Fate/Gray Sheep (雑種犬)
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turn 1

それはある日の夜、旅先の宿泊施設の一室で眠ろうとしていた時の事だ。

余人の居らぬ部屋の中、戸締りを済ませて布団に入って少し経った頃。

 

心地良い微睡を引き裂くように、突如手の甲に痛みが走った。

はうっ、と悲鳴をあげながら飛び起きる。

 

寝ぼけて何かに手をぶつけたのか、それとも何かに手を噛まれでもしたのか。

混乱した頭で推測してみるが、その感触はどちらとも違うように思えた。

数瞬もすれば痛みは収まったが、明らかに只事ではない感触だった。

 

  なんじゃこりゃ?

 

恐る恐る見れば、痛みの発生源である手の甲には刺青のような赤い紋様が描かれていた。

その紋様は先程までは無かったはずのものだ。

突然そんなものが現れたのだから、どうにも気味が悪い。

 

部屋の照明は寝るときに消したままだが、闇の種族たる自身にとって暗視などは朝飯前。

夜闇の中でも、目の前にある自分の手などはっきり見える。

見間違うなどということはありえず、その紋様は確かに存在している。

加えて言えば第六感、五感のどれとも違う魔術的な感覚によってさえ手の甲に違和を感じるのだから、紋様の存在は重ねて肯定された。

 

  体に呪紋ね……。

  偶に聞く話ではあるけど。

 

その紋様には小さからぬ魔力が内包されているのだが、かと言って即座に生命を脅かすような危険な術式の気配も無い。

いくつか重なっている術式の中には洗脳かそれに近い効果を及ぼすものもがあるようだが、読み間違いでなければ、その被害を受けるのは自身ではなく他者だ。

むしろその術式は、自身が任意の方向性で発動できるようになっているのだから、それによって自分に被害が及ぶことはありえないと思える。

 

先に術式がいくつか重なっていると言ったが、洗脳以外には3つの術式が見受けられる。

1つは魔力の蓄積。

これは電池のようなもので、エネルギー源として使える。

危険性が全く無いどころか、明らかに自身の利となるものだ。

1つは霊脈経由でどこかに繋がる魔力経路。

この経路は監視手段としても使えるが、ただし霊脈など経由すれば情報が大雑把になりすぎて用を成さなくなるケースが多い。

恐らく監視目的での施術ではないだろう。

最後の1つは召喚術に似た術式。

詳しく見てみれば、まさしく召喚術式の断片であるらしい。

 

害する目的でもなく、このようなものを施術される。

それだけを考えれば、術者の目的に検討がつかない。

 

  ハフスか、教会か……?

 

自身を狙うのであればそういった組織の刺客かとも思うが、すぐにそれを否定する。

ハフスの流れを汲む魔術結社は害意も無いのに無駄に不意打ちなどしないであろうし、聖堂教会であれば害意が無いこと自体がありえない。

何より周囲に人の気配を感じられない。

仮に刺客の類だったとしても、害意が無い上に完全に気配を消すような相手に対処を試みるのは無駄にして無理というものだ。

となれば刺客への警戒はやめて、術式を詳しく調べ魔術的な方向から考察すべきかと考える。

 

まずは重なりあう個々の機能の繋がりを考えてみる。

洗脳、蓄積、経路、召喚。

短時間で大雑把に確認したところ、それら4つの機能が見て取れた。

 

このうち洗脳と召喚の繋がりは想像しやすい。

有名所で言えば西方式召喚術の護法円がそうであるように、召喚術式に召喚体を束縛する術式が付随することはよくある。

術式の繋がりを確認してみれば確かにその通り、召喚と同時に洗脳術式のターゲットが召喚体に設定される構造になっていた。

 

次いで理解しやすいのは洗脳と蓄積の関係だだ。

これは用途を想像しやすいというのではなく、術式の接続構造が単純であるためのわかりやすさだ。

蓄積された魔力を洗脳術式の動力として用いるというシンプルな繋がりになっている。

 

ここまでで3つの術式を消化した。

残るは魔力経路かと考えた所で、ふと唐突に確信に近い推測へと思い至った。

あっ、と声が漏れる。

 

霊脈とは土地に宿るものだ。

そしてこの土地には力強い霊脈が走っている。

有力な霊脈には大抵それを独占的に管理する魔術師が居り、霊脈経由の魔力経路を扱う者は十中八九そういった者だ。

自分は霊地に関する知識は少なからず持っている。

最近発見されたものでもない限り、有力な霊地の地名や位置は知り尽くしていると言ってもいい。

その知識の中に、この土地に関するものもあったのだ。

 

聖杯戦争。

そう呼ばれる祭りがこの冬木市にはある。

祭りらしい祭りではなかったようにも記憶しているが、詳細は定かではない。

何しろその資料を読んだ時期はたかだか数年前などということは無く、少なくとも十年か二十年くらいは経っているだろう。

細部は忘れてしまっても仕方無いように思える。

ただ、そう、それが召喚術を伴う祭りであったことは憶えていた。

聖杯戦争という言葉から想像すれば、聖杯とやらを巡って召喚体を戦わせる争奪戦のようなものだろうかと思う。

ほとんど擦り切れたような記憶ではあるが、記憶はその予想を否定していない。

大筋では正しいような気がする。

だとすればこれは参加者証のようなものか、と手の甲を見る。

何故自分なのかはわからないが、恐らく付近にいる魔術師から無作為に参加者を選んだというところだろう。

 

 

正否は断定できないものの、一応見当はついたので今日のところは考えを切り上げることにした。

先程から瞼が重いのだ。

明日は、聖杯戦争について調べよう。

そしてこれが聖杯戦争の参加者証なのであれば、せっかくだから参加していこうかと思う。

もとより目的も無い気ままな一人旅だ。

寄り道していくのも悪くは無い。

祭りとくればベビーカステラの屋台でも出るだろうかと期待しながら、私は再び眠りについた。

 

 

 

 

 

呪紋が現れた夜から一夜明け、私は散歩がてらに霊脈を辿っていた。

歩き始めて半時間ほど経った頃に、とある霊地に辿り着く。

冬木の霊脈を大雑把に走査したところ、付近には有力な霊地がいくつか見つかった。

その一つが今来ているこの場所、冬木教会だ。

 

霊脈を管理する魔術師は大概霊地に居を構えるものであり、霊地を巡っていればそのうち魔術師に当たるだろうと考えてここに来た。

いくつかある霊地の中でも最初に冬木教会を選んだのはただ近かったというだけの理由であり、ここがそうなのだと確信を持っていたわけではない。

ここに教会があることすら知らず、ただ魔力の流れを辿って来ただけだ。

だが、どうやら最初から有力な手掛かりに辿りつけたらしい。

 

脳裏に浮かぶのは聖堂教会という言葉。

わざわざ霊地を選んで建てられた教会の存在意義がただの宣教などということは考えにくい。

ここは恐らく聖堂教会の拠点だろう。

聖堂教会とは、キリスト教カトリック教会の下部にあり異端への対処を担っている組織だ。

聖堂教会は魔術を異端として排斥しており、ましてや聖杯と名のつく魔術儀式が目の前で行われているならば関わっていないわけが無い。

とはいえ魔術よりも他の異端を重視していることもあり、恐らく聖杯戦争については調査した上で黙認しているか、開催者側に回っている可能性もある。

積極的に排除しようとしていないからこそ、聖杯戦争が数十年以上も続いているのだろう。

 

そんなことを考えながら石畳の道を歩き、ついに教会の扉の前まで辿り着く。

教会の敷地はそれなりの広さがあり、辿り着くまでにいくらか距離があった。

ある程度近づいた時点で、聖堂教会の拠点であることは確信に変わっていた。

というのも、聖堂教会が扱う洗礼詠唱の効力を感じたためだ。

魔術の類と見ればその殆どを異端と見做す聖堂教会だが、一つだけ彼らが使う奇跡があり、それが洗礼詠唱と呼ばれている。

洗礼詠唱とは即ち魔族の天敵たる神聖魔術。その気配を自分が間違えるはずが無いのだ。

 

扉を開ければそこは静かな礼拝堂だ。

特に誰が居るというわけでもない。

数歩踏み入れる。

 

  ごめんくださーい。

 

声をかけてしばらく経つと、礼拝堂の奥の扉から神父が出てきた。

この国の民族にしては大柄な体格、白髪壮年の男性だ。

 

  おや、おはようお嬢さん。

  平日のこんな時間に人がいらっしゃるとは珍しい。

  今日は礼拝に?

 

無論、ここに来た目的は礼拝などではない。

そもそも自分はクリスティアンではない。

アーリヤの裔にしてマズダを奉る者だ。

オリエントでは邪神(デーヴァ)、ヨーロッパでは悪魔(デビル)とさえ呼ばれる身である。

しかし、本質的な信仰対象に関してはキリスト教やイスラム教と大差は無い。

即ちそれは、約束された勝利の下に善悪の法を定めし支配者、全知にして無謬たる絶対正義の神。

違うのは信仰の手段であり、信仰の対象ではない。

なれば稀には異教の手段を以て祈るのも悪くはないと思えた。

 

  そうですね、せっかくですから後で祈らせて下さい。

  ですがここに来たのは別の目的があってのことです。

  神父様に相談したいことがありまして。

 

  というと、告解ですかな?

 

奥へどうぞと言う彼を遮り、長袖で隠れていた手の甲を見せる。

 

  ああ、いや、懺悔とかじゃないです。

  なんか突然こんなものが手に現れたんですよ。

 

そこにある呪紋を見た彼は明らかに表情を固くした。

だが明確に敵対する態度をとったわけでも無いので、そのまま話し続ける。

 

事情の説明には5分ほどかかっただろうか。

昨夜の出来事とここに来た目的を一通り言い終えるまで、彼は静かに聞いていた。

 

  貴方は魔術師でしたか。

  ですがその口振りでは、聖杯戦争のために冬木に来たわけではないと。

  ふむ。これはまた困ったことに。

 

  一応聖杯戦争については何かで読んだことがあります。うろ覚えですけど。

  確か召喚獣を戦わせる祭りでしたよね。カブトムシ相撲の大会みたいな。

 

固くて大きくて黒光りする力強いアレを戦わせる見世物を思い浮かべながら言う。

聖杯戦争に関わる魔術師達の中には、蟲使いも含まれてた気がする。

でかいオオクワガタとか持っていったら、蟲使いが買い取ってくれるんだろうか。

いや逆に、蟲使いは蟲を売る側なのかもしれない。

 

  ……ええ、ええ。

  適切な比喩とは言い難いですが、大体のところは合っています。

 

んん!?と呻いて眉根を寄せ、数秒の後にそう言った神父。

なにやら凄絶な雰囲気が感じられたので、何か間違っているのかとは訊けなかった。

人型の召喚獣を用いる以上はカブトムシ相撲よりも大規模になるだろうし、そのあたりのニュアンスの違いのせいだろうか。

……ん?あれ?人型だっけ?蟲使いが居るということはやっぱりカブトムシ相撲なのでは?

よく見れば笑いを堪えているようにも見える気がするが、笑うような話ではないはずだ。

他人と話していると、何度か同じような反応をされたことがある。一体何だというのか。

 

その反応に関して色々と聞きたいことはあったが、飲み込んだ言葉の代わりに、この呪紋を持っているのが自分であればまずいのかとだけ問う。

一拍置いて咳払いしてから答えが返ってきた。

 

  こちらとしては、聖杯戦争の参加者が誰であろうと構いません。

  参加しないつもりであれば令呪を放棄していただき、

  その後は聖杯戦争が終わるまで教会が貴方を保護することになります。

  どちらにしても暫くはこの地に留まることになるでしょうな。

  それを受け入れるならば、特に問題は無いでしょう。

 

  つまり、参加は可能ということですね?

 

彼はそれを肯定しながらも「ただし」と続ける。

 

  私個人としての意見を言わせてもらうならば棄権を勧めますが。

  主立って戦うのはサーヴァント、つまり貴方が言うところの召喚獣ですが、

  そのマスターにまで危険が及ぶ可能性は十分にあります。

  むしろ、質の悪い者であれば積極的にマスターを狙うでしょうな。

  聖杯の名こそ冠しているものの、

  これは神が与え給うた試練などではないただの殺し合いです。

  この魔術儀式は過去に何度も行なっていますが、

  儀式が完遂されたことはなく、ただ殺し合いが行われたという結果だけが残っています。

  改めて言いますが、私は棄権を勧めます。

  同じ信仰に生きる隣人に、無闇に危険を冒して欲しくはありません。

 

棄権を望むという点に関しては本心だろう。嘘をつくことに利点は無いように思える。

しかし危険だからという理由に関しては別だ。全くの嘘ということは無いだろうが、かといって他に理由が無いとは限らない。

西方文化の影響を強く受けていそうなキリスト教神父なのだから、魔術に対してなら隠し事の一つや二つは厭うまい。

どちらにしても、今持っている情報から言えばそれ以上の推測はできそうにないが。

 

……いやまぁ、さっきの妙な態度といい、そういう可能性もあるけれど。

多分無いと思うけど、無いと信じたいけど。

つまり、その、棄権(キケン)危険(キケン)をかけたジョークを言いたかっただけという可能性が。

 

ともかく、彼は棄権を望んでいることを表明した。

それを踏まえた上で、どうするのかと彼は問うた。

正直に言えば、近代国家に於いて命懸けの祭りが現存していることには少々驚きはした。

しかしその程度で私の意思は揺るがない。

私の答えは既に決まっているのだ。

踊る阿呆に見る阿呆、というのは別の祭りの文句だったと思うが、何にしても日本の祭りには違いない。

この国の流儀では、祭りに臨めば参加こそ如かるべしという。

ローマではローマ人の如く振る舞うべし、と。

おフランスではサレンダーモンキーの如く、インペリアルジャパンではネヴァーサレンダーモンキーの如く。

 

  お心遣いには感謝します。

  でもせっかくですから参加しますよ。

  見る阿呆より踊る阿呆の方が三文の徳らしいですし。

  阿呆が確定してるのは一言物申したいところですけど、

  損得はともかく踊る方が楽しそうですよね。

  それに、戦を前にして逃げたら士道不覚悟とかいう罪状で

  ハリセンボン丸呑みしながらセップクとかいうえげつない刑事罰

  ……というか拷問?を受けることになるそうですし。

  正直日本怖いです。

 

神父は吹き出した。




・令呪とか召喚とか
詳細不明なので適当に捏造していきます。

・魔術の秘匿
数百年前、リアムスさんは魔銃部隊(トフェングチ)魔砲部隊(トプチ)を有する諸部族連合軍の盟主だったんですよ。
魔術も近代兵器も使い放題ですね。これはひどい。
神秘の秘匿に煩い西方の魔術結社に対しては、魔領が緩衝地帯になってたのであんまり問題無し。
そんなわけで秘匿の意識は緩めです。

・魔族
光の目の魔族は、型月の吸血鬼や悪魔とは別物ということで。
まぁそこらへん細かく考えてないけど、リアムス以外の魔族の登場予定は無いので考えるのやめた。


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turn 2

ごめんなさい今話はギャグが息してないです。


  ……さて、準備できた。

  祭りの始まりね。

 

その日の中に、私は召喚を行おうとしていた。

英語圏で言うところの「干し草は日の高いうちに干せ(make hay while the sun shine)」だ。

この国の言葉で言えば、同じような意味の言葉は「善は急がば回れ」だったか。

善は回った方が早いとはどういう意味だろうか……回ると早くなるゼン……ライフリング?銃?

なるほどつまり悪を撃つことが善を為す近道であり、生かして更生させようなどとは考えるな、という意味か。なるほどなるほど、一定の正しさを含む主張だ。日本怖い。

結論が出たところで、話を戻そう。

今は昼前、正午まであと僅かというところだ。

まさしく「日の高いうちに(while the sun shine)」の言葉通り、太陽が正中する時刻に合わせて召喚を行う。

 

  支援せよイスファハーン。最大出力で魔力供給を。

 

傍らに佇むオブジェクトに命じる。

それは宙空に直立する二重螺旋杖。

西方の神話に語られるケーリュケイオンのような形状を持ち、表面は黒銀色の装甲で覆われた奇妙な物体。

戦後に収納用の時空魔術を習得して以来ずっと持ち運んでいたこの物体を、随分久しぶりに取り出した気がする。

神話時代に造られたモノリスと呼ばれる兵器群、その内の一つがこのオブジェクトだ。

機種名は"ナイトブリンガー級マザーモノリス"、機体名は"稟都イスファハーン"。

イェニ・ルームとの戦いで擱座した幾つかのモノリスのパーツを再利用して建造されたものであり、現存するモノリスの中でも全機能が生きている数少ない機体だ。

 

このモノリスを今持ち出した理由は二つある。

 

一つは、先の台詞にもある通りに魔力源とするため。

モノリスはいくつかの機能を備えており、その一つが魔力供給機能だ。

固有の機体名をつけられた上位モノリスが持つ魔力供給能力は凄まじい。

イスファハーンの名を持つこのモノリスも例外ではなく、忘都スーサより取り出された魔力炉をそのまま内蔵しているのだ。

あの後に神父に聞いた情報を併せて考えれば、召喚に用いる魔力は多い方が良いようだ。

彼が直接そう言ったわけではないが、そう考えるに足る理由はある。

召喚対象はイェツィラー界の無意識集合が象る英霊でありながら、その霊は本来の状態よりも能力が劣るそうだ。

能力が低下する理由など、能力を再現するための魔力の不足くらいしか思いつかない。

優秀な魔術師ほど強力な霊を得やすいとも言っていたのだから、魔力量の問題と考えて間違い無いだろう。

 

もう一つの理由は、降霊の触媒として用いるため。

これによって、それなりの精度で召喚獣の性質を定めることができる。

つまり、稟都イスファハーンに縁のある者の霊が喚起されることになるだろう。

尤もイスファハーンは比較的最近になって復元された機体であるため、これ自体ではなくこれの材料となった忘都スーサや破都ペルセポリスの縁を期待してのことだ。

あるいはそれより昔、古代エーラーンで用いられた原初のモノリスの関係者も対象となりうるだろうか。

 

モノリスの歴史は三つの時代に分けられる。

最初にモノリスが造られ双角のアレクサンドロスに撃滅された古代エーラーン帝国の時代。

発掘と復元がなされながらもイェニルームの銃砲により多くの復元モノリスが破壊された聖性エーラーン善教国の時代。

そしてその後、現存するモノリスの殆どが残骸という状態でエスケンデレイヤのアトラス院所管の施設に保管されている現代だ。

モノリスに関わりのあった故人と言えば、自分が名前を憶えているだけでも数十人は下らない。

その中から特定の個人を喚び出すことは難しいだろう。

求める者が居ないでもないが、個人レベルでの特定には大して期待しているわけでも無かった。

 

ともあれ、召喚の準備は整っているのだ。

ならばこれより召喚の儀を始めよう。

 

イスファハーンのサポートを受け、総身に魔力が満ち溢れている。

モノリスは神話時代の決戦兵器というだけあって、その魔力供給能力は凄まじい。

ともすれば一個方面軍の戦闘行動で消費される膨大な魔力をたった数機で賄いきるような代物だ。

通常であれば個人が受けるには過大に過ぎる魔力量。

だが自分ならば多少は耐えられる。

これでも自身は生まれながらにして強力な魔の適性を持った純粋なデビル族、その中でも最上の位階に達したアークデーモンだ。

魔力容量だけなら、アークデーモンの底辺でさえイプシシマス(魔法使い、人間族として最高位の魔術師)に匹敵する。

万の敵軍から魔力を奪い尽くす第三代魔王などと比べれば流石に劣るが、それでもそれなりの自信があるのだ。

 

  遍く照らす神智の威光の下に、רִאַמם(神の火を意味する名)が杯の業にて霊を喚起せしめん。

 

これから行う儀式の概要を宣言し、魔術回路を最大出力で稼動させ始める。

その有様は本来の体積を超えて膨張する風船に穴を開けたかの如く。魔力は決河の勢いを以て流出を始めた。

体外へと溢れ出す魔力は無意識のうちに統御され、明確な指向性を持った魔術となって吹き荒れる。

無意識下で現れるのは先天的に得意とする術。即ち水の属性にして凝固の特性。それは氷雪の嵐となって具現する。

魔族としては当然ながら闇属性(魔術教会が定義するところの虚属性)も十分に扱えるのだが、リアムスの場合は闇よりもなお水を得意としていた。

風雪が周囲を薙ぎ払えば、無数の氷晶は触れる物全てを悉く侵食しながら樹氷へと変わってゆく。

 

  其、エーテル光を捉えセフィロトを遡らん。

  天上の火、まさに降り来たれり。

  五重に返し五方に奔り、遍く地を撫で払わん。

 

吟詠するのは英霊を召喚する呪文の前半部。召喚陣を起動させ、安定させる呪言。

尤もそれそのままというわけではなく、普段用いている呪文の形式に合わせて大きく改変したものではあるが。

抑、必ずしも魔術に呪文など必要無いのだ。呪文とはただの精神集中(イメージ)型通りの行動(ルーティン)に過ぎない。

言葉を発するならば、精神はそれに追随する。魔術にとって重要な要素ではあるが、所詮は心象風景の明確化に過ぎず、もとより明確に思考できるならば必要の無いものでもある。

特定の言葉を発するとき、同時に特定の魔術的操作を行う。条件反射として刻まれた行動は、精神集中の度合いによる施術精度の誤差を緩和する。これも場合によれば必要無いだろう。

あるいはこれとは異なる術理の呪文、例えば言葉自体が効力を持つようなものも存在するが、それでもこの呪文はそうではない。

 

詠唱とともに、無差別に放っている魔力を徐々に意識の制御下に置いていく。

連れて、それまで通りの氷雪に加えて熱と光が身の内から溢れ出る。

それは炎。我が身より出て氷雪へと燃え移る魔術の火。

雪は雪のままに燃え、氷は氷のままに焼ける。

ホレブの柴にも似た、溶ける事無く燃え尽きる事無き紅蓮の氷雪。中空を舞う氷の結晶とて火の粉の様相だ。

天上に聖炎たる太陽と、地上に魔炎たる氷火。ここに在る全ては火に包まれた。

 

  聖数に閉ざされたる真理の瞼を開き、霊器と霊石の下に招来せん。

  我はスプンタマンユとアンリマンユを知りたる者。峻別の法に従いたる者。

  我、地の理に従い二元のダハトとウォフマナフの意志を以て願えり。

  マズダアフラよ、天の理に従い我が前に善なる導き手を遣わし給え。

 

召喚呪文の後半部、召喚そのものを行うもの。

前半部よりもなお原型から乖離したこの呪文は、それでも召喚という機能そのものは問題無く果たせるだろう。

断言せずに「だろう」と表現するのは、この部分が自身ではなく聖杯を制御するものだからだ。

即ち先に述べた"異なる術理の呪文"だ。

魔術基盤たる聖杯への呼び掛け。聖杯に対する召喚の宣言。

前半部分は余興に過ぎず、この後半部分こそが召喚術式の核なのだ。

 

全周に向けて放射している魔力の矛先を魔法陣のみへと絞る。

極度の精神集中は魂を時間から解き放つ。歪み捩れた時の中で、数瞬か、それとも数刻か。

氷炎に閉ざされた世界の中心に、ある時白い光球が現れた。光球自体は大した大きさではないが、強烈なフレアで視界を埋め尽くす。

眩い視界の中でもはっきりと知覚できる。深き天上より呼び起こされたエーテルの奔流が迫り来るのだ。

原理的には、高密度のエーテル光束による流動的なエーテル質の隆起と言えよう。即ちアストラル体の招来だ。

やがてエーテル光がアストラル体と交わりエーテル体を具現化し、次にエーテル光はエーテル体と交わり肉体を創り上げるだろう。

視覚では見えない霊視の領域。私が視ることができるのは物質界に近い位相にあるエーテル界とアストラル界までだが、仮に私よりも高位の術者であればさらに根源に近いイェツィラー界や根源そのものであるアツィルト界にまで知覚が及ぶのだろうか。

 

眼前にてエーテル光は収束し、アストラル体が形成される。

強力な思念体の現出に伴う余波、高圧の精神衝撃波が私に降りかかる。それは私の周囲に展開されている防護力場を暖簾の如く退け、私自身をも飲み込んだ。

アストラル側における強度が高くない者であれば、人格が漂白されかねない程の力。それは何も感じることの無い無我無心の境地へとリアムスを連れ去ろうとする。

その被害をある程度小さく抑えることは可能だが、完全に被害を無くすことまではできない。

五感が消え去る独特の感覚。

仄かな光、僅かな熱量を感じる。否、実際には仄かや僅かといったものではないのだろう。精神波により鈍化した感覚が認識を矮小化しているのだ。

 

――――ふと我に返る。今し方、恐らく数秒にも見たぬ一瞬ではあるが、私は意識を喪失していたらしい。

両の瞼が天上の火の如き明烈なる力に恐れをなしたのか自らを閉ざし、眼球を闇の奥底へと封じていた。

魔力の放出は未だ無意識に続いているが、いくらか制御が緩んでいる。感じた熱はその影響でもあるようだ。

 

体外に魔力を放出するならば、いかなる魔術であれ副作用として魔力自体が術者と施術対象を阻む結界となる。

これは召喚術であるためにその結界は防衛術のものより劣るが、それでも扱う魔力が多ければ結界の強度は高まる。

ならば膨大な魔力を放出し続けている私の前にはそれ相応の強度を持った防護力場が発生しているなのはずだが、精神波は僅かに減衰しながらも力場を容易に貫いたのだ。

貫通というよりも浸透といった方が適切なのかも知れないが、そこまで思惟する余裕は無いために捨て置く。

兎に角、相当に強烈な精神波なのだ。

降霊によってこの規模の余波が発生するなど尋常では在り得ない。明確に精神支配を指向する術かと疑わしくなる威力だ。

私が知っている限りで同様の例を挙げるとしても、たった一つだけ。イェツィラー界より引き出した高位天使偶像の具現くらいなものだ。

であれば、ここに現れた召喚体は思念体として熾天使のイェツィラー体に匹敵する強度を持っているということになる。

天使であろうか悪魔であろうか、少なくともそれが人間だとは思えない。

 

閉じていた瞼を開けば、見える光景は召喚の儀の成功を示している。

視界に映るのは大いなる霊の写像。その周囲に、もはや氷雪は存在していない。

その人影が纏う浄火は、触れる物の悉くを焼き尽くす燎原の尖兵。

ひと通り見渡してから再び視線を正面に戻したとき、英霊は徐に口を開いた。

 

  問おう。貴方が私の――――




・make hay while the sun shine
できればペルシア語かサンスクリット語の言葉を使いたかったけど、よくわからんので諦めて英語で妥協した。
英語なら同じ意味でもっと有名な言葉に鉄は熱いうちに打て(strike while the iron is hot)があるけど、語中に(sun)がある方が拝火教徒のリアムスには似合いますよね。

・魔術
型月と光の目は当然として、他にもいくつかの魔術理論を参考にしてます。
創作物だけでなく、リアルの近代西洋魔術とかもちょっと混ざってたり。
とはいえリアルの魔術について詳しくはないんですが。
とりあえず入門レベルの近代西洋魔術については、ただの精神修練みたいなもんだと認識してます。
意外と、宗教家を敵に回すような邪悪な雰囲気は感じないですね。
あ、でも入門段階では日常生活の中で他人に悟られない方法で精神修練(魔術を行使)するけど、完全に魔術行使をカモフラージュできるようになったら次の段階ではガチの邪悪な黒魔術とか出てくる可能性も。コワイ。

・シリアス
幸いにも、次話はシリアスが息してないです。
何がどう幸いなのかはわかりませんけど。


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turn 3

  貴方が私のマスターか!

  天知る地知る私知る!

  なんという深い畏敬!なんという篤い祈り!

  例え多聞天とかそこらへんが聞き逃しても私の耳は逃しません!

  地に舞い降りた日輪は沈まず貴方を照らしましょう!

  邪悪な程に美しい神の化身、天狐キャスター参上です!

 

  ……これあかんやつや。

  チェンジ。チェンジで。

 

それは人間に近い姿でありながら獣のような耳と尻尾を持った存在だった。

この召喚獣が喋った言葉の意味を認識した瞬間、そう言わざるを得なかった。

そのとき私は、きっと死んだ魚のような目をしていただろう。

「邪悪な程に神の化身」とかなんとかいうのは私が過去に言った言葉だ。

自己紹介の振りをしながらさりげなく黒歴史を掘り返すという鬼畜の所業。

残酷な不可避の一撃が私の精神を蹂躙したのだ。

いや、一撃ではない。二撃。三撃。更なる黒歴史が私を襲う。

 

  チェンジ!?

  この私の決め台詞に対していきなりなんてこと言ってくれちゃってるんですかこの悪魔!

  500年前から何も変わってませんね!そのせいで貴方は駄目なんです!脱皮できない蛇は滅びなさい!

 

  もうやめて!とっくに私のライフはゼロよ!

 

  力と知でセディエルク様を越えてみせるぅっ!

 

  ああああああああ!!

 

  焼き払えペルセポリスぅっ!

 

  ■■■■■■■■!

 

 

 

駄狐による黒歴史発掘大会は数十分にわたって続いた、というのは後になって聞いた話だ。

私の記憶はペルセポリスらへんで途切れているのだから、後から聞かねばわからぬのも道理であろう。

暫く狂戦士の如く叫んでいたが、地獄が終わる頃には魂が抜けたような表情で立ち竦んでいたらしい。

 

その後、私は意識を取り戻すまで放置されたようだ。

先程我に返ったとき、目の前で駄狐が私を見下しながら愉悦の表情で高笑いしていた。

ずっと笑っていたらしい。

目が合ったので「完全にメインヒロインの笑い方やな」とだけ言っておいた。

駄狐はそのえげつない表情を自覚したらしく、膝から崩れ落ちた。意趣返しには成功したようだ。

しかし何だろうか、この虚しい勝利は。

 

何はともあれ、結局私達は数十分、というか1時間近くを無為に過ごしたわけだが。

最初からずっと気になっていたことがある。

 

  っちゅーか誰てめー?

 

ので。

問おう、貴方が私のサーヴァントか。

 

  キサマ、余の顔を忘れたと申すか!?

 

  知らぬ存ぜぬ。

 

  酷い!私との事は遊びだったのね!よよよ……。

 

  記憶にございません。

 

  モノリスであんなにテレパシーのやりとりした仲じゃないですか!

  写テレパシーだって送ったっていうのに、私を見てもわからないんですか!?

  ならばこいつで思い出させてやる!この印籠が目に入らぬかー!

 

  あっ……(察し)。遺憾の意を表します。

 

駄狐が持ち出したのは遍照の神のシンボルが描かれた印籠だ。

何故印籠なのかがわからないが、まあとにかく印籠だ。

そう、私は印籠というものを知っている。この国の有名な歴史ドラマに頻繁に登場する小道具で、たぶん古代日本で用いられていた身分証だ。

まぁ印籠は置いといて。

 

私は多分、また死んだ魚のような目になったと思う。

理解した。

理解してしまった。

この駄狐が黒歴史の元凶だということを。

全部こいつのせいなのだと。

即ちこの者の名は。

 

  遠坂時臣(全部時臣のせい)……!

 

  違わいっ!?誰がアゴヒゲか!

  ボケるにしてもせめて性別ぐらい一致させやがれコンチクショー!

 

自分で言っておいてアレだが、トーサカなんたらというのが誰なのかわからない。

咄嗟に口をついて出た言葉でしかないのだ。

名前自体には聞き覚えがあるような気もするが、何故ここでその名が出たのかわからない。

駄狐には通じているようなので、実在した人物ではあるようだが。

まあそれはどうでもいい。

言い直そう。

 

  おっと言い間違った。

  この世全てのz……悪。

 

  そうですそうですその通りでs……と思ったら最後の一文字が思いっきり違いますー!?

  なんで言い直した!なんで言い直したんですか!

  悪じゃなくて善ですよ善!真逆じゃないですか!

  遍く照らす神智、アフラマズダの一側面!天照の玉藻ちゃんですよ!

  テレパシーのハンドルネーム欄にちゃんと遍照の神サマ☆って書いてあったでしょーが!

  っていうか言い間違いってレベルじゃねーぞ!

 

  あんたのどこが善ですと!?

  テレパシーで洗脳してきたのとかギルティ過ぎるし!

  マズダは洗脳とかしねーし!

  他人の黒歴史で愉悦もしねーし!

  完全に邪神の所業だし!

  あと写テに写ってたのはもっと神々しかったし!

 

  うっ。

  そ、それはアレですよ、悪い面が顕現するのは仕方無いんです。

  ほら、複数の神格が習合した結果が私ですから、純粋な善神じゃありませんし……。

  あと洗脳じゃなくて啓示と言ってくださいな。

  確かに最初はちょっと啓示をぶっこみすぎましたけど、

  途中からしっかり手加減したから良いじゃないですか。

  写テについては、ちょぉっとだけフォトショ的なアレでエフェクト入れたような気が……

  えーとつまり私が言いたいのはですね、私は悪くねー!ということです!

 

……結論を言えば、駄狐の正体は本人も言うように遍照の神で間違い無いと思う。

ただ、そうだとするとわからない点がある。

 

  それで、何故に遍照様がサーヴァントなんですか?

 

  んー、何故と言われても。

  なんとなく面白そうだから来ただけですし?

  あとなんかリアムスちゃんに呼ばれましたし?

 

  そですか。でも神族って、ちょっと呼んだぐらいじゃ現れないもんだと思ってましたけど。

 

  最近は拝火教なんて下火ですから。火だけに。

  リアムスちゃんみたいな数少ない狂信者げふんげふん、敬虔な信徒は目立つんですよ。

  私のアフラマズダとしての神格が消滅の危機に……というと大げさですけど、

  そこそこ弱体化してますから信者は大事にしとこうかと思いまして。

  まあさっきも言った通り複数の神格の習合体なので

  万が一そのうち一つ消えても致命傷にはならないんですけど、

  それでも消えたら嫌ですからね。

  というわけでリアムスちゃん、存分に私を崇めなさい?

  ついでにパーッと布教なんかしてくれちゃってもいいんですよ?さあ、さあ!

  教義上は拝火教に改宗できない遺伝的な異教徒達も、

  信仰心さえあれば多少は私の役に立てるんですからね!

  何ならこの際、神道とかでも構いませんし!

 

  ……知らん。帰って酒飲んで寝る。

 

 

 

宿に帰ってから気付いたけれど、お酒無かった。

ので、代わりにミネラルウォーターのお湯割りをロックでいただきます。ぬるい。

なんか駄狐がいきなり良妻みたいな雰囲気を醸し出しながら飲み物を差し出してきたと思ったら、なんでこんな意味不明な水なのか。嫌がらせか。

 

  お味はいかがですか?

 

アルカイックスマイルを浮かべながら尋ねてくる駄狐。

こんな奴に対して言うべきことなど一つしか思い浮かばない。

 

  知るかボケ!




・駄狐
Fate/EXTRAとかのやつとはまた別のモチベーションで動いてる。
残念な信者が何か面白そうなことやってるので手伝ってやろうかな(手伝うとは言ってない)という程度の考え。
人に尽くすとか良妻とかではなくて、それよりもっと神らしさがある。ネ申。ネコを崇めよ。いや別にキャットじゃないけど。

・アフラマズダ
マズダはアティルト界(型月で言うと根源とか「」とかそんな感じ?)そのもので、サーヴァントはイェツィラー界(型月で言うとガイアとアラヤらへん?)の無意識集合を物質化したもの、というのがリアムスの考え。
マズダを名乗るサーヴァントであっても、サーヴァントである以上は別物として扱う。
ましてや絶対正義ですらないのであればなおさら。


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turn 4

そして翌日。

昨日は疲労から早めに寝たので、今日は朝早くに起きた。

ちなみに疲れの主な原因は駄狐の言動であって、召喚はあまり関係無い。

いやまぁ召喚も大魔術だったのでかなり疲れたが、それを上回る程に駄狐が酷かった。

 

今から行うのは作戦会議だ。

駄狐が大人しくしていれば、作戦考えるぐらい昨日の内に済ませられたというのに。

 

  では、会議を始めましょう。

  まずは参謀の玉藻さん、献策を。

 

  了解ですリアムス司令官殿!

  しかしその前に確認ですが!

  リアムスちゃんは実は何も分かってないんじゃないですか!?

 

  はうっ!?

 

  と、心配してる訳じゃないんですが、一応状況の説明もしますよ。

 

  ……どうぞ。

 

……いや驚いた。あんまり分かってないのがバレたかと思ったところだ。

実際バレてる気がしなくもないけれど、その懸念は全力でスルーしよう。

 

  というか参謀って何ですか。

  戦争じゃあるまいし中二病も程々にしてくださいませ。

 

  っちゅ、中二病ちゃうし!

  っていうか戦争だし!聖剣戦s……じゃなかった聖杯戦争ですし!

  

  聖剣戦争www

  リアムスちゃんもしかして木刀に風林火山とか書いちゃうタイプ?wwwww

  ガチの中二病じゃないですかm9(^Д^)プギャーwwwww

 

  ちゃうし!そんなことしねーし!

  そもそも風林火山派じゃねーし!鳳凰天舞派だし!

 

そして三時間後、氷河派と一輝派の対立にまで事態が発展したところでようやく元の話題を思い出した。

 

 

 

  何にしてもライダー陣営の連中は叩かないといけませんね。

  奴等の象兵は厄介です。

  突撃されたら召喚獣で受け流すといいかもしれません。

 

象……!?

予想外の言葉が飛び出して驚いたが、いや確かに象兵は騎兵(ライダー)に分類されるだろう。

漠然と馬を想像していたが、実はライダーとは象兵を表すクラスだったらしい。

ということは騎兵槍(ランス)を扱うであろうランサーが騎馬兵なのだろう。

聖杯戦争のランサーは歩兵だと思っていたが、どうやら記憶違いかもしれない。

考えてみれば当然だ。騎兵槍を使うのが歩兵であるはずがない。

あと駄狐で受け流せるのだろうかと疑問に思う。

驚きはしたが、動揺は表情に出ていないはず。

私は平然とした態度で返事をする。

 

  知ってた。

 

 

 

  アーチャー陣営も我々と敵対しています。

  彼等の軍勢は淫都オブバビロンを含んでいます。

  混乱付加のフィジックブラストに注意してください。

 

淫バビとかフィジブラとか、どこかで聞いたような気がする話だ。

いつどこで聞いたのかは思い出せそうで思い出せないが、とりあえず返事をする。

 

  それも知ってた。

 

 

 

  アサシン率いるフェダイーン暗殺教団はニダハラスと手を組んだようですね。

  暗殺者の集団だけでなく、魔族の軍勢にも警戒が必要です。

  これらに対処するには、内政コマンドでテンプル騎士団を雇うといいでしょう。

  アルタイルやエツィオなどの暗殺者を相手取るには確実とは行かないかもしれませんが、魔族に対しては猛威を振るうでしょう。

 

旧知の人物の名が出たことに驚くが、それよりも教団や魔軍といった組織的な話になったことの方が驚きだ。

そういえばアーチャーについても「彼等の軍勢」と言っていた。

聖杯戦争は大規模な集団戦であるようだ。

よく考えてみれば確かに、戦争と名がつくのだから個人規模であるはずがない。

ところで内政コマンドとかいうメタい何かは私には何のことかわからない。

わかったらあかんでしょう常考。

あとアルタイルとかって誰。

返事をする。

 

  それも知ってた。

 

 

 

  セイバーとランサーは高ランクの対魔力スキルの所持が予想されます。

  魔術は効かないので素手でぶん殴ってください。

  調査の結果、セイバーは深淵歩きの異名を持つ

  アルトリウス・オルタであることが既に判明しています。

  オルタ化によって人の心がわからなくなったり

  片腕が使えなくなったりしているものの、油断はできません。

  黄金の鉄の塊で出来た剣を装備しているので、

  光と闇が合わさって最強に見えます。

  また、ランサーの宝具はゲイ♂棒だという情報もあります。

  『女を貫く槍♂は持っておらぬ』という台詞を残した

  アルカディア王レオンティウスに違いありません。

 

それらのクラスは近接戦闘のスペシャリストではなかったかと思ったが、確かに魔抵抗や状態異常耐性が高い相手には物理攻撃しかない。

そういえばいつのまに調べたのか疑問だが、キャスターともなればそういった術の一つや二つはあるのだろう。

本題には関係無いが、棒の前と槍の後に♂と言っていたのが気になった。

耳から入る情報としてはゲイボウやヤリとしか聞こえないのに、何故か♂がついていることが理解できてしまう。

恐らく暗示系の呪術だろう。

自身の魔抵抗は弱くないはずだが、抵抗するどころか術の気配すら感じられなかった。

魔術ではなく抵抗しにくい呪術なのだろうけれど、並の呪術なら感知ぐらいはできるのでやはり隠密性の高い術だ。

腐ってもキャスターということか。なんか別の意味で腐ってるような気がしたが、多分性根あたりが腐っているのだろう。

あと黄金の鉄とはどういう物質だろうか。私、気になります。

 

  知ってた。

 

 

 

  バーサーカーはバーサク状態のフレンズです。

  つまりマジモンのキチガイです。マジキチです。

  あ、いえ、"フレンズ"というよりは"けもの"ですね。

  というかむしろ"けだもの"です。女の敵です。

  絡まれたら面倒なので目を合わせないように。猿みたいなもんです。

  あと野生のバーサーカーにエサを与えないでください。

  エサを持ってる手ごと喰われます。性的な意味で。

  襲われたら死んだフリで乗り切りましょう。

  いくらバーサーカーでも流石に屍姦はしない……はず……と思いたいです。

  なおワタクシがヤツに迫られた場合、既に心に決めた人が居る

  という理由でおことわr……あ、駄目だあいつヒトヅマニアだった!

  アレが出没したら霊体化して撤退しますから

  後はリアムスちゃん一人で頑張ってください!

  リアムスちゃんなら大丈夫です!

  狂戦士と狂信者ですから気が合うんじゃないですかね!

  気が合った結果(貞操とかが)どうなるかは別として!

  とりあえず小足見てから去勢拳ぶっぱすると余裕ですよ多分!

  あ、あとゲーム開始時の難易度選択でHard以上を選んでいた場合は

  バーサーカー陣営にB-2スピリット爆撃機が1機配備されます。

  難易度がDDの場合、スピリット爆撃機に加えて

  スピリット級移動要塞も投入されます。

  ブランデンブルクの奇跡があらんことを(死 ぬ が よ い)

 

バーサーカーのクラスには狂化の術式が組み込まれるとは聞いていたが、発情して野生化する程に強力な狂化であるらしい。

完全に想定外だ。

それほどまでの知能低下を代償とするのならば、フィジカル面はとんでもなく強化されているはず。

確かに交戦は危険だ。死んだ振りで欺けるのであればそうすべきだろう。

というかこの駄狐、なんでこんな使えないフレンズなのだろうか。

敵前逃亡とか、ハリセンボン飲ます指斬った的な刑に処さねば。自害しろ駄狐。

難易度とか、そんなメタいこと言われても私には何のことか全くわからないですね。(棒読み)

 

  それも知ってた。

 

 

 

  我が陣営は遊牧民騎兵と、攻撃呪術に長けた呪術師の部隊を編成可能です。

  前者は砂漠での機動戦を得意とし、後者は遠距離からの射撃と砲撃が可能です。

  他にも悪魔崇拝者や魔族といった召喚に長けたユニットもあります。

  周囲を敵に囲まれていますが、

  編成を良く考え戦う場所を選べば勝利することが出来るでしょう。

 

部隊を編成、と来た。

聖杯戦争とはそこまで大規模なものだったのかと考えてみるが、よく憶えていないのでどうしようもない。

そうであればアーチャーやアサシンについて言っていたことも納得できるのだから、実際に集団戦が前提なのだろうと思う。

 

  知ってた。

 

  また200mmの前面装甲と88mm対戦車砲を備えたエレファント重駆逐戦車が建造可能です。

 

  それも知ってた。

 

 

 

そして、最後に駄狐は無慈悲に告げた。

 

  嘘です。

 

  ……。

 

  全部嘘です。

 

  ……。

 

今思い出したが、昔どこかでこのパターンの会話があった気がする。

 

 

 

 

 

駄狐が現れて以来、時間を無駄にすることが多くなった。

時間が足りないわけでもないのでそれは構わないのだが、精神的な負荷が大きいのでやっぱりやめてほしい。

 

  さて、改めて戦略状況を確認しますよ。こんどはマジで。 

 

  ……どうぞ。

 

  なんか心配なので、基本的なことから説明しておきましょう。

  まず敵サーヴァントは6騎。剣士(セイバー)槍兵(ランサー)弓兵(アーチャー)騎兵(ライダー)暗殺者(アサシン)狂戦士(バーサーカー)です。

  それぞれに少なくとも魔術師が1人ついていますから、6陣営12人ですね。

 

  知ってた。

 

  ……。

 

二つの神眼を以て私を見つめる狐。

私はその目を知っている。

所謂、疑いの目というやつだ。「こいつやっぱり駄目なんじゃね?」と思っている者の目なのだ。

そこで私はもう一言付け加える。

 

  本当に知ってた。

 

その冷ややかな眼差しに変化は無かった。

 

 

 

  とりあえず、勝利条件は敵サーヴァントの全滅です。

  間接的な攻撃として、サーヴァントではなくマスターを狙うのも有効です。

  サーヴァントの現界に必要な魔力はマスターから供給されていますので、

  マスターを始末すればそのうちサーヴァントも消滅します。

  逆に言えばマスターであるリアムスちゃんも

  敵に狙われる可能性があるので注意してくださいね。

 

  まぁ余裕ですね。

  知(物理)は絶対的な力です。

  敵が来たら囲んで広辞苑(書籍版)で叩き殺しますよ。

  物質化するほどに圧縮された膨大な知識の重みに潰されるが良いです。

 

  おおっと、良い感じに良さげなフラグが立ちましたね!

  これはもう慢心して余裕ぶっこいてたらアサシンあたりに襲われて

  即落ち2コマな展開が目に浮か……ばない……だと……?あれ?

  あ、そうだったこいつ即死効果が効かねー!チクショーこれだから魔族は!

 

これだから駄狐は。

駄狐の顔に愉悦の表情が現れてすぐ消えた。

お前は一体誰と戦っているのか。

 

  私を出しにして愉悦しようとするのやめません?

 

  さしあたって必要なのはまともな拠点ですよね。

 

そして駄狐が私の提案をさらっと無視して話し始める。

だからお前は駄狐なのだ。

 

  こんな狭苦しい安宿じゃ拠点にするには向きませんし。

  場所さえあれば、あとは陣地作成スキルである程度なんとかなりますけど。

  モノリスのイモータルだって陣地内の警備に使えるんでしょう?

 

  んー、拠点は要らないんじゃないですか?

  その気になれば1ヶ月かそこらは不眠不休で戦えますから、

  休める場所って意味では不要だと思いますよ。

  それに、拠点構築なんかしたらセカンドオーナーがうるさそうです。

  そもそもここのセカンドオーナーが誰なのか知りませんよ。

 

  え?戦争なんですから土地なんて勝手に占領すればいいのでは?

  それぐらい暗黙の了解でしょう?

 

勝手に占領とか正気ですか。

ジャパンは無法地帯ですか。

そんなことしたらもう戦争するしかないじゃないですか。

祭りじゃなかったんですか。

ベビーカステラ屋さんが安心して商売できないじゃないですか。

 

  何それ初耳ですよ。ソースどこですか。

 

  聖杯が私に囁くんです。次のターンに龍洞寺で旗揚げしろって。

 

は?聖杯?

 

  なるほど、静物と話せるんですか、すごいですね。

  とても腕の良い精神科医(とても性格の悪い洗脳術師)が居るんですけど紹介しましょうか?

 

  こらそこ、人を狂人(バーサーカー)扱いしない!

  マジレスしますけど、マジで聖杯です。いやマジ。ほんとに。

  サーヴァントは召喚時に聖杯戦争のルールとか現代の常識とかの

  情報を受け取るんですよ。聖杯から。ほんとマジで。

  でも龍洞寺に関しては生前の知識からの判断ですけど。

  生前っていうか私の本体まだ生きてますけど。

 

  ほーん。まぁいいです。

  とりあえずリュートージですか?細かいことはそこに行ってから考えましょう。

 

  またテキトーな方針ですこと。

  じゃあさっさと出発しちゃいましょうか。

 

 

 

 

  あ、そういえば。

 

  なんですか?

 

龍洞寺とやらへの道中で、ふと気付いた。

 

  そこの召し使い(サーヴァント)さん。

  購買で焼きそばパン……じゃなかった、コンビニでお酒買ってきてください。

 

そう、最近あんまり飲んでなかった事に気付いたのだ。

そして今なら後始末を任せられる者が居るのでグデングデンになるまで飲めそうだということにも気付いた。

……あ、でもよく考えたら駄狐に任せて大丈夫か不安。

 

  鯖はパシリじゃねーですし、パンとか酒とかどっちにしても自分で行きなさい。

  ただでさえ悪魔なのにそんなに堕落して、

  一体どんな下劣なナマモノに成り下がろうとしてるんです?

 

  自分で買おうとしても普通の手段では買えないんですよ、

  酒と煙草とパチ玉と馬券は。

  身長足りないせいで、何故か身長制限ではなく年齢制限に引っかかるので。

  明らかに次元が狂ってます。高さ軸と時間軸を履き違えてますよ。

 

その点、駄狐はちょっと若めとはいえ充分に大人っぽい外見だからいろいろ便利ですよね。

とりあえずこいつを酒保係にしときましょう。

 

  ハッ!ロリババアはこれだから困りますね。

  ガワはお子ちゃまで中身は化石。

  女性としての魅力というものが一片たりとも存在していない、なんて無様。

  これを機にワタクシという清楚かつ妖艶な絶世の美女を見習うがよろしくってよ!

  ウフフ、フフ、フハハハハハハハノ\ノ\ノ\!

 

この後めちゃくちゃ戦争した。




・エレファント
重戦車三銃士。
EXの対戦車宝具。ただしEXがランクのことだとは言ってない。
EXについてはいろんな解釈があるけど、EXと書いてエキストラ(居る必要の無い脇役)と読むという説を推しておく。


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turn 5

龍洞寺にて拠点構築作業を行っていると、何かに興味を惹かれたらしい駄狐がどっか行った。

止める暇も無かった。サボるな働け。

 

まぁ幸いにもすぐに帰ってきたけれど……と思ったところで、ふと自分の思考に対して疑問が生じた。

何が"幸いにも"なのか。一生帰ってこない方がよほど幸いではなかろうか。

何はともあれ帰ってきたのだが、そのとき駄狐が投下した第一声がまた問題だった。

 

  なんかアサシンが他のサーヴァントに特攻して死にましたけど。

 

  はぇ?

 

いやこいつ何言ってるんですかね。

私はまだアサシン見てないのに、何で勝手に死ぬんですか。許されざる所業ですよ。

駄狐は責任を取ってアサシンを蘇生すべきです。何の責任か知りませんけど。

あーでも良かったと言えば良かったかも。賭ける前に死んでくれて。アサシンに賭けてたら大損だった。

というか抑、胴元が誰なのか知らな……は?賭博はやってない?

屋台も無いし賭けもしないとか、聖杯戦争という祭りがどういう客層を狙っているのかよくわからないんですが。

え?ただの儀式?祭りの要素が全く無いただの魔術儀式?

駄狐め、またそんな出鱈目を……。

……。

え、マジで?

突発的に発生するストリートファイトを追って観客と屋台とマスコミが奔走する祭りとかじゃなくて?

……し、知ってた。

 

  それさて(それはさておき)、アサシンを殺したのはどんな奴ですか?

 

  どう見ても神霊絶対殺すマンです。

  近寄りたくないです。

  というかむしろあれが1天文単位公転軌道(Astronomical Unit Orbit Period)、略して1AUOの内側に存在する時点で不快です。

  できれば138億光年は離れてほしいです。

 

  ほーん。

 

ふーん。へー。

……いやちょっと何言ってるかわかりませんね。

まぁいいです。話を続けましょう。

 

  で、どんな風に殺したんです?

 

  空間に複数の穴を穿ち、そこから矢弾を射出する宝具です。

  例えるならば……そう、あれはまるで、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)のようでした。

  二次創作のテンプレチート踏み台転生者にありがちな転生特典です。

  金髪赤目とかいう人種不明国籍不明な格好して日本語喋ってる俺様系イケメン(ただしイケ魂ではない)なあたり踏み台確定です。

  黄金の全身鎧とかいう無駄に高価で悪趣味なものを身に着けてるのも、典型的な踏み台野郎の特徴ですね。

  絶対ニコポとかナデポとか搭載してるはず。

 

いやちょっと何言ってるかわかりm(ry

バビロンの門といえば有名なのはイシュタルゲートですけど……なるほど、全くわからん。

ちなみに私の目の前に居る奴はピンク髪狐耳とかいう人種国籍どころか種族不明な格好して日本語喋ってますが、そいつも踏み台とやらに違いない。

で、踏み台って何。

 

  アサシンはどうでした?殺されるときに何か抵抗とか。

 

  いやー、それはもうあっさりと。

  本当に死んだのか疑わしいほどにあっけなく散りましたとさ。めでたしめでたし。

  他には特に有用な情報は拾えませんでしたね。これにて報告は終了です。

 

……"他には特に"っていうか、最初から最後まで情報量/Zeroだったんですが。

 

  あー、それだけ?だけ?

 

  総括すると、アレは神霊絶対殺す踏み台野郎ということです。

  というわけで私は絶対アレの前には出ませんので、何かあったらリアムスちゃん一人でお願いしますね。

 

  は?

 

  あとアレは神霊絶対殺すマンでしたけど、神霊以外もちょっと気に入らないだけですぐ殺すマンでもあります。

  リアムスちゃん一人でお願いしますね。

 

  は?

 

  あとアレと戦ったら、槍が降ってきます。

  明日の天気は槍とかいう比喩じゃなくて、即物的にその場でダース単位の聖槍が降ってきます。

  リアムスちゃん一人でお願いしますね。

 

  は?

 

  あとアレは……

  

  やめろ!そろそろ泣くぞ!

 

 

 

 

 

翌晩になって勃発した戦い。

此度の戦いは、私も観戦することができていた。

拠点は必ずしも必要というわけではないのだから、拠点から離れる決断をすることは容易い。

魔族が先天的に有する飛行能力を以て、私は高空にてその戦いを見下ろしている。

 

死せる英霊たる戦士。男。長短二本の槍を持ち、眼前の戦士に対峙する。

 

死せる英霊たる戦士。女。陽炎を纏った不可視の武器を持ち、眼前の戦士に対峙する。

 

魔術師たる人形。女。白髪赤眼、陽炎の戦士の後方に在る。

 

コンテナと倉庫の立ち並ぶ港の一角。夜闇を照らす街灯の下。

今此処に、二組三人の参加者が集った。……という表現は、正確ではないのだけれど。

目立つ振る舞いをするのはその三人。

しかし遙か上空から見下ろす私には他にもいくつかの人影が見えていた。

 

ホルスの目と呼ばれる、近代西洋魔術では基礎にして奥義とされる技術。

といっても秘匿主義の魔術結社においてほとんどの技術が奥義扱いされてはいるわけだが、その内の一つがホルスの目だ。

それは通常では凝視と眺望を意識して使い分けるというだけのものだが、練達すれば神秘へと昇華し得るのだ。

基本的に、凝視からは邪視(魔眼)が、眺望からは霊視(淨眼)が派生する。

今使っているものは後者、アストラル体を感知する視覚だ。

故に見えているのは物質としての人の姿ではなく、人を象るアストラル体ではあるが。

感情を映すその視覚は、例えるならば熱源を捉えるサーモグラフィーに近い。

ある程度の思考能力を持った生物は、ホルスの目には光って見える。

故に夜闇に紛れただけの簡素な隠形など、堂々と眼前に立っているのと変わらないのだ。

 

付近に居る者達のうち最も近いのは、積まれたコンテナの上に居る者。

戦場のすぐ近くに居るから気付けたものの、彼は強力な隠蔽魔術によって気配をほぼ遮断している。

アストラル側からは全く見えぬが故に、彼を発見できたのは通常の視覚で索敵している協力者のおかげと言える。

彼以外の者達も全て高所に在り、決闘を隠れ見ているらしい。

とはいえ構造物の上という程度の高所であり、空の彼方に居る私と比べれば文字通り天と地の差があるのだが。

何にせよ、見つけた人間は余さず列挙しておいて損は無いだろう。

 

先にも述べた、未だ生ける魔術師。男。金髪長身。隠蔽の結界を纏う。

 

未だ生ける魔術師にして戦士。男。小銃を構える射手。

 

未だ生ける魔術師にして戦士。女。若き者。小銃を構える射手。

 

死せる英霊たる戦士。男。紅の外套を纏う巨漢。雷牛の戦車を駆る者。

 

未だ生ける魔術師。男。若き者。牛車の英霊と共に在る。

 

アサシンは脱落済み。

槍使いはランサーで、多分コンテナの上に居る金髪がマスター。

陽炎のマスターは人形。

牛車の二人組はそのままライダー組。

はっきりわかるのはこれくらいですか?

あとは、セイバー、アーチャー、バーサーカー……。

 

ですねぇ。

他に姿を見せているのは陽炎と金色ですけど……。

現状わかるのは、陽炎はバーサーカーでは無さそうってくらいですか。

金色は宝具まで見せたくせに、残りのどのクラスも有り得そうなんですよね。

剣に、射出に、理性が緩んでるような言動に、と。

多分陽炎がセイバーだとは思いますが。

 

私の隣、足場も無い宙空にはモノリスが浮遊している。

モノリスの上に腰掛けた女が、私の呟きに応えた。

 

 

 

陽炎の戦士と二槍の戦士、両者激しく走り回り無数に刃を奔らせる。

一歩踏み込む毎に、一閃打ち込む毎に、その余波が周囲に破壊を振り撒く。

戦闘能力を持たぬ凡人ならば近づいただけで死にかねぬ、殺意に満たされた戦場(異界)

無数の殺意を掻い潜り、さらなる殺意を撒き散らし、しかして生を得んとする矛盾。

それは正しく戦士の所業、それこそが英霊という存在だった。

 

この戦いが始まって数分。

暫くは一進一退の攻防が続いたが、あるとき槍の戦士が攻勢に出た。

短槍を捨て去り、長槍の封印を解いたのだ。

巻きつけられた呪布が外され、金属光沢と鮮烈な赤い柄が顕になる。

同時に、長槍に秘められた属性相殺の力が発揮され始めた。

 

槍の戦士の戦い方が、柔から剛へ、巧から疾へと切り替わる。

一槍を以て二槍に劣らぬ手数。苛烈に攻め立てる様は例えるならば疾風か。

極めて攻撃的な槍術に対し、陽炎の戦士は一先ず様子見に徹する。

宝具の性質を見極めようというのだろう。

 

その最中に起こった数瞬の間の鍔迫り合い。

厳密に言えば槍に鍔があるわけではないが、鍔迫り合いという表現が適切だろうと思う。

それはまるで旋盤の如く。剣の周囲を渦巻く陽炎の結界を赤槍が切削し、陽炎に包み隠されていた刃を露出させた。

陽炎の戦士の制御下から離れた陽炎の片鱗が、烈風となって周囲に吹き荒れる。

流動的な陽炎は綻びをすぐに塞いでしまうが、槍の戦士にとっては剣の間合いを見切るに足るだけの時間があったらしい。

 

陽炎の中に見たものは、聖光を放つ黄金の両手剣だ。

僅かな隙間からでさえ星の如き煌めきを見せるその剣を、普段は完全に不可視化している。陽炎の結界は凄まじい隠蔽能力を持っているらしい。

それが見えたのは一瞬であった。しかし、見逃すという事は有り得ない。剣が纏う光輝は、まさしく魔族の天敵と言えるものなのだから。

加えて言えば、陽炎とは即ち風だ。現代の魔族は既に克服しているものの、かつて魔族は聖光のみならず風をも弱点としていた。

聖光と烈風を纏ったその剣は正しくデモンスレイヤーと呼ぶに価するだろう。

 

 

 

  三度に渡る聖別を受けた土葬式典刻印黒鍵(聖剣III)と同等の聖剣……。

  いえ、それ以上に極まった大聖剣ですね……。

  あんなヤバいブツの佩剣を認可されるのは埋葬機関の司教上級異端審問官(セレスティアン)ぐらいですよ。

  もしくはごく一部の伝説的な聖騎士とか。

  ましてや英霊(死者の霊)となれば致命者であることもほぼ確定。

  ……あとなんか、あの陽炎の戦士からは竜の気配も感じるますね。

  竜殺しを成し遂げた大致命者というと……凱旋者ゲオルギウスあたりが怪しいですが。

  竜を殺傷せしめる剛槍アスカロン、一説には槍ではなく剣とも言われていましたか。

  あれがかの悪名高いアスカロンですかね?

 

  悪名?

 

  竜化魔族(ニダハラスさん)とか普段は常識人なのに、何かの拍子に「アスカr」まで言った時点でドラゴラム(バーサク)しますからね。

  名前言おうとしただけで魔竜を発狂させるなんて完全にヤバい代物じゃないですか。

  おかげであの人の前で惣流・アスカ・ラングレーの話とかできませんし。

 

  え?何百年か前にエスケンデレイヤの総督やってたあのニダハラスですよね?

  平成まで生きてたんですか?

  なんかずっと前に英霊の座に居るの見た気がするんですけど。

 

  え?とっくに智天使どもに焼き殺されましたけど?

 

天界軍との戦いで糞緑(セディエルク様)が援軍に行ったと思ったら、前線に居るニダハラスさんを無視して後ろの図書館に鉄壁の防御陣を築き上げたそうですよ。

緑ちゃんマジ糞緑。

 

  ……待ちなさい!どこにエヴァの話とかするタイミングあった!

  やっぱり新世紀どころか何世紀も前に死んでんじゃねーか!

 

  いやほら、ニダハラスさんが生きてた頃に引き篭もり(セディエルク様)がたまに外出したと思ったらそのまま失踪したことがありまして。

  二週間後にダマスカス方面捜索隊によって発見されたんですけどね。

  そのとき(セディエルク様)は紙束を握りしめながら瀕死の状態で倒れてたんです。

 

  エスケンデレイヤから見てダマスカス方面ということは、死海の辺りですか?

  じゃあまさか、その紙束は……!

 

  お察しの通り、所謂死海文書というやつですね。

  使徒が云々とか人類補完計画が云々とか書いてありましたよ。

 

  やっぱり……!

  あれ?ちなみになんで倒れてたんです?

 

  いやその……文書の内容が思いっきり旧劇のネタバレで……。

 

弐号機内臓ポロリとかありましたよ。

 

  え?ネタバレ?

 

  あらすじどころか、声優とか台詞とかまで網羅……。

 

魂のルフランの楽譜とかありましたよ。

 

  え?

 

  糞緑(セディエルク様)って、ネタバレすると発狂して下手すりゃ即死しますからね。

 

実際あの人ネタバレで死にましたし。

いくら元魔王な帝国宰相(アルカ様)でも、ネタバレで時空の賢者(セディエルク様)を殺してしまったときは罪悪感とかいう以前にまず何が起こったのか理解不能だったと思う。

 

あ、話題がどっかに飛んでったので仕切り直しましょう。

 

  ……というか何の話してましたっけ?

 

  ゲオルギとアスカの話ですよ。

  可哀想に、リアムスちゃんももう物忘れが激しくなる歳なんですね……。

 

  いえいえ、駄狐との会話内容とかいう無駄な記憶を順次削除するのはとても合理的な選択だと思いますけどね!

 

  はいはいワロスワロス。話戻しましょうねー。

  アスカロンというと、ドラゴンブレスを霧散させて口内まで貫いたという武器ですよね?

  真名開放の効果はシンプルに屠龍だったらいいですけど、カウンター技だったりしたらめんどくさそうです。

  というかカウンターの方が可能性高いです。

  聖ゲオルギウスといえば粛清防御の塊みたいな英雄ですから、カウンター技との相性は良いはずですし。

  ディル(ダールイラー・)(ターザンメ)モー(ミームザンメレー)リス(・ラーイシーン)を9回ずつぶちこんでAC(アーマークラス)積んでから殴っても何割かは避けられるレベルですよ。

  

  あー、なら陽炎は攻撃じゃなくて回避や隠行に使うのが本来の用途だったり?

  ステルス……いやもうそれアサシンじゃないですか?

  ……なんか前に、素手でぶん殴りに行け的な話してませんでした?

  無理ゲーじゃないですか?素手で首を刎ねる冒険者(N I N J A)じゃあるまいし。

  そもそもカウンター技とかいう以前に聖剣持ってる時点でマゾゲーですよ。

 

  そこで諦めるんじゃない!もっと熱くなれよ!

  ……あ、ちなみにワタクシは後衛しかできないか弱いキャスターなので、リアムスちゃん頑張ってくださいね♡

 

  死ねばいいのに。

 

  ……っていうかどう見てもゲオルギとアスカじゃなくてアルトリとカリバーですけど。

 

  何か言いました?

 

  いいえ何でもないですよ?

 

 

 

陽炎の戦士の獲物は聖剣。ならばそのクラスはセイバーであると断定する。

 

セイバーは属性相殺の槍に対して自身の鎧が無意味と判断したらしい。

魔力で構成していたらしい鎧を霧散させ、身軽になって攻勢に出る。

不可視の聖剣を大きく振りかぶりランサーへと疾走する。

 

対するランサー、片足を後方に引いて構え……だがその一歩によって足場が崩れた。

踏み込み一つでさえコンクリートの地面を破壊するのが英霊の力というものだが、今回に限ってはその圧倒的膂力による直接的な破壊ではない。

ここまでの戦闘において度重なる地形破壊によって積み重なっていた瓦礫が、ランサーの体重を受けて崩れたのだ。

ランサーは咄嗟に、足元を確認するためセイバーから視線を外してしまった。明らかな隙だ。

セイバーの突撃から一切の躊躇が消える。もはやその剣が宿すものは牽制(猜疑)でも防御(警戒)でもなく、純化された攻撃(殺意)のみ。

 

ランサーは右手に持つ長槍をなんとか正面に構える。

流石に崩れた体勢で強烈な打突を放つことはできなかったのだろう。

槍の穂先をただセイバーの正面に配置するだけだ。

そのままセイバーが無防備に突撃すれば、セイバーは自ら槍に刺さりに行くことになるだろう。

故に防御か回避かをセイバーに強いることはできる。

だがセイバーは一流の剣士だ。苦し紛れの攻撃など、セイバーを前にしては意味を成さない。

突撃の勢いを落とすことすらせず、無駄の無い僅かな動作で剣を操り長槍を反らした。

次の瞬間には既に、返す刃がランサーの首を狙う。

極めて巧緻な剣術だ。猛進の最中でさえその巧みさに陰りは無い。

 

罠だ。そう思った。

私の視覚(ホルスの目)はランサーの感情(アストラル体)を捉えている。

ランサーはこの状況にあって不自然に冷静であり、そして自身の勝利を疑っていない。

恐らく足場の崩落は故意に引き起こしたものなのだろう。

 

ランサーは、足元の瓦礫に埋もれていた物を器用に蹴り上げ、空いていた左手に掴んだ。

それは先程放棄した短槍だ。

短槍に巻かれていた呪布が解け、赤柄の長槍とは対照的な黄色い柄が姿を現す。

 

ランサーの妙手、それは最良のタイミングだったと言えよう。

その時点で、セイバーはもはや突撃の勢いを止められる体勢ではない。

魔力を後方に噴射して得た膨大な加速力を以て、長槍の間合いの内に潜り込むことはできる。

しかしその後、待ち受けるのは短槍による迎撃だ。

セイバーは長槍によるあらゆる迎撃を想定し、しかし短槍の存在は想定していなかった。

初動にて行った瞬間的な魔力放出は、あくまで長槍の間合いを外すことが目的であった。

攻撃ではなく回避のための加速であった以上、長槍を回避した後は進むにつれて減速することは道理だ。

圧倒的な初速を維持していたのならばそのまま追突して組み打ちにでも移行すれば良かったが、これではもはや無防備に短槍の間合いへと踏み込むことは避けられない。

 

セイバーに更なる切り札が無い限り、ここに至ってとれる選択肢は二つのみ。

捨て身の攻撃か、無理な回避だ。

 

ランサーという強力な戦士に対して如何なる種類の力が有効かといえば、それは精密な剣捌きであり、断じて回避運動の余勢などではない。

故にセイバーが攻撃するためには対長槍から対短槍の構えへと転換する必要があり、それに一手費やせば最速のタイミングでの攻撃は不可能となる。

ランサーは最速と称されるクラスであり、故に二槍の戦士は極めて俊敏な軽戦士だ。

高速戦闘技能者の間合いの中で隙を晒し一手譲るなど、どれほど急いだところで自殺行為に他ならない。

セイバーにとっての一手分の時間があれば、ランサーは確実に一撃を、場合によれば二撃目をも打ち込めるのだ。

攻撃を選べば、相打ちはあっても勝利は無い。最良でも致命に近い重傷を負うことになるだろう。

 

ならばセイバーは回避するしか無いのだが、それもまた無茶無謀だった。

現在セイバーがとっている構えは攻撃的なものであり、咄嗟の防御などできたものではない。

剣で槍を弾くか。否、いかにセイバーに膂力があろうとも、鈍重な両手剣では間に合わない。

剣を手放し肘で槍を打ち落とすか。否、ランサーの反応速度を以てすれば逆に肘を切り落とすことさえ充分に可能だろう。

ならば身を反らし、姿勢を大きく崩しながら無様に回避するか。是。完全に避けた上で追撃に対処できるなどとは到底思えないが、かといって他に選択肢など残されていないのだ。

 

刃が閃く。

一瞬の攻防。

戦場に血飛沫が舞った。

 

 

 

  ……ありゃー。セイバーに攻撃当たっちゃいましたねぇ。

  セイバーがゲオルギウスじゃない事がバレてしまいそうですね。これはマズい展開……。

 

  何か言いました?

 

  いえ別に。

 

  ほーん。まぁいいですけど。どうせ駄狐ですし大したこと言ってないんでしょう。

  粛清防御の塊といっても、あのランサーの技量からすれば当たるのもわからなくはないですね。

  槍の速さと精密さに、片手で軽々と槍を扱う膂力。

  それらに加えて短槍を相手の意識から外しつつ隙を偽装する駆け引きも大したものです。

  ……そこまでやっても腕をちょっと斬るだけで終わるあたり、やはりセイバーの回避力は尋常じゃないようですが。

  流石ゲオルギウスといったところですね。

 

  そうですよね!そうですよね!

 

  なんでそんなテンション高いんですか。

 

  いえ別に。




・情報量/Zero
ヒントどころか答えまで言ってるレベルの有益情報をドブに捨てる判断。

・アサシンは脱落済み
リアムスにはアサシンが見えてません。
気配遮断スキル持った英霊を闇夜の中で見つけ出すとか切嗣さんヤバくないですかね?
小説版は持ってないから詳しく知らんけど、分体とはいえクラスがアサシンである以上は気配遮断スキル持ってるよね?

・ゲオルギウス、アスカロン
冤罪(いろんな意味で

・風が弱点だった
確かヴァーレントゥーガだと飛行ユニット全般(魔族含む)は風が弱点だったと思う。
ヴァーレンから派生した光の目では魔族の風弱点は無くなってるけど、初期バージョンの光の目では風に弱かったと思う。
バージョンの話であって、ストーリー上の時系列の話ではないです。


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