マインオブザデッド (dorodoro)
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序章
1話 神殿で何故か巫女姫とか呼ばれる


「熱い、あつい、苦しい。もう、いやだよぉ」

そんな声が聞こえてくる。

 

私こと元須麗乃は子供のころから病弱である。

 

しょっちゅう入退院を繰り返し1か月以上絶食になることもしばしば。

 

入院中の友達は本、本であればなんでも読んだ。

 

当然そんな状態だから基本は引きこもり。図書館は良く行くけど。

 

外のあこがれか農業などの書籍を読み漁ったりしたときもある。

 

本以外で好きなものといえばお米。やっぱり日本人はお米だよね。

 

絶食後のおかゆも大好きですよ。味も何もないのに絶食明けのおかゆってなんであんなにおいしいのだろうね。

 

今回も入院中に大量に本を積んで、いつも通り入院部屋で部屋で本を読んでいたら突然ぐらりとして本が倒れてきたのは覚えている。そのあとどうなったのだろう。

 

最後に思ったのは、結局あの本も読み終わらなかったなぁ。絶食明けまであと二日だったのにお米食べたかったなぁ。

 

そして気が付いたら、声が聞こえるわけですよ。

 

「あつい、あついよぉ。」

 

そんなこと言われてもと思いながらも私も熱を出して体調を崩してばかりだったので、この子がかわいそうになった。

 

だいじょうぶ?

 

私自身どうなっているかわからないけど声をかけてみる。

 

「おねえさん、だあれ。あの世から迎えに来たの。わたしもうだめなの?」

 

まさしく困る質問である。私自身よくわからない。

 

私もよくわからない。でも、寝てばかりはつらいよね。

 

お姉さんがそのつらさを少しでも引き受けられたらいいのに。

 

私がそう言ったとたん、彼女と同調するかのようにものすごい熱が入ってきた。

 

彼女は最後に少し楽になった表情を見せたような気がするけど私の意識もそこで落ちた。

 

 

 

意識が戻るとあまりの暑さに寝返りをうとうとした。しかし体が全く動かない。

 

ものすごい暑さが私を襲った。

 

 

あつすぎて、さらにいろいろな情報が私の中に駆け込んでくる。

 

この子の名前はマインでずっと寝てばかりでお姉ちゃんばかり外へ出られてずるいなど、今まで見たり感じたことが入ってくる。

 

最後は私があの世へ誘う天使だと思って意識が消えたようだ。

 

いや、どちらかというと混ざったというほうが正しいのだろうか。不思議とウラノではなく私はマインであるという意識が強い。

 

マインの記憶がどんどん流入してくる。いや、ウラノの記憶がマインに入っているのか。

 

最終的に記憶を整理して分かった話だとどうやらここはウラノの所と比べて相当昔の文化レベルで何もない農村のようだ。

 

そして一番の問題だが、本がない可能性が高い。食事もろくなものがない可能性が高い。

 

少なくともマインの知識ではわからないようだ。

 

結局そのあと三日ほど寝込んだ。どうにもウラノもずっと寝たきりで熱を出していた時があるので、普通の熱に加え全く特殊な何かと混じっているということが分かった。

 

なぜなら特殊なこの熱は動かせるようだ。動かせる熱って何よ。

 

押し込むよりももっと効率の良い方法はないかと思い、熱をきれいに畳んで布団を圧縮袋に入れるかのようにペタンコにしてやったらいい感じになった。

 

 

ちなみに食事はイモ類をものすごく薄めたものしかなくお米大好き並みとしてはがっかりであるが食べ物自体がほとんどない状態のようなので文句は言えない。

 

 

そこから数か月、私は掃除をしたり熱をコントロールしていたりしていたら少しずつ良くなり外を歩く許可が出た。

 

私になってからは外に出るのは初めでマインの知識から覚悟はしていたが唖然とした。

 

 

 

 

周りは崖のような山ばかりになっており、尾根にはとてつもない高さの氷の柱が立っておりまるで牢獄のような風景だ。

 

土地はやせ細っており、唯一まともなのが氷の渓谷から流れ出る水くらいであろうか。

 

豊富とはとても言いがたいけど生活に困るほどではないみたいだ。

 

近くに朽ちかけた立派な建物があった。後で聞くところによると神殿らしい。

 

非常に興味はひかれるがマインの体力は家を出てすこし歩いただけで限界なので戻ろうと私が言うと、すぐ戻ることになった。

 

うーん、私の体弱すぎ。

 

 

 

 

外に出られたのは大きな一歩である。しかし現在進行形でまずい問題がある。この圧縮しまくっている熱をどうすればよいかという問題である。

 

いやね、この熱ってどこまで貯められるのだろうか。爆発とかしないよね?

 

私は少しは成長しているから入れられるスペースも増えてはいるように感じるけどどうにか放熱できないものか。

 

 

 

 

さて、本がないのは非常に残念だが私自身、物語そのものも大好きだ。

 

お母さん(エーファ)やお父さん(ギュンター)にいろいろな話をせがんでみる。

 

ここの地域の雪どけの話など興味深い話が多い。

 

今では一年中氷の渓谷に囲まれているそうだ。

 

この地域ではよく歌われる物語だそうでマインも覚えなきゃダメよと言われた。

 

ついでにお母さん(エーファ)ついでに周りの情報もいろいろと聞いてみた。

 

なんでもここはエーレンフェストの北のはずれハルデンツェルというところで山向こうにはクラッセンベルクという所があるとのこと。

 

もともとクラッセンベルクとの国境へ向かう迂回路として使われていたが突然氷の渓谷に囲まれ出られなくなってしまったとのこと。

 

そのため神官がこれなくなり祈念式等大事な神事が行えなくなってしまったとのこと。等話してくれた。

 

姉のトゥーリとかに聞いても子供の感覚でも農作物の収穫は減っておりどうなるか不安だということだ。

 

お父さんも昔は警備兵として常駐していたが、今は獣を狩る猟師としての仕事ばかりみたいだ。

 

さて、少しでもこの世界の情報収集しなければ。

 

マインは動くことがほとんどできなかったようで情報がまったくといってないのだ。

 

とりあえず、この動く熱は放置するにはあまりにまずい気がする。

 

最近は少し油断するとすぐ体に伝播し倒れかねないので気を張ってばかりだ。

 

とりあえずすぐ近くになら外出してもよいと許可を得た。今回は幼馴染のルッツがわざわざついてきてくれるようだ。

 

「なんで、神殿なんかみたいんだ。中は大したものないぜ。」

 

「何もなくてもいいの、見たことないから見てみたいだけだよ。」

 

知っている情報を実際に見る情報は違う。

 

情報は直に得なきゃダメなのだ。ウラノも本ばかり読んでいたが知識だけでは役に立たないことが多かった。

 

寂れた朽ちかけの教会に入る。おそらく以前は神事とかに使われていたんだろうけど今は見る影もない。

 

なんとなく日本人の癖でウラノの感覚で手を合わせてみる。とそこで感覚が反転した。

 

「おい、しっかりしろマイン。」とルッツの必死の声が聞こえた気がする。

 

うーん、ルッツ、あと10分...。

 

あつい、うん、あつーい。

 

相変わらず体は重く動かない。

 

「やっと起きたわね。最近調子よさそうだったから油断したわね。」

 

お母さんが心配そうにのぞき込んでいる。どうやら私は倒れたようだ。

 

そういえば、動かせる熱はどうなっているだろう。抑え込んでたのが暴走とかでないといいけど。

 

幸い動かせる熱は特に暴走していないようだ。

 

というか気持ち減っているような気がする。

 

また結局三日間寝込んだ。三日間寝込んだら動かせる熱が膨張しだした。

 

教会へ行ったら熱が減った感覚もあるので教会を掃除したいという口実で頼み込むも。

 

「だめだ、また倒れたらどうする。」

 

「お願いお父さん、絶対に無理はしないから。」

 

結局すぐに結論はでなかったのでルッツ家の掃除を手伝ったりいろいろ媚びを売りまくったら最終的にはお母さんも私の熱意が通じたのか。

 

「神様は大切だし、お祈りしてきなさい。必ずルッツ君を連れて行くのよ。」

 

というわけでルッツはとばっちりである。

 

 

「まったく、前回倒れたっていうのに何が気に入ったんだ。」

 

「せっかくだから、きれいにしておけば神様が帰ってくるかもしれないでしょう?」

 

「まあ、この間うちもきれいにしてくれたお礼もあるからこのくらい付き合うけどさぁ。」

 

周りが汚すぎてすっかり掃除の習慣が身についちゃったなぁ。

 

この体は弱すぎるから少しでも対策しておきたいだけとはいえ...。

 

 

 

前回と同じく入り口で手を合わせてみる。気のせいかもしれないけど少し熱が外へ出た気がした。

 

そこから掃除を開始する。

 

長らく放置されてたらしい割に内装はそこまで汚くなく、思ったよりスムーズに進む。

 

最後にご神体の前の杯に触れると杯が光り熱が一気に持ってかれた。

 

慌てて離すと何事もなかったかのように元に戻った。

 

ルッツは特に気が付かなかったようで今日はここまでにして帰ろうとという話になった。

 

 

 

 

「祈れ、祈れ、汝が道を望むならひたすら祈れ。さすれば聖典より導きが得られるであろう。」

 

神殿をきれいにした夜中に変な夢をみて、目を覚ましてしまった。

 

結局掃除し疲れたのかまた二日ほど寝込んでしまった。

 

水が飲みたくなってなかなか動かない体を引きずって台所へ向かうと、

 

 

「ねえ、あなた、今年の冬は越せるかしら。あそこの家族ももう生きていけないから山越えを敢行しようなんて話が出ているけど。」

 

「だからといって、マインを置いていくわけにはいかんだろう。それに関係なく最近は手ごわい魔獣がたくさん出てきて危険だ。」

 

え、どういうこと。

 

私は扉に耳を当て会話を聞き逃すまいと話を聞き続ける。

 

「もう魔獣のせいで自警団もけが人だらけで、魔獣を倒してくれる貴族様もいないし、明らかに食料が足りないわ。それに神官様がここ三年も来てくれていないせいで作物も全然育たない。どうしたらいいの。」

 

「何とかなる。いや俺が村ごと守って見せる。」

 

周りを見ても死んだような土地だなとは思っていたけど想像以上に悪いらしい。

 

私は私のできることをしよう。

 

夢だろうが何だろうがやってみよう。

 

あの夢も神の御導きかもしれないしね。

 

ウラノなら神、いるわけないじゃんという風にしか感じなかったと思うけどこれほど厳しい自然に囲まれると感じるのか、それともマインの感覚なのか大いなる意思を感じる。

 

まあ、気のせいかもしれないけどね。

 

次の日から、あらゆるものに祈りを捧げた。

 

家族は仕事で外へ出て基本的にいない時間も多い。

 

神殿にも足しげく通った。

 

神殿でお祈りをすると熱を多少持って行ってくれる。

 

祈るものも様々でよく見ると壁や地面天井にいろいろな神様の絵が紋章のようなものがありそれぞれ別々に熱を持って行ってくれるので非常に助かる。

 

ちなみに祈りで一番持って行ってくれるのは中央部にある闇と光の神の像だ。

 

杯もあれから何度か触れているけど熱は何度も持って行ってくれる。ただし一日一回までのようだ。

 

残念ながら何度熱を追いやっても次の日には使った以上に熱が回復しているので、圧縮するのが大変なんだけどね。

 

とはいえ放出できる分以前よりは格段に楽にはなった。

 

まとめて圧縮すればいいだけだしね。

 

さらに熱の塊を煮詰めるかのようなイメージで圧縮することによってだいぶ楽になった。

 

祈りを毎日繰り返すと神殿に変化が出てきた。

 

 

驚いたことに明らかに朽ち果てていたはずの建物がきれいになり、内装も輝きを取り戻し、神殿の周りだけ植生が豊かになってきたのだ。

 

さすがにここまで来ると大人も無視できなくなり大人の会議に呼び出されることになった。

 

「祈っているだけだと。ではマインは神のご加護でもついているというのか。」

 

結局話し合いだけでは何も進まないので大人たちが私の日課に着いてくることになった。

 

「マイン、本当に他のことはしていないんだな。」

 

お父さんに何度も確認されても私としては掃除とお祈りしかしていないのだ。

 

なんでもお父さんはこの街の警備や狩猟を取りまとめている代表代理みたいな立場らしい。まあ、村らしく一番偉いのは長老衆みたいだけど。

 

以前はちゃんとした管理する貴族がいたけど死んでしまったらしい。

 

次の日いつも通りお祈りし、最後に杯に触れ熱を持って行ってもらうと周りの大人から、「まさか」「そんなことは」という声が聞こえだした。

 

「これはまるで祈念式ではないか。」

 

そうだ、そうだ、試しにまいてみよう。

 

という話になった。えっと、まくといっても一日たてば消えるものをまいても効果があるのかなぁ。

 

ついでにこれはまいて大丈夫なものなの?

 

結論から行くと大人たち的には失敗したらしい。

 

杯を持って外へ出ようとするといつも通りに輝きが消滅してしまったからだ。

 

あまりのうなだれかたにさすがに首をかしげてしまった。

 

「いいか、最後に行われたのはマインが生まれてすぐだから覚えていないだろうが祈念式という大事な儀式があってだな。それが行われないと食料が十分に育たないんだ。それで今回マインが行ったのはそれに非常に近い状態の現象が起こったんだ。」

 

そのあと、私は仮の神殿の管理者となった。

 

 

 

「祈れ、祈れ、汝が道を望むならひたすら祈れ。さすれば聖典より導きが得られるであろう。」

 

ここのところよく見る夢。聖典って本だよね。本ほしいなぁ。本当に導いてくれたらいいのに。

 

最近は神殿の周りで農作物が作られるようになった。

 

異常に早く育ちとてもおいしいのだけど、毎日祈っても豊かな範囲は広がりを見せない。

 

けど絶望的状況から光が見えただけでも家族の顔が変わった気がする。

 

神殿はますますおかしなことになっている。どんどん輝きが増していて、いかにも神様がいるというような感じでさびれた村には明らかに分不相応だ。

 

というか、教会でため込まないで教会の周りのように周りも豊かにしてくれればいいのに。なんて思ってもうまくいかないわけで。

 

最近変わってきたことといえば、頭の中に勝手に知識が入ってきているということだ。

 

おそらく祈りの関係だろう「火の神 ライデン..フトが眷属 武勇の神...皆に...」といっても歯抜けだらけだけど。

 

知識...本読みたい。こんなところじゃかなわないのはわかっているのだけれど。

 

それに生活でいっぱいいっぱいで食料とかのほうが優先度は高い。お米食べたいなぁ。それ以前にまともな食べ物がないけど。

 

 

 

そんな生活が続きしばらく問題はなかったのだけれど、

 

「魔獣の大軍が来たぞ!」

 

凶報が村を巡ったのでした。

 

 

 

 

「柵が破られたぞ」

「クッソ、けが人だ。」

 

いつの間にか神殿が避難所となりみんなここに集まり防衛線を構築することになったらしい。

お父さんや村のみんながここへ戻ってくる。

 

なぜか魔獣は神殿の外側をぐるぐると回るも中に入ってこない。

「ああ、神様、闇の神、光の神我々をお助けください。」

 

何もできない女性や子供が祈っている。

 

「神殿の巫女様大丈夫だよね。巫女様が祈れば奇跡が起きるってお兄ちゃんたちが言ってたよ。」

 

えっと、病気がちで寝てばっかりの私に言われても困るんですけど。というか恐怖で気絶しそうです。

 

まあ、なんか祈ってるぼいことすれば安心するかな。と思っていると

 

「ギュンター!!」

 

え、まさかお父さんが。

 

お父さんが見るからに重症と思われる状態で担ぎ込まれてきました。

 

「おとうさん!おとうさん!」

 

トゥーリは泣き散らしてお母さんは逆に冷静になっているようです。

私も頭が真っ白になりました。

 

「すまん、私はここまでだ、皆の者後は頼む。」

 

何か必死にお父さんが言っているのが聞こえます。

 

その時、頭に勝手に呪文が浮かびました。

 

「ルングシュメールの癒しを」

 

お父さんや周りのけが人だけでなく村全体に光が飛んでいきます。

 

「火の神 ライデンシャフトが眷属 武勇の神アングリーフの御加護が皆にありますように」

 

なぜこれらの呪文が出てきたのかはわかりません。ごっそり熱を持ってかれたのはわかりましたが、何が起こったか確認をする前に意識が飛んでいきました。

 

 

 

 

突然マインが何かつぶやくと2色の光が飛び出し村一面に降り注いだ。

 

致命傷でもう駄目だと思った俺の体はまるで何事もなかったのような、いや、まるで若返ったかのように軽くなり周りにいたけが人これまでケガしていたもの含め全員の怪我が治っている。

 

みんな驚き、倒れたマインを心配するもこの場にいるものを助け出すほうが先だ。

 

不思議な高揚感の中、エーファとトゥーリにマインを任せ魔獣へ向かう。今まで苦戦していたのが信じられないくらい魔獣の動きがゆっくりに見えいとも簡単に切り伏せていく。

 

殲滅にさほど時間がかからず、全部倒しきると緊張の糸が切れたのかみんなへたり込んでしまった。

 

 

 

 

 

 

魔獣騒ぎから私に対するみんなの態度が変わった。

 

巫女姫様、巫女姫様...ひゃっほう神殿管理人からグレードアップだねって、やめてー。

 

家族は、からかいついでに巫女姫様なんて言うことがあるけど、

 

それなりによく一緒にいるルッツもまじめに巫女姫様なんて言い出したから泣き顔で抱き着いて辞めさせた。ほんと勘弁してよ。

 

ちなみにこの村の人たちはあの奇跡のようなことがあっても腹が座っているのか魔獣を効率よく保存食へ変えていったらしい。

 

わたし?ちょっと見ただけで気絶ものですよ。それ以前に3日以上寝ていたらしいけど。

 

おかげで今年は無事に冬を越せそうだと村全体が明るさを取り戻したようだ。

 

あと、なんか私からみんなに光が降り注いだらしいけどみんなものすごく強くなったらしくて魔獣を倒せるようになったと喜んでいた。

 

私の生活は相変わらずでルッツやトゥーリを付き合わせ神殿と家を往復。そのあとは家事を手伝ったりいろいろした。

 

いろいろな編み物のアイデアを出したら喜ばれた。

 

以前みたいに交易があれば売れるのにねぇとお母さんは残念がってたけど。

 

そんなこんなで神殿に通い続けたらある日、ガタンと音が鳴った。

 

「おい、マイン。なんか地下通路が出てきたぞ。」

 

教会の端のほうに落とし穴のような穴ができているのをルッツが発見した。

 

どうやら地下通路のようだ。

 

「ちょっと見てくる。」とルッツが入ってみるも

 

「なんか、透明な壁があってはいれねぇ。」

 

少なくともそこまでは安全なのかということで私も行ってみるねと言って行くとすんなり先へは入れてしまった。

 

ルッツに奥まで行ってみると断って行ってみると、

 

「なに、ここ。」

 

行きついた先には小さな部屋があり、すべての品が色褪せていましたが、でかい杯に槍に盾にマントに剣、冠が目に入ってきた。

 

そして

 

「本だ!」

 

魔法陣みたいな変な模様の上に本が置いてあった。

 

とりあえず、本だけを持って戻ってきた。

 

「ルッツ、ルッツ本だよ本!」

 

うわあ、うれしすぎる。文明の輝き、あ...

 

急に熱くなって意識を失った。

 

 

 

さて、私ことマインは今非常に残念な状態にあります。何が残念かって。

 

「文字が読めない...。」

 

せっかく本を手に入れたはいいけど読めない。読めないんだよ。

 

村人に聞いて回ってもらったけどお父さんがほんの少し読めるだけで無理。

 

グスン。この本、たぶん聖書だと思うけど読みたい、読みたい、よみたーい。

 

だって、こっち来てから初めての本だよ。うう、読みたい。

 

ちなみにこの本も特殊な本らしく熱を持っていく。変な魔法陣が勝手に浮かびイメージがわくけど読めない。

 

いやなんとなく書いてあることはわかっちゃうんだよ。

 

祈れば上の最上の立場へ行けるというようなニュアンスに感じるから、

 

要は祈れば天国へ行けるってことでしょ。

 

今は天国よりお米がほしい。他の本でもいいよ?

 

とにかく祈れ祈れって、まあ、いままで祈っていいことしかないから祈るけどね。

 

ちなみにあの通路は勝手に閉まっていて同じところ調べても開かないんだけどどうなっているのだろうか。この熱と何かしら関係があるのだろうけど。

 

 

「ルングシュメールの癒しを」

 

なんと、傷を治すことができるようになりました。いやね、魔獣に襲われたとき似た現象を起こしたらしいけど覚えてないのですよこれが。

 

毎日この本を見て熱を流してやっていたらはっきりと頭に浮かんできたのです。

 

他の言葉も浮かびそうで浮かばないのだけれど。このまま続ければいけるんじゃない。

 

この本何なんだろう。熱を使うと真ん中の赤い宝石が光るんだよね。

 

そんな時、私のもとに一人の急患が運ばれてきました。

 

「ルングシュメールの癒しを」

 

とてもひどい状態でしたが何とか治療が間に合ったようです。

 

「この人村の人じゃないよね。」

 

「ああ、この状態になって初めて外から人が来た。回復したら事情を聴こう。」

 

回復するのには時間がかかりそうなので私は日課へ向かうこととした。

 

 

「マイン、いるか。」

 

日課を終え家で休憩しているとお父さんが呼びに来た。

 

「お前が救ったユストクスという男がぜひ直接お礼を言いたいといっている。まあ、問題はなさそうだから気が進まなければ会わなくてもいいがどうする。」

 

「ぜひ、外の話が聞きたいです。」

 

ということで、旅人に会うことになりました。

 

「ユストクスと申します。あなたが治療してくれたマインですか。」

 

なんでも救ってくれたお礼に何かできればいいとのことなので、

 

「文字が知りたいです。」

 

「文字ですか。基本文字位ならすぐ教えられますが。」

 

「神殿から、この本が出てきたのですが全く読めないのです。なんとなくニュアンスはわかるのですが。」

 

男は少し苦笑いをして

 

「私は神殿についても少しはわかりますよ。よろしければ少しお教えしましょうか。」

 

「うぁあ、うれしい、ありがとうございます。早速なんですけど。」

 

「こら、マイン落ち着きなさい、いくらけがが治ったからと言ってまだ体力が戻ってないでしょう。」

 

「はぁい」

 

結局我慢できず、次の日から質問攻めにしました。

 

基本文字も覚えられて本も得られて満足です。

 

ちなみに本は聖書でも問題ないとのことですが、正確には聖典だそうです。

 

神殿で行う儀式についても教わりました。

 

祈念式のやり方がわかったよ。

 

春にやらないとダメなんだね。

 

「ところで巫女姫様がこの神殿を直したと聞きましたが。」

 

「えっと、なんか祈れと言われたのでひたすら祈ったら気が付いたらこんな感じです。」

 

「あと、巫女姫様、何か熱に食べられている感触があったりとかしたことはありませんか。」

 

「わかるんですか!毎日悩まされているのですよ。お祈りするたびに楽にはなるのですが。」

 

「その病気に関しては、しばらくは大丈夫でしょうね。今まで通り神殿で祈りを欠かさずにされていればしばらくは大丈夫でしょう。」

 

「そうなんですか、詳しい方に話を聞けて良かったです。」

 

「それでは、巫女姫様は非常に興味深くもっと話していたいのですが私は帰らなければなりません。病弱でなければ主のところへ一緒に来てほしいくらいですが。」

 

気が付けば7日以上も彼は滞在していました。結局寝込んでまともに話を聞けたのは2日くらいでしたが。

 

「その、大丈夫なのですか。ここらへんは険しい山道しかないですし、魔獣がたくさんいますけど。」

 

正直とても心配です。地元の私たちですら超えられない山々なのですから。

 

「想像をはるかに超えていましたが何とかなります。」

 

「そうですか、わかりました。せめて無事帰れるように祝福を送りますね。」

 

「巫女姫様の祝福ですか。ありがたいですね。」

 

と興味深そうな表情でしたがすぐに驚愕した表情に変わります。

 

呪文は特に唱えませんでしたが聖典を通して祝福を送ると美しい色の祝福がユストクスへ降り注ぎました。

 

 

 

 

町の人は、おお、巫女姫様の祝福だ。とのんきに話しています。

 

「驚きました。これほどの祝福を頂けるとは安心して帰れそうです。」

 

「教えていただいたお礼です。でも、無事に帰って今度はこんな場所に迷い込まないでくださいね。」

 

「はは、また来ます。」

 

「いや、来ちゃダメですってば。」

 

ひょうひょうとした雰囲気で彼は山へ帰っていきました。

 

 

 




原作よりも約一年早く始めたつもりですがもしかしたら矛盾があるかもしれません。

ちなみにこのマインは死んでいません。まあちょっとは影響を受けていますが。


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2話 お偉いさんが視察に来ることになったらしい

さて、大収穫です、何が大収穫かって、ユストクス様々です。

聖典が全部読めるようになった。しかも記念祭を迎えずに収穫場所を回復させる手立てが手に入ったんですよ。

 

水の神フリュートレーネ万歳、ついでに聖典も読めるようになったから英知の女神メスティオノーラ万歳。

 

ちなみにこの動かせる熱は魔力なんだって、やっぱりウラノの世界のファンタジー的な何かだったんだね。

 

 

さて、ようやくご飯改造計画です。

 

「おい、マイン本気でやるのか。」ルッツ他巫女姫として慕ってくれるほかの子たちも半信半疑です。

 

ふふっふ、細々としたところにもイネ科植物はたくさんあるんですよ。これを見たとたんもうするしかないでしょう。

 

お米食べよう。

 

だって、イモ類しかないんですよ、ここ。

 

というわけでこの便利なお熱様、最近どんどん増えまくって圧縮が間に合っていないのでバンバン使ってやりましょう。

 

「癒しと変化をもたらす水の女神 フリュートレーネよ

側に仕える眷属たる十二の女神よ 

我の祈りを聞き届け 聖なる力を与え給え 

魔に属するものの手により 傷つけられし御身が妹 

土の女神 ゲドゥルリーヒを 癒す力を我が手に 

御身に捧ぐは聖なる調べ

至上の波紋を投げかけて 清らかなる御加護を賜わらん 

我が望むところまで 御身が貴色で満たし給え」

 

うわあ、金色の稲穂ぽいものがたくさん出てきました。

 

「刈ったけどどうするんだ」

 

さて困りました。

 

稲穂の部分を狩る。昔はナイフより切れない半月型の道具でとっていたので調子に乗ってお父さんに作らせたのですが、いざ全部取ってみますと、

とんでもなく手間!しかも精米するのってどうすればいいんだろう。

 

確か木で組んだ遠心分離機見たいのでやってた記憶はあるけど。

 

あとは餅つきみたいな道具って、ないよ。そんなもの

 

とりあえず、手でむいてみると、うん、いつ食べられるのだろうか...。

 

ついでに、なんか違う。多分これは麦だ、お米が遠いいよぉ...。

 

いやね、米ってウラノの世界の日本には自生していないんだよ。熱帯の植物なんだよ。知ってるよ。

 

でもね、この世界じゃウラノの世界の常識は通じないし、期待くらいさせてくれてもいいじゃん。

 

というわけで労力をかけても何も意味もなく、普段のスープに混ぜられただけでした。

 

ただ、この地域では食べられるほど取れなかったので久しぶりに食べられたとか感謝はされましたけどね。

 

他にもいろいろ探してきてもらいましたが、稲にすらたどり着けませんでした。

 

稲さえたどり着けば氷の渓谷をどうにかすれば水も確保できるしどうにかなるとは思うのですが。

 

だれか稲を。稲が欲しい。ウラノの世界の『稲をぷりーず』だね。

 

うう、呪文使いまくって品種改良しておいしいお米をたくさん作りたかったのに。

 

ちなみに他のみんなは麦で満足して協力までしてくれなくなちゃった。しょぼん。

 

 

さて、秋も終わりに呪文を勢いに任せてやらかしたせいで、一週間も風邪をひいてしまいました。

 

でもこの聖典ちゃんと、熱の圧縮のおかげで何とかなりました。

 

しかしこの動かせる熱もとい魔力って何なんだろうね。ウラノの世界のファンタジーで出てくるやつより不便すぎない?

 

冬は、私がやらかした分と魔獣の肉でこんなに食材が豊富なのはいつぶりか思い出せないとのことです。

 

みんなで冬の館へ移動しました。

 

ただ、冬の館から神殿までは家よりは少し遠く往復がつらいです。基本的には行けるときに行くくらいです。

 

魔力のコントロールはきついですが仕方ありません。

 

ああ、そういえば最近は行くたびに通路が開くので槍とかその他もろもろ熱を吸い取ってもらってきました。

 

なんか無茶苦茶神秘的に変わったのですがまあ、どうでもいいですか。でかい杯?あれって聖杯らしいですね。小さいやつと一緒で放っておくと勝手に放出されるみたいです。

 

さて、そういえば神事について教わりましたし正しい、ええ、正しい祈り方について教わりましたので...。

 

グリコグリコグリコ...。失礼ウラノの知識が暴走しました。

 

みんなこの地では祈るなんて習慣はなくなってしまったらしくウラノの手を合わせたやり方でやっていたのですが、グリコグリコグリコ...。

 

冬の空いている間は、内職に薬作り、どうにも私は薬作りに才能があるようでいろいろ長老のおばあちゃんに教わったりしました。

 

子供たちは寒い日でも木の実を取りに行くといって外へ行ったり遊んだりしているようです。木の実を分けてもらいましたがおいしかったなぁ。

 

毎日何して遊んだとか、夜に聞くのが楽しみでした。

 

さて、春と行っても周りは雪に氷だらけですが聖典より得た知識で洗礼式を行います。

 

といっても聖典に記載されている住民登録用の道具とかはないので、適当に祝詞をあげて、聖典を利用して祝福を送るだけですが、もう何年も行われていなかったらしくお年寄りのなかには涙を流して感動している人もいました。

 

いつも迷惑かけてばかりなので感動してもらえるとうれしいものです。最後はグリコから土下座ですが。みんな一斉にやると息が苦しくなりますよね。体勢的に...。

 

住民登録は結局できていませんがまあ、みんな所詮は村なので家族経営で、基本的に物々交換なので困ったことにはなりませんしね。

 

大人とか働きはじめとかそれぞれに合わせてできることやっているという感じですし。

 

 

そうして祈念式です。

 

聖典によれば雪解けを願い、水の女神を呼び込む歌とのことですが、言い伝えでは狩猟の始まりを示す儀式とのこと。

 

まあ、聖典の条件に合いそうな演説台のようなもののある広場も教会前にあるし、とりあえず聖典通りに小聖杯を置いてやれば問題ないかな。

 

「姫巫女様、このような儀式ができてワシらもとてもうれしい。ぜひとも狩りの始まりの儀式を。」

 

冬の間みんなで共同生活をしていたので、以前のようによそよそしさはなくなってきましたがおじいちゃん方からの姫巫女様って未だに慣れないな。

 

冬の館から出る儀式も兼ねているのでお祭り状態であるのはありがたいけど。

 

「では、お話に聞いていた通り最初は男性中心に儀式をお願いしますね。そのあとで聖典にある通り女性陣だけでも儀式を行ってみますので。」

 

男性側の儀式も私の一声から始まることになりました。

 

「我は世界を創り給いし神々に祈りと感謝を捧げる者なり」

 

みんなで地面に跪いてから歌います。みんなそれぞれの場所からゆっくりと立ち上がります。この何とも言えない一体感はいいですよね。

 

「では、巫女姫様ご提案の女性だけで行うという儀式に移ろうかと思うのだがいかがかな。」

 

まわりは賛成のようなので私は再度跪いてから地面にぴったりと手を合わせ歌います。

 

「我は世界を創り給いし神々に祈りと感謝を捧げる者なり」

 

「深い、深い白の世界に終焉を。全てを排する硬い氷を打ち砕き、我らの土の女神を救い出さん……」

 

繰り返しばかりなので簡単です。ですが、どう聞いてもなんで狩の儀式と首をひねりたくなる内容です。

 

うん、それよりも地面が私の手を中心にうっすらと魔法陣のようなものが浮かんできているのですがどうしたらいいでしょうか。

 

周りは歌に夢中で気が付く気配もないし。

 

「皆の祈りを届けましょう」

 

この村の長老のおばあちゃんが言ったので。

 

「神に祈りを!」とみんなで祈りを捧げると。

 

私を中心にさっきまでうっすらと光っていた魔法陣が浮かびだし私からごっそり魔力を持っていきます。

 

そして小聖杯に向かって飛んでいきました。

 

と、そこで周りの女性がバタバタと倒れていきました。当然お母さんも倒れていたのを見て私は真っ蒼になりました。

 

急いで男性が女性を救護します。ただ、寝てるだけのようなので特に問題はない模様でしたが当然祈念式は終了しました。

 

幸い私はこの時は特に問題はなかったのですが儀式疲れか5日も寝込むことになりました。

 

周りのみんなはぐっすり寝れたとか言って次の日には私の見舞いに来てくれるほど元気でした。

 

 

さて、儀式が終わった後の話です。毎日雷と突風がすごく冬の館での共同生活は継続しました。

 

なんといっても雷だけでなく、まるで山が崩れたようなとんでもない音が鳴ったり外はひどい有様の様です。

 

誰も外に出ることはできず一週間もそのような状態が続きました。

 

 

うん、何と言ったらいいんだろうね。夢じゃないかほっぺをつねってしまいました。

 

だってねぇ。儀式前は周りは雪だらけだったのに青々とした芝が生え水が川に豊富に流れており、一年中凍っていた氷の渓谷は消滅していました。

 

昔にあった山道と思われる道が復活しており、お隣の町まで普通に行けそうです。

 

さらに山では様々な木々がすごい勢いで成長を始めました。

 

みんなが急いで畑仕事を始めました。

 

いままで狩猟をしていたものは狩猟に加え山菜や、木の実を取ってくるようになりました。特にブレンリュースという木の実がとてもおいしく、本来あまり生えていない木らしいのですがかなりの本数が育っており異常な状態だそうです。

 

おとうさんはここ何年も閉ざされていたせいで行けていなかったギーベのいる町に報告に行くといって若者数人連れて出かけていきました。

 

ギーベというのは一帯をまとめている貴族のことだそうです。

 

私も、神殿のお祈りがすんだ後は畑仕事に精を出したといいたいですが体力がなさ過ぎて無理でした。

 

まあ、こんな所に来る人も少ないでしょうし。冬に習った薬作りや次の儀式の準備でもして待ちますかね。

 

 

 

次の儀式といえば成人式だけど村じゃ成人する人いないし今まで成人式を開けなかった人にまとめて行ったほうがいいのかな。

 

聖典の祝詞を読んで祝福を上げるだけだし大したことないな。もう聖典の中身は見なくてもすべて頭に入っているし。

 

まあ、あの魔法陣は解せないけど。王になりたい人なんてたくさんいそうなのに祈ればかなうとか変なの。

 

そんなこんな考えながら数日たったら、お父さんが帰ってきました。

 

「ただいま帰ったぞ。」

 

「おかえりなさい、あなた、外はどんな感じでしたか。」

 

「昔と変わらんで安心した。山超えたらまだ雪景色でこっちとは大違いだがな。」

 

そとかぁ、どうなっているのかなぁ。まあ、近くにしか出歩けない私には関係のない話なわけだけど。

 

今まで閉ざされていたということは、村そのものが忘れられていた可能性があるわけで報告された人は混乱しないのかな。

 

閉鎖した村に外から人が来るとよく混乱のもとともいうしいやな予感がするなぁ。

 

トゥーリは夢中でお父さんに聞いているのを私がボーとしながら聞いていると

 

「それでだな、なんとギーベ直々に数日後視察に来るらしい。基本は大人達で対応するから特にマインは外へは出ないように。」

 

まあ、そうするのが無難だよね。

 

この村では私が儀式で利益を出しているからなんでもないけど、お父さん曰く教会は孤児が働くのが一般的で外ではよく思われていないらしいからね。

 

それに私中心に儀式したらこんな状態になったなんてマインの記憶のある限り氷の渓谷だったのにそれが様変わりしたわけだからやっぱり異常事態なんだろうね。

 

 

 

 

ギーベが来るまでまだ、一週間かかるということなのでそれまでは自由となった。

 

神殿に魔力を奉納し、まだまだ魔力があるのでうちの畑に呪文をかけたりしました。あっという間に野菜が育っていくのを見るのは楽しい。

 

今までおなか一杯食べるなんて考えられなかったけどフリュートレーネさま、ゲドゥルリーヒさまに神に祈りを!という感じだね。

 

魔獣もなんかたくさん出ているらしく、毎日のようにルングシュメールの癒しと武勇の神アングリーフの祝福を使いまくっているけど回復するほうが多いとか。

 

魔石も倉庫にものすごい量になっているそうで領主に献上しようかという話になっているらしい。

 

順調にいい方向に向かっているなぁ。去年は餓死するなんて言っていたのがウソのようだ。

 

そんなこんなでお父さんが帰ってきてから四日ほどたったある日、日課である神殿の掃除をしていると珍しく人が入ってきました。

 

最近朝一でお祈りは皆さんでやれるときにやろうという、私以外は緩い感じになっていますが、昼近くにもなって人が入ってくるのはとても珍しいのです。

 

さて、見た感じいい布を使った旅人らしくない格好です。そもそも外から人が来ればすぐ騒ぎになりますしここまでどうやって入ってきたのでしょうか。

 

ギーベという人が来るには一人というのはおかしいですし。

 

「この神殿を管理しているのは君か?」

 

なんていろいろ考えているとさっきまで入り口にいた人がいつの間にか目の前にいます。心臓に悪いです。

 

「旅人さんですか、長老に御用でしたら案内しますけど。」

 

ふう、びっくりした。外の人は神殿を疎んでいるって言っていたから興味ないと思っていたのだけど。

 

「もう一度だけ聞く、この神殿を管理しているのは君か?」

 

何なんだろこの人、さっきより少し高圧的に聞いてきた。どう答えたらいいのだろうか。万が一お偉いさんだったら怒らせたら村ごと処分とかないよね。

 

「掃除などは私が基本的にしています。」

 

うん、嘘は言っていない、掃除はしている。とりあえずへりくだっておいたほうがいいのかな?でも余計なことは言わないほうがいいと思うし。

 

「掃除も終わりましたのでどうしますか、中を見ていくということでしたら入り口の椅子で待たせてもらいますが。」

 

嘘ではない、もう地下室の奉納も終わったし、神殿の掃除もほぼ終わった。そもそも奇麗なだけで全然大きくはないしね。

 

周りの植物は勝手に適正な大きさになるのか剪定とか一切必要ないし、いろいろな種類の植物が実をつけたりして見た目もきれいでおいしいしね。

 

実が再度つくサイクルがものすごく早いのはまあ、きっと魔力のせいだよね?

 

さて、この人反応ないし、疲れたので入り口付近の椅子でボーっとする。近くで案内などしたほうがいいのでしょうが体力が持ちません。

 

最近は聖典パワーで魔力を体中に回して肉体を無理やり強化してこのありさまだしね。

 

それにしても熱心に見ているなぁ。まあ、そこまで危険そうな人ではないし、ゆっくり待ちますか。

 

そのままゆっくりしていたかったのでけど、

 

「おーい、マイン急患だ。また魔獣にやられちゃったみたいでやばいんだ。すぐ来てくれないと困るから背中に乗ってくれ。」

 

おう、ルッツタイミングが悪いよ。旅人様どうしよう。仕方ない、

 

「旅人様、ちょっと用事があるので席を外しますね。」

 

聞こえているのやらいないのやら。どのみち時間がないので急いでルッツのところまで行き背負ってもらいます。

 

「ルングシュメールの癒しを」

 

どうやら山の近くで遊んでいた子供たちが大けがを負わされたそうです。

 

聖典ちゃんを通して癒しの祝詞を捧げます。

 

大人たちも何名かかなりのケガを負って戻ってきました。子供たちをかばったのでしょう。

 

「巫女姫様、敵が強すぎます。」

 

祝福は重ね掛け出来るのでしょうか。別の祝詞にしたほうがよさそうですね。

 

「炎の神 ライデンシャフトが眷属 狩猟の神 シュラーゲツィールの御加護がありますように」

 

アングリーフ様の祝福が消えたりしないよね。うん、大丈夫だよねきっと。

 

「風の女神 シュツェーリアが眷属 疾風の女神 シュタイフェリーゼと忍耐の女神 ドゥルトゼッツェンの御加護がありますように」

 

こっちは正直プラシーボ効果でしょうが。まあ、祝福の事実があればいいでしょう。ケガはしにくくなるはず。

 

「ありがとうございます、これでまだ戦えます。」

 

子供たちと一緒に戻ってきた若者たちは急いで戻っていきました。

 

お父さん無事だといいけど。所詮戦う力がない私は無事を祈ることしかできません。

 

と、後ろから旅人さまが来ました。

 

ちょうどよかったと、残ったおじいちゃん集に旅人さんの案内をお願いしたのですが、

 

「いや、結構。知りたいことはわかった。失礼する。」

 

というと、魔石を取り出し、魔石が獅子のような動物に変化しました。そして何も言わず乗って飛んで行ってしまいました。

 

何だったんだろうねほんと。

 

結局そのあとも戻ってきたけが人の対応に追われて疲れました。これは三日間コースだな...。

 

すっかり寝込んだせいでこの時の旅人様は記憶の彼方へ行ってしまいました。

 

 

 

何とか体調が戻ったのがギーベの訪れる日とのことで周りがバタバタしていました。

 

窓から見るとずいぶん大所帯ですね。いろいろな動物に乗って空からたくさんの人が来るのが見えました。

 

そういえば、あの旅人様も獅子のような動物に乗って空飛んでいたし外では普通の乗り物なのですかね。

 

まあ、体調も戻り切っていませんし、朝イチで最低限の魔力の奉納を終えましたし、お母さんも今日くらいはゆっくりしましょうという話になったので布団で聖典片手に横になります。

 

うふふん、何度読み返したか分からないけど本はいいなぁ。

 

小難しい話はおじいちゃん方が勝手にやってくれるだろうし、体力のない私は無関係。

 

なんて思っていたときも私にはありました。

 

 

 

 



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3話 なんか養子に出されることになったらしい

結局ギーベとの話し合いに行ったまま、その日は帰ってきませんでした。

 

おかあさんも、遅いわね。なんて言って心配そうです。

 

そもそもギーベがこの村に来ること自体が異常事態なのでしょうが。

 

おじいちゃんおばあちゃん勢に聞いた話だとこの村が閉ざされる前もいつ来たか覚えてないそうです。

 

このままでは狩りに影響が出るし早く帰ってくれないかなぁ。

 

というか、お父さんとか失礼なことして村ごと罪が問われるとかとんでもないことにならないよね。

 

結局お父さんがとても疲れた顔をして帰って来たのはさらに次の日の夜でした。

 

「おかえりなさい、会議はどうだったの。」

 

「おう、トゥーリもマインもいい子にしてたか。」

 

いつものお父さんぽいけどなんか違和感あるな、何か言われたのかな。

 

「お父さんは、お母さんとちょっと話があるからトゥーリもマインも早く寝なさい。」

 

そういってフロアから追い出されました。

 

何かあったのかな。心配だねと言いながらお姉ちゃんと部屋へ戻りました。

 

 

 

 

次の日、久しぶりの家族揃っての朝食です。

 

「そういえば、お父さんギーベは帰ったの。そろそろ神殿に行きたいのだけど。」

 

「今は絶対に行くな、いいか絶対にだぞ。」

 

なんでかわからないけどすごい剣幕で言われました。

 

と言われても今はまだ魔力の圧縮でまだまだ頑張れるけど気を抜くと危ない感じになってきているので早めに放出したかったのですが。

 

お父さんに怒られたのに加え、魔力対策のことを考えるとしょんぼりだよ。

 

「それで、お客様はいつまでいるの?」

 

トゥーリも天気はいいのに家の畑までしか外出の許可が出ないので少しイライラ気味です。

 

結局まだいるそうですがそろそろ帰りそうとのことです。

 

まあ、当然ですよね。こんな何もない村に何日もいること自体が異常だもんね。

 

その日の夜、お父さんが家族を集めました。何か話があるようです。

 

「実はな、トゥーリとマインに話しておかなければならないことがある。理解できるかはわからないが特にマインはしっかり聞いてくれ。」

 

うん、何やらめんどくさい話になりそうです。

 

まず、お父さんの出自についての話で、前ギーベライゼガングのお兄さんの直系らしい。

 

ちなみにライゼガングというのは南のほうで農業が盛んな地域なんだって。お米は...きっとないよねぇ。

 

それで前ギーベライゼガングのお兄さんの子の一人が貴族になる資格がない状態で生まれてしまったので、平民に追放されたらしい。

 

この追放にも、アーレンスバッハってお隣の大きな国から来た勢力があってわずかにも弱みを見せられなかったとか何とか。

 

そもそもこのエーレンフェストっていう領地についてすら全くわからないのにそんなこと言われてもねぇ。

 

それがお父さんのお爺さんで、お父さんまではライゼガングに住んでいたそうなんだけど、

 

お父さん自身は警備兵としてとても優秀だったらしく、エーレンフェストへ栄転し、そこでお母さんに一目ぼれ。

 

口説き落としたはいいけど、まじめな性格が災いし、貴族に目をつけられてこちらの辺境に飛ばされてしまったのこと。

 

私たちは、こっちに飛ばされてから生まれたらしい。

 

と言われても正直フーンだよね。他の人に比べてやけにお父さんのケガが少ないと思ったけどやっぱりお父さん優秀だったんだね。

 

どうこう言ったってもうただの平民じゃん。なんでこんな話聞かせるんだろう。

 

何かこの後話の続きでもあるのかなと思ったけどこれだけ話すといつもの家族会話に戻りました。

 

うーん、まあいいや。いやな予感がしますがあえてふたをすることとします。

 

その日の昼にギーベたちは帰ったとのことなので急いで神殿へ。

 

いくら畳んで圧縮しても魔力が溢れてくる状態なので奉納しなきゃ。

 

なんか魔力奉納しすぎたみたいで、変な魔法陣が起動して光の柱がたってるけど大丈夫だよね。

 

神殿の中だから外には見えないよね、きっと...。

 

 

 

 

さて、道も開通したお陰か旅商人もちょこちょこ来るようになりました。

 

みんな食料をメインに買っていきます。

 

お米や本について話を聞いてみますが、全くわからない模様です。

 

どうにもここら辺一帯はどこも食料不足らしくここ何年もひどくなる一方だと言う話です。

 

かごとか服とかお母さんの内職品は全く売れません。

 

商売でどうこうするのも難しいことがわかりました。しょんぼりだよ。

 

まあ、村の経済って村だけで回せるようにできてるからね。しょうがないね。

 

ちなみに旅商人も話を聞いてくるとここに来るのは命懸けらしいです。

 

周りに魔獣が強くてとても多く加えて雪が溶けきっていないとのことで大変とのこと。

 

大怪我して運ばれる人もいて祝詞をかけて回復させたりしましたが、基本的にユッタリとした時間が流れていきました。

 

 

 

 

そんなときにギーベから召喚状が、届きました。

 

内容としてはギュンター及びその家族は全員でギーベの館へ来ること。今から三日後に迎えが来るとの内容でした。

 

「お父さん、これって私もいかなきゃいけないの?」

 

外には興味はあるけど体調を考えると不安です。お引っ越しとかなるのかなぁ。

 

なんて考えているとお母さんが、

 

「家族揃ってギーベの館に来いだなんて、最低限のマナーは教えとかないと不味いかしら。と言っても、私も余り詳しくはないけれど。」

 

お母さんは、どこか品があるとは思っていたけどやっぱりいいところの出なのかな。お父さんについては聞いたけどお母さんについては聞いたことがありません。

 

「いや、貴族と平民じゃマナーは全然違うからとにかく無礼な真似をしないようにするしかないだろう。」

 

最低限、失礼のないようにいろいろ教わりました。

 

 

それで、迎えが来ると言うから馬車でも来るのかなと思ったらあの魔石でできた獣に乗った人が5名ほどで来ました。

 

うちの前でお出迎えしました。お父さんに習って家の前で頭を地面につけて声がかかるのを待ちます。

 

どこの戦国時代。不用意にあげたら死刑とか言わないよね。内心ガタガタしてました。

 

代表者と思われる方が私にゆっくり近づいてきて、ひょいっと抱き上げると。

 

「そなたが、ギュンターと、エーファが子のこの神殿のを管理しているもので間違いないか?」

 

何ですかこの展開。これは嘘ついたら死刑コース??

 

心の中で半泣きになりながら、

 

「掃除とかお祈りをいつもしていると言う意味でなら私が管理しています。」

 

と私が言うとウムウムといった感じになり、

 

「ではギュンターよ、この子を先に借りていくぞ。」

 

え、なにいっているのこの人。

 

「お待ちください、マインはとても体が弱く。」

 

「ではマインとやら行くぞ。」

 

え、あの何て言っている間に魔石の獣にのせられました。

 

待ってよ。お願いだからお父さんの話聞いて。

 

願いむなしくそのままお空へ、お空でほっぺをつつかれ、ぷひっとなけなんて理不尽な命令を実行されながら雪解けが始まったばかりの大きな館につれてかれました。

 

 

「アウブ、お戻りになられましたな。おお、この子が噂の、確かに見ただけで魔力に溢れているのがわかるな。」

 

なにやらガヤガヤいってますが私はヘトヘトです。熱も上がって来ている感じがあります。

 

もう無理、なにがなんだかついていけません。気がついたら意識が落ちていました。

 

 

 

ふかふかのベッド、とても懐かしい気がします。あれ、ここどこ。天国とか言う落ちはないよね。

 

マインさま、起きられましたね。お加減はいかがですか。

 

使用人の方かな、は、そういえばいきなり拉致されてそれからどうなったんだっけ。

 

お父さんが入ってきて、「おお、マイン大丈夫か!」といわれて安心しました。

 

今回は5日も寝込んだとのことで、迷惑をかけたようです。

 

とはいえ、そもそもお父さんの話を聞いてくれていればこんな事態にはならなかったのに。

 

 

 

体調はよくないけど起きられるようになった所で綺麗なフロアに連れて行かれます。

 

「さて、ギュンターには話したが、マイン、そなたはこのギーベライゼガングの養子として迎え入れることになった。」

 

え!ギーベってえらいんだよね。ついでにお父さんの実家の方ってことだけど何でそんなところに養子に行くなんて話になっているのだろう。

 

なんでも、エーレンフェスト全体が魔力不足で魔力のあるものは一人でも欲しいとのこと。

 

「子供のそなたには分からないだろうが...。」

 

となるとこの方はギーベハイデンツェルなのかな。

 

一応こんな子供相手でも説明はしてくれるようです。

 

でもこれ命令だから断れないも同然だよね。

 

なんでも、この間来たのはアウブでアウブの養女になるという話もあったようなのですが、余りの体の弱さに諦めたそうです。

 

そこで、ハイデンツェルにとのことなのですが、お父さんは傍系とはいえ、ギーベライゼガングの血統であるとのこと。

 

そして、ハイデンツェルとライゼガングはヴェローニカ派という隣の大領地から来た派閥と敵対しており同盟のような関係になることから今回の話になったとのこと。

 

まあ、ギーベハイデンツェルの表情を見ているととても仲良くは見えないんだけどね。

 

きっとこれはあれだね、ウラノの世界の敵の敵は味方だってやつだよね。

 

「お断りはできないんですよね。」

 

当然断られるという発想すらない貴族の方だが話はしてくれるようで、

 

「家族のことを思うならうちへ来なさい。」

 

今度はギーベライゼガングが続けます。

 

なんでも、必要であれば私一人のために村人全員殺さなければならない事態も考えられ、また他の領地から誘拐、証拠隠滅のため村ごとなくすなんてことも普通に考えられるとのこと。

 

「それに、マインよ、そなたは貴族としてしか生きられぬ。その膨大な魔力では平民とは子がなせんぞ。」

 

子をなすって、まだそんなこと考える年齢じゃないんですけど。

 

「それに、領主の養女になるとするならば、今の家族に会うことはできなくなる。領主の娘が平民と会うなんてもってのほかだからな。」

 

なにそれ、領主も平民も人間なのに。やっぱり、戦国時代くらい理不尽な世界だね。家族と会えなくなるって冗談じゃないのだけど。

 

ギーベハルデンツェルが話を続けます。

 

「その点、ギーベの養女なら家族と離れ離れにはなるが家族として会うことは問題ない。ましてライゼガングへいくなら君とは血縁だ。君のためにも、エーレンフェストのためにも君はこの話を受けるべきだ。」

 

もう泣きたいです。よくしてくれた村のみんなとお別れなんて。

 

絶対断りたいけど、お父さんとお母さんを見ても話はついているようで首を振るようなしぐさをしました。

 

「なに、必ず祈念式では必ずこちらに来てもらうようにするし、各種神殿の行事では必ず会えるよう取りはかろう。家族と離れ離れになるのは大変だと思うが君にとっては、最善の選択肢を提案したと思うし、これ以上は妥協できない。」

 

ギーベと言われる普通に暮らしていたら絶対話すことがないような方二人にここまで言われては断るのは不可能でしょう。

 

私は、静かにうなずきました。

 

「実は他領のものと思われる賊が、このハルデンツェルに何度か入ってきている。おそらく狙いはマインお主だ。一度家まで同行するがすぐエーレンフェストに向けて出発するのでそのつもりでいろ。」

 

「あと、すまないのだが君が行ったという祈念式の儀式をおこなってほしい。」

 

全くすまなそうではないですが...ギーベハルデンツェルが求めているのはきっと女性だけで行う儀式のことだよね。

 

「分かりました。では、明日行いますので家族との時間をください。」

 

「それはもちろんだ、そのくらいはいいですな。」

 

ギーベハルデンツェルがギーベライゼガングの許可を取り、家族そろって別の部屋に移されました。

 

 

 

 



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4話閑話ギュンター

愛しい娘がボーゼンとした顔をしている。

 

当然だ。いきなりこんなところに連れて来られ、親と暮らせなくなるなんて言われたら飲み込めないのは当然だ。

 

「マインすまない。お父さんの力がないせいで。」

 

実はここ最近、子供たちには心配かけないように話してはいなかったが、魔獣だけでなく怪しい賊が襲いかかってきたりという事件が散発していたのだ。

 

幸いまだ死人は出ていないがマインの祝福がなければ確実に死人が出ていただろう。貴族と思われるものまで襲ってくる中で唯でさえ人が少ない村で今後どうなるか分からない状態だった。

 

妻のエーファは、ごめんねマインとしきりに行っている。

 

「マイン、どこか行っちゃうの。やっぱりダメだよ。離れたくないよ。」

 

「私だって、絶対いやだ。でも私が行かなきゃみんながひどい目にあうかもしれないなら私は行くよ。でも今生の別れじゃないし、年に神殿の行事は何回もあるから何度も会えるよ。だから大丈夫だよ。」

 

マイン、言葉と表情があってないぞ。

 

お父さんは悔しい、町ごと守ると言ったにもかかわらず、エーレンフェストからハイデンツェルのほとんど人が住めない所に連れて行く羽目になってしまった。

 

さらにそこで今度は娘を守れないのだから死にたくなるほど悔しい。何も力のない私が許せない。

 

その日はみんなで抱き合って同じ布団で寝た。

 

 

次の日、マインが言うには春を呼ぶ儀式らしい。

 

本来は貴族の女性が総出でやるものだったらしくやり方そのものは伝えたがうまくいかなかったらしい。

 

マインがいろいろ指示している。楽器とかも用意させいろいろ準備し、音楽を奉納し立派に神事の中心を努めていた。

 

きっちり今回は初めから女性だけで儀式を行ったのだが村で行ったものより美しくとても大きな魔法陣が大人の女性ほどの高さになると一気に光が小聖杯に吸い込まれた。

 

前回と同じくバタバタと女性が倒れる中、事前に言ってあったにもかかわらず余りの神秘的な光景に目を奪われ介護が遅れるという事態となった。

 

あの時は、ゆっくり見る余裕はなかったが、やはりマインは神に愛されており、あの村で暮らしていける子ではなかったのだと唇をかみ締めた。

 

せめて、ギーベにも伝えたがその力は正しく使ってほしい。

 

マインなら心配いらないとは思うが周り次第ではどうなるかは分からない。

 

その点実直なライゼガングの方たちならうまくやってくれるだろう。

 

マインにその力は他の人のために正しく使いなさいという話は何度もした。

 

そのあと、初夏の訪れを示す雷が来る前に村へ帰ることになった。

 

 

 



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5話 領主の町エーレンフェストへ

本当は儀式なんてやっていないで家族と一緒に少しでもいたかったけど仕方なく儀式を行いました。

 

その後村へ。ギーベたちとはここでお別れ、付き添いの騎士が送ってくれるらしい。

 

今生の別れではないにせよ、住みなれた村を離れるのは苦しい。

 

でも、戻ってこれないわけではない。

 

私がいなくなった後、ギーベハルデンツェルの計らいで下級貴族の騎士を神殿の管理と警備をかねて派遣してくれるとのことです。

 

私物を整理しろといわれても私が提案しトゥーリとお母さんが作ってくれた花飾りと聖典位しかないなぁ。

 

とりあえず、神殿に寄り魔力をこめる。

 

聖典を見ていると本当は祝詞入れた儀式のほうがいいらしいけど今回は時間がないので簡単に祈りをささげ魔力を奉納した。

 

引き継ぐ騎士の方に簡単に説明する。聖典はもっていっていいといってくれた。小聖杯、大聖杯や槍とかいろいろ最後に魔力をあふれんばかりに込めておく。

 

ちなみに一緒に来てくれた騎士さんもルッツと同じく地下通路には入れなかった。また次回来た時に奉納しないと...。

 

村人が総出で出てきてくれる。いろいろお土産を渡そうとしてくれるが食材とか渡されても持っていけないよぉ。

 

薬とかもらってルッツとか、家族とかみんな泣いている。

 

「みんな今までありがとう。でもね。また何度もこれるから大丈夫だよ。ギーベのおかげで今生の別れじゃないんだよ。」

 

みんな、体に気をつけてなとか体のことばっかり心配してくれる。

 

「お父さん、お母さん、トゥーリお姉ちゃん、いつもありがとう。また必ず来られるから笑顔で見送って欲しいなぁ。」

 

私が泣き顔になっているのに家族に笑顔で送って欲しいなんていうなんてわがままだなぁ。

 

「マイン、マイン。」と家族が何度も言っています。

 

しばらくすると一緒に来てくれた騎士の方が

 

「それでは娘さんをお預かりする。なにギュンターはよく知っていると思うがギーベは平民にも慈悲深くすばらしい方だ。安心せよ。」

 

村との別れのときです。

 

魔石の獣に乗った後に別れの祝福を送ります。

 

言葉になりませんので心の中で、闇と光の最高神、水の女神、火の神、風の女神、土の女神、命の神に祈りをささげます。

 

村の人々が私がいなくなった後も以前のように食料もない大変な状態にならず今後も幸せに暮らせますようにと全力で祈ります。

 

美しい7色の祝福が村に降り注ぎました。

 

最後まで魔石の獣の上から家族が見えなくなるまで手を振って別れました。

 

しばらく騎士の方たちは驚いた様子でしたが、安定して飛んでいました。そんなに驚くことなのでしょうか。

 

いつもより多くて色が増えただけでウラノの世界の花火から見ればたいしたことなどないと思うのですが。

 

「こほん、さて、それではマイン嬢。これからいったんエーレンフェストへ向かう。体が弱いことはよく聞いているから少しでも悪くなったらすぐ言うように。」

 

「ありがとうございます。ところで、エーレンフェストって領主の町ですよね。ライゼガングへ向かうのではないのですか。」

 

「ああ、それはだな...。」

 

この領地はエーレンフェストで当然ギーベはエーレンフェストにも活動拠点を持っているのでいったんそこに行くとのことです。

 

あと、非常に言いにくそうにしながら話すには、ライゼガングはハルデンツェルもそうなのだが政情が余りよろしくないらしく情報収集もかねて一旦エーレンフェストの城で合流するとのことでした。

 

その後は、疲れてきましたが丁寧に運んでくれたので気がついたら眠っていました。

 

急にひどい衝撃がします。

 

「起きるのだ、マイン嬢。」

 

「どうしました。」

 

「敵襲だ、どこのものか分からぬ。こちらも護衛が4名いるから防御に徹すればどうということもないが、ゆれるので気をつけてくれ。」

 

「分かりました。」

 

そこで少し考えます、祝福贈ればいいんじゃない。万が一があると困るし。

 

「風の女神シュツェーリアが眷属 疾風の女神シュタイフェリーゼと忍耐の女神 ドゥルトゼッツェンの御加護がありますように」

 

「祝福ありがたき。」

 

光る危険そうなものとかが飛んできたりしましたが、加速して逃げ切れたようです。

 

「しかし、すばらしい祝福ですな。その聖典も大きさを変えられたりすばらしい魔術具のようだ。」

 

周りの騎士から感謝されました。少しでも役に立てたのならよかったです。

 

そんなこんなで加速したのであっという間に立派な城が見えて来ました。

 

すごいなぁ。ウラノの世界の西洋の城だ、『ふぁんたじー』だね。

 

家族と別れた悲しみが少し薄れた気がします。

 

それから発着場の様な所に降り、抱えられて城の中へ入りました。

 

中に入ったら衣服をはがされ、湯浴みをさせられ着替えさせられます。自分でできるのになんて思ってしまいますが貴族のしきたりなのだそうです。

 

とりあえず疲れただろうということで食事が部屋に運ばれ食べ終わったらまた寝巻きに着替えさせられ寝る事になりました。

 

次の日朝ごはんを食べるとギーベのいる部屋へつれてかれました。そこにはぷひぷひ言わされたアウブがいました。

 

なんでも契約魔術を行うということで同席しているとのことです。

 

といっても内容は住んでいた村以外でのもしくはギーベの指定した場所以外での家族としての接触禁止。

 

私の名前以外はすでに入っており、すでに説明もされていたのでサインします。拇印を押せば完了です。

 

うーん点滴や注射で血を見るのはなれてるけど自分で指先を切って押すのはやな感じです。

 

しかし、お父さんはよほどライゼガングの方々を信頼しているんだな。字もあまり読めないはずなのにサインしちゃうんだから。

 

「さて、マインよ、アウブとして命ずる。しばらく城と神殿にて貴族教育をうけろ。」

 

とりあえず、城でマナー講座を受けることになりました。

 

最初は苦労したけど基本を覚えてしまえばマナーについてはあっという間でした。

 

マナーの先生も上級貴族としてならどこへ出しても恥ずかしくないとほめていただきました。

 

ちなみに空いた時間は図書室へ行ったり、本を借りたりしたのですが、こんなことがありました。

 

その日は、余りにいい天気なので外で本が読みたくなって庭の花壇の脇で本を広げ読んでいました。

 

そこへいきなり走ってきて目の前の花壇に子供が隠れるようにしゃがみました。

 

余りにバタバタうるさかったので珍しく本から目を離したのですが、

 

「おい、お前誰かに聞かれても私がここにいるとか言うんじゃないぞ。」

 

「ええ、ここには誰もいなかったでいいのですのね。」

 

うん、誰か知らないけど邪魔されないならそれでいいや。

 

その子を完全無視することを決定し、しばらく本を読んでいたのですが

 

「本なんか読んで面白いのか。」

 

耳元で言われては流石に反応してしまい、横をみるとさっきの子が隣に座っていました。

 

「本も最高ですが、知識を知るのが面白いのですよ。」

 

「ふーん、じゃあなんかその知識で面白い話をしろ。」

 

誰もいなかったんじゃなかったのでしょうか。

 

まあ、私と同じ位の年齢でしょうし適当に聖典の話を元に神様の物語を話してあげます。

 

「神様とは、そんな面白い話があったのだな。教えに来るやつらの話は本当につまらないがお前の話は面白かった。また聞かせてもらえるか。」

 

そこで「ヴィルフリートさま、どこですか」と言う声が聞こえてきました。

 

「おっと、まずい、そろそろ行かねば。そういえばそなた名は。」

 

「マインと申します。」

 

「マインか、またここにくれば会えるか。」

 

うーん、今日ここにいるのはたまたまだしまた気まぐれに来ればいっか。

 

「時の女神 ドレッファングーアの導きがあれば会えるかと存じます。」

 

暗に会えない可能性が高いですよといってみる。

 

「おお、今日の話しでも出てきた時の神か、おっといかん見つかってしまう。ではな。」

 

うん、これで会うことはしばらくないでしょう。しかし領主一族というのは元気なのですね。少し荒れた花壇をこっそり祝詞で直しておきました。

 

ちなみに図書室には、残念ながら稲についてというかそもそも農業に関する本はなかったですが、エーレンフェストの歴史等知れて面白かったです。

 

しかしここからが本当に大変でした。ええ、宗教怖いではなく神殿は怖いところだなということをイヤというほど感じることになります。

 

 



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6話 神殿生活など

さて神殿です。入り口までは仮の側近たちにつれてきてもらいましたが入り口で分かれ灰色の服を着た神官に案内されます。

 

まず、神殿長に挨拶です。

 

「お初にお目にかかります。マインと申します。水の女神 フリュートレーネの清らかなる流れに導かれし良き出会いに、祝福を祈ることをお許しください」

 

本当はまだ洗礼式を迎えていませんが先に聖典で祝福を行う許可は取ってあります。

 

「ふむお主がライゼガングの。仕方ない許そう」

 

すごい体形ですね。心筋梗塞とかになりそうです。

 

「水の女神 フリュートレーネよ 新たな出会いに 祝福を」

 

「ふん、後は神官長へ聞け。ライゼガングの者とは関わりたくない。」

 

なるほど、この人はヴェローニカ派という派閥なんだろうな。

 

「あと、お主、一応小神殿とはいえ神殿長と同じような役割をやっていたそうだな。仮の神殿長として任ずる。誓いの儀式まではやってやるが後はせいぜい儂のために働け。」

 

さっさと失せろという感じで最後にとんでもない発言をしていきました。いきなりこんな子供に神殿長ってそれでいいのか。

 

さて、敵対派閥に加えどう考えても頭がおかしい人がトップの組織にいきなり入れるとか新しいお父様は何を考えているのか。

 

まあ、聖典が同じならやり方はほとんど変わらないでしょう。

 

さて、お次は神官長です。この方は領主派だと聞いているので少しはまともだといいのですが。

 

教わった感じだと、ライゼガングはもともと別の領土でエーレンフェストよりも古い歴史があるらしいので領主派だといっても果たして当てになるのかどうか。

 

出迎えたのは以前に見たことあるような方でした。まあいいやお初にお目にかかりますでいいよね。

 

挨拶を無事に済ませ。とりあえず確認する。

 

この神官長はフェルディナンド様とのことだ。

 

「あの後ろにいらっしゃるのはユストクス様ですよね。あと、その、フェルディナンド様は以前、村にいらした旅の方で間違いないでしょうか。」

 

「ああ、間違いない。」

 

うん、この二人はフットワーク軽い人だね。神殿ってどうなってるの。

 

私が作業していたのは小神殿という本神殿の出張所に当たるものだったようです。

 

「さて、何の因果か、私がアウブより君の教育係を請け負うことになった。ついでに、神殿長も最近は余り体調がよくないため君が代理の神殿長だ。時間がないからさっさと神殿内を案内して業務を覚えてもらうから覚悟するように。」

 

フランという方がとりあえず私の側付としてついてくれるとの様だ。

 

本神殿というだけあって神にお祈りするための紋章の壁画がいたるところにある。

 

一つ一つに簡易ながら祈りと魔力を奉納していると不思議そうな顔をされていますが続けます。

 

だって魔力があまってしょうがないんだもん。何度も畳み直して圧縮し直して更に圧縮してって大変なんだよ。

 

正直レッスンよりそっちの作業が大変でした。でも魔力って便利ですよね。記憶とかするときに魔力に刻み付けるとすぐ覚えられるしデメリットさえなければなぁ。

 

さて見回っている途中で呼び出され、不機嫌そうな神殿長が誓いの儀式をおこなってくれた。一応小神殿では誓いの言葉と神の祈りしかしなかったからなぁ。

 

さて、そんなんでお祈りは今回も日課になるとして、成人式がそんなにしないで迎えます。

 

フェルディナンド様に神殿の書類の整理や計算等やり方を教わります。うん、ウラノの知識があれば簡単だね。単語がまだちょっと怪しいけどおいおい学んでいかねば。

 

魔力の奉納は散々やってきたのでこっちでも行います。盾とか向こうにあったやつよりも大きいかな。あっという間に満充電完了。

 

他にもやります?いろいろあるでしょといったけど。いやいいとのことなので明日以降なのかな。

 

ついでにギルと言うあばれんぼうと、デリアという神殿長の愛人希望の子が側付に増えました。

 

フラン以外使えないんだけどどうしたらいいのでしょう。流石に私は一応ギーベの子なので神殿長の監視と嫌がらせだろうな。

 

さて、ここにも図書室があるとのことなので自由にしていいとのことなので片っ端から読んでいきます。途中で周りがなんかいっているけど知りません。

 

魔力をちょっと出しておどしたらフラン以外泡吹いちゃった。フランにかたずけるようお願いした。

 

次の日もフェルディナンド様のレッスンにお祈りに体調崩して寝込んだり。寝込んでいる間にもばんばん本を持ってきて読んでおけとか。

 

うん、忙しいけど。私は覚えるのは大得意である。本も大好きである。

 

フェルディナンド様はものすごい知識のある方なので、とっつきにくいし無理難題ばかりやらせてくるけど、質問すれば答えてくれるしその点だけは最高だ。

 

余りに体が弱いので騎獣の作成を教えてくれたりして、成人式に村へ行くことができました。

 

思ったより早く一度里帰りができてよかったです。

 

その後も儀式でライゼガングへ行って領主のおじい様にあったり、神殿の郊外に畑を作って私の祝詞で食料を大量生産し孤児院の食糧事情を改善したりカルタを木彫りで作らせて文字を覚えさせたり、暇さえあればフェルディナンド様の指導を受けたりしました。ちなみに図書室の封印を魔力でこじ開け勝手に全部読み尽くしたらものすごく怒られ死にかけました。

 

その後、領主の養女にするとか言う話がまた出てきたようですがお父様ことライゼガングの横槍で流れたりいろいろあったそうですが順調に過ぎていきました。

 

トロンベとか出たときの臨時の癒しや神殿経営、決裁とか、あれ、気がつけば神殿に関わること全部私がやっているんですけど。いやね、フェルディナンド様も一緒にやっているけど、うーん。

 

奉納式とかも一人でそれ以上のことやってたから問題ないしね。

 

なんて思っていたら次の年にはひどい目にあいましたが。

 

たまにマナーの関係や報告関係で城に行けばヴィルフリート様に絡まれ、いろいろな物語を話してあげたら側仕えにしたいというような話をしてきたのでよく遊びよく学べというウラノのことわざをもじって遊ぶのもいいですが、よく学んで周りの意見をよく聞きそれでも自分で判断できるような方に仕えたいので無理ですということをそれとなく伝えたら会うことが極端に減った。

 

ひょっとして領主一族に嫌われた。やばいかも。フェルディナンド様は領主の器じゃないとか言っているけど一応確定しているんだよね。

 

まあ気にしてもしょうがないのであきらめモードですが。会うたびに不機嫌そうでないのがせめてもの救いです。

 

 

次の年はトゥーリの洗礼式を派手に行ったり、ユレーヴェという薬を作るために各地をめぐったり。

 

魔法陣とかも面白く魔力に任せていろいろ作成したりしており、フェルディナンド様の所有している図書館とかも片っ端から見たり知識欲の満足度が最高です。

 

ただしフェルディナンド様に付き合うのはすべてにおいてはるか高みに上りかけるので大変ですが...。

 

はあ、本に知識に家族にも思った以上に会えるし幸せ。うふふん。ふふん。

 

お米を食べる夢はぜんぜん叶いませんが、しょぼん。

 

あと、気がつけば奉納式、なんか他領のものと思われる小聖杯が大量に増えて神殿長命令で私一人でやれとかひどくない。

 

マスターした回復薬でやってやりましたよ、ええ。フェルディナンド様が交渉して次の年からはなくなりましたが大変でした。

 

あとは私自身の洗礼式、全属性であることで周りが驚き、フェシピールの演奏で、うん、結論から行けば祝福抑えようとしたんだけど無理でした。

 

いや無理だって、祝福返しですら失敗することあるのに勝手に儀式になるとか無理。

 

神殿長が珍しく出てきたけど驚きで魂が飛んでいきそうになっていたのには少し笑ってしまいましたが。うふふん。

 

おおむね、知識欲も満たされまわりの環境も改善し、神に祈りをささげ魔法陣を改造して、フェルディナンド様に採点してもらったり、ライゼガングや村へ帰ったり様々な薬の採取方法や調合、はたまた、魔術具の作成方法まで教わりました。

 

インクへ金粉を混ぜてみたりして消えるインク作ったり面白かったなぁ。煤と油を混ぜた植物紙用のインクとかも作ったけどまあ、この世界まだ植物紙がないみたいだからおいおい研究だね。

 

村では弟のカミルも生まれこっそり盛大な祝福を送ったり、フェルディナンド様直伝のお守りを大量に家族に渡したり村は相変わらずな雰囲気でしたがブレンリュースの魔木でだいぶ潤っているとのことでした。

 

毎日がものすごく忙しく、フェルディナンド様のどう考えても無理な膨大な課題や実験を終わらせようとしたり、熱で倒れたりもしょっちゅうでしたがつい、うふふん、ふふんと口ずさむくらい充実した毎日でした。

 

ええ、ですが忙しくも充実した日々はあっという間に壊れるものなのです。

 

 



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7話 幸せの終わり

さて、例年すごいが、今年の洗礼式特にすごい。当然です。

 

下町はいつもどおりでしたが貴族のほうはそうは行きません。

 

なぜならほぼ次期アウブとなることが確定しているヴィルフリート様が式に参加するからです。

 

去年は私自身が参加する側でしたが今年は神殿長(仮)なわけで...まあ、すでに一回やっているので関係ありませんが。

 

ちなみに神殿長は仕事をする気がないのかお金だけもらってやりたい放題の模様です。

 

今日の主役のヴィルフリート様に先に最後の打ち合わせを兼ねて挨拶をしておくことにした。

 

「マイン、そなた去年はとんでもなく派手にやったらしいな。私も負けぬよう今日はがんばるぞ。」

 

えーと、私だってやりたくてやったわけではないのですが。

 

「マイン、私はお主の事あきらめんぞ。必ず来てもらう。そのためにも今日はしっかりやらせてもらう。」

 

何のことでしょうか。私のことあきらめない?ああ、側付の話でしょうか。

 

「私のような体の弱いものを側付にすることはやめてくださいませ。私などよりも優秀な方はたくさんおりますゆえ。」

 

わたしが側付で役に立つわけないじゃん、準備とか護衛とか、かろうじて文官としてなら少しは役に...うん、無理だね。

 

ヴィルフリート様は複雑そうな表情をし、そう意味で言ったのではないのだがとこぼしていましたがどういう意味でしょう。

 

さて、フェルディナンド様と一緒に入場する。そういえばおととしは中央に登るのが遅いとか言われたな。

 

前回は小さなミスはありましたが今回は完璧にこなします。

 

春の訪れの祝詞を読み上げ、いっせいにシュタープを光らせる。

 

当初はウラノの世界のアイドルのコンサートかよと思ったのは内緒だ。

 

うん、結構気持ちに余裕があるな。

 

貴族の連絡事項が読み上げられる。左遷やらなにやらライゼガング、ハルデンツェルともに特になし。

 

両方とも私が儀式をしているので収穫量は格段に伸び領地経営がとても楽になったと会うたびに何度も言われた。

 

さて領主の話が終わり舞台から降りたことで私とフェルディナンド様の出番だ。

 

「新たなるエーレンフェストの子を迎えよ」

 

ヴィルフリート様を先頭に一列に並んだ。

 

一人一人貴族になった証拠の指輪を渡されながら私は例年通り祝福をしていく。

 

やっぱり祝福は大きいほうがいいよね。

 

ヴィルフリート様を最後に次の音楽の奉納が始まる。

 

私は一人一人に声をかけていく。

 

人の名前はどういうわけか覚えるのが少し苦手なので大変でしたがそつなくこなせました。

 

最後のヴィルフリート様の演奏は流石でした。

 

遊んでばかりのイメージだったけど才能があるのか努力したのか。

 

いずれにせよつつがなく洗礼式は終わりました。

 

そのあとは急いで着替えライゼガングのお父様方と合流し、挨拶めぐりです。

 

まあ、領主候補生ほど大変ではありませんがヴェローニカ派の方々とは大変です。

 

とそこで、窓の上に人影が見えます。あれは何でしょうと思っているとホールの上の窓がいっせいに割れて大量の人が入ってきました。

 

こっちだとお父さまに手を引かれます。

 

いったんホールから出るため結界がある本館に向かおうとしますが、

 

負傷者がすごく多く、さっき洗礼式を終えたばかりの子達数名がシュタープに括り付けられ拉致されそうにされています。

 

「させません。」

 

僅かながら準備した魔法陣でとお守りで彼らを助け出します。

 

しかしこれが悪手でした。後ろから進入してきた黒ずくめの男が自爆してきました。

 

「守りを司る風の女神 シュツェーリアよ、うう...」

 

呪文が間に合いません。

 

別の男でしょうか、後ろから刺され、何か薬のようなものを無理やりのどに突っ込まれ飲まされました。

 

「やっと確保したぞ、まさか本命がかかってくれようとは。」

 

なにこれ、これはまずいです。魔力がまったく循環しなくなり体が言うことを聞きません。

 

「領主候補生と一緒に連れて行け。」

 

声も上げられずシュタープでぐるぐる巻きにして運ばれます。

 

隣にはヴィルフリート様必死に抵抗しています。

 

動け私の魔力、ものすごく意志の力が要りましたが血が流れていたためほとんど動かない指で無理やり魔法陣を描き血をヴィルフリート様の方へ力を集積させ暴発させます。

 

何とか私の爆発を利用し、拘束が緩んだ隙にヴィルフリート様が拘束から逃れるのが見えました。

 

これが私の最後の抵抗でした。周りからは、自爆したと思われる音や戦闘音が消えず、まぶたまで力が入らなくなり音以外聞こえなくなりました。

 

「もう一本入れておくか、ふむ、ナイフにもたっぷり塗っておいたようだな、ならばこのままだ。」

 

血も流れ、魔力も止められ意識が保てなくなりそこから先は覚えていません。

 

 

 

 



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8話閑話 フェルディナンド

「あの馬鹿弟子が。」

 

まがいなりに弟子など持ったのは初めてのことだ、いや、弟子として数日以上持ったのはというべきだろうか。

 

ジルヴェスターの命令でマインの面倒を見ろと言われたときには、まだ弟子を取らせることを諦めていなかったのかと思った。

 

だが、マインもこれまでの者と同様に適当な無理難題を押し付ければすぐ逃げ出すだろうと高をくくっていたのだが...。

 

時は数年さかのぼる。

 

あの時はブレンリュースの実が魔力不足により大量に必要になり、ジルヴェスターに無理やり許可を取り、ユストクスをハルデンツェルにやったのだが...。

 

「ユストクス、ただいま戻りました。」

 

「ふむ、ユストクスにしては遅かったな。また何か珍しい素材でも探してきたのか。」

 

「それがですね、フェルディナンド様、非常に興味深い村と娘を見つけました。」

 

ふむ、ユストクスはとにかく情報収集が趣味で行った先で様々な素材を回収したり情報をかき集めてくる。

 

そんなユストクスが面白いということだからよっぽど変な娘だったのだろう。

 

「あんなハルデンツェルの端の村があったことにも驚きですが、そんな小神殿を子供一人で管理していたんですよ。」

 

ふむ、旧ザウスガースとの国境沿いか、あそこは政変以前から国境がしょっちゅう変わっていたから、管理がおろそかになったのか。

 

「やはり旧ザウスガースがらみですかね。市民登録とかもしっかりとできてないようでなかなか不思議な村でした。」

 

しかしそんなところでは恐らくまともに生きていけない環境のはずだ。

 

唯でさえ魔力不足の中、こちらが把握していない村であるなら儀式の魔力を贈られていない可能性が高い。

 

「ふむ、小神殿がある以上一度視察に行かねばならないな。しかし、子供が管理しているといっても魔力がなければ神殿も朽ちていくはずだが。」

 

「それが、なんと小娘が一人で魔力を奉納し維持管理するばかりかあふれ出た魔力が祝福となり小神殿の周りだけ切り取られたように緑が生い茂っている状態でした。」

 

それは、面白いとかそういう問題ではない。おそらく身食いが魔力の放出場所として神殿を利用したといったところなのだろうが。

 

「まあ、しばらくは問題ないだろう。年が開け時間ができたら一度視察に行くことにする。」

 

ジルヴェスターにも報告し、魔力不足や、ジルヴェスターの政務の関係で忙しく結局行けたのは祈念式の時期になってしまった。

 

こんなに遅くなる予定はなかったのだが仕方がない。

 

ユストクスが言うにはそこまで排他的な村ではないとのことだが場所を確認した後、念のため途中で騎獣を降り歩いて村へ向かった。

 

あきらかにその村の周りだけ緑が青々としだし、雪が解けているのが分かる。明らかに何か異常なことが起きているということがわかった。

 

「これが神殿か。」

 

確かにこんな僻地にある神殿にしては異常だ。見ただけで魔力が満たされているのが分かる。

 

魔力が潤沢にあるならともかく、今の魔力不足の情勢をかんがみればどれだけ異常か分かるだろう。

 

神殿を覗き込むと少女が柱に祈っている。柱のあれは鍛冶の神にまつわる紋章か。

 

最後に中央の聖杯が配置されているところに祈りをささげようやく私に気がついたらしい。

 

外からのものは相当珍しいのかなんと声をかけようかと迷っている風だったのでこちらから声をかけた。

 

「この神殿を管理しているのは君か?」

 

少女はその質問には答えず、少し困った顔をして

 

「旅人さんですか、長老に御用でしたら案内しますけど。」

 

と言ってきた。親から止められているような感じだったので少し高圧的にもう一度同じ質問をしたが、

 

「ここの掃除などは私が基本的にしています。」

 

そして立て続けに

 

「掃除も終わりましたのでどうしますか、中を見ていくということでしたら入り口の椅子で待たせてもらいますが。」

 

まあ、いいだろう。せっかく見てよいというのだから確認させてもらおうか。

 

少女は私が見終わるまで入り口の椅子に座っているようだ。とても疲れたのかぐったりとしている。

 

体力のなさから言ってもユストクスが言っていた少女で間違いがないだろう。

 

中では不思議な光景が広がっていた。神殿のいたるところから僅かながら魔力がもれ出しているかのような幻想的な光景を浮かべていた。

 

本神殿でこんな現象は起きたことがない。

 

といろいろ本神殿にはない模様や配置をしていたので興味深く見てみると少年が少女を呼びにきた。

 

なにやら魔獣が出たらしい。迎えに来た少年が少女を背負い、少女はこちらを見て申し訳なさそうに席をはずすということを言って出て行く。

 

魔獣が出たからといって少女に何をさせるのか。被害が拡大しても困るし、なにか面白いものを見せてもらったお礼でもしてやるかと考え、少女たちの後ろからついていくと少女が癒しの祝詞をあげ回復させている。

 

魔石の指輪は持っていないようだがどうにも手に持っている聖典と思われる本を通して無理やり魔力を放出しているようだ。

 

多人数をまとめて回復させているにもかかわらずあっという間に回復していく。

 

加えて複数人に祝詞の重ねがけまで行っており、少し疲れた表情をしていたがまだ余裕がありそうだ。

 

なるほどユストクスが興味を持つわけだ。

 

若者たちの動きを見てもこんな辺境にいる者たちの動きではなく明らかに戦いなれている感じだった。

 

「これなら心配はないな。」

 

それ以上に問題は少女のほうだ。出る直前だとハイデンツェルがなにやら少女に関して動きを見せそうだった。

 

ここまでの魔力を保持しているなら、領主候補生として扱っても十分だろう。

 

何より直感が領主の関係として確保しておいたほうがいいとささやいていた。

 

ジルヴェスターに急いで報告するため、急いで戻ることにした。

 

 

 

 

結論からいくと少女はライゼガングに確保されたようだ。一応傍系とはいえ血縁関係があったらしい。

 

アウブも一応確保に走ったが、体が弱すぎて、ただでさえ内政不安なのにライゼガングを怒らせるリスクを負ってまで確保するのは諦めたとのことだ。

 

まあ、なにやら外部の領の連中まで、きな臭い動きをしていたのでエーレンフェスト内で確保できたのなら仕方がないだろう。

 

ライゼガングというのがまた困り者だが。

 

この件についてはジルヴェスターの政務や、神殿の運営、研究関連に時間を追われ少女については意識の外に置いた。

 

 

 

 

数日後、将来政敵となりかねないライゼガングの養女の面倒を見ろという命令が来た。

 

政敵になりかねない勢力の養女の面倒とは、何事だと思ったが、おそらく以前に会った少女だろう。

 

とはいえ、無能を育てる気はない。

 

だが件の少女マインの知識欲は異常に高く、異常に覚えがよく教えている側からしても信じられないスピードで知識を吸収した。

 

洗礼式前の少女が大の大人のベテランよりも優れた仕事の処理を行い、来て早々神殿長の式典をすべてほぼ完璧にこなした。

 

粗はあるものの私の代理として任せられるまでに三年とかからなかったのだ。

 

知識については不思議な発想をすることもありそれが面白く、ありとあらゆるものを寝る間も惜しんで全てを叩き込んだ。

 

最悪壊れても問題ないとは思ったが、正直やりすぎたと思う。

 

マインは病弱だったためしょっちゅう体調を崩していたが呆れるほどの知識欲ですべて飲み込んでしまった。

 

とはいえ、領主候補生と仮になったとしても、体調的にアウブの勤めは無理だろう。

 

将来ライゼガングが敵対し、マインが敵対することとなったら少し面倒だなと思ってしまう程度にはマインを弟子として認めていた。

 

 

 

洗礼式の後、所属不明なもの達からの襲撃があった。

 

おそらくアーレンスバッハからの刺客だろう。

 

まさかヴェローニカがいるところで仕掛けてくるとは、想定していなかった。

 

証拠もたまり一気にヴェローニカ派を粛清しようとしていた矢先だ。

 

しかし目的は何だ。

 

とりあえず、100名に迫りそうな身食い兵や平民と思われる暴徒を鎮圧するしかない。

 

子供連れもヴェローニカ派とか関係なく襲われている。

 

ジルヴェスターの周りを固める。

 

本館側から更に別働隊と思われる兵士が来た。

 

外を見ると何名か子供たちが捕まっている。周りはこれだけいれば領主一族は大丈夫だろう。

 

と考えていたら、すでに逃げ切ったと思ったヴィルフリートがまだいる。どうやら捕まった子を側近とともに助けようとしたようだ。

 

だが逆に側近があっという間にやられ捕まってしまう。

 

敵の数が多すぎて近づけないまま、マインまで一緒に捕まってしまうのが見える。

 

馬鹿弟子が!

 

なんとか身食い兵を突破し、追うもなかなか追いつかない。妨害も当然飛んでくる。

 

ボニファティウス様が追いついてきて追跡体制に入ったところでマイン側からヴィルフリートへかなりの爆発が起こった。

 

しかしボニファティウス様はそこで更なる貴族の別働隊と思われる連中と戦闘に入ってしまった。

 

落ちていくヴィルフリートを助けないわけには行かない。

 

くそ、最後の敵は相当のやり手だったようでヴィルフリートを助けた隙に完全に逃げられてしまった。

 

その後は今までの証拠や、今回捕まえた者たちからアーレンスバッハの関与がほぼ確定し、宣戦布告かという問い合わせをし、ヴェローニカ派の粛清を開始した。

 

最終的にけが人は続出したが裏切り者は粛清でき、失ったものは馬鹿弟子だけだった。

 

 

 

 



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本編
9話 本編のはじまり


ようやく本編に入れました。



暗い暗い暗い、何かの液体。ひどく眠い。何も感じない。

 

周りから何か音が聞こえる。

 

「何で従属契約できないのですか。これ以上のものを用意しなさい。」

 

「ゲオルギーネさま、これ以上の品質を求められましてもアウブが直接行うもの以外無理でございます。」

 

キンキン声が聞こえる。

 

「まったく、どうしようもないやつらですわ。仕方ない、礎に運んで魔力供給させましょう。これだけ犠牲を出してこの体たらくまったく使えないやつらですわ。」

 

げおるぎーね...、なんだかきいたことあるなまえだけどおもいだせない。

 

「まったく、エーレンフェストの聖女。噂以上ですわ。従属させて奴隷として使えればどれほど私の計画が早められたか。まったくまったく!」

 

水が揺れ動いているのを感じる。また意識が落ちた。

 

 

 

暗い暗い暗い、何かに無理やり繋がれている。そう、ウラノの世界の充電ケーブル。

 

電池が私で魔力を一方的に吸い取られている。固まっていた魔力が流れ出す。

 

肌に感覚が戻っていく感じもするけどまったく動かない。

 

 

 

 

暗い暗い暗い、どれだけの長さを暗さとすごしただろうか。なにやらいろいろな情報が流れてくる。

 

これは戦争?人と人が争っていたり、偉そうな人が演説していたりウラノの世界のB級映画とはいえないけど様々な情報が流れてくる。

 

何世代もの人の映像が流れる。海があり魚があり、確実にエーレンフェストではないどこかの記憶だ。

 

「うーん、ここどこ。」

 

かろうじてまぶただけ動いたけど水の中のようだ。どす黒くうっすらとしか周りが見えない。

 

私どうしていたんだっけ?

 

へんな棒みたいな物が大きな魔石のようなものにつながっている。これは礎?

 

「ふむ、まさか仮死状態から戻るとはな。もう少し寝ていろ。」

 

だれだろう、シルエットからして男性?

 

次に起きたときはベットの上で目の前に知らない男がいて契約書が目の前においてありました。

 

 

 

 

「ゲオルギーネ、いったいこやつは誰だ。誰の許しを得て礎に持ち込んだ。」

 

「あらやだ、アウブ。もはやアーレンスバッハには礎にすら魔力が枯渇気味だったから魔力そのものを持ってきてあげたのですわよ。」

 

こやつ、まさか他領から拉致をしてきたのか。

 

「まったく、まあ、残念ながら私では使えないのでアウブの好きに使って頂戴な。汚いとお思い?でもおかげで礎の魔力は久しぶりに安定域に達しましたわ。このままではアーレンスバッハの崩壊は待ったなしだったのをわたくしが救ってあげただけですわ。」

 

悔しいが実際事実だ、われらアーレンスバッハには今領主候補生がディートリンデしか残っていない。加えて大領地に関わらず領主一族の魔力がまったく足りていない。

 

せめてベルケシュトックの件さえなければなどといっても詮無きことだ。

 

ゲオルギーネが動いたせいで、エーレンフェストより宣戦布告かどうかの確認まで来て頭の痛い問題ばかりだ。

 

もう動いてしまった以上、利用できるものは何でも利用するしかない。たとえ年端の行かぬ少女だとしても。

 

 

 

 

目の前の男は契約書を私に見えるように見せ朗々と読み上げた。

 

アウブアーレンスバッハに絶対服従。

主はアウブアーレンスバッハとする。

養女としてアウブアーレンスバッハの子となる

名前をローゼマインと改める。

アーレンスバッハに命をささげる。

 

など従属の契約に関する書類であった。

 

「私のことを恨んでくれてかまわん。これより契約を結ぶ。」

 

そういうと動かない私指先を切り契約書に押し当てようとしてきた。

 

そんなのいやだ、ふざけるな。こんな動けなくして従属契約させられるなんて冗談じゃない。

 

一度目はバチとはじかれた様になり、相手の男が驚愕した。

 

「なるほど、だからゲオルギーネは私に譲ってきたのか。」

 

そう言うと別の用紙を出してきてさっきと同じ内容を書いていきます。

 

いやだ、なんで、助けてお父さん、お母さん、トゥーリ。

 

だめだ、ここにはこの男しかいない。私一人で何とかしないと。

 

書類が完成したらしく改めて押してくる。今度ははじかれない。

 

ふざけるな、私の魔力血を解して動け、動け。

 

一番まずいのは命をささげるという部分だ。魔力の干渉をかけるにしても一番かけやすいように見えます。

 

お願いお父さん、お母さん、トゥーリ、カミル。私に力を貸して。

 

契約書が動き出します。血が噴出し『命をささげる』という文章が『ただし本人の命が関わる命令に関してはその命令を無効にする。』という文に変わります。

 

相当無理をしたせいか、意識がまた落ちました。

 

最低限は何とかなりそうだよ。私がんばったよ。ほめてよ、お父さん、お母さん、トゥーリ、カミル。

 

 

 

 

なんと言う娘だ、契約に対して強制的な契約変更をかけるなんて聞いたことがない。

 

魔力に余りに隔絶した差があると契約ができないという事態が起こりえるということは知っていたが、仮にも私はアウブだ。

 

さらに、魔力の粋を尽くした最高級の契約用の紙と契約インクを使ってまでそのまま契約ができないなど問題外だ。

 

だが、これでアーレンスバッハは救われる。命に関わらない限り絶対服従であり、従属契約している限り従属の指輪も使えるはずだ。

 

ようは使いようだ。

 

しかし、本当に従属の指輪をつけさせることができるのか。仕方がない、もはや使われることのなくなった特殊な領主一族用の従属の指輪を使うか。

 

果たして本当に従属契約がうまくいっているのか不安になりながらアウブたる男は領主一族用の従属の指輪を娘につけた。

 

 

 

 




アーレンスバッハ編始動しました。


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10話 アウブアーレンスバッハの子

次に起きたときに、アウブの部屋に連れてかれた。

 

うん、まったく体が動かない。

 

幸い魔力は順調に流れるようになってきたようで、魔力強化をすれば少しは動ける。

 

まあ、大本がダメだからどうしようもないけどね?

 

さて、どうにも私はアウブアーレンスバッハと第一夫人の養女という形になるらしい。

 

さてさて、どれもどうでもいい問題ですが、どうにも私は約3年間も寝ていたそうです。

 

うん、今年11歳だって、八歳から一気に約2年以上ね。10歳ということにして無理やり今年に貴族院へ送り込むとのこと。

 

一応、領主候補生である以上貴族院行きは必須ねぇ。まあ、命令には従わざるを得ない。

 

うん、そういう点ではアウブの命は絶対だったから何も変わらないね。あはは。

 

三年間魔力道具扱いして、従属させて、うーん、流石は大領地。きっとこの世界ではこれが普通なんだろうね。うん。

 

とりあえず、リハビリかな。従属の指輪は領主一族のものだけあってとても薄く品質はものすごく高そうだ。手袋で隠せそうだからまだよかった。

 

 

 

監視も兼ねてなのか何なのか知らないけど、政務室につれてかれ横でアウブの仕事ぶりを見せられてる。

 

座っているだけでつらいんだけど、まあ、リハビリだね。

 

あ、そこたぶん計算間違っている。ふーん、貿易額ってそんなものなのか。

 

とにかく農業関係がダメージだらけ。壊滅的といっていいほどで目も当てられない。

 

というか、たぶんこれアーレンバッハ付近の貴族は流石に不正、横流しているよね。

 

農業系は壊滅しているにせよ、貿易関係は流石に厳重に注意しているのかおかしな数字はない。

 

まあ、知識が足りないし、今までの推移が分からないからどうか分からないけどね。

 

私の様子を不審に思ったのか何なのか知らないけど、ふと手を止めてアウブが話しかけてきた。

 

「どうした、疲れたか。部屋に戻って休んでもいいぞ。」

 

一応、お父様でいいんだよね、この人。お父様と呼ぶには少し歳を召した方に見えるけど。

 

「お父様、書類について意見を言わせてもらっていいですか。」

 

まさかこの年で政務の書類について意見を言われるとは思わなかったようで、少し表情が変わった。

 

「ローゼマインよ、以前のところでは領地経営にかかわっていたのか?」

 

「私がやっていたのは神殿経営ですわ、お父様。ただ、将来アウブを補佐する立場になるかもしれないということで最低限は叩き込まれていますわ。」

 

驚きなのか呆れなのか僅かに表情を変える。アウブの割には表情豊かだよね。まあ、私以外は側近関係しかいないから関係ないんだろうけど。

 

「なら、好きに意見を述べなさい。」

 

「ありがとう存じます。まず農業関係は不正や計算間違いでなればアーレンスバッハ首都近郊でもかなりの住民から餓死者が出る計算になっていますわ。」

 

つらつらと、数字と人口から実態を述べる。というか横流しとかあるならもっと出ててもおかしくないよね。

 

あと、死者と食料収穫やストックの報告等つじつまが合っていない項目が多すぎます。

 

特に旧ベルケシュトック大領地とかやばすぎる。これはもう生きていける状態ではないよ。

 

「お父様、これらは本当に信頼できる数字ですか。視察とかは信頼できるものにさせておりますか。」

 

少しの間、沈黙の時間が流れます。軽く頭をとんとんたたくのがお父様の考えているときの癖のようです。

 

「ローゼマインよ、お主ならどうする。」

 

いや、聞かれても困るよ。アーレンスバッハの実態なんて実際のところ分からないのだから。

 

「お父様、とりあえずアーレンスバッハの本神殿の神殿長を呼び出し実態を聞くべきです。後できれば他の神官にも。」

 

神殿がうまく機能していない可能性は高い。聞いても隠したりごまかしたり無駄だと思うけど何もしないよりいいでしょう。

 

「ふむ、ならばお主をアウブアーレンスバッハの命令により神殿長に命ずる。神殿の実態把握と必要なら改革をせよ。」

 

ちょっと、正気ですか。実年齢そろそろ11歳だけど所詮8歳の子にいきなりそんな無茶な命令するの。

 

しかも従属契約しているいわば奴隷だよ。王家直属とは言え。加えて実質的に最近まで敵対的領地の者に。

 

まあ、従属契約のせいでやらざるを得ないけどさ。そう考えると合理的?いやいやないから。

 

「ご命令とあらば。」

 

まあ、最善は尽くしますよ。最善は。

 

「ふむ、ではそろそろ食事だな。体が大丈夫なら少し付き合え。」

 

 

 

食事は、お父様とお母様と行った。ゲオルギーネ様は席を外している模様だ。

 

当然食欲なんてない。しかも食べなれない香辛料系のものばっかりだ。

 

ただ、麦粥のようなものが出ていて少し食べられた。おこめと少し似ているからほっこりとした。

 

「お父様、お母様、お話をしてもいいですか。」

 

「なんだい、好きになさい。」

 

発言の許可を求めるのが正しいのか分からないけどまあ、食べてる途中に話していいというなら言わせてもらおう。

 

「お父様と、お母様は毒の耐性を上げる訓練でもしているのですか?」

 

 

 

 

突然私の娘になったローゼマインがとんでもないことを言ってきた。

 

確かに最近どんどん体の調子が悪くなってきているけど毒?何を言っているんだいこの子は。

 

「どういうことだい、言ってごらん。」

 

夫の目も遠くなった表情とやわらかい言い方もちょっと気になったがローゼマインの発言のほうがとても気になる。

 

「こちらとこちらの料理の食べ合わせが非常に悪いです。特に魔力の高い人には悪影響を及ぼします。後はこちらの料理は調理方法で、確かにこの料理は下手に茹でたり下処理をしない方が味はいいのですが毒が抜けませんし、体に堆積します。」

 

何なんだいこの子は、こんな子供が毒の知識を語る。夫の話が本当なら領地経営まで心得があるとのことだけど。

 

「必要なら道具と材料をそろえていただければ薬も用意しますけど。もちろん私を信頼していただけるならでございますが。」

 

 

 

 

 

信用できるのかい。アウブは詳しく話してくれないけど相当わけありなのだろう。

 

いきなり養子縁組なんていわれて素性を調べている時間はなかったけど、従属の指輪をつけて養子縁組なんて聞いたことがない。

 

「わかった。何が必要だ。」

 

夫はこの子を信頼するようだ。

 

そのあと、工房とする隠し部屋が欲しいとか、私には使い道の分からない材料を求めてきた。

 

隠し部屋は却下したが他は王城にある薬品を管轄する文官に引き継ぐことになった。

 

「あと、健康管理の方は何も言っておられないのですか。」

 

特に、夫とともに体調不良については気の疲れだとしかいわれていない。

 

ローゼマインは表情は変わらないよう勤めているが、ため息をこっそりついているような表情になった。

 

「よろしければ、一度私が健康診断をさせていただきたいと存じます。」

 

そこで改めて一呼吸置いてから、少し心配そうに言ってきた。

 

「特にお母様、魔力の流れがおかしくなってきているのが見ただけで分かります。緊急ではないですが他にもいろいろ対応をとるべきところがあるかと存じます。」

 

いったいこの子はどれだけの能力と知識を持っているのだろうか。

 

 

 

 

はあ、やってらんないよ。なんなのこの領地。

 

いやねフェルディナンド様の噂でしょっちゅうヴェローニカ様とゲオルギーネ様が組んで毒殺やらなにやら受けてたとは聞いてはいたけどアウブや第一婦人にまでやるかねほんと。

 

従属の指輪のことを考えるとお父様に消えてもらったほうが自由になる可能性は高いけど、取り合えず話は聞いてくれそうだし次の人がもっといいかは分からないしね。

 

さてさて、交渉は成立。隠し部屋は断念したけど更にあれから王宮の極貴重品を除けば薬剤関係は自由にしてよいとのお墨付きを得たし、明日からだね。

 

ただ、残念ながら案の定無理がたたり3日も寝る羽目になってしまった。うう、筋肉痛も痛いよ。

 

気を取り直して側に控えた侍従に案内させ、ウラノの世界の水戸黄門の押印がごとく王命の元に文官を黙らせ材料を用意させ自分で材料を一個一個確認します。

 

やはり、わざとかしらないけど古くなったら毒の作用を発生させる葉やら、逆にしっかり乾燥させないとダメな材料やら、使いたい状態と逆の作用を引き起こす材料が混ざっています。

 

短縮の魔法陣は使えないけど身体強化の魔術を使い作っていきます。

 

当然周りには人払いをさせています。

 

うふふん、回復薬も大量に作るよ。体調用の薬もついでに、あと他にも毒を中和する薬や、あれやこれも。

 

うん、体力回復していないのに無理するものじゃないね。

 

でも薬のおかげで2日で何とか回復。魔術具も作ったし。準備万端だね。

 

 

 

 

「さて、ではお父様からいろいろ見させていただきますね。不快な感じとかするかと存じますがご容赦くださいね。」

 

体調検査用の魔術具まで自作しましたよ。作るのって面白いよね。

 

さてさて、あらあら、やっぱりいろいろ薬を作っておいてよかった。出し切るのに1ヶ月はかかるなぁ、これ。

 

続いてお母様の部屋に行き検査をします。私のほうが病弱で健康管理しろ?まあ、言い返せないけど生来のものですから。

 

そういうことは、ぼろぼろの娘にいろいろ命令するお父様にぜひ言って欲しいものです。

 

まあ、どこかのタイミングでユレーヴェにつからないとなぁ。最低限隠し部屋と材料を確保しなきゃ。

 

「お母様、まず食後にこちらの薬を3日、こちらは7日飲んでいただければだいぶ改善するかと存じます。その後はこちらの薬を20日程のんでいただければ毒を排出しきれるかと存じます。」

 

「まあ、分かりましたわ。アウブを信頼して飲んでみますわ。」

 

うん、アウブがおかしいと思います。命令したって抜け道がないわけじゃないのに変なところで信頼されている気がする。

 

「必ず、お母様の隠し部屋で管理するなり、信頼できるところで管理してくださいませ。」

 

お母様の方が重症かと思ったけど実際はお父様のほうがいろいろ危険だったね。

 

きっとアウブは毒に多少耐性が高いのでしょう。体力等も考慮するとどちらも同じくらいまずかったということかな。

 

きっとゲオルギーネさまの関係なんだろうけど内輪に仕掛けるのはとても優秀な方なんだね。もうやだ。村に帰りたい。

 

 

 

さて、取り合えずやることはやったから、神殿側の準備も整ったらしいので行きますかね。

 

第一婦人であるお母様とアウブが健康になれば少しはゲオルギーネ様を抑えられるはず。

 

そうすれば結果的にエーレンフェストの利益にもつながります。

 

今後のことを考えただけで暗くなっていきます。みんな心配しているか死んだことになっているのか。

 

ああ、会いたいよ。村の家族に会いたい。

 

 

 

 

 




ちなみに第一夫人原作でロゼマ9歳時に死亡ですが、ロゼマ拉致の関係でいろいろ歴史が変わってます。
レティーツィア様もロゼマ8歳時に養子縁組していますが、変更します。


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11話 旧ベルケシュトック大領地にて

さて、神殿です。寝ている間に何もしていないわけじゃなかったんだよ。

 

騎獣用の魔石にたっぷりと魔力を注ぎレッサー君復活。うふふん、ちょっとうれしい。

 

まわりはグリュン、魔物等うるさいけどかわいいよ。かわいいよね?

 

入り口までは護衛、もといい監視の騎士がついてきてくれたけど神殿そのものには忌避感がある模様で、入り口までで帰っていった。

 

アーレンスバッハの神殿長はたぶん歓迎してくれているのだろうと思うよ。

 

高齢で疲れきった表情の人でした。神官長も同様で疲れ切ったで表情をしていたので驚きました。

 

だって、神殿長と神官長ですよ。私を迎えるための準備で疲れたというならいくらなんでも表情を隠すよね。

 

神殿長は辞すことになりますが、私の代理で残ってもらわないと困ります。

 

貴族院にいる間は儀式ができないなんて事態は避けなければなりません。

 

青色神官はたったの8名、見る限りほとんど平民と変わらない魔力のようです。

 

神官長も元神殿長も下級貴族の下の下の魔力しかないとのことですし、これでよくやっていたと思い逆に感心しました。

 

やることはエーレンフェストとほとんど変わらず。やり方も同じのようなのでよかった。

 

神殿長の服が少し派手かな。

 

夏用と冬用があり特にエーレンフェストより一年中気温が高いので風通しとかも意識している模様です。

 

とはいえ、急を要するのは旧ベルケシュトック大領地です。

 

確認したところ、今年の小聖杯は、ほとんど魔力のないものしか配れていない状態らしい。

 

あの収穫高は本当だったのかと恐怖を感じます。

 

孤児院は、最低限機能している模様。

 

ただ、この状態なのであとでてこ入れが必要かもしれません。

 

旧ベルケシュトック大領地の洗礼式、星結びの儀式に行くついでに全領土回りきらないと。

 

 

 

フリュートレーネの杖を持ち出し、最低限の灰色神官をレッサー君に乗せて旧ベルケシュトック大領地に向かいます。

 

旧ベルケシュトック大領地は下級貴族の方が多いようで何名かついてきてもらいます。

 

はじめの村から如何にひどい状態かを目のあたりにすることになります。

 

土はやせこけ、村人の目は死んでいます。

 

村長宅と思われる家に突撃し、急いで儀式を行う旨を伝えると人を集めるというので遠慮しました。

 

こんな状態で人を集めてもらうより生きる方を優先しようよ。

 

現在は夏ですが祈念式をやり直せばなんていっている時間の余裕はありません。まあ、あれって領主直轄地限定なのですが裏技的にやってやれないことはないのです。

 

村の細々としている畑の中央に行き働いている人たちは何事という感じで私たちを見ていますがムシ。

 

フリュートレーネの杖を取り出し

 

「癒しと変化をもたらす水の女神 フリュートレーネよ

側に仕える眷属たる十二の女神よ 

我の祈りを聞き届け 聖なる力を与え給え」

 

この祝詞は、水の女神にお願いし、土の神を癒してもらう祝詞です。

 

「土の女神 ゲドゥルリーヒを 癒す力を我が手に 

御身に捧ぐは聖なる調べ 

至上の波紋を投げかけて 清らかなる御加護を賜わらん 

我が望むところまで 御身が貴色で満たし給え」

 

最低限食べるものを育てているところだけといっても魔力を大量に持っていかれます。

 

巨大な魔法陣が展開され、あっという間に地面が魔力で肥えていき、作物が実を付け出します。

 

最低限こんなものでしょう。驚きすぎたのか村人が道具を落としぽかんとしている人や、気絶している人もいましたが知りません。

 

次の村、次の村と、ついてきてくれた騎士たちは途中から我先にと村長やギーベに話を付けに行ってくれるようになり、作業が効率化しました。

 

ギーベの館では強引に癒す作業に加え小聖杯に魔力を満たします。ギーベは引止めに来ますがひと睨みしたら固まりました。

 

旧ベルケシュトック大領地は昔の名残で一応中央は領主直轄地として神殿もあるということで先に話が行っていたのか休む準備をしてくれていました。

 

旧ベルケシュトックは広すぎます。回復薬も結構使ったにもかかわらずまだ、10分の1くらいしか済んでいません。

 

余計な引止めとかなければ、もっと効率が上げられるのですが。

 

次の日も次の日も強行軍です。噂が広がったのか連絡してくれたのか3日目からは応援の騎士がわんさか付きだしました。

 

噂のおかげで効率よく進められます。体調がどんどんおかしくなるのを感じますが回復薬で回復させる強行軍を続けること8日。

 

はじめから付き添ってくれていた騎士はとっくに脱落したそうですが、なんとかまわりきりました。村々まで全部周り、どこもまったくひどい状態でした。

 

ああ、これは10日コースだなと考えながら側付の灰色神官に水は最低限いつでも飲めるようにしてくれる用意をしておくよう伝え、最後の薬をあおって寝ました。

 

 

 




原作と違って上級貴族だった為もありメダルの破棄の試練がないために、命に関する価値観がウラノに近いです。


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12話閑話 旧ベルケシュトック大領地の騎士より

いきなり領主の養女ローゼマイン様を監視、護衛しろという命令が飛んできたのがついさっきのことだった。

 

故郷たるベルケシュトック大領地は今はなく旧領地として見捨てられた土地となった。

 

さて、初めて見た新しい領主の養女は作り物みたいに美しく、夜空色の髪が輝き黄金の目をしていた。

 

これで年齢は7、8歳位にしか見えず笑えばかわいいのに、完全に無表情でそれがいっそう作り物めいた雰囲気を引き立てていた。

 

さて、そんな彼女だが神殿長に任ぜられたらしく、神殿へ向かうとのことだ。

 

神殿など魔力のない者の掃き溜め所ではないか。そんなところへ配属されるローゼマイン様に少し同情した。

 

任務なので入り口まで送り城へ帰り、帰りの連絡を待つと急遽旅支度をせよという指令が出た。

 

なんでも故郷である、旧ベルケシュトック大領地に領主の養女で神殿長たるローゼマイン様が向かうのに付き添えとのことだ。

 

同じく旧ベルケシュトック大領地とする仲間とともに向かうことになった。

 

そこからが驚きの連続だった。

 

まず、貴族院に行っていないローゼマイン様が騎獣に乗っているのはおかしいがまだいい。

 

だがその騎獣の中に乗り込んでおり、しかも見た目はグリュンという魔獣に似た何かであり一瞬攻撃しそうになった。

 

まあ、そんなことは後から考えればたいしたことではなかった。

 

ローゼマイン様の指示で近くの村から全部まわるというので流石に全部まわるのは無理と答えると、

 

旧ベルケシュトックの神殿に向かうまでに効率よく村やギーベの館をまわりたいと言い出した。

 

領主の養女とはいえ領主に連なる者の命は絶対だ。

 

ローゼマイン様に責任はないが、たとえ故郷を見捨てたものの一族とはいえ希望には応えなければならない。

 

そんな風に考えていた私を今なら殴ってやりたい。

 

一番近い旧ベルケシュトックの村にたどり着くと

 

ローゼマイン様はろくに事前通知もせず村長宅へ直行し一方的にフリュートレーネの儀式を行うと宣言し、あわてて人を集めるという村長に時間の無駄だから必要ないとにべもなくいい、現在育てている農作地の中心だけ確認しさっさとそこへ向かっていった。

 

まさしく聖女、あるいは天使が舞い降りた。

 

一時期エーレンフェストに聖女が現れたといわれており、起こした奇跡の数々がこちらまで伝わってきたが当然そんなことは噂に過ぎないと思っていた。

 

ローゼマイン様は関係ないだろうが、その噂以上のすさまじい奇跡を起こしだした。

 

ローゼマイン様の美しい声が朗々と響き、今まで見たことない巨大な7色の魔力の渦がローゼマイン様を中心に展開され、外側に向かっていくのにしたがって美しい緑色の魔力となり広がっていく。

 

広がっていく緑色の魔力を地面が吸収しやせこけていた土地はたちまち回復し肥えていき細々と枯れかけていた作物がいっせいに花を咲かせ実を付け出した。

 

われわれは余りの神々しい現象に誰も動けないでいると、相変わらず少しも変わらない無表情で、

 

「さて呆けていないで、さっさと次へ行きますよ。ベルケシュトック全土をまわるのにいつまでも時間をかけられません。」

 

先ほどの現象もあり、もはや神の声に聞こえます。いや、女神様ですね。その言葉でみんなはっと気を戻し次の村へ向かいます。

 

そこからは、我先にとローゼマイン様のために動きます。全員で交代でオルドナンツを使まくり旧ベルケシュトックの仲間の応援を呼び続けた。

 

次々と癒してはろくにお礼の挨拶も受けずに飛び立ち、まったく休まず土地を癒し続けます。

 

ただ、見たこともないどす黒い色をした薬を何度も飲んでいるのには気になりましたが。

 

小神殿に着くともうあたりは完全に暗くなっています。騎獣から降りると体がつらいのか動きづらそうにしているので抱えて小神殿に運びます。

 

この時点で神殿などという感覚はとうに消えうせており、ローゼマイン様のためになら命も惜しくないという心境でした。

 

この後、応援が来るまではるか高みに上る覚悟でローゼマイン様のために働きました。

 

その後応援が大勢来てくれたので我々は休みに入りました。というかもう魔力など回復薬を含めて残っていません。

 

ローゼマイン様の体力と魔力はどうなっているのでしょうか。いや、恐ろしく無理しているのは間違いないでしょう。

 

なんといっても小神殿まで帰って来て降りると気絶したように倒れてしまわれるのだから。

 

これは最後まで旧ベルケシュトック全村をまわり終わられるまで八日間も続いた。

 

この話は後に伝説となって旧ベルケシュトックに舞い降りた天使、もしくは聖女という物語として後々まで語り継がれました。

 

 

 



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13話 噛み合わない価値観

うーん、もう無理。熱すぎるよぉ。

 

何やっているんだろう私。

 

こんな故郷(心のゲドゥルリーヒ)の敵性領地のために、はぁ。

 

まわる村々はひどい有様でギーベたちも、ものすごく倹約し全員でがんばっているのが見えた。

 

装飾品に気を使う余裕がないのかギーベとは名ばかりでガランとした家ばかりだった。

 

旧大領地と聞いていたから以前のエーレンフェストでの神殿長のような傲慢な方たちばかりだと思っていたのでいい意味で裏切られた。

 

だからだろうか、うん、張り切りすぎました。

 

以前ならフェルディナンド様という英知の女神メスティオノーラが間違って生んだ魔王様がいたけど、やっぱりダメダメだね私。

 

起きると周りがざわつきだし何名かが飛び出していきました。

 

残った側付の人に寝込んでから何日たったと確認すると深々とかしずいて、5日との回答をもらいました。

 

なんというか声も震えていて恐れ多いものを見る目はやめて欲しいけど。私見た目そこまで怖くないよね?

 

しかし、5日かぁ。うん、体が少し丈夫になったね。最低でも10日はいくかなと思ったからね。

 

ものすごくのどが渇いたので用意してもらっておいた水をもらいちょびちょび飲む。

 

こういう時一気飲みするとむせるんだよね。

 

さて、ここまで魔力を酷使し続け魔力を完全に使い切ったのは初めての経験でしたがもう完全に回復してますね。

 

身体強化の魔術をかけて、とりあえず折りにでも行きますか。

 

「お願いしますから、ローゼマイン様。まだお休みください。」

 

ええ、なんか泣きそうになりながら懇願される、決死の覚悟が見えるのは気のせい?

 

「いえ、少し体を動かさないと私の場合命にかかわりますので、よろしければ付き添っていただけますか。」

 

魔力圧縮が大変なんだよ。使い切った反動なのかまたものすごく増えているし。

 

命にかかわるのですか。と側付の人がおろおろしだした。まあ、起きていきなり動くのは確かに良くないよね。

 

「取り合えず、湯浴みもしくは体を拭いてくださる?」

 

いそいそと湯浴みの準備をしてくれました。さすが旧とはいえ大領地の神殿。

 

縮小されたといっても道具とかは残っているんだね。

 

さてさて、もうここには用はないし。最悪命令するかな。やりたいことはいくらでもあるし。

 

ああ、ユレーヴェの材料探し。せっかくやろうと思ったのにしょんぼりだよ。

 

まあ、緊急事態だからしょうがないね。

 

さてと、湯浴みも終わったしお祈りして聖典等書物の確認、その後収穫できる作物の確認かな。

 

「ですからお願いしますから動き回るのはおやめください。まだ熱が完全に下がっておられないのですよ。」

 

うーん、困った。心の底から私の身を案じてくれているみたいだけど。きっといい人なんだろうな。

 

この熱は魔力の熱だから放出しないとかえって危ないのだけれど。

 

「これは私の体質なのです。お願いですから私に命令させないでくださいまし。あと、神殿に詳しいなら同行していただけるとうれしいのですけど。」

 

ここまで言えば折れてくれるよね。折れてくれないと命令しなきゃ。

 

「わかりました、ただ、万が一のため応援を呼びますので少しだけ待って下さいませ。」

 

そのあと、リハビリのため身体強化の魔力を最低限にし手を引いてもらいながらちまちまと動いた。

 

うん、縮小されたと聞いていたけど様々な神の像や壁画があるね。神に祈りをのポーズをしないまでも一つ一つに祈り魔力を奉納します。

 

当然魔力を奉納するときは魔力の光が出ますのでまわりは驚いた様子でしたが、途中から慣れてきたのか積極的にまわってくれました。

 

最後に中央で神に祈りをやっておしまいです。うん、この神殿も結構魔力に飢えていたらしく結構もって行ってくれたなぁ。

 

一応神殿長だから、神具等はあるかと聞くとアーレンスバッハの本神殿と中央に回収されたとのことなので、

 

最後に保管されている書籍全部に目を通し、聖典の鍵を使い聖典を確認し、作物等聞いて寝床に戻った。うん、蕎麦っぽい何かはあるみたいだね。

 

次の日、さあ、戻るぞ、今日こそはと思い準備をお願いすると

 

「お帰りの前にギーベの方々にお会いください。」

 

ギーベ?私は用がないよ。まあ挨拶もそこそこ好きにやらせてもらったし会ってもいっか。

 

 

 

 

うん、何でこうなった。

 

私がギーベたちがいる大フロアに入るとギーベたちが地面に頭をこすり付けた。

 

神に祈りを!って、私に向って祈って何の神に祈っているの?訳のわからなさで意識が遠くに行きそうです。

 

「ギーベの皆様方そろって何をしていらっしゃるの?特に用がないのなら城に帰らせていただきますけど。」

 

先頭のギーベが顔を上げて、

 

「おまちください、ローゼマイン様。我々の窮地を救ってくださった天の遣いたるあなたに頭を下げる感謝をささげるのは当然でしょう。」

 

確かこの方は上級貴族で旧ベルケシュトックのまとめ役だったと思ったのだけど。

 

結構土地が広く癒すのに時間がかかったためなんとなく覚えている。

 

「わたくし、そういう冗談嫌いですの。わたくしは唯の養女でアウブの娘ですわ。」

 

「たとえそうであったとしても、ローゼマイン様あなたに感謝をささげたいのです。」

 

うーん困った。別に私がいやだったから暴走しただけでそこまで感謝されても困る。

 

「あの一応確認したいのですけど、初めてお会いしたというのに祝福を交換しなかったことに関して怒っていらっしゃいますの。」

 

なんかひょっとして怒らせてしまったから、こんな困ったことになっているとか言わないよね。

 

「滅相もない、此度のご恩絶対に忘れません。われわれにできることといえば名を捧げるくらいしかできません。ぜひともすでに捧げてしまったものを除き受け取っていただきたい。」

 

もうやだ、この人たち。何のために私が動いたかぜんぜん理解していない。

 

「わたくし、アウブの命令で動いただけなのです。それに見ての通り体が弱くいつはるか高みに上るかわからないものですから。」

 

はあ、名捧げとか冗談じゃないよ。

 

「それに、わたくし名捧げという行為がだいっ嫌いですの。命を粗末にする人は絶対に許しません。」

 

「それでは我々は何も返せません。それに我々が名捧げすればあなたはエーレンフェストに戻れる可能性が増えるのですよ。」

 

何でこの人たちがエーレンフェストについて知っているのだろう。

 

これはまずい、うまくいけば帰れる道ができるかもしれないけど従属の契約に反しかねない。実際指輪を確認すると僅かに点滅している。

 

「エーレンフェストですか?何の話でしょう。」

 

本当にわからないという感じで進めるしかないよね。

 

「知っての通り我々は以前は大領地でそのときの情報網も僅かながら残っております。そして今回の奇跡であなたがエーレンフェストの聖女であることを確信しております。」

 

「エーレンフェストの聖女?寡聞にして聞いたことがないのですがどういった方ですの。」

 

エーレンフェストの聖女って本当になんだろう。確かに神殿長代理はしていたけどそんな呼ばれ方はしたことがないはずだ。

 

なんでも、エーレンフェストの聖女とは命を狙われたギーベの娘が神殿に入り、あるところでは古代の儀式を蘇らせそれまで困窮していた土地を救い、あるときは盛大な祝福を授け、あるときは死に掛けの騎士団を祝福と癒しの祝詞で復活させ、あるときは土地を癒し...。

 

いや長いよ。というか誰だよ。そんな品行方正な人間いてたまるか。

 

私に当てはまりそうなのは、2年位前にはるか高みに上られたって部分くらいしかないじゃん。

 

「少なくとも私のことではないですわね。当てはまる部分がまるでございませんもの。」

 

はあ、取り合えず長い話が終わったのでこれ以上は付き合ってられない。

 

命の直接的な危険がない限りはアーレンスバッハに忠誠を捧げないと命がない立場だしね。

 

「もし私の役に立ちたいというのでしたら私のお父様と第一夫人のお母様のご支援をできる限りのことでしていただければ結構ですわ。」

 

名捧げした人まで引っ張れないしね。

 

「とにかく繰り返しますが今回はアウブアーレンバッハの命によって私は仕事をしたのであって、私に感謝は必要ありません。感謝はアウブに、いいですね。」

 

周りは、なんと言うおやさしい。とても謙虚でまるで聖女だ天使だ。などといって感極まって泣いているものまでいます。

 

「今のお言葉でわれわれも決心しました。もちろんローゼマイン様のご両親にご支援はいたしますがあくまで我々の忠誠はあなたへ向いております。なにかローゼマイン様に困ったことがあれば命を捨ててでもお助けいたします。」

 

ウラノの世界の宗教指導者になった人ってこんな気分なのかなぁ。いやね、私もこの領地の宗教のトップな訳だけど。

 

「もう、お好きにしてください。ただし、命を懸けてというのは絶対に許しません。できる限りでならお受けします。」

 

これ以上付き合ってられないよ。私一人の命でも重いのに他の人の命なんて背負える訳ないじゃん。

 

なんかみんな頭を地面にこすり付けて泣いているけどもう出てっていいよね。

 

はあ、立っているのも精神的にも疲れた。お米も発見できなかったし。ユレーヴェの材料探しもできなかったし...。

 

素直にありがとうといってくれればそれだけでよかったのに。

 

 

 

 



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14話 ルールブレイカー

そのあと、教会の周りから盛大に見送られました。

 

待機していた護衛騎士や、連れてきた灰色神官は交代の時期だったらしく一部別の灰色神官が乗っています。

 

恐れ多いから馬車で帰るとか、いろいろごねたので

 

「わたくしが、そんなに信頼できないのですか。」

 

うん、半分命令しました。なんでレッサー君は、こんなにかわいいのに不人気なのだろう。

 

荷物を置くため城へ行く前に神殿へ寄ります。

 

以前は絶対入ってこようとしなかった騎士の方々が率先して灰色神官の荷物の運び出しを手伝っていたのは印象的でした。

 

神殿の悪印象を少しでも払えたのならよかったのかな。

 

神殿長代理や神官長にお断りを一言入れて、城へ向かいます。

 

アウブ優先、絶対だね。

 

お取次ぎの手紙を出してもらうとすぐに会うと言う報告が届いた。

 

すぐに会えるほど忙しくないわけがないのだけど。

 

「ただいま戻りました。アウブ。」

 

「ああ、よく戻ったローゼマインよ。」

 

以前は青白い顔をしていたけど、顔に血行が戻り少し疲れは見えるけど健康のようだ。

 

「まず報告をさせていただきとう存じます。旧ベルケシュトックの領地は、余りにひどく植えられている作物はほとんど枯れ人が暮らせる地ではありませんでした。」

 

そのあと、騎士たちと協力して旧ベルケシュトック全体を必要な分だけ癒していった話をした。

 

「税収は増えないでしょうけど、来年以降は期待できるだけの状態になったかと存じます。」

 

ひとまず報告は以上かな。

 

「他のものからも報告は受けている。して、旧ベルケシュトックのギーベたちより支持を取り付けたという話だが。」

 

「ええ、お喜びください。必ずアウブとお母様を支持するとお約束をいただきましたわ。」

 

「名捧げ等はあったか。当然支持を確定させるために何名かさせたのだろう。」

 

やばい、契約魔術の用意もなかったし名捧げなんて冗談じゃないと受けていない。

 

「申し訳ございません、何名かそういう申し出はありましたが健康に不安のある私が受けるのはアーレンスバッハにとって不利益にしかなりませんと考えまして。」

 

「では次から名捧げを希望してきたものがいたら必ず受けるように。」

 

なんでもない受けて当たり前のような顔で言ってきた。

 

冗談じゃない。他の人の命なんて背負えるか。

 

「それは、命令ですか?」

 

「何を悩むことがあるか。領主の養女として当然のことだ。誉れではないか。当然命令だ。今回は仕方がないが次からは必ず受けろ。」

 

もうダメだ、これは覚悟を決めるしかない。少しはこの人とつながれたと思ったけど文化の違いは大きいとあきらめるしかないのか。

 

「撤回していただけませんか?」

 

「撤回はせぬ。」

 

「わかりました、わたくしは一応アウブの娘として契約しておりますが、アウブにとって必要なのは道具としてのわたくしだというのはわかっております。」

 

「ローゼマイン、そなた何を言っておる。一生命を懸けてくれる仲間が得られるということだぞ。そなたにとっていいことはあれど悪いことなどないではないか。」

 

うん、為政者としては正しいのでしょう。

 

「申し訳ございません、アウブ。わたくしはこの脆弱な体のため常に命の危機にさらされてきました。そのためわたくし一人の命でも重いのです。他の人の命まで背負えません。」

 

ああ、これからやることは痛いんだろうな。やだな。でも他の人の命を背負うのはもっとイヤだ。

 

「撤回はしていただけませんか。」

 

「くどい、それが領主の娘となったそなたの義務であると同時にまったく基盤を持たぬそなたを守るためでもあるのだぞ。」

 

まあ、保険で持っておいてよかったのかなぁ。

 

「わかりました、では使えない道具は必要ありません。今までありがとうございました。」

 

あーあ、終わったかな。ごめん、村のみんな、せめて最後にカミル抱きたかったなぁ。

 

「命令に関しましては拒否させていただきとう存じます。」

 

 

 

 

 

訳のわからぬ事態となった。

 

名捧げを受けるという行為は、もっとも名誉なことであり申し出があれば受けるのは至極当然のことだ。

 

ところがローゼマインは、受けたくないという。

 

何を馬鹿なことを、冗談を言わぬローゼマインが冗談を言う余裕も出てきたのかと楽観しながら命令にすると

 

ほとんど動かない表情の中に深い悲しみを浮かべるようになった。

 

しきりに命令の撤回を求めてくる。

 

これに関しては上位者の命令を撤回するなんてありえない。まして娘になったとはいえ従属契約があるのだ。

 

無理やり娘にさせられたにもかかわらず、私の体調をよくするために提案までしてきて実際にものすごくよくなった。

 

更には今回の働きだ。

 

叶えられることなら叶えるべきだろう。しかしこと名捧げについてはアーレンスバッハでは忠誠心を試すのに当然の行為だ。

 

まして相手から求められたのなら受けるのは当然の義務だ。

 

いままで従属契約があるとはいえ順従だったローゼマインが理解できないことで初めて逆らってきたこともあり意地になって撤回しなかったところ

 

ローゼマインがナイフを出して

 

「命令に関しましては拒否させていただきとう存じます。」

 

というと同時に腹に突き刺した。

 

 



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15話 意見交換

ああ、いたいよぉ。村で家族と暮らせればそれだけでよかったのに。

 

何でこんなところまで来て、奴隷のような契約させられて下手したら家族が危険になるような国を支援してまでやってきたのに。

 

「アウブとして命ずる。ローゼマインよ、今ここで死ぬことは絶対に許さん。先ほどの命令は撤回する。」

 

ああ、痛い。もう遅いよ。

 

「フォルコヴェーゼン」

 

「ローゼマインにルングシュメールの癒しを」

 

そんな呪文が聞こえたような気がします。

 

 

 

 

 

まさかナイフを隠し持ち私を刺そうとするのではなく自分を刺すとは。

 

慌てて生きることと、命令の撤回を行う。

 

まずい、まず治すにせよナイフを抜かねば。

 

「フォルコヴェーゼン」

 

とりあえず、領民を守る呪文で血を止めナイフを抜く。

 

後から考えれば、アウブらしくもなく相当慌てていた様だ。

 

「ローゼマインにルングシュメールの癒しを」

 

傷はあっという間にふさがる。

 

当然だ。ナイフでできる綺麗な傷を治すのにそこまで苦労はせぬ。

 

とりあえず側の仮眠用の寝具に寝かせる。次に医者を呼び状況を確認させる。特に問題はないとの事だ。とりあえずよかった、一安心だ。

 

しかし、行動が理解不能だ。ゲオルギーネに渡されてから簡単には素性を調べさせたが他領のものであるのは間違いないが実際のところ誰だかわかっていない。

 

ローゼマインというのもゲオルギーネが勝手につけた名前だ。一番の最有力候補であるエーレンフェストの聖女というものは、話しはいくらでも出てくるし、神殿にいたのは確かだが素性についてはそこから深まらない。

 

まして仮想敵対領地だ。ゲオルギーネなら内部に協力者がたくさんいるので手に入るだろうからいくらでも手に入るが私の伝手では無理だ。

 

そもそもあの国はなぞが多すぎる。今度起きたら命令でもなんでもして絶対に全部聞きだす。

 

その前に相談だな。あいつになんと言われるか。

 

 

 

 

 

う...ん、ああ、生きてた。命の危険で取り消されたかはなぞだけど、大丈夫だよね。

 

あそこまでいって命の危険でないって、もしまた名捧げを受けるという話になったら毎回命をかけなきゃダメって事かな。

 

ああ、イヤだな。もっと体が頑丈だったら受けても少しはよかったかもしれないけど。いや、やっぱり無理だね。

 

もういやだ、あはは。

 

そういえば、ここは?自分の部屋か。

 

「ローゼマイン様!起きられましたか。すぐにアウブへ報告せねば。」

 

ううん、おなかが痛い。村の家族に会いたい。これがウラノの世界のホームシックってやつかなぁ。

 

「起きましたか、ローゼマイン!」

 

ああ、お母様。起きたばっかりでございます。

 

「よかったわ。ローゼマインのおかげで最近はとても体調がよいのですよ。」

 

「ローゼマイン起きたと聞いたが!」

 

お父様とお母様、忙しいはずの二人がこんなに急いでくるなんて。

 

「あなた、あなたのせいでローゼマインが苦しんだのですから。もちろん絶対必要な命令だというならともかく名捧げ程度で。そんなもの重要視しているのはアーレンスバッハぐらいでしてよ。」

 

「だが、必要なのだ。それよりローゼマインよ。今回のことでお主と価値観がまるで違うということはよくわかった。」

 

う、ん?もしかしたら理解しようとしてくれそうな感じかな。

 

その後、私を抱え隠し部屋の魔術具を取り出す。簡単な設定をしてあったようで、三人で中に入りました。

 

「そもそも、お主の出自を調べさせていたのだが、はっきりと確信を持てるほど調べられなかった。」

 

え、当然知っているものばかりだと思ったよ。ゲオルギーネ様あたりにでも聞けばわかるんじゃないの?

 

「お主の出自から話してもらえるか。」

 

「申し訳ございません。話を聞きたければ命令してもらえますか。お願いというのでしたら一から話したくございません。」

 

お父様、なんだか苦しそうな顔をしている。ただの道具が思いの他使いやすかったから愛着を持ってしまった感じかな。

 

「命令だ。ローゼマイン。お主の生まれたときから本当の名まで全部話せ。」

 

命令ならしょうがないよね。村の家族のことは話したくないけどあの村は正式名称がついてないから命令でも隠し通せるかもしれないし。

 

もしかしたら村の家族について聞いてもらいたかったのかもしれません。平民であった村の家族からギーベの養子になった経緯、神殿での生活について全部話しました。

 

平民であったときの家族の名前と村の詳しい場所は言わなくてよいと許可をもらえたので話さなくて済んだ。

 

「なるほどな、平民上がりか。誰もお主を見て平民上がりだということは信じないだろうな。」

 

「それよりもフェルディナンド様の教え子ですって。平民上がりであるよりもそっちの方が驚きでは。」

 

「そういえば、とても優秀なアウブの副官が、エーレンフェストにはいると、ゲオルギーネがこぼしておったな。その者のことか。」

 

「噂ではすごいことになってるけど、実際のところはどうなんです。ローゼマイン話してもらえるかしら。」

 

え、フェルディナンド様のこと。フェルディナンド様ねぇ。

 

本人はただの薬や魔術具を研究していれば幸せだという人間なのですがということを述べた後、

 

「一言で言うなら、英知の神が間違ってこの世に産み落とした子ですね。」

 

興味深いということでお父様も話を聞いてきます。

 

「ほう、それは知識がすごいということか。」

 

「それだけではございません。すべての情報状況を的確に読み必ず最善手を打つ、こういうことを言ってはいけませんが仮にフェルディナンド様がツェントになったのなら今あるユンゲルシュミットの問題はほとんど、どんな形であれ解決するでしょう。」

 

「それほどのものなのですか。」

 

「あの、お母様、私のような唯の子供が思ったことなので参考程度にしてくださいませ。それに私程度では弟子としてすら認められませんでしたから。」

 

「まあ、そうなんですの。アウブからもとても優秀だと聞いていますよ。ねえ、あなた。」

 

「そう思っていただけているのなら幸いです。数々の配慮感謝いたします。ただ、このような契約がある身で申し訳ないのですが私以外の命にかかわる命令はご配慮いただけると幸いです。」

 

うん、まずいね。完全に奴隷根性ってやつなのかな。契約魔術が侵食してきているのか、ウラノの世界で言う適応というのか。だって実際契約怖すぎる。

 

その後も、もしかしてお慕いしているのかしらとか聞かれたので、教師としては尊敬もお慕いもしていますが人間としては付き合いたくありません。と答えておきました。

 

だってフェルディナンド様って悪魔で魔王だもん。

 

 

 

 

聞いた話では平民の身食いが神殿でうまく魔力をコントロールし豊富な魔力があったから目をつけられ育てられたということか。

 

しかし、正直なところローゼマインという鬼札を手に入れたと思っていたが、この子ですら無能と評するフェルディナンドというものはいったいどうなっておるのだ。

 

ゲオルギーネは、エーレンフェストとの諍いを望んでいる可能性が高いので、一度本気で楔を打ち込みエーレンフェストとの関係改善を模索するか。

 

 

 

 




フェルディナンド様も原作と違って、ロゼマの前世を見ていないので完全に表面だけの繋がりです。
つまりほとんど心は繋がっていません。
フェルディナンド様にとっては壊れても問題ないから平気で無理させてました。
一応エーレンフェスト領主一族とライゼガングは仲良くはないですしね。心は家族が守ってましたし。

この作品ではあくまでマインであり、ウラノではほとんどないのでやっても無駄かもしれませんが。

あと、師弟関係については後でわかると思います。


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16話 恐怖の食事会

ようやく主役の方が出ます。






神殿に戻り、元神殿長と引継ぎ等をします。

 

隠し部屋や神殿長室を譲ってもらったので工房はこちらに作ろうかな。

 

城にも隠し部屋をもらえたけど寝具と以前作った魔術具以外置いていないんだよね。

 

さて洗礼式と収穫祭の季節ですね。

 

元神殿長と神官長と報酬等でお話します。

 

うーん、孤児院教育とかも何とかしたいし私の魔力さえあれば、農業とかさせても何とかなりますし。

 

自分で稼げたり、後計算など事務ができれば、価値があがって引き取ってもらえる確率が高くなるしなぁ。

 

城の図書室の情報をかき集め、秋の洗礼式や収穫祭のついでに素材をいろいろ集めてきました。

 

特に魔木を大量に仕入れましたよ。こっそり魔力に任せて若木増やしたりがんばりました。

 

ユレーヴェの材料とかも探しましたが、少ししか集まりませんでした。

 

エーレンフェストと違う材料で作らなければいけませんし一人で取りに行くのが難しい所が多いのです。

 

そんなこんなで、神殿長とアウブの政務の手伝いと行き来しているときにアウブから食事のお誘いを頂きました。

 

「ゲオルギーネ様と食事ですか。」

 

「そうだ、珍しく一緒に食事をすることになった。」

 

今の領主一族が珍しくそろうとの事で一緒にとることになりました。

 

ゲオルギーネ様とディートリンデ様のお二人とは初めてお会いします。

 

「風の女神 シュツェーリアの守る実りの日、神々のお導きによる出会いに、祝福を祈ることをお許しください」

 

「許します。」

 

はじめましての祝福の交換を終え、一言加えます。

 

「あらためまして、ゲオルギーネ様、ディートリンデ様、ローゼマインと申します。忍耐の女神 ドゥルトゼッツェンのごとくお会いするのを楽しみにておりました。」

 

忍耐の女神にかけて、直訳すれば会うのを止められていて、とてもお会いしたかったというような感じだけど、まあ、ゲオルギーネ様には伝わるよね。

 

この方には少しくらい文句言わせて欲しい。

 

「まあ、話には聞いておりましたがずいぶんちっちゃいのね。ローゼマイン。私のことをお姉さまと呼ぶことを許しますわ!」

 

うわぁ、ゲオルギーネ様。止めないのかな。笑顔だけどちょっとヒクヒクしてるのは私の嫌味か、ディートリンデ様か。

 

まあ、わざとさせてこちらの様子を見るため仕組んでいるだけかもしれないけど。

 

「ありがとう存じます。ディートリンデお義姉さま。貴族院では今年からご一緒になりますがよろしくお願いしますね。」

 

「よろしくってよ。お姉さまとして困ったことがあったら何でも頼ってちょうだいな。」

 

うわぁ、うん、そういえばゲオルギーネ様については一度信頼した身内にはすごくやさしいとか聞いていたけど、そんな感じかな。

 

「その時はぜひとも頼らせていただきますね。ディートリンデお義姉さま。わたくしについてはお聞きかもしれませんが非常に体が弱いので頼ることもあるかと存じますので。」

 

うん、基本的には下に出て褒めておけば何とかなるかもしれない。このタイプは感情で動くからまったく行動が読めないんだよね。

 

その後食事です。

 

「幾千幾万の命を我々の糧としてお恵み下さる高く亭亭たる大空を司る最高神、広く浩浩たる大地を司る五柱の大神、神々の御心に感謝と祈りを捧げ、この食事を頂きます。」

 

他の人たちは食事前の挨拶の後に簡単に「いただきます」だけど私は神官なのでちょっと長めなので少し小さな声でお祈りを捧げます。

 

「ローゼマイン、あなた食事のときに手袋はとらないのかしら。」

 

暗に、はしたなくてよって言ってますよね。お父様とお母様以外の前では取ったことないですし。

 

「ゲオルギーネ様、見苦しくって申し訳ございませんわ。わたくし病気の後遺症で手袋の魔術具がないとまともに左手が動かないんですの。ですので片手だけ手袋をしたままで食事をご一緒することをお許しくださいませ。」

 

「体が弱いだけでなく手まで不自由とは大変ですわ。お母様、いいではありませんか。私のかわいい妹ローゼマインを許してやってくださいませ。」

 

ディートリンデ様、ものすごく空気読まないで頂いてありがたいのですが、ゲオルギーネ様困ってません?

 

「ありがとう存じます。ディートリンデお義姉さま。」

 

ディートリンデ様のおかげで?食事は終始和やかに進みます。表面上は。

 

やはりお母様とゲオルギーネ様はたいそう仲が悪いらしくバチバチやっています。

 

ディートリンデ様は演技なのか。たぶん素だと思いますが気がついていないようです。

 

ディートリンデ様は、私のことはほとんど知らないらしく、神殿に勤めていることも知らなかったようです。

 

体のことといい、神殿に入れられていることといい、心から同情しているように見えます。

 

というか、これが演技だとしたらこの方は本物の策士です。

 

なんというか、ウラノの世界でいう持っているという人なんでしょうかね。

 

あきらかに危険な発言を平気でするのですが致命傷には自然とならず、不思議と空気が和んだりします。

 

油断したら正直やられそうです。ゲオルギーネ様の娘である以上まったく油断できません。

 

とは言っても神殿についてフォローしたり、体についても気にしていないと言っても話をまったく聞き入れてもらえません。

 

この方と一緒に貴族院へ行くのはとても大変そうです。

 

私大丈夫かな。行動指針が分からないよ。

 

表面上はうまくディートリンデ様と話していると、お母様たちとバチバチやっていたゲオルギーネ様の矛先がこっちへ来ました。

 

「そういえば。ローゼマイン。あなたまだ側近を決めていないんですって。私が決めてあげましょう。」

 

すかさずディートリンデ様が

 

「それはいい考えですわ!お母様に任せれば間違いはないですわローゼマイン。私の妹にふさわしい優秀な方をつけてあげてくださいまし。」

 

やばい、まさかとは思うけどこれが狙い?

 

ディートリンデ様はこの時のために今まで油断させる話をしていたの?

 

もうやだこの人。やっぱりウラノの世界の猫の皮をかぶった悪魔だ。

 

対処できないレベルではフェルディナンド様に迫る方なんて初めてだよ。

 

「申し訳ございません。ゲオルギーネ様。側近の話はアウブとお母様が決めることになっていますので、アウブにお話しください。」

 

私はアウブであるお父様に投げるしかない。

 

「お父様、是非ともローゼマインにわたくしのお母様が推薦する方をつけてあげてくださいまし!」

 

お願いディートリンデ様、話に入ってこないで。

 

「うふふ、ディートリンデも義妹にようやく会えて張り切っているようですわ。アウブ是非とも検討してくださいね。後で詳しく執務室へ資料を持って行きますからじっくり相談しましょう。」

 

完璧すぎるギラギラした笑顔。フェルディナンド様はこんな方に嫌がらせとか受けていたの?

 

たぶん見た感じ、まだぜんぜん様子見だよね。

 

その後もいろいろ精神的に絶望しかけながら食事会は終わりました。

 

 

 

 




デイートリンデ様は原作者も言っていましたが書いていて本当に楽しいです。

同じく二次で彼女に憑依させた作品も書いていたのですが素の方を書いた方が面白いのでお蔵入りしました。本好きを少し知っている方を憑依させた側から見たロゼマさんへの恐怖と詰んでる感は、それはそれで面白かったのですが。


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17話 側近は当てにできない

食事会の後、神殿長としての仕事に現実逃避したりしましたが、お父様から呼び出しがありました。

 

神殿から城へ行きアウブの執務室へ通されました。

 

部屋に入ると、アウブと激オコな表情のお母様が座っていました。

 

「ローゼマイン、まずお主の側近達が決まった。」

 

リストを渡されます。

 

アーレンスバッハの第一夫人派の方は無理でも旧ベルケシュトックの貴族の何名かくらいは何とかなるかなと悲観していましたが。

 

うん、まあ、なんと言ったらいいのか。

 

「お主に迷惑をかけるが、変更するつもりはない。」

 

うん、でしょうね、

 

「ローゼマイン、なぜ黙っているのですか。あなた何を考えていますの。ゲオルギーネの腹心しかいないではないですか。」

 

「レティーツィアの件は、話しただろう。後はローゼマインの問題だ。」

 

うん、しかしゲオルギーネ様は本当に何がしたいのだろう。私なんかに警戒したって余りに利益が少ないと思うのだけど。

 

ゲオルギーネ様側に寝返らせるなら従属契約があるし、それならアウブを動かすべきだし。

 

「なにがローゼマインの問題ですか。いいですか、いくら従属契約があるといっても少しくらい文句言ってもいいのですよ。」

 

はあ、その従属契約が問題なのですが。お母様も魔術具に詳しいはずなのに気持ちが高ぶっているのか分かってないよ。契約の恐ろしさが。

 

「お母様、アウブたるお父様が必要だといっているのですから、必要なのですわ。お母様も第一夫人なのですからお父様を困らせないでくださいまし。」

 

「ローゼマイン、あなたも命令と聞いていないでよく考えなさい。このような理不尽、私は許せません。」

 

「お母様が許す許さないではありません、アウブを困らせないでくださいまし。ご命令とあらば私は道具としてできる限り命令を実行するだけです。」

 

決まったことをグダグダ話すだけ本当に無駄。

 

「ローゼマイン、あなたは道具などではありません、アウブ、ローゼマインとの従属契約を破棄しなさい。これ以上従属契約で精神を縛れば元に戻れなくなりますよ。」

 

「お母様、気持ちだけで結構です。それよりもレティーツィアの件とは何ですの。私の関係で何か利益を得られたのですか。」

 

何か条件を引き出せていないならともかく相当な条件があるような言い方をしているからなんかあるよね。

 

「まだ話は終わっていません、ローゼマイン一人に礎の魔力供給をさせているだけでなく、この間の大規模なエントヴィッケルンの魔力まで貯めさせておこなったのは知っているのですよ。どれだけ一人に負担を背負わせる気ですか。」

 

あれは、旧ベルケシュトック大領地のために必要な処置だったし、本当は旧ベルケシュトック大領地そのものをエントヴィッケルンできれば良かったけどできないから、街道整備くらいしか役に立ってないけど。輸送は大事だよね?

 

薬や魔道具の素材の回収に行く時間をとられたくらいだし終わった話をしても仕方がないよ。

 

「お母様、何度も言わせていただきますが、お父様を困らせないでくださいまし。既に終わった話よりもレティーツィアの件とは何ですの。」

 

その後も、怒りの表情です。実の子でもない子に感情的になって、まして従属契約を破棄しろなんて感情的になりすぎです。

 

もし破棄してくれるなら速攻で逃げますけどね...。

 

逃げたらライゼガングの皆様、黙っていないだろうな。説得できるかな。

 

その後も、これだけしてもらっておいて、この子に何もしてあげられていないどころか負担ばっかりさせているだけじゃないのと話が進みません。

 

しばらく私が黙っていると一通り怒ったおかげで落ち着いてきたようで、

 

「レティーツィアは、私の孫です。ドレヴァンヒェルより養子にもらいます。あなたの妹となりますのよ。」

 

妹ですか。こんな領地にドレヴァンヒェルなんて安定した土地から来るのは大変だろうな。

 

「ローゼマイン、お主のおかげでゲオルギーネにはレティーツィアに一切手出しをさせぬ約束ができた。おかげでレティーツィアを次期アウブとして安心して育てることができる。」

 

うん、そうですか。次期アウブ。お父様も優秀かもしれないけど予測不能なディートリンデ様にはしたくないんだろうなぁ。

 

「次期アウブとして確約させたわけではないのは残念ですが、それなりの利益が出たのなら問題ありません。」

 

確約したら毒殺コースかもしれないしね。

 

もしくはゲオルギーネ様がその前に何か事を起こす可能性もないわけではないし無難に済んだってことかな。

 

さて、お話は以上ですかね。

 

「それではお母様、わたくし程度の事でいつまでも怒っていないでくださいまし。美人が台無しですわよ。」

 

失礼しますっと、お母様がお父様をどれだけ引き付けられるかでエーレンフェストの未来もアーレンスバッハの未来も変わるかもしれないのに仲が悪くなるのは勘弁です。

 

ああ、村のみんな元気かな。会いたいな、私は何とか生きてます。

 

 

 



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18話 貴族院での制約事項

さて、あっという間に秋が終わり冬が始まります。

 

アーレンスバッハの冬はとても暖かく雪もほとんど降りません。

 

エーレンフェストが懐かしいです。村のみんなで館に集まって固まって寒さに耐えたりしましたっけ。

 

貴族院に行くのももうすぐということになりお父様から呼び出しがあった。

 

「さて、今日そなたを呼び出したのは貴族院に行く前にいろいろ命じなければならないからだ。」

 

まあ、そうだよね。エーレンフェストから3年たったとはいえ、覚えやすくてよかったなとか思っていたけどこの名前からしてやばいよね。

 

だって、元の名前マインだよ。エーレンフェスト領主一族であるカルステッド様の今は亡き第三夫人が元ライゼガングでローゼマリー。

 

見た目も魔力圧縮のせいかあまり変わっていないし、情報行くだろうなぁ。

 

お父様にこのことを伝えると、

 

「ライゼガングか、話は聞いている。ゲオルギーネの母であるヴェローニカからずいぶん冷遇されていたらしいな。」

 

「そうなのです。わたくしもライゼガングにいた時期はそう多くはございませんでしたが、それはもうヴェローニカ様への恨み等も聞かされました。」

 

はあ、本当にあれだけは好きになれなかったんだよね。無理もないんだけどさ。

 

「ついては、お話しするまでもありませんがヴェローニカ様、ゲオルギーネ様ひいてはアーレンスバッハへの恨みはそれはもう酷い物でした。」

 

はあ、うらみつらみからまって怖いねまったく。

 

「わたくしについてはとてもよくして頂いたので、万が一マインがアーレンスバッハにいるとなればライゼガング単独で争いを起こすかもしれません。」

 

「それほどの恨みなのか、まあ、一地方だけなら問題はない。」

 

「記憶喪失にする、名前を変える、エーレンフェストにそれとなく出身と思われるものを保護して...ダメですわね。どれも余計な火種になりそうです。」

 

戦争回避の手段なんて流石にわからないよ。論理ではなく感情で動きかねないのがライゼガングだ。

 

「エーレンフェストなど、所詮14位の領地だ。6位のアーレンスバッハとは国力が違う。捨て置け。」

 

アウブとしては歯牙にもかけないよね。分かってはいるけどちょっとしょんぼりだよ。

 

「とにかくそなたは、エーレンフェストのものと接触するのを禁ずる。」

 

「流石に最初の挨拶、領地主催のお茶会でまったく接触なしというのは難しいかと存じますが。」

 

「では、自ら接触するのは禁ずる。最低限の挨拶のみ許可し、相手から無理して来た場合は上位領地を前面に出し拒否するものとする。」

 

うーん、あいまい。どこまで挨拶になるか分からない。まあ、従属の指輪の判定で対処するしかないね。

 

「万が一、上位領地もしくは複数の領地を絡めて話せる状態に持ってきたらどう対処しますか。」

 

「側付にいや、そなたの体調が悪くなったとでも言って席をはずせ。あと、神殿長としても仕事をしてもらわねばならぬ。」

 

奉納式ですね。当然帰ってくるつもりです。

 

「ディートリンデ様については、アウブと同じと考えて行動しないとなりませんか?」

 

多少、管理権限を渡すのでしょうか。できるのかは流石にわかりませんが。

 

「ディートリンデについてはそなたの判断に任せる。また、そなたが体調を崩しやすく社交については任せると言っておく。」

 

うん、よく考えたら他人について考えず喋り捲るディートリンデ様の側にいれば...だめだ、巻き込まれて話す未来しか浮かばない。

 

「ディートリンデ様はエーレンフェストのヴィルフリート様と親戚とあって、ついでに話さざるをえなくなる可能性がございますがどうしますか。」

 

「う、む、ディートリンデの話を介しての接触は許可すると言うのもどうなるか読めないな。」

 

やはり、お父様でも行動予測が不能のようだ。

 

「逆に聞こう。ローゼマインはどうしたい。」

 

これは逆に難しい質問です。下手に答えれば忠誠心を疑われますし。

 

社交については当初予定がなくて急遽エーレンフェストが参加するなんてのも考えられるし。

 

側付の方々がまったく信用できないのはこういうときにつらいなぁ。

 

「極論を言うなら、社交を禁止していただければ後はどうとでもいたしますが流石に大領地の領主候補生が参加しないというのは問題ですので。」

 

うん、社交禁止。めんどくさくなくていいね。でも無理だなぁ。

 

「エーレンフェストへ自ら接触するのは禁止、接触した場合は挨拶は除き、会話をあいづちや頷きに留め返事等は最低限にし、切り上げるよう努力する。でどうでしょうか。」

 

うわあ、抜け道いっぱいの提案しかできないよ。でも詰められ過ぎると命にかかわるからなぁ。

 

普通の契約と違って従属契約は指輪さえあれば他領でも作用しちゃうから逃げられないしね。

 

「わかった。そなたを信用しそれでいこう。下手打ってはるか高みに上ったなんて聞きたくはないからな。ただし、努力は最大限だ。」

 

うん、つまり最低限に切り上げようとして相手に迫られ続けたら話し続けてもいいってことだ。

 

最悪筆談は...こっちからの接触で不可か。

 

どうにでもやりようはあるけどいいのかな。

 

その後も私の側近については必ずアウブが決めるということなど細かい事項を確認します。

 

「必要であれば週一回の報告で相談いたしますね。」

 

「仕方ないがそうするしかあるまい。」

 

「あと、本を何冊か持っていってもよろしいですか。」

 

「本については前からいっているとおりローゼマインの好きにしなさい。もちろん無くしたり壊したりしなければだが。」

 

よしよし、礎から得たアーレンスバッハの知識とあわせて違っているところを確認したいし、時間が取れればだけど。

 

「それではくれぐれも気をつけるのだぞ。」

 

うーん、危険な状態においといて気をつけろってねぇ。

 

「分かりました気をつけます。」

 

すると、お父様が言いにくそうに何か言おうとしている。まだ何かあるのかな。

 

「それと、二人のときだから言うがローゼマイン、そなたには感謝している。そなたがいなかったら今頃アーレンスバッハはどうなっていたか。」

 

え、なんかこっち来て初めて普通にほめられた気がする。

 

「こちらこそありがとう存じますお父様、お父様から頂いた言葉でこれほどうれしかったことはございませんわ。」

 

うわ、え、ちょっと、いやものすごくうれしい。普通の心からの感謝ってうれしいね。

 

 

 

 




最大限、ローゼマインは甘く見てますがとても危険な契約です。


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19話 たーまやー

さて、神殿業務もお父様の手伝いもひと段落し、魔術具作りです。

 

何で戦場に行くわけでもないのにこんなに準備しないといけないのだろう。

 

お守り、攻撃用魔術具、薬も切れそうだし、後魔木から分解して繊維だけ取り出して魔力で熱風を当て金粉や糊状のものなどいろいろ混ぜて固定し。

 

うん、いい感じで魔紙ができた。配分が難しかったんだよ。

 

魔力を通すから魔木の分解まではスムーズだったけどそこから紙のようにまとめるのが大変でした。

 

これがあれば魔法の媒体に使えるし、いっその事、魔術具で自動化しようっと。

 

うふふん、羽織の内側に魔術具しこんでっと。準備万端だね。

 

 

 

 

さて、今年もやってきました。冬の洗礼式です。前回とは所属が違いますが、神殿長の職務をおこなってから授与式に出ろという命令が出たせいで忙しいのです。

 

こちらでも基本は同じだが私は養女に入った経緯が普通でないので最初にアウブと第一夫人の養女であることと名前だけ紹介される。

 

普通は詳細な理由とか、実績とかあればするのだけどそれは一切省かれた。ところで紹介のときも養女とはいえ領主の娘が神殿長の格好だけどいいのかな。

 

まあ、侮られる方がいいけど。一部は侮るような表情をしているけど、ほとんどの方はなにやら視線が怖いくらい真剣に私を見ていた。

 

 

 

やはり困窮しているのか神官不足か3分の1は洗礼式をおこなえていない様なので洗礼式を行う。

 

親が指輪を贈る。嬉しそうだなぁ。対象は本来子供一人だけどまあ、せっかくだしね。

 

親と子両方に祝福を降らせた。

 

初めの子は少し驚いたようだったけど、親のほうが驚いていたのがなんだかなぁ。

 

うーん、余計なことしないほうが良かった?

 

でもこの後のこと考えると...。

 

 

 

そのあとの洗礼式後のお披露目では、エーレンフェストのときと同様に、あらたなるアーレンスバッハの子を迎える。

 

今のお父様の顔を見る。うなずき返したということは、事前に相談したとおり派手にやれとのことだ。

 

まあ、命令ならしょうがないよね、これ以上目立つこと余りしたくないけど。

 

メダル登録し、エーレンフェストとは三倍程いる貴族の前で

 

「土の女神 ゲドゥルリーヒの祝福を」

 

本人に一番大きく派手に木漏れ日のように細くやさしく会場全員に祝福を贈る。祝福って綺麗だよね。

 

あ、目の前の子が固まってる。ごめんねびっくりさせたかな。

 

やさしく本人にだけ聞こえる声で声をかけてあげる。

 

あわてて祝福返しをしてくれた。

 

その後30人に祝福を同様に贈り、その後音楽の奉納が行われ三十名が奉納するのだが、流石にエーレンフェストと違って一気に授与式までは無理だ。

 

だから、神殿長の仕事をやらされているわけですけど。

 

元神殿長、この長丁場毎回やってたんだから大変だね。神官長と協力しながらやったんだろうけど。

 

さてさて、午前中で神殿の役割はおしまいになるので神殿長として最後の挨拶をします。

 

「午前の最後に今年に新しく神殿の神殿長に就任しましたわたくしより、音楽の奉納をがんばってくださった新たなる子達とアーレンスバッハの以後の平穏なる発展を祈りまして祝福を贈らせて頂きます。」

 

心の中でこっそり「たーまやー」と叫んで会場全体に祝福を降らせる。

 

うん、ふざけてごめんなさい。でもウラノの気持ちが少しは分かった気がする。

 

あ、やばいほんの少し派手にやりすぎたかな。まあいいや。

 

さて、みんなびっくりして固まっているところ悪いけど午後の授与式の準備しなきゃ。

 

おーい、元神殿長、神官長固まってないで撤収の準備お願いします。

 

この方たち私がフェルディナンド様だったらひどい目にあうんだろうなぁ。

 

 

 

 

さて、授与式は午後からなので私はゆっくり着替えることができた。

 

食べ物は食欲無いからいいやと思ったら周りから少しでも食べるように言われた。

 

仕方が無いので無理やり少量だけ食べる。うん、ぜんぜん受け付けないね。今回は3日くらいダメかな。

 

体力無いからこのくらいの仕事でも疲れちゃうんだよね。

 

後半は身体強化の魔術をこっそり使うはめになったしね。

 

というか人が多すぎだよ、さすが大領地。エーレンフェストくらいがちょうど良いや。

 

ちょっとぐったりしてきたので時間まで裏部屋で休ませてもらう。

 

その後授与式を行う。

 

授与式が予定より遅く始まったけど何かあったのかな。午前はスケジュールどおりにやれたはずなのだけど。

 

その後はつつがなくお父様に言葉をもらい贈り物を受け取る。

 

周りの文官が私のときだけ動作が震えているのはお父様が恐れ多いのかな。

 

まあ、なんだっていいや。無事終わったし。

 

体調が悪いので、その後はもう仕事の予定もないしすぐに退席させてもらい、休ませてもらいました。

 

やはりその後3日間寝込むはめになりました。

 

 

 

 



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19.5話閑話 側近になるものより

新しく領主の養女になったローゼマイン様の側近になった。

 

親であるギーベからは、必ず契約に関する条件があるはずだからそれを探せと指令を受け、場合によっては、無理やりでもその条件を破らせ処分しろといわれている。

 

なぜならローゼマイン様は他の領地のものでアウブに手段を選ばず取り入り、アーレンスバッハに仇をなすものだというのだ。

 

今回ローゼマイン様の側近になったものは全員親がゲオルギーネ様に名捧げしている者なので、第一夫人の養女であるローゼマイン様が邪魔に思っているだけだろうと思う。

 

名捧げした親の表情は異常だ。ゲオルギーネ様に忠誠を示せとばっかり言ってくる。

 

でもなぁ、正直貴族院に入る前の方がどうやったら取り入りアーレンスバッハに仇をなせるんだってその時は思ったさ。

 

むしろ、その姫様の情報が出だしてからおかしくなっていたアーレンスバッハの空気が良くなって来たのだ。

 

城下町だけでなく城まで魔力が足りないのか以前は輝くように綺麗だった城が色あせ見るからに魔力不足だったのが領地全体に魔力が行き渡りだしたのだ。

 

更に祈念式が終わってしばらく経つというのに食物の生産量があがりだし食糧問題の解決の兆しが見え出したのだ。

 

 

 

しかし、授与式前の洗礼式から見る目が変わった。

 

まず、紹介からおかしかった。聞いてはいたが神殿長とはいえ神殿の関係者であることがおかしい。

 

神殿は魔力の無いやつらが行くはきため場で侮蔑の対象だ。

 

紹介自体もとても簡素にアウブと第一婦人の養女になった。これで終わりだ。普通は経緯とかいろいろある。

 

 

次に洗礼式からおかしかった。

 

洗礼式なんて普通は小さな魔力を子供にだけ贈って終わりだ。

 

ところがローゼマイン様は親と共にここまで来たことを祝福するかのように祝福を親と子に降らせた。

 

というか、洗礼式は本来一人一人神官を呼べない場合にのみ冬のお披露目と同じ日に行う。

 

また、10名を超えたら略式でまとめておこなって終わりとするのに一組一組丁寧に儀式をおこなっていた。

 

そもそも、10名もこれほどの魔力を降らせたら普通は魔力が切れるはずだ...。

 

 

 

その後のお披露目もおかしかった。

 

なんと今度は祝福を会場にいる全員にやりだしたのだ。

 

いくら舞台の主役の子の祝福が一番多いとはいえ、いや、こんな祝福を送ることすらおかしいのだが、細く儚いような微量の魔力とはいえ会場全員にだ。

 

会場全部なんて見渡しきれないので実際はわからないが、たぶん周りに聞いた限り間違いないはずだ。

 

最後に、音楽の奉納が終わった後、午前の閉めの挨拶をしたかと思うと会場全体に祝福が舞った。

 

もはやそこにいるのは人ではなく天の遣いに見えた。

 

気がついたらいなくなっていたがもはや天使のような何かが残っているような気がした。

 

だからだろう、授与式で我慢しているが疲労を隠しきれていないのを見て人間であるということがわかり少し安心した。

 

というか、お父様方、本当にこの方を害せというのだろうか。これからのことを考えると目の前が暗くなった。

 

 

 

今年の貴族院は異常だ。何が異常って旧ベルケシュトックのやつらが特におかしいのだ。

 

今貴族院に在籍しているものは一学年30名程度だが、そのうち10名ほどが旧ベルケシュトックのやつらなのだがとにかくおかしいのだ。

 

いや、この間の洗礼式とお披露目を見て信望者が増えたのはわかる。

 

だが「新しく来る姫様のために!」とか言って、新入生を迎える準備に余念がなく、作業が終わった後も寝る間も惜しんで鍛錬や勉強に励んでいるのだ。

 

彼らの表情が親とかぶり、ひょっとしたら親の言っていることは本当で最悪の事態を想定しなければならないのかもなどと心配で怖くなってきた。

 

 

 

 



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20話 貴族院へ行く前に

こちらでも貴族の社交界は特にエーレンフェストと変わらず、子供たちが一ヶ所に集められるのは同じのようだ。

 

ディートリンデ様は3日間寝込んでしまったせいで挨拶できず、やばいなぁ。

 

仕方が無いので部屋に通され普通は領主一族から挨拶するなんてありえないのだが、先生を見ても恐れ多いというような感じで何もしてくれない。

 

「作法とは逆になりますけど、新参者なので挨拶させていただきますね。ローゼマインと申します。祝福を贈らせて頂きますね。」

 

うん、許しますもなにも無いもんね。一応ここでは最上位者になってしまうし。

 

本当は先生が仕切ってくれないといけないのですが、はあ。まあ、文化の違いでしょうか。

 

勝手に祝福を全員に贈ります。

 

我先にと前のほうから上級貴族の関係なのか一列に並んで祝福返しを受ける。

 

側近の方たちも残っている人は確認したけど、まあいいや、最低限の付き合いでしょう。

 

人数の関係か同学年でも何グループかに分かれて勉強しているようだ。

 

私は先生の勧めで同じ年の側近のグループへ入れてもらった。

 

一年生用の資料を見せてもらう。上級貴族と中級貴族しかいないので、資料がきっちりとしている。

 

去年の範囲はっとなるほど、ちなみに魔力に記憶を刻み付けるのはもはや考えなくても勝手にやってしまう。

 

要点を頭の中でまとめ、うん、まあこれなら何もしなくていいね。

 

先生に許可をもらいフェシュピールと奉納舞の練習のために音楽用の部屋に移動した。

 

あれ、誰もいないんだ。ちょっと意外。

 

まあいいや、フェシュピールの練習からはじめる。広い部屋だと隅っこって落ち着くよね。

 

神殿にいたときは魔力奉納のため練習していたけど、ここの所少しさぼり気味だったしまずいね。

 

うん、真剣に練習しているけどお祈りしなくても祝福出ちゃうから勘弁して欲しい。

 

こんなの見せられたらまわりは気が散って迷惑だよね。人がいなくて良かった。

 

音楽室に保管してある基本曲を休み休み片っ端から引き続ける。全部覚えているのだけどね。

 

一通り引き終わったので、ウラノの世界の曲を弾いていく。

 

ふう、疲れた。思ったより動くから良かった。

 

奉納舞はもういいや、神殿で何度もやっているし、試験も無いって言ってたからね。

 

さて、片しますかねと片そうとしているとまわりに先生から子供までたくさん来ていて驚きました。

 

「みなさん、こんなところで練習もせずどうしました。もしかしてお邪魔だったかしら。」

 

私がそういうと、ローゼマイン様、すごいです。すごいです。貴族院へ上がる前の子達がワラワラと寄ってきた。

 

うわぁ。尊敬の眼差し。痛い。でもなんかうれしくなってしまうのはしょうがないよね。

 

 

なんでも貴族院へ上がる前の子たちが、みんなで音楽の練習をする予定になっていたのだそうだ。

 

先に断ったじゃん。それならそうと言ってよ先生。

 

「ごめんなさいね。一応先生には確認したのですけど隅なら使っていいといわれていましたのでお邪魔してしまったみたいですね。」

 

実際は隅ならなんて言ってないけどね。祝福止める対策考えないとダメかな。無理だよね。うん。

 

「とんでもございません、ローゼマイン様。周りの子達を見てくださいませ。実際に練習させるよりとっても良い授業になりましたわ。」

 

うーん、実践しなきゃ意味が無いと思うけど。

 

まあ、気を利かせてそういってくれていることだし邪魔者はさっさと退散しよう。

 

 

 

 



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貴族院1年目
21話 いざ貴族院へ


さて、また寝込んでしまいました。

 

フェシュピールだけでだめになるとかやんなっちゃうね。

 

結局寝込んだままで、起きられるようになったらもう貴族院へ向かう日でした。

 

私の魔力でしか開けない薬箱やいろいろな箱を運んでもらいます。お薬とお守りを追加出来るように素材の状態でも少々。調合室貸してもらえるかな。

 

お父様とお母様に見送りに来て貰えたので新作の薬を渡しておきます。以前の薬の効果と味を少し改善しただけだけどお守り代わりに持っててね。

 

緊急時はユレーヴェがあるだろうし要らないよね。今は、まだ万が一があっては困りますよ。

 

さて、貴族院へついたらディートリンデ様に挨拶だな。何よりまずしなければなりません。

 

 

 

 

「貴族院アーレンスバッハ寮へようこそおいでくださいました、ローゼマイン様」

 

うーん、聞いてはいたけどアーレンスバッハの城と変わらないね。

 

エーレンフェストの方もそうなのかな。

 

「ついて早々なのだけれどディートリンデ様はどちらへいらっしゃいます?」

 

「ディートリンデ様ですか?どちらでしょう、確認してまいりますね。」

 

エーレンフェストなら人数が少ないからすぐわかるけどこの人数じゃねぇ。

 

「お久しぶりですわね。ローゼマイン。貴族院へようこそですわ。」

 

オーホホという感じで向こうから来てくれました。

 

「ディートリンデお義姉様、本来こちらから伺わなければならないのにありがとう存じます。また、しばらく挨拶できずじまいで申し訳ございません。」

 

うん、無理してでも洗礼式の日に挨拶しておくべきでした。

 

「いいのですよ。先日のお披露目には驚きましたわ。ぶわっと派手に空に花が浮かんだように綺麗でしたわ。」

 

「まあ、空に花が浮かぶとはすばらしい表現です。わたくし感動しましたわ。流石はディートリンデお義姉さまです。」

 

いや、実際うまいね。花柄の祝福ってできるかな。ちょっとやってみる?

 

「あの、わたくし体が弱くてあの後3日も寝込んでしまいましたの。こちらでも無理をしてディートリンデお義姉さまには迷惑をかけると思いますがよろしくお願いします。」

 

「まあ、あれほどの祝福をおこなったのなら当然ですわね。子供部屋に来ないから本当に心配しましたのよ。まったく、アウブであるお父様に無理してでもやるように命令されたと聞いてますわ。辛かったらわたくしからも一言言ってあげますからね。」

 

うん、やっぱりこの人身内にはいい人だ。なんか最近なぜか恐れられているし本当にありがたい。

 

でも悲しいけどたぶん演技なんだよね。演技がうますぎて本心にしか見えないから本当に策士なんだよ。

 

「ありがとう存じます。ディートリンデお義姉様。わたくし出自が出自ですので社交経験がまったく無く実際のマナー等に難があるので頼りにさせていただきますね。」

 

実際、ディートリンデ様が貴族院での生命線なんだよ。社交ではほとんどお願いしないといけないし。

 

ただ、裏ではどんな指示を飛ばしているのか。考えただけでおなかが痛くなってくる。

 

「さて、私の妹に挨拶をしたくて、皆さんそわそわしてますわ。私の妹ローゼマインに挨拶することを許可しますのでいらっしゃいな。」

 

本当に信頼したくなって心の中で涙が出てくる。先生達と違って初めから誘導してくれるし。

 

横で私の自慢しながらもスムーズに挨拶を進めてくれる。人数多いから挨拶大変なんだよ。顔と名前はほとんど頭に入ったけど。

 

しかし、やっぱりすごいなこの人。私のやったことを自分の功績のようにうまく変えずっと話し続ける。

 

しかも話は止まらないのに挨拶だけはスムーズに続く。どれだけ優秀なのだろう。

 

最悪の事態を考えるとこの人と敵対しないといけないとか、絶対考えたくない。

 

アウブは次期アウブをレティーツィア様でほぼ確定しているつもりみたいだけど、この人はやばいよ。頭痛いよ。

 

 

 

ディートリンデ様のおかげでスムーズに入寮できたし、部屋に荷物を運んでもらったけど。

 

とりあえず、運んでもらったものを全部確認します。

 

といっても重要なものは私の魔力にしか反応しない鍵をつけた箱にいれているからそれだけだけど。

 

普通にあけると普通の薬品の入ったビンが出てくるのだけど、私の魔力で空けると特別な薬が出てくるようにギミックを仕込んでおきました。

 

やっぱりだ。ため息が出ます。箱のいくつかはすりかえられ遅効性の毒に置き換えられています。

 

今身につけている服にも大量に薬や魔術具、魔法陣を仕込んでいるけど苦労して作ったのに残念ですね。

 

近くにあれば魔力で探せる魔法陣も組んだけど、これからどれだけされるかわからないから見つかる希望がほとんど無い状況では無駄にはできません。

 

うん、まあ、たくさん持ってきたし仕方がありませんね。

 

 

 

なにやら共同フロアに下りてくると騒がしいです。

 

何の騒ぎだろう。と首をかしげていると...

 

旧ベルケシュトック大領地の方達が正面に来て片ひざをついて忠誠のポーズをしてきました。うわぁ、いやな予感しかしないよ。

 

「ローゼマイン様、発言をお許しください。」

 

え、なに?本当にいきなり何。

 

「許します。というか発言ぐらいでそこまでかしこまらなくてもいいのですよ。」

 

と私が言い終わる前に、体を前のめりにするような感じで勢いよく言ってきました。

 

「なぜ我々の派閥から側近に入れてくださらないのですか。必要ならば名捧げでもなんでも行います。条件があるならお示しください。」

 

はぁ、自分から私の側近になりたいという。お勧めしないよ。仮には入れたとしても罪をかぶせられてぽいっとされるのが目に見えます。

 

「わたくしの側近達はアウブであるお父様に決めて頂いた大切な方々です。わたくしの側近はすべてアウブが決めることになっていますので希望があればギーベを通してアウブに言ってくださいまし。」

 

「ローゼマイン様、我々がお仕えするのはローゼマイン様だ...。」

 

黙れ、もう、その発言が私をどれだけ危険にするかわかっているのかな。魔力を放出し威嚇します。すると顔を真っ青にしてガタガタ震えだしました。

 

「お気持ちだけは受け取ります。それ以上言うならわかりますね。」

 

「ローゼマイン様、いくらアウブでもゲオルギーネ様の...。」

 

はあ、何でこの人こんなにガッツあるの、体がガタガタ震え顔が真っ青なのに。更に魔力を浴びせて黙らせたのでかわいそうな顔になっている。もしかして親にでも命令されているの。

 

「あなた方のアウブへの忠誠は疑ったことはありませんわ。ですがこれ以上わたくしの側近に関して文句があるというならばアウブへの翻意ととらえますけどよろしいのですか。」

 

ガタガタしながらも、申し訳ございません。と頭を下げてくる。

 

「親の命か何かはわかりませんけどお辛かったでしょう。その勇気をこのような無駄なことではなくアーレンスバッハのために使ってくださいまし。」

 

こっそり癒しの祝福をかけてやります。震えは止まったようです。させておいてあれだけど治まって良かったです。

 

はあ、冗談じゃないよ。まったく。

 

本当にディートリンデ様がいなくなった所でよかった。ディートリンデ様の怒りを買うような状況を作るわけにはいかないですし。

 

まあ、これで側近がどうこう言ってくる方はいなくなったでしょうし、結果的には良かったのかもしれませんね。

 

気持ち的にはしょんぼりだけど。

 

ちなみに騒がしかったのは私の側近連中と旧ベルケシュトックの方々の言い争いだったっようです。

 

かわいそうにね、仕えたくもない主に仕えているのに殴られて顔が酷く赤くなっているよ。

 

 

 

さて、アーレンスバッハの寮監が来たり。まあ!まあ!しか言っていなかったけど大丈夫かな。

 

食事も、うわぁ。ちょっと解毒薬必要かな。体が弱い私に嫌味な香辛料や食事になっています。

 

うーん、自分で作りたい。キッチン貸してくれないかな。あえて調理方法指定してみますか。

 

どこまでやってくれるか、伝わるかで側近達の危険度も少しは計れるしね。

 

 

 

ちなみに次の日から、蕎麦粥とか麦粥とか塩だけの焼き魚とか、野菜を茹でただけのものを指定してみた。

 

そばの実だけで作るおかゆって最高だよね。手間がすごくかかるけど。

 

周りの側近は非常にあれな目で見てきたけど気にしません。

 

今度コンソメでも作らせるかな。まあ、おいおいだね。

 

毒対策でもシンプルが一番だね。

 

 

 

 



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22話 親睦会も怖いです

はあ、憂鬱です。なぜならこれから進級式で、終われば親睦会です。

 

ヴィルフリート様、まあ、あれから三年も経っているし、絡んでこないよね。

 

命に直結するだけに心配になります。

 

私はアウブアーレンスバッハの子、私はアーレンスバッハの子。よし、きっと大丈夫。

 

暗示でもかけなければやっていられません。

 

講堂で生徒が一堂に会します。私は小さすぎてまったく見えませんが...。

 

まあ、エーレンフェストの方と不慮の事故の可能性が限りなく減るので良いのです。

 

 

「今年もまたユルゲンシュミットの将来を担う子等の研鑽の場が開かれた。」

 

ふーん、ウラノの世界の校長先生と同じだね。初めての私は興味深いけど回りはうんざりしているなぁ。

 

来年はどう変えるのかな。まったく同じということはないだろうし。

 

進級の祝いと注意事項、よく聞いておかないと。従属契約にどうかかわってくるかまったく読めないから気が抜けない。

 

あ、あの魔術具、魔法陣でおお、音を爆発させるように拡散するのか。でもそれだと音が変になっちゃうからどうやって収束させているんだろう。

 

魔術具がたくさんあって見ているだけで楽しい。他の人はつまらなそうだけど。

 

 

さて、ああ、嫌だな体調崩したとかで今から引きこもれないかな。

 

はい、恐怖の親睦会です。きっとお母様とゲオルギーネ様の様なバチバチやらなきゃいけない所なのかなぁ。

 

「6位アーレンスバッハより、ディートリンデ様とローゼマイン様がいらっしゃいました」

 

さて、いきますわよ。なんてディートリンデ様は余裕そうだ。頼りにさせてもらいます。

 

頼りすぎると命の危険にさらされかねない劇薬のような方ですが...。

 

まあ、私が小さすぎるから、注目されるよね。一部嘲笑。

 

でも思っていたより少ない。表面上見せていないだけだろうけど。

 

さて、エーレンフェストも入ってきて。まあ、変に気にしないほうがいいよね。エーレンフェストには目を極力向けないように意識しながら開始を待ちます。

 

仮にも上位の領地なので早めに王族へ通され向かいます。

 

はあ、椅子に乗せてもらったり降ろされたり、ディートリンデ様は余り周りの視線を気にしていないようです。

 

「ローゼマイン、あなたは大領地の領主候補生で私の妹なのですから、余計な視線は気にする必要は無いですわ。」

 

うん、流石に場慣れしているね。

 

あっさりディートリンデ様が王子に挨拶の許可を得て祝福を送ります。当然コントロールして、ディートリンデ様より僅かに祝福を小さくなるように気をつけなきゃ。

 

ディートリンデ様が仕草で促してきたので私は初めてなので以後お見知りおきをということで挨拶をし、祝福を贈りました。うまくいってよかったです。

 

「顔を上げよ」

 

うん、どうでもいいけどウラノの世界の『せんごく』だね。あれ、なんか私を王子が注目している。じっくり観察されている気がするけど。

 

「そなたの噂はいろいろ聞いている。天使や女神のような風貌でその豊富な魔力でアーレンスバッハの改革を手伝い慈愛に満ちた心の持ち主だという噂だったが...どこがだ?」

 

「ローゼマインは、女神ではございませんが、わたくしのかわいい妹ですわ。どなたが流されたか知りませんけどわたくしの噂と混じっているのではなくて。」

 

流石はディートリンデ様です。少し悪くなった空気が完全に吹き飛びました。

 

「わたくし、そんな噂初めて聞きました。きっと優秀なアウブとディートリンデ様の思し召しがそのような事態を作り出したのでしょう。」

 

「ふむ、大領地アーレンスバッハともあろうものが魔力が多いくらいで領主候補生に迎えねばならんとは。」

 

「わたくしは領主候補生としては予備のようなものなのです。アウブにとって都合が良かったので引き上げて頂いたにすぎません。」

 

ふん、まあそんなものだろうと言って下がれといわれた。

 

ディートリンデ様の横顔を見ると、おーほほ、私は美しいという感じ。

 

途中から話に加わらなくなったのは、私を試したのかな。まさか自分を女神にたとえられて満足とかないよね。

 

まあ、無難に無難に。無事一つ終わったけどもう一つの問題がまだ残っています、きっと大丈夫だよね。

 

こっそりディートリンデ様にお願いしておくか。

 

「ディートリンデお義姉様、少し調子が悪くなってきましたの。調子のせいで余り会話に加われないかもしれませんので御頼りしてよろしいですか。」

 

「ええ、あなたの虚弱さはわかってますわ。お姉様に任せなさい。」

 

うん、これで最低限に。頼りになるけど任せきれないのが不安な所ですが。

 

その後もあいさつ回りですが、大領地なのでさっさと上位領地を回って、席に戻って一休みできます。

 

視界の隅にエーレンフェストの方々が写ってしまいます。ヴィルフリート様一人で大変そうだな。

 

ワンパクそうな顔は消え、たしかに領主候補生にふさわしい面構えになっています。

 

おっといけない。懐かしい顔がありますが契約契約。

 

ディートリンデ様の話すのに適当に相槌を打つだけなので楽なのですが、ときどき、いやかなり傲慢で危ない発言をするので丁寧に補足していきます。

 

はあ、そろそろ来ますよね。しばらくディートリンデ様のフォローで疲れてきた所でエーレンフェストの方々はやってきました。

 

始めましての挨拶くらいしないとダメだよね。わたしはたとえ不敬に見えたとしても仕方が無いとあきらめて目もあわせずヴィルフリート様に挨拶の許可を出します。

 

「許します。」

 

はぁ、本来なら仕える筈だった領地の領主候補生に許します。なんだか気持ち悪くなるよね。

 

祝福返しをし、後はお姉さまに任せます。

 

申し訳ございませんが、どんな状態の話になっても会話に加わることは...。

 

「この夏にはエーレンフェストに遊びに行けるかしら?わたくし、ヴィルフリートともっと仲良くなりたいと思っておりますのよ。お似合いでしょうローゼマイン。」

 

「ええ、よくお似合いかと存じます。ですが、エーレンフェストにも都合があるのですから無理なお願いは控えた方がよいかと存じます。」

 

お願いします。ディートリンデ様。私に話を振らないで。

 

「なにを言っているのですか、ローゼマインあなたもその時は一緒に行くのですよ。」

 

ちょ、もうやだ、この人暗に私に死ねというの?従属の指輪も、ひぃ、反応が強くなってきた。回避の努力しているのにどうして反応するの?

 

「わたくしは、体のこともありますし、長旅は無理ですの。ディートリンデお義姉さま、次がつかえておりますのでお楽しみの所なんですがそろそろ。」

 

「いや、わたしもローゼマインと話したい、そなた目もあわせてくれぬし。同じ年なのだからこれからいろいろ授業も一緒になるであろう。」

 

あははは、よろしくお願いしますねで駄目とか言わないよね。まだ大丈夫そうだけど最終手段使うか。

 

「もうヴィルフリートったら、唯でさえ引っ込み思案なローゼマインがそんな情熱的な目で殿方に話しかけられては困ってしまいますよ。」

 

はぁ、とりあえず切り抜けられそう。もうわかんないよ。わたしを揺さぶって楽しんでいるの?この人は何考えているの。

 

「お気持ちだけで結構です、わたくしの事よりもディートリンデお義姉さまのことよろしくお願いしますね。」

 

うーん、ぎりぎりなのかな?

 

「あらいけないローゼマイン、体調が悪くなってきたと申してましたわね。顔が真っ青でしてよ。こっちはいいから休んでらっしゃい。」

 

「ありがとう存じます。お言葉に甘えて席をはずさせてもらいますね。」

 

あぶなかった。今までで一番危ない反応していたよ。どこまで行くとダメなんだろう。ひどいよ。わたしがんばっているよね?

 

側の控え室で休ませてもらう。基本的に従属の指輪は契約違反すると軽い痛みが来た後に熱を出しながら輝きだし両方が最大になるとはるか高みに上るらしい。

 

ただね、痛みって結構当てにならなくて体が弱すぎるのか感覚が麻痺しているのか、この指輪が特殊なのか私の場合は痛みをほとんど感じないのです。

 

あ、今の話はウラノの世界でいう『ぐれーぞーん』、判断が微妙な場合ね。具体的に命令されてそれに当てはまれば当然すぐにはるか高みへ、ウラノの世界の『いっぱつあうと』ね。

 

契約怖い。ディートリンデ様もどこまで計算しているのかわからないから怖すぎる。

 

やっぱりお願いしますねって言っておいたのに話をふってきたということはそういうことなんだよね。

 

最後のやさしさは、きっと私が苦しむのを見て楽しんでいるのかな。

 

それともウラノの世界の釣り橋効果を狙って、完全にわたしを制御下に置こうとか。もうわかんないよ。

 

しばらく思考を放棄して休むと、ああ、良かった、ちょっと置けば戻るからありがたいよね。

 

でも、精神的にも体力的にも限界。ディートリンデ様にお断りを入れて寮に戻りました。

 

 

 



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23話 授業開始

さて、はるか高みに上りそうになった昨日のことは忘れて、本日から授業です。

 

側近達も主の評価が悪すぎれば流石にお咎め等くらうでしょうし、最低限は手伝ってくれます。

 

はぁ、正直信頼できないから自分でほとんど準備しないといけないし、準備に時間がとられるなぁ。

 

余りあからさまにやりすぎると、そういった事は領主候補生にさせられませんとか言ってくるし。

 

お守り、魔術具、常備薬、もう一つ切り札となる薬があるのだけどこの人たちの前で出すわけにはいかないから。

 

特に熱に余り強くないから魔力の制御を誤ると使えなくなる薬だし。

 

魔王様がいればなぁ。はぁ、連絡はどうやっても無理だしなぁ。

 

まあ、できないことよりも今できることを、図書館の予約手続き申請だけは出しておかないと。

 

特に成績を向上させろとか指令は受けていないから、準備終えたら部屋で良いか。と思っていたら...

 

ディートリンデ様から体調が良くなったのなら共同フロアに顔を見せなさいといってきた。

 

「さて、ローゼマイン。わたくし達は領主候補生として皆様を導かなければなりません。」

 

うわぁ、ヴィルフリート様がエーレンフェストの成績を上げるため、いろいろやっていると言う話に感化しちゃったのかな。

 

もう少しちゃんと話を聞いていればよかった。何をやってきたか聞いておけば参考にできたかもしれなかったのに。

 

「ごめんなさい、ディートリンデお義姉さま。私に皆様を導けるような力はありません。」

 

うん、準備もしていないし無理!

 

「みなさん、神の名前や由来について難しくて困っているのですわ。あなたは神殿にいたのですから緊急講義をお願いしますわ。」

 

まだ神殿長です。もちろん専門です。でもどこまですればいいの?資料をお借りすれば何とかなるか。

 

「では、範囲を、後どのレベルまで講義すればよいかわかる資料を貸して下さいまし。」

 

とりあえず一年から、二年生もやれとのことで一年生は要点をまとめてあるから良いけど。

 

「わかりました。やれる限りやってみます。」

 

付け焼刃ってきっと大切だよね。

 

下級貴族と上級貴族のもっている資料が違うんだよね。

 

最低限受かるようにしなきゃなのだろうけど、とりあえずお話形式でやってみる。

 

うーん、ダメだね。しょうがない。見せたくなかったけどあれを出すか。

 

ああ、私の宝物、魔紙。こいつに魔法陣を書けば簡単に起動できるし、見たものとか思考とかコピーしてペッタンも簡単にできる優れものなのだよ。

 

いいかい、ここだいじ、正式名称はコピーアンドペッタンだからね!どの世界軸でも共通語だからね!間違っちゃいやだよ。テストに出るから覚えておく様に。

 

うん、まあ、魔力に任せて作ったのが100枚。1年に裏表1ページに要点をまとめて「コピーしてペッタン!」

 

節約のため二人で一枚...。一人一枚配ったよ。ああ、私の紙。

 

2年生用はうん、3.5枚くらいあきらめて裏表2枚にまとめて配る。まあ、本当に要点だけだから直前に見てくださいっと。

 

補足説明を開始する。重要な所とか魔力を通すと浮かんだり拡大したり色がついたり。

 

こんなふざけたもの私か魔王様ことフェルディナンド様くらいしか作ろうと思わないだろうから価値なんて無いんだけどね。

 

最近わかったんだけど魔王様って本当にいろいろと規格外だったんだね。

 

もう魔王様一人でアーレンスバッハくらい滅ぼせばいいじゃんなんて思ってしまったのは秘密だ。

 

今来られたら、私もやられてしまうので全力でご遠慮願いますが。

 

弟子として認識すらされていなかったのに敵対して見逃してくれるとはとても思えません。

 

わたし?戦う前に体力尽きて終了ですね。

 

というか、何をやっているのでしょう。

 

こんなことをしてもしアーレンスバッハがどんどん強くなればエーレンフェストが遠のきます。

 

心の中でため息をつきながら講義をしました。

 

 

 

 

ええ、講堂に向い、まずは算術から。私は既に領地レベルの数字を取り扱い、神殿も経営しているわけで。

 

旧ベルケシュトックの方は優秀だね。それとも大領地だと優秀なのが普通なのかな。

 

やっぱり派閥とかあって教えていてもそれぞれ固まってて仕方が無いよね。

 

え、私の派閥、あるわけ無いよ。ウラノの世界の『ぼっち』だもん。

 

あえて言うなら側近達だけどまあ、ねぇ。

 

正直仕えたくもない主に仕えてかわいそうです。これでもし私が倒れたら、お前達のせいだってなって一生出世できないんでしょう。

 

だからかな、ある意味私と同じ悲壮感を彼らから感じるんだよね。

 

ごめんね、こんな主で。怨むなら私程度に警戒しまくっているゲオルギーネ様を怨んでね。

 

 

 

さて、まあ、全員合格とか普通に無理だよね。私の側近も落ちちゃったし。

 

神学だけは全員初日合格。皆さんがんばりましたね。

 

というか、そもそもあんな直前ペーパーだけ渡して全員合格できるなら必要なかったじゃん。

 

大事な紙を返してって言いたい。

 

神学は結構な領地でかなりの数の不合格者を出していますね。どうでもいいけど。

 

 

 

 

さて、午後は魔石の授業です。本日は魔石を自分の魔力に染めて抜くという内容です。

 

ヒルシュール先生が授業で使うための魔石を持ってきます。皆さん前に言って用意された魔石を持っていきます。

 

私はというと、魔石を見て困ってしまいました。この品質では今日の授業はとても難しいものになるでしょう。

 

皆さんが持って行った後も真剣に魔石をとらずに見ている私が気になったのか、ヒルシュール先生が話しかけてきました。

 

「どうかしましたか。」

 

「先生、よろしければ、その石とその石とその石をそれぞれ離してこの小箱の中に入れていただけませんか。

 

「はぁ、まあいいですけど。」

 

一個目を持とうとします、一瞬で金粉になりました。

 

ダメです。品質がいくらなんでも悪すぎます。

 

でも魔力調整の練習にはいいかもしれません。私も魔石を確保できたので席に戻りました。

 

私が苦労している横で皆さんどんどん終わっていきます。とりあえず回りは気にせず集中しないと。魔力を完全に一度切ってごくごく少量...できるはず要は祝福と同じ要領で...。

 

パァーン、はあ、本日7個目の失敗です。うんわかった、私は道具こいつと同じ、こいつが壊れないように同調して、よしできた!

 

「どうですか先生。」

 

「魔力が多すぎるのも大変ですね。エーレンフェストのフェルディナンド様を思い出します。」

 

うわぁ、でたよ魔王様。でもそっか魔王様も苦戦するよねそれは。

 

「フェルディナンド様ですか、噂はかねがね聞いております。わたくし、彼の作った設計図を一つ持ってましたの、あれは心躍るものでしたわ。」

 

「そうなのですか。よろしければ彼の貴族院で作った魔術具を見に来ますか。今度ご案内しますよ。」

 

出た出たまさかの魔王様の遺産。わぁぁ、何が出てくるか楽しみだなぁ。でもまだまだやることあるし機会があればかな。

 

「あれ、でもヒルシュール先生はエーレンフェストの寮監ですよね。仮にもアーレンスバッハの領主候補生である私なんて入れていいんですか?」

 

「研究に所属は関係ありませんわ。私はあくまで中央の所属ですから。」

 

そんなものなんだ。いいなぁ自由だね。

 

「わたくし、アウブアーレンスバッハより直々にエーレンフェストのものと関わるなと言われてますの、場合によっては処分されてしまう身ですので会うにしても内密にしか会えないのですがそれでもいいですか。」

 

「もちろん大歓迎ですよ。」

 

「わかりました。もしタイミングが合えばお願いします。あ、そうだ、まだ時間大丈夫ですか。」

 

とそこで、部屋の入り口の扉が勢いよく開き、私の側近の一人が入ってきます。

 

「ローゼマイン様!そのものはエーレンフェストの者ですよ。早く戻りましょう。」

 

やばいです。もしかして今の会話聞かれた?

 

「ヒルシュール先生は先生ですので中央の所属ですわ。それに指導してもらい興味深い話を聞かせていただくのに何か問題があるのですか。」

 

「もう課題は終わったのでしょう。正直また倒れられたのかと心配しました。帰りますよ。」

 

はぁ、時間切れですか。指輪の反応がまったく無かったから条件的には大丈夫なはずなんだけどね。

 

「では先生お近づきの印に、これを。」

 

と渡そうとすると側近に取り上げられてしまいました。ああ、私の紙。魔力を通せば設計図が出るようにイメージの準備までしてたのに

 

「ローゼマイン様!アウブに報告しますよ。帰りますよ。」

 

「わかりましたわ、ヒルシュール先生名残惜しいですがこれにて失礼いたします。」

 

ああ、残念です。せめて生き残るためにヒルシュール先生の知識と魔王様の遺産が切に欲しいです。

 

お父様に連絡の手紙を送ります。かなり婉曲な表現で大変ですが。だって中身検閲されるのは当たり前だしね。

 

ゲオルギーネ様にわからないようにお母様とアウブにだけ伝わるようにするのって難しいよね。

 

ディートリンデ様は非常に優秀すぎて的確に私を追い込んでくるのですがどうしたらよいでしょうか。

 

うーん、これを婉曲表現にすると具体的に書けないためアドバイスがもらえない。

 

もういいや、こっちはあきらめよう。社交シーズンまでは問題ないはず。

 

こっちだな、こっちは普通に書いても問題ないよね。

 

ヒルシュール先生の研究を見せていただきたいのですが許可をいただけますか。

 

こちらで調べた限りは所属している方が仮登録でアーレンスバッハの方一名の様なのです。

 

エーレンフェストから一切の資金提供を受けていないようで、それらの結論から先生はエーレンフェストとの繋がりが薄いようです。

 

他に報告は特になし。ディートリンデ様という一番の問題以外は順調ですね。まだ始まったばかりですが。

 

 

 

 



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24話 授業二日目音楽など

「まあ、ローゼマイン。よくやりましたわ。流石は私の妹です。」

 

はい、ディートリンデ様?わたくし何かしましたっけ。

 

「いままで、皆さん苦手だった神学があなたが用意した資料のおかげで皆さん好成績だったそうですわ。」

 

はぁ、正直命のかかっていない他人の面倒まで見られるほど人ができてはいませんし。

 

「一二年生のみなさん、的確にローゼマインに指示した私に感謝なさい。」

 

まあ、実際私は動く気なかったから手柄はディートリンデ様のものだしなぁ。

 

それより魔紙の補給したいなぁ。お守りの媒体にも使えるし、思った以上に便利なんだよね。

 

「ローゼマイン、あなた歴史にも詳しいのよね。歴史についても同様に指導しなさいな。」

 

え、歴史に詳しいなんて話したことないけど。

 

確かにアーレンスバッハについては礎のせいで少し詳しいけど。

 

「だって、あんな分厚いアーレンスバッハの歴史の本をわざわざ持ち込むなんて一二年生の歴史ぐらいできて当然ですわよね。」

 

「あの、ディートリンデお義姉さま。わたくしそこまで得意ではございませんわ。あの本を持ち込んだのもアーレンスバッハにうと...。住んでいる地域の歴史を知りたかったと言う知的好奇心ですわ。」

 

うといって、一応ここが出身地ということなんだから、まあ本当は礎と歴史書がどのくらい整合性があるか興味があるだけなんだけど。

 

「ローゼマイン、あなたはできる子です。それで私がうまくやったことにしてヴィルフリートに自慢してやるのです。」

 

え、ディートリンデ様そんなにヴィルフリート様にぞっこんだったの。

 

エーレンフェストのこと考えると別にヴィルフリート様はでても問題ないんだよね。後継者候補は結構いるし。

 

むしろアーレンスバッハより後継者に関しては恵まれているんだよねエーレンフェストは。

 

まあ、次期アウブにほぼ確定が出ているヴィルフリート様を出すとは思えないけど。

 

「ごめんなさいディートリンデお義姉さま、わたくしには荷が重いです。」

 

「だいじょうぶです。やるだけやって御覧なさい。」

 

任せましたわよ!って、どうしたらいいのでしょうか。

 

 

 

「とりあえず集まっていただき、ありがとう存じます。一二年生の皆様。」

 

側近達使って共有フロアの端を占拠します。

 

スピーカーの魔法陣を応用したウラノの世界のプロジェクターの魔術具を用意します。

 

まあ、反射させて魔力で光を当てて拡大するだけなのですが。

 

板を手元に置き金粉と粘土を混ぜたもので書き込み魔力の反射を調整します。

 

はぁ、素材の無駄だね。魔王様の元にいたときは素材集めに苦労はほとんどしなかったけどやっぱり魔王様は次元が違う人なんだね。魔王だけに。

 

半分意識を遠くにやりながら講義します。

 

ちなみにやるのは歴史で一二年生に共通し且つ複雑な所です。

 

よって基本的に知っている人は聞かないでくださいといってあります。

 

ああ、制御が難しすぎる。普通に書字版、いや、ウラノの世界の学校の黒板でも用意したほうがよさそうです。

 

やっぱり旧ベルケシュトックの方たちが血眼になって一言も聞き漏らすかという気迫で聞いています。

 

正直怖いです。

 

基本この世界の参考書は字ばっかりで絵とか図があまりないので年表や図を中心に説明していきます。

 

ああ、歴史なんて一ヶ所やっても当たる可能性少ないのに。でも過去の出題傾向を見ると結構ここの時代から出題されているらしくやって欲しいと言われちゃったんだよね。

 

というか2年の方も結構聞いてくれているけど領主候補生であるとはいえ1年に講師させて聞いて意味あるのかな。

 

そのときの一般生活や裏話を加えて話していきます。

 

何でそんなこと知っているかって、魔王がその当時の本を所持していたからに決まっていますよね。

 

また行きたいですね、あの図書館。全部読んだと思ったらまた本が増えているという夢のような図書館です。

 

つかれました、主に精神力が。魔力は余裕あるけど、繊細に操作する能力はまだまだです。

 

特にこれは操作が難しいのです。後材料ケチったからたぶん、あと二時間くらいで壊れます。

 

「ローゼマイン様、ここについてもお願いします。」

 

だからなんでそんなにやる気があるのですか。旧ベルケシュトックの方々。

 

そろそろ寝る準備しましょうよ。

 

 

 

結局付き合いましたよ。ええ、最後まで。旧ベルケシュトックの方々が魔術具が壊れた後も質問攻めなんですもの。

 

なぜか三年生が神学について聞いてきたり四年生の方まで調合のコツとか聞いてきて...本当に最悪の気分です。

 

側近?当然止めるわけございませんわ。彼らにとって本当の主はゲオルギーネ様唯一人ですから。

 

断れない状況を作り、作業させるディートリンデ様はきっとジルベスター様のようにうまく人を使うアウブになるに違いありません。

 

まあ、もしアウブになるのならですが。

 

でも、ディートリンデ様が夫人、うーんあんまり想像できません。

 

案外、第三夫人くらいのほうがかえってディートリンデ様にとっては幸せになれるかもしれませんが。

 

わたくしですか?なるとしたら第三夫人がいいですわね。

 

今日は歴史、地理、音楽です。

 

少しの時間を寝れば回復する薬を増量して飲み無理やり起きました。

 

うふふ、私のせいで村のみんなが避難しなければならなくなった夢を見ました。

 

まったく冗談じゃありません。夢の中ででも会えるのは幸せな一時なのに。

 

貴族院に来てからは睡眠の薬は使っていませんでしたが、まさかここで使うとは思いませんでした。

 

 

 

さて、翌朝は皆さん眠そうですね。側近連中は交代して寝てましたもの。

 

旧ベルケシュトックの方々は何でそんなに幸せそうなの。彼らの体力はどうなっているの。

 

ウラノの世界のヨーロッパという地域の一部に暮らしているという特殊な人種なの?

 

今日こそは早く寝るんだ。そして夢の中で家族に褒めてもらうんだぁ。ほめて貰うような事余りしてないけど...。

 

 

 

もう現実逃避はあきらめて最後の復習です。まあ、もういっか。

 

アーレンスバッハの歴史を読みます。

 

やっぱりぜんぜん一致しない。あの記憶はこの時代かな。うーん。

 

さてそんなわけで試験です。といっても簡単ですね。

 

昨日やった所も出ましたし...。絶対でないと思ったよ。

 

 

 

地理も問題はありません。

 

流石に希少な植物(素材)の植生までは把握していませんがそんな知識まで求められませんし。

 

はぁ、ここまで旧ベルケシュトックの方々は初日合格ですって。

 

まあ、あれだけやっていれば当然でしょう。

 

 

 

午後の音楽はフェシュピールの授業です。

 

どうしましょう。眠いです。というか体の調子が良くありません。

 

領地順に弾いていくので先生とまわりに断ってアーレンスバッハで初めにしてもらいます。

 

眠いので、熱く目が覚める曲がいいですわね。

 

フェルディナンド様に編曲していただいた曲ってまずいかな。

 

ちょっと更にアレンジ加えればいっか。なにかエーレンフェストがらみでどこかで聞いたことがあるとでも言い訳しよう。

 

なんか熱くなってきましたしさっさとやって退席させて頂きましょう。

 

ライデンシャフトに捧げる夏の歌を少しアレンジし弾いていきます。

 

祝福が飛びまくってますがもうどうでもいいです。

 

最近簡易的な祈りばかりで魔力の圧縮し直し等詰め込む作業が疎かになったせいで制御が追いつきません。

 

もういいや、後はフィーリングで。音符無視、ああ、集中できない再試験かなぁ。

 

音楽は授業のたびに採点されてダメだと同じ授業をもう一度受けなければなりません。

 

終わった後に待ちますが、教師の方達が何も言ってくれません。もう無理です。

 

「申し訳ございません、体調がひどく悪いため退席させていただきます。試験結果は再試験で結構です。」

 

ああ、ふらふらする。さっさと退席して寝るとしましょう。

 

 

 

 

私は最初にアーレンスバッハでフェシュピールを弾く予定だったものです。

 

わずかにとろんとした目をした唯の幼女にしかみえないローゼマイン様、非常に珍しい表情です。

 

いつもどこか気を張り詰めたような気配を漂わせ、普段は表情を余り変えません。

 

こちらでは余りいない白くすき通った肌。夜空色の美しい髪に金色の目。正直はじめてみたときは人形ではないかと疑いました。

 

そんなローゼマイン様が曲を弾き出した。

 

最初は真夏の太陽のようにとても暑い速いテンポでその曲は始まった。

 

祝福も暑さを表現しているように少し赤黄色く降り注ぎます。

 

まるで暑さから逃れるかのように早く早く、その後次第に落ち着き穏やかなスローテンポに変わっていく。

 

まるで心温まる心地よい音楽が流れるます。

 

祝福もゆっくりとても暖かな木漏れ日のような祝福に変わります。

 

そして再度テンポが上がっていきます。階段をスキップするかのように軽快とした音がつむぎだされる。たまに急に落ちたり戻ったり。

 

でも確かな幸せが表現されていましたが突然争いのような激しい音に変わります。

 

祝福も激しく赤色に変わります。

 

しばらく争いの激しい曲が流れましたが次第にものすごくさびしい音をつむぎだします。

 

まるで、争いで大切なものを失ってしまったような。永遠に手に入らない遠くへ行ってしまったかのような。

 

とてもとても悲しい音色が綴られます。

 

その後は僅かに浮かんだりまた沈んだり。ずっとさびしい曲です。

 

祝福も細く僅かに青みがかった色になっていました。

 

そして、最後に盛り上がってきそうな音が流れますが突如そこで終わってしまいます。

 

最後の最後の祝福は青みがかったままでしたが僅かに暖かい祝福でした。

 

 

なんと言ったらいいのでしょう。これには教師陣も困るでしょう。

 

そしてなぜ私は泣いているのでしょう。

 

曲そのもので評価するなら聞いたことのない曲で最後の終わりもあって評価できないでしょう。

 

しかし、演奏そのものに関しては祝福の幻想的な光景を除いてもこれ以上の音をつむぎだせる人がユンゲルシュミット全体を探してもどれだけいるかというほど美しいものでした。

 

そして感動させるものでした。

 

周りもかなりの方が感化されたかのように泣いています。

 

ひょっとしたら神殿にいたこと以外、経歴不明なローゼマイン様の過去にまつわる曲なのかもしれません。

 

そんな曲を弾いた本人はどこかどうでもよさそうなトロンとした目をし、少し教師の評価を待っていましたが、不合格で結構ですといって、本当にものすごく体調が悪いようでふらふらしながら出て行ってしまいました。

 

というかあれで不合格を出されたらここにいる生徒全員不合格でしょう。

 

なかなか次なのにフェシピールを弾くことができなくて...そんな人が続出して授業は大幅に伸びました。

 

そのあと、旧ベルケシュトック大領地改革を一人でおこなったと言う噂が流れて、彼女の経歴があいまって処刑されていなくなったベルケシュトック領主一族直系の最後の姫ではないかという噂が流れました。

 

 

 

 



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25話 忠誠なんていりません

なんだか、音楽の奉納で少しすっきりした気がします。

 

夢見も悪くありませんでした。

 

カミルはきっと夢よりもはるかに大きくなっているのだろうな。

 

まあ、あんな適当な曲を弾いて、ゲドゥルリーヒの曲になっちゃったな。

 

ライデンシャフトの夏の曲のはずだったんだけどなぁ。

 

というか選択、ウラノの世界の『ちょいす』が悪かったね。あんな体調で弾ける曲じゃなかったよ。

 

まあ、終わった後のことを考えてもしょうがないね。

 

はあ、やり直しかな。しょうがない、結局最後までちゃんと引けてないし。

 

だってあそこからの話ってないもの。適当に幸せにして締めようと思ったら手が止まってしまったんだよね。

 

 

 

さてさて、気持ちいい夢を見てから起きたのでほわほわ幸せな気分に浸っていると

 

同学年の女性の側近が一人で私の所へきました。

 

「ローゼマイン様、起きておりますか?」

 

「ええ、何かありましたか?どうぞ入ってくださいな。」

 

しかし、まだ夜明け前です。こんな時間になんでしょうか。

 

「ローゼマイン様、朝早くから申し訳ございません。少しお時間を頂戴したく存じます。」

 

「いえ、お気になさらず、わたくし久しぶりにぐっすり寝られて気分が良いですの。それで何の御用ですか。」

 

まさか、お命ください!とかやるとも思えないしなぁ。まあ、この部屋でそれを実行できる人は魔王様くらいであると信じたいですが。

 

魔王様だったらできるって?当たり前じゃないですか。

 

私の魔術具の基本設計は、ほとんど魔王様のものですから無効化も簡単です。

 

証拠隠滅も含めて五分持てばいいのではないでしょうか。

 

ただの五分あればとりあえず部屋から出て助けを呼べる可能性があること考えれば、五分は持たせられると思えるだけ私も成長したと胸を張っていえますが。

 

なかなか話してくれないなぁ。心の中で魔術具作成をがんばりましたって報告を終わっても、まだうつむいたまま言葉を探してかのようです。

 

「ローゼマイン様、改めて忠誠を捧げさせていただきたいのです。」

 

うん?忠誠ですか。

 

「いきなりどうしたのですか?あなたは側近です。ゲオルギーネ様からお借りしているとはいえ、次くらいには忠誠を頂いていると思っていますよ。」

 

「いえ、そうではなく。心の底からローゼマイン様第一に仕えさせて頂きたいのです。」

 

「確認しますが、あなたの独断ですか。家族に話してありますか。」

 

「私の独断です。」

 

うん、独断ですか。

 

「それでは今は私を主として見て頂けるということでいいですか。名捧げするとか言っても受け取れませんけど。」

 

「存じております。求められるならもちろんいたしますが。」

 

「理由をお聞きしても。」

 

理由がわからないんだよね。こんな倒れてばっかりの主に仕えたいなんて。

 

仮の立場でもいやだろうに何考えているのだろう。

 

「昨日の音楽の奉納ですわ。」

 

昨日のあの不完全な聞くに堪えない手もおぼつかず弾いた曲に何の感動を受けたのでしょう。

 

ああ、思い出したら少し恥ずかしい。子供のかんしゃくだよね。楽器にストレスを当り散らすなんて。

 

うん、結論、理解できない。

 

「ローゼマイン様の深い悲しみ、アーレンスバッハを思う深い気持ちが伝わってまいりました。」

 

アーレンスバッハ?余り考えていなかったかなぁ。

 

「そんなローゼマイン様がアーレンスバッハを害しようとなど考えるはずがございません。」

 

うん?最悪害すよ?人が死なない範囲でエーレンフェストに帰って無事でいられる確信が持てるなら...。

 

まあ、いっか。音楽の捉え方なんてみんな違うものね。

 

あんな音楽だけで忠誠を誓えるこの子の将来が少し心配だけど。

 

「わかりました。では初めての命令も聞いていただけますね。」

 

「ありがとうございます!誠心誠意お仕えいたします。」

 

キラキラしているけど、ごめんね。私はわがままなの。

 

「では、あなたはゲオルギーネ様を第一としてこれまで通り行動すること。ただし、あなた自身や家族や大切なもののために、どうしようもなくなって助けが必要になったら私に頼ること。」

 

うーん、他にあるかな。ないな。まあ、できる限りのことはしますよ。

 

うん、あ然としているね。この約束なら例え私がエーレンフェストに戻った後でも亡命とかで、どうとでもなるし。

 

頼られてもできない場合もあるけど、ここまで言ってくれている以上ただ見捨てたくはない。

 

そのあと、そんなものは忠誠を捧げるとはいいませんとかいろいろ言っていますが聞きません。

 

だって、その決断はこの子の命を限りなく危険にする決断ですもの。

 

それに...いえ、これ以上は考えるのを止めておきましょう。

 

「家族がいて家族のために尽くせないものが、どうしてアウブに仕える事ができますか。せっかく家族がいるのですから自分の命の次に大事にしてくださいませ。」

 

ああ、そんなことどの口から出るって感じだよね。究極的なことを言えば私も村の家族のこと以外考えていないのに。

 

やっぱり、アウブより家族を大切にするべきと思ってしまう私は絶対アウブにはなれないんだろうなぁ。

 

 

さてそんなことで諦めてもらおうと締めたつもりだったのですけが、その後も無言でうつむいて何も答えてくれません。

 

うーん、きっとかなり真剣に悩んでから来てくれたんだろうなということはよく分かりますが、変えるつもりはありませんし。

 

最終的に顔を上げて

 

「わたし、諦めませんから。」

 

と言って出て行きました。まあ、いいです。私に損も得もないですし。でもやっぱりそういう命令は聞いてくれないんだね。

 

 

 

とりあえず、座学は終わりました。後は実技ですね。フェシピールの件は側近に確認を取ってもらい、一応合格でいいそうです。

 

まあ、まだ音楽の試験があるし一年生だしいいってことだよね。神殿ではかなり弾いていたから技術についてだけなら問題はないと思うし。

 

 

 

 

「まあ、ローゼマイン。無事に座学は無事に終わったとのことですわね。昨日はずいぶん体調が悪くて午後の授業は早退したと聞きましたが体は大丈夫ですの。」

 

完治しきっていませんから大丈夫とはいえませんがまあ、いつもこんな感じだしね。

 

「ご心配ありがとう存じます。ディートリンデお義姉様。ぐっすり眠れたのでだいぶ良くなりました。」

 

本当に久しぶりにぐっすり眠れた。やっぱりストレスが溜まっていたのかなぁ。

 

「それはよかったですわ。まだ1年生は座学が終わっていない子も多いので、できるだけ手伝ってあげてくださいな。」

 

できるだけはします...。もう無理なので本当にできるだけは。

 

「ディートリンデお義姉様、わたくし図書館に申請の予約をしたのですがアーレンスバッハで申請する方を取りまとめて欲しいといわれております。例年どのくらいの方が登録するのでしょうか。」

 

「あら、わたくしの時は基本的に登録は個人だったので分かりませんわ。みなさん聞きまして、図書館登録したいかたはわたくしの妹ローゼマインに言うのですよ。期限についてはローゼマインいつまでですの?」

 

「登録は3日後の昼ですので、早くて申し訳ないのですが、明後日の夜までに一声お願いします。」

 

「さすがわたくしの妹ローゼマインですわね、図書館に行こうとなんて勉強熱心ですわね。ちなみに登録料は小金貨一枚ですわよ。」

 

うん、高いね。下級貴族は大変そう。助けてあげることはできないけど。

 

この後何名か来ましたけど、余り図書館に興味ある方は少ないようでした。

 

なぜか旧ベルケシュトックの方々は全員が私に話に来て登録できない方は申し訳ございませんとか言ってきたけど...。

 

 

 

 

さて、騎獣を作る授業なんだけどどうしよう。一応騎獣服には着替えさせてもらったけど。

 

騎獣の魔石はイメージ次第なのでどうとでも変えられます。

 

アウブに相談していなかった。エーレンフェストと同じ形はまずいよね。

 

仕方ありません、レッサー君ではなく、猫型にしますか。

 

今回の授業はアーレンスバッハの寮監です。

 

甲高い声の人で、余り話したことがありません。基本的にディートリンデ様が対応してくださったので。

 

「先生、どうしてもダメですか?」

 

一応悲しいですが顔はネコで作りました。アーレンスバッハの寮監は

 

「まあ!ダメなものはダメなのです。ですが、仕方ありません、他ならぬアウブに認めていただけているのなら私が言える事はありません。乗って見せてください。」

 

うん、レッサー君とネコ君。やっぱりアウブに許可をとってレッサー君のほうがいいなぁ。

 

「んまぁ!さすがはアウブの子ですわね。非常識!と言いたいですが、中に乗り込むとは...確かに利点もありますわね。」

 

うん、先生は絶対認めたくないという感じだけど...。体の弱い私には絶対に必要なものだ。

 

「先生、不出来なわたくしをお許しください。この体が普通の健康体ならと何度思ったことか。」

 

「んまぁ!そうですわね。いえ、確かにローゼマイン様は体がとても弱いのでした。よくご自身でできることを考えられて作られましたわ。乗った後、落ちてしまわれては大変ですものね。」

 

うん、アウブのご意向だね。私以外だったら認めてもらえなかっただろうな。

 

なんとか、騎獣を認めてもらえました。良かった。

 

だって、昔フェルディナンド様に実験だとか言って命令されて普通の騎獣にしたら空ですぐ耐え切れなくなって落ちて...。

 

助けてくれないんですよ!私が作ったお守りがどの程度機能するか確認したかったとか言って。

 

ええ、無事でしたよ。お守りがうまくいったおかげで。ただし、隠れてこっそり作った予備のおかげで衝撃を殺せましたよ。

 

そのとき作ったお守りだけでははるか高みに上ってました。これでも魔王様の実験に付き合った中ではましな方でしたが...。

 

 

初めて貴族院で飛んで空から見た学校の周りは、綺麗でしたよ。大きな神殿のようで見ていて気持ちいいものでした。

 

ただし、なにやら魔力を吸収収束すると思われる魔法陣やら、いろいろな魔法陣が隠されていてめまいがしましたが。

 

ヒルシュール先生を見習ってモノクルをつけて魔力とか見えないようにする魔術具でも作った方がいいかもしれません。

 

まあ、やるにしてもエーレンフェストに帰れてからでしょうが。

 

 

 

 

次の日の午前は午後の準備と貴族院内をめぐっていました。意外と祠が点在し神の像や紋章もあり、魔力を奉納しました。

 

神に祈りを!

 

午後は魔力圧縮の実技です。

 

うーん、どうしましょう。困りました。開放して圧縮して...。いつも通りやりますかね。

 

ヒルシュール先生が担当です。私の所の寮監がなるはずのところで無理やり割り込んでくれました。

 

話が分かる先生ですのでありがたいです。他の方々は2人の生徒に2人の先生が対応するのですが、なぜか私だけ1対1なのは何でですかね。

 

ああ、所属がエーレンフェストのままだったら。まあ、考えても仕方がありません。

 

計測の腕輪をはめる前に一度開放して、腕輪をつけます。うーん、圧縮率が高いです。更なる開放、開放、開放、このくらいでいいですね。

 

これ以上ただ開放すると熱くて危ないのです。腕輪?まあもう見なくていいでしょう。今より圧縮するのに集中です。

 

全部まとめて綺麗に畳んで圧縮袋、更に煮詰めて固定してからさらに詰め込んで。

 

うん、ウラノの世界の掃除機で綺麗にたくさんできた圧縮袋を更に圧縮袋に入れてぼんっと。

 

うん、ほんのちょっとだけ圧縮率上がりましたね。

 

これだけ苦労してもちょっとなんだよね。

 

「ヒルシュール先生、これ以上圧縮しないとダメですか?圧縮し直せばもう少し圧縮できるかと存じますけど。」

 

ウラノの世界のアルミ缶に機械で詰めたイメージをすればいい?

 

一度やりましたがひどい目にあいました。即魔力を開放し、ウラノの世界の融解剤を流すイメージをしたので事なきを得ましたが。

 

今なら...薬の話はやめましょう。ユレーヴェも今は手元にないですし。

 

まあ、そうでなくても道具としての意識を最大限変えてやれば以前できなかったやつでも...。

 

やめましょう。従属の指輪にいろいろ大切なものが持っていかれそうです。

 

領主候補生はあっという間にコツをつかんで席に戻って圧縮に励んでいるようです。

 

「ヒルシュール先生?戻ってよろしいですか。」

 

うーん、どうしちゃったんだろう。最初より、ちょっとしか圧縮できていないし。ダメなのかな。

 

「ああ、ごめんなさい。非常に興味深かったので少し考えてしまいました。もちろん大丈夫です。戻ってよろしいですよ。」

 

「ありがとう存じます。」

 

なんか変な反応しているけどまあいいや。

 

戻った後周りを観察すると、うーん、みんな魔力を動かして圧縮しているね。別にちょっと違うだけで結局みんな私とやっていることの基本に違いはないみたいだけど。

 

まあ、どうでもいいや。領主候補生以外のみんな、こんなにパタパタ倒れて大丈夫かな。

 

 



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26話 図書館と宮廷作法

本日の予定は図書館登録です。

 

図書館といえばフェルディナンド様、フェルディナンド様の図書館はとてもすばらしかったなぁ。いや名目上は一応図書室ですが、図書館と言ってしまって問題ない規模でした。

 

また行きたいです。いつかまた行けるのでしょうか。

 

 

 

側近達はあまり興味がないもしくはお金が準備できないということで来ていません。

 

うーん、一応側近なのにいいのかな。

 

ですので、周りは...旧ベルケシュトックの方達です。

 

お願いですから廊下では静かにしてくださいませ...。

 

私を慕っていただけるのは非常にうれしいのですが、どう考えても明らかに上級生の問題の話をしてくるのはいかがなものでしょうか。

 

同学年の子からも圧縮に質問があり、実際にしてもらってどうイメージしたら良いか少しだけアドバイスしました。

 

うん、でも合っているか分からないので結局自身で合う方法を見つけていただくしかないわけですが。

 

なんとか、静かにさせようとしましたが、無理です。

 

わたくしは私自身が少しでも静かに長く話すことで、少しでも迷惑を減らそうと努力はするのですが、皆様次々と話しかけてくるのでコントロールできません。

 

助けてください。わたくしにはやはり代表とかそういった事は無理です。

 

「みなさま、図書館ではせめて静かにしてくださいまし。わたくし図書館はできるだけ利用するつもりですので、ソランジュ先生のお怒りを受けたくないのです。」

 

皆様急に静かにしてくれました。やっぱりこの方達にはきっちり言わないと通じないのでしょうか。

 

でも、皆様楽しそうなのにそれを邪魔するのはとても心苦しいといいますか。

 

どうでもいいなんて思えればよかったのですが...。

 

図書館の近くまでいくと扉の前で非常に物腰が柔らかそうな方がいます。きっとあの方がソランジュ先生ですね。

 

「ソランジュ先生でよろしいでしょうか。本日予約させていただいた..。」

 

「ええ、ソランジュと申します。ローゼマイン様、アーレンスバッハの皆様、ようこそいらっしゃいました。貴族院図書館一同歓迎いたしますわ。」

 

一同といっても私しかいないんですけどね。と柔らかそうな笑顔で話します。

 

廊下でうるさくしてごめんなさい。とりあえず心の中だけでも謝っておきます。

 

「こちらの扉の向こうが閲覧室ですわ」

 

「本日は登録手続きを進めますのでこちらへどうぞ。」

 

ううん?なんとも。大丈夫なのでしょうか。魔力が不足している魔道具がチラホラ見えます。

 

あのこや、あの魔道具もしばらく起動していないようでかわいそうです。

 

足元も魔道具ですね。ただ魔法陣等回路が経年劣化で壊れているのでただのマットになっていますが...。

 

うーん、なんか違和感ある設備ですね。

 

魔力の流れが変な道具が多すぎます。この状況を放置したらどう考えてもまずいです。

 

後で許可を取って復旧を手伝いましょう。

 

「図書館は英知の女神 メスティオノーラがわたくし達に与えてくださった貴重な知識の結晶が集められた場所でございます。英知の女神 メスティオノーラに敬意を払い、細心の注意を払って本に触れることを誓える者でなければ、立ち入ることはできません」

 

当然ですね。私の尊敬する神ももちろんメスティオノーラです。

 

「メスティオノーラの聖地の一つ、図書館を利用させていただけることに感謝いたします。メスティオノーラの遺産を扱うかのように丁寧に利用いたしますわ。」

 

「「すべてはローゼマイン様のお言葉の通りに」」

 

えっと、何ですかそれは。ああ、ウラノの世界の『いえすゆあはいねす』でしたっけ、よく分かりませんですけど。

 

その後料金を払い。登録の誓いを行い。

 

「ところでソランジュ先生。登録が終わりましたので、いろいろと魔力の奉納をさせていただいてよろしいですか。」

 

「ええ、ご協力していただけると非常に助かります。場所については...」

 

「ソランジュ先生、いろいろと足りていないのでとりあえず図書館の神にメスティオノーラに感謝を捧げる祝福を捧げさせていただきますね。」

 

本当にいったいこの図書館はどうしてこのような状態になっているのだろう。

 

「英知の神メスティオノーラ、その英知をお借りし我々の成長の糧にさせて頂くことに深く感謝し魔力を奉納させていただきます。」

 

「神に祈りを!」

 

うーん、やっぱりだ、2階まで全体にまんべんなく降り注ぐように祝福を贈ってみたけど、ああ、あそこかな。

 

「ソランジュ先生、大きな魔石がありますわよね。そこへ案内してくださいませんか。」

 

「ひめさまこっち」

「あんないする」

 

えっとなんでしょうか。この魔術具。まあ図書館の備品でしょう。案内してくれるならお願いしますか。

 

「ひめさまこれ」

「まりょくそそぐ」

 

うーん?余り重要そうでないというか、危険な魔法陣がいっぱいのこのウラノの世界のウサギ達は何?

 

まあ、緊急の危険はなさそうだけど。

 

「図書館を保存し、図書館の管理を司る名もなき眷族が残した魔術具に魔力を奉納させていただきます。」

 

まあ、図書館の知の結晶たる場所に感謝して魔力を奉納させていただきたいということが伝わればいいよね。

 

さっきから聖典にもない言葉で適当に作ってしまっているけど...良いよね。ウラノの世界の神も信心が大事ってあったし。

 

うわ、これはまずいね。魔力がほとんどない。一度でやるのはやめておいた方がよさそう。

 

「ローゼマイン様!こちらにおられましたか。急にいなくなられてはこまり!?」

 

「探しに来てくれてありがとう存じます。いろいろと面白いものがたくさん転がっていて興味は尽きませんが皆様登録お済でしたら戻りましょうか。」

 

ぴょこぴょこついてくるこの危険な魔術具は本当に何なのでしょう...。私の肩と同じ位の身長なので結構怖いです。

 

「まあ、シュミルではございませんか。なんてかわいらしい。」

 

かわいらしい?えっとそうですわね。魔法陣にさえ目をつぶれば確かにかわいらしい...。レッサー君には、かないませんが。

 

「ローゼマイン様いったい!?シュバルツとヴァイス!なぜ動いているのですか。」

 

いや、ソランジュ先生、私が聞きたいです。研究対象としては興味深いですが研究するまで下手なことをすると絶対痛い目を見させる魔術具です。

 

「ソランジュ先生、これらはシュバルツとヴァイスという魔術具ですか?」

 

何でもこの恐怖の?魔術具は図書館を管理するための道具でしばらく動いていなかったそうです。

 

「ソランジュ先生、確認いたしますが、この魔術具の危険性はないということでよろしいですか。」

 

「ええ、危険性?不必要に触れようとしなければ、ただの図書館の管理用魔術具ですから。」

 

少しの困惑と何を言っているのという感じです。図書館の専門家がそういうのでしたら問題ないのでしょう。

 

「では動かないと困りますわね。先生的には魔力を与えた方がいいんですわよね。」

 

「ええ、ありがとう存じます。ローゼマイン様!」

 

ものすごく助かりますという感じなので、仕方ありません。この額の魔石でいいのかな。

 

「ありがとうひめさま。」

「おしごとがんばる。」

 

うーん、きっと基本は命令型で発動条件を満たすと起動するのかな?と考えると図書館にあるうちは問題ないよね。きっと。

 

「ソランジュ先生の言うことをよく聞いてお仕事に励んでくださいませ。」

 

「わかった。ソランジュのおてつだい」

「だから、ひめさま。あたらしいふく」

 

意外とわがままな魔術具なのでしょうか。もしかしたら結構意地の悪い性格のした方がお造りになられたのかもしれません。

 

「主が変わった時に、シュバルツとヴァイスは新しい服を賜っていました。ローゼマイン様からも新しい服を賜りたいのでしょう」

 

「時間制限とかはありそうですか?」

 

「あたらしいふく じかんかかる」

「ひめさま とってもきたいしている。」

 

まあいいや、でもこれの服。魔法陣との整合性...変な物作ったら攻撃してこないよね?

 

「それではソランジュ先生、またお時間が許す限りお邪魔させていただきますね。」

 

「ええ、是非ともお待ちしております。」

 

そうソランジュ先生に別れを告げて授業です。誰があれほどの魔術具を作ったのでしょうか。

 

後でソランジュ先生に詳しく聞いておかないと後悔しそうです。

 

 

 

 

さて、とりあえず登録できたので良かったです。後で調べ物をいっぱいしなければなりませんが...。まあ、いいです。

 

今日は宮廷作法です。

 

うーん、言われた通りにきっちりやったつもりでもやはり結構注意受けるものですね。普段引っ込み思案なお前が貴族らしくできるわけない?

 

所詮テストですもの。要はフェルディナンド様の講義と一緒でどこを重要視してやればいいか。

 

いや...。あれは魔王様の講義はウラノの世界で言うムリゲーというやつなので絶対にクリアできないようになっているのですが。

 

それに対して、一応クリアできる設定のこれは、ウラノの世界の『ろーるぷれいんぐ』ですね。要は演じればいいのです。所詮はゲームってやつです。

 

私は王族に招かれた貴族。私は王族に招かれた貴族。

 

一応合格できたようでよかったです。

 

採点?さあ、微妙な対応してしまったところもありますし、挨拶の言い直しもさせられましたし良くはないでしょう。

 

まあ、アウブにも領主候補生として最低限恥ずかしくない成績しか求めないとのことですので十分でしょう。

 

わたくしはディートリンデ様のように優秀ではないのです。

 

なぜ試験のように普段からできない?逆に聞きたいのです。

 

限定された今回の状況ならともかく、不特定多数が入り混じりしかも言動を一歩間違えればはるか高みに上る状況で適切な行動を取り続けるなんて私には無理です。

 

 

 

 



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27話 シュタープ取得 心の叫び

それは次の日、今日は午前中特に予定なしとなっていたのですが。

 

「お茶会ですか?」

 

「ええ、是非にと音楽の先生方からお誘いの文が届いております。」

 

側近の一人が言いました。うーん、お断りしたい。

 

「お断りしたいのですが。」

 

「何を言ってますのローゼマイン、せっかくのお誘い絶対に行かなければなりませんわ。」

 

ディートリンデ様、いつの間に来たのでしょうか...。

 

「そういえば、音楽の授業ですばらしい演奏をしたと聞いてますよ。流石は私の妹です。」

 

「ディートリンデお義姉様、あの演奏は情けない話ですが最後まで弾かないで終わってしまった演奏なのです。そのような状態ですばらしいと言われましても。」

 

「まあ、それではちゃんと最後まで聞かせてあげなければいけませんよ。アーレンスバッハの領主候補生として途中で投げ出すのはどうかと思いますわ。」

 

うーん、なんか、そういわれると正論な気もするけど。

 

「それに私も聞いてみたいですわ。私の優秀な妹がどんな曲を弾くのか興味がありますわ。」

 

「優秀なデイートリンデお義姉さまに聞かせるほど、たいした腕前ではございません。」

 

というか、いろいろ薬や魔道具が、ちょこちょこいじられたりなくされたり。箱の表側だからいいけど補給をまったくしないのはばれる可能性もあるしなぁ...。

 

でも材料もないし...時間もないし。部屋の防犯装置は私がいないときは基本的に切っておりますし...。

 

万が一にでも私の部屋の防衛装置に触れてはるか高みに上られても困ります。

 

やっぱりディートリンデ様が関わっているのかなぁ。関わっているなら少しでも補給の邪魔しようと思うだろうし...。

 

「とにかく、誘われたお茶会はできる限りでないといけませんわ。少なくとも最後まで聞きたいと先生に思われる演奏をしたのですから胸を張って参加しなさい。」

 

おーほほ、という感じで行ってしまう。これで行かないって言ったらやっぱりだよね。

 

あの曲はなんとなくしか覚えていないから楽譜に書き出して...書き出したけどやっぱり弾きたくない。他の曲にしよう。そういえば今日はお祈りをしていなかったなぁ。

 

諦めて音楽を奉納しますか。メスティオノーラ様の曲がいいなぁ。結局曲から作らなきゃ。

 

ああ、エーレンフェストのときは良かったですね。ロジーナとか元気かな。作詞編曲してもらって...それ以前に心から信頼できる仲間がいませんが。

 

図書館の魔道具の話にしよう。あの装置の元には何が眠っているのだろう。うふふん、ウラノの世界の『みすてりー』ってやつですかね。

 

結局時間がなくなりかけて危なかったですが今日の奉納のノルマは何とかできました。

 

 

 

午後の授業はシュタープの取得です。

 

まあ、ご存知だと思いますがウラノの世界では魔法の杖と呼ばれる、あれを思い浮かべていただければよいと思います。

 

シュタープについて、聖典を読むと神が王に与えた物の一つで魔力の優れた王が魔力の扱いに困っていたところシュタープにより魔力をコントロールできるようになったとか。

 

昔は最終学年で取得していたそうです。

 

カリキュラムの関係から初年度に移ったようですが、便利なものらしいので、なぜ昔は最終学年にしていたのかは不明とのことです。

 

ああ、聖典といえばエーレンフェストにいたころの聖典ちゃんが懐かしいです。こっち来てから呼び出せなくなっちゃったんですよね。

 

やはり領地が違うからなのでしょうか。

 

さて、今日は講堂に集まった後に、礼拝室へ、祭壇がなんとも、普段からお祈りに開放していただけませんよね。

 

祭壇の魔石にかな、先生が魔力を込めると入り口ができここにいる領主候補生が順々に中へ入っていきます。

 

他の領主候補生にはとっとと先に行って貰います。

 

急いでもしょうがないのでゆっくり行きます。他の方とぶつかっては絶対にいけないそうですがこれだけゆっくり歩いていると絶対最後でしょうね。

 

はぁ、どれだけ歩いたでしょうか。もう皆さん当然いません。なんといいますか、神殿暮らしが長いからなのか分かりませんが、なんとも落ち着く空間なんですよね。

 

まあ、もうどうとでもなれ。と思います。

 

 

 

 

見つけられないほうがいいのではないか。そんな気さえしてきました。

 

奥に行けばいくほど、神々の魔力というのでしょうか。歩いていてもとても心地いいのです。

 

かなり奥の方まで歩いたら出てきた螺旋階段に座って少し休憩します。うん、魔力構成も今まで見たことのない構造で興味深いです。

 

さて、余り休憩しすぎても怒られてしまいます。

 

うん、螺旋階段をゆっくりと上りきりますと行き止まりですか。あれですね、ウラノの世界で言う『ゆぐどらしるの木』でいいのでしょうか。

 

よくよくウラノの世界と比較してみるとこの世界は身近な不思議に満ちています。

 

あのウラノという少女の知る『ふぁんたじー』に似た世界なのですが、世界として安定していないというかなんというか。

 

まあ、そんな以前から言っている『ふぁんたじー』のことはどうでもいいのですが。いかんせん現実逃避もしたくなります。

 

ここに溜まっている魔力は明らかな意思を持ち、私に何かを投げかけているようなのです。

 

これ以上私に何かをしろというのでしょうか。

 

あ、でもこの異常な空間ならもしかして。

 

村の家族のために祝詞でもあげてみましょうか。

 

「高く亭亭たる大空を司る、最高神は闇と光の夫婦神

広く浩浩たる大地を司る、五柱の大神 

水の女神 フリュートレーネ 

火の神 ライデンシャフト 

風の女神 シュツェーリア 

土の女神 ゲドゥルリーヒ 

命の神 エーヴィリーベよ

我の祈りを聞き届け 御身の祝福を与え給え 」

 

明らかに省略した祝詞でいつも以上の祝福が飛んでいきます。加えて普段の祝福と違う飛び方をしています。つまりここは限りなく神の領域に近い、もしくは似せた領域である可能性が高いということです。

 

早く取ってというかのように魔石(神の意思)が主張していますがごめんなさいもうちょっと待ってください。

 

ちなみに、さっきの祝福は心の底から村の家族を思い送りました。届くのかな。届くといいな。

 

さて、ここなら大丈夫かも。

 

試してみますか。

 

「神様方、このような場で仮にも神殿の神殿長たる私が神をないがしろにするような愚かな行動をすることをお許しください。」

 

おねがいします、許してください。神の方々。もういろいろ限界なのです。わたしはにんげん、わたしは人げん、私は人間。

 

「アーレンスバッハのバカヤロー!アウブのわからずや!」

 

「フェルディナンド様のいるエーレンフェストと戦うなんてできるか!勝てるわけないだろ!」

 

はぁ、はぁ、ここに来るまでもかなり体力を使っているのにとても疲れます。指輪はまったく発動しません。

 

「わたしはアーレンスバッハのローゼマインなんかじゃない、ただのエーレンフェストの名も無き村のマインだ!」

 

「お父さん、お母さん、トゥーリ、カミル。必ず私はみんなに会うんだ!」

 

「アーレンスバッハの私を慕ってくれる者のバカヤロー。わたしはあなた達の気持ちになんかこたえることできるわけないだろ!」

 

もうこころ、くるしいのです。

 

「私の心のゲドゥルリーヒはエーレンフェストで大切なものはエーレンフェストにあり、魂をエーレンフェストに置いてある弱い私のバカヤロー!そんな私があなた方から慕われる資格なんてあるか!」

 

馬鹿みたいに叫びまくります。涙が止まりません。その後もひとしきり叫びまくった後。

 

「ただの村人、マインとして少しの間いさせてくれた、そして愚かな行動を許していただいた神々に切に感謝いたします。」

 

もう一度、私の知る神々一人一人に感謝をささげ魔力を捧げられないことをお詫びします。

 

「わたくしはアーレンスバッハのアウブの子、ローゼマイン。私はアウブのどうぐ、アウブの道ぐ、アウブの道具。」

 

こんなおまじないをかけても意味はありませんが、かけないよりずっと良いのです。実際道具になんてなれるわけはありませんが。

 

 

 

 

「ごめんなさいね、大変お待たせいたしました。待ってていただきありがとう存じます。頂戴致します。」

 

魔石(神の意思)がさっきと変わっているような気がしますがきっと気のせいですよね。なんだか更に魔力が集まってきているような。

 

受け取った後、魔力が吸われていきます。魔力を少しでも取っておくべきだったのでしょうが、村の家族のために魔力を使ったことに後悔はありません。

 

その後?余りに戻ってこない私を先生達が全力で私を探していたそうです。迷惑おかけしまして申し訳ありませんが後悔はありません。

 

階段を降りた後少し戻って横になって休んでいたら死んだと勘違いされましたけどね。

 

だって、あれだけのことをすれば、無理です、もう体力の限界です。

 

がんばって、帰りましたよ。身体強化の魔術がほとんど使えないせいでものすごく時間がかかりましたが。

 

加えて戻れば戻るほど契約の干渉が強くなっていきます。ものすごく心が和らぎ感情のコントロールができないができなくなったのはこのせいなのかも。

 

帰りたくないよぉ、もういっそここに暮らしたい。でも帰らなきゃ。そんな気持ちのせいで更に足が進まなくなります。

 

神の意志を取得に行き、最奥の間で、危うくはるか高みへと上りかけた者がいると噂になったそうですがどうでもいいですね。

 

 

 

 




微妙な回ですがこの話を書かないと先に進めませんのでご了承を。


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28話 奉納舞いでの劇薬

あーあ、何で授業なんかのせいで無駄な薬を使わなきゃならないのでしょうか。

 

補給ができないって本当につらい。ウラノの知識ではウラノの世界の戦争は補給こそが生命線なんて話があったけど本当にそうだね。

 

神の意思を取得して先生方に迷惑をかけて湯浴みもせず寝床に行きました。側近達は、とてもうるさく言って来ましたがもう無理です。

 

熱いし、寒いし、いっその事このままはるかな高みに上れればいいのに。

 

以前に魔王様に教わった凶悪な回復薬をあおります。少しだけ味を改良したんだよ。

 

ウラノの世界の良薬は口に苦し。苦いというかもういろいろ味がおかしいけど。

 

ああ、もうだめだ、完全に封印していたマインの顔をのぞかせてしまったせいか心がとっても弱くなっている。

 

村のみんなが恋しいよぉ。こういうとき信頼できる人が近くにいてくれるだけでとっても安心できるのですが。

 

アーレンスバッハで、作ろうともせず拒絶しかしない私がいけないのですが。そんな人作ったら作ったでまた無理がかかるし、孤独のほうが楽な面がむしろ多いです。

 

大丈夫、ここでの私はアウブアーレンスバッハの子ローゼマイン。私はアウブの...。

 

次の日も眠り続けます。私が部屋にいる場合は私が許可しないとウラノの世界の知識も応用して物理的に入れないようにしてあるので、かなり無理しないと入れません。

 

そんなことになったら防犯装置が発動してしまいます。

 

ああ、ガンガンうるさいです。大丈夫ですか。入れてください。っていっているように聞こえますけど。

 

ああ、そんなにうるさくされると頭が痛い熱い。人は水だけあればある程度生きていけると思うのです。栄養剤があればなお良しです。

 

別に一日くらいどうってことないでしょう。魔石こと神の意思は、だいぶ小さくなりましたね。これなら今日中に吸収できそうです。

 

 

 

 

ああ、またひと寝入りしてしまいました。入れてください入れてください。と聞こえます。

 

そういえばこんな状態もなんだか懐かしいなぁ。

 

フェルディナンド様の研究室で、とてもいいところまでいってあと少しってところで倒れる寸前まで研究していたら、こんなこと良く合ったなぁ。

 

魔王様が研究モードに入ると私は限界を超えない限り、退出できません。私がいること前提で実験の予定が組まれているので逃げ出せないのです。

 

あの方は私がどこまでやれば壊れないかよくわかっている方でした。そのときの遺産で今の私が何とか生きていけているので、これっっぽっちも怨んだりしていませんが。

 

まあ、弟子として認められていない以上ただの便利道具。よく考えると契約のあるなし以外はさほど変わらない扱いですね。契約のあるなしは本当に大きい話ですが...。

 

これ以上は、まずいですね。あと少しで神の意思も取り込めそうです。

 

「何かありましたか。今入れるようにしますね。」

 

仕方が無いので許可を出し入れるようにしてあげます。

 

「ローゼマイン様、良かったです。ご心配しました。緊急用の方法でも入れなかったのであせりました。」

 

「あら、それはそれは。私は緊急用の入り方なんて知らされておりませんので何かトラブルでもあったのでしょうか。」

 

全く私に知らせないで勝手に作ってあったんだよ。ひどいよ本当に。

 

最低限知らせてくれるくらいはするかなと期待したのに。それも三ヶ所。扉に二つ、他にも転移用の特殊な魔法陣まで。

 

転移用の魔法陣とか良くやるよと思ったよ。あれって買えば高いし作るのにも手間がかかるんだよ。

 

でもあれって分かってしまえば物理的に重いものを上におくだけで簡単に防げるんだよね。

 

さらに魔力を通しにくい素材を置いて置けば完璧に...。

 

「いえ、こちらの話ですので、後でこちらで確認させていただきます。」

 

「まだわたくし、体を起こすのもつらいんですの。それに湯浴みもできていないのでお恥ずかしいので今日のところはお引取り願えますか。」

 

「はい、無事を確認できればみんな安心します。お食事と水の替えはこちらに置いておきます。それでは。」

 

あなた的にはきっとはるか高みに上ってくれた方がよかったのでは?ああ、でも主を失った側近はアーレンスバッハでは二度と這い上がれませんし。

 

そういう方はアーレンスバッハでは結婚前なら外の領地へ出て行きます。成績等見ても優秀なようなのでかわいそうですね。一応、ゲオルギーネ様にお会いしたら一言くらい言ってあげますかね。

 

ちなみに食事は水と栄養剤ですませました。だって味覚も嗅覚も熱のせいで戻っていないんだもん。毒が入っていても分からないよ。

 

しかも置いていかれた食事は私の嫌いな種類の香辛料入りだし。

 

そういえば講義はって、今日は土の日お休みでした。夜になってシュタープも取り込めました。

 

下手にシュタープ起動させて何かトラブル起こっても嫌だしなぁ。と、大人の持っているシンプルな形のシュタープをイメージしたかったのが悪かったのでしょうか。

 

勝手に出てきているのですが。戻すのはイメージ送り込むだけでいいのかな。

 

なんか七色に輝きだして何かしろといっているように感じます。

 

これって自分の分身のようなものなのでしょうか。だとすると無理やり封じているマインの意思?それとも神の意思?

 

とりあえず、神殿の神具をイメージしいろいろ形を変えてみます。

 

最後にウラノの世界の剣(「えくすかりばー」というらしいです。)とか盾をイメージしてみましたが普通のシュタープに戻ってしまいました。

 

まあ、別にやりたくてやったわけではないのでどうでもいいです。それよりもようやく戻ってくれました。

 

使い方は授業で教わるべきでしょう。流石にシュタープについてはフェルディナンド様には教わっておりませんし。

 

流石に気持ち悪いので湯浴みの準備と食事を用意してもらいます。

 

おかゆもどきでいいよ。他は体が受け付けません。お芋を摩り下ろした薄いスープでもいいなぁ。

 

マインの小さなときに良く食べた味気ない薄いスープも懐かしいです。

 

湯浴みが終わった後、本当にこれでいいのですかと持ってきてくれました。

 

いいんです。それに余りにおいしいものを食べるとあれらの薬を飲めなくなってしまわないか、その方が心配です。

 

そういう意味ではアーレンスバッハの食事は味覚にあわなくて正解だったのかもしれません...。

 

そのあと、汗でひどくなった寝具を変えてもらいました。

 

簡易的に薬物検査。まあ、流石に大丈夫でしょうが。

 

毒ガス等空気感染の場合はこっそり置いてある魔道具が大体検出してくれますし、問題なし。

 

寝具に戻ってアーレンスバッハの歴史書を読みながら自然と眠りました。

 

やっぱり礎の記憶が正しいならこの国の領主はとっても嘘つきだね。

 

全然記憶にあるのと同じ時代と思われるところの記述が全然一致しないよ。今までに無いほどすばらしい善政をしいたって一文だけで書いてあったんだけど...実態は貴族の略奪を完全に領主が裏で許可していて困窮して訴えでた領民を村ごとメダルの儀式で普通に処分したりとか結構あってもうやだ。それはもうただの恐怖政治だよ。

 

今のアウブはまだいいほうなんだと心の底から思いました。

 

 

 

 

さて、本日の授業は奉納舞です。

 

無事でよかったですとたくさんの方が言ってくれましたが、どこまでが本心なのでしょうか。

 

ディートリンデ様については抱きしめていろいろ言ってくれましたが、本当にこの御方はどう判断してよいか困ります。

 

すべてが本心にしか見えないので対処に困るのです。実際はゲオルギーネ様と同様に策士なだけですが。

 

まあ、皆さんに心配してくれてありがとう存じます。って言っておけばいいよね。旧ベルケシュトックの方々も相変わらずです。

 

「我等は世界を創り給いし神々に祈りと感謝を捧げる者なり」

 

まあ、奉納舞ですから神殿でやるのと同じですね。

 

フェルディナンド様に魔力奉納のついでに覚えるようにと、わざわざ他の人雇ってまで教えられました。

 

最後だけ必ず来て採点していくのでまったく油断できません。一番初めは全然覚えられず、教えに来てくれた方共々説教を受けました。

 

直前まで恐怖の実験につき合わせて珍しく早めに開放されたと思ったらいきなりだもん、あの方の行う事はすべてウラノの世界のムリゲーです。

 

「神に祈りを!」

 

うんうん、でもなんで王族の儀式でこういうものが残っているのに神殿はここまで嫌われているのだろう。

 

闇の神に捧げる役のアスタナージウス王子は大変そうですね...。相方の光の巫女役のクラッセンブルクの方がうますぎるだけですか。

 

はぁ、まあ、美しいとかそういうものより、調和があっているほうが好きだな。

 

少しくらいアスタナージウス王子に合わせてあげるかアスタナージウス王子を奮起させるようがんばるか...私程度がどうこう言うことではないですね。

 

「ローゼマインちょっと来なさい。」

 

ディートリンデ様、今度はいきなり何をするのでしょうか。もう少し思考の渦に浸っていたいのですが。

 

「ヴィルフリート、改めて紹介しますわ。先ほど話した私の優秀な妹ローゼマインですわ。私の補佐をがんばってくれていますわ。ほらローゼマインこの間は体調崩して途中で退席したのですから一言謝っておきなさいな。」

 

ゆ、油断していました。この方は何を言っているのでしょう。

 

わたしの契約については当然のごとく知っているはずなのに。

 

こんな場で私が蒸発したら騒ぎではすみません。もう本当に助けてください。

 

「あ、改めまして、この間は途中退席をしてしまい申し訳ございませんでした、ヴィルフリート様。わたくし本日も先日のシュタープの件でまだまだ体調が回復していません。」

 

そこから、不快な思いをさせてしまっては申し訳ございませんので退席させていただきます。ということを暗に伝えこの場から離れようとします。

 

「待ちなさい、ローゼマイン。もう、何でそんなにヴィルフリートから逃げるのですか。今度私的なお茶会を従姉弟同士でしますのよ。もちろんあなたも参加するのですわよ。」

 

何いっているのこの人、本心から困った妹ですわねという雰囲気を出して逃がそうとしません。

 

流石にこれはやりすぎでしょう。ゲオルギーネ様もここまでは流石に許さないはずです。え、許さないよね。きっと。自信が持てない...。

 

「ディートリンデお義姉様、ゲオルギーネ様の許可は得ているのでしょうか。」

 

「お母様の許可?何を言っているのですかローゼマイン。領主候補生同士よくよく仲良くなるようにあなたも言われているでしょう。」

 

「優秀なディートリンデお義姉さまと違って、わたくしは仮の領主候補生でございます。アウブからも社交については体調面から最低限でかまわないと許可を頂いております。」

 

そこで横槍が入ります。

 

「おや、ローゼマイン様もそのお茶会に出られるのですか。でしたら私も参加させていただいてよろしいですか。」

 

フレーベルタークのリュディガー様です。ヴィルフリート様とよく似ています。

 

「ええ、もちろんですわ、日程が決まり次第おこないましょう。楽しみですわね。」

 

「あの、みなさま。大変恐縮ですが知っての通りわたくし体調を崩してばかりですので参加できない可能性が非常に高いと存じますのでよろしくお願いします。」

 

「もちろん、その時は仕方が無いけど体調を整えて、できる限り参加するのですよ。ふふ、楽しみですわね。」

 

私をこっそりいじめてそんなに楽しいのでしょうかディートリンデ様。万が一私がはるか高みに上ったら流石にディートリンデ様でも手に負えないかと思うのですが。

 

「そうだな、面白い噂もいろいろ聞いているし、ローゼマイン、お主とは一度じっくり話をしてみたいと思っていたのだ。」

 

ヴィルフリート様、私はじっくりなんて話したくはございません。契約の関係で無理です。ごめんなさい。

 

「お気持ちはうれしいですけど、時の女神 ドレッファングーアの糸が重なる時があればよろしくお願いしますわ。」

 

絶対に参加しません!と言っておいた方がいいよね。絶対に失礼だけど。私は第6位アーレンスバッハのアウブの子、私は第6位アーレンスバッハのアウブの子...

 

ぐすん、ごめんなさい。かつての主になるかもしれなかった方。心の中だけで謝らせていただきます。

 

「ローゼマイン!もう、ごめんなさいね。ローゼマインは極度の引っ込み思案なのですわ。授業については宮廷作法も終わってますし問題ないはずなのにまったく。」

 

まったく、もうではございません、ディートリンデ様、逃げるが勝ち。

 

「ディートリンデお義姉さま、余り話をしたことがない殿方と話しすぎて私疲れてしまいました。申し訳ございませんが失礼いたしますわ。」

 

「まったく、仕方の無い妹ですわ。できるだけお茶会に参加させますので皆様候補日が決まったら連絡しますのでよろしくお願いしますね。いえ、ローゼマインも必ず参加させますので。」

 

どうやって逃げよう。お父様との私的な連絡網なんて用意していないし、情報の管轄にはゲオルギーネ様は必ず入ってくるから...。

 

やっぱり体調不良で、奉納式まで逃げ切れるかなぁ。幸いこのくらいの接触なら問題は無いようだけど。

 

まさかここまでディートリンデ様が私にかかわってくるとは思いませんでした。

 

良薬口に苦し、劇薬も口に苦いのは当然のこと命の味がいたします。助けてください。本当に。

 

 

 

 

その後、アスタナージウス王子に話しかけられ、いろいろ面白いから興味があると言われましたが上の空です。

 

王族相手に上の空とか非常にまずい事態なのですがさっきの事態ほどではありません。

 

なぜか授業の後に付き合う流れになってしまいました。なぜ私なのでしょうか?ディートリンデ様に王子が興味を持つとは思えませんし。

 

 

 

さて、そんな話をしていられる時間も終わり、奉納舞を実際に舞う練習が始まります。奉納舞は試験とか無いし、正直なところ体力面を除けばちょっと自信がありますよ。

 

最後まで魔王様の合格は出ませんでしたが教えていただいた方には褒めていただきましたし。

 

お世辞じゃないよね。きっと。あれだけガミガミ一緒に魔王様に怒られるのに付き合って下さったんだから。

 

おかげさまで、大変結構ですをもらいました。無事に終わってよかったです。更に実技の授業が終わった後、王子は結局周りに女性をはべらせて予定ができたとか言ってくださって付き合わなくて済んでよかったです。

 

 

 

 

次の日は珍しく予定が入っていなかったのですが、体調不良です。

 

だって夜通し手紙を書いて、何度も何度も書き直してようやく納得ができる手紙ができたのでアウブに報告書として送ってもらいました。

 

前回の返事もいただけないし。誰か止めてないよね。ヒルシュール先生...。なんでわたしはアーレンスバッハなのでしょうか。

 

ゲオルギーネ様辺りが何かしていてもおかしくないので、ここまで来ると外部に期待せず独力で何とかするしかないかもしれません。

 

はぁ。もう薬漬けは嫌なのです。その命綱の薬のストックも想定以上の消費と妨害でどうしましょう。

 

 

 

 

さて次の日はフェシュピールの授業です。

 

はぁ、今回は良かったです。課題曲の楽譜を弾くだけでした。もともとウラノも意外と音楽の知識がありその知識と合わせて今までいろいろやってきましたが。

 

そういえば魔王様は一度も合格くれなかったなぁ。これ以上は時間の無駄だから曲を変える。それしかなかったものね。

 

私の教育係としてアウブに任じられたから仕方なく教えていたんだよねきっと。そんなことよりも実験道具として使いたいってことだろうし。

 

不安はありましたが、今更練習したところでうまくはなりませんので音符だけ全部確認しさっさと試験を受けます。

 

うん、まあ、わたし的には及第点です。体調面で回復しきっていませんし、神への曲でないから奉納はしませんでしたが。

 

魔王様基準ではですか。お小言が飛んできますねきっと。やり直しという声が聞こえそうです。

 

やっぱり少しくらい練習してから試験を受けた方がよかったかな。

 

結果は一応、合格だそうです。皆様どことなく不満そうです。やっぱり僅かにも手を抜いてはいけないのでしょうか。

 

審査の話し合いでは祝福がどうとか聞こえてきた気もしますが。まあ、合格は合格です。成績なんてどうでもいいので合格がもらえればいいのです。

 

 

 

次の人が来ないのでお茶会の話になります。

 

お茶会を楽しみにしていますなんて言われてしまいましたがどうしましょう。

 

体調を理由にお断りをしたいのですが、ディートリンデ様のことを考えると無理です。参加するのは仕方が無いのでせめて体調の関係から普通のお茶会より短めにしてもらうよう交渉しました。

 

終わればさっさと退散です。邪魔者はさっさと消えるに限ります。

 

その夜はアーレンスバッハの話を読み終わってしまいました。

 

歴史書では綺麗な話にしかなっていませんでしたが、完全に作り物ですね。本当の歴史書を作らなくてよいのでしょうか。

 

まあ、礎より流れ込んできた知識が正しいのならですが。

 

 

 

 



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29話 シュタープの使い方

さて、本日の午後の講義はシュタープの使い方です。

 

午前中はまたディートリンデお姉さまが無茶を言ってきて、

 

1、2年生については、座学について、いい加減全員合格させるのですわ。

 

エーレンフェストの一年生は全員初日合格しているのにあなた達ときたら...。

 

と言ってきました。ディートリンデ様、優秀なのですからご自身でやってください。

 

といいたいのですが、確かに周りを見ると余裕のある生徒はそう多くありません。

 

まあ、エーレンフェストの特に一年生は皆様優秀ですね。さすがはヴィルフリート様です。

 

 

 

 

分からないところを中心に質問形式で答えていきます。

 

魔術具はもう無理です、これ以上の素材の使用は緊急事態でしか使えません。

 

たまに持っていかれるし、ぐすん。

 

ゲオルギーネ様かディートリンデ様か誰が大元の指示しているか知りませんがお願いですから持っていかないでくださいまし。

 

そこまで高価でない汎用素材は流石に魔力で鍵をする箱に入れるのは無理です。

 

はぁ、なぜか試験が終わった方々まで次の年の予習でもしているようで質問してくる始末です。

 

ですからなんで1年の私に質問をしてくるのでしょうか。

 

ウラノの世界でいう100歩譲って、ディートリンデ様より指令を受けた2年生の方までは分かりますよ。

 

それ以上の学年の座学について、資料を確認していないのにどう答えるのが正解か分かるわけないではないですか。同じような内容でも求められるものが違えば答えも違ってくるのですから。

 

ええ、答えましたよ。想定できる全パターンに。合っているかは知りませんと付け加えておきましたけど。

 

なんか皆さんの眼差しが怖いです。何か変な回答をしましたか?ディートリンデ様は、なぜ私にこのようなことをさせるのでしょうか。

 

 

 

もう午前で疲れました。なぜ皆さん私が行う講義に来るのか分かりません。

 

どう考えても複数学年にかかわる質問の受付なんて効率が悪くてしょうがありません。

 

しかも次々と質問が飛んできて、わたくし病み上がりでしてよ。体力が回復しきらないよぉ。

 

さて、午後はシュタープの使い方です。知らないところになるのでとっても興味がわきます。まあ、コツとかいろいろ本の知識では知っていますが実践こそが重要ですから。

 

これで疲れてなければ最高だったのですけど...。

 

ヒルシュール先生の講義が始まりました。助手はディッターの領地(略称)ルーフェン先生です。この二人相性悪そうなのに講義で一緒の場合が多いよね。意外と仲良しなのかな?

 

講義は本で読んだものと大幅に変わることなく、貴族しか使えない神の意思を取り込み具現化した道具とのこと。

 

神の意思、昨日のあの反応はやっぱり神の意思なのかなぁ。

 

まあ、考えたところで分かりませんし、シュタープ作りの開始です。といってももうできているのですが。

 

何事もシンプルが一番です。

 

シュタープが安定したら来て下さいとのことなのでヒルシュール先生のところへ行きます。

 

結局試験はシュタープを見せる、一度しまってまた同じ形に作る。

 

声を届けるオルドナンツの魔石に魔力をこめます。

 

うわぁ、少量の魔力がこんなに簡単にコントロールできるのですね。

 

魔力放出訓練で、助けを呼ぶための赤い魔力を打ち上げる「ロート」呪文を行います。

 

うん、結構感動しますね。これって攻撃的な作用にもできるのかな。ウラノの世界の火炎放射器とか?

 

次の試験は最高でした。

 

ペンですよペン!魔法陣を少量の魔力で空中に正確に書けるとか!すてきです!

 

だって、今まで魔法陣に魔力をあらかじめ込めた媒体に記載して、さらに起動の魔力を改めて流して起動したり、指輪の魔力で強引に大雑把に引くとかですよ。指輪で線を引いても当然すぐにぼやけてしまうので極まれにしか成功しません。

 

魔力媒体がいらないなんて本当に素敵すぎます。

 

混ぜ棒ですよ混ぜ棒!今まで薬を作るのに、普通の木とか魔木の混ぜ棒を使っていましたが、やはり魔力の操作に苦労するんですよね。うわぁ!

 

ナイフ?あれば便利です。興奮するほどではありません、私のお守りはナイフも兼任している物もあるのでさほど必要ではありません。

 

はじめはナイフですか。少し気分が下がりました。

 

「メッサー」、「リューケン」集中するまでも無いです。ナイフと兼任のお守りを今まで何個作ってきたことか。

 

「少し変わった形のナイフですがいいでしょう。」

 

ヒルシュール先生から合格をもらえたので

 

さてさて、更に次はどちらかしら、ペンそれとも混ぜ棒?

 

では次はペンをとのことで、ペンを作成する呪文を教えてもらう。

 

「スティロ!」

 

うわあ!できた。これで魔法陣がかけるよ!さっそく、ってダメですね後にしよう。よく抑えた私。

 

「で、次は混ぜ棒ですか!」

 

「ええ、ではバイメーンとこのよ」

 

「バイメーン!」

 

ヒルシュール先生が言い終わる前にやってしまいました、うわぁぁ!混ぜ棒!魔力通しやすいしとてもいいです。

 

うっとりします。あ、先生が引いてる。

 

というかフェルディナンド様ずるくないですか、こんなにいいものだったんですね。

 

わたくしには魔法陣の媒体から作らせたり、木の棒で魔力を流させたり無駄ばっかりじゃないですか。

 

しかも一歩制御を間違えれば、爆発する薬とか。何度か爆発させてお守りから作り直させられたり。

 

気がつけば周りは過去の有名人とかの話になっていますが何でそんな流れになっているのでしょうか。

 

まあいいや、これならあれもいけるはず。

 

「シュトレイトコルベン!」

 

うん、できたできた。フリュートレーネの杖。簡単だね。

 

リューケンっと

 

ふう、満足満足。

 

あれ?何でこんなに注目されているの?

 

「なんですか、今のは?」

 

「ああ、ヒルシュール先生ごめんなさい。課題がまだ途中でした。このあとはなんですか!?」

 

「いえ、これで終わりです。それでさっきのは、」

 

なんだ終わりですか、残念です。もっとウラノの世界でいう便利グッズが欲しいです。

 

「終わりですか、もっと教わりたいところですが残念です。合格でいいんですよね?」

 

「もちろん合格です。それで...」

 

はぁ、終わりですか。でもいろいろ面白い講義だったなぁ。

 

「ヒルシュール先生。ルーフェン先生ご指導ありがとうございました!とても楽しい講義でした!」

 

「それはよかったです、それでさっきの...」

 

うふふん、薬の素材の回収の目処がついたよ。うまくいけばやっと一息つけるよ。

 

「それでは、これで授業も終わりですので、退室してもかまいませんね。」

 

「まて、だからさっきのはなんなのだ。」

 

「ルーフェン先生、さっきのとは。」

 

あれ、何かしたっけ。

 

「さっき出した杖のことだ。」

 

「ただの特殊な用途の杖ですけど。」

 

いや、別にイメージでシュタープの形を変えられるんだから変じゃないよね?

 

「どういう用途の杖なのだ。名前はあるのか。」

 

「先生、別にそんなことはどうでもいいことではございませんの。シュタープは自由に形を変えられるものではないですか。」

 

「いや、そういうことではなく」

 

「それでは失礼いたしますね。」

 

ああ、良かった良かったです。最悪次に来るときは神殿から持ち出すか悩んでいたんですよ。

 

でもそれだと神殿のほうが本当に困った事態になってしまいますし良かったです。

 

 

 



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30話 閑話ヴィルフリート

私はヴィルフリート。エーレンフェストの領主候補生の1年だ。

 

私には以前に憧れの人がいたのだ。マインという私より一つ年上の少女だ。

 

初めての出会いは衝撃だった。

 

その日はいつも通り全然面白くない勉強から逃げていたのだ。

 

そして、いつも通り庭に隠れてやり過ごそうとしていたのだが、そこで出会ったのがマインなのだ。

 

その子は本を読んでいたようだ。私が隠れるため移動していると顔を上げて目が合った。

 

金色のとても美しい目で髪の毛は美しい夜空色どこか儚い雰囲気をかもし出した少女だった。

 

ここに隠れているのを知らされてはまずいと、私のことは誰にも言うなというと、にっこりと美しい笑顔で

 

「ええ、ここには誰もいなかったでいいのですのね。」

 

といった。

 

私はしばらく近くに隠れていたのだが、だんだん飽きてきて少女の隣に座ったのだ。

 

その時は驚いた、先ほどの儚い雰囲気は無く生命力のあふれたキラキラした眼で本を読んでおった。

 

そんなに面白いものなのか?勉強を教える教育係のものは本を読みなさいといってくるが本なんてとても面白くない。

 

そんな本にこれほどキラキラさせて夢中になっている理由を知りたくて再度声をかけたのだ。

 

「おい」

 

まったく反応しない、何度声をかけてもキラキラした目で本を読み続けていた。

 

「おい、本なんか読んで面白いのか。」

 

耳元で少し大きな声で言ったら、キラキラした目が急になくなり、先ほどの儚い雰囲気になり

 

「本も最高ですが、知識を知るのが面白いのですよ。」

 

などというのだ。まったく信じられないので意地の悪い質問をしてやったのだ。

 

「ふーん、じゃあなんかその知識で面白い話をしろ。」

 

そうすると不思議そうな顔を一瞬したのだが、急に優しい目をして私を見てユンゲルシュミットの神の話をしだした。

 

神々の恋の話から、戦いの熱くなる話まで、優しい声で物語をつむぐのだ。

 

今までの教育係で神を教えようとしたものにこれほど面白い話をしてくれたものはいない。

 

永遠に続くかと思った時間は私を探しにきた教育係によって終わりを迎えるのだが最後に彼女の名前を聞けた。

 

「マインと申します。」

 

一瞬で覚えた。今思えば初恋である。

 

その後も何度かその場所に足を運び、いた時はうれしくなり物語をせがんだ。

 

その中で彼女の情報も聞いたのだ。ライゼガングの上級貴族の娘らしい。

 

すぐに側仕えにしたくて誘ったのだが、

 

よく遊ぶのもいいが、よく勉強をし、周りの言うことによく耳を傾け自分で判断できるもの以外に仕える事はできないといわれてしまったのだ。

 

余りに悔しくお父様にせがんでみたのだが、絶対に無理とのことだった。

 

だが本気でその子の言う事を実行し、そのようになれるよう努力をすれば将来的に必ずその子を連れてきてやると約束してくれたのだ。

 

それから私は本気で勉強をした。

 

神学はマインが話してくれた物語のおかげで先生よりも詳しいような状態になり驚かせ、他の教科も必死にがんばった。

 

そして忘れもしない、あの洗礼式。私が洗礼式を受ける時に彼女が神殿長の代役として私を洗礼してくれることになった。

 

久しぶりに見たマインは余り身長は伸びていなかったが、神殿長らしく凛としておりとてもすばらしい雰囲気だったのだ。

 

はじめに挨拶しに来てくれたときには高揚した。

 

彼女の去年の洗礼式について話は聞いていたが私の成長を見て欲しくて私は負けぬということと、必ず私のものにするという宣言をした。

 

そうしたらマインは体の弱さを理由に断ってきたが私は絶対にあきらめたくなかったのだ。

 

 

 

 

洗礼式はすばらしかった、まるでマインが聖女様になったかのように神々しく祝福をしてくれた。

 

洗礼式とはこれほどすばらしいものなのかと感動したものだ。

 

だが、これはやはり特別だったというのは後で知った。もう二度とエーレンフェストでこれほどの祝福が見ることができないというのは後で知ることになった。

 

 

 

 

実はこの時のエーレンフェストという土地は数年前まで御婆上であるヴェローニカが、彼女の子であるゲオルギーネのいるアーレンスバッハと通謀しており、後一歩で内乱という状態になっていたのだ。

 

そして忘れもしない、そうしてあの事件は起ってしまった。

 

それは洗礼式を行った後のパーティーだった。

 

そのパーティーに賊が大量に入り込んできたのだ。

 

私は真っ先に逃げ出すよう誘導されたのだが、同じ洗礼式を受けた仲間が捕まっているのに我慢ができなくなり助けに行った。

 

しかし、力及ばず何もできずに捕まってしまった。今なら分かるがどう考えてもまっすぐ逃げるか騎士団に助けを求めるべきだった。

 

そして抵抗するもまったく束縛から抜け出せずにいると、なんとマインも捕まってしまったのか一緒に拘束されてしまったのだ。

 

彼女はすごい血を流していた。私はせめてマインだけでも助けようと更に必死にあがいていた。

 

マインはしばらく意識が朦朧としていたようだが急に強い意志を持った目が輝きだした。

 

そのあと彼女の体から出た血が私を拘束していた賊のシュタープに取り付き爆発したのだ。

 

おかげで私は拘束から抜け出せたのだが非常に高いところから落とされてしまった。

 

「マイン!」と叫んだのは覚えている。

 

最後に見た彼女は美しい金色の目で私に微笑んだように見えた後、ぐったりと倒れたのは覚えている。

 

 

 

 

それからの日々は怒涛の日々だった。

 

御婆上であるヴェローニカや、アーレンスバッハの関係者をことごとく粛清したのだ。

 

その日から私は誓った。エーレンフェストを必ずアーレンスバッハを越える領地にし、復讐してやると。

 

まず頼れる仲間を募った。今まで領主一族との仲が最悪だったライゼガングを即座に仲間につけた。

 

当時ライゼガングも大切なマインを失ったということもあって怒り狂って、今すぐにでもアーレンスバッハに仕掛けろとお父様に迫った。

 

だが、お父様はうなずかなかった、そこに私が付け込んだ。

 

私がアウブになったら必ず復讐するから手伝ってくれと。

 

何度も罵倒を浴びた、だが私は諦めずにギーベの館に足を運び協力を迫った。

 

ついにギーベと前ギーベライゼガングを根負けさせ、両者の絶対の信頼が生まれた。

 

しかし、恨みは長くは続かなかった。なにより何度も彼らと語り合う中でマインは相手を怨むことを望まないという結論となった。

 

だが当時、同じ悲しみに触れたライゼガングとの友好状態は続いた。

 

彼らと私の友好があり、今エーレンフェストは順位を上げるため一枚岩となった。

 

これはエーレンフェスト史上最も安定しているという今の状態を作り上げたのだ。

 

これ以外にもエーレンフェスト全員で教育レベルをあげるため私は更に自分を追い込んだ。

 

できないものにうまく話しやる気を出させ教える。きっとこれはマインが残してくれた遺産だ。

 

彼女が言った仕えたい人間になれるようあらゆる努力をした。

 

 

 

さて話は貴族院の入学時点に戻る。

 

なにやらアーレンスバッハに動きがあったと言う情報が入ったのは私が貴族院に入学する直前だった。

 

しかし、国境を完全に閉ざし、詳しい情報は当然入ってこない。漠然とした不安の中、私は貴族院へ向った。

 

そこで出逢ったのだ、それは領主候補生の親睦会だった。

 

アーレンスバッハの領主候補生の席にマインに瓜二つの少女がいたのだ。

 

だが、あれから三年がすぎているにもかかわらずそんなに成長しているように見えない。

 

しかも彼女は1歳年上のはずだが情報を集めると同じ学年とのことだ。

 

その後、接触してみるもなんともいえぬ、気まずいものだった。

 

というのも、マインに瓜二つの少女はローゼマインと名乗り、挨拶だけしたら目も合わせてくれなかった。

 

瓜二つにローゼマインのという名前でほぼ確信していたのだが、似ていないところも多い。

 

マインはやわらかい雰囲気やキラキラした生命力にあふれた顔をしていた。

 

だがローゼマインは表情一つ動かず、こちらが声をかけても怯えたように左手の白い手袋をしきりに気にし心そこにあらずという感じだった。

 

なんとしても話し続けようとするもどんどん顔が青くなってしまい退席してしまった。

 

その後もマインと親戚の関係だったハルトムートが、絶対にマインだといって真っ先に接触を試みたのだが...。

 

その後何か感じたのか接触するには細心の注意が必要ですと忠告してきた。

 

今は表面上は落ち着いているように見えるが、接触の機会をうかがっているのは狂気をはらんだ目を見ればすぐに分かる。

 

ちなみにハルトムートは私がライゼガングへ協力をお願いしていた時に真っ先に協力を申し出てくれた腹心中の腹心だ。

 

私も何度も接触しようとするも完全に避けられているようでまったく話すことすらできない。

 

だが、情報はいくらでも入ってきた。

 

まず一つ、ローゼマインは領主候補生でありながら、あれほど神事を嫌っていたアーレンスバッハの神殿長らしい。

 

もはやこれだけでほぼマインであるといっているに等しい。

 

そして旧ベルケシュトックの大改革を一人の魔力で決行したらしい。

 

まるで女神を崇拝するようにアーレンスバッハの旧ベルケシュトックの貴族と話すとぺらぺらと当時の奇跡を話してくれる。

 

そして必ず最後に彼女のためにできることなら命をかけて行うと言うのだ。

 

それほどの魔力、エーレンフェストの大地を一人で賄うようなものだ。

 

マインにできるかはわからないが、できるとしたら彼女以外に同じ世代に二人と現れるとは思えない。

 

さらに初めのフェシピールの授業。

 

すばらしい技巧に乗せた音楽、始まり方がお父上がフェルディナンド叔父上からせしめたマインの神を捧げる曲に非常に似ていた。

 

だが始まって心地よいすばらしい音と祝福、後半の恐ろしく悲しい音と祝福。

 

まるで、エーレンフェストから拉致されアーレンスバッハでひどい目に合わされているかのように聞こえる。

 

優秀さもマインだ、授業はすべて最低限の授業で終えてしまう。

 

私も時間があるときフェルディナンド叔父上に手ほどきを受けるが唯一ついていけたのはマインだけだったそうだ。

 

その優秀さは並外れており、側近を除けば唯一フェルディナンド叔父上が認めていたように話す人間だそうだ。

 

そのような並外れた人間なら貴族院での勉強など楽だろう。

 

魔力量も噂に違いなくシュタープの授業でも顔色を変えずに最後まであっという間に課題をおえてしまった。

 

最後のペンと、混ぜ棒にシュタープを変形させた時に本当にほんの僅かに目がキラキラし、当時のマインを思い出した。

 

そしてその後だ、シュタープをフリュートレーネの杖に変えたのだ。すぐ戻してしまったがあれは間違いなくフリュートレーネの杖だった。

 

神具をシュタープで作れるとは、まったく驚いたものだ。周りには見逃した者もいたが。

 

だが、それよりも神具を出した時のローゼマインの表情が柔らかい雰囲気を出していたマインと非常に似ていた。

 

私も意地になって最後の試験までいったが流石に最後のナイフに変形させる試験は受けられなかった。

 

もちろんエーレンフェストへは詳細を逐一詳しく報告している。

 

私はもはや断言できる。あれはマインだ。

 

そしてローゼマインはディートリンデと仲が良いのかはわからないが、よく一緒にいて彼女を介すと接触できるのだ。

 

ディートリンデを利用し必ず話を全部聞きだすと決心するのに時間はかからなかった。

 

 

 

 




年齢には原作と同じくツッコミ禁止です。



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31話 採集場所へ

私はとあるアーレンスバッハの旧ベルケシュトックの学生です。

 

「さて、時間が取れる方がおりましたら、午前中わたくしに採集場所へご案内いただけないでしょうか。」

 

朝の共有フロアで珍しくローゼマイン様がお願いをしてきた。

 

何をしたいのかは分かりませんが、ローゼマイン様のためならば何でもするのは、神々がユルゲンシュミットにいるのと同じくらい当然のことだ。

 

「ただし、すでに予定の入っているもの、授業のあるものや、授業で余裕の無いものは絶対来てはなりません。もし分かったらわたくしがわたくしのことを許せなくなりますのでやめてくださいませ。」

 

私は死ぬ気で勉強し、今日の午前に予定が入っていないことを神々とわれわれの天使であるローゼマイン様に感謝した。

 

ちなみに我々旧ベルケシュトックの貴族は全員座学に関しては、初日合格もしくは最短で合格している。

 

実技は、流石に無理だが非常に優秀だと周りからも評価されている。

 

ローゼマイン様がどんな方かって?

 

彼女はもはやただ死を待つしかないと覚悟を決めた旧ベルケシュトックの領地に舞い降りた天使で救いの女神だ。

 

その舞い降りた神々しい輝きは色あせることなく今もまぶたに焼き付いている。

 

魔力がほとんどなくなった大地に魔力を惜しみなく注ぎ、作物が青々と実り、みんなが奇跡に驚いている中、お礼も受け取らずに飛んで行ってしまう。

 

彼女の慈愛の精神はとどまることを知らない。

 

我々の絶望から救ってくれた救いの天使に返せるものは何も持っていないので、せめて名捧をしようという事になった。

 

そこでまず、ギーベ一同ローゼマイン様のもとへ行ったのだが、命を大事にしなさいと受け取ってもらえなかったそうだ。

 

ローゼマイン様の政治的基盤は決してよくない。まず本人の経歴が不明であり神殿に預けられていたところ、第一夫人の養女としたというところからもうおかしい。

 

明らかに訳ありであり支持を得られるような経歴ではない。

 

そんな中、弱いとはいえアーレンスバッハの三分の一を占める大地を持つわれわれが後ろ盾につけば、だいぶ良くなるのは間違いが無いのだが、あくまでローゼマイン様が動いたのはアウブのご意向であり、感謝はアウブへと。

 

そして最近体調が悪くなり支持基盤が弱くなりかけていた第一夫人を支持して欲しいという非常に謙虚なものだ。

 

その後に第一夫人も持ち直し今では基盤も磐石だ。

 

当然我々は、ローゼマイン様の命に対する慈しみを最重要視し、ゲオルギーネに名捧げしたギーベは即座に隠居しローゼマイン様のためにいつでも動ける体制を作った。

 

ローゼマイン様を命をかけてお守りするつもりだが、ローゼマイン様はそれを望まないため彼女の前では絶対に言わないようにしている。

 

あとはローゼマイン様の側近連中にはイライラさせられる。

 

ローゼマイン様の側近は政敵であるゲオルギーネ様の派閥のものだけで構成されている。

 

そんなやつらが我々の天使たるローゼマイン様に狼藉を働いているようにしか思えないのだ。

 

やることは最低限やっているようだが、明らかにローゼマイン様の持ち物と思われる物を持ち去ろうとした愚か者を何回か成敗した。

 

もちろん、それを我々の天使より預かったものとして大切に保管している。

 

せめて我々のうち一人だけでも側近には入れれば良かったのだが、ローゼマイン様の側近はすべてアウブが決めることになっているため我々では手出しができない。

 

ローゼマイン様本人に直談判した時もアウブのご意向といって、取り合ってくれないのだ。

 

なぜローゼマイン様ほどの方がそれほどアウブに忠誠を誓うのか。

 

はたしてあのアウブにそれほどの価値があるのか。

 

なぜもっと我々を頼ってくださらないのか。

 

だが我々はローゼマイン様のために動く、ローゼマイン様がアウブに忠誠を誓うというならそうするしかないのだ。

 

 

 

 

さてローゼマイン様を採集場所へお連れした。流石に側近連中も二名来ている。

 

まったく、側近の連中ときたら、用事が無いものは全員ついて行くのが当然だというのに。

 

我々の仲間では、予定を入れてしまっていて行けなくて血の涙を流していたものもいる。だがローゼマイン様は絶対なのだ。泣く泣く諦めさせた。

 

最近は薬の調合で素材が必要なため採取場所が荒れている。

 

ローゼマイン様はほんの少しやわらかい表情になって悪くない状態ですわねという。

 

これほど悪い状態だというのに何を言っているのかと全員で驚いたがその後もっと驚かされた。

 

「シュトレイトコルベン」

 

聞いたことの無い呪文をローゼマイン様が唱えるとシュタープが以前一度だけ見た奇跡を起こした神具に変わった。

 

「癒しと変化をもたらす水の女神 フリュートレーネよ

側に仕える眷属たる十二の女神よ 」

 

ローゼマイン様が淡々と読み上げていく。私はあの時は聞こえなかった祝詞を聞くことができることを神々に感謝した。

 

「至上の波紋を投げかけて 清らかなる御加護を賜わらん 我が望むところまで 御身が貴色で満たし給え」

 

ローゼマイン様から七色の魔力が飛び出し外に広がるにつれて膨大な緑色の魔力が渦巻いた。

 

地面には緑色の魔力が線になって描かれていき魔法陣が完成していく。

 

最後に、荒廃しかかっていた緑が青々とし、植物によっては実をつけていた。

 

あの時は余りの奇跡にきっちり見えなかったが今回は興奮しながらもきっちり見ることができてとても感動した。

 

さすがは我々の天使で女神だ。

 

「さて、みなさま、少し協力していただきたいのですけど。」

 

ローゼマイン様に言われた素材を集めていく。側近連中は動かない。

 

ローゼマイン様も、まあ、護衛ですからと申し訳なさそうにしながらも諦めている感じだ。

 

「皆様ありがとう存じます。おかげさまで欲しい物が手に入りました。」

 

本当にうっすらと微笑んだように見える。

 

ローゼマイン様の表情はほとんど変わらない。そのローゼマイン様が我々に微笑を下さった。

 

ここにこれなかったもの達に自慢しよう。ですが、感謝したいのはこちらです。

 

荒廃していて、課題に困っていた採取場所が青々としているのですから。

 

 

 

 

 

さて、ようやく手に入りましたよ。素材。

 

もう本当は補給を諦めていたのですが、思わぬところで貴重な品が手に入りました。

 

さて、調合道具も持ってきてますし、午後は追加の薬の作成ですね。

 

私では、癒すことはできても素材回収はひどく時間がかかりますから。

 

いやね、最悪は身体強化の魔術で無理する予定だったんですよ。

 

まあ、あの状態では課題にも困るでしょうしそのくらい働いてもらっても問題ないよね。

 

まあ、でも少し荒廃した状態で助かりました。

 

下手に自然に実をつけるより私の魔力でつけさせたほうが上質な素材ができるのは実験済みです。

 

はぁ、もっと質の悪い素材で同じ効果の出る薬を作りたいです。魔王様の域に至るのはとても遠いい。

 

ちなみにシュタープ混ぜ棒最高です。

 

ペンも最高です。空中に魔法陣描いてとりあえず、加速の魔法陣一個から。確か魔王様は普通に3つくらい使っていたよね。

 

ひどい時だと四つ。たまに私に遅いとか言って作業途中なのに魔法陣を描いてきて失敗しかけて大変でした。

 

まあ、私も魔王様のところにいた時は魔力媒体に先に魔法陣を描いて起動させて加速させたりもしましたけど。

 

さて次は2つっと、うーん、しばらく2つで練習ですね。

 

ああ、補給ができるっていいですね。

 

うふふん、少しだけ余裕ができるような気がする。

 

あ、まずい、採取場所癒すのに魔力を使いすぎました。今の調合までは魔力持つよね。いやもたせなきゃ。

 

はぁ、あせりました。仕方が無いので少し休憩です。

 

 

 

ふう、満足、これでたぶん大丈夫です。なんかまた食事をとか言ってますね。薬をしまって身につけて、では食堂へ行ってきますか。

 

側近連中と味気ない食事ですが、薬の補給ができたからか安心したからかいつもよりおいしく感じました。

 

 

 



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32話 基本的にボッチは困る

さてさて、今日の講義は...終わってしまいました。

 

まあ、講義が終わった後でも参加してもいいですが、いい加減図書館で調べ物しないといけません。

 

ちなみに私は側近とかいるにはいますが、結構一人で勝手に動いていて、ディートリンデ様に見つかると怒られます。

 

まあ、見つからなくてもお耳に入っただけでも怒られるのですが...。

 

いや、私の場合一人でもたいていの場合は魔術具で何とかなりますし。

 

いきなり倒れたりする事もあるから困ったものですが。

 

さてさて、図書館です。

 

周りに誰もいない。図書館にソランジュ先生以外誰もいません。

 

静かで最高ですね。図書館は神聖で静かな場所ですから。

 

「おはようございます、ソランジュ先生」

 

「ひめさま、きた」

「しごとした、ほめて」

 

うん、まぁ、いいのですが。素直に魔力が欲しいと言っていいんですよ。相変わらずですね、この魔術具は。

 

私はこの大きなウサギたちの額に魔力を注ぎます。

 

「ローゼンマイン様、あれ、お一人ですか。」

 

あ、まずい、この人も領主候補生とか気にする人かな。

 

「本当はダメなんですけどお忍びです。」

 

「まあ、私が言えることではありませんが、お体が弱いと聞いていますので気をつけてください。」

 

「ありがとう存じます。ソランジュ先生。ああ、そういえば魔力の奉納の件なんですけど。」

 

ソランジュ先生に許可を取って奉納しに行きます。

 

「シュバルツ、ヴァイス、この間のところに案内してくださいまし。」

 

「こっちだ ひめさま」

「あんないする」

 

この間の魔石のところに案内してもらい、とりあえず魔力を奉納っと。

 

この魔石について聞いてみたけどソランジュ先生もいまいち分からないようだ。

 

あれ、先生って図書館の専門家じゃないの?

 

「申し訳ございません、ローゼマイン様。以前の政変で魔力が足りずに、管理が疎かになってしまっている魔術具がたくさんあります。」

 

「ソランジュ先生、シュバルツ、ヴァイスはかなりの図書館の情報を持っているようですけど案内できないのでしょうか。」

 

あっとその前にお聞きしておかないと

 

「よく考えたらわたくし、この図書館については何も知らなかったのですわ。シュバルツ、ヴァイスをお借りしてもいいですか。」

 

「ええ、図書館の案内もシュバルツ、ヴァイスの大切なお仕事ですからかまいませんよ。」

 

シュバルツ、ヴァイスを借りる許可を得ました。

 

1階は2万冊かぁ、1冊1分としても2万冊分、ということは333時間。

 

うんちょっと魔法陣を使わないと無理ですね。許可下りるかな。

 

分類はぐちゃぐちゃ、時系列だから総当りしないといけないし。意外と難しいなぁ。

 

2階はうーん、先生方の研究成果などいろいろありますね。

 

とりあえずこれは英知の女神メスティオノーラの石像かな。流石は知の神、図書館の主だね。

 

「知の神に感謝を!」

 

うんっと、ただの奉納じゃなくて石像自体に何か秘密があるな。本の部分についている魔石から魔力を吸収するようになっていそう。

 

後で確認したところこの本はグルトリスハイトというらしい。どっかで聞いたことがあるような。

 

まあいいです。とりあえず今日の奉納ノルマは終わりですね。

 

「ところでソランジュ先生、図書館で魔法陣を使うのは大丈夫ですか。」

 

「ものによりますが、ローゼマイン様が本について雑に扱うとは思えませんからいいですよ。」

 

「ありがとう存じます。ソランジュ先生。」

 

まず2階から、何千回と描いてきた魔法陣です。いつも使ってて思うんだけどウラノだったら怒りそうだなぁ。

 

描きなれた魔法陣をシュタープでとりあえず七個くらいでいっか。

 

魔法陣一つにつき1冊が自動で本棚から本が飛び出し自動で捲られ、魔力で直接頭に読み込まれていきます。全部めくり終わると自動で元に戻ります。

 

これを使うと、本を読んでいるというより見ているって感じなんだよね。今は余りたくさん時間かけられないし。仕方が無いよね。

 

ウラノの世界で言う速読です。私の場合元々記憶を焼き付けるのに魔力を使っていますので効率はいいのです。効率だけは。

 

ただ、メモとか書き込みがあるとたまにウラノの世界の『えらー』を出すのが問題ですが。読めない条件やいろいろ問題はあるけど便利なことは便利なのです。

 

本を大切に扱っていない?今までに何度使ったかわからない上にいつもより丁寧に魔法陣を描いているからじゃだめかな。下手に私が高いところから本を取ろうとするよりよほど本にかかる負担は少ないんだよね。

 

 

午前中ずっと魔法陣を展開し続けます。流石にちょっとウラノの世界の知恵熱もとい「おーばーひーと」という状態になったので諦めて戻ります。

 

午後は、まずシュバルツ、ヴァイスについてソランジュ先生にお聞きします。

 

まず、シュバルツたちが王族の持ち物ってそんなこと聞いてないよ。

 

他には主のことをひめさまと呼ぶのは固定されているようです。

 

王族の持ち物ということは、アナスタージウス王子に連絡しないといけないんだよね?やだなぁ、めんどくさい。

 

「ソランジュ先生、王族の持ち物ということは、管理をどうするか問い合わせはできないのでしょうか。」

 

なんでもここの図書館でしか使えない魔術具なので、こちらの判断になるということです。

 

「服についてなんですけど、解析のため図書館の部屋をお借りできませんか。」

 

それは非常に困るということだ。トラブルがあったら大変だもんね。

 

はぁ、これは困りました。信頼できる場所なんて貴族院どころかアーレンスバッハにも隠し部屋くらいしかないんだよね。

 

「どうしましょう。時間は早いほうがいいんですよね。」

 

「ええ、これから図書館も人が増えてきて混んできますから。」

 

「わかりました、どうするかは未定ですが早めに何とかします。」

 

そうは言ったもののどうしよう。あ、もう一点確認しなきゃ。

 

「ところでシュバルツとヴァイスの事故が怖いのですが、皆さん触れる設定にしたほうがいいのでしょうか。」

 

個人的にはそれが一番助かるのですが...高価な魔石もたくさんついているので、それはやめて欲しいだって。さて本当に困りました。

 

お母様の伝手でドレヴァンヒェルに協力を申し込むか、エーレンフェストはダメだけど個人的にヒルシュール先生にお願いするか。

 

連絡がつかない状態だからドレヴァンヒェルは期待薄でした。

 

今まで送った手紙の返事が一度も返ってこないですしね。

 

「ローゼマイン様、ここにいたのですか探しましたよ。」

 

ああ、迎えが来ちゃった。抜け出していたのに。

 

「探してくれてありがとう存じます。ちょうど戻らなければならない所でしたので。ソランジュ先生、日程が決まり次第また連絡いたしますね。」

 

 

 

 

 




魔王様も単独行動していたはず。


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33話 知らされていないよ

朝です。ディートリンデ様がやってきました。

 

「そういえば、ローゼマイン。音楽の先生とのお茶会は準備できてまして。」

 

「申し訳ございません、ディートリンデお義姉さま。何の話でしょうか。」

 

え、何の話...。ああ、そんなものもありました。でも日程はまだ決まっていないはず。

 

「準備は大丈夫ですの。姉として心配でしてよ。もう後2日でしょう。」

 

え、何も聞いていないのですが。準備かぁ。2日ね。

 

「ディートリンデお義姉さま。知っての通り私はお茶会について全くと言っていいほど行ったことがございません。」

 

コツ等、お茶会で重要なことを教えてくださいまし。と催促してみる。

 

いや、本当は最初のお茶会はディートリンデ様についていって体験する予定だったのですが。

 

「うーん、慣れとしかいいようがないですわね。あなた達何かありまして。」

 

いろいろ改めて聞いてみるといろいろ出てきます。

 

うん、お土産かぁ。すぐ食べられるものね。

 

アーレンスバッハのお菓子は確か砂糖を固めたものばかりなんだよね。

 

砂糖最高って言う文化だから。

 

砂糖が豊富に手に入ることだけはいいのだけど。

 

カトルカール(パウンドケーキ)とかでもいいけど、絶対アーレンスバッハの人は好きじゃないよね。

 

「あと、ローゼマイン、いつも地味な服を着ていますがもっと派手におしゃれをしないとダメですわよ。」

 

ごめんなさい、したくてもできないのです。常にお守りや薬を大量に持ち運ぶことを考えると...。

 

あと、絶対したくなかったけど、諦めてここでやるか。相談しておかなきゃ。

 

「図書館のソランジュ先生より、一時的な管理を任されている魔術具をこちらへ持ってきて解析しないといけなくなったのですが。」

 

元々王族のもので王族のアスタナージウス王子に話できないかと確認しますが、あまり気乗りしない顔で必要なら解析作業が終わった後でいいのではということになりました。まあ確かに王族ってめんどくさいし。

 

それほど大事なものなら護衛等も必要という話になります。

 

「早いほうがいいのでしたら、3日後の午前がいいですわね。解析に時間はかかるのかしら。」

 

正直分かりません。そこも含めてできるだけ早くということもあって3日後ということになります。

 

荷が重いです。図書館でできるのが一番良かったのですが。それだったらヒルシュール先生とか他の先生にも協力をお願いできたのに。

 

「ディートリンデお義姉さま、わたくし神殿ではたまに料理とかしていたのですが一度厨房に入る許可をいただけないでしょうか。」

 

「ローゼマイン、それは流石に領主候補生としてよろしくないですわ。必要なら指示しなさい。」

 

「知っての通り、ディートリンデお義姉さまと違って指示を出すにしても直接しないとうまく指示が伝わらないのですわ。」

 

あと、調合の訓練にもなるのです。と言うとそれは良いことかもしれないけど本来文官の仕事ですわよとのことです。そんなこと知らなかったよ。

 

いままで村の御婆様連中とかフェルディナンド様としか作ったことがなかったし。

 

自分で作るのが普通のところにいたしなぁ。ああ、せめて上級貴族に戻りたい。

 

はぁ、ディートリンデ様は命令というものがよくわかっているかもしれないけど私には無理。

 

結局、まったく仕方が無い妹だわと言って、作業しない邪魔しない見ているだけということで許可を取りました。

 

さて、そうとなれば早く準備しないとなりません。

 

早速厨房に連絡を取り、材料があるか確認です。

 

砂糖はありますね。水あめ欲しいけど流石に無理か。蜂蜜はある。卵もある、砂糖菓子があるのでざら目砂糖に似たものもある。

 

ウラノの世界のカステラかな。

 

はぁ、みんな病気になったことがないとわからないかもしれないけど、ウラノの世界の病人も結構料理できるんだよ。

 

なぜかって、砂糖の摂取量の制限とか食事制限なんて当たり前だからね。市販品なんて食べられないから自分で工夫して作らないと無理なんだよ。

 

卵に砂糖を少量入れてふんわり、厨房で作業したい。許可をとって卵をかき混ぜている方の上に加速の魔法陣を使ってあっという間にメレンゲにする。

 

後は水とか材料とか先に混ぜておいたものを入れて、ざら目砂糖を均等にひいて四角い容器でオーブンを低温にして焼き上げる。

 

少量切ってもらう。うん、まあいいかな。さめて固まればいい感じにはなると思う。

 

かなり甘くしたから糖蔵状態になっているし問題ないので多少容器にふたで圧力をかけて綺麗な四角になるようにして冷暗所で放置。

 

初めてのお茶会だと言えば、格の低い料理と思われても先生方なら笑って許してもらえるだろう。

 

「ローゼマイン様、なんですかこれは。」

 

うん、知らないのかな。庶民の味だから貴族は食べないとか。なぜか砂糖菓子ばかりだし。

 

あれ、でも砂糖の値段が高いこと考えると...。

 

まあいいですそれよりも、砂糖細工したいなぁ。加熱させる道具が難しいし、やることいっぱいだからやらないけど。

 

「私が作るお薬の応用で、海外のお菓子をまねたものです。」

 

貿易しまくっているからね。正直な話、貿易がないと持たなかったよあの領地。

 

やっぱり次から呼ばれないようにパウンドケーキ(カトルカール)位にしたほうが良かったかなぁ。

 

ウラノの好きなというかそれしか食べられない砂糖控えめにして...。

 

うん諦めよう。カステラならぎりぎりないい線いっていると思うし。

 

でも、ディートリンデ様に言ったら、「こんな素朴な感じのお菓子を作るなんて大領地にふさわしくないですわ」と怒られるだろうしなぁ。

 

「ごめんなさい、このお菓子の事はここだけの秘密にしておいて下さいね。こういうお菓子を作ったことを知られるのはなんと言うか恥ずかしいのです。」

 

「わかりました、ここだけの話にしておきます。」

 

うん、口止め完了。あとは平凡にお茶会して普通に無難、もしくは拙く終わったという噂が流れればさほど御呼ばれする心配はないでしょう。

 

終わった後は、ディートリンデ様からフェシピールの指導をしなさいという指令が何故かくだり下級貴族中心に何故か教えることに。

 

別にフェシピールの腕なんて試験に最低限通ればいらないとしか思えないのですが。

 

最後に何故かせがまれて弾きましたよ。必ず神の関係の曲でとのことでリクエストいただいたので適当に弾きました。

 

神事以外のところで、祝福をやたらめったら人前で出すのは本当はいやなのですが。

 

神へ捧げる曲を弾くと抑えても出てしまうので諦めていますけどね。

 

 

 

 

午後はソランジェ先生の図書館です。

 

ソランジュ先生に日程を確認し許可を得て、魔力を適当に奉納して、シュバルツ、ヴァイスの相手をしてから、二階の本を片っ端からウラノの世界のスキャンをしていたのですが...。

 

また一人で抜け出し、図書館に入ってからしばらくして後ろにずっとついてくる方がいます。

 

感じる魔力からアーレンスバッハではない方のようですね。

 

ええ、まあいいです。図書館の中だけですし、別にこの魔法陣、普通の人には余り意味のないものですから。

 

ふーん、いろいろな魔獣の情報がありますね。ディッターの対策本とか。

 

「ローゼマイン様こちらへおいででしたか。」

 

ああ、最近なんだか行動パターンが読まれてますね。

 

「ええ、もう少し調べ物をしていますのでご一緒くださいね。」

 

呼ばれて後ろを振り返ると、うん。さっきまでついてきた方が分かりました。

 

でもあの方なら...。話しかけられなかったのは良かったのですが、エーレンフェストで少しだけお世話になって非常に優秀な方でしたので。

 

 

 

 

 




カトルカール、日本人的にはカステラの方が高級感ありますが、ぶっちゃけパウンドケーキの方が材料費高いですね。というか本好き油はあるけどバターあんの?と思ったら魚料理で出てきてますね。サラダ油でも作れるからいいですけどね。カステラは紙がないと焦げて容器にくっついて無理じゃんとかは受け付けません(笑)和菓子屋では最後に蒸すんでしたっけ?うろ覚えです。
ちなみに病弱設定なので油を使わないカステラの方がいいのです。

ついでにバターの歴史は紀元前からあるのですね。本格的に利用されだしたのは15世紀辺りのようですが。本好きの生クリームも謎でしょうがなかったのですが、おそらくバターと牛乳を混ぜた模造品かと推測。砂糖入ってきたばっかりで一から作るとあんなに手間のかかる普通の生クリームがあるわけがないと思います...

非常に優秀な方、出したくてしょうがないですがほとんど出す予定はありません。意外と扱いが難しいのです。ちなみに彼もストーカー行為をしたくてしているわけではありません。


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34話 初めてのお茶会は2度としたくない

はぁ、お茶会です。一応打ち合わせはしてありますがお茶会の話題なんてありません。

 

まぁ、いいのです。余り評判良くない方が私にとっては良いことなので。

 

持ち物?一応全部私も確認しましたよ。

 

後は久しぶりにリンシャンしたり。

 

アーレンスバッハは油にハーブに種類がたくさんあるので作り甲斐はあるのですが、私の場合は魔力のせいか余りリンシャンする意味がないんですよね。

 

なんとなく気分がさっぱりする気がするし、ほんの少し良い香りがするのでこういう時は使いますが。

 

側近連中に案内されます。

 

あれ、確かアスタナージウス王子とええっと、エグランティーヌ様だ。

 

音楽の先生三人とするしか聞いていないけど、どうなっているの?

 

完全に想定外の事態です。まあついでに図書館の魔術具の許可を取れると思えばいいですか。

 

なんでも話を聞いてみるとエグランティーヌ様は最初から連絡されていた模様で、その後アスタナージウス王子がついてきたとのこと。

 

「突然のことにわたくし達も面食らってしまったのですけれど、ローゼマイン様、よろしいかしら?」

 

「もちろんですわ。王族とのお茶会がわたくしの初めてのお茶会になるというのは光栄ですわ。」

 

初めてなのですかと、申し訳なさそうな顔をさせてしまった。

 

さて席へ案内されて、挨拶を済ませます。まともに対応するのは諦めて、初めてのお茶会なのでお目こぼしをお願いしますとお願いしたら大変驚かれた。

 

「お茶会が初めてとは、そなたは領主候補生として今まで何をしておったのだ。」

 

ふん、とした感じで王子が言って来ました。

 

「わたくし、アーレンスバッハの諸事情で急遽領主候補生になることになりましたので。見ての通り体がとても弱く最近までほとんど寝込んでおりましたから。」

 

いきなり領主候補生になってしまった話や神殿に預けられていた話を嘘を交えながら話しました。

 

「そういえば音楽はどういたしましょうか。わたくし先ほどの理由で専属の楽師も用意できないので魔術具で代用させていただきたいのですけど。」

 

ロジーナがいればなぁ。喜んで演奏してくれたと思うけど。

 

魔術具とは、興味深いですねという話になり、魔石で動くオルゴールと、録音の魔術具をテーブルに出してみます。

 

オルゴールは不評でした。すでに似たものがあるようです。

 

アスタナージウス王子がご立腹です。怒らせ過ぎないようにしないと。

 

「では、ご不評で申し訳ございませんので、私の拙い演奏で申し訳ございませんがお聞きくださいませ。」

 

うん、自分の弾いた曲がそのまま流れるとか、恥ずかしいですね。ウラノの世界の演奏会での録音した曲を家で流すような感じでしょうか。

 

「ふん、まあまあ聞けるな。」

 

「少し音が悪いですが、気になるほどではないですよ。すばらしい魔術具ですわ。」

 

勘弁してください、まあ、時間を短めにしてもらっていますし、エグランティーヌ様もフォローしてくださっていますから何とかなるでしょう。

 

お菓子の準備ができましたので、ってまずくない。カステラなんて王族に出していいのかなぁ。

 

「こちらは、アーレンスバッハの名産の砂糖菓子と、お隣のはカステラという他の国の一般的なお菓子に少し変更を加えたものです。」

 

王族の方が来るとは思いませんでしたので貧相なお菓子については勘弁してくださいと話を加えておく。

 

「確かに貧相だな。」

 

「あら、このカステラというのは見た目は素朴ですけれど、とてもおいしいですわ。」

 

エグランティーヌ様、すばらしいフォローありがとうございます。

 

その後、私から話す話題があっという間に尽きたので、アスタナージウス王子に図書館の魔術具の話をして無事に許可を貰えました。思わぬところで用件を済ますことができてよかったです。

 

「そういえばローゼマイン様、髪の色と同じ色で作られた小さなお花をいくつかつけていますがそれは何ですの。」

 

うん、ほとんど分からないようにつけていたんだけどね。ウラノの世界では隠れたおしゃれというのが良いんでしょ。

 

「わたくし、お話ししたとおり病弱なので魔力を込めた糸で作った緊急用の魔術具と魔法陣なのですわ。どうせならかわいい形にしようとちょっと編んでみただけですの。」

 

うん、村の家族まだ作っているのかなぁ。髪飾りとか編み方とかいろいろ提案したけどどうなっているのやら。

 

最後に会った時は細々と作っていたのは覚えているけど。

 

まあ、寝てばかりの私から話題なんてないし、事前に側近に得意な方が演奏お願いしますと言っても断られているし。

 

側近連中は隠れて私の邪魔をするのが仕事だからね。仕事なら仕方がないよね...。

 

音楽の作曲について、全部外国の所為ってことにしておいたから大丈夫ですよ。

 

アーレンスバッハでよかったよ。そこだけはね。

 

さて、そろそろお時間です。録音の魔術具も魔力切れです。

 

「あら、もうこんな時間ですわね。最後にローゼマイン様の実際に弾いた曲が聞きたいですわ。」

 

エグランティーヌ様、私は弾きたくありません。特に王族の前でとか...。

 

「エグランティーヌが望むなら聞いてやってもいいぞ。」

 

結構ですと切に言いたい。実質王命ですよね。

 

先生達から、神に関する曲が聞きたいというので今日の奉納のノルマついでに音楽を奉納します。

 

今日は神の賛美歌メドレーを弾いて締めました。

 

何とか終わったし、これでもう誘われることはないだろうから良かったね。

 

初めてのお茶会がまともな協力者なし、保護者なし、王族相手とかいつも通り幸運の女神グライフェシャーンと、時の女神ドレッファングーアのご加護が欲しいのです。

 

 

 

 



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35話 シュバルツとヴァイスの解析

朝です。なぜか女性陣がいつもよりそわそわしているような気がします。

 

なんでか知りませんが、ディートリンデ様も例にもれずそわそわした様子でこっちに来ました。

 

「ローゼマイン、今日ですわね。」

 

今日、ええ、今日ですね。あの図書館の魔術具。

 

正直な話、アーレンスバッハの寮監は、魔法陣や魔術具に詳しくないようなので「んまぁ、んまぁ。」しか言ってくれないでしょう。

 

はぁ、ヒルシュール先生のご助力が切に欲しいです。

 

「ええ、ディートリンデお義姉様。大変な日になりそうですが頑張りましょう。」

 

「大変な日?せっかくあのかわいいシュミルが他ではなく、このわたくしのアーレンスバッハの寮に来るのですから楽しみでしょうがないですわ。」

 

うーん、認識の違いがありそうですがここまで楽しみにしていただけるのなら解析をアーレンスバッハの寮にしてよかったのかな?

 

「さぁ、そろそろ図書館が開く時間ですわよ。早く行ってきなさいな。わたくしも一緒に行きたいですが、護衛騎士もたくさん出した方がいいでしょうし仕方がないから待っててあげますわ。」

 

そこまで行きたいなら私が待ってますって、はぁ、私以外触れないんだった。

 

採寸の準備をさせて待ってますわっと送り出してくれました。

 

「ええ、では行ってきます。」

 

正直な話、別にあの魔術具は動いてさえいてくれていれば、ソランジュ先生も助かるしどうでもいいのですが。

 

 

 

 

「ソランジュ先生。おはようございます。」

 

今日もソランジュ先生はやわらかそうな表情でこちらも和みます。

 

「おはようございます。今日は珍しくたくさんの方と一緒ですね。」

 

先生それはウラノの世界の『しー』です。内緒にしてくださいませ。

 

「シュバルツとヴァイスの護衛としてディートリンデ様がぜひ連れて行くようにと、ご自身の護衛騎士まで貸してくれたのです。」

 

「まあ、それはようございましたね。」

 

「ええ、では今日はどのくらいかかるか分かりませんがお借りしますね。」

 

と、図書館を出ようとしたところで

 

「ローゼマイン様、本日シュバルツとヴァイスの解析を行うとお聞きしました。ぜひともわたくしにもご一緒させていただけませんか。」

 

ヒルシュール先生...。今日の午前中は講義では?

 

周りはエーレンフェストの者を入れられるわけないでしょう。とかガヤガヤしています。

 

「ヒルシュール先生、いくら先生が中央の所属といっても流石に他領の寮監を入れるわけにはまいりませんわ。わたくしとしても先生にはぜひ手伝って頂きたいところですが無理ですわ。」

 

本当に断腸の思いです。

 

とそこで先生が私の側に来てぼそっと

 

「ご助力が必要ならライムントを通してください。」

 

と言うと、帰っていきました。

 

うーん、でもあの方は寮にほとんどいないんだよね。

 

それ以前にアーレンスバッハに従属の契約をしている身としてはこれほどの魔法陣の情報をタダで譲るとかするとどう影響が出てくるか分かりません。

 

アーレンスバッハの不利になるようなことはしてはならないというような曖昧な命令もいくつか受けてますし。

 

今のところは反応がないのでこれらの命令の効果はよくわかっていません。採点をお願いするとかなら大丈夫だよね。

 

うん、残念だけど連絡はおいおいだね。本当に残念ですが...。

 

周りがガヤガヤしていました。珍しく護衛騎士がたくさんいるし目立っているからかな。

 

なんかそのあともやけにガヤガヤしていたけど寮へは問題なく着きました。

 

「まあ!本当にかわいいわね!よくやりましたローゼマイン。流石はわたくしの妹ですわ。」

 

目がキラキラしています。うん、まあ、魔術具としては興味深いよね。まだ本番は始まってすらいないのですが。

 

「ローゼマイン、わたくし、この子たちがとっても気に入りましたわ。主になることはできて。」

 

正直分かりません。ディートリンデ様が主になってくれるなら...。そもそも図書館へ行くのかな。

 

まあいっか誰が主でも、魔力供給は私が行えばいいだけだし。

 

「シュバルツとヴァイス、ディートリンデお義姉様に主を変更することは可能ですか。」

 

「ディートリンデむり」

「ぞくせいたりない」

 

あ、ディートリンデ様がショックで固まっている。

 

「シュバルツとヴァイス、取り合えずこのフロアにいる方全員に接触許可を出したいのだけど。」

 

「だめだひめさま」

「きょかできない」

 

うん、不特定多数は許可がでないのかな。

 

「ローゼマイン、なんとかできなくて?」

 

もう復活しました。切り替えが早いですね。あれだけなりたそうだったら相当ショックだったろうに。

 

「ディートリンデお義姉様、とりあえず触る許可は出せると思います。シュバルツとヴァイス、ディートリンデお義姉様に接触の許可を」

 

「だめだひめさま」

「きょかできない」

 

え、なんで!?

 

ディートリンデ様もなんでですの!?と言ってます。

 

困りました。

 

「シュバルツとヴァイス、この中で主になることが可能な方はおりますか?」

 

周りの期待の目が痛いです。特にディートリンデ様の周りによくいる方々の...。

 

「だめだひめさま」

「あるじなれない」

 

わからない、命令型で基本拒否なんてしない魔術具だと思っていたのだけど。

 

その後も色々条件を変えて命令してみるも

 

「だめだひめさま」

「きょかできない」

 

ディートリンデ様もシュバルツとヴァイスに触れないでご立腹ですし、どうしましょう。困りました。

 

というか、なんなんですかこの魔術具。魔術具の癖に主にここまで逆らうなんて少し、いえ、とってもイライラしてきました。

 

「わかりました。シュバルツとヴァイス。そこまで言うのなら私にも考えがあります。」

 

ふう、もう怒ってもいいよね。

 

「あなた方がまったく条件を受け入れないなら、わたくし主をやめて二度とあなた方に魔力を注ぎません。」

 

「わかったひめさま」

「はなしあおう」

 

ハナシアイッテダイジダヨネ。あははは。

 

 

 

 

話し合いの結果、許可するものは私の他に三名までと決まったので、

 

「ディートリンデお義姉様、三名の管理お願いします。最初は採寸の関係を、その後は望むもの全員に交代で触らせてあげてください。」

 

触りたいかね。皆様、どうみても人形を触りたいって感じなんだけど。わたし?レッサー君の人形ならいつでも大歓迎だよ。

 

「さすがはわたくしの妹ですわ。さて皆さん気分良く触るためにさっさと採寸をしますわよ。」

 

まず服を脱がせてもらって、採寸は任せるかな。私は魔法陣をって、服と接続型かぁ。

 

「魔法陣が得意な方...。いえ、男性の方書き写すの手伝ってくださいまし。」

 

女性陣は採寸を速攻で終わらせたようで骨抜きです。

 

なので私は男性陣に羊皮紙に魔法陣を書き写してもらいます。

 

どうでもいいですが寮監まで「んまぁ、んまぁ、かわいいわね。」とか言っています。

 

寮監も先生なのですからディートリンデ様と一緒にせめて管理をしてほしいです。

 

 

 

さてさて私は余り残っていない魔紙を取り出します。

 

服の魔法陣はわかりやすいね。きっとここら辺とか隠しているつもりなのかもしれないけど私には丸見えだよ。

 

うふふん、悪くないね。これを解析するのはとっても楽しそうだ。

 

さてさて、魔紙に『コピーしてペッタン!』。ああ、いいよねコピーアンドペッタン!本当に便利。考えた人はネーミングセンスも含めて最高だよね。

 

『コピーしてペッタン!』『コピーしてペッタン!』して服の魔法陣を全部コピペします。

 

さて、他の人は写すのに時間がかかりそうだし。

 

うん、私とどのくらい魔法陣の認識が違うのか気になりますね。後で見せてもらおうっと。

 

ええ、言うまでもありませんが他の目的も...。

 

考えただけでウラノの世界の『あうと』なのかな?

 

さてさて解析。うーん、やっぱり簡単にはいかないね。

 

時間かかりそうだしテストも魔力を流す組み合わせを考えて魔法陣を一個一個確認しないとこれは無理だね。

 

「さて、ディートリンデお姉様。ちょっとシュバルツとヴァイスの魔法陣を確認しないといけないのでお借りしますね。」

 

女性陣は非常に残念そうですが、目的を果たさないわけにはいきません。

 

「ええ、でもできるだけ早くやってちょうだいな。」

 

ディートリンデ様はもう十分触れたと思うのですが...。

 

お腹の服と接続する魔法陣を男性陣に優先して書き写してもらい、私も『コピーしてペッタン!』。

 

その後、シュバルツとヴァイスそのものの解析に入りますが、魔法陣や素材など複雑に絡み合いすぎて外からの解析は難しそうです。

 

うーん、仕方ない。私は道具、私は道具、こいつらと同調して魔力を流して。あっつ。

 

ダメです、複雑すぎて頭が熱を帯びて意識が飛びそうです。またウラノの世界でいう『おーばーひーと』です。

 

「ディートリンデお義姉様、あとの仕切りはお願いします...。」

 

端へ行って一休みさせてもらいます。

 

 

 

 

はぁ、しばらくぼーっと休んでかなり時間がたったと思うのですが、シュバルツとヴァイス大人気ですね。

 

なんでだろ?レッサー君のほうが100倍かわいいよね?

 

レッサー君はもともとパンダって名前だったのにより神聖度が高いパンダが出てきたから、レッサーパンダって名前に変更されて神聖度を落とされたとか聞いたけどレッサー君最高だよね?

 

さて、そろそろ戻さなきゃ。

 

「ディートリンデお義姉様、そろそろ図書館に返しましょう。」

 

私がそう言うと周りから嫌だわとか聞こえます。

 

「ローゼマイン、こんなかわいい子たち返せませんわ。ずっとここに置きましょう。」

 

「ディートリンデお義姉様、これらは図書館の備品です。返さなければなりません。」

 

そう言うも今許可が出ている方々が抱き着いて離しません。

 

「ローゼマイン、何とかなりませんの?」

 

ディートリンデ様。そこまで言うのなら...。

 

「わかりました。ディートリンデお義姉様、そこまで言うならわたくしも腹をくくりましょう。」

 

私は私特製の魔術具を次々とシュバルツとヴァイスの前に並べていきます。

 

「ローゼマイン、なんですのそれは。」

 

「何って、ディートリンデお義姉様。当然分解の準備ですわ。このままではシュバルツとヴァイスの防衛機能が起動してしまいますもの。」

 

ぶんかいじゅんび。

 

あはははは、わるいこにおしおき。

 

きょかでたしいいよね。

 

私の知識欲もみたせて最高だよね。

 

結構この子たちには温厚な私も怒っているんだよ?

 

「やめなさい、こんなかわいい子を分解するなんてとんでもないことだわ!」

 

そういって、みんなでシュバルツとヴァイスに抱き着きます。

 

「でも、ディートリンデお義姉様はこの子たちが欲しいのでは?分解して魔法陣や素材について解析しつくさないとさすがに防衛装置を止めるのは無理ですわ。」

 

はぁ、さてさて、覚悟を決めますか。

 

「皆様、離れてくださいまし。正直シュバルツとヴァイスの分解は命懸けになると思いますので安全を保障できません。」

 

どうせいつも命懸けなので、楽しみのために命を懸けるなら、あはははは。楽しい分解になりそうだね。

 

「う、わかりましたわ。ローゼマインがそこまで言うなら、断腸の思いで諦めますわ。」

 

え、諦めなくてもよいのですよ?ディートリンデ様。

 

 

 

 




シュバルツ達は防衛装置とか原作にはない設定をいろいろ追加しています。


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36話 ディッターの領地とディッター

あーあ、せっかくの知識への追究が。

 

まあいいや、では戻しますか。

 

「シュバルツとヴァイス、お疲れ様。帰りますよ。」

 

「まったくだ、つかれた」

「さっさとかえる」

 

正直は美徳としても、うん、やっぱりこいつら分解しましょうか。

 

帰りはやはりディートリンデ様や、他の人も離れがたいらしく一緒に図書館へ行くことになりました。

 

うわぁ、ここらへんでこんなに人だらけなのは...。

 

「ひめさま、まりょく」

「たたかう、まもる」

 

なんでしょう、急に殊勝な態度になりましたけど。

 

魔力くらいあげますが。

 

ああ、あの服の魔法陣を起動するために欲しいってことかな。

 

今いるのかな。まあいいや。

 

さて、図書館へ向かう回廊まで来ました。

 

ええ、なんかいます。それもわらわら。何がしたいのでしょうか。

 

結構殺気立っているのは気のせいでしょうか。特に一番前にいるディッターの領地の方々が。

 

「道を塞ぐとはどういうつもりかしら。どいてくださる。」

 

ディートリンデ様が真っ先に話しかけます。

 

「どういうつもりか問いたいのはこちらだ。」

 

うん、何言っているんだろう。

 

まあ、いろいろな人が言ってて聞こえにくいけど簡単に言えば、王族の魔術具を勝手に持ち出して何やっているのということかな。

 

「何を言っていますの。ちゃんとソランジュ先生の許可は得てましてよ。」

 

まったくです、ディートリンデ様。

 

「アナスタージウス王子にも今回の件は伝えてあります。」

 

私も一言補足します。うん、ディッターの領地以外は完全に日和見を決めてくれましたね。

 

本当に何がしたいのでしょうかこの方たちは。

 

「そなたらに王族の魔術具を守る力はあるのか。6位とはいえディッターは強くはないではないか。守る力もなく王族の魔術具を危険にさらすなど許されん、大人しく主の座を譲り渡すがよい。」

 

ダンケルフェルガーのレスティラウト様、結局主の座が欲しいだけ?この魔術具の。分からないけどそれで収まるなら条件つけて渡してもいっか。

 

「分かりました、シュバルツとヴァイス、レスティラウト様は主になれまして。」

 

「やだ」

「ひめさまのほうがまし」

 

うふふふ、この子達の私へ対する扱いがよくわかります。

 

もう発言は放っておきましょう。結局なれるのかなれないのかよくわかりませんが。

 

「やだとか言っておりますがどうしましょう。そもそもレスティラウト様、反逆罪になりかねませんのでそろそろ引いてくださる?」

 

うーん、何がしたいのかわからないけど。話し合いへ持ってきたいな。

 

「とりあえず図書館に行ってから話しませんか。できれば同学年のハンネローレ様も連れてきていただきたいのですが。」

 

「ハンネローレがなぜ出てくる。」

 

「この魔術具は主のことをひめさまと呼ぶよう固定されております。レスティラウト様のような見栄えのする方にひめさまでは格好がつかないでしょう。」

 

まあどうせ譲るなら、話の聞いてくれそうな人をと言っても話したことがないしよくわからないけど。

 

「ああ、もうめんどくさい人ですこと。さっさと行くわよ。どきなさい大義名分はあなた方にないわ。」

 

いい感じで説得できそうだったのにディートリンデ様、何か考えでもあるのでしょうか。

 

「行きなさいローゼマイン。とりあえずシュバルツとヴァイスを返してくるのです。」

 

なんか、ディートリンデ様がかっこよく見えるのは気のせい?あれ、でも結局私が余計な事されたせいで結構危険な立ち位置な気が。

 

「一体何の騒ぎだ。」

 

アナスタージウス王子、ちょっと遅いよ。

 

「アナスタージウスより先日ご許可を頂いた図書館の魔術具の話ですわ。」

 

「なに、あの話は図書館のシュミルの話だったのか。」

 

あれ、なんか雲行きが怪しい?

 

「そなた、王族関係の可能性のある魔術具としか言っておらなかったではないか。まさか図書館のシュミルを持ち出すとは聞いてないぞ。」

 

え、ただの魔術具じゃん。何言っているの。

 

「まあ、よい。双方言い分は小広間で聞こう。」

 

「とりあえず図書館へシュバルツとヴァイスを返してきたいのですがよろしいですか。」

 

アナスタージウス王子の許可をもらって無事返せました。

 

その後、戻ってきてみると...。

 

「ふむ、双方の言い分はわかった。だが、どちらも悪い。双方何かいい方法はあるか。」

 

なんで!どちらも悪い?なんで話が終わっているの!

 

しかもアーレンスバッハは何も悪いことしていないよ!?戻ってくるまでに何があったの。

 

「ならばディッターで決めようではないか。」

 

何でディッター。ディッターの領地なんだから圧倒的に相手が有利じゃん。

 

「ああもうめんどくさい、なんでもディッターディッターと、ええ、いいですわ受けて立ちますわ。」

 

なんで、ディートリンデ様!普通に勝てるわけないじゃん。

 

「あの、ディートリンデお義姉様。相手はダンケルフェルガーですわよ。普通に負けるのでは。」

 

ええ、周りもディートリンデ様の発言に真っ蒼です。

 

「何言っていますの。シュバルツとヴァイスを譲るわけなくてよ。そもそもレスティラウト様は断られているのですから主の話はそれで終わりでしょう。」

 

「なに、聞いていないぞ。ダンケルフェルガーが主になるという話だったはずだ。」

 

「本当にめんどくさいわね。あなたが代表でしょう。代表が断られたんだからそれで終わり。善意でディッターに付き合ってやると言っているのですわ。」

 

おお、ディートリンデ様いろいろ考えていたんだ。さすがです。頼りになる。

 

「もう、それでいいではないか。そなたらはディッターができればそれでいいのであろう。これで終わりだ。」

 

よしよし、アナスタージウス王子の援護射撃ありがたいね。

 

「いいえ、アナスタージウス王子。代表というならハンネローレでもいいはずです。」

 

そんなに欲しいかね主の座。どうでもいいのだけど。

 

「では、そちらが勝ったら、ハンネローレ様についてシュバルツとヴァイスに聞くということでよろしいですか。仮にそちらが勝ったとしてもそれで主になれなかった場合は諦めてくださいませ。」

 

「では、その条件で双方良いな。」

 

ところで、ダンケルフェルガーのルーフェン先生とうちの寮監は仲が悪いんだね。

 

んまぁ、んまぁ!しか聞こえないよ。

 

うちの寮監ってあのルーフェン先生に一方的に言い続けられるとか実は強いの?優秀なの?

 

「こほん、ではディッターだな。今回は宝盗りディッターにしよう。」

 

あ、ルーフェン先生がうちの寮監から逃げた。

 

というわけで宝盗りディッターですか。みんなで騎士見習いの専門棟へ移動です。

 

ディッターに出る予定の護衛騎士に会場に移動する前に集まってもらい。

 

「みなさん、祝福を授けます。」

 

「火の神 ライデンシャフトが眷属 武勇の神アングリーフと狩猟の神 シュラーゲツィール並びに風の女神 シュツェーリアが眷属 疾風の女神 シュタイフェリーゼと忍耐の女神 ドゥルトゼッツェンの御加護がありますように」

 

ちょっとどこまで並行でいけるか試してみたけど結構いけるもんだね。

 

旧ベルケシュトックの方は跪いて受けていたし、もともとアーレンスバッハの人はそのまま祝福を受けているけど違いが出るかはちょっと気になりますね。

 

「では皆様、頑張りましょう。」

 

ちなみに今回は時間制限ありで、時間切れならアーレンスバッハの勝ちということになっています。

 

 

さて、会場へ着きますとディートリンデ様が少し困った表情で話しかけてきました。

 

「ローゼマイン、ディッターにはどちらが出まして。」

 

なんでも代表が出ないと締まらないという話になってしまったらしく領主候補生であるどちらかが出るという話になってしまったらしいのです。

 

「ディートリンデお義姉様さえよければ、わたくしディッターには少し興味がありますので出ますけど。もちろんその場合は負ける可能性が上がりますが。」

 

うーん、耐久テストしたい魔術具もあるしね?あと、何週間もいないから多少なら無駄遣いしても大丈夫だろうし。

 

「大丈夫でして、体のこともあるし。姉として心配ですわ。」

 

「今日は調子も悪くありませんし、せっかく貴重な機会ですので負けるの前提で頑張ろうと思います。」

 

「わかりましたわ。あなたたち私のかわいい妹ローゼマインをしっかりと守るのですよ。」

 

いや、魔術具の実験がしたいだけなんて言えない。

 

「あと、やるからには勝つのです。負ける気でいたら勝てるものも勝てなくなりますわ。」

 

なんか言うこと一つ一つがかっこいいんだよなぁ。ディートリンデ様は。

 

でも、まあいいや、どうせ守ってくれないだろうし。

 

「ではみなさん、宝盗りディッターとのことなので作法に従いましょう。」

 

「ローゼマイン様、宝盗りディッターの作法とは?」

 

「まず、敵が宝となる魔獣を確保した瞬間一当てするのが礼儀だそうです。それをしないと相手を見下しているとして侮辱になるそうです。」

 

皆さん怪訝そうな表情をしています。

 

「そんな作法聞いたことがありませんが...。」

 

「わたくしの読んだ、50年前の本にはそう書いてありましたが。」

 

「わかりました、そういうことでしたらルーフェン先生があとで説明してくださるでしょう。」

 

「一当てし、相手が崩れないなら一度引いて再度仕切りなおすというのも書いてありました。そこからが真の試合の開始だそうです。」

 

「分かりました、では我々は一当て行ってきます。」

 

うーんやっぱり側近やディートリンデ様の関係の方は攻撃に行きたいらしい。

 

「では、我々は魔獣の捕獲とローゼマイン様の護衛で。」

 

旧ベルケシュトックの方々が守ってくださるそうです。

 

さてさてディッター開始です。

 

「では魔獣はとっても弱い魔獣を連れてきてくださいませ。」

 

「どうするのですか。すぐやられてしまいますよ。」

 

「それでいいのです。私の騎獣に放り込みますので。」

 

なるほどそれは素晴らしい、と言って捕獲に行きます。さてと、魔術具セットしていきますかね。

 

拠点防御は基本だよね。

 

さて、レッサー君...某バスことネコ君に魔獣を放り込みます。

 

ここを中心にっと魔術具展開。うん、うまくいったね。

 

旧ベルケシュトックの方々と談笑していると、戦闘音が鳴り響いています。

 

一当てに行ったのかな。まあいいや放置放置。ディートリンデ様の護衛騎士が指揮しているし問題ないよね。

 

さてこちらにも、ダンケルフェルガーの攻撃隊が来ました。レスティラウト様は本陣で少数の護衛と待機ですか。

 

「ローゼマイン様我々も出ますか。」

 

「この魔術具が壊れるまで待ってくださる。」

 

「すべてはローゼマイン様の御心のままに。」

 

ちなみに今回は35名で戦っています。そのうち15名はベルケシュトックの方です。全体の三分の一もいないのに優秀ですね。

 

ああ、攻撃してきた方々がいい感じで飛んでいきます。

 

とりあえず、相手を感知して移動するウラノの世界の地雷『あくてぃぶすいーぱーまいん』でしたっけ良く知りませんけど。

 

うん、またいい感じで飛んでいきます。私の場合は魔力を感知して近づかれる前に魔力をぶつけて誤爆させるとかしますけどね。

 

レッサー君で空飛んでもいいわけですし。案の状、地面は危険だという話になって騎獣で攻めてきますね。

 

ゴン、いい音が鳴ります。うっすらと透明な壁が相手に見えているはずです。

 

ちゃんと見えるようにしてあげたんだよ。そうじゃないと迷路にならないからね。

 

指向性を持たせたら少ない魔力で防御力を持たせた壁ができるのではないかと実験に付き合わされた名残です。

 

魔術具迷路。当然空中からは侵入不可。内側から出ることは簡単に出来ます。まあ、魔力差が圧倒的なら外側からでも破られるけど。行く先々にはさっきの地雷や落とし穴とかいろいろあります。

 

もちろん魔力で壁を破っても可。でも迷路だから壁も何個もあるし結構苦労します。

 

ちなみに魔王様の実験に付き合わされた時は完全な透明だったけど私にとっては、ウラノの世界の『ぼーなすげーむ』だと思ったんだよ。愚かにもね。

 

だって、基本的に地面にしか罠が張れないと思ったからレッサー君で飛べば楽勝じゃん。

 

ついに魔王様が優しくなったと思ったら、魔力の線を壁につないでその線に引っかかったら魔法陣起動とか。ウラノの世界の『赤外線せんさぁ』みたいなのだね。

 

他にも完全に透明で魔力を追っても見えにくいから壁に触っただけで起動する魔法陣に引っかかったり、最後レッサー君とボロボロになってやっとウラノの世界の『ごーる』だと思ったら、入口へワープする魔法陣。

 

ウラノの世界では普通なんだっって?びっくりだよ。そこで心折れて終了しました。魔王様はギリギリ騎士団の訓練に使えそうだなとか言っていたけどエーレンフェストの騎士団はあれが只の訓練にすらならないのだからきっとものすごく強いんだろうね。

 

 

 

 

はぁ、相手の方がまた飛んでいきます。何名犠牲にしても壁を壊したりして突っ込んできます。

 

すごいね、ウラノの世界の『おれのしかばねをこえていけ』ですかね。

 

出口まで来て短距離移動用の魔法陣で入口へ。全然心折れないどころかやる気が増している。

 

やっぱり私ダメダメちゃんなんだ。今やられても絶対折れる自信があるもん。

 

そういえば、側近連中戻ってこないけどどうしたんだろう。一当てしたら戻る予定だったんだけど。

 

 

 

「おい、この卑怯者!でてこい。」

 

レスティラウト様が何でこんなところに?

 

ああ、もうそんな時間ですか。ウラノの世界の『たいむあっぷ』まであまり時間がないですね。

 

「わたくしたちは守り切れば勝ちなのに、圧倒的武勇を誇るダンケルフェルガーの方にとっては卑怯なのですか?」

 

「もう後は其方らだけだ。他の連中は排除した。」

 

うーん、20名くらいかぁ。側近連中ほとんど倒せなかったんだね。

 

「聖女だ、天使だ、女神だとか言われてその程度なのか。正々堂々戦わんか。」

 

正々堂々真正面から不意打ってご覧にいれますでしたっけ。

 

かっこいいよね。正面から不意打つってものすごい技量がいるはずだものね。

 

あ、周りの連中がブチ切れてる。何でかわからないけどこれはまずい。

 

「ローゼマイン様、出撃の許可を。他の誰でもなくローゼマイン様への愚弄、絶対に許しません。」

 

やばい、目が座っています。はぁ、まあいっか、よく考えたら負けたっていいのだから。彼らだって活躍の場が欲しいよね。

 

「では皆さん、相手が望む通り真っ正面から一当てといきましょうか。レスティラウト様もそれでよろしいですね。」

 

「無論だ。目に物を言わせてくれる。」

 

解除っと、うわー怖いね。ダンケルフェルガーの方々が突撃してくるよ。

 

なんかさぁ、すごく怖いんだろうなと思っていたのだけど全然怖くないんだよ。

 

怖くないことに怖くなるとか嫌だね。やっぱり従属の干渉受けているのかな。

 

ところで皆さんすごく強いんだけど、相手はディッターの領地ダンケルフェルガーだよ。

 

それをこちらの人数が少ないから守るしかないのだけど組織的に守るとか。

 

個々も結構強いんだけど連携がものすごく息があっていて一歩も引かない。

 

しかも押し返しちゃった。すごい!本当にすごい!でも、すごいけどこれが将来エーレンフェストの敵にまわるかと思うと内心複雑だね。

 

「レスティラウト様、このままでは近着状態ですので一騎打ちでもしませんか。あなたと私で。」

 

「ほう、その意気やよし。やろうではないか。」

 

「レスティラウト様、昔から一度こういう状態になったら一度言ってみたかった言葉があるのですが、聞いてくださる?」

 

「ふん、なんだ言ってみろ。」

 

よし、言っちゃうよ。時間確認してと。

 

「正々堂々真っ正面からふぃ」

 

「両者そこまで時間切れだ。」

 

あ、言い切れなかった。

 

 

 

 




二度とディッターを書きたくないです。難産でした。もっと魔術具使いたかったけど書いていて面白くないので止めました。
レスティラウト様が安っぽすぎるのでいつか書き直すかもしれません。



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37話 服のデザイン募集

「其方の悪辣な魔術具の数々、あんなものはディッターではない。私は絶対に其方を認めぬぞ。」

 

「さすがはわたくしの妹ローゼマインですわ、レスティラウトの負け惜しみが心地よいですわ。」

 

相変わらず、ディートリンデ様はおーほほという感じですね。

 

「ディートリンデお義姉様、ダンケルフェルガーはすごかったのです。どんな状況になっても心が折れずに攻撃し続けるその気迫には心打たれました。それに対してなんと私の心は弱いことか。」

 

はぁ、いやね、私は騎士でも何でもないけどやっぱりディッターの領土なんだね。

 

「勝てばいいのですわ。勝てば!」

 

まあ、ディートリンデ様らしいと言えばらしいような気もしますが。

 

「きっとお姉様が、指揮をしていれば護衛騎士の方々はもっと奮起し、レスティラウト様も納得する状態で勝てたかと存じます。やはりわたくしには人の上に立つ才能がないのです。」

 

うん、もっとちゃんと指揮すれば引き分けに限りなく近い勝ちじゃなくて、普通に勝利だってできたかもしれないしね。

 

というか、魔術具の実験ができれば勝敗なんてどうでもよかったのだけどね。思っていた以上にテストできなかったけど。

 

「ところでローゼマイン、フェルディナンドとはなにも関係ないのか?」

 

ルーフェン先生、なんでここで魔王様が出てくるの?

 

「あの魔術具、嫌らしさがフェルディナンドにそっくりだ。あやつ以外にあんなもの作ろうと思うものがいるものか。」

 

うわ、フェルディナンド様ってここでも有名なの?卒業何年前よ...。いや、魔王様だからね?

 

「あら、わたくしはアーレンスバッハ所属ですのよ。エーレンフェストの有名人と関係があるわけございませんわ。」

 

まあ、でも魔術具だけなら言い訳としてはあれでいけるかな。

 

「ただ、わたくしフェルディナンド様の作った設計図を持ってましたの。今でも魔術具の基本はそこから作ってますわ。」

 

別に納得はいらないよ。普通に考えれば関係なんてあるわけないじゃん。

 

あ、でも少し昔は結構仲の良い雰囲気だったんだっけ。ヴェローニカ様の時は特にね。

 

結局アーレンスバッハにいると全然エーレンフェストの情報って入ってこないんだよね。

 

今どうなっているのだろう。私がいたときは、ここまでアーレンスバッハと険悪な雰囲気はなかったはずなんだけど。

 

「とにかく、皆様、すばらしいディッターでした。わたくしは魔術具に籠っていただけでしたがいい体験ができましたわ。」

 

他領の領主候補生にお褒め頂き感激したというようなことなど、ダンケルフェルガーの方がいろいろ言ってきた。

 

再戦も楽しみにしているだって。まあ、機会があればですね。私は関係ないと思うけど。

 

「終わったのか、なんだ意外にもアーレンスバッハが勝ったのか。」

 

アナスタージウス王子、わざわざ見に来たんだね。

 

「では、アーレンスバッハの主張のとおりででよいな。レスティラウト。」

 

「神聖なるディッターで負けた以上、ダンケルフェルガーは引き下がります。」

 

引き下がってくれてよかった。さすがは「そんなことよりもディッターしようぜ」が流行語な領地です。いや本当かは知りませんし関係ないけど。

 

「だが、必ず今度再戦を申し込む。その時は其方の魔術具も完全に倒して見せよう。」

 

私の魔術具?何言っているのだろう。私がディッターに出られる機会なんてそんなにあるわけないじゃん。

 

「あの、レスティラウト様。わたくしは騎士でも何でもないのでディッターには出られませんわ。」

 

ふん、そうだったなという感じで帰っていきました。その後ルーフェン先生が言ってきたりいろいろありましたが、またうちの寮監につかまっています。

 

どうして、んまぁ、んまぁだけであんなに話し続けられるのだろう。

 

そういえば、ハンネローレ様は結局来なかったなぁ。

 

 

 

 

後日、王子からソランジュ先生と一緒に呼び出しがありました。

 

ええ、本当に迷惑極まりないあの魔術具についてです。

 

私もさっさと上級司書を派遣してくださいとかお願いしてみたのですが、人材不足で無理とのことです。

 

むしろ私を中央に異動させて司書見習いにできればみたいな話も出てきましたが、領主候補生ですと異動は無理とのことです。

 

司書見習いと、領主候補生、どちらががエーレンフェストに近いかな。まあ考えるだけ無駄ですが。

 

そのあと、盗聴防止の魔術具を渡してきてエグランティーヌ様にお茶会に誘われる可能性があるからいったら、意向を聞いてきてほしいとのことです。

 

「アナスタージウス王子、申し訳ございません。まず前提としてわたくしをお誘いいただけるとは思えませんが。」

 

うーん、もうお茶会はいいよ。するにしてもせめてディートリンデ様と一緒に。

 

「もしいただけた場合、お聞きする意向とは何のことでしょうか。」

 

意向って言ってもねぇ。

 

私はとんでもなく恥ずかしい質問をしたようです。

 

要は卒業式のエスコートのお話だそうです。ご婚約関係じゃん。

 

「アナスタージウス王子、大変不躾な発言をさせて頂いてよいですか。」

 

「なんだ、構わぬ。」

 

「アナスタージウス王子は、その、エグランティーヌ様ご本人に直接お気持ちを伝えられたのでしょうか。」

 

私ならどうかな、結婚なんて話全くないし体が弱すぎて無理だし、従属状態だし本当に将来の展望がお先真っ暗だ。

 

「わたくしの場合で申し訳ないのですが、手紙や周りにそれとなく話しても全く通じないのです。加えてさっきの事態のように相手が何を求めているのか分かりません。」

 

雰囲気で察しろとかウラノの世界のムリゲーだよね。特にアーレンスバッハの方達は。

 

「周りから見ても、アナスタージウス王子のお気持ちは良くわかるのですが、エグランティーヌ様ご本人は分かっていらっしゃらないかもしれません。ですので私ではなくエグランティーヌ様と同じような状態で直接話すほうが良いかと存じます。」

 

実際ものすごく大好きだよね。アナスタージウス王子は。でもエグランティーヌ様の方はそういう考えじゃなくてあくまで政略結婚とかそういう認識でしかないんだと思う。

 

「勇気のいることかと存じますが、同じ女性としては相手を理解しようと直接話を聞き、本当に自分の求めることのために動いてくださる男性は素敵だと思います。」

 

アナスタージウス王子がなれるかなぁ。基本は命令する側だからなぁ。まあ、いっか。

 

「そなた本当に不躾な申し出だったな。だが分かった。やってみよう。」

 

「申し訳ございません、アナスタージウス王子。この間も申し上げた通りわたくしは領主候補生になる予定もありませんでしたし、体も弱く神殿で育ったため、社交について求められても困ります。」

 

本当に困るよ。起きていきなり神殿改革しろとか言われてとりあえず応急処置したら貴族院への準備。社交の能力なんてそもそも求められていないし。

 

はぁ、終わった終わった。王族との話し合いは疲れるね。

 

 

 

 

さて、さて、ようやくちょっと余裕ができたよ。

 

本日も図書館に一人でこっそりと。

 

「ソランジェ先生、おはようございます。」

 

「あら、ローゼマイン様。本日はいつも通りお一人ですね。」

 

一人の方が気が楽なのです。

 

「そうだ、ソランジェ先生、シュバルツ、ヴァイスの服のデザインを公募したいのですが張り紙を貼ってもよいですか。」

 

今持ってきている最後の魔紙です。変なことをされても勝手に燃えるようにしておけばいいし、壁にくっつけるのもこれなら簡単です。

 

「ええ、ではそこに」

 

うん、ありがたいね。やっぱりこの魔術具たちの服のデザインは、ここによく来る人に決めてもらいたいものね。

 

あえて報酬はなし。出してもいいけど純粋な好意のみで応募してほしいしね。

 

アーレンスバッハでデザインしないのかですか。なんか皆様デザイン自体には興味ないみたい。

 

完全に専属に丸投げとかになりそうだったから、どうせなら貴族院に在籍している方のほうがいいんじゃないということで私が提案させて頂きました。

 

まあ、アーレンスバッハの方々に任せると金ピカになったりコテコテな過剰な装飾になったりするのが目に見えるからっていうのもあるのですが。もしこれで集まらなかったら諦めてそうするしかないけど...。

 

私がデザインしろって?白と黒の無地で魔法陣を縫い込めば魔法陣が装飾になってシンプルでいいじゃんと提案したら即却下されました。

 

魔術具なんて機能性以外大して意味ないのになんでだろうね。まあいいけど。

 

 

 

最近は良く図書館にいるので側近たちに良く見つかってしまいます。

 

なので、今日は魔法陣での読み込みをやめて、最低限図書館の魔術具たちに魔力を奉納し久しぶりに外で本を読むことにしました。

 

ちなみに図書館の本って借りるのって高いんだね。ウラノの世界とは大違いだ。

 

といっても、エーレンフェストの時みたいにちょうどいいベンチとかないかなぁ、でも寒いし雪があるし日当たりのよいところでレッサー君停めて読むかとか思っているとボロボロの小さな建物、管理小屋のようなものが出てきました。

 

ちなみにレッサー君を出しているのはこんなところに人が来るわけがないのでばれないだろうし、やっぱりレッサー君が最高だしね。

 

さて、小屋と言うより神殿みたいですね。ああ、エーレンフェストにいたときの最初の小神殿を思い出すなぁ。

 

なんかかわいそうだし今日の奉納ノルマはここにしますか。とりあえずきれいにしますかね。

 

私はシュタープで、広域魔術用の魔法陣を書き

 

「ヴァッシェン」

 

うん、ほうきとか雑巾でやっていた時と大違いだね。

 

お邪魔しますっと。あれ、開かない。って当然カギがかかってますよね。

 

仕方がないのでレッサー君に戻るかって、あれ、なんか吸い込まれる。どうなっているの!?

 

えーと、中に入ってしまったのかな。なんか幻想的と言いますかどこか小神殿を思い出す懐かしい感じだけど何だろうここは。

 

ライデンシャフトと眷属に祈りを捧げろ?かなぁ。火の属性のみの石像が並んでいるとは珍しいなぁ。

 

「神に祈りを!」

 

特定の神ではなく特に限定せず魔力を奉納してみます。

 

少し青く光る石が輝きを増したような気がするけど気のせいかな。

 

というか、ここ本を読むのにちょうどいいね。

 

外からも入りにくそうだから人に見つかる心配もないし、暖かいし。

 

うーん、あれから農業の本も見ているけどなんでか小麦ばっかりなんだよね。

 

ウラノの世界では、小麦、稲、トウモロコシが三大穀物で両方や全種類食べている民族もたくさんいたはずだからあるはずなんだけど。

 

まあ、その三大穀物の中では稲が一番生産量が少ないらしいけどさぁ。

 

やっぱりランツェナーヴェ王国とか外国に期待するしかなさそうだね。

 

欲を言えばジャポニカ種に近い品種があるといいのだけど。

 

そういえば、ここってどうやったら出られるのだろう。

 

入り口も出口もないし、もしかしてライデンシャフト様に祈らないと出してもらえないとか。

 

うーん、まだまだ魔力に余裕はあるけど、どうしよう。

 

「火の神 ライデンシャフト、鍛冶の神ヴァルカニフト、武勇の神アングリーフ...。」

 

神々それぞれにお祈りを捧げます。

 

青い石から「祈りが足らぬ」という字が出ます。

 

えーと普通の祠なら十分な魔力を奉納したつもりでしたがまだ欲しいそうです。

 

私はただ出たいだけなんだけど出してくれませんかね?

 

「信心が足りぬ、真剣さが足りぬ。」

 

真剣さと言われるとつらい、エーレンフェストにいたときは祈れば祈るだけいい方向に向かっていたのに最近ときたら。

 

試練の神 グリュックリテートのご加護が強くなっているのでしょうか。ウラノの世界でいう神の試練で、祈りに俗物的なものを求めてはならないだよね。

 

まあ、ここはとっても気持ちがいいからもう少しいようかな。この本が読み終わるまでは。

 

 

 

 

うん、読み終わっちゃった。出してもらえないよぉ。相当長くいたはずなのに。

 

青く光る石は、「祈りが足らぬ、信心が足りぬ、真剣さが足りぬ。」

 

変わる前のお言葉も加わったんだね...。

 

なんか変な意思を感じるけど悪いものでもなさそうだなぁ。

 

魔法陣は全然ないし何なのだろうね。本当にここは。おっとまた文字が変わる。

 

「さっさと真剣に祈れ、迷惑だ。」

 

迷惑ってひどくない。静かに読書しているだけじゃん。

 

何だか知らないけど、ここも結構わがままちゃんなのはわかった。

 

もう一度、祈りなおします。

 

ただし、ここから出してくださいという言葉を最後に付け加えて眷属を含めて火の属性の神全部にまとめて一気に魔力を奉納します。

 

「其方の祈りはようやく我に届いた。認めたくないがライデンシャフトよりメスティオノーラの書を手に入れるための言葉を与える。」

 

認めたくないんだ。やっぱり何度も真剣に祈れと言われたのを無視したのがいけなかったのかなぁ。

 

気が付いたら大きくなった青い光る石に、次期ツェント候補がどうとか出ているけど、どうでもいいね。知識としてだけ入れておいて後は、すべての神々よりお言葉を得よねぇ。他にも似たような場所があるってことかな。まあ、後回しだね。

 

メスティオノーラの書に関する記述だけは気になるなぁ。

 

ツェントなんかになっちゃたらまた村の家族が遠のくからいらないけど、メスティオノーラの書だけは切実に欲しいです。

 

契約の強制破棄の方法とか載っていないかな。

 

合言葉をもらい石がシュタープに飛んできてようやく強制退場。

 

ここを出入り自由にしてもらえませんかねライデンシャフト様?

 

読書にちょうどいいフロアから出たら、日の上り方からあまり時間がたっていない!

 

素晴らしいですね。読書し放題。本気で祈ったらまた入れるかな。また来よう。

 

この後、また来ましたがライデンシャフト様は中に入れてくれませんでした。

 

ひどいよ。入れてよ。魔力なら奉納してあげるから。

 

せっかく素晴らしい空間だったのに。

 

ちなみにこの後2日ほど寝込む羽目になりました。やんなっちゃうよね。体が弱くて。

 

 

 

寝込んだ後の日はジャガイモっぽいイモ類と、大根っぽい根菜類で水あめもどきが作れないかと思い、食堂へ行って実験をお願いしたり、図書館へ行ったりしました。

 

うん、お茶会の予定もないし後は、期日までお祈りとか調べものとか好きなことをいろいろやるだけだね。

 

そう、完全に忘れていたんですよね。あんなに必死になって手紙書いたのに...。

 

 

 

 

 



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38話 ディートリンデ様の親族会

朝にディートリンデ様が突然やってきました。

 

「ローゼマイン、今日のお茶会の準備なさい。」

 

お茶会、何の話だろう。

 

「ディートリンデお義姉様、本日にお茶会があるなんて話は、わたくしお聞きしておりませんけど。」

 

「ええ、あなたが仮病とか使いそうだから黙っておいたのですわ。幸い今日は顔色もいいし問題ないわよね。参加なさい。」

 

どうしよう。というか何のお茶会だろう。

 

 

 

言われた通りに最低限の準備だけして共有フロアに戻ります。

 

そこで何処とのお茶会か確認すると...。

 

「以前話したでしょう、わたくしの親族同士のお茶会ですわ。」

 

はい、以前話にあった親族同士のお茶会でした。やめて、いやだよ参加したくないよ!

 

「逃げようとしてもダメですわよ。わたくの親族同士のお茶会なら練習にちょうど良いですし、引っ込み思案のローゼマインにはピッタリですわ。」

 

ディートリンデ様に手を引っ張られ逃げられません。

 

ディートリンデ様、それなりに尽くしてきたつもりですが何か恨みでもあるのでしょうか。

 

ああ、ウラノの世界の『ほとけさま』でもいいから助けてください。

 

お茶会が始まってしまいました。参加者は4名で私の両隣がディートリンデ様とリュディガー様、真正面にヴィルフリート様です。

 

うーん、この中だと私だけ場違いだよね。なんで私はここにいるのだろう。

 

周りは親戚関係なので共通の話題で盛り上がっているので私は話に入らずに適当に相槌を入れる。ディートリンデ様は話好きなので適当に相槌を入れているだけで楽ですね。

 

でもやっぱり、ヴィルフリート様が関わってくるせいかほんの少しずつだけど従属の指輪が反応しています。

 

「ディートリンデお義姉様、わたくしルングシュメールよりささやきを頂きとう存じます。」

 

「あら、確かにちょっと顔の色が悪いわね。」

 

疲れてきたのでいったん席を外させてもらう。

 

はぁ、もう、戻りたくないよ。しばらく休んで一息ついたら戻りたくないけど戻ります。

 

「ローゼマイン、ヴィルフリートがあなたと話をしたいと言ってますわ。」

 

え、ディートリンデ様、私は話したいことなどございません。

 

「いいから行ってきなさいな。」

 

だから、なんでディートリンデ様は強引なの。そんなに私のことが嫌いなの。

 

はぁ、後ろに側近連中がいるけどヴィルフリート様と二人で対談とか、勘弁してよ。指輪に注意しなきゃ。

 

そこで盗聴防止用の魔術具をヴィルフリート様が私に向かって渡そうとしてきます。

 

「わたくしは混沌の女神のように話すことなんてございませんわ。」

 

「まあ、ローゼマイン。何かヴィルフリートには話したいことがあるようです。聞くだけでいいから聞いてあげなさい。」

 

「ディートリンデお義姉様、わたくしは。」

 

ディートリンデ様...。もう、諦めるしかないのでしょうか。

 

「いいから。」

 

避けられないしどうしよう。ディートリンデ様は私をここで蒸発させるつもりなのかな。仕方がないよね。これなら回避の努力したことになるよね。きっと。

 

半分絶望しながら私はヴィルフリート様の盗聴防止用の魔術具を受け取ります。

 

「単刀直入に聞く、そなたマインだな。」

 

「ヴィルフリート様、おっしゃる意味が分かりません。私はローゼマインです。」

 

どう切り上げよう。無視するべきなのかな。

 

やっぱり私のことばれてるのかな。でも、私が認めない限りは大丈夫だよね。

 

ああ、いやだな。指輪が少しずつ光りだしているよぉ。

 

「では、ローゼマインよ、マインという少女の関係の話を聞いてくれないか。」

 

仕方がないといった感じで、真剣に私を見ながらヴィルフリート様が言ってきました。

 

「聞くだけならいいですけど...。」

 

何が言いたいの?わからないよ。聞くだけならまだまだ大丈夫そうだしどうにかなるよね。

 

「最近ハイデンツェルというエーレンフェストの北の方の領地で魔物を小集団で狩る平民の一団がいると聞いて視察に行ってきたのだ。その狩猟団の隊長はギュンターと言ってだな。驚いたことに中級貴族でも苦戦する魔物を一刀両断にするのだ。」

 

お父さん。元気なんだ。よかった。でもなんでヴィルフリート様が今そんな話をするの。

 

「すごいだろう。私も驚いた。平民にできる技ではとてもなかった。もともと貴族の関係者なのだが魔力もなくあそこまでの技能。魔力さえあればと、おじいさまも残念がっていたのだ。私も興奮してなぜそこまで強くなれたのかと聞いたら」

 

とそこで、ヴィルフリート様が一呼吸置きます。

 

「帰ってこない娘の帰ってくる場所を守るためだ。というのだ。素晴らしい家族愛だと思った。」

 

お父さん...ダメ、表情を隠さなきゃ。ひどいよ、ヴィルフリート様はなんでこんな場でそんな話するの。

 

「また、その家族も面白いものを作っていてだな。其方の髪につけているような花の髪飾りを作っていたのだ。余りに見事だったから一つ買って帰ったのだが。一番見栄えのする髪飾りが置いてあり、これを売ってくれと言ったら、帰ってくる娘のための髪飾りだから売れんというのだ。仮にも領主の息子にだぞ。まあ、外れの村だから常識が通じないのかもしれないが。」

 

もう、やめてよ。ここでわたしがマインだなんて言えるわけないじゃん。

 

「なぁ、そなたにとってアーレンスバッハはゲドゥルリーヒになりえるのか?其方がマインでなくてもよいから、エーレンフェストに来ないか。」

 

いや、やめてよ。私だってアーレンスバッハなんかにいたくないよ!エーレンフェストに帰り...。

 

 

 

 

いたい、いたい、いたい、いやいやいや、指輪がすごく光ってる。

 

あついあついあつい!魔力がコントロールできない。

 

「ローゼマイン!」

 

ディートリンデ様の声が聞こえる気がする。

 

あ、床だ。いたい、力が入らないよぉ。魔力の暴走が止められない。内側を魔力がぐるぐるとんでもない熱量を持って回っているみたいだ。

 

「ヴィルフリート、かわいい妹に何をしましたの!しっかりしなさいローゼマイン、こうしてはいられませんわ!失礼しますわ」

 

ああ、きっと従属契約が半分発動しちゃった。これはやばいよぉ。

 

「しっかりなさいローゼマイン。あなた達ローゼマインを医者の所へ。」

 

「お義姉さま...ごめんなさい、これは持病なのです。私の部屋まで運んで...。」

 

「しっかりなさい。あなた達ローゼマインの言うとおり急いで運びなさい。」

 

誰だかわからないけど部屋まで運んでくれた。

 

「入り口...の、上から、三番目の右奥のは、こ..。」

 

「入り口の棚の上から三番目の右奥、これですわね。で、どれですの」

 

「お義姉さま...ごめんなさい、箱ごと貸して、下さい、ませ。」

 

「どれですの。」

 

「お義姉さま...人払いをおねが...。」

 

「人払いとかそんな場合では...仕方ないわねあなた達でていきなさい。」

 

「一生のおね、がいです、はこだけおいて、うしろをむいて...あぐ」

 

「なんなのですか。ああ、もうわかりましたわ。はい、これが箱よ。後ろ向きましたわ。」

 

「ありがと..ぞんじ.。」

 

ああ、くるしい。魔力の暴走を抑える薬は。震える手で何とか取れた。うまく動かないけどなんとかのめ...。

 

「ああ、もう、この薬でいいんですわね。ほら開けてあげるから、飲みなさい。」

 

「ありが...とう...おねえ...。」

 

「本当に大丈夫なのですか、大丈夫なら何も心配せず眠りなさい。」

 

ああ、やっぱりディートリンデ様は策士だ、これで貴重な対策が一つだめになってしまったかもしれません。

 

 

 

起きたら側近たちが慌てて連絡等に動き出しました。

 

なんでも4日も死んだように眠っていたそうです。

 

体を起こすのも億劫です。

 

まだまだ熱が回復していないようですが、今の周りに人がいる状態であれらの薬を出すわけにはいきません。

 

「ローゼマイン!」

 

ディートリンデ様、まだ起きたばかりなのですが。

 

「ディートリンデお義姉さま、ご迷惑おかけしました。」

 

「本当に大丈夫そうでよかったですわ。わたくしにこんなに心配させるなんてローゼマインはわたくしの妹失格ですわ。」

 

わからないよ。なんでそんなに本心から心配そうにしているの。はるか高みに上らせようとしたんじゃないの?どこまで演技なの。

 

「ところで何なのですか、あの薬は。話してもらえるわね。」

 

ディートリンデ様...。

 

はあ、やっぱり聞いてくるよね。ごまかすにしても、どうやっても墓穴を掘る未来しか浮かばない。

 

というかディートリンデ様に嘘ついてもばれるだろうし

 

「ディートリンデお義姉さま、私のことについてゲオルギーネ様からはどう聞いていますか。」

 

「あなたのこと?何も聞いていませんわ。」

 

はぁ!そんなわけない。演技なの?もう本当にどう答えてよいかわからないよぉ。

 

「お母様から、ローゼマインの人となりを見て判断なさいといわれてますわ。」

 

たぶん、うそだ。でもそういうこと前提なら表面上は従属契約についても知らないといっている状態だしどうしよう。

 

「お義姉さま、身食いという言葉はご存知ですよね。」

 

「もちろんですわ。平民の子にある魔力の病気よね。」

 

「私のこの症状も身食いと同じようなものなのです。魔力が多く魔力の操作に難がある場合、このような状態になる者もいるそうです。」

 

うん、まあ実際身食いだったし。

 

「この間飲んだ薬は魔力の暴走を抑える特殊な薬なのです。」

 

嘘は言っていません。この薬は私の切り札の一つだったんだけど...。

 

「そうだったのですわね。あとこれ、この間薬箱に戻せなかったから渡しておくわ。」

 

ああ!私特製の回復薬。やっぱり薬箱の秘密もばれたってことだよね。次はどう隠そう。幸い奉納式まで余り時間が無いし城で療養するとか言って帰ろう。

 

お父様、ローゼマインにはディートリンデ様の荷は重過ぎます。使えない道具でごめんなさい。

 

 

 

 




ヴィルフリートのせいでキレが悪くなってしまいました。

最初にディートリンデ様側書いてから作った力作のはずなのに...。

ちなみにディートリンデ様側はアップしません。


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39話 一時の帰宅と奉納式

起きてから数日、ようやく手紙の返事と言いますか、帰還命令が来ました。

 

やっぱり妨害とかされているんだろうな。

 

緊急で出したのに帰還命令までこれだけかかるのだから。

 

溜息しか出ません。

 

ディートリンデ様も

 

「仕方がないわね。ゆっくり療養なさい。こちらのことは気にしなくてよくってよ。」

 

という感じで送り出してくれました。

 

「申し訳ございません、ディートリンデお義姉様。領主催のお茶会まで入る予定でしたのに。」

 

せめて、領主催のお茶会まで入る予定だったのですが。

 

この人の本心が全く分からないしどう対応していいのかわからないよ。

 

「とりあえず、ローゼマイン抜きで一回行い、帰ってきたらまた、簡易的なお茶会を行うことにしますわ。まさかあそこまで小規模のお茶会で倒れるとは思いませんでしたの。」

 

う、なんかものすごく迷惑をかける感じです。わざわざ私のために表面上は気を使って2回に分け小規模にすると言ってくださっていますし。

 

「お心遣いありがとう存じます。ディートリンデお義姉様。ゆっくり療養し奉納式が終わり次第また戻ってまいります。」

 

はぁ、帰って報告と対策です。今回の件で更に魔力の停滞も加速しているし、もともと必要だったユレーヴェに入る時間も検討しなきゃ。

 

 

 

 

「ただいま戻りました。アウブ、お母様。」

 

帰って来た私はアウブの執務室へ通されました。その後、アウブがお母様と私を残して人払いをおこないます。

 

「さて、ローゼマインから連絡がほとんど入らなかったが、何かあったのか。」

 

「お父様方には、やはり届いておりませんでしたか。わたくしも何度か手紙を出したのですが返事は一度も頂けなかったので。」

 

「一度届いたのだが、内容が何通りにも解釈ができて判断ができなかった。改めて聞かせてくれるか。」

 

まずい、考えすぎた?

 

「わかりました。お話しします。」

 

私はディートリンデ様についてや、ヒルシュール先生について話します。

 

「ディートリンデ様は本当によくわかりませんので困っております。ゲオルギーネ様の娘となれば当然わたくしの契約については知っておりますよね。」

 

あれ、お父様、お母様なんでそんな安心した顔をしているの。私本当に困っているのですが。

 

「ローゼマインから見てディートリンデはそのように見えるのか。私もあれについては良くわからんのだ。だが、知っているという前提で物事を進めた方がよいだろう。」

 

少しデイートリンデについて見直すべきか、なんてつぶやいているように聞こえます。

 

「あと、お父様。どうやら従属契約が発動してしまったようです。わたくしは回避のため努力したつもりでしたが、回避できませんでしたので契約について再度見直しをさせて頂きたいかと存じます。」

 

「今回倒れた件というのは従属契約に関するものだったのか。本来なら...。まあ無事だったのなら良い。最大限回避のために努力したのか。」

 

最大限!?努力はしたつもりですがどこまでやれば最大限になるのでしょうか。

 

「わかりません、努力はしましたがどこまでやれば最大限になるのかはわたくしには分かりませんでした。」

 

「とにかく経緯を話してみよ。」

 

「アウブに対する忠誠にかかわる話なので、話したくないのですが、ダメでしょうか。」

 

「だめだ、ローゼマインのためでもある。契約を見直すためにも絶対に必要だ。必要ならば命令する。」

 

いやいやながら、もはや命令なので全部話します。

 

「ふむ、わかった。契約を努力目標に引き下げよう。ただし、契約など関係なくても其方はアーレンスバッハの領主候補生だ。アーレンスバッハについて一番に考えてもらわねば困る。」

 

勝手につれてきておいて、命令されて、心のゲドゥルリーヒにまで言われたくないよ。

 

「あなた、さすがに言いすぎです。ローゼマインの立場も考えてあげるべきです。心くらい自由にさせてあげてもよいのではなくて。」

 

「ならん、今ローゼマインにいなくなられては困るからできる範囲で最大限配慮しているつもりだ。これ以上は無理だ。」

 

やっぱり所詮は道具ってやつだよね。お先が真っ暗すぎる。

 

その後、夫婦喧嘩が始まりそうな雰囲気でしたが、止める気力がありません。

 

最後に、王族について社交に疎い私からはこれ以上関わらないほうがいいという話や、図書館の魔術具についてはそのまま現状維持という話になりました。

 

ヒルシュール先生については保留です。

 

 

 

さて話がすめば、奉納式の為に神殿に向かいます。

 

エーレンフェストの時はもう少し遅くから始めていたと思うのですが、アーレンスバッハでは始めるのが早いようです。

 

理由はすぐわかりました。エーレンフェストの三倍の領地があるのに下級貴族の魔力もない方二人に、一般人とほとんど変わらない青色神官8名...。

 

終わるわけがありません。エーレンフェストだって、それなりに魔力のある青色神官が5名いたのですから。まあ、魔王様は別格として。

 

毎日頑張ってくれていたようですが、まだ十分の一も終わっていません。

 

絶望せずに良く毎日お勤めを果たされていると思います。とりあえずねぎらいの言葉くらいかけてあげないとかわいそうでしょう。

 

「毎日の奉納ご苦労様です。これから毎日一緒に頑張りましょう。」

 

今回は私を先頭で跪き両手を赤いカーペットに当てます。

 

「我は世界を創り給いし神々に感謝をささげるものなり。」

 

そのあと、最高神と五柱の大神に祈りを捧げる祝詞を読み上げます。

 

「息づくすべての生命に恩恵を与えし神々に敬意を表し、その尊い神力の恩恵に報い奉らんことを」

 

いつも思うんだけどさ、ものすごく引っ張られる感じだよね。

 

魔力がどんどん引き抜かれます。まだまだいけるな。

 

 

 

 

うーん、ここらへんでやめておこう。

 

はぁ、さすがは大領地。これだけやってもまだあと終わるまで8日はかかりそうだね。

 

回復薬使えばもう少し短縮できそうですが、回復薬使ってまでやりたくないし。

 

「すばらしい、さすがは神殿長です。この調子でいけば本当に久しぶりに領地全体に魔力がいきわたりそうです。」

 

「皆様の頑張りが領地に魔力を潤すのです。わたくしはこの中では魔力が多い方かもしれませんがいつまで神殿にいられるかは分かりません。」

 

本当に何時になったら帰れるようになるかなぁ。はぁ。

 

「神も必ず皆様の頑張りを見ていらっしゃると思いますので、ご一緒にお勤めを頑張りましょう。」

 

ちなみに皆様は私の魔力の流れがあまりに早いためついていけずにすぐ手を離したそうです。

 

儀式の後は去年までの状況を聞いていきます。

 

なんでも中央に近いところでも5割くらいしか魔力が満たされていない小聖杯が送られるなんてことは当たり前で旧ベルケシュトックについては、ほとんどない状態で送られていたそう。

 

ゲオルギーネ様がどこからか引っ張って来た時もあったらしいけどできなくなってからは、もはやウラノの世界の『すずめのなみだ』だったそうです。

 

それって結局私の魔力じゃん。言うわけにいかないけど。当然そんな状態だから神殿への風当たりはとてもひどいもので皆さん疲れ切っていたのもそのせいらしいです。

 

雪もそこまでなく、冬にも食物を育てられるから何とか凌げていたけどその絶望はひどいものだったそうです。

 

なんで皆さんそんなに神殿を嫌うのだろう。貴族の方が魔力を奉納すればここまでひどい状態にならないだろうに。

 

もはやその発想すらないのかな。

 

旧ベルケシュトック大領地についても領民たちを思うなら自分たちでやればいいだけだったのでは。そう考えるとよくわからなくなります。

 

まあ、きっとここでは私が異端なのでしょう。とりあえずお勤めを果たしますか。

 

8日間かけてようやく終わったのですが、アウブよりウラノの世界の『おかわり』です。

 

いや、命令されてしまえばやるしかありませんが。

 

はぁ、なんでも王族や今まで借りのある他の領地に返しておきたいんだって。

 

他の神官たちに手伝わせるわけにもいかないので、一人でやりましたよ。

 

報酬を求めましたよ。当然ですが。おかげで薬の素材とかユレーヴェの質を上げる材料とか魔術具の材料とかいろいろ手に入りました。

 

余った時間は神殿だけでなく政務を手伝わされたり、読書したり魔術具を作ったり休んだり。終わった後は疲れがたまっていたのか3日も寝込んでしまいましたが。

 

ちなみに旧ベルケシュトック大領地の魔力奉納の件は、後々分かった話なのですが、神殿はアーレンスバッハの領主の町の管轄で旧ベルケシュトックに住んでいる方は完全に青色神官にならない限り関われないとのことです。

 

青色神官になると当然アーレンスバッハのために働かなければならないわけで領主の町周辺を優先...。

 

当然出せる人なんて政変のせいでただでさえいないため旧ベルケシュトックまでは魔力を回すのはとても無理です。

 

いろいろ制度が悪いですね本当に。せめて旧ベルケシュトックの小神殿が独立して儀式を行えればよかったのでしょうが。

 

 

 

 

さて、アウブに小聖杯の魔力奉納の完了の報告と貴族院へ戻るべきかアーレンスバッハの冬の社交場に少し出るべきかお伺いを立てます。

 

城での側近がほとんどいない状態ではまずいので一人増やすので社交ついでに会ってこいとのことで、お母様と社交界へ行きました。

 

「命の神 エーヴィリーベの厳しき選別を受けた類稀なる出会いに、祝福を祈ることをお許しください」

 

「許します」

 

「ローゼマイン様に 命の神 エーヴィリーベの祝福を」

 

アウレーリア様、お父様の弟の子で釣り目な方でどこか緊張感のある方ですが、うーんつながりは全くないはずなのだけどどっかで見たことある方なんだよね。

 

「ローゼマイン様につきましては何度か城の図書室でお見掛けいたしました。」

 

ああ!どこかで見たことあると思ったら。

 

まさかの図書室同盟の方だ!勝手に私が呼んでいるだけだけど。

 

寡黙な方で本のことで多少盛り上がることはあっても言葉少なめに話が進んでいきます。

 

うん、アーレンスバッハでは珍しい人だよね。みなさん喋るの大好きだからなぁ。

 

きつそうな見た目だけど、落ち着いた雰囲気であまり周りにいないタイプです。

 

私にとっては非常に付き合いやすいタイプの方ですぐ気に入りました。ぜひとも側近になってくれるといいのだけど。

 

これが、少しの間お世話になる、アウレーリアとの出会いでした。

 

その後もお母様と第一夫人派の方へ挨拶したり、軽く話したりして、その日の社交界は終わりました。

 

その後も何度か社交界に出た後で貴族院へ戻ることになりました。

 

城ではアウレーリアが側近としてついてくれるなり、何度かお世話になりました。

 

変な恐れとか悲壮感とか喋り続けるとか変なところがない普通の人ってありがたいよね。

 

本も好きみたいだし、どんな本が好きなのかも話してみたいなぁ。でも、この方もゲオルギーネ派の方だし、信頼しきってはいけないんだよね。

 

はぁ、慣れたとはいえしょんぼりです。

 

 

 

さて、貴族院へ戻る前の最後の打ち合わせです。

 

とりあえず、エーレンフェストの者との接触は努力目標へ格下げ。お願いだから効果が出てほしいです。

 

今の私はエーレンフェストへ関わらないほうがいいのは確実なので契約そのものはしょうがないけど、さすがにあれだけ頑張って回避してもダメだと言われるのは非常に困ります。

 

ヒルシュール先生については、一回だけなら会ってもいいと!必ずエーレンフェストの者に会わないことが条件だけど。

 

後は今回通じなかったので連絡用の合言葉等の暗号を一応確認しました。緊急用の連絡経路の確保は側近連中が完全に非協力のため無理だそうです。

 

今回も孤立無援がほぼ確定です。まあ、もう残り短いのでどうとでもなるでしょう。

 

残り期間なら薬は身に付けている分で十分だし、魔紙も空いている時間で大量生産したし、いざとなれば採取場へ行けばある程度は何とかなるしね。

 

ではでは再度貴族院へ行ってきますかね。

 

 

 

 



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40話 領主催のお茶会

「良く戻りましたわ。ローゼマイン。戻る前の状態を見ると心配でしたが大丈夫そうで良かったわ。」

 

「ご迷惑おかけいたしました。ディートリンデお義姉様。」

 

お出迎えまでしてくれるとは、何かすぐしなきゃいけないことがあるのかな。

 

「さてさて、戻ってきて早々だけれども、2回目の領主催のお茶会を開きますわ。今回は代表1名に限定して行うからローゼマインも安心して参加しなさいな。」

 

その後、1回目をいかに大規模におこない他領に見せつけたかを自慢が続きます。

 

うわぁ、もし、私がこのままアーレンスバッハに居続けたらそんな派手に大規模なお茶会開かないといけないのかな。

 

主催なんかできる気がしない...。大げさに言ってくれているといいのだけど。いや、たぶんないな。

 

でも、ディートリンデ様が仕切ってくれるおかげで、私は簡単な指示を出すだけで何もしなくても準備が進んでいきます。

 

こっそりヒルシュール先生に明後日の予定が空いているか連絡をし、その後食堂へ確認に向かいます。

 

前半にお願いしたウラノの世界の水あめもどきどうなっているかなぁ。

 

確認してみると、うまくできるようになったようで、カステラに水あめを加え、さらに柑橘類の皮をすりおろしたものや、果汁を加えたものなど作ってもらいます。

 

ウラノの世界のあんこがあれば、挟んで別のお菓子にできたのになぁ。

 

乳製品も手に入らないわけではないのですが、アーレンスバッハでは暖かすぎるせいかあまり良質なものが手に入りません。

 

まあいいや、砂糖菓子をメインに出しておいて目立たないところにこそっと置かせておいてもらえば問題ないよね。

 

アナスタージウス王子も貧相だとか言っていたし、あまり食べる人はいないだろうからきっと問題ないよね。

 

エグランティーヌ様が来る予定みたいだからないと、何か言われたらいやだしね。

 

しかし、来る人を限定してくれたのにものすごい数のお菓子を用意するんだね。

 

これなら完全に埋もれるしいいかなと思いました。

 

 

 

 

さて、お茶会当日です。

 

何やらヴィルフリート様がお詫びを兼ねて渡したいものがあるということで始まるよりかなり早くにいらっしゃいました。

 

いや、別にアーレンスバッハの事情なのでヴィルフリート様が悪いわけではないのですが。

 

ディートリンデ様も少し配慮してくれたのか、最初はヴィルフリート様と仲良く談笑していました。

 

単純に自分が話したかっただけかもしれませんが。

 

そのあとやっぱり呼ばれ、渡されます。

 

シュバルツとバイツの服とのことでした。リーゼレータさんが中心に作ったそうです。

 

エーレンフェストの城ではこの人とも何度もすれ違っていますし、挨拶もしたことがあるくらいには認識があります。

 

さすがにシュミル好きとまでは知りませんでしたが。

 

「ありがとう存じます。リーゼレータ。」

 

うん、本当にありがとう存じます。

 

白と黒がメインの装飾というのがよくわかっています。

 

わたしもシンプルな色合いのほうが好きです。

 

「派手さがちょっと足りないのではなくて、もっとこう装飾を加えて色合いも加えて。」

 

うん、アーレンスバッハの人としてはディートリンデ様が正しいですね。

 

「ディートリンデお義姉様、図書館はあくまで本を読むところなので下手に目立ちすぎない方がいいかと存じます。」

 

「まあ、そんなものかしら。ローゼマインが気に入ったのなら使わせてもらえばいいのではなくて。」

 

そう言ってディートリンデ様が服を広げます。

 

そこの胸には...。

 

本当にやめてほしいのですが、いや、本当はうれしいんだよ、とっても。

 

ですが感情的になるわけにいかないところでやめて欲しいというか、さっさと何も見ずしまうんだった。

 

うん、トゥーリ、お母さん本当に頑張って作ってくれたんだね。

 

二人かどうかはわからないけど前回のヴィルフリート様の話だときっとそういうことだよね。

 

「ぜひとも使わせて頂きます。頂戴いたします。」

 

できるだけ感情を殺すために、抑揚のない声で言葉をかけます。

 

やはり、努力目標になったおかげかだいぶ反応は緩和され従属の指輪もこのくらいなら大丈夫そうです。

 

その後、すぐに他の領地より人がたくさん来て対応に追われます。

 

基本的にはディートリンデ様が捕まえてくれて持って行ってくださるので非常にありがたいのですが、

 

私はエグランティーヌ様の関係でお姉さま方につかまったりして大変です。

 

カステラは結構好評でした。

 

あのしっとり感のあるお菓子はなかなかないらしく、水あめを加えたのがよかったようです。

 

基本的に砂糖菓子に埋もれているので目立つことなくここにいるお姉さま方以外注目していないのもありがたいです。

 

うーん、思ったより嫌みを言われないね。体が弱いこととか場合によっては神殿についていろいろ言われるかと思ったけど。

 

まあ、領主催のお茶会は2回目だしやっぱりアーレンスバッハが大領地であるのが大きいのかな。

 

といっても、中領地に抜かれての6位らしいけど。最近は順位を落とす一方らしい。

 

当然だよね。内部ガタガタだもの。

 

大体の方々に挨拶を終わって、そろそろおしまいかなという状況になりました。

 

ダンケルフェルガーのハンネローレ様とは一度話したかったのですが、なぜかタイミングが悪く会えないんですよね。

 

まあ、私は時の女神 ドレッファングーアの加護が弱いのでしょう。

 

昔はそんなことなかったと思うのですがアーレンスバッハに来てからは切にそう感じます。

 

うん、今回もダメかなと思ったときに会えました。

 

「あの、ローゼマイン様」

 

うん、あれ、なんか決心したような緊張したような変な雰囲気なんだけど私に何かあったかなぁ。

 

「ハンネローレ様、来てくださってありがとうございます。どうにも一度挨拶をと思ったのですが、私は時の女神 ドレッファングーアの加護が弱いせいかすれ違ってばかりでしたので。」

 

あれ、少しぽかんとしたような。なんか変なこと言ったかな?

 

「わたくし、お兄様のことで会話があったのですけど、このようなところで申し上げることではございませんのでまたの機会に。」

 

お兄様?ディッターの件かな。それくらいしか関わっていないし。こちらこそ良く知りもせず巻き込もうとしてごめんなさい。

 

「ディッターの件ならお気になさらずに。わたくしもいい経験をさせていただけましたから。むしろ巻き込もうとしてごめんなさい。」

 

うん、謝っておかないとね。

 

「いえ、わたくしの方こそ、その...。」

 

やっぱりその件だったのかな。なんか申し訳なさそう。雰囲気的にも非常に気が合いそうな方だし相談を持ち掛けてみますか。

 

「もしそちらの気が済まないというなら今度わたくしの相談に乗っていただきたいのですけど。」

 

この方にはぜひ相談したい、あのディッター集団をまとめる技術を。

 

「あの、それでしたら、よろしければわたくしと友達になってくださらないかと...。」

 

え、本当ですか!ボッチの私と!?もしかしてボッチ村脱出のチャンス?

 

「ええ、よろこんで。アーレンスバッハとはお隣同士ですし旧ベルケシュトックの繋がりもあるのでぜひ仲良くしていただけると嬉しいです。」

 

いきなりウラノの世界の『くーりんぐおふ』するいじめとかないよね。え、ないって言ってよ!

 

やばい興奮すると、まずい落ち着かなきゃ。まあ、いざとなれば髪飾りの魔法陣が起動して...。

 

意識だけは飛ばないようにしてあるんだけどいかんせんはるか高みに上りかけるから嫌なんだよね。

 

ひゃっほい、ウラノの世界の相談相手ゲット。いやウラノの世界関係ないし落ち着け私。

 

そのあと、二人でお茶会をしましょうという話になり2日後にハンネローレ様が招いてくださることになって無事にお茶会は終わりました。

 

 

 

 



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41話 ヒルシュール研究室

約束していたヒルシュール先生の研究室にやってきました。

 

「ようこそ、ローゼマイン様、ここが私の研究室ですよ。」

 

うわぁ、地面にまで設計図。足の踏み場がないとはこのことだね!

 

ちなみに今回は最初に忠誠を誓ってくれた子と来ています。

 

「ローゼマイン様、これは流石に見るに耐えられません。片付けましょう。」

 

「でも、ヒルシュール先生的にはどうなんですの。片付けてかまわないのかしら?」

 

研究者って言ったらいろいろだしね。ウラノの世界でもこちらでも一緒でしょう?

 

かまわないというので、とりあえず片付けるのをお願いしました。

 

「それでフェルナンド様の魔術具と言うのはどこにありますの?」

 

うん、テンションあがるね。だって魔王様の遺産だよ。しかも貴族院時代のテンションあがるでしょ。

 

「ローゼマイン様、こちらに。」

 

うわぁ。ってみんな壊れてる?

 

「あの、先生この魔術具達壊れてますよね。ちゃんと分解してフルメンテナンスしてあげなきゃダメですよ。」

 

簡易メンテナンスはきっちりやっているみたいだけど、なんでフルメンテナンスしてあげないのだろう。

 

「ローゼマイン様はできるのですか?」

 

「やっていいんですの!」

 

え、魔王様の遺産を好き勝手にしていいの!?

 

「ええ、是非とも。」

 

あ、まずい興奮して本来の目的を忘れてた。シュバルツとヴァイスの魔法陣について意見を聞いておこうと思ったんだった。

 

「ヒルシュール先生、時間がない中で申し訳ないのですが是非ともこの魔法陣の採点をお願いしたいのですが。」

 

大丈夫だと思うんだけどね。でも一人では気が付かないことって沢山あるから他の方の協力が欲しいんだよね。

 

さてと、最低限重要な用件は済ませましたし、ではでは心置きなく魔王様の遺産を見ますかね。

 

「うわぁ、初期型、魔王様の設計の初期型です!しかも実物始めてみました。ああ、ここの魔法陣が壊れてる。こちらはうん、金粉固めて、ああ、先生油と魔石あります?ええ、そうです。ありがとうございます。」

 

分解分解、魔法陣が劣化にここは補足して、うわあ楽しい。

 

ああ、初期型のせいか無駄が多い。これじゃ無駄な魔力垂れ流しだよ。

 

テストの後!テストの!これ最終段階で無駄になって省いたと思われる回路が残っている。

 

こいつはもうだめだから、一から材料にして調合し直し!

 

うわあぁ、複写、そっかそうすれば綺麗に見えるようになるのかさすがは魔王様!

 

「先生先生、あと、あれとあれとあれと。」

 

とそこで側近の子が最低限片付け終えたのか

 

「ローゼマイン様、落ち着いてください。祝福が飛び出していますよ。」

 

「だって、だって、あの魔王様の初期型が壊れているとはいえこんなにあるのですよ。」

 

あ、そっかごめん。わからないよね。頭が少しさめました。

 

「こほん、ここにあるのはすごいものなのです。私にとっては、ユルゲンシュミット全土で見てもおそらくなかなか出逢えない知と遊び心の結晶なのです。」

 

「ローゼマイン様が幸せそうならそれで良いのですが。」

 

ヒルシュール先生に片っ端から出してもらい許可を得て効率よく改修したり好き勝手にいろいろさせていただきました。

 

「ローゼマイン様は魔法陣や魔術具の作製が本当にお得意なのですね。驚きました。ユルゲンシュミット全体で探してもここまでできる方はなかなかいないと思いますよ。」

 

「まあ、尊敬するヒルシュール先生にお世辞でもそこまで褒めていただけるとは嬉しいですわ。昔教わっていた人からはギリギリ落第だを唯一もらえたのが魔法陣関係ですから少し自信があるのですよ。」

 

本当に魔王様は、少しくらい褒めてくれても罰は当たらないと思うのですが、まあ、褒めるようなことはしていないってやつですよねきっと。

 

「これだけできて落第ですか...。その教えていた人がどなたかはとっても気になりますね...。」

 

「あの方は、何をしても時間の無駄か落第といった評価しかもらえませんでしたから、ぎりぎり落第はかなり、いえ、とっても頑張ったのですよ。私がもらえた中では最高評価でした。」

 

あれ、先生がなんか難しい顔と言いますか、あきれ顔?

 

「とても厳しい方に教わっていたのですね...。」

 

そんなこんなで楽しい時間はあっという間に過ぎてしまいます。

 

 

 

 

「ヒルシュール先生、今日は本当にありがとうございました。魔法陣の採点も時間のない中で申し訳なかったのですが助かりました。たぶんもう来る事ができないのは本当に残念です。」

 

魔法陣も問題ないとのことだけど、いろいろ改良のアドバイスがもらえました。できればこのまま預かって研究したいと言われましたがさすがに渡すことはできません。

 

必要なところは写してもらえたかと思いますが。

 

はぁ、本当にしょんぼりです。貴族院では緊張しっぱなしのアーレンスバッハの寮よりよっぽど落ち着きます。

 

「いえ、ローゼマイン様。残念なのは私のほうです。まさかこれほどたくさんの使えなくなった魔術具を整備し、改良までしていただけるとは。」

 

「ああ、後ちょっとだけ大丈夫ですわね。わたくしも勝手に改造してしまいましたし、設計図全部書き出しますので今後のメンテナンス改良等に役立ててくださいまし!」

 

うふふん、これだけすばらしい体験をさせていただいたのだから魔紙もバンバン渡しちゃうよ。

 

「先ほどから気になっていたのですが、これはなんですか?紙ですか、それにしては薄くて丈夫で。」

 

「あ、先生なら大丈夫だと思いますけどこの紙は先生が認めた人以外は見せないようにしてくださいまし。先生が認めた人以外は只の白い紙に見えるように設定して...。」

 

「ものすごいスピードで設計図が写りあがっていますね。驚きました、ええ、本当に。」

 

「それでは先生、さっきは説明しませんでしたが、少量魔力をこめてくださいませ、ほら立体的に見えたりいろいろ便利なんですわ。魔王様に唯一対抗できる秘密兵器ですので魔王様には絶対に見せないでくださいまし。」

 

「ええ、まあいいでしょう。本当に興味深いですね。ところで魔王様というのは?」

 

「フェルディナンド様のことに決まっておりましてよ!あの方はすべてを...。ごめんなさい忘れてくださいませ。」

 

やばいやばい、テンション上がり過ぎて気絶しそう。ああ、もうダメ幸せすぎる。

 

あうち!頭の魔法陣が起動しちゃった。

 

ううん、体に身に付けている魔石とかも気が付けばフルチャージだし、もういいよね。幸せなまま眠れるなら。頭の魔道具も切っちゃおう。

 

だめだ、切ったらやっぱり意識が保てないよぉ。おやすみなさい。

 

 

 

 

「ローゼマインさま!」

 

こんなローゼマイン様は見たことがありませんでした。

 

今まで表情はほとんど変わることなく何事にも淡々としているイメージしかありませんでしたから。

 

ところがヒルシュール先生のところへ着くと今まで見たことがないキラキラした目で、と言っても側近として側でよく見ているからわかる程度の変化ですが。

 

なんというか雰囲気がキラキラしていたのです。

 

もしかしたら本来のローゼマイン様は表情豊かな方なのかもしれません。

 

いつもより興奮した声でいろいろ話してくれましたがさっぱり話が分かりません。

 

そしてものすごいスピードで魔術具を直していきます。シュタープで常に3つほど魔法陣を上に展開したまま次々と魔術具が動くようになっていきます。

 

しかも、改良もしているようで、横でヒルシュール先生がずいぶん使いやすくなってますね。とか言っています。

 

しかし最後に倒れてしまわれるとは。何となく心安らいだ顔をしていますからいいのですが。

 

最後になにか気になることを言っていましたが、聞かなかったことにしましょう。

 

「それでは、ヒルシュール先生失礼しますね。」

 

「ええ、くれぐれもローゼマイン様とご許可を頂いたアウブアーレンスバッハに感謝をお伝えください。」

 

 

 

 



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42話 貴族院ぼっち村脱出?

さて、本日はハンネローレ様とのお茶会ですが。

 

うん、昨日はやらかしましたね。何とか夜に起きて薬を飲んで寝たおかげで大丈夫でしたが。

 

お茶会を5の鐘(午後2時くらい)にしてもらって本当に良かったです。午前中は回復させないと厳しいです。

 

 

 

 

「お招きいただきありがとう存じます。ハンネローレ様。」

 

わあ!時の女神 ドレッファングーアに感謝の祈りを捧げたい気分です。こんなに普通に楽しみにできるお茶会は初めてです。

 

うん?まだ正式に友達になったかもわからないのにテンション高すぎだって、だって、村以外で初めてのお友達になれるかもしれないのですよ!

 

目指せ貴族ボッチ村脱出!

 

「ようこそいらっしゃいました。ローゼマイン様。わたくしも楽しみにしておりました。」

 

ああ、いいよねおとなしそうな感じ。でもダンケルフェルガーでは異端じゃないのかな?

 

アーレンスバッハで完全に浮いている私とは違うのでしょうが。

 

「こちらはカステラというお菓子ですわ。貧相な見た目であまり見栄えがしないのですが味は結構評判なのです。」

 

カステラいいよね。いくらでも食べられるよ。カトルカール(パウンドケーキ)は、おいしくしようとするとどうしても油をたっぷり使わないといけないし。

 

「この間のお茶会で隅にこっそりと出ていたお菓子ですよね。結局間が悪く食べることができなかったのでうれしいです。」

 

こんな貧相な見た目の物を出しても喜んでくれるハンネローレ様、マジ天使。

 

いやね、やめようかと思ったんだけど私が好きなものは友達と共有したいじゃない。

 

少しの間、お菓子や食べ物などいろいろな話で盛り上がります。

 

さて、この間も謝ったけど、一応もう一度謝っておいた方がいいよね。あんまり雰囲気壊したくないけど友達になるならけじめは必要だよね。

 

「「あの、」」

 

あれ、声が重なってしまいました。

 

両方ともどうぞどうぞという感じです。もういいや、私の方が言っちゃえ。盗聴防止用の魔術具を一応渡します。

 

「改めまして、この間のディッターについて、ハンネローレ様を巻き込もうとして申し訳ございませんでした。」

 

だって、話している感じ、そこまで争いごとというかディッター好きな感じじゃないんだよね。

 

ディッターの領地と呼ばれるくらいの所だから巻き込んじゃえなんて思ってごめんなさい。

 

私がそういうと、ハンネローレ様が慌てた様子で、

 

「わたくしの方こそ謝らせて頂かないといけません。お兄様の件は本当に申し訳なかったです。」

 

なんでもハンネローレ様が図書館の魔術具について主になりたいとつぶやいたのを、側近が聞いたせいであのディッターへつながってしまったそうです。

 

そんなことで責任を感じる必要はないし、レスティラウト様ってハンネローレ様のこと大好きなんだね。

 

「主のために動ける、すばらしい側近についてもらっているとは羨ましいですわ。」

 

本当にうらやましい。私の周りときたら...。いえ、言ってはいけませんが。

 

彼らの仕事なのでしょうがない。私が彼らの立場でも同じことをするでしょう。

 

「わたくし、最近は時の女神 ドレッファングーアに嫌われてしまっているのかと思ったのですが、本日ハンネローレ様に出会えたことに感謝をしたいですわ。」

 

ほんと、素晴らしい人だよね。トゥーリの次くらいには天使だよね。

 

「わたくしも一緒です。わたくしも間が悪く時の女神 ドレッファングーアに良くお祈りを捧げているのが届いたのかもしれません。」

 

向こうもそう思っていてくれるならうれしいなぁ。うん、本当にうれしい!

 

「もしよろしければ、明日の3の鐘(9時くらい)に図書館へ一緒に参りませんか。シュバルツとバイツの主の座は渡せませんが触るくらいはできるかもしれません。」

 

本当は譲りたいのだけど...。

 

ディートリンデ様も本当に気に入ったらしく、たまに図書館に来て触っているから譲りたくても譲れないんだよね。

 

ディートリンデ様はダンケルフェルガーと仲悪いし。

 

「まあ!本当ですか。明日の3の鐘ですね。楽しみですわ。」

 

これで許可出せなかったらどうしよう。できなかったらあの魔術具、本当に『ぶんかい』してやりましょうか。

 

ほかにも、ダンケルフェルガーの歴史に興味があるとか、いろいろお話しました。

 

 

 

 

次の日、

 

「おはようございます。ソランジュ先生」

 

「おはようございます。ローゼマイン様とハンネローレ様方。ハンネローレ様におかれましては無事にローゼマイン様とお会いできたようでようございました。」

 

え、なんでもわざわざ私に会うために何度か図書館に足を運んでくれていたんですって。

 

ええ、そうなんですか。わざわざ私なんかに会うために図書館に来るというのは本物の天使ですか!?

 

私の中でハンネローレ様の好感度がどんどん上昇していきます。

 

「ひめさまきた」

「しごとがんばった ごほうび」

 

飯よこせならぬ、魔力よこせですね。あいかわらずこの魔術具は。

 

とは言っても動かなくなると困るので、たっぷり魔力をあげます。

 

おおう、ハンネローレ様がシュバルツ、ヴァイスに釘付けです。

 

「ハンネローレ様、触る許可を出せるか確認しますね。」

 

「お願いします!」

 

触りたくてしょうがないって感じだよね。これで主になれるとかだったらダンケルフェルガーに負けた方がよかったかも...。

 

「シュバルツ、ヴァイス、ハンネローレ様に接触の許可と協力者として許可を。」

 

「わかった、ひめさま」

「ハンネローレ きょうりょくしゃ」

 

おお、こんな素直なこの魔術具たちは初めてです。

 

いや、逆らってもよかったのですよ。分解する口実ができますので?

 

「ところで ひめさま」

「あるじ こうたいするの」

 

この魔術具...いえ、ハンネローレ様が主の方がこの魔術具たちにとっては幸せかもしれませんが。

 

もう少し早く言ってくれればよかったのに。本当にタイミングが悪いです。

 

やっぱり時の女神 ドレッファングーアに嫌われているのでしょうか。

 

「シュバルツ、ヴァイス。わたくしはあなたたちに触ることができればそれで十分です。」

 

ほんと天使だよね。「そんなことよりディッターしようぜ!」の領地の姫とはとても思えません。

 

はぁぁ、幸せそうにシュバルツ、ヴァイスに触るハンネローレ様を見ているだけで和みますね。

 

私はただこの魔術具達の構造を解析したいだけっていう残念さんだけど。

 

いや、この魔術具がシュミルじゃなくて、レッサー君だったら間違いなくハンネローレ様と同じ状況になったと思うよ?

 

「ソランジュ先生、こちらの魔石をお役立てください。」

 

「まあ、ありがとう存じます。ローゼマイン様のお心遣い感謝いたします。」

 

普段から魔石に魔力を蓄積してますからね。

 

ヒルシュール先生の時もかなりたまりましたし。

 

一年くらいは防御の魔法陣に魔力を込めなければきっといけるよね。

 

しばらく触って満足したのかハンネローレ様が幸せそうな表情をしながらシュバルツ、ヴァイスを離します。

 

そうだっと、以前図書館で読み込みまくってウラノの世界の『えらー』ではじかれたメモについて確認しなきゃ。

 

「シュバルツ、ヴァイス、三本の鍵の在処と、それで開く扉の場所はわかりますか。」

 

「ひめさまここだ」

「とうろくする」

 

うん、思いっきりソランジュ先生が管理している引き出しなんだけど...。

 

「これは、上級貴族の魔力がないと登録ができません。」

 

うん、ということは魔力をごまかせばいけるってことか。

 

ここには、領主候補生二人、あと一人で行けるなら...。

 

「ハンネローレ様、よろしければ付き合ってくださる。」

 

「私でよければ、付き合いますけど。」

 

よっし、協力者ゲット。

 

「ソランジュ先生、こちらの魔石の付いた手袋にこの薬品を一滴たらしてくださいまし。」

 

「え、ええ、構いませんが。」

 

うふふん、要は魔力をごまかせばいいんだよね。

 

私の魔力は特殊らしくて限りなく透明に近いという実験結果が出ていたから同調薬で染めてやれば行けると思うんだよね。

 

「では、その手袋越しに登録してみてください。」

 

「登録できましたわね...。」

 

ひゃっほい、さあ、さらなる知識の深淵へ行ってみよう!

 

「では、シュバルツ、ヴァイス、この鍵を使うフロアに案内してくださいませ。」

 

「本当はダメなのですが、特別ですよ。はぁ。」

 

ソランジュ先生ごめんなさい。でも知識の宝物庫がそこに眠っているとなれば見たいのは当然ですよね。

 

 

 

 

さて、地下書庫へやってきました。まあ、この魔術具達についてきただけなんですけどね。

 

で、三人で鍵を開けたのですが...。

 

「ソランジュはしかくない」

 

ソランジュ先生!ごまかしでも無理ですか。

 

「わたくしは戻ってますので、終業までには戻ってきてくださいませ。」

 

ありがとうございます。

 

「ひめさま いのりたりない」

 

うふふん、ここの本が読めればなんでもいいよぉ。

 

「さて、ハンネローレ様はどうしますか。あまり興味がないようでしたらシュバルツ、ヴァイスと遊んでいてもよいかと存じますが。」

 

「いえ、こんな機会でもなければ入れない場所なのでローゼマイン様が迷惑でなければ一緒にいたいと存じます。」

 

なんですか、この素晴らしい人は、ウラノの世界の後光がさして見えます。

 

調べてみると、王族の日記とか、いや非常に興味はあるし、後で読み尽くしたいけどまず全体把握からだね。

 

しばらく、いろいろなところから本を出し流し読みしていると、いい情報がたくさん転がっています。農業は全くないけどね。

 

昔の儀式とか、図書館の魔術具についてとか、これは祠の場所かなぁ。

 

とりあえず必要そうな情報を魔紙に片っ端から写していきます。

 

うん、身に付けておいてよかったね。いや、いざとなったら魔法陣を書けば色々使えるからいつも身に付けているんだよ。

 

でもさすがに沢山はないから必要なところだけ重点的にね。ウラノの世界の『ぴっくあっぷ』だね。

 

あの魔術具たちも、私の今の知識では複雑すぎて解析しきれず穴だらけだったけど、ウラノの世界の『ぷろとたいぷ』ってやつの設計図とかあるから、後は合わせて埋め直すだけです。

 

もう、本当にシュバルツ、ヴァイスの主の座とかどうでもいいですね。

 

はぁ、名残惜しいけど、ソランジュ先生に迷惑かけるわけにはいかないのでハンネローレ様に言われて出ました。

 

ちなみにハンネローレ様は王族の歴史とか興味深かったそうです。

 

また来たいなぁ。今回は特別だって言っていたからしばらくは来られないのでしょうしね。

 

その後、ハンネローレ様にお礼を言って別れました。

 

ついでに服の募集の張り紙はいたずらをした生徒がいたらしく燃え上がってしまったそうです。

 

ご迷惑おかけしました...。

 

 

 

 



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43話 一年目貴族院終了

さてさて、図書館での無理が(たた)ったのかまた寝込んでしまいました。すでに寝込んで2日目です。

 

というか明らかに従属の契約が発動した代償のせいか魔力のめぐりが悪くなっているように感じます。

 

ですが、今日は領地対抗戦です。薬で無理すれば出られないことはないと思いますが。

 

「ローゼマイン、お主は今日と明日はおとなしく休め。」

 

はい?いやお父様、領主候補生として余程の事態でない限り出ないというのはまずいのでは。

 

「エーレンフェストからの疑いの目が大きい。下手なことをして今ことを大きくしたくない。」

 

まあ、ヴィルフリート様とか、完全に疑ってましたというか、もはや断定状態ですものね。

 

村の家族まで巻き込んで、ひどいことにならないといいのですが。いや、本当にうれしいんだよ。まだ繋がりがあることがわかっただけでも。

 

「わかりました。大人しくしています。」

 

正直な話、別に領地対抗戦とか興味ないのですよね。

 

アーレンスバッハの順位とかどうでも...。おっと思考停止。

 

うーん、せっかくですので、アーレンスバッハのこの本の現代語訳と礎の知識に基づいた歴史を記した本でも作りますかね。

 

イメージを転写っと。コピーしてペッタン!しないの?あれはイメージの転写とは別なのでしませんよ。

 

まあ、イメージをコピーしてペッタン!しても同じ現象を起こせるわけですが。

 

 

 

 

終わりっと。外はどうなっているのでしょうか。

 

同じ領主候補生として、ディートリンデ様だけに対応を任せてしまい、私だけこんなにのんびりとしてしまっていて良いのでしょうか。少しだけ申し訳なくなります。いた所で私は社交で役には立たないわけですが。

 

エーレンフェストからはジルヴェスター様とかが来ているのかな。

 

結局、ほっぺたを突いて、ぷひって何だったのでしょうか。

 

せっかく時間ができたのですから、時間があるうちにこの間のシュミルの魔術具の設計図とかの解析でも行いますかね。

 

 

 

 

うん、どう考えても単純に複製するには材料が足りないですね。

 

魔王様は本当にどうやって材料を調達していたのでしょうか。

 

せめて、戦闘用に特化してレッサー君のぬいぐるみの様にして、少しずつ量産していくしかないですね。

 

来年の貴族院用に小型化したシュミルタイプも考えなきゃ。来年も今年と同じで側近連中も役に立たないでしょうし。

 

 

 

 

いろいろやっていたら、あっという間に二日間過ぎました。

 

優秀者とかについては全く興味がないので聞いてません。

 

誰が優秀者であろうと私には関係のない話です。

 

アウブからも領主一族として最低限恥ずかしくないという話は、普通に合格すればよいということで間違いないですよね?

 

 

 

 

さて、次の日です。どうにもハンネローレ様が図書館でお別れ前にお会いしないかとお誘いを受けました。

 

お見舞いにも来てくれていたようなので、せっかくなので作ったばかりの本を貸し出します。

 

ハンネローレ様は、本はあまりお好きではないかもしれませんので、あくまで来年お借りする予定のダンケルフェルガーの歴史書の担保としての貸し出しです。

 

貸してくれなきゃヤダよって、迷惑かな...。

 

もちろん、ウラノの世界の『すぷらったー』でいいのかな、『ぶらっでぃかーにばる』でもないし、なんか違うけどあれな歴史書は私が持っているだけで封印です。

 

こういう本って読むだけで憂鬱になるよね。

 

なんで本にまとめてしまったのでしょうか。話としてはウラノの世界の『びーきゅう』だよね。

 

最後にシュバルツ、ヴァイスに最後の魔力補給をしてって、なんか本が足りなくありません?

 

「ソランジュ先生、本の返却はどうなっているのですか。こんなに本棚って空いてましたっけ?」

 

「それが、年々ひどくなっていくばかりでして...」

 

なんでもソランジュ先生は中級貴族なので言ってもなかなか聞いてもらえないそう。

 

「シュバルツ、ヴァイス、本を返していない方を一覧にしてくださる?」

 

うーん、これはまずいね。アーレンスバッハにも普通に返していない人がいます。

 

「これって普通に窃盗罪ですよね?王族の持ち物なのでこのまま放置すれば先生の身も危ういのでは。」

 

「そうなのです。本当に困ってしまって。わたくしが言っても聞いてもらえないので。」

 

ソランジュ先生に迷惑をかけるのは、まずいです。ハンネローレ様もダンケルフェルガーに返していない人がいますので慌てています。

 

「いまから1つの鐘以内に返しに来たらシュバルツ、ヴァイスに一時的に触れる権利をあげるとか言ったら返してもらえませんかね?」

 

ついでに全部の本を返却しない寮には、絶対に触らせないといった脅し文句も加えて...。

 

でも、私みたいに興味のない人もいますし、うまくいくかなぁ。

 

「シュバルツ、ヴァイス、協力してもらえませんか。」

 

「わかった ハンネローレ」

「きょうりょくする」

 

この魔術具は...。私が言っても絶対協力しなよね?

 

もう、ハンネローレ様が主でいいのでは。

 

そのあと、貴族院の女性の方々が殺到しひどい目にあいました。

 

男性陣からも返していない本を奪い取って持ってきてくれましたよ...。触りたいだけのために。

 

 

 

 

非常に最後の最後で疲れましたが無事帰路につきました。

 

ディートリンデ様はどうしたって?

 

なんかずっとご機嫌でおーほほという感じでしたけど何かあったのかな?

 

 

 

 




貴族院一年目の長さに絶望しました。

この後は領地関係10話、貴族院関係10話くらいで書いていきたいと思います。

大体80話くらい、3年目で物語を閉じる予定です。


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44話 貴族院より帰宅後

「ただいま戻りました。」

 

はぁ、ようやく終わった。貴族院の前半は本当に地獄でした。

 

さて、なんでもこれから会議とのことです。アウブの弟君の家族も含めて会議だそう。

 

別に私いらないよね。え、逃げちゃダメ?はぁ、仕方なく案内され会議室へ向かいます。

 

えっと、他に知らない人は、ゲオルギーネ様の子でディートリンデ様のお姉様とその夫かな。

 

あと、アウレーリア様の妹さんは別にディートリンデ様の側近だからここではいいか。

 

まあ、アーレンスバッハの行く先と言っても、ゲオルギーネ様を含め身内だろうと平気で毒殺をしかける人がたくさんいるし、お先真っ暗だね。

 

ちなみにアウブの弟君とディートリンデ様のお姉様の夫は、神殿の関係者である私を侮蔑した目で見てきて挨拶時も話をしたくもないという感じでした。貴族院でもそういう人は結構いたけど思ったより少なかったな。

 

ディートリンデ様のお姉様は、何というか、ディートリンデ様の話をずっと聞いている感じだよね。

 

この人は、神殿に関しては興味がないという感じなのでわたしに対してもあまり興味がなさそうかな。

 

恐らく夫任せの人なのかな、だとすると余り私は近づかない方がよさそう。

 

結局側近になったアウレーリアと細々と話していると

 

「アウレーリアお姉様、ローゼマイン様、少しお話させていただいてもよろしいですか。」

 

アウレーリアの妹さんね。この方も良くわからない人なのですよね。

 

なんとなくトゥーリに似ているようなところもある気がするけど、ディートリンデ様に常に追従しているだけだしなぁ。

 

側近の方達の微妙さなら私も負けないけど。

 

「ええ、アウレーリアの妹ですもの。貴族院ではあまりお話したことはございませんでしたし。」

 

他の人の側近とこういった機会でもないと話すことってあまりないからね。

 

私は側近とすらまともに話してなかった。はぁ。

 

「ローゼマイン様には、感謝しております。ディートリンデ様があそこまで普通に過ごされた年は側近になってから初めてです。」

 

普通?え、私は振り回されっぱなしだったけど何かあったのだろうか。

 

「えっと、この場で話していい内容なのかしら。」

 

下手したら主批判だよね。私の知ったことじゃないけど。

 

「ええ、どうせ聞こえません。ここだけの話にしてください。」

 

まあ、あれだけ夢中になっていればねぇ。大人たちは大人たちで固まって何かやっているし。

 

私って本当に場違いだよ。そのあと、主批判ぎりぎりの発言で話が続きます。

 

というか、ディートリンデ様がやけに私に講師させたり、いろいろ動くのを取りまとめていたのは、あんたか!

 

なんか、ほとんど問題を起こさないで終わって感謝しているとか言っているけどやっぱり侮蔑の色があるんだよね。

 

トゥーリとは大違いだよ。ものすごく腹黒いね。まあ、ゲオルギーネ様のもとではこのくらいでないと生きていけないんだろうね。

 

そんなこんなでいろいろ勝手に情報を喋ってくれるので聞いていると、アウブに呼ばれます。

 

「アウブ、何か御用でしょうか?」

 

「今回の表彰式で最優秀者だったそうだな。」

 

「何の話でしょうかアウブ。」

 

最優秀者?そんな話ありましたっけ。

 

「聞いていないのか。お主は一年の最優秀者であった。ディートリンデに代わりに出させたが。」

 

何も聞いていないのですが、成績なんて興味もありませんでしたし。

 

「それでだな、ローゼマイン、アウブアーレンスバッハになる気はあるか?」

 

そんなことより帰らせてください...。え、アウブはいきなりこんな大人たちの前で何を言っているのでしょうか。

 

「知っての通りわたくしはアウブに興味はございませんし、体の関係からアウブのお勤めができるとはとても思えません。」

 

「とのことだ。当然私もローゼマインをアウブにするつもりはない。」

 

なんでも、ゲオルギーネ様や他の大人たちが私を警戒しているようです。

 

侮蔑の対象に警戒とか。一言無駄だからやめてくださいって感じだよね。

 

少しだけ私に対する話が続き、下がってよいとの言葉をもらったので下がりました。

 

その後、あまりいる意味のない会議は終わりました。

 

 

 

 

さて、まだ冬なので神殿に戻る理由がないので、図書室です。

 

アウレーリアが一緒についてきてくれます。彼女も話していてわかるのですが結構本好きの様です。

 

なぜ文官にならなかったのかと聞くと、恥ずかしそうに話下手だと言うのです。ウラノの世界の『コミュニケーション』の能力不足です。

 

仲間です!一層親近感を持ってしまいます。

 

余りゲオルギーネ様の派閥だから近づきすぎてはいけないのですが...。

 

 

さて、今、稲を見つけるのにできることは貿易しかありません。

 

他にも素材回収に行かないと、まったく魔王様の薬の素材は高いものばかりです。

 

少しでも汎用的な材料で、素材が耐えられるぎりぎりまで魔力を注入することで何とか賄っていますが、城で分けてもらうのも限界ですし何とかしないといけません。

 

ユレーヴェも何とかしないといけないし、図書館の魔術具も護衛のため作らなければなりません。

 

幸い洗礼式までまだ時間がありますし、計画的に行わなくてはって...。

 

「あの、アウレーリア様。エーレンフェストの本をそんなに広げてどうしたのですか。」

 

こっち来てからエーレンフェストについて調べている人初めて見た。

 

「ええ、エーレンフェストに興味がありまして...。」

 

なんですと!アウレーリア様に対する好感度がって...仮想敵国だからとか言わないよね?

 

「何か聞きたいことがありまして、わたくし結構エーレンフェストについて詳しいですよ。」

 

他の人にエーレンフェストに聞かれるのもあまりよくないので、城の私の部屋へ移動します。

 

「それで、エーレンフェストについてはどうして調べていますの?」

 

少し困り顔です。まあ、何か訳ありだよね。

 

「何か言えない理由でも?まあ、悲しいですが今の情勢では、エーレンフェストとはお世辞にも仲がいいとは言えませんからね。」

 

うん、じゃあ私が勝手にしゃべっちゃうよ。

 

「よろしければ、私が知っていることを適当に話しますのでお聞きしたいことがあったら、その都度聞いてくださる?」

 

エーレンフェストの歴史から、食べ物とか地域のこととかアーレンスバッハとの違いについて話していきます。

 

ああ、私こんなにもエーレンフェストのこと話したかったんだなと勝手に救われた気になりました。

 

アウレーリア様は、どの話も興味深そうに聞いてくれます。

 

「よろしければ、領主一族について知っていることをお聞かせ願いますか。」

 

おっと、来たね。質問が。領主一族と言えば...。

 

まず、ジルヴェスター様かな。

 

「アウブであるジルヴェスター様は、何というか身内にお優しい方で争いを好まない方ですね。」

 

魔力量に関係なくヴィルフリート様を次期アウブに確定させたり身内には甘くなるという話など、私の知る限りの話をしていきます。

 

「ランプレヒト様についてですか?」

 

うーん、困った。あまり記憶にありません。

 

「特に難点はなくエーレンフェストの人材の関係から次期騎士団長になるのではないかと目されている方ですが、そこまで詳しく存じ上げません。」

 

「実はわたくし...その、ランプレヒト様より...私の水の女神になってくれと...。」

 

え、本当に!結婚を前提に付き合っているの!すごく恥ずかしそう。

 

どんなところが好きなのかいろいろ聞き出しちゃいました。

 

「わたくし的にはエーレンフェストに嫁ぐのはとってもお勧めできますけど、家族とはしばらく会えなくなる覚悟はあるのですか。」

 

「もちろん、覚悟しております。」

 

あるそうです。すごいそんなに好きなんだ。

 

「アウレーリア様は、言うまでもなくエーレンフェストよりも上位領地より嫁ぐことになりますのでそんな方が夫をたてる態度を見せるだけでもだいぶ違うかと思います。」

 

その後に苦手でも頑張って最低限社交に出るだけでも違うよと伝える。

 

「あと先ほど話した通りジルヴェスター様はとっても人情家なので内側に入ってさえしまえば守ってくださるでしょう。」

 

うん、争い嫌いな感じだしね。身内を切れないアウブなんてライゼガングの方々はけなしていたし。

 

「後は、神殿に拒否感がなければ、神殿より支援を得られるように手配します。」

 

魔王様は話をつける材料さえあれば動いてくれる方だし。

 

「あそこの神殿にいる方はアウブとある意味で同等の権力を持っている方がいますのでその方に話をつけられるようにいたします。」

 

うん、切れるカードは全部切らなきゃだけどこのためならば惜しくないよね。

 

「ローゼマイン様は、なぜ、そこまでエーレンフェストについてくわしいのですか?」

 

うん、まあ、暮らしていたからとはいえないよね。

 

「エーレンフェストはユンゲルシュミットの中でも昔の神殿文化が残っている数少ない領地ですの。以前に少し連絡を取っていた時期がありましてそこでできた伝手なのです。」

 

うーん、なんか納得いかない感じかな?

 

「では、なぜわたくしの為にそこまでしてくださるのですか。」

 

あ、まずい。これでは私がエーレンフェストの関係者だって言っているようなもの?まあいいや。

 

「アーレンスバッハにとって必要なことであるなら領主候補生として支援は惜しみませんわ。」

 

うんうん、魔王様と対立なんて考えただけで恐ろしい。

 

「エーレンフェストとの友誼をわたくしが望んでいるからでは駄目でしょうか。」

 

さてと、どうしよっかなぁ。昔の伝手が使えれば...無理すぎる。

 

最悪ゲオルギーネ様と取引するか。

 

なんでも、数日後にランプレヒト様が来るとのことなので主として会わせてもらうことになった。

 

冬のエーレンフェストから来るの大変だろうに。南側だからまだ楽だけど。

 

 

 

 

ランプレヒト様と城で会うことになりました。

 

お父様に言って、アーレンスバッハの領内にいる間はエーレンフェスト関連の制約は解除してもらいました。

 

アウレーリア様とランプレヒト様とお付きの方だけだ。

 

「ランプレヒト様、領主候補生である私の方が上位かもしれませんけどわたくしから挨拶させていただきますね。」

 

ランプレヒト様は少し慌てた感じだけど少しくらいウラノの世界の『むちゃぶり』をさせてもらいたい。

 

実際のところ微妙な差だから、どちらからやってもそこまで問題ないよね、きっと。

 

「命の神 エーヴィリーベの厳しき選別を受けた類稀なる出会いに、祝福を祈ることをお許しください」

 

「許します」

 

「ランプレヒトに命の神 エーヴィリーベの祝福を」

 

一連の決まり文句と祝福の交換をします。うん、まあ昔の関係ならこれが普通なんだけどね。

 

さて、会うといっても、あまり話している時間はありません。

 

「さて、ランプレヒト様。アウレーリアのどういったところを気に入ったのか教えてくださいまし。」

 

この方はほとんど関わったことがないんだよね。きっと向こうも私のことはほとんどわからないはず。

 

この後に、ランプレヒト様からのろけ話を聞きます。うわぁ、初めのイメージとのギャップがすごいですね。

 

アウレーリアはランプレヒト様が好きなのは確かによくわかるのですが、恥ずかしがってなかなか話してくれませんし、お相手の方から聞くというのも面白いですね。

 

いえ、本当にこの二人らぶらぶだね。ちゃんと思いあっているようで良かった。

 

「ランプレヒト様におかれましては、どうにも魔力量の差でアウブの弟君より反対されているとお聞きしています。」

 

「ええ、その通りです。ローゼマイン様。」

 

「もし今から魔力量を増やすことができると言ったらどんなことでもしますか。」

 

「そんなことが可能なのですか!」

 

相手から了承を得たので、まず、いつも通りに魔力圧縮をしてもらいます。

 

うーん、詰め込んでいるだけだね。それも漠然と。

 

「まず、服をこのようにきれいに畳むよう意識してくださいませ。」

 

うん、あまりイメージができないみたい。実際に服を畳んでもらって、苦戦しそうだな。

 

「ちょっと失礼しますね。」

 

魔力機関のある体の中心近くに私は指をあてる。

 

「それでは今言ったように意識してくださいませ。」

 

うん、無理やり誘導しちゃうよ。

 

やっぱり一度経験しちゃえば簡単だね。すぐコツをつかんだみたい。

 

この魔力誘導は魔力の色がほぼ無色の私だからできる技でほとんどの人はできないらしいです。

 

もちろん相手が受け入れてくれなければ誘導なんてとてもできるものではありませんし、きっかけ程度でしかないので使い道はないに等しいのですが。

 

「驚きました、いつもより魔力の圧縮度合いが上がったのがすぐにわかります。」

 

まだまだ、夏の初めまでに何とかしないといけないから...。

 

「ランプレヒト様、いつもシュタープの武器で全力で攻撃するときにどういった意識をしておりますか?」

 

「私の場合は剣ですが、剣に魔力をできるだけ詰め込むよう魔力を圧縮させて一気に放つ意識ですね。」

 

ふーん、なんだできているんじゃん。

 

「ではその意識を、さっきの圧縮した魔力に加えてくださいませ。」

 

ちょっと折りたたむのを誘導し直して、そのあと一気に詰め込む。やっぱりイメージできているだけ簡単にできますね。

 

とっても苦しそうだけど。

 

「今の意識で少しずつ増やせば、夏までにはアウブの弟君に認めていただけるだけの魔力量になるかと存じます。」

 

今回助言してみて思うことは、魔王様はこの結婚反対なんだろうな。そうでなかったら魔力圧縮のアドバイス程度するだろうし。

 

「もしわからないことがあるのなら、神殿にいると思われますエーレンフェストの魔王様にでもお聞きくださいませ。」

 

「魔王様とは...。」

 

ランプレヒト様も少し苦笑いです。やっぱり魔王様で通じるんだね。

 

「さて、アウレーリアの主として聞きたいことは聞けましたので失礼しますね。後はごゆっくり。」

 

この方なら大丈夫そうだ。せっかく得た信頼できそうな人を失うのは痛いけど。

 

後はどうするかだなぁ。エーレンフェストは反対と見るべきだろうし。

 

 

 

 




最初はアウブの弟君や、アウレーリアの妹マルティナさんやブラージウス、アルステーデ夫妻を出したかっただけです。
アーレンスバッハはアウレーリアとマルティナさんやディートリンデ様とアルステーデのように姉妹だと正反対の性格になるという決まりがあるのでしょうか。




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45話 祈念式など

さて、春の洗礼式まで、まだ時間があります。

 

アウレーリアも暇ではないのですが、時間がある時に素材の回収を手伝ってもらいます。

 

まあ、私は体が弱いですしどうしても休む時間を作らなくてはいけないので、ちょうどいいのです。

 

いやぁ、今まで一人で頑張ってきましたが、協力者がいると楽ですね。

 

祝福して、私は守りと支援に徹するだけで素材がどんどん集まります。

 

「いつもありがとう存じます。アウレーリア。」

 

「いえ、私もいい訓練になりますし、素材も助かっています。それに魔剣の魔力まで。」

 

アウレーリアは、使っていない魔剣を持っているとのことなので魔力をプレゼントしました。気まぐれに魔力を注ぎ込んでいったら勝手に支援魔術をしてくれたりいろいろ便利になったそうです。

 

属性も...。普通のことではないそうです。

 

え、アウレーリアはゲオルギーネ派なのにいいの?

 

エーレンフェストに行く方ですし、利害も一致してますし性格も合いますし、信頼する要素がここまでそろえば後は裏切られても諦めがつきます。

 

アウレーリアがいる間に、私の戦闘力を少しでも賄えるようにしないとはるか高みに上りかねない立場なのです。

 

ユレーヴェの材料も季節でとれないもの以外は集まり、魔紙や、図書館の魔術具の材料もどんどん集まります。魔石もたっぷりと集まりましたし最高です。

 

休んでいる間は神殿での決済や計算、たまにお父様とお母様の健康診断をおこなったりしました。薬物反応を調べると結構仕掛けてきているようで解毒予防等も定期的に行います。

 

側近連中の分まで作るよう命令を受け、素材の消費は無いものの結構大変でした。

 

というか、アーレンスバッハは毒についての研究が盛んでいやになります。

 

特に薬関連の部署はゲオルギーネ派の方がとっても多いので大変です。

 

実際に正しく使われているか確認し、違反者ばかりでしたのでアウブの許可で手をいれたらだいぶましになりました。

 

ただ、やはりと言いますか、さすがにゲオルギーネ様まで届く証拠は全くでないのですが。

 

加えて、ゲオルギーネ様子飼いの方までは手を出せません。

 

あの方は、なぜそこまで領主一族を消そうとするのでしょうか。

 

領主一族が減れば一番困るのはゲオルギーネ様だというのに。

 

社交シーズンを終え、春の訪れを祝う会がありましたが、私は欠席。

 

本当はほとんどの貴族が集まる場なのだけど、あえてそういう会を欠席することで体調面に不安があり優秀かもしれないがアウブには絶対になれないということを印象づけたい模様です。

 

まあ、他にも神殿に関する侮蔑とかいろいろあるので他の理由かもしれませんが。

 

命令ならしょうがないよね。めんどくさい行事を回避できたなんて喜んでいないよ?

 

さて、春の洗礼式も午前、午後共に祝福を普通にあげたら、午前の平民の洗礼式は、ちっちゃい神殿長だとか指を指されて言われてましたが祝福を贈ったら尊敬の目に変わりました。ふふん。

 

午後はなんでか、がっかりされました。以前やった派手なのを期待したそうです。

 

いや、あんなのは命令がなければやりませんから。

 

その後はチクチクあの図書館の魔術具の服に魔法陣を縫ったり、私の服にも魔法陣を仕掛けたり、消えるインクで強化したり。

 

エーレンフェストの方々から贈って頂いたシュバルツ、ヴァイツの服についている花を見ると、どうしても手が止まってしまいますが。

 

起動だけなら問題ないところまでいって、レッサー君軍団を...。

 

さすがに量産するには時間が足りません。

 

あれ、神殿長、お願いします、いい加減出て来てくださいとずっとうるさいのですが何かこの後しなければならないことってありましたっけ?

 

アウレーリアも忙しそうですし計算、決裁も少しならためても問題ないところまでやったつもりでしたが。

 

 

 

うん...忘れていたわけではないんだよ。ものすごく大事な儀式を。

 

ええ、祈念式ですが、まだ少し余裕があるはずです。

 

「それで、担当と回る順番はどうしますか」

 

エーレンフェストの時は交代で1つしかない聖杯を回していたけど、まあ、最後は基本的に魔王様と私が交代しながらやっていましたが。

 

「それが、アウブより直々に命令書が届きまして...。」

 

いやぁ!魔力のこもった領主印入の命令書。

 

魔力がなければ強制力は発揮しませんがこれはウラノの世界の『あうと』です。強制命令です。

 

まだ私宛なので見ていないようで、仕方なく封を切ります。

 

要約すれば、すべての直轄地より私に来てほしいとの嘆願書が来ているので、直轄地は一人で全部回れ...。

 

手紙を叩きつけなかった私の精神力を誉めてもらいたいです。ええ、心の底から。

 

「アウブからはなんと?」

 

私は黙って手紙を神官長に渡します。

 

なんで、みんなホッとしたような表情しているの。

 

酷くない!?

 

「アウブよりの命令でしたら。ローゼマイン様どうぞよろしくお願いします。」

 

丁寧に言ったってダメだからね!

 

ああ、アウブは絶対、アウブは絶対...。

 

ええ、行ってきますよ。

 

素材回収ついでに直轄地以外も回りたかったのに。

 

神殿を中心に直轄地を回っていきます。

 

何度か攻撃されそうになりましたが、なんでみんなレッサー君の魅力がわからないのでしょうか。

 

途中何度か寝込んで予定通りには当然いきません。

 

最後に旧ベルケシュトックへ。

 

といってもここの直轄地は、あまり広くないので私でなくてもいいと思うのですが。

 

他のところでは、神殿というだけであまり歓迎されず、引き留められなかったので良かったのですが、この地は違いました。

 

前年の事件がありますからね。

 

なんと言ったらいいのでしょう。

 

小神殿に人集りができているのですが。

 

「ローゼマインさま、ようこそお出でくださりました。」

 

「お出迎えご苦労様です。ところでこの人集りはなんでしょうか。」

 

「ベルケシュトックに舞降りた天使であるローゼマイン様を一目見ようと集まっておるのです。」

 

あなたもそんな興奮した目で私を見ても祈念式以上のなにかはでないよ?

 

いや、儀式場が残っていれば各地で儀式を行えば収穫量があがるかもしれないけど。

 

そこまでやると後が怖いです。

 

なにやら神の儀式なのにお祭り騒ぎでした。

 

わざわざギーベの方々が来て、挨拶していきましたが去年とは違って私に気を使ってくれているようでした。

 

 

 

 

帰ってからは、魔術具といきたいですが、孤児院の視察とか、花捧げの関係とか、と言っても希望者だけにはしてますが。

 

私が神殿にいると神殿に来る貴族がほとんどいなくなるのでとても助かると神官長等に言われます。

 

孤児院の方々には神殿を綺麗にしたり、農業で、様々な食べ物を育てさせたり貴重な労働力です。

 

基本的に払下げよりも自分たちで作ったものの方がいいですしね。

 

数学とかも代々の方々が教えているお陰か結構できるので経営に関わってもらっている方もいます。

 

 

 

 

後はアウレーリアにと言っても、どうも輿入れの準備等で動いている模様です。おかげで忙しくほとんど手伝ってもらえません。

 

なんでもランプレヒト様の魔力が成長期を終わった後にもかかわらず上がっていくのを見て、アウブの弟君が許可を出したそうです。

 

今度の領主会議でエーレンフェストに話を持ちかける流れのようです。後は果たしてエーレンフェストが、認めるかどうかですね。

 

レティーツィア様の件といい、いろいろ大変そうです。

 

まあ、大変なのはアウブであって私ではないのですが。

 

 

 



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46話 領主会議と顔合わせ





領主会議でアウブと第一夫人不在の状況でゲオルギーネ様から私的なお茶会の呼び出しです。

 

これには非常に困ってしまいました。普通なら断るべきです。

 

せめてアウブがいる間に話すべきでしょう。ですが、本音を聞き出すならこれはまたとない機会なのです。

 

アウブがいない以上、私に命令権を持っている人は不在な訳で...ゲオルギーネ様とは感情は別として、おそらく同じゲドゥルリーヒを持つ者として一度話をしてみたいとは、ずっと思っていたのでお受けすることにしました。

 

「お招きいただきありがとう存じます。ゲオルギーネ様。」

 

「ええ、来てくれてうれしいわ、ローゼマイン。」

 

つれてきている側近は二人です。どちらもゲオルギーネ様に忠誠を誓っておられる方です。

 

まったく、着いたときからゲオルギーネ様は挑発状態です。

 

側近と思われる後ろにいる方の1人は、私を拉致してくれたと思われる方じゃないですか。

 

あまい痺れる香りもしているし...。

 

はあ、やっぱり受けるんじゃなかったかな。お誘いを受けたことに、はやくも後悔してきました。

 

最初は当たり障りのない会話が続きます。

 

「ねえ、ローゼマイン。貴方が優秀だということはよくわかったわ。」

 

「私がもし優秀なのでしたら、ゲドゥルリーヒから離れることはありませんでしたわ。」

 

まったく何が言いたいのか分からない。

 

時間稼ぎなのかな、やっぱり。

 

それとも私の解釈がおかしくて会話として成り立っていないだけなのかな。

 

「まあ、わたくしはディートリンデよりよっぽど貴方を娘に欲しかったわ。」

 

「ディートリンデ様に不満を持たれるとはずいぶん贅沢な悩みですね。」

 

ディートリンデ様は優秀だと思うけど。

 

なんか話が噛み合わない。何が言いたいの?

 

向こうも何か噛み合わないものを感じるのか、この香りの関係か少し顔が強張っています。

 

「はあ、まるで混沌の女神に見いられたような状態ですわね。困ってしまいますわ。」

 

「申し訳ございません。ゲオルギーネ様。わたくしについては知っての通りこういったことには春を迎えたエーヴィリーベなもので。」

 

まったく誰のせいだよって言いたいよね。

 

え、経験したところで話下手だから無駄?

 

「ローゼマイン、わたくしにつけばゲドゥルリーヒの元へ導いてあげますよ。」

 

「あら、わたくしをゲドゥルリーヒから離した方がそんなこと言うなんて、何をするつもりですの?」

 

帰りたいよ。エーレンフェストに帰れるのならね。

 

「わたくしについてくれるのならお教えしますわ。」

 

「たくさんの方を、はるか高みへ導くお告げにしか聞こえませんわ。ご遠慮させて頂きたいかと存じます。」

 

どうせ暗殺とか何か手伝えってことでしょ。ごめんだよ。

 

「結果的にそうなったとしても戻りたくはないのかしら。」

 

「同じ心のゲドゥルリーヒの者同士エアヴェルミーンとエーヴィリーベのようになれるよう、心ではなく今のゲドゥルリーヒに尽くせませんの?」

 

これだけ謀略ができる方が、エーレンフェストとアーレンスバッハの友誼を願ってくれれば簡単に仲直りできると思うのだけど。

 

まあ、無理だよね。

 

「ローゼマイン、帰りたいのならこちらにつきなさい。」

 

はあ、自分の側近連中に剣を突き立てられるまぬけな主たる私。ものすごく怖いはずなのになにも感じなくてやになる。

 

「アウブより制約を受けている身としてはアウブに話をつけて頂いた方が早いかと存じますが。」

 

交渉決裂だね。私はゲオルギーネ様と私の側近連中に話しかけます。

 

「ゲオルギーネ様、彼らに止めるよう言っていだだけますか。彼らの貴方への忠誠心は十分確認が取れたでしょう。」

 

お守りはたくさんあるしこのくらいならどうにでもなるしね。

 

「貴方達も、主を失った側近として生きていくのですか?ゲオルギーネ様、貴方にとっても主催しているお茶会でいなくなったなんてなれば問題でしょう。」

 

ゲオルギーネ様が頷くと、剣を下げてくれました。側近もどこまでこの香りにやられているのかはしらないけど、なんとか話し合いで終われそうです。

 

「実に有意義で残念なお茶会でした。」

 

「わたくしにとってもそうですわね。」

 

はあ、来た意味なかったけど、話し合いの余地がないとわかっただけでも良かったのかな。

 

トルークまで使ってくるとか、まあこの領地では常套手段だからね。

 

今回も危なかったなぁ、さっきの状態では、側近にすら裏切られる主が悪いと言う事態になりかねないからね。

 

 

 

 

さて、アウブが城へ戻り領主会議の報告会です。

 

まず、順位は6位のままとのことです。

 

貴族院での成績は去年と比較してかなり伸びたとのことですが、これまでの順位を落としてきたことを鑑みて今年は様子見とのことです。

 

次にレティーツィア様の養子縁組の件で、既にドレヴァンヒェルの了承はもらっていたので正式な養子縁組は冬の洗礼式のお披露目会にするとのことですが、少しでも早くアーレンスバッハに慣れるため、数日でこちらに来るとのことです。

 

そして、アウレーリアの件ですが、正式にエーレンフェストに嫁ぐことを了承させたとのことです。

 

今後の情勢でエーレンフェストとの関係はどうなるかはわかりませんが、あれだけ愛し合っているのですからきっといいことですよね。

 

魔王様は怒っているかもしれませんが...。

 

他にはアウレーリアの星結びの儀式が終わり次第、アーレンスバッハに戻り星結びの儀式と星祭りに合わせてランツェナーヴェの使者のお出迎えです。

 

さてと、約束した以上はカードを準備しますよ。

 

と張り切っていたのですが、アウブより呼び出しです。

 

まず、ダンケルフェルガーの歴史書を渡されました。なんでもハンネローレ様のお陰でアウブダンケルフェルガーより貸し出して貰えたようです。

 

ダンケルフェルガーの歴史書はかっこいいですね。表紙も適当に作った歴史書と交換で借りて良かったのかな。

 

まあ、当然これが本題ではないわけですが。

 

「ローゼマイン、ゲオルギーネと接触したようだな。」

 

「あら、なにか不味かったでしょうか。」

 

何でばれているのでしょうか。

 

あのお茶会は、あそこだけの暗黙の秘密にするためにゲオルギーネ様との関係の深い方のみで行ったはずですが。

 

「アウレーリアの結婚の件だがゲオルギーネが強引に迫ってきたのだ。」

 

なんでもアウレーリアの星結びの件は、私を警戒しまくっているゲオルギーネ様が、アウレーリアを想像以上に取り込んでしまったので引き離すという意味もあったらしい。

 

もちろん主な目的はエーレンフェストの情報収集ですが。

 

わたしの行動が珍しく裏目に出ていない!

 

お互い得るものがあって万々歳だね。ウラノの世界の『うぃんうぃん』だね。

 

「だから監視を強めておったのだ。まさかローゼマインが、勝手にゲオルギーネに会いに行くとは考えもしなかったがな。」

 

あら、何でため息なのでしょうか。

 

「アウブ、わたくしからゲオルギーネ様に接触することはありませんわ。今回のお茶会で相容れないのはよくわかりましたし。」

 

「まあいい。今後軽率な行動はおさえるように。でないと私が不在の間、閉じ込めておく命令を出さねばならなくなる。」

 

そこまで不味い行動だったかな。

 

1度は必要なことだったと思うけど。

 

アウブのいない間にと思ったのは事実だけど、今後気を付けないと。

 

「あと、アウレーリアの星結びはエーレンフェストと共同で儀式を行うこととなった。ローゼマインも神殿長として祝福を担当する運びとなったのでよろしく頼む。」

 

ふうん、ってどう言うこと!?

 

「こちらはエーレンフェストの神官で構わないという話をしたのだが...。」

 

うん、何でもエーレンフェストが、最低限この条件を飲まないのなら他の条件をいろいろ加えるという話になったそうだ。

 

アーレンスバッハ側としてはそこまでしてこだわる条件でもないから、代わりに式台をアーレンスバッハの領界内にずらして行うことで合意したらしい。

 

「ローゼマインには、契約があるからエーレンフェスト領へ入らないように注意すること。」

 

従属契約の関係で許可されている範囲外へ出ようとすると透明な魔力の壁に阻まれる状態になるらしいので、注意しても仕方のない気もしますが。

 

私の意思で許可なくアーレンスバッハが管理する領地と貴族院以外に行ってはならないと命令まで受けているのでその関係でしょうか。

 

エーレンフェストとの接触要項については一時解除してくれるとのこと。

 

事前の打合せをしないわけにはいかないからね。とりあえず魔王様には会えそうです。アウレーリアを守ってもらえるよう直接お願いしなきゃ。

 

 

 

 

さて数日後、レティーツィア様がドレヴァンヒェルよりやって来ました。

 

「水の女神 フリュートレーネの清らかなる流れに導かれし良き出会いに、祝福を祈ることをお許しください」

 

「許します。」

 

妹ということになるのですね。

 

立場としては同じ養女で領主候補生なので、一応上になるのですが、血縁といい次期アウブ最有力候補といい、下手に出たくなります。

 

そんなこと言い出したら私は元平民になりますので切りがないのですが。

 

「ローゼマインお姉様、ドレヴァンヒェルでも噂はお聞きしてます。会えるのを楽しみにしてました。」

 

お姉様だって!お姉様だって!

 

しかもすごくかわいい!

 

金髪碧眼でウラノの世界の『せいようにんぎょう』みたいな。言い方が悪いかな?

 

とにかくすごくかわいいってこと!

 

お姉様といえば、カミルどうしているかな?もう外で元気に遊んでいるのかな?

 

「ええ、わたくしも楽しみにしてました。」

 

と言っても余り関わることはなさそうなんだよね。

 

基本的に私は神殿にこもりっきりだしね。

 

アウレーリアの星結びと洗礼式のお披露目会で、関わるとすれば関われるのだろうけど。

 

「ドレヴァンヒェルとは、文化も考えもまったく違い大変かと存じますが、できるだけお手伝いさせて貰いますのでよろしくお願いしますね。」

 

どれだけ手伝えるかは不明だけど、この土地はいろいろ大変だからね。出来るだけお手伝いはしますよ。

 

お父様もお母様も、今のところは余り私には関わらせる気はないようなので顔合わせだけで終わりました。

 

 

 

さて、今度はアウレーリアの件です。時間がない中、無理をしてでも時間を取ってもらいます。

 

「縁結びの女神リーベスクヒルフェの糸の導きにより、無事にお二方が結ばれたようで良かったです。」

 

本当に良かった。

 

貴族では、愛し合っていたって結ばれない方が多いからね。

 

「わたくしも星結びの場では神殿長として祝福させてもらいますのでよろしくお願いしますね。」

 

「ローゼマイン様に祝福をしていただけるとはとても光栄です。」

 

私も無理だと思ったんだよ。

 

だってエーレンフェストと思いっきり関わるじゃん。

 

最悪お土産託して終わりかなと覚悟してたんだよ。

 

「それで以前、アウレーリアは目元について悩んでいたでしょう。わたくしはまったく気になりませんけど。」

 

アウレーリアは以前に吊り上がったような自身の目が嫌いだといっていました。かっこよくて私はいいと思うのですが本人が気にしている以上、何とかしてあげたいと思っていたのです。

 

「ええ、ですのでむこうではヴェールで顔を隠すか悩んでおりまして。」

 

「それで、よろしければこちらの『化粧道具(メイクグッズ)』で目の回りを...側付きの人に渡しますね。よろしければ使ってみてくださらない?」

 

 

 

「だいぶこの薬を塗るだけで、見た印象が変わりますね。」

 

うん、使い方教えてメイクをしてもらいました。

 

こちらの世界でも元々化粧をする文化がないわけではないのですが、使い方とかは発展途上のようです。

 

「この顔料は、毒の中和作用とかにも使えますわ。」

 

私の場合は、口紅とか化粧とか魔力のせいかあまり意味がないのだけど塗るだけでかなりの毒を防げるからね。

 

「ただ、問題は作り方が少々特殊で余り大量生産がききません。」

 

毒の中和作用なくせば...結局色付けがめんどくさいんだよね。魔力で色付けするせいで繊細な作業になるし、魔力を使わずに変な材料を使えば今度は安全性にも関わるし。

 

「作り方はこちらに記しておきますので神殿にいるフェルディナンド様に作成をお願いしてくださいませ。」

 

「ありがとう存じます。ローゼマイン様。」

 

「ただ、神殿に頼むにしても無料(タダ)では作って貰えないかと存じますので、こちらを使って交渉してくださいませ。」

 

この為なら何でも出しちゃうよ。

 

私は魔紙の作成方法と、サンプルの紙を50枚渡しました。

 

「あと、最後にこれは図書館の魔術具の設計図です。もしアウレーリアがもしエーレンフェストへ行った後にどうにもできなくなったら、これを使ってフェルディナンド様に交渉してください。」

 

これだけ差し出せば、さすがに魔王様も動くよね?

 

動かなかったらどうしよう。

 

特に最後の図書館の魔術具は知っている可能性があるんだよね。まあ、最悪今回の作った魔法陣も全部のせたしいけるよね?

 

「何から何までありがとうございます。ローゼマイン様。わたくしにはこれらの価値はわかりませんが貴重な物なのでしょう?」

 

うふふん、この為なら何も惜しくはないよ!

 

「さすがに大したものではないとは言えませんね。でも個人的にアウレーリアに贈らせてもらいたかったのですわ。」

 

素材回収といい、本当に短い期間しか一緒にいられなかったけど救われたのは事実だし。

 

「ありがとう存じます。ローゼマイン様。側近として働けたことを誇りに思いますわ。」

 

ありがとうはこちらの台詞です。背中を預けられる人なんてアーレンスバッハにはいないからね。

 

 

 

 



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47話 星結びと、ランツェナーヴェの使者

さて、アウレーリアの星結びのためにやって来ました境界門です。

 

境界門があるところを境にエーレンフェスト側は青々とした木々に囲まれているのに対して、アーレンスバッハ側は成長途中の若木が目立ちます。

 

以前来ていた側と反対から行くとは、なんとも感慨深いものがあります。

 

結婚式場は、まるでエーレンフェストとアーレンスバッハの関係を示すかのような、曇天模様です。まったく、私の心まで曇天模様になりそうです。なぜこのようなおめでたい日に晴れてくれないのでしょうか。

 

さてと、非常に危険なのですが、境界門の境に手を出してみます。

 

弾かれる様な現象は起きませんでしたが、透明な壁があるみたいな感じで不思議です。

 

思い出すのは、最初の小神殿のルッツが入れなかった壁です。きっと似たような物なのだろうね。

 

構造の解析を魔力から追えないかと頑張ってみようとしますが、さすがに解析はできませんでした。

 

せっかく危険を冒してまで触ってはみたものの...危険を冒した意味はなかったなぁ。残念です。

 

 

 

 

星結びの儀式が始まる前にアウブや、お母様、レティーツィアなどと軽く話してから結婚関係の待機場所へ向かいます。

 

準備は全部エーレンフェストがやってくれるとのことです。

 

楽でいいですね。まあ、魔王様が単純に邪魔されたくないだけな気もしますが。

 

ちなみにエーレンフェストとアーレンスバッハの神殿長の服は夏服ということもあって全然違うので、ヴェールさえ被ってしまえばわかりません。

 

魔王様にはバレバレでしょうが。

 

回りを見ると懐かしい顔ばかりです。ライゼガングの方々はまさかと思うけど暴走しないよね?

 

さて、結局、準備の後に挨拶も打ち合わせもろくにせずに星結びの儀式が始まってしまいました。

 

一応はじめましてなのですがいいのでしょうか。

 

魔王様は今でも神官長らしく先に式台に出て聖典の説明などをしてくれます。

 

私はというと、アウレーリアや、ランプレヒト様に挨拶をして出番を待ちます。

 

まあ、何度もやってますしね。見ていれば、どのタイミングで入ればいいのかなんてすぐにわかります。

 

「神殿長、ご入場ください」

 

何度も聞いた掛け声が聞こえたので、さてと、行きますか。

 

私が式台へ上がると、うん、すごく注目を浴びています。出席者のほとんどが私に目を向けているのではないかと錯覚しそうなほどです。

 

私が式台にあがった後、結婚に関する契約書の履行を終えれば、最後に私が祝福するだけです。

 

指示しないで祝福するだけでいいとは本当に楽ですね。

 

最高神である闇と光の夫婦神に祈りを捧げ今回結婚する2組の新しい夫婦に祝福を送ります。

 

本当は盛大に送りたいけど、エーレンフェストでも私は何度も盛大にやっているので、少しでも誤魔化せるよう普通の祝福を送ります。

 

 

 

 

ああ、我慢できません。

 

もうごまかすとかどうでもいいですよね。命令は神殿長として祝福しろと以外言われていませんし。ヴェールを被っていて顔が見られないようにしていますし。

 

いろいろ頭の中で言い訳が浮かびます。なぜ、大切な方々の祝福を抑える必要があるのでしょうか、いやないはずです。

 

回りは祝福が終わり儀式終了に向けて動き出そうとしていますが...。

 

「ランプレヒト様、アウレーリア様」

 

回りが静かになったところで私の声が響きます。

 

「アウレーリア様はわたくしにとって側近中の側近でした。」

 

本当に短い間だったけどこういうのは時間は関係ないものね。

 

「これから行うのはあくまでアウブアーレンスバッハの子ローゼマイン個人として祝福を送らせていただきます。」

 

シュタープで、天空を司る最高神たる夫婦神用の魔法陣と、大地を司る五柱の大神用の魔法陣と、眷属用の魔法陣を横に描きそれらを全部繋ぐよう縦に魔法陣を描きます。

 

「天空を司る最高神たる夫婦、またそれを導く大地を司る五柱の大神、または導かれる大神の眷属」

 

二人と両領地が幸せで平和になりますように。

 

「新しき夫婦と両者の母たる大地が健やかに導かれるよう祝福を。」

 

まずいです。魔法陣は魔力さえ足りればいけると思いますが、祝詞はむちゃくちゃです。

 

せめて、この暗い雰囲気を生み出している曇天模様を何とかしたかっただけなのですが。

 

想定外にとんでもない魔力が持っていかれただけで、なにかが起こっているように見えません。まさかの失敗でしょうか。

 

あう、他の世界の神も含めて祈りを捧げたのは失敗だったのでしょうか。

 

魔力を使いすぎたのか意識が保てません。

 

 

 

 

あうち、どのくらい寝ていたでしょうか。

 

頭の魔術具が起動したおかげでそこまで長い時間、意識が落ちていなかったはずです。

 

周りを見渡すと、控え室で横にされていたようです。

 

誰もいなかったので、とりあえず状況を確認しようと異常に重い体を無理やり起こして、控え室から出ようとします。

 

入り口を開けると、まさかの、魔王様が仁王立ちしていました。

 

「最後のは何をおこなった。いや、いい。」

 

聞きたいことは遠慮なく聞いてくる魔王様にしては珍しいですね。少し首をかしげたくなりますが、そのような簡単な行動でも体がきついです。

 

「あいさつは今さらいりませんよね。エーレンフェストの魔王様、くれぐれもアウレーリアのことをお願いしますね。大切な方なので...」

 

す...。あ、まずい。私は言いたいことを言えたから安心して気が抜けてしまったのか一気に目の前が真っ暗になりました。

 

 

 

 

星結びで目の前が真っ暗になった後、目を覚ますとそこはもうアーレンスバッハの城でした。

 

その後、エーレンフェストより届け物があるということで私の所に贈り物が届きました。

 

何でも素晴らしい祝福のお礼ということで、わたし個人への贈り物だそうです。

 

送られた物を見てみると、手紙が一通添えられていて、以前にエーレンフェストで作ったユレーヴェと素材がいくつかありました。

 

手紙を開くと、とても懐かしい美しさと力強さを兼ねそろえた几帳面な字で、一言だけ入っていました。

 

『給料未払い分』

 

保管する場所の無駄だとか言って渡してくれるフェルディナンド様を想像してしまい、懐かしさがこみ上げ小さな笑みと他のものがこぼれました。

 

 

 

 

さて、城に戻ってもからも安心はできません。

 

お守りが発動していないところを見ると丁重には扱ってもらえたようです。毒とかも大丈夫そうです。

 

体調が体調なので、アーレンスバッハ内の星結びの儀式は出席せず、その後のランツェナーヴェの使者をもてなす宴に参加します。

 

すべてのギーベが出揃い盛大な宴が行われます。

 

まあ、出されているものは輸入した品物を元とした物ばかりのようですが。

 

使者の方々は12名で、民族もバラバラの模様です。

 

「火の神 ライデンシャフトの威光輝く良き日、神々のお導きによる出会いに、祝福を賜らんことを」

 

ランツェナーヴェでもライデンシャフト様に祈るのかな。

 

返答と祝福を返してあげたら、とても驚かれました。

 

「ローゼマイン様に火の神 ライデンシャフトの祝福を」

 

最初は、結構傲慢な態度だったのだけど、祝福をあげただけで態度が一変しました。本当は挨拶だけの予定でしたが相手が話しかけてくる以上対応します。ついでに少しランツェナーヴェについて聞いてみます。

 

「ところで、ランツェナーヴェではどう言ったものを主食にしているのですか?」

 

「ローゼマイン様、基本的にはこちらと同じ麦です。」

 

ああ、分かってはいましたが残念です。輸入も期待うすかな。

 

「基本的と言いますと他にもあるのですか?例えば『水耕栽培』のものとか?」

 

「すいこうさいばいですか?」

 

「ええ、畑で作る物もあるのですが、基本的には水を土地にためてそこに種もしくは発芽させ少し育てた状態で植えていくのですが。」

 

うん、あと他に特徴と言えば...。

 

「種を食べるもので皮を剥くと白っぽく、この香辛料くらいの大きさです。」

 

相手の方は考えている様子でしたが。

 

「もしよろしければ明日見に来ませんか。もしかしたらあれかもしれません。」

 

え、あるの!?

 

 

 

 

アウブに許可を取り行ってきました。

 

ありましたよ、それっぽいものが!

 

これはおそらくウラノの世界の『インディカ種』の系統ですね。

 

『タイ米』ってやつです。細長いお米ですね。

 

大量の水で茹でてから蒸さないと臭みがとれず食べにくい品種ですね。

 

せっかく香辛料があるのですから...。

 

コリアンダーとクミン(ウコン)のようなものを主体にターメリックのようなものと辛いのは嫌なので唐辛子のようなものを少量加えて...。

 

後は、お芋類をいれてもらえば勝手にとろみが出るので

 

ウラノの世界の『かれーらいす』へ近づきます。

 

カレーぽいものは、すでに何度か作ってもらってて上記の基本的な香辛料の組み合わせから他の香辛料を加えたりしてもらったりしていますが、美味しいけど変な食べ物として全然広がりません。

 

インディカ米があるのなら、次はできればジャポニカ種が欲しくなりますね。

 

同じ品種で例えばもっと縦の長さが短いものがないか聞いてみましたが、ないとのこと。

 

ならば、儀式用とかのために黒とか緑とか赤っぽいものが栽培されていないか聞いてみるとランツェナーヴェにはないとのことです。

 

ただ、他の国にあるかもしれないとのことです。

 

ウラノの世界でもインディカ種が、お米の生産の8割とのことなので見つけるのは厳しいかもしれませんが、より源種に近い有色米ならジャポニカ種に近い可能性が高まります。

 

お米的にはジャポニカ種の方が原種に近いから...。

 

美味しいジャポニカ種のうるち米にするまでとっても時間がかかりそうです。

 

ちなみに粘り気のないウルチ種か粘り気の強いモチ種か聞いてみたら、さらさらしているとのことなのでうるち米で良さそう。圧倒的にウルチ種の方が多いのでそこはあまり心配していませんでしたが。

 

しかし聞いてみるとこのお米も売るつもりで持ってきていないとのこと。

 

育て方を聞くと陸稲で畑で行けるとのこと。

 

種を交渉してわけて貰いさっそく孤児院で生産です!

 

といきたかったのですが、ウラノの世界の無念なりというやつですね。

 

せっかくユレーヴェが意図せずに手に入りましたので効果を上げるために今まで集めてきた材料を加えて、更に効き目を強めてからアウブに相談です。

 

さすがに命よりお米を優先できません。

 

いや、命の危険でも...。

 

手に入ったお米がジャポニカ種だったら暴走してたかもしれません。

 

残念ながら今はお預けです。しょんぼりです。

 

 

 

 

お父様に連絡を取り時間を取ってもらいます。

 

ユレーヴェに浸かるなら魔術具類はとらないといけません。

 

いえ、とらなくてもいけるかも知れないけど不安要素は少しでも取り除かないと。

 

特にこの指輪については危険なことが起こる感じしかないので、交渉しないといけません。

 

「というわけで5ヶ月ほどユレーヴェに浸かりますので外していただけませんかお父様。」

 

こちらの条件としては私の隠し部屋にお父様とお母様の一時的な入室許可。

 

ユレーヴェに浸かったところで外して貰う形で構わない。このくらいしか出せません。

 

後は、薬を余分に作っておいて渡すくらいでしょうか。

 

「今必要なのか。」

 

「今しか時間がありません。今から浸かれば洗礼式のお披露目会までに間に合います。」

 

結構渋られましたが了承を貰います。

 

お父様に関しては多少政務を手伝っているだけです。私がいなくてもほとんど影響はないと思うのですが、なぜ渋られたのでしょうか。

 

基本的な健康管理にしても信頼できる方に引き継いでいますし、念のためたまに見るくらいで問題はありません。

 

魔力器官が壊れかけてしまっていたので、回復には長い時間がかかりそうですが。

 

私に関しても、神殿長として魔力を大量に使う行事については、この後しばらくありませんので問題はないはずです。

 

神殿長として最低限の引き継ぎを終え、魔術具や薬関連等の整理をして、貴族院へすぐ行ける準備を終えます。最後に礎に魔力を念のためたっぷり奉納して、ではおやすみなさい、「夢の神シュラートラウムよ、心地良き眠りと幸せな夢を」ですね。

 

 

 

 




いつもお読みいただきありがとうございます。誤字脱字報告等も頂けて本当に助かっております。

お米についてですが、自生しているやつを他領や海外まで探す話にしようかとも考えましたが諦めました。いつまでたっても話が進まなくなってしまいましたので。


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48話 閑話 アウレーリア

アウレーリアと申します。

 

短い間でしたが、ローゼマイン様の側近として働いておりました。

 

ローゼマイン様についてですか?

 

なんと言っていいものでしょうか。

 

私がエーレンフェストに嫁げたのはローゼマイン様のお力添えもあってできたことなので、とても感謝しています。

 

はじめの出会いは、冬の社交場でした。

 

その時はランプレヒト様との結婚について魔力差があり、両親から反対をされていたので、お流れになることが決まっておりました。

 

そのためしばらく手が空くということとゲオルギーネ派であるということが重なり、主に城でローゼマイン様の側近として護衛することになりました。

 

ローゼマイン様は、以前から話を聞いていた通り人形みたいな方で、初めは会話にしても、少し警戒されているような緊張感が漂っていたのですが、図書室でお見かけした話をしたら一気に空気が和らぎました。

 

この時は私も話下手でローゼマイン様も話好きではないようで、余り話が進みませんでした。ですが、この方なら仕えてもうまくいきそうだと思いました。

 

おそらく家では可愛いげがないと疎まれ、愛情は妹へいきゲオルギーネ様ともうまくいっていないということもあって居場所がない私と、同じく信頼できる側近がいないローゼマイン様とは失礼ですが、似たような立場だったということが大きかったと思います。

 

 

城でのローゼマイン様は、図書室によく行きます。以前は側近もつけずに一人でも行くほどで、よほど難しいことを調べているか本がお好きなのでしょう。

 

私もせっかくなのでエーレンフェストについて調べていました。

 

やはり諦めたつもりでも、ランプレヒト様とのことにまだ未練があったようです。

 

ローゼマイン様は、一度本を読み出すと読み終わるまでは脇目も降らずに読み続ける方なので調べものがあれば自由にしていいと言われていたこともあって、この時はお隣で調べていたのですが。

 

「エーレンフェストについて興味があるのですか。」

 

繰り返しになりますが、ローゼマイン様は積み上げた本を全部読むまでこちらから言わない限り中断することはまずありません。

 

ですがこの時は違いました。私が「ええ」と曖昧に返事をするとすぐに立ち上がり、困惑と期待がこもっているような目でこちらを見てきました。

 

「アウレーリア、わたくしの部屋で話ませんか。」

 

ちなみにローゼマイン様は使用人以外は側近でもめったに部屋には入れません。

 

よほどエーレンフェストについて何かあったのか心配になりました。

 

 

 

ローゼマイン様が部屋につくと使用人にお茶を準備させて退室させると正面に座るよう促してかました。

 

ローゼマイン様の部屋は飾りっ気がなく領主候補生の部屋として必要最低限のものしか置いていないようです。

 

聞きたいことは、やはりエーレンフェストについてなぜ調べているのかということでした。

 

答えにくいです。なんと答えようか迷っていると、ローゼマイン様がうなずいたようにした後、ものすごい勢いでエーレンフェストについて話し出しました。

 

歴史や文化、各地方の特性やアーレンスバッハとの違いなど、一通り喋りきったのか満足そうな感じです。

 

余り表情が変わらないので断言はできませんがこの方もきっと私と同じく誤解を受けやすい方なのでしょう。

 

きっとこれだけエーレンフェストについて詳しく熱心に話してくれる方なら、もしランプレヒト様のいるエーレンフェストに嫁ぎたいという話をしても問題はないでしょう。

 

思いきって話そうと思ったのですが、急に恥ずかしくなって領主一族のことをとりあえず聞きます。

 

次々と話してくれるのですがランプレヒト様の話がなかなか出てきません。

 

思いきって聞いてみたのですが、余り詳しくないとのことです。

 

ランプレヒト様について詳しくないのは残念でしたが、私のお付き合いについて思いきって相談してみますと。

 

すごい勢いで身を乗り出すようにして話を聞いてくれます。

 

今までアーレンスバッハの方に話しても誰も歓迎してくれなかったのですが、この方だけは違いました。

 

「わたくしとしてはエーレンフェストに嫁ぐのはとってもお勧めできますけど、家族とはしばらく会えなくなる覚悟はあるのですか。」

 

ローゼマイン様は私がエーレンフェストに嫁ぐことは大歓迎とのことです。

 

エーレンフェストとの友誼を切に望んでいるとも言ってくれます。

 

家族に疎まれている私としては家族と離れることに何も感じません。

 

そもそもそれ以前に貴族の方で家族について言及する方は初めて見ましたが。

 

その後はエーレンフェストに嫁いだ場合の注意事項や、嫁ぐことが決定したら向こうで暮らしやすいよう手配をしてくれると言うのです。

 

何でも今は全く繋がりはありませんが、以前は神殿の関係で、できた伝手があるそうです。

 

ローゼマイン様が乗り気になっているところ申し訳なくなり、この話は魔力の差があり、ほぼ流れることが決定していて、すでに諦めているということを最後にお話しました。

 

それを聞いたローゼマイン様は、一瞬ためらうような仕草をした後、少し不安そうな目を私に向けて言ってきました。

 

「アウレーリア、貴方がわたくしのことを主と思ってくれているかはわかりませんが、一度主として会わせてくれませんか。」

 

もちろんこの話をしたのは主として心から認めているということもありますので、ちょうど数日後に城に来ると言うこともあって会って頂くことになりました。

 

 

 

 

ランプレヒトが、アーレンスバッハの城に着いて早々にその事を伝えると、

 

「アウレーリアの主が変わったのか。」

 

ローゼマイン様についてまだお話していませんでした。

 

今の主はエーレンフェストとの友誼を切に望んでいる話をするとすぐに会いたいと言う話になりました。

 

 

 

 

ローゼマイン様と会ったランプレヒト様は少し驚いた様子でしたが、その後ローゼマイン様から挨拶をさせて貰いたいと言われたときは更に驚いていました。

 

身分差はそこまで大きくはありませんが、大領地とあって逆になることはあり得ません。

 

それだけエーレンフェストとの友誼を望んでいると言うことなのでしょう。

 

その後も驚きの連続でした。

 

成人後も魔力が伸ばせると言って聞いたこともない魔力圧縮方法を提案したのです。

 

しかも同調薬なしに他人の魔力に干渉するなんてできるはずのないことまでやりだしました。ローゼマイン様ができると言ってやりだしたことですが、後で本当に魔力を誘導されたのかランプレヒトに確認してしまいました。

 

そのお陰もあってランプレヒト様はこの後かなり魔力を伸ばし結婚の話がまとまりました。

 

やはりローゼマイン様は常識では計れない方なのでしょう。

 

その後は、ローゼマイン様の素材の回収に何度もつれていかれました。

 

お守り程度にしか使っていなかった魔剣の件もありますがそれより何よりも、

 

アウレーリアだけが頼りなのです。

 

と言う言葉を何度頂いたでしょうか。

 

それほどまでに私を必要とし、心に響くお言葉を今まで家族からも貰ったことがありません。

 

素材の回収に行っては寝込んでしまうので心配なのですが、アウレーリアがいる間にできるだけ集めておきたいと頼まれては断れません。

 

そこまで頼って下さるなら結婚を取り止めると言う話もしたのですが、ローゼマイン様らしくない力のこもった声で言われてしまいました。

 

「絶対になりません。」

 

とても怒られました。

 

愛し合っていて、私にもローゼマイン様にも利があるのだからと言うのです。

 

ローゼマイン様が怒っても、身長と見た目のせいか怖い雰囲気が出ないのですがローゼマイン様が私を思って言ってくださっていることは良くわかります。

 

後にも先にもローゼマイン様が怒っているところを見たのはこれが最後でした。

 

この後、素材回収に一緒に行ったり、城や神殿での護衛は領主会議が終わるまで続きました。

 

危ない場面も何度かありましたが、この方となら例えどんな状況であっても何でもやり遂げられる気持ちになるので不思議です。

 

 

 

 

領主会議が終わり、結婚が正式に決まり忙しくなってきたある日、ローゼマイン様が時間を取ってくれと言ってきました。

 

そこで以前から気にしていたつり目について少しはごまかせる方法があると言って『めいくぐっず』なるものをもってきました。

 

言われた通りに使ってみると驚くほど印象が変わりました。

 

渡した本人は毒に対する中和作用についてしきりに説明してきたのは気になりますが。

 

作るのに少し手間がかかるらしく、神殿の伝手を使って作ってもらって欲しいと言う話があり、魔紙と言う魔木でできた紙の作成方法とサンプルを渡してきて、困ったときに助けてもらえるよう図書館の魔術具の設計図なるものを渡してきました。

 

これらの価値は私にはわかりませんが、かなりの物なのでしょう。

 

今まで短い間とはいえ、良くしていただいたこともあって、遠慮をしたい気持ちもありましたが、アウレーリアの為に個人的にしたかったなんて言われては何も言えないでしょう。

 

 

 

星結びの当日は、まるで両国の関係を示すかのような曇天模様と言うこともあり、嫌な感じはありましたが、星結びの儀式はつつがなく進みました。

 

ローゼマイン様からは、今話している神官長がフェルディナンド様とのことなどの話を受けます。

 

フェルディナンド様と言うのは、エーレンフェストを実質的に支えている裏の支配者とのとこです。

 

ローゼマイン様は神殿長として、祝福を与えるだけとのことで、非常に楽だと出ていくまではゆったりとしていました。

 

無事に普通の祝福を受け、終わりの雰囲気が出てきたところで私とランプレヒトが呼ばれます。

 

あくまでローゼマイン様が個人的に祝福を贈りたいと言いだされて魔法陣を展開します。

 

横に三つの魔法陣に、重なるように縦の魔法陣を書きます。

 

ローゼマイン様以外だったらそのようなむちゃくちゃな魔法陣がうまく行くはずもありません。

 

いったんローゼマインの目の前から魔法陣が空気に溶けるかのように消えたかと思ったら、空の高い所に再度姿を表し、魔法陣同士が反発しあうかのように更に上っていきます。

 

その後、まるで空に雲の壁があるかのように魔法陣が弾かれたかのような動きをして、雲の壁を突き破り上ろうと何度か弾かれては上る現象が続き、最後になにか飲み込むような魔力の渦となり、空に吸い込まれていくかのように弾けました。

 

私とランプレヒトを中心に曇天模様を生み出していた雲に穴が開き、徐々にその穴が広がり晴天に代わっていきます。

 

太陽の光が徐々に入ってきて、太陽の光に合わさるかのように祝福のような輝く魔力が降り注ぎだします。光と魔力が広がっていき会場全体が祝福で包み込まれていくようでした。

 

これを、ただの祝福と呼んでいいのかはわかりませんでしたがローゼマイン様の両国を思う心が痛いほど伝わってきました。

 

ほとんどの方はしばらく何が目の前で起こったのかわからずに固まっていました。

 

私もしばらく美しい光景に目を奪われ気がついたときにはローゼマイン様は、すでに戻られていたようでさっきの場所からいなくなられていました。

 

 

 

 

星結びも終わり、エーレンフェストに着いてから引っ越し作業の忙しさも少し治まってきた頃にフェルディナンド様はやって来ました。

 

ローゼマイン様に言われていた通りに魔紙を出して『めいくぐっず』について交渉します。

 

大変結構とつぶやいたように聞こえた後、

 

「あの馬鹿のことだから、もう1つくらい緊急用の何かがあるだろう?」

 

支援を約束するからさっさと出せと言うのです。

 

馬鹿と言うのは、ローゼマイン様のことでしょうか?

 

少し親近感があるような感じだったので諦めて図書館の魔術具の設計図も渡します。

 

今度は愚かすぎると聞こえたような気がします。

 

「アウレーリアはずいぶんとあの馬鹿に信頼されていたようだな。」

 

短い間でしたがとてもお世話になったと言う話をします。

 

「これらの価値が解っていないように聞こえる。」

 

どれ程なのでしょうか?

 

「私がアウブアーレンスバッハなら、これ程のものをこの程度の目的で流出させたなら即メダルを破棄する。」

 

なにやら本当にとんでもないものを私に渡したようです。

 

「結局あの愚か者はどこへ行っても治らないということか。」

 

まるでこっちに住んでいたことがあるかの言い方です。

 

その事を質問すると呆れたように、本人から聞いていないのなら話すことではないと言われます。

 

こちらに住んでいたのならばあれほどエーレンフェストに詳しく、エーレンフェストの友誼を望んでも不思議ではありません。

 

それならば、なぜ経歴不明でアーレンスバッハにいるのかはさっぱりわかりませんが...。

 

この雰囲気で、ここでお聞きしても答えてはもらえないでしょう。

 

「ところであの愚か者はどのくらいアーレンスバッハを掌握した。」

 

掌握、支持を取り付けたと言う意味でしょうか?

 

... あの方が求める、もしくはあの方に何かがあればアーレンスバッハ内の四割の方は即座に立ちあがり行動を起こすのではないでしょうか。

 

 

 

 



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49話 レティーツィアのお披露目会

あれ、ここどこだっけ。

 

ああ、そうだった。

 

ユレーヴェに浸かってたんだっけ。

 

なんだかものすごく眠いです。もう少し寝ててもいいかな?

 

「そろそろ起きそうだな。」

 

「あなた、やめませんか。この子にその指輪はもう必要ないでしょう。」

 

「何を言っている。契約がある以上、かえって無い方が危険ではないか。」

 

「ですが...。」

 

「その話はもうすんだことだ。ローゼマインがここに寄る辺を持っていないということは、わかっているはずだ。」

 

ううん、何か誰かの話し声が聞こえます。

 

「やっと起きたか。」

 

そう言うとお父様とお母様にユレーヴェから出されました。

 

なにも言わずに忌まわしき指輪をつけられます。

 

直接この指輪を見ると、あらためて自分の立場を認識させられているような気がして嫌になります。

 

「わたくしはどのくらい寝ていましたでしょうか。」

 

「もう、洗礼式のお披露目会までに7日を切っている。」

 

まあ、大体予想通りでしたね。

 

「体力が回復していないところで大変だが必ず神殿長として出るように。」

 

まあ、仕方がないですね。身体強化の魔術で何とかするしかないでしょう。

 

「あなたがしばらく神事に出てこないので心配している方がたくさんいますよ。」

 

お母様。なぜ私なんかの心配を皆様がするのでしょうか?

 

「全く、お主が出てこないせいでうるさい貴族が多くてたまらん。黙らせるために必ず出席するように。」

 

旧ベルケシュトックの方々でしょうか。私のことを天使とか言ってましたし。

 

まあ、いいです。ここで考えてもわかりませんし。

 

 

 

当然今受け持っている業務はないので神殿でリハビリです。

 

全然思うように動きません。

 

魔力量もまた上がったようで圧縮し直しです。

 

洗礼式のお披露目会までの短い間はお祈りやリハビリに費やしました。

 

 

今年の洗礼式のお披露目会は、去年よりもよりも出席する人が多い気がします。

 

まあ、次期アウブとほぼ決まっているレティーツィアがいますからね。

 

レティーツィアと再開の挨拶をした後少し話します。

 

「ローゼマインお姉様、倒れたと聞いてとても心配してました。」

 

新しい妹(レティーツィア)にまで心配をかけた模様です。

 

「ありがとう存じます。レティーツィア。倒れたわけでなくユレーヴェは前から浸からないといけない状態だったのを引き伸ばしていただけなのです。」

 

「半年近くも浸からないといけない状態で今まで大変なお仕事を。」

 

あれ、逆効果だったかな。ユレーヴェを作る材料がなかっただけなのだけど。少しうるうるしてかわいいけど困ります。

 

「お陰で今日のわたくしは万全です。レティーツィアの為に派手な祝福をしますので期待していてくださいね。」

 

まあ、本当は体が全然言うこと聞かないし万全とは全く言えないけどね。妹の前では、そんなもの見せる訳いきません。トゥーリのように頼れるお姉様に...。

 

とはいうものの、あまり話したことのない妹だけど...。

 

「星結びの祝福は凄かったです。今回もあのような祝福を行うのでしょうか。」

 

「さすがに最後のは無理ですよ。わたくし自身が現象を見ていないので断言できませんが、そこまでは期待しないでくださいね。」

 

あの魔法陣には、とんでもなく魔力を持っていかれたからね。

 

アウレーリアとエーレンフェストの為にやったから全く後悔はしていません。仮にやり直せたとしても同じことをする自信があります。あ、一応アーレンスバッハの為にもおこないましたからね?

 

「お姉様の祝福に負けないよう頑張ります。」

 

レティーツィアと似たことをエーレンフェストでも言われましたね。本当にあの頃が懐かしいです。

 

 

 

さて、なぜか今年も洗礼式からおこなうわけなのですが。

 

去年よりも明らかに洗礼式を行っていない子が多いのが気になります。去年よりは状況が良くなってきていると思いましたが、青色神官を呼べないほど困窮した貴族が増えてしまったのでしょうか。

 

どのような理由があるにせよ一生に一度の大切な儀式ですので去年通り一組ずつ丁寧に祝福しますけど。

 

私が祝福した後は、どの親子もどこか誇らしそうにしていているよに見えて、少し心が温かくなりました。

 

さて、あらたなる子を迎えよから、メダルの登録をします。

 

レティーツィアは領主候補生としてすでに紹介を受けているから派手にやれと命令を受けているけどどうしようかな。

 

基本的には去年と同じ祝福をしていきます。一部の方は驚いていたけど、ほとんどの皆様は去年見ているおかげか慣れたものだ。

 

さて、最後にレティーツィアだね。

 

せっかくだからパーッと季節の貴色を中心に七色に光らせればいっか。

 

たーまやー。

 

あ、まずい、七色に光らせるのは思った以上に魔力を消費するようで、魔力がかなり切れかけています。

 

のぉ!身体強化の魔術が切れそう。

 

こっそり神官長の協力を得て事なきを得ました。

 

こんなところで回復薬を出す訳にもいかないし。

 

どのみち体力の関係で本日はレティーツィアの祝福までと決まっていたので、この後は控室で休みながら聞こえてくるフェシピールの音に耳を傾けます。

 

表で今日祝福を送った皆さんの演奏を見たいのですが体力が回復するまでは戻れません。

 

この後、体力が回復したら表に戻りレティーツィアの演奏などを見る予定だったのですがアウブより帰れとの指示が来ました。

 

何かあったのかな。まあ、私的には楽だからいいけどね。

 

レティーツィアの演奏を見れなかったのだけは本当に残念ですが。

 

せめて演奏の音だけでも聞いていこうと、レティーツィアの演奏が終わるまで控室で休んでから帰りました。

 

 

 

今回のお披露目会にはレテイーツィアのご両親が来ていたようで、帰る前に姉となった私に是非とも会いたいと言うことでお会いすることになりました。

 

はじめましての祝福を贈ります。

 

「今回のお披露目会では驚きました。まさかレティーツィアの為に、ここまで盛大な祝福をしていただけるとは感謝申し上げます。」

 

「お礼ならアウブアーレンスバッハへお願いします。わたくしは指示を受けただけでレティーツィアと余り関わりがございませんので。」

 

あ、ちょっと不安そうな顔になってしまいました。さすがに相手を不安にさせたままではよくないので一言加えます。

 

「ですが、姉としてできる限りのことはさせていただきますわ。」

 

うん、まだなにか不安そう。まだ何かあるのかな。

 

結局聞きたかったことは、アウブにならないのかってことと、婚約の予定はあるのかということでした。

 

「わたくしのことはすべてアウブが決めることになっておりますのでアウブアーレンスバッハへお聞きください。」

 

「それだけの魔力がありながらローゼマイン様は何も決める権利がないとおっしゃるのですか。」

 

「そうとってもらっても構いません。」

 

いや、実際何も権利ないし。ウラノの世界の『じんけん』がほしいです。こんな世界でできるわけないけど。

 

「そんな話よりもこのシュミルのぬいぐるみに声をいれていただけますか。」

 

「これは面白いですね。声を記憶させる魔術具ですか。」

 

さすがはドレヴァンヒェル。魔術具に興味津々ですね。

 

「この後、レティーツィアに会うことがあれば是非声をいれてプレゼントしてあげてください。」

 

「ローゼマイン様から渡されては?」

 

「これから離れる家族からのプレゼントに関われるだけで結構ですわ。しばらく会えないでしょうし。」

 

はぁ、本当にかわいそうだよね。

 

せめてもっと安定した土地でだったら普通に祝福されるだろうに。

 

「ローゼマイン様、くれぐれもレティーツィアのことよろしくお願いします。」

 

くれぐれもと私に言われても何もできないけど、こういうときは両親の不安を少しでも取り除いてあげるべきだよね。

 

「わたくしにできることでしたら。」

 

私の言葉で安心できるかは知りませんが...。

 

 

 

 

さて、この後の予定ですが貴族院へ移動する直前までリハビリです。

 

フェシピールもやっておかないといけないし体が動かないって辛いです。

 

身体強化の魔術で何とかするしかないですね。

 

礎にも、魔力供給して当面の間は大丈夫だろうし、薬箱も家具の方に仕掛けを追加しましたし、なんとかなるかな。

 

ちなみに制約は、去年のまま、「最大限」だって。

 

あははは。要は関わるなと。

 

社交も最低限でいいと。

 

だだ、シュバルツ、ヴァイツの件のみ許可を取り付けました。

 

服のお礼も言わないといけないし、最悪手紙かなぁ。

 

 

結局、神殿でリハビリのあと、すぐに貴族院へ行くことになりました。

 

ちなみにレティーツィアは貴族院へのお見送りに来てくれて、もっとお姉様とお話ししたかったのに、ほとんどできないで残念ですと言って送り出してくれました。

 

できるだけ何かしてあげたいとは思うけど、タイミングが合わないんだよね。

 

はぁ、ドレッファングーアのご加護は、相変わらずのようです。

 

さて、貴族院へは行かなければなりませんが、ディートリンデ様には今年も結局挨拶ができず仕舞いです。本当に久しぶり過ぎてどうしよう。

 

 

 

 



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貴族院2年目
50話 貴族院二年目 授業大半


「ローゼマイン様、ようこそいらっしゃいました。」

 

去年と同じく挨拶を受けます。

 

皆さん、結構心配してくれていたようで、半年も倒れるなんてなんて言われます。

 

そのたびに以前から予定していたとか説明するのに疲れて来たところで、ディートリンデ様にようやく会うことができました。

 

お久しぶりの挨拶をし、去年と同様に貴族院でもお世話になりますというと、ディートリンデ様のどこか歯切れが悪いです。

 

「ええ、よろしくお願いしますわ。」

 

なんと言うのでしょうか、侮蔑だけや同情だけとも違ういろいろ混じった何かが見え隠れしています。ディートリンデ様に何かあったのでしょうか。

 

気にはなりますが、部屋の改造をしないといけませんし、予習も一応しなければならないので部屋にいきました。

 

側近たちにせめて共有フロアに出てきて欲しいと言われ、全学年集まって寮での注意説明がうちの寮監より行われました。

 

次の日は進級式と親睦会です。

 

ディートリンデ様の昨日の反応が気になり、どう動いてよいかわかりません。

 

進級式ではエーレンフェストが12位に伸ばし一部の女性が村で作られていたのと似た髪飾りをしていて、新しい領主候補生であるシャルロッテ様が可愛らしく着飾っていました。

 

トゥーリの作品もいくつかあるのかなと思うと羨ましくなります。

 

ちなみに私も頭の魔術具は魔石を入れたりして改良し、いろいろ試しました。虹色の魔石は目立つので糸で完全に包み込み魔石を中心に魔力糸で魔法陣を書いてあります。

 

去年と同様の話しが終わると親睦会です。

 

去年は散々でしたが、今年はどうでしょうか。

 

相変わらず、ディートリンデ様は機嫌が悪く、目を合わせてくれません。

 

6位アーレンスバッハのご入場です。と言われ部屋に入ります。

 

席に案内されます。順位は去年と変わっていないので座る席も一緒です。

 

今年の前に座っている王族は初めて見る王子です。ヒルデブラント王子と言うそうです。

 

はじめましての挨拶をして特に何事もなく終わりました。

 

ハンネローレ様とも、挨拶とお茶会で会いましょうと言うことを話して離れます。

 

個人的にはもっと話したかったのですが、ダンケルフェルガー嫌いのディートリンデ様が不機嫌すぎてなにもできません。

 

その後、エーレンフェストとです。

 

「夏の終わりの儀式以来ですわね。皆様、お元気そうですこと。エーレンフェストに嫁いだアウレーリアはどのように過ごしていて? 肩身の狭い思いをしているのではないか、と心配していましたのよ。」

 

と言って、アウレーリアの妹に話を振ります。

 

「ええ、もう一人の側近からしか連絡が来なくてお姉さまに心配していますと伝えてくださる。」

 

心配とか言っているけど聞いていた話だと仲が悪いらしいから情報寄越せって催促だね。

 

元々側近だったのに私には連絡が来ないのかって、情勢が良くなるまで連絡しないことを約束させてますから来ませんよ。

 

あくまで彼女の幸せが一番ですからね。

 

「ローゼマイン様に一言お礼をいっておいてほしいとしか伝えられていないな。」

 

「一度お茶会をしましたがおっとりっとした方ですね。」

 

シャルロッテ様の話だと馴染めているようで良かった。

 

ディートリンデ様たちはおっとりですってとか驚いているけど彼女は気を張り詰めていないときは結構おっとりとしているよ。

 

騎士としてのキリッとした顔もかっこいいけど、リラックスしているときのおっとりしている方がいいよね。アウレーリアを捕まえるだなんて、ランプレヒト様は人を見る目があると思います。

 

とりあえず、幸せそうで良かった。

 

無事に今年は挨拶だけで済み、フレーベルタークとかの挨拶も終わり無難に終わりました。

 

ハンネローレ様とほとんど話せなかった以外は順調な滑り出しです。

 

 

 

 

さて、次の日から授業です。

 

多少聞きに来る方もいますが、特に勉強を妨げられることなく順調です。

 

歴史と法律はあっさり終わります。

 

法律はひどすぎると思うのですが、結局王のお心次第というものが多く、支配者有利の法律ですよね。

 

午後はみんなで呪文でシュタープを変形させる復習です。

 

ペンとか混ぜ棒は最高ですよね。

 

次の授業の課題が言われこの日は終わりました。

 

次の日の、算術と神学も、午後の音楽も、ええ少しだけ制御が甘くなってしまい神に魔力を奉納するつもりはなかったのですが、奉納することになってしまいましたが、特に問題なく終わります。

 

ハンネローレ様と少しだけ話せて良かったです。

 

結局彼女には相談したかったことがありましたが、できていないのです。

 

今年は去年と違ってアーレンスバッハの皆様からの余り質問もありませんし、最初の挨拶時に皆さん心配してくれたという関わりくらいしかありませんが、今後のことを考えると聞いておいて損はないでしょう。

 

ここまで特にディートリンデ様と関わることなく次の日の午前の講義も終わります。

 

ディートリンデ様は私から行っても冷たい目を向けてきてろくに話してくれませんし、もう諦めています。

 

午後は武器を変える授業なのですが、なぜかハンネローレ様とも話すタイミングはないし、困ります。

 

盾を作る授業とのことですが、もう、何度も作っているので問題ありません。

 

ゲッティルト

 

まわりは神具だとかなんとかいっていますが別に防げればなんでもいいですよね。

 

「長方形の盾を作るように言ったのだが聞いていなかったのか?」

 

え、ルーフェン先生はそんなことを言ってたの。めんどくさいですね。

 

「素晴らしい神具です。ローゼマイン様は騎士科を取るわけではないのでいいではありませんか。」

 

プリムヴェール先生がそう言ってフォローしてくれます。ありがとう存じます!

 

「なに!聞いていないぞ。」

 

聞いてないも何も、領主候補生でしかない私がなんで騎士科を取るなんて思ったのでしょうか。

 

押し問答が少し続きましたがテストをしてもらって終了です。

 

なんだか変に目立ったようなので合格をもらったら退散しようとしますが引き留められます。

 

え、まだあるの?

 

次は武器に変える授業だそうです。剣とか槍とかなんでもいいようです。

 

それなら、旧ベルケシュトックでアウレーリアと狩りをたくさんしたときにいろいろ試しましたので簡単です。

 

ランツェ

 

「これはなんですか?」

 

「ライデンシャフトの槍ですわ。」

 

ライデンシャフトの槍は便利だよね。属性とかも簡単に操作できるし、シュタープ持ってから一人でも以前より魔獣を狩れるようになったんだよ。

 

さっさと性能テストやってと。

 

「やめなさい!それほどの魔力をまとった武器を使えばどうなるか。」

 

ええ、魔王様が作ったやつと比べればたいした被害でないと思うよ。

 

あっさり合格をもらえたので終わり帰ろうとしますが、帰してもらえません。

 

仕方がないので目立たないところに行って適当に『りぼるばー』と唱えてみます。

 

そこそこイメージできればウラノの世界の『けんじゅう』も簡単に作れるんだね。

 

試しに『けんじゅう』を撃ってみますが、すごい音が鳴ってとんでもない反動が腕にきます。

 

これでは撃った後に手が痛くなりすぎて使い物にならないようです。

 

他の物も試します。『水鉄砲』ほうほう、本来水を貯めるところに魔力がたまるのですね。ウラノの世界の『うぉーたーかったー』イメージしてと、結構いけるね。盾で防がれそうだけど魔獣にはつかえるかな。

 

メスティオノーラの書、うん、原理を知らないからやっぱり無理なんだね。シュタープに戻ってしまいました。

 

「そなた何をした!」

 

うん、また『水鉄砲』にしてと、この水は魔力のかたまりなのだから火でもイメージしてみる?

 

おお、ウラノの世界の『かえんほうしゃき』っぽい。いい感じですね。『水鉄砲』はイメージ次第で万能だね。神具より使いやすいかも。

 

「だから、やめないか!」

 

うん、ルーフェン先生、さっきから耳元でうるさいのですがなんですか?既に合格をもらえたのだから放っておいていただきたいのですが。

 

え、目の前を見ろ?

 

雪が溶けて多少草木が燃えたくらいで大したことないですよね?

 

魔王様のそこそこ全力戦闘後なんて文字通りなにも残りませんし。後で土地を癒すのがとっても大変だったんですよ。

 

なんでかわかりませんが怒られました。

 

合格は既にもらっていたからいいのですが。さっさと帰るっていったのに無理やり残らされていろいろ試していたら怒るなんて酷いよね。

 

 

 

 

次の日の午前の授業は優秀すぎるエーレンフェストにしびれを切らしたうちの寮監がかなり昔の範囲をテストで出してきました。

 

ふーん、まあ、そこまで難しくないよね。今までの範囲でも少し応用すれば十分とける内容ですし。

 

ドレヴァンヒェルの生徒が怒っていましたが、エーレンフェストは涼しい顔をして全員合格をとってました。

 

エーレンフェストは本当にすごいなぁ。一致団結ぶりが他の上位領地と比べても段違いです。

 

この日の試験はエーレンフェストを除くとアーレンスバッハで少しの合格者を出しましたが他は全滅だったようです。

 

 

 

午後はヒルシュール先生の講義です。

 

ヒルシュール先生は説明が面倒だったのか、魔術具で調合の手順を映しています。去年壊れていたのを私が直したやつです。

 

あの魔術具も魔力の無駄を少し省けたから満足でした。いい経験をさせてもらった上に、早速直した魔術具が使われているところを見るのはうれしいですね。

 

さてそんな余計なことを考えていないで今回の調合の材料を...一応量りますか。

 

もう作りすぎて重さなんて量らなくても正確にわかるので秤がなくても簡単に作れるわけですが。

 

重さを量り終えれば、さっさと材料を刻みます。その後は調合するだけなので鍋を借りるために作業場を移動します。

 

「ヒルシュール先生、調合鍋をお借りしますね。」

 

「ローゼマイン様は相変わらずですね。」

 

さてと、シュタープの混ぜ棒でやってもいいけどたまには木の棒でっと。

 

「シュタープを使わないのですか?」

 

「このぐらいの調合ですと木の棒の方が魔力を込められるので回復効果が増幅する場合があるのですわ。」

 

材料は安く品質の低いものばかりですからね。魔力をギリギリまで込めるときに木の棒ですと程よく魔力が拡散するためか少し高性能になるんだよね。

 

まあ、他にもユレーヴェのせいで今は細かい魔力操作が難しいというもあるのだけど。

 

私はシュタープで高速化の魔法陣を二個描いてあっという間に終わらせます。

 

「これは参りました。皆様の参考にさせようと思ったのですが、これでは参考になりませんね。」

 

慣れれば、このくらいの作業なら簡単なんだけどね。魔王様は高速化の魔法陣をもっとたくさん書いてるし。

 

一応薬の状態を調べる魔術具で調べますが、調べるまでもなく合格とのことです。

 

 

 

 

次の日の午前は、魔石の鎧を作る授業です。

 

ようやくハンネローレ様と少しだけ話せました。ですが、今度はハンネローレ様があっという間に合格してしまい終わってしまいました。

 

またすぐに一人になってしまったので、ウラノの世界の『ぜんしんたいつ』を作ろうかと思ったのですが止めました。普通に簡単な鎧を作ります。

 

全身タイツも体全体守れるし結構ありだと思います。全身包んで背景と同化させれば隠れるのに利用できそうです。見た目がよろしくないのでわざわざ授業で作る必要はありません。

 

まあ、鎧なんてお守りがあれば役に立たないですし、今回の講義ではなんでもいいですね。

 

さて、午後はようやく時間が空いたので、久しぶりに図書館へ行きましょう。

 

 

 

 



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51話 図書館の主

「お久しぶりです、ソランジュ先生。」

 

「ローゼマイン様、お久しぶりです。相変わらず、一人ですね。」

 

「今日は側近の方々は授業があるのでいないだけですわ。」

 

いてもまくけどね...。

 

「ひめさま ひさしぶり」

「ひめさま やっときた」

 

ええ、やっと図書館に来られましたよ。

 

「この子達のお陰で大変助かってますわ。」

 

ソランジュ先生にそういってもらえるなら魔力を供給した価値があるよね。

 

「ところで背中に背負われているシュバルツ、ヴァイスに良く似た小さいのはなんですか。」

 

「ええっと、これは秘密です。」

 

当然秘密です。ちょっと重いんですけどね。

 

「ひめさま まりょく」

「ひめさま ばてばて」

 

それは私が疲れきっているって言いたいの?この魔術具たちは。まあ、冗談ですけど。いちいちこの子達に反応してもしょうがないですね。

 

シュバルツ達は、いかにも疲れているといった感じで耳が下がっていますので、魔力を供給してあげます。

 

「ひめさま こっちだ」

「おいのりする」

 

魔力に満足したのか耳がぴんと立って、やけに元気になった魔術具に連れてこられたのは、図書館の根幹に関わりそうな大きな魔石です。

 

去年はこの魔石に魔力を奉納していたら、七色の色がついてきたので、後少しで全部貯まる前でやめていたんだよね。

 

「ひめさま ぜんぶためる」

 

シュバルツ、ヴァイスに言われると何だかなぁ。まあいっか。貯めろと言うなら貯めますよ。

 

「メスティオノーラ様に少しでも近づけるよう知識が増えますように。」

 

うん?なんかとんでもなく輝きだしているのだけど...。なんか頭に響いてくる。

 

「図書館の礎の主としてメスティオノーラの系譜として認定し、ビブリパラングの称号を与える。」

 

はい?え、礎だったのこれ?

 

なんでここに?本をいい状態で保存する為の物じゃないの?

 

根幹に関わりそうと言ってもさすがに礎とは思わないよ!えーと、私が図書館の主的な扱いになったということでいいのかな。

 

「じじさま おおよろこび」

 

いや、じじさまとか今はどうでもいいよ!そんなことよりも言うことあるでしょ。

 

「シュバルツ、ヴァイス、ビブリパラングって何ですか?」

 

「ビブリパラングはしょうごう」

「としょかん かんりしゃだいりけんげん」

 

図書館管理者代理権限!

 

もしかして図書館って一つの領地として登録されていて一人で礎を染めちゃったから私に権限が移ってしまったということ?

 

だとすると代理権限と言うのも良くわからないけど。うん、まあ、得てしまったものはしょうがない、きっとしょうがないよね。

 

反逆罪とかならないよね?試しに地下書庫へ行って試してみますか。

 

ソランジュ先生の目をかい潜って侵入します。

 

「あるじ いのりたりない。」

 

入れてしまいました。鍵もなにもなしです。鍵のところに手を当てて入りたいと願ったら入れました。

 

のおぉ!これは不味いですよね。

 

とりあえず、片っ端からここにある本を読もう。そうだ、きっとそうすればいい案が思い付くはずです。

 

片っ端からこの間読めなかった本を読みました。

 

本を読み込む魔法陣を使わないのかですか?ここの本は魔力をまとった本ばかりで既存の魔法陣では読み込めません。

 

帰りですが、扉の前に転移用魔法陣があって起動すると二階のメスティオノーラの像の前に移動できました。

 

現実逃避をしたかったこともありますが、あまりに夢中になりすぎて、気が付いた時には閉館時間を過ぎていたようです。

 

「ローゼマイン様、どこにいたのですか?」

 

ソランジュ先生の笑顔がとっても怖いです。謝り倒しました。でも後悔はありません。

 

素晴らしい本ばかりでした。

 

また来ますよっと。

 

 

 

 

次の日の朝になります。

 

今のところ妨害など全然ないのはありがたいのですが、何だか調子が狂いますね。共有フロアに行っても雰囲気が余り良くないのです。去年はこんなに空気が変に張りつめているなんてことはなかったはずなのですが。

 

側近たちの様子も少しおかしい気がしますし、何かあったのかな。私に何かできるとは思わないけど。

 

さて、本日の授業はディートリンデ様と奉納舞だね。

 

ディートリンデ様の相手方のレスティラウト様は普通にうまいですね。

 

ですが、美しさと技量の次元が違っていたエグランティーヌ様とアスタナージウス王子と比べると今年の方がバランスがいいですね。

 

「これは独り言なのだが聞いてくれぬか。」

 

ひっ!ヴィルフリート様。なんでしょうか。幸い指輪は余り反応していません。うなずきもなにもせず私は話を聞くことにしました。独り言で聞くも聞かないもないなんて不粋なことは言わないよ。

 

「半年近くも倒れていたそうだな。そなたが無事そうで良かった。」

 

何だか心配してくれたようです。こんな無礼ばかりしている娘にね。なにか目的があるのかな。

 

「アウレーリアの件なのだが、あの場では言えなかったが其方随分な物を贈ったそうだな。」

 

魔王様と取引できるなら妥当な対価だと思うけど。

 

「アウレーリアより、真たる主はそなたのみだから何かあれば必ず助けになると伝えてくれと。」

 

全く困ったものだ、こぼしています。指輪的に結構不味いかも、でも絶対に伝えてもらわないと。

 

「わたくしも独り言なのですが。」

 

うん、独り言だから反応しないでよ。お願い。

 

「あなたの今のゲドゥルリーヒはアーレンスバッハではないとだけ伝えて頂けますか。」

 

「分かった、伝えておこう。」

 

これ以上は良くないので離れさせてもらいました。どうせ伝えるなら元気だってだけ伝えてくれれば良いのに。

 

連絡不要と約束しておいたアウレーリアが、そんなことを伝えるために危険を冒すなんて何かあったのかな。

 

 

 

「ローゼマイン様」

 

ひゃう!今度はだれ!

 

後ろを見るとハンネローレ様ではないですか!

 

「ハンネローレ様ですか。驚かされてしまいました。」

 

「ローゼマイン様、どこか元気がないように見受けられますが。」

 

なんでか元気がでないんだよね。どうしたんだろう。

 

「ユレーヴェに浸かりすぎたのか疲れやすくなっているのかもしれません。」

 

「大変だったそうですね。ご無事で良かったです。」

 

ハンネローレ様まで心配してくれるとは!なんだかうれしいですね。

 

「ありがとう存じます!ハンネローレ様。」

 

「少し元気が出たようで良かったですわ。」

 

ようやく、ハンネローレ様と話せそうだなと思ったのですが...。

 

「さぁ、休憩は終わりですよ! 上級生はこちらで、下級生はこちらです」

 

ああ、お茶会とか図書館についてとかいろいろ話したかったのに。

 

 

 

 

さて、奉納舞の練習でも祝福が出てしまい残念でしたが、気をとりなおしてヒルシュール先生のオルドナンツを調合する授業です。

 

魔法陣と違ってシュタープを得た後でしか使えないので作ったことはありません。

 

基本的な魔法陣なので改良しようがありません。ウラノの世界でいう『あれんじ』は無理です。

 

やはりユレーヴェの後にきっちりと魔力制御を行う練習をしていないせいで少し魔力が乱れましたが修正するのには魔王様のお陰で慣れています。

 

「ローゼマイン様が魔力をわずかとはいえ乱すのは珍しいですね。」

 

「ヒルシュール先生、わたくしはついこの間まで、ユレーヴェの中だったのですわ。この製作はリハビリにちょうどいい作業でした。」

 

「みなさん、この程度の乱れでしたら全く問題ないので手順通り作ってくださいませ。」

 

あれ、いつの間にか教材にされてる!それならもっと集中して作ったのに。

 

この後にオルドナンツが機能するか確認してから合格をもらい帰りました。

 

本当に調子がまったく上がりません。どうしてしまったのでしょうか。

 

 

 

次の日の午前中は授業がないため寝ていました。

 

調子が悪いと言うのもあります。

 

とは言っても授業に行かないわけにはいかないので、午後の実技には出席します。

 

本日の課題は求婚の魔石だそうです。

 

求婚って領主候補生にもあるのかな?

 

基本的には親が決めて嫌だろうが何だろうが確定だったと思うのだけど。

 

せっかくお隣でハンネローレ様と授業を受けているので聞いてみます。

 

「ダンケルフェルガーでは、ディッターで結婚相手をかけたり、その...女性から相手を倒して相手に結婚の課題を出してもらって達成できると婚約が認められます。」

 

「それは、すごいですわ!ダンケルフェルガーでは男性も女性も情熱的なのですね!」

 

「やはりこの方法は一般的ではないのですね。」

 

ハンネローレ様の焦り顔もかわいい。

 

「私も神殿しか知らないのでわかりません。神殿の者はその、ほとんど結婚しないので。」

 

役に立たなくてごめんなさい。

 

練習用の魔石を金粉化しないように一気に染めてと。

 

「もう染まったのですか!」

 

「コツがあるのです。そうですね、ダンケルフェルガーの燃え上がる情熱のように一気に魔力を流して染めるといいですよ。」

 

「そのようなコツがあるのですね。ありがとう存じますローゼマイン様。さっそくやってみますね。」

 

私は一足先に調合をはじめようとしますが。

 

「ローゼマイン様はどのような言葉を入れるのですか?」

 

え、そんなもの適当じゃだめなの?ウラノの世界のあいうえお的な。

 

「だめです。そんな言葉なんてとんでもない!初めて作る求婚の魔石ですよ。」

 

「ヒルシュール先生、わたくしどうしたらいいのでしょうか。」

 

そんなこと言われても結婚する前に処分されそ...。

 

前向きにならなきゃダメだよね。

 

「あなたの身の上は正直同情もいたしますが、それとこれとは別です。」

 

先生は...まあ、エーレンフェストではもはや断定状態ですか。

 

「あなたと一緒にいさせてください。」

 

「直接的過ぎますね...。」

 

「あなたの大切にしている道具のようにそばにおります。」

 

「それもだめですわ。いい印象ではないですね。」

 

闇の神とかいろいろ言うも無理です。こっち来てから恋愛小説を読んだ記憶がありません。

 

いえ、たぶん恋愛小説なのだろうと言う話はあるのですが難解すぎてわからないのです。

 

えっと辛うじて分かったのが、こんな感じだったかな。

 

「あなたと一緒の色に染まりましょう。」

 

たぶんさあ、これは危険な表現なんだよね。ヒルシュール先生もちょっと興奮気味です。

 

成人までとか言っているから思った通りダメな言葉ですね。おそらく私が使うことはなさそうです。

 

私も終わるとハンネローレ様も言葉選びに苦戦してなかなか進まないようです。

 

言葉選びはさすがに手伝えません。

 

ヴィルフリート様の方が後から来たのに先に調合を始めるようです。

 

そこまで見届けてから私は先に戻らせてもらいました。

 

 

 

 



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52話 図書館で王子に会う

さて、まずは図書館です。

 

「ソランジュ先生、おはようございます。」

 

「ええ、今日はお早いですね。」

 

ソランジュ先生は普段とお変わりなく見ているこちらが温かくなるような笑顔です。もう怒らせたくはないですね...。

 

「ええ、講義もようやく終わりましたので後は呼び出しが来るまでやりたいことをやる予定です。」

 

「噂には聞いていましたが、ずいぶん早いのですね。」

 

昔のシュタープ卒業時取得のカリキュラムも含めて当然知ってますからね。

 

まあ、上級貴族として教わっていたので領主候補生として網羅できているかはわかりませんが。

 

「今年の最優秀候補はローゼマイン様かヴィルフリート様のどちらかで早くも決まりかと言う話も出てますわ。」

 

「優秀なヴィルフリート様と比較されるとは光栄ですわ。そうだ、先生。最近図書館で変わったことはないですか。」

 

心配で気になっていました。良くわからない称号のせいで変わってしまったとか言われたらどうしよう。

 

「特に変わったことはございませんよ。」

 

良かった。問題ないようだから良かったけど、ちょっとドキドキするよね。その後、魔石とか返してもらっています。他にもソランジュ先生と話しているとシュバルツ達が寄ってきました。

 

「あるじ あるじ」

「ふく できたの」

 

何ということでしょう、服を着替えさせてあげるなんて、すっかり忘れてましたよ。そんなものもありましたね。

 

この魔術具達は、まるで心を読む機能がついているかのように言ってきます。やはり初期の設計図にはない特別な機能があるのでしょうね。

 

「あるじという言い方は初めて聞きました。」

 

ソランジュ先生が知らないと言うことはやっぱりなかなかない現象ってことだよね。

 

「先ほど先生にお聞きしたのは、何故か呼び方が変わってしまったのでわたくし不安で不安で。」

 

ものすごく不安だったんですよ。

 

「ひめさま以外呼べないはずなのですが、こちらでも調べてみますね。」

 

お願いするも、原因はほとんどわかってますけどね。

 

「お着替えの日付は決まり次第また報告しますね。」

 

「あるじ はやくおねがい」

「まちくたびれた」

 

おかしいです。時間制限はなかったはずでは?

 

 

 

 

さて、では以前から実行しようと考えていた...。

 

そこで、ふと先ほどまで私しかいなかったはずなのに図書館にやけに人が増えているのが目につきます。さきほどまでいなかった護衛騎士の方がこんなところに十名もいます。

 

私には関係ないというか関わり合いにならない方が良さそうですね。

 

彼らは1階に用があるようですし、私は2階にしか用がないので関わらないで済みそうです。

 

「貴女は講義に出席しなくても良いのですか?確か領主候補生でしたよね?」

 

うん、王子様ではないですか。むこうから話しかけられてしまいました。王子がいるということは先ほどの護衛騎士たちは王子の騎士なのでしょう。

 

「アウブアーレンスバッハの養女のローゼマインと申します。講義の履修は終わりました。ヒルデブラント王子のお邪魔をするつもりはございませんから、わたくしのことはお気になさらず読書をお楽しみくださいませ。」

 

王族に関わるとろくなことがないからね。話したいこともないし。

 

「シュバルツ、ヴァイス。ヒルデブラント王子の案内をお願いしますね。」

 

背中の子達を少し重くてもつれてきて良かった。

 

さて、メスティオノーラの像に魔力を奉納し、回りに誰もいないことを確認してから足元の魔法陣を起動します。

 

まあ、この像自体結構死角にあるので警戒はそこまで必要がないのですが。

 

さて、この背中のウサギですが物を運んだり戦闘に特化しているシュミルです。

 

アインとツヴァイと暫定的に名付けています。

 

まあ、あの魔術具のウラノの世界でいう『でっとこぴー』です。

 

でっとこぴー、下位互換いい言葉ですね。

 

レッサー君タイプでないので十分です。

 

小型化して半分以下の大きさにまとめたんだよ。背負っても魔力流してやれば重さも軽減できるようにしたし、みんなきっと変な背負い袋(リュック)とか飾りだと思ってくれるよね。

 

さて、暫くしたらシュバルツ、ヴァイスのどちらかは来てくれるでしょうし、それまでは調べものですね。

 

歴史書から図書館の魔術具の昔の管理表等いろいろ出てきます。さて、ヴァイスが暇になったのか来てくれたので。

 

「ヴァイス、ここの本は貸し出し可能ですか?」

 

「あるじ もちだしきんし」

 

やっぱりだめなのかな。

 

「ヴァイス、管理者代理権限の範囲でもだめでしょうか」

 

「当日返却なら可能。」

 

やったね。うふふん。なにするをする気って?

 

もうすることは決まっていますよね。

 

「ヴァイス、アインとツヴァイに乗せている十冊の本の貸出をお願いね。」

 

「わかった あるじ」

 

さてさて戻りますか。

 

少し転移陣で戻るところを見つかってしまわないか緊張しながら二階に戻ると回りに人はいませんでした。良かった。胸をなでおろしてからゆっくり階段を下りていくと...。

 

「おや、ローゼマインはまだ二階にいたのですか?」

 

あら、ヒルデブラント王子こそまだいたんですか。本を借りてすぐ帰ると思っていたのですが、もしかしたらヒルデブラント王子も図書館がお好きなのかもしれません。

 

「ええ、2階で調べものです。」

 

「その後ろの小さなシュミルは何ですか?」

 

まずい、5冊ずつ手を頭の上にあげて本を乗せているから目立っています。

 

「ヒルデブラント王子、この子達はわたくしがお遊びで作った物を運ぶのを手伝ってくれる魔術具ですわ。」

 

「ローゼマインは魔術具も作るのですね。」

 

ヒルデブラント王子が感心したかのように言ってきますが、余りこの子達を見せたくないのですがどうしよう。借りるだけしたらまた魔法陣で地下書庫へ行って裏口へ向かおうと思ったのにまさかここで捕まってしまうとは想定外の事態です。

 

「趣味の範囲ですわ。」

 

戦闘用ですなんて口が避けても言えないし。

 

「ローゼマイン様、失礼ですがお付きの方はどうなさっているのですか。領主候補生に加えて女性で護衛騎士ですら一人もいないというのは非常に珍しいですよね。」

 

王子の騎士なら黙っていてくれればいいのに、めんどくさい質問が来ちゃった。

 

「わたくしの側近連中は図書館に全く興味がなく空いているものがいなかったので一人できただけですわ。」

 

「領主候補生としてそれはいかがなものか。」

 

そんなこと言われても、まあ、私が悪いのでしょうが。

 

「将来アウブになるのならともかくあくまで予備としてのわたくしには関係のない話ですわ。」

 

「まあ、あのアーレンスバッハですからなぁ。苦労されているようですな。」

 

あれ、何か同情するような感じで納得されてしまいました。アーレンスバッハだからで済む話なんだ。なんだか逆にそう言われると釈然としないものを感じますが今は余計な感情を飲み込みます。

 

「それではわたくしはこれにて失礼しますわ。」

 

はぁ、裏口が使えないとは想定外です。できるだけ目立たないように表から外にでなきゃ。

 

その後、余り目立たないように外に出て、ネコ君から途中レッサー君に乗り換えて替えて外へ行きます。

 

木々が所々生い茂る、真っ白できれいな雪の中を移動します。貴族院の中の祠や像はだいたい回ったかと思うので、外にある祠巡りですね。

 

最初の目的地は、何か違うなぁ。

 

去年のライデンシャフトの小屋とは比較にならないくらい小さいです。

 

まあ、新しそうな資料に載っていた祠で一応通り道だから寄ってみましたが必要なかったですね。きれいにしてあげて魔力を奉納したら次へいきます。

 

次に向かうところは本命の一つでまだ少し離れていますが、他よりも少し大きめの祠が見えてきます。

 

近づいて来ると祠の全体像が徐々に見えてきます。うれしくなって少し急いで進みました。

 

改めて目の前に来てみてみると...それっぽいです。同じくらいの大きさです!

 

今日の読書はここですね。

 

同じような施設がたくさんあれば、読書し放題です。

 

広域魔術の魔法陣描いてっとヴァッシェン!

 

汚れてコケに埋もれていた祠がキレイになり、前回と同じように扉に手を当てると入れました!

 

中に入ると、風の女神と風の眷属神の像が並んでいます。

 

今回は風の女神シュツェーリアと風の眷属神に祈りを捧げろですかね。

 

前回と同じく風の女神の貴色である黄色が鈍く光っています。

 

明るさがもう少しほしいですね。

 

「神に祈りを!」

 

魔力を奉納すると、いい感じです。鈍かった黄色い光が美しく暖かい光に変わります。

 

今日はここで読書ですね。

 

やはりこの神の像のある領域は神域に近いのか、いくらいても疲れません。

 

ようやく半分の5冊読めました。

 

契約も弱まっている感じで心安らぐ空間とは、まさに神にかん...。

 

おっとだめです。万が一奉納が終わったと見なされたら出されてしまいます。

 

まだ半分も読む本が残っているのです。

 

 

 

 

後、読んでいない本の残りが一冊まで来ました。

 

下に何か魔法陣が浮いてきましたが気にしません。そんなことより本です。

 

黄色い文字の出る石板の輝きが増している気がしますが気にしません。流石にここまで来ると何か嫌な予感がしてきましたが気のせいでしょう。ええ、きっと気のせいです。

 

 

 

はぁ、幸せな時間でした。

 

レッサー君出して横になったら気持ち良さそうです。

 

あうち! え、なに!?あれ、石板が目の前にあります。

 

なになに。何か書いてあります。

 

祈りが足らぬ、信心が足りぬ、真剣さが足りぬ。

 

去年のライデンシャフト様とまったく一緒ですね。神様はみんな違う特徴を持っているはずなのに私に対して言うことは一緒なんだね。

 

『早く祈りなさい!』

 

まあ、満足しましたので感謝を込めて全力で祈らせて頂きましょう。

 

「風の女神 シュツェーリア及び眷属たる英知の女神 メスティオノーラ、芸術の女神 キュントズィール、時の女神 ドレッファングーア...。」

 

特に時の女神 ドレッファングーアより幸運を!

 

全力で祈ったおかげか、これはすごいです。前回と違う反応を起こしています。祠の中が黄色というより金色ですね。何か光の柱のようなものが建物内にもたくさん立っているように見えます。

 

余りの見事さに、神に祈りを!

 

最後に祈りをおまけしてあげたけど、これだけやってもまだ足りないのかなぁ。さすがにもう一回最初から祈り直す元気はないのですが。

 

 

 

あの、反応は?石板に出ていた文字が消え何も文字がない状態です。

 

だめならだめと言ってもらわないと、出してくれればそれで良いのですが。

 

其方の祈りは我にとど...。

 

え、そこで止まらないで。もう少し待ちます。

 

その後に、祈りは届いたから、この石板と、御言葉くれるって。

 

相変わらずツェントがどうとか言っているけどそこはいいや。祠から放り出された後に図書館へまっすぐ戻ります。

 

「あるじ もどった」

「ほん かえす」

 

はいはい、返しますよ。

 

「あら、ローゼマイン様戻って来られましたの?」

 

「ソランジュ先生、本を返していたのですわ。」

 

「ずいぶん古い本ですわね。わたくしも見た記憶のない本ですね...。」

 

ま、まずい。あそこの本だなんて言えない。

 

「ヴァイス、今すぐ戻してらっしゃい。」

 

「わかった もどしてくる」

 

器用ですね。十冊もまとめて持っていけるのですから。

 

「それではソランジュ先生、私は戻りますね。」

 

「ええ、ローゼマイン様の本を運ぶシュミルも気になりますが、今はお聞きするのを止めておきますね。」

 

別にさっきの本のことをごまかせるのなら、ソランジュ先生にならば、この子達のことを少し話してもいいかな。

 

「ただのシュバルツ、ヴァイスの下位互換機ですわ。」

 

「やはりそうなのですね。ローゼマイン様は何でも作られるのですね...。」

 

何でもはできません。材料もないですし。

 

 

 

 

この夜にディートリンデ様に相談しにいきました。

 

「ディートリンデお義姉様、ディートリンデお義姉様!」

 

何度か言わないと反応してくれません。本当にどうされてしまったのでしょうか。心なしか顔色も悪い気がします。

 

「...なにかしら?」

 

去年とは違って反応が返ってきても、ものすごく冷たいのです。

 

私が何かしたのか原因がさっぱりわかりませんのでどうして良いかも分かりません。

 

「ヴァイス、シュバルツの着替えの件はどうしますか。」

 

まるで、私と話したくないとでも言うかのように、側近を介して返事すると言い取り付く島もありません。

 

着替えは3日後で図書館で行い、エーレンフェストも呼ぶとのことです。

 

すぐに着替えさせるだけですしソランジュ先生に両者の護衛騎士を入口に立たせると言うことで許可を貰いました。

 

この後2日はモヤモヤしたものを吹っ飛ばすため同じように祠巡りを行い、命の神エーヴィリーベ様の関係の祠と水の女神フリュートレーネ様の関係の祠を同様に回りました。

 

他の問題と言えば...毎日ヒルデブラント王子が図書館へ来て話しかけてくるのですがどうやって逃げたらいいのでしょうか。

 

 

 



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53話 シュバルツ達のお着替え会

さて、本日はシュバルツ、ヴァイスのお着替え会です。朝の図書館の開館後に行うとのことになっているのですが...。

 

「ディートリンデ様が遅れるのですか。」

 

何でも朝一から緊急の用事が入ってしまったとのことです。

 

ディートリンデ様がいないといっても警備についてや着替えをさせるのは、他のアーレンスバッハの方々なので希望者にお願いするだけですし、着替えさせるだけなら問題はありません。

 

現状では着替えさせる部屋を整えれば後は私が触れる許可を出すだけでいいので事前にしておかないといけないことはもうありません。

 

「では、皆様図書館へ向かいましょう。」

 

図書館へ着くと執務室の奥の応接室でエーレンフェストの方を迎える準備をします。

 

「本日はローゼマイン様のお供の方が多くてようございます。」

 

ソランジュ先生は去年の私が頭の魔術具兼魔法陣を起動させてふらふらしているのを見ているのでよく心配してくれます。

 

「あら、これでもずいぶん元気になったのですよ。去年とは違いますわ。」

 

「それでも去年の状況を知っている以上、心配にもなりますわ。」

 

純粋なご心配とご迷惑をおかけして申し訳ないのですがしばらく続くことになりそうです。

 

「エーレンフェストのヴィルフリート様、シャルロッテ様がいらっしゃいました。」

 

ディートリンデ様がまだ来ないけどどうしよう。準備が終わっても開始の予定時刻になってもまだこちらに来られません。

 

ちょっとお茶会で時間を稼ぎますか。あれほど気に入っていたヴァイス達のお着替えに参加できないなんて申し訳ないですから。

 

エーレンフェストの制約についてもヴァイス達についてならある程度自由に話せるし。

 

...他の話題になったら、契約がどう反応するのか全く読めないけど。

 

「ようこそお越しくださいましたヴィルフリート様、シャルロッテ様。」

 

「お招きいただきありがとう存じます。」

 

貴族の長い挨拶を終えた後、側近達に席へ案内してもらいます。

 

「申し訳ございません、本日はディートリンデ様が所用のため遅れるとのことなのでわたくしがしばらくの間対応いたしますね。」

 

はぁ、話題に気を付けろって、基本ボッチ属性の私には無理難題すぎます。

 

挨拶くらいなら、今のところ指輪に反応はありません。さて、どこまでがヴァイス達の話題になるのでしょうか。

 

「それにしてもローゼマイン様が我々とこのようにお話しするのは初めてのことではございませんか。」

 

うん、だって、はるか高みに上るくらいなら諦めますよね。

 

「アウブであるお父様より、エーレンフェストとの情勢はお世辞にもよろしくないので接触の禁止を受けておりますわ。」

 

うん、この程度の話題ですらだめですか。指輪が反応しちゃうなぁ。

 

「お父様は私に対してとても過保護と言っていい状態ですが、シュバルツ、ヴァイスの服が余りに見事でしたので今回に限り許可をいただいたのですわ。」

 

ここまで言えば通じるよね。魔王様と接触しているのならたぶん何かしらの制約を受けていることは推測してくれていると思うけど。

 

「うむ、なかなかのデザインだろう。リーゼレータは本当にシュミルが大好きなのだ。リーゼレータ、説明を任せる。」

 

リーゼレータが前に出てきていろいろ説明をしてくれます。

 

「この髪飾りはハイデンツェルというクラッセンブルクとの国境近くの村の名物でして、珍しい魔木や薬で有名な村で作られています。」

 

うん、完全に狙ってやっているよね。

 

「わたくし、ローゼマイン様の髪飾りを見たときに同じ様な発想をする方がいることにとても驚きました。」

 

出所が同じだろうとでも言いたいのでしょうか。その通りですが。

 

「わたくしの頭の髪飾りは魔術具の上に魔法陣を描くのに都合がいいから使っているだけですわ。リーゼレータ、素晴らしい服を作ってくださりありがとう存じます。」

 

本当に白と黒でシンプルでいいよね。髪飾りなど糸で作った花がついていて見事に私の好みと合致しています。あ、そういえば、魔法陣の関係で少しだけデザインを変えてしまったのでそのことを話しておかないと。

 

「少し魔法陣の関係でデザインを変えてしまっていますが、素晴らしさが損なわれることはないかと存じます。」

 

お礼終了でいいかな。そこでリーゼレータが少し期待しているようなそわそわした感じで話してきます。

 

「不躾なお願いで申し訳ないのですが、よろしければわたくしにもシュバルツ達に触れる許可を頂けないでしょうか。」

 

「どうして接触許可が必要なのでしょうか。」

 

「他にも動きを妨げないような飾りを作らせていただいたので是非とも直接着けさせていただきたいのですわ。」

 

うん、個人的には接触許可をだしてあげたいけど私の独断じゃ無理だなぁ。

 

「ディートリンデ様がその飾りを気に入れば許可を出せるかと存じますのでお待ちくださいませ。」

 

そこで部屋の入り口に人が来る音がすると、ディートリンデ様がこちらへ来ます。切りのいいところで来てくれて良かったです。

 

「お待たせしてごめんなさい。ヴィルフリート、シャルロッテよく来てくれましたね。」

 

「ディートリンデお義姉様、お待ちしておりました。早速着替えさせますか。」

 

「あら、ローゼマイン。わたくしも少しヴィルフリート達と話したいですわ。」

 

お茶会では余り変わらないのですね。

 

ディートリンデ様が入ってきてこちらを見たときにどこかほっとした表情だったのが気になるけど。私がほっとしただけなのかな。

 

この方の行動は全くわからないから、流されるなかで何とかするしかないのですが。

 

その後は話し好きのディートリンデ様がとにかく話し続けます。前言撤回です。相槌を打つだけでいいなんて楽だなぁ。

 

「では、そろそろ着替えさせましょうか。」

 

「ディートリンデお義姉様、そこにいるリーゼレータが素晴らしい飾りを持ってきてくださったとのことなので接触の許可を出したいのですが。」

 

「見せていただいてよろしくて。」

 

装飾品を見ているディートリンデ様の表情が和らいでいたので接触許可は出せそうですね。

 

「いいですわね。わたくしもこの髪飾りや装飾品がほしいわ。ヴィルフリート都合をつけられなくて。」

 

「エーレンフェストとアーレンスバッハの現状では難しいかと。以前お話しした条件を呑んでいただけるなら融通はしますよ。」

 

「まあ、あれだけ嫌われててまだ諦めていなかったの。ヴィルフリート、余りしつこいと嫌われますわよ。」

 

「...久しぶりに普通に話せた気がします。」

 

「久しぶりも何もあなたとまともに話せたところを見たことがなくてよ。」

 

なんの話だろう。条件ね。ヴァイス達の話じゃないから加わることはできませんけど。

 

「ではローゼマイン、リーゼレータに接触許可を出してあげなさい。」

 

「シュバルツ、ヴァイス、リーゼレータに接触許可を。」

 

「わかった あるじ」

「リーゼレータ せっしょくきょか」

 

図書館の称号を得てから素直に言うことを聞いてくれることが増えたなぁ。

 

とそこで非常に困った表情をしたソランジュ先生が、ノックをして入ってきました。

 

「ヒルデブラント王子がシュバルツとヴァイスを見にいらっしゃったのですが。」

 

「あら、大したおもてなしは出来ないことを伝えて入ってもらえばよろしくて。ヴィルフリートとシャルロッテもそれでいいわよね。」

 

アーレンスバッハの素晴らしさを見せるいい機会ですわ、なんて言ってます。個人的には王族と関わりたくないのですが。

 

「ええ、王族の頼みでしたら構いません。」

 

はぁ、断れるわけないよね。ディートリンデ様がいるときで良かった。

 

そんなこんなで王族が部屋に来ると回りに伝え、ヒルデブラント王子が執務室に入ってきます。

 

全員で跪いてお出迎えです。王子が一通り回りを見た後に笑顔で手を振って促します。

 

「続けてください。」

 

「王子、よろしければこちらの席へ。」

 

私たちが座っている席へ案内してもらいます。まあ、領主候補生で固まって話しているからここに案内するしかないよね。

 

改めてヒルデブラント王子を見るとレティーツィアと同じ年の王子と身長がほとんど変わらないとか嫌になりますよね。

 

まあ、寝ていた時間差し引けばそんなものなのでしょうがと心の中だけで言い訳をつぶやきます。

 

ヒルデブラント王子は、本日もシュバルツ、ヴァイスを見に来たそうで、いなくなっていたので驚いたとのことです。そこでソランジュ先生に聞いて見た所お着替えをしているということでこちらにお見えになったということだそうです。

 

「シュバルツとヴァイスはこのような着替えをするのですね」

 

「主を交換するたびに行うそうですわ。この服はエーレンフェストがデザインし機能の中心となる魔法陣はアーレンスバッハで設計作成したものですわ。」

 

ディートリンデ様はすごいでしょうといった感じでご機嫌です。王族に売り込める機会なんて余りありませんしね。ヒルデブラント王子は他の王子と違って話しやすいですし。

 

話の中心がディートリンデ様に移ったので、相変わらず私は相槌を打っていただけなのですが、シャルロッテ様が私に興味があるような目を向けて話しかけてきました。

 

「あの、先程シュバルツ、ヴァイスはローゼマイン様のことを主と呼んでいましたが、ひめさまと呼ぶとお聞きしていたのですが変わったのですか?」

 

そういえばシャルロッテ様とは挨拶以外ではほとんどお話したことがないなぁ。

 

「この間、ちょっとした事件がありまして呼び方が変わってしまったようなのです。」

 

「事件ですか、お聞きしてもよろしいですか。わたくし、ヴァイスたちがあまりに可愛らしいので、とても興味があります。ローゼマイン様もシュミルがお好きなのですよね。背中にいつも背負われているくらいですから。」

 

シャルロッテ様、ごめんなさい。これはただの護衛用の魔術具です。レッサー君だといろいろ言われるからシュミル型にしているだけで...。

 

「背中のこれらは荷物運びに困ったときのお手伝いをしてくれる魔術具達なのですよ。」

 

私はサービスとばかりに起動してあげます。

 

「わぁ、可愛らしいですね。ヴァイス達とも違う小さいゆえの可愛らしさがありますね。」

 

契約についても同じ魔術具を元としているからヴァイス達の話の範囲内になるようです。そこでディートリンデ様の話が一区切りついたのかヒルデブラント王子が話に入ってきました。

 

「そういえばこの間の本を借りるときも動かしてましたね。」

 

ヒルデブラント王子には見られてますからね。毎日なぜか来るから隠しておくとか無理ですし。

 

「ただの試作品ですわ。戻りなさいアイン、ツヴァイ」

 

少しだけ動かしてあげましたが背中に戻します。回りから小さなため息が聞こえてきて、少し残念そうです。

 

「ローゼマイン、それはなんですの。」

 

ディートリンデ様、今聞いてくるのですか。

 

「ディートリンデお義姉様が以前寮にシュバルツ、ヴァイスを置いておきたいとおっしゃっていたので試作しただけですわ。ただ、今の段階では稼働時間が短すぎて実用に耐えられるようなものではございません。」

 

別に実態は私のただの護衛ですが...。名目はあった方がいいですよね。

 

ローゼマインと少し感動したようなつぶやきが聞こえた気がしましたが、ちょうどそこで着替えが終わったようです。

 

 

 

 

さて、着替え終わったシュバルツ達のお披露目です。どうしたら、このようなかわいい衣装って思い付くのでしょうか。

 

黒と白で男の子と女の子かな。

 

花飾りや魔法陣ばかりに目がいっていたのは事実ですが、改めて着替えさせてからシュバルツ達を見てみるとこの魔術具のためだけにデザインしたことがよくわかります。

 

落ち着いた雰囲気でまるで以前からこの服をずっと身に付けていたかのように錯覚するほど違和感がありません。

 

「魔法陣も見事ですね。ボタンの魔石もいいものを使われているようですね。」

 

それは、アウレーリアと旧ベルケシュトックで魔獣をたくさん狩りましたから。

 

事前に魔力与えてできるだけ強化して、最後は器を耐えきれなくしてから倒して、最高級の魔石を産み出すのは少し大変だったんですよ。私一人ではとても無理でした。

 

「ヴィルフリート様、先程のディートリンデお義姉様の髪飾りの件なのですがヴァイス達が身に付けていた服と交換でいかがですか。わたくしにも普段使い用の髪飾りが一つ欲しいです。」

 

この服は、既に解析し尽くしたから私は持っている必要はありませんし、アーレンスバッハには明らかに不要なものだしね。あえて言うのなら魔石ぐらいですかね惜しいのは。

 

「それはいいですわね。ヴィルフリートどうですか。」

 

「それはさすがにこちらが貰いすぎではないか。」

 

ヴィルフリート様の言う通りさすがに価値が合わないか。

 

「それでしたら加えて、今後のアーレンスバッハ領主一族の装飾関係の注文優先権とだったらいかがですか。飽きたらそれまでですし、そこまでお互い負担にはならないかと存じますけど。」

 

これにはヴィルフリート様も苦笑いです。そこまでして欲しいのかと顔に書いてありますよ。

 

「お兄様いいのではないですか。女性にとって気に入った装飾品の価値は男性にはわからないものですわ。」

 

「わかった、エーレンフェストに戻り次第検討させてもらうことにする。」

 

一通り終わりだなと思ったところでヴァイスとシュバルツがやって来ます。

 

「あるじ がんばった」

「ほめて ほめて」

 

態度が軟化したことはいいことですよねって、この魔術具たちは着替えさせてもらっただけじゃん。

 

いつものことなので額より魔力を流してやります。

 

あれ、ヒルデブラント王子も触りたそう?

 

「シュバルツ、ヴァイス、ヒルデブラント王子に接触許可を。」

 

「わかった あるじ」

「ヒルデブラント せっしょくきょか」

 

今にも触りそうでしたので間に合って良かったです。

 

疲れました。エーレンフェストだけでも気を使うのに、まさか王族まで関わってくるとは。

 

王子は触って満足そうにしているので、大丈夫ですよね。

 

まあ、回りに気を使ってもらっているから形になっているだけのような気もしますが。

 

ようやく終わりだなと思ったところで油断していたのがいけなかったのでしょう。

 

「ところでローゼマイン、よろしければその背中のシュミルを頂けませんか。」

 

そんな好奇心旺盛で期待を込めた目で見つめられても困ります。

 

ヒルデブラント王子の側近連中に視線を向けますが申し訳なさそうに首を降るのみです。

 

「あら、ローゼマイン。ヒルデブラント王子が欲しがっているのなら差し上げなさいな。」

 

ディートリンデ様がそう言うのは珍しいですね。ヒルデブラント王子とは相性が悪くないようです。

 

「...王族への献上品となりますが、私が使っているものでよろしいのでしょうか。」

 

「もちろん、新しく作って頂いてもいいですが、できればその背中の子が欲しいです。」

 

王子は今すぐに欲しいと言うことですかね。それともこの子達のどちらかが気に入ったとかかな。

 

私もレッサー君軍団を作るにあたって目の位置とか大きさとかいろいろ変えるけど、とっても気に入る子もいれば少し違うだけで失敗したかなと思う子もいます。どの子もみんなかわいいですが。

 

王子の側近たちを見ても頷くだけですので贈ること事態は問題ないようです。

 

確かに王子なのに部屋から出られないというのは、気が滅入るかもしれませんので、1体くらい諦めますか。

 

小型レッサー君でも代用できますし。レッサー君タイプは荷物の持ち運びが苦手なのが難点ですが。

 

「ヒルデブラント王子は、闇と光の属性をお持ちですか?」

 

「持っています。」

 

ヒルデブラント王子にどちらの子が欲しいかと聞くと、どちらでも構わないとのことです。ここまできて遠慮をするとは思えないので、すぐに欲しい方だったようです。

 

「分かりました。この子達は服ではなく名前を欲するよう設定してありますので後で決めてあげてくださいね。ツヴァイ、ヒルデブラント王子へ主変更。機能も魔力節約設定に変更。」

 

「あるじへんこう ヒルデブラント。」

 

ツヴァイはそういうとトコトコとヒルデブラント王子の脇に行きました。

 

「ありがとうございます。ローゼマイン様。」

 

後ろの側近たちも、申し訳なさそうにお礼を言ってきました。

 

まあ、節約モードなら荷物運びぐらいしかしないし魔力圧縮をしていないヒルデブラント王子でも十分に魔力が足りるよね。

 

ヒルデブラント王子がとっても嬉しそうなので、もういいです。

 

今回のシュバルツ達のお着替え会は、非常に疲れ失ったものもありますが得たものもあります。

 

やはり一番の収穫は、ヴィルフリート様、もしくはシャルロッテ様が、魔王様とそこそこ深い関係を持っている可能性が高いのがわかったということですね。

 

ディートリンデ様については保留です。

 

私程度が理解できる方ではありません。思った以上に延びたヴァイス達の着替えもなんとか無事に終わり解散となりました。

 

対応で疲れきりましたので、貴族院内の祠や像を軽く巡り部屋に戻って休みました。

 

薬の鍵とかは、ばれていないようで無くなったりせず順調ですが、汎用素材がまた盗まれだしたようです。

 

致命的ではないのでもう諦めていますが。

 

 

 

 



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54話 ゲドゥルリーヒの祠

土の女神といえばゲドゥルリーヒ。

 

故郷を思う心もゲドゥルリーヒ。

 

あの素晴らしい空間がある祠もこれがきっと最後かと思うと残念です。

 

背中のシュミルもアインしかいないので五冊しか運べませんし。

 

今日も本を乗せた一人用レッサー君に乗り込んでこそこそ移動中です。

 

今日は、ヒルデブラント王子にも捕まりませんでしたし良かったですね。

 

こういう風にうまくいく時は必ず何か起こるのは日頃のおこないが悪いと神様方から見られているせいでしょうか...。

 

さっそく近くから戦闘音らしきものが聞こえてきました。

 

巻き込まれたくはないですね。ライデンシャフトの槍が当たれば知っている魔獣ならばどうとでもなるのですが。

 

念のため様子を遠くから見ますと...。

 

ターニスベファレンじゃないですか。

 

通称ターニちゃんは旧ベルケシュトックに生息する私が一人で安全に倒せる数少ない魔獣です。

 

良質な魔石を作るのに素晴らしい特性を持っているので是非とも横取りしたいです。

 

このターニちゃんという魔物は闇属性という特殊な属性を持っており、魔力が大好きで他の属性の魔力を吸収するという能力を持っています。

 

正攻法でやるのなら闇の祝詞等で闇属性を持たせて攻撃するのですが。

 

ラルツェ

 

ライデンシャフトの槍を準備し闇以外の六属性を付与した後は、ターニちゃんの持つ魔力量に闇以外の属性の魔力量をそれぞれ合わせてあげると...。

 

「あっちへ行ったぞ、まずい!」

 

もう、ウラノの世界で言う『ふぃっしんぐ』ですね。簡単につれます。槍の魔力へ向かって一直線に突っ込んできます。

 

さすがの魔力が大好きな彼らも器の魔力量が一瞬で七倍になると...。

 

内側だけ溶けるのです。身食いと一緒です。

 

ちなみに魔力の属性と魔力量を均等にしないと爆発してひどい目にあいます。アウレーリアと一緒に魔力量をこめ過ぎたりして何度かひどい目にあいました。

 

倒した後に残るのは大きな魔石や七色になった皮や牙等です。

 

レッサー君軍団を作るのに欠かせません。

 

事前にかなりの攻撃を加えてくれていたようでなかなか上質な魔石が取れました。

 

そこで気が付きました。ついつい何も考えずに勝手に倒しちゃったけどどうしよう。

 

魔石以外をばれずに回収するには時間が足りませんが、せっかくの素材を放置するのは気が引けます。

 

他領では知りませんがそこまで珍しい魔物ではないのですから、堂々と回収してしまえばいいですね。後は言われたときに対応を考えましょう。

 

「アイン、出来るだけ急いで素材の回収」

 

「そざいかいしゅう いそぐ」

 

ふう、来る前に終えちゃえば関係ないよね?

 

「今度はグリュンだ。」

 

「まて、人がいるぞ。あれは違う!」

 

まずいです。どうせ人に見られないと思って今日もレッサー君でした。

 

とりあえず攻撃されないでよかったけど、みんなひどいよ!こんなに愛くるしくてかわいいレッサー君とあんな魔獣と一緒にするなんて!

 

「こんなところで何をしている!」

 

「それよりも先程の魔獣を確認し、中央騎士団に応援を呼ばねばなりません。」

 

トラウゴット様とコルネリウス様だったかな、エーレンフェストの方が何でこんなところに。

 

「ターニスベファレンでしたら回収させて頂きました。倒したのは私ですから素材は全部頂きます。」

 

しかも中央騎士団!まためんどくさいことになりそうです。

 

「まってください。ローゼマイン様が倒したと言うのですか。」

 

別に対処法さえ知っていれば難しくないよね。

 

私はうなずきでとどめます。お願いだから話しかけないで。さっきの会話だけで指輪が反応しているんだよ。

 

「いったいどのように?魔獣を倒した後にしては血等飛び散っていませんが。」

 

「答える義務はありません。失礼します。」

 

さっさと祠へ逃げましょう。

 

祠へ向かう途中にアーレンスバッハの採集場を通ったのですが見事に荒らされていましたので、こっそりお祈りして回復させておきました。

 

採集場の魔法陣は本当に便利です。去年の貴族院で魔法陣を見てから、応用してシュタープとか魔紙で神殿の畑等で展開できないか研究しました。結果としては、起動自体はできても、起動するまでに魔力を大量に消費してしまうため、今まで通りのやり方と魔力量の差があまりでないので研究途中として保留しています。

 

さて、思わぬ収穫と魔力消費がありましたが、目的の祠はこれですかね。とりあえず綺麗にしましたが、結構ボロボロです。

 

祠に意思のようなものを感じるので魔力だけ奉納すればなんとかなるかもしれません。

 

とりあえず、中に入ったら本ですね。

 

いつも通りに「神に祈りを!」

 

ここは土の女神 ゲドゥルリーヒの貴色は赤い光で、本が少し読みにくいです。

 

心地はいいのでゆっくり休みを入れながら読んでいきます。

 

急かされることもなくとてもいいです。まるで故郷の村にいるかのようです。

 

 

 

読み終わってしまいました。

 

改めて像を見てみますと、ゲドゥルリーヒの像が崩れかけてる!?

 

「土の女神 ゲドゥルリーヒに感謝の祈りを捧げます。」

 

私の心のゲドゥルリーヒに帰れるようご加護をお願いします!

 

かなりの魔力を最初に捧げますと崩れかけていた像が他の像と同じくらいに戻りました。

 

残った魔力で再度魔力を奉納し、祈りが届いたようです。

 

また、赤い魔石の石版がこちらに飛んできてお言葉を貰い強制退場です。

 

これで重要そうな祠は回り終えましたし、闇と光の個別の祠がない限り終わりですね。

 

少し寂しいですが、いつも通り小さな祠にも寄って先に素材を自室に入れてから図書館に向かいます。

 

「あら、また、借りたその日に返しに来たのですか。」

 

「ソランジュ先生、読み終わりましたので返しに来ました。」

 

ヴァイス達にいつも通り直ちに返しに向かわせ私はいつも通りに2階から転移用の魔法陣で地下へ向かいます。

 

「あるじ あんないする」

 

ヴァイスの雰囲気がいつもと違いますね。

 

案内してくれるとのことなので素直についていきます。

 

「あるじ ここさわる」

 

今度はシュバルツですか。今まで気がつかなかった魔法陣がありますね。

 

隠し部屋でしょうか。魔力を流します。

 

白い魔力の扉ですね。

 

少し中に入るのをためらっていると、ヴァイス達が両手をつかんで引っ張って行きます。

 

相変わらず勝手な魔術具です。痛いよ、もう少しゆっくり歩いて!

 

ヴァイス達に無理やりなんだか豪勢な扉の前につれて来られましたよ。

 

「あるじ さわる」

 

いや、これは無理でしょう。

 

明らかに危険にしか見えない魔法陣が浮かんでいるのですが...。おそらくヴァイス達の魔法陣を凶悪にしたものです。

 

こんなものに触りたくはありません。

 

「いいから さわる」

 

やめて!あうち!痛いよぉ。だから無理やり引っ張らないでよ。

 

「ひめさま とうろくない」

「このさき はいれない」

 

だから無理だって、準備もなしにこんな凶悪な魔法陣を解除できるわけないでしょ。

 

「ところでシュバルツ、ヴァイス、登録とは何?」

 

「おうぞく とうろく」

 

王族ですか。これはまたすごいものが出てきましたね。

 

ということは、この先にはとんでもないお宝があるのでしょうか。

 

「管理者代理権限では入れますか。」

 

「あるじ できない」

「おうぞくでないとむり」

 

まあ、いいです。とりあえず戻って本を読みましょう。

 

準備をして頑張れば分解出来そうですが、凶悪な魔法陣とシュバルツ、ヴァイスを相手をするのはさすがに手に終えません。

 

くわえて、王族関連の物を勝手に分解したとか言われるのもごめんです。

 

いろいろあって疲れたので一冊だけ本を読んだら今日は戻ることにしたのですが...。

 

転移用の魔法陣で2階に出たところで、珍しくシュバルツとヴァイスが目の前で待っています。

 

「あるじ じじさまがよんでる」

「ここ なでる」

 

じじさまとかどうでもいいです。もう今日は体力、魔力量ともに余裕がないのですが、無視していいかな。いや、無視するべきだ!

 

「シュバルツ、ヴァイス今日は疲れましたのでまた今度にしますね。」

 

「いいから まりょく」

「さっさと なでる」

 

だからやめてってば、手を引っ張らないで!私は仮にも主だよ。シュバルツ達が私の手を無理やり引っ張ります。

 

だから何でこの子達は私の言うこと聞いてくれないの。

 

シュバルツ、ヴァイスに引っ張られた手でメスティオノーラの像が持つグルトリスハイトに触らさせられました。

 

いつもこの像にはそれなりの魔力を持っていかれるのでいろいろ大量の魔力を使った今日は耐えられる気がしません。

 

何かスイッチのようなものが入ったと感じた後に、案の定、魔力切れのせいか意識が落ちていきました。

 

 

 

 



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55話 バグ

うーん、ここはどこ?

 

魔力が完全に無くなるとはるか高みに上ると言う話も聞いたことがあります。

 

真っ暗で何もないこの空間はまさにそのような空間に見えます。

 

ということは、メステァオノーラの像へ魔力を強制的に奉納させられて魔力が切れたということでしょうか。

 

すなわちあの危険な魔術具によって私ははるか高みに上ってしまったということでしょうか。

 

とりあえず体は動くようです。ほっぺたをつねってみましたが痛いです。

 

ウラノの世界の『しごのせかい』とは寂しいところなのですね。

 

ウラノの世界では天国と言う概念があり善行を積めば天国へ行けて幸せになれると。

 

つまり、私は善行を積めなかったために地獄に落ちたと言う解釈でいいのでしょうか。そこまで悪いことをしたつもりはありませんが、ここが天国とはとても思えませんし。

 

あれはウラノの世界の概念なのでこちらとは違うと信じたいですが...。

 

 

 

しばらくふらふらと歩いてみますが何もありません。

 

出口とかが見つかるわけでもなく、見つかる気もしません。遠くを見渡しても暗闇が広がっているだけです。

 

もう、何もかもがどうでもよくなって横にでもなろうかと、視線を落とし地面を見るも黒いだけで何もなく埃一つ見当たりません。手で触ったらどんな感触なのだろうと確認しようとしゃがみこみます。

 

ゆっくりと地面に手を近づけ触れてみると、魔力が一気に吸われ景色が一変します。

 

景色が変わってまず目につくのは螺旋階段です。その周りに文字列が大量に浮いている本がたくさん置いてあるので図書館でしょうか?文字列の隙間から外が見えるようで田園風景が広がっているように見えます。

 

「汝、ここにある知識を求める者か?」

 

知識!?知識なら何でもほしいです。特に今はお米、美味しいジャポニカ種のウルチ米を作る知識がほしいです!

 

「お米とやらの知識はないが、知識を求めるものよ奥へ来るがいい。」

 

うん、このシュバルツ達を金色にしたようなシュミルは何でしょうか。

 

私のことなど気にしないとでもいうかのように、勝手に螺旋階段を降りて行ってしまいます。

 

自分勝手なところといいシュバルツ達に似ていますね。もしこれが魔術具なら作った方が同じなのかもしれません。

 

ついてこいと言う感じなので今ここにいてもできることもないですし、頑張ってついていくだけですが。

 

「ここは来訪者の望みを映す場所。其方に知識を求める意思と資格があるかを確認した。」

 

合格かどうかは、この連れて来られた建物の出入り口のような扉を開けられるかということでわかるということでしょうか。

 

「行くがよい、知識を求める者よ」

 

そんなこと言っているからきっと大丈夫だよね。

 

「ええ、あなたがどなたか、魔術具なのかも知りませんがここにいるわけにもいかないので行ってきますわ。」

 

私は覚悟を決めて扉を開きました。

 

 

 

 

うん、去年来たウラノの世界の『ゆぐどらしるの木』らしきものがあった場所だよね。

 

そういえば起きてから契約の制約も感じないし...。

 

「誰かそこ...にいるのか?」

 

はい?

 

どこからか声が聞こえます。

 

「どこに...いる?」

 

私が聞きたいのですが。やっぱり死後の世界すなわち『あの世』なのでしょうか。

 

ゆぐどらしるの木のようなものがうっすらと人のような形にかわっていくように見えます。

 

はたして夢か幻か、はたまた『あの世』でしょうか。

 

ほっぺたを再度つねってみますがやっぱり痛いです。訳がわかりません。

 

「何者だ。どこかの...神の眷属が紛れ込んだのか?」

 

私はただの人で平民ですが。

 

「そこにいたのか、全く...見えにくい。まあよい、うむ、マイン...と言うのか。そなたのそれではうつわが...足りぬ。仕方がない、アーンバックスよろしく頼む。」

 

育成の神の名前を語るとはさすがはあの世ですね。なんだかウラノの世界のラジオの周波数が合わないかのような雑音が響いて聞こえにくいですが言いたいことはわかります。

 

そのあと、私に魔力が流れ込んできてかなり痛い思いをしました。ですが、以前に刺された時の痛みと比べれば大したことはありませんでした。

 

「そなた、マインは...神の干渉を...受けにくくなっておる。どうなっている?」

 

干渉しにくいのは、大量のお守りを身に着けているせいでしょうか。

 

「まあ、最低限は大きくなったので...大丈夫であろう。マインはあまりに透明...すぎてよく見えないのでわからんが。」

 

透明に見えるそうです。私も目の前の人はうっすらとしか見えないのですが、どういうことでしょうか?この聞こえにくい雑音とも何か関係があるのでしょうか。

 

「では、最高神に祈れ...。なぜマインはここにいる!?闇の神と光の神...の名を受けていないではないか!」

 

どこで受けるのでしょうか?

 

「だが、一定以上の...神から加護を受ける条件を満たし名前...以外は問題がない。」

 

目の前の人が考え込んでいるように見えます。あの世について考えるだけ無駄なので流されるしかわかりません。

 

「資格も一応...は問題ない。正規のルート...を通ってきている。少なくとも...以前に来たあやつよりは資格も十分であろう。マインよ、緊急事態ゆえ...私の後から復唱せよ」

 

言われるがままに復唱します。雑音が響いて正確に正しく発音するのはかなり大変でしたが何とかなりました。

 

そうすると、七色の光がヒュンと上に上がっていって綺麗だなと見上げていると、その直後、どっと光が降り注いで来ました。

 

わぁ!知識!知識がたくさん入ってくる!じゃんじゃん来ていいよ!全部受け入れるよ!

 

「全てを受け...入れよ。マインには...な言葉は不要だな。メスティオノーラの英知を受け取るが...良い」

 

 

 

 

うん、終わったのかな。受け入れるだけって楽でいいね。自分から動かなきゃ情報って得られないものね。

 

知識としては、知っているものもたくさんあってそれに色付けされた感じかな。その色付けがものすごく大切なんだけど。

 

ちなみに、雑音のせいで変な知識が入っても困ると思いましたが、歴史に穴抜け等はありますが、魔法陣の描く方法の一部が抜けているというような穴抜けはないので問題はなさそうです。

 

目の前の非常に見えにくい方がじじさまで元命の神 エアヴェルミーン様のようですね。

 

「マインよ、そなた...本当に人間か?」

 

どういう意味でしょうか。

 

「今まで来たものはこれほど...すんなり受け入れるなどということはあり得なかった。知識に対する雑念が全くない...者など見たことがない。」

 

知識に良し悪しなんてないしね。受け入れるのは大得意ですよ。新しい知識がたくさん手に入って満足ですね。

 

「まあよい、マインにはグルトリスハイト...を授けた。さっさとツェント...となってユルゲンシュミットを救うがよい。」

 

何で私が?まあいいです。

 

そこまで言うと、神を名乗った目の前の方は空気に溶けるかのように消えてしまい以前のゆぐどらしるの木と思われるものが再度姿を表します。前よりも透明になっている気がするのは気になりますが...。頭に響くような雑音も同時に消えました。

 

帰り方も今得た知識で分かりましたし元の所へ戻りましょう。

 

今さらですが、ここはあの世とやらではなかったのですね。

 

 

 

 

 

うふふん。シュタープを取得したときの祭壇の入口まで戻ってきましたよ。

 

さてさてさっそく

 

『グルトリスハイト!』

 

なにするかって?やることは一つしかないですよね。

 

契約解除(フェアツィヒト)!』

 

あれ、これではないのかな。他には...。

 

何種類も試しましたが、全部だめでした。

 

原因をざっと調べてみますと、まずこの従属の指輪が原因の一つで、もともと王になれなかった王族が、次期王になれるよう忠誠を誓うために使われていたものを下寵されたものだとのことです。

 

王族の古代遺産、ウラノの世界でいう『あーてぃふぁくと』ですね。

 

加えて私自身が血で契約内容を変えているため、契約がより強固となり解除できないようです。

 

のおおおぉ!指輪で契約が強固となり、後半の血のせいで契約の強制解除は絶望的とのこと。

 

そんな、ひどいよ!英知の書って何でも書いてあるんじゃなかったの!

 

しかも王族とかお偉いさんの知識しかないからお米の知識もなし!

 

英知の書、期待させておいて落とすとか君はなんてひどい本なんだ!

 

しょんぼりへにょんです。

 

 

 

 




原作だと、祠めぐりは省略されすぎて光と闇の祠に関して明言されていないようなんですよね。

授業で光と闇の神の名を得たときにシュタープに吸い込まれたというのが恐らくそれに当たるのかと思うのですが、魔力が調整しやすくなったという記載もありませんし。

こっそり光の神は、誤解させるような記述を盛り込んでます。闇の神は黒光りなので表現していません。それ以前にそもそも加護を受ける儀式をまだ受けていないとか...。余計なことはこれ以上書きません。


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56話 一時帰宅、奉納式前編

英知の書(グルトリスハイト)に裏切られしょんぼりへにょんな状態で寮へ戻ります。

 

もともと大きめの服を着ていたので、魔石を鎧にしてカバーすればきついですがさほどひどい格好にはなりません。

 

「ローゼマイン様!ご無事でしたか!みんなローゼマイン様が戻ったぞ!」

 

なんで騒ぎみたいに驚かれているのでしょうか。先程までいた始まりの庭は、今まで巡って来た祠と同じって...。

 

もしかして、シュタープ取得と同じ場所なのですから時間がたっているのでしょうか!

 

頭の思考が完全に停止し私が混乱していると、パシンといい音がなります。ほっぺたを誰かに叩かれたようで痛いです。

 

お守りが発動しなくてよかった。一定以上の攻撃以外に反応しないように改造しておいたのです...なんて関係ないことを考えてしまいます。

 

「ローゼマイン、あなた、わたくしや皆さんに迷惑をかけていったいどこへ行っていたのですか。」

 

ディートリンデ様、顔が怒っていてとても怖いです。

 

少し見上げる高さが楽になったので私の身長も伸びたようです。

 

「申し訳ごさいません、ディートリンデお義姉様。わたくしがいなくなってからどのくらいたったのでしょうか?」

 

「すでに10日です。まず何よりも全員に謝りなさい!」

 

私がいないことで何かあったのでしょうか。でも心配してくれたのならお礼を言わないと。

 

「皆様、ご迷惑をお掛けしたようで申し訳ごさいません。また、ご心配をして下さったようでありがとうございます。」

 

「とりあえずこの場はこれでいいから休んでらっしゃい。顔色がよくないわ。後で何があったか話して貰いますからね。」

 

確かにもうふらふらです。戻って来る前に何度頭の魔術具が起動したか。

 

まあ、戻る前に無理やり契約を解除しようとして頑張りすぎたのが一番いけないのですが。

 

部屋に入り簡単にチェックして倒れ込みました。薬を身に付けておいたお陰でなんとか飲めて良かったです。

 

 

 

 

 

起きてから使用人に着替えを手伝ってもらい共有フロアへ行きます。

 

確認すると私は二日も寝ていたようです。

 

以前のいなくなっていたという話と合わせますと、エーレンフェストでも祈念式が始まる時期です。

 

早めに始めるアーレンスバッハではもう始まってしまっているでしょう。

 

ディートリンデ様と寮のいる方に説明が終わり次第早急に戻らなければなりません。

 

ディートリンデ様に予定の確認のオルドナイツを出すとすぐに会うとのことです。

 

「さて、ローゼマイン。あなたには緊急の帰還命令が出ています。わたくしとしては一度話をきっちり聞きたいと思っていますが戻ってきてからにしましょう。」

 

なんでそんなに怒っているのでしょうか。

 

「全員に説明できるよう、簡単に説明なさい。」

 

説明と言ってもどうしよう。神を名乗ると言うかもはや神そのものと思われる者に会ったなんて言っても通じないよね。

 

「図書館の魔術具を調べていたのですが、その後のことをおぼえていません。」

 

「身長が伸びたことについても、なぜ10日以上もいなくなったかもわからないと。」

 

どう説明したらいいのかわからないという点では一緒です。

 

「申し訳ございません、ディートリンデお義姉様。わたくしもなぜこのようなことになっているのか。気が付けば10日以上も過ぎていたなんて言われて驚いていますわ。」

 

一日どころか時間がたっていないと思っていたので本当に驚きました。

 

「わかったわ。ローゼマインは今臥せっていて、帰還したことになっているからすぐ帰りなさい。」

 

今寮にいる方々には探してくれていたお礼を言って、ヒルデブラント王子からも見舞いの手紙を頂いてしまっていたので、城から出したように装って少し良くなったと言う手紙を出し、他の手紙等の返信も書き貴族院を後にしました。

 

 

 

 

「ただいま戻りました。」

 

「ローゼマイン様、ご無事で何よりです。」

 

転移陣から出てくると転移陣の担当者に声をかけられました。

 

その後は、すぐに奉納式に向かうべきなのでしょうがアウブヘ連絡を入れてもらいます。

 

今は忙しいので、体調に問題がないのなら奉納式後に話をすると言うことになりました。すぐ対応してくれていた今までがおかしかったので特に気にせず神殿へ向かいます。

 

いつも通り神殿前で護衛と別れます。改めて神殿の中に入ろうとすると、入口に見たことのない像が増えています。先にオルドナイツで連絡を入れておいたので神官長達がお出迎えしてくれます。

 

「ローゼマイン様が、はるか高みに上ったという噂がこちらまで聞こえており本当に心配しました。ご無事で良かったです。」

 

「あら、わたくしがいなくてもなんとかなるよう、神殿を変えていかなくてはいけませんよ。」

 

契約の破棄さえうまくいっていたら、既にいなくなっていた可能性だってあったのにね。

 

「いずれはそうしないといけませんが、まだまだ青色神官が足りません。ただローゼマイン様のお陰で神殿への印象が劇的によくなっております。寄付等も今までにないほどになっております。」

 

一人が何かをしても今までが酷すぎたから簡単には変わらないと思うけど。

 

「以前にはなかった像が入口に置いてありましたものね。ずいぶん真剣に祈って行く方が多くて驚きました。あれは何の神の像なのですか。」

 

戻ってきてから、神殿の入口に新しく増えた像の前でわざわざ立ち止まり、ずいぶん熱心にお祈りしていく方を見かけます。

 

神殿の前に立ち止まってしげしげと見るだけでも変な目で見られることもあるのに、そんなことをすれば今まででしたら白い目で見られても仕方がないはずです。それなのに誰も気にもとめていません。

 

「...見てわかりませんか。」

 

「わからないから聞いているのですが。」

 

なんでわからないのと言われているようで少しショックです。

 

「とある貴族が持ってきた像です。寄付と一緒に是非とも入り口において欲しいとのことでした。」

 

「何の神なのでしょうか?わたくしが知らない神ならよほど珍しい神だと思うのですが。」

 

このような特徴的な神ならすぐわかりそうですが私の知識には該当する神がいません。

 

「...寄付していただいた貴族からは、何の神なのかお聞きしていないのでわかりません。」

 

なんだ、神官長達も知らないってことか。さっきのは、私の解釈が間違っていたってことかな。少しホッとしました。

 

「そうなのですか。聖典等を見直すか、寄付をしていただいた方に直接確認をしなければなりませんね。」

 

本当に何の神なのだろう。今の私の知識にないなんてよほど珍しい神なのでしょう。

 

シュミルのような風貌に羽をはやしてどこか子どもみたいな可愛らしい像なのですが。

 

ヴィーゲンミッヒェ様と同じく洗礼式前の子どもに関する神なのかな。

 

そのような珍しい神なら神殿長として私も熱心に祈らなければなりませんね。

 

 

 

 

さて新しくできた神の像に祈る決意をした後は体を清めてから祭壇へ移動し、奉納式をおこなうわけですが。

 

「青色神官の方々が増えているようなので紹介して頂けますか。」

 

そう、青色神官が増えています。

 

「実は奉納式を是非とも手伝いたいということで今だけ青色神官として手伝ってくださっている方々です。」

 

え、そこまで印象が変わっているの!?だって、正式な青色神官でもないのにきちんと青色神官の正装をしていますよ!エーレンフェストの時でもそこまでする人はなかなかいなかったよ!

 

驚きすぎて言葉になりません。

 

「ローゼマイン様、我々は貴族の義務がありますから今しか手伝えませんがお供させてください。」

 

改めて見回すと今だけ青色神官になった方々は若い人が多いですね。

 

「ありがとう存じます。皆様の行いは神々が必ず見ておられるでしょう。皆様の崇高な行動に神に感謝を!」

 

奉納式と関係なく神へお祈りして祝福を出してしまいました...。祝福で小聖杯一つがいっぱいになったのでよしとしましょう。

 

「こほん、それでは奉納の儀式を始めますので皆様、位置についてくださいませ。」

 

その後、手伝いに来てくれた方々は一部固まっている方もいましたがつつがなく儀式が進行します。

 

手伝いに来てくれた方のなかには上級貴族の方までおり、ほとんど一人でやっていた去年とは魔力の流れが大違いです。

 

去年とは比べ物にならないほど効率よく魔力が流れていきます。

 

「今まで2回ほど参加させてもらいましたが、まったく別物でした。この一体感と美しい魔力の奔流をローゼマイン様と体験できるとは」

 

「わたくしもここまで一体感のある儀式に出たのは本当に久しぶりです。皆様のご協力に感謝申し上げます。」

 

本当にすごいですね、前回はほとんど一人だったけど魔力を一緒に奉納できる方が増えるだけでこんなに効率よく魔力を供給できるんだね。

 

以前は魔王様に魔力の流れは全部お任せでやっていたから気がつかないことも多かったんだなぁ。

 

「我々の天使、ローゼマイン様からそのような言葉を賜るとは、本日はローゼマイン様と繋がれたように感じ感謝感激です。すべての業務を放り出してローゼマイン様のお側にありたいと改めて思ってしまいました。」

 

あれ、さっきまでものすごく真面目な感じだったのに急に雰囲気というかなんといえばいいの?

 

爽やかと気持ちの悪い中間の笑顔とはこういうことをいうのでしょうか。

 

「こやつが申し訳ございません。ローゼマイン様、ただ私も同感です。この程度のことベルケシュトック一同が受けた恩からすれば微々たるものです。改めて我々の天使に感謝申し上げます。」

 

ああ...そういうことだったのですか。この方たちはあの地方の出身の方々ですか。

 

でもそれにしてもとても勇気のある行動だと思いますよ。私も感激したのは事実ですし。

 

この後、臨時で来てくれた青色神官達は例の入口の像にお祈りし貴族街へ戻っていきました。

 

なんの神か今度機会があったら聞かなければいけませんね。

 

空いた時間で溜まっていた神殿関係の決裁や孤児院等確認しているとアウブから呼び出しです。

 

レティーツィアについて相談がしたいとのことなので次の日の奉納式を終えたところでアウブのところへ向かうことになりました。

 

 

 

 



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57話 奉納式後編

奉納式の後に、約束の時間となりアウブのところへ向かいます。

 

報告等は奉納式の後と言う話だったのに何かあったのでしょうか。

 

扉の前の衛兵に来訪を伝えてもらい少し待ちます。しばらく待つと入れという声が聞こえてきました。

 

「待たせたな、ローゼマイン。ようやく時間がとれた。まず貴族院での報告から聞こう。」

 

授業が終わった後、図書館の魔術具を調べていたということを伝えます。

 

「なぜ、図書館の魔術具など調べていた。」

 

「純粋な好奇心ですわ、お父様。」

 

わけのわからない称号と得てしまったとか、いろいろありましたがその一言に尽きます。

 

「それで、いなくなった10日間に何があった?話せ命令だ。」

 

「正直にお話ししますとわたくし自身もよくわかっておりません。図書館の魔術具に魔力を注いだところ、気が付けばよくわからない建物の中におり、案内者と思われるシュミルに導かれ、なぜか始まりの庭、シュタープを取得したところに連れていかれました。」

 

「あそこは始まりの庭というのか。まあいい、そこで何があった。」

 

何があったって言われてもねぇ。知識をいっぱいもらっただけだよね。欲しい知識はなかったけど...。

 

「いきなり神を名乗る者に体の成長する祝福を賜り、昔の歴史などの知識を賜りました。」

 

「確かによくわからんな。昔の知識とはどういうものだ。」

 

アウブも神などという言葉が出てきたせいか、心がはるか高みに上がりそうになっているようです。

 

「昔の王族や豪族の暮らしですわ。穴ばかりでわからないところばかりですが。」

 

穴だらけなんですよね。変に期間が空いていたり。今度地下書庫の知識と合わせるのは楽しそうですね。

 

「とりあえず問題はないのだな。」

 

「問題は無いかと存じます。」

 

私自身の体調の問題はありません。強いて言うならツェントがどうとか領界線の変更権限とか図書館管理者代理権限とか問題になりそうですが、今のところ大丈夫そうだからわざわざ言わなくてもいいですよね。

 

領界線の引き直しとかなぜしないのだろう。ベルケシュトックの方々はやってあげるだけでだいぶ楽になるだろうに。最悪、ベルケシュトックの件は神殿にある仕掛けを利用して礎に魔力を注げばどうとでもなりそうだけど。今相談することじゃないしね。

 

「ならばいい。レティーツィアの件だ。」

 

「本日お招きいただいた本題ですね。レティーツィアになにかございましたか?」

 

レティーツィアの件で私に相談って何も思い付かないのだけど。

 

「実はできるだけ早く礎に魔力を供給できるよう早めに慣れさせたいと思っている。」

 

「お父様、さすがにレティーツィアにいきなり礎の魔力供給は難しいかと。」

 

「だか、ローゼマインもわかっているとおり私とあやつは無理な魔力供給の代償で魔力がなかなか戻らん。できるだけ早く次へ繋げる準備をしなければならん。」

 

そう言われると、まったくもってそうなのですが。

 

お父様とお母様は私が来るまで相当無理をして礎に魔力を供給していたようで、魔力の器官が相当弱まっていたところに加えて毒まで受けてしまっていたので、魔力の器官がいつ問題のないところまで回復するかわかりません。

 

礎の魔力供給は、ゲオルギーネ様はほとんど協力してくれないし、ディートリンデ様が多少協力してくれるくらいです。

 

客観的に見れば、ほとんど私が賄っている現状はお世辞にもよくありません。いえ、非常にまずいと言うべきでしょう。

 

「それでしたら、まず魔力の奉納に慣れさせるために奉納式へ参加させてはいかがですか。最近はこの時期だけ青色神官になってくださる方もいてとても助かってますわ。」

 

まあ、私がアウブなら後々の影響を考えて絶対に却下しますが。エーレンフェストならともかくアーレンスバッハの神殿への嫌悪感はお聞きする限りでは改善しているとはいえ、今後はどうなるかわかりません。

 

「ローゼマインは参加させるべきだと思うか。ローゼマインのお陰でだいぶ神殿への嫌悪感が薄れている。皆、なんだかんだ言いつつも神事の重要性を理解してきている。」

 

ほんとかなぁ、あれだけ嫌悪しててすぐに変わるなんて言われても信じられないよ。

 

「お忍びで行くのなら悪くないかと。わたくしは話に聞いているほど神殿への嫌悪感が減っているとは思えないのです。」

 

「なぜだ。ローゼマイン、お主自身が皆の神殿へ意識を変えてきたのではないのか。」

 

うん、私が変えてきた?さっきから私のお陰でとか言っているけど何を言っているのだろう。

 

「わたくしは神殿長としての業務をしてきただけであって、特に変えようとかしていませんわ。それにわたくしはここ半年も寝てましたのよ。その間で嫌悪感が大きく変わったなんて言われても信じられませんわ。」

 

「その話については後でよい。お忍びでも可能なら神殿の準備ができしだい参加させろ。」

 

「ご命令なれば従うのみです。」

 

神殿長の服もいい加減新しくしないといけないし。一番外側の羽織でなんとか誤魔化しているけどいい加減まずいですよね。

 

レティーツィアに、私のお古って大丈夫なのかな?

 

成長前なら身長はほとんど変わらないし、ほんの少しお直しするだけで使えるのだけど。

 

今回だけだから私のお古でいいか連絡ついでに確認してもらいました。

 

 

 

 

奉納式に参加するため最終日に城でお出迎えです。

 

「お姉様と一緒に行けてうれしいです。」

 

お姉様!何度聞いてもウラノの世界の『てんしょん』が上がるね。

 

「レティーツィアは神殿に思うところはないのですか。」

 

「私自身はあれほど素晴らしい祝福を与えて下さるお姉様の働いているところに思うところなどあるはずがございませんわ。」

 

ウラノの世界の『いえす!』だね。なんていい子なの!

 

「ロスヴィータとゼルギウスの意見も伺いたいわ。アーレンスバッハでは、最近は少し変わってきたようなのですが神殿への嫌悪感がすごくて。ドレヴァンヒェルでもやはり同じですか。」

 

「仮にローゼマイン様がドレヴァンヒェルの神殿におられたのなら違いますわ。」

 

つまり酷いってことでしょうか。エーレンフェスト以外ではきっとそんなものなのでしょう。

 

「やはりまともに神殿文化が機能しているのはエーレンフェストくらいということですね。アーレンスバッハも少しはよくなってきたと思いますが、かの領地とは比べものになりません。」

 

「お姉様、エーレンフェストの神殿に詳しいようですが、エーレンフェストとは仲が悪いとお聞きしていますが違うのですか。」

 

「ここまで悪くなったのは最近ですわ。以前はアーレンスバッハの姫がエーレンフェストへ嫁いだ関係で両者の関係はそれなりに深かったのですわ。」

 

「また、以前のように良くなるといいですね。」

 

「ええ、本当に難しいけど仲良くなれればいいと思いますわ。」

 

最悪でも1、2年に1回くらいでいいから村に帰れるようになりたいなぁ。

 

距離だけでいけば騎獣を使えば2、3日位で行ける距離なのに、今ではその場所がはるか彼方になってしまっています。

 

 

 

 

神殿に付くと相変わらず不明な神の像が人気のようで祈っている人がそこそこいます。

 

ウラノの世界の『おまもり』として、ただの人形のストラップを売れば結構売れそうとか思ってはいけないですよね。

 

「あのようなかわいらしい像もあるのですね。」

 

私も初めて見たときに気になったのと同じように、レティーツィアも気になるようです。

 

「最近寄付してくれた方が設置していった像なのですが何の神かわたくしにはわからないのです。何度か他の人にも聞いたのですが誰もわからないらしくて...。いろいろ調べてもわからず困ってしまいました。」

 

その後、レティーツィアが像をしげしげと見てからぽんっと手を打つように納得したという表情になり、私の方に顔を向けてきました。

 

「お姉様の知らない神とはよほど珍しい神なのでしょうね。わかったらお教えしますわ。」

 

なんだかくすくす笑っているような感じで言ってくるのですが、もしかして何か知ってて隠しているのでしょうか。

 

「もしわかったら、必ず教えてくださいまし。」

 

来たばっかりで、わかるわけないよね。そもそも本当に神の像なのかから、検証するべきでしょうか。

 

でも神でないとなればお祈りしている人たち理由が説明できませんし。わからないのは気持ち悪いですが害はないようなので保留ですね。

 

 

 

 

今日は、さらに大所帯です。ウラノの世界でいう『くちこみ』が広がったのでしょうか。

 

ええ、奉納式は今までにないほどの一体感でした。いつもよりも魔力を大量の奉納した関係か祭壇が輝きだし、これは大丈夫なのか心配になりました。

 

知識を照らし合わせても貴族院以外でこのような現象は起こらないはずなのですが。

 

そういえば村にあった小神殿は常にこんな感じで光っていましたっけ。あの小神殿は私がいなくなった後どうなったのでしょうか。

 

残りの聖杯も多くなかったお陰で、レティーツィアの負担にもほとんどならなく無事に奉納式は終わりました。

 

「お姉様が、なぜ神殿での神事を大事にされているのがわかった気がします。」

 

神事は大事だよね。神のご加護を得るためにも。神のご加護を得られれば少しは状況が良くなるのでしょうか。

 

この状況を変えるために、もっと神殿を巡りながら奉納するのではなく、特定の神を狙って祈った方がいいのでしょうか。

 

「神事は大事ですが、レティーツィアはアウブになるのですから周りも見聞きして判断していった方がいいですよ。ここでのことは今はまだ信頼できる者に留めておくべきです。信頼できる側近がいるようなので心配はしていませんが。」

 

「今の神殿を見る限り心配はしていませんが、お姉様の言う通り気を付けますね。」

 

さて、お手伝いが来てくれたお陰で奉納式は早く終わりました。

 

奉納式で空いていた時間は、ダンケルフェルガーの本を現代語訳したり、レッサー君の生産やお手伝い専用のシュミルを作っていました。

 

今年は薬については前回の反省もあって余分に準備していたので余りすぎです。

 

結局去年と同じくおかわりが来て少しだけ奉納式が続行になりましたが、数は少なかったためすぐに終わりました。

 

今年は戻るのが遅かったので、特に冬の社交界に出る時間もなく貴族院に戻りました。

 

 

 

 



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58話 和解とお茶会×2

貴族院に戻ってきました。ディートリンデ様よりすぐにお呼び出しです。

 

いつもの多目的に使う共有フロアではなく、今回は小部屋に呼ばれます。

 

「よく戻りました。ローゼマイン」

 

「はい、ただいま戻りました」

 

この方とは、久しぶりに普通に話をした気がします。いえ、正確には戻る前のお茶会でも話しているのですが。

 

「ローゼマインが急にいなくなってから戻る前のことについては、お父様から聞いてますわ。図書館の魔術具に魔力を入れた後は覚えておらず、気がついたらあの状態だったと」

 

「その通りです。わたくしも何がなんだかわからない状態でした」

 

何がなんだかわからないと言うのは嘘ではないしね。

 

結局この件は隠し通すことで決定したため、危険だから近づかないことにしようとか、そういう話はありません。

 

「なんにせよ、あなたが無事で良かったと言ってあげらられれば良かったのだけど...」

 

そこで、ディートリンデ様はため息をつき盗聴防止用の魔術具を私に渡してきました。

 

「ねえ、わたくし、あなたのことをとっても気に入っていますわ」

 

躊躇いがちに言ってきましたが、え、うん?何の話。

 

「あなた、アウブであるお父様達とずいぶんな契約を結んでいるそうね」

 

...今さら契約の話を出すとはディートリンデ様は何が言いたいのでしょうか。

 

「ローゼマイン、わたくしは必ずアウブになるわ。だからあなたも協力しなさい」

 

協力しろといわれても、私が協力したところでなにも意味がないと思うけど。

 

「協力と言われましても、契約をご存じなら、わたくしはアウブに対してのみしか動けないことをご存じですよね」

 

「協力できる限りでいいわ。わたくしは、わたくしの妹であるあなたと敵対したくないのですわ。それに、契約を結んでいると言うことはそれ以上の忠誠はアウブにもあなたのお母様にも持っていないのでしょう」

 

「申し訳ございません、ディートリンデお義姉様。わたくし個人としては、アウブの後継者争いに首を突っ込むつもりはございません。もちろんディートリンデお義姉様と敵対するなんてことは考えたくもありません。ですが、契約を受けている身としては、命令次第でどうなるかわからないのです」

 

後継者争いなんて考えたくもないよね。私は無関係を貫き通したいけど、場合によっては同じ母ということになっているレティーツィアにいろいろしてあげないといけませんし、こればかりはどうしようもありません。

 

「心情的には協力したくても、ディートリンデお義姉様のアウブになるためのご協力の約束はできません」

 

私が一気にそう言うと、ディートリンデ様はふっと薄く笑ったような表情にになり、

 

「まあ、しょうがないわね。敵対したくないと言う言葉をとれただけよしとしますわ」

 

この方とは絶対敵対したくないのは事実だし。

 

「ローゼマイン、ここだけの話ですよ」

 

その後、緊張感をはらんだ非常に真剣な表情に変わったのですが、まだ何かあるのでしょうか。

 

「お母様よりあなたを手懐けられないなら手に終えなくなる前に処分しなさいと言われています」

 

そんなことを私に言って大丈夫なのでしょうか。

 

「わたくしは、あなたの先ほどの言葉を信じますので裏切らないでちょうだいね」

 

ここまで言って下さって裏切りたくはないのですが、約束はできないのが心苦しいです。

 

「さて、つまらない話は終わりですわ」

 

先ほどまでの緊張感を持った声から切り替えるかのようにそう言って、さっと盗聴防止用の魔術具を回収します。

 

「ローゼマインにはお茶会のお誘いがダンケルフェルガーより来てますわ」

 

ディートリンデ様は行きたくないので任せると言うことです。ハンネローレ様がわざわざだしてくれたんだ。

 

「あとは、ルーフェン先生より、神殿の神事の関係で相談があるから来てほしいとのことですわ」

 

神殿のことってなんだろう。思い当たる節がありません。

 

「他には、上位領地のお茶会がドレヴァンヒェル主催でありますから一緒に出席しますわよ。相手側は是非ローゼマインに来てほしいと言うことで後半に回したそうよ」

 

そんな気の使い方はいりませんなんて言えないですね。この後は、領地対抗戦の話などをしました。

 

「そういえば、シュバルツ、ヴァイスを手伝い機能に限定したシュミルを作ったのですが共有フロアに置いてもいいですか」

 

「まあ、早速できたのですか!さすがはわたくの妹ローゼマインですわ。もちろんいいですわよ。早速置きにいきましょう」

 

出力は弱く手伝いに限定することでどの属性の魔力でも動かせるし、かなり魔力効率がよい魔術具となったので、なかなかの自信作です。

 

図書館関係で迷惑をかけることも減るでしょうしいいことだよね。

 

最近アーレンスバッハの方がシュバルツ、ヴァイスを離さないから業務が滞りそうなんて話もお聞きしていますし。

 

ちなみにこのお手伝いの二匹は、最初は白と黒い無地の服を着せていたのですが、気がつけば金ピカなどド派手な衣装になっていました。やはり感覚がついていけません。

 

 

 

 

さて、まずルーフェン先生の呼出から対応することになりました。神殿関係とはいえ、なにも関係ないはずの私がなぜ呼び出されなければならないのでしょうか...。

 

今回はエーレンフェストの関係でターニスベファレンについて私にも聞きたいとのこと。

 

なんのことでしたっけ?いろいろありすぎて全く覚えていません。

 

参加者は、ヒルデブラント王子とルーフェン先生、ヒルシュール先生、うちの寮監、中央の騎士団長と中央神殿の神官長イヌマエルとのことです。

 

「失礼ですが、なぜ今回の件でわたくしが呼ばれたのか皆目見当がつかないのですが教えてくださいますか」

 

「んまぁ!全くですわ。エーレンフェストの問題になぜ栄えあるアーレンスバッハが関わらなければならないのですか!」

 

相変わらず、うちの寮監はキンキンうるさい声です。

 

「エーレンフェストの事情聴取を終えてローゼマイン様にお聞きしなければならないことができたためです」

 

「なんでしょうか」

 

「まず、ターニスベファレンをローゼマイン様が倒したとのことですが、本当ですか」

 

そういえば、そんなことって、エーレンフェストの方々、何で報告しちゃったの...。

 

口止め料を払うべきだった?でも、制約がある以上難しいし。

 

場を濁して退散したいけど、ここには王子がいるから嘘はつけないしなぁ。

 

「ええ、ターニスベファレンは何度も倒したことがございますわ」

 

「ローゼマイン様ご自身が戦いの場に出ると?」

 

ルーフェン先生の目がキラリと光っているかのように見えます。相変わらずディッターの関係のせいか興味津々ですね。

 

「神殿長として土地を癒すだけでなく、護衛騎士と共に素材の回収のため出ることはございますわ」

 

まあ、一人でも出ますけどね。

 

「では、ローゼマイン様は黒の武器を使用できると?王命より許可を得たもの以外呪文の使用は禁止されていますが」

 

へぇ、黒の武器の呪文は禁止ね。だったら祝詞でやればいいのではとか言うのもやめておいた方が無難かな。

 

「他の領地ではどうか知りませんが、ターニスベファレンは旧ベルケシュトック大領地に行けば一度や二度ではすまないほど出会う魔獣ですわ。当然対処法としていろいろ確立しておりますわ」

 

「なんですと!黒の武器を使わず倒すことが可能だと言うのですか」

 

驚くことなんだ。たかだかターニちゃんが持っている魔力量の6倍の魔力をぶつけてあげるだけなのにね。

 

「これについては我々の騎士団がいろいろ命懸けで試した結果ですので、どうしても知りたければアウブにでも問い合わせてくださいませ」

 

まあ、アウブも知らないかもしれませんが...。とりあえずターニちゃんの件はこれでお終いのようです。なら帰っていいですよね。え、まだあるのですか。中央神殿の神官長からって何のお話でしょうか。

 

「ターニスベファレンの件はわかりましたが採集場の件です。今回の件で様々な領地の採集場が被害を受けてまして、その中でアーレンスバッハの採集場だけ無事だったのはなんででしょうか」

 

「なんででしょうかと言われましてもわたくしは神殿長なので定期的に癒してますし、今回の被害を受けていない採集場もあるんでしたら被害を受けなかっただけではないのでしょうか」

 

そんなこと知りませんよ。神殿長として普通の行動をとっているだけですし。

 

「明らかに採集場の周りだけ荒らされている状態と言うのはおかしいですし、アーレンスバッハの生徒に聞いてみればローゼマイン様の奇跡だとおっしゃっていましたが」

 

うん...。誰が暴走したかなんて言わないよ?嘘をつくのは、王子の前では不味いよね。

 

「先程から申し上げて言う通りですわ。わたくしが定期的に癒しておりますので、回復していただけかと思われますわ」

 

「それではおかしい。ターニスベファレンが現れた次の日には回復していたのですから」

 

先生方も余計なこと言わないで。

 

「わたくし仮にも大領地アーレンスバッハの領主候補生ですのよ。魔力量もちがいますし、回復薬の知識も違いますわ」

 

「そうですな。魔力量と回復薬の有り無しは重要ですな」

 

まあ、回復薬なんて使わないけどね。適当に嘘にならない所でごまかせる言い訳を考えないと。

 

「なぜアーレンスバッハはあのような青色神官ではなくローゼマイン様を送ってくださらなかったのか」

 

うん、まあ、中央神殿行きもちょっとありかなとも思うんだよ。エーレンフェストに寄れる可能性があるし。無理だけどね。

 

「んまあ!領主候補生を勝手に中央へ動かせるわけないでしょう。非常識ですわ!」

 

「まず、なぜ大領地の領主候補生が神殿長になっているのかということを考えていただきたいのです。アーレンスバッハの神殿は何度も中央に応援をお願いしたのですがご考慮いただけたことがないことについてはどうお考えですか」

 

それは我々もとかモゴモゴ言っていますが、ようやく黙ってくれました。

 

なぜ中央神殿が貴族院から移動しているのとか聞きたいことはたくさんありますがこの様子だと明確な答えが来るのは期待薄でしょう。

 

「神殿の神事についてはアーレンスバッハもエーレンフェストの後追いにすぎません。今回の件はエーレンフェストの案件ですし、詳しく知りたいのならエーレンフェストにお聞きくださいませ」

 

よし、エーレンフェストに再度押し付け完了。ふう、ヒルデブラント王子もとても何か言いたそうにしていたけど、こちらの事を考えてくれたのか特に何も言わず静観してくれましたし良かったです。

 

この日はこれで無事にお開きとなり解放されました。

 

 

 

次の日は、ドレヴァンヒェルとのお茶会です。と言っても上位領地との合同でのお茶会なのであまりかかわる必要はないでしょう。

 

ディートリンデ様が勝手にいろいろ喋ってくれますし、まずそうな話なら別の話を少しだけすれば、話題はすぐに移ってくれますし。

 

ディートリンデ様の陰に隠れて話していれば安心なんて思っていた時もあったのですが...。

 

ドレヴァンヒェルのオルトヴィーン様がやけに私に話しかけてきます。私自身のことや魔術具の話など熱心に聞いてきます。

 

背中に積んでいる魔術具についても聞いてきたり、ええ、私からも色々聞けばいいのでしょうが、何を聞いていいのか分かりませんし困ります。魔術具のことは話せますが、私自身のこととなるとどう話してよいか分からなくなるのも困りものです。

 

「ところでローゼマイン様、アウブが打診している私との婚約については考えていただけているのでしょうか」

 

えっと、こんやくとかいいった?こんやくってなんですか。こんわくですね?

 

「...婚約とは何のことでしょうか」

 

「アウブドレヴァンヒェルより、私とローゼマイン様との婚約を打診しているのですが、全くご存じないのですか」

 

えっと、何も聞いていないのだけど。

 

「わたくしはお聞きしていないのでアウブに何かお考えがあるのでしょう。ただ、今のところはわたくしを外の領地へ出す予定はないと伺っております」

 

出せるわけないよね。現状で婚約とか問題になる前に処分される運命しか見えない。

 

「そうなのですか。婚約は関係あるなしにせよ、アウブアーレンスバッハの夫人との関係もありますし、これからも繋がりの深い領地同士仲良くしていきたいと思っております」

 

「ええ、わたくしも両領地間の友好をこれまで通り続けていけることを願っております」

 

ずっと絡まれたせいで他の領地とあまり話せなかったよ。まあ、別にいいんだけどね。

 

しかしやけに絡んでくると思ったけど婚約ね。レティーツィアの両親もやけに私の婚約について話を聞いてきたしよほど興味があるのかな。こんな人見知りで話してもお面白みのない私に目をつけるなんてよっぽどだよね。魔力量目的かな。多少他の人より多いみたいだしね。

 

ちなみにレティーツィアについて聞かれるかと思いましたがまったく聞かれませんでした。洗礼式とほぼ同時にアーレンスバッハへ来たということもあってか面識がないのかもしれません。

 

 

 

 

 

さて、面倒ごとは終わってのダンケルフェルガーとのお茶会です。

 

うん、前回は気分、ウラノの世界の『てんしょん』が上がりすぎて、よく見ていなかったけど、質実剛健という感じでこれはこれで落ち着きますね。

 

アーレンスバッハの寮はもう慣れましたが、みなさん見栄っ張りと言いますか...。

 

「ふむ、アーレンスバッハの歴史もなかなか面白かったぞ。」

 

レスティラウト様、なぜ当然のようにいるのでしょうか。

 

この時期のお茶会は女性のみの方が多く男性はめったに顔を出さないと聞いていましたが。

 

「ローゼマイン様、お兄様がお時間があるので参加したいと申されまして...。」

 

いきなりで申し訳ないという感じです。ハンネローレ様も大変そうだね。

 

「だが、歴史書にしては作り物めいているな。話としては面白かったが歴史書としてはどうなのだ。」

 

やはりあそこまでごまかしているとちょっと読めばわかるよね。

 

「アーレンスバッハの歴史書は常に編纂されているのでそのようなものなのです。ちなみに領主には編纂されていない歴史書もあるそうですがわたくしは見たことがございません。ダンケルフェルガーの歴史書は、余計な編纂もしていないようで実直にかかれているようですばらしいかと存じます。」

 

全くされていないということはないだろうけど、ほとんど真実そのまま書けるってすばらしいよね。

 

アーレンスバッハなんてウラノの世界の『ぶらっでぃかーにばる』の歴史ばっかりだし。

 

なんでまだこの領地が存続できているのか不思議でなりません。

 

「ダンケルフェルガーに隠したいようなやましい歴史などないからな。アーレンスバッハは違うようだが。」

 

「領地が違えば、歴史も文化も違うように歴史書に対する心も違いますわ。ただ、正直に申し上げますと隠し事をせずに歴史書を作れるダンケルフェルガーはうらやましいです。」

 

その後、互いの歴史書についてとかいろいろ話します。

 

ダンケルフェルガーの歴史書と言っても、ディッターの歴史ととらえておけば大体間違いないのだけどね。

 

あれ、そう言えばこの人は私のこと卑怯とか嫌いだとか言っていなかったかな?まあいいですけど。

 

「ハンネローレ様、そう言えばダンケルフェルガーの歴史書を現代語訳したので見てもらえますか。初代の方ではダンケルフェルガーの領主候補生よりツェントがたっていたり面白かったですわ。」

 

「ダンケルフェルガーの歴史書まで現代語訳されたのですか。ぜひとも確認させていただきますね。」

 

「ふむ、そなたはアーレンスバッハの歴史書だけではなくダンケルフェルガーの歴史書まで現代語訳するとは...。」

 

魔紙の消費がひどいことになっているけどね。魔紙は大量生産しているし、個人で楽しむ用だからどうとでもなるけど。

 

ようやくレスティラウト様が離れてくれたのでハンネローレ様に相談です。

 

「ハンネローレ様に是非ともしたいご相談があるのですがお聞きくださいますか。」

 

「何でしょうか。」

 

「ハンネローレ様は、ダンケルフェルガーの皆様を率いていらっしゃるわけですが、皆様をどのようにまとめているのか以前からお聞きしたいと思っていましたの。旧ベルケシュトックの方々はダンケルフェルガーの方に近いのか、一度動き出すと、その...。」

 

「わかります!ローゼマイン様!動き出すとお兄様もそうなのですがこっちの言うことを全然聞いてくれないのですよ。」

 

やはり、ハンネローレ様でも無理ですか。

 

まだ、命令すれば聞いてくれる方もいるので私の方が楽なんて思ってしまったりします。まあ、聞きたくない命令は聞いてくれないわけですが。

 

周りの方々と少しだけ言い争いになったり、いろいろありましたが概ね楽しいお茶会でした。

 

ハンネローレ様は心の友だとあらためて思いました。

 

 

 

 



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59話 領地対抗戦

お茶会がない合間は、領地対抗戦への準備です。

 

といっても、領地対抗戦と言いますか、お茶会関係については皆さん非常に優秀な方ばかりなので準備は滞りなく進みます。

 

他には講義が終わっていない方の手伝いなどしたりしました。

 

アーレンスバッハの領地対抗戦で発表する論文関係は、あまり力を入れていないのかスペースが余ってしまっているようなので寮監に校正をお願いして私の論文も隅でこっそりと発表させてもらうことにしました。

 

図書館と魔法陣との接続に関する考察です。

 

直接的に書きすぎるといろいろまずそうなので、かなりぼかして鋭意研究中とかにしていますし、隅なので注目されないでしょう。題材も非常に地味ですし。

 

いろいろやっていると、あっという間に領地対抗戦の日を迎えてしまいます。

 

今年は出席せざるを得ないだろうということで、問題が起こらない限りでなければならないとのことです。

 

さすがに2年連続で出ないのはまずいですし、領主候補生として最低限社交を積まないといけないということですよね。

 

やりたくはないですが仕方ありません。

 

当日の会場準備と言っても、私がやることはほとんどありません。最終確認と設置などで問題があればその対応くらいです。

 

人手が多く、皆様やる気がみなぎっているので確認するだけでいいのはありがたいです。

 

途中で、ディッターに出る方々が祝福を欲しいと言ってきたのでこっそり別の部屋に行って祝福をかけてあげられる程度には余裕がありました。

 

今回は全員跪いていました。特に言っていませんが去年の件で跪いた方が効果が高いと去年の件で実感したからだそうです。

 

そんなこんなで、確認等終えたらアウブの呼び出しで寮へ戻ります。

 

「さて、ゲオルギーネが留守を預かっているので、ディートリンデとローゼマインで一部の客を対応してもらう。」

 

「お任せくださいな、お父様。」

 

ディートリンデ様、頼りにしていますよ。去年はどうしたんだろうね。三人で対応したのかな。

 

私がいろいろ考えていると、お父様がわきに来てボソッと言っていきました。

 

「領地対抗戦の間は当初の契約以外は自由とする。ただし、アーレンスバッハの不利益となる行動はとらないこと。」

 

ありがたいですね。万が一があるとめんどくさいからでしょうが。

 

今年はこっそりカステラの他に月餅や、練り切りなど出してみました。

 

練りきりと言ってもつなぎはもち米がないので小麦粉やジャガイモから作った片栗粉なので食感が少し微妙ですが。

 

色付けは、野菜等すりおろしたりして着色しています。基本的に小豆は見つかっていないので白い豆を使った白餡を中心にずんだ餡風なものなども使っています。

 

相変わらず砂糖菓子に埋もれているので、ほとんど注目はされませんが、目ざとい方々は見つけて食べている模様です。

 

今も王族の方々がお越しになり、エグランティーヌ様が見つけて払下げをしていました。

 

「あそこにある新しいお菓子はまた其方が考案したものか。あいかわらず、目立たないところに置いておくのだな。」

 

アナスタージウス王子とエグランティーヌ様は幸せそうですね。私がお菓子の説明をしようと口を開きかけたところで...

 

「改めましてようこそアナスタージウス王子、アウブとはお話をしなくてよろしくって。」

 

ディートリンデ様は王族のこと嫌いすぎですよね。あっち行ってくださらないって感じの対応だものね。

 

「ふん、ディートリンデも相変わらずだな。アウブアーレンスバッハには、この後にあいさつに行く。先にこちらへ来たのは、ローゼマインに去年もらった助言のお礼を言っていなかったからな。」

 

「あら、途中から態度が変わったと思ったらローゼマイン様が原因でしたの。ではわたくしからもお礼を言わないといけませんね。」

 

クスクスといった感じでお互いらぶらぶですね。

 

「お礼を言われるようなことはしておりませんし、お二人の幸せそうな顔を見られただけで十分かと存じます。」

 

その後、お父様方があいさつ回りに行くということで席を外していますが、無難になんとか対応していきます。

 

ちょうど客の流れが途切れ少し周りを見る余裕が生まれました。やはりダンケルフェルガーの方々はいつでも戦えるような恰好をしており、団体様で移動していますね。

 

今は、お父様方が挨拶周りで向かっているはずなのですが、私達の方にまっすぐ来るのは気のせいでしょうか。

 

「これを作ったのは其方だな。」

 

「挨拶もなくいきなり本題とは。いくらアウブと言ってもどうなのかしら。」

 

ディートリンデ様、全くその通りですが上位領地にそんなこと言って大丈夫なのでしょうか...。まあ、ダンケルフェルガーの歴史を見る限りは気にしなさそうですが。

 

「これは、アウブダンケルフェルガー。歴史書を現代語訳に直して編纂したのはわたくしですが、アウブが直接来られるほどの何かがございましたか。」

 

とんでもない訳し間違いがあって怒ってきたという感じでもないし何だろう。

 

「これをダンケルフェルガーで本にしたい。」

 

「申し訳ございませんが、あくまで個人で作っているものですのでわたくし個人としては広めてほしいものではないのですが。」

 

というか、なんでアウブが持っているのだろう。ハンネローレ様は取り上げられてしまったのでしょうか。

 

「そうかならばディッターで決めようではないか。」

 

きました、そんなことよりディッターしようぜ。いや、違いますが。私が今言ったら大ウケではないでしょうか。

 

ハンネローレ様があわあわしています。ちょっとかわいいですね。ダンケルフェルガーがディッターを持ち出した以上、後に引けない何かがあるのでしょうか。

 

ディートリンデ様はダンケルフェルガーのことが王族以上に嫌いなので話したくもないらしく顔がわずかにヒクヒクしています。

 

「あの、仮にディッターをするにしても誰と誰で行うのですか。ダンケルフェルガーのようにアーレンスバッハではあまり盛んではないですし。」

 

別に再度見直して直してもらって、印税をもらえるならいいのかな。いずれにせよアウブの案件だよね。

 

「その要件はアウブを通して頂くべきかと存じます。」

 

「いま、其方が個人で作っていると言ったではないか。ならば何も問題あるまい。」

 

問題大ありでしょうとか、ディートリンデ様も言って下さいますがこうなるとなかなか聞く耳を持たないのは、親戚と言ってもいいベルケシュトックの方々でよくわかっています。

 

「わかりました。わたくしとしては印税として一冊売るごとにいくらか私の手元に入ってくるように徹底してもらえるのなら問題はございません。」

 

そう言って、印税の説明をします。

 

「ふむ、では其方がディッターに勝ったらそれでいこう。」

 

いや、ディッターは関係ないよね。

 

「ディッターに関係なく、いえ、ディッターせずともその条件ならお譲りしますが。」

 

「こちらとしては、買取ならともかくそのような面倒な制度を加えるというならそのくらいの条件を飲んでもらわねば無理だ。」

 

はぁ、ディッターしたいだけなんだね。分かりましたよ。お父さまたちも戻ってきそうだしどうせなら魔術具の実験に付き合っていただきましょう。私はあくまで乗り気ではないという雰囲気を出すために小さく溜息をはきます。

 

「わかりました。ではアウブが戻って来るのが見えましたので、今からやりましょう。ディートリンデお義姉様。申し訳ございませんが後のことお願いしてもよろしいですか。」

 

「待ちなさい、まさかとは思うけどローゼマイン、あなたがディッターをするつもり?おやめなさい。」

 

「ディートリンデお義姉様、要はディッターを名目としたこの本を譲れという催促なのです。ただ、わたくしとしてはこのまま譲るのは面白くありませんのでいろいろやらせていただきたいと存じます。」

 

「まて、譲れなどと思ってはいないぞ。」

 

「いままでたくさんある借りを一つ返したと思っていただければ結構ですわ。ですが、やるからには勝たせてもらいますわ。」

 

万が一に備えて魔王様対策のためにいろいろ試したいしいいよね。フルに使ってもこの不死身の集団(ダンケルフェルガー)を止められるとは思わないけど。

 

「仕方がないわね。こちらは任せなさい。ディッターである以上少しの怪我は許しますけど重症とかになることは許しませんからね。あなた方も肝に銘じてくださいまし。」

 

ディートリンデ様だけに任せる状態になってしまうのは申し訳ないですが、この場合は仕方がないですよね。

 

 

 

 

さて、外の使っていない訓練場に移動です。移動中にルールなどを話し合います。

 

「さて、当然挑まれているのはわたくしなのでルールはわたくしが決めてよろしいですよね。」

 

「もちろんだ。あまりに不利な条件でもない限り受け入れよう。」

 

ルールとして一対一で時間制限ありで逃げ切れば私の勝ち。

 

ケガを避けるために私の首に付けたお守りが発動した時点でわたしの負け。

 

フィールドはディッター専用の施設内のみ。

 

他にディッターに必要な条件を決めます。

 

「こちらはお守り等についてはいいのか。」

 

「時間制限の分、そちらで判断してもらって結構ですわ。」

 

万が一、いい戦いになって魔術具のテスト終わる前に終了じゃ困りますからね。

 

「ほう、ところで其方本当に戦えるのか。」

 

「あら、これでも逃げることに関してはそこそこ訓練を受けてますわ。落第とか訓練させるだけ無駄かとか言われましたが...。」

 

相手から大丈夫なのかという声も上がります。

 

「ただ、わたくし負けるつもりはないのでそちらからは最高の戦士を希望しますわ。負けてもいい経験になるでしょう。」

 

「その意気やよし。ハイスヒッツェ。相手してやれ。」

 

ええ...いいのかよ、という雰囲気が流れますがアウブの命はどこでも絶対ですね。

 

「わかりました。お相手しよう。もし私に勝てたら私の持っているもので欲しいものをなんでもあげよう。」

 

負けるわけないだろ、かわいそうだから関係なくあげろよとか聞こえます...もう、この方達はどちらの味方なのでしょうか。

 

始まる前にハンネローレ様が涙目でごめんなさい、絶対に無理をなさらないでくださいとか言ってくれます。

 

「ハンネローレ様、目に物を見せてあげますので期待してくださいまし。」

 

 

 

 

さて、始まりの合図を待つばかりです。こっそり移動中にアインにフル装備を取りに行かせましたので万全です。

 

ここまでフル装備で戦うのはアーレンスバッハに来てからは何度かしかありません。

 

開始の合図とともに魔術具を展開し、

 

『水鉄砲』

 

「なんだ、この壁は!」

 

容赦はしません。純粋に透明な迷路の魔術具です。

 

水鉄砲は、単純に矢の形態にしてマシンガンのように乱れ打ちします。

 

「うお!」

 

お守りの破壊に成功したようです。さらに下から近くに来た人を自動で追尾する地雷を数発お見舞いします。

 

「なかなかやるな。言うだけのことはある。ただの貴族院生と思ってやると痛い目を見そうだ。」

 

お守りを吹っ飛ばしても、全然効いていませんね。

 

ラルツェ!

 

私はとりあえずライデンシャフトの槍を出します。

 

アインに持たせ攻撃させます。

 

「なかなか危険な槍だな。打ち合いたくはないな。」

 

当然ながら全然当たりません。無理に攻撃しようとしたアインの手ごと切られて解除されてしまいます。

 

まあ、私としては時間稼ぎができれば良かったのです。

 

シュヴェールト!

 

エーヴィリーベの剣は今の季節なら使えるしね。

 

「再生と死を司る命の神 エーヴィリーベよ 側に仕える眷属たる十二の神よ」

 

これって、エーレンフェストの冬の主と眷属を呼び出す儀式だから今の私が使うのは微妙なんだけどね。

 

アーレンスバッハの冬の主は呼び出せなくはないけど寒さが厳しくないので弱いんだよね。むしろ海とか山とか夏とか...。まあ、今はいいのです。

 

「ゲドゥルリーヒを守る力を我が手に」

 

使っても問題ないカードだからさっさと切るけど今の私がゲドゥルリーヒを守る力をって、いやになるよね。

 

うお!なんだこいつらはという声が聞こえます。この集団を一人で相手するのは少しは骨が折れると思いますよ。

 

「ローゼマイン様、私、ハイスヒッツェはまだあなた様を見くびっていたようだ。ここからは相手をフェルディナンドだと思い全力で当たらせていただく。」

 

いや、十分強かったですが。目が楽しくてしょうがないという感じでキラキラしだしてハイスヒッツェ様の剣が光輝きだします。

 

「魔術具ごと全力で切らせていただく。」

 

そう言った直後に広範囲の横一線の攻撃が来ます。当たった瞬間、あまりの魔力量に一瞬で魔術具と生み出した冬の主が蒸発しました。

 

ゲッティルト!

 

シュツェーリアの盾にシュタープを変え呪文は唱えている暇がないのでアインに盾を補助してもらい魔力量を込めて強引に防ぎます。

 

当然、迷路の魔術具は使用不能になり魔力もそこそこ使いました。

 

でも、今の攻撃は魔王様のそこそこ全力と同じくらいだったよね。普通に耐えきれたってことはわたしも成長している証拠だよね。

 

耐えきれた満足感に少し油断して直接攻撃を食らいますが、

 

「これで終わりだ、うお!」

 

うふふん、簡単には破れないよ、お守りはまだまだたっぷりとありますから。

 

いい感じで吹っ飛びます。ここまで強力な反撃ができるお守りを持っているとは思っていなかったようです。ここでできた時間を使って薬で念のため魔力を回復させます。

 

風の盾を 我が手に

 

その後、シュツェーリアの盾の守りを展開します。

 

「はは、まだ油断があったというのか。まるでフェルディナンドを相手にしているようだ。」

 

「ずいぶんフェルディナンド様とお親しいようで、噂の魔王様と比較していただけるとは嬉しい限りですわ。」

 

「あなたが彼の関係者と言われても驚きませんよ。」

 

楽しそうな目から一転して真剣な目に変わり再度、剣に魔力を収束させこちらを攻撃しようとしてきますが...

 

「させません、アイン攻撃」

 

話している間に穴を掘らせて後ろからお守りアタックです。

 

「っく」

 

集中力を乱させれば、この手の攻撃は防げる可能性が高まります。

 

と思ったのですがシュタープの二個目を出しアインに攻撃されてしまいます。

 

シュタープ二個持ちかぁ。よく考えれば昔の人は七個とか出してたとかいう記録もあるから私もやってやれないことはないと思うけど。

 

そんなことを考えている余裕はありません、先ほどの攻撃が再度来ます。

 

攻撃に踏み込んだ瞬間を狙って移動地雷と魔紙を使った魔法陣で攻撃を試みるもこちらの攻撃を無視するかのように容赦なく踏み込んで攻撃してきます。

 

とはいえ、魔力を注げば防ぎきれます。

 

「これでも駄目か。ならばこれでどうだ。」

 

なんでこんな戦いを楽しめるのでしょうか。レッサー君軍団を使うか悩ましいですが、よく考えたら万が一に備えているのに他の領地に伝わる可能性がある以上使えないんですよね。

 

グルトリスハイトの知識を使えば少し楽に戦えますが、ぶっつけ本番は怖いですし、目立ちそうなのでやめておいた方がいいでしょう。

 

先ほどと同じように剣を両手に持ってハイスヒッツェ様が攻撃してきます。あれ、両手の剣両方ともさっきよりも魔力をまとって輝いていない!?

 

一発目は耐えきれますが、

 

「これでどうだ。」

 

すかさず二発目が来ます。

 

きゃあ!

 

衝撃波で割られたかのようにシュタープの盾ごとたたき切られます。

 

お守りが発動して防ぎきりますが、魔力が大量に削られてしまいました。

 

「お守りを一体いくつ持っているのだ。直接胸のお守りを破壊するしかないな。」

 

「させません!」

 

ゲッティルト!

 

再度、シュツェーリアの盾を出して、風の守りを展開します。

 

魔力回復薬をもう一本入れて

 

更に『水鉄砲』

 

ぶっつけ本番でしたが普通にいけました。

 

「なんだと!騎士でもないのにシュタープを2個出してくるとは」

 

防御しながら一方的に乱れ撃ちです。最初に撃った時と違い残りの魔力量を気にせず全力で魔力を込めて撃ちまくりました。

 

「ところでそろそろ時間では、あとどのくらいですか?」

 

審判の方も時間制限ありなんてめったにやらないようでこちらの試合ばかりを見て時間を確認していなかったようです。

 

「双方そこまで!」

 

かなり慌てて言ったようだけど、どのくらい過ぎていたんだろうね。そのせいで私の魔力回復薬を余計に消費したなんてことはないよね?

 

はぁ、疲れました。あうち!気を抜いた瞬間疲労でかなりまずい状況の様です。感覚的には薬を飲んで休めば何とかなりそうですね。

 

「見事なり、これで貴族院生とは信じられん。」

 

「恐れ入ります、申し訳ございませんが、体調がすぐれないため下がらせていただきます。」

 

まわりは、は!?とか困惑気味ですが知ったことでがありません。

 

「ではアウブダンケルフェルガー、約束は守ってくださいませ、あとハイスヒッツェ様も最高級の素材ありったけ用意してくださいませ。」

 

「ディッターで負けた以上必ず用意しよう。」

 

ダンケルフェルガー産の最高級の素材は楽しみだね。

 

そんなことより休憩して回復させなきゃ。ハンネローレ様も周りを説得してくれたようで特に引き留められずに帰ることができました。

 

 

 

 

悪夢を見る確率100%の悪魔の睡眠薬に加えて体調を回復させる薬を飲んで休んでから、戻ります。

 

万全とは言えないけど去年よりは全然いいですね。今年はユレーヴェに浸かれたおかげでかなりいいです。

 

悪夢ですか?忘れます。今回は村に帰ろうとしても帰ろうと頑張れば頑張るほど、どんどん故郷から離れていく夢を見ました。

 

戻ると、ちょうどアーレンスバッハのディッターが始まったところでした。

 

「大丈夫か...今回の件はなぜ私を待たなかった」

 

お父様が眉間にしわを寄せ額に指を当てながら言ってきます。

 

「アウブダンケルフェルガーより、個人の問題だと言われてしまいましたので。上位領地にそういわれてしまえば言われた中で対応するしかございませんわ」

 

「同じ大領地だ、ある程度の対応はできる。次から気を付けることだ」

 

「わかりました。申し訳ございませんお父様。次回はそのようにいたします」

 

分かればいいといった感じで話は終わります。

 

後ろの方で横にならずにいられるのなら、他領の対応とかは一切しないでいいので休んでいるように言われました。

 

休んでいる間に、背中に悪寒が走り、その後怖い視線を感じたような気がしたせいで、あまり気が休まりませんでしたがなんだったのでしょうか...。

 

 

 

 

ぼ~としていたら、気が付いたら表彰式の準備が始まったようです。

 

アーレンスバッハは大領地なので王族の現れる所に比較的近い場所に移動しなければなりません。

 

競技場へ学生たちが競技場へ向かって下ります。並んでしばらくすると、王族がやってきて表彰式を始めようという状態になったところで...。

 

なんだかすごい音が鳴って火柱がたっているのですが、何かの演出でしょうか。魔力反応からして魔術具が使われたようです。

 

そこそこ近場での爆発だったため周りが混乱しているようです。

 

「皆様、落ち着いてください、ほかに魔術具の反応はありませんから落ち着いて観客席へ戻りましょう。皆様、一度冷静になって魔石の鎧と盾を装備してから移動しましょう。」

 

私はそう言った後、文官を中心にして外に騎士科や心得のあるものを配置するよう円陣を組ませようとしますが皆様混乱して動きが遅いです。

 

仕方がないので

 

ゲッティルト!

 

風の盾を 我が手に

 

祝詞を唱えてシュツェーリアの盾の守りを展開します。

 

とりあえず、大きな盾を展開し中に入れば少しは安心するでしょう。

 

大きな盾に入ったという心理的効果は大きく混乱が収まり、まず円陣を組むかのように文官たちを守れる体制を作ります。

 

その次にとりあえず、観客席の方へ戻るよう誘導します。

 

少し落ち着いてきたと思ったらターニスベファレン、通称ターニちゃんが大量に出てきて会場は大混乱です。

 

貴族院生が混乱しながらむやみやたらに黒の武器を装備しないで、中途半端な攻撃を繰り返すためターニちゃんがどんどん大きくなっていきます。

 

せっかくいい素材が取れそうなのでお父様に狩りに行く許可を願いにオルドナンツを飛ばすと...

 

「絶対にならん、それに、盾から離れれば誰があの者たちを守るのだ。」

 

まあ、仕方がありません。人命以上に大切なものはありません。

 

 

 

 

他の寮の者たちまで保護を求めてきたので入れてあげるも動きが取れなくなります。

 

「皆様、一旦シュツェーリアの盾の守りを固定しますのでここにいてくださいまし。」

 

まったく、向こうから寄ってくるならしょうがないよね。

 

ダンケルフェルガーの騎士も気が付けば参戦しているので数の暴力で放っておけば決着はつきそうだけど

 

ラルツェ!

 

こっそり寄ってきたターニちゃん二体を魔力で吹っ飛ばし爆発させます。

 

こんだけ混乱してれば分からないよね。素材なんて回収している暇があるわけないので全部吹っ飛ばし魔石だけ回収させてもらいます。

 

とそこで、ハンネローレ様がダンケルフェルガーの騎士についてきたようでこちらに来ます。

 

「ハンネローレ様、ご無事でよかったです。」

 

「ローゼマイン様も、何やらここですごい爆発がありましたが大丈夫でしたか?」

 

ハンネローレ様や騎士達が少し慌てたようにこちらに来たのは、私が起こした爆発の所為だった模様です。

 

「ええ、全く問題なく。」

 

やっぱり少し目立っちゃったかな。きっと犯人のせいになるから大丈夫だよね。

 

とそこで、不自然な動きをする騎士が何名か騎獣で空に上がっています。

 

「ハンネローレ様、ダンケルフェルガーではディッターの後に行う儀式がありますよね」

 

「え、ローゼマイン様このような時に何を。」

 

「念のため、準備してもらってよろしいですか。」

 

「ええ、まぁいいですけど。そろそろ魔獣の掃討も終わりそうですし。」

 

ハンネローレ様は何言っているのだろこの人はといった表情です。

 

ですが不自然な行動をされている方々は遠目に見たため断定はできないですがあの目はきっとまずいです。

 

判断が間違っていたとしても危害を加えるわけではないので処分されないよね。きっと。

 

私の真剣な目に何か感じ取ったのかハンネローレ様はフェアフューレメーアの杖を出してくれます。

 

初めて見ましたが記憶にあるものと一緒ですね。

 

「ハンネローレ様、わたくしのこれからやることを信じてくださる?」

 

「ええ、何をされるのか分かりませんが信じます。」

 

「では、魔力を奉納する儀式をしていただけますか。その時に私もハンネローレ様の杖に触らせてもらって補助しますので。」

 

何がしたいのかわからないようですが了承してくれます。

 

そんな話をしているうちに、不自然な集団が動き出します。

 

「グルトリスハイトを持たぬ偽りの王よ!我らが」

 

「今ですお願いします。」

 

私は、広域魔法陣を書いた魔紙と鎮静効果を極限まで上げる魔法陣をシュタープのペンで展開しハンネローレ様にお願いします。

 

「我等に祝福をくださった神々へ 感謝の祈りと共に 魔力を奉納いたします」

 

無理やりハンネローレ様の魔力に同調させ魔力を補助する形で広範囲に強制的に鎮静化させる儀式の効果を波及させます。

 

不自然な動きをしていた人達が「恨みを思い」と続けて言ったところで儀式が効果を発揮し騎獣が解除され呆けたような表情で落ちていきます。

 

アーレンスバッハは大領地なのでもともと王族の近くにおり、先ほどまで余り移動できなかったため王族に攻撃しようとしていた人達がすぐ近くに落ちてきます。

 

光の柱がたくさんたっていますが今は気にするところではありません。

 

呆けて何をしていたんだという表情になっている人に無理やり口から試験薬を飲ませます。

 

吐き出す、がは、げええぇという苦しそうな声が聞こえます。

 

「ローゼマイン様、何をなさっているのですか!」

 

ハンネローレ様が慌てて声をかけてきますが、それどころではありません。

 

この反応は...。アーレンスバッハは詰んだかもしれません...。

 

 

 

 



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60話 王族の呼び出し×2

不自然な動きをしていた集団の一人に試験薬を飲ませた後、何かハンネローレ様に声をかけられましたが一言謝ってアウブの所へ向かいます。

 

よほど私が青い顔をしていたかは分かりませんが、すんなり行かせてくれました。

 

「お父様!緊急でお話をせねばならないことが。」

 

「トルークの件か?」

 

え、なんて言ったの!知っていて放置していたとか!?

 

「わかっていらっしゃるのなら、どうするのですか。」

 

「何を言っている。トルークは使い方次第だ。誤った使い方をされているだけで我々に責任はない。命令だ、この件については一切口にするな。」

 

そんな、なにを言っているのこの人は。

 

「お父様!」

 

命令されては私には何もできません。

 

「後で話は聞いてやるから今は黙れ、いいな。」

 

そんな...緊急だと思うのだけどアウブにはアウブの事情があるようです。

 

ちなみにトルークとは、幻覚作用など様々な効果を及ぼす薬で、基本的にはランツェナーヴェで取れる花をもと作成されています。アーレンスバッハでも少量育てていますが質はあまりよくないようです。質が悪ければ悪いで使いようがあるのですが。この薬は実際には違いますがウラノの世界の『まやく』のようなものと考えてもらえればいいかもしれません。

 

不自然な行動をしていた人たちは一時拘束され、事情聴取を受けるという話が広がります。当然表彰式は中断中です。

 

私も少しの間観客席に誘導したり周りを落ち着かせたりしようと会場に残りましたが午前のこともあって、体力魔力ともに限界です。トルークの件は命令を受けてしまった以上、手出しはできません。いつ始まるかわからない表彰式は他の方に任せ、寮で休むことにしました。

 

 

 

 

「ローゼマイン、開けなさい!」

 

アウブの少し急いでいるかのような声が聞こえます。

 

私はというと部屋に戻って寝ていたようです。当然私の部屋の安全確保に手抜かりはありません。

 

頭がぼ~とします。起きる気力すらありません。

 

「すぐに開けないと無理やり開けるがいいか?いや、命令した方が早いか...」

 

今すぐに開けます!

 

私は、全く回復しきっていない体を無理やり動かして様々な妨害装置を解除し部屋をでます。

 

「王族より、緊急の呼び出しだ、今から来い。」

 

えっと、もう部屋から出ただけでいろいろ限界なのですが...。

 

「私も無理だとは言ったのだが、今回の件での当事者に直接聞きたいということで無理にでも連れてこいとのことだ。諦めろ。」

 

そこまで言われては仕方がないので、側仕えを呼んで着替えをしたらアウブと一緒に向かいます。

 

頭の魔術具を起動すると低レベルで作動してしまいます。頭にガンガン来ますが王族の前で気を失ったり寝てしまうよりましでしょう。

 

 

 

 

連れて行かれた部屋には、まさかのツェント本人がいます。こんな状態なので粗相がないよう精一杯集中しながら冬の厳しき選別と言う冬の初めましての挨拶をし、祝福を贈ります。

 

「さて、ローゼマインと言ったな。そなたを呼んだのは...、本当に顔色がものすごく悪いな。今聞く必要がないことは後に回そう。」

 

今にも意識が飛びそうです。祝福を送る時にすでに限界です。

 

「明日の成人式だが、中央の神殿長ではなく其方にお願いしたい。やってもらえるな。」

 

王命ですか。この私の状態を見てできると本当に思っているのでしょうか。

 

「アウブからはそのような話をお聞きしておりません。わたくしの一存ではお答えしかねますのでアウブにお願いしてくださいませ。」

 

「では、アウブアーレンスバッハ。其方の所の神殿長に成人式の儀式を依頼する。」

 

「お待ちください、ツェント。見ての通りローゼマインの体調はよろしくありません。お約束してもそもそも明日の卒業式に出られるかも怪しい状態です。」

 

私も補足をしないといけないので一言発言の許可を得てから話します。

 

「わたくしの体調以前に、一日では神事の準備ができません。神殿長として祝福をお送りすること以外は現状ではできないかと存じます。」

 

「中央神殿へのけん制になればいい。準備は中央神殿にさせるから祝福だけでもやってもらいたい。」

 

中央のことなんて知らないよ。というか私が来る前は応援をお願いしていた立場だから今後について考えると、ことを荒立てたくはないのですが。

 

「そもそもなぜ中央神殿へのけん制が必要なのでしょうか。アーレンスバッハの神殿が出ていくこと自体がおかしいかと存じます。」

 

頭が痛すぎますが、聞かないわけにはいきません。

 

ええ、なんでも聖典原理主義者というのが中央神殿ではびこっていて、グルトリスハイトを持っていない王は支持ができないと言っているとのこと。

 

未遂に終わったとはいえ、貴族の中でも同じ主張をするものが出てきたので増長しているとのことです。

 

えっと、持っていないのですかね。私の立場まずくない?言わなきゃわからないからいいよね?

 

結局、体調が許せば今回に限り成人式の祝詞だけやることになってしまいました。

 

今回に限りと言っても、所詮は口約束で契約を結んでいるわけではないので今後どうなるかは知りませんが...。

 

 

 

 

貴族院の成人式なんて言ってもやることは一緒の様です。神官長が神事のお話をして、その後祝詞を読み上げ祝福するだけの様です。

 

中央神殿の神殿長レリギオンは、なんというか権力へ固執している感じですが、話が通じないわけではないので神官長のイヌマエルよりは話しやすいです。

 

「ローゼマイン様も、王族との軋轢で大変そうですな。」

 

「王命とあっては仕方がありません。神殿長、わたくしはアーレンスバッハの神殿関係者として中央と仲を悪くしたくないと思っていることだけはご承知ください。」

 

「いつでも、体調を崩されたら変わりますのでご相談ください。」

 

「その時はよろしくお願いします。」

 

いや、レリギオンは体調を崩してほしいと思っているのでしょうが、私は今本当に調子が悪いのです。

 

祝福に関してもきっちり調整しないと貴族院の選別の魔法陣が起動しかねないし考えただけでも憂鬱です。

 

イヌマエルに「神殿長の入場です」と言われ入場します。王族もすでに入場しておりエスコート相手と組んだたくさんの卒業生が私を見ているようです。

 

「土の神ゲドゥルリーヒ 命の神エーヴィリーべよ。」

 

新しき成人の誕生に祝福を与え、聖なるご加護を与えんという内容の祝詞を読み上げていきます。

 

最後にゲドゥルリーヒの貴色である赤とエーヴィリーの貴色である白の祝福を新成人に与えて終了です。

 

魔法陣が起動しないぎりぎりまで祝福を絞ったのでほんのわずかに光ったかなというくらいで何とか終わることができました。

 

「すばらしい祝福であった。礼を言うぞローゼマイン。」

 

ツェントからお言葉を賜り「大変恐縮です。」と事務的に答えて退場します。

 

そんな言葉より、こんな仕事をさせないでほしかったのですが。

 

神官長イヌマエルとは、話したくないので神殿長レリギオンに準備等のお礼を言ってさっさと離れます。

 

お世辞なのか、レリギオンは見事な祝福でしたと言ってくれました。

 

あの嫌な感じの目をしている神官長よりは、神殿長の方がましですね。

 

 

 

 

さて、そんな異例中の異例な成人式が終われば剣舞や奉納舞ですが、私は着替えなければいけません。と言っても脱いで一枚着れば着替えが終わるようにしてきたのですが。

 

この後は、なんとなく見ているのかいないのか。頭に霞がかかったような状態が続きます。そんな状態でも会場の上に魔法陣が浮かびあがっているのが気になりますね。どうせならあの魔法陣に魔力を奉納してツェント候補でも何でも出てくれればいいのに。

 

魔力を通していないので他の人は見えていないようです。グルトリスハイトの知識と照らし合わせても資格がある人しか見えない魔法陣の様です。

 

まあ、そんなことよりも全く回復しきっていないので寮へ戻りたいのですが、アウブの所へ行くのも億劫ですし、このような場で側近連中が周りにいないのも問題です。

 

不自然に見えない程度に休み、少し回復したらアウブへ報告し寮へ戻りました。

 

 

 

 

夕方再度王族より呼び出しです。まったくもってご遠慮したいですがそうもいきません。

 

加えて今日はアウブはなく、私一人の呼び出しだったようです。

 

しかも人払いまでさせて、ツェントがいないのでまだいいですが、アナスタージウス王子とエグランティーヌ様ですね。

 

「さて、まずツェントが話しやすいようにとわたくしたちが聞くことになりました。」

 

私は話しやすいとはとても思えないのですが。その後にあらためて成人式のお礼が言われます。

 

「成人式での祝福は今回限りのことですから、必ず守ってくださいませ。」

 

無駄かもしれないけど、念を押しておきます。

 

ええ、わかっていますわ。と言ってくれるもさてさてどうなることやら。

 

「さて、其方には婉曲に言っても伝わらないから単刀直入に言うぞ。領主対抗戦での謀反を防いだ儀式、あれは何だ。」

 

アナスタージウス王子も、そんなに真剣で怖い目を向けないで頂きたいものです。

 

はぁ、まずは言われたとおりに儀式から説明しないといけませんね。

 

「ディッターが終わった後に、祝福や加護の魔力を奉納する儀式です。もともと鎮静化させる作用があるのですが、少し手を加えて鎮静化の効果を強くした儀式を行いました。」

 

鎮静化作用のある儀式か...。とつぶやいています。

 

「あの後に光の柱のようなものが立ちましたがあれは何だかわかりますか。」

 

エグランティーヌ様...分からないわけではないのですが、どう答えたら良いでしょうか。

 

「わたくしの領地対抗戦の研究成果を見ていただけていればわかるかと存じますが、貴族院で一定の出力を超える魔力を感知すると魔力の一部を自動で貴族院の施設へ奉納する仕組みがあるようなのです。今回の光の柱はその機能によるものかと。」

 

「あの研究成果か。ずいぶんもめたそうだぞ。結果として研究成果の優秀賞として3位だったが実態は4割の審査員が最優秀に押したが他の審査員は結論のでていない論文など認められないということだ。彼らは優秀賞すら認められないと強弁に言い放っていたらしいからな。」

 

「ええ、加えて、最優秀を取ったヒルシュール先生の図書館の魔術具の研究で共同研究者としてローゼマイン様の名前が載っていてずいぶん両領地でもめたそうではないですか。」

 

なにそれ、全く知らないのだけど。

 

「ヒルシュール先生についてはどのような研究をしていたのかということを含めて全く存じ上げておりません。」

 

「研究を発表しているにもかかわらずその研究成果の説明をできる者を配置していなかったり、知らぬ間に名前を使われているなど、いったい其方はどうなっておるのだ。」

 

どうなっておるのだって、あんなスペースが空いていたからとりあえず埋めるために発表した論文がそんな騒ぎになるなんて思うわけないじゃん。

 

「まったく、ディートリンデが3回も表彰に出てきて...。」

 

「あら、そんなことを言ってはいけませんよ。でもせっかく表彰を受ける機会でしたのにローゼマイン様は残念でしたね。」

 

アナスタージウス王子、ディートリンデ様のこと嫌いすぎじゃない?王族の覚えが良くないとかまずいことではないでしょうか。ここまでくると相性の問題なのでしょうが...。

 

「アーレンスバッハの代表ですし、対象者が出られない以上当然のことかと。」

 

「だが、あれはどうにかならんのか。領主候補生としてどうなのだ。」

 

うん?確かに問題行動も多いのかもしれないけど優秀だと思うのだけど。

 

「優秀なディートリンデ様に何かご不満でも。」

 

「其方、本気で言っているなら考え直した方がよいぞ。」

 

アナスタージウス王子は呆れたように言って来るけど、主体的に動けないし他の人を率いることができない私なんかよりも、よほど優秀です。

 

「考え直すも何も、わたくし程度では全くかなう気のしない方を優秀と称さずなんと言えばいいのでしょうか。」

 

「もはや手遅れのようだな。其方は其方で問題行動も多いし、所詮はアーレンスバッハの者ということか。」

 

アナスタージウス王子が首を振ってやれやれと言った感じで言うのには少し苛立ちを感じますが相手は王族なので余計なことは言いません。

 

「ローゼマイン様は、ディートリンデ様と仲がよろしいようですね」

 

そう言って、エグランティーヌ様はおかしそうに笑っています。私とディートリンデ様が仲が良いかは知りません。悪くはないと信じたいですが。

 

そろそろ話すこともなくなり終わりという雰囲気になってきました。

 

「アナスタージウス王子、折り入ってご相談が。」

 

「なんだ、申してみよ。」

 

私は、とある状態に効く解毒薬を出します。

 

「これは、とある薬の解毒薬なのですがよろしければ王族の方々で飲んでください」

 

「我々が毒を受けていると?」

 

まあ、ツェントはほぼ確定なのだけど。

 

「いきなり信頼されても困りますので、信頼できるものに調べさせてからで結構です。これ以上は確信があるわけではないのであくまで念のためということを念頭に置いて頂ければ幸いかと存じます。」

 

「まあ、いいだろう。詳しくは聞かないでおいてやる。其方も疲れが取れていないようだし、ここまでだな」

 

ようやく話し合いは終わりです。契約で直接話すのは禁止にされていてもこのくらいなら大丈夫なんだね。

 

 

 

 



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61話 二年目貴族院終了~祈念式

卒業式が終われば、帰還準備です。とりあえず、しばらく行けなくなるので図書館に向かいます。

 

図書館につくといつも通りソランジュ先生に挨拶をします。

 

「あるじ きた」

「おしごと がんばった」

 

シュバルツ、ヴァイツも相変わらずですね。魔力補給をして礎とか像などに魔力を奉納します。

 

メスティオノーラの像に奉納しても今回は特に何も起こりませんでした。

 

その後、シュバルツとヴァイスのための魔石を渡したり、今年は図書館の返却具合がいいということなどを話していると...。

 

「ローゼマイン、こちらにいらしていたのですね。」

 

ヒルデブラント王子...。出て来て大丈夫なのでしょうか。人がいないわけではないのに。

 

「急遽成人式の祝詞を任されたり、色々大変だったそうですね。」

 

まったくです。体調悪い中大変でした。ヒルでブラント王子はそういう命令出さない王子になってくださいねなんて本音は話せません。

 

「王命でしたので、体調悪い中でも問題なく終えられてよかったですわ。」

 

「ローゼマインは表彰式も出られないほど体調を崩していたというのに御父上も...」

 

「ヒルデブラント王子、そこまでです。ローゼマイン様、私からも成人式についてはお礼を言わせていただきたい。お陰様であの聖典原理主義者どもが少しは静かになりそうです。」

 

血縁とはいえ、ツェントへの批判は中央の騎士団長が止めに入ると。聖典原理主義者がどうこうはどうでもいいけどね。

 

「ご心配頂きありがとう存じます。すべては王命に従っただけですわ。」

 

うん、ヒルデブラント王子にあげた魔術具のシュミルもぴょこぴょこついてきているし気に入ってくれたようで良かったです。そんなことを思っていると私の視線に気が付いたのか。

 

「おかげさまで、この子も元気に動いています。物を持ってきてくれたり便利で賢い魔術具で驚きました。」

 

「大事に使ってくれているようで製作者としても喜ばしい限りですわ。」

 

名前とかも気になりますが、教えたくない場合もあるでしょうからあえて聞きませんよ。

 

 

 

 

さて、図書館の用事が済んだ後、帰る前にダンケルフェルガーよりお茶会のお誘いです。

 

こちらから招待するという話もしたのですが、今回はぜひ来てくれということなので帰還準備を終えて手持無沙汰な側近連中と向かいます。

 

「ローゼマイン様、こちらがお約束の品です。」

 

ディッターで勝った景品がさっそく来ました。わざわざハイスヒッツェ様が持ってきてくれたようです。

 

「まあ、ずいぶんと素晴らしい物を。ぜひとも欲しいものでしたので遠慮なくいただきますね。」

 

「ええ、アウブからの分も入っております。素晴らしい戦いに景品が必要だと。」

 

ええ、なんだかハイスヒッツェ様にルール上とはいえ勝ってしまったということでダンケルフェルガーの方々の視線が痛いです。

 

その後、騎士見習いの方々にディッターの話を振られたりいろいろあってすぐに時間が過ぎていきます。

 

別に私はディッターが好きなわけではないのですけど、ダンケルフェルガーの方々は私がディッター好きだと勘違いしていませんか。

 

何とか軌道修正しようと試みますが、まあ、うちの方々と一緒ですね。

 

ハンネローレ様に、こっそりと相談するも、申し訳なさそうに諦めて話に付き合ってあげてくださいとのこと。

 

同じ苦労をしてきた身として心の中でお互い固い握手をして話に付き合います。適当に相槌を打つことしかできませんが...。

 

最後にディッターのお詫びということで、第一夫人が用意してくれたとのことで、ダンケルフェルガーの神話の本などをお借りすることができました。

 

知識との整合性の確認のためこういう本はありがたいですね。

 

 

 

さて、あっという間に帰還です。

 

今年は親族間での報告もないらしく、簡単な現状確認だけです。

 

エーレンフェストが成績を急激に伸ばしており、領地としても安定しているのでいよいよ無視できなくなるかもしれないということです。

 

何でも領地対抗戦のディッターではうちの寮監が分裂する非常に厄介な魔獣のフンデルトタイレンを出したらしいのですが二年で本来なら出るはずのないヴィルフリート様がとても細かい網で拘束し他の方が大魔力で攻撃し瞬殺したとかで非常に話題になったそうです。

 

分裂したら倒すの大変なんですよね。私はあれが苦手なので無視するか逃げます。

 

それでも準備に少し時間がかかったらしく2位とのこと。1位はダンケルフェルガーですよもちろん。あそこは別格です。

 

なぜか3位がアーレンスバッハというのは解せませんが。アーレンスバッハは国境門が開いている関係から守りに重点を置いているので攻撃はそこまで得意ではなかったはずなのですが何かあったのでしょうか。

 

私については今年も最優秀だったらしいことなどを確認します。研究の発表や、ヒルシュール先生の関係で少しお小言をいただいてしまいましたが。どちらも私にとっては不可抗力なのですが...。

 

その後アーレンスバッハの神殿へ行き聖典と鍵を偽物と入れ替えます。グルトリスハイトの知識を使って、かなり精巧な偽物を作ることができました。

 

なぜこんなにも危ないものなのに神殿の警備は疎かなのでしょうか。いえ、この事実を知っている者がいなければ怖くないですね。領地の礎を丸裸にしているようなものだなんて。さすがに聖典の鍵で礎に行けるなんてみんな考えませんからね。

 

本物の聖典と鍵は私の隠し部屋へ入れます。

 

後で旧ベルケシュトックの分もやらないといけませんね。

 

神殿の滞っていた業務を終えたら、城の文官に確認し必要なところがあれば手伝いをします。

 

その後、春を紡ぐ宴があり、成績優秀者や異動するものや処分者などの発表が行われました。

 

この宴は話を聞くだけで、社交シーズンを終える意味でしかありませんので楽ですね。

 

領主一族の洗礼式があればここで同時に行う場合もありますが、しばらく領主一族が増える予定もありませんしね。

 

 

 

 

春を迎えれば、すぐに祈念式です。相変わらず直轄地は全部私の担当になりましたよ。素材回収のついでなので諦めています。

 

さて、レティーツィアが数か所だけ直轄地の中でも近場の所に同席することになりました。

 

「今回は特にアウブから同行の件はお聞きしていませんでしたけど、レティーツィアが希望したのですか。」

 

「ええ、ドレヴァンヒェルでは神事にかかわりたいとは思いませんでしたがお姉様と一緒に奉納式を行ったため他の神事にも参加してみたくて。その、ご迷惑でしたか...。」

 

ご迷惑だなんてとんでもない。お姉様だしね!トゥーリのような頼れるお姉様に...。道のりは遠いいですね。なるならない以前に...。今は考えるのをやめよう。

 

「神殿長としても姉としてもうれしいですわ。いずれ礎に魔力を奉納するための訓練にもなりますしね。ですが無理する必要はありませんわ。今回は近場の2、3カ所にしておきましょう。」

 

「はい、お姉様。」

 

付き添いの側近の親子も神事にレティーツィアを参加させること自体には忌避感はないようです。

 

「そういえば、なぜこのような格好なのですか。」

 

そうだよね。貴族街では石畳の上しか移動しないものね。神殿の関係者と分かると今後の情勢次第では良くないかもしれないということなどもあり、今回は動きやすい格好を優先してもらっています。

 

「レティーツィアはどろどろの土の上を歩いたことがないのですね。農村には石畳などありませんから足を取られてしまうと言ってもわからないでしょう。まあ、行ってみればわかるかと存じます。」

 

農村の状況は去年とは大違いで、この一年でずいぶんと余裕ができたようです。

 

奉納式を行うと事前に伝えておいたためかこの近辺の人全員が来ているのではない勘違いしそうになるほどの人だかりができています。

 

「レティーツィア、本来は最初から一緒に手を当てて行うのが通常なのですが、今回は最初なので2回に分けて行います。最初に私がある程度魔力を満たしておき、残りを一緒に満たしましょう。」

 

「わかりました、お姉様」

 

まあ、すでに奉納式も行っているから大丈夫だと思うけどね。

 

「癒しと変化をもたらす水の女神フリュートレーネよ」

 

どうでもいいけど、命の神って土の神のことを好きすぎだよね。

 

「土の女神ゲドゥルリーヒに新たな命を育む力を与え給え」

 

魔力で聖杯を満たさないよう、魔力量に気を付けながら奉納します。

 

7割くらい奉納したら残りをレティーツィアと一緒に奉納です。

 

「レティーツィア、大丈夫ですか」

 

「ええ、大丈夫です。」

 

顔色も悪くなっていませんし、もっと魔力を奉納する量を増やしても大丈夫そうです。

 

この日は一度帰して、その間に私は2か所ほど回ります。

 

次の日にまた合流して6割ほど一緒に奉納を行い、少しきつそうでしたが終わります。

 

また同様に今度は念のため1日開けて合流します。

 

「お姉様、今回は最初からおこなってみたいです。」

 

なんでこんなに積極的なのでしょうか。いえ、素晴らしいことこの上ないのですが。

 

姉としてできるだけ希望を叶えてあげなければなりません。

 

「側近、護衛の皆様、レティーツィアが最初から奉納を体験したいと言っていますので手伝ってくださる」

 

二人で最初からおこなうと危ないですが、みんなで行えば負担は減りますし、最初から行うという感覚もわかるでしょう。

 

我々もおこなうのですかと驚いています。当然の反応ですね。自身が参加するとなればどうしても神事に対する以前の感情が抜けないようですし、自分に必要なこと以外のために魔力を使うということを嫌がる人は多いのです。

 

「あら、かわいい私の妹というだけでなく、領主候補生で次期アウブ候補であるレティーツィアが儀式を行っているのに側近であるあなた方は手伝える力がありながら何も行わないのですか。」

 

うふふん、かわいい妹のためなら、多少嫌がられても気にならないよ。

 

「皆様...いえ、私のわがままのために付き合わせるわけには。」

 

「いえ、ぜひ手伝わせていただきます!」

 

ねえ、なんでわたしが言うのとこんなに反応が違うの?

 

いや、レティーツィアの側近だから当然と言えば当然なのだけど。なんだか釈然としません。

 

私とレティーツィア以外の皆さんが恐る恐る聖杯に触れていたのが少し印象的でしたが無事に魔力の奉納を終えました。ところでみなさん疲れすぎじゃないでしょうか。魔力の奉納が終わった後、みなさん疲れてぐったりとしているように見えます。

 

帰るのには問題なさそうなのでここで別れます。別れるときにレティーツィア以外からの畏怖と尊敬を混ぜたような視線を向けられたのはとても気になりますが...。

 

この後は去年と同様に儀式を行っていきます。

 

ただ、回っているうちに気になることが。以前お話しした神殿の入口に設置された謎の神の像がいろいろなところで増えているのはなんなのでしょうか。

 

特に旧ベルケシュトックでは、何ヵ所かにあるのを見たのですが。

 

旧ベルケシュトックの小神殿では鍵と聖典は確保しました。本物であることも確認済みです。

 

その後旧ベルケシュトックの礎も、小神殿から行けましたので鍵で開けて中の確認まではしました。満たさないようにと言っても一度で満たすほどの魔力はさすがにありませんが...魔力を奉納してきました。朽ちかけていた一部の建物がだいぶ息を吹き返したようです。

 

間違っても、魔力を満たしてアウブに登録される訳にはいきません。魔力を満たしてしまったらアウブが許可を出したところ以外に行ってはいけないという命令に反しかねないので不味いのです。

 

これ以上余計なことをするならお父様とダンケルフェルガーへの協議が必要になるでしょう。

 

外へ出たらまた奇跡を起こしたとか言って大変な騒ぎになってしまいましたが。私は何もしていないと嘘をついておきました。

 

あとは小聖杯の受け渡しに数ヶ所ですが、レティーツィアが同行したくらいでしょうか。

 

その関係で直轄地以外も少しだけ回り、エーレンフェストの領界近くに行きましたがゲオルギーネ様の支持者の方々が多い土地の割には歓迎されました。

 

小聖杯を渡すのに歓迎しないところはありませんが...。

 

さて、そんなこんなで気が付けば領主会議の季節になりました。

 

 

 

 



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62話 領主会議の呼び出し 米作り始動

その日はお父様とお母様が領主会議へ行ってしまい、政務が滞っているとのことでたまたま城にきてたのですが...。

 

「ローゼマイン様ですね。そのまま同行お願いします。」

 

なんでも彼らは中央騎士団の者で領主会議での議題の確認のため私に出席しろとのことです。お父様が彼らに転移の許可を出したということですね。

 

「わたくしはなにも悪いことはした記憶がないのですが、理由は何でしょうか。」

 

ただの呼び出しでもおかしいのに中央の騎士までこちらに来るとか、まるで犯罪者を連行するかのような状態で不安になります。まさか図書館の件がばれたのかな。

 

「ローゼマイン様に罪はございませんのでその点はご安心ください。」

 

うん、全く信じられないけどおとなしく連行されるしかなさそうですね。

 

着いて早々ツェントの前に跪くお父様がいます。

 

私も横に行けとのことでアウブの斜め後で跪きます。

 

アウブより最低限挨拶以外の話をするな。と小声で命令されます。

 

「ローゼマイン、挨拶はこの場では省略する。此度其方を呼んだのは其方がエーレンフェストの聖女でありアーレンスバッハに拉致され従属させられている疑いが強いため呼び出させてもらった。」

 

また、エーレンフェストの聖女ですか。エーレンフェストから拉致されたのは事実だけど聖女とはなんのことでしょうか。

 

ツェントはそう言った後に私の全身をじっくり見たかと思うと最後に私の左手に目を向けてから言ってきました。

 

「まずは、その白い手袋を取りなさい。」

 

人前では外したくないんだけどな。まあ、王命だものね。外すだけなら契約も問題はないはず...いやいやながら私は手袋をとります。

 

アーレンスバッハの領紋のついた薄く美しくも嫌な気分にさせられる従属の指輪が姿を現します。回りから本当に従属の指輪ではないかとざわめきが広がりだしました。

 

「確かにエーレンフェストの主張通り従属の指輪のようだがアーレンスバッハはこのことについて申し開きはあるか。」

 

そう言われるとお父様が周りの反応を確認しながらゆっくり一呼吸おいてから発言します。

 

「恐れながらツェント、こちらの従属契約はアーレンスバッハ特有の同時期の領主候補生を上級貴族に下げる慣習を回避するための手段です。」

 

少しざわめきが静かになるのを待ってからお父様が続けます。

 

「仮に拉致したとしても大領地の領主一族として遇しておるのに何か問題がありますか。」

 

ないわけないじゃん、言えないけど。まわりも私の意見と同じなのか批難するような声が聞こえます。

 

「ローゼマイン自身の意見が聞きたい。」

 

聞きたいって言われても発言許可がないのですが。私はアウブの方を向くとアウブはうなずき。

 

「ローゼマイン、発言を許可する。」

 

言いたい、全部言いたい...。私の心のゲドゥルリ...考えるな!

 

「...アウブのお言葉以上の話はありません。」

 

命令でアーレンスバッハの不利になることはしてはいけないってなっているからどうしようもないよね。

 

下手に遠まわしに伝えようとしても感情が抑えられなくなるのは目に見えているので無理です。ついでにここで拉致されましたなんて言ったらウラノ世界の『いっぱつあうと』です。

 

「アウブアーレンスバッハ、従属契約を一時廃棄しろ。その状態での発言ではなにもわからないだろう。」

 

うん、そうしてもらえれば王命でなんとかなるけど...。

 

「ツェント、それはできません。同時期の領主候補生を上級貴族に落とす制度も、上級貴族に落とさない為の従属契約の特例につきましても、後継者争いが何度も加熱したアーレンスバッハに対して当時のツェントより提案を受け制度化されているものです。」

 

はぁ...そうなんですよ。アウブなら当然知っているしツェントだって知っているはずだよね。

 

「加えて、この制度そのものの大元は王族の昔にあった制度にならっており、そのご命令は我々アーレンスバッハが代々守ってきた慣例を破ることになりますのでお受けできません。」

 

王族の元々の制度だと!とか言う声が聞こえますのであまり有名な制度ではないようです。

 

「現在はアーレンスバッハ内の制度となっている以上、そこから先はアーレンスバッハの問題となりますのでご配慮頂けると助かります。」

 

王族といえども何年も続いている領地の制度には口を出せないんだよね。

 

加えて、外国と唯一繋がりを持ち余計なところまで管理している大領地といくら順位を伸ばしているとはいえただの中領地、どちらの発言を優先するかといえば比較するまでもありません。

 

「わかった。何年も守られてきた領内の制度ならば仕方がない。現状では、アーレンスバッハの罪はないものとする。」

 

わざわざ私を呼び出したわりには粘る事もなくあっさり終わりそうです。エーレンフェストは私をここまで引っ張り出しておいて完全に言い返せなかったとかではないよね。だとすると領地間での駆け引きの一端なのか、それともエーレンフェスト内へ向けてのポーズなのか。

 

帰っていいのかな。一言話すためだけに領主会議へ出席することになるとは...。その一言のために疲労困憊だけどね。

 

せっかくだから気分転換に許可をとって図書館でも見てくるかな。

 

もしかしたらなんて期待したわけではないんだよ。ぐすん。

 

その後、私は下がらされアウブも席に戻りました。時間ができたので図書館へ行ってソランジュ先生に挨拶をします。

 

その後にシュバルツ、ヴァイスに魔力をあげます。この魔術具の態度は相変わらずです。

 

「ローゼマイン様がこの時期にいるとは、何かあったのですか。」

 

何があったと言われても、内容は話せないし。

 

「領主会議の関係で当事者兼参考人として召喚されてしまいました。」

 

「...領主会議で貴族院に在籍する領主候補生がそのような呼び出しを受けるとは前代未聞ですね。」

 

やはり滅多にないことだよね。

 

 

 

 

地下書庫へ行く時間はさすがにないので一階の本を読みます。昨今の状勢などは最近の本を見ないとわかりませんからね。

 

「ローゼマイン様、ここにいたのですね。」

 

「とりあえずいて良かった。其方に話がある。」

 

うん、アナスタージウス王子とエグランティーヌ様。こんな時期に何か用でしょうか。

 

エグランティーヌ様の部屋に連れていかれました。なんだか今日は連行されてばかりなのですが。

 

盗聴防止の魔術具を展開し話が始まります。

 

「其方、この間の薬の話についてだ。」

 

「何か問題がありましたか。」

 

問題がないとは言い切れません。トルークを摂取している状態では効果があっても飲みたいとは思えない薬なのです。

 

「いや、成分や効果、どのような症状に効くのかは分かった。同様の薬はなかなか作れないようだがな。ツェントよりずいぶん楽になったと話されていた。礼を言うぞ。まあ、飲んだ時はひどい目にあったようだが。」

 

「誤解を受けやすい薬ですので、先に良く調べてくださいとお伝えさせていただきました。効果はあっても解毒作用を発揮するときに苦しくなるのはどうしようもありません。むしろ吐くことによって毒を一気に輩出できるよう調合してあります。」

 

「領主候補生でありながら、毒に詳しく調合までできるとは。やはりアーレンスバッハの身内争いが酷いのは今も変わらないということなのか。」

 

今問題を起こしているのは主にゲオルギーネ様だけですけどね...どうでもいいことですが、アナスタージウス王子は私と話をしているときはため息とか呆れ顔ばかりですね。

 

「契約のせいで言えませんが、薬の開発能力が高いせいでもあるのですが。」

 

絶対身内争いが絶えないのってトルークのせいだよね。あんな思考誘導薬があったら操って争わせようって人が出てこないわけがない。

 

「ローゼマイン様、契約とは何ですか。」

 

エグランティーヌ様が不思議そうに首をかしげながら聞いてくるけど何でだろう。ああ、今の会議での話だからまだ伝わっていないのか。

 

「今回の領主会議での話なので、後でご確認をお願いいたしますわ。わたくしの口からお話しすることではないかと存じます。」

 

「こちらに急遽いらっしゃった理由がそれなのですね。分かりました。今は聞きません。」

 

私にとっては非常にどうでもいい話が終わりました。こんな話より図書館で本を読んでいた方がよほどよかったよね。

 

 

 

 

この後、領主会議が終わり領地へ戻ります。領地に戻ればすぐに領主一族の報告会です。

 

私が呼び出されたことや、9位まで伸ばしてきたエーレンフェストにこれまで以上に注意すること。後は確定ではないのですがレティーツィアについてヒルデブラント王子との婚約話が進行中とのことです。アウブに何かがあれば王族が後ろ盾になってくれるということですかね。

 

ちなみにアーレンスバッハの情勢は安定してきており、貴族院でもそこそこ成績をあげているということで4位に一気に上がるそうです。とはいうものの以前は3位と4位でいったり来たりしていたそうですから戻っただけのようです。

 

今回もアウブより報告会の後で呼び出しです。

 

「さて、ローゼマインにはいろいろ婚約話がきている。中でもドレヴァンヒェルは注意が必要だがそれ以外は無視して問題ない。」

 

まあ、去年から打診中らしいからね。

 

「あと、ローゼマインが、勝手に決めたダンケルフェルガーの歴史書に関する印税というものについては、こちらの言う通りにするとのことだ。」

 

ダンケルフェルガーは婚約については年の近い候補がいないから大丈夫そうですね。

 

レスティラウト様の可能性がないこともないけど嫌われているし問題ないよね?

 

魔王様はディッターでの活躍を認められただけで当時下位領地だったエーレンフェストの領主候補生にもかかわらず婚約までいったという話もあるからダンケルフェルガーの騎士にルール上とはいえ勝ってしまった私の扱いはどうなるか読めないですしね。

 

「後は王族より中央神殿の神殿長として赴任できないかと言う話も出ているがアーレンスバッハの現状を説明し、今のところは大丈夫だが、そういう話が出ていると言うことだけは頭にいれておいて欲しい」

 

王族との婚約とかでなくて良かった。大領地だからあり得なくはないしね。年の近い王子はいないからまずありえないけど秘密を知られたら取り込まれかねないよね。

 

ですが、中央神殿の話は少し危ないですね。ヒルデブラント王子の婚約と交換条件にされかねないですし...

 

王族からすればアーレンスバッハとの私に祝福を代行させない約束を反故にできますし、アーレンスバッハからするといざというときに王族の庇護を受けられると。どちらにとっても悪くはない取引になりそうです。

 

他にはハンネローレ様と行った儀式や、シュツェーリアの盾についてもずいぶん話題になっていたという話がありました。

 

 

 

さて、非常に疲れる会議を終えれば待ちに待ったお米の生産です。

 

ウラノの世界では、品種改良は10年単位でやるとか聞いたけど、祝詞を使いまくれば、どんどん変異種が生まれるでしょうから、先祖帰りした実を見つけて交配して行けば、いけるかもなんて甘く見ていましたが...。

 

まず、品種改良するにしても現状として品種が一つしかないので突然変異を期待するしかない状態です。これでは他の品種を掛け合わせることができないのでなかなか品種改良が進みません。

 

加えて、種を増やして食べる量を確保し脱穀、種の種類分け、精米と現状では一つ一つ手作業でやらざるをえず、いくら孤児院の人手があると言ってもとても足りません。

 

とりあえず、千歯こきを手先の器用な方に作ってもらい、先祖帰りや突然変異のお米がないか、調べてもらうところから始めるしかなさそうです。

 

後はウラノの世界の一升瓶の中に脱穀したお米を入れて棒でつけば一応精米できるので、同様の原理で臼と杵も作らないといけませんし、その前にお米を天日干しして乾燥させないといけませんし、必要な道具も準備しなければなりません。

 

とりあえず魔術具でそれらしいものを作ればいいんですね。

 

精米は下手に魔術具を作るよりも水車でやった方が楽そうです。

 

アーレンスバッハでお米を作っても売れるとはとても思えないので完全に趣味でやるしかありません。個人の趣味のために、どこまで孤児院のみんなに手伝ってもらうべきかわかりませんし、困りました。

 

そうだ、農業専用シュミルを作りましょう!

 

また、素材の消費がさらにひどいことになりそうです...。

 

ですが、お米を食べるまで、いえ、美味しいお米を作るまで後には引けません!

 

 

 

 



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63話 エーレンフェストと衝突寸前

礎の魔力供給も終え、神殿の神事の中でも特に忙しい神事である祈念式も終わり、ランツェナーヴェのお出迎えまでいつもの年中行事以外特にすることがなくなりました。

 

政務の手伝いも特にいらないとのことなので、夏の洗礼式の準備まで終えてから、お米など生産したり、農業用シュミルやレッサー君を生産したりしました。

 

アーレンスバッハに来てから初めてといっていいくらい久しぶりにのんびりと神殿で羽を伸ばしていたのですが、その知らせが入ってきたのは突然でした。

 

「境界門のまえで、エーレンフェストの貴族が武装して占拠いるとはどういうことですか!」

 

なんでも、エーレンフェストの騎士がアーレンスバッハと繋がっている境界門の前を占拠しているとのことです。

 

そうはいっても今はエーレンフェストとアーレンスバッハの境界門はアウレーリアの結婚を期に両者ともに通り抜けこそできるようになったもののとても厳しい審査があり人通りは少ないのであまり影響はないとのことですが。

 

「なんでも、アーレンスバッハより拉致しようとする者が絶えず、加えてアーレンスバッハに無理やり拉致され隷属化させられているエーレンフェストの聖女を返せとと主張しているそうですよ。」

 

だから、エーレンフェストの聖女とは何なのでしょうか。はた迷惑な存在です。旧ベルケシュトックの方が以前に言っていたことが正しいのなら私のことらしいのですが、ほとんど心当たりがありません。

 

とはいえ、ライゼガングの方々が暴走したなら上級貴族一人のために動いたとしても不思議ではありません。なんにせよ、エーレンフェストとの争いなんて冗談ではありません。なんとしても止めなければなりません!

 

急いでアウブに連絡を入れます。お父様も私を呼び出そうとしていたらしくすぐに向かいます。

 

「さて、お主の耳にも入ったようだが、エーレンフェストの騎士どもが境界門の前を占拠しているとのことだ。このまま放っておくわけにもいかないのでゲオルギーネが交渉のため軍を率いて向かっている。」

 

エーレンフェストとの領界沿いにはゲオルギーネ様の支持者が多いのでその関係でしょう。

 

「アウブ、ゲオルギーネ様のエーレンフェストへの恨みはそれはもう深いものです。まさかとは思いますがエーレンフェストと争いを起こす気ですか。」

 

「こちらは争いなど望んでいない。だが向こうから仕掛けてくるなら別だ。こちらは大領地だ。当然引く理由はない。」

 

「アウブ、わたくしを派遣してください。知っての通りわたくしはエーレンフェストの者です。わたくしが説得すれば余計な争いを回避できる可能性が高まります。」

 

「ならぬ。それにまだ争いになるとは限らん。状況は逐一伝えてやるから今日の所はこれで帰れ。」

 

「...わかりました。ご命令には従います。ですが、状況が動いたらすぐに知らせてくださいませ。」

 

争いなんてことにならないよね。きっと大丈夫だよね。命令には従わざるを得ないよ。

 

 

 

 

そこから数日争いが始まったという連絡はありません。

 

心配で眠れない日が続きます。万が一に備えていろいろな準備を急ピッチで進めようとします。

 

まだまだ準備が足りません。それなのに心配で手が動かなくなります。私が居ても立っても居られずにそわそわと落ち着かない様子なので、周りに心配をかけてしまっているようで心苦しいです。

 

そんな時、ゲオルギーネ様を中心とした軍とエーレンフェストはライゼガングの貴族が中心になった軍とのにらみ合いが続いているとの連絡が入りました。

 

「お父様!連絡を聞くだけでも悪い方向に進んでいます。わたくしを派遣してください。」

 

今回は連絡を入れても忙しいとか言われて少し時間がかかりましたがお母様を通して無理やり時間を取ってもらいました。

 

「ローゼマイン、あなたはいくらしっかりしていると言ってもまだ貴族院の低学年でしかないのですよ。」

 

「ですが、このままエーレンフェストと争いになるのは絶対にいけません。やれることがあるのにやらない理由にはなりません。」

 

「ローゼマイン、其方が何を言っても交渉の場に出すつもりはない。」

 

冗談じゃない。本当にこのまま争いが始まったらどうするつもりなの。

 

「お父様、お願いです。私にできることをさせてください。」

 

お父様はため息をついて...

 

「黙れ、そこに座って一旦落ち着け。」

 

たしかに、慌てすぎていたしテーブルにお茶を準備されているのにもかかわらず、椅子に座りもせずに話してしまいました。命令以前にこれでは無礼と取られても仕方がありません。

 

仕方なく心を落ち着けるために一度大きく呼吸をしてから座ります。

 

「ローゼマイン、今回ばかりは状況が好転するのを祈るしかありません。」

 

お母様、祈ったとしても良くはなりません。ゲオルギーネ様は状況を悪くすることしか考えていないでしょう。

 

今は命令で一言もしゃべれず、黙って座り続けお茶を飲むことぐらいしかできません。

 

そんな時に緊急のオルドナンツがゲオルギーネ様より届きます。

 

「アウブ、どうやらエーレンフェストは本物のディッターを求めているようですわ。私の一存では決めかねますし、エーレンフェストの総意かはわかりかねますので連絡をお願いしますわ。」

 

本物のディッター!?冗談ではありません。でも命令を受けている以上私は話すことはできません。態度で伝えるにしても二人ともこの件に関しては私の意見を聞く気はまったくないようです。

 

「向こうがしかけてきている以上好都合だ、受けるだけの話だな。」

 

「仕方ありません、中領地が大領地にしかけるなんてありえない事態ですが、そのあり得ない事態が起こっている以上受けるしかないでしょう。」

 

何言っているの!そんなことをしたらアーレンスバッハもエーレンフェストもただでは済まないよ。

 

「ローゼマイン、お主には辛いかもしれないがいい加減うるさくなってきたエーレンフェストを止めるにはいい機会なのだ。だから、お主には最低限しか関わらせん。黙ってみていろ。」

 

冗談ではありません、双方の利益が全くないこんなディッターを認めるわけにはいきません。

 

でも、話すことは禁止されているし...。

 

試作中で使いことなんてないと思っていた機能を追加したアインを使うしかありません。まさか、こんなことで使うことになるとは思いませんでした。

 

テストもろくにしていないけどお願いだからちゃんと動いて。私は心のなかで祈りながら額の魔石に魔力を通しある機能を起動します。

 

「おい!なにいってんだ。ふざけるんじゃない。」

 

いやあ!やめて、シュバルツ、ヴァイスについていた思考を読み取る機能を起動させ代理でしゃべらせてみたのですが喋り方も丁寧にできないし思った通りに話してくれないのです。

 

「ばかなのか、エーレンフェストに手を出してただで済むわけがないだろう。アーレンスバッハを滅ぼしたいのか。」

 

本当に止まって!そこまでひどくは思ってないよ!心の底では思っているけど...

 

私はそんなこと思っていないよという感じで慌てている顔をして首を振りながら訴えます。たぶん涙目になっているかと思います...。

 

お父様が改めて私とシュミル型の魔術具を見た後ため息をつきました。

 

「まったく、お主は変なものを作ってくるな。わかった。話すのを許可するからそのシュミルを止めないさい。」

 

「ありがとう存じます。お父様。試作品のためうまく私の思っていることを言語化できないのです。」

 

「人形が言ったことなど本気にするほど器が小さいつもりはない。」

 

「ふふ、驚きましたわ。どのように思考を読み取らせ同調しているのか気になりますが今は置いておきましょう。」

 

お母様はやっぱりドレヴァンヒェル出身の方ですね。発言よりも機能が気になるとは。

 

「お父様、改めてお願いします。わたくしをエーレンフェストの境界門に向かわせてください。ここで争いをするなど両者にとって良いことではありません。」

 

「お主は良いことなどないというが、エーレンフェストのわずらわしさが取れるならば悪いことではない。ましてやこちら側ではなく向こうから仕掛けてきているのだから悪いことなど一つもない。」

 

「わかりました、では、この話を受けてくれるなら奉納式で10個小聖杯を余分に満たしましょう。これならば王族等に恩も売れて文句ないでしょう。」

 

利益があればいいのでしょう。魔力不足の今ならこれだけ出せればそれなりの利益は出せるはずです。

 

「ふむ、20個ならば考えてやる。ただし、交渉がうまくいった場合のみでよい。」

 

なんでそんなに争いがしたいの!?わずらわしいぐらいで争っていたらきりがないじゃん。

 

「わかりました。それでは今から向かわせていただきます。エーレンフェストの者との接触許可と境界門を超える許可をお願いします。」

 

「境界門を超える許可は出せん。エーレンフェストの者との接触は許可する。」

 

「お父様、接触許可ありがとう存じます。今から向かわせていただきます。」

 

「気を付けるのですよ。正直私は向かうのは反対です。ですが仕方がありません。エーレンフェストよりもあなたの方が大切なのですから無理をしてはいけませんよ。」

 

気持ちだけは受け取っておきます。ああ、急がなきゃ。なんでこんなことになってしまうの。

 

 

 

 

急いで向かったので境界門までその日のうちに移動します。境界門の近くまで着くと両者が境界門を挟んで向かい合って今にもぶつかり合いそうな緊迫した雰囲気が伝わってきます。

 

「あら、ローゼマイン。どうされました。アウブよりいきなり向かうと言われて驚きましたわ。相変わらず貴族らしくなくあわただしいこと。」

 

これが落ち着いていられるわけないでしょ。ふざけないでよ。

 

「そんなことよりゲオルギーネ様、どういうつもりですか。争いを止めに来たのではなかったのですか。」

 

「あら、あなたのような小娘には難しいかもしれませんけど、エーレンフェストが勝手に仕掛けてきているだけですわ。それを利用しないわけないでしょう。」

 

「本当に、それを利用することがアーレンスバッハのためになると思っているのですか。」

 

絶対思っていないでしょ!わかっているんだから。

 

「あらあら、怖いわね。表情はあまり変わらなくても怒っているのは良くわかるわ。もっと感情を隠さなきゃだめよ。」

 

「そんなことより話し合いをします。ゲオルギーネ様もアーレンスバッハ代表として付き合ってください。」

 

「あら、このような状態でどうやって話し合いに持ち込むつもりかしら。」

 

それはこうやってです。

 

「シュトレイトコルベン」

 

フェアフューレメアの杖にシュタープを変化させます。

 

こんな小娘が一人近づいたくらいでいきなり戦闘にはならないでしょう。

 

私は堂々と対峙しあっている中心へ向って歩き境界門の境まで行きます。

 

両者ともに困惑しているのかとりあえず攻撃してくる気配はなさそうです。

 

一部の方が我々の聖女ではないかだとか言っているように聞こえます。私が聖女なわけないでしょう。

 

余計な声は意識して無視して、以前ハンネローレ様とやった範囲拡大の魔法陣と鎮静化効果を上げる魔法陣を描きます。

 

「我等に祝福をくださった神々へ 感謝の祈りと共に 魔力を奉納いたします」

 

まあ、初見では何が起こったかわからないでしょう。

 

周りの今すぐにでもぶつかりあいそうな緊迫した雰囲気が一気にしぼんでいきます。

 

私は、声を拡散する魔術具を出してエーレンフェスト側へ呼びかけます。

 

「エーレンフェストの代表者、話し合いをする気があるなら2名で中央まで来なさい。こちらはゲオルギーネと、わたくしローゼマインがでます。」

 

アインに椅子と机を用意させて先に座って待ちます。

 

先に座るのが無礼?知りませんよ。こんな争いをしようとしている人たちに敬意なんて払えません。と思っていたのですが...。

 

出てきたのはギーベライゼガングとライゼガングの長老、私のひいおじいさまの弟さんですね。思いっきり親戚です。養子後はひいおじい様なのですがややこしいですね。方やギーベは以前の義理のお父様なわけです。

 

どうにもライゼガングにいた期間が短いので家族というよりもとても離れた親戚と言う感じが強いのです。ですが、とても良くしていただいたの方々なので悪く思えません。お願いだから私のためだけにこんなこと起こしたとか言わないよね。

 

「火の神 ライデンシャフトの威光輝く良き日、神々のお導きによる出会いに祝福を祈ることをお許しください。」

 

領主候補生からギーベに向かって挨拶をするとかありえませんが、初対面であるということを全面に押すためには仕方がありません。

 

「おお、マインよ。そのような他人行儀な挨拶をやめておくれ。」

 

ひいおじい様、私だって心苦しいのですがそう言うわけにはいかないのです。

 

「...マインとはどなたのことを言っておられるのですか。わたくしはアウブアーレンスバッハの子ローゼマインです。シュラートラウムの訪れにはまだ早いのではございませんか。」

 

「おお、わしは悲しい。かわいいひ孫のマインに他人行儀にされるなどはるか高みよりお迎えが来てしまいそうじゃ。」

 

この場で本当に迎えが来たら争いが止まらなくなるからやめて欲しいなぁ。というか寝たきりであるはずのひいおじい様がなんで元気にこんなところまで交渉に来ているのでしょうか。

 

「それで、わたくしは今回神殿の者として両者の意見をお聞きするためにここへ来ました。エーレンフェストの主張をお聞かせくださいませ。」

 

まだ、マインマインと言ってきますが...ええ、私だって否定したいわけではないのですか。なけなしの心で踏ん張っているのですよ。

 

どう言われてもこの場で私がマインであると認めるわけにはいきません。契約は絶対なのです。ぐすん。

 

ライゼガングの主張を要約すれば、何度も拉致や犯罪者を送り込みあまつさえ私を拉致し他にも何名も拉致されそうになり反省の色も見せないアーレンスバッハを絶対に許せないと。

 

特に、領主候補生にまでなっている私を従属契約で縛り拉致を正当化しているなど言語道断とのことです。うん、素直にそこまでしてくれるのは個人としてはとてもうれしいですが、もっと穏便な方法を取ってほしいです。

 

「はぁ、そんな犯罪者は知りませんわ。そのような事件を起こしたのは本当にアーレンスバッハの者なのかしら。ローゼマインについては本人が言っている通りアウブの子なのですよ。領主会議でも罪はないものとするとツェントより采配が出ているのに何をおっしゃいますの。」

 

やっぱりカチンとくるよね。ほとんどゲオルギーネ様の関係です。間違いなく。やる動機があるのはこの人しかいませんし、ある程度実行犯は分かっています。

 

「ライゼガングの皆様、どうにもマインと言う子にずいぶんご執心の様ですが、仮にわたくしがその子だとしたらこのような争いを望むとお思いですか。」

 

よし、だいぶ動揺しているな。もう一押しすれば止められないかな。

 

「仮にも聖女とか呼ばれていたのでしょう。そんな聖女がたくさんの方をはるか高みへ誘うことになると思われる争いを望んでいるなんてとても思えません。もし、その子のせいにして争いを起こすと言うなら、わたくしがその子に変わりアーレンスバッハの神殿長として許しません。」

 

これで引いてくれないかなぁ。

 

「おお、なんとすばらしい。わしはお主のような曾孫を持てて幸せだ。だからわしに任せてみてておくれ。必ずエーレンフェストに戻して見せるから。」

 

「仮にも私のことを曾孫としてみてくれるのならはるか高みに上る方がたくさん出るような過激な方法はやめていただきたいかと存じます。」

 

「おお、もう方法がないんじゃ。アウブエーレンフェストは取り戻す気はないし我々だけでやれることをやるしかないんじゃ。」

 

まあ、実質一人のために争いとか正気じゃないよね。ジルヴェスター様が正しいと思います。

 

「いずれにせよ、一度軍を境界門から離れさせ後方まで引いてください。両軍の距離を離してから明日もう一度お話しましょう。まだギーベライゼガングからお聞きしておりませんし、あらためてじっくりとお話をしたいのでそれでよいですか。」

 

「わかりました。お祖父様一度戻りますよ。」

 

とりあえず、両軍が冷静になったため突発的な衝突は避けられました。話し合いがいったん終わるとゲオルギーネ様が何を考えているか読めない良い笑顔で一言つぶやいてきました。

 

「うふふ、頑張りますわね。ずいぶんと無駄なことをしますわね。」

 

無駄ってどういうこと?私がここにいる限りは争いなんて絶対に起こさせません!

 

 

 

 

さて次の日です。使者を送って時間を確認し境界門に再度集まります。

 

いろいろ話し合いが行われます。敵と離れて1日たてば感情的に落ち着くところもあるよね。今日はゲオルギーネ様が特に口出しをしてこないのが気にはなりますが。

 

「わかった。確かにマインが争いを起こしてまで戻ることを望むとは思えん。ローゼマイン様、貴重な意見感謝します。目が覚めた思いです。お祖父様もそれでいいですね。」

 

一日たって落ち着いたのか、軍を引くような流れになっていきます。まあ、現ギーベはもともとあまり乗り気ではなかったようにも見えますが。

 

ようやく事態が終わりそうな流れになったところで、ゲオルギーネ様がおもむろに口を出してきます。

 

「あらあら、困りましたわね。ライゼガングともあろうものがその程度とは。ずいぶん身内に冷たいのね。」

 

このようなタイミングで何を言っているのでしょうか、ゲオルギーネ様は。

 

「ええ、昨日は否定しましたがここにいるのはあなた方がマインと呼ぶ人物とそこのローゼマインは同じという認識で間違いないですわ。わたくしの知っている方が拉致を命じアーレンスバッハに連れてきたのですから。」

 

「なに、罪を認めるのか!許せん。」

 

「皆様落ち着いてください。ゲオルギーネ様もシュラートラウムの訪れにはまだ早いのではございませんか。」

 

「あら、面白いことを言いますわね。あなたも私達のことをゲドゥルリーヒを奪われたエヴィリーベのように感じているのでしょう。」

 

私が慌てて何とかこの場を納めようと口を開きかけた時に緊急のオルドナンツが届きます。

 

「ただいまエーレンフェストより本物のディッターの正式な申し込みがありアーレンスバッハはこれを受諾した。私もすぐに向かうのでローゼマインとゲオルギーネはそこで待機すること。」

 

アウブがここに来るの!というか受諾ってどういうこと!せっかく話がまとまりそうだったのになんでこんなことになるの!?

 

 

 

 




ゲオルギーネ様暗躍無双。ゲオルギーネ様からすると、このローゼマインのせいで原作では魔力が足りないところにつけ込んで得ていたと思われる領界沿いの支持もかなりなくなっていて、旧ベルケシュトックの支持が完全に消え失せているのに加えてエーレンフェストも粛清の所為で動かせる駒が少なくなってしまい、実は焦っているので無茶をします。



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64話 準備不足で魔王討伐

お互いのアウブが境界門周辺に集まります。魔王様も一緒に来ました。

 

本物のディッター。当然たくさんの人がはるか高みに上る可能性もあるし、なんでもありのウラノの世界でいう『せんそう』です。

 

当然、そんなディッターを行うのですから、契約魔術でルールを縛り、境界門の取扱いや平民等巻き込まないため移動できる区間や地域を限定したり事前にしなければならない作業がたくさんあります。

 

礎を取り合う争いなので、お互いの城まで平民を巻き込まないための避難する期間や、また礎を取らなくても終了する条件、ディッターの制限時間など決めることは盛りだくさんです。

 

すでにディッターが始まっているかのような緊迫した雰囲気で話し合いが続きます。

 

どうやったらこの流れを止められるだろう。こんなの想定外だよ。

 

というかアーレンスバッハを滅ぼすつもりなの。

 

当然私なんかが考えても、いい方法なんて思い付くはずもなく話し合いが続いていきます。

 

そもそもなんでこの領地のために私は頑張っているのだろう。

 

もう知らない!

 

私の頭の中で突然堪忍袋の緒が切れた音がしました。いきなり乱暴に音を鳴らして立ち上がった私に注目が集まり静かになるのがわかります。

 

ゆっくりと息を吐いてから怒りの表情が表に出ないように気を付けながら話し始めます。

 

「ねえ皆さま、本物のディッターの前に余興でもしませんか?」

 

「余興とは何をする気だ。」

 

当然、周りはこんな状況で何を言い出すのかという雰囲気で困惑が広がります。

 

「ダンケルフェルガーの書籍では本物のディッターの前に少人数で神に奉納する戦いというものをしていたと記録されております。」

 

私は、そこで戦い前の殺伐とした雰囲気になっている周りを見回します。

 

「本物のディッターの勝者の願いが正しく叶うよう、神聖なる儀式を行いましょう。」

 

もう、覚悟を決めるしかありません。

 

「フェルディナンド様、エーレンフェストの魔王と称される方、わたくしのお誘い受けてくださいますか。」

 

「ローゼマイン様、アーレンスバッハに舞い降りた天使と称される方、そのお誘いをお受けしよう。」

 

何を勝手なことを、勝手なことするなとか周りに言われます。

 

「只の余興でございます。」

 

怪我をしたり戦闘不能になれば戦線離脱できるとか考えていないよ?

 

「これは、本物のディッターを行う前に神に捧げる神聖なる儀式です。神殿の関係者たるわたくし達が行うべきでしょう。」

 

神聖なる儀式か...。など回りは困惑している模様です。

 

「エーレンフェストとしては問題ない。お請けしよう。」

 

さすがは神殿文化の最先端エーレンフェストです。儀式とつくものに理解があります。

 

「ローゼマイン、勝敗はこの後に影響しないのだな。」

 

「勝った方が神々のご加護が得やすくなるということがあるかもしれませんが大勢に影響はございません。」

 

「わかった、アーレンスバッハも了承する。」

 

両アウブの了承も得られて儀式を行うことが正式に決まりました。

 

一度儀式の準備と言う名の戦いの準備に向かう前にお願いしておかなければならないことがあります。

 

「アウブ、これから行う儀式に関して契約をすべて無くしていただけませんか。」

 

「仕方がない、これから行うフェルディナンドとの戦いについてに限り当初の従属契約以外の一切の契約を一時凍結する。また、戦いが終わり戻ってくるまで境界に関する制限も解除する。なので戦いが終わった後必ず戻ってくることを約束しろ。」

 

「ありがとう存じます。お父様。」

 

さて、準備が万端とは口が裂けても言えないけどやれることをやるしかないね。

 

 

 

「戦いの神、ライデンシャフト並びに戦いの神の眷属に捧ぐ。ディッターの前の奉納の戦。我々の勇姿をどうかご照覧あれ。」

 

はぁ、さてライデンシャフトの槍を使って始まりの儀式を終えるとウラノの世界でいう『ぜんしょうせん』開始です。

 

とりあえずやらないよりましだよね。フェルディナンド様に物量が通じるかは不明だけど、持ってきておいてよかった。

 

神殿護衛用に、大量生産したんだよ。50体も。

 

件のターニスベファレンを大量に狩った材料でね。

 

これで押しきれればなぁと期待していたのだけど...。

 

ええ、何度目をこすっても目の前の光景は変わりません。

 

フェルディナンド様の周りに100体ほどのシュミルの魔術具がいきなり姿を現しました。

 

シュミル100vsレッサー君(グリュン) 50

 

え、なんで、どこに隠していたのフェルディナンド様。

 

ああ、もう、魔術具に祝福かけてもあまり強くならないのは実験済みだけど、魔力補給にはなるし。

 

「風の女神 シュツェーリアが眷属 疾風の女神 シュタイフェリーゼの御加護がありますように」

 

ふふ、ウラノの世界の『うさぎとレッサーパンダの戦いってふぁんしー』だね。なんて言っている場合じゃない!

 

はぁ、やっぱりだめだ。一体一体の性能だけなら勝っているかも知れないけど2倍差とか卑怯だよフェルディナンド様。しかも必ず複数で叩かれているし。レッサー君ごめん。

 

材料を惜しまなかった為かかなり健闘してくれたと思うけど...レッサー君軍団が壊滅しちゃった。

 

壊滅して残ったのは手元に残していたシュミルタイプのみ。とりあえずライデンシャフトの槍を持たせてみるも少しの時間稼ぎにしかならない。シュミルタイプは作ってもレッサー君タイプより汎用性は高いけど、戦闘だけで見るとなぜか強くならないんだよね...。

 

どうしよう、とりあえず、

 

「ゲッティルト」

風の盾を 我が手に

 

後残り数体だし、シュツェーリアの盾なら防げるよねって、ああ!しまった全然止まらないよ。当然だよね、魔術具に意思なんてないもの。

 

うわ!もう目の前。イヤ!

 

『水鉄砲』

 

水鉄砲で乱れ撃ちしますが全然残りが減らせないよぉ、フェルディナンド様のシュミル強すぎるよ。

 

結局取りつかれてひどい目にあいましたけど、お守りのおかげで何とかなりました。

 

でもお守りをかなり消費しちゃった。この後どうしよう。

 

まだ魔王様の戦闘用シュミルが残っていて、こっちを攻撃してくるし、魔力も補充しておきたいですね。はぁ、もう切り札を切るしかないや。

 

『グルトリスハイト』

 

国境門召喚(グレントーア)

 

服に仕込んでおいた金粉を使い、グルトリスハイトでごく小規模の国境門を召喚して強引に防ぎました。当然礎なしには、普通のやり方をしたら出せません。

 

「なるほど、手に入れているとは。」

 

フェルディナンド様が何かつぶやいた後、

 

「ラルツェ」

 

いや、なにあのライデンシャフトの槍!とんでもない魔力がこもっている!でも、国境門なら何とかなるよね。境界門を召喚した場合は門が空いたまま出てきますし、国境門の方が強度が高いので防げる可能性が格段に高まるのです。

 

想定していたよりも遥かにすさまじい輝きを宿すライデンシャフトの槍が飛んで来ます。

 

光で目の前がなにも見えなくなりました。

 

これってそこそこ本気を超えてるよね...。

 

耐えきれるのか不安でしたが、防ぎきれました。

 

私が仮に作った国境門の周りは文字どおり地面しか残っていません...。一歩間違えれば私もこの光景の一部になっていたのかと考えると怖すぎます。

 

魔王様の容赦なさは相変わらずのようです。

 

でも、これで少しは、時間稼ぎができるかなぁ。さっさと回復薬で魔力を回復っと。

 

『グルトリスハイト』

 

え、フェルディナンド様、やっぱり持っているの!?

 

国境門解除(フェビンツェトーア)

 

え、ちょっと待ってよ。やっぱり持っているにしても勝手に解除なんてできるの!?

 

強引に開門させるというのは想定していましたがさすがに門ごと解除されるというのは想定外です。

 

フェルディナンド様が突っ込んでくる怖い、怖い怖い!

 

「ゲッティルト」

風の盾を 我が手に

 

何も考えずに、シュツェーリアの盾出しちゃったけど、何とか防げ...。

 

『フィンスウンハン』

 

嘘でしょう、しまった、当然闇の神のマントなら魔力を吸って盾の効果を無効化されてしまいます。

 

『グルトリスハイト』

 

私がグルトリスハイトで再度、国境門を召喚しようとするけど、当然解除されるので..。

 

「グルトリスハイト2番!」

 

そう、フェルディナンド様への最終対策。グルトリスハイトを魔紙で複製し、ある程度自動で魔法陣を起動させたりできるようにしたもの。

 

でも、耐久性はほとんどなく、使い捨てのようなものだから、使用できる状況は非常に限られるのだけど。

 

はぁ、何とか止まったよ。魔王様止めるとか、ウラノの世界のムリゲーというか命の味しかしないよぉ。

 

「まさか複製してくるとはな。」

 

まさかの魔王様を驚かすことに成功したようです。

 

「グルトリスハイトもただの本です。」

 

ただの魔力を纏わせた本の一種だから複製できないはずがないしね。

 

「だがこれで終わりだ。」

 

え、いきなり後ろから戦闘用シュミル!

 

いつの間にか穴を掘らせてというか、まさかずっと設置していたの!?

 

まずい、お守りで何とか...。

 

国境門解除(フェビンツェトーア)

 

うわ!もうやだライデンシャフトの槍を何とか防がなきゃ。

 

槍自体ならマントに隠れないので、シュツェーリアの盾に魔力を込めます。

 

魔王様の攻撃が強すぎます。怖すぎます。

 

僅かにでも、気を抜けば先ほどの国境門の周りと同じことになるでしょう。

 

相当押されて盾が解除されますが何とか防げました。さきほど魔力を回復していなかったら間違いなく終わっていました。

 

少しくらい手加減してほしいものです。死んじゃう!

 

「どこを見ている。」

 

いつの間にか、フェルディナンド様がすぐ横に来ています。

 

「グルトリスハイト3番!」

 

あらかじめ準備しておいたありったけの魔紙をグルトリスハイトに魔力を流し起動させます。

 

いやね、準備さえできていればこれを使わなくても同じ効果を発揮できたのですが...。

 

ことが起こる直前まで少しのんびりできるななんて考えていた私が恨めしいです。

 

でも、この至近距離なら。

 

私が魔法陣を起動させたのを見てフェルディナンド様が薄く笑っている!手に持っているのは魔紙かな?でもたった一枚だけで...。

 

普通に防がれたようです。

 

どうなっているのでしょうか。準備不足とはいえ魔法陣一つで防げる攻撃をしたつもりはないのですが。もう無理です。出来ることは全部やりました。

 

この後に何か衝撃を受けましたがどのようにされたのかは全くわかりません...。

 

 

 

 

はぁ、少し意識が飛んでいたようです。

 

今ですか?フェルディナンド様に倒されたようで、槍を突き付けられています。

 

絶対絶命のはずなのですが、落ち着いているのはなぜでしょうか。

 

槍を突き立てられているのに、戦闘中よりよほど怖くないのは感覚が麻痺しているからかな?

 

殺気というものがあるのなら、それを感じないからでしょうか。諦めと言った方がいいかもしれません。

 

「相変わらず愚か極まりなし、戦いという場でろくに動けない君が私に勝てる理由がないだろう。」

 

うん、知っています。魔王様に勝てる人なんてどこかの勇者位なものです。きっと。

 

「加えて、切り札であるはずの魔紙の情報や図書館のシュミルの情報を流すなんて、君は本当に愚かだ。」

 

一番愚かなのは、勝てないと知りつつ挑んでいる私だから当然なのだけど。

 

「そもそも君の強みは、祝福で他人を強化することだ。君一人では大したことができるはずないだろう。」

 

ごめんなさい、そこまで信頼して私の戦いを預けられる方が今のアーレンスバッハに存在しません。

 

まぁ、フェルディナンド様を敵に回すということがどういうことか少しでも周りの認識に刻み込めればそれでよかったのだけどね。

 

少しはわかってくれるよね。きっと。分かってくれないとなると、どれだけの方がはるか高みに上ることになるか。

 

はぁ、まあいっか。私頑張ったよね。もう疲れたよ。

 

「私は降伏しますけどどうします。フェルディナンド様のお好きにしてくださいませ。」

 

なんで私の心のゲドゥルリーヒであるエーレンフェストと戦わないといけないの。

 

「余興なのだろう。面白いものを見させてもらったか今回は見逃してやる。さて、もう一度会議だ。」

 

まぁ、いろいろ興味深いことが多かったのは確かですが。

 

「...後悔しないでくださいませ。」

 

負け惜しみくらいは言っておこうっと。

 

「君程度では相手にもならん。」

 

まあ、そうですよね。

 

悔しいですが、魔王様相手にこれだけ持ったのですから少しは成長しましたよね。

 

準備不足で勇者でも何でもない私が魔王様に勝つなんてウラノの世界のムリゲーだよね。

 

「何をしている、さっさと起きろ。」

 

ごめんなさい、魔力切れと体力の限界を超えすぎて指一本動きません。

 

魔法陣と魔術具のお陰で辛うじて意識をたもっているだけ...。

 

 

 

 

フェルディナンド様に肩に担ぐように運ばれ、意識がほとんど飛んだまま再度会議場へ戻ります。お姫様抱っことまでは言いませんが、せめて女性を運ぶ時くらい丁寧にやさしく運んで欲しいものです。ただでさえ意識が落ちかけているのに頭がゆらされてくらくらします。

 

会場は先程までの言い争いやルール決めの話し合いをするでもなく静寂に包まれています。

 

私ですか?体が全く言うことをきかないのでフェルディナンド様の後ろの方に降ろされ横になっています。一応布は引いてくれているようです。

 

戻ってきてから少しの時間がたっても沈黙が支配し誰も一言も話しません。

 

「話し合いは一時中断する。アーレンスバッハもそれでいいな。」

 

しばらく続くかと思われた沈黙を破ったのは魔王様でした。魔王様の威厳と言うやつでしょうか。僅かながら回りの人たちがガタガタと震えているように感じるのは気のせいでしょうか。

 

辛うじてお父様が「...ああ」と答えて話し合いが中断します。

 

無理やり魔術具で意識だけはなんとか保っていましたが、とりあえず中断したのなら無理に起きている必要はないでしょう。

 

少し休んで体がほんの僅かに回復したので、頭の魔術具を切ります。次の話し合いまでに起きられるかなぁ...。

 

意識が完全に落ちる前にとてつもなく苦い物が口に入ってきたように感じましたが、気のせいですよね。

 

 

 

 

気がつけば朝のようです。起きたとたん口の中がものすごく苦く水を持ってきてもらいます。

 

何とか落ち着いて、側仕えの方に確認して見るとフェルディナンド様との戦いは昨日のことのようです。薬を飲めなかったので少なくとも3日は起きられないと思っていたので驚きです。

 

飲んだところでまる1日以上は起きられないはずなのですが半日で起きられるとは。誰かが薬を飲ませてってこんなふざけた薬作る人は一人しかいません。相変わらず優しさの一欠片もありません。

 

頼んでもいないのに飲ませてくれたのが優しさですか?回復するかの実験程度にしか思っていないと思いますよ。今まで飲んだ薬の中で半日以上たっているにも関わらず後味が消えないとか最悪の味でした。

 

起きたとの連絡がいったらしく、わざわざお父様がこちらに来ました。

 

「体調は大丈夫なのか。」

 

「お陰さまで無理をしなければ大丈夫です。少し頭が痛いくらいです。」

 

いえ、ここまで回復したことだけは素直に感謝しますよ。村のブレンリュースの実を煮詰めまくった味も僅かにありましたし使われたと思われる素材を後味だけで考えてもとんでもない薬であるのは間違いがありません。

 

「お父様、申し訳ございません。やはりエーレンフェストの魔王様にはそれなりの準備では戦いになりませんでした。魔術具も魔紙もほとんど今回の戦いで使いきってしまったので次の本番のディッターでは、わたくしにできることはありません。」

 

「もともと話していた通りお主を戦場に出す気はない。させるにしても祝福と癒し以外をさせるつもりはなかった。」

 

そんなことを言われても、もし本物のディッターがおこなわれるのなら総力戦になるのは目に見えていますし、魔王様を敵に回す以上は僅かな戦力だろうと総動員しなければならない事態になるのは目に見えています。

 

「もし、エーレンフェストとディッターを行うのなら、必ずエーレンフェストの魔王様を動かさせないようにしてくださいませ。とは言っても魔王様が恐ろしいのはその個人の戦闘力だけでなく指揮、策略が優れていることにあるのですが。」

 

「さしずめ、生まれてくる時代を間違った英雄といったところか。厄介なんてものではないな。」

 

「伊達に魔王なんて呼ばれておりません。ただ、魔王様のことを考えるとこのような些事に出てきたことには驚きです。」

 

「些事だと?」

 

「聞かれれば助言等はしますが、自ら仕事や素材集め以外に神殿から出てくることは滅多にない方なので、今回の儀式も断られることも覚悟しておりました。」

 

この後、如何に魔王様が危険か説明します。

 

戦うならば、最悪魔王様一人の為にそれなりの人数でを止めに行かなければならないわけで。それも倒すためではなく足止めするためだけに。それで止まるかは甚だ疑問ですが。

 

そうなると、さすがに劣勢にならざるを得ないでしょう。エーレンフェストは魔王様以外にもボニファティウス様もいるし。

 

「フェルディナンドがお主以上に規格外と言うことはこの間の戦いでよくわかった。作戦を練り直す必要があるな...。」

 

結局、この後の話し合いで、一端ディッターは中断となりしばらく今まで通りの関係を維持するということになりました。

 

ここでの本物のディッターは幻となり、両者共にここでのことについて、口をつぐむことになります。

 

グルトリスハイトについては何が起こっているのか周りにはよくわからなかったようで、戦いがあったとだけの認識のようです。

 

特に追及されることがなかったので、その認識で間違いないはずです。

 

本物のディッターさえ行えれば勝とうが負けようが帰れたかもしれないのに...なんて思ってはいけないよね。

 

 

 

 




魔王様と戦うなんて土台無理な話です。何度書いても戦闘描写は難しいです。

ついでにこの話の大本はこの作品の1話を書く前からできていました。ただのケンカのお話だったのですけどね...。戦闘描写がおかしいとか、グルトリスハイトは知識の塊で呪文を唱えるのに関係ないとかいう設定もあった気もしますし、いろいろおかしいかもしれませんが見逃してください。


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65話 閑話 エーレンフェストの夜の一部屋

「しかし、なんであんなことになったのだ。」

 

私はジルヴェスター。用がなければ滅多に神殿から出てこない異母弟(フェルディナンド)を無理やり誘い酒を飲んでいるところだ。

 

今回のことの顛末は再度考え直してもなぜそうなったのかわからないことも多い。

 

まず、領主会議にてエーレンフェストの聖女について議題にあげたのは、ライゼガングがあまりに求めるからで形だけでもやったと言う風に見せるためだ。

 

もともとアーレンスバッハとは貿易等繋がりは今現在ほとんどなく多少のことではこれ以上悪化しないと読んだ上での行動だったのだが...。

 

もちろんマインを取り戻せるのなら取り戻したいというのは言うまでもないし議題にあげた以上は全く勝算がなかったわけではない。他領の領主候補生に近い上級貴族を拉致したと証明できれば大問題だ。うまくやればアーレンスバッハの順位に関わる話にまで持っていけるかもしれない。

 

フェルディナンドがその方法はお勧めしないと言っていたのが気になりはしたが、少し苦労したが議題にあげるところまでは問題なかったのだが...。

 

「王族に関わる制度を利用してくるとまではさすがに想像できないぞ。」

 

「相手は仮にも大領地なのだ、これだけ堂々と表に出しておいて対策を全くしていないなど考えられないだろう。」

 

う、ほんの少しばかにするようなフェルディナンドに少しだけムッとするが言い返せる要素がない。

 

「だが、その後のライゼガングの暴走も解せん。まったく、なにがあったのだ。」

 

「ゲオルギーネのせいだろう。まだ隠れた支持者を抱えていることは間違いない。正確な情報を伝えていなかった領主会議の話の内容を知っていたのだからそういうことなのだろう。」

 

「そうだな、結局ディッターが流れてくれたから良かったものの今回はさすがに肝が冷えたぞ。」

 

ライゼガングの老人達が押し掛けてきて圧力をかけてきたので対応している間に、勝手に私の名を語ってディッターを申し込んだり、受諾されたりしており散々だ。

 

「どうせアーレンスバッハなど、どうでもいいのだから、会ったときに事実を言えばよかっただけではないか。」

 

既にフェルディナンドにとっては終わったことで全く興味がないといった感じだ。

 

「そんな醜聞を広められたらエーレンフェストは信頼をなくし終わるぞ。」

 

「仲が悪いのは周知の事実だ。相手の間者が勝手にやったとでもしておけばいい。アーレンスバッハとエーレンフェストが今更お互いに悪く言い合ったところで真に受ける領地などあるまい。」

 

いくらなんでもそれは投げやりすぎないかフェルディナンドよ。

 

「まあ、そうかもしれないが。それはいくらなんでも不味いだろう。」

 

「終わったことを今更蒸し返したところで仕方があるまい。」

 

まあ、そうだな。他にもいろいろ聞かねばならんしな。

 

「それで結局見ていた側としてよくわからなかったが、あの戦いは何があったのだ。」

 

あれは、もはや神の戦と言われても信じてしまいそうな戦いだったがそれだけ派手にやられると見ていた側としては何が起こっていたのかさっぱりわからなかったのだ。

 

マインはマインで地面からいきなり門のようなものが現れたり、七色のグリュンが出てきたり。

 

フェルディナンドはフェルディナンドで、シュミルを大量に率いていたり神具でやりたい放題だった。

 

フェルディナンドは、簡単に説明はしてくれるが詳しい話をするつもりはないようだ。

 

「しかしあれは本当にライゼガングの姫だったのか。かつてフェルディナンドの弟子であった。」

 

「愚かな弟子であるのは間違いない。そもそも祝福と広範囲の癒しなど直接戦闘しないところで最大の力を発揮するあれが一対一で私に挑んでくる愚かさが最大の証拠だ。」

 

「そのお陰でディッターが流れて助かったがな。」

 

本当に助かった。マインが裏方に回りあの莫大な魔力で祝福をかけ、倒してもすぐに癒しをかけて戻ってくる集団を敵に回すとか悪夢でしかない。

 

「争いを止めるためにいろいろ動いていたのだろうが、もっとやりようがあっただろうに...。愚かすぎて話しにならん。」

 

師も師なら弟子も弟子か。

 

だが、悪態をつきながらも、それなりに弟子の成長を喜んでいる師の姿にしか見えんぞ。そのことを意地悪く指摘してやると。

 

「想定の範囲内だ。むしろその程度でしかなかったのだからアーレンスバッハでは余程窮屈な状態なのだろう。」

 

「おい、あれが想定の範囲内だと!いくらなんでもそれはないだろう。」

 

「ジルヴェスター、私もあれの魔術具等、知識の成長については多少評価している、だがあれは自分のためとか言いながら結局最後には他人のためにしか動けん愚か者だ。その他人を利用せず、一人でやろうとするから今回のような結果になる。」

 

そうは言っても今のマインを真正面から止められるのは、うちではボニファティウス伯父上とフェルディナンドくらいではないのか。

 

しかもそれが本領ですらないという。まったくこの異母弟といい、その弟子といいおかしいのではないのか。

 

「仮にそうだとしてもだ。以前領地にいてそれなりに関わりがあった者という点を除いても私は絶対に戦いたくないぞ。」

 

マインがフェルディナンドに倒された後にフェルディナンドへ向かって行った貴族もかなりの数がいた。

 

マインを抱えてたこともあって手こそ出してこなかったが、フェルディナンドの威圧を受けても少し震えているように見えたものの目を離さずに必死になって助けようとしているのがわかった。

 

もともと他領の貴族でありながら、あそこまでたくさんの貴族に本物の忠誠を誓われているものは少ないだろう。恐らく一部からは名捧げでも受けているのだろうがそれだけでは説明がつかない。

 

いざ、ディッターとなれば、あれらに祝福が加わるとか寒気がする。

 

「...あれは、それなりにアーレンスバッハを掌握しているようだから人を使うことを覚えれば少しは手を煩わせられるだろうが、それだけだ。」

 

直接見たフェルディナンドが少し煩わしいと言うのだからそういうものだろう。だが、この異母弟は弱みを他の者に見せることがないため、少しという言葉をそのまま捉えてしまっていいかは分からないが。

 

どの道、マインの様に規格外になってしまったものの対処はフェルディナンドのような規格外の者に任せるしかないということだな。

 

はは、それにしても他人を頼ることの知らない師が弟子にそれを求めるとはな。

 

「何がおかしい。」

 

「いや、マインについて人に頼れといっているが、フェルディナンドこそもっと他の人を、いや私を頼ってもよいのだぞ。」

 

「そういうことは普段の行いを見てから言ってほしいものだな」

 

珍しく嫌なところを突かれたという感じで眉間にしわを寄せて指を額に当てながら答えてきた。

 

だが私もなんでもできるように見えて実は不器用な弟に頼られる兄になりたいのだ。

 

私のそんな思いが通じているかはわからないが、私が言いたいことは言い終わった。

 

その後しばらくお互い無言で酒を飲んでいると、ポツリとフェルディナンドがつぶやいた。

 

「しかし、あの襲撃から4年以上の時が過ぎたのか」

 

「そうだな、早いものだ。あの時は本当に大変だった。」

 

お互い言葉少なく飲みながらしみじみと当時のことを思い出していた。

 

領地はただでさえ足りていない貴族が粛清などで減り魔力不足でいろいろ工面するのが大変だった。

 

フェルディナンドもあの時ばかりは自ら積極的に動いてくれたので何とか安定するところまでは持っていけたが...

 

フェルディナンドも恐らくあの襲撃に対しては思うところがあるのだろう。

 

それはそうだ、以前は弟子を取っても毎回厳しい指導についていけずに数日でいなくなり、ようやく弟子としてついていけるものができたと思ったら他領に無理やり連れて行かれて...

 

まったく、多少の愚痴くらい聞いてやるというのにこの異母弟と来たら。

 

だが、その経験のおかげか神殿に向かえばヴィルフリートの教育もしてくれているし、他の者にも多少の手加減ができるようになったようだ。

 

もし拉致をされずにマインがそのままエーレンフェストに残っていたのなら今頃どうなっていただろうか。

 

アウブエーレンフェストとして他領の領主候補生になってしまったマインを心配する資格などないが、連れて行かれた状況が状況なのに、最初に騎獣で運んだ時の体の弱さなどを考えるとアーレンスバッハではよほど苦労をしたのだろうなと思った。

 

 

 

 



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66話 脱出準備とランツェナーヴェ歓迎会

魔王様に一方的に遊ばれ結局なにもできなかったあの日から数日が立ちました。

 

失ったものばかりで本当に何もかもいやになりますが泣き言を言っていてもなにも変わりません。

 

こういうときは無心で何かをしたり、現状を確認したり余計なことを考えないようにするに限ります。少し油断すると今回の件の所為で、胸の中を駆け巡る私の心のゲドゥルリーヒへの思いを止めることができなくなってしまいます。

 

とりあえず壊されたレッサー君を回収に行って、現場に行ってもほとんど残っていませんでしたけど...頑張って治したり新たに調合して作ったり、魔紙もけちらずに大量に使ってしまったので調合です。

 

ディッターの話は完全に終わったようですが、ゲオルギーネ様の動きが読めません。

 

ライゼガングも、もう暴走しないと信じたいですがどうなることやら。最近は魔力対策として平民の身食いをこっそり神殿で引き取っています。

 

寄付は増えてますし、子供に必要な魔術具の指輪も今の私ならいくらでも作れますし、足りなくても魔力を奉納してもらえばいいだけなので。

 

とはいうものの、身食いなんてほとんど生まれませんので、数名の子供が増えただけです。

 

私がいるうちに成果はでないでしょうから、微妙なところですし最後まで面倒を見きれない可能性が高いのが難点ですが、そのままはるか高みに上るよりは選択肢を与えてあげたいという気持ちが強いのです。

 

もちろん自分で選択はしてもらってますよ。家族の元にずっといたいという気持ちは痛いほど分かりますから。家族に会うのは自由にしていますが、誘拐が怖いのでほとんど帰らせてあげられないのが辛い所です。

 

時間があるときに、貴族院で写した資料とか孤児院に移して読めるようにしています。これらの資料は逃げるときには持っていけませんし、ほとんど今の私にはいらないものですしね。寄付しても何も問題ありません。

 

こっそり身分を隠してってバレバレだと思いますが、孤児院の子供と遊んだりいろいろ勉強を教えたりしています。回りは大反対ですが威厳とかもはやどうでもいいのです。

 

それよりも子供達に教えたりして貴族の位を剥奪された後の対策を考える方がよっぽど建設的です。

 

ええ、つまり本気で逃げる準備を始めています。

 

これまでいろいろありましたが問題の魔力不足も孤児院の対策以外にも、レティーツィアに最低限こっそりと神事を引き継げれば後は勝手に回りが協力してくれるでしょうし、政情も以前から見れば安定してきています。

 

さすがに一年もあればお父様とお母様どちらかは回復するよね?今のところは順調に回復してきています。

 

ただ、問題があるところが魔力器官そのものなので一度壊れかけると完全に戻るかは不透明なところが不安ですが。最悪の場合でもレティーツィアが成人するくらいまで持たせればいいのですからなんとかなるでしょう。

 

逃げる過程でシュタープはたぶん失うでしょうから、最近はシュタープなしで魔術具の作成など調合もしています。

 

シュタープで作るペンを代用できる魔術具は作製しましたし、後は壊れない魔術具のグルトリスハイトですね。

 

グルトリスハイトの魔術具を作るにはターニちゃんの皮でも行けそうだけど、そちらはレッサー君に使うため魔紙を改良しています。

 

ベースとなる魔紙はできましたので後は生産して再度調合するだけです。

 

素材がいくらあっても足りないのが問題ですが...。

 

神具の作成の知識も頭に入ってますし、一番の問題以外はどうにかなりそうです。

 

ええ、契約の問題です。お父様に次のアウブに引き継ぐ前にはるか高みに上っていただくのが一番簡単な方法なのですがさすがにそんな方法は取りたくありません。

 

後は交渉かな。それなりのカードを出せば契約解除してもらえないかな...。命令をすれば大体のことは言うことを聞かせられるので、交渉にすらならない未来しか見えませんね。

 

他には魔力も隠すために何かをしないといけませんし、まだまだ前途多難ですが、道筋が見え、希望が持てる状態になってきたのは素直に喜ぶところです。

 

お米に関してもついに杵と臼を使用し精米もでき食べることができました!

 

ジャポニカ種でなくても米は米です。ようやくカレーライスもどきを食べることができました!

 

やっぱりインディカ種には、スープ系とか炒めたりしたものが合うよね。

 

水車についても小麦等をひくためのもので既に似たようなものがあるそうなのでそこまで難しくなくできるとのことです。

 

品種改良については、農業用シュミルに分別等させていますがなかなか進みません。

 

思っていた以上に変異種と思われるものは収穫できるのですが、インディカ種から外れることが出来ないのです。

 

こちらについてもまだまだ先は長そうです。種ぐらいなら持っていけますし、去る前に一定の研究成果を出したいです。

 

 

 

 

さて、ランツェナーヴェの船が来たようで今年は入港するところを初めて見られました。例年だと春の終わりに来るそうですが今年は遅れていたようです。領内に入って来ると礎に供給しているものなら誰でもわかるということもあって事前に向かうことができました。

 

去年はアウレーリアの件とかいろいろあって、倒れていた時期も多かったので、それどころではなかったですし。

 

領主一族で来られるものはみんな来ているようです。

 

「お父様、あの黒い船がランツェナーヴェの船なのですか?」

 

「今年から形が変わったようだな。」

 

魔力を持たない人たちが多いはずの国の船にしては魔力を使っているように見えます。と言っても魔力の漏れ方が歪で不思議な感じです。

 

その後、船が銀色に変わると魔力がほとんど漏れなくなります。あの銀色の材料は魔力を防ぐ効果があるようです。

 

今はいいですが、魔力を完全に通さないとなると場合によっては危険ですが、とてもほしいですね。

 

念のため、お父様に伝えて騎士団にはシュタープ以外の武器をもってもらっておいた方がいいでしょう。

 

魔力を持たないものが相手なら熱風とかでやけどさせてあげれば無力化できそうですが。

 

後は、地面の石とか飛ばしたり落とし穴に落としたりとかですね。

 

 

 

さて、星結びの儀式や星祭りを終えれば、ランツェナーヴェの使節団のお出迎えです。

 

中央の騎士団長も来ているのですね。

 

去年もアーレンスバッハの騎士団以外の人がいると思いましたがその時は中央の騎士団だったとは思いませんでした。

 

唯一の国境の開いている領地に警備のため来ているということでおかしくはないのですがわざわざ騎士団長が中央の警備から抜けてまで来るとは不思議な気もします。アーレンスバッハが出身地でなかったはずですがどういう繋がりなのだろう。

 

今年の使節団は皆さん銀の布を巻いてますね。

 

この布も魔力を通さないのかな?

 

挨拶時に去年話した使節団の方に今年も面白いものが入ったから是非見に来てくれとのことなので後でお邪魔することになりました。

 

「これが以前お話しされていたもので間違いないでしょうか?」

 

来ましたよ!古代米。真っ黒ですね。品種が増えればそれだけ品種改良の幅が広がります。

 

「後、丈が短い物としてこういうものもありましたが。」

 

うれしい!なんとジャポニカ種と思われるお米です。どちらも水耕栽培で作る品種とのことです。

 

「神に祈りを!」

 

あ、まずいこんなところで祝福が...。

 

でも、仕方がないよね。この程度ですんで良かったと思いましょう。

 

びっくりしたのか使節団や回りの方が固まってます。

 

アーレンスバッハに来たときはよく見た光景ですが、久しぶりに見た気がします。皆さんもう慣れてますからね。

 

付き添いで来ている側近連中も対応には慣れたものですぐに場が落ち着きます。

 

「去年いただいた祝福にも驚かされましたがこれほどとは感激いたしました。」

 

あははは、やっちゃった感じかな。やっぱし。

 

「とりあえず料金はどうしましょうか。」

 

「ローゼマインとは長い付き合いになりそうですので今回はお譲りいさせて頂きます。」

 

「いえ、今後どうなるかわかりませんので通常通りに取引いたしましょう。」

 

彼らにとっては料金と言っても魔石が一番欲しいようなので魔石との物々交換です。

 

「わかりました。それではお値段は勉強させて頂きます。」

 

その後使節団の方が脇に来て、こっそり小さな包みを渡してきました。

 

「お米を包むのにもいい布を使わせていただきますね。」

 

「ありがとう存じます。お心遣い感謝します。」

 

祝福をあげるだけでいろいろ融通してくれるなんてうれしいね。

 

銀色の船や布について歓迎会の挨拶時に、こそっと耳元でささやいておいた甲斐がありました。

 

もちろんお金は魔石で余分に払いましたよ。

 

うふふん、この銀の布が想定通りの効果なら逃げ出す準備の魔力を防ぐ方法はこれで解決です。

 

最悪はるか高みへ上りかけるけど薬で魔力を一時的に止めて魔術具で村まで移動させるとか考えていましたが無駄に終わって良かったです。

 

さて、神殿に戻ってお米作りです。

 

ジャポニカ種と思われる物が手に入ったのに作らないわけないでしょう。

 

農業用シュミルに準備だけはさせておいた小さな田んぼに種を蒔き祝詞で、成長させて実を取っていきます。

 

数を増やすために回復薬にも手を伸ばし数を増やして乾燥させます。

 

食べられるのは乾燥、精米が終わってからですね。

 

数日後、炊いてみましたよ。

 

...残念ながらモチ種でした。ウルチ種じゃないよぉ。

 

いや、もち米も美味しいことは美味しいけど蒸らしてこそだしね。

 

そもそもいいかい、ウラノの世界の話だけど、コシヒカリって品種があるらしいんだけどあれは分類ではウルチ種になっているけど品種改良の過程でかなりモチ種も入っているんだよ。

 

それで純粋なウルチ種であるササニシキ系統は以前はコシヒカリと生産量を半分で分けていたけど、今では全体の1%程度しか作っていないわけ。

 

冷害に弱すぎるし他の品種より風通しをよくしないと育てられないため密に植えられないとか育てるのが大変すぎるし生産量の関係から他の品種にとって変わられるのは当然なんだけどね。

 

お陰で生産のほとんどはコシヒカリの系統なんだって。

 

モチ種は食べると消化等で体に負担がかかるし普段食べるにはササニシキ系統の方が圧倒的に向いているわけで。

 

なので以前は病院でも体に優しく美味しいササニシキ系統に拘っていたところもあったのだけど今ではコシヒカリ系統しか手に入らないから病院食でもコシヒカリなわけ。

 

つまり何が言いたいかと言うと本物の日常的に食べる美味しいうるち米はもち米系統からは生まれないというわけで。

 

私の絶望がわかってもらえたかな。

 

まあ、ウラノの世界の『和菓子』の道は広がるけど。

 

大福、求肥、練りきり、白玉団子、他にもいろいろ!もの凄く広がりますね。

 

古代米とインディカ米で少しずつ品種改良するしかないですね。後はもち米の先祖帰りか...見分ける方法が無理すぎます。

 

古代米から進化させるなんて2000年以上の積み重ねがあって今のウラノの世界のお米があるわけで、美味しいジャポニカ種のうるち米を食べるまでの道のりが遠すぎます。

 

 

 

 




お米については簡単な農業体験で少ししかしたことがないので結構嘘ついているかもしれません。知識も簡単にしか学んでいませんし、かなり昔なので怪しいです。

こんなことを書いていますがコシヒカリ系は何も考えず食べる分には、すごくおいしいですよね。コシヒカリは戦後、戦争中や戦前、古米のためパサパサしていたお米ばかり食べていたそうですが、もっちりとしてそれでいて、もち米とは違い日常的に食べられるおいしいお米として広まったと聞きました。最近ですとミルキークイーンとか最強においしいですが毎日は絶対に食べたくないお米とかお米も目的に合わせて多様化していますね。



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番外 打切エンド エーレンフェストへ訪問

ライデンシャフトの季節の終わりに、ディートリンデ様から連絡が来ました。

 

何でもエーレンフェストへ行くのであなたもついていらっしゃい。とのことです。

 

断らざるを得ないと思いますがダメもとでアウブへお伺いします。

 

「お父様、ディートリンデ様よりエーレンフェストへ一緒に行かないかとお誘いが来たのですが。」

 

「行かせられるわけないだろう。エーレンフェストとは最近あんなことになったというのに。」

 

ですよね。いや、ダメもとだし。アウブの許可がでないと領界線から出られないので無理ですし。

 

「名目上は両者の仲違いを憂いたゲオルギーネ様が親善もかねて行くそうなのでそうそう問題は起こせないかと存じますが。」

 

「それで、問題が起きないという話にはならん。お主が起こさないという保証もないだろう。」

 

相変わらず社交に関しては信頼されていません。当然ですが。まあ、無理ですよね。しょんぼりです。

 

アウブの許可がでないので残念ですが行けませんという内容の返事をディートリンデ様へ送りました。

 

数日後、神殿経営についてや孤児院の子供達に教えて子供達とたわむれて自己満足にひたっていると城から呼び出しがかかります。

 

城へいってみるとお父様とお母様、ゲオルギーネ様とディートリンデ様、レティーツィアを除いた領主一族が揃っています。

 

「ローゼマイン、エーレンフェストが是非とも貴方を招待したいと言ってきていますがどうします。」

 

ゲオルギーネ様が直接誘って来るとか余り嬉しくない事態ですが、行けるならいきたいですね。

 

「あの様な事態となって当事者としては行きたい気持ちはございますがアウブのご指示に従います。」

 

いずれにせよアウブ次第ですからね。

 

「...わかった、許可する。」

 

え、今何て言ったの、お父様!?

 

「良かったですわね。ヴィルフリートが是非にとうるさかったのでちょうどよいですわ。」

 

ええっと、複雑です。うれしいことはとってもうれしいのですが。ゲオルギーネ様はいったい何をしたのでしょうか。

 

その後は、アーレンスバッハの不利になることをしなければ好きにしろとのこと。

 

本当にいいのでしょうか。

 

 

 

そうと決まれば準備してゲオルギーネ様ご一行としてエーレンフェストへ向かいます。

 

「火の神 ライデンシャフトの威光輝く良き日、神々のお導きによる出会いに、祝福を祈ることをお許しください」

 

「許します」

 

ボニファティウス様など夫人の方々とはエーレンフェストにいた時も余り関わりがなかったため初めましての挨拶も今までよりも違和感が少なくてありがたいです。

 

領主一族の子供たちは子供たちで集まっての懇談会です。

 

知らない顔はメルヒオール様かな。全く情報はないのでどんな方かは全く知りません。

 

「シャルロッテ様、よろしければそちらの方を紹介してくださる?」

 

「ええ、メルヒオール。ローゼマイン様に挨拶なさい。」

 

「火の神 ライデンシャフトの威光輝く良き日、神々のお導きによる出会いに、祝福を祈ることをお許しください」

 

「許します」

 

ちなみにヴィルフリート様は完全にディートリンデ様に捕まっています。

 

こっちはこっちでシャルロッテ様やメルヒオール様と話しているといろいろ面白い情報が出てきます。

 

「メルヒオール様は今の神殿長なのですか。」

 

この年で正式な神殿長とは、エーレンフェストでの私は仮の神殿長でしたので驚きです。

 

「ええ、まだ何もできないので名目上だけですが。以前に私と同じくらいの年で神殿長になった方は立派に神殿長として職務をこなしていたと聞いているので私も頑張らなければなりません。」

 

「さすがはエーレンフェストですわね。ここまで神事を大事に守っている領地は他にはございません。素晴らしいことですね。アーレンスバッハもだいぶ変わってきましたがまだまだエーレンフェストには敵いませんわ。」

 

だいぶ変わってはきたんだよ。ですが、さすがに私みたいに特殊な例以外は好んで領主候補生を神殿に入れる雰囲気ではないですからやはりすごいよね。

 

「あら、アーレンスバッハでは神事は軽く見られているとお聞きしていましたが変わってきたのですか。」

 

驚くよね。私も最初の酷い雰囲気には驚いたもの。

 

「ええ、少しずつですけど貴族も神事にかかわってくださったり変わってきてますわ。まだ、わたくしが抜けるわけにはいかない状況に変わりはありませんが少しずつ改革を進めてますわ。」

 

「ローゼマイン様は神殿長と聞いていますが、いつから神殿におられるのですか。」

 

メルヒオール様は私のことを情報でも全く知らないんだね。そういう意味では話しやすいのかな。

 

「物心ついた時から神殿での生活ですわ。神殿長になったのは10歳になってからですので洗礼式を終えたばかりでもう神殿長の職務をされているメルヒオール様のことは尊敬しますわ。」

 

「まだまだお飾りですので、ですが既に神殿長として立派に職務をされていて改革まで乗り出しているローゼマイン様にそう言っていただけるのはうれしいですね。」

 

ああ、いいよね。年下の子って。どこか私やカミルに似た感じがあるので親近感がわいてしまいます。

 

「そうやって話していると、ローゼマイン様とメルヒオールは本当の兄弟に見えますね。」

 

シャルロッテ様がクスクス笑いながらそう言ってきます。

 

「それはいいですわね。わたくしも弟が欲しかったですわ。同じ神殿長として仲良くしましょう。」

 

「もちろんです。年の近い同じ神殿長の方がいて私もうれしいです。」

 

そのあとも三人で神殿について話が盛り上がります。

 

シャルロッテ様やヴィルフリート様も神事に積極的に参加しているらしく神事のことをよく知っています。

 

「あら、ローゼマイン珍しくエーレンフェストの方と普通に話してますわね。」

 

ディートリンデ様がそういうと、シャルロッテ様がしまったという感じで少し顔が青くなります。

 

「ディートリンデ様のおかげで約束事は厳しく言われてませんので。」

 

契約の効果は薄いよと伝えます。シャルロッテ様も気にしてくれていたようで安心した表情になります。

 

「ふふ、良かったですわね。ところで皆さんこの後の食事はどうされます。大人達は話し合いがあるそうでご一緒できないようなので、ヴィルフリートが招待してくださるとのことですけど。」

 

「うむ、たまには親睦を深めるためにみんなで食べようではないか。」

 

ディートリンデ様の相手に疲れたと、顔に書いてありますよヴィルフリート様...。

 

この二人あまり相性良くないのかなぁ。ディートリンデ様は大好きみたいだけどヴィルフリート様はあんまりみたいだしね。

 

そもそも次期アウブ最有力のヴィルフリート様の婿入りはとても難しい気がするけどね。

 

この後、ヴィルフリート様主催の食事会になります。あまり話しながら食べるのはなれていませんね。貴族院でも側近たちとはあまり話しませんし。

 

側近たちとも二年目になって慣れてきたのか私は側近連中が話しているのを聞くだけですが、少しは和やかな雰囲気になってきましたしね。一年目が酷かっただけですが...。

 

一年目は普通に毒が混じったり、食べられない香辛料の物が出てきたりいろいろありましたが、二年目は食事に関しては最後まで何もありませんでしたし。

 

食事が終わり、食後のティータイムになります。

 

「そういえば、アウレーリアはどうしていますか。わたくしや側近ともども気になっていて。ローゼマインも気になるでしょう。」

 

「わたくしは、アウレーリアが元気ならばそれでいいのです。便りを送れないほどエーレンフェストで頑張っているのなら元気な証拠ではないですか。」

 

私とは逆とはいえアーレンスバッハからエーレンフェストへ行ったのですから、慣れるまでどのくらい苦労をするのかを考えただけでも大変そうです。

 

「ディートリンデ、アウレーリアは元気です。今は事情があってここには来ていませんが、事情が許せばぜひ来たかったと言っておりましたよ。」

 

ヴィルフリート様が元気であると伝えてくれます。ぜひ来たかったということは子供関係かね。あとでこっそりランプレヒト様に会えたら聞いてみますか。

 

「そうだ、ヴィルフリート様、以前の髪飾りの職人にぜひ会いに行きたいのですがご許可を頂けますか。」

 

「あら、わざわざ向かわなくても呼び出してもらえばいいではないの。」

 

「ディートリンデ様、今回の職人は領界近くに住んでいるということで貴族との関係は薄いと考えます。そんなマナーもできていない者を呼び出してはかわいそうではないですか。ついでにわたくしぜひともその作っている工房も見たいのでどなたか案内してくださらない。」

 

うふふん、けっこういい理由じゃない。もう一言加えておきましょうか。

 

「相手を驚かせたくはないので、裕福な商人に見せかけて会いましょう。他領からの取引もそこそこあるとお聞きしていますしそれなら問題は少ないですよね。」

 

「ローゼマイン、ヴィルフリートも他領の領主候補生にそんな格好をさせたなんてことになったら困ってしまいますわ。」

 

「いえ、わかりました。城に出入りしている商人が明日来る予定なので聞いてみましょう。近く注文した髪飾りを取りに行かせる予定でしたし。」

 

「ありがとう存じます。ディートリンデお義姉様はどうしますか。」

 

「私は遠慮しますわ。まったくあなたも困った子ね。まあ、あなたの作ることに関する情熱を考えれば仕方がないわね。ヴィルフリート、こちらから平民の村に出せる騎士がいないのでエーレンフェストから出してもらうことになるけど構わないかしら。」

 

「ええ、任せてください。」

 

やったね。ついに村へ向かえるよ!

 

 

 

 

商人から服を買って、商人を馬車ごとレッサー君に積んで出発です。しきりに遠慮してきましたがこちらのお願いを聞いてくださらないのですかと言ったら黙って乗ってくれました。

 

エーレンフェストの森です。懐かしいです。初めて村を出て来た時にここらへんで襲われましたっけ。

 

ハイデンツェルは相変わらずです。村より手前で降りて馬車に乗り換えます。

 

「ローゼマイン様の騎獣は素晴らしいですね。馬車ごと運べるとは驚きました。乗り込み型とは便利なものですね。」

 

うん、思いっきり親戚をつけてくれましたよ。

 

「他領の貴族であるわたくしのわがままに付き合ってくれてありがとう、ハルトムート。事情を知っている方についてもらえるとはうれしい誤算でしたわ。」

 

「お礼でしたら、後でわたくしめに祝福を頂きたいですね。」

 

「あら、わたくしの祝福程度でいいのでしたら、いくらでも差し上げますわ。」

 

「本当ですか!約束ですよ。」

 

祝福程度でいいのなら安すぎる。まあ、返せるものなんてないからどうしようもないけどね。

 

以前とは違って、きれいに整備されている山道を抜ければ故郷の村です。

 

「では、ローゼマイン様。ご一緒に管理している貴族の所へ行きましたら私は徴税の関係の話し合いへ村長宅へ行ってきます。明日の三の鐘のころに迎えにあがりますのでそれまでごゆるりと過ごしてください。」

 

村に帰ってこれたことはとっても嬉しいけど、みんな私のこと忘れちゃったとかないよね。だってもう何年振り?五年以上たってるってことだよね。いきなり行って迷惑じゃないかな。まあ、うちの家族なら迷惑でも笑って許してくれるよね。

 

以前とは違い景観はかなり変わってしまっていたけど小神殿は相変わらずですし家の場所はすぐにわかります。

 

まず管理している下級貴族に会いに行き、時間があったら小神殿に寄っていいかと聞いたら、鍵を貸してくれました。

 

その後、ハルトムートが家の前まで送ってくれます。

 

「では、ローゼマイン様、私は村長宅へ向かいますのでまた後でお会いましょう。」

 

ハルトムートがにこやかにそう言って別れますが緊張してろくに返事ができませんでした。

 

家は全く変わっていませんでした。周りは増改築したりきれいになっているのにうちだけ取り残された感じで少し心配になります。

 

とりあえず、入り口に以前はなかった物品を売っているお店であるマークがついているのでノックして入れば問題ないよね。

 

私は控えめにノックして、少し開けて中を見ると誰も見当たりません。

 

「ごめんください。」

 

中へ入って2回ほど言いましたが、反応はありません。

 

もう、懐かしすぎます。誰もいないのかもしれませんが懐かしすぎて動けなくなります。

 

ああ、家の香りだ。さすがにこれ以上入るのはまずいので入り口近くにあるテーブルにでも座らせてもらおうとすると

 

「だれだ、ってお客様?お母さんならいないからそこへ座ってまってて。」

 

うわぁ!カミルだ。間違いなくカミルだ。

 

思わず抱き着きたくなりますがその時に、後ろで物を落とした音がします。

 

私がびっくりして振り向くと、

 

「マインなの...!」

 

お母さん!

 

なにか言おうとしますが、声になりません。

 

「マイン!本当にマインなのね!」

 

どちらともなく抱き着きます。

 

「お母さん、ただいま!」

 

「ああ、お帰りマイン!全く連絡もないし聞いても答えてくれる人はいないし心配していたのよ。ああ、こうしちゃいられないわ、カミルのことお願いしていい?すぐにトゥーリとギュンターを呼んでくるから。」

 

えっと、カミルのことお願いしていいということはカミルのことギュッとしていていいってこと?

 

「え、え、だれだよ。」

 

「うんうん、わからないよね。わたしマインっていうんだよ。お母さんに聞いていないかな。」

 

「わ、ちょっとやめろよ。え、いなくなったっていうお姉ちゃん?」

 

カミルは文句言っているけど、知らない。

 

「うんうん、ああ、カミルだ。以前に抱いたときはまだ小っちゃかったのに大きくなったねぇ。」

 

「マインが帰って来たって!」

 

おお、ルッツだ。でっかくなったね。

 

「ルッツ助けて」

 

「カミル...諦めて満足するまで抱かせてやれ。」

 

「ルッツ、お久しぶり!ものすごく大きくなってびっくりだよ。」

 

「そういうマインも背が伸びたな。懐かしいなぁ。いったいどうしていたんだ。お貴族様の事件に巻き込まれたとかいろいろ噂になっていたから心配していたんだぞ。」

 

「あはは、まあ、とんでもないことに巻き込まれていたのは事実だけど後でみんな戻ってきてからね。何度も話したい話じゃないし。それよりもルッツのこと聞かせてよ。あれからみんなどうしていたの。何の仕事をしているの。」

 

なんとルッツは、村の商品を売る商人になったんだって。他の所にいることも多く偶然今は村にいたけど本当にたまたまだったみたい。ラッキーだね。

 

「マイン!おお、マインだ。よく帰ってきたなぁ。」

 

「お父さん、お父さん!」

 

その後、トゥーリも帰ってきていろいろ話します。

 

拉致されたということは濁したけど今は事情があって他国の貴族をしていることなど話します。

 

「他国のお貴族様かぁ。なんでそうなったかは詳しく聞かない方がいいんだな。」

 

「ごめんお父さん。あまり話したくはない。今日はかなり無理言ってここにきているの。ヴィルフリート様がいろいろ便宜を図ってくれてね。でもね、必ずちゃんと帰ってくるからね。」

 

「マイン、他国の貴族がそんなに帰ってこれるのか。お前の元気な姿を見れただけで十分だ。無理だけはするな。」

 

「ありがとうお父さん、大丈夫、いざとなれば貴族の位を捨てれば何とかなると思うんだ。今は無理だけど時期が来たら何とかなると思う。」

 

「おい、貴族を捨てるって大丈夫なのか?そもそも身を守るためにも貴族になる必要があったからわざわざ村から出て行ったんだろう。」

 

「うん、正直うまくいく保証はないけど、魔力で貢献さえすれば何とかなると思う。だから大丈夫だよ。」

 

そのあと、カミルやトゥーリやルッツ分を十分に補給し、現状等いろいろ話したりしました。

 

後はお土産とか、ディートリンデ様達に髪飾りを買って帰らなきゃ。

 

他の髪飾りとは明らかに違う美しい髪飾りができており、私にと言ってくれるけど、どういうタイミングで使っていいかわからないので困ります。

 

無くしたくないけど場合によっては無くなってしまうかもしれないから残念だけど置いていくねというと、また作ればいいんだからと言って強引に持たされました。

 

私からはお守りを大量に持ってきたので渡します。

 

うふふん、とっても高性能化したんだよ。後は戦闘用シュミルも置いていきます。少し性能は落ちますが魔力漏れを極限まで無くしたタイプで放っておいて動かさなければ何年も持ちます。

 

いろいろ話しているだけで、あっという間に時間が過ぎてしまいます。

 

みんなで一緒のところで寝て、城へ戻る前に小神殿に寄って魔力を奉納します。後は神具とか聖典ちゃんとか確認すると、やっぱりちゃんと帰ってきていました。

 

やっぱり帰りたくないね。ずっとここにいたいと思うもそうはいきません。

 

ハルトムートが迎えに来ます。

 

「マイン、もう行くのか。」

 

「ただでさえ体が弱いのですから気を付けるのですよ。」

 

「お父さん、お母さん、トゥーリ、カミル、ルッツ...。うん、私帰れるように頑張るね。絶対帰ってくるから待っててね。」

 

「ああ、村はどんなことがあっても絶対にお父さんが守るから安心して帰って来い。」

 

「じゃあ、みんなまたね。必ず帰ってくるからね!」

 

 

 

 



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67話 レティーツィアの教育係

夏風邪をこじらせてしまい、しばらく寝込んでいました。

 

体が強くなったといってもアーレンスバッハの夜はエーレンフェストとは違い、とても蒸熱く寝苦しいので、寝具や服に涼しくする魔術具を入れて何とか眠れる状態です。

 

ですが寝る前は蒸し暑くても朝は急激に冷えたりすることがあるのが困りものです。体がついていきません。

 

今回寝込んでいる間はとても幸せな夢を見ていた気がして、胸が不思議と温かくなったのでまだ良かったですが。

 

体を治してから、珍しくお母様から呼び出しです。

 

基本的に私の呼び出しはアウブであるお父様を通しておこなわれるので、お母様に直接呼び出されるのは非常に珍しいことです。

 

「よく来たわね、ローゼマイン。こちらへいらっしゃい。」

 

アーレンスバッハの砂糖菓子とお茶が準備されています。

 

「お母様、体調はいかがですか。魔力の方は流れは良くなっているようですが回復してきた実感はありますか。」

 

「おかげでだいぶ良くなったわ。少しずつ礎にも魔力を供給できるようになってきたわ。」

 

思った以上に良くなっているように感じているようです。

 

「ご無理だけはなさらずに。また壊れたら今度こそだめになるかもしれませんので。」

 

「大丈夫ですよ。それにいつまでもローゼマインに任せておくわけにはいきませんもの。」

 

まあ、それはそうなのですが。だからこそきっちり回復してくれないと困るのですが。

 

「それで、今回お呼びされた件は何ですか?」

 

「実は、レティーツィアの教育の件なのだけど。」

 

なんでも、レティーツィアの専任の教育係を任せていた者が歳で倒れてしまい、既に時期的に募集するには中途半端になってしまったことも相成って、専任で教育係になってもらえる優秀な者が見つからない事態になってしまったとのことです。

 

それでも中級貴族の教師を何名かで見てもらっていたそうなのですが予想以上に優秀で教えることがなくなってしまったとのこと。

 

ドレヴァンヒェルよりついてきた側近たちも教えるのは専門でないそうで、またアーレンスバッハの事情についてもまだ精通していないこともあってこのまま教えるのは難しいとのことです。

 

政務など見せたり、社交へ同行させたりしているが、そこまでいくとさすがに難易度が高く身につくものも身につかないので早く新しい専任の教育係を見つけたいという状態だそうです。

 

「お母様より顔が狭いので優秀な教育係と言っても思いつきませんが、わたくしへの相談なのですか?」

 

お父様の時は具体的に礎の供給を早めるという目的があってそれを達成するための手段として提案をいたしましたが、教育係についてなんて相談を受けてもわたしに答えられることなんて何もありません。

 

「あら、目の前にいるじゃない。ローゼマイン。あなたの教えは貴族院でも評判だったようじゃない。時間がある時でいいからお願いできないかしら。」

 

え、なんで私が?

 

「あの、お母様。わたくしが教えるのですか。わたくしもまだ勉強中の身なのですが。」

 

いや、私よりも代理であったとしても専門の人が教えた方がいいに決まっています。

 

「あら、でも座学の知識だけでいけば、ほぼ貴族院で教わる範囲は終わっているのでしょう。教育係が決まるまでの間でいいからお願いするわね。うふふ、孤児院であなたがしていることもここまで届いていますのよ。」

 

もはや命令です。最後の言葉がなくてもお父さまを通されれば引き受けざるを得ないのですから仕方がありません。

 

「わかりました。それでは今まで何を教えてきたか記録を見せてください。」

 

記録を見る限りでは確かに優秀なのでしょう。教えていた者たちも余り優秀ではなかったようなので判断が難しいですが。

 

むしろこの状態なら私は知識よりも毒とか危険を回避するための心得とかを教えた方がいいのかもしれません。

 

後日、連絡をとってレティーツィアの部屋へ行きます。部屋に入り机を見ると、勉強道具が広がっており勉強をしている途中のようでした。きっと今までまじめに勉強をしていたのでしょう。

 

「さてレティーツィア、今日から臨時で少しの間教えることになりましたのでよろしくお願いしますね。わたくしも教えたりするのは専門でないので至らないところもあるかもしれないけどよろしくお願いしますね」

 

「はい、よろしくお願いしますお姉様。」

 

「では早速今開いているところから行きましょうか。」

 

...優秀かどうかわからないような言い方をしましたが文句なく優秀なようです。

 

机に出していた部分以外も口頭で知識を確認しましたが、今の段階ならこれ以上はいらないでしょう。

 

これだけできるならアーレンスバッハなんかにいさせないで無理にでもドレヴァンヒェルに帰した方が幸せになれるのでは...。

 

そうなると私は非常に困ったことになるのですが、アーレンスバッハだけで考えるならディートリンデ様がアウブになればいいだけだしね。

 

でもドレヴァンヒェルにはもっと優秀な方がいるのかもしれませんね。それだと帰った方が幸せかは分かりません。ドレヴァンヒェルに優秀な方が多いのは事実ですし。

 

「レティーツィア、少し休憩しましょう。ゼルギウス、これを切り分けてもらえるよう頼んで貰えるかしら。」

 

「ローゼマイン様、かしこまりました。」

 

今回は、カトルカールです。アーレンスバッハの香辛料を少し効かせて香り付けをしています。

 

水あめやハチミツとかも使ってカステラに近い味にしています。良質な乳製品は手に入りにくいですがバターくらいは塩入のなら何とか手に入りますのでバター少量に油少々で作っています。

 

私が毒見を行ってレティーツィアに勧めます。

 

「香辛料を使ったお菓子とは初めて食べました。」

 

「珍しいでしょう。わたしがお遊びで作っただけなのだけど。」

 

「お姉様が自ら作ったのですか!」

 

やはり驚きますよね。普通は貴族が厨房に入るなんてと言われて怒られますものね。

 

「調合の訓練になりますし、たまに作ります。ところで皆様はやはり止めないのですね。」

 

切ってそのままだして来たようなので、別のところで毒味すらしていないようです。

 

「ローゼマイン様、おっしゃる意味が分かりませんが。」

 

ロスヴィータとゼルギウス達側近は困惑顔です。

 

「毒味したとはいえ私はアーレンスバッハのものですのよ。それがどういう意味かお分かりでないと。」

 

「つまり毒が入っている可能性があると、ローゼマイン様がそのようなことをするわけないではないですか!」

 

するわけないって、危険な思考だよね。大抵の問題は起こるわけないってところから発生するんだよ。

 

「信頼していただきありがとう存じます。ですが側近の皆様方には毒には細心の注意を払っていただきたいのです。アウブとお母様が毒を受けていたということはご存知でしょう。」

 

「そうなのですか。申し訳ございません。把握しておりませんでした。」

 

まずいですね。側近達の毒への意識が弱いように見えます。アーレンスバッハ出身の側近もいるのに、どうなっているのでしょうか。

 

「アーレンスバッハは、ドレヴァンヒェルのように平和で安定している領地ではございません。アウブですら毒を防げない事態に陥るほどです。必要があれば毒殺程度どなたでも仕掛けてきます。今までご無事でよかったです。」

 

本当に良かった。見たところ大丈夫そうだしまだ何もされていないね。

 

「レティーツィア、アウブを本気で目指すなら信頼できる側近以外はある程度まではよくても完全に信じきってはいけませんよ。でも、信頼できないものからも意見は聞かなければなりません。」

 

どこに答えが眠っているかわからないからね。

 

「ただ、アウブである以上意見を聞くのはいいことですが、領地にかかわる最後の決断はすべてレティーツィアがしなければなりません。」

 

責任重大だよね。私は絶対になれないなぁ。まあ、頑張ってね。いる間は補佐するけど今後どうなるかなんてわからないしね。

 

「などと偉そうなことを言っていますが、わたくしもできませんので少しづつ身に付けていけばいいと思います。あと、最後にわたくしのことをずいぶん信頼しているようなことをおっしゃっていましたが信頼してはいけませんよ。」

 

「なぜですか。」

 

そんなに驚くことかな。こんなこと私が教えるべきことなのかわからないけど側近連中の毒の意識の薄さを考えるとこういうことも教えておかないとはるか高みへ上りかねないよね。

 

「あら、わたくしのように経歴の裏もとれないものを、いえ、仮にとれたのならなおさら信じてはいけないということがわかるでしょう。」

 

やっぱり疑えとかまだ早かったかな。悲しそうな顔をされるのは苦しいね。

 

「私達は姉妹ではありませんか。寂しいときはお姉様に頂いたシュミルや洗礼式の祝福を思い出したりするのが心の支えになっているのですよ。そんなよくしてくれるお姉様を疑えと。お姉様は本気でおっしゃっているのですか!」

 

「打算かも知れないでしょう。あなたは次期アウブになるためにアーレンスバッハに連れてこられました。アウブ最有力候補にすり寄ろうとしているだけかも知れませんよ。」

 

信頼されるのはいいけど、頼られるところまで行くのは不味いんだよね。それなら多少嫌われている方がやり易いしね。

 

「支持者をたくさん得ていて、なろうと思えばアウブにだってなれるお姉様が、そのようなことをする必要があるのですか。」

 

わたしの支持者なんて高が知れてると思うけどな。

 

「私の支持などあってないようなものです。あったとしてもそれは私という人間を知らず勘違いをされているだけでしょう。」

 

うん、何か見つけたというか怒りの目を向けてきたね。

 

「お姉様は何をそんなに恐れているのですか。」

 

うん、予想外の回答が来たね。恐れている?

 

「私が恐れているですか。レティーツィアは私が何に対して恐れていると思いますか。」

 

「ええ、お姉様は信頼をされるとか、なんというか繋がりを持つことを恐れているように感じます。噂の契約について何か関係があるのですか。」

 

驚きました。他の人に改めて指摘されると心にくるものがあります。ましてや、レティーツィアとはそこまで深く関わっていないのに。いや、情報を収集していて確認を取っただけかな。

 

契約についてもアーレンスバッハ内ではほとんど広がっていないはずなのですが。

 

「契約についてもう知っているなんて、レティーツィアのご両親からですか。」

 

「そうです。お姉様のことをわたくしの両親もとても心配しておりました。」

 

うん、素直すぎるね。それが美点だしやっぱりこういうことを教えるのは早かったね。せめて貴族院にあがる直前にすればよかったけど、私がいるかは不明だし教えてくれる人がいるかもわかりません。

 

「あら、そんな簡単に教えてはいけませんよ。と言ってもそれが嘘か本当か疑心暗鬼にさせられるくらいなら問題はありませんが。」

 

「お姉様、他の話へ持っていってごまかさないでください。」

 

そうは言っても話しても仕方のないことだし。

 

「ねえ、レティーツィアは本当にこのアーレンスバッハでアウブになることを望みますか。」

 

「先ほどお姉様が言っていた通り私はアウブになるためにここへ来ました。」

 

即答ですか。意思のこもった目を見れば彼女の覚悟のほどがわかります。

 

「あなたにその意思があるのならいいのです...ディートリンデ様も私の前ではっきりとアウブになると宣言していました。アウブになることは大変ですよ。」

 

あはは、もうやめよう。そもそも社交能力の低くアウブになる気もない私程度が教えることではなかったね。

 

「ふふ、レティーツィア。ごめんなさいね、正直今からでもあなたはドレヴァンヒェルに帰ってあちらで貴族になった方がいいと思うけどあなたの意志が固いようで安心したわ。」

 

うん、覚悟といい、これがアウブの器なんだろうね。わたしとは大違いだ。

 

「お姉様、信じるなとか悲しいことを言うのはこれっきりにしてくださいまし。わたくし敬愛するお姉様が自分を卑下するようなことを言うことに対して怒りが収まりません。」

 

なんか、久しぶりに怒られた気がするなぁ。わたしにトゥーリのような頼れるお姉様になるとか無理だね。はぁ。でもアーレンスバッハで生きていくなら必要なことだと思うんだけどね。

 

「ありがとう、レティーツィア。疑うことは信頼できる側近がいるのだからある程度任せられるなら任せてしまってもいいですし、この話はやめましょう。わたくしもこういうことには向いていないようです。」

 

私は教育者とか向いていないのかな。普通に教えるのは好きなんだけど心得とかそういうのはやはり向いていないんだろうな。

 

「そういえばレティーツィアは、ご両親とずいぶん密に連絡を取っているようですね。」

 

「手紙のやり取りはしています。たまにお姉様から頂いた魔術具を送って声も入れてもらっています。手紙だけでなく声を聴くと元気が出ますね。」

 

「両親とのつながりは大切ですからね。大事にしてくださいませ。」

 

私なんて会いたくても会えない状態だからね。

 

「お姉様は、その、ご両親とかは...。」

 

本当のことは答えられないしね。

 

「神殿にずっといたということは既に存じておりますよね。」

 

「...お姉様、お聞きしていいですか。お姉様は本当にアーレンスバッハの神殿でずっと生活をしていたのですか。」

 

レティーツィアのご両親が何か吹き込んでいるのでしょうか。それとも今までの話の流れで確信した感じかな。いずれにせよ私のことは相当詳しく調べられているようですね。

 

「レティーツィアがアウブになったらその時に嫌でもわかりますから、知りたかったらがんばってアウブになってくださいまし。」

 

「わかりました、お姉様の秘密を知るためにもわたくしアウブになります!」

 

うん、まあ、アウブになるために来ているのだからなりたいという気持ちが大きくなるなら何でもいいか。

 

側近連中の毒に対する姿勢さえ変われば最低限及第点だよね。レティーツィアのことも少しわかったしそれだけでも教育係を引き受けた甲斐があったね。

 

 

 

 

さて、夏の成人式でも、秋の洗礼式でも私より小さな子などに相変わらずちっちゃい神殿長だ。とか言われて私の身長のなさに嘆いたり、エーレンフェストの関係で春の成人式と夏の洗礼式は急きょ出られなかったせいか、今回は小さい神殿長でよかったねなんて歓迎する声も聞こえてきて嬉しくなったり。

 

小さいがなければもっとよかったのですが。これでもずいぶん身長は伸びたのに。

 

貴族の洗礼式にもたくさんの方から是非来てほしいと頼まれて回ったりしていました。

 

今まで他の青色神官にお願いしていた人達まで私にお願いしたいとか言ってきて、できるだけ回りますが無理な所は他の青色神官にお願いします。

 

だからなんで私のところに来るのでしょうか。その事について神殿で話してみました。

 

「寄付をもっと高くすればいいのではないですか。神殿長で、本物の祝福を与えられるにもかかわらず、他の青色神官と同じどころか相手任せで場合によっては少ない寄付しか受け取っていないのでは皆様が神殿長にお願いしたいと思うのは当然ではないですか。」

 

なんと、エーレンフェストより少し寄付の基準が高いので余り気にしていませんでしたが、それでも安かったそうです。

 

でも、寄付ってお心次第じゃないの。さすがに神殿経営を圧迫するほどの少ない寄付だと困りますがそういうわけでもないし。ちなみに神殿への寄付はかなり潤沢です。私が領主候補生として入っていることもあって城からの支援もありますし孤児院も向こう数年は問題ないだけのお金が集まっています。

 

たまにランツェナーヴァの方までお忍びで祈りを捧げに来るようになりましたし。彼らは魔力を持っていないため奉納はできないのですが。

 

貴族の方も以前は花捧げで来る人しかいませんでしたが、最近は祈りを捧げに来る人しか来ない状態です。

 

花捧げはどうしても好きになれないのですが、神殿が合わないから花捧げをしたいという子もいて、少しくらいなら仕方がないのかなと思うのですが、そういう子達がいても求める方が来ないのでどうしようもありません。

 

孤児院では、教育にも力をいれていて簡単な読み書き計算はほとんどの子ができますし、文官の補佐として神殿の経営にどんどん入ってもらっているので私がやることは最後の確認と決裁だけの状態です。

 

先程の花捧げを希望する子達も文官の補佐として引き取ってもらったりする場合もありますし、私が直接教えているという噂が広まってしまったせいで何故か下級貴族の子達が孤児院の子達と一緒に教育を受けに来たりしています。

 

孤児というだけでも侮蔑の対象のはずなのに、ましてや平民の子達です。貴族が孤児と関わるなんてとんでもないというのがアーレンスバッハでなくても当然のはずなのですが、何故かわかりませんがみんなとても仲が良いようです。いったいどうなっているのでしょうか?これが小さな子供の力なのでしょうか。

 

ここまで神殿の印象が悪い方向から良い方向へ変わっていると次に悪いことが起こった時の揺り返しが怖いです。

 

レティーツィアの教育を見ながら孤児院に顔を出せるときに出して、神殿経営も最低限やって逃げ出すための魔術具の準備や神殿の防備、お米の生産などやることはたくさんですが充実していると言っていい時間が過ぎていきました。

 

 

 

 



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68話 閑話 レティーツィア前半

私はレティーツィアと言います。

 

大領地ドレヴァンヒェルから春の終わりにアーレンスバッハへ来ることになりました。

 

本当はもっと早く養子縁組を行い、アーレンスバッハへ行く予定だったのですが、おばあさまの健康の問題もあり私が危険な状態になるのではないかということもあってお母様が猛反対しており、予定より2年以上も延びてしまいました。

 

正直、行くのが正式に決定してから安定してきたと言ってもそんな状態になるような領地へ行きたくはありませんでした。

 

お父様とお母様と離れるだけでもつらいのに住み慣れたドレヴァンヒェルから離れたくはありません。

 

「レティーツィア、ごめんなさい。でも今回はアウブ直々に言われてしまっては逆らえないのよ。ですが、おばあさまの健康も無事に持ち直したし、今までは情勢も危なかったようだけど、もう大丈夫になったから安心して送り出せますわ。」

 

「お母様、どうにもならないのですか。わたくし不安で仕方がありません。少し前までわたしが行ったら危険な状態だったのでしょう。」

 

無駄だとはわかっていますが、不安は無くなりません。ドレヴァンヒェルの自慢ではありませんが貴族が危険な状態になるなんて考えられないのです。

 

「貴方のおばあさまは、健康になりさえすればとっても頼りになる方ですわ。あと、あなたの姉になるローゼマイン様はとても優秀で慈悲深い方とのことですから何かあれば二人を頼りなさい。」

 

新しくお姉様になるローゼマイン様は、貴族院1年目で最優秀を取られたとのことでとっても優秀なのだそうです。

 

彼女の魔術具や魔法陣の知識は、一年生でありながら他領であるドレヴァンヒェルでも有名になるほどで、アウブ自らぜひともドレヴァンヒェルに迎えたいと婚約をアーレンスバッハに打診するほどの方なのだそうです。

 

ただ、神殿より引き取った関係で、貴族院入学前から神殿長として勤めているとのこともあり、基本的には城にはおらず神殿にいる変わり者との評判もあるようです。

 

神殿なんて親のいないものが行くところで、ドレヴァンヒェルでもいい印象はありません。

 

他には、体がとても弱いらしく寝込むこともよくあるとのこと。

 

優秀なのはわかりましたが、そのような変わった方が新しいお姉様になるなんて不安でしょうがありません。

 

 

 

 

私がアーレンスバッハに行く前にわざわざアウブが訪ねてきました。要件は私への激励とぜひともローゼマイン様について両親を通じて知らせてほしいとのことでした。

 

姉妹になるので情報を調べやすいと思われたのでしょう。ですがわざわざアウブが会いに来て伝えることではありません。よほどローゼマイン様に来てほしいようです。

 

そこまでアウブに注目されているのなら悪い方ではなさそうと思うことにしました。

 

 

 

 

アーレンスバッハにつきました。春から夏に向けて厚くなってくる時期で蒸し暑いです。

 

お婆様、いえ、これからは養母様になるのですね。養母様を通してローゼマイン様に初めて会うことになりました。

 

「ローゼマイン様は養母様から見てどんな人ですか。」

 

噂がいろいろありすぎてどんな人なのかさっぱりわかりません。近くで見ている人に聞くのが一番でしょう。

 

「前情報を鵜呑みにせず、実際に会って話してみて判断して頂戴な。」

 

結局会うまで教えてもらえませんでした。どんな人なのだろう。変な人じゃないよね。

 

緊張だけでなく、期待と不安が入り混じりながらも、初めましての挨拶をします。

 

「水の女神 フリュートレーネの清らかなる流れに導かれし良き出会いに、祝福を祈ることをお許しください」

 

「許します。」

 

初めて会ったローゼマイン様は噂通りあまり表情が動かない方で、それでも少し表情をやわらかくして許可をくれました。

 

なんというか、お人形さんみたいな方ですね。ものすごくきれいというか作り物めいた方です。

 

「ローゼマインお姉様、ドレヴァンヒェルでも噂はお聞きしてます。会えるのを楽しみにしてました。」

 

不安もありましたが楽しみにしていたのは事実です。

 

「ええ、わたくしも楽しみにしてました。」

 

なんというか、きれいな声ですね。この方が新しいお姉様なのですね。

 

「ドレヴァンヒェルとは、文化も考えもまったく違い大変かと存じますが、できるだけお手伝いさせて貰いますのでよろしくお願いしますね。」

 

少し近寄りがたい雰囲気ですが、仲良くなれるといいと思いました。

 

この日は、挨拶しないといけない方がたくさんいてこれ以上話せませんでした。

 

挨拶周りが無事終わると養母様といろいろお話しました。

 

「レティーツィア、今日はどうでしたか。うまくやって行けそうですか。」

 

「お姉様がいい人そうで良かったです。うまくやっていけるかは分かりませんが養母様もいますし頑張りたいと思います。」

 

そう言うと養母様が少しおかしそうに笑いました。

 

「ローゼマインについて聞きたがっていたわね。実際少ししか話していないでしょうが悪い印象でなくてよかったわ。」

 

その後、ローゼマインについて聞きたいですかと聞いてきたのでぜひともお願いしますとお願いしました。

 

「実はあの子あなたをアーレンスバッハに来させるのに反対していたのよ。なんでだと思う?」

 

「わかりません、アウブを目指す領主候補生が増えると困るからでしょうか。」

 

私に対し養母様は、苦笑するかのような表情になります。

 

「それが、やっぱり神殿育ちだからですかね。生み親から引き離し、ドレヴァンヒェルのような平和な領地からアーレンスバッハのような安定していない土地に来させるなんてかわいそうだ。っていうのよ。あの子貴族としての義務とか常識とかには疎いのよ。」

 

来る前に私が思ったこととまったく同じことで心配してくれるとは思いませんでした。

 

「見たこともないあなたのことをとっても心配していたわ。私に対して養子に迎えるのはしょうがないですけどお母様はレティーツィアを引き取る以上絶対死んではいけませんと言うのよ。頼れる肉親がいなくなってしまったら大変じゃないかって。」

 

確かに健康面の不安で引き取るのが延期になっていました。そんなに見ず知らずの私のことを親身に心配してくれていたとは驚きです。

 

「ねえ、レティーツィア。あの子はいろいろ問題も起こすけど、アーレンスバッハにはもったいないくらい良くできた子なのよ。でも寄る辺を持たない子だから、あなたが仲良くしてくれると嬉しいわ。」

 

寄る辺を持たない子とは、住んでる地が心のゲドゥルリーヒでないとかそう言う時に使われる言葉だったはずです。

 

「ローゼマイン様のゲドゥルリーヒはここではないのですか?」

 

聞いた話だと、生まれてすぐ神殿に入れられ神殿で育ったと聞いていたのですけど。

 

「レティーツィアへ最初の宿題ね。いつかローゼマイン本人から聞きだせるほど信頼されるよう頑張りなさい。」

 

結局そのことについては宿題という形となり教えてもらえませんでした。

 

 

 

 

基本的に神殿に籠っているという噂は本当の様であまり城には来ていないようです。ただ何故か時々養父様の執務室や城の図書室に顔を出すようです。

 

さすがにアウブの執務室で何をしているのかまでは分かりませんでしたが。

 

結局次に会えたのは、アウレーリア様の星結びの儀式の時でした。

 

「レティーツィア、元気にしていましたか。」

 

神殿長の姿のお姉様も素敵です。ヴェールを被っているおかげもあって神秘的です。

 

「お姉様、はい、食事にはまだ慣れませんが環境には慣れてきました。」

 

「ふふ、食事は香辛料の使い方が特徴的ですものね。わたくしも慣れるのには苦労しましたわ。」

 

あれ、お姉様は生まれも育ちもアーレンスバッハなのに香辛料に慣れるのに苦労したってどういうことでしょう。神殿ではあまり香辛料は使われないのでしょうか。

 

なんとなく詳しく聞く気も出なかったので、困ったことを話すと親身になって聞いてくれます。

 

最後に神殿長のお勤め頑張ってくださいというと。

 

「わたくしの大変お世話になった大事な方の星結びなのですけど、両者のことを考えると成大に祝福を送れないのが悩ましいですわ。」

 

お姉様の祝福は、はじめてお会いした時に交換した祝福以外見たことがありませんが、祝福に盛大とかあるのでしょうか。

 

お姉様が壇上に立って祝詞を読み上げ祝福を結婚する二組へ送られます。

 

星結びでの祝福は初めてみましたがとてもきれいなものなのですね。

 

しばらく、あまりに奇麗な祝福にうっとりと余韻に浸っていると突然ローゼマイン様がアウレーリア様について話し出しました。

 

そしてシュタープを出し魔法陣を書き出します。

 

魔法陣について見たことは少しだけあっても、まだ学んでいないので、なにをしているのか全く分かりませんでした。

 

ですが周りの方から聞こえてくる話から推測するととんでもない魔法陣の様です。

 

魔法陣が曇天模様な空へ吸い込まれるように上っていき上ではじけたように美しい光を発するとランプレヒト様とアウレーリア様を中心に木漏れ日のように優しい暖かみのある太陽と祝福の混じった光が差し出し、やがて雲が晴れていき、いいお天気になります。

 

そう言えば、お姉様が始まる前に言っていました。盛大な祝福ができないと。

 

お姉様の言う盛大な祝福とは想像をはるかに超えてすごいものだと認識しました。

 

改めて、こんなすごい方が私のお姉様だなんて誇らしくなりました。

 

 

 

 

この後、ランツェナーヴェの使者をもてなす宴でも少しだけ話せましたが、顔色が少し青白く悪いように見えて、とても気になりました。

 

この時に本人は大丈夫と話していたのですが、案の定、この後お姉様が倒れずっと寝込んでいるという話になり長い間表に出てくることはありませんでした。

 

お父様とお母様にも手紙で連絡は取っており祝福の件から寝込んでいる件まで伝えると心配しているようでした。

 

私もとっても心配でしたが、勉強などいろいろやることがたくさんあるので手一杯です。

 

でも、あまりに寝込んでいる期間が長くなると更に心配になったので養母様に聞いても寝込んでいるとしか教えてもらえませんし、ロスヴィータ達に調べてもらいましたが全く分からないとのことでした。

 

まさかとは思いますが、あの祝福のせいではるか高みに上ったとかありませんよね。

 

 

 

そのような心配も洗礼式のお披露目会で顔色の良くなったお姉様に会えたことで晴れました。

 

「ローゼマインお姉様、倒れたと聞いてとても心配してました。」

 

お姉様と再開の挨拶をした後に伝えます。本当にとっても心配したのですから。

 

「ありがとう存じます。レティーツィア。倒れたわけでなくユレーヴェは前から浸からないといけない状態だったのを引き伸ばしていただけなのです。」

 

ユレーヴェに浸かっていたって、ユレーヴェに浸かれば何日かでよほどの重症でない限り起きられるものなのに半年も浸かっていたなんて聞いたことがありません。

 

「半年近くもユレーヴェに浸からないといけない状態で今まで大変なお仕事を。」

 

なんでお姉様はそこまで無理をして神殿長としてのお勤めをはたしていたのでしょうか。

 

普通の方でしたら、そのような状態なら動くだけでも大変なはずなのに。

 

半年も寝ていた割には、普通に動かれていました。筋肉とかも落ちているはずなのに何も変わりません。

 

もしかしたらものすごく無理をしているのかもしれませんが表情からは読めませんでいた。

 

「星結びの祝福は凄かったです。今回もあのような祝福を行うのでしょうか。」

 

「さすがに最後のは無理ですよ。わたくし自身が現象を見ていないので断言できませんが、そこまでは期待しないでくださいね。」

 

お姉様は見ていないとのことです。見ていないってことはもしかして儀式直後に何かあったってことでしょうか。

 

この場で聞くことでもないのでこの日のために頑張ってきた私を見てもらいたくて宣言します。

 

「お姉様の祝福に負けないよう頑張ります。」

 

お姉様は、少し驚いた表情になった後、なんといいますかここではないとても遠くを見ているような目になりました。

 

「ええ、わたくしもお勤め頑張りますね。」

 

お姉様は、やっぱりよくわからない不思議な方です。

 

その後は圧巻でした。

 

洗礼式は両親のもとで受けた後アーレンスバッハに来たのですが私の場合は本当に小さな祝福を受け祝福返しをしただけで終わったのですが...。

 

何なのでしょうか、いえ、あのような祝福を送るお姉様にとっては普通のことなのでしょう。

 

両親と子供に祝福を振らせていました。

 

それだけでも驚きなのに貴族のメダル登録を行う儀式では、会場全体に祝福を降らしだしました。

 

ええ、初めは何が起こっているのか分かりませんでした。周りの大人たちは慣れているのか普通に見えました。

 

お姉様が行うとこれが普通なのでしょう。いえ、私が知らないだけでもしかしたら他領ではこれが普通で祝福とは本来こういうものなのかもしれませんが。

 

何人もいるのに全員に同様の祝福を送っています。私が仮にやろうとしたら一回すらできないかもしれません。

 

最後に私の番になります。うっすらとお姉様がほほ笑んでいるように見えます。

 

祝福を出す前に小さくうなずいているように見えます。方角からして養父様に何か確認を取ったのでしょうか。

 

その後、今までの中で一番大きな祝福が吹き乱れました。冬の貴色を中心に七色の祝福が降り注ぎます。

 

終わった後、あまりの光景に驚きましたが何とか祝福を返すことができました。

 

その後は音楽の奉納になるのですがこっそりお姉様が神官長と思われる方を手招きをしていました。

 

何やら危なげな足取りで戻っていったので少し心配になりました。結局この後お姉様は戻ってくることはありませんでした。

 

演奏は頑張ったのですが見てもらえないでとても残念です。

 

 

 

 

お披露目会にはお父様とお母様が来てくださって、帰る前に会うことができました。

 

「ローゼマイン様があなたの演奏がとてもよかったと伝えてほしいと言っていましたよ。祝福も素晴らしかったですしアウブが絶対に欲しいというのもよく分かりました。」

 

お姉様は表にいなかったようですが近くで聞いてくれていたようです。

 

真剣に演奏しておいてよかったです。

 

「あとこれはローゼマイン様から、こんなものを作れるのにまだ貴族院一年生とか信じられないわね。うちの者たちでもこれほど効率よく小型化した声を封入する魔術具なんて作れる者がいるのかしら。」

 

そう言って、シュミルの人形のおなかの魔石にてを当てるとお母様の声が出てきます。

 

「すごいです。これをお姉様が作ったのですか。」

 

「本人はだれが作ったとか言ってませんでしたけど、魔術具について詳しく話してくれたのでおそらく作ったのはローゼマイン様だと思うわ。」

 

お姉様はすごすぎます。いったいどのように勉強したらこのような魔術具を作れるようになるのでしょうか。

 

「ちょっと気になるところもあるけど、あなたの為にこのような魔術具を用意してくれるなんて、よほどあなたのことを気にかけてくれているようね。あのような子がいるのならあなたを安心してアーレンスバッハに預けられるわ。」

 

久しぶりに会えた両親と離れるのは悲しいし、ドレヴァンヒェルへの懐かしさもあるけど、お姉様に少しでも近づけるようにこの地で頑張ろうと改めて思いました。

 

 

 

 

お姉様に少しでも近づきたくて勉強に力が入ります。

 

冬の館で、初めて顔を合わせる人たちばかりでしたが領主候補生として恥ずかしくないように頑張ってみんなの名前を覚えました。

 

側近もロスヴィータとゼルギウス以外にもたくさん増えて性格とか把握するのが大変です。

 

でも皆様いい人ばかりなので大丈夫そうです。

 

冬の館でお姉様に会えるかもと期待していましたが行く前に少し会えただけですぐに貴族院へ行ってしまいました。もっといろいろお話したかったです。

 

私の知識は他の子達よりもかなり進んでいるようで、勉強は別授業になることも多くなりました。

 

そんな時にお姉様が先に貴族院から戻って来たとの知らせが入ります。

 

貴族院での勉強もこなして神殿では神殿長としての儀式もこなしてお姉様は体がそんなに強くないはずなのに大丈夫なのでしょうか。

 

何か私にもできることがあればいいのですが、と相談すると。

 

「今は勉強して少しでも成長することが優先ですよ。」

 

とゼルギウスに言われてしまいます。

 

その後私の祈りが届いたのかわかりませんが、奉納式に参加しなさいという養父様より通知が来ました。

 

ロズヴィータ達は、領主候補生である姫様を神事に参加させるのですかとまどっていたけど、私はそんなことよりもお姉様に会える楽しみの方が上回っていました。

 

お姉様からも服装から儀式当日の確認の知らせが入りました。

 

 

 

 

儀式の約束の日の当日、お姉様はわざわざ冬の館まで迎えに来てくれました。

 

お姉様の騎獣はとっても変わった形で中に乗り込めるようになっており私とロスヴィータとゼルギウスを中に乗せます。

 

他の方は護衛として自分たちの騎獣に乗ってローゼマイン様の周りを警戒します。

 

お姉様が神殿に思うところがないのかいろいろ聞いてきます。

 

確かに以前でしたら絶対嫌でしたがお姉様がいて大事にしているところが悪い場所なわけがありません。

 

ただ、とっても気になることを言っていました。

 

今のアーレンスバッハはエーレンフェストとアウレーリア様の星結びで多少は改善したと言っても、とても仲が悪いのですが以前は神殿に限って言うと、とても仲が良かったようなのです。

 

仲がいいもの同士が政治で裂かれるなんて悲しいですね。

 

お姉様は交流の関係でエーレンフェストの神殿に行ったことがあるらしく、如何にエーレンフェストの神殿文化がすごいか説明してくれました。

 

あれほどの祝福を送るお姉様がすごいというのですから、きっとエーレンフェストの神殿はとんでもないところなのでしょう。

 

 

 

 

移動しだすと、あっという間に神殿に着きます。神殿に入ろうとすると最初に目についたのが入り口あるかわいらしい像でした。

 

気になってお姉様に聞いてみるも、何の神か分からないようです。

 

神殿長で話や噂などで聞いている限りではとても詳しいはずのお姉様でも知らない神がいるのですね。

 

お姉様は、他領や外国の一部でのみ信仰されている神かも知れないけど調べてもわからないのですと、困った顔で言います。もしレティーツィアが知っていたら是非教えてほしいとのことです。

 

見た瞬間から何か引っ掛かりを覚える像でしたが私が改めて像を良く見直すといきなり閃きました。

 

たぶんそういうことだろうなということは分かりましたが断言はできないのでお姉様にはわからないと言っておきます。

 

私の推測があっているのなら、お姉様には絶対に分からないと思います。

 

 

 

 

神殿には思った以上に人がおり青色神官だけではなく、貴族の方達まで青色神官の服を着て儀式を行っているのに私達は驚きました。

 

神殿に出入りしているなんて、ドレヴァンヒェルでは何か訳ありなのだろうとか疑われてもしょうがない行動です。

 

アーレンスバッハでは、思った以上に神事が浸透しているようです。

 

その後、初めての神殿の儀式に参加しました。

 

奉納式では儀式をしている方全員が繋がっているような一体感が生まれ魔力が小聖杯に満たされいき、その魔力が美しい光景を作ります。

 

お姉様がなぜここまで神殿にこだわるのか少しだけわかった気がします。

 

そのことを伝えると、お姉様は少しうれしそうなやわらかい表情になりました。

 

ただ、神殿の印象はまだ悪いものが多いそうで外で話すときは気をつけなさいと注意を受けました。

 

お姉様とこのような一体感を感じる儀式に参加できたのにみんなに自慢できないなんて少し悔しいです。儀式が終わると颯爽とお姉様は貴族院へ戻っていきました。

 

 

 

 

冬の社交界でも挨拶ができていなかった方への挨拶のためなど、たまに出席をしました。

 

お姉様はほとんど社交界へ出てこないようですが、話題が出ない日はありませんでした。

 

中には神殿の関係や倒れていた関係で陰で悪く言う方もいるようですがいい評判の方が多いです。

 

領主候補生なのに神殿に入れられてかわいそうだとか言っている人もいましたがお姉様はきっと城よりも神殿の方が落ち着くのでしょう。

 

 

 

 

奉納式の時に見た光景や感覚が忘れられなくて神殿の儀式に興味がわいてきました。

 

私の側近にリグセーレという少し神事に詳しい女性の護衛騎士がいていろいろ教えてくれます。

 

なぜそんなに神事に詳しいのか聞いてみると、ローゼマイン様に返しきれないほどの恩があるため、何か少しでも役に立ちたいと思い必死に調べたとのことです。

 

お姉様の側近にはなれなかったのですかというと、言葉を濁されます。

 

「ローゼマイン様のためにもローゼマイン様が大切にされているレティーツィア様のお役に立たなければなりません。」

 

私はお姉様に大切にされているとのことです。あまり会えないのは残念ですがいろいろ便宜を図ってくれているようです。

 

 

 

 

春になり祈念式という儀式があるとのことでぜひとも参加したいと養父様にお願いの手紙を出しました。

 

すると領主一族として動いていると分かる格好で参加するなら構わないとの返事をもらいました。

 

奉納式は隠す方向でおこなったのに今度は隠さなくていいのでしょうか。

 

そのことをお姉様に知らせるとアウブに事情は伝えておくので汚れてもいい動きやすい格好を優先してくださいとのことです。

 

向かってみればわかりました。貴族街と違って石畳や芝生のない地面は沈む所も多く、石に足を取られたり散々です。

 

お姉様の忠告に従って正装して来なくてよかったです。

 

祈念式では、人がたくさん集まっていました。服はみずぼらしい者が多いのですがみんな目が輝いており活気に満ちています。

 

お姉様が最初に聖杯に魔力をある程度満たし、その後一緒に再度魔力を奉納します。

 

お姉様は次の所へ向かうとのことで、私もついていきたかったのですが護衛や私の体の負担も考えて一日一回までになっています。

 

次の日に、ほかの所で合流し儀式を行います。今度は最初に込める量を減らしたようで少しきつかったです。

 

ですが、一回だけなら最初からお姉様と一緒に奉納しても大丈夫そうです。

 

私の顔の色があまり良くないように見えたのか、念のため一日開けて奉納を行うことになりました。

 

私はできると言ったのですが、無理するところではありませんとお姉様に言われては仕方がありません。

 

お姉様は、魔力の奉納をしなければならない一番大変な直轄地を一人で担当して回っているので大変そうです。一日3から4カ所回っているようです。

 

お姉様に言わせれば素材回収のついでに魔力を奉納しているだけだと言いますが、お勤めに加えて他の作業も行うとか、いったいどれだけの魔力を持っているのでしょうか。

 

 

 

城から直接日帰りで行ける範囲を考えると最後になりそうです。

 

最後なら、最初から一緒にやってみたいとお姉様に言うとちょっと困った顔をされました。

 

確かに体に負担がかかるのはわかりますが、お姉様は私のことを心配しすぎだと思うのです。

 

それならせっかくだから側近の者と一緒にやりましょうということになります。

 

私は護衛がおろそかになっては困りますしやっぱり今まで通りでいいですと言おうとすると。

 

側近のリグセーレがぜひ手伝わさせていただきますと言ってくれて周りも手伝ってくれる流れになりました。

 

お姉様を独占できなくて少し残念だったとは思っていません。

 

無事聖杯への魔力の奉納を終えると、初めての方ばかりでしたので皆さん疲れた表情の方が多かったです。

 

私は7人でやったおかげか慣れてきたおかげかわかりませんが疲れはしましたけど前回ほどではありませんでした。

 

お姉様は二人の護衛を連れて次の村へ向かわれました。

 

帰り道で、真っ先に儀式に参加したそうにしていたリグセーレが儀式の参加にためらっていたのが気になって

 

「なぜすぐに参加すると言わなかったのですか?」

 

と聞いてみました。そうすると彼女は

 

「ローゼマイン様に近づき一緒に作業できるかと考えたら急に畏れ多くなってしまって...。」

 

...リグセーレは騎士なのですが文官の仕事もある程度できるという本当に優秀な方なのですけど、お姉様が関わったとたんに使えなくなるようです。

 

お姉様の役に立ちたいという思いがとっても強いだけに非常に残念な方だということが分かりました。

 

きっとそのせいでお姉様の側近になることができなかったのでしょう。

 

 

 

 

その後、エーレンフェストがらみで周りがうるさくなります。何やら本物のディッターが行われるという話まで出てきましたが、夏の初めには噂すらなくなってしまいました。

 

そのことを聞いても誰もが口を開かず教えてもらえませんでした。

 

とりあえず、エーレンフェストとはこれまで通り細々と取引を行うという関係を維持することで落ち着いたようです。

 

ロスヴィータ達からも聞き出そうとしましたが、本当のところはどうなったのか分からないようで、聞いても教えてもらえませんでした。

 

お姉様はあれほどエーレンフェストへのあこがれと友誼を望んでいたのにその結果が争いでは悲しすぎます。

 

何事もなかったのなら良かったと思うことにしました。

 

 

 

 

領主会議の後手紙が届きます。今回の手紙は私ではあまりに難解で解読できないのでロズヴィータたちに手伝ってもらっていると、

 

「これは本当のことですか」

 

いつのまにか後ろにリグセーレが立っていました。

 

「難解すぎて解読に時間がかかっているのですがリグセーレにはもうわかったのですか。」

 

「すべて解読できたわけではありませんがだいたいは分かりました。なんてことでしょう...。」

 

何やら慌てているというか混乱しているというかとっても落ち着かない感じになります。

 

リグセーレが落ち着くのをまって、解読結果を聞こうとしますが、断言できないので話したくありませんと言ってきます。

 

それでもいいから聞かせてくださいというと、しぶしぶ答えが返ってきました。

 

全文は解析できていないとのことですが、一部分にはお姉様について書いてあるそうで、お姉様は他領のもので何かしらの契約を結ばさせられてアーレンスバッハにいると読めるとのことです。

 

彼女はその内容であると確信しているようでしたが、他の読み方もできるとのことで断定はできないとのことです。

 

こんな内容を確信も持てない状態で広められても困るのでここにいるものだけの秘密とするようみんなに約束させました。

 

わざわざ他領の者に契約を結ばさせてまで領主候補生にさせるなんてことがありえるのでしょうか。

 

いえ、お姉様ほどの方ならどんな手段を使っても領地に縛り付けたいというのもわかる気がします。

 

お姉様が寄る辺のないものであるということが関係しているのでしょうか。

 

 

 

 

夏のランツェナーヴァを迎える宴ではお姉様はディートリンデ様と話していて少ししかお話しできませんでした。

 

ディートリンデ様は余り私のことを相手にしていないような感じですがお姉様とはそれなりに親しいようです。

 

養子とはいえ同じ母を持つ姉妹であるわたしとお姉様ほどではないと思いますが。

 

挨拶だけをして終わりだとか言われていたのですが、お姉様は相手と去年もお話をしたらしく挨拶にしては少し長い間、話しをしていました。

 

相手から話される以上対応しなければならないのはわかりますが、なぜそういう流れになったのでしょうか。

 

お姉様は相変わらず、すごいのですがよくわからない方です。

 

 

 

 

夏も終わりに近づき気候が変わってきた所為か、こちらに来てから大変お世話になっていた専属の教育係のお爺さんが急に体調を崩してしまい、今後教えることが難しくなってしまったようなのです。

 

養父様も大変信頼されている方で、これまでいろいろ教えてもらえましたがいなくなった後の後任探しに困っているようです。

 

その後は専門の教科を代わる代わる複数の先生に見てもらっていましたが、教え方が明らかにお爺さんより劣ります。

 

加えて教師の方もまた一人また一人と教えることがありませんと言って来ることがなくなりました。

 

そんな時です。養母様がお姉様に教わってはどうかと言ってきました。

 

うれしいですし、楽しみです。お姉様はどういうことを教えてくれるのか楽しみでなりません。

 

ですが、始めの授業では悪い方向に期待を裏切られてしまいました。

 

 

 

 

 




長くなりすぎたのでいったん切ります。

実はベルケの方々とか皆さん名前をつけていたのですが、わざと出してきませんでした。理由は作品を読んでいただければ分かるといいなと言うことで書きません。
彼女も名前はレティーツィアの話以外では出しません。


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69話 閑話 レティーツィア後半

お姉様が来てくれるということになって、朝から勉強が身に入りません。

 

でも、失望させたくないので頑張って学びます。

 

その後、やっぱり楽しみであまり手につかなくなってしまったので休憩しているとお姉様がやってきました。

 

「今日から臨時で教えることになりましたのでよろしくお願いしますね。」

 

どんなことを教えてくれるのでしょうか、楽しみです!

 

お姉様は教えるための資料とかは持ってきておらず、私の使っている資料をさっと見て私が先ほどまで勉強していたところについて問題を出してきます。

 

私の答えを聞いて、補足等を話してくれて、その後に他の所はどのように勉強しているのか聞いてきました。

 

使っている資料などを出し説明すると、いろいろ質問形式で問題を出してきました。

 

もっと難しいことを聞かれるかと思いましたが、そこまで難しいことは聞かれませんでした。

 

ただ、様々な教科を全体的に聞いてきていたので苦手な科目とかを把握したかったのでしょうか。

 

一通り質問は終わったらしく、何か勉強で分からないことはありますかと聞いてきたので、いろいろ質問しました。

 

お姉様その一つ一つに丁寧に答えてくれます。とってもわかりやすくて驚きました。

 

専属の教育係のお爺さんと同じか、それ以上に分かりやすかったです。

 

その分説明が少し長くなる場合もありましたが。

 

いろいろ聞いた後にお姉様が疲れてきたでしょうと言ってお菓子を出してくれました。

 

素朴な味ですが、香辛料が入っており変わった味がします。

 

まだ、香辛料には慣れきっていないのですがこれは非常においしく感じました。

 

香辛料ってお菓子にも使えるのですね。

 

「香辛料を使ったお菓子とは初めて食べました。」

 

「珍しいでしょう。わたしがお遊びで作っただけなのだけど。」

 

「お姉様が自ら作ったのですか!」

 

驚きました。貴族が厨房に入るなんてことはあり得ないので料理をするなんてことはありえません。

 

お姉様曰く調合の訓練になるからついでに作っているとのことです。

 

魔術具だけでなく作ることがお好きなようです。なんてここまでは穏やかな雰囲気だったのですが。

 

「皆様はやはり止めないのですね。」

 

止めるって何を止めるのでしょうか。お姉様が何について言っているのかすぐには分かりませんでした。

 

なんでも私たちは毒に対する警戒が低すぎるとのことです。

 

なんでも普段から警戒している養父様と養母様も以前は毒を受けていたとのことです。

 

初めて知りました。養母様は毒のせいで常に健康状態が悪かったとのことです。

 

私だけが知らされていないのかと思ったのですが、側近全員とも知らなかったようです。

 

「アーレンスバッハは、ドレヴァンヒェルのように平和で安定している領地ではございません。アウブですら毒を防げない事態に陥るほどです。必要なら毒殺程度どなたでも仕掛けてきます。今までご無事で本当によかったです。」

 

私はとんでもない領地に来てしまったようです。毒を入れられるなんて今まで考えたこともありません。

 

その後、お姉様の話が続きます。

 

「などと偉そうなことを言っていますが、わたくしもできませんので少しづつ身に付けていけばいいと思います。」

 

お姉様でもできないことがあるのですね。少し安心しました。人を見る目を養って、人の意見を聞けるアウブになってほしいということですね。

 

「わたくしのようなものも信頼してはいけませんよ。」

 

え、お姉様は何を言っているのでしょうか。

 

これだけいろいろ良くしていただいているお姉様を信頼できないのなら、ロスヴィータとゼルギウス以外信頼できそうにありません。

 

「あら、わたくしのように経歴の裏もとれないものを、いえ、仮にとれたのならなおさら信じてはいけないということがわかるでしょう。」

 

お姉様の過去には何やら秘密があるようです。

 

そんなことよりも、敬愛するお姉様に信頼するななんて言われるとは夢にも思っていませんでした。

 

「私達は姉妹ではありませんか。寂しいときはお姉様に頂いたシュミルや洗礼式の祝福を思い出したりするのが心の支えになっているのですよ。そんなよくしてくれるお姉様を疑えと。お姉様は本気でおっしゃっているのですか。」

 

なかなか土地になれなくてつらい時の支えはいつもお父様とお母様の手紙や声、そしてあの美しい祝福の光景でした。

 

「打算かも知れないでしょう。あなたは次期アウブになるためにアーレンスバッハに連れてこられました。アウブ最有力候補にすり寄ろうとしているだけかも知れませんよ。」

 

打算!?そんなものあるわけがありません。お姉様が私に対してする意味がないのです。仮に打算があったとしてもここまでいろいろしてくれる理由にはなりません。

 

「支持者をたくさん得ていて、なろうと思えばアウブにだってなれるお姉様が、そのようなことをする必要があるのですか。」

 

まったくありません。お姉様が本気になれば次期アウブになることは難しくないと思います。

 

熱狂的な支持を多数の方から受けており、冬の社交場では、そのおかげで妹である私にも皆様いろいろ良くしてくれます。

 

確かに次期アウブの有力候補として接触してきている方もいますが、ほとんどの方はそれだけでは説明が付きません。

 

「私の支持などあってないようなものです。あったとしてもそれは私という人間を知らず勘違いをされているだけでしょう。」

 

少し寂しげにお姉様は言います。その言葉でわかりました。お姉様はどれだけの人が気にかけお姉様のために動こうとしているか全くわかっていないのです。

 

いえ、そうではありません。もしかしたら過去の秘密とやらのせいで、わからないもしくはわかりたくないのかもしれません。

 

この間のリグセーレの解読結果が本当なら他領から来た可能性もあるわけですし、理不尽な契約を結ばされているのなら信頼したくても信頼できないというのもわかる気がします。

 

「お姉様は何をそんなに恐れているのですか。」

 

根底にあるのは、人と深くつながりたくない、迷惑をかけたくないというような気持ではないでしょうか。

 

迷惑をかけたくないという気持ちはわからなくもないのです。わたしがお姉様のことをどこまでわかるかは不明ですが。

 

「私が恐れているですか。レティーツィアは私が何に対して恐れていると思いますか。」

 

「ええ、お姉様は信頼をされるとか、なんというか繋がりを持つことを恐れているように感じます。噂の契約について何か関係があるのですか。」

 

そう言うとお姉様はわずかに驚いた表情になります。すぐにいつもの表情に戻りましたが。

 

「契約についてもう知っているなんて、レティーツィアのご両親からですか。」

 

本当に契約があるようです。リグセーレの解読結果があっていたということですね。

 

「そうです。お姉様のことをわたくしの両親もとても心配しておりました。」

 

心配したからあのような手紙を送ってきたと信じたいです。正確なところはあの手紙からは分かりませんでした。

 

「あら、そんな簡単に教えてはいけませんよ。と言ってもそれが嘘か本当か疑心暗鬼にさせられるくらいなら問題はありませんが。」

 

わたしも初めはお姉様に信頼するなとか言われてショックでしたが、話しているうちに落ち着いてきました。

 

あらためてお姉様を見ると、表情はいつものままあまり変わっていないようですが、どこか悲しそうな雰囲気があるのに気が付きます。

 

「お姉様、他の話へ持っていってごまかさないでください。」

 

どのような契約を結んでいるのでしょうか。領主候補生になっているくらいだからそこまでひどいものとは思えませんが。

 

「ねえ、レティーツァアは本当にこのアーレンスバッハでアウブになることを望みますか。」

 

結局、答えてはくれませんでしたが、先ほどのごまかそうという感じはなく真剣な質問の様です。きっと先ほどの答えに関わってくるのでしょう。

 

「先ほどお姉様が言っていた通り私はアウブになるためにここへ来ました。」

 

そんな気持ちは来た時はありませんでしたが、お姉様がいてくれたおかげでこの地で頑張ろうと思いましたし、来た以上はアウブになるのが私の役目です。

 

「あなたにその意思があるのならいいのです...ディートリンデ様も私の前ではっきりとアウブになると宣言していました。アウブになることは大変ですよ。」

 

ディートリンデ様なら確かにアウブになると言ってもおかしくない気もします。

 

そこでお姉様の雰囲気が柔らかいものへ戻りました。

 

「ふふ、レティーツィア。ごめんなさいね、正直今からでもあなたはドレヴァンヒェルに帰ってあちらで貴族になった方がいいと思うけどあなたの意志が固いようで安心したわ。」

 

お姉様は、やはり私がドレヴァンヒェルから引き離されたことをとっても気にしているようです。

 

お姉様も引き離されるかのようにアーレンスバッハへ来たのでしょうか。聞きたいですが本当に他領にいたのか分かりませんし聞きにくいです。

 

「お姉様、信じるなとか悲しいことを言うのはこれっきりにしてくださいまし。わたくし敬愛するお姉様が自分を卑下するようなことを言うのに対して怒りが収まりません。」

 

私は怒っているのですが、お姉様は少しうれしそうな表情になった気がします。

 

「ありがとう、レティーツィア。疑うことは信頼できる側近がいるのだからある程度任せられるなら任せてしまってもいいですし、この話はやめましょう。わたくしもこういうことには向いていないようです。」

 

やっぱり、無理をしていたようです。無理をしてでも話さなければならなかったということでしょうか。

 

私がもっとしっかりしていればお姉様にこのようなつらい話をさせないですんだのでしょうか。

 

その後両親の話になって、いろいろ話します。

 

「両親とのつながりは大切ですからね。大事にしてくださいませ。」

 

最後に言った時のお姉様の表情はここではない遠くの懐かしいものを見るような目でした。

 

私はお姉様の両親のことを聞きますが、神殿にいたとしか言ってくれないので思い切って聞いてみました。

 

「...お姉様、お聞きしていいですか。お姉様は本当にアーレンスバッハの神殿でずっと生活をしていたのですか。」

 

神殿にずっといたとすると、エーレンフェストの神殿から、アーレンスバッハの神殿へ移されたのではないかと考えました。

 

それなら、エーレンフェストの神殿について詳しいことも説明が付きますし、神殿の者が他領へ交流のためにわざわざ出るというよりも余程説明が付きます。

 

「レティーツィアがアウブになったらその時に嫌でもわかりますから、知りたかったらがんばってアウブになってくださいまし。」

 

やっぱり相当な秘密があるようです。

 

「わかりました、お姉様の秘密を知るためにもわたくしアウブになります!」

 

お姉様がアウブにならないのなら私がアウブになりたいと心から思いました。

 

 

 

 

その後も時間を見つけてはお姉様は教えに来てくれました。

 

お菓子もカステラとか練りきりとか見たことも聞いたこともないお菓子をいろいろ持ってきてくれて、毎回楽しみでした。

 

あのような話は最初の時だけで後はいろいろ教えてくれます。

 

魔術具や薬の調合なども教えて貰いました。

 

 

 

 

後は礎への魔力の奉納も一緒に行いました。今まで以上に魔力を持っていかれ倒れそうになりました。

 

礎は始める前から魔力がかなり満ちているようだったので、礎に魔力がない状態で奉納したらどうなっていたのでしょうか。また、神事を体験していなかったらもっと大変だったでしょう。

 

神事についてもいろいろ教わりました。

 

昔の神殿では、次期アウブになると目されていた領主候補生が神殿長の役職についていたそうです。

 

理由があるのか気になったので聞いてみましたが、理由はありますが、神殿長として言ってはいけないことになっていますのでごめんなさいねと言われてしまいました。

 

わたしも、もっと神事に参加してお姉様の元で神事を学んだ方がいいのではないかと思いました。

 

 

 

 



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70話 神殿襲撃、服作成と餅つき大会

たまたま政務手伝いやレティーツィアの教育などで城に来ている時でした。

 

用事がある程度終わって少し調べものや薬関係の部署にでも寄ろうかと考えていたところ、オルドナンツが飛んできます。

 

なんでも神殿に侵入者が来て大変とのことです。急いでレッサー君で神殿に戻ります。

 

私が戻ったときには既に終わっており、幸い神殿への侵入者は仕掛けておいた戦闘用シュミルで追い払えたようでした。

 

一部捕まえたものもいたようなのですが、捕まえた方々は、自害もしくは契約で強制的にはるか高みに上らされてしてしまった模様です。

 

追い払えた方々も、もしかしたら身食い兵で既に破棄され、既にはるか高みに登っている可能性もありそうです。一歩間違えれば私も彼らと同じであった可能性もありえたと考えると...。非常に胸が痛くやるせなくなりますね。

 

人的被害がないか最優先に確認するよう指示を出し、私はなくなったものがないかを確認します。

 

部屋などを荒らされた形跡はありません。毒なども確認しますがどこも反応がありませんでした。

 

人的被害も、敵が来て物で解決できるのなら下手に抵抗せず好きにさせろと言ってあるので、軽いけが人が出た以外は特に無く、誘拐等も無いようでした。

 

何か目的を達する前にレッサー君集団で対処できたということで間違いなさそうです。

 

神殿で欲しいものと言うと、真っ先に思いつくものは聖典と鍵と神具ぐらいですが目的が分かりません。

 

いえ、礎の秘密を知ってアーレンスバッハの礎を奪取して、アウブにでもなりたい方がいるのでしょうか...。

 

そこでふと、今まで契約を直接どうにかして逃げることばかりに気をとられ気がつかなかったのですが、私が仮に礎を奪取したらどうなるのでしょうか。今の主を害する結果になるのでやろうと実行し始めた時点でダメそうですね...。

 

奪取が結果的にアウブのためになる状況を作ればいけるかもしれませんが、そんなことってありえるのでしょうか。私が一時的に仮のアウブになれれば契約の破棄なんて楽にできるのですが、そううまくはいきませんね。

 

なれたところで引き継ぎの問題などそれはそれで問題だらけですが...。

 

話がそれましたが、アウブになりたいなんて領主候補生の二人ぐらいしか思い浮かびませんし、二人とも礎を奪取するにしてもまだどちらになるか確定していないわけで、今はまだわざわざ奪いに来る理由としては弱い気がします。考えても分かりませんね。

 

人的被害が無かったので今回はよしとしましょう。

 

 

 

 

数日後、エーレンフェストとの国境沿いの貴族二名が神殿に来ました。以前からのエーレンフェストとのいざこざなどで、すでにギーベを退かれた方々なのですがゲオルギーネ様派の方々です。

 

神殿関係者に侮蔑的な視線を向けてくる、アーレンスバッハでは普通の貴族の方々ですね。

 

そういう方はそもそも神殿に近づかないのですが久しぶりに花捧げをお求めの方でしょうか。

 

一応、この特徴的なガマガエルみたいな方々には何度か顔を合わせた事があるので久しぶりの挨拶をします。

 

「ローゼマイン様、神殿に賊が入ったとのことですな。」

 

まあ、余り会話したい相手ではないですし、侮蔑の感じがにじみ出ていますので適当に聞き流します。

 

花捧げなら仕方がありません、したいという子に行って頂きましょう。

 

「つきましては、賊が毒を仕掛けていっていないかわれわれに調査させていただきたい。」

 

は、え、なんで毒を仕掛けていったという話になっているのだろう。えっと、たぶん賊がきた、目的を果たせなかった、置き土産に毒を置いていきますという感じでしょうか。

 

「わたくしもそれなりに毒には詳しいのですが、調べた限りでは問題はございませんでしたが。」

 

「それが、新種の毒物を使われた可能性が非常に高く、ローゼマイン様のことが心配だとゲオルギーネ様がおっしゃるもので、代わりに我々が調べに来たというわけです。」

 

あら、意外。ゲオルギーネ様の名前を出すんだ。新種の薬物についてなぜ分かったかといわせればゲオルギーネ様の研究施設関連の調査結果だと言いたいわけですね。

 

本当に新種で私にはわからない薬の可能性も否めませんし、監視をつけて好きにさせるしかありません。

 

「そこまで仰って頂けるなら、お好きにどうぞ。ただしこちらからも数名同行いたします。神具など神事に必要なものに万が一があってはいけないですから。」

 

表は、青色神官と灰色神官にお願いします。裏からはこっそりと魔術具のレッサー君たちやシュミルに毒物を勝手に仕掛けていないかなど監視させるしかないですね。

 

「では、わたくしは神殿長室におりますので何かございましたら呼んで下さいまし。」

 

青色神官二名と灰色神官四名に監視させ、何かあれば私をすぐ呼ぶようにと緊急呼びだし用の魔術具を3つ別に持ってきて貸し出します。

 

後は隠し部屋に行って、いろいろやりますかね。

 

決して調査の邪魔をしないように直ちに全員に周知させ、指定した人以外は、接触させないようにしました。

 

しばらくすると、連絡が来ます。すぐに出ると私の部屋も調べたいといっているとのことです。

 

大事なものは基本的に隠し部屋に隠しているので私も同行の元許可を出します。

 

一応うら若き女性の部屋をうんたらと少し渋る演技をし、嫌々と言う雰囲気は出しておきます。そんなことを気にしてくれる人たちではないでしょうが。

 

...引き出しまで開けて何をやっているのでしょうか。

 

まあ、もはや何を言っても無駄だと思いますので好きにさせることにしました。

 

さて、かなりの時間いましたが問題ないとのことです。念のため私も検査をし直しましたが問題はありません。

 

本当に何をしにきたのでしょうか。私が見ていた限りでは薬物検査をしている雰囲気はまったく無くまるで何かを探しているようでした。

 

ざっくりと見ましたがなくなっている物は分からずと言いたかったのですが...。えっと、まあ、いいです。持っていかれたのは偽物ですから。何がしたいんでしょうか。アウブに謀反の疑いのある勢力がいるかもしれないくらい伝えておいたほうがいいのでしょうか。

 

ゲオルギーネ様は絶対欲しがらないと思うのだけど、ディートリンデ様もそんな事を今の段階ではしないと信じたいですしね。ゲオルギーネ様の名前を出した時点で別の黒幕の可能性も否めませんし、別の使い方があるのかもしれませんが。

 

 

 

 

さて、物を盗まれた以外は特に被害なく終わったので、以前手に入れた銀の布を加工する準備をします。銀の布は予想通り魔力を通さない糸で編まれた布の様です。

 

ウラノの世界の『破邪の銀(みすりる)』的なものでいいのかな、え、みすりるは魔力を上げる素材だって?定義はいろいろだよねきっと。

 

せっかく編んであるのに、もったいないですが一度ほどいて糸に戻します。シュミルである程度自動化したとはいえ、なかなか大変な作業でした。

 

『ウィーベン!』

 

シュタープを、機織りの女神 ヴェントゥヒーテの機織り機に変化させます。

 

うふふん、お母さんとトゥーリが一番信仰する神の道具を模した機織り機を作れるなんて言ったらうらやましがられるかな。

 

何度かこっそり使ってきましたが経糸(たていと)を勝手に調整して張ってくれますし、緯糸(よこいと)を編んでいくのも補助してくれます。

 

ウラノの世界の『きかい』まではいきませんが、ものすごく楽です。

 

ちなみに出来栄えにそこまでこだわらなくていいものは、この機織り機があれば汎用シュミルでほぼ全自動で布を作れます。

 

レッサー君で始めは頑張ったのですが手足が短すぎて口なども利用して自動化しようとしましたが無理でした。

 

この間の魔王様の時ように、壊されたくないので戦い以外で使いたいのですが、手足が短いというのは使い勝手が悪いのです。

 

レッサー君の地位向上への道のりは長いです。

 

さて、今回は私の手で作るので、機織り機を使って経糸(たていと)には丈夫で燃えにくい糸を、緯糸(よこいと)には銀の糸を使って作り直していきます。

 

途中で緯糸(よこいと)を魔力糸に変えたりして魔法陣に干渉しないように工夫し、ばれないように外套の内側に身につけられるようにします。

 

ヴェールも作れば全身を銀の糸で覆えますので、境界にある結界もすり抜けられるでしょう。

 

これで後は、契約の問題を残すのみですね。グルトリスハイトも魔石を利用し魔剣を作る要領で魔力を込めれば耐久性が上がるものを一つ作りましたし順調です。

 

レティーツィアも神事に興味があるのか、教えに行くと、いろいろ聞いてきますので私がわかる限りは教えています。神殿長の引継ぎと言っても前神殿長は健在ですし神官長もいますので彼らがいればやり方自体は何も問題ありません。

 

私が、神殿長の証である鍵の所有権を破棄すればそのまま次の方が登録してもらえばいいですし、なかなか順調ではないでしょうか。

 

お米は有り余るくらい作りましたが品種改良は進んでいるのかいないのかよくわからない状態です。

 

もち米はもち米で利用できるのでそれなりの量を作っています。

 

シュミルに餅つきをさせたらそれなりに絵になりますよね?

 

 

 

 

「というわけで皆様、餅つき大会をしましょう。」

 

私は孤児院のまとめ役をしている者なのですがローゼマイン様がまた何かやり始めました。

 

ローゼマイン様が来てから孤児院の環境は以前よりも良くなり、食べるものに不自由しなくなりました。

 

以前は払下げだけでしたので全く足りなくやりくりが大変でしたが、今は自分達で作れるようになっただけでなく、孤児院の食事を食べていった変わった貴族の方がとても美味しいとのことで野菜を貴族の方に卸したりもしています。

 

恐らく私達が育てている野菜がおいしいのは、野菜を育てている土地をローゼマイン様が直々に祝詞で祝福をかけているためだと思われます。

 

ローゼマイン様は、売れもしない海外のお米と言う主食に並々ならぬ情熱を注いでいるようで、品種改良をおこなっているようですが、うまくいっていないようです。

 

ローゼマイン様のおこなうことなので何か意味があるのだと思いますがお米に関してはなぜそこまで情熱を傾けるのか全く理解ができません。

 

また、孤児院の者だというだけで外に出ると侮蔑の目で見られたり、対応を悪くされるのは当然だったのですが、そういう方が極端に減りました。逆にローゼマイン様について聞きたがる方が多く、私達に、良くしてくれる方がとても増えました。

 

領主一族であり、領主候補生であるにもかかわらず、誰にでも分け隔てなく接し話してくださるローゼマイン様は孤児院でも大人気です。

 

来た当初こそ領主候補生として威厳を出そうとされていたのかわかりませんが、あまり触れ合う機会も少なかったのですが、最近は孤児院の教壇にローゼマイン様ご自身で立ちみんなに教えだしました。

 

これが驚いたことに分かりやすいのです。ローゼマイン様が孤児院で直接教えているという噂がどこからか流れたらしく最近では町民だけでなく下級貴族の方まで来るようになりました。

 

貴族の方まで来だすと流石に問題が起こるかもとひやひやしていたのですが、皆様ローゼマイン様の話題などで盛り上がっており、とても仲が良いようです。

 

ローゼマイン様はご自身で教えるだけではなく勝手に厨房に入り、料理までしていることがあります。本人は調合がうまく行かないから練習代わりだとか言っていますが、そもそも料理をする貴族など聞いたことがありません。

 

しかもかなり美味しいのです...。変わったものばかり作りますが。

 

この間のカレーライスモドキとか言う海外の料理は子供達にも大人気でした。

何だかんだで美味しいものを食べられると言うことがわかってみんなひそかに楽しみにしています。本当は止めないといけないのでしょうが神殿長なので誰も止められません。

 

そういうこともあって、子供達からは物凄く慕われています。中には死んでしまった姉の幻想をローゼマイン様にみている子もいます。

 

ローゼマイン様も孤児院の子達とのふれあいをとても大事にしているようです。

 

最近は隣の領地と緊迫した雰囲気になっていたこともありローゼマイン様もいろいろ大変だったようで、その噂がなくなった辺りからより触れ合う機会が増えたり、不思議な行動が増えたので精神的に安定させる意味もあったのかもしれません。

 

そんな領主一族どころか貴族らしくない行動も多いローゼマイン様ですが、いざ神事になるとまさしく天使のように美しく、まさに神の遣いのように触れがたい荘厳な雰囲気になります。ローゼマイン様の祝福は何度見ても美しく感動するものです。その姿しか見ていない人が信仰の対象にするのも無理のないことでしょう。

 

さて、そんな私達の理解を超えた天使であるローゼマイン様が餅つき大会なるものをするとのことです。

 

砂糖で煮詰めた豆や、乾燥させた豆を挽いたものに塩と砂糖を混ぜたものや、スープを既に用意させています。

 

もち米と言うローゼマイン様が生産している米も蒸らしています。

 

後は精米機と呼ばれている水車に設置されている杵と臼と少し大きな水入れを用意し、ローゼマイン様が作るシュミル2体向かい合わせ、片方が杵を持っています。臼に蒸らしたお米を入れて片方のシュミルが杵でついて、もう片方のシュミルがこねていきます。

 

とても可愛らしいですね。皆さん暖かい目でシュミルを見ています。

 

つく速度と、こねる速度が上がっていきます。

 

ローゼマイン様が心なしか落ちつきなくそわそわしだしたかと思ったところ。

 

ばん!

 

いい音がなりました。こねるシュミルが停止します。

 

どうにも杵でこねていたシュミルの手を打ってしまったようです。

 

両方のシュミルを退かして、誰かついたりこねたりしたい人はいますかと少し動揺した声でローゼマイン様が聞いたところ、やりたいやりたいと言う声が上がりみんなで交代でつくことになりました。

 

出来立てのお餅はとても柔らかく美味しいものでした。喉に詰まらないよう少しずつ食べてくださいまし、とのことです。

 

忠告をちゃんと聞かないものが案の定、喉につかえローゼマイン様に癒しをもらっていました。

 

癒しなんて普通の貴族は平民にはしないものですがローゼマイン様は平気でします。

 

たまに重症患者が神殿に運ばれ癒しをかけることもあるほどです。ローゼマイン様が隠し部屋に籠るとなかなか出てきてくれないのですが緊急連絡用の魔術具が神殿には設置されており、そちらを押すと必ず出てきてくれます。

 

ちなみに隠し部屋から出てきてくれないときは、いつも使いたくなりますがローゼマイン様の信頼を裏切りたくないので誰もただ出てきてもらうためだけには使いません。

 

そのような素晴らしい方なのですがお体はあまり強くないようですし心配になることもあります。もし、ローゼマイン様に何かあって神殿から去られたらどうなってしまうのでしょうか。

 

レティーツィア様も神事に興味がおありのようですがローゼマイン様の影響だと思われます。そのため、もしものことがあってローゼマイン様がおられなくなったらその後はどうなるかわかりません。

 

わがままかもしれませんが、できるだけ長くローゼマイン様には神殿にいて頂きたいものです。

 

 

 

 



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最終章 貴族院3年目 世界
71話 貴族院三年目開始


さて、今年も貴族院へ向かう時期となりました。

 

レティーツィアの専任の教育係も決まったようなのですが、なぜかその後も私に教えてほしいと呼ばれることがあります。

 

主に今までやったことの復習や貴族院の範囲なのでいいのですが。

 

アウブとの契約もどうするのか話し合い、エーレンフェストとの接触要項も確認します。

 

接触を避けるのは最大限努力するのままですが、接触してしまったらアーレンスバッハに不利益を与えない限りは自由とするとのことです。

 

お茶会などで接触する分には回避できそうです。当初から見ればものすごく緩くなりましたね。

 

アーレンスバッハの利益となるように動かなければならないという案もありましたが、どこまでが利益になるのか判断が付かないとのことでこうなりました。

 

今年も冬の子供部屋に集まり、皆さんで事前に準備や勉強などの復習をしながら移動を待ちます。

 

何だかんだで最初から普通に準備できているのって初めてですよね。

 

神殿で教えていた人とかもいて、普通に話しかけてくれる人も増えたような気がします。

 

「では、ローゼマイン。先に向かいますわね。」

 

「ええ、わたくしも後日に。今年もよろしくお願いします。ディートリンデお義姉様。」

 

先にディートリンデ様が貴族院へ向かうのをお見送りします。

 

私が行くときはレティーツィアが今年もお見送りに来てくれます。

 

「お姉様、しばらく会えないのは寂しいですがお体に気を付けて行ってらっしゃいませ」

 

「ええ、ヒルデブラント王子に会ったらそれとなく今のお気持ちをお聞きしてきますね」

 

「ヒルデブラント王子との婚約は、確定も何もしていないので必要ありません。」

 

レティーツィアは恥ずかしがっているようでもないし、なんだか本当に興味なさそう。

 

結婚する可能性があるのにそれでいいのでしょうか。私も去年のオルトヴィーン様の件があるから強くは言えないけど。

 

「ええ、まあ王族に関わる機会なんてほとんどないでしょうし、レティーツィアがそういうならやめておきますね。」

 

今年は、お守りも増やしましたし、ユレーヴェと育成の神アーンヴァックス様のおかげか体力もついてきて寝込むことがかなり減りました。そのため薬も以前より少なく済み余裕を持てそうですね。

 

お父様やお母様も何事もなければ来年の夏の初めくらいには、魔力器官も本人の良い状態だった以前の時ほどには戻らないでしょうがほぼ問題ない状態になるでしょう。

 

私個人としては後どうにかしなけ得ればいけない問題は契約を残すのみなんですよね。

 

契約の強制破棄については呪い返しの要領とか、いろいろ開発はしていたのですが仮に相手が万全の状態であっても、相手か私かのどちらかがはるか高みに上りかねない方法しかないんですよね。

 

そんな方法はさすがに取れません。私のせいではるか高みに上らせたくありませんし、上りたくもありません。

 

 

 

 

さて、いつも通りに貴族院につきます。

 

今回は子供部屋で皆様に挨拶が終わっているので着いた後も簡単に済みます。

 

去年はディートリンデ様を中心になんだかギスギスした雰囲気でしたが、今年は特に何もなく穏やかです。

 

「ローゼマイン、よく来ましたわね。」

 

「ディートリンデお義姉様、今年は冬の屋敷へも問題なくは入れましたし、いい年になりそうです。」

 

「そういえば、ローゼマインが貴族院へ向かう前に順調に来たのは初めてかもしれませんね。」

 

まったくです。そのあとディートリンデ様の会話が始まります。

 

なんでも、夏にエーレンフェストへゲオルギーネ様と一緒に行ってきたそうです。あのようなことがあった後なので大丈夫だったのでしょうか。

 

「ご無事でよかったです。エーレンフェストはどんな様子でしたか。」

 

「あら、エーレンフェストとはいろいろ問題がありましたが、交流のために出向いた者に狼藉を働くわけなくってよ」

 

まあ、そんなことになったら今度こそどうにもならなくなりますが。

 

「ヴィルフリートについて、最終確認という意味もあったのですけどね。」

 

ヴィルフリート様の件?ああ、そういうことですか。少し残念そうな表情から察するに...まあ、ヴィルフリート様は乗り気ではなかったようですからね。

 

「ローゼマインのおかげで、髪飾りも注文できたし良しとするわ。」

 

先に現物押し付けて正解でしたね。いらないものを持っていてもしょうがないし。

 

「それは、良かったです。どのようなものを注文されたのですか。」

 

「それは卒業式当日のお楽しみですわ。本当はローゼマインも連れていっていろいろ意見を聞きたかったのだけど。お父様が猛反対してだめでしたわ。」

 

契約のことは知っていても、そこら辺の事情は聞いていないのかな?

 

ディートリンデ様は演技なのか本当に思っているのか全く分からせない方なので判断が付きません。どのみちお断りしないといけなかったので、私まで話が来なくて助かりました。

 

いえ、もし万が一にでも許可が出るのなら行きたかったですが。

 

 

 

 

さて、その後は例年通り、復習です。と言ってもすでに冬の館でしてきましたし、座学については問題ないでしょう。

 

今年は、神殿で教えていたせいかいろいろ聞いてくる方が多いです。特に下級生からの質問が多いですね。

 

わたしでなくても良いのでしょうが、聞かれた以上答えてあげるべきですよね。

 

え、アーレンスバッハの成績を上げるといろいろまずいって?

 

なんだかんだでアーレンスバッハは4位になってしまいましたし、いまさら私一人程度がどう動こうと大差はないのです。きっと。

 

 

 

 

さて、進級式へ向かいます。寮を出るとすっかりお馴染みになっていた6から番号が変わっていました。

 

以前から講堂はさほど遠くはありませんでしたが、4位だと更に近くなるのですね。

 

講堂に着き進級式が始まります。順位が上がったので、周りの方々も変わりますね。

 

進級式では、毎年ほとんど言っていることが一緒です。配置されている魔術具や魔法陣も大体解析できたので以前の緊張感が嘘のようにただ聞くだけですね。

 

進級式が終わると講堂を出て、親睦会に向かいます。

 

「4位アーレンスバッハより、ディートリンデ様とローゼマイン様がいらっしゃいました」

 

もう、慣れたものです。去年と違ってディートリンデ様も普通ですし。

 

全員集まると例年通りヒルデブラント王子へあいさつし、上位領地へあいさつです。去年と違ってさらに少なくなったので挨拶だけは楽ですね。

 

王子も二度目ということもあって、去年の緊張した感じはなく笑顔です。

 

「ローゼマイン、今年もよろしくお願いしますね。」

 

レティーツィアについて聞いてみたい気もしますが、まあ、機会があればですね。

 

「恐れ入ります。」

 

アナスタージウス王子と違ってあっさり終わるからありがたいですね。

 

クラッセンブルクはディートリンデ様に対応してもらい、ダンケルフェルガーだけはディートリンデ様と相性が悪いので私が中心となってあいさつします。

 

レスティラウト様とハンネローレ様に再開の挨拶をします。

 

「ローゼマイン様、何やら色々な噂がこちらまで入ってきておりますがご無事の様で何よりです。」

 

うん、どこまで噂が流れているのだろう。今年はいろいろありすぎてどの噂かわからない。

 

「ご心配ありがとう存じます。ですがわたくし、むしろ去年より調子がいいくらいですわ。ハンネローレ様もお元気そうで嬉しいです。」

 

その後、図書館の魔術具やお茶会についてなど少し話します。

 

「相変わらず、アーレンスバッハらしくない貧相な格好だな。其方生まれる領地を間違えたのではないか。」

 

おっと、レスティラウト様が契約関係で探りに来たのかな。

 

「神殿に住んでいたため、このような恰好が楽なのです。そこまで貧相でしょうか。」

 

「お兄様!失礼ですよ。それではローゼマイン様の格好がおかしいみたいではないですか。ローゼマイン様の格好は別におかしいものではないではないですよ。」

 

よかった。おかしいまではいかないんだね。派手な恰好をして目立つよりいいのです。

 

「お気遣いなく、ディートリンデ様からも、よく指摘を受けるのですがどうにも落ち着かないので。」

 

「そうだ、お兄様歴史書についてお話があったのでは。」

 

歴史書ね。印税の件がありましたね。印税と言っても領主一族のみしか読まないとか、ただで配布するとかだった場合無駄なんだけどね。

 

「ああ、まあまあだった。」

 

「お兄様に言わせると、よくできていて良かったとのことです。」

 

ハンネローレ様...まあ、褒めるということができない人には慣れています。

 

 

 

 

ダンケルフェルガーが終わるとドレヴァンヒェルです。

 

こちらは基本的にお任せです。と言っても領主候補生のオルドヴィーン様と少し話したくらいですが。

 

お母様より多少の情報が流れているのか、大変だったようですね。と言われましたがそのくらいです。

 

向こうもあまり興味がなくなったのか、契約関係で諦めたのかよくわかりませんがあまりしつこくされずに良かったです。

 

こんな訳ありな私を第一夫人に迎えるとか大変になることは目に見えてますからね。

 

現状を見ますと、ドレヴァンヒェルから婿に来てもらうという事でもない限り次期領主の第一夫人以外で出すとは考えられませんからね。

 

そもそも、お父様としては私をアーレンスバッハから出すつもりはさらさらないようですが。

 

 

 

 

こちらのあいさつ回りが終われば、後は待つだけです。

 

エーレンフェストがやってきます。

 

「あら、ヴィルフリート。ライデンシャフトの季節にお世話になりましたわ。」

 

「ディートリンデもお変わりなく。お元気そうでよかった。」

 

今の会話を見る限り悪い関係ではなさそうですが、そうなると結局のところこの二人はどうなるのでしょうか。

 

まあ、ディートリンデ様がエーレンフェストへ嫁ぐとは思えないし、ヴィルフリート様がアーレンスバッハへ婿入りも考えにくいしなぁ。

 

何事もなければ、ディートリンデ様も領地(アーレンスバッハ)の上級貴族を迎えることになるのでしょうが。

 

となるとお相手は側近のあの方ですかね。分かりませんけど。

 

この後は、親族同士や領地同士のお茶会するということで話がまとまります。

 

「去年はいろいろ不幸な行き違いがありましたが、せめて貴族院にいる間だけでも仲良くしたいものです。」

 

「あら、私たちは親族同士ですし、悪くなりようがないですわ。ねぇ、ローゼマイン。」

 

「ええ、わたくしもエーレンフェストとはお隣同士ですし、仲良くやっていきたいと存じます。」

 

本当は私が動ければいいのだけど。能動的に動くのは契約上不可能なので仕方ありません。

 

契約が緩くなっただけでも感謝しないといけないのでしょうが...。

 

 

 

 

夕方から次の日にかけて、復習などを行い最初の試験は簡単すぎませんかね。

 

大神とその眷属神をすべて書き出すだけとか、うちの孤児院の子達だって簡単に合格できるよ。

 

眷属外神をいくつか出してもよかったのではなんて思ってしまいます。

 

いまだ不明な孤児院の前に置かれている神はやめて欲しいですが。

 

合格者は、アーレンスバッハは半分を超えるくらいですか。

 

エーレンフェストは全員が合格でドレヴァンヒェルが七割くらいの方が合格の様です。

 

他の寮は少ないですね。神の名前を覚えることは大事なことなのになんででしょうか。

 

さて、今回の試験を合格できないと午後の実技が受けられないので合格していてよかったです。

 

神様の中には長く読みにくい名前の神もいますので、ちょっとした記述間違い(ケアレスミス)で落ちた人もいたのではないでしょうか。

 

 

 

 

 



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72話 神々のご加護

午後は神々の加護を得るという実技なわけですが、グルトリスハイトの知識を見る限り加護を得ていないとグルトリスハイトを取得できないはずなのですがどうなっているのでしょうか。

 

嫌な予感しかしません。私は条件を満たしているなどと言われた以上どこかで得ているはずなのですが全く心当たりがありません。

 

お、ハンネローレ様だ。ダンケルフェルガーは合格者がとても少ないけど、さすがは領主候補生です。

 

私がハンネローレ様に挨拶しました。すると、ハンネローレ様がアーレンスバッハの生徒を見回し少し恥ずかしそうに言ってきました。

 

「アーレンスバッハもかなりの方が合格されているのですね。ダンケルフェルガーは見ての通りで少し恥ずかしいです。」

 

「神々の名前は長いですからね。わたくしは生まれてからずっと身近でしたし、神殿を管理するために必要な知識でしたので覚えなければなりませんでしたが、必要がなければなかなか覚えられないですよね。」

 

今話してみて思いましたが、考えてみれば、神殿の常識で考えてはいけないんですよね。神事にほとんど関わらない貴族の方々が自身に関わりのない神の名まで覚えているとは思えません。

 

「ええ、大変でした。ここにいる合格した方もローゼマイン様がディッターで強いのは神々について詳しいからだとか言い出して必死に覚えた方々なのですよ。」

 

変なところに私の影響が広まっていますね。問題にはならないでしょうから別にいいのですが。

 

「わたくしも神々について覚えるために必死に聖典を読もうと頑張った時を思い出します。初めて聖典を読めたときは感激したものです、あの時、初めて神々を身近に感じられました」

 

自分で言っていてあれだけど、実際は知識に飢えていただけなんだけどね。

 

「何時頃読まれたのですか。」

 

「4歳くらいだったかと思いますが。あの時は小神殿を管理させられていましたね。」

 

「そんな時から、神殿の管理を...。他に人はいなかったのですか。」

 

いくら何でも若すぎるってことだよね。

 

「余りの人手不足で、その村に神官として勤務できるものが私しかいなかったのです。その小神殿のあった村にお世話になり一緒に暮らしていました。」

 

こっち来てから嘘ばかり話しているなぁ。完全に間違いじゃないのだけど。

 

「貴族なのに神殿に入れられていただけでなく平民と村で暮らしていたなんて...。」

 

「神殿は、平民との繋がりが深いところです。あの時の暮らしは厳しいものでしたがそこで得たものは私の中で今でも残っていますし、今思い返しても幸せな時間でした。あ、この話はここだけの秘密ですよ。」

 

まあ、貴族としては失格だよね。平民になるつもりだなんて言ったらびっくりされるだろうね。

 

「ローゼマイン様のことが少しわかった気がします。お互い神々の祝福が得られるように頑張りましょう。」

 

 

 

 

そのあと、クラッセンブルク、ダンケルフェルガーが少人数で前から座り、ドレヴァンヒェルは多いですね。次にアーレンスバッハです。

 

エーレンフェストは後ろですが異様ですね。合格した人数だけならアーレンスバッハもあまり変わりませんが全員合格とはやはりすごいです。

 

さて、お祈りの言葉を先生に教えられますが、お祈りの言葉は知っています。すでに知識にありますし、やろうと思えば儀式の場から作れます。

 

材料がないため、すぐに儀式の場は用意できませんが、神殿の祭壇を利用すれば魔法陣を用意するだけで簡単にできます。もちろん、何かがあると嫌なので今までこの儀式をおこなったことはありません。

 

「先生、覚えましたのでお願いします。」

 

覚えるまでもありません。さっさと行きましょう。他の方は少し時間がかかるでしょうからその間なら何があっても対処できるでしょう。

 

属性については公開される場合が多いですが、得られた神については領地で秘匿する場合も多いので今日はうちの寮監も来ています。

 

「んまあ!今話したばかりなのに大丈夫ですの?」

 

「神殿の神事でほとんど同じ言葉を使いますし、礎に魔力を奉納するときも似たような祈りの言葉を唱えますので問題はございません。」

 

他の領地の領主候補生は、礎に供給するときも祈りの言葉を唱えるのかとびっくりしています。私もグルトリスハイトを得るまでは適当な祈りの言葉で魔力を奉納していました。

 

「エーレンフェストでも似たような祈りの言葉を唱えながら礎に魔力を奉納するが、さすがにまだ覚えられません。」

 

礎に魔力を奉納するときに祈りの言葉を捧げるのはエーレンフェストぐらいみたいです。

 

まあ、そんな話はどうでもいいのです。他の方に迷惑をかけずにさっさと終わらせることが重要なのです。

 

祭壇のある最奥の間に案内されます。魔法陣の中央で祈りを捧げれば魔力が奉納され神々のご加護が得られるという流れです。

 

さて、では祈りを捧げますか。

 

 

 

 

まず、最高神と五柱の大神の名を唱えると反応があり魔法陣にそれぞれの貴色が立ち並びます。ただ、どの色も本来の貴色よりも薄く透明なのが気になりますが。

 

その後に眷属の名を唱えていくのですが、こちらも反応があるにはあるのですがなんというかかすれていると言えばいいのでしょうか。はっきりとした反応ではないのです。唱えていく神々すべてがそのような感じです。

 

本来はグルトリスハイトを得るための前提条件を確認するための儀式でもありますしね。既に手にしてしまっている弊害が起こっているのでしょうか。

 

最後に「御身のご加護を賜らん」と締めれば儀式が起動します。

 

一度最高神と五柱の大神の七つの柱がぐるぐる回り中央に風の女神 シュツェーリアの貴色と同じ黄色い大きな光の柱が立ちます。

 

その後中央にできた光の柱はゆっくりと上へ上っていき他の柱はそれぞれの祭壇の神の像へ吸い込まれていきます。

 

その後、祭壇の神の像が回りだし、中央の柱が上をこじ開けるかのように弾け、以前にはじまりの庭へ行くのに上った最後の螺旋階段が姿を表します。

 

「んまあ!なんですのこれは!」

 

「先生、どうも最高神がはるか高みへと呼んでいるようなので行ってきますね。」

 

何が起こっているかは分かりませんが、何かが起こる予感はしました。

 

「んまぁ!どうしたらいいのでしょう!どうしましょう?」

 

うちの寮監は混乱の極致のようで何を言っても聞いてくれなさそうです。

 

「んまぁ!んまぁ!行かせていいのかしら!?」

 

んまぁ!んまぁ!とか言っていないで落ち着きましょうよ寮監...。混乱していますが行かないと次の人が困るので勝手に向かいます。

 

階段を上ると、そこは以前と同じはじまりの庭です。

 

やはりこの空間はいいですね。心がなごみます。今回はぼんやりとしか見えなかったうるさい神もいないですしいいですね。

 

すぐに帰らないといけないのが難点ですが...私が深呼吸して帰ろうとすると入り口が消えています!

 

どういうこと?

 

そこで空間がいきなり塗り替えられていきます。えっと、家の中だと思うけど、知らない家です。

 

ウラノの世界の家のリビングのような空間ですが、ウラノの住んでいた家の知識とも合致しません。とそこでいきなり人が現れて声をかけられます。

 

「あら?呼び出されちゃったのかな。ようこそ、一応はじめましてマイン。」

 

なんであなたがここにいるの!?

 

「なんであなたがここにいるって、呼び出したのはあなただし、言うまでもなくあなたはわかっていたはずよ。あ、なんで私が心で思っていることがわかるのなんて野暮なことは聞かないでね。」

 

おかしいです。ここにいるはずのない人物です。だって彼女は...。

 

「今は時間がないから顔合わせだけね。後でまた会いに来てね。次に会いに来るのが余り遅すぎても困るけどね。まあでもタイムリミットと言ってもあなたが私を楽しませてくれている間は維持してあげるから私を飽きさせないように頑張ってちょうだい。」

 

そう一方的に彼女が言って空間に亀裂が入り壊れ落下します。

 

あうち!祭壇の魔法陣の上に落とされました。そこそこ高いところから落とされたようで、お守りが発動して問題はなかったのですがずいぶん手荒です。

 

「んまぁ!大丈夫でしたの。いきなり階段が消えたと思ったら上から落ちてきて驚きましたわ!」

 

先生も驚いていますが当事者である私の方が驚くことばかりです。わかっていたはずなんて言われても何がどうなっているのかさっぱりわかりません。

 

 

 

 

周りからいくつの神から加護を得たとか聞かれますが、頭が混乱で働きません。

 

私が戻るとすぐにこんな会話が聞こえます。

 

「ヴィルフリート、もう行くのか。」

 

「ああ、行って来る。」

 

周りも明らかに私が混乱しているのかわかるのか声をかけてこなくなりました。

 

しばらくすると、ヴィルフリート様も戻ってきます。どこか不満そうな表情です。

 

「ヴィルフリート、いくつの神から加護を得たのだ。」

 

「21の神々から加護を得た。」

 

「21だと!すごいじゃないか。そんなにたくさんの神々から加護を得たなんて聞いたことがないぞ。なんでそんなに不満そうなんだ。」

 

21ですごいんだ。オルドヴィーン様がこれだけ驚いているんだからきっとすごいのでしょう。

 

「フェルナンド叔父上が言うには条件を満たすと特殊な現象が起こるらしいのだが起こせなかった。」

 

「なんだそれは。」

 

私も気になります。さっきの現象につながるのでしょうか。

 

「詳しいことは一切わからん、私も特殊な現象が起こる場合があるとしか聞いていないからな。」

 

詳しくは聞いていないのか。まあ、魔王様のことだから起こせれば自分の目で見て来いってことかな。ああ、魔王様に相談したいです。ヒルシュール先生あたりに仲介してもらって聞けませんかね。

 

私の場合は果たして加護を得られたのでしょうか。なんというか雲をつかむような感触といいますか、簡単に零れ落ちるような何とも言えない感触だったのですが。他の人にもぜひとも聞いてみたいです。

 

 

 

 

その後、オルドヴィーン様や、ハンネローレ様が入っていき、ほかの貴族院の学生も入っていきます。

 

ハンネローレ様が戻って来たのでどうだったのか聞いてみます。

 

「ローゼマイン様やりました!ドレッファングーア様の加護を得られました。」

 

その後、反応の様子について聞いてみると柱の色が薄いのは別におかしくないとのことです。

 

以前から、他の方もそんな感じとのこと。アーレンスバッハの方にも聞いてみますが同じような回答でした。

 

皆さん同じだからと言って安心できる要素ではないですが、とりあえず私だけではなかったようです。

 

こぼれ落ちるようななんとも言えない感触というのはわかってもらえませんでしたが...。

 

 

 

 



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73話 図書館と領主候補生講義

次の日もなんだかんだで周りの方に教えつつ講義も合格し、午後の実技です。

 

音楽なのですが、うん、ユレーヴェ明けほどではありませんが魔力のコントロールが大変になっています。

 

課題曲も昔にやったことのある曲ですし、自由曲はウラノの世界の『民謡』をアレンジし、ヴィーゲンミッヒェ様など子供を守る神々に捧げる曲を作りました。

 

祝福が止まりませんが少し魔力を放出しておいた方がいいので気にしません。少し使えば今回も制御だけなら問題なさそうです。

 

そもそも、グルリトスハイトを得ているのにこのような状態になるのが異常なわけですが、そんなことを言っても仕方がありませんね。

 

 

 

 

その後も何も問題なく講義や実技が進んでいきます。

 

なんて順調なのでしょうか。ここまで問題のない年は初めてではないでしょうか。

 

などと思っていたら、土の日に図書館より呼出です。あんなことがあった後なので、なんだか図書館には行きにくくなってしまって行っていませんでした。時間も当然ありませんでしたしね。

 

図書館へ向かう途中で、ハンネローレ様に出くわします。なんでも、ハンネローレ様も呼ばれたとのことです。

 

向う途中で話を聞いてみると、よくシュバルツとヴァイスに魔力供給をしてくれていたためのようです。

 

「新しい司書が来られたとのことで、良かったですね。」

 

「ええ、でもシュバルツとヴァイスに触れなくなるかもしれないと思うと少し残念ですね。」

 

私としてはさっさと変わってもらって問題ありませんし、ソランジェ先生が困らないようになるのなら全く構いません。

 

ちなみにディートリンデ様にも一緒に来ますかと聞いたのですが。

 

「今の寮にはローゼマインが作ってくれたこの子たちがいますし、王族の魔術具関係なのですから、呼ばれていませんし、めんどくさい方々が来そうなのでやめておきますわ。ローゼマインも気を付けるのよ。」

 

とのことです。特にシュバルツとヴァイスについてそこまで興味がないようで良かったです。

 

ええ、本当に新しく寮専用にシュミルの魔術具を作っておいてよかったです。

 

「ローゼマイン様、ハンネローレ様、図書館までご足労いただき、ありがとう存じます」

 

「あるじひめさま きた。」

「あるじひめさま ひさしぶり」

 

何か気になることを言っていますが無視して、図書館に着き、ソランジュ先生と長ったらしい挨拶が終われば、ソランジュ先生の執務室へ向かいます。

 

「ローゼマイン様のことですから、お一人でふらっとお越しになるかと思ったのですがお越しになられなかったので」

 

なんでも、やはり図書館の魔術具を貴族院の学生に頼っている状況はよろしくないとのことで早めに交代したかったようです。

 

確かに以前なら、ふらっと寄ったりする可能性もないことはなかったのでしょうが。行かなかったおかげで、シュバルツ達の関係者であるハンネローレ様と一緒に来られたからよかったです。

 

執務室の中に入るとずいぶん沢山の人がいます。これはディートリンデ様の言葉が正しかったのですかね。

 

エグランティーヌ様とヒルデブラント王子ですね。

 

ハンネローレ様と一緒にエグランティーヌ様さまにお久しぶりの挨拶をします。

 

エグランティーヌ様がここにいるのは、領主候補生の講義を担当するためだそうです。

 

あの妻大好き王子ことアナスタージウス王子が良く許可しましたね。

 

この御二方が図書館にいるのは王族の魔術具の登録変更になるので、王族が立ち会うことになるとのことです。

 

それならヒルデブラント王子だけでいいのではと思っていると、ヒルデブラント王子がほんの少し不満そうに、言ってきました。

 

「立ち合いは私だけでいいと言ったのですが、エグランティーヌ様が同席を希望されたのです。」

 

お目付け役が付くのは不満ですよね。わかります。私も同じなので勝手に単独行動をとっているわけで。

 

新しく来た上級司書はオルタンシアというそうです。初めましての挨拶をし、あるじの権限を移すためにシュバルツとヴァイスに命令します。

 

「シュバルツ、ヴァイス。オルタンシアに主の権限を移します。」

 

「わかった あるじ」

「オルタンシア ひめさまけんげんをふよした」

 

えっと、姫さま権限の付与?よくわかりませんが主の交代ということでいいんだよね。

 

「やはり、前回とは違いますね。前回は、きょかでた、とうろくする。と言っていたはずなのですが。」

 

そのあと、前回と同じならしばらく私が魔力供給をしなければ主の座が変わるとのことです。

 

「ではわたくしも供給しない方がいいのですね。」

 

ハンネローレ様が少し寂しそうです。

 

「ええ、よろしければ主が交代した後にまた協力をお願いしますね。」

 

私一人では大変ですからとオルタンシアが言います。協力者の権限がとられないでよかったですね。その後、貸し出していた魔石が不要になったので返してもらいます。

 

ヒルデブラント王子が魔石について気になったようで質問し、ソランジュ先生が魔術具を動かすために私から借りていた旨を話します。

 

「春から秋にかけては動かなくても問題はなさそうですが...。」

 

まあ、あまり問題はないけど。この魔術具は私には変な態度をとるけど、他の人には愛嬌を振りまいているから動いている方がいいのです。

 

「ヒルデブラント王子は、お一人で作業をされることがないのでわからないかもしれませんが、このような魔術具でも動いていると救われることがあるかと存じます。」

 

一人でずっと作業は寂しいですからね。研究に没頭する場合は違いますし、一人が好きですがやはりずっと一人だと寂しいものがあります。

 

「ヒルデブラント王子もわたくしが差し上げたシュミルの魔術具が壊れてずっと動かなくなったらふとさみしくなる時が来るかと存じます。」

 

「確かに動かなくなったら嫌ですね。あの子にはずいぶん癒されました。」

 

そう言っていただけると、あげた側としてはうれしいですね。

 

「ローゼマイン様、シュミルの魔術具とは何のことですか。」

 

エグランティーヌ様が気になるようです。エグランティーヌ様がいたときには作っていなかったですからね。

 

「背中にしょっているこの子たちのことですわ。」

 

そう言うと私は背中のシュミルの魔術具を降ろし迷彩を解除します。2代目アインには、ただの布に見えるよう迷彩機能を追加しました。

 

実はツヴァイがいたお隣はレッサー君2匹を引っ付かせているのですがそちらは隠したままにしておきます。

 

「これは...。驚きました。大きさは小さいですがシュバルツとヴァイスにそっくりですね。」

 

「ええ、参考にさせて頂きました。機能としては足元にも及びませんが持ち物を運んでくれるだけでもわたくしとしてはありがたいです。」

 

「ええ、ローゼマインが作ったこの子たちは、とてもすごいのですよ。今は私の部屋にいますが、一緒にいると気が付いたら欲しいものを言わないうちに運んでくれたり成長するようです。」

 

しまった!ツヴァイは魔剣に意志を持たせる原理を利用した実験していたのですが、その機能を切り忘れていたようです。

 

まあ、悪い方向に作用しないでしょうから放っておきますか。ほとんどおもちゃみたいなものですし。

 

「ローゼマイン様、触ってもいいですか。実は去年からずっと気になっていて。この子たちも動くのですね!」

 

「ええ、どうぞ。ハンネローレ様。」

 

気になっていたのなら言ってくれればいくらでも触らせてあげたのに。

 

一緒に来ていた王族の関係者も興味津々のようです。あとでヒルデブラント王子に頼んで調べようとか話している声が聞こえます。

 

その後は、簡単なお茶会的なものになって本の話や、去年の私の研究の話などになって無事に終わりました。

 

 

 

 

週明けに領主候補生の専門講義が始まります。

 

講師は図書館で言っていた通りエグランティーヌ様です。王族が講師ってよく考えたらすごいですね。

 

お隣は...わあい、ハンネローレ様ですね。

 

「ハンネローレ様、ごきげんよう」

 

「ローゼマイン様、ごきげんよう。」

 

講義は礎の魔術の扱いだそうです。領地を模して小型化した魔術具ですね。魔術具にたくさんついている魔石に魔力を通せばいいそうです。

 

「エグランティーヌ先生、終わりました」

 

この程度の魔力なら、何度かやるのを手伝わされたエントヴィッケルンと比較にもなりません。

 

「もう終わったのですか。まさかこの短時間で染めてしまうなんて...。」

 

さっさと次の課題へ入らせてもらいます。

 

「次はこの流れですと金粉と設計図でしょうか。よろしければ次へ進みたいのですけど。」

 

「ええ、それにしても手馴れていますね。まるで何度もエントヴィッケルンをやったことがあるかのようですね。」

 

まあ、準備はしたことがあります。設計図以外はほぼ一人で...。この後、金粉の準備と設計図を作り、次へ進みたかったのですが...。

 

「闇の神と光の女神の名を教えるための準備ができていないのでここまでですね。次回は実際に色々と行いましょうね」

 

準備が大変でしょうから仕方がありません。諦めます。

 

ちなみに私の設計図は神殿を中心に研究所とか図書館とか農地用の敷地を設定したり用水路なども設計しています。知識の集積と、おいしいお米を作ることを目的とした研究都市のようなものですね。

 

 

 

 

午後は奉納舞です。

 

始まる前にダンケルフェルガー御一行が私のもとに来ます。

 

お茶会の予定などを話し合っていると、ディートリンデ様と話していたレスティラウト様がこちらに来ます。

 

「其方、面白い髪飾りをしているな。ちょっと見せてみろ。」

 

「お兄様、女性の飾り物をそのように見るのは失礼ですよ!」

 

あはは、私は別に気にしなけどね。

 

「飾りに見せた魔術具ですわ。図書館のシュミルの技術を利用応用して魔法陣も糸で刻んであるのですよ。」

 

「エーレンフェストの髪飾りとそっくりだな。試しにヴィルフリートに頼んで注文してみたがどうなることやら。」

 

わあお、もしトゥーリにお願いされてたら大変だね。頑張れとしか言えないけど。

 

「あら、ローゼマインは貴族院へ上がってすぐ同じような髪飾りをしていてよ。どちらが真似たとかそういう話ではないですわよ。」

 

ディートリンデ様も来ました。

 

「わたくしもエーレンフェストに髪飾りを頼んだので今度のお茶会が楽しみですわ。」

 

「ほう、其方も考案したのか。」

 

「ええ、どちらが頼んだ髪飾りが素晴らしいか。楽しみですわね。」

 

「ああ、楽しみだな。」

 

なんか、ははは、うふふという暗い笑い声が聞こえてきそうです。

 

喧嘩ばっかりだよね。この二人が闇と光の神の役とか大丈夫なのでしょうか。

 

 

 

 

そんななんだか腹の探り合いのような話にハンネローレ様と一緒に疲れてきたころに先生方がやってきました。

 

エグランティーヌ様がお手本を見せてくれるとのことです。

 

一つ一つの仕草がきれいですよね。アナスタージウス王子もエグランティーヌ様のお相手は大変だっただろうな。

 

所作からして明らかに飛びぬけてきれいです。

 

舞もきれいですね。指先まで完璧に神経を研ぎ澄ませて動かしているようです。

 

ディートリンデ様は、エグランティーヌ様の舞が好きではないようです。

 

「すでに卒業している方が舞うなんて冬の神の後押しをする混沌の女神のようですわね。ローゼマインもそう思いませんこと」

 

とか言っています。

 

「ディートリンデお義姉、エグランティーヌ様は先生としてのお勤めをはたしているだけです。」

 

お勤め大事だよね。わたしなんてほとんど契約で動いているだけだものね。

 

「今はエグランティーヌ様のことよりも、これからやるディートリンデお義姉様の舞を期待しておりますね。」

 

おーほほ、見てなさいと言った感じで学年別の練習場所へ向かっていきました。

 

さてと、祝福飛び散らせるのは確定しているので、地面に魔法陣を書いたシートをひかせてもらってと。

 

「ローゼマイン様、その地面の魔法陣は何ですか。」

 

「エグランティーヌ先生、祝福対策です。周りに迷惑をかけるわけにはいきませんので。」

 

この魔法陣は、貴族院の魔力を吸収する魔法陣に連結しており、祝福が出たそばから吸収する魔法陣です。

 

これをひいておけば、建物中に祝福を飛び散らすという過去の過ちは起こさないでしょう。

 

ハンネローレ様の我は世界を創り給いし神々に祈りと感謝を捧げる者なりから奉納舞が始まります。

 

そもそも奉納舞って神々に魔力を奉納するために生まれたのに魔力を奉納しないで踊ることが正しいのでしょうか。つまり、私のように祝福を出して踊るのが正しいなんてことは言えません。

 

今回はいい感じです。ゆったりとした服を着ていますから足元が光っていますが以前ほど目立ちませんね。

 

何とか今年は無事に終わりました。まったく目立ってなかったとは言えませんが以前ほど祝福が飛び散ったわけではないので問題はありません。

 

周りも慣れたのかそこまで注目されていない気がします。結果も無事に合格をもらえて良かったです。

 

 

 

 

次の日は領主候補生の最後の講義です。

 

お隣のハンネローレ様と話しながら始まるのを待ちます。

 

「ローゼマイン様、オルタンシア様からシュヴァルツとヴァイスの主を変えることができたと連絡をいただきました。」

 

「もう変更できたのですね。それは良かったです。」

 

「ええ、今日は無理だと思うでしょうけど、明日時間があれば行ってこようかと思います。」

 

 

 

そんな話をしているとエグランティーヌ様がやってきて講義が始まります。

 

私は奥の魔法陣がある小部屋に通されます。おお、最高神の真名を授かる魔法陣ですね。最高神の名前はみんな違うので教えてはいけないなど注意を受けます。

 

最高神の真名は、一人一人の魂に紐づいた神の加護を受け取るため、誰かに教えてしまうとその紐が切れてしまうようです。光の神様と闇の神様はとっても恥ずかしがりやですね。

 

「我は世界を創り給いし神々に祈りと感謝を捧げる者なり」

 

魔法陣を一気に満たします。なんだか感触が悪いので魔力を一気に大量に通していきます。

 

頭の中に直接闇と光の神の名前が刻み込まれるのですが、うまく言語化できません。

 

基本的に神の名は魂に紐づくので言えない言葉がなるなんてありえません。

 

かすれているというか、以前のグルトリスハイトの取得時にあったウラノの世界のラジオの電波がうまく受信できていないような音が混ざります。

 

何度か、闇と光の神の名前を言いなおし更に魔力を注入して魔法陣を起動させます。

 

起動した後に、シュタープが勝手に出てきて薄い透明な黒と金色の光がシュタープに吸い込まれます。グルトリスハイトを得たときに回った祠の現象に似ていますね。

 

ここまでやって、やっと変な音がなくなり頭にはっきりと名前が思い浮かびますがやはり異常に発音しにくい名前です。

 

シュタープは少し変わった気がしますが以前の祠で回った時のように変わったという感じはありませんでした。

 

その後は、戻ってからエントヴィッケルンを行い街を作りエグランティーヌ先生の箱庭とくっつけて領界門を作ります。

 

あ、まずい。と思ったときにはグルトリスハイトの知識で相手の領地に強制介入をやってしまいました。本当は境界門を作るには両者の許可が必要なのですが、勝手にこじ開けるかのように設置してしまいました。

 

実際の門では使う魔力量が違うので簡単にはできませんがこの程度の規模なら簡単ですね。

 

「あら、許可を出しましたっけ。まあいいでしょう。これほどの魔力をこの魔術具に込められたことはないので確かめてみなければなりませんね。」

 

とりあえず問題になることはなくあっさりと合格できました。ここまでは、すべてが順調ですね。

 

ようやく私にも幸運の女神グライフェシャーンと時の女神ドレッファングーアのご加護が少し効いてきたのでしょうか。

 

 

 

 



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74話 緊急帰還命令で緊急事態

「緊急帰還命令ですか。ディートリンデお義姉様?」

 

「ええ、ローゼマインに。何か心当たりがありまして。」

 

ディートリンデ様も困惑気味です。

 

「いえ、まったく心当たりが存じません。」

 

何やら心当たりのない命令が飛んできました。

 

今年は順調に講義は必要最低限であれば既に取り終わり、時間があれば文官コースと側仕え、さらに無理だとは思いますが騎士コースとかいろいろ見てこようかと思っていたのですが。

 

ちなみに座学は学年が同じならコースに関係なくても授業に出るのは自由のようです。さらに余裕があれば他のコースも取得してもいいとのことです。

 

「おそらく今戻ったら、奉納式が終わるまでは貴族院に戻れないかと存じますので後のことはよろしくお願いします。」

 

「ええ、何かあれば手紙で伝えてちょうだいね。」

 

急いで、ハンネローレ様やソランジュ先生に緊急帰還の旨をオルドナンツで伝え帰還します。

 

 

 

 

「ただいま戻りました。」

 

「ローゼマイン様!お待ちしておりました。」

 

何やら本当に緊急の様ですぐにこちらへと案内されます。

 

こちらはお父様やお母様の私室だったはずなのですが...。お父様の私室と思われるところに通されます。初めてきましたね。

 

「おお...、ローゼマイン来たか...。」

 

「お姉様、来てくれたのですね!」

 

弱弱しく起き上がれないアウブとレティーツィアがそこにいました。

 

「これは何があったのですか!?」

 

「以前にローゼマインが言っていた銀の粉に...やられた。」

 

は、え。銀の粉!?ランツェナーヴェが攻めて来たというわけでもございませんし。とりあえずユレーヴェですぐに処置をすれば問題ないはずなのですが

 

「お母様はどうされたのですか?」

 

「お姉様、養母様も銀の粉というものにやられたそうで養父様の隠し部屋でユレーヴェに浸かっています。」

 

とりあえず無事なようで良かったのですが、せっかくよくなって回復の兆しが見えてきたところだったので残念でなりません。これでは今度起きたときにどのような状態か想像もつきません。

 

「お父様も、なぜまだそのような酷い状態でユレーヴェに浸かっていないのですか。一刻も早く浸からないと後遺症が酷くなりますよ。」

 

アウブが今抜けるのはまずいとか、いろいろ言っていますが最後に苦しそうに言ってきました。

 

「そこにあるのが最後のユレーヴェだ。体調を崩してから作れていなかったのでな。浸かるほどは残ってない。」

 

なんでそんな大切な準備できていないの!そんなところまでゲオルギーネ様の妨害が効いているなんて...。アーレンスバッハでは他の領地よりもユレーヴェの消費が激しいのは確かですがそれにしてもアウブが用意できないはずはありません。

 

少し落ち着いて考えてみれば、私がアーレンスバッハで起きてから魔力器官が損傷状態だったのですから、貴重な材料を使うにもかかわらず作るのにかなりの魔力を消費するユレーヴェ作りには不安が残ります。そのせいで後回しにしていた可能性も十分考えられます。

 

どうしよう、ユレーヴェなんて基本的に個人用(オンリーワン)の品物ですし。

 

「お姉様、養父様は大丈夫なのでしょうか...。」

 

「レティーツィア、大丈夫です。何とかします。」

 

とは言うものの、良い方法なんてすぐには思いつかないので、とりあえずお父様の残りのユレーヴェを見せてもらいます。

 

この品質なら...。取りたくない方法の一つでしたが緊急事態です。仕方がありません。

 

「お父様、わたくしのユレーヴェをお使いください。」

 

「何を言っておるのだ。他人のユレーヴェに浸かったところでほとんど効果がないではないか。」

 

「私の場合は、魔力が特殊で魔力の特性が透明に近いのでほとんどの方が効き目をあまり落とさずに効果を発揮できるはずです。少なくとも今飲まれているユレーヴェより品質が高いもののため効果を期待できます。」

 

アウブが持っているユレーヴェより品質が高いとか、ディッターの褒章で素材を贈って下さったダンケルフェルガーの方々には感謝をしないといけませんね。

 

「だが、アウブが今いなくなるわけには。」

 

「そのようなお体で何ができるというのですか。今はるか高みに上られる方がはるかに迷惑かと存じます。」

 

「養父様、ご自愛ください。わたくしも養母様も養父様にいられなくなられては困ります。」

 

レティーツィアの言葉が効いたのかは知りませんが、苦しそうに言葉を絞りだすかのようにアウブが言います。

 

「わかった。ローゼマインのユレーヴェをもらう。」

 

 

 

 

急いで神殿にユレーヴェを取りに行き、お父様の隠し部屋にレティーツィアと私を登録してもらい、準備をします。

 

少し飲んでもらい、効果を確認すると問題はなさそうです。お母様の用意は側近にさせたとのことでしたが、お父様の隠し部屋で浸かっていました。

 

「準備ができました。」

 

少しの間なら身体強化で何とか運べます。結局レティーツィアにも最後は手伝ってもらいましたが。

 

「ローゼマイン、命令し追加した契約条項を一時解除する。くれぐれもレティーツィアとアーレンスバッハのことを頼む。」

 

「わかりました。お父様。ごゆっくりお休みください。夢の神シュラートラウムよ、心地良き眠りと幸せな夢を」

 

 

 

 

ユレーヴェに浸かったアウブはとても疲れていたようですが、穏やかな顔をしています。

 

なんで、契約さえなければ裏切るかもしれないと思われているはずの私がわかりましたと言っただけでそんなに安心したような顔をするの。

 

さっきから悪魔のささやきが強くなってきていてつらいのです。いっそのこと最後に命令でいろいろ縛ってくれればよかったのに...。

 

今なら念願だった契約破棄も以前の状態と比べれば簡単にできるでしょう。

 

とはいえ従属契約は契約の中でも最上級に厄介な契約なので、呪い返しのような凶悪な解除方法でしか解けません。

 

やれ、やるんだ。例え相手がはるか高みに上る可能性があるとはいえ、絶対ではないし、それだけのことはされてきただろうと悪魔の声が聞こえてきます。

 

耳をふさぎたくても心の声なのでふさげません。一度その可能性を思いつくと、心が抑えられなくなっていきます。思わず、グルトリスハイトを呼び出し、契約破棄の呪文を唱えそうになりました。

 

「お姉様、そんな怖い顔をされてどうなさいました。もしかしてお父様のユレーヴェの作用がうまくいっていないのですか?」

 

レティーツィアの声ではっとしました。私は今何をしようとした。そんなことをして村のみんなの前に胸を張って帰れるのか。

 

加えて、レティーツィアをこんな状態で置いていくなんてできません。出来るだけのことはすると彼女の両親にも約束をしてしまいました。

 

ここで、もしアウブがはるか高みに上ったら彼女は確実に大変なことになるのは目に見えています。何もかも投げ出しすべてを捨てたくなります。レティーツィアのことがなければなんて思ってはいけません。

 

絶対にいけないのです。もう嫌だよ。全部投げ捨てようよという私の本心を、なけなしの精神力を振り絞ってふたをします。

 

いろいろ危なかったです。危うくお父さんとのわずかに残っている繋がりの一つである約束、『私の魔力は他の人のために正しく使う』ということも守れなくなるところでした。

 

ごめん、お父さん、お母さん、トゥーリ、カミル、村のみんな。わたしはまだ帰れません。

 

「何でもないのですよ、レティーツィア。それよりもこれからが大変です。ゲオルギーネ様にこちらへ来てもらい協力してもらわなければなりませんし。」

 

どうしよう。切り替えないと。時間の余裕はあまりありませんが、一度目をつぶり深呼吸をして心を落ち着かせます。

 

さて、文官仕事の取りまとめや領地の経営、礎の魔力供給に関しては私が補助すれば何とかなるでしょうが、すでに始まっている社交界の取り仕切りなど、冬の行事は不可能です。

 

とりあえず、代表代行としてゲオルギーネ様を...。今回の実行犯最有力候補に頼まないといけないなんて...。

 

 

 

 

緊急なのでオルドナンツを飛ばすも飛んでいきません。

 

なんで!?

 

「他の方も試しているのですが、なぜか届かないようです。」

 

残ったお父様の側近やレティーツィア達もすでに試したとのことですが届かなかったとのことです。

 

とりあえず、手紙をしたため急いで持って行ってもらいます。次点としてアウブの弟君に連絡を取ります。

 

「お呼び出しして申し訳ございません。すぐ来てくださるとは助かります。ゲオルギーネ様と連絡が全く取れずにわたくし達も困っておりまして」

 

「いや、いい、それよりも兄上は無事なのだな。」

 

「ええ、ユレーヴェに浸かっておりしばらく時間はかかるかと存じますが、はるか高みに上る心配はございません。」

 

「ならばよい。こちらからも連絡を入れてみるが期待しないでもらいたい。」

 

「連絡が付かない場合は、社交界での説明と貴族の取りまとめをお願いいたします。城の管理はわたくし達が引き受けます。」

 

「できるのか。いや、兄上から話は聞いている。わかった。今の季節は執務よりも社交界の方が大変だな。社交界での取りまとめは任されよう。」

 

「ありがとう存じます。」

 

冬は貴族院関係を除き、執務がかなり減るので私達でも問題はないでしょう。

 

これで、最悪の場合でもしばらくは奉納式と執務に専念できます。

 

後は、ゲオルギーネ様が無事に捕まるといいのですが。

 

ディートリンデ様にもこの旨を報告し連絡を入れてもらいます。

 

後日、ディートリンデ様はそれなりの連絡ルートを持っているらしく、何とか連絡はついたのですが...。

 

ゲオルギーネ様も臥せっていて、私とアウブの弟君に采配を任せるって。

 

本当に悪いのでしょうか。いやな予感しかしませんがゲオルギーネ様に関わっている余裕はありません。

 

 

 

 

神殿と、城を往復しながら奉納式を終わらせます。いくら執務の関係が普段より少ないと言ってもないわけではありません。

 

私が一人でやるのは後のことを考えると良くないので、レティーツィアに教えながらになります。

 

緊急の案件は私の責任で決裁をして、問題ない案件は後回しです。緊急の案件ですら本当は決裁をしたくないのですが仕方ありません。

 

現状として城へ来られる者で、ゲオルギーネ様を除けば、領主一族で、領主候補生である私とレティーツィアにしかできないことです。

 

将来アウブになるレティーツィアに決裁をさせるのも考えましたが、ここで失敗すると後々まで尾を引く可能性があるのでアウブになる予定のない私がやった方がいいのです。

 

奉納式に関してはこんな状態にもかかわらず以前の半分で終わってしまいました。無理をしたわけではもちろんありません。

 

これまで実感がなかった、加護を得たことによって、魔力量は増えていると言いますか、他の弊害が起こり出しました。

 

あえて言うなら体よりも魔力の方が動かしやすい状態です。普通に体を動かそうとするとうまく動かないのです。

 

私の体はどうなってしまっているのでしょうか。身体強化の魔術を応用し魔力で体を動かせば何も問題ない訳ですが、操り人形になってしまったようで気持ちが悪いです。

 

食欲もあまりわかなくなってきており、以前より風邪は引きにくくなっているようなのですが不安になります。原因が一切わかりませんし、周りにもばれてはいないと思うので今は無理やり考えないようにしています。

 

 

 

 



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75話 執務関係 社交 領地対抗戦

奉納式が終われば、領主一族として滞っている執務を片し、そればかりをしているわけにもいかないので社交界にも駆り出されます。

 

私って、社交界では本当に無能だなと思って嫌になります。

 

貴族独特の言い回しには、聞いているだけで疲れ果て、嫌みを言っているとか素直にこちらを褒めているといったことはわかるのですがどういう風に相手に返したらいいのか必死になって頭の中で言葉を探すもいい返し方がなかなか出てこないのです。

 

レティーツィアの方が慣れているくらいです。一応お姉様なのに情けなくなってきますが、こればかりはどうしようもありません。

 

レティーツィアに言わせると、お姉様はいてくれるだけで話がスムーズに進み楽だと言ってくれますが妹にフォローされている姉である私...。

 

一応、レティーツィアがまずそうな発言をするとフォローはすぐできるのですが私が主体となるともう駄目です。

 

いえ、執務とか仕事の話しならどうとでもなるのですが、私自身のことを貴族の難しい言い回しで次から次へと言われると混乱してしまいます。

 

頼れるお姉様には程遠いいです。こんなことになるなら少しはまじめに社交界へ出て、社交界について学んでおくんだったと思うも後の祭りです。

 

仮に生まれ変わって同じ状況になっても社交界に力を入れている私なんて想像もつきませんが...。

 

 

 

 

領地対抗戦直前までこの状態が続きます。お父様とお母様は起きる気配すらありません。

 

二人とも治りかけまでいっていたのに、そこで再度魔力器官を傷つけられてしまった以上かなり長引きそうです。

 

こちらも、領地対抗戦の準備など貴族院の学生の求めに対して人員を出したり貴族院へ送る品物を精査したり忙しいです。

 

レティーツィアに分かるように説明しながらやらなければいけませんし、引き受けてしまった以上仕方がありません。やるだけです。アウブにもお願いされましたし...。

 

ゲオルギーネ様にも何度かディートリンデ様を通してお願いをしているのですが同じ反応しか戻ってきません。

 

相変わらず、オルドナンツも届きませんし、何とかディートリンデ様のお姉様にも連絡を取りそちらからと思いましたが反応が芳しくありません。

 

こんな小娘のことなど、どうでもいいと思われても仕方がないのですが、他ならぬアーレンスバッハのためなのに。

 

一通り執務関係の片付くと安心したのか、緊張の糸が抜けたのか意識がふっと落ちてしまいました。

 

 

 

 

「お姉様、いきなり倒れられたので心配しました。本当に心配したのですよ!」

 

レティーツィアがわきにいます。執務室のすみで横にして休ませてもらっていたようです。

 

「レティーツィア、私が寝ている間に何か問題はありましたか。」

 

「お姉様があらかた片付けて頂いたので緊急のものは何も残っていません。そんなことより早く部屋に戻ってお休みください。酷い熱ですよ!」

 

ざっと周りを見て現状を確認すると確かに問題になりそうなものはありません。

 

「後は我々でもできる仕事ですからお任せください。レティーツィア様と一緒にお休みください。」

 

「ええ、ではお言葉に甘えて。後はよろしくお願いしますね。」

 

「お姉様、では行きますよ。」

 

私は、レッサー君を出して乗り込み戻ります。

 

頭がふらふらしてどちらに向かっているのかわからなくなるので、レティーツィアに先導してもらいます。

 

頼れるお姉様像には、ほど遠いいです...。

 

 

 

 

この後、貴族院から追加の準備のお願いなどがきて何とか工面して終えれば、留守をレティーツィアとディートリンデ様のお姉様夫妻にお願いし貴族院へ戻ります。

 

私が貴族院へ行く必要あるのかな。なんて思ってはいけないですよね。神殿の方も時間がある時に向かって何とか動かしています。

 

とはいうものの神殿は正直、前神殿長にほとんどお願いしている状態ですが。

 

おかげで他の準備に時間は全く取れませんでした。まあ、もう逃げだす準備は、ほぼできていますが。

 

後は契約を、今からでも...。だからダメだって!ふと気を緩めると悪魔のささやきが聞こえてきて胸が苦しいです。

 

 

 

 

「ただいま戻りました。」

 

領地対抗戦はもう明日です。あれだけの状況であるにもかかわらず前日の朝に現地入りできたのですから最善を尽くしたと言えるでしょう。

 

「よくお戻りになられましたローゼマイン様!体調を崩されていたということで皆心配しておりました。」

 

ああ、私の体調を崩したということで押し通したんだ。まあ、知ったところで何ができるわけでもないし貴族院に集中してもらわないといけないんだけど。

 

その後に、ディートリンデ様に会いに行きます。領地対抗戦を明日に控え急がしはずなのに、優雅な態度を崩さず私に対応してくれます。

 

「あら、大変でしたわねローゼマイン。わたくしも本当に戻らなくてよかったのかしら。」

 

ディートリンデ様...まあ、ここには側近の方達しかいないし、隠す必要もないってことかな。

 

「ええ、たくさんの方にご協力いただいて何とかなりました。それに領地も大切ですが貴族院の方が他領との関わる大切な場なのでおろそかにできません。」

 

他領に領地の混乱を見せるわけにはいかないからね。わたしかディートリンデ様かどちらかが残るべきかと言えば言うまでもありません。

 

来年も、もし私がこのままアーレンスバッハに居るのならいろいろまずいことになりそうですが...。

 

私にアーレンスバッハの方々を代表として率いろとか不可能です。

 

「そうですわね。あなたのことをごまかすのが大変でしたけど、その分、今年は領地からスムーズに品物が届くので準備が捗ったと文官たちが言っておりましたわ。」

 

あれはやめて欲しかったなぁ。後から何回にも分けて細かい注文が来るんですから。仕事を頼んだり、割り振りし直したりするのが大変でした。

 

というか、私このままでは貴族院の仕事は何もしないでアウブ代行のアウブの弟君が来る前日に戻るとか完全にお客様だよ。

 

まあ、私の立場としてはウラノの世界のお金で命を懸けて契約を履行する『ようへい』みたいなものだからね。

 

契約で縛られて、報酬はほとんどなく、成果を残さなければ処分されかねないって...。あれ、それってただのどれ...間違っていませんがやめましょう。

 

その後当日の打ち合わせや確認事項などいろいろ確認して終わります。貴族院に必要なものを送ったのは私なので多少のことはわかりますよ。

 

 

 

 

次の日にアウブの弟君が朝から来て全員を集めます。

 

「さて、皆に伝えなければならぬ。城に賊が入ってアウブが危篤状態である」

 

危篤状態と聞いて、それなりの人が驚いたようでしたが、すでに知っていた人もいるらしくそれほど混乱は広がりませんでした。

 

「幸いアウブの命に別状はないが、しばらく私が名目だけだが代行となるため皆の者、混乱が起きないよう協力をお願いする。」

 

命に別条はないとわかって安心したような表情の者、変わらない者などいろいろな方がいます。

 

ディートリンデ様は内心複雑でしょうね。ゲオルギーネ様がこういう時に動かないといけないのに臥せっているという連絡しかしてこないで全く動いてくれないのですから。

 

なんで私が、アーレンスバッハのことなん...。おっと契約契約。本当に厄介です。思考の自由くらいほしいです。

 

今は、契約がかなり緩くなっているので考えるくらいなら問題はないかもしれませんが、確証が持てません。グリストスハイトの知識で解析したくても、簡単な解析ならともかく詳しく解析しようとすると契約が反応して困ってしまいます。

 

契約を直接解除しようとしても反応しないのに、基準がよくわかりません。

 

たぶん純粋に契約というより、この従属の指輪の機能なのだと思います。

 

 

 

 

去年通り、私の役割は領地対抗戦の展示会場の最終確認などです。

 

去年の図書館の研究の続きがもう少ししたかったような気もします。図書館には、グルトリスハイトに載っていない魔術具も沢山ありますし。

 

仕方がないとはいえ、少し寂しいですね。地下書庫にも行きたかったですしね。時間があれば最後に行きましょう。たぶん無理でしょうが...。

 

 

 

 

準備についても大きな問題は起こらずにつつがなくおわり、ディッターも午後からなのであいさつ回りなど社交です。

 

とはいうものの今年は、特に特筆したことはありません。

 

すべて現状維持の予定です。絶対的な決定権を持っていないアウブがいないので多少のことは決められてもほとんどの事案がお持ち帰りです。

 

アウブは無理をすれば出てこれますが大事をとって休んでいると、毎回同じ説明をするのもつかれますね。

 

まあ、ばれている領地も多いでしょう。仕方がありません。この場にアウブが来ないなんてよほどのことです。

 

さてそんなこんなで、なんとか、アウブの弟君とその婦人、ディートリンデ様と私で対応していると

 

王族の対応です。アナスタージウス王子とエグランティーヌ様ですね。

 

「本当に、いつもの事ながらアーレンスバッハは。其方ら大丈夫なのか。また身内での足の引っ張り合いか?」

 

ずいぶんな言い草です。そういう話は私達の所ではなくアウブの弟君の所へ行っていただきたいものです。

 

「あら、アナスタージウス王子。アウブは体調を崩されただけよ。ローゼマインほどではないけどここ数年は体調を崩していたのは知っているでしょう。」

 

ディートリンデ様も笑顔が少しだけ崩れ、こめかみが少しだけ動いていますが、笑顔で対応します。

 

「まあいい、其方らにも伝えておくが、アダルジーザが我々のゲドゥルリーヒにライデンシャフトの槍を構え、投げる準備をしているという情報がある。唯一の国境門のある領地としてしかるべき対応をするように」

 

は、え!何を言っているの。アウブがしばらく不在のこのタイミングで余計な心配事を増やさないでよ。ランツェナーヴェが攻めてくるって冗談でしょう。

 

「去年も問題あったとは聞いていませんし、冗談ではと言いたいですが分かりましたわ。」

 

ディートリンデ様。同感です。冗談であってほしいものです。アナスタージウス王子がまだ話そうとしていますがディートリンデ様との少しだけ険悪な雰囲気を察したのかエグランティーヌ様が話に割って入ってくれます。

 

「ローゼマイン様、しばらく戻られないので心配しましたわ。図書館について聞きたいので貴族院から戻る前に図書館に来てくださいませ。」

 

王族の命令には逆らえません。正直なところ卒業式すら出ないで済ますということも検討していたのですがそういうことならば仕方がありません。

 

「わかりました。では成人式の次の日でよろしいですか。」

 

「ええ、分かりましたわ。ソランジュ先生にも伝えておきますのでよろしくね。」

 

その後、できれば今年も成人式の祝福だけでもお願いができないかという話になりましたが、領地としてこんな状態なのでやんわりと断りました。

 

去年はもうしなくていいという言質も取ってありましたし。

 

ディートリンデ様は少し不満そうでしたが...。

 

ディートリンデ様の気分が悪いままだと良くないので、星結びでは、わたくしが盛大に祝福いたしますねと言っておきました。

 

そこまでアーレンスバッハにいるかは不明なので、できるかは分かりませんが...。

 

その後にダンケルフェルガーの方々がこちらにも来たので、去年に頂いた素材についてお礼を言っておきました。

 

そこからディッターの話になってしまい、ダンケルフェルガーの方々にディッターのお誘いをしつこくされてしまい、やんわりと断るのが大変でした。

 

あまりにもディッターに熱心に誘ってくる方々のせいで、結局ハンネローレ様とは話せずじまいでした。

 

ちなみにダンケルフェルガーの方々がいる間、ディートリンデ様はいつも通りすごく嫌そうな顔をしていました。

 

その後、エーレンフェストの方々が向かって来たのですが、

 

「ではローゼマイン、後は任せましたわ。」

 

え、どういうこと?

 

「あら、わたくし、ヴィルフリートと婚約することになりましたので」

 

え、え、何も聞いていないのですが。というか何があったの!?

 

「婚約といっても、どちらがどちらの領地へ行くかも決まっていないし、レティーツィアがメルヒオールを迎える可能性もあるのでまだ仮なのですわ。」

 

レティーツィアもヒルデブラント王子かエーレンフェストの領主候補生どちらかを迎える予定と。私の所に何も話がきていないんだけど。ちょっと寂しいとか言わないよ。

 

「そもそも、貴族院入寮直後ではヴィルフリート様との婚約はできなかったという話ではなかったのですか。」

 

「残念ながらまだ仮なのよ、王族より去年の争いのせいでアーレンスバッハとエーレンフェストの領主候補生が結婚するようにというお話なのですわ。」

 

やはりこの間の争いは王族にばれてしまったようです。そもそもあれだけの事態となってばれないわけがないのですが。私の知らないところでそんな話になってしまっていたなんて。

 

まあ、ディートリンデ様はヴィルフリート様のことがお好きのようだし問題ないよね。

 

相変わらず、ゴージャスな髪を揺らしながらヴィルフリート様の来る方角へ優雅に向かいます。

 

婚約を仮にでもしたのなら、あいさつ回りに行かなければいけないはずなのですが、今まで回っていなかったのは私のためだったのでしょうか。

 

だとしたらディートリンデ様に申し訳ないです。卒業式が終わった後にヴィルフリート様と一緒のところで個別に祝福を送りましょう。

 

あれ、二人でまたこっちに来る?後でいいのに。

 

「その、ローゼマイン。」

 

ヴィルフリート様とあいさつを交わした後、話し辛そうに私に小声で話しかけてきます。

 

きっと、契約について気にしてくれているのでしょう。

 

「お二方を見ておりますと、オルドナンツと一緒に羽ばたけるような気分になりますね。」

 

お二人の門出に祝福するという意味と契約はほぼ無いですという感じで伝わるかな。

 

「いや、まだ仮なのだ。それだけを伝えておこうと思って。」

 

うん?うまく伝わらなかったのかな。小声で話してきたけど意図がわかりません。

 

「ええ、存じておりますわ。婿入り、嫁入りどちらになるかはまだわかりませんが、どちらでも祝福させていただきたいかと存じます。大事なお義姉様のことをよろしくお願いしますね。」

 

うん、あれ、何か間違った。少し怒っているような悲しそうな何とも言えない雰囲気が出ています。

 

「其方...。以前にあれだけ伝えても...。いや、まあ、いずれ、その、機会があればまだ...。」

 

なんともヴィルフリート様らしくない、歯切れの悪いよく聞こえない小さな声で何か言っていきました。結局何が言いたかったのでしょうか。

 

 

 

 

その後も他の領地との対応に追われます。

 

ディートリンデ様の偉大さがよくわかります。

 

あの方は、危ない発言しても十分フォロー可能な段階で終わるので、横にいるだけでそれなりにうまく私も話せている気分になるのですが一人になるともう駄目です。

 

私が対応できそうにない方は、申し訳ないのですがアウブの弟夫婦に丸投げです。

 

ああ、もう、次から次へと。そこで少し周りが気になって見てみると、なぜか私の方へ来る人が多くない?

 

契約のこととか、エーレンフェストとアーレンスバッハの争いについて探ってくる方が多すぎです。特に争いについては情報が欲しい人が多いようで、アウブの弟君より私の方が引き出しやすいと考えたのでしょうか。

 

予備の領主候補生でしかない私が関わっているなんてなんで思ったのでしょうか。いえ、今回は私が思いっきり関わっていましたが普通に考えれば領主候補生の領域を超えていると思います。

 

情報統制は両領地で厳しくひかれたはずなので、漏れる心配はそこまでないと楽観していたのですが。

 

何か僅かな情報でも引き出せればいいとでも思っているのでしょうか。

 

ドレヴァンヒェルからは、私の結婚についてアウブドレヴァンヒェルが直々に私に聞いてくるし、契約についても情報を引き出そうといろいろしつこく聞かれてへとへとです。

 

まずい情報を与えてしまったり変なこと話してないよね。だんまり作戦は失礼に当たるから使えないし困ります。

 

なんとかアウブドレヴァンヒェルとの話を終えアウブの弟君の方へ向かってくれたので一息つきます。

 

「ローゼマイン様、今よろしいですか。」

 

おっと、レティーツィアのご両親ではないですか。

 

「ええ、今ちょうど一息付けたところなので。レティーツィアのことでしょうか。」

 

他ならぬレティーツィアのご両親ともなれば、無理であっても対応しますよ。

 

「ええ、あの子はアーレンスバッハでうまくやれておりますか。」

 

私なんかよりもレティーツィアの方が、よほどうまくやっていると思います。

 

「レティーツィアは非常に優秀ですよ。わたくしも見習わなければならないところがたくさんありますわ。」

 

「あら、レティーツィアからは私にはもったいないくらい優秀で素晴らしいお姉様だと手紙には書いてありましたよ。」

 

「そう思って頂けているのならうれしいのですが...。」

 

うん、あまりいいお姉様ではないんだろうな。私の理想像からは程遠いいというか真逆というか。

 

その後も、レティーツィアにいろいろ教育係として教えたことや、礎に魔力を奉納した話などをします。神事については、今はまだ話せません。

 

「もう、礎に魔力を供給しているのですか!いえ、他領についてわたくしが言っていい話ではないのですが。」

 

「ええ、アウブアーレンスバッハのご意向で、できるだけ早く引き継ぎたいということなので、今から訓練しております。」

 

「その、とても体に負担がかかると思うのですが大丈夫なのでしょうか。」

 

まあ、慣れが大事とはいえ負担が大きいのは事実なので不安になりますよね。

 

「エーレンフェストでも当然のように洗礼式直後から領主候補生は礎に奉納しているようですし、わたくしも補助して安全面には気を使っておりますのでご安心ください。」

 

領地によっていろいろ違うのですねという話など、レティーツィアのことを中心に話していると、他の領地の方が来てしまいそちらの対応に追われることになってしまいました。

 

 

 

 

午後もディッターをほとんど見る余裕もなく来客対応です。

 

僅かに時間の空いた時に見た限りでは、アーレンスバッハの皆様は連携が鋭くなっていますね。

 

以前は旧ベルケシュトックの方々が飛びぬけていた印象ですが今回はアーレンスバッハの方々ともうまく連携が取れています。

 

出された魔獣が分裂する少し厄介な魔獣でしたので順位は去年より落としそうですが、以前よりはるかに強くなっています。

 

 

 

 

その後ざわめきが聞こえます。エーレンフェストがあっという間に終わらせたようです。

 

ディートリンデ様はアーレンスバッハがディッターをしている時からエーレンフェストの席で観戦しているのですがいいのでしょうか。

 

今はシャルロッテ様と仲良くお話しているようです。ヴィルフリート様の関係があるので文句はありません。むしろエーランフェストと仲良くしてくれるのは大歓迎です。エーレンフェスト側がいいのなら、問題はないのでしょう。

 

 

 

 

何とか社交の対応を終え、後は表彰式に出席するために移動しなければならないのですが...。

 

「ローゼマイン様、お疲れのところ申し訳ないのですがそろそろ表彰式に移動しなければなりません。」

 

側近の一人がそう言ってくれるも...体がまったく動かないのです。頭がとても痛く、魔力で体を無理やり動かそうとしますが魔力の制御がうまくいきません。

 

「ローゼマイン様、大丈夫ですか!誰か来てくれ!」

 

周りの焦った声が聞こえた気がしましたが、その後のことはよく覚えていません。

 

 

 

 

 



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76話 いつも通り表彰式に出られない

今年も表彰式には出られず終わりました。

 

いや、いいのです。今年も成績はどうなったとか知りませんし、表彰されても仕方がありませんし。

 

気が付いたら、貴族院の私の部屋におり、確認したら卒業式も終わってしまっていたようです。

 

ディートリンデ様の奉納舞は見たかった気もします。エーレンフェストの髪飾りとかどうだったのでしょうか。

 

結局、卒業式が終わった後に祝福も贈れませんでした。

 

今、できないことを考えても仕方がないので少しでも早く回復するために薬を飲まなければなりません。

 

今回は緊急で帰ったので、まだ部屋にストックがありますね。

 

今更やっても無駄かもしれませんが、簡易的に薬物検査をしてと、問題なし。

 

さすがに現状で側近連中が仕掛けてくることはないと願いたいですが。

 

ゲオルギーネ様が関わると何も読めません。彼女はディートリンデ様のお母様なのですから。

 

 

 

 

次の日は部屋から出て、側近連中に現状を確認します。

 

領地対抗戦で重要な社交は終わっていたので、そこまで問題にはならなかったようです。

 

「ローゼマイン、良かったですわ。顔色もよくなったようですわね。」

 

共有フロアへ行くと、ディートリンデ様がゴージャスな花飾りをして話しかけてくれます。

 

「ご迷惑をおかけしました。特に問題はなかったようで安心しました。」

 

「ええ、あなた1人が1日いないくらいで、どうこうなるアーレンスバッハではないわよ。」

 

アウブの弟夫妻は既に帰られたとのことです。社交界は続きますからね。

 

かくいう私も帰還準備を進めなければなりません。

 

最後に髪飾りが素敵ですねと言ったら、

 

「そうでしょう。奉納舞ではそれはもう注目を集めましたわ。あの場で一番輝いていたのはわたくしですわ!ローゼマインに、わたくしの美しいところを見せられないで残念でしたわ。」

 

その後、いかに今年の奉納舞が素晴らしくディートリンデ様が美しかったかという話が始まってしまいました。

 

髪飾りについていろいろ聞けたのでそれはそれでよかったのですが...。

 

 

 

 

図書館の待ち合わせぎりぎりまで帰還準備を進めます。

 

シュミル型の魔術具やレッサー君を動員して、手早くまとめます。

 

さて、では約束の時間になりますので図書館に向かいます。

 

図書館に着くと、ソランジュ先生とヒルデブラント王子が既におられます。

 

オルタンシア様はまだしなければならない作業があるとのことで作業中とのことです。

 

時間にかなり余裕をもって来たつもりでしたが、王族より後に来るとか、もっと早く来ないとまずかったかな。

 

主催のエグランティーヌ様はまだのようなので良かったです。

 

先生方と貴族の長い挨拶を終えます。

 

「ローゼマイン、倒れたと聞いていましたが元気そうでよかったです。」

 

王子にまでご心配をかけるとか私...。いえ、ヒルでブラント王子はとってもいい人なので知っている方なら純粋に誰でも心配してくださるでしょう。

 

もしレティーツィアと結婚して婿に来たら、一応義姉となるのですか。そこまでアーレンスバッハにいるつもりはありませんが。

 

「ご心配ありがとう存じます。ヒルデブラント王子。見ての通り健康面はそこまで問題はございません。」

 

「今年はもっとローゼマインと話したかったのですが、緊急で帰られてからずっといなかったので残念でした。」

 

私と話したかった?王族相手にそう言われるということは、レティーツィアについて知りたかったとかですかね。

 

「ええ、わたくしも。王子との婚約話のあがっているレティーツィアについて、いろいろお話しをしたいと存じておりました。」

 

あれ、何か間違えたかな。なんだかどこかで見たことのある表情ですが。

 

「いや、私はローゼマイン自身のことをいろいろ聞きたかったのです。」

 

私のことなんて、何か王子に関係があるのでしょうか。あ、もしかして。

 

「差し上げた魔術具の調子が悪くなったのですか。よろしければ見ますけど。」

 

「いや、あの子は元気に動いています。一度城の者にも見せたのですが素晴らしい魔術具だと絶賛してましたよ。」

 

えっと、試作品にそこまでの評価をもらえるわけがないと思うのですが。魔王様の落第だと言う声が聞こえてきそうです。

 

「あら、お世辞でも中央の方にそう言って頂けるとは光栄ですわ。」

 

その後も色々聞かれます。王族の方とこんなにいろいろ話すことなんてめったにないのでいい経験だと思いましょう。

 

ヒルデブラント王子は変に領主対抗戦の時のように貴族らしい言葉で探ってきたりするようなことはないので話しやすいです。

 

レティーツィアの話題も出してみますが、あまり興味がないというか反応が良くありません。

 

ああ、そこで思い出しました。最初の時の表情は、先日のヴィルフリート様の歯切れの悪い表情にそっくりでした。

 

 

 

 

そのあと、エグランティーヌ様がオルタンシア様とヴァイス達と一緒に来ました。

 

主にオルタンシア様から私に用があるようです。

 

「あるじ きた」

「じじさまのところへ」

 

この魔術具たちとも久しぶりな気がします。オルタンシア様がシュバルツ達の反応が気になるようで話しかけてきます。

 

「シュバルツ達はローゼマイン様のことを主と呼ぶのですね。」

 

「ソランジュ先生にどうして主と呼ぶようになったのか調べていただくようにお願いしていたのですが何か分かったのでしょうか。」

 

まあ、たぶんあの訳の分からない称号のせいなわけですが。

 

「いえ、そちらは分かりませんでした。お聞きしたかったのは図書館にある魔術具についてで、ローゼマイン様は図書館のさまざまな魔術具に魔力を供給していただいていたとお聞きしております。出来ればその魔術具に案内をして頂きたいのです。」

 

たくさんありすぎて説明しながら回るのは少し大変そうです。

 

「図書館は大切な魔術具がたくさんありますので、シュバルツ、ヴァイスに案内させましょう。」

 

「ええ、ではローゼマイン様、お願いします。私がローゼマイン様が魔力を供給していたところに案内して欲しいといっても、シュバルツ達が反応してくれなくて困っていたのです。」

 

反応しないって、この魔術具達は、ただの命令型じゃないからそこまではわからないですね。

 

試しにオルタンシア様に命令してもらいました。

 

「ひめさま けんげんたりない」

「あるじのこと おしえられない」

 

えっと、これってまずくないですか。主の座を譲ったはずなのに私の方が上ってまだ認識しているみたいなのですが。

 

「ローゼマイン様が通常と違う方法でシュバルツ達の主となられたのでそのせいかもしれませんが。今のところは問題はないためこのままにしておくしかありませんね。」

 

よかった。処罰とか言われても原因は...いえ、解決方法がわからないので助かります。

 

「シュバルツ、ヴァイス、いつも魔力を奉納しているところに案内してくださる。」

 

「あるじ じじさまのいたところへ」

「さっさといく」

 

今はそんな時間はありません。神の取得の時の件もありますし行きたくありません。時間がないのだから早くして。

 

「ローゼマイン様に対してもよくわからないことを言われるのですね。じじさまとは何でしょう。」

 

「じじさま ふるい」

「じじさま えらい」

 

いつも通りですね。ふるくてえらい。まあ、神の名を語っていましたからね。ふるくてえらくて当然です。

 

「もう一度命令します。シュバルツ、ヴァイス、いつも魔力を奉納しているところに案内してくださる。」

 

「わかった あるじ」

「しかたがない あるじ」

 

図書館の礎やら、温度調整の魔術具や防音の魔術具など順番に魔力を奉納しながら案内させます。

 

最後にメスティオノーラの像です。

 

「あるじ さっさとする」

「じじさまのいたところへいく」

 

やはりここから行けるそうです。

 

「じじさまのいた所へとは何でしょうか。」

 

「ローゼマイン様、何か思いつくことはありまして。」

 

オルタンシア様、エグランティーヌ様...。はぁ、多少白状しますか。

 

「実はこの像は、はじまりの庭というシュタープを取得する広場へと繋がっているようなのです。去年に一度だけ行ってしまいました。」

 

「ローゼマイン、大丈夫だったのですか。図書館にそんな他の場所へ行くような転移陣があるだなんて」

 

「ええ、ヒルデブラント王子。見ての通り問題は特にはありませんでした。」

 

あの時は皆様に迷惑かけて大変だったようです。私自身はよくわかっていなかったけど。

 

「シュバルツ達は気になることを言っていますが、触らない方がよさそうですね。次も同じ所へ飛ばされるかはわかりませんものね。」

 

まったく同感です。エグランティーヌ様。ヴァイス達から少し離れるようにして、前回のように手を引っ張られないように細心の注意を払いました。

 

今回は行っている時間はもちろんありません。

 

このあと、図書館の執務室へ戻り、少しだけ話して解散になります。

 

「できれば、ローゼマイン様には、ソランジュ先生から報告のあった鍵の管理者になっていただきたかったのですが忙しそうなので諦めますね。」

 

まあ、もう私には不要なものですからね。いざとなれば勝手には入れますし。

 

「お気遣いありがとう存じます。アーレンスバッハよりすでに呼び出しを受けておりまして、この件が終わったらすぐ戻る予定です。」

 

「あら、ではあまり引き留めてはいけませんね。」

 

ようやく解散です。地下書庫に寄っていきたいですがこの状態では忍び込めないので諦めます。

 

 

 

 

その後、ディートリンデ様にはゲオルギーネ様の確認をお願いし先に帰らせてもらいました。

 

 

 



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77話 王族へ現状報告

貴族院から戻ってきても、アウブ夫妻の意識は戻りません。

 

魔力器官の回復も兼ねているので、まだまだ時間がかかりそうです。

 

お二方がいないので、レティーツィアも私も冬の社交界に引っ張り出されます。

 

ディートリンデ様とは、貴族院から戻ってきてすぐの時は連絡を取れたのですが、連絡がつかなくなってしまいました。

 

次の社交界の時に領主の仕事について話し合うことになっていた直後のことでしたのでとても困りました。

 

オルドナンツを飛ばしても飛んではいくのですが返答がありません。

 

ゲオルギーネ様については最後にディートリンデ様の伝えてくれた内容が確かなら本当に悪い状態らしく、娘であるディートリンデ様ですら会わせてもらえないとのことでした。

 

娘ですら会えないって、嫌な予感しかしません。

 

ゲオルギーネ派の方々が社交界から少しずつ減っているのも気になります。

 

 

 

 

「ローゼマイン、いい加減隠し通すのも限界だ。一度ツェントに連絡を入れる他あるまい。」

 

冬の社交界も終わり、領主会議へ向けての準備をしなければなりませんが、これから本格化する執務に加えて祈念式など確かに限界です。

 

アウブがここまで起きることができないとはさすがに予想がつきませんでした。

 

逆を言えば本当に危ない状態だったということです。

 

お父様もお母様も、いろいろ限界を超えていたのでしょう。

 

「ええ、そうですね。」

 

礎に入れるのもゲオルギーネ様とディートリンデ様がいない今となってはレティーツィアと私だけです。

 

非常にまずいなんてものではありません。

 

「ではレティーツィアと連名で文を送ります。」

 

「まったく、あのエーレンフェストのカメーヴァレインめ、なにをしておるのだ。」

 

アウレーリアの妹さんとも連絡が取れないらしく、アウブの弟君は苛立っています。

 

娘の状態が心配なのは当然なので仕方がありません。

 

「では、レティーツィア。一緒にお手紙を書きましょう。」

 

報告書という名のお手紙です。王族にはできるだけ関わりたくないのですが仕方がありません。

 

「はい、お姉様」

 

アーレンスバッハの状態は以前の政変の負け組領地と同じくらい酷い状態ではないでしょうか。

 

もうここまでくれば、隠すことはありません。現状をすべて記しツェントへ報告を上げます。

 

領地順位は格下げでも仕方がないでしょう。

 

でも、アーレンスバッハは腐っても大領地です。

 

取りつぶすなど絶対にできませんし、アウブが起きて復帰できれば今ある問題の大体のことはことは解決できます。

 

ディートリンデ様とも未だ連絡が取れず、ここまで来ると本当に心配です。ついにオルドナンツも届かなくなってしまいました。

 

いくらゲオルギーネ様でも実の娘をはるか高みに上らせるということはないと願いたいのですが。

 

やる理由もないはずです。いくら身内だろうが容赦をしない人だといっても...。

 

もう、何が起こるか分かりません。誰が抜けてもアーレンスバッハは回らないところまで来ています。

 

私に何があってもいいように神殿に大量の魔石を送っておきます。

 

私が祈念式に行けなくなる事態があっても魔石の力を借りれば今年は何とかなるでしょう。

 

ツェントより私とレティーツィアに召集令状が届いたのは、報告を送ってすぐのことでした。

 

 

 

 

着いてから、とても長い時間待たされます。王族も忙しいようです。

 

今回はアナスタージウス王子一人が事情を聴いてくださるそうです。

 

「まったく、この忙しい時に!何度も言うが、アーレンスバッハはどうなっておるのだ。この報告書は本当なのだな。初めに聞いたときはリーベスクヒルフェがまたドレッファングーアの糸に手を出したのかと目を疑ったものだ。」

 

いたずらなんて失敬な。まあ、そう思われても仕方がないけど。もちろん迷惑をかけているのはこちらなのでそんなことは言えませんけど。

 

「それで、貴族院より早く帰ったのは其方が執務を手伝うためだったと。やけに体調が悪そうだと思ったが其方、貴族院低学年の身で執務をほぼ代行していたとは本当なのか。」

 

私がそのことに口を開こうとするよりも早く、レティーツィアが口をはさみます。

 

「ええ、ローゼマインお姉様は、以前からアウブの補佐をしておりましたので他に適任がおりませんでした。」

 

いや、補佐って、ただの手伝いだよ。そんなに大げさに言わなくてもよいのに。

 

「今の状況は、アーレンスバッハを支える最高神と五柱の大神がほとんど全て倒れた状態です。その残った柱がしっかりしていたため何とかやってこれましたがそれも限界を迎えています。」

 

「ふむ、其方らも苦労しているようだな。」

 

あの、レティーツィア。五柱って誰のこと?残った柱は誰のことを言っているの?アウブの弟君は柱に入れていいのかな。

 

レティーツィアがいろいろ対応してくれてとても頼もしいことを喜ぶべきか、私の無能を嘆くべきか。

 

「ふむ、ツェントに緊急で報告するが、どうしたものか。アウブが起きれば解決しそうであるが。領主会議までには起きられそうなのか。」

 

「正直分かりません。当初の予定では社交界が終わるまでには起きている予定でした。ですが現状としては回復が遅くまだまだ時間がかかりそうなのです。起きるのは恐らく領主会議が終わったころになるかと。」

 

領主会議の時までに起きるかもしれないし、起きられないかもしれないし全く読めません。

 

とそこでいきなり騎士がこちらに入ってきて言います。

 

「王子、緊急です。」

 

「なにごとだ!」

 

その騎士が王子の脇まで行って耳打ちします。

 

「本当なのか。いや、わかった。ローゼマイン、レティーツィア。すぐに一度もどれ。いや、こっちにいさせた方がいいのか。」

 

「何があったのかお聞きしていいでしょうか。」

 

この慌てようは相当です。

 

「ランツェナーヴェの軍と思われる集団がアーレンスバッハに攻め入って来たとのことだ。」

 

は、攻めてきた?このタイミングで!?

 

まるでアーレンスバッハが混乱状態であるのを知っているかのように!

 

当然、ランツェナーヴェの館には今は人がいませんし、ランツェナーヴェの者は、アーレンスバッハにいないため彼らが現状を知る手段はないはずです。

 

いずれにせよ、真偽の確認のためにも戻らなければなりません。

 

「レティーツィア、連絡役としてこちらに残ってくれますね。わたくしは真偽の確認のために一度戻ります。」

 

「そんな、お姉様。私も行きます。」

 

そんなこといっても、私とレティーツィアどちらがアーレンスバッハについて重要かは言うまでもありません。

 

「レティーツィア、これは次期アウブ最有力候補であるあなたにしかできないことなのです。引き受けてくれますね。」

 

王族の連絡役として重要な役職にあるものが残るべきでしょう。

 

「アナスタージウス王子、ランツェナーヴェについて簡単ですが調べた資料を置いていきます。ご参考にしてください。」

 

私は、魔紙を出しイメージで銀の粉や銀の糸の情報などを写し出していきます。

 

「わかった。言うまでもないと思うが気をつけろ。危ないと思ったらこちらに避難することも検討に入れろ。」

 

「お心遣いありがとう存じます。では行ってまいります。」

 

神殿の方々など、みんな無事だといいのですが。

 

 

 

 

急いでアーレンスバッハに戻ると、転移陣の担当の方が驚いた様子で言ってきました。

 

「ローゼマイン様!戻られたのですか!」

 

「ええ、レティーツィアは連絡役として残してきました。それで現状を教えてくださる。」

 

「はい、ですがその必要はございません。ローゼマイン様御覚悟を!」

 

そう言うと手に持っている袋の中身をを私に向けて広げて飛ばしてきます。

 

銀色の粉が見えます。これはちょっと回避するには間に合わないなと思い被害を減らすためとっさに魔術具を起動させると...。

 

「ローゼマイン様危ない!」

 

誰かに着き飛ばされ、複数の方に覆いかぶせられました。

 

銀色の粉についてはとっさに突き飛ばしてくれたおかげで、私には、ほとんど影響がありませんでした。

 

犯人をシュタープで拘束した後、状況を確認します。

 

「ローゼマイン様...ご無事で何よりです...。」

 

「大丈夫か、おい、しっかりしろ。」

 

見たところ、まだ大丈夫です。被害を受けたのは、私に忠誠を誓うと言ってくれたあの側近の子です。

 

「助けてくれてありがとう存じます。早くユレーヴェを。皆さん持つように言っておきましたよね。」

 

「それが、まだ作っていないようで。」

 

しまった。貴族院の学生では持っていない人も多いんだった。

 

「では、これを。飲めますか。」

 

私のユレーヴェでも十分いけるはずです。お父様の回復の様子を見る限り自信がなくなりますが。

 

念のため少しだけ取っておいて本当によかった。

 

まあ、これで私の分も完全になくなってしまいましたが。

 

とりあえず、はるか高みに上る心配はなさそうです。周りも安心しています。

 

「私はこの現場の後片付けに残ります。ローゼマイン様は他の者と現場へ向かってください。」

 

側近の一人がそう言ってくれます。彼女のことも面倒を見てくれるということでしょう。

 

「あら、あなた達も協力してくれるのですか。わたくしを害すなら最高の機会だったかと存じますが。」

 

「ローゼマイン様、冗談でも怒りますよ。現状でアーレンスバッハで唯一立っている一柱であるローゼマイン様が倒れたら我々の領地が崩壊してしまいます。」

 

そんな大げさな。一人の力なんて大したことはないのは私が一番よく知っています。

 

ですが、協力してくれるというのなら協力してもらいましょう。

 

「まったくです。我々は今までローゼマイン様を一番側で見てきました。ローゼマイン様がアーレンスバッハのことを思い動かれていたことを我々が一番よく知っているつもりです。そんな方を害すだなんていわないでいただきたい。」

 

そこまで言われるほどの事をしたつもりはありません。契約を履行しているだけで思いなんて...。

 

「我々全員が信じられなくても、とっさに動いた彼女達を信頼していただきたい。彼女達の行動を見てもまだ信じられませんか」

 

そう言われてしまっては、何も言えません。

 

「わかりました。ありがとう存じます。皆様行きますよ。」

 

なんだか、胸が熱くなります。本当に信頼してもいいのでしょうか。

 

こんな捨てていくことしか考えていない私が。

 

今だけでも信じてもいいかな、なんて思うのはやっぱり自分勝手かな。

 

 

 

 



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78話 ゲオルギーネの乱

「ローゼマイン様がいらしたぞ。」

 

「おお、ローゼマイン様だ。」

 

えっと、私が来たくらいで騒ぎすぎではないですかね。

 

「ローゼマイン様、なぜこちらに来られたのですか。貴方に万が一のことがあって困ります。」

 

「騎士団長、今はそんなことよりも現状はどうなっておりますか。」

 

すでに簡単に話は聞いてきましたし、見た所ではランツェナーヴェの方々とは国境門付近でにらみ合いの様相を呈しています。

 

「は、すでにランツェナーヴェが攻めてきたときに一当てあり、現在膠着(こうちゃく)しております。」

 

アナスタージウス王子から忠告があったので、貴族院へ戻ってきてから念のため対策と準備をお願いしていたのですが役に立った模様です。

 

流石にここまで早く攻めてくるとは夢にも思いませんでしたが。

 

「今の所は双方に目立った被害がありません。このまま引いてくれればよいのですが」

 

まあ、攻めてくる理由はアダルジーザ離宮関連でしょうしね。

 

目立った被害がないとはいえ、軽症から重症の者までいるます。

 

「シュトレイトコルベン」

 

「ルングシュメールの癒しを」

 

フリュートレーネの杖を出してから、広域に癒しをかけます。

 

おお、天使様の祝福だ。という声が聞こえますが癒しであって祝福ではないのですが。

 

せっかくなので、祝福もかけておきますか。

 

武勇の神アングリーフ、狩猟の神シュラーゲツィール、疾風の女神シュタイフェリーゼと忍耐の女神ドゥルトゼッツェンに祈り祝福を授けます。

 

祝福をかけると、他にすることと言えば、何とか話し合いに持っていけないですかね。双方共に被害はまだあまりないんだよね。

 

魔力の奉納の儀式で戦意をはぎ取りますか。いえ、ダメですね。相手は銀の布を身に付けているので効果がない可能性があります。

 

とそこで相手より、太い少し威厳のある声が聞こえてきます。

 

「アーレンスバッハのものよ。諦めて道を譲れ。今の五倍以上の援軍が間もなく着く。今なら責任者何名かを魔石にした程度で許してやろう。」

 

だめですね。これは。やってみなければわかりませんが、交渉の余地がなさそうです。

 

「五倍もの戦力が来るというのになぜ先走ったのでしょうか。」

 

「おそらく手柄を焦ったのでは?もちろんはったりの可能性もありますが」

 

手柄とかくだらないですね。命を懸ける理由にはなりません。やはり相容れない相手のようです。

 

「皆様、わたくしのことを信じてくださいますか?」

 

「もちろんです。ここにいる一同ローゼマイン様のためなら何でもする所存です。」

 

「わかりました。手段は問いません。理由を聞かずに国境門までわたくしを連れて行ってくださいませ。自分達を優先したうえでできるだけ命のやり取りはやめて頂きたいですが」

 

今のお言葉を聞いたか、あのローゼマイン様が我々に!とかすべてはローゼマイン様のために!とかいろいろな声が聞こえてきます。

 

理解できないはずの不可解な命令をしているのに士気が上がっているように見えるのはなぜでしょうか。

 

まあ、ここまで来ては仕方がありません。本当に援軍なんてものがあったら流石に今のアーレンスバッハでは耐えられないでしょう。

 

この後は、信じられないくらい順調に推移していきます。

 

何故か来たときよりも戦う前から相手の士気が下がっていたのか足が引いており、こちらは士気がこれでもかというほど上がっているせいもあってか、もはや子供と大人の戦いの様相を呈しています。

 

銀の粉なども使ってきますが、ウラノの世界の『ますく』的な口に巻く布も用意させましたしユレーヴェも準備させていますので対策は万全です。

 

相手を倒すまでもなく拘束していくのを横目に見ながら国境門にたどり着きます。

 

これからやることをしてしまったら、大問題にならないでしょうか。

 

いえ、今更大問題の一つや二つ増えた所で何も変わらないでしょう。

 

絶対にしたくありませんが、やるしかありません。

 

『グルトリスハイト』

 

国境門には、魔力がほとんど残っていないのでグルトリスハイトを通して魔力を奉納します。ほとんど輝きを失っていた国境門が息を吹き返すかのように輝きだします。

 

その後、門を閉じる呪文を唱えれば終わりです。

 

ゆっくりと巨大な門が閉じていく様を見るのは、こんな時でなければさぞかし素晴らしい光景だったでしょうに。

 

「おい!我々の帰る道が閉じていくぞ」

 

「そんな、もうすべてがお終いだ。」

 

「そんなばかな!グルトリスハイトを失われていたという情報は嘘だったのか!」

 

ランツェナーヴェの者たちの嘆きが戦場に響きます。

 

ゆっくりと閉じていく国境門にランツェナーヴェの者は絶望したのか、最後まで抵抗していた責任者と思われる方やその側近も武器を放り出し降伏しました。

 

まあ、帰る道がなくなったら諦めますよね。

 

諦めてくれてよかったというべきか。

 

いろいろ失った可能性が高いけど、何とかなりましたと安心して一息つくと伝令の方が焦った様子で私の元に来ました。

 

「ローゼマイン様!ゲオルギーネ様派の方々が!」

 

今度は何ですか。これ以上の問題はさすがに起こらないでしょう。

 

「落ち着いて説明してくださる。」

 

「失礼しました。それでゲオルギーネ派の方々が領界門の警備の方々を倒してエーレンフェストへ向かったと報告がありました。」

 

え、領界外に出たのなら礎の間に入る権利のある私ならわかるはずなのに、なにも違和感を感じなかったよ!戦いに意識していたせい?領内で登録のある方の出入りは自由とはいえ、魔力量が多いゲオルギーネ様が出て行ったのなら流石に反応があるはずですが。

 

それとも貴族院へ行っていた時に、すでに出ていたとか。だとすると少し古い情報となります。

 

今考えても仕方がないので、これからのことを考えます。

 

「急いででエーレンフェストに知らせてください。」

 

私は、城へオルドナンツを飛ばし事情を説明し緊急で連絡を入れるように動いてもらいます。

 

「騎士団長。この場は一旦任せます。」

 

一旦城に戻り、もう一度エーレンフェストへ連絡を入れるために動きます。とは言うものの手紙を急いで運んでもらうだけですが。

 

本当に緊急なので貴族院にいるレティーツィアに連絡を取り、王族の連絡用の魔術具の使用しエーレンフェストへ伝えてもらえるようにお願いします。

 

私が直接向かえれば...、国境門の転移用の魔法陣ですぐなのに!すぐなのに...?

 

「手紙を送るのを待ってくださる。一緒についてきてくださいまし!」

 

現状を詳しく書いた手紙を連絡役の方に持たせ、双方で連絡の取れる魔術具を持たせます。

 

一か月程度で壊れる急造品ですが今の状況なら十分でしょう。

 

再度国境門へ行き国境門の上へ上がります。

 

「ローゼマイン様、この魔法陣は?」

 

「エーレンフェストの地図はお持ちですね。エーレンフェストの国境門へ送りますのでそこでこの手紙を見せてうまく連絡を取ってくださいまし。」

 

そう言うと転移に巻き込まれないように、少し魔法陣から離れます。

 

「では、お願いします。アーレンスバッハの運命はあなたたちにかかっております。」

 

「は、必ずやローゼマイン様のためにやり遂げる所存です。」

 

「頼みましたよ。ケーシュルッセル エーレンフェスト」

 

後は、魔術具に連絡が来るのを待つしかできません。

 

ランツェナーヴェの後片付けもありますし、のんびり休んでいる時間はないのですが。

 

その後は、敵味方問わず必要な方に癒しを与えます。

 

船にもすでに拉致されそうな方がいたらしく助けることができました。

 

もちろん船はすべて接収です。調べるのが楽しみなんて言っていられる状況ではないですね。

 

事情聴取は騎士の者たちに任せるとして、アウブの弟君は...。

 

銀の粉にやられたようです。命に別状はないようですが、すぐには戻れないとのことです。

 

もうどうしろというのでしょうか。

 

なぜ、アーレンスバッハに思うところのある私がこの場に残っているのでしょうか。

 

試練の神 グリュックリテート様、私に望んでいない試練を与えすぎではないでしょうか。

 

 

 

 

 



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79話 争いの後片付け

この後は、安全を確認しレティーツィアを呼び戻し、とにかく現状把握です。

 

エーレンフェストが心配で手が付かないなどと言っていられる状況ではありません。

 

エーレンフェストからは、状況は分かった。こちらの心配はせずに任せておけという会話が魔術具に入ってそれっきりです。

 

仮にも私はアーレンスバッハの者なのに苦情一つ言わないどころか任せておけとはジルヴェスター様は男前ですね。

 

王族から説明要求が来ますが、最低限報告し現状が安定するまで待ってほしいとのことを伝えてあります。

 

「お姉様、ひどいお顔をしています。いい加減休んでくださいませ。」

 

薬を大量に飲んで頑張っているので、今気を緩めたらどうなるか。

 

「レティーツィアこそ休みなさい。あと少しで一息つけるのでそこまでやれば私も休みます。」

 

ここ毎日、村へ帰れなくなるという嫌な夢しか見ません。薬のせいだと思いたいですが、眠りたくありません。

 

幸い、残った者は一致団結して事態の収取に努めてくれています。

 

アーレンスバッハにいて、ここまで一致団結している状態は初めて見たかもしれません。

 

その後に、中央より騎士団が来てランツェナーヴェの責任者関係を連れて行かれます。

 

こちらも留める理由が出せないためお任せです。勝手に処分してしまうのが私にとってはいいことだとは分かってはいたのですができません。

 

エーレンフェストでも、戦いが終わったらしくほとんどの方が捕まったようです。

 

確認をしてもディートリンデ様はいないようなので捜索をお願いしています。

 

巻き込まれていないといいのですが。

 

その後、今回の経緯をできるだけまとめ、騎士団長を貴族院に送り説明しに行ってもらい、後でエーレンフェストと合わせて報告するという流れになりました。

 

祈念式に参加するのは不可能でした。

 

魔石で何とかなったというお礼の手紙が神殿一同から届きました。

 

孤児院の子達からの手紙もあり神殿にとても行きたくなりましたが城から離れられません。

 

その後、限界を迎えたのか何度か熱を出して倒れては復帰するということを繰り返しながらレティーツィアと何とかなるところまでには状況を戻せました。

 

ようやく状況が落ち着いたのでエーレンフェストと打ち合わせをして貴族院へ向かうことになりました。

 

 

 

 

ツェントに会う前にエーレンフェストとの最後の現状確認です。

 

一応連絡して、やり取りはしておりましたがやはり直接確認しないと齟齬が出てきます。

 

といっても、主なやり取りはレティーツィアがして、私は補足をしている状態ですが。

 

言い訳としてはレティーツィアの練習です。ジルヴェスター様は私達に同情的で立場を悪くする程酷いことはしないでしょう。

 

一応お姉様なのに頼りない...?もう今更ですね。

 

一通り確認が終わりお互い一息つきます。

 

「しかし、ローゼマインはすっかり、アーレンスバッハの者になったな。」

 

「あら、わたくしは元からアーレンスバッハの者ですわよ。変なことを言わないでくださいまし。」

 

まったく、レティーツィア達がいる場ではやめて欲しいものです。

 

「アウブエーレンフェスト、今お姉様にいなくなられてはアーレンスバッハは立ちいかなくなるので余計なことはしないでくださいね。」

 

いや、レティーツィアは...。まあ、もともとエーレンフェスト関連を疑っていたからね。

 

「どのみちわたくしのお姉様は他の領地には絶対に渡しませんけど...。」

 

え、もしかして逃げようとしている私に対する警告!?

 

ぼそりといい笑顔をジルヴェスター様に向けて言っているけど言っている内容が...。

 

「あの、レティーツィア。女性である以上アウブにならないとなれば他の領地へ行く場合もあるのですよ。」

 

「ええ、もちろん存じておりますよ。お姉様。」

 

お姉様もこれ以上余計なことを言わないでくださいねと言ったところでしょうか。私一応お姉様なのに...。

 

「ふ、姉妹の仲が良いようでいいではないか。では無駄話はこのくらいにして向かうとするか。」

 

「ええ、アウブエーレンフェスト。それでは向かいましょうか。」

 

レティーツィアが成長しすぎて怖いです。まだ貴族院にすら上がっていないのに、これだけ対応できるってて反則じゃない?

 

私が必要なくなる日も近そうだなと、義妹の成長に一抹の寂しさを覚えながらもうれしくも思います。

 

私は大したことをした記憶はないけど、一応教育係だったわけですからね。

 

 

 

さて、ツェントに連絡を入れ待っていると会議用の大フロアの方へ案内されます。

 

中に入ると、えっと、大中小ほとんどの領地の方が来ているようなのですがどういうこと?

 

ツェントだけでも負担なのにアウブ達まで来るなんて、もちろん事前に伝えられていません。

 

「さて、では今回の経緯の説明をお願いする。」

 

今回はどう見ても理由なく攻め入ったアーレンスバッハのせいなので、私たちが中心になって説明をしなければなりません。

 

いきなりこのような事態となってレティーツィアに任せるのは、いくらなんでも身が重いでしょう。少し震えて顔色が悪いように見えます。

 

「レティーツィア、大丈夫です。ここは、ほぼ全体に関わった当事者であるわたくしから説明します。足りない所があれば捕捉をお願いしますね。」

 

「いえ、お姉様その...。」

 

「いいのです。どのみちわたくしも話さなければならなかったのですから。」

 

どうせ王族はレティーツィアが連絡役として残っていたことは知っていますし、私から聞きたいでしょう。

 

話すのは好きではありませんが業務報告と思えば話すのに問題ありません。

 

そうは言っても話す内容はあまりないのですが。

 

アウブが倒れた所から、ランツェナーヴェの対応について、その後勝手にゲオルギーネ様が動いたということやアーレンスバッハの現状がどういう状態か等をかいつまんで話します。

 

もちろん国境門については話しません。何とか回避できないかな。

 

その後、レティーツィアが少し捕捉し、ジルヴェスター様も顛末を説明してくれます。

 

今回のエーレンフェスト側の話をまとめますと、なんともまぬけな話になってしまうのですが、エーレンフェストに侵入したゲオルギーネ様一行は最初にエーレンフェスト内のゲオルギーネ様の支持者を利用し内部で暴れさせます。

 

本人はというと混乱に乗じて神殿に侵入し、何かを探していたのか分かりませんがそこで魔王様にあっさり捕まってしまったとのことです。

 

魔王様の居城に攻め入るとか、命知らずですね。ウラノの世界でいうラスボスのいる魔王城に一人で攻め入るようなものです。

 

もちろんそれは表の話で、実際は既にエーレンフェストの神殿の鍵と私が盗まれた神殿の偽物の鍵をすり替えており、それで礎に侵入するつもりだったようです。

 

恐らくは、ジルヴェスター様も神殿の礎の秘密は知らないのでしょう。

 

フェルディナンドより伝えておけと言われたが何のことだとか言ってましたから。

 

あえて私に伝えてきたということは、魔王様に何かお詫びの品を贈らないと報復しますよってことじゃないよね。アーレンスバッハにそんな余裕はないですし勘弁してほしいものです。

 

その対応では落第だ。そちらの都合など知らん甘えるな。という声が聞こえてきそうです...。

 

さて、いろいろ頑張って説明しましたが聞かれたくない質問が飛んできます。

 

「さて、それでローゼマインよ。ランツェナーヴェの者より国境門が閉じられたと聞いたが、アーレンスバッハはどのようにして国境門を閉じたのか話してもらおう。」

 

うん、ランツェナーヴェの方々を連れて行かれた時点でその質問が来るのは想像していましたが...。

 

論より証拠。直接見せるしかないよね。

 

いやだ、見せたくないよ。見せたら間違いなく村が遠のくよ。と心の中の私が悲鳴をあげています。

 

でも嘘は付けないし。たまたまなんて言い訳は通じません。

 

だって、すでにランツェナーヴェの方々にも見られてしまいましたし。

 

「ローゼマイン、黙っていてはわからん。答えてもらうぞ。」

 

「わかりました、ツェント。」

 

はぁ、これからどうなるのだろう。現状を見ればすぐには取り込まれないと思うけど王族に取り込まれかねないよね。

 

『グルトリスハイト』

 

なんだと!本物なのか?とか周りがざわざわしています。

 

「ローゼマインが今唱えてシュタープを変化させたその本は失われてたグルトリスハイトなのか。答えてもらうぞ。」

 

以前にあったグルトリスハイトを盗んだなんていわれたら、下手したら処刑コースですね。

 

「こちらは、以前に存在していた王族のグルトリスハイトの大本となった本でございます。メスティオノーラの書により近いものです。」

 

なんだと、グルトリスハイトは王族以外取得できないはずだという声が聞こえてきますが知りません。

 

「わかった。ここからはローゼマイン個人と王族で話す。皆の者一旦ここで話を終わりとする。」

 

と、ツェントが言い終わるか終わらないところで...。

 

貴族院が揺れ傾くような地響きが鳴って、何かが崩れるような大きな音が鳴ります。

 

「何事だ!」

 

何かとんでもないことが起こっているようです。会議どころではなく、会議は即座に中止となり全員で会議室の外へ出ます。

 

窓から外を見ると貴族院の庭があったところに大きな真っ黒な穴が開き、至る所に地割れが起きていました。

 

 

 

 

しばらく、ここにいる全員は固まっていたように思います。

 

「あるじ いた」

「はやく じじさまのいたところへ」

 

シュバルツ達は自分から図書館を出られないように設定されているはずなのですが、なぜここにいるのでしょうか。

 

「きんきゅうじたい」

「はやく はやく」

 

この子たちは主の思考を読む機能があるので、今思ったことへの回答ということかな。

 

現実逃避気味にそんなどうでもいいことを考え思考の渦に浸っていると...。

 

やめてよ。痛いよ。だから無理やり引っ張らないで。

 

まったくこの魔術具達は。前回酷い目に遭わされたからちゃんと対策を練ったのです。

 

さあ、レッサー君達、出番です!シュバルツ達を止めて。

 

あれ、動かない。どうして!ウラノの世界の『えらー』ってなんで!?

 

気が付けば引っ張るのはやめてくれましたが、シュバルツ達に足と肩を拘束されシュバルツ達の頭の上に持ち上げられ運ばれています。

 

皆様、呆けていないで助けて!

 

というかシュバルツ達が速すぎます。目的地は...言うまでもありませんよね。

 

図書館に異様な状態で運ばれてきた私にソランジュ先生が驚いて、挨拶もできずに二階のメスティオノーラの像の前に運ばれます。

 

「あるじ さっさとさわる」

「じじさまのいたところへいく」

 

もっと嫌なことが起きそうなので行きたくありません。

 

こういう時はろくなことが起こらないと、ウラノの世界で言う『そうばがきまっている』のです。

 

「シュバルツ、ヴァイス、やめてくださる。わたくしは行きたくありません。」

 

「あるじ わがままいうな」

「さっさといく」

 

最後に自分から行くか、無理やり行かせるか選ばせてやるってことなのでしょうか。

 

なんでこの子達は、こんなに酷いことをするの。仕方がないので諦めてメスティオノーラの像に触れます。

 

いつも通り魔力を吸われて、別の所へ強制的に移動させられました。

 

 

 

 




明日、本編最終話です。


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最終話 祈りよ届け。さようならは言いません!

やはりたどり着いたのは、はじまりの庭です。

 

前回神のご加護を取得した時と同じように、この箱庭(小さな世界)が塗り替えられていきます。

 

「やっと来たわね。まったくあそこまで来て逃げるだなんて。あはは、いえ、いっその事最後まで逃げてもよかったのよ。」

 

「逃げられないような状況を作っておいてよく言うよ。ねえ、あなたは...。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウラノでいいの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「正確には違うわ。自己紹介とかめんどくさいわね。(世界)を読む時間が減るじゃない。まあいいわ。他の(世界)が切りのいいところだからゆっくりお茶でも飲みながら話しましょうか。」

 

「さっきシュミル型の魔術具に時間が無いみたいなこと言われたけど。」

 

「シュバルツ達ね。当然時間を止めてあげるわ。」

 

やっぱりこの人はウラノではないね。私の記憶にあるウラノはこんな私を不快にさせるような笑顔はしません。

 

「さて、では改めて自己紹介してあげますか。貴方は既に分かっているだろうけどね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の名前は本須麗乃よ。一応本と物語の神って座についているわ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本と物語の神?

 

「まあ、本と物語の神と言っても読む専門ね。作るのは専門外。元々は地球って所の日本という国に住んでいたけど本に押しつぶされて死んじゃったのよね。」

 

本が好きだったんだね。

 

「それで、この世界の大元である世界のマインに魂の一部は転生したけど、当然五歳程度の子供では私の本を求めるこの心を受け止めることなんてとてもできずに2割程度しか入らなかったわけ。」

 

2割って、残り8割はどこへ行ったの?はるか高みに上ってしまったの?

 

「簡単よ。本須麗乃の残った8割が私。運よくあなたの世界の元となった世界に私と似た魂を持つ神がいて食らおうとしたんだけど、撃退されてその後一応眷属みたいな扱いで居座れることになったのよね。」

 

頭が追い付かないよ。なんでそうなるの。

 

「ほら、モトスウラノ、メスティオノーラ。語感がそっくりでしょう。魂の形まで似ているって奇跡が起きたから神になれたのよね。もちろん私の本に対する狂気があってのことだけど」

 

モトスウラノ。とりあえず私の知っているウラノとは違う世界での同一人物だということはわかりました。

 

「目を必死に逸らしても無駄よ。元の世界とかこの世界とかについて話してあげるわ。」

 

いやだ、聞きたくないよ!やめてよ。それって聞いたら間違いなく後戻りができない話だよね。

 

「はぁ、まあ聞きたくないならいいわ、元の世界の説明は省略するけど、つまりこの世界はもともと運命の神ドレッファングーアが運命の糸を切り落とした世界なのよ。」

 

やめてよ。そんな話聞きたくない!

 

「まあ、神って理不尽じゃない。本当にあいつら勝手だよね。たかだか並行世界(パラレルワールド)の因子が入ったくらいで、もう編めないから切り落とすって何様だよって、神様か」

 

本と物語の神(本須麗乃)は「あははは」って笑っているけど冗談ではないよ!笑い事ではないよ。

 

「神にとってはその程度のこと笑い事なのよ。そのせいでどれだけの世界で生きているものが運命を狂わせられているか。」

 

神にとっては些事ってことなのかな。これだけ必死に生きてきたのに。

 

「まあ、並行世界(パラレルワールド)から来た私なんて興味深いから物語の神として世界のかけらを引き取ってあげたわけ。思ったよりも楽しい話にならなかったけど、数え切れないほどいろいろな世界の本を読み尽くした今となっては逆に新鮮だったわ。」

 

新鮮って、世界の扱いがその程度なの!?

 

「その程度なのよ。切り落とされた世界なんて普通は存続する権利すら与えられずに捨てられるものなのよ。」

 

つまり、この世界は神々に見捨てられた世界でこのままいけば崩壊を待つしかないってことだよね。

 

「そうね、このままいけばね。この世界の神が薄いのは元の世界の残滓が残っているだけってこともわかってもらえたわね。」

 

つまり、物語の神を名乗る本須麗乃が神として引き取った世界で本と物語の神(本須麗乃)以外にちゃんとした神様がいないってこと?

 

「そういうことよ。私の神の能力として、この世界を自動で物語が作られる本と定義することでかろうじて存続している世界なのよ。」

 

それなら本と物語の神(本須麗乃)が維持してくれればいいだけの話なのでは。

 

「残念だけどそれは無理。既に百冊以上の(世界)を積んでいるし、いつまでもこの(世界)を読んでいるわけにはいかないのよ。ごめんね。」

 

そんなのって、酷いよ。ならもう崩壊するだけじゃない。だったらせめて最後に村のみんなに会いに行こう。完全に詰んでるものね。

 

「もう、あなた分かってて言ってない。簡単な解決方法があるじゃない。」

 

簡単な解決方法って?そんなものがあるなら早く言ってよ。さすがウラノと同じ人。ただの意地悪な人、いえ神様じゃなかったんだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に簡単よ。貴方が私の後を引き継いでこの世界の神になればいいのよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

えっと何を言っているのでしょうか。この神様は。やっぱりただの悪い神だったの?

 

「悪い神って失礼ね。貴方は仮にも私と同じ魂を持っているのだからやれないことはないわよ。そうすればこの世界は救われて私も他の(世界)を読めるしみんなハッピー。いいと思わない。」

 

嫌だよそんなの!だってそれって。

 

「ならみんな、あなたの家族も含めて一緒に死んじゃえって。神になれば貴方から見守ることはできるわよ。」

 

でも、仮になれたとしても会えなくなっちゃうんでしょう。二度と触れ合えないんでしょう。見ることができるだけでも今までよりは良いかもしれないけど。

 

「まあ、好きにしなさい。ほら選ぶ。どちらを選んでも私はいいわよ。みんな一緒に滅びるか、それとも家族を生かしてあなたが神となるか。選択肢を与えられただけでも私って慈悲深いと思わない?」

 

そんなの、酷いよ。わたしが何を選ぶか分かって言っているんだもん。

 

「まあね。あなたは私ではなくマインだもの。では始めましょうか。」

 

 

 

 

「ローゼマイン様!大丈夫ですか。おお、なんと恐れ多い。まるで本物の女神を見ているようです。」

 

あははは、最悪の気分だね。これは。世界に拒絶されているってこういう感じなんだろうね。

 

あれほど忌々しかった従属契約も当然無くなっています。当然です。いわば私自身がこの世界になってしまったのですから。

 

もともと私の体は神の加護を得る儀式のせいで本と物語の神(唯一残った神)に引っ張られ、神格化が進んでいたようです。

 

結局のところ従属契約が私をアーレンスバッハというこの世界の土地に縛り付け、存在を保てていた要因の1つだったようなのです。

 

あれほど忌々しく思っていた契約に守られていたなんて。まったく嫌になります。

 

会議室に急いで戻ると、まだ時間はほとんどたっていないようでツェントとアウブが全員が残っていました。

 

「突然ですが、わたくしに残された時間が無くなってしまいました。後で別の者にグルトリスハイトの得る方法と代理の魔術具を持たせますので受け取ってくださいまし。」

 

はぁ、きついねこれは。世界が私を引っ張り取り込もうとしているのがわかります。

 

でもまだやリ残したことがあるうちは抗わないと。

 

「もしわたくしの言うことを聞いてくださるのなら、今回の件はできるだけはるか高みに上らない方向でお願いしたいかと存じます。ただでさえ魔力が足りていないのですから言いたいことは分かってもらえますね。」

 

全員こんな私に跪いているなんて。余計気持ち悪くなるよね。

 

「あと、シュタープを奪い罪をかぶる者はできるだけ実行犯だけにしてくださいませ。あくまでお願いですけど。」

 

「お姉様...。その神々しいお姿はどうされたのですか」

 

レティーツィアも私の魔力に当てられているのか頭をあげるのも辛そうです。

 

「レティーツィア、残念なことにわたくしは、この崩壊を止めるためにこの世界の神の眷属の一人になってしまいました。もう長くここにはいられません。」

 

「そんな、お姉様!」

 

「ふがいないわたくしを許してね。では一旦アーレンスバッハに戻りましょうか。アウブも起こさないといけませんし。」

 

最後にアウブダンケルフェルガーの脇へ行きハンネローレ様に時間が取れたらでいいからすぐにエーレンフェストに来てもらえるように伝えて欲しいとお願いします。

 

全員、跪きレティーツィア以外に誰も発言できないままこの場を去ります。

 

きっちり言質を取りたいですが、時間がどれだけ残されているか分かりません。

 

アーレンスバッハに戻ると()の力でディートリンデ様を探します。

 

ディートリンデ様はゲオルギーネ様の離宮の隠し部屋に魔力を遮る銀の布で囲まれた部屋に軟禁されていました。少しやつれたように見えますが気高さを感じさせる瞳の輝きや仕草や美しくゴージャスな髪、どこを見ても以前とお変わりありません。

 

「ディートリンデお姉様、ご無事でよかったです!」

 

「ローゼマイン!いったいどうしたのですか!?体が少し透けてましてよ!」

 

「ディートリンデお姉様、後で結構なのでこの箱をレティーツィアやアウブ達と一緒に王族に届けていただけますか。今回の件で私よりと言って頂ければ分かってもらえますので。」

 

「ローゼマイン、そんなことよりあなたどうしましたの...。私の方が美しいけど美しさが段違いになってましてよ!」

 

え、そこなの?この方は本当にお変わりなくうれしくなります。だって、この魔力の影響を受けていないはずはないのですから。

 

「まあ、いいわ。大切な妹の頼みですもの。これからすぐにどこかへ行くのでしょう。どこへ行くかは知らないけど必ず帰ってくるのですよ。お姉様との約束ですよ。」

 

「はい、ありがとう存じます。お姉様!」

 

これで、ディートリンデ様がゲオルギーネ様と連座なんてことにはならないでしょう。

 

ディートリンデ様の件が終われば、後はアウブです。

 

私の魔力でお父様とお母様を癒します。

 

壊れかけていた魔力器官も完璧に修復します。

 

「ローゼマイン、いったいどうした。その姿は。」

 

「お父様、お母様。突然ですがお別れを言いに来ました。見ての通り神の眷属となった影響でこの世界に留まれる時間が残されていません。後はレティーツィアにお聞きください。」

 

「ローゼマイン。何が起こっているかは分かりませんが、帰ってくるのですよ。今は恐れ多いですがその時は娘として迎えられるよう頑張りますからね。」

 

ええ、お母様が私のためにいろいろ動いてくださっていたことは知っています。

 

ドレヴァンヒェルの婚約話が出てきたのだって私をアーレンスバッハから出すためだったってことは薄々気が付いていたのですよ。

 

「ありがとう存じます。今までお世話になりました。」

 

 

 

さてでは、エーレンフェストへ向かうために、転移陣のある国境門に移動します。

 

「ローゼマイン様!話はレティーツィア様より聞いております。ついていかれないのは残念ですが見送りだけでもさせて頂きます。」

 

「お姉様、そのわたくしもついていきたいのですがダメでしょうか。」

 

う、ついてきていいよって言いたいけどだめです。ここで連れて行ったら、村まで連れて行くことになってしまいます。

 

「レティーツィア、ごめんなさい。一人で行かせてもらえますか。私からの最後のお願いね。」

 

「お姉様...。そんな言い方は卑怯です。必ず帰ってきますよね。二度と会えないなんて嫌ですよ。」

 

レティーツィア...。

 

「ねえ、レティーツィア。でしたらわたくしが戻ってこられるように祈っていてくださる。祈りが届けば戻ってこられるかもしれません。」

 

「わかりました。毎日お祈りしますから...しますから必ず戻ってきてくださいよ。約束ですよ。」

 

「我々からも、ベルケシュトックの姫よ。」

 

「あら、あなたたちは私の出身のことを知っているはずですけど。」

 

この方たちは最初からエーレンフェストに言及されていたし、ここまで来て知らないなんてことはあり得ないよね。

 

「あなたのお母様は、ザウスガースの3代前の領主の系譜でその妻はベルケシュトックの領主一族出身なのです。ですのでベルケシュトックの姫と言えなくはありません。」

 

なにそれ、聞いていないよ。確かに平民にしてはマナーがどうとか結構詳しかった気もするけどそんなことがって...本当かなぁ。

 

まあ、お母さんはお母さんだし、出身がどことか関係ないよ。

 

「もう、呼び方はあなた方の好きにしてくださいませ。それでは、皆様、また会える日まで、時の女神ドレッファングーアの糸は交わりお目見えすることが叶いますように。」

 

「ええ、我々もお祈りいたします。ローゼマイン様との糸が切れずに戻ってこられるように。」

 

なんだか本当に戻ってこられそうな気がします。可能性はあるのかなぁ。

 

まだ他にもいろいろ話したい気もしますが時間がないので移動します。

 

「ケーシュルッセル エーレンフェスト」

 

 

 

 

エーレンフェストの国境門につくと、ヴィルフリート様とハンネローレ様、アウレーリアが来てくれていました。

 

「アウブエーレンフェストより、話は聞いている。ローゼマイン、いや、ローゼマイン様と言った方がいいのか。」

 

「ヴィルフリート様、ローゼマインで結構ですわ。余計な挨拶も省略してくださってありがとう存じます。」

 

「ローゼマイン様、お父様、アウブダンケルフェルガーより急いでいくように言われましたが、そのお姿は...話は本当だったのですね。」

 

「ハンネローレ様、急な呼び出しに応じて下さりありがとう存じます。お陰様で、あまりいい気分ではございませんわ。今もわたくしを最高神がおられるはるか高みへ引っ張られそうな状態です。」

 

「そんな、どうにかならないのですか!」

 

「ああ、私もハンネローネ様と同じ気持ちだ。まったくローゼマインは...。」

 

二人とも心配してくれるのはうれしいのですが、どうしようもありません。

 

刻一刻とタイムリミットが近づいているのがわかります。

 

「お二方のお気持ちを嬉しく思います。アウレーリアも来てくれてありがとう存じます。あなたの子を置いてきて大丈夫なのですか。」

 

世界と同化しかけているせいで知らない情報が見えるって気持ち悪いですね。アウレーリアからはもちろん知らされておりません。

 

「あなたの騎士として当然のことです。もう既に生まれてから半年以上経っておりますし仮に無理であっても駆けつける所存です。」

 

「アウレーリア、それはだめですよ。せっかくの生まれた命を、わたくしと違ってその子を無条件で守れるのはあなただけなのですから。」

 

「ええ、ローゼマイン様はそうおっしゃるのはわかっておりましたが、わたくしの気持ちは変わりません。」

 

アウレーリアってこんなに自分の意見を貫き通す人だったかな。エーレンフェストに来て変わったのかな。いいことだとは思うけど。

 

「ローゼマイン、いや、マイン。最後になるかもしれないから言いたいことを言わせてもらうぞ。」

 

ヴィルフリート様は、なぜか怒りを抱えた表情をしています。

 

何か怒らせるようなことをしたのかな。まあ、いろいろ無礼を働いているしね。そんな前置きなんかしなくても言いたいこと言っていいのですよ。

 

「マイン、ふざけるな!また一人で何でもやる気か。何様のつもりだ。其方はいつもそうだ。私にもらったものを返すことすら許してくれないのか。」

 

「でもこの世界が崩壊したら皆様困るでしょう。私にしか止められないのなら私がするしかないではないですか。」

 

誰かが代わってくれるのなら、代わってほしいです。私だって断腸の思いで引き受けたんだよ。

 

「わかっている。わかってはいるのだ。せめて我々、いや私に何かできることはないか。何か私からマインへお返しをさせてくれ。」

 

この方に私って何かあげたっけ。記憶にないのですが。魔術具を贈った記憶もありませんし。むしろ仕方がなかったとはいえ無礼な事ばかりしていた記憶しかありません。

 

「それでしたら私がここに戻ってこられるように祈っていてくださる。昔の神への祈りが強いときは神様も地上に降りてきて交流していたそうですし、祈りが届けばレッファングーアの糸が交わり帰ってこられるかもしれません。」

 

まあ、仮にできるようになったとしても、今現在、この世界を管理できる神として、たった一人になってしまった私が降りられるのかは不明ですが。

 

「わかった。全力で祈るから必ず帰って来い。」

 

「ローゼマイン様がそれで戻ってこられるというのなら、わたくしも...わたくしも毎日お祈りしますね。」

 

「わたくしは、エーレンフェストに来てから、ローゼマイン様のご無事をお祈りしなかった日はございませんが、今度は糸が交わり帰ってこられるようにお祈りいたします。」

 

ハンネローネ様も、アウレーリアも涙目になりながら祈ってくれるとのことです。

 

声が掠れていましたが私を思っていてくれる気持ちは痛いほど伝わってきます。

 

こんなに思われるというのも悪くは...、いえ、ものすごくうれしいものですね。

 

さて、本当に残された時間がなくなってきました。最後は生まれ故郷の村(心のゲドゥルリーヒ)がいいですね。

 

あの慣れ親しんだ小神殿を使えばこちらに戻って来やすくなるかもしれませんし。

 

最後にヴィルフリート様より魔王様の手紙ということで移動中に読めとのことで受け取ります。

 

読みましたが、うん、相変わらずお小言ばかりですね。

 

最後まで手紙ですら褒めてくれないとは...。激励の言葉として受け取っておきます。

 

最後に小神殿で昇ることって、魔王様が小神殿に何かをしたのでしょうか。

 

まあ、言われなくてもそのつもりだったのでいいでしょう。あの方に今だに行動を読まれている気がして複雑な気持ちになりますね。

 

 

 

 

レッサー君で移動します。以前よりもすごい速さで移動できます。他の方がついてくるという話もありましたが断わらせてもらいましたが、これではどのみちついては来られなかったでしょう。

 

あらためて下を見ると、本当にエーレンフェストです。ここしばらく夢でしか見られなかった光景です。

 

村へは想像以上に早く着きましたが、魔力をたくさん使ったせい世界に引き込まれることに対する抵抗力が下がってきている気がします。

 

村へ近づいてくると、懐かしさのためか自然とほほに流れだしたもののせいか見る世界すべてが輝き美しく感じます。

 

ああ、本当に懐かしいです。懐かしの小神殿も輝いて見えますし、街道が整備されていたり、新しい家が建ったりいろいろ景観は変わっていますが間違いなく私がいた村です。

 

これなら、村なんて呼ばずに町というべきかもしれませんが、私にとっては村のままです。

 

 

 

レッサー君が虹色に輝いていたせいか、注目を集めましたが既に仕事も終わりで5の鐘(夕方)も過ぎています。

 

家の前に立ちノックしようとしますが...。なんで私は緊張しているのでしょうか。時間がないのに...。

 

なんだか家族に会うのが怖いのです。何を話していいか分からなくなりそうです。

 

私の気配を感じたのか、家の扉がいきなり勢いよく開きます。

 

「お父さんのわからずや!あいて」

 

勢いよく子供がぶつかって来ました。私の気配とか関係なかったようです。えっと、あはは、たぶんカミルだ。おっきくなったねぇ。

 

「まて、カミルまだ話が...。」

 

お父さんが出てきて私を見ると固まっています。

 

「えっとごめんなさい。どなたですか。こんな時間にお客様?」

 

やっぱりカミルなんだ。うわぁ。体が勝手に動いて抱きしめてしまいます。

 

「え、え、なに。ちょっと苦しいんだけど。」

 

カミルが何か文句を言っていますが私だって自分の体がいうことを聞かないんだから仕方がないよね。

 

「マインなのか。マインなんだな!」

 

「うん、ただいまお父さん。」

 

懐かしい声です。ええ、とっても。全てを包み込んで守ってくれるような聞くだけで安心できる声です。

 

「おおマイン!マイン!夢じゃないんだな。」

 

「お父さん、く、くるしい。」

 

お父さんは私にカミルごと抱きしめてきます。ああ、懐かしいな。昔は良く私が不安になるとこうして抱きしめてくれていたな。

 

「え、今マインって聞こえたけど。ってマイン!マインなの。戻ってきたの!」

 

「マイン、本当に無事でよかったわ。行方不明になったって聞いていたから。」

 

トゥーリ、お母さん。あはは、懐かしい。うれしいな。例え最後だとしても。

 

「みんなただいま!マインは帰ってきました。」

 

お父さんの大声を聞きつけたのか、村のみんなが集まってきました。

 

「おお、巫女姫様じゃ。何とも神々しいお姿になられて。」

 

長老衆の方々も懐かしいです。今でも作っている薬の原点はここですし、ここでの知識はとっても役に立ちました。

 

「そうだ、なんか体が透けてきているように見えるけど大丈夫なのか。」

 

ルッツ...意外と冷静だね。残念だけど大丈夫じゃないんだよ。

 

「ええ、皆様がせっかくお集まりいただいたのですがお伝えしないといけないことがあります。」

 

私が少し体に力を込めて丁寧に言うとあれだけ騒がしかった周りのみんなが静かになります。やっぱり神の魔力が影響してしまっているのかな。

 

「実はあまり時間が残されてないの。今でも気を抜けば、天からお呼びが来そうな状態なの。」

 

「なんだと、せっかく帰ってこれたというのに、どういうことだ!」

 

お父さん、怒ってくれてありがとう。でもね。無理なものは無理なんだよ。

 

「実は神様の眷属になっちゃってね。村のみんな、小神殿で私のこと見送ってくれる。心配しなくても大丈夫。いつかまた戻ってこられると思うから。」

 

「皆の者、巫女姫様の希望通りにするのじゃ。」

 

その後、当初は家族にだけお願いしようと思っていたけど、ずいぶんたくさんの人が小神殿に来てくれました。

 

この小神殿は相変わらずです。地下の隠し部屋に行ってみたい気もしますが、もうそんな力も時間も残されていません。

 

「みんなありがとう。こんなに思ってくれてマインは幸せでした。」

 

「ふざけるな!また帰ってくるんだろう。お父さんは許さんぞ。帰ってくるといいなさい!」

 

あはは、お父さんは相変わらずだ。

 

「ありがとう。みんなが戻ってこられると信じてくれればきっとまた戻ってこられるよ。だから信じてくれる。私のことを。」

 

「うん、戻ってくるって信じているよマイン。神様のことはよくわからないけど、行方不明から戻って来たんだから今回だって何とかなるよ。」

 

トゥーリありがとう。お母さんもお父さんを必死に止めながらも言ってくれます。

 

「信じているわよ。マイン。」

 

他のみんなも信じてくれるといってくれます。うれしいなぁ。まるで昔に戻ったみたいに落ち着きます。さっきまでわいていた胸の痛みがまるで溶けるように消えていきました。

 

胸の痛みが消えたせいで、気が抜けてしまったのか体が一気に世界に引き込まれていきます。

 

「マイン、信じるからな、必ず帰ってくると信じているからな!」

 

お父さん、ありがとう。

 

「また必ず帰ってくるからね。みんな私が戻ってこられることを信じて待っていてね!」

 

 

 

 




これにて本編は終了です。約3か月の長い間のお付き合い頂きありがとうございました。
作品のあとがきは、同日割烹にて更新する予定です。


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後日談、蛇足
後日談 はるか高みに上ったその後 


「おーいマイン、お昼だぞ。」

 

「カミルちょっと待って、あと少しで切りが良くなるから。」

 

私が、はるか高みに上ってから2年ほど経ちました。

 

今はどこにいるかって?当然村に決まっているじゃないですか。神殿の周りに作った田んぼでお米の品種改良中です。

 

ええ、何とか村には降りられるようになりました。とは言っても小神殿からあまり離れることはできませんが、私は他へ行く必要性を感じないので十分です。

 

はるか高みに上ってから一年は本当に大変でした。結局あの神様はほとんど何も教えずにどこかに消えてしまって呼び出したくても呼び出せませんし。

 

とりあえず神様の残滓を探って、神の代わりになるように同じような機能の魔術具的なものを生み出したりしていました。

 

ウラノの世界の『でうすおぶまきな』みたいなものです。後はひたすら世界の管理です。どんどん自動化していったとはいえ、それだけでは当然足りません。

 

自動化した神の代わりとかも魔力が切れれば動きませんし、皆さんにお祈りして魔力を奉納してもらわないと動かなくなってしまいます。

 

まあ、最低限このユルゲンシュミットを維持できるだけの魔力を稼げればそれでいいので、動かなくても問題ないものも多いのですが。

 

そんなこんなで徹底的に無駄なところを省いてユルゲンシュミットの世界を少しの間なら自動で管理できるようになったのが最近というわけですが当然地上に降りる方法なんてありません。

 

どのようにしたら地上(ユルゲンシュミット)に降りることができるかと困り果てていたところで、一方的にものすごく懐かしい冷徹なぶっきらぼうな声で、降ろすぞ。と聞こえたかと思ったらいきなり地面に私の存在が吸われ気が付いたらあの小神殿でした。

 

ええ、まるで私のはるか高みでの作業を逐一見ていたかのように完璧なタイミングで降ろしてくださったわけですが...まさかいくらあの方とはいえ、見えているとか言わないよね?

 

エーレンフェストの懐かしい方々がお出迎えしてみんなで喜んでくれました。

 

一通り、みんなで再会を喜び合っていると魔王様が寄ってきて、相変わらずお小言から始まったので思い切って言ってみました。

 

「あら、仮にも神になったのにまだ私にお小言を言われるのですか。今の私ならフェルディナンド様相手でもどうとでもできますよ。」

 

「ふ、ならば君はこちらへ降りられる方法を見つけたのか。私がいなければ君はこちらへ降りることもままならぬぞ」

 

「ごめんなさい。わたくしが悪うございました。」

 

全面敗北です。まさしく瞬殺でいいのでしょうか。確かの今、神の魔力を利用すればどうとでも対処できるかもしれませんが降りる方法は見当もつきません。

 

まったく仕方のないやつだという風に神殿においてある以前はなかった魔術具の説明をしてくれます。

 

要は、この魔術具で小神殿を神域に書き換え私が来られるようにするという代物だそうです。

 

仕組みも説明と解析でわかりましたが、材料を用意するのが大変ですし、そもそもはるか高みでは用意できませんし無理です。メンテナンスもはるか高みからでは無理ですし、こんなものを用意できる魔王様がおかしいだけです。

 

この後も、しばらくは少しの間だけ神殿に降りて家族に会ってまたとんぼ返りという感じが続きましたが、魔王様がさらに魔術具を追加してくれて、小神殿の周辺なら何とか移動できるようになりました。

 

何の魔術具を追加したかって?私が以前に作った魔力を通さない糸と魔力糸で編んだあの布を使って、その布と魔術具を身に付ければかなり神域に近い状態を維持できるという代物です。

 

魔力を外に漏れださないようにする作用を利用しているようです。とはいうものの、脱いだとたん世界から弾かれますし、小神殿のおかげで周辺が神域に少しだけ近い状態だから可能なようです。

 

私はというと相変わらず、はるか高みにいなくてよいというわけではないのですが、少しの間なら降りても問題ない状態になりました。

 

「それでマインは今回、どのくらいこっちにいられるんだ。」

 

「お父さん、うふふん、今回は二日ぐらいいられそうだよ。今までで最長を目指すんだよ。」

 

「おお、そうかそうか、うれしいなぁ。」

 

「マイン、いいのかよ。神様っていうのは二日も休めるものなのか。」

 

「カミル、お姉ちゃんだって頑張っているからようやく二日も降りられるようになったんだよ。尊敬してくれてもいいんだよ。」

 

私が胸を張って言うと、カミルがいたずらっ子が相手をからかうかのように軽い口調で言ってきました。

 

「マインは俺と身長そんなに変りないし、見た目も幼いから余りお姉ちゃんに見えないんだけど。」

 

「うふふふ、人が気にしていることを。なんで神様になったのに身長伸びないんだろ!一生このままの可能性が高いなんてひどいよ!」

 

「あら、一番かわいい時期がずっと続くのだからうらやましいわよ。お母さんなんてねぇ。」

 

「エーフェは、いくつになってもきれいだから大丈夫だ。」

 

いつも通り、お父さんのお母さんへの愛を語る姿もカミルがものすごく生意気になってきたのも含めて幸せだなぁ。家族と言いたいこと気にせず言いあえるって素晴らしいことだと思わない。

 

昼ごはんが終われば、お母さんの仕事を手伝ったり。

 

お母さんのためなら神具の機織り機で最高級の布を織っちゃうよと気合入れ過ぎて逆にこんな高級なもの使えないと言われてしまったりいろいろあったりしましたけど。

 

夕方に、トゥーリとルッツが一緒に家に来ました。

 

「ただいま、あ、マインが帰ってきてる!」

 

「お、マインも帰って来ていたのか。」

 

「おかえり。うん、今回は頑張って二日ぐらいいるつもりだよ。ルッツがこの時間にトゥーリと家に来るなんて珍しいね。」

 

「ああ、婚約したからな。トゥーリと。」

 

え、こんやく?だれとだれが?

 

「あれ?言っていなかったかな。マイン、私とルッツは婚約しているの。」

 

え、え、え~~~!

 

「トゥーリ、ルッツ!どういうこと!?お母さんもカミルも笑っていないで教えてよ!」

 

神に祈りを!って、残念ながら私が一応神様でした...。

 

「待て、お父さんはまだ認めてないぞ!せめてお父さんを倒せるぐらい強い男でないと。」

 

「ギュンター、あなたを倒さないと認めないだなんてそれこそ貴族様でもない限り結婚できませんよ。ルッツ、この人は私が黙らせておくから安心してね。」

 

「エーファおばさん、ありがとうございます。ギュンター叔父さんには戦いでは勝てませんが商人としての戦いでいつか認めさせてみせます。」

 

完全においてけぼりです。というか、お父さんはこの間中級貴族の方と模擬戦をして勝ったとかカミルが言ってたよね。平民でお父さんに勝てる人っているのだろうか。

 

なんだかそうやって反対しているお父さんの前で堂々としているルッツもいつもより格好よく見えるし、一応貴族にもなっていたのにあまり成長していないのって私だけな気が...。

 

まあ、いいよね。みんな幸せそうだし、お父さんもああは言っているけどルッツのことを認めているようだし。

 

「そういえばマイン、神様って結婚できるのか?」

 

いや、カミル、普通に考えて無理でしょ。体の成長も完全に止まっているし。

 

「そっかぁ、無理なんだ...ヴィルフリート様も報われないな。」

 

最後の方はつぶやくような感じで聞き取れませんでした。

 

まあ、いいのです。そんなことよりも家族が、みんなが幸せに暮らせる方が大切です。

 

 

 

 

あっという間に時間が幸せな時間が過ぎてしまい、また帰る日になってしまいます。

 

こっちに戻ってきたときはいつものんびり好きなことができるし何よりも家族といられるから幸せです。

 

次に戻って来られるときは、ルッツとトゥーリの星結びになりそうです。必ず帰って来られるようにして、盛大に祝福を贈って祝ってあげるんだ。

 

「次こっちに来られるのは、トゥーリとルッツの星結びかな。そうしたらルッツが私のお義兄ちゃんになるんだね。」

 

「マインにお義兄ちゃんと呼ばれるのは変な感じだからルッツのままでいい。神様のお義兄ちゃんってよく考えたらとんでもないな...」

 

「もちろん、ルッツはルッツだしね。あ、そろそろいい加減戻らなきゃ!」

 

はるか高みでは、ほとんど一人なので寂しく思うときもあるけどみんなのためなら頑張れます。

 

それに以前とは違いこうして何度も会えるようになりましたから幸せですね。きっとこのような幸せな時間がずっと続くのだろうなと漠然とながら思いました。

 

「じゃあ、みんなまたね!」

 

 

 

 




これにてこの物語は終わりです。

ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございました。
一応本日いつもの更新時間に蛇足の話をあげる予定ですが、読むかはタイトルを見てから判断してください。


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蛇足 とある主役の視点にて

最終日は2話更新です。本編の後日談は前話です。この話はあくまで蛇足です。投稿するか迷いましたが書いてしまったので投稿します。

内容については、前話の後書き通りです。タイトルを確認してください。
いつもより少し長いですがよろしければどうぞ。
















「ディートリンデ、今日はアウブと食事を取るから準備をしなさいな。」

 

あまりわたくしに興味のないお母様が珍しく話しかけてきたと思ったらアウブであるお父様との食事とのことだ。

 

まあ、お母様はこんなことでもなければ話しかけても来ない。

 

思えば、お父様との食事もずいぶん久しぶりな気がしますわね。マルティナなど側仕えに準備をさせた。

 

今回は、お父様が新しく養子に取った子の身内でのお披露目という意味もあるらしい。

 

「お母様は、そのローゼマインという子について何か聞いていまして」

 

「いいえ、ディートリンデが直接見てどんな子か判断してくださいな。」

 

お母様も良く知らないそう。いろいろと噂だけは流れてくるが実態はよくわからない。

 

分かることと言えば神殿出身らしいということ。体がとても弱く年齢よりもとても幼く見えるほど小さい子らしい。

 

お父様も神殿なんて孤児の集まるようなところからわざわざ養子なんて取らなくていいのに...。

 

何を考えているかさっぱり分かりませんわね。

 

 

 

 

実際に食事会で会ったローゼマインは、とても小さくお人形みたいな子ではじめましての挨拶をしてきたときも、表情が余り変わらず不思議な雰囲気を持った子だった。

 

これなら私の後ろに置いても見栄えはしそうだわね。神殿の者と同列に見られるのは嫌だけど妹としてなら悪くはないかもしれないわね。

 

「まあ、話には聞いておりましたがずいぶんちっちゃいのね。ローゼマイン。わたくしのことをお姉さまと呼ぶことを許しますわ!」

 

「まあ、ありがとう存じます。ディートリンデお義姉さま。貴族院では今年からご一緒になりますがよろしくお願いしますね。」

 

少し表情が柔らかくなった気がするわね。今までわたくしが一番下だったからお姉様と呼ばれるのも新鮮ね。

 

「よろしくってよ。お姉さまとして困ったことがあったら何でも頼ってちょうだいな。」

 

その後の食事前にローゼマインの左手の手袋を取らないのかという話になったのだけど...

 

なんでもローゼマインは体が弱いのに加えて左手が不自由で魔術具なしには動かないとのこと。

 

親がおらず神殿に入れられていただけでなく、体も弱く左手まで不自由だなんてお父様も彼女の境遇に同情して引き取ったに違いありませんわ。

 

ローゼマインのことを少しだけかばってやると「ありがとう存じます。ディートリンデお義姉さま。」と言ってきました。

 

表情が余り変わらず分かりにくいけど感謝をしていることは伝わってきますわね。なんとも不思議な雰囲気を持った子ですこと。

 

ローゼマインは、余り話すのは好きではないようだが、こちらが聞いたことは少したどたどしさもありながらも答えてくれますし、何よりわたくしの話をちゃんと聞いてくれた。

 

どうにもわたくしの周りには話の途中でさえぎったり、すぐ他の話へ言ってしまうことも多いのでここまで心地よく思うがままに話してもちゃんと聞いてくれる人は少ないのよね。

 

そうそう、いろいろ聞いてみて分かったことは、養子に引き取られた後も神殿に勤めているということと、一応貴族の血筋らしいけど本当の親はよくわかっていないとのことね。

 

体がものすごく弱いので良く寝込むということで一応領主候補生として扱われるけど、アウブには絶対にならないことをお父様と約束しているという事も確認が取れた。

 

まあ、神殿のものというのは良くないけど仕方が無いでしょう。

 

アウブを争う相手ではないし、シュミルのお人形みたいで可愛いので見栄えもする。加えてわたくしの話しも気持ちよく聞いてくれるので側においてあげてもよくってよ。

 

いつもお父様との食事会は硬い雰囲気で、大人の話には入っていけずつまらない事が多かったけど、この日はいろいろ話せて楽しい時間を過せたわ。

 

 

 

 

その後は、冬の洗礼式と洗礼式後のお披露目ではやけに派手に祝福を降らせていたわ。

 

よく魔力が持つわね、なんて少し感心しながら見ていたら最後の最後でものすごく派手に祝福を降らせてきた。

 

ずいぶん目立ってますわね。少しだけ嫉妬したくなったわ。

 

「まったくずいぶん目立ってますわね。マルティナどう思いまして。」

 

「アウブの命で、できるだけ派手にやれと言われているそうですわ。ローゼマイン様の表情を見ていただければものすごく無理をなさっていることがよく分かるかと存じます。」

 

確かにそうですわね。お披露目会が進めば進むほど、よく見れば顔色が悪くなっていき体がほんの少しふらついているように見えますわね。

 

まったく、お父様もローゼマインは体が弱いのですから少しくらい配慮してあげればいいのに。

 

案の定、授与式ではここにいられるような状態ではない様で贈り物を渡されたらそそくさと退場して行ったわ。少しだけ話したかった気もするけど、あの状態では仕方が無いわね。

 

 

 

 

案の定、あの後からローゼマインは寝込んだようで私が冬の館にいる間には戻ってこなかった。

 

あれだけの魔力を放出すれば、ただでさえ体が弱いのに当然ですわね。まあ、貴族院では時間があるだろうから今はいいですわね。

 

さすがに貴族院に来ないってことはないだろうし。

 

貴族院では新入生を迎える準備も終わり、共有フロアでのんびりとしていたらローゼマインがわたくしを探しているとの話が入ってきたので会いに行ってあげたわ。

 

ええ、まあ、わたくしが洗礼式での話を聞きたかったということもあってのことだけど。

 

やはり、ローゼマインは洗礼式では相当無理をしていたらしく、寝込んでいたとのことですわ。

 

わたくしが心配してあげたということを伝えると、ローゼマインは感激したというかのように少し目を潤ませて、体のことでいろいろ迷惑をかけるということと社交経験がないため頼りにさせてもらうということを言って来ましたわ。

 

あれだけのことをできてもきっとローゼマインは、神殿育ちで貴族としては何もできないのよね。

 

わたくしがローゼマインにいろいろ教えてあげないと。

 

素直に頼るなんていわれたのは初めてのことだったのでいい気分になってきましたわ。

 

領主候補生として見本を見せないといけませんわね。

 

そのあとは、周りに指示を出して貴族院生を集めローゼマインを紹介してあげた。

 

わたくしのおかげでローゼマインの紹介はスムーズに進み、最後にローゼマインがお礼を言ってきたわ。

 

「流石はディートリンデお姉さまです。ありがとう存じます。」

 

他の者と違って素直に感謝しているのが伝わってきましたわ。素直にお礼を言われるのって気持ちいいものですわね。

 

 

 

 

親睦会では、ローゼマインが初めてのことで僅かに緊張しているように見えたので、安心するように言うと少し表情が和らいだように見えた。

 

なんだか、とても素直で動きとかもシュミルみたいでかわいいですわね。身長も年齢に似つかわしくなく小さいので余計にそう感じますわ。本当に不思議な子ですこと。

 

その後は、いつも通りに親睦会が進んだ。ローゼマインも少しだけ話すけど元々の引っ込み思案な性格と、やはり緊張していることもあってか余り積極的には会話に入ってこない。

 

ですけど、不思議とこの日は、いつもより話しやすく気分良く他の領主候補生と話せましたわ。

 

ただ、何故かはわからないけど、ヴィルフリートが来た時にローゼマインの態度が変わったように感じた。

 

手袋に不調が出てきたのか違和感を感じているのか話しているときも左手を気にして気もそぞろだったしどうしたのだろうか。

 

最初はほんの僅かな違和感だったけど、ヴィルフリートがローゼマインに興味があるようで話しかけていたが当のローゼマインは興味がないといった感じだった。

 

話しかければ一生懸命答えようとしていたさっきまでの姿と余りに違うので、さすがに変だと思って顔を見たら、少し顔色が悪いように見えた。

 

「あらいけないローゼマイン、体調が悪くなってきたと申してましたわね。顔が真っ青でしてよ。こっちはいいから休んでらっしゃい。」

 

絶対に挨拶しなければならない領地は終わっていたので休むように促すと、相変わらず表情が分かりにくいけどほっとした感じになったわ。

 

「ありがとう存じます。お言葉に甘えて席をはずさせてもらいますね。」

 

やはり無理をしていたのかもしれないわね。先ほど調子が悪くなってきたと言ってましたしもう少し早く休ませてあげても良かったかしら。

 

でも、わたくしの親戚のヴィルフリートには挨拶しておいた方が良かったのは当然なので仕方が無いわね。

 

結局ローゼマインはそのまま戻ってこられずに休むことになった。

 

その後は、お付き合いの深い領地はないのでそのまま挨拶と少しの話だけで終わったわ。

 

 

 

 

親睦会ではヴィルフリートがずいぶんと勉強に熱を入れているようで全員初日合格させるとか息巻いていたわ。

 

わたくし達も領主候補生らしく導いた方がいいですわね。さっそく寮に戻ったら周りに相談した。

 

「あなた達、何かいい案はありまして」

 

「それでしたら、ローゼマイン様は神殿長をしていられたのですから領主候補生として神学について教えさせてみてはいかがでしょうか。」

 

「いいですわね。引っ込み思案なローゼマインと周りとの繋がりもできますし、やらせてみましょうか。」

 

まったく、あの子ったら用がなければ自分の部屋から出てこないのか今も共有フロアにいませんしどうなっているのかしら。

 

周りと少しは交流しないとダメですわよ。待っていても出てきそうにないので、仕方なくローゼマインを共有フロアに呼び出してみんなを指導するように言ったわ。

 

「さて、ローゼマイン。わたくし達は領主候補生として皆様を導かなければなりません。」

 

「ごめんなさい、ディートリンデお義姉さま。私に皆様を導けるような力はありません。」

 

相変わらずこの子は表情とか口調からは分かりにくいけど、大事な交流をめんどくさがっているのではなくて。

 

「みなさん、神の名前や由来について難しくて困っているのですわ。あなたは神殿にいたのですから緊急講義をお願いしますわ。」

 

ローゼマインはあまり気が乗らないようだったけど範囲とかを教えてくれというので学年の取りまとめているもの達を呼んで伝えるように言っておいた。

 

あなたも領主候補生なのだから少しはみんなとお話をしないとダメですわよ。

 

 

 

 

その日の講義が全部終わった後、ローゼマインの教えがうまくいった様で教えた教科については全員が合格したらしい。

 

そのことを、側仕えや側近達と話すと...。

 

「でしたら、次はローゼマイン様に歴史を教えさせてみてはいかがですか。」

 

「ローゼマインは歴史も詳しいのかしら?」

 

「おそらくは、冬の館でも優秀なようでしたしわざわざアーレンスバッハの歴史なる分厚い本を貴族院に持ち込むほどですからとても詳しいのではないでしょうか。」

 

...あの本ですわね。

 

あのとんでもなく長く変に細かいところは細かく書いてあるのにいきなり雑な表記になったりとても読みたいとは思えない代物だったわ。

 

専属の教育係に無理やり少しだけ読まさせられたけど、余りのひどさに途中で諦めましたわ。

 

神学の評判も良かったし次は歴史をやらせるべきですわね。

 

そのことをローゼマインに伝えると、あまり得意ではないとかいろいろ言い訳してきた。

 

ローゼマインのためにもなるし、わたくしがヴィルフリートに自慢できるかもしれないし却下ですわ。

 

「だいじょうぶです。やるだけやって御覧なさい。」

 

任せましたわよ!

 

 

 

 

次の日の音楽では、体調を崩して祝福を出したとかいろいろ話が私のところにもきましたわ。

 

まあ、あれだけの祝福を贈れるのですから少しくらいは、溢れ出すなんてこともあるのでしょう。

 

それよりも、また体調を崩したですって!あの子は本当に体が弱いわね。他の人を教えたくらいで倒れるとは思えないし。

 

一応心配になって朝にローゼマインが無事に共有フロアに顔を出したのを見て安心したわ。

 

顔色もそこまで悪くないようだし大丈夫ですわね。

 

そのあと、図書館に登録するということでとりまとめを任されたとのことでグループごとにわざわざ回って伝えようとするので共有フロア全体に伝わるように用件を話してあげたわ。

 

伝わっていないものには、共有の連絡版とかに文官たちが書いてくれるでしょうし、お任せですわ。

 

 

 

 

その後も、ローゼマインの行動はありえないよな事が何度かありましたわ。

 

まず、用事がないにもかかわらずお茶会に参加したくないというだけで参加を断ろううとしたり...先生から誘われるなんて名誉なことなのにそこについてもよく分かっていないみたいね。

 

シュタープを取りにいったら全然戻って来なくてようやく戻ってきたと思ったら部屋に引きこもったり...。

 

奉納舞の授業では、ヴィルフリートが話したいというからローゼマインを呼んでみたけど、相変わらずだし。

 

引っ込み思案のローゼマインには、いい機会なのでわたくしの親族のお茶会に参加させようとしたら断るし、まったく、姉であるわたくしを困らせるとか何なのでしょうか。

 

こうなったら絶対に参加させてやりますわ!

 

他にも、マルティナにローゼマイン様にぜひ勉強を教えて欲しいと言ってくる方がたくさんいるのですが、ディートリンデ様に教えるようにお願いして欲しいと言われたりしたわ。

 

「ローゼマイン様を動かせるのはディートリンデ様だけですわ。皆様ディートリンデ様を頼ってこられているのでお願いしていただけませんか。」

 

領主候補生で姉であるわたくし以外ローゼマインを動かせないとのこと。まったく頼られては仕方が無いわね。ローゼマインに周りの希望通りに教えるよう言ってあげたわ。

 

あの子もとりあえず頼られていい経験になるでしょうし、あの子にいろいろ言ってあげられるのは立場が上のわたくしだけですからね。

 

その他にも体が弱いのにもかかわらず一人で図書館へ行ったり、単独で行動していることがよくあるそうで何度か注意したわ。

 

またある時は、お茶会の準備を忘れていて直前まで準備をしていなかったりいろいろ抜けてますわ。私がきっちり見てあげないと本当にダメな子ですわね。

 

 

 

 

どういう経緯かよく分からないけど、ローゼマインが図書館のシュミルの主になってしまい寮につれてきたいという話になったわ。

 

シュバルツ達はとてもかわいいと聞いているけど、実物は最初の図書館登録以来、図書館へ行かないので、かわいらしい人形があったということ以外良く覚えていないのよね。

 

かわいいシュミルの人形が動くというだけでも心躍りますわね。ローゼマインよくやりました、と思っていたのだけれど...。

 

最初に、わたくしに主を譲ろうとしてうまくいかなかったりいろいろあったけど、とりあえず触れるようにはなったわ。

 

ローゼマインは魔術具に関してとても詳しいようでシュバルツ達の魔法陣の解析をしていた。

 

こんなにかわいいシュバルツ達をわたくしに譲るなんていい心掛けだわ。

 

しばらく経つと、この子達を図書館へ返さなければならない時間になってしまったのだけれど...あまりにこの子達がかわいいので返したくなくなったわ。

 

どうやらこの中で一番魔術具に詳しいらしいローゼマインに何とかならないのかと聞いてみたところ...魔術具を準備しだした。

 

なんでも、この子達は一定時間理由なく図書館に出しておくことはできないため、ここに置くのなら分解しなければならないとのこと。

 

冗談じゃないわ。分解するなんてかわいそうですわ!

 

初めはローゼマインの冗談かとも少し思ったけれども、とても真剣な目でシュバルツ達をにらんでいたので本気だとわかった。

 

断腸の思いで断念しましたわ。分解するなんてとんでもないですわ。

 

心なしか、ローゼマインは残念そうだったように見えたのが気になったけれども...。

 

 

 

 

解析が終わって、シュバルツ達を戻すために図書館へ向かうと...ああ、やだやだ、あの暑苦しいダンケルフェルガーのレスティラウトが仁王立ちしてますわ。

 

狙いはこの王族関係の魔術具ですわね。ローゼマインは必死に説得しようといろいろ言っているけどこいつらに何を言っても無駄ですわ。

 

ローゼマインにさっさと戻しにいくよう伝えると、アナスタージウスが来ましたわ。

 

あのいけ好かない王子に一度仲裁されて、ローゼマインはシュバルツ達を戻しに行った。

 

私達は先に小会議室へ行き今回の件で話し合いになったのだけれど、結局言い合いになり全然話が進まなくなってしまったわ。

 

王子がいつもの言い合いにめんどくさくなったのか...

 

「ふむ、双方の言い分はわかった。だが、どちらも悪い。双方何かいい方法はあるか。」

 

本当にわかったの?ふざけているわね。まあ、ダンケルフェルガーにディッター以外の話が通じるわけないしどうでもいいですわ。

 

案の定、ディッターで決めようとか言い出してきたわ。これ以上話したくもないので代表として受けてやりましたわ。

 

シュバルツ達の主の座を譲る気はなかったけどこいつらを黙らせるにはディッターしかないのだ。

 

レスティラウトが断られたことを理由に断念させようとするもローゼマインと同学年のハンネローレを引き合いに出してきましたわ。

 

ローゼマインが資格があればという話しにもっていき何とか終わったわ。

 

わたくしにも資格がないのに、レスティラウトの妹に資格があるわけないわよね。

 

その後のディッターでは、ローゼマインの魔術具がうまくはまり勝利しましたわ。

 

レスティラウトのそれはもう悔しそうな顔ったら、いい気分ですわね。

 

あの暑苦しくむかつくダンケルフェルガーもディッターで負ければ素直に引き下がりますわ。

 

ローゼマインのおかげでいい気分で戻れますわね。

 

 

 

 

さて、親族同士のお茶会ですわ。ローゼマインの側近には、先に必ず本人にお茶会の件を黙っているように言っておいて準備だけを先にさせておいたわ。

 

問答無用で、朝一番でお茶会の準備をさせたわ。

 

ローゼマインはわたくしの親族同士のお茶会があったことを忘れていたらしくて伝える前は頼りにしていますと素直についてきましたわ。

 

ところが、向う途中で親族同士のお茶会であることを告げると、逃げようとしだした。

 

規模も小さく、わたくしの気心の知れた方しか参加しないので経験の少ないローゼマインにぴったりなのに何で露骨に逃げようとするのかしら。

 

もちろん手をつかんで逃がしませんでしたわ。まったくもう。わたくしの親族とそんなに話したことがないはずで嫌いな人がいるわけがないし...男が苦手とかならありえますわね。

 

それならなおさら気心の知れた者たちが集まり多少失敗しても大丈夫なこのお茶会に行かせない訳には行きませんわね!

 

 

 

 

その後、楽しいお茶会が始まりましたわ。参加者はヴィルフリートとフレーベルタークのリュディガーとわたくし達2人ですわ。相変わらずローゼマインは不安そうで、これはこれでかわいいわね。

 

大丈夫ですわ、引っ込み思案なローゼマインは時間がかかるかもしれないけど経験すれば慣れますわ。

 

貴族としては当然お茶会には慣れていないといけないのだけれど、まったく神殿なんかにいたらできないのは当然ですわね。

 

お茶会が始まってから途中でローゼマインが席をはずしたいといってきたので顔色を確認してからはずさせたわ。体が弱いって大変ね。

 

そのあと、ヴィルフリートがローゼマインに興味があるのかいろいろ言ってきたわ。

 

「ディートリンデ、ローゼマインが話をしてくれないのだが私は彼女に何かしてしまったのだろうか。」

 

「確かにリュディガーとは普通に話すのにヴィルフリートだけ変な反応ね。」

 

「私も気になっていた。ヴィルフリートに何か思いつくことはないのか。」

 

あらあら、ひょっとしてローゼマインのことを?まだいくらなんでも早いわよね。でも一目ぼれとかもありえなくはないし...。

 

そこでヴィルフリートが意を決したかのように言って来ましたわ。

 

「ディートリンデ、ローゼマインと一度、一対一で話したい協力してくれぬか。」

 

ヴィルフリートの目が視線で盾を貫きそうなほど真剣で、ローゼマインと本気で話したいと物語っていたので協力してあげることになったわ。

 

恋愛感情があるかは分からないけど、そこまで話したいと思われるとは少し嫉妬したくなるわね。まったく、まあ、かわいい親戚の願いを叶えてあげましょう。

 

ローゼマインは相変わらず少し疲れた表情で戻ってきましたわ。

 

「ローゼマイン、ヴィルフリートがあなたと話をしたいと言ってますわ。」

 

案の定、わたくしに助けを求めるかのように不安そうな目を向けてきますがダメですわ。ヴィルフリートの思いを無碍にするわけには行きませんものね。

 

「いいから行ってきなさいな。」

 

多少強引に言わないと動きたがらないのよね、この子。まったく、領主候補生失格ですわ。

 

何とか二人っきりで話させようとヴィルフリートと別の席に移動させた。

 

そこでヴィルフリートが二人で話したいと盗聴防止用の魔術具を渡そうとしたけど、ローゼマインが断っていたわ。

 

ああ、ただ話すだけなのにじれったい。見ているだけでイライラしますわね。

 

「まあ、ローゼマイン。何かヴィルフリートには話したいことがあるようです。聞くだけでいいから聞いてあげなさい。」

 

とりあえず聞くだけ聞いてあげればいいのですわ。ヴィルフリートだってローゼマインに悪さをするとは思えないですし。

 

「ディートリンデ、同学年の男女がああやって話しているのを見るのはいいものだな。」

 

「あら、リュディガーはしたなくってよ。」

 

「そういいながらも、目を離さないのはどなただ。」

 

「ローゼマインが心配なだけですわ。」

 

盗聴防止用の魔術具を使っているから内容はまったく分からないけどローゼマインはほとんど聞いているだけで、ヴィルフリートが一方的に話しているようね。

 

話しているうちに、不安そうな表情から、だんだん表情が和らいでいるように見えますわね。

 

ヴィルフリートに対して少しは警戒感を減った様で良かったわ。

 

と安心していたのだけど...。また、なにやら泣きそうな表情になったかと思うと、ヴィルフリートが何かを言ってローゼマインに手を出した瞬間...。

 

ローゼマインの金色の目が急激に輝きだしたかと思うといきなり椅子から崩れ落ちたわ。

 

わたくし達は余りに驚いて急いでローゼマインの側に寄った。

 

「ヴィルフリート、わたくしのかわいい妹に何をしましたの!しっかりしなさいローゼマイン、こうしてはいられませんわ!失礼しますわ」

 

事情を聞くのは後ですわ。この症状は明らかに異常だ。急いで医者のところに...。

 

「しっかりなさいローゼマイン。あなた達ローゼマインを医者の所へ。」

 

「お義姉さま...ごめんなさい、これは持病なのです。私の部屋まで運んで...。」

 

確かに特殊な病気なら専用の薬が必要ですわね。持っているというのなら医者に見せるより部屋へ連れて行った方がいいですわね。

 

「しっかりなさい。あなた達ローゼマインの言うとおり急いで運びなさい。」

 

側近達にローゼマインの部屋に運ばせましたわ。

 

それで薬がどこにあるのかと聞いても自分であけるといって箱だけ持ってきて欲しいといってきます。

 

仕方が無いので私自ら取ってあげた。

 

「どれですの。」

 

「お義姉さま...人払いをおねが...。」

 

人払いなんてしている場合ではないわ。でも一刻を争う状態ならそんなことで言い合いする方が時間の無駄ですわね。

 

「人払いとかそんな場合では...仕方ないわねあなた達でていきなさい。」

 

「一生のおね、がいです、はこだけおいて、うしろをむいて...あぐ」

 

もう、なんなのこの子は!他の人に見られたくないとかそんなこと言っている場合じゃないわよ!

 

「なんなのですか。ああ、もうわかりましたわ、はい、これが箱よ。後ろ向きましたわ。」

 

見ているのもかわいそうな状態になっており、言うことを聞いてあげますわ。

 

後ろでビンがこすれあい割れそうな嫌な音が鳴ってきた。ああもう、手のかかる子ですわね。

 

「ああ、もう、この薬でいいんですわね。ほら開けてあげるから、飲みなさい。」

 

見れば完全に手が震えているし、目の焦点が合っていないように見えた。こんな状態になってまで無理をして!

 

「ありが...とう...おねえ...。」

 

「本当に大丈夫なのですか、大丈夫なら何も心配せず眠りなさい。」

 

まったくもう、とりあえず少し経つと寝息は穏やかになったので大丈夫そうですわ。

 

改めてローゼマインが出した薬箱を見ると...。

 

何なのですか!見たこともないようなどす黒い薬は!?こっちの薬は虹色に輝いていますわ!?

 

とても人が飲むものには見えない、よほど特殊な薬なのか薬と偽って毒でも飲まされているのではなくて!?

 

とりあえず、人払いまでさせて飲んでいたのはこういうことでしたのね。

 

確かにこんな見ているだけで気持ちの悪くなりそうな薬を飲んでいるなのなら、飲んでいるところを見られたくないというのはよく分かりますわ。

 

あまりに見たこともなくひどい色の薬に動揺し、薬箱が閉じてしまいましたわ。

 

どす黒い色の薬を出したままだったので改めてしまおうと薬箱をあけると...。

 

あれ、変ですわね。そこにはわたくしでも見たことある普通の薬が入っていた。

 

再度閉めてから空け直しても同じ状態だ。

 

困りましたわね。とりあえずこの薬は預かっておきましょう。

 

 

 

 

そこから、ローゼマインが起きたと報告があったのは4日後でしたわ。

 

急いでローゼマインの元に向った。

 

ローゼマインはまだ、お世辞にも体調がいいとはいえないようだが口調ははっきりとしていて体の変な震えも収まっているように見えた。

 

「ディートリンデお義姉さま、ご迷惑おかけしました。」

 

ええ、まったくですわ。でも無事でよかった。

 

「本当に大丈夫そうでよかったですわ。わたくしにこんなに心配させるなんてローゼマインはわたくしの妹失格ですわ。」

 

体調が悪くてもあのときの薬については聞いておかないといけませんわね。

 

「ところであの薬は何なのですか、話してもらえるわね。」

 

ローゼマインは私の質問には答えずに露骨にわたくしから目線をそらして聞いてきました。

 

「ディートリンデお義姉さま、私のことについてゲオルギーネ様からはどう聞いていますか。」

 

今の話と何か関係があるのかしら?まあいいわ。答えてあげましょう。

 

「あなたのこと?何も聞いていませんわ。」

 

驚いた表情に見えるので意外だったのかしら。

 

「お母様から、ローゼマインの人となりを見て判断なさいといわれてますわ。」

 

 

 

 

その後ローゼマインは目を一度閉じて考えをまとめたようで、再度ゆっくりと目を開いた後に答えて来ましたわ。

 

なんでも、ローゼマインは身食いと同じ症状で魔力のコントロールができなくなることがよくあるとのこと。

 

そのため、今回も急に魔力の暴走を起こしてあのように急に倒れたとのことだ。

 

体が弱いのも、左手が不自由なのもその所為なのね。

 

優秀かもしれないけど親もおらず、病気で体を蝕まれるこの弱い妹を助けてあげないとね。

 

あ、話を聞くのに夢中で薬を返してあげるのを忘れてましたわ。

 

「この間薬箱に戻せなかったから渡しておくわ。体調が良くなるまでゆっくりなさい。」

 

病気のこととかいろいろ聞きたいけど、体が辛そうだから今は勘弁してあげましょう。

 

その後、神殿の行事に出ないといけないとかで一度アーレンスバッハへ帰りましたわ。

 

まあ、体調の関係もあるだろうし今の状態では一度帰った方がいいですわね。

 

 

 

 

貴族院ではローゼマインがいない間にお茶会なども頻繁に行われましたわ。

 

領主催のお茶会では、一度大領地にふさわしいお茶会を大々的に行いいつも通りに終わりましたわ。

 

お茶会ではローゼマインの話題が良く出てきて、ローゼマインが体調を崩していてアーレンスバッハに一度戻っていて出席できなかったことを伝えましたわ。

 

そのために、もう一度小規模な領主催のお茶会をやりますので代表だけでよろしければ参加してくださいましと言っておきました。

 

体が弱いことはもう全体に広まっているのでどこの領地も納得してくれましたわ。手間がかかるけどしょうがないわね。かわいい妹のためにがんばらないと。

 

ローゼマインが戻ってきてからのお茶会はおおむね評判でしたわ。あの暑苦しいダンケルフェルガーの領主候補生と仲が良さそうに話しているのは少し気に食わないけどいいですわ。

 

ようやくお茶会に少しは意気が出てきたということで納得してあげましょう。

 

そのあと、ローゼマインは、アウブであるお父様の命で領地対抗戦と卒業式には出ることができなかったわ。

 

今年のアーレンスバッハからは例年以上に優秀者が出て誇らしかったですわ。

 

ローゼマインはなんと最優秀とのことだけど当然欠席なので私が代わりに出てあげたわ。

 

わたくしのアーレンスバッハが注目されるのは気持ちいいですわね。思わず高笑いが出そうでしたわ。

 

この後は、特に何もなく貴族院は終わりましたわ。まったく、あの子のおかげで今年は大変でしたわ。

 

 

 

 

この後、戻った後は例年通りでしたわ。

 

次に会ったのは、アウレーリアの星結びのときだけど、この時は特に話す時間がなかったわ。

 

あの子らしい、派手だけどなんともやさしい心のこもった祝福でしたわ。

 

そのすぐ後にランツェナーヴェの使者をもてなす宴で、少しだけ話せたけど顔色が悪いのが気になったわね。

 

案の定、また倒れたとかで冬の貴族院が始まる前までお母様の話だとユレーヴェに入ったとのことだったわ。

 

心配だったのだけれど、そうも言っていられない事態になってしまったわ。

 

冬の館に移動する前にお母様に側近一同集められて言ってきたわ。

 

「ローゼマインは、あなたがアウブになるために最大の障害になりかねません。貴族院で機会があれば処分なさい。」

 

あの子を処分ですって!お母様は何を言っているの?

 

「神殿出身で汚らわしいだけでなく、あの子の所為でわたくしの支持者は減る一方です。今ならまだ間に合います。ディートリンデ、あなたがアウブになるためにもやりなさい。期待していますわよ。」

 

「お母様、神殿出身が好ましくないのは分かります。ですが、あの子を直接見て判断しなさいといわれたのは他ならぬお母様では。」

 

「あら、あなたまであの子に絆されてしまったの。汚らわしい神殿に入れられ、アウブに媚を売って従属契約してまで領主候補生になったあの子に。」

 

なんですって!領主候補生になるために従属契約ですって!

 

「おまけに、あの子の所為でわたくしのベルケシュトックの支持者はまったくいなくなりアーレンスバッハ辺境に持っていた支持までなくなってしまっているわ。ディートリンデあなたが頼りなのよ。いいですかあの子を必ず処分しなさい」

 

お母様はこんなことを言っているけど、そこまですることだろうか。いえ、本当ならするべきなのでしょうが。

 

そこで、「ディートリンデお姉様」「ありがとう存じます」と普段より僅かに柔らかくなった笑顔で言っているローゼマインが頭に浮かんできた。

 

わたくしに何も期待していないと思っていたお母様に頼られたのは、初めてのことです。

 

でも、いくらアウブになるためとはいえ、あの子を処分しろだなんて...。

 

冬のお披露目会では例年通りあの子は祝福を降らせたりしていたけど、わたくしはといえばほとんど気もそぞろであまり覚えていませんでしたわ。

 

 

 

 

わたくしが貴族院5年生、ローゼマインが2年生になったこの年は、貴族院に行ってからも悩んだわ。仕掛けるタイミングはわたくしが指示を出すまでは待って欲しいと側近に言っておいた。

 

貴族院であの子は何度もディートリンデお姉様と話しかけてきたけど私はどう反応していいかわからなくなってしまって冷たく突き放したわ。

 

ローゼマインは、少ししょんぼりとしているようにも見えたけど私もどうしていいかわからないのですわ。

 

時間だけが無駄に過ぎていった。側近がお母様に手紙でエーレンフェストと図書館でお茶会をするという話を伝えたらしくてわざと遅れて行きなさいと支持が来たわ。

 

ローゼマインはよく分からないのだけどエーレンフェストと接触を避けるように制約を課されている可能性が高いらしくそれを破らせるためらしい。

 

「ディートリンデ様、ここでしか機会がありません。いいですか、あなたは用事があって遅れるだけです。あなたが何かをするわけでもしたわけでもありません。」

 

そんなこといっても...お母様には逆らえませんわ。そうよ、初めて頼ってきたのだからせめてここまでお膳立てしてくれた以上従ってあげないと...。

 

非常にもやもやしたものを抱えながら私は急用が入ったとローゼマインの側近に伝えた。

 

しばらく経ってから会場である図書館に向いましたわ。

 

入ると普通に話しているように見えるローゼマイン達がいたわ。そこでほっとして胸からつき物が落ちたように感じてしてしまったわ。

 

わたくしにはこの子を処分することなんてできないですわ。

 

最近冷たい態度しかしていなかったのに、ローゼマインはこのお茶会ではいつも通りに見えた。

 

その後、わたくしのためにシュバルツ達の簡易版を作って寮に置こうとしている話などをしてきたわ。

 

ローゼマインは何かするときはいつも一生懸命で、王族の魔術具といわれるとても難しい魔術具を私のために作ろうとするなんて。

 

もう、どうしていいかわかりませんわ。

 

 

 

 

そんなこんなで悩んでいたら今度はローゼマインが戻ってこないという話になった。

 

あの子の側近が言うには図書館に向ったきりで目を離したらいなくなっており、どこへ行ったかわからないとのこと。

 

寝込んで長期間休むことはよくあるので体外的に聞かれたら体調が悪く寝込んでいるという話で通すよう全員に話したわ。

 

もちろん、できる限りみんなに探させたけどローゼマインは見つからなかった。

 

考えようによっては、お母様に言われたことを達成できてよかったなんて言葉が頭によぎってしまいどうしていいかわからなくなりましたわ。

 

 

 

 

いなくなって10日過ぎた日、あの子は少し体調が悪そうだけどいつもとそこまで変わらない表情で戻ってきましたわ。

 

身長もかなり伸びており、何かがあったのは確実ですわ。

 

とりあえず、怒ってから最低限説明させようとしたのだけど、本人も時間がたっているということすら把握していないようで怒られたことに関しても不思議そうな顔をしていたわ。

 

最低限、迷惑をかけた全員に謝らせこの場は納めたわ。まったく、ローゼマインがいるとトラブルが起きない年はないわね。

 

ローゼマインが戻ったことを城に知らせるとすぐに帰還命令が来たわ。あの子は二日も起きなかったので起きたらすぐに帰るように言ったわ。

 

そのあと、わたくしは考えました。答えは簡単だったのですわ。あの子がわたくしがアウブになるための障害にならなければいいのです。

 

要は、味方にしてしまえばいいのですわ。そうすればアウブになる気のないローゼマインが奪っていたという支持者も間接的にわたくしのものになるしいい考えね。

 

いずれにせよローゼマインが戻ってきたら、腹を割って話そうと覚悟を決めた。

 

 

 

 

ローゼマインが奉納式から戻ってきたら、真っ先に側近以外いない状態を作りローゼマインと現状について話したわ。

 

今回の件はアウブであるお父様から、結局何も分からなかったという報告をもらっていたわ。

 

「なんにせよ、あなたが無事で良かったと言ってあげらられれば良かったのだけど」

 

わたくしは盗聴防止の魔術具をローゼマインに持たせて話を始めたわ。

 

「ねえ、わたくし、あなたのことをとっても気に入っていますわ」

 

そう結局のところ、親がいる、いないの差はあれども親の愛情を受けていないという共通点があるためか、ローゼマインのことを気に入ってしまったのよね。

 

「あなた、アウブであるお父様達とずいぶんな契約を結んでいるそうね」

 

まったく、とんでもない契約を結んでいるようだけどこの子には権力に対する欲はまったくないのはわかるので、恐らく病気を治すためにアウブに身を売ったのでしょう。

 

ローゼマインはまったく表情を変えずに私の目をじっと見ながら聞いていましたわ。

 

「ローゼマイン、わたくしは必ずアウブになるわ。だからあなたも協力しなさい」

 

そこで、ようやくローゼマインは口を開いた。

 

「協力と言われましても、契約をご存じなら、わたくしはアウブに対してのみしか動けないことをご存じのはずでは」

 

そんなことはわかっているわ。わたくしが欲しいのはあなたの心の中での忠誠よ。

 

「協力できる限りでいいわ。わたくしは、わたくしの妹であるあなたと敵対したくないのですわ。それに、契約を結んでいると言うことはそれ以上の忠誠はアウブにもあなたのお母様にも持っていないのでしょう」

 

「申し訳ございません、ディートリンデお姉様。わたくし個人としては、アウブの後継者争いに首を突っ込むつもりはございません。もちろんディートリンデお姉様と敵対なんて考えたくもありません。ですが、契約を受けている身としては、命令次第でどうなるかわからないのです」

 

悲しそうに目を伏せながらローゼマインは行ってきたわ。

 

契約そのものが名捧げに近い状態だろうし、もしかしたらアウブに名捧げをしているのかもしれないから仕方がないわね。

 

そのような状態でもわたくしと絶対に敵対したくないとまで言ったのだから今回は諦めましょう。でもこれなら時間をかければわたくし側に引き込めるかもしれないわね。

 

「まあ、しょうがないわね。敵対したくないと言う言葉をとれただけ良しとしますわ」

 

お母様にはまた、無関心の目を向けられるだろうけどわたくしのやり方でお母様は認めさせてあげますわ。

 

「お母様よりあなたを手懐けられないなら手に終えなくなる前に処分しなさいと言われています」

 

本当はすぐに処分しなさいと言われているけどローゼマインに伝える必要はないわね。

 

「わたくしは、あなたの先ほどの言葉を信じますので裏切らないでちょうだいね」

 

このわたくしにここまで言わせたのだから貴方はたいした者よ。ローゼマインは僅かしか動かない表情でも明らかに驚いているのがわかるわね。

 

このあと、ローゼマインに来たお茶会のお誘いなどを伝えて終わったわ。

 

 

 

 

領地対抗戦ではローゼマインがこっそりと書いた論文が評価されたり、エーレンフェストのヒルシュールが勝手にローゼマインの名前を使ったりいろいろ問題はあったわ。

 

ローゼマインも、体調が悪いながらも王族より命令が出てしまった所為で卒業式では神殿長として祝福をおこなっていたわ。

 

アーレンスバッハで見慣れているわたくし達からすると、ずいぶん調子が悪く抑えていたみたいだけど回りは感心してため息をついている方もいたわ。

 

そうよね。普段のあの子の祝福がおかしいだけですわね。

 

 

 

 

貴族院が終わればゆったりとした時間が流れましたわ。なにやらお母様はいろいろ忙しく動かれているようだけどどうしたのかしら。

 

わたくしに関してはやはり余り期待していなかったのかいつも通りだ。

 

お母様が軍を率いて境界門に向われたと聞いたときは驚きましたけど。

 

この後、エーレンフェストと本物のディッターが行われるなんて話も出てきたけど何事もなかったかのように噂は消えていきましたわ。

 

本物のディッターなんてアーレンスバッハが野蛮な行為を行うとは思えませんものね。

 

今年もランツェナーヴェの使節団を迎える宴でローゼマインと少しだけ話せましたわ。去年とは違って顔色も良くてよかったですわ。

 

レティーツィアがしきりにこっちを気にしていたのが少し気になったけど、まあ、あなたなんて相手でなくってよ。

 

 

 

 

夏も終わりに近づいて来た時にお母様がエーレンフェストに行くから着いてきなさいといってきましたわ。

 

どうせならローゼマインも連れて行きましょうというとお母様がいいですわね。アウブに聞いてみますわねと言って来ました。

 

髪飾りの件もあるしローゼマインには是非とも一緒についてきて欲しかったのだけれど...。

 

アウブであるお父様からは許可が下りなかったわ。何度かお願いの手紙を出してみたけどダメでしたわ。

 

残念ですわね。まあ、仕方が無いのでお母様と一緒にエーレンフェストへ向った。

 

エーレンフェストへ向う途中、お母様が、以前の軍を率いて向ったときの顛末をいきなり話してきたわ。

 

なんでも衝突寸前まで言ったけど、結局話し合いで終わったとのことだ。

 

ただ、その所為で、エーレンフェストとアーレンスバッハの領主候補生を婚約させろという話が王族より来てしまったようだ。

 

今のところ、わたくしとヴィルフリートが最有力候補らしい。

 

ヴィルフリートはわたくしよりも若いながら領主候補生らしくエーレンフェストを率いており、わたくしの夫としてふさわしいわね。

 

ヴィルフリートとなら結婚してもいういかと思わせるだけの風格をこのときすでに持っていたわ。

 

エーレンフェストではヴィルフリートといろいろ話したわ。残念ながらヴィルフリートはわたくしとの婚約はあまり乗り気ではないみたい。

 

もしかしてこの子ローゼマインに惚れているのかしら?というくらいローゼマインの話を聞きたがったわ。

 

契約があるし、あの子の夫を外から迎えるのも外に出すのも無理なのよね。アウブであるお父様が非難されかねないし。

 

この時は、わたくしとしては非常に不本意ながら王族を納得させるための仮の婚約ということで話が進んだ。

 

そのあと、髪飾りを注文したりシャルロッテやメルヒオールとも話したわ。意外とヴィルフリートも髪飾りのことを良く知っていて一緒にデザインの相談に乗ってくれたわ。

 

男で、去年まではそこまで興味がなさそうだったのに本当に意外でしたわ。年下なのに少しかっこいいわね。

 

この後は、ずっとお母様が忙しそうにされていたのは気にはなるけど、わたくしは例年通りでしたわ。

 

 

 

 

さて、あっという間に冬になり、冬の館に移動すると珍しくローゼマインが初めから来たわ。

 

今まで、貴族院へ行く前に碌に冬の館にいたことがないけど良かったですわね。

 

「ディートリンデお姉様、今年は冬の屋敷へも問題なくは入れましたし、いい年になりそうです。」

 

まったくですわね。今年はいい年になりそうですわ。

 

わたくしは貴族院最終学年ということもあり、最後は本当にいい年になりそうだと期待を膨らませていましたわ。

 

ローゼマインにエーレンフェストのことを話してあげると意外に興味があるのか髪飾りとかの話については少し聞いてきましたわ。

 

そういえばローゼマインも普段使い用が欲しいって言っていましたもの。

 

ローゼマインも連れて行きたかったと話したら、行きたかったのか心なしか残念そうだった。

 

無理やりでも連れて行ってあげるべきだったかしら。でも契約の関係でお父様の許可がないと無理よね。

 

 

 

 

貴族院が始まって親睦会ではやけにローゼマインが注目されていたわ。ローゼマインはわたくしの知らないところで何かをやったようだわ。以前に領主会議に呼び出された関係かもしれませんわね。

 

今年のアーレンスバッハは4位になり、上位領地はすべて大領地となったわけだけどその大領地の領主候補生であるローゼマインに下手なことはできないでしょうし問題にはならなそうね。

 

その後は、相変わらず授業では祝福が出たとか、神の加護を得る儀式で時間が掛かっていたとかで少しだけ話題になったけど問題になるようなことはなかったわ。

 

ローゼマインも例年通り順調に講義を終え、領主候補生コースだけでなく他の文官コースの講義なども出たいということを話したりしていたのだけど...。

 

それはいきなりだったわ。予定にない緊急帰還命令がローゼマインに出ましたわ。

 

今までの流れなら少なくともまだ、ローゼマインの出ている奉納式までには時間があるはずだしこれはいくらなんでもおかしいわね

 

「ローゼマインに。何か心当たりがありまして。」

 

「いえ、まったく心当たりがございません。」

 

最近は、ようやくこの子の僅かな表情の変化がわかるようになったわ。

 

分かってしまえばローゼマインは表情豊かでいろいろ考えていることがわかり可愛いのよね。

 

さて、今回の件は本当に分からないよう。それでも命令が出てしまった以上は一度ローゼマインは城に戻るしかないでしょうね。

 

「おそらく今戻ったら、奉納式が終わるまでは貴族院に戻れないかと存じますので後のことはよろしくお願いします。」

 

「ええ、何かあれば手紙で伝えてちょうだいね。」

 

不安ですわね。今年はここまで珍しくうまく進んでいただけに残念ですわね。

 

 

 

 

そのあと、ローゼマインから緊急の知らせが来たわ。なんでもアウブが倒れてはるか高みに上る心配はないけどしばらくユレーヴェに浸かるとのこと。

 

それだけでなく、お母様とも連絡が取れないとのことで、わたくしから連絡を入れて欲しいとのことでしたわ。

 

お母様はわたくしが貴族院に行く前に、いえ、今年はずいぶんいろいろ忙しそうにされていたけどついに疲労が来てしまったのかしら。

 

まったくこんなときに。と思いながらもお母様の特別なルートを使って連絡を入れた。

 

返信は、少し時間がかかったけど、案の定臥せっているとのこと。アウブの弟君達に任せるみたいな事が書いてあったわ。仕方が無いのでお母様が送ってきた文章をそのままローゼマインに手紙で伝えたわ。

 

様態がわかっただけでも助かりますという内容が送られてきたけど、なんでも丁寧にやるあの子らしくなく少し急いで書いているようでかすれた字だったわ。

 

私もできることがあれば、なんでもしますわと送ってあげると、お母様への連絡と貴族院に現状が伝わったときに混乱しないようにまとめていて欲しいとのことでしたわ。

 

最後に、貴族院のことはディートリンデ様だけが頼りです。と一言入っていたわ。

 

そうよね、城も心配だけど貴族院も重要だものね。ローゼマインのお姉様としてしっかりとまとめなくてはね。

 

僅かに現状を知った貴族院生が、少しだけ騒いだようだけど、側近達も動員して噂が広がらないように勤めたわ。

 

城からは現状は特に問題はないと伝えているのも少しは効果があったようだ。

 

いえ、たぶん城でのことはほとんどの者が知っているわね。私達が平気なふりをしているから問題ないように見えているのかも。

 

ふふ、今年の貴族院はみんなでがんばろうという雰囲気が出ていて一体感も何故かあるしいいですわね。

 

特に問題なくローゼマインも一緒に過せたら良かったのだけど...。

 

領地対抗戦の準備が始まってもあの子は戻ってこられなかった。

 

「なんだか今年は、やけに注文がすぐに届きますね。」

 

文官の子達が不思議そうにしていたわ。なんでも普段はなかなか注文しても来ないので早め早めに決まった側から注文していたそうなのだ。

 

けれども、今年はやけに早く注文した物が届くからこれならまとめて注文してもよかったわねという話があがっていた。

 

アウブがいなくなっているのに効率が上がるなんてことはありえるのかしら、ローゼマインが城で無理していないといいけど...。

 

 

 

 

結局ローゼマインが貴族院に戻ってきたのは、領地対抗戦の始まる前日だったわ。

 

「あら、大変でしたわねローゼマイン。わたくしも本当に戻らなくてよかったのかしら。」

 

本当に大変なら戻るつもりもあったのだけれど。

 

「ええ、たくさんの方にご協力いただいて何とかなりました。それに領地も大切ですが貴族院の方が他領との関わる大切な場なのでおろそかにできません。」

 

まあ、そうなのよね。代表がいなくなるわけにはいかないですわね。

 

ローゼマインはずいぶん苦労したようで疲れが隠しきれていませんわ。何度か熱を出して倒れたという報告も聞きましたわ。

 

ローゼマインも最終確認くらいはするというので、その方がローゼマインもアーレンスバッハの貴族院生として領地対抗戦に参加した気になれるだろうしやってもらうことにしたわ。

 

領地対抗戦が始まると、まず社交だ。

 

まず、アウブの弟君夫妻が上位領地に挨拶回りへと出て行った。わたくし達はその間の来客の対応だ。

 

一応仮とはいえ婚約したヴィルフリートともあいさつ回りに行かなければいけないのだけれど、顔色が余り良くないローゼマインをおいていくわけにはいかないし...。

 

まあ、まだ仮の状態なので、王族と付き合いの深い領地にしか報告する予定はないし少し遅らせてヴィルフリートに迎えに来てもらえばいいですわね。

 

側近を通じて、ヴィルフリートに少し遅れて迎えに来てもらうように頼んでローゼマインと一緒に他領の対応をしたわ。

 

 

 

 

アウブの代行である弟君も上位領地の挨拶周りを終え戻ってきた。王族とか来てまたあの名前も出したくない王子は嫌味を言ってきたけど、まったくもう、あなたの嫌味にかまっている時間はなくってよ。

 

ただ、ランツェナーヴェが攻めて来るかもとか言ってきましたわ。信じがたいけど嘘をつくとも思えないのよねぇ。

 

この王子達は、また厚かましいことにローゼマインにもうしないと約束をしていた成人式での祝福を行えないかと言ってきたのでローゼマインが現状を説明し無理ということを伝えましたわ。

 

まったく、アウブもいないのにローゼマインがそこまでできるわけないですわ。今年も体調は余り良くなさそうだし。

 

その後、何を思ったのかローゼマインが私の脇に寄ってきてこっそり耳元でささやいてきた。

 

「星結びでは、わたくしがディートリンデお姉様達を盛大に祝福いたしますね」

 

あら、ヴィルフリートのことはまだ伝えていなかったはずだけれども。まあ、ローゼマインのことだから城かどこかで聞きつけたのかしらね。

 

 

 

 

王子たちの対応を終え、他の領地の対応をしてしばらくすると、ヴィルフリートがやってきましたわ。

 

「ではローゼマイン、後は任せましたわ。」

 

するとローゼマインは少し驚いた表情に変わったわ。あれ、知っていたのではなくて?

 

「あら、わたくし、ヴィルフリートと婚約することになりましたので」

 

「何も聞いていないのですがそれは...ご婚約おめでとうございます!」

 

ローゼマインは少し混乱したかのようになりましたが、最後はいい笑顔で言ってくれた。

 

「婚約といっても、どちらがどちらの領地へ行くかも決まっていないし、レティーツィアがメルヒオールを迎える可能性もあるのでまだ仮なのですわ。」

 

何も知らないようなので一応補足してあげたわ。まだ、正式な決定ではないのよね。

 

「そもそも、貴族院入寮直後ではヴィルフリート様との婚約はできなかったという話ではなかったのですか。」

 

そういえば、あの時は後で話そうと思ってローゼマインには言わなかったのよね。仮だから今後どうなるかも分からなかったし。

 

「残念ながらまだ仮なのよ、王族より去年の争いのせいでアーレンスバッハとエーレンフェストの領主候補生が結婚するようにというお話なのですわ。」

 

わたくしがそう言うと、少し気まずそうにローゼマインが一度目線を横にそらした。

 

「いずれにせよ、ご婚約おめでとうございます。こちらのことは気にせずお二方で挨拶周りに行ってきて下さいまし。」

 

 

 

 

その後、わたくしは後で良いといったのだけれどヴィルフリートが先にローゼマインと話をすると言ってきた。

 

きっとヴィルフリートはローゼマインに惚れているのでしょうね。まあ、婚約の条件ならヴィルフリートとローゼマインが結ばれても問題ないわけで...あの子と結ばれるには契約とかの壁が大きすぎて実質不可能でしょうけでど。

 

ただ、仮であっても婚約者の目の前で他の子に惚れていますという態度を隠せないのはどうかと思いますわ。

 

わたくしはお姉様なので仕方が無いから少しだけ我慢してあげましょう。あの子がヴィルフリートにまったく興味がないことがわかれば諦めるでしょうし。

 

やはり、一目ぼれなのかしらね。契約があったにせよ貴族院でこれだけ会っていてもまともに話せていたところを見たことがないし今回もローゼマインを見ている限りでは大事なお姉様のことをよろしくお願いしますね。なんて心から祝福しますという感じで言っていますし。

 

まったく、わたくしという存在がありながら他の子に目を移すなんて...少しだけ胸が痛くてむかつきますわね。

 

 

 

 

この後、ヴィルフリートはわたくしに時間を取ってもらったことにお礼を言ってきて王族や領地を一緒に回ったわ。

 

一通り回り終わった後、ヴィルフリートがディッターに出るということで準備に向った。

 

ヴィルフリートがアーレンスバッハまで送って行くと言ってくれましたけど、今からだと、とても急いで戻らないとアーレンスバッハのディッターに間に合わなくなってしまうのでエーレンフェストの席で見せてもらうことになったわ。

 

もともとディッターになんて興味はなかったけれども、改めてみると素人目にもアーレンスバッハの皆さんは以前と比べて強くなっているのがわかるわ。

 

なんというかすべての歯車が噛み合って、まるで一つも意思を持った巨大生物のように見えるのよね。

 

ばらばらに戦っていた以前の時とは大違いだわ。

 

とは言うものの、もっと変わったのはエーレンフェストね。去年は一度動き出してから倒すまでは早かったけど準備に時間が掛かっていたけれども...。

 

今年は、去年のダンケルフェルガーに迫るような圧倒的な個人の錬度と連携を見せ見事に倒して見せた。

 

もちろん先頭にいるのはまだ貴族院3年生の仮とはいえわたくしの婚約者であるヴィルフリートよ。

 

これで、ローゼマインに惚れていなければもっとよかったのだけれどねぇ。

 

最近急激に存在感を伸ばしてきているエーレンフェストの領主候補生で、自身の求心力もあるしこうやって見ている分には、いえ、ローゼマインが関わらなければカリスマ性のある格好の良い男なのだけどね。

 

もちろん、実績も加味すれば大領地の領主候補生であるわたくしとも十分釣り合いは取れる数少ない男なのよね。

 

 

 

 

ディッターが終わり、表彰式のため移動すると、ローゼマインがまた倒れたですって!

 

やはりディッターを見ていないで急いで戻って一緒にいてあげるべきだったかしら。でもあの子そういうことをすると余計に申し訳なさそうにするし...。

 

今年はわたくしも優秀者で呼ばれて、ローゼマインの分も代理をしてあげて少し誇らしかったですわ。ローゼマインも来年こそはここに立たせてあげたいわね。

 

次の日の奉納舞では、わたくしが一番目立ってましたわ。髪飾りもばっちりと決まったし、本日一番美しいのはわたくしディートリンデですわ!

 

ローゼマインは案の定、また臥せっていて見せられなくて残念でしたわね。あの子もエーレンフェストの髪飾りが好きなようなので明日見せてあげますわ。

 

注目されるのは気分がいいですわね!

 

次の日、ローゼマインに髪飾りを見せてあげて自慢してあげたわ。

 

髪飾りの話をするとうれしそうに聞いてくれるのでついうれしくなって話に熱がこもってしまって...時間があまりないはずなのに悪いことしてしまたかしら。

 

まあ、あのくらいの時間は大丈夫ですわよね。

 

この後、ローゼマインは図書館に呼び出しをされたらしく、戻ってきたらすぐに城に戻るとのことだった。

 

わたくしも用事が済んだら城へ戻るとローゼマインに伝えると、できればゲルギオーネ様について城に来られるのならお願いしたいということを言ってきた。

 

そうよね。お母様に連絡を取っても臥せっていると言う返事しか返ってこないしいくらなんでも長すぎるわ。

 

 

 

 

城へ戻ると、まずお母様に連絡を入れます。なんでもまだ臥せっているらしく実の娘でもあるわたくしにも合えない状態だそうだ。

 

困りましたわね。この後数日はローゼマインと連絡を取ったり貴族院から戻ってきた後の後片付け関係をしたのだが、お母様から急に呼び出しが来たわ。

 

「お母様、お体は良くなられたのですか。」

 

本当に久しぶりに見たお母様はずっと臥せっていたのが嘘のように健康そうでした。

 

「ええ、ディートリンデ。見ての通りですわ。」

 

その後、本当に珍しく貴族院でのことや城のことなどを聞きたいというのでわたくしは話したわ。

 

今年は本当に大変で、お母様も良くなられたのなら一緒に城へ向かいましょうといったのだが...

 

「うふふ、いい感じですわね。部下が暴走したときはどうしようかとも思ったのだけれど、ようやく準備も整いましたしそろそろ本格的に動き始めましょうか。」

 

「お母様?よく分からないことを言っていないで早く城へ行ってアーレンスバッハを安定させないと...」

 

お母様のこの暗くて気持ち悪い笑顔はあまり見たいものではありませんわね。

 

「ねぇ、ディートリンデ。ローゼマインについて排除する気はまだ残っているかしら。」

 

「お母様、ローゼマインも契約があるとはいえ、がんばってアーレンスバッハを支えているところですわ。排除とかそんな事を言っている場合ではないですわ!」

 

お母様はこの緊急事態に何を考えているのだろうか。そんな話をしていないで早く城に行かないと。

 

「はぁ、どこで育て間違ったのかしらね。もういいわ、ここまで来て変なことをされても困るしあなた達、言われたとおりにしなさい。」

 

お母様がため息をつきシュタープを出して光らせると、いきなり後ろにお母様の側近や部下がたくさん来てわたくしの側近ともども一瞬で拘束してきたわ。

 

「お母様何を!」

 

「ふふ、拘束されてまで言うことがそんなことだなんて。安心なさい、はるか高みに上るのだけはまだ勘弁してあげるわ。あなたにはまだエーレンフェストを取った後に利用価値があるからね。」

 

お母様はいったい何をしようとしているの!?冗談ではすまない雰囲気ですわ。

 

結局この後、身に着けていた魔術具も全部取り上げられ、シュタープを出せなくする拘束具で拘束されてしまった。

 

拘束された後は、体を動かすのは不自由がないようにされたけど、しばらく普通の部屋で軟禁されていたのですわ。

 

その後にローゼマインが何度も心配している旨のオルドンナンツを飛ばしてくるものだから、監視している者達は、この場所がばれるのを恐れて銀の布に囲まれた部屋に移されたら飛んでこなくなってしまった。

 

現状を伝えようと拘束具を何とかはずそうとしたり、いろいろあがいたけど無理だったわ。

 

 

 

 

この後しばらくして、ローゼマインが助けに来てくれたわ。

 

久しぶりに見たローゼマインは、神々しくて思わずひざを着き跪きそうになったわ。

 

でもあの子の「ディートリンデお姉様、ご無事でよかったです!」という、本当に心配していたという声を聞いたらその圧力に対抗できたわ。

 

というか、この子って、こんなに儚い雰囲気を持っていたかしら...よく見るとローゼマインが僅かに透けてる!

 

「ローゼマイン!いったいどうしたのですか!?体が少し透けてましてよ!」

 

ローゼマインは焦った様子で私の質問には僅かに変わった笑顔ではぐらかしてきた。

 

「ディートリンデお姉様、後で結構なのでこの箱をレティーツィアやアウブ達と一緒に王族に届けていただけますか。今回の件で私よりと言って頂ければ分かってもらえますので。」

 

「ローゼマイン、そんなことよりあなたどうしましたの...。」

 

そんな帰ることのできないどこかに行きそうなさびしそうな表情をして...

 

一瞬そんな言葉が出そうだったが、ローゼマインもわたくしがいろいろ察したのかわかったのか顔が曇った。

 

違いますわね。この子が欲しいのはわたくしのこんな言葉ではなく、誇り高きわたくしディートリンデらしい言葉が欲しいのですわね!

 

「私の方が美しいけど美しさが段違いになってましてよ!」

 

やはり欲しい言葉はこれだったようです。少し驚いた顔になった後に今まで見たことがないほどの笑顔をわたくしにむけてきます。

 

ローゼマインが何か言いたそうにしているけど、言葉が出ないようなので先に言ってあげます。

 

「まあ、いいわ。大切な妹の頼みですもの。これからすぐにどこかへ行くのでしょう。どこへ行くかは知らないけど必ず帰ってくるのですよ。お姉様との約束ですよ。」

 

言わなくても、ローゼマインの言いたいことなんてお見通しよ。伊達にあなたのことを三年間もお世話をしてあげたわけではないのよ。

 

「はい、ありがとう存じます。お姉様!」

 

あの子はすっきりとした顔でそう言った後にここを出て行ったわ。

 

完全にローゼマインが見えなくなるまで耐えた後、ずっと耐えてきた緊張の糸が途切れ足の力が抜けてしまい背中から倒れてしまったわ。

 

 

 

 

この後は、ローゼマインが渡してきたのはグルトリスハイトを模した魔術具だったらしく、言われたとおりにアウブやレティーツィアと一緒にツェントに献上したりしたわ。

 

女神の姉として、グルトリスハイトを渡した一人として、それなりの地位を約束され王族になることも打診されたのだけれども...。

 

「ヴィルフリート、ようやく許可が出ましたわね。今日は楽しみだわ。」

 

「そうだな、正直そなたと星を結ぶことになるとは以前なら考えられなかったな。」

 

わたくしは、ヴィルフリートと星を結ぶことになったわ。実はもうすでに大々的に星結びの儀式をメルヒオールとレティーツィアが主導して一度やったのだけれども...。

 

「まさか、ローゼマインがよろしければ小規模なものになるけどぜひとも個人的にやらせて欲しいと言ってくるとはな。」

 

ローゼマインのいるエーレンフェストの小さな村は厳重に管理されており、出入りが規制されているため入るには許可が要る有様だ。

 

でも今回はローゼマイン自らがよろしければ来て欲しいと言っているので問題ありませんわ。

 

「ええ、わたくしも妹、いえ、もう妹なんて言えませんわね。女神様になってしまったのだから...」

 

「ローゼマインは妹と言ってくれた方が喜ぶと思うがな」

 

 

 

 

村に入ると、中央にある小神殿は光り輝いておりとても綺麗だったわ。村の管理人に案内され向うと。

 

「ディートリンデお姉様、ヴィルフリート様ようこそお越しくださいました。その、ご迷惑ではありませんでしたか?この辺鄙なところまで来させてしまって。」

 

ふふ、ローゼマインは立場が変わっても相変わらずですわね。

 

「ええ、今では許可がないとは入れないから逆にこの村に行ったということだけでうらやましがられますわ。」

 

「ああ、そうだな。貴族では一種のステータスになっているぞ。」

 

この村に行けるとなったときのレティーツィアの嫉妬はひどいものでしたわ。レティーツィアも一時的にわたくしの側仕えになって付いていくなんて言ってくる有様でしたもの。

 

「それなら良かったです。以前にお約束したことが果たせないかと気をもんでいたのですわ。」

 

あんな口約束をそこまで気にしてくれているなんて。もちろんわたくしも約束したことはちゃんと覚えていましたわよ。

 

「ええ、では今日は盛大によろしくね。わたくし知っての通り派手なのが好きなのですわ。」

 

「ええ、本日はお姉様のために盛大に祝福いたしますね。」

 

その日に行われた星結びの儀式は、他の村からも見えるほど盛大で、噂ではエーレンフェストの領主の町からも祝福を確認できたとのことだ。

 

 

 

 




以前に割烹にも書きましたがこの作品の裏テーマとしてディートリンデ様の成長記というテーマも持っていました。
この作品のディートリンデ様には大本があり、とある方がピクシブで書いていた誇り高き綺麗なディートリンデ様に成長させるにはどうやったらなれるかということを想像した私なりの結果でもあります。結果的にはあそこまでは誇り高くも綺麗にもなりませんでしたけど一応成長という観点では書ききれたかと思います。

今回のこの話も、ディートリンデ様の視点の完全な回答ではありません。ざっくりとはいえディート様の視点で書いた資料がどこにいったのかわからない状態で一から書き直したものです。本当はマインのいない間の設定とかもう少し作ったはずなのですが分からなくなってしまいました。

さて、最後に関してとかいろいろありますが仮に文句があってもこの話の内容に関しては受け付けませんのでご了承を。あくまでこの話は蛇足ですので。
最後の話を楽しんで頂けた方がおりましたら幸いです。

それでは、原作のハンネローレ様の作品が今年中に更新され無事に来年あたりに完結することを祈りましてこの物語を閉じたいと思います。


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