者に「科学者は美人な上にセクシーダイナマイト」話を続けてくれ」

 

「今だけは零次が単純な奴で良かったと思う……それでその箱を持ち帰った俺は、流石に罪悪感を感じて戻しに行こうとしたんだけどさ……道を覚えてないんだ」

 

「方向音痴だったのか」

 

「そうじゃない!あの時は夜で周りは暗かったし、森の中でクマを見かけて慌てて逃げていたらその場所に着いたんだ。帰り道も気分が良いまま下山したから道順も覚えてない……まさかこんな事になるとは思いもしなかったよ」

 

「確かに財宝ならまだ隠しようがあるけど御刀はな……売るのも怪しまれるし、かと言って刀剣類管理局とかに渡すにも何処から入手したのか聞かれるだろうしな。いっそ海の底に沈めるのはどうだ?」

 

「無理だ。御刀とは言え珠鋼から作られているんだ。荒魂が湧くかもしれないだろ?」

 

「そう言えば、珠鋼を精製する際に不純物であるノロが出るんだったな」

 

「そう、そしてノロがたくさん集まると荒魂になる」

 

「だけど荒魂になるとはいえ、御刀の場所に出るわけじゃないだろ?」

 

「万が一を考えてだ。もしかしたら荒魂は珠鋼に引き寄せられているかもしれないだろ?もしそうなら、御刀も珠鋼から生成されているんだからそこに荒魂が集まる可能性がある」

 

「考え過ぎだろ……確かに無いとは言えないが」

 

「だからこそ、こうして零次に頼んでるんだ。せめてこの御刀を誰かに預け……引き取って欲しい」

 

「言い直す必要なかったよな?」

 

「とにかく、そう言うわけだ。零次、その御刀を引き取ってくれないか?」

 

「おい!引き取ってくれとはどう言う事だ!ゴミでもないんだからそんな事言うなよ!?」

 

「それなんだけどさ……ほら、錆びているから間違いでもないだろ?」

 

「そんなの押しつけるなよ!せめて錆びていない状態の物ならまだ分かるが……それに、何で俺なんだよ?」

 

「それはだな、零次なら例え御刀を拾ったとしても怪しまれないと思うんだよね」

 

「何でやねん!」

 

「だって、零次って変わってるじゃん?それにこの学校でかなり有名だし、御刀拾ってきても不思議に思う人はいないはずだ」

 

「いやいや、それはどういう事だよ?」

 

「知らない?この学校の噂」

 

「噂?俺の?」

 

「そうだ。今や学内で零次を知らない人はいないと思うぞ?」

 

「……ちなみにどんな噂なんだ?」

 

「それは……零次、絶対に怒らないで聞いてくれよ?お前はこの学内で変人として噂されているんだ」

 

「……ねぇ、ちょっと殴っていい?」

 

「だから怒るなって言っただろ!?」

 

「そうは言ってもねぇ……俺が何かしたのかよ」

 

「いやいや、自覚しろよな。先生方の中では大遅刻魔と呼ばれてるぞ?それと、昼休みにいつもわざわざ外に出て数十本の御刀を研いでいるから、生徒と先生からは研磨の職人として有名になってるよ」

 

「初耳だ……そんな事言われていたのか」

 

「まあ、自業自得だな。外に出て研がなくてもいいのに、何故昼休みはいつも外に出ているんだ?」

 

「だってさ、いつも授業で使ってる場所だと息が詰まるんだもの……そんな場所より外に出てやった方が良いに決まってるじゃないか」

 

「それはそうかもしれないが、だからと言って何故わざわざ昼休みを使ってまで御刀を研いでいるんだ?」

 

「え?だって、研ぐスピードが早くなれば授業のある時すぐに終わらせてサボれるじゃん?」

 

「……そんな考え方をする奴は零次以外いないだろうな」

 

「なん……だと……!?お前だって授業をサボりたいと思った事が1度や2度あるはずだろ?」

 

「それはあるけど、昼休みを犠牲にしてまでやろうとはしない」

 

「……マジか」

 

「マジだ」

 

「それじゃあ、俺は変人として今まで見られていたのか……」

 

「……落ち込んでいるとこ悪いけど、話が途中だから再開してもいいか?」

 

「……ああ」

 

「凄い落ち込みようだな……えーっと、それじゃあ御刀を引き取ってくれるという事でいいんだな?」

 

「もう好きにしろ……」

 

「ありがとう零次!これで俺の肩の荷が降りる!」

 

「俺は変人……ははっ、笑えないぜ……いや笑えているのか?……笑うって何だ?」

 

「おーい、零次ー。戻ってこーい……駄目だな……あ、あー、そういえばその御刀って研いでも研いでも錆びたままなんだよなー。これ以上は誰か詳しい人に聞かないとだよなー。そういえば、この前民間企業になったとこへ行けば何か分かるかもなー、そこの科学者の女性は美人でセクシーダイナマイトで挨拶がわりにハグしてくれるかもなー「達夫!その場所について詳しく!」お、おう」

 

「いやぁ、達夫がこんなにも俺を頼ってくれて嬉しいぞ」

 

「復活早いなお前……それで、その場所の事を教えれば良いんだな?」

 

「ああ、美人でセクシーダイナマイトで挨拶がわりにハグしてくれる科学者がいる場所を教えてくれ」

 

「何か違くないそれ?目的を忘れてないか?」

 

「そんな事はない、ついでに御刀についても聞くさ」

 

「そっちが本題だろ!本当にブレないな!?」

 

「細かい事を気にするな。それより早く教えてくれ」

 

「はいはい、分かったよ。まあ聞けば大体の場所は分かると思うけどね。特別希少金属利用研究所といって、以前までは特別希少金属研究開発機構として運営されていたんだ。だけど今は、刀剣類管理局の体制が変わってからは民間の研究機関として再スタートしたんだ」

 

「そこの場所は知っている。そうかぁ、民間企業になったのか」

 

「これも4ヶ月前の事が絡んでるんだろうな。ま、民間企業になったからこそ敷居も下がって訪れやすくなったからこっちとしては嬉しい限りだけどな」

 

「そうだな。でも、実際俺たちのような一般人が中に入れるのか?」

 

「……零次お前なら出来る。己の欲望に忠実なお前ならどんな困難にも立ち向かえる……俺は信じてるぜ!」

 

「何という人任せ……だが、美人に会うためならどんな汚い手を使ってでも会いに行ってみせる!」

 

「いや、汚い手は使うなよ……それじゃ、御刀は放課後渡すな」

 

「おうよ!」

 

丁度チャイムが鳴って授業が終了し、先生が退室して行く。

 

「あーそうだ、神条、ちょっと着いて来い」

 

「やっぱりそうなるよねー」

 

案の定遅刻した事の説教をされる事となり、ため息をつきながら先生に着いて行って別室にて、1対1のバトルが繰り広げられた。

 

「神条、何か言いたい事はあるか?」

 

「俺思うんだ、悪いのは朝早くから授業が始まる時間であって俺は悪くないって……」

 

「いい加減にしろぉぉぉぉぉ!!」

 

「申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁぁ!!」

 

本日も俺の土下座が見事に決まった……俺の土下座に敵うものはいない!!

 

 

 

授業時間を無視して昼休みが終わるまで正座したままの状態で、先生から説教を受けた俺は心身共に疲れ果てながらも何とか午後の授業を受け放課後を迎えられた。授業中に何度か腹が鳴っている事も気にせずに必死に授業を完遂させたせいもあり、放課後に達夫から御刀を引き取るとすぐに自宅へ帰宅する事にした。

 

「腹減った……肉が食べたい……今日は贅沢にM店でバーガー食べよう」

 

疲れた時こそ肉を食べろ、師匠の言葉をふと思い出す。その師匠の言葉もあり、何が何でもバーガーを食べる事を決意してM店へと足を運ぶ。

 

「待っていろよ!メガマーーーーーーー……は無かったから、次にボリュームのあるバーガーでいいや……さあ、お店に急げ!!」

 

もう腹が減った俺を止めるものは誰もいない!普段通らない道を使って向かう途中、正面から邪魔をする存在が立ちはだかるのも気にせず、避けて通ろうとするとまたも目の前に移動して邪魔をする。

 

「貴様は俺の邪魔をするか……いいだろう、それならば貴様を排除するのみ!腹が減った俺の前に現れた事を後悔しながら朽ち果てろ!!」

 

手元にある引き取ったばかりの御刀を鞘から抜き出し居合斬りを喰らわせる。巨体な邪魔者は胴体を半分に切り離されて絶命し、地面に倒れていくのを尻目に御刀を鞘にしまいながら再度走り出した。

 

「バーガーァァァァァァァッ!!!」

 

例え後始末を忘れている事に気付いても足を止めない。足を止めた時、それは俺の命が尽きる時だと自己暗示を掛けて後ろで騒がしくなっているのも無視してただひたすらM店を目指した。

 

「おい!荒魂が倒れてるぞ!」

 

「嘘ぉ!さっきまで動いていたわよね?」

 

「すみません!この付近に荒魂が出現したので皆さんは避難して下さい!」

 

「もしかして刀使さんですか?」

 

「はい。後は私達に任せて皆さんは避難を」

 

「あのー、あそこにいる荒魂以外にもまだいるんですか?」

 

「え?」

 

「え?だって荒魂ならついさっき、叫びながら誰かが討伐していきましたよ?ほら、もう動いていないでしょ?」

 

「嘘っ!そんな筈は……本当だ、荒魂が討伐されてる……」

 

「それで、他にいるんですか?」

 

「いえ、他に反応はないのであそこにいる荒魂だけです」

 

「そうですか。良かったぁ、他にもいなくて」

 

「すみませんが念の為、この場から離れて下さい」

 

「ああ、分かったよ。お仕事ご苦労様」

 

「それじゃ私も仕事があるので……刀使さんもお仕事頑張って下さい」

 

「ありがとうございます……ふぅ、周囲に民間人はいないわね……それにしても、この荒魂は一体誰が?」

 

残された刀使は答えの分からないまま1人悩みながらもノロの回収をする為、電話をかけて手配をお願いした……

 

 

_____________________________________

 

 

邪魔者を排除した後、倒れる事もなく何とか目的地に辿り着き店内に入って、レジで持ち帰り用に6個ほどバーガーとMサイズのシェイクを1つ注文した。品物が出来上がるまでの間は周囲から視線を感じるも理由が分からないまま呼ばれるまでスマホをいじる。少ししてから呼ばれて品物を受け取ると店内で食べずに店の外に出て、歩きながらバーガーを食べて帰宅する。

 

「そういえば御刀を持ちながら店内に入ってたんだ……通りで周りからの視線が痛かったのか」

 

帰宅してから理由に気づくも時すでに遅し、過ぎ去った事を気にしても仕方ないので全て食べ終えたバーガーが包まれていた紙とシェイクの容器をゴミ箱に捨て、お腹が満たされて眠くなってきたのでそのまま部屋に戻り制服をハンガーに掛けてから下着のままベットに入って寝た。

 

 

 

 

 

翌日の休日、心身共に全快した事により考える時間と余裕が出来たので、昨日の事を思い出す。

 

「……この御刀錆びてるんだよな?普通に斬れたぞ?ん〜〜〜、考えられる理由が思い当たらない……まあ、美人科学者に聞けばわかるだろ!それはいいとして、昨日のあれって荒魂だったような気がしたが気のせいだったのかな?俺は刀使じゃないから御刀の力は使えないし、錆びてるし。あーでも、昨日先生が言ったように刀としては使えるらしいから討伐は可能なのか?……これも美人科学者に聞こう」

 

もうどんな事でも美人に聞けばそれだけ長い時間お話できるので、深くは考えずに休日を満喫する事にした。そうして、夜までダラダラと過ごしながらいつ頃会いに行こうか悩んでいると、重大な事に気付いてしまった。

 

「民間企業とはいえいつでも働いてる訳じゃない、殆どの民間企業は確か土日休みのはず……つまり、会えるのは平日のみという事だ……俺学校じゃん!詰んだぁぁぁぁ!!!!……いや待てよ?学校を休めばいいんじゃないか?……それだ!!思い立ったが吉日というし週明け早々に訪ねるとしようか」

 

完璧な作戦を思いついた俺は、週明けの登校日に休む事を事前に半蔵……じゃなくて達夫に連絡する。

 

『お前馬鹿なの?』

 

「天才と馬鹿は紙一重って言うだろ?」

 

『零次は確実に馬鹿の方だからな?』

 

「そう嫉妬するなよ。もっと心が広い人間になれって」

 

『……まあ、何を言っても無駄だろうな。一応先生には休むように伝えとくよ』

 

「さっすが達夫!分かってるな!」

 

『俺にも責任は少しあるからな、今回だけは協力してやるよ』

 

「あざっす!それじゃそろそろ明日に備えて寝るわ!おやすみ!」

 

『本当に零次はマイペー……』

 

返事も待たず達夫との通話を終了してスマホを机に置き、部屋着のままベットに入る。

 

「明日か〜、どんな人なんだろうな〜。やべぇ、興奮して眠れないわ……取り敢えず電気消そう」

 

部屋の電気を消して尚も明日訪れる場所で働いているという女性が、一体どんな人なのか想像していると段々と眠気が襲ってきて数分もしないうちに眠りについた。

 

 

_________________________________

 

 

 

「……うへへぇ、セクシーダイナマイトからのハグはええですなぁ」

 

気味が悪い寝言を言いながらも熟睡しているとスマホのアラームが鳴った。

 

「『心の〜メモ〜リア〜、涙が零〜れても』……何時だ?……もうこんな時間か、ふぁ〜あ、眠いな……取り敢えず着替えるか」

 

すっかり寝起きが悪くなってしまい未だに2度寝しそうな状態でベットから這いずり出て、部屋着を脱ぎ捨てタンスからジーンズと白Tに着替え最後にクローゼットから制服ではなく黒のジャケットを羽織る。

 

「これで最後にこの伊達眼鏡をかければ……変装完了!」

 

雀の涙程度しか効果がない伊達眼鏡をかけると、問題の御刀を竹刀袋に入れて紐を肩にかけてから一階に降りてコーヒーを飲まずに玄関で靴を履き、家を出て鍵をかけてから目的地までの移動の為に駅付近のタクシー乗り場までゆっくり歩いて行った。

 

 

タクシー乗り場で柄の良さそうなおっちゃんに声をかけて目的地までの送迎を頼み込み、了承を得てからおっちゃんのタクシーに乗り込んで向かう。そして、到着までの間はおっちゃんと世間話を楽しんだ。

 

「娘が刀使になりたいって言い出して正直困ってるんだよ」

 

「最近刀使に対して風当たり強いですからね〜」

 

「そうなんだよなぁ。4ヶ月前なら別に反対もしなかったんだがな」

 

「こればかりはどうしようもないですね。おっちゃん、1つアドバイス出来るとしたら、しっかり娘さんの話を聞いてからじっくり自分の気持ちを伝えて話し合った方が良いですよ」

 

「やっぱそうだよなぁ、でも娘に嫌われたくないし……」

 

「それなら尚更のことです。まずは一歩を踏み出さないと何も始まりませんよ?」

 

「ん〜……よしっ!今日帰ったら話してみるか!」

 

「その意気だおっちゃん!大丈夫、娘さんもおっちゃんの本音を聞けば分かってくれるって」

 

「そうだといいが、どうなることやら」

 

「本音を伝えても刀使になりたいと言うかどうかは分かりませんけど、娘さんの事を大切に思うなら絶対に聞いてあげた方が良いよ。後で後悔して取り返しのつかない事になる前に……」

 

「なんだ兄ちゃん?何か後悔してる事でもあるのかい?」

 

「少しだけね……おっちゃんここら辺で降ろしてくれ」

 

「ん?いいのか?」

 

「ちょっと外の空気を吸いながら歩きたい気分なので……」

 

「そうか、それじゃここでいいかな?」

 

「ああ、ここでいいよ。はいおっちゃん」

 

「おいおい、そんなに金は掛かってないぞ?」

 

「いいんだよおっちゃん、釣りは要らない……その代わり、娘さんをこれからどんな事があっても大切にして下さい」

 

「はぁ。変な兄ちゃんだな……まあ、言われなくてもそのつもりだけどな」

 

「ですよねー」

 

「……本当に釣りはいらないのか?」

 

「ああ、遠慮しないでくれ。これで美味いもんでも食って仕事終わりに頑張ってくれ」

 

「人の心配をしてくれるとは……くぅ〜!泣けてくる!兄ちゃんに約束する。絶対に今日話してみるよ!」

 

「おう!頑張ってくれ!それじゃな!」

 

「ありがとな!」

 

多めに代金を支払ってからおっちゃんと別れ目的地付近を少し歩く。

 

「こんなご時世でも刀使になりたい子もいるのか……世界は広いな」

 

刀使の学校を転校させる親が増える一方のこのご時世、刀使は本当に希少だ。

 

「少しだけでも刀使達の手伝いが出来ればなぁ……まあ今の俺にはどうすることも出来ないか……っと、着いたな」

 

この世の未来が少し心配になりながらも、今の俺には何も出来ないので考える事を放棄して目的の建物の中に入る。

 

「相変わらず金かかってるよなぁ。まさに税金の無駄遣い!……今は民間企業だから違うか」

 

誰かに聞かれれば怒られるのも気にせず感想を述べた後、入り口の扉から誰かに声を掛けようと周囲を見回すが誰も居ない。

 

「うわぁ、やっちまったな。今は休憩時間かよ……スマホでもいじって時間潰すか……あれ?ない!なんで!?……あ、机に置いたままだった……仕方ない、丁度誰も居ないから御刀でバランスゲームでもするか」

 

肝心のスマホを家に忘れてきたので止む無く、手持ちの御刀を竹刀袋から取り出して鞘の底の方を掌の上に乗せて、1人でバランスゲームをして時間を潰した……

 

「お?意外に難しいな。それに何だか楽しくなってきたぞ!目指せギネス更新!……ギネスあるか分かんないけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さあさあ、やっと波瀾編突入しましたぜ!これで作者のネタがバンバン浮かんで……こないだと!?


作者が困った時は取り敢えず男性キャラばかり登場させていると思っているあなた!その通りです!!


女性キャラは口調が難しいんだよ……仕方ないだろ……作者の文才が皆無なのが1番悪いんだけどね!!


次回!あれが登場します!お楽しみに!!


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チェンジ!!

やっと書けたぁぁぁぁァァァァァァァッ!!!!!!


めちゃくちゃ長い時間を費やしたけどこれで週一投稿のノルマは達成だぜ!!!



……駄文なのは許してくれ……


ここ特別希少金属利用研究所にて、現在1人の人物が世界記録更新の為全神経を集中していた。

 

「動かざること山の如し……」

 

ここに来る前に誘惑に負けて、色々な店を遊び歩いた後に来たので外はすっかり夕焼け色の空になっていた。その時間は仕事終わりに近づいている事もあるのか人の出入りが少ない。そんな中でバランスゲームを始めてから早くも9分経過し、常に集中していた俺は少し疲れてきていた。

 

「朝早くから出たのに到着したのが夕方になるとは……だから人がいないのかな?そんな事はどうでもいい、今は集中しろ俺!せめて10分は超えてやる!……何があっても動じないぞ」

 

10分まで残り10秒となりカウントダウンを始めた。

 

「カウント10、9、8、7、6、5『ヴーーーーー!!』ふぁ!?……しまったぁぁぁぁあぁぁぁ!!!」

 

突然のアラーム音に動じてしまった俺は思わず御刀を地面に落とした。

 

「俺の記録更新があと5秒だったのに……誰だアラームを鳴らした奴は!!俺が成敗してくれる!!八つ当たりじゃぁぁぁぁぁ!!」

 

アラームを鳴り響かせた者に邪魔をされて怒りが湧き、無断で建物内を走り回る。

 

________________________________________________

 

「……全然見つからない……それどころか来た道が何処だったか分からなくなった……俺は何をしてんだよ!はぁぁぁ。取り敢えず人を探すか……」

 

ここに来るのはこれで2度目であるが、1度目の訪問ではフリードマンに案内されて着いて歩いただけなので覚えていない為、闇雲に走り回り迷子になった。こうなれば美人科学者どころの問題ではないのでここの職員に怒られるのを覚悟で人探しを始めた。

 

「いつまでアラーム鳴らしてんだろ?……まあ今の俺にはどうでも良い事だ。それより早く人を見つけなくては……」

 

長い通路で周りがよく見えなく十字路しかない場所を歩いていたら、近くで人の声が聞こえた。俺は声の聞こえた方に走り出し、曲がり角から顔を覗かせた。

 

「すみませーん、少し聞きたい事……が!?」

 

気軽な感じで声を掛けようと顔を出した先で俺が見たものは、倒れているドレス姿の少女と黒フードを着た者が刀を振り上げている光景だった。思わず声が上ずって驚いていると、黒フードが刀を振り下ろしたので思わず反射的に2人の間に入り御刀を鞘から抜いて受け止める。

 

「流石にこれ以上はまずいだろ……大丈夫かお嬢さん?」

 

「え?は、はいデス」

 

「そうか。それなら良かった」

 

「なんだ貴様は?」

 

「えーと、人に名前を聞く時はまず自分から名乗るのがマナーだぞ?」

 

受け止めた状態のまま礼儀を親切に教えていると、それが気に障ったのか無言になりながら斬りかかってきた。痛いのは嫌なので左手に持つ御刀で全て防ぎ、隙を見てフェイントとして突きを放つと黒フードの人物は後方に瞬時に下がって避けた。だがそこにはもう1人の少女がいた……

 

「やあっ!!」

 

その少女は見た目とは裏腹に度胸があり、怯みもせず黒フードの人物に背中から斬りかかる。

 

「……フン」

 

「きゃっ!」

 

だが、まるで背中に目があるかのように少女の刀を後ろを見ず、黒フードの人物は自身の刀で弾く。あまりの勢いのある斬撃に耐えきれず、少女は刀を手放して体制を崩し、尻もちをついた。その隙を見逃さず黒フードの人物は追撃を入れ、上段から刀を振り下ろした。

 

「あっ……」

 

少女は攻撃を防ごうにも刀を手の届かない場所に手放してしまった為、目の前の光景をただ見つめる事しか出来ずにいた……そして、少女に刃が近づき反射的に目を閉じる。しかし、ここで予想と違って自身に迫り来る刃が何かとぶつかる音が聞こえてきた……

 

「え?」

 

「もう1人のお嬢さん、大丈夫か?」

 

「は、はい!」

 

「あはは、そんなに元気なら大丈夫そうだね」

 

「ほう、我の攻撃を全て防ぐか。面白い、貴様は何者だ?」

 

「何者かと聞かれれば答えてあげるが世の情け……じゃなくて、俺は何処にでもいるような一市民だよ」

 

質問には一応答えてみるもやはりまた無言になって斬りかかってきたので、今度は防戦一方ではなくこちらからも攻撃を仕掛けてみようと何度目かの斬撃を弾いた後に、防がれるとは分かっていながらも横一閃に御刀を振るう……だが、予想とは裏腹に黒フードの胴体を少しだけ斬ってしまった。

 

「あ……悪い……」

 

「ふっ……少し分が悪いか……」

 

斬られたことに特に怒りもせずに黒フードはこの場から一瞬で遠ざかっていく。

 

「エレンちゃん!」

 

「大丈夫です。追って下さい!」

 

「でも……」

 

何が起きてるのかわからないながらも、非常事態なのは制服を着ている少女を見ていて何となく分かったのでこの場にいるドレス少女ぐらいは任せてもらうように提案する。

 

「あー、その、なんだ……彼女の事は俺に任せてくれてもいいぞ?」

 

「えっと……すみませんが、少しだけエレンちゃんの事をよろしくお願いします」

 

「了解だ」

 

俺の返事と同時に制服少女が黒フードを追う為一瞬で目の前から移動していく。そして、残された俺はドレス少女の事を任されたので御刀を鞘にしまい、まずは怪我がないかの確認をする事にした。

 

「怪我はないか?」

 

「はい、大丈夫デス……えっと、貴方は?」

 

「……そういえば自己紹介してなかったな。俺は神条零次だ、よろしく」

 

「よろしくデス。私はエレン、古波蔵エレンと言いマース」

 

「そうか……その、いきなりで悪いんだけど古波蔵さんは何が起きているのか知っているか?」

 

「それは……さっきの黒フードの人にノロを奪われてしまいました……」

 

「ノロを?何の為に?」

 

「それは分からないデス」

 

「そうだよね、理由なんて分からないよね……ごめん古波蔵さん、変なこと聞いて」

 

「構いまセン。それと私の事はエレンでいいデース」

 

「へ?いやいや、初対面で名前呼びは流石にハードル高過ぎるよ古波蔵さ「エレン」……古波「エ・レ・ン」……エレンさ「エレンちゃんと呼んでくだサーイ」……エレンちゃん」

 

「ハイ!」

 

「……エレンちゃんとさっきの子は刀使なのか?」

 

「そうデス!私とマイマイは刀使デース!」

 

「ま、マイマイ?それって……」

 

「あ!マイマイ!」

 

エレンちゃんとの会話に夢中で戻ってきている事に気がつかなかった俺は、後ろにいる人物の方を向く……いたのか……

 

「エレンちゃん……ごめん、逃げられた」

 

「そうデスか……でもマイマイが無事で良かったデス!」

 

「エレンちゃん……」

 

「なあエレンちゃん、やっぱりこの子がマイマイなの?」

 

「え?マイマイ?」

 

「そうデース!」

 

「そうなんだ……マイマイさんの名前がマイマイなのか?」

 

「違います!」

 

「すまん!今のは冗談だ!」

 

俺は少女に大声で否定された事に対して反射的に謝罪する。

 

「あ、いえ……こちらこそすみません、大声を出してしまって」

 

「あ、ああ……俺が悪いんだから謝らないでくれ……えーっと、マイマイさん?」

 

「……舞衣です。私の名前は柳瀬舞衣です」

 

「……それじゃあ、柳瀬さん?」

 

「舞衣でいいですよ……先程は危ない所を助けて頂きありがとうございました」

 

「そういえば私もまだお礼を言ってませんでしたネ!さっきはありがとうございマース!」

 

「お、おう……別に必要なかったと思うけどな」

 

「そんな事ありまセン!あのままだったら私は……本当にありがとうございマス!」

 

「貴方がいなければ私も怪我どころでは済まなかったと思います……本当にありがとうございます」

 

「そ、そうか……どういたしまして?」

 

俺は正直なところ手助けというより邪魔をしたと思っていたので、素直に感謝を受け取る事が出来ないでいた。その事もあり少しの間この場に沈黙が流れていると、少女が口を開く。

 

「……あ、あの!」

 

「ん?どうしたの舞衣ちゃん?」

 

「ま、舞衣ちゃん!?」

 

「あー悪い、嫌だったか?」

 

「い、いえ!そんな事ありません!」

 

「マイマイ、少し落ち着いてくだサイ」

 

「……//、すみませんお恥ずかしいところを見せてしまって……」

 

顔を赤らめたままお辞儀をする少女はとても可愛かったので、俺は正直に感想を述べた。

 

「……大丈夫だ、とっても可愛かった……ぜ!」

 

「か、可愛い……//」

 

「ワォ!零次は大胆デスネ!!」

 

「何の事だ?」

 

「ワォ……零次は鈍感なんですネー」

 

「鈍感?……なるほどそういう事か!ごめん舞衣ちゃん、自己紹介がまだだったね。俺は神条零次だ、よろしく」

 

「可愛い……えへへ」

 

「エレンちゃん、何で舞衣ちゃんはあんなに幸せそうな笑顔を浮かべているの?」

 

「……零次はもう一度人生をやり直した方が良いと思いマース」

 

「何で!?」

 

「はっ!?……私は一体……」

 

「あ、戻った……舞衣ちゃん大丈夫か?」

 

「え?あ、はい、大丈夫……です」

 

「それなら良いけど……それで?何か俺に聞きたい事があったよね?」

 

「はい……貴方は何故ここに?」

 

「零次でいいよ舞衣ちゃん……ここに来た理由はこれについて聞きたい事があってね」

 

そう言って御刀を見せる。

 

「それは御刀!?」

 

「どうしてそれを持っているのデスカ!?」

 

「え?いやぁ、それは何と言いますか……色々あってな……」

 

「色々?」

 

「それについては聞かないでくれ……それよりも、2人はこの事を誰かに報告しなくていいのか?」

 

「あ!」

 

「忘れていまシタ……」

 

「そうなの?それなら早く行った方が良いんじゃないかな?」

 

「そうデスね。それじゃマイマイ行きましょうか……くっ!」

 

「エレンちゃん!」

 

「すみませんマイマイ、もう少しだけ休ませてくだサイ……」

 

「エレンちゃん、やっぱり怪我してたんじゃないか……ちょいと失礼するよ」

 

まだ動けなさそうな状態なので、御刀を竹刀袋に入れて肩に掛けてから少女の肩に右手を添え、膝裏に左手を滑らせて抱きかかえ上げて立ち上がる。

 

「What`s!?」

 

「まあ、これなら大丈夫だろ」

 

「あ、あの!?これは!?」

 

「これも何かの縁だ、送るよ」

 

「そんな悪いデス!私なら大丈夫ですから!それにこんな姿は……恥ずかしいデス」

 

「大丈夫じゃないだろ?いいから気にしないで、俺がやりたくてやってる事だから」

 

「デスが……」

 

「遠慮しないでくれ。それに、エレンちゃんと舞衣ちゃんの事を心配してる人が待ってるなら早く会いにいった方が良いだろ?」

 

「それはそうデスが……ご迷惑じゃありませんカ?」

 

「そんな事ないよ。さあ行こう!舞衣ちゃん!道案内よろしく!」

 

「え?は、はい!分かりました」

 

このままじゃ埒があかない気がしたので、強行手段として話を中断し、舞衣ちゃんに道案内してもらい2人を送り届けた。

______________________________________________

 

舞衣ちゃんの後をエレンちゃんを抱えながらついて歩き、数十分もかからない内に目的地に到着した。

 

「零次さん、この先です」

 

「意外と時間がかからなかったな……」

 

「零次!もうここまでで大丈夫デス!」

 

「ん?そうか?もう歩けるのか?」

 

「ハイ!コンディションはバッチリデース!」

 

「オーケイ、それじゃあ下ろすよ」

 

ゆっくりと足の方から地面に下ろし足取りもフラついていない事を確認してから、肩から右手を離していく。

 

「うん、大丈夫みたいだね」

 

「むー!だから大丈夫だと言ったじゃないですカー!」

 

「ごめんごめん、また無理してるのかと思ってね……さあ、二人共早く行ってきなよ。待っているんでしょ?」

 

「そうですけど……零次さんはこの後どうするんですか?」

 

「え?俺?俺はセクし……ごほんっ!節句でも考えながら家に帰る予定だよ」

 

「今言い直しませんでしたカ?」

 

「気のせい気のせい!ほら、俺の事はいいから行ってきなよ」

 

出来るだけ平静を装いながら苦し紛れの受け答えをする俺は、内心ビクビクしながらも2人の顔色を伺った。

 

「そうデース!それなら零次も一緒に行きましょう!!」

 

「……どうしてそうなった?」

 

「ホラホラ!早く行きましょう!!」

 

「ちょ、ちょっと待って!?服を引っ張らないで!?」

 

「どうしたんですカ?」

 

「いや俺は、その、あれだ……セク……じゃなくて、俺がいると邪魔になるだろ?」

 

「そんな事はありまセン!ね!マイマイ!」

 

「うん。邪魔だなんて思いませんよ」

 

「いやそれでも、悪い気が……」

 

「零次の事を紹介したいのデスが……嫌でしたか?」

 

「あー、嫌というわけではないけど……俺がいない方が話しやすい事があるだろ?一応部外者だからな」

 

「そんな事は!」

 

「ない、とは言えないだろ?」

 

「それは……」

 

「……零次、どうしても駄目なのですか?」

 

舞衣ちゃんもエレンちゃんも落ち込んでしまい、虫の居所が悪くなる。そんな2人を見ていられなくなり妥協案を提示した。

 

「……それじゃあさ、話が終わったら呼んでくれ。それまでここで待っているから」

 

「零次!ありがとうございマース!!」

 

「零次さん!ありがとうございます!」

 

「別にお礼は要らないよ。ほら、早く待っている人の所へ行ってきなよ」

 

「はい!それではまたあとで」

 

「零次ー!後で呼ぶので必ず来てくださいネー!」

 

「了解……行ったか」

 

舞衣ちゃんはお辞儀をし、エレンちゃんは手を振りながら遠ざかっていき、この場に残った俺は1人になった。

 

 

________________________________________

 

エレンちゃんと舞衣ちゃんと別れてから1人じゃんけんをしながら暇を潰していた俺は、早々に飽きて悪いとは思いながらも盗み聞きをする為耳を澄ませてみる。

 

「……あれ……声が……遅れて……聞こえるよ……反響してるだけか」

 

聞こえてきた声からして、家族内での感動的な場面な気がした俺は即座にやめて、THE・いっ◯く堂の真似を全然再現できないままやっていた。

 

「口閉じて声を出すとか無理だろ。鼻から牛乳を出す方が簡単だ……駄目だ、自分が何を言っているのか分からなくなってきた!あぁぁぁ、早く美人科学者に会ってハグされたい!!」

 

心の底から湧き出てくる本音を抑えきれずに口に出してしまい、慌てて口を両手で抑え周囲を警戒するも聞いている者がいないのを思い出して何故だかため息が出てしまった。

 

「はぁぁぁ。1人は暇だな〜……スマホさえあればこんな事にならなかったのに、何故忘れたんだよ俺……エレンちゃんと舞衣ちゃんには悪いけど帰るか?それとも、美人科学者探しをしようか……悩むな」

 

2つを天秤にかけて1人悩み続けながら天井を見上げてみると、突然俺の頭の中にセクシーダイナマイトという単語が思い浮かんだ。

 

「エレンちゃんも舞衣ちゃんも見事な発育っぷりだったな。以前会った時は少ししか話さなくてあまり見てなかったけど、2人共異常なまでに発育が良すぎるよな……特に目を惹かれたのは男なら誰でも見てしまうあの……って、俺は何を考えているんだ!?正気に戻れ!!」

 

思考が段々と乱れていく中、額を壁にぶつける事により何とか正常な判断ができるまでに回復させた。それと同時にエレンちゃんが先ほどの場所からこちらへ駆け寄ってきていたので慌てて姿勢を正して何事もなかったかのように背中を壁に預けて両手を組み佇む。

 

「零次〜!!」

 

「あれ?エレンちゃんどうしたの?俺がずっとこのままの状態で待ってからそんなに経ってないよ?」

 

「どうしたのじゃありまセーン!後で呼びに行くと言ったじゃないデスカ!」

 

「どうやらエレンちゃんは見ていないようだな……」

 

「何の事デスか?」

 

「いや、何でもない……話は終わったのかい?」

 

「ハイ!ママにもパパにもグランパにも報告してきまシタ!」

 

「そうか……」

 

この時の俺は少しだけ盗み聞きした事に罪悪感を感じて心の中で謝罪した……

 

「それでデスね、零次の事を話したら、是非にも会って話がしてみたいから連れてきて欲しいと言われたので、迎えに来ましタ!」

 

「え?紹介だけじゃなかったの?」

 

「細かい事は気にしないで下サーイ!!さあ、早く行くデース!」

 

「ちょっ!?待って!腕を引っ張らないで!?当たってるから!?すごく柔らかいの当たってるから!?」

 

「タイムイズマネー!時間はお金以上に貴重デスよ零次!」

 

「分かった分かった!分かったから離してくれ!ちゃんと一緒に行くから!?」

 

「お断りシマース!さっきのお返しデス!」

 

「何の事を言っているの?」

 

「……絶対に離しませんから覚悟するデス」

 

「あれ?何か怒ってない?」

 

「フン!知りませン!バカ零次!」

 

「何で!?」

 

俺は腕を掴まれて脱出不可能な状態のまま、エレンちゃんに引っ張られて行った。

 

「もうやめてぇぇぇぇぇl!!理性が崩壊しちゃうぅぅぅぅ!!」

 

 

 

 

___________________________________

 

素数を数えながら理性を保っていた俺は、理性が崩壊しかける寸前になってようやく解放された。

 

「51……はぁ、はぁ。あ、危なかった……」

 

「ママ、パパ、グランパ!零次を連れてきましタ!!!」

 

エレンちゃんの声がすぐ隣から聞こえて、俺は今いるこの場所が先程までいた場所ではない事に今になってようやく気がついた。

 

「……本当に危なかったな」

 

「君がエレンの言っていた零次君だね」

 

「え?」

 

「エレンを助けてくれてありがとう」

 

俺は突然話しかけられた事に動揺しながらもその人物に正直に答えた。

 

「いやいや、当然のことをしただけだから気にしないでください……えーっと、すみませんが貴方は?」

 

「あぁ、失礼。僕はここの研究主任をやっている古波蔵公威と言います」

 

「妻のジャクリーンよ」

 

目の前には一目見て研究員とわかる服装の2人の人物が自己紹介してきた。

 

「古波蔵?エレンちゃんのご両親ですか?」

 

「ハーイ!エレンのパパさんとママさんデース」

 

「もしかして達夫が言っていたのはこの人の事か?……確かに聞いた通りだな……」

 

「どうしたんデス零次?」

 

「いや、何でもない。こっちの話だ……それよりも、エレンちゃんのご両親はここの研究員だったのか」

 

「イエス!パパとママとグランパは今はここで働いているんデス!驚きましたカ?」

 

「ああ、かなり驚いているよ……それでエレンちゃん、グランパと言うのは間違いなくあの爺さんだよね?」

 

俺の指差す方によく知っている人物が立っていてかなり動揺した。

 

「ハハハ!爺さんと言われたのは初めてだよ」

 

「……駄目でしたかね?」

 

「いや、僕は構わないよ。初めまして、僕はフリードマン。孫娘達を助けてくれてありがとう零次君」

 

「……初めまして、神条零次です。特に大した事はしていないのでお礼は要りませんよ……」

 

「どうしたんデス零次?元気ないデスね」

 

「エレンちゃん、これが俺のいつも通りだ……気にしないでくれ」

 

「元気がないのがデスカ?変わった人デスネー」

 

「……あぁ、何故だろう。目から汗が……」

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

「ああ、何とか……これぐらい日常茶飯事だから慣れているからな」

 

すぐ近くまで心配してくれた少女にそう言いながらも、俺は涙が出ていないのにも関わらずメガネを退けて目元を拭った……

 

「心配してくれてありがとう舞衣ちゃん」

 

「えーっと、どういたしまして?」

 

「何故に疑問系?」

 

心配してくれた少女の答えに疑問を感じるも、その少女の近くにいる男性から話しかけられて考えるのをやめた。

 

「少しいいかな?」

 

「あ、はい。構いませんが……貴方は?」

 

「これは失礼した。私は柳瀬孝則、舞衣の父親だ」

 

「は、はぁどうも。神条零次です。あの、俺に何か用ですか?」

 

「舞衣から話は聞いている。君にはお礼が言いたかったんだ。舞衣を、娘を助けてくれてありがとう」

 

「ちょ!?お礼を言われるような事はしてませんから!?頭を上げてください!」

 

「いや、君がいなければ娘は怪我をしていただろう」

 

「そんな事ないですって!とにかく頭を上げて下さい!このままじゃ、俺の豆腐並みのメンタルが崩れますから!?」

 

「そ、そうか……」

 

何とか理解してくれたのか、舞衣ちゃんの父親は素直に頭を上げてくれた事により、俺のメンタルは穴が空く程度のダメージだけで済んだ。

 

「君は謙虚なんだな零次君」

 

「いえいえ、謙虚なわけじゃなくて事実を言ったまでですよ」

 

「そうなのか?」

 

「そうなんです。だからお礼は要りませんよ」

 

「だがそれでは……」

 

「柳瀬さん、それ以上言っても彼が困るだけですよ」

 

「フリードマンさん」

 

「ここは素直に彼の言葉を受け取りましょう」

 

「……分かりました。すまない零次君」

 

「気にしないでください。俺の方こそなんかすみません」

 

「……君は変わっているな」

 

「あはは、そうかもしれませんね……まあ、そこは俺だからという事で納得して下さい」

 

「あぁ、そうしておくよ」

 

「ありがとうございます」

 

何故だか舞衣ちゃんの父親との間に沈黙が訪れ少し気まずい状況になり、どうにかこの空気を変える為天に祈りを捧げる……どうかこの状況を打破して下さい……その願いが届いたのか、1人の人物によって現状が一変した。

 

「そういえば零次君、君に聞きたい事があるんだけどいいかい?」

 

「何ですか?爺さんが聞きたいような事はないと思いますけど?」

 

「そうでもないさ。先程から僕は気になっていたことがあるんだ」

 

「気になっている事?」

 

「零次君、君はどうして孫娘達の場所にいたんだい?」

 

「あ……そ、それは何とも伝えずらいと言いますか、説明しづらいと言いますか……」

 

「説明してもらえないだろうか?」

 

「……分かりました。エレンちゃんと舞衣ちゃんには言ったけど、今日はこれについて教えてもらう為ここに来たんです」

 

肩にかけた竹刀袋から御刀を取り出してその場にいる全員に見せながら説明すると、予想通り2人を除き皆驚いていた。

 

「それは御刀かい!?」

 

「どうして君がそれを!?」

 

「少し事情がありましてね……詳しくは言えませんがとある人物から託されたんです」

 

「とある人物?」

 

「すみません、プライバシーに関わる事なのでお答えする事は出来ません……そしてある時、その人物からこれを託されたんです。これを引き取ってくれと……」

 

「……なるほどそういう事か。それは君にとって大切な物なのだな」

 

「え?」

 

「いいんだ。言わなくても分かっている……少しデリカシーがなかったみたいだ、すまなかった」

 

「え?え?え?」

 

「柳瀬さん、彼が困ってますよ。それに、彼はそんな事気にしませんよ?ね?」

 

「いや、別に気にしませんけど……どうなってるのこれ?」

 

どういう訳か周りが暗い雰囲気になってしまい困惑する。そんな俺の心事を知らずにも話が続いた。

 

「ほら柳瀬さん、彼があんなにも心配させないように気を遣ってくれているんですよ?」

 

「……そうだな……すまない零次君、続きを聞かせてくれ」

 

何故か俺が気を遣っているという認識を持たれたのだが、もう考えるのをやめて話を続ける……

 

「あ、はい……それでですね、この御刀なんですがどういう事か刃の所だけ錆びているんですよ」

 

「錆びている?」

 

「そうです。いくら研いでも錆びたままで完全にお手上げ状態になったので、もしかしたらここの人に聞けば分かるんじゃないかと思いましてね」

 

「それじゃあ今日ここに来たのはその御刀について聞く為に?」

 

「そうです。夕方あたりにここに来たんですけど入り口付近に誰もいなかったので少し時間を潰していたんですよ。そしたら急にアラームが鳴ったので何が起きたのか聞こうと慌てて人を探し回っていたらエレンちゃんと舞衣ちゃんを見つけたんですよ」

 

少し嘘を混じりながら答える事に罪悪感を感じるも、全てが嘘ではないので大丈夫だろうと自分に言い聞かせた。

 

「そうだったんデスか……」

 

「まあ、2人を見つけたのは偶然だけどね。後はエレンちゃんと舞衣ちゃんも知っての通りだよ」

 

「……零次君、君はあの者が怖くなかったのかい?」

 

「……あれ以上に怖い存在を目の当たりにした事があるので特には」

 

「そんな者がいるのかい?」

 

「えぇ、残念ながらいますよ……今はどこで何をしているか知りませんけどね」

 

「それは……人なのか?」

 

「その筈です……俺にはそう思えませんけどね。それに、2度と会いたくもないし思い出したくもありません……とにかく、ここに来たのはこの御刀について聞く為です」

 

「そうだったのか……少しそれを見せてくれないかな?」

 

「いいですよ。はいどうぞ」

 

特に躊躇もせずに御刀を鞘に入れてあるまま鞘ごとフリードマンに渡した。それを受け取ったフリードマンはゆっくりと鞘から刀を抜くと、じっくりと刃を眺めたり素手で刃の背や腹の部分を撫でてから1人納得し、刀を鞘に収めて返却した。

 

「どうです?何か分かりましたか?」

 

「ああ……とても信じずらい事なんだけど、その御刀は錆びているように見えるだけみたいだ」

 

「錆びているように見えるだけ?……じゃあ、錆びてないんですか!?」

 

「僕の予想だけど、元々の色が錆びたように見えたんじゃないかな?素手で触れて見ても錆び特有の汚れもなかったからね」

 

「マジですか……それじゃあこれは御刀として機能していたんですね」

 

「そういう事になるね」

 

「……そうですか」

 

引き取ってからも毎日欠かさず研いでも色が変わる事のない御刀が、元々この色だったという衝撃の事実を知って落ち込んだ。

 

「そ、そういえば零次さんってどこかの門下生何ですか?」

 

「いや、そんな事はないけど……急にどうしたの?」

 

「それは、その……失礼かもしれませんが、零次さんの動きが普通じゃなかったので……」

 

「普通じゃない……だと……!?」

 

「確かにマイマイの言う通りデスネー」

 

「エレンちゃんまで!?」

 

「だって、普通の人はあの場から逃げてますヨ?それに零次は刀使じゃありまセーン。どうして助けてくれたんデスカ?」

 

「いやだって、女性だけを置いて逃げるのは男として出来ないだろ?それが美少女なら尚更ね」

 

そんな事を言うと2人とも顔を赤らめて俯いてしまった……まさか!?社会の窓が開いていたのか!?

 

「いや大丈夫だな……じゃあ、何が原因だ?」

 

「ハハハハハ!!零次君は色男だね」

 

「どうしたですか爺さん?」

 

「まさか零次君、君は気づいてないのかい?」

 

「何がですか?孝則さん、俺は何か粗相でもしたんでしょうか?」

 

「……零次君は鈍感なのか」

 

「これじゃエレン達が可愛そうデース」

 

「え!?俺が悪いのこれ!?」

 

「あははは、零次君。僕も流石にこれはエレン達が可愛そうだと思うよ」

 

「公威さん!?何で!?」

 

「私も父親としては複雑な心境だ」

 

「孝則さんまで!?」

 

「まあまあ、皆彼をからかうのもそこまでにしようじゃないか」

 

「何だ、からかっていただけか。良かった……いや良くはないな」

 

「まあ、確かに彼は普通ではないと僕も思っているよ」

 

「爺さん、からかうのはやめてください」

 

「別にからかっていないさ。事実を言っただけだよ」

 

「……どういう事ですか?」

 

「だって刀使でもないのに傷1つついてないどころか、例の黒フードの人物を退けたじゃないか……君は一体何者なんだい?」

 

「何者も何も、俺はただの美濃関学院に通う高校2年生ですよ?」

 

「えぇぇぇぇぇ!?」

 

「うわぁ!ビックリした……どうしたの舞衣ちゃん?」

 

「私と一緒の学校だったんですか!?」

 

「舞衣ちゃんって美濃関学院の生徒だったの?」

 

「そうですよ!ほら!この制服に見覚えありませんか?」

 

「制服?そういえば学校で見た時があるようなないような……」

 

「覚えてないんですか!?」

 

「毎日が野郎どもと一緒に授業を受けるだけだったからね……」

 

「零次はなんだか可愛そうな人デスネー……それよりも、私より1つ年上だったんですね!」

 

「エレンちゃんは高1なの?」

 

「イエス!長船女学園高等部1年デース!」

 

「それじゃあ、舞衣ちゃんも?」

 

「いえ、私は中等部2年です」

 

「あれ?一緒じゃないんだ?仲が良いから2人とも同い年だと思ってたよ」

 

「確かに私とマイマイは大の仲良しさんですが、歳なんて関係ありまセーン!」

 

「みたいだね。2人を見てるとそう思えるよ……羨ましいな」

 

「零次は友達がいないのデスカ?」

 

「エレンちゃん!?」

 

「あははは、直球だね……今まで色々あったからね、2人のように仲が良い友達はいない、かな?」

 

「そう何デスカ?」

 

「そうなんです。まあ、気長にこれから頑張りますよ……っと、すみません爺さん、話の途中でしたね」

 

「別に構わないよ。それに、孫娘達と仲良さそうに話しているみたいだからね。それを邪魔するような無粋な真似はしないさ」

 

「そうかな?これぐらい普通ですよ?」

 

「君にとってはそうかもしれないが、僕にとっては違うんだよ」

 

「……変な爺さんですね」

 

「それはお互い様だよ零次君……さて、話の続きだがもう一度聞くよ。君は一体何者なんだい?」

 

「爺さん、何回聞いても答えは同じですよ」

 

「そうか……それが君の答えなんだね」

 

「はい」

 

「……よし分かった!それじゃあ零次君、そんな君に1つ頼みたい事がある」

 

「え?頼み?」

 

「そうだ、詳しい事は他の場所で2人で話したいんだが時間はあるかな?」

 

「時間ならあるけど、ここじゃ駄目なんですか?」

 

「ああ、少し確認したい事もあるからね……それでどうかな?」

 

「……話だけなら良いですよ」

 

「ありがとう零次君!早速で悪いけど着いてきてくれたまえ」

 

「いきなり過ぎでしょ!?ちょっと!?聞いてる!?……聞いてないなあの爺さん……」

 

わざとなのかは知らないがフリードマンは1人この場から離れて行くので、仕方なく後について行くことにした。

 

「そういう事で、悪いけど俺はここで失礼するよ」

 

「え〜、もっと零次とお話ししたかったデス!」

 

「文句ならエレンちゃんのグランパに言ってくれ……それじゃあまたね、エレンちゃん、舞衣ちゃん」

 

「はい。またお会いしましょう零次さん」

 

「仕方ありませんネ〜、今回は見逃してあげマース」

 

「何故にエレンちゃんは偉そうなの?……公威さん、ジャクリーンさん、孝則さん。すみませんがこれで失礼します」

 

「ああ、またいつでもここに来てくれ。僕達は君を歓迎するよ」

 

「いつでも遊びに来てクダサイネー零次」

 

「零次君、本当にありがとう。次に会えた時には是非お礼をさせてほしい」

 

「だから、お礼は要りませんよ孝則さん。公威さんとジャクリーンさん。また訪れる機会があればその時はよろしくお願いします……それでは失礼します」

 

「またね〜零次〜」

 

「お元気で、零次さん」

 

その場にいる人達から好意的な言葉を背に、今もなお1人歩き去って行く爺さんの後を追った……

 

 

 

_____________________________________________

 

エレンちゃんや舞衣ちゃん達と別れた後、フリードマンと共にとある一室に来ていた。

 

「さあ、座りたまえ零次君」

 

「はい。失礼します」

 

フリードマンから座るように促されたので、ここが何処かわからないまま向かいの椅子に腰掛ける。

 

「あの〜、ここは?」

 

「ああ、ここは僕の部屋みたいなものだ遠慮はしなくていい」

 

「研究機材があるここが爺さんの部屋なんですか?」

 

「僕にとってはね。だからと言ってここで寝て過ごす事はほとんどないけどね。」

 

「少しはあるんですね……それで、早速ですみませんが話を聞かせてもらえませんか?」

 

「ああ、構わないよ。でもその前に1つ確認したい事があるんだけどいいかな?」

 

「俺に答えられる事なら……」

 

「ありがとう……こほんっ、零次君。もしかして、君はゼロなんじゃないかな?」

 

「……ゼロとは噂の終焉のゼロの事ですか?」

 

「そうだね。そのゼロだ……安心してくれ、ここでの会話は誰にも聞かれていないから」

 

「その心配はしていませんよ……爺さん、残念ながら俺は噂の終焉のゼロなんかじゃありませんよ」

 

「……そうか。悪いね変な事を聞いて」

 

「別に気にしていませんよ。でもどうして俺がゼロだと?」

 

「それはだね、君の雰囲気が似ていたんだよ」

 

「……そうなんですか?」

 

「僕は以前に1度だけ彼に会った事があるんだ。その時少しだけ話たんだけど、何故だか零次君と話している時と彼の雰囲気が同じように感じたんだ」

 

「き、気のせいですよきっと!俺なんかと比べたらゼロ……さんに失礼ですよ?」

 

「ハハハハハ!確かに。彼に怒られてしまうかもしれないね」

 

「それ位では怒らないですよ」

 

「そうだといいね……さて、本題に入ろうか」

 

「お願いします」

 

「詳しい事を話すと長くなるかもしれないので、単刀直入に言おう……零次君、孫娘達に力を貸してくれないだろうか?」

 

「なるほど、そう言うお話でしたか……えぇ!?」

 

「君がさっき相手をした襲撃犯なんだが、知っての通り各地を回ってノロを集めているんだよ」

 

「……そんな話は初めて聞きましたよ」

 

「おや?聞いていると思っていたんだがまだだったんだね?」

 

「ノロを奪われた事は聞きましたけど、各地を回って集めているとは聞いていませんね……それで、どうして俺に力を貸して欲しいなんて言ったんですか?」

 

「それは君が今回襲撃犯を退けてくれたからだよ。今回は運良く君が居てくれたお陰で孫娘達が無事だったが、次はどうなるか分からない……零次君、僕はね心配なんだ。もしかしたら愛しの孫娘が命を落とすかもしれない……そう考えると夜も眠れないんだ」

 

「いや寝なよ、爺さんが命を落とすぞ……孫バカなのは十分理解しました。確かに次も無事とは限りませんね……ですが、それなら尚更俺じゃなくてもっと適任者がいるのでは?」

 

「いや、君以外にいないさ」

 

「どうしてです?」

 

「それは……今から話す事は誰にも言わないと約束してほしい」

 

「は、はぁ?」

 

「実は、つい先日にも移送中に襲撃があってノロを奪われているんだ。しかも、護衛に刀使を付けたにも関わらずにだ」

 

「えーっと、爺さんは何が言いたいんですか?」

 

「分からないかい?護衛の刀使でも敵わなかったんだよ?それなのに、その襲撃犯を君は退けた。だからこそ君の腕を見込んで頼みたいんだ」

 

「……今回は運が良かっただけかもしれませんよ?」

 

「それでも構わないよ」

 

「……本気ですか?」

 

「僕は本気だよ。それに、君が居れば多くの刀使達も命を落とさないで済むような気がするんだ」

 

「……学校があるんですけど、それはどうするんですか?」

 

「引き受けてくれるのかい!」

 

「俺にできる範囲でなら……無理な要求はしないで下さいよ?」

 

「ありがとう零次君!」

 

「まあ、俺も刀使達のお手伝いがしたかったので丁度良かったですし。それに、エレンちゃん達とは知らない仲じゃありませんからね。放っては置けないですよ」

 

「零次君……本当に君は彼に似ているね」

 

「そ、そんな事ないですよぉ!?それよりも学校はどうすればいいんですかね!」

 

「それは僕がなんとかするように手を回すよ」

 

「それじゃあお願いします!」

 

「任せてくれたまえ。そうだ、連絡先を交換しておこうか」

 

「……すみません、スマホ忘れてきたので手元に無いんです」

 

「そうなのかい?それは困ったなぁ……あ、そう言えばまだスペアが1つあったはずだ」

 

突然席を立ち、部屋の中を探し回るフリードマンを眺めながら現状を整理してみる。

 

「俺、再び雇われる……あれ?報酬はいいとして何をするのか具体的に聞いてなくね?」

 

重要な事を聞き忘れていた俺は、ようやく戻ってきたフリードマンに具体的な内容を聞くことにした。

 

「爺さん、具体的に俺は何をすればいいんですかね?」

 

「ん?それは……僕の管轄外だから答えられない、かな?」

 

「え?じゃあ誰に聞けば?住み込みで働くにしても部屋は?テントは必要ですか?他にも食事や服の用意に……」

 

「落ち着いてくれ零次君、その他諸々の事は頼んだ手前こちらが用意するから大丈夫だよ」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ……そして、連絡手段としてコレを使ってくれ」

 

「スマホ?しかも……黒!?」

 

「それはとある人物の為に用意した時にスペアとして保管していたんだ。少し使いづらいかもしれないけど、普通のスマホと同じようにメールやネットも閲覧出来るから安心してくれ」

 

「そうですか……それはいいとして、何故にスペクトラムファインダーまであるの?」

 

「すまない零次君、以前の状態のままなんだ。特に使う事はないと思うから気にしないでくれ」

 

「そう……ですよね。まさか荒魂討伐をやらされるわけでもないんだから、気にしなくていいですよね」

 

「そのはずだよ……たぶん」

 

「たぶん!?」

 

「それより君には明日、とある場所に行ってほしい」

 

「ねぇスルーですか?」

 

「しばらくは襲撃犯も姿を見せないと思うから、その間に色々話を聞いておいた方が良いだろう」

 

「絶対聞こえてるよね!?」

 

「……すまない、少し電話したいんだがいいかな?」

 

「もういいっすよ……」

 

何故か話を逸らされた気がするが、聞く耳を持たないようなので俺は諦めて静かにスマホをいじる事にした。その間、爺さんは誰かと電話中だったがしばらくパ◯ドラをやっていたらようやく終わったようで、こちらに話しかけてきた。

 

「零次君、明日にまたここに来てくれるかな?」

 

「ええ、構いませんよ。必要な物があれば持ってきますが何かありますか?」

 

「そうだねぇ、今日と同じで良いと思うよ」

 

「御刀もですか?」

 

「それと今渡したスマホも忘れないでくれ。それさえあれば十分だ」

 

「分かりました……あのぉ、そろそろ日が暮れるので帰りたいんですけど?」

 

「ん?もうそんな時間か……悪いね遅くまで引き留めてしまって」

 

「いえいえ、今日は平日なので特に問題ないですよ」

 

「それはどうかと思うけど……それに今日は週末じゃないか」

 

「え?今日は月曜日ですよ?」

 

「何を言っているんだ君は?」

 

「それはこっちのセリフですよ。ほら、スマホにも今日は平日と……あれ!?このスマホ壊れてる!」

 

「零次君……現実を見ようか」

 

「いやそんな、今日は学校を休んだ筈……俺は知らぬ間にタイムリープしたのか?」

 

「……零次君はいつもカレンダーを確認しないのかい?」

 

「以前までの生活の癖で確認していませんね……確認しても意味がなかったもので」

 

「そ、そうか。まあ、その、ドンマイ」

 

「……本当に週末なんですか?」

 

「そうだよ」

 

「そうですか……つまり、俺は昨日と一昨日学校を無断で休んだという事か……ふっ、どうやら俺は疲れているようだな」

 

「そうみたいだね。それにその口調……ゼロに似ているよ。やはり君は……」

 

「ちゃいまんねん。俺は疲れてると口調がおかしくなるだけやで」

 

「さすがにそれは変わりすぎじゃないかい?」

 

「……俺もそう思います……はぁぁ。また説教されるのかぁ、嫌だなぁ」

 

「頑張りたまえ少年よ。今日はもう帰って休んだ方が良いんじゃないかね?」

 

「そうですね。今日はもう帰って寝ます。それじゃあ俺はこれで」

 

「ああ、今日は本当にありがとう零次君」

 

「どういたしまして……それでは失礼しますね」

 

「そうだ、明日なんだが午前中には来てくれ」

 

「了解です。ではまた明日」

 

衝撃の事実を突きつけられた俺は、詳しい話もあまり聞かずにフリードマンと別れる。建物を出た後、帰りのタクシーを電話で依頼してから少し外の空気を吸いながら時間を潰した。

 

「はぁぁぁぁぁぁ。今日は休日だったのかよ……今の内に言い訳でも考えておこう……」

 

今まで1度も聞き入れてもらえた試しがないにも関わらずにタクシーが来てからも、自宅に着くまで考え続けた……

 

「駄目だ、全然思いつかない……絶対に先生聞いてくれないし、明日遅刻しないようにもう今日は寝よう!」

 

どうしても言い訳が思いつかなくなった事に俺の中で何かが弾け、今日は非常食の鯖缶を食べてから風呂に入り、歯を磨いてから寝床についた。

 

「明日は明日の風が吹く……強く生きろよ明日の俺……グッナイ!」

 

電気を消して明日の自分にエールを送り、俺は眠りについた……

 

 

 

そして、翌日から日常が崩壊していく……彼はまだそれを知らずに眠る……

 

 

 

 

 

 




いやぁ、時間がかかりましたね〜。まさかこんなに長くなるとは予想外ですよー

今回後半部分に時間をかけたので遅くなりましたがお許し下さい!!!


どうやって他のメンバーと接触させようか1番悩みましたが、やはりフリードマン経由で行こうと思います!!

さすがマッドサイエンティスト!!!……え?それは違う人物だって?……気にすんな!気にしたら負けだよ!

次回もお楽しみに!!


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ようこそ!懐かしの仕事場へ!!

今回は手抜きに仕上げました!!!


たまには手を抜くのも大切だよね……


翌日、言われた通りに御刀とスマホを持参して午前中に特別希少金属利用研究所に到着すると、4ヶ月前は見慣れた車両が入り口付近に停車していた。そこにはフリードマンと今は懐かしきドゥライバァが2人で立ち話をしていた。

 

「爺さん来ましたよ〜」

 

「おや、零次君。予想よりも早く来たね」

 

「おっ?フリードマンさん、彼が例の人物ですか?」

 

「そうだよ。零次君、こちらは君の送迎をしてくれる安藤君だ。」

 

やはり見間違いない、奴はとても楽な仕事をして俺を挑発していた憎き存在……

 

「安藤……だと……!?」

 

「おや?零次君は彼を知っているのかい?」

 

「いえまったく知らないし、知りたくもないです」

 

「お前失礼だな!?」

 

「まあまあ、そう怒らないでくださいよ勘当さん」

 

「いや、俺安藤だからな?……ん?このやり取りは以前にもしたような……」

 

「爺さん、どうしてここに彼がいるんですか?」

 

「ああ、それなんだけどね。昨日は詳しい話が出来なくて伝えられなかったんだが……零次君、君にはこれからとある場所でそこにいる人物の手伝いを頼むよ」

 

「まあ、お手伝いするのは構いませんけど……そのとある場所とは一体?」

 

「それはだね……現在、特別管理局局長代理として折神朱音様が勤しんでいる、刀剣類管理局だ!!」

 

「な、なんだってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」

 

 

 

本日をもって、神条零次の過ごす平穏な日常は遥か彼方へと消え去った……

 

 

___________________________________

 

 

二度と訪れる事のない場所で再び働く事になった衝撃的な事実をフリードマンから受けた後、放心状態になった俺はフリードマンからの説明が右から左に聞き流し、話が終わると言われもしないうちに車に乗り込み夢の中に逃げた……

 

「お〜い、起きろー。着いたから起きてくれ〜」

 

「ん……ここは……なんだ、夢か……おやすみ」

 

「いやいや待て待て!!寝るな!夢じゃないからな!?」

 

「なんだ騒々しい……だからお前は葡萄なんだ」

 

「それ何!?初めて聞いたんだけど!?ってか全然関係ないよね!?それ果物だよね!?」

 

「……It`a joke!!HAHAHA!!」

 

「……凄えムカつくんだけど?俺、生まれて初めて初対面の人が憎いと感じたよ」

 

「……そういえば着いたのか〜、それじゃあ早く案内して下さいよ〜」

 

「お前なぁ……はぁ、あいつ程じゃないからまだいいか……よーし、今から案内するから着いて来てくれ」

 

「オナシャーす!!」

 

「ねぇ馬鹿にしてる?」

 

「そ、そんな事はないっすよ?」

 

「本当か?」

 

「マジの論っす!」

 

「お前口調変わってない?……まあいいや、それじゃあ行くぞ」

 

「ういっす!」

 

俺は車から降りて冗談を受け流す事にして歩き出した安藤の後について行った。

 

「よーし、着いたぞー」

 

「あの〜、すみませんが部屋を間違えていませんか?」

 

「いや合ってるぞ?」

 

「いやいや、それならどうして……局長室にいるんですか?」

 

目の前には今では懐かしくもいい思い出が少ない……というより、ほとんどトラブル事ばかり押し付けられた、思い出の場所である部屋の前にいた。

 

「それは連れてくるように言われたからだ。言っておくがこの中にはかーなーりー偉い人がいるから粗相はしないでくれよ……本当に頼むぞ?」

 

「お、おk把握」

 

「不安だなぁ……よし、それじゃ行くぞ!」

 

心の準備が2人整うと安藤が代表として部屋をノックする。

 

『どうぞ入って下さい』

 

中から美すぃ声が聞こえ、入室の許可を得てから2人は扉を開けて部屋に入っていく。

 

「失礼します。例の人物をお連れしてきました!」

 

「おう、ありがとう。ご苦労だったな」

 

「いえ!それでは自分は職務に戻ります!」

 

「え?」

 

「ありがとうございました」

 

「お気になさらないで下さい!では、失礼しました!」

 

「ちょっ!?安藤さん!?」

 

俺の声が聞こえながらも彼は踵を返し、扉を閉める前に親指を立て俺にウインクした後、部屋から出て行った。そして、この場には置き去りにされた俺と、椅子に座る綺麗な女性とお祭りの法被みたいな者を羽織った女性の3人だけになってしまう。

 

「あいつぅぅぅ、仕事ないだろ……」

 

「どうした?」

 

「え?あ、いえなんでもありません」

 

「そうか?……こほんっ、お前がフリードマンが推薦した神条零次で間違いないな?」

 

「はい!……ん?推薦?」

 

「フリードマンから話は聞いている。何でも超優秀な人材だから是非彼に協力してもらってくれ、と」

 

「あんのぉ爺さんめぇぇ……」

 

「この度は私達刀剣類管理局の為にご助力いただきありがとうございます」

 

「へ?あ、いえいえお気になさらず。俺としましても刀使の方やあなたのような御方のお手伝いが出来て光栄です」

 

「おいおい、そんなに私を褒めても褒美はやらんぞ?」

 

「いえ、あなたではないのでご心配しないでください」

 

「ほう、中々達者な口を聞くじゃないか……」

 

「どうしたんですか?お嬢……お姉……おばさん」

 

「んだとぉ!こらぁ!」

 

「真庭本部長、落ち着いてください」

 

「……こほんっ、失礼しました朱音様」

 

「いえ大丈夫です……ふふふ、本当にフリードマン博士が言っていた通りのようですね」

 

「ええ、そのようですね……」

 

「え?爺さ……フリードマンさんは何と仰っていたのですか?」

 

「フリードマンからはお前がとてもユーモア溢れ、恐れを知らない逸材だと聞いている」

 

「うぉい!あの爺さん出鱈目言うなよ!……あ、すみません……」

 

「ふっ、構わない。そういえば自己紹介がまだだったな、私は長船女学園の学長の真庭紗南だ。今はここの本部長もやっている。そして、こちらが刀剣類管理局局長代理を務めている折神朱音様だ」

 

「初めまして、折神朱音です。貴方の事はフリードマン博士から色々とお聞きしていますよ」

 

「ど、どうも……えーっと、それって変な話ではないですよね?」

 

「ここにいる時点でお前は変だろ」

 

「あんた容赦ないな!?」

 

「あんたじゃなくて真庭本部長だ。ここでは本部長と呼べ……それで、これからお前には私の部下として働いてもらう。異論はないな?」

 

「異議あり!」

 

「……よーし早速だが」

 

「ねぇ聞こえてるよね?絶対聞こえてるよね?」

 

「早速だが1つお前に確認したい事がある」

 

「スルーしたよこの人!?……はぁぁ。それで、確認したい事とは?」

 

「フリードマンからは色々聞いてはいるが、どうしても1つだけ信じられなかったからな……神条、襲撃犯を撃退したと言うのは本当か?」

 

「襲撃犯?それって黒フードの事ですか?」

 

「ああ、そうだ。それでどうなんだ?」

 

「いや、撃退したという程の事はしていませんよ。少し相手をしたら勝手に居なくなりましたからね」

 

「そうか。それではその背にあるのがその時の御刀か?」

 

「これの事ですか?確かにその通りですけどそれがどうかしましたか?」

 

「……朱音様」

 

「ええ、信じ難いことですがフリードマン博士の言っていたことは本当のようですね」

 

「あの〜、全然話が分からないんですけど〜。俺は何かまずい事でもしちゃいましたかね?」

 

「……神条」

 

「あ、はい。何でしょうか?」

 

「少し黙ろうか?」

 

「だが断……るわけないじゃないですかやだな〜……だから、ボールペンの先をこっちに向けないで下さい」

 

「ちっ……さて、神条」

 

「今舌打ちしましたよね!?」

 

「これからは私の部下としてこき使ってやるから覚悟しとけよ?」

 

「全力で拒否させて頂きます!」

 

「お前に拒否権があるとでも?」

 

「なん……だと……!?」

 

「真庭本部長、少しやり過ぎですよ。彼にはこれから協力してもらうのですから」

 

「ああ、朱音様。あなたは心も美しいのですね……神条零次!朱音様の為に謹んで任務を遂行させて頂きます!!ご指示を!」

 

「神条さん!?少し落ち着いて下さい!」

 

「何を言いますか朱音様、俺は正気ですよ?」

 

「真庭本部長!彼をどうにかして下さい!」

 

「分かりました。おい、神条。今すぐその態度を改めないと通報するぞ?」

 

「HAHAHA!これは冗談ですよ真庭本部長……だから通報だけはやめて下さいお願いします」

 

「ちっ……もう少しだったのにな」

 

「何であなたは残念そうなの!?」

 

「ん、んん!……それで、神条。これから私の部下としていろいろ仕事してもらうが異論はないな?」

 

「……どうせ断れないんですよね?分かりましたよ……あまり無茶な事はさせないで下さいね?」

 

「……善処しよう」

 

「本当にお願いしますよ……」

 

「では先ずは……と言いたいとこだが、今日来たばかりだからな。これからお前の住む場所に案内する。朱音様、少し席を外しますがよろしいでしょうか?」

 

「ええ、構いませんよ」

 

「ありがとうございます。それじゃ案内するからついて来い神条」

 

「了解しました。それでは朱音様失礼します」

 

「はい。これから大変でしょうがよろしくお願いしますね」

 

「ええ、俺に出来る事なら精一杯務めさせて頂きます。ではまたお会いしましょう」

 

朱音様にお辞儀をして部屋を出て、先に歩く真庭本部長の後について行った。

 

 

____________________________________

 

真庭本部長に空き部屋へと案内されて部屋の中に入り見回すと、目の前の光景に衝撃を受けた。

 

「ベッドがある……何で!?」

 

「何を驚いている?さっき言っただろ、お前の住む場所に案内すると」

 

「いやいやいや、住み込みなんて聞いてないですよ!?」

 

「そう喜ぶな。私からのせめてもの情けだ。これで通う手間も省けるだろ?」

 

「確かに毎回ここに足を運ぶのは疲れますけど……」

 

「それならば問題はないだろ……もうこんな時間か。悪いが私は戻る。神条には明日から働いてもらうから今日はしっかり休んどけよ」

 

「早っ!もう少し猶予はないんですか?」

 

「ない……働いてもらうからにはそれなりの報酬は支払う。この部屋にあるものは好きに使っていいが、それ以外は自分で何とかしろよ?」

 

「あれ!?爺さんが言っていた話と違うんですけど!?」

 

「そんな事私が知るか。働かざる者食うべからずだ。これからしっかり働けよ?……詳しい事は面倒だから省くが、明日は連絡手段としてフリードマンから受け取っているスマホと御刀を持参して作戦本部へ来い。期待してるぞ神条」

 

「……現実って優しくないんだな」

 

「何を言っている?……では明日からよろしく頼むぞ」

 

「ちょっ!?まだ聞きたいことが……って聞いてないか……もういいや、早いけど寝よう……せめて次起きた時には現実が俺に優しくありますように……おやすみニューマイルーム」

 

話を聞かずに出て行った真庭本部長を追いかける事を断念し、どうして自分が爺さんの提案を受けてしまったのかと後悔しながら荷物を部屋の隅に置いてからベッドに寝転がり、腕で目元を覆い眠りにつく。

 

 

 

この日、懐かしの場所との再会となり、そして、神条零次の波乱な日常への第一歩となった……

 

 

 




……手抜き感ありまくりだが、これでも頑張って書いたんだ。

もう、疲れたよ……俺、頑張ったよね?


だから、今だけは……おやすみなさい……



次から頑張って書く!!


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悪魔のはびこる仕事場

俺は思う、なぜこの世にはアイスクリームとソフトクリームという至高の食べ物があるのか……


それは人間が長い歴史の果てに行き着いた究極のスイーツの一つ……


つまり、これは無意識のうちに人間が欲したエネルギーとなりうる為、生み出される事が運命だったに違いない!!


アイスうま〜〜〜


新たに住み込みで働く事になってから数ヶ月……と言うのは嘘で、まだ数日しか経っていない。それでも日々懸命に働く俺は、今日も今日とて書類作業をメインに仕事をしている。

 

「………………」

 

現在は書類に目を通してペンを走らせ、必要最低限の内容にまとめて報告書を作成している最中だ。昨日とは違い動き回る事も少なく、体が疲れる事はない代わりに、ペンを握っている右手とやたら長い文章に目を通して疲れた両目だけは昨日の倍以上に疲労していた。

 

 

「………………おかしい、これは絶対におかしい」

 

ペンを握る右手を止め1人呟く。それは誰かに投げかけた言葉なのか、自分に問いかけているのかは分からない……それでも、口にしなくては気が済まないような精神状態の俺は、例え相手がいなくても1人呟き続けた。

 

「労働とはこれ程までに苦痛でしかないものだったか?以前と比べれば多少は楽になったような気がするが……いや、書類が倍になっているからそうでもないか?だが、その分荒魂討伐はやらなくて良くなったから+−0では?……つまり何が言いたいかと言うと……扱い雑すぎんだろぉぉぉぉぉ!!!もっと!仕事減らしてくれよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

遂に呟くだけでは耐えきれずに大声で魂からの叫びを部屋の外に聞こえる程に響かせた。しかし、帰ってくる反応は小鳥たちが驚いて羽ばたく音だけが返ってきた。

 

「はぁぁぁぁぁ……これなら野郎どもと一緒に授業を受けている方がマシだったなぁ。せめて、美女や美少女とイチャイチャパラダイスを堪能できるなら文句はないんだけどな……こんな事聞かれたら本部長に通報されるな絶対。やはり、今も昔も俺の癒しはこれだけのようだな……うむ!やはりコーヒーなり!」

 

ストレス社会を生きている俺はもう二度とコーヒーを手放せない体になっていた……常にコーヒーは我と共にあり!!

 

「これが俺のソウルドリンク!…………馬鹿な事やってないで作業を終わらせよう……」

 

部屋の中には自分の声だけが木霊し、しばらくすると静寂に支配され虚しくなり気を紛らわすように作業を再開していると、悪魔のBGMがスマホから流れてきた。

 

「『デデン!デン!デデン!デデン!デン!デデン!』……I`ll be back 」

 

『ああん?』

 

「すみません冗談ですだからこれ以上書類を増やさないでくださいお願いします」

 

『はぁ……安心しろ。今回はそういう話じゃない』

 

「おお!ありがとうございます!真庭本部長!」

 

『別に礼を言われるような事はしていない』

 

「そうですかね?……おっと、それより突然どうしたんですか?いきなり電話が掛かってきて危うく失神するところでしたよ?」

 

『神条、私の事をどう思っているか今度詳しく話をしようじゃないか……こほんっ、それはさておき、今から作戦本部に来るよう連絡しただけだ。ついでに番号に間違いがないかの確認だ』

 

「え?今から?俺まだ終わってませんよ?」

 

『それは後回しだ。とにかく伝えたからな?3分以内に来い、以上だ』

 

「待ってくだ……せめてこっちの返事聞いてからでもいいじゃないか……」

 

既に通話は終了していてディスプレイには通話終了の文字が映し出されていた。

 

「それにしても書類を後回しにするなんて……もしかして、俺の頑張りに免じて休暇を用意してくれるというサプライズが!?こうしてはいられん!3分ではなく1分以内に行ってやる!」

 

数日しか過ごしていないにも関わらず手慣れたようにスマホをポケットにしまい、壁に立てかけて置いた御刀を竹刀袋にしまい紐を肩にかけ、作業中の書類を片付ける事もせずに部屋から出る。

 

「俺の休暇は誰にも邪魔はさせん!いざ!作戦本部へ!」

 

長い廊下を歩く人がいない事を幸いに全速力で掛ける。側から見れば風が吹いたのかと錯覚するような速度で目で追えないのだが、それを本人が知るはずもなく、廊下には窓ガラスが少し揺れている光景だけが残る。例えドアが開く事があっても彼は人が出てくる前に通り過ぎていく。

 

「うおっ!?……なんだ?風か?でも窓開けてなかった気がしたんだけど……気のせいか?」

 

一室の部屋から出てきた男性職員は突然の風に驚きながらも扉を閉めて、その手に持つ物をとある一室に運ぶ為歩みを進める。

 

「ゼロがいなくなって大変だったけど、まさか彼のように作業してくれる人を雇うなんて朱音様様だなぁ……さてと、これもついでにやってもらおうっと!」

 

男性職員は数日前までの疲労しきった顔つきが今では笑顔に溢れた顔つきになっていた。そして、男性職員は今日も手に持つ書類を最近雇われた人物のいる部屋まで運ぶ……だがしかし、向かう部屋から先程飛び出した人物は知らない……彼が、この職員のせいで仕事が忙しくなっているのに気づくのはもう少し後となった……

 

「ついでにコーヒー飲んで休憩しようかな」

 

 

__________________________________________________

 

部屋から飛び出して宣言通り1分以内に着いた俺は、部屋の前で身だしなみを整えてから真庭本部長の待つ作戦本部の扉を開けて中に入る。

 

「失礼します。神条零次、時間以内に到着しました」

 

「おお、来たか」

 

扉付近で立ち止まったままでは邪魔になるので、ここに呼び出した人物である真庭本部長の座る場所まで歩く。そして、先約が居る事は遠くから見て分かってはいたのでその人物の後ろでしばし待機していると真庭本部長から声をかけられた。

 

「時間通りには来ないと思っていたぞ?」

 

「そんなまさか、遅刻したら何をやらされるかわかりませんからね。時間通りにちゃんと来ますよ」

 

「いい心構えだ、それでこそ便利……んん!フリードマンからの推薦した人物なだけはある」

 

「今便利って言いましたよね?」

 

「はて?なんの事だ?」

 

「……まあ別に気にしませんけどね。それで、呼び出したという事はやはり休暇を貰えるという事ですか?」

 

「どうしてそうなる、まだそれ程働いてないのに休暇を与えるわけないだろ」

 

「ですよねー。あはははは、ははっ……はぁぁぁ」

 

「おい、神条。落ち込んでいる暇はないぞー」

 

「神条?」

 

今まで反応しなかった先約の人物は突然、俺の名を聞くと首を傾げた。それを見た真庭本部長は俺の時と違い優しく丁寧に紹介する。

 

「ああ、そうだ。彼がさっき話してた人物だ。名前は神条零次、現在は雑務や被害のあった場所の修繕活動をやってもらっている……神条、こっちは糸見沙耶香。見ての通り刀使だ」

 

「糸見沙耶香です」

 

「あ、ああ。初めまして、俺は神条零次です。呼ぶときは好きに呼んでくれて構いません」

 

「了解」

 

「あははは、別に敬語とかじゃなくてタメで話していいよ?」

 

「そうなの?」

 

「そうそう、俺はそういうの気にしないからね」

 

「うん、分かった。よろしく、零次」

 

「こちらこそよろしくお願いします。糸見さん」

 

「零次、私の事は沙耶香でいい」

 

「そ、そうか……それじゃあ、沙耶香ちゃんよろしく」

 

「うん、よろしく」

 

第2の天使降臨!!今日はどうやら俺の運が最高潮みたいだ……いやぁ、ここで働いていて良かったぁぁぁ!!!

 

「こほんっ、自己紹介は済んだみたいだな。それでは早速お前たち2人には遠征に出ている馬鹿薫のとこへ行ってもらう」

 

「はぁっ!?いきなり過ぎじゃないですか!?俺は慣れているからいいとして沙耶香ちゃんが了承しないと「了解」了承しちゃったよ!?」

 

「神条も沙耶香を見習え」

 

「くっ、確かに素直に頷く事も大事かもしれない……けどね、俺にも譲れない何かがあるんだ!」

 

「ほう、それは一体どんなものなんだ?」

 

「それは……何かだ!」

 

「無いなら最初から言うんじゃねぇ!」

 

「すみませんでしたぁぁ!!」

 

真庭本部長の迫力のあるプレッシャーに思わず無意識に頭を下げてしまった。恐るべし真庭本部長……

 

「はぁぁ、まったくお前は真面目なんだか不真面目なんだか分からない奴だな」

 

「真庭本部長、人生はたまに手を抜かないと息苦しいだけですよ?」

 

「神条、お前の仕事もたまに減らす位が丁度いいという事だな?」

 

「嘘です!俺はいつも真面目に働いているのでそれは勘弁してください!もっと俺に休息をください!」

 

「……お前はもう少し本音を隠す努力をしろ」

 

「善処します!……ところで、仕事を断れないのは最初から分かってはいたんですけど、その馬鹿薫さん?は今どちらにいるのですか?」

 

「それはだな……現在は群馬で荒魂の捜索中だ」

 

「え?群馬?俺のパスポートとか用意してくれたんですか?」

 

「群馬舐めんな……はぁぁ、薫といい神条といい、どうしてこうも馬鹿な奴がいるんだか……」

 

「それは……神のみぞ知る事ですよ」

 

「……神条の仕事を増やすか」

 

「ちょっと待って!?冗談!冗談だからね!?本気にしないでくださいよ!?」

 

「だったらお前は黙って人の話を聞け、紛らわしい」

 

「知ってますか?たまには冗談を言わないと息苦しくなる……という冗談は置いといて、俺たちは何をすればいいんですか?」

 

「……まあいい。今回はそこに派遣した刀使による隊に入り付近の荒魂捜索に協力してほしい。どうも隊長が働かずにサボっているようだからな」

 

「了解。糸見沙耶香、任務を遂行します」

 

「あははは、沙耶香ちゃんは返事が早いなぁ」

 

「何か間違っている?」

 

「いいや、間違ってはいないよ。それも正しい事だ」

 

心がピュアピュアな沙耶香ちゃんにはこれからもそのままでいて欲しいと願いながら、頭を撫でて微笑んで見せる。ついでに、目の前の本部長みたいにはならないで欲しいという願いも込めながら……

 

「何で頭を撫でるの?」

 

「何でかな?……でも、そうだな。1つ言えるとすれば、沙耶香ちゃんが綺麗だからかな?なーんてね」

 

「は、恥ずかしい……//」

 

「ん?ああ、ごめんごめん。頭撫でられるの嫌いな人もいるんだよな……ごめんね沙耶香ちゃん」

 

「……別に、嫌じゃない……」

 

「そうなの?でもそれならどうして顔が赤くなったんだろう?んー……さっぱり分からないな」

 

「……神条はもう一度人生をやり直せ」

 

「だから何で!?どうしたらそうなるの!?」

 

「それはこっちのセリフだ。どうしてお前は気づかない?」

 

「何が?」

 

「……さてと、110っと」

 

「うぉい!ちょっと待ったぁぁぁぁ!!!」

 

「ん?どうした?」

 

「何故今そこに電話する必要があるんですかね!?」

 

「神条、さっきのお前を野放しにしておくと今後危険な気がしてな」

 

「何処が!?俺何かしました!?」

 

「……まあ、冗談はさておき」

 

「ねぇ、冗談だよね?今の間はたまたまだよね?」

 

「……そこでだが、お前たち2人にはそれぞれ別の役割を与える」

 

「最近スルーされる事に慣れた気がするー……なーんてね」

 

「神条……Go to Hell!!」

 

「そこまで言わなくてもいいでしょ!泣くぞ!」

 

「泣いてもらって私は一向に構わんぞ?」

 

「……もうやだこの人」

 

「今のはお前が悪いだろ……さて、これ以上時間をかけてはいられないから手短に話すぞ。まずは沙耶香の方は、先程言ったように荒魂捜索に協力してくれ」

 

「了解」

 

「そして、神条。お前にはそれともう一つ、隊長の監視をしてくれ」

 

「監視?何で?」

 

「そこの隊長はちょっとしか真面目に働かない奴だからな、大抵は働かずに休んでいる筈だ。そこで、お前にはその人物の監視を命じる。そして、帰還後しっかり働いていたか報告してもらう」

 

「まあ、それぐらいなら別にいいですけど……そんな事よりも、どうして俺が荒魂捜索に協力しないと何ですか?俺刀使じゃないですよ?」

 

「そんなことは知っている」

 

「それでは何故に俺も協力しないとなんですかね?」

 

「それは簡単な話だ……文字通り荒魂の捜索だからな。探すぐらいはお前にも出来るだろ?それに、刀使ではないにしろデコイや盾代わりにはなるだろ?」

 

「あんたの血は何色だぁぁぁ!!!」

 

「あっはっはっは。さっきのお返しだ……今のは冗談だ。お前に戦ってもらおうなどとは思っていないから安心しろ。その代わり、刀使達のサポートを頼みたい」

 

「……本当ですか?本当にそれだけですか?」

 

「ああ、もちろんだ」

 

「……分かりました。言っておきますけど本当にサポートしかしませんからね」

 

「それでいい。……少し時間がかかり過ぎたな。それでは、糸見沙耶香、神条零次の2名は今すぐ群馬へ向かい現場の隊員達と合流しろ」

 

「「了解」」

 

「では解散!……神条、最近は物騒だから気をつけろよ」

 

「何でそれを今言うの!?不安なんですけど!?」

 

解散の言葉と同時に俺と沙耶香ちゃんは扉へと歩いていたら、いきなり真庭本部長が俺にだけ嬉しくもない言葉を投げかけてきたので反射的に反応した。

 

「ただの見送りの言葉だ気にするな……無事に戻って来いよ」

 

「ねぇ、それ死亡フラグだよ?あなたは俺を死地へと送りたいの?」

 

「ぷっ、ははははは!そうかもしれないな」

 

「今の笑うとこあった?俺は笑えないんだけど?ねぇ?聞いてる?」

 

「はははは。悪い悪い、お前が死ぬ光景が想像できなくてな。例え手足が動かない状況でも神条なら頭だけで地面を這いずりながら生き延びそうだ」

 

「……確かに四股の関節外されても自力で何とかした事はあるけどね

 

「ん?今何か言ったか?」

 

「いいえ、何も言ってませんよ……それでは行きますね」

 

「ああ、早く行ってやれ。扉の前で沙耶香がお前の事を待っているみたいだぞ」

 

「そのようですね。それでは失礼します」

 

真庭本部長にお辞儀をした後、背を向けて扉の前で立ち止まってこちらの様子を見ている沙耶香ちゃんのもとまで歩いていく。そして、再び扉を開ける前に一礼してから部屋を出て歩き出す。

 

「零次、さっき何を話していたの?」

 

「ん?ああ、特に大した事じゃないよ。少し世間話をね」

 

「そうなの?私、あんなに笑っている本部長見たことない」

 

「へぇ、そうなんだ。俺は毎日顔を合わせると笑われているんだけどね……あれ?何か虚しいぞ?」

 

「零次?」

 

「はっ!?な、何でもないよ!うん。そうだ、気にしちゃダメだ……それで沙耶香ちゃん、聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

 

「何を聞きたいの?」

 

「それはだね……これから何処に行けばいいのかな〜って、本部長に聞き忘れていたんだよ。あはは……だから教えてくださいお願いします!」

 

サラリーマン並みの平謝りの姿勢で沙耶香ちゃんにこれからの予定を教えてもらうため、プライドなど関係なしにお願いした……俺のプライドは既に捨てたのでこれぐらい何と言う事はない!!

 

「うん、分かった」

 

「ありがとう沙耶香ちゃん!やはり持つべきものは頼れる友だね!」

 

「私と零次は友達なの?」

 

「え?あ、ああ。これから任務を共に遂行する仲間だからね……と言うのは流石に無理があるね。あはは、ごめんごめん」

 

「……別に、良い」

 

「え?許してくれるって事?」

 

「そうじゃない……零次と私は友達」

 

「お、おう?それじゃあこれから友達としてよろしく、でいいのかな?」

 

「うん。これからよろしく、零次」

 

その瞬間、俺の中で何かが弾けた……目の前には笑顔で返事をしてくれた天使が……大天使にグレードアップした瞬間だった……

 

「これが恋……なわけないか……それで沙耶香ちゃん、この後どうするか教えてもらっていいかな?」

 

「うん。この後は車で群馬まで移動する。車は入り口付近に待機しているって本部長が言ってた」

 

「そうだったのか。それじゃあ特に用意するものはないんだねぇ」

 

「御刀があれば問題ない……零次のそれは何?」

 

「ん?ああ、この竹刀袋の事か。これは……そうだな、言うなれば護身用かな?」

 

「護身用?」

 

「そうそう、いつ何時不審者が現れてもすぐに対処できるようにね。まあ、警察で言うところの警棒みたいなものかな?あ!言っておくけど真庭本部長から携帯していいように許可は貰っているからね?」

 

「それは知ってる。じゃないと持ち歩けない」

 

「だよねー……だよねぇ……」

 

「零次?……零次」

 

「ん?どうしたの?」

 

「目的地に着いた」

 

「え?」

 

話し込みながら歩いていたら知らぬ間に建物の入り口に来ており、聞いた通りに車が一台停まっていた。

 

「見慣れたような車……あれだよね?」

 

「そのはず。早く行こう」

 

「ああ……この車もしかして奴が……まさかな」

 

考えるのをやめて先に歩く沙耶香ちゃんの後を追って車に近づくと、運転席のドアが開いて中から人が出てきた。

 

「あぁ、やっぱり安藤か……」

 

「ん?おお!お前はこの前の!久しぶりだな!」

 

「零次、知り合い?」

 

「残念ながらね……」

 

「何で残念そうなんだよ!?もっと喜べよ!」

 

「すみませんが俺はノーマルなんで」

 

「俺もノーマルだ!!まったく、相変わらず容赦ないなお前」

 

「人をあの場に残して仕事がないのに逃げていくような人物に容赦なんてしませんよ」

 

「おまっ!?あの時は悪かった!でも分かるだろ?あの場に残ると……その、気まずいというか」

 

「俺も気まずいのは一緒ですよ?」

 

「本当にすまなかった!!」

 

「……まあ、いても居なくても変わらなかったと思いますけどね」

 

「それはそうかもしれないが、酷くない?」

 

「そうですか?これでも優しく言ったつもりなのですが?」

 

「これで優しいとかお前は鬼か!?」

 

「俺は人間だ!」

 

「真面目に返すな!反応に困るだろ!……はぁ、あいつ以上に疲れる」

 

「零次」

 

「ああ、そうだった。安藤さんが群馬まで送迎してくれるんですか?」

 

「ん?ああ、そうだけど。何だ?もしかして、本部長が言っていたのはお前らの事だったのか?」

 

「たぶんそう」

 

「そうかそうか。何というか大変だな……」

 

「そんな事はない。私は刀使だから、荒魂を討伐するのも任務の内」

 

「……そうか。あーっと、神条だったか?俺が言うのも何だがあまり無理をさせないようにしろよ」

 

「言われなくてもそのつもりですよ……俺の目が届く範囲ならね……ちなみに俺はこれが仕事の内ではないのにも関わらず、無理矢理やらされている」

 

「神条はもう少し空気を読もうな?今感動しているところだからな?」

 

「我が名はエアーブレイカー!!そんな物に我は屈しない!!」

 

「いきなり何!?お前疲れてるんじゃないか!?」

 

「ふむ、確かにその可能性はなきにしもあらずだな」

 

「あるのかないのかハッキリしないなぁ。まあ、移動中にでも仮眠を取ったらどうだ?」

 

「最初からそのつもりだ、安心してくれ」

 

「……お嬢ちゃん、何というか。頑張ってくれ」

 

「ありがとうございます」

 

「よしっ!それじゃ2人とも後ろに乗ってくれ!」

 

「はい」

 

「前はダメなのか?」

 

「助手席は……ちょっと荷物があるんでな」

 

「……ねぇ、仕事してるの?それとも旅行にでも行くの?」

 

「両方だ!」

 

「……沙耶香ちゃん、後ろに乗ろうか」

 

「うん。分かった」

 

「俺は後でいいから先に乗っていいよ」

 

「いいの?」

 

「いいのいいの。遠慮しないで」

 

「……それじゃあ、先に乗る」

 

「安藤さん……見つかって叱られても知りませんよ」

 

「うっ、肝に命じておくよ」

 

「そうですか。それじゃ運転お願いしますね」

 

「おう!任せとけ!」

 

「……大丈夫かなぁ」

 

少し不安になりながらも沙耶香ちゃんの後に続いて後部座席に座る。安藤さんがその後に運転席に乗るとエンジンをかけて車が発進した。

 

「待っていろよ!俺の焼きまんじゅう!!はっはっはっは!」

 

「……本当に大丈夫かなぁ」

 

「零次、仮眠は取らなくていいの?」

 

「ああ、そうしたいんだけど……何かあったら起こしてくれ沙耶香ちゃん」

 

「了解」

 

「任せたよ。それじゃあ、おやすみ」

 

かなり不安になりながらも何かあれば沙耶香ちゃんが起こしてくれるという事なので、沙耶香ちゃんを信じて座ったまま俺は眠りについた……

 

 

 

 

 

 

続く??

 

 

 

 

 




どうやら俺はロリコ……んん!!純粋な心をもつ少女に惹かれてしまうらしい……


これもまた運命……な訳ないかww


……おかしいなぁ、天使にしか見えないフィルターが網膜に投射されてるのかなぁ?


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数少ない理解者との遭遇

な、長くなりすぎた……ちょっと疲れて文章が変になっているかも……


まあ気にするな!!いつものことだ!!



……もう無理。頭が暑さでやられたんだよ……


仮眠といいながら移動中ずっと寝てしまった俺は、沙耶香ちゃんに揺すられて目を覚ました。

 

「零次、起きて」

 

「んん……沙耶香ちゃん?……そうか、俺は生きていたか」

 

もしかしたら事故に遭うかと寝る前は不安だったがそんな事は起こらなかったみたいで、五体満足の状態である事に内心ホッとする。

 

「もう到着してる」

 

「そうなの?それじゃあ降りないとだね」

 

目的地には到着しているという事なので車のドアを開けて降り、周りを見回す。

 

「緑が多いなぁ……っと、沙耶香ちゃん掴まって」

 

見回すのを中断して降りようとしている沙耶香ちゃんに手を差し出して要らぬ手助けをするが、これも昔本やテレビで見た車のマナーであるという知識があったので実践してみた。そして、どうやら間違えではなかったらしく、沙耶香ちゃんは何も言わずに手を掴んで降りる。

 

「……ありがとう」

 

「どういたしまして……それにしても、ここに隊長達がいるのかな?」

 

「そのはず。早く合流しないと」

 

「ああ、そうだね。それじゃあ中に入ろうか」

 

安藤さんは……何故か目の前の建物の従業員の1人と楽しく談笑しているのが見えたのでそっとしておき、2人だけで中へと入る。

 

「おぉ!これは絶景だ。旅館なんて久しぶりだなあ」

 

「今日から宿泊されるお客様方ですね?お話は伺っています」

 

突然話しかけられて驚きながらも声のした方を見ると、女将なる女性が姿勢正しく歩いてきた。どうやら出迎えにきてくれたようだ。

 

「俺達の事を知っているんですか?」

 

「ええ。昨日連絡を貰いましてね、お二人という事でしたが外にいる方は?」

 

「ああ、あの人の事は気にしなくて大丈夫です。その内何処かへ出掛けるので」

 

「そうなのですか?」

 

「そうです。だからお気になさらず」

 

「かしこまりました。それではお部屋に案内させて頂きますので、まずはあちらにあるロッカーに靴を脱いでしまって下さい」

 

「わかりました」

 

女将と思われる女性従業員の言う通り、2人は靴を脱いでロッカーにしまってから女性従業員の元まで戻ると、親切にスリッパを用意してくれたのでそれを履く。

 

「それではご案内致しますね」

 

「「お世話になります」」

 

「はい。それではまずはそちらの女性の方からご案内させて頂きますがよろしいでしょうか?」

 

「ええ、構いません……すみませんが少しだけ待っていただいてもよろしいでしょうか?」

 

「はい、大丈夫ですよ」

 

「ありがとうございます……沙耶香ちゃん、今スマホ持ってる?」

 

「持ってるけど、それがどうしたの?」

 

「この先何かあった時呼びに行くのがお互い大変だからさ、連絡先を交換しておいた方が楽になると思うんだけど?どうかな?」

 

「確かに零次の言う通り、任務には必要だと思う」

 

「いや、任務って意味じゃないんだけど……まあいいか。それじゃ交換しようか」

 

「分かった」

 

沙耶香ちゃんは先にここの旅館にお世話になっている刀使達と一緒の部屋になるはずなので、それを見越して連絡先を交換する。何故なら俺は……大勢の女性がいる部屋を訪れる程の大層な度胸を持ち合わせていないからだ!!……笑いたければ笑えよ……

 

「よし、これでいつでも連絡取れるね……お待たせしました。それではお願いします」

 

「はい、かしこまりました」

 

「それじゃあ、また後で会おう沙耶香ちゃん」

 

「うん。零次、また後で」

 

「ふふふ、それではこちらです」

 

何故か俺を見て上品に笑われた気がしたが特に気にせず、案内されていく沙耶香ちゃんが見えなくなるまで手を振りながら見送る。

 

「さてと、戻ってくるまで暇だなぁ……とりあえずグラ◯っとくか」

 

やる事がなかった俺はスマホを取り出してソシャゲをやって待つ事にした。

 

_____________________________________________

 

しばらくスマホで時間を潰していると女性従業員が戻ってきたのでスマホをポケットにしまう。

 

「お待たせいたしました」

 

「いえいえ、それ程待っていませんよ」

 

「お気遣い痛み入ります。それではご案内致します」

 

「お願いします」

 

今度は俺が女性従業員の後についていき部屋に案内される。階段を上り少し歩くと女性従業員が立ち止まる。

 

「こちらがお客様のお部屋になります」

 

そう言って部屋の襖を開けてくれたので、遠慮せずに中に入りすこしだけ見回る。

 

「……何だか落ち着きますね」

 

「ありがとうございます。それでは、何かありましたらお申しつけください」

 

「はい、分かりました」

 

「失礼致します」

 

最後に襖を閉めてくれると、その後は仕事が他にあるのかすぐにきた道へと歩いて行った。

 

「大変そうだな……それにしても本当にいい部屋だ。やはり俺も日本人だから畳は落ち着く……訳がない!広すぎ!俺1人だよね!?これ絶対4人部屋だよね!?これは本部長のイタズラか?……ありえるな」

 

そんな事は言いつつも今回は特に怒る程でもないので、荷物を置いてスマホをテーブルの上に置いてから畳に寝転ぶ。

 

「この香り落ち着くなぁ。思わず寝てしまいそうだ……なぁ……」

 

車では座ったままで寝た気にはなれなかった事もあり、俺は寝転んで目を閉じるとすぐに熟睡し始めてしまった。

 

 

_______________________________________________

 

次に目を覚ました時、またもや同じ人物に揺すられて起きた。

 

「……沙耶香ちゃん?」

 

「零次、来て」

 

上体を起こして欠伸をすると段々と覚醒していく。

 

「よく寝たぁぁ。やっぱり畳もたまにはいいな」

 

「……みんな待ってる」

 

「え?」

 

まだ意識がはっきりとしない中でその言葉の意味が理解できずにも立ち上がる。

 

「零次、早く」

 

「何かあったの?……って、ちょ!?腕を引っ張らないで!?」

 

いきなり腕を引っ張られ動揺するも、本人はこちらを見ずに問答無用で何処かへと連れて行く。

 

「待ってくれ!?せめてスリッパだけでも履かせてくれぇぇぇ!」

 

部屋に入る時に脱いだスリッパを履く暇すら与えてもらえずに、そのまま俺は引かれるがまま沙耶香ちゃんと共に早歩きになる。

 

腕を引っ張られながら転びそうになるのを何とか耐えて歩いていると、何やら見た事があるようなないようね制服姿の女子達がいるところに連れられて来てしまった。

 

「隊長、連れてきた」

 

「おう、ご苦労!こいつが沙耶香の言っていた奴か」

 

「えーっと、この状況の説明をプリーズ」

 

「隊長、薫に零次を連れてくるように言われたから連れてきた」

 

「おk把握……あー、もしかして本部長の言っていた刀使達ってここにいる人たちの事?」

 

「そうだ!オレの前でサボりは許さない!」

 

「ねー!」

 

威勢が良い少女は腰に手を当て自慢気に言い放ち、それに続き近くにいる変な生き物が鳴き声をあげる。

 

「すみませんが、あなたが隊長さんですか?」

 

「おうよ!オレがここにいる隊を率いる隊長の益子薫だ!」

 

「ど、どうも。神条零次です。本部長から聞いているとは思いますが微力ながらお手伝いする事になりました。よろしくお願いします」

 

「ねねっ」

 

「……それは何ですか?」

 

「ねねはオレのペットだ。気にするな」

 

「ねっ!」

 

「……やっぱりペットなんだ……よろしくチビ助」

 

「こいつはねねだ。そんな名前じゃない」

 

「ねー!」

 

「……じゃあ、ねね助」

 

「いやいや、だからこいつはねねだって言ってるだろうが!」

 

「いやいや、そんな名前じゃうさぎを殴る少女しか思いういかばないんだが?」

 

「はぁ?うさぎを殴る?」

 

「あーいや、何でもない。こっちの話だ」

 

「ね?」

 

「まあいい。それよりも沙耶香は良いとしてお前は何だ?」

 

「何だと言われても困るんだが……まあ、あれだ。本部長の部下と言う事らしい」

 

「いや、らしいって何だよ?」

 

「それは、部下らしい事はほとんどしていないから?」

 

「何だそれ?」

 

「まあまあ、俺の事は気にしないでくれ……俺はただ本部長に逆らえなくてここに来たんだ」

 

「そ、そうか……なんか、その。ドンマイ」

 

「ねー」

 

「ああ、ありがとう。理解してくれる人がいるだけで気が楽になるよ」

 

「まあ、オレもこき使われてるからなー。少しは分かるさ」

 

「そうなのか?」

 

「ああそうだ。あのおばさん、次にあったら文句を言ってやる」

 

「あははは、程々にな……それではこれより荒魂捜索と益子薫の監視の任務を遂行します。よろしくお願いします皆さん」

 

「はい。よろしくお願いします神条さん」

 

「「「「よろしくお願いします!」」」」

 

皆から戸惑いながらも返事をもらえて少し安心していると、隊長が喚きだした。

 

「ちょっと待て。今なんて言った?」

 

「よろしくお願いします?」

 

「そこじゃねぇ!その前だ!」

 

「えーっと、荒魂捜索と益子薫の監視?」

 

「それだよ!それを先に言えよ!」

 

「どうして?別に大した事ではないと思うけど?」

 

「んな訳あるかぁ!!何だよ監視って!?」

 

「それは本部長に言ってほしい。俺は隊長が働かないからついでに監視して、帰還後報告するように言われただけだからね」

 

「はぁ!?何を言っているんだあのおばさんは!オレがいつ仕事をサボったってんだよ」

 

「隊長、つい先程もサボっていましたよね」

 

「うぐっ、何も言い返せない」

 

「そうだったんですか……えーっと、見たところあなたが副隊長ですか?」

 

「はい。副隊長の桐生葉月です」

 

「やっぱりそうか……よく隊長はサボるのですか?」

 

「ええ、少なくとも最初の1日以外は」

 

「それは何というか……お疲れ様です」

 

「ありがとうございます」

 

「苦労しているんですね……まあ、監視と言っても俺はそこまで厳しくは無いですけどね」

 

「おお!お前わかってるじゃねーか!」

 

「ふっ、仕事はたまには手を抜かないとな……そうだろ?隊長さん」

 

「ああ、そうだな。お前が監視役で良かったぜ!」

 

「零次でいい。俺も話の分かる隊長で安心したよ」

 

「そうだろそうだろ!あ、そうだ。オレの事は名前で呼んでくれ」

 

「分かった。これから少しの間だがよろしく、同志薫ちゃん」

 

「おうよ!それじゃこれから牛乳で一杯どうだ?」

 

「ふむ、悪くない。それでは一杯やりますか!」

 

「隊長、神条さん。いい加減にして下さい。本部長に報告しますよ?」

 

「おいおい、今のは軽い冗談だって。な?零次」

 

「そ、そうそう。今のは薫ちゃんの言う通り冗談ですよ。あはははは……だから報告しないで下さい!」

 

「オレも右に同じく!」

 

「あなた達本当に今日会ったばかりですか?息がぴったりですけど?」

 

「いやいや、オレはあいつと今日が初めてだ」

 

「俺も薫ちゃんとは今日……初めてまともに会話した」

 

「まともに会話した?」

 

「そんな事より!これから荒魂捜索を始めるぞ!!全員気張っていけよ!」

 

「了解だ!」

「「「「「了解!」」」」」

 

「はぁぁぁ。了解」

 

「よし!それではいざ出陣!」

 

隊長である薫ちゃんの掛け声と共に全員行動を開始する。俺も皆と同じくその場から動こうとして、ある重要な事を思い出したて立ち止まる。

 

「零次、どうしたの?」

 

「スマホとか部屋に置いてきたままだった……ごめん沙耶香ちゃん、薫ちゃんに後から追いかけるから先に行くよう伝えといて」

 

「分かった」

 

「ありがとう。それじゃ……」

 

沙耶香ちゃんに伝言を頼むと、旅館内を走るのは気がひけるので早歩きで部屋に戻る。

 

_______________________________________________

 

部屋に戻って竹刀袋とスマホを持ち、部屋を出てロビーでスリッパを脱いでロッカーから靴を取り出して履き替えて従業員に一声かけてから皆の後を追って行く。しかし、徒歩で移動していたのか走り始めてから直ぐに見つける事が出来た。よく見ると聞き込みしているようで誰も動こうとしないので今の内に合流するために近づいた。

 

「お年寄りは若い子とお話しするのが大好きですから」

 

「お話しするのが好きと言っても長話はやめてほしいけどね」

 

「うおっ!?……って零次か。驚かすなよ!」

 

「ごめんごめん、てっきり気づいているもんだと思ってたよ」

 

「私は気づいていましたよ」

 

「じゃあオレにも言えよ!」

 

「すみません、隊長は気づいていると思っていましたので」

 

「お前らな〜……」

 

「まあまあ落ち着いて薫ちゃん。ほら、聞き込み終わったみたいだよ?」

 

そして、聞き込みしていた沙耶香ちゃんを指差して教えると呆れながらもそちらに振り返った。

 

「目撃者からの聞き取り完了。これより捜索に向かいたい。命令を」

 

「ああ、ま、適当に探してくれ」

 

「緩いな〜」

 

「了解……目撃地点に法則性が感じられない以上、捜索範囲を広げる」

 

「しかし、あまり広げ過ぎると逆に穴が大きくなりませんか?」

 

「私が範囲を2倍担当する」

 

そう言ってスマホをポケットにしまってからその場から飛んで木の枝に乗り、その後も別の木の枝に飛び移りながら移動していった。その光景を目の当たりにした俺たちは驚き、俺だけは咄嗟に視線を逸らした。

 

「八幡力も使わずにあの身体能力ですか。あれなら確かに2倍行けますね」

 

「……はぁぁ。あの真面目ちゃんめ……」

 

「隊長は糸見隊員が嫌いなんですか?」

 

「真面目過ぎて苦手なんだよ。はぁ……同じ真面目人間でもひよよん・ザ・ないぺったんはいじると反応が超愉快!……久しぶりに会いたいもんだぁ」

 

「とりあえずそのひよよんという方に、隊長は深く謝罪すべきだと思います」

 

「ひよよん・ザ・ないぺったん?薫ちゃん、何でないぺったんなの?」

 

今まで視線を地面に落としていた俺は、気になるワードに興味を持ち薫ちゃんに向き直って問いかけた。

 

「ああ、それはだな……実際に見れば分かる」

 

「見れば分かるって……ああ、そういう事か」

 

「そういう事だ……」

 

「神条さん、女性に対して失礼な事を考えていませんでしたか?」

 

「そ、そんな事ないですよ?」

 

「……本当ですか?」

 

「……すみませんでした。少しだけ考えていました」

 

「次からは気をつけて下さいね?」

 

「はい……」

 

「それでは隊長、私達も捜索を始めましょう」

 

「だな。よーし、それじゃお前ら行くぞー」

 

何故か俺だけが注意を受けて、反省しているのが見て分かるほどに落ち込んでいる俺を置いて、他の皆は荒魂捜索のため歩きながらあたりを見回す。

 

「……俺も探すか」

 

幾度もの理不尽な状況を乗り越えてきた俺は、すぐに気を取り直して皆の後を追いかけた……

 

 

___________________________________________________

 

皆に追いついた後、同じく足を使って捜索を開始した俺は現在スペクトラムファインダーの性能の低さに落胆していた。

 

「こういう時に活躍しないでいつ活躍するんだよこれ……」

 

「どうした?」

 

「薫ちゃんか……スペクトラムファインダーに反応しないなら放置しても良いと思うんだけど、どう思う?」

 

「確かにオレも同じ考えだ。だが、おばさん曰く、民間人の訴えを無下には出来ないだとよ……はぁ、めんどくせぇ」

 

「なるほど、確かに今のご時世では無視も出来ないか……沙耶香ちゃんにだけ負担をかけるのもアレだから、俺も少しだけ頑張りますか」

 

「おいおい何をするつもりだよ?」

 

「別に大した事じゃないよ。別行動で捜索するだけだからね」

 

「お前刀使じゃないのに大丈夫なのかよ?」

 

「そこは、遭遇したら逃げて連絡するから大丈夫。そういう事でその時は頼みますよ隊長殿」

 

「おうよ!……でも、オレはお前の連絡先知らないぞ?」

 

「……あの〜、連絡先を交換しませんか?というか交換して下さいお願いします!」

 

「まあそれはいいけどよ……お前以外と抜けてるとこあるんだな」

 

「あはははは、仰る通りで……以後気をつけます」

 

「まあ、そんな落ち込むなって……ほら、連絡先交換するぞ」

 

「ああ、ありがとう」

 

情けない所を見せてしまうも無事、薫ちゃんと連絡先を交換する事が出来た。

 

「よし、これで準備は整った……神条零次、これより別行動をとり捜索致します」

 

「あまり無理はするなよー」

 

「もちろんそのつもりだよ……それじゃあまた後で」

 

「おう」

 

最早、隊長監視の任務はこの際忘れて、俺は少しでも刀使達の負担を減らす為に1人で森の中を駆け巡った。

 

「なっ!?……消えた?」

 

「どうしたんですか隊長?」

 

「ああ、副隊長か……なぁ、あいつは一体何者なんだ?」

 

「神条さんの事ですか?それは先程彼が、真庭本部長の部下だと言っていたじゃないですか」

 

「いやそうなんだけど、そうじゃなくてだな……あーもう分からん!!」

 

「ちょっと隊長!?急にどうしたんですか!?」

 

「……わりぃ、どうやら疲れてるようだ。さっき目の前からあいつが消えたように見えたのは疲れているせいだな、きっと」

 

「何を言っているんですか?」

 

「いや、何でもない……さて、それじゃオレは休憩するとしますか」

 

「隊長も働いてください」

 

「おー、後でな……それに、オレの代わりに零次が働いてくれるから問題ない」

 

「そういえば見かけませんね」

 

「零次ならさっき別行動で探し始めたぞー」

 

「大丈夫なんですか?」

 

「オレもそう言ったけど、もし遭遇したら逃げてから連絡するって言ってたから大丈夫だろ。だから、オレはベストコンディションを保つ為に今から休憩しなくてはならないんだ……後の事は頼んだぞ桐生副隊長!はーはっはっはっは!!」

 

「……はぁ。どうせこうなると思っていましたよ……」

 

森には高らかな笑い声が響き渡り、その元凶である人物は頭に相棒を乗せながらその場に5人の少女達を残して歩き去って行った……

 

__________________________________________________

 

別行動を開始してから数時間後、あれからも色々森の中を捜索したが一向に見つける事が出来ずにいた。現在はどの辺りかを確認する為森を抜けると、前方が崖になっている見晴らしの良い場所を見つけた。

 

「あの崖から周囲を見回してみるか」

 

とりあえず道に迷っても旅館のある場所を覚えておけば困る事はないと考え、崖から旅館を探すことにした俺はギリギリのとこまで歩き始める。そして、あと少しで下を覗き込める位置まで来ると、突然何かが崖の下から現れた。

 

「荒魂……じゃなくて沙耶香ちゃんか、良かったぁ」

 

「零次?」

 

「久しぶり。荒魂は見つかった?」

 

「まだ」

 

「そうだよね。そんなに早く見つけられないよね」

 

「零次も?」

 

「残念ながらまだ見つけられてないよ。この先はほとんど見て回ったけどいるのは野生動物ばかりだったよ。あははは」

 

「早く荒魂を見つけないと」

 

「ああ、そうだね。でも焦っても荒魂を見つけられる訳じゃないから、無理はしないでね」

 

「分かった。無理はしないように頑張る」

 

「そこを頑張るんだ……そうだ、他の人は?」

 

「薫以外は下にいる」

 

「薫ちゃん、あんたって人は……とりあえず俺も合流するよ。それじゃ降りようか」

 

「うん」

 

そう伝えると俺は軽く膝の屈伸をしてから崖の端で立ち止まり下を向いて、足場になりそうな場所を確認してから飛び降りる。途中途中に降りる前に目星をつけていた足場を利用しながら降りる事で、足に負担もあまりかけずに降りる事が出来た。

 

「よっと……足場が崩れなくてよかった〜」

 

「神条さん、崖から飛び降りるなんて……あなたは馬鹿なんですか?」

 

「副隊長さん酷くない?これぐらい大した事ないじゃん」

 

「いいえ、あの高さから何もしないで飛び降りるような事をするのは馬鹿です。ましてやあなたは刀使ではないのですから」

 

「そうなの?別に刀使じゃなくてもあれぐらいの高さなら大丈夫だと思うけど?」

 

「それは貴方だけです。刀使でさえ八幡力を使いますよ」

 

「……それは置いといて」

 

「話を逸らしましたね?」

 

「そ、そんな事ないよ?」

 

「……そういう事にしておきましょう」

 

「感謝する……まずは近況報告、向こう側は捜索したけど荒魂は発見出来ませんでした」

 

「そうですか。こちらも現在捜索中ですが未だ発見できていません」

 

「お互い進捗状況は変わらずか……それじゃあここからは共に捜索してもいいかな?」

 

「はい、お願いします……隊長が働かなくて人手が足りなかったので助かります」

 

「あははは、それは何というか……お疲れ様です」

 

「ありがとうございます」

 

「それではこれから桐生副隊長の指揮の元、任務を遂行します。ご指示を」

 

「分かりました。これよりまだ足を踏み入れてない範囲を捜索するのでついてきてください」

 

「了解」

 

別行動はここまでとなり、隊長が不在の為桐生副隊長の指揮の元、隊長を除いたメンバーで捜索を再開した。

 

 

_____________________________________________

 

 

隊長を除いたメンバーだけで捜索してから長い時間が経ち、空は夕焼け色に変わっていた。そして、現在は不在だった隊長と合流してメンバー全員集合していた。

 

「じゃあ、今日はここまで。暗くなると山は危険なんで、早めに切上げた隊長様に感謝しつつ宿で疲れをとるように」

 

隊長からありがたいお言葉を受けて皆静かに頷く……者は誰一人として存在しておらず、4人の刀使は絶賛沙耶香ちゃんを褒め称えていた。もちろん、空気が読める俺は隊長からのありがたいお言葉を受ける前から包囲網から離れて、隊長の隣で遠くから沙耶香ちゃんの様子を眺めていた。

 

「たった1日で凄い人気ですね沙耶香ちゃんは」

 

「ええ、彼女のおかげで捜索範囲も広がりましたからね」

 

「そうですね」

 

副隊長の中でも沙耶香ちゃんの株が急上昇していた。俺の評価は実績を残していないのであまり聞きたくなく、話を逸らしていると薫ちゃんが苦い顔になりながら呟いた。

 

「気のせいか。沙耶香が来た事でオレの株がストップ安になった気がする」

 

「気のせいです。だって彼女が来る前からストップ安でしたから」

 

副隊長は最後に衝撃ではないが、事実を告げてから歩いていき、残された2人+αの間には気まずい空気が流れる。

 

「……薫ちゃん、生きていればいい事の一つや二つ見つかるさ」

 

「そのフォローの仕方はどうなんだ?」

 

「ごめん、こういう時なんて言えばいいか思いつかなかったんだ……という事で、ねね助。お手本を見せてくれ!」

 

「ねねっ!?」

 

「他人任せかよ!」

 

「他に方法が見つからなかったからね……許せ薫ちゃん」

 

「もう少し粘れよ……」

 

「そうは言っても……他に言えるとしたら、寝顔が可愛かった事ぐらいしか褒める事ないよ?」

 

「なっ!?お前見たのか!?」

 

「え?まあ、あれだけ堂々と寝ていれば見てしまうと思うけど?それにしても気持ちよさそうに寝ていたよね」

 

「//……忘れろ、今すぐ忘れろ!」

 

「いや無理でしょ……と言うのは冗談だ。だから御刀に手を伸ばさないでください」

 

「……本部長に今回の任務でサボってたのを黙ってくれるなら許す」

 

「するする!しますから!黙っていますから!だから落ち着こう。ね?」

 

「わかった、今回は許してやる……約束忘れんなよ」

 

「もちろんだ……はぁぁぁ。斬られるかと思ったぁ……」

 

どうにか隊長殿の許しを得た俺は、未だ心拍が安定しないのでゆっくりと深呼吸をして心を落ち着かせる。一瞬縦から真っ二つに斬られる未来が見えて足が震えていたのを気合で何とかしたのは秘密だ……

 

副隊長がこの場から離れてから一悶着あった後、入れ替わるようにして沙耶香ちゃんが薫ちゃんの前まで歩いてきた。

 

「明日は必ず荒魂を発見するから」

 

「もう少し肩の力を抜いても良いんだぞー。この一件、荒魂による直接的な被害は一切報告されていないんだ。紗南の目も届かないし、気楽にやれよ」

 

「任務は速やかに達成すべき。刀使の使命は、荒魂を討つ事だから」

 

「だよな、うん。刀使として正しいのはお前らだよ」

 

「言っている意味がわからない」

 

「いいんだよ。お前らはそれで」

 

「ねー」

 

「薫ちゃんが隊長らしい……だと……!?」

 

「零次、どうしたの?」

 

「あ、ああ。ちょっと驚いただけだから気にしないで」

 

薫ちゃんの気遣いに本気で驚いてしまい動揺したのを誤魔化して愛想笑いしてみると、沙耶香ちゃんが浮かない顔をしていたのでバレたのかと思い問いかける。

 

「どうしたの沙耶香ちゃん?」

 

「ねぇ零次、さっき薫が言っていた意味が分かる?」

 

「え?ああその事か……まあ何となくは分かるかな」

 

「分かるの?」

 

「少しね……その内沙耶香ちゃんも分かる日が来るさ……」

 

「どう言う事?」

 

「う〜ん、そうだなぁ……考え方は人それぞれ違うって事かな?」

 

「?」

 

「まあ今は分からなくても問題はないから深く考えなくてもいいと思うよ?」

 

「そうなの?」

 

「ああ。それにこればかりは刀使じゃない俺が言っても説得力皆無だからね……いずれ薫ちゃんが教えてくれるさ。だから、今は宿に戻って疲れを癒そう。戦士にも休息は必要だからね」

 

「零次、私は戦士じゃなくて刀使だけど?」

 

「比喩だよ比喩。ほら、俺たちも早く行かないと置いて行かれちゃうから行くよ」

 

「……分かった」

 

「うんうん、素直でよろしい。それじゃあ行こう」

 

俺なりに答えを持ち合わせてはいたが、薫ちゃんが何を伝えたかったのか分からない為敢えて教えず、後の事は薫ちゃんに任せる。今は宿に戻ることを最優先に宿へ歩き出すと、後ろから沙耶香ちゃんもついてきたので安心して先に行ったメンバーの後を追った……

 

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宿に戻った後、上手い飯と温泉を堪能した俺は部屋でゴロゴロしながらスマホを弄る。

 

「……ガチャ率の変動があったのにも関わらずこの引き運……天は、運営は俺を見放した!!」

 

ソシャゲのガチャを引いてレアリティが最高なものが1つも引けず、嘆きながらスマホを既に敷かれている布団の上に叩きつける。

 

「これはもうあれだ、課金しろという事だな。だがしかし!それでも俺は無課金で続けてやる!!俺の意思は豆腐よりは硬い!!……近場にコンビニないかなぁ」

 

俺の意思は思った以上に弱くて脆く、ガチャ運の無さに思わず理性が崩壊してコンビニでカードを買おうと立ち上がり、財布を持って部屋を出た。

 

「別にカードが目的ではない、あくまでついでだ。そう、お菓子を買うついでだから大丈夫……こうして沼にハマるのか俺は……」

 

自分に言い訳しながらもカードを買う事は決定事項になりつつある中、廊下を歩いていると前方に見知った顔が見えたので近づいて声をかけてみた。

 

「はぁ……めんどくせぇ……」

 

「何が面倒臭いの?」

 

「れ、零次!?いつからそこに!?」

 

「今来たばかりだけど?それで、こんな所でどうしたの薫ちゃん?」

 

「あぁ、ちょっとな……そうだ。零次、この宿に卓球できるとこがあったよな?」

 

「え?確か一階にそんな場所があったけど……」

 

「それだ!ちょっとオレは沙耶香達を連れて来るから、零次はラケットを用意してくれ。それじゃ、頼んだぞ」

 

「は?お、おい!ちょっと!?……まだ一言もいいとは言ってないんだけど……まあ、どうせコンビニがどこにあるかも分からないしいいか。ラケットとピンポン球さえ用意すればいいんだよな?……従業員の人に聞いて借りてこよう」

 

突然の申し出を断れず、あのままでは課金の沼にハマる未来が待つだけなのは分かりきっている事なので、急遽予定を変更して薫ちゃんのご要望通りに道具を借りる為、従業員を探し始めた。

 

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ロビーにいた従業員の人に言って、卓球道具を借して貰ってから卓球台のある部屋に向かうと既に他のメンバーが温泉の浴衣姿で集まっていた。

 

「意外と人望あるんだなぁ……」

 

やはり、薫ちゃんと言う人間は何だかんだ言っても隊員達からの信頼があるようで正直尊敬する。もしかしたら今回も誰かを気にかけてここに呼び出したのではなかろうか?

 

「これがカリスマ……まぁそれはないか。皆暇していただけだろ……そうに違いないはず!」

 

「おっ?やっと来たか。零次遅いぞ」

 

「ごめん、少し従業員の人と話をしてたら少し遅くなってね。はいこれ、借りてきたけどラケットの種類が違うのは勘弁してくれ」

 

「おー。まあ大丈夫だろ。ありがとな」

 

「どういたしまして」

 

俺は素直にお礼を言ってくれる薫ちゃんに対して1つ仮説が唐突に浮かび上がる。こうやってさり気なく好感度を上げているから信頼されているのではないのだろうか?

 

「俺もこれから真似しようかな?」

 

「何を真似するんだ?」

 

「いや、何でもないから気にしないで……それで、どうしていきなりやろうとしたのかは聞かないとして、誰がやるの?」

 

「ふっふっふ、それなら決まっている。オレがやるのはもちろんだが、対戦相手として……沙耶香を指名する!」

 

「私?」

 

「そうだ!沙耶香はそっち側な」

 

勝手に指名して場所も相談もせずに決めてから、ラケットとピンポン球を手に取り、薫ちゃんは沙耶香ちゃんと向き合う形で台の向こう側に移動する。

 

「……取り敢えず沙耶香ちゃん、これを持って」

 

「分かった」

 

俺は残りのラケットを沙耶香ちゃんに手渡した。ラケットを受け取った沙耶香ちゃんだが、急な展開にまだ困惑したままの状態でも台の前に移動する。

 

「沙耶香ちゃん……俺は君を尊敬するよ」

 

俺ならば確実に文句の1つは言っていただろう。そう考えると沙耶香ちゃんが急に眩しくて直視出来なくなった。

 

両者とも位置に着くと、未だにラケットを持って困惑している沙耶香ちゃんに対して薫ちゃんが挑発し始めた。

 

「へいへーい、沙耶香ビビってるー」

 

その最中も眩しくて直視出来ていない俺が、伊達眼鏡越しに目元を手で覆っている間、他のメンバーは俺と反対側に横一列に並んで沙耶香ちゃんの声援をし始めた。

 

「糸見さん、ファイト!」

 

「隊長なんかやっつけちゃえ!」

 

「あれ?薫ちゃんは信頼されてるんだよね?……今のは聞き間違いか?」

 

声援の中に薫ちゃんを批判する声が聞こえた気がした俺は……右から左に受け流す……俺は何も聞かなかった……そういう事にしておこう……

 

「どういう……事?」

 

困惑していた沙耶香ちゃんは遂に耐えきれなくなったのか、この状況についての説明を薫ちゃんに問い詰める。

 

「どうもなにも、温泉と言えば卓球だろうが」

 

「今は任務の途中」

 

薫ちゃんの答えになっているのかわからない答えに対し、沙耶香ちゃんは当たり前のように答えた。

 

「「真面目か!?」」

 

思わず沙耶香ちゃんの答えには反射的に俺が思った言葉が口から出て、薫ちゃんとハモってしまった。

 

「バカヤロウ、休んだり遊んだりするのも任務の内だ」

 

「任務……」

 

「いやいや、後者は違うだろ?沙耶香ちゃんが信じたらどうするの?」

 

「細かい事はいいんだよ。今はそれよりも遊ぶのが大事だ!」

 

薫ちゃんの発言にはどうも納得は出来ないが、確かに遊ぶのも休むのも大事ではあると思うのでこれ以上は何も言わずに黙る事にした。

 

「ねねー」

 

薫ちゃんの発言に対しては何も言わない事にした時、突然沙耶香ちゃんの肩にねね助が現れた。

 

「あっ」

 

「ねね助?いつの間に?」

 

ねね助の出現に驚いた沙耶香ちゃんは小さく声を漏らし、俺は今までどこに潜んでいたのか……もしや、浴衣の中にいたのでは?と考えられる隠れ場所を推測していると、ねね助がその場で尻尾を使って素振りを始めた。

 

「ねっ、ねっ、ねっ」

 

それを見た沙耶香ちゃんはねね助の意図が分かったかのように、同じくラケットを持って素振りを始める。

 

「こう?」

 

「ねっ!」

 

「え?分かるの?」

 

ねね助の意図が分かった沙耶香ちゃんに対して驚きを隠せず、俺はいつしか先程までねね助がどこにいたのか推測するのをやめていた。

 

「ふっふふ、ねねが言ったところで所詮貴様など遊びの素人。本気の遊びと言うものを、教えてくれる!!」

 

「流れるようにフラグを建てますね」

 

「あー、何だか結果が目に見えるよ」

 

「はっはっは!いくぞ沙耶香!」

 

薫ちゃんは沙耶香ちゃんに宣言した後、ピンポン球を上に投げて構えを取る。

 

「ま、まさか!?あれは!?伝説のプリンスサーブか!?」

 

「ふん……キェェェェェェ!!!」

 

そして今、ついに沙耶香ちゃんと薫ちゃんとの白熱のバトルが始まった……

 

________________________________________

 

卓球とは競技である、であるからして必然と決着がつけば終わるものだ。そして現在、俺の目の前の光景は勝者と敗者の姿が見て分かる程の状況になっていた。その光景を目の前にピンポン球が床に跳ねる音がBGMとして鳴り響く。目の前にある台の片方には……薫ちゃんが台に突っ伏して荒い呼吸をしていた……薫ちゃんが負けたという事だ……

 

「えー、勝者は沙耶香ちゃん!」

 

取り敢えず何か言ってあまり薫ちゃんの姿を注目させないようにする為、沙耶香ちゃんが勝利した事を宣言した。その俺の意図に気づいてかは知らないが、ねね助が沙耶香ちゃんの腕を尻尾で掴んで上に掲げると俺と他に1人を除いたメンバーが沙耶香ちゃんの元へ集まって喜び合っていた。その間に俺も薫ちゃんの元へ移動する。

 

「はぁ……はぁ……はぁ」

 

「驚くほど体力ないですね、隊長」

 

「卓球は英語でtable tennis って言うけど、薫ちゃんの疲れようはtennis並み……いや、それ以上だね」

 

「ええそうですね。流石に私も驚きました」

 

「俺もだよ……」

 

「薬丸自顕流は、一撃で仕留める瞬発力が……ありゃあいいんだ。おい!ちょっと待ってろ」

 

荒い息が少し整ってきた薫ちゃんは、ラケットを置いてこの場から出て行く。それを見ていた全員が疑問に思いながら薫ちゃんが出て行ったドアの方を見ていると、何やら音がドアの向こうからしてきた。そして、勢いよくドアが開くとそこには……御刀を持っている薫ちゃんの姿があった。

 

「はっは!御刀さえあればお前のような木っ端、敵じゃねぇ!!」

 

「いっそ清々しいまでに卑怯!」

 

「逆の意味で尊敬します!隊長!」

 

「糸見さん頑張れ!」

 

「下克上よ!」

 

「部屋を壊さないで下さいね」

 

「……ちょっとトイレ行ってくる」

 

予想外の行動に俺の頭は機能停止した。薫ちゃんが何を考えているのか分からなくなり、少し気分を落ち着かせようと一度トイレに向かう……と言うのは嘘で、俺の経験上これから面倒事が起きると思ったので、巻き込まれない内にこの場から退散するのが最良だと判断した。だからこそ、俺はこの場に全員を残して1人トイレへ逃げた……

 

「いい度胸だ、覚悟しやがれ」

 

俺がトイレに向かう最中に最後に聞いた言葉はどこかフラグ臭い台詞だった……

 

_____________________________________________

 

あの後、少し早歩きをしてトイレに向かった俺は途中従業員の人に捕まった。

 

「あら?お客様は先程の」

 

「え?ああ、はい。神条です。先程は道具を貸していただきありがとうございます」

 

「どういたしまして。皆様楽しんでいらっしゃいますか?」

 

「え、ええ。それはもちろんですよ」

 

「それは良かったです」

 

道具を貸して頂いた従業員の方と偶然鉢合わせし、素通りするのは失礼なので少しだけ世間話をしておこうと話していた俺は、まさかこの選択が間違いだったとは時が来るまで気づけなかった……そう、今従業員の方にお礼をしている最中に俺の来た道の方から何か大きな音が聞こえたのだ。

 

「あら?今の音は?」

 

「あ、あははは、何ですかね?少しハメを外しすぎて頭を壁にでもぶつけたんじゃないでしょうか?」

 

「え?それはそれで大丈夫なんですか?それに、音もかなり大きかったような?」

 

「どど、どうって事はないと思いますよ?ですが少し心配なので俺が確認してきます。後で教えに行きますのでロビーで待っていて下さい」

 

「そうなのですか?私も一緒に……」

 

「大丈夫です!……たぶん……とにかく、俺が確認して来ますので待っていてください。お願いします」

 

「は、はぁ、分かりました。それではロビーに居ますので後で何があったか教えて下さい」

 

「はい!それでは失礼します!」

 

その場で敬礼して返事をし、すぐ様回れ右をして来た道を歩いて戻る。

 

「大丈夫だ俺、あの場には副隊長の桐生さんがいるんだ。いくらなんでも台を壊してはいないはずだ。薫ちゃんだって副隊長の前でそんな事はやらない……よな?」

 

戻る最中に自分に大丈夫だと言い聞かせ、最悪の状況には陥っていない事を願いながら歩く。そして、もしかしたら他の場所で音がしたのかもしれないと希望を持ち、皆のいる卓球場のドアの前に立つ。

 

「何も起きていませんように何も起きていませんように……よし!」

 

何も起きていない事を祈った後、覚悟を決めてドアを開けて……そっと閉じた。

 

「……これは夢か?卓球台は無事だったが……いやいや、そんな御刀が天井に刺さってるとか無いわー、目の錯覚だなきっと」

 

そう行った後もう一度ドアを開けて見ると、隅に4人で固まってひそひそ話している少女達と、その場から一歩も移動していない沙耶香ちゃんと台の上に乗っているねね助がハイタッチをしている。そして、天井に突き刺さったままの御刀付近で腕を組んで仁王立ちしている桐生副隊長と土下座している薫ちゃんの姿が目に写った……

 

「どうしてこうなった……」

 

「はっ!?零次!助けてくれ!」

 

「えーっと、これは薫ちゃんの仕業……だよね?」

 

「いや違う、オレの手元から御刀が勝手に動き出して天井に刺さったんだ」

 

「隊長?」

 

「な、なーんてな……零次!何とかしてくれ!お前だけが頼りなんだ!」

 

「薫ちゃん……はぁ、まったく」

 

「零次……」

 

「罪は償わないといけないよ薫ちゃん。頑張れ……」

 

「この薄情者ー!!」

 

「隊長。やはり本部長に報告しますね?」

 

「はっ!?それだけは勘弁してください!何卒お慈悲を!」

 

綺麗なまでに土下座が様になっている薫ちゃんを見て助けたいとは思うが、その目の前にいる桐生副隊長のプレッシャーが恐ろしくて何も出来ずただドアの前で立ち尽くす。本当に何がしたかったのか分からずにいると、頭を上げた薫ちゃんは目の前の人物ではなく、今も仲よさそうにしている沙耶香ちゃんとねね助の様子を見ながら一瞬微笑んだ。

 

「なるほど、そういう事か……仕方ないな」

 

俺は天井に突き刺さっている御刀の元まで歩き出す。プレッシャーが近づくにつれ強くなろうとも俺の歩みは止まらない。この程度は余裕だ。師匠に比べたら可愛いものなので近づきたくはないが、近づこうと思えば近づける程度で問題ない。どうにか2人の間に到着すると、未だにプレッシャーを放っている桐生副隊長をなだめる。

 

「まあまあ桐生副隊長、薫ちゃんもこうして反省しているみたいだから許してあげましょうよ」

 

「零次……」

 

「……そうですね。少しは反省しているみたいですからこれ以上はやめておきます」

 

「桐生副隊長……オレは信じていたぜ!」

 

「勘違いしないでください隊長、私は説教はやめるという意味で言ったんです」

 

「「え?」」

 

「考えてみてください、いくら反省したところでこれがどうにかなる訳ではないんですよ?」

 

そこで桐生副隊長は現実を突きつけるかのように御刀を指差した。

 

「これはどうするんですか隊長?」

 

「いや、その、それは……零次!!」

 

「そこで俺に振るの!?」

 

「零次なら何とかなるだろ!というか何とかしてくれ!」

 

「驚くほどに他人任せだね薫ちゃん!?そんな事言われても……あっ」

 

「神条さんどうしたんですか?」

 

「何かあるのか!」

 

「いやぁ、それはあるにはあるんだけど……上手くいくかどうかわからない」

 

「それでもいい!頼む零次!」

 

「う〜ん……仕方ない。やるだけやってみるよ」

 

「おお!ありがとう零次!」

 

「あまり期待はしないでね?」

 

「神条さん、それで何をするんですか?」

 

「ん?それはね……」

 

俺は袖からスマホを取り出して2人に見せる。

 

「これだよ!」

 

「「スマホ?」」

 

「まあまあ。ちょっと待ってて」

 

2人が困惑している隙にスリープモードを解除してある連絡先に電話をかける。コール音が鳴ってからスマホを耳に当ててしばらく待つと、かけた相手側と繋がった。

 

「あ、もしもし真庭本部長ですか?」

 

「お、おい!零次!お前!」

 

「しーっ、静かにして薫ちゃん。大丈夫だから」

 

『もしもし、こちら沖田です』

 

「あれ?沖田さん?本部長は?」

 

『本部長は今は休んでいるよ』

 

「そうですか……」

 

『もしかして神条君かい?』

 

「え?はいそうですけど」

 

『そうか。今君は本部にいないのか。もしかして昨日からかい?』

 

「そうなんですよ……すみません。書類まだ終わってないままなんですよ」

 

『それは気にしなくていいよ。本部長から急に呼び出されて派遣されたんでしょ?』

 

「まあそうですね。書類は後回しでいいと言われたので……まさか群馬まで来るとは思っていませんでしたよ」

 

『あははは、それはお気の毒に……それで、何かあったのかい?』

 

「あー、ちょっと必要な道具と資材を用意して貰おうと思ってたんですけど……休んでるなら無理ですね」

 

『うーん、そうでもないよ?』

 

「え?」

 

『必要なのは道具と資材だけなんだよね?』

 

「ええ、そうですけど……大丈夫なんですか?」

 

『ああ、それなら僕が何とか用意するよ。一応これでも結構地位が高いからね。何とかなるよ』

 

「ありがとうございます。ですが、道具や資材を運搬する人員が最低でも1人いないとですがそこはどうするんですか?」

 

『それなら問題ないよ。さきほど戻ってきた彼ならいつも暇しているからね』

 

「それって……安藤さんですか?」

 

『正解!流石神条君、本部長の部下なだけはあるね』

 

「いえいえ、これぐらい職員の方なら気づいていると思いますよ?」

 

『そうだね……まあそれはいいとして、道具や資材を運搬する人員だけでそれ以外には人員を割けないんだけど、それでもいいなら協力出来るけどどうする?』

 

「はい。お願いします」

 

『了解。それでどんな物が必要なの?』

 

「お世話になっている旅館で何もせずにいるのは少し申し訳ないので、所々に傷や穴が見える壁や天井の修繕したいと思いまして。その為の道具や資材をお願いしたいんですが」

 

『それなら、修繕活動で余っているものと予備があれば問題ないかな?』

 

「たぶん大丈夫です」

 

『それじゃあ、いつ頃届ければいいかな?』

 

「そうですねぇ、出来れば朝にはお願いします。無理であればせめて昼までには」

 

『了解。まあ彼の運転なら朝には着くと思うよ。他にはないね?』

 

「はい大丈夫です。ありがとうございます」

 

『気にしないで、僕も君には書類を手伝って貰っているからね』

 

「え?俺がやっている書類に沖田さんのもあるんですか?」

 

『あっ……そ、それじゃあ明日の朝には届けるから。切るね!』

 

「あ、ちょっと!……どういう事だ?あの中には本来やらなくていい書類があるのか?だとしたら、書類が多いのは奴のせいだと?」

 

まさか今までの仕事量は真庭本部長からの嫌がらせではなく、沖田が勝手に置いていったのをやっているのか?

 

「まさかな……」

 

「おい!零次!聞いてるのか!」

 

「え?薫ちゃんどうしたの?」

 

「どうしたのじゃねぇ!急に考え込んでたから呼んだのに……返事しないから心配したぞ」

 

「そうだったのか……ごめん薫ちゃん」

 

「ったく……それで、どうなったんだ?」

 

「それなら問題ないよ。明日の朝には道具が届く手筈になっているから、あとは旅館の人に説明して了承を得るだけだ。もちろん、真庭本部長には秘密だ」

 

「そうか……まあ、本部から人を寄越せばすぐに終わるか」

 

「何言ってるの薫ちゃん?本部からは道具だけ届けてもらうだけだから人は運転手だけだよ?」

 

「はぁ?じゃあ誰がやるってんだよ?」

 

「俺だけど?」

 

「はぁ!?お前出来んのかよ!?」

 

「流石に壊れた建物を修繕するのは無理だけど、これぐらいなら1人でも何とかね」

 

「神条さん、あなたは一体何者なんですか?」

 

「だから前にも言ったでしょ?真庭本部長の部下だって……そういう事で、明日は任務に参加できないと思うんだけどいいかな?」

 

「ああ、それは構わないんだが……いいのか?」

 

「今回は特別だよ。薫ちゃんが隊長としてはしっかり働いているみたいだからね」

 

「どういう意味ですか?」

 

「それは隊長に聞いてみてください……さて、それでは俺は旅館の人に説明してくるからこれで失礼するよ」

 

いつの間にか視線が集まっていたこの場から離脱する為、後ろから聞こえる声を無視して卓球場から出て行き、そのままロビーでまつ従業員の元まで歩いて行った……

 

________________________________________________

 

旅館の人に必死になって土下座をしながら説明をして何とか了承を得た後、疲れきった俺は部屋に戻り速攻で布団に入って眠りについた事で、次の日の朝は目覚めも体調もすこぶるよく、7時になる前に起きる事が出来た。

 

そして、朝食をとった後に布団が片付けられている部屋に戻って着替えると職人の忙しい1日が始まる。荒魂捜索の為朝からまだ捜索していない場所を薫ちゃん達が歩いて探している頃、俺は今朝方到着した安藤に本部長に黙っている代わりに手を貸してもらうようオハナシして色々と道具を車から運び出す。

 

一通り運び終えてから、安藤に偶に道具を手渡して貰いながらも天井の修繕から取り掛かる。沖田が用意してくれた道具の中には偶然なのか予め調べていたのか、同じクロスがありクロス全貼り替えをせずに修繕する事が出来た。だが、やはり1人で行なっている事もあり、かなり時間が経過して既に太陽が真上に登っていた。しばし休憩をとり、午後からは従業員の案内の元、修繕する場所を教えてもらいながら作業をし、やがて最後の壁のクロスを張り替えた頃には空が夕焼け色に染まっていた。その事実を知った俺は、急いで道具を片付けて安藤に協力してもらいながら車に資材や道具を運び、何回か往復して全ての道具と資材を車に積み込み終えた。

 

「やっと終わったぁぁぁ」

 

「そんな……本当なら道具を運ぶだけのはずが……」

 

「まあまあ。細かい事を気にしないでくださいよ安藤さん。そんなんじゃ人生疲れちゃいますよ?」

 

「うるせぇ!こっちはお前のせいで疲れてんだよ!」

 

「それはほら、今までのツケが回ってきたと思って受け入れてください」

 

「そんなの無理だ!せっかく名物巡りをしようとしてたのに……」

 

「いや働いてくださいよ……まあ、その。ありがとうございます。おかげで助かりましたよ」

 

「ほとんど俺がいる意味なかったよな?」

 

「……ああそうだ、まだ薫ちゃん達が捜索中かもしれないから合流しないとだった。それじゃあお疲れ様でした!」

 

「おい!待て!……くそぅ、帰ったら沖田さんに文句言ってやる」

 

俺は安藤を1人残し、まだ戻ってきていない薫ちゃん達の元へ逃げた。ありがとう安藤、今度何かお土産持っていくよ……ゲテモノをな!!まさに外道!!

 

_______________________________________________

 

山の中を探し回っている俺は、先程道具を詰め込んでいる時に見た車両を思い返していた。

 

「あれは確かノロを回収する時の車だったよな?無事に見つかったのかな?」

 

それにしてはスペクトラムファインダーに反応していない荒魂に対していささか大袈裟に感じるも、そんなものかと無理矢理納得して山の中を駆け回る。すると突然近くから聞き慣れた声が聞こえた。

 

「くそ!次から次へと何だってんだ!」

 

「今の声は薫ちゃんか?どうしたんだろ?」

 

その声は普段の薫ちゃんからは想像できないような感じだったので、気になった俺は声のした方に進路を変更して駆ける。

 

「確かこっちだった筈なんだけど……あ、いた」

 

ようやく姿を確認できた俺は前方にいる薫ちゃん達に声をかける。

 

「おーい……って何があったんだ?」

 

「零次!」

 

「やあ薫ちゃん、修繕が終わったから来たよ……それで、何でみんな倒れてるの?」

 

「原因はあいつだ」

 

「あいつ?」

 

薫ちゃんの視線を辿って顔を向けると、そこには見知った顔の人物が御刀を握りながら立っていた。

 

「ふぁっ!?」

 

「どうした零次?」

 

「あ、いや、何でもない……」

 

「獅堂、真希」

 

「お前がこいつらをやったのか……」

 

「ちょっと薫さんや、証拠も無しにそれは酷くない?」

 

「零次は黙ってろ」

 

「……はい……こんな器用な真似出来ないと思うんだけどなぁ

 

俺が薫ちゃんに怒られていると、一瞬こちらを見て驚いていたがすぐに無表情になり、真希は答えもせずに背を向けて飛び去っていった。

 

「おい!待ちやがれ!」

 

「薫、ノロが何処にも……」

 

「くそっ!あのヤロウ……」

 

「薫ちゃん、沙耶香ちゃん、今は倒れてる人達をどうにかするのが先じゃないか?」

 

「くっ!わあってるよ!沙耶香、零次、今はまず全員を旅館まで運ぶぞ。手伝ってくれ」

 

「うん、わかった」

 

「了解……でも全員運べる?」

 

「そこは大丈夫だろ……零次がいるから」

 

「うん、そうなるよね。別にいいけどさ」

 

大の大人達は全員俺が往復して運び、沙耶香ちゃんと薫ちゃんは桐生副隊長達を旅館まで運んだ。

 

______________________________________________

 

倒れている人達の約半数はノロを回収に来た人達だった。沙耶香ちゃんと薫ちゃんが桐生副隊長達を旅館の彼女達の部屋まで運んだ後、心配だったのか最後の1人を運んでからは部屋から出てこなかったので、俺は1人黙々と残った人達を運んでいた。

 

「マジかよ……せめて一声かけて欲しかったな……」

 

文句を言いながらも最後の1人を旅館まで運んできて、空き部屋を借りてそこに寝かせる。寝かせた人達の事は、先程様子がおかしい事に気付いた安藤さんに本部へ連絡してもらったので直に迎えがくる筈だ。これ以上は俺に出来る事はないので、自分の部屋に戻り温泉浴衣を準備して浴場に向かい温泉に入り疲れを癒す事にした。

 

「後は安藤さんが何とかするだろ……あぁぁぁぁ、いい湯だな〜〜」

 

そして俺は、今回は長めに温泉に浸かる。浴場を出た頃には時刻が8時を回っていて外は暗くなっていた。

 

「……長風呂しすぎた……頭クラクラする……おっとっと、危ねぇ。こっちは沙耶香ちゃん達の部屋だった……あぁ、早く部屋に戻って横になろう」

 

長風呂で逆上せて思考力の落ちた俺は、間違えて沙耶香ちゃん達の部屋へ向かう廊下を歩いていた。

 

「ダーーーーーシュッ!!」

 

「……ん?今のは薫ちゃんの声か?……まあいいか、早く部屋に戻ろう」

 

向こう側から声が聞こえた気がしたが、今はそれよりも部屋に戻るのを優先して来た道を戻り、自分の部屋へと向かった。

 

「やっと着いたぁぁぁ。ぼふぅ」

 

部屋に着くと一直線に布団まで向かい倒れこむ。

 

「あぁ、今日は疲れたぁぁぁ。明日は楽になると良いなぁ……スー……スー……」

 

倒れこんだ後、やっと横になれた安心感と今日の疲労が重なり俺は直ぐに眠りについた……スマホの着信が鳴っているのに気づかずに……

 

__________________________________________________

 

次の日、目が覚めると……車の中で座って寝ていた。

 

「……は?」

 

「おう、やっとお目覚めか」

 

「安藤さん?……ああ夢か……」

 

「言っておくが夢じゃないからな?それよりもうすぐ着くから心の準備をしておけよ」

 

「はぃ?心の準備?」

 

「そうだ。昨日本部長が連絡したのに出なかったからお怒りだぞ?」

 

「え?電話?」

 

「ああ、昨日の夜に神条に電話したみたいだぞ?まったく、おかげで俺がこんな事するように命令されちまったぜ……っと、着いたぞ」

 

「着いたって……本部?」

 

「昨日の夜中にお前を車に運んでから出発して、途中仮眠とったから朝になったけどな。もちろん荷物も積んであるぞ?」

 

「は、はぁ。ありがとうございます……じゃなくて、どういう事?」

 

「それは本部長に会えばわかるさ。ほら、行くぞ」

 

「ちょっと……まだ理解できてないんだけど……嫌な予感しかしないけど、とりあえず行くか」

 

安藤さんが積んでくれた荷物を手に取り彼の後を追いかける。安藤さんに着いて歩く中、お互い沈黙のまま廊下を歩いていると急にある部屋の前で立ち止まる。

 

「この中に本部長が待っている筈だ……死ぬなよ神条……それじゃあな。お前のことは忘れない」

 

それだけ言うと安藤さんは来た道を走っていった。

 

「……あ、おい!どういうことだよ!?……俺が何かしたのか?」

 

まだ寝ぼけているのか頭が働かない。それでも考えてみるが思い当たる事が皆目検討つかない。

 

「まあ良いか、いつもの事だ。とにかく入るか」

 

今、真庭本部長の待つ作戦本部の扉を開けて中に入る。

 

「失礼します。神条零次、ただいま帰還しました」

 

「おお、やっと来たか……神条、ちょっとこっちに来い」

 

「はい」

 

真庭本部長に言われた通りに彼女の元へ歩いて行く。俺が近くに来ると、こちらに向き直り口を開いた。

 

「神条、昨日何故電話に出なかったんだ?」

 

「電話ですか?そんな事言われても身に覚えがありませんよ?昨日は直ぐに布団に横になって……あっ」

 

「どうした?」

 

「いや〜、その、寝る前にスマホの着信音が鳴っていたような気が……すみませんでしたぁぁぁ!!」

 

「……神条、わざと出なかった訳ではないんだな?」

 

「はい!そんな気は一切ありません!」

 

「……はぁ、まあいい。昨日の事は薫から聞いているからな」

 

「え?そうなんですか?」

 

「ああ。例のノロの強奪犯が現れたんだろ?」

 

「たぶんそうですね」

 

「たぶんだと?どういう意味だ?」

 

「あー、それはですね……ほら、真庭本部長も爺さんから聞いてると思いますが、俺は一度黒フードの人物を見ているんですよ」

 

「それならフリードマンから聞いているが……今回見たのは違う人物だと言いたいのか?」

 

「その通りです。今回見た人物は体格も違いましたね」

 

「では、ノロは何処に消えた?」

 

「さぁ?俺たちが来る前にでも逃げたんじゃないですかね?もしかしたら今回見た人物が何か知ってるかもしれませんよ?」

 

「ほう、神条は獅堂が犯人じゃないと?」

 

「ええ。彼女には無理だと思いますよ」

 

「それは何故だ?」

 

「簡単な事ですよ。彼女は根っからの善人だからです」

 

「……まるで彼女を知っているようだな。どうしてそう言い切れる?」

 

「えっ!?そ、それはですね……アレですよ。こう、オーラ的な?」

 

「何だそれは?」

 

「あ、いやぁ、その……自分、人を見る目があるので!」

 

「……だから彼女の仕業ではないと?」

 

「そ、そうなんですよ。俺から見た感じ、彼女は悪人になりきれない善人みたいな?」

 

「はぁ?」

 

「いや、ですから……こほんっ、とにかく!彼女がノロを強奪したとは考えにくいと思います」

 

「……だが、彼女以外に現場にはいなかったが?」

 

「だから、それはさっきも言った通りです……と言っても納得できませんよね」

 

「当たり前だ」

 

「ん〜……それなら直接彼女に聞いてみてはどうでしょか?」

 

「そうしたいが、彼女の行方が分からない」

 

「……それなら彼女が現れるまでこの件については保留にしませんか?」

 

「……そうだな。今はそれよりも今後の対策を考えるのが先か」

 

「そうですよ。その時に捕まえれば真実が分かりますからね」

 

「確かにそうだな。それでは私は、今後の対策を練るので忙しくなるだろうからこれを頼んだぞ」

 

「了解しました……って、ちょっと待ってください。それで何故俺に書類を渡すんですか?」

 

「だから言っただろう?これから忙しくなると」

 

「いやいや、それは分かりますが何故に俺なんですかね?他の人でもいいのでは?」

 

「それは流石に他の者に悪いだろ」

 

「俺には悪くないと?」

 

「ああ、連絡に出ない奴に悪いとは思わないな」

 

「うっ……昨日はすみませんでした」

 

「まあ、今回はそれで許してやる。他にも、修繕活動の道具や資材が使われていたみたいだが?」

 

「……俺が使いました」

 

「そうかそうか。まあ、それらは余り物だったから特に問題はないがな……これから少ーーし仕事が増えるかもしれないがやってくれるな?」

 

「……神条零次、謹んでお受けいたします」

 

「ああ、期待してるぞ……それで次の用件だが、薫はちゃんと働いていたか?

 

「薫ちゃ……益子薫さんですか?彼女は……隊長としてよく働いていましたよ」

 

「それは本当か?」

 

「はい。特に問題なく……とは言えませんが、メンバーを気にかけていろいろと動いていましたね」

 

「……そうか」

 

「ええ。沙耶香ちゃんも今回の任務で彼女から何か学ぶ事が出来たと思いますよ」

 

「そうみたいだな……話はこれで終わりだ。もう戻っていいぞ」

 

「はい。それではこれで失礼します」

 

「神条、明日からも頼んだぞ?」

 

「はいはい、分かってますよ……それでは失礼します」

 

真庭本部長からお叱りは貰わなかったが、代わりに書類を貰い、それを手にして部屋を出て作業部屋へと向かった。

 

「……戻ってきたらこの仕打ちは流石に酷いな……やはり、今も昔も楽ではなかったか……」

 

1人ため息をつきながらも、今日からまた俺の忙しい1日が始まっていく……例え彼が望む事とは逆になろうとも、ただひたすら日々を過ごしいく……

 

 

 




はいはいはい!どうですかこの駄作感!最悪でしょ?


……もう最近疲れてこんな文章になっちゃうんですよね〜。それでも頑張って書きますけど……


やっと、次回はあの2人との面会だ!!


チョコミントアイス美味いな……


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休暇とは本来、体と心を休める日である!

今回は長くなりそうだったので、分割します。


どうも話を短くするのが苦手だ……






群馬から帰ってきてからというもの、仕事が前よりもハードになるも文句は言わずに仕事をこなしていく日々を過ごした。数日前には徹夜する程の激務があったにも関わらず、今日も俺の仕事は相変わらず増えることはあっても減ることはない。それでもひたすらに続けていられるのは、今こうして目の前にいる人物がいるからなのかもしれない。

 

「神条さん。ここでの生活はどうですか?かなり無理をされているとお聞きしましたが?」

 

そう、折神朱音様が俺の身を案じて局長室へ招いてくれたのだ!

 

「いえいえ、そんな事はありませんよ。確かに仕事は少しばかり多いですが無理という程ではないので大丈夫です」

 

「そうですか……もしも何かあれば言ってくださいね?」

 

「はい。その時は朱音様にご相談します。まあ、そんなことは起きないとは思いますけどね。はっはっは!」

 

「ふふふ、そうですね。それが一番です」

 

「まったくです。でも、こうして朱音様とお話し出来るのであれば吝かでもありませんね」

 

「ありがとうございます。お世辞でもそう言って頂けると嬉しいです」

 

「いえいえ、本心ですよ……それに、コーヒーまでご馳走になれるともなれば毎日ここへ訪れたくなりますね……なーんて、冗談ですけどね」

 

「ふふふ、相変わらず愉快な方ですね」

 

「ありがとうございます。……まさかこうしてここへ招かれるとは思っていませんでしたよ。最初聞いた時は内心動揺しましたね。まさか朱音様も真庭本部長のように無茶振りするのかと」

 

「そんな事はしませんのでご安心下さい……神条さんにはいろいろとお礼がしたかったんです。貴方のおかげで職員の方々の負担が減りましたので」

 

「あははは、ほとんど真庭本部長からの無茶振りが原因なんですけどね。ですが、少しでも力になる事が出来ているのなら良かったです」

 

そう言ってからコーヒーを一口すする。目の前の天使……いや、女神様を見ながらコーヒーを啜る……悪くない、むしろ最高である!あの法被を羽織っている人物とは大違いだ……ああ、どうして人はこうも違うのだろうか。同じ女性だというのに……

 

「不思議だなぁ……」

 

「どうかしましたか?」

 

「いえ、何でもありません……それにしても、俺が言うのもアレですが良いんですか?俺がここに居ても?」

 

「ええ、構いませんよ。今日は神条さんにコーヒーをご馳走しようと考えていましたので」

 

「そうなんですか?それはありがとうございます」

 

「それはこちらの台詞です。今日はお休みでしたのにお呼び立てして迷惑ではありませんでしたか?」

 

「そんな事微塵もありませんよ。むしろ光栄です」

 

「そう言って頂けるとこちらとしても有難いです」

 

「えーっと、どういたしまして?で良いんですかね?」

 

「ふふふ、はい。それでいいと思いますよ」

 

目の前の人物が微笑むと俺の視界が一面眩い光で覆い尽くされていく……今日は何て最高な休日なんだろう……今日一日ずっとこうして癒されたい。

 

 

俺は今の時間を大切にしたいと思いながら、朱音様と世間話をしようと口を開きかけると、不意にドアがノックされる音が聞こえてきた。

 

「はい、どうぞ入ってください」

 

「失礼します」

 

ノックした人物が部屋に入ると俺の視界は一気に光を失い色を失っていく気がした……そう、何故ならば奴が現れたからだ。

 

「真庭本部長 ……」

 

「ん?神条か?今日は休暇だったはずだが」

 

「今日は朱音様にご招待されたんですよ」

 

「そうなのですか朱音様?」

 

「はい。彼にはお礼がしたかったのでこうしてコーヒーをご馳走しているのです」

 

「と言う事ですよ真庭本部長……それで、朱音様に用事でもあるんですか?」

 

「ああ、そうだ。朱音様、少しよろしいでしょうか?」

 

「何かあったのですか?」

 

「ええ。少しばかりお話しておきたい事があるので、申し訳ありませんが作戦本部まで来て頂けないでしょうか?」

 

「朱音様、俺の事は気にしなくていいですよ」

 

「神条さん……分かりました。すみませんが少し席を外しますね」

 

「分かりました。俺も帰った方がいいですか?」

 

「いえ、神条さんさえよろしければここに居てもらって構いません」

 

「そうですか……特にやることもないのでお言葉に甘えます」

 

「分かりました。もしも帰る際は作戦本部にいますので声をかけてください」

 

「了解しました」

 

「神条、悪いな」

 

「気にしないでください真庭本部長、俺はここでコーヒーを飲みながら気長に待ちますよ」

 

「そうか。あまり寛ぎすぎるなよ?」

 

「……善処します」

 

「そうしておけ。それでは朱音様」

 

「ええ。それでは神条さん、失礼します」

 

こうして俺の最高の1日の幕は、真庭本部長によって閉じられた……朱音様と真庭本部長が部屋から出て行き、1人残った俺は真庭本部長に怒りを覚える……

 

「なんてな。 原因は例の襲撃犯か荒魂だろうから別に恨みなんてないけどね……さて、これから何して暇を潰そうかな?」

 

話し相手もいない中、やる事もない俺は……現代社会に生きる1人として、迷う事なくスマホを取り出してソシャゲを始めた。

 

「目指せ!ノーダウンクリア!」

 

_____________________________________________________

 

あれからずっとソシャゲをやって時間を潰していたが、とうとうゲージが尽きてこれ以上進める事が出来なくなったのでスマホをポケットにしまう。その後、まだ飲みかけの冷めたコーヒーを口にする。

 

「……冷めると少し味が変わるが美味いな」

 

香りも弱くなるも、ほんのり香るコーヒーの匂いは嫌いではない。そうしてまた一口コーヒーを飲んでいると、ドアの向こう側から声が聞こえてきた。

 

『この中でお話ししますので、皆さん入ってください』

 

ドアが開く音が聞こえ、続々と誰かが入ってくる。それでも俺はコーヒーを啜る事をやめない。

 

「なんだ神条、まだいたのか?」

 

「うぐっ……真庭本部長、その言い方は酷くない?」

 

あまりの扱いの酷さに俺は本人に向きなおり訴えると、その近くには約半数見た事がある顔ぶれが集合していた。

 

「「「零次!?」」」

「零次さん!?」

 

「あれ?皆久しぶりだね」

 

「舞衣ちゃんの知り合い?」

 

「う、うん。この前偶然会ったんだ」

 

「なんだエレン、お前も知っていたのか?」

 

「ハイ!この前任務でお会いしたんデス!薫とさーやも知っているのですか?」

 

「おー。この前の任務で一緒になってなー」

 

「私も、任務で一緒になった」

 

「そういえばお前達4人は神条と会った事があるんだったな」

 

「ハイ!でもどうして零次がここにいるのデスカ?」

 

「今日は朱音様にご招待されてね。今はコーヒーをご馳走になっていた所だったんだよ」

 

「そうなんですか朱音様?」

 

「ええ。彼にはお世話になっているので何かお礼をさせて頂こうと思いまして」

 

「あははは、そこまで大した事はしていませんけどね……さて、俺は席を外した方が良さそうですね」

 

「待て神条……朱音様、彼にも同席させませんか?」

 

「そうですね……彼は例の者達と面識がありますから、お伝えした方が良いでしょう」

 

「ありがとうございます……そういう事だ神条、お前もここに残れ」

 

「うん、全然理解できていないんですが。そもそも俺に拒否権はないんですか?」

 

「そんなのあるわけないだろ」

 

「予想以上に真庭本部長がブラックな件について」

 

「何か言ったか?」

 

「いえ何も……まあ特に今日はやる事もないのでいいですけどね」

 

「そうかそうか。素直な奴は嫌いじゃないぞ」

 

「すみません、俺は真庭本部長みたいな人はちょっと遠慮しておきます」

 

「あぁん?」

 

「ひぃっ!?すんません!何でもないです!今のは冗談です!」

 

「まったく、相変わらず減らず口を叩く奴だ」

 

「それはお互い様ですよね?……あ、いや何でもないです」

 

「はぁぁぁ、お前の相手は疲れる……まあいい、それでは朱音様」

 

「ふふふ、それでは皆さんはそちら側へ」

 

朱音様から勧められて約2名程はソファに座り、他の者はソファの後ろに並び立つ。そして、反対側のソファには朱音様が座り、その側に真庭本部長が立つと朱音様が話し始め、写真をテーブルに置く。

 

「今のところ、確認されてるのは2人います。1人は獅堂真希で間違いないでしょう……そしてもう1人は、そもそも刀使ではありません」

 

「刀使じゃない?じゃあ……」

 

「タギツヒメです」

 

「え?」

 

「え?」

 

「え?」

 

「っ!?」

 

「タギツヒメは5ヶ月前の戦いで隠世に追いやったはず。もう復活したのデスカ?」

 

「誰に取り憑いたんだ……」

 

「ふむふむ、なるほど……さっぱり分からん!」

 

「神条?今大事な話をしているからちょーっと黙ろうな?」

 

「……はい」

 

「いえ、今のタギツヒメは人に取り憑いているわけではありません。荒魂自体が人の姿で現れたのです」

 

「そんな事が?」

 

「……駄目だ。全然話についていけない」

 

「零次、お前タギツヒメを知らないのか?」

 

「いやいや知ってるわけないじゃん。俺刀使じゃないんだよ?」

 

「……そういえばそうだったな」

 

「そういう事だ……それでタギツヒメとは?」

 

「まぁ難しい事を言っても分からないだろうから、今は荒魂とだけ覚えておけ」

 

「なるほど、とても分かりやすいな 」

 

薫ちゃんから猿でも分かるレベルでタギツヒメについて教えてもらっていると、突然ドアがノックされる。

 

「入ってください」

 

朱音様が入室を促すとドアが開き、職員がファイルを手に持ちながら入ってきた。

 

「失礼します……局長代理に、市ヶ谷から連絡が」

 

そう言ってファイルを朱音様に手渡し、それを朱音様が受け取って目を通すと表情が変わった。それを今度は真庭本部長に見せると、朱音様と同じく、あの!真庭本部長が驚いていた。

 

「これは……」

 

「ようやく許可が降りましたね……衛藤さん、十条さん。2人は明日、私と一緒に市ヶ谷の防衛省まで同行してください。護衛任務です」

 

いきなりの朱音様からの申し出に戸惑う2人、そんな2人を見て呑気にコーヒーを飲みながらぼやく俺……

 

「護衛任務ねー。刀使の方も大変なんですね……このコーヒー、また味が変わったが美味いな」

 

「何を他人事みたいに言っているんだ神条は」

 

「いえいえ、他人事ですから。はっはっはっは」

 

「……朱音様、あそこの馬鹿も同行させてはいかがでしょうか?」

 

「だって薫ちゃん」

 

「オレかよ!?お前のことを言ったんだろ!」

 

「いやいや、俺の名前は零次だから違うでしょ「神条、お前の事だ」……え?俺なの?」

 

「そうだ。お前でも盾代わりはなるだろ……という事で、どうでしょうか朱音様」

 

「えーっと、彼は大丈夫なのでしょうか?」

 

「安心してください。彼は頑丈なので盾としては優秀ですよ」

 

「そこなの!?というか俺は盾じゃない!」

 

「うるさいぞ神条」

 

「俺の扱いが雑すぎやしない?ねぇ?」

 

「……朱音様、何かあった時の備えとして彼を同行させた方がよろしいかと」

 

「え、ええ。確かに備えて置くべき相手ですが……よろしいのですか?」

 

「はい。問題ありません……そうだな?神条」

 

「いや待って下さい。問題ありすぎじゃないですか?第1、俺刀使じゃないんですよ?真庭本部長は馬鹿なんですか?」

 

「ほう、そうかそうか。今後は仕事を倍にして欲しいか。ならば仕方ないな」

 

「ああ!そういえば明日は休みなんだ!でもやる事ないんだよなぁ!何か護衛任務がやりたいなぁ!!」

 

「それでは明日、朱音様の護衛任務が丁度あるんだが頼めるか?」

 

「是非!神条零次、謹んでその任務お受けいたしましょう」

 

「頼んだぞ……というわけで、彼の了承は得ていますので遠慮しないで下さい」

 

真庭本部長と俺のやり取りを見ていたこの場の全員が口を開けて唖然としている中、朱音様だけは何とか声を出した。

 

「そ、そうですね……それでは神条さん、頼めますか?」

 

「はい!喜んで!」

 

「そ、そうですか……それでは明日、よろしくお願いしますね」

 

「イエス!ユアハイネス!」

 

「あー、私が言うのもなんだが……お前は相変わらずブレないな」

 

「何を言っているんですか真庭本部長……これが俺と言う人間ですよ!」

 

「……まあ、念の為言っておくが迷惑はかけるなよ?」

 

「分かってますよ。朱音様達の安全を第一に考えて行動するので安心してください」

 

「……分かっているならそれでいい」

 

「零次……お前馬鹿なのか?」

 

「ちょっと待って薫ちゃん、どうしてそうなる?」

 

「私も薫と同じ。いくら何でもおかしいと思う」

 

「沙耶香ちゃんまで!?」

 

「零次、薫とさーやの言う通りだと思いマース」

 

「あれ?エレンちゃんもなの?……もしかして、舞衣ちゃんも?」

 

「え!?えーっと……私も皆と同じかな?」

 

「oh yeah……俺に味方はいなかった……クソゥ!」

 

俺は拳を握りながら下を向いて静かに叫んだ……

 

「こらこらお前達、あまり神条をいじめるな。その内泣くぞ?」

 

「あんたが言うか?」

 

「何を言っている?私は頼んだだけだ……引き受けたのはお前だろ?」

 

「くっ!確かにそうだが……拒否権が一切なかったじゃないか!」

 

「神条さん……真庭本部長、やはり彼を同行させるのはやめませんか?」

 

「ですが朱音様、それでは朱音様が危険に晒される可能性が高くなります」

 

「覚悟は出来ています。それに、十条さんと衛藤さんが居るので心配いりません」

 

「朱音様……分かりました。神条、そう言う事でこの任務はなしだ」

 

「え?いいんですか?」

 

「ああ、朱音様の計らいだ。断ってもらって構わない」

 

「そう言う事なら辞退「せっかく、1週間ぐらい休暇を与えようと思っていたが仕方ない」しません!」

 

「別に無理しなくていいんだぞ?」

 

「いえいえ、無理はしていませんよ。俺が引き受けたいから引き受けるんです」

 

「そうか……それで本音は?」

 

「そんなに休暇を貰えるなら断るわけにはいかない!」

 

「……神条、お前は本当に馬鹿だよ」

 

「酷っ!?」

 

「はぁぁ。まあ本人がそう望んでいるなら止めはしないが……いいですか朱音様?」

 

「え、ええ。構いませんが……本当によろしいのでしょうか?」

 

「お気になさらないで下さい朱音様、これは俺が望んだ事です。それに……俺だって力になれるならなりたいですからね」

 

「神条さん……本当によろしいのですね?」

 

「はい」

 

「……分かりました。それでは明日、十条さんと衛藤さん。神条さんの3名は同行して下さい」

 

「了解」

 

ようやく話がまとまったと思いきや、俺の後ろで静かにしていた少女が突然声を上げた。

 

「ちょっと待ってください!」

 

「どうした十条?」

 

「どうしたじゃありません!こいつを連れて行くなんて正気ですか!?」

 

「ねぇ君?初対面だよね?流石にこいつ呼ばわりされるとへこむんだけど?」

 

「落ち着け十条、こいつ呼ばわりするのは良いがこれは決定事項だ」

 

「ちょっ!?それは俺的に良くないんですけど!?」

 

「……すみません真庭本部長。私もこの人を連れて行くのは危険だと思います」

 

「可奈美……」

 

「確かに衛藤の言う通りだ……だが、危険なのはこいつも承知の上だ。そうだろ?」

 

「YES! OFCOURSE! 」

 

「……そう言う事だ」

 

何故か俺の返事に対し、真庭本部長は俺から顔を背けていたがその理由が分からないまま話は続く。

 

「ですが!?こいつは刀使ではないんですよ!?」

 

「あー、まあそうだな。だが、こいつが居れば危険に晒される可能性が低くなる」

 

「何故ですか!?」

 

「さっきも言ったがこいつは優秀なんだ……盾として」

 

「やっぱり盾なんですね……いや、もう盾でもいいですけど……」

 

「それとも十条は朱音様が危険に晒されてもいいと?」

 

「そうではありませんが……」

 

「納得はできないか」

 

「……はい」

 

「衛藤も十条と同じか?」

 

「はい。どう考えても危険です」

 

「……納得できるかは分からないが、こいつはフリードマンからの推薦でここに来た」

 

「フリードマンの?」

 

「グランパが!?」

 

「ああ。エレンと柳瀬も知っての通り、こいつの腕を見込んでスカウトしたと言っていた」

 

「どういう事ですか?」

 

「それは……例の獅堂ではない黒フードの襲撃犯をこいつが撃退したと聞いている」

 

「「え!?」」

 

「嘘だと思うならその場にいた、エレンと柳瀬に聞いてみろ」

 

「……本当なのか?」

 

「ハイ!零次がいなければ危ないところでしたヨー」

 

「本当なの舞衣ちゃん?」

 

「うん。本当だよ可奈美ちゃん……その時に私とエレンちゃんは零次さんに助けてもらったの」

 

「嘘……」

 

「……ありえない」

 

「本当の事デスヨ。かなみん、ひよよん」

 

「そういう事だ。だからこそこいつも同行させようと思うんだが……異論はあるか?」

 

「……いえ、ありません」

 

「……私も」

 

「いや待て、そんな大層な理由ではなかった気がするんですけど?」

 

「……2人とも納得できないのは仕方ない。私も朱音様も最初聞いたときは同じだったからな」

 

「ええ、そうですね。初めて彼とお会いした時、最初はその話を信じられませんでしたからね」

 

「ええ。今でも信じられませんが、エレンと柳瀬の反応を見る限り本当の事みたいですね」

 

「そのようですね」

 

「どうしてさっきから俺を無視して話が進むのかな?俺の声聞こえてるよね?」

 

今も尚顔を背けて俺の声にも耳も向けずに話を進められて、俺も負けじと真庭本部長を凝視する。

 

「零次、お前が普通じゃない奴だとは薄々気づいていたが……まさかそこまでだったとはな」

 

「零次は何者?」

 

「え?あー……沙耶香ちゃんには悪いけど、俺はただの学生だよ。襲撃犯を撃退したのだって運が良かっただけだからね」

 

「運が良いだけで退けられるほど、タギツヒメは甘くない」

 

「えぇ〜……そう言われても困るんだけど……そんなに危険なの?」

 

「危険なんてものじゃない、奴は……災厄だ」

 

「んー?……なるほど!災厄と最悪をかけてるんだね!」

 

「……朱音様、真庭本部長、本当にこんな奴を同行させるのですか?」

 

「……十条、言いたい事は分かるが耐えてくれ。私も少し不安になってくるから」

 

「大丈夫……だと思いますよ十条さん。少しばかり不安な事はありますが、彼は良い人です」

 

「気のせいか?俺の印象が最底辺まで落ちたように感じるのは」

 

「いや、気のせいじゃないだろ」

 

「ねねっ」

 

「そこはフォローしてくれるとこじゃないかな?」

 

「そんなのオレが知るか」

 

薫ちゃんから言われた事は最もな事だったので、俺は今の自分の状況を受け入れた。

 

「……ふっ、男というものは常に孤独と隣合わせに生きているとは、こういう事だったのか……」

 

「何を言っているんだお前?」

 

「気にするな……それはさておき、朱音様の盾代わりにはなるのでよろしくお願いします」

 

「……こいつもこう言っている事だ。十条、衛藤、仲良くとは言わないが同行させる事を許してくれ」

 

「……朱音様がよろしいのであれば私はこれ以上何も言いません」

 

「姫和ちゃん……私も、朱音様が安全になるなら賛成です」

 

「十条さん、衛藤さん……私は彼にも同行して頂きいと考えています。よろしいですね?」

 

「「はい」」

 

「それでは明日、あなた達3名には市ヶ谷まで同行してもらいます」

 

「神条の事は気にしなくていいから、朱音様のことを頼んだぞ。十条、衛藤」

 

「任せてください」

 

「はい」

 

「……やはり俺の扱いが雑だな」

 

「何か言ったか神条?」

 

「神条零次、この命に換えてもお守りいたします!」

 

「ああ、期待しているぞ……盾として」

 

「ふっ、もう盾でもいいですよ……神条零次の本気、見せてやります!」

 

「ふふふ、それではお願いしますね神条さん」

 

「了解!……と言うわけで、明日に備えて準備をしないといけないのでこれで失礼しますね」

 

「急にどうした神条?準備も何もお前には必要ないだろ?」

 

「いやいや、最悪の場合はこの身を盾にしてお守りしますけど、俺だって死にたいわけではありませんからね……その為の準備ですよ。ではこれにて失礼します」

 

冗談半分のセリフを吐いてソファから立ち上がり扉まで歩き、俺は背後から聞こえる真庭本部長の声に振り向かずに片手を上げてからドアを開けて部屋から退出する。

 

「ちっ、神条のやつ無視しやがって……今度会ったら仕事を増やしてやる」

 

「真庭本部長落ち着いてください」

 

「んんっ……失礼しました朱音様」

 

「なあおば……本部長。本当に零次のやつを同行させるのか?」

 

「ああ、そのつもりだ。何だ薫、神条の事が心配か?」

 

「べ、別にそんなんじゃねーよ!!」

 

「ほう?そうなのか?」

 

「ったりめーだ!大体あいつを心配する必要がないっておばさんも言ってたじゃねーか!」

 

「薫どうしたんデスカ?顔が真っ赤デスヨ?」

 

「はぁ!?そんな訳ねーだろ!……エレンは、零次の事心配じゃないのか?」

 

「私デスカ?私は全然心配なんかしていませんヨ!だって零次デスカラ!」

 

「それはどう言う意味なんだ?」

 

「そのままの意味デース!マイマイだって心配してないと思いマスヨ?」

 

「そうなの舞衣ちゃん?」

 

「う、うーん……どちらかと言うと朱音様達が心配かな?」

 

「どういう意味だ?」

 

「別に可奈美ちゃんや姫和ちゃんを信じてないわけじゃないよ。ただ……」

 

「ただ?」

 

「零次さんがタギツヒメを庇ったりしたら問答無用で斬らないか心配かな」

 

「はぁ?タギツヒメを庇うだと?」

 

「うん。零次さん、優しいから庇うかもしれない……この前だって、襲撃犯を斬った時謝ってたし……」

 

「……益々あいつが何を考えているのか分からなくなってきたぞ」

 

「ははははは!」

 

「真庭本部長?」

 

「どうしたんですか紗南センセー?」

 

「ああ、悪い悪い。まさか斬った相手に謝るとは予想外過ぎてな……本当に神条は面白い奴だ」

 

「いやいや、そこ笑うとこじゃないだろ?」

 

「そうは言ってもな。薫、お前は斬った相手に謝るか普通?」

 

「いや、ないな」

 

「そうだろう。そもそも謝る位なら御刀を向けない……まったく、本当に訳の分からない奴だな」

 

「おいおい、そんな奴をここに置いといていいのかよ、おばさん」

 

「誰がおばさんだ誰が……そうは言ってもあいつはよく働くからなぁ。それにあいつがタギツヒメに手を貸すと思うか?」

 

「それは……無いと思う……」

 

「そうだろ?それに神条なら何か理由をつけて逃げる筈だ」

 

「あー、確かにありそうだな」

 

「零次ならあり得ると思う」

 

「そうなの沙耶香ちゃん?」

 

「うん。この前の任務で真庭本部長にいろいろ言って断ろうとしていたから」

 

「まあ、本部長は聞く耳持たないから無意味なだけだがな」

 

「でも、最後には必ず引き受ける」

 

「沙耶香、それはおばさんがそういう状況を作っているだけだぞ」

 

「おい薫、人聞きの悪い事を言うな。それと、本部長と呼べ」

 

「オレは事実を言ったまでだ!」

 

「そうかそうか。お前も仕事を増やして欲しのか」

 

「一言も言ってないだろ!……ったく、これだからブラックな上司は嫌なんだ」

 

「聞こえてるぞ……こほんっ、話が長くなったな。明日は十条と衛藤がいない分、他の者は荒魂が出現した時はよろしく頼んだぞ」

 

「「「「了解」」」」

 

「十条と衛藤は明日、朱音様の護衛を頼む」

 

「「了解」」

 

「十条さん、衛藤さん。明日はよろしくお願いしますね」

 

「「はい」」

 

「話はこれで終わりだ。それでは解散!」

 

 

彼がいない間に,、非常識な所を褒められてる?事を彼は知らない……

 

_______________________________________________

 

退出してから神条零次は準備を着々と進めて……いなかった。

 

「明日に備えて食いだめしておかないとまずいよなぁ……という訳でこれから数字よりも実は種類が多いアイスの店に行ってくると思うですが、一緒にどうですか?」

 

「うん、ごめん。全然話がわからないんだけど?」

 

「はっはっは!冗談はやめてくださいよ沖田さん。笑えませんよ?」

 

「いや笑ってるよね?それに冗談じゃないんだけど……よく分からないけど、明後日の書類は減らせばいいんだね?」

 

「はい。もしかしたらこの前のように、明日に戻ってこれるか分からないので……お願いできませんか?」

 

「分かった。そういう事なら仕方ないね」

 

「ありがとうございます……さてと、そろそろ行かないといけないのでこれで失礼します」

 

「え?本当にアイス食べに行くの?」

 

「まさかぁ、アイス以外も食べに行きますよ」

 

「そこなの!?」

 

「何がですか?」

 

「そういう意味で聞いたんじゃないんだけど……まあいいや、それじゃ明日は頑張ってね」

 

「はい。では失礼します」

 

部屋に戻る前に立ち寄った作業部屋で沖田さんと少し仕事の話をしてから、明日に備えて俺は街へと出向いた。

 

「今日は食のお祭りじゃーーーーーー!!!!ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

 

 

 

 

まさか明日、彼があんな状態になるとは……誰にも予想出来なかった……

 

 




やっと2人との面会だったけどあまり絡ませることが出来なかった……


だが、これからは2人の出番が増えるのでそこでたくさん絡ませたい!……という作者の願望。


次回を期待してくれ!!


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未だ認識がズレている男

久しぶりに好調に書けたので投稿します。


連日投稿なんて久しぶり過ぎてなんだか嬉しい



……まぁ、相変わらず駄文だけどねー


昨日護衛任務の話が上がって、その任務を了承して護衛につく事になった俺は今日、昨夜に真庭本部長からの連絡で聞いた予定時間通りに支度を整えて集合し、あの!お偉いさんがよく乗っている車に乗り込む。そして、現在は朱音様の隣に座り絶賛吐き気を我慢している所だった……

 

「うぷ……気持ち悪い……」

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「あ、ああ。この程度なら何とか ……心配いらないよ……君は確か衛藤さん?だったよね」

 

「はい。そうです」

 

「良かった、間違ってはいないみたいだね……昨日は自己紹介出来なかったから改めて……神条零次です。呼ぶ時は名前で構いません。あと、敬語じゃなくてタメで話してくれて構いませんので遠慮しないで下さい」

 

「分かりました。私は衛藤可奈美です。それでこっちが姫和ちゃん」

 

「おい可奈美!」

 

「あははは、ごめん姫和ちゃん」

 

「はぁ……改めまして、私は十条姫和です。昨日はその……無礼な言い方をしてしまい申し訳ございませんでした」

 

「気にしなくていいよ。あれぐらい真庭本部長に比べたら可愛いものだから……それと、無理にとは言わないけど敬語じゃない方がこちらとしても嬉しい。あまり敬語を使われるのは得意ではないので」

 

「……分かった」

 

「ありがとうございます姫和ちゃん」

 

「おい待て、何故そう呼ぶんだ?」

 

「え?衛藤さんがそう呼んでいたからなのですが?駄目でしたか?」

 

「いや駄目という事ではないが、他にも呼び方が……」

 

「もう!姫和ちゃんは相変わらず固すぎだよぉ」

 

「そんな事はない。これぐらい普通だ」

 

「そうかなぁ?あ、そうだ!零次さん、私の事も名前で呼んでください!」

 

「え?別に構いませんが、よろしいのですか?」

 

「はい!それに敬語じゃなくていいですよ。私達も敬語じゃないので」

 

「そうだな。可奈美の言う通りだ」

 

「えーっと、それじゃあ……お言葉に甘えさせてもらうよ可奈美ちゃん」

 

「うん!」

 

「あはははは……さて、自己紹介も終わった事だしこれからは朱音様を護衛する仲間として頑張ろうね、可奈美ちゃん、姫和ちゃん」

 

「うん!頑張ろうね零次さん、姫和ちゃん」

 

「当然だ……それよりその呼び方はどうにかならないのか?」

 

「え?駄目か?……それ以外の呼び方と言えばひよよん・ザ・ないぺっ…!?」

 

「おい貴様、今のは何だ?」

 

「な、何のことかなー?」

 

「惚けるな、今何か言いかけていただろ」

 

「え、いや、その……あれだよ!薫ちゃんがこの前姫和ちゃんの事をそう呼んでいたんだ!断じて俺がそう呼んだ訳じゃない!」

 

「あのちんちくりん……次に会ったら斬る」

 

「姫和ちゃん!?落ち着いて!?」

 

「何を言っている可奈美、私は落ち着いている」

 

「えぇぇぇ……」

 

「ふふふふふふ」

 

「あ、すみません朱音様」

 

「いえ、別に構いませんよ……あなた達を見ていたら少し気分が楽になりました」

 

「朱音様も俺と同じで酔っていたから黙っていたんですか?酔い止めの薬あるので飲みますか?」

 

「ふふふ、違いますよ。酔っていた訳ではないので大丈夫です」

 

「そうですか……何かあったらすぐに言って下さいね?」

 

「分かりました。その時はすぐに言います」

 

「ええ、そうして下さい……もしも朱音様に何かあれば、後で真庭本部長から何をされるか分からないので本当にお願いします」

 

「零次、お前……苦労していたんだな」

 

「姫和ちゃん?どうしてそんな可哀そうなものを見るような目でこっちを見るのかな?」

 

「零次さん……何かあれば言ってね?」

 

「待って、だから可奈美ちゃんもそんな目で俺を見ないで!」

 

「零次……安心しろ、朱音様は私と可奈美が守る。だからお前は休んでいろ」

 

「やめてぇぇぇ!優しくしないでぇぇぇ!逆に気づくからね!?」

 

俺が本心からこの場で訴えるも相手にされず、俺の様子を見て3人とも笑い出した。

 

「何故だ……何故誰も理解してくれないんだ……まさか、真庭本部長が洗脳しているのか!?」

 

1人でこの状況を考え始めていると、少しずつ気分が悪くなり考えるのをやめて俺は大人しく口を閉ざして窓の外を眺めながら吐き気を我慢した。俺の具合を見てから……ではないが、会話がなくなると他の者達も黙りしばし沈黙が流れる。それがどれ位続いただろうか、俺の具合も喉元まで何かが込み上げて流れるのを必死に堪えていると、突然可奈美ちゃんが口を開いた。

 

「あの、防衛省で護衛って……一体何があるんですか?」

 

「これから、とある重要な相手と面会します」

 

「重要な相手?」

 

「とても重要な相手です。正直なところ、何が起こっても不思議ではない……だからあなた達に同行をお願いしたいのです」

 

「私達でお役に立てるんですか?」

 

「あなた達でなければ、駄目なのです」

 

「私達でなければ……っ!」

 

「もしかして……」

 

「……あぁ、やっぱり俺は蚊帳の外……うっ」

 

「零次さん!?」

 

「……大丈夫、防衛省までは持たせてみせる……ぜ……ぅぅ」

 

「大丈夫ですか神条さん?」

 

「き、気にしないで下さい……これぐらい大した事は……すみません、今はそっとしておいてください……」

 

「え、ええ」

 

もうすぐ噴火して口から飛び出す一歩手前の状態を保つため、その後は一言も喋らないで1人、己の糧となり消化された物を防衛省に着くまでこらえ続けた……

 

「……本当にこんな奴を連れてきて大丈夫なのか?」

 

「あはははは……」

 

「衛藤さん、十条さん。今はそっとしておきましょう……」

 

「そうですね……」

 

「零次さん、頑張って……」

 

防衛省に着くまでの間、3人から見守られていた俺は昨日食べ過ぎた事を後悔しながら外を眺める事しか出来なかった……

 

______________________________________________

 

ようやく車が止まり目的地まで無事に堪え切った俺は、いくらか楽になりながらも念の為口元を押さえ、御刀の入った竹刀袋の紐を肩から斜めにかけて背負い車の外に出て、朱音様の後ろに着いて歩く可奈美ちゃんと姫和ちゃんの後ろに着いて歩く。

 

「……不甲斐ないな俺」

 

着いて歩く最中周りの隊員や刀使の人からは変な目で見られるが、その理由が口元を押さえながら歩いている自分を想像すれば納得の出来る事だったのであまり見ないようにしながら歩く。すると、朱音様が止まったので俺は歩みを止めてじっとその場で待つ……口元を押さえながら……

 

「ご苦労様です」

 

「孝子さん!聡美さん!」

 

「久しぶりね」

 

「何故お二人が?」

 

「昨日づけで配属されたんだ」

 

「気をつけてね」

 

今し方、可奈美ちゃん達の知り合いから不穏な言葉が聞こえてきたので朱音様に聞こうと試みるも、驚いた拍子に口を開けて汚物のバーストストリームを発射するかもしれないと思い、踏みとどまる。

 

「えっと……そちらの方は?」

 

「ああ、零次の事ですか……今はそっとしておいてください」

 

「そ、そう……でも何で竹刀袋なんか持ってるの?」

 

「それは多分、身を守る為の道具が入ってるんだと思います。昨日準備していたみたいだったから」

 

ごめんよ可奈美ちゃん、実は昨日は準備としていろいろ食べまわっただけなんだ……これは毎日持ち歩いてるから今日も何となく持ってきただけなんだよ?

 

「朱音様の護衛か何かなのか?」

 

「はい。私達3人は朱音様の護衛です」

 

「そうだったのか……聡美も言ったが、気をつけるんだぞ」

 

「はい」

 

「分かっています」

 

本来なら会話に混じろうと自分自ら声をかけたかったが、今のままではマーライオンの姿を晒す事になるかもしれないのでじっと我慢する。美女や美少女との会話する機会を断念せざるを得ない状況に陥った昨日の俺に怒りが沸きながらも、そのまま目的の場所まで案内に従って向かった。

 

「この先が……」

 

これから面会する相手がいると思われる扉の前に立つと不思議と口元から手を離し俺は呟いていた。そんな俺に気づきもしないで扉が開かれて朱音様は堂々と中に入って行く。最後尾の俺も開かれたままの扉を潜り抜けて中に入ると中の光景に思わず言葉を失った。何故ならそこは何処かの場所を真似て作ったのか、殺風景な部屋で1つだけ社みたいな物があるだけだったのだ。

 

「……でも、今の俺には丁度いい。おかげで吐き気も収まってきた」

 

派手な装飾もなく不快になるような物がない為、自然と気が楽になり吐き気も収まってくる。そんな中、突然構え出した姫和ちゃんと可奈美ちゃんの行動に疑問を持つと、朱音様は社の方を見上げたまま声を出す。

 

「構えを解いてください」

 

朱音様の言う通り構えを解く2人を後ろから見守りながら、さっきの綺麗な刀使2人を思い返して再度後悔して下を向いていると、朱音様が社に向かって言葉を発した。

 

「拝顔を賜り、光栄でございます……タギツヒメ」

 

その名を聞いて驚く2人。それとは裏腹に、長船の刀使が巨乳揃いな事に気づいてしまって驚く1人……そう、俺のことだ!

 

「まさか、長船はバストサイズが入学条件に組み込まれているのか?……でも、薫ちゃんは違うからそれはないか」

 

俺の呟きに誰も気づかないまま時間は流れる……内心聞かれていなかった事に安心していると、社の方から声が聞こえた。

 

 

『その名が指すものは別にいる』

 

「では、何と?」

 

『タキリヒメと呼ぶ事を差し許す』

 

「承知しました。私は……」

 

『折神朱音、そして衛藤可奈美、十条姫和……』

 

「……あれ?俺は?」

 

まさかさっきの呟きが聞こえていたのか?だから関わりたくなくて居ないもの扱いしてるのか?……こいつはとんだ大物だな!恐るべき地獄耳の持ち主か?

 

「タキリヒメ、率直にお伺いします。あなたは我々に仇為す者でしょうか?」

 

『質問は許さぬ……イチキシマヒメを我に差し出せ。お前達の手にある事は分かっている』

 

上から目線で語る自称タキリヒメの言葉に俺は耳を疑った……まさか……俺にはMとしての素質でもあるのか?その口調、悪い気はしない!

 

『人にとって真の災いはタギツヒメ。そして、イチキシマヒメの理想に人は耐えられない』

 

「故にあなたに従えと?」

 

『我はタキリヒメ、霧に迷う者を導く神なり……人よ、我がお前達が求める最良の価値をもたらそう。タギツヒメは力を得ているはず。時間は限られている』

 

タキリヒメの今の言葉を聞いて俺は1つの可能性を導き出した。声からしてたぶん女性?の正体は……その人のSかMを見極める凄腕のプロなのだろう。故に俺も今現在試されているという事か?……だが、俺はどちらかと言えばSがいいな。痛いのはあまり好きじゃないんだ……

 

その後もこれからどんな審査があるのか内心ワクワクしていると、それ以上は何も言わずに沈黙の時が流れ、朱音様の判断により話が終わり部屋から退出した……くっ!あれは放置プレイの審査に違いない。朱音様の護衛がなければずっと残っていた自身がある!

 

「俺は……Mなのか?」

 

部屋を退出してから自分の新たな一面に納得が出来ずに悩んでいると、急に朱音様が体制を崩して倒れそうになる。それを後ろから抱きとめる……前に可奈美ちゃんが体を支えた。くっ!あと少しでラッキートラブルが起きる予感だったのに!悔しい!

 

「朱音様!?」

 

「大丈夫です……」

 

後ろからなので顔は見えないがどこか疲れているように感じたので、すぐに先程の事を忘れて朱音様の身を案じていつでも支えられるように万全の状態で後ろについて歩いた……が、それ以降倒れそうになる事は無いまま車に乗り込み本部へと帰還する。

 

「今回で2度もチャンスを逃すとは……俺もまだまだだな」

 

帰りは特に気分が悪くもないながらも、外の景色を眺めながら俺は呟いた。防衛省の門を抜けてからすぐの事であった為、すぐに気持ちを切り替えて視線を外そうとした時に偶然にも見た事がある姿が目に入った。

 

「真希か?一体ここに何しに……そうか。彼女も審査してもらう為にきたのか」

 

さっきの出来事を思い出してここに来た理由を理解すると、あまり知られたくないだろうと思い視線を外して遠くの空を眺める事にした。

 

しばらくの間ずっと空を眺めて呆然としていると、突然可奈美ちゃんが朱音様に問いかけ始めた。

 

「朱音様、あの……一体何がどうなっているんですか?教えてください」

 

「分かりました……姉の中にいた大荒魂は、あなた達に倒された後3つに別れました……先程会ったタキリヒメ、各地でノロを集めているタギツヒメ、そしてもう1つはイチキシマヒメです……私達は考え違いをしていました。姉は、大荒魂にただ体を支配されていたのではない……その身を賭けてずっと抑え込んでいたのです。それが今は、それぞれの目的を果たす為に己の意志で自由に動いている。非常に危険な状態です」

 

どうやら可奈美ちゃん達も知らなかった事だったらしく、珍しく黙って聞いていたが、俺は相変わらずよく分かっていなかったので解説者の薫ちゃんも不在の為、そのままただ朱音様の言葉に耳を傾けながら外を眺め続けた。

 

「政府の一部はタキリヒメを手放したくはないようです。ですがそれは難しいでしょう……あれは人がどうこう出来る者ではありません」

 

また少しの間沈黙が流れる。そして、窓の外の景色がトンネルの壁に変わってしまった時、姫和ちゃんが口を開いた。

 

「イチキシマヒメがこちらにあるというのは本当なのですか?」

 

「ええ。絶対に安全な所で保護しています」

 

それを最後に空気が重くなった気がした……この場で発言しても火に油だと判断し、俺はトンネルの中だから息苦しくなったのだと自分に言い聞かせて無理矢理納得した。

 

その後も空気が重いまま車は走り続け、やがて本部に到着すると俺は何事もなかったかのように車から降りる。そして、朱音様から感謝の言葉を頂いてから解散となり、俺は一目散に自室へと戻りベットに転がる……女性の間でのやりとりであそこまでピリピリした雰囲気を味わったのは初めてだったので、精神的にも疲れ果てていた事もありすぐに眠りにつく事が出来た。

 

「マジでパないんだな女って……これからは色々と気をつけよう」

 

_______________________________________________

 

次の日……昨日は無事に朱音様の護衛任務を達成した事によりご褒美として、休暇を満喫して……はいなかった。

 

「真庭本部長め……『休暇は与えると言ったがすぐにとは言ってない』とか……はぁぁぁ」

 

真庭本部長の言葉巧みな誘導によって昨日は仕事をこなしたが、まさかの休暇は来週に与えると言われ、反論しては見たもののそれ以上続けると取り消すぞと脅迫された俺は止む無く引き下がり、今は書類の整理をしていた。

 

「……女怖い……もういっそのこと逃げ出してしまおうかな?」

 

そうは言ってもチキンな俺は結局のところ実行に移せないまま諦める事が目に見えているので、俺は考えるのをやめてペンを走らせる……すると突然、スマホに電話がかかってきたので誰からか確認もせずに電話に出た。

 

「もしもし神条です」

 

『やぁ!久しぶりだね!』

 

「爺さん?」

 

『覚えていてくれていたようで良かったよ。そっちでの生活はどうだい?』

 

「休息が少なくて今にも逃げ出したい」

 

『ははははは!そうかそうか』

 

「いや、笑い事じゃないんだけど……それで、今日はどうしたんですか?」

 

『あぁ、そうだった……来週あたりに学校でテストを受けてもらいたいと連絡が入ったのでね。急で悪いんだけど、来週に学校へ行ってくれないか?』

 

「テスト……だと……!?」

 

『あぁ、流石にテストは受けてもらわないと困る。それだけは僕にはどうしようもない。授業なら何とかして出席扱い出来たんだがね』

 

「……ちなみに爺さん、テストの日程を変更は可能ですか?」

 

『無理だね。君の担任教師が無理にスケジュールを立ててもその日が限界だったらしい』

 

「つまり来週までのテストの日までしか勉強する時間がないと言う事……本当に急ですね」

 

『ごめんよ零次君』

 

「いえ、いいですよ。こればかりはどうしようもないですからね」

 

『そう言ってくれると助かる』

 

「どういたしまして。それでは早速真庭本部長と相談してみます」

 

『あ、それならもう言ってあるから大丈夫だ』

 

「え?そうなんですか?」

 

『まあこれぐらいはね……一応紗南君も後で伝えると思うが、3日後から約2週間程度は休暇を貰えるはずだ』

 

「ま!ま、ま、ま、マジですか!?」

 

『おいおい、落ち着きたまえ零次君』

 

「いやいやいやいや、休暇ですよ?しかも2週間もですよ?落ち着くなんて無理です!」

 

『あ、あぁ、そうか』

 

「そうですよ……他には何かありますか?」

 

『それ以外は特にないからそろそろ切るよ、仕事の邪魔をするのは悪いだろうからね』

 

「気にしなくてもいいんですけどね……それでは俺も仕事を再開しますね」

 

『分かった。大変だろうけど頑張ってくれ。それでは切るよ』

 

「はい。失礼します」

 

スマホの通話終了を押す前に画面は切り替わり、既に通話は終了していたのでスリープモードにしてから机の上に置いて作業を再開した。

 

この頃の俺は書類の山を片付ける事で精一杯だった為、防衛省で大変な事になってるのも知る事なく時が流れていく。俺がその事を知ったのは夕方に近づいた頃に電話がかかってきた時になる。

 

『おい神条、一区切りしたら私の所まで来い』

 

「急ですね。何ですか?暇なんですか?」

 

『馬鹿を言うな、こっちはこっちで大変な事になっているんだ』

 

「大変な事?何か起きたんですか?」

 

『ああ……防衛省にタギツヒメが現れた』

 

「ふぁっ!?そんな事が!死傷者は!?」

 

『落ち着け、怪我をした者はいるが死者は出なかった……衛藤と十条には感謝している』

 

「そうですか……それで、俺に大事な話でもあるから電話してきたんですね?」

 

『あぁ、次の任務についてだが……それは後で直接話す。それよりも3日後にお前には休暇を与える事を話しておこうと思ってな』

 

「それならじ……フリードマンさんから聞きました」

 

『そうか……お前も学生だから仕方ない』

 

「文句は俺じゃなくて担任の先生に言ってくださいよ。まあ先生も無理をしてでもその日を空けてくれたんだと思いますけどね……」

 

『ふん、お前が居なくても大丈夫だがな』

 

「ですねー。俺が出来るのは盾代わりにですもんねー……言ってて悲しくなってきた」

 

『お前は馬鹿か?……すまん馬鹿だったな』

 

「うぉい!?」

 

『はっはっはっは!それじゃ切るぞ、また後でな』

 

最後に豪快に笑ってから真庭本部長は電話を切ってしまい、通話が終了して俺の行き場のない怒りは窓を開けて声を出し発散させた。

 

「真庭本部長の人でなしーーーーーーーーーーー!!!!!!!」

 

近所迷惑も考えないで叫んだ後、スッキリした俺は窓を閉めて椅子に座る。

 

「もう絶対ブラックだよここ……仕方ない、すぐに終わらせるか」

 

気分が重くなったまま俺は残った書類を片付け始め、やがて最後の書類を終わらせると少しだけここでコーヒーを飲んで休憩してから真庭本部長の元へ向かう。

 

「……何処にいるか聞いてなかった……やばいやばいやばいやばい、このままじゃ俺は確実に説教されて仕事を増やされる!」

 

かなりまずい状況になりスマホの存在も忘れるほど焦り、とにかく手当たり次第に廊下にいた職員から何処にいるかを聞き出して一目散に、その聞き出した情報の場所まで走った……

 

 

そこに知り合いがいるとも知らずに俺は駆ける。それだけが今の俺に出来る事なのだから……

 

 

「どうか今日は機嫌がいい真庭本部長でありますように!!」

 




……と言うわけで、皆さんが思っている事を予想してみますね。


……戦わないのかよ!?


どうです?当たってますか?……作者もこう思いながら書いていたので、たぶん読んでる方もそう思ってるんじゃないかと……

争いは何も生まないんだぜぇ!!!


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特技はスニーキング、ついでに驚かせる事です

最早誤字脱字なんて関係ない!!とにかく投稿してやる!!!



駄文の本気見せてやる!!!!


急ピッチで真庭本部長の居場所まで走った俺は……現在、人に見つからないように細心の注意を払って建物内を移動していた。

 

「まさか、正面から堂々と通ろうとしたら関係者以外立ち入り禁止で追い出されるとは……くそっ!真庭本部長の仕組んだ罠か!……いいだろう、その挑戦受けて立つ!絶対に辿り着いてみせるぞ真庭本部長。俺の休暇を取り消す事は不可能だとその身をもって知るが良い……フハハハ!!」

 

俺の頭の中は休暇の事で一杯になり、この行為がやってはいけない事だと理解もせずにどんどん目的の部屋まで進む。そして、ようやく誰にも見つかる事なく目的地付近に辿り着くと近くから風船の割れたような音が聞こえて身を低くして隠れる。

 

「敵襲か!?……ん?」

 

音が鳴ってから周囲を見回していると、何処かから声が聞こえてきたので耳を澄ませる。

 

「……この声、何処かで聞いた事があるような……」

 

すぐには分からずそのまま耳を澄ませて聞いていると、驚愕する程の内容を聞き取った俺は思わず立ち上がる。

 

『獅堂さん、此花さん。あなた達の戦いは無駄にはしません。もちろん、ベットで眠ったままの燕さんの戦いも』

 

「結芽がベットに眠ったままだと?」

 

顎に手を当ててしばらくそれだけを考え続ける俺……だが、結局真実は分からないままな為これ以上我慢は出来ずにその部屋の中に入っていった。その部屋は丁度俺の目的地と合致していたので何も問題はない。

 

「失礼します」

 

「零次さん!?」

 

「やぁ、久しぶりだね……と言っても昨日会ったばかりだけど」

 

「お前が何故ここに?」

 

「ちょっと真庭本部長に呼び出されてね。探していたらここに辿り着いたんだ」

 

「あぁ、そういえば神条は私が呼んでいたんだったな」

 

「おいおい、忘れないでくださいよ」

 

「すまんすまん」

 

「まったく……お久しぶりです朱音様」

 

「お久しぶりですね神条さん、今日は真庭本部長に御用があったのですか?」

 

「はい。次の任務について話があるとお聞きしています」

 

朱音様相手には礼儀を持って接する俺は姿勢を正し、右手を胸に当ててお辞儀をする。こんな事をするのは今のところ朱音様だけである。となりのブラックな上司には一生やる気はないと断言してもいい!

 

「お前は!?」

 

「真希さん?知り合いですの?」

 

「あぁ、この前山の中で偶然居合わせたんだ」

 

特に気にしないで見ていなかった人達が何やら話ししていたので、少し確認の為そちらに振り向くと見知った顔が目に入り驚いてしまった。だがそこは得意なポーカーフェイスで悟られないように注意しながら話しかける。

 

「おや?あなたは確かこの前山の中でお会いした方じゃないですか」

 

「……覚えていたのか」

 

「えぇ、これでも美女と美少女の顔はすぐに覚えるのが特技なので」

 

「なっ!?」

 

「ははは、特技というのは冗談ですよ」

 

「お、お前!僕をからかったのか!?」

 

「すみません、今のは軽いジョークです。ですがあなたが美女であるのは冗談ではなく俺の本心ですよ。お隣の方もお綺麗ですね」

 

「なっ!?何を言いだすんですの!?」

 

「俺の本心を言ったまでですよ。初対面の女性は必ず褒めるように父から教わったので」

 

「おい神条、私は褒められた事がないんだが?」

 

「……それでは、思わず本音が漏れてしまったようですね」

 

「おい神条、どうして私から顔を逸らすんだ?んん?」

 

「あははは、嫌だな真庭本部長。別に顔を逸らしてる訳ではないですよ。ただ」

 

「ただ?」

 

「……寝違えて首が動かせないんですよ。あはははは」

 

「お前さっきこっち向いていたよな?」

 

「……実は数秒毎に向きを変えられるという特殊な症状が「神条」……それで、話しというのは何でしょうか?」

 

「ちっ、話を逸らしやがったな……それは後で問い詰めるとして、今回の任務にお前も加わってくれ」

 

「そう言うという事は、朱音様の護衛ですか?」

 

「そうだ。お前達は明日、朱音様に同行してもらう」

 

「今度は何処へですか?」

 

「刀剣類管理局局長、我が姉、折神紫の元へ参ります」

 

朱音様の発言に皆が驚き、俺だけはその場で苦い顔になった。

 

「紫様の元へですか。いきなり斬られたりしませんかね?」

 

「それはありません。今の姉はタギツヒメに取り憑かれた以前までの折神紫ではなく、元の折神紫なのです」

 

「そうなんですか?」

 

「はい。信じてもらえないでしょうが……」

 

「俺は信じますよ」

 

「え?」

 

「何を驚いているんですか朱音様?朱音様がそう言うという事は本当にそうなのでしょう……これが真庭本部長だったら怪しんでいましたけどね。はっはっはっは」

 

「神条さん……」

 

「神条……それはどういう意味なのかじっくり聞かせてもらおうじゃないか」

 

「はっ!?しまった!」

 

「朱音様、すみませんが少しこの馬鹿とお話があるので席を外します」

 

「え、ええ。お手柔らかにお願いしますね?」

 

「もちろんです」

 

何故だか最近は真庭本部長を止める事が少なくなってきた朱音様は、否定もせずに了承してしまった。そして、朱音様からの許可を得た真庭本部長は少しずつ俺との距離を詰めてくる。片方の手を握りしめ、もう片方の手でその拳を掴んだ格好で音を出しながら近づいてくる真庭本部長から俺は後ずさりながら何か言い訳を考えて伝えた。

 

「あ、いや、その……そ、そうだ!今日はこの後ピアノのレッスンがあるんだった!」

 

「お前いつもそんな事してないだろ」

 

「じゃ、じゃあ。今日はそろばんが「それもないだろ」……く◯ん、いくもん!」

 

最後の訳の分からない言い訳も無意味に終わり、俺の横を通りぬけた真庭本部長を見て一安心して油断してると、服の後ろの襟元を掴まれて首が締まった状態のまま引きづられていく。

 

「それでは失礼します。ほら行くぞ」

 

「ちょ……首……絞まってる……」

 

「いいから歩け」

 

「いや……それなら離して……ぅぅ」

 

バランスを崩して尻もちをついた俺は、そのまま真庭本部長に引きづられながら部屋を出て行った。それからしばらくの間引きづられて、とうとう意識が朦朧としてきた時になってやっと解放された。

 

「はぁ、はぁ。し、死ぬかと思った……」

 

「大袈裟な奴だな」

 

 

「いやマジで危険だったんですけど!?」

 

「あーはいはい。そういう演技はいらないから」

 

「演技じゃない!……それで、どうして俺だけ連れ出されたんですか?」

 

「勿論さっきの話についてじっくり聞く為だ……と思っていたんだがな」

 

「え?許してくれるんですか?」

 

「誰が許すか……今はその話は保留だ。それよりも、さっき部屋を出て歩いている時に思い出した事があってな」

 

「思い出した事?」

 

「あぁ……お前は燕結芽の親戚だそうだな」

 

「え、ええそうですが。それが何か?」

 

「そうか……まぁ、その、実はだな。今現在燕がここに入院しているんだ」

 

「なっ!?結芽ちゃんが!?生きてるんですか!?」

 

「落ち着け、彼女は生きている」

 

「そう、ですか……ははっ、マジかよ……良かった」

 

「ん、んん!」

 

「あ、ああ。すみません、少し取り乱してしまいましたね」

 

「それは構わん。それよりもお前は今、生きているか聞いてきたがどういう意味だ?」

 

「えっ!?いや、そ、それは……」

 

「……すまん、言いにくい事だったな」

 

「え?」

 

「事情は知っている。彼女は数年前から病院のベットに寝たきりの生活を過ごしていたが、ある日を境に両親が見舞いに来なくなったんだよな」

 

「見舞いに来なくなった?」

 

「そして、彼女の容態は悪化していきベットから動く事すら出来ずにいた……お前はその時に見舞いに来てその姿を見たんだろ?」

 

「あ、いやぁ。そういう事じゃなくて……」

 

「言うな。私は分かってる……だからこそお前は、今こうして働いているんだよな。見舞いに行く時間を割いてでも治療費を稼ぐ為に……今までずっとそうしてバイトしてたんだろ?」

 

「いやいや、それは真庭本部長の仕事の量が多過ぎなだけで、以前はバイトも何も……」

 

「神条、今この場には燕はいない……無理しなくていいんだぞ?」

 

「えぇぇぇ……」

 

「……やはりお前も男だから弱気な姿を見せられないか……分かった、これ以上は聞かないでやる」

 

「……あ、はい」

 

もう何を言いたいのか分からず、いくら言い返しても無意味なので流れに身を任せることにした。

 

「あの〜、それで一体何が言いたいんですか?」

 

「ん?ああ、すまん。話が逸れたな……さっきお前があの部屋にいない時に、獅堂と此花には燕が眠ったままだと言ったんだがな……実は一月程前から目を覚ましているんだ」

 

「は?それじゃあ、何故そんな嘘を言ったんですか?」

 

「それはだな……目を覚ましたと言っても当時はかなり容態が悪くてな。今ではかなり良くはなっているが無理をすれば、最悪死ぬ可能性もある」

 

「……だからって別に見舞いぐらいはいいんじゃないんですか?」

 

「そうは言ってもな……燕も獅堂も此花も元親衛隊だからな。もしもの事を考えて接触させないようにさせているんだ」

 

「もしも?……まさかタギツヒメ達に3人が協力するとでも思っているんですか?」

 

「可能性は0じゃない。3人とも相当な実力があるからな。悪いが看過する事は出来ない……それに、燕が親衛隊のメンバーに会ったら何をしでかすか予想出来ないからな」

 

「……そうですか。ですが、俺はいいんですか?」

 

「何を言っている?お前は親衛隊ではないだろ」

 

「……そうでしたね。ついうっかりしちゃったぜ!てへ」

 

「……気持ち悪いから今すぐやめろ」

 

「はい……」

 

「話を戻すぞ、数週間前から体調もだんだんと回復してきたんだがどうも退屈そうでな。以前の事もあるからつい冗談混じりに何か要望があれば言うように聞いてみたらある人物に会いたいと言われてな」

 

「……一応聞きますけど、誰の名前を上げたのですか?」

 

「元親衛隊のメンバー全員と彼女のご両親、そしてお前だ」

 

「何というか……ほとんど会うのが難しい人ばかりですね」

 

「だからこうして消去法で残ったお前を連れてきたんだ」

 

「なるほど……つまり、俺は人畜無害な人間という事ですね!」

 

「んなわけあるかこの馬鹿が……まあ、お前の事はこの1ヶ月見てきたが信用できる人物だと思う……そう判断したから連れてきた」

 

「真庭本部長……ちなみに何処らへんが?」

 

「仕事を必ずこなすとこだ。あとは脅迫……こほんっ、頼み込むと引き受けてくれるとこだな」

 

「今脅迫って言ったよね!?」

 

「……さて、そういう事だ。もちろんこれは強制じゃないから断ってもらっても構わないがどうする?」

 

「まぁた話逸らした……はぁぁ、どうせ断ろうとしても脅迫されるなら会いますよ」

 

「そうかそうか、私はそう言うと信じていたぞ神条」

 

「都合良いなあんたは!?……まあ、俺も会いたいですから今回は感謝します」

 

「ほう?何だ神条、お前実はかなり心配していたのか?」

 

「……別にいいじゃないですか!俺の信仰心に曇りなし!正義は可愛い事が重要なのだ!フハハハハ!!!」

 

「お、おい神条!?落ち着け!?いきなりどうした!?」

 

「はっ!?……これは失礼、少し寝不足で疲れていたようです」

 

「お前大丈夫なのか?」

 

「もちろんサー」

 

「……本当に大丈夫か?」

 

「大丈夫ですよ。ですから早く行きましょう真庭本部長、彼女は待ってはくれませんよ」

 

「いや、部屋で大人しく待っているんだが……はぁぁ。本人の了承も得た事だから早速見舞いに行くぞ」

 

「イエッサーボス!」

 

「……本当に大丈夫なんだよな?私の判断は正しかったのだろうか?」

 

「ほらほら早く行きましょうよ真庭本部長」

 

「……あぁ、分かった。ついてきてくれ」

 

こうして、俺は真庭本部長の後について歩いた。

 

 

そして、目的の部屋の前まで来ると真庭本部長が呼ぶまで入室しないように言われたので、1人廊下で立たずむ。深呼吸して心を落ち着かせるも急に真庭本部長から呼ばれて焦る。だが、目を閉じて両方の頬を手で叩くと気が引き締まりいくらか心も落ち着いたので、背筋を伸ばし胸を張って部屋の中に入った。

 

「失礼します」

 

初め見た時はその人物が天使だと錯覚した……

 

 

 

今この瞬間俺は……天使と再会を果たしたのだ……

 

 

To Be Cntinue!!!!!!!!!!

 

 




……とじみこ終わってしもうたやん……

最終話というのはどうしてこうも悲しくなるのか……心に穴が空いた気分だよ……


もう、作者の思うがままに書いていこうと思いますのでよろしく!!


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ここは天国ですか?……なんだ、目の前に天使がいるだけか

長らく投稿出来なかったので、お詫びとして連投します!!


これから先も遅くなるけど許してください……


気が向いたら頑張って書こうかな?


俺が真庭本部長に連れられてきた部屋の中に入ると、そこには天使がいた。

 

「久しぶりだね……って言っても覚えてないか。あははは」

 

「え?真庭学長、あの人って……」

 

「ああ、燕がこの前言っていた人物を連れてきた。どうだ?驚いただろ?」

 

やっぱり覚えていないことに軽く……いや、かなりショックを受けながらも、取り敢えずはベットの横まで歩いていく。

 

「じゃ、じゃあ……零兄、なの?」

 

「そうだよ、覚えていてくれてたんだね」

 

「……うっ……う……ぅ……」

 

突然啜り泣き始めた結芽ちゃんに慌てる俺、そんなにも俺の存在が泣くほどだったのかそれとも泣かせるほど真庭本部長の顔が怖かったのか分からないまま、どうすれば良いのかハンドパワーの構えをとりながらどうしようか考えているといきなり腰あたりに飛びつかれた。

 

「れ、零兄!!!!」

 

……だが、狙ってなのかは分からないが結芽ちゃんの頭は俺のみぞおちにクリーンヒットして大ダメージを喰らった。

 

「ガハッ……こ、こらこらいきなり抱きつくのは危ないって言ってるだろ結芽ちゃん」

 

「零兄!零兄!」

 

「うん。聞いてないね」

 

しばらくの間、結芽ちゃんが話を聞かずに顔を埋めたまま名前を呼び続けていたので俺は動かずにじっとしていた。ようやく落ち着いたのか、結芽ちゃんは顔を離してこちらの顔を見ながら心配そうに聞いてくる。

 

「本当に……零兄、なんだよね?」

 

「そうだよ。久しぶりだね結芽ちゃん」

 

「……うっ ……うっ……」

 

「ええ!?ちょっと結芽ちゃん大丈夫!?何処か怪我でもしたの!?」

 

「ううん、違うの……嬉しくて……」

 

「そう、なのか……良かった、怪我した訳じゃなくて」

 

「ん、んん!!お前たち、私の事を忘れてないか?」

 

「あ……ゆ、結芽ちゃん。ちょっとだけ離れようか?」

 

「えっ……どうして?」

 

「真庭本部長が見てるから、ね?」

 

「……嫌、離れたくない」

 

「えぇぇぇぇ」

 

「……だめ?」

 

「……ふっ、駄目なわけないじゃないか!むしろウェルカム!」

 

「ありがとう!零兄大好き!」

 

「俺もだよ結芽ちゃん!ははははは!!」

 

「……おい、夫婦漫才もそれぐらいにしろ」

 

いつまでも離れない結芽ちゃんを引き剥がす事が出来ず、されるがままにこの状況を受け入れて癒されていると、邪悪なるオーラを纏ったブラック上司が俺だけを睨んでいた。

 

「い、嫌だなぁ。ちょっとしたコミュニケーションですよ?……いや、まあ……すみませんでした」

 

「はぁぁぁぁ。もうそのままでいいから話を聞け」

 

「了解です」

 

「今回は特別に私が連れてきたが、これからは神条1人だけなら見舞いに来るのを許可しよう」

 

「え?いいんですか?」

 

「あぁ、今のお前達を見ても問題なさそうだからな」

 

「真庭本部長……ありがとうございます。今まで俺、あなたが悪魔だと思ってたけど人の心もあったんですね」

 

「……ほう、今までそんな事思ってたのか?」

 

俺の本心が要らぬとこまで漏れてしまい、真庭本部長の顔が恐ろしくて必死に顔を逸らして下手な口笛を吹いて誤魔化す。

 

「ねぇねぇ、零兄。これからは毎日会えるの?」

 

「ん?そうだよ結芽ちゃん。これからは毎日「言い忘れていたが仕事中に抜け出すような事があったら、即刻出入り禁止だ」……ごめん、毎日は無理みたいだ」

 

「そんなぁ……」

 

「さて、私は先に朱音様達の所へ戻るが、神条も少ししたら戻ってこい」

 

気を効かせてくれたのか、それだけ言うと真庭本部長は部屋から出て行った。だが、真庭本部長がいなくなった後も毎日は会えないと知って落ち込む結芽ちゃん。それを見ていられなくなり頭を撫でて励ました。

 

「毎日は会えないかもしれないけどさ、出来るだけ会いにくるから我慢してくれ」

 

「むぅ〜……本当に来てくれる?」

 

「勿論だよ」

 

「……わかった……約束だよ?絶対に会いに来てね?」

 

「分かった。約束するよ」

 

何とか結芽ちゃんの機嫌も良くなり、内心ビクビク怯えていた俺はそっと頭から手を離した。しかし、何故か結芽ちゃんの表情が暗くなり始め何処か粗相をしたのか焦る俺。その俺の慌てように気づきもせずに結芽ちゃんが下を向きながら語りかけてきた。

 

「……ねぇ、零兄。1つ聞きたい事があるの」

 

「お、おう。何、かな?何でも聞いてくれて構わないよ」

 

「1年前、私が入院している時……どうして来てくれなかったの?」

 

「1年前?……あ」

 

やばいどうしよう。1年前ってあれじゃん。俺が多忙の日々を過ごしていた時だよ……どう答えるのよ俺!!

 

「私が入院しているの知らなかったの?」

 

「それは……」

 

俺が何か言おうとした時、何処かから俺の脳内に直接語りかけてくる。

 

『選べ。1、そんな事より狩に行こうぜ!と言ってこの場を凌ぎきる。2、実は俺には病院に入ると爆発する呪いがかかっているんだ……と言って土下座をする』

 

……うん、全然意味が分からないね。何をさせたいんだろうこの声の主は……でも、おかげで少し冷静になれた。正直に話そう、俺の本心を……

 

「毎日乗り切るのに精一杯で知らなかったんだ……ごめん、結芽ちゃんが入院してるのを知ってたらすぐにでも会いに行ったんだけど……って言っても信じてくれないか」

 

「……本当に知らなかっただけなの?私に会いたくなくて来なかったんじゃなくて?」

 

「そんな事は絶対にあり得ない!例え、手足をもがれていたとしても俺は結芽ちゃんに会いに行くさ!」

 

「零兄……ちょっとその表現はないと思う」

 

「……ごめん」

 

「でも、私に会いたくない訳じゃないんだね……よかった」

 

「本当にごめん結芽ちゃん」

 

「零兄、もういいよ。それにこれからはちゃんと会いに来てくれるんだよね?」

 

「ああ、勿論だよ。今度は絶対に会いに来る……絶対にだ……はぁぁ、俺って肝心な時に限って役立たずだな」

 

「そんな事ないよ!零兄がいたから私は……」

 

「結芽ちゃん?」

 

再び抱きついてきて顔を埋める結芽ちゃんに、最後何を言おうとしてたのか聞き出そうとするとかすかに聞き取れる位の声で呟いていた。

 

「私ね、入院してる時ずっと諦めかけていたの……パパもママも来なくなった後も、ずっと私はベットの上で生き長らえているだけの毎日……痛くて苦しくて何度も助けを求めて……でも誰も来てはくれなかった……その時気付いたの。もう、私の生きている理由も価値もないんだなぁって」

 

「……そんな事を考えていたのか」

 

「うん。でもね、それでも1つだけ死ぬ前にやっておきたい事があったんだ……」

 

「……それは何かな?」

 

「それはね、零兄から一本取る事だよ……最後に会った時の事覚えてる?」

 

「ああ、覚えてるよ……もしかしてあの時の事、結構気にしてたのか?」

 

「当たり前だよ!だってあの時の私は自分で言うのも何だけど、刀使の中でかなり強かったんだよ。それなのに……零兄には勝てなかった!刀使じゃないのに!」

 

「えーっと、それは……なんかごめん」

 

「……でもね、その時の私より強い相手はほとんどいなかったからすごく嬉しかったんだ……そしていつからか、零兄から一本取る事が私の目標になっていたんだ……だから私、それまでは絶対に死にたくないと思えたんだよ?」

 

「そうなの?」

 

「うん……零兄と出会わなかったらきっと、私は生きる事を諦めていたと思う……今こうして生きているのは零兄のおかげなんだよ?」

 

「結芽ちゃん……」

 

「零兄は役立たずなんかじゃない……私にとっては生きる希望を与えてくれた恩人なの……」

 

「……そうか、それじゃあさっきの言葉は撤回するよ」

 

「うん!」

 

上を向いて満遍の笑みを見せてくれる結芽ちゃんに俺は心を奪われた……と錯覚するほどに、今の結芽ちゃんは立派に成長していて涙を流しそうになった。守りたいこの笑顔……いや、守らなければならない!それが俺の生きる理由だ!!!!

 

「零兄?どうしたの?私の顔に何かついてる?」

 

「え?あ、いや……そ、そうだ!ベットから起き上がれない位だったみたいだけど、今は平気なのかなぁって」

 

思わず見惚れていた事は恥ずかしくて言えなかったので、別の話題を出して話を逸らした。この巧妙な手口に気づかずに結芽ちゃんは、俺から離れて元気がある事をアピールしてきた。

 

「うん、平気だよ……って言ってもまだ出歩いたりするのは無理なんだけどね」

 

「そうなのか?顔色もいいし元気もあるから問題ないように見えるんだけど?」

 

「それはここ最近で調子が良くなっただけだよ。今はまだリハビリ中で、真庭学長が言うには後1ヶ月は様子見だってさ〜。それまではあまり出歩かないようにって言われてるの。もう、こんなに元気なのに〜」

 

「あははは、真庭本部長も結芽ちゃんの事が心配なんだよ。あの人見た目と違ってかなり優しいからね……俺以外にはね」

 

「ふ〜ん、そうなんだぁ……そういえば、零兄は何で真庭学長の事を本部長なんて呼んでいるの?」

 

「え?真庭本部長から話を聞いてないの?」

 

「ううん、何も聞いてないよ?」

 

「そうなのか……あー、その、実は1ヶ月前からあの人の部下として働いているんだよ」

 

「ええっ!?そうなの!」

 

「まあ、働いていると言ってもほとんどが雑務なんだけどね」

 

「それじゃあ今は刀剣類管理局とか言う所で働いているんだよね?」

 

「え?うん、そうだけど。それがどうしたの?」

 

「あのねあのね!実は私も前にあそこで遊……働いていたんだよ!」

 

「へぇ、そうなのか?……それより今遊んでいたと言おうとしてなかった?」

 

「そ、そんな事ないよ?」

 

「怪しい……まあ俺の気のせいか」

 

「そうそう、零兄の気のせいだよきっと!」

 

「そうだな、そういう事にしておこう……それより、結芽ちゃんが働いていた時は辛くなかったか?」

 

「ううん、そんな事ないよ。おねーさん達は忙しそうだったけど、そんな時は紫様が他の人に仕事を回していたから辛いなんて事はなかったと思う」

 

「へ、へぇ……ちなみに、紫様がどんな人に仕事を回していたか知ってるかな?」

 

「う〜ん……あ!確かゼロおにーさんにやらせるとか言ってるの聞いた事がある」

 

マジかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!もしかして沖田とグルなのか?……絶対にそうに違いない!!!握りこぶしを作ってプルプル震えながらも叫ぶのを我慢した俺は偉いと思う。結芽ちゃんはその様子を見て、心配そうにこちらを見てきた。

 

「零兄?」

 

「あ、ああ。何でもないよ……」

 

何とか平静を装って返事を返すと、今度はスマホの着信音が鳴り響く。

 

「『ダーダーダーダーダダーダーダダー……』もしもし神条です」

 

『そろそろ戻ってこい!いい加減長すぎるぞ!』

 

「りょ、了解!神条零次、これより帰還します!」

 

『……30秒だけ待ってやる。遅れたら……分かるな?』

 

「はい!それでは失礼します!」

 

突然の罵声に反射的に口調が変わるも、今回は穏便に通話を終える事が出来た。

 

「悪い結芽ちゃん、俺もう行かないと」

 

「えぇ〜、まだ全然話足りないよ〜」

 

「本当にごめん!」

 

「むぅ〜」

 

「今度来る時、お土産にデザート持って来るから、ね?」

 

「本当!」

 

「お、おお」

 

「分かった!約束だよ!」

 

「あぁ、約束だ……それじゃあまたね」

 

「うん!またね!零兄!」

 

結芽ちゃんが手を振り見送りしてくれる中、気乗りしないながらも俺は扉へ向かい歩き出す。そして、扉を開けてから最後に1度振り返って手を振り返してから部屋を出た。

 

「……結芽ちゃんが生きていた……これは夢じゃないよな?」

 

未だに信じられない俺は部屋を出て扉を閉めた後、少し結芽ちゃんのいる部屋から遠ざかり自分の頬を摘む。

 

「……痛い。痛い!痛いぞ!はははは!!!すごい痛いぞ!!!」

 

側から見れば気が狂ったのかと思われるかもしれないが、それでも今の俺にはこの痛みこそがとても嬉しすぎて何度も頬を力強く摘んだ。

 

それから少しして摘むのをやめた俺は、少しずつ冷静になってくるも未だに笑いが止まらずにいた。

 

「現実なんだよな……あぁ、こんなに心の底から笑ったのは久しぶりだな……っと、こうしてはいられないんだった。早く行かなきゃ」

 

まだ笑いを抑えきれない俺は、両手で頬を叩いて気を引き締めてから真庭本部長の待つ部屋まで戻った。戻る際、俺の足取りはいつも以上に軽く、少しだけ歩調が早くなっていたような気がする……

 

 

 

〜fin〜

 

 

 

……しかし、人生とは上手くいかないものだ。ここで終わればそれこそハッピーエンドだっただろうに……

 

 

呼び戻されてからは、何故か追加の書類を用意されて今日中に書類を終わらせるように無理難題を押し付けられ、すぐに本部に戻り作業をした。その後も、真庭本部長からと言いながら沖田さんから書類を渡されて、寝る間も惜しんで作業をすると気がつけば外は明るくなっていた……

 

神条零次の護衛任務は、徹夜後一睡もせずに開始されるのであった……

 

 

 

___________________________________________

 

とある一室で少女はとても楽しそうに布団を被りながら笑っていた。

 

「また零兄に会えるんだ〜。ふふふ。次はいつ来るのかな?……はぁ、早く会いたいなぁ。会ってもっとお話ししたい!……見ない間に大きくなっていたなぁ零兄。まるで別人みたいだったけど、あの頃と一緒で優しかったなぁ」

 

そう言って少女は、先程撫でてくれた自分の頭に手を当てる。

 

「えへへ〜、撫でられちゃった。また撫でてくれるかな?……ううん、そんな事より再会したのに何も言われなかったのはちょっと残念。私ももう中学生なのに〜……今度会った時は言葉遣いを変えてみようかな?寿々花おねーさんから教えてもらったのを挑戦してみーよおっ!」

 

 

 




……駄目だ、全然キャラが分からなくなってきた……


やはりもう一度見直して書くようにしようと決めた今日この頃……


次回からはもっと考えて書きま……せーーーーーーん!!己が欲望に忠実に書きます!!



ここから先は駄文のオンパレードどだ!!!ヒャッハー!!


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姿が変わった者と変わらない者の再会……

セーーーーーーーーーフ!!!!!!!!!!!



どうにか今週中に書けたぜだんなぁ……


暑い中でも書けたが内容は熱くないから気をつけてくれよ!!!!


 徹夜明け、一睡もせずに仕事を終わらせた俺は寝るという事はせずにそれ以上の癒しを求めて昨日足を運んだある一室に訪れていた。

 

「結芽ちゃん、起きてる?」

 

「あ!零兄!今日も来てくれて嬉しい!!」

 

そう、寝るなんて今の俺には時間の無駄だ。それよりもこうして彼女、結芽ちゃんを一目見るだけで疲労も嘘のように消えていくのだ!これこそが俺にとっての最強エステ、老人が温泉で体の疲れを癒すように、また、現代の人々が女遊びやらギャンブルでストレスを発散するように……そんな感じで、俺も彼女に会いに来ることで癒されながらもストレス発散もしているのだ……マジグッジョブ!

 

「まあね、出来るだけ会いに行くって約束したからね……迷惑じゃなかったか?」

 

「ううん、そんな事ないよ!私はすっごく嬉しい!!」

 

最高の笑顔を見せながらそんなことを言われたら、俺は……

 

「〜〜〜〜〜!!!」

 

つい、惚れてまうやろ〜!!と、声に出しそうになった俺は、口を手で抑えながら何とか堪える。そんな今の俺の姿を見て流石の結芽ちゃんも……

 

「大丈夫零兄?体調でも悪いの?」

 

俺の体の具合を心配してくれた……かなりの罪悪感に苛まれながらも心配をさせないように結芽ちゃんに笑いかける。

 

「大丈夫だよ結芽ちゃん、少し感動してただけだ」

 

「感動してた?」

 

「ああ。こうしてまた結芽ちゃんに会える事が嬉しくてね」

 

「零兄……うん、私も零兄と同じ気持ちだよ」

 

「ははっ、そうか。それは良かった」

 

……これ以上語る事がない程に目の前の少女が文句なしの美少女に成長した事に思わず涙が流れそうになった。それに比べて俺は堕落の一途を辿って年ばかり取っていることにも涙が出かけたが、上を向いて必死に堪える。

 

「零兄?何で上を向いているの?」

 

「いや、少し……というかあまりにも結芽ちゃんが綺麗になっていて直視出来ないだけだ。気にするな」

 

「ふぇ!?」

 

「ふぅぅぅ……よしっ!もう大丈夫だ」

 

大きく息を吐いて心を落ち着かせてから再び結芽ちゃんを見ると、彼女は下を向きながら体に掛けていたタオルを握りしめて黙り込んでいた。よく見ると耳も少し赤いような気がして心配になり、まさか症状が悪化したのかと思って扉前にいた俺はすぐに結芽ちゃんの元までかけ寄り声をかける。

 

「大丈夫か結芽ちゃん!どこか具合でも悪いのか!救急車を呼ぶか?」

 

「だ、大丈夫だから!何でもないから!」

 

「そうなのか?……本当に大丈夫なんだな?」

 

「 うん……ちょっとビックリしただけ……」

 

「そ、そうか……」

 

結芽ちゃん本人から大丈夫と言われてはこれ以上は問い詰めずに素直に瞬時にポケットから取り出したスマホを、そっとしまう。見た感じは確かに大丈夫のようだが、いざという時の為に気を引き締める。

 

「……零兄って意外と心配性なんだね」

 

「そ、そんな事は……あるな。でも、結芽ちゃんに何かあると思ったら居ても立っても居られなくて……」

 

「そうなんだ……ふふっ、ありがとう零兄」

 

「結芽ちゃん……もしも、結芽ちゃんに何かあったら俺は……切腹する!!」

 

「零兄!?ちょっと落ち着いて!」

 

「何を言っているんだ結芽ちゃん?俺は冷静だよ?」

 

「それなら切腹するなんて言わないよ!」

 

「そ、それは、あれだ……俺にとって結芽ちゃんはそれ程大切な存在なんだよ?」

 

「えっ!?……それって……」

 

「ああ。俺にとって結芽ちゃんは……妹みたいなものだからね」

 

「……か……」

 

「え?何か言った?」

 

「零兄の……馬鹿ぁぁぁぁぁl!!」

 

「グヴォ……」

 

結芽ちゃんからの渾身の一撃である右ストレートが俺の鳩尾にクリティカルヒットし、俺はその場で腹を抱えた格好のまま床に膝をついていた。

 

「ぅぅぅ……正確に……鳩尾に当てるとは……流石結芽ちゃんだ……」

 

未だに痛みがひかない場所を抑えながらも顔だけは結芽ちゃんに向けて、彼女の恐るべき実力を賞賛する。だが、彼女はそっぽを向いていてとてもご立腹のようだ……

 

「……ふぅ、まだ痛むな……あの〜結芽さん?どうしてそんなに機嫌が悪いのでしょうか?」

 

「……ふん!知らない!自分の胸に聞いてみればいいよ!」

 

そう言いながらもやはりこちらを向かない彼女に言われた通り、俺は今一度だいぶ楽になった体でその場から立ち上がり、自分の胸に手を当てて考えてみる……

 

「……駄目だ。何も分からない……えーっと、何か粗相でもしましたか?」

 

「......零兄の鈍感......」

 

「ごめん聞こえなかったからもう一回お願いします」

 

「はぁ......ケーキ、今度ケーキ持ってきたら許してあげる」

 

「ケーキ?それなら明日......は少し用事があるから明後日には用意して来るよ」

 

「本当!それなら許してあげるよ」

 

「ありがとう結芽ちゃん」

 

原因が分からない俺は彼女にケーキを買ってくることを約束して何とか許してもらう事が出来た。しかし、プレゼントをして許してもらうという行為をするとは......俺はまたマダオに一歩近づいてしまった。

 

その後、自分が堕落していくことから目を逸らすために、俺は今まで気になっていた話題を出してみる。

 

「ねぇ結芽ちゃん、気になっている事があるんだけど聞いていいかな?」

 

「ん?別にいいけど?」

 

「今は元気みたいだけど、何か薬を服用しているのか?」

 

「ううん、今は点滴してるだけだよ」

 

「そうか......特に副作用のある薬を飲んでるわけじゃないなら安心だ」

 

「もう、零兄心配しすぎ~......でもありがとう、心配してくれて」

 

「ははは、これぐらい当然だよ」

 

「......ゼロおにーさんには感謝しないとね」

 

「ゼロおにーさん?」

 

何故にですか?そこでその名前が?聞きたいけど聞けない......でも聞きたいので怪しまれないように探りをいれてみよう。

 

「結芽ちゃん、どうしてゼロおにーさん?に感謝しないとなの?」

 

「それはね~、私の命の恩人だからだよ!」

 

「へ?命の恩人?」

 

「うん!あのねあのね、ゼロおにーさんが私を助けてくれたって寿々花おねーさんが言ってたの!」

 

「んん?寿々花おねーさんってもしかして此花さんの事かな?」

 

「そうだよー。あれ?何で零兄が知ってるの?」

 

「え?それはあの、あれだよ!親衛隊の人だから俺だって聞いたことぐらいあるからね……あはははは」

 

「それもそっか」

 

「そ、そうなんだよ。有名だからね、親衛隊の人は……そんな事よりも、それはいつ聞いたんだい?」

 

「う〜ん、いつだったか覚えてないや」

 

「覚えてない?」

 

「私その時意識がはっきりしてなかったからあまり覚えてないんだー……でもね、寿々花おねーさんが何か言ってたのは覚えているんだ」

 

「……その時のすず……此花さんは何て言ってたんだ?」

 

「うーんとね、確か……『ゼロには今度、結芽を助けてくれた礼をしなくてはなりませんね……』って言ってたと思う」

 

「そ、そうなんだ……」

 

一瞬寿々花が俺のした事を暴露したのかと内心ヒヤヒヤしていたが杞憂だったようだ。もしも俺のやった事を暴露された暁には絶対に俺は刺される……特に結芽ちゃんと真希に!

 

「大丈夫零兄?顔色悪いよ?」

 

「大丈夫、大丈夫。こんなのいつもの事だよ」

 

「それ大丈夫じゃないよね!?」

 

「いやいや本当に大丈夫だから」

 

「本当に?」

 

「本当だよ」

 

「……零兄がそう言うなら信じるけど、あまり無理はしないでね?何かあったら私が助けてあげる!」

 

「結芽ちゃん……ああ。その時はよろしく」

 

目の前にいるのは天使だ!そうに違いない!!……まったく、これだから少……じゃなくて、中学生は最高だぜ!!!

 

「さてさて、結芽ちゃんの元気な姿も見れた事だし俺は帰るとしますか」

 

「えー、もう帰るのー」

 

「あはははは、少し前から看護師の方が外で待っているみたいだからね」

 

「え?そうなの?」

 

「ああ、何となくだけど気配を感じるよ」

 

「凄い零兄!そんな事も出来るんだ!なんかゼロおにーさんみたい!」

 

「は、はははは。俺がゼロなわけないじゃないかー、ははははは」

 

「零兄凄い汗出てるよ?」

 

「そ、それはだね……おっと!今日は真庭本部長から仕事を頼まれていたんだった!それじゃまたね!結芽ちゃん!」

 

徹夜のせいか言い訳がすぐに思い浮かばず、嫌な汗をかきながらそのまま俺は結芽ちゃんに挨拶をしてからこの場を離脱した。

 

「待ってよ零兄!……行っちゃった。あ〜あ、もっとたくさんお話したかったな〜。まあ、明後日来てくれるって約束してくれたから今日は我慢しよ〜」

 

 

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離脱後、扉を出るとすぐ目の前に看護師がカルテか何かを持ちながら佇んでいた。だが、俺はラッキースケベ的展開には持ち込まずに体勢を低くしてヘッドスライディングで回避して通り抜け、勢いを殺さずに両手を床につけて思いっきり力を入れて体を浮かせて一回転してから地に足をつけて廊下を走り続ける。ヘッドスライディングした時に横を通り抜けたのだが、上を向いて入ればそこには男のロマンが見えたかもしれないが俺はそんな事はしていない。俺は紳士だからな!!!

 

 

それからも、本部にある部屋までは安心は出来ないのでずっと走り続けていたのだが……それが仇となった。本部の廊下を走っている途中、真庭本部長と出くわしてしまい、俺を見逃してくれるはずもなく呼び止められる。そして、軽く拳骨を一撃頭に貰った後に夕方前には出発するから今すぐ準備しておけと言われたのが正午……すぐに部屋に戻って準備しようとはせずにまだ時間はあると余裕をこいてベッドにダイブしたのが正午から少し経った位のはず……それで、いつのまにか寝ていて起きたのが今現在……そう、集合時間の5分前だ……

 

「いっけな〜い、遅刻遅刻〜……ってふざけてる場合か!!やべぇ!まじで俺の人生に終止符が打たれてしまう!早く行かなきゃ!」

 

今来ている服を脱ぎ捨てて、前回同様にスーツを着用し、いつものように無意味な変装の伊達メガネを装着してからスマホだけを持って部屋から出て行く。

 

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何とかギリギリ集合時間に間に合った俺は、特に叱られる事もなく……とはいかず、姫和ちゃんからたるんでいるぞとご褒……げふんげふん、お小言を言われて反省してから高級車に乗って船がある港まで移動した。車内では、朱音様の座る席は変わらず、朱音様の両隣に可奈美ちゃんと姫和ちゃんが座り、対面側には姫和ちゃんの前には俺、朱音様の前には真希、可奈美ちゃんの前には寿々花が座った。移動中は他愛ない話を俺が振って、それに朱音様と可奈美ちゃんが話し相手になってくれたりして穏やかな雰囲気のまま港まで移動……出来たら良かったなぁ。

 

「……あの〜、皆さんどうしてそんなに静かなんですかね?正直言って怖いんですけど……特に、姫和ちゃんが」

 

「はぁ!?何故私なんだ!」

 

「いやいやいや、さっきから殺気に満ちた顔をしてるぞ?……と言うギャグをここで一発言ってみたり……」

 

「……おい、全然面白くないぞ」

 

「あははは、零次さん。今のはちょっと……」

 

「神条さん、今のは私もどうかと……」

 

「……すまないが、今のキミのギャグは笑えない」

 

「私も真希さんと同感ですわ……」

 

あら不思議、先程までギスギスしていた空気は一変して今では俺のギャグに対する批判で皆が一致団結したではありませんか!……俺以外だけど……

 

「……すまん、今のは俺が悪い……と言うかあんた達実は仲良いだろ!皆で俺1人を批判して楽しいのか!」

 

「あぁ、楽しいぞ」

 

「まさかの姫和ちゃんのカミングアウトに俺の涙腺が崩壊寸前だ!!チクショーーーーー!!!!」

 

この殺伐とした空気を変えるために努力をしたのに、結果は俺1人が心に傷を負う事だけだった……俺は頭を抱えながら1人だけ嘆いていると、その姿がその場にいる全員にとって面白かったのか皆が一斉に笑い出した。

 

「ねぇ知ってる?それイジメって言うんだよ?」

 

「ははははは!ごめんごめん、零次さんが面白くてつい」

 

「俺としては割と本気で泣きそうだったんだが……というか、お二人はかなり笑いすぎじゃないか?」

 

「ははははは!す、すまない、でも、可笑しくて、ははははは!」

 

「ふふふ。ま、真希さん。あまり笑っていては失礼ですよ……ふふっ」

 

「いやあなたも人の事言えませんからね!?……もういいですけど……」

 

「はははは!……ふぅ、本当にすまない。悪気はないんだ」

 

「ふふっ、ええそうですわ。悪気があったわけではありませんのよ?」

 

「あーはいはい。そう言う事でいいですよー」

 

「あははは、これは困ったな。どうやら怒らせてしまったようだね。本当にすまない」

 

「……はぁ、別にいいですよ。気にしてませんからね」

 

「ありがとう、恩にきるよ……えっと、そういえばキミの名前を聞いてなかったね」

 

「今頃かよ!?……はぁ、俺は神条零次だ。今は……まぁ、真庭本部長の部下として色々とこき使われている一職員みたいなものだ」

 

「職員というと、本部で働いているのかい?」

 

「まぁ、いろいろ事情があってね。あまり深くは聞かないでくれると助かる」

 

「そ、そうか……次はこちらが名乗らせてもらうよ。ボクは獅堂真希……元、親衛隊だ」

 

「はいはい、知ってるからそんな暗い顔しなくていいよ……それよりお隣さんに自己紹介してもらいたいんだが?」

 

「案外キミは冷たいんだな……」

 

「そうか?別に冷たくしたわけじゃなくてそんな顔をして欲しくないだけなんだがな」

 

「……キミは変わってるな」

 

「はいはい、どうせ俺は変人ですよー」

 

「いや、そういうつもりで言ったわけではないんだけどね」

 

「分かってるって、今のは冗談だ……それよりもそろそろ笑うのはやめて自己紹介してくれないかな?というか笑いすぎだろ!」

 

「ふふふ、すみません……ふぅ、それでは改めて自己紹介させてもらいますわ。私は此花寿々花と申します。真希さんと同じで元、親衛隊ですわ」

 

「うん、だいたい分かってるというか、2人とも有名だから別に親衛隊の事は言わなくていいからね?名前だけ聞きたいだけだからね?」

 

「そうなんですの?」

 

「そうそう、だから無理に元親衛隊とか言って暗い顔しなくていいよ……ほら、俺ってシリアスが苦手じゃん?」

 

「いや、そんな事は初対面であるボク達は知らないんだけど……」

 

「……ふっ、これからよろしくな獅堂さん、此花さん」

 

「今絶対誤魔化しましたわね」

 

「ああ、絶対誤魔化したね」

 

「はいそこ!いちいち茶々を入れない!」

 

本気ではないが少し怒って2人に注意すると、何故か注意された2人は笑っていた……解せぬ……だが、先程までの暗い表情が消えていたので今は我慢してそれ以上は言わずに2人を見守るだけにした。

 

 

その後からは若干かもしれないが車内の空気も軽くなり、姫和ちゃんの表情も呆れ顔に変わって先程のような殺伐とした空気はいつの間にか消えていた……その代わり俺が笑われるという異様な状況に陥ったが、今はただ目を瞑って我慢する……ようやく俺を笑うものが居なくなった頃には港に到着し、車から降りて今度は船に乗ってもうしばしの間少し揺れる船に乗って移動する。

 

 

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本部を発ってからかなり時間が経っていたようで、外はすっかり薄暗くなっていた。船に乗ってからは各々が同じ場所に留まる事もなく、姫和ちゃんと可奈美ちゃんは甲板に出て行き、真希と寿々花……今は獅堂と此花と呼んんでいる2人は一室に2人仲良く昔話にでも花を咲かせているだろう。艦内を歩いている時に2人のいる部屋からは此花の少し大きな声が聞こえていたので、俺はその部屋に入ろうとしていたのをやめて素通りした……そして、朱音様もまた別の場所でゆっくりしているのか先程から姿を見ないが大丈夫だと信じて1人艦内を彷徨い続ける……酔い止めの薬を求めて……

 

「き、気持ち悪い……せ、せめてトイレだけでも見つけ出さなければ……うっ」

 

揺れはそこまで激しくないが運悪く気持ち悪くなった俺は、口元を手で抑えながら未だ見つける事の出来ない場所を探し続ける……船の揺れがより一層弱くなった頃になってようやく目的の場所を探し当てる事が出来た頃、俺は小さくガッツポーズを取ってから楽園への扉を開けようと取手に手を掛けた。

 

「ようやくだ……これで俺も楽になれる……俺、頑張ったよ結芽ちゃん……もう我慢しなくていいよね?」

 

今頃はもうベッドの上で寝ている頃だろう少女に懺悔の言葉を漏らしていると、少し奥の通路の曲がり角から見知った人が現れた。

 

「あ!零次さん、やっと見つけた」

 

「可奈美ちゃん?どうしてここに?」

 

「えーっと、目的の場所に到着したから全員集合するように少し前に連絡があったんだけど……零次さんが全然来ないから探していたんだ」

 

「え?」

 

可奈美ちゃんの言葉に耳を疑い、楽園の扉から手を離して急いでスマホを取り出して確認すると、非常時の為に連絡が取れるように登録していた朱音様からの着信履歴が数件ディスプレイに映し出されていた。

 

「本当だ……全然気がつかなかった」

 

「あははは……零次さんで最後だから早く行こう」

 

「お、おう……でもその前にちょっとだけ ……」

 

「駄目だよ零次さん、遅れると姫和ちゃんにまた何か言われるよ?」

 

「ふん、上等だ。むしろウェルカムだよ可奈美ちゃん……俺は逃げも隠れもしない!」

 

「えぇぇ……と、とりあえず早く行かないと!」

 

俺が動くそぶりを見せなかったのが悪かったのか、可奈美ちゃんは俺の手を取り皆の元まで引っ張りながら歩き出す。当然、手を掴まれている俺も同様に歩かなくてはならない……

 

「か、可奈美ちゃん。本当にちょっとだけでいいから……ね?」

 

「もう!駄目だよ零次さん。ほら、早く行こう!」

 

「あ、ちょ ……お、俺の楽園が離れていくーーーー!!!!」

 

先程よりも手を掴む力が増して逃げられなくなった俺は、そのまま楽園から遠ざかり可奈美ちゃんに強引に引かれるがままその場から去っていった……未だ酔いが治らないままの俺は、この時にはもう……全てを諦め後ろを振り向かずに前というより、吐かないように上だけを見て歩き続ける……

 

可奈美ちゃんのいった通り最後だったようで、他の面々は既に甲板で待機していた。そんな中俺は一線を越えてしまったのか麻痺してしまったのか、気持ち悪いという概念そのものを忘れてしまい、顔面蒼白のまま皆の前に悟った顔で登場した。しかし、外は暗くて顔色までは見えないのか、誰も俺の容態については一切触れずに船の隣から浮上している潜水艦へと移動を始めた。

 

 

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潜水艦へと移動してから中に入ると外とは違い、照明が点いており各々の姿がくっきり見えるようになる。そこでやっと俺の顔色の悪さに気がついてくれた。最初に気づいたのが今まで行動を共にしていなかった女性であり、その女性から一声かけてくれたおかげでようやく俺は朱音様達から許可を貰って女性の案内の元別室にある医療施設がある部屋へと赴いた。

 

「ちょっと待っててね……たしかこの辺に……あったあった。はいこれ、酔い止めの薬」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「ああ、ごめんごめん。水だよね」

 

「すみません……お願いします……」

 

「はいはーい」

 

俺の生意気な態度に何も言わずにその女性は近くにあったペットボトルの水を持ってきてくれた。

 

「はい、これでぐぐっと飲んじゃって」

 

「はい……」

 

ご丁寧にフタまで開けてくれたペットボトルを受け取り、既に取り出して手のひらに乗せていた酔い止めの薬を口に入れ水で流し込む。

 

「ゴクッゴクッゴクッ……プハー」

 

「おお、いい飲みっぷりだねー君」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「少しすれば薬も効いてくるから、それまではそこら辺に適当に座ってて」

 

女性に座るように促されたのはいいが、どこに座ればいいのかよく分からなかったので一番無難なベッドに腰かけた。

 

「……本当に何から何まですみません」

 

「いいのいいの、気にしないでー。あ、そう言えば自己紹介がまだだったね。私の名前は恩田累。気軽に累って呼んでね」

 

「は、はぁ……俺は神条零次です。俺も気軽に零次って呼んでください累さん」

 

「りょうかーい。零次君だね……それにしても船酔いするなんて災難だったねー。零次君ってもしかして船に乗るといつもそうなるの?」

 

「あはは、どうなんでしょうね?船にはそんなに乗る機会がないのでよくわかりません」

 

「それもそっか。まあ、この潜水艦は船よりは揺れも少ないと思うから安心してね」

 

「へぇ、そうなんですか」

 

そうそう、長い時間乗っている私が言うから間違いない!……ところで、零次君はどうしてここに?」

 

「えーっと、実は今回ここに来たのは朱音様の護衛として同伴してきたんですよ」

 

「そうなの?零次君ってエージェントか何かなの?」

 

「いえいえ、そんな大層な者ではありませんよ……ちょっと上司が理不尽な人で、いつの間にかこうなったんです……」

 

「そ、そうなんだ……えっと、生きていればいいことあるよ少年!」

 

「ははっ、そうだといいですね……そうだ、累さん。皆の所に戻らなくていいんですか?」

 

「そうは言ってもねー、零次君を残して戻るのは流石に悪い気がするからねー」

 

「累さん……それじゃあ俺も戻りますよ」

 

「え、いいの?体の調子は大丈夫?」

 

「バッチリとは言えませんが、さっきよりは大分楽になったので問題ありません」

 

「薬が効いてきたみたいね」

 

「ええ、なので大丈夫ですから戻りましょう」

 

「うーん……よしっ!分かったわ。その代わり、気分が悪くなったらすぐに言ってちょーだい」

 

「分かりました。それでは行きましょう累さん」

 

「オッケー。それじゃあ着いてきて」

 

顔色もさっきよりかなり良くなった俺は、累さんを先導に皆の元へ向かった。

 

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皆の元に戻ってくると、既に朱音様が席に座っていてその対面には5ヶ月ぶりに姿を拝見する紫様の姿があった。その他はそれぞれ座らずに座っている人物のどちらかの後ろで直立していた。まだ何も話が始まっていなかったのか、朱音様が俺の身を案じてくれたがあまり心配はさせたくないのでもう完治したと言う。累さんが何か言いたそうにしていたが、目配せして黙っていてもらうように人差し指を口元で立てて伝えると、やれやれといった感じに首を振るだけに留まってくれた。そして、たぶん全員が集合したようで、朱音様達の雰囲気が変わり話し合いが始まろうとしていた……が、最初に口を開いたのは座っている2人ではなく朱音様の近くで直立していた俺の隣にいる少女、姫和ちゃんだった。

 

「病院で療養中の筈の局長が、武装した潜水艦の中とは……」

 

怖っ!凄い威圧を放ってるんですけど!?何か因縁があるのか事情は知らないけどもう少し穏便にしようよ……少しちびりそうになっちまった……

 

「医療施設を完備してますから、嘘というわけでも無いんですよ」

 

ナイスフォロー朱音様!俺はあんたを尊敬するよ!これぞまさしく出来る女!!自分、一生ついていきます!!

 

「紫様はもう、荒魂じゃないんですよね?」

 

うぉい!可奈美ちゃん!?せっかくの朱音様のフォローが台無しになったじゃないか!?もしかして君も姫和ちゃん同様エアーブレイカーの称号を持っているの?……いや、本当勘弁してくださいお二人さん……せっかく気持ち悪いのが治ったのに今度は胃が痛くなってきたじゃんか……

 

「衛藤さん!?」

 

「お前!?」

 

ほら見てみなさい可奈美ちゃん、獅堂さんも此花さんも俺と同じ反応してるじゃないか!それにそんな直球に聞いたって紫様が答えるはずがないよ?

 

「ああ」

 

……答えちゃったよ。これはもしかして俺が非常識なのか?……それならば大人しくしていよう。

 

「何度も検査しましたが、局長の体からは荒魂は検知されませんでした。肉体年齢は17歳で止まったままですが」

 

「獅堂さんや此花さんからは、未だ荒魂を除去できていないのに……ごめんなさい」

 

「……いいえ」

 

敢えて一言だけ言わせていただきたい……此花さんの表情はとても母性溢れていてふつくしい……そうか、女神様だったんだな……思わず変な声を上げてしまうほどだ。

 

「おうふ……」

 

「零次君?どうしたの?」

 

「はっ!?いやっ、何でもないです。気にしないで下さい。いつもの事なので」

 

「えっ、いつもの事?……まあ、深くは聞かないで置くわ」

 

そう言って俺から顔を逸らした累さんは俺と顔を合わせない為か、紫様をじっと見つめたままこちらを向かなくなった。どのような理由でそういった行動を取っているのかは大方分かってはいるが、今では俺もこの扱いに慣れてきたのでそっとして置く……目から海水が流れそうだぜ!

 

「どうやって克服を?」

 

「克服したのではない。捨てられたのだ、荒魂に」

 

「捨てられた?」

 

「こほん。タギツヒメが自らの意思で局長を排斥したのではないのかと」

 

「あの夜、ですか?」

 

「タギツヒメとの間に何が起こった?」

 

「十条!言葉を……」

 

獅堂さんが姫和ちゃんの言葉遣いに異を唱えようとするが、紫様がそれを片手を上げて静止する。獅堂さんは納得出来てはいない表情のままそれ以上言わずに黙った……今の紫様の姿を見て、俺もあんな風に出来たらと想像してみたが、俺の場合はただ単にM店の教祖様の真似事にしか見えないと思い断念する……どうせ俺には出来ないのは分かっていたが、せめて想像の中だけでもカッコ良いイメージが思い浮かんで欲しかった……

 

「あの夜、タギツヒメと同化していた私はお前達に討たれた。諸共滅びる寸前だったが、奴はこの肉体を捨て隠世へと逃れた。荒魂を撒き散らしたのはその後の追跡を撹乱する為だ」

 

「トカゲの尻尾切りですね」

 

「「あ……」」

 

「可奈美ちゃん、もうちょっと言葉を……ね?」

 

「そうだよ可奈美ちゃん、タギツヒメはトカゲじゃなくて荒魂だよ?」

 

「いや零次君、重要なのはそこじゃないからね?」

 

「ふふっ、そうだな。私は切り捨てられた尻尾だ。だが、そうも言ってられない事態となった」

 

「三女神でしょうか?」

 

「かつてタギツヒメだったものが3つに分裂した」

 

「各地でノロを奪取していたタギツヒメ、防衛省の手にあるタキリヒメ。残りのもう一体は……」

 

「イチキシマヒメ。宗像三女神ですわね……荒魂が神を名乗るだなんて」

 

「タギツヒメはタキリヒメを狙っていました。何故同じ1つだった者同士が争いあっているのですか?」

 

「それを説明する為にお前達をここに呼んだのだ」

 

「そして、あなた達に会わせたい者が」

 

「あっ!残りの3体目、イチキシマヒメがここに居るのですね」

 

姫和ちゃんの言った事が本当であるみたいで、朱音様は首を縦に振って肯定した。その瞬間、俺はとてつもない程に鼓動が早くなっていく。

 

「左様ですか……累さん累さん、俺、ここから無事に生き延びる事が出来たら怠惰に過ごすんだ……」

 

「どうしたの零次君?」

 

「どうしたのじゃありませんよ?命の危機なんですよ?どうして累さんはそんなに冷静なんですか?ただの荒魂ならまだ分かりますが、相手は元とは言え紫様と同化していた荒魂何ですよね?」

 

「ええ、そうね」

 

「……累さんって実はかなり凄く強い刀使か何か何ですか?」

 

「私?私はただの社会人よ。御刀も返納したからね」

 

「なら何でそんなに余裕何ですか!?もしかして思考回路が麻痺してるんですか?」

 

「ちょっと落ち着いて零次君、大丈夫だから……ね?」

 

「いやいやどこにも大丈夫な要素がないんですけど!?」

 

「あー。百聞は一見にしかずって言うし、見てもらった方が早いかも」

 

「累さん?それフラグですよね?出会って数秒後にこの世からおさらばするとか笑えませんからね?」

 

「大丈夫大丈夫。彼女はそんなに危険じゃないから」

 

「全然信用できねー……本当に大丈夫なんですね?」

 

「もちろん!私を信じてちょーだい」

 

「……分かりました。会って間もないですが、累さんが悪い人ではない事ぐらい理解していますからね……その代わり、先ずは累さんから姿を晒して下さいね?」

 

「零次君……それ信用してないよね?」

 

「はっはっは。そんな事ないですよー。これはその……保険です!」

 

「あはははは、零次君って意外と非人道的な側面もあるのね……分かったわ、それで零次君の気がすむならやってやろうじゃないの」

 

「おお〜、流石累さん。社会人をやってるだけの事はありますね〜」

 

「うん。それ社会人関係ないよね?」

 

まだ死にたくない俺は必死に累さんに訴えかけて、ようやく少しばかりの安全を保障してもらえるようになった。別にタギツヒメがかなり好戦的だった光景がフラッシュバックしてビビった訳ではない……筈だ。その時の俺はとにかく必死だったので、周りの目も気にせずに累さんと喋っていたので気がつかなかったが、どうやら周囲から注目を集めていたらしい。そのせいで、特段関わりのない筈の紫様が俺について朱音様に問いかけていた。

 

「朱音、先程から気になっていたのだがその者は一体誰だ?」

 

「そういえば紹介がまだでしたね。姉様、こちらは今回私の護衛をして下さっている神条零次さんです。神条さん、こちらはご存知かもしれませんが私の姉の折神紫です」

 

「あっ、はい。どうもです……」

 

紫様の事なら以前から知っていたので挨拶が適当になってしまい、より一層周囲からの視線が集まって少しだけ縮こま……る事などなく軽く会釈した後、沈黙した。

 

「ほう、私に対して物怖じしないとは……ふふっ、面白い奴だ」

 

「おい、神条。紫様に対してその態度は無礼だぞ」

 

「ええ、全くですわ」

 

「そう言われても、人の事を笑っていた人達にとやかく言われる筋合いはない!」

 

「「なっ!?」」

 

「おやおや?どうしたんですか獅堂さんと此花さんは?もしかして心当たりがあったんですかね?ん?ほらほらお嬢さん達、さっさと白状しちゃいなYOー!」

 

「貴様ぁ……」

 

「うざいですわ、とてつもなくうざいですわ」

 

少々どころではなく、ここに来るまでに辿った道のりで様々な要因が重なった俺は理性が少しだけ崩壊して、普段とは違った態度を取ってしまった。だが、睡眠時間も3時間以内しか取っておらず、船で気持ち悪くなったのを薬を飲んで無理矢理治し、挙げ句の果てには危険な者とこれから会わなくてはならないという事が重なれば誰だって理性が崩壊する。そのせいで、今こうして獅堂さんと此花さんからは物凄く睨まれているという状況に陥っているが、俺はそれすら気にしていない。むしろ喜怒哀楽の表情が豊かな2人の姿が見れて余は満足じゃ!

 

俺と俺を睨んでいる獅堂さんと此花さんの間には沈黙が流れ、一触即発の一歩手前の状態になってから程なくして均衡はある人物によって崩された。

 

「ふふっ、やはり面白い……少しだけ奴に似ているな」

 

「紫様?」

 

「いや、何でもない。真希、寿々花。私は構わないから彼を許してやってくれ」

 

「ですが!?」

 

「いいと言っている」

 

「……分かりました」

 

「すまなかったな神条」

 

「……いえ、謝るのはこちらの方です。自分も悪ふざけが過ぎました……獅堂さん、此花さん。先程は失礼いたしました」

 

「「え?」」

 

「その、お恥ずかしながら、先程の自分は少し気が動転していたみたいです。本当に申し訳ございませんでした」

 

「あ、あぁ……ボクもさっきは少しキツく当たりすぎた。すまなかった」

 

「……私も少々言い過ぎましたわ。すみません」

 

「いえいえ、自分に非があるのですからお気になさらず……それにしても、お二人がこれ程感情を表に出して怒るとは、紫様は大変素晴らしいお方なんですね」

 

「ふん、そんな事はない」

 

「ご謙遜を。こうして今でもお二人から慕われているのですからやはり素晴らしい御方ですよ、紫様は。それに、朱音様の姉なのですから」

 

「何故朱音が関係あるのだ?」

 

「それはですね、自分の様な者にまでご配慮してくださる素敵なお人だからですよ。もしも朱音様が居なければ……真庭本部長と直接対決していましたよ」

 

「神条さん!?駄目ですよそんな事は!?」

 

「ははっ、冗談ですよ朱音様」

 

「そ、そうですか……それならば良いのですが」

 

「ふふふ、朱音は良い人材を見つけたな」

 

「姉様……はい、とても愉快な方が来てくださって私としても嬉しいです」

 

「恐悦至極にございます朱音様」

 

「……少し話しすぎたな。神条、これからよろしく頼むぞ」

 

「俺に出来る限りの事であれば」

 

「それでいい。さて、そろそろ移動するか」

 

ひと通り会話を交えて満足したのか、紫様は席を立つ。それに連れ朱音様も席を立つと、隣にいた累さんが先導して歩き始めた。

 

「それでは私が案内しますので、皆さんついて来てください」

 

 

________________________________________________________

 

累さんの案内の元、潜水艦内の厳重に管理されている部屋の前まで来た。一番後ろに着いて歩いていた俺は、先頭にいる累さん達の会話には参加せずに辺りを見回していた。

 

「最後尾なら安全だよな?……それにしても、赤い照明とか不気味だな。全員の姿も赤くなるから怖いんだけど……B級ホラーのワンシーンを思い出す」

 

数年前に見た映画を思い出し、あの頃は平穏な日々を過ごしていた事を懐かしく感じていたら、突然ドアが開いた。少し身構えてしまったが、どうやら累さんが開けたみたいで俺は安堵して構えを解く。

 

「誰も見てないよな?もしも見られていたら……慰めてもらおう、結芽ちゃんに……なんてな。そんな姿を結芽ちゃんに見せられる訳ないか……」

 

見てはいないとは思うが、最悪な結末を想定してどう対応するか1人悩んでいると前方から聞きなれない声が聞こえてきた。一体誰の声なのか分からず少し考えていると、皆が既に部屋の中に入っていて誰の姿もないことにようやく気づき、慌てて俺も部屋の中に入室した。

 

「あっ、零次君。やっと来た」

 

「累さんすみません。ちょっと考え事をしてたらつい……それよりも、あそこにいるのは誰ですか?」

 

「あそこに居るのはイチキシマヒメよ」

 

「……全然危険人物には見えませんね」

 

「だから言ったでしょ。大丈夫だって」

 

「うっ……すみません累さん」

 

「分かればよろしい」

 

累さんのサッパリとした性格に苦笑いしていると、イチキシマヒメ達と話をしていた朱音様が累さんに説明を求め、累さんがイチキシマヒメの近くへ移動する。

 

「……途中から入室したからなのか話がよく分からない」

 

皆が真剣に話をしている中、俺だけは事情などが分からず会話に混じる事が出来ないでいた。手持ち無沙汰になった俺は、話を聞かずに1人だけイチキシマヒメを観察していた。

 

「ふむ、タキリヒメ以外はこうして目にする事が出来たが……タギツヒメの性格はともかく容姿は美しかったな。そして、ここにいるイチキシマヒメも発言に難があるがタギツヒメ同様美しいな。そうなると、タキリヒメも美しいのか?……この目で確かめなくてはいけないな」

 

べ、別に興味なんてない……訳がない!流石は三女神の名を名乗るだけの容姿をしているので、少なからず俺の好奇心に火がついた。丁度来週テストの為休暇をもらっているので 、その間にこっそり市ヶ谷へ行って覗きをすることをここに誓いを立てる。

 

「なあ紫。1つ質問があるのだが」

 

「どうした?」

 

「あそこにいる男は誰だ?」

 

「あぁ、お前は知らないのだったな。彼は朱音の護衛をしている神条だ」

 

「……神条か。」

 

「彼がどうしたのだ?」

 

「……少しゼロに似ていると思ってな」

 

「ゼロだと?」

 

「ああ、だが私の勘違いだろう……」

 

「そうか……まあ確かに似ている所はあるかもしれないな」

 

「紫もそう思うのか?」

 

「ああ、初対面の私に物怖じしない奴などほとんどいないからな……だが、性格はゼロと大違いだから別人だと思う」

 

「紫がそう言うならそうなのだろう……紫、少し彼と話がしたいのだがいいか?」

 

「悪いが私の判断だけでは何とも言えない……朱音、少しだけ神条を借りていいか?」

 

「え?神条さんですか?」

 

「ああ、イチキシマヒメが少し話をしたいらしい」

 

「イチキシマヒメが……分かりました」

 

今何やら俺の知らない間に不穏な会話が聞こえてきた気がしたが、タキリヒメの姿を一目見る為の計画を練ることで忙しい俺は気にしない事にした。

 

「イチキシマヒメ、悪いが私達は戻らせてもらう」

 

「ああ、別に構わない」

 

「それでは全員部屋から退出してくれ。それと、神条はもうしばらくここに居てくれ」

 

「ん?……おかしいな、紫様は冗談を言うような人には見えなかったんだが」

 

「神条、今のは冗談ではない。言っておくが、朱音から許可は貰っている」

 

「え!?」

 

「すみません神条さん」

 

「な、なん……だと……!?」

 

「悪いな神条。イチキシマヒメがお前と話をしてみたいようなんだ」

 

俺は断然話したいとは……いや待てよ?タキリヒメの容姿についてイチキシマヒメは知っているんじゃないか?

 

「……はぁ、まあいいですよ。俺としても話をしたいとは……少しだけ思っていたので」

 

「そうなんですか?」

 

「ええ、さっきから1人だけ蚊帳の外でしたから。色々聞きそびれた事を教えて貰ういい機会なので俺は構いませんよ」

 

「そうか、それなら問題ないな。それでは神条以外は退出するぞ」

 

可奈美ちゃん達4人は驚愕の顔になるも、累さんがそれを窘めて渋々部屋から出て行く。朱音様はドアの前で一度立ち止まりこちらを見て軽く一礼してから出て行き、紫様は部屋から出る直前に不敵に笑ってから出て行く。去り際に後で累さんが迎えに来ると紫様から言われた俺は、強制的にそれまでここで待つしかないという事に気づくが時既に遅し。扉は閉められ、外側からロックを掛けられてしまい、腹を括るしかなくなった……累さん、お願いだから早く来て下さい!

 

「おい、どうかしたのか?」

 

「……いえ、何でもありません。イチキシマヒメさんに聞きたい事があるのですが、その前に自己紹介しておきますね。俺は神条零次、現在は訳あって刀剣類管理局の真庭本部長の部下をやっています。今回は朱音様の護衛でここに来ました」

 

「そうか。私は……名乗らなくてもいいか」

 

「そうですね……それで、話がしたいという事でしたが何か聞きたいことでもありましたか?」

 

「ああ。神条は以前ゼロと名乗っている人物と会ったことはあるか?」

 

「……どうしてそのような事を?」

 

「単に興味本位だ」

 

「そうですか……残念ですがお会いした事はありませんね」

 

「……」

 

「あの、どうしてそんなに俺を凝視してるんですか?」

 

「……お前がゼロなのではないか?」

 

「俺が?まさか、そんな訳ないじゃないですか。俺はただの一般人ですよ」

 

「その一般人がここにいるのはおかしいと思うが?」

 

「……それは累さんだって同じじゃないですか」

 

「ふむ、それもそうだな。やはりわたしの勘違いか」

 

「何を勘違いしたのか分かりませんが人違いですよ……俺も1つ聞きたい事があるのですがよろしいでしょうか?」

 

「ああ、別に構わないぞ」

 

「ありがとうございます。イチキシマヒメさんは他の2人のことをよくご存知のようですが、お会いした事があるのですよね?」

 

「会ったというより元々同じ存在だっただけだがな。それがどうした?」

 

「えーっとですね?その……タギツヒメの姿は見た事あるのですがタキリヒメの姿は見た事がないので教えて頂こうかと……決して変な意味ではなくてどのような姿か知っておかなければ危ないといいますか……ね?」

 

「確かに他の奴らは私よりは危険な存在だな。だが、姿などに意味はないと思うが?」

 

「で、ですよねー。あはははは……はぁ、自分の目で確かめる事にします」

 

「あ、ああ……そういえば先程からお前は顔色1つ変えていなかったが、お前は十条姫和や獅堂真希のように何か思う事は無かったのか?」

 

「え?……あ、ああ!さっきの話ですか……そう言われても興味ありませんでしたからね」

 

「興味がない?」

 

「だってそうじゃないですか。色々言ったりしたところでそれをどう捉えるかはその人次第ですからね。価値観なんて人それぞれですよ」

 

単に話を理解できなかっただけだが……それは言わなくてもいいだろう。

 

「……そうか」

 

「はい。それに人間誰しも己の信念を貫いて生きてる者がほとんどですからね。イチキシマヒメさんが何をしようと否定するつもりはありませんよ……俺に関わる事であれば話は別ですけど」

 

「神条……お前は他の者とは変わっているな」

 

「あははは、よく言われます。まあ、大事なのは本人の意志ですからね。同意の上であればいいんじゃないですか?」

 

「はははは!そうかもしれないな。それでは神条、私側につく気はないか?」

 

「あー。すみませんが遠慮しておきます。今いる所で精一杯なので」

 

「そうか、それは残念だ。もしも気が変わったらいつでも歓迎しているぞ」

 

「あはは、無いとは思いますけどね……」

 

タキリヒメの容姿について情報を得られなかったが、イチキシマヒメが感情豊かな事が分かったので少しだけ得をした気分だ。もしかしたらタキリヒメもイチキシマヒメの様に感情豊かなのかもしれないと思い、より一層タキリヒメの元へ行く決心が強くなる。

 

その後、イチキシマヒメから少しでも情報を得ようと画策していると迎えが来た。累さんがドアを開けて俺の迎えに来たと言われたので、惜しみながらもイチキシマヒメにお礼を言った後に部屋を退出する。部屋を出てから累さんと共に皆の所へ行くと、当初の目的を終えていたようで紫様と累さんを潜水艦に残し、船と車を乗り継ぎ本部へと帰還した。もちろん、俺はすぐに部屋へ戻って寝床につく。明日は久しぶりに家に戻るので朝早くから帰ろうと思っていたから早く寝たが、誰も俺を責めるものはいないはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

NEXT……

 

 

 




よっしゃーーーーー!!!!!!これでノルマ達成だ!!


長かったです……いや、ほんとマジで……


これで連休はゲーム三昧だ!!それじゃ!ちょっとハゲ頭で暗殺してくる!!!



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