それでも我輩はネコである。 (far)
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ソードアート・オンライン アインクラッド編 ネコの剣士
第1話


 我輩は戸惑っているのである。なにせ、気付けば弱くてデスゲームであったのだ。

 普通は、強くてニューゲームではなかろうか? トムは訝しんだ。

 ただ、ニューゲームはニューゲームであるらしい。

 

 ただし、間違いなく、デスゲームであるがな!

 

 目の前に、ばかでっかい塔が建っておる。まわりにいる人々が、みな鎧を着て武器を持っておる。

 そしてログアウトできないと騒いでおって、さきほど「これはゲームであって、遊びではない」などと、どこかで見た顔が、ドヤ顔で言い捨てて消えた。

 

 どう見てもソードアートオンラインです。本当にありがとうございました。

 

 この状況に、無論のこと混乱はしている。しかしだ。今、困っておるのは、それだけではない。

 

 体がね。ろくに動かないのである。

 

 身動きひとつ取れない、というわけではないが、ひどくゆっくりだ。一歩歩くだけでも、秒ではすまぬ。分の単位が必要だ。

 どうしたものかと困っていると、話しかけてくる人がいた。

 

「あの、NPCですか? それともプレイヤーの方ですか?」

 

 さいわい、しゃべることは出来たのでプレイヤーだと返事をすると、少し驚かれた。

 変わった外装ですね。ネコの被り物なんてどこで? 私もほしい、そう顔に書いてある少女は、続けてそう尋ねた。

 

 うむ? これは素顔であるが…… うん? 素顔?

 

 ああ、そういえば。今はプレイヤー全員が、アバターとして作った顔ではなく、素顔にされているのであったな。

 ネカマが開幕爆死する、ひどいワナであった。ネカマでなくとも、ラインハルトと名乗ってしまった三十代後半やら、クラインと名乗ってしまった、黒髪アゴヒゲやら。

 うむ。ネカマに比べれば、傷は浅いぞ、しっかりしろ。

 

 で。このネコの顔が、我輩の素顔なのであるが。え。まさかこれが動きが遅い理由であるか? というか、バグったであるか?

 失敗しちゃった? 世界を越えたのはいいけど、変換というか定着というか、とにかく何か失敗しちゃったであるか?

 

 わたわたしようとして、体がついてこずにゆらりゆらりと、ゆっくり揺れるておる我輩に。質問した彼女は、何を思ったのか、手鏡を見せてきた。

 

 あれ? 顔が違う?

 

 少女が、これがあなたの今の顔なんですけど、心当たりはないんですか? と聞いておるが、それどころではない。

 ネコはネコであるが、この顔は、我輩の顔ではない。

 我輩はミケネコ系の顔立ちであった。しかしこれは、色からして違うのだが。猫の種類には詳しくないが、品種も違うと思う。模様はネズミと仲良く追いかけっこをする、かのネコに似ているな。

 そういえば。あのネコの名は、我輩のヒーローネームと同じであったな。今となっては、どうでも良いが。

 

 さて。現実逃避も、ここまでにしよう。

 さあ。現実と向き合おう。現実と信じがたいが、無視していても何もならない。

 では、せーの。

 

 

 にゃん太だ、これ。

 

 

 ゲームが違う。

 剣士だけども。確かに剣士であるけれども。

 これ、別のゲームのキャラクターだ。

 ヴァーチャルMMOというジャンルは一致するけれども。

 違うから。この人、ここにいる人じゃないから。

 ソードアートじゃなくて、ログ・ホライズンの方だから。

 

 ああ、もう。そらバグの一つや二つ、起きるはずである。というか、よく存在できたな。

 

 はっ。そうだ。個性。個性が使えるなら、ワンチャン行ける。

 デジタルな世界のここで、使えるかどうかはわからぬが、試してみるだけならば問題ない、はず。

 まずは我輩自身の個性で、鬼火を――――――

 

 SPARK! SPARK! ビリビリビリ!

「グハッ!」

 

 とたんに体に電流が流され、我輩は闇の中へと放り出された。

 何だ? 何があった?

 把握するよりも先に、言葉が振ってくる。

 

「炎なぞ出して、なんのつもりだ? とうとう脱獄する気にでもなったのか? オールフォーワン」

 

 オールフォーワン…… そうだ。我輩は。いや、僕はオールフォーワンだ。

 あのオールマイトとの一騎打ちの後に、隠しておいた個性、肉体交換を発動して入れ替わったんだった。

 

「少し寝ぼけただけだよ。この程度はユーモアだと思って、見逃して欲しいね」

 

 見えない目。身動きが取れぬよう、拘束された身体。口を覆う呼吸器。

 ああ、思い出した。ここはタルタロス。先生の代わりに、我輩の入った刑務所だ。

 

 と、するとだ。先ほどのあれは、夢であったのだろう。

 寝ぼけた、というのは口からデマカセであったのだが、案外当たっていたようだ。

 いやはや。夢の中でくらいは、自由に動きたかったものであるな。

 

 ふむ。ならばもう一度眠ろうか。続きが見れるかも知れぬし、今度はうまく動けるかも知れぬ。

 もちろん、まったく別の夢を見るかも知れぬし、何の夢も見ないかも知れぬ。

 

 久々に、未来が楽しい。気分良く、眠りにつけそうだ。

 では諸君。おやすみなさい。

 

 



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第2話

 我輩は夢の中である。どうも瞑想の個性が、なにやらおかしな、誤作動とも言うべき何かを起こしておる様子なのだ。

 と、いうのもだ。我輩は、元異世界人である。もっと言うと、二次創作のオリ主的な立ち場の存在である。

 それが瞑想の成果で、仮初にだが精神が肉体から解き放れた結果。妙な場所にと、迷い込んでいるのではないだろうか?

 単なる夢にしては、妙に理屈が通るというか、とりとめもないことが無いのである。

 夢というのは、わりとデタラメなものだ。

 例えば、恋人と愛を語るさなか。それまでの流れを無視して、唐突にキリンが登場。首を三本に増やして「どうも。千手観音です」と、しゃべるような展開も、夢の中なら違和感無く進んでいく。

 

 なお、そんな夢をフロイト先生が診断すると。その結果は、たいがい欲求不満の一言で終わる。

 

 キリンの長い首は、アレを暗に示しています。それが増える。それも三本に。あきらかに欲求不満です。

 おそらく、そんな結果になるであろう。間違いない。

 

 まあ。こうして迷い出た先の住人には、そんなこんなの与太話などは言えぬので、適当にごまかすしかないのであるが。

 

 開始地点にて、我輩を猫の被り物をしたプレイヤーかもしれない。そう思って話しかけてきた少女。

 彼女には、我輩は機械に何か不具合があったらしくて、うまくログインできていない。そういうことにしてある。

 ゆえにロクに動けず、しかし空腹などのパラメータもなく。このアインクラッドに存在していたり、していなかったりする。そういうことに、なっておる。

 一度、ヒースクリフと名乗る黒幕が調べに来たこともあったのだが、彼にもわからないらしい。

 

 うっかり「あ、犯人だ」と言ってしまって、我輩を全力で消しに来たが、無駄であったのでこれは確かだ。

 

 いやあ。あの時は周りに人がいなくて、本当に良かったのである。

 聞いてはいけないことを聞いてしまい、巻き添えになるのは、さすがに哀れであるからなあ。

 

 その後。彼とは話し合いを経て、協定を結ぶに至った。

 我輩は、彼の正体をバラさない。彼は、この世界に何か致命的な影響を起こさない限り、我輩を調べない。

 この電脳世界に曲がりなりにも存在できているということは、今の我輩は0と1のデータでできている、ということである。

 つまりは、いじったり、コピーして増やしたりは理屈の上では可能なのだ。

 

 なぜか、できなかったらしいが。

 

 しかし、調べられるというか、覗かれるのも愉快ではない。

 財布の中身や冷蔵庫の中、あるいは自分の内臓を隅々まで見られるようなものであるのだ。それが愉快なはずは無いのだ。

 

 まあ。それもデータとプログラムであると思うので、あくまで気分的なものであるが。

 

 

 

 ところで。つまるところ、これは瞑想している間だけ見られる、夢のようなものである。

 この先どうなるかは分からぬが。今のところは、すべてアインクラッドにつながっている。

 

 しかし、どこに出るかは、完全にデタラメ。運任せのランダムである。

 つまり。安全地帯に出るとは限らないのだ。

 我輩はそれを、二度目の夢で痛感した。痛くは無かったが、痛いほどに感じて、学び取った。

 

 知っておるか? ソードアート・オンラインは、かなり上空にも行けるのだ。

 

 のちに発売される、アルブヘイム・オンライン。飛行することが出来る、というのが売りのこのゲームだが。

 確かこれ、ほぼソードアート・オンラインからの、データの丸パクリであったはずだ。

 つまり。このアインクラッドに、すでに空はデータとして存在するのだ。

 

 すでに、お察しだとは思う。うむ。まあ。そういうことである。

 

 上空百メートル以上はあったであろう場所に、我輩出現。そしてそのまま落下。身動きなど取れぬので、そのまま全身を強打。

 

 そして、無傷であった。

 

 うん。無傷。痛くもかゆくも無かった。ひどく驚きはしたが、それだけだ。

 どうやら、我輩には耐久値が設定されておらず。破壊不能オブジェクトと同じ扱いであるらしい。

 

 そして二回目の出現であったので、まだゲームは序盤であった。

 プレイヤーたちが、まださほど広くバラけていなかったのだ。

 目撃者が、多数出た。そして我輩の情報が、プレイヤーの間に出回ってしまった。

 

 その後。戦闘地帯で見つかると、モンスターの攻撃からの盾として、持ち歩かれる我輩の姿が!

 

 破壊不能の無敵の盾である。しかも置いておくことも出来るし、何よりタダなのだ。

 ずっとは使えぬが、見つけたらラッキー程度のアイテム扱いである。これはヒドい。

 しかしこちらは身動きがロクに取れないわけで。逃げることもままならぬし、抵抗も無理だ。

 ならば、開き直って、運んでもらって色々見ることが出来るだけ、じっとしているよりもマシだと割り切った。妙なことをされたり、PKに使われそうになったりした時は、瞑想をやめればよいのだし。

 

 なお一度だけボス戦に持ち込まれたことがあったが、自称ヒースクリフに追加で禁止されてしまった。

 我輩としても、死人が出るボス戦は見たくは無い。問題無いといえば、問題は無い。

 我輩がいないことで、死者が増えるかも知れぬが、それは元々そうだったというだけであるし。思うところはあるが、どうしようもないのだ。

 

 ヒロアカ世界では、自由気ままに遊んでも、世界は壊れなかった。

 しかしここはそうではない。例えば、黒の剣士一人いなくなるだけで。あるいは、彼が原作と違う女を選ぶだけで。世界は壊れてしまうのだ。

 

 とはいえ。相変わらず、自分ではほぼ身動きがとれぬので。そのあたりは気ままにやっても良いだろう。

 何とかなるなる。きっとなる。

 

 そうであろう? そうだと言っておくれ、開始地点の少女よ。

 最近メンバーに入った、キリトという人が気になるとか、相談されても困るのだ。

 そういえば名前は聞いていなかったが、何であったっけ? サチ? そっかあ。サチかあ。いい名前であるな。

 

 はっはっは。また運命の分岐路であるよ。チクショウ。

 

 ⇒  助ける

    助けない

 

 しかしこの選択肢のカーソル、動かないんですけど。不良品なんですけど。

 えっ、これ助けろって一択であるか?

 

 えっ。ど、どうやって?

 

 

 



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第3話

 我輩は前向きである。目的ができた。ならば、そこを目指して走るのみなのだ。

 このヒマで退屈な生活にも、張りが出るというものだ。

 ただ座っているだけの生活に飽き飽きしていたところに、このアインクラッド世界の夢は、実にありがたかった。干天の慈雨とは、まさにこのことであろう。

 だがしかし。人間というものは、何事であれども、慣れてしまうもの。

 初めは物が見え、自然と呼吸できるだけでも楽しかったというのに、それに飽きてきていたのだ。

 

「はぁ~。なんて刺激的なんだ」

 

 そういうものが、足りないのだ。

 プレイヤーたちに、無敵バリヤーとして活用されているが、所詮は傷ひとつつかぬ、お遊び。痛みもないので、刺激としては弱いのだ。

 

 やはり、人である。

 人と関わってこそ、ドラマが生まれるのだ。

 

 さて。少し整理しよう。

 

 現在の目的は、原作で死亡したキャラであると思われる、サチの生存である。

 ただ生かすだけならば、まあ口八丁で行けなくもない気はする。

 

「宝箱を開ける時。ここでモンスターハウスが来たら死ぬなってところでは、開けてはならぬぞ」

 

 すでに、そう伝えてある。

 これだけでも、彼女の運や心がけが良ければ、生き残れるであろう。

 ただ、記憶が定かではないのだが。彼女が死んだ時の状況がだ。

 サチやキリトが止めるにも関わらず。他のメンツがいいじゃん開けようぜという、軽いノリで開けた結果。モンスターが大量に出現して襲ってくる、しかも逃げ場無しというものではなかっただろうか。

 

「1% 死ぬんだぞ」

 

 悪魔の指揮官と呼ばれた男の、この言葉を聞かせてやりたいものだ。

 

 これはゲームではあるが、遊びではない。この言葉の意味を自覚し続けるのは、ストレスになる。

 そのストレスから逃れるために状況を軽く見ており。ストレスから逃れ続けるために、慎重に振舞えという忠告には耳をふさぐ。

 しかも無意識にそれをやっておるから、悔い改めることも反省もなく、忠告には苛立つだけで、感謝すらない。

 

 このデスゲームの中で、ワナとかあるだろうけど、開けてみようぜ。そんな恐ろしい行動は、そうであったとでも考えねば納得がいかぬのだ。

 

 閑話休題。

 

 サチの生存。そのためには、あとは黒の剣士ことキリトに何ぞ適当に、ワナのことでもささやいておけば良いだろう。

 問題は、その後である。

 サチが死亡し、そののちに復活アイテムのウワサが流れたことで、それを入手するためにキリトが無茶なレベル上げを行った、ということだ。

 

 サチたちのギルドは中堅どころ。そこにトッププレイヤーのキリトは、本来いてはならない。もっと上の階層、最前線で戦っているべき人材だ。

 それがそこまで下の階層に下りてきているのは、ひとことで言うならば、人生に疲れたから、であろうか。

 そして人生に疲れていたキリトが、美少女のサチにコロッと引っかかって、転がり込んだ。確かそういう流れであったはずだ。うむ、だいたい合っている自信がある。

 そしてコロッといった美少女を、キリトが確実に攻略していっている間にも、アインクラッドの攻略は進められているわけで。

 前線のレベルと、キリトのレベルには、徐々に差が出来ていってしまっているのだ。

 無茶なレベル上げは、それを埋めていた。それが無くなってしまったとして。

 

 はたして、将来の様々な局面で、キリトのレベルは足りるのか?

 

 やってみなければ、わからないが。やってみてダメだった場合は、キリトが死ぬ。かも知れぬ。

 そうなった場合。不当に三百人ほど使って、人体実験しているアレは……

 あれ? 結局のところ最終的には、なにをどうやっても実験が発覚して、捕まる未来しかないな。うん。アレはどうでもいいや。

 そのあとのデスガンだったかも、まあ世界レベルでは小事だ。今は、気にしないでもいい。

 だがその更にあと。なんか魂がどうのこうので、なんやかんやで、世界がヤバい。という展開があったような気がするのだ。

 

 ゲームがメインのアニメのハナシで、世界がヤバい、というのはどうかと思うが。

 ほら、ミニ四○やビーダ○ンや、ガン○ラバトルや、遊○王なんかでもしょっちゅうヤバくなっておったし。普通、普通。むしろお約束である。

 

 そんなわけで。将来世界を救ってもらうために、キリトには生き残ってもらわねばならぬのであるが。

 どうしたものであるかなあ。

 

 我輩自身でも、何か出来ぬかと思い。せめてソードスキルでも発動したら、素早く動けないかと思い立ち。ひとつ、実験してみようとして。

 

 そもそも剣を持っていないことが発覚した。

 

 にゃん太なら、そこは持ってなきゃダメであろう。

 そう思うのだが、持っていないものは仕方がない。通りすがりの、我輩を盾にするプレイヤーに話して、借りてみた。

 

 発動した。

 

 うむ。発動した! したのだ!

 

 しかし。ダメージはゼロだった。ゼロ、だったのだ……

 

 我輩に、動作に対するアシストはあった。当たり判定もあった。しかし、ダメージ判定までは存在しなかったのだ。

 なんであろうかなあ。このガッカリ感は。

 もう、今日のところは、帰って寝るのである。瞑想を使わずに寝れば、ここへは来れないはず。

 せめて、スキルの成長ができれば、スキルが増えて楽しいのに。それもなかったからなあ。

 ああ。人生はいつも、ままならぬ。

 

「だが それがいい」

 

 うむ。きっとそれが人生の味である。

 

 

 




●「はぁ~。なんて刺激的なんだ」
グラップラー刃牙より。作中最高度の筋肉を持つ、アンチェインさんの言葉。愛した彼女の(かつて住んでいた町で売っていた)ハンカチのニオイをかいでのセリフ。
もちろん、その彼女さんのニオイは欠片ほども入っていないと思われる。いかん、高度なヘンタイにしか聞こえない。

●「1% 死ぬんだぞ」
アイシールド21より。チームのメンバーがそろい、特訓も乗り越えて試合を待つだけ。しかも相手は強くない。負ける確率なんて1%くらいしかない。そうはしゃぐメンバーに、ヒル魔が冷徹に放った一言。
私はこのセリフで、背筋が伸びて、冷たくなった。

●「だが それがいい」
花の慶次より。信長の甲冑で遊んでたら壊して、切腹となった男をかばって慶次が言ったセリフの一部。
「殿、若水殿の顔をみなされ!戦場で傷だらけになったきたねえツラだ。」
「だが、それがいい!その傷がいい!これこそ生涯をかけ殿を守り通した忠義の甲冑ではござらんか!」
こいつが壊した信長の甲冑より、こいつのがいい甲冑だぞ。と示して、彼の切腹を取りやめにさせた。
ただ、この言葉に先んじて、角が取れていただけの信長の甲冑を真っ二つにしていたが。そこまでする意味はあったのだろうか。
けなした後に持ち上げる形になるので、ネット上でしばしば使われた。
使い方としては「よくある話だ、つまらん」という書き込みの後などに「←だがそれがいい」というように使用する。


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外伝。

古典童話風。


 我輩は夢の中であった。本当の、タダの普通の夢だ。

 目が覚めて、なぜかほっとした。そうだ、夢とはこういうものであった、と安堵した。

 その内容を、忘れぬうちにもう一度思い返してみようと思う。

 

 まず、我輩は公園にいた。飯田くんと緑谷少年と、お茶子さんもいた。

 最初から、おかしい。我輩は今、アインクラッドでなければ物が見られぬし、出歩けぬ。

 

 そして我輩が落ちている竹を見つけて、棒術のように振り回していると。緑谷少年が、坂の下で燃えている倒木を発見する。

 火はゆっくりと、下草や芝生に燃え広がっていく。我輩はスマホを取り出し、この公園で野焼きの予定があったのかを、消防署に聞こうとするのだが。なぜか電話は駅につながってしまって、聞けない。

 すると飯田くんが、なぜか図書館に聞けば良いのだ、と言い出した。

 我輩もなぜか納得し、お茶子さんに電話を任せて、公衆トイレへと走る。バケツを確保するためだ。消火といえば、バケツリレーである。

 うむ。色々とおかしいが、この時の我輩は、そこにバケツがたくさんあると知っていた。

 

 今思えば、トイレまでの道は白い不思議空間をはさんで、すぐであったな。

 そうやってたどり着いたトイレは、これまたなぜか個室に便器が無い。かわりにバケツが六個置いてあった。

 しかも、その中にはなぜか潮干狩りをした後の、海岸の細かい黒い砂が入っているものもある。どうしてだか、それが理解できた。

 ああ、自分よりも前にこれを使った人は、海へ行ってきたのだな。そう思いながらバケツを持ち出すと、外にはS少年とダメオヤジがいた。

 すかさずバケツを押し付け、消火を任せた。

 なぜか文句を言われたが、ヒーローが火事を見過ごすのか、と強気に言ってやらせておったな。

 あの二人がここで出てきた意味は、わからない。しかもこれ以降の出番もない。そのあたり、本当に謎だ。

 

 バケツと消火を任せた我輩は、どうしてだかまた消防署に電話をかけようとした。

 検索しても番号が出ないのなら、地図アプリから番号を割り出せば良いのだと、悪戦苦闘して。今度こそ電話をかけるのに成功する。

 

「はい、スタッフサービスです」

 

 聞こえてきたのはそんな言葉であったが、我輩は普通に会話を進めた。

 

「この公園で、放火後の予定はあるか?」

 

 失敬。普通ではなかった。

 

 だがしかし。それでも通じた。この公園で、場所分かるんだ。

 なお、放火の予定はないらしい。

 よし。ならば消火してもかまわないのだな。そう思ったら、場所が急に変化して、先ほどの火災現場にいた。

 

 なぜか登場人物が我輩だけになり、しかし誰かから渡される水の入ったバケツで、火を消そうと水をかけていく。

 明らかに入っていた水よりも、バケツから出る水のほうが量が多いのだが、我輩は気にしなかった。

 そしてあらかた火が消えて、我輩が一息ついたとき。

 

「わたしが 来た! 君が消防署を駅前再開発計画したな! 逮捕だ!」

 

 オールマイトがやって来た。セリフの中身は、よくわからない。

 

「わかった! こうなったら釣りで勝負だ!」

 

 どこからともなく竿を取り出し、我輩もよくわからぬセリフで返した。

 なにがこうなったらだったのかは、本人である我輩にもわからぬ。

 

 そしてまた場面が変わる――――――ところで目が覚めた。

 

 そして落ち着いて、ああ夢だったのだなと気付いたというわけだ。

 うむうむ。夢とは、やはりこう、荒唐無稽なものでなければならぬ。

 見ている間は、それでも理屈が通っておると感じるのが、おかしくも面白いところだ。

 

 まあ。こんな夢であっても、フロイト先生にかかれば「欲求不満ですね」のひとことで終わってしまうのであろうが。

 

 きっと、火事というのは燃え上がるリビドーの象徴で、それを消そうとあれこれやっているのは、自制しようとしているのではないでしょうか。もっと自分を解き放ってください。とか適当なことを言うのだろう。

 

 たまにはこんな、普通の夢でいい。そう思うのだ。

 

 




●逮捕だ!
ヒーローは警察ではないので、そういえばこれも言わないな。ルパン三世より、銭形警部のセリフと思われる。
初代のルパンの中の人が亡くなった時、初代の銭形の中の人が「ルパン。これから俺は誰を追い続ければいいんだ」と泣きながら問いかけたらしい。私の中の銭形は、いまだにあの人の声である。


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第4話

 我輩は預言者ではない。予言者でもないのだ。だから、付きまとわれても何も出ないのである。

 なにせ、亀の歩みよりも遅くしか動けぬのだ。だからお茶すら出せぬ。

 だからあきらめてくれないかね、アルゴくん。

 え? 何か隠してそう? カンでわかる? それと黒猫団の実績?

 

 黒猫団ってなに?

 

 ああ。サチのいたギルドの名前が、月夜の黒猫団であるか。はあ。その全滅を防いだ?

 

 いや。ほぼ全滅したのであるが。

 

 ワナを警戒しつつも、宝箱をあきらめられなかったヤツが、結局開けてしまったのであるな。

 ただ、帰ろうとするところを、そいつが独断で開けた。その分だけ、逃げるだけの時間があった。それだけである。

 キリトが先陣を切って、他の者が後に続く。

 そして生還したのは、五人中、サチとキリトの二人のみ。

 結局、ギルドは解散。原作では身投げした少年が、闇落ちしたらしいが。顔を合わせたことがないので、そこはわからぬ。

 

 サチが未だにキリトに付いておるので、それが闇落ちした原因ではなかろうか。そういう推測ができる程度だ。

 

 付いておるとは言っても、一緒に戦っているわけではないらしい。

 家を買って、一緒に住んでいるらしいのだ。

 そしてキリトはそこから前線の少し手前まで、通勤。サチはその近場で戦って、無理なく稼ぎ。先に帰って、キリトの帰りを待つ。

 そんな生活をしておるらしい。

 

 新婚か。

 

 つい先日、偶然出会ったサチからノロけられた事実を、キリトの近況ということでアルゴに話したのだが。

 酢でも飲んだような顔をして、そうツッコミを入れておった。いや、まったく同感である。

 逃げることができぬので、延々と語られた我輩の身に、ぜひなっていただきたい。

 それとついでに、この情報をアスナさんにも、流していただきたい。

 きっと、私がこんなに苦労してるのに、お前は何やってるんだと、何か行動を起こしてくれると思うので。

 ん? これも予言かと?

 いいや。これは単なる――――――趣味である。

 

 楽しそうであろう?

 

 アンタも悪い人ダナって? 当然である。ここだけの話。我輩はヴィランであるのだよ。これは内緒だぞ?

 

 あとは、そうであるなあ。予言というか、予測というか。

 PKを繰り返した、レッドプレイヤー。捕まえて、牢獄に入れてあるヤツらのことであるが。

 ああ。そう構えなくて良い。今すぐ、いや、このゲームが終わるまでは、何も起きぬよ。

 ヤツらが脱獄することも、反乱を起こすこともありはせぬ。

 

 ゲームが終わるまでは、であるが。

 

 ああ。そうである。このゲームは、終わる。いずれ、必ず。

 うまく行けば、百層に届く前に。というのは、まだヨタであるが。とにかく終わるのだ。

 それで、現実に戻るわけである。

 戻ったとして。捕まっておるヤツらが、引き続き牢獄につながれると思うかね?

 うむ。察しがいいな。無罪放免であるよ。

 異様な状況での、特殊な形での、間接的な殺人。それも本人が確実に死ぬと確信できていたかどうか。殺意の有無が証明できない。

 捕まえておけるのは、この世界が終わるまでである。

 

 おや。待ちたまえ。連絡を取るのか、掲示板か何かに書き込もうとしておるのかは分からぬが、ハナシは終わっておらぬよ。

 

 ああ。まだ続きがある。ヤツらが無罪になったあとも、まだ続くのだ。

 無事に放免となったヤツらが、まっとうに人生を生きると思うかね?

 ましてゲーム内で、自分を捕まえたり敵対したり、取り逃がしたりした。そういう因縁を持つ相手を、現実で放っておいてくれると思うかね?

 やるよ。ヤツらは、やる。やらかす。リハビリを終えて、体が動くようになったら、間違いなくやってくる。

 

 さあ。それでも、ヤツらをこのまま、生かしておこうと思うかね?

 

 アンタ、悪い人ダナって?

 

 うむ。その通りだとも。

 我輩は、ヴィランである。

 ハハッ。他の者には、内緒だぞ?

 

 

 

 

 

 ――――――――――――よし、行ったな?

 

 うむ。行ったか。よし! 久々にヴィランらしいことができて、満足である。

 べつだん、悪ぶったことに意味などないが。

 先生の生徒としては、たまにはこういうこともやっておかねばならぬ。そう、思うのだ。

 この世界も悪くはないが、我輩がいるべきなのは、もはや会えぬとしてもあの世界であるので。

 

「この世界は俺たちにとっちゃあ現実だが、お前にゃただのファンタジーだ。帰んな。お前の現実に」

 

 いや、ヒロアカ世界も現実じゃねーだろって?

 いやいや。生きた以上は、あれがもう我輩の現実である。

 

 

 




●「この世界は俺たちにとっちゃあ現実だが、お前にゃただのファンタジーだ。帰んな。お前の現実に」
サイボーグクロちゃんより。男前なネコがガトリングなどをぶん回して大暴れする、ギャグと人情と心意気のつまったマンガだった。アニメ化したが、製作が追いつかなかったかなにかで、突如打ち切りになっていた。「箸より簡単だった」が記憶に深く残っている。
砂だらけの異世界へ行き、そこで冒険を終えてなお残ろうとしたコタローというキャラに、その異世界の住人がかけた言葉。
いっぱしのゲーマーなら「クソゲー」って決め付ける前にもっとやりこんでみるんだな。という死柄木に刺さりそうなセリフもあった。なおやりこめと言っているゲームのタイトルは人生である。


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第5話

 我輩はラスボスであるらしい。なぜか、そういうウワサが出回っておる。はてさて。出所はどこであろうなあ。

 まったく心当たりがないのである。いやはや。これは、困ったものであるなあ。

 

 それとは関係がないが、どこぞの情報屋が犬が苦手で、本気で戦う時は全裸になるというウワサが流れておるようだ。

 はっはっは。どこから流れ始めた情報であるやら。不思議な話も、あるものであるな。

 

 まあ。ラスボス説に、裏付けのようなものを与えてしまったのは、我輩なのであるが。

 

 「お前が茅場ってのは、本当か」と、妙に思いつめた顔で、アゴヒゲのサムライが仲間を連れてやって来たことがあった。

 そして、つい悪乗りしてしまった我輩が「ならば、どうするね? プレイヤーの諸君」と返してしまった。

 

 なんか、問答無用で斬りかかられた。

 

 知人に死者がでたばかりで、気が立っておったらしい。

 集団で、連携して。「スイッチ!」などと複数人による、高度な連続攻撃が我輩を襲った。

 まあ、効かないのであるが。

 

「ダメージは……ゼロじゃ」

 

 かのドワーフのように、スキルや装備でダメージを打ち消したり、軽減した結果ではなく。単に、破壊するためのデータがないという、卑怯な存在であるがゆえの無敵。

 それだけに、スキルのように効果が時間切れになることも、使用可能な回数の上限がくることもない。

 先に、彼らの方の限界がやってくる。

 一度距離をとり、油断なく我輩を観察する彼らに、我輩はゆったりと声をかけた。

 

「気は済んだかね? なら、落ち着いて話をしようじゃないか」

 

 我ながら、紅茶かブランデーでもあったら、飲んでいそうなノリであったな。何となく、そういう気分であったというだけであるが。

 あるいは。現実の方で、ずっと先生のマネをしておるので、それが残っておったのかもしれぬ。

 

 そして彼らは何も言わず。そのまま撤退していった。

 うむ。今思えば、どう考えても、あれが原因であるな。

 まあ、やってしまったものは仕方がない。それに、分かったこともある。

 

 悪役を演じるのは、意外と楽しい。

 

 そうかあ。これが先生のやっていたことかあ。これは魔王を目指しても、ムリはない。

 

「佐山の姓は悪役を任ずる」

 

 あの名状しがたい、愛すべきバカな主人公もそう言っていた。

 

 魔王になることだけが目的ではなく、魔王としてふるまうこと自体も目的なのであるな。

 それゆえの、手段の制限。ボスの言うところの、しばりプレイ。

 魔王らしくないふるまいなど、無粋であるし、そんなものは楽しくないのだ。

 

 人生とは、楽しむことと見つけたり。

 

 どうなってしまおうとも、楽しむことさえ出来れば、それで良いのだ。

 我輩も、意図してはいなかったが、人生ブン投げたあとでも、こうして楽しめているわけであるし。

 

 また来るのかなあ。来たら次はどうしようかなあ。

 そうやって、ワクワクソワソワしながら、彼らを待っておったのだが。

 

 これがまた。寝ても覚めても、やってこない。

 

 確かに我輩はランダムで出現ポイントの変わる、ボーナスアイテムのようなものであるが。

 それにしても、遅い。

 どうしたのかと思っておったら、バッタリとこの世界の主人公、キリトと遭遇した。

 

「ああ、サチのダンナさんか。しばらくぶりであるな」

 

 一応面識があり、黒猫団の件では恩があり。昨今では茅場と言われている。

 そんな我輩に、どう反応したら良いものか。露骨に困っておったようなので、こちらから声をかけてみた。

 

 魔王の生徒はお休みである。彼を敵に回した場合、不可能を可能にして、我輩をどうにかしてしまうご都合主義が発動しかねない。主人公補正は、原作補正さんよりもきっと強敵だ。

 どこぞの素人童貞を思い出して、いや、そうでもないかも知れないという考えもよぎったが。彼とキリトでは、主人公っぽさが違うからなあ。

 

 キリトは「アンタは茅場なのか?」と、まっすぐに聞いていた。

 こちらを射るように、まっすぐ見つめる目。右手に油断なく握られた剣と、コマンドを打ち込むために空けられた左手。

 うっかり「そうだと言ったら?」と答えそうになる衝動を、何とか押さえ込む。

 

 いやはや、これは良い主人公であるな。我輩がこの世界に生まれておったら、遊んでもよかったのであるが。

 残念ながら客人に過ぎぬ今は、そうするわけにもいかぬのである。

 

「えっ。違いますけど」

 

 あえて敬語で言ってみた。

 「いや、でもクラインは…」「他人のやっているゲームを眺めているだけじゃ…」などと言い出したので。

 

「彼なら、普通のプレイヤーに混ざって、ハッスルしておるぞ?」

 

 ちょっと爆弾を投げ込んでみた。

 主人公で遊ぶわけにはいかぬが、こうして少し世界を引っかき回して遊ぶくらいは、きっと許されると思うのだ。

 人生とは楽しむものであるからね。仕方ないね。

 ふらっと立ち寄っただけの客人でも、それくらいの楽しみは、あって良いと思うのだ。

 

 まあ、さすがに誰が茅場かは教えてやらぬが。

 そこは自分で見つけてみたまえ、主人公。

 

 さあ。がんばれ。

 

 

 




●茅場
茅場晶彦。ヴァーチャルMMOソードアートオンラインの生みの親。ヴァーチャルマシン自体がこいつの発明。ヴァーチャルゲームのお約束のデスゲームを起こした犯人でもある。動機はガチのゲームだ、ガチでやれ。それでこそ、この世界は現実になる。という感じの、芸術家っぽいもの。俺のゲームは最高なんだ!と言いたいだけちゃうんか。

●「ダメージは……ゼロじゃ」
TRPGのアリアンロッド・サガのリプレイに登場するキャラクター、ゼパの決め台詞。防御主体のキャラメイクであり、最終的にはボスのダメージすら複数回こうなる。

●「佐山の姓は悪役を任ずる」
終わりのクロニクルより。佐山 御言のセリフ。誰も彼もが濃い中で、もっとも濃かったゆえに、まとめ役を担えた主人公。普通は苦労人になるはずが、逆に問題しかないメンバーらを振り回すほどマイペース。物語自体は、恐ろしいほどブ厚い。だが逆に考えてくれ。それだけたくさん楽しめる。そう考えてくれ。何より、完結はしているからこれ以上は増えないぞ。

●さあ、がんばれ
魔人探偵 脳噛ネウロより。アルファベットで書くとneuro(ニューロ)となって、神経学や神経の~を意味する英単語なのだなと、さっき発見。
週刊ジャンプ連載の、探偵ものではあるのだが、出てくるキャラや謎がどれも一味違う、推理なにそれ美味しいね。というものばかり。例「ドーピングコンソメスープだ」
作中のラスボス、シックスさんが部下に自害を命じた時のセリフ。
「正直罰なんてどうでもいいんだ ただ単純に… 君がそれで死ぬのを見たいんだよ さあ 頑張れ」
このガンバレは耳に残る。


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第6話

 我輩はにゃん太である。で、あるからして。色々とやらかしたネコなる人物とは、係わり合いがないのであるな。

 つまり我輩は無罪である。オーケー?

 

「オーケイなわけないだロ。せめて口調くらいは変えなヨ」

 

 む。心外な。変えておるぞ。普段の我輩ならば、オーケーなどという横文字は、極力使わぬ。

 違う、そこじゃない? もっと根本的に変えろ?

 それはイヤであるな。我輩はあまり自分というものを曲げたくはないのである。

 

「ミクは自分を曲げないよ!」

「俺様は俺様だ。ただひたすらにオレサマだ!」

 

 ただのワガママ。下らぬこだわりではあるがね。

 誰にだって、そういうものはあるものであろう?

 

「じゃあ、何で今は偽名を名乗ったのサ」

 

 思ったよりも、事態が混沌としてしまったのでなあ。少しばかり、目をそらしておきたかったのだ。

 ほら。誰にだって、そういうものはあるものであろう?

 うむ。現実逃避だよ。わかるだろう?

 

 わからなくもないけどサ。そう言った彼女の名前はアルゴ。たびたび我輩に会いに来ては、会話で情報を仕入れようとする、情報屋さんである。

 黒猫団に具体的な警告をしたことで、我輩をアインクラッド内部の情報を渡してくれる、NPCかなにかだと思ったらしい。

 そして物は試しと、やって来たのが、この間のアレである。

 

 その結果。我輩のウワサに、ヤバイやつかもしれないという内容がくっついた。

 奇妙なプレイヤー。バグがいつまでも直されない。ダメージを完全にカットする上に壊れない盾。たまに意味深なことを言う。などのウワサに加えて、である。

 

 我輩の正体が茅場という説は、そこから飛躍したものである、らしい。

 らしい、というのは。さすがにウワサの流れを完全に追うことは、情報屋アルゴにもムリだったからだそうな。

 

 なお。あの時にアルゴに頼んだ、正式ヒロイン予定のアスナさんに流した情報。主人公キリト、死ぬはずだったが生き残ったヒロインサチと同棲始めました。というお知らせだが。

 少し、思ったのとは違うことが起きてしまった。

 と、言うのもだ。まだこの頃のアスナさんは、一刻も早く攻略を、という使命感。というよりは強迫観念に駆られていて、キリトとうまくいっていなかったはずであった。

 ところがだ。この情報を聞くなり、なにやら、どこかからヘンな電波でも受け取ったのか、突如「泥棒ネコー!」と叫びを上げて、サチに食って掛かりだしたのだ。

 二人の家の場所が、第二十二層の釣りが出来る、あのあたり。つまりは、原作でアスナさんが将来キリトと同棲する場所であったのが、マズかったのであろうか。

 それとも、原作補正さんが誤作動でも起こしたのであろうか。

 

 まあ、これはキリトの周りでラブコメ度が上がっただけとも言えるので、問題は無いと言えば無い。

 むしろ、このままヒロインの座をめぐる争いに、正妻さまが参加すらせずに消えて行く。そんな可能性が無くなった分だけ、良かったのではなかろうか。

 

 問題は、前回キリトに投げた、茅場はプレイヤーの誰かだという、あの情報である。

 

 うん。なんかね。

 疑心暗鬼が、広がっちゃってね。

 一部では、その、なんだ。なんと言ったら良いか。

 え~~。あ~~。うん。魔女狩り。

 そんなことが、起きてしまったらしいよ?

 

 キバオウという人が関わっているらしいが、狩った側か、狩られた側かもわからない。

 騒動が突発的にあちこちで起きて、事はもう、大混乱と言っていいらしい。

 事態を収束するべく、最前線の攻略組すらも、一時攻略の手を止めて動き始めたのだそうな。

 

 違うのだ。

 

 ここまで大事になるとは、思ってもいなかったのだ。

 ただキリトが頭の片隅にでも、この情報を置いておいてくれたら。原作と違う展開になっても、あの場面でひらめいてくれるはずだと、そう思って伝えただけなのだ。忠告のつもりであったのだ。そう。

 

 良かれと思ってぇ!

 

 こうなったらもう、茅場を売るくらいしか、解決策は思いつかぬが。

 その場合、ヤツは逃げ出すだけで、原作のように一騎打ちなど受けてはくれぬであろう。

 つまり。ゲームクリアには、百層まで行かねばならないことになる。

 そうならないためには、何をどうすれば良いのか――――――

 

 うむ。我輩には、思いつかぬな。

 で、あれば。誰かに聞いてみるしか、道は無い。

 

 アルゴくん、アルゴくん。すこぅし、相談があるのであるが。

 情報料として、茅場晶彦のプレイヤー名を教えるから、一緒に考えてはくれぬかね?

 

 

 




●「ミクは自分を曲げないよ!」
アイドルマスターシンデレラガールズより。猫耳アイドル前川みく。CD第二弾に選ばれた彼女の、ドラマパートでの発言。魚が嫌いでネズミが苦手など、ネコキャラ? と自分の売りを疑われた時に放ったセリフ。AA化がやたら早かった。アニメでもこのセリフは採用された模様。
なお「え……ひどくない?」のセリフも彼女のものである。

●「俺様は俺様だ。ただひたすらにオレサマだ!」
ブラックロッドシリーズ、ブライトライツ・ホーリーランドより。武装坊主ガン・ボーズ。巨大な杖を持つ捜査官。魔法+サイバーパンクな、シャドウランと似たコンセプトながらも、東洋色が強く、各地のアーコロジー以外に生き残った人はほぼいないという世紀末。そんな中、他人の命など屁とも思わぬ、暴虐を振るう魔人GGスレイマンのセリフ。ただひたすらにユニーク。


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第7話

 

 我輩たちは密談中である。お相手はアルゴくんと、茅場がプレイヤーの誰かであると、ウワサをばら撒いてしまったキリトだ。

 キリトが我輩がぽろっとこぼした話を、バラ撒かなければなあ。ここまで大きな話にはならなかったであろうになあ。

 え? あんなことを誰かに言われたら、相談するだろって?

 

「いやいやキー坊。そこは、広まらないように、相談する相手を選べヨ」

 

 アルゴくんが、我輩が言いたかったことを代弁してくれた。まったくその通りである。

 というか、誰に相談したのであるか?

 エギル? 誰であったっけ? ハゲの商人? ああ、あの。で、店で話してたら、誰かが聞いてて、そこから広がったらしい、と。

 ふうむ。アルゴくん。この少年に、情報の扱いについて、なにかひとこと。

 

「ダメダメダナ」

 

 本当にひとことであるなあ。まあ、やってしまったことは仕方が無い。

 事態の解決をはかりたいのであるが、相談に乗ってくれるかね?

 と言っても、我輩は動けぬ。相談だけではなく、実行もそちら任せになるけれども。

 黙ってうなづく二人に、まずは情報をブチ撒ける。

 

 茅場晶彦は、ヒースクリフを名乗って、騎士団の団長をやっておる。

 第九十層か、そのあたりで「今明かされる衝撃の真実! 実は私が茅場だったんだよ!」とラスボス化しようと企んでいる。

 それまで死ねないので、体力が五割を切ろうとすると、回復する仕様です。

 ラスボスになるための練習をつんでいるらしく、ソードスキルに対する対策は万全だ。

 彼だけはログアウトできる仕様で、たまに現実でリフレッシュしている。

 自分がログインしている間は、恋人っぽい人に現実での対処を任せている。

 

 こんなところであるかな。

 うん? どうした二人とも。目が死んでいるであるが。

 

「信じられるかぁっ!」

 

 お、おう。急にどうしたキリト。大声でこの情報を叫んで、拡散したくなったのであるか?

 なにやらそれっぽいことを叫ぼうとしていたらしく、キリトが慌てて自分の口をふさぐ。

 大方、騎士団長のヒースクリフが黒幕だなんて信じられるか、とでも叫ぼうとしたのであろう。

 そんなキリトを若干あきれた目で見ながら、アルゴも信じられないと口にした。

 

「攻略に熱心で、ユニークスキル持ち。大手ギルドのギルドマスター。普通に考えたラ、ありえないダロ」

 

 普通の犯人なら、もっと自重すると?

 はっはっは。何を言うかね。普通の人は、デスゲームなんて主催しないのだぞ。

 

 しばらく考え込んだアルゴくんに、証拠は? と聞かれたが、そんなものはないんだよなあ。

 

 まあ、いいや。ウワサの大本であるので、収拾に手を貸そうと思ったが、どうにもならずとも我輩は困らぬ。

 君らが放置すると言うのであれば、それはそれで仕方が無い。

 好きにすると良いのである。なに、なるようになる。

 いや、無責任なと言われても。我輩は動けぬ身であるし。ウワサをバラ撒いたのはキリトであるし。

 知っていることを全部吐いて。それを信じられないと言われたら、もうやれることは無いと思わぬか?

 

「俺たちにどうしろって言うんだよ」

 

 スネるなよ、少年。言ったであろう? 相談に乗ってくれと。そして実行してくれ。それが我輩の望みである。

 我輩だけで考えても、この天空に浮かぶ塔から落としたら、さすがに死亡判定が出ないか、とか。茅場の愛するアインクラッドそのものに、全プレイヤーで破壊活動をしかけたら、キレて戦ってくれないかとか。そんな案しか出なかったであるからなあ。

 なお塔から落とす際は、途中でログアウトせぬよう縛り上げて、ログアウトボタンを押せぬようにしておくのが望ましいな。

 

 いや、そこで引いてくれるな。確実に仕留める手段が思いつかない以上、可能性を少しでも上げるために徹底するのは、やむをえぬのだからして。

 

「でも確信を持てない状態で、そういう手段に出るのは、ちょっとなあ」

 

 しかし正体を確認してしまったら、茅場は逃げるぞ。最上階で待っている、とか言って。

 

「じゃア、両方いっぺんにやったらいいダロ。オレっちにまかせナ。正面突破ダ!」

 

 えっ。なんか思いついたであるか?

 ふんふん。えっ、ヒースクリフの前で名乗りを上げて、茅場と名指ししての一騎打ちの申し込みであるか? 色々大丈夫であるか、それ?

 いや、まあ。そちらが良いのなら、いいのであるが。あとは任せた。我輩、そろそろ眠いのだ。

 くわしく聞かないのかと? 聞いても、何もできぬのでなあ。結果だけ教えておくれ。

 いや。うまくいったら、ゲームクリア。教えてもらうまでもなく、わかるな。

 では、がんばっておくれ。健闘を祈るのである。

 

 

 

 そうして我輩は、牢獄に囚われた現実へと帰還して。

 以降、どれほど深く瞑想をしても、あの巨大な塔には行けなくなった。

 彼らがあのゲームをクリアしたのか。それともゲームオーバーになってしまったのか。

 ゲームオーバーには、プレイヤーが全滅しないといけないので、期間が短すぎる。おそらくはクリアしたのであろうと思うのだが。

 所詮、ひとときの客人であっただけの我輩には、もはや知る由も無い。

 せめてクリアして、そのあとも上手くいっていて欲しい。そう、祈るだけである。

 

 瞑想のつながる先は、次があるのかどうかすらわからぬ。

 あの世界への心残りもある。

 であるが、まあ。とりあえずは。悪い夢ではなかった。今はそれで、よしとしよう。

 この牢獄からではあるが、別れを告げよう。

 ありがとう。ごめんなさい。そして、おさらばである。

 

 

 




百話積み重ねたあとのシメと、八話のそれでは重さも何もかも違うのだなあ、と。
時は流れない。それは積み重なる。サ○トリーだったかのCMのキャッチコピーだけど、そんな感じです。


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ハリー・ポッター編 ダンブルドアと極東の文化
第1話


20・19・18……ひゃあ、ガマンできねえ投下だ!
自分で思った以上にSAOが打ち切り臭かったので、続きを投下。
しかしSAOではないという。


 我輩は幽霊である。肉体が無いのは、あの塔の時と変わらぬ。

 

 肉体は無いが、存在する。それが幽霊である。

 

 といっても、死んだわけではない。幽体離脱なるものが出来るようになったわけでもない。

 あの世界とはまた別の、異世界への一時転移である。

 

 我輩はあれ以来というもの。アインクラッド世界のその後が気になり、祈るような気持ちで瞑想する日々であった。

 そんなある日のこと。ふいに、壁を乗り越えたような。そんな感触がして。

 気が付けば。大きな岩の上にそびえ立つ、白い石で出来た西洋風の、どこか見覚えのある古い城。その門の前におったのだ。

 

 あたりは暗く。夜であるようだった。城からは明かりが漏れており、ひとまず中へ入ってみようと、一歩踏み出そうとした。

 

 地面の感触が、無かった。

 

 いや、落とし穴やガケがあったわけではない。

 ただ単に。我輩が空中に浮いておったというだけのことだ。

 しかも、我輩にはヒザから下が存在せず、その上も透けておった。

 

 思わず手で叩いて、足が存在することを確かめたが、その手もまた透けておることに気付き、我輩は恐慌に陥った。

 

「おおおぅぁ、あわわわわわわわわ」

 

 うむ。意味がある言葉は、出てこなかったな。

 人間。不意に追い詰められて混乱すると、そんなものである。

 

 この時、大根を両手に持って踊る小人が見えたような気もするが、きっと気のせいだ。

 

 そしてそんな我輩の前で、門が急に開いて、ヒゲもじゃの巨人が出てきた。そして彼は我輩に話しかけてきたのだ。

 

What are you doing?(なにやってんだオメェさん) Who are you?(だれだぁ)

 

 イカン。英語だ。

 そう思った我輩は、とっさに世界共通語で返した。

 

「ニャー」

 

 猫の言葉は、みんな好き好きに解釈してくれると思うので、結果として共通語になるのではなかろうか。

 少なくとも、この時は通じた。

 

Are you a lost child?(オメェさん迷子かい) OK,come in(わかった、ついてきな)

 

 ヒゲの巨人はそう言うと、我輩を城の中へと連れて行ってくれた。

 よし。このくらいの英語なら、まだ覚えているのである。高卒認定試験ありがとう。

 とはいえ、会話が複雑で理解が追いつかなかったり、話す速さに付いていけなかったりしそうなので。しゃべれぬ振りは続けるのであるが。

 

 なにせ、ここがどこのどんな世界かは、読めたであるからなあ。

 というか。この巨人を、我輩は知っている。見覚えがある。記憶に残っておる。

 彼は、ハグリッドである。ホグワーツの森番で、森に人食い蜘蛛を放って、繁殖させた男。禁じられた森を、さらに禁じられた場所にした危険人物。

 

 森番とは、いったい何だろう。

 

 哲学的な思考に陥りかけた我輩を、早く来いとばかりに、ハグリットが首根っこを引っつかもうとした。

 意外とその手つきは優しかったが、我輩は幽霊である。その手は我輩を突き抜けてしまった。

 ふむ。感触があると言えばある。ないと言えばない。これはまた、不思議な感覚であるな。

 

「にゃ~?」

 

 どこ行くの? そんな感触、意味合いで問いかけてみると、きちんと返事が返ってきた。ダンブルドア校長のところらしい。

 

 あのホモのところか。確か、男に惚れて付いていこうとしたら、弟に止められて争いになって。そこで事故が起きて、妹が巻き込まれて死んだのだったか?

 映画でしか知らぬ上に、うろ覚えで、ヘンな覚え方をしている恐れはある。しかし、これは大体合っているという自信もあるな。

 彼は計算高いが、善良でもあるという記憶もある。まあ、悪いことにはなるまい。逃げ出すのは、いつだって出来る。

 

 魔法の世界。ホグワーツ。まずは、このファンタジーを味わうとしよう。

 

 

 




●あわわわわわわ
恋姫夢想より。慌てた時には、あわわかはわわである。臥龍、鳳雛の二大軍師のうち、史実で早死にする方のセリフ。三国志の武将などを全員女性化した、その発想はあったが、誰がそこまでやれと言った。というゲームから。なお元はエロゲである。

●大根を両手に持って踊る小人
魔法陣グルグルより。場が混乱していると「ダイコンランです」と、大根を両手に持って背景で踊る、ただそれだけの妖精。
なお一発変換で出てくる魔方陣は、全部のマスに数字を入れ、縦、横、斜め、どの列の数字の合計であれ同じという別物のことなので、気を付けるんだ。


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第2話

小此木氏の 歌が力に!?俺の歌を聴けー!! を推薦してみる。
シンフォギアにバサラっぽい人を突っ込んだら、ハッピーエンドになった話。どんなに強引でも、バサラなら仕方が無い。読む間のBGMにFireBomberを聞きたくなる。
全14話完結済、勢いで読むが吉。


 

 我輩は幽霊初心者である。移動ひとつとっても、なかなかに、うまくはいかぬ。

 空中を踏んで前へは進めるのであるが。こう、なんと言ったら伝わるのであろうな。

 どこに、どの時点で足が付くのかが、わからないと言ったら良いのか。

 それとも。にごった水面の河かなにかを、歩いているようなものと言ったら良いのか。

 しかも我輩は日本人の幽霊であるせいか、足が無い。不思議と空中を踏む感触はあるのだが、意識して歩こうとすると、これが本当に難しい。

 

 道理で、幽霊というのは飛ぶのであるな。

 

 まさか、そんな理由とは思わなかったが。

 なお、我輩は飛び方がわからぬ。まったく持ってわからぬ。今、浮いていられる理由すらもわからぬ。

 

What happened? Come early(どうした? はよ来い)

 

 ハグリッドが呼んでいる。行けたら、行っているのである。

 こうなれば仕方が無い。

 考えてしまえば難しいのであれば、考えなければいい。

 息を吸って、吐く。頭をカラにする。集中しながら、意識のレベルを落とす。

 そして歩き出す。無意識にであれば、足を踏み出せていたのだ。出来ていたなら、そうすればいい。

 

 これも瞑想のちょっとした応用である。

 使用しすぎたせいで、個性として使えているのか、それとも素で覚えて使っているのか、もはや区別が付かぬが。

 

 そして歩いてホグワーツの門をくぐる。

 門の先。目に飛び込んできたのは、古い西洋の街並みにも似た石造りの家たちだ。右手には、蒸気機関車が止まっている。あれも魔法関係の何かで動いているに違いない。

 きょろきょろと、周りを見回しながら進む。石畳の上、30㎝くらいを歩きながら、巨人のあとをついて歩いていく。

 

 まだ魔法らしい魔法は見ておらぬが、すでにファンタジーの空気を呼吸しておるような気分である。

 正直、楽しい。

 

 おや。家が途切れた。そして道が分かれている。

 

Don't go to the left. That's a lake(左に行っちゃなんねえ。そっちは湖だ)

 

 水中人とかが住んでいたアレであろうか。小さな子供も通う学校の敷地内に、必ずしも人間に友好的ではない種族を住まわせて良いのであろうか。

 まあ、良い。我輩としては楽しそうだから、かまわないことにするのである。

 

 そしていよいよ城が近くに見えてきた。またあらためて門があり、その上には翼の生えたイノシシの石像が、狛犬のように飾ってある。あれは何か意味があっただろうか。

 

 うん? 待てよ。

 

 そういえば別に明かりで照らされてもいないのに、像がくっきりと見える。

 道中も、ハグリッドのランタンひとつだというのに、全く不便は感じなかった。

 我輩は猫であるがゆえに、夜目がきく。しかし、さすがにここまでハッキリとは見えなかったはずだ。

 これも幽霊になって変わったことの、一つであろうか。

 現実に戻った時、どうなるか少し楽しみ――――――いや、僕に目は無かったね。あまりに楽しくて、ついうっかりしてしまったよ。

 

 楽しかった気分に、水が指されて、少し冷静になった。

 だがそれも良かろう。今から、我輩の採用面接のようなものなのだから。

 せっかくこのハリーポッターの世界に来たのだ。楽しむのに、ここホグワーツ以上の場所なぞ、ありはしない。

 人生は楽しむものである。そのためにこそ生きておる。

 

「あの忘れえぬ日々 そのために今 生きている」

 

 ああ。楽しかったとも。そして、これからもきっと楽しいのだ。

 まったく。人生というやつは、最高であるな。

 

 巨大な木製の、おそらくは樫の木の扉を開いて、ようやっと城の中へ。

 おお。玄関ホールだ! すごいぞ映画で見たままだ! 思ったより暗くて地味だ!

 壁に肖像画が多くかかっておるが、あれらは皆しゃべるのであろうか?

 正面の階段は、やはり昇ろうとすると波打って、遊んでくれるのであろうか?

 それよりも今は夜である。幽霊は。我輩と同じ幽霊たちはどこだ。

 

Calm down. Cait Sith(落ち着け。ケット・シー)

 

 急にはしゃいで、周りを見回す我輩の頭に。ちょうど触れるくらいに、その大きな手を置いて。ハグリッドが、苦笑しながらそう言った。

 ケット・シーとな?

 確か長靴を履いた猫とか、あのような感じの妖精であったな。その姿は、ひとことで言えば二足歩行の猫。なるほど。ピッタリだ。

 ハリーポッターシリーズには出ておったかな? ヒゲが魔法の杖の素材の一部になっておったのは、なぜか覚えている。

 

 きょとんとして、動きを止めた我輩を置いて、スタスタと。いや、ドスドスと歩いていったハグリッドが、柱の前で止まって杖を取り出す。

 

Chocolate Frog(カエルチョコ)

 

 今日の合言葉は、カエルチョコであるらしい。

 ぐるりと柱が回転して、階段が現れる。校長室のある塔への、階段である。

 魔導エレベーターとか、そういうのは無いのであろうか。動く階段、魔法のエスカレーターならあるわけであるし。

 

 そんな下らないことを考えていたら、すぐに部屋についてしまった。

 ハグリッドの大きなこぶしが、三度ドアを叩く。

 

 さて、面接である。

 さあ。お祈りされぬように、がんばってみるとしようか。

 

 

 




●「あの忘れえぬ日々 そのために今 生きている」
機動戦艦ナデシコより。不要と判断されたデータ、記憶を削られてしまったメインコンピュータ、オモイカネの言葉。後にナデシコを取り戻そうとするクルーらへ呼びかけるルリの想いでもある。
人類初の星間戦争、木星と地球の間でのそれに、民間会社が運営する戦艦に乗って、腕は一流だが問題ありなクルーらが火星へ旅立つ。一時は二次創作がゴロゴロしていたのだが、さすがにここ数年はほぼ見かけない。


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第3話

 

 我輩は通訳を手に入れたのである。これで英語が完璧でなくとも大丈夫だ。

 ただこの通訳。やたらと忙しいので、常に我輩のそばにいるわけではない。むしろ、いないことのほうが多かろう。

 

 通訳の名前は、アルバス・中略・ダンブルドアである。名前が長いので、一部省略。

 

 ただの猫の妖精の幽霊という、変り種であるが危険はなさそうな存在として、ここホグワーツに居座ろうとした我輩であったが。

 この老年になっても好奇心を失わぬ、世界最高峰の魔法使いの興味を引いてしまったのが、運の尽き。

 何らかの呪文で、調べられた結果。心に直接語りかけてきたのだ。

 

How do you do?(はじめまして)

 

 英語だった。いや、それなら普通にしゃべってくれれば良いのではなかろうか?

 

ニャーー(英語わかりません)

 

 しかし共通語で返した我輩の意味は、なぜか通じた。

 

When it is(ならば), what language is it possible to speak about?(どんな言葉なら話せるのかね)

ミー(日本語でおk)

 

 このあたりで、校長の命令でハグリットが退場。変わった生き物というだけで、我輩をかばってくれそうな盾が無くなってしまった。

 なのに我輩は、危機感も何も感じていなかった。それは校長が、にこやかな雰囲気や表情のまま、何も変わらなかったからだろう。

 あの老人の人たらしの手法に、うっかりやられてしまっていたらしい。

 そして気を抜いてしまっておった我輩は、しばしの話し合いを経て、校長と契約を結んでしまった。

 

 なお、内容はわからない。

 

 だって英語ですらない、何かで書いてあるのだ。そんな言語で書いてある以上、何かろくでもないことも書いてあるに違いない。

 言語理解だか何かの呪文で、我輩の言っておる、あるいは考えておる内容が理解できるくせに、あちらのことは隠す。

 

 その秘密主義で、アンタは敵を作ってるし、味方にも不信感持たれてるからな。

 

 素直に伝えたら、傷付いた顔をしていた。意外と素直な反応であるな。

 

 なお我輩の表向きの立場は、不死鳥のフォークスと同じ、校長のペットである。

 べつだん、我輩の飼い主はボスだけだ、などと言い出すつもりは無いのであるが。

 無いのであるが。

 こう、なんだ。なにやら、こう。違和感のようなものは、ある。

 当初の予定では、ハグリッドの飼っている、もろもろの妖精や妖怪や幻想動物の一体として、このホグワーツで生きようと思っておった。

 エサだけもらっては、ふらっといなくなる、半野良の猫としてやっていこうと思っておった。

 それに比べれば、権力の後ろ盾がある分、生徒に(特に赤毛の双子だ!)面白全部で狙われたり、研究目的で調べようとされたりしないだけマシなのであろうな。

 

 ところで、グリフィンドールは騎士道とか言っておるのに、イタズラやそれに類するだまし討ちが、好き過ぎないだろうか。

 停滞しがちな、特にスリザリンなどが主流になれば、ゆっくりと衰退してしまいそうな魔法界に活力を与える。そういう意味で必要な人材なのであろうが。

 もう少し、こう、なんというか。建て前というものを、大事にして欲しいものである。

 

 ああ、そうそう。どうしても聞いておかねばならないことがあった。

 校長、校長。いや、契約主であることだから、マスターとでも呼ぼうか。

 ヘイ、マスター。生き残った男の子は、今ホグワーツにいるかい?

 いてもいなくとも、これだけは言っておくのである。

 

 アンタは名前を言ってはいけないあの人を倒すのに、彼が必要だと思っているが…… 別に、いなくても倒せる。

 

 うむ。マジな話である。

 成長させるのにあれやこれやして。ひいきして、試練与えて、事件見逃して、人死に出して、しかも本人には直接何も教えない。

 どう考えても、割に合わぬぞ?

 しかも彼は、勘が利かぬ。それでいて、思い込みが激しい。つまり。勘違いして、それをずっと引きずる。

 だいたい何か事件や試練があったとして、最初に彼が疑った人物は、全員無実だ。間違いない。断言しようとも。

 

 ああ、言っていなかったであるな。これは失礼。

 

 ではあらためて。我輩はネコである。未来のことを少しばかり知っておる、自分でもよくわからない生き物だ。

 よろしく、マスター。(Give my best regards,Master.)

 

 

 




●アルバス・中略・ダンブルドア
銀河英雄伝説の、エンリケ学長が元ネタ。あまりに長い名前なので、ヤン・ウェンリーにエンリケなんとかオリベイラと頭の中で呼ばれていた。なお、その後両者は会っていないので、そのエンリケなんとかオリベイラという名前すらヤンは覚えていないと思う。

●アンタは名前を言ってはいけないあの人を倒すのに、彼が必要だと思っているが…… 別に、いなくても倒せる。
ギャグマンガ日和より。というか、ソードマスターヤマトより。長期連載マンガ(という設定)を、俺の新しいワキ(技)を見せてやる。などの編集さんの誤植まみれのせいで人気がガタ落ちして打ち切りをくらったマンガ家が、それまでの伏線全部を3ページで回収した上で終わらせろ、という無茶振りをされた結果のひとつ。
お前は俺を倒すのに、聖なる石が必要だと思っているようだが―――別になくても倒せる
俺に生き別れの妹がいるような気がしていたが―――そんなことは無かったぜ!
などのやり取りのあと最後は「ウオオオいくぞオオオ!」「さあ来いヤマト!」→ヤマトの勇気が世界を救うと信じて…!ご愛読ありがとうございました! で終わる。
これぞ打ち切りマンガ、というべきスタイルを凝縮したような出来であったため、作中の小ネタにもかかわらず、知名度が高い。
一度読むか見ると、納得してもらえると思う。たぶんネットのどこかにあらすじなどはある。


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第4話

 我輩は魔法世界で悪巧み中である。当面の安全を確保するため、そうせざるをえないのだ。

 ひとまずは、マスターことダンブルドアの安全を確保しよう。そう思って、まずは最大の死亡要因を取り除こうとしたのだ。

 

 そこ。イヤな予感を働かせない。

 

 確かに我輩も、この時点で「良かれと思ってぇ!」という誰かの叫びが聞こえた気がしたが。

 それを口にしたら、ますます実現してしまいそうなので、言ってはならぬ。ならぬのだ。いいね?

 

 話を戻して、マスターの死亡要因と言えば、蘇りの石。正しくは、それに仕掛けてあった呪いである。

 

 マスターには。かつては、妹さんがおった。

 幼いころに、男の子に三人がかりでリンチされたことがトラウマで、以降ずうっと精神と魔力が乱れっぱなしになった妹さんが。

 

 なお。死因は、ホモの痴情のもつれの際の、巻き込まれ事故である。

 

 マスターには、お父さんもおった。

 妹さんをリンチした男の子らに、復讐をしたお父さんが。

 まあ、そこまでは。ヴィランである我輩としても、べつだんよろしいのであるが。

 

 お父さん。犯人が自分だとバレるように、しかも魔法を使ってヤってしまったのでアズカバン行きに。

 なお。そのまま獄中死している。

 

 そしてお母さんも、妹さんが起こした魔法の暴発で死亡している。

 弟さんだけは元気でいるが、仲は当然のように良くは無い。

 その割には不死鳥の騎士団創設メンバーであったり、ホグワーツの近所のホグズミード村でバーテンをやっていたりするあたり、単純に嫌っているだけではないのだろう。それでも原作では、死ぬまで関係の修復は無かった。

 

 この家族の死と崩壊は、マスターのトラウマである。

 呪われているな、とわかっていても。それでもと、死者を蘇らせるという石に手を伸ばしてしまうほどに。

 

 まあその結果は。ワンチャンいけるか、とやってみて、ワンチャンなかったのだが。

 そのまま試すよりも、せめて研究しろよというハナシである。

 

 正直、お父さんはヤるなら完全犯罪を企むべきであり、お母さんは家族を連れて田舎に引っ込むよりも、妹さんの魔法を封じてメンタルケアに励むべきだったと思うのだ。

 今更言っても、詮無いことである。すべては、後知恵というやつだ。

 

 だがしかし。石についてはまだ起こっておらぬ。後ではなく、先になる。

 善は急げ。さっそく、呪いがあることと、マスターがそれを装備してしまうこと。両方を合わせて、石のことを伝えた。

 

 えっ。石の在り処? 確か名前を言っては、って面倒だな。名無しさん(Nameless)でいいや。名無しさんのオカンの実家の、どこかだったと思う。

 さっきも言ったが、マスターは直接取りに行かぬほうが良い。

 そうであるな。リーマス。リーマス・ローピン? ロビン? ああ、ルーピンね。うむ、彼にバイト代でも出して、持ってきてもらえば良いのでは?

 ローブも新調できぬほど、生活に困っているらしいし、何より彼は無職のヒマ人だ。

 色々やるのに、巻き込んでおいて損は無い人材であるぞ。うん。

 

 もし石の呪いが解けたら、死の秘宝三つが、全部手に入るであるな。やったね!

 

 そう言ったところ。急に怖い顔をして、しわだらけのまぶたをカッと開き、厳しい目つきでニラまれた。

 そして、何かを察したような「あっ…」という顔をすると、深いため息をついて、また穏やかな顔つきへと戻った。

 

 えっ。なんだったのであるか?

 

 「Think a little more(もう少し考えなさい)」マスターは何とも言えぬ顔でそう言ったあと。「at least(せめて)」と付け加えた。

 

 よくわからぬが、とりあえずうなずいておいた。

 

 そういえばステインさんも、こちらを警戒している目で見ていた時期があったが、いつしか今のマスターのような反応をして、それ以降はああいう目になったなあ。いやあ、懐かしい。

 きっと我輩の善意が伝わり、警戒する必要など無いと、わかってくれたのであろう。

 

 マスターは心を読むか何かして、それを直接悟ったのではないかな。

 頭の中をのぞきこまれるのは、いい気はせぬが。まあ、我輩は不審人物―――人物? であるのは間違いないし、そこはガマンしよう。

 その気になれば、溜まりまくった瞑想の経験値で、防げそうな気もするし。今は気にしないで、流すとしよう。

 

 リーマス宛に手紙を書き、フクロウ便で飛ばすマスターをフォークス先輩と一緒に見守る。

 彼、もしくは彼女には、明日働いてもらう予定だ。会話できる知能があるかわからぬが、少し友好度を上げておこう。

 

やあ、先輩。ヘビは好きかい?(Hi, superior. Do you like a snake?) 飛び切り大きなヤツがいるんだ(There is a big one especially)

 

 確かマスターも、ヘビ語が話せたはず。マートルのトイレから、隠し部屋に行くとしよう。

 ただ、もう今日は眠いから明日にしよう。

 マスターもなにやら疲れた様子であるし、ぐっすりと寝て、回復してから行くとしよう。

 あの歳で、衝撃的な事実と、突然向き合ったのだ。疲れるのも無理はない。

 

 ふむ。マスター。ところで我輩の寝床は、どこになるのであるかな?

 

 

 




●いいね?
ニンジャスレイヤーより。通称忍殺。誤解されたニッポンという、強烈な世界観で繰り広げられる物語。ニンジャは世に隠れ、魂となってヒトに取り憑き乗っ取るのだ。コワイ! ヤクザにゲイシャにスシにとネタも盛りだくさんである。
表向き、ニンジャは存在しない。ニンジャを目にしたものは、アイエエ! とニンジャ・リアリティ・ショックを起こす。そんな彼らには言ってあげよう。
「ニンジャは存在しない。イイネ?」
「アッハイ」と彼らは答えてくれるだろう。
そこから生まれた、ネットで相手に同意を強要する場合に使われる、ネタセリフである。


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第5話

朝方に投下したせいか、夕方あたりに「あれ、次の話まだなの?」と言われた気がしたので本日2回目。


 

 我輩は幽霊生活を満喫中である。いやあ、バジリスクは強敵だったのである。

 マスターの服従呪文で一発よ、などと考えていたら、不意打ちを食らってしまって、危なかったのである。

 我輩が幽霊でなかったら、死んでおったな。

 さすがは長年、何も食べるものも無さそうな場所で生き抜いた、魔法の蛇。普通ではない。

 

 だがマスター、ダンブルドアはもっと普通ではなかった。

 

 マスターはバジリスクの体当たりを呪文で防御し、そのまま体を呪文で拘束し、呪文で服従させた。

 よし。ティンと来た。バジリスクくん。今日から君の名はマンダだ。

 同じように洗脳されて、使いつぶされた大蛇の名前がそうだったはずだ。君はそうならないように、気をつけろ。

 

 さあ、マスター。マンダの牙をもらって行こう。あの牙と毒があれば、呪文無しでも分霊箱を壊せる。

 リーマスに持たせてあげよう。きっと頑張ってくれるさ。

 

 ああ、そうそう。リーマスで思い出したが、ピーターは生きているぞ。

 うむ。事実である。そもそも、指一本残して爆死。しかし肉片や血は、さほどありません。でも死んだと思いますって、マジであるか?

 江戸時代の岡っ引きですら、もう少し疑いを持つと思う。

 つまり、え~。名前が出てこない。犬、としか出てこぬが、その、アイツだ。アイツは冤罪で、濡れ衣で、無罪である。

 そうそう。それだ! シリウス・ブラック! ああ、思い出せた。スッキリした。

 ピーターはイタズラ仕掛け人の、赤毛の双子の家で延々ペット生活を送っているから、捕まえたかったら不意さえ打てれば簡単だ。

 

 これを知ってどうするかは、マスターに任せるのである。

 我輩はこれから、久々の食事であるので。

 

 うむ。食事である。正確には食べられはせぬのだが、味はわかる。

 食べようとすれば、すり抜けてしまって食べられない。しかし、口の中。舌に触れれば味はわかる。

 

 つまり。こうすれば良いのだ。

 ホグワーツの食堂の長机に、ずらりと置かれた料理。水泳部員がプールのコースを泳ぐように、そこを往復していく。

 テーブルに置いてある料理に、こちらから突っ込み、すり抜けていけば。次々と変わる味が楽しめる。と、いうわけだ。

 

 歯ざわりや触感がわからぬのは、イマイチである。しかし、贅沢は言うまい。

 オールフォーワンとして牢獄にいる現実では、もともと先生の体が食事が出来ずに、栄養を点滴などで補給するのみ。

 アインクラッドでは、ほぼ動かない体で、食事が出来ずじまい。

 久々だ。味を感じるというのが、本当に、久々であるのだ。

 これを邪魔するものは、誰であっても敵である。

 

 んん? なんだね、しもべ妖精たち。そろそろ生徒たちが来る?

 手段は問わぬ。足止めしたまえ。

 さあ。もう三往復だ。

 ふははははー! この入学式のご馳走を最初に食べたのは、生徒たちの誰でもないっ! このDI、もとい、ネコだーっ!!

 

 しもべ妖精たちは、なぜかこちらの言いたいことが伝わった。

 しもべ妖精として、当然の心得でございます。

 そう誇らしげに答えた彼らは、ボロボロの布しか身に着けておらぬのに、立派な執事に見えた。

 

 だからこそ、こうしてワガママが通じるのであるがな!

 欲を言えば、伝統のイギリス式なので、味が大雑把なのが難ではある。

 しかしそれはそれとして、今は楽しめる。ジャンクな味わいというのも、悪くは無い。

 

 この後は、事前に話し合って、仕込みをしておいた組み分け帽子。彼をドラコ・マルフォイがかぶろうとした時に「アズカバーン!(Azkaban!)」と叫び、次いで「冗談!(It's a joke!) 帽子ジョーク!(A joke of a hat!) さあ、怖がらずかぶりなさい!(Without being afraid, lET'S put it on!)」と話しかけるのを見守って。

 こっそり入学式に混ざってホグワーツの歌を歌って。

 必要の部屋で、レイブンクローの髪飾りを手に入れて。バジリスクの毒に漬け込んだら、中の魂だけ壊れないか実験する予定だ。

 妖精式の杖なし魔法やら、ハリポタ式の杖魔法を使えないか、試してみるのはまた明日である。

 

 そのうちマスターには、日本へ連れて行ってもらわねば。

 味噌県の豊橋というところに、クィディッチのプロチームがあるらしいので、たぶん魔法関係の何かもあるであろう。

 たとえ一人でも行くぞ。どうしても、お米が食べたいのだ。

 普通に生活しているぶんには、特に気にはならなかったのであるが。こうして長い間食べられないと、無性に食べたくなってくる。

 禁断症状というのは、こういうものなのであろうか。

 さすがは先祖代々、縄文時代あたりから数千年食べ続けてきただけはある。

 細長い種類の米ならばあったが、違うのだ。これではないのだ。

 ササニシキを品種改良したらしい、カリフォルニアライスでもあれば良かったのだが、英国のホグワーツには存在しなかった。

 

 こうして考えておったら、予定なぞ全部放り出して、日本へ行きたくなってきた。しかし、そうもいかぬ。

 自分の足で歩いていったら、とんでもなく時間がかかって仕方が無い。ここは急がば回れである。

 存在感を消す個性が使えておれば、電車や飛行機にこっそり同乗したり出来たであろうに。

 

 まったく。人生とは、時にままならぬものであるなあ。

 

 




●マンダ
NARUTOより。歌舞伎の演目や講談が元ネタの、忍者が呼び出す巨大なカエル、ヘビ、ナメクジの三すくみのうち、ヘビの、NARUTOの作中の名前。
他の二者と違って傲慢な性格で、働くのに人間の生贄をよこせと言ったり、弱っていると見れば召喚主でも食おうとする。最後は、うちはサスケに写輪眼で洗脳され、使い捨てられる。諸行無常。

●このDI
ジョジョの奇妙な冒険第一部より。「初めての相手はジョジョではないッ!このディオだッ!」というセリフが元ネタ。
登場から最後まで、徹頭徹尾、首尾一貫して悪役であったディオも、最初の頃は若かった。貴族の家に養子として引き取られたと言うのに、その家の息子(ジョジョ)の前で、ずっと一緒に育ったんだと紹介された犬を全力でヒザ蹴りする。時計を借りパクする。ジョジョの婚約者相手に、強引にキスをしてこのセリフで勝ち誇るなど、悪役ではあるが、やっていること自体はショボい上に、意味が無かった。何の利益にもなっていない。
こんなディオと、後に友情を築いて親友になっていたジョジョは、すごいと思う。
なお、このセリフを言った後、婚約者さんは即座に口をゆすいだ。その場にあった水溜りのドロ水で。
お前のキスより、この泥水の方がマシであるという、恐ろしい反応である。それでもヘコまないディオも、すごいと思うが、この凄みはマネしちゃいけない凄みだ。

ちなみに犬を蹴られたジョジョの反応「な、なにをするだァーッ!」という編集さんによる誤植がいい味を出していたので、作者の荒木先生がそのままコミックスにも乗せ、15年ほど修正させなかったが、気持ちはわかる。


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第6話

いぶりがっこ氏の ギースにガンプラ を読み直していました。レップウケーン!
格ゲーをやったことがある人になら、きっと何かが伝わるはず。全12話。
そしてガンプラ心形流なら仕方が無い。
ギースを再現して、ガンプラバトルが出来るように苦闘する主人公に、ロマンを見た。
あらすじはノリがひどい事になっているが、本文は落ち着いてるから読んでみて欲しい。


 我輩は留守番中である。ホグワーツでは、はじめてのお留守番であるな。

 マスターは、魔法省で交渉中。名無しさんの生存を魔法省に認めさせるための、根回しを始めるらしい。

 

 と、いうのもだ。必要の部屋から出てきた、レイブンクローの髪飾り。あれを毒に浸けようとしていたら、見つかって取り上げられてしまったのだな。

 分霊箱の証拠品として、話が分かる人に実物を見せて、説得するらしい。

 

 名無しさんが生きていたり、復活したら怖いので、現実を無視して死んでいることにします。

 魔法省は原作で、そんな謎の対応をしておったからなあ。

 てっきり、裏で名無しさんとつながっているのかと思いきや、全くそんなことは無く。魔法大臣が、名無しさんに殺されていたし。

 彼らはいったい、何がしたかったのであろうか。本当にわからぬ。理解が出来ぬ。謎である。

 

 そこにロマンはないので、さほど興味は無いのであるがな。

 

 同じく、さほど興味は無いが、少々罪悪感を感じないではない出来事もあった。

 ドラコ・マルフォイ。さんざんハリー・ポッターと敵対して、名無しさんの部下の死喰い人になって、校長を殺す手伝いまでやっておきながら。

 最終決戦の数時間前に、父親とともに名無しさんを裏切って離脱。ちゃっかり無罪を勝ち取った、例えて言うなら、汚いベジータ。

 演じた役者さんが、そのストレスで髪の毛がえらいことになっておったのが、衝撃であったなあ。この世界ではどうなるのか、少し見てみたい気がするな。

 

 むろん、罪悪感というのは、髪の毛のことではない。それは我輩のせいではないのだし。

 前回、我輩が組み分け帽子と組んで仕掛けた、あのイタズラ。あの結果、彼がしばらくの間、家無き子になってしまったのだ。

 

 順序としては、こうなる。まず、我輩がマスターに怒られた。アズカバンはさすがに選択として、いけなかったらしい。

 マスターの父親が、そこで獄中死しておるし。そこも、気に触ったのやもしれぬ。

 そこで我輩が素直に謝らず、言い訳してしまったのが第二段階。

 しかしドラコの家は、死喰い人のアジトであるぞ。確か、ホールの地下だかに隠し部屋があったはず。それがバレれば、あながちアズカバンも間違いではない。

 そう我輩に告げられたマスターが、何かを取り締まっておる部署の、面識のある卒業生に連絡をとったのが第三段階。

 

 そして最終段階。入学したと思ったら、父親が逮捕されて呆然としているドラコがこちらになります。

 

 思ったよりはしっかりしているものの、やはりどこか精細を欠く。イヤミにも原作ほどのキレがない。

 むしろイヤミを言われた側のハリーに、心配されておる。

 そのキャラは君に合ってない、と言われた時はマジギレしておったが。

 まあ、あれならおいおい元に戻るであろう。

 

 さて。留守番中には何をしようか。

 しもべ妖精の魔法は、妖精の種類が違うからか、それとも我輩が幽霊だからか。原因はわからぬが、使えなかった。

 黒い人もビックリな、姿くらましの魔法。あれを是非覚えてみたかったのであるが、残念だ。

 杖が無いので、そちらの魔法も練習でき―――いや、できるな。

 

 無いなら、よそから持ってくる。

 こことは別世界の、魔法使いではなく魔術師の言葉だが、細かいことはいい。

 あるではないか。何であれ持ってこれる、用意してくれる、便利な、必要の部屋が。

 

 だがしかしだ。一人で練習するのも味気ない上に、途中で我輩が飽きてしまう恐れがある。

 よし。ついでだ。誰か巻き込もう。

 大勢は面倒なので、誰か一人。都合よく、一人法師なヤツと言えば。

 

 グリフィンドール。ネビル。もう一人の生き残った男の子。君に決めた。

 

 校長室のある塔から出て、出入り口のあるメインの塔の三階へ。散歩中のミセス・ノリスと猫同士のあいさつをかわして、階段を何とかかんとかやりすごして、八階へ。

 どうもここの階段は、空中を歩く我輩が気に食わぬらしい。普通に通ろうとすれば、目的地から遠ざけようと波打って、我輩の無いはずの足を捕まえて運ぼうとするのだ。

 おかげで、まだ飛ぶことは出来ぬが、高いところから飛び降りても大丈夫なようになった。昇りは苦労するが、降りは楽だ。

 食事(?)に必要であるので、すり抜けも覚えた。

 我輩も幽霊として、日々成長しておる。

 さて、あとはグリフィンドールの塔に、どうにかして侵入して。何とかしてネビルを見つけ。どうやってかしゃべらずに、必要の部屋まで連れ出すだけである。

 大丈夫だ。行ける気がする。こういう時は、行けることの方が多かった。

 別にネビルではなくても良いしな。見つからなかったら、誰か適当に、その辺を歩いているヤツを捕まえるのである。

 モブかと思っていたら、ネームドであった天喰先輩の例もあるので、そのあたりは気をつけよう。

 登場人物が多くて、忘れているキャラも多々おるが。きっと大丈夫だ。

 

 うむ、大丈夫だとも。きっと、なるようになる。そういうものである。

 これはけっして、自分に言い聞かせているわけではない。いいね?

 

 



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第7話

なにかようやくネコがハリポタ世界になじんだ。そんな気がします。
本日二本目。


 我輩は侵略中である。そんなつもりは、ほんの少し。気持ちくらいしかなかったのであるが。

 事の起こりは、お米である。

 食べたかったので、マスターに頼んだのだ。さすがにそのまま口にするのは、はばかられた。そこで、少しぼかしてこう言ったのだ。

 

 故郷の日本が恋しいので、取り寄せたいものがある。

 

 こうして我輩はマグル世界、つまり普通の世界の、通販ができる手立てが整ったのである。

 色々と、取り寄せた。米、ミソ、ショウユの三種の神器。インスタント食品。マンガ。

 そうしてマスターの資産が豊かなのをいいことに、日本三昧を楽しんでおったのだ。

 

 気付いたら、それらがホグワーツで流行っていた。

 

 しもべ妖精経由で、彼らと親しい一部の生徒から流出してしまったようだ。

 それらの仕入れも、しもべ妖精の仕業だ。皆様のお望みのものを買い入れる。しもべ妖精として、当然のこと。であるらしい。

 

 カップ麺など、カップ○ター派とカッ○ヌードル派にわかれて、きのこたけのこ戦争にも似た何かが始まってしまっている。

 なおカップ○ードル派はグリフィンドールに多く、○ップスター派はスリザリンに多い。

 完全に寮内の意見が統一されているわけではなく、時に寮を超えた友情や、寮内での裏切りが見られる。お前たちは、どれだけカップ麺にハマっているのか。

 

 ハーマイオニーとロンが「「まさか君が(あなたが)異教徒だったなんて」」と仲良く言い争っていたらしい。

 最新作では、彼らが結婚しなかったルートなどもあったが、この世界ではどうなることやら。

 

 ハリーとドラコが、ともに少数派のカップうどん派として、少し仲良くなっていたのには笑わせてもらった。

 カップうどんを食べる時は、争いや言い争いは無しであるらしい。赤いキ○ネと○ん兵衛を、仲良く分け合って食べておった。

 

 マグルの文化も、捨てたものではないな。UF○の湯きりをしながら、スネイプ教授がそうつぶやいたのを、我輩とマートルだけが知っている。

 

 うむ。マートルである。トイレのマートルとして、そこそこ有名であるな。

 彼女と知り合ったのは、バジリスクのマンダを従えに、マスターと秘密の部屋に乗り込んだ時である。

 そして結局、ネビルを捕まえるのが面倒になった我輩に。彼の代わりにと必要の部屋に連れ込まれた、魔法練習のパートナーであるな。

 

 彼女も幽霊であるので、魔法が使えるか不安であったが、やってみるものだ。

 亡くなった当時の格好のまま。つまりホグワーツの制服に、杖も持っている姿で固定されておったので、使うことが出来たのだ。

 我輩がニャーとしか言わぬので、付いて来たはいいものの、当初は困惑しておったのだが。

 我輩が八階のバカななんちゃらの絵のお向かい。グリフィンドールの塔の入り口の近くだというのに、不自然に何も無い壁の前。

 そこをうろうろとして、必要の部屋を出すと眼を丸くして驚いた。

 そして部屋の中で、置いてあった杖を手にして、マートルを見ると。こちらの意図を察したのだろう。なにやらお姉さんぶって、我輩に杖の優雅な振り方から教え始めた。

 

 いやあ。年甲斐も無く、ワクワクしたのである。杖を持って、イスに向けてあの呪文を唱えた時などは、顔がニヤけておった。

 では、皆さんご唱和ください。

 

Wingardium Leviosa!(ウィンガーディアム レヴィオーサ)

 

 我輩は長年にわたって、「ヴ」ィンガーディアムと覚えていたが、「ウ」ィンガーディアムであるらしい。

 そして正しい発音と、正しい動作で行使された呪文は、正しく行使された。

 

 浮いたのだ。イスが浮いたのだ!

 

 魔法が使えたぞーー!!

 

 マートルとハイタッチする。浮いているイスを、よくやったなと撫でてやる。よーしよしよし。

 ありがとう必要の部屋。ありがとうマートル。ありがとう、素材のよくわからない杖。

 

 全く自分では何も出来ずに、眺めることと、口を出すことだけというのは、思った以上に退屈である。

 アインクラッドで、学んだことだ。

 やはり、ある程度は自分で何でもできないとな。力がないと、選べる選択肢の数は、格段に減ってしまうのだ。

 

 ところでだ。

 

 カップ麺と同じく。いつの間にか、マンガが広まってしまっておるのだが。

 翻訳してるヤツと、増やしているヤツがいるらしい。

 

 髪型がオサレになったり、杖を腰の鞘のようなものにしまったり。

 杖ではなく、手を次々と組み替えて魔法が発動しないか試していたり。

 手首でくっつけた両手を開いて前に。そして後ろに引いて、勢いよく前に出したり。

 逆手に構えた杖で、妙に気合が入った素振りを、力尽きるまで繰り返したり。

 男同士がただ話しているだけであるのに、顔を赤らめるようになったり。

 

 明らかに、文化侵略されておるのだが。

 これをどうにかする、便利な魔法って、無かったであるかな?

 さすがの必要の部屋さんも、これには答えてくれぬ気がするのだ。あとで一応試してみるが。

 今回は、原作補正さんに頼るのではなく、むしろ倒す側にいる。ゆえに、気にする必要は無いと言えば無いのである。

 しかしこれではまるで。ファンタジーを汚染してしまったような、そんな気分になってしまって仕方が無いのだ。

 

 この状況。キッカケは確かに我輩である。あるが。だがしかし。我輩のせいではないと思うのだ。

 

「俺は悪くねぇー!」

 

 うむ。責任は無くとも、それをやたらと主張するのは格好が悪い。思い出したよ。ありがとうスカイウォーカーじゃない人。

 何食わぬ顔で、何か問題が? という態度で流せば良いのだな。

 世の中。素直に責任を認めても、良いことなどは少ないのだ。むしろ、責任が無くても責められることが多いし、少しでも認めたら、そこを足がかりにどこまでも譲歩を強いられる。

 正直は美徳である。しかし正直者はバカを見るのだ。

 

 このまま流行が続くか、廃れるかもまだわからぬことであるし。

 ここはひとつ。様子を見るのである。

 

 




●きのこたけのこ戦争
きのこの山とたけのこの里。同じメーカーの、形が違うだけのものであるのに、どちらを好きかで争いが起こる、罪深きお菓子。
ネタとしてシャレで言い争っているだけなので、本気にしてはいけない。しかしシャレであるがゆえに、本気で言い争わねばいけない。いいね?

●オサレ
オシャレとは微妙に違う、独特の感性を表現した言葉。BLEACHの久保先生の詩などの作品に漂うソレ。

●手を組み替えて
NARUTOより。手の形で十二支などを示す印を組み、次々と組み替えて忍術を発動するのだ。

●手首で~
カメハメ波である。

●逆手に構えた~
アバンストラッシュである。カサでこれをやった事のある男は、きっと多数派。

●「俺は悪くねぇー!」
テイルズオブジアビスより。主人公がダマされて、大量殺人を犯してしまった直後のセリフ。確かにダマされた上に、ダマしたのが幼少時からの師匠。止めるべきだった、止められたヤツらもいたが、このセリフは実に格好が悪い。しかも連呼してしまったので、ほとんどの味方に一時見限られる結果に。
その味方も、まともな人はほぼいないのであるが。ゲームの別名が「俺は悪くねぇRPG」なのは伊達ではない。


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第8話

 

 我輩はナメていたのである。なまじ、その中で生まれ育ったので、わかっていなかったのだ。

 

 ニッポンの文化の汚染力、マジパネエのである。

 

 そしてホグワーツの生徒たちの学習力と応用力も、パなかった。

 極力呪文を短く、とっさの時でも使えるように、と実戦的であったハリポタ式の呪文を改造。

 あえて長くすることで、威力や効果や範囲などの要素を強化する手法を見出したのだ。

 

 ただ「Kaiserd ALzardten…(カイザード アルザード)」やら「Au-bira Unken Sowaka(アビラ ウンケン ソワカ)」やら。

 毛色が少し変わって「Ο monoλIθοσ KIΩN TOY AI△OY(ホ モノトーリス キーン トゥ ハイドゥ)」など。

 みな、どこかで聞いた詠唱なのが、とても気にかかる。

 きちんと魔法として発動しているあたり、どういう理屈が働いておるのか見当もつかぬ。

 

 実は我輩の魔法も、ネコ語で発動している。

 

 実はそのあたり、細かいことは気にしなくとも良い、いい加減なものであったりするのだろうか。

 だが原作では、ロンなどが呪文を間違えて、魔法が発動しなかったりしたこともあったはずなのであるがなあ。

 

 まあ。深く考えていくとだ。

 言葉で何かが起こること自体が、そもそもオカしい。そういう結論に行き着いてしまうのであるがな。

 

 ことはファンタジーの領分である。魔法はきっと、ふわっとした何かで出来ているのだ。

 だから夢のあることならば、大抵は受け入れてくれる。だからあれらの呪文も有効に働く。

 きっとそうだ。そういうことにしておこう。

 

 さて。それでだが。

 

 文化侵略がこれくらいですんでおったならば、それで良かったのである。

 しかし、一歩先に進めた。進めてしまった馬鹿者が出た。

 

 魔法界に、まさかのアニメ進出である。

 

 テレビなどの家電は、魔法界では動かない。そういうふうに、出来ている。

 銃も確か、ダメであったはずだ。魔法の優位を守り、いざマグルに攻め込まれても大丈夫なように。魔法界の文化を守るために。魔法族が、魔法族であり続けるために。

 それは必要なことだったのであろう。

 

 今、眼の前で「アニメが見たいから」という理由で、壊されたがな。

 

 直接テレビが見られないなら、魔法の道具で録画してから見ればいいじゃない。そんな映画泥棒のような手法を、思いついたヤツがいたのだ。

 犯人は、マグルの家で育った魔法族。ハリー・ポッター、まさかの暗躍である。あの父親の血でも騒いだのだろうか。

 そして有志の手により、あれよあれよと言う間に、アニメの数々がホグワーツに輸入されてしまった、その結果。

 

 決闘クラブ、原作よりも大幅に前倒しで設立。

 

 もちろん、諸君の予想通り。原作とは、大きく違っているとも。

 

 原作の決闘とは、杖を構える。お互いに礼を、もといおじぎをする。呪文を打ち合って決着をつける。杖を手放しても負け。

 そういう方式であった。

 杖を構えて、おじぎをするところまでは、このクラブも同じである。伝統は大事だ。

 しかし、その後は大きく違った。

 

 魔法で動かす人形で戦っているのだ。

 

 白いアレであったり、赤いソレであったり、つまりはガ○プラバトル(リアル)である。

 材質は、魔法の粘土限定。初期はそこも自由であったらしいが、とある魔法使いが金属製の機体を持ち出して無双した結果、ルールが定められたのだそうな。

 攻撃が通らないのもつまらないが、壊れたら悲しい。なので、直しやすい素材を求めて、そこへ行き着いたらしい。

 魔法の粘土だけあって、魔力を通すとイメージ通りに動かせる。あとは手本になるガン○ラの実物のパーツがあれば、機体の種類も大きさも自由自在。

 なお、使える粘土の量が決められているので、大きくすればしただけ薄くなり、もろくなる。そのあたりのバランスを見極めるのも、ビルダーの腕なのだとか。

 

 この短い期間に、君らどれだけハマってるのであるかね。

 そして、どれだけ発展させてるのか。

 その結束力やら学習力があれば、闇の帝王とか普通に倒せそうで怖いわ。

 

 なお、決闘クラブの顧問は、我輩のマスターの校長である。

 まさかこれを使える日が来ようとは。そう言って、鉄の城というか、神にも悪魔にもなれそうなアレというか。

 マジ○ガーZを持ち出して、うれしそうに戦っておった。

 

 前述の、金属製の機体とはこれのこと。つまり、無双したのはマスターである。

 どうやら。すでに、ニッポン経験済みであったらしい。長生きしているだけあって、経験豊富であるな。

 

 まさか、名無しさん(ヴォルデモート)もそうではあるまいな?

 

 ふとよぎった、イヤな予感を無かったことにしようと、頭を振る。

 なんかもう、魔法とかどうでもよくなって来たが。

 まだ別世界へは行けそうもないし、現実にいてもひたすらヒマなだけであるし。

 ああ。久々に、酒が飲みたい。

 助けて、黒い人。

 

 



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第9話

次でハリポタ編ラストです。

授業の一環として、生徒たちを使って、プラスチックやペットボトルを分解の呪文で土に変えていくバイトをロンドン市から引き受けて、インスタント食品を購入する予算をひねり出すスネイプ教授というネタもありましたが入れる場所が無かったw


 我輩は思い出したのである。そういえば賢者の石とかいうイベントもあったな、と。

 マスターに確認してみたところ、間違いなくホグワーツに在るそうだ。

 ではなぜ、イベントが始まっていないのであろうか。そう考えて、気付いた。

 

 あれ? ハリー・ポッターが、やらかしていないぞ?

 

 バカな。ハリー・ポッターと言えば。入学したての、あまり魔法を覚えておらぬ上に、実戦経験もないというのに。

 僕がやらねば。という強い使命感を持って、校長を始めとする教師たちにも、親友の兄などのツテのある先輩にも一切頼らず、突っ走る。そんなロックな男ではなかったのか?

 その上で、敵を利する動きをして被害を出した後に、最後はおいしいところを持っていく。そんなトリックスターでもあったのではないのか?

 

 賢者の石のハナシでも、悪人にはけっして取り出せない仕掛けをしてあった賢者の石を、わざわざ仕掛けから取り出して、奪われそうになっていた。

 石が狙われているから、自分が手に入れよう。自分が持っていれば安心だ。そう判断した根拠は何だったのであろうか。

 

 名無しさんの幽霊っぽいものを撃退したので、結果オーライで全て許されていたが。

 校長として、教育者として。マスターはあの時、あれやこれやを叱って、正しい行動を教えるべきだったと思う。

 そうすれば、その後のハリー・ポッターの行動も、少しはロックではなくなっていたかも知れない。

 

 そのロックさが名無しさんと戦うために必要であった。そう言われてしまえば、そうかもしれぬが。

 ヤンチャをしたら、叱られる。そういうことは、子供には大切なことだと思うのである。

 

 閑話休題。

 

 そのロックなハリーが、やらかしをしておらぬのだ。

 動画を普通に流し、それを魔法の道具で録画して魔法界に持ち込むという、映画泥棒めいた手法を発明したりはしているが、それはそれ。

 

 一年生にしてクィディッチのチームには入ったが、それもグリフィンドールの寮監のマクゴナガル先生が、これ以上スリザリン寮に負けっぱなしなのにガマンができなかっただけだ。

 

「これで勝つる!」

 

 ハリーという逸材を見つけて、有頂天になってしまったのであろう。その勢いのままに、マスターから特例を勝ち取ってしまった。

 この場合、やらかしたのはマクゴナガル先生であって、ハリーではない。

 原作では、ドラコ・マルフォイがネビルに嫌がらせをした。その結果として、ハリーの見事なホウキさばきが披露され、それを目撃したマクゴナガル先生がやらかす。そういう流れであった。

 このドラコのやらかしを、さっ引いただけである。父親が逮捕されて、落ち込んでいた彼に、イタズラを仕掛ける元気は無かったのだ。

 

 したがって、その後のドラコの腹いせ。ハリーを真夜中に呼び出して、自分は行かない。というしょうもない陰謀も行われていない。

 そうすると、あの大きな犬のフラッフィーにも会っておらず、足を引きずるスネイプ教授も見ていない。

 

 イベントのトリガーが引かれておらず、しかもそのあとにやって来たのが、カップ麺戦争と、マンガ。トドメにジャパニメーションの数々だ。

 その波には、教師陣すらも飲まれてしまっている。マスターなんぞ、校長であるのに率先して飲まれに行っている。

 

 ただ、たまに寂しそうな顔をするのだ。なんでも昔、似たような流行があったらしいが、当時の魔法省の圧力でつぶされたことがあったそうな。

 当時の教師らは、常識人であったため、流行と遊びは駆逐された。

 

He liked mini-four-wheel…(あいつはミニ四駆にハマっておったのう…)

 

 そうポツリとつぶやいていたが。そのあいつが名無しさんでないことを祈る。

 まさか彼がホグワーツで事件を起こしたのは、それが原因だったという、イヤな可能性が出てきてしまうので。

 

 現在では、つぶされるどころか、逆に魔法省にまで流行の波が押し寄せていく勢いである。

 学生たちは、上から下まで。賢者の石? 今はそれどころではない! という熱狂に駆られている。

 

 

 この間のハロウィンパーティでも、出てきたトロルが、あっと言う間に狩られていた。

 怖がるよりも、今が高めた力を発揮する時。とばかりに、パーティ会場に顔を出したトロルめがけて、モビ○スーツが集団で襲い掛かる。

 

 いくつかの機体は、飛んでいた。マスターが鉄の城を飛べるように改造したのを、いち早く取り入れた、トップビルダーたちの機体だ。

 クィディッチの空飛ぶボール、スニッチを改造して詰め込んだり、飛行用のホウキを最小限度に縮小して埋め込んでいるらしい。

 

 それらを含めた様々なモビ○スーツが足を止め、その間に唱えられた長い呪文で威力を高めた魔法が次々と炸裂。

 これ、もうトロル死んでるだろう、という段になっても。まだ呪文を唱え終わっていなかった生徒たちが、せっかくだからと最後まで唱えて魔法を解き放つ。

 あれはオーバーキルというものであろう。

 

 なお、傷ついた学校はしもべ妖精が、一晩かからずに直してくれました。

 我輩の中で、彼らへの評価の上昇が止まらないのだが。ハウスエルフという、原作での種族名も許せそうだ。

 いや、やはり許せぬな。エルフとはもっと、こう。肌が透き通るくらいにキレイな、森の妖精でなければならないのだ。

 着ている服は、森の民なのに露出度が大目。胸は小さく、ほっそりとスレンダー。そうでなければ、いけないのだ。

 

「バケモノを倒すのは、いつだって人間だ。人間でなければ、いけないのだ!」

 

 あの人間でいられなかった、哀しき化け物の叫びにも匹敵するほどに。我輩はそう固く信仰する。

 

 そうだ。ここはファンタジーの世界であったな。そんなエルフも、探せばきっとどこかに―――

 

That's nowhere.(おらぬよ) So you shouldn't go to look for it(だから探しになど行かないように)

 

 マスター。ごく自然に、我輩の思考を読むのはどうかと思う。

 しかし、そうか。いないのか。いないのならば、仕方が無い。

 ないなら、よそから持ってこねば。これは、召喚呪文を研究しろという流れであるな?

 

Stop. That's h○ghAce(やめたまえ。それは誘拐だ)

 

 そうか、一方的な召喚は誘拐であったな。自重するとしよう。

 ところで。今、誘拐のこと、ハ○エースって言わなかった?

 

 

 




●「これで勝つる!」
ネットゲームFF11の実況板に書き込んでいた、個人の書き込みが元ネタ。
通称ブロントさん。Burontという実在したキャラのプレイヤーという推測でそう呼ばれていた。ただし本人は中の人であることを否定。
その独特すぎる言語センスはネタとして非常に秀逸であり、今もネットの上でブロント語として生き残っている。
「俺の怒りが有頂天」「ストレスでマッハ」「破壊力ばつ牛ン」「マジで親のダイヤの結婚指輪のネックレスを指にはめてぶん殴るぞ」「光と闇が両方そなわり最強に見える」「さらにダメージは加速した」などなど。

●「バケモノを倒すのは、いつだって人間だ。人間でなければ、いけないのだ!」
ヘルシングより。元人間の、色々嫌な事があって、人間をやめてしまった。人間のままいることができずに、バケモノになって、終わりを待望する主人公のセリフ。
そうなってこそ正しい、という信念があるが、素直に負けてくれない。
何千万という無限にも思えるコンティニューと、その残機を一度に表に出しての人海戦術を取ってくる、そんなラスボスにして主人公、アーカード。
吸血鬼の彼が、他のバケモノ相手に無双する話である。なお元エロマンガである。

●ハイエー○
あくまでも、ネット上でのネタとしての話であるが。
T○Y◎TAハ○エース=誘拐であることは確定的に明らか。


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第10話

オマケを外伝として移動してから、まだ一週間ほどなんだなあ、と気付く。


 我輩は予定表を作成中である。しなければならぬ仕事を書き出して、予定を組もうと考えたのだ。

 まあ。仕事を消化するのは、だいたい我輩ではないのだが。

 

 というのも、だ。ここのところ、どうも不具合がひどくなって来たのだ。

 カップ麺が流行りだした頃から、少しづつ。この世界へ来るための瞑想の時間が、長くなってきている。

 最初は気のせいかとも思ったのだが、もはやその差は明確なものだ。どうもこの世界が原作からズレるほどに、その不具合は大きくなっている気がする。

 瞑想中の時間経過などは、正確には知ることができぬ。開始前と、終了時の体内時計による勘だよりだが。それでも実感するほどに、もはやズレは大きい。

 分霊箱が壊れるたびに、原作の事件が減るたびに。それは大きくなっていく。

 

 一番大きく変化があったのは、我輩が魔法を覚えた時であったのは、どうしてだろうか。

 

 とにかく、まあ。そういうわけである。

 このままでは、いつかこの世界に来れなくなってしまいそうなので。マスターのために、今後の予定を書き残しておこうと、そう思ったのだ。

 使用する言語は日本語になるが。まあ、マスターならばどうにでもするであろう。

 

 

 まずは九つの項目に分けて、書き出してみる。

 

 

 一。賢者の石。

 

 石そのものは、もはや触らぬほうが良い。

 

 そういえばハグリッドが、ドラゴンを育てておったなあ。普通に法律違反であるので、マスターに一応言っておくか。

 

 ユニコーンだかペカサスだかを襲って、その血を防衛術の教授が飲んでいたはず。

 これは透明マントでも使って、後ろからバジリスクの牙で、取り憑いている名無しさんごと。むしろ名無しさんをこそ、サクッとヤれれば、問題は解決するな。

 あるいは、何らかの方法で、捕まえておくという手もある。分霊箱を全て始末したのちに、あらためて処理を考えれば良いのだ。

 いずれにせよ、実行するのは我輩ではない。マスターにお任せである。

 

 二。秘密の部屋。

 

 ほぼ解決している。問題は日記帳くらいであるが、今はマルフォイ家の屋敷は閉鎖されている。

 分霊箱でもある、日記帳の存在。あれをマスターにチクれば、それでたぶん、なんとでもなるだろう。

 

 え? ドビー? 知らない子ですね。

 この世界のハリーは、彼にかばわれなくとも死なない気がするので、きっと大丈夫であろうさ。

 

 ロックハート先生は小説家として、ベストセラーを生み続けてほしい。いくつか日本語版が出ておったので、読んでみたのだが。さすがはハーマイオニーも絶賛の出来である。これがまあ、面白いのだ。

 

 一作につき、一人犠牲者が出るという問題があるが。

 

 それでも佐藤なんとか先生やら、ヤマグチ何某先生やら、臼井ホニャララ先生、栗本なんちゃら先生、T塚神、池波ST郎先生、ドラのFの方の先生。

 彼らの作品の続きが、どこかで記憶喪失の犠牲者が一人出るが、読めるとしたら、だ。

 諸君は、どうするかね?

 

 三。アズカバンの囚人

 

 ネズミのピーターは、まだ逮捕されていない。シリウス・ブラックの無罪を認めてもらうための根回しを、マスターが魔法省を中心に工作中だ。

 その方法が、映画泥棒方式で撮ったシャーロック・ホームズのドラマをバラまくという手段なのは、どうかと思うが。

 魔法だけではなく、知恵と知識もまた、魔法使いには大事。そう訴え、指紋や血液反応などをはじめとする、科学的捜査方法の魔法界への導入を促しているらしい。

 

 魔法界は、三権が分立していない。

 法律を作る政府。行政手続きや運営をする役所。裁判所。これらの人事まで含めて全てが同じ、魔法省の所属だ。

 多くの魔法使いが変化を嫌うこともあり、その辺は昔から変わっていないらしい。中世かそれ以前の、封建制の頃の政治体制に似ている。

 そこへマグルのやり方をマネろ、そう正直に持っていっても、門前払い。

 そう考えてみれば、娯楽から入って理解を得てから、はなしをしよう。そう考えたに違いない、マスターの手法は悪くは無い。

 時間はかかりそうだが、このあたりのことは、本来二年はあとのこと。一年くらいかけて、じっくりやっても問題は無かろう。

 

 四。炎のゴブレット。

 

 あまり思い当たらぬな。

 強いてあげれば、クラウチ・ジュニアを、今のうちにヤっとくことであろうか。

 確かアズカバンを脱獄して実家に帰ったものの、発覚を恐れた父親に服従呪文をかけられて、軟禁状態であったはず。

 原作では、少しずつその服従呪文から逃れて、父親をヤっていたが。まだそこまでの自由はあるまい。

 密告でも入れれば、マルフォイ家のように家宅捜索されて見つかるかも知れぬな。

 まあ。これもマスターにチクれば終わりである。

 よし、ものはついでだ。あの不愉快な記者も、無許可のアニメーガスだとチクっておくとしよう。

 

 いや、他にもあったな。名無しさんの肉体の復活に、確か父親の骨だか何かが必要だったはず。

 いそのー。今のうちにニセモノと取り替えておこうぜー。

 もちろん、本物は始末するとも。灰になるまで火葬して、海にバラまいて供養するのである。

 一時は葬儀屋をしておったこともあるのだ。ここは任せろ、マスター。

 たぶん、それが最後のご奉公である。

 

 五。不死鳥の騎士団。

 

 特に無し。

 いや、本当に思い当たらぬのだが。

 無理やりにでもひねり出すならば、アズカバンは死喰人の集団脱獄と、吸魂鬼がハリーを襲ったこと。

 この二つから、アズカバンには名無しさんの手が伸びてるのでは? という推測くらいか。

 これもマスター案件であるな。

 

 六。謎のプリンス。

 

 自分でプリンスと名乗ってしまった、黒歴史ノートが発見されてしまったスネイプ先生の心中やいかに。

 そりゃあ、それらを読み漁ったと思われるハリーに、容赦なく攻撃するというものである。

 

 分霊箱関連は、だいたいもうマスターに報告済みだ。

 特に無し、である。

 

 七。死の秘宝。

 

 すでに、何もすることが無いな。

 

 八。呪いの子。

 

 逆転時計を多用した作品なので、時系列が複雑で、よくわからない。

 情報として内容を知っていただけだし、うろ覚えであるということもある。

 ただとにかく、セドリックは死ななければ、闇落ちする人材であるということは覚えている。

 

 九。ハリー・ポッター。

 

 彼の中に、名無しさんが意図せず作った分霊箱がある。それも始末しなければならないのだが、彼を殺すのはしのびない。

 名無しさんが人を殺しまくるので、尊い犠牲扱いはできないでもないと思うが。一度ホグワーツに入学させてしまった以上、教育者としてマスターにもその手段は選べまい。

 彼の目を通して、名無しさんが覗き見ができるらしいので、そこも注意である。

 マスターがなぜか秘密主義を発揮して、その事実をハリー本人には伝えていなかったが。そこは、教えてさしあげろ。

 

 原作では、復活した名無しさんの死の呪文をハリーが受けて、分霊箱だけが壊れていた。

 あそこでなぜハリーが助かったのかは、諸説ある。

 ご都合主義にも見えたが、一応理屈は通る説も複数あった。

 正直、わからぬ。

 

 名無しさんに、自分の魂を回収させることもできるらしい。

 しかし、そのためには心からの反省が必要なので、名無しさんには不可能なのだそうな。

 

 ならば、呪文で洗脳すればいいのでは?

 

 洗脳ひとつで、国を裏から少し乗っ取っていた我輩は訝しんだ。

 

 名無しさんの件が片付けば、あとはハリー・ポッターは自由だ。

 原作では戦いの経験と、その結果受け継いだものから闇払いの職業を選んでいた。

 しかしどう考えても、クィディッチの選手になったほうが、彼は幸せで、人気者で、金持ちになれたという世知辛い事実がある。

 命がけで戦う公務員よりも、メジャーなプロスポーツのスター選手の方が、年収も知名度も、圧倒的に上なのだ。

 

 あるいは。あの新式決闘を魔法界に広めて、プロ化してその理事に納まってもいい。アニメを持ち込んだ張本人の彼なら、上手く立ち回ればそれも可能だ。

 勉強して、何らかの教授としてホグワーツに残るのもいいだろう。防衛術の教授などオススメである。

 

 彼はすでに主要人物ではあっても、主人公ではない気もするが。

 それでも彼の人生は、輝いていてほしい。

 かつてあの、児童文学というには厚い本をめくった、その一人としてそう願う。

 

 彼のこれからの人生に、祝福あれ。

 

 念のためについでに祈るが。別にニッポン風味でなくていいですからね。いいでありますからね!

 

 

 さて。大事なことなので、二度祈ったことであるし。これで大丈夫であろう。

 この予定表を、マスターに提出するとしようか。

 書き終えた瞬間から、何となく。ほんのかすかに。我輩を、現実へと引き戻そうとする力を感じる。

 終わりは近い。しかしこの世界が楽しいので、出来うる限りはあらがおう。

 

 次はニッポンではなくアメコミを広げて、コウモリ男や超男を流行らせる予定なのだ。

 ニッポンにしても。かつて魔法界で流行りかけたが、当時の魔法省の圧力でツブされたスーパーロボット系を流行らせると、マスターががんばっている。

 戦隊ものも、パワーレンジャーというオリジナルが作られるほど、アメリカで流行ったことだし。ホグワーツでも行けないか、実験する予定だ。

 ライダーの系譜は、まだ流れていないはずなのだが、変身ベルトにしか見えない魔法アイテムがなぜか存在する。これは是非改造せねば。

 いまいち付いて来れていない女子たちのために、ベル○イユのバラやひみつの○っ○ちゃんなど少女マンガ系も流通させる計画もある。

 赤ず○んチャ○ャが、なぜか若い頃のマクゴナガル教授だというデマと一緒に、すでに流行りかけているので、イケるはずだ。

 スネイプ教授も、録画用の魔法道具を新しく一から設計して、量産しようと企んでいる。魔法省の文化汚染を進めて、融通がきくように適度に壊すつもりらしい。

 

 いかん。これはまだまだ遊び足りぬ。

 ノンビリしている場合ではない。久々に本気を出そう。

 あとはもう。全力で駆け抜けるのみ――――――

 

 

 



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HELLSING編 大乱闘スマッシュブラザーズ
第1話


と思ったら、なんか数時間で生えてきた。
本日2本目。


 我輩は一心に祈っているのである。予想通りに、あの日魔法世界から帰ると、もう二度とあの場所へは行けなかった。

 楽しい場所であった。ユカイに「なった」場所であった。

 友人になれたかも知れぬ人々。ともに遊んだ者たち。名残惜しい場所であった。

 曲がりなりにも、我輩の介入で、平和にした場所であった。

 

 せっかくだからと、最後にラ○ュタ建造計画をはじめ、火星開発計画に、ダンジョン運営計画やバタービール輸出計画。などの、様々な計画書を最後に残してきた。

 

 他には、イケメンとハニトラによる純血撲滅計画に、ガ○プラバトルのチーム戦やリーグ戦、他校への布教による対抗戦などのメジャー化計画。

 他人に化けるポリジュース薬を簡易化して、年齢詐称薬を作ったのだが。その利権をバイト戦士リーマスに送る計画。

 他にも、名前をいってはいけないあの人の本名のトムを大々的に広めたり、思いつく限りを残して来た。

 

 いちいち、カリカリと羊皮紙に羽ペンで書いておったら、あそこまでは計画書は残せなかったであろう。旧式の機械式タイプライター。それも日本語版を出してくれた、必要の部屋に感謝である。

 

 あの場所に、もう一度行けぬものか。日々そう祈って、瞑想して。

 

 途中で少し飽きて、刑務官に新聞を持ってこさせて、読みふける。

 さすがに全員は無理であったが、何人かは肉体交換する前にあらかじめ洗脳しておいたのだ。

 

 ふむ。ヤクザ組織の死穢八斎會が壊滅ね。うん、原作どおりであるな。

 だが壊滅させたのが、ヒーローではなくヴィラン連合なのは、原作どおりではないですよね。

 いったい、何があったのか。とりあえず、原作補正さんもうちょっとガンバって。

 

 気にはなるが、さすがにボスたちも取材を受けたりはせぬだろうから、詳しいことは記事ではわかるまい。

 ……取材、受けないよね? 受けないと誰か言ってくれ。

 

 話題を、変えよう。

 

 それはそれとして置いておいて、だ。お気付きであろうか。

 

 今の我輩は、新聞が読めるのだ。

 

 つまり。目が無いが、見える。これが、霊視というやつであろうか。

 

 こうなったのは、ハリーポッターの世界へと行けなくなってからだ。

 幽霊としての視覚でも、手に入れたのであろうか。

 あの世界の我輩が消滅して、こちらへと持ってこれたのか。それとも、いるかどうかもわからぬ何者かからの、世界を改変したご褒美か何かか。

 理屈はわからぬが、不思議なものである。

 

 しかしながら、だ。

 

 つい先日行って来た、別の世界で得たものが何も無いのは、改変を手抜きしたからか。それとも日帰りにしたので、関わりが薄いのか。はたまた経験値が足らぬのか。

 あるいは。普通の肉体では、使えぬのか。原因は、さっぱりとわからない。

 

 うむ。日帰りであるな。だいたい二十四時間で行って来たのである。

 

 行き先は、ヘルシングだ。

 

 主人公が一番のチートで、そんなバケモノとそれを殺すニンゲンのいる、あの物騒な世界である。

 そりゃあ、速攻で日帰りもキメるというものだ。

 

 実際。二十四時間しか居なかったというのに、一度ならず我輩は殺されている。

 あの世界での我輩のガワがアレでなかったのなら、そのまま消滅というか、死亡していたかもしれない。

 

「僕はどこにでもいて どこにもいない」

 

 そんなことを言っておった、あの猫耳を生やしたショタ。アレが我輩のガワであった。

 原理はわからぬが、気合を入れたら実体化する幽霊のようなものであり、実体化するには他人と命を共有していてはならない。そういう生き物である。

 

 とうとう転生ではなく、憑依したのか。

 

 そう思ったが、少し違った。よくよく見れば、髪の色が黒い。着ている制服も色が違う。何色だったかは覚えておらぬが、少なくとも真っ白ではなかったはずだ。

 

 ああ。2Pカラーだこれ。

 

 これ、絶対に誰か設定してるであろう? 誰だよ、遊んでるのは。

 

 世界について早々。色々と確認していた我輩が、そう思った次の瞬間だ。

 撃たれた。

 我輩。頭の中を、なにかが通り抜ける音というものを、初めて聞いたのである。

 

 そして気付けば、イスに座ったいつもの現実の部屋である。

 これはどういうことかと考える前に、最速で瞑想に入る。

 

「三、二、一、三昧(サマデイ)

 

 あそこまで早くは埋没も没頭もできぬが、十秒はかからなかったと思う。

 そうして場面は、撃たれたと思しき場所へと戻る。

 

 もう一度、撃たれた。

 

 むろん、もう一度行ったとも。

 三度目は、撃たれなかった。向こうに付いたと思ったら、すぐに両手を上に挙げたおかげだと思う。

 そうでなければ、もう何回かは、確実に撃たれていた。

 そしてその後に、捕獲という流れになっていたのではなかろうか。

 まあ。捕まっているのは、結果としては同じなのだが。無駄を省いた分、イベントをスキップできたような気分で、悪くは無い。

 

 ただ我輩を捕まえたのが、ナチスの側だったのは予想外であった。

 

 普通は、こういう場合。ヘルシング機関に出現するものではないのだろうか。

 我輩という存在は、どこまで悪役に縁があるのか。

 それとも、ヴィランになったものは、どこに行ってもヴィランだとでも言うのか。

 

 いや。待てよ。前回は違ったではないか。前回はちゃんと、正義の側のホグワーツに―――

 ―――いや。あの時、ラスボスさん居ったな。防衛術の教授に取り憑いて、ホグワーツに居ったわ。

 

 えっ。マジで? マジでそうなの? これからも、そうなの?

 

 その辺、どう思うかね。シュレディンガー。

 

 いや。ドイツ語で言われても、我輩は何もわからないのである。

 実は英語もかなりいっぱいいっぱいだったぞ。

 誰かー。この中に日本語のわかる方はいらっしゃいませんかー。

 

 

 




●「三、二、一、三昧(サマデイ)
三昧とは、瞑想などで忘我の状態などを指す。仏教用語。完全に自分の内側に閉じこもって、音も聞こえない状態である。
ブライトライツ・ホーリーランドというラノベの言葉。世界に地獄があふれ、街の外は魔物が闊歩するRPGライクな世界で、街の外で戦う武装僧侶(ガン・ボーズ)の持つらしい、基本技能のひとつ。カウントダウンにあわせて、自在に三昧に至る。
作中では三昧に至った坊主らが結縁した仏とのラインを通じて大仏を起動させ、巨大な魔物と戦うというトンデモシーンがあった。なお大仏が敗北した模様。


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第2話

鉄腕ダッシュがもう見れない可能性がある……だと……?


 

 我輩は試験中である。

 

「黄昏よりも?」「昏き者」

「ヒミコミコミコ?」「ヒミコミコ」

「月に代わって?」「おしおきよ」

「絶対無敵?」「ライジンオー」

「ナディアが持つのは?」「ブルーウォーター?」

「まじかる☆タルるートくんの、ひらがな部分はどこ?」「パスで」

「三つ目がとおるの和登さん。いいよね」「いい……」

「アベル伝説は、ドラクエ的にはありかね?」「当時はどうかと思ったが、ゲームもIV以降は別世界での話なんでアリ」

「ダイの大冒険のアニメは、なんでああなってしまったんだろう?」「OPからしてセンスが古かったでありますなあ」

「アスラーダを作ろうとしたら、部下に怒られてね」「F1マシン以上にお金かかりそうなので、仕方ないかと」

「なのに部下は、アイアンリーガーは作ろうとしたんだ」「えっ。あれ作れるの?」

「ゲッター or マジンガー?」「JAMプロジェクト的にゲッター」

「Gガンはガンダムに入りますか?」「あそこまで突き抜けたら、逆に気持ちいいから、いいのでは」

「ママは小学4年生というタイトルで、部下に誤解されたんだが」「我輩に言われても困るのである」

「ヤダモンは、魔法少女というジャンルでいいのだろうか?」「よいのでは? 魔法を使っておったし、掃除機でだが空を飛んだし」

「じゃあチャチャは?」「ギャグが多すぎたかな、と。そういえば変身はしておりましたな」

「レイアースはどうなんだろう?」「あそこまで行くと、ジャンルが変わるのでは? 普通にファンタジーでよいかと」

 

 長いのである。というか、いったいぜんたい、なんの試験なのか。

 しかしキレるわけにもいかぬ。この試験、部隊の指揮官直々のものであるからして。

 

 うむ。なにを隠そう、このやり取り。モンティナ・マックス少佐と直接やりあったものである。

 日本語が話せる人材で、ヒマだったのがちょうど少佐だけであったらしい。

 

 それで始まったのが、これなのであるが。本当に何を目的としているのであろうか。

 

 我輩は現在、敷地内にいきなり現れた侵入者であり。

 即座に射殺したはずなのに、こともなげに復活して、また射殺して復活。もう一度射殺して復活。それから投降してきた捕虜でもあり。

 部隊の一員と、容姿や衣装がそっくりの、しかし色合いだけは異なる不審人物でもある。

 

 それを捕まえて、本当に何をやっているのであろうか。

 何かの時間稼ぎかも知れぬが、我輩相手に時間を稼いで、なにをどうするというのであろう。

 自慢できる戦闘能力なぞ、この世界基準で考えたならば、全く無いぞ。

 まあ、この体。死ぬことだけはなさそうであるし。何かあっても大丈夫であろう。勇気を出して、そろそろ質問してみるとしよう。

 

 すると、だ。

 

 このやり取りに、いったいなんの意味が? この問いかけに。

 

 え? 楽しいだろう? という答えが返ってきた。

 

 ヤバい。この男、我輩の同類だ。基本、楽しければそれでよしとする人間だ。

 そういえばそういう人であったよ。全力で趣味に生きている人でもあった。

 

 その趣味が戦争で、そのために全てを踏み台にして、心から笑える人でもあるがな!

 

 アニメに詳しいのは、巻末などのイラストのアレであるか? ドクや大尉とコミケ行っちゃうようなアレが、採用されているのであるか?

 

 うわあ。少し待ってほしいのであるが。

 えっ。我輩、今度はこの人の野望をどうにかするのであるか?

 さもなくば、アーカードのダンナをどうにかするのであるか?

 

「クソゲーだな」

 

 我輩の中で、ボスがつぶやいた。全くの同感である。

 いや。本当にこれをどうしろと。

 

 あっ、申し訳ない。少々考え事をば。

 え。採用? なににですか? バイト? なにをするのでありますか?

 

 えっ。ホワイトハウス襲撃?

 

 なにそれ怖い。

 

 




元ネタが多すぎるので、今回ばかりは割愛させて下さい。
すべて90年代のアニメです。


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第3話

 我輩は急いでいるのである。

 ホワイトハウス襲撃部隊、参陣一名。我輩。以上。

 そういうことになった。せめて下準備だけでも、やっておかねば任務が果たせぬ。

 

 我輩一人になったのも、任務を果たさねばならなくなったのも、全部自分のせいであるがな!

 

 仕方が無かったのだ。

 武装したゾンビを引き連れて、奇襲。ホワイトハウスにいる人間を、無差別に蹂躙し混乱させよ。そんなことを言われても、困るのだ。

 

 我輩はヴィランである。しかし、なんちゃってが頭に付くヴィランなのだ。

 

 実は。いまだに人を殺したことが無い。

 

 それどころか、大怪我をさせたことさえなかったはずだ。ないよな?

 ちょっと政治生命をかけてもらったり、社会的に死なせかけたりしたことはあったが。そんなくらいだ。

 強いてあげれば。ハリーポッターの世界で、名無しさんを仕留めようとした、殺人教唆くらいであろうか?

 クラウチJr.やピーター・ペティグリューはアズカバン行きにしたと思うが、あれは犯罪者を通報しただけであるから、計数外(ノーカン)である。

 

 そんな我輩に、ガチのテロを仕掛けて来いと言われても。その、アレだ。ムリである。

 しかし断るのも怖かったので、代案を提出したのだ。

 

 そもそもだ。ホワイトハウス襲撃ということは、だ。

 今の時系列は、原作でも終盤。それもロンドン最終決戦の直前ではなかろうか?

 アインクラッドも、ホグワーツも。どちらも物語の初期にたどり着いていたので、少し油断していた。

 

 確認したいが、バカ正直に「最終決戦前ですか?」などと聞けぬので、少し工夫する。

 

「ホワイトハウスを襲撃するというのに、情報の奪取を一切気にせず、破壊と混乱のみということは―――

 恨みか。いや、それなら自分でやる。さてはこれ、ただの時間稼ぎのイタズラであるな? それも飛び込みの、得体の知れぬ我輩にやらせる、片手間の」

 

 ニタリと。今の今まで、目が笑っていない笑顔しかしなかった少佐が、目を歪めて笑った。

 

「ああ、そうさ。アメリカ? 世界の警察? 米帝? 世界最強の軍隊? 我々は、そんなものになど興味は無い。我々は、もっと。もっと、ステキな相手と遊びに行くのさ。

 そういう約束だ。一方的な約束だがね。もう六十年も前からのがあるんだ」

 

 芝居がかった、大げさな身振り。オペラでも歌い上げるような、張りのある声。見るものを引きずり込むような、狂気。

 それら全部を身に着けて。それでも、明日の遠足が楽しみでならない、幼い子供のような。そんな無邪気な喜びに、彼はあふれていた。

 

 キミのおかげで、そちらへ回すはずだった奴らも、連れて行ってやれる。ありがとう。

 そう礼を言って、少佐は頭を下げた。

 

 どうやら、最終決戦で間違いは無いらしい。

 それならば、やりようはある。ただ、頭を下げて頼まれてしまったので、仕事はやらねばならない。そんな気になってしまった。

 

 何故任されたのかは、謎のままであるが。

 おそらく、大した理由は無いと思う。おそらく勘か、気まぐれだ。たぶん間違いない。人生自由型の同類としての、勘である。

 

「わかった。任せるのである。ただし、どうせならば、もっと任せろ。

 我輩一人で、充分だ。ここは我輩に任せて、先に行け」

 

 言ってみたいが、言ったら死ぬ上に、言うべき状況にはまず巡り合わないセリフである。

 これを口にした時の我輩は、おそらくいいドヤ顔をしていたと思われる。得意満面とは、このことか。

 

 一応、根拠も無く言ったわけではない。アテはある。

 個性は発動しない。この体がおそらく可能な、瞬間移動は使える気がする。だが、試してみないことには、何とも言えぬ。

 しかし。それでも、アテはあった。

 

 一足(ひとあし)先に出る。

 では、おさらばである。せめて良い終末を。

 

 あいさつをすませ。()()()()()()

 我輩は何となくの感覚で、アメリカと思しき方向へと瞬間移動すべく、自分を分解した。

 たどり着けるかどうかは、実は自信が無い。

 

 

 



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第4話

そろそろ更新しないかな、と冬野暖房器具氏の とある科学の極限生存(サバイバル) をアゲてみる。木原の一人の中の人になって、カミやんらの友人として学生やってるお話。木原の特性はなし。高校入った後の憑依なんで、過去の因縁が重い。パパはまさかのあの人だけど、ちょっと感動するほどいいパッパで困る。


 我輩は無双中である。

 この世界。個性は使えぬが、ホグワーツで学んだ魔法は使えた。そして、杖もなぜだか持っておった。

 必要の部屋を出す時。この先ずっと使える杖がほしい。そう願っていたおかげかもしれぬ。

 部屋を出ても消えなければいいな、という程度であったのだが。これはうれしい誤算である。

 

 魔力自体が無いのか、現実(ヒロアカ世界)では魔法が使えぬどころか、杖自体が見当たらなかったが。

 

 まあ、今は使えている。それでいい。

 そして新ホグワーツ式とでも言おうか。アニメの影響を受けて、長い詠唱を必要とする代わりに、強力になった呪文を撃つ。

 まずはたいていの魔法を強化する、万能強化呪文を唱える。

 

「四界の闇を統べる王 汝ら欠片の縁に従い 汝ら全ての力持て 我に更なる力を与えん」

 

 魔王たちの血などの、欠片はないのだが。この呪文、なぜか発動する。

 くそいー加減な性格とまで言われた、大魔王の部下だからなのか。それともこの魔法は、魔王に関係がないのか。とにかく発動するのだ。

 代償として、若干心が痛い。昔の自分が真剣に唱えた時は、盛り上がっていた部分がイタイ。

 だがとても便利なのだ。これを使えば、失神呪文などは範囲攻撃になる。部屋の外から唱えるだけで、制圧完了である。

 

 ホワイトハウス内部だからか。それとも我輩が単独犯だからか。今のところ、反撃に爆発物や重火器は使用されていない。

 撃たれたら、即コンティニュー。もしくは、自分を分解して避ける。

 これで意外と戦えている。そもそも、撃たれても死なない化け物が単独で攻めてくるなど、想定して備えている方がオカしいのだ。

 うまく対応できない彼らを、責めることは出来ない。

 

「僕はどこにでもいて、どこにもいない」

 

 何度も撃たれたり、転移することで。この言葉の意味が、だいぶ理解できてきた。

 自分が認識する場所に、自分という存在がいる。

 

我思う。ゆえに、我在り(コギト エルゴ スム)

 

 意思があれば、そこに存在する。今の我輩や、あのシュレディンガー准尉は、そういう生き物だ。

 逆に言えば、意思がなければ存在できない。酔っ払ったり、記憶喪失になったら死ぬのではなかろうか?

 寝るのはセーフであろうか。さすがに実験してみる勇気はないが。

 いやはや。これはますます、長居ができぬ。この世界を、早急に退去せねば。

 

 まるで何かのゲームのように。具体的にはコ○エーの三国や戦国のアレのように。護衛や兵隊の皆さんを失神させて倒していくのも、飽きてきた。

 オリ主のたしなみである、俺TUEE。ここに来て初めて体験してみたが、これがまた性に合わないのだ。

 強い自分というものに、まず違和感がある。直接自分の手で倒す、戦う。これもオカしいと感じる。

 

 どうやら我輩は、黒幕という立場が気に入っていたらしい。

 いや。黒幕というか、そのそばでウロチョロする、あの、アレだ。たまに悪の側にもいる、マスコット。アレであるな。

 もしくはネズミ男とか、コウモリ猫とか、ちょっと……いや、かなり違うけどミネフジコみたいな狂言回し。

 

 そうやって、少し物思いにふけっておったところ、うっかり壁をいくつかすり抜けておった。

 ホグワーツの幽霊時代のクセであるな。なるほど。こういったことも出来るらしい。

 そして、記憶にある顔を発見した。

 

Hello Mr.President.we'll best of friends now(やあ 大統領。今から私たちは親友さ)

 

 見よう見まね。服従呪文。

 死の呪文などの闇の呪文は、さすがに練習できなかったのでぶっつけ本番だったが、うまくいった。

 服従呪文は、印象深かったので自信はあった。

 バジリスクのマンダ相手に、マスター・ダンブルドアがカッコ良くキメておったのをよく覚えている。

 イメージが出来ていれば、あの世界の魔法は割とうまくいくのだ。

 

 大統領の周りにいた人らが、我輩目掛けて発砲したり、何事かを叫んで大統領へと駆け寄る。

 だがしかし。その銃弾は我輩をすり抜けていくし、大統領はすでに我輩の味方だ。

 壁がすり抜けられるならば、銃弾もできるだろう。そう思って試してみたが、案の定成功した。

 あとは服従呪文の連打。それで全ては終わった。

 大統領の近くにいたということは、彼らは護衛と、大統領用のスタッフであろう。

 これから大統領にする頼みごとに、ぜひ彼らも手を貸してもらわねば。

 

 問題は英会話くらいであるな。正しく伝わるかは、ちょっとした賭けだ。

 

As soon as possible.Invade.To London(可能な限り早く。侵攻せよ。ロンドンへ)

 

 さて。これで上手く行くであろうか? ああ、そうそう。これも言っておくか。

 

As legal as possible(できるだけ合法で)

 

 戦後処理とか、我輩できないので。ちょっと気を使ってみた。

 

 はてさて。最高のタイミングで、横合いから殴りつける。であったか?

 間に合うかどうかはわからぬ。一切計算などしておらぬので、ひたすら運任せであるが。

 場を混乱させ、物語をかき乱し、壊してしまわねば。さもなくば我輩、この世界からは出られぬと思うのであるからして。

 

 行くが良い、米軍。我輩のために。そして、世界のために。

 さあ。がんばれ。

 

 

 



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第5話

PCを新調したぞ! と思ったら、それも気に入らなかったので返品デス。
ファンが軽い異音を発するが、叩くと直る。そしてまた少しすると異音という旧PCを、また2~3日使用せねば……
手放すつもりで、色々削った後なので不便しつつ投下。


 我輩は拍手を送っている。思わず、そうせざるを得なかったのだ。ブラボー。

 

「諸君。私は戦争が好きだ。諸君。私は戦争が好きだ。諸君。私は戦争が、大好きだ」

 

 あの有名なセリフから始まる、少佐の名演説を生で聞いたのだ。

 あの熱い盛り上がりを前にしたならば。その場に居合わせてしまったならば。

 誰であれ、きっと拍手せざるを得まい。クリーク!(戦争!) の叫びもやってみれば、楽しかった。

 

 演説はドイツ語だったので、意味はわからなかったが。内容はだいたい知っていたので問題ない。

 

 うん?

 お前、アメリカにいるんじゃなかったのかって?

 この世界ではもはや、我輩はどこにでもいて、どこにもいない。

 認識さえできれば、どこであろうと、その場にすでに存在する。

 

 ゆえに、せっかくアメリカに来たのだからと、あなたの一番お気に入りのハンバーガーショップはどこですかと大統領スタッフの方々に聞いてみた。

 

"Where is your favorite hamburger shop?"

 

 これがどういうわけか。三分の大論争と、五分の拳によるハナシアイのゴングになってしまった。アメリカの国論は、ああやって作られているのだろうか。議論を戦わせるって、絶対にああいうことではないと思うのであるが。

 

 そんな短くも激しいハナシアイを経て決定された、GREAT・STATE・BURGERとKATSU・BURGERで食事も済ませてきた。

 グレートステーツの方はミルクシェイクとダブルバーガーの+ベーコン。カツの方は看板のトンカツバーガー(なぜかトーキョーやニンジャと名付けられていた)はもちろん、カツに味噌とハチミツと豆腐という異端の組み合わせのMisoHoneyTofeが美味しかったので、もろもろをテイクアウトしてきた。

 少佐へのワイロである。

 あの人は機械仕掛けだというのに、なぜ食事ができるのであろうか。

 

 まあ、そんなことはいいとしてだ。

 あのまま、アメリカにいて結果を待っても良かっただろう。しかし、ふと思ってしまったのだ。

 

 婦警のオッパイが見たい、と。

 

 オッパイはステッキーですよね。と、ヤンとルークの兄弟も言っている。

 

 幸い、ロンドンは前の世界でではあるが、行ったことがある。昼の授業中のホグワーツをこっそりと抜け出し、ロンドンへ繰り出して観光としゃれこんだのだ。

 思いつきで、何の連絡もなしに出かけたせいか。あとでマスター・ダンブルドアに、すごい怒られたのである。

 

 アメリカに来る時は、来たことが無かったので大変であった。

 方向だけ決めて何となく転移するのと、見える範囲で地平線や水平線まで転移するのを繰り返し、ホワイトハウスまで小一時間もかかってしまったのだ。

 ホワイトハウスに飛ぼうとしたら、なぜか国会議事堂に出たし。

 ゾンビに対して発砲する警官に、野党の政治家らしき人物が文句をつけて止めようとしておった。

 錯乱したということにして、拘束して部下に連れて行かせた隊長さん(と思われる人)はいい仕事をしたであるな。

 

 先進国に対する攻撃にしては、やたらとゾンビの数が少なく、吸血鬼もいなかったようであるが。

 あれはニッポンだから、手加減されたのであろうか。それとも、少し混乱させるだけで、何も出来なくなるだろうと見切られたのか。

 我輩は、両方な気がする。

 

 今思えば、自由の女神にでも飛んで、そこからワシントンを目指した方が早かった気もする。

 まあ。後知恵であるな。

 

 行ったことも無い場所に、間違いなく自分が居ると思い込むことは、意外なほどに難しいのだ。

 初心者に、そこまで求められても、その、なんだ。困る。

 

 だが行ったことがあったり、映像であれ、何度も見た場所であれば一瞬だ。

 そうして飛んだロンドンは、まだ平和であった。

 

 あれえ? てっきりもう、火の海であると思ったのであるが。

 そう思って、少佐のところへ飛ぶと、ちょうど演説を始めようかというところであったのだ。

 これは是非とも参加せねば、そして撮らねば。そんな奇妙な使命感が湧き起こった。

 

 撮った映像を持って、一度大統領のところへ。字幕をつけて、全米で流すようにと命令する。

 ちなみに全米に流す理由は、特に無い。

 全米が泣いた。という言葉はよく聞くので。全米が怒った。という映像もあってよいのではなかろうか。そう思っただけである。

 

All-America. Translation and broadcast. OK?(全米。翻訳と放送。OK?)

 

 オッケィといい発音の返事が来たので、大丈夫であろう。急いで、少佐のところへ戻る。

 

「お疲れ様です。こちらの仕事は、終わりました。これは、お土産のシアトルで人気のバーガーであります」

 

 オイ。この人、毒見もせずにカブりついたぞ。

 思わず横の人を見るが、あきらめたように首を小さく横に振る。

 言葉など通じずとも、他人と通じることが出来るという経験をしたが、まったくうれしくない。

 

 さて。報告は済んだ。仕込みも終わった。ほんの少しだが、観光もした。

 と、なれば。あとは自由に過ごすだけである。

 

 では少佐。ご武運を。

 我輩は、我輩なりに。やることができましたので。

 

 そうか。協力に感謝する。彼はそう言って、ヘタな敬礼をした。

 軍服ではなくて、スーツ姿ということもあるが、どうしようもなく軍人らしくない人だ。まったくサマになっていない。

 まあ。今の姿が、ネコミミボーイスカウトの我輩に言えた義理ではないが。

 短い間ですが、お世話になりました。こちらも敬礼を返す。

 

 お互いに真面目な顔で、敬礼しあっておったのだが。やがて耐え切れずに、どちらからともなく吹き出した。

 似合わない。

 お互いが、お互いの言語でそう言った。少佐も、同じ意味の言葉を口にした。なぜか、それが理解できた。

 

 あとでちょっとしたサプライズがあるので、お楽しみに。

 

 それだけ言って、その場から我輩は消えた。

 少し疲れたので、現実へと戻ったのだ。

 刑務所の中が、安心して休める場所であるというのは、いいのであろうか。いや、危険でも困るのだが。

 

 さて。少し眠ろうか。刑務官の人、我輩の命令だ。三時間したら起こしてくれ。

 たまたま洗脳した人が担当の時間で、助かったのである。目覚まし時計も無い、というのはこういう時に困る。

 横にもなれないが、それもいい加減になれた。瞑想とはまた異なる感じで、意識を手放す。

 では諸君。おやすみなさい。

 

 




●諸君。私は戦争が好きだ。
マンガ版では知っている、という人も是非アニメ版も視聴して欲しい、狂気の出来。
ゆうつべでもニコでも、その場面だけ切り取ったものが多分ある。
色々応用が利くので、改変も多々ある。彼が聖杯をブン取って聖杯戦争主催者になる、パラレルが多く作られたやる夫スレでの改変は、共通OPで繰り返し使われたというのに色あせずにカッコ良かった。

●シアトルのバーガー屋
二つとも実在する。だが私はアメリカへ行ったことがないので、知っている人がおられましたら、味の感想を教えてください。


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第6話

 

 我輩は困っているのである。

 誰かに起こされて、もう時間かと目覚めてみれば。目の前にいたのは、見知らぬ、知っている少女であったのだ。

 

「あっ。起きましたか。でもまだここは夢の中ですからね! 早く起きて、向こう側へ急いで下さい。ゴイスーなオッパイがピンチです!」

 

 そう言って我輩を急かすのは、上半身にセーラー服。下半身にスク水(それも実際には見たことが無かった旧型だ!)を。そして頭にはケモ耳を装備した少女であった。

 というか、どこぞの「パンツじゃないから恥ずかしくないもん」で有名な、直撃な魔女の宮藤さんであった。

 

 あの。何をしていらっしゃるんでしょうか。我輩に、なんの御用で?

 ああ、はい。ゴイスーなオッパイとやらがピンチなのはわかったのですが。その、なんで、というか、どこから出てこられたのでしょう?

 

「私は扶桑撫子の、宮藤芳佳さんではありません。あなたの杖の精霊です」

 

 えっ。

 

 ……えっ。

 

 なんで?

 

「知っているでしょう? 理由も分からずに押しつけられたものをおとなしく受け取って、理由も分からずに生きていくのが―――」

 

 我々生き物のさだめ、であったな。でも、これはさすがにどうかと思うのだ。

 まさかとは思うが、次に我輩が行く場所とは、君らの世界ではあるまいね?

 

「さあ? 私は扶桑撫子の、宮藤芳佳さんではありませんので、わかりませんよ」

 

 まあいい。とにかく起きれば良いのであるな?

 え? その前にお約束がある?

 

 あっ。オールマイトにサインもらってるボスが。

 あっ。名無しさんと仲良くダベってるマスターが。

 あっ。風俗店に入ろうか悩んでいる切島くんが。

 あっ。うっかり主演映画がブルーリボン賞にノミネートされたステインさんが。

 あっ。我輩の体で、ピラミッドに隠された部屋を探し当てようとしている先生が。先生、もっと右です。

 

 他にも、色々と良くわからないものを目にした覚えはあるが、しょせんは夢である。気にしないでよかろう。

 結局は、命令しておいた刑務官に起こされてではあるが、目覚めたことであるし。

 行くとしようか。

 

 

 

 そうして出た先では、いいオッパイと悪い乳が戦っていた。

 右半身にびっしりと呪文が書かれた、タンクトップの赤毛の短髪。その短髪が、みるみるうちに削られていく。

 ノートをこすれば、消しゴムが削れていくように。黒板に線を引き続ければ、チョークが短くなっていくように。

 壁に押し付けられた、彼女の頭が物理的に無くなっていく。

 

 宮藤さん! ピンチどころか、そこを通り過ぎて大逆転を決めていますよ、宮藤さん!

 どうすればいいのでありますか、宮藤さん!

 

 杖に向かって聞いてみたが、答えはなかった。

 

 しかたがない。逃げよう。

 一応、見るべきは見た。躍動するオッパイは見た。戦闘がエグ過ぎて、まったくエロスは無かったが。

 

 ナチスのハーケンクロイツを付けた飛行船の上へと、転移する。

 ロンドンの現状を、上から見下ろそうと思ったのだ。高いところならば、どこでも良かったが、そこが目に付いた。それだけだ。

 

 すると。そこには指揮棒を持って、遊んでいる少佐の姿が。

 

 我々は皆、吼えて這いずる一個の楽器だ。などと詩的なことを言っている研究者の人もいるが、なんで前線にいるんだろう。

 研究者の人は研究してればいいと思うのだが。

 

 おっと。揺れた。

 十字軍の戦闘機が音速を超えて飛び交い、その衝撃だけでも飛行船にはよろしくない影響を与えている。

 そんな戦闘機たちも、よくわからない生き物である大尉に落とされて行く。

 

 だがさすがの大尉も、一人では手が足りなかったらしい。

 西の方角から、点がいくつか見えた。そう思ってから、あっと言う間もなかった。飛行船がいくつも同時に爆発した。

 

 米軍が、やってきたのだ。

 

 まずは大西洋艦隊の空母からでも発進したのだろう、戦闘機隊たち。到着と同時にバラまかれたミサイルたちは、大尉の防御をかいくぐって、見事に仕事を果たしたのだ。

 それを防ごうとした、とある執事もいた。しかし彼は、とある事情で邪魔ができなかったのだ。

 

 ちょっとばかり戦闘力が欲しかった我輩が、少佐からブンどったのだ。

 どんな達人であれ、油断すればアッサリと死ぬ。

 こちらの容姿と、戦う者の空気を持っておらぬことで彼は油断した。

 そして攻撃がすべてすり抜けたことで、少し驚いた。あとは、服従呪文が当たって、おしまい。

 意外と簡単であった。

 

「ウィッチに不可能はありません」

 

 魔法は使ったが、我輩はウィッチではないのであるが。まあ、そんなものであった。

 

 さて、少佐。ご覧のとおりです。裏切りもまた、戦場の華でありましょう?

 かつての史実通りに、米軍を呼び込んだ。

 このフネも落ちる。手ゴマは、こうして掠め取った。

 あの吸血鬼も、間もなくやってくる。

 だが、その前に。あなたを倒してしまえばどうなるか?

 

 さて、この勝負。受けていただけますでしょうか、少佐?

 

 

 




●パンツじゃないから恥ずかしくないもん
ストライク ウィッチーズより。両足に、先端にプロペラのついた筒状の飛行ユニットを装備し、空を飛んでネウロイという謎の敵と戦うアニメ。
飛行ユニットを動かすのに魔力が必要で、魔力は未成年の女子のみ持つ、という設定。
そんな若い女子らの下半身は、なぜか下着か水着であり、むき出しだ。しかしこの世界ではそういうものなのだ。そういう設定なのである。その設定を背負っての、番組そのもののキャッチコピー。
ストライクウィッチーズなのに、略称がストパンなのはダテではない。

●「ウィッチに不可能はありません」
同じく、ストパンより。宮藤さんのセリフだが、元は宮藤さんのセリフではなく、先輩のもっさんこと坂本さんのお言葉。1期ではカッコ良かった坂本さんが、まさか2期でBBA無理すんなと言われ、BBAが無理するからとまで言われるようになるとは……


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第7話

佐遊樹氏の この中に1人、ハニートラップがいる! を推してみる。長いこと止まったりもするが続いている2013年からのISもの。最新は今日。
一夏の性格と経歴を改変。男子高校生っぽい性格と、オリ主っぽい強さ。と書くとなにか普通の主人公のようだ。
学園で女生徒、それも候補生でないクラスメイト複数とのやり取りが楽しい。
ISはただでさえヒロイン多くて、しかも話を進めるのに彼女らを登場させて関係深めるのに会話もして、とやっているとおざなりにされる人たちなので、出番多めなのが新鮮。


 我輩は戦うのが好きではない。轟くんを思い出す、あの炎と氷のボスモンスターの彼と同じ意味でのハナシであるな。

 

「俺は戦うのが好きなんじゃねえ。勝つのが好きなんだよぉー!」

 

 このセリフを言った、彼の所業を思い起こしてみると。

 

 相手を弱体化させるワナを仕掛ける。人質をとる。

 激戦のあとで、相手が弱ったところにトドメをさす。それも直接戦ったりはせずに、火山を噴火させて、それに巻き込むという範囲攻撃。

 

 実に、すばらしい。

 合理的である。ヴィラン的でもある。まさに、悪役とはかくあるべしと、そう思うものである。

 

 だから我輩が、大尉の弱点を突いても、悪くないのだ。

 

 ここに、コインショップからくすねたヴィクトリア銀貨のレプリカと、コンビニでパクってきた、接着剤があるじゃろ?

 

 はい。執事さん、銀貨コナゴナになるまで切り刻んで。で、接着剤もスパッとやっちゃって。あとは銀粉をぞんぶんにワイヤーにまぶしたら。

 それで大尉も縛れるよ。やったね。かつて顔が変形するまで殴られまくった、リベンジだ。

 ただ捕まえるまでにするのである。彼には、まだやってもらうことがあるからして。

 

 さて少佐。どうします?

 我輩は准尉と同じだ。死なない。止められない。どうにかできそうな大尉も、執事が止める。

 同類の准尉をぶつけようにも、彼にも仕事がある。失うわけにはいかない。できれば使いたくない。

 さて。どうします?

 

 浮力を失い、じょじょに降下する飛行船の上で、我輩と少佐は語り合った。

 少佐にはまだ手札はあっただろうし、我輩にも魔法という切り札と、いつでもこの世界から離脱できるという、精神的な強みがあった。

 お互いに、相手の手札の存在は知っていたが、その中身まではわからない。

 短いが濃い話し合いの結果。妥協が成立した。

 条件付きの降伏。それを我輩は、少佐から勝ち取ったのだ。

 

 少佐は吸血鬼アーカードと戦争がしたい。我輩は、この世界をかき乱して混乱させたい。

 

「そこに何の違いもありゃあしねえだろうが!」「違うのだ!」

 

 いや、本当に違うのだ。大体あってるかもしれぬが、違うのだ。

 米軍を呼び込んで、戦争を一見激化させたように見えるのは認める。

 こうしている今も。飛んできた輸送機から、重装備の歩兵たちが次々と降下。即座に拠点を築きあげて、ゾンビどもを駆逐し始めておるが、違うのだ。

 

 自分の都合と趣味で、世界を混沌へと放り込むあたりは同じであると認めよう。

 しかし、なんというか、こう。方向性というか、ジャンルというか。音楽性の違いというか。とにかく、何かが違うのだ。

 

 でも、大体あってるんでしょう? と聞かれてしまえば。長い沈黙のあとに、小さく肯定の返事をせざるをえないのであるが。

 そんな大同小異な相手への要求は、簡単で単純なものだ。内容をまとめるのに、三行もいらぬ。

 

 計略とか全部捨てて、アーカードに突撃しようぜ。

 

 頭に「いそのー」を付けようか、少し迷ったのである。

 

 本来ならば、間もなく発動するであろう、アーカードの死の河。

 今までに飲み込んだイノチを、すべて使い魔扱いかなにかで実体化させて戦わせる、拘束制御術式ゼロ号解放。

 その数は、何百万である。

 アーカードという吸血鬼は、それだけのイノチがふだんは残機あつかいで、その数だけコンティニューしてくるクソゲーなラスボスである。

 この解放中は、その残機が使えない。殺せば、死ぬ。

 

 解放してもしなくても、どっちもどっちであると思う。どちらも等しくムリゲーなクソゲーである。

 しかし世には、そんなゲームのクリアにこそ燃えてしまう、そんな修羅ゲーマーたちもいる。

 少佐もその一人であるし、他にもいる。今まで出番の無かった、アンデルセン神父だ。

 

 彼を始めとする、ヴァチカンの精鋭の方々が特攻するのを横合いで見守り、倒せればそれはそれでよし。

 だが倒せないであろうから、そのあとに。アーカードが飲むであろう、ロンドンで流された大量の血の中に。シュレディンガー准尉という毒を混ぜる。

 それが少佐の計略であった。当初は予定に無かった、ヴァチカンの横殴りもアドリブで取り入れたものだ。

 

 だが、それでは彼は帰ってきてしまう。三十年後に、自分の中のイノチをひとつ以外は全て殺して、自分を認識できるようになって帰ってきてしまう。

 それではダメだ。そうなってはもう、彼は二度と眠れなくなってしまう。

 倒されること無く、存在し続けてしまう。

 ここに来たのも、何かの縁だ。できなかったら、それはそれで、まあ、やむを得ぬ。どうしようもなかったのであろう。

 しかし、試してみても良いのではなかろうか。

 

 吸血鬼、アーカード。彼を、終わらせられるのか。それを試してみても、良いのではないか。

 

 米軍歩兵と空軍の支援。

 アーカードを主に狙うはずなので、うまく扱えば友軍として使えなくも無い、ヴァチカン、イスカリオテ。

 執事。大尉。そしてその他少佐指揮下の、最後の大隊。

 

 運命やら偶然やらが、札を混ぜた。そしてこの手に手札は整った。

 場はすでに熱くなっている。参加者たちも、観客も、大熱狂だ。

 直接全員の顔を見てはいないが、充分であろう。

 結末は見えぬ。お互いの手札を開けぬことには、それは神さえわからぬだろう。

 ゆえに我輩は、こう宣言しよう。

 

 勝負(コール)だ。

 

 

 




●「俺は戦うのが好きなんじゃねえ。勝つのが好きなんだよぉー!」
ダイの大冒険より。左右で真っ二つに、炎と氷の身体に属性が違うという、結合部がどうなってるのか当時気になったフレイザードさんの言葉。バクチってのはハズれたら痛い目見るから面白ぇんだろうが。など美学っぽいものはあった。

●「そこに何の違いもありゃあしねえだろうが!」「違うのだ!」
(現在連載中の)キン肉マンより。週刊プレイボーイのWebページで無料で読めるためか、ネット上でネタがよく拾われる。これもその一つ。
3月1日でサービスが終了しているが、はてなセリフジェネレータで自動でネタを作ってくれる違うのだジェネレータもあった模様。

●いそのー
サザエさんより。終戦後より続く、サザエさんの代表的セリフの一つ「いそのー野球しようぜー」というナカジマのセリフ。「ねーさんズルいよ」や「バッカモン!」「ふ~ぐたくぅぅん」などの同類であるが、野球の部分を言い換えて、○○しようぜとすれば応用が利くので、使いやすい。

●運命が~
Fate/Parallel Linesシリーズより。第三次聖杯戦争で、ユグドミレニアがナチと組んで大聖杯パクった世界線で、聖杯戦争を知ってしまったヘルシングの少佐が大聖杯用意して始まる聖杯戦争。マスターらのメンツほぼ固定で、色々な作者が完結まで書いたやる夫スレの作品群のOPをちょっと改変。ええ、ダイマでございます。


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第8話

これが、書きたかった…!


 我輩は悪いことをしたのである。米軍の方々には、本当に申し訳ない気持ちだ。

 原作の、ヴァチカンにおける対バケモノ専門部隊である、イスカリオテ。

 彼らですらも、さくりさくりと死んでいく。そう評されていた、死の道行を同行してもらっておるのだ。

 そのおかげで、神父らの犠牲は原作よりも確実に少ない。これならアーカードまでたどり着くのが、アンデルセンだけということはなかろう。

 

 だが、それでも犠牲は出る。出ている。前へと進むために、死んでゆく。

 

 どこからともなく銃剣を取りだし、腕の一振りで十本以上を投げる神父がいた。

 とうとう銃剣が尽きたのか、最後の二本を両手に持って戦っていた。

 そして傷だらけになったあと、持っていた爆薬で自爆した。最後まで、道を切り開くように戦っていた。

 

 長剣を振るい、騎士のように戦う神父がいた。

 真っ先に切り込み、仲間の盾となり、戦っていた。

 そしてもはや剣が振るえなくなるや、爆薬で自爆して果てた。最後まで味方のために戦った。

 

 中世の騎士や、兵士に民衆。神父に娼婦に、少年少女。ノラ吸血鬼。元最後の大隊。

 有象無象から名のある戦士まで。さまざまな死者が群れをなす。海と例えるべきだろう、どこまでも途切れないそれを、文字通り切り開いていく。

 

 それを大統領命令で、必死で援護する、米軍の兵士たち。銃を撃ち、手榴弾を投げ。後ろと横を固めて、神父たちが走りぬける邪魔をさせない。

 そんな彼らにも、当然のように犠牲は出る。

 横合いから亡者の群れに引きずり込まれ。倒れた死者に足を掴まれて。屋上から降ってきた動く死体に潰されて。

 

 すまぬ。我輩のせいだ。

 君たちに死ね、殺せと命令したのは、実は我輩なのだ。すまぬ。

 

 

 

 しかし、どうでもよいことであるが。米軍まで含めて、なぜ、みんなメガネをかけているのであろうか。

 気になって、いまいち感情移入しづらいのだが。

 

 

 答えは出ないであろうから、置いておいて。

 

 

 

 少佐曰く。今、彼らの心にあるものは歓喜なのだそうだ。

 涙一粒 舌打ち一ツ 誰一人こぼさないのはその証拠だと。

 

「一つの歓喜を共通意思として 無数の命が一つの命のように うごめきのたうち 血を流しながら血を求め 増殖と総滅をくりかえしながら無限に戦い続ける。

 その歓喜が「神」に対する信仰であれ 「国家社会主義(ナチズム)」による戦争であれ 「アーカード」という存在への一体であれ――――――」

 

 戦争という手段のためなら、目的などどうでもいいと言い切った少佐も、そう言って歓喜している。

 同じ目的を共有し続け、前進し続ける限り、その集団はひとつである。

 そして今。我輩たちは「相手を打倒する」という共通の目標を持ち、闘争という手段もまた、共有する。

 

 one for all , all for one で、あるか。

 

 我輩の独り言に、少佐がニヤリと笑って続けた。

 

「その通り。我々はもはや、ようやく同じものだ。夢のようじゃないか黒い兄弟たち」

 

 では、その兄弟が全滅せぬうちに、そろそろ行こうか?

 声をかけ、立ち上がる。実は今まで、墜落した飛行船の中から動いていなかったのだ。

 通信やらは生きていたので、情報を収集。それをもとに参謀の方々ができるだけ楽にアーカードにたどり着けるルートを選定するのを待っていたのだ。

 

 

 

 そしてその間に乗り込んできて。我輩の服従呪文を受けて、ぴょんぴょんと小さくジャンプを繰り返している婦警が、そこにおるじゃろ。

 

 ばるんばるんと暴れるソレは、まさに暴力であった。

 

What are you making me do?(私に何をしてるんですか)  Free me!(解放しなさい)

 

 おかしなことに、婦警は反抗的な態度である。服従呪文は、破らない限りは自発的に従っているようにしかみえない、洗脳としては完成度が高いもののはずなのだが。

 婦警の行動は縛れるものの、意識までは洗脳できていないという中途半端な状態なのだ。覚醒したてとはいえ、吸血鬼だからであろうか?

 

 ふむ。しかし、縦揺れもそろそろ飽きてきたな。少佐、上半身を左右にヒネれって、何て言えばいい?

 

「Twist your upper part of body in left and right だね」

OK.Let's it!(よし、やれ!)

wait a moment!(ちょっ 待っ)」 GINYAAAAA(ギニャ~~)

 

 うむ。体の動きに一拍遅れて、変形するソレが追従する。

 上下から左右に動きが変わっただけだというのに、受ける衝撃の種類が変わった気がするのである。

 

 少佐。

 

 我輩がそう言っただけで、彼は全てを理解してくれた。

 一つうなづき、ジーク・ハイルの言葉を残して、先にこの部屋から出ていったのだ。

 

 一応言っておくが。別に十八禁な行為をするわけではない。

 我輩が付いて行っても何も出来ぬので、あとで転移して追いつく。その間のヒマをこうしてステッキーなものの鑑賞でツブす。ただそれだけなのだ。

 

Rather, kill me(いっそ、殺せ)

 

 おお。くっころみたいなことを言っているぞ。

 今、くっころが時間と国を超えたのだ。すごいけど、どうでもいい。どうでもいいが、すごい。

 

 ところで。

 

 どうでもいいと言えば、そこの眼帯の傭兵さん。

 さきほどから、我輩と一緒に揺れて暴れるアレを鑑賞しているようだが、君はそれでいいのかね?

 

「It's OK that You don't make take it off」

 

 え~っと。脱がさないならセーフ? でいいのであるか?

 うむ。いいのなら、いいや。

 婦警がものすごく抗議してるみたいであるが、早口すぎて理解が追いつかぬし。

 しばらく一緒に鑑賞しとこうか。

 最終決戦の場所には、まあ。我輩が行ったあと、自力でたどり着いてくれたまえ。

 

 




●くっころ
確か初出はタクティクスオウガ。捕虜になった女騎士の言うべきセリフ。「くっ、殺せ」の略である。
くっ、の部分で屈辱を感じているのを表現。殺せと言わせることで、女騎士の潔さや純粋さを表現しつつ、それを踏みにじる前フリとなっている、実にムダがない構成。


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第9話

 

 我輩は試行錯誤しているのである。完全には言葉が通じるとは言えぬ相手。それも、明らかに敵なはずの男と協力してのことだ。

 人は分かり合える。実に、素晴らしいことである。

 

 目指すところが、どうやったら婦警のオッパイはもっともエロく揺れるのか? という命題の解ではなかったら、もっとすばらしかったと思うが。

 まあ。これが人間の限界である。

 

 いや。

 

 戦争中に、それも休戦中でもなしに、敵と仲良くなれている。これは、限界を超えているのではなかろうか。

 我輩とベルナドット隊長は、人の限界を超えて友情を結んだのだ。

 

 婦警のオッパイで。

 

 だとするならば、やはりオッパイは偉大である。素敵だ。やはりオッパイというものは 素晴らしい。

 

「ビバ オッパイ!」

 

 我輩の杖の精霊が、そう叫ぶ中。議論は白熱した。

 日本語と英語での会話が、なぜか成立する。何が言いたいのかが、わかる。

 なんであろうか、この無駄に深い絆みたいなものは。

 まあ。便利だから、よしとするのであるが。

 

 そして「自転車に乗って、段差を乗り越えた前後のたっゆんっ」「はずむようにゆっくり走っている時のゆぅっさゆぅっさ」「キツめの上着を脱いだ瞬間のばばんっ」などを実地検証する中で、我輩たちはようやく気付いた。

 

 あれ? 今、こんなことしてる場合だったっけ?

 

 ヤバイ。楽しすぎて、戦争を忘れてたのである。

 隊長を見れば、彼の顔にも我輩と同じ考えが書いてある。

 途中から婦警の目が死んで、文句も言わなくなったので、気付くのが遅れた。結構な時間がたってしまっているぞ。

 

 え~っと…… じゃ、お先に!

 

 「Oh! Coward!(あっ!ずっこい!)」と非難する同志を置いて、転移する。

 すまぬ。この転移、おそらく一人用なのだ。

 そうして飛んだ先。適当なビルの屋上からアーカードのいるあたりを見下ろせば。

 

「みんな…泣いては…いけ…ま…せん… 寝る…前に…おい…のりを…」

 

 ひとつの戦いが。一人の男の戦いが、戦いの人生が終わるところであった。

 転生者として、キリスト教の教義から外れている我輩ではあるが、祈らせてもらうとしよう。AMEN.

 

 戦場を、しばしの沈黙が満たした。

 

 原作では、神父の灰をタバコの灰のように踏みにじるという。まさに神をも恐れぬマネをした執事が、空気を見事に壊した。

 このままでは、闘争の空気ではないこのままでは、時間がない執事には都合が悪かったからであろう。

 

 しかしそんなことは我輩には関係がない。執事はまだ待機である。

 だがこの空気のまま、イスカリオテの生き残りの方々が帰り始めてしまっても困る。

 彼らにはもう少し、バケモノ退治に付き合ってもらわねば。

 

 そして少佐もどうやら、そのつもりであったらしい。

 黙祷の空気が薄れ、消えていくのと入れ替わりに。足音をたてて、配下を引き連れて、ゆっくりと登場してきた。

 さあ、次なる幕が開く。

 

 人外の戦いを見て、呆然としていた米軍も。アンデルセン神父を失い、戦意の衰えたイスカリオテも。

 宿敵を失い、やや意気の欠けた吸血鬼も。やっと出番が来て、盛り上がる最後の大隊と執事も。

 

 誰を敵として、誰を味方にするのか。あるいは全てを敵にするか。

 

「見ろよ! こぉんなゴチャマン見たことねぇぜ!」

 

 ヒロアカ世界では、基本は一対一での戦いで、集団戦というものはあまりなかった。せいぜいがチーム戦くらいだ。

 ホグワーツでも似たようなもので、アインクラッドはボス戦はそれらしかったが、あれも多数対一の戦いであった。

 

 初めてだ。集団同士の、人と人の戦いを見るのは。

 殺すのが基本で、当たり前の戦争を見るのは。初めてだ。

 

 執事がアーカードに鋼線を飛ばす。少佐が撃てと命じる。大尉が走る。

 そんなロンドン襲撃の主犯らに向け、米軍が撃つ。イスカリオテらは、ある者はアーカードを、ある者は最後の大隊をと、独自の判断で動き出した。

 

 さて。出番だ。暗躍するとしようか。

 我輩は杖を構え、ひとまずイスカリオテらを掌中に収めるべく、名も知らぬ神父の背後へと飛んだ。

 

 

 




●「見ろよ! こぉんなゴチャマン見たことねぇぜ!」
ブラックラグーンより。ゴチャマン=ケンカであるらしい。チャカと呼ばれていた、チンピラのセリフ。レヴィ、というよりも外人女の拳銃使いと戦ってみたいという、ただそれだけの理由で、所属してた組の幹部を殺して、組長代理をしていた組長の娘をさらうなどする、ある意味最後の大隊向きの男だった。


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ジョジョの奇妙な冒険編 We are the world
第1話


戦闘でネコが活躍するシーンなど、需要がないと悟ってボツにした結果がこれ(ヘルシング編完)だよ!


 我輩はスタンドである。名前はまだ無い。

 どうしてこの世界におるのか、とんと見当がつかぬ。あの最終決戦で、服従呪文で全ての戦力をまとめ上げて、少佐にゆだねた所までは記憶している。

 そこでアーカードを全員の力をもってして、倒した、はずだ。これは、しっかとは覚えておらぬ。

 

 倒した。そう思ったとたん、我輩はあの世界から音も無く、弾かれてしまったのである。

 

 だがしかし。そうなったのならば、現実へと戻っていないとおかしいのである。

 だというのに、今、こうして我輩はスタンド生活を送っている。これはいかなることであろうか。

 誰か教えてくれる人は、どこかにいないものであろうか。

 

「ねだるな 勝ち取れ さすれば与えられん」

 

 誰と、もしくはなにとどう戦えばいいのかも、わからないのであるが。

 いや、戦う相手はいないでもないな。

 

 DIOである。

 

 そもそも。我輩が自分がスタンドだと判断できたのには、理由がある。

 スタンドというからには、本体がいるわけだ。

 その本体が、特徴的な改造学生服を着た、2m近い若い大男だったのだ。

 ゴゴゴ… という音を背負っていそうな、迫力のある男であった。

 

 というか。承太郎だった。

 

 あのロンドン最終決戦に、まがりなりにも参加しておった我輩が、ついビビって隠れてしまうほどの迫力であった。

 そして物陰に隠れて、まもなく。彼から離れて遠くに行けないことに、気がついた。

 次に、人々に我輩が見えていないようであることに気がつき。

 最後に。時が止められることに気がついた。

 

 あれ? これはもしや、スタープラチナではあるまいか?

 

 とうとうネコ科ではなくなったのか?

 そう思い、手足や胴体を確認してみたが、これがまた見たことが無いものであった。

 いや、あると言えばあるのだが。実際に、実物を見たことが無いというか。

 やや黄色がかった、白い毛に全身がおおわれていて、尻尾もある。

 手は完全にネコであるが、器用に動き、物も持てる。

 そして額になにやら、平べったい楕円状のものがくっついている。

 うむ。たぶん、おそらくのハナシではあるが。

 

 ニャースだこれ。

 

 まさかヴィランの大先輩の姿になろうとは。しかも、ジョジョの世界でスタンドとしてなってしまおうとは。

 我輩、夢にも思っていなかったのである。

 

 そうして我輩が困っておるのと同じように、承太郎も困っておった。

 突然、立って歩いて、自分にしか見えないしゃべるネコが現れたのだ。そりゃあ、困るであろう。

 とにかく、我輩は害をなすものではないこと。たぶんエジプトにいる吸血鬼を倒しにいかないと、困ったことが起きること。

 そして彼の祖父が、浮気して隠し子を作っていることを話してみた。

 

 なんか、引きこもった。

 

 原作では、自主的に警察署のオリの中に引きこもっていたのだが、普通に自宅の部屋に引きこもったぞ。

 しかも祖父を自分から呼んだらしい。

 ヘンなのに取り憑かれた。確かこういうのを退治する専門家やってたって言ったろ、助けろジジイ。と電話で言っておった。

 

 承太郎くん。そのぶっきら棒な態度は、今のうちに矯正しておくのをお勧めするのである。

 さもないと、将来離婚した上に、娘との仲がこじれてしまうのであるぞ?

 

「うるせーぞっ! お前っ! 余計なお世話だっ! 俺が結婚しようが離婚しようが、関係ねーだろっ!」

 

 しかも娘だぁ? と、胡散臭げにしながらも、少し興味がありそうであったので。テキトーにそれっぽいことを言ってみる。

 顔立ちは、キミによく似ていたな。目は少し丸く、鋭さが抑え目であったが、眉や口元などはそっくりであったよ。

 ただ、なあ。子というものは、親の変なところや似てほしくないところばかり、良く似るものらしくてなあ。

 父親であるキミとの関係がうまくいっていなかったのと、離婚などの影響で、わかりやすくグレてしまっておったなあ。

 それでとある神父と、殺し合いをするほどになってしまって、最後にはキミも巻き込まれることになってね。

 

 おおっと、日課の散歩の時間だ。少し出かけてくるよ。

 

 おい待て。もうちょっと詳しく聞かせろ。

 そう言って慌てる承太郎の声を無視して、壁をすり抜けて散歩に出る。

 どういうわけか、日々少しずつではあるが。本体である承太郎から遠くへと行けるようになっていっておるのだ。

 むろん、遠くへと行くほどスタンドパワー、とでも言うべきものは落ちているようだ。

 しかし四六時中、ずうっと彼と同じ部屋にいるのも、居心地が悪い。

 消えてしまえばよいのであろうが、消え方がわからない。

 

 ついでに言ってしまえば。現実へ帰れない。

 

 これはマズい。

 先生の体は、栄養補給を点滴に頼っているので、食事と水分は問題ない。

 しかし睡眠と排泄。これがマズいのだ。

 瞑想中も脳は活動している。睡眠による休息が必要なのだ。

 こちらは逆に限界を超えたら、寝落ちによる現実への復帰が期待できる。もしも死んだらマズいが、その時はその時である。

 

 しかし社会的な死はマズい。

 オールフォーワン、刑務所内でウ▲コもらすという情報が流れるのは、はなはだマズい。

 そんなことになったら、先生が核を日本に落としてでも、無かったことにしようとするだろう。

 そんなことに巻き込まれて、被害を受ける人々が出るのは、さすがに忍びない。

 これは出来うる限り速やかに、何とかせねば。

 

 え~っと。ミもフタも無く、第三部完に持っていく手段って、何かあったであるかなあ?

 

 

 




●「ねだるな 勝ち取れ さすれば与えられん」
交響詩篇エウレカセブンより。交響詩篇というだけあって、挿入歌やOP、EDテーマに力が入っていた。sakuraやCanvasが好きだった。
コーラルというサンゴっぽいものに侵食される世界の中、夢見る少年の前に、空から少女がロボットに乗って落ちてきて始まるストーリー。世界の命運とか色々な全てを振り切って、少女の下へと走れ少年。
そんな少年の、英雄になったが家には帰って来れなかった父親の残した言葉。少年はこの言葉を胸に走る。
待ってちゃダメだ、ねだってちゃダメだ、俺は今……勝ち取りに行くんだ!!!


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第2話

 我輩はピンチである。

 

「クロス・ファイヤー・ハリケーン!」

 

 なにやらマツボックリのような頭の黒人に、本気で退治にかかられているのであるが。我輩がなにをしたというのか。

 せいぜい、浮気の暴露と、怪しい予言と、原作補正さんへの援護としての窃盗と、なぜか使えたシャドーボールらしき技で庭を少し荒らしたのと。

 え~っと、あとはなんであったか。とにかく、あまり大したことはやっておらぬはずであるが。

 今回、杖が見当たらぬので、魔法が使えぬ。ゆえに、本当に大したことはしておらぬのだがなあ。

 ともあれ、まずは生き残らねば。そのために、まずは一手。

 

「屋内で炎を使うとは、常識を知るのである!」

 

 周りが気になって、こちらも技が使いにくいのである。

 いや、範囲や効果がよくわかっておらぬ分、こちらが不利なのである。

 まずは場所を変えねば。

 

「表に出ろ! 来い。戦ってやる」

「いいだろう」

 

 べつだん、まだ腕が千切れただけじゃねえか。かかって来い。というところまで、戦ったりするつもりはない。

 見敵必殺(サーチアンドデストロイ)だ! などというほど、戦意が高いわけでもない。

 ただカッコいいからセリフを借りただけである。

 どこぞのオサレ値が戦闘の結果を左右する、死神世界ほどではないが。この世界もまた、カッコ悪いマネをすると勝率が下がりそうであるので、景気付けだ。

 

 ふむ。しかし困ったな。相手は、見るからに炎系のポケ、もといスタンドであるが。

 我輩、水系の技は覚えておらぬようなのだよなあ。

 だが、ないものは仕方が無い。

 

「ないもんねだりしてるほどヒマじゃねえ あるもんで最強の闘い方探ってくんだよ 一生な」

 

 ヒル魔さんもそう言っていた。魔法が使えれば。そして前の世界のように、転移が出来れば楽であるのだが。

 というか。前の世界は、そこに不死身まで備えていたとか。今更ながら、かなり恵まれていたのだなあ。

 今あるものは、スタンド以外の殴る蹴るなどの物理的な暴力の無効。普通の炎などは試していないから、わからない。

 そしていくつもの、ポケモン技。なぜか十個以上使えるのだが、なんらかのバグであろうか。

 そして、承太郎のスタンドなら出来るだろうと使ってみたら、本当に出来てしまった時止め。

 うむ。今回も、割と恵まれておるようだ。

 

 まずは定石と、かげぶんしんを使った我輩に、炎による生体レーダーで対抗して、攻撃してくるクヌギダマのスタンド。

 直撃せずとも、毛皮が焦げつくほどに、熱い。危ない。

 万能防御のまもるで、謎バリヤーを張って一時身を守る。それが消えぬうちに、どこからともなく取り出した、名前はわからぬが神主さんの持っているアレ。短い棒の先に、四角い白い紙をつなげたアレを振って、祈る。

 あまごいである。

 これで炎がいくらかでも和らげば、という狙い―――ではない。

 次に使う技は、日差しが強いと使いにくいのだ。

 

魔界の公爵(スー)大いなるトニムアよ(アン ドア)古の契約を行使せよ(ステー ルー) 雷電怒涛(かみなり)

 

 必要は無いが、それっぽい呪文を記憶から引き出して詠唱した。

 何となくではあるが、威力が上がるような気がしたのだ。ホグワーツ的に考えて。

 まあ。意味は無かったようなので、次からは省こうと思う。

 思ったよりも、心の古傷が痛んだので、やりたくないとも言う。

 

 カミナリが鳥頭のスタンドに落ちる。スタンドにはどうかはわからないが、本体への効果はばつぐんだ。

 思いきり、悲鳴を上げておるし。

 さて。ここらで良かろう。

 

「かみなりは連射が出来るのだが。降参してくれないか? 話し合わないかね?」

 

 すこしケイレンしながら、クヌギダマは了承してくれた。

 

 

 そして。話し合った結果。

 

 

 ジョセフのジジイを殴ろうという結論で、我輩たちは合意したのである。

 現在。あのジジイは杜王町で隠し子および愛人と面会中である。

 そしてそれをバラした我輩への、意趣返し。タチの悪い悪霊として、マツボックリあらためクヌギダマことアブドゥルさんに吹き込んだ上で。

 退治しておいてくれ。そう依頼していたのだ。

 承太郎も、退治されるならそれはそれでいいか、と関わらないことを選択したらしい。花京院から助けてやらんぞ、キサマ。

 もし本体へのフィードバックがあったら、どうしていたのやら。

 

 うむ。我輩が傷付いても、承太郎にはダメージが無いのだ。

 これが意思があるせいか、近距離パワー型ではなくなったせいなのかはわからないが、とにかく承太郎が我輩のダメージを気にしなくとも良いのは確かだ。

 いや、気にしろよ。とは思うが。

 

 ハナシを戻して。

 決着が付き。話し合いが成立する、ということで違和感を持ったクヌギダマが、そのあたりを含めて我輩と話し合った結果。

 ジョセフのジジイが私怨で退治を依頼したことが発覚した、というわけだ。

 

 うむ。ひとまずは、一件落着であるな。

 しかし、これがスタンドバトルであるか。どちらかというと、ポケモンバトルに思えて仕方が無いのであるが。

 諸君はどう思うかね?

 

 




◎シャドーボール
ポケモンのゴースト技。威力は弱めだが、20%の確率で相手の特殊技の防御力を弱める。

●来い、戦ってやる
ヘルシングより。多数の最後の大隊の吸血鬼兵士らに囲まれ、細剣くらいしか武器がなく、車は壊され、一人の状態でのインテグラ局長のセリフ。さすがの女傑である。

●サーチアンドデストロイ
同じくヘルシングより。銃は私が構えよう 照準も私が定めよう弾を弾装にいれ遊底を引き 安全装置も私が外そう だが殺すのはお前の殺意だ さぁどうする命令を!! とアーカードに迫られたインテグラ局長の下した命令。相手は現地の警察か軍の人で、テロリストだと騙されちゃって襲撃してきただけだけど、生かして返すな。

◎かげぶんしん
ノーマルポケモン技。回避率アップ。重ねがけもできるぞ。初期のポケモンは、これを双方が限界まで積んで、千日手となる場合もあった。

◎あまごい
水のポケモン技。ダメージなどはいっさい与えない。ただ天候を5ターン雨にするだけである。しかし天候は一部の技に命中率や威力などの影響を与える。

◎かみなり
でんき技。天候があめの時に必中。ひざしがつよい、で50%。そらをとぶ、フリーフォール、とびはねる、など一時画面の外に出て、当たり判定がない状態にも命中するようになったらしい。普通に考えると、カミナリって10万ボルトってレベルじゃねーのだが、ポケモンに常識を当てはめてはいけない。

●雷電怒涛
バスタードより。雷系中級呪文。本来の名はライ・オット。
現在社会の終焉後の、科学技術の暴走の結果のファンタジー。という後付け設定がある、重暗い感じのファンタジー世界。
それまでは無かった、鬼畜王っぽい主人公、魔法使いダーク・シュナイダーが数々の呪文で暴れる話。男女とも、裸率が高めだった。
画の書き込みがどんどんすごくなっていったのと、内容的に週刊ジャンプでやるのが厳しくなったので、月刊通り越して季刊に移籍していったが、そこでも不定期で次第に人気も下火に。
当時読んでいた人たちは、いまだに七鍵守護神(ハーロ・イーン)が唱えられる自分に気付いて、もにょって欲しい。

●クヌギダマ
みのむしポケモン。タイプはムシ。ネコは見た目だけ覚えていて、植物タイプと勘違いしている。


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第3話

 我輩はいろいろやろうぜ、と言ったのである。

 やらねばならぬことや、出来ることが色々とありすぎるのだ。

 

 そして手始めに、軽く拉致してみた花京院がここにおるじゃろ?

 

 ポケモ、もといスタンドバトルするのが面倒であったので、DIOの手先がいるとチクって、不意打ちで本体に攻撃したのだ。

 攻撃したとはいえ、傷付けてはおらぬ。うたう(相手を眠らせるわざ)を使って、眠らせて拘束。そのまま手配してもらったハイ○ースに乗せて、連れ去っただけである。

 別にハ○エースでなくとも良かったのであるし、別に我輩も車種の指定まではしなかったのであるが。

 スピードワゴン財団の人たちが用意してくれたのは、これであった。やはり拉致といえば、この車であるらしい。

 

 さて。問題はこれからである。

 

 さらってきた彼、花京院には。DIOの肉の芽が植えつけられているのだ。

 この肉の芽。額から脳に突き刺さるまで根を伸ばしており、抜こうとすれば、脳が傷ついてしまう。

 原作では、機械以上の精密動作が出来る、となぜか知っていた承太郎が、スタープラチナで正確にまっすぐ抜き取ることで解決していた。

 肉の芽は生きているので、触手を伸ばして攻撃したのだが、それを意にも介さず冷静に、一気に抜きとった承太郎はクールであったな。

 

 で、今。そのスタープラチナがいないのであるが。

 

 肉の芽も、埋め込まれたまま日常生活を送っても、戦闘してダメージを受けても案外平気なため、実は普通に抜いても大丈夫という説がある。

 ワンチャンかけて、やってみてもよいのだが。それでもし、花京院がリタイヤしてしまってはもったいない。

 

 というわけで。帰宅中のところをさらってきた花京院には、ひとまず道で倒れて緊急入院した、ということになってもらった。

 睡眠薬で、しばらくグッスリ眠ってもらい。その間に、別の肉の芽を植えられた人物で、実験してみることにしたのだ。

 

 目指すは、杜王町。ジョセフのジジイが、愛人とイチャコラしているらしい町。

 とりあえず、承太郎とアブドゥルと一緒にジジイを殴って、それから虹村家の父親が居るかどうか、探してみようと思う。

 肉の芽を埋め込まれた別の人とは、彼の事だ。そして原作では、彼の肉の芽はDIOが倒されるまでずっと、埋め込まれたままであった。

 そしてDIOが死んだことで、肉の芽が暴走。知性もロクに残っておらず、会話も出来ない人の形もしていない、そんな状態になってしまっていた。

 

 つまり。実験台にしても、心がさほど痛まない。ダメで元々。

 

 そうそう。ついでに、吉良ヨシカゲを拉致して、例の後ろを振り返ってはいけない通りに放置しようと思う。

 第四部なんて、なかったのだ。

 コーイチくんのエコーズとか好きだったが、どうせ見ることが出来るまで、この世界には居ないのだ。

 この町が平和になる。実に、良いことではないか。

 

「悪を行い 世界に対し僅かながらの正義を成そう」

 

 いくつもの可能性を絶ち切り、平和という正義をもたらす。うむ。実にヴィランらしい。是非やろう。

 

 それはそうとして、肉の芽だ。

 あれを何とかする、心当たりはふたつ。

 

 ひとつは、我輩のポケモン技。もうひとつは、ジジイの愛人の子。

 彼がスタンドに目覚めていれば。あの世界一優しいスタンド、クレイジーダイヤモンドが使えれば。何も、問題がない。

 なんせ、生きている限りは治してしまうのだ。強引に肉の芽を抜いて、多少脳が傷付いても、きっと治せる。

 もしくは、肉の芽ごと頭を「ドラァ!」して、破壊と治療を一度にしてしまうのもアリだろう。

 

 我輩の方は、どろぼうである。

 本来は相手の持ち物を、攻撃ついでに盗むポケモン技である。肉の芽に効くかどうかは、やってみねばわからぬ。

 

 どちらも、現地で確かめてみる必要があるだろう。

 

 ところでだ。移動中に、車内で我輩の名前を決めておこうと、アブドゥルにタロットカードで占ってもらったのであるが。

 

 出てきたカードが世界であったのであるが、これはどうしたら良いのであろうか?

 しかも。逆位置どころか、そのカードだけ裏返っておったのだが。

 占いのプロとして、こんなミスはありえないとか、アブドゥルがめっちゃ焦っておるのだが。

 

 いや、星のカードじゃないのかとか、裏ってどう解釈すればいいのだとか、結局それで我輩の名前は、とか。色々と入れるべきツッコミはあるのだが。

 

 さて。どれからツッコめば良いと思う?

 

 




●ハイエー○
もはやこのシリーズでは、誘拐の代名詞である。
ネット上では、動詞なのだが。

●「悪を行い 世界に対し僅かながらの正義を成そう」
魔法先生ネギま!より。UQの前作であるが、正直こちらの方が全盛期だった気がする。
年齢詐称疑惑が上にも下にもいて、幽霊やロボに吸血鬼にハーフの妖怪に未来人、運動部系に文科系、ネットアイドルにマッドサイエンティストと、バラエティ豊かなJCのクラスを、子供の魔法使いが担任する、ギャグとお色気なマンガであった。
それらを全部捨ててバトルものに移行したが。
そうなる前の、最後のあたり。もしくはそうなる最初のあたりの学園祭編で、生徒の一人の超という娘が語ったセリフ。
いそのー。魔法使いには、特にマホラの人にはくっそ迷惑だけど、魔法バラして世界平和に向けて活動始めようぜー。

◎うたう
ノーマルタイプのポケモン技。みがわり貫通で、相手を1~3ターン眠らせる。命中55%。町中で歌声が聞こえてきても、いきなりスタンド攻撃か!?とか疑わないよね。初期は。
ニャースもシリーズによってはこの技を覚えられる。アニメのEDなどで歌っていた影響だろうか。

◎どろぼう
あくタイプのポケモン技。相手の持ち物を奪う。自分が何か持っていたら失敗する。トレーナー戦だと試合後に返すらしいが、野生のポケモンからは取りっぱなし。まさにドロボウ。


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第4話

GWが終わりますねえ。私はずっと通常モードでしたが。
何も無かったなあ……


 我輩は愉悦しているのである。

 驚き、おびえを見せながらも、こちらへの抵抗の意思を折らぬ敵。

 コイツ、本当に何者だと顔に書いてある味方たち。

 思い通りだ。今、この場のすべてが、我輩の思い描いたとおりである。

 我輩は、こぼれてしまう笑い声を軽く抑えながら、言った。

 

「ではあとはアブドゥルさん、お願いします」

 

 まともにバトルするのなんぞ、面倒くさいのだ。

 やりたいことはやったので、あとは丸投げである。

 なにをやったかって?

 

 ポルナレフを、ポルナレフ状態にしたのである。

 

 ジャン・ピエール・ポルナレフ。彼は花京院の救助というか、回収に来たらしい。

 しかし肉の芽の洗脳が浅いのか、騎士道精神を失っていない彼は、我輩たちに堂々と会いに来て、あろうことか決闘を申し込んできたのだ。

 ここでアブドゥルをけしかければ、原作再現であるな。そう思った時だ。

 

 ふと、ね。ふと。とある衝動に駆られてしまったのだ。

 

「あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ! おれは奴の前で階段を登っていたと思ったらいつのまにか降りていた

 な… 何を言っているのか わからねーと思うが、おれも何をされたのか わからなかった…

 頭がどうにかなりそうだった… 催眠術だとか超スピードだとか そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を 味わったぜ…」

 

 この彼の代表的なセリフを、生で聞きたい。そういう衝動だ。

 ここに階段はないが、時止めは使える。ならばと、我輩はやってみることにしたのである。

 

 まずは名乗り出る。

 

「その決闘。空条承太郎のスタンド、ザ・ワールドDが受けるのである」

 

 Dは、異なるという意味のdifferentのD。命名はモハメド・アブドゥル。

 

「世界のカード! 正位置なら完成や統合。旅行を暗示し、逆位置ならば未完成や終わりがないということを暗示するっ! そのどちらでもない裏位置とでも言うべき異端! ゆえにこう名付けようっ!」

 

 何者とも異なった世界、ザ・ワールドD。で、あるそうな。

 リバースワールドとか、ザ・ワールドアナザーでも良かった気がするのであるが。まあ、ささいなこと。

 どうせこの世界だけのハナシであるし、長居するつもりはないのだ。

 早く帰らねば、現実世界の先生の体が持たぬ。その。あれだ。便意的な意味で。

 

 それはさておき、決闘のハナシに戻ろう。

 名乗り出た我輩に、潔しなどと的外れなことを言うポルナレフ。彼に、かかってきたまえと挑発する。

 

 そして時を止める。

 

 止めたら全力でポルナレフに向けて走る。スタンドとしての全力を出して走る。

 大急ぎで、ポルナレフを後ろ向きにして、また元の位置へと全力疾走。でんこうせっかを覚えていないことが悔やまれる。

 

 しかし、これ。このポルナレフを使った時止め遊び。

 DIOも原作でやっておったが、彼はどういうつもりであったのだろうか。

 我輩はポルナレフ状態が目当てであるが、ひょっとしたらDIOも似たような気持ちであったのやもしれぬ。このフランス人の反応は、面白いのだ。

 

 さて、元の位置はここだったか。

 戻ってきたので、ツバを飲み込み、呼吸を整える。今はスタンドであるゆえに呼吸はいらぬのだが、我輩も生き物。ついついやってしまうのだ。

 

 そして時は動き出す。

 

「おや? ポルナレフくん。どこへ行こうというのだね。我輩はこっちだ」

 

 な、なにぃ? と驚く彼に、まさか決闘を挑んでおきながら、逃げようと? と追い討ちをかけて、また時を止める。

 再び全力疾走。今度は、少し後ろに下げてから、元の位置へと帰還した。

 

「臆したな。後ずさっているぞ」

 

 視界の端に承太郎が、なにか言いたげな顔をしているのが目に入った。どうやら本体として、時の止まった世界に入門したらしい。原作よりも、大分順応が早い。

 これまでもちょくちょく時を止めては、マユを太くしたり、入浴中に手の中のシャンプーを洗顔料にすり替えたり、母親の頭に手を置いてみたりと、地味なイタズラを繰り返していた成果であるな。

 

 承太郎はさておき。ポルナレフが、ようやっとあのセリフに近いことを口にしてくれた。

 

「どういうことだ…? 俺は 今 前に踏み出そうとしたら いつの間にか後ろに下がっていた。わからねえ… なにがなんだかサッパリだ。

 頭がどうにかなりそうだ… 催眠術だとか超スピードだとか そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を 味わったぜ…」

 

 よしっ! ポーズもバッチリ。我輩は満足である。

 我輩は、こぼれてしまう笑い声を軽く抑えながら、言った。

 

「ではあとはアブドゥルさん、お願いします」

 

 あ、そうそう。これだけは言っておかねば。

 ポルナレフくん。キミの探すカタキは、DIOの部下の一人だよ。お婆さんがDIOのスタンドの教師やってて、その息子さんだか、お孫さんであるな。名前は、確かJガイルであったかなあ。

 

 うむ。効いてる効いてる。ショックを受けているのがよくわかるぞ。よし。ポルナレフくん、いい感じ。

 あっ。ウソだ。じゃあ俺は何のために、とか言い出したぞ。ポルナレフくん、すっごくいい感じ。

 

 いまだ。敵は弱っているぞ。アブドゥルさん。やってしまいなさい。

 ほら、ためらってないで。あの人も肉の芽埋められてるから、一度倒して拘束しないと。

 さあ、ほら。ジョセフさんが波紋流すと、頭の中で肉の芽がパーンって破裂しても困るから。

 アブドゥル。君に決めたのである。

 さあ、がんばれ。

 

 

 




●ありのまま(略)
ジョジョの奇妙な冒険第3部より。ひょっとしたら第三部でもっともネット上で活用されたセリフ。DIOとの対面時に、彼はこうやって遊ばれた。いつでも倒せるというDIOの余裕と、ユーモアを感じる。

●ポルナレフくん、いい感じ。
自由人HEROより。柴田亜美先生のマンガ。さまざまな種族と、その王の治める世界での種族代表の英雄たちの話。技名を叫んでから殴る式バトルと、ギャグでできている。特に外伝はギャグしかない。
いじられキャラ、鳥人という種族の英雄、バードは花人の英雄サクラに一目ぼれして、百回プレゼントくれたら付き合ってあげると言われて百回実行。その結果「ボク男だよ」という返しをくらう。男に貢いだ挙句にフラれた俺の青春、というトラウマ持ち。
そんなバードの実家が金持ちと知り、サクラが恋人として家に入り込もうとするのを面白がって助ける友人たちの、だんだん目が死んでいくバードへの感想。
「鳥はあっちで白くなってるぞ」「よしッ!いい感じ」
「おッ!訳わからん事口走り始めたぞ」「すっごくいい感じバードくん」

◎でんこうせっか
ノーマルタイプのポケモン技。威力は低いが、先制で攻撃できる。
なおニャースはこれを覚えられない。


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第5話

 

 我輩は任せたのである。虹村父こと、万作さんに逃げられてしまったのだ。

 それをスピードワゴン財団に任せて、組織の力で人海戦術と麻酔銃などで捕獲してもらったのだ。

 

 もののついでで、たまたま見かけた殺人鬼も撃ってもらい、あの場所に放置済みである。

 後方に目覚まし時計を仕掛けておいたので、寝過ごすこともないだろう。良いことをした。

 

 さて。捕まえた万作さんの、肉の芽を除去する実験であるが。

 その要のクレイジー・ダイヤモンドの本体の東方仗助。彼の年齢が五歳であったことが、ここに来て議論を呼んだ。

 

 はたして、こんな子供を巻き込んでよいものか。

 

 ジョセフのジジイが、父親面して反対に回っているのが、一同そろって妙にイラッと来た。

 だがそれはそれ。そんなことで意見を変える面々ではない。

 

 承太郎が基本反対だが、最終的には本人の意思に任せろという、消極的反対派。

 アブドゥルが、今回は治療であるし、そこだけ参加してもらおうという賛成派。

 我輩は、どうせスタンド使いなんだし、遅かれ早かれ戦いの人生しか待ってないから、どちらでも良いのでは? という中立である。

 

 結論。旅には連れて行かないが、今回の花京院、ポルナレフ、万作さんの治療には手を貸してもらおう。そういうことになった。

 

 どの道、あの熱を出して車で病院へ向かう途中、雪にタイヤを取られて立ち往生。そこを通りがかった不良が、自分の制服をタイヤの下に敷いて、後ろから車を押して助けてくれたという、例のエピソード。

 あれを経験済みで、スタンドには目覚めているのだ。

 スタンドに対する取り扱いの説明もせねばならぬし、ついでといってはなんだが、頼んでみることになったのだ。

 

 なお、我輩があれこれ余計なことまで知っておるのは、すでにあきらめられている。

 まったく隠さなかったので、どうやらそういう生き物であるらしいと、そう納得してくれたようなのだ。

 承太郎はいち早く、適応したように思う。

 

 アブドゥルは、少し時間がかかった。

 タロットを見せてもらって、それを手がかりに記憶を掘り起こし、こういうスタンドがいて使い手は確かこんなヤツで、とペラペラしゃべってみせたところ。

 なぜそんなことが分かるんだ、と激高されてしまったのだ。

 えっ。占い師なのに、わからないのであるか? と真顔で聞き返したら「あぁ~んまりだぁあ~」と突然激しく泣き出したが。

 あれは彼の持ち芸ではなかった気がするのであるが。

 ともあれ。それ以降は、彼も気にする様子はなくなった。

 それを見ていたジョセフも、我輩に情報の出所を詮索することはしなくなった。要領のいいジジイである。

 

 ジョセフに対するアタリが強いと思われるかも知れぬが、彼はシタタカなクソジジイである。ヘタに敬老精神なぞを持って相対すると、こちらが一方的に損をしてしまうので、仕方がないのだ。

 しかもそうやって利用されまい、ダマされまいと構えていても。それはそれで、カモにする手段を抱えているから、ゆめ、油断は出来ぬのだが。

 

 

 

 さて。ハナシを実験。いや、治験であるか? まあ、肉の芽の除去に戻そう。

 結論から言えば、成功した。

 時止めからのどろぼうで我輩が抜き取り、ジョセフが波紋で始末。念のために仗助が治癒という流れだ。

 いたいのいたいのとんでけー。と治す仗助に、みんなが和んだ。

 

 意識を取り戻した彼らと少し話したところ。花京院も、ポルナレフも、手を貸してくれるそうだ。ポルナレフは、なぜか少し複雑そうであったが。

 

 ただ万作さんは、困ったことにDIOに恩があると言い張っているのだな。

 

 自分の経営する会社が倒産の危機にあった時。どこからともなく聞きつけて現れたDIOが手を差し伸べてくれたらしい。

 そしてDIOの組織の一員として、組織運営に手を貸したり、空条家を監視したりしていたらしい。

 監視に向いたスタンドを持っているので、それを使ってのことだそうな。報酬も過分なほどもらっていて、裏切るつもりはないそうな。

 

 そんな万作さんの幼いお子さんが、そこにおるじゃろ?

 

 違うのだ。ハナシを聞いてくれ。

 

 彼らも、スタンド使いか、その素質持ちなのだ。

 仗助に説明するついでに、教えてあげようと思っただけなのだ。

 それに仗助の友人になってくれたらいいかな、と思っただけで、他の思惑はなにもないのだ。

 

 うむ。あまり説得力はないな。

 この卑怯者め、と言わんばかりの目で万作さんが我輩たちをニラんでおるのだが。

 ジョセフさんや。ここは任せたのである。

 さあ。がんばれ。

 

 

 




●あぁ~んまりだぁあ~~
ジョジョの奇妙な冒険第二部より。エシディシという濃い人の持ち芸。泣くことはストレス解消にいいらしいが、彼はわざと激しく泣くことでメンタルリセットをかけるのだ。


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第6話

 我輩は承太郎としばしの待機中である。香港の空港で飲むコーヒーはマズイ。

 スタンドだというのに、なぜかこの体は飲み食いが出来るのだ。さすがはニャース先輩であるな。

 皆が試しておらぬだけで、実は他のスタンドも飲み食いできるのかも知れぬ。ディープパープルなどは、ヨダレをたらしておったし。

 だが出来たとしても、まあ、意味はなかろう。戯言である。

 

 我輩たちは杜王町を出たあと。いったん空条家に戻るや、その足で空港まで移動して、香港へと飛んだ。

 ジョセフの娘であり、承太郎の母親である、あの人が倒れたのだ。

 彼女がどういう症状なのかは、我輩が説明するまでもなかった。ジョースターの血の影響でスタンドが目覚めたはいいものの、制御できずに暴走。肉体が蝕まれているのだ。

 

 我輩たちは計画を立て、即座に行動に出た。

 パスポートを持っておるメンツばかりで、そこは助かったのである。すぐにでも旅立てる。

 そして唐突な行動のせいか、それとも万作さんの監視が無くなったせいか。

 塔のスタンドはやって来ずに、飛行機は(途中で軽いエンジントラブルに見舞われたが)無事に香港へと着陸した。

 

 スゴイ! ジョセフが乗っているのに、無事に着いたぞ!

 

 この感動を理解して、分かち合ってくれる誰かがいないのが、実に悔やまれる。

 本当に、快挙といっても良いスゴイ出来事なのだがなあ。

 

 そして空港には、どこかで見たような格好の面々が、我輩たちを待っていた。

 スピードワゴン財団の雇った、バイトの方々である。

 それっぽい改造学生服の若者や、マッチョな老人、黒人占い師。髪を逆立てた白人も居る。

 それも、いずれも複数。総勢二十人以上は居るぞ。

 

「ジェバンニが一晩でやってくれました」

 

 あれほどではないが、短時間によくぞここまでそろえたものである。

 

 集まった彼らは、いつもの格好の我輩たちと合流。そしてシャッフル。

 そうして徐々にバラけて、解散していく。行き先もバラバラだ。

 ある者たちは、用意された車に乗り込んで消えた。またある者たちは徒歩で駅へと向かった。

 タクシーに乗った者たちもいたし、飛行機で北へ、西へ。あるいは日本へと、とんぼ返りした者たちも居る。

 

 避けられる戦闘は避け、エジプトへ。その方針の下に立てられた、偽装工作の一環である。

 

 このどれが当たりかわからぬ、複数のチームであるが。むろん、この中に当たりなどは、入れていない。

 彼らは全部がニセモノで、見せ札でしかないのだ。

 

 昔の、縁日のくじ引きようなものであるな。

 

 いや、あれは最近でもやっておったか。どこぞのユー○ューバーがクジを全部買い占めて開けさせ、入っていないのを証明した動画をあげて少し話題になっておった。

 

 当たりであるところの我輩たちは、ファーストクラスの無駄に広い空間を使って、着替えと変装を終えて、目立たぬように飛行機の乗り継ぎ待ちだ。このまま次はインドへと飛ぶのである。

 つまり。

 先ほど、いつもの格好の我輩たちがバイト衆らと合流した、と言ったな。

 

 あれはウソだ。

 

 それもまた、急きょ雇ったバイトであったりする。そのまま日本へととんぼ返りするのが、彼らの仕事だ。

 というのもだ。急きょ過ぎて、長期契約できる人材ではなかったのであるな。さすがのスピードワゴン財団も、限界があったようだ。

 

 なおバイトの方々には、それぞれ国境を越えたら、変装を解くように言ってある。

 ヘタに引き付けすぎて、スタンド使いに襲撃されてしまっては犠牲者が出てしまう。そのぐらいが、限度であろう。

 

 ああ。前回のあの能力があったならば。一人でエジプトまで瞬間移動を繰り返し、ガオンッの人かDIO本人を洗脳すればハナシはおしまいであったろうに。

 戦わねばならぬのが、本当に面倒くさい。

 ゆえにこうやって、出来うる限り面倒は回避しようと思う。

 さいわい、今は1988年。携帯電話もなければ、ネットもほぼ無いようなもの。

 情報化社会とはとても言えず、物を調べるにも、人を探すにも不自由する時代だ。

 こうして一度、世界の中で見失ってしまった我輩たちを見つけるのは、難しいだろう。原作のように、特徴的な一行ではなくなっていることであるし。

 

 アブドゥルは角刈りにサングラス、黒スーツのボディーガード風に。ジョセフがその雇い主のマフィアの親分に。花京院はその子分に。承太郎がスーツにトランクのビジネスマンに。ポルナレフがストIIのガイルに。

 それぞれ変装している。

 

 うん。ひとつ、オカしいのがあったね。

 

 仕方がないのである。あの髪型をポリシーだと言い張るので、似たような髪形で、違う印象のキャラ付けをするくらいしか、打てる手が無かったのだ。

 スキップする関係上、カタキのJガイルと戦えるとも限らないので、こちらが妥協した。

 変装するキャラをガイルにした理由は、髪型だけだ。別に会えたら良いね、という願掛けなどは入っていない。いないのだ。

 

 さて。飛行機の時間であるな。

 コーヒーを飲み干して、承太郎について行く。

 次はインド。そこから先は、しばらく列車の旅だ。

 香港グルメが楽しめなかったので、本場のカリーとチャイを楽しむとしよう。

 

 飛行機は今度はビジネスクラスであるが、大丈夫であろうか?

 我輩は常人には見えぬが、他のスタンドと違って、消え方がわからぬ。ゆえに足元で丸くなっておったのだが、ファーストクラスより狭いビジネスクラスで、その広さがあるだろうか?

 空いている座席でもあれば、勝手にそこでくつろげるのだが。

 まあ。行ってみればわかるのである。ならば、行くとしようか。

 

 

 




●ジョセフが乗っているのに、無事に着いたぞ!
彼の乗る乗り物は、落ちるか沈むのが定説である。

●「ジェバンニが一晩でやってくれました」
DEATH NOTEより。ノートの内容をすべて書き写す。それも他人の筆跡を完全にマネて。しかも破った跡や紙の消耗具合までも完璧にコピーしたデスノートのニセモノを作れと命じられ、一晩で成し遂げた男への賞賛の言葉。
転じて、とんでもない作業量を短期間で成し遂げた場合に送られる賛辞。
たまにジョバンニに間違えられる。

●ガイル
ストリートファイターIIの操作キャラの一人。アメリカの軍人で、ソニックブームとサマーソルトキックの使い手。カウンターでサマソを叩き込むために、構えたまま待機する「待ちガイル」は、有効だがしょっぱい試合になるので嫌われた。


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第7話

 我輩は解せぬのである。当初は上手く行っておったはずの、変装作戦が敗れたのだ。

 すでに塔と皇帝と吊られた男、月と力と女教皇に襲われている。

 

 塔のスタンド、タワー・オブ・グレイはほぼ原作どおり、飛行機内で襲ってきた。インドの移動中の時である。

 世界のあちこちで飛行機事故を起こしては、金品を漁る。そんな頭の悪い行為を繰り返す犯罪者なので、慣れた手口を使ったのであろう。

 飛行機会社の補償額やら、飛行機自体のお値段を考えると、コイツが手に入れた金額がいかほどのものであろうが、全く割に合わぬ。

 

 他人にどれだけ迷惑をかけても、自分の小さな利さえ有れば良い。そんな小悪党は許しておいてはいけないのだ。

 

 いけないのだ。

 我輩は迷惑をかけても、利益もちゃんと渡しておるはずだから、セーフである。

 

 なお。本体の情報を忘れたので、スタンドの方を捕まえる方向で処理したのは秘密である。

 時止めを一瞬だけ、こっそりと使って捕まえて、エメラルドスプラッシュしてもらったのだ。

 なおこっそりと使った理由は、特に無い。その方がカッコ良いからである。

 

 スピード自慢で、見せ付けるように残像を作って、こちらを攻撃してくる。

 そんな相手を、無造作にひょいっと捕まえられたら、カッコ良いと思わぬか?

 時を止める。この世界に居る間だけの、期間限定のチート能力である。使わねば損と言うものだ。

 

 とはいえ、犠牲者は出た。原作とは異なる時期の襲撃であったので、予測できなかったのだ。

 パイロットと、乗客数名が殺され、飛行機は当初の予定よりもはるかに短い距離の移動で、着陸することになった。

 着陸のさい、死んだパイロットの代わりに操縦桿を握るジョセフに、なぜか不安しかなかったのは我輩だけではない。

 

 そうしてやむなく、陸路を進むことになった我輩たちであるが、ここで追加情報が入った。

 スピードワゴン財団経由で依頼していた、殺し屋の方々が、無事死亡したらしいのだ。

 

 悪魔のスタンド、エボニー・デビルの本体の人は、有名な殺し屋らしいのでDIOの暗殺を依頼してもらったのだ。ワンチャンいけるか、と思ったが。案の定ダメであったらしい。

 節制の人も見つかったので、ついでに協力するよう依頼したのであるが。協力しても、ダメであったようだ。

 まあ。放っておけば、敵に回っていたのだ。手間が省けたと考えれば、悪くは無い。

 いや。やられる前に、ダービー兄弟と、アレッシー? という人と、審判のスタンドを倒してくれたそうなので、むしろ予想外に良い結果である。荀イク先生ありがとう。

 

「二虎競食の計というものがございます」

 

 Y山先生の三国志は、実にわかりやすかったなあ。

 物足りないという人もいるが。入門編にはあれくらいで良いと思うのである。

 

 また、塔の襲撃や、タロット以外のスタンドの存在についてジョセフらに聞かれたのであるが。

 

「オレにだって……わからないことぐらい……ある」

 

 首を左下にそむけて、深刻そうにそう答えたところ。ものの見事に、だまされてくれた。

 実際は、忘れていただけである。正直、スタンドとか、数が多すぎて覚えていないのであるよ。

 原作だけでも多いというのに、ゲームやら小説版やら、果ては二次創作やらでエラいことになっておるのだぞ。

 第三部だけでも、エジプトの神様系のスタンドが何体いたかすら、覚えておらぬ。読んだのが、何十年か前になろうというのだ。それをここまで覚えておるだけでも、ほめてもらっていいと思うのだ。

 

 実はヒロアカ世界にもジョジョのマンガはあったのだが、内容が同じようであったので、読んでおらぬのだよなあ。ああ。なぜ我輩はあの時、読んでおかなかったのか。

 食べ物関係の個性がぶつかり合うバトルマンガ、主人公がどう見てもラスボスの食戟の()()()なぞ読んでいる場合では無かったのである。

 

 

 ああ、そういえば。吊られた男と皇帝は、原作通りであった、のではないかと思う。

 正直、別行動中であったので、我輩は関与しておらぬのだ。出会ったならば、皇帝のスタンドの本体、ホル・ホースはスカウトしたかったのであるが。残念である。

 縁があれば、またそういう機会もあるであろう。

 

 豪華かつ精緻な、どこかサクラダ・ファミリアを連想させるヒンドゥの古い寺院や、赤い砂岩で作られた角ばった城。白い大理石で作られた、丸みを帯びた屋根を持つムガール建築の宮殿のような墓廟。

 ナンやタンドリーチキン。ドーサやサモサ。それらをラッシーやチャイで流し込みつつ、観光地も巡った。

 急ぎの旅ではあるが、これも襲撃を避けるための偽装工作であるからね。仕方ないのである。

 それにスタンドは精神のエネルギーでもある。適度にリフレッシュせねば、弱ってしまう。という大義名分もある。

 だから、多少はいいよね。とみんなには吹き込んであった。ジョセフとアブドゥルの大人組も、承太郎と花京院の学生組も、楽しんでいるようなので問題は無かろう。

 

 そう、油断していたところでの、吊られた男の襲撃であった。そして吊られた男のスタンドが姿を見せるや否や、ポルナレフが、暴走からの単独行動を取ってしまった。

 走ってどこかえ消えてしまった彼を、我輩たちは手分けして探して。そして我輩の見ていない所で、原作通りの展開で無事に倒したらしい。原作補正さん、仕事したな。

 

 彼への配慮が、足りなかったかも知れぬ。

 Jガイルが見つからぬまま旅が終わっても。「スピードワゴン財団に協力してもらって探してもらうようにするから」そう一言、言って置けば、今回のことは無かった。

 みんなで囲んで、棒で殴れたのだ。うむ。たまには素直に謝るとしよう。ポルナレフ、すまなかった。

 

 

 楽勝ではない戦闘を乗り越えると、絆が深まるのか。目に見えて壁が無くなったポルナレフと花京院を横目に、我輩たちは船出した。

 インド西岸のボンベイへ。1995年にムンバイへと名前は変わるが、現在はまだボンベイである。

 インドでもっとも栄えた都市であり、古くからの港町でもある。ここから船で、アフリカ大陸へと旅立つのだ。

 

 原作では、ここからかどうかは覚えておらぬが、確か潜水艦に乗って移動しておった気がする。例によって、沈んでおったが。

 それに海の上といえば、あのオランウータン。船のスタンド。あれもそろそろ来そうな気がする。

 

 よし。ここはまた、スピードワゴン財団に頼ろう。インドといえば、傭兵も有名だったはず。民間軍事会社を雇ってもらおう。

 もっとも有名かつ強いらしい、グルカ兵はインドではなくて、ネパールにいるらしいが。まあ、ささいな違いだ。

 雇ってもらう間の、二日ほどはゆっくりしよう。どこも人が多くて、気疲れしたのである。

 

 

 そんな軽い気持ちで雇ってもらった傭兵さんたちの、ロケットランチャーやグレネードランチャーで沈んでいく船が、そこにおるじゃろ?

 

 スタンドは基本、スタンドでしか倒せない。しかし、例外はある。というか、スタンドは例外だらけな気がする。

 サーフィスのような、実体寄りのスタンドであったり。今回のような、実物にかぶせるような形で実体化している(ストレンクス)のようなスタンドであったりすると。普通に、物理攻撃が効いてしまうようなのだ。

 

 不審な船であったので、通信で呼びかけ、声をかけ。反応が無かったので攻撃したところ、スタンドと判明。

 あとは傭兵さんたちの、射撃の的であった。

 そして沈む船から、オランウータンと男女二名が脱出したのを捕獲。全員がスタンド使いであったが、本体をぐるりと銃で囲まれては、どうにもならなかったようだ。

 現にスタンドを再発動させ、こちらの船を乗っ取ろうとしたオランウータンは即座に射殺されている。

 その容赦の無さに引いた我輩たちであったが、男女二名もそれで反抗する愚かさを悟ったらしい。彼らはとても、おとなしくなった。

 このままおとなしくしていたら、スピードワゴン財団に対スタンド要員として就職できるのではなかろうか。

 

 いやあ。今回は、つくづく思ったのである。

 おかねの ちからって すげー!

 

 

 




●無事死亡
ネットスラングであるが、元はわからない。何もおかしなことも事故も起きずに、順当な結果として死亡した、というニュアンスで、自虐的に使われることが多い。
例:この連休中に連日ガチャをまわすも、無事死亡。

●Y山先生
三国志や水滸伝など、中国系の話をマンガにした先駆者の方。この人なしに、後のアレコレの三国志ものなどはなかった、かもしれない。

●「オレにだって……わからないことぐらい……ある」
MMRマガジンミステリー調査班より。1999年七の月。恐怖の大王が落ちてくる。ノストラダムスの大予言と言われた、世紀末の終末思想をネタにしたマンガ。あまりに強引な解釈で、どんなものであれ人類滅亡へと結びつける理論展開は、もはやギャグであった。文字を並べ替えたあとに、この部分はノイズとして無視するとかは朝飯前。
そんな解釈をするリーダー、キバヤシですらサジを投げた時のセリフ。
どんな時に言ったんだっけなあ……

●おかねの ちからって すげー!
元ネタはポケットモンスターシリーズの かがくの ちからって すげー! である。
ゲームの開始地点の町にいる男が、こう叫ぶ。複数のシリーズにいるようだが、同一人物かは不明である。


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外伝 食戟のゾーマ

思いついちゃったんで、増量して外伝に仕上げたよ!
本日二本目。


 誰かが言った。

 沸き立つマグマを汲み取り、極上のワインや、濃縮されたうまみを持つビーフシチューに変える個性があると。

 風を巻き取り。口の中で上品な甘みだけを残して溶ける綿菓子や、信じられないほど軽やかなパスタに変えてしまう個性があると。

 水を砂糖に、砂糖を香り高い生クリームや、コーヒーに良く合うカスタードクリームに変える個性もあるらしい。

 

 場所は魔界。血で血を洗う抗争の絶えぬはずであった、この地に。

 不毛の地であったがゆえに、そうして奪い合い、殺しあって数を減らさねば生きられぬはずであったこの地に。

 

 今。食による平和が訪れようとしていた。

 

 世はまさに、空前のグルメ時代であった。

 

 しかし、魔界であり、魔族である。

 長年、ずっと争い続けていたがゆえに、平和に暮らすという感覚がわからない。

 そこで魔王の中の魔王、大魔王ゾーマは考えた。

 

 食で戦えば、良いではないか―――!

 

 これは魔界を平和へと導くため。愛と勇気と正義を持って戦う、大魔王ゾーマの物語である。

 

 

 

 食戟のゾーマ~大魔王が魔界でグルメバトルするのは間違っているけど、愛があれば関係ないよね~

 

 

 

 まずゾーマは、食でのバトルという概念を魔界に広めるために、部下を一人呼び戻すことにした。

 

 魔界と違い、豊かな地上へと出稼ぎに出たまま、立派な家を購入して帰ってこなくなってしまったバラモスだ。

 仕送りはありがたいのだが、たまには顔が見たい。両親のゾンビさんとブロスさんが、そうグチっていたのを覚えていたせいもある。

 

 バラモスには、地上の食材を持ち帰って来い。そう命じてある。

 地上の食材は、魔界では言うまでも無く超高級食材。地上への憧れも含めて、非常に高価であり、庶民の口にはまず入らない。

 

 それを使った料理を。魔界の食材のみで凌駕したならば―――

 きっと。この魔界グルメ時代は本物である。そう言えるのではないか。

 いや、グルメ時代を名乗る以上は、超えねばならぬ。

 ゾーマは、その恐ろしげな顔をゆがめ、邪悪なオーラをまきちらしながら、こぶしを握る。

 

「クックック…… 見ておれ。我は地上を……」

 

 大魔王さまが、とうとう地上侵攻を!?

 そう反応して、先走ったキングヒドラさんの誤解を解くのに、少し時間がかかったらしい。

 

 しかし、全魔界へと向けた演説を用意する手間が省けたので、結果としてはプラスであった。キングヒドラさん、間一髪ボーナスカットをまぬがれる。

 

 そしてゾーマの演説が流された。

 

「聞け。魔界に生きる者たちよ。我らはもはや、奪い合わずとも、日々の糧には困らぬようになった。分かち合う事で、交換する事で。豊かに生きられるようになった。

 しかし、いまだに戦いの習慣は変わったとは言えぬ。何か問題があれば、戦いで決するのはもはや我らの文化だ。それは簡単には、変わらぬだろう

 そこで、余はここに、新たなる戦いのルールを決定する。これ以降。戦いは食を持って決めるべし!」

 

 曰く。大食いも良し、早食いも良し。同じ料理を競うも良し、売り上げで競うも良し。大いに作り、大いに食べるべし。

 

 楽しそうではあるが、それでは少し物足りない。

 そう反応する民衆に、わかっていたとばかりに、大魔王ゾーマは次の手を打つ。

 

「まずは余が手始めに先陣を切ろう! 余を倒せたならば、褒美は望むままがままである! さあ、かかって来いバラモスよ!!」

 

 待ちきれなかった。そう言わんばかりの勢いで、ペリカンのような、カバのような顔をした魔族が現れた。

 

「フフフ、ゾーマさま。出稼ぎといいつつ、実質単身赴任して早数年…… お会いしたかったですよ。私が勝ったら、思いっきり一発殴らせてください」

 

 どうやら、忙しくて帰りたくても帰れなかったらしい。

 積もりに積もったナニカを、是非その顔面にブチマケさせて欲しい。彼の固く握られたコブシは、そう語っていた。

 

「うむ。良かろう」

 

 しかし、そんなものに怯んでいては大魔王は勤まらぬ。ゾーマは余裕を持って、受け止める。

 

「あっ。闇の衣は当然、無しで」

「キサマ、本気か!」

 

 一瞬で剥がれ落ちたが。

 

 それでも、バラモスの要求は呑まれ。魔界で初の食での戦い、食戟が始まる。

 

 

 まず動いたのは、バラモスだ。お前たちのハラワタを食らいつくしてくれるわ、と用意した鶏たちを次々に焼き鳥とモツ煮込み、ホルモン焼きに変えていく。

なお、調理はしていない。口から出る炎に触れると、なぜか生きたままの鶏が、料理に変わっていくのだ。

 

 ゾーマもそれに応じて動く。

 なんと、その料理に凍てつく波動を打ち込み、生きた鶏に戻して見せたのだ。

 

「調理する前に、まずはシメねばなあ。わが うでのなかで いきたえるが よい」

 

 そう言って、あらためて首をはねて血抜きをして、羽をむしって内臓を取り、各種部位へと切り分ける。

 恐ろしいほどの手際だ。

 しかし、使うのはササミの部分だけらしい。

 

「余の凍てつく波動で、腐敗や雑菌の影響などは取り除かれているが、念のためだ」

 

 薄く切ったササミをワインビネガーに浸けて揉む。そしてキッチンペーパーに当てて軽くふき取ると、今度はワサビ醤油に漬けるや、なんとそのまま審査員へと差し出したのだ。

 ちなみに審査員は、通りすがりの覆面マントに海パンだけの人です。

 荒れ狂う海を生身で渡ってきたガッツを称えての、大魔王さまのイキな計らいですね。

 

「鶏のササミのサシミだ。余の個性の数々で、食中毒などの危険は無い。さあ、食べてみるが良い」

 

 なお。審査するまでも無く、出す料理の無くなったバラモスさんは失格とり、敗北扱いとなった。

 相手の食材を奪ってもよいものか? という疑問は出なかった。そのあたりは魔界クオリティ。

 そういうものを変えたいと願う大魔王だが、まだ本人も感覚が追いついていないらしい。

 

 魔族の業は、深かった。

 

 ちなみに。通りすがりの審査員さんは、いい歳をして長年迷子であったらしく。

 地上の職場へと戻るバラモスさんが、彼の家へと連れて行ってあげたのだそうな。

 長年、離れ離れであった家族の再会に、自分も両親と久々に出会ったばかりであったバラモスさんもニッコリ。

 

 さらには。それをキッカケに、魔界との平和条約を、という動きが地上の国家から出る。

 その担当がバラモスさんに回ってきてしまい、ますます帰れなくなるのだが―――

 

 それは、別の話だ。

 

 

 



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第8話

 我輩は実験してみたのである。我輩が直接実行したわけではないが、試してみるだけの価値はあった。

 ただ、なんだ。その結果ね。なんというかね。その、ね。

 

 DIOさんがね。お亡くなりになったらしいのだな。

 

 ほんの、軽い気持ちだったのだ。

 第二部で、名前は思い出せぬが、サイボーグドイツ軍人の人。あの人がジョジョ立ちをしながら、紫外線照射装置かなにかを、柱の男に当てていたのを思い出したのがキッカケだった。

 

 柱の男に効くのなら、その劣化版である吸血鬼にも効くだろう。

 DIOのいる町には、どうせ配下の吸血鬼が何人もいるに違いない。

 街灯にちょっと仕掛けをして、吸血鬼がコロッと逝くような明かりに変えてもらえば、何体かは引っかかるかもしれないなあ。

 

 そんな軽い気持ちであったのだが。

 

 どういうわけか、最初にラスボスが引っかかった上に亡くなった。

 

 いや、まあ。確かに頭上から、光りの速さで襲い掛かってくる即死トラップとか、初見殺しではあるけれども。

 最初に頭に当たるから、罠にかかったら、即アウトであるけれども。

 それでも最初にかかるのが、一番の大物とか。

 

 どういうことなの。

 

「そんなのボクの手柄じゃないもの 計算じゃないもの」

 

 イタイぽえ()使いが、頭の中でそう叫んでいるが、同意せざるを得ない。

 

 しかも、我輩。いまだにこの世界から、離れられぬのだが。

 

 場所は今、まだ海の上。紅海をエジプト目指して北上中である。

 つまり。まだエジプトに、到着してすらおらぬのだが。

 そこに船の無線機でだが、入ってきた緊急連絡の内容が、これである。

 

 我輩たちは混乱した。もちろん、全員が情報の真偽を疑ったし、完全に信じている者などいない。

 しかし、どうにも確かな情報らしく。DIOの組織も、混乱しているのは間違いないのだそうな。

 

 それでだな。ここに至るまでに、色々とオカしいほどに情報をブチまけ続けた我輩が、ここにおるじゃろ?

 

 聞かれた。問い詰められた。お前の仕業だろう、吐け。と尋問された。

 

 しかし、我輩にあるのは、うろ覚えの原作知識くらいのもの。変えてしまった現在の状況について聞かれても、困るのだ。

 とにかく。百聞は一見にしかず。当初の予定通りに、このままエジプトまで行って、直接―――

 

 ―――見なくても、ハーミット・パープルで調べれば良いのでは?

 

 一同そろって、そういえばと顔をした。

 おい、ジョセフのジジイ。それ、お前さんのスタンド。

 

「ジョセフ・ジョースターッ! きさま! 見ているなッ!」

 

 どういう原理でか、DIOはハーミット・パープルでの念写や探索を感知できるらしい。それゆえ、一度試したあとはやっていなかったので、すっかり忘れていた。

 本体のジョセフも思い出せなかったのは、それだけ混乱していたということであろうか。

 

 壊してよいカメラやテレビなどが手元に無かったので、近くの港へと船を向けた。エチオピア最大の港、アッサブを目指す。

 もう五年ほどしたら、このあたりの海岸線すべてがエリトリアとして独立。

 エチオピアとしては海を失った形になり、領土問題としてくすぶり続ける。そして通貨を別にされ、港湾の使用権を制限されて、経済的に追い詰められて。

 当然のように紛争になったわけだな。しかも、それが終わらないという。

 その結果、貿易港としての価値が激減して、かなりさびれるのだが。今はまだ、そんな様子は見えない。にぎやかな、港町である。

 いずれ失われる光景だと思うと、妙に切ない。

 

 北緯十三度。平均『最低』気温が、一年を通して二十度をほぼ下回ることがない、高い気温が我輩たちを焼く。最高気温? 約三十六度が平均気温だ。察しておくれ。

 承太郎たちも、ガウンのような現地の民族衣装に着替えている。変装作戦の副産物で、原作では学ランで通していた承太郎も、着替えることに抵抗は無いようだ。

 

 まあ。あれは週刊連載をこなすために、描きやすくしていたのと、読者がキャラの見分けが付きやすいようにという大人の事情もあったのであろう。

 

 何も着ておらぬ我輩であるが、不思議とそれほど暑いとは思わない。体がスタンドなせいであろうか。

 

 ところで。今、気が付いたのだが。

 変装作戦が失敗した理由とは。もしや、我輩が常に つれあるき 状態で、外に出ておるからなのでは……?

 ……うむ。今更のハナシであるので、気が付かなかったことにしよう。気付いたところでどうしようもないし、誰も幸せにならないであるからな。

 

 観光地でもあるので、ポラロイドカメラは売っていた。高いのか安いのか、我輩には良くわからぬが。ジョセフが値引き交渉して、かなり値段を下げさせておった。

 ニューヨークの不動産王と呼ばれるほどの金持ちのはずなのだが。いや。あれは、こういう駆け引きが好きなだけか。

 使い捨てにするカメラであるから、安いに越したことは無いのも確かであるしな。

 

 ともあれ、そうして手に入ったカメラは、さっそくジョセフの手刀によって壊された。

 例えではなく、文字通りに叩き込まれた情報を、カメラが読み取って写真に写す。

 

 そこに写っていたのは、わずかな灰のみであった。

 

 

<to be continued>




●「そんなのボクの手柄じゃないもの 計算じゃないもの」
王様の仕立て屋より。イタリア、ナポリに住む凄腕の仕立て屋で、マフィアに大借金している日本人が主人公。特急料金を取る代わりに、わずか数日でフルオーダーを仕上げる彼の元には、様々な事情を持った客が訪れる。
借金を返し終えて一旦終了した後の、自分の店を構えての新シリーズが連載中。
客ではないが、その発注の原因になった音楽家のセリフ。
ポエムならぬ、ぽえ夢と呼ばれる自作の詩をネットで生で朗読中、後方に現場監督の後姿が。
「アルプスの調べに友よ酔い給え忘れられぬ夜に…「おーい右右!危ねえってよそ見すんなっだらあ!」」 (両者とも振り向き、目が合う)
ネットで反響を呼び、むしろ興味が引けてチケットは売れたのだが、音楽家は嘆いた。

●ジョジョ立ち
ジョジョの奇妙な冒険シリーズに、時折見られるスタイリッシュなポーズの立ち姿のこと。ファッション雑誌やモデルの写真が元になっている場合もあり、元ネタが発見されることも。

●「ジョセフ・ジョースターッ! きさま! 見ているなッ!」
ハーミット・パープルでテレビから音声を拾って、DIOの考えている内容を言葉にした時、最終的に画面に映ったDIOのセリフ。この時の片手で顔を覆い、片手で指差すカッコいいポーズは、ジョジョ立ちの代表のひとつでいいと思う。
なお考えていた内容は、一行の中に裏切り者がいる。それは花京院(の顔を真似ているイエロー・テンパランスの本体の人)だ。
もちろん、カッコの中は放送されません。


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第9話

右肘に違和感氏の うちのポケモンがなんかおかしいんだが を推してみる。
確かにおかしいのしかいないが、トレーナーである主人公のほうがもっとおかしいからね。
普通のトレーナーは、サカキさんと一緒に、ロケット団の経営健全化とかしないからね?


 我輩たちは虚脱状態である。空気が抜けてしまった、風船のようだ。冷めてしまった、コーヒーのようだ。

 

 あれから我輩たちは、ひとまず落ち着ける場所を求め。どうせならと、エアコンのきいた涼しい空間を求めて、ホテルのロビーへと移動した。

 そして念のために、三回念写をした。

 間違いなく、DIOは死んでいる。肉の芽が暴走した、エンヤ婆と思われる人を確認したと、報告も入った。

 

 緊張感が、切れてしまった。

 

 あまりのあっけなさに、終わったという実感が無い。

 とても原作のように「アブドゥル! イギー! ポルナレフ! 終わったよ……」と空に向かって報告する気も、起きてこない。

 

 いや、ネタであり。全員生きてピンピン、はしておらんな。グッタリしているのであるが。

 

 しかし、それでも。この旅が終わったというのは確かである。

 DIOの配下は、原作よりもだいぶん残ってしまっているが、それは我輩たちの仕事ではないであろう。

 しかしもしかしたらば、カタキとして狙われてしまうかも知れぬ。少し、考えてみようか。

 

 肉の芽を埋め込まれていた配下は、全滅である。少なくとも、リタイア。再起不能というやつだ。

 あのタカ? ハヤブサ? とにかく鳥類で、氷のスタンド使いのアレとかもそうであるな。

 金で雇われていた奴らは、金を持って逃げるであろうし。そのあたりは問題が無いな。

 やはり「悪には悪の救世主が必要」と言っていたように、DIO本人に忠誠を誓っていた面々が、少し問題であるかな。

 

 確かDIOには、息子が何人かいたはず。覚えているのは、そのうち一人だけ。第五部の主人公、ジョルノ・ジョバーナことシオバナハルノだけであるが。

 

 ふむ。後継者として差し出せば、当面は残党も大人しくなるか?

 

 差し出すと言っても、なにも本人をさらって、渡さなくとも良い。情報を渡すだけで良いはずだ。

 混乱して、どうするのか相談しあい、情報をあさっている残党たちの耳に入るようにすれば、いける気がする。

 

 だが、なあ。DIOの息子ではあるが。彼はジョセフの祖父で、承太郎の、え~っと、祖父の祖父とは、なんと言うのであったか。高祖父? ひいひいお祖父ちゃん?

 まあ、何でも良いが。ジョナサン・ジョースターの息子でもあるのだ。

 

 DIOの首から下は、ジョナサンの体を乗っ取ったものであり、その、なんだ。生殖器もジョナサンのものであり、そこからだされる遺伝子情報も、ジョナサンのもののはずであるので、そうなるのだ。

 だが乗っ取っていたとは、体の遺伝子情報を書き換えていた、と取れなくもない。

 どちらの息子かは、DNA鑑定でもしてみなければ分からぬであろう。

 

 真実がどうなのかは、さて置こう。

 重要なのは、ジョセフや承太郎がどう取るかだ。

 自分たちの安全や、世間への無差別テロなどの自暴自棄を防ぐために、DIOの息子をオトリにする、ならばセーフかもしれぬが。

 それが、ジョースターの一族であった場合。間違いなくアウト判定になってしまう。

 

 しかたない。コッソリ流すか。

 

 さいわい、今日のところはもう、このままホテルに部屋を取って休もう、ということになっている。時間はある。

 我輩はスタンドであるがゆえに、一般人には見えぬし、声も届かぬ。だがしかしだ。

 

 ここに、ポケモン技の ないしょばなし があるじゃろ?

 

 これを使えば、一般人にも声が届けられるのだ。行ける範囲の人間すべてにジョルノの情報をささやけば、どこかに届くだろう。

 というか、届いてくれ。そう願わざるを得ない。

 特に、あの人。ある意味スタープラチナをも上回る、無敵のスタンドを持つヴァニラさんに届いてほしいのだ。

 

「あぁクンカクンカ!(大幅に中略)の想いよルイズへ届け!!ハルケギニアのルイズへ届け!」

 

 さすがにあのルイズコピペ程ではない(さすがにアレを超えたら人としてマズい)が、真剣にそう思うのだ。

 自分は亜空間に入って、無敵状態。触れるものすべてを削り取るので、触ることもできずに攻撃も無効で、一方的に攻撃される。しかも基本見えない。

 あれに狙われては、さすがに生き残れる気がしないのだ。

 さいわい、彼は忠誠心が非常に高かった。DIOに死ねと言われて、即、自分で首を落とすほどに高かった。

 その忠誠心は今、行き場を見失っている。それが復讐心や殺意に変わる前に、DIOの息子という希望があると知らせねば。

 きっと、ジョルノの存在を知れば、すぐさま駆けつけて守ろうとするだろう。

 無敵の彼が、御付のジイとしてそばにいるジョルノ。うむ。これで第五部も大丈夫だ、やったぜ。

 

 DIOを念写した一枚に、骨を拾う知らない男も写っていたので、DIOの遺体も始末しなければ危険だと忠告もした。

 上手く行けば、それだけで第六部も片が付く。

 

 さてさて。それでもなお、我輩は帰れぬのであるが。

 あとはもう。矢くらいしか、思いつかぬのだ。複数あって、原作でも全部の在り処は出ていなかった気がするのであるが。どうしたものか。

 

 それはもう、明日で良いか。

 今日のところは、ウワサをバラまかねば。

 さて、行くとしよう。

 

 

 




●「アブドゥル! イギー! ポルナレフ! 終わったよ……」
ネコはナチュラルに間違えていますが、本来はポルポルでなく花京院です。

●ルイズコピペ
あまりに長いので、知りたい方はネットで検索してください。破壊力は抜群です。
私は久々に読んだら、クラっと来ました。それを素で書いた人が、この世にはいるんだよなあ…… 世界ってひろいなー
英訳版が存在する。誰だ、あれを世界に広めたのは。

◎ないしょばなし
ノーマルタイプのポケモン技。相手のとくしゅ系の攻撃を1段階下げる。必中。『まもる』『みきり』『トーチカ』『ニードルガード』『みがわり』を貫通。


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第10話

 我輩は久々の休暇中である。なんとか、ヒロアカ世界へと帰ってくることができたのであるな。

 きっかけとなったのは、やはりというか、あの矢であった。

 

 予想通りであった。そして、予想外でもあった。

 

 もう少しくわしく言えば、だ。

 矢を使えば、戻れるかも知れぬという予想のもとに、矢を装備してみた。

 こう、額の小判をペリッと外して、その代わりにはめ込んだのだ。

 

 うむ。実はアレ、外せるのだな。

 

 うまくすれば、レクイエム化して新たなる能力が。そう、期待したのであるが。ここで予想外の結果が出た。

 

 我輩に、スタンドが出たのである。

 

 しかも。これがどう見ても、スター・プラチナなのである。

 

「わけがわからないよ」

 

 久々にあの白いナマモノが、大根を持って踊る妖精たちに囲まれながら、脳内でそうつぶやいた。

 

 

 

 ここで、ハナシを少し戻す。

 エチオピアのホテルで朝を迎え。一晩寝て、精神力も回復した一行で、朝食を取っている時のことだ。

 このままエジプトを目指す組と、日本への帰還組にわかれよう。そうジョセフが言い出したのだ。

 帰還組と言っても、承太郎と花京院のみのハナシである。

 要は、戦いが大方終わったので、学生は学校へ行け、ということであるらしい。

 

 この時。我輩はすでに矢を狙っておった。DIOを倒しても戻れぬ以上は、帰るために次の手を打たねばならぬ。

 スタンドを発現させ、進化させる矢は、そのための最有力の心当たりであったからだ。

 

 そして矢は、エンヤ婆がいくつか持っていた。原作では、確かエジプトでポルナレフがそれを見つけていたはず。

 で、あるならば。我輩もエジプトへ行きたいので、本体の承太郎もエジプトへと行って欲しい。

 ここから先は大人に任せておけ、というジョセフらの言葉に、承太郎も反発を覚えている。

 我輩たちの気持ちは一つであった。

 

 だがしかし。旅費を出すのは、自分たちではないという弱点を突かれては、どうしようもなかった。

 おのれ。やはり金の力というのは、偉大であるな。

 

 そして日本へと戻ったわけであるが。戻る途中、順調に飛ぶ飛行機の中で、我輩は思い出した。

 

 あれ? 億泰の兄は、どこから矢を手に入れたのであったっけ?

 もしかして、杜王町の虹村家に、矢がある?

 

 我輩は承太郎に頼み込み、再び杜王町へと向かうことに成功した。

 どう頼んだかって? 正直に話したとも。

 そこにパワーアップアイテムがあると思うので、回収に行かせてくれ、とね。

 承太郎は、ため息を一つついて承諾してくれた。オフクロの見舞いに行ったあとにな、と条件は付けたが。

 

 ところで、虹村家の人々であるが。現在、父親も兄弟もスピードワゴン財団にお世話になっておるのだな。

 将来、承太郎が滞在するやも知れぬホテル。あそこに長期宿泊中だ。

 我々がDIOを倒すまでは、保護観察で。その後は父親が復讐に走らないかの監視である。

 

 そういうわけで、都合よく無人になっておる、虹村家を探索すること小一時間。

 スタンドの身体を生かして、色々とすり抜けてみた。

 まずは玄関をすり抜けて、鍵を外して扉を開き。部屋に入っては、鍵付きの引き出しを開け。金庫を見つけては、開けずに中身を探り。

 そうして、とうとう矢を発見することとなった。

 

 そして、さっそくその場で装備した結果がアレだよ!

 

 自分にどんな力が? とワクワクした気分が全部すっ飛んでしまった。

 

 しかもこのスター・プラチナ。動かせないのであるが。

 その場でパンチを打たせようとしても、ピクリともしないのであるが。

 

 そうして困っておったら、承太郎が動かしだしたのだが。

 

 フン。妙にシックリくるぜ。とか言っておるのであるが。

 

 いや、まあ。そりゃあ、確かに。

 スタープラチナと言えば、承太郎のスタンドであるというのは、ジョジョの世界では常識ではあるけれども。

 曲がりなりにも、ここまでずっと彼のスタンドを勤めてきたのは我輩なのであるぞ。

 

「あれー? ポッと出のスタンドが本体を取っていいの? ザ・ワールドDぞ? 我、ザ・ワールドDぞ?」

 

 気付けば、そんなよくわからぬノリでスター・プラチナにからんでいた。

 

「落ち着け」

 スパーン!

 

 そんな我輩に、承太郎がスター・プラチナを使ってツッコミを入れた。

 軽く頭をハタいたのだ。

 そしてその衝撃で、矢が取れた。

 

「あっ」

 

 ヤバイ。引き離される。そう、直感した。

 我輩が矢を装備したら、スター・プラチナが出た。で、あるならば外せばスター・プラチナが消えるのが普通だ。

 だが我輩は普通ではない。通常の手段でここにいない。

 ()()()()()()()()()()()()

 

 矢を拾おうとしたが、それも間に合わぬとわかる。わかってしまう。

 時間が無い。せめて承太郎に一言だけ――――――残す時間すらも無い。ならば。

 

 

 時よ止まれ!

 

 

 時は。

 止まらなかった。

 

 承太郎のスタンドではなくなってしまった我輩には、その力はなかったのか。

 それとも、別の理由なのか。それはわからない。

 

 確かなのは、また未練を残した世界が一つ、我輩の記憶に増えた。それだけである。

 終わりというのは、時にあっけなく訪れてしまい、それでも取り返しが付かない。

 そんなことも、忘れていたようだ。

 

 あの世界から消えた。そう思ったら、しばしの何もできぬ、ぬるりとした空間をただ通るだけの。そんな何とも言えぬ、気持ち悪い時間を経て、現実へと戻れていた。

 だが、一欠けらほどの喜びすらも感じない。

 DIOの死に引き続き、またしても精神が落ち込んでしまった。

 

 ああ。こういう時は、寝るに限る。

 今回はどれだけ、この世界を離れていたのかやら、この世界でなにか動きがなかったかなど。調べることも、あるにはある。

 だが、明日でも良いだろう。今は、なにをするにも、おっくうだ。

 

「ありがとう ごめんなさい」

 

 もう会えなくなった人に送る言葉は、これくらいしか思いつかぬし、これでいいのだと思う。

 あの一瞬。承太郎へと伝えようとした言葉は、また別であったようにも思うのだが。

 とっさの事であったので、思い出せぬ。

 

 はぁ……

 

 ああ、まったく。

 ままならぬものであるなあ。

 

 

 




●わけがわからないよ
魔法少女まどか☆マギカより。魔法少女のマスコットって、実はいいように小さな女の子をダマして利用してないか? というウガッた見方を設定段階から取り込んだらこうなる、というアニメ。 
ジョジョ第五部の代表的なセリフの一つ「吐き気を催す邪悪とはっ! なにも知らぬ無知なる者を利用する事だ……!! 自分の利益だけのために利用する事だ…」
自分の利益のためだけではないが、ほぼ当てはまる邪悪なマスコット、きゅうべえのセリフ。キミたちを利用したが、何か問題が? という態度でこうトボける畜生である。

●我、○○ぞ?
「ボケて」という、写メに言葉を付けて遊ぶサイトのヒット作。両手を腰に、笑顔だが横目で誰かを見ている嵐の二ノ宮の下に「あれ~?新人俳優ごときが俺にそんな口きいていいのかなー?嵐ぞ?我、嵐ぞ?」というコメントが。
我、兵長ぞ? というリヴァイや、ふなっしーぞ? や我、英雄王ぞ? など数々のパロディが作られた。

●「ありがとう ごめんなさい」
蒼天航路より。数ある三国志マンガの一つだが、どいつもこいつもキャラが強烈である。特に曹操と劉備は印象深い。でもあの孔明はイヤだw
劉表に世話になっていたが、彼が亡くなり、曹操が攻めてくるので逃げ出すことにした時。その前に劉表の墓を抱きしめて、真顔で劉備が言ったセリフ。
なおその後、全力で走って逃げ出す。


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Fate Grand Order編 歩く特異点I幻想星海楽土 『エフジーオー』
第1話


 

 我輩はしばらくのんびりと過ごす予定であったのである。

 早く帰りたいと思ってはいた。しかし。あの終わり方は、それなりに来るものと、思うものがあったのだ。

 だから、次の世界を探そうとはしておらぬ。あの世界を探そうとも、しておらぬ。

 ただただ。過ぎ行く日々と、ゆっくりと流れる時間を、見送るような。そんな毎日を送っておった。

 

「年年歳歳花相似 歳歳年年人不同」

 

 生前の、退職した直後や、熱が出て動けないときなどを思い出す。

 何もない、何もしない。そんな時間のムダ使い。

 うむ。最高のぜいたくであるな。

 

 そういえば、ひとつだけ。ポケモン技を持ち帰ることができた。

 このような時には、ある意味最適な技である。

 

 ねむる。あっと言う間に、眠りにつくことができる。

 

 本来は、出来うる限り短い眠りで、自分を万全の状態へと回復させる技である。

 だがそのあたり、融通が利くらしい。普通に眠りに入ることも、好きなだけ眠っていることもできるのだ。

 アニメやゲームで、カビゴンが橋をふさいで眠り続けていた、アレのようなものであるな。

 体力は回復するが、さすがに栄養状態は回復しないようなので、普通なら食事は必要なのだろう。しかしボスは点滴生活だ。自動的に、定期的に補給されるので、眠っていても問題はない。

 

 あれ? これってもう、我輩は残りの人生、寝ているだけでいいのでは?

 

 そんなことを考えながら、あえて ねむる を使わず、うつらうつらと、うたたねを楽しんでおった時のことだ。

 

 引っ張られた。

 

 それは、突然のことであった。唐突であった。まさしく、青天のヘキレキであった。

 瞑想して、向こうに向かうのではなく。向こうから引っ張られるという、初めての体験であった。

 

「はわわわわわ」

 

 意識に貼り付けておる、オールフォーワンの演技も忘れて、素の反応であわてる我輩をよそに、召喚は進められた。

 うむ。これは、召喚である。誰か、意思のある存在に呼ばれているのだ。

 

 我輩が抵抗をあきらめ、流れに身を任せるようになってすぐに、召喚は本格的に発動した。

 いつもとは少し違った、世界の壁を超える感覚が面白い。

 いつもは壁を乗り越えるような、そんな感覚で。今は壁に一時的に穴を開けてくぐり抜ける。そういう感覚である。

 それがどういう意味を持つのかなどは、わからないが。まあ、世界を超えるという結果は同じである。

 

 そうして呼ばれて行った先には、どこかで見たような顔のお嬢さんと、一目見たら忘れられないような、インパクトの強い異形の顔をしたオッサンがいた。

 

「ジル。なんかヘンなのが出てきたんだけど。これも英霊なの?」

「お下がりください、私が調べてみますので」

 

 そちらで呼んでおいて、ひどい言い草であるな。

 さて。ヘンなのと言われるからには、今回はどんな姿で―――いや、待て。

 あの二人の会話は、フランス語だ。我輩はなぜそれが分かっ―――――

 

 イタタタタタタタ!!  みぎゃーー…

 

 痛い! 痛い! 頭が痛い!

 いくつもの針で刺されたように痛い! ささったそれをかき回すように痛い!

 キリキリと痛む! キシキシと痛む! ズキンズキンと、脈はくと同じ間隔で痛む!

 知識が。膨大な知識が襲ってくる! やめろ。人の脳は、一度にそんなたくさんの情報を処理できぬのだ!

 痛すぎて逆に気絶できない! ボスケテ! ボス! 先生! マスター! 承太郎!

 

 承太郎……ポケモン技! ねむる! 何が起きようと、二日間ねむる!

 

 そうして我輩の意識は、いったん途切れた。

 なにげに、二度の人生を通して、最大の危機であったかもしれぬ。ありがとう ねむる。本当にありがとう。

 

 目覚めても、まだ割と頭痛が残っておったので、二度寝を決め込もうとしたら、獣耳のお姉さんに怒られたりもしたが。無視をして眠る。

 まだ回復しきっていないのだ。もう一度おやすみなさいである。

 ねむる、発動。

 

 




◎ねむる
エスパータイプのポケモン技。HPと状態異常をすべて回復した後に、2ターンねむり状態になる。ねむる→回復ではなく、回復→ねむるの順番なのは、使い勝手の問題だと思われる。今回ここまで活躍するとは、私も思ってもみなかった。
なお、さすがにポケモンの体ではないので、傷の再生まではしない模様。

●年年歳歳花相似 歳歳年年人不同
マスターキートンより。
唐代の詩人、劉 希夷の七言絶句の一節。花は毎年同じように咲くが、それを一緒に見た人は、今はもういない。という意味の、時の流れを嘆く詩である。
しかしネコは、これを引用したキートンの父の説明、as time goes by時の過ぎ行くままに という意味さ。というところだけを覚えていて、使用しています。


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第2話

 我輩は自害したのである。

 聖杯の強制力とやらで、そう命じられてしまったのだ。召喚してから寝てばかりいるし、ちっとも強そうではないかららしい。

 その聖杯からの、一方的な知識の流入が寝ていた原因なのであるが。

 

「やれやれだぜ」

 

 承太郎ならば、そう言っておったであろう。

 ようやく頭痛が治まったので、せっかく我輩が自分からあいさつに来たというのに。ずいぶんとまあ、ぞんざいな扱いであるな。

 

 まあ、気持ちはわかるが。

 ガチャを回して、外れが出たら。そりゃあ処分するというものである。

 

「誰だってそーする。俺もそーする」

 

 しかし、まあ。自害させられたほうとしては、思うこともあるわけである。

 さいわいなことに、この体は()()()()()()()()()()

 これは、個人としての特性と言うよりも、おそらくはゲームとしての仕様であろう。

 ここは一つ、死んだフリでこの場を切り抜け、スキをうかがわせてもらうとしよう。

 

「てめーの敗因は……たったひとつだぜ……DIO…… たったひとつ単純な答えだ…… 『てめーは おれを怒らせた』」

 

 歴史が変わった結果、承太郎はこのセリフを言わなかったが。かわりに我輩が今、心の中で言おう。口に出したら、死んだフリがバレるであるからな。

 

 邪ンヌ・ダルクよ。お前はこのネコ・カオスを怒らせたっ!

 

 うむ。ネコ・カオスである。

 聖杯が、だばだばと流し込んできた知識も、そう言っている。

 沙耶の○の知識やら、喫茶店でカッコつけて酒を飲む方法やら、東京のデートスポットやら、いらない情報も多々流れてきていたが。

 まあ、ささいなことである。

 

「吾輩は、自由でいたいのさ。というか、ひきこもりたい」

 

 寝ている間に、そんな言葉を聞いたような気がするのであるが。

 あれが本来のネコ・カオスの声だったとするならば。

 ひょっとして、我輩。乗っ取られての、自我喪失の危機であったのではなかろうか。

 あのカオスなナマモノに、意志力で勝てる気がしない。危ないところであった。

 

 

 それで、そのあとのハナシだ。

 

 邪ンヌたちが立ち去ったあとに、こっそりと身を隠し、屋根裏へと潜んだ。

 そうして聞き耳を立て、情報を集めながらスキをうかがう。

 時折、あの獣耳の女の人やら、人狼やらに気付かれそうになるが、なんとかやりすごした。

 今思えば、あの獣耳の人は見逃してくれていた気もする。

 そうやって、ヒマな時は ねむる を使って眠り、代わりに体から獣を出して見張らせ、探らせて。

 ひたすらに、じっと機会を待ち続けて。

 

 そうやってジル・ド・レエからかすめ取った聖杯が、ここにあるじゃろ?

 

 聖杯を見つめながら、なにやら深く考え込んでおったのを見つけ。今なら行ける。そう踏んで、天井から強襲をかけたのであるが。これが見事に成功したのだ。

 そして逃げ去るために、我輩は手に入れた聖杯に、さっそく願った。少しの目くらましを、と。

 

 うむ。察した方もおられるとは思うが。

 黒い炎が、スゴイ勢いでスゴイ量出てきてしまってな?

 違うのだ。こんなつもりはなかったのだ。

 冬木の汚染聖杯ではあるまいし、こんなことが起きようとは、思っていなかったのだ。

 

 待て! 無し! やっぱり今のは無し!

 

 オルレアンの城ごと、我輩まで燃えてしまいそうであったので、あわててキャンセルをかけた。

 するとなにやら不思議なことに、頭の中に声が聞こえたのだ。

 

「もう、仕方が無いなあ」

 

 そして聖杯から出た黒い炎は、聖杯の中へと戻っていった。

 焼け焦げた壁や床、ジルなどはそのままであるが、それ以外は元通りだ。

 

 ただ聖杯が黒くなって、謎の液体がダバーッとあふれておるのだが。

 焦げてピクピクしておるジルの横に、出刃包丁が刺してあって、今のうちに殺っちゃえよ、というメモ書きがあるのだが。

 もう、これ聖杯じゃないだろ。聖杯くんだろ。

 

 民衆を殺して回るのも、サーヴァントと戦うのも。どちらもゴメンであるから、聖杯の力でもう召喚されないように願って、それから契約破棄を願って帰ろうと思っておったのだがなあ。

 うむ。今回もまた、帰れぬのだ。自力で来たのではない上に、一応はサーヴァントとして、契約に縛られておるらしい。

 だがしかしだ。さすがに、この聖杯くんを使う勇気はないのである。

 

 よし。逃げよう。

 

 聖杯くんをかかえて、逃げ回ろう。

 盗み聞きした成果の一つとして、昨日カルデアが来たらしい。きっと人理修復まで、そう長い間ではなかろう。

 修復すれば、この世界は、ある意味終わる。それで帰れるであろう。

 あるいは、あの邪ンヌことジャンヌダルク・オルタが倒されて、契約が解除されるだけでも帰れるかもしれない。

 

 さて。外はワイバーンや人狼、ゾンビやスケルトンがうろつく、ゲーム染みた世界になっておるし、その上でサーヴァントというボスまでうろついておる。

 聖杯を持って逃げる以上、それらすべてが、我輩を狙ってくるであろう。

 

 上等だ。来るが良い。

 我輩はきっと、どこまでだって逃げ延びてみせよう。

 我輩は、捨てられるということが大嫌いなのだ。

 それをしてくれた邪ンヌなどには、絶対に手を貸してやらぬのである。

 

「掛け値なし、言うことなしのどデカ地雷踏んだんだぜ」

 

 残念だとも言わないし、墓にはなんて書けばいい、とも聞いてはやらぬ。

 ただ見限られたので、見限って、離れるだけである。

 

 今ここでジルにトドメを刺せば、聖杯を奪ったのが、我輩のしわざと知る者もいなくなる。

 そういうわけだ。使い魔の獣くん。取り込んじゃって。

 直接殺すのは主義ではないが、使い魔にやらせるなら、セーフで良いのではなかろうか。

 

 まあ、戯言であるな。

 さて、それでは逃げるとしようか。

 あの獣耳の人が、追いかけるのを手加減してくれますように。

 

 

 




●「やれやれだぜ」
ジョジョの奇妙な冒険第三部より。空条承太郎の口癖。ネコがいなくなったあと、急に静かになった生活に若干の寂しさを覚えていそう。スタプラに話しかけたり、ご飯食べさせたりして、ノーリアクションなのにヘコんでそう。なんかゴメン。

●「誰だってそーする。俺もそーする」
ジョジョの奇妙な冒険第四部より。虹村京兆のセリフ。虹村兄弟の兄の方である。どうやっても再生する、壊れた父親を殺したかったなら、スタンド使い量産ではなく火口のマグマにでも投げ込めばよかった気はする。

●「テメーはおれを怒らせた」
同じく承太郎のセリフ。キレた時の爆発力は、初代ジョジョからの伝統。キミがっ泣くまでっ殴るのをっやめないっ!

●「残念だ 掛け値なし、言うことなしのどデカ地雷踏んだんだぜ。本当に残念だ。墓には何て書けばいい?」
ブラックラグーンより。自分の日常にコンプレックスを持ちつつ、そこから抜け出せず、方法も知らない。そんなレヴィと、暴力以外の方法を示すロックとが衝突した時のレヴィのセリフ。なおケンカの結果はレヴィの負けで、以降レヴィはロックの意志を尊重する方向に。

●ネコ・カオス
MELTY BLOODシリーズ、及びカーニバル・ファンタズムに登場。正式名称、ネコアルク・カオス。実はタバコとスカート装備で性別不詳である。女好きでナンパはするが。
アニオタだったりなかったりして、深そうで深くない言動をして、たまに正論を吐く。
ネコアルクいわく、頭の中身がマッスル。

●聖杯くん
カーニバル・ファンタズムに登場。一応願望器ではある。意思を持っており、泣きついてきたワカメや士郎の願いを叶える。ただその方向は出刃包丁を渡して、これでカタをつけな、というヤクザなものであるが。


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第3話

登場キャラが増えまくりそうで、手に負えないかも。
安易に手を出すと、FGOはヤバいなと今更実感。


 

 我輩はグッタリしているのである。酔ったのだ。

 言っておくが、酒にではない。獣と、馬車に酔ったのだ。乗り物酔いであるな。

 

 あれから走って逃げたのであるが、すぐに気が付いた。

 この体。2.5頭身くらいなので、手足が短い上に、そもそも若干足が遅めであると。

 

 そこで適当な獣を体から出して、乗っていこうと思ったのであるが。

 これが、どいつもこいつも、すごい揺れるのである。

 

 最初に出たのはシカらしき、跳ね回る四つ足の黒いヤツであった。

 コイツ、奇妙なことに、角が枝分かれしながら伸びるのであるが。ムーンフィッシュを思い出させるようなアレっぽさである。

 イヤな予感はしたが、なにぶん急いでおったので、チェンジせずにそのまま乗り込み。そして五分後に吐いた。

 シカというよりも、カンガルーのような移動方法で、常に跳ねて移動するのだ。上下の揺さぶりが大きくて、大ダメージであった。

 

 シカをあきらめてしまいこみ、次に出たのが、ブタであった。

 どこぞの味噌カツ屋のシンボルキャラクターのように、化粧マワシを身に着けておるが、二足歩行ではないようなので、まあよしとしよう。

 せめてイノシシにならないかとも思ったが。その場合、次に出るのが蝶々である気がするので、これもよしとする。

 しかも、吐き気が治まるまで少し休憩したので、時間が無い。

 そのまま乗り込み、走らせる。

 

 今度は、四十分ほどは持った。

 

 シカによるダメージが残っていなかったら、もう少し行けたであろう。

 もしくは、もう少し道がまともであったのならば。

 街道といえども、石畳ですらない、踏み固めた土である場所がほとんどなのであるが。

 レンガとは言わぬが、もう少し、こう、なんとかならなかったものなのだろうか。

 

 いや。そういえば百年戦争中であったな。そんな予算や人手は、どこにもないか。

 フランスという国の枠組み自体が、消滅の危機であったのだ。そういった、大規模な公共工事などは望むべくもなかったのであろう。

 

 そんな田舎道を、今度はヒョウに乗って走る。

 揺れはするが、ネコ科のしなやかで柔らかい身体が、サスペンションのように衝撃を和らげてくれる。

 しかも、ブタよりも速い。これは、アタリであるな。

 

 とりあえずは、東、と思われる方向へと走ってきた。

 途中で見かけたワイバーンや、人狼や、兵士たちはすべて隠れてやり過ごす。この身体が小さいので、隠れやすい。

 ニャース先輩に引き続き、背が低いというのは正直いい気がしなかったのであるが、なにごとも良し悪しであるなあ。

 

 ところで、村人などにはいまだに出会っておらぬのだが。

 全滅したのか、それとも逃げたのか。まだ二日しか移動しておらぬのであるが、ここに至るまで、空っぽの村しか見ておらぬ。

 居たとしても、どうしようもないのであるが。それでも、このフランスはまだ大丈夫なのか、心配にはなる。

 しょせんは他人ごとであるが、それでも目の前でのことであれば、思うことはあるのだ。

 

 ところでこの移動中に、少し聖杯くんと仲良くなった。

 移動中にヒマであったので、シリトリの相手になってもらった。今思えば、あれは日本語であったなあ。

 口が寂しかったが、この身体の持ち主のように常時タバコを吸っておるのも逆に落ち着かぬ。そうグチったら果物を出してくれた。

 ラ・フランスであった。なにげにこの時代には存在しないオーパーツである。

 聖杯くんが出した食べ物ということで、口にするのに少し勇気が必要だったのは、彼(?)には秘密である。

 

 そしてラ・フランスをかじっていたところ、一台の馬車がやって来た。妙に輝いていて、速くてなめらかに動く馬車だった。

 

「ヴィヴ・ラ・フランス!」

 

 そんな言葉とともに、この時代では先を行き過ぎている衣装の女性が、馬車から飛び出してきた。

 そしてマリー・アントワネットを名乗った彼女は、ラ・フランスを欲しいと、ていねいに頼んできた。妙に惹かれるものがあるらしい。

 

 ダジャレか。そして召喚素材か。

 

 カジったものを渡すわけにもいかぬので、聖杯くんに新しいのを頼んでみる。

 美人さんだし、いいよ。と素直に渡してくれたのが、ありがたいが解せぬ。たいてい出刃包丁を出して、これで解決しなよという持ちネタを、しつこいまでに繰り返すくせに。

 

 そして桃太郎のキビ団子よろしく、ラ・フランスを食べた彼女は、我輩とともに行くこととなった。

 もっともこの場合、お供になったのは我輩のほうである。

 別に、おいしかったからとされたキスに、ほだされたわけではない。ないのだ。

 

 聖杯くんは思い切りほだされて、我輩の手を離れて彼女に付いてしまったが。

 

 えっ。なにこれ。いきなり切り札が消失したのであるが。

 どういうことなの、と馬車の中に居た、金髪ちょいロールの男に目でたずねた。

 

 あきらめなさい。

 

 彼の目は、そう語っていた。

 

 うん。いや、まあ、うん。

 彼女、マリー・アントワネットはカルデアと合流する。そのはずだ。

 だから、聖杯くんを持っていてもらっても、まあ、いいと言えばいいのであるが。

 こう。いろいろと。

 今回は、想定外であるなあ。

 

 

 




●味噌カツ屋
名古屋の矢場ト○である。味噌カツというが、味噌そのものではなく味噌ダレをつけるのである。小鉢と出てくる白ゴマを自分ですって入れると、すりたてのゴマの香りが味噌ダレに負けずに香ばしい。
どっぷりとタレをつけたカツは、シャキシャキの千切りキャベツと食べるも良し。ご飯とともにいただくも良し。

●ラ・フランス
いわゆる洋ナシ。ラ・フランスは日本での呼び名で、フランスでは発見者のクロード・ブランシェさんの名前でそのまま呼ばれているらしい。
フランス原産であるが、1864年まで発見報告が無いあたり、謎である。
またフランス原産なのに、フランスの気候風土と合っておらずに、現地での栽培はほぼ行われていない。本当にフランス生まれかキミ。
収穫直後は硬くて甘くない。常温で10~14日置いたころが食べごろという、食べるタイミングが難しい果物。しかし聖杯くんが出したものなら、すぐさま食べても大丈夫だ。良かったね。


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第4話

一応、本日2つ目。


 

 我輩は、口がスベったのである。

 なぜ召喚されたのかも、誰に召喚されたのかも、わからない。

 マリー・アントワネットがそんなことを言うので、つい普通に解説してしまったのだ。

 

 人理崩壊のこと。黒幕は、倒すと希少な素材を落とす、魔術師としてはオイシイ敵であること。

 このフランスでは、ジル・ド・レエが犯人であったこと。それは我輩が倒したので、あとは邪ンヌを倒せば良いこと。

 アントワネットらを呼び出した存在。人類すべての、死にたくないという意思。滅びに対して働く抑止力、アラヤのこと。

 あとは、うろ覚えの知識だ。

 すまないさんのところに、誰だったか聖人を連れて行かないといけなかったことと、佐々木小次郎はドラゴンスレイヤー。

 

 うむ。しゃべりすぎた気がする。

 それでそれで? とキラキラした目で続きをせがまれるので、ついつい話してしまったのだ。

 そしてハナシを聞き終わった彼女は、宣言した。

 

「さあ。英雄になるわよ!」

 

 どういうことなのか、ちょいロールの人こと、ウォルフガング・アマデウス・モーツァルトが聞いたところによるとだ。

 人類を救うために、アラヤが私たちを召喚したのならば。やりとげれば、英雄でしょう? とのこと。

 

 まあ。その通りではある。

 しかしながら、向こうの方が戦力が上なのだ。それはもう、圧倒的に上なのだ。サーヴァントも多数いたはずであるし。

 

 そう指摘すると、じゃあ戦力を集めましょう! と元気いっぱいに笑顔で答えてくれた。

 モーツァルトの方を見たが、顔にはすでに「あきらめろ」と書いてあった。キミ、その顔をするのに慣れを感じるのであるが、大丈夫かね?

 

 心配すると、すごいな君は。と感心された。

 人かどうか怪しいのに、並みの人間よりも汚くて、それなのに人を心配できるのか。そう感心された。

 

 シバくぞ。

 

「もうシバいたらいいわ」

 

 特徴的な鼻をした、長い黒髪の女性も、真顔でそう言ってくれた気がする。

 アントワネットが、ごめんなさいね、アマデウスはクズなだけで悪気はないの。と謎のフォローを入れなければ、笑顔でシバいておったであろう。

 直接殴りたいと思ったのは、久しぶりである。

 邪ンヌにすら、そう思わなかったぞ。いや、あれには殴りたいのを通り越して、殺意を覚えただけであるか。

 

 さて。

 戦力が欲しいと言うのなら、このまま東へ。そして南へ行くのである。

 リヨンかマルセイユ。どちらであったかは忘れたが、竜殺し(真)がいたはずだ。呪いだったかで弱っていて、聖人が必要という設定だったように思う。

 

 しかしここに、聖杯くんがいるじゃろ?

 

 呪いを吸収なり、上書きなりしてくれるはずだ。上書きのほうは、きっとユカイなことになる予感がある。

 なにかしでかしてくれるであろう。

 

 そう期待して、本人に確認してみたところ。とんでもない情報が出てきた。

 

「あっ。今、カルデアが撤退しちゃった」

 

 ………………えっ。

 

 いやいやいやいや。なんで?

 ここは序盤の、チュートリアルもいいところの、軽い感じの場所ではなかったのであるか?

 

 動揺して、そんなメタ丸出しの我輩の疑問にも、聖杯くんは、きちんと付いて来て答えてくれた。さすがのギャグ枠のナマモノである。

 ただ、答え方もメタまみれであったが。

 

「ほら。マリーさんたちの登場シーンって、プレイヤーのピンチに駆けつけるって感じでしょう? その二人が今、こんなところにいるから」

 

 うわあ。これはやってしまったか。

 早く進めてあげようと、こちらで前もってすまないさんを助けておこうと思っただけなのだが、まさかこんな副作用が起きようとは。

 

「見抜けなかった! この海のリハクの目を持ってしても!」

 

 うわあ。我輩、アレと同類であるか。

 いかんな。これは汚名を返上せねば。とはいえ、なにをどうしたものか。

 移動中に、少し考えてみるとしよう。

 

 




●「もうシバいたらいいわ」
ワンピースより。ゲッコー・モリアの船、スリラーバーク編あたり。ブルックが加入したてで、スカルジョークを連発。最初は「やめなさいもう死んでるわ」と、過激なツッコミを入れようとするフランキーを冷静に止めていたロビンも、三回目には「いい加減シバくぞ、てめェ!!」というフランキーに、即座に賛同してこう言った。真顔で。

●「見抜けなかった! この海のリハクの目を持ってしても!」
北斗の拳より。南斗五車星のうち海の星担当の拳士。名軍師という設定であるが、ラオウとケンシロウの強さを見誤り、仕掛けたワナが裏目に出て、ケンシロウは目を負傷。ラオウは一足先にユリアの元に到着するという大ピンチを招いた男である。
その事件の最中に、この私の眼を持ってしても、と上から目線で口にしたセリフである。
イチゴ味では「なんかアンタは結局大事なシーンで策に溺れ余計な事をした上に潔く散りもしない… そんな男じゃないですか!!?」と他の五車星の人に言われた。
実際、唯一五車星で最後まで生き残っている。


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第5話

滑り込みセーフ。本日3本目。


 我輩は一服しているのである。

 サーヴァントの装備のごとく、どこからともなく取り出せるタバコをくわえて、同じように取り出したライターで火をつける。

 

 深く吸い込み、吐き出す。

 

 身体に悪いものが、染みていくのが分かるようだ。

 生前は味も分からぬうちに吸い始めて、味も分からぬままに、早々に止めてしまった。

 こうして、深くしみじみとタバコを味わうのは、実は初めてである。

 

 うむ。これは、落ち着くな。

 

「ああ……ジャンヌ……じゃぁああんんぬぅぅ~……」

 

 聞こえてきた嘆きに、右を向けば。そこにはワインのビンを抱えて涙を流す、フランス元帥の姿があった。

 この時代では、そのまま飲めるワインなどよほどの上物。香辛料やらハチミツやら、混ぜ物をしなければ飲めたものではなかったらしいが。

 さすがは大金持ち。このご時勢でも、いいワインを飲めるらしい。

 庶民は、安物のワインすら飲めずにシードル(リンゴ酒)やポワレ(ナシ酒)やビールであるのに、ぜいたくなものだ。

 

 まあ。我輩は聖杯くんと、ブランデーをちびりちびりと、やっておるのだが。

 ワインを醸造して、アルコール度数を上げ、タルで数年寝かすとブランデーができる。十六、七世紀あたりの発明なので、十五世紀の今なら地味にオーパーツであるな。

 そしてブランデーの中でも、特定の地域で生産され、なおかつ高品質なもののみがコニャックやアルマニャックを名乗ることができる。まさにブランドなのだ。

 聖杯くん。やけに美味いが、こいつは?

 

「フランスで飲むなら、ナポレオンかなって」

 

 コニャックにも等級があり、日本酒のそれとは違って、厳格に決められている。

 スリースター、VO、VSOP、ナポレオン、XOの順に等級が高く、ナポレオンは最高級一歩手前。

 なぜナポレオンと呼ばれるのかは、不明である。下町のナポレオンと同じくらいに、諸説ある。

 しかし本当に美味いな。カミュ? えっ。ポールジロー? それは珍しいものを。

 

 元帥、元帥。酔いたいなら、こっちのが強いから飲むと良い。

 本当に美味い酒は、ヤケ酒として飲んでも、心を癒してくれる。今は飲め。

 

 サーヴァントとしてのジルは、我輩が倒した。

 ここでこうして我輩と飲んだくれておるのは、生身の、まだ生きておるジル・ド・レエ。百年戦争の英雄、フランス元帥である。

 そんな彼がだ。こうして後に落ちぶれ、財産を使い果たして領地も切り売りし、借金漬けになる片鱗を見せておるのは、他でもない。

 

 白いほうのジャンヌ・ダルクが、消滅してしまったのだ。

 

 カルデアの撤退と引き換えに、一人残って敵を押さえ込んだ末の、敗退と消滅であったらしい。

 

 ジャンヌが復活した、と思えばそれは邪ンヌであり、フランスを滅ぼそうとした。

 そんな中、国と民のために戦った。かつてのジャンヌならばそうしただろう、と信じて。

 そうこうするうちに、もう一人ジャンヌが現れたという。しかも民衆を守ろうとしている。

 まさか。

 そう希望を持った矢先の、この知らせである。

 そりゃあ、元帥の心だって、折れようというものであるな。

 

 ゲームの中ほどではないが、生身でワイバーン相手に戦えておった男が、いまや見る影もない。

 場末の酒場に行けば見つかるような、ただの人生に失敗した酔っ払いである。

 

「本格的に失敗するのは、これからなんだけどネ!」

 

 聖杯くん。そのマジレスは否定できないんで、やめてさしあげろ。

 事実なんで、フォローもできないから。

 

 しかし、彼、どうしようかなあ。

 立ち直ってもらわねば、フランス軍を組織的に運営してくれる人材なんぞ、他に心当たりが無いであるし。

 中途半端に立ち直れば、ヘタをすると、もう黒いジャンヌでいい、などと言い出しかねぬ。

 だって、コレ。ジルであるからなあ。恐怖には鮮度があります。とか将来、言っちゃう人なのだよなあ。

 

 

 

 カルデア撤退。その報告を聖杯くんから聞いた我輩たちだが、それまでの方針に変更はなく。すまないさんを仲間にするためリヨンへと向かった。

 力がなければ、取れる選択肢は狭まる。今は、戦力を整えるべし。そういう結論が出たからだ。

 

 そしてすまないさんこと、ジークフリート。生で見ると、想像以上に不幸なオーラを背負っている彼を回収、治療して仲間にした。

 その過程で、ファントム・オブ・ジ・オペラがゾンビらとともに襲ってきたが、今のアントワネットの敵ではなかった。

 なにせ宝具のガラスの馬車が、聖杯くんによって改造されておるからなあ。

 どう改造したのかは、わからぬのだが。強くなったようなので、まあ、細かいことはよいのではなかろうか。

 

 ただ。踏み潰したゾンビを、燃料のように取り込んでおるような気がするのは、気のせいであろうか。

 モーツァルトに目でたずねてみたのだが。例のごとく、あきらめろと顔に書いてあるので、気のせいではないのであろう。

 だが、気のせいということにしておく。

 それが処世術というものである。

 

 ファントム・オブ・ジ・オペラもわりとアッサリと倒された。

 

「仮面で、内なる自分の狂気を封印しているんだよね? 大丈夫? その歳で中二病は治りにくいよ?」

 

 そんな聖杯くんのマジレスに、ファントム・オブ・ジ・オペラは精神汚染を発動。アサシンよりも、バーサーカーの側面が強くなり、気配遮断を使わなくなってしまったのだ。

 そうなってしまえば。あとはもう、待っているのは、ゾンビと同じ末路を辿る運命だけだ。

 すなわち。ガラスの馬車にはねられて、おさらばである。

 

 彼の最後の言葉は「クリスティへぶっ」であった。せめて最後まで言わせてさしあげろ。

 

 その後、アントワネットの考えでフランス軍と合流してみれば。心が折れたジル元帥がいたわけである。

 そしてどういうわけか、我輩にその精神の手当てを任されてしまって、こうなっている。というわけだ。

 

 なお、その間に。ドラキュラのモデルの人は、エリちゃんと清姫のケンカに巻き込まれて、滅んだらしい。

 聖杯くん情報なので、信じてよいのかどうか微妙ではある。しかし聖杯くんなので、こういうヘンな情報ならば、逆に信頼できる気がする。

 

 力は必要だが、あの二人は制御できる気がせぬので、放置しよう。

 聖杯くんに彼女たちの性格を聞いたアントワネットとモーツァルトとすまないさんも含めて、みんなの意見は一致している。

 触らぬ神に、タタリなしであるな。

 

 ひょっとしたら、聖杯くんに聞けばわかるのでは。

 そう思ったアントワネットが、邪ンヌ側の残りのサーヴァントを聞いてみると、なんと普通に答えてくれた。

 おい。我輩が聞いたら「さぁ~ねぇ~。何人だったかな~」とトボけたくせに。おい。

 

 ともあれ。聖杯くん曰く、六騎であるらしい。

 先日までは、五騎であったのだが、今朝増えたとのこと。

 

 えっ。聖杯ないのに、増やせるのであるか?

 えっ。ある? というか、居る?

 えっ。

 

 なにそれ怖い。

 

 

 



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第6話

 我輩はどんな顔をしたらよいのか分からないのである。

 聖杯くんが笑えばいいと思うよ、と言っておるが、それも違う気がするのだ。

 

「こういう時、引いたらアカン。(わろ)とかな」

 

 ダウンタウンのハゲ頭の方も、そう言っていた。

 でも、これは笑っちゃダメなやつだと思うんだ。

 

 ジル元帥。サーヴァント召喚で、ちっちゃいジャンヌを召喚する。

 

 うむ。ひとまずは落ち着いて、ハナシを聞いて欲しい。

 企画したのは確かに我輩であるが、まずは聞いて欲しい。

 悪気は、無かったのだ。結果としても、悪いものではない、はずだ。

 

 前回、向こうにまだ聖杯があると聞いて、少し混乱したが。同時に直感が働いた。

 あっ。こっちもサーヴァント、呼べるわ。と。

 聖杯があれば、サーヴァントは召喚できる。そして今、目の前に聖杯くんが居るのだ。

 

「ええ~。でもさ~。やっぱり、マスターは人間じゃないとぉ~」

 

 ちらっ、ちらっと元帥の方を見ながら。聖杯くんはロコツな態度で「アイツに呼ばそうぜ」と主張した。

 我輩としても、別にいいと言えばいい。

 というか。我輩も、少しばかり気になった。

 

 向こうのジルが邪ンヌを作ったのならば、こちらのジルならなにが出るだろう?

 

 そんなささいな好奇心の結果がコレだよ!

 

 出来上がったものを解説すると。涙を流して、ジャンヌの名を呼びながら、ヒザを突いて少女にすがりつく中年男である。

 元帥が立ち直った(?)のは良いのだが、あまりにも見た目からの犯罪の臭いがキツいのであるが。

 

「アウトだよ!」

 

 青い髪の、恋愛下手そうな少女が脳内で叫んだが、誰がどう見てもアウトであると思う。

 ちっちゃいジャンヌの格好も、アウトっぷりに拍車をかけておるな。

 かなりギリギリの白のミニスカートに、黒いニーソックス。その間に見える絶対領域で、肌の白さが輝く。

 上着は白のケープをはおるだけで、黒の見せブラがむきだしである。

 

 そんな少女にすがりつく、酔っ払って涙を流している中年男。

 

「アウトだよ!」

 

 ちっちゃいジャンヌは、そんなダメになった元帥を優しくあやしている。

 泣き虫なマスターさんですね、と頭をなでて、微笑すらも浮かべている。

 

 でも元帥は召喚主であるから、そんなちっちゃいジャンヌに対する令呪を手に入れてしまっておるんだよなあ。

 

「アウトだよ!」

 

 教えてくれ聖杯くん。我輩は、あと何回ちゃんみおの声を聞けばいいんだ。

 元帥が寝ちゃうから、そろそろ打ち止め? ああ、うん。それは良かった。

 通報しようと思ったのだが、どこに通報すれば良いのか分からなくて、困っていたのである。無政府状態というのは、こういう時に困るのであるな。

 

 飲んで、泣いて、寝た。

 これで目を覚ました時に、立ち直っていなかったら、もう知らぬ。

 戦力が足らぬので、手を貸したが。いい歳をした大人が、こんな時に何もせずに落ち込み続けるなぞ、気に食わぬ。

 戦うべき悪が居るのならば、立ち向かえ。助けを必要としている存在が居たら、がんばれ。それが、ヒーローの勤めであろう。

 

 まあ。このちっちゃいジャンヌこと、ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィのおかげで、アッサリ立ち直られてもだ。それはそれで、少し思うところはあるが。

 そこは気にしない方が、きっと幸せである。

 

 

 




●「こういう時、引いたらアカン。(わろ)とかな」
ダウンタウンの松本人志の発言。会場のお客さんたちと一緒に引いてしまうと、空気を暖めなおすのが大変なので、笑って流しておけ、という教え、だと思う。

●アウトだよ!
あらゐけいいち先生の、日常というマンガ、もしくはアニメより。長野原みおのセリフである。全く関係は無いが、彼女が疾走、暴走する動画にカブせて、紅蓮の弓矢を流したMADには大変笑わせてもらった記憶がある。
タコさんウィンナーを落として、手ではじいてキャッチャーのグローブにはじかれて、モヒカンを貫通して、と散々な結果のあとに「三秒ルールでセーフ」と食べようとした相生へのツッコミ。
汎用性が高いので、彼女の顔に似せたイラストで、多くのキャラが叫んでいる。アウトだよ!


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第7話

 我輩は賢者のように静かな気持ちである。

 心はよくみがかれた鏡のように、一点のクモリもありはしない。

 ああ。だというのに。感情はただ、ひたすらに空しいだけである。

 

 人の欲望には、なぜああも限りが無いのだろうか。

 

「人の夢は!!! 終わらねェ!!!!」

 

 今いる場所とは、また別の世界で黒ヒゲと呼ばれた男は、そう叫んだ。

 ああしたい。こうなりたい。欲望もまた、夢の、ロマンの原動力であることは、認めよう。

 

 しかし、アレはないと思うのだ。

 

「はっはっはっはっは! カンッペキです! 右手に幼き聖処女! 左手にケガレ無き美童子! カンッペキな布陣ですよぉー!!」

 

 高笑いをあげておるのは、救国の英雄と呼ばれた男、ジル・ド・レエ。

 我輩たちの味方である。

 そして、ジャンヌ・リリィ・サンタ・オルタを見て、気付いてしまった男でもある。

 

 このジャンヌは生前のジャンヌから数えて、サーヴァントの白いジャンヌに、黒いジャンヌの二人に続く、四人目のジャンヌ。

 ならば、もしや。五人目として、もう一人呼び出すことも可能なのでは…!?

 

 いやいや。カルデア式の召喚ではないので、負担はジル元帥の魔力と聖杯くんの助力のみ。それではもう一体の、召喚維持などは、とてもとても。

 そんな具合に、どことなく草刈正○のように我輩はごまかそうとしたのであるが。

 

「できるとも。いや~、その欲望! 実に……スバラシイ! ボクが力を貸そうじゃあないかっ!」

 

 どこぞの会長のようなしゃべりで、聖杯くんが肯定してしまったのだ。

 

 

 そうやって召喚された、確か運営で未実装だった気がする、アストルフォ・リリィがそこにおるじゃろ?

 

 

 なんでや工藤。

 視線だけでそうたずねると、聖杯くんは念話で返してきた。

 

(縁召喚だよ。人の欲望ってスゴイね!)

 

 せやかて工藤。

 

(確かに、ちょっとおかしな召喚結果だけど、まあいいんじゃないかな。面白いしさ)

 

 ええんか工藤。

 

(ええんやで。それにこれ。実は召喚じゃないしね)

 

 なんやて工藤!

 

(あっちの邪ンヌと一緒さ。特定の英霊を元に、少し変わった英霊を創りだしたんだよ。新しくね)

 

 マジか工藤。

 

(マジだよ。だから、あんなにジルくんになついてるんだよ。親みたいなものだからね)

 

 

 親にしては、あの態度はどうかと思うのであるが。

 なにを言ってよいのか分からぬし。ここはひとつ、戦力が増えたと前向きに考えよう。

 

 これでこちらの戦力は、アントワネット、モーツァルト、ジークフリート、ジャンヌ(小)、アストルフォリリィ、ジル元帥(生身)、我輩(の使い魔)、聖杯くん。

 カルデアの再進攻を待つか。それとも、このまま仕掛けるか。微妙な線である。

 しかし、これ以上の野良サバはいなさそうであるからなあ。

 

 え? ゲオルギウス? 彼は、その…… 回収を忘れてたら、誰かに撲殺されたらしいですよ?

 いやあ。誰が犯人なのであろうなあ。

 どこぞの悲しき竜のように、舎弟化していないといいであるなあ。

 

 

 

 そんなこんなで、ジル元帥は曲がりなりにも立ち直った。

 その報告がてら、この先の方針についてアントワネットらと相談したのである。

 彼女はやはり、フランスを救いたいらしい。

 まあ確かに。ワイバーンや人狼に殺され、ゾンビやスケルトンとして使われて。死を広げるような彼らは哀れである。

 立ち直った元帥も、フランスをこのまま放ってはおけないと言い出した。

 うむ。わかったのである。わかったから、その二人を手放してから言おうな。説得力とは、大事なのであるからして。

 

 では、行くか。

 行こう。

 そういうことになった。

 

 

 




●「人の夢は!!! 終わらねェ!!!!」
ワンピースより。お互いに誰だか知らない頃に出合った、ルフィと黒ヒゲとが別れる時に黒ヒゲがルフィに送った言葉。
空島を目指すルフィに「そんなものは無い!」「海賊が夢を見る時代は終わった!」とベラミーがケンカを売り、ルフィは相手をする価値も無しと一方的に殴られて、酒場から出て行った。自分もユメ(野望)に生きる黒ヒゲは、黙っていられなかったのだろう。

●どこぞの会長
仮面ライダーOOOより。鴻上ファウンデーションの会長、鴻上光生のこと。
主人公をサポートする、大企業の会長。なのだが。黒幕臭が強すぎたw 演じていた俳優さんが、道で子供に「あっ悪人だ」と飛び蹴りされるくらいw
なお、俳優さんはその時に「新しい正義の味方の誕生だよ!ハッピーバースデイ!」と神対応したらしい。
本編でも、劇場版でも、怪人や信長を復活させてしまい、ライダーらにそれを何とかさせる狂言回しの役柄ではあるが、悪役ではない。はず。

●工藤
名探偵コナンより。作中で、主人公のライバルポジの服部があまりに工藤工藤言うので、ネット上でネタセリフと化してしまった。なんでや工藤。せやかて工藤。
中学で習う、5W1Hの疑問詞を全部これで説明していたネタが印象深い。
What  なんや工藤
When  いつや工藤
Why   なんでや工藤
Where  どこや工藤
Who   ダレや工藤
How   どないやねん工藤

●そういうことになった
夢枕獏先生の、定番のシメのセリフ。主に陰陽師で使われる。
「ゆくか」「ゆこう」そういうことになった。
この流れはテンポが良いので、各所で流用されている。


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第8話

ゆまる氏の 泥の錬金術師 あとがきで次の更新はかなり遅いんじゃないかとあったけど、そろそろ更新しないかな。
オリ主介入系二次創作。


 我輩たちは遠い目をしているのである。この世界、この目をする機会が多いように思えて、しかたがないのであるが。

 だが、まあ。今回は悪いことではない。

 

 カルデアが、やってきたのだ。

 

 予想を上回って早い。聞けば、ジャンヌがまだ生きていたら、助けられるように。

 そんな思いで、サーヴァント二騎が回復しただけで駆けつけてきたのだそうな。

 

 その意気や良し。結果として、ジャンヌは助けられなかったが、我輩たちの攻勢には間に合った。

 マスターも一人だけだ。オリ主などは混ざっておらぬし、外見も原作通り。

 しかも男だ。ぐだ男だ。これでリヨ化を心配しないですむ、はずである。

 

 ここまでは、良かったことである。

 ここまでが、良かったことである。

 

 なにが悪かったかと、そう言えばだ。

 最初は、連れて来た二騎のサーヴァント、マシュとアストルフォの二人のうちで、アストルフォの方と距離が近かったことか。

 ここで、若干イヤな予感がし始めた。

 

 アストルフォは友好的であるしな。男女の差もあるし、そういうことであろう。

 そう思うことで、イヤな予感を脇へと追いやっていると、ジル元帥とカルデアマスターが、なにやら見詰め合っていた。

 と思えば、視線をいったん外し、相手のアストルフォへと向ける。

 そして再び視線を戻すと、同時に手を伸ばして、固い握手を交わした。

 

「少し小さいけど、あんたもアストルフォが好きなんだな」

「少し育ってしまっていますが、あなたも彼が好きなのですね」

 

 握手が解かれた。そしてにらみ合う二人。

 

「青年までは届いていない、この青少年のアストルフォこそが美しいだろ?」

「少年少女こそが、至高である。私はつい先日、そう悟りましてね」

「よし。徹底的に話し合おうか」

「望むところです」

 

 そういう会話があったのだ。そりゃあ、遠い目にもなろうというものである。

 ぐだ男が、元帥と同類であることが確定した。

 

「キマシタワー」

 

 いや、使い方がおかしいから。そうじゃないから。

 失礼。少しばかり動揺したらしい。

 精神安定剤(タバコ)を取り出し、火をつける。すると横から、意外な人物の声がかかった。

 

「私にも一本いただけますか?」

 

 マシュだった。

 

 えっ。どういうことであるか?

 とりあえず、一本渡して、ライターの火を向ける。

 なんか手馴れた感じで、くわえたタバコに火がついた。

 実はタバコというものは、火をつける時に吸ってやらねば、火がつきにくい。吸ったことがある者でなければ、これは知らぬはず。

 

 えっ。なに、君になにがあったのであるか?

 つらいのなら、ハナシくらいは我輩が聞くぞ? 我輩に言いにくければ、アントワネットもいるであるし、一人で抱え込まない方が良いぞ?

 

 ふーーっ、と大きくケムリを吐いたあと。ぽつりと礼を言って、マシュは語りだした。

 まずは、彼女の生い立ちを。もちろんボカしながらではあるが、語ってくれた。

 カルデアにデミサーヴァントとして生まれたこと。当時の所長やドクター・ロマン、レフ教授、ダヴィンチちゃんやスタッフのこと。

 何も無かった日々。そしてそこから色々と知ってゆく、あざやかに色付いてゆく、されど穏やかな日々。

 そこに現れたぐだ男。

 急転直下する状況。始まると思ったのに、終わってしまう。そんな時に、手を握ってくれた人。

 

 信じた人が ホモ でした。

 

 

 いかん。一時的に目が優しくなっていたのに、一気にすさんだ目になってしまったぞ。

 これは地雷を踏んだな。

 チラリと他の面々のいた方を見たが、案の定、誰もそこにはいなかった。さすがである。

 

 そしてマシュが口を開くと。そこから、流れるようにグチがあふれ出した。

 

 そのあとの冬木でも、今思えばキャスターさんへの態度が少し、おかしかったんですよ。

 それでも、先輩はきちんとマスターはできていましたし、私のことも助けてくれました。

 あの人です! アストルフォさんが来てから、先輩はおかしくなっちゃったんです!

 どうしてですか! 女の人よりも、男の人がいいんですか? 男の娘ってなんなんですか!

 

 

 こういう時、相手を否定してはいけない。その勢いと感情の矛先が、こちらに向いてしまうから。

 しかし肯定してもいけない。勢いが加速するか、じゃあなんでですかと、やはりこちらに矛先が向いてしまうから。

 ではどうするのかって? なだめすかして、大人しくしてもらうのである。

 荒れ狂う御霊(みたま)は、そうやって祭り上げて神社や(やしろ)に封じるものだと、神道でも言っている。

 そういう時に酒が有効であるとも、神話で語られている。ほら、ヤマタノオロチとか酒天童子とか。

 え? あれは退治するハナシ? いやいや。似たようなものであろう。

 

 さあ、マシュくん。タバコを覚えたのならば、次は酒だ。

 水はあるかね? よし、ならばこのブランデーを、少し入れて飲んでみたまえ。少しだけだぞ?

 

「……おいしい」

 

 ふむ。いけそうであるか。ならばもう少し足すといい。

 そうして足していって、ちょうど良いところを見つけると良い。

 酒の飲み方というのは、色々とある。自分のペースで、上手い飲み方を見つけることだ。

 

 まだ恐る恐るというように、慎重に飲むマシュを観察する。

 よし。気がそれたか。かなり落ち着いたな。

 では少し思考の誘導をしておこう。

 

 なあ、マシュくん。アストルフォが好きな先輩とは、仲良くできないかね?

 

 くくく。所詮は、恋愛感情も自覚できておらぬコムスメよ。

 このまま嫉妬で原作の流れがオカしくなる前に、友情方向へ舵を切らせてくれるわ。

 がんばれよ、原作補正さん。

 これが我輩の、援護射撃である。

 

 

 




●キマシタワー
元はキター!をお嬢様風に発言しただけのストロベリー・パニックの涼水玉青のセリフ。
女性同士のカラミや恋愛に反応してのセリフであったので、そういう場面への合いの手として使われる。
しかし作中で使われたのは、実は一回だけ。巨人の星の一徹パパのちゃぶ台返しと同じである。もっとも、一徹パパはOP内でもやっていたので仕方が無いが。


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第9話

おかしいな、普通に戦ったぞ。


 我輩の身長は、今回も低いのである。ゆえに、女性サーヴァントが非常に目の毒となるのだ。

 見上げると、ほら。なんだ。危険と言うか、なんと言うか。

 マシュの下半身などは、もう実に危険きわまるものなのだ。デンジャラスである。

 アントワネットも危険だが、まだスカートをはいているので、若干まともなのだ。将来的には脱ぐかもしれぬが、現時点ではちゃんとはいている。

 

 彼女たちでこれなら、アレとかソレとかその他諸々のサーヴァントたちは、どうなってしまうのであろうか。

 見てみたいような、恐ろしいような。そんな気持ちである。

 

 腰を落として攻撃を受け止めたり、盾を振り下ろしておシリを突き出したり。

 そんなこんななマシュの姿を見守りながら、そんなことを考えていた。

 

 戦闘相手は、マルタ、カーミラ、アタランテの女性サーヴァントと、シャルル・アンリ・サンソンとデオンくんちゃんの男性サーヴァント。

 オルレアンへと向かう我輩たちの前に、わざわざ真正面から立ちはだかってきたのだ。

 しかも、目的も教えてくれた。ファフニールである。

 あれの復活を邪ンヌが目指しているらしい。今回の襲撃は、それまでの時間稼ぎなのだそうな。

 教えてくれたのはマルタと、獣耳の人ことアタランテさん。

 どちらも民衆を虐殺するのが、イヤなのだそうな。当然、それをやらせる邪ンヌのことも気に入らないので、出来うる限りあらがっているらしい。

 

 その割には、だ。どちらも戦いを楽しみにしているのが、見て取れるのであるが。

 

「オラ、ワクワクしてきたぞ」

「戦うと元気になるなぁ!」

 

 うむ。そんな雰囲気であるな。

 我輩がハナシを聞いている間に、男性サーヴァントの方も、因縁があったらしいアントワネットらとハナシが済んだようだ。

 よかろう。では、戦うとしようか。

 我輩ではなく、我輩の使い魔がなぁ!

 

 とは言えだ。なにが出るかは、本家のネロ・カオスと同じく、その時次第である。これが、自分でも分からぬのだよなあ。

 移動用や、戦闘用など、用途くらいは絞れるのだが。

 

 まあ。ガチャみたいなものであるな。FGOゆえに、つきものである。

 今回出てきたのは、サメであった。

 陸で出てきてどうする。そう思ったが、人間っぽい、たくましい足が二本付いておる。代わりに尾と下半身が無くなっておるが、身体全体のつりあいは取れているようだ。

 そして我輩が命じるまでも無く、敵めがけて走っていった。

 

 あちらも少し驚いていたが、すぐさま対応してくる。ひとまずは、マルタの舎弟の竜、タラスクに相手をさせるらしい。

 よかろう。ポケモンバトルには覚えがあるぞ。来るが良い。戦ってやろう。

 

 

 デオンとシャルルは、そのままアントワネットと戦うようだ。モーツァルトがそのフォローを、アストルフォとマシュ、ぐだ男も加勢する。

 ぐだ男があちらに行った理由が、デオンくんちゃん目当てではないことを祈る。

 イベントバトルっぽいので、このまま放っておいても、きっとなんとかなる気がする。しばし放置である。

 

 というわけである。元帥には、こちらを支援してもらおう。

 リリィたちに、アタランテは手を出しにくいと思うしな。

 ジークフリートを前衛に。リリィたちで強化と、敵の弱体化を。元帥本人に遊撃を。

 我輩? 我輩は、もう一体使い魔が出せるまで、もうちょっと待って欲しいのである。

 

 サメ(?)はタラスク相手に、見事な足払いを決めてひっくり返したものの、そのあと口から出した触手での拘束に失敗。徐々に不利な状態へと持っていかれながらも、なんとか踏みとどまっている。

 

 ジークフリートはマルタに殴られている。ダメージは少なそうだが、一方的に殴られ続けている。

 

 なにあれ怖い。

 

 味方のカーミラとアタランテもドン引きしている様子なのであるが、あれでいいのであろうか。

 胸の谷間が丸見えな衣装で暴れておるので、ばいんばいんと暴れておるのだが、あれでいいのであろうか。こう、聖女的に。

 案外、ジークフリートが殴られ続けている理由は、目の前のそれに気が取られているせいであったりするのやも知れぬ。

 

 うむ。あれならば仕方が無い。

 

 カーミラは女性特攻の宝具を持っており、それを使おうとしたのであるが、保護者(ジルドレェ)に阻止されてしまった。そしてそのあと。怒った保護者(ジルドレェ)の猛攻を、ずっと受け続けておる。

 と、いうのもだ。

 こちらの面々で、女性がジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィしかいなかったのであるな。

 彼女を狙ってしまうと、キレてしまうジャンヌ好きがいたわけで。

 まあ、元帥はジャンヌがいなくなることにトラウマを覚えていそうであるし、仕方が無い反応と言える。

 このまま倒せてしまえそうなので、彼に任せるのである。

 

 アタランテは、そもそも積極的に戦っておらぬ。

 こちら側を観察しているようだが、時折矢を飛ばしてくるくらいで、今のところ目立った動きは無い。

 それでも十分に脅威ではあるのだが。おのれ、アーチャーのくせに弓矢を使うとは卑怯なり。

 

 なお我輩の二体目の使い魔は、いつぞやのブタであったが、彼女にすぐさま狩られてしまった。

 魔獣か神獣のイノシシすら狩る狩人にとって、ブタなんぞはエモノでしかなかったらしい。

 

 だが時間は稼げた。

 アントワネットらの決着が付き、こちらへと戦力が割り振られたのだ。

 

 

 そこに無差別で襲いかかる、耐え難い奇声―――エリちゃんの歌。

 どこからか現れ、マシュに襲いかかる叫び声―――ランスロット。

 

 

 二つの声の不協和音に苦しみながらも、宝具を仮想展開。守りを固めるマシュが、黒い騎士の攻撃を受け止めた。

 

「戦いなんて下らないわ! アタシの歌を聴きなさーい!」

 

 そんなトークをはさみながらも、歌うのをやめないエリザベート。その顔には輝かんばかりの、笑顔が浮かんでいる。

 いい笑顔であるな。怒りしか覚えないが。

 

「音楽を―――ナメるなぁっ! カルデアのマスター! 令呪をヨコセェェー!!」

 

 だがしかし。生粋の音楽家には、怒りを通り越して殺意を覚えさせるほどであったらしい。

 悪魔のような顔をして、モーツァルトがそう叫んだ。

 そして空気を読んだぐだ男によって、令呪は使われてしまい。その場に、レクイエムが流れ出した。

 

「これは死神のための、そして私のためのレクイエム。しかし今は、お前のための鎮魂歌(レクイエム)だ―――!」

 

 エリちゃんが苦しんでいるが、まあ、彼女は種類豊富にこのあと色々出てくることである。あれが最後のエリちゃんではない以上、第二第三のエリちゃんを仲間にすれば良いだろう。

 

 一応、マルタやカーミラ、アタランテ。ランスロットにも効果は及んでいるようだ。

 見るからに苦しげな表情で、動きも悪くなっている。

 好機を逃さず、ジークフリートと元帥が攻勢に出て、マルタとカーミラを討ち取った。

 宝具は対象外なのか、タラスクは元気でサメを倒してしまっていたのだが。マルタが消えると、同じくその姿は消えていった。

 

 マシュもランスロットを盾で殴っている。

 一つ殴っては、気持ちのよさそうな顔をして。二つ殴っては、その気持ちよさにケゲンな顔をして。

 この人を殴るとスッキリするのはなんでだろう? そんな顔をしながら、それでも殴る手は止まらない。

 そのなんとも言いがたい光景に、誰も手が出せないでいる。

 あれはもう、しばらく放っておくしかないだろう。

 だいぶんストレスもたまっておったし。アレで発散してくれるのであれば、それはそれで、きっと良いことである。

 

 アタランテは、我輩の三番目と四番目の使い魔が討ち取った。

 ブタの次に出てきた、短距離を瞬間移動するかのような動きを見せる、トラのような生き物が注意を引きつけた。

 その間に半透明なクラゲのような身体で、人型の宇宙人とでも言うべきナニカが取り付き、動きを封じた。

 そしてトラがトドメを刺す。狩人が、獣に敗れる。皮肉な結果ではあったな。

 

 彼女には、見逃してもらった借りがあった。ありはしたが。

 彼女をこちらへ寝返らせるには、普通の聖杯戦争ならばともかく、このグランドオーダーでは不可能であった。

 ゆえに、こうするしかなかった。残念である。

 

 そうこうするうちに、マシュもランスロットを倒せたようだ。

 なあ、聖杯くん?

 

「なんだい、ネコカオスくん」

 

 ここで六騎。我輩が倒したジルを含めれば、七騎そろったな。

 

「うん。そろったね。これでボクの願いが―――」

 

 いや。願いが叶えられるのは、我輩だ。

 キミは願望器だからね。キミ自身よりも、使うものの願いが優先される。そういうものであろう?

 

「そんな、待って! あっちの聖杯を改造して、ボクの恋人を作ろうという完璧な計画がー!!」

 

 うむ。正直、キミの同類が増えても、みんな困るだけだと思うんだ。

 だから、こうするのが、きっと世のため人のためである。

 それが我輩の、ヴィランとしての信条であるし。

 さあ、聖杯くんよ。我輩の願いを叶えたまえ。我輩を、元の世界へ戻したまえ―――!

 

 

 




●「オラ、ワクワクしてきたぞ」
ドラゴンボールより。強い相手と戦うと楽しいという、戦闘民族サイヤ人の業。それをオブラートに包んだ言葉である。

●「戦うと元気になるなぁ!」
∀ガンダムより。絶好調、もとい「月光蝶である!」を始め「オ・ノーレ!」「我が世の春が来たー!」「インド王を渡してやる!」「このターンXすごいよ!さすが∀のお兄さん!!」「地球人になァ、∀の復元など、出来るわきゃねぇだろぉぉぉっ!!」「マニュアル通りにやっていますって言うのは阿呆の言うことだぁ!」「戦場でなぁ、恋人や女房の名前を呼ぶ時というのはなぁ、瀕死の兵隊が甘ったれて言う台詞なんだよォ!」など、数々の名セリフを放ったギム・ギンガナムのセリフ。子安ヴォイスが濃い目のいい味出してます。
本編で、復活フラグが立ったまま封印中。


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第10話

 

 我輩は迷子になったのである。あれで帰れるかと思えば、帰れなかったのだ。

 もっと言えば、帰れるという感触はあったのだ。だというのに、横合いから思い切り殴りつけられたような、そんな衝撃が我輩たちを襲ってきたのである。

 

 気付けば、採集決戦の場であった。

 

 誤字ではない。繰り返す。これは誤字ではない。

 我輩に、数日続く、のたうつほどの痛みと引き換えに与えられた、サーヴァントとしての知識で理解できる。

 ここが、どこで。今が、どういう状況であるのか。それが、わかる。

 

 場所は、冠位時間神殿。戦うべき敵は、魔神柱。味方は、さまざまな時空から駆けつけてきた、サーヴァントたちとそのマスターたち。

 これは、時間に冠たる場所であるがゆえに、さまざまな時空からやってきてしまっているのだな。

 そしてその目的は。希少な素材を、思う存分むさぼることである。

 

 いや、人類を救えよ。

 

 我輩だけではなく、多くのサーヴァントらがそう思っておるであろう。

 しかし、誰もそれを口にはしない。なぜならば、怖いから。

 

「もっとだ! もっとよこせバルバトス!」

「心臓置いてけ!」「(ページ)もだ!」

「はよ! 復活はよ!」「まだ死ぬなよ!」

「ナグルノタノシイ! ソザイタクサン!」

「チッ、完売したか」「殺したかっただけで、死んでほしくはなかった」

 

 我輩らが今も戦っている、門番担当の溶鉱炉だったか。この魔神柱らは賢かったであるな。

 ああなるのを見越していた、というわけではなかろうが。

 一度敗れたあとは、アッサリとマスターらを先へと通して、復活しても我輩たちフランス勢と軽くたわむれておるのだ。

 こちらを倒さぬよう、向こうも倒されぬよう、お互いに気を使って戦っておる。

 

「さすがにあれは、かわいそうだと思うの」

 

 アントワネットと、ジャンヌリリィとアストルフォリリィの意見は一致した。

 それでもマジメに戦いそうな、聖人ゲオルギウスや、ヴラド三世はこの場にいない。どうやら、来るだけの縁が足らなかったらしい。

 それで代わりに、我輩が呼ばれたというわけであろうか?

 これも自業自得と言うのであろうか。

 

 会話する余裕があるので、あの時の途中退場をわびた。そして言い訳もする。

 我輩はまだ生きており、普通の手段では帰れそうに無かったので、やむをえず。説明もせずに、突然すまなかった。

 

 責められるどころか、心配してくれた。

 え、それなら今回は帰れるのか、と。

 

 正直、わからない。あらゆる時間につながるここからならば、帰れる可能性は高いとは思うが。

 平行世界もいいところであるからなあ。

 でもプリヤ時空すらも、つながっているらしいし、行ける気もするのだよなあ。

 

 しかしあの魔神柱たちよりも、絶望的ではないし、きっとなんとかなると思うのだ。

 

 ソロモン王には七十二柱の魔神が仕えるものであり、すなわちソロモン王が健在であるならば、いくらでも魔神柱は復活する。

 神殿で復活する魔力をまかなえる以上は、この時間神殿は絶対無敵の備えのはずであった。

 うむ。そのはずであったのだ。

 

 そりゃあなあ。十時間もたたぬうちに、十五万回も殺されればなあ。

 それはもう、心が折れようというものだ。

 折れたあとも、ソロモンによって強制的に復活させられておったが、それでも追加で五万回復活するのが限界。

 しかもその復活追加も、マスターたちには喜ばれてしまったというね。

 

 なんというか、もう、ね。

 

「良かった……! あっちにいなくて、本当に良かった!」

 

 魔神柱になる資格があったが、拒否して、人としての一生を終えたヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。

 彼が、心底安心した顔でそうつぶやいていた。

 明るく振舞いながらも、人間は総じて汚いと断じ、生涯自分の中の何かと戦い続けた男は、今、報われていた。

 

 こんな報われ方で良いのかという思いが、心をよぎるが。まあ、いいことではあるのだ。良しとしよう。

 

 

 ソロモンなのか神殿か。どちらかが魔神柱を復活させるのに慣れてきたようで、復活の速度が上がり、討伐の速度も上がっている。

 同じ時間でも、早く起き上がってくるほうが、たくさん殴り倒せるのだな。

 

 もはや戦うフリすらしなくなったナベリウスらと、座って酒を飲みながら眺めて居るとよくわかる。

 

 うん。もうダメだな、この神殿。

 

 ゲームでは、このあとにマシュとソロモンとの悲しき別れがあった。

 しかしこれはゲームではない。このまま、数の暴力でソロモンすらも殴り殺されてしまうだろう。

 

 魔神柱が一柱、また一柱と消えるたびに、ナベリウスも小さくなっていく。

 八人の集合体であるナベリウスから、一人、また一人と抜け出しておるのだ。

 みな、無言でどこかへと去っていったが。正直、こっそりと逃げ出しているようにしか見えなかった。

 

 それを見てみぬフリをする優しさが、我輩たちにもあった。

 

 最後に残ったのは、バティンというらしい。

 国から国へと、あっという間に移動できる術を使えるので、逃げ足を評価されて殿を押し付けられてしまったのだそうな。

 こうなれば、最後まで見届けてやりますよ。ワインをかぱかぱ飲みながら、ヤケ気味で彼女はそう言った。

 

 そして、その最後はやって来た。

 

 光が。大きな熱を持った光が集まって、そして迎撃する色とりどりの光と、無数の盾に受け止められた。

 鐘が鳴り響いた。晩鐘の鐘だと、なぜかわかる。

 光も、盾も、美しかった。花火のように、輝いて消えた。

 鐘の音は、重く、しかし澄んでいた。まるで、なにかのお祭りのようだった。

 そして神殿が崩れ始めて、すべてが終わり――――――

 

 

 

 

 

 

………七英雄の伝説………

 

数多くの悪しき魔物を倒し世界を救い、その後

いずこかへ消えた……

 

クジンシー、スービエ、ダンターグ、ノエル

ボクオーン、ロックブーケ、ワグナス

 

いつの日か、彼らは戻ってきて再び世界を救うのだという…

世の中が乱れる度に、人々は伝説を語り、救いを願った。

しかし、平和が訪れると… 伝説は忘れられた…

 

人の世の興亡は繰り返す。

安定した国々による平和な時代が終わり、分裂と闘争の時代が始まった。

 

七英雄の名は再び語られ始めた

そして、彼らは来た

 

……だが

 

 そこに我輩も混じっておるのだが、これはどうしたらよいのであろうか?

 

 

 




ここでエンディングでもいい気はするな…


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ロマンシング サ・ガ2編 流し斬りが完全に入ったのに…
第1話


 我輩は術の習得中である。火や水などの、サガ式の術法ではない。吸収の法という、危険度が高そうなアレである。

 我らの仲間になるのならば、覚えておけ。とはノエルの言葉。

 

 うむ。客将扱いではあるものの。我輩、悪役のボスの群れの仲間入りである。

 

 最初は問答無用で、エサ扱いであったがなあ。

 我輩のガワが引き続きネコカオスのままであったので、獣系のレアモンスター扱いされて、ダンターグに吸収されそうになったのであるな。

 

 まあ、気持ちは分かる。

 

 彼らのように、モンスターをその身に取り込んで強くなる能力を持っておって。そして見たことが無いモンスターが、目の前に現れたなら。

 そりゃあ、吸収しようとするだろう。それが収集家というものである。

 

「誰だってそーする。僕もそーする」

 

 実際にそんな声が聞こえた。

 多勢に無勢。我輩も抵抗はしたのだが、一人ではかなわず。とうとう吸収されようとした時だ。

 ああ。二度目の人生もこれで終わりであるか。まあ、楽しかったなあ。まだ生きたいなあ。

 そんな諦めとともに、ダンターグの大きな身体に押し付けられ、取り込まれていったのであるが。

 

 これがサッパリ、苦しくもなんとも無かった。

 吸収されておるような、熔けていく感じも、意識が消える感覚もまったく無い。

 むしろ、これ。こちらが侵食しておるような。

 

 そう思ったところで、ひっぺがされて、地面に叩きつけられた。

 

 そしてそこから尋問である。扱いがひどいと思わぬか?

 聞かれたことは、多くは無い。お前はなんだ? 知っていることを話せ。この二つである。

 

 全部、教えてやった。

 

 我輩のことは、別の次元の生き物であるとだけ言っておいたが。これは正直、自分でもどう説明してよいのか、わからなかったからでもある。

 まさか二次創作のオリ主です、で伝わるとは思えぬからなあ。

 

 他の事は、覚えている限りをブチまけた。

 

 仲間の古代人のために立ち上がったのに、最後にこの世界から引越しする時に、追放されたのを知っておること。

 その古代人の引越し先の手がかりが、アマゾネスのいるジャングルの塔に、おそらくは存在すること。

 あと遺跡が各地にあるので、そこになにかあるかも。

 この世界に残った古代人もいて、どっかの山に村があるらしい。そいつらなら、行き先の座標を知っているかも。

 この世界は、普通の人間が生きる世界になっている。彼らは、いまさら古代人だから従えと言っても、無視するだろう。

 無理やり従えようとすれば、当然反抗する。我輩のように。

 そして残った古代人が、それを利用するだろう。同化の法を、少しばかり変えて教えたり。他の技術をコッソリ教えて。

 

 さて、我輩の知っておることは、こんなところであるが。

 ワグナス! これを知って、どうするであるかね?

 

 ところでキミ、男であったよね? なんでオッパイがあるのであるか? しかも、むき出しで。

 ああ、吸収するモンスターを飛行系にしぼったので、ハーピーなどが多かったせいであるか。イヤな副作用であるな。

 もしや、アレも無くしてしまっ―――

 

 スイマセン。言い過ぎました。落ち着いてください、お願いします。

 

 ヤバイ。地雷を踏んだか。

 女のような顔であったのが、一瞬で男のようになったぞ。危ないところであった。

 

 あ、はい。なんで知ってるかですね。

 未来予知みたいなものであります。昔に、聞いたことがあったので。

 いくつかの展開があったようですが、なにぶん昔のことなので、あまり覚えてはおらぬのですよ。

 いや、本当に。

 

 ただ、クジンシーがムダに人間の町や国を襲って、しかも七英雄だと名乗ってやってしまいまして。

 七英雄は危険な存在だと、人間に認識されてしまって。そこから立ち上がってきた皇帝によって、七英雄が全滅する未来もあったようです。

 

 ソウルスティール? 見切られてましたよ。

 自分が死んだら、誰かに技や術などの力を託す。そんな同化の法ならぬ、継承法でもって、ソウルスティールを食らって死んだ経験を受け継ぎ、見切っていたようですね。

 それで、ほら。ソウルスティール抜きのクジンシーって、ねえ?

 

 このハナシには説得力があったのか、クジンシーは皆に「お前ロクなことをしないな」という目で見られておる。

 普段の言動が知れるというものだ。

 

「仕方が無いだろう! 俺の吸収する対象は、そこらにはいないんだ! だからあんまり強化できないんだ!」

 

 本人は強さのほうを言い訳しておったが。

 ふむ。何でもかんでも吸収しておっては、さすがに身体が持たぬのか。

 マンガだか、小説のほうで。戦い始める前の、本当のお前はどこにいってしまったのだ、とモンスターだかに言われていたらしいし。

 

 七英雄は、ノエルとロックブーケ以外は身体がほぼモンスターと化している。

 そうなるまでに、吸収をしてきたモンスターの数は、どれほどか。それがもたらす、意思や精神への影響は。

 はたして。彼らは今も、英雄でいることができているだろうか。

 

 情報は、渡した。このあとの彼らの行動で、その答えは出るだろう。

 さて。我輩はどう動こうか―――

 

 ―――って、えっ? なんですありますか、ダンターグさん。

 お前、今日から俺の舎弟な。って、えっ? なんで?

 俺の一部を吸収したから? えっ、なにその理屈。

 まずは吸収法を覚えるところからだな。って、待って。ちょ、待って。

 

 ワグナス! あきらめた顔をするなワグナス! 我輩の危機であるぞ!?

 

 

 




●「誰だってそーする。俺もそーする」
ジョジョの奇妙な冒険第四部より。京兆アニキのセリフ。語感の関係か、ネット上ではしばしば「俺だってそーする」となっているが、これは間違って覚えているのか、それともコミックスの重版の過程で変わったのか。

●ワグナス!
ロマンシング・サガ2コミックス版より。ノエルのセリフ。七英雄の生前(?)の人間の姿でのやりとりが書かれた2ページが元ネタ。さんざんセリフを変えたコラが作られた。ワグナス!今日の夕飯なに?わかっておったろうにのう、ワグナス。イモのテンプラはごはんに合わない。


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第2話

えっ。って思ってくれたらいいなあ。
前話に伏線を一応埋めてみたり。


 我輩は巡っているのである。因果と世界と、その両方をであるな。

 

 あのあと。意図せずに来てしまったわけであるし、いったん現実へと戻りたい。ゆえに、できるだけ早く終わらせよう。

 そう思っての、暴露であったのであるが。これが上手く行き過ぎてしまったのだ。

 

 リーダーのワグナスと、ノエルとロックブーケの兄妹が、三日でやってくれました。

 

 うむ。たったの三日間。それだけで、すべての問題に片が付いてしまったのだ。

 

 まずはワグナスが、我輩のいい加減な知識を元に、空から古代人の町を見つけ出した。

 あとは七英雄の有志で、蹂躙するだけであったらしい。

 参加者は、本来は水中専用のはずの、恵比寿のワグナスのいとこスービエ。なぜか逆切れにしか思えない、新宿の嫌われ者クジンシー。そしてその運び屋 兼 品川のリーダーワグナスである。

 

 そして、かつてこの世界から立ち去った、古代人らの行き先の情報を手に入れた。

 どうも帰ってきた七英雄を始末してから、立ち去った仲間を追いかけ、合流するつもりであったらしい。

 

 気の長い話であり、ひどい話でもある。

 

「力ある者の驕り─――やがてそれは 何千年も生きる三只眼にとって無関心 無感動に変わってゆくのだ……

 感情も意識の進歩もなく 美への興味もなくなる そのくせ醜いものを嫌い 自分の手を汚さずにいたぶって楽しむ─―─始末におえんよ」

 

 額に目のある、ほぼ寿命が無い一族の人も、そう言っていた。

 長く生きるということも、良いことばかりではないようだ。

 帯に短し、タスキに長し。過ぎたるは、なお及ばざるが如し。なにごとも、やはり程々が肝心なようであるな。

 

 そしてサラマットの地の二つの塔を攻略して、次元移動装置の制御室を見つけた七英雄らもいた。

 人間の姿を残した兄妹のコンビ、上野のワグナスの同志ノエルと、池袋のその妹ロックブーケ。オマケの新大久保のズル賢いボクオーンの三人である。

 ロックブーケが、男たちをテンプテーションで魅了して味方に付け、女たちはノエルが説得するか、ボクオーンがこっそりマリオネットで操った。

 

 あとは力押しである。

 

 ロックブーケがついでにと、魅了して手下にしていたモンスターらを塔へと攻め込ませる。

 それでも残った手強いモンスターや、最奥にいた守護者は三人で倒したそうな。

 なお守護者は、ボクオーンが吸収素材として適合したようであり。倒したあとに、おいしくいただいたらしい。

 

 残った七英雄、五反田の乱暴者ダンターグは、どちらにも参加しなかった。新しくできた舎弟の面倒を見ておったのだ。

 

 まあ、我輩のことなのだが。

 

 それに、面倒を見るといってもだ。その指導のやり方は、ロクに理屈も教えずに、とりあえずやってみろという実践主義であり。実に適当なものであった。

 

 やってみろ、というのは吸収の法。

 

 そもそもだ。もともと古代人というのは、寿命が長かった。長すぎて、身体の方に先に限界が来るので、彼らはそれをどうにかするべく、同化の法というものを開発した。

 これが、他人の身体を自分の身体へと書き換え、乗っ取ってしまおうという。どう考えても外道の業であった。

 

 しかも、乗っ取るのは、同じ古代人ではない。

 

 古代人よりも寿命が短く、代わりに身体が丈夫な、普通の人間。今、この世界にいる人間の祖先らがその対象であった。

 もともと。寿命などの種族の違いと、文明レベルの違いなどで。人間は、古代人の召し使いのような存在ではあったらしい。

 彼らにとっては、サルの遺伝子をいじって、自分の若い頃の身体を作って、脳移植するようなものであったのかもしれない。

 それでも。これは良くないことだと思うのであるが。

 

 そして、この外道の業をさらに進化させたのが、ワグナスである。

 自分と同じにして同化するのではなく、異なったままの相手を吸収する、吸収の法。

 七英雄は、これをモンスターを相手に使い、その力と能力を取り込んで強くなったのだ。

 長く生きることはできるが、寿命よりも先にモンスターに殺されることが多かった、同胞を守るために。

 

 この世界から引っ越すことで、モンスターに対処する必要が無くなると。その同胞らに、用済みとして別世界へと捨てられたが。

 

 そりゃあ、復讐のひとつやふたつは、するというものであるな。

 

 とは言え。クロサワの映画の七人の侍でも、盗賊の群れから村を守りきった侍たちは、盗賊がいなくなったとたんに、村から追い出されておったし。

 ウサギを狩りつくしたら、次は猟犬が煮られる。今も昔も、場所も問わず、そういうものであるのやも知れぬ。

 世知辛いものであるなあ。

 

 なお、これまでに色々と経験をつんだ我輩ではあるが。さすがに、どう吸収したら良いものやら、とんと見当がつかなかった。

 なので、使い魔に対象を取り込ませてから、使い魔ごと身体に戻すことで、一応は吸収の法を覚えることができた。

 ただ能力は上がった気がせぬし。術や技なども、それを使えるのは呼び出した使い魔の方という、すごく微妙なものなのだが。

 まあ。半日での成果なので、これでも上出来であると思って欲しい。

 そして残りの日々は、ずうっとダンターグアニキの気まぐれ特訓に振り回されておった。

 

 パンチやキックのキレが増した気はするが。これが吸収の結果か、ダンターグアニキのシゴキの成果なのかは、我輩にも分からぬ。

 

 こちらに良かれと思っているのはわかる。わかってしまう。だが、こいつ育成とかやったことがないな、というのもすごく良く分かってしまう。

 そんな指導であった。

 そしてそんな指導にも、唐突に終わりが来てしまった。

 

 どうも七英雄同士には、なんらかの通信手段があるらしい。

 異世界への移動手段と、その行き先が判明した。リーダーワグナスからダンターグアニキに、その知らせが来たのだ。

 

 当然、すぐさま我輩たちもサラマットの塔へと移動し、そのまま装置を起動。異世界へと飛び―――

 

 

 ―――案の定。我輩だけが、別の場所へとたどり着いていた。

 

 

「ん? 間違ったかな? また失敗作か」

 

 それで今、目の前にだな。

 どこぞのニセ医者のようなセリフを口にする、白髪でメガネで、肌が若干ヒビ割れた人物がおるのだが。

 その人物は、こちらを気にする様子をチラ、とも見せず。両手を異様な速さで組み替えると、我輩の隣の地面に向けて片手を叩き付けた。

 

「これならどうだ? 忍法 穢土転生の術」

 

 マテ。待ってくれ。

 

 我輩の動揺を他所に、地面からはカンオケが生えてきた。

 どうやら目当ての人物であったらしく、今度は成功だ、とヒビ割れの人が喜んでいる。

 

 うむ。まずは落ち着こうか。身動き一つできぬので、落ち着く以外のことができそうにも無いが。それでも、とりあえずは落ち着こう。

 

 息を吸って―――どうでも良いが、呼吸はできるのだな―――吐いて。吸って、吐いて。

 うむ。落ち着いたところで、感想を一つ。

 

 こう来たか。

 

 さて。これからどうしようか。我輩が、記憶からこの世界の情報を拾い出そうと、目を閉じて思考に集中しておったところでだ。

 

「じゃあ、こっちの失敗作はいらないや。解っと」

 

 我輩は、いまだかつて無い早さで、実にアッサリと。世界から追い出されてしまった。

 新記録であるな。

 そして、おそらくではあるが、抜かれることも無いだろう。

 うん、無いといいな。

 少なくとも次は、もう少しゆっくりしたいと、そう思うのだ。

 

 なあ、キミもそう思うであろう? 聖杯くん。

 

 

 




●七英雄
名前は山手線の駅名が元ネタらしいので、紹介につけてみたら、少しユカイなことに。
だがボクは謝らない。

●「力ある者の驕り─――(中略)─―─始末におえんよ」
3×3EYESより。額にも目がある高位妖怪、三只眼。不老不死であり、他者を一人従者として同じく不老不死、かつ不死身にする術を使う、戦いの果てにほぼ絶滅した彼ら彼女らの生き残りパイと、その従者になった一般人の少年ヤクモの物語。
不老不死の長い人生のなかで、三只眼らはそうなっていったらしい。過去の回想っぽいやつの中で、それを嘆いた、三只眼の(比較的)若者のシヴァさんのセリフ。
だがこの後の儀式の事故で、シヴァさんは―――

●ニセ医者
北斗の拳より。主人公ケンシロウの兄トキのニセモノとして登場して、あっという間に倒されたアミバのこと。「ん?間違ったかな?」「俺様は天才だ~」が代表的セリフ。
今は亡きファンロードという、なんだろう。なんと言えばよいか難しい、投稿と編集でできた5ch? とにかくそのサブカル系の雑誌で、彼は妙な人気を誇っていた。
ゲゲボという単語を、知っている人はいるだろうか。

●ヒビ割れの人
NARUTOより。終盤の忍界大戦前の、穢土転生を習得、改造中のカブトである。皮膚のヒビ割れは、大蛇丸細胞を取り込んだ結果の副作用。
一度呼び出された以上、また呼ばれることもある、かもしれない。


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最終章 遊び疲れ 眠り 目覚めたあとは
間話 座 1話


 我輩は空間に腰掛けているのである。ホグワーツでの幽霊時代に覚えたことだが、まさか再び使う機会があろうとは、思ってもいなかった。

 周りには、何も無いような。しかし、無数のナニカがいるような。

 空間がゆがんでいるような、ゆっくり動いておるような。それでいて変化が読み取れない。

 寒くは無いが、暖かいとも思わない。空腹も眠気も、感じない。

 そんな、よくわからぬ場所に座っている。

 

 英霊の座とは、こういうものであったろうか?

 

 いや。きちんとした、正式の座ではないらしいのであるが。

 聖杯くんは、似たようなものさ、と言っておったが。

 

 さて。なぜ我輩がこんなところに居るのかというと、だ。

 好き勝手やりすぎて、登録されてしまったかららしい。

 

 聖杯くんによると、登録されるにはいくつか条件があるそうだ。

 たとえば。運命を書き換える。死ぬべき運命にあった、誰かを助けたり。逆にまだ死なないはずだった、誰かを殺したり。

 

 転生トラックとか、神様転生という単語が頭をよぎった人らは、魂が俗世に漬かりすぎておるので注意しよう。

 なにごとも、ほどほどにな。

 

 ハナシを戻そう。

 

 他の条件としては、歴史や神話に名や業績を残したり。直接世界と契約して、奇跡の代償として登録されたりするらしい。

 我輩の場合は、運命の書き換えであるな。

 さて。原作の結末や展開なんぞは、細かいものを含めれば、いくつ変えたことやら。

 英霊の座という仕組みのある世界。Fateの世界でもやらかしてしまっておるので、オルタに近い感じで登録されてしまったらしいのだ。

 

 だがしかし。我輩はまだ生きておる存在で、しかも異世界の人間であった。

 生身の肉体も、異世界であるヒロアカの世界に実在する。しかも、それは交換した他人の身体であり、本来のものはまた別に生きている。

 ついでに言ってしまえば。異世界転生者の、二次創作のオリ主でもあった。

 

 これだけそろっていて、まともに登録されるかといえば。まあ、ムリであろう。

 Fateの世界で、そのあたりを担当するアラヤは、大雑把であるからな。

 

 実は我輩。地味に、消滅の危機であったらしい。

 エラーを吐いて、不適合を起こした我輩を、アラヤが削除しようとしたらしいのだ。

 

 良さげなアプリだと思ってダウンロードしたら、ウィルスっぽかったので、アンインストール&削除しようとした。そんな感じであろうか。

 たぶん、だいたい合っている。

 

 そこをなんとかしてくれておったのが、聖杯くんである。らしい。

 不適合を一時しのぎで、なんとかごまかし。不適合な部分を、なんとかつじつまが合うように書き換えて。

 フランスを出て以来。ずうっとそうやって、がんばってくれていたらしいのだ。

 

 ただし、本人談。

 

 まあ。おそらくは、本当なのではなかろうか。

 フランスで、最後に帰還を願ってからのことだ。別に手放してはおらぬので、実はずっと聖杯くんのことは持っておった。

 しかし、うんともすんとも言わぬし、何の反応も無かった。

 てっきり壊れたか、魔力を使い果たして、普通の使用済みの聖杯になったのかと思っておったのである。

 

 どうしてそこまで。そう聞いてしまったところ。

 

「トモダチだからね!」

 

 そんな答えが返ってきた。

 一度、酒を酌み交わせば、友。

 ゲーム中ではあるが、そんなことを言った戦国武将がいたであるなあ。

 いやはや。これは、聞いた我輩がヤボであったか。

 

「ありがとう」

「どういたしまして」

 

 久々に素直に礼が言えた。そして、裏の無い返事ももらった。

 うむ。たまには、こういうこともないと、いけないな。人生、裏ばかりではやっていけないのである。

 人は善悪両方を持っているから、自分の悪意に負けずに善を行いなさい、と瀬戸内寂聴さんが言っていた。

 これはうがった見方をするとだ。善と悪の両方を持って、ようやく人間であるとも言っている。

 人が生きるには、たぶん、その両方が必要なのだろう。

 

 

 さて。ところでだ。

 

 

 我輩は、ここから帰ることができるのであろうか?

 

 

 




●転生トラック
現代社会の人間が死亡して、過去や異世界へと生まれ変わったり、跳ばされたりする、いわゆる転生ものの小説、その批評より。
その冒頭での死因が、なぜか子供や動物がトラックに轢かれそうになったのを助けて、あるいは本人がトラックに轢かれてという展開が多かったために生まれた単語。
轢いた相手を転生させるトラックという、ある意味宝具。
なお、転生ものは日本では江戸時代あたりには、すでにあったらしい。徳川の太平の世から、源平、鎌倉時代や平安時代に転生。さすがはご先祖たち。未来に生きている。

●神様転生
転生もので、転生させる原因や理由として、神様を登場させる種類のものをこう呼ぶ。
神のミスでまだ寿命が残っていたのに殺してしまった、という展開がお約束である。そうすることで、何らかの特殊能力、いわゆるチートを転生者に渡す理由が作れるのだ。
舞台を動かす都合の良い神、という意味でデウス・エクス・マキナと言えなくも無い。

●一度酒を酌み交わせば友
戦国無双より。コーエイテクモの作ったゲームの一つ。様々な戦国武将となって、ストーリーを突き進め。何千何百の敵兵を倒し、敵武将も倒し、敵本陣を落とすのだ。
史実モード以外にも、分岐でIFルートがあり、上杉謙信で最後まで進むとラスボスが武田信玄となり、そこで勝利すると聞けるセリフ。ただし言うのは信玄である。
信玄を倒したあと、一緒に酒飲んで「さらばだ友よ」と一言残して領地へ帰る謙信。その行動を「ひとたび酒を酌み交わせば友、か」と納得して後始末を始める信玄の言葉。
なお記憶からのサルベージなので、細かい部分は覚えていない。

●我輩は、ここから帰ることができるのであろうか?
帰れません。というか、帰っても無意味です。
座のネコは、あくまで登録された情報であって、本人とはまた別の存在ですので。
それを知っても、それはそれとして、人生楽しむのは止めなさそうなので心配は要らない模様。


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間話 座 2話

 

 我輩はいろいろあった結果、英霊の座に登録された元一般人である。

 このところは、さまざまな世界をさまざまな姿で巡り、さまざまに結末と過程を書き換えてきた。

 その結果の、座の登録である。

 

 真名はネコである。宝具は魔法の杖と、札束と、聖杯くんだ。

 

 そんな我輩は、聖杯戦争中である。むろん、マスター側での参加ではない。サーヴァントとしての参加である。

 聖杯にかける望みなどは、全く無い。その上、別に戦いたくもない。

 サーヴァント側ではあるが、巻き込まれ枠であるな。

 

 巻き込んだのは聖杯くんだ。なんでも、良かれと思ってのことらしい。

 

 そもそもの始まりは、座で何もすることが無いので、我輩がただひたすらにヒマであったことだ。

 そしてヒマをつぶすべく瞑想しておる時に、気が付いた。

 

 スキル:単独顕現があれば、好きな時、好きな場所に行けるのではなかろうか?

 

 聖杯くんに確認したところ、その通りではあった。ただし、そのためには悟りを開かなければならないらしい。

 よし。そうと決まれば。遊びに行くために、悟りを開こうではないか。

 

 キリトとサチとアスナの三角関係は、どうなったのか。茅場は倒せたのか。サチは最後まで生きていただろうか。

 マスターことダンブルドアは、名無しさんにキッチリトドメを刺せたのか。そしてあの世界でのハリーは、どんな進路を選んだのであろう。

 結局、少佐は勝てたのか。そして勝ったとしたら、なにをしておるのか。あのオッパイ、もとい、婦警もどうしておるだろうか。

 承太郎は、結婚できただろうか。娘は生まれたろうか。そういえば杜王町で写真のジジイを倒し忘れておったが、事件は起きてしまったのだろうか。

 ぐだ男は、あのあとどうなっただろうか。第二部は正直、あまり覚えておらぬのだ。

 ダンターグアニキら七英雄は、復讐を果たせたであろうか。果たしたとして、そのあとはどう生きるのであろう。

 

 知りたいことも、たくさんあるのだ。

 また会いたい人も。やり残したことも。たくさんある。

 

「だから 負けないんだよ」

 

 ああ、そうであるな。オールマイト。

 たくさん、守るべきものがあるなら、負けられぬよなあ。

 

 座る。背筋を伸ばす。瞳を動かさずに、まぶたを半分閉じる。手を自然に組み、そうっと、ゆっくりと呼吸をする。

 心臓の鼓動さえもゆっくりに。意識は広がり、溶ける。

 答えを探す。どこかにあるはずの、なにかの答えを探し続ける。そして――――――

 

 

 ――――――見つからなかった。

 

 まあ。弥勒菩薩が、悟りを得るまでに五十六億七千万年かかるだとか聞いたことがある。

 仏であってもそうなのだ。人間、そう簡単には悟れないのであろう。

 ダルマさんだって、座禅を組みすぎて、足が変形してしまい。立つことすらできなくなって、ようやく悟ったらしい。

 悟りというやつは、意外と近くに転がっておるような気もするが、やはり遠くにあるのであろうか。

 

 そうして自分勝手に修行しておると、聖杯くんがスネた。

 自分こそ、好き勝手にしておるくせに、もっと構えと要求してくる。

 ここでは魔力が足らなくなることはないらしく、それをいいことにさまざまな世界を眺め、時にはちょっかいを出して遊んでおるくせに。

 

 そのあたりを指摘して、たまには我輩にも遊ばせろ。我輩は、そう言った。言ってしまった。

 

「その言葉が聞きたかった!」

 

 どこぞの闇医者のようなセリフとともに、聖杯くんが輝いた。

 

 

 このあと。空中に召喚されてしまい、屋根へと上手く着地。まだパスがつながりきっていないのをいいことに、そのまま逃走。

 そのまま適当に現世を楽しんだのちに、不完全なパスが原因の魔力不足で消滅することで帰ろう。そう思っておったのだが。

 クラススキル:単独行動が、そのジャマをした。A++と、ムダにランクが高い。マスターなんて飾りです。そう言わんばかりであるな。

 そしてセイバーなどの一部のを除いて、全サーヴァントが我輩という、最終鬼畜な聖杯戦争に巻き込まれてしまうのであるが―――

 

 それは、別のハナシだ。

 

 




●「だから 負けないんだよ」
僕のヒーローアカデミアより。宿敵との戦いの中。巻き込まれた一般人を背にして、残った力はもう尽きかけて、血を吐いて、宿敵はまだまだ力を残していて。
ガレキに埋もれて動けない一般人の「勝って」という応援に、宿敵AFOが「ヒーローは守るものが多くて大変だな」と皮肉って、嗤った。
主人公の師匠、オールマイトのそのあざけりへの、返答。これはマジでカッコ良かった。アニメが楽しみである。

●「その言葉が聞きたかった!」
ブラックジャックより。手塚治先生の名作である。リメイクもされていたが、ストーリーはほぼいじられていなかった。というかいじる必要が無い。さすがである。
これだけの大金を払えるか?と患者や関係者に聞き、どれだけ時間をかけても払ってみせます!と言われると、ブラックジャックはこう言ってテンション上げて手術に取り掛かる。なお手術代は、だいたい本当に払わせる。

●別のハナシ
外伝で書くかもしれないし、書かないかもしれない。


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アルブヘイム・オンライン編 キャットトーク

YUIちゃんがいるかどうかなど、気になったことの答えは、あなたの心の中に。
英霊の座に登録されたネコとは別の、本体のほうのお話です。


なしち氏の I begin to walk. を推してみる。
FGO世界生まれのジョニィ・ジョースターが、ぐだーずのポジで人理修復する。
レース中盤あたりの精神状態のジョニィの、殺意高めの物語。普通にハメ殺したりもするあたりがらしい気がする。


 我輩は乾杯したのである。他人の不幸が愉悦で酒が美味い。

 うむ。これぞヴィランの飲む美酒というヤツであるな。

 ほら、アレだ。高いところで、夜景を眺めながら飲むアレやら、薄暗い部屋で豪華なイスに座り、猫をヒザに乗せながらクルクル回すソレである。

 

 ん? それ、片方は飲んでいないと? ああいうのは、雰囲気が美味しいのであるよ。

 いい空気を吸っている、というやつであるな。

 見たまえ。妖精郷は今日もよい天気だ。渦を巻く竜巻のような、現実ではありえぬ造形の優美な塔。雲をまとって漂う、空に浮かんだ山や大地。その下には、人工物が見当たらず、緑と水が見渡す限りに広がり。現実よりも優しい太陽の光が、それらを照らす。

 それらを見下ろしながら、こうしてゆったりと過ごす。これは、実に良い心持ちであるな。

 ああ。できればこの空を、もう少し飛びたかったものである。この光景がもうすぐ、失われてしまうかもしれないとは、悲しい話だ。そうは思わないかね? キリト。

 

 そうそう。ところで、美女三人に囲まれておるようだが、誰が本命かな?

 

 余計なことを言うな? いやいや。彼女らの自由があってこその、その修羅場だよ。それとも本命は今、この場におらぬのかな? アルゴくんあたりもオススメだぞ?

 ハハハ。これもまた、キミが勝ち取ったものだ。いっそ楽しんでしまえば―――いや、うん。スマヌ。その場合、誰かに刺される予感がした。やめておきたまえ。いや、マジで。

 

 さて。酒の美味い理由であるが。彼らの修羅場だけではない。

 

 

 ALOのラスボス、須郷伸之な。普通に逮捕されたわ。

 

 

 うむ。普通に捜査されて、普通に情報収集されて、普通に部下が任意同行からの尋問で自白しての、逮捕だ。

 なんのドラマも、盛り上がりも無かったな。

 キリトの、というよりもSAO帰還者らのコネと、勝手にどこかから生えてきた、その支援者団体などの外部団体。

 それらを使って、日本の警察という優秀な組織を動かした結果である。

 

 まあ。三百人を勝手に人体実験に使っていたのだ。その間、三百人は目覚めることなく、機械につながれたまま。

 その家族や知人に「アイツが悪いんです」という情報が流れたら、どうなるか。

 言葉というのは、なにを言うのかという内容も大事だが、誰が言うのかという説得力も大事である。

 つい先日まで同じく寝たきりであった、帰還者の言葉ならば。多少のでっち上げでも、効果はあった。

 

 うむ。でっち上げである。

 

 さすがに、明確な証拠なんぞはありはせぬのである。ならば、でっち上げるしかあるまい。

 とりあえず、ソードアート・オンラインと、アルブヘイム・オンライン。この二つのヴァーチャルゲームが、ほぼ同一のデータを流用しておること。

 実際に、アルブヘイム・オンラインを運営するレクト社が、ソードアート・オンラインのサーバの運営を引き継いでいること。

 未帰還者の意識が、今、どこで何をしておるのかと言えば、やはりそのサーバの中としか考えられず、未帰還者らの機械から、実際にそちらへとデータが流れていること。

 SAO事件の犯人の後輩の須郷という男が、サーバの管理者であり。会社にも秘密の研究をしているらしいこと。

 未帰還者の人数が、三百人ちょうどというキリの良い数字であること。

 未帰還者の一人のアバターが、アルブヘイム・オンラインの未公開エリアで目撃、記録されたこと。

 その未公開エリアを見る方法は、須郷によってすぐさま禁止されたこと。

 

 などなど。事実から、未確認情報に、ウソまで含めて。すべてを、SAO事件の関係者へと流した。

 集団訴訟やら、各種の相談やら、不安をごまかすためやらで、もともとある程度のつながりはできていた。そこへ流すだけだった。

 

 と、いうのが。キリトからの報告である。

 

 うむ。そろそろ、我輩の状態を語るとしよう。

 我輩は、ゲームキャラである。外見は、久々のにゃん太だ。

 アルブヘイム・オンラインの中で活動しておるが、ほぼバグのような存在である。

 ほぼ、動けない。しかし攻撃されても、効かない。アインクラッドと違うのは、飛ぶという機能が付いたくらいか。

 飛ぶことならば、ホグワーツで慣れている。浮遊するのも、ゆっくり移動するのも、お手の物だ。これで移動手段が手に入った。

 

 しかし幽霊時代の経験は、いろいろと役立つことが多いな。スタンド時代でも、ヘルシングの時も、壁抜けやらで世話になったし。

 そういえば魔法を覚えたのも、あの時か。いやあ。人生、なんでもやっておくものであるな。

 まあ。普通の人は、幽霊をやるような経験は無いであろう。あったとしても、そのあとその経験を生かすための、人生自体が存在せぬと思うが。

 

 閑話休題。

 

 そうしてこのゲームとはいえ、美しい世界をフラフラとさまよっておったところ。懐かしい顔と出会った。

 お察しの通り、キリトである。

 そして彼から近況報告と、相談を受けた。

 あのあとに茅場を倒して、ゲームはクリアした。だが一部のプレイヤーが目覚めない。アスナとサチが、まだ目覚めないのだと。

 

「俺はどうしたらいい。なにができる?」

 

 事情を知っていて、それでいて弱音を吐ける人間がいなかったのであろうか。

 何度か会って、ハナシをしただけの我輩なんぞに、彼は心の中に溜め込んだものをこぼしてしまっていた。

 

 そんな今にも泣き出しそうな彼に、我輩が提示した計画がアレになります。

 

 いそのー。社会的に攻撃(やきゅう)しようぜー。手段(場所)は、大人を動かして丸投げ(裏の空き地)なー。

 

 社会を派手に動かしたぶん、レクト社がヒドいことになったが。経営者に人を見る目が無かったせいで、精神や、ひょっとしたら魂までをいじる人体実験を許してしまっていたのだ。

 残念でもなく、当然と言わざるを得ない。

 

 そんな見る目が無い経営者、彼らはアスナの両親であった。そして彼らは、須郷を娘の婚約者にしてしまっていたほどの節穴なのであるが。

 なぜかこの状況で、自分たちが選んだ次の婚約者を、アスナさんに押し付けようとした。

 自分たちに見る目が無いという自覚が、いまだに無いらしい。暴挙と言わざるを得ない。

 原作では、アスナさんががんばって、この状況からでもなんやかんやで、両親と和解しておったと思うのだが。さて、どうなることやら。

 

 そんなレクト社はともかく、ヴァーチャルゲーム自体への世間の評判は、悪いものではないようだ。

 無論、大規模な犯罪に使われたツールであるとして、嫌う人もいる。それはそれと割り切れる人もいる。

 身内に被害が無かったので、他人ごとに思う人もいる。というか、それが大部分である。

 ヴァーチャルゲームはSAOが初の物であり、まだそれからさほど時は流れていないのだ。

 原作とは若干ズレはしたが、世界の種子(ザ・シード)もバラまかれた。ヴァーチャルゲームの評価は、これからであろう。

 

 ちなみに受け取ったのは我輩で、バラまいたのがキリトである。

 

 現実で決着をつけたので、ヒースクリフこと茅場の出番が消滅した結果、困った彼が我輩に押し付けたのだ。

 そして我輩は、さらにキリトに押し付けた。ゲームキャラである我輩に押し付けられても、なにもできぬのだ。こうするしかあるまいて。

 

 握りつぶして、このあとの展開全てを無かったことに。そんな衝動に反抗するのは、たいへんにしんどかった。

 

 さて。やることはやった。

 あとは、この世界が一度閉ざされるのを待つだけである。おそらくは、そこで我輩は消える。

 この世界は、一番最初に来た世界だ。ここが、一番ヒロアカ世界に近い。はずである。

 

 ならば、今度こそ帰れるやも知れぬ。

 

「待て、しかして希望せよ」

 

 ああ。希望するとも。我輩は、帰るのだ。

 あの牢獄には、なにも無くとも。あの世界には、いろいろとあったのである。

 そのために、待つこともしよう。

 そうとも。いくらだって、待ってやるとも。

 

 




●「待て、しかして希望せよ」
モンテ・クリスト伯より。全てを失い、そこから金と身分を手に入れ復讐を遂げ、最後の一人を残すのみ、となったところで復讐から自分を解き放つことに成功、新たな恋人と旅に出たリア充の物語。(偏見)
大きな不幸を知る者のみ、大きな幸福を感じることが出来る。ゆえに人の英知は全てこの言葉にある。と、そのリア充は語った。

なお和名のタイトル岩窟王は、編案小説としてのタイトルであったらしい。
明治から昭和初期あたりまで、海外の小説を元ネタに、翻訳ではなく、自分の小説として作者に無断で売ってしまう編案小説なるものがあったのだ。
お隣の国では、いまだに現役である。


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それでも我輩はネコである。

 我輩は囚人であった。こうして、久々に自分の世界へと帰ってくるまで、実は少し忘れかけておったが。

 だがそういえば。囚人だというのに、番号で呼ばれていた覚えは無いな。

 囚人と言えば、番号で呼ばれ、俺を番号で呼ぶな! と返すのがお約束ではなかっただろうか。

 他にも、ムショの臭いメシとやらも、一度くらいは食べてみたかった。

 この身体は、飲み食いが不自由なのが最大の欠点であるな。

 

 だが。もうそれも終わりである。

 

 懐かしい、声がしたのだ。

 ようやく帰ってこれたこの世界から、しばらく出て行く気がしなかった。そういうわけで、退屈に耐えながら日々を過ごしておった我輩の耳に、懐かしい声が聞こえたのだ。

 

「ああ、やっとクリアか。―――似合わないマネをするんじゃねえよ。ここまで来るのに、どれだけ面倒だったと思ってる? なんだよ、このダンジョンは。宝箱もないし、トラップは凶悪だしさ」

 

 個性で扉を粉々にして、我輩のボスが。死柄木 弔と名乗っている、とある精神の病気をこじらせたヴィランが、そこにいた。

 

「刑務所に何を求めているんですか、弔。さあ、早く帰りますよ」

 

 黒いモヤで顔が見えない、ヴィラン連合の常識と苦労を一手に担う黒い人。黒霧もいた。

 

「まさか、僕の体を取られるとは思ってもいなかったよ。存外、悪くはなかったがね。さあ、返してもらうよ。もうキミのフリをして生活するのは真っ平だ」

 

 以前は、鏡やテレビでよく見ておった姿の。つまりは我輩の身体も、そこにあった。

 その身体は、我輩が先生に。オール・フォー・ワンにあげてしまったものだ。

 ということは。どうやら先生も、迎えに来てくれたらしい。

 

 この先生の身体は、壊れかけていて不自由だ。

 長年その不自由な身体で過ごした先生に、健康な身体を渡したならば。おそらく、返ってくることは無いだろう。そう思っていた。

 

 それでも良いと、我輩は渡した。

 だがどうやら、先生は返してくれるらしい。

 

 今は、逃げる時だ。時間が無い。だが、聞かねばならぬ。

 ひとこと。「良いのですか」と我輩は聞き、先生は「かまわないさ」と答えてくれた。

 ならば良し。では、ここから出るとしますか。黒い人、お願いします。

 

 もはや懐かしい、黒い影のようなものに覆われて、どこかへと跳ばされていく。

 どの経験からかはわからぬが、今はそれが理解できる。

 別にマネが出来るわけではない。風を感じるように、温度を感じるように、空間を移動しているのが感じ取れるだけである。

 

 その感覚で、出口だとわかった。

 新しいアジトはどんな場所かと、あたりを見渡す。

 

 だがしかし。そこにはなにも無かった。

 

 ただの薄暗い倉庫であり、錆びついた機械や、ほこりの積もった台があるくらいの、がらんとした空間だ。

 我輩が不審に思っておると、先生も我輩の様子に不審を持ったようだった。

 

「周りが見えているのかい? 赤外線感知は、使いこなすのにコツがいるはずだけど。それともなにか別の個性かな?」

 

 幽霊やらスタンドやらの、物の見方なのであるが。

 さて。どう説明したものか。

 え~… これは個性ではないであります。たぶん、霊視というやつです。文字も読めます。

 

「お前はなにを言っているんだ」

 

 そんな視線が三つ、我輩を刺した。ボスと黒い人と先生の視線である。

 うむ。この感覚である。実に懐かしいな。

 

 本当に見えておるのか、スマホの画面を利用したり、地面に字を書き確認する。

 うむ。この横道にそれてゆくユルイ感じ。我輩は、確かに帰ってきたのだなと実感するぞ。

 

「オマエは、本当によく分からない成長するよな。マジでレアモノだわ」

 

 ボスがほめているのか、あきれているのか、どちらとも取れる口調でそう言った。

 というか。我輩、レアモノ扱いされておったのか。初めて知ったのである。

 まあ。これまであちこち出歩いてきて、いまだに同類に出会わないあたり。転生者という珍しい生き物であるのは認めるが。

 

 ところで、なぜにこんな場所に? 我輩がそう聞くと、黒い人が教えてくれた。

 発信機やら、盗聴器が身体に埋め込まれていると思うので、いきなりアジトへは連れて行けないからだそうな。

 

「だから、始末をつけないとね」

 

 我輩の身体の中の人である、先生はそう言って右手を振るった。

 すると、我輩の両足が消えた。

 

 えっ?

 

「先生!?」「オールフォーワン!?」

 

 ボスと、黒い人も驚いている。

 先生はワラッて、こう答えた。

 

「ハハッ。安心しなさい。これで終わりじゃあないからさ」

 

 うわあ。こういう時の我輩の笑顔って、こう見えていたのかあ。

 そんなヤクタイもない考えが思い浮かんだ。そして、我輩ごと分解されて、消えた。

 

 

 そして再構築された、若いイケメンになった我輩が、ここにいるじゃろ?

 

 

「「「えっ」」」

 

 我輩とボスと黒い人の声が、そろった。おそらく、思考も一致している。

 なんだこれ。という、疑問が。

 いや、本当に。なんぞこれ。目も鼻も、破壊されて無かった顔が再生しているのは、まだわかる。

 だが髪まで生えているのはなぜだろう。

 体格も変化している。肩幅が広く、体格も良かった身体が、ややスッキリとしている。長身で、ほどよく筋肉の付いたバランスのいい身体だ。足もちゃんとある。

 

「これでよし。なにかオカしなところはあるかな? 痛かったり、異常を感じるところは?」

 

 混乱する我輩らの反応を無視して、そう聞いてきた。どうやら先生は、一方的にハナシを進めるつもりらしい。

 我輩が「ないです」と、聞かれたことに素直に答えると、先生は満足そうにうなづいて、とんでもないことを言い出した。

 

「正直に言うとね。このオーバーホールっていう個性は、手に入れたばかりでね。まだ使い慣れてないんだ。うまくいって良かったよ」

 

 ひどいハナシではあるが、この人に文句を言えるのはボスくらいのものだ。

 幸いにも、うまくいったらしいし、別のことを聞くとしよう。

 そういうわけで、あ~。先生? さきほどは、なぜ足を? と聞けば。ちょっとしたサプライズさ、という答えが返ってきた。

 いや。まあ。確かに驚きはしましたが。

 先生にとっては悪ふざけの範囲なのだろうが、こちらはそこまで常識を捨てておらぬので、正直、反応に困る。

 

 なんとも言えぬ顔をする我輩たちをよそに、先生はおもむろに個性を発動した。

 

「じゃあ、返してもらうよ。肉体交換」

 

 再び我輩の意識は薄れて、気を失った。

 

 

 

 そして気が付けば、懐かしい感覚に包まれているのがわかる。

 この感覚は、この心地よい感覚は、間違いない。

 これは、愛用の寝具の感触だ。

 

 そう気付いて、飛び起きた。

 

「ぁ……」

 

 言葉が、出そうで出なかった。

 我輩の部屋が、そこにあった。ウワバミさんの住むマンションの一室であり、我輩の住処が、記憶の中にしまってあった光景が、そこにあった。

 

 涙が、出た。

 

 ALOが終わり、この世界に戻ってこられた時も。ボスたちが迎えに来てくれた時も。

 出てこなかった涙が、こぼれた。

 

 帰ってきた――――――帰ってきた!

 我輩は、帰ってきた!

 

 自分の手を見る。手の甲まで毛でおおわれて、少し肉球を思わせる、プニプニとした肌の手だ。

 我輩の、手だ。誰か他の者の手ではない。

 顔も、身体も。これだ。これこそが、我輩の身体である。

 

 どうしようもなく、走りたくなった。

 立ち上がる。身体をほぐす。外は暗いが、関係無い。

 扉を開けて――――――

 

 ―――ウワバミさんが、そこにいた。

 

 不意を打たれた。

 覚悟も用意も、情報収集もできていなかった。

 我輩の中の人であった先生が、どうすごしていたのか。まだ聞いていない。

 ウワバミさんに、どう接すればいいのか。わからない。

 もともと、ヴィランであることは隠していた。ウソは今さらだ。

 しかし、今は。ダマしたくも、ゴマかしたくもない。ただの気分であるが、本音でもある。

 

 頭の中は、混乱していた。心の中は、懐かしさと喜びと戸惑いで、やはり混乱していた。

 思わず、口から一つの言葉が出ていた。

 

「ただいま」

 

 すとん、と。フに落ちた。

 そうか。我輩は、家に帰りたかったのか。

 そうか。そうだな。遊んだあとは、家に帰るものであるよな。

 

「いってきます」

 

 そして。帰って寝たら、また遊びに出るものだ。

 猫という生き物は、そういう気ままな生き物であるからして。

 ウワバミさんの反応も見ずに、我輩は家から飛び出した。

 特に行き先は決めていないが、そのうち黒い人が迎えに来るだろう。あの面々は、我輩の救出成功を口実に、飲み会をやっておるに違いないのだから。

 

 我輩はネコである。

 さまざまなところへ行き、さまざまなモノを見て、さまざまなモノを身に付け、さまざまなことをやらかした。

 それでも、我輩は我輩である。きっと、これからもそうだ。

 自分として生きてこそ、人生は楽しいのである。

 

 

 




誰かと人間関係を深めると、面倒だし、別れがつらいからとネコが関わろうとしないで状況を動かすことだけをやろうとするんだ……
一番仲良くなったと思われるのが、今回のシリーズ通じて少佐かもというあたりどうなんだろう。

ヴィラン連合は現在、まだ10mもない巨大なサクラという、矛盾した存在の下で飲んでるんじゃないかな。一般客がいたら面倒なんで、季節はずれのを、なにかの個性でムリヤリ咲かせて。黒い人、酔っ払いどもがどうしようもなくなる前に、理性が残っているうちに早く迎えにきてあげて。

ここまで通して読んでいただいた方も、つまみ食いで読んできた方も。
目を通していただき、ありがとうございました。


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オマケの外伝集
オマケ


 

 我輩は仕分け中である。

 目の前には、二つのダンボール箱がおいてあり、ごていねいに「いるもの」「いらないもの」と書き込まれていた。

 

 さて。どこから手を付けたものか。

 そう考えていると、扉を叩く音がした。

 

「手伝いに来ましたよ」

 

 扉を開けると、そこにいたのは黒い人だった。

 手伝いを頼んだのは、ボスにだった記憶があるのだが。

 

「面倒がった弔から、頼まれまして」

 

 甘やかしすぎるのも、どうかと思うのである。

 

 まあ。ウワバミさんのところの自室ではなく、あのバーを廃棄したあとの新アジトに溜まった私物の整理だ。

 そう大物は無いし、量も無い。それに黒い人のほうが便利そうだ。問題ないだろう。

 

 それなら手伝いも要らないだろう? と思うかも知れぬが。これが絶対に必要なのだ。

 なにせ、ほら。我輩、どこに行かされるのかを、知らされておらぬがゆえに。

 では、選別を始めよう。

 

「まずは、これ。スマホは いるもの で良いよね?」

 

 まずはお試し。堅実なところから聞いてみた。

 

「いりません。スマホもケータイも、使えないところです。充電も出来ませんよ、たぶん」

 

 黒いモヤにつつまれた顔を左右に振って、黒い人はそう答えた。

 ふうむ。行き先は未開の地なのか、それとも特殊な場所なのか。

 とりあえず、苛酷な環境である気がしてきたのである。

 

「ならば、なぜかあったこの使い捨てカイロはいるかな?」

「いりません。向こうは、半裸の人も多くいますので、おそらくは使わないかと」

 

 本当に、なぜかあった。買った覚えもないのだが。

 それでもって。これもいらないらしい。

 だが、半裸ときたか。南の島の可能性がワンチャン…?

 

「なら、この飲みかけのペットボトルのお茶とかは?」

「いりますいります。絶対に持っていってください」

 

 食い気味で返答が返ってきた。

 どうやら、向こうで飲料を入手することは難しいようだ。

 では、買えるのかどうかも確認しようか。

 

「サイフは?」

「いりません。ケツ拭く紙にもなりはしませんよ」

 

 えっ? そのフレーズは、まさか……

 

「こ、このライターとスプレー缶は?」

「消毒するのに必要ですね。いるもの です」

 

 どう消毒するというのだ。火炎放射か。火炎放射で消毒するのか。

 

「黒い人」

「なんですか、ネコ」

「世紀末であるか? 我輩は、世紀末に飛ばされるのであるか? どうやって? どうして?」

 

 黒い人は、黒いモヤの中で光る目を閉じて、何かを一時こらえてから、吐き出すようにこう言った。

 

「あなたが…… あなたが! 「新作の勢いが無いよね。やっぱり我輩がいないとダメか~」なんて、ウッカリ言ってしまうから!」

「よっ… 良かれと思ってぇ~!」

 

 違うのだ。味っ子キャラの乱入アリなら、我輩もイケるかなんて、ちょっとしか考えていないのだ。

 前作主人公が出しゃばるのは、無粋だとワカっているのだ。

 ただ、ちょっとだけ。明記しないで、におわすくらいの。ちらっと顔見せくらいならアリかなー、と思ってしまっただけなのだ。

 正直、ネタに困っている新作の助けになれれば、と……

 そう。良かれと思って……

 

「正直、行けるかどうかは分かりません。オールフォーワンの新作個性次第です」

 

 黒い人が、さらに不安になることを言い出した件について。

 

「その、帰り方は…?」

「……ほら。あなたは、よくわからない場所に行って、帰ってきたらしいから、大丈夫だろうと……」

 

 こっち任せかよ!

 

 どうして。どうしてこうなった…!

 というか。生身で行ったことは、さすがに無いのであるが。

 さらに、行き先がどうなるかも分からないのであれば。そもそも、このいるいらないの分類も、割りとどうでもいいのではなかろうか。

 

 ああ、もう。持てるだけ持って、未知に備えるとしよう。

 黒い人、ちょっとリュックとか探してきて。我輩は、買い出しに行って来るのである。

 

 

 



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オマケ2 IS編

ダイマされた記念。


 

 ある日、ある時、突然に。日本に、核ミサイルを含む大陸間弾道弾が雨あられと降り注いできた。

 

 ある者はパニックになり、ある者は全てをあきらめ、ある者は何か取れる手段は無いかとあがいた。

 そして大多数の者は、未だに何が起きているのかすらわからず日常を過ごしていた。

 

 そんな中に、降り注ごうとしたミサイルの雨は――――――光によって、迎撃された。

 

 

 

 これが俗に言う、RDB事件である。

 

 

 

 どこからともなく、迎撃映像は世界へと向けて配信されており、その映像はこの上ない衝撃を持って世界に受け止められた。

 

 「ありえない」反射的に否定する者。

 「なにこれ」ただ圧倒される者。

 「スゴイ……スゴイぞ!」そして、感激する者。彼らは叫んだ――――――

 

 

 「カメハメ波は、本当に撃てたんだ!!!!!!」

 

 

 そう。その映像には、生身の女性。しかも学校指定と思しき、赤いジャージと体操服姿の若い女性が手からオレンジ色のビームを放ち、ミサイル群を次々と打ち落とす姿が映されていたのだ。

 

 それだけならばカメハメ波という単語は出てこなかったかもしれない。しかし、途中でミサイルが過密になって処理が追いつかなくなりそうになった、その時だ。

 彼女が両手を合わせて、あの動作をやってしまって。あのポーズで特大の光線を放ちながらゆっくりと回転して、周囲全てをなぎ払ってしまったシーンがあったのだ。

 もう、なんというかモロにアレだった。言い訳など、とうてい出来ない状態であった。

 

 ゆえに、この事件はこう呼ばれる。リアルドラゴンボール(RDB)事件、と……

 

 

 

「あれれー。おっかしいなあー。束さんのISの華々しいデビューになるはずだったんだけどなー? あっれー? ちーちゃんが話を聞かずに飛び出して行っちゃって、そのまま解決しちゃったよ? なんで? てゆうかナニさアレ!?」

 

 どこかで、そんな具合に首をかしげるウサギさんも居れば。

 

「素質があると思った。ゆえに鍛えた。今はちょっぴり反省しているのである」

「人間って、スゴイね」

 

 どこかには、周りの騒ぎも気にせずに祝勝会と称した酒盛りをする、一匹と一個のヤツらもいた。

 

 どうやら一歩間違えれば地球が壊れてしまうという、とてつもない危機であったので、抑止力が働いてヤツらが呼ばれてしまったらしい。

 直接働くのではなく現地の人を鍛えて仕事したので、この結果には抑止力も大満足である。

 

 こんな事件があった後だ。どう考えても体を鍛える人間が続出すると思うのだが、それも問題は無いだろう。

 サイヤ人めいたトレーニングに耐えられるような、そんなオカしな人間はほとんどいないのだ。

 

「ずーるーいー! ちーちゃんだけ生身で空を飛べるとか、ビームとかずーるーいー!」

 

 ダダをこねだしたウサギさんとか、例外も居るが。

 彼女がこの現象が、科学ではなく腕力の力技であると気付いて、なおかつそれを科学で再現するのでなく、腕力で実現しようと思わなければ良いことであるので大丈夫であろう。

 

「なあ、箒。俺も千冬姉みたいにカメハメ波撃てるかなあ」

「ああ、きっと撃てるさ。だが先に撃つのは私だ」

 

 どこぞの小さな男女に先を越されない限りは、きっと大丈夫だ。

 

 ともあれ、きっと世界は本来の流れよりも活性化するだろう。

 鍛えた筋肉はムダにはならない。カメハメ波には届かなくとも、きっと何かの役には立ってくれる。

 生命力が活発になれば、行動力が上がるし活発にもなる。きっと人生を豊かにしてくれるだろう。

 

 たった一発のカメハメ波から全てが始まり、そして世を救った。

 

 これはそんな物語である。

 

 

<続かない>

 

 



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オマケ3 HUNTER × HUNTER編

Dacla氏の フォフォイのフォイ を推してみる。
タイトルがギャグに全ブリだが、内容はマジメというギャップ。
ドラコ・マルフォイに転生。元死喰人な父親と、魔法使い万歳な母親。間違いなく愛してくれている、そんな両親を始めとした、選民思想な魔法使い世界の中に、ギャップを感じたり少し干渉したり、溶け込もうとしたり。
何というか、人生を生きているマルフォイくんの物語。


 我輩は猫である。

 

 はずである。

 

 おそらく。たぶん、きっと。猫である。そう、思われる。

 実は自分でも、言い切れるだけの自信はないが。

 

 それをなぜ、と問うならば。

 

「やぁ、おはようネコくん」

 

 普通の服の上に、青地に黄色の模様の貫頭衣を着た金髪の中年が、我輩に話しかけてきた。

 それに我輩も、普通に返す。

 

「おはようございます」

 

 うむ。

 何を隠そう。我輩、しゃべれてしまうのだ。

 

 いつもの事と言ってしまえば、それまでだが。

 我輩。どうやら普通の猫ではないらしい。

 

 

 

 さて今回。意識を持ったというか。物心が付いたと言おうか。

 はたまた、我輩がこの猫の意識を乗っ取ったのか。それとも意識に合わせて、この体が作られたのか。

 そのあたりの事は、とんとわかりゃあしないのであるが。

 ともあれ。我輩は、気付けば子猫らの中に混ざって、にゃーにゃーと鳴いておった。

 

 そうして気が付いた後。しばし大人しくしておったのであるが。

 これがどうしたわけか。さっぱりと、何も起きはしないのだ。

 

 親猫も現れず。襲ってくる何かも現れず。拾ってやろうとか、いたずらしようとか。そういう人間も現れず。

 ただただ、時間だけが過ぎていった。

 

 兄弟らの大きさを見るに、おそらくは生まれて二ヶ月は経っていまい。

 そのくらいの子猫は確か、二時間ごとに授乳をせねばならなかったはず。

 とすると。こうして、にゃーにゃーと鳴いておるのは、お腹がすいて母猫を呼んでおるのではなかろうか。

 

 だが、しかし。我輩の腹はまったく減ってはおらぬのであるが。

 

 ふむ。まあ、いいか。

 

 しばし考えたのちに。疑問をいったん棚上げすることにして、我輩は立ち上がった。

 腹がすいておらぬのならば、動ける。ならば周りを見て回り、母猫を探してみようと。そう、思ったのだ。

 

 もう一度言おう。

 我輩は、立ち上がった。

 

 二本足で。

 

 それまで一心ににゃーにゃーと鳴いておった兄弟たちが、目をこれ以上ないほど大きく開いて、こちらを見る。

 

 その驚いた表情を見て。我輩も異常に気が付いた。

 後ろ足だけで立ち上がったのは。実のところ、無意識であったのだ。

 

 そこで改めて、自分の身体を確認する。

 

 手。うむ。肉球がある。灰色と黒の毛も生えている。間違いなく猫の手であるな。

 顔。手でさわって確認する。うむ。おそらくはこれも猫である。

 胴体。足。異常なし。生まれてそう経ってはいない、そんなふんわりとした毛並みの。間違いなく猫のものであるな。

 

 だが尻尾には。少しばかりの、異常があった。

 

 なにやら二股に分かれておるのだが。

 

 ゆうらゆうらと揺らしてみたが。確かに我輩の思ったとおりに動くし、感覚もある。

 

 ああ。そう来たか。

 

 そんな感想が、思い浮かぶ。

 どうやら我輩は。猫は猫でも、化け猫であるらしい。

 

 まあ。化け猫も猫である。と、思う。

 少なくとも、猫科の生き物である。はずである。

 おそらく。たぶん、きっと。猫である。そう、思われる。

 実は自分でも、言い切れるだけの自信はないが。

 

 ともあれ。

 

 そうして自分というものを確認して。

 周りの探索をして。隠れ里のような村を見つけ。

 兄弟ともども住み着いて。

 ある日、村人たちが興奮すると、目が紅く染まる事を発見し。

 なんだかんだの手段で、村人たちを鍛えた結果。

 村人たちが、手足から真空を発生させて攻撃手段とする、戦闘民族になってしまい。

 名前をクルダ族と、若干変えたりもしたが。

 

 我輩は、今日も元気である。

 

 




りはびりなう。

なうって今でも使って通じるんだろうか。


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オマケ3の続き

なんか続いた。


 我輩は猫である。と思う。

 そうであるはずなのである。

 

 だが、こうして。すその長い、大振りな改造学生服を着させられて。

 ハチマキを頭に巻き。よくわからぬ文字の書かれた旗を持たされて。

 ぶおんぶおんと、うるさい二輪車に乗せられて、運ばれておるとだ。

 さすがに。自分というものについての、疑問がわいてくるというものではなかろうか。

 

 我輩は、何をやっておるのだろう。

 

 そう心の中で、しんみりとつぶやいてみたが。

 なぜだか なめんなよ という単語が浮かんでくるだけであった。

 

「理由も分らずに押付けられたものを大人しく受取って 、理由も分らずに生きて行くのが、我々生きもののさだめだ」

 

 いや。さすがに、わけがわからなさすぎるのである。

 なにがどうしてこうなった。

 いや、確かにこうなる引き金を引いてしまったのは、我輩であるけれども。

 

「ボクは悪くない」

 

 そう、思うのだ。

 

 我輩は、ただ。

 しゃべる猫という、不可思議な生物を普通に受け入れてくれた。そんな気のいい村人たちに死んで欲しくはなかっただけなのだ。

 

 緋の瞳という、極度に興奮した時に綺麗な色に染まる目の持ち主たちであり。

 緋色になった時に殺せば、目はその色のまま固定されるので、狩られる対象である。

 

 我輩は、彼らがそんな一族だと気付いてしまった。だから。

 

 うろおぼえの原作知識で、念という謎技術を教えてみた。

 その結果。なんか別の作品の技術を覚えてしまったけれども、強くなったから問題ない。はずである。

 

 幻影旅団という、強い盗賊集団が襲ってくる。と告げてみた。

 その結果。更なる強さを。と、若手の一人がとんでもない事をしでかした。

 

 旅団のひとりに。その方が強力になる気がする。そんな理由で、自分の指の先端を全部切り落とした男がいる。

 そして実際に、彼の技は強力になった。

 この話を元にして。とんでもないモノを切り落としてしまったのだ。

 

 なんというかね。うん。モノなんだ。

 そう。アレだ。アレをね。切っちゃったんだってさ。

 

 それを初めて聞いた時。

 なぜか ゼパる という単語が頭をよぎり、そう口にしてしまった結果。

 彼はセヴァールと呼ばれるようになった。いや、そんなところで変な補正はいらないのである。よその原作補正さん。でしゃばらないで。

 

 なお彼の名前は、クラピカらしい。

 こっちの原作補正さん。がんばって。こんな結果になったけど、がんばって。あとは任せたのである。

 

 

 閑話休題。

 

 

 で、なんであったっけ。

 我輩が、二輪車で運ばれておる理由であったっけ。

 

 幻影旅団と戦ったら、勝てるかはわからぬし。勝てたとしても、犠牲が出る。

 ならば逃げよう。

 そういう事になったのだ。

 そして、それまでなぜかいなかったはずの、独特な髪形をした。どう見てもクルタ族でもクルダ族でもなさそうな男が、どこからともなく沢山の二輪車を持ち出したのだ。

 村人たちは、その不可思議な現象を普通に受け止め。大移動を開始した。

 

 キミら、懐深いな。

 

 我輩は、事態の推移についてゆけず。固まってしまっておったらしいというのに。

 我輩が気付いた時には。すでに荷造りして、行き先を決めて、走り出してしまっておった。

 我輩もついでに荷造りされたらしく。妙な格好をさせられておったが。

 

 なお。行き先は、天空闘技場であるらしい。

 

 そんな人目が多いところで、大丈夫か?

 そう思わぬでもないが。彼らなら、なんだかんだで、大丈夫な気もする。

 むしろ。我輩が大丈夫ではない気がしてきた。

 

 だって、ほら。我輩は、念をまだ覚えられてないし。

 

 だが。まあ、なんだ。

 クルタ族は、クルダ族に変わってしまって、ある意味絶滅しているわけであるし。

 あとの展開は、原作補正さんに任せるのである。

 

 頼んだぞ。原作補正さん。我輩は、あなたの事を信じているのだから――――

 

 




●クルダ
影技と書いて、シャドウスキルと読むマンガより。
肉体が頑丈な戦闘民族。手足をぶん回して、真空を発生させて殴る人々。
セヴァールは、その中でヨコヅナ的な人。

●なめんなよ
昭和の時代。ヤンキーな格好をした猫たちのキャラクターが存在した。らしい。


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オマケ3の続きの続き

アベンジャーズ関連の作品、増えてますね。
その中で MCUに磁界王として転生してしまったんだけど?:マルコとポーロの再会氏 と パラサイト・インクマシン:アンラッキー・OZ氏 とを推してみる。

前者は始まったばかりだが、マグニートーという最強格のキャラのガワカブってマーベル世界へ。
後者は、悪魔と相乗りしてる少女が主人公で、アベンジャーズ中。


 我輩は猫である。確実に。

 今は、天空闘技場にて観戦中だ。あの謎の衣装からも開放されて、観客席のひとつに、ちょこんと座り込んでおる。

 

 だが、おかしいな。

 なにやら。年少の、小学生くらいの。小さなお子様たちまでも、ばんばんと真空を飛ばしておるのだが。

 

 爪刀(ソード)やら、刃拳(ハーケン)やら。無理やりに漢字を当てはめたような感のある、そんな技名を叫びながら、相手を吹き飛ばしておるのだが。

 

 おかしいな。あの子らは、別に鍛えた覚えはないのであるが。

 強いて言えば。鍛えている横で、真似事くらいはやっておった気がするくらいである。

 

 ふうむ。

 

 しかし、よく見てみれば。いつの間にか、子供には似つかわしくない筋肉がついた身体になっておるな。

 いつからだ。いつから、あの子らは、あんな引き締まった身体に。

 

 そこで、はた。と気が付いた。

 

 急に鍛えた身体になったのは。なにも子供たちばかりではないぞ。

 大人たちもだ。

 てっきり、念に目覚めたからだと。そう思っておったが、違う。

 念に目覚めたからといって、急に体つきが変わったりはしないはずだ。

 

 あの主人公、ゴン=フリークスも、念に目覚めていきなりゴンさんにはならなかった。

 なっていたら怖いし、そんな衝撃的にすぎる展開があったならば、さすがに覚えている。

 

 ならば他に何か。何か心当たりは無いものか、と思い返せば。彼らがクルダ族と名乗りだした頃でもあった、と思い当たった。

 

 いや、しかし。まさか。

 まさか名乗ったからといって。

 名前に影響されて、存在が変化するとか、ないであろう。

 

 神さまや妖怪じゃあ、あるまいし。

 

 

 ところで。

 

 

 ここに、尻尾が二股に分かれた、妖怪がおるじゃろ?

 

 

 違うのだ。

 なにかは解らぬが、違うはずなのだ。

 だって。だって、我輩は。彼らが無事にすむように、と。ただ、それだけを思って。

 そう。ただ。

 

 

 良かれと思って

 

 

 それか。

 

 過去に。我輩がそう思って、実行した。その結果の数々が脳裏によみがえる。

 

 ヒマ潰しになるかと、我輩のボスこと死柄木 弔(本名:志村転狐)に読み終わったジャ○プを渡したら、中二病への道を歩みだした。

 

 そういえば。ボスにはゲームも教えてしまったな。今思えば、あれは原作補正さんへの援護になるので、問題なかろう。

 

 黒い人こと黒霧に、ボスと一緒に花束を贈った。母の日にカーネーションを。たいへんに感謝されて、逆に戸惑った。

 

 緑谷少年に、個性を渡そうとした事もあったな。自爆の個性だったので、断られてしまったが。まともな個性だった場合、どうなったのであろうか。

 それと彼に度胸をつけようと、風俗に連れて行ったりもした。まあ、結果はウザさが増加して失敗となってしまったが。

 それでも彼の人生経験とはなったと思うので。まあ、よしとしよう。

 

 改造人間である脳無を量産していた医者の人に、人間ではなくゴリラではダメかと聞いてみた結果。採用されて、脳無がゴリラだらけになった事もあったなあ。

 細かいことは覚えておらぬが。そのついでで、国会議員らを洗脳して。特殊刑事課を警察に作らせたのは覚えている。

 

 ボスとの話し合いで、女幹部を採用しようと決定した事もあった。それでもって。なぜか、オネェのマグ姐さんをボスが採用してきたのだったよな。

 結果。マスキュラーの採用が早まって、彼に殺害されるはずであったヒーローの夫婦が、生き延びた。

 そして、ワイプシのマンダレイさんがコブつきにならずにすんで。恋人ができておったっけ。

 

 ステインさん関係でも、色々とあったな。オールマイト信者の彼が喜ぶかと思って、引き合わせてみたのだが。思えば、あれが彼の師匠生活の始まりであったなあ。

 緑谷少年の面倒を見て。S少年こと心操少年を鍛えて。しまいには、我輩すらも弟子入りしておった。

 我輩だけ、なぜかダンスを仕込まれたが。

 

 逆に我輩が鍛えた切島くんは、うっかり鍛えすぎて危険人物になってしまったのだが、緑谷少年とS少年はまともに育っておった。

 

 ステインさんはPVも撮ったっけ。なぜだか。本当になぜだか、先生ことオールフォーワンも出張ってきてしまって、ヒドい事になったのである。

 

 十八禁ヒーロー、ミッドナイトにお相手を見つけてあげようと、周りの男性教師らを軽く洗脳した事もあった。

 結果、相澤先生が別の女性と結婚しておったが。

 そういえば。ミッドナイト自身は、どうなったであろうか。我輩がムショ入りして以来、調べていないのでわからないぞ。

 だが。

 結婚できている気が、不思議とせぬのはなぜであろう。

 

 良かれと思って。洗脳した政治家らに、色々と法律を作らせたりもした。

 ヒーローに階級や種別が出来たり。警察に変化が起きたり。

 ちょっとばかり、財界にも動きが出て、新しいグループが出来たり。

 結果、我輩に収入が増えた。

 おお。なんかヴィランっぽいであるな! 今更ながらに気が付いたのである。

 

 他にも、何が直接の原因であったのかは、とんと見当もつかぬが。

 ヴィラン連合の面々が、ボスを筆頭に、ユカイな面々になってしまったり。

 先生が、ロマン優先の魔王になってしまったり。

 我輩が、らしくもない事をしてしまったり。

 

 まあ、色々と。色々と、あったのである。

 

 それだけ実績のある、良かれと思って、だ。

 今現在、目の前で繰り広げられておる、クルダ族の戦いも。まあ、納得しようと思えば、できる。

 無理やりではあるがな。

 

 だが、しかしだ。

 

 あそこで、ピエロのメイクした人が、クラピカを口説いてるのは納得いかないんですけど。

 

 いや、確かに天空闘技場は、あなたの生息地のひとつですけども。

 まだ200階まで行ってないんですけども。

 

 どっから出てきた。ヒソカ。

 

 

 



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オマケ3end

リハビリは終わった気がするけど
本来の続きを書きに戻れない件


 我輩は猫である。ゆえに、ふらりとどこかへと消えても良いのではなかろうか。

 近頃は、そんな気になってしまっておる。

 

 そろそろ旅に出てもいいのではないかなあ。

 だが、しかしだ。

 この、黙っておってもご飯が出てくる。ごろごろして。寝て。気が付いたらもう一日が終わっておる。

 こんな生活から、がんばって抜け出る気もせんのだよなあ。

 

 ニャー……

 

 はっ。いかん。

 久方ぶりに、ただの猫となりかけておった。

 芸能界デビューして。ウワバミさんの家で、ひたすらゴロゴロしておった頃以来であろうか。

 懐かしいが、懐かしがっておってはいかぬ。この状態は、良くないものだ。

 

 やはり、旅立つしかないか。

 

 幸いなことに。都合がよい事に。丁度あつらえたように。

 今。我輩が、クルダ族や兄弟たちの前から消えたとしても、なにも問題はないようになっておるのだ。

 

 というのも、だ。原作補正さんが、仕事をしてくれたのであるな。

 

 

 よその原作補正さんが、であるがな。

 

 

 その結果。

 

 

 クルダ族。マジクルダ族なのである。

 

 なんかね。教えてもいないのにね。

 我は無敵なり。とかつぶやいてね。自己催眠からの、潜在能力の開放とかやりだしたのだな。これが。

 

「二階堂流平法 心の一方影技 憑鬼の術」

 

 いや、違うから。

 だいたい合ってるけど、影技とか変なところでカブってるけど、違うから。

 

 ……違うよね?

 

 うん。違う、違う。たぶん違うはずである。

 ただ、背車刀のシーンは、実写の方がカッコいいという事は確かである。

 

 

 え~っと。なんであったっけ。

 

 クルダ族が天空闘技場で稼いで、生活がいきなり豊かになった話であったっけ。

 

 彼らは。閉鎖的な村で、隠れ住んでいた。閉鎖的だが素朴な村人たちであった。

 それがいきなり都会へ出て。物質文明の便利な生活にドップリと漬かって。

 しかもその手段は、人を殴って倒すことで。おまけに、勝てば生活が豪華になる上に、褒められるのだ。

 

 優しい人たちであった。

 厳しい人たちであった。

 そんな彼らが、これ以上変わって行く様を。我輩は、見たくはないのだ。

 

 だいたい、我輩のせいではあるけどもな。

 

 この間。男連中が風俗とか行ってて、女衆に怒られておったし。

 クラピカも連れて行かれておったのが、また火に油を注いでおった。

 彼(?)にどんなサービスを受けさせたのか、気にはなるが。女衆の怒りが怖いので、触らぬなんとやらにタタリなし、である。

 

 まあ。そんなわけである。

 クルダ族は経済的にも、当面問題はなさそうであるし。

 誰かが勝ち抜いて、フロアマスターにでもなれば、防犯もバッチリな住処が手に入る。

 

 どこぞの道化が怖いが。

 そこは我輩では、どうにもならぬので。

 いずれ折りを見て。

 

 ヒソカの団員の入れ墨はシールです。旅団に入った振りして、企んでます。

 

 こんなメールを、適当な誰かに送ろうと思う。

 メールでなくとも、適当なネットの掲示板への書き込みでも良いな。

 その場合は。旅団の入れ墨シールを貼っている、なんちゃって盗賊だという書き込みになってしまうが。

 

 だから、それまで。

 ヒソカのナンパから逃げ続けろよ。クラピカ少年。

 

 

 なお。我が兄弟たちであるが。

 

 ニャーのひとことで、土や木を操って、瞳を出したり、人型に変形させたりし始めた。

 よその原作補正さん。仕事しすぎである。この世界の原作補正さんも、もっと頑張って。

 まだ、我輩のようにしゃべったりはせぬが。それも、もしかしたら時間の問題なのかも知れぬ。

 

 やはり妖怪だったか。

 

 クルダ族の大人たちは、そんな理解を示して、変わらず世話をしてくれている。

 人間に対しては塩対応が多いのであるがなあ。

 自分たちの身体の変化。隠れ里から天空闘技場への環境の変化。我輩たち。

 そういう。人間以外への対応は、ちと。少し。なんといおうか。適応力が高すぎると思うのだ。

 

 ありがたくは、あるのだがなあ。

 

 それも、まあ。ここまでである。

 これ以上付き合っていくのが、なにやら怖くなってきたので。

 おさらばである。

 さあ、風立ちぬ。いざ生きめやも。

 しゃべる猫が、この世界でどういう扱いを受けるのか。まあ、ろくな事にはなるまいが。

 それでも。生きておれば、きっとどこであれ、人生は楽しい。

 

 

 




●二階堂流平法
るろうに剣心より。
本編終了後の北海道編をやっておったところ、作者がロリもの所持でとっ捕まって、連載中断の危機に陥ったが、無事再開された。
それとは関係なく、週刊ジャンプ連載時に敵キャラとして登場した、鵜堂刃衛さんの使う流派。なおこの流派も背車刀という技も実在した。
瞬間催眠術な心の一方も、使い手はいたらしい。が、仕えていた大名の親子ゲンカでうっかり人死に出しちゃって逐電。からの刺客を送られての、だまし討ちされて死亡したので、継承者がおらずに失伝している。もったいない。

実写の映画版で、吉川浩司が演じる鵜堂が背車刀を繰り出すシーンは、本当によくできた殺陣であり、一見の価値アリ。そのシーンだけ動画サイトで探してみるのもいいだろう。


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オマケ3 endと言ったな。あれはウソだ。

自分が知っている、珍しいジャンルや原作の二次を見つけると、ちょっとうれしい。
あると思います。

ローレンシウ氏の 央華封神・異界伝~はるけぎにあ~ を推してみる。
内容を一言で言えば、TRPGの央華封神のキャラがルイズに召喚されました。となります。
ルイズに召喚されましたスレでも、別系統の術や魔法を使うキャラのものは当たりが多かった気がする。いい感じで続いてるので、このまま行って欲しい。


 我輩は猫である。そう言い張る勇気を、最近ようやっと身につけたところだ。

 まあ。色々とあったのだ。その程度の芸は、我輩と言えども身に付けるというもの。

 

 うむ。本当にあったのであるよ。もう。色々と。

 

 旅に出た当初から、ひどかった。

 こちとら猫であるからして。基本の移動手段として公共機関を使っておって、それをタダ乗りしておったのだが。

 

 船で見つかって、海へと捨てられた。

 

 なにをするきさまー。

 

 そう叫んで、夜の海へと消えていく我輩に。「えっ、しゃべるのお前」という顔をしていた船員よ。

 お前のその顔は忘れんぞ。

 そもそも。船であろう? ネズミ対策に、猫の一匹くらいは置いておけというのだ。

 

 そうして我輩は漂流した。

 三日三晩、漂流した。

 

 ちょっとウソついた。実際は一日半である。

 

 その間。すさまじくヒマであったのは、変わらぬのであるがな。

 あの船員への捨て台詞は、やーなかんじー。の方が良かったであろうか。そんな事を考えるほどヒマであった。

 

 他にも、海鳥を見つけたら海岸が近いシルシであるので、カモメやウミネコを探したり。

 偶然に通りかかった鯨を見物したり。

 鮫だけは来てくれるなよ。と祈ったり。

 この追い詰められた状態で、秘められた能力が…? と少しドキドキしたり――まあ、結局。覚醒などはなかったが――

 今、思い返せば。わりとのん気に漂流しておったわけだが。

 

 幸いなのは、この身体。

 生まれてこの方、飢えや渇きを知らぬのだ。

 

 やはり妖怪なのではなかろうか。

 

 いや。妖怪でも、猫であるからセーフ。ほら、猫娘さんとかは、複数回の外見変更で萌えキャラにもなっておるし。

 実際。役立ったからセーフ。セーフである。

 

 とまあ。そうやって、なんだかんだで生き残ったわけであるが。

 結果、たどり着いたのは島であり。

 その島の名前を、くじら島と言った。

 

 はい、そこ。

 

 あっ……

 

 と、悟らない。察しのいいガキは嫌いなのだ。

 

 いや、確かに。ゴンさんには出会ったのだが。

 そして、少しばかり鍛えてしまったりもしたのだが。

 まだカメ○メ波までは撃たなかったから、セーフ。セーフである。

 

 セーフであると、言い張る勇気…!

 

 ただ。

 悪い例として、だが。

 クラピカの事を話してしまったのは、間違いだったのかも知れぬ。

 

 とある、夢を見たのだ。

 

 ピトーという、ネコ型キメラアントを相手どったゴンが、覚悟を決めてしまう夢だ。

 原作であったならば。カイトのカタキをトルノデス! と。

 もう二度と念を使えなくなってもいいという覚悟……!

 でもって。一時の、だが強大な力を得ておったゴンさんであるが。その代わりに、とある事をしてしまっておった。

 

 ゴンさん。素手での去勢を実行。

 

 もう二度と○精ができなくなってもいいという覚悟…!

 あと子供も出来ない。

 そんな代償と引き換えにした力を振るう。あれは強大ではあるが、悲しい力であった。

 

 あとでキルアが必死こいて、回復させようとしておったがな。

 

 回復を願われたキルアの妹の顔が、なにやらよくわからぬが、味わいのある表情をしておった。

 それが妙に、印象に残っておる。

 

 とはいえ、あれは夢である。

 ただの夢ということに、しておこう。

 夢であると、言い張る勇気…!

 

 

 ああ、そうそう。クラピカであるが。彼(?)とも、意外なところで再会した。

 トリックタワーである。

 

 あれは、飲食不要ではあるが、別にできぬわけではないので。美味そうだった果実を、つい盗み食いして捕まった時のことだ。

 しゃべることができる、よくわからぬ生き物。ならばもしかしたら、念能力者かも知れぬ。

 そんな理由で、トリックタワーにブチこまれてしまった時だ。

 彼らを邪魔する側である、囚人の一人として。

 我輩は、クラピカと再会した。

 

 その隣で、ヒソカが彼氏ヅラをしておったがな。

 

 実際に付き合っておるのかどうかは、知らぬ。

 ただ、手は繋いでおった。

 

 くわしく聞きたくはないな。

 

 そう思った我輩は。他人のフリならぬ、ただの猫のフリをしてみた。

 通じなかった。普通に見破られた。久しぶりですね、とアイサツされてしまった。

 

「よくぞ見破った。もうお前に教えることは何もない」

 

 そう言って、彼らをほぼ素通りさせてしまったが。

 我輩は、悪くないと思うのだ。

 

 今思えば。原作と話の展開が、違っておったようであるが。

 そんな細かいことは、もうどうでもいいのではなかろうか。

 

 なお、我輩。その後に来てしまったゴンさんに、お持ち帰りされる。

 

 実はただの窃盗でしかないので、とっくに刑期は終わっていたらしい。

 トリックタワーの所長の趣味で、ペット扱いで留められていたのだそうな。

 どうりで。やけに我輩だけ、待遇が良いと思ったのである。

 普通の囚人に、昼寝とオヤツと散歩の自由は無い。

 

 そういうわけで。自称飼い主であるゴンさんが現れたのなら、渡さざるを得ない。それが所長の判断であった。

 

 そうして我輩は、ハンター試験の最後までを見届けて。

 途中でハンター協会の会長と試験官らに、アリの事を吹き込んで。

 うさん臭そうな目で見られたので。

 

 これも全部パリストンってヤツのせいなんだ!

 

 と、主張して。信憑性と説得力を持たせたら。なぜか一発で納得されたり。

 暴走するキルアをゴンさんが殴って止めたら、逆にゴンさんが失格になりかけたり。

 ああ、いたいた。と。ポックルのことを思い出したり。

 キルアのお兄さんが、キルアを連れ去ったんで、有志のみんなでゾルディック家へという原作展開は守られたり。

 しかし、なぜか主人公らの中に。ヒソカが、シレッとした顔で混ざっていたり。

 我輩が、この先の戦いについてこれそうにないからと、放流されたり。

 

 まあ。色々とあったのである。

 しかしながら。まだ我輩は、生きておるわけで。

 ならば気ままに、ふらふらとこの世界を生きるのみである。

 はてさて。

 まずは。どちらの方角へと、向かうであるかなあ。

 

 

 




●なにをするきさまー
ロマンシング・サガより。ねんがんのアイスソードをてにいれたぞ!と喜んでいるキャラを前に、ころしてでもうばいとる という選択肢を選ぶと、戦闘すらなく倒せてしまっていた。その時の断末魔がこれである。
リメイク版では、戦闘させてもらえる。良かったね、ガラハド。

●察しのいいガキは嫌い
鋼の錬金術師より。序盤のみんなのトラウマ、タッカーさんのセリフ。
正確には「君のような勘のいいガキは嫌いだよ」
内容が少しアレなので、詳しくは各自の自己責任で。

●猫娘
ゲゲゲの鬼太郎より。5期より萌えが彼女にまぶされた。
結果、ウス=異本の餌食に。

●カイトノカタキヲトルノデス!
エルシャダイより。そんな装備で大丈夫か? 話しをしよう。あれは… など、数々のネタを誇るゲームの、ネタのひとつ。
セリフ後半のイントネーションがおかしく、カタカナ表記がしっくりくる。オトウトノカタキヲトルノデス! なおゲームに、その弟らしき存在は登場しない。

●素手での虚勢を実行
シグルイより。
武士道とは死ぬ事と見つけたり。で有名な名著、葉隠れの一節、正気にては大業ならず。まこと武士道は死狂いなり。からタイトルを取っただけあって、登場人物が誰も彼もアレである。
江戸初期の、剣豪ものではあるのだが……作者が覚悟ノススメや衛府の七忍などの人なので、そういうノリだと察していただきたい。
その登場人物の一人、牛股権左衛門が素手での去勢をしちゃっているのだ。
故郷に許婚がいて、一人前の剣士になったら結婚の予定があったのだが、それを知った師匠に冷遇されていたのを、そのおかげで一発逆転。師範にまで出世させてもらった。
ゴン左衛門だけあって、ムッキムキである。力だけなら作中最強。


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オマケ3 fin

毎回毎回、マジで続かないはずなんだけどなあ……
なぜかシーンが思い浮かんで、書き出したら一気に出来上がります
アリ編はエサになる未来しか見えないので、多分ここまで。のはず。


 我輩は猫であった。

 過去形である。

 名前はまだなかった。

 これもまた、過去形である。

 

 今まで我輩は、いくつもの世界で。いくつもの人生を歩んできた。

 中には。人生というのには、短すぎるものもあるが。

 どれもこれも、短いわりには濃かったので。人生と言い切る勇気には、不自由せぬ。

 

 それでだ。それぞれの世界で。我輩は別の姿を取ってきた。

 基準は解らぬし、自分で選べた試しはないのであるが。

 

 そして最初の。もしくは、二度目の。

 ネコとしての人生では最初の。ヒトとしての人生では二度目の。

 あのヒーローとヴィランのおる、僕のヒーローアカデミアの世界のみを別として。

 我輩は。何らかの元ネタのある、猫系のキャラクターの姿となっておった。

 

 この世界でも、そうであったらしい。

 つい先ほどまでは。何のキャラクターであるかは、気付いておらなんだのであるが。

 

 

 我輩は、マタムネである。

 

 

 シャーマンキングなる漫画に登場した、ラスボスの前々世の飼い猫である。

 いや。前々前世だったかもしれぬ。

 ともあれ。死後に精霊化して、ラスボスの子孫の持ち霊として、ラスボスの前世に挑んで勝利した。前作主人公の仲間とでも言うべき存在である。

 能力としては、バカでかい刀を具現化できる。そして刺す事で、霊的な存在を、克殺なる方法で除去する事ができるようだ。

 

 まあ、平たく言うと除霊なのである。

 でもそれってこの世界だと、除念って言わないか。

 

 あとマタムネは、千年前のラスボスの力で具現化していて。力を使い切ったら消滅しておった。

 我輩もそうではないという、保証はどこにもない。

 

 だがしかし。その辺のことは、ひとまず置こう。

 考えても、おそらく答えは出てこぬ。いつもの如く。行き当たりばったりで、何とかするしかあるまい。

 

 さし当たっての問題は、だ。

 

 

 そこに。我輩の死体があるじゃろ?

 

 

 尻尾が二本ある以外は、何のことはない。普通の猫の死体であるのだが。

 マフィアやら。ゾルディック家やら。クモの旅団やら。クラピカやら。

 その他諸々の。居合わせた者たちの抗争に、巻き込まれてしまった結果である。

 

 それで死んだと思えば、こうして幽霊のようになって。

 和服を着込んで、キセルをくわえておって。

 そのキセルに、力を注げば。柄だけで、成人男性の身長ほどはある巨大な刀が出てきたわけで。

 それで、ようやっと。今世の己というものを知ったわけだ。

 

 うん? それはそれとして、抗争が気になる?

 というか、お前、死ぬのかって?

 

 失敬な。我輩とて、死ぬ時はアッサリと死ぬのである。たぶん。

 なぜか自信を持って、断言はできぬが。

 

 それと、抗争であるが。

 まず。舞台はヨークシンである。これは原作補正さんが、頑張った結果だと思われる。

 

 

 ただ。頑張りすぎたのであるな。

 

 

 まず大前提として。クラピカは復讐に生きておらなんだ。

 だってクルタ族は、クルダ族として、天空闘技場でもはや名物となっておるし。

 クルダ族串焼きや、クルダまんじゅうとか売ってるらしいぞ。

 だからクラピカは。復讐する相手、クモを探してはおらなんだ。

 

 はずであった。

 

 旅団がどこからか。ヒソカが旅団には入ったフリだけしておる、偽りの仲間であると聞きつけて、彼を始末するまでは。

 

 どこから聞きつけたのであろうかなあ。

 我輩には、とんと覚えが無いのである。

 

 と、いう事にしておこう。

 しておいてください。お願いします。ほんの出来心だったのである。

 完全犯罪だから。何人たりとも、我輩の仕業であるとは気付けないから。

 だからセーフ…! 圧倒的セーフッ…! 犠牲者はヒソカだから、社会的にもたぶんセーフ…ッ!

 

 

 はなしを、もどそう。

 

 

 ヒソカが亡くなったのは。

 快楽殺人の異常者がひとり、世間から消えた。そういう事であったのだが。

 それだけでは、終わらなかった。

 

 彼にも、友人がおったのだ。

 クラピカである。

 

 友人だった。という事にしておこう。

 

 ユウジョウ!

 

 そういう事である。いいね?

 

 しかもだな。

 ヒソカのヤツがなあ。最初から裏切るつもりであったのがバレて、粛清されたというのを、クラピカには隠し通して死におってなあ。

 

「キミのためだよ☆」

 

 などと、テキトーなウソを吐いてから死におってなあ。

 もうクラピカの中では、ヒソカの株の上昇が止まらないのである。

 なにせ『大事な人』である自分のために、仲間であったはずの旅団を裏切ろうとして殺されてしまったのだ。

 

 愛のために戦い、死ぬヒソカとか、どういう事なのであろうか。

 別に我輩は、彼には直接はほとんど関わっておらぬのであるが。

 

 まあ。それはそれとして、だ。

 友人の敵討ちへと動いたクラピカであったが。そこへ助っ人が現れたのだ。

 それが、ゾルディック家である。

 キルアの兄のひとり、イルミ。彼も、ヒソカの友人、のようなもの、であったらしい。

 格安での、クモの抹殺依頼を持ちかけてきたのだ。

 

 なお。旅団は、ゾルディックの当主が割に合わない、というほど手強い相手である。

 だというのに、格安になった理由であるが。

 ヨークシンのオークションの出品物を、丸ごと盗もうとしているというタレコミが、マフィアにあったらしいのだ。

 そして、なにやらそれを裏付けるような予言もあったらしいので。旅団相手への暗殺依頼が、ゾルディックへと出ていたのだそうな。

 

 つまりは。ただの料金の二重取りであるな。

 

 少し前まで、クラピカらはゾルディック家で、なんやかんやしておったらしいので。

 仕事に巻き込んでも、殺さない。むしろ味方をしてやる。

 そういう心遣いだったのかもしれないが。

 

 しかしながら。マフィアにタレコんだのは、誰であろうか。

 これは本当に、我輩に心当たりはないのだが。

 そこらへんのことを、ポロッとレオリオあたりに話した覚えはあるが。彼にマフィアとのつながりなぞ、無かったはずであるしなあ。

 

 はてさて。

 町のあちらこちらから、銃やら爆発やら悲鳴やらが聞こえるし。まだ、抗争は続いておるようだ。

 力は手に入れたが。積極的に使っていくのは、やはり性に合わぬし。

 何より、寿命が縮むやもしれぬから、ナシである。

 

 ふうむ。

 

 とりあえず。

 自分の遺体を自分で埋葬するという、稀有なる経験でもするとしようか。

 面白くはなさそうだが。人生、何事も経験であると言うし。

 だがここ、都市なのであるよなあ。

 どこか、埋められるような場所は、近くにあるだろうか?

 

 




●ユウジョウ!
ニンジャスレイヤーより。外人が思い描く、勘違いしたニッポンを全力で再現するマンガに登場する、アイサツの一種。
アイサツは、ジッサイダイジ。


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オマケ3 finfinfin

ハンター世界、意外と遊べる……
それはそれとして、GANTZ氏の GANTZ観察日記 を推してみる
原作を良く知らなくても、読める。蔵野くんが入るチームで、蔵野くん加入前から生き残ってきたオリ主のお話。
オリ主の師匠になるおっさんがいいキャラです。


 我輩はネコである。

 そういえば、そういうヴィランネームであったので、これなら堂々と言い張れるのであるな。

 これで少し、落ち着いた。

 前回に引き続き。ヨークシンでの騒乱へと巻き込まれてしまっておって、落ち着くどころではなかったのだ。

 

 そのわりには、余裕があると思うかね?

 ただの、現実逃避である。現実は非情なのだ。

 

現実(リアル)なんてクソゲーだ」

 

 とある神様も、そう言っておったなあ。

 

 まあ、我輩が生きているこの世界が、現実かどうかは怪しいものだが。

 それはそれ。意思と精神と自我を持って、活動しておれば。目の前の出来事は、すべからく現実である。

 少なくとも、当人にとってはな。

 

 そもそものはなし。我輩は二次創作のオリ主であるからして。

 そのあたりの事は、深く考えてはいけないと思うのだ。

 

 さて。

 

 そろそろ、目の前の現実とやらに目を向けようと思う。

 ちょうど、最高潮。宴で言えば、たけなわといったところのようであるし。

 

 

「私は無敵! 私の一撃に敵う者なし! 私の一撃は――――」

 

 普段よりも一回り以上大きくなっておるクラピカが、強力な自己暗示で潜在能力を引き出そうとしておる。

 大きくなっているのは、彼(?)の念能力らしい。

 どうも、理想の自分を具現化して、着込んでおるようだ。

 

 原作では、色々とできる鎖を何種類か具現化しておったのだがなあ。

 どうもクルダ族補正でも働いたのか、脳筋方向に能力が変わってしまったらしい。

 

 あっちの原作補正さん。もうちょっと自重して。あなた働きすぎよ。

 

 なぜか出てきた、オネェ口調で祈りつつ、相手の方を観察する。

 その相手とは、半裸で筋肉の人。ウヴォーさんだ。

 うむ。原作通りであるな。よし、いいぞこっちの原作補正さん。その調子だ。地元なんだから頑張れ。

 

 ウヴォーさんは、特に何も口にはせず。ただ、うれしそうな。凶暴な笑みを浮かべて、拳を握りこんでいる。

 大技が来るとわかっているのに、避けるとか防ぐとか。あるいは出させないとか。そういうつもりはサラサラないようだ。

 どう見ても、迎え撃つ気満々である。

 

「あれで良いのであるか?」

 

 さすがに疑問に思ったので、隣の人に聞いてみた。

 誰かって? 旅団のシャルナークって人である。

 

 うむ。我輩、捕まったのである。

 

 とは言え、別に人質とかそういうのではない。

 服を着て、二足歩行しておる猫という珍しい生物を見つけたら。普通は捕まえようとするのであるな。

 

「誰だってそーする。俺もそーする」

 

 我輩を捕まえにきたのが、オッパイの大きなメガネの娘だったので、大人しく捕獲されたおかげなのであろう。

 連れ歩かれされてはおるが。わりと自由である。

 

 抵抗せずに捕まったのは、相手が強そうだったからだけではない。

 無論、それもあるが。少しまた、例のアレをやってしまった後で、精神的に疲れていたせいでもある。

 アレというのは、アレだ。つまりは。

 

「良かれと思ってぇ!」

 

 コレであるな。

 我輩はいったいぜんたい。いつになったら、この言葉から開放されるのであろうか。

 

 だが違うのである。聞いてくれ。

 我輩には。悪意などカケラも無かったのだ。

 善意しか、無かったのだ。

 ほんの少しの好奇心くらいしか無く。それも、彼女の本当の顔が見たいという、それだけであった。

 

 端的に。あった事を言うならば。

 

 

 センリツを見かけたので試しに除念してみたら、デスメタルに目覚めた。

 

 

 こうなる。

 

 何がどうしてこうなった、と思うであろう? 我輩も思った。

 それもデスメタルと言っても、デトロイトって付くのである。レ○プって一秒に十回言っちゃうノリである。

 

「あの日の思い出など 真赤な血のメロディに染めてやるわーー!」

 

 そう叫んで、フルートを吹き始めた彼女に。我輩は、なんと声をかけたら良かったのであるかなあ。

 

 やはり呪いを解いた礼にと、一曲頼んだのが SAT○UGAI だったのが悪かったのであるかなあ。

 

 黒のなんちゃら*1という楽譜を演奏して。その結果あの姿になってしまった彼女に。クラウザーさんのソウルは耐えられなかったのであろうか。

 でも本人は幸せそうであったし。

 あれはあれで良かった。そう、思っておくのである。よしと言い張る勇気…!

 

 

 閑話休題。

 

 

 で、なんであったっけ。

 ウヴォーさんが脳筋だけどいいの? って聞いたところであったっけ。

 

 なんか。いいらしい。

 

 どうせ旅団は終わりだろうからね。

 シャルナークは、醒めた表情でそう言った。

 

 ゾルディック家の祖父、父、長男の三人がかりで、団長が殺られてしまったそうなのだ。

 さらに何人かは、仇を取ろうとして返り討ちに。

 

 元々、サークルのようなもので。普段はバラバラで、集合がかかった時だけ、やりたい奴が集まって、何かをする団体であったので。

 強制的に集合をかけられる団長が居なくなり。人数も減ってしまったら。

 後に残っているのは、自然消滅という道しか見えないのだそうな。

 

「どうせ終わるなら、せいぜい派手に終わるのもいいだろうさ」

 

 影門刺殺技 裂破(レイピア)ぁ!

 ビッグバン・インパクトォ!

 

 やさぐれたオーラを垂れ流すシャルナークの台詞と同時に、クラピカとウヴォーさんの決着も付いた。

 勝利したのは、クラピカ。

 お互いに、おそらくは一点に集中した念のぶつけ合いだった。

 勝敗を分けたのは、突きと蹴りの違い。武技言語の自己暗示と具現化した身体による強化。そのあたりだと思う。

 だが倒れたウヴォーさんは、満足そうな顔であった。

 

 それを見届けて。残っていた旅団の面々が、別々の方向へと消えていく。

 彼らが旅団として活動する事は、本当にもう無いのかもしれない。

 終わりというものは。時にこのようにあっけなく。だが、くつがえしようも無く。突然に襲ってくるものなのだろう。

 

 ところで。

 

 シャルナークさんや。なぜ我輩を、お持ち帰りしようとしておるのですか?

 さきほど流れ解散になったことですし。我輩も、自由にさせていただきたいのですが。

 

 えっ。我輩を売って、当座の逃走資金にする?

 

 いや、待って。お願いだから待って欲しい。

 この世界で身柄を売られるって、絶対悲惨な事になるじゃないですかやだー!

 

 そうだ。お金! お金になる情報持ってますから! 心当たりあるでありますから!

 シャルさん。シャルさん! 一緒に、グリードアイランドでお金儲け、しませんか?

 

 

 

*1
正確には闇のソナタだが、ネコは細かい事を忘れている




おかしいな。書き始める前は、シャルナークの出番はないはずだったんだが。
では解説~

●現実なんてクソゲーだ
神のみぞ知るセカイより。週刊サンデーに2014まで連載。
現実と書いてリアルと読む。ギャルゲーをこよなく愛する主人公、通称落とし神のセリフ。彼に口説き落とせない攻略キャラはいない。例えバグまみれであろうとも。

他にも、体育だったかの教師の、お前のようなゲームばかりやってるヤツが~ というテンプレな台詞に「ゲームはゲーム。現実は現実だ。ゲームと現実をゴッチャにするな」と言っていたのが記憶に強く残っている。

●デスメタル
DMC(デトロイトメタルシティ)より。
クラウザーさんは偉大である。
言葉では伝えられないと思うので、原作か動画でお願いする。検索検索ぅ!
歌詞が書けないので、楽しさを伝えづらいというのもある。オノレカスラッ○

●裂破
ライダーキックである。(だいたい合ってる)


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オマケ3H×H G・I編

終わらせなければ 始まらない(サイボーグ009Re:Cyborgより)

だが始まる前に、終わらせていくスタイル…!


なお今回の推しはhige2902氏の【完結】偶像の象り
原作:ヒロアカ。タイトルどおり、完結済なので安心して読めます。全11話、約8万文字
爆発の個性持ちのでっくんと、無個性かっちゃんという個性が逆のパターン
だがかっちゃんがサポート科に進んでたりと、一味違うよ


 我輩は猫である。

 頭に 化け と付きはするが。それでも、きっとおそらく。猫科の存在ではあろう。

 

 生き物かどうかは。はてさて。実は全く自信が無い。

 ほら。この間、一回死んで、死体も残って。埋葬までしてしまったがゆえに。

 

 だからこそ。こういう事もできたりする。

 

「おお。おお! ここが。ここがグリードアイランドか! ここが。 ここなら……」

 

 我輩の目の前で。いい歳をした、初老に足を突っ込んだ、身なりの良い男が泣いておる。

 長年追い求めたが、もはや叶わないだろうと、半ば諦め。すでに惰性でもって、銭を注ぎ続けておった夢。

 それが思いがけず、実現へと近付いた。

 その事実へと、感動と涙を禁じえない。そんな姿であった。

 

 そんな彼に気付かれぬよう、気を使って護衛の人に退治されてしまう乱入者もおったが。

 空気が読めない、とか。間が悪い、とか。そういうのも時に命取りになるのだし。

 そういうものの処理も、護衛の仕事のうちと考えれば。まあ、良いのではなかろうか。

 

 護衛のゲンスルーさん。お疲れ様です。

 

 

 

 うむ。ゲンスルーである。

 

 

 

 本来ならば。ゴンさんがここ、グリードアイランドへと来た時の、ラスボスであるな。

 何年もかけて、ゲームの中で協力者を増やし続け。そのほぼ全てに、念による爆弾を埋め込み続けていた危険人物。

 

 そして泣いていた老人、バッテラ氏の雇った男でもあるのだな。

 

 バッテラ氏という人物は、だ。

 総資産がよくわからないくらいにある、大金持ちで。このグリードアイランドというゲームのクリアに、五百億という懸賞金をかけていて。そのために、百人ほどの人間をゲーム内へと送り込んでいる。

 そんな、物好きな道楽者である。

 

 表面だけ見れば。であるが。

 

 彼の真の目的は。

 十年以上も意識が戻らない恋人の治療と。彼女との人生をやり直すための、若返り。この二つなのだ。

 

 グリードアイランドは、念能力者専用のゲームであり。クリアした者は、報酬としてゲーム内のアイテムを現実世界へと持ち帰ることが出来る。

 そしてゲーム内には。魔法や、魔法の道具とも言うべき、様々な不思議なアイテムが存在するのだ。

 その中に、治癒と若返り。この二つを叶えてくれるアイテムもまた、実在するというわけだ。

 それらを持ち帰って欲しくて、バッテラ氏は銭をつぎ込んでおる訳であるな。

 

 でも、別にクリアしなくてもいいよね。

 

 ゲームに入ってしまえばいいのだ。

 バッテラ氏個人なら、念を覚えてもらっても良かったが。時間がもったいなかったので、我輩が取り憑いた。

 

 憑依合体である。

 

 我輩の今の身体、マタムネは霊であるからして。他人に取り憑く事ができるのである。

 その状態で、我輩の力を引き出したりできる存在をシャーマンと呼ぶが。まあ、それは今は良かろう。

 大事なのは、この裏技が通った事だ。

 グリードアイランドには、受け付けのお嬢さんが二人おるが。彼女たちは、この方法を認めてくれた。

 

 最初は、シャルさんの操作でイケるかと思ったのであるがなあ。

 操作させて、一時的に念を身体とコントローラーに纏わせてグリードアイランドへ。そんな事を、考えておったのだが。

 そっちは過去に試してみた、数をそろえてクリアしようとした人がおったらしく。すでに禁止されておるのだそうな。

 

 人海戦術で力技でクリアというのは、美しくないでしょう?

 というのが、受け付けの人のお言葉である。

 

 バッテラ氏も、百人ほど送り込むという人海戦術を取っておるが。

 懸賞金目当てで、みんな足の引っ張り合いをやっておるので。結果、セーフなんだとか。

 

 なんというか。何とも言えぬことであるなあ。

 

 

 なお。シャルさんは、バッテラ氏が乗り込む前にゲームに送り込んであって、すでに諸々のお仕事をしてもらってある。

 

 ツェズゲラだったか。バッテラ氏の雇ったチームの中で、最もゲームが進んでいるところと連絡を取ってもらって。

 もうクリアはいいからと。その代わりに、二百億の報酬で働いてもらうと、話をつけたり。

 

 呪文カードを収集、独占しようとしていた、通称ハメ組。彼らを率いつつ、一気に始末できるよう念の爆弾をこっそり仕込んでいたゲンスルーさんたちにも話をつけてもらったり。

 

 ただゲンスルーさんらの方は、だ。話し合いに持ち込むまでに、なにやらエグい手段を使ったらしいのだが。くわしくは知らぬ。

 しかし、バッテラ氏のお望みの治癒の手段は、彼らの収集していた呪文のひとつであるので。彼らの協力は必須であったのだ。やむをえまい。

 こちらも報酬は二百億。だが払うのは、我輩ではないので。正直、どうでもよろしい。

 

 ちなみにシャルさんの報酬は、グリードアイランドのソフトである。現物支給というと、安い気がするが。

 これもオークションに出せば百億は越えるらしい。

 まあ。シャルさんの目当ては、しばらく身を隠す場所になるという、隠れ家的な使い道の方であろうが。

 

 

 まあ、そういうわけである。

 

 バッテラ氏はもう、プレイヤーを集めておらぬのである。

 ゆえに。次のプレイヤー選考会は、いつかと聞かれても、もうないのだ。

 だから、ソフトは自分でがんばって手に入れてくれ、ゴンさん。

 

 

 




間違い電話で起こされた休日に、なぜか続きが舞い降りたので書いてみたり


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オマケ3 終(マジ)

マジです。ちゃんと終わってます。信じて。


 我輩は猫であった。過去形である。名前はマタムネであった。

 どこで生まれたかはとんと見当がつかぬが、HUNTER×HUNTERの世界でクルタ族の居留地の近くであったのは確かである。

 我輩はそこで初めて、クルタ族はクルダ族になれるのだと知った。

 

 あれは予想外であったなあ。

 

 念能力というもののせいである。とは思うが。

 あとで考えるに、あれは一族で共有する念能力という、特殊な形になっていたのではあるまいか。

 

 そしてこの間。その完成形とも言うべきものが出来てしまった。

 神移(カムイ)*1と、神音(カノン)*2である。さすがに神殺(カオス)*3は無理であったよ。

 

 空牙(クーガ)*4もできたが。

 ただ残念ながら。たとえ五指全部から放っても、だ。

 

 指よりも、拳で放ったほうが強いよね。

 

 そんな悲しい事実が判明してしまってなあ……

 制約でもかけて、技として確立したならば、はなしは別やもしれぬが。

 別にそこまでする理由も見当たらぬので。残念ながら、空牙(クーガ)はお蔵入りである。

 

 ところで神移(カムイ)だが。我輩はこれ、別の呼び名を知っておる。

 

 (ソル)、というのだ。

 

 うむ。アレである。

 麦わらの海賊が主人公の漫画の、アレである。

 地面を蹴って。体が動き始める前に、更に数回地面を蹴る。そんな無茶な理屈の高速移動であるな。

 

 クラピカに、何か奥義のようなものはないのかと聞かれ。

 目にも止まらぬどころか、目に映りもせぬ高速移動、神移(カムイ)

 足からの超振動で、全てを粉砕する、神音(カノン)

 この二つの、別の原作での口伝絶命技を教えた結果、そうなったのである。

 

 神音(カノン)の方は、なぜかすぐに出来てしまったのであるが、神移(カムイ)の方では苦戦しておって。

 それで我輩が、ついつい口出しした結果、そうなった。

 まあ、成功したのであるから、よしとしよう。

 

 なぜ協力したのかと言えばだ。

 原作を崩壊させるため、であるかなあ。

 

 いや。別に原作補正さんをいじめるためとか、試すためとか、鍛えるためではないぞ。本当に。

 そろそろこの世界から、オサラバするためだ。

 

 我輩は抑止力である。

 

 正確には、抑止の側の駒である。

 物事を原作通りに進めて。もしくは、逆に破綻させて。人類存続を確定させるために、英霊の座から放り込まれる英霊のような何かである。

 

 うむ。英霊ではないのだな、これが。

 座へと登録された方法が、聖杯くんと一緒に迷い込んだから、という理由であったからなあ。

 しかも死すべき運命にあった誰かを生かした、という英雄の条件を満たしておって。

 おまけに。瞑想の個性で、別世界へと魂か何かだけを飛ばしておった最中という。

 とどめに。登録されたのは、その時の魂的なものの情報のみで。本体はそのまま帰っていったというね。

 もうね。自分でも、なんというか、よくわからぬ存在なのである。

 

 これもうわかんねぇな。

 

 しかしながらだ。よくわからぬ存在であろうとも、存在しているのだけは確かであり。

 喜んだり、楽しんだり、遊んだり。話したり、企んだり、仕掛けたりするわけである。

 

 人類存続のために何かをしろ。というお仕事のついでではあるけれどもな。

 

 ただ詳細な情報は、なぜだか渡されないことの方が多い。

 ひょっとすればだが。我輩の持つ、原作知識がそれに当たるのやも知れぬ。

 だが達成目標くらいは、教えて欲しいものである。今回も、そこは伏せられておったし。

 

 ただ、ヒントくらいはあった。

 

 クラピカである。

 

 今回の出現位置の近くに、クルタ族の集落があったという事はだ。

 まずそこで、何かしなければならぬ事がある、ということだ。

 と、なるとだ。原作がらみでまず思いつくのが、クラピカであろう。連載再開後は、確か彼が主役っぽい立ち居地にあったことであるし。

 我輩が、彼を強化してみる事にしたのは、そういう理由もあった。のであるが。

 

 どうしてああなった。

 

 本当に。どこから出てきたクルダ族。

 クラピカが誰なのか、よくわからなかったし。ひとりだけ選んで鍛えるのが、不自然かつ面倒であったので、一族の有志を丸ごと鍛えた。

 それだけだったのだが。本当に、それだけであったのだがなあ。

 

 クラピカのヒロインと言えなくもない位置に居た、センリツ。彼女の呪いも解いて、チビでデブで出っ歯でハゲという容姿から、美女に戻したりもしたのだがなあ。

 その副作用*5で、センリツがデスメタルにハマったり。クラピカ自身が去勢したり。むしろヒソカの彼女っぽくなったりで。

 

 どうして、ああなったのであろうなあ……

 

 まあ、なんだ。

 強化とともに、変異も進んで。クラピカ関係のあれこれは、たぶんこれで終了した。そう考えても良いだろう。

 奥義も教えたことであるし。これ以上は、少々思いつかぬ。

 

 だがそれでも終わらぬという事は、だ。

 まだ我輩は、この世界で何かをしなければならないという事。

 

 ふうむ。

 

 とりあえず、だ。

 ネテロ会長が、アリの王を相手に戦って死ぬつもりだと、パリストンを含めた十二支んにタレこんでみるのである。

 まさか死ぬつもりで、毒を振りまく爆弾を心臓に埋め込んでいるとまでは思うまい。

 それを知った上で、それぞれがどう動くかは解らぬが。まあ、何かしらは起こるであろう。

 

 それとゾルディック家のあれこれも、手を出してみようか。

 まずはゴンさん経由で、キルアと話してみる事から始めよう。

 

 グリードアイランドのソフトは、バッテラ氏が懸賞金を取り下げたのもあって、いくつか放出されたし値崩れしたが。それでも、まだ手に入れてはおらぬようだ。

 世間からしばらく身を隠して、グリードアイランドの中に引きこもるシャルさんに、同行させてもらうよう頼んでみよう。

 なあに、ダメならダメで、バッテラ氏に直接頼めばよい事である。持つべきものは、金持ちとのコネであるなあ。

 

 ゾルディック家をどうこうしても、まだ終わらなかったら。

 その時は、もう。暗黒大陸に手を出すのをやめさせるために、ネテロ会長の息子だったかをアレするしかないであるかなあ。

 

 そう、思っておったのだが。

 

 首尾良く、ナニカに「イルミがもう少し、誰にでも優しくなりますように」とお願いする事が出来たのはいいが。

 その代償に。

 

 残りの寿命全部ちょうだい。

 

 そう、お願いされてしまったわけで。

 

 ああ、これが今回の終わり方であるか。

 

 そう、すとんと納得できてしまったわけで。

 

「いいよ」

 

 それだけを答えて。その言葉が消えるのと同じように、我輩の姿は、世界から消えた。

 すでに身体の方は、ヨークシンで死んでおったのだ。体はすでに、念獣であった。ゆえに、何もその場には残らない。

 しかしこの世界には、何がしかのモノを残せた。そういう、自負はある。

 だから、まあ。思い残すところはあるけれども、だ。

 

 おさらばである。

 

 

 

*1
超高速移動

*2
超振動。無空破(足)

*3
超振動する真空という謎存在を複数発生させる技

*4
片手の全ての指先から、空に届くほどの真空の槍を放つ

*5
という事にしておこう




●ナニカ
キルアの妹(?)のアルカに取り憑いているのか同化しているのか、よくわからない何か。
おねだり3つ聞くと、願いを何でも叶えてくれる。マジで何でも。ただしおねだりは内臓ちょうだい、など無茶振りレベルが高く、願いが大きければおねだりも大きくなるぞ。なおおねだりを4回連続で断ると、願う人の大事な人から順に死亡していく。

●これもうわかんねぇな
真夏の夜の淫夢より。
無駄にネタ力が高く、世界に通用するレベルになってしまったホモビデオより。
そのネタ力ゆえ、ネタのみがネット上で転がっている。

TDN、アッー、クルルァ、おいゴルァ、あくしろよ(早くしろよ)、オナシャスセンセンシャル!、なんか足んねぇよなぁ?、おい力抜けよ、じゃあ俺ギャラもらって帰るから、まずウチさぁ…屋上あんだけどさぁ…焼いてかない?、あ~いいっすね~、アイスティーしかなかったんだけどいいかな、サッー

などなど。


このネタ解説が最期なのもアレなんで、もう一回ネコにはそのうちどっかに飛んでもらおう……


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ザ・ラスト・オブ・オマケ の序章

 我輩は只人である。

 うむ。人として生まれたのであるな。それも、ごくごく普通の、一般人である。

 

 はい、そこ。疑わない。これ、本当にマジであるからして。

 

 名前も、ちゃんとある。姓は車、名は奉朝。そして字は悟空。

 

 悟空だ。

 

 うむ。一般人と言ったな? あれはウソだ。

 

 と、いうわけでもない。

 

 生まれた時は、確かに。まぎれもなく、まごうことなく。ただの農村生まれの一般人であったのだ。あったのだよ、うん。

 

 過去形である。

 

 そうであるなあ。ひとつひとつ、説明するとしよう。

 

 まず最初はだ。名前からいこうか。

 この姓と名と(あざな)という三つ。これは、中国式の名前であるな。

 その通り。我輩が此度生れ落ちたのは、中華の地であった。

 

 時代は(ずい)だったがな。

 

 日本では、遣隋使(けんずいし)で多少はなじみがあるであろうか。律令だか、平安だか、あのあたりの時代の、アレである。そうそう。小野妹子とかの、アレだ。

 実に三百年ぶりに中華統一を果たした、乱世を終わらせた王朝であるな。

 

 この王朝、二代で滅んだけどな。

 

 世界共通でたまに現れる、ダメな二代目。それが頂点に立ってしまい、ツブしてしまった流れである。

 本来は跡継ぎではない、次男坊で。権力争いを勝ち抜いたあたり。けっして無能ではないはずなのであるがなあ。

 

 父親が死んだ後に、長男を自害に追い込んで。という手口が、始皇帝の死後の秦の流れと一致しているあたりが、イヤな伝統である。

 その後、国が滅んだのも含めてな。

 秦が十五年、隋が三十七年で滅んだが。その差は初代皇帝の寿命の差が大きいのだよなあ。

 

 そして二代目が大工事を行おうと。民衆やら資材やらを、集めに集めた事も共通している。

 

 秦の方は、始皇帝の墓を造って財宝を収めるのだ。とか。一緒に生贄もね。とか。

 少しでも集合や工程に遅れが出たら、厳罰な。とか。

 まあ。色々とやらかしたらしい。

 

 一方、隋の方はだ。中華の南北を繋ぐ、大運河を造ろうとした。

 南船北馬と言われたり、主食が麦と米と違ったり。色々と分かれておった南北を近付ける、大きな一歩であるな。

 大きすぎて、人手が足らずに男だけでなく女も動員したが。

 

 高句麗などへも出兵をした。三回もした。そして大運河はできたが、こっちは全部失敗した。

 

 内政外征を両方積極的にこなしたのは、まあ、いいとしよう。

 だが、その負担はどこへかかるか、と言えばだ。

 我ら、一般人である。

 

 そうなると、待っているのは一揆である。中華名物、王朝末期の民衆の大反乱。二代目にして早くも発生。

 しかも一般人どころか、大臣あたりにとっても生活が苦しかったらしく。一揆だけでなく反乱も起きた。

 おまけに国の予算までもが苦しかったのだろう。それらを鎮圧しても、報奨が無かったりしたらしい。

 

 幼い頃から、かしずかれて育った者。

 皆が自分の言う事を聞いて当たり前。ゆえに褒める事も報いる事もしなくていいと認識していて、行為や好意、献身にも何も返せない者。

 隋の皇帝の二代目は、そういう人だったのではないだろうか。

 

 その二代目であるが。

 情勢が厳しくなってくるや、反乱勢力から逃げようと、後に長安と呼ばれる大興城から、江都へと都落ちする。

 その後は、すっかりやる気をなくして酒びたりになり。討伐の部隊が宮殿になだれ込んでくるまで、何もしなかったというが。

 

 彼としては、別に悪気があったわけでもなく。

 大運河も造り上げたし、国家運営をがんばっていたのに、なぜこうなったのか。

 そう思っていたのかもしれない。

 

 巻き込まれる側としては、ふざけんな。としか言えぬのであるがな。

 やーい。お前のかあちゃん独鈷加羅(どっこから)*1

 

 ふざけんな。というのは、アレだ。

 なにせ、こちらは一般人なのだぞ。そんな彼の思惑に付き合ってやる義理など無いのだ。

 いっそ、唐を起こす李淵に協力しようかと考えたほどである。

 

 「歴史変えちゃいますか?」

 

 その誘惑が、無かったとは言えない。

 これが日本の戦国時代だったならば。たぶん何がしかの動きをしたであろう。

 

 ただここ、中華なんだよね。

 

 ぶっちゃけ、くわしく知らないのである。

 

 歴史を変えてもね。正直、どう変わったかわからないという、悲しい事実。

 しかも変わったとしても、歴史書にそう書かれていただけで、実際は変わっていないとかそんな事がザラにありそうでなあ。

 

 それに地理的にもなあ。

 確か、唐って鮮卑系の、漢民族ではない人たちの王朝で。鮮卑って北方騎馬民族だったような覚えがある。

 それで我輩のいる村って、たぶん中華の南部なのだよなあ。だって米があるし。北に長江あるらしいし。

 うん、遠すぎるな。

 いかに空が飛べようとも、中華の南北縦断とか嫌なのである。

 

 ああ、うん。飛べるよ、空。

 

 こう、ひゅーん、と。ホウキで。

 

 うん。ホウキ。

 

 ハリポタ世界で覚えた、ホグワーツ式の魔法。久々の登場である。

 久々すぎて、少し忘れておるが。まあ、何とかなるであろう。

 

 皆には、仙術って言われておるけどな。

 

 と、いうのもだ。どうも、いるらしい。仙人さま。

 少なくとも、妖怪はおった。

 というか、村が襲われた。

 

 豚のような顔をした、二足歩行の。つまりはオークであった。

 村の、女たちがヤバい。

 そう直感した我輩は、それまで畑仕事や狩りで楽をするために、こっそりと使っていた以外で初めて魔法を使った。

 

 ウィンガーディアムレヴィオーサ

 

 魔法は間違いなく働き。浮かされて、どこへも行けなくなったオークは。

 村人たちの、よってたかっての投石や、離れたところからの棒や鍬での滅多打ちで討伐されて。そして燃やして埋められた。

 

 そんな容赦のない村人たちに、次は我輩が魔女狩りのような目にあったらどうしようかと、心底ビビっておるとだ。

 

「おう、助かったぜ!」「それ、そんなふうにも使えるんだな」「ありがとう!」

 

 などなど。

 村人らは口々に、普通にねぎらってくれるのだ。

 

 ()如何(いか)に。

 

 どういう事かと、うろたえていたのであるが。

 なんというか、うん。

 

 バレバレで、あったらしい。

 

 我輩としては。隠して使っていたつもりなのであるが。

 幼い頃。最初に仗が出た時だ。いつの間にか握っておった杖に、つい興奮して庭であれこれと魔法を使ったのが見られていたり。

 畑を耕すのが、やたらと早いので。どういうことかと影から見られていたり。

 そもそもエクスパルソと、耕す代わりに爆発で雑に処理しておったので、隠す以前の問題であったり。

 寝起きに寝ぼけていて、普通にアグアメンティで水を出して顔を洗ったりと。

 

 バレバレであったらしい。

 

 うむ。改めて聞くと、ひどいな。

 隠す気があったのか、とむしろ驚かれたわ。

 

 それでだ。

 バレてしまったのならば、と。魔法全開で、隠れ里を作って、村全部。どころか、近隣の村いくつかまとめて、ちょっと奥地へと引きこもったのだ。

 

 なおそのあたりの山の名は、花果山といった。

 水豊かな(ように創った)村、ということで、村の名が水簾洞となった。

 そして仙人ということで、仙人としての名が我輩に贈られた。それが悟空である。

 (あざな)というのは、一人前になった大人が名乗る名前でもある。そのついでで贈られた、という事なのだろう。

 

 それはいい。だが、しかしだ。

 

 今は隋の終わりの時代なのだ。

 つまりは、あの人が居るのだ。

 はるばるインドまで旅をして、帰ってきた男。

 大唐西域記を記し。般若心経など大量の経典を持ち帰って翻訳し。

 玄奘三蔵の名で現代まで名の伝わる、とあるソシャゲで女体化させられてエロ同人で活躍してしまう男が。

 

 それで悟空って、そのお供のひとりであるのだよなあ。

 

 史実だと、悟空って玄奘三蔵とは別の時にインドまで行った、他人らしいのであるが。

 西遊記だと、間違いなく行ってるのだよなあ。

 ただ行く前に、天界に仕えようとしたら、馬飼いの下っ端で採用されて。気に入らなかったんで大暴れして、ついでに反乱起こして。

 最終的にはとっつかまって、長年幽閉されてるんだよなあ。

 

 え。なに。待ってるの?

 我輩にも、そういう流れが、この後に待ってるのであるか?

 このままここで、平和な農村生活、税抜きゆっくり人生を送る気満々なのであるが。

 

 ええー。

 

 

*1
なお、マジでこの名前である。どこからー




○「歴史、変えちゃいますか?」
映画版、信長協奏曲のキャッチコピー。
桶狭間前にタイムスリップした軽い兄ちゃんが、そっくりだった信長に俺の代わりやって。と頼まれてオッケーだして始まる、桶狭間から本能寺への道。なおメインは帰蝶さんとのラブコメ。

○此は如何に
浦島太郎より。村へ帰ったら、長い年月が過ぎ去っていた浦島太郎のセリフ。
だが、あさりよしとおのワッハマンのやりとり
「帰ってみれば怖いカニ…」「此は如何にだっ!」
から取ってみた。カニに似た顔の刑事と、人形師なお爺さんの会話。


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ザ・ラスト・オブ・オマケ の第二段

芸風がちょっと違ったかもだけど、ほら、終盤だから…
たぶん次回から戻るから。今回もある程度は、人生自由形エンジョイ勢さ。

そしてそれはそれとしてkuzunoha氏のブラック企業社員がアイドルになりました を推してみる。
前世男からのTSネタではあるものの、恋愛感や性差に悩みまくるなど無しなので、そこが気になる方でも大丈夫。
北斗神拳マスターとしてアイドル街道を斜め上方向に突っ走るのと、アイマスキャラたちがカワイイのがメインだから大丈夫。私のオススメだよ?
吹っ切れて北斗使い出すまで少しかかりますが、それまでもコッソリ使ってバレてるあたり親近感。


 我輩は()に落ちた*1のである。

 そも、我輩は二次創作のオリ主であり、ネコである。

 だが、今回。それがどういうわけか、人の子として生まれ。少々、魔法や妖怪が混じったものの、史実に近い世界で生きてきた。

 

 というか。生まれ育ったのも、生前の人生を除けば、ヒロアカ世界以外では初めてである。

 

 この世界での滞在が、やたらと長いので。

 もしや。本当の意味で、生まれ変わったのではなかろうか。

 そう、疑ってもおった。

 

 それがとうとう、何の世界なのかがわかったのである。

 

 長かった。

 

 本当に、ここまでが長かった。

 

 いわゆるいべんとがあるのならば、強制で何がしか起こるやも知れぬ。

 そう考えて、三蔵のウワサを都で集めてみたら。

 

「また三蔵が旅立ったってよ」「え? 何人目だったっけ?」

 

 という。謎のウワサが耳に入り。

 どういうことなの。と、詳しく聞いてみたならば。

 

 流砂に住む妖怪に、何人もの三蔵が食われてしまっておるらしいのだ。

 

 そんな話はあったであろうか。

 そうやって記憶を手繰ってみたが。西遊記を読んでみた事はあったが、それはまだ小学生であった頃で。

 しかも前世というか、我輩がネコとして生まれる前の話である。当然ながら、なかなかに思い出せぬ。難易度が高い。

 

 しかしながら。こういう時、人は些細なキッカケひとつで、思い出すこともある。

 

「流砂って何だ。砂が流れるわきゃーないだろう」

「いや、俺も知らないんだが、砂が山とある場所があって、そこではそうらしいぞ」

「砂があるなら、運んできた水もあるだろ。普通に河なんじゃねえの?」

「じゃあ、そこにいる妖怪も水の妖怪か」

 

 ピン、と来た。

 話を聞いた後は、ひとり考えにふけって放置しておった、商人ら。彼らの会話で、思い出したのだ。

 

 沙悟浄だ。

 経典を取りに旅してきた、玄奘三蔵のパイセンたちをことごとく殺して喰らったヤバいヤツ。

 通りがかりの仏の一行にも襲い掛かって、返り討ちになって、命乞いして。

 それで次の三蔵の弟子になって、天竺目指せば許してやる。そう言われていたのに、次の三蔵が来たら、速攻で襲い掛かったヤバいやつ。

 

 

「トランザムは 使うなよ」→「了解、トランザム!」

 

 

 押すなよ。そう言われて押してしまうのは、思ったよりも古来からの伝統だった説。

 

 つまりまだ、本命の玄奘三蔵は旅立ってはいないらしい。

 いないといいな。

 まさか、もう旅立ってしまい。我輩こと、悟空抜きだったからアッサリ死んでしまったとか。そんな事はないであろう。

 

 ないといいな。

 

 まあ、あったらあったで、それはそれ。

 誰か適当な坊主でも、インドまで連れて行って。いいや、我輩が経典取ってきて、どこぞの坊主に朝廷に提出させれば良い。

 それでそいつが、玄奘三蔵という事になるであろう。たぶん。きっと。そうであるといいな。

 

 まあ、そうなったら。玄奘三蔵が記したという、大唐西域記。

 中華とインドとの間にある百ヶ国以上の国々や、その風俗、地理、特色などを書き記したそれが。

 瓦まで黄金。などのホラが載っておる、東方見聞録並みのトンデモ本になってしまう。

 

 まあ、よいか。

 それはそれで、きっと楽しい。

 

 

「だが面白れぇ。面白れえってのは大事なことだぜ、ロック」

 

 

 持って来る予定の経典は、この時代のインドのものゆえに、サンクスリット語で書かれていて。

 史実の玄奘三蔵が、その後の人生全部を翻訳に使っても、なお足らなかったらしいが。

 まあ、それも何とかなるだろう。たぶん。

 

 サンクスリット語がわかる人間は、唐でもほんの一握りで。当然ながら、超のつく”えりぃと”であるが。

 そんな人材が、お経の翻訳という更に専門知識の必要そうな、やっかいなお仕事に専念してくれるか。正直怪しい気がしてきたが。

 

 そこはあれだ。あれである。

 

 原作補正さんをも上回りそうな。歴史の修正力先輩を信じるのだ。

 

 

「それでも仙道なら…… 仙道ならきっと何とかしてくれる」

 

 

 その人。原作では、何とかしてくれなかったけどな。

 だが先輩なら、きっと何とかしてくれる。はずである。

 

 ではさっそく、準備を整えて経典をもらいに行くとしようか。

 

 

 

 そうやって、旅に出て。

 なぜかワラワラと出てくる妖怪たちを。時には洗脳したり。あるいは洗脳したり。もしくは洗脳したり。

 杖を向けてインペリオと唱えるだけの、簡単なお仕事であるな。

 

 本当にあった火焔山を、普通に迂回したり。

 それにイラついたのか、芭蕉扇で吹き飛ばされてしまい、杖を落として必死に探し回ったり。

 

 なぜか断崖絶壁の縁で、天を目掛けて立っていた、巨大な中指に記念に名前を書き込んだり。(なお、当然ながらそのまま先へと進んだ)

 色々とはあったが、一年ほどでインドへと辿りついた。

 

 途中から言葉が通じなくなって、だいたい素通りしたにもかかわらず、それだけ時間がかかったあたり。我輩の苦労を察していただきたい。

 

 そうやって辿りついたインドであるが。

 インドでの仏教の最盛期って。紀元前なのであるな。

 

 四世紀ごろ。え~っと、今が七世紀のはずなので、二~三百年前であるか。

 その頃には、もうすでにヒンドゥー教に取って代わられてしまっておってな。

 それでも仏教が入ってきた時の日本の神道のように、存続はしておったようだ。今のインドを治めておるハルシャ=ヴァルダナ王だって、積極的に仏教を保護しておるし。

 

 この王が亡くなった後、権力闘争で王朝ごと滅ぶけどな。

 しかもその後、五百年ほど戦国時代でグダグダになるけどな。

 

 まあ、そのあたりは我輩には関係ない。はずである。だから気になどせずとも良いのだ。

 

 今は心行くまで、この地のカリィを味わうだけである。

 カレーとは違うが。これはこれで美味しい。

 

 で。経典であるが。

 ナーランダー僧院という、国営の寺院で経典の研究が進められておるらしいので、行ってみたのであるが。

 

 あるが。

 

 うん。門前払いを食らった、というか。

 それ以前の問題というか。

 

 言葉がね。通じないんだな。これが。

 

 そうなのだ。ここまでだって、そうだったのに。ここへ来て急に漢語がわかる人など、都合よく居るわけが無いのだ。

 というか。史実の玄奘三蔵、そのあたりも習得しておったのか。パねぇのである。

 

 ここで我輩は、考えた。

 

 壱。パクる。

 弐。諦める。

 参。丸投げする。

 

 壱は、そのままであるな。

 現物はどこかにあるのだ。進入やら奪取やらは、アロホモラと唱えれば、たいがいのものは開く呪文がある。

 あとはホウキで飛んで逃げるだけ。

 

 弐も、そのままであるな。

 ここまでやって来たことであるし、何とかしたくはあるので。いま少しばかり、頑張ってはみるが。

 

 参は、弐に近い。

 歴史の修正力先輩に期待して、あとは何もせずに先輩に丸投げするのだ。

 ほら。問題の沙悟浄は、洗脳済みだから。おおよその障害は、排除してあるはずだから。

 むしろ障害だった妖怪たちが、助けてくれるから。牛魔王一派とか、かなり役に立つよ?

 

 はてさて。どうしたものであるかなあ。

 

 壱はさすがに、後への影響が大きすぎて、先輩の迷惑になるやもしれぬ。

 そうであるなあ。コピー機でもあれば解決するのであるが。

 FAXがあれば、もっと簡単なのであるが。いやいや、もっと言えばスマホがあれば写真撮ってメールで画像添付でイケるのであるが。

 そこらあたりに相当する呪文。ハリポタ式では無いのだよなあ。

 ひょっとしたならば、あるやも知れぬが。我輩は知らぬ。

 

 ふうむ。無いのならば、作ってみるか。呪文。

 

 ラテン語同士を混ぜたり、ラテン語と他の言語を混ぜたりで出来ておるのだよな、確か。

 アロホモラなど、ハワイ語のアロハ(挨拶)とラテン語のモラ(妨害)でサヨナラ妨害、というように出来ておるし。

 

 うむ。意外と簡単に出来るような気がしてきた。思えば、あのホグワーツの学生らも、好き勝手に改造しておったしな。

 懐かしいな。厨二詠唱に、独自詠唱に、動作付き詠唱。彼らが大人になった時。もだえ、のた打ち回る様子を見られないのが残念だ。

 

 

 

 そうして。我輩は写本呪文、libellumとphotoの組み合わせでフォトベルムなる写本呪文を作り上げ。

 唐へと帰る途中で、牛魔王と、その嫁の羅刹女と、息子の紅孩児に護衛される玄奘三蔵と出会って、経典を渡して。

 地元の水簾洞へと、ようやく帰ってきた。というわけである。

 インドと帰りの道中で一年かかったので。二年ぶりという事になる。

 いや、長かった。

 

 だが、なあ。

 

 この先は。もっとずっと。

 気が遠くなって、うっかりそのまま成仏してしまいそうなほども、遠いのだよなあ。

 それでもって、それがたぶん、どうしようもないのだよなあ。

 

 と、いうのもなあ。

 

 

 今、目の前に、獣の槍があるじゃろ?

 

 

 つまりは、ここ。うしおととらの世界である。

 そして本番は、というか原作は平成時代からが始まりで。

 今は、隋の時代。時代小説の舞台に多い、戦国時代すらまだまだ先で。

 

 どうするであるかなあ。

 いや、本当に先が長いのである。

 

 

 いや、待てよ?

 

 

 おったわ。

 時間を移動する、そんな妖怪が、確かいたのである。

 

 どこでどうしているのかは、さっぱりわからんけどもな。

 名前はなんだったか。

 えーっと。そうそう。あれだ。あれ。あれであるよ。

 

 時逆、時順だ。

 

 刃みたいなものから、片手と片足が生えていて、横顔が刃から覗いていて。左右対称で一対の。二体で一体の妖怪。

 

 やはり、うしおととらに登場した、妖怪であるな。

 

 

 そうそう、獣の槍であるけれども。

 ただ、目の前にあるだけではないのだ。 

 

 というか。

 使ってる人がいるのだな、これが。

 しかも、いまにも寿命というか、使用限界というか。そういったモノが尽きてしまいそうなのだ。

 

 それでだ。そんな様子なのに、我輩を妖怪呼ばわりして、襲い掛かって来るのであるが。

 お前を倒して、この地の支配者になる。とか言っちゃってるのであるが。

 

 

 これ。どうするのが正解なのであろうか?

 

 

 

*1
納得する、という事




○「トランザムは 使うなよ」→「了解、トランザム!」
ガンダム00、もしくはガンダムビルドファイターズより。
全く了解していないw むしろ前フリか。だがミスターブシドーほど即行したヤツはさすがにいない、はず。

○「だが面白れぇ。面白れえってのは大事なことだぜ、ロック」
ブラックラグーンより。
小型の魚雷艇(大型ボートみたいなもん)で、座礁した船を打ち上げ台にして大ジャンプして軍用ヘリに魚雷ブチ当てようぜ! というクレイジーな提案に対する、タフで知的で変人で自称ベトナム帰還兵な黒人、ダッチさんの返し。

○「それでも仙道なら…… 仙道ならきっと何とかしてくれる」
スラムダンクより。
作中屈指の強者、仙道さんへのチームメイトたちからの信頼の言葉。
なぜかネタ化している。


タグが文字数一杯になっちゃって、原作が増えても追加できない……


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ザ・ラスト・オブ・オマケ の間章。干将と掛けてるのさ。そろそろうしとら、始まります

初回にちょろっと出てきていたオークが、実は猪八戒だと気付いていた方はいらっしゃいますか?


 我輩はネコである。名前は無くなった。

 そういえば、無くしたのは二度目だな。

 まあ、あの時は代わりにオール・フォー・ワンという名が手に入ったし。結局は名前も身体も戻ってきてはいたのであるが。

 今度は、戻って来そうにないな。

 

 ふうむ。少し訂正しよう。

 我輩はネコっぽい妖怪である。そうなった。

 

 前回の最後に登場しておった、あの獣の槍のせいである。

 

 白面の者と呼ばれる大妖怪に、国ごと家族を殺されて。最後に残った妹が、良い剣を造ってください、と自分から生贄として溶けた鉄の渦巻く中へと飛び込み。

 その鉄を剣へと鍛えていたら、身体がその剣につながる柄になってしまい、一本の槍へと変化した男が居た。

 

 その槍こそが、獣の槍である。

 

 効果としては。使用者を一時的に妖怪へと変えて、妖怪退治に絶大な力を発揮させる。

 ただし使いすぎると、字伏と呼ばれる妖怪になって、戻れなくなってしまう。

 そういう、どう考えても呪いの武器であるな。

 

 ただしこれ。人間を傷つける事はできない。

 どういうわけか。するりと、すり抜けてしまうのだ。

 

 なぜか我輩には刺さったけどな。

 

 原作知識からの余裕で、避けようとすらしなかったから、スパッといかれて焦ったのだ。

 あの一撃で、ちょうどアイツの寿命というか、槍を使う限界が来ておらなんだら。

 うむ。結構な割合で、おっ死んでおったのではなかろうか。

 

 しかもアイツが、すぐに獣になって。戦闘を続行しようとしおってなあ。

 お互いに、うぐぐ…… などと、うなって、座り込んだというのに。

 向こうは即座に、肌が黒く染まってゆき。体は大きく。伸びた毛は体を覆うほどで。みるみるうちに、元気になっていくのだ。

 こちとら、普通に怪我人だというのにである。

 

 呪文で治せるものなら、治したいのであるが。

 残念ながら、ハリポタ世界の治癒は基本、お薬である。治癒呪文もあった気はするが。

 

 なんだったっけ。

 

 ヴァルネ… えーっと… なんだ。えーっと。

 エスキモーじゃなくて。

 

 エピゴーネン! ゑびす! エピスキー!

 

 よし、これだ。発動した。

 この最初は熱くなって、それから冷たくなってくるこの感じ。間違いない。

 

 でも足りないから、もう一度かけておこう。増幅呪文込みでな。

 若干心は痛むが、やむを得ぬ。必要な痛みである。

 

 

四海の闇を統べたる魔王 汝の欠片の縁に従い 汝ら全ての力持て 我に更なる力を与えよ

 

 

「ぐわぁぁぁぁああ」

 

 

 久方ぶりに唱えたが。久方ぶりであるというのに、完全に覚えていた自分が痛い。

 久方ぶりということで、慣れというものが消えていて、新鮮な痛みが我輩を襲う。

 やめろ。やめるのだ。今、それどころではないから。だから自分を責めるな我輩。落ち着け。落ち着くのだ。静まれ、我輩の心臓。

 

 なんと言おうか。こう。

 ある意味、斬られた傷よりも重症であるな。これ。

 

 そんな代償を払って唱えた、二度目の治癒呪文は、確かに効いたのであるが。

 それでもまだ、くらくらとするのは。

 血を流したせいか。それとも精神的な傷を負ったせいなのか。

 

 まあいい。

 さいわい、八つ当たりする先は目の前にいる。

 実際、コヤツのせいではあるので。八つ当たりだが八つ当たりではないし。

 

 だが、まずは洗脳してからであるな。

 下手に戦って、逃げられたり。負けたり。うっかり人質を取られて困ったり。

 そういう隙を見せるのは、我輩、嫌いである。

 

 インペリオ! 服従しろ。

 

 そういうわけで。いまだ変身中で避けられない、黒くなった彼に打ち込んだ呪文は。普通にそのまま命中した。

 

 で。気付いたのであるが。

 

 紅蓮だ、これ。

 

 ラスボス、白面の者が部下に引き込んだ、字伏の中の変り種。

 他の字伏が黄色い中で、黒く染まった色違い。

 他の槍の使い手が、守るためや倒すために最後まで槍を手放さずに使っていたのに。

 力を振るうのが気持ち良く、妖怪退治が金になるからと。欲で槍を最後まで振るった、愚か者。

 

 レアモノかつ、どうとでも転ぶ奴であるな。

 そりゃあ、白面も勧誘に行くというものである。

 

 今、我輩の手持ちポケ… もとい。手駒のひとつになったがな。

 

 ううむ。こいつ、どうしよう。

 原作補正さんの為を考えるのならば。好きにしろ。とでも言って解き放てばよいのであるが。

 ただなあ。コイツなあ。

 アレなんだよなあ。

 

 

「ハイフォン… レイシャ… 帰ったよ…… 開けとくれ」

 

 

 ヒョウさんがなあ……

 

 他にもいっぱい殺っちゃってるだろうしなあ。

 解き放つのは、ないな。うん。

 

 なら、どう生かすかだな。

 どう利用したもんか。というか、何に使えるんだ、こいつ。

 戦い以外に使い道は――――

 

 

 ふむ。

 

 ふうむ。

 

 そういえば。今はまだ、唐の始まったばかり。七世紀の初頭あたりであったな。

 白面は、いずれやって来る遣唐使に取り入って、日本へと行くのだよな。

 そして。それで。そこで正体を見破られて、戦いになり……

 

 一度、追い込まれる。

 

 

「最高のタイミングで 横合いから思いきり殴りつける」

 

 

 ――できるか?

 

 槍は、ある。

 インドへの旅で、気付けば出来上がっていた百鬼夜行も、ある。

 そして紅蓮は、こちら側だ。

 原作と違い、死者たちの協力は無いが。白面も敗北を経験していないので、搦め手はあまり使わぬはず。

 

 

「行け! 人間の限界を知る 世界一悲しい男よ 待っているのは 新世界だ!!」

 

 

 いや。そんなものは知らないのであるが。

 何で今出てきた、その言葉。

 

 いや。やるけどもね。面白そうであるし。

 ラスボスに挑むとか、久々であるし。いや、いつぶりであろうな。ヘルシングの世界で、アーカードに挑んで以来であるかな?

 

 では久々ついでだ。ちと気取ってみようか。

 

 運命は(カード)を混ぜた。

 どのような結末に至るかは、神すら知りえぬ事だろう。

 故に我輩はこう口にするのだ。

 

 

 「勝負(コール)だ」

 

 

 

 

 

 ……うむ。少しばかり汚染力が高すぎるであるな。厨二詠唱は。

 紅蓮くん。聞かなかった事にしとくように。いいね?

 

 




○四海の闇を~
スレイヤーズ!より
なんか最近再開したらしいですね。賢者の石こと、魔王の血を触媒に魔力増幅する呪文。なおここのハリポタ式だと、なぜか魔王の血がなくても発動する。
さあ、みんなも唱えようドラグスレイブ!
黄昏よりも暗きもの~
ってあんまり暗くないよね。

○最高のタイミングで 横合いから思いきり殴りつける
ヘルシングより
作中で人間では最強だったアンデルセン神父のセリフ。ナチス残党と、英国国教騎士団がバチカン無視して戦おうとしてるけど、どうするよという問いに対する答え。

○行け! 人間の限界を知る 世界一悲しい男よ 待っているのは 新世界だ!!
かわぐちかいじ先生の、沈黙の艦隊より。
核兵器をどうするのか?という問題に、ひとりの原子力潜水艦の艦長が世界をブン回して道を示したお話。
その作中で、世界的ピアニストが、主人公カイエダより作曲のインスピレーションを得ながら贈ったエール。
核兵器をどうやっても手放せないという人間の限界と、その問題への新たなる解答と、対応するため変わる世界を示す言葉。

○運命は~
Fate/Parallel Linesシリーズより。
ヘルシングの少佐が聖杯戦争イイネ!ぼくもやる!と聖櫃入手して始まる聖杯戦争やる夫スレ。
登場人物固定で、複数の作者が同一のオープニングから、別々の道を最期まで書ききっている企画。読み比べると楽しい(ダイマ)
まとめスレもアルヨ!


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ザ・ラスト・オブ・オマケ の休章

細かい事ぁいいんだよ!
と描写を削りまくっておりますが。やりすぎるとあらすじになる危険。




 我輩はヒマである。

 インドへの旅の途中。服従呪文で従えておいた妖怪たちは、すでに連絡網を作るなど、組織化が済んだ。

 

 牛魔王社長を筆頭に、特別顧問の紅蓮に、専務の紅孩児と、常務の獨角凹(どっかくじ)大王。

 社長の弟で執行役員の如意真仙、部長の金角銀角兄弟。秘書課の羅刹女と玉面公主。

 なぜかたくさんいた大王とか、大仙らはひとまとめにヒラ社員である。課長や係長にすらしてやらぬ。

 出世したければ、手柄を立てるが良い。

 

 ただ牛魔王社長の嫁の羅刹女と、妾の玉面公主を同じ職場にしたのは間違いであった。すまぬな社長。

 だが我輩は会長であるので、謝るけれども、撤回はせぬ。家庭問題は、自分で何とかしておくれ。

 

 なお。会社形式にしたのは、何となくである。

 べつだん、商売もしておらぬ。

 

 

 うっかり、唐に喧嘩は売りかけてしまったがな。

 

 

 いやあ。

 一度くらいは。そう思い、全員集合しようとしたのであるが。

 妖怪があちらこちらから、一箇所にわらわらと。それも見るからに強そうなのが、続々と集まってくるというのは。

 民衆を通り越して、国家に危機感を覚えさせてしまうものであったらしい。

 

 経典を渡した我輩と、護衛をしておった牛魔王社長らが、玄奘三蔵へのコネと恩を使い倒して何とかしたが。

 玄奘三蔵が、皇帝の義兄弟になっておらなんだら。はたしてどうなったであろうか。

 中華の歴史に、妖怪の軍団との大戦があった。などと記されてしまっては、人理崩壊案件の恐れが出てくるのであるが。

 

 その場合。我輩は、強制撤収であるのかなあ。

 それとも、追加で処刑人が誰か召喚されてくるのであろうかなあ。

 

 まあ。大戦になった裏で、我輩か紅蓮が皇帝とその周囲を『なんとか』して、無かった事にするので。

 まあ。そうなっても大丈夫であろうさ。きっと。

 

 

 

 それはそれとして。我輩自身も、妖怪になった。

 前からだった気もするが。そこは自分でもよくわからぬ。見当が付かぬ。

 で、あるが。此度は人間として生まれた、はずであるので。白面が日本へ行くまで、寿命が持たぬのは明白。

 そういうわけで。獣の槍を使って、妖怪化する事としたのだ。

 

 親には泣いて止められたがな。

 

 うむ。親である。

 繰り返すが。此度、我輩は人として生まれたのであって。したがって、普通におるのだよなあ。

 すごいぞ。我輩の親だというのに、普通なのだ。

 

 我輩のしでかす事全てに。普通に驚き、普通に引いて。そして普通に叱ってくれた。

 

 そりゃあ、そんな親がだ。息子が

 

 

「俺は人間をやめるぞJoJoー!」

 

 

 などと言い出せば。止めるというものであろう。うん。

 でも止めてもらっても、困るのであるよなあ。

 せめて結婚して子供を作って、育ててから。そう言われても、すっげー困るのであるよなあ。

 

 正直な話。自分の子供とか、どう接していいのかわからない。

 どんな子が生まれてくるのかも。少し、自信が無い。

 それが普通の子であったとして。我輩は、はたして普通の親が出来るであろうか?

 また普通でない子だったとして。それは、もしや聖杯くんとか我輩オルタとかだったりせぬであろうか。

 

 よし。やめておこう!

 覚悟もなく、子供を作ってはいかんよな!

 

 そんなわけで。

 欲を捨てねば、仙人は先へと修行を進められないから。

 我輩は、両親にそんな優しい嘘をついた。

 

 人の身を捨てて。この地の守護神となる。

 そんなテキトーな嘘もついた。

 

 そして槍に付いた赤い封印の布を、少しだけ残してぺりっと取って。

 寿命の削れる勢いを増してみた。はずなのであるが。

 

 これがなかなか、字伏になる気配が来ない。

 

 毛は腰を通り越すほどに、長く伸びて。力も増しているので、発動していないわけではない。

 おかげで畑仕事がはかどるのである。

 

 あまりにも負担が無いので、一日中、寝る時でさえも発動しっぱなしなのであるが。

 やはり変化する気配もなく。

 

 配下の妖怪たちの組織化を進めながら、どうしたものかと日々を過ごすうちに、一年がたち。二年がたち。

 そこでようやっと、我輩は字伏になる事ができた。

 

 黒かったけどな。

 

 

 Why Japanese people!

 

 

 紅蓮だけが唯一じゃなかったのか。

 というか。我輩、べつだん虐殺やら略奪やら、暴力沙汰とかはしておらぬのだが。

 確かに、ヴィランという自覚はあるけれども。

 それでも、こう、なんだ。我輩、そんなに悪いヴィランじゃないよね…?

 

 ああん? なんだ紅蓮。やっぱりそうなったな、とはなんだ。

 俺を従える大悪党が、普通なわけがない?

 

 えっ。じゃあ、黒くなったのって、お前のせい? お前のせいでいいの?

 そう思いたいなら、それでいいだろって、お前、軽いな。

 だが、まあ、よしとするのである。特に影響はなさそうだし。だから、今は気にしないでおく。

 

 将来、白面の者の引き抜きが来そうで怖いけれどもな。

 

 さて。気を取り直して、さっそく性能試験といこうか。

 雷と炎と、毛が刃になるのと、首が伸びるのと。あとは何であったか。

 空を飛んで、テキトーに海の上にでも行って、試してみるのである。

 

 

 

 そうして変化も済み。組織化も終わって。

 ヒマになったので、日本へ下見と、準備が出来たら良いなと出かけることにして。

 唐に話を通して、妖怪たちで大きな船を仕立てて。長江を下って、日本は九州へと上陸。

 

 しようとしたところで。なんかすごい攻撃された。

 

 矢が雨のように、凄い数で降ってきて。

 それとは別に。衝撃で空気と波を掻き分けて。まるで破壊光線かなにかのような、矢ではあると思うが、今でもなお自信が持てぬナニカが飛んできた。

 あれはなんであったのだろうなあ。

 よもやあれが伝説に残る、一本の矢で船を数隻沈めたという、為朝の弓。いや、時代が合わぬはずなので、その同類かご先祖か。

 

 おのれ、さすがは大宰府の兵。武士の原型だけはある。思考と行動が蛮族だ。

 怪しい奴は、とりあえずぶっ殺してから調べればいい、とか思っておるな。

 

 時代が少し下って、鎌倉時代になってやや文化的になった時代の武士でさえ。通りすがりの坊主や商人の首をはねて、庭に飾っておくのがたしなみだったらしいからなあ。

 うむ。文化的になって、それである。なお、腐ってしまわぬうちに、新しいのと取り替えるのがマナーであったらしいぞ。

 江戸時代になっても、薩摩あたりでは弓の訓練で通りすがりの坊主を撃つ、という形で受け継がれていたそうな。

 

 元寇の時でもな。神風のおかげとか、あれある意味、嘘であるからね。

 これだけ苦戦したので、ご褒美をはずんでくださいという、そういう主張。盛った話であるからね。

 やーやー我こそはーって、一騎打ちや名乗りのシキタリを無視されて。よーし禁じ手無しのガチだなってなって。

 当時最強のモンゴル騎馬民族が、ドン引きするくらいの戦いを展開してたらしいからね?

 研究が進めば進むほど、出てくる感想が「これはひどい」だという。

 

 で、当然のことながら。

 そんな奴らの相手をするのは、ごめんである。将来、対白面の者で共闘するべき、日本の勢力と敵対したくもない。

 そういうわけで。我輩たちは、これ以上破壊光線を打ち込まれる前に。芭蕉扇や術を使ってまで、一目散に逃げ出した。

 大陸まで止まらずに逃げるほどの勢いで、逃げ出した。それでも数発は、打ち込まれたのであるが。

 

 そして一時解散。帰宅。

 もう当分は、日本へなど近付きもしたくないのである。

 

 と、なるとだ。

 

 あとはもう。白面の者の日本行きを待っての行動となるわけで。

 つまりは。ひたすらに待ち。という事になるのであるな。

 

 そういうわけで、我輩はヒマである。

 

 そうして、そのヒマをもてあまして。こう、つらつらと思い返してみるとだ。

 

 

 小人 閑居して 不善を成す

 

 

 この言葉を、久々に思い出した。

 自重って大事なのかも知れぬなあ。しかし、動かぬと死ぬのであるよなあ。

 

 

「今更考えても仕方ありません。我々は己が正しいと思ったことを全うするしかないのです」

 

 

 その通りではあるが。

 その結果、良かれと思ってぇ! という事態になってしまう場合が多々あるのだよなあ。

 そうでない場合? そうでない場合は、どうしてこうなった…… という結果であるな。

 しかしながら。我輩が何もしなかった時よりは、ずっとマシな結末を迎えられてきたと、そう思うのだ。

 

 だから、まあ。

 今度もきっと、何とかなるのである。

 

 




○「俺は人間をやめるぞJoJoー!」
ジョジョの奇妙な冒険第一部より。
石仮面をカブり、吸血鬼になろうとするDIOの調子に乗っているのがよくわかる台詞。
人間でなくなってしまうのを恐れる主人公やオリ主に見習って欲しいスタイルである。

○Why Japanese people!
一時プチブレイクした、厚切りジェイソンという外人お笑いタレントの持ちネタ。
腐っても鯛!? 食中毒オコスヨ! Why Japanese people!

なお本人超エリート。中学スキップして高校からのミシガン州立大学、イリノイ大学院卒。
日本で仕事した時にお笑いにハマるが、お笑いやるって理由だとビザが下りず、困っていたらITベンチャーが日本進出するというので、就職して来日。
ザブングルの加藤に会社辞めないでも、土日コースでお笑いに行けると教えてもらい、ワタナベコメディスクールへ入学、卒業。もしかしてこれが最終学歴になるのかw
他のITベンチャーの大株主にして部長という地位も手に入れ、アメリカでマンション経営もしているらしい。既婚で子供も居る。オノレカチグミ。

○「今更考えても仕方ありません。我々は己が正しいと思ったことを全うするしかないのです」
スプリガンより。
事件の結末に、これで良かったのかと悩む主人公御神苗優に、師匠の朧が答えたセリフ。
得になる方や、楽な方ではなく、せめて正しいと思える方へ。
それぞれ何を正しいとするかは異なって、だから人はぶつかり合うのだけれども、仕方が無いのだ。


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オマケ4 鬼滅のナニカ

小ネタの短編です。


 我輩は危機に陥っているのである。

 

 うむ。間違いなく、今までの様々な、やたらめったらと種類が多く。まこと、変化に富んだ我が人生で、最大のものである。

 少なくとも。今、経験したことがあまりない程には、苦しんでおる。

 

 仏蘭西百年戦争に、サーヴァントとして呼び出された、あの時の。

 知識を一方的に、ひと息に、配慮や加減というものなど無しに流し込まれた、あの時のような。

 絶え間なく、いついつまでも痛みが続き、終わりが見えぬ。そんな苦しみだ。

 

 だが、しかし。

 

 あの時は、瞑想の個性が使えた。

 痛みから逃げては捕まり、逃げては捕まり。そうやって終わりまでを、なんとかかんとかやりすごせておった。

 

 今は、使えぬ。使っては、まずい。はなはだまずい。

 

 

 目の前に、こちらを虫ケラほどにも思っておらなそうな、無惨さまがおるじゃろ?

 

 

 この人の前で、何か想定外の事をやってしまった場合。

 

 

「のび太のくせに生意気だ」

 

 

 こうなってしまう可能性がある。わりと高い可能性であると思う。

 それが良い事であるのか、悪い事であるのかは。まあ、関係なかろう。彼の気分の問題だからだ。

 彼の、数少ないお気に入りがやった事であるならば。まあ、機嫌が良くなる可能性が出てくるのであるが。

 それも、可能性が出るというだけであり。その場の気分とノリと勢いで、反応と処置が変わるのであろう。

 

 というわけで。

 この世界にやって来て早々に、無惨さまに見つかり。

 

「ふむ。変わった猫… 猫? だな。よもや妖怪……か? 初めて見たな」

 

 そんな具合に、興味を持たれてしまって。

 物は試し、とばかりに血を注がれて。

 なぜだか、ものすさまじい拒絶反応を示しておるのが、今である。

 

 ところで。

 なんか、視界の端っこにちっちゃい娘さんが見えるのであるが。

 二頭身半くらいの。水兵帽にセーラー服の娘さんなのであるが。

 軍艦な娘さんらを収集するアレで、見かけたっぽいのであるが。

 

 うむ。だいたいはわかっておったが。

 どうやら今回の我輩は、エラー猫であるらしい。

 

 ところで。

 

 アレは我輩の本体なのであろうか。それとも、単に痛みから見える幻覚か。

 どちらにせよ、助けて欲しいのであるが。

 

 あっ。逃げた。

 

 逃げる前に、すまんなと動作で示していたが。

 すまんと思うなら、逃げるなと思う。せめて助けを呼んでくれれば良いなあ、とは思うが。

 思うのだが。

 

 あんな生き物に、助けを求められて。よし、わかったと駆けつけてくれる人など、おらんだろう。

 そうも、思うのだ。

 そもそも、常人に見えるのか怪しいものであるし。

 というか、無惨さまにも見えていなかった気配もあるし。

 まあ。望みは薄いな。

 

 さて。

 

 いよいよもって、危うくなってきた。

 体が、意思によらずして、ぴくりぴくりとけいれんする。

 呼吸がうまくいかぬ。息を吸うのも、吐くのも、思うようにいかぬ。

 目の前がちかちかとする。白い光りが邪魔で、ものが良く見えぬ。

 今までの経験から、理性だけを切り離し。痛みやら何やらから、叶う限りは目をそらしてきたのであるが。

 その理性も、もはや霞がかかってきておる。

 

 無惨さまも、これはダメかと見切りをつけて、トドメを刺しに来そうであるし。

 どうすればいいのであるかなあ、これ。

 

 というか。何ができるというのであろうか。

 

 だって、エラー猫であるぞ。我輩、エラー猫であるぞ?

 単に。ゲームの進行中に、エラーが出た時に表示される。ただそれだけのものであるぞ?

 いったいぜんたい。そんなキャラクターで何をしろと……

 

 …………

 

 エラー猫。

 

 つまり。

 エラーが起こせる?

 

「いや、今のその拒絶反応がエラーじゃないの」

 

 こっちへは来ていないはずの、聖杯くんの声が聞こえた気がした。

 そして確かに、我輩もそんな気もしたが。

 今は、そっちへとかまけておる余裕などはない。

 全力で、祈り、願い、念じる。

 

 

 エラーを起こせ、無惨さまの血よー!!

 

 

 ……あっ。少し楽になった。

 よし、もっとだ。もっとエラーを起こすのだ。

 

 ふむ。そういえば。

 

 無惨さまの血は、相手を鬼に変えるが。鬼には血鬼術という特殊能力が生えてくるのであったな。

 それも念能力のように、個々に異なったやつが。

 

 

「そうか。そういう能力にすればいいんだ」

 

 

 未だなった事はない、もしかすれば、この先なるやもしれぬ。

 とある世界にいた、アリなのに猫という謎生物。彼だか彼女は、そう言った。

 

 ならば我輩も、そうしよう。

 

 日光浴可能で、無惨さまの呪いとかも無効になーれ。

 

 

 

 

 

 そして。この願いは、叶った。

 

 のであるが。

 

 その、なんだ。

 

 

 それを察した、無惨さまに。即座に取り込まれてしまってね…?

 

 

 うむ。無事、死亡。というやつであるな。

 ただ、無惨さまもその後、無事死亡したらしいがな。

 

 日光を克服して、人間に戻ったぞ! と喜んでおったら、うっかり寿命も人間並みになっていったそうで。

 それに気付いて。もう一度鬼になるのだ! と研究はしたらしいのであるが。

 

 青い彼岸花ひとつ、千年かけて品種改良する事も、栽培条件を探る事も、出来なかったあの人が出来るかというと、ね?

 むしろ、それらを思いつきすらしなかった可能性すらあるのだぞ。

 

 しかしさすがは無惨さま。毎度毎度思い付きで行動して、痛い目に遭って、まったく反省も成長もしていない。本当にさすがである。

 

 さて。

 

 座に帰って来て、死後の顛末も確認した事であるし。

 鉄砲玉どころか、相手に食わせる毒として放り込んでくれた上司(アラヤ)に、文句を言いに行くとしよう。

 やり方がわからぬので、退職は出来ぬが。

 労働条件や、労働環境の改善くらいは求めても良いと思うのだ。

 

 そうだ。エミヤさん(社畜)誘おう。

 いや、他にもあのクソ上司に文句がある英霊は、たんとおるはずだ。

 いっそ組合でも作ってやるのである。団結権の行使である。

 あとは団体交渉権を行使するのだ。場合によっては、団体行動権も行使するぞ。

 

 よーし。これは、面白… もとい、忙しくなるぞ。

 ゆくぞ聖杯くん。革命である。

 

 

 




●「のび太のくせに生意気だ」
ドラえもんより。ジャイアンの代表的な台詞のひとつだが、こういうの良くないよな、と子供心に思いつつも、口にしたり思ってしまったりする自分がいるよね。反省。

●アリなのに猫という謎生物
ハンターハンター、キメラアント編より、ネフェルピトー。女っぽいけど性別不肖。
シュレディンガープレイ、と言ってネタが通じる人はいるんだろうか。どっちでもいい。

●エラー猫
艦コレより。通信エラーの時に、君は彼女らと出会う。
鯖=サーバを食い荒らすネコを捕まえて、ドヤったり恥ずかしがる娘さんと、捕まえられたネコのセット。


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ザ・ラスト・オブ・オマケ 白面さん

サブタイだけで「あっ(察し)」した読者さんは、いい読者さん

そんな読者さんに、だら子氏の 氷柱は人生の選択肢が見える を推してみる。
鬼滅世界で、他人には見えない、定期的に現れる選択肢を選んで生きなきゃいけなくなった転生オリ主のお話。ヤバい選択肢は(死)とかついてる親切設計だから安心。
ただし全ての選択肢に死が付く可能性はある。
はたから見たオリ主の描写が豊富で、そこが楽しい。

あとIFの方の外伝もちょいちょい書いてるので、そちらは知らないという方は見ていただけたら嬉しいです。


 

 我輩は白面の者を滅ぼすものである。

 

 はずであった。

 

 過去形である。

 

 その為に、獣の槍を使い。字伏(あざふせ)と呼ばれる妖怪となった。

 インドへの旅の道中、洗脳呪文で手下にした妖怪どもを組織して、百鬼夜行の群れを作った。

 日本の人間や妖怪らと、何とか繋ぎを取って、共に白面の者と戦おうと考えた。

 

 みな、過去の話である。

 

 今? うむ。今、現在は、だなあ。

 

 

 そこに、いい笑顔をした白面の者がおるじゃろ?

 

 あれ。我輩の味方です。

 

 いや、我輩が奴の味方だというのが、正しいのであろうか。

 

 

 どうしてこうなった。

 

 

「フッフッ。まさか(ワレ)が、そこらの(アヤカシ)どもと群れようとはの。だが、面白し。時には戯れてみるものよ」

 

 

 白面さん。初めての友達たちとのお出かけに、うっきうきの様子である。

 

 本当、どうしてこうなった。

 

 我輩は、ただ。

 

 ヒマであったので、少しばかり都に顔を出して。ついでとばかりに、少しばかり遠出をした。

 それだけであったのだがなあ。

 

 ただそこで、白面さんと、ばったり顔を突き合わせてしまっただけで。

 

 我輩は激しく動揺したが、なんと白面さんもそうであったようだ。

 と、いうのもだ。

 

 白面さんは、そもそもインドで実体を得た。

 とら。そう呼ばれる事になる化け物が、人間だった頃。その体に取り憑き、暗い感情を蓄えて受肉したらしい。

 

 その後は、そのままインドを滅ぼし。中華へとやって来て、女に化けて王などをたぶらかし、国を荒らして遊んでおった。

 すると、王が化け物退治用の神剣を造ろう。そう言い出して。

 生意気な。と、本気を出して国ごと滅ぼした結果。

 生き残りの中から、神剣を完成させるどころか、獣の槍に成ってしまった男が現れて、襲撃してきたのだ。

 

 白面さん。人生、いや妖生? で初の敗北と恐怖を味わったらしい。

 

 何をやっても止まらず、ひたすら自分目掛けて飛んで来る、一本の槍。

 強力で、敵などないはずであった自分の尾が、何の抵抗にもならずに貫かれてしまう。

 逃げても、追ってくる。どこまでも、疲れも諦めもせずに、どこまでも。

 未完成の、鉄に変えつつあった尾で、何とか止まり。

 そこで尾を噛み切って、逃げた。

 

 恐怖を与え、それを力とする大妖怪が。

 たった一本の槍に、逆に恐怖し、必死に、無様に逃げた。

 

 

 その槍を持った我輩と、唐突に出会ってしまったわけだ。

 

 

 そろそろ傷が癒え、隠れ家の外の様子を伺おうとしていた矢先の、不意の出来事であったらしい。

 

 婢妖(ひよう)などの使い魔で、様子を伺ってから。それが本来のやり方であったのだが。

 この時ばかりは。久方ぶりの外、という誘惑に負け、気まぐれを起こした結果であったそうなので。

 まあ、仕方が無い面もある。

 

 

「待て。話せばわかる。話し合おう。お互い紳士じゃないか」

 

 

 唐突な出会いに、若干ならず混乱した我輩は、そう言った。

 しかし通じなかった。全く持って、通じることがなかった。

 

 

 おぎゃぁあぁあ!!

 

 

 赤子の泣き声のような、悲鳴のような。獣の吼え猛る叫びのような。

 敵意のこもった、悲鳴が白面さんの答えであった。

 

 そして、戦いが始まった。

 

 結果。

 

 我輩、無事死亡。

 

 うむ。死んでしまったのである。

 

 この身はすでに妖怪。

 獣の槍にささげる、人としての寿命のようなものがないため、体が強化されたりはせぬが。

 この身はすでに妖怪。 

 雷を操り、炎を吐き、長い毛を刃物のように変え、鋭い爪と牙を持つ。

 獣の槍も、武器としては普通に使える。

 そして魔法もあった。いざとなれば、洗脳魔法で一発よ。などと思っておったのだが。

 

 なぜか白面さんには、効かなかったわけで。

 

 ならばライデインストラッシュである。

 などと、槍に雷を落として、そのまま斬りつけたりもしたが。

 

 白面さんが、療養中に雷の尾を作っており。それで防がれてしまった。

 

 大きさは向こうが上なのに、向こうの方が速く。

 力も、生命力も、向うが上だった。

 

 我輩よりも、獣の槍へと攻撃しておったので。何とか戦えてはおったが。

 

 酸で溶かそうとして、その余波で皮膚がボロボロになったり。

 攻撃を反射されて、体中が傷だらけになったり。

 鉄の尾を叩きつけられて、気が遠くなったり。

 

 一応は、プロテゴという防御の呪文もあるのだが。正直、気休めである。

 焼け石に水、とまでは言わぬが。まあ、気は心、というあたりであろうか。

 プロテゴマキシマ? すまぬ、それは覚えておらぬのだ。

 アバダケタブラ? うむ、それなら使ったぞ。

 

 婢妖を一体だけ、葬ることが出来るな。

 

 あれ、死の呪文とかいうが。しょせんは単体用の魔法であるからなあ。

 

 最初に使った時に、でっかい海鼠のような使い魔をそれで仕留めたが。

 どうも、それで警戒されてしまったらしい。

 それ以降は、婢妖が身代わりに受けて、防がれてしまうようになってしまった。

 

 それでまあ、最後は。

 鉄に変えた尾を、さらに巨大な刀に変えて、我輩が真っ二つにされてしまった。

 

 それだけでは、死ななかったわけだが。

 

 そういえば、原作のとらも左右に真っ二つにされても死ななかったな。

 しかも、左右どちらの体も、普通に動かせておった。

 

 我輩は上下に分けられたせいか、下半身は動かせなかったが。

 

 だが上半身は動かせたわけで。

 これはもういかぬな。

 そう思った我輩は、槍を手放す事にした。

 一足速く、日本へと飛んでゆけ。

 そう念を込めて。えいやっと、力の限りに槍を東、と思しき方向へとブン投げたのだ。

 

 

 おぎゃぁぁあああ!!!

 

 

 白面さんが、吼えた。

 追い詰めて、追い詰めて。ようやっと始末できると思った、にっくき敵が。

 手の内から、するり… と逃げてしまったのだ。

 

 その怒りは、我輩へと向けられて。

 

 がぶり。

 ぐちゃぐちゃ。ばりばり。

 ごくん。

 

 どのような味であったのかは、さすがにわからぬし、知りたくもないが。

 我輩は、食べられてしまったのである。

 

 

 

 そして尾から生えてきた我輩が、今ここにおるじゃろ?

 

 

 

「えっ」

 

 

 そう口にしたのは。

 生えてきたばかりの我輩と目が合った、白面さんであったか。それとも我輩であったか。

 まあおそらくは、両方であろう。

 

 

「話し合おう。話せばわかる……事もきっとあるはずだ」

 

 

 我輩の提案は、今度は受け入れられた。

 

 その結果。

 

 なってしまったことは仕方が無い。お互い諦めて、仲良くやっていこう。

 そういう、妥協が成立した。

 

 なぜか、成立したのだ。

 

 これは、おかしな事である。極めて、奇妙な事である。理屈に合わぬ結果なのだ。

 だって、白面さんは、陰の者であるのだから。

 

 昔、陽の気が集まり人間となり、陰の気が集まり白面さんになった。

 白く、明るい陽の気に、なぜ自分はそうではないのか、と白面さんが嫉妬したらしいが、それは置こう。

 大事なのは、白面さんが陰の気で出来ている、という事だ。

 そうすると、どうなるのかといえばだ。

 行動、趣味、嗜好などが、暗い方向へと固定されてしまうのだ。

 

 いかに陽の気から出来た人間をうらやみ、そうなろうとしても、出来ない。

 妬み、引きずり落とし、いたぶって暗い笑みを浮かべる。

 陰の気からのみ出来た白面さんは、そういう風に出来ている。

 

 魂まで陰キャなので、陽キャになるとか無理。と言えば、わかりやすいだろうか。

 

 そんな白面さんが。妥協とは言え、我輩を受け入れたのだ。

 無論、利用してやろうとか、そういう思考はあるのだろうが。それでもこれはおかしい。

 

 根っからの陰キャが、プライベートスペースを侵されるのに耐えられるはずがない。と言えばわかりやすいだろうか。

 

 つまり、そんな白面さんが、こんな結論を受け入れた。という事は。

 魂に関わるほどの、何かがあった。という事ではなかろうか。

 

 

 

 それで、魂ごと取り込まれたっぽい、我輩がここにおるじゃろ?

 

 

 

 これか?

 今回の、上司からのお題はこれであるか?

 まさかの、白面さんの更正計画とな?

 

 しかしその手段が、無惨さまに続いての、食われてどうぞ。というのは抗議活動が足らなかったと見える。

 座に帰ったならば。今度こそ、目に物を見せてやるとするのである。

 

 いや。今からでもいいな。

 

 白面さん、白面さん。

 あの槍、日本にまで飛んでいったと思うのだが。

 我輩の仲間と組んでの、日本侵攻。 や ら な い か 。

 

 

 




●話し合おう。お互い紳士じゃないか
GS美神より。西条のセリフであるが、どんなシチュで言ったのかまでは覚えていなかったり。横島と一緒に言ってた気がする。

●「えっ」
オーバーロードより。アインズ様ではない、鈴木さんの言葉。素になって言おう。
きっと白面さんも素で言ってた。

●やらないか
ネット上でのネタキャラと化した安部さんより
海外でもネット上では認知されており、やらないかガイなどと呼ばれているらしいw


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我輩はネコである ダイの大冒険編

なんか最終回っぽい締めになった


 我輩は驚愕しているのである。

 全身の毛という毛が、頭の先から尾の先まで。ヒゲに、尻尾までもがピン、と立ってしまっておる。

 目は大きく開かれて、これ以上開けたら、目がポロリ… と、こぼれてしまいそうなほどだ。

 

 ダイの大冒険

 

 そう呼ばれた物語の世界。

 その世界の、あまりの変化に。我輩は身を震わせて、犯人である上司(アラヤ)に問うた。

 

 なぜ、こんな事を。と。

 

 

「よ…」

 

 

 よ?

 

 

「良かれと…… 思って……!」

 

 

 

 そうか。

 これが、この気持ちが。

 今まで我輩が、この台詞を口にしたのを聞いた、相手の気持ちであるか。

 

 理解したくは、無かったであるなあ。

 なにこの、やるせない想い。

 

 

 

 事の始まりは、我輩の抗議であったそうな。

 

 もう食材か薬のように、相手に食わせるために送りつけるのは止めよ。

 さもなくば、適当に剪定世界を旅して回るぞ。聖杯くんと、英霊、守護者の有志たちと一緒に。

 いいのか? 何かよくわからないものを拾ったり、剪定世界ではなかった事にしたり、集合無意識である上司にまで、何か影響を及ぼしたりするぞ。

 我輩たちは本気である。

 

 というか。もう、旅行の準備は皆、出来ておる。

 

 後は旅立つだけだ。

 ただ。しかしだ。

 旅先での行動の、指針やら。方針やら。心がけなどというものは、だ。

 この後の、お前さんの答えにかかっておる。そう、心得よ。

 

 もう我輩を、生け贄には、しない。餌にも、しない。

 それで、良いであるかな?

 

 と、まあ。そう、宣言したわけである。

 

 

 そういうわけで。我輩を毒だか薬だかわからぬが、相手に食わせて取り込ませる、という手段を上司は封じられたわけだ。

 

 だが、相手はクソ上司の評判を、欲しいがままにする存在。

 また、いらん事を考えて、実行してしまったのだ。

 

 

 特定の相手に食わせられないならと、世界全体に要素として混ぜおった。

 

 

 ちょっと何言ってるかわからない。

 

 

 頭の中で、お笑いの人がそう言ったが。

 我輩も、わからなかった。

 

 よくよく、聞いてみたならばだ。

 我輩という概念を、世界の基幹から少し外れた場所に、組み合わせるような形で紛れ込ませた。とのことであるが。

 やはり、よくはわからない。

 

 だが、その結果どうなったかは、一目瞭然。悲しいほどに、理解できてしまった。

 

 

 

 まずは。大魔王バーン。

 彼が、地上の爆破計画を、大幅に修正していた。

 

 中世ほどか、それ以下の科学知識しかないはずの世界で。

 彼は重力の存在を知っていた。そして磁力の存在も知っており。

 

 遠くへ行くにしたがって、磁力のように重力もその影響は少なくなるのでは?

 

 そう気付いたのだ。

 炎とて、遠ざかれば影響は低くなる。この考察は妥当である、と彼は断定した。

 すると、もうひとつの事にも気が付く。

 

 爆破され。遥か上空へと、打ち上げられた土砂は。

 そのまま、空のかなたへと飛んで行けば、まあ、問題は無いが。

 途中で重力と、飛んで行く力がつりあってしまって、止まった場合。

 ずっと、地上へも落ちてこずに、その場にとどまり。太陽をさえぎる蓋となってしまうのではないか?

 

 更に、彼は気付いた。

 

 というか。

 地上で、黒の核の連鎖爆発を起こして、地上そのものを砕いたら。

 上空ではなく、地下へ。つまりは、魔界へと向けて、地表が砕けて落ちてゆくのではないか?

 

 

「……よし」

 

 

 彼は、人知れずに、それだけを口にして。計画を大幅に変更する事にした。

 

 景気良く全部を吹き飛ばすなどせずに、場所を選んで大穴を開けて、太陽光を取り入れるとしよう。

 海水が落ちてきても、まずい。死の大地あたりと、あと数箇所を選べばよかろう。

 途中で光が弱まらぬよう、穴の壁面を鏡のようにするのもよいかも知れぬ。

 さて。その辺の計算は。

 ふむ、面倒だな。ミストとザボエラあたりに、やらせるか。

 

 

 そんな具合に。

 大魔王というには、何やら計算高いというか。姑息というか。

 そんな、厄介な生き物に、彼は変わってしまっていた。

 

 他にも。

 

 アバンが、各地で勇者の家庭教師などせず、普通に故郷に帰って王様をやっておる。

 そして各国からも兵士などの留学を受け入れ、アバン流の普及に励んでいるようだ。

 確かに、その方が効率は良さそうではある。だがしかし。

 

 ドサ回りが面倒だし、王様やってた方が、何かと苦労は少ないですからね。

 

 そんな事が、動機であったりするようだ。

 いいのかそれで。

 いや。我輩としては、とても理解が出来るのであるけども。

 フローラ様が行き遅れないという点でも、良い事ではあるけれども。

 勇者として、それでいいのか。

 

 そのせいで、ポップが実家で腐っておるし。

 マァムは、母親に鍛えられてはおるが、レベルが低そうだし。

 ヒュンケルは、いつかアバンを殺そうと付いて行ったら、まさかの王様になられてしまって、殺し方に困っておるし。

 

 アバンの使徒たち皆が、大迷惑をしておるのだが。

 

 特にヒュンケルなぞ、一番弟子で実力も高いという事で、うっかり騎士として出世してしまい。

 さらにうっかり、恋人なぞも出来てしまって。

 その上、仲の良い同僚や街の人らなども、出来てしまい。

 

 複雑な事情で、親の仇であり師匠でもある王のもと、騎士として働き。

 男女双方の同僚たちや、街の人たちの中で暮らし。

 上司として尊敬できる、王を愛している美しい女王に仕える。

 

 まるでエロゲがギャルゲのような、そんな生活を送っておるのだ。

 友情エンド要員兼、ライバル兼一部オチ要因の北の勇者も、リンガイアから留学に来ているし、特別講師としてかつてのアバンの仲間たちもゲストキャラとして登場する。

 ヒロインも、現在の恋人であるパプニカの賢者の他に町娘や占い師、妹弟子に他国の王女、と豊富だぞ。ひょっとしたらならば、隠しキャラもいるやもしれぬ。

 

 日々、無数の選択肢を選んで、上下する好感度の中で。彼はトゥルーエンドを選べるのであろうか。

 きっと、アバンを斬ってしまったらバッドエンドだぞ。頑張れ、ヒュンケル。

 

 

 ただ、ダイは幸せそうではある。

 デルムリン島での彼が不幸であったとは、思わぬが。

 両親がそろっており、田舎でスローライフを送っている今の彼も、また不幸には見えないのだ。

 

 なお、場所は何かの因果か、原作補正さんが頑張ったのか、ランカークス(ポップのところ)である。

 バランさんはここで、木こりとして生計を立てている。たまに出るモンスターは肉か毛皮か、薪として喜ばれているようだ。

 

 どうせ死んでも、マザードラゴンに魂は回収されて生まれ変わるだけだしな。

 原作のバランは、そんな感じで処刑されての死を受け入れていたと思うのだが。

 どうも、ここのバランはそれを良しとせず。

 捕まえに来た兵士を、全員叩きのめして。そのまま城まで進撃して。

 立ちふさがる全てを叩きのめして。最後は王まで叩きのめして。

 

 それを次の日に、もう一度繰り返した。

 

 更にその次の日も、もう一回やった。王が船で逃げても、トベルーラで追いかけて叩きのめした。

 

 さすがにそこまでされては、姫を連れて駆け落ちするが、追うなよ。というバランの言葉に逆らえなかったらしい。

 おそらくは、そのまま新たな王としてアルキードに君臨も出来ただろうが。

 そんな面倒は、ごめんであったようだ。

 

 

 

 他にも、一般人にまで影響が出ておるようだ。

 城の兵士とか、役人とか。公務員というか、宮仕えをする者が、目に見えて減っておるらしい。

 あと平均睡眠時間が、増えておったり。モンスターすらも、あまり人を襲わなくなったり。

 少子化問題が、深刻化したりしておるらしい。

 我輩、結婚もした事ないし、子供もおらぬからね。そこは、仕方が無いのである。

 

 

 

 うむ。

 

 あまりの変化に、驚いておったが。

 よくよく考えてみれば、これはこれで、有りなのではなかろうか?

 平和であるし。

 

 そう、上司に聞いてみたところ。

 

 このままでは、剪定事象になってしまうのだそうだ。

 ダイの大冒険の世界なのに、冒険しなかったら、世界の存在意義が無くなってしまうのだそうで。

 このままでは、世界ごと無かった事になってしまうのだ、と。

 

 いや。でもそれ、あなたのせいですよね?

 

 容赦なく、そう指摘すると。上司は偉そうに、こう言った。

 

 

「何とかして」

 

 

 ああん?

 別に我輩は、お前に願いをかなえてもらったわけでも、給料を貰っているわけでもないのだが。

 上司と言ってはおるが。実のところ、英霊として所属しておるのか怪しいので。上司と部下ですらない可能性もあるのだが。

 

 よし。これは剪定世界旅行、第二段の開催であるな。

 手始めに、この世界から行くとしよう。

 何とかしろ、と言ったな? 良かろう。何とかしてやろう。何とでもしてやろうではないか。

 

 要は、冒険をさせれば良いのだな? この世界を引っ掻き回してやるのである。

 ついでに、ドラクエ世界道具。煎じて塗るだか飲むだけで、傷が即座に治る薬草の種とか。世界を超える力が有る、かもしれないキメラの翼とか。

 あるいはモンスターの、スライムとか。そのはぐれてるヤツとか。きめんどうしとか。リザードマンとか。

 持ち出して、そこらの世界へと適当にバラまいてやるのである。

 

 事を起こせ、というのであろう?

 よし、わかった。どこまででも、やらかしてやるのである。

 ダイ少年に「お前を倒して 地上もいただく」とか言わせてやるのである。

 クロコダインに「くっ… 殺せ」とか言わせてやるのである。

 

 任せろ。大丈夫だ。

 なんせ、ほら。

 

 我輩は、ネコであるからして。

 

 

 




●ちょっと何言ってるかわからない
サンドウィッチマンというお笑いコンビの片割れの、定番の台詞。
汎用性は高いぞ。

●お前を倒して 地上もいただく
ダイの大暴言より かつての2chのAA。元台詞はお前を倒して 地上を去る。だった。

バーンに、余を倒せるような化け物とか、普通の人間はドン引きだから。ボッチになるから。悪い事言わんから、おっちゃんに付いて来ぃや(意訳)
と言われたダイの答え。人に平穏を、地に平和を。自分がその邪魔になるなら、自分はその中に居なくていい。という覚悟。
が、元ネタの方だけど、それをみごとに台無しにする改変であったw

●くっ殺せというクロコダイン
クッコロダインである。


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ザ・ラスト・オブ・オマケの北海道編

さいしん氏の 選択肢に抗えない を応援してみる
推すまでもなく人気作。IS二次でオリ主ものだけど、作者さんがオリ主に「ここでボケて!」と無茶振りなカンペを出すADの如く、ヤバめな選択肢を選ばせ、実行させ続けているのが見ていて本当に楽しい。


 

 我輩は北海の海の幸を、満喫しているのである。

 実は生前は、イクラが大の好物であったのだ。

 それが、我が身が猫となってしまっておったので。

 こういう、塩気の強いものや味の濃いもの。そういったものはなかなか、思うように食べられなかったのだ。

 

 それが今は妖怪であるから、食べ放題である。

 しかも大妖怪の一部であるので、量だってたくさん、たくさん、食べられるのだ。

 鮭の骨であっても、せんべいの如くばりばりと食べてしまえる。

 これが本当の、骨せんべいであるな。

 

 丸ごと焼いた一本の鮭に。イクラをまぶして、豪快にかぶりつく。

 そこに大陸から持ち込んだ米で作った、焼きおにぎりを追加で口に放り込み。

 同じく、大陸から持ち込んだ茶で、胃へと流し込む。

 

 この世界では、我輩は猫ではない。ゆえに猫舌ではないからこそできる、熱々の食べ方であるな。

 うむ。この際である。心行くまで、楽しもう。そうしよう。それが良い。

 

 

 白面さんも、ここでは神様扱いされておって、満更でもない様子であるしな。

 

 

 なお、我輩もその眷属として、神様の仲間扱いである。

 不動明王の脇侍(わきじ)の、コンガラ童子みたいなものであろうか。

 チャペカムイ、だの。メコカムイ*1、だのと呼ばれておる。

 

 うむ。カムイである。

 

 つまりは。我輩らをそう呼んでおるのは、アイヌ民族である。

 

 したがって。ここは北海道なのである。

 

 ああ、ウニとホタテとホッキ貝とホッケとソイもおいしい。

 もうこれは、ウニだけでご飯が見えなくなったウニ丼を作って、他のものをおかずにやっつけるしかあるまい。

 なにガニであるかはわからぬが、カニの味噌汁もある事であるし。

 もう、後の歴史の事などは。すっぱりと忘れてしまって、良いのではなかろうか。

 

 

「お主がそれで良いのならば、我はかまわぬがな。まあ、好きにせよ」

 

 

 ポロレタスマリカムイ*2。そう呼ばれておる、現在アイヌらの守護神として崇められておる白面さんは、そう言って笑った。

 下から心の中までを覗き込むように、いやらしく睨みつけるようにして嗤うのではなく。

 あまり興味が無い様子ではあったが、陰の無い表情で、ほんの少しだけだが笑っていた。

 

 うむ。これは死んだな。原作補正さん、死亡確認である。

 

 うしおととらの、あのまま。邪悪で狡猾で残忍であっても、まあ、困ったであろうが。

 今のこの状態もまた、始末に困る。

 奇妙な同居人として、何とかかんとかやっていけておるので。

 何をもってしても、葬ってやる。とか。絶対に滅ぼさねば、とか。

 そういう、敵として扱うのが、どうにも難しいのだよな。

 我輩の知らぬところで、ぽっくりと亡くなってくれたなら、それが一番良いのであるが。

 ほら。我輩、今はこの白面さんの尾の一つであるからして。離れることができないのである。

 

 うむ。分離不能である。

 

 原作では、黒いとら、紅蓮の複製らしき分身がわらわらと出てきた、あの尾。

 あの場所に、おそらく我輩は入ってしまっている。

 そこから出てゆけぬのは。魂的なところで融合しておるせいなのか。それとも、白面さんを変えてしまいたかったと思しき上司の仕業か。

 

 こうなってしまって。白面さんが変わってしまって。

 それで我輩の仕事は終わったはずであるが、まだ帰れぬ。

 と、いうことは。この変わってしまった白面さんと、我輩に。あの上司はまだ何か、やらせたい事があるという事だ。

 むしろそのために、白面さんを変えたのではなかろうか。

 

 白面さんの力が無くては出来ず。

 されど、元のままの白面さんでは、絶対にやらなかったであろう事。

 ついでに言えば。我輩が憑いていたならば、やりそうである事。

 

 ふうむ。

 なんであろうかなあ。

 我が事ながら。主に、その場のノリと勢いで生きておるので。

 何をするのかとか、何を考えておるのかとか。そこらあたりは、自分でもわからないのだよなあ。

 

 今もこうして、北海道までやって来ておるし。

 

 しかも特に深い考えとか理由なぞ、無かったのである。

 ただ単に。以前、九州から上陸しようとしたら、迎撃されてひどい目に遭ったので。逆に北から日本へ上陸しようと思っただけなのだ。

 

 そうしたら、なにやら地元住人らにやたらと歓迎されて。

 白面さんが、なんかその気になって。

 祭り上げられてしまって、貢ぎ物とかささげられてしまって。

 その代わりにと、そこらのヒグマとか狼とかから、民を守ったりしてて。

 我輩も、つい文明育成のノリで、網などの漁具やら造船やら、粟の農耕やらを教えてしまって。

 

 しまいには。我輩と白面さんとで、東北へと攻めてきた大和朝廷の軍を、叩き返したりしておった。

 

 何をしておるんだ、我輩たちは。

 そりゃあ、守護神扱いもされるというものである。

 

 いや。確かに征夷大将軍坂上田村麻呂が生まれるまで、あと百年程あることであるし。

 今、アイヌが征服されぬように動いても、問題は無いと言えば無いし。

 そもそも、日本へとやって来たのは、上司への嫌がらせであるので。問題が起きても良いと言えば良いのだが。

 

 こう。意図せずに、流れのままに。なんやかんやで出来てしまうのは。

 なにやらこう、違う気がするのだ。

 

 引き連れてきた大陸の妖怪らも、いつの間にやら土着しておるし。

 おのおの、気に入った場所を縄張りとして、根付いてしまっておる。

 その場所にちなんだり、アイヌの言葉であったり。名前まで変えておる。

 者によっては、姿かたちまで変わって。何と我輩の魔法が解けて、洗脳から目覚めてしまった。

 

 我輩もこれには慌てふためき。再び洗脳を、杖はどこにしまったか、と。急ぎ、住処(尾の毛)をかき回したものだが。

 白面さんが無言で、ギラリ… と、ひと睨み。

 そうするだけで、彼はただちに降伏した。さすがである。

 一件落着。それは良いのだが。

 

 彼の新しい名前が、サンピタラカムイというのだ。

 

 原作で、うしおととらの側に付いて、白面さんと戦った一柱で。土地神らのまとめ役をやっておった気がするのだが。

 はたして彼は、原作の時期が来たとして。白面さんに立ち向かってくれるのだろうか。

 

 ……まあ、いいか。

 

 後の事は、後で考えよう。

 ずっと後の事ならば、ずっと後までに考えておけば良いのだ。

 東北から北海道、一部大陸にまでつながってしまった、アイヌ民族らのゆるい連帯意識とか。

 それが国へとなりかかっておる事とか。

 そういう事も、後で考えよう。

 

 今はただ、目の前のサンマにかける醤油がまだ世に無いけれども、どうしようか。

 それだけを、考えていようと思う。

 

 きっと、たぶん。人生は、そんなもので良いのだ。

 

 人生、色々な場所で、色々な事があるけれども。

 きっと、何とかなるのである。

 

 

 

*1
チャペもメコも猫という意味

*2
大きな白い狐の神様の意味



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ザ・ラスト・オブ・オマケ 北の国から

注意。今回の前書きは深夜テンションでできています。

東北で稲作が紀元前から行われていたという事実にビックリ
稲の原産地が、熱帯のタイとかあちらだから、そこから北上してきたとして
おそらく中国の南西部のどっかから九州へ、そっから日本全土へ徐々に広がったとして

(え?朝鮮?北海道より北の地域が、九州より先に広まらないよ。稲のDNA検査でも日本が先だと判明してるし。教科書にあった?ただの古い間違った情報だね)

紀元前には、すでに日本中に稲作があった、という事に。縄文時代に稲作が無い、とは何だったのか。
あと狩猟採集生活のはずなのに、なんで定住してるんだ。貝塚とか家とか作って定住してるじゃん。食料求めて、放浪するのが狩猟採集生活ちゃうんか。
教科書の歴史の初期は、情報少ないけど多分こうだろう、こうであって欲しいってファンタジーで出来てるから困る。原始共産制とか。
原始時代で強い奴が上に立つ階級社会以外に無いだろ……猿の群れと一緒や。何で平等だと思ったねん。
あ、本編始まります。



 我輩は白面さんと開墾中である。

 墾田永年私財の法はまだ無いが。ここ、東北は大和朝廷の支配下の外なので。

 まあ、勝手にやってしまっても問題はあるまい。

 地元の方々にも、大変に恐れられつつも、非常に感謝されておる事であるし。

 

 まずは川を辿って、おおまかに地形を把握した。

 白面さんは空を飛べるので、ひと目でわかってしまう便利さを誇っていいと思う。

 

 そして山のように。本当に小山ほどの大きさの、くらぎという名前の大百足やら。

 同じく山のように大きな、あやかしという名前の、海鼠のような鯨のような、海蛇のような怪獣やら。

 翼の付いた目玉、という少々気味の悪い見た目の、これまた山のように沢山、無数におる使い魔の婢妖。

 それら総出で、川の流れを都合のいいように、変えてゆく。

 

 神や大妖怪が山を動かしたり、湖を作ったりと。地形を変えたという神話は、まあ、ありきたりではあるが。

 それをこうして実際に、目で見てみるとだ。

 豪快すぎて、こう、天変地異というか。大災害というか。

 とにもかくにも、もの凄まじいものがある。

 あるのだが。

 

 凄まじすぎて。現実感がまるでないのだよなあ。

 

 白面さんも、吐いた息で丘を雑に吹き飛ばして、平地に変えたりしておるし。

 我輩も、大陸では山奥に隠れ里を作る程度の、土木工事ならやったのであるが。

 我輩がやっておったのが、ダッ○ュ村とするならば。白面さんのこれは、大規模公共事業であるなあ。

 

 正直、勝てる気がせぬ。

 まあ、勝つ必要も、勝つつもりもないのだが。

 

 それで、だ。

 

 なぜ白面さんが、こうして川の流れを整え、平野を作り、ついでに耕しているのかと言えばだ。

 

 独立国家ホッカイドー。その防衛のためである。

 

 繰り返す。

 独立国家ホッカイドーである。

 

 どうしてこうなった。

 

 どうしてこうなった。

 

 ホッカイドーの名前が、我輩がちょくちょく口にしていた北海道から採用されてしまったので、いつもの台詞も使えぬ。

 

 本当に。どうしてこうなった。

 

 我輩は、ただ。

 

 また朝廷に攻められても嫌だし。

 というか、また白面さんが戦ったとして。殺戮の中で、また陰の者になってしまわれても困る。

 そう思って、とりあえず戦士階級をアイヌの中から作り出して。

 いざという時は、そいつらが戦うようにと組織作りをして。

 防御拠点として、白河の関が将来できるかな。と思しき所に、見張り櫓付きの砦を築いて。

 ついでだからと、タタキと漆喰を教えて。石垣と上下左右の矢狭間と、鉄砲窓に、天守閣を備えたお城に発展させて。

 そうしたら、兵糧やら兵士の食い扶持やらのための食糧を生産せねばならなくなって。

 

 そういう流れの、最初の一歩を踏み出してしまっただけなのであるがなあ。

 なお、三和土と書いてタタキと読む、和製コンクリートの作り方だが。

 我輩は鉄腕なあの番組で見たのを、なぜか覚えておった。原作知識といい、意外と忘れないものであるなあ、前世の知識というのは。

 

 ただ。砂利や赤土に、消石灰とニガリでタタキになるのは覚えておったのだが。

 配合率とか。海水を一割に減るまで煮込んで取れる、ニガリはともかく、消石灰の作り方とか。

 細部まで覚えておるかというと。実のところ、まあ、かなり怪しいわけである。

 

 しょうせっかい、と覚えておったので。石灰石を砕けば、それでよいだろう。そう誤解して。

 しょうせっかいは、しょうせっかいでも。消石灰ならぬ生石灰の方をそのまま混ぜてしまい。

 結果。水分に反応して、激しく発熱してしまった事件もあった。

 

 そうそう。生石灰に水をかけると、高熱を発するのであったな。

 弁当をあっためるのに、ミスター味っ子でやってた、やってた。いや、懐かしい。

 

 我輩はそんな風に、なごんだが。試させていた村人は、たいそう驚いておった。

 いや、悪い事をしたのである。

 

 そう思っておったら。後にこの男、関東での篭城戦で相手に生石灰をぶっかけるという暴挙を実行。

 敵味方の双方に恐怖されて、ウワサが広まり。しまいには嫁に逃げられる事になったらしい。

 いや、本当に悪い事をしたのである。

 

 うむ。関東での事である。

 

 だが、そちらの話は、一旦置こう。

 今は、東北の話である。

 

 それで東北で、城を作らせたわけであるが。

 そこに至るまでの、一連の流れの中。我輩は、常に白面さんと一緒であった。

 一緒というか。まあ、分離できないのであるが。

 

 つまりは。白面さんも、ずっと見ておったのだ。

 人を見て、選び、集めて、揃えて、鍛えて。

 話して、聞かせて、命じて、やらせて。

 褒めて、叱って、怒鳴って、慰めて。

 我輩が、人々と関わり、育てる様を。ずっと一緒に、見ておったのだ。

 

 彼ら人々もまた、我輩だけでなく白面さんを見て、話して、大いに関わった。

 ポロレタスマリカムイ。そう呼ばれる白面さんは、怖がられながらも、好かれていた。

 彼らに対して、白面さんがどういう感情を持ったのかは、わからない。白面さんは、そういう事を口にはしないからだ。

 

 ただ、開墾をしたのは。

 彼らが望んだわけでも、我輩が言い出したからでもないのは、確かである。

 

 子供の名前を、付けてくれ。

 

 新婚の夫婦に、そう願われたのが。今思えば、キッカケだった気がする。

 少し考えさせてくれ。

 そう言った後に、ふわりと飛び立ち。しばし、あちらこちらを飛び回り。

 ああ、真剣に考えておるのかなあ。

 我輩が、ほほえましく思いながら、黙って見守っておると。

 

 突然に。尾の使い魔らを使って、大規模な自然破壊を始めてしまったからなあ。

 

 当初、開墾とはとても思えない所業に、すさまじくビビッたのである。

 人々もそうであったらしく。

 怒りを静めたまえ、とそれぞれ祈り始め。

 しまいには、誰を生け贄にするか、と話し始めておったからなあ。

 

 その頃には、これが開墾ではなかろうかと、見当が付いておった我輩が、十和子と名付けられた人間型の使い魔に、伝言を頼んでおらなかったら。

 誰も幸せになれない、嫌な事件が起きてしまっていたであろう。

 危ないところであった。

 

 ところでだ。

 十和子もそうだが。くらぎも、あやかしも。みな和風の名前である。

 あとシュムナというアイヌ風のもある。

 さすがに無数にいる婢妖一体一体にまでは、名前が無いが、種としての名は婢妖と付けられた。

 

 名付けたのは、白面さんである。

 

 

「誰か 名付けよ 我が名を 断末魔の叫びからでも 哀惜の慟哭からでもなく 静かなる言葉で 誰か 我が名を呼んでくれ 我が名は 白面に あらじ」

 

 

 原作の、白面さんの最後の言葉である。

 我が呼ばれたき 名は と続き、そこで言葉は途絶えたが。

 陰の気より生まれ、陰の者として生き。他者の苦しみと死を喜ぶ、邪悪の化身の。最後の言葉と望みが、そういうものであったのだ。

 

 我輩と混じり、それとは変わってしまった白面さん。

 日本へと来て、うっかり神様になってしまって、名前をもらった白面さん。

 そして白面さんは、自分の一部とも言える使い魔に、名前を付けた。

 そして今、その使い魔らとともに。自分から、人のために動いている。

 

 これは、良いことなのであろう。

 きっと、素晴らしいことなのだろう。

 だが、我輩は、こう思うのだ。

 

 

 獣の槍、どうしよう……

 

 

 いや、マジで。

 あの槍は、白面さん絶対殺す槍なのである。

 今の、改心した白面さんを殺しに来られても。その、すごい困るのだ。

 

 日本に持ち込んだの、我輩だけどな。

 

 いや、だって。あの時は、まさかこんな事になろうとは、夢にも思わなかったのだ。

 ああ、どうしよう、どうしよう。

 

 とりあえず、ニガリの他の使い方として、豆腐の作り方と、豆腐料理のいくつかを教えるとしよう。

 なぜか細々としかやっておらぬが、田んぼでの水稲栽培がすでにあるので、途中で水を抜いて根を張らせる農法とかも教えねば。

 もちろん、なろうの定番、千歯こきとかも教えてしまうぞ。

 北海道のアイヌはそうでもなかったが、東北の人の中には金属加工の技術を持った人らもいたので、それらも改良して広めねば。

 いやあ、これは忙しくなるぞう。

 

 って違う。違う違う。

 

 あやうく仕事、仕事? に逃げてしまう所であったが、それは違う。

 考えねば。何とか、うまく丸く収まる方法を、考えねば。

 

 え~っと。

 直接出会ってしまえば、もう戦う以外の道は無いであろうし。

 かといって、向こうを排除するのも、後味が悪いし。

 

 ふむ。

 とらが生きて、白面さんを憎んでおる限り、白面さんは完全には滅びないという設定があったな。

 一度、討伐されて滅んだ振りをして、槍の中の人に成仏してもらっては駄目だろうか。

 白面さんが乗ってくれるか、復活できるか、向うが成仏するかは賭けになるが。

 

 よし。

 とりあえず、時間を稼ごう。

 ここまで派手にやってて、出てこないのだ。槍はおそらく、西日本のどこかだろう。

 北海道、東北にいる我輩たちに直接出会わないように。関東も独立させよう。

 どうせ時代を数百年先取りして、武士団を作ってしまったのだ。新しい皇と名乗った、あのお方の野望も先取りしてもかまうまい。

 それで独立したら、こっちと同盟を組んでもらって。戦になったら、援軍を出せばいい。

 それで史実のように、一年持たずに滅亡とかはしないだろう。

 

 そうと決まれば。さっそく白面さんに頼むとしようか。

 こんな面倒なお仕事はゴメンである。

 というか。頭に立てる人材を探して、そそのかして、集団を巻き込んでとやっていくのに。白面さんに勝てる気がしないのである。

 まあ、勝つ必要も、勝つつもりもないのだが。

 

 普通の人には見えなくなる事も、取り憑いて意識を操作する事も出来る婢妖と。

 頭が良く、顔が良く、性格が悪く、他人に取り入るのが上手い悪女の十和子。

 このふたつの使い魔を送り込むだけで、おそらくは成功するであろうからなあ。

 

 そして本当に後日成功して。

 おまつさえ、小田原城とか、造られてしまって。

 下手をすると、数百どころか千年以上先取りをした、小田原城攻防戦などがあったらしいが。

 

 さすがにここまで来ると。

 目の前の出来事ではないし。さすがに、責任は持ちきれぬので。

 我輩は悪くない、と。そう思うのである。うん。

 

 



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ザ・ラスト・オブ・オマケ とりあえずの完

ひとまず、ここまでで。
いや、マジで。


 我輩は命名中である。なかなかに、しっくりと来る名前が思いつかぬのだ。

 

 事の始まり、きっかけは、年明けの時であった。

 百人がついたモチを献上され。はむはむと、意外とかわいらしく食べる白面さんのおすそ分けを、我輩もはむはむとしていた時だ。

 

 年明けと言っても、旧暦しかないので旧正月なのだよなあ。

 それと、つきたてであるから、何もつけずともいけるが。やはりきな粉や砂糖醤油が欲しい。

 あとは初詣とか、行くべきであろうか?

 でも今、我輩たちが神様の側であるので、ひょっとしたらば来てもらう側なのでは?

 

 初詣(される側)

 

 この立場は、さすがに新しい。新鮮な感覚であるな。

 賽銭箱でも作ったら、一儲けできるか。とも思ったが。

 

 まだ貨幣経済の段階にまで、社会や文明が発達しておらぬのだよなあ。

 物々交換やら、村などの共同体での共有やら。そこいらへんで、止まってしまっておるのだ。

 いま少し、あるいはもっと。文明が進んで、分業も進んで。人口も増えて、顔見知りでない人との取り引きも増えて。

 そうなっていったら、交渉の手間を省くためにも、お金か、それに類する何かが重宝されてゆくのだが。

 

 なったらなったで、法整備やら、金貸しとか融資の制度やらの諸々も必要になるので。

 まあ、良し悪しである。

 そういった相談がこちらへと来ず、したがって働かなくても良い。という意味で。

 

 閑話休題。

 

 さて。初詣をしてもらう、としてだ。必要なものがある。

 

 場所だ。具体的には、神社であるな。

 だって、初詣と言えば、神社なのである。

 初詣行くよー。と彼女と出かけて、寺へ連れて行ったら「違くない?」って言われるじゃろ?

 

 まあ、個人的な感慨であり。

 実際はどちらへ行こうとも良いらしいのだが。

 我輩は、初詣と言えば神社であり。お雑煮といえば、白味噌に丸いモチで。きのこたけのこで言えば、たけのこなのだ。

 

 だが神社と言えば、その大元締めって大和朝廷の頂点の、あのお方であるのよなあ。

 

 今現在、我輩たち独立国家ホッカイドーとは。もの凄まじく仲が悪い。というか、戦争中なのだよなあ。

 その戦争の相手国の宗教を取り入れるとか、普通はありえないだろう。

 

 なお。

 戦況としては、夏、冬と二回に渡る小田原城攻防戦を経て、太平洋側からの侵略を諦めた大和朝廷が、日本海側からの侵攻を試みているところである。

 その前に、駿府から甲府あたりに北上して、そこから東へと甲州街道を通って小田原城を迂回する試みもあったらしいのだが。

 

 この時代は。関東はド田舎と言われるような場所であった。

 

 甲州街道が後の五街道の一つといえども、今は大人数が通れるような、そんな道ではなく。

 というか。家康が整備するまで、古甲州道として、一応は道ではあったものの。

 川沿いというか。ただの河原だろ、そこ。というような場所もちらほらとあるような、未整備の道であり。

 途中で勝手に断念して帰った、という。そんな後世に残りそうな笑い話な結末に。

 

 無理に進軍しようとせずに、引き時を間違えなかったと考えると。一応は名将の采配に聞こえる。

 

 だがしかし。真の名将であるならば、計画段階で。あるいは調査の兵を出して、その時点で侵攻を取りやめにする。

 ゆえに、名将というのは気のせいであり。やはり、笑い話であるのだろう。

 

 なお。日本海側は金沢から富山へすら、街道があるか怪しいという。

 そんな、やはり計画段階で止めておけという話であるのだが。

 

 ならば陸路ではなく、船で行こう。兵糧も沢山運べるし。

 

 そんな発想の転換により、多数の船を仕立てるという多額の予算と引き換えに、侵攻を可能にしたのだそうな。

 

 

 昨日、羅刹女が芭蕉扇で仰いで、ほぼ全部転覆させたけどもな。

 

 

 久々に旦那に会うのを邪魔をするんじゃないよ! というのが彼女の言葉。

 大陸から、日本へとやって来て。気付けば、我輩が連れてきた百鬼夜行も、散り散りになっておった。

 あるものらは土地神やら、カムイやらになって、白面さんのように拝まれ、親しまれては、何やら恩恵を与える穏やかな日々を過ごしており。

 あるいは、共同で創り上げた隠れ里に住み着いて、晴耕雨読の、これまた穏やかな日々をおくり。

 

 あるいは、勝手に西へと流れて行っては、京で悪さをしたり、里で悪さをしたり、山で悪さをしていたりしておる。

 

 おや? もしかして、大和朝廷がしつようにこちらを攻めてくるのは。

 奴らの本拠地だと思われて、真面目に討伐に来てるのでは……

 

 …………………

 

 うむ。知らなかった事にしよう。

 

 今更、こっちから出て行って野性化したただの妖怪です。と言っても、許してくれないであろうしなあ。

 うむ。うちから出て行って、暴れている妖怪なんていなかった。

 そういう事になったのである。聞かれてもすっとぼけるとしよう。百鬼夜行の面々にも、あとで忘れずに言っておこう。

 

 さて、話を戻そう。

 

 散り散りになっておった我輩たちであるが。

 旧正月という節目に。丁度よいから、一度集まってみないか。

 我輩が、思いつきでそう提案したのである。

 そして婢妖のお使いによる伝言で連絡も取れ、集まることになって。

 そこに船団での侵攻のお知らせが届いてしまって。

 楽しみすぎて、早めに来ていた羅刹女さんがお怒りになった、と。まあ、そういう流れであるな。

 

 なお、西に行った奴らとは、あまり連絡が取れなかった。

 見つからなかった連中のおおよそは、長髪で槍を使う侍に討ち取られたらしい。

 

 うむ。獣の槍だな。

 あの時、我輩が適当に放り投げた槍は、ちゃんと日本へと届いていたらしい。

 

 途中で海にでも落ちていれば、面倒がなかったのだが。

 

 そんなこんなの、雑多な思いを。年始の寝ぼけた頭で考えるともなく、考えながら。

 はむはむと、モチを食しておった我輩に、天啓が降りてきた。

 

 

 そうだ。獣の槍も、祀ってしまおう。

 

 

 白面さんも、我輩が混じったのもあるが、神様になってだいぶん落ち着いた。

 獣の槍も祀ってしまえば、そうそう関東や東北までは持ってこられまい。

 実際に役に立つからと、三種の神器を戦に持っていかせてください。と願い出ても却下されるようなもんである。

 さいわい、妖怪退治の実績がすでにある。霊験あらたかな槍であると、持ち上げる必要もなく祀る下地ができておる。

 

 槍の中の人であるギリョウさんも、祀られている間に荒御魂から和御魂に変わってくれることを祈ろう。

 大和朝廷とも、今回の事で手打ちに出来る可能性が高い。

 向こうにとって、こちらは所詮は田舎。化外の地である。

 妖怪を暴れさせているのは、ホッカイドーではないと説得し、境界を定めて、そちらへは決して攻め入らないと確約すれば、和平もなせるであろう。

 大量の船と兵を失って、立ち直る時間が欲しい今ならば、成せるはずだ。

 

 槍と国と。両方が落ち着いたのならば、おそらくはそこまでだ。

 今回の出張は、おそらくはそこで、お仕舞いであろう。

 

 というか。それ以上何かしろと言われても困る。

 

 これ以上と言うと。もはや、アイヌ民族の一部が縄文時代にシベリアからアラスカへと渡ったらしいので。

 その縁を辿って、アメリカ先住民族らへも介入しての、文明育成ゲーム再始動くらいしか思いつかぬ。

 あるいは、逆に南へと進み。

 オーストラリア大陸を緑化しての神様ゲーム再次。というあたりであろうか。

 さすがに太平洋に巨大な島を用意しての、ムー大陸実在伝説とか。

 あるいは欧州へと飛び、ウワサを流した後に、婢妖を大量に使った浮遊島を作って軍と少年少女らを導く、ラピュタは本当にあったんだクエストとか。

 

 さすがに。白面さんが付き合ってくれるとは限らないのである。

 自分に名前をくれて、祈って、頼って、笑いかけて。

 そんなホッカイドーの民を、白面さんが放って旅に出てくれるとは。我輩は思えぬのだ。

 

 一、二年。遊びに出るくらいならば、付き合ってくれる気もするが。

 

 まあ、そうなったら、そうなった時の事である。

 後の事は後で考えよう。

 

 今は、名前だ。命名を、考えねばならぬ。名前は、大事だ。

 

 獣の槍を祀る神社の名前は、なんとしたら良いであろうかなあ。

 

 ふうむ。

 いっそ白面さんに、決めてもらおうか。

 

 なあ、相方よ。少しばかり、相談があるのだが……

 

 

 



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外伝 欧州旅行にて 白面さんと

終わるとは言った…… 言ったが……
外伝を書かないとは、言っていない……!
つまり、ネタが降りて来さえすれば……
じゅ…

……いや、それは無理か(素に戻った)

あ、外伝始まります。


 我輩は目の前の光景をただ眺めながら、回想するネコである。

 久々なので、ちょっと名乗ってみた。

 

 今。我輩の目の前では、白面さんの分身に対して、まさに突撃せんとする軍勢がある。

 てんでバラバラな鎧兜で、槍やら馬上槍、剣に鈍器の、やはりバラバラな武器を持って。

 並びだってちゃんとはしていなくて、陣も薄かったり厚かったりする、そんな寄せ集めの軍勢だ。

 

 されども彼らの心と魂は一つだ。

 

 そんな彼らを率いるのは、一人の男。

 一国の騎士の中核をなす、騎士の長。今はもう亡き国の王族の末裔である、貴種。

 

 だが彼が軍勢の長なのは、そんな理由ではない。

 

 彼は伝説を追い、少女を求め、少年と出会い、我輩らの手の者らと対決した。

 その中で、少年は愛と使命に目覚め、少女は逃げるだけではなく立ち向かう事を覚え、仲間を増やした。

 そんな彼らと対立し、戦い、時に共闘し。

 多くの者が巻き込まれ、あるいは自ら渦中へと身を投じて。

 

 そして今――――

 

 ――――――――全ての者が、彼の元へと、集った。

 

 

 

 

「喜べ、諸君。なんと、この絶望的だった戦いに、勝機が見えたぞ?」

 

 

 軍勢を前に。ニヤニヤと、ふざけた笑みを浮かべてそう言う彼に、ヤジが飛ぶ。

 

 ――嘘付けコラー―― ――むしろ正気かコラー―― ――お前の作戦、失敗のが多いんじゃコラー――

 

 

「はっはっはっは…… 黙れ!! いいからまずは聞け!!」

 

 

 ヤジを笑い飛ばした後に一喝して黙らせ、彼は演説を再開した。

 

 

「諸君も、やるべき事はわかってるだろう? 時間稼ぎだ。そう、我々は時間を稼ぐだけでいい」

 

 

 その相手は、白面さんの分身だ。容易いはずなど、あるわけもない。

 だが、ヤジは入らない。誰も絶望もしていないし、文句一つ漏れてはこない。

 ……死なないと、思っているわけでもない。

 そこには命を懸けて、何かを成す。その意思の輝きがあった。

 自分のためではなく、誰かのためにと、命を使う。その尊さがあった。

 

 愚かな事ではあるのだろう。

 だって彼らにも家族があり、生活もあるし、人生がある。

 だが彼らを馬鹿にできるものなど居まい。居てはならない。

 彼らは笑って滅びへと進み、誇りを胸にゆくのだから。

 

 

「総勢334名。ここに集い、戦う勇者たちへ敬意と感謝を。栄光と神の恩寵のあらん事を」

 

 

 騎士らしく敬礼をする彼に、勇者たちが応える。

 騎士や傭兵だけではなく、中にはツルハシを持った炭鉱夫や、鋤を持った農夫。果ては棍棒をかついだパン屋のオヤジまでいたが。

 もはや彼らの中に、それを気にするものなど居ない。

 

 あらためてそれを確認して、彼の笑みが変わる。

 どこか悪い意味で貴族的な面のある笑みから、伝説を信じて夢を見て走る冒険家の笑みへ。

 あるいは酒場の威勢のいい酔っ払いの笑みへと変わる。

 

 

 

 諸君! メシは腹いっぱい詰め込んだか!?

 武器は持ったな? 弓矢が無いやつは石でも持っておけ。

 家族に別れの挨拶を忘れたのなら、そいつは生きて帰るように必死で努力したまえ!

 

 

 彼の言葉に応えて、一つ一つ歓声が上がる。

 固くまとまっていた魂たちが、集まりはそのままに温度を上げていく。

 

 

 

あのガキどもが! 小憎らしい悪ガキと、あの少女があの城をモノにするまで!

 あのガキどものために! ここに至るまでに亡くなった者たちのために!

 これ以上、あのバケモノに泣かされる誰かを出さないために!

 そして我々のプライドのために!

 

 

 

――――行くぞ諸君。命を懸けろ――――

 

 

――――おぉぉぉぉぉぉぉ!!!――――

 

 

 

 

 

 さて。

 

 何からどう話したものかと思うのであるが。

 まずは端的に、簡潔に言うのであれば。

 

 これ、 ムスカ です。

 

 うん。またなのである。

 

 ここまで長らく、我輩に付き合ってくれた察しの良い方々にはもう、お分かりだと思うのであるが。

 

 うん。これね。うん。あの、ね?

 ここまでの何もかもが、ね?

 全部。我輩たちの仕掛けた、 茶番 の結果だったりするのだな。これが。

 

 待って。怒らないで。

 落ち着いて、聞いて欲しい。

 茶番の、はずだったのだ。ほんの、お遊びであったのだ。

 

 白面さんと我輩の暇つぶしを兼ねて、欧州へと海外旅行をしたのが、始まりであった。

 そこでたまたま、我輩は奇跡と巡りあう。

 

 パズー、シータ、そしてムスカ。

 

 そんな名前を持った人間を、たまたま。本当にたまたま、偶然にも見つけてしまったのだ。

 そうすると、なんだ。うん。

 ほら、こう。

 つい、我輩の悪戯心が、疼いてしまって。

 こう、勢いのままに、白面さんを巻き込んで。

 ラピュタは本当にあったんだ伝説 を、見切り発車で始めてしまってね?

 

 違うのだ。

 白面さんがいるのだし、最終決戦もやろうとか、そんなつもりは無かったのだ。

 

 飛行石的な物の付いた首飾りを巡る、ちょっとした物語。

 その程度の規模の。旅先での、ほんのお遊びのつもりであったのだ。

 

 ただこちらの予想以上に、ムスカ騎士長が優秀で。

 裏側で暗躍していた我輩らの存在が、バレてしまったり。

 

 ただの孤児のはずのパズーが、本当の主人公のような活躍をして。

 そのムスカを出し抜いたり、一般人たちを組織化して自前の騎士団のようなものを立ち上げたり。

 

 ちょっといい商家のお嬢様だったはずのシータにいたっては。

 なぜか荒くれどもの姫になって、戦力としてまとめあげ、他の集団からの支持も厚いというヒロインに。

 

 どうしてこうなった。

 

 白面さんなぞ、まさか自分が敵対すると、人間は強くなるのだろうかと悩んでいたぞ。

 いや麦じゃないんだから、踏んだら強くなるとかねーのである。と言ってはみたが。

 実のところ、自信は無い。

 

 まあ、それでも。

 

 天空の城を婢妖を使って、でっち上げて。

 白面さんに、分身出してもらってラスボスをやってもらって――なお意外と楽しそうだった模様――

 ラピュタにある超兵器、ラピュタのイカヅチを使えば、白面さん(の分身)は倒せるという設定を、何とか信じさせて。

 たった今 「バルス!」 という掛け声と共に放たれた、天からの光りに合わせて、白面さんが分身を消した事だし。

 あとはゆっくりとラピュタを崩壊させて、締めであるかな。

 

 ただちょっと。ローマの皇帝とかが騒動の巻き添えになって、お亡くなりになったりもしていたが。

 我輩たちが直接手を下したわけでもなく。しかも、背教者とか言われてたらしい人でもあるし。

 きっとセーフでいいのである。

 大丈夫。歴史の修正力先輩がきっとなんとかしてくれる。

 ならなくても、上司(アラヤ)が何とかするであろう。あの上司は、もっと働けばいいと思う。

 

 まあ、そういうわけで。

 この伝説は。少年らの活躍により、めでたしで終わるのである。

 

 というわけで白面さん。我輩たちも日本へ帰りましょうか。

 それとも、アメリカかオーストラリアか、どっちか寄って行きます?

 それとも生まれ故郷? のインドを見ていきましょうか?

 

 ああ、そうそう。どこへ行くにしろ。

 次も、愉快なことにするとしましょうか!

 

 




>背教者と言われたローマ皇帝
ユリアヌスさん。フルネームはフラウィウス・クラウディウス・ユリアヌス。
ギリシャ・ローマ神話の神々とか、太陽神いいよね、とキリスト教優遇からそっち復興へと舵を切ったら、そう呼ばれるようになっちゃった人。
幼少時、当時の皇帝に兄以外の家族を謀殺され、自国内なのに竹千代時代の家康バリの人質生活に突入。
同じ生活してた兄は宮仕えに。副帝まで取り立てられたが、処刑。そこまで有能じゃなかったという理由だが、じゃあそこそこで出世止めとけば……あっ(察し)
ユリアヌスさんはそれを横目に、ニート生活、学習三昧の日々。
かーらーの、疑われたり、許されて副帝になったり、外国遠征で功績立てまくったら兵たちに皇帝扱いされたりという波乱万丈生活。
そうして皇帝と対立しつつ数年。
とうとう腰をあげた皇帝が軍を率いてユリアヌスさんを……という途上で突如死亡。
遺言で後継者に指名された……という設定。かどうかはわからないけど皇帝就任した人。
ローマはドラマが多いね。
なお彼も、メソポタミアへの遠征の中で陣没している。先代皇帝と因果がカラみまくった人生であるなあ。


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