ウルトラ・ストラトスNo.6 (赤バンブル)
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誕生!ウルトラ6番目の弟

ウルトラマンとIS作品は多いのにタロウだけ省かれていたから書いてみました。

篠田さん、今後もタロウ演じるつもりないって言っていた気がするけどもう一度東光太郎やってほしいな・・・・・。


かつて地球は異次元人ヤプールの手によって恐怖へと陥れられていた。

 

だが、ウルトラマンAとウルトラ兄弟の力により阻止され、ヤプール率いる超獣軍団は全滅。地球の防衛についていたウルトラマンAこと北斗星司も地球を離れて行った。

 

それから時は経ち、世界は大きく変化する。

 

200X年、科学者 篠ノ之束が開発したマルチフォーム・スーツ「IS」が登場。

 

その今までの兵器を凌駕する性能に世界各国は驚愕。ISを兵器として扱うようになる。

 

だが、女性しか展開できないというデメリット、そして、開発者である束自身の消息により社会は女尊男卑へと変化、かつて地球の防衛を務めていた全世界的守備組織「TAC」も解体され、世間は怪獣や宇宙人、超獣への脅威を忘れ去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・あの日、奴が姿を現すまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は20XX年、ドイツ。

 

ここにある少年と少女が謎の組織に囚われていた。

 

少年の名は織斑一夏。少女は篠ノ之箒。

 

両者とも優れた姉を持ち、世間から比べられて劣等品と見られていた若者たちである。

 

何故彼らが捕らえられているのか?

 

それはいわゆる人質というものである。箒の方は巻き添えに近いものだが。

 

この二人はここドイツで開かれるISの世界大会 第二回モンド・グロッソに出場する千冬を応援するために来たのだが会場へ向かう途中に誘拐された。犯人の目的は千冬の決勝戦進出への棄権だった。

 

それを今政府に要求しているところなのだが政府からの答えは未だに返ってこない。もし、断ったらこの二人の命がない。

 

「・・・・・一夏・・・・・」

 

すぐ後ろでロープで縛られている箒は不安な表情で一夏の方を見ようとする。一夏は手探りで箒のロープを何とか解こうとしていた。

 

「私たち・・・・・・ここで死ぬのか?」

 

「まだ、そうと決まったわけじゃないだろ。千冬姉はきっと助けに来てくれるさ。俺たちもやれることはやろう。」

 

「・・・・そうだな、千冬さんが私たちのことを見捨てるはずないからな。」

 

箒を落ち着かせながら一夏はポケットにしまっていたバッジを取り出して箒のロープを斬ろうと動かし始める。

 

 

実は、このバッジにも二人のちょっとしたエピソードがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは二人がまだ小学生だった頃の話である。

 

「一夏、もっと速く走れないのか!?」

 

「走るも何もさっきから全力で走ってるよ!!」

 

まだ、小学校中学年ぐらいの一夏と箒は慌ただしく学校を抜け出した。

 

原因は、箒が男子生徒と喧嘩をした罰として居残り掃除をやらされていたからだ。

 

「急がないと千冬さんが道場にきちゃうぞ!!」 

 

「そもそも箒が居残り掃除なんかやらされなかったらこんなことにはならなかったんだぞ!」

 

「うっ・・・・・だ、だって・・・・・・男女なんて・・・・・」

 

2人が急いでいるのは箒の実家の道場の時間だ。

 

箒の父 柳韻は別に子供だからという理由でそこまで怒りはしないのだが一夏の姉の千冬は別、「せっかく教えてもらっているというのに遅刻とは何事だ!」とこぴっどく怒られるのだ。普段は弟に甘い彼女だがこういう学ぶときに限っては真剣に怒る。

 

「この間、なんて竹刀持って学校まで来たからな・・・・・早くしないと殺されちゃうよ・・・・・」

 

「千冬さん・・・・・怒ると地獄の閻魔よりも怖いからな・・・・・」

 

二人は、そう言いながら点滅しかけの横断歩道を渡る。しかし、横断歩道を渡って次の角を曲がろうとした瞬間、一夏は自転車と出くわした。

 

「あっ!?」

 

「あっ!?」

 

運転していた男性は飛び出してきた一夏に急ブレーキをかけるもののぶつかってしまう。呆気に取られていた箒は急いで一夏の所へと行く。

 

「い、一夏!?い、急げ!早くしないと・・・・」

 

「う、うぅ・・・・・・」

 

運転していた男性がやばいと思って逃げたこともあるが箒は怪我をした一夏を無理やり肩を貸して我が家を目指す。

 

「痛!!」

 

あまりの痛みに一夏は倒れる。よく見ると右足が大きく擦り剝いており、そこから血が流れていた。

 

「何やっているんだ!早くしないと千冬さんが来ちゃうんだぞ!!」

 

「いて・・・・・・」

 

急かす箒の声を聴きながらも一夏は傷の痛みに耐えられず泣き出す。

 

「泣くな!男だろ!そのぐらいの傷で・・・・・・」

 

「うぅ・・・・いてえぇよ・・・・・・」

 

「・・・・・・・どうしよう・・・・・」

 

一夏の顔を見て流石の箒も不安な表情になる。家まではまだ距離があるし、かといって学校に引き返すには遠すぎる。

 

そんなオロオロしている箒の元へほとんどの生徒の下校を確認して帰路に着こうとしていた学童擁護員の女性が通りかかった。

 

「どうしたの?」

 

2人に気づいて女性は、駆け寄ってくる。

 

「あっ、いつも学校行くときに横断歩道にいる緑のおばさん。」

 

「痛・・・・・・・」

 

「大変、ひどい怪我じゃない。」

 

緑のおばさんは、怪我の一夏を見るなり急いで彼を近くの公園に連れて行く。

 

「ちょっと、痛いけど我慢してね。」

 

緑のおばさんは、水道で首に巻いていたスカーフを濡らすと一夏の傷口の汚れを優しく落とす。

 

「いて!」

 

「だらしないぞ、一夏。そんな傷で根を上げて・・・・・・」

 

「女の子がそんな言い方をしちゃダメよ。」

 

「えっ?」

 

緑のおばさんに言われて箒は思わずきょとんとした。

 

「女の人は強い人もいるけど時には人を思いやる優しさが必要なの。あなた、あの道場の人の娘さんでしょ?あの人、普段は厳しい態度をとっているけど人を無暗に傷つけず、困ったときがあれば相談に乗ってくれるとてもいい人なのよ。」

 

「お、お父さんが・・・・・・・」

 

「貴方もその娘さんなら強くなる前に優しさも覚えなくちゃね。」

 

「優しさ・・・・・・」

 

「そう、人を思いやる優しさ。」

 

緑のおばさんは、そう言いながら一夏の傷口を綺麗に洗い終えると手拭いで傷にゴミがつかないように巻いて行く。

 

「・・・・・・・不思議だな。」

 

「ん?」

 

「・・・・・・なんか、物心ついた時から見たことがないのに・・・・会ったこともないお母さんに似たような感じがです。」

 

「あら・・・・・そういうあなたも私の息子によく似ているわ。」

 

「本当ですか?」

 

「えぇ・・・・・・」

 

 

「こら!一夏!!」

 

「「!?」」

 

少し離れたところから聞こえる怒鳴り声に一夏と箒はギョッとする。公園の入り口の方を見るといつものように胴着姿に竹刀を持った千冬がやってきていた。

 

「ち、千冬姉・・・・・・」

 

「千冬さん・・・・・」

 

「お前たち、もう学校終わっているはずなのに何をやっているんだ!」

 

「こ、これは・・・・・・その・・・・・・」

 

「えっと・・・・・・」

 

「あらあら、ごめんなさいね。この子が怪我をしていたから・・・・・」

 

緑のおばさんが千冬の方を見ると千冬は思わずポカーンとした。

 

「お、お母さん!?」

 

「はい?」

 

「・・・・・・はっ!し、失礼しました。失踪した母によく似ていたもので・・・・・・」

 

千冬は思わぬことを行ってしまったとばかりに頭を下げる。

 

「一応手当てはしたけど傷口が膿んじゃうかもしれないから帰ったら消毒をしてあげて。」

 

「は、はい。」

 

「ありがとう、おばさん。」

 

「どういたしまして。・・・・・あっ、そうだわ。坊やに良い物あげる。」

 

緑のおばさんはポケットからバッジを出すと一夏の胸ポケットに付けてあげる。

 

「お守りなの。大切に持っててちょうだい。」

 

「わあぁ・・・・・」

 

一見、星の形に見えるバッジに一夏は思わず目を輝かせた。

 

「ありがとう。」

 

一夏は、立ち上がると箒と一緒に千冬の元へと行こうとする。

 

「坊や、やりかけたことは最後までおやりなさい。途中でやめたらだめですよ。」

 

「は、はい!」

 

「お嬢ちゃんも優しさを忘れないようにね。」

 

「・・・・はい。」

 

箒は少し恥ずかしそうな顔で緑のおばさんの声に答えた。二人はそのまま千冬と共にその場を後にして行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから少しのこと。

 

束が公表したISによって社会は大きく動き、箒と一夏は離れ離れになった。

 

一夏は、周囲から千冬と比べられながらもやり始めたことは最後まで辞めず、箒も一人になっても教えてもらった優しさを大事にした。

 

 

そして、数年後の現在、偶然再会した二人はお互いの成長を確認しながら会場へと向かっていたのだがそこへ謎の組織が二人を捕らえ今に至るのだ・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、現在

 

「おい、見ろよ!織斑千冬が優勝しているぞ!?」

 

誘拐犯たちは、テレビを見ながら舌打ちをした。

 

「くそ!日本政府め!俺たちの要求を無視しやがったな!!」

 

犯人の一人は歯ぎしりをしながら言う。

 

「どうする?あのガキ二人。」

 

「こうなった以上、もう用はねえ!さっさと始末しろ!!」

 

「いや、待て。小娘の方はまだ利用価値がある。」

 

「何?」

 

「あっちの方は少し調べて見たがあの篠ノ之束の妹だ。うまくいけば取引に使える。」

 

「だが・・・・・あの篠ノ之束が早々取引に応じるのか?」

 

犯人たちがゴチャゴチャ話している中、犯人たちが隠れている倉庫のすぐ近くにある石油コンビナートの海上で何やら巨大な影が動いていた。

 

「とりあえず、坊主の方は始末しておくか。」

 

「あぁ、ちょっとかわいそうだが冷酷な姉貴が悪いからな。精々地獄で恨んで・・・・・・」

 

「大変だ!?」

 

外で見張りをしていた一人が慌ただしく部屋に入ってきた。

 

「何してる!見張りを・・・・・」

 

「ちょ、ちょ、超獣だぁ!?」

 

「「「「はっ?」」」」

 

慌ただしく入ってきた一人に犯人一同は呆気にとられた。

 

「お前な・・・・・・目、大丈夫か?」

 

「こんな平和なご時世に超獣なんて出てくるわけねえだろ?」

 

「そうそう。お前、まさか見張りが嫌になって飲んでたんじゃないだろうな?」

 

「本当だって!すぐ近くのコンビナートででっかい影が・・・・・・・」

 

「ハッハハハハハ、仕事がチャラになっちまったもんでどうかしちゃったのかもな。また、上の女共に叱られるぜ。」

 

「「「ハッハハッハッハッ!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギィイイエェエエ!!!

 

 

 

 

 

「「「!?」」」

 

突然響いた甲高い鳴き声に犯人一行はコンビナートの方を見る。

 

そこには50メートルぐらいはありそうな巨大な角を生やした超獣が海から這い出て来て石油を捕食していたところだった。

 

「あ、あ、あぁ・・・・・・・・・」

 

「嘘だろ・・・・・・」

 

「ちょ、超獣だぁ~!!」

 

「「「「うわあぁぁあ~!!!」」」」

 

犯人たちは縛っておいた一夏たちをほったらかしにして一目散に逃げだして行った。

 

そんな男たちの元へ上司と思われるISを装備した女性二人が来ていた。

 

「アンタ達何やってんのよ!?人質は?」

 

「そ、そんなことどうでもいい!早く逃げねえと超獣に喰われる!!」

 

「はっ?何言ってんのアンタ?」

 

「信じるも信じないのもアンタたちの勝手だけど、俺たちはもう、この仕事から下がらせてもらうぜ!!」

 

「あっ、人質はまだ倉庫にぶち込んであるから。どうぞ、お好きに。」

 

そう言うと男たちは急いでその場から逃げて行ってしまった。女性たちは呆気にとられるもすぐに一夏たちが捕らえられている倉庫へと向かう。

 

「全く、これだから男は役立たずなんだから。」

 

「ほんとよね、そもそも超獣なんてもう何年も昔に絶滅したものじゃない。今更出てきたところでISに勝てるはずが・・・・・・」

 

そう言いかけたとき、すぐ近くのコンビナートが勢いよく爆発した。何事かと振り向いてみるとコンビナートの方から超獣がこっちに向かって歩き出していた。

 

「あ、あれが超獣・・・・・・」

 

予想以上の大きさに女性の一人は唖然とした。

 

このご時世、超獣は愚か怪獣すら見るのは珍しく、大体の者は某恐竜映画に出てくる恐竜よりちょっと大きいぐらいの認識しかなかった。

 

「こ、こっちに向かって来るわよ・・・・。」

 

「大丈夫よ、どうせ図体がデカいだけなんだから。ISに敵うはずないわ。」

 

そう言うともう一人の女性は、装備しているラファール・リヴァイヴの装備で超獣 オイルドリンカーに攻撃する。しかし、オイルドリンカーは、苛立ったのか進路を女性たちのいる倉庫の方へと変えて迫ってきた。

 

「えっ?効いてない?」

 

「た、多分効いてないように見えるだけよ!?攻撃し続ければあんな奴すぐに死・・・・・」

 

そう言いかけたとき、相方の女性が一瞬で炎で黒焦げとなった。ISには絶対防御という機能が備わっており、搭乗者はこれによって守られている。にもかかわらずオイルドリンカーの火炎は絶対防御を通り越して一瞬にして焼き殺した。

 

「う、嘘でしょ・・・・・・・・」

 

残された女性はぞっとしてその場から逃げようとする。しかし、オイルドリンカーは飛行中の彼女を素手で捕らえた。何トンにも及ぶ力が一気に彼女を襲った。

 

「ぎゃああああ!!!」

 

絶対防御が役に立たず女性は苦しむ。そんな女性を無視してオイルドリンカーは、捕まえた獲物を口へと運んでいく。

 

「何でよ!なんで私が死ぬのよ!こんな木偶の坊に!こんな化け物に!!なんで!なんで・・・・・・」

 

その叫びもむなしく彼女はオイルドリンカーの口の中で磨り潰されて行った。そして、噛み切れなかったスーツをぺっと吐き出す。

 

当然、突然現れた超獣を誰も気づかないはずもなく通報を聞いたドイツ軍はIS部隊を率いて現場に急行していた。

 

「各機、今回の目標は訓練にはない物だ。警戒しつつ撃滅せよ!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

ドイツのIS部隊は空軍との連携でオイルドリンカーへ攻撃を仕掛ける。オイルドリンカーはハエでも飛んできたのかという勢いで火炎を吐きながら追いかける。その足は一夏たちのいる倉庫を踏みつけた。

 

 

「なんだ?この音は!?」

 

中で必死に脱出しようとする一夏たちの真上を瓦礫が降ってくる。

 

「うわあぁぁぁあ!!」

 

「一夏!わああああぁぁああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンビナート 近辺

 

現場の近くではドイツ軍が超獣の侵攻を止めるべく、臨時基地を設置していた。

 

「現場の状況はどうなっている!?」

 

「現在、我が部隊が目標の侵攻を食い止めていますが目標は予想以上に大きく現場周辺の被害は広がる一方です!」

 

「くっ!IS部隊は何をやっている!?」

 

現場の上官は、苛立ちながら部下に言う。

 

「現在、目標と交戦していますが目標の攻撃は絶対防御で防げる代物ではなく徐々に被害が・・・・・・」

 

「なんとしてでも、目標を撃退するんだ!!このままでは我が国は、世界に大恥を晒すことになるぞ!」

 

「わかっています!しかし、超獣との戦闘は既に何年も昔のことですので・・・・・」

 

そこへ、別の部隊が現場に到着した。

 

「上官殿、ただいま到着しました。」

 

「うむ、すまないが出れるものはこのYポイントに向かってくれ。目標を殲滅するためにX爆雷を使用する。」

 

「なっ!?」

 

上官の言葉に先ほどまで話していた部下は思わず口を開く。

 

「上官!本気ですか!?Xは、超高性能爆薬で一発が小型水爆並みの威力・・・・・あらゆるものを焼き尽くし、その辺一帯は最低でも十数年は草一本も生えない不毛の大地となる・・・・・・・政府からも開発の中止が言い渡されたほどの代物ですよ!!」

 

「わかっている!だが、このまま目標が進行を続ければ我が国はさらに被害が出る。ならばいっその事・・・・・」

 

「上官殿、モンド・グロッソの会場からブリュンヒルデが到着しました。」

 

「何!?すぐにここへ通せ!!」

 

「はっ!」

 

部下はすぐに現場に会場から出て間もない一夏の姉 織斑千冬を連れてくる。

 

「これはこれは・・・・・まさかブリュンヒルデ自らがこちらに来るとは・・・・・」

 

「上官殿、私は飽くまで借りを返しに来たにすぎません。」

 

喜んでいる上官に対して千冬は険しい顔つきで言う。

 

「貴殿の弟の所在かね?確かに伝えたがあの辺一帯は・・・・・・」

 

「わかっています。ですが、まだ、超獣に殺されたとは言い切れません。現場への捜索隊だけでもお願いしてはいただけないでしょうか?」

 

「貴殿は何を言っているんだ!?目標は既に市街地へと向かおうとしているのだ。一刻も早く仕留めなくては・・・・・」

 

「ですが、Xを使用すれば私の弟は愚か逃げ遅れた国民まで見殺しにするに等しいです。私が残った部隊と共に奴に攻撃を仕掛けてできるだけ郊外の方へ誘導します。どうか・・・・・」

 

「しかし・・・・・」

 

「上官殿、ここはブリュンヒルデ ミス・オリムラの言う事にも一理あります!ここでXを使用すれば、我々は同士である国民を見殺しにするのと同じです。幸いXはまだこちらに輸送中です。輸送部隊と連絡をつけて郊外に仕掛ければ・・・・・・・」

 

「うむ・・・・・・・」

 

「上官殿、私はあなた方に感謝しています。しかし、ここでそれを決断するのならばそれも意味がなくなります。ここはひとつ・・・・・・」

 

千冬は頭を下げて頼み込む。

 

「・・・・・・・・致し方ありませんな。確かにこのままXを使用することはわが祖国としても国民を見殺しにしたという恥になる。」

 

「上官殿!」

 

「貴殿には我が祖国が誇るシュヴァルツェア・ハーゼ隊と行動してもらう。その間に我々は周囲の住民の避難、貴殿の弟の捜索隊を派遣する。但し、待っても2時間だ!それ以上は待つことはできない。それでも構わないかね?」

 

「お時間がいただけるのなら結構です!」

 

「うん。君、直ちにハーゼ隊にスクランブル要請を。ミス・オリムラを案内してくれ。」

 

「はっ!」

 

部下に案内されて千冬はその場を後にする。

 

「直ちに目標の侵攻ルート周辺のエリアに避難勧告!戦闘中の部隊には目標を郊外へ誘導するように伝えろ!」

 

「はっ!戦闘部隊に発令!目標の侵攻ルートを郊外へ誘導せよ!繰り返す!・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、うぅ・・・・・・・一夏・・・・・・生きてるか?」

 

箒は瓦礫をどかしながら何とか立ち上がる。途中まで切れかけていたロープは瓦礫によって二人が倒れたと同時に切れたため腕は自由になっていた。

 

近くを見ると一夏のお守りのバッジが落ちている。

 

「一夏・・・・・一夏!」

 

箒は瓦礫をどかして一夏を探す。しばらくどかしてみると一夏が落ちて来た瓦礫に串刺しにされているところを発見した。

 

「一夏!」

 

「お・・・・・・・・・俺・・・・・・・死ぬのか?」

 

焦点の合わない目で一夏は箒を見る。

 

「そ、そんなわけあるものか!すぐに助けが来てくれるはずだ!」

 

箒は、そう言いながら周りを見渡す。しかし、誰も来る様子がなかった。

 

「ほ、箒・・・・・・・・お、お前だけでも・・・・・・・逃げ・・・・・・・」

 

「馬鹿なことを言うな!馬鹿なことは・・・・・・・・うぅ・・・」

 

認めたくないとばかりに箒は泣き出す。久しぶりに会えた幼馴染が死ぬなんて、そんなことはないとどうしても思いたかった。

 

「俺・・・・・・・最後まで・・・・・千冬姉に迷惑を掛けちゃったな・・・・・・・・ハ、ハ・・・・・」

 

一夏の声が途絶えそうになる。

 

「死ぬな!やっと・・・・・やっと会えたのに・・・・・・・誰か!誰か早く来てくれ!!誰か!!」

 

箒は一夏を抱きしめながら助けを求める。だが、返ってくるのは彼女の叫びだけだった。

 

「姉さん!は、は・・・・千冬さん!!誰か!!誰か一夏を助けてくれ!!」

 

箒が叫んでいる傍ら一夏は様々な記憶が目を通り過ぎて行った。

 

 

姉と一緒に過ごしてきた日々。

 

箒との交流と別れ。

 

親友たちとの楽しかった思い出。

 

次々と見えてきた中で最後に見えたのはあの緑のおばさんだった。

 

「おばさん・・・・・・・・俺・・・・・・・最後までやれたかな・・・・・・・・・・・・」

 

その瞬間、一夏の手に握られていたバッジが光り出し、2人を何か暖かな光が包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あまりの眩しさに箒は一瞬目を塞ぐが次に目を開くと周りには銀と赤の体色をした巨人五人が一夏を囲むように立っていた。

 

以前、姉が興味本位で自分に熱烈に話してくれたことがある。

 

ゾフィー。

 

ウルトラマン。

 

ウルトラセブン。

 

ウルトラマンジャック。

 

ウルトラマンA。

 

かつて、地球を守ってきたヒーローたちが自分たちの目の前に立っている。

 

さらにそこへ何やら聞き覚えのある声が聞こえた。

 

『ウルトラの兄弟たちよ・・・・』

 

「この声・・・・・もしかして・・・・・緑のおばさん?」

 

『ウルトラ6番目の弟・・・・・“ウルトラマンタロウ”が今誕生するその時を見るがよい。』

 

「ウルトラマンタロウ?」

 

『お前たち兄弟はこうして生まれたのです。』

 

緑のおばさん?が言うと同時にウルトラ5兄弟は右手を掲げて何やら光のエネルギーを一夏に注ぐ。すると止まろうとしていた一夏の心臓が再び動き出した。

 

「一夏の心臓が動き出した!?」

 

『見よ、ウルトラの命が誕生を・・・・・・・』

 

一夏の心臓の鼓動が激しくなっていくにつれて体が光り出していく。そして、体が完全に光で見えなくなると何か凄まじい光が箒を襲った。

 

「うわぁあ!?」

 

あまりの衝撃に箒は気を失い、光となった一夏は徐々にその姿を変え、空へと飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギィイイエェエエ!!!

 

「くっ!」

 

一方、千冬はドイツのハーゼ隊と共にオイルドリンカーを郊外へと誘いだしていたがオイルドリンカーの猛攻に徐々に押されつつあった。

 

「あともう少し・・・・・あともう少しで誘導ポイントに到着する・・・・・・」

 

ハーゼ隊のISは既に活動限界寸前にまで陥っており、千冬の乗機「暮桜」も損害レベルがCへなろうとしていた。

 

「ここで・・・・・踏ん張らなければ・・・・一夏が・・・・・・」

 

既に満身創痍になりかけていた千冬にオイルドリンカーの腕が迫ろうとしていた。

 

「し、しまった!?」

 

千冬は急いで回避行動を取ろうとするが既に機体も限界であるため、反応が鈍い。

 

「こ、ここまでか・・・・・・」

 

死を覚悟して彼女は諦めかけるがそこへ巨大な火の玉が迫ってきた。火の玉は人の姿へと変わっていき、オイルドリンカーに向かってキックをお見舞いする。いきなりの攻撃にオイルドリンカーは後方へと吹き飛ばされ、千冬は九死に一生を得た。

 

「・・・・・なっ!?」

 

千冬は目の前に現れた巨人を見る。

 

赤い体に胸のプロテクター、頭部の二本の角。そして、胸に青く輝くカラータイマー。

 

それは以前友人である束が話していたウルトラセブンに似ているが角などで相違点が多い。

 

「あの巨人は・・・・・・・」

 

『ディアッ!!』

 

巨人は、オイルドリンカーに向かってジャンプをした上で繰り出すスワローキックを仕掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、ここに十数年の時を経て、ウルトラ六番目の兄弟 ウルトラマンタロウの物語が始まるのであった。

 

 

 

 

 

 




取り合えず、お試しとしてウルトラマンタロウ誕生編。

一夏と箒は小学生時代に緑のおばさん(ウルトラの母)に会ったという設定にしました。

ロックマンX書いているから次回はいつあるか分からないけど自分的には捏造設定出し過ぎたと思っている。

温かい目で見てね。


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変わり始める世界

先頭はほんのちょっと。

ファンの人ならガイアやXのことを思い出すかも・・・・・・

捏造設定追加。


一夏side

 

 

・・・・・・・あれ?

 

俺、何やってんだ?

 

確か建物の瓦礫の下敷きにされて死にかけていたはずなのに・・・・・・・

 

って、ここどこだよ!?

 

山、山・・・・・・俺、空でも飛んでるのか?いや、それ以前になんか周りのものが全部小さいような・・・・・・それとも俺がでっかくなった!?

 

ん!?なんで俺の体が真っ赤なんだ?でも、なんかさっきと違って力が漲ってきている・・・・・・・・

 

 

 

ウルトラマンタロウとなった一夏は変身した自分の姿に戸惑っていた。しかし、目の前に起き上がってきたオイルドリンカーを見るなりどうやら戦わなくてはいけないのだと何とか理解した。

 

『ディアッ!!』

 

タロウは、走ってオイルドリンカーに接近すると連続でパンチを繰り出す。オイルドリンカーが突然現れた敵に驚きながらも超獣としての本能なのかタロウの腕を掴むとお返しとばかりにタロウの腹にパンチを食らわせる。

 

『ドゥッウ!?』

 

初めての実戦だったこともあり、タロウは思わず腹部を押さえる。本来のウルトラマンなら通常の攻撃は避けたり防いだりするがタロウにはその判断能力がなかった。その隙を利用してオイルドリンカーはタロウを始末しようと石油を利用した火炎放射「オイリッシュバーン」を口から吐く。

 

『タアッ!』

 

これ以上受けるまいとタロウはバク転をしながら攻撃を回避する。しかし、炎は森に燃え移り辺り一帯が火事になった。

 

ギィイイエェエエ!!!

 

『ディアッ!!』

 

タロウは、走ってきたオイルドリンカーをジャンプで回避すると回し蹴りをオイルドリンカーの頭部に当てる。想像を絶する衝撃でオイルドリンカーは頭を押さえる。タロウは一瞬蹴った方の足を押さえるが逃さんとばかりにタコ殴りを始める。

 

 

「・・・・・・・・・なんか束が話してくれた巨人とはずいぶんかけ離れた戦いぶりだな・・・・・・」

 

まるで子供の喧嘩にしか見えないとばかりに千冬は後退しながら言う。

 

『ディイ・・・・・・・ン゛!?』

 

プーピー、プーピー、プーピー、プーピー・・・・・・

 

オイルドリンカーをジャイアントスイングで投げ飛ばした直後、タロウの胸のカラータイマーが赤く点滅し始める。

 

 

 

ウルトラマンタロウの太陽エネルギーは、地球上では消耗が激しく約3分間しか活動することができない。

 

エネルギーが少なくなると胸のカラータイマーが点滅をし始め、もしカラータイマーがその輝きを失ってしまったら、タロウは二度と立ち上がることができなくなってしまう。

 

急げ、タロウ!

 

残された時間はあと僅かだ!

 

 

『ストリウム光線!』

 

タロウは、開いた右手を高く上げると同時に左手を腰にあて、そこから左手を上げて右手に重ねスパークを起こし、両手を腰に添える。そして、身体が虹色に光ると同時に両腕をT字型にして光線を発射する。

 

ギ、ギィイィイ!?

 

光線が命中したオイルドリンカーは、体が粉々に爆発した。

 

その光景を見ていた千冬とハーゼ隊は呆気にとられる。

 

「わ、私たちがあそこまで苦戦していた超獣を一発で・・・・・・・」

 

オイルドリンカーの最期を確認し、タロウは空を見上げる。

 

『トゥウァアッ!!』

 

そして、ジャンプしたのかと思いきやそのまま空へと飛び去って行ってしまった。

 

「・・・・・・・何はともあれ、これであの危険な兵器を使わずに済んだというわけか・・・・・・・」

 

千冬はISを解除して、タロウが飛び去って行った方角を眺める。その直後ハーゼ隊の一人が通信を聞いて急いで千冬の方へと来た。

 

「ミス・オリムラ!先ほど捜索隊が倉庫の瓦礫から貴殿の弟を発見して、保護したそうです!」

 

「何っ!?一夏が!!」

 

千冬は態度を一変して驚いた顔で言う。

 

「はい、幸いひどい怪我はしていなかったそうです。一緒に居た少女と一緒に病院に搬送しています。」

 

「その病院は!?」

 

千冬は、病院の場所を聞くなり居ても立ってもいられずISスーツのまま急いで病院へと走って行こうとする。

 

「あっ、ちょっと、ミス・オリムラ!ここから病院まで30キロはありますよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドイツ 軍管轄の病院

 

気を失っていた一夏は病院で意識を取り戻した。

 

「・・・・・・・・あれ・・・・・夢だったのか?」

 

すぐ脇のテーブルに置いてあるバッジを手に取り、一夏はタロウとして戦っていた時のことを思い出す。気になって病室を出てみるとテレビで堂々とタロウとオイルドリンカーが戦っている姿が堂々と中継されていた。

 

「・・・・・・夢じゃないんだ。」

 

「そうらしいな。」

 

すぐ後ろから現れた箒に一夏はギョッとする。

 

「び、びっくりさせるなよ!?」

 

「すまん。私もさっき意識が戻ったところでまだ頭の整理がついていないんだ・・・・・」

 

二人は病室のベッドに戻り、取り合えずお互いの身に起こったことを話す。

 

 

一つは、一夏は瀕死の重傷だった。

 

もう一つは、箒が叫び続けた直後眩い光に包まれ、自分たちの目の前にウルトラ兄弟が現れたこと。

 

三つめは、緑のおばさんらしき声が一夏にウルトラの命という何かを与えたこと。

 

そして、一夏がウルトラマンタロウとなって超獣を倒したこと。

 

「・・・・・・っという事は俺・・・・ウルトラマンになっちゃったのか?」

 

「・・・・私は一夏が光った直後に気を失っていたからわからないけどおそらく・・・・・・・」

 

「はあ・・・・・・・これからどうすればいいんだよ?正体がバレたら速攻で研究施設にぶち込まれるじゃないか・・・・」

 

一夏は頭を抱えて言う。

 

ウルトラマンと言えば今では都市伝説級の存在だ。もし、自分がその一人になったと知ったら世界中が自分を狙って追い回すだろう。そして、最終的に研究サンプルとして利用され、最悪な場合解剖・実験されるかもしれない。

 

「そ、そのことについては大丈夫だ!?わ、私が秘密にしておくから!」

 

「・・・・・・だったらいいんだけど。・・・・・でも、なんで俺なんだろう?」

 

一夏は、バッジを見ながら言う。

 

「ウルトラマンになるんだったら俺じゃなくてもよかったはずだ。千冬姉や束さん、強い人間を選べばいいのに・・・・・・」

 

「一夏・・・・・・」

 

一夏の寂しそうな表情を見て箒は思わず切なくなった。

 

一夏は、世間から千冬と比べられて自分に対して少なからずコンプレックスを抱えている。自分が束のような天才的能力がないとの同じように、一夏は周りよりは優れているが千冬という大きな存在のために周りからは「出来損ない」「劣等品」という烙印を押し付けられてきた。

 

そんな自分がどうしてウルトラマンになったのか疑問に思ってしまうのだろう。

 

「・・・・・・私は・・・・一夏でよかったと思う。」

 

「えっ?」

 

箒の言葉に一夏は思わず口を開いた。

 

「一夏は、確かに千冬さんと比べて劣っているところが多い。でも、一夏にしかない大事なものがある。」

 

「俺にしかない大事なもの?」

 

「小学生の時、私をいじめから守ってくれただろう?その優しさが一夏の強さでもあると思うんだ。あのとき・・・・・いや、今の私にも足りない優しさが。」

 

「・・・・・俺って、そんなに優しい奴かな?」

 

箒に言われて照れ臭くなったのか一夏は思わず苦笑しながら言う。

 

「フッフフ・・・・・もちろん!」

 

「・・・・・箒が言ってくれたおかげでなんかやれる気になったよ。・・・・でも、問題は戦い方だな・・・・・・」

 

テレビのタロウとしての自分の戦う姿を見て一夏は言う。

 

無駄に相手の攻撃を受ける、周囲の被害を拡大させてしまう、素人同然の戦い方。

 

これではさらに強い超獣が出てきたときに変身してもおそらく勝てないだろう。

 

「うん・・・・・ウルトラマンは剣とかで戦うわけじゃないからな・・・・・・・・」

 

「あぁ、それにあの時戦った時も相当体力を使ったから今の俺じゃあ、あの光線も早々使えないからな・・・・・・」

 

二人は腕を組みながら考え始める。

 

 

そこへ

 

「一夏~!!!!」

 

絶叫を上げて千冬が駆け込んできた。

 

「うわぁあ!?ち、千冬姉!?」

 

「すまない!本当にすまなかった~!!」

 

一夏を強く抱きしめて千冬は泣きながら詫びる。

 

「私が情けないばかりに・・・・・許してくれ!こんな情けない姉を・・・・・」

 

「そ、そんなことないって。千冬姉が全部悪いわけじゃないんだから。」

 

千冬を落ち着かせながら一夏は言う。

 

 

 

しばらくして、落ち着いた千冬は、一夏に対して今後のスケジュールを話した。

 

今回の戦闘においてドイツの軍および配属されていたISパイロットの被害も大きく、千冬はドイツに残って訓練生たちの教官を務めることになった。本来ならしなくてもよかったのだが超獣のことに関しては自分ではなくウルトラマンが貢献したという考えであるためだという。そのため、一夏はこのまま一人日本へ帰ることになる。ちなみに箒の件は護衛が超獣の被害に巻き込まれて死亡してしまったため、取り敢えずしばらくの間は、織斑家に居候というの形で一夏と一緒に帰ることになったそうだ。

 

「すまないな、お前を一人日本へは帰らせたくはなかったがドイツの被害は私にも責任があるのでな。」

 

「・・・・・・千冬姉。」

 

「ん?なんだ?」

 

「その・・・・・俺を鍛えてくれないか?」

 

「・・・・・えっ?」

 

一夏の言葉に千冬はキョトンとする。

 

「捕まった時も自分じゃ何もできなかったからさ。なんて言うか・・・・・・千冬姉とまでいかなくても自分も強くならなきゃいけないって思ったんだ。でも、自己流じゃいつまで経っても成長しないから千冬姉に鍛えてほしいんだ。」

 

「一夏・・・・・・」

 

「頼む、千冬姉!俺を強くしてくれ!!」

 

一夏は頭を下げて千冬に頼み込む。

 

強くなりたい。

 

今の自分のままではタロウとしての力も大して役に立たない。もし、また敵が現れたら負けてしまうのかもしれない。そうすれば守りたいものも守ることができない。だから強くなりたいと思った。

 

そんな一夏の態度に千冬は、いまいち納得しかけていない様子ながらも首を横に振らなかった。

 

「・・・・・・飽くまでも軍の訓練生たちとやるものだ。道場の時のような生半可なものじゃないぞ?」

 

「あぁ。」

 

「ビシビシやり過ぎて背中が真っ赤になるかもしれないぞ?」

 

「あぁ!」

 

「・・・・・・・本当にやるのか?」

 

「頼む!」

 

「・・・・・・・・わかった。そこまで真剣に頼んだのなら私は拒否しない。だが、手加減はしないぞ。」

 

「ありがとう、千冬姉!」

 

「しかし、篠ノ之はどうするか・・・・・お前も一緒にやるか?」

 

「えっ、えっと・・・・・・」

 

オドオドする箒の態度に千冬は意外そうな表情をする。

 

「変わったな・・・・昔なら『はい!』って返事するところなのに・・・・・・」

 

「お、女は優しさも必要なので・・・・・・」

 

「?・・・・・まあ、強制はしないさ。なんなら私と一緒に居ればいい。一夏のサポートをしてやってくれ。」

 

「は、はい!」

 

「じゃあ・・・・・退院する時に迎えに来る。その時まで休んでおけ。訓練を始めたら休めなくなるからな。」

 

「あぁ、千冬姉も無理するなよ。」

 

「こいつ!」

 

千冬は一夏の頭に頭突きをしながら笑う。

 

「いてえな!怪我人なんだぞ!?」

 

「このくらいで怪我をしたんじゃ先が思いやられるぞ。篠ノ之の前で男を見せてみろ!」

 

「全く・・・・・・・・って、どういう意味だよ?」

 

一夏は頭を押さえながら病室から出ていく千冬を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニューヨーク 国連本部

 

ここ、国連本部ではある重要な会議が開かれていた。席に座っているのは、各国家のIS保有数や動きなどの監視を行い、IS条約に基づいて設置された国際機関「国際IS委員会」の上層部。そして、もう一方はかつて地球の防衛を担っていた旧「TAC」の士官たちである。本来合間見えることのない彼らが何故この場に集まっているのか、それはつい先日起こった超獣の再出現、新たに現れたウルトラマン、そして、今回の戦闘で役に立たなかったISの問題とIS条約の見直し、防衛組織の設立についてだった。

 

「このように、超獣に対してISは殆どダメージを与えられなかった。本来このマルチフォーム・スーツは、宇宙開発が目的であり、今回の戦闘においても兵器としては如何に不適応だということがわかります。この機会を期にISの兵器としての利用、及び今後の運用については改めてIS条約を見直すべきではないでしょうか?」

 

「・・・・・お話していることは尤もですが、あなた方元防衛隊の方も『白騎士事件』におけるISの性能は理解しておられるはずです。」

 

「確かにISは、現在の兵器類の中でもずば抜けた性能であるのは認めよう。しかし、今の社会情勢、限られたコアによる開発競争の遅滞、量産における問題点。超獣がまた我々人類の目の前に現れた以上、ISの運用が対応しきれると委員会は断言できますかな?」

 

年相応の男性は委員会代表者に向かって言う。

 

これだけのことを言えるのは一重に彼の経験があるためでもある。

 

「私はかつて前線で超獣の・・・・その恐るべき戦闘能力についてよく知っています。確かにISは、当時の防衛兵器に比べれば優秀でしょう。しかし、今回の戦闘では世界的実力者でもある織斑千冬も作戦に加わっているのです。これでも、新たな防衛組織を立ち上げるのにあなた方は反対なのですか?」

 

「それは・・・・・」

 

「この私、竜 五郎はかつてのTAC極東支部の隊長を務め、超獣との戦いをこの肌で感じている所存です。別にISの運用を責めているんではなく、戦闘で亡くなったパイロットたちの二の舞を作らぬよう対応策を考えていただきたいのです。ここはどうか・・・・我々元防衛隊の意見を聞き入れてもらいたい。」

 

「・・・・・・」

 

 

委員会上層部は改めて戦闘の映像を見る。

 

既にこの情報は世界各国に放送されており、ISという兵器に浮かれていた自分たちの考えを改めなければならない。増してや世間ではISが女性しか使えないのをいいことに女尊男卑という風潮が定着してしまっているのも問題となっている。

 

「・・・・・・わかりました。我々委員会も最近の風潮に関してはあまりよくない印象を抱いて考え方を改めるべきだと思っていた時期です。」

 

「では・・・・・」

 

「近いうちに行われる国際会議でこちらからも条約の改正、新組織の設立を呼び掛けてみましょう。」

 

「お気持ちに感謝します。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数週間後、ニューヨークで行われた国際会議において国際IS委員会は、IS条約の一部の改正と新防衛組織の設立案を立案。

 

一部の国では難色を示したものの超獣という忘れ去られた脅威を改めて見た事もあって多くの国家が賛同、ISの運用の見直しと新防衛組織の設立が決定した。

 

この組織には現在の各国家のIS代表選手、候補生、旧TACなどの防衛組織のスタッフも集まって編成され、本部をニューヨークに置き、アメリカ、南米、フランス、アフリカ、日本、北極に支部を設置。

 

 

 

そして、一年後。

 

 

新組織“ZAT”が結成された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、そんなことも知らない一夏たちは・・・・・・・

 

「やあぁああああ!!」

 

一夏は、体術訓練で千冬と模擬戦に挑んでいた。

 

隙を見せない千冬に対して一夏は、動きを見ながら的確に攻撃を入れていく。

 

「ぬっ!?」

 

一夏の攻撃の一発一発の重みに押されながらも千冬は攻撃を凌いだが徐々にダメージが蓄積し始め焦りを見せる。

 

(いかん・・・・・このままでは一夏のペースに乗せられてしまう・・・・・・)

 

「いやぁあぁあああああ!!」

 

千冬の動きが鈍ったと見きり、一夏はジャンプをして回し蹴りを繰り出す。

 

「くっ!見切れん!?」

 

なんとか両腕で防御するものの一夏は両足で千冬を挟み、千冬を地面へと叩きつけた。

 

「うおっ!?」

 

「やあぁ!!」

 

倒れた千冬へ一夏は渾身の一撃を与えようとする。

 

「そこまで!」

 

ビクビクしながら見ていた兵士の中で審判をしていた長い銀髪に左目に眼帯をしている少女がストップをかける。すると一夏は攻撃を中断し、千冬から離れる。両者とも息が荒れていた。

 

「この勝負・・・・・・・教官の負けです。」

 

審判を行った少女 ラウラ・ボーデヴィッヒは、戸惑いながらも千冬に報告する。対する千冬は負けたのにもかかわらず満足そうだった。

 

「・・・・・・そうか。」

 

彼女は立ち上がると呼吸を整えている一夏の方へと歩いて行き、肩を軽くたたく。

 

「ハア、ハア・・・・・・・・千冬姉・・・・・・」

 

「強くなったな一夏。この一年間でここまで成長するとは私も予想すらできなかったぞ。」

 

 

最初の予定では一夏は3か月だけ訓練を受ける予定だった。

 

しかし、一夏の予想以上の成長の早さと軍人にも劣らぬ実力で周りからも目を置かれ、こうなったら最後までとことんやるというわけでここまで長引いてしまった。

 

ちなみに学校に関しては通信教育で何とか埋め合わせた。

 

「私が教えてやれるのもここまでだ。後はお前自身でやってみろ。」

 

「ハア・・・・・・信じられねえな。昔はなんぼやっても勝てなかった千冬姉に勝つなんて・・・・・・」

 

「それだけお前が成長したという事だ。私は誇りに思うぞ。」

 

一夏は、千冬の方を見ると真剣な目で頭を下げる。

 

「今までありがとうございました。」

 

「うん。今日でお前も篠ノ之と一緒に日本へ帰国だな。」

 

「あぁ!」

 

一夏は周りにいるハーゼ隊の一同の方へと向き直って改めて言う。

 

「一年間、ご一緒に訓練させていただき本当にありがとうございました!もう、会えないと思いますが皆さんから教えていただいたことは決して忘れません。」

 

ハーゼ隊の面々も何か満足そうな顔をしながら一夏の言葉を聞いた。中でもラウラは、一番ほっとしたような顔をしていた。

 

「じゃあ、一夏。出発は翌日にするから部屋に戻ったら篠ノ之と一緒に準備をしててくれ。」

 

「わかった。でも、千冬姉はどうするんだ?もう、教官としての期間は終わるんだろ?」

 

「呼び出しがあってな。ニューヨークに行ってから帰ることになりそうだ。」

 

「ニューヨーク?なんでまた?」

 

「IS委員会だ。最近条約の見直しとか多かったからな。おそらくそのことに関してだと思うが・・・・・」

 

「・・・・・まあ、心配はないと思うけどちゃんと帰ってきてくれよ。」

 

「おっ?私に勝ったから心配してくれるのか?」

 

「いや、俺、そんなつもりで言ったんじゃ・・・・・・・」

 

「別に恥ずかしがることじゃないぞ?」

 

「千冬姉!!」

 

「ハッハハハハハハ・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千冬との訓練とは何だったのか?

 

あまり聞かない方がいいんじゃないかな?

 

だって、あまりにも厳しくて一夏自身も無我夢中だったからね。

 

 




このタロウ・・・・・・弱い(汗)

ガイアになったばかりの我夢と同じぐらい弱かったかも。

カラータイマー音。これでいいのか少し不安。でもピコン、ピコンではなかったはず。


本当は訓練シーンも書こうと思ったけど途方もない量になりそうだったのでカットしました。

すみません。


次回は・・・・・・何の怪獣だそうすかな?


タロウとは関係ないけど一番最初に好きになった怪獣は、ウルトラマンのゴモラです。

近いうちに出そうと考えています。



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怒れタロウ!友の死を超えて!

今回の怪獣はあえて名前を言わない。

いや、正確にはウルトラ怪獣でない事とファンならわかってしまうからでもある。

一言いう。

今回の怪獣はある怪獣映画の人気怪獣だ(扱いは別として)。


ドイツ ドイツ軍宿舎

 

「今日でここともお別れか・・・・・」

 

一夏は荷物を入れた鞄を手に持って世話になった宿舎を見る。

 

「はあ、日本に帰ったらしばらくは一夏と一緒に居られるけど今度はどこへ連れて行かれるんだろうな・・・・・・」

 

感慨深そうに眺めている一夏とは反対に箒は不安そうな顔で言う。

 

「何言ってんだよ箒。現に一回再会したんだ。また、きっと会えるさ。」

 

「一夏・・・・・」

 

「それにしばらくは俺ん家に居られるんだから。そうガッカリした顔するなよ。」

 

「・・・・・うん、そうだな。少なくとも一年は別れないだろうし、くよくよしていても仕方ないな。」

 

「あぁ、帰ろう。日本へ。」

 

「うん。」

 

二人は手を繋いで歩いて行く。出口ではつい先ほど模擬戦のジャッジを行っていたラウラとハーゼ隊のメンバーが見送りに来ていた。

 

「・・・・・帰ってしまうのだな。」

 

ラウラは寂しそうに言う。

 

「まあな・・・・・千冬姉は?」

 

「教官は2人よりも早くニューヨークへ立った。どんな用なのか私にもわからないが・・・・・」

 

「千冬姉のことだから心配はないさ。ラウラもこれからがんばれよ。」

 

「無論だ。お前たちには色々助けられたな。」

 

「まあ・・・・・はっきり言って一夏と殴り合いの喧嘩になっていたところを私が必死に止めていたのがほとんどだったけど・・・・・・」

 

「そう言えばそうだな。ハッハハハ・・・・・あの時は本当にすまなかったな。」

 

「いや、俺もつい口走ったからあぁなったのさ。俺の方も悪かったよ。」

 

「でも、2人のおかげでなんか吹っ切れたと思う。この左目のこともそこまで気にしないようになったしな。」

 

ラウラは二人の目の前で眼帯を外す。その目は右目とは違う色だった。

 

シュヴァルツェ・ハーゼ隊は全員共通で目に「ヴォーダン・オージェ」という疑似ハイパーセンサーが移植されている。ISの適合性を向上させるための処置の一環で、脳への視覚信号の伝達速度の飛躍的な高速化と、超高速戦闘下での動体反射を向上させ、理論上不適合などのリスクはない。しかし、ラウラの場合は何故か制御不能となり行動に支障をきたしてしまうという事態が起こり彼女も一夏同様の「出来損ない」という烙印を押されてしまった。

 

「・・・・・お前たち二人と教官に出会わなかったら私は今でも『出来損ない』のままだったのかもしれない。」

 

「それは違うと思う。ボーデヴィッヒもそうだし、私たちも誰もが完璧じゃないんだ。誰にだって欠点はある。それと向き合うか諦めるかは自分で決めることなんだ。私も自分と向き合ったから少し変われたんだ。」

 

「・・・・フッ。お前たち二人と話せるのがこれが最後だと思うと寂しくなるな。」

 

「手紙送るよ。軍人だから読む暇ないかもしれないけどな。」

 

「・・・・・意地悪なジョークだな。まあ、時間があったら読ませてもらう。」

 

三人はお互い握手をしながら別れを惜しんだ。

 

「さようなら、我が友よ。お前たちに会い、友になれたことを誇りに思っている。」

 

「俺たちもだ。お前のこと決して忘れないよ。」

 

「元気でな。」

 

「あぁ。一夏も箒のことしっかり見てやるんだぞ。嫁を守るのが男なんだからな。」

 

「おいおい!?確かに付き合っているけどそんな大胆な言い方しなくたっていいだろ!?」

 

「「「「「「ハッハッハッハッハッハッ!!」」」」」」

 

「笑い事じゃないって・・・・・ハッハッハッハッハ・・・・・・」

 

この日、軍の宿舎で大勢の笑い声が聞こえた。

 

 

かくして、一夏と箒は日本へと旅立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニューヨーク 国際IS委員会 

 

一方、千冬は一足早くニューヨークに来ていた。

 

「よく来てくれました、ブリュンヒルデ。」

 

「その言い方はやめていただきたい。」

 

委員会に招集された千冬は嫌ながらも態度に見せず言う。

 

「貴方には実は折り入って頼みたいことがありましてね。」

 

「なんでしょうか?私は日本代表として自分の業務は全うしているはずですが・・・・・」

 

「いえ、今回はそのことではないのです。」

 

「?っというと今回はなんの件で?」

 

IS関連だと思っていた千冬は、意外そうに聞く。

 

「貴方も実際肌で感じていらっしゃるとは思いますけど今現在、我々人類の目の前に超獣が再び姿を現したことはご存知ですね。」

 

「えぇ、それは・・・・・しかし、それと一体何の関係があるのですか?超獣はあの時姿を現した巨人・・・・“ウルトラマン”に倒されたはずですが。」

 

「いえ、実はあれが本当に最後の一匹だとは限らないのです。」

 

「なっ!?」

 

上層部の言葉に千冬は思わず口を開く。

 

「ここ一年、世界各地で様々な異常現象が発生しているのです。原因を調べるために調査を行っていますが過去の観測データと比べてみると十数年前・・・・・つまり、我々人類の目の前に怪獣が現れていた時代、いわゆる『怪獣頻出期』のデータに近くなりつつあるのです。」

 

「では、またあのようなものが現れると?」

 

「おそらくは。いや、既に現れているのかもしれません。」

 

上層部は一つの映像を千冬に見せる。

 

「!?こ、これは!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本

 

「やっと帰ってきたな・・・・一年ぶりの日本。」

 

ドイツの国際空港から日本の空港まで役半日。

 

一夏たちが日本に着いた頃にはすでに夕日が沈みかけていた。

 

「腹減ったな・・・・・箒、家に帰る前にどこかで食って行かないか?」

 

「別にいいが・・・・・・」

 

「ならちょうどいいや!俺のダチの店に行こうぜ!あそこはボリュームもいいし、値段もお手ごろだからな!」

 

二人は途中までタクシーで移動し、ある食堂の前で降りた。

 

「ここだここだ・・・・・あれ?」

 

一夏がキョトンとした顔で店を見る。

 

そこには「本日 休業」という札がかけられていた。

 

「おかしいな?五反田食堂は年中無休のはずなのに。」

 

一夏は、店の入り口をノックしてみる。

 

「おーい!誰もいないのか?」

 

灯りは点いているから誰か居るはず。

 

そう思いながら一夏は、ノックをして声を掛けてみる。

 

「弾!俺だよ!一夏だよ!厳さん!蓮さん!蘭!」

 

しばらくすると店の入り口に灯りが点き、誰かが来る。

 

「・・・・・・」

 

入り口を開けたのは一夏の友人 五反田弾の妹である蘭。しかし、どういうわけかその顔は暗かった。

 

「一夏さん・・・・・・」

 

「蘭!久しぶりだな!弾は?修学旅行から帰ってきているはずだからいると思ったんだけど。あいつ等羨ましいよな~!九州に行けるなんてさ!俺ももう少し早く帰ってこれば一緒に・・・・・・」

 

「う、うっ、うっ・・・・・・・・」

 

一夏が明るく話していると蘭の目から涙がぽろぽろと零れ落ち始めた。

 

「あれ?どうしたんだ?そう言えば鈴の家もしまってて・・・・」

 

「うわあぁああ・・・・・あぁああ・・・・・・」

 

蘭は我慢できず一夏に抱き着いて泣き始めてしまった。突然のことに一夏は箒と顔を合わせながら動揺する。

 

「ど、どうしたんだよ!?一体何があったんだ!?」

 

「お兄ぃが・・・・・・お兄ぃが・・・・・・・あぁあああ!!」

 

「弾が・・・・・弾がどうしたんだ!?」

 

「うわああああああ!!!あぁあああ!!」

 

泣いてしまった蘭に二人は困り果てていたが店の奥から厳と蓮が出て来た。

 

「一夏くん・・・・・・・」

 

「蓮さん、一体これはどういう事なんですか!?」

 

「・・・・・・・実は・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五反田食堂 居間

 

「亡くなった!?」

 

突然告げられた言葉に一夏は唖然としていた。厳と蓮は複雑そうな表情をし、蘭は泣き止んだものの普段の明るい顔を見せることはなかった。

 

「蓮さん・・・・・・嘘ですよね?アイツが・・・・・弾が・・・・・・鈴まで死んだなんて嘘ですよね!?」

 

「・・・・・・・」

 

「厳さん・・・・・・そんな・・・・・そんなことあるわけないですよね?」

 

「・・・・・・」

 

一夏の言葉に対して二人は黙ったままだった。

 

「そんな・・・・・・」

 

一夏は膝をついて顔を真っ青にする。

 

一夏が帰国する数日前、彼の母校の同級生たちは九州へ修学旅行へ出発していた。

 

しかし、彼らが乗っていた何かによって墜落。すぐに救助隊が出動したが機体は真っ二つに綺麗に切断された上に何か強い力によって引き剥がされ、乗客含む乗組員は誰一人残っていなかった。

 

ただ、何かに噛み砕かれて吐き出された衣服のみはいくつか発見され、一夏たちの目の前にそのうちの一つが送られてきていた。ボロボロになってはいたがしっかりと「五反田 弾」と名前が書いてあるものが。

 

彼以外にも多くの生徒のボロボロになった制服が遺族の元へと送られているのだという。一夏は、ボロボロになった弾の制服を手に取りながら顔を歪める。

 

「弾・・・・・・お前、どうして・・・・・・お前言ってたじゃないか?今度会ったらドイツでの土産話聞かせてくれって・・・・・・土産楽しみにしてるからって・・・・・・・なんで・・・・・・なんでなんだよ・・・・・」

 

一夏は制服を抱きしめながら涙を流す。

 

一年ほど前に日本を発つとき見送りに来ていた仲の良い三人組。

 

それが今では再会することすらできなくなってしまったのだ。

 

「・・・・・一夏・・・・・・」

 

そんな一夏の姿を箒は何もすることができなかった。

 

そんなとき、外から警報が流れ出す。

 

 

『住民の皆さん、すぐに指示に従って避難を始めてください。怪獣が飛行しながらこちらに接近しつつあります。付近の住民の皆さんは指示に従って避難してください。怪獣は人を捕食します。誘導員の指示に従って避難をしてください。繰り返します・・・・・・』

 

 

「・・・・・避難か。」

 

厳は立ち上がると支度を始める。それを見て蓮も蘭に避難する準備を始めるよう言い出す。

 

「蘭、早く支度を始めて。」

 

「いや!」

 

「早くしないと間に合わないのよ?」

 

「ここは私たちの家じゃない!お父さんやお兄ぃがいたって言う大事な場所じゃない!どうしてそれを捨ててまで逃げなくちゃならないのよ!?」

 

「でも、死んじゃったら家どころじゃないわ。」

 

「私は行かない!」

 

蘭は、そう言うと自分の部屋へと戻って行ってしまう。

 

「・・・・・怪獣が弾たちを食いやがったのか。畜生!」

 

「あっ!い、一夏!」

 

食堂から飛び出して行った一夏を箒は必死に追いかける。すると上空から巨大な影が通り過ぎて行った。

 

「あ、あれは・・・・・・・」

 

見る限りでは極めて翼は蝙蝠にも見えるが飛行と言うより滑空に見える。怪獣は飛行しながら人間が最も多い市街地を目指していた。

 

 

ギャオー!ギャオー!!

 

 

怪獣は咆哮を上げながら口から何やら光線のようなものを吐き出す丁度道路を走っていた車に命中すると車はそこから綺麗に切断され、爆発した。

 

「あれはさっき聞いた飛行機のやられ方と同じだ!やっぱりアイツが・・・・・」

 

一夏は、バッジを取り出して変身を試みる。

 

「待て一夏!」

 

その直後、箒が一夏を取り押さえる。

 

「離せ!箒!」

 

「そんなので行ったら一夏までやられてしまう!」

 

「こうしている間にも・・・・」

 

「落ち着いてくれ!」

 

しばらくすると一夏の力が緩み、2人で尻もちをついた。

 

「はあ・・・・はあ・・・・・俺と弾、鈴はお前と別れてから知り合った仲なんだ・・・・。」

 

「・・・・・・」

 

「鈴は近所の料理店の子でさ、最初に会った時は平手って言う最悪の出会いだったけど仲良くなっていって家にまで遊びに来ていたほどだよ・・・・・三人でいつも行動して・・・・・・中学に入ってもそれは変わりなかった・・・・・・日本を発つときも見送りに来て土産と向こうでの話を楽しみにしているって言ってくれたのに・・・・・・」

 

一夏は、泣きながら拳を強く握りしめた。爪が手のひらに食い込み血が滲んでくる。箒はハンカチを取り出すと手のひらに巻き付ける。

 

「・・・・・・なんで俺は、もっと早く強くなれなかったんだよ・・・・・・・・もっと早く強くなって・・・・・・変身して・・・・・倒していれば、死なせずに済んだのに・・・・・・・」

 

「一夏・・・・・・世の中、なんでもうまくいくわけじゃないんだ・・・・・・・姉さんが日本政府から勝手に逃げ出したり、私が独りぼっちになったりするのと同じように自分の力ではどうしようもない時もあるんだ・・・・・・・だから・・・・・自分を責めないでくれ。」

 

思わず泣き始めてしまった箒を見て一夏は、自分は誤った考えをしていたのだと気づき、彼女を抱きしめた。

 

「・・・・・ごめん、俺がどうかしていたよ・・・・・確かに世の中なんでもうまくいくわけじゃない。力を手に入れたってそれは変わりない。・・・・でも、これ以上、同じことを繰り返させたくはないんだ。」

 

一夏は立ち上がると怪獣が飛んで行った方角へと向き乗る。

 

「・・・・・・無茶はしないでくれよ。」

 

「わかってる。箒は家で俺の無事を祈っててくれ。」

 

一夏はウルトラバッジを翳す。同時にバッジが光り出す。

 

「タロウー!!」

 

すると一瞬にして光に包まれ、姿がウルトラマンタロウへと変わり空へと飛んでいく。

 

「一夏・・・・・帰ってきてくれよ・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

市街地

 

ギャオー!ギャオー!

 

怪獣は口から吐く怪光線でものを切断し、中にいた人間を捕らえると口へと運び、捕食していく。自衛隊も被害を出さぬよう攻撃するがほとんど歯が立たない。

 

そこへタロウが飛行しながら怪獣へと体当たりを仕掛ける。

 

 

ギャオー!?

 

怪獣は、突如の突撃に驚きそのままビルへとぶつけられる。

 

『ディアァ!!』

 

ギャオー!!

 

怪獣は食事を邪魔されたと思いタロウと対峙する。

 

(弾と鈴の仇だ!行くぞ!)

 

 

『ディアッ!』

 

タロウはジャンプをして怪獣の頭に向かってスワローキックを繰り出す。

 

一年前のとは違い、技にはキレがある。更に隙を与えず怪獣の腹部に向かって連続でパンチを繰り出し、怪獣への隙を与えさせない。

 

怪獣は、腹部への衝撃で思わず口から消化しかけの何かを吐き出す。それは真っ赤に染まって原型をほぼ留めていなかったがその正体は何なのかははっきりわかっていた。

 

タロウは、怒りに燃えてさらに拳を怪獣へ向ける。

 

怪獣はこれ以上攻撃を受けたくないと一心に翼を羽ばたかせて上空へ逃げる。

 

『トォワアァア!!』

 

タロウは、追跡するべく空へ飛ぶ。怪獣はタロウに向けて口から怪光線を吐くがタロウは回避しながら怪獣の背後へと回り、翼を取り押さえる。

 

ギャオォオ!?

 

『フン!ディアッ!』

 

タロウは怪力で怪獣の片翼を捥ぎ取る。怪獣は飛行能力を失い上空から地上へと真っ逆さまに落ちていく。下の街に落ちた怪獣は怯えるばかりに後から来たタロウに怪光線を吐きつけるがタロウは引き下がらない。タロウは怪獣の下あごにアッパーを食らわせ、怯んだところを距離を取る。

 

『ストリウム光線!!』

 

タロウは、開いた右手を高く上げると同時に左手を腰にあて、そこから左手を上げて右手に重ねスパークを起こし、両手を腰に添える。そして、身体が虹色に光ると同時に両腕をT字型にして光線を発射する。

 

怪獣は、光線を受けて吹き飛ぶが辛うじて生きていた。

 

ギャ、ギャオッ!?

 

その時夜明けと同時に日が昇り始めた。

 

怪獣は慌てた様子で空へと逃げようとする。

 

しかし、翼は既に片翼が失われてしまっており空へ飛ぶことができない。

 

ギャオッ!ギャオッ!

 

怪獣の頭が紫色に光り、にわかに苦しみ出す。何故苦しみだしているのかタロウにはわからなかった。

 

そうしている間に太陽は完全に昇る。

 

 

ギャ、ギャオッ!ギャオ・・・・・ギャオッ!!

 

怪獣は苦しみだしながら倒れ、その体は徐々に縮小し始める。

 

ギャオ・・・・・・・ギャ・・・・・オォ・・・・・・・・

 

やがて動くことすらなくなり、怪獣は太陽が昇ると同時に体が溶けて行った。

 

怪獣は太陽に弱かったのだ。

 

怪獣が苦しみながら溶けていくのを見届けるとタロウは、空を見上げる。

 

『・・・・・・・・トォワアァア!』

 

夜明けの空へと飛び立っていくタロウの姿はどことなく寂しいように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日 墓所

 

それからしばらく。

 

一夏と箒は墓所のある墓を訪れていた。墓標には「〇〇中学生一同墓」と彫られていた。無論、この下に遺骨はない。

 

「弾、鈴。・・・・・・・みんな、仇は取ったぜ。」

 

一夏は持ってきた花束を添え、線香をあげる。

 

「・・・・・・だから、安らかに眠っててくれ。蘭やおばさんたちも何とか立ち直ろうとしているからな。」

 

両手を揃えて、2人は黙とうする。

 

一夏の脳裏には、日本を発つときの会話が自然に流れてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『一夏、本当に大丈夫なのか?一人で応援に行くなんてよ。』

 

『千冬姉がどうしても来てほしいって言うんだよ。』

 

『変なところで一夏に敏感なのよね、千冬さんって。』

 

『まあさ、向こうでなんか土産買って来るからさ。楽しみにしててくれよ!』

 

『じゃあ、俺には本場のソーセージ買ってきてくれよ!じいちゃんと試食して新メニューに加えるか検討するからよ!そしたら、お前に実食させてやるぜ!』

 

『ハッハハハ・・・・・鈴は何かあるか?』

 

『別にないわよ。アンタが帰ってきてくれればそれで。でも、無茶するんじゃないわよ。』

 

『無茶する必要あるかよ?応援に行くだけなんだぜ?』

 

『気をつけて行けよ!海外って結構物騒な場所多いからな!』

 

『あぁ!じゃあ、行って来るよ!』

 

『・・・・・・一夏。』

 

『ん?』

 

『・・・ううん。何でもないわ。ちゃんと帰ってきなさいよ。』

 

『あぁ!じゃあ鈴にはなんかアクセサリーでも何かでも買ってきてやるよ!』

 

『はいはい、行ってらっしゃい。』

 

『行ってきます!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏はポケットからペンダントを取り出して墓標にかける。

 

「・・・・・じゃあ。また、来るからな。」

 

一夏は、立ち上がると箒と一緒にその場を後にして行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怪獣は死んだ。

 

でも、失われた命はもう二度と戻ってはこない。

 

ボロボロになった友の服。

 

それは・・・・消えた悪魔が残した悲しい死の象徴。

 

 

 




初期構想では弾と鈴もZATに加える予定にしてたけど執筆中いつの間にか食われてた。

なんかある意味残酷・・・・・・。


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奇妙な宇宙人

元のストーリーはウルトラマンマックスの話。

若干アレンジされていますが耐えられる人はこのままどうぞ。




「はっ、はっ、はっ・・・・・・・」

 

早朝。

 

一夏と箒は習慣的にジョギングをしていた。

 

ドイツでも朝同じ習慣をしていたようだが軍の敷地と違い、様々な道を通るため上り坂によっては体力の消費に差がある。

 

「はっ、はっ・・・・・・」

 

箒は、自分の目の前を走っている一夏の背中を見て何かを考えていた。

 

あの怪獣を倒してから一夏の中には後悔の念が漂っていた。

 

確かにやむを得なかったという事もあったがかけがえのない親友を失ったという実感は未だに彼のことを縛り付けていたのだ。

 

(・・・・・・私はどうすればいいんだ・・・・・・)

 

彼女はそう思いながら今日のジョギングを終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この裏で既に新たな事件が起こっていた・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とあるライブ会場

 

「もう、やってられないわよ!!」

 

とあるライブの会場で突如、休息をとっていたアイドルグループが会場で歌っていた別のグループを襲うという事件が発生していた。

 

「ちょっと、やめなさいよ!」

 

「うるさい!放せ!!」

 

パニックに陥っていた会場は警察が出動するにまで至り、凶暴化したグループメンバーを取り押さえるという事態にまで発展した。

 

最近このような事件が頻発に起こっていた。

 

この事件に隊長が未だ不在のZAT極東支部は調査に乗り出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

警察署

 

「つまり、暴れていた本人は何も覚えていないというのですか?」

 

「はい、全ての証人に事情聴取を執り行ってみたのですが全員暴れていた時のことに関しては全く覚えていないそうなんですよ。」

 

ZAT隊員 北島隊員、南原隊員は、警察官に聞きながら取調室へと赴いていた。

 

取調室では、捕まったアイドルグループのメンバーが事情聴取を受けていた。

 

「では、貴方は他のグループの方たちを襲ったことは覚えていないんですか?」

 

「はい・・・・・私は自分たちの出番が終わった後控室でメンバーたちと一緒に世間話をしながら休息をとっていました。」

 

頭を抱えながらグループの女子は言う。

 

「それで・・・・何かほかに変わったことは?」

 

「みんなで最近はやりの携帯アプリをいじっていました。それから先のことは・・・・・・・」

 

「ん・・・・・」

 

またも同じ発言を聞いたのか警官たちは困った顔をして腕を組む。

 

「どうやら、この事件はただことではないようですね。北島隊員。」

 

「あぁ・・・・・・しかし、署の報告では凶暴化した人間は、暴れる前に携帯をいじっていたという報告が上がっている。」

 

北島は、証拠品として署が保管している携帯を見ながら言う。

 

「・・・・この携帯、機種は違うが使われているアンテナはみんな同じタイプだな。」

 

「それもどうやら最近出たばかりの新しい機種ばっかりですね。」

 

北島は、署から出るとヘルメットに搭載された特殊通信機で基地と連絡を取る。

 

「こちら北島、本部応答願います。」

 

『は、はい!こちら本部です!』

 

通信先の方では慌てた少女の声が聞こえる。

 

「更識隊員、まだ慣れていないのはわかるけどもうちょっと落ち着いて話せないか?」

 

『す、すみません・・・・・・』

 

「いや、別に怒っているわけじゃないんだ。基地のアーカイブスで過去に人間が凶暴化して暴れた事件がないかどうか調べてもらえないか?」

 

『はい、わかりました。少し待っててください。』

 

更識は少し静かになると約五分後にまた、連絡を入れて来た。

 

『過去のアーカイブスで似たような事件がわかりました。媒体になっていたものは違いますが約40年前に同じ自動販売機で購入したタバコを吸って人が凶暴化して人を襲う事件が発生したという事例があります。』

 

「うん・・・・・っで、その原因は?」

 

『人間同士の信頼関係を崩して自滅を企んでいた宇宙人の仕業です。しかし、この宇宙人は40年前に当時地球を守っていたウルトラセブンに倒されたという報告が挙げられています。』

 

「その宇宙人の名前は?」

 

『幻覚宇宙人 メトロン星人です。』

 

「メトロン星人か・・・・・・更識隊員、メトロン星人についてもっと詳しいデータは?」

 

『待っててください、今割り出すので・・・・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方

 

「・・・・・・・」

 

「一夏。」

 

夕方、一夏は箒と一緒に夕食の買い物をしていた。

 

「・・・・・ん?」

 

「かけがえのない親友を失くしたことはわかるが・・・・・流石に思い込み過ぎていないか?」

 

「・・・・そうだな、自分でもいい加減受け入れろって言っているんだけどどうしても吹っ切れないんだ・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「もうすぐ千冬姉が帰ってくるかもしれねえのに・・・・・自分が情けない・・・・・」

 

一夏はそう言いながら歩いて行く。

 

 

 

 

 

 

そんなとき

 

「うわああぁぁぁああああ!!!」

 

少し離れたところで何か騒がしい声が聞こえた。

 

「なんだ?」

 

二人は気になって声がした方へと行ってみる。そこでは女性がまるで狂ったかのように近くにいる住人を殴りかかっていた。

 

「何が起こってんだ?」

 

一夏は、不思議そうな顔をしてその光景を見る。暴れている現場を北島隊員と南原隊員が警察と一緒に取り押さえる。

 

「落ち着きなさい!」

 

その現場の中、一夏はふっと何かを感じた。辺りをよく見回すと取り押さえにかかっている現場の隅で何やら黒ずくめの男がひっそりと現場を去るのを目にした。

 

「・・・・・」

 

「一夏?」

 

「悪い、先に帰っててくれ。」

 

一夏は買い物袋を箒に渡すと男を追って走って行く。

 

「あっ!ちょっ・・・・・もう!待ってくれ!!」

 

箒も買い物袋を持ったまま一夏を追いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく歩いて団地を抜け、男は一軒の古いアパートの一室へと入って行った。

 

「・・・・・・・・」

 

一夏は警戒しながら男の入った部屋の前にまで近づいて行く。

 

「・・・・・・・・」

 

『そんなコソコソしなくたって、別に逃げたりはしないよ。』

 

「!?」

 

部屋からの声に一夏は驚く。部屋戸がそっとまるで一夏を招くかのように開いた。一夏は、部屋の中へと入って行く。

 

居間には先ほどの男がちゃぶ台を挟んで座っていた。

 

「よく来たね、織斑一夏。いや、ウルトラマンタロウ。」

 

「どうして俺のことを知っている?」

 

「そりゃあ、俺も君と同じ宇宙人だからさ。」

 

男は、笑いながら一夏の質問に答えた。

 

「俺は人間だ!」

 

「人間だろうとウルトラマンだろうと宇宙に出ればみんな同じさ。」

 

「ここで何をしている!?さっきの人が凶暴化したのもお前が原因か!?」

 

笑う男に対して一夏は警戒を緩めない。

 

「何も企んじゃいないさ。ただ、人類がこのまま自滅するのかをちょっと見ていただけさ。」

 

「何!?」

 

「まあ、そうかっかしないで。何か飲む?」

 

男は、冷蔵庫を開けて何かを探し始める。そして、缶を三つ取り出した。

 

「はい。」

 

「な、なんだこれは?」

 

「何って?眼兎龍茶(メトロン茶)、毒なんか入っちゃいないよ。」

 

「何で三つも出すんだ?」

 

「そこに隠れているお嬢さんに聞いたらどうだい?」

 

「えっ?」

 

男が言うと部屋のドアが勝手に開く。そこには一夏の後を追いかけて来た箒がいた。

 

「あっ。」

 

「箒!?何でついてきたんだ!?」

 

「いいじゃないか。さっ、さっ、お嬢さんも中にお入り。」

 

「・・・・・う、うん。」

 

箒は中に入り、一夏の隣に座る。男は缶を開けてストローを入れると二人も缶を開ける。

 

「さっ、グッと飲みなさい。グッと。」

 

「「・・・・・・・」」

 

三人は同時に眼兎龍茶を飲んだ。冷蔵庫で冷やされていたこともあり、一際さわやかさを感じた。

 

「ん~~~~!!おいちぃい!!ふっ。」

 

その瞬間、男は一瞬にして赤く細長い上半身と青い下半身の宇宙人へと変わる。

 

「「ブッ!?」」

 

一夏と箒は一瞬吹き出しそうになったものの何とか堪える。

 

「い、一体お前はここで何をしようとしていたんだ!?」

 

『何もしちゃいないよ。お前さんたちや新しくできたZATに言われるまでもなく地球とおさらばするのさ。もうすぐ迎えの宇宙船がやってくるんでね。』

 

「ふざけるな!」

 

一夏は思わず立ち上がる。

 

「お前たちのような奴がいるから・・・・・・」

 

『大事なものがいなくなる・・・・っとでも言いたいのかな?』

 

「っ!?」

 

『図星?その顔からすると丸わかりだな。』

 

宇宙人 メトロン星人は少しからかうかのように言う。

 

「お、お前に何がわかるって言うんだ!」

 

『何もわからんさ。でも、矛盾しているとは思わんのかい?君たち人間が自然界にやっていることと怪獣が君たち人間にやっていることが。』

 

「はっ?」

 

メトロン星人はアパートの窓を開けて夕日を見る。

 

『俺は、ここで20年潜伏してきた。かつてこの星で死んだ父の見て来た地球の行く末を見守りにね。自然は破壊され、海は汚れ、地球の美しさがどんどん失われていく。しかし、人間の方はどうだ?楽なことを求め、その方向へ科学を進歩させてその反面、その便利さを求めるあまりに自然をどんどん壊していく。怪獣もいわゆる人類の被害者なのさ。だから人間に手を下す、そして、人間もやり返す。もう、我々が手を下さずとも地球人は自滅して、地球は我々の手に堕ちると確信したのさ。だから・・・・帰る!』

 

「なにを・・・・・」

 

『君だってよくわかっているはずさ。今の人間は心がどんどん廃れていっている。IS、女尊男卑・・・・・人間は機械に頼りすぎて、その脳は委縮し始めている。もう、戦う必要もない。今回のちょっとした悪戯でそれを悟ったのさ。』

 

メトロン星人はそう言うと部屋に散らかっていた物をまとめていく。

 

「何をしているんだ?」

 

『お土産さ。手ぶらで帰るわけにもいかんのでね。』

 

メトロン星人はそう言いながら大事そうにまとめる。

 

『お前さんたちだってもう、俺と同じ宇宙人のようなものさ。自然を壊して、海を汚して、少し変わったからって差別をする礼儀知らずな人類を守る必要もなかろう。』

 

「だからって・・・・・人間すべてがそんな考えをしているわけじゃない。」

 

メトロン星人に言われた影響か一夏は少し落ち着いて答える。

 

『それはお前さんたちの勝手な解釈さ。俺は客観的に見ているだけ。お前さんはその力を何のために使うかまでは知らんさ。』

 

「俺は・・・・・」

 

一夏は、一瞬黙りそうになるがまっすぐな目で言う。

 

「俺は・・・・・守りたいものを守るためにこの力を使う。お前たちのような奴らの手でこれ以上失わないためにな!」

 

『ほう、そうかいそうかい。』

 

メトロン星人は、そう言いながらまた座る。

 

『ん~~~~じゃ、じゃんけんしよう。じゃんけんで俺が負けたらこのまま大人しく帰る。』

 

「・・・・・いいだろう。宇宙人に二言はないぞ!」

 

『そのこと・・・・今の地球人に教えてやれ。』

 

一夏はメトロン星人と対峙しながら右腕を出す。

 

『それじゃあ行くぞ。』

 

「あぁ。(自分がチョキしか出せないの知っててやるなんてどうかしてるぜ・・・・)」

 

『最初はチョキ!じゃんけん・・・・・・ポン!』

 

一夏は、勝利を確信してグーを出す。

 

ところがメトロン星人は、人間の姿に戻ってパーを出していた。

 

「あっ!?」

 

「お生憎様、人は見かけで判断しちゃいけないってな。ハッハッハッハッハッハッハッ、イエェ~イ~!!」

 

メトロン星人は一瞬にして巨大化して外へと出て行った。唖然としていた二人だったが一夏はすぐにウルトラバッジを取り出して前に掲げた。

 

「タロウー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れの街。

 

巨大化したメトロン星人は、暴れることなくただ、その場に立っているだけだった。

 

そこへタロウが舞い降りて来た。

 

『ディアッ!』

 

タロウは、臨戦態勢で構えを取るがメトロン星人は構えを取らず寂しそうに夕日を見る。

 

『・・・・地球の夕焼けは美しいな・・・・・父が死んだのもこういう夕焼けの時だったらしい。特に日本の黄昏は宇宙のあらゆる星でも見られない美しさだ・・・・・・』

 

『そんなこと言ってないでさっさと自分の星へ帰れ!これ以上時間が経つと何もしなくたって攻撃されるぞ!』

 

『ヒュー!随分と優しい言葉をかけてくれるもんだね~。』

 

メトロン星人は、独特の構えを取り始める。タロウは身構えるがその場で足踏みをしているだけで攻撃してくる様子はない。あまりにも意味不明な行動にタロウア思わず首を傾げてしまった。

 

そんな光景を他所に一機の円盤がこちらに向かって飛んできた。

 

それを確認するとメトロン星人はタロウの方へと向き直る。

 

『じゃあ、俺は帰るから。自分でやりたいことをやるだけやってみなさい。じゃあね。』

 

メトロン星人はそう言っているかのように手を振って飛び去って行く。思わず反射的にタロウも手を振り返してしまったがメトロン星人はそのまま光になって宇宙船へと入って行った。

 

飛び去って行く宇宙船を眺めながらタロウはそのまま別な方角へと飛び去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メトロン星人 円盤

 

『どうでしたか?地球での潜伏活動は?』

 

迎えに来たメトロン星人は乗り込んできたメトロン星人に聞く。

 

『まあ、楽しかったよ。帰るのが惜しくなるほどね。』

 

『そうでしたか。しかし、本当に攻撃しないでよろしかったのですか?』

 

『いいの、いいの。あの星は後何年も経てば自滅するさ。我々が手を下さずともね。』

 

『そうですかね?私は貴方の顔を見るからにそうとは考えづらいのですが・・・・・』

 

『そうかい?そんなつもりじゃないんだけどね、ハッハッハッハッハッハッ・・・・・・』

 

メトロン星人の円盤は、そのままそっと地球を後にして行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらく経った後の織斑宅

 

「はあ・・・・・・千冬姉。一体いつになったら帰ってくるんだろう?」

 

一夏は、朝食を摂りながら言う。

 

もうすぐ年明けになろうというのに千冬が戻ってくる様子はなかった。メールも送ってみたのだが返信すらない。

 

「千冬さんのことだから心配はないと思うが・・・・・・」

 

「もうすぐ受験だから仕方ないけど、俺はどこへ行こうかな・・・・・やっぱ、学費が安く就職率の高い私立藍越学園にしようかな・・・・・」

 

そんな会話をしながら二人は、学校へ行く準備をする。一夏の学年は、怪獣災害により一夏と箒、そして、その日偶然欠席して参加できなかった生徒たちをまとめてのクラスだったがそれでも普通の1クラスよりも生徒数が少ない。

 

二人は家を出る前にポストを確認する。すると

 

「ん?」

 

2人宛に何かはがきが入っていた。

 

「なんだこれ?差出人は・・・・・・・・束さん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんか前回の話が暗いから今回は若干明るめにしました。

次回は取り敢えずZAT入隊編にしたいと考えています。


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衝撃!?天災兎の爆弾投下!

やっとアストロモンスの登場。

ちなみにサブタイは別の意味での爆弾投下です。

捏造設定・・・・・・あんまりよくないんだけどな・・・・・。


"Zariba of All Territory"・・・・通称ZAT。

 

解体されたTACに変わる地球外からの脅威に立ち向かう特殊編成部隊であり、ニューヨークの国連本部内に本部を持ち、アメリカ、南米、フランス、アフリカ、日本、北極の6ヵ所に支部を置き、ここ極東支部では最先端の科学技術によって建設された円盤状の基地本体と地下にあるZATメカの格納庫をつなぐタワーで構成され、基地本体には司令室をはじめ、制御ルーム、兵器開発ルーム、情報室、応接室や隊員達の居住区もある。

 

一夏と箒は、束から届いた案内所でこのZAT基地に来ていた。

 

「えっと・・・・・・・ここZAT基地だよな?」

 

ハガキの地図を見ながら一夏は箒と顔を見合わせて聞く。

 

「あ、あぁ・・・・・姉さんの地図通りならここで間違いないはずだが・・・・・・」

 

指定した場所は間違いなくこのZAT基地である。

 

しかし、箒の姉である束は数年前に姿を暗ませてしまっている。世界でISのコアを唯一製造できるため、日本政府は彼女を指名手配。現在は各国から追われている身なのだ。そんな束が何故二人をZAT基地に招待しているのか?

 

「・・・・・考えても仕方ないか。取り敢えず束さんの悪戯だと思って中で聞いてみよう。」

 

「そうだな。でも、久しぶりの姉さんとの再会か・・・・・・・・なんか複雑だな。」

 

家族をバラバラにした張本人でもあるため、箒はなんと声を掛けていいのかわからなかった。

 

タワー部の入り口に入って受付に聞くと意外にすんなりと基地本体の方へと案内される。まさかという表情をしながらも二人は、受付係の後をついて行った。

 

「こちらの研究室に博士はおります。」

 

「あ、ありがとうございます・・・・」

 

「では、ごゆっくり。」

 

受付係が去ると二人は研究室へと入って行く。そこでは書類があちこちに山積みにされ、何かを製作しているウサミミカチューシャをつけ、胸元が開いたデザインのエプロンドレスという独特のファッションをした女性がいた。

 

彼女こそが篠ノ之束その人である。

 

「「・・・・・・」」

 

本当に束がいたため一夏と箒は言葉を失った。製作に夢中になっていた束は、2人が来ていたことに気がつくと昔接していたように明るく声を掛ける。

 

「いっくん!箒ちゃん~!いらっしゃい~!」

 

「た、束さん・・・・・・・だよな?」

 

未だに信じられないのか一夏は疑問形で返す。

 

「何言っているの?正真正銘、天才、篠ノ之束さんなのだ~!」

 

束は意気揚々と言う。間違いなく本人のようだ。

 

「ね、姉さん・・・・・・・」

 

「箒ちゃん、元気だった?ごめんね、束さんの我儘でお父さんとお母さんと離れ離れにさせちゃって。寂しかったでしょ?」

 

「それはもちろん・・・・・じゃない!どうして姉さんがこんなところにいるんだっ!?姉さん、指名手配されているだろ!?なんでZAT・・・・地球防衛の重要な拠点であるこんな場所にいるんだ!?」

 

箒は思わず叫んでしまった。

 

「いやねぇ・・・・これは何て言うか・・・・・・いろいろあったのさ。」

 

「束さん、悪いけど説明が足りない。」

 

「束さんはね、ここの開発部門の責任者になったんだよ。」

 

「いやいや、だから説明が足りないって・・・・」

 

「それで二人を呼び出したわけなんだけど・・・・・・」

 

「だ・か・ら!一からちゃんと説明してくれ!!」

 

「うわあ~おぉ~、いっくん、突然大きな声出すと束さんビビっちゃうよ。」

 

束は、取り敢えず書類をどかして二人をソファーに座らせる。

 

 

彼女の説明を整理するとこういうことになる。

 

まず、彼女がここにいるのは国連がIS条約を改正したのを機に要求状と共に国連本部へISコアの設計データを送り、世界に公表した(但し、厳密には全てではなく飽くまで公表するのは作業用としてリミッターを付けたもの。戦闘用に関しては束本人の承認がない限り製作は一切行わない【製作するのは彼女のみ】。また、脅迫した場合は彼女が仕込んだ特殊破壊プログラムにより現在運用されているISをすべて初期化及び使用不能にする)。これによって国連は、大きく動揺したものの超獣の一件もあったため彼女の要求を呑むことに。このことでまだ公表されていないものの彼女の指名手配は解かれるらしい。無論、箒たちにかけられている重要人物保護プログラムも。

 

そして、もう一つは国連からの要求だった。

 

それは、組織されたZATの科学部門の責任者になってもらいたいというもの。

 

ZATは、過去の防衛組織のノウハウなどがあったものの長い間の平和による戦闘の経験不足や軍縮傾向も影響されてひ弱な面が目立っていた。そこで束の要求を呑む代わりに彼女にもZATの一員として加わってもらいたいと頼んだのだ。

 

束は、最初は難色を示していたもののIS関係については一切触れないという条件で了承した。本来はニューヨーク本部に居てもらいたかったが彼女本人が「懐かしい故郷の土を堂々と踏みたい」とかなんかの理由でこの極東支部に居ることになったのだとか。ちなみにこの本部を設計したのも彼女なのだとか。

 

「・・・・・・国連がよくそんな要求を呑んでくれたもんだな。」

 

説明を聞いて一夏は思わず言う。

 

「まあ、束さんも『まさかこんな要求は通らないでしょ』という感じで送ったからね。OKしてもらった時は自分でも疑ったよ。」

 

束は、笑いながら言う。

 

「じゃあ、お父さんとお母さんとまた一緒に暮らせるようになるという事なのか!?」

 

「もち。束さんの自分勝手であんなことになっちゃったからね。もうすぐ会えるよ。」

 

「よかった・・・・・」

 

束の言葉を聞いて箒は、ホッとする。

 

「でも、それと俺と箒がここに呼び出されたのはどういう関係があるんだ?」

 

「あぁ、それね・・・・・・・・」

 

束は立ち上がり、腕を回しながら言う。

 

 

「いっくん、箒ちゃん。ZATに入らない?」

 

 

「「・・・・・・・・はっ?」」

 

束の言葉に二人は思わずキョトンとした。

 

「い、いや、冗談だろ?」

 

「ノンノンノン・・・・・・束さんはガチで言っているよ。」

 

「姉さん、私たちまだ学生なんだぞ?」

 

「うん、実はね・・・・・・・」

 

束は、パソコンを取り出してある映像を見せる。

 

「「あっ・・・・・・」」

 

ついこの間メトロン星人と一緒にいた時の映像。そして、タロウに変身した一夏の映像。

 

「「・・・・・・・」」」

 

「うん・・・・・・・いっくんがウルトラマンだって言うのがわかっちゃったもんだから。で、でもね、束さんは正体をばらすという事は絶対にしないから。」

 

「それでZATに入れってわけか?」

 

暗い顔をする一夏は、束のことを睨みつけながら言う。

 

「う~ん~・・・・・じゃあ、束さんの黒歴史を二人に暴露するから許してちょうだい。」

 

「黒歴史?姉さんに黒歴史なんてあるのか?」

 

箒は疑問に思いながら聞くが束は深呼吸をすると態度が一変して叫び出す。

 

「束さんはね・・・・・ウルトラマンが大好きなんだよぉ!」

 

「えっ?」

 

「小さい頃、お母さんが偶然撮っていたウルトラマンの写真を見てからもう一目惚れ・・・・・・・・・今でもグッズいっぱい持ってるよ!幼稚園の卒園アルバムの特典DVDでみんなで将来の夢を言うとき、危うく『ウルトラマンのお嫁さんになりたいです!』って爆弾発言しかけたよ!!途中で防衛隊に入りたいって誤魔化したんだけどね!でも、ウルトラマンに会うためにはM78星雲・・・・・ウルトラの星まで行かなくちゃいけないんだよ!?今の地球の技術で行けると思う?できないよね!?だから、ISもその一環で作ったんだよ!恥ずかしくて宇宙開発目的って言ってたけど!」

 

「た、束さん・・・・・・・・・」

 

「でも、国のお偉い共はそれを兵器としか見てなかったんだよ!?ISコア作っては兵器として運用、宇宙進出未だにならず・・・・・・わかる?束さんの夢どんどん遠くなっていくんだよ!!」

 

「ね、姉さん、落ち着いてくれ・・・・・・・」

 

「それでね、それでね!束さんブチ切れたんだよ!!それで逃げたんだよ!!箒ちゃんやお父さんたちには悪いと思ったけど!私の人生だから!ちーちゃんにさえ言えないことだったんだよ!!どこのガキの発想かって言われそうで怖かったんだよ!」

 

束は息を荒くしながら叫ぶ。これはとんでもないことを聞いてしまったと思っていたが時すでに遅し、束の爆弾投下はもうしばらく続くのであった。

 

 

 

 

 

そして、五分後\(^o^)/

 

 

 

「ハア・・・ハア・・・・・・・あぁ・・・・・・束さんの黒歴史、全部しゃべっちゃったよ・・・・・」

 

束は顔を真っ赤にしながらソファーに座り直す。一夏と箒は驚きを隠しきれない状態で束を見ていた。正直言って束は何を考えているのかわからないことが多かったため、今回その一部が初めて分かったような気がした。

 

「ハア・・・・ハア・・・・・・まあ、その、いっくんがウルトラマンになったとき、束さんは悟ったんだよ。これを逃せば私の夢は永遠に実現できないんだと。だから、ZATに入ってウルトラマンが一番出現するこの日本に移らせてもらったのさ・・・・・・」

 

束は二人の前で土下座をしながらさらに言う。

 

「だから、お願い。私の夢の実現のためにもいっくんたちにZATに入ってほしいの。ウルトラマンが間近で見れるし、運が良ければ他のウルトラマンも来るかもしれないからね。いっくんたちの秘密も束さんの頭の隅っこにしまっておくから・・・・・・ねっ?」

 

一夏は、目の前で頼み込んでくる束に対してどうするべきか考えた。

 

正体を知られたのは一番まずい。

 

しかし、本人は黙ると言っているし、普段の生活で現場に駆け付けるには限度がある。それに・・・・・

 

(普通にバイトするより、こっちに就職しておけば自立できるようになるんじゃね?)

 

っと、千冬への孝行になるのではないかと考えた。それに束の行動がある意味、箒の監視付きの孤独な生活を終わらせたのだ。それにあんな爆弾告白されればなんか同情したくなる。

 

「お、俺は別にいいけど・・・・・・・」

 

「本当!?」

 

束は一夏の目の前にまで迫る。

 

「近い!近い!?でも、箒まで入れる必要はないんじゃないか?」

 

「箒ちゃんはね・・・・これでしょ?」

 

束は小指を突き立てて言う。それを見て一夏と箒は顔を真っ赤にした。

 

「もう、照れ屋さんなんだから!二人が付き合っていることくらい束さんにはお見通し・・・・・・・」

 

「やっぱ帰ろうか、箒。」

 

「うん。」

 

「あ~ん!待って!待って!からかいすぎました~!ごめんなさ~い!」

 

部屋を出て行こうとする二人を束は慌てて止める。その直後、基地の警報が鳴る。

 

「なんだ!?」

 

そして、研究室の通信機が反応する。

 

「はいはい、もちもち・・・・・」

 

『博士、からかっている場合じゃないですよ!』

 

「あぁ、君たちね。何の騒ぎ?」

 

『モニター見てくださいよ!モニター!』

 

束は、モニターを切り替える。すると市街地に右手の鞭、左手の鎌、腹部の巨大な花という奇妙な怪獣がこちらに向かってきていた。

 

「なんだ、あの怪獣は!?」

 

「アイツか・・・・また、戻ってきたんだね・・・・・」

 

「えっ?姉さん、あの怪獣に身に覚えがあるのか!?」

 

怪獣を見ながら言う束に箒は思わず聞く。

 

「うんとね・・・・・アイツ、数日前に埋立地から出て来て攻撃したら空飛んで逃げて行った奴なんだよ。」

 

「逃げた!?」

 

「うん。まあ、あの時は戦闘機みんなオーバーホールしてたから逃げただけでも運が良かったんだけどね。」

 

『スカイホエール及び各機、発進させますけど今回は大丈夫ですよね?』

 

「オケオケ、OKだよ~。・・・・・・でも、スーパースワローだけ空けといて。」

 

『はっ?別に乗る者がいないのでかまいませんが・・・・・・』

 

「うんうん。今日入隊してきた新入りに操縦させるから。」

 

「「新入り!?」」

 

束の発言に一夏たちは目を丸くする。束はちゃっかり赤と青の明るいイメージの配色が特徴のZATの隊員服を男女用共に一着ずつ持っていた。

 

「束さん・・・・」

 

「大丈夫大丈夫。スワローには、こっそり補助ユニットを組み込んで猿でも操縦できるように改良してあるから。」

 

「猿って・・・・・・・」

 

色々と突っ込みたいことは山程あったが今は目の前の怪獣を退治するのが先だと考え、2人はさっさと隊員服に着替える。束が事前にサイズを調べていたのかピッタリだった。

 

「中々似合っているよ。」

 

「全く・・・・・一応考えておきますけど今度こんなことをするときは事前に話してからやってくださいよ。」

 

 

二人は束に案内されて格納されているZATの所有する高性能小型戦闘機「スーパースワロー」がカタパルトに設置されていた。

 

「本当にこれに乗るのか?」

 

「姉さん・・・・せめてシュミレーションとかした後の方が・・・・・」

 

「ダメダメ、実戦に勝る訓練はないってね!」

 

「はあぁ・・・・・やっぱ帰った方が正解だったかも。」

 

二人はいやいやコックピットに乗り込む。

 

「えっと、発進する時はこのレバーを引いて。そして、脱出装置はこのボタン・・・・」

 

戦闘機という事もあってかつてドイツ軍基地でラウラが特別に見せてくれた戦闘機並みに難しいつくりなのではないかと思っていたが案外簡略化されていた。

 

「・・・・・大体の方法はわかった。」

 

「よし、じゃあ行ってらっしゃい~!」

 

束は、スワローから離れると基地のゲートが開く。

 

「・・・・・なんか緊張するな。」

 

「束さんの感覚だと生まれて初めてジェットコースターに乗る気分のように感じているんだろうな。まあ、操縦形式が軍のものより簡単になっているのは驚きだったけど。」

 

一夏と箒を乗せたスーパースワローは、ゲートから発進して行った。発進すると先に怪獣と戦闘を繰り広げていたスカイホエールから通信が入った。

 

『お前が今日から入隊した新入りか?』

 

「は、はい。織斑です。」

 

「同じく篠ノ之です。」

 

『副隊長の荒垣だ。お前たちは怪獣の気をそらしてくれ。その間にこちらで送電線を打ち込んで放電させる。』

 

「電気ショック作戦というわけですか?」

 

『そうだ、篠ノ之隊員。数日前に奴が発電所を攻撃した時、放電した直後、あの怪獣は嫌がっていた。おそらく電気系統の攻撃には弱いはずだ。』

 

「わかりました。援護に回ります。」

 

スーパースワローは、ミサイル攻撃をしながら怪獣の気をそらす。束が開発したのか怪獣には思っていた以上に聞いているようだ。

 

キイィイユゥウ!!

 

怪獣 アストロモンスは、腹部の花から溶解液を飛ばすがスーパースワローは小型故の機動性を活かして攻撃を回避する。その間にスカイホエールは、アストロモンスの背後に回った。

 

「よし、電気ショック作戦開始!」

 

スカイホエールから送電線が発射され、アストロモンスの首に撃ち込まれる。自分の首に食い込んだことに驚いたのかアストロモンスは動揺する。

 

「放電開始だ。」

 

荒垣副隊長がレバーを引くとスカイホエールから電流が流れ、アストロモンスへ直撃する。あまりの苦しさにアストロモンスは暴れ出す。

 

キイィユウゥウ!?

 

アストロモンスが苦しむ姿を見て荒垣は、更に電圧を上げるがアストロモンスが暴れることによりスカイホエールは大きく揺らされる。

 

「副隊長!このままだとホエールが地上に激突します!」

 

「くそ!・・・・・止むを得ん!送電線を切断する!」

 

ホエールは送電線を切るとアストロモンスはZAT基地を目指して歩き始める。

 

「まずい!このままだと基地が奴に破壊されてしまう!」

 

一夏は、スーパースワローのミサイル攻撃でアストロモンスの興味を引こうとする。そんな一夏の攻撃を相手にすることなくアストロモンスは、ムチでZAT基地を攻撃する。

 

『博士、基地が攻撃されています!?』

 

「大丈夫、このくらいで壊れるほど基地はやわに設計していないからね。基地本体を上空へ!」

 

ZAT基地は円盤型の本体下からジェット噴射を開始し、上空へと逃げて行く。

 

キィイユウッ!?

 

飛んでいく基地を見てアストロモンスは驚く。そんなアストロモンスの口へ一夏はミサイルを発射する。

 

キィ、キィイ!?

 

「はっは!ざまあみやがれ!」

 

口を押えながら飛び上がるアストロモンスを見て一夏は笑う。しかし、アストロモンスは仕返しとばかりにムチでパースワローを攻撃した。

 

「あぁ!?」

 

エンジンがやられ、スーパースワローは地上へと墜落していく。

 

「まずいぞ!?さっきの攻撃で脱出装置がやられた!」

 

「くっ!箒、俺にしっかり掴まってろ!」

 

箒は一夏に掴まると一夏は、ウルトラバッジを取って真上に翳した。

 

「タロウー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スワローが墜落したところからタロウが飛び出し、上空からアストロモンスに向かってスワローキックを繰り出す。

 

キィイユゥウ!?

 

アストロモンスが倒れるとタロウは、箒を降ろすとアストロモンスへと向かって行く。

 

『ディアッ!』

 

アストロモンスの腹の花に向かってタロウは渾身のパンチを繰り出す。拳はアストロモンスの腹部を突き破り、背中から飛び出す。

 

キィユゥ!?

 

タロウは、拳を引き抜くとすかさず背負い投げをする。アストロモンスは、よろよろと起き上がると走ってくるタロウに向かってガス状の溶解液を発射した。

 

『ン゛ン゛!?ドゥッ!?』

 

突然の反撃にタロウは思わず顔を押さえる。アストロモンスは隙を見てムチでタロウの首を締め上げる。

 

『ディィアァ・・・・・ア゛ァ!?』

 

拘束されたタロウは、アストロモンスの鎌で叩きつけられる。

 

「あの怪獣・・・・・強い・・・・」

 

箒は、少し離れたところから戦闘を見る。

 

 

プーピー、プーピー、プーピー、プーピー・・・・・・・・

 

そうしている間にタロウのカラータイマーが点滅を始めた。

 

アストロモンスは、タロウを地面に叩きつけると鎌でタロウの首を刎ねようと攻撃を始める。

 

『ドゥツ!?』

 

タロウは鎌を押さえて振り切ろうとするがアストロモンスは体重をかけてじりじりと追い詰めていく。

 

「くそ!一夏はやらせないぞ!」

 

箒はZATガンを持ってアストロモンスの方へと接近していく。箒の接近に気がつき、タロウは来るなとばかりに手で制するが箒は、できる限り接近しアストロモンスの目に向かってZATガンを放った。

 

「これでどうだ!」

 

箒の一撃でアストロモンスの右目が傷つきアストロモンスは思わず起き上がる。その隙にタロウはアストロモンスを蹴り飛ばして態勢を立て直し、ジャイアントスイングでアストロモンスを地面に叩きつけた。

 

キィユウゥ・・・・・・・

 

『ストリウム光線!!』

 

タロウは、開いた右手を高く上げると同時に左手を腰にあて、そこから左手を上げて右手に重ねスパークを起こし、両手を腰に添える。そして、身体が虹色に光ると同時に両腕をT字型にして光線を発射する。

 

アストロモンスは、光線を浴びるとたちまち爆散する。

 

『・・・・トォワアァア!』

 

タロウはそっと箒の方へ目をやるとそのまま空の彼方へと飛び去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ZAT基地

 

「いや~いっくん!カッコよかったよ!」

 

「そんなに言うのはやめてくださいよ・・・・」

 

束は、褒めながら一夏と箒と一緒に歩いて行く。

 

結局、二人はZATに入隊することになった。ミーティングルームに入ると早速先ほどスカイホエールに搭乗していた荒垣副隊長が笑いながら二人を出迎えた。

 

「おぉ!二人とも無事だったか!諸君、この二人が今日から入隊する新入隊員の織斑一夏君と篠ノ之箒君だ。」

 

荒垣は、各隊員に二人を紹介する。

 

「「よろしくお願いします!」」

 

「じゃあ、各隊員を紹介しよう。私は副隊長の荒垣だ。そして、隊員の北島君。」

 

「よろしく。」

 

「南原君。」

 

「オッす!」

 

「西田君。」

 

「こんちわ!」

 

「そして、オペレーターの更識君、こう見えて君たちと同じ年だ。仲良くしてくれ。」

 

「・・・・・よろしくお願いします。」

 

「あの、副隊長。」

 

「ん?」

 

「隊長はどちらに?」

 

「うん・・・・・実はまだこの極東支部の隊長がまだ決まっていないんだ。」

 

「「えっ?」」

 

荒垣の言葉に二人は思わず言ってしまった。

 

「あぁ、でも今日ニューヨーク本部から任命された新隊長がこちらに来るそうだ。全員、気を引き締めてお出迎えするぞ!」

 

「「「「「「はい!」」」」」」

 

そう言ったのも束の間、束が何かを察したのかにやける。

 

「新隊長が来ましたよ~。」

 

「なっ!?全員整列!!」

 

荒垣は、急いで全員を整列させる。扉が開いた瞬間、全員礼をして声を合わせる。

 

「よくぞニューヨーク本部からはるばるとおいでくださいました!」

 

全員顔を上げて隊長の顔を見る。すると全員唖然とした顔で驚く。

 

「「「「あっ!」」」」

 

「「あっ!」」

 

全員が驚いたのも無理はない。

 

なんせ隊長は・・・・・・・

 

 

「わ、私が今日からこの支部の隊長に任命された織斑だ・・・・・・えっ?」

 

なんと隊長は千冬だった。

 

「ち、千冬姉!?」

 

「こ、こら!織斑!た、た、隊長の前だぞ!?」

 

プライベートの言い方をした一夏を荒垣は慌てて制する。一方の千冬は、入り口で腕を組んで見ていた束の方へと言って胸倉を掴んでいた。

 

「束、どういうことだ!?何で一夏と篠ノ之がいる!?」

 

「えっ?だって、今日私が入隊させたんだもん。」

 

「なんだと!?クッ・・・・・・・・ただでさえこの制服恥ずかしいんだぞ!よりによって一夏の前で・・・・・・・」

 

「あ、あの・・・・・隊長・・・・・」

 

「えっ!?あ、あぁ!ど、ど、どうした南原隊員!?」

 

「取り敢えず挨拶を先にした方が・・・・・・」

 

南原に言われて千冬は咳払いして一同の元に戻ってくる。

 

「え、えぇ!生憎私は隊長と言えどまだ半人前だと自負している。これからき、君たちに迷惑をかけてしまう事もあるかもし、しれないがサポートしてくれれば助かる。こ、こ、こ、今後ともよろしく頼む!」

 

千冬は、そう言って敬礼すると束を引っ張ってその場から離れて行ってしまった。

 

「す、すごい人が来ましたね・・・・・・・」

 

北島は、緊張した顔で言う。

 

千冬と言えばISモンド・グロッソV2を果たしたブリュンヒルデとして有名だ。むしろ知らない人間が少ないくらいだ。

 

「あぁ・・・・・でも、こういう関係の仕事はどうやら不慣れなようだな。」

 

荒垣はさりげなく言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方 ZAT基地 居住区

 

「はあ・・・・・・・」

 

千冬は一人ため息をついて椅子に座っていた。

 

「ほい。」

 

「ん?」

 

目の前に熱い何かを突きつけられて何事かと思って顔を上げて見ると缶コーヒーを二つ持った一夏がいた。

 

「一夏・・・・・・」

 

一夏は、千冬にコーヒーを渡すと隣に座る。

 

「何で早く帰ってこなかったかと思ったらこんなことになっていたなんてな・・・・・・・」

 

一夏はコーヒーを飲みながら言う。

 

「委員会からの頼みでな。何故か積極的に頼み込んできたかと思ったら束のストッパーだったとは。」

 

「まあ、束さんがあんなことするとは誰も思ってもみなかったからな。」

 

「・・・・・・一夏。お前、本当にここで働くのか?」

 

「最初はそれどころじゃないと思ったんだけどね。でも、千冬姉に教わったことを活かすんならここかなって思ったな。それに・・・・・弾や鈴のような犠牲をこれ以上出したくないから・・・・・・」

 

一夏は暗い顔で言う。

 

「五反田たちのこと・・・・・聞いていたのか。」

 

「日本に帰ってすぐにな。あの時の蘭の泣き顔が今でも頭に浮かぶよ。」

 

「人類とは・・・・・意外に無力なのかもしれんな。争うたびにその武器を発達させ、最終的には自分たちすら滅ぼしかねない代物を作って自滅しかねない事態を招く。ISもこの世界にはまだ早かった・・・・・・・」

 

「でも、それを見直すのも俺たちだと思う。現に千冬姉がそれを証明してZATが作られたようなもんだろう?」

 

「フッ、そうかもしれんな。」

 

二人は苦笑しながら言う。

 

「これからお前と私は、部下と上司という関係になる。だが、私はお前を失いたくない。・・・・・無茶だけはするなよ。」

 

「わかってるよ。箒も一緒にいるし。」

 

「さて、私は仕事に戻るか。隊長というのは仕事が多いからな。」

 

千冬はそう言って司令室の方へと向かう。

 

「千冬姉。」

 

「ん?」

 

一夏に呼び止められて千冬は振り向く。

 

「お帰り。」

 

「ただいま。」

 

一夏の返事に笑顔で返すと千冬はその場から離れて行った。

 

 




まさかの千冬と束のZAT介入。

ちなみにこの世界の女尊男卑社会は終わりの一途を加速的に辿っています。


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姉妹と姉弟(前編)

う~ん・・・・・・一話が長くなったせいで怪獣が全く出てこない・・・・。

なお、本話は更識隊員の荒れっぷりがあるため見ていられない方は「シュワッチ!」と言って引き返しましょう


ZAT基地近くの川の堤防

 

「「「いち、に!いち、に!」」」

 

「「いち、に!いち、に!」」

 

まだ、太陽が昇り始めて間もない早朝。

 

一夏、箒含めるZATのメンバーは、千冬を先頭に早朝のランニングをしていた。

 

「はっ、はっ、・・・・・隊長!」

 

「ん?どうした?南原隊員。」

 

南原が息を荒くしながら千冬に声を掛ける。

 

「その・・・・はあ、はあ・・・・・こんな朝早くから町内10周というのはいくら何でも厳しいのでは・・・・・」

 

「何を言っている?ZAT隊員たるもの、いざという事件の時のための体力づくりは重要だ!ほら、お前の後ろにいる新人二人を見てみろ。まだまだいけるぞ?」

 

「はあ・・・はあ・・・・・・」

 

南原は後ろで走っている一夏と箒を見る。確かに二人とも息切れをしている様子はない。

 

「そんな・・・・・・」

 

「ハッハッハッ、ここは先輩としての意地を見せないといけないな南原隊員!」

 

荒垣は、笑いながら走る。

 

「副隊長まで・・・・・はあ・・・・・先輩って辛いもんだな・・・・」

 

「しかし、隊長。我々がこう体力づくりをするのはいいのですが更識隊員は何故参加させなかったのですか?」

 

荒垣は他のメンバーには聞こえない声で千冬に小声で聞く。

 

「あぁ・・・・・どうやら実家の当主の姉がどうしても戻って来てほしいと揉め事になっていてな・・・・・」

 

「そうでしたね・・・・・彼女が組織に入隊した時も自分から家族と縁を切るって・・・・・・」

 

 

ZATがこのように日々、トレーニング&パトロールに明け暮れている頃、宇宙からとんでもないものが落ちてこようとはまだ誰にもわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ZAT基地

 

「はあ・・・・・・疲れた・・・・・」

 

南原は、ぐったりとした顔で司令室のテーブルに座る。町内10周というのは流石にきつい。他のZAT隊員も結構堪えた様だった。

 

「千冬ね・・・・・じゃなくて隊長。トレーニングもいいとは思いますけど流石に毎日やっていたらいざというときに動けなくなっちゃいますよ?」

 

「うん・・・・・・・・お前の言う事も尤もだな・・・・・・・後日以降は量を減らして室内での簡易的なストレッチを中心にした方がいいかもしれんな。」

 

一夏に指摘されて千冬は首を傾げながら言う。そんな隊員一同の元へ、更識隊員こと更識簪が冷えた飲み物を持ってきた。

 

「お疲れ様です。」

 

「あぁ・・・・・更識隊員、ありがとう。」

 

南原はぐったりしながらも簪に礼を言って受け取る。

 

「はい、北島さん。」

 

「ありがとう。」

 

「西田さんも。」

 

「ありがとうございます!」

 

「えっと・・・・・織斑・・・・」

 

「あっ、俺は一夏でいいよ。」

 

「う、うん。はい、一夏。」

 

「サンキュー!」

 

「し、篠ノ之隊員も・・・・・」

 

「私も気安く箒って呼んでくれればいいぞ?歳も同じなんだし。」

 

「わかった。じゃあ、私も簪でいいよ。」

 

一同が冷たい飲み物を飲んでいると遅れて荒垣が何かを持って部屋に入ってきた。

 

「おい、みんな。全員に手紙が来ているぞ!」

 

「おっ?」

 

荒垣の言葉に全員が反応する。

 

「じゃあ、最初は南原。」

 

「・・・・・・あっ、実家からだ。」

 

「北島!」

 

「はい。」

 

一人一人が手紙を受け取り、中身を確認していく。

 

「織斑、篠ノ之。これはお前たち二人に宛られた手紙だ。」

 

「俺たち二人ですか?」

 

一夏は手紙を受け取ると中身を見る。封筒はドイツ語で書かれているが中の手紙は二人が読めるよう少しぎこちない日本語で書かれていた。

 

「ラウラからだ!」

 

「アイツ、読むかわからないって言っていたのに自分から送ってくるとはな!」

 

2人が懐かしむように読んでいる隣で荒垣は簪に手紙を渡す。

 

「更識、実家からだ。どうするかはお前次第だが偶には読んでもいいんじゃないか?」

 

「・・・・・・」

 

荒垣から手紙を受け取って簪はひっそりと部屋を後にしていく。

 

「・・・・・・・更識。」

 

千冬は賑わっている司令室を抜けて簪の後を追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

少し廊下を歩いて行くと簪は手紙をゴミ箱に捨てようとしていたところだった。

 

「更識。」

 

「あっ・・・・・隊長。」

 

千冬に言われて簪は慌てて手紙を後ろに隠す。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・少し、座って話をしないか?」

 

 

近くの自動販売機のすぐ傍の椅子で二人は座りながら話を始める。

 

「・・・・・・っで、どうして実家から来た手紙を読まずに捨てようと思ったんだ?」

 

千冬に聞かれて簪はどうするべきか少し困った顔をするがゆっくり口を開いて語り始めた。

 

「隊長は・・・・・織斑隊員・・・・・一夏と姉弟なんですよね?」

 

「あぁ。」

 

「私にも一つ年の離れた姉がいるんです。」

 

「更識家 現当主の更識楯無か。条約改正前はロシア代表候補生だったそうだな。」

 

「はい。でも・・・・・・」

 

「ん?」

 

「私・・・・・・・姉の傍にいることが嫌になって家を出たんです。姉と比べられたくないって。」

 

「・・・・・・姉妹の間のコンプレックスというわけか。」

 

簪の言葉で千冬は何となく納得する。

 

「姉は、臆病な私とは正反対で明瞭快活で文武両道、料理の腕も絶品、カリスマ性や体つきも・・・・・・・」

 

「どの面でも比べようがないという事だな。」

 

「はい・・・・・・でも、私だって努力はしていたんです。勉強も運動も・・・・・・中学だって学績は常にトップを保っていました・・・・・」

 

「・・・・・フン。優秀過ぎる姉を持つとその後ろにいる者はみんなダメな奴と言われてしまうという事か。まるで私と一夏と同じだな。」

 

「えっ?」

 

千冬の言葉に簪は顔を上げた。

 

「私は、その昔一夏を守ろうと必死だったのでな。学績も運動も誰にも負けんと一生懸命だったんだ。・・・・・それで常にトップをキープしていて周りはみんな私のことを『秀才』と思うようになったんだ。だが、これが仇になって一夏を苦しませるようになってしまった・・・・・・」

 

千冬は苦笑しながら話を続ける。

 

「別に一夏は周りに比べれば十分高い素質を持っていたんだ。だが、私が注目され過ぎたためにアイツは世間から私の恥さらしやら、劣等品やら、出来損ないと言われてしまったんだ・・・・・・幸い周りにいい仲間がいて立ち直れたが。」

 

「彼がですか?」

 

「あぁ・・・・・その当時私が必死だったこともあって慰めの一言も言ってやれなくてな。未だに後悔しているよ・・・・・でもな・・・・全く無関心だったというわけじゃなかったんだ。守りたいという気持ちが強いばかりに時に人は目の前が見えなくなってしまうという事もある。」

 

「守りたい気持ち?」

 

「自分の弟や妹を大事に思っているなら誰だってそうなるものだ。それはお前のお姉さんも同じじゃないかな?」

 

「・・・・・・・」

 

「数日、休暇を与える。その手紙を読んで実家に行って話し合ってこい。それでダメなら私もこれ以上何も言わない。」

 

「でも・・・・・・姉が私の話を聞いてくれるかどうか・・・・」

 

「同伴で一夏と篠ノ之を付ける。一人じゃ心細いだろうからな。それならどうだ?」

 

「・・・・・・わかりました。」

 

千冬の言葉に戸惑いの表情を浮かべながらも簪は返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後 更識家 屋敷

 

「・・・・・・・もう、戻ってこないって言ったのにな・・・・・」

 

簪は、私服姿で屋敷の前に立っていた。後ろでは一夏と箒が付いている。

 

「しかし、驚いたな。簪の実家がこんなお屋敷なんてな。」

 

「更識ってどこかで聞いたことがあると思ったがまさか対暗部用暗部の家だったとはな・・・・・。」

 

感心している二人を他所に簪は屋敷の中へと入って行く。中庭を歩いて行くと三人の目の前に何かが飛び出してくる。

 

「うおぉ!?な、なんだ!?」

 

「怪獣か!?」

 

一瞬、人とは思えない姿に警戒した一夏たちだったが簪はすぐに制する。

 

「大丈夫、あれは彼女の趣味だから。」

 

「「えっ?」」

 

「お帰り~かんちゃん~!」

 

よく見るとそれは怪獣の着ぐるみを来た少女だった。

 

「待ってたよ~!私もお姉ちゃんもお嬢様もみ~んな心配していたんだよ?」

 

「簪、彼女は?」

 

「布仏本音、私の幼馴染で専属のメイド・・・・・“元”だけどね。」

 

「メイドなのか・・・・・・ずいぶんと変わった趣味を持つメイドなんだな・・・・・」

 

箒は、本音を見ながら言う。本音の姿はZATのデータファイルにあった数十年前に突如とあるデパートのおもちゃ売り場で現れた怪獣に何となく似ていた。

 

「さあさあ、お姉ちゃんもお嬢様も待ってるよ~。」

 

本音はピョンピョンと撥ねながら案内する。

 

「・・・・・あの独特の歩き方・・・・・・なんとかならないのか?」

 

「無理だと思う。本音って昔からあぁだから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人は屋敷の中に入ると出されたお茶を飲みながら座っていた。

 

「お姉ちゃんは?」

 

「お嬢様?お嬢様は、病院に行っているけどもうすぐ帰ってくると思うよ。」

 

「病院?なんかの病気か?」

 

「う、ううん!そういうわけじゃないんだ!」

 

気になるように聞いてきた一夏に本音は笑いながら誤魔化すように言う。それに対して簪の顔は暗いまま。

 

「よかった~毎日手紙送っているのにかんちゃん返事一言も返してくれなかったんだもん・・・・」

 

「私はZATに入隊したときからこの家とは縁を切ったの。何をしていようが私の勝手でしょ。」

 

「でも、お嬢様、なんかかんちゃん出て行った日からすごく元気がなくなっていたよ?今日も帰って来るという返事聞くまで死んだ魚のような眼をしていたし。」

 

「あの人と私は次元が違うの。私はあの人のようになれなければあの人も私のことを理解することもできない。」

 

「う~ん~、でも、やりすぎなんじゃないかな?携帯は何度も機種変更して連絡先を教えないし、ZAT基地は、暗部の人でも立ち入り禁止だし。」

 

「そのくらいのことでもなくちゃ逃げられないもん。」

 

二人はそんな会話をしていると、何か数人の足音が聞こえて来た。

 

「おっ?簪のお姉さんが帰って来たんじゃないか?」

 

「どうでもいい。あの人とはもう生きる世界が違うから。」

 

「いくら何でも言い過ぎじゃないか?俺や箒でも千冬姉や束さんにそこまで言ったことはないぜ?」

 

そして、足音は四人のいる部屋の前で止まる。そして障子がゆっくりと開いた。

 

「か、簪ちゃん・・・・・」

 

簪は聞きたくないとばかりに声の主を睨みつける。

 

「私に何の用?悪いけどもう顔すら・・・・・・・!?」

 

「「えっ!?」」

 

障子の先にいる人物を見て三人は思わず驚いた顔をする。

 

確かに髪の色と顔の雰囲気は簪によく似ていた。

 

ただ、体はやせ細り、顔色も芳しくなく隣にいる顔立ちが本音に似ている女性に支えられて立つのがやっとの状態だった。

 

「か、帰ってきて・・・・・・ハア、ハア・・・・・・・くれたのね・・・・・・うっ。」

 

「お嬢様、もう休まれた方が・・・・・・・」

 

倒れそうになった楯無を本音の姉 虚が慌てて押さえる。

 

「いいの・・・・・・・・呼び出したのは私なんだから・・・・・・ゲホッ!ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ!」

 

「お嬢様!」

 

咳き込み始める楯無を虚は必死に背中を擦る。この状況に簪は混乱状態だった。

 

「・・・・・・・どういうこと?」

 

「え・・・・・えっとね・・・・・・・かんちゃん・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「後遺症?」

 

落ち着いて眠っている楯無の部屋の隣で一夏たちは、虚から事情を聴いていた。

 

「はい、あれは妹様が家を飛び出してすぐのことです。現在廃校になったIS学園である一体の怪獣が学園を襲撃したのは知っていますよね?」

 

「あぁ・・・・・確かZATが組織される少し前の話で確か『ケムラー』って言う毒ガスを吐く怪獣だったな。倒したのはいいがその後怪獣の遺体から猛毒物質が発生して、消毒された現在も閉鎖されていると姉さんから聞いてはいるが・・・・・・」

 

「はい、ケムラーが学園を襲撃した当時、お嬢様は学園にいた上級生・専用機持ちの代表候補生たちと共に迎撃に向かったのです。しかし、ケムラーの毒ガスによる被害は予想以上にひどくそのガスは絶対防御で守られているとはいえ、徐々にお嬢様たちの体を蝕んで行きました。私は生徒の避難指示で現場にいなかったのが幸いでしたがケムラーを討伐して安全地帯にまで待機してきたお嬢様含める搭乗者たちは、当初軽い頭痛程度の症状ですぐに回復しました。ところが、それから数か月後に体調が急変、戦闘に参加していた半数が急死、残りの半数も今のお嬢様同様、ケムラーの猛毒に蝕まれて亡くなった人や候補生から降ろされて祖国に引き上げた方もいます。」

 

虚は、気難しそうな表情で話す。

 

要は、今の楯無は怪獣の毒ガスの影響が徐々に表れ、今の状態に至っているのだという。

 

「それで・・・・・・簪のお姉さんは、今どういう状態で・・・・・・」

 

「今も24時間体制で診ていますがいつ悪化してもおかしくない状況です。最悪な場合・・・・・・」

 

「・・・・・・それで簪を呼んだのは?」

 

「お嬢様自らの頼みです。どうしても、会いたいと・・・・・」

 

「嘘!」

 

虚が言いかけたとき、今まで黙っていた簪は叫んだ。

 

「妹様?」

 

「かんちゃん?」

 

「どうせ、もう当主が務まらないから代わりに私を当主にしようって算段なんでしょ!あの老いぼれたちが考えそうなことだわ!」

 

一方的に決めつける簪に虚と本音は動揺した。

 

「い、妹様!?お、お嬢様は決してそんなつもりじゃ・・・・・・」

 

「この家はいつもそう!今まで私をさんざん除け者扱いしておいて、いざ困ったとなると手のひら返すように頼ってくる!虚も本音も信用できない!」

 

「かんちゃん・・・・・・」

 

「もう、これでいいでしょ?私はもうこの家に戻る気もないし、あの人とこれ以上合わせるつもりもない!だから、もうこれ以上私に関わらないで!」

 

簪はそれだけ吐き捨てるように言うとさっさと部屋から去って行ってしまった。その姿に呆然としていた一夏と箒だったが落ち込んですすり泣いている本音を見て駆け寄る。

 

「かんちゃんがあんなこと言うなんて・・・・・うぅ・・・・・」

 

本音は泣きながら言う。

 

「か、簪だって本当にそう思って言っているわけじゃないと思う・・・・・・・私の考えだが・・・・・」

 

「な、何とか説得してまた会いに行かせるから!そのとき、またゆっくり話し合えば・・・・・・」

 

一夏がそう言った直後通信機がサイレンを鳴らす。

 

「はい、こちら織斑。」

 

『私だ。』

 

「千冬ね・・・・じゃなかった!隊長!」

 

『別にいい。更識はどうした?』

 

「怒って飛び出して行ってしまいました。」

 

『そうか・・・・・・・お前と篠ノ之はすぐに基地へ戻ってくれ。世界の各ZAT基地に緊急警戒態勢が敷かれた。』

 

「えっ?」

 

『ZATニューヨーク本部からの報告で宇宙から相当の破壊力を持った怪獣が猛スピードで地球へ向かっているらしい。』

 

「わかりました。すぐに戻ります。」

 

一夏は、通信を切ると本音と虚の方へと向き直る。

 

「緊急指令が発令されたので俺たちはこれで失礼します。」

 

「大丈夫です。簪は必ず説得してまた連れてきますので。」

 

「行くぞ、箒。」

 

「あぁ!」

 

二人は急いで屋敷を後にして行った。

 

心配そうに見守る本音たちであったが屋敷の奥の方で目を覚ました楯無が騒ぎ始めた。

 

「簪ちゃんは!?簪ちゃんはどこっ!?簪ちゃん!?」

 

簪を探そうと無理に動こうとする楯無を虚と本音は慌てて止める。

 

「お嬢様、落ち着いてください!」

 

「そうだよ~!かんちゃんはまた来てくれるから!」

 

「簪ちゃん!?簪ちゃぁああん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ZAT基地

 

「束、怪獣は何の目的で地球に向かってきているんだ?」

 

ZAT基地では、オペレーターの簪に変わって束が地球に接近中の怪獣から発する音波を解析しているところだった。

 

「うん・・・・・・ちーちゃん、一週間ぐらい前に落ちて来た隕石のことを覚えている?」

 

「あの隕石か?だが、あれは結局発見できなかっただろう?」

 

千冬の答えに束は腕を組んで椅子から立ち上がる。

 

「もしかしてなんだけど・・・・・・・その隕石、実は怪獣じゃないかって思うんだよ。」

 

「怪獣だと!?」

 

「隕石が落ちた当時、発生した音波と怪獣が発している音波を比べてみたんだけどパターンがよく似ているんだ。」

 

「じゃあ、最悪な場合二体同時に進行して来るというのか!?」

 

「まだ、わからないよ。隕石の方はあれ以降何の反応もないし、宇宙から来る怪獣は最初にニューヨークエリアに到達すると思われるから二体同時って言うことはないけど、仲間なら呼び合っているという可能性も否定できないね。」

 

「・・・・・取り敢えず私たちは隕石の落下したポイントをくまなく調べた方がいいかもしれんな。」

 

千冬は通信機で司令室に待機している隊員たちに命令する。

 

「荒垣、すまないが前回隕石が落ちた現場をホエールとコンドルで調査してくれ。織斑、篠ノ之は戻ってき次第、私と一緒にラビットパンダで現場に向かう。」

 

『了解!直ちに出動準備にかかります!』

 

通信を切ると千冬も現場に向かう準備を行おうとする。

 

「束、お前は引き続き音波の解析を進めてくれ。」

 

「オーケー、オーケー、任してちゃぶ台。」

 

そう言うと千冬は部屋から出て行った。

 

 

 




タイトルからわかる人はいるだろうけど次回はあの怪獣(最近再登場できたアレ)が現れる予定。

ちなみにのほほんさんの来ていた怪獣・・・・何かわかるかな?


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姉妹と姉弟(中編)

久々に帰ってきたウルトラマン見たら最終回のゼットンに何気に愛嬌を感じた。

初代も出たんだからS・H・Fで出てほしいもんですね(自分はゴモラしかもっていないけど・・・・)。


山中エリア

 

「こちら荒垣、ポイントB異常なし。引き続きパトロールを続けます。」

 

「こちら、北島と南原、同じく異常なし。」

 

 

 

 

「そうか、こちらも引き続き調査を続ける。」

 

千冬はド派手な外見をしている車両『ラビットパンダ』を運転しながら付近のエリアを調査していた。

 

「篠ノ之、そっちのレーダーで隕石から発せられた音波は確認できるか?」

 

「いいえ、微動すらしていません。」

 

「うん・・・・・織斑、そっちは?」

 

「探知機からも反応が検出されませんね・・・・・」

 

「ここまで調査して何も出んとはな・・・・・・・・仕方ない。空の方は荒垣たちに任せて我々は範囲を広げて続行するぞ。」

 

ラビットパンダは、山道を進みながらある通行止めのポイントへと差し掛かった。

 

「しまった・・・・・・・そう言えばこのエリアはIS学園に近かったな・・・・・」

 

車両から降りて千冬は看板を確認する。

 

「隊長、ここって・・・・・・」

 

一夏は看板を見る。

 

 

 

『これより先、閉鎖地域。立ち入り禁止。』

 

 

 

 

看板には簡素に書かれているがその看板は建てられてからそこまで時間が経っていないにもかかわらず所々が化学反応で錆び付いていた。

 

「あぁ・・・・ZATが結成される前に起こった怪獣事件のエリアだ。」

 

「確か情報では除染が進んでいると聞いていたのに・・・・・」

 

「表ではな。だが、怪獣の遺体から発する有毒ガスは未だに学園近くで立ち籠って警戒エリアに指定されている。除染が進んだこのエリアでも人体に害は出ない程度だがガスは飛散している。」

 

千冬は、そう言うと車の中から防毒マスクを出して二人に回す。

 

「この先は行ける範囲まで調査する。だが、マスクは外すなよ。外せばたちまち有毒物質が体に入ってしまうからな。」

 

 

 

 

 

 

マスクを装着した三人はひび割れた道路を歩きながら進んで行く。

 

先に進めば進むほど、霧が濃くなり、お互いの距離を確認するのもやっとの状態にまでなる。隊員服に備え付けられている危険探知機が警報を鳴らしていた。

 

「・・・・・・・これ以上先は無理か。」

 

千冬は、特殊双眼鏡で遠くを確認する。

 

(ここで簪のお姉さんは・・・・・・・・)

 

「織斑、篠ノ之。これを見てみろ。」

 

「ん?」

 

千冬から双眼鏡を受け取って一夏は、指さされたところを見てみる。そこには破壊された建物と巨大な何かの死体らしきものが見えた。

 

「あれは・・・・・・」

 

「今だに閉鎖中の元IS学園と討伐された毒ガス怪獣 ケムラーの骸だ。あの辺は高濃度の毒ガスが充満していて未だに行くことができない。犠牲になった生徒・教師たちの遺体も当時のままだ。」

 

「あれが・・・・・・ケムラー・・・・・」

 

箒は、予備の双眼鏡でケムラーの死骸を見る。

 

時間が経過したこともあり、腐敗はかなり進んでいるがその体からは未だにガスのようなものが発生し続けていた。まるで火山で見られる煙のように。

 

「ケムラーはその昔、地球に初めてウルトラマンが現れたとき別個体が彼と科学特捜隊の手によって葬られたという。あの当時も被害は大きく、奴が出現した大武山周辺は死者が続出、壊滅状態だったらしい。」

 

「その悲劇をまた繰り返しちまったと言うわけか・・・・・・」

 

「怪獣出現期の資料は、ISが普及されたときほとんど処分されてしまったからな。『ISなら怪獣に勝てる』・・・・・・人類の傲慢さが生んだあまりにも馬鹿げた発想だ。だが、こんな悲劇を何度も繰り返す訳には行かない。不幸にも怪獣が再び姿を現したことが我々の常識を改めて認識させる教訓となった。あの廃墟のような光景を作らないことがZATの使命だ。二人とも、忘れるんじゃないぞ。」

 

「「はい。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の更識家

 

「・・・・・・」

 

楯無は、布団に横になってボーっと中庭を眺めていた。

 

「お嬢様、朝食を持ってきましたよ。」

 

そこへ虚と本音がささやかな朝食を運んできた。盆を置くと虚は、楯無をゆっくり起こす。

 

「今日は、ちょっと味を変えてみました~。お嬢様のお口に合うと思うよ~。」

 

本音は、フウフウしながら楯無の口に食事を運ぶ。口の中に入ると楯無はゆっくりと噛んで飲み込む。

 

「・・・・・・・虚。」

 

「はい?」

 

「・・・・・私は後、どのくらい生きられるのかしら?」

 

「何を言っているんですか。まだまだ大丈夫ですよ。」

 

若干諦めている楯無に対して虚は言う。

 

「・・・・・・・簪ちゃん、あんなに私のことを憎んでいたのね・・・・・」

 

「お嬢様・・・・・・」

 

「・・・・・まだ、体が動くときはどうして出て行ったのか理解できていなかったけど最近になってよく考えるようになったわ。私があの子のためにやっていたことが全部簪ちゃんを追い込んでいるんじゃないかって・・・・・」

 

「そんなことはありませんよ!妹様もきっと・・・・・・」

 

自分を責める楯無に虚は否定しようとするが楯無は首を横に振る。

 

「ううん・・・・・・気を使わなくてもいいわ。あの子の居場所を失くしてしまったことには何の変りもないのだから・・・・・・・」

 

楯無は、屋敷の窓から見える太陽を見る。

 

(神様・・・・・・お願いです。もう、私もそう長くありません。ほんの少し・・・・・ほんの少しの時間でいいんです。どうか、妹と話をさせてください。許されなくても構いません。ただ、謝ることができるのなら・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ZAT基地

 

「ほら、見ろ!」

 

荒垣は、自慢そうに基地に届いた大きな段ボール箱を開ける。中には見事な大きさの梨が入っていた。

 

「うひゃ~!なんとも見事な梨!」

 

「家の実家から届いたんだ。隊長、いつ怪獣が日本に来るかわからないんですから此処は一つ気分転換にみんなで梨を食べましょう!」

 

「うむ・・・・・荒垣の実家から態々届けてくれたからな。よし、ここは全員で梨を頂くとしよう。更識、篠ノ之、すまないが剥いて来てくれないか?」

 

「「わかりました。」」

 

「あれ?隊長はやらない・・・フグッ!?」

 

北島は不思議そうに聞くが慌てて一夏は口を塞ぐ。

 

「た、隊長は、別にいいんですよ!それに梨を剥くのに三人もいらないじゃないですか!?」

 

 

 

 

 

 

 

箒と簪の二人は、フルーツナイフで梨を丁寧に剥いていた。

 

「・・・・・・・」

 

簪は梨を剥きながら昔のことを思い出していた。

 

小学生の頃のとき、その時も実家で梨が届いていた。しかし、幼い簪にはまだ剥き方がわからなかった。

 

『・・・・・』

 

『どうしたの?簪ちゃん。』

 

そこへ来てくれたのが姉の楯無だった。

 

『お姉ちゃん。』

 

『あっ、もしかしておやつの梨が食べたいの?』

 

『・・・・・・』

 

簪は黙っていたが楯無はニコッと笑って梨を一つとる。

 

『ちょっと待ってね。』

 

楯無は台所から包丁を持ってくるとテーブルの上で簪に見られながら梨を剥いていく。歳が一つしか違わない姉が悠々と梨を剥いていることに簪は驚く。

 

『お姉ちゃん、剥けるの!?』

 

『もちろん、私はお姉ちゃんなんだからね!』

 

楯無は剥き終えると適度な大きさに切り分け簪の前に置く。

 

『お姉ちゃん、すごい・・・・・』

 

『まあね!困ったときはお姉ちゃんにお任せってねっ!』

 

『お姉ちゃん、何でもできるんだね!すごいな!』

 

『アハッハハ、簪ちゃんに褒められるなんて私も嬉しいな。こうなったら、お姉ちゃん。何でもできるようになるからね!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・お姉ちゃん・・・・・」

 

「ん?どうしたんだ簪?」

 

思わず口から出た言葉に簪は、はっと我に返る。

 

「う、ううん!何でもない!」

 

「そうか?」

 

「うん!本当に何でもない!」

 

慌ただしく否定する簪に箒は不思議がりながらも作業を再開する。剥き終えた梨は皿に盛り付けされ、全員の前に出される。

 

「さあ、これが副隊長の実家から来た梨ですよ。」

 

「おぉ!うまそう!」

 

全員、フォークで梨を刺し、口元へと運んでいく。

 

「うまい!」

 

「みずみずしくておいしいですね。」

 

「副隊長、実家にいた頃はよく食べていたんですか?」

 

「まあな、ガキの頃はいっつもおやつに出されて飽きちまったもんだ。今になると懐かしいがな!」

 

「ほう、じゃあ荒垣の実家へお礼の手紙でも書いてやらんとな。」

 

「いやいや、そこまでしなくても・・・・・・恥ずかしいじゃないですか。」

 

その直後、司令室の通信機が反応する。

 

「なんだ、こんな時に?」

 

簪は通信機を点けて連絡を聞く。

 

「はい・・・・・・えっ?・・・・えぇ、わかりました。」

 

簪は、全員の方へと向き直る。

 

「隊長!先ほど宇宙から来た怪獣を迎撃したZATニューヨーク本部の部隊が全滅したそうです!」

 

「なっ!?」

 

「なに!?」

 

「ちょ、ちょっと待って!?確かニューヨーク本部ってIS部隊とかも含めてかなり充実した戦力だったはずじゃ・・・・・」

 

「怪獣は進路を日本に向けて飛行中・・・・・・なお、地上に潜伏していたと思われる怪獣も姿を現しました!極東支部は直ちに迎撃態勢を整えよとのことです!」

 

簪からの報告を受けて千冬は咳払いをして全員を並ばせる。

 

「全員整列!ついに怪獣がこっちにやってくる。奴の戦闘能力は極めて高いが必ず急所があるはずだ。えっと・・・・・・・南原、昨日何食べた?」

 

「えっ!?カレーですけど?」

 

「そうか。他にカレーを食べた者はいるか?」

 

「いえ、自分は織斑に勧められた店で取った出前のかつ丼です。」

 

「自分は同じ店で中華丼です。」

 

「僕は、焼きそばです。」

 

「俺は、みそチャーシュー。」

 

「私は、塩タンメン。」

 

「私は・・・・・・カルボナーラです。」

 

「そうか・・・・・・・昨日、私もカレーを食べたからな・・・・・・よし、荒垣、北島はスカイホエール、織斑と篠ノ之は、コンドル一号、西田はスーパースワローで出動!私はここで指揮を執る。更識は、たば・・・・ゴホン、篠ノ之博士の所に行って怪音波の解析を進めてくれ。」

 

 

「「「「了解!」」」」

 

「た、隊長・・・・・・自分は?」

 

「南原は念のために私と基地に残ってもらう。」

 

「そんな~。」

 

「ZAT出動!」

 

千冬の指示の元、しょぼんとする南原を除くZATは、出撃した。

 

簪は千冬の命令で束のところへ向かおうとしたところ、束本人が電話を持ってやってきた。

 

「束、何をしに来たんだ?今は緊急事態だぞ!?」

 

「いやいやいや~そんな冷たいこと言わないでよ~。更識隊員にお電話だよ~。」

 

「へっ?私にですか?」

 

「もちもち・・・・」

 

束から受話器を受け取って簪は出てみる。

 

「もしもし・・・・・・・」

 

『かんちゃん!?』

 

聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「・・・・・本音?何でここに電話してきたの?悪いけど今警戒態勢で・・・・・・」

 

『お、お嬢様が・・・・・・お嬢様がいなくなっちゃったんだよ~!?』

 

「・・・・・・・えっ?」

 

受話器から聞こえる本音の慌ただしい声に簪は思わず動揺する。

 

『怪獣が来るって言ってみんな避難する準備をしているんだけどお嬢様、目を離した隙にいなくなっちゃって・・・・・・お医者さんからもあんまり動いちゃダメだって言われているのに・・・・・・・』

 

「・・・・・・っ!本音、お姉ちゃんが行きそうな場所はなんか思い当たらない?どこでもいいから。」

 

『う~ん~・・・・・・もしかして、かんちゃんのいるZAT基地へ行くつもりだったんじゃないかな?この間、お姉ちゃんと一緒に話していたところを聞いていたかもしれないし・・・・・・』

 

「・・・・・・わかったわ。本音たちは、そのまま避難していて。」

 

『えっ!?でも、お嬢様が・・・・・・ガチャ』

 

受話器を切って簪は千冬の方を見る。

 

「隊長、申し訳ございません。」

 

「・・・・・・ふう、お前の姉も私に似て姉妹のことが気になってしょうがないようだな。束、悪いがここを頼む。」

 

「あいよ~。」

 

「えっ、隊長!?ちょっと・・・・・・」

 

「留守番は留守番だ。篠ノ之博士の手伝いでもやったらどうだ?」

 

「それはないじゃないですか・・・・・・・」

 

千冬はヘルメットを取ると簪を連れて地上ドッグの方へと急ぐ。

 

「私も少し前に一夏が誘拐されたとき助けに行けなかったという苦い経験をしたことがあるからな。あの時は運が良かったが・・・・・」

 

ドックの方に着くと待機していたラビットパンダに乗り込む。

 

「急いで現場に向かうぞ。あっちでは地上の怪獣が移動し始めて大混乱だからな。」

 

「はい!」

 

「束、荒垣たちには怪獣が本格的な破壊活動に移らない限りは攻撃するなと指示をしてくれ。」

 

「はいは~い。言っておくよ。」

 

「よし、私たちも急いで出発するぞ。」

 

千冬はラビットパンダで現場へ急行する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スカイホエールとコンドル、スーパースワローは、空から迫り来る怪獣に近づきつつあった。

 

「あれが例の怪獣だ。」

 

怪獣は両腕に巨大な翼を持っており、翼竜に見えなくもない。

 

「副隊長、ここは市街地に入られる前に先制攻撃をして進路を変更させましょう。」

 

「待て、織斑。ニューヨーク本部の部隊を壊滅させたほどの破壊力を持つ奴だ。下手に刺激するな。ここは威嚇射撃で気を逸らしつつ、奴の背後を取るんだ。」

 

「「了解!」」

 

三機は、三手に別れて怪獣を囲む。怪獣は三機を気にすることなく何かに呼びかける様に叫び声をあげて飛行する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、地上では・・・・・・・

 

「お嬢様~!!」

 

「お嬢様~!」

 

逃げ惑っている人ごみの中を虚と本音が楯無を探していた。

 

「本音、そっちは?」

 

「ダメだよ、こっちにもいなかったよ・・・・」

 

「そろそろ鎮痛剤の効き目が切れてしまうわ・・・・・そんなことになったらお嬢様は・・・・・・」

 

そこへ千冬と簪が乗ったラビットパンダが止まった。

 

「本音、虚!」

 

「妹様!?」

 

「かんちゃん~!来てくれたんだね~!」

 

車から出て来た簪を見て本音は嬉し涙を浮かべる。

 

「話は後。虚、お姉ちゃんは?」

 

「えぇ、屋敷の車が一台無くなっていたのでおそらく乗っていたのだと思われますがこの事態です。おそらく、どこかで立ち往生になっている可能性があります。」

 

「は、早く見つけないと~!」

 

「分かりました。ここからは、私たち二人で探します。お二人は、急いで避難してください。」

 

「ですが・・・・・」

 

「組織が違えど、民間人を守るのがZATの務めです。」

 

「・・・・・わかりました。」

 

千冬に言われて虚は、ポケットから処方箋を出す。

 

「お嬢様の服用している鎮痛剤です。そろそろ効果が切れ始めて苦しんでいると思われますので見つけ次第、これを飲ませてください。」

 

「分かりました。」

 

千冬たちは処方箋を受け取ると急いで楯無を探し始めた。

 

 

 

そして、当の楯無はというと

 

「ゴホッ、ゴホッゲッホ!!」

 

車の中で勢い良く咳き込んでいた。周りは乗り捨てられた車に囲まれてしまっており、彼女以外は既に避難している。しかし、彼女にはもう走るほどの体力はない。

 

「ゲホッ!ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ・・・・・・・」

 

松葉杖を突きながらどうにか車から出てくるがすぐ目の前には先ほど地上に姿を現して周囲を徘徊していた怪獣が近づきつつあった。

 

「ゲホッ!ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ!ゲッ!」

 

苦しさに楯無はついに倒れてしまう。

 

 

ギャァ、ギャアァ!

 

怪獣は周囲の車を潰しながら歩いてくる。楯無は怪獣を見て急いで逃げようとするが止まらない咳の苦しさと体の痛みに動けなくなる。

 

「ゲホッ、ゴホッ!」

 

ギャァ!ギャアァ・・・・・・?

 

怪獣は、楯無を見つけるとノシノシと歩み寄ってくる。

 

(もう、ダメみたい・・・・・・・・・無理してでも会いに行くなんてやっぱり馬鹿よね・・・・・・・)

 

咳き込みながらも楯無は諦めたように怪獣を見る。

 

当の怪獣は興味深そうに自分のことを見ていた。

 

ギャアァ・・・・・・ギャアァ・・・・・

 

楯無から見るとその怪獣の目は凶暴そうな顔つきとは裏腹に寂しそうな雰囲気だった。

 

(なんでだろう・・・・・・・怪獣って聞いただけで憎たらしいと思っていたのにこの怪獣に対してはそこまで感じない・・・・・・・・)

 

ギャアァ、ギャアァ。

 

怪獣は、楯無に手を伸ばそうとする。

 

(食べられちゃうのかな・・・・・・・・でも、それもそれで私への罰なのかしらね。)

 

楯無は逃げる様子もなくしゃがんだままだった。

 

その様子を探し回っていた簪と千冬はようやく見つける。

 

「あっ!いたぞ!」

 

「お姉ちゃん!?」

 

怪獣に掴まりそうになっている姉を見て簪はZATガンを引き抜いて駆けて行く。

 

「お姉ちゃん、何やってんの!?」

 

怪獣の手が届きそうになった瞬間、簪はZATガンで怪獣を攻撃する。

 

ギャアァ!?ギャァア!?

 

突然の攻撃に怪獣は飛び上がり、三人がいる方角とは反対の方へと逃げて行った。楯無は、後ろから走ってきた簪を見て目を丸くする。

 

「簪ちゃん・・・・・?」

 

「ほら、立って!」

 

簪は急いで楯無に肩を貸すと千冬の元へと急いでいく。

 

「ゲホッ、ゲホッ・・・・・・・」

 

「ほら、これ飲んで。」

 

虚から渡された処方箋を出して、咳き込む楯無の背中を撫でながら簪は彼女に薬を飲ませる。

 

「ゲホッ、ゲホッ・・・・・・どうして来てくれたの?」

 

楯無は、簪を見ながら聞く。

 

「私のことを憎んでいたのに・・・・・・・・」

 

「お姉ちゃんをむざむざ殺すほど私だって冷たい人間じゃないよ。」

 

楯無の背中を撫でるのをやめて簪は彼女を車両の中に入れる。

 

「・・・・でも、私のせいなんでしょ?簪ちゃんが家を出ていくようになったのも・・・・・・・」

 

「確かにお姉ちゃんのせいであの家には私の居場所はなかった。・・・・でも、お姉ちゃんが私のことを大事に思ってくれたことはわかってた。」

 

「簪ちゃん・・・・・」

 

「この間は、あんなこと言ってゴメン。お姉ちゃんが苦しんでいるのに冷たいことばかり言って。私もお姉ちゃんほどにはなれなくても自分なりにやりたいって思っていたから・・・・・それをどうしても・・・・・・」

 

「・・・・・・そうだったの・・・・・・・何も聞いてあげられないお姉ちゃんでごめんね・・・・・ごめんね・・・・・」

 

楯無は、思わず泣きだしてしまった。

 

「・・・・・今度はちゃんと見舞いに行くから。無理は駄目だからね。」

 

「うん・・・・・・うん・・・・・」

 

後ろで和解した二人を見て千冬はホッとした顔でラビットパンダを走らせる。

 

怪獣の方は突然の攻撃で腹が立ったのか近くにあった建設中のビルを壊していた。

 

 

ギャァア・・・・・

 

 

ギャィァア!

 

 

!?

 

 

そこへ一回り大きい怪獣が着陸してきた。後方ではスカイホエールたち三機が追いかけて来ていた。

 

「副隊長、二匹が合流しちゃいましたよ!?」

 

「くっ!止むを得ん!二匹に攻撃開始!」

 

「「了解!!」」

 

スカイホエール、コンドル、スーパースワローの三機は同時攻撃で二匹に向かって攻撃を始める。

 

ギィアアァア!!

 

ギャアア!!

 

二匹は混乱状態でありながらも目と口から光線を吐き出す。

 

「危ねえ!?」

 

一夏はコンドルを反転させて、攻撃を避けながら攻撃する。

 

 

 

 

 

「どうやら、攻撃は始まったようだな・・・・・」

 

千冬は、運転しながら状況を確認する。そこへ、基地から通信が入った。

 

「私だ。」

 

『あっ、ちーちゃん?私なんだけどね・・・・・』

 

通信相手は束だ。

 

「どうした束?音波の解読ができたのか?」

 

『う~ん~・・・・・できたにはできたんだけどね・・・・・・うん、これ言っちゃっていいのかな?』

 

「勿体ぶらずに話せ。」

 

『はいはい、じゃあ言いますね・・・・・・・・・』

 

 

束は深呼吸をして言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あの二匹・・・・・・・“姉弟”なんだよ。』

 

 




次回でやっとタロウ登場。

今後は怪獣をすぐ出せるように考えないとな・・・・・。


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姉妹と姉弟(後編)

前編、中編で割いたせいで後編が短くなってしまった。


どうもすみません。

そんでは後編です。


「姉弟!?」

 

束からの発言に千冬は思わず自分の耳を疑った。

 

『うん・・・・束さんもね、解読終わった直後自分の目を疑ったよ。でもね、音波を解読し直しても内容が姉弟喧嘩なんだよ。』

 

「・・・・どういう内容なんだ?」

 

『えっとね・・・・・・弟怪獣の方の音波を解読してみるとお姉ちゃん怪獣の方が親にちやほやされて自分だけ除け者にされているとばかり思っていたらしくて拗ねて家出してきたみたい。』

 

「・・・・・それで姉怪獣の方は?」

 

『うん、ちーちゃんや私同様に姉弟想いで弟を連れ戻すために地球に降りて来たようだね。っで、今説得しているんだけど弟の方が駄々こねて帰るに帰れないという事態というわけ。』

 

束の解読内容を聞いて千冬は渋い顔をする。

 

「・・・・・・・全機に伝える。攻撃中止、繰り返す攻撃中止。」

 

千冬はそれだけを言うとラビットパンダをZAT基地の方へと走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上空

 

「各機、攻撃中止!」

 

「中止!?どういうことですか副隊長!?」

 

飛行しているコンドルとスーパースワローはスカイホエールからの連絡に驚く。

 

「音波の解析ができたそうだ。あの二匹は姉弟だ。」

 

「「「姉弟!?」」」

 

「っとは言っても大きい方は、人間でいえば大体高校生、小さい方は小学校低学年ぐらいだそうだ。」

 

荒垣の言葉を聞いて一夏と箒は二匹を見る。

 

確かによく見ると大きい方は小さいほうに振り回されているように見えた。

 

「・・・・・・なんだろうか?昔の私と姉さんを見ている気がする。」

 

「箒もそう思うか?実は俺も幼稚園の時の俺と千冬姉の姿が一瞬見えた。」

 

二人は、二匹の怪獣に過去の自分たちの姿を重ねる。しかし、このまま放置すれば被害は大きくなる一方だ。

 

『あーあ・・・・・・二人とも聞こえる?』

 

そこへ束からの極秘回線が繋がった。

 

「姉さん、重要任務のための極秘回線を変な時に使わないでくれ。」

 

『いやいや、あの姉弟に早く仲直りしてもらわないと困るんだよ。』

 

「どういう事なんだ?束さん。」

 

『・・・・・・実は、さっき人口衛星で確認したんだけどそこの二匹の親と思える怪獣が大気圏外で待ち構えているんだよ。』

 

「「えっ!?」」

 

『大きさは大きい怪獣よりちょっと大きいぐらいだけど・・・・・早く仲直りさせないといつ地上に降りてきてもおかしくないと思うんだ・・・・・・』

 

「・・・・・・・ニューヨーク本部の部隊を壊滅させたと個体の親だという事は・・・・・・」

 

「・・・・・・束さん、何か策でもあるのか?」

 

『もち!まかせたまえ~!えっとね・・・・・・・』

 

束は密かに作戦を伝える。

 

「・・・・・・・っで、俺がその役割をやってくれってこと?」

 

『これ、いっくんにしかできないことだからね。無茶はしないであの二匹を仲直りにさせるためにも・・・・・ねっ?』

 

「・・・・・・箒、後は任せた。」

 

「わかった。一夏も気をつけてな。」

 

「・・・・・子供を相手にするって言うのはどうもな。」

 

一夏は操縦権を箒に引き渡すとウルトラバッジを掲げる。

 

「タロウ――――――――――――!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャォオ!

 

ギャ、ギャッ、ギャッ!!

 

迎えに来た姉怪獣に対して弟怪獣は駄々をこねて世話を焼かせているところへウルトラマンタロウが回転しながら舞い降りて来た。

 

ギャッ!?

 

ギィイ!?

 

『ディアッ!』

 

タロウは登場して早々いきなり弟怪獣の顔面にグーパンチを喰らわせる。

 

ギャッアァ!?

 

いきなりの攻撃と痛みに弟怪獣は飛び上がるがタロウは容赦せず、蹴り飛ばす。

 

ギャァアアア!!

 

『ン゛ン゛!ディアッ!!』

 

弟を痛めつけられたことに怒った姉怪獣はタロウに飛び掛かるがタロウは避けて逆に背負い投げをする。

 

ギャアァ!!

 

弟怪獣も起き上がって参戦するが回し蹴りであっという間に転倒させられてしまい、タロウは姉怪獣を徹底的に攻撃する。

 

「ウルトラマンタロウは、一体何を考えているんだ?」

 

ラビットパンダを怪獣のいる現場から少し離れたところで止め、千冬は双眼鏡で戦闘の様子を見る。

 

彼女からしてみれば、今回のタロウの戦闘はオイルドリンカーの時のようにがむしゃらに戦っているわけでもなければ、アストロモンスの時のように本気で戦っているわけでもない。

 

一言で言ってしまえば、歌舞伎の役者の演技のようだった。

 

そうこうしているうちにタロウは、姉怪獣の腕を掴むと勢いよく回し、弟怪獣の方へとぶつけて倒した。

 

ギャアァ・・・・・・・

 

ギャァ!ギャアァ!

 

姉弟怪獣が何を言っているのかわからないがどうやら共通の敵として喧嘩のことに関しては水に流した様子だった。

 

それに感づいたのかタロウは姉怪獣を集中的に攻撃しながらも弟怪獣の攻撃をワザと受けながら戦闘を続ける。

 

「・・・・・・!まさか、タロウはあの姉弟に自分を共通の敵として認識させて和解させようとしているのか!?」

 

『ピンポ~ン!その通り!』

 

またもや、勝手に極秘回線を使って束が勝手に回線を開いてきた。

 

「た、束ッ!?」

 

『流石ちーちゃん、呑み込みが早いね~!』

 

「そんなことより、勝手に極秘回線を開いて通信するな!これは電話じゃないんだぞ!?」

 

『いいじゃん、私とちーちゃんの仲だし。』

 

「そう言う問題じゃ・・・・・・」

 

千冬と束が言い合っている間にもタロウは弟怪獣を持ち上げてポイっと放り投げる。弟怪獣はすぐにも立ち上がり反撃しようと動くがタロウのチョップを喰らってダウン。また、背負い投げを受けそうになるが咄嗟に姉怪獣が後ろからタックルすることによって攻撃を阻止、そのままタロウを取り押さえて弟怪獣に攻撃をさせる。

 

『ディアッ・・・・ア゛ア゛!!』

 

タロウは苦しんでいるように唸るが肝心のカラータイマーは鳴る様子はない。

 

ギャアァ!

 

ギィイユゥウ!

 

タロウの動きが鈍くなっているのを確認すると姉弟怪獣はタロウを持ち上げて勢いよく放り投げた。

 

『ディアァ~アッ!!』

 

地面に勢いよく激突し、タロウは起き上がろうとするがそのまま力尽きたように倒れてしまった。

 

ギャッ!ギャッ!!

 

ギャアァ・・・・・

 

姉をいじめていたタロウを倒したことに満足したのか弟怪獣は満足そうに吠える一方で姉怪獣は弟を褒めるかのように撫でる。

 

 

「タロウが負けた!?」

 

「畜生!ウルトラマンが負けちゃうなんて!」

 

西田と北島は悔しそうに見るが荒垣は一人だけ奇妙に見ていた。

 

「あの戦いは明らかに手を抜いているように見えるんが・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

ギャアアアアアァアアアアア!!!

 

 

 

 

その直後、上空から獰猛な咆哮が聞こえて来た。

 

「なっ!?」

 

「こ、今度はなんだ!?」

 

ZAT隊員たちが操縦席から空を見上げると空から先ほどの姉怪獣よりも巨大な怪獣が地上に向かって降りて来た。

 

「ま、また一匹増えた!?」

 

「うぅ・・・・・・・ウルトラマンが負けた以上、我々がやるしかない!攻撃・・・・・」

 

『待て、荒垣。』

 

「ん!?た、隊長!?」

 

荒垣が攻撃命令を下そうとしたところ、千冬からの連絡が入って遮る。

 

『あの怪獣はどうやら迎えに来ただけのようだ。』

 

「迎え?・・・・・・あっ!」

 

地上の様子を見ると巨大な怪獣は二匹の前に降り立っていた。

 

ギャァア・・・・・・

 

ギィイ、ギイ。

 

姉に促されるように弟怪獣は巨大怪獣の目の前に来てまるで子供が反省して親に謝るかのように頭を下げる。そんな弟怪獣に対して巨大・・・・いや、親怪獣は子供が戻ってきてホッとしたのか頭を撫でながら嬉しそうに唸る。

 

「あの怪獣・・・・・・あの二匹の親だったんですね。」

 

「うむ・・・・・どうやら俺たちの出番はないようだな。」

 

「はあぁ~!あの三匹で暴れられたら一体どうなっていたことやら・・・・・・」

 

荒垣たちがホッとしているのを他所に親怪獣は倒れてるタロウをそっと見る。倒れていたタロウはそっと親怪獣の目を見ると親怪獣は礼でも言うかのように頭を少し下げ、二匹を連れて上空へと飛び去って行った。

 

『・・・・・・・トォワアァア!』

 

タロウは三匹がいなくなるのを確認すると起き上がり、自分もまた空へと飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日 ZAT基地

 

「いや、あれは一時どうなるかと思いましたよね。」

 

北島は先日の親子怪獣の事を話す。

 

「全くだな。親子一緒に攻撃なんかしたら日本はたちまち火の海になっていたのかもしれないな。」

 

「親が出てきたときは本当に何もかも終わりだと思いましたよ。」

 

「・・・・・まあ、何はともあれ。ニューヨーク本部の二の舞にだけはならずに済んだな。」

 

千冬は、各地の被害報告を読みながらコーヒーを飲む。

 

「ところで隊長、織斑、篠ノ之、更識の三人が見当たらないのですが・・・・・」

 

「織斑と篠ノ之には更識のことで付き合ってもらっている。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更識家 屋敷

 

「今日は、もう休む?」

 

「いいえ、もうちょっと・・・・・・・・」

 

簪は、楯無のリハビリに付き添っていた。その様子を一夏と箒、そして、布仏姉妹が眺めていた。

 

「よかった~かんちゃんが帰ってきてくれて。」

 

「布仏さん、簪のお姉さんの容態は?」

 

「えぇ・・・・ZATの篠ノ之博士の治療もあって回復には向かっているみたいです。ただ、全盛期ほどの状態にまで回復するかどうかは・・・・・」

 

虚は、楯無の様子を見ながら話す。確かに以前に比べれば顔色も明るくなってきているし、まだ頼りないが体力もまたつき始めているようだ。しかし、束の頭脳をもってしても怪獣の毒素を完全に消すのは難しい。おそらく彼女の治療法が成立すれば同じように苦しんでいる患者にも回復の兆しが見えるようになる。

 

「それで簪はどうなるんだ?まさか、ZATをやめて・・・・・・・」

 

「妹様に関しては、復縁はするものの今後はお嬢様が当主を務め、相続させるかどうかはまだ話し合いになりそうです。もっともここだけの話ですがお嬢様は、妹様に相続させる気はないようですが。」

 

「いいんですか?代々継がれてきた家を。」

 

「それがお嬢様なりのけじめだそうです。当主としてより、姉として最後まで付き添いたい。ただ、それだけです。」

 

「そうですか。」

 

二人はそれだけを聞くとまた簪たちの方を眺めた。

 

今まで失っていた姉妹の時間を穴埋めするかのように二人は生き生きしているように見えた。

 

 




次回はどの怪獣にするか・・・・




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戦え!僕の怪獣!(前編)

活動報告のリクエストから(一部変更がありますが)!

落書き怪獣 ゴンゴロス
凶悪宇宙人 ザラブ星人

登場



とある町の小学校の教室。

 

少年たちの間では十数年ぶりに姿を現した怪獣に熱中し、一部で再び怪獣ブームが巻き起こっていた。

 

「見ろよ!俺の絵、レッドキングだぜ!!強そうだろう!」

 

一人の大柄なガキ大将らしき少年が自慢そうに自分の描いた絵を見せる。レッドキングはその昔、ウルトラマンと戦った怪獣の一体だ。

 

「僕はゴモラだぞ!」

 

「ベムスターだ!宇宙大怪獣だぞ!」

 

「バルタン星人だぁ!フォッ、フォッ、フォッフォッ・・・・・」

 

「俺なんかキングジョ・・・・・・・あれ?この怪獣はなんだ?」

 

「「なにこれ?」」

 

「どれどれ・・・・・」

 

ロッカーの上に張られている絵の中で一枚見たこともない怪獣の絵に少年たちは注目する。その怪獣は、今まで見たこともない外見で強そうに見えた。っというかやけに気合が入っている。

 

「あっ、これ雄二の描いた奴だ!」

 

一人の少年がそう言うと一同は一人机で絵を描いている少年の席へと行く。

 

「おい、雄二!あの怪獣なんて言うんだ?」

 

「あんな怪獣見たことないぞ?」

 

「教えろよ。」

 

雄二と呼ばれた少年は絵を描くのをやめて一同の方を見る。

 

「・・・・・ゴンゴロス。」

 

「ゴンゴロス?」

 

「僕が考えた怪獣なんだ。」

 

雄二はなんかがっかりした顔で言う。

 

「そう言えば雄二の父ちゃんって、タラバマンの怪獣作る人だったよな!」

 

「うん。僕、父ちゃんにゴンゴロスをテレビに出してって頼んだんだけどダメって言われたんだ。」

 

「え~!どうしてだよ!?あんな強そうなのに?」

 

「そう言えば知ってるか?タラバマン、もうすぐ最終回なんだってさ。」

 

「「「え~!マジで!?」」」

 

「それで最終回までの怪獣作っちゃったからもう出せないんだって。」

 

「残念だな~。」

 

「でも、タラバマンに出したら負けちゃうぜ?」

 

「あっ、ヤバい!休み時間もう終わりだ!?」

 

「ヤバッ!」

 

「戻れ、戻れ!」

 

少年たちは会話を中断して急いで席へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、学校が終わった雄二少年は、公園で怪獣の絵を描きながら学校から持ち帰ってきたゴンゴロスの絵を眺める。

 

「・・・・・・ゴンゴロスが本当にいたらいいのにな~。」

 

この怪獣 ゴンゴロスは雄二君が書いた最初の怪獣だった。

 

とある特撮番組で怪獣のデザイナーを担当しているお父さんの影響もあって雄二君も自分のオリジナルの怪獣を書きたいと思って幼稚園の頃から書き始めた。それで最初に書いたのがこのゴンゴロスだ。最初は、泡をモチーフにした怪獣だったが年々雄二君の作画の技量が上がったことにより今の姿へとなった。

 

雄二君はどうしてもゴンゴロスの動く姿が見たくてお父さんにゴンゴロスを番組に出してもらえないかと頼み込んだ。

 

しかし、残念ながら今やっているヒーロー番組が間もなく終了することもあって実現できなかったんだ。

 

「大人ってつまんないな~、子供が考えた怪獣の一匹や二匹出してくれたっていいのに・・・・」

 

雄二君はそう言うとゴンゴロスの絵を持ってお家へと帰って行った。

 

 

「・・・・・・・」

 

その姿を怪しい人影に見られていたとも気づかずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄二宅

 

その日の夜、雄二君はベッドの脇にゴンゴロスの絵を飾って寝ていた。

 

『・・・・・・・』

 

そこへ何者かが侵入し、ゴンゴロスの絵を眺めていた。

 

『・・・・・中々、強そうな怪獣だな。これなら、奴の練習台にピッタリだ。いや、うまく行けば奴を出さずに地球侵略ができるのかもしれん。』

 

そして、ゴンゴロスの絵にスライムのようなものを垂らす。物体はゴンゴロスの絵に満遍なく浸かるとすっと乾いて何事もなかったような状態になる。

 

『クッククク・・・・・・楽しみにしていてくれたまえ、雄二君。形が違うとはいえ君の願い事が叶うのだからね。』

 

そう言うと影は姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日のZAT基地

 

「更識、数日前に確認された飛行物体の消息はまだ掴めないのか?」

 

ZATステーションでは、数日前に地球に来襲した宇宙船の行方を追っていた。

 

「はい、レーダーの周波数を最大にして調べているのですが未だに反応が掴めません。おそらく隠密に行動できるよう強い妨害電波で遮断している可能性があります。」

 

「うん・・・・・・束、妨害電波遮断装置の改良はまだなのか?」

 

千冬は通信機で研究室に籠っている束に聞く。

 

『もうちょっとでできるんだけど・・・・肝心なところがまだ微妙なんだよ。早くて明日かな?』

 

「・・・・わかった。出来次第スカイホエールに取り付けてくれ。こちら、本部。ウルフ777、応答せよ。」

 

千冬は研究室から外をパトロールしているウルフ777に連絡を取る。

 

『こちらウルフ777、異常なし。』

 

『現場を調べてはいますが宇宙船の残骸は愚か反応もありません。』

 

「束の計算が正しければ宇宙船がその辺一帯に堕ちてきたのは間違いないそうだ。何か変わったことがあったらすぐに連絡しろ。」

 

『『了解。』』

 

『ついでに二人でデートしててもいいよ~!』

 

「『『ブッ!?』』」

 

束の割り込み回線で千冬と通信をしていた一夏と箒は思わず噴き出した。

 

「た、束!!」

 

『あっ、やば・・・・・』

 

束は慌てて通信を切る。

 

「・・・更識、他の隊員たちにも引き続き捜査を続けるよう指示を出しておいてくれ。」

 

「分かりました。隊長は?」

 

「篠ノ之博士にお灸を据えに行く。」

 

そう言うと千冬は、司令室から出て行った。

 

その後、回線から束の悲鳴が聞こえてきたのは数分も経たないうちだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日 午後

 

雄二君たちの学校は保護者面談の時期もあって雄二君は家に帰ろうとしていた。

 

「・・・・・・」

 

『雄二君。雄二君。』

 

「あれ?」

 

奇妙な声に雄二君は後ろを振り向くがそこには誰もいない。

 

「おかしいな?」

 

雄二君は、再び歩き始める。しかし、またもや奇妙な声が聞こえて来た。

 

『雄二君、雄二君。』

 

「ん?」

 

雄二君は再度後ろを振り向くがやはり誰もいない。

 

「ん~。誰かの悪戯かな?」

 

『ハッハハハ、悪戯じゃないよ。』

 

「わあぁ!?」

 

改めて前を向くとそこにはツリ眼と星形の口が特徴で、頭部と胴体が一体になっている怪人が立っていた。

 

「う、宇宙人だぁ~!?」

 

『待って待って。別に君を襲いに来たんじゃないんだ。』

 

「嘘だ!僕は知っているんだぞ!お前はザラブ星人だぁ!」

 

雄二君は、指をさしながら怪人 ザラブ星人に言う。

 

 

凶悪宇宙人 ザラブ星人

 

その昔、ウルトラマンに化けて暴れた凶悪な宇宙人の一人だと言われている。

 

 

『待ってくれ。確かに私の仲間が君たち地球人を騙そうとしていたのは事実だ。だが、人間に悪い奴がいるようにザラブ星人にだっていい奴もいれば君の知っている悪い奴もいるんだ。』

 

「でも、信用できないよ!ZATに通報してやるぞ!」

 

雄二君は、走って逃げようとするがザラブ星人は焦る様子を見せずに答える。

 

『では、こうするのはどうだ?君の描いた怪獣に会わせるというのは?』

 

「・・・えっ?」

 

ザラブ星人の言葉に雄二君は足を止める。

 

『実は昨日、公園で君が怪獣の絵を描いているところを見たんでね。会いたいんだろ?君の描いたゴンゴロスという怪獣に。』

 

「ほ、本当?」

 

父に頼んでも実現できなかったゴンゴロスに会えるという言葉を聞き、雄二君の目は輝いていた。

 

『あぁ、本当だとも。絵を出してごらん。』

 

「うん!」

 

雄二君は誘惑に乗って持っていたゴンゴロスの絵をザラブ星人の前に見せる。

 

(クッククク・・・・・間抜けなガキだな。そいつには昨日の夜、おおぐま座M81星雲にしか生息しない宇宙アメーバを忍ばせといたのだ。コイツはあらゆるものを学習してその姿へと変える。そして、私の光線を浴びればたちまち巨大怪獣へとなるのだ!さあ、暴れろ!ゴンゴロス!その手でお前を生み出したそのガキを捻り潰せ!!)

 

ザラブ星人は、指から怪光線を放つ。怪光線はゴンゴロスの絵に命中し、周囲はまばゆい光に照らされた。

 

「うわぁ!?」

 

 

 

 

グルル、グロロロォ!!!

 

次の瞬間、絵だったゴンゴロスは実体を得て、街のど真ん中に姿を現した。

 

「おい、なんだありゃ!?」

 

「怪獣だぁ!?」

 

「ひぃやあぁあ!?ZATに連絡しろ!!」

 

「逃げろぉお!!」

 

突然出現したゴンゴロスを見て町の住民は大慌ての大パニック状態へとなった。しかし、その中でただ一人雄二君だけは大喜びしていた。

 

「ゴンゴロスだぁ!僕の描いたゴンゴロスだ!僕のゴンゴロスが出てきたんだ!」

 

グロロロロォオ!!

 

ゴンゴロスは、足元にいる雄二君を見つけるとしゃがんできた。

 

『よし!そのままそのガキを捻り潰せ!!』

 

グルルルル・・・・・

 

『あり?』

 

ザラブ星人の予想とは裏腹にゴンゴロスは、雄二君に顔を近づけながら唸っていた。

 

「僕のことがわかるんだね!やっぱり僕の描いたゴンゴロスなんだ!」

 

グロロロロォ!

 

ゴンゴロスは舌を出して嬉しそうに雄二君を舐める。

 

『ど、どういうことだ!?・・・・・・ハッ!まさか、あのガキの絵に対する愛着まで学習してしまったのか!?だとしたらこいつはあのガキの言う事しか聞かない役に立たないポンコツ怪獣・・・・・・くそ!思惑がズレたか!』

 

ザラブ星人は悔しそうに足踏みをしているとも知らずに雄二は満足した様子だった。

 

「ありがとう!ゴンゴロスに会わせてくれて。」

 

『えっ!?いや・・・・・その、どういたしまして。』

 

雄二の反応を見てザラブ星人は困った顔をする。

 

(落ち着け・・・・・落ち着くのだザラブ星人!これを逆に考えるんだ。コイツを練習台にして奴の強化に利用すれば問題ない!その後で・・・・・)

 

「でも、ゴンゴロスをいつまでも出すのは不味いよ。早く元の絵に戻して。」

 

『う、うむ・・・・・いいだろう。ただし、条件がある。』

 

「条件?」

 

『ゴンゴロスに会わせたお礼として明日の朝6時にこの町の近くの山で私の連れてきた怪獣と戦ってほしい。もし私が勝てば地球を頂く。だが負ければこのまま大人しく星に帰る。』

 

「えっ!?なんだよ!結局地球侵略に来てたんじゃないか!」

 

ザラブ星人の目的を知って雄二君は思わず怒る。

 

『フッフフフフ・・・・・・・私は「侵略しない」とは一言も言っていないぞ?さあ、どうする?もし、断るのなら、私が連れてきた怪獣をすぐにここで暴れさせて君の両親は愚かお友達、先生、ご近所の皆さんを死なせることになるぞ?』

 

「そ、そんな・・・・・・」

 

ザラブ星人の挑戦状に雄二君は、思わず怖くなる。

 

『言っておくが私が連れてきた怪獣は強いぞ。さあ、私の挑戦に乗るのか?乗らないのか?』

 

「・・・・・わ、わかったよ・・・・・行くよ、行けばいいんだろ。」

 

『フッフフフ・・・・・勇敢だな君は。言っておくが来ない場合でも私は怪獣を街で暴れさせるぞ。精々、残りの時間を大好きなゴンゴロスと一緒ににらめっこしているんだな。ハッハハハハハ!』

 

ザラブ星人はそう言うと怪光線をゴンゴロスに浴びせるするとゴンゴロスは光りだし、元の絵に戻った。

 

『では、また明日会おう。楽しみにしているよ。ハッハハハハ・・・・・・』

 

ザラブ星人は煙のように姿を消して行った。その場に残された雄二君は、ゴンゴロスの絵を拾い不安な表情になった。

 

「どうしよう・・・・・・ゴンゴロス・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方  

 

「本当です!儂は確かに昼間こんくらいの怪獣を見たんですぅ!!」

 

「はいはい。でも、いなくなっちゃったんでしょ?」

 

「ばかもん!儂が幻でも見たとでも言いたいのか!!」

 

「いや、そんなつもりは・・・・・」

 

怪獣出現の通報を聞いて近くの現場に待機していた一夏と箒は住民の聞き取り調査を行っていた。

 

しかし、現場に到着した時は暴れた形跡もなければ、怪獣がどこへ行ったかもわからないのだという。そのおかげで一夏と箒は半信半疑状態だった。

 

「なぁ、一夏。」

 

「なんだ?」

 

「みんな怪獣を見たとは言っていたが・・・・この街の様子を見て信じられるか?」

 

「俺だって疑いたくなるよ。でも、基地から送られてきた衛星写真では確かに写っているんだ。」

 

一夏は一枚の写真を見せる。

 

そこには確かに昼間出現したゴンゴロスの姿があった。

 

「ひょっとしたら姉さんのいたずらの可能性もあり得るだろ?合成とか。」

 

「う~ん~。でも、それだったら見たって言う住民の証言は何なんだ?束さんが悪戯するにしても怪獣のホログラムを態々見せる必要なんてないはずだろ?」

 

「そこなんだ。みんな揃いに揃って突然いなくなったと言うんだからな。」

 

二人は車を止め、周囲をパトロールする。当然のことながら怪獣が暴れた痕跡は愚か、足跡すら見つからない。

 

「そっちは、どうだ?」

 

「私の方もダメだ。猫の子一匹いなかった。」

 

「ん~。もしかして例の宇宙船と何か関係するのか?」

 

2人が考えながら歩いていると箒が夕方の公園のブランコに誰かいることに気がつく。

 

雄二君だ。

 

「一夏、こんな時間に子供が公園に。」

 

「なんだって?」

 

二人は公園の中へと入って行く。雄二君は泣きながらブランコに座っていた。

 

「坊や、こんな時間に公園にいるなんてどうしたんだい?」

 

一夏は、雄二君に声を掛ける。

 

「あっ。」

 

「お母さんやお父さんが心配しているぞ?早く帰った方が・・・・・・」

 

「・・・・・・・帰れないよ。」

 

「帰れない?どういう事なんだい?」

 

泣いている雄二君の言葉を聞いて一夏は、不思議そうな顔をする。

 

「・・・・・!?一夏、この子が持っている絵・・・・」

 

「ん?・・・こ、この怪獣は!?」

 

一夏は、雄二君が持っていたゴンゴロスの絵を見る。

 

「坊や、この怪獣の絵、どうしたんだい!?」

 

「・・・・・僕が書いたゴンゴロスだよ。」

 

「どういう事なんだ?基地から送られてきた写真そっくりだぞ!?」

 

箒は戸惑いながら写真と見比べる。絵の通りと言うより瓜二つだ。

 

「明日、僕とゴンゴロスが勝たないと地球がザラブ星人に侵略されちゃうんだ。」

 

「ザラブ星人?・・・・・坊や、詳しく話を聞かせてもらえないか?」

 

一夏は、ハンカチで雄二君の顔を拭きながら聞く。

 

 




活動報告からリクエストを送ってくださった読者さんありがとうございました。


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戦え!僕の怪獣!(後編)

色々ぶち込みっぱなし!

落書き怪獣 ゴンゴロス
凶悪宇宙人 ザラブ星人
ニセウルトラマン
宇宙恐竜 ゼットン?

???

登場



ZAT基地

 

「・・・・・・それで明日、そのザラブ星人が明日、その雄二少年の描いたゴンゴロスと戦って勝ったら地球侵略をすると・・・・・」

 

「はい。」

 

雄二君から事情を聴いた後、一夏と箒は基地に戻って千冬にこのことを報告していた。

 

「しかし・・・・・絵が怪獣になるなんて、ちょっと信じられませんね。」

 

北島は一夏の報告を聞いてどうもいまいちよくわからなかった。

 

「確かに普通の常識ならありえない事だ。だが、今の時代においても科学では解明できない現象というものはいくらでもある。そのザラブ星人がやったこともその一つだろう。」

 

「隊長、篠ノ之博士から過去に似たような事例の情報を受け取ってきました。」

 

「ご苦労。更識、早速モニターに切り替えてくれ。」

 

「はい。」

 

荒垣から端末を受け取ると簪は挿入してモニターに映す。

 

「数十年前、この日本でも落書きが宇宙線を浴びて実体化したという事例がある。今回は、ザラブ星人の干渉によって引き起こされたとされるがおそらくこの宇宙線とは別の方法で実体化させたのだろう。」

 

「では・・・・・・本当かどうかもわからない子供の言い分を信じるというんですか?」

 

南原は首を傾げて言う。

 

「うん・・・・・子供は時に大人には見えないものが見えるという逸話もある。現に現れた怪獣はその雄二君という少年が書いたものだ。あながち嘘だとは言い難い。」

 

「はぁ・・・・・」

 

「よし、では、明日6時前に織斑、篠ノ之、西田は地上、私と荒垣は、スカイホエールで待機、南原と北島はコンドルで周囲を警戒だ。更識は反応を見落とさないように。」

 

「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日 

 

「・・・・・・いよいよだよ、ゴンゴロス。」

 

雄二君は、ザラブ星人との約束通りに町の近くの山に来ていた。時間は5時50分、ザラブ星人との約束の時間まであと10分と迫っていた。

 

「・・・・・一夏さんたち、本当に来てくれるのかな?」

 

坂を上りながら雄二君は周囲を見回して言う。ちなみに一夏たちは雄二君から見えない距離で追跡していた。

 

「雄二君の話が本当ならあと10分もすればザラブ星人が現れるはずだ。」

 

「さて、嘘なのか、本当なのか・・・・・」

 

周囲に警戒しながら雄二君を見守るようにZATは指定されたポイントで待機し、ザラブ星人が現れるのを待つ。

 

 

 

 

 

「・・・・・あっ、六時だ。」

 

ついに約束の6時になった。すると一同の目の前に円盤が現れ、そこからザラブ星人が降りて来た。

 

「あれは宇宙船・・・・・・そうか。地球に降りてきたのは奴の宇宙船だったのか。」

 

陰から覗いている一夏たちを他所にザラブ星人は腕を組みながら雄二君の目の前に来る。

 

『約束通り来てくれたね、雄二君。』

 

「さあ、僕が勝ったら大人しく自分の星に帰れよ!」

 

『ハッハハハハ・・・・・・・戦う前から勝利宣言かい?まあ、いいだろう。では、ゴンゴロスの絵を出してくれたまえ。』

 

雄二君はゴンゴロスの絵を出す。ザラブ星人は絵に怪光線を浴びせるとゴンゴロスはたちまち実体化した。

 

「うわぁ・・・・・本当に怪獣になった。」

 

西田は唖然としながらゴンゴロスを見る。

 

『フッフフフフ・・・・昨日も言ったが私が連れてきた怪獣は強いぞ。なんせ、あのウルトラマンを倒した怪獣なんだからな。』

 

「ウルトラマンを倒した怪獣!?」

 

『ハッハハハ!今頃怖気づいてしまったかい?残念ながらもう手遅れだ!いでよ!ゼットン!!』

 

ザラブ星人が指示を出すと宇宙船は一定以上の上空へと上がり、下から風船のようなものを膨らませ始める。

 

「ゼットンだと!?」

 

スカイホエールで荒垣と共に待機していた千冬は思わず驚く。

 

「隊長、ゼットンとは・・・・・・」

 

「以前、篠ノ之博士から聞いたことがある。その遥か昔、地球に最初に来たウルトラマンが全く歯が立たず、敗北へと追い込んだ恐るべき宇宙怪獣だとな。」

 

「ウルトラマンを倒した!?」

 

「北島、南原!宇宙船から怪獣が出てくる前に仕留める!全員、攻撃開始!!」

 

「「了解!」」

 

「「「了解!!」」」

 

千冬の指示で一夏たちは一斉に姿を現し、ザラブ星人の宇宙船を攻撃し始める。

 

『なっ!?貴様らはZAT!くそ・・・・・雄二君、私を嵌めたな!』

 

「ザラブ星人、子供を利用して地球侵略を企もうとは卑怯だぞ!」

 

一夏はZATガンを構えてザラブ星人を威嚇する。

 

『フン、私の連れてきたゼットンを相手にすれば貴様らなどあっという間に殲滅できるのだ!』

 

「何よ!?」

 

『さあ、見るがいい!ゼットンの恐るべき姿を!!』

 

ザラブ星人が叫ぶと同時にスカイホエールのレーザーが宇宙船に命中し、爆散してしまった。

 

『・・・・・・・・』

 

「「「・・・・・・・」」」

 

ザラブ星人は一夏たちを二度見すると思わず爆散した自分の宇宙船のあった場所を見る。煙が晴れると確かにそこには巨大な影と共に不気味な電子音らしきものが聞こえて来た。

 

グモオォー!!

 

ピポポポポポ・・・・・・

 

そこにはゼットン?が立っていた。しかし、一夏たちが想像していたゼットンと比べるとなんというべきか・・・・・あまり恐怖感がない。

 

『どうだ?すごいだろ?なんせバット星から一番生きのいい個体を連れてきたんだからな。』

 

グモォー!!

 

「・・・・・・・・」

 

悠々に語るザラブ星人に対して流石の雄二君さえも言葉を失った。

 

しかし、これはある意味で自分のゴンゴロスに勝てる可能性があると感じられた。

 

「よし、勝負だ!行け、ゴンゴロス!お前の力を見せてやるんだ!!」

 

グロロロロロォ!!

 

ゴンゴロスは勇敢にゼットンに向かって走って行く。

 

グモォー!

 

ゼットンは両腕からゼットンナパームを発射する。威力にゴンゴロスは一瞬ビビるが元々絵である上に身軽な体を活かして、勢いよくジャンプをし、ゼットンに飛び蹴りを喰らわせる。

 

グロロロロ!

 

グモォー!

 

 

二体は殴り合いを始め、ゼットンは力任せにゴンゴロスを殴りつける。

 

『いいぞ!その調子だ!そのままそいつをバラバラに引き裂いてやれ!』

 

グモォー!!

 

ゼットンは、ゴンゴロスを手あたり次第殴り続ける。

 

グロロロ・・・・

 

「負けるなゴンゴロス!お前は僕が考えた怪獣なんだ!がんばれ!」

 

グロロロロォ!!

 

ゴンゴロスは、ゼットンを突き飛ばしてやり返す。ゼットンは思わず頭を押さえてゴンゴロスと追いかけっこを始める。

 

『おい、何をしている!?そんな奴、さっさとテレポートして捕まえろ!!』

 

グモォー!!

 

しかし、ザラブ星人の指示を無視しているのかそれともできないのかゼットンがゴンゴロスを追いかけ続ける。

 

「今だ!そいつの頭に齧りつけ!」

 

グロロロロ!!

 

ゴンゴロスは一瞬で動きを止めて口を開く。そして、勢いのまま突っ込んできたゼットンの頭に齧りついた。

 

グモォオオオオオ!?

 

ゼットンは思わず飛び上がり、ゴンゴロスを放そうとするがどんなに揺さぶっても離れない。痛みを感じているのかゼットンはゴンゴロスに齧られたまま辺りを走り回る。

 

『ええい!なにをしているんだ!この役立たず!』

 

ザラブ星人は思わず怒りながらゼットンに向かって叫ぶ。その様子に一夏たちは呆れる。

 

「ザラブ星人、大人しく帰った方がいいんじゃないのか?」

 

『黙れ!くそ・・・・・・覚えてろよ!』

 

ザラブ星人は咄嗟に何かを思いついたのはその場から逃げ去って行った。

 

「あっ、逃げた。」

 

「よし、このまま怪獣を援護してゼットンを倒す!各隊員、ゼットンに向かって集中攻撃を始める。」

 

ゼットンはやっとゴンゴロスの顎から解放されてほっとした束の間に攻撃されたため飛び上がる。

 

グモォオオオ~!?

 

「いいぞ。このまま一気に・・・・・」

 

南原が言いかけたとき、彼の乗っていたコンドルが上空から飛んできた丸鋸状の円盤で被弾する。

 

「「うわあぁぁ~!?」」

 

「南原!北島!」

 

二人はパラシュートで脱出する。

 

「一体何が・・・・」

 

「隊長、あれは・・・・・」

 

荒垣の言葉に千冬は前を見る。上空から何かこちらに向かって飛んできているのだ。あちこちが尖っているのと目つきの悪さを覗けば、誰もが見たことがあるヒーロー・・・・・・

 

「う、ウルトラマン!?」

 

「「「「「「えっ!?」」」」」」

 

・・・・・・・

 

ウルトラマン?は、スカイホエールに向かってスペシウム光線を発射する。スカイホエールは、何とか回避したものの目の前にウルトラマン?が待ち構え、手刀で叩き落してしまった。

 

「くうぅ!脱出!!」

 

千冬と荒垣はどうにか脱出する。邪魔者がいなくなるとウルトラマン?は、二体の所へと駆けて行き、なんとゼットンに加勢する。

 

・・・・・・・

 

ウルトラマン?は、ゴンゴロスの尻尾を掴むとジャイアントスイングで投げ飛ばす。

 

ゴロロロロ!?

 

ゴンゴロスは、ウルトラマン?とゼットンを相手に袋叩きになる。

 

「やめてよウルトラマン!ゴンゴロスは悪い怪獣じゃないよ!悪いのはゼットンなのにどうして味方するんだよ!?」

 

・・・・・・・

 

痛めつけられるゴンゴロスを目の前に雄二君は必死にウルトラマン?に呼びかけるがウルトラマン?は応じる様子はなくゴンゴロスを殴りつける。

 

「・・・・・どうしたんだ、兄さん?どうして、ゴンゴロスを攻撃するんだ?」

 

一夏は、ウルトラ兄弟の次兄であるはずのウルトラマンがどうしてゼットンに加勢しているのかわからなかった。その直後に極秘回線から通信が入る。

 

『いっくん、そいつは偽物だよ!』

 

「何だって!?」

 

『過去のデータファイルをあさって見たんだけど、そいつはザラブ星人が化けた偽物だよ!』

 

「偽物?」

 

『うん。ただ、過去の個体は光線までは真似できなかったんだけど今回のは随分と使いこなせているみたいだね。』

 

「じゃあ、さっき逃げたザラブ星人が・・・・・」

 

『おそらく逃げたふりをしてウルトラマンに変身してゼットンを勝たせようとしているんだよ。』

 

「なんて汚い奴なんだ!自分で仕掛けておきながら負けそうになると妨害するなんて!」

 

一夏は、ウルトラマン?に攻撃しながら近くの岩陰に隠れようとする。それを察したのか箒も遠くから援護をしてくれた。一夏は岩陰に隠れるとウルトラバッジを取り翳した。

 

「タロウー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴロロロ・・・・・・・

 

二体に袋叩きにされ、ゴンゴロスはボロボロになっていた。

 

「どうして・・・・・どうして・・・悪い怪獣の味方をするの。ウルトラマンは僕たちの味方じゃないの・・・・・」

 

ボロボロにされたゴンゴロスを見て雄二君は思わず泣きだしてしまう。ウルトラマン?はとどめを刺すべくゼットンと共にスペシウム光線と火球で攻撃する。

 

『ディアッ!!』

 

!?

 

グモォ!?

 

その直後、上空から飛来したウルトラマンタロウの攻撃で二体は軽く吹き飛ばされる。

 

「あっ!ウルトラマンタロウだぁ!」

 

タロウは、一瞬雄二君を見るとすぐにウルトラマンの目の前に来る。突然現れたタロウにウルトラマン?は驚いた様子だった。ウルトラマン?は、ゼットンにタロウを攻撃するよう指示し、攻撃を行わせるがパンチをした瞬間カウンターを受けてしまい、ゼットンは地面に叩きつけられてしまう。

 

 

グモォー!?

 

『ディアッ!』

 

タロウはゼットンに跨り、容赦なく顔面にパンチを喰らわせる。ウルトラマン?は、後ろから止めようとするが生気が戻ったゴンゴロスに足を押さえられ、勢いよく転ぶ。

 

「今日の一夏は容赦ないな・・・・・」

 

箒は冷や汗を流し、タロウの戦いぶりを見ながらも雄二君の元へと行く。

 

「あっ、箒さん!」

 

「雄二君、ここはウルトラマンタロウに任せて私たちは安全な場所に移動しよう。」

 

箒は雄二君の手を取ると移動を始める。

 

「タロウは・・・・タロウはゴンゴロスを倒しに来たんじゃないよね?」

 

「ん?当り前じゃないか。タロウは、悪い怪獣にしか手を出さない。」

 

2人が移動していると脱出してきた千冬たちと合流する。

 

「篠ノ之、無事か?」

 

「はい。」

 

「しかし、ウルトラマン同士が戦うことになるなんて・・・・・・・」

 

「いえ、あれは偽物です。」

 

「「「「「偽物!?」」」」」

 

「ウルトラマンは正義の味方です。間違っても子供が書いた怪獣を倒したりはしません。」

 

箒はタロウを見ながら言う。タロウはゼットンを投げ飛ばすとゴンゴロスと交代でウルトラマン?を攻撃する。ウルトラマン?はスペシウム光線を撃とうとするがその前にタロウが顔面にアトミックパンチを繰り出す。ウルトラマン?は顔を押さえながらもがき苦しむ。すると元のザラブ星人の姿に戻った。

 

『お、おのれ・・・・・・まさか、本物が来るとは・・・・・・・』

 

『ザラブ星人、子供を弄んだ上にイカサマをしようとは許さないぞ!』

 

タロウはザラブ星人を持ち上げると地面に投げつける。同時にゴンゴロスもヘトヘトになったゼットンを放り投げた。

 

グモォオ・・・・・・・・

 

ゼットンはザラブ星人の背中にぶつかる。

 

『いてて!?わ、私の上に落ちてくるな!?』

 

タロウは、開いた右手を高く上げると同時に左手を腰にあて、そこから左手を上げて右手に重ねスパークを起こし、両手を腰に添える。そして、身体が虹色に光る。

 

『ま、まずい!?』

 

ザラブ星人は、ゼットンをどかしてその場から離れる。

 

『ストリウム光線!!』

 

タロウは、両腕をT字型にしてストリウム光線を発射する。

 

グ、グモオォオオオオオ~!!

 

ゼットンは虚しそうに爆散する。残されたザラブ星人の目の前にタロウとゴンゴロスが迫り来る。

 

『ひ、ヒイィ~!!』

 

鬼の形相で迫り来るタロウに怯えてザラブ星人はその場でジャンピング土下座をする。

 

『私が悪うございました!もう、大人しく帰りますので許してください!』

 

頭を下げながらザラブ星人は命乞いをする。その様子を見てタロウは腕を腰に置きながらザラブ星人を見る。

 

『本当にもう帰りますので・・・・・それじゃ、さよならさよなら!』

 

ザラブ星人はすぐに縮小し、ゴキブリの如く素早く逃げて行った。同時に、ゴンゴロスの体が光り、元の絵の状態に戻って雄二君の元へと戻って行った。

 

「タロウ~!ありがとう~!」

 

『・・・・・トォワアァア!』

 

お礼を言う雄二君に頷くとタロウは空へと飛び去って行った。

 

「また、ウルトラマンタロウに助けられてしまったな・・・・・・ん?そう言えば篠ノ之、西田。一夏はどうした?」

 

「えっ?・・・・・あっ!そう言えば!」

 

「お~い~!」

 

全員が一夏を思い出した時、一夏は手を振りながら一同の元へと走ってきた。

 

「織斑!無事だったか!」

 

「はい、危ないところをタロウに助けられました。」

 

「運がいい奴だな。」

 

「全く・・・・・・心配かけさせておいて。」

 

「すみません。それにしても雄二君、よかったな。ゴンゴロスが負けないで。」

 

「ウルトラマンタロウのおかげだよ!僕、家に帰ったらゴンゴロスとタロウがザラブ星人をやっつけたところを絵にするんだ!」

 

「そうか、じゃあ今度完成したら見せてもらおうかな?」

 

「うん。」

 

「・・・・さて、朝から早々こんなことがあったが一日は始まったばかりだ。早く基地に戻るぞ。」

 

「「「「「「了解!」」」」」」

 

「織斑と篠ノ之は雄二君を家に送ってから戻って来い。」

 

「「はい、わかりました。」」

 

これにて地球侵略を企んでいたザラブ星人の企みはウルトラマンタロウと雄二君の描いたゴンゴロスによって阻止された。

 

しかし、油断はしてはいけない。

 

もしかしたら、別の侵略者が貴方の願いと引き換えに勝負を仕掛けてくるのかもしれませんよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???

 

『くそ・・・・・ウルトラマンタロウめ・・・・グス。』

 

ある町の裏路地にひっそりと建っているスナック。ザラブ星人は酒を浴びるように飲みながら泣いていた。

 

『うぅ・・・・・宇宙船も壊れちゃったし、私はこれから一体どうやって生きて行けばいいのやら・・・・・・』

 

帰ると言いながらも肝心の宇宙船が壊れてしまったため、ザラブ星人はこれから先のことで頭を痛める。そんなザラブ星人を相手に店のマスターと思われる長身で豊かで美しい金髪とバストを併せ持った、セレブ然とした抜群の美貌を誇る女性が彼の目の前にできたばかりのカクテルを差し出す。

 

『う、うぅ・・・・・』

 

「そう泣かないで。帰れないのは、悲しい事だけど地球もいいところよ。この星でしか楽しめないものもあるしね。」

 

『ま、マスター・・・・』

 

「これは、私からのおごり。気が済むまで泣きなさい。」

 

『う、うわわああああぁぁぁぁ~!!』

 

女性の優しさに対してザラブ星人は号泣する。そんなところへ更に来客が来る。

 

『よっ、スコールちゃん。相変わらず綺麗だな。』

 

『・・・・・・・』

 

『フォッ、フォッ、フォッフォッ・・・・・・マスターは?』

 

「あぁ・・・・彼ね。ちょっと用事で何時戻ってくるのかわからないのよ。」

 

目の前にいる明らかに人間ではない来客たちに対して女性は平然と答える。

 

『こんな綺麗な嫁一人に店を任せるとはけしからん奴だな。』

 

『全くだ。・・・・・所でこの者は?』

 

「彼ね、最近帰れなくなった人の一人なのよ。」

 

『なんとっ!?我々の同胞であるか!』

 

宇宙人たち一同はザラブ星人を取り囲むようにして座る。

 

『うぅ・・・・・えっ?』

 

『ようこそ地球へ!これから仲良くしようぜ!』

 

『さあさあ、もっと飲め。今夜は懐かしの母星の話でもして明かそうではないか。』

 

『え、えっ・・・・・・あの・・・・・・あなた方は・・・・・』

 

『フォッ、フォッ、フォッフォッ・・・・・・気にするな。俺もバルタン一族のはみ出し者だ!楽しみながら飲もうではないか!』

 

『い、いや!?私はもう・・・・・・』

 

ザラブ星人は、困りながら店を出ようとするが周りに掴まって出るに出られなくなってしまった。

 

「フッフフフ・・・・・・今夜も賑やかになりそうね。」

 

女性 スコールが微笑ましく笑っているとまた店のドアが開いた。

 

『今戻りました。』

 

「あら、お帰りなさい。」

 

『おぉ!マスター、帰ってきたか!』

 

『全く・・・・・私の店には本当に騒がしい客しか訪れませんね。』

 

黒いずんぐりとした体型、耳の尖った悪魔のような顔をしたマスターは、客に呆れながらも店の中に入って支度を始める。

 

ここは『スナック ファウスト』。

 

人間の間では何故か知られていない宇宙人の憩いの酒場だそうだ。

 

 

 

 




次回は・・・・・・・仮脚本の中から選ぶかそれともタロウの原作から選ぶか。


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幻の島(前編)

なんか考えて書いていたらダイナと初代の話がごっちゃになってしまった(汗)。ちょっと設定に無理があったかも。


エフェクト宇宙人 ミラクル星人
迷子珍獣 ハネジロー


登場。



ZAT基地

 

その日、ZATステーションではニューヨーク本部から重要な任務が言い渡されていた。

 

「ここ数日、大西洋沖合で一年近く前に消息を絶った旅客機『エアバスA400』の救難信号が確認された。一年も所在が分からなかったにもかかわらずだ。更に発信されたエリアは海のど真ん中『バミューダトライアングル』から離れた所でだ。本部はこの正体を探るべく探索チームを派遣したそうだがエリアには強力な磁場が発生しており迂闊に近づくことができず、撤退。そこで我々極東支部に調査に向かってもらいたいとのことだ。」

 

千冬は、モニターで場所を確認しながら説明する。

 

「しかし、ちふ・・・・・じゃなくて隊長。それならなぜフランスと南米支部から出さないんですか?本部はこの間の被害もあって仕方がないと思いますが・・・・・」

 

「あぁ。実は先日、フランスで過去に出現した地底怪獣が出現してな。どうにか撃退したんだが被害が大きく人員を割けられないそうだ。南米に関しては本部の戦力が乏しい故に警戒態勢を敷かねばならないという理由がある。それに調査するエリアは、強力な磁場が発生しているため通常機では接近できない。耐磁力コーティングを施せるのはまだこの極東支部しかないからな。」

 

「はあ。」

 

「では、どのような経由で向かうのですか?」

 

「それについては束。」

 

「はいは~い、一度私たちはフランス支部に降り立った後、コーティング作業に一日は現地で滞在。コーティング作業終了後の翌日に現地へ向かうよ~。言っておくけど今回調査するエリアは磁場が強いから通信機も改修してから行くことになるから。装備品に関しても整えておくように~。」

 

「ちなみに今回はねえ・・・・じゃなくて博士も一緒に行くんですか?」

 

「あったり前でしょ。束さん以外コーティングの方法まだ誰も知らないんだから。」

 

 

数日後、ZAT極東支部は総出でフランス支部へと飛び立っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フランス支部へ到着した一同は、コーティング作業を行う束、支部長に挨拶に行く千冬を除いて各隊員たちは自由行動が許された。一日という事もあり、一夏と箒は、簪を連れて列車を利用して隣国のドイツへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドイツ軍基地 

 

「身分証明書の掲示をお願いします。」

 

「ZATの者です。」

 

一夏たちは身分証明書を見せて検問所を通り抜け、車を指定された場所へと停める。

 

「懐かしい宿舎だな。」

 

「本当だな、ここに来ただけであの頃を思い出す。」

 

一夏と箒は感慨深そうに見る。

 

「ところで二人の友達は?」

 

「あぁ、そうそう!一応連絡はしておいたんだけどな・・・・・・・」

 

一夏は、歩きながらある部隊の訓練所へと向かう。そこでは、全員共通で眼帯をしている。

 

「よし!そこまで!続いて次のカリキュラムに移行する!」

 

「「「「はっ!」」」」

 

先頭で指揮をしているラウラの姿があった。ラウラは、一夏たちの姿を確認すると副官であるクラリッサに後を任せ、三人の所へと来る。

 

「態々、ZATの隊員が来てくれるとはな。」

 

「いやいや、ドイツのIS特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼ隊隊長が俺たちのために時間を割いてくれるとはね。」

 

「フッフフフフ・・・・・久しぶりだな、2人とも。」

 

ラウラは笑いながら二人に握手をする。

 

「ボーデヴィッヒも元気そうで何よりだ。それとも少佐殿と呼んだ方がいいか?」

 

「ハッハハハハハ、二人とも相変わらずで嬉しいぞ。」

 

ラウラはそう言うと簪の方を見る。

 

「彼女は更識簪隊員。俺たちの同僚だよ。」

 

「ほう・・・・・ドイツ軍IS特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼ隊隊長 ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐だ。」

 

「ZAT極東支部 オペレーターの簪です。」

 

二人は握手をしながら互いに挨拶する。

 

「・・・・しかし、一夏。お前も罪深いな。箒がいながらもう一人嫁を作るとは・・・・・・・」

 

「「「ブッ!?」」」

 

ラウラの思わぬ発言に噴き出す三人。

 

「ラウラ、勘違いしないでくれ!?簪は飽くまで俺たちの同僚で友達だよ!」

 

「ん?そうだったのか?私にはそう見えてしまっていたのだが・・・・・」

 

「そもそも一夏は二股するほどひどい男じゃない。」

 

「すまんな。お前たちがいるとついからかいたくなるのでな・・・・・・・・」

 

簪を加えて一夏たちは久々の友人の会話に没頭する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ZAT フランス支部

 

「極東支部 隊長織斑です。」

 

フランス支部では千冬がフランス支部隊長に挨拶をしていた。

 

「このような状況で申し訳ない。本来なら紅茶の一杯でも出したいところなのだが・・・・」

 

「お気持ちだけで結構です。しかし、報告に聞いていた以上に被害が大きかったようですね。」

 

千冬は、隊長室に歩きながら支部の様子を見る。角の港の方をちらっと見ると大破した機体が何機か確認できる。

 

「何しろほんの少し前まではISの天下でしたからな。いくらシュミレーションなどで訓練したとはいえまだ成り上がりのパイロットばかりです。怪獣頻出期を経験し、それを活かしているあなた方の国が羨ましいものです。」

 

「そうでもありませんよ。こちらでも被害が出ないわけではありませんから。」

 

部屋に付くと支部長は、ニューヨーク本部からの命令書を千冬に渡す。

 

「内容はわかっているだろうが今回の任務は発信地の調査です。」

 

「えぇ・・・・しかし、このような事態が起こるものなのでしょうか?島すら確認されていないエリアから消息を絶った旅客機の救難信号が出るとは・・・・」

 

「私も正直まだ半信半疑だ。だが、過去の怪獣頻出期、侵略狙いの異星人たちの来訪。それを考えれば地球でも未開な現象が起きても不思議ではありません。」

 

「・・・・・仰る通りです。」

 

千冬は命令書を一通り確認し終えると元に戻す。

 

「命令書、確かに確認させてもらいました。予定では明日早朝にここから発ちます。」

 

「うむ。それとこちら側から頼みがある。」

 

「ん?頼みとは?」

 

支部長の顔を見て千冬は不思議そうに聞く。

 

「我がフランス支部の装備及び機体の開発・製作をしてもらっているスポンサーである『デュノア社』の社長夫妻がどうしてもと頼まれましてな。調査に同行させてもらいたいとのことだ。」

 

「なっ!?」

 

支部長の言葉に千冬は思わず驚く。

 

「いくらスポンサーと言えど、民間人を調査に同行させるのは危険すぎます!」

 

「私もそのことで何度もお断りしたのだが何故か引き下がってもらえないのだ。」

 

「・・・それでその夫妻は?」

 

「今日も来る予定だ。」

 

「では、私の方から事情を聴いてみましょう。いくらスポンサーの方でも無理な頼みもありますから。」

 

千冬は、そう言うと支部長と共に応接室へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日 早朝  ZATフランス支部 格納庫

 

朝早く、一夏たちは調査に向かうべく格納庫に集合していた。

 

「織斑、お前昨日篠ノ之と更識を連れて何処行ってたんだ?」

 

「まさかダブルデートですか?」

 

「嫌だなぁ・・・・・・ドイツの友人に会いに行ったんですよ!」

 

そんな会話をしていると千冬が荒垣と束を引き連れて来た。

 

「全員、整列!」

 

荒垣の掛け声と共に全員が整列する。

 

「では、隊長。」

 

「うん、今日はいよいよ大西洋の例のエリアへと飛ぶ。一応耐コーティング処理は済ませたが安心はできん。最悪な場合は海の藻屑になるかもしれない危険な任務だ。全員心して行うように!」

 

「「「「「「了解!」」」」」」

 

「今回は特殊な環境での任務だからな。旧式ではあるが今回はこれにコンドルとスワローを積んで向かう。」

 

千冬がそう言うと束は後ろのシャッターを上げる。そこには大型の戦闘機があった。

 

「デカっ!?」

 

「隊長、これは・・・・・」

 

「“TACファルコン”。かつて、TACが主力として運用していた大型戦闘機だ。旧型ではあるが宇宙空間戦闘も可能な上に束の改修もあって性能に申し分はない。荒垣と更識、西田は、ホエールで途中まで同行。後は磁場に呑まれないようエリア近辺で待機だ。」

 

「えっ?何故そこで二手に別れるんですか?」

 

北島は、不思議そうに聞く。

 

「訳は二つある。一つは万が一我々が戻ってこなかった場合に備えて救援を呼ぶため。そして、もう一つはある人物たちを同行させることになったからだ。」

 

「同行者?」

 

「入って来ていただいて結構です。」

 

千冬が言うと格納庫に顎髭を生やした厳格な風貌の男性とその夫人と思われる女性が入ってきた。

 

「紹介する、今回の調査に同行することになったフランス支部のスポンサー『デュノア社』社長 アルベール氏と妻のロゼンダ夫人だ。」

 

千冬の紹介で一夏たちは二人に敬礼する。

 

「アルベール・デュノアです。今回の同行に関して私たちの勝手な行動ながら申し訳ない。しかし、今回の調査の話を聞いてどうしても確認しなければならないと思ってね。どうか許してもらいたい。」

 

「隊長、いくらスポンサーの方でも無理がありますよ!?だって、社長夫妻ですよ!?もしものことがあったら大変なことに・・・・・・・」

 

「私も理由を聞かなければ同行させる気はなかった。」

 

「どんな理由なんですか?」

 

「それは詳しくは教えられん。お二人が行動する場合は篠ノ之隊員について行ってもらう。危険だと判断した場合はファルコンの中へ戻ってもらう条件でだ。今日は幸い天候も良好だ。すぐに向かうぞ!」

 

「「「「「「「了解!!」」」」」」」

 

ZATは、デュノア夫妻を同行させ直ちに現場へと出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大西洋沖合

 

スカイホエールとTACファルコンは、目標ポイントへと近づきつつあった。

 

『隊長、間もなく目標エリアに到着します。』

 

「よし、スカイホエールはこの場で待機。3時間で戻る予定にしているがそれ以上経っても戻らない場合はフランス支部に連絡を取って応援要請を掛けてくれ。」

 

『了解!』

 

『隊長、くれぐれもお気をつけて。』

 

「わかっている。束、私たちはこのまま前進だ。救難信号が発せられたポイントまで把握できるか?」

 

「できるだけ正確にはやってみるよ。でも、こんな環境はそう滅多に来れないからね。慎重に操縦してね。」

 

「わかった。」

 

TACファルコンはそのまま目標ポイント目指して前進する。しばらくすると濃い霧に包まれ、磁場の影響か機器が警報を鳴らし始める。

 

「予想以上だな・・・・・・・篠ノ之!コーティングはあとどのくらい持つ!?」

 

「おおよそ後3分!それ以上だとファルコンの操縦系統が完全にダウンします!」

 

「くっ!持ってくれ・・・・・・・・」

 

不安定に揺れながらもTACファルコンは前進する。

 

「・・・・・・!計器回復、磁場の影響下から解放されました!」

 

「そうか・・・・・ん?あれは・・・・」

 

千冬は操縦席から見える島を見て驚く。

 

「島?」

 

「おかしいね~この辺に島はないはずなんだけど・・・・・・」

 

困惑したように言いながらもTACファルコンは島の上空から手頃な着陸ポイントを見つけ出し、着陸する。

 

「北島、島の大気は?」

 

「異常ないです。有毒な物質は検出されていません。」

 

「・・・・そうか。よし、各々チームに別れて行動する。織斑、お前は私と一緒に来い。」

 

「了解!」

 

「デュノア氏、あなた方はここからあまり離れないようにしてください。何しろ未知の場所なので。後できればどちらかが交代で見回るようにしてください。」

 

「分かりました。」

 

そう言うと各隊員たちはファルコンに束を残して調査を開始する。

 

「・・・・・霧が濃い割には、随分と青々しいな。」

 

千冬は不思議がりながらも一夏と共に森へと歩いて行く。

 

「しっかし、こんな島があったなんて・・・・・・信じられないな。」

 

「一夏、自然は時に科学では証明できない現象だって起きる。この島だって謎だらけなんだ。慎重に行うぞ。」

 

「了解・・・・・・って、ここではいつもの呼び方でいいのかよ?」

 

「まあ、2人っきりだしな。こういう時ぐらいはいつも通りの呼び方で構わんぞ。」

 

「はいはい、それじゃあ千冬姉。早いところ奥へ進もう。」

 

「あぁ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

箒チーム

 

「・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

後ろで辺りをキョロキョロしているデュノア夫人に何とも言えない奇妙な感覚を感じながら箒は辺りを調べる。

 

「・・・・・あの・・・・」

 

「ん?」

 

「デュノア夫人は、何の目的で今回の調査に同行することを決めたんですか?」

 

「・・・・・・」

 

箒の質問でデュノア夫人の表情が暗くなる。

 

「あっ・・・・・・い、いえ。別に何も言わなくて・・・・・・・」

 

「・・・・・・娘を探したかったの。」

 

「えっ?」

 

夫人の口から出た言葉に箒はキョトンとする。

 

「正確には私の本当の娘ではないんだけどね。2年ほど前、夫の愛人だった子を養子として迎え入れたの。貴方とそう変わらない年頃の娘で、結局向き合う事ができなかったけど。」

 

「娘さん・・・・・・ですか。」

 

デュノア夫人の話を聞きながら箒は森の中を歩いて行く。

 

「私ね、生まれつき子供が作れない体質だったのよ。それ故に私と夫との間には子供がいなかった。そして、二年前にあの子を養子として引き取るときに愛人がいたことを明かしたわ。まあ、元々不器用だったからそうすることでしか私への愛情を示せない人なのよ。でも、私は悔しかった。」

 

デュノア夫人は、複雑な表情で森の奥を見渡す。

 

「私もあの人との間で子供が持ちたかった。でも、それが叶う事がなくあの子の母親は持つことができた。だから、最初に会った時、似ていたこともあって泥棒猫って言って顔を引っ叩いてしまったわ。」

 

「・・・・・・・・」

 

「ひどい女だと幻滅したでしょ?その後、会社のグループ内であの子を排除する為に暗殺を企てた一派がいることが噂されて、一旦あの子をほとぼりが冷めるまで信用のおけるところへ預けることにしたのよ。そして、行方不明になった・・・・・・・・家から出る時も最初のことがあって何も言えなかったわ。」

 

「・・・・・・夫人は、娘さんが見つかったらどうするつもりなんですか?」

 

箒は、デュノア夫人の顔を見て聞く。デュノア夫人は、顔色を変えずに答えた。

 

「謝って、今度こそあの子の母親として向き合いたい。例え血は繋がっていなくてもあの子には私の娘であるのには変わりないから。」

 

「・・・・・・・そうですか。」

 

箒は、限界距離まで来たのを確認すると引き返そうとする。

 

そのとき

 

「ん?」

 

現場付近の川で何かが動いているのに気がついた。箒はZATガンを引き抜いて慎重に近づいて行く。

 

「・・・・・・・」

 

霧でよくわからないが下あごに白い髭を蓄えた宇宙人らしき生物が何やら洗濯をしているようだった。

 

「宇宙人?」

 

箒は、デュノア夫人の身の安全のことも考えてその場から離れようとする。しかし、夫人が枯れ枝を踏んで音を立ててしまったため、宇宙人たちは二人がいる茂みの方を見た。

 

(しまった!)

 

箒は息を殺しながら、近づいてくる足音に警戒する。見つかった場合は撃つしかない。そう思いながらも近づいてくる宇宙人へ警戒を強める。

 

そして、宇宙人が自分たちの目の前に立ち止まった瞬間、箒は茂みの中から姿を現し、宇宙人にZATガンを向ける。

 

「動くな!」

 

『!?』

 

現れた箒に宇宙人は驚きながらも両手を上げる。箒はデュノア夫人を後ろに招いて距離を取りながらも宇宙人への警戒を緩めない。

 

『ま、待ってくれ!』

 

宇宙人はテレパシーを使っているのか二人に呼びかけてくる。

 

『私は宇宙人だが君たちへ危害を加えるつもりはない。だが、この島に来たという事は何か乗り物で来たというのか?』

 

「・・・・・・私たちは、この島から発せられた救難信号を辿ってここまで来た。」

 

箒の言葉を聞いて宇宙人は目を丸くする。

 

『救難信号・・・・・・・あぁ!あの信号を辿ってきてくれたのか!っという事は助けに来てくれたのだな。』

 

「・・・・・・一つ聞きたい。お前以外に仲間は?」

 

宇宙人は急に力が抜けたように言う。

 

『・・・・・・いや、もういない。私以外のミラクル星人はみんな奴に殺されてしまった。ここに流れ着いたこの星の住民もあの子を残してみんな・・・・・』

 

「あの子?人間の生存者がいるのか?」

 

ミラクル星人と名乗る宇宙人に敵意がないという事がわかり箒は銃を降ろす。

 

『あぁ、2年ほど前にこの島に不時着した飛行機に乗っていた女の子だ。私が着た頃には機体は奴に破壊され、生き残っていたのもその子だけだった。』

 

「そ、その女の子はどこにいるんです!?」

 

デュノア夫人はもしやと思いミラクル星人に問いかける。

 

『名はシャルロット。だが、ここ数日高熱を出して弱っている。お願いだ、どうかこの島から連れ出してはもらえないだろうか?』

 

ミラクル星人の言葉を聞いてデュノア夫人は、唖然としていた。

 

「会わせてください!すぐにあの子に会わせてください!」

 

デュノア夫人に掴まれてミラクル星人は思わず驚く。

 

「お願いです!その子は私の娘なんです!」

 

『娘?もしや、貴方があの子の・・・・』

 

「夫人、待ってください。これ以上先に行くのは危険です。」

 

箒はすぐにファルコンにいる束に連絡を取ろうとする。

 

「こちら篠ノ之。ファルコン応答願います。ファルコン応答願います!」

 

『・・・・・・・・・』

 

「おかしい、通信が取れない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「束さん?束さん、応答してくれ!・・・・・・ダメだ、通信が繋がらない。」

 

一方の一夏たちも連絡が取れなくなっていた。そんな一夏を他所に千冬は何かの破片を拾い上げる。

 

「・・・・・・・これは自然にできたものじゃないな。何かが破壊されたようなものに見えるが・・・・・」

 

 

パムー

 

 

「「!?」」

 

一瞬目の前を通り過ぎた生き物に二人は思わずギョッとする。

 

「なっ、なんだ今の生き物は!?」

 

「行ってみよう!」

 

二人は、急いで生き物の後を追う。しばらく移動してみるとそこには大きな岩穴があった。

 

「この穴に逃げ込んだのか?」

 

 

パムー

 

 

穴の奥から先ほどの生き物の声が聞こえてくる。一夏は思い切って入ってみることにした。

 

「お、おい!?待て一夏!こういうところには迂闊に・・・・・って、人の話を聞け!?」

 

先に進んで行ってしまう一夏を千冬は慌てて追いかけて行った。

 




ハネジロー大好きだけどグッズがあまり出ていないからそろそろ等身大ハネジローの人形でも発売してくれないかな~。


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幻の島(中編)

書いていたら知らぬ間に別の怪獣も出ていた。


エフェクト宇宙人 ミラクル星人
迷子珍獣 ハネジロー
剛力怪獣 シルバゴン(幼体)
破壊獣 モンスアーガー


登場


TACファルコン

 

「ちーちゃん?ちーちゃんってば!・・・・・・やっぱり聞こえない。」

 

アルベールと共にTACファルコンに残っていた束は連絡を取れないことに戸惑っていた。

 

「何かあったのですか?」

 

「妨害電波だよ~!」

 

「妨害?一体どこから?」

 

アルベールは気になってパネルを操作している束に聞く。

 

「う~ん~、おそらくこの島からだと思うんだ・・・・」

 

「この島!?では、調査に行ったロゼンダは・・・・妻は!?」

 

「大丈夫、まだ飽くまで妨害電波が出ているってだけだから・・・・・・」

 

「博士~!!」

 

そこへ一夏たち同様に調査に出ていた南原と北島が慌ただしく戻ってきた。

 

「あっ、君たち。戻って・・・・・・」

 

「怪獣です!怪獣!!」

 

「へっ?」

 

「こーんくらいの怪獣がノシノシと歩いて来て・・・・・・・・」

 

北島と南原は慌ただしく説明するが束はピンとこない。

 

「怪獣ってどのくらいの大きさ?」

 

「えっと・・・・このくらい・・・・」

 

「この位って?」

 

「・・・・・・12,3メートルぐらい・・・・・・」

 

「特徴は?」

 

「羊のように巻いた角と、黒目のない黄色に光る釣り目、後全身が銀色でした。」

 

「・・・・・・」

 

「博士、隊員たちを呼び戻した方がよいのではないか?」

 

腕を組む束にアルベールは意見する。妻の身が心配という事もあるがそれ以前に怪獣に襲われれば脱出する手段が失われる。

 

「・・・・・・うん。わかった。南原君と北島君は私と交代でここで待機。」

 

「「えっ!?」」

 

「じゃあ、社長。私と一緒に奥さんと箒ちゃん迎えに行こうか?」

 

「んん!?」

 

「いや~改造して登場人数増やしたコンドル持ってきてよかったよ・・・・・・」

 

束が勝手に話を進めていく中、アルベールは話について来れず、無理矢理コンドルに乗せられ、箒たちが行ったエリアへと向かうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

箒チーム

 

ミラクル星人の案内の元、箒とデュノア夫人は、岩山の方へと向かっていた。

 

『私がこの島に迷い込んだのは5年前、地球の文化について調査するため仲間と共にこの星へとやってきた。星の大気圏を降り、海に出た所を我々の宇宙船は、救難信号をキャッチした。』

 

「それでこの島に来て何かに襲われて仲間が・・・・・・」

 

『あぁ。宇宙船も破壊され、帰るすべを失った私は助けを求めるべく、宇宙船の残骸を集めてこの山の洞穴で発信機を作っていた。そして、2年前、ある飛行機がこの島に堕ちて来た。私は、仲間の二の舞にさせないことと彼らとコンタクトを取るべく墜落現場へと急いだのだが辿り着いた頃は既に奴に襲われ・・・・・』

 

「あの・・・・」

 

『どうかしましたか?ご婦人。』

 

「さっきから気になっていたんだけどその奴というのは・・・・・・」

 

『怪獣です。それも惑星侵略用に作られた凶暴な奴をね。』

 

「惑星侵略用?」

 

ミラクル星人の言葉に箒は疑問を抱く。

 

『この島は、人工で作られたものなんだ。最初の内はよくわからなかったが度重なる妨害電波、旅客機が落ちてきた瞬間に起きた怪獣の出現、明らかにこの島が人工的に作り出したサイクルであることを証明している。』

 

「人工の島!?」

 

『飽くまでも仮説だが・・・・この島は元は一つの小さな星の一部だったんだ。そして、星が度重なる衝突で一部だけがこの星に堕ち、時間をかけてこの島の環境を作り出した。』

 

「ちょっと待ってくれ!星の一部でそんなことが・・・・・」

 

『宇宙には君たちの常識でもわからないことが多くある。この島一帯の特殊な磁場があるだろ?おそらくあれもこの島のシステムが作り出したものなんだ。』

 

「島に入った者は二度と出ることなく殺される・・・・・か。」

 

そんな会話をしていると目的地の洞穴に着いた。

 

『ここが私たちの隠れ家だ。』

 

「広い洞窟なんだな・・・・・・」

 

『アイツの家にもなっているからね。』

 

「アイツ?」

 

ゴシャアアアアアアアア!!

 

「「!?」」

 

二人は突然の咆哮に振り向く。そこには10メートルいくかいかないかくらいの大きさの怪獣がノシノシとこちらに近づいて来ていた。

 

「怪獣!」

 

箒はZATガンを構える。

 

ゴシャァア?

 

すると怪獣も箒のように構える真似をした。

 

「?」

 

『真似をしているんだよ。君の動きをね。』

 

ミラクル星人は、怪獣に向かって歩いて行く。すると怪獣は尻尾を振りながら膝をついてミラクル星人の頬ずりしてきた。凶悪な顔をしている割には可愛らしい光景だ。

 

『この怪獣は、あの子が海岸で拾ってきた卵から孵ったものなんだ。』

 

「この怪獣が?」

 

『少し凶暴なところがあるがあの子に対しては素直なんだ。まるで子供のようにね。』

 

「子供・・・・・・!それより、シャルロットを!」

 

入り口に怪獣を残して三人は穴の奥へと行く。しばらく歩いて行くと宇宙船のものを集めて作ったのか居住区のようなところへと出る。

 

「ここが・・・・・・」

 

『宇宙船のものをここまで運んできたんだ。救援の望みがないと思いながらもわずかな希望のためにね。』

 

別室に行くとそこには顔を赤くした金髪の少女が寝かされていた。

 

「ハア・・・・ハア・・・・・」

 

「シャルロット!」

 

寝かされている少女を見てデュノア夫人は駆け寄る。額に手を当ててみるとすごい熱だった。

 

「なんて熱なの!?」

 

『ここ数日でここまで悪化してしまったんだ。宇宙船の機器で原因を調べて見たがこの星の風土病のようでね。私では手を付けられないんだ。今は熱冷ましで何とか持ちこたえているが・・・・・・』

 

「ハア・・・・・ハア・・・・・・おじさん?」

 

シャルロットはうっすらと目を開けてミラクル星人を見る。

 

『シャルロット・・・・・・』

 

「あの子は?・・・・・・寂しそうにしている?・・・・・・!?」

 

デュノア夫人を見るなり、シャルロットは怯えた顔になり、頭を抱える。

 

「も、もう大丈夫よ。私は貴方を探しに・・・・・・・」

 

「ハア・・・・・・・ハア・・・・・・・いやだ・・・・・いやだいやだ・・・・・・・」

 

歯をガクガク音を立てさせながらシャルロットは震える。熱があって混乱していることもあるがおそらく夫人との初対面の時のことを思い出して怯えてしまっているんだろう。

 

「また・・・・一人になる・・・・・また、独りぼっちになる・・・・・・・いやだいやだいやだいやだ・・・・」

 

「・・・・・・・」

 

泣きながら震えるシャルロットを見てデュノア夫人は、そこまで自分を恐れていたのかと感じた。

 

『・・・・・・・取り敢えず、落ち着くまで外で待ちましょう。』

 

「・・・・・」

 

ミラクル星人は、軽い催眠術でシャルロットを寝かせると二人を連れて一旦外に出る。外では怪獣が何か降りてくるのかピョンピョンと撥ねていた。

 

コンドルだ。

 

「あれはコンドル?どうしてここに!?」

 

コンドルが着陸するとコックピットから束とアルベールが降りて来た。

 

「箒ちゃ~ん!やっと見つけ・・・・おぉ!?」

 

箒に飛びつこうとした束はミラクル星人を見るなり方向転換する。

 

『?』

 

「うひゃぁぁああ~!!宇宙人!?本物!?おぉおお!」

 

束はまるで子供のように目を光らせながらミラクル星人を見る。

 

『・・・・・・彼女は君の知り合いかい?』

 

「私の姉さんだ。結構変わっているが敵じゃない。」

 

「私は、篠ノ之束さんだよ!ようこそ地球へ!」

 

「姉さん、そう言ってる場合じゃない。」

 

束の態度に呆れる箒とは違い、デュノア夫人は、アルベールと話をしていた。

 

「アルベール、シャルロットは見つかったんだけど・・・・・・」

 

「見つかった?それは本当か?」

 

「えぇ・・・・・でも・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏&千冬チーム

 

「千冬姉。これって・・・・・・」

 

一夏は岩穴の中のある物を見て唖然とする。

 

人工物の柱だ。

 

「あぁ・・・・・どう見ても自然にできたものじゃない。だが、この風化具合を考えるとごく最近のものではないな。」

 

「この島の原住民が作ったのかな?」

 

「さあな。だが、外では人工物は一切なかった。それどころか何かが破壊された破片ばかりだ。だとすれば・・・・・・この島は何の目的のために・・・・・」

 

「まさか、この島そのものが人工物ってわけじゃないよな?流石にこんな島一つ作る技術なんて・・・・・」

 

「私にはそれ以上のことは何とも言えん。一応、できるだけ奥に行っていけそうになかったら戻って束に調べてもらおう。」

 

二人は、さらに奥へと歩いて行く。すると今度は謎の骨格が横たわっていた。

 

「ほ、骨だ・・・・・・・」

 

「明らかに人間のものじゃなさそうだな。」

 

二人は慎重に骨を調べようとする。すると

 

 

パム―――――――――!!

 

「「うわぁあ!?」」

 

パム、パァ―――――――――――――!!

 

先ほど一瞬だけ見た小さな生き物が飛び出してきて二人に威嚇(?)をしてきた。

 

「な、なんなんだ!?この生き物は!?」

 

2人が驚いている最中、生き物は虫のような羽根を広げて飛び始める。

 

パム、パム―――――――

 

「飛んだ!?」

 

しかし、バランスを崩したのか生き物はフラフラと降下して落ちた。

 

パムゥ。

 

「っと思ったら落ちた。」

 

一夏は落ちた生き物へと近づく。

 

「一夏、気をつけろ。毒を持っているかわからんからな。」

 

千冬に警告されながらも一夏は生き物のすぐ近くにまで行く。

 

「大丈夫か?」

 

パム―――――――ッ!!

 

生き物は一夏たちに対して威嚇をしてきた。しかし、よく見ると口元から血が出ていた。

 

「お前・・・・・怪我してるじゃないか。」

 

一夏は手を生き物に近づける。

 

「待て、一夏。小さいとは言っても未知の生き物だぞ。」

 

「でも、ほっとけないじゃないか。なあ?」

 

パムッ!

 

一夏が差し出した手を生き物は噛みついた。

 

「いて!?」

 

パム―――――――!

 

「ほら、見ろ。迂闊に触ったら襲って来るぞ・・・・・」

 

一夏は取り敢えず荷物に入っている消毒液をガーゼに含ませ、生き物の口元を消毒する。

 

パムッ!?

 

生き物は痛かったのか怯える。

 

「大丈夫だ。少し痛いと感じるだけだから。」

 

パム――――――――

 

「俺を信用しろ。俺は敵じゃないから。」

 

一夏はそう言うと消毒を再開する。

 

パム・・・・・パァムゥ――――――

 

「・・・・・・よく見ると可愛いな、この生き物。」

 

千冬は少し羨ましそうに言う。

 

「よし、これでもう大丈夫だ。」

 

一夏が笑顔で言うと生き物は申し訳なさそうに噛んだ手を頬ずりする。

 

パムゥ・・・・・・

 

「気にするなって。」

 

一夏は生き物の頭を撫でる。

 

「・・・・・・・」

 

千冬はその光景を見て昔のことを思い出した。

 

 

一夏が小学生の時、一度捨てられた子犬を拾ってきたことがあった。

 

千冬は家では飼えないと言い、何度も捨ててくるようにと言ったが一夏はどうしても諦めなかった。

 

最終的には夜、千冬が寝静まったのを確認してこっそり餌を与えに隠してきた公園へと行くほどだった。道場が休みの時は箒と一緒にその子犬と遊んでいたところも何度かこっそり見ていた。

 

しかし、そんな子犬は残念にもある雨の日に死んでしまった。よくわからないが誰か襲われたのか怪我が原因らしく一夏が病院に連れて行こうと思った時は既に息を引き取っていた。

 

あのとき、雨に撃たれながら泣いていた一夏の姿は今も目に焼きついている。傘をさして迎えに来た時は、自分に抱き着いて思いっきり泣いていたことも。

 

だから、こういう生き物に関しては噛まれようが引っかかれようが妥協しないのはよく知っていた。

 

 

 

 

 

 

パム―――。

 

生き物は羽を広げて岩穴の奥へと二人を案内するかのように飛んでいく。

 

パム――――パムパム―――――

 

「おい・・・・・そっちに何かあるのか?」

 

パムゥ。

 

二人は生き物の後をついて行く。

 

すると奥には扉があった。

 

「これは・・・・・・」

 

「・・・・・やはり、この島には何か秘密があるようだ。」

 

二人は、扉を開けようと力を入れる。長い間使われていなかったのか開けにくかったもののどうにか二人は中に入ることができた。中は謎の機械が動いていて奥には何かが入ったカプセルがある。

 

「これは一体・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

箒チーム

 

「ふむふむ、なるほどね・・・・・・・」

 

ミラクル星人の話を聞いて束は腕を組みながら考える。

 

「うん・・・・・・つまり、この島はどこかしらの異星人が作った人工の島でしかも入って来た者は作り出された怪獣の餌食になる・・・・・実験場ってわけだね。」

 

「ならば、早いとここの島から脱出した方がよいのではないか?その怪獣が現れたら一溜まりもないぞ。」

 

その話を聞いてアルベールは、打倒案を言う。

 

「娘も見つかったし、島の秘密もわかった。これ以上、ここに留まるのは・・・・・・・」

 

「・・・・・・・でも、本当にここから連れ戻すことがシャルロットにとって幸せなんでしょうか?」

 

「!?何を言っているんだ!?・・・・・そのためにこうして探しに来たんじゃないか。」

 

「・・・・・・・・」

 

デュノア夫人は複雑な表情で何も言えなかった。

 

あれ程怯えていたシャルロットのことを連れ戻したとしても果たして親子関係を改善することは可能なのか?むしろ苦しませてしまうだけなのではないか?

 

「・・・・・・私だって、あの子に最初に何と言えばいいのかわからない。」

 

「!」

 

アルベールは、頭を押さえながら言う。

 

「あぁいう態度を取っていたのもあの子を守るためにやっていたことだった。・・・・・・だが、それが逆にどれだけ苦しめてしまったことか・・・・・・・今でも選択を謝ったのではないかと悩むことさえある。だからこそ、直接会って関係を見つめ直さなければいけないんだ・・・・・・・私も君も・・・・・あの子・・・・・シャルロットも・・・・・・」

 

「アルベール・・・・・・・・」

 

ゴルルルゥ・・・・・・

 

そんな二人を怪獣は顔を近づけながら見る。気持ちを察しているようにも見えた。

 

「・・・・・・お二人とも、今はとにかくファルコンに戻らなければ・・・・・・」

 

「箒ちゃんの言う通りだね。あぁ・・・ミラクルさんもご一緒に。」

 

『私も行っていいのかね?』

 

「もち!大歓迎だよ~!」

 

ゴルルルルゥゥウ・・・・・・・

 

「君も何とか載せられるかな?ファルコンは改装で何とか収納スペース拡げてあるし。いやぁ・・・・・ホエール積まなくてよかった。」

 

「では、娘さんは、私が運びます。お二人は先にコンドルに乗っててください。」

 

「・・・・・わかりました。」

 

『私も手伝おう。』

 

「じゃあ怪獣君にはコンドルに付いて来てもらいながら乗ってもらおうかな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏&千冬チーム

 

二人は、入った部屋の機械を見ながら何なのかを調べていた。

 

「・・・・・・これは、一体何なんだろうな?」

 

「うむ・・・・・束なら何かわかると思うが私たちにはチンプンカンプンだな。」

 

千冬は、カプセルを見ながら言う。

 

「でも、これだけはわかる。この装置は一部はこの島全体に特殊な磁場を形成させながら移動している。それとこの島に入り込んだものに対してこの怪獣が襲う・・・・・・まさに実験場だな。」

 

機械の操作パネルに載っている僅かな画像をもとに千冬は推測する。おそらく、この島は元は地球にあったのではなく、宇宙のどこかに存在する異星人が送り込んだ星か何かの一部だったという事。そして、この島の環境は地球に合わせて変化し、現在の形になり、普段は悟られることなく海を彷徨い続け、迷い込んだものに容赦なくその牙が振りかかる。

 

パムゥ――――――――――

 

「ん?」

 

パムパム。

 

一夏は後ろの物陰にいる生き物を見る。

 

「お前・・・・・こんなところにいたのか?」

 

パムゥ―――――

 

生き物は目から映像を投影する。そこにはカプセルにいる生き物と全く同じ姿をした怪獣が周辺の岩を砕きながら襲い掛かってくる映像だった。

 

「・・・・そうか、お前のご主人もコイツにやられたのか。」

 

パァアムゥ・・・・・・・

 

「・・・・・一夏。もしかしたら、この島を作り出した文明・・・・・・いや、送り込んだ異星人はもうすでに滅亡してしまったのかもしれんな。」

 

「えっ?」

 

「つまり、コントロールする者がいなくなって、この地球の海を彷徨い続け・・・・そして、迷い込んだ者をこの怪獣が襲い・・・・・・」

 

「ん?ちょっと待ってくれ、千冬姉。っという事は・・・・・・・今度は俺たちがその餌食になるってことか?」

 

「・・・・・・・・あっ。」

 

2人が気がついたと同時に岩穴が大きく揺れ出す。

 

パムパム!パムパム!

 

「しまった!罠だぁ!」

 

「一夏、急いでここから出るぞ!」

 

2人の後ろを生き物が飛び、その場から離れて行く。そして、怪獣を入れたカプセルは地上へと向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だぁあれは!?」

 

コンドルで飛行中の箒たちは地上に現れた巨大なカプセルを見て驚く。

 

『あれだぁ!奴が動き出してしまった!!』

 

カプセルは消滅し、怪獣の目が光り出す。

 

 

グワァァアアアアアアアア!!

 

 

 




なんでシルバゴン出してたんだろう(汗)?

ウルトラマンティガ見てシルバゴンに愛嬌を感じていたせいだろうか?


っというわけで後編に続く。


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