Fate /World Record~樹海聖杯探索~ (片倉 陸翔)
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始まりと手紙

ハーメルンに初めて入りました。他でも投稿はしています。
ただ、名前は全然有名ではありません(本当に)。
バリバリの新人ですので、温かく見守ってください。
では、どうぞ('ω')ノ


 

 人の望みとは、また様々である。

 

 時に、それがどんなものでも、どんな形ででも叶うときはあるのだ。

 

 これから始まる物語は、その大きな物語の序章である。

 

 いずれ世界を周ることに少女たち....の物語ではない。

 

 彼女たちを導き、教える者の物語である。

 

 彼が見たものはその物語の元凶となるもの

 

 果たしてそれがこの後にどのように働くか、その時の彼は知る由もないだろう。

 

 ただ、止めなければと、己の使命のような感情に突き動かされた彼がそこで何を目にしたのか、

 諸君らそれを知って欲しい。

 

 これは全てが混ざった世界。日本のあの戦いも、ルーマニアの戦いも全てが行われたことを前提とした、

 Ifの物語だ。

 

 誰かはありえないと思うだろう。無理だというだろう。だが、現実はあったのだ。

 

 さあ、語り始めよう。この物語は、とある日の、一通の手紙から始まった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 キーンコーンカーンコーン。

 時計塔ののチャイムが自室に流れ込んできた。

 昼の時刻を告げる音に彼———ロード・エルメロイ二世は走らせていたペンを静かに机の上に置いた。

 昼ともなれば、彼の教室に所属している学生が学的または私的な内容で高確率で彼の部屋に乗り込んでくる。

 彼としては、昼ぐらい自由にさせて欲しいと思っている。しかし、これが講義の質問だったなんてこともあるので、なかなか追い返せない。おまけに、最近は学生間で謎のランキングまでつけられてしまい、それの影響なのか、他の教室に属する学生(主に女子)まで来る始末だ。

 椅子の背もたれに体重を預け、ひと時の休養を取ろうとすると、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。

 来たか。と小さく愚痴をこぼすと「どうぞ」と、ドアの向こうにいる人物に、入室を促した。

「失礼します。先生」

 入ってきたのは自分の教室に所属する、フラット・エスカドルだった。

「なんだ、フラットか。冷やかしに来たなら下がってくれ。仕事の疲れもあって、昼ぐらいはゆっ

 くりしたいだ」

「いえいえ、違いますよ先生」

 つかつかとロードの前まで来ると、一通の封筒を差し出してきた。

「これは...」

「封筒です」

「見ればわかる。それで、どこで受け取った?」

「庭を散歩していたら、郵便屋さんのような人がうろうろしてまして、聞いたらこれを先生に渡し

 てくれって」

「ふむ」

 ロードはそれを受け取ると、神妙な顔でそれを眺めた。裏に返すと差出人としてこう書かれていた。

「ガーネット・リーバウス」

 顔に手をあてて、ため息を吐いた。

「あの女。なんで急にこんなものを」

「あ、やっぱり。女性の方だったんですね。いやーやっぱり先生はもてるなー。教え子として鼻が

 たか...ふぎゃ!?」

 言いかけた途端、おでこに強烈なデコピンが放たれた。

「いい加減にしておけ、まったく、、なんでこいつが家の教室のトップなんだ」

 重ねてため息がこぼれる。

「っつー。ええっと。それでそのガーネットっていうのはいったい誰なんですか?」

「古い知人だ。主に聖遺物に関する研究をしているフリーランスの魔術師だ」

「聖遺物?というと...」

「ロンギヌスの槍、聖骸布がそれに値する」

「ってことは、聖杯もですか?」

「ああ、そうだ。昨年のルーマニアの一件でも彼女は現地に赴いて調査をしたメンバーの一人だ。

 最後にあったのはそのときか」

 思いを馳せるように先ほどまで書いていたレポートに目を向ける。現在も調査中ではあるが、途中経過の報告を行ってくれと上から要求されたのだ。これを要求したのは、ここの学長なのだが、なぜそんなに急かすのか彼としては見当が付かなかった。まあ、個人的な研究に使うのか、時計塔の財産として扱うのか、ロードには彼の底が見えない。

「そうなんですか。いやー。いいですね。僕も参加したかっ...ふぎゃ!?」

「やめろ。被害が甚大なだけにおいおいとそんな軽口をたたくな」

「はひ。すみません」

 因みに放たれた場所は鼻である。

「そんなことより、昼。終わるぞ」

 部屋に時計を指すと次の講義まであと15分となっていた。

「うわー!やばいお昼食べてないや。すみません。失礼します!!」

 あわててフラットは部屋のドアを開けて駆け足で去っていった。

 誰も居なくなったところでロードは封筒を開けた。

 中には、手紙と写真が数枚入っていた。

 まずは写真に目を通す。そこには広大な森を空から撮った写真が一枚と、美しい山の写真が一枚だった。

「この山は...」

 美しい形と、頂上に積もる白雪。世界中の山の中でもこれは素人の彼でもよく知っている。

「Mt.富士、か」

 日本最高峰の山にして古来より日本の象徴となってきた霊峰である。信仰対象でもあり、呪術的な関係性から研究を行う魔術師も少なくはないと聞く。最も、それは主に日本の魔術師達が主立っているわけだが。

「となると、こっちは麓の樹海か」

 そう結論づけると、今度は手紙の方に目を向けた。

 シンプルな便箋に書かれたそれを開くと中にはこう書かれていた。

 

 To Mr ロード

 

 は~い。元気?私は元気だよ。いつもおっかない顔してるけど、血管破裂してない?

 まあ、いいや。本題に入るけど、私は、今日本の弦琉っていうところの大学で講師をしてるんだ。

 表面はそれだけど、本当はあるものの探索が主な目的。実は一緒に送った写真、その周辺正確に言えば、富士を中心とした樹海のあたりから非常に高い魔力の数値が計測されたんだ。どれくらいかって言うと、以前のルーマニアで測ったやつ。あれは本体が持ち去られちゃっても残滓がかなり強かったでしょ?多分あれの数千倍以上もしかしたら、大聖杯に匹敵するものが一時的とは言え、観測されたんだ。私はその発生源を調査するために、ここに来たんだけど、なかなか難しくてね。半年探してるけど、あの広さじゃ、見つけるのにかなりの時間を要しそうなんだ。そこで、君の力を借りたいと思っていてね。理由はもしかしたら、聖杯戦争に発展する可能性が見えてきたんだ。私は戦闘能力もマスター適正も無いから、対応のし甲斐がない。君なら十年くらい前に経験しているから、何とかなると思うんだ。詳しくは、君が私のところに来た時に話したい。君の決断に期待しているよ。

                                      

                               From あなたのガーネット♡

「.........」

 途中ムカつく内容がちらほら見られたが、大体のことはわかった。かなりの大問題である。

(大聖杯に匹敵するだと?そんなものが日本に。いや、まだあると決まったわけではないが)

 その衝撃に戸惑ってしまい、整理するのに少し時間を要した。

 やっと落ち着いて、もう一度考え直す。

(やはり、現地に行って詳しく聞いてみるしかないか)

 いつからだろう、自分がこれまでにこのような内容に惹かれるようになったのは。

 別に叶えたい願いは無い。エルメロイの家の再興はいろんな形で押し付けられたが、別に急ぐほどの物でもない。優秀な当主がいるし、再興も遠くは無いだろう。自分の家の再興もまた然りである。

 机の引き出しを開け中にある小さな小箱を取り出す。それをまた開けると、小さな赤い布切れが入っていた。

 何の関係もない一般人からすればただの布切れにしか見えないが、魔術師からすればとても高位の触媒。そして彼にとっては、何よりも代えがたい大切なものなのだ。

(やはり、貴方の影響か)

 十年前、同じ日本のある都市で出会ってから、自分の運命は大きく変わった。だからかもしれない。

 あの時の自分の考えていたことは、今になってくれば笑えて来る。だがその時は、自分も必死だったのだ。

 ロードは先程まで書いていたレポートを一端端に寄せると、新たな紙に、日本への渡航願いを書き始めた。来週から夏季長期休暇になるため、それを使うつもりだ。

 予定は約三週間ほど、変更があればまた報告する。目的は聖遺物の調査。

 このようなことを、紙に書き込むと、それを封筒に入れた。レポートの提出とともに一緒に出すのだ。

 一通りの作業を終えるころには、時計の針が一周していた。

(さて、レポートも終わった。次の講義が終わったら提出に行くとするか)

 仕事三昧だがこれだけはサボれない。ロード・エルメロイ二世とはこれで一躍有名になったのだから。

 彼は多くの学生の待つ教室に向かうべく、重い腰を上げた。

 

 

 

 




 因みに、今のところ原作から登場する人物は二人しかいません。名前だけ出る人物は多数いると思いますが、予定が狂った時だけ入れると思います。 
 ありがとうございました。
 弦琉という街はありません。当然仮想の街です。


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報告と来襲

 二次創作は初めてです。頑張ります。
 では、どうぞ('ω')ノ


 要求は案外簡単に承認された。

 どうやら、一部の人間はこのことを知っていて、ちょうど、誰を送るか考えていたらしい。

 ただ、長期休暇ということと、先のルーマニアでの悲惨なこともあり、誰も行こうと名乗り出ず、上も困っていたらしい。

 なぜ教授全員にこのことを伝えないのか聞きたくなったが、どうせ極秘内容だと口裏を合わせていろいろ言いそうだったので、追及はやめておいた。

 夏の間のことで学生たちに聞かれたり、サマーキャンプに誘われたりしたが、そこは仕事で遠出しなければならないと言っておいた。残念だと項垂れていた(主に女子)がまあそこは無視しておこう。

 次にやらなければいけないのは、彼女にこのことを言っておかないといけないのだ。

 正直気が重い。彼女も性格さえ良ければ、もっと評価も高いだろうに。しかし、其れを払拭するくらいの才能があるので、何とかなっているのだろうが...一通り時計塔内の教授や自分の教室の学生に予定を伝え終わると、肩が重くなるのを感じながら、エルメロイ邸に向かったのである。

 

 屋敷到着すると、大勢の使用人が迎えてくれた。十年前から続いていてさすがに慣れたが、いままで経験が無いため、どうも、居心地が悪い。

 使用人にカバンを預け、自室に向かう。彼女に帰ってすぐに言おうとしたが、そこまで急ぐ必要は無いと考え、夕食の時にでも話そうと思った。

 だが、その考えはすぐに打ち破られる。

 その時彼は、カバンに必要なものを詰めていた。

 そんなときに、突然ものすごい勢いで自室の扉が開け放たれた。

「我が兄よ!!帰ってきたなら、帰ってきたと言えばいいではないか」

 声の主である彼女―ライネス・エルメロイ・アーチゾルテはエルメロイの家の次期当主である。

 今はロードが代理としてエルメロイの家を取り仕切っているが、彼女が仕切るの日はそう遠くない。

 彼が元々の名前であるウェイバー・ベルベットから、今のロード・エルメロイ二世になるきっかけ(というよりは強制的にさせられたが正しい)になった少女でもある。

 彼女がロードを兄と呼ぶが、当然血はつながっていない。そのことでかつていろいろ言われたが、それは忘れよう。

「一人で考えことか?貴方はそれが本当に好きだな。それでよく学生たちに嫌われないものだ」

 ライネスのこの言い方は何度聞いてもイラっとする。この口の悪さがなく、淑女のように慎みがあれば完璧なのだが...

「また、また無断で入ってきたのか。頼むからノックぐらいはしろ」

「断る。前にも言ったではないか。私は兄以外の部屋に無断では入らないと」 

「その兄である私に気遣いは?」

「ゼロだ」

「・・・・・・・」

 正直二の句が継げない。どうしようもない娘に育ったものだ。

「まあいい、ところでお前に話しておきたいことがある」

「ほお、なんだ?結婚の話か?」

「なんでそんな方向になる。寝言は寝て言え」

「私は寝言でも、貴方に言うことは変わらないぞ」

 彼女と話すといつも彼女のペースに巻き込まれてしまう。だが、今回は大切なことなのでここで折れるわけにはいかない。

「そうではなくてだな。来週から長く見積もって三週間程、日本に行ってくる」

 「えっ」と小さく彼女が呟いたのが聞こえたが、すぐに、

「ほ、ほお。あのゲーム以外日本が大嫌いな我が兄が日本に行くと。それで、何をしに?」

「どうやら、富士の樹海付近で大聖杯に匹敵する魔力が測定されたらしい。それを報告し

 てきた知人に会いに行くのと、可能ならば、そのものの断定をしたい」

「おかしいな。そのようなこと、魔術協会の他の部署が担当するだろ」

「普通はな。だがトゥリファスでの一件以来、その部署の人がかなり参ってしまってな。

 またあのようなことが無いように、マスター適正もある人物を向かわせたいらしい。私

 がたまたま、日本に行く要望を提出したから都合がよかったのだろう」

 「しかし、お前もこのことを知らなかったのか」と聞くとライネスは首を横に振った。

「ああ、知らなかった。気付いているとは思うが、それは上層部の一部しか知りえていな

 いだろう」

「そうなると、ますます怪しいな」

「まだ確証が付いていないから、というのもその一つだろう」

「とにかく、私は出かけるから、そのことを知っておいてくれ」

「大丈夫だよな?ちゃんと帰ってくるよな?」

 彼女にしては珍しいことを言う。普段なら、「ふん、樹海に誤って迷い込んで死なないようにな」とでも言ってきそうだが、彼女が本当にライネスなのか疑いたくなった。

「お前にしては珍しい。心配してくれるのか。以前は散々命令して送り出したくせに」

「わ、私だって相応の心配はする。今回はケースがケースだ。大聖杯の可能性も考慮する

 と、最悪聖杯戦争に巻き込まれる、または貴方が参加することになるかもしれない」

「それぐらいは考慮している。だからサーヴァントの触媒も持っていく」

「ふざけるなよ。それではまるでそれに参加すると言っているも同然ではないか」

「まあ、そうかもな」

「いい加減にしろ!!会いに行くのと、死にに行くことは違う。貴方はこれからやっても

 らうことがたくさんあるんだ」

「それが、もう少し感動的な内容だったら一瞬躊躇しそうになるが、やはりお前だとその

 気が失せる」

「これでも、私はかなり心配しているぞ」

 それはわかる。あんなに声を張り上げるのは、初めてだ。ふっとロードは口元を緩める。

「な、なんだ。気持ち悪い。貴方が笑うなんて珍しいな」

「今日は大分珍しいことが続くな」

 ロードは一呼吸置くと真剣な表情で、ライネスに告げる。

「お前に嘘が通じないのは知っている。だがこれは本当だ。実際私は運がいい。それも飛

 び切りな。だから大丈夫だ。ちゃんと帰ってくる。お前が言った通り、やりたいことは

 まだ山ほど残っているからな」

「本当だな?」

「ああ、本当だ。ただ」

 彼女をしっかりと見据えると、ロードは以前から決めていたことを言う。

「今回の場合、私は一端ロード・エルメロイ二世から、元のウェイバー・ベルベットに名

 を戻すつもりだ」

「突然だな。理由を聞こう」

「このエルメロイの家に迷惑をかけることはしたくない。以前の家名ならそれは私だけに

 かかることだ」

「・・・・・・」

 ライネスが黙り込む。彼女のことだ、どのように言ってもロードが曲げないことはわかっているだろう。

「ふん。以前の件で私が言ったこともあるしな。今回は特別に許可をあげようではないか。ただ...」

 しっかりと彼を見つめなおすと、

「必ず生きて帰ってこい。そうでなければ意味がない。例え名を戻したとしても、貴方は

 現在のエルメロイの当主だ」

「・・・・・・約束しよう」

 この言葉を最後に、ライネスは部屋を出て行った。

(いつもと大分様子が違っていたな。全く、女の考えていることは難しい)

 そう思い支度に戻るとすると、入り口に何かが落ちていることに気が付いた。

 拾い上げると、どうやら飛行機のチケットだった。

(ハワイ行か...)

 なるほど、恐らくはこれのことを言いに来たのだろう。

 ただ、幸いにもこのチケットの日時は、彼が日本から帰ってきた次の日になっている。

 ふっと、少し笑うとチケットを机の引き出しにしまった。

(これは、さらに死ねなくなったな)

 若き次期当主のお怒りに触れないように、早く仕事を済ませようと心に誓ったのだ。 

 




 原作の人物が出ました。申し訳ありません。
 原作の設定と少し違うかな?そこは、まあ、僕のオリジナルということで...
 次は日本に舞台を移します。ようやく、オリジナルキャラを一気に出せそうです。
 フラグが立ってない?個人的に思いました。ご想像にお任せします。


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旅と謎の少女

 が、頑張ります。
 できるだけ、毎日投稿したいですが時間の都合上決まった時間に投稿することができません。
 この物語もかなり長く続くと思うので、約一年ほどお付き合いください。
 では、どうぞ('ω')ノ


 それから一週間後。

 ロード・エルメロイ二世改め、ウェイバー・ベルベットは日本へと旅立った。

 久しぶりにこの名前を名乗るので、受付で確認の時に名前を呼ばれたときに違和感を覚えた自分を呪いたくなった。

 強制的に与えられたとはいえ、あの名前(ロード・エルメロイ二世)に、すっかり慣れてしまっていた。

 そんなわけで、自分の名前に戸惑いつつも、彼を乗せた飛行機はイギリスを飛び、約半日かけて日本へ到着した。

(以前この国に来たのは十年以上前か、さほど変わらないか?)

 ただ彼の場合、以前降り立った空港は関西のほうで、今回は首都東京の空港だ。 

 結局彼は日本の東側には初めて来たことになる。

 飛行機を降りると、今度は電車に乗る。ただ、彼はこれが大の苦手である。

(イギリスもそうだが、日本は特に乗る人数が多い。これだけは慣れんな)

 イライラしながらも電車を乗り換え、特急で山梨県に入った。

(首都の隣だというのに、自然がかなり豊だな。)

 そんなことを考えながら窓の外を眺めていると、ふと自分の席の斜め向かいに座っている少女に気が付いた。後ろ姿しか確認できないが、白銀の髪からして日本人ではない。

 普通はただの観光客かで済ませてしまうが、彼女からそれ以外の何かを感じ取った。

(まさか、な)

 情報は魔術協会の上層部と彼の知人しか知りえていない。それが他に伝わるなどありえないと思った。

 そんなことを考えながら次の乗換駅に付く。木造の駅で、個人的には好感を持てた。

 その駅から、今度は違う線で目的地に行くらしい。

 今回の彼の予定では、まずはガーネットのところを訪ね話を聞いた後、目的地に向かう。

 だから、彼女が今いる大学のある駅に向かうのだが...

(これか)

 案外あっさり見つかった。聞くところによると、まだ新しいらしい。

 これに向かうべく切符を買うのだが、特急があるらしい。早く着きたい自分にとってこれは良いことだ。

 ホームに向かうと違和感があった。線路が一本しかないのだ。

(こんなところを特急が通るのか、しかも幅もかなり狭い。本当に特急か?)

 だが、それも杞憂に終わる。やってきた電車は間違いなく特急だった。

(ほう、しかもかなり凝っているな)

 周囲を見渡すと、数人程日本人ではない人を見つけた。おそらくこれは、観光の面が強いのだろう。

 一人で考えていると、特急のドアが開いた。内装もしっかりとしている。

 大学は左側に見えると駅員に聞いたので、左側の席に座る。

 そろそろ出発時刻を迎えるようとしたとき、背後から声をかけられた。

「もし、隣よろしいでしょうか?」

 声からして、まだ若い。自分の教室にいる学籍と同じくらいか、もしくはそれより少ししたくらいだ。

「反対側の席が空いている。富士山を見たいのならそちらのほうがいいぞ」

 嫌味ったらしく言うと、くすりと少女は笑った。

「いえ、別に観光目的で来たわけではありません。あ、失礼します」

 まだいいとも言っていないのに彼女はウェイバーの隣に座った。

「いいとは言っていないが」

「ええ。ですが、私はあなたとお話ししたくて」

 なんだろう、家の学生に似ている気がする。

「話とは?初対面だよな。我々」

「はい。しかし、貴方の名前と顔はこの世界にいる人間(・・・・・・・・・)なら誰でも知っていますよ」

「ほう」

 この一言で、彼は察した。彼女はこちら側の人間である。

「今回はどのような目的でこちらに?」

「知人に用があってな、今から彼女の大学まで足を運ぶことになっている。ついでに言う

 が私は今はその名ではない」

「といいますと?」

「今の私はウェイバー・ベルベットだ」

 この会話で彼女も察したのだろう。それ以上追及はしなかった。

「あ、自己紹介が遅れました。私、ロザリア・オーギュストといいます」

 ライトブルーの目をキラキラさせて、彼女———ロザリアは名のった。

「オーギュスト?あのオーギュストか」

「はい、あのオーギュストです」

 各国にはその国で力のある魔術師の一族がいる。ウェイバーが当主代理を務めるエルメロイ家はイギリスでは真ん中くらいの位置にいる。

 その魔術師といううのは、古くからその国に根差して、魔術回路を継承してきた一族のことを意味する。

 イギリスの場合、その家の数は六つあり、その一つがオーギュスト家である。

 主に植物を操る術に長けた一族とは聞いている。

 ただ、この一族は、魔術協会といったものがあまり好きではない。というのも、その残りの五家は魔術協会に所属しているのだ。彼女の一族は、これまでも他の五家とは余り関わらずにいた。五家が人の多い町などに、本拠を置くなら、オーギュスト家は反対に森の奥にひっそりと集落を造り魔術の研究を行ってきた。そのため、昔はしばしば争いになったという。今でも彼女の一族と五家の一つであるロングリアという一族は仲が悪い。考え方が根本的に違うのだ。

「あの、ろ、ウェイバーさん?」 

 どうやらまた一人で考え事をしていたらしい。ちらりと彼女を見ると怪訝な目で見ていた。

「ああ、すまない。考え事をしていた」

「そうだったんですか。...ところで、お願いしたいことがあるのですが」

「なんだ」

 嫌な予感しかしない。

「私もそこにご一緒してもいいですか?」

「だめだ」

「即答!?どうして」

「お前が何をしにここに来たのかは概ね予想がつく。なら余計についてこさせるわけには

 いかない」

「・・・・・・・」

 全くの正論である。おそらく、いや確実に聖杯戦争になった場合二人は殺しあう。

 そんな敵に情報を流すことなど聖杯戦争においてタブーである。

「それでも」

 下を向いていた顔を上げこちらを強く見つめてくる。

「それでもお願いします。私は...私は証明しないといけないんです」

「何を?」

「己の強さ、価値を、一族に自分を認めさせなければならないんです」

「それがお前の願いか」

「はい。だから少しでも情報が欲しいんです。お願いします」

 席を立ち、人目を憚ることなく深々と頭を下げた。

「・・・・・座れ」

 ウェイバーは彼女に着席を促す。

 すると、車内にアナウンスが流れる。どうやらそろそろ自分の目的の駅に到着するそうだ。

「荷物を持て」

「え?」

「付き添うのだろ。なら、それぐらいはしろ」

 一瞬ポカーンとしていたロザリアだが、理解した途端

「は、はい」

 笑顔を浮かべてウェイバーのカバンを持った。

 二人は連れ立って、列車のドアへと向かう。

「あの」

「なんだ」

「ありがとうございます。その失礼だと思いますが、どうして急に許可してくださったの

 ですか」

「・・・・・・・・さあな」 

 言えない。かつて自分も同じような思いで参加したなど。かつての自分と重なったなど。

 それはウェイバー・ベルベット(この名前)を名乗っているから余計に思いが強いのかもしれない。

 かつての自分と彼女。性別も違えば、力量も全く異なる両者が同じように見える。

 これからどうなるかわからない。ただ、このかつての自分の影(ロザリア・オーギュスト)がこのわずかな間にどう成長するのか少し見たくなったのだ。




 話の展開早いですかね?
 やっとオリジナルキャラがちゃんと登場しました。ガーネットは次回に出ます。
 ロザリアですが、彼女の成長をお楽しみください。
 本作のキャラクター設定は、それなりに話が進んだら出します。
 今はさすがに面白くないですよね?
 読んでくださりありがとうございました。


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再開と告白

 2~3日のペースで投稿できたらなあと思います。
 GWも終わり、忙しくなりました。
 頑張ります。では、どうぞ('ω')ノ


 駅の改札を出て、二人はガーネットのいる大学に向かった。

 向こうに見える赤いレンガの建物がそれらしい。

「あの」

 隣でカバンを持ってついてくるロザリアが、恐る恐る口を開いた。

「なんだ」

「....いえ、なんでもありません」

「ちゃんと言え」

「は、はいでは、あの今回は情報を得ると言ってましたが、具体的には...」

「主になぜそこにあるのか、どうしてそれが分かったのか、だな」

「なるほど、しかし...」

 ロゼリアが周囲を見る。向かう途中多くの若い人を見る。恐らくはあの大学の学生なのだろう。だが...

「ああ、魔術師ではない。一般の人間だ」

 講師をしているウェイバーでさえ、彼らから、魔術師を思わせるものや、彼らにあるはずの魔術回路を見つけられない。

「つまり、あいつは魔術を教えるためにここにいるわけではないということ」

「変わった方ですね」

「ああ、彼女は変わっている」

「彼女?今回会うのは、女性の方なんですか?」

「そうだ、言ってなかったか」

「はい、初耳です」

「変に思うなよ。あいつとは知人の関係だ。不埒な関係ではない」

「す、すみません」

「...まあいい。そろそろ着くぞ」

 赤煉瓦の建物が目の前に迫る。近くだからか、この大学の広さはどうやらそこまでではないようだ。

 しかし、いくら小さいとは言え大学だ。簡単に彼女が見つかるわけではない。

 しょうがなく、近くにいた学生をつかまえ話を聞くと、来客は中央塔というところで、受付をするそうだ。

 早速、そこに向かい、受付の人に今回の事情を話す。

「わかりました。先生に連絡します」

 受付の女性は内容を聞くと、受話器を執った。

「あ、ガーネット先生。はい、先生のお知り合いで...わかりました」

 話が終わったらしく、受話器をおいてこちらを向きなおした。

「先生は今、研究室にいます。場所は二号館の最上階で、一番奥の部屋です」

 「こちらが地図になります」と受付の人から地図をもらい、その研究室を目指した。

 中央塔を出て、言われた通りの道を進む。すると、縦に長い建物が見えてきた。

「ここか」

「そのようですね」

「行くぞ」

 二人はエレベーターを上がって奥に進んだ。

 すると、ちょうど廊下の先に一人の女性が立っていた。

「やあ、ウェイバー。彼女ずれとは、君もやるじゃないか」

 赤いショートカットの髪と、その自信に満ち満ちた顔は相変わらずである。

「やめろ、ガーネット。ロザリアがおかしくなってるだろ」

 そういうウェイバーの隣でロザリアが一人顔を赤くしておろおろしていた。

「ははは、ごめんごめん。ほら入って、時間がもったいない。狭いが多少は寛げるだろう」

 彼女に勧められ、二人は研究室に入った。

「そこに座って、紅茶はいる?ああ、ウェイバーは砂糖はいらなかったね」

「あ、いえ、その」

「好きにさせてやれ、ああ見えてかなりの世話好きだ」

「ははは、いや~わかってるね。さすが私の親友だ」

「お前の親友になった記憶はないがな」

 因みにさっきから彼女が彼をウェイバーと呼ぶのは、昔からの付き合いで、こちらのほうが呼びやすいからだ。

 手紙はさすがに空気を読んだらしい。

「それで、ここに来たからには、聞きに来たんだろ?あそこのこと」

「ああ、具体的な情報が聞きたい。いろいろとな」

「OK。私が持っている情報をできる限り教えようじゃないか」

 と、彼女は二人が座るソファーの向かい側に座り、足を組んだ。

「ところで、そちらのお嬢さんは...」

「はい、ロザリア・オーギュストです」

「オーギュスト?おかしいな...」

 ガーネットが深刻な顔になる。それと同時に、ロザリアの顔も青くなった。

「?。なんだ。ガーネット何かあるのか」

「あれ?ウェイバー、君は知らないのか」

 と、ガーネットはロザリアの方をちらりと見る。

 目を向けられたロザリアは、表情をさらに曇らせた。

「まあ、秘密主義のオーギュスト家なら、ありえるか。ロザリアといったね?」

「...はい」

「君のところの今は元当主か、彼が三か月前に亡くなったのは本当かい?」

「なんだと!?」

 ウェイバーも驚いてロザリアの方を見る。

「はい、間違いありません」

 暗い表情のまま、ロザリアが答えた。

「つまり、今の現当主は彼の子供がなっているはずだ。だが、彼に子供がいたとは聞いたことがない」

「よくご存じですね。...その通りです。叔父は跡を誰に継がせるか誰にも告げぬまま亡くなりました。一族の長老たちは誰に継がせるか話し合いましたが、決着がつきませんでした」

「なるほど、見えてきたぞ。君がここにいるのは...」

「そうです。私を含め、叔父と親戚となっているのは三人います。私たちに課せられたのは世界のどこかで開かれる亜種聖杯戦争に参加すること。それに生き残り、帰ってきたものに跡を継がせると」

「かなり難易度が高いな。拒否できなかったのか?」

 ウェイバーの質問に対して答えたのはガーネットだった。

「彼女の家は、何ていうか原始的でね。辞退する。つまり、逃げ出すような者は一族の人間ではないと、追放最悪は殺されるんだよ」

「はい、ですから、私たちは受けるしかなくて...」

「だから、証明、か」

「はい、私は死にたくない。こんなことで、こんなところで、まだやりたいことはたくさんあるんです」

 言葉を紡ぐたび彼女の目から涙があふれ、ぽろぽろ落ちていく。

「だから、私に近づいたのか」

「すみません。ウェイバーさんは聖杯戦争の経験がありそうだったので、あと、同郷の人っぽかったんで」

「まあ、確かに彼ならいいかな。ねえ、どうなの?」

「私に判断しろと?」

「当たり前じゃん。彼女の魔術と、このあたりは相性がいい。それに一人より二人の方が、安全だし探す時間も短縮できる。君だって今回は聖杯の調査だろ?願いあるなら別だけど」

「・・・・・・・・・」

 しばし考える。彼女の方を見ると、不安でいっぱいの顔だ。ああ、なるほど、通りで自分とは似て似つかないわけだ。自分と彼女では見ているものが違う。あの時の自分はすぐ目の前を見ていたが、彼女は未来を見ている。普段自分が教える学生と同じ目をしているのだ。ならば...

「...今回だけだぞ」

 途端ロザリアの顔がぱあっと明るくなる。

「あ、ありがとうございます」

「だが、私は私の目的で動く、仕事はちゃんとしてもらうぞ」

「はい。頑張ります」

「うんうん。いいね~いいね~。お姉さん感動したよ」

 にこにこと笑顔を向けてくる彼女にいら立ちを覚えたが、こんな空気の中でデコピンをお見舞いするわけにもいかず、話を本題に戻す。

「それで。聖杯の話はどうなった?」

「ああ、そうだね。その話をすると長くなるかな」

「かまわない。頼む」

「了解した。それじゃ、どこから話そうか...」

 話し始めようとする彼女の表情は先程までとはまるで違っていた。

 

 

 

 




 ロザリアのこと、もっと書けたらなあと思います。
 え? サーバントの召喚はいつか?
 え~~~~とですね\(゜ロ\)(/ロ゜)/
 何とか近いうちに。
 あ、よろしければ予想してみてください。
 エクストラクラスはありません。


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真実と贈り物

 忙しい中書くって大変ですね。
 めげずに頑張ります。
 ここからオリジナル設定がわんさか出ます。
 ファンの方はご容赦ください。
 では、どうぞ('ω')ノ


 ガーネットは静かに語りだした。

「そもそもだけど、なぜアインツベルンは日本で大聖杯を完成できたと思う?」

「え?」

「それは...確かにそうだな]

「まあ、参加した人たちからしたら、そんなことどうでもいいんだろうけどね。アインツベルンが

 成し遂げた奇跡にしか思わないだろうし」

「なるほど」

「私の場合、それにまず目を付けたのさ。もし創りたいなら、それこそ伝承が残っている中東やイ

 ギリスなどのところにするだろ?そちらのほうが参考となる資料は多いし、早く手に入る」

「今現在伝えられている話では、大聖杯を作るための土地がなく、霊脈と聖堂協会との関係も合

 わさって、日本に遠坂がアインツベルンを呼び完成させたのが通説だが...」

「まあ、普通はね。ただ、いくら彼らに錬金術の才能、技術があって、霊脈のある膨大な土地が

 あっても、まだ足りないと思うんだ」

「そうした場合。答えはどうなるんだ?」

「もっと簡単さ。ようはそれらなんかよりもっと参考になるものがこの日本にあったからだよ」

「それが、今回我々が探すものということか」

 「その通り」とがガーネットはウィンクして見せる。

「どうやって見つけたかは、あとで、話すとして、彼らはそれを見つけ、参考にして大聖杯を完成

 させたんだ」

「だが、それはユグドミレニアに盗まれてしまった」

「そうだね。第三次聖杯戦争後、彼らは大急ぎで新しいのを造ったよ。けど、やっぱり奇跡に近

 かったのかもね。いくら参考の物があるとはいえ、じっくり丁寧に創ったものに、突貫工事で

 造ったものが太刀打ちできるわけがない。だから彼らは、方針を変えたんだ。それまでとは

 違い、小聖杯の依り代であるホムンクルスを聖杯戦争に参加させたのさ」

「...彼女か」

「そうか。そうだったね。君は第四次聖杯戦争の参加者だったか」

「え?そうだったのですか?」

 ロザリアが驚いた表情を向けてくる。

「また、いずれ話そう。ガーネット。続けてくれ」

「了解。結果から言えばそれは失敗に終わる。当然のことだ、参加することで、より早くサーバン

 トを吸収し完成に近づけられると思ったのだろうけど、それが裏目に出た。そこで見た残酷さ、

 惨さ、悲惨さ、人々の欲望。それを目の当たりにして、どういう感情を浮かべただろう。聖杯に

 取り込まれれば、自然とそれが聖杯にも反映されるものさ。結果聖杯は暴走、その時召喚された

 サーヴァントの宝具で一時的に休眠状態にできたけど、十年後に再び起動したんだ」

「スパンが短かったのはそのためか?」

「ああ、最初に比べて、二号機は欠点だらけだったのさ。しかも良くも悪くも、以前の聖杯戦争で

 傷を負った状態だ。正常に起動できるわけがない」

「その後、初めに創られた方はルーマニアへ。聖杯大戦につながるのか」

「第五次聖杯戦争の一年後にトゥリファスで聖杯大戦。その後今になっても各地で亜種聖杯戦争は

 続いている」

「亜種聖杯戦争に使う聖杯はどんなものなんだ?」

「それと、大聖杯は一緒にできない。各地で使われているのは、一時的な願いの再現。そしてサー

 ヴァントの召喚。この二つしかできないんだ。ただ、どこがそれを造っているのか。私もそれは調査中だけどね」

「二号機は?」

「あれはまだ調査を進めているんだけど、恐らく一回はできたと考えるよ。だけどその後繰り返し

 できたかと聞かれると、それはできない。かなり難易度が高い」

「そうか...それで、こっちの聖杯については?」

「こっちは、完全なオリジナル。ただ形も能力も不明。見つかってないからだけど...」

「しかし、なぜ聖杯だと思う」

「昔のここの文献をあさると、こんな史料が出てきたんだ」

 彼女が近くにあったファイルから取り出したのは、絵の描いてある紙と、日記のようになってい

る文だった。

「何に見える?」

 その絵は、鎧を着た二人の戦士が相対していて、双方の後ろにはそれぞれ人がいる。そして片方

の人の手の甲には...

「サーヴァントとマスターだ。左の方にいるの人間の手にあるのは令呪か」

「ここには明暦二年、つまりは江戸時代の初めごろに起きたことが書かれている。この絵を見たと

 き私もすぐにそう思ったよ。それにこっちの日記には『富士の方を見れば、光輝くものあまたあ

 り』と書かれているんだ」

「その光は魔術あるいはサーバントの宝具の可能性があるな」

「このことから、聖杯戦争らしきものは昔から行われていたんだよ」

「しかし、目的は何なんでしょう?願いを叶えるためですか?」

 ロザリアの質問にガーネットは首を横に振った。

「いや、当時の人々の場合これはあくまで階級争いなんだ。誰が一番上か、権力を持つか、跡を継

 ぐかのね。どちらかというと、君に少し似ているかな」

「た、確かのそうですね」

「権力争い?その時代は江戸で徳川が政権を担っていた時代だろう?争う者がいたのか?」

「ああ、日本古来の魔術師達がね」

「そういうことか」

「日本には、外国から来た魔術を使う派閥と、日本古来の呪術を使う派閥が存在する。前者は主に

 冬木と東京に拠点を敷いていた。逆に後者の拠点は京都にある」

「ちょうど外国の勢力が、挟む形になっているな」

「これは二つの派閥で話し合われたことなんだ。冬木と東京の魔術師は仲が悪い。一時期はどちら

 を本拠地とするか、争いの一歩手前まで来たほどにね。そこでもう一つの派閥の方に監視を依頼

 したのさ。どちらかが不穏な動きをしないか見張っててもらうためにね。彼らとしても突然やっ

 てきた者たちのことを快くは思っていなかった から、それを了承したんだ」

「なるほど、しかし、それが富士の麓で争うにはつながらないだろ」

「まあね。本題はこのあとなんだけど、東京は京都から遠い。だから彼らはあの聖杯が東京の魔術

 師達に気付かれるのを恐れたんだ。実際は気付かれていたんだけど、東京の魔術師達は無視した

 んだ。彼らとの対立は避けたかったんだと思う。京都の魔術師たちは話し合いをしたんだけど、

 どうも決着がつかない。彼らからすれば、その場所を抑えているのは、一族からしてもかなりの

 利益になるし、他の一族や派閥とでも話し合いを有利に進められるからね」

「だから、聖杯戦争を...」

「うん。召喚の仕方は変わらないらしい。もともとは彼らの式神を召喚するための術式らしく。そ

 れをマキリが改良したのが今現在使われている召喚の仕方なんだよ」

 「話を戻すね」と彼女は絵をしまってから再びこちらに向き直る。

「このことから、あれは聖杯で間違いない。ただ、願いを叶えるかと言われれば、それは不明だ」

「わかった。情報提供に感謝する」

「なに。君と私の中じゃないか。婚姻届は準備しているから、その気になったらいつでも言ってく

 れ」

「それは一生無いと思うがな」

 最後に爆弾を投下してきたが、かなり有益な情報だった。その隣で、ロザリアが唖然としていた。

「おい。どうした?」

 横から声をかけると、戻ってきたらしく、目をパチクリさせている。

「いや、その、ガーネットさんはなんでそんなにいろいろ知っているんですか?」

「ふふふふ。大人の事情があるんだよ」

「やめておけ。それを聞いたこともあるが、こいつはしゃべらん。ただ言えることはこいつは顔が

 広いということだ」

「は、はあ」

「そろそろ向かうのかい?」

「ああ、長居は失礼だろ」

「君たちなら構わないさ、講義くらいすっぽかしても...ふぎゃ!?」

「それはやめろ」

 デコピンが決まった。

「あ、そうだそうだ。これは言っとかないと」

 おでこを抑えながら、彼女が慌てたように口を開く。

「さっき言った日本古来の魔術師なんだけど、彼らの一族の者たちが動きだしったって情報が来た

 んだ」

「何?」

「ああ、日本の家は大きいのが四つあるんだけど、神宮寺家、安部家、高ノ宮家、一条家の四つだ

 よ。彼らの多分当主かもしくはそれに近い人がそれぞれやってきている。つまり...」

「今回の相手は彼らということか」

「ああ、ただ、いいことにこの四家は互いにいがみ合う仲だ。協力関係はまずないと言っていい」

「そうか、最後に一番いい情報をもらったな」

「はは、そうそう、ウェイバー。これを君に」

 そう言って彼女が渡してきたのは、小さい箱だった。

「触媒ならあるぞ?」

「これは私なりのお守りだよ。必要になったら開けてね」

 すると、突然彼の頬に口づけをしてきたのだ。

「!?」

 急なことで、目を白黒させるウェイバー。

「ふふ、顔赤いな。これはこれで、私なりの送り出し方だよ」

「・・・・・・・・・失礼する。いくぞ」

 そういうと、速足で出て行ってしまった。

「あ、待ってください。あのありがとうございました」

「うん。また来てね。あ、そうだ。まだ言ってないことがあるんだった。また連絡するね」

 「では、失礼します」と、ロザリアはウェイバーを追いかけて出ていった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「さあ~~て。仕事も終わったし次の講義の準備しようかな」

 ガーネットは自分のデスクに向かい今日の講義で使う資料を確認していた。すると、

 コンコン

 ドアをノックする音がした。

「ん~?どうぞ」

「失礼します先生」

 入ってきたのは、自分が教えている男子学生だった。

「やあ、どうしたんだい」

「あの、島崎のことなんですが」

「島崎?ああ。前回と前々回の講義も休んだ奴か。そいつがどうしたって?」

「はい、しばらく旅に出るので、講義は休むと」

「旅?まあ、この年だ旅にも出たくなるか。それで、まずはどこに行くって?」

「まずは富士五湖の方に行くと」

「富士五湖、ね」

 単なる学生の欠席報告。それなのに、ガーネットは自分でもわからない不安に駆られるのだった。

 

 




 かなり設定内容をぶち込みました(ぜえぜえ)
 彼女は何を言ってないのでしょうか?答えは文章中にあります。
 それではおやすみなさい。
 読んでいただきありがとうございます。


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始動と野望

 一部変更をしました。
 突然変わっていて、あれ?と思うかもしれませんが、すみません。
 今回はこの作品の登場人物たちの様子を描きます。
 まだ、誰がどのクラスを使用するかは秘密です(大丈夫。ちゃんと決まっています)
 では、どうぞ('ω')ノ
 


 時間軸を少し前に戻す。

 ウェイバー達が日本に到着する少し前、京都では四つの家がそれぞれあわただしくなっていた。

 神宮寺家では...

「それで、我らのみ知る情報を、英国の野蛮人に知られたと...」

 まだ若い、しかし威厳と絶対的自信に満ちた少女の声が、部屋一帯を流れていく。

「申し訳、ございません」

 彼女が座っているのは、最奥の席、つまりは当主のみが座ることを許された席である。

 そんな彼女の正面で、いかにもいい年した男が土下座をしていた。

 その男を鋭い眼光で少女は睨めつけている。

「なぜ感づかれた?」

「その、情報を盗んだ魔術師がこれまた、技術が我らよりうえでして...」

「・・・・・・・・・」

 彼女が持っている扇をひらひらとふると、その男は両腕をつかまれどこかに連れてかれた。

「あ、ああご当主、どうか、もう一度、もう一度チャンスを」

「たわけ!貴様のような失敗人。誰がいるか。早くその者を下げよ」

 男の懇願むなしく、ずるずると引きずられて行ってしまった。

「さて、次にその場所を誰に任せればよい?」

 彼女は並んで座っている自分の家臣たちを見る。

 だが、誰もが下を向き、応じようとはしない。

「そうか、誰も居んか。しょうがない。おい、そこの若いやつ」

「は、はは」

 指名されたのは一番端にいた、まだ若い男だった。

「お前を次の情報管理の責任者に添える。異存はないな?」

「は、はい。ございません」

 男は冷や汗を浮かばせながら、彼女の命令に頭を下げた。

「うむ、任せた。それで、以下がするか、このまま彼奴らにあれ(・・)を見つけさせるわけにはいかんし

 な」

「恐れながら、ご当主。提案がございます」

「ほう、筑摩か、言うてみよ」

 筑摩と呼ばれた老年の男は、息を一つ吐くと、「では」といい話し出した。

「此度の件、無論無視できることではございません。しかし、英国は西洋の魔術師どもの中でも

 一、二を争う力を持つ者たちであります。しかも、彼らが使う英霊どもは、世界中から集めた

 生粋の武士(もののふ)でございます。到底我ら家臣団の誰かが行っても太刀打ちできませぬ。

 そこで、ご当主自ら英霊を操り、蛮族を討ち払うのです」

「ほお、妾自らとな?」

「はい、そうすれば、日本ばかりでなく世界にご当主の力が伝わります。そればかりでなく、恐ら

 くですが、このことを他の三家も知っているでしょう。しからば、そこで彼らを討てば、彼らも

 それ以降我らにたてつくことはないでしょう。そうすれば実質ご当主があれを手に入れたことに

 なります」

「ふむ。一理あるな。他の者はどうだ?」

 周囲を見渡すが、誰も反対の声を上げない。

「なるほど、皆もそう思うのだな。ならば筑摩の意見を採用しよう。妾直々に奴らを屠ってくれる」

「使う英霊はいかがなさいますか?」

「そうさな、この日の下で最も強いものにしよう。わかったな?」

「「「「「「「「「「「「ははあ」」」」」」」」」」」

 彼女の声に家臣が一斉に賛同する。

「では、妾はこれより支度に入る。連れになるものを、筑摩。見繕っておけ」

「かしこまりました」

 そういうと彼女は部屋の向こうに消えていった。

 彼女が消えるまで頭を下げていた老年の顔には、笑みが浮かんでいた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 安部家では...

「玉清。玉清はおらぬか?」

 屋敷全体を揺るがすくらいの大声が響く。

 その声に反応し、一人の男が現れた。

「お呼びでしょうか。父上」

 彼—安部 玉清は、父である晴通に呼び出された。

「よいか、数日前、我らのみ知る富士の宝の情報が盗まれた」

「!?それは、誠にございますか?」

「ああ、本当だ。それを知った神宮寺や高ノ宮、一条が彼の地へと向かう支度をしているらしい」

「なるほど、それで」

「いい機会だ。お前もそこに向かい。ブリテンの魔術師を屠るついでに他の三家を始末しろ」

「え、そんな、急に...」

「なんだ?言うことが聞けんのか?」

「い、いえそんな。わかりました」

「ふん。わかればいいのだ。英霊の触媒は追って渡す。お前は富士に向かう支度をしろ」

「はい、その英霊は、もしかして...」

 そう言いかけた瞬間、周囲が押しつぶされそうな殺気に一瞬で支配された

「愚か者!!」

 晴通の激昂が飛ぶ。

「あの方を、使うだと?無礼にもほどがあろう。我らが祖を何だと思っている!?」

「も、申し訳ありません」

 玉清はすぐに華麗な土下座を決める。頭を畳にこれでもかと押し付けて、

「わかったならば、さっさと行け!!!」

 彼の怒鳴り声とともに、玉清は自室に全力で走ったのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 高ノ宮家では...

 バイオリンの音が部屋の中を軽やかに流れている。

 ここは京都の西、高ノ宮家の屋敷だ。

 この家は、他に家とは少し違い、海外の魔術も学ぶ。だから他の家からすれば裏切者、異端者と呼ばれてしまっている。もともと、冬木と東京の対立時に真っ先に監視に賛同したのが高ノ宮家だった。

 そのため、他の三家と違い冬木と東京も魔術師とも仲がいい。

 明治の鹿鳴館を思わせる屋敷の二階、そこにいる当主—高ノ宮 和葉はドアの前にいる使用人に気が付くと弾いていたバイオリンを止めた。

「どうしはりました?」

「は、お取込み中申し訳ございません」

「構いません。どうぞ」

「では、イギリスの魔術師が昨日空港を飛び立ったと」

「さよですかぁ。計画通りですね」

「ええ、Ms.ガーネットによると、かなりの腕だと...」

「それはそれは、では我らも行きましょか?」

「はい、しかし和葉様。此度の戦い、そんなにうまくいきますでしょうか?いえ、出すぎた口でし

 た。申し訳ありません」

「気にすることあらへんよ、真理。あの聖杯はあてら高ノ宮がもらいます。邪魔は三家のみ、他なん

 てどうでもええこと」

「かしこまりました」

「富士のふもとに付いたら、まずその魔術師に会いましょか」

「わかりました」

「ああ、後、触媒は?」

「こちらに」

 それは布切れだ。

「・・・・・ほんまにそれはあのお方(・・・・)のでっか?」

「はい、お家の鑑定士ども確認させましたが、間違いないそうです」

「おおきに。ほな、行きましょか?」

 そういうと和葉は旅行鞄を持って部屋を後にした。

(さて、安部と神宮寺は間違いなく参加するし、あても狙われましょうが、一条はんはどうしま

 す?)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 一条家では...

「なるほど、三家が富士の麓に、そして外国からも」

 彼—一条 恒永は、紅茶の入ったティーカップを静かに机に戻した。

 優雅に椅子に腰かける姿は、まさしく彼の気品の高さを示している。

「いかがなさいますか?」

「三家は勝手に争わせておけ、それより...」

 彼の手にこもる力が増す。

「その外国の人間が、僕には許せない。ここは日本だ、日本の聖杯(もの)は日本で管理する。野蛮人ども

 においおい取られてなるものか」

 口では普通にいているが、明らかに嫌悪の様子がうかがえる。

 一条家は日本の魔術を支えてきた最古の家だ。故に外国の勢力を酷く嫌う。江戸時代末期にも攘夷を真っ先に朝廷内で訴えていたほどだ。

 そのため、外国の魔術も学んでいる高ノ宮家は大嫌いである。

「おい、あの触媒はあったか?」

「あ、あれでございますか?しかし、それは先代様からもきつく使うなと言われておりまし

 て...」

「知ったことか!!。僕が使うなら使うんだ。すぐに準備しろ」

「...かしこまりました」

 何かをあきらめたように、使用人は一礼すると下がっていった。

「ふん、外国人も高ノ宮も一度に滅してくれる」

 そういうと、冷めてしまった紅茶を一気に飲み干した。

(負けるものか、我らは日本最古の呪術師の一族。その誇りにかけて)

 

 

 魔術師の四家がそれぞれ、富士の樹海に向かい始める。しかしこれから起きることを彼らは知らない。

 

 ???...

 

 冬木市、アインツベルンの居城にて。

 一人の男が書物を漁っていた。

「違う、これじゃない.........これだ!!」

 何かを見つけたらしく、その資料を持ってきたカバンに入れる。すると...

「何者だ?貴様そこで何をしている?」

 見回りをしていたホムンクルスが彼にライトを当てた。

 映し出されたのは金髪、そして蒼の目。明らかに日本人ではない。

「ち、見つかったか」

 男は横にあった書物も抱えると部屋の窓を開けた。

「待て、!?もしかして」

「へ、あばよ」

 そう言い残すと、男は窓から飛び降りた。

 城内が騒ぎになり、必死に男を探す。

 だが、夜だったことも相まって、男を見つけることはできなかった。

 この日、冬木の地で強盗事件が起きた。盗まれたものは二つ、一つはホムンクルスに関するデータ。もう一つは、アインツベルンが突貫工事で造った聖杯の二号機に関するデータだった。

 このことがのちに大きくかかわってくるのだが、それはまた別の話。男の行方は、何処へ...

 




 ちょっとわかりやすかったでしょうか?
 いや、何かとは言いませんよ?
 読んでくださりありがとうございました。
 次か、またその次、サーバントの召喚です。たぶん。


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出発と補修

 投稿の後、いろいろと追加しようと思ったので追加しました。
 では、どうぞ('ω')ノ


 ガーネットと別れ、二人はまた特急に乗って、目的地を目指した。

 乗り込む途中ウェイバーはロザリアの顔が曇っていることに気が付き、出発したと同時に

聞いてみた。

「どうした?浮かないな」

「あ、はい。なんか、一気に大量の情報を教えてもらったので、ウェイバーさんはわかりました

 か?」

「まあ。私は大丈夫だったが...そうか、君はあれだけ教えてもらったが、まだ根本的に知らな

 いところがあるのか?」

「はい、すみません」

「いや、私がうかつだった。今でも遅くない、答えられることは限界があるが、君が気になること

 を聞いてくれ」

 すると、ロザリアの顔がぱあっと輝いた。

「いいんですか!!!」

 嬉しさのあまり席を立ちあがってしまう。

 そんな彼女の行動に、ウェイバーは苦笑すると、彼女に着席を促す。

 周りの目に気付いた彼女は顔を赤くして席に座った。

「うう、すみません」

「勉強熱心はいいが、ほどほどにな」

 と、彼女の落ち着きを取り戻したところで、彼女が口を開いた。

「ええっと、そもそも聖杯とはなんでしょうか?」

「ふむ、なかなか難しいな」

「あ、すみません」

「何、気にするな。そもそも、アインツベルンが創った聖杯は伝承になるものとは違う。それはわ

 かるな?」

「はい、聖杯は万能の願望機であり、魔術師達はそれを巡って争うんですよね?」

「まあ、大まかにはそれでいいかもしれない。だが、その裏の事情というものがある」

「裏の事情?」

「そうだ。聖杯戦争では七騎のサーバントの召喚が行われる。建前のルールでは其の内の六騎を倒

 したマスターが願いを叶える。ではそれはどうやるかだ」

「ええと。それは、さっきのお話だと、ホムンクルスに集めさせたと...」

「そうだ。そうすれば自衛が可能だからな。1940年頃に行われた聖杯戦争までは、伝承に伝わる

 聖杯の形をしたいわゆる小聖杯というものが、サーヴァントを集めていた。しかし、第三次聖杯

 戦争でその小聖杯が破壊され、大聖杯は盗まれてしまった。そこでさっきの話の通りだと、アイ

 ンツベルンが突貫工事で造った聖杯が第四次聖杯戦争で使われたんだ。その時に小聖杯の代わり

 をしたのがホムンクルスの心臓だ」

「そ、そうだったんですね。でも確かにそれなら安全ですね」

「表向きはな」

「え?」

「魔術協会が現在調査を進めているのだが、第五次聖杯戦争で参加していたアインツベルンのマス

 ターがいた。彼女を調べたところ、かなり弱っていたらしい。このことから、第四次聖杯戦争に

 いたあのホムンクルスも同様にサーヴァントが消え、彼女たちに取り込まれる代わりに、彼女た

 ちは人間性を失っていくという考察が出された」

「そんな...」

「当然と言えば当然だ。ホムンクルスとは言え、彼女たちも一回の生命体だ。いきなり人一人分そ

 れもかなりの魔力の集合体がどんどん入ってくるんだ。それで人間性を保てというほうが難し

 い」

「・・・・・・・・」

「では、ここで質問だ。もし、七騎全てが取り込まれた場合、どうなる?」

「え?それは...」

 しばらく考え込むロザリア、そして...

「六騎が取り込まれるのと、七騎取り込まれる。この違いはまず願いの質に比例すると思います。

 六騎の場合、言いてしまえば、億万長者になりたいとか、そのような願いなら叶います。しか

 し、七騎の場合はそれ以上、本当に届かない何か(・・・・・・・・・)ではないでしょう

 か?」

 その答えにウェイバーはふっと微笑む。

「ほう、なかなかできるじゃないか、この質問に答えられる奴はそうはいない」

「あ、ありがとうございます」

 突然の誉め言葉に顔を赤くし照れてしまう。

「言った通りでほぼ(・・)正解だ。ではその何かとは何か?それは...」

「それは...」

「......いや、これは言わないほうがいいだろう」

「え!?どうして」

「そうだな。お前がもう少しいろいろ受け入れる器ができたらだな」

「う~~~~~~~~~そんなにですか?」

「そんなにだ。お前にはまだ早い。いくら才能があってもまだ若い。年は?」

「十八です」

「そうだろう。だからまだ、早いんだよ」

 ウェイバーは窓の外に視線を向ける。まるで、何かを懐かしむように、否何かを思い返すように。

(早く知りすぎた故に自滅した男がいるからな)

 もちろんこれは聞いた話だ。もちろん嘘か本当かは彼もわからない。

 ただ、彼のサーヴァントと娘とは並々ならぬ因縁がある。

 彼を(我が主を)倒した彼にはいつかまたどこかで会えるか。

 その時彼が自分を覚えているだろうか?そんなことを考えてしまう。

「・・・・さん。ウ・バーさん。ウェイバーさん」

「ん?ああ、すまない。考え事をしてしまった」

「はあ、ところで、私たちはどこで降りるんですか?」

「そうだな。ガーネットから貰った情報からして、終点まで行く」

「わかりました」

 すると、ちょうどその駅に着くアナウンスが流れる。

「いくか」

「はい!!」

 二人は電車の出口に向かい電車の到着を待った。




 今回は文字数が少ないです。
 頑張って書いていきます。
 今回も原作ネタが出ました。
 間違ってたらごめんなさい。
 誤字の指摘ありがとうございました。
 これからもがんばります。
 読んでくださりありがとうございました。


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到着と出会い

 お久しぶりです。
 忙しくてかけませんでした。ごめんなさい。
 これからもこういうときがあるかもしれませんが、ご容赦ください。
 では、どうぞ('ω')ノ


「ふわ~~~~~~~~~~~~~」

 列車を降りて、駅の入り口に行くと、視界の先に巨大な湖が見えた。

「あれが河口湖か...」

 呟くと、正面の通りに向かって歩き始めた。

「えっと。どこに行くんですか?」

「地図によると、湖の周辺にホテルが多くあるらしい。そこに向かうぞ」

「はい、わかりました」

 ロザリアが後ろからついてくるのを感じながら、足早にホテルに向かう。

「すごい観光客ですね。日本人以外の人も多くいます」

「それはありがたいな。怪しまれずにこの街に溶け込める」

 そう言いつつ、ウェイバーはあたりを見回した。

「どうしたんですか?」

「あたりには山が多い。夜になれば人もいなくなるだろう。召喚の場所をどこにしようかとな」

「な、なるほど。すみません。よく見ていなくて」

「なに、私が速いだけだ。気にするな」

 「いくぞ」と湖へと再び歩み始めた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ふわ~~~」

 湖に到着すると、ロザリアが本日二度目となる。声をあげた。

「そんなに湖が珍しいか?」

 苦笑しながら、ウェイバーが聞く。

 イギリスにもネス湖といった有名な湖が多くある。

「あ、はい。私ずっと森の中に住んでいたので、ここで見るのが全部珍しくて...」

「・・・・・・そうか」

 オーギュスト家が森の中に一生住み続けるとは聞いたことはあるが、それが本当だったことに、心の中で驚いた。

「あ、すいません。なんかしんみりさせちゃって」

 顔には出すまいと思っていたが、どうやら出てしまったようだ。

「いや、大丈夫だ。ああ、あのホテルだ」

 ウェイバーが指さす方向に、湖の畔に建つ大きなホテルがあった。

「とてもきれいですね」

「ああ、この辺りではかなり高いらしい」

「え、いいんですか?」

「なに構わんだろ。協会からはそれなりの補助金は出ているしな」

「はあ」

 そういうと、二人はホテルの入口へと向かった。

 入口まで付くと、ちょうどホテルから一人の日本人が出てきた。

 亜麻色の髪の毛を肩で切りそろえている。

 男性が着る服だが、どうみても女性だった。

「こんにちは」

 彼女は二人を見つけるやいなや、突然挨拶をしてきた。

「どこかでお会いしただろうか」

 ウェイバーの問いに彼女は微笑むと、

「いえ、初対面どす。ですが...」

 言いかけると、ウェイバーを舐めるように上から下までじっくり見る。そして...

「普通の人とは思えなくて」

「ほう」

 この一言でウェイバーは察した。

「いちいち、遠回しに言う必要もないんじゃないか?」

「・・・・・・なんのことでしょう?」

「しらじらしい」

 と、吐き捨てると、ロザリアに先にホテルに入っているように言った。

 どうやらロザリアは意味が解らなかったようだ。

 頷くと、荷物を持ってロビーに入っていった。

「・・・それで、四家のどなたかは存じ上げないが、誰だ?」

「さすが、現エルメロイの当主。この短時間でよく気づきましたね」

「ふん。わざと気づかせたのはそっちだろ。手短に済ませてくれ」

「申し訳ない。私、高ノ宮 和葉と言います」

「ウェイバー・ベルベットだ。エルメロイの名は今は使っていない」

「お家の為ですか?優しいのですね」

「ふん。それで、用件は?」

「いえ、今回はお顔を拝見しに来ただけです」

「よく、場所がわかったな」

「ガーネットはんが教えてくれまして」

「あの、女」

「彼女は恨のはよしてくださいね。聞いたのはこっちですから」

「答えたのはあいつだろ」

「あらあら、怖い怖い。そんなら。失礼しましょか」

 彼女は一礼すると、彼の横を通り過ぎて行った。

「・・・・・・・・」

 すれ違う際、彼女が残した言葉が、頭に残った。

「次に会うときは、もっといい場所で会いましょか?」

 この意味がいい意味か悪い意味か、彼にはわからなかった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「お帰りなさいませ」

 湖の畔に一台の高級車が止められている。

 そこに、彼女——高ノ宮 和葉は戻ってきた。

「ただいま」

「いかがでしたか?」

「ええ、かなりええ男やったわ」

「それは、どういう意味で?」

「さあ、どうやかね?」

 くすくすと笑う彼女に、使用人の女性は唖然とした。

「葵。いきましょか?」

「は、はい、別荘にて召喚の準備は整えてあります」

「ありがと。ほんま、楽しみやね。彼らがどう動くか」

「我々はどう動きます」

「しばらくは静観しましょか。どうせ他の三家のどこかが彼らと当たりましょ」

「本当ですか?」

「ほんまや、見とき。ああ、けどうちらは慎重にな」

 彼女は微笑む。それが何を考えているかは誰も知らない。

 

 

 




 ありがとうございます。
 召喚はそろそろ来ます。
 どんな英霊か予想してお待ちください。


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通達と観光前

 おい久しぶりです。
 いろいろとオリジナル設定が登場します。
 では、どうぞ('ω')ノ


 ホテルのロビーに入ると、ロザリアがソファーに座っていた。

 ウェイバーに気付くと、荷物を抱えて走ってきた。

「すまない。待ったか?」

「いいえ。フロントにあったパンフレットとか見てたので、そこまでは」

「そうか、すぐに受付に行こう。召喚は夜だから、それまでは自由にしていいぞ」

「いいんですか?やったー!!」

 子供のように喜ぶ彼女をウェイバーはおかしく思い苦笑いを浮かべた。

「ぶ~~~。なんですか。その笑いは」

「いや、最初あってからだいぶ変わったな。こっちが素か?」

「そうです。それがなんですか」

 ぷうっと頬を膨らませるロザリア。

 それをなだめると、受付のカウンターに向かう。

「いらっしゃいませ。当館へは何拍されますか?」

「三週間を予定している」

「わかりました。本日はご家族での旅行でしょうか?」

「ん?」

「あら?違いますか?」

 ここにきてウェイバーはやっと気づく確かに周りからすると、父と娘の二人旅行のように見えるだろう。隣ではロザリアが笑っているが隠せていない。

「ああ。違う。部屋は別だ」

「ということは、会計は別になりますが...」

「構わない」

「ッひ!?わかりました」

 何かを感じた受付の人は、早々会計を済ませると、鍵を渡した。

「で、ではごゆっくり」

 顔が少し青くなっていたがウェイバーは気にせず鍵を二つ受け取り、片方を渡した。

「えへへ。家族だそうですよ」

「うかつだった。考慮すべきだった」

「いいじゃないですか?」

「なんで嬉しそうなんだ?」

「えへへ」

 彼女に疑問を浮かべるが、早くこの場を去りたい思い勝った。

「はあ、行くぞ。三階だ」

 彼女に鍵を渡し、二人は階段を上がっていった。

 すると、突然ウェイバーの携帯が鳴りだした。

「ッー」

 問題は誰から来たかだ。正直このままだとこの婆はうるさい。

「なんだ」

『ああ、繋がった繋がった。どうだ坊主。スマホは便利だな』

「切っていいか」

『まてまて、ちゃんと話すから』

「その口調をやめろ。お前の娘と全然違う」

『まあ、ハルカは夫に似たのかな千里は寡黙だから』

「それで、どうなんだ。アイーシャ・マルキアヌス・フルンボルト」

 彼女―アイーシャ・マルキアヌス・フルンボルトは時計塔のロードの一人だ。

 考古学科を受け持つ彼女は、若くして階位『色位』となり、神代のマナ量の減少など研究する第一人者だ。

 ただ、彼女は興味のあることにしか手を出さないため、会議にも顔を出さないこともある気分屋だ。

『ご丁寧にどうも。それで、これなんだけど。かなりのレアもんだ』

 電話の向こうから彼女の嬉々とした声が聞こえてくる。どうやらお気に召したようだ。

 これというのは、ウェイバーがガーネットとと別れる際に貰った箱の中に入っていたものだ。

 黒んずんだ、何かネックレスのようなものだ。アーティファクトに疎いウェイバーは知り合いのロードに写真を送ったのだ。

「そんなにか?」

『おうさね。確かその女の出身は確か...』

「ああ、彷徨海だ」

『まあ、あたしらとあそこは仲悪いから...変な改造してなかった?』

「してないな。以前聞いたが、彷徨海の研究には興味はなかったそうだ。あいつらの研究施設を借りて、研究をしたかったらしい。五年前にぬけたそうだ」

『じゃあ今は、フリーランスか?』

「いや、一般大学の講師をしていたぞ」

『ほへ~。よくわからないね』

 『それはそうと』と彼女は話を切り出した。

『初めから言うと、確実に触媒にはなる。もしこれがあの神話なら(・・・・・・)ね』

「ほお」

『もしな。それなら。これが何かははっきりする』

「それは」

『まあ、召喚せんことには始まれんだろ』

「私にこれを使えと?」

『研究者としては願ってもないが、まあ坊主の好きだ。坊主が決めろ』

「教えないのか?」

『確証がないと言ってくれたまえ。まあ、召喚したら連絡をくれその時いうよ』

 『それじゃ』と彼女は電話を切った。

「ウェイバーさん。どうしたんですか?」

 上からロザリアの声がする。どうやら時間をかけてしまったようだ。

 彼女と話しておきたいことはまだあるので、ウェイバーは急いで階段を上がった。

 




 まだまだ、オリジナル設定が登場します。
 頑張ります。
 読んでいただきありがとうございました。


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確認と始まりの前

 休日は大切ですね。
 では、どうぞ('ω')ノ


 ロザリアと合流して二人は部屋に向けて歩き出した。

「部屋が隣なのはいいですね」

「まあ、まとまっているから。危険はないがな」

 「ところで」と、ウェイバーが話を切り出す。

「お前の一族は、時計塔とどれほどかかわりがあるんだ?」

「急にどうしたんですか?」

「ここまで、お前とともに来たが、私はまだお前を信じたわけではない」

「・・・・・・・」

「不自然なんだ。ここまで非常に馴れ馴れしいというか、一番最初に声をかけてきたときも偶然

 ではないだろう?」

 彼の問いに、ロザリアは彼の前に出ると、振り返った。その顔は笑っていた。

「時計塔には植物の学科がありますよね?」

「ああ、アーシェロットが学部長を務めているな」

「彼女の学部では、たびたび、オーギュスト家の森にやって来て、サンプルを取るんです。それでオーギュスト家が森を案内することがあって、

その中でも、私の家は最も彼女と親しい仲でした。今回の聖杯戦争が開かれる場所を探していると、彼女から、貴方が日本に行ったということをしり、相談したら。サンプルをくれる礼という形で、ここに来る手はずを整えてくれたんです」

「あの女...」

 近頃スムージーばかり飲んでるところしか見たことがなかったが、そんなことをしていたとは思わなかった。

「だから、貴方に近づきました。私たちのルールに誰かに力を貸してもらうというのは入っていませんから」

「なるほど...」

 そういうと彼は服のポケットから一つの小瓶を取り出し、確かめた。

「どうやら、嘘ではなさそうだな」

「それは...」

「こう見えて、錬金術の心得があってな。これは水銀に一定の魔術式を組み込むことで、相手の言葉に嘘偽りがないかを確認するものだ」

 確かに水銀が淡い光を帯びて下に沈んでいる。

「この場合、偽りがないことを表す。逆は浮く。いたって単純なつくりだ」

「すごいですよ。初めて見ました」

「さて、とんだ茶番だった。許してくれ、この時代こんな物でも作らないとこういうところには行けなくてな」

「いえ、非があるのは私ですから」

「ふっ。部屋に荷持をおいたら、廊下で待っていてくれ、少し着替えてくる」

「わかりました」

 部屋の前で二人は別れた。

 ロザリアは、彼が部屋に入ったのことを確認すると、自分も部屋に入った。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ふう」

 長い移動の末、ようやく一息つくことができるようになった。

 ロザリアは荷物を一通り整理すると、ベッドに腰かけた。

 帽子を脱ぎ、横になる。きれいな銀髪がベッドに広がった。

 ぼんやりと天井を眺める。彼女の家でもこのようなことはできた。しかし、ここは実家とは全然違う。

 隅から隅まで人工物の塊だ。自然とともに過ごした彼女にとってありえないことだ。

 幸い、ここは自然が多いのでいいが、空港周辺では、息が詰まりそうになった。

「長かったな。でもこれから始まるんだよね」

 ぽつりとつぶやくと、ポケットからペンダントを取り出した。

 それの真ん中にある写真を見つめる。

「私、できるのかな」

 時計塔の三大貴族よりはるか昔から、イギリスに住まう四家でもオーギュスト家は最古にあたる。

 そんな一族に生まれた自分を一時期は恨んだりもした。

 この森の中では学べることに限界がある。たまに来る時計塔の人々から聞く話が、彼女の好奇心をますます刺激した。

 そんなもやもやしてきたときにこの後継者争いがおき、彼女は外に行くチャンスを得た。

 いいのか悪いのか、自分にはわからない。最悪このまま逃げることができる。

 でも、

「私は家を変えたい」

 森に置いてきた家族の為にも、そして、自分の為にも。

 なぜ一族が聖杯戦争の参加、そして生き残りことを課したかはわからない。

 外に行ってはいけない掟を破ってまで、これは決めなければならないものなんだろう。

 一族もそろそろ、外に目を向けなければならないと気にしだしたのかもしれない。

 だが、彼女はそれだけでは足りないと思った。

 掟はもう古い。これからは外にもっと足を延ばさなければ、一族は変わらない。一時では十分な収穫はない。

 自分がその見本にならなければ、

「その前に、生き残らないと」

 戦闘経験は彼女には皆無だ。

 一人で勝ち残る、基生き残るなんて、自分には到底無理だ。

 だから事前にロード・アーシェロットに聞いたのだ。すると、

『この間、会議があってね。ロードの一人が日本に行くんだよ。どうかな。彼についていくのは』

 即答した。ついていくと。

「まあ、あんな人とは思わなかったけど」

 これまでのことを思い出し、小さく笑ってしまう。

 彼は教えるのはぴか一なのだろう。だが、どうも人付き合いが苦手なようだ。

 森でもあんな人はいなかった。本当外に出てよかったと思った。

「さて、いいかな。召喚は夜だし、今は楽しもう」

 そう思うと、彼女は部屋を出ようとした。

 すると、

「ん?」

 カバンが小刻みに震えている。開けてみると、石板がその原因だった。

 これは、一族内だけで情報のやり取りをするものだ。

 今回の場合、彼女以外に二人の候補がいるが、彼らの状況を把握することができる。

 突然のことで何が何なのかよくわからないが取り出してみると、

「嘘!?」

 そこに書いてあった内容に衝撃を受けた。

「ウィリアム・フォン・オーギュスト。死亡...そんな」

 膝から崩れ落ちた。こんなに早く、脱落者しかも死亡者が出るなんて。

 今までの意気込んでいた自分が馬鹿馬鹿しくなってきた。

 彼は候補者の中でも最有力候補だった。そんな彼が真っ先に死んでしまう。

 聖杯戦争とはそんなに厳しいものなのかと、思い知らされた。

 石板をカバンに入れ、ふらふらと立ち上がる。

 こんな心構えでいいのか?それだけで戦えるのか?ぐるぐると彼女の頭を言葉が周っている。

「どうすればいいの...」

 そこでふと、彼の顔が浮かんだ。

「そうだ、私は一人じゃない」

 この悩みを彼はどう答えるだろう。

 彼女は急いで部屋を出た。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 コンコン

 ドアをノックされた気がした。

 覗き窓から見てみると、顔色を変えたロザリアが立っていた。

 どうしたのだろう。彼女に少し待つように言うと、荷物をクローゼットに押し込み、私服に着替えると、改めてドアを開けた。

「どうした?別れてそれほど時間は経っていないが...」

「あの...」

 絞り出すように声を出す。

「相談に、乗ってくれませんか?」

「ふむ」

 こういう学生は幾度とみてきた。おおよそ検討は付く。

「入れ」

 ここで立ち話するのも変なように思われるので、彼女を部屋に入れた。だが、これも一たび見られれば、通報されてもおかしくない。だから、迅速に物事を済ませようとした。

「それで、どうした?」

 彼女を椅子に座らせ、自分も向かいに座る。

 彼女が口を開いた。

「先ほど、ウェイバーさんと別れたあと、部屋で荷物の整理をしていた時です」

 ぽつりぽつりと、言葉を紡いでいく。

「連絡用の石板から、この後継者争いの中で最有力候補だった人が死亡したという連絡が来ました」

 その顔は沈んでいた。さっきまで自分が見た。あの明るいさは無い。

「それを知った途端。これまで、自分が本当に生きて帰れるか、不安になっちゃって」

 その目は涙で潤んでいた。ウェイバーは黙ってその話を聞く。

「そしたら、自分がなんで来たのか、わからなくなっちゃって、本当に来てよかったのかって」

 涙がこぼれて手の甲を濡らした。

 ウェイバーが口を開いた。

「確かに、それは悲しいことだな」

 「だが」と続けて、

「それで、お前がどうなる?」

「え?」

「もう来てしまったんだ。今更だろ?」

「確かにそうですけど」

「くどい」

 彼女のおでこにデコピンを放つ。

「痛い!?」

「お前が選んだ道は果てしなく険しい。聖杯戦争に突入すれば、間近で見るかもしれないんだぞ」

「それは...」

 否定できない。しかも経験者が語るのだ。それは明白な事実だろう。

「我々はそんな世界にいる。だからこそ、真実から目を背けるな。それを飲み込め、そして伝えろ」

「ウェイバーさん?」

「彼らの足跡を、生きざまを、たとえ、それが一瞬の出会いだとしても」

 これまでにない、声に力がこもっていた。

「涙を拭け。そろそろ外に行くぞ。召喚場所の下見だ」

 彼の言葉で現実に戻されると、袖で涙をぬぐった。

「はい。先生」

「先生?」

「はい。先生です」

「まあ。普段言われているから、いいか」

 そういって立ち上がると、二人は部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 




 ちょっと文章に不安があります。
 アドバイスありましたらよろしくお願いします。


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観光と下見

 お久しぶりです。
 では、どうぞ('ω')ノ


 ホテルを出た二人は、まず目の前の湖を周った。

「大きいですね」

「ああ」

 二人で湖畔を歩いていると、ロザリアが

「あの、気になったことが...」

「ん?なんだ」

「そのTシャツ何ですか?」

 先程までの教授らしい服装とは打って変わって、真っ白な服のちょうど真ん中にでかでかと文字が書かれていた。

「へんか?」

「いや、その先ほどまでとのギャップが」

「これは友との思い出の品でな...」

「友ですか?」

「ああ、まだ未熟な時に出会った大切な友だ」

 彼が思いにふけるかのように空を眺めていた。

「すみません」

「構わんよ。気になるのもしょうがない」

 そんな話をしていると、小さな公園が見えてきた。

「ここはいいですね」

 ロザリアの声にウェイバーは返さない。

「先生?どうしました?」

「一つ気になってな」

「はい?」

「お前、今どんな感じだ?」

「?どういうことですか?」

「体調などのことを聞いている」

「いえ、そんなには...ああ、ただ、少し息がしにくいかな、高所だからでしょうか?」

「普通はこれぐらいではそれほど変わらない。答えは...」

 彼がポケットからガラス管を取り出した。

「温度計ですか?」

「似ているが違う」

 それを彼女の目の前に持ってくる、

「あ、光ってます。さっきの道具と似てますね」

「これは魔素を測定する器具だ。光が強いほど濃い濃度ということだ」

「それなりに強く発光してませんか?」

「ああ、この時代には珍しい程な」

「そうなんですか?」

「魔素が空気中にあったのはメソポタミア文明が栄えたころだ。それ以降は徐々に薄くなり今はほ

 とんどない」

「なぜですか?」

「まだ具体的にはわかっていない。魔術協会も調べていてな考古学の部署がこの研究をしている」

「じゃあ、彼らが知ったら...」

「無論飛びつくだろうな」

「じゃあ、どうして一般の人も大丈夫なのでしょう?」

「ふむ」

 ウェイバーもこのことは気になった。顎に手を当てて考えてみたがすぐには結論が出なさそうだ。

「すまない。私もわからない」

「そうですか...」

「そう落ち込むな。今は目的を見失うな」

「あ、そうですね」

 二人が暫く歩くと、小高い山が見えた。

「あそこは神社のようだな。人からも見られにくいから。召喚には適するか」

「そうですね。あ、この公園はどうですか?」

「ここでは人目に付く、やめておけ」

「うう。じゃ、じゃあ今更ですけど、ホテルの自室はダメなんですか?」

「隣の部屋の奴に知られたくはないだろう?」

「は、はい。そうですね」

「まあ、意見を言うのはいいことだ。今は間違って構わない」

 彼女を彼なりに励ますと、元気が出たのか、笑顔が戻った。

「さて、そろそろ暗くなるが、もう一つ調査をするぞ」

「どこですか?」

 ロザリアの質問にウェイバーはその方向を指さした。

「この湖だ」

「なんでですか?」

「少し気になってな」

「は、はあ」

 二人は近くのボート乗り場に向かうと一台仮、湖の真ん中に向かった。

 真ん中まで来ると、ウェイバーはオールを置いて、胸ポケットから空の試験官を取り出して水を汲んだ。

「・・・・・・・」

「ど、どうしましたか?」

「やはりか」

「なにが?」

「ここの湖の水も魔素を含んでいる」

「え?そうなんですか?見た目は普通の水っぽいですが」

「近くで見てみろ」

 彼が試験管を近くに持っていく

「あ、本当だ。なんかぴりぴりします」

「人体が魔素と触れることで起こる現象だ。これは弱いからいいが、濃いと肌が焼けるぞ」

「えええ。そうなんですか?」

「魔術師はそうなりにくいが、完全ではない気をつけろ」

「わ、わかりました」

「さて、一通り終わった。夜まで寝ておけ。召喚を今夜実行する」

 その言葉にロザリアの顔が引き締まる。

「は、はい」

「では、戻るとするか」

 再びオールを持つと、船を岸に向けて漕ぎ出した。

 この後、係の人から家族と勘違いされたのは言うまでもない。

 

 




 ありがとうございました。


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召喚者と迷走者

 二週間ぶり応援してくだする皆様。
 お待たせしました。
 タイトルを変えました。書いていてすごい失礼な感じがしたので...
 感想等お待ちしております。
 では、どうぞ('ω')ノ
 



 二人はホテルに戻ると、夕食を済ませ、夜を待った。

 そして、夜。満月が蠱惑的に輝いている。

 所々に雲が漂っていて、ときどき風が吹いて、それを隠してしまう。

(まるであの日のようだ)

 しみじみと空を見上げたウェイバーは過去を振り返る。

(彼と出会ったのもこんな日だったか)

「先生?どうかしましたか?」

 背後からロザリアの声がし、現実に戻される。

「ああ、すまない。ちょっと昔を思い出してね」

 笑いかけると、彼女も安心したのか、笑顔を浮かべた。

「とうとうですね」

 ロザリアが言う。その声には、期待と不安が混ざっている。

「そう緊張するな。サーバントの召喚には精神の安定も必要だ。気楽になれ」

「は、はい」

 彼女が体が強張っている様子に、かつての自分が重なる。

 あのころ、自分もこんな感じだったのかもしれない。

 彼女の背中をポンとたたくと、歩き出した。

「行くぞ」

「はい!」

 二人は、目的地に向かって、夜の街を歩き始めた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 結局二人が選んだのは小山の上の神社だった。

 階段を上がっていくと、その鳥居が見えてきた。

「頂上か、ここからは別行動にしようか」

「え?なぜですか?」

 ウェイバーの提案に驚くロザリア。

 無理もない。初めて別行動を提案されたのだ。彼にしては珍しい提案にロザリアは不思議に思った。

「召喚は一人で行いたい。心配するな。何かあったらこれを使え」

 そういうと、小さな球体を差し出してきた。

「これは?」

「単純に大きな音が鳴る。ただ、その規模がとても広い。ただの失敗作だが、こういう時には役に

 立つだろう」

「はあ」

 ポカーンとする彼女をしり目にウェイバーは残りの階段を上がっていった。

 階段を上り終えると、ウェイバーは社の奥の森に向かって歩いていった。

「それでは召喚後またここで落ち合うとしよう」

「はい。わ、わかりました」

「あせるな。お前なら大丈夫だろう」

「が、頑張ります」

 二人は言葉を交わすと別の方向に歩いていった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ううう。不安だよ~」

 初めての召喚それに誰も付き添いもないことがロザリアにはとても心細い。

 しかし、これまで自分がついていきたい願いを通してくれた彼に、今更反論はできない。

(後で再集合するし。これくらい一人で頑張らなくっちゃ)

 自分に気合を入れると、開けた場所を探す。

 しばらく歩いていると、ちょうどいい塩梅の場所を見つけた。

(見つけた。ここなら大丈夫かな)

 周囲に人がいないことを確認すると、彼女は召喚の魔法陣を描き始まる。

(えーと。こんな感じだっけ?)

 村を出発する前に渡された写本を見ながら書き進めていく。

 よく見れば見るほど、複雑な魔法陣だ。

(この端の紋様はどういう意味なのかな?)

 彼に質問したいことを増やしながら、順調に書き上げていく。

 およそ30分ほどかけて、完成させた。

 書き終え、立ち上がると腰のポシェットから、触媒を取り出す。

 小瓶に入った木の枝。それを魔法陣を中心に自分と反対側に置く。

 右手には、モミジのような令呪がある。

 それを前に伸ばし、呼吸を落ち着ける。

 息を深く吐くと、静かに言葉を紡ぎだした。

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。そには我が大師ヴァナデューク」

 ゆっくりと、間違えないように紡いでいく。

「降り立つ風には壁を、四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 魔法陣が仄かに光だし、風が吹き荒れ始める。

「閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ。繰り返すたびに五度ただ満たされる刻を破却する」

 触媒も光始めた。光は徐々にその輝きを増していく。

「告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従う

 ならば応えよ」

 魔法陣から噴き出す風がさらに威力を増す。足を踏みしめ、残りの詠唱を行う。

「誓いをここに。我は常世総ての善を成すもの。我は常世総ての悪を敷くもの」

 輝くは反対側が見えないほど強くなり、少しでも気を緩めれば吹き飛ばされてしまいそうだ。声を振り絞って、叫ぶ。

「汝三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ!天秤の守りてよ!!」

 瞬間。膨大な光と風がロザリアを包み込む。

 思わず目をつむり、足を踏ん張る。

 やがて収まると、魔力を使いすぎたのか。へなへなと崩れ落ちた。

 魔法陣の中心には、いままでいなかった人物が立っている。

 彼はゆっくりと顔を上げると、目の前に座り込んでいるロザリアを見た。

「えーと。あんたが俺のマスターかね?」

 彼は、砕けた口調で話しかけてきた。見た目は二十代前半に見える。

 全体的に緑色の服装をしている彼は、短く切られた髪をさすりながら、こちらを見据えていた。

「え、ええ。そうだけど...」

「おいおい、そんな自信なさげに言わないでくれよ。こっちだって不安なるだろ」

「ご、ごめん。サーバントの召喚初めてだから、いろいろ戸惑っちゃって」

「へえ。こんだけの魔力量なのにね~」

「うう。いいでしょ別に」

「ほいほい。そんじゃ。え~とお嬢でいいかな?お嬢の名前を教えてもらっていいかい?」

「・・・・・ロザリア・オーギュスト。ってこういうのはあなたが先に名乗るんじゃないの?」

「俺はそういう形式とかが苦手でね。まあ、勘弁してくださいよ」

 青年は一息置くと、真剣な目つきでこちらを見直した。

 ロザリアも、気付いたのか、立ち上がり、彼を見据える。

「クラスはアーチャー。真名はロビンフッド。よろしく頼むぜ、マスター」

 こうして、ロザリアは召喚に成功したのだ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 一方、ウェイバーはロザリアが召喚に成功していたころ、すごい勢いで山の斜面を下っていた。

(どこだ。どこに逃げた?)

 彼は別に気が狂ったわけではない。ここまでにいたった理由は数十分前にさかのぼる。

 ウェイバーも同じように開けた場所を見つけ、魔法陣を描く。

 そして同じように触媒を置くと、令呪がある右手を前にのばした。

「素に銀と鉄、礎に石と契約の大公———」

 召喚の呪文を紡いでいく。魔法陣が輝きだし、風邪が吹き始める。

 こなままならうまく召喚されるだろう———例外を除いて。

 突然。目の前の茂みが揺れると、人が出てきた。

 日本人だろう。見た目からしてまだ若い。二十になるかならないかのころ合いだろう。

「なんだよ。これ」

 青年は驚きのあまり、じっとその光景を見ていた。

「そこの君、ここから立ち去れ。おとなしく帰るんだ」

 ウェイバーは一端召喚を止め、彼にここから去るように言う。

 青年はそれを聞くと、急にいやそうな顔をした。

「なにをしている。ここは君がいる場所じゃない!!」

 語気を強めて言う。少し心苦しいがしょうがない。

 しかし青年は、

「なんだよ。ここでもかよ。なんで俺ばかり」

 何やらぶつぶつ言っているが、ウェイバーには聞こえない。

「おい。聞こえていないのk...」

「あああああああああああああああああああああああああ」

 突然発狂すると、近くにあった触媒を強引に拾うと、森の中に走り去っていった。

「なんだと!」

 突然のことで思考が追い付かない。

 その間にも青年は森の中に逃げて行った。

「くそっ」

 ウェイバーは急いで彼を追いかけるのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 青年said 

 深い森の中を彼はただ歩いていた。

 青年の名前は島崎康太。大学では2年に所属している。

 成績は優秀で、受験に成功していれば、地元の京都で進学ができたほどだった。

 しかし、結果は失敗。1年浪人をすると、だんだん地元に嫌気がさしてきた。

 しかも、父方の家はきな臭いことをやっていて、父は自分を後継者にしようと躍起になっていた。

 それを知った彼は遠く離れ、都会にも近いこの大学を選び見事合格。

 当然親は反対した。

「お前は神秘を知りたくないのか?」

 これが父が発した言葉だ。

 これを受け入れる歳ではもうない。

「うるさい。中二病患ってんじゃねえよ」

 周囲に笑われるようなことでの喧嘩だが、父には本当に頭に来たのだろう。

 時間も解らないほど口論をし、最後は母が止めなんとか認めてもらった。

 彼とすれば、大学合格くらい、喜んでくれればいいもののそれを喜ばしく思う人はいなかった。

 悔しかった。やっと認めてもらえると思った。

 むしゃくしゃしたまま大学に入学。始めの式に親の姿はなかった。

 それから、環境の変化、言葉、文化の違いなど、さまざまな要因が相まって彼はストレスを抱えて行った。

 その結果、1年が経つ頃には彼は大学を休む回数が多くなった。

 メンタルケアを受けるように勧められるが、彼は頑なに拒否した。

(自分の気持ちがわかるやつがいるわけがいない)

 誰も認めてくれない。誰も必要たしない。

 この悩みを彼はずっと抱えていた。ストレスも相まって、彼は限界だった。

 結果。彼が下した決断は、自殺だった。

 そして一番近いスポットであるこの富士の麓に旅を口実にやってきたのだ。

 それを、実行するために森をさまよっていたのだ。

 しかし、彼は一つ勘違いをしていた。

 彼の目的を成功させる場所は、今彼が歩いている場所ではない。

 歩いていると、右手に河口湖の街明かりが見えた。

(ここは違うのか)

 歩き疲れ、地面に膝をつく。

 よくよく考えれば、バカバカしいことをしたと思った。

 今日は戻ろうと、借りている小屋に引き返そうとしたとき左手に違った光が見えた。

 歩いていってみると、アニメの魔法陣のようなものが地面に描かれてあり、自分と反対側に、一人の男性が右手を前に出して何かを呟いている。

「なんだよ。これ」

 あまりの光景に言葉が出てこない。

 すると、男が自分に気付いたのか、大声を発してここから立ち去るように言ってきた。

 普通はいそいそと立ち去る。しかし彼はそれをしなかった。

 彼には男性の言っていることが、自分の過去と重なっていた。

 ここでも認められない。居場所と認めてくれない。

 勝手に彼はそう解釈してしまい、だんだん怒りが込み上げてきた。

「なんだよ。ここでもかよ。なんで俺ばかり...」

 目の前が真っ白になってきた。

「おい」

 声が聞こえた。瞬間何かが外れたような気がした。

「あああああああああああああああああああああああああ」

 発狂した。もう抑えが聞かなった。荒い息を吐きながら、足元を見ると、小さな布切れがあった。

 これを盗んだところで何もならない。しかし彼はそれを拾い上げると、来た道を全速力で駆け出した。

「ああ、あああああ。ああああああああああああああ」

 もう訳が分からなった。今までの怒りを払うような叫び声は、夜の森の中に溶けていった。

 

 

 




 何かあったら教えてください。
 読んでいただきありがとうございます。


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選択と決断

 大分遅れました。
 しばらくこんな感じです。
 では、どうぞ('ω')ノ


「クソッ。どこに行った」

 彼が逃げてからそれほど時間は経っていない。

 それにもかかわらず、ここまで距離が空いてしまうことにウェイバーは強い違和感を覚えた。

「一般人ではないな。しかし、見たところ、魔術に精通しているわけではなさそうだ」 

 となると、答えは大まか読めてくる。

「魔術師の素質を持った人間か」

 ほとんどの魔術師は、一族の中で魔術回路を遺伝していきながら後をつないでいく。

 また、それに選ばれるのも一族の魔術に適応率が高い者が後を継ぐ。

 それは当然、血縁者なのだが、必ずしも一人が適応するわけではなく複数出る場合もある。その場合、当主がどちらかにするかを決め、片方を違う家に養子に出すか、幼いうちに一般人の家庭に入れ、魔術そのものに触れさせないかなどがある。

 他にも、すでにすたれたため、あえて子供に教えない家もあるらしい。

 先程逃げた彼は、最後に挙げた可能性が高いだろう。

 逃げる最中に、無意識のうちに魔術が発動してしまったと考えられる。

「しかし、こうなると厄介だぞ」

 魔術師の素質に本人が気づいていない場合。このような聖杯戦争では、ますたマスターと間違われる可能性がある。

 そういうこともあって、彼を早急に見つけ出すことが必要なのだ。

(走っていった方角からするに、あちらは...)

 昼間の下調べでは、自分たちが泊っているホテルの反対側、別荘が多く立ち並ぶエリアだ。

(一軒一軒探すのには骨が折れるぞ)

 ウェイバーは、考えながらも急いで下って行った。ロザリアとの集合を忘れていることも気づかずに。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「あれ?おかしいな?」

 神社の社前。ロザリアは、集合場所にきていた。

 しかし、そこに彼の姿はなかった。

「本当にここで合ってるんですか?お嬢」

「あってるよ。先生がそう言っていたから」

「ところで、その先生はいったいどんな人なんすか?」

「会ってからのお楽しみだよ」

 彼女の言葉にサーバント———ロビンフッドはため息をついた。

 彼女は恐らく頭はいい、しかも相当すごい。

 しかし、子供っぽいところがたまに傷である。今でもそれが出ていて、せっかくのいでたちも台無しである。

「はあ。敵が来ても知りませんよ」

「大丈夫」

「その自信はどこから来るんですか?」

彼女にもそれはわからない。ただそんな気がしたのだ。

「もう少し待って、それでも来なかったら、一回ホテルに戻ろう」

「了解」

 彼は返事をすると、周囲を警戒しだした。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 そのころウェイバーは未だ、盗んだ少年を探していた。もう夜中で、あたりはほとんど見えない。

 しかし、あきらめるわけにはいかなかった。何としてでもあれは取り戻さなければならない。

 どんどん下っていくと、家の明かりが見えてきた。

 まばらにチカチカと見える。どうやら別荘が立ち並ぶエリアに来てしまったようだ。

 どうしようか、そう悩んでいると、後ろから声がかかった。

「あれ?お兄さん。ここで何しているんですか?」

 振り返ると、どうやら日本人のようだ。しかも若い、二十代前半だろう。

「いや」

 ここで詳しく話しても一般人にはわからないだろう。

「人を探していたら、ここまで来てしまったんだ。君は同じくらいの青年が走っていくのを見なかったか?」

「ん?ん~?見なかったですね」

「そうか。すまない。失礼する」

 ウェイバーはその場を立ち去ろうすると、

「ところでお兄さん。ここらで変な人見ませんでしたか?」

 突然彼が話しかけてきた。

「変な人?」

「ええ。何て言いましょう。具体的に言いますと...」

 にやり、と笑うと。

「魔術師と呼ばれている。外国の人です」

「っ・・・・!?」

 この一言で、ウェイバーは察した。彼は敵だ。彼女から聞いた日本古来の呪術師の一人だろう。

「・・・いや、申し訳ないが、知らない」

 平静を装い、返す。青年はにこっと笑うと。

「そうですか。それじゃあ...」

 急に真顔になる、

「なーんちゃって、やれ。狂戦士」

 瞬間危険を察知したウェイバーは後ろに避けた。

 すると、ちょうど彼が立っていたところに、クレーターができる。

 その中心に一人いや、一騎立っていた。

 その禍々しさが離れていても伝わってくる。

 顔以外を日本の甲冑で身を包んでいる。髪はぼさぼさで、その顔は狂化のせいか、怒りに満ちているように見える。

「まさか、相手がバーサーカーとはな。やはり参加者の一人か」

「ええ。あんたのことは大体知ってました。だけど。不安なんで聞いてみたら。まああたりですね」

「どこで分かった?」

「あんたは知らないといった。だけど、まず、自分の言い分をおかしいとは思わないかい?」

「なるほど、一般人なら魔術師なんておとぎの世界だから、いるなんてありえないのか」

「そう。だけどあんたはさも平然と言った。そこが肝なんですよ」

 彼はにやりと笑うと、

「さて、答え合わせが住んだところで、そろそろ、死んでくれませんか?」

「あいにく、はいと答えられることはできないな」

「そりゃそうだ。やれ、狂戦士」

 彼の声とともにサーヴァントは動き出した。目にも止まらないような速さで、突進してきた。

「くっ」

 ウェイバーはポケットから試験管を一本取りだすと、それを地面にたたきつけた。

 すると、そこから非常に濃い煙が発生した。

「悪いが、そう簡単にはいかない」

 それを言い放つと来た道を引き返した。

「あ~らら。まあそう簡単にはいかないよね」

 彼は札を一枚取り出すと、前方に放つ。するとたちまち風がおこり、煙を飛ばしてしまった。

「森の中か、逃がさんよ」

 そして、彼はサーヴァントに指示を出すと、森の中に入っていった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 暗い森に中、ウェイバーは必死で走っていた。

(今日は悪いことばかりだ)

 どうするどうする。これからの行動を必死に考えた。

 相手は追ってきている。このままでは逃げ切れない。

 選択肢は二つある。

 一つは、ロザリアがいるところまで逃げ延びる。

 彼女はサーヴァントの召喚には成功しているだろう。しかし、それまで逃げ延びれるかが不安だ。

 確率は1%あるかどうかである。

 結果、二つ目の確立が最も生存率が高い。それは...

(サーヴァントを召喚する)

 あと少しで召喚の術式のあるエリアまで来る。ここでイチかバチかかけてみるしかない。

 しかし、それを彼は渋った。彼にとって召喚したい彼が来るとは限らないからだ。

 触媒なしの召喚の場合、その召喚者に近いサーヴァントがよばれる。

 彼が召喚される確率は極めて低い。

 彼を裏切るのか、それがウェイバーの思考を迷わせる。

 すると、後ろから木々をなぎ倒す音が聞こえた。敵はすぐそこまで来ている。もう迷ってはいられない。

「許せ」

 呟くと、サークルに向かって手を伸ばす。

「素に銀と鉄、礎に石と契約の大公・・・・」

 もはや時間は無かった。口惜しさを抑え、詠唱を開始する。

「降り立つ壁には風を、四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 後ろの音が大きくなってきている。敵は、近い。

「告げる。汝の身は我がもとに、我が命運は汝の剣に、聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従

 うならば答えよ」

 迫る。せまる。セマル。

「汝三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ、天秤の護り手よ」

 背後で巨大な衝撃波が遅い、ウェイバーは吹き飛ばされてしまう。

「やれやれ、大分にげたな。あんた、サーヴァント相手に良くできるな」

 ぶつぶつとつぶやくと、木に寄りかかっている彼をにらむ。

「たく、時間かけさせじゃねえよ。狂戦士!」

 彼は背後のサーヴァントに命令する。

「Ooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!」

 サーヴァントが駆け出そうとする。その時、召喚のサークルが輝きだした。その光は次第に強くなり...

「な、なんだ!?」

 敵のマスターは突然のことに目を覆う。

「っ...」

 ウェイバーも目を細める。

 光が弱めり始めると、中心に立っている人物が浮かび上がった。

 女性だ。美しい服装の見た目は十代後半くらいだろうか。背中伸びた金髪が彼女を引き立てている。

「使い魔を召喚しやがったか。だが関係ない。潰せ狂戦士」

 敵マスターが言うと、再び、サーヴァントが動き出す。目標は彼女だ。

「・・・・・!?」

 声が出ない。飛ばされた衝撃で、木に打ち付けられてしまったのだ。

 いくらサーヴァントでも、あの一撃は食らえばただでは済まない。

 すると、

「何?ここ」

 召喚された少女が口を開いた。とても澄んだ声だ。

「おい。よけろ」

 ようやく声が出せるようになり、必死に声を絞り出す。

「あなたは誰?」

 のんきな声で彼女が聞いてきた。

「いいからよけろ!」

 彼女のすぐ背後で、敵サーヴァントが武器を振り上げた。

 彼女が振り返る。

「ふん。久しぶりに人間(・・)と話しているときに、無礼よあなた」

 彼女が手を前に突き出す。

 すると、何もない空間から突然紐のような物がが飛び出してきて、彼を縛った。

「これは...」

 突然のことに声を失う。その光景は彼に昔の出来事を思い出させた。

「はあ、いつの世も、争いがあるのね」

 彼女はため息をつくと、振り向いて、ウェイバーを見る。

「もう一度聞くわ。貴方は誰なの?」

 その微笑みは言葉にできないほど、美しかった。

 




 バーサーカーの声って難しいですね。
 彼女は誰でしょう。因みに、原作には彼女の姿はありません。
 ありがとうございました。


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出会いの裏で

 お久しぶりです。
 何とか書いていきたいです。
 では、どうぞ('ω')ノ


 「誰?」彼女が聞いてきた。

 しかし、ウェイバーはそれを答えるまでに時間がかかてしまった。

 理由は、彼女の背後にいる、サーヴァントではなく、それを拘束している紐である。

 かつて、彼が見たものとどこか似たような雰囲気を感じさせた。

「ねえ。ちょっと」

 彼女の声で現実に戻される。

「あ、ああ。すまない」

「ふん。私の質問に答えないなんて、大分変った人ね、あなた」

 大分傲慢なようだ。

「それで、貴方は?」

「ウェイバー・ベルベット。今は」

「今は?」

「悪いな。少々事情があるんだ。君はサーヴァントだな?」

「サーヴァント?なるほど、これはそういう形の召喚なのね」

「?君は何を言っているんだ」

「こちらの話よ。それで、貴方の問いに対する答えはYesよ。クラスはキャスターということに

 なっているわ」

「もしかして、君は召喚されたことがないのか?」

「その話はおいおいしましょ。それで、貴方は何をしてほしいの?」

「早速なんだが、この場所から逃げたい」

「逃げる?何から?」

「君が後ろで拘束しているサーヴァントからだよ」

 彼女が振り向いてそれを見る。

「こんなのから?笑わせないでくれる」

 そして、盛大に罵ったのだ。

「こんなのとは言うな。相手はサーヴァントだ。しかも見たところ日本の英霊だぞ」

「あなた、私が誰だかわからないの?」

 彼女があきれたように聞いてくる。

「あいにく、確信を得るための宝具も何も見ていないからな。触媒もないし」

「ふーん。じゃあ見せればいいのね」

 そういうと、彼女は腕を右に振った。

 すると、彼女の左横から、黄金の剣が飛び出してきた。

 それはそのまま、敵に向かって飛翔し、見事、首をはねたのである。

「・・・・・・・・・」

 時間はそれほどかからなかった。

「どう?これで解った?」

「いや、すまない。そういった宝具の持ち主は絞ることはできるが、まだ多い」

「はあ、もう名乗っていいかしら?」

「ここではやめてくれ、敵マスターが控えている可能性がある」

「じゃあ、どうするの?」

「サーヴァントは時間が経てば消える。だから放置で構わない。一端集合場所へ戻る」

「集合場所?」

「今回の聖杯戦争での協力者だ」

「そ。ならいきましょ。ここにいる用もないし」

 ウェイバーは彼女の言葉に何か引っかかったのか、苦笑すると、その場所に向かったのである。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 其の頃。バーサーカーが倒れているところには、その契約者がいた。

「あ~らら。きれいに切られちゃって」

 男の言動には失望感は無い。

「にしても、あのおっさん鋭いな。俺がいたこと解ったのかな?」

 隠れて敵サーヴァントの真名を聞き出せると思ったのだが、当てが外れてしまった。

「まあ、いいか、敵のマスターが誰かはわかったしな。情報だともう一人いるらしいから探さない

 とな」

 男は振り返ると、別荘が並ぶほうへと歩き出した。

「おい、いつまで寝ているんだ。狸寝入りもほどほどにしておけ」

 顔だけを後ろに向けて言い放った。

 すると、さっきまで首を切られていた、サーヴァントはゆっくりと立ち上がった。

 首と胴体はきれいにつながっている。

「はあ。呪力の消費がでかいな。死なないのはいいことだがな」

 と、愚痴をこぼしながら、彼は夜の闇に消えていった。

 

 

 




 今回は短いです。
 時間があれば書いていきたいんのでよろしくお願いします。
 意見・感想お願いします。


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集合。しかし...

 お久しぶりです。
 なかなか時間がありません
 では、どうぞ('ω')ノ


「あ、先生!!」

 森を抜けると、集合場所が見えてきた。

 鳥居の近くでロザリアが手を振っている。

「すまない。待ったか?」

「いいえ、それより、先生どうしたんですか?泥だらけですよ!?」

「サーヴァントに襲われてな」

「ええ!?そんな。クラスは?」

「バーサーカーだ。だが、もう倒された。だから...」

「まだよ」

 ふと、ウェイバーの背後から声がした。

 すると、その場に人が現れた。

 いや、正確に言えばサーヴァントだ。

「まだということはどういうことだ?キャスター」

 キャスターと呼ばれた女性は、軽く微笑むと、

「あの狂戦士はまだ生きている。魔力が途絶えていないもの」

「・・・・・・・そうか」

「あら?あまり、驚かないのね?」

「いや、十分に驚いている。そんな宝具の持ち主は初めてだからな」

「あの~」

 ロザリアが声をかける。

「彼女は...」

「ああ。今回の私のサーヴァントだ」

「いいの?見た感じ彼女もマスターよ?」

「彼女は私の協力者だ。ロザリア、君のサーヴァントは?」

「はい。アーチャー」

 すると、突然彼女の横に深緑のローブを被ったサーヴァントが現れた。

「ほいほい。出てきましたで。えーと。あんたがお嬢の協力者かい?」

「ほお」

 ウェイバーが感心したようにロザリアのサーヴァントを見た。

「おおっと、旦那。それ以上の散策はやめてくれよ。こちとら、職業がらあんまり人さまに知ら

 れるのは嫌でね」

「ふーん。なかなかね」

 キャスターが呟く。

「何がだよ」

 聞こえていたらしく。アーチャーが聞き返した。

「あのバーサーカーに比べたら、なかなかの戦士よね~でも、もっと表に出ればいいのに」

「俺にはそんなの向かねえよ。日影が似合うもんでね」

 嫌そうに顔をそむけた。

「さて、集合できたことだ。一端ホテルに戻って作戦会議といこうか」

「はい」

 ロザリアが返事を返す。しかし、

「いやよ」

 キャスターである。

「私は自由にさせてもらうわ。今までは、単なる気まぐれ、これからは自由にさせてもらうから」

「いや、待て。そんなことできるか。第一サーヴァントがマスターから離れて行動するなど、アー

 チャークラスでなければできないことだ」

 すると、彼女はたちまち不機嫌な顔をした。

「何?貴方私に逆らうの?」

「逆らうも何も、君はサーヴァント、私はマスターだ。それくらいは守ってくれ」

「じゃあ、貴方が付いていればいいのね?」

 にやりと笑うと、ウェイバーの前に進むと、

「じゃあ、一緒に行きましょ?」

「・・・・・・・・・・」

 ウェイバーもまた不機嫌な顔を浮かべた。

「先生。私たちは先に戻っていますから、先生は彼女とどうぞ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「先生?」

「お前は少し似ているが、似ていないな」

「え?」

「わかった。先に戻っていてくれ」

「わかりました」

「ふふふ。貴方物分かりいいじゃない」

「慣れているだけだ。昔もこんな感じとは言わんが振り回されたからな」

「へ~」

「ほら、いくぞ」

 そういうと、二人は階段を下りて行った。

 二人を見送る彼女に、アーチャーが話しかける。

「いいんですかお嬢?」

「先生なら大丈夫。それよりアーチャー。準備は」

「言われた通り。ここ一体の地形の観察と、仕掛けは終わったぜ」

「そ、じゃあ私たちも行こうか。なんか食べてく?」

「いや。あんまりばれるのは」

「わかった。じゃあ、行こうか」

 ロザリアが言うと、アーチャーは霊体化し、ロザリアは階段を下りて行った。

 




 今のところ、サーヴァントは三体出てきています。
 真名が分かったら、感想のところにかいてみてください。
 読んでいただきありがとうございました。


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真夜中の散策

お久しぶりです。
時間がなかなか取れませんね


 

   夜の街は静かである。

   とはいっても、自然とそうなっているわけではない。

   それもそうだろう。この光景を見て、自然といえる人間は誰も居ない。

  

   一切の人がいない道路。

  

   明かりのない街灯。

 

   物静かな家。

  

   誰がこんなことをしたのか。ウェイバーは頭を悩ませていた。

  (この静けさ、異常だ。何が起きようとしている)

  「ちょっと」

  (しかし、こんな短時間でここまでの魔術が扱えるのか?)

  「ねえってば」

  (やはりあちら側の、では誰が)

  「あなた聞いているの?」

   大きい声を耳下で聞かれはっとなる。

  「すまない。考え事をしていた」

  「ふーーん。私がいるのにもかかわらず、よくそんなことできるわね」

  「そうは言ってもな。この様子だ。何もないと思うが」

  「ええー。ちょっと何かないの?」

  「こちらの土地勘は残念ながら皆無でね」

  「つまらないわ」

   頬を膨らませる彼女をみて、半ば呆れてしまう。

   ちょうど湖の畔を歩いていると、不意に彼女が立ち止まった。

  「どうした?」

  「これは...ふーん」

   何かを呟く彼女を不思議に思っていると...

  「飛ぶわよ」

  「は?っ!!」

   突然襟をつかまれると、空中に引っ張られた。

  「おい!!何を...」

   言いかけた瞬間先ほどまでたっていたところが盛大に爆発した。

  「これは...」

   そのことにウェイバーは思考が追い付かなかった。

   最初に悔しさが込みあがってきた。

   彼とて時計塔のロードである。

   今回のような術式があることに気づけなかったことは

  屈辱的だった。

   と、

  「別にあなたが解らないのも当然じゃなくて」

   キャスターが行ってきた。

  「あなた、ヨーロッパあたりから来たんじゃない?」

  「そうだが」

  「私もそっちの方だけど、あれは私たちが使う魔術とは

   別の種類ね」

  「では、なぜわかった」

  「あなたと違って、魔力的なものの流れを掴むのは得意なの」

  「つまり私は鈍感だと言いたいのか」

  「それは否定しておく。私とあなたは根本的に違うでしょ?」

  「・・・・・・・助かった」

  「あら、お礼を言ってくれるの?」

  「少なくとも、その価値はあるということだ」

  「ふふ。あなた見かけによらずかわいいところもあるのね」

  「言ってろ。それよりおろしてくれ」

  「はいはい」

   キャスターが彼を下す(落とす)と彼女自身も着地した。

  「お前は優しくという言葉を知らないのか?」

  「ふふふ」

  「・・・・・・・もういい」

   あきらめたように、息をつくと、

  「ところで、気が付いているか」

  「ええ、まったく、二人の逢瀬くらい邪魔しないで欲しいわね」

  「いつからそうなった」

   いら立ちが消えないまま、前方を見る。

   そこには、

  「今日、いや時間的には昨日振りか」

  「ええ、そうですね」

   そこにいたのはホテルの入口であった、あの女性だった。

 




短めですが、ご容赦を。


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