ガールズ&パンツァー~地を駆ける歩兵達~ (UNIMITES)
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0話 戦車道と歩兵道、座学編

ガールズ&パンツァーが好きで自身の妄想と結合させて描いたものです。
読んでもらえたら嬉しいです。


ガールズ&パンツァー~地を掛ける歩兵たち~

0話 戦車道&歩兵道、座学編

 

 ――戦車道。

 女性の嗜みとして、伝統的に受け継がれてきた伝統的な文化。

 礼節のある、凛々しい婦女子を育成することを目的とした武芸である。

 戦車道を学ぶことは、女子としての道を極めることでもあります。

 鉄のように熱く強く、無限軌道のようにカタカタと愛らしい。

 そして大砲のように必殺命中。

 戦車道を学べば、必ずや良き妻、良き母、良き職業婦人になれることでしょう。

 健康的で優しく、たくましい貴女は多くの男性に好意をもって受け入れられるはずです。

 なお戦車内の乗員室は特殊カーボンによって競技者の安全が確保されています。

 

 

 ――歩兵道。

 男性の嗜みとして、伝統的に受け継がれてきた伝統的な文化。

 礼儀を弁え、信義を重んじ、男らしい教養の高い立派な紳士を育成することを目指した武芸である。

 歩兵道を学ぶことは、男子としての道を極めることでもあります。

 剣のように鋭く強く、閃光のように輝かしい。

 そして銃弾のようにまっすぐで必殺命中。

 歩兵道を学べば、必ずや良き夫、良き父、良き職業夫人になれることでしょう。

 健康的で優しく、たくましい貴方は多くの女性に好意をもって受け入れられるはずです。

 なお戦場内の歩兵たちは特殊合金繊維の制服によって競技者の安全が確保されています。

 

 

 高校戦車道と歩兵道は親密な関係にあり、お互いが存在することで成り立つ武道となっています。戦車は歩兵達の敵を討つ剣となり、歩兵達は戦車を守る盾となる。

 戦場に赴き、己の信念を示すことが二つの武道のあるべき形なのです。

 そして戦車道&歩兵道公式戦には主に二つのルールがあります。

 一つは、相手チームの車両をすべて行動不能にすれば勝利となる「殲滅戦」。なお、戦車の随伴である歩兵達が先に全滅しても敗北ではない。しかし、戦車を行動不能にされた随伴の歩兵達もその時点で失格となります。

 もう一つは、相手チームのフラッグ車を行動不能にすれば勝利となる「フラッグ戦」です。なお、フラッグ車以外の車両の随伴である歩兵達は戦車が行動不能にされてもフラッグ車が残っていれば随伴である歩兵は戦闘続行が可能。しかし、フラッグ車の随伴である歩兵の隊長が失格判定を受けた場合、フラッグ車の随伴の歩兵および戦車を失っている随伴である歩兵は全員失格となります。

 

さあ、皆さんも是非、戦車道および歩兵道を学び、心身ともに健やかで未来に輝ける女性、男性になりましょう。

来たれ乙女!来たれ男子!




初投稿なので至らない部分もありますが呼んで感想等を頂けたら光栄です


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第1話 戦車道と歩兵道

いよいよ、本編です。
基本はガルパンの本編+αという形になります


 時は近未来……世界の各地にて、『学園艦』と呼ばれる大型船艦が幾つも作られた。

 大きく世界に羽ばたく人材の育成と生徒の自主独立心を養うことを目的として建造された、全長七キロ以上にも及ぶ空母にもよく似た大型艦は、その甲板に学園を中心として都市が広がっている。

 学園以外にも大小の住宅やホームセンター、コンビニなどが在り道路には自動車も走っている。他にも広大な自然や森林が形成されているなど陸上と変わらない環境が形成されている。

 

 

 大洗学園艦。大洗の街並みをもとに作り出された学園艦である。

 学園艦都市の中心部から南部に位置する道路。

「……」

 早朝六時。まだ薄暗い空の下、一人の青年が大洗の街並みを駆けていた。紺色のジャージに身を包み、若い顔立ちの青年は一定の息づかいで道路を駆けていく。大洗の商店街を抜けて住宅街を少し行ったところ、古めかしい平屋の住宅の前でゆっくりと足を止めた。

 少々荒くなった息を整えながら、正門をくぐり庭に向かう。広めの庭には石造りの倉庫があるだけ他には何もない。

 倉庫の中からコンバットナイフを持って出ると一息ついていつもの日課を始める。

 相手がいることを想定し、コンバットナイフを振る。ナイフによる対人戦訓練の一環としてナイフの素振りはいつも行う。

「毎日精が出るわね、凛祢」

 不意に聞こえた声に振り向きナイフを胸元で構える。しかし彼女の姿を確認すると手を下ろし、リラックスするように棒立ちする。

「おはよう朱音。今日も早いな」

 葛城朱音(かつらぎあかね)。血のつながりはないものの、葛城凛祢(かつらぎりんね)にとって育て親であり唯一の家族である。

「早いって、もう六時四十分よ?そろそろ登校する準備しなさいよ」

「わかった、先にシャワー浴びてくるから朝ご飯は少し待ってくれ」

 朱音から渡されたタオルで汗を拭うと、着替えを持って風呂場へ向かう。

 十分後、シャワーで汗を流し着替えを終えた凛祢が畳部屋に行くとコーヒーを飲んでいる朱音の姿があった。

 電源のついたテレビには朝のニュースが映し出されている。

「凛祢もコーヒー飲むでしょ?」

「ああ、もらう。朝はトーストと目玉焼き、サラダでいいか」

 そう言って凛祢は台所で朝ご飯の準備に取り掛かる。

 食パンをトースターにセットし電源を入れた。次にフライパンをコンロに置き温まってきたところで卵をいれたその時、朱音が口を開いた。

「凛祢。私、明日からしばらく帰れなくなるから」

「え?またかよ。半月前に戻ってきたばかりだったじゃないか」

「しょうがないでしょ。忙しいんだから、今は戦車道連盟も歩兵道連盟も大事な時期なのよ。それに全国大会の準備もあるし」

 朱里は歩兵道連盟の理事長を務めており、仕事で学園艦から離れることも少なくない。今回のように家を空けることもいつものことだった。

 それに戦車道連盟と歩兵道連盟は色々親密な関係にある。戦車道連盟の理事長はたしか西住……。

「凛祢、ご飯まだ?」

「少し待てって、先にサラダ食べてていいから」 

 冷蔵庫から小皿に盛られた野菜サラダとを取り出し、朱里の待つテーブルに置いた。

 目玉焼きとベーコンを皿に盛り付けると同時にトースターが焼けたことを合図する音を立てる。

「朱里、テーブルに運んで」

 テーブルには朝ご飯であるトースト、目玉焼き、野菜サラダが並ぶ。

 二人は手をあわせて同時に「いただきます」とつぶやく。

 

 

 三十分ほどで食事と皿洗いを終えると、凛祢は自室に向かう。

 大洗男子学園の制服に身を包み、充電していた携帯端末をポケットに入れる。左手の腕時計は七時半を指していた。

 鞄を持ち、玄関で靴を履くと朱里に聞こえるよう大きめな声で「行ってくるからな、朱音!」と叫ぶ。

「いってらっしゃーい!」

 すぐに部屋の奥から朱里の声が返ってきた。

 鍵を閉めて学校に登校する。何かいいことがありそうなくらい空は晴れ渡っていた。

 道路には自動車が走っており、歩道には登校する自分と同じ制服姿の男子や白のセーラー服に身を包む女子が歩いている。

 大洗学園艦には二つの高校が存在する。一つは県立大洗女子学園、文字通りの女子高。もう一つは県立大洗男子学園、凛祢や学園艦の男子の通う男子校である。どちらの学園にも必修選択科目として古来の文道や武術の授業がある。

 昔は共学だったらしいがある出来事から女子校と男子校に別れたと朱音から聞いた。別れたといっても二つの高校は学園祭も一緒に行う上に建物自体ががそれほど離れていない。何かのイベントがある度にも一緒に行っている。

 通学路である県立大洗女子学園の正門前を通るといつものように風紀委員と書かれた腕章をつけたおかっぱ少女が立っていた。毎日校門の前にいるが遅刻でも取り締まっているのかもしれない。その姿を横目に見ながら、凛祢は大洗女子学園の前を通り過ぎようとする。

「おーい凛祢!」

「おはよう凛祢」

 聞き覚えのある声に凛祢は足を止める。後ろから県立大洗男子学園の制服を着た生徒が二人走ってくる。

 一人は茶髪に制服のネクタイをつけていない先導八尋(せんどうやひろ)。もう一人は高身長に眼鏡が印象的な坂上翼(さかがみつばさ)。

「おはよう。八尋、翼」

 挨拶をした後、三人で通学路を歩いていく。男三人で毎日登校するなんて今どきの高校生としてどうかと思うのだが、残念なことに三人とも彼女いない歴17年の男子高校生だから仕方ないのだが。

「は~、毎日男だけで登校とかどうなのよお前ら?」

「八尋、彼女のいないお前が言える立場ではないだろ」

 八尋の発言に凛祢が瞬時に言葉を返す。それを聞いて八尋は少々むっとした表情をしていた。

「は~、なんか楽に彼女のできる方法ねーかな」

「彼女作ることよりも勉強したらどうなんだ?八尋成績あまりよくないんだろ」

「いいんだよ勉強なんて、赤点取らなきゃどうにでもなる。それに高校生活は人生で一度きりだぞ、俺は後悔したくないからな」

 翼が心配してやっているのに八尋は聞き耳持たずといった感じだった。

『高校生活は人生で一度きり』

 確かに高校生活は人生で大切な時期かもしれない。勉学に励む者や部活に力を入れる者、高校生活には高校生の数だけ青春があるというものだ。

 八尋にとってはそれが恋愛だったというだけのこと。翼にも卒業後に外国留学という目標があって勉学に励んでいる。

 ならば葛城凛祢にとってそれはなんだ?今の自分にはわからない。目標があるわけでも好きな女がいるわけでもない、自分にはどんな青春生活があるのだろう……。

「んね…りん…おい、凛祢ぼーっとしてどうした?」

「あ、いやなんでもない。考え事してただけだ、さっさと行くぞ」

「どうしたんだ?あいつ」

 速足で歩いていく凛祢の後を八尋と翼走っても追いかけていくのだった。

 

 

 県立大洗男子学園に響くチャイムと共に勢いよく教室を出ていく数人の男子生徒たち。他にも弁当を持って教室を出ていく者もいる。

 午前の授業を終え、昼休みになったのだ。

「凛祢ー、翼ー学食にいくぞー!」

「お前はいつでも元気だな」

「まあな、授業中は寝てるかスマホいじってるし」

 平然と不真面目発言をする八尋とは裏腹に翼はまだ赤ペンで印などをノートにつけている。

 翼の真面目さを見習うべきだろと思いながら教科書やノートをしまい学食へ行く準備をする。

「失礼する、葛城凛祢はいるか?」

 自分の名を呼ぶ声にドアの方へと目を向ける。身長は自分たちとそれほど変わらない三人組。

 しかし、制服のネクタイの色は赤……三年生だ。

「……!」

 真ん中に立っていた男と目が合ってしまう。隣にいた八尋が「生徒会長と副会長、広報だ」と小声で耳打ちする。

 ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。すぐに自分の机の前まで来た。

「葛城凛祢だな」

「少し話があるんだがいいかな?」

「……」

「ちょっと待てよ、なんだよ急に来て。生徒会がいじめか?」

 生徒会の言葉に無言でいる凛祢の隣にいた八尋が口を開いた。

 しかし右にいた男に睨まれ、八尋は少々ひるむ。翼もノート閉じて凛祢の隣に来た。

「そう闘争心をむきだしにしなくてもなにもしません。私は副会長の石田宗司(いしだそうじ)、彼は会長の相川瑛治(あいかわえいじ)、こっちの強そうなのが緑間雄二(みどりまゆうじ)です」

「そう、話がしたいだけ。ここではなんだし食堂に行かないかい?昼食まだだろう?」

 左にいた宗司とが名乗る男が笑いながら紹介してくる。そして会長である瑛治という男も場所を変えるように促してきた。

 別に喧嘩をする気もなさそうな感じだったので凛祢も話に応じることにした。

「わかりました、二人も一緒でも?」

「かまわないよ」

 凛祢の発言に少々驚いていた八尋と翼だったが二人も来ることとなり六人で食堂に向かう。

 廊下を歩いていると八尋と翼が小声で話しかける。

「本当に大丈夫なのか?」

「まあ、生徒会がいじめやカツアゲなんてしないとは思うがどうして凛祢に?」

「そんなこと俺が知るか。生徒会と親しくないんだから」

 そもそも生徒会が自分に何の用だ?彼らは自分の名前を知っていた。

 今まで話したこともないし大洗で目立ったこともしたことない。なのに一体なぜ?

 結局考えても何もわからぬまま食堂に到着してしまった。

 六人全員が日替わりランチを注文し席に着く。隣の翼だけは量が大盛であった。こう見えて翼って意外と大食いなんだよな。

 食事を始めて、すぐに生徒会と凛祢たちの会話が始まる。

 どうでもいい話から学園のイベント話、部活や生徒会の話。

 本当にこの人たち何のために自分たちの元に来たんだろう?こんな話をするなら自分たちじゃなくてもいいはずなのに。

 食事を終え、温かいコーヒーを飲み始めた時だった。

「ここからが本題なのだが……葛城凛祢、今年の必修選択科目は歩兵道を選択してほしいんだ」

「なっ……」

 『歩兵道』その言葉を聞いて一瞬凛祢の表情は固まる。

 なぜ、今ここでその言葉が出たのか凛祢にはわからなかった。

「歩兵道?なんだそれ?この学校にそんな選択科目ねーだろ」

「確かに、選択科目にあるのは古来の文道や武術などだろう?」

 隣の八尋と翼が疑問を抱き、生徒会に質問を投げかける。

「今年から復活することになったんだ。よって今年から全学年の必修選択科目には例年までの科目以外に歩兵道が選択可能になった」

「主な詳細は六時限目の後の全校集会で説明を行う予定です」

 広報の雄二と副会長の宗司が答える。

「というわけで選択科目は――」

「ちょっと待ってくれ、俺は歩兵道をやるなんて言ってないぞ」

「いいや、君は必ず歩兵道をやることになる」

 英治は今までの表情とは違う鋭い目線を向ける。

「俺は――」

 凛祢がしゃべるのを遮るように昼休み終了五分前を告げるチャイムが響く。

 八尋と翼に急かされ凛祢も急ぎ食堂を出て教室に戻った。

 結局、五時限目と六時限目は会長の言葉が引っ掛かり集中できなかった。

「凛祢大丈夫か?」

「生徒会の事は気にすることない、選択科目を選択するのは自由だ。だからこそ選択科目なんだ」

 ため息をついたところを見られてしまったのか、授業後に八尋と翼が声をかけてくれた。

「ああ、大丈夫だ」

「別に歩兵道なんてやんなくてよくね?弓道とか選択しちまえばいいんだよ」

「その通りだ、こんな時は八尋の様に軽く考えればいいんじゃないか」

「失礼な、俺だってモテるように日々努力してんだよ!」

「はいはい、そうだな」

 そんな二人のやり取りを見ていると教室のスピーカーから放送を告げる音が聞こえた。

「全校生徒に連絡する。これから全校集会を行うので生徒は体育館に集合せよ」

 聞き覚えのある声が放送で流れる。雄二の声だ。

 すぐに体育館は男子生徒と教員によって満たされる。

 前方ステージの奥にはスクリーン。後方扉側には大きめのプロジェクターが用意されていた。

「さっきの話本気だったんだな」

「うちの生徒会って何考えてるかわからねーからな」

「同感だ」

 去年の生徒会もそうだが、毎年生徒会には驚かされる。今回の騒動には自分も含まれているわけだが。

「みんな静かに。それでは、これから新必修選択科目『歩兵道』についてのオリエンテーションを行う」

 全校生徒がそろったことを確認すると体育館の明かりが消灯され、スクリーンに映像が映し出される。

 スクリーンには歩兵道入門とだけ書かれている。

 すぐに宗司が説明文を読み上げると映像が流れていく。

 

 ――歩兵道。

 それは伝統的な文化であり世界中で男子の嗜みとして受け継がれてきました。

 礼儀を弁え、信義を重んじ漢らしい教養の高い立派な紳士を育成することを目指した武芸であります。

 歩兵道を学ぶことは、男子としての道を極めることでもあります。

 剣の様に強く鋭く、閃光の様に輝かしい。

 そして銃弾のようにまっすぐで必殺命中。

 歩兵道を学べば、必ずや良き夫、良き父、良き職業夫人になれることでしょう。

 健康的で優しくたくましい貴方は多くの女性に好意を持って受け入れられるはずです。

 さあ皆さんもぜひ歩兵道を学び、心身ともに健やかで輝ける男性になりましょう。

 

 説明が終了するとともに来たれ男子という画面がスクリーンに映し出されたと思うと急に煙幕が発生し爆発音が体育館に響いた。

 歩兵道の話を聞きて驚く者、すごいと憧れる者と感じ方は人それぞれであっただろう。

 煙幕が晴れるとスクリーンには必修選択科目を記入する用の用紙が映し出されていた。

 書道、弓道、忍道、長刀道、茶道、仙道など選択科目があるが、なにより目立っているのは用紙の半分を使っている歩兵道という文字である。

「すげー……」

「これはしびれるな……」

「え、え?」

 隣にいる八尋や翼の顔を見ると他と同様、歩兵道の虜になっている。

 前方のステージには生徒会三人が立っていた。

「実は数年後に戦車道&歩兵道の全国大会が日本で開催されることとなった。そのため文科省から全国の高校、大学に戦車道と歩兵道に力を入れるよう要請があったのだ」

「よって、うちの学校は歩兵道を大洗女子学園は戦車道を復活させることにした。そして、歩兵道を選択したものにはいろいろと特典を与えようと思う。副会長説明を」

「成績優秀者には食堂の食券百枚、遅刻見逃し二百日、大学進学、海外留学の援助さらに通常授業の三倍の単位を与えます!」

 生徒会の説明を聞いて次々と生徒たちが顔を上げていく。

「というわけだ。みんなよろしく頼む」

 説明を終えた生徒会がステージを降りていき全校集会は終了した。

 生徒会の説明を聞いた八尋と翼は全校集会前とは異なる表情でこちらに目を向ける。

「俺やる!」

「なに?」

 八尋の急な発言に言葉が出ない。そんな凛祢に追い打ちをかけるように続ける。

「だって最近の女子って強くて頼れる男が好きなんだろ?だったらこれしかないぜ!歩兵道やりゃモテモテなんだろ?」

「えっとそれは……」

「もしかして凛祢って歩兵道の経験者なんじゃねーの?だから生徒会も誘ってきたんじゃねーか、つーわけでやろうぜ凛祢!」

 八尋は凛祢の話を聞かずにどんどん話を進めてしまう。

 そんな凛祢をフォローするように翼が話す。

「よせよ、凛祢がやりたくねーなら強要するのは悪いだろ。代わりに俺も歩兵道やるからよ」

「なんですと?!」

 翼もやるという発言に声にならない声が出てしまう。言葉使いも少しおかしいと自分でもわかった。

「おークソ真面目な翼が歩兵道かー」

「そりゃあ海外留学の援助してくれる上に単位三倍のおまけ付きならやるだろ。それにアクティブな歩兵道は俺たち向きだろ?」

「あったりめーよ」

 二人の話を聞いているとよくわかる。あの説明だけを聞けば誰でも歩兵道を選択したくなるというものだ。

 だが、あれには、歩兵道にはもっとたくさんのルールがある。それを聞いて二人は今のようなことを言っていられるのだろうか。

「はあ。わかった、やってやるよ歩兵道」

「まじか、凛祢?」

「いいのか?無理することないぞ」

 凛祢は頭を抱えた後に出した答えに驚きを隠せない二人。

 正直、二人がこの選択科目を選ぶとは思っていなかった。翼なんかは歩兵道よりも書道なんかを選択すると思っていたからだ。

「いいんだ、二人がやるなら付き合ってやるよ」

「よし!経験者いれば百人力だ!ぶっちぎりで成績トップだぜ!」

「色々教えてくれよな、凛祢」

 その日の夜。凛祢は朱音のいない静かな家で一人横になっている。朱音は昼にヘリで歩兵道連盟の方に行ってしまった。

 家にいるのは自分だけ、ふと思い立ったように自室の仏壇に目を向ける。小さな仏壇には一つの写真が立ててある。

 写真には一人の女性が笑って写っている。周防鞠菜(すおうまりな)、朱音と同様に自分を育ててくれた女。軍人であった彼女の性格はガサツで料理も下手ですぐに無茶苦茶なことを言う、終いには酒癖が悪いときた。だが自分に歩兵道を、初めて全力で打ち込めることをさせてくれた。

「鞠菜、俺もう一度歩兵道やろうと思うんだ。初めて本気で打ち込んだことだからさ、今度は最後までやり遂げるよ」

 きっと彼女も歩兵道をやることを許してくれるはずだ。

 凛祢はすぐに布団に戻ると眠りについた。

 

 

 歩兵道のオリエンテーションから一週間。いよいよ必修選択科目の授業が開始されることとなった。

 歩兵道選択者はグラウンド集合ということで校庭には制服姿の男子生徒が集まっている。凛祢や八尋、翼の三人。その後ろに生徒が一人。バスケのユニフォーム姿のバスケ部が四人。噂の歴史好きの同級生が四人。一年生の生徒が六人。そして生徒会の三人。計二十一名。

「思ったより集まりませんでしたね」

「まあいいさ、ここに集ってくれた者たちでやるしかない。みんなよく集まったねこの歩兵道の授業は大洗女子学園の戦車道の授業と合同で行うこととなる、主な説明はあっちの校庭で話す。行くぞ!」

「きたー!合法的に女子校に入れる!」

「八尋、気持ち悪いからやめろ」

 凛祢たちを含め集まった二十一人の男子生徒は駆け足で大洗女子学園の校庭に向かう。

 校庭には二十一人の男子生徒、大洗女子学園の女子生徒二十一人が立っている。

 こっちの生徒も大概だがあれはなんだ?体操着やバレーのユニフォーム?を着た生徒が四人いる。手足の露出が多く目のやり場に困る。

「やーよく来たね。男子校の生徒諸君、英治会長」

「久しぶりだな、杏会長」

 英二と話しているのは角谷杏。女子校の生徒会長だ、中一のような小さい身長と赤髪のツインテールが特徴的。

 合同イベントで何度か見たことはある。よく干し芋を食べていたな。

「全員で四十二人ですか。少々厳しいですね」

「厳しいのは人数だけではなく、戦車や武器も……」

 杏の隣で生徒会と話す女子。広報の河嶋桃、副会長の小山柚子。

 様子をうかがうにあんまりいい状況とは言えなそうだった。

「まあ、とりあえずはじめようか」

「これより戦車道と歩兵道の授業を行う」

 桃の合図で全員が列になり並ぶ。

「あの、戦車はティーガーですか?それとも……」

「おい凛祢、ティーガーってなんだ?トラかなんかか?」

 生徒会に質問を投げかける女子生徒。ティーガーという名前に反応する八尋。

「うーん、なんだったけ?男子たちーガレージの扉開けるの手伝って」

 あまり真面目そうに見えない杏の言葉にいち早く動く八尋。

 あいつはモテるために必死だな。やれやれと凛祢、翼も扉に手をかける。

 錆びれたガレージの扉を男子生徒たちが協力し開く。

 ガレージの奥には一台の戦車と地面に転がる粘土状の小さな塊。小さなテーブルには拳銃や予備弾倉などが置いてある。

「なにこれ」

「ありえない」

「死んでいる、まるで屍だ」

「わびさびでいいんではないでしょうか」

「これは鉄錆びではないか?」

 中を覗いた生徒たちはその悲惨な光景に言葉が出ないようだった、ただ二人を除いて。

 その内の一人である少女は錆びつき動きそうのない戦車に触れる。

「装甲も転輪も大丈夫そう」

 小さな声でつぶやいた。彼女の顔には見覚えがある、まさかと思っていたが間違いない。

 西住みほ。戦車道において最強と呼ばれる黒森峰女学院の元副隊長。前回の全国大会の後、転校したとは聞いたが大洗だったとは。

 そしてもう一人、葛城凛祢はテーブルの拳銃を手に取る。

「少々手を加えたものだが、整備した後はこのままのようだし大丈夫そうだ」

「これならいけそう」「これならいける」

 二人の声が重なり男女ともに生徒たちは驚きの顔を見せていた。凛祢とみほもお互いの顔を数秒見つめた後に目を逸らした。

 ここから、大洗の……凛祢やみほたちの戦いが始まるのだった。




呼んでいただきありがとうございます。
初投稿なので感想などあったら言ってもらえると光栄です


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第2話 歩兵疾走

いよいよ、葛城凛祢と西住みほが同じ戦場に立ちます。
二人はどんな思いで戦場を歩むのか?


 歩兵道の授業が始まる初日。

 横須賀学園の校庭にあるガレージには戦車道と歩兵道を選択した生徒達が立っていた。

「そんなボロボロでなんとかなるの?」

 明らかに古びて使い物にならなそうな戦車を見た沙織がみんなが思っていることを言った。

「多分……」

「ねえ、みぽりん。男と戦車は新しいほう方がいいと思うなー」

「それを言うなら女房と畳ではないでしょうか」

「同じようなものよ、それに一両しかないじゃん」

 自信ののなさそうに答えるみほ。

 彼女の友人である女子生が後に続きつぶやく。

 なんでも新しいものを欲しがるとはなんて贅沢な女だ。鞠菜曰く、新しい武器よりも使い慣れた武器のほうが扱いやすいし自身の能力を活かせるらしい。新型も使い慣れれば別だが。

「えっと、この人数だったら」

「全部で五両必要です」

 柚子が戦車道の人数を数え、桃が必要な車両数を答える。

「男子のほうは主武装(メインアーム)と副武装(サブアーム)だから」

「銃だけでも三十から四十丁ぐらいは必要だな。ナイフのほうも数はあまりないようだしな」

 宗司と雄二はガレージ内のコンバットナイフを数を数えながら言った。

 ガレージに放置されていた戦車は『Ⅳ号戦車D型』。短砲身の中戦車でありドイツ製だとみほが説明する。

 正直言って強い戦車と比べると弱いほうだ。ちなみに他にガレージ内に放置されていた武器は自動拳銃『ベレッタM92』が一丁と狙撃銃『Kar98K』一丁、黒塗りの『コンバットナイフ』が十二本、プラスチック爆薬『C4爆弾』が三つほど使えるだけだった。

「ってことは圧倒的に数が足りないわけか」

「うーん、じゃあみんなで戦車と武器探そっか」

 英治と杏の発言に全員が驚きを隠せずにいる。

「ええー」

「まあ、そうなるよな」

「探すって」

「どういうことですか?」

 次々にガレージ内に声が響く。

「我が校と大洗男子においては何年も前に戦車道と歩兵道が廃止になっている」

「だが、当時使用していた戦車と武器がどこかにあるはずなんだ」

「「いや、必ずある」」

 桃と雄二がそう言いながら当時の資料をこちらに見せてくる。 

「明後日、戦車道と歩兵道の教官がおみえになる」

「それまでに残り四両と銃を三十丁を見つけ出すこと」

 なんて無茶なことを言いだすんだこの生徒会は。そもそも戦車道と歩兵道を復活させると言いながら戦車と銃がないんじゃ始まらないだろうに、一体どういうつもりなんだ。

「して、一体どこに?」

「それがわかんないから探すの」

「すまない、実のところ手掛かりはない」

 赤マフラーを巻いた女子生徒の質問に帰ってきたのは情報なしという答え。

 杏はお手上げといった感じ、英治は深く頭を下げている。

「なんにも手掛かりないんですか?」

「それはきついですよ」

「ない!」

「杏会長、もうちょっと危機感をだな」

 英治が杏の発言に頭を抱えている。

「探す前に戦車道と歩兵道のメンバーの自己紹介をしましょう、お互い名前で呼び合えるほうがいいでしょうから」

 柚子が戦車道と歩兵道受講生徒の名簿を見てそう言った。

 確かに、いつまでもコミュニケーションが取れないのはこちらとしても不都合だ。

 数十分後、全員の自己紹介を終えてそれぞれ男女混合のチームに別れる。

 最初に葛城凛祢、先導八尋、坂上翼、坂本塁(さかもとるい)に西住みほ、武部沙織、五十鈴華、秋本優花里の八人、二年生チーム。

 次に円藤辰巳(えんどうたつみ)、九条漣(くじょうれん)、一ノ瀬淳(いちのせじゅん)、枢木迅(くるるぎじん)に磯部典子、佐々木あけび、河西忍、近藤妙子の八人、バスケ&バレーチーム。 

 次にアーサー、シャーロック、ジル、景綱(かげつな)にエルヴィン、カエサル、左衛門佐、おりょうの八人、歴史男女チーム。恐らく全員本名ではない。

 次に梅本亮(うめもとりょう)、黒田アキラ、葉山翔(はやましょう)、柿崎礼(かきざきらい)、沼倉歩(ぬまくらあゆむ)、城島銀(じょうじまぎん)に澤梓、大野あや、山郷あゆみ、宇津木優季、坂口桂利奈、丸山紗希の十二人、一年生チーム。

 最後に相川英治、石田宗司、緑間雄二に角谷杏、小山柚子、河嶋桃の六人、生徒会チーム。

「では、捜索開始!」

 すべてのチーム分けが終了したところで桃の鋭い叫びと共に生徒たちの「えー」と言う声が響く。

「おい、凛祢こんな話聞いてないぞ。お前、わかってたんじゃないだろーな」

「予想はしてた」

 八尋は凛祢の肩を掴み前後に揺らす。

「話が違うじゃねーか!歩兵道やってるとモテるんじゃねーのかよ」

「明日美人な教官がくるって英治会長が言ってたぞ」

「マジで?よし、やってやるぜ!ついでに女子にもいい所見せてやるぜ!」

 横から翼が止めに入った。八尋は「綺麗な教官」という言葉にいつもの元気を取り戻したようだった。

 隣では沙織と華が同じようなやり取りをしていた。

「行ってきまーす!」

「行くぜー!」

 八尋と沙織は早足でガレージを出ていく。

 あっちにも似たような人がいたか。まったく単純だな、あいつら。でも八尋と沙織、意外と気が合いそうだな。

 

 

「「とは、言ったものの」」

「どこにあんだよー!」「どこにあるっていうのよー!」

 八尋と沙織が駐車場で叫んでいた。

「車ってついてるから駐車場を探すとか安直すぎるだろ……」

「さすがに駐車場に戦車は止まってないかと」

 翼と華がもっともな結論を出した。

 八尋と沙織は落ち込んだような表情をしている。

「うーだってー」  

「しゃーねーな、山林のほうに行ってみるか」

「あー何とかを隠すには林の中っていうしね」

「それは森です」

 沙織の間違えにしっかりとツッコミを入れる華。

 次の目的地に向けて歩き出す六人。その後ろを追いかける二人。

「おい!」

「あの!」

 しびれを切らした凛祢の声となんとか話しかけようとするみほの声がガレージの時と同じように重なった。

「葛城さんから」

「いいよ、西住が話せ。多分俺と考えてることは同じだ」

「え、はい。あの御二人もよかったら一緒に探さない?」

「「いいんですか?!」」

 急に声を上げる塁と優花里。

「えっと、普通Ⅱ科二年B組坂本塁です」

「あ、あの普通Ⅱ科二年C組秋本優花里って言います」

「自己紹介はさっきしただろ。とにかくチームなんだからこっちにこい」

 凛祢はやれやれと首を振る。

「「葛城凛祢殿、西住みほ殿よろしくお願いします」」

 塁と優花里は同時に啓礼のポーズをした。

 この二人どことなく似てるな。それにみほや自分を見ているときの目が他の生徒に向ける目と少し違う気がする。

 二年生チームの八人は戦車を探すため山林に向かうのだった。

 

 

 一方、一番人数の多い一年生チームの十二人は大洗女子学園の図書室で戦車道と歩兵道の記録を探していた。

 元々女子校と男子校が一つだったころは大洗女子学園のほうが本校だった。別れるにあたって建てられた大洗男子学園には当時の資料などはないのである。

「使ってた戦車の記録見つかった?」

「そっちはどうだ、歩兵道の記録あったか?」

 奥から資料を持って歩いてくる亮、その隣を梓が歩いている。

「戦車のせの字もないよ」

「うちの学校が戦車道やめたころからさっぱり」

「全然だめだ、情報ゼロ」

「歩兵道のほうもさっぱりです」

 桂里奈とあやが読み漁っていた資料を机に広げる。

 アキラと歩も読んでいた資料を閉じて本棚に戻した。

「なんで戦車道と歩兵道やめちまったのかな?」

「そもそも戦車道がなくなったから歩兵道もなくなったらしいぞ。戦車がなきゃ歩兵って戦えないからってさっき読んだ本に書いてた」

「へー、歩兵って戦車がなきゃダメなのか」

「じゃあなんで突然戦車道やめちゃったのかな?」

「やっぱ人気なくなったんでしょ、昔っぽいから」

「そっかー」

 調べ終えた資料を戻しに行っていた翔、礼、あゆみ、優季の四人がそんな話をしながら戻ってくる。

 元々おとなしい銀と紗希の二人は無言で資料とは関係ない小説などを読んでいた。

 

 

 凛祢たちは学園近くの山林を探していた。

 みほと優花里が地図を見ている。

 山林に入ってすぐに華が何かを感じ取ったのか一人歩き出す。

「どうした五十鈴さん。何か見つけたのか?」

「いえ、においが……」

 翼が華に声をかける。

 においだと?彼女は何を言っている?

 凛祢も臭覚を頼りにしてみるが変わったにおいなどしない。

 近くの塁や八尋も変わったにおいなど感じないようだった。

「においでわかるんですか?」

「花の香りにほんのりと鉄と油のにおいが」

「華道やってるとそんなに敏感になるの?」

 華はゆっくりとにおいを感じる方へ歩いていく。

 優花里と沙織だけでなく八尋や翼も驚いていた。

「私だけかもしれないですけど」

「よし。ではパンツァーフォー!!」

 華の歩いていく方を指さし優花里が大声で叫ぶ。

「パンツのアホー?!」

「パンツフォー……パンツが四つ?」

 八尋と沙織がまた似たような反応で優花里を見た。

「パンツァーフォー、戦車前進って意味なの……」

「ちなみに歩兵道では歩兵疾走という意味でオーバードライブという掛け声があります。ということでオーバードライブ!!」

 苦笑いして説明するみほ。塁も優花里と同様に指さしをして叫ぶ。

 パンツァーフォーにオーバードライブ。正直、使ってるやつ見たことないけどな。

 華の後を追うように五人が歩いていく。

「待て、西住みほ」

「え?あのなんでしょうか、葛城さん」

 凛祢は低い声でみほを呼び止めた。

「……去年の全国大会決勝戦のことは知ってる。それでもし西住が心の傷を抱えているのなら無理に戦車に乗らなくていいんじゃないか?」

 彼女は昔の自分と同じだ。自身の道を貫いたがためにチームは負けた。

 それでも後悔はしていない、それが自分の最善だったのだから。

「……ありがとうございます。でも、大丈夫です」

 みほは笑みを浮かべてお礼を言った。

「私、本当は戦車道がないから、大洗に転校してきたんです。でも戦車道が復活することになって、生徒会が戦車道を選択しろって……」

「そうか。まさか戦車道を選択した経緯まで歩兵道を選択した俺と同じだったとはな」

 凛祢も思わず笑みを浮かべる。

 生徒会もずいぶん必死だな、どうしてそこまでして?

 急な戦車道と歩兵道の復活話といい不審な点がないわけではない。

「それじゃあ葛城さんも?」

「ああ、生徒会に歩兵道を選択するように言われてな。それで八尋と翼もついてきたわけだが」

「私にも武部さんと五十鈴さんがいてくれました。二人は私のことを庇ってくれて、それで私……もう一度だけ戦車道やろうと思ったんです」

 みほは強い信念のある目で凛祢を見た。

 そうか、みほは迷いを捨てたようだ。

 みほは強い、自分と似ていながらこんなにも強い。

 それなら自分にできることは……。

「誓おう。俺は全身全霊を持って君を助け、君を守り抜く。君の弱さと優しさを守り、勝利へと導く盾となろう」

 右手を左胸元にあて、みほに向けて言った。

「え……?ええーー!!そ、そんな」

 みほは思わず叫び声を上げた。

「あんまり大きな声を出すなよ、結構恥ずかしいんだから」

「だって、葛城さん。そんな誓うだなんて……!」

 凛祢はみほから目を逸す。

 みほも頬を赤らめながら目を逸らしていた。

「みぽりーん、葛城くーん」

「今行きます!」

「行くぞ、西住」

 沙織の呼ぶ声に我に返った二人は急いで後を追った。

「何の話してたの?」

「えっとその……」

「戦車道を選択した理由を聞いただけだ、それにしてもこの戦車……」

 沙織の質問にみほは頬を赤くする。それに対し凛祢は平然とした表情で答え、森林の中にはとても場違いな戦車を見た。

 その姿はガレージのⅣ号と同様にところどころ錆びつきとても動くようには見えなかった。

「38t……」

「なんかさっきの奴より小っちゃい。ビスだらけでポツポツしてるし」

「38tと言えば、ロンメル将軍の第七装甲師団でも主力を務め、初期のドイツ電撃戦を支えた重要な戦車なんです。軽快で走破性も高くて、はっ!tというのはチェコスロバキア製ということで重さの単位のことではないんですよ!」

 優花里は軽戦車38tに頬をすりすりと擦り付けながら説明を始める。

「おー、車内にはモーゼルC96とMP18が二丁もありますよ!」

 塁が38tに登って中を覗き込み、興奮した声を上げた。

 38tにモーゼルC96、MP18……いずれもドイツ製の代物だな。

「MP18と言えば帝政ドイツ軍が採用した世界初の短機関銃なんですよ!ミカエル作戦にも投入されて一時は戦線を60キロも突破することに成功したんですよ。まあ、ミカエル作戦は失敗したんですが。モーゼルC96も通常の自動拳銃と違ってトリガーの前にマガジンハウリングを持つスタイルだから自動拳銃のはぐれものみたいでかっこいいですよね!」

「「……あ」」

「二人とも今生き生きしてたよ……」

「いわゆるミリタリー好きって奴だな」

 ちょっと引き気味の沙織や八尋たちの表情を見て、我に返った様子の塁と優花里は小さめの声で「すみません」と言った。

 戦車を発見したことを報告するため凛祢が携帯端末をポケットから取り出す。

「こちら葛城凛祢と西住みほチーム、戦車38tをとモーゼルC96、MP18を発見しました」

「了解。ご苦労、運搬は自動車部と整備部に依頼しておくのでお前たち男子は戻ってこい。西住たちは引き続き捜索を続けるように」

 電話の相手である桃はそう言ってすぐに電話を切った。

「一両と銃四丁が見つかりました」

「やればできるもんだね、あむ」

 桃が振り向きそう言うと杏は椅子に座ってくつろぎながら干し芋を一口食べた。

「なあ、杏会長ってあれで会長なのはどうなんだ?」

「不真面目に見えますがやるときはやる人ですし」

 ガレージ内の掃除と備品の整理をしながら雄二が不満を口にする。宗司は苦笑いしながら言う。

「そうだ緑間。今は我慢してくれ」

「会長がそう言うなら了解です」

 英治の言葉に納得したように雄二は手を動かす。

「え?ちょっと――切りやがった。俺たちは戻るようにって西住たちは引き続き捜索だってよ」

「なに?なんで戻るんだよ、めんどくせーな」

「一体何のために僕たちだけ戻るんでしょうか?」

「知らん。西住、後の捜索は頼んだ」

 西住にそう言うと凛祢は不満気な八尋と翼、塁を連れて大洗女子学園に戻る。

「は、はい。……えっと葛城さんたちも頑張ってください!」

「頑張ってねー」

 西住や沙織たちの激励を受けて八尋はより一層士気が上がっていた。

 

 

 凛祢たちは数分かけて大洗女子学園校庭のガレージ前に戻ってきた。

 ガレージ前には椅子に座りくつろいでいる杏会長その隣に立つ柚子と桃。

「てか、あんたらなんもしてねーのかよ女子校の生徒会さんよ」

「落ち着けよ八尋。なんで俺たちを戻るように?」

「それについては俺が説明しよう。ガレージ内でこんなものを見つけてな」

 そう言って雑巾やデッキブラシを持った宗司と雄二、手ぶらの英治がガレージ内から出てきた。

 こっちの生徒会はちゃんと仕事してたんだな。

「それは……鍵ですか?一体どこの?」

 英治が手に持っていたのは一つの鍵。少し錆びれていていかにも古そうな鍵だった。

「これは大洗学園の……いや大洗女子学園地下の鍵だ」

「地下?大洗女子学園に地下とかあるのか?」

「実はガレージ内に残っていたこの鍵と資料を見つけてな。昔、戦車道と歩兵道が残っていた頃は大洗女子学園の地下を歩兵用の武器庫として使っていたらしいんだ」

「本当ですか?!それが本当なら銃などがまだ残ってるかもしれないじゃないですか!」

 塁は目を輝かせながら一歩前に出る。

「残っている確率は低いかもしれないが行くだけ行ってみようと思ってな。それでお前たちにはこの地下武器庫に行ってきてほしいと思っているんだ」

「なんであんたらが行か――」

「わかりました、行きます。すぐ行きます!我々が行きます!」

 八尋の口を抑えて、塁が行くように進言する。

「そうか行ってくれるか」

「俺は構わないが」

「そうか、なら俺も行ってやる」

 凛祢の発言に翼も後に続く。

「八尋殿も行くって言ってます!」

 塁はまだ八尋の口を抑えている。

「では頼んだぞ」

 そう言って英治は凛祢に鍵を渡す。

「では、行ってまいります!」

 その後無理やり話をつけてきた塁が啓礼のポーズをとってあいさつした後、柚子に案内されながら凛祢たち四人は大洗女子学園に入っていく。

「塁!テメーふざけんなよ、まじで!」

「八尋殿、落ち着いてください!もしも地下武器庫にいい銃があったらそれを見つけてきた我々が優先的に使うことができます!会長殿としっかり約束してきました」

「は?そもそも残ってないかもしれねーのに、銃がなかったらどうすんだ?」

「……」

「なんにも残ってなかったらマジでぶっ飛ばす」

「きっとありますよね、凛祢殿」

「俺に言われても……」

 こちらを見る塁とちょっと不機嫌な八尋を見て凛祢は苦笑いしながら答えた。

「ふふ、あなたたちとても仲がいいんだね」

「仲がいい?こんな奴今日知り合ったばかりの同級生にすぎませんよ。凛祢と翼は友人ですがね」

 柚子が笑いながらつぶやくと、八尋は腕を組みながら塁を睨んだ。

「ひどいです八尋殿。我々はもう悪友じゃないですか!」

「何言ってんだお前。お前と悪友になったつまりはねーよ」

「まあ、そう言うなよ八尋。友人が増えることはいいじゃねーか」

 翼が眼鏡を中指で上げながら言った。

 それにしても大洗女子学園に地下武器庫なんてあったとはな。朱音はなんにも話してくれないし、そもそも昔に戦車道と歩兵道があったこと自体知らなかったんだよな。

 大洗女子学園の廊下を進み、図書室の隣の廊下を抜け職員室前を通りその先の教材保管室の前で足を止めた。

「資料によるとここから入れるはずなんだけど」

 柚子はあらかじめ開けてもらっていたドアを開き室中へ入る。

 室内はあまり広くなく棚がいくつもあり、数学や英語の教材が綺麗に収納されていた。そして壁際の床には大きめの扉らしきものが見えた。凛祢は静かに室内へ入ると英治から受け取った鍵を鍵穴に差し込む。

 すると鍵は右に回り、小さな金属音を上げた。隣にいた翼と共に扉の取っ手を上げる。

「おおー」

 凛祢たち四人の声が重なる。

「誰から降りる?」

「「塁だろ」」

 柚子の声に八尋と翼の目線が塁を向いた。

「ええ?僕ですか?」

「俺が先行く、ライト渡せ。あと小山先輩はここにいてください、ここからは俺たちだけで行くので」

「うん、わかった。気を付けてね」

 凛祢は翼からライトを受け取り鉄梯子を降りていく。

 梯子を降りる音だけが闇に響く。三分ほどで下まで到着する、ゆっくり降りたとはいえ少し深かった。

 真っ暗な闇に凛祢の持つライトだけが光る。

 暗いな、こういう場所ってすぐに明かりのスイッチがあると思うんだけど。

 しかし、ライトで照らしてもスイッチらしきものは見つからない。

「暗いな、おい」

「明かりはないのか?」

「手持ちのライトだけだな、行くぞ」

 そう言って凛祢たち四人は歩き出す。

 数メートル歩くとすぐに広い空間に到着した。

「ここだな」

「お、明かりのスイッチっぽいのありましたよ。押してみます?」

「そうだな、さすがに探しづらい」

 翼がそう言うと塁はスイッチはを押した。すると数秒後に明かりがついた。

 全員が地下武器庫内を見回す。

「おー!!FALにバリスタ、P90とファイブセブン!どれもFÑ社が開発した銃じゃないですか!」

 先に声を上げたのは塁だった。興奮した声が室内に響く。

 武器庫に残っていたのは自動小銃『FÑFAL』が二丁、狙撃銃『FÑバリスタ』とサブマシンガン『FÑP90』が一丁、自動拳銃『FÑファイブセブン』が四丁、対戦車プラスチック爆薬『ヒートアックス』が四つ。

 FÑ社(一般的にはFÑハースタル)。ベルギーの銃器メーカー。正式名称はファブリケ・ナショナル・デルスタル・ド・ゲール。

 ヒートアックスは歩兵道連盟が開発した武器で、C4爆弾の七倍の威力を持つプラスチック爆薬。グレネードランチャ―や対戦車狙撃銃なども使われる歩兵道では学校によって武器や戦車の差が出てくる、それを少しでも緩和するため歩兵道においては第二次世界大戦までの武器という制限を無くし、ヒートアックスの使用が許可された。しかし、グレネードランチャ―などは遠距離で使えるがヒートアックスは戦車に近づく必要があるなどの制約もある。手榴弾ほどの質量で戦車履帯を切ることも可能であり、戦場でたびたび使われている。

「P90じゃねーか」

「よかったな、お前の愛銃じゃないか」

 八尋は壁に掛けられたP90を手に取っていた。そんな姿を翼が隣で見ている。

「愛銃?」

「ああ、俺と八尋はサバゲ―、サバイバルゲームやっててさ。P90は八尋のサバゲ―での主武装だからさ」

 凛祢が問いかけると翼がそう言った。

「八尋殿と翼殿もサバゲ―やってるんですか?僕もやってるんですよ!」

「塁!さっきの話本当だろうな」

「さっきの話?」

 八尋の声に塁は首を傾げる。

「ここの銃は、俺たちが優先的に使えるって話だ」

「はい……そうですけど」

「なら、いい。P90は俺が使う、バリスタは翼だ」

「いいのか?他の奴も使うかもしれないのに」

 八尋の言葉に翼が心配そうに言った。

「いいんだよ。ここの銃以上にいい銃が見つかるとは思えない。ファイブセブンも俺たちで使うんだよ、なあ凛祢」

「俺はいい、銃は残った物を選ぶから」

「相変わらず無欲な奴だな」

 八尋と翼はP90やバリスタを室内に残っていた鞄にしまっている。

 他に使えそうなものを探してみたが使えそうなもの見つかることはなく仕方なく武器庫を後にした。

「大丈夫だった?」

「はい、有力な銃も見つかりましたし」

「よかった。みんなお疲れ様」

 武器庫から戻ってきた凛祢たちは柚子の笑顔に迎えられ八尋、翼、塁の表情が固まる。

「どうしたお前ら」

「いや、別に……」

「なんでもない……」

「なんでもないです……」

 八尋、翼、塁は柚子から目を逸らした。三人の顔が赤くなっていた気がした。

 まさか、こいつら。

「あの、みんな大丈夫?」

「大丈夫です!!」

 柚子が問うと三人は大きめの声で即答した。

 やっぱり。こいつら小山先輩に惚れてるっぽい。

「それじゃあ、戻るか」

「そうだね、行こ」

 前を歩く柚子の後をを凛祢たち四人が追いかけるように歩いて行った。

「小山先輩ってかわいくね?」

「たしかに美人だと思う」

「年上っていいですね」

 小声で話す三人の会話を聞きながらため息をつく。

 こいつらなんて話をしてるんだ。八尋なんてさっきまで「沙織さんマジかわいい。付き合いたい」とか言ってたじゃないか。

 凛祢たちが校庭のガレージ前に戻るとそこにはさっきまでとは異なる光景が写っていた。

 ガレージ前に並んだ五両の戦車、その前に乱雑に置かれた銃の数々。

「凄いですね、これ」

「よく見つけてきたな」

 塁と凛祢は素直に驚きの顔を見せた。

「『百式軽機関銃前期型』が三丁、『九七式狙撃銃』が一丁、『桑原軽便拳銃』と『九四式拳銃』が二丁。『Kar98K』と『ベレッタM92』が一丁、『MP18』と『モーゼルC96』が二丁。『トンプソン・サブマシンガン』が六丁、『コルトM1903』と『コルトM1851』が三丁。『ワルサーMP』が三丁『マイクロUZI』が一丁、『ワルサーP38』が四丁。そして『FÑP90』と『FÑバリスタ』が一丁、『FÑFAL』が二丁、『FÑファイブセブン』が四丁です」

「八旧式中戦車甲型、38t中戦車、M3中戦車Lee、Ⅲ号突撃砲F型、それから四号中戦車D型。どう振り分けますか?」

 雄二と桃が集まった戦車と銃の名前と数を書類にメモしていた。

 八旧式と日本製の銃は崖下の洞窟に眠っていたのをバレー&バスケ部が発見。Ⅲ突とワルサーとUZIは湿地地帯の沼に沈んでいたものを歴史男女が発見。M3とアメリカ製の銃は兎小屋や馬小屋、牛小屋にあったものを一年生が発見。

 第一火力がⅢ突、Ⅳ号は立ち回りでやりくりすればどうにか。だが、総合的に対戦車戦闘には乏しいな。

 そこは歩兵隊でカバーするしかないか。

「見つけたもんが見つけた戦車に乗ればいいんじゃない?銃のほうも見つけたものが使うってことで」

「そんなことでいいの?」

「38tは我々が」

 杏は相変わらずテキトーな決め方をした。柚子はまずそうな顔をしていたが、桃も気にしていないような感じで38tを選んだ。

「じゃあ、我々は主武装にKar98KとMP18、副武装としてベレッタとC96を使わせてもらおう」

「葛城くんたちは地下で見つけた銃を使ってもらってかまわないから、こっちは使わせてもらうね」

「まったく会長があんな約束をしなければよかったのに」

 英治や宗司はガレージ内の銃や38tと一緒に見つけた銃を選ぶことになったが、雄二だけは少し不服そうだった。

 塁の約束とやらは本当だったらしいな。まあ、そのおかげで自分たちは比較的いい銃を使えるわけだが。

「お前たちはⅣ号で」

 桃がそう言うとみほも「え、はい」と返事した。

「ではⅣ号がAチーム、凛祢たちが歩兵α分隊。八旧式がBチーム、歩兵β分隊がバスケ部。Ⅲ突がCチーム、歩兵γ分隊が歴史男子。M3がDチーム、歩兵Δ分隊が一年生男子。38tがEチーム、歩兵ε分隊が生徒会」

「明後日はいよいよ教官がおみえになる。粗相のないよう綺麗にするんだぞ」

「そういえば教官ってどんな人かな」

「会長も綺麗としか言ってないしな」

 隣にいた八尋と翼は銃をガレージ内にしまいながら言った。

「がっちりしてますねー」

「いいアタックできそうです」

 なんでもバレーにかけるバレー部の声。

「狙撃銃は俺だろ!」

「いやスリーポイントの名手である俺だ!」

「どっちでもいいから早く決めろ!」

 その隣で争うバスケ部。

「砲塔が回らないな」

「像みたいぜよ」

「パオーン」

「戯け!Ⅲ突は冬戦争でロシアの猛攻を押し返したすごい戦車なんだぞ!フィンランド人に謝りなさい!」

「「「すみません」」」

 中のよさそうな歴女チーム。

「ワルサーってかっこ悪くね?」

「あー確かに」

「形が気に入らないな」

「「「剣は銃よりも強し!!」」」

「剣が銃よりも強いわけないだろ。剣なんか使っていたらハチの巣にされるよ」

 その横でワルサーの悪口を言っている歴史男子の三人とそれに反発するシャーロック。

「大砲が二本あるね」

「おっきくて強そう」

 と戦車をみて関心の目を向ける一年生女子。

「主武装はみんなお揃いだな」

「銃ってかっこいいな!」

「俺、実銃さわるの初めてだよ!」

 その横で一年生男子が初めて触る銃に興味津々だった。

「うわ、べたべたする!」

「これはやりがいがありますね」

「これじゃあ中も……うわ。車内の水抜きをして、錆び取りをしないと古い塗装も剥がしてグリースアップもしなきゃ」

 慣れた足取りでⅣ号によじ登り中を確認するみほ。その様子を横で見ている優花里。目が輝いている。

 戦車の洗車をするのは大変だろうな。一台だけならそうでもないが五両もあるとな。幸い銃のほうは今晩中に大洗男子学園の整備部が調整や整備してくれるらしいから。

「じゃあ、俺たちも手伝うか」

「待て男子のみんな。急遽、歩兵道の教官が今日おみえになることになった。よって午後からは女子とは別行動だ」

「なに?」

 生徒会を除く男子全員の足が止まった。

 ふざけるな、いやだという不満の声が聞こえると思ったが凛祢の予想とは違う声が聞こえた。

「まじで?」

「美人な教官にあえるの?」

「やったー!」

 そんな喜びの声を上げる男子生徒たちが凛祢には少し怖くも見えた。

 こいつら正気か?教官がくる……それは歩兵道受講者にとっては授業が地獄に代わるも同然なのだ。

 厳しい訓練内容に、優しさの欠片もない教官の追い打ち、最後まで立っていることもできないほど。

「みんな学園に戻るぞ!」

 英治の声に合わせて男子たちが「了解!」という声を上げた。

「凛祢行くぞ!教官が俺たちを待ってるぜ!」

「お前、歩兵道選択したこと絶対後悔するぞ……」

「凛祢、それってどういうことだ?」

「いいから行くぞ翼!」

 説明する間もなくすぐに学園に戻っていく八尋や翼、その他の男子たち。最後まで残っていたのは凛祢と塁だけだった。

「どうします?」

「戻るしかないだろ。塁、お前も覚悟しておいた方がいいぞ」

「え……はい」

 ため息をつきながら凛祢と塁は学園に戻る男子たちを追った。

 

 

 英治に言われた通り、動ける格好である大洗男子学園の体育着に着替えた凛祢たちは校庭で教官が来るのを静かに待っている。

 教官が拝見する書類を再度確認している生徒会。

 体育着姿に白のパーカー着たアーサー、青色のマフラーを巻いたジル、黒のハチマキをつけた景綱、赤のパイプ煙草を口に銜えたシャーロック。パイプ煙草は本物ではなくプラスチック製のレプリカである。

 円陣を組んでいるバスケ部の四人、「バスケ部ファイト―」と聞こえた。

 一年生の六人は体育座りで会話をしながら盛り上がっている。

 自動車のエンジン音と共に現れたのはATFディンゴ。ドイツ製の歩兵機動車である。

 道路から校庭へと侵入し、ドリフトをしながらATFディンゴは前方数十メートル先で停止した。

 校庭にいた全員が小隊ごとに列となり並ぶ。

 ATFディンゴから降りてきたのは一人の自衛官制服の女性。助手席から降りてきたところを見るともう一人が運転をしてきたようだ。

 女性の容姿と言えばまず先に出る言葉は若く、美人な女性であることだ。

 長く美しい銀髪は後ろでまとめられポニーテール状に。自衛隊制服姿の、その体は上と下で出ているところがしっかりと出ている。

 絵に描いたような美貌の女性だった。

「お前たちが大洗男子学園の歩兵道受講者か?」

「はい。本日はお忙しい中来ていただきありがとうございます。こちらが受講者の名簿と書類になります」

 英治は書類を女性に渡し、深々と頭を下げる。それに合わせて全員が頭を下げた。

 女性も書類を受け取り、数秒間目を通しこちらに目を向ける。

「そうか……私は特別講師の歩兵教導隊。照月敦子(てるづきあつこ)だ。私の訓練に生き残れた時、お前たちは立派な歩兵となり、活躍できるだろう。その日までお前たちは豚だ!私の指導は厳しいぞ、ついてこられるか?!豚共!」

「……え?」

 そんな声を出したのは八尋だった。

「返事はどうした?!豚共!」

 すぐに敦子の声が男子たちの耳を貫いた。男子たちも勢いで「はい!!」と叫ぶ。

「よし、返事だけは一人前だな豚共。お前たちにはこの書類を記入してもらい、すぐに訓練を始める!」

「え?訓練って、そんなの聞いてないですよ!」

「予告はしていないのだから当たり前だ。わかったら三分でこの書類を記入しろ」

 敦子は持ってきた書類とペンを全員に配ると始めの合図として合掌する。

 一斉に書類にペンを走らせる。

 書類の内容は歩兵道経験者であるか、中学校で歩兵道があったか、実銃を撃ったことがあるか、実戦CQC(近接戦闘)の経験があるかなど質問に答えるだけのものだった。

 他には制服のサイズというのも記入するところもある。

 書類を回収し、列の前に敦子が立った。

「では、これより訓練を始める。まず言っておく、私はお前たち全員に公平だ。優等生でも劣等生でも決して見捨てないし対応は変わらない。だから、お前たちは必死に走れ!必死に学べ!必死に敵に向かっていけ!決死の覚悟を持てば誰でも戦場で輝く花となるだろう!」

「はい!!」

「よし、まずはグラウンドを倒れるまで走れ!行け、豚共!!」

「はい!!」

 敦子の声に男子生徒たちは校庭を走る。

「おいおい、どういう冗談だ?」

「見た目とは違って性格はそうとうヘビーだぞ」

 八尋が頭を抱えていた、翼もあの教官にはさすがに堪えたようだ。

「でも、確かに美人な方ですね」

「そうだけどさ!凛祢これも予想してたのか?あの人の訓練で一年間生きてられるのか?」

「安心しろ、死ぬことはない。ただ、教官は授業を地獄は変える」

 どれだけつらいか知っている凛祢はそう言うしかなかった。

「ノーー!!」

「黙って走れ!!」

 敦子の厳しい声が大洗男子学園の校庭に響いた。

 それから敦子の厳しい訓練は続き、休むことすらも許されない過酷な訓練に凛祢たちは無言で耐え続けた。

 

 

 日も傾き、辺りは夕焼け空へ変わり始めた頃……。

 大洗女子学園のガレージ前には、戦車の洗車を終えたみほたちが整列している。

 錆びつき汚れてボロボロだった戦車は、嘘のように綺麗になっていた。

「よし、良いだろう。後の整備は自動車部の部員にやらせる。それでは本日は解散!」

 五両の戦車を見た後、桃がみほたちの方を振り返った。

「はーーい……」

 戦車道の受講者たちは疲れた様子で返事をして返す。

「早くシャワー浴びたーい」

 洗車で汚れた沙織が、愚痴るようにつぶやく。

「早く乗りたいですね」

 優花里がみほに言うと「あ……う、うん」とみほも目を背けて返した。それを見て優花里は首を傾げる。

「ねえ、これから歩兵道の様子見に行かない?」

「え?今から?」

 沙織が思いついたように提案する。

「だって歩兵道の方はもう教官が来てるんでしょ?男子がどんな表情してるか、ちょっと興味あるしー」

「沙織さんったら、また……」

 頬を染めながらそう言う沙織を華が呆れた様子で見ていた。

「でも確かに気になりますね。予定を早めて来て下さった教官の方ですし」

「……うん。じゃあ少しだけ」

 優花里の賛成の意見を聞いて、みほも行くことを決める。

「それじゃあ、男子校へレッツゴーッ!!」

 沙織は拳を空に挙げて、歩き出す。

 

 

 数十分後……。

 シャワーを浴びて、着替えを終えたみほたち四人は大洗男子学園へと辿り着く。

「ここが、男子校かー」

「同じ学園艦ですが私、来るのは初めてです」

 沙織と優花里が大洗男子学園、正門の前で言った。

「そうなんだ」

「歩兵道の授業はどこで行われているのでしょうか?」

 みほと華は周りを見回していると……。

「おい、豚共!休むな、動け!」

 学校中に響くような怒声が聞こえて来た。

「な、なに今の?」

「校庭の方でしょうか?」

「行ってみよ!」

 全員が驚きを隠せない表情だった。

 華が校庭の方を指さすと沙織が走り出す。みほと華、優花里も後を追う。

 そして、そこに広がっていたのは……歩兵道の訓練と思われるものに取り組む男子生徒たちの姿だった。

「まったく、なんてざまだ!お前たちは心技体、全てが足りない。ならば根性で訓練を乗り越えろ!」

 容赦なく罵声を浴びせている敦子の姿だった。

 更に男子生徒たち受けている訓練も決して優しいものではない。

 ある者たちはロープで繫いだタイヤを引きずりながら走っており、ある者たちは小銃を持ってひたすら匍匐前進している。

 またある者たちは数え方が無限ループしている腕立て伏せや腹筋をしており、ある者たちはナイフに見立てた木製のダミーナイフでCQC(近接戦闘)訓練を行っていた。

 どれも本物さながらの兵士訓練である。

「す、凄い。本物の兵士の訓練ばかりですよ!!」

「やり過ぎじゃない?みんな死んじゃうよ」

 興奮してみている優花里とは逆に沙織は少し引き気味な様子を見せる。

「皆さん、辛そうな顔をしてますね」

「ハハハハ……」

 男子生徒たちを見ながら心配をしている華、みほは乾いた笑いを漏らした。

「よし、今日の訓練はここまでだ!」

 敦子がそう言った瞬間、男子生徒たちは一斉に校庭に倒れていく。

「し、死ぬ……」

「……」

「これほどまでに、厳しい、訓練だとは……」

 八尋、翼、塁も大の字になり、息を切らしている。

「きつ過ぎるだろ……」

「流石に……でも、みんなよく耐えましたね」

「根性だけは、あったみたいだな。体力不足って怖いな」

 雄二や宗司、英治も倒れこみながら途切れ途切れに話す。

 そんな中、ただ一人だけは校庭に立っていた。

 唯一の歩兵道経験者である葛城凛祢であった。

 息も切れて、汗も大量にかいているが立っている。

「ほう、よく立っていられるな。お前は何者だ?」

「……葛城凛祢!歩兵道経験者です!」

「葛城凛祢……お前が……そうか。お前たちも葛城を見習え!言っておくが、今日の訓練は初歩中の初歩だ!今後はもっと厳しくなる、覚悟しろ!」

「ええーー?」

「俺、歩兵道やめよっかな」

「もう変更できねーだろ」

 敦子の言葉に、悲鳴を上げる一年生の六人。他にも辛そうな表情をしている歩兵道受講者たち。

 そんな中、ただ一人凛祢は笑みを浮かべていた。

 自分はこの場所に戻ってきた、もう一度歩兵道を始めたのだと。

 

 

 放課後、凛祢とみほたちは学園艦の公園から夕焼けを眺めていた。 

「暁の水平線は学園艦からが一番綺麗だって聞いたことがある」

「へー確かに、とっても綺麗だね」

「ですね」

 自動販売機で買った缶コーヒーを手に凛祢は言った。隣に居たみほと優花里も夕焼け空を眺めていた。

 一方、八尋と翼、塁はベンチに座って休んでいた。三人とも、訓練での疲れから立っているのもきついらしい。

「あんな訓練を受けてなんで葛城くんは平気そうなの?」

「確かに気になりますね」

 沙織と華は凛祢を見て、目を輝かせる。

「別に、ただ毎日自主トレしてるだけだよ」

「毎日しているなんてすごいことですよ。流石、歩兵道経験者ですね!」

「へー、葛城君、歩兵道経験者なんだ。なんかみぽりんと似てるね」

「ああ」

 凛祢の答えに素直に関心する優花里。沙織もみほの肩に手を乗せて言った。

「港はどっちかな?」

「あーそろそろ陸に上がりてーよな」

 みほの後に八尋が言った。八尋と翼、塁がこちらに歩いて来る。

「今度の週末に寄港するって聞いたけど」

「どこの港だっけ?私港々に彼がいて大変なんだよねー」

「それは行きつけのカレー屋さんでしょ」

 沙織の冗談のような発言にツッコミを入れる華。

 やっぱり、沙織って八尋と似てるな。前に八尋も同じようなこと言ってたしな。

「あ、あのよかったら寄り道していきませんか?」

「え?」

「ダメですかね……」

「まあ、いいじゃないですか行きましょうよ」

 優花里をフォローすように塁が言った。

 

 

 優花里についていくと着いたのは戦車&歩兵俱楽部。

 八尋や翼、塁にとっても行きつけの店らしく、この店でサバゲ―用のモデルガンなどを購入したらしい。

 中に入ると戦車や歩兵の書籍、パンツァージャケットにモデルガン、他にもいろいろな商品が置かれた店だった。

「戦車ってどれも同じじゃない?」

「違います!全然違いますー!どの子も個性というか特徴があって……。動かす人によっても変わりますし!」

 優花里は頬を染めながら明後日の方向を見た。

「華道と同じなんですね」

「うんうん、女の子だってみんなそれぞれの良さがあるしね。目指せ、モテ道!」

 沙織は納得したように聞いているようだった。

 多分、伝わってないが言っていることは間違ってないのだろう。

 一方八尋と翼、塁は歩兵の商品が置かれたコーナーにいた。

「うーん、やっぱり実銃と比べるとモデルガンって軽いな。歩兵道やったらモデルガン撃てなくなりそう」

「確かにな……そういえば歩兵道って実弾使ってるんだよな、命中したら危ないんじゃないか?」

「その心配はいりませんよ。歩兵道の試合中は実弾を使いますが歩兵の服も特殊合金繊維で作られた特製制服を着用するので、たとえ戦車の砲弾が当たっても死ぬことはありません。戦車に轢かれても死にませんがいずれも相当痛いです。ですが十分安全には配慮されています」

 塁は初心者でありながら歩兵道の『特製制服』の説明をした。その説明に納得している八尋と翼。

 特製制服。歩兵道連盟によって着用が義務付けられた制服である。塁の説明通り特殊合金繊維によって防弾加工、防刃加工、防徹甲弾加工など様々な防御加工をクリアした制服になっている。また、各部に電極が埋め込まれており一定数値の衝撃、ダメージを感知するとアラームが鳴り戦死判定(失格)となる。また、試合中に気絶した時は瞬時にアラームが鳴るなどの安全の配慮も十分にされている。

 凛祢が戦車商品のコーナーに戻るとテレビのニュースがちょうど変わった。

 その内容は戦車道と歩兵道であり、国際強化選手となった西住まほと黒咲聖羅(くろさきせら)の名前が耳に入った。

 凛祢とみほの目線は同時にテレビに向く。

「勝利の秘訣とはなんでしょうか?」

「諦めないこと。そして……どんな状況でも逃げ出さないことですね」

「勝つための秘訣……強き意思とどんな時でも孤高であることだ」

 西住まほと黒咲聖羅の言葉は他の人間にとってはインタビューの答えにすぎない。しかし、凛祢とみほにはその言葉が胸に突き刺さるような言葉だった。

 凛祢とみほはテレビから目を逸らしてしまう。

「そうだ、これからみんなで凛祢の家に遊びにでも行かないか?凛祢の家なら広いから全員で行けるし!」

「ああ、それいいかも!みぽりんも行こ」

「私も行ってみたいです」

「え……でもいいんですか?」

「ああ、構わないけど」

 八尋の提案に沙織の押しも重なって全員で家に来ることになってしまった。だが、今だけは八尋と沙織に感謝すべきだなっと思った。

「あの私も行っていいでしょうか?」

「当たり前だろ、塁も来るだろ?」

「行きます!」

 優花里と塁も含めた二年生チーム、八人で凛祢の家に向かった。

 

 

 大洗の商店街で晩御飯の買い物をして住宅街を歩いて行く。

 葛城家の門をくぐり全員を畳部屋に案内する。

「お邪魔しまーす」と言いながら入っていく。

「へー葛城君の家って広いねー。もしかしてお金持ち?」

「いや、朱音はそうでもないと思うけど」

 沙織は家の中を見回している。

「朱音さんって?」 

「育ての親だけど、今は仕事で留守にしてる」

「すみません、余計なことを聞いてしまって」

 華は深々と頭を下げた。

 他人にとって実の親がいないことは結構デリケートな話だと思われがちだが自分としてはあまり気にしていない。

「え?ああ、気にしなくていいよ慣れてるし」

「じゃあ作ろっか、葛城君台所借りるね。花はジャガイモの皮むき」

「ああ、手伝うけど」

「いいよ男子のみんなは歩兵道の訓練で疲れてるでしょ。今日はゆっくりしてて」

 沙織の言葉に八尋と翼、塁はテーブルを拭いたりして待っていた。

 優花里は鼻歌を歌いながら飯盒や皿を大きめのリュックサックから出していく。

「なんで飯盒?」

「いつでも野営できるように」

「秋本さん、サバイバルスキル高いですね!」

「いやーそれほどでも」

 塁に褒められ照れている優花里。

 いつでも野営できるようにしておくことって褒めるべきことなのかはわからないが塁にとってはそうなんだろうな。

「きゃ!すみません、花しか切ったことないもので」

 声と共に華の方を見ると指から少量の血が流れていた。包丁で切ってしまったのだろう。

「あー絆創膏はどこだったかな……」

「私、持ってるから使って」

 みほが鞄から絆創膏を出して花に渡した。

「みんな意外と使えない」

「ダメっぽいから俺も手伝うよ」

 沙織はため息をついて眼鏡をかける。

 凛祢もブレザーを脱いで腕をまくる。

「「よし」」

 

 

 数十分後、畳部屋のテーブルには肉じゃがや市販の刺身などの料理がならんでいた。

 全員が「いただきます」の声を合図に食事を始める。

 結局のところ、ほとんどの調理を行ったのは沙織と凛祢だった。

 ほぼ一人暮らしの家事スキルがこんなところで役に立つとは。

「うめー!」

「男を落とすには肉じゃがだからねー」

「確かにうまいな」

 肉じゃがに手をつけていく八尋と翼。作った本人、沙織も得意げな顔をしている。

「落としたことあるんですか?」

「何事も練習でしょ!」

「ていうか、男子って本当に肉じゃが好きなんですかね?」

「都市伝説じゃないですか?」

「そんなことないもん、ちゃんと雑誌のアンケートにも書いてあったし」

 沙織はそっぽを向き、負けじと発言を続ける。

「俺は肉じゃが好きだけど」

「俺も好物だけど」

「僕もです」

 八尋に続き翼と塁も肉じゃがが好物ときた。

 フリとかじゃなく本当なんだよな。

「お花も素敵」

「ごめんなさい、これぐらいしかできなくて」

「まあ気にすんなよ。人には得意不得意があるし。花があると部屋が明るくなるし」

 少々落ち込んでいる華に凛祢は言った。

 一時間ほどで食事を終え、全員で後片づけをした。

「あの葛城さん。あの写真は?」

 みほは凛祢の部屋の仏壇を見た。

「ああ、孤児だった俺を朱音と一緒に拾ってくれた女……周防鞠菜、俺に歩兵道をさせた女でもある」

「そうだったんだ……鞠菜さんが」

 みほは写真を見た後に手を合わせてそっと目を閉じた。

「ありがとう、手を合わせてくれて。鞠菜は嫌われ者だったから、親族もあんまりきてくれないからな」

「いえ、これくらいでもできてよかったです」

 それから数十分後みんなは帰り支度をして外に出た。

 遅くなった為、凛祢たちはみほたちを寮と家まで送りに出る。

 偶然、八尋は沙織と、翼は華と、塁は優花里と家が近所だったため送ることとなり、凛祢はみほを送ることとなった。

「それじゃーな凛祢!」

「おやすみなさーい」

 それぞれが自宅へと向かて行った。

「俺たちも行くか」

「はい……」

 二人はゆっくりな足取りで女子寮へと向かう。

 途中会話はなく、静かに歩いていた。

「ここで大丈夫だから」

 寮の入り口に到着しみほは凛祢にそう言う。

「そうか、それじゃあまた明日。おやすみなさい」

「はい、おやすみなさい」

 みほと別れると凛祢も自宅に戻ろうと歩き出す。

「……」

 みほは去っていく凛祢の背中を見ながら、何かを言うべきか、言わざるべきか迷っている様子を見せる。

「あ、あの!葛城くん!」

 やがて決心して凛祢を呼び止める。凛祢も呼ばれてみほの方を振り向く。

「……?」

「やっぱり私、この学園艦に転校してきてよかったよ!」

 みほは笑みを浮かべて凛祢に向かって言った。

 それを聞いた凛祢も笑みを浮かべ手を振った。

 

 

 その頃、大洗女子学園ガレージ内では自動車整備部が戦車を修理を始めていた。

「ホシノー、レンチとってー」

「はい」

「その配線は左の方に繫いで」

「はいはーい」

 繋ぎ姿の大洗女子学園自動車部のメンバー。

 ショートヘアのナカジマ、褐色肌に高身長のスズキ、セミショートヘアにランニング姿のホシノ、肌にそばかすのある少女ホシノがボロボロの状態の戦車を整備していた。

「やっぱり明後日までに直すのは厳しいんじゃないの?」

 ホシノがスパナを回しながら言った。

 いくら自動車部が整備と修理能力が優れていてもそれは自動車に限った話。いくら戦車が車でも直すのには時間も資材も足りないというものだ。

 更には五両を四人で仕上げろと言われたら厳しかった。

「会長も人使い荒いな」

「ああー、今夜と明日は徹夜かなー」

 ナカジマが言うと、スズキもため息をついた。

 するとガレージの開く音と共に男の声が響いた。

「ナカジマ―、手伝いに来たぞー!」

「や、ヤガミ?どうして?」

「いや、会長に銃の整備と調節が終わったらこっちでナカジマたちを手伝えって言われたから」

 ヤガミと呼ばれる作業着姿の青年は手に持った銃入りの鞄をガレージ内の元あった場所に戻す。

 その後ろにいる作業着姿の二人もガレージ内に入る。

「ふーん。手伝ってくれるのはありがたいんだけど君たちは?」

「大洗男子学園整備部、部長の八神大河(やがみたいが)。三年生だ」

「同じく整備部、氷室大地(ひむろだいち)。三年生」

「同じく整備部、山本健太(やまもとけんた)。一年生です、ヤマケンと呼んでください」

 ホシノの質問に自己紹介を始める三人。

 紅玉のような赤い瞳と白髪が印象的な八神大河。

 上着を腰に巻いて眼鏡が印象的な氷室大地。

 一本のアホ毛が目立つ山本健太。

「整備部のヤガミにヒムロ、ヤマケンか。助かるよ、七人でやればきっと終わる」

「ああ、なんでも手伝う。色んなものの整備をしてきたから車でも十分に手伝えると思う」

 ホシノは三人の名前をすぐに呼んだ。

「それじゃあ時間もないしみんなやるよ!」

「「「「「「おーー!!」」」」」」

 ナカジマの掛け声と共に戦車の修理を始める。

「ありがとね、ヤガミ」

「幼馴染なんだからそういうのはなしだろ」

「そうだったね、頑張ろう」

 ナカジマとヤガミはそんな会話をしながら整備を続ける。

 

 

 

 翌日。午前の授業から歩兵道の授業は始まった。

 敦子は昨日と同様の制服姿で現れ、歩兵道受講者をスクリーンとプロジェクターのある多目的教室に集めていた。

 全員に参考書を配り、さっそく説明を始める。

「本日は歩兵道における重要な要素の一つ。兵科についての説明を行う」

 マイクを片手に、パソコンを操作する。

 すると、スクリーンの画面には歩兵の姿が映し出された。

「まずは偵察兵だ。敵の動きを偵察することを主な任務とした兵科だ。軽装備ではあるが機動力を活かして戦えば十分に渡り合える。だが、軽装備故に装甲戦闘車両等の目標に対しては無力と言わざる得ない。主な武装は軽機関銃、散弾銃だな」

 映像はまず双眼鏡を持った歩兵を映し出した。その後、軽装備と機動力を活かした偵察兵の戦闘シーンも映し出す。

「次に砲兵だ。これは対戦車戦闘を専門とした兵科だ。攻撃力の高さとある程度の機動力を持つので、対戦車戦闘では中心となる存在だ。但し歩兵に対する迎撃能力は低いため敵の歩兵に肉薄されると弱い。主な武装は対戦車ロケット投擲砲や無反動砲」

 映像が切り替わりパンツァーファウストで敵洗車を撃破した対戦車兵が映し出された。

「次は工兵だ。トラップの設置や戦車の移動を補助する工事、陣地の構成等を行う特殊な兵科だ。一見地味だが戦場における最も難しい兵科だ。弱点は直接戦闘能力に乏しいことだ。主な武装は爆薬全般だ」

 映像が切り替わりC-4爆弾を使って岩を破壊する工兵が映し出された。

「次は狙撃兵だ。名前の通り狙撃を専門とする兵科だ。息を潜めて敵を狙い、確実に狙い撃つ。更に対戦車ライフルを使えば戦車にもダメージを与えることができる。隠密性が重視されるため発見されたら偵察兵より危うくなってしまうから注意が必要だ。主な武装は狙撃銃と対戦車ライフルだ」

 映像が切り替わり、対戦車ライフルで戦車の転輪を破壊している狙撃兵の姿が映し出された。

「最後に突撃兵だ。これは歩兵の主となる兵科だ。他の兵科のあらゆる武器を使えるため、幅広い戦術が展開できる。だが、うまく立ち回らなければ器用貧乏になりやすい。拳銃とナイフ、投擲武器といった近接戦闘用装備は共通武器として全兵科が装備できる」

 映像が切り替わり、突撃銃やナイフによる戦闘を行う突撃兵の姿が映し出される。

「以上が歩兵道における兵科の説明だ。希望は取るが、どの兵科にするかは、本日の射撃訓練、戦闘訓練の結果を見て、適正と共に決める。質問はあるか?」

 敦子がそう言うと教室内の明かりがついた。

 歩兵道受講者は参考書を読んだ後に「ありません!!」と叫ぶ。

「では、早速訓練に移る。全員演習所まで走れ!」

 掛け声と共に全員が演習所を目指して走っていった。

 

 

 午前の歩兵道学科と武器訓練、戦闘訓練を終えて各自の兵科が決まった。

 偵察兵。坂本塁、緑間雄二、九条漣、一ノ瀬淳、ジルドレイ、景綱、黒田アキラ、葉山翔、柿崎礼、沼倉歩、十名。

 砲兵。零名。

 工兵。葛城凛祢、一名。

 狙撃兵。坂上翼、相川英治、枢木迅、三名。

 突撃兵。先導八尋、石田宗司、円藤辰巳、アーサー、シャーロック、梅本亮、城島銀、七名。

 という振り分けになった。

 

 

 昼休みになり凛祢たち四人は学園の食堂に来ていた。

 食券を買うため、列に並ぶ。が、前の黒髪の男は食券売り機の前で何度もポケットを探っている。

「おい、お前。さっさと買えよ」

 八尋が我慢できずに声をかける。

「あ?わかってるよ!」

 そう言って男はまたポケットを探る。

 しかし、財布が現れることはない。

「なあもしかして、財布忘れたのか?よかったら貸してやろうか?」

「なに?いや、財布を忘れてなんかねーよ!」

「じゃあ、さっさと買えよ。みんな並んでるんだよ」

 翼も男に向かって言った。

「……くっ!」

「いいから使えって。明日にでも返してくれればいいから」

 凛祢は財布から千円札を一枚出して渡した。

「っ!……この借りはいつか返す」

 舌打ちした後、小さく言うと男は受け取った千円札できつねうどんの食券を買って去っていった。

「なんだあいつ?むかつくな」

「ほっとけよ、あんなやつ」

「午後も歩兵道の授業だから急いだほうが……」

 塁の声に凛祢たちはさっさと食券を買って、食事を始める。

 

 

 午後からの授業は昨日と同様の訓練と兵科ごとに別れた訓練となりそれぞれの訓練を行っていく。

「葛城、お前はチームの中で唯一の経験者だ。それをよく考えて行動しろ」

「はい!」

 凛祢は敦子相手にCQC訓練を行っている。敦子は涼しい顔をしているが凛祢は砂で汚れ、息も荒くなっている。

「ナイフ戦闘の腕は悪くない。だが、実戦の戦闘はもっと速い!もっと早く打ち込め!」

「はい!」

 凛祢のナイフ戦闘術は一般のナイフ戦闘術とは少しだけ違い鞠菜が使っていた癖付きのナイフ戦闘術である。

 鞠菜から教わったことによって彼女の癖も吸収してしまったがむしろそれが役に立つこともあった。

 CQCは兵士にとっては最も多用される戦闘術であり、鞠菜自身は軍人の頃、狙撃兵だったらしいがCQCを使う場面は数えきれないほどあったっと言っていた。

 凛祢自身もCQCに関しては少しだけ自信がある。

「よし、残り五分。一度でも私に当ててみろ!」

「はい!」

 敦子の掛け声を合図に二人の訓練の速さは増した。

 凛祢は必死にダミーナイフで打ち込むが全て片手で受け流され、避けられる。

「くっ!」

「大振り過ぎだ……」

 凛祢は腕を伸ばしダミーナイフを突き出すが敦子はすらりと避ける。

 隙ができた凛祢にすかさずダミーナイフを向ける敦子。

 しかし、凛祢は右手で敦子の攻撃を受け流した。少々驚きの顔を見せた敦子にダミーナイフを振る。

 が、ダミーナイフの刀身は敦子の右手に白刃鳥された……次の瞬間、敦子は凛祢の腹部を蹴った。

「うぐっ!……体罰だろ」

 凛祢は痛みに顔を歪ませその場に伏せる。

「今の動きはよかった。あと、痛みに耐えてよくナイフを離さなかったな」

「……」

 凛祢の左手の中にはダミーナイフが握られている。

 戦闘中に武器を失えば、それは無防備を意味する。だからこそ、痛みに耐えてでも武器は離さない。

「私の真似をして、片手で攻撃を受け流したのは誉めてやろう。だが、まだまだ甘い」

「はい……」

 凛祢は体操服に付着した砂を落として返事をする。

「よし、今日はここまで。各自訓練を終了しろ!」

 敦子の叫びに昨日と同様に次々に倒れていく歩兵道受講者たち。

「そのままでもいいから聞け、明日は戦車道の方も教官が来る。そこでお前たちと戦車道の生徒たちの合同訓練を組んである。なので各自、今日はしっかり休め!」

「はい!」

 戦車道受講者たちは精一杯の声を出した。

「では、解散!」

 片付けの当番である凛祢たち二年生チームがダミーナイフやマラソン用のタイヤを用具倉庫にしまう。

「あー明日は合同授業かー」

「一体どんなことするんでしょうか?」

「座学じゃないか?合同での戦闘訓練は流石に無理だろ」

 八尋や翼が体を伸ばしながら話す。

「ああー確かにな。でもあの教官ならやりそうじゃね?」

「やるかもな、歩兵道の教官だしな」

 凛祢は夕暮れ空を見上げて言った。

 こうして歩兵道二日目の訓練も終了していった。

 

 

 それぞれの兵科が決定された翌日。

 戦車道受講者と歩兵道受講者たちは大洗女子学園校庭のガレージ前に集合していた。

 みほも遅刻ギリギリであったが到着し、全員が揃う。

「遅いから心配しましたよ」

「寝過ごしちゃって」

 華が心配した様子で言うとみほは頭を掻きながら答える。

「遅刻ギリギリとは……豚共を見習え、根性しかないが時間は守る者たちだ」

「はい……」

 みほは敦子の言葉に落ち込んだ様子で返事をする。

「いくらなんでも言いすぎだろ」

「ちょっとひどいですね」

「おい、聞こえるとまずいから黙ってろ」

 八尋と塁の小声の会話に翼がやめるように言う。

「俺たちも遅刻ギリギリに来たらあれ以上に怖いことになる」

「マジかよ……うー、こえっ!」

 凛祢も小声でそう言うと八尋は肌を震わせる。

「それにしても教官遅ーい。焦らすなんて大人のテクニックだよねー」

「まったく、蝶野のやつ時間も守れないのか」

 沙織が言うと敦子は腕時計で時間を確認する。

 すると空からジェットエンジンの甲高い音が校庭中に響いた。

「おー飛行機じゃん」

「敵襲か?!」

 景綱に続いてカエサルの声が聞こえる。

 巨大な飛行機は航空自衛隊のC-2改輸送機だった。

 C-2改は低空飛行しながら大洗女子学園上空で後部ハッチを開く。

 すると開かれたハッチから「戦車」と「コンテナ」が射出される。

 そのままパラシュートを開き、学園駐車場に減速しながら着地する。

 戦車は10式戦車。陸上自衛隊の最新鋭の主力戦車。

 コンテナの方は高さは三メートル程の貨物輸送用のコンテナだった。

 火花を散らしながら駐車場を滑っていった10式戦車は、真っ赤なフェラーリF40を跳ね飛ばし停止する。

「学園長の車が?!」

「あーやっちったねー」

「ひでぇことするぜ!」

 柚子と雄二は思わず声を上げ、隣にいた杏は干し芋を食べながらつぶやく。

「学園長同情するよ」

「保険入ってんのかな?」

 シャーロックとアーサーがフェラーリを見て言う。

 停止した10式戦車は一度バックすると履帯でフェラーリを踏み潰した。

「もうやめろよ、学園長に恨みでもあんのか?」

「てか、あのコンテナってなんでしょう?」

 八尋に発言に続いて塁がフェラーリの奥のコンテナを指さす。

 10式戦車は方向転換し、駐車場越しにこちらまで走行する。

 そして、キューポラのハッチが開いたかと思うと、制服姿でヘルメットを被った人物が姿を現す。

「こんにちはー!」

 その人物が挨拶をしながら、ヘルメットを取ると敦子とは異なるショートの黒髪を見せた。

 やがて戦車道受講者と歩兵道受講者が整列すると、その前に歩兵道教官敦子と自衛官の女性が立つ。

「騙されたー」

「でも、素敵そうな方ですよね」

 カッコイイ教官が来ると聞いていた沙織は落胆した様子を見せ、華がそうフォローを入れる。

「特別講師の戦車教導隊、蝶野亜美一尉だ」

「よろしくね」

 桃に紹介された女性自衛官……蝶野亜美がみんなに向かってそう言う。

「戦車道は初めての方が多いと聞いていますが、一緒に頑張りましょう」

 そう言って戦車道受講者たちの顔を確認するように見回す。

「あれ?西住師範のお嬢様ではありません?」

 すると亜美の目線はみほで止まり、話しかける。

「あ……」

「師範にはお世話になっているんです。お姉様も元気?」

「あ、はい……」

 亜美の言葉に若干辛そうに返事をするみほ。

「西住師範って?」

「有名なの?」

 亜美の言葉を聞いた生徒たちがざわめきだす。

「西住流っていうのはね、戦車道の流派の中でも、最も由緒ある流派なの」

「……」

 戦車道受講者たちに説明するがやはりみほの顔は辛そうだった。

「おい、蝶野。人様の家の事をベラベラと話すな、お前の悪い癖だ」

 敦子が話を遮るように言った。

「それもそうね。それはそうとあなたの無理強いを聞いた方の身にもなりなさいよね!」

「仕方ないでしょ、実弾を使う訓練には特製制服が必要だったんだから」

 亜美に言われるが敦子も腕を組んでそう言う。

「そっちの生徒は歩兵道の生徒ね、照月敦子の教え子ってわけね」

 そう言って歩兵道受講者の顔を確認していく。

「ふーん、そういうことね。あなたが大洗男子学園の歩兵道の授業を引き受けた理由がわかったわ」

 亜美は凛祢の顔を見てからそう言った。

 どうやら蝶野亜美も自分のことを知っているようだ。

「それより、早く授業を始めるわよ」

「はいはい、それじゃあ本格戦闘練習試合を始めるわ」

「え?」

「なに?」

 亜美の言葉にそれぞれが驚きの表情を見せていく。

 っということはあのコンテナの中身は歩兵道用の特製制服や弾薬か……。

 凛祢は瞬時にコンテナに目を目を向ける

「あの、いきなりですか?」

「大丈夫よ、何事も実戦実戦。戦車なんてバッーと動かしてダッーと操作してドーンと撃てばいいんだから!歩兵の方も、同じよ!」

 柚子の問いに擬音混じりに返答する。

 あの人、あんなのでよく教官でいられるな。

「歩兵道の生徒はコンテナ内の特製制服に着替えろ。実弾を扱い危険だから、心して取り掛かれ!」

「了解!」

 歩兵道受講者たちは大きく返事をして、コンテナに向かっていく。

 歩兵道連盟貸し出し用である迷彩柄の特製制服に着替えるとそれぞれ拳銃をベルトのホルスターにしまっていく。

 凛祢はコンバットナイフをベルトの鞘に収納しC-4爆弾の入ったバックパックを背負う。

「凛祢、銃は?」

「ないけど、射撃はあんまり得意じゃないし」

「はー?そういう問題じゃ無くね?」

 八尋はそう言ってP90を持ち上げる。

「先導の言う通りだ葛城。いくら工兵とはいえ拳銃くらいは持っていけ、当たらなくても牽制になればいい」

「はい……」

 敦子にそう言われ凛祢はファイブセブンに実弾入りの弾倉を入れホルスターと共にベルトに装備する。

 見た感じ整備は行き届き、使用するうえで支障はないようだった。

「みんな、随伴する分隊分けは一昨日に言ったとおりだ」

「それぞれ緊張感を持って行動してください」

 英治と宗司もそれぞれの主武装を肩にかけて言った。

「それじゃあそれぞれ小隊ごとに指定の位置に向かえ」

 雄二の声に合わせてε分隊、Δ分隊、γ分隊、β分隊、α分隊は指定されたスタート地点に向かうため別れる。

 戦場の場所は演習所にも使われ、38tを発見した山林。

 スタート地点で随伴する戦車が現れるのを待っている。

「で、大丈夫なのか?」

「本当に実戦訓練になったぞ、おい」

 P90を持つ八尋とバリスタを持った翼が木に寄りかかりながら言った。

「それで、分隊長はどうしますか?」

「「凛祢で」」

「なんでだよ」

「「経験者だから」」

 八尋と翼は息ぴったりで凛祢に目線を向ける。

 FALを持った塁も賛成だと言っている。

 凛祢はため息をついた。

 分隊長はあんまりやりたくなかった、プレッシャーがかかるし指示はあまり出したくない。

 そんな話をしていると随伴するべき戦車、Ⅳ号がこちらに走行してくる。

「みんなスタート地点に着いたようね。ルールは殲滅戦、全ての戦車を走行不能にするだけよ」

「そして歩兵は攻撃してくる戦車と歩兵から自分の戦車を守り抜け。歩兵は失格になろうと負けにはならんが、戦車が走行不能になればそれまでだ。つまり、歩兵は戦車を守る盾であり、戦車は敵を倒す剣だ!その役割を全うせよ!」

 歩兵のインカムと戦車内女子の通信機から亜美と敦子の声が聞こえた。

「戦車道、歩兵道は礼から始まり礼に終わるの」

「一同!礼っ!」

「よろしくお願いします!」

 戦車道受講者と歩兵道受講者は礼をしながら挨拶をする。

「「試合開始!」」

 亜美と敦子の合図で、試合が開始される。

 

 

 Aチーム&α分隊。

「どうするんだ?」

「自分たち以外は敵だから無闇に動き回るのは得策じゃない、武部さん」

 凛祢は通信を沙織に繫ぐ。

「ん、なに?」

「作戦はあるのか?」

「あるわけないじゃん」

「そうか……最高指揮権は車長にあるからなにか作戦があったら聞きたかったんだけど」

 凛祢は通信を聞いて思わずため息をつく。

「葛城さん、今の位置からなら八旧式とⅢ突が近いですけど……」

「それもそうだ――」

「作戦ってわけじゃないけど真っ先に生徒会潰さない?教官、女の人だったんだもん」

 みほの意見を聞いて作戦を出そうとしたとき沙織によって遮られる。

「え?」

「あー生徒会か。まあいいんじゃね?」

 みほは思わず沙織を見た。

 八尋もP90の安全装置を外し射撃可能状態で言った。

 何の戦術も戦略的判断も無く、個人的な感情で判断するのは流石にまずいと凛祢とみほは思った。

「まだ言ってるんですか?」

「私が決めていいんでしょう?車長なんだから」

 運転席の華も呆れたように言うが、沙織は強引に決めようとする。

「う、うん……」

「……そうなんだが」

 その言葉に従うしかなかったみほと凛祢は引き下がる。

 歩兵である自分たちが臨機応変に対応すればなんとか……。

「決まったみたいだな」

「葛城殿、大丈夫でしょうか?」

「危なくなったら俺に従ってくれ」

「え……了解です」

 翼も狙撃銃のスコープをチェックしながら言った。凛祢は耳元で言うと塁も小声で返事をする。

 凛祢や塁、みほが少なからず不安を抱きながら行動を始めていく。

「じゃあ、生徒会チームの居る方へ前進!……で、どっち?」

 自分で命令しておきながら、そう尋ねる沙織。

「Eチームとε分隊は……」

 塁が地図を見ながら位置を教えようとした時だった。

 不意に何かに気づいた凛祢は塁の姿勢を強引に低くさせ叫ぶ。

「伏せろ!」

 その声と同時に八尋と翼もしゃがみ込む。すると、多数の銃弾が次々と上部を過ぎていく。

 実弾の飛んできた方向にはβ分隊、偵察兵である漣と淳、二人の姿があった。

「くっ!奇襲か!」

「翼、行くぞ!」

「了解だ」

 凛祢の声を聞いて、八尋は声を合図に二人に向かって走り出す。翼もその場にうつ伏せになりスコープ越しに漣を見る。

「待て!八尋!」

「大丈夫だって!」

 八尋は凛祢の指示を聞かずにP90を発砲する。銃弾は淳の腹部に命中し、痛みにしゃがみ込む。

 瞬時に漣が八尋に狙いを定めるが翼が放った銃弾が肩部に命中し、ひるんだ。

 二人の偵察兵だけ?残りの二人と八九式はどこに?凛祢は無言で周りに目を向ける。

「俺たちでも十分やれるぜ!」

 八尋は漣に向かって更にP90を発砲する。銃弾が命中し、漣が倒れこむと特製制服から戦死判定を告げるアラームが響く。

「ぐっ!」

「よし、次は――」

 漣がうめき声を上げ、八尋が淳に銃口を向けようとした瞬間、発砲音と共に銃弾が手元からP90を弾き飛ばした。

 それと同時に、Ⅳ号の履帯を砲弾が掠める。

 凛祢は砲弾の飛んできた方向に目を向けた、そこにはBチームの八九式の姿があった。

「ッ!マジかよ!」

 八尋は手の痛みに耐えながら一歩ずつ後退する。

「凄い音……」

「今、空気震えたよ」

「こんなスパイク、打ってみたい……」

 八九式の車両内ではバレー部の装填手の忍、通信手の妙子、砲手のあけびが初めて見聞きする砲撃の音と、振動に驚きの顔を見せていた。

「まずはⅣ号とアルファ分隊を叩く!」

 バレー部キャプテンの車長兼装填手、典子が次弾を装填する。

 またも発砲音が響いた瞬間、銃弾が八尋の右足を撃つ抜く。特製制服によって弾は貫通しないが痛みはあり、八尋はその場に転んでしまう。

「痛っ!やべっ!」

 その隙を見て、淳が百式軽機関銃前期型を構え、撃つ。

「ぐあー!」

 数秒間放たれた銃弾の多くは八尋に命中した。

「八尋!」

 叫ぶ翼、瞬時に地面に一つの手榴弾が投げ込まれた。

 いち早く気づき、凛祢と塁はⅣ号を盾に隠れる。

「しまっ――」

 爆発した手榴弾は翼を巻き込み轟音を立てる。

 同時に八尋と翼の戦死判定アラームが鳴り響く。

「くっ!やられた、歩兵を二人も失って、こちらの歩兵戦力は大幅ダウンした!」

 凛祢はそう言いながら電管付きのC-4爆弾を一つ地面に置く。

「塁、応戦を――」

「こわーい!逃げようっ!!」

 凛祢の声をかき消すように通信機から沙織の声が聞こえる。

 それと同時にⅣ号が発進する。

「ええ?」

「だって怖いんだもん!みんなも逃げてー!」

 沙織の声を聞き、二人はアイコンタクトを取って走る。

 が、凛祢はまた何かに気づき足を止める。

 数発の銃弾が目の前を過ぎ、木の幹に命中した、凛祢はコンバットナイフとファイブセブンを抜き構える。

 草むらからβ分隊、分隊長の辰巳が姿を現し、二人のナイフがぶつかる。

 百式軽機関銃を持っていないところを見ると、CQCの方が有効だと思ったようだな。だが、相手が悪かったな。

 低い金属音を上げながら震えるコンバットナイフ。

「さすが、やりますね」

「こんなにも早く全員で奇襲をかけてくるとは」

「バスケで速攻は得意ですから!」

 そう言って軽く笑みを浮かべる辰巳。

 おそらく、八尋を狙った狙撃もβ分隊か……。

 次々とコンバットナイフを突き出す辰巳。

 凛祢はすべて受け流し一歩ずつⅣ号の進む方に後退する。辰巳の数百メートル後方からはβ分隊の淳と迅、八九式が迫ってくる。

「もういいだろ……」

 凛祢は迫り来るコンバットナイフを持つ手を避け、右手のファイブセブンを近距離で発砲する。

 発砲音と共に二発の弾は辰巳の太ももに命中する。

「痛い!」

 そんな声を上げる辰巳の腹部を蹴り飛ばす。

 凛祢は全力で走りながらファイブセブンをホルスターにしまい、ベルトのリモコンを掴む。

 ベータ分隊と八九式が負傷した辰巳に追いついたと同時に辰巳の足元に置かれたC-4爆弾が爆発した。

「なになに?」

「やられた、罠か!」

 妙子と典子の声がバスケ部のインカムから響く。

 八九式の右側を走っていた淳は無事だったが辰巳と迅からは戦死判定のアラームが鳴る。

「悪い……俺のせいで」

「いや、まだだよ私たちは負けてない!」

 典子がそう言うと八九式はⅣ号を追いかけるため前進を始める。

 数分ほど走りⅣ号に追いつく。

 

 

「……目標は東へ向かって逃走中、随伴の歩兵は二人だけ。後ろからは八九式が追ってるね」

「これはⅣ号を倒せるチャンスだな」

 木の上で双眼鏡越しにⅣ号の動きを観察するジルと景綱。

「まずはⅣ号だ、秘密協定は締結済み」

「二対一とは騎士としてどうかと思うが、賽は投げられた!」

 ジルと景綱のインカムからⅢ突の車長であるエルヴィンとγ分隊の分隊長であるアーサーの声が聞こえた。

 

 

「分かれ道だけど左からは来てるよ!」

 Y字の分かれ道に差し掛かるが左の道からはⅢ突が前進している。

 沙織はまた頼りない声を出す。

「連戦かよ!後方からは八九式が近づいてくる、右だ!」

 凛祢はインカム越しに沙織に言う。

「獲物を捉えた!」

「南八幡第五冊!」

 装填手であるカエサルと操縦手のおりょうがⅣ号に向かって叫ぶ。

「敵は二人と一両、ここで仕留める!」

 ジルもワルサーMPを手に叫んだ。

「挟まれた!あっちに逃げよう!」

「聞こえません!」

「右斜め前!」

「塁、Ⅳ号に掴まれ!」

 操縦手である華の右肩を蹴り、沙織が叫ぶと凛祢と塁はⅣ号によじ登る。

 同時にⅣ号は全速力で前進する。

「凛祢殿、これを」

「な、翼のバリスタ?」

「回収しておきました」

 塁は肩にかけていたバリスタを凛祢に見せる。

 よくあんな状況で拾えたもんだと関心する。

 バリスタを見て、ないよりはマシかと思い受け取った。

「八尋と翼がいない以上俺たちだけで戦うしかない。気を引き締めろ」

「はい!」

 塁は凛祢の声にしっかりと返事する。

 みほはⅣ号側面の窓から顔を出してなにかに気づき叫ぶ。

「あぶない!」

 凛祢も目線を前方に向けるとⅣ号の進む先には大洗女子学園の制服を着た女子生徒の姿があった。

 本を頭に乗せ、寝っ転がっているところを見ると読書していて眠ってしまったってところだろう。

「西住、あの子を回収しよう。ここにいたら危険だ。時間は俺と塁で稼ぐ」

「わかりました」

 凛祢はそう言うと手を離し、地面に着地するとバリスタを握り直し戦闘態勢に入るのだった。




凛祢は完全にオリジナルの存在ですが他のキャラは少なからずガルパンの生徒を鏡写しの男化したものです。
読んでいて不快になったら申し訳ございません。
これからも続きを書くので読んでもらえると嬉しいです


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第3話 聖グロリア―ナ女学院、聖ブリタニア高校

三話まで書いて気づくこと、執筆って大変です。
それでも書いていて楽しい、これにつきます。
読んでもらえるだけで嬉しいです。



 戦車の砲を放つ轟音が響く演習場。

 分かれ道を抜けて、凛祢と塁は戦闘態勢に入っていた。

 塁は急いで電管付きのC-4爆弾を地面に置く。

 Ⅳ号は寝っ転がっていた少女の前で停止する。

「危ないからこっちに……あ、今朝の」

 みほは声をかけるが見覚えのある顔に驚く。

 寝っ転がっていた黒髪の少女は今朝みほが助けた少女、冷泉麻子だった。

「ん?麻子じゃん」

 キューポラのハッチを開き、沙織が顔を出した。

「沙織か……」

 麻子も沙織を見て、表情一つ変えずに呟く。

「お、お友達??」

「うん、幼馴染。何やってんの、こんなところで?今授業中だよ」

「知ってる」

 平然と麻子は答える。

 すると後方からの至近弾が地面を抉る。

「まだか!もう、射程距離に入ってるぞ!」

 凛祢はインカム越しに叫ぶと使い慣れない狙撃銃バリスタを撃つ。

 同時に塁が煙幕手榴弾を二つ投擲する。煙幕手榴弾から大量の煙が立ち込めた。

「あの!危ないから中に入ってください!」

「わかった……」

 みほに言われ、麻子は沙織と共にⅣ号車内に乗り込む。

「葛城さん!後退してください!」

「了解!全速後退だ!」

「はい!」

 みほの声を聞いて凛祢と塁は低い体勢で八九式とⅢ突を背に走っていく。

 

 

「くっ!煙幕か!」

「気にせず撃て!弾幕を張れば勝手に当たる」

 Ⅲ突の車長であるエルヴィンが顔を出して叫ぶが、β分隊の分隊長であるでアーサーが冷静な表情で言った。

「僕とシャーロックは左右の草むらから強襲を掛ける、淳とジル、景綱はⅢ突と八九式を援護しつつ前進だ!」

 アーサーの指示を聞くとジル、景綱が一斉にワルサーMPを撃つ。

 

 

 状況はいいとは言えない、むしろ不利な方だ。せめて歩兵がもう一人いれば……。

 凛祢は渋い表情で必死に作戦を考える。

「ううー、酸素が少ない……」

「大丈夫ですか?」

 調子の悪そうな麻子を見て優花里は心配そうに声をかける。

「麻子、低血圧で……」

「今朝も辛そうだったもんね」

 みほは今朝の事を思い出しながら言った。

「麻子と会ったの?」

「うん」

「あーだから遅刻ギリギリだったんだね」

 沙織はみほに向かって言うと轟音とともに戦車内が大きく揺れた。

「もーやだー、どうすればいいのよー!」

 頭を抱えて叫ぶ沙織。

「前方に吊り橋があるぞ!どうする?」

 凛祢はインカムに向かって言うとみほが側面の窓から顔を出した。

「停車してください!」

「今出るのは危ないのでは?」

「大丈夫だ、次弾発射までは少しだけ時間がある。塁は後方確認を」

 吊り橋の前で停止したⅣ号を下りたみほに向かって塁が言うが、凛祢の言葉にⅣ号の後ろに回る。

「ゆっくり前へ」

 吊り橋の上で指示するみほの声にゆっくりと前進し、吊り橋を渡っていくⅣ号。

 凛祢は先に渡り切って前方を確認しつつ後方にも目を向ける。

 ゆっくり進むⅣ号の履帯が吊り橋のワイヤーを切断すると吊り橋が大きく揺れる。

「落ちる―!」

「やだー!」

 Ⅳ号から悲鳴を上げる華と沙織。塁は後方を見て叫ぶ。

「Ⅲ突が来ます!」

「撃てー!」

 エルヴィンの声を合図にⅢ突の砲が火を噴く。

 放たれた砲弾はⅣ号に命中。急所を外れたおかげでなんとか行動不能は免れた。

「坂本君!」

「五十鈴殿!操縦士失神、走行不能!」

 Ⅳ号から顔を出した沙織と優花里が声を上げる。

 塁はなんとか両手で橋の鉄板に掴まっているだけだった。体は宙ぶらりんの状態。

 華も頭を打ったのか操縦席で気絶していた。

「塁!くっ、西住は五十鈴さんの方を頼む」

 凛祢はバリスタをその場に投げ捨て、急いで橋を渡りⅣ号を乗り越える。塁の腕を掴むと引き上げるために力を込める。

「凛祢殿、このままじゃ狙い撃ちです!」

「馬鹿!この高さから落ちたらいくら特製制服でも無事じゃないだろ!」

「でも、Ⅲ突とγ分隊はそこまで来てます!」

 塁の声を聞かずに凛祢は引き上げる。

「居た、見た、撃った!」

「Ⅳ号とα分隊にはここで消えてもらう!」

 エルヴィンとカエサルはⅣ号を見て興奮気味に言った。

「ナイスアタック!追撃するよ!」

 ちょうど追いついた八九式の車長である典子が声を掛ける。

 同時に前進を始める三突と八九式、β&γ分隊。

 みほも華を操縦席から空席に運びこみため息をつく。

「操縦は苦手だけど私がやるしか……」

 すると突然Ⅳ号が後退したかと思うとすぐに停止した。

「麻子、運転できたの?!」

「今、覚えた」

 沙織の声にまた表情一つ変えずに答える。

「今?」

「流石、学年主席!」

 驚きを隠せない優花里の隣で納得した沙織が言った。

 すると発砲音と共にうめき声を上げたジルはその場に倒れる。

 音はⅢ突たちとは逆方向から聞こえた。

「ありがとうございます、あの狙撃って」

「γ分隊を狙っていたが……誰だ?」

 ようやく塁を引き上げた凛祢が橋の先を見ると見覚えのある黒髪の男が特製制服姿でバリスタを構えていた。

 昨日、食堂で千円札を貸した男だった。

 一体なぜ?どうしてここにいるんだ?

 それよりもどうして特製制服を着ている?だが、味方ならば!

「塁、Ⅲ突の右隣の草むらをFALで撃て!」

 塁もFALを草むらに撃ち込む。すると、ちょうど草むらから現れたシャーロックに弾が命中した。

「しまった!」

「やりました!」

 シャーロックと塁の声と同時にシャーロックから戦死判定のアラームが鳴った。

「何?!」

「とにかく打ち込め!」

 エルヴィンと左側の草むらから現れたアーサーはⅣ号の動きと塁の射撃に焦り出したように叫ぶ。カエサルも重い砲弾を何とか装填させている。

「連続アターック!」

「「「それそれそれ!」」」

 典子の声に合わせてあけび、忍、妙子が叫びながら備え付けの機銃を撃つ。

「なんか後ろに下がってるけど!」

「分かってる」

 後退しているⅣ号の動きに沙織が叫んだ。だが、麻子は落ち着いてギアを入れた。

 前進を始めるⅣ号の前方にを砲弾が放たれるが、Ⅳ号は問題なく前進する。

「外れた!」

「次だ、次!」

 エルヴィンと典子が同時に声を上げた。

 戦車内の揺れで目を覚ます華。何が起きたのかわからずに右左を見る。

「大丈夫?」

「あ、すみません」

 みほが声をかけると華は申し訳なさそうに謝る。

「ううん、少し休んでて」

「いえ、大丈夫です!」

 華のしっかりとした声を聞いて、みほは優花里を見た。

「優花里さん、砲塔回して!」

「了解」

 優花里が返事をする。すると、Ⅳ号の砲塔がゆっくりと回転し始める。

 それを見た凛祢は腰のリモコンを掴みアーサーたちのいる方に向け、スイッチを押した。Ⅲ突の傍に置かれたC-4爆弾が爆発する。砂埃がⅢ突の視界を奪う。

 Ⅲ突の近くに居たアーサーと景綱は爆風で尻もちをついた。

「早く回って!撃たれる前に撃っちゃってよー!」

 沙織が急かすように言う。

「塁、耳を塞いで伏せろ!」

「了解です!」

 凛祢と塁は両手で耳を塞ぎ、うつ伏せで倒れる。

「発射用意!」

 砲塔を回し終え、みほの声と同時にⅣ号が停車する。

 優花里が照準を微調整すると、完全にⅢ突を捉えた。

「撃てぇ!」

 みほの号令が下った瞬間、優花里はトリガーを引いた。

 轟音と共にⅣ号から放たれた砲弾はⅢ突の砲塔右側に命中。爆発音が響いたかと思うと、Ⅲ突から行動不能を意味する白旗が上がる。

「やった!」

 塁が歓声を上げた。

「はああ……スゴッ!」

「ジンジンします……」

「なんだか、気持ちいいー」

 Ⅳ号の車内でも初めての砲撃の衝撃に、沙織と華、優花里が刺激のような感覚を覚えていた。

 麻子も声こそ出していないが驚きの顔を見せていた。

 そんな中、みほは次発の砲弾を装填している。

「有効!Cチーム行動不能!」

「殲滅戦ルールに従い、γ分隊は全員失格だ!」

 通信機とインカムから聞こえる亜美と敦子の声。

「なに?」

「マジですか?!」

 アーサーとジルが信じられないと言った声を出す。

「今度は八九式!」

「はい!」

 みほの指示に優花里は続いて、Bチームの八九式に狙いを定める。

「来てる来てる!フォーメーションB!」

「「「はい!」」」

 焦りを見せた八九式は先手必勝と言わんばかりに砲撃する。

 しかし、砲弾はⅣ号に掠りもせずに飛んでいく。

 そして、反撃するようにⅣ号が砲撃。

 Ⅳ号から放たれた砲弾は、八九式の車体前面の中央に命中。衝撃によって僅かに後退した八九式から行動不能を意味する白旗が上がる。

「くっ!やられた!」

 淳も地面に拳をぶつけて言った。

「おい!こっちからも敵が来てるぞ!」

 インカムから聞こえた男の声に凛祢は吊り橋の反対側に目を向ける。声の主はバリスタを持った男。

 彼の言葉通り、吊り橋の先にはEチームの38tとε分隊の姿があった。後ろからはM3とΔ分隊が居る。

 Ⅳ号の砲塔が再び前を向き始める。

「おい、お前。聞こえてるなら指示に従え、俺たちが行くまで敵を引き付けろ!」

「は?ふざけんなよ!敵は何人いると思ってんだ!」

「敵は38tとM3に歩兵が合計九人だ!」

 インカムに向かって叫びながらⅣ号を乗り越える。塁も後を追うようにⅣ号によじ登る。

「くそっ!どうしろってんだ!……俺は昨日の借りを返しに来ただけなのによ」

 黒髪の男も苦しそうな顔でバリスタを撃つ。

「会長、歩兵の中に歩兵道受講者ではない者がいますが……」

「いつの間に増援を呼んだのかは知らんが気にするな」

 宗司が木陰に隠れながら言うと英治がkar98kのスコープ越しに構えながら言った。

「フッフッフッ……ここがお前たちの死に場所だ!」

 そう言いながら、桃は吊り橋の上のⅣ号に狙いを定める。

「やらせるか!」

 声と共にⅣ号の前に飛び出した凛祢は、右手に持つ手榴弾のピンを抜き、38tに向けて投擲した。同時に英治が発砲する。

 手榴弾は弧を描きながら飛んで行き38tの手前に落ち、爆発する。

「ぐっ!」

 爆発音と振動に、桃が一瞬怯む。

 英治の放った銃弾は凛祢の右肩に命中するが凛祢は表情一つ変えない。

「なに?!」

 命中したはずの凛祢を見て驚く英治。

「隙ができました!」

 Ⅳ号の前に飛び降りた塁がインカム越しに叫ぶ。

「撃てぇ!」

 みほの号令で、Ⅳ号は砲撃する。

 同時に、38tも砲撃するが、砲弾はⅣ号の上を通り過ぎて行った。

 Ⅳ号の砲弾は38tを完全に捉えており砲塔の右側、丁度7.92mmMG37重機関銃に直撃していた。38tからも行動不能を告げる白旗が上がる。

「なにー?!」

「やれやれ……」

「一撃で撃破とは……」

 木陰に隠れていた雄二と宗司、草むらに隠れていた英治が顔を出した。

 雄二は頭を抱えているが、宗司はこんな状況でも仕方ないかと笑みを浮かべている。

「あーやられちゃったねー」

「桃ちゃん、ここで外すー?」

「桃ちゃんと呼ぶなー!」

 戦車内で杏、柚子、桃がそんな声を上げる。

「みんなやられちゃったよ」

「てか、あの人誰?」

 アキラと翔がⅣ号とα分隊の戦いを見て驚きの顔を見せる。

「こういう場合って逃げるべきじゃね?」

「作戦的撤退だな!痛いのやだし」

 礼と歩が逃げるように促す。

「馬鹿か、時間稼ぐぞ。怖いけど、戦車が逃げる時間を」

 亮の言葉で全員が震えながらも銃を構える。

 M3もゆっくり旋回する。

「あとはDチームとΔ分隊だな」

 凛祢がコンバットナイフとファイブセブンをホルスターから抜く。

「おい、お前。その銃貸せ。こっちは弾切れだ」

「え?でも……」

 黒髪の男にFALを貸すように言われ戸惑う塁。

「待て、お前名前は?」

「東藤俊也(とうどうとしや)……」

 黒髪の男は低い声で名乗る。。

「東藤か、援護を頼んでもいいか?駄目なら塁に頼むが」

「分かったからさっさと貸せ。それに逃げられるぞ」

 俊也はM3の方を指さした。

「分かった。塁貸してやってくれ」

「凛祢殿がそう言うなら……」

「ありがとよ……」

 塁のFALを受け取った俊也は感謝の言葉を述べた。

「じゃあ、援護頼むぞ」

「当たっても文句言うなよ!」

 凛祢がΔ分隊目掛けて突撃すると、その後を俊也が追っていく。

「ちょっ!突っ込んできたよ!」

「いいから撃てって!」

 アキラは震えた声で言うと隣にいた亮がトンプソン・サブマシンガンを撃つ。

 発砲音を聞き、ビビりながらも五人も撃つ。

 しかし、恐怖で震えた手では照準が定まらず銃弾はあらぬ方向へ飛んで行く。

 それを見て呆れた表情を見せる俊也。容赦なく引き金を引くと銃弾が次々と命中していく。

 アキラ、翔、礼という順で戦死判定のアラームが鳴っていく。

「くそくそくそ!」

 亮が銃を捨て、コンバットナイフを手に向かってくる。

「遅い……」

 そう言って亮の攻撃を最小限の動きで避けるとそのままM3に突撃していく。

「悪いな、あとはお前だけだ」

 俊也はFALを肩に乗せ、亮の前に立つと左手でM3の方を指さす。

 五人の歩兵は倒れ、凛祢の前に立ち塞がる歩兵はいない。

 M3も泥濘に填り、まだ動けていなかった。

「……」

 凛祢はM3目掛けて跳躍。車体の後方に着地するとコンバットナイフとファイブセブンをホルスターにしまう、バックパックのC-4爆弾全てをエンジンルームに仕掛けていく。

「うわぁ!」

「取りつかれた?!」

 梓たちの悲鳴にも似た声を聞きながらも爆弾を仕掛け終え再び跳躍する。

 着地と同時に右手のリモコンのスイッチを押した。

 エンジンルームに仕掛けられたC-4爆弾が爆発。

 M3エンジンルームからは炎と黒煙が上がっており、続いて行動不能を現す白旗が上がった。

「終わったか……」

 凛祢は両手を腰に当て一息つく。

「か、葛城君……」

「凄い……」

「一緒にいたあの人も凄いですが、それ以上に凄いです」

「無茶をするな……」

「ですが、凄い突撃でしたね」

 Ⅳ号車内でその様子を見ていたみほ、沙織、華、麻子、優花里が驚きと呆れの声を漏らす。

「DチームM3、Eチーム38t、CチームⅢ号突撃砲、Bチーム八九式、いずれも行動不能」

「よって、AチームⅣ号とα分隊の勝利!」

 亜美と敦子がそう告げるとみほたちは席のハッチを開けて外に出る。

「私たち、勝っちゃったの?」

「みたいです……」

 まだ勝利したことに実感の湧かない沙織と華が呟く。

「凄い……西住殿と葛城殿のおかげです!」

「ふわ?!」

 そこで感極まったのか優花里がみほに抱き付いた。

「勝ったと言うか、他のチームが脱落したと言うのが正しいな」

「その通りだな。今回は他のチームが全員未経験者だったと言う事に助けられたのが大きいだろう」

 麻子が冷静に言っていると凛祢が痛む肩を押さえながら言った。

「葛城殿!先ほどの戦いお見事でした!」

「別に、東藤が歩兵をすべてリタイアさせたからだ」

 優花里が目を輝せながら言うと、凛祢は俊也を見て言った。

「どうでもいいよ、そんなこと。ほらよ」

 俊也はポケットから千円札一枚を取り出すと凛祢の胸元に押し付ける。

「これって昨日の?」

「ああ、そうだよ。利子はさっきの戦闘の援護でチャラだ。借りは返したから俺は帰る」

 俊也はFALを塁に返し歩いていく。

「待て、お前。歩兵道受講者じゃないだろ?どうしてこの試合に参加した?」

「選択科目は弓道だ……参加したのは成り行きだよ」

 振り向いて俊也は足を止めて答える。

「成り行きって……」

「そんな理由で参加したのか」

 沙織と麻子がそう言って俊也を見た。

「歩兵道の経験は?」

「ないよ、銃の使い方なんて知らないし使ったこともない」

「じゃあなんでバリスタで狙撃ができたんですか?それも一撃で命中させるなんて」

「別に、銃があったから使っただけだ。手元に銃がある、目の前に敵がいる。なら敵を撃つってなるだろ、使い方なんて見て真似したに過ぎない」

「普通そうはなりませんし見ただけで銃を扱うことはできませんよ」

 塁は俊也の説明を聞いて、ため息をついた。

 まあ、他からしてみれば見ただけで銃を扱えなんて無理な話ってもんだ。 

「できたもんはできたんだよ。もう帰ってもいいか?」

「なら、せめて教官の前に顔くらいは出せ。この試合に参加したってことは弓道の授業をサボったって事だろ、それくらいは別にいいだろ?」

 仕方がないという感じで凛祢に従う俊也。

「回収班を派遣するので、行動不能の戦車はその場に置いて、戻ってきなさい」

 亜美の通信が入り、大洗女子学園に戻って行く。

「フッ……やはり、彼女に戦車道を受講させたのは正しかった」

「葛城君にも歩兵道をさせてよかったですね」

「作戦通りだね」

 撃破された38tの中では桃、柚子、杏がそう言い合っていた。

 こうして大洗女子学園と大洗男子学園による合同演習授業は凛祢とみほのAチーム&α分隊の勝利で終わった。

 

 

 日も傾き始め行動不能となった戦車は自動車部と整備部によって運ばれていた。

 特製制服から大洗の制服に着替えた凛祢たちとみほたちは大洗女子学園ガレージ前に整列していた。

 特製制服が入れてあるコンテナは敦子の呼んだ業者の人間が運ぶ準備をしている。

「みんな、グッジョブ!ベリーナイス!初めてでこれだけガンガン動かせれば上出来よ!!」

「豚共もそれなりにやっていたな。まだまだ、歩兵として足りないものはあるもののセンスはある」

 亜美と敦子は素直に戦車道、歩兵道受講者を褒めていた。

「特に、Aチームとα分隊、よくやったな」

 敦子は凛祢とみほを見て笑みを浮かべる。

 整列している中でも麻子は眠そうな表情をしており、俊也はそっぽを向いてあくびをしている。

「……」

 凛祢とみほは複雑そうな表情で亜美と敦子を見ている。

 経験者である自分とみほがいるチームには少なかれアドバンテージがあった。

 そういう面を話してくると思っていたが。

「うまく動けなかった者もいるだろう。ならば訓練に取り組め、明日から再訓練だ!」

「はい!」

 敦子の優しくも厳しい声と共に歩兵道受講者の声が校庭に響く。

「戦車道のみんなも、後は日々走行訓練と砲撃訓練に励んでね。わからないことがあったら、何時でも連絡してね」

「一同、礼!」

「ありがとうございました!」

 桃の号令で、凛祢たちとみほたちは一斉に、亜美と敦子に向かって礼をする。

「東藤俊也、お前に話がある。まだ帰るな」

「っ……」

 敦子に呼び止められ舌打ちをする俊也。

「お前は歩兵道をやる気はあるか?」

「は?ねーよ、歩兵道なんて興味ないね」

 俊也は凛祢たちは異なる態度で敦子の質問に答える。

「東藤殿……」

「やりたくなければいい。だが、お前のことは学園側から聞いた。成績こそいいが、度重なる遅刻と授業のボイコットによって単位が足りていない上にこのままいけば留年らしいな」

 敦子は俊也に言うと凛祢の方に目を向けた。

 俊也も余計なことを言われたために敦子を睨みつけている。

 凛祢は敦子の言葉の意図に気づいた。

「東藤、歩兵道をやれば遅刻を二百日見逃す上に単位を三倍もらえるんだ。このまま留年するよりは歩兵道をやったほうがお前のためになるんじゃないか?」

「凛祢の言う通りだ。このままいくとお前、俺たちの事『先輩』って呼ぶ羽目になるぜ」

 急に話に混ざってきた八尋が煽るように言った。

「くっ!でも、今更選択科目を変えることなんてできねーだろ!」

「できるさ」

 英治がそう言うと雄二が書類を前に出す。

「他の選択授業から戦車道と歩兵道に選択授業を移すことだけは可能なんだ。逆は無理だが学園長も許可している」

「な、に……」

 俊也は引きつった顔で書類を見た。

「さっきの口ぶりからやる気はあるみたいだから次の授業からは歩兵道にこい」

「ぐぬぬ……わかったよ!やってやるよ歩兵道、その代わりちゃんと単位三倍よこせよ!」

 敦子は怖い笑みを浮かべる。

 そんな敦子を見て俊也は腹を括ったのかやけくそ気味に言った。

「それは努力次第だろ。てか、選択授業を歩兵道に変更なんてできたんだな」

 翼は雄二の出した書類を興味深そうに見ていた。

「そろそろ時間ね。さあ照月、帰りましょうか」

「そうだな。まあ、今後の訓練に励むんだな新兵たち……」

 そう言い残して亜美と敦子はATFディンゴに乗り込み夕焼けの彼方に消えて行った。

 10式戦車を乗せたトラックも後を追って消えていった。

「お疲れ様です。蝶野教官、照月教官」

「お疲れー!」

「ああ、ご苦労だったな」

 運転手と挨拶をかわし、後部座席に座る亜美と敦子。

「大洗かぁ……これからの成長が楽しみだわ」

「だったらもう少し真面目に指導したらどうなんだ?」

 大洗の生徒たちの素質を感じ、その成長に期待する亜美と亜美の様子にため息をつく敦子。

「随分と熱心なのね。やっぱり、周防少尉の弟子が居ると気合が違う?」

 亜美は意地の悪そうな笑みを浮かべて、敦子に言った。

「別に、周防少尉は私の目標だった……その人の弟子が『もう一度歩兵道をやる』って聞いて見に来ただけに過ぎない。それにあの人の弟子でも指導するとなったら話は別よ」

「まったく、素直じゃないわね。あんなに少尉のこと好きだったのに……」

「うるさいぞ……」

 そんな話をしながらディンゴは輸送機の着陸場に向かった。

 解散の命令が出ると麻子を含むAチームと俊也を含むα分隊は集まって話をしていた。

「いやー勝ててよかったですね」

 優花里が興奮気味に言った。

「全員で手にした勝利だ」

「俺が来た時にはそこの二人は居なかったけどな」

 凛祢がそう言うと俊也がさっきの仕返しとばかりに八尋と翼を煽るように呟く。

「うるせーよ。途中参戦しておいて何言ってんだ。お前なんてチームに必要ねーから引っ込んでろ!」

「んだと?」

「やるか、この野郎?」

 八尋と俊也はお互いに喧嘩腰で睨み合っている。

「やめろ、お前ら。勝って気持ちよく終わったんだから喧嘩なんてするな」

「そうですよ、八尋殿も東藤殿も仲良くいきましょうよ」

「「ふん!誰がこんな奴と!」」

 翼と塁がやめるよう言うが二人は不機嫌なままそっぽを向いた。

「でも凄かったよね。最後に一年生チームに突っ込んでいったとこなんてかっこよかったよ!」

「見事な突撃でした」

 沙織と華は凛祢を見て言った。

「別に、俺は自分にできる事をしただけだ」

「でも、今日は何度も葛城君に助けてもらったよ。本当にありがとう」

 みほは凛祢に向かって改まってお礼を言う。

「ああ……」

 凛祢はいつも通りの返事で返す。

「そろそろお風呂入り行こっか?」

 話が一段落したところで、沙織がみんなに提案する。

「そうですね。汚れてしまいましたし、汗も掻きましたから」

「ああー、それじゃあ僕たちも銭湯に行きましょうか?」

 華が沙織に賛成すると塁も行かないかと聞いてくる。

「それもそうだな。大洗女子学園の隣って銭湯だから」

「お前も来いよ、東藤。あそこの銭湯、学園の生徒は無料で利用できるし」

「わかったよ」

 翼と八尋、俊也も行くらしく、凛祢も行くことにした。

「ねえ、帰りに寄りたいところあるんだけど。葛城君たちも付き合ってくれない?」

「構わないが……」

「俺もいいぜ」

「俺も構わない」

「僕もです」

「俺は行かねー」

 沙織からの誘いに凛祢、八尋、翼、塁は付き合うが俊也だけは行かないと言う。

「なんでだよ?」

「帰らせろよ……歩兵道とやらのせいで疲れたんだよ」

 八尋が聞くと正直に答える俊也。

「ああ、わかった。俺たちだけで行くから東藤は先に帰ってくれ」

「そうさせてもらう」

 俊也はそう言うと銭湯に向かって歩いていく。

 愛想はないが歩兵としての才能を持っていた、あいつならきっと有力な戦力になる。それにしても照月教官は自分たちのことを初めて『新兵』って呼んだな。あの人も自分たちに期待しているのかもしれない。

 

 

 

 一時間後、銭湯で汗を流した凛祢たちとみほたちは街のホームセンターに向かった。

「……ホームセンター?」

「なんでここなんだ?」

 ホームセンターに来た理由を理解できない凛祢たちと麻子。

「てっきり、戦車道ショップに行くのかと……」

 それを期待していた優花里が、落ち込んだ様子を見せる。

「だって、もうちょっと乗り心地良くしたいじゃん」

 沙織はそう言いながらクッション売り場の前に立つ。

「乗ってると、お尻痛くなっちゃうんだもん」

「ええ?クッション引くの?!」

 沙織の意図を理解したみほが驚きの声を出す。

「駄目なの?」

「駄目じゃないけど……戦車にクッション持ち込んだ選手って、見たこと無いから」

 初心者ならではの発想だな、それは。

 沙織とみほの会話を聞いて、凛祢は内心でそう思う。

「あ、これ可愛いくない?!」

「こっちも可愛いです!」

 沙織がハート型のクッション、華が座布団型のクッションを手に取って言う。

「ねえねえ、どうかな?」

「ああ、えっと……」

「そうですね……」

「俺はいいと思うぜ、沙織さんらしくて」

 沙織に尋ねられ、凛祢と塁が返答に困っていると八尋が無責任に返答する。

「ホント?ありがとう!」

 沙織はそう言うと華と一緒にクッションを買い物カートに入れる。

 それを見て、少々驚きの顔をする八尋。

 本当に買うのかよ。八尋の奴も半分は冗談だったろうに。

「あとさー、土足禁止にしない?」

「「ええ?」」

 沙織の更なる提案にみほと優花里が困惑の声を上げる。

「だって汚れちゃうじゃない」

「土禁はやり過ぎだ」

 スリッパを見ながら言う沙織に麻子がツッコミを入れる。

「ええー」

「流石にやり過ぎじゃないか、武部さん。スリッパなんかで操縦なんかしたら支障がでるだろう」

 納得の行かない様な沙織に、翼が最もな事を言う。

「そっかー……あ、じゃあ色とか塗り替えちゃ駄目?」

「色って迷彩柄を変えるんですか?」

 思わず聞き返す塁。

「そうそう、もっと可愛く……ピンクとかさ」

「ピ、ピンクー?駄目です!戦車はあの迷彩色がいいんです!」

 優花里はあまりにも常識はずれな事を言う沙織に詰め寄る。

「あ、芳香剤とか置きません?」

「ズゴー?!」

 華から出た言葉に優花里はズッコケる。

「鏡とかも欲しいよね。携帯とか充電できないのかなぁ?」

「……」

 沙織と華の買い物をみほは呆然と見ていた。

「やれやれだな」

「葛城君、どうしよう?」

 凛祢は呆れていると、みほが訪ねてくる。

「まあ、好きにさせてあげる方がいいのかもしれないかな?」

 流石にここまでくると凛祢も返答に困り、思わず疑問形になってしまう。

「あ、あはははは……」

 みほも乾いた笑いをこぼしていた。

 

 

 翌日。合同演習に集まった歩兵部隊とみほたちは、ガレージ前でとんでもないものを目にしていた。

「……なんだこれ?」

 唖然としている歩兵部隊たちの中で凛祢がつぶやいた。

 目の前にあるのは整備の済んだ戦車たちなのだが、昨日とは異なる外見をしていた。

 八九式の車体にはは白のペンキで、「バレー部、復活!」と書かれ、バレーボールのイラストも描かれている。

 Ⅲ突には赤、黄、白、青で塗装され、四本の旗が立てられている。

 M3Leeはオブジェクトの様にピンク一色に塗装されている。

 38tはどこぞの英雄王のごとくゴージャスな金ぴかに塗装されている。

「これは、酷い。照月教官が見たらブチ切れますよ」

「やりやがったな、こいつら。てか、なんで生徒会まで一緒になって染めてんだよ!」

 宗司と雄二も目の前のアートを見てそう言うしかなかった。

「ああー……」

 みほも思わず声を漏らす。

「カッコいいぜよ」

「支配者の風格だな」

「うむ」

「私はアフリカ軍団仕様が良かったのだが」

 派手なアートになったⅢ突の前で歴女たちの面々が言い合う。

「これで、自分たちの戦車がすぐに分かる様になったー」

「やっぱピンクだよねー」

「可愛いー」

 悲願を刻み込んだ八旧式とオブジェの様なピンクのM3Leeの傍でバレー部の四人と一年生たちが言っている。

「良いね……」

「杏会長。これは流石にやり過ぎだ……」

 金ぴかの38tを見て満足そうな杏と、もはやついて行けないという感じの英治。

「この勢いでやっちゃおうか?」

「はッ!連絡して参ります」

「え?なんですか?」

 杏が言うと桃がどこかに歩いていく。柚子も杏の考えを知らず問いかける。

「むぅー!私たちも塗り替えれば良かったじゃーん!」

「いや、戦車内に私物を持ち込むだけでも相当なもんだと思うけど」

 不満気に叫ぶ沙織に八尋も少々呆れ気味に言った。

 その通りだ。私物の持ち込みこそ許されているが色を変えていいか以前にこれはアウトだと思う。

「ああー!38tが!M3が!Ⅲ突が!八旧式が何か別の物にー!」

 戦車好きの優花里からは悲鳴の様な声が聞こえた。

「ふふ」

「西住?」

「西住殿?」

 笑い声を出すみほを凛祢と優花里が見た。

「戦車をこんな風にしちゃうなんて、考えられないけど……何か楽しいね。戦車で楽しいなんて思ったの、初めて」

「そう、よかったねみぽりん」

「はい」

 みほを見て沙織と華も笑みを浮かべて言った。

 楽しい……か。歩兵道で楽しいなんて考えたこともなかったな。訓練をして戦って勝利する、いつもそんな事ばかり考えてたもんな。あの日までは……。

 凛祢は思わず昔の事を思い出してしまった。

「凛祢、またぼーっとしてたぞ」

「あ、悪い。考え事してた」

「この前もそんなこと言ってたな。気をつけろよ」

 翼に呼ばれ凛祢は我に返った。八尋も心配して肩を軽く叩く。

 

 

 その頃、大洗女子学園の一室では桃がある場所に電話をかけていた。

「大洗女子学園?戦車道を復活させたんですの?おめでとうございます」

 電話の相手はお嬢様のような口調で話をしている。ブロンド髪と蒼玉のような色の瞳を持つ少女、ダージリンである。

「結構ですわ……受けた勝負は逃げませんもの」

 そう言ってダージリンは電話を置いた。

「試合の申し込みですか?」

 そう質問するのは大きな黒いリボンが目立つ少女、アッサムだった。

「ええ、大洗女子学園の方たちとね」

「話を聞いた限り、戦車道を復活させたばかりみたいですけど、それでウチに挑んでくるなんて……」

 控えめな性格の一年生の少女、オレンジペコが呟く。

「確かに、普通に考えれば無謀かもしれませんわね。けれど、例え相手が誰であろうと騎士道精神の名の元に正々堂々全力で戦う……それが我が聖グロリア―ナ女学院の信条ですわ」

 ダージリンはそう言うと、テーブルの上に置かれたハンドベルを鳴らした。

「失礼します」

「お呼びでしょうか?お嬢様方」

 すると部屋のドアを開き、二人のメイドが入室してくる。

「今度の日曜日に試合を行う事にしましたわ。聖ブリタニア男子高校の歩兵道の皆さんにお伝えしてくれるかしら」

「「畏まりました」」

 二人のメイドはお辞儀をすると、部屋から退出する。

「フフフ……」

 ダージリンが不敵に笑みを浮かべると紅茶を一口飲んだ。

 

 

 一方、聖ブリタニア男子高校の歩兵道演習所では、歩兵部隊が訓練を行っていた。

「全員集合してくれ!」

 教官である教師の号令を聞いて生徒たちは数秒で整列し集合する。

「モルドレッドはどうした?」

「ロードワーク中です。今日はかなり走るって言ってましたけど、まもなく帰ってくるかと……」

 男子生徒の一人が答える。

「そうか。では先に話しておく。聖グロリア―ナ女学院の戦車道、隊長であるダージリンさんから連絡があった。今度の日曜日に練習試合を行うとの事だ。相手は大洗」

「大洗?」

「聞いたことないな……」

 生徒たちは誰も大洗の名を知らなかった。

「二十年前に女子学園側が戦車道を廃止し、男子学園側も歩兵道をやめたらしいそうだが、今年から戦車道と歩兵道を復活させたそうだ」

 教官が大洗の事情を説明する。

「今年から復活って……それでウチに試合を挑んでくるとは」

「無名の学校に負けるほど落ちぶれてはいないっての」

 無名である大洗の挑戦に油断し始めている生徒たち。

「馬鹿者!相手が誰であっても全力で戦え、油断は己の首を絞めることになるぞ!騎士道に準じて戦うことが我々聖ブリタニア男子学園の誇りだ!」

 油断し始めている歩兵道部隊に言い放つ教官。

「獅子は兎を狩るにも全力を尽くす。みんな決して慢心するなよ!」

 教官に同意するように青髪の男、聖ブリタニア男子高校歩兵部隊の隊長ケンスロットが言った。

「それには同意するぜ。俺たちはまだまだ強くならなくちゃならないしな」

 ケンスロットよりも背の高い歩兵道受講者の一人、ガノスタンがケンスロットと肩を組む。

「私たちは全力で戦い、勝利するだけです」

 よくモテそうな美形と、歩兵にしては華奢な体つきの生徒、アグラウェインが言った。

 聖ブリタニア男子高校の歩兵部隊たちは気を引き締めた。

「よし、訓練に戻れ!」

「はい!」

 教官が最後に言うと歩兵部隊は教官に啓礼し、訓練に戻っていく。

「お、帰ってきたか」

 校門に目をやった教官は、校門から入ってくる男に気づく。

「只今戻りました」

 その男は教官の前まで来ると気を付けをし、報告する。

「次の日曜日に練習試合を行う事になった」

「対戦相手は?」

「大洗だ」

「大洗……」

 男は息を整えながら教官の話を聞く。

「今年から戦車道と歩兵道が復活したそうだ」

「分かりました。万全の態勢で戦います」

 教官にそう言うと他の生徒に混ざり訓練を始める。

 

 

 気が付けば訓練を行っている内に夕方になっていた。

「今日の訓練ご苦労であった!」

 整列している戦車部隊員と歩兵道部隊たちを前に桃が言った。

 一部の生徒たちは疲弊した様子で話を聞いている。

「お疲れさまでした」

 全員が揃えて挨拶を行う。

「えー、急ではあるが、今度の日曜日、練習試合を行う事になった」

「な?」

「ええ?」

 桃の言葉に一斉に声を上げる生徒たち。

 杏会長が言っていたのはこれか……。

「相手は聖グロリア―ナ女学院戦車部隊と聖ブリタニア男子学校の歩兵部隊だ」

「「ええ?!」」

 対戦相手を聞いてみほと優花里が驚きの声を上げる。

「どうしたの?」

 沙織がみほに声を掛けた。

「聖グロリア―ナ女学院、聖ブリタニア男子学園と言えば全国大会で準優勝したこともある強豪です」

「準優勝……」

 対戦相手が全校大会準優勝の記録があると聞いて沙織と華も驚く。

「大丈夫かよ……」

「普通に考えて勝率はゼロだろ」

 八尋と翼が負けを認めたような口調で言った。

「そんな事は、みんなで協力すれば……」

「無理に決まってんだろ!お前が玉砕に意味を感じるなら止めないけどな」

 塁の言葉を押し切って俊也が言う。

「それでも、試合をやるなら全力でやるしかないだろ。勝てなくてもいい最善を尽くすんだ」

 みんなの考えを一新させようとする凛祢。

「凛祢の言う通りだ、みんなで最善を尽くそう。勝ち負けはその後だ」

 賛成するように英治がみんなに言った。

「日曜は、学園前に朝六時に集合だ!遅れるなよ!」

「そんなに朝早くー?」

「早起きは苦手ですよ」

 あやと翔からそんな声が漏れる。

「やめる……」

「は?」

「やっぱり戦車道やめる」

 麻子は突然そんな事を言い出す。

「なんでだよ?!」

「そんな急にどうしたんですか?」

 八尋と塁が聞き返す。

「麻子は朝が弱いんだよ」

 幼馴染である沙織が説明すると麻子はその場を早足で去ろうとする。

「ちょっと待てって」

「そうだ、朝が弱いとかそんな理由で――」

 慌てて止める凛祢と翼。

「そんな理由だと?分かっていないな、六時は無理だ」

「モーニングコールさせていただきます」

「家までお迎えに行きますから!」

 翼の言葉に少々不機嫌な表情でそう言う麻子に優花里、華が言う。

「ほっとけよ。無理なら無理でいいじゃねーか、無理強いすんなよ……」

「「「お前は黙ってろ!」」」「東藤殿は黙っててください!」

「……なんだよ」

 凛祢と八尋、翼、塁の声に俊也は思わず後ずさりした。

「六時だぞ……人間が六時に起きれるか!」

「簡単じゃね?」

「俺たち最近は毎日五時起きだもんな。朝トレで」

「確かに」

「お前らな……低血圧はそれが辛いんだって言ってるだろ」

 麻子の言葉にアッサリと返す凛祢たちに俊也がツッコミを入れる。

「いえ、六時集合ですから、起きるのは五時くらいじゃないかと……」

「人にはできる事とできない事がある。短い間だったが世話になった」

 麻子は完全に心が折れた様子で言うと、去っていく。

「おい!お前本当にいいのか?お前も留年するかもしれないから戦車道とやらをやったんじゃないのか?」

 そんな言葉を口にしたのは……俊也だった。

「このままじゃお前進級できないんだろ?学年主席が留年とか笑いで腹イテーわ。そっちの女を先輩とか呼ぶことになるんだぜ」

「さ、お、り、せ……」

 俊也の発言に沙織を先輩付けで呼ぼうとして口籠る麻子。

「東藤!」

「女を泣かすのは流石に俺も切れるぞ?」

 凛祢の鋭い声と八尋の目線が俊也を向く。

「……そ、それにさ、ちゃんと卒業出来ないとお婆ちゃん滅茶苦茶怒るよ」

「お婆!」

「あー、婆さんってこえーもんな」

 お婆ちゃんと言う言葉に麻子は怯える様子を見せた。俊也が棒読みで呟く。

「うう……分かった、やる」

 麻子は諦めた様に呟く。

「おい、トシ。お前、煽ったか?」

「別に……」

 八尋の言葉にそっぽを向く俊也。

「ではこれより、練習試合に向けて作戦会議を行う!」

「じゃあ、我々の学園の会議室を使ってくれ。会議室はいつも開いてるから」

「いつも開いてる?」

 桃がメガホンを手にみんなに呼びかけると英治の言葉に柚子が首を傾げる。

「ウチの学園、そういうのテキトーだから。勝手に使っても文句言われねーし」

「良いねー。それじゃあ大洗男子学園の会議室へゴー!」

 雄二の説明を聞くと、杏が全員に言い放ち会議室へ向かった。

 

 

 数十分後。大洗男子学園会議室には歩兵部隊の凛祢、辰巳、シャーロック、亮。戦車部隊員からみほ、典子、カエサル、梓。そして生徒会の英二、宗司、雄二、杏、柚子、桃の十四人が集まっていた。

 全員は入れそうになかったのでそれぞれのチームから一人づつ会議室に来た。

「中はウチとあんま変わらないねー」

「それはそうですよ。大洗女子と鏡合わせような学園を目指して作られたんですから」

 杏が拍子抜けしたように言うと宗司がそう言う。

「そんなことより会議始めますよ」

 桃が言うと雄二と共にホワイトボードにプリントアウトした聖グロリア―ナ女学院の使用する歩兵戦車Mk.Ⅱ『マチルダⅡMk.Ⅲ/Ⅳ』のデータと聖ブリタニア男子高校の使用する武器である軽機関銃『ブレン軽機関銃』、回転式拳銃『マテバオートリボルバー』などのデータを張り付ける。

「良いか。相手の聖グロリア―ナ女学院と聖ブリタニア男子高校の部隊は装甲の強固な歩兵戦車と共に隊列を組んだ歩兵部隊を進軍させるという浸透強襲戦術を得意としている」

「とにかく相手は固い。主力のマチルダⅡに対して、我々の戦車の砲は百メートル以内でないと通用しないと思え」

「百メートルって超近いじゃん」

「正直な事を言えば我々歩兵には戦車の装甲を突破する術はないですよ。葛城君の爆弾作戦だってキツいのではないかな?」

 桃と雄二の言葉に辰巳とシャーロックがそう言う。

 確かに、シャーロックの言う通りだ。実戦ではヒートアックスがあるとはいえ装甲が厚い上に歩兵たちも精鋭揃いのはずこれはまずいかもしれない。

「そこで一両と一分隊が囮となって、こちらが有利になるキルゾーンに敵を引きずり込み、高低差を活かして残りの全部隊でコレを叩く!」

「キルゾーンには予め対戦車地雷とC-4爆弾のトラップを仕掛けておく。戦場では先に高みの場所を占めるのが有利になる……」

 桃と雄二が同時にホワイトボードを思いっきり叩く。

「おー」

 完璧に見える作戦を聞いて歓声を上げる生徒たち。

 戦場は生き物、時が過ぎるように着々と形を変える。この作戦が成功するのかはわからないが失敗後の作戦も何か……。

「「……」」

 凛祢は思うところがあるような表情をし、みほは何か不安な表情をしていた。

「葛城、西住さん何か意見はあるか?」

「じゃあ、俺から。前段作戦はそれでいいとして、失敗した場合の後段作戦は?」

 英治は二人の表情を見て、何か思ったのか問いかける。凛祢も思い切って聞いてみる。

「ないぞ」

「そうですか……じゃあ失敗した後はどうするんですか?」

「失敗したときの事を考えていたら前に進めねーだろ!」

 桃の答えに凛祢が発言すると雄二が強く返してくる。

「経験豊富な強豪と我々ほぼ初心者が戦うなら戦略を増やすのも手だと言ってるんです」

「あの聖グロリア―ナは当然こちらが囮を使ってくるは想定してくるはずです。裏をかかれて逆包囲されてしまう可能性があると葛城君は言ってるんだと思います」

「黙れ!私たちの作戦に口を挟むな!」

「そんなこと言うならお前ら二人が隊長をやれ!」

 桃と雄二は息ぴったりで凛祢とみほを指さす。

「「す、すみません」」

 凛祢とみほは心から謝罪する。

「あー、まあまあ」

「んーでも。総隊長は西住さん、歩兵隊の隊長は葛城がいいかもな。葛城と西住さんが俺たちや杏会長たちの指揮を執ってくれ」

 杏と英治はお互いに顔を見合わせた後に凛祢とみほを見る。

「「ええ?」」

 凛祢とみほが驚きの表情でいると杏と英治の拍手を合図にみんなが拍手をする。桃と雄二を除いて。

「頑張ってよー勝ったら凄い商品上げるから」

「ええ?なんですか?」

「何をあげるんですか?」

 杏がみほにそう言うと柚子と宗司が問いかける。

「干し芋三日分ー!」

「いらないだろ……」

 杏が思いっきり叫び右手の指で三を現す。その隣で英治が小声で言った。

「もし負けたらどうなんの?」

 辰巳が気になったことを聞く。

「うん?うーん、代納涼祭りであんこう踊り踊ってもらおうかなー」

「「「「は?」」」」

「「「「え?」」」」

 杏は少し考えた後に言った。みほは理解できていないようだが凛祢、辰巳、シャーロック、亮、典子、カエサル、梓、柚子が声を上げる。

「杏会長、何言ってるんだ!」

「冗談ですよね?」

 英治と宗司が立ち上がる。

「あの踊りを?!」

「もはや自殺もんだよ……」

 梓と亮の声が生徒会室に響いた。

 

 

 会議を終えて下校中、作戦会議の事を凛祢が説明すると八尋たちと沙織たちもまた同じような表情を浮かべた。

「あんこう踊り……?」

「馬鹿野郎!あんこう踊りとか最高の羞恥プレイだわ!」

 缶ジュースをコンクリートに落とす程動揺した沙織。八尋も思わず缶を投げつける。

「恥ずかしすぎるー!あんなの踊ったらもうお嫁に行けない!」

「はあ、俺の人生は終わったよ……凛祢、止まるんじゃねーぞ」

「絶対、ネットにアップされて、全国的な晒し者になってしまいますー」

「これからはあんこう小僧とか呼ばれますよ」

「一生言われますよね……」

「勘弁してくれ……」

 途端に人生に絶望した少年少女は膝から崩れ落ちる。

「そんなにあんまりな踊りなの?」

 六人の様子を見て、まだ見ぬあんこう踊りへの恐怖を募らせるみほ。

「ああーもう!勝つんだ!勝たなきゃ社会的に死ぬことになる!」

「それしかなねーもうやるしかない!」

「僕も最善を尽くします!葛城殿とは一蓮托生ですから!」

 八尋、翼、塁も勝つ気満々に啖呵を切る。沙織や華、優花里もまたみほのために意気込みとともに啖呵切る。

「でもさ、私はそれより麻子がちゃんと来るか心配だよ……」

「トシの奴も日曜日は休みだとか言って来なそうだから心配だわ」

 沙織と八尋はもう一つの心配事を口にした。

「ああ」

 みんなが理解したように声を漏らした。




聖グロと聖ブリタニア。ブリタニアには円卓の騎士が出てきます。
名前は少し変わっていますが、ほぼその人の子孫です。
これからも書くので読んでもらえると嬉しいです。


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第4話 歩兵戦車部隊&円卓の騎士(ナイトオブラウンズ)

初感想をいただきとても嬉しかったです。
今回から本格的なバトルを描きます。
読んでいただけたら嬉しいです。


 作戦会議から三日後の日曜日。

 朝六時に歩兵部隊と戦車部隊員は大洗女子学園の校門前に集まっていた。

「ふぁぁー眠い」

「四時に起きて朝練はきついな……」

「でも、コンディションはばっちりですね」

「こっちは朝から気分最悪だ……」

 あくびをしている八尋と翼、その様子を見ている塁。俊也も今朝からトレーニングに付き合わされ不機嫌そうに缶コーヒーを飲んでいる。

「それにしても昔使ってた大洗の特製制服で大丈夫かな?」

「それに関しては大丈夫だ。整備部に言ってしっかりと安全確認をして仕上げてもらってる」

 凛祢も昔の特製制服を着用しながら呟くと英治もブレザーを着ながら言った。

 ヒートアックスの入ったバックパック、ファイブセブン、コンバットナイフ、手榴弾を装備する。

 歩兵部隊員が着替えと武装の装備を終えて、ガレージ前で戦車部隊たちを待っていた。

「アーサー、その剣何?」

「ん?これか。整備部に頼んで作ってもらった刀剣武器『カリバーン』だよ、使用がいきなり実戦だから心配なところはあるけど……」

 ジルが問いかけるとアーサーは腰に下げている金属製の刀剣に手を当てる。

「本当に大丈夫なのか?そんな武器は歩兵が使うような武器とは思えないけど」

「まあ、アーサーが使いたいって言うならいいんじゃね?援護はするけどその他は自己責任で」

 シャーロックは心配そうに言うと景綱は缶コーヒーを飲んで言った。

「分かってるよ」

 アーサーも景綱に向かって言うとⅣ号を除く、戦車四両がガレージから出てくる。

 Ⅳ号は麻子を迎えに行くということで先に目的地に向かっていた。

「お、丁度バスが来たようだ」

「みんな忘れ物しないでくださいね」

 雄二と宗司が言うと歩兵部隊員は順番に到着したマイクロバスに乗車していく。

 歩兵部隊全員が乗車しバスは目的地へ向かい走り出す。

「凛祢ガム食う?」

「ああ、ありがと」

「それで作戦はできたのか?」

「んー、後段作戦は大洗市街地でのゲリラ戦かな……問題は罠を仕掛けるための時間だ。俺たちは囮役もやるし、どうにか市街地に罠を仕掛けたいんだけど」

 八尋からもらったガムを口に入れ、凛祢は作戦内容を話す。

「んー俺たちの中で工兵は凛祢だけだからな。どうしたもんか」

「そこは他の歩兵、凛祢との連携でどうにかするしかないだろ」

 八尋が腕を組んで考えていると、翼がそう言った。

「確か、聖ブリはアーサー殿の持っていた刀剣系の武器を使っている生徒もいるのでCQCは少し不利になるかもしれませんよ」

「剣ねぇ」

 塁が休み前に調べてきた情報を口にすると俊也が窓の外に目を向ける。

 刀剣武器を使う例は珍しくはないがナイフ戦闘で長い刀剣武器は使用者の技量が最も現れる。アーサーは部活で剣道をやっているって聞いたが歩兵道でもうまくいくとは限らない。自分にとって重くて片手では満足に振れない刀剣武器は嫌いな武器の一つだ。

「まあ、隊長として最善は尽くすよ」

「「「当たり前だ、あんこう踊りなんて御免だ!」」」「当たり前です、あんこう踊りなんて御免です!」

 凛祢が言うとα分隊の四人も同時に言った。

 

 

 

 二時間後、学園艦の昇降用のドックで、一般車と共に学園艦が目的地である大洗の港に着くのを待っている。

「陸が見えた!」

「バスケの試合以来っすね!」

「今回はバスケじゃなく歩兵道な」

「どんな敵も狙い撃つまでだ!」

 バスケ部のβ分隊の四人が陸の方を見て、興奮気味に言った。

 歩兵部隊の全員も目をやる。

 目線の先は言葉通りの陸……本物の大地である大洗町が広がっていた。

「久しぶりの陸だー。アウトレットで買い物したいなー」

「試合が終わってからですね」

 久しぶりの上陸にはしゃぐ沙織に華がいつもの様に言う。

「ええー!昔は学校がみんな陸にあったんでしょ?良いなー。私その時代に生まれたかったよー」

「私は海の上がいいです。気持ちいいし、星もよく見えるし」

「……」

 沙織と優花里がそんな会話をしていると、みほは大洗の街を見つめていた。

「西住さんは、まだ大洗の町歩いたことないんですよね?」

 みほを見て優花里が問いかける。

「あ、うん」

「後で、葛城君たちも誘って案内するね!」

 沙織もそう言って笑みを浮かべる。

「ありがとう」

 みほも感謝しながら笑みを浮かべた。

 三十分ほどで学園艦は大洗町の港に入港した。

 大洗連合の一同は、専用のタラップを使って下船を始める。

 すると、急に何かが太陽を遮った。

 凛祢やみほが頭上に目を向けると大洗の学園艦よりも何倍も大きい学園艦が隣に入港してきた。

「デカッ!」

「大きなー!」

 沙織と八尋が声を上げる。

「あれが聖グロと聖ブリの学園艦か……」

「……」

 俊也がそう呟くと隣にいた凛祢も学園艦を見上げている。

 綺麗な隊列を組んで下船準備に取り掛かっている聖グロリア―ナ女学院戦車部隊と聖ブリタニア男子高校歩兵部隊の姿があった。

 そんな中、凛祢と聖ブリに居る男と目が合う。

 赤と黒の特製制服を着た男、ケンスロットは数秒間見た後に目を逸らした。

 奴からは気迫が溢れているが騎士のような気高さも感じさせる。強者である何かを感じる。

「あれが聖グロの戦車部隊と聖ブリの歩兵隊か……」

「本物のイギリス人みたいだな」

「あいつ等も大半は日本人だけどな……」

 シャーロック、ジル、景綱が聖グロリア―ナ女学院戦車部隊と聖ブリタニア男子高校歩兵隊を見て言った。

 アーサーだけは少々動揺した顔を見せていた。

「どうしたんだ?アーサー、気分でも悪いのか?」

「いや、なんでもない……」

 凛祢が聞くとそう答えてアーサーはⅢ突の後を追う。

「ラウンズだっけ?円卓はアーサー伝説に深い関わりもあるしなんか思うとこでもあるんじゃねーの?」

「試合中に何も起きないといいけど……」

 八尋と凛祢もⅣ号の後を追うように走っていく。

 

 

 聖グロリア―ナ女学院と聖ブリタニア男子高校の学園艦も昇降用のドックでもケンスロットが考え事をしていた。

「……」

「どうしたんだよ、考え事してるような顔して?」

 ケンスロットの様子に気づき、ガノスタンが声を掛ける。

「なんでもないよガノ」

 そう言って視線を目の前の歩兵戦車『チャーチル歩兵戦車Mk.Ⅶ』に向けた。

「珍しいですわね。試合前に貴方が考え事なんて……」

 チャーチルの砲塔ハッチから上半身を出していたパンツァージャケット姿のダージリンがケンスロットを見て言った。

「いえ、申し訳ございません」

「では、頼みますわよ……我が騎士(ナイト)さん」

 ダージリンはそう言って、不敵に微笑む。

「……イエス、ユア・マジェスティ」

 ケンスロットはそう答え、騎士の忠義を示すポーズを取った。

「モルドレッドどうしたのですか?」

「アルフレッドが居た……」

「なんですって?あの人が?」

 モルドレットの言葉にアグラウェインは驚きの顔を見せた。

「なんでかは知らねーけど。敵ならぶっ倒すまでだ、あんな奴」

「アルフレッド……大洗に進学したとは聞いていましたが、まさかこんな形で再開するなんて」

 アグラウェインは腰の愛剣に手を当てて空を見た。

 

 

 大洗の町で練習試合の準備と試合観戦の準備が整い、五分後には試合が開始される状態になっている。

 試合開始前の集合場所で大洗連合は戦車を横一列に整列させ、その前に随伴である歩兵分隊が整列していた。

 最前列にいた各車長が整列し聖グロリア―ナ&聖ブリタニア連合が来るのを待っている。

「来たか……」

 凛祢が言ったかと思うと土煙を上げるチャーチル歩兵戦車と四両のマチルダⅡ歩兵戦車と共に聖ブリタニアの歩兵隊が現れた。

 聖グロリア―ナ&聖ブリタニア連合は大洗連合の眼前までやって来て、同様に整列していく。

 チャーチルからはダージリン、マチルダⅡからも各車長が出てくる。

「本日は急な申し込みにも関わらず、試合を受けていただき、感謝する」

 両校が整列したのを確認すると、大洗側の代表として、桃がダージリンに向かって言った。

「構いません事よ……」

 ダージリン笑みを浮かてべ返事をする。

「それにしても……個性的な戦車ですわね」

 口元を手で隠してそう言う。

「な?!」

「誘いに乗るな……」

 八尋や他の歩兵部隊も一歩踏み出すが各分隊長が制止させる。

「まあ、そうだよな」

 雄二も同意するように呟く。

 戦車はピンク一色に、金色、旗付き戦車など統一性が全くない。

 決して歩兵たちがマシなわけではないが。

「ですが、私たちはどんな相手にも全力を尽くしますの。サンダースやプラウダみたいに下品な戦い方は致しませんわ。騎士道精神でお互い頑張りましょう」

 ダージリンは大洗連合に向かって言い放つ。

 チームと言っても興味や思い立って集まった急造チームだからな。

「それではこれより!聖グロリア―ナ、聖ブリタニア連合と大洗連合の試合を始める!」

 今回の試合の審判である三人の一人がそう声を上げる。

 その声を聞いて両者の視線をお互いの舞台全体へと移す。

「一同!礼!!」

 審判の声と共にお互いのチームは礼をした。

 例の後両者は自軍の元へ戻り、お互いに戦闘開始地点へ移動を始める。

「ダージリン、気をつけろ」

 ケンスロットがチャーチル歩兵戦車のハッチから上半身を覗かせていたダージリンに言った。

「ええ……あの歩兵ですわね」

 ダージリンも分かったように返事をする。

「歩兵がどうかしたんですか?」

 装填手のオレンジペコがダージリンを見て問い掛ける。

「大洗の歩兵部隊にの中に一人……気になる人が居まして」

「高々、歩兵一人がですか?」

 ダージリンを見て砲手のアッサムも問い掛けた。

「歩兵一人、されど歩兵一人ですわ」

 ダージリンは真面目そうに言う。

「例えるなら、戦場の空気を……土の味を知っているわ」

「土の味?」

「ええ、幾つもの修羅場を超えてきた様な……」

 ダージリンの脳裏に凛祢の姿が浮かぶ。

「彼は早急にリタイアさせる」

 ケンスロットも腰の愛剣を掴み、凛祢への警戒心を強く持った。

 

 

 スタート地点に到着した大洗連合は戦闘準備を完了させていた。

「いよいよ試合か……」

「今回は長く生存していたいもんだ」

 八尋と翼がP90とバリスタをチェックしながら言った。

「勝てるでしょうか?」

「勝つさ……」

 塁が問いかけると凛祢もそう答えファイブセブンに実弾入りの弾倉を差し込んだ。

「用意はいいか?隊長?」

「あ、はい」

 通信機から聞こえた桃の声に返事をするみほ。

「全ては貴様と葛城に掛かっている。しっかり頼むぞ」

「はい……」

 全ては自分に掛かっていると言う言葉にみほの顔は緊張で強張る。

「大丈夫だ、西住。言ったろ俺は西住を守る盾になるって」

 通信を聞いていた凛祢がインカム越しに言った。

「……はい。葛城君が私の盾になってくれるなら私は……葛城君やみんなの敵を倒す剣になります」

「……フッ。それは心強いよ」

 凛祢はみほの言葉に笑みを浮かべた。

 みほも凛祢の声を聞いて不思議と心が落ち着くのを感じた。

「では、試合開始!」

 試合開始のアナウンスが戦場に響く。

「全戦車、パンツァーフォー!」

「行くぞ!全軍オーバードライブ!」

 みほと凛祢の号令で、大洗連合は前進を始める。

 大洗連合と聖グロリア―ナ&聖ブリタニア連合戦いが始まった。

 

 

 試合会場である大洗町のはずれ荒地では大洗連合の戦車と歩兵部隊が前進している。

「いよいよ始まりましたね」

「うん」

 Ⅳ号車内でみほと優花里が言葉を交わす。

「あのー、それでどうするんでしたっけ?」

 Dチーム、M3Leeの通信手である優季が質問する。

「さっき説明された通り、今回は殲滅戦。どちらかの戦車が全滅したら負けだ」

「そうなんだー」

「へー、そうだったのか」

 亮が答えると優季と翔が返事をした。

「まず私たちAチームとα分隊で偵察に出ます。各チームは百メートル前進した場所で待機して下さい」

「さっき声をかけた歩兵は大洗の市街地にC-4爆弾を設置をしてくれ。C-4爆弾に電管を刺すの忘れるなよ」

 みほと凛祢が指示を出す。

「分かりました!」

「はーい!」

「御意!」

「了解!」

 各戦車チームと歩兵部隊から返事が返ってくる。

「何か作戦名無いの?」

 干し芋を齧っているいる杏がそんな事を言う。

「え?作戦名は、えーと……『コソコソ作戦』です!コソコソ隠れて相手の出方を見て、コソコソ攻撃を仕掛けたいと思います」

 杏の無茶振りにも答えるように、みほは少し悩んだ後、作戦名を口にした。

「姑息な作戦だな」

「前段作戦を考えたのは緑間君と桃ちゃんじゃない」

 前段作戦を自分で考えたのに作戦を批判する桃に柚子がツッコミを入れる。

「西住、俺たちが先行して偵察する」

「了解しました。全軍、一旦停止してください」

 凛祢が言うとみほは全軍を停止させた。

 双眼鏡を手に凛祢と塁、狙撃用のスコープを使う翼が崖の傍で伏せて、荒野を見る。

 綺麗な隊列で進軍している聖グロリアーナ&聖ブリタニア連合。

「敵部隊を発見」

「スタート地点から東へ向けて進行中……予想通りですね」

 凛祢と塁がそう言いながら双眼鏡を覗き込む。

「様子はどうですか?」

「敵は隊列を維持して前進しています」

「あれだけ綺麗な隊列を組めるなんて……凄い練度の違いですね」

 みほの質問に凛祢が回答していると塁がそんな感想を漏らす。

「正面からの撃ち合いは避けるんだ。対戦車砲の徹甲弾でもチャーチルとマチルダの正面装甲を抜くのは不可能だ。凛祢の爆弾戦法も零距離まで近づかなければならない」

 翼が注意してくる。

「分かってる……戦術と腕かな」

 戦術と腕……か。

 みほの言葉に凛祢は内心で考え込む。

 こちらは初心者しかいないのに、みほの望む戦術を見せてくれるのか……。

 隊長として弱気は見せられないのは自分も同じこと。厳しい状況だが抗いぬくしかない。

 凛祢たちは偵察を終えて本隊と合流する。

「全車、エンジン音を響かないように展開してください」

 凛祢たちが合流したのを確認すると、みほは指示を出し、大洗連合は再度移動を始める。

 AチームのⅣ号とα分隊を先頭に進軍する大洗連合。

「敵は東へ向かって進軍中です。再度作戦を確認しますが、私たちとα分隊が囮となりますので、皆さんは例の峠で待機していてください」

「狙撃兵はそれぞれ指定の場所で狙撃準備に入ってくれ」

「ではこれより、コソコソ作戦を決行します!」

「はーい!」

「了解!」

 凛祢とみほが言うと戦車と歩兵部隊が待ち伏せ地点である峠へ。

「翼、塁、任せたぞ」

「はい!お任せください!」

「了解」

 翼と塁は凛祢から受け取ったC-4爆弾用のリモコンを手に峠の方向に走っていく。

 Ⅳ号とα分隊の三人が、聖グロリア―ナ&聖ブリタニア連合の誘い出しに掛かる。

「あの、私たちは」

「砲撃を仕掛けて、相手を誘い込む予定なんだけど……うまく行くかな?」

 華の質問にみほは不安そうに回答する。

「弱気になるな……俺たちはできる事をすればいい」

「うん」

「負けたらあんこう踊りだし」

「うう……」

 凛祢が声をかけたのに沙織の発言でみほの表情は曇る。

「それだけは御免だから最善を尽くすんだろ、隊長さんよ」

「言うじゃねーかトシ。色んな意味で俺たちは負けられねーんだよ」

 俊也と八尋の声が通信機から聞こえた。

「私はイギリス戦車が動いているところを生で見られるだけで幸せです」

 優花里はうれしそうな顔で言った。

「本当に幸せそうだね……」

「わかりますよ!僕もイギリスの銃火器を生で見られるチャンスで興奮してます!」

 沙織が呆れるように呟くと塁の興奮気味の声を出す。

 

 

 Ⅳ号は聖グロリア―ナ&聖ブリタニア連合の進行ルートに先回りしていた。

「敵、前方より接近中。砲撃準備」

 聖グロリア―ナと聖ブリタニア連合から見て右前方側の崖でⅣ号は岩陰に隠れるように陣取り砲撃態勢にに入る。

「装填完了」

 優花里がハッチを開けて、キューポラから上半身を出して敵の様子を窺うみほに報告する。

「えーと、チャーチルの幅は……」

「3.25メートル」

「4シュトリヒだから……距離、810メートル」

 華が照準器を覗きながら、微調整を行う。

「良いか、Ⅳ号が砲撃したら、全速後退だ」

「「ああ」」

 凛祢の最終確認に八尋と俊也が返事をした。

「撃て!」

 みほの号令でⅣ号の砲が放たれる。

 轟音と共に放たれた砲弾は、先頭を走行するマチルダⅡの手前に着弾した。

 砲弾が地面を抉り、派手に土煙を上げる。

「敵襲!」

 ケンスロットが叫ぶと聖ブリタニアの歩兵たちが一斉に銃を構える。

「仕掛けてきましたわね」

 チャーチル内のダージリンは慌てる表情も見せず、優雅に紅茶の入ったティーカップとソーサーを手に無線機で指示を出す。

「発見!右前方、10時の方向!」

 聖ブリタニアの偵察兵が双眼鏡を覗きながら報告すると、チャーチルとマチルダⅡの砲塔が旋回し、照準器内にⅣ号を捉える。

「すみません」

「大丈夫。目的は撃破じゃないから」

「お!追ってきたぞ」

 華がみほに言うとⅣ号に上った八尋が後方を見て報告する。

 凛祢、八尋、俊也を乗せたⅣ号は撤退行動に移る。

「全部隊、前方Ⅳ号と随伴の歩兵部隊に攻撃開始」

 ダージリンの指示に聖グロリア―ナ&聖ブリタニア連合は陣形を維持したままⅣ号とα分隊の追撃に入る。

 逃げるⅣ号とα分隊に向けてチャーチルの砲が火を噴く。

「敵戦車発砲!」

 凛祢が叫ぶとチャーチルの撃った砲弾はⅣ号の背後に落ちる。

「いーっ!」

「あぶねー」

 八尋と俊也がそんな気の抜けた声を出す。

「なるべくジグザクに走行してください。こっちは装甲が薄いからまともに受けたら終わりです」

「了解……」

 みほの指示に麻子はⅣ号を左右に揺らしながら走行させる。

「もう撃っていいか?」

「まだだ、今撃っても当たらない」

 P90を構える八尋の肩に凛祢が手を乗せて制止させる。

「今は我慢しろ八尋」

「へいへい」

 俊也の言葉に八尋は空返事で口笛を吹く。

 Ⅳ号とα分隊に聖グロリア―ナと聖ブリタニア連合は陣形を維持したまま容赦なく行進間射撃を行いつつ、徐々に距離を詰めてくる。

「よし。トシ、やるぞ」

「わかったよ……」

 八尋がP90を、俊也がFALを後方に向けて構えると追撃してきた聖ブリタニア歩兵部隊の扱う車両SASジープに銃弾を浴びせる。

「うわ!」

「くっ!」

 銃弾はSASジープのフロントガラスを砕いたが、乗員には命中していない。

「野郎!」

「お返しだ!」

 助手席に居た歩兵が反撃するようにブレン軽機関銃を発砲する。

 .303ブリティッシュ弾が岩肌の地面や崖に命中し、砂煙を上げる。

 更に、聖ブリタニア歩兵部隊はアサルトライフル『L85』や軍用小銃『リーエンフィールド』、対戦車ライフル『ボーイズ対戦車ライフル』、による攻撃が開始される。

「やべっ!」

「翼、出番だぞ!」

 八尋の焦った顔を見てインカム越しに凛祢が呟く。

「了解。目標を狙い撃つ!」

 崖の奥に隠れた翼の声と同時にバリスタから放たれる銃弾。

 銃弾は吸い込まれるように敵歩兵の胸元に命中する。

「ぐっ!」

「狙撃だ!」

 撃たれた歩兵は何とか痛みに耐えた。瞬時に立ち上がったケンスロットが腰の刀剣を抜刀する。

「一撃は無理か……わざわざ立ち上がるとは、なら隊長を撃つ」

 翼はレバーを引き空薬莢を排出し次弾を装填する。ケンスロットを狙い、放つ。

 放たれた銃弾はケンスロットの右足に向かって飛んで行く。

「位置はもうわかっている……」

 ケンスロットは愛剣、鋼鉄直剣『アロンダイト』を両手で握る。

 鉄と鉄のぶつかる甲高い音が響き、Ⅳ号の乗員と凛祢、八尋、翼、俊也が驚きの表情を見せる。

 彼は、聖ブリタニアの隊長、ケンスロットはその剣で銃弾を……弾いた!いや、斬った!

「「嘘だろ?!」」

「あり得ない……!」

 八尋と翼は思わず声を上げる。俊也もまた現実離れした技に驚く。

「たった一発で翼の位置を見抜いたのか……?」

 奴は、あえて立ち上がることで翼の狙いを自分に向けた。まさか、狙撃を絶対に防ぐ自信があったのか?!

 凛祢もさすがに動揺した、ケンスロットの芸当はそれほど大洗に絶大な衝撃をもたらした。

 自分にも『銃弾を避ける』なら可能かもしれない、しかし『銃弾を斬る』なんて芸当はできない。

「くそ、せめてもの救いは敵の砲が徹甲弾しか使ってこないことぐらいだ」

「あー確か、マチルダⅡは徹甲弾しか撃てないんだっけ?」

 俊也がFALを撃ちながら言うと、八尋が問い掛けるよう呟く。

「そうだ、イギリス軍は対戦車砲と対軟目的用の砲を別に搭載した方が効率がいいと考えてたからな」

「つまり、狙撃しか能の無い翼とCQCしか能の無い凛祢みたいって事だろ?逆に俺やトシは何でもできるからな!」

「狙撃しか能が無くて悪かったな」

 俊也の説明に納得したようにうなずく八尋。

 インカムから翼の声が響く。

「だが、チャーチルは別だ。奴の主砲であるオードナンスQF75㎜砲は榴弾を撃てる」

 凛祢が言った瞬間、チャーチルが主砲を放つ。

「冷泉さん、右に避けろ!」

 凛祢が叫ぶとⅣ号は右に曲がり、砲弾を避ける。

「みぽりん!危ないって!」

 みほが安堵の息を吐くと通信手の沙織がハッチを開けてみほに呼び掛ける。

「え?ああ、戦車車内はカーボンコーティングされてるから大丈夫だよ」

「そう言うんじゃなくて!そんなに身を乗り出して、当たったらどうするの?!」

 沙織は心配するように言うが砲弾と銃弾の飛び交う場所にいるのに平気な顔をするみほ。

「まあ、滅多に当たるものじゃないし、当たりそうになっても葛城君たちが守ってくれるから。それに、こうしてたほうが状況が分かりやすいから」

「でも、みぽりんにもしものことがあったら大変でしょ!もっと中に入って!」

「できれば、中に居てほしい。その方が安心してみんなを守れるから」

 心配する沙織と凛祢が言った。

「二人ともありがとね」

 みほはそう言って10㎝ほど車内に引っ込んだけだった。

「逃げてばっかりで攻撃もしてこないぞ!」

「やっぱり楽勝だな!一気に決めるぜ!」

 逃げ続けるⅣ号とα分隊の姿に痺れを切らしたように聖グロリア―ナ&聖ブリタニア連合の歩兵部隊の一台のSASジープが、加速して追ってくる。

「勝手な行動を!」

「待て!隊列を乱すな!」

 ダージリンが不快感を感じ、アグラウェインが命令する。

「心配しないでください!」

「こんな弱小チームの戦車なんてすぐに仕留めてやりますよ!」

 歩兵は指示を無視してⅣ号に接近して行く。

 そして、後部座席にいた砲兵の歩兵が立ち上がり、PIATを構えた。

「俊也、手榴弾を!」

「当たらねーぞ!」

「早く!」

 凛祢が言うと、俊也は腰のベルトから手榴弾を掴み、ピンを外して投擲した。

「そんなもの!」

 地面をバウンドしながらSASジープに向かって転がる手榴弾。しかし、来るとわかっていたため回避された。

「馬鹿が!」

「そっちがな……」

 凛祢は右手に持つリモコンのスイッチを押した。

 瞬間、地面に仕掛けられたヒートアックスが爆発する。

 爆発はSASジープを巻き込んだ。

「なにーーー!!」

 乗員たちは全員投げ出され地面を転がる。

 乗員の三人からは戦死判定のアラームが響くがたった一人だけは生き残った。

「あのヒートアックスいつの間に仕掛けたんだ?」

「塁に頼んで一つだけ仕掛けておいたのさ。本当はチャーチルに使いたかったんだが」

 八尋に聞かれ、凛祢はリモコンを腰のベルトにしまう。

「油断するな、俺たちの任務は終わってない」

 俊也もガッツポーズをした後に言った。

「大丈夫か?」

「なんとか……申し訳ございません、私がついていながら」

 ケンスロットがインカムで連絡すると生き残った歩兵は痛む左肩に手を当てて返事をする。

「それはいい、あいつらには後で罰を与える。アグラウェイン、彼を回収してくれ」

「了解」

 後方を走行していたアグラウェインのSASジープは生き残った歩兵の元に向かう。

「敵もなかなかやるようだな。これは油断したら全滅するかもな……」

「そうならないためにしっかり戦ってください、ガノ先輩」

「了解だ」

 狙撃銃L96A1改良型ガノスタンモデル『フェノルノート』を構えるガノスタンにオレンジペコが言った。

 SASジープは陣形を立て直しつつⅣ号の後を追う。

「……ケン。先ほどの攻撃、見ていました?」

「ああ」

 ダージリンがケンスロットに通信を入れる。

「あの状況で、しかも私たちに悟られないようにヒートアックスの置かれた地面に誘導させるなんて……」

「あいつは戦いに慣れている。おそらく、歩兵道の経験者だ」

 凛祢の戦術に油断が完全に消えたダージリンとケンスロット。

 

 

 大洗連合が待ち伏せする地点では市街地に罠を仕掛けた歩兵たちがちょうど帰還していた。

 崖に挟まれた一本道を見渡せる峠の上に、大洗女子学園の戦車が一本道を挟むように整列している。

 歩兵たちも戦車の横に待機している。

「かっくめーい!」

「しまった、どうしようー?」

「いつも心にバレーボール!」

「そーれ!」

 Dチームはトランプで遊び、Bチームは車外でバレー練習をしている。

「遅い!」

「待つのも作戦だよー」

 Eチームの桃はいつでも戦える態勢をとっているが柚子と杏は車外に出てゆっくりしていた。

 杏に関してはサマーベットに寝転んでいる。

「試合でありながらリラックスしてますね……」

「みなさん、試合だって分かってるんでしょうか?」

 苦笑いする宗司に塁が問い掛ける。

「お前たちはいつでも戦える様にしておけ!」

 桃と同様に臨戦態勢の雄二がMP18を手に言った。

 岩陰にうつ伏せに倒れ、狙撃していた翼も移動を開始する。

「こちら翼、第一狙撃は失敗。これよりキルゾーンを狙撃できるポイントに移動する」

「了解。こちら英治、いつでもキルゾーンを狙えるぞ」

「了解。こちら迅、同様にいつでも狙えます」

 翼が報告すると英治と迅の声がインカムから聞こえた。

「よし、それぞれの狙撃ポイントで待機。キルゾーンでの戦闘後、味方戦車が市街地に移動したらそれぞれの分隊に合流するように」

 英治が翼と迅に指示を出してそれぞれの狙撃準備に向かう。

「こちらAチーム!現在敵を引き付けて待機地点に後三分で到着します!」

 みほからの通信が全戦車の通信手と随伴である歩兵隊のインカムから聞こえた。

「Aチームが戻ってきたぞ!全員戦車に乗り込め!」

「ええ、嘘ー?」

「折角革命起こしたのに」

「ボールはちゃんと持って!」

「はい!キャプテン!」

 桃の声に、DチームとBチームがそれぞれの戦車に乗り込む。

「……」

 塁も緊張しながらもリモコンを握る。

「ルートには既にC-4爆弾と対戦車用の地雷を設置してある。Ⅳ号が通り過ぎた後に立ち往生したところを一斉砲撃だ!前段作戦で勝利するぞ!」

 雄二が叫び、歩兵たちは武器を構える。

「後、五百メートルで敵部隊が射程内に入るぞ!」

 通信機とインカムからの凛祢の声に敵が現れるのを待つ大洗連合。

 やがて、敵を連れたⅣ号がキルゾーンに侵入する。

 瞬間、戦場に響く多数の発砲音。

「撃て、撃て!」

「弾薬を雨を浴びせろ!」

 桃と雄二の声に一斉に対戦車砲と銃を放つ歩兵部隊。

「うおーー!!」

「オラオラオラオラ!」

「ムダムダムダムダ!」

 命令に勘違いしたとも知らずDチームのM3とΔ分隊が砲撃と射撃を開始する。

「あ、まだです!」

「みんな、なにやってるんだ!」

 塁と宗司もみんなの行動に思わず叫んだ。

「フレンドリーファイアー?!」

「待てよ、俺たちを殺す気か?」

「あ?!待ってください!」

 八尋、俊也、みほが驚きの顔を見せた。Ⅳ号の傍に砲弾と銃弾が着弾する。

「味方ごと、撃つのか……」

「味方を撃ってどうすんのよ?!」

 凛祢が呟くとそれを聞いた沙織が悲鳴を上げる。

 しかし、攻撃の手が止まることはなく、次々と砲弾と銃弾は地面に仕掛けられた対戦車地雷に命中、次々に誘爆する。

「あーー!!」

「お前ら、人の努力を無にしやがって!」

 罠を仕掛けた本人であるジルと景綱が叫ぶ。

 くっ!対戦車地雷がなくなったら戦車を行動不能にする方法がない!

「凛祢殿、どうしますか?!」

「凛祢!どうすんだ!」

「葛城!指示を出せ!」

 塁、八尋、俊也が次の指示を待っている。

「前段作戦は……まだ終わってない!」

「そうです!罠がなくなっても。まだ……戦車が残ってます!」

 凛祢とみほの闘志はまだ消えていない。

「こんな安直な囮作戦……私たちには通用しませんわ」

「しかも、先ほどの誤射で大洗の配置はわかっている。一気に畳み掛ける!」

 優雅に紅茶を飲んでいるダージリンと隊列を崩さず加速するケンスロットの乗るSASジープ。

 キルゾーンに堂々と侵入する。

「撃てぇ!」

 再び桃が命令し、大洗連合は攻撃を開始する。

「撃て撃て撃て!!」

 雄二も後に続くように叫ぶが敵に損害を与えられない。

 聖グロリア―ナ&聖ブリタニア連合は左右に分かれて陣を展開し、大洗連合の包囲に掛かる。

「そんなバラバラに攻撃しても……履帯を狙ってください!」

「みんな、落ち着け!」

 みほと凛祢が叫ぶが、発砲音に掻き消されみんなに聞こえていない。

「桃ちゃん、落ち着いて……」

「うるさい!」

 柚子の言葉を無視して砲撃を続ける桃。

「あちゃー、またか」

「桃ちゃんの悪い癖が……」

 杏が他人事の様に言って干し芋を食べると、柚子がため息をついた。

 他の戦車、歩兵もバラバラに砲撃を続ける。

 その間に、大洗連合を聖グロリア―ナ&聖ブリタニアの包囲する。

「こちら、ガノスタンー。包囲陣形はオッケー!」

「こちら、アグラウェインも包囲完了です」

「こっちもオッケーだぜ」

 ガノスタン、アグラウェイン、モルドレッドがインカム越しに言った。

「了解しましたわ。では砲撃開始」

 ダージリンが命令を下すと戦車と歩兵が砲撃を開始する。

「全軍岩陰に身を隠しつつ応戦!」

「了解!」

 凛祢の指示を聞いた歩兵たちは一斉に身を隠す。

「お前ら何してる?!ぐあーー!」

「「やられた!!」」

 しかし、ジルと景綱、雄二は通信がよく聞こえず銃弾が被弾した。瞬時に戦死判定のアラームが鳴る。

「ジル、景綱!よくも!」

「待て、アーサー!今ここで出ていけば良い的だ!」

 アーサーがカリバーンを手に出ていこうとするがシャーロックがその手を掴んで止める。

「でも!」

 徐々に距離を詰められ、砲撃は激しさを増していく。

 余りの激しさに、砲撃を止め始める戦車と歩兵が出始める。

「落ち着いてください!攻撃を止めないで!」

 みほが叫んだ。

「無理です!」

「もう嫌ぁ!!」

 Dチームのあゆみと優季が悲鳴を上げたかと思うとDチームの乗員がM3Leeを放棄して車外に脱出する。

 そのまま戦場を走り抜けて、逃亡していく。後を追うように亮を除くΔ分隊の歩兵も逃走する。

「おい、みんな!逃げてどうするんだ!」

 亮も自分の仲間が逃走する姿に気をとられ無防備に立ち上がった。

「亮、伏せろ!」

「え?」

 凛祢が叫ぶが既に遅く、銃弾の雨は次々と亮の体に命中する。

 その場に倒れた亮から戦死判定のアラームが響く。

 凛祢の手元には亮のトンプソン・サブマシンガンが転がる。

 すぐにM3Leeも被弾し、行動不能の白旗が上がる。

「凛祢、もう無理だ。撤退しろ!」

「そうだ葛城、これ以上は無理だ!市街地まで下がり、隊を再編成するんだ!」

 インカムから翼と英治の声が聞こえた。

「塁、C-4を起爆させろ!翼、会長、迅、俺たちが撤退するまで狙撃で時間を稼いでくれ!」

「「「「了解!」」」」

 凛祢が指示して、みんなが返事をする。

「撤退だと?ふざける――」

 桃が言っている途中、38tに至近弾が着弾。

 車体が浮き上がったかと思うと、左の履帯が外れた。

「あれ?あれれ?!」

「ああー、外れちゃったねー、履帯。38tは外れやすいからなあ」

 突然操縦の効かなくなった38tに困惑する柚子、冷静に状況を分析する杏。

 履帯が外れた38tは左に流され、窪地へと落ちた。

「武部さん!各車状況を確認してください!」

「あ、う、うん!」

 みほは各車の状況報告を求めた。

「えっと、Bチームどうですか?」

「なんとか大丈夫です!」

「β分隊も大丈夫です!あ、今、淳がやられました!」

 Bチームの妙子と漣が答える。

「Cチーム!」

「言うに及ばず!」

「γ分隊は僕とシャーロックだけです!」

 勇ましい声のエルヴィンとアーサーが返事をした。

「Dチーム!」

 Δ分隊共に応答はない。

「Eチーム!」

「駄目っぽいね」

 必死に窪地から脱出しようとしている柚子の隣で杏がいつもの口調で言った。

「ε分隊は私と会長だけです」

 宗司が続くように通信を入れた。

「私たち、どうしたら?」

「隊長殿!指示を!」

「撃って撃って撃ちまくれ!」

 指示を求める典子とエルヴィンとは対照的に攻撃を指示する桃。

 その間に、戦車同士の距離は縮まっていく。

「西住、市街地まで撤退だ!」

「え?」

「ここで全滅するよりマシだ!時間は狙撃隊で稼ぐ!」

 みほの有無を聞かずに凛祢は撤退を促した。

「わかりました、これより前段作戦から後段作戦に移ります!市街地でのゲリラ戦を仕掛けますので、八九式とⅢ突はついてきてください」

「「了解!」」

 みほの指示に典子とエルヴィンが返事をする。

 すると、Ⅳ号とⅢ突、八九式が逃走する動きを見せる。

「起爆!」

 塁は声と共にリモコンのスイッチを押すと仕掛けられたC-4が爆発する。

 次々と爆発していくC-4は数人の聖ブリタニアの歩兵を巻き込んだ。戦死判定のアラームも鳴った。

「お!やるなー」

「ガノそんなこと言ってる場合ですか!」

「いやーC-4なんてよく使うなーって思ってよ」

 ガノスタンが笑いながら言うとアグラウェインがやれやれと声を掛ける。

 爆発で舞う上がる煙に紛れ大洗連合の歩兵たちはそれぞれの戦車に飛び乗り逃走する。

「だが、逃がさないんだよな!」

 ガノスタンはスコープを覗きながら言うとフェノルノートの引き金を引いた。

「うっ!」

 銃弾は塁の右肩に命中。

「大丈夫か?塁」

「あの野郎。あの状況で狙撃してくるとは……」

 八尋は塁の体を支える。俊也も狙撃したガノスタンを睨む。

「私としたことが、敵を逃がしてしまうなんて……」

 ダージリンが紅茶を飲んで悔しそうに呟く。

「ダージリン、どうするの?」

「大洗連合を追撃しますか?」

 アッサムとオレンジペコが指示を求める。

「いえ、一旦煙が晴れるまで待ちますわ。敵陣だった場所を進むのに、視界が効かない状態は望ましくありませんわ。敵が自陣のに罠を残していないとは限りませんわ」

 ダージリンは待機命令を出して紅茶を置いた。

「確かに、彼らは罠で先手を取った。ここは待つべきだ」

「んあ?さっさと行こうぜ!敵の陣形が崩れてる今がチャンスだろ!」

「モルドレッド落ち着け。急がば回れと言うだろう」

「っ!んだよ……アルフレッドはすぐそこだってのに」

 ケンスロットの言葉に舌打ちをして腕を組むモルドレッド。

 聖グロリア―ナ&聖ブリタニア連合は待機しながらそれぞれ銃の弾倉交換などを行っていた。

 数分後、砂埃が消え視界が良好になった聖グロリア―ナ&聖ブリタニア連合も追撃を開始する。

「もう逃がさねぇ!」

「モルドレッド熱くなりすぎです!もっと冷静に――」

「うるせぇ!」

 モルドレッドはアグラウェインに怒鳴るとチャーチルの後を追う。

「モルドレッド、今日は随分張り切っていっていますわね……」

「ハハ、あれはマジで切れてんじゃねーの?なんでか知らねーけど」

 ダージリンの言葉にガノスタンが笑いながら言った。

「38tはウェディの分隊に任せて、行くぞ!」

 ケンスロットが指示すると一つの分隊を残し、追撃隊は大洗連合の通った道を進む。

 

 

 なんとか激戦地帯を抜けた大洗連合の三両は磯前神社へと登る坂を下り、大洗の市街地に向かった。

 観客の声が自然と聞こえる。

「これより、市街地に入ります。地形を最大限、活かしてください」

 みほの声に合わせて大洗連合の戦車はマリンタワー南交差点を右折し、大洗の市街地に侵入する。

「Why not!」

「大洗は庭です!任せてください!」

 エルヴィンと典子が返事をする。

「よし、歩兵部隊の再編成を行う」

 凛祢はそう言って、みほと八尋、塁、俊也に見えるようにメモを見せた。

 大洗連合戦力。

 生き残っている車両はⅣ号、八九式、Ⅲ突、そして作戦地点に取り残した38t。宗司と英治がまだ生存しているところを見るとまだ撃破されていない。M3はリタイア。

 歩兵部隊、α分隊は全員生存、β分隊は漣を除いて三人、γ分隊はアーサーとシャーロック。Δ分隊は全滅、何時リタイアしてもおかしくないε分隊の二人。

「戦力はおよそ半分。ただ、38tはリタイア同然だろ」

「会長と副会長が生存している以上、まだ何とも言えませんが」

 八尋と塁がそんな言葉を口にする。

「α分隊はそのまま。β分隊に副会長、γ分隊に会長を投入、それぞれ歩兵戦闘を行えるように準備を」

「では、これより後段作戦。市街地でのゲリラ戦を開始します!」

「了解!」

「分かった!」

 凛祢とみほの指示に歩兵部隊は返事をして、それぞれ気を引き締める。

 数分後、ようやく大洗連合の姿を確認した聖グロリア―ナ&聖ブリタニア連合、砲撃を浴びせながら大洗鳥居下の交差点を左折。

 そのまま、県道2号線を通って、海沿いを走行する。

「どうやら、市街戦に持ち込むつもりみたいですね」

「地の利を活かすようだ」

 オレンジペコとケンスロットが言うとチャーチルはゆっくり前進する。

「消えた?」

「どうやら、完全に市街地に入られたな」

 キューポラを覗き、窓から外を見ながら呟くダージリンと周りを見回すガノスタン。

「ケン、どうする?」

 ガノスタンが問い掛ける。

「狭い市街では大部隊を組んで移動するのは困難だ。ダージリン、隊を分けて戦うべきだろう」

「確かに、そのほうが良さそうですわね」

 ケンスロットとダージリンが通信を終えると戦車を中心に分隊は分散していく。

 

 

 一両のマチルダⅡが随伴歩兵部隊三人を周囲に展開し、歩兵部隊に移動速度を合わせてゆっくりと市街地の路地を進んでいる。

「こちら、グラスト分隊。敵影は発見できず、引き続き捜索を続けます」

 随伴歩兵部隊の分隊長グラストが通信を送る。

 瞬間、前方から手榴弾が投げられる。瞬時に手榴弾は爆発し、グラスト分隊の歩兵一人を戦死させた。

「前方から敵襲!」

 分隊長が大声で叫ぶと、分隊全員が前方に視線を向ける。

 視線の先には鋼鉄刀剣『カリバーン』を右手に持つアーサーの姿があった。

「前方に歩兵一名!攻撃開始!」

 聖ブリタニアの歩兵がブレン軽機関銃を構えた。

「はっ!」

 声と共に後方に建っているコンビニのごみ箱からシャーロックが勢いよく現れる。

 前方に気を取られる歩兵を日本武術『バリツ』で投げ飛ばす。

 コンクリートの地面に投げつけられた歩兵は堪らずうめき声を上げる。

 更に駄目押しするようにワルサーP38を胸部に発砲すると、歩兵から戦死判定のアラームが鳴った。

「くっ!後ろから奇襲するなど騎士として恥ずかしくないのか!」

「生憎、私は騎士ではないのでね。君の価値観を押し付けないでくれ」

 シャーロックは煽るように煙草を吸う仕草を見せる。

「貴様、許さん!」

 分隊長が腰の剣を抜刀しようとした時、シャーロックが煙幕手榴弾を投げる。

 一瞬にして、煙がマチルダⅡと分隊長の視線を奪う。

「なに?ぐあ!」

 そんな分隊長の声と拳銃の発砲音が響いた後、戦死判定のアラームが響く。

「こちらの歩兵部隊が全滅しました!」

「嘘?!前進して、敵を一両でも倒すのよ!」

 タブレットで歩兵生存状況を確認したマチルダⅡの通信手と焦りだした車長が叫ぶ。

 マチルダⅡが前進して、煙幕を抜けるとアーサーの姿はない。

 間も無くして薬局の前を通り過ぎようとする。

 乗員全員が随伴歩兵の全滅に焦りだしていた為、気づかなかった。

 薬局の前に置かれた旗の中に、真田の六文銭と新選組の誠のマークの旗がある事に。

「今だ!撃てぇ!」

 エルヴィンの叫びが響いた瞬間、薬局と民家の間に潜んでいたⅢ突が発砲。至近距離からの砲弾が、マチルダⅡの砲塔右側面に叩き込まれる。

 数秒後、行動不能を現す白旗が上がる。

「よし!」

「次だ!」

 マチルダの後に煙幕を抜けたアーサーとシャーロックがその様子を見て、拳を軽くぶつけ合う。

「こちらエルヴィン。マチルダⅡを一両撃破!」

 Ⅲ突はすぐに移動を開始する。キューポラから顔を出したエルヴィンとカエサルは機嫌よさそうに笑っていた。

「よし、私たちも行こう――」

 シャーロックの言葉はそこで止まり、地面に倒れる。

 一瞬、アーサーは何が起きたのかわからなかった。しかし、目の前に写る人物に驚きを隠せなかった。

 その聖ブリタニアの歩兵の名をアーサーは口にする。

「も、モルドレッド……!」

「ようやくだ。ようやく見つけたぞ、アルフレッド!」

 モルドレッドはアーサーを見て、叫んだ。

 

 

 別地点では、マチルダⅡが怪しいガレージを見つけていた。

 さっきまで使われていたかのように赤いライトが点灯している。ガレージ前の駐車場には重ねられた段ボールが三つ置いてあった。

「あの、ガレージが怪しいですね……どうしますか?ルクリリ隊長」

「行くだけ行きましょう。闇雲に探しても見つかりませんから」

 アグラウェインの言葉を肯定するようにルクリリが指示するとマチルダⅡは怪しいガレージの前に停止する。

 すると、ガレージのシャッターがゆっくりと開いていく。

 マチルダⅡとアグラウェイン分隊は戦闘態勢を整える。

 しかし、前方にのみ気を向けていたマチルダⅡとアグラウェイン隊は気づいていなかった。

 後方の駐車場には地下から出るためのエレベーターから八九式が現れていることに。

 マチルダⅡの後ろを取った八九式は息を潜めたままマチルダⅡの燃料タンクに狙いを定める。

「静かに、確実に行くよ……」

「スネークアタックだ」

 典子と辰巳が小声で通信する。

「ん?後ろだ!」

「しまった!」

 アグラウェインとルクリリが叫ぶと八九式が発砲。同時に段ボールに隠れていた辰巳と淳、宗司が現れ、百式軽機関銃前期型とMP18を発砲。

 砲弾は燃料タンクに命中し、マチルダⅡから煙が上がる。

 辰巳たち歩兵の銃弾も歩兵を捉えた。

「やりました!キャプテン!」

「やった!こちら八九式、マチルダⅡを一両撃破しました!」

「逆転のダンクシュートだ!」

 攻撃を決めた車内では典子とあけびが喜びの声を上げた。辰巳もガッツポーズをして、笑みを浮かべる。

 

 

 更に別地点はⅣ号とα分隊が戦闘状況を整理していた。

「残りは三両か。五分五分だな」

「問題はチャーチルです。こちらの砲じゃ装甲を突破できませんから」

 通信を聞いた八尋と塁が言った。

「うーん、できれば随伴を引き離した上での一騎打ちに持ち込みたいんですが」

「そこは、俺たちで何とかする」

 みほが言うと凛祢がⅣ号から降りて言った。

 すると発砲音と共にⅣ号の傍のコンクリートを砲弾が抉る。

「戦車発見。ナイトの皆さんは歩兵を」

 ダージリンは紅茶を飲むと指示を出した。

 α分隊が振り向くとチャーチルとマチルダⅡ、敵歩兵の姿があった。

「円卓の騎士団(ナイト・オブ・ラウンズ)の名は伊達ではない。白兵戦に持ち込めば経験のある、こちらが上だ!」

 ケンスロットもリーエンフィールドを手に戦闘を開始する。

「もう、来たのか。みんな行くぞ!」

 凛祢の声と共にα分隊は聖ブリタニアの歩兵部隊のほうへ、散開していった。




とうとう聖グロと聖ブリタニアの戦闘が始めりました。
自分はガルパンのキャラでダージリンが好きなので頑張りました。
今後も執筆をつづけるので読んでいただけると嬉しいです。


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第5話 初試合決着

UNIMITESです。
ガルパンの最終章をDVDで見てすごくおもしろかったです。
今回は聖グロ&聖ブリ連合戦の後半戦、凛祢たちは勝てるのか?
あんこう踊りを回避できるのか?


 大洗連合と聖グロリア―ナ&聖ブリタニア連合との試合が開始されてから二時間の時が過ぎた。

 岩肌の大地から市街地へ戦場を変えた大洗連合の戦いは激しさを増している。

 Ⅳ号はチャーチルとマチルダⅡを背に逃走していた。地に利がある大洗は有利ではあるものの後方を走るグロリア―ナの歩兵戦車は確実に距離を縮めている。

 α分隊はブリタニアのケンスロットの分隊とマチルダⅡの分隊を相手に戦っていた。

 市街地には甲高い発砲音が幾つも響く。

「歩兵を引き離すことができたが、流石に戦い慣れてるな」

「ああ、これはやばいな」

 八尋と俊也は市街地を走り回りながらなんとか戦闘を続ける。

 しかし、残弾も半分を切った、これ以上の長期戦は正直、厳しかった。

「八尋、東藤。ポイントL5地点まで来い!」

「ようやくか、分かった!そろそろ限界だったぜ」

 インカムから聞こえた凛祢の声に八尋と俊也は返事をした。

 開けた道路を走り抜けて目的地に向かう。後方からは八尋たちの姿を確認したブリタニアの歩兵部隊が追いかけてくる。

「待てー!」

「逃がすな!」

 ガノスタンやブリタニアの歩兵も必死に後を追ってくた。

「待てって言われて待つ馬鹿が居るか!」

「いいから走れ!」

 後方を見て叫ぶ八尋を横目に見ていた俊也が言った。

「凛祢殿、こっちからも来てます!」

「塁、さっき言った通り頼む。このまま走り続けるぞ!」

「はい!」

 数分前まで射撃戦を繰り広げていた凛祢と塁もケンスロットや他の歩兵から逃走していた。

 なんとか市街地内に仕掛けたC-4爆弾で敵歩兵の人数を二人まで減らせたが状況は劣勢。

 そして数秒後、α分隊の四人は同時にL5地点に着いた。

 前後どちらにも敵兵の姿があり、一本道にα分隊は囲まれる形になっていた。

「ここまでだな……」

「ここで終わらせる」

 ケンスロットとガノスタンがそれぞれの武器を構える。

「……」

 凛祢もケンスロットを見て、ファイブセブンとコンバットナイフを手に戦闘態勢に入っている。

「くそ、ここまでなのかよ……」

 八尋が言うと、俊也と塁も苦しそうな表情を浮かべた。

 

 

 一方、Bチームの八九式と宗司を投入したβ分隊はマチルダⅡと戦闘を繰り広げたガレージにいた。

「煙が晴れる……」

 宗司が言うと、戦車部隊員と歩兵部隊も目を向けた。

 すると、Bチームとβ分隊の前に現れた光景に目を疑った。

 マチルダⅡからは……白旗が上がっていない。

「なっ!」

「全速回避!」

「間に合いません!」

 辰巳の驚きの声と宗司の声が響くが、左右前後にも動けない八九式にマチルダⅡの砲弾が命中した。

 すぐに八九式から白旗が上がる。殲滅戦ルールに従い、同時に辰巳と漣から戦死を現すアラームが鳴った。

 マチルダⅡの随伴歩兵は二人仕留めたもののアグラウェインは剣を盾にして戦死は免れていた。

 いち早く動いたアグラウェインは宗司にL85から放たれる銃弾を浴びせる。

「ここまでですか……」

 宗司が小声で言うと、辰巳たちと同様のアラームが鳴った。

「はぁはぁ、危なかった……。彼らがあと数秒撃ち続けていたらやられていました」

 なんとか生き延びたアグラウェインは息を荒くしながら刀剣武器『ガラティン』を杖代わりにして立っていた。

「私たちも危なかった……」

 車長であるルクリリも少々動揺していた。

 もしも、相手の戦車の砲がもっと強かったなら……おそらくやられていたのは彼女たちだった。

「こちらBチーム、マチルダⅡの撃破は失敗!逆にやられました!」

「すまない!俺たちだけじゃなく副会長もやられてしまった!」

 典子と辰巳がα分隊に通信を入れた。

 

 

 別地点の市街地ではγ分隊長アーサーとブリタニアの歩兵モルドレッドが戦っていた。

 二人の一騎打ちのためにⅢ突とシャーロックはその場から離れていく。

「因縁の相手か、アーサーとモードレッド。まさにカムランの戦い」

「「「それだ!」」」

 エルヴィンの言葉にカエサル、左衛門座、おりょうが叫んだ。

「カムランの戦いだとどちらも死んでしまうと思うのだけど」

 シャーロックが冷静にツッコミを入れた。

 何度も金属のぶつかり合う音が響く。

 音の正体はアーサーの刀剣武器『カリバーン』とモルドレッドの刀剣武器『モルガンカリバー』の撃ち合いによるものだった。

「っ!」

 お互い、手に響く衝撃に耐えながら剣を振る。

「僕は、アルフレッドの名を捨てた……今の僕はアーサーだ!」

「何が、アーサーだ!あんたの名はアルフレッドだろうが!」

 アーサーが叫ぶがモルドレッドはその答えをかき消すように叫ぶ。

「俺との戦いから逃げたくせに今頃、剣を持つなど!」

 更に、アーサーとモルドレッドの剣がぶつかる。

「僕は仲間に教わった。『自分の人生は自分で演出する』と」

 血縁とか因縁とかそんなものを捨てて自分の信じた道を行く、それがアーサーの選んだ道だった。

 しかし、モルドレッドの剣術はアーサーを上回っている。

「それでも、あんたじゃ俺には勝てないぜ!剣術は……俺が上だ!」

 モルドレッドの剣がアーサーの剣を弾いた。

「剣術ならモルドレッド、お前が上だ。だが、これは歩兵道。武器はなにも剣だけじゃない!」

 アーサーは体をねじる様な動きでホルスターからマイクロUZIを引き抜くと零距離で発砲した。

 銃弾は次々にモルドレッドに命中していく。

 しかし、アーサーは引き金を引き続けた弾倉が空になるまで。

 数秒後、モルドレッドからアラームが鳴った。

「うぐっ!くそが……」

 モルドレッドは剣を地面に落として、その場に跪いた。

 何発もの銃弾を受けた腹部からは強い痛みを感じる。

「騎士道を貫くのもいい。だが、歩兵道は剣も銃も使われる戦いだ。剣術だけじゃ生きていけないぞ……」

「やっぱり、あんたを超えられねーのか……」

「いや、お前が銃を積極的に使っていたら負けていた……次は確実に負けるな剣術も射撃も」

 アーサーが言うと、モルドレッドはアーサーを睨む。

「まあ、何も戦うだけが戦車道や歩兵道じゃない。戦いを通して礼節を学ぶ神聖な武道なんだ」

「ふん!」

 モルドレッドはそっぽを向いた。

 アーサーもやれやれといった表情でⅢ突の後を追いかけようとした時。

 アーサーから戦死判定のアラームが響いた。

「なに?なんで!」

 アーサーは何が起きたのか分からなかった。

「おい、シャーロックどうした?!」

「すまない……Ⅲ突がやられた」

 アーサーが通信を入れるとインカムからシャーロックの声が聞こえた。

「壁を突き破った砲弾を側面から受けて一発だったよ……Ⅲ突は車高が低いから狙い撃ちなんてされにくいのに」

 シャーロックの言葉を聞いて状況を想像する。

 そして、一つの答えが浮かんだ。

「旗なんてつけてるからだろう、エルヴィン!」

 アーサーはインカム越しに叫んだ。

「ふ、不覚。我らの演出が仇になるとは……」

 カエサルが悔やみきれないように悔しがっている。

「こちら、Cチーム。敵砲撃により走行不能!」

 エルヴィンが続くように通信を入れた。

 

 

 通信を聞いたⅣ号車内に緊張が走る。

 八九式とⅢ突のリタイア、さらには敵の戦力は四両。

 圧倒的に大洗が劣勢だった。

「まずいよ、みぽりん」

「このままじゃ……」

 沙織と優花里が不安そうに言った。

「一両ずつ倒していきましょう。確実に一両ずつ減らしていくんです」

 みほはAチームを落ち着かせるように言った。

「まだ葛城たち、歩兵のみんなも戦ってるんだ」

「そうですね、進みましょう」

 操縦手の麻子と砲手の華もそう言うと、全員が気を引き締める。

 すると、逃走していたⅣ号の前を「工事中」の看板が遮った。

 看板の奥はバリケードを張る様に通行止めしている。

 麻子は急いで車体を操作し後ろを向かせると、数十メートル先にチャーチルとマチルダⅡの姿があった。

「っ!」

 みほも状況確認を行いつつ、逃走経路を探す。

 一本道であるここには逃げるための道は一つしかなかった。

 しかし、下手に動けばこちらがやられる。

 チャーチルとマチルダⅡは道を塞ぐように陣取り数メートル先で停止するとキューポラからダージリンが顔を出した。

「こんな言葉を知ってる?イギリス人は……恋愛も戦争も決して手を抜かない。全力で挑むのよ」

 ダージリンが言うとチャーチルの砲がⅣ号の方を向いた。

 

 

 一方、同じくピンチを迎えていた凛祢たちの状況を打ち砕くように発砲音が響いた。

 ガノスタンと共にいた歩兵二人から戦死判定を告げるアラームが鳴る。

「なに?!」

 ガノスタンが言うと同時にα分隊が動く。

 塁がFALを発砲してケンスロットの隣にいた歩兵を倒した。

「まさか、このタイミングで狙撃兵が出てくるとは」

 ケンスロットが言うと凛祢のナイフ攻撃をアロンダイトでガードした。

 ガノスタンたちの後方からは狙撃兵の翼と英治が狙撃銃を撃ちながら走ってくる。

「ようやく、合流してくれたよ」

「なぜ、いままで出てこな……まさか!」

 ケンスロットは凛祢に反撃しつつ理解した。

 ブリタニアの歩兵はケンスロットとガノスタン、アグラウェイン。そして、この場の数人の歩兵だけとなっている。

 そして、38tを監視していた部隊からの連絡はない。

 狙撃兵部隊が岩場に残りブリタニアの歩兵を全員倒してきたとしたら。

「侮っていた。まさか、ここまでとは……」

 大洗の歩兵たちはケンスロットの予想を確実に上回ってきた。

 ガノスタンは八尋と翼の相手をしており、援護はできない。

 他の歩兵も塁と俊也、英治が相手をしていた。

「やられたぜ、こんな状況……完全に予想外だ」

「ギリギリ間に合っただけだ。もう少し遅ければ終わってたよ」

 こんな状況でも笑みを浮かべるガノスタンに八尋も笑みを浮かべて答えた。

「それにしても凛祢の奴、本当に一人で敵エースと戦うのか……」

「八尋、今は目の前の敵に集中しろ」

 八尋や翼も正直、反対した。凛祢が敵エースと一騎打ちをすることに。

 しかし、敵は数も質も大洗より上、誰かがエースと戦う必要があった。

 だからこそ、凛祢に頼むしかなかった。チーム唯一の経験者であったから。

 凛祢はケンスロットとの対決を、ガノスタンは八尋、翼との対決を開始する。

 

 

 チャーチルが発砲しようとした時、エンジン音と共に現れたのは金ぴかに輝く38tだった。

「参上ー!」

 杏の声が通信機から響く。

「生徒会チーム!」

「履帯、直したんですね!」

 それを見た沙織と優花里が叫んだ。

「食らえ!」

 桃の叫びに合わせて38tが発砲した。

 しかし、砲弾は明後日の方向に飛んで行った。

「桃ちゃん、ここで外すー?」

「桃ちゃんと言うな!」

 柚子がそんな声を上げると、桃も叫ぶ。

「え?ここで外す?」

 それを見たマチルダの車長も思わず同じ感想を述べた。

「マチルダを一撃で倒して、左の道にそれて!チャンスは一度!」

 みほが叫ぶとⅣ号はマチルダⅡに発砲。

 瞬時に、左の道へと逃走していく。

 逃がすまいと、もう一両のマチルダⅡは38tに砲弾を撃った。

「やられたー」

 杏の声を合図に、ほぼ同時に38tとマチルダⅡから白旗が上がる。

「道を抜けたら右折、壁沿いに進んで急停止!」

 みほの指示を聞いて、指示通り道を抜けて壁沿いに待ち伏せする。

「秋山さん、成形炸裂弾を!」

「了解!」

 優花里も成形炸裂弾、HEAT弾を装填する。

 HEAT弾とは、簡単に言えば、装甲貫通能力に長けた特殊な榴弾の事である。

 初速が遅いという弱点があるものの、Ⅳ号でも使用できる物では70~90㎜装甲を貫通できるはずだ。

「五十鈴さん!」

「発射!」

 数十秒後、マチルダⅡが曲がり角から現れると華がトリガーを引いた。

 発砲音と共にマチルダⅡの側面に砲弾が命中し、白旗が上がった。

「こちら、マチルダⅡ。砲撃により走行不能!」

「こちら、ルクリリ隊マチルダⅡ。対戦車地雷により走行不能!」

 すぐに、後退しその場から数メートル離れる。

 また、別地点では市街地内を走行していたルクリリ隊のマチルダⅡだったが、走行中に道路に仕掛けられた対戦車地雷が起爆。

 履帯を切られた上にエンジン部に引火し、白旗が上がった。

「なっ、なかなかおやりになるわね」

 驚きのあまりダージリンは思わずティーカップを落とした。

 ティーカップは割れ、紅茶が車内にこぼれる。

「ここまでとは、驚きですね」

「初心者同然の大洗がここまでしてくるなんて」

 オレンジペコとアッサムも驚いた。

 圧倒的な差で勝つと思っていたのに状況は五分五分にまでなっていた。

 大洗は残り一両と分隊一つで状況をここまで覆した。

「確かにやるわね。でも、負けるわけにはいかないわ!行くわよ!」

 ダージリンはⅣ号を討つべくチャーチルを走らせる。

 そして、道を抜けたチャーチルとⅣ号が対峙した。

 Ⅳ号はそのまま、チャーチルから大きく距離を離し始める。

「路地行く?」

「いや、ココで決着着けます! 回り込んで下さい! そのまま突撃します!!」

 麻子の問い掛けに、みほはそう返す。

「………と見せかけて、合図で敵の右側部に回り込みます!」

 チャーチルから距離を離していたⅣ号が反転し、チャーチルの方を向き直る。

「向かって来ます」

「おそらく、さっきと同じ所を狙って貫通判定を取る気ね」

「させるもんですか!」

 Ⅳ号の動きを見て、次の動きを予想するダージリン、オレンジペコ、アッサムが言った。

 向かってくるⅣ号に対してチャーチルを右旋回させ、車体を固定する。

 Ⅳ号が前進し、チャーチルの最初の砲撃を避ける。そのまま、チャーチルの右隣に滑り込む。

 チャーチルもすぐに砲弾を装填、Ⅳ号と同時に砲を撃つ。

 

 

 凛祢も必死にナイフを振るが、ケンスロットはその攻撃を捌ききっている。

 くそ、攻めきれない!実戦において自分の腕は、ここまで衰えているのか?

 急がなければⅣ号が負けるかもしれない!

 どれだけ、攻撃を繰り出してもケンスロットは防御する。

 ケンスロットも凛祢の攻撃を防ぎきってはいるが、怒涛の攻撃に防御に徹するしかなかった。

 攻撃に回れば簡単に守りを崩されると分かっていた。

「早く、もっと早く」

 凛祢の攻めのスピードを上げる。

 それでも、ケンスロットは守り切る。

「大洗にここまでの歩兵がいたとは」

「……」

 同時に距離を取るように後退した。

 ケンスロットがそう言うが凛祢は息を荒くしながらケンスロットを見る。

 ついにケンスロットが攻撃を始める。

 弾切れのファイブセブンを捨て、凛祢もナイフ一本で戦う。

 お互いの攻撃のぶつかり合いで、ついに凛祢の手からナイフが弾かれる。

「もらった!」

 ケンスロットがその瞬間を見逃すわけもなく、アロンダイトを縦に振った。

「なっ!」

 しかし、凛祢は左に動きアロンダイトを回避した。

 ケンスロットは驚きを隠せなかった、ほぼ必中の零距離だったが回避された為だ。

 凛祢もケンスロットの隙をつくように腹部に拳をかました。

「うっ!」

 ケンスロットはうめき声を上げる。

 更に、追い打ちをかけるように何発も拳を叩き込む。

「取った!」

 凛祢がそう叫び、最後の拳をかまそうとする。

 が、甲高いアラーム音が響き渡り、凛祢の拳はケンスロットの顔の数センチ前で停止した。

 戦死判定のアラームが鳴ったのは……凛祢たち、大洗連合だった。

 そして、アナウンスが大洗の市街地に響いた。

「大洗女子学園、残存戦車ゼロ。聖グロリア―ナ女学院、残存戦車チャーチル一両。よって、聖グロリア―ナ&聖ブリタニア連合の勝利!」

 アナウンスを聞いて、凛祢も握った拳から力を抜いた。

「……流石にやばかったな」

 ガノスタンも二刀流の短剣を地面に落とし、その場に座り込んだ。

 息が荒く、特製制服もボロボロだった。

 目の前の地面には八尋と翼が倒れている。二人掛かりでもガノスタンには勝てず、Ⅳ号が負ける直前にアラームが鳴っていた。

 そして、他の歩兵も激戦を繰り広げ、その場に倒れている。

「君はやっぱり、歩兵道経験者なんだな。最初の誘いやCQC戦闘の技術は確かなものだった」

「ああ……そうだな」

 ケンスロットの手を掴み、立たせると凛祢は問いに答えた。

「大洗の歩兵は全員初心者だと聞いていたが、君やガノと戦っていた歩兵達はいい腕を持っているようだ」

「それでも、敗北したのは俺たちだ。それに、ブリタニアの歩兵は少なからず手を抜いた歩兵もいたはずだ」

「すまない。手を抜いていた者のことは謝る」

 凛祢が皮肉を言うように答えると、ケンスロットは頭を下げた。

「別にいいよ。俺たちの技術はまだまだだってわかったしな」

「……もう一度再戦してくれるか?」

「機会があればな……」

 ケンスロットが問うと凛祢は小さめの声で答えた。

「約束だぞ、騎士の誓いだ。次に戦うとき勝つのは俺だ」

「ああ、そうだな。わかったよ」

 ケンスロットの声をちゃんと聞かず答えた凛祢は八尋と翼の元へ向かう。

 

 

 数十分後。撃破された大洗の戦車は、SLT50エレファント戦車運搬車によって運ばれて行く。

 更に、その他の装甲車や兵員輸送車、軍用車両も同様に運ばれて行く。

 試合は大洗連合の敗北という結果で幕を閉じた。

 Aチームのみほたちと、α分隊の凛祢たちは大洗の港の荷物を運搬するトラックが並んでいる駐車場に集まっていた。

「負けたな……」

「はい……」

 八尋の呟きに、華が悔しそうな様子で返事を返す。

「相手は準優勝経験もある強豪校だもんだ……俺たちが勝てたら奇跡だっただろう」

「それは……そうですけど」

「悔しいですよね……」

 翼や塁、優花里も同じような様子で言った。

「あーあ、惜しかったな」

 沙織もため息交じりに言った。

「西住、ごめん。守るって言ったに……」

「そんな、葛城君のせいじゃないよ!」

 凛祢は責任感を感じて謝罪するが、みほは慌てて撤回する。

「失礼しますわ。ちょっとよろしくて?」

「?!」

 声を聞いて、一同が声の聞こえた方に目をやるとそこには聖グロリア―ナ女学院のダージリン、オレンジペコ、アッサムの姿があった。

 そして、聖ブリタニア学園のケンスロット、ガノスタンの姿もあった。

「グロリア―ナの!」

「ブリタニア歩兵隊」

 突如現れたダージリンたちとケンスロットたちの姿に、みほは驚き、凛祢もケンスロットたちに目を向ける。

「貴方たちが大洗の隊長さん?」

「あ、はい」

「……」

 ダージリンの問い掛けにみほが返事をし、凛祢も首を縦に振る。

「お名前をお伺いしてもいいかしら?」

「あ、西住みほです」

「……葛城凛祢、兵科は工兵」

 みほと凛祢が答えるとグロリアーナの三人とブリタニアの二人が軽く驚いた様子を見せた。

「もしかして、西住流の?」

「はい」

「そう、貴方のお姉さんとのまほさんとは一度試合をした事がありますわ。……貴方はお姉さんとは違うのね」

 ダージリンは笑みを浮かべながら、みほに向かって言うのだった。

「そっちの貴方も、凛祢と言う名前聞いたことがありますわ。中学歩兵道ではかなりの強者だと聞いていましたが。確か、今の黒森峰の隊長、黒咲聖羅さんの右腕だったとか。貴方の戦闘を見る限り、間違いではない様ね」

「へー、俺たちは高校歩兵道がスタートラインだからよく知らねーけど。あ、俺はガノスタン。狙撃兵だ」

 ダージリンが思い出したように言うと、ガノスタンがそんな呟きを漏らす。

「俺はケンスロット。兵科は突撃兵。それほどの実力を持っていながらどうして黒森峰に進学しなかったんだ?」

「中学で歩兵道はやめてたから……それに家の事情もあった」

 ケンスロットの質問に即答する凛祢。

「え?なんでやめたんだよ?」

「聖羅とは道が違ったからだよ……あいつの歩兵道は西住流に似ている。だが、俺はあいつの歩兵道を認めなかった。それだけだ」

 ガノスタンの問いに少し考えた後に答えた。

「そうか。でも、工兵なのにケンと同等の近接戦闘をするなんてスゲーな。俺たちも油断してられねーよ」

「どおりで強いわけだ」

「凛祢……かつて中学歩兵道で最強とまで呼ばれた超人が、大洗に居たとはね」

 ガノスタンやケンスロットも凛祢の技術に納得した様だった。

 ダージリンも凛祢の顔を覚えるようによく見る。

 思わず凛祢は目を逸らした。

「ダージリン、そろそろ」

 ケンスロットがそう言うとダージリンは凛祢から離れる。

「あら、残念ね。では、これで失礼するわ」

「ご機嫌よう」

 ダージリンとアッサムが言うと、グロリア―ナとブリタニアの面々はその場から去っていく。

「そこの茶髪と眼鏡。お前らいい腕してるし、コンビネーションもよかったぜ。修練積めば十分俺たちを超えられるぜ。じゃな」

「失礼します、行きますよガノ先輩」

 ガノスタンとオレンジペコはそう言ってケンスロットの後を追って行った。

「なんだあいつ……でも、負けたままってのも気持ちが悪いな」

「次は必ず勝つぞ」

 八尋と翼もまるで好敵手と出会ったように闘争心を燃やしていた。

「いやー負けちゃったねー、ドンマイ」

「だが、得た物は大きいはずだ。決して無意味な敗北ではない」

 そこで、みほたちと凛祢たちの背に声を掛けてきたのは聞き覚えのある声。

 杏と英治だった。他にも副会長と広報の四人もいる。

「約束通りやってもらおうか……あんこう踊りを」

「結果は結果だ」

 桃と雄二がいつもの怖そうな顔で言った。

「うっ!」

 Aチームとα分隊が麻子を除いて一気に表情を影に落とす。

「マジかよ……」

「終わった……もう一生モテることはねーよ」

「これは単位のためこれは単位のためこれは単位のため……」

「俊也殿、顔が怖いです!」

 α分隊の三人もそれぞれの心の声を漏らしている。塁が俊也を見て声を上げる。

「まあまあ、こういうのは連帯責任だから」

 そこで、杏が思い掛けない言葉を発した。

「うえ?!」

「ちょっとそれって?!」

「そうなるよな」

 雄二、宗司が驚きの顔を見せ、英治も分かっていたように言った。

「会長!」

「杏、やるの?」

 桃や柚子も同様の表情をしていた。

 やっぱ、生徒会長は何考えてるか分からなかった。

「うん!」

「……確実に広報の奴の独断専行のせいだがな!」

「うるさい!」「うっせー!」

 杏は満面の笑みを浮かべて返事をした。

 俊也が広報の二人を睨み言うと、桃と雄二が叫んでいた。

「やるか?この野郎、女でも殴るぞ」

「東藤やめろ!広報の二人もやめてください!」

「そうですよ、みんなチームなんですから!」

 喧嘩腰の俊也と雄二を凛祢とみほが止めに入った。

「みんな、ここで争って意味はない。結局俺たちはあんこう踊りすることになるんだ。だったらここで殴り合って体力を消耗しても無意味だよ」

「トシ、あとでセブンティーフォーのアイスおごってやるから、トリプルで」

「っ!別にいらねーよ。悪かったよ、負けた責任を押し付けて」

 英治が合掌して言うと、八尋に止められた俊也は素直に謝罪した。

「雄二、河嶋さん」

「独断専行してしまったのは確かに私たちだ、悪かった」

「すまない……」

 宗司が言うと、桃と雄二も謝罪した。

「はい、一件落着。さーいこー!」

 再び杏が満面の笑みでそう言い、罰ゲームが開始されるのだった。

 

 

 大洗の戦車道と歩兵道受講者たちは街中であんこう踊りを踊っていた。

「ふええー!」

「もうお嫁に行けないー!」

「仕方ありません!」

「恥ずかしいと思えば余計に恥ずかしくなります!」

 妙に耳に残る盆踊りの調の曲『あんこう音頭』を鳴らしながら大型輸送車の荷台の上にはデフォルメされたあんこうの被り物を被ったピンクの全身タイツを着たAチームが踊りを踊っている。

「ふざけんなよ……まじで」

「羞恥心を捨てろ」

「無理だ!」「無理ですよ!」

 また、Aチームの隣でふんどし一丁のα分隊が踊っている。

 他の戦車道受講者、歩兵道受講者も踊っていた。

 そんな中でも、麻子と凛祢はポーカーフェイスを貫いている。

「格好もきついが、踊りもなかなか……」

「それでもついてきてるじゃないか」

 アーサーが踊りの難易度に手間取っているがシャーロックは踊っている状況でもパイプ煙草を銜えている。

 そんなアーサーとは対照的に杏たちや英治たち生徒会は妙に慣れた様子で踊っていた。

 息ぴったりで見事にシンクロしている。

「なんであの人たち。あんな踊れんだよ」

「今の状況でのみ生徒会を尊敬するよ」

 辰巳と漣が生徒会を見て呟くのだった。

 

 

 一時間ほど経過しようやくあんこう踊りから解放された。

 すぐに、みほたちと凛祢たちが大洗市場前に集合し、観光の準備をしている。

「あー、恥ずかしかった」

「まじで拷問だよな、あれ」

 身も心も疲れ果てた沙織と八尋が呟いた。

「ごめんね、みんな……」

「いいや、悪いのは俺だ。結局何もできなかった」

 みほが申し訳なさそうに謝るが凛祢が否定するように言うと。

「そんなことありません!」

「そうですよ、西住殿も葛城殿も必死にやっていたじゃないですか!」

 そんな二人を見た塁と優花里が否定するように言った。

「あんまり思い詰めるなよ」

 翼も二人にそう声をかけた。

「この後、七時まで自由時間ですけど、どうします?」

 華がみんなに向かって訪ねる。

「買い物に行こうー!」

 沙織が右手を挙げながらそう提案すると麻子が無言で歩き出す。

「麻子どこ行くの?」

「おばあに顔見せないと殺される」

 沙織が尋ねると、麻子は振り返らずに返答した。

「俺も実家に顔見せなきゃならないから、パス」

「俺も行くところがあるから……」

 麻子に続くように俊也と凛祢が輪から離れようとする。

「え?葛城君と東藤君も?!」

「んだよ、付き合いわりぃな。まあいいか」

「しょうがないだろ」

 沙織がまさかの返答に驚く。

 隣にいた八尋と翼は納得しているようだった。

「それじゃ」

 凛祢が言うと凛祢と俊也、麻子がバラバラに歩き出す。

「用事があるなら仕方ないよね。私たちだけで行こうか?」

 残った七人は沙織が言うと、そのままアウトレッドモールへと向かった。

 

 

 みんなと別れた凛祢は、慣れた足取りで一人街を抜けていく。

 そして、木製の古めかしくも広そうな建物の前で足を止めた。

「三年ぶりか……」

 門の名札には「照月」と掛かれている。

 凛祢は門を抜けて、玄関のインターホンのスイッチを押した。

 数十秒後、優しそうな顔のおばさんが現れる。

「あの、あなたは?」

「えっと。照月玄十郎さん、いらっしゃいますか?」

「主人なら、いらっしゃいますけど……」

「周防鞠菜の息子が来たと言えばわかると思うのですが……」

「鞠菜さんのって……もしかして……凛祢君?」

 おばさんは鞠菜の名を聞いて凛祢の名を口にした。

 この人は玄十郎の奥さん、照月麗子(てるづきれいこ)。

 麗子さんは覚えていてくれたもう三年もあっていないのに。

「こんなに大きくなって!あ……ごめんなさい。今すぐ呼ぶから入って」

「すみません、お邪魔します」

 麗子の案内の元、畳部屋で腰を下ろした。

「今、呼んでくるからね」

 麗子は冷たい麦茶の入ったコップを凛祢の前に置いて、玄十郎を呼びに行く。

 少しだけ麦茶に口をつけると、乾ききった喉を潤していく。

 いつも飲む麦茶とは別物と思ってしまうほどその麦茶がおいしかった。

 そんな事を思っていると、麗子が出て行った戸が開き怖そうな顔の男が現れる。

 凛祢の顔を見た後に、凛祢の前に座った。

 この人こそ照月玄十郎(てるづきげんじゅうろう)。照月流の師範であり、鞠菜の師匠でもある。

「何故、俺に会いに来た?」

 玄十郎が口を開き、凛祢に緊張が走る。

 彼の見た目からはそれほど威圧感があった。

「もう一度……俺に『無拍子』の修行をつけてほしいんです!」

 凛祢は生唾を飲み込み言った。

「お前には一度修行をつけたはずだ」

「お願いします!どうしても無拍子が必要なんです、だから!」

「貴様は覇王流を……照月流をなんだと思っている?無拍子は我が家の流派だぞ。お前は三年前まで修行しても無拍子を使えなかった。そんな者に二度も修行をつけることなどできん」

 玄十郎は腕を組んで、強く言った。

 彼の言う通り照月流、通称覇王流の技、無拍子の修行を鞠菜の頼みの元、過去に受けた。

 しかし、凛祢が無拍子を使えることはなかった。

 だからと言って、凛祢も引き下がれない。

「お願いします!どうしても必要なんです!」

 凛祢が言ったその時、戸が開いた。

「……」

 凛祢と玄十郎は同時に目を向けるとそこには照月敦子の姿があった。

 他にも、凛祢とそう変わらない歳の少女がいる。

「照月……教官?」

「葛城凛祢……」

 お互いに顔を見合わせる。

「葛城、なぜここにいる?」

「それは……」

「こいつは無拍子の修行を受けにきたそうだ。だが、こいつには素質がなかった。これ以上やっても時間の無駄だ」

 敦子の問いに答えようとした凛祢の言葉を遮るように玄十郎が言った。

「なぜ無拍子を?」

「必要なんです……」

「そうか。だが凛祢、無拍子の修行には最低一年……いやどれだけ早くとも半年以上かかる。どっちにしても全国大会には間に合わないぞ」

 凛祢の言葉を聞いた敦子は言った。

 全国大会までは約二か月、そんな短期間ではどうやっても間に合わない。

 だが、何もせずにいるのは嫌だった。

「とにかく俺は修行をつけるつもりはない。帰れ」

「そんな……」

 玄十郎ははっきりと言うと、部屋から去っていった。

「……」

 凛祢は無言で拳を力いっぱい握った。

「ふん。葛城、どうしても修行を受けたいか?」

「はい……」

「どんな苦痛にも耐える覚悟はあるんだな?」

「はい……」

 敦子の言葉にも返事だけを返す。

「あのじじいには頼まないでいい。私が修行をつけてやる」

「え?」

 凛祢は顔を上げて敦子の顔を見た。

「そもそも、じじいはもう引退してる。これからは私と英子のどちらかが照月道場の師範をやることになる」

「お姉ちゃん。そんな勝手なことしていいの?」

 後ろにいた少女が心配そうに言った。おそらく彼女が英子だろう。

「いいんだ。葛城、修行は私がつけてやる。英子にも手伝ってもらう」

「え?私も?」

 敦子の言葉を聞いて、英子は驚きの表情を見せる。

「本当にいいんですか?」

「ああ、周防先輩には世話になった。それに私たちも照月流の人間だ。だが、修行は厳しいものになるぞ、それに全国大会に間に合うかもわからないぞ」

「はい!よろしくお願いします!」

 凛祢は感謝の思いを強く持って言った。

 その後、すぐに道場に連れていかれた凛祢は昔使われていたという特製制服へと着替えていた。

 目の前には同じ柔道着姿の敦子と英子がいる。

「ねえ、お姉ちゃん。私いらないでしょ」

「お前も同じ照月流だろ、ならば少しは手助けしてやろうと思わないのか?」

「思わないよ。せっかく陸に来て、遊びに行こうと思ってたのに」

 敦子はそう言っているが英子は迷惑であると言っているようだった。

「お、俺のせいで。ごめん」

「本当だよ……ちゃんと責任取ってよね!学園艦に戻ったらセブンティーフォーのアイスでも奢ってもらうんだから!トリプルで」

 凛祢が謝罪すると英子は誤解されそうな発言をする。

「時間は限られている。さっさと始めるぞ」

 敦子の言葉を合図に数時間に及ぶ無拍子の修行が始まった。

 基本の動作は凛祢自身覚えていた。

 しかし、それ以外はまったく記憶になく、敦子や英子はため息をつくばかり。

 時刻は五時半を回った頃、ようやく修行が終わる。

 凛祢は疲れを見せるが、敦子と英子は涼しい顔をしていた。

「そろそろ、時間だな」

「もう、全然だめじゃない。あなた」

「……」

 英子が呆れたように言うが凛祢は何も言えなかった。

 彼女の言う通り自分は何一つ満足にできていない。

 もしかしたら成長すらしていないかもしれない。

「英子、お前は学園艦に住んでいるんだ。歩兵道の授業がない時はお前が修行をつけてやってくれ」

「ちょっと、お姉ちゃん。冗談でしょ?私だって忙しいのに」

 英子は露骨に嫌がった。

 それもそうだろう。今日会ったばかりなのにすぐに親しくなどできるわけもない、修行をつけるなんて無理というものだ。

「そうか。なら、お前の欲しがっていたボコとやらのレアDVDはまた今度だな。次はいつ手に入るかわからんな」

「お姉ちゃん、卑怯だよ!ボコを出汁にするなんて!」

 英子は体を震わせながら敦子に叫ぶ。

 というか照月家って教官の親族だったんだな、確かに照月って名前だったけど知らなかった。

 ボコってなんだよ?という疑問が浮かんだ。

「オークションで売ったらいくらになるかな」

「うう。ううーお姉ちゃんなんて嫌いなんだから!凛祢とか言ったわね?分かったわよ、全国大会までは手伝ってあげるけどそれまでなんだからね!」

 英子は凛祢を指さして言うと道場を出ていく。

「よかったな葛城。お前の新しい教育係だ」

「は、はあ。ありがとうございます」

 凛祢と敦子も英子の後を追う。

 麗子から聞いたことなのだが、敦子と英子は姉妹というわけではないらしい。

 正確には従姉妹同士の関係なのだが、英子にとっては敦子が姉のようなものらしく照月家では「お姉ちゃん」と呼んでいるそうだ。

 二人とも護身術として照月流戦闘術を覚えたそうだ。あと、英子は大洗女子学園の三年生でボコられ熊の『ボコ』というキャラクターが好きらしい。

 麗子の勧めで照月家でお風呂と夕食をご馳走になった凛祢は英子と共に学園艦に向かう道を歩いていた。

 お互いに無言のまま学園艦へと向かっている。

「……なあ」

「なによ……?」

「なんで怒ってんだよ?」

 凛祢も意を決して話しかけた。英子は見ただけで分かるほど不機嫌そうだ。

「別に怒ってないし」

「悪かったよ、巻き込んで。敦子教官があんな事を言うとは思わなかった」

「……別に、気にしてないわよ。お姉ちゃんのあれは今に始まったことじゃないわ」

 凛祢の謝罪の言葉を聞いたからなのか英子の言動がどこか優しくなった気がする。

「凛祢、貴方はどうして歩兵道をするの?」

「……最初は友人に誘われたからだった。でも、今は……誰かの役に立ちたかったから」

 凛祢は少し考えた後に英子の質問に答える。

「……ふーん、そう。変わり者ね」

 英子はそう言いって凛祢の後ろを歩いていた。

「……私もだけど」

 最後に小声でそう言うと英子は何も言わなかった。

 数十分後、学園艦に到着した凛祢と英子が甲板に戻ると大洗の生徒会とみほたちの姿があった。

「凛祢、それじゃあね」

「ああ、気を付けてな」

 英子はそう言って女子寮に帰っていく。凛祢もそう返事して見送る。

「悪い遅れた」

「遅いぞ凛祢。あの人、誰だ?」

「今の可愛い子、誰だよ?!」

 凛祢がそう言って合流すると翼と八尋が質問する。

「はいはい、後で教えるから」

 凛祢はそう言って生徒会の傍に行くと試合で戦車を放棄した梓たちと逃亡した歩兵部隊、一年生チームのDチームとΔ分隊が居た。。

「西住隊長、葛城隊長……」

 梓が二人の名を呼ぶ。

「え?」

「戦車を放り出して逃げたりして……」

「恐怖に負けて、敵前逃亡してしまい……」

「「すみませんでした!!」」

 梓と亮の声を合図にDチームとΔ分隊は謝罪と共に一斉に頭を下げた。

「先輩たち、カッコ良かったです」

「すぐ負けちゃうかと思ってたのに……」

「私たちも、次は頑張ります!」

「絶対頑張ります」

 あゆみ、優季、あや、桂利奈が確かな覚悟を持って言った。

「歩兵は戦車を守る存在……そう教えられたのに、自分たちは未熟でした!」

 亮が言うと、Δ分隊の五人も真剣な表情を見せた。

 未熟なのは自分も同じだ。

 中学歩兵道は戦車がいない歩兵だけのものだった。だから、俺は無意識に歩兵を食い止めることに徹していた。

 しかし、高校歩兵道はまったくの別物だ。戦車を守るのが歩兵なのに……。

「俺も同じだ。西住、本当にすまなかった。俺は……」

 凛祢もみほに頭を下げる。

「いいんだよ葛城君、みんな。失敗は誰でもするもの。大事なのはその失敗を繰り返さない事なんだから」

 みほは凛祢や一年生たちに笑みを浮かべて答えた。

「ああ、同じ失敗は繰り返さない」

 凛祢も顔を上げて言った。

「西住さん。これを聖グロリア―ナの隊長さんが」

「葛城君にもあるよ」

 柚子はバスケットをみほに渡し、宗司が手紙を凛祢に渡した。

「紅茶?」

 バスケットの中身が紅茶である事に気づいたみほ。

「手紙が付いてるよ」

 沙織もバスケットの中身を見て言った。

 みほが手紙を手に取り、目を通す。

 ダージリンからの手紙であった。

『今日はありがとう。貴方のお姉さんとの試合より、面白かったわ。また公式戦で戦いましょう』

 ダージリンの手紙には、そう書かれていた。

「凄いです!聖グロリア―ナは好敵手にしか、紅茶を送らないとか!」

 優花里が興奮気味に言った。

「そうなんだぁ」

「昨日の敵は今日の友!ですね」

「凛祢のほうは?」

 八尋が凛祢の手紙を覗くように見る。

「果たし状って……」

「なんか、変わってますね」

 翼と塁も手紙を見て言った。

『拝啓、葛城凛祢殿。貴殿との試合は、自身の弱さを知ることができた。実に良い経験をさせてもらった。次はお互いの騎士道をかけた公式戦で戦おう。聖ブリタニア高校歩兵部隊長ケンスロット』

「全国大会で再戦か……」

「いいぜ、やってやる。ガノスタンの奴には勝たなきゃならねーからな、上等だぜ」

 凛祢が言うと隣にいた八尋が翼と共に気合を入れている。

「次は全国大会か……」

「我々はもう負けられないんだ」

 雄二と桃が小声で言った。

「そうだな、全国大会では負けられない」

「そうだね。私たちには優勝の道しかないんだから……」

 更に英治と杏が凛祢やみほを見ながらいつもとは違う視線を向けていた。

 

 

 初試合を終えた次の日、みほたちと凛祢たちは大洗女子学園の校庭のガレージに集まっていた。

 今日は戦車道や歩兵道の授業があったわけではないがみんな早く戦車に会いたいと放課後に集まったのだ。

「凄ーい!」

「直ってる!」

 ガレージ内に並べられた新品同然の戦車たちを見て、一年生チームから声が上がる。

「いやー、ヤガミたちは仕事が丁寧な上に早いから捗るよー」

「ナカジマたちだって細かいところに気づいてこっちとしては助かってるよ」

 整備と修理を行った女子学園自動車部のリーダー、ナカジマと男子学園整備部のリーダー、八神大河がそんな会話をしながら最後の調整をしている。

「これでまた練習できるね」

「あと、二か月か……」

 みほが言うと、制服姿の凛祢が言葉を続ける。

「まず、その塗装をどうにかしろ」

「そうですよ、いくら何でもその色では目立ちます。バレー部の皆さんも文字を消してください」

 雄二と宗司がⅣ号を除く四両を見て言った。

 二人の言い分は賛成だ。

 ピンクに金ぴか、旗付き四色戦車はどうにかしなければならなかった。

「えー?バレー部って文字を?」

「我々の色に文句をつけるのか?」

「せっかく塗ったのにー」

 B、C、Dチームが不満気な声を上げる。

「カエサル、Ⅲ突に関してはその旗のせいで撃破されただろう?忘れたのかい?」

「まったくだよ、僕やシャーロックが生き残っていたのに……」

 シャーロックとアーサーが言うと、カエサルも仕方ないという様子を見せる。

「あの、できれば私も元に戻してほしいです」

「戻すべきだろう、普通」

 みほと凛祢も塗りなおすように言うとB、C、Dチームはため息をついたが、ようやく聞き入れてくれた。

「我々も戻しましょうか」

「そだね、ちょっとふざけ過ぎたかも」

 桃と杏も少し反省している様だった。

「どうせだし射撃訓練ぐらいしていくか」

「それもそうだな」

 八尋の提案に俊也が賛成する。

「私たちも走行訓練と砲撃訓練しよっか」

「そうですね」

 沙織たちも訓練を行うようでみんなが戦車に乗り込み、八尋たちは銃を手に取る。

 凛祢もファイブセブンに手を伸ばす。

 銃の重さを感じつつⅣ号に乗り込むみほを見た。

「今度は絶対に守り抜く……俺の全てを賭けて」

 凛祢は心の中でそう言った。

「凛祢ー行くぞー」

「ああ、今行く」

 翼の声に返事をすると、凛祢もファイブセブンを手に演習場へと向かう。

 

 

 二時間ほど射撃練習をした頃。

 凛祢は銃を下ろして、息を吐いた。

 数メートル先の的には数発以上命中したがほとんどが外側に命中している。

「凛祢、どうした?」

「あまり、結果が良くないですね」

 俊也と塁が凛祢の的を見て感想を述べた。

 いつもなら三発ほどは中央付近に命中するのに今日はまったく当たっていない。

「いや、大丈夫だ。少し疲れが残ってるだけだ」

 そう言って肩を回す仕草を見せる凛祢。

「そうか?じゃあ、俺たちもそろそろ終わるか?」

「それも、そうですね」

 八尋が言うと、塁が答えた。

「珍しいな、あいつらしくもない」

「あいつも昨日の試合の事、気にしてるんだろうよ」

 俊也が凛祢の背中を見て言うと八尋がP90の弾倉を外して言った。

「凛祢や西住さんに頼ってばかりじゃ駄目だ、全国大会には俺たち個々の実力も必要になる」

「個々の実力か……確かにそうかもな。昨日の試合は凛祢が敵エースを引き受けてくれたから、あそこまで戦えたんだ。それに、俺たちはいつまでも二人に頼ってもいられない」

 翼や俊也が昨日のことを思い出し言った。

「俺たちも、役に立てるように頑張ろうぜ!」

「「ああ!」」「はい!」

 八尋の声にα分隊の三人が返事をしていた。




ケンスロットはランスロット、ガノスタンはトリスタン、アグラウェインはガウェイン、モルドレッドはモードレッドを模して描いたキャラです。
これからも続きを書くので読んでもらえたら嬉しいです。


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第6話 第63回戦車道&歩兵道全国高校生大会

世間ではGWだったそうですが自分にとってはGWなにそれ?という感じでした
では、本編をどうぞ


 聖グロリア―ナ女学院&聖ブリタニア高校との試合から数週間後、遂に第63回戦車道&歩兵道全国高校生大会されることとなった。

 大洗のあんこうチーム(Aチーム)とカメさんチーム(Eチーム)、ヤブイヌ分隊(α分隊)とカニさん分隊(ε分隊)が抽選会にやってきている。

 抽選会の会場である、さいたまスーパーアリーナに足を運んでいた凛祢たち。

 先日、試合をしたグロリア―ナ女学院とブリタニア学園以外にも様々な高校の生徒たちが抽選会に来ていた。

 グロリア―ナはイギリス人ぽかったが他校も多彩な国を思わせる特色を持っている。

 アメリカにイタリア、ロシアにフランスと本当に多種多様だ。

 と言ってもこの場にいる大半が日本人なのだが。

 抽選会は順調に進み、ようやく大洗の番が回ってきた。

 代表であるみほが、抽選箱が置かれたステージ上に上がり、抽選札を引く。

 高く上げた札には『8』の数字が書かれていた。

「大洗連合、8番!」

 アナウンスが告げると、大型モニターに映し出された試合の組み合わせ表の枠に大洗連合の名が刻まれる。

 対戦相手の抽選は完了し名前が上がっている、大洗連合の一回戦の相手はサンダース大学付属高校とアルバート大学付属高校からなる『サンダース&アルバート連合』だった。

「よっし!!」

 サンダースの女子生徒と思われる女子が、声を上げる。

 無理もない。大洗なんて名前は去年までなかった上に名前が知られているわけでもない。

 当然、勝てると思っているのだろう。

「サンダースとアルバート連合ですか……」

「それって強いの?」

 優花里に向かって、沙織が尋ねる。

「優勝候補の一つです」

「え?またかよ、グロブリの時も同じようなこと言ってたじゃねーか……」

 優勝候補と聞いて、八尋がため息をついた。

 グロブリと言うのはグロリア―ナとブリタニアの事だろう。

「初戦から強豪ですね」

「どんな事があっても……負けられない」

 離れた席に座る柚子の声に桃は真剣な表情をしている。

「そうだ、負けたら俺たちの……」

「「……」」

 雄二も真剣な眼差しをモニターに向けている。

 英治と宗司は無言ではいるが表情はどこか険しそうだった。

「アルバートが最初の相手か……」

 凛祢もそう口にすると、少しだけ安堵の表情を浮かべていた。

「厳しいな……」

「初戦から優勝候補とか、くじ運なさすぎだろ……」

「駄目ですよ、そんなこと言っちゃ。アルバートですか、隊長は確か『アメリカの星』という二つ名を持つとか」

 翼と俊也は初戦の相手に辛そうな表情を受かべる。

 塁はネットで調べたアルバート大学付属高校のデータメモに目を通している。

「サンダースは戦車の保有数が最も多い学校だ。参加できる車両が少ない初戦で当たったのは不幸中の幸いだろう」

 凛祢が二人に向かって言う。

 しかし、八尋と俊也は勝つことが無謀だと思っている様子だった。

 正直、自分もどこかで思っている。この戦いははっきり言って無謀だと。

 それでも、戦う前から諦めるのは嫌だ。

 凛祢自身はまだ気づいていない、そう思うのは自分の『眠れる本能』が目覚めつつあるからだということに。

 

 

 約二時間程経過してようやく全校の抽選が終了した。

 凛祢たちも他の学校の生徒と同様にさいたまスーパーアリーナを後にする。

 グロブリ連合の番号は2番ということもあり再戦は決勝近くになることはすぐにわかった。

「西住ちゃん、葛城君。私たちは手続してくるから、どっかでお茶でもしてて」

「あ、はい。わかりました」

「俺たちも行こうか?」

 杏に英治が尋ねる。

「そう?じゃあ、来てもらおうかな」

「了解だ」

 杏が言うと英治も笑みを浮かべて後を追う。

「それじゃーねー」

 杏は手を振りながら柚子と桃、英治たち生徒会を連れて手続きに向かった。

「お茶つってもな、店とかよく知らねーし」

「でしたら、この近くに良い喫茶店があるので、行ってみませんか!」

 八尋が振り返ると優花里が挙手して言った。

「喫茶店?」

「はい!『戦車喫茶ルクレール』ってお店なんです!」

「……そういうことな」

 翼に向かって優花里が答えると、俊也がやれやれと呟く。

「いいんじゃないでしょうか?そこにしましょう」

「代金は八尋の奢りで」

 華が賛同すると俊也が八尋に目線を向ける。

「なんでだよ?!」

「お前言ったよな?アイス奢るって。それがお茶に変わっただけだろ」

「お前、いらねーとか言ってたじゃねーか!……てか、覚えてたのかよ」

 俊也の言葉に八尋も思わず叫んだ。

「はぁ。流石に全員のを奢るのはきついんだけど」

「安心しろ。冗談だ」

「お前なー、ふざけんなよ」

 俊也の思わぬ無茶ぶりにため息をつく八尋。

 そんな光景を見て、みんなが笑いあう。

 こんな風に友人と笑いあえる時間こそが青春というものなのだろうか。

「本当に、先導君は面白いね」

「はい」

「そ、そうか?ははは……」

 沙織と華が笑いながら言うと八尋は少し赤くなりながら笑って見せた。

 八尋はやっぱり沙織に気があるのかもしれないな。

「じゃあ、行きますか」

「ほら麻子!」

「眠い……」

 相変わらず眠そうな麻子に肩を貸す沙織が歩き出すと、他のメンバーもそれに続いて歩き出すのだった。

 

 

 さいたまスーパーアリーナ付近に店を構える戦車喫茶ルクエ―ルの店内に凛祢たちが入る。

 隣同士のテーブルに案内され腰を下ろした。

 メニューを手に注文する品を選んでいる。

「よし、、俺たちは決まった」

「はや、男の子って結構即決なんだね。私たちも早く決めよ」

 メニューを閉じて言った八尋を見て、沙織はそう言ってみほたちの方を向いた。

「ゆっくりでいいぞ」

 凛祢はそう言って店内を見渡した。

 店内にいる客は女子ばかりだ、大半の客は戦車道をしている者なのだろうが。

「決まったようだから注文するぞ」

「構わないが」

 麻子が凛祢たちの座る方を見て聞くと翼も麻子の方を向いて答える。

 優花里と塁がテーブル上のFIAT2000の形を模した置物の砲塔部を押した。

 すると、戦車砲の発砲音のような音が店内に響き渡る。

「っ……」

「こんなんで呼ぶのかよ……変わってんな」

 急な音に凛祢以外にも翼や俊也が一瞬驚いた。

「ご注文はお決まりですか?」

 みほたちと凛祢たちのテーブルへドイツ国防軍の戦車兵の制服風のウエイトレス服を着たウエイトレスがやって来る。

「ケーキセットでチョコレートケーキ二つとイチゴタルト、レモンパイにニューヨークチーズケーキを一つずつお願いします」

「承りました。少々お待ちください」

 華が言うと、ウエイトレスは手帳にメモを取り、敬礼して去って行った。

「ティーガーマウンテン五つ、ブラックで!あと、ガトーショコラ」

「芋羊羹」

「ブルーベリータルト」

「……モンブラン」

 八尋、翼、塁、俊也の順序で言うとウエイトレスは同じようにメモを取り、敬礼して去って行く。

「このボタン、主砲の音になってるんだ」

「この音は九〇式ですね」

 沙織と優花里は先ほど鳴らした戦車型の呼び出しボタンを興味深そうに見ていた。

「流石戦車喫茶ですね」

 華が言うと他の席からも発砲音が鳴り響き、忽ち店内は轟音に包まれる。

「うーん。この音を聞くと、もはやちょっと快感な自分が怖い」

「快感って……どんな神経してんだよ」

「まあ、そう言うなよトシ。これからはリアルな音を隣で聞くことになるんだから」

 そんな事を口にする沙織を俊也が気味悪そうに見ると八尋が呟いた。

 八尋の言う通りなのだが、正直耳が痛い。それにこの音で快感を感じるのはちょっと……。

 注文を済ませて少し話していると荷台に戦車型のケーキを乗せたドラゴンワゴンのラジコンが現れた。

「わ!なにこれ?凄ーい!」

「ドラゴンワゴンですよ」

 沙織がドラゴンワゴンのラジコンを見て興奮気味に言った。

「可愛い」

「ケーキも可愛いです」

 みほと華も、ドラゴンワゴンと戦車型ケーキをを見て言った。

 凛祢たちのティーガーマウンテンがスイーツと共に到着する。

「お、来た来た!」

「それじゃあいただきましょうか」

 塁の言葉に一同は注文した品に手を付け始める。

 凛祢だけはティーガーマウンテンのみを注文していた。実を言うと甘いものが苦手なのだ。

「……ごめんね。一回戦から強いとこと当たっちゃって」

 対戦カードを引いたみほが謝罪しながら言った。

「気にするな、西住。例え初戦が違うチームでもいずれは戦うことになっていた」

「そうですよ、逆に初戦は車両数や総合弾薬数が少ないから幸いでした」

 凛祢と塁がフォローするように言った。

「サンダース&アルバート連合って、そんなに強いんですか?」

「強いって言うか、凄いリッチな学校で戦車の保有台数が全国1なんです。チームも一軍から三軍まであって」

「それだけじゃなく銃火器や歩兵道受講者の保有数も全国1ですよ。毎年、新入生の五十人前後が歩兵道を選択するとか」

 華の問い掛けに、情報に詳しい優花里と塁が答える。

「新入生だけで五十人も?多すぎだろ!」

「まさに数の暴力だな、勝ち目は薄い」

 話を聞いていた八尋と翼が驚きを隠せずにいた。

「公式戦の一回戦は戦車の数は十両までって限定されてるから。砲弾や弾薬の総数が決まってるし」

「でも、十両って……うちの倍じゃん。それは勝てないんじゃ」

「歩兵数は少なく見積もっても三倍はいるだろうな」

「勝ち目ないだろ」

 沙織と俊也、八尋が弱気でいる。

 二人の言い分も分からなくもないな、技術も下なのに数も下なら負けという答えに至ってしまう。

 だが、全国大会のルールはフラッグ戦。フラッグ車を倒すのが勝利条件だ。

 ならば、少なからず勝利の糸口はある。

「単位は?」

「それは俺も気になる」

「負けたらもらえないんじゃない?」

「「……」」

 それを聞いた麻子と俊也はそれぞれのスイーツにフォークを刺し、不機嫌そうにケーキを口に運んだ。

「それより、全国大会ってテレビ中継されるんでしょ?ファンレターとか来ちゃったらどうしよう?」

 沙織がそんな事を言っていた。

「ないだろうなー」

「ないですよ流石に」

 翼と塁は苦笑いしながら言った。

「生中継は決勝だけですよ」

「じゃあ、決勝に行けるように頑張ろうー」

 沙織はそう言って、ケーキに手を付け始める。

「ほら、みほも食べて」

「うん」

 そんな沙織に促され、みほもケーキに手を付け始めようとする。

「副隊長?」

 何者かがみほにそう声を掛けた。

「!?」

「……」

 凛祢がいち早くその声に反応した。

 すぐにみほがその声に反応し、他の一同も声の方を向く。

「ああ、元でしたね」

 そこには、みほを小馬鹿にしたような態度を取っている銀髪少女と、みほとよく似た顔立ちをした少女の姿があった。

 後者の顔は前に俱楽部のニュースで見たことがある、黒森峰の隊長西住まほだ。

 西住みほの実の姉であり、黒森峰連合の隊長。そして、西住流の現有力後継者でもある。

「お姉ちゃん……」

 みほがそう言ったことで沙織や八尋も目の前の人物がみほの姉である事を知った。

「……まだ戦車道をやっているとは思わなかった」

 まほは表情一つ変えず淡々とみほに言い放つ。

「……」

 みほは俯いて黙り込む。

 酷い対応だな……。

 聖羅とは異なる性格だが、その本質はよく似ている。

「お言葉ですが!あの試合の、みほさんの判断は間違っていませんでした!」

 みほの様子を見た優花里が立ち上がり、まほたちに向けて叫ぶ。

「部外者は口を出さないで欲しいわね」

「う……すみません」

 銀髪の少女がそう言い放つと優花里は反論できずに俯いた。

「……行くぞ」

 まほは店の奥へ歩き出す。

「あ、はい。隊長」

 銀髪の少女はそれに従うようにまほを追う。

 が、途中でみほたちの方を振り返った。

「一回戦はサンダース&アルバート連合と当たるんでしょう?無様な戦いをして、西住流の名を汚さない事ね」

「……!」

 みほの古傷を抉る様、少女は言った。

「なによその言い方!」

「余りにも失礼じゃ!」

 さすがに沙織と華が声を上げる。

「おい!お前、ふざけんなよ!」

「言っていいことと悪いことがあるだろ!」

 続くように八尋と翼も席を立ち叫ぶ。

「貴方たちこそ戦車道と歩兵道に対して失礼じゃないの。無名校の癖に……」

 立ち止まった少女はみほだけでなく凛祢たち全員を見下すように言い放つ。

「この大会はね、戦車道と歩兵道のイメージダウンになる様な学校は、参加しないのが暗黙のルールよ」

「……」

「強豪校が有利になる様に示し合わせて作った暗黙のルールとやらで負けたら恥ずかしいな」

「……同感だな、それに無名だろうが名が通っていようがお前らに指図される筋合いはねーよ」

 少女の台詞に対して麻子が毒舌を返す。俊也も後に続くように言った。

「っ!貴様……」

 少女は怒りを露わにして睨んだ。

「おい、エリカ止め――」

「調子に乗るんじゃないわよ!去年、その子があんなことをしなければ、私たちは全国大会10連覇という偉業を達成できていたのよ!それを台無しにしたののよ!」

「……!!」

 まほが止めようとした瞬間、エリカと呼ばれた少女の言葉が店内に響いた。

 みほは今にも泣きそうな表情を浮かべている。

 その時、テーブルを力強く叩く音で全員が動きを止めた。

 そして、店内の客たちの視線は……テーブルを叩いた凛祢に向いている。

 ゆっくりエリカの前に歩み寄り、エリカの顔を見た。

「……なによ!」

「……満足したか?彼女を傷つけるような真似をして。みほを責めて、お前の気は晴れるのか?」

「……え、それは!」

 凛祢はいつものように冷静を装っているが、その手は怒りを抑え込むように震えている。

 そんな様子を俊也だけが気づいていた。

「どうなんだよ?」

「どうって……貴方には関係ないでしょ!」

 エリカは凛祢の言葉に一歩下がりながらも強気に言い放つ。

「……」

「エリカ、なにしてんの?」

 男の声が響き、凛祢が振り返る。

 そこには黒森峰男子学院の制服に身を包む二人の姿があった。

「あ、悠希……これは!」

 エリカは男を見るなり、さっきとは異なる表情を見せた。

「どうでもいいけどさ、早くしてよ。俺、腹減ったんだけど、聖羅もそう思うだろ?」

「そうだぜ。わざわざ他校の奴と喧嘩するなよ」

 悠希(ゆうき)と呼ばれる男はそう言って隣の男を見た。

 また、隣の背の高い男もやれやれとエリカに目線を向ける。

「聖羅……?」

「ん?お前……凛祢か……」

 凛祢は見覚えのある顔に、名前を口にした。

 こちらに気づいた聖羅も凛祢の顔を見ている。

 更に、黒咲聖羅(くろさきせら)は、みほたちや八尋たちに目を向けると何かを理解したように笑って見せた。

「凛祢?まさか、中学歩兵道最強と呼ばれた超人で、かつて黒咲隊長の右腕だった……」

「……」

 エリカも凛祢の名を聞いて驚きの表情を浮かべる。

「そういうことか。凛祢、お前がこっちの世界に戻って来るとは思わなかった、西住妹もな……。だが、こちらに来た以上は覚悟はあるんだろうな?」

「……俺はお前の歩兵道を認めるつもりはない。今も昔も、そしてこれからも」

 聖羅は凛祢に歩み寄ると凛祢も目線を向ける。

「変わらねーな。おい、エリカもその辺にしろよ」

「黒咲隊長、しかし……」

「これ以上続けるならお前を副隊長から降ろさせるぞ」

「う、それは……」

 聖羅の言葉にはそれほどまでに力があるのか、それ以上エリカが反論することなかった。

「凛祢、戦うことがあったなら決死の覚悟で来い!行くぞ、悠希」

「ああ」

 聖羅の声に反応するように悠希は後を追う。

「凛祢とか言ったな。お前が聖羅の歩兵道を否定するなら、俺がお前の歩兵道を否定する。相手が最強と呼ばれた超人でも」

 悠希は凛祢にだけ聞こえるように言うと店内の奥へと進んで行った。

 超人か……。誰もが自分をそう呼ぶ。

 自分にとってはその呼び名は過去を思い出す悲しい呼び名だ。

「凛祢、エリカがしたことは私からも謝罪する」

「別に、貴女が謝罪することはないよ西住まほさん。だが、同じ戦車道と歩兵道を嗜む者なら次は……試合で語ってほしい」

「わかった。君たちが私たちと戦うことになった時は全力で戦おう。同じ武道を嗜む者として」

 まほは改めて凛祢に頭を下げた。

 去り際にもう一度みほを見た後に去って行く。

「葛城君、肝座ってるね。カッコイイ……」

「はい、黒森峰の方を目の前にして少しも恐れないなんて」

「流石、葛城凛祢殿ですね!」

 沙織たちは凛祢を見てそんな声を漏らした。

「確かに、よくやった凛祢。あのエリカとかいうアマ、絶対許さねーぞ」

「あんな一方的に責め立てるのはどうかと思う」

 八尋と翼はエリカの言葉に強いイラ立ちを覚えている。

「あれが黒森峰男子学院歩兵隊隊長、黒咲聖羅と副隊長、星宮悠希(ほしみやゆうき)ですか……」

「……」

 塁の言葉を聞きながら俊也は一人、ティーガーマウンテンを飲んでいた。

「ケーキ、もう一つ食べましょうか?」

「もう二つ頼んでもいいか?」

 華と麻子の言葉で凛祢たちはさっきまでの空気に戻ろうとしていた。

「あ、あの葛城さん。さっき私の名前呼んだよね、みほって」

「ごめん。俺、感情に流されてたから」

 みほの言葉に凛祢は先ほどの自身の発言を思い出す。

 確かに自分は西住ではなく、みほと呼んでいた。

「ううん。あのよかったら私も凛祢さんって呼んでもいいかな?」

「え、ああ。構わないけど」

「うん、ありがとう凛祢さん」

 みほは凛祢に感謝して笑顔を見せた。

「なあ、俺もみほさんって呼んでもいい?」

「え?」

 八尋が手を上げて発言する。

「そうだ!みんな苗字じゃなく名前で呼び合おうよ!その方が呼びやすいし」

「いい考えですね、私たちチームですから」

 沙織の提案に賛成するように華も続く。

「いいんじゃないか」

「俺はどっちでもいい」

 麻子は眠そうな表情で紅茶を飲むと俊也はテキトーに流してモンブランの栗を口に放り込んだ。

 

 

 黒森峰連合の四人は店内の奥の席に座り注文を済ませると聖羅が話を切り出した。

「エリカ。何度も言っただろう、去年の敗北は西住妹のせいじゃない。お前は感情的になり過ぎだ」

「申し訳ございません。しかし、黒咲隊長!」

「しかしもなにもないよ。そもそも、敗北の原因は俺たち歩兵隊だ。忘れたのか?エリカが責めてばかりだからみんなだって責任感じてただろ」

「う、そうだけど」

 聖羅や悠希の発言にはどうしても反論しないエリカは返事をするだけだった。

「去年の敗北は結果だ。ならば、次は敗北しないように改善するのが私たちだ」

「そうだな、俺たちはいつだってそうしてきた」

「ああ、俺たちの覇道を阻む者がいるのならぶっ潰すだけだ」

「はい、隊長!私も日々努力します!」

 まほの言葉に聖羅たちもいつもの様子に戻っていた。

「もう敗北は許されないか……口にすると随分重いな」

「安心しろ。もう一度、俺とまほが連れってやるよ。お前も黒森峰のチームも優勝の頂に……」

 悠希に言うと聖羅は窓の外を見た。

 かつての自分と共闘した歩兵と戦車道の元副隊長が敵となって現れた。

 聖羅自身それには少々驚いた。それでも己の覇道を行くだけ。

 『勝利するための戦い』それが黒咲聖羅の歩兵道だから。

 

 

 しばらくしてルクエ―ルを後にした凛祢たちは、手続きに行っていた杏たちとの待ち合わせ場所に向かっていた。

「あー、美味しかったー」

「また来たいですね」

 ケーキを食して満足そうにしている沙織たちの後ろをみほと凛祢が歩いている。

「西ず、みほ。その、龍司は……朝倉龍司は歩兵道を続けているのか?」

「凛祢さん、朝倉さんのことご存じなんですか?」

「ああ、中学で同じ歩兵分隊だった。あいつは俺と違って聖羅の歩兵道を信じて黒森峰に進学していたから」

 凛祢はあまり思い出したくない過去が蘇っている。

 三年前、聖羅にとっては中学歩兵道最後の試合。凛祢は聖羅の言葉を無視して龍司(りょうじ)を助ける道を選んだ。

 結果、凛祢は集中攻撃を浴び、チームは敗北。

 龍司は責任を感じていたはずだ。

「朝倉さんはやめてはいないと思います。私が黒森峰を離れる時、言っていました。黒咲との約束を守らなきゃならないって」

 みほも黒森峰の学園艦を去る時の事を思い出す。

 その答えを聞いて安心した。

 龍司は今でも、あの日の誓いを守り続けていたんだ。自分は黒咲の歩兵道を認められず別の道を選んだのに。

 それが、龍司の強さだ。どんなことがあっても決して引かない。

 どうすればよかったのかを常に探し続ける。

「そうか、あいつは強いな」

「はい。朝倉さんは凄いと思います」

 二人はそう言い合って歩みを進める。

「なあ、塁。黒森峰の隊長って強いのか?」

「え?はい、とても強いです。歩兵道界での西住流と呼ばれた男ですから。あと、これは関係ありませんが大学選抜の歩兵には戦車道家元、島田流の分家である天城流(あまぎりゅう)という流派もいます」

 俊也の珍しい問いに塁は答えた。

「歩兵道版西住流か……」

「もしも、今の僕たちと戦うことがあったなら瞬殺されるかもしれませんよ」

「瞬殺ねぇ……」

 俊也はそれ以上は何も聞かなかった。

 数十分後、手続きを終えた杏たちと合流し、学園艦に向かう連絡船を使い大洗の学園艦に帰った。

 大洗学園艦が見えてきた頃、みほが言葉を切り出す。

「凛祢君、守ってくれてありがとう」

 みほはルクエ―ルでの事を思い出して感謝の言葉を述べる。

「俺は大したことはしていないよ」

「そんなことないよ」

 笑顔で言うみほ。

「……」

 その笑顔はとても美しく、凛祢は思わず視線を逸らした。

「西住殿、葛城殿。ここでしたか」

 二人の元に優花里が姿を見せる。

「あ、秋山さん」

 優花里は二人と一緒に水平線に沈み行こうとしている夕日を眺め始める。

「全国大会……出場できるだけで、私は嬉しいです」

 優花里は不意に語りだす。

「他の学校の試合も見られるし、大切なのはベストを尽くすことです。例え負けたとしても」

「それじゃ困るんだよねぇー」

 背後から聞き覚えのある声が聞こえ、凛祢たちは振り返る。

 そこには杏たち生徒会の姿があった。

「絶対に勝て」

「え?」

 桃の言葉に困惑した様子を見せる優花里。

「我々はどうしても勝たなければならないんだ」

「そうなんです。だって負けたら……」

「しー」

 柚子の発言を遮る様に杏が声を出した。

「とにかく!全ては西住ちゃんと葛城君の肩にかかってるんだから。今度負けたら何やってもらおうかなー。考えとくね」

 杏はグロブリ戦前のような事を言ってその場を後にする。

「元々、負けるつもりはない」

 凛祢も自身の考えを述べる。

 まただ、生徒会はまた勝利することを強要するような発言をした。

 どうして、そこまでして勝利を求めるのか。

 負けるつもりはないが、やはり気になる。

「……」

「大丈夫ですよ!頑張りましょう!」

 優花里はみほを励ますように言った。

「……初戦だからファイアフライは出てこないと思う。せめて、戦車チームの編成が分かれば、戦い様があるんだけど……」

 みほはそう口して戦略を練り始めていた。

「戦略はみんなで協力して考えればいい」

「うん、ありがとう凛祢君」

 凛祢の言葉を聞いてみほは弱々しくなりながらも笑みを見せる。

「……」

 そんな二人の隣で優花里は何かを決意したような表情を見せる。

「優花里?」

「あ、大丈夫です!」

 凛祢の問いに優花里はいつも通りの元気な返事をしていた。

 

 

 翌日の早朝、いつもの日課で道路上を走っていた凛祢は気になる人影を見つけ、足を止める。

 コンビニの定期便に荷物を運びこんでいる人たち。

 そんな中、隠れながら定期便に侵入していく優花里と塁の姿があった。

「なにしてんだ?あいつら」

 凛祢はそんな疑問を抱く。

 今日も通常通り学園で授業があると言うのに。

 定期便は朝に発ったら夕方まで戻らないはずだが。

 コンビニの定期便の甲板は多数のコンテナが積み上げられている。

「よし、誰もいない」

 優花里は姿を隠しながらコンテナの間を移動していく。塁も後に続いて行く。

「OKですね」

「はい、ここなら大丈夫そうです」

 ようやく身を隠せる場所を発見した二人はその場に座り込み、安堵の息を吐いた。

「あとは見つからずにサンダースとアルバートの学園艦に潜入できれば……」

 息を殺しながら、塁は小声で呟く。

「はい、坂本殿は誰かに言って来ましたか?」

「いえ、誰にも言わずに来ました。それにしても優花里殿に誘われた時はびっくりしました」

「あはは、どうしても西住殿と葛城殿の役に立ちたくて……あ、どうぞ」

 優花里は照れるように言うと鞄からレーションを取り出した。

 封を切って一つを塁に渡す。

「ありがとうございます。なんか、僕たちスパイみたいですね」

「確かにそうですね。本物のスパイです!」

 優花里と塁は笑い合いながらレーションを食す。

「お前ら、なにやってんだ?」

 不意にそんな声が聞こえ、塁と優花里は驚く。

 周りを見渡すがあるのはコンテナと段ボールの山。

「今のは?」

「わかりません……もしかして見つかった?」

 塁と優花里はお互いの顔を見合わせる。

「こっちだ」

「え?」

「誰ですか?」

 優花里と塁は身構える。

「俺だ……」

 段ボールの裏から現れたのはジャージ姿の凛祢であった。

「凛祢殿?」

「葛城殿どうして?」

「お前らがこの定期便に入っていくのが見えたから。追ってきた」

 凛祢はここまでの出来事を二人に説明する。

 すると、大きな汽笛の音と共に定期便が出発する。

「「「あ」」」

 三人の声が重なった。

「凛祢殿、どうするんですか!?」

「もうどうしようもないだろ。てか、お前たちは何のために乗り込んだのか説明しろ」

「えっと……話すと長いですよ?」

 優花里はそう言うが凛祢の顔を見て、説明を始めた。

「ふーん、そういう事か。無茶するな……」

「「すみません」」

「まあいい、今回は俺も手伝ってやるよ。どうせ、このままだと帰れないし」

 凛祢はため息をついた。

 要は、優花里がみほのために情報を集めに行こうとした。塁もそれを手伝ってやろうとした。

 ところが、忍び込むところを凛祢が発見し、今に至ると。

 敵の情報を探るのは悪いことではない。むしろ、協会に許可されている。

 こうなってしまった以上は自分は二人を手伝うくらいしかできない。

 

 

 数時間後、凛祢たちは対戦校のサンダース大学付属高校とアルバート大学付属高校の学園艦に到着した。

 塁と優花里はコンビニの制服を着ているが凛祢はジャージ姿、どうしても目立つため隠れて侵入していく。

 サンダース高校とアルバート高校は別の高校であるが、隣同士で存在している。

 現在、三人は両校が見える位置の物陰に身を隠している。

「あれが、サンダースとアルバートの校舎か」

「やっぱり、大きいですね」

 想像以上に大きい校舎を見つめている凛祢と塁が言った。

「それで具体的に何するんだ?」

「それぞれの学校の制服を着て、潜入します」

 塁と優花里は鞄からサンダース校とアルバート校の制服を取り出す。

 一体、どのような方法で手に入れたのか知らんが、よく手に入ったものだ。

「凛祢殿は情報管理室で有力なデータをコピーしてきてください。僕たちは大会で使う銃火器や戦車の情報を調べてきます」

 塁はそう言って、USBメモリを手渡した。

「了解だ」

 凛祢は塁から借りた通信機とUSBメモリをポケットに押し込んだ。

「それじゃあ、こそこそ潜入作戦開始ですね!」

「はい!」

「了解だ」

 優花里の声に塁と凛祢も潜入作戦を開始した。

 優花里はサンダース校へ、凛祢と塁はアルバート校へ向かう。

 

 

 サンダース校内に侵入した優花里は小型ビデオカメラの電源を入れる。

 すぐに、お手洗いで着替えを済ませるとカメラを持って校内を撮影する。

「これでどこから見てもサンダース校の生徒です」

 優花里が廊下を歩いていくが生徒は誰一人声を掛けない。

「ハーイ!」

「「ハーイ!」」

 すれ違うサンダースの生徒と挨拶を交わす優花里。

 サンダース校の生徒たちは、優花里が他校の生徒だとは微塵も思っていない様子だった。

「皆、フレンドリーです。バレてません」

 優花里はその様子を見ながら、小型カメラに向かって一人呟くのであった。

 

 

 一方、アルバート校へと潜入した塁は武器庫と思われる広い部屋に来ていた。

 壁際には綺麗に並べられた銃火器たち。

 右から左にかけて拳銃、サブマシンガン、アサルトライフル、狙撃銃、対戦車砲という順で並べられている。

「凄いですよ、これ」

 塁は驚きながら奥へと進んで行く。

「うん、小銃はM4カービンと。対戦車兵器はおそらく20から25は投入してきそうですね……。重機関銃なんか扱えるのでしょうか?」

 塁は一人で銃火器のメモを取り、カメラで撮影していく。

「拳銃はリボルバーが多いようですが……。おー、デザートイーグル!本物は初めて見ました!」

 塁は二丁だけ置いてあるデザートイーグルを見て興奮気味に叫ぶ。

「ん?これは……」

 一時間ほどかけて、ようやく調べ終えた塁はホワイトボードに目をやる。

 貼りだされた予定表には今日の12時にブリーフィングと書かれていた。

「これは好都合かもしれませんね」

 現時刻は11時ちょっと、すぐに向かえば十分間に合う。凛祢と優花里に連絡を入れた後、ブリーフィングの会場であるサンダース校の合同作戦会議室に向かった。

 

 

 そして、塁と別れた凛祢は通気口内を進む。

 蓋の隙間から場所を確認しながら情報管理室に向かう。

 数分後、通気口の蓋を外して情報管理室内に侵入する。

「ネズミになった気分だな」

 そんな事を言いながらパソコンの電源を入れる。

 パソコンも最新型だからなのか起動が早い。さすがは金持ち学校。

 すぐに戦車道&歩兵道のデータベースにアクセスしようとするがパスワードという壁に阻まれる。

「パスワードか……どうするかな?」

 凛祢は室内の探索を始める。

 すると、隣の部屋に続く扉を発見した。

 鍵のかかっていない扉の先は書類をまとめた部屋なのか、戸棚にはファイルがびっしりと収納されている。

「お、戦車道と歩兵道の書類もあるな」

 書類にはサンダースとアルバートの歴史のごとき、昔の戦車道と歩兵道の事が綴られている。

 運がいいことにデータベースのパスワードも載っていた。

「よし、これで……いいもの見つけた」

 凛祢はパスワード以外に、アルバート校の制服を発見した。

「ちょっと借りるぞ」

 段ボール箱に入ったアルバート校の制服に着替え、着ていたジャージを一緒に置いてあったスクールバックに押し込んだ。

 パスワードを使ってデータベースにアクセスする。

「去年までの試合記録をしっかり残してるな。それ以外にも使用戦車と使用武器、用意弾薬数。個人の性格や技量、どれだけ弾を撃ったかまで残してるなんてまめだな……」

 データを見ながら思わず呟く。

 それらをUSBメモリにコピーすると、USBメモリを引き抜きポケットにしまう。

 すると、机に置いていた通信機が鳴る。

 手に取り、通信機を口元に近づける。

「こちら塁、武器庫内での銃火器のデータ収集を終了しました。オーバー」

「こちら優花里、了解しました。こちらも、戦車倉庫内での戦車のデータ収集を終了しました。オーバー」

「こちら凛祢、了解した。こちらも有力なデータのコピーに成功した。オーバー」

 それぞれが通信機越しに通信を送る。

「こちら塁、了解しました。本日一二○○よりサンダース校、合同作戦会議室にてブリーフィングが行なわれる。各自参加せよ」

「「了解」」

 塁の指示に凛祢と優花里が返事をする。

「ふふふ。なんか楽しいですね」

「はい、私たち本物のスパイですから」

 塁と優花里が笑いながら通信を続ける。

「おい、学園艦に帰るまでがミッションだぞ。あと、インカム通信はできるようにしておいてくれ」

「「了解であります!」」

 二人は通信を終えて、それぞれサンダース校合同会議室を目指す。

 凛祢も予め下ろしていた縄梯子を使って通気口に戻り、蓋を戻した。

 

 

 サンダース校合同作戦会議室。

 サンダース校側に設置されていた合同作戦会議室は、大洗を遥かに上回る設備を有していた。

 室内の広さはもちろん、大型のモニターまで完備している。

「全体ブリーフィングが始まる様です」

「緊張しますね……」

 周りは全員サンダース校とアルバート校の生徒。

 そんな中に優花里と塁が紛れ込んでいる。優花里はしっかりと録画を続けていた。

 凛祢もギリギリで室内に侵入する。

「おい、お前。遅いぞ」

「すみません。腹が……痛くて」

 すると、凛祢を見た筋肉質な大男が話しかけてくる。彼はブラッド、アルバート校の副隊長だ。第2番隊歩兵隊隊長であり兵科は砲兵。

 凛祢はいつもとは違う性格の生徒を装う。

「そうか、さっさと席に着け」

「いえ、またトイレに行くかもしれないので……ここで見てます」

「……わかった」

 凛祢の言葉にブラッドはそのまま去る……と思ったが、一度振り向いた。

「お前、名前と兵科は?」

「ジル・バレンタインであります。第17番歩兵隊、偵察兵です。ブラッド副隊長……」

「……そうか、わかった」

 ブラッドを見送り、凛祢は少し安堵の息を吐く。

 危なかった、データベースで名前を調べていなかったらバレていたかも……。

 それに、偽名でもよくバレなかったものだ。人数が多い分、全員の顔と名前までは把握しきれていないのかもしれないな。

 すると、モニターの前の壇上に三人の女子生徒と三人の男子生徒が登壇する。

「では、一回戦出場車両を発表する」

 登壇している女子生徒の一人、サンダース校戦車部隊の副隊長である茶髪のツインテールのアリサが言った。

 手に持つ用紙の内容を読み上げる。

「ファイアフライ一両、シャーマンA1・76㎜砲搭載一両、75㎜砲搭載八両」

 同時に、モニターにも使用する戦車の映像が映し出される。

「思ったよりも戦力を出してきたな」

 凛祢はそう口にする。

「歩兵隊の投入数は115名。対戦車兵である砲兵を中心に隊を編成する」

 続いてアルバート校のもう一人の副隊長であり髪型がオールバックの男、ピアーズが言うとモニターも切り替わる。

 ひゃ、115名だと?大洗の約五倍じゃないか!

 凛祢も驚く、予想を遥かに上回る数の歩兵が投入されているからだ。いや、よく考えれば元々歩兵道は多人数で行うもの。大洗の人数の方が圧倒的に少ないのかもしれない。

「じゃあ、次はフラッグ車を決めるよ?OK?」

 サンダース校の戦車部隊隊長である金髪のロングヘアのケイが生徒たちに問い掛ける。

「イェーー!」

 それに対し、大きな返事をする生徒たち。

「随分とノリがいいんですね。こんなところまでアメリカ式です」

 優花里は小声で呟く。

 そして、フラッグ車はアリサの乗るシャーマンA1に決まり、またも室内が盛り上がる。

「何か質問は?」

「あ!はい!フラッグ車の防衛はどうするんですか?」

 優花里は席から立ち上がり、そう尋ねる。

「っ!」

 後ろから見ていた凛祢は優花里の目立った行動に焦る。

「おー、良い質問ね」

「フラッグ車には歩兵部隊の小隊が一つと俺の部隊から五人を防衛に回す。敵は少数で技術もない、一気に攻めて叩き潰すだけだ」

 ケイが反応すると、ブラッドが答える。

「でも、敵にはⅢ突が居ると思うんですけど……」

 今度は塁が挙手しながら立ち上がり発言する。

「大丈夫!一両でも全滅させられるわ!」

 ケイは笑ってそう答える。

「「「……」」」

 左右にいるアリサとサンダース校もう一人の副隊長ナオミが優花里と塁の顔を見つめる。

 更に、登壇しているブラッドも二人の顔を見た。

 これは……マズイ!

 凛祢はバレないように室内のブレーカーボックスに近づく。

「見慣れない顔ね」

 凛祢の予想通り、ナオミが優花里に言い放つ。

「へ?」

「いっ!」

 その一言で、生徒たちの視線が一斉に二人に集まる。

「えっと……」

 塁も焦りだしているの確認して凛祢が動く。

「所属と階級は?」

「第15番歩兵隊、クリス・レッドフィールド!兵科は砲兵であります!」

 優花里の顔を見た塁が適当に浮かんだ名前や番号を叫ぶ。

「え?あの、第六機甲師団オッドボール三等軍曹であります!」

 優花里も続くように偽名を叫ぶ。

「偽物だ!捕まえろ!」

 アリサの声と同時に室内の明かりが消えた。

 窓のない室内は一瞬にして暗闇に包まれる。

「塁、優花里!左の扉から逃げろ!」

 ベルトの通信機を手に取り叫ぶ。

「優花里殿!」

「あ、はい」

 通信を聞いた塁は優花里の手を引いて暗闇の中で走り出す。

 二人は勢いよく扉を開き、出ていく。

 凛祢も通信機を隠しながら別の扉から出ていく。

 五分も経たない内に、学園内にサイレンが鳴り響き始める。

「他校のスパイが侵入した!捕まえよ!」

 スピーカーからそうアナウンスが流れる。

「急ぎましょう!」

「は、はい!」

 塁は全力で走る、優花里もなんとかついてきている。

「いたぞ!」

「捕まえろ!」

 アルバート校の生徒が二人を追いかける。

 それでも、塁と優花里は必死に逃走する。

「塁、職員棟二階の男性用トイレの通気口から戦車倉庫に出られる。どうにかして辿り着いてくれ」

「分かりました」

 凛祢からの通信を聞いた塁は角を曲がり階段を下りていく。

 一方、通信を入れた凛祢はアルバート校内に戻っていた。

 情報管理室に再度侵入し、ジャージに着替える。

「よし」

 制服を戻して、武器庫を目指す。

「これより、警戒態勢をサンダース校内だけでなくアルバート校内にも広げる!何としてもスパイを発見せよ!」

 アルバート校の通気口を通っていると放送が響く。

 どうやら捜索範囲を広げたようだ。

「マズイな……」

 ようやく通気口を抜けて、武器庫までたどり着いたがアルバート校の生徒が四人、武器庫内を見張っている。

 これでは、脱出ができない。

 段ボールの山に身を隠しながら様子を窺う。

 すると、通信機が小さく鳴った。

「こちら凛祢」

 通信機を口元に近づけ小声で返事をする。

「お友達は脱出できたみたいよ。貴方も早く脱出した方がいいわよ」

「っ!」

 通信機から聞こえたのは塁でも優花里の声でもない。

 聞き覚えのない女の声だった。

「お前は誰だ?なぜ、この周波数を知っている?」

「そんな事を気にしている場合なのかしら?もうすぐお迎えの船が来ちゃうわよ、ジル・バレンタインさん」

「な!」

 彼女は今、ジル・バレンタインと言った。凛祢がブラッドの前で名乗った偽名だ。

 しかし、ブラッド以外には名乗っていないはずなのに。

「……お前を信じていいのか?」

「嫌ならいいけど。時間がないけどね」

「……わかった。どうすればいい?」

 凛祢は問い掛ける。

 彼女を信じてもいい保証などない。だが、信じるべきだと思った。

「三分後、放送が鳴るから同時に逃げなさい」

 彼女に言われ凛祢は動けるように準備する。

 数分後、校内放送を告げる合図が響く。

「スパイをサンダース校内にて発見。至急、捕まえよ!」

 そんなアナウンスが響いたかと思うと武器庫内の生徒たちは武器庫を後にしていく。

「本当に行きやがった」

 凛祢はそう口にして扉から外へ出ていく。

 

 

 アルバート校の敷地内から脱出し、指定された場所まで走ると塁と優花里の姿があった。

「塁、優花里!」

「凛祢殿!無事でしたか!」

 塁と優花里も凛祢に視線を向ける。

「助けてくれたあの通信は、誰だったんでしょうか?」

「優花里たちも聞いたのか?」

「はい、名乗ってはいませんでしたが」

「感謝はしている、だが戻っている暇はない。通信に割り込めるような奴だ、きっと脱出してるさ」

 凛祢はそう言って定期便を見つめる。

「坂本殿、行きましょう」

「はい……」

 三人は隠れて定期便に乗り込み大洗の学園艦へと帰還するのだった。

 その様子を隠れて見つめる少女の姿に気づかぬまま。




読んでいただきありがとうございます。
今後も執筆を続けるので読んでいただけると嬉しいです


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第7話 1回戦、サンダース&アルバート連合

遅くなってしまってすみません。
忙しくて執筆の時間が取れずにいました。
今後も頑張って書くので読んでもらえたら嬉しいです。
では、本編どうぞ


 サンダース大学付属高校とアルバート大学付属高校の学園艦から脱出した凛祢たちが定期便に乗り込み、一時間ほど過ぎた頃。

 三人はほんの少しの安息の時間を過ごしていた。

「葛城殿、坂本殿。収集してきたデータを見せてください」

 コンテナの裏に隠れて息を潜めている優花里が鞄からPCを出した。

「どうするんだ?」

「少し、編集するんです」

 優花里は凛祢の持っていたUSBメモリと塁のカメラから移したデータ、自身の撮影データを一つのデータチップにまとめて、編集を始める。

「手慣れてますね、こういうの得意なんですか?」

「まあ、なかなか使うことなかったんですけど……」

 塁が興味深そうに見ていると優花里はPCを操作しながら答えた。

 すると凛祢の通信機が鳴る。

「っ!?」

 凛祢だけでなく優花里や塁も鳴り続ける通信機を見る。

 警戒しながらも通信に応じると、聞こえた声は校内で助けてくれた声だった。

「良かったわね、三人共脱出できて」

「お前は一体何者なんだ?今通信してきたってことはお前もこの定期便に乗っているのか?」

「ええ、私もあなたたちと同じ船の上よ。私もサンダースとアルバートに潜入していただけ、そしたらあなたたちも同じことしていたからね」

 女の声は凛祢の質問に答えてきた。

「貴方はおかしいと思わなかった?資料室への扉の鍵が開いていたこと、不自然にも用意されていたアルバート校の制服、資料内に重要なデータベースにアクセスするためのパスワードがあったこと……」

「!!」

 凛祢も潜入作戦の事を思い出す。

 言われてみれば、誰もいないのに資料室への扉に鍵が掛かっていないわけがない。情報管理室にはしっかりと外から鍵がかかっていた。

 それに制服が資料室内にあったのも、個人情報とも言えるデータベースにアクセスするパスワードが誰もが見る資料の中にあったのも。

 少し変だ、という事に気づいた。

「それはつまり」

「ええ、全部私が前もって用意しておいたの。安心しなさい、情報はすべて本物よ。私は貴方たちの手伝いをしただけ」

「なんで、そんな回りくどい事を?」

 凛祢は問い掛ける。

 彼女の意図がどうしても分からなかった。

「別に目的なんてないわ。情報が大洗に届けばそれでよかったの、それに貴方たちのおかげでいい情報も手に入ったわ」

「だが、それなら俺たちを助ける必要はなかっただろ?俺たちが逃げ回ってる間に情報を持って逃げることもできたはずだ」

「それこそ意味がないわ。貴方たちは最後の希望だもの」

 女の言葉が凛祢には引っ掛かる。

 通信する凛祢を見ていた塁と優花里も顔を見合わせた。

「それはどういうことだ?おい、答えろ!」

「少し話過ぎたわ。今回手に入れた情報をしっかりと持ち帰る事ね。葛城凛祢君……」

「おい、待て!まだ聞きたいことが――」

 女はそう言って通信を切ってしまった。

 凛祢の問いに答えが返ってくることはなかった。

「……」

 凛祢は通信機を置いて優花里の方を向く。

「あの、大丈夫ですか?」

「なにか言っていたんですか?」

 塁と優花里は凛祢の顔を見て問い掛ける。

「……いや、なんでもない。あいつも大洗の人間だったってことだ」

「え?そうなんですか?」

「誰かが情報を欲していた、もしかして生徒会か?」

「生徒会、その可能性はあるかもしれませんね。あの人たち勝利に執着してるようでしたし」

 塁も凛祢の考えに賛成するように考える仕草を見せる。

 どちらにしても本人に聞いてみなければわからない。

「俺は戻ったら生徒会に当たってみる。二人は情報をみほにでも渡しておいてくれ」

「僕も行きます!」

「いや、俺一人で十分だ。塁、今は優花里と情報を届けてくれ」

「……わかりました」

 凛祢はそう言って、コンテナを背に少し眠りについた。

「凛祢殿、眠っちゃいましたね」

「葛城殿も疲れていたんですよ。グロブリの試合も全力でやっていましたから。あ、決して他の方が手を抜いていたと言っているわけではありませんよ」

「分かってます。僕も凛祢殿の役に立てるように頑張らないと、いつまでもチームのお荷物でいるのは嫌ですから」

 塁が空を見上げると、空は少しだけ赤くなり始めていた。

「お荷物なんかじゃありませんよ、坂本殿はいつだって自分にできる最善を尽くしているじゃないですか。今回だって坂本殿が居なければどうなっていたか」

「僕は八尋殿や俊也殿みたく射撃が得意なわけじゃないし、凛祢殿みたくCQCが得意なわけでもない。翼殿だって、もう銃の扱いに慣れている。なのに僕は……」」

「坂本殿、一つ言っておきます。葛城殿は坂本殿を信頼していますよ、前に聞いたことがあります。『塁はチームに必要だ、あいつは誰よりも歩兵道に詳しい上に自分たちを支えてくれてる。八尋にも翼にも、俊也にもできない事をやってのける』そういう奴だって」

 優花里は塁の顔を見て、真剣に言った。

 塁は少し照れたような顔を見せる。

「凛祢殿が……そんなことを?」

 塁は眠っている凛祢に視線を向けた。

「はい、気づいていないけど無意識にやってるって。坂本殿、大事なのは最善を尽くす事ですよ」

「自分にできる最善……ですか。ありがとうございます優花里殿、僕は僕にできることをやってみます!」

「はい、その意気です!」

 いつもの塁に戻った様子を見て、優花里も笑って見せた。

 その後も二人は会話を続け、定期便は大洗の学園艦を目指すのだった。

 

 

 大洗の学園艦に到着し、凛祢は塁、優花里と別れて一人学園を目指した。

 大洗男子学園、生徒会と書かれたネームプレートが填っている部屋の扉をノックもなしに開ける。

 室内には英治、宗司、雄二の姿があった。

「葛城?」

「どうしたんですか?もう下校時間は過ぎてますよ?」

 声を掛ける雄二と宗司を無視して、英治の机の前に立つ。

「サンダースとアルバート校の学園艦に行ってきました」

「なに!?」

「葛城君、何を言っているんだ!?」

 凛祢の言葉を聞いた雄二と宗司が驚きの顔を見せる。

 それもそのはず、今日だって大洗男子学園が普通通りの一日を送っていた。

 生徒たちは朝から登校し授業を受けていた。

「情報はいっしょに行った塁と優花里に預けています。俺たち以外にもサンダースとアルバートの校内に潜入していた人間がいた、その人間を知っていますか、会長?」

「……知っていると言ったら?」

「会長は……俺たちに隠していることはありませんか?彼女は俺たちが『最後の希望』だと言った。その意味を知っているんじゃないですか?」

 凛祢は真剣な表情で英治の顔を見る。

 英治もいつものクールな表情を浮かべている。

「隠していることはない。そもそも、彼女が……セレナがなぜそんな事を言ったのかは俺にもわからない」

「なら、そのセレナって女に確認してください!」

 凛祢は思わず机を叩く。

「彼女は口が堅い、俺が聞いたところで無駄だ。だが確かめるくらいはしてやる、だから今日は帰れ」

「……でも!」

「葛城、俺にも本当に分からない。セレナがなぜそんな事を言ったのか……」

「……わかりました」

 これ以上言っても答えてくれない英治を見て、凛祢は生徒会室を後にした。

 すぐに凛祢の出て行った扉から一人の少女が室内に入室する。

「帰ったのか、セレナ」

「ええ。でもよかったの?本当のことを話さなくて」

 大洗女子学園の制服に身を包んだ紫髪の少女、セレナは生徒会室の備品のソファーに座る。

「いいんだ、知らない方が幸せなこともある。よく葛城たちを逃がしてくれたな」

「彼を失うことはできないもの。貴方も杏も、嘘つきね。本当のことを言わないなんて」

 微笑みながらセレナが持ってきた鞄からUSBメモリを英治に投げ渡す。

「それは仕方がありませんよ、セレナさん。私たちの学園を守るには葛城君と西住さんの力が必要だったんですから」

「そもそも、お前が余計なことを口走るからだろ」

 宗司がお茶を入れて、テーブルに置く。

「役立たずは黙ってなさい、貴方はお呼びじゃないわ」

「なっ!おま――」

「雄二、落ち着いて」

 紅茶を飲んだセレナの言葉に反応する雄二を宗司が引き留める。

「セレナ、今回の事は本当に感謝してる。みんなが聞けばなんて言うかな、生徒会が揃って嘘を言っているなんて」

「はぁ、本当に手間がかかる仕事ね。貴方の手伝いをするのも楽じゃないわ」

 英治はUSBメモリのデータをPCで確認しながら言うとセレナもため息をつく。

 宗司と雄二もそんな二人の様子を見て、人を騙しているような罪悪感を感じていた。

 

 

 それから一回戦前日までの一週間は、すぐに過ぎた。

 自宅に帰ってきた凛祢は英子と共に修行を行っている。

「はっ!」

 凛祢の素早い右掌底打ちを英子は受け流し、華麗に背負い投げした。

 土の地面を凛祢の体が跳ねる。

「うっ!くそ……まだだ、まだ!」

「凛祢、今日の修行は終わり。明日は一回戦でしょ」

 英子はそう言って家のベランダに腰かけた。

「まだ、無拍子ができて――」

「言ったでしょ、今日の修行は終わり。お姉ちゃんにも言われてるから、明日の試合に支障が出るような無理はさせない」

 凛祢の発言を遮る様に言った英子はミネラルウォーターのペットボトルに口をつける。

「凛祢、今日までの修行で少しは成長した。無拍子を打てないけどそれでも十分戦えるわ、だから……」

「……わかった」

 凛祢もベランダに座ってミネラルウォーターを一口飲み、一息つく。

「どうしてそこまで必死なの?」

「自分でもわからない……」

 凛祢は息を整えて空に目を向ける。

 分からなかった。自分でも必死になる理由が。

 でも、感じるんだ。やらなければ失うものがある、そんな気が。

「貴方は誰よりも頑張っていると私は思う。必死にやって、誰よりも努力してるじゃない」

「そんなことないよ。鞠菜が居なくなって、いままで自分から逃げ続けてきた」

「へー。でも、お姉ちゃんは嬉しかったと思うよ。貴方がもう一度『歩兵道』という名の戦場に戻ってきたことがね」

 英子も空を見上げてそんな事を口にした。

 凛祢はそんな英子の顔を見る。

「それは、どういうことだ?」

「だって周防鞠菜さんの弟子がもう一度歩兵道をやる気になった上に自分の家の流派を学びたいって言いだした。あんなお姉ちゃんだけど、実は喜んでるのよ」

「そっか。照月教官がそんな風に思っていたとはな」

「凛祢、頑張って……貴方があなたらしくあるために」

 英子はそう言って立ち上がる。

 鞄を持って帰る準備をしていく。

「じゃあね、今日はちゃんと休むのよ」

「わかったよ、気をつけて帰れよ英子」

「うん、明日は私も見に行くわ。不甲斐ない姿を見せないでね」

 凛祢に見送られ、英子は静かな足取りで帰っていった。

「俺らしく……か、鞠菜もよく言っていたな」

 凛祢はもう一度空を見上げると、星が輝き始めていた。

 

 

 ついにやってきた全国大会、一回戦の試合。

 会場は草木の生い茂る森林地帯。

 相手はサンダース大学付属高校&アルバート大学付属高校連合。

 用意された観客席は多くの人で賑わっている。

 新調した紺色のパンツァージャケットに身を包む大洗女子学園の生徒たちと新調した黒と青を中心とした色合いの特製制服に身を包む大洗男子の生徒たちが試合前の最終確認を行なっている。

 結局、あの女……セレナの言葉の意味は分からないままだ。

 それでも、今は目の前の事に集中する。

「凛祢。また、こえー顔してるぞ」

「え?ああ、ごめん」

「緊張してるのか?まあ、緊張くらいするよな」

 八尋や翼に声を掛けられ凛祢は我に返った。

 二人共いつも通りの様子だったが。緊張してるのか、何度も銃に弾倉を差し直している。

「俺の単位がかかってんだ。集中しろ」

「行きましょう、僕たちの戦場に!」

「ああ、行くぞ」

 塁と俊也の顔を見て、凛祢も不安を振り切る。

「葛城、これを」

 そんな凛祢に英治が黒い布のような物を差し出してくる。

「これは、なんですか?」

「整備部が余った資金と物資をかき集めて作ったマントだ。防弾加工されてるから銃弾の衝撃を軽減してくれるらしい。素材はTNKワイヤーとかいうものが使われているとか」

 凛祢が、それを広げてみると確かにマントのように羽織れるような形状をしている。

 英治の言う素材とはおそらく『ツイストナノケブラーワイヤー』。特製制服はこれよりも強固な素材が使われているが、これでも十分に銃弾を防げるだろう。特製制服に仕込まれている電極は衝撃を感知して、その数値が一定数値を超えた時アラームが鳴る。

 要するに被弾しても衝撃を殺せれば少しだけダメージを軽減できるということだ。

「へー、うちの整備部って凄いですね。整備部お手製の防弾加工外套と言ったところですか」

「大変だって言っていました。会長が早急に作らせていましたから」

 宗司も苦笑いしながら言うと凛祢もここにはいない整備部に心の中で感謝する。

 英治の羽織っているものも同じものなのだろう。

「で、なんで俺に?」

「お前が、我々歩兵の第一戦力だからだ」

「そういうことですか」

 雄二の言葉に思わず凛祢はため息をついた。

「今回のフラッグ車は38tだからなー」

 隣にいた八尋が言った。

「……俺も嫌だなんだよ。フラッグ車の随伴隊長は簡単に失格できないから」

「仕方ないですよ会長。……葛城、経験者のお前が戦線離脱すれば我らは敗北同然だ。頑張ってくれよ」

 英治と雄二はそう言い放って、去って行く。

 凛祢はホルスターのコンバットナイフとFiveseveN、手榴弾、バックパック内のヒートアックスの確認を終えて防弾加工外套を羽織る。

「葛城君、かっこいいぞ!」

「似合ってんな、俺も欲しいくらいだ」

 アーサーとジルがそんな声を掛けてくる。しかし、顔は笑っている。

「やめろ、俺を見るな……」

 凛祢もそう言って顔をそむける。

 周りから見れば黒マント中二病少年と呼ばれても仕方がない姿を自分はしているのだ。

「葛城ー、仮面付けて俺はゼロだ!とか言って」

「写メを撮っとこう」

 景綱もそんな事を言って笑っている。

 更にシャーロックは携帯端末のカメラで撮影までしていた。

「やめろ、お前ら!」

「凛祢、落ち着けって。シャーロック、後でグループLINEに貼っとけよー」

「八尋!」

 凛祢が必死に抵抗するが、両手を掴み動けないようにした八尋がそんな事を言った。

「貴様ら、いつまでふざけている!準備は終わったのか!?」

「うお、女子広報がお怒りだ。ヤブイヌ分隊、準備は終わってまーす!」

 やり取りを見ていた桃が怒りを露わにして叫ぶ。

 八尋は答えながら、すぐに凛祢から離れる。

「オオワシ分隊も準備完了です!」

「ワニさん分隊、いつでも出陣できるよ!」

「ヤマネコ分隊も行けます!」

 オオワシ分隊の分隊長辰巳、ワニさん分隊の分隊長アーサー、ヤマネコ分隊の分隊長亮が続くように返事をしていく。

 凛祢もみほの元に向かおうとした時、サンダース校の副隊長二人とアルバート校の副隊長二人が姿を見せた。

「呑気なものね」

「そんな状態で戦線に出てきたのか。随分無謀だな」

 大洗の様子を見たアリサとピアーズが言った。

「そう言うなよアリサ、ピアーズ。……ブラッドどうかした?」

 ナオミが言うと、二人は何も言わずに大洗の生徒たちを見た。

「いや。そこのお前」

 ブラッドは凛祢の顔を見て、呼び止める。

「っ!……なにか?」

 凛祢は一瞬驚きながらも返事をする。

「どっかであったか?」

「……いえ、初対面だと思いますが」

「そうか、ウチのジル・バレンタインって生徒と似てると思ってな」

「「え?」」

 ブラッドはそう言ってアリサに話を進めるよう促す。

 その様子を見た塁と凛祢が驚く。

 マジか。このブラッドって奴、自分がジルと名乗ったことに気づいていないのか?

 普通は気づくだろ、いくらなんでも鈍すぎるぞ。

「ところでどうして大洗の方に?」

「あ、えっと。ウチの隊長が呼んでるからさ」

「ケイが?」

 ナオミの言葉に杏が首を傾げる。

「試合前の交流だとさ」

「ふーん、なら行こうか。葛城、お前もこい」

「え……この格好でですか?はい、そうですよね行きますよ」

 ピアーズの誘いに答える英治を横目に見ながら凛祢は後追う。更にあんこうチーム、カメさんチーム、ヤブイヌ分隊、カニさん分隊のメンバーもついてくる。

 

 

 数分ほどでサンダース&アルバート連合の待機している地点に到着した大洗連合。

 そこには救護車にシャワー車、ヘアーサロン車。そしてファーストフードをはじめとする四種類以上のフード車が駐車していた。

「おいおい、サンダースとアルバートは遠足でもしにきたのか?」

「リッチな学校ってこんなもの用意するんですね……」

 俊也と塁がやれやれという様子で言った。

「うおー、このアップルパイうめー」

「こっちのホットドックもいけるな」

 そんな中、八尋と翼はフード車で購入したものを食べていた。

「なにをやっている!ここは敵陣だぞ!」

「えー、せっかく来たんだからいーじゃねーか。塁、お前も食うか?うまいぞ」

「店員さん、アメリカンドックもう一本!」

 桃が叫ぶが二人は聞く耳持たずという感じで食事を続ける。

 翼の注文に店員も笑顔で返事をする。

「沙織、八尋たちを連れ戻してくれ」

「え、うん。わかった、華、麻子行こ」

 凛祢のお願いを聞いた沙織は華や麻子を連れて行く。

「ハーイ。アンジー、エージー」

「アンジー?」

「杏会長の事だ」

 ケイの挨拶を聞いた雄二が言うと、英治が小声で教える。

「ケイ、相変わらずだな」

「何でも好きなものを食べてって、OK?」

「OK、OK。もう食べてる生徒いるし」

 ケイの好意に答える二人の会長。

「あ、そうそう。貴方たち、このあいだはどうもね」

「そっちの奴もだろ……」

 ケイが塁と優花里の二人を見るように、隣にいた男が凛祢を見た。

「「ははは……」」

「気づいてたのか……」

 塁と優花里が乾いた笑いを漏らすが、凛祢もその男を見た。

 男の名は、レオン。アルバート校の歩兵隊隊長であり、『アメリカの星』という二つ名を持つ男。

「気づいていないのはブラッドとケイくらいだ……ピアーズやナオミたちは気づいている」

「そんなことないわよ、レオン。私も気づいていたって」

 レオンの発言を否定するようにケイがウインクする。

「気づいてなかったろ……それにしても変わった格好してるな」

「この格好については聞かないでくれ」

「フッ、お互い苦労してるな」

 レオンはマントを羽織った凛祢を見て、何か共感できるものを感じていた。

「ま、いつでも遊びに来てね。ウチはいつでもオープンだから」

「えっと」

 ケイの言葉に戸惑う塁と優花里。

「もう二度とこないだろ」「もう二度と行かないだろ」

 そんな二人を見かねたレオンと凛祢の声が重なる。

「あら二人とも仲がいいわね」

「別に……これだから女は」

 ケイの言葉に不服そうな顔をするレオン。

「隊長はいい人そうですね」

「確かに」

「フレンドリーすぎる気もするがな」

「そうだな」

 ケイを見ていた優花里、みほ、俊也の発言に凛祢も同じ感想を抱く。

「なになに何の話?」

 沙織の声が聞こえて振り返ると八尋と翼、華、麻子も戻ってきた。

 麻子は販売されていたアップルパイを現在進行形で食べている。

「麻子、食べるのやめなって」

「せっかく、八尋が奢ってくれたんだ。食べないのはもったいない。沙織もさっき食べてたろ」

 麻子は口を動かしながらアップルパイを一つを沙織に渡す。

「う、そうだけど。美味しかったんだけどさ……」

 麻子の言葉に反論できない沙織。

「気にしないで、じゃんじゃん食っていけ」

「本当にサンダース校のアップルパイうまいですよね」

 見ていたブラッドとピアーズがそんな事を言って笑っている。

 すると、試合開始十分前の合図のサイレンが響き渡る。

「時間ね……今日は正々堂々戦いましょ」

「はい!」

 ケイはそう言って自分たちの戦車がある方へ去って行く。

「俺たちも力の限り戦おう!」

「ああ」

 レオンもそう言って去って行く。

「私たちも帰るよ」

「ああ、行こう」

 杏の声を合図に凛祢たちも急ぐように大洗の待機地点に向かう。

 

 

 賑わいを見せている観客席。

 人ごみをかき分けるように英子は歩いていく。

 ようやく観客席の裏までたどり着いた。

「……英子。お前も来たのか」

「お姉ちゃん」

 英子の前には壁に寄りかかる敦子の姿があった。

「私は仕事で来たが、お前は来る必要はなかったんじゃないか?」

「別に、やることがなかったから見に来ただけ」

「そうか。葛城の修行はどうだった?無拍子が打てると思うか?」

「ううん。多分、凛祢はまだ無拍子を使えない。でも、覇王流の技は少しだけど習得した」

 敦子の質問に答える英子。

「間に合わなかったか。仕方ないよな」

「お姉ちゃん。もしも凛祢が……大洗が勝利したなら修行を続けさせて」

「好きにしろ。大洗が勝てたらだけどな」

 敦子はそう言い残して亜美のいる役員席に向かった。

 英子も観客席の階段を登り、空いている席に座る。

「間に合ったみたいね」

 英子がそう言った時、不意に声を掛けられる。

「隣いいかしら?」

「構わないけど」

 英子は声の主を見てため息をつく。

 そこには自分と同じように大洗の制服に身を包むセレナがいた。

「セレナ。戦車道や歩兵道に興味ないんじゃなかったの?」

「それは貴女も同じでしょ?」

「私は……友人の試合を見に来たの」

「私も同じようなものよ」

 お互いに納得していないがそう言うことにしておくという感じに質問をやめる。

「どっちが勝つと思う?」

「それはサンダースとアルバート連合でしょ」

 セレナから帰ってきた答えは予想通りのものだった。

「普通はそうよね。普通なら」

「でも、彼なら不可能を可能にするわ」

 二人はそんな言葉を交わして試合を見ていた。

 

 

 二つのチームが所定の位置に着き、試合が始まろうとしている。

 その様子を観客席とは異なる場所で見ているグロブリ連合。

「始まるみたいだぞ」

「結果は見えていますが大洗の勝利を信じたいですね」

 ガノスタンとオレンジペコが言うと、ダージリンが紅茶を一口飲んだ。

「勝ってもらわなきゃ困るんだよ。アーサーの野郎に負けたままだからな、勝ち逃げなんてさせねー」

「そうだな、俺も葛城君には負けたままだから大洗には勝ってもらいたい。騎士の誓いを果たすためにも」

 モルドレッドとケンスロットも試合が始まるのを待ちながらコーヒーを飲む。

「この絶対的不利を覆せるとは思えませんが。『戦略が戦術に負けることはない』という持論を唱えた人物も過去にはいます」

「それはつまり、戦力差があろうと戦場全体を把握し的確に対応していけば勝利の可能性はあるということですねアグラウェイン」

 アグラウェインの言葉に説明するようにルクリリが呟く。

「データの上で大洗の勝率はわずか1%です」

「その1%を掴み取るのが、みほさんと凛祢さんだと私は思うわ。試合は最後まで分からないもの」

 タブレットでデータを確認したアッサムが言うが、ダージリンはそんな発言をした。

 彼女は信じている大洗の可能性を。

 

 

 他の場所でもグロブリと同様に試合を見に来た黒森峰連合の四人の姿があった。

「サンダース&アルバート連合に勝てるわけないわ!副隊長と超人が居たとしても」

「エリカ、うるさいよ。静かに見てよ」

 エリカが結果が見えた試合に不機嫌そうにしている。

 そんなエリカに悠希が文句を言いながら、持参したドライフルーツを食べていた。

「悠希、また食ってんのか?うまいか、それ?」

「うん、普通の果物よりこっちの方が好き。保存も効くし」

 聖羅が問うと悠希は返事をして、食べ進める。

「聖羅はどっちが勝つと思う?」

「大洗には凛祢がいる。今のあいつの実力は知らんが場合によっては結果がひっくり返るかもな」

「お言葉ですが黒咲隊長。大洗が勝てるとは思えません。どうして葛城凛祢を買っているのですか?二年も歩兵道から離れていた者には少なからずブランクがありますから勝つなんて不可能です」

 聖羅の言葉にエリカはどうしても納得できなかった。

「エリカ、聖羅が言っている事は間違ってないよ。歩兵のことは歩兵しかわからないんだよ」

「なによそれ!」

「エリカ。試合は最後まで分からない。大切なのは諦めない事と逃げ出さない事だ」

「た、隊長まで……」

 悠希だけでなく、まほまでそう言いだした事がエリカには分からなかった。

 大洗はみほと凛祢がいるからといってそこまでの強豪になるとは思えない。

 チームの大半は初心者なのに勝てるわけがないからだ。

 エリカは考えを曲げぬまま試合を見ていた。

 

 

 試合始まりのアナウンスが響き両校の軍は一斉に動き出す。

 サンダース校の戦車シャーマンやアルバート校の歩兵たちが歩みを進めていく。

 歩兵たちが乗る小型論輪駆動車『ジープ』は4,5人乗りで10両用意されている。

 大会ルール上、歩兵用の軍用車両も戦車と同様、終戦までのものに限定され数は戦車の車両数以下までと決められていた。

 しかし、大洗を上回る戦車と歩兵たちは圧倒的だった。

「さあ、みんな!行くよー!」

 ケイの声が響き、サンダースの士気が上がる。

「第2小隊から選出した歩兵を第1小隊へ移行する。第2から第10小隊は戦闘準備をしつつ警戒態勢を!」

 ブラッドの指示で歩兵隊が動き、それぞれの配置についていく。

「ブラッド、ピアーズ。今年こそ優勝するぞ」

「当たり前だ!」

「了解です!隊長!」

 隊長であるレオンの声に、強気なブラッドと返事するピアーズも銃を握りなおす。

「戦力は十分。……負ける要素はないと思うが」

 レオンはそんな事を口にして戦場を進む。

 

 

 森林地帯にいた大洗連合は慎重に進み、軍を配置していた。

「敵の数は十両、歩兵はそれぞれ10名ずつの小隊。例外としてフラッグ車には20名、ファイアフライにも15名の随伴歩兵が居る」

 38tの上に乗っていた防弾加工外套を羽織る、黒マント姿の英治が支給された地図を見ている。

「ここは森林地帯を最大限生かすべきだと思います。直接対決では数、質。そして砲兵の居るあちらが有利ですから」

「そうですね。アヒルさんチームとオオワシ分隊を森林の西に配置。ウサギさんチームとヤマネコ分隊は東に」

 優花里の助言にみほが指示を出していく。

「葛城隊長。C-4爆弾の使い方はこれでいいんですよね?」

 漣が問い掛けてくる。

「ああ、大丈夫だ。使うべきだと思ったなら積極的に使ってもらって構わない」

「「了解です!」」

 漣と翔は返事をして、それぞれ離れていく。

 二人は視野が広く、分隊内で最も罠を仕掛けられる素質がある。

 場合によっては敵の戦力を削ぐ有効打を出せるかもしれない。

「では、僕も行きます!」

「塁……生きて、合流しろよ」

「……了解であります!」

 塁は一人で隊を離れる。塁のバックパックにも持てるだけのC-4爆弾が入っていた。

「行くぞみんな!全軍オーバードライブ!」

「私たちは、私たちにできる事をしましょう!パンツァーフォー!」

 凛祢とみほの声が戦場に響いた。




ようやく、全国大会一回戦までたどり着きました。
戦力差が圧倒的なサンダースとアルバートに大洗はどう対抗するのか。
今後も読んでいただけたら嬉しいです。


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第8話 劣勢、森林撤退作戦

お待たせしてしまい申し訳ございません。
どうも、UNIMITESです
二週間に一回くらいで上げようと思っていましたが現実の時間が経つのは思いのほか早く、一か月近くたってしまいました。もうすぐ六月ですね。
では本編どうぞ


 ついに始まった一回戦。

 凛祢たち大洗連合は森林内に陣取り敵との遭遇に備えてしていた。

「さて、俺たちはどうするんだ。みほ隊長?」

「はい。今回はフラッグ戦ですからカメさんチームを守りつつ前進してください。戦力差がありますから隊を分散させつつ、各個撃破していきフラッグ車を倒します」

「了解だ」

 尋ねた八尋はみほの指示を聞いてP90の安全装置を解除した。

 Ⅳ号の上に乗っていた凛祢も地図を確認しつつ、所々に印を記していく。

「英治会長の配置をどうするかだな……。単独で狙撃に回すのは危険すぎるが、だからと言って八尋たち突撃兵と一緒に行動しても戦闘に巻き込まれるし」

「なら、いっその事分隊を分けたらいいんじゃないか?たとえばカニさん分隊に凛祢、ジルを入れるとかな」

「それもありだが、難しいところだな」

 翼の提案を聞いた凛祢も顔を渋らせる。

 フラッグ戦ではフラッグ車が行動不能になった時点で、戦車や歩兵の数に関わらず敗北になる。逆に言えば敵戦力がどれだけ強大でもフラッグ車を行動不能にできれば勝利できるという事だった。

 そして、フラッグ戦における歩兵のルールはフラッグ車の随伴歩兵隊長が戦死判定(失格)になることで、すでに戦車が行動不能になっている随伴歩兵とフラッグ車の随伴歩兵も共に戦死判定を受ける事。これも裏を返せばフラッグ車の随伴歩兵隊長が生き残っていれば他の行動不能戦車で戦死判定を受けていない随伴歩兵も戦闘続行することができる。

 つまり、今回フラッグ車の随伴歩兵隊長である英治が生き残っていればフラッグ車が走行不能にならない限り生き残っている歩兵全員が戦闘続行し続けられるということだ。

「どうするべきか……」

「葛城、俺たちは3人で十分だ。お前はⅣ号を守り続けろ、Ⅳ号が残っていれば俺がやられても最悪ヤブイヌ分隊は動き続けられる」

 凛祢の顔を見た英治が責任の重大さを理解しつつも自信ありげに言った。

「それは駄目です。英治会長の戦死は38tの守りが消えることと直結しているんです。最低でも1人くらいは他の分隊から歩兵を配置するべきです」

「だが、他の分隊も手一杯ですよ?」

 凛祢が言うが、宗司もどうしようもなさそうに言っていた。

「……近くに仲間の戦車が居る時は、その中から選出した歩兵を随伴に回しましょう。Ⅳ号といる時は俺が全力で行動します」

「おい、葛城。お前がどうしようと勝手だが、無茶をするなよ」

「わかってる。みんなを信じてるから、やばくなったら助けてもらうさ」

 珍しく俊也が心配そうに言った。

「お前がそんなこと言うなんてな。明日は雪か?」

「八尋、ぶっ飛ばすぞ?いや、銃で後ろから撃った方がいいか?」

「冗談に聞こえないからやめてくれよ」

「断る!後ろから頭を狙い撃ちだ!」

「おいおい、悪ふざけもその辺にしとけよ」

「「わかってるよ」」

 2人を見ていた翼が注意すると息ぴったりに返事して歩いていく。

 八尋と俊也って、会って二か月くらいなのになんであんなに仲がいいんだ?八尋はどんな奴とでも仲良くなれる奴だが、俊也がそんな奴には見えない。むしろ来るもの好まずな性格なのに。

 あの2人の間には共感できる何かがあるのだろうか。

 そもそも真面目な翼といること自体も珍しいって言われているんだよな、八尋って。

 凛祢も3人を見てそんな事を思っていた。

 

 

 西へと偵察に出たM3とヤマネコ分隊は、森林を抜けて丘へと辿り着いた。

「一旦停止!」

「アキラ、歩。どうだ?」

 梓の声に合わせて桂里奈が戦車を停止させ、ヤマネコ分隊も低い体勢で周りを警戒する。

「こちら、アキラ。正面には敵影あり、シャーマン3両と歩兵が30人……多いな」

「敵さんは、しっかり陣取ってるみたいだな」

「こちら翔。ちょうど準備OKだよ」

 双眼鏡で周りを見渡していたアキラと歩、少し離れた後方では罠を仕掛けた翔がインカム越しに報告する。

 森林地帯を活かし、隠れて行動をするヤマネコ分隊。

 丘の上には、3両のシャーマンの姿と30人にも及ぶ随伴歩兵の姿があった。

「てか、いいなー。あんな銃使ってて、俺たちもM4カービンとか使ってみて―」

「でも、葛城先輩は新しいものよりも使い慣れた武器を使った方が強いって言ってたよ?」

「だってさー。あれ、グレネードランチャーもついてるんだろ?俺たちもトンプソンサブマシンガン、改造してグレネードランチャー付けてもらおうぜー。アーサー先輩も剣作ってもらってたし」

 アルバートの銃を見た歩と礼がそんな会話を始める。

「確かにグレネードランチャーが付いてるって凄くない?」

「あれって戦車とかにつけられないのかな?」

「あー、確かM3って砲が二本ついてるから片方をグレネードランチャーに変えたらいいんじゃない?」

「それって凄くない?M3LeeGRとか呼ばれそうじゃん」

 あゆみ、桂里奈、優季、あやも会話に混ざる様に通信を始める。

「ちょ、ちょっとみんな!」

「そんなこと言ってる場合か?」

 梓と亮がやれやれと通信を聞いていると隣にいた銀がメモ帳に書いた文を亮に見せてきた。

『グレネードランチャーがついてたら強そう。てか、強い!』

「銀、お前もか……。梓さん、そろそろ」

 亮はため息をついて梓に指示を求める。

「そうだね。ウサギさんチームよりあんこうチーム及びヤブイヌ分隊へ。ポイントB65地点で敵部隊を発見。シャーマン3両とその随伴歩兵部隊が30人。これより誘い出します!」

 亮の通信に答えるように梓がみほに通信を送り、ウサギさんチームとヤマネコ分隊が行動を始める。

 その時、発砲音と共に銃弾が亮の右肩を掠め、近くの木に命中した。

 全員が驚きの表情を浮かべる。

「全員戦闘態勢!」

「急いで退避!」

 亮と梓の声が全員を束縛から解き放ったように他の生徒も動き出す。

 M3とヤマネコ分隊は後退を始め、シャーマンとアルバート歩兵隊が追いかける形で。

「マジかよ!?」

「気づくのはえーよ!」

 アキラと歩がそんな言葉を漏らして、後退する。

 敵部隊には狙撃兵と砲兵もいる上に軍用車両のジープに搭乗している。ただでさえ軽装備な歩兵に技術も初心者レベル、迎え撃つどころか、このままでは10分と持たずに一年生チームは脱落する。

 さらに状況は悪化し、後方だけでなく前方からもシャーマン3両が現れる。

 よってウサギさんチームとヤマネコ分隊はシャーマン6両と随伴歩兵60人、サンダース&アルバート連合の戦力半数に包囲されつつあった。

「こちら、ヤブイヌ分隊隊長葛城凛祢。ウサギさんチームとヤマネコ分隊に状況報告を求む!」

「こちらウサギさんチーム!挟み撃ちにされました、シャーマン6両に随伴歩兵多数!」

「敵は半数以上の戦力を回しています!これでは対応できません!ほぼ包囲されかかってます!」

 凛祢の通信に答えるように梓と亮の声がインカム越しに響いた。

 全速力で逃走するM3とヤマネコ分隊を追いかけるシャーマン軍団とアルバート歩兵隊。

「礼、いくぞ!俺たちで食い止めるんだ!」

「仕方ないよな……亮、M3は任せたよ」

 歩と礼が走力を緩めて始め、M3やヤマネコ分隊との距離が空き始める。

「歩、礼!なにを……!」

「亮、止まるな。このままじゃ全滅する、桂里奈さんも止まらないで!」

 亮も振り向いて足を止めようとした。

 しかし、アキラが無理に亮を前に進ませる。

 桂里奈もアクセルを踏み込み、M3を走らせる。

「あい!」

「駄目だよ!歩君、礼君、戻って!」

 梓も必死に指示を出す。

「こうなってしまった以上、どっちにしても全員で逃げるのは不可能だよ。誰かがやらないとね」

「悲しいけどこれ戦争なんだよな……一度言ってみたかったんだ!つーわけで殿はやってやるよ!」

 礼と歩は梓の指示を無視するように足を止め、M3の進行方向とは逆に走り出す。

 向かうべき方向からはM4カービンやウィンチェスターM70から放たれた無数の銃弾が飛んでいる。

「歩!」「礼君!」

 亮と梓の叫びを背に2人は敵へと向かって行った。

 勇敢……というべきなのだろうが、その姿は無謀な歩兵と言わざる得なかった。

 

 

 通信を聞いた凛祢とみほが同時にお互いの顔を見る。

「みほ、ウサギさんチームとヤマネコ分隊より救援要請だ!敵は半数以上の戦力でM3を包囲しようとしている!」

「はい、わかりました。ウサギさんチームの元に向かいます!アヒルさんチームも向かってください」

「ウサギさんチームとヤマネコ分隊、どうにかしてポイントF70地点まで辿り着いてくれ。そこを合流地点とする!」

 凛祢とみほが再び指示を出して大洗連合は一斉に動き出す。

 みほもこれは予想外だったのか表情が少し曇りつつあった。

 まさか、サンダース&アルバート連合が半数以上の戦力を森林内に回していたとは……。

 完全に予想外だった。普通、圧倒的な戦力を有しているのなら、その戦力で直接フラッグ車を潰しに来ると思っていたからだ。

 そもそも自分の経験上、その戦術が最も合理的だから。

 しかし、自分と考えることが違った。こうなることは僅かながら予想していたはずだった。

 俺の、俺のミスだ……。

「凛祢、どうする?」

「なんとしてもM3を助け出す!」

 翼の問いに返事をして合流地点を目指す。

 こちらとM3の合流までは10分はかかる。ヤマネコ分隊を誰も戦死させずに合流できる確率はかなり低い。

 凛祢は苦虫を噛み潰したような苦しそうな表情を浮かべる。

 しかし、不意に凛祢の頭に記憶が蘇った。

 過去に予想外のピンチなど何度もあった、それでもなんとかしてきただろう。

 記憶が、そう訴えている気がした。

「……そうだ、まだ間に合う!みほ、急ごう!」

「はい!みなさん、これより対戦車戦闘と対歩兵戦闘が予想されます!各自、臨機応変に対応してください!」

「了解!」

 凛祢の声を聞いて、自信を取り戻したみほは全員に通信を送り戦車を前進させた。

 その後を追うようにヤブイヌ分隊が進軍する。

 そして、アヒルさんチームとオオワシ分隊も同様に合流ポイントを目指して進軍を開始していた。

 

 

 時を同じくして歩は手に持つトンプソン・サブマシンガンを発砲する。

 礼も煙幕手榴弾を2つ投げつける。

 一瞬にして煙幕が立ち込め、シャーマンやアルバート歩兵隊の視界を奪う。

 それによってアルバート歩兵隊の攻撃も止まった。

「煙幕か……無意味なことをするものだ」

「この程度なら問題ない、全速前進だ!」

 煙幕を無視するように前進を続ける。

 そう、シャーマンの乗員やアルバート歩兵隊に迷いなどない。

 ヤマネコ分隊など恐れる敵ではなかったからだ。

「やっぱり、無理だな……対戦車武器のない俺たちじゃ」

「どうする?銃を撃ち続けるか、突撃するか」

「歩兵の一人でも倒したいよな、選択肢は3番撃ち続けて自爆特攻だな」

「了解」

 歩と礼の2人は腰のベルトに取り付けられた2つの手榴弾からピンを抜いた。

 爆発までは数十秒。

 そして、全速力で敵の方へと向かって行く。

 数秒後、煙幕を抜けたジープ2両が現れる。

 同時にアルバート歩兵隊数人と歩、礼が発砲する。

 無数の銃弾が空中ですれ違い、お互いの歩兵を目指して飛んでいく。

 数十発の銃弾はジープ1両の右前輪に命中し、激しい音と共に態勢を崩したジープが地面を滑る。一方、数発の銃弾は歩の上半身を捉える。

 それでも、礼が前進を続ける。

「ぐっ!うぁぁ!飛べー礼!」

 全身に痛みを感じながらも歩が力を振り絞り、腰の手榴弾を投げる。

 答えるように礼は無傷で前進ジープの数メートル前で跳躍した。

 狙うように歩がホルスターから引き抜いたコルトM1851を数発、発砲する。放たれた銃弾は次々に空を滑るが、1発の銃弾が手榴弾に命中し手榴弾が爆発する。

 手榴弾の爆風をバネに礼は、ジープのボンネットになんとか着地した。瞬時に腰の手榴弾の時間が訪れ起爆する。

 轟音と共に、ジープに搭乗していた歩兵5人と地面に倒れる礼、歩から戦死判定のアラームが響いた。

 ジープも無傷とはいかず1両は前輪を失い、1両はエンジン部分が炎上し始めていた。

「「……後は、任せたよ」」

 礼と歩が力なく呟いた。その横をシャーマン3両とジープ1両が前進するため走り抜けていく。

「……無謀な事をしたものだ」

「同感だね、こちらの戦車は一両もやられていないし」

「といっても、ジープを1両失ったのは大きい」

「まあ、相手は乗り物がないし一緒だろ。急いで前輪を交換しろ!」

 前輪を失ったジープに搭乗していた歩兵たちはそんな台詞を吐いて、炎上し始めるジープから取り外したタイヤを交換していく。

 3分。時間を稼いだがその時間はたった3分だけだった。

 一方、爆発音を聞いたウサギさんチームとヤマネコ分隊は一瞬だけ振り返った。

「2人の通信が切れちゃった……」

「そんな……」

 通信手である優季の声に砲手のあゆみが信じられないという様子で声を漏らした。

 そんな一年生チームに追い打ちをかけるように発砲音が響く。続いて砲弾が近くの地面を抉った。

「もう、ついてこないでよ!」

「エッチ!変態!」

「ストーカー!」

 逃走しているM3の車内では悲鳴が上がっていた。

 戦場に立つのは2度目だが恐怖心は完全には消えていない。

 それでも、必死に撤退していく一年生チーム。

「どうすればいいの……この状況じゃ逃げることも」

「しっかりするんだ、梓さん!君たちのことは俺たちヤマネコ分隊が守り抜く、命に変えても!」

「そうだな、亮の言う通りだぜ!」

 不安を抱えていた梓を勇気づけるように亮が言った。

 続くようにアキラや銀も頷いた。

 不意に爆発音が響いたかと思うとM3が通過した後、道を塞ぐように樹木が倒れてきた。

「え?ちょ、なに!?」

「どうなってるんだ!?」

 道を塞がれ急停止したシャーマンの車内ではケイが混乱する。隣を走行していたジープに搭乗するレオンも驚く。

 続くように爆発音が響き、もう一本樹木が倒れ走行中のジープの道を塞いだ。

 状況が理解できていないのはサンダース&アルバート連合だけではない、ウサギさんチームとヤマネコ分隊も驚いていた。

「間に合ったみたいだな。ふーよかったー」

 そんな間の抜けた声がインカムや通信機から響き、ようやくウサギさんチームとヤマネコ分隊は理解した。

 声の主、そしてこの状況を作ってくれたのは同じ分隊の翔だった。

「翔、おせーよ!でもナイスだったぜ!」

「悪い悪い。でも、あれを立案したのは葛城先輩だけどな」

 翔は周りを警戒しながら樹木から降りてM3に合流する。

「葛城先輩が?」

 アキラの問いに翔は簡単に説明する。

 樹木にC-4爆弾などの手動で起爆できる爆弾を仕掛け、敵を待ち伏せして樹木や電信柱等で強襲する戦術であった。

 今回の様な逃走の際にも、少しだが時間稼ぎになる。

「さすが、葛城先輩!そんな戦術を思いつくなんて諸葛孔明かよ!」

「いや、中学歩兵道ではよく使われる戦術らしいよ……」

「あ、そうなの。それでも凄いぜ!」

 翔が苦笑いして言うがアキラは興奮気味にガッツポーズを見せる。

「おい、まだ追いかけられてるん――だっ!」

 今も響き続ける戦車と歩兵たちの発砲音。亮が注意を促そうとすると同時に銃弾が背中に命中する。

 亮は一瞬、何が起きたのか分からなくなったが、すぐに被弾したことに気づく。

 全力疾走していたため、激しく転倒してしまい噎せる。まるで肺の空気をすべて吐き出したような感覚だった。

「亮!」

「……!」

 アキラと銀が急いで駆け寄り、亮の体を起こす。

「亮君、大丈夫!?」

「やっぱり、相手のチーム強いよー」

「みんな弱気にならないで!もう少しで合流ポイントだから」

 弱気になり始めるウサギさんチームを奮い立たせるように梓が指示を出す。

「ゲホ、ゲホ。……悪い」

「馬鹿、悪くねーだろ!」

『仲間なんだから助け合うのは当たり前!』

 アキラや銀の言葉に亮も、すぐに態勢を直して走り出す。

「やはり、狙撃兵の攻撃はキツいな……」

「急げ!何としても先輩方と合流するんだ!」

 亮とアキラは銃を撃ちながらM3の撤退を援護する。

 しかし、敵のシャーマンやアルバート校の歩兵も阻止しようと必死に追いかける。

 

 

 轟音とも呼べる爆発音と森林内での変化を感じる大洗の生徒たち。

 おそらく戦場に立つ全員が森林内で起きた事に少なからず驚きを感じているだろう。

「……これほど早く、アレを使ってしまったのか」

 凛祢だけは理解している。

 翔は自分の教えた戦術を実行した、これほど序盤に。それほどマズイ状況だったのだろう。

 あの戦術は森林という比較的、死角の作りやすい場所において、成功率が跳ね上がる。

 しかし、場所の制限が多く、使えば使うほど敵に読まれて成功率も下がると言う欠点がある。なにより、樹木が戦車の上に倒れても装甲という絶対的な壁には無意味だということだ。砲をへし折ることで走行不能にすることはできるらしいが、期待する方が愚かだ。

 元々、対歩兵用の戦術であるため歩兵には有効である。戦車道と歩兵道が一体となった高校歩兵道において、この戦術を取る学校はかなり少ないと聞く。そんな戦術だからこそ、第一回目の成功率が高い。

 こちらにとって、戦術とは切り札とも呼べる数少ない作戦だ……切れる内に切るが定石だが、切らないことに越したことはない。

 戦術は多ければ多いほどいい、それはいつの時代も変わらない、現在も古来も。

 この試合に置いて、さっきの作戦はもう使えないと考えた方がいいだろう。

 それに状況的に作戦は成功に傾いたと考えていいはずだ。1両も倒せていない以上、戦力的にこちらが二歩も三歩も不利だが。

 一瞬、右に向けた凛祢の視線の先に赤と黄色の浮いている物体が確認できたが、見間違いだと思い気にせず合流地点に足取りを進めた。

 

 

 試合を観戦している聖グロ、聖ブリの生徒たちは少々、驚きの顔を浮かべていた。

「流石、サンダース。数にものを言わせた戦い方をしますね」

「俺は、ああいう戦術は好きじゃないな……やり過ぎだろ」

 オレンジペコとガノスタンがそんな感想を漏らした。

 2人はそう言っているが、戦車1両と歩兵1分隊に対して戦車6両と歩兵6小隊を投入することはルール違反になどならない。

 むしろ、数で圧倒し1つずつ確実に潰していく作戦もまた戦術だからだ。

「こんなジョークをを知ってる?アメリカ大統領が自慢したそうよ。我が国には何でもあるって」

 不意にダージリンが話し出し、オレンジペコやガノスタンの視線がダージリンに向いた。

「そしたら、外国記者が質問したんですって……地獄のホットラインもですか?って」

「……」

 ダージリンは満足気に呟いた後、紅茶に口をつけた。

「なあ、ダージリンって時々変なこと言うけど。意味わかんねーんだけど」

「実を言うと私も分かりません……ケンスロットならわかるんじゃないですか?」

 聞いていたモルドレッドがアグラウェインはケンスロットに質問を投げかける。

「ダージリンのアレは通話料金の話だ。それにしても、木々を倒しての戦術か。大洗は珍しい戦術を使うものだ」

 ケンスロットはそう言って戦場に視線を戻した。

「通話料金とか、ますますわからなくなったぞ」

「アメリカは地獄との通話料金が高い……ってことじゃないですか?」

 頭を抱えるモルドレッドにアグラウェインも苦笑いしながら答える。

 

 

 サンダース&アルバート連合の追撃を受けていたウサギさんチームとヤマネコ分隊は逃走を続けていた。

 次々に放たれる砲弾と銃弾の雨。

「翔!さっきの作戦はもうないのかよ!?」

「無理だ!言っただろう、あれは準備もなしに使えるもんじゃないんだ!」

 アキラの言葉に翔も策は尽きたと答える。

「撃てー!」

「後、数十メートルだ。グレネードを使え!」

 アルバート歩兵隊もM4カービンに取り付けられたM203グレネードランチャーを撃ち放つ。

 一直線に飛んで行く榴弾は吸い込まれる様にM3に接近していく。

「桂里奈さん、回避!」

「駄目、間に合わない!」

 亮と梓の声が響く。

 しかし、耳に響く発砲音と共に飛んできた2発の榴弾は空中で爆発した。

「なに?」

「誰が当てやがった?」

 アルバート歩兵隊も驚きを隠せなかった。

 撃ったのはヤマネコ分隊、銀とアキラの2人だった。

「よし、これで!」

「……」

 だが、放たれた榴弾は3発。残りの1発は逃走中である2人の真後ろに着弾し、爆発する。

 爆発音の後に、アキラと銀から戦死判定のアラームが響いた。

「嘘だろ……」

「あとは、俺たちだけか。それでもやるしかないんだ!」

 2人は再び、トンプソンサブマシンガンを連射してM3の撤退を援護していく。

 

 

 救援に向かうあんこうチームとヤブイヌ分隊は森林内を全速力で走り抜ける。追いついたアヒルさんチームの八九式とオオワシ分隊の歩兵も共に進軍する。

「……!?」

 いつもの様にキューポラから上半身を外に出しているみほが何かに気づいたように左を向いた。

 直後、砲弾がⅣ号と八九式の隣に着弾する。

 更に、いち早く気づいた凛祢も飛んできた狙撃を、体を捻るような動きで回避した。

「交戦準備!」

 凛祢の声が通信機とインカムに響いき、オオワシ分隊も臨戦態勢に入る。

 森林にはアルバート歩兵3小隊にシャーマン2両と……ファイアフライの姿があった。

「なんか一両だけ、やばそうなのがいるぞ」

「ブラッドを含めた対戦車砲兵部隊か。Ⅳ号と八九式を守りつつ、前進!」

 凛祢はできる限りの指示を出して、コンバットナイフとFiveseveNを引き抜き、進軍する。

「北東から6両、南南西から3両……凄い!全10両の戦車の内、9両をこの森に投入ですか!」

「随分、大胆な戦術ですね」

 優花里や華も声を上げた。

「力で敵を踏み潰すって戦術だな」

「38tを置いてきて正解だったな」

 八尋と翼も皮肉を言うように呟く。

「フラッグ車は目視できないぞ、葛城隊長」

「これは敵の主力だろうから。フラッグ車は単独で動いていると考えた方がいいだろう」

 辰巳の報告に凛祢は答えると脳内で状況を整理していく。

「ウサギさんチーム。このまま進むと危険です、停止できますか?」

「無理でーす!」

「ヤマネコ分隊も残り2人で、止まっている暇もありません!」

 みほが通信を送るが瞬時にウサギさんチームの返事が返ってくる。

「ウサギさんチーム6両に集中砲火浴びてるって!」

「分かりました。ウサギさん、アヒルさん。あんこうと、まもなく合流できますので合流したら南東に向かってください!それぞれの歩兵隊の皆さんも続いてください!」

 沙織の報告を聞いたみほが瞬時に指示を出した。

「南東に2小隊回してください」

「了解した!」

 その指示に合わせてシャーマンと随伴歩兵隊の隊列を変えていく。

「あ、居た!せんぱーい!」

「なんとか、合流できた。みんな落ち着いて!」

「よし、合流できた。が、状況はよろしくないか」

 ようやく、合流できたウサギさんチームとヤマネコ分隊を連れて南東に進軍していく。

「翔、爆弾は全部使ったか?」

「いえ、最後の2つが残ってます」

「全部、よこせ!」

 凛祢は翔からリC-4爆弾を受け取る。

 2つを組み合わせて大きめな球体型に整えて、電管を刺し地面に落とした。

 さらにヒートアックスにも電管を刺して2つ地面に落とす。

「全員、戦車の援護しつつ撤退!」

 凛祢の指示と共に大洗歩兵隊も銃を発砲する。

 Ⅳ号の目指す先にシャーマン2両とジープが現れた。

 こちらの逃走先を読んで、回り込んで来たのだろう。

「回り込んできた!」

「どうする?」

「撃っちゃう?」

 目の前の光景を確認した典子や梓が声を上げる。

「その必要はない!」

「このまま全力で進んでください!」

 凛祢とみほは前進するように指示を出した。

 この場にいる大洗の生徒は皆驚きを隠せなかった。

 このまま進めば最悪敵戦車と正面衝突する可能性すらあるからだ。

「マジかよ……」

「ワンオーワンみたく、ギリギリで避ければいいんだよ!」

 弱気な翔とは、対照的に辰巳は走力を上げて行く。

「凛祢、流石に無茶じゃねーか?」

「俺が何の策もなしに突撃するわけないだろ」

「え、それって――」

 八尋の顔を見た後、腰のリモコンを手に取りスイッチを押した。

 瞬時に前方と後方で同時に爆発音が響く。

 後方はさきほど、凛祢が落とした爆弾を起爆させたことでシャーマン1両の履帯を切断することに成功。更にジープを1両横転させ乗員を戦死判定にさせた。他にも爆発に巻き込まれたアルバート歩兵が何人かいた。

 前方でも激しく爆発が起きるが2両のシャーマンは無事だった、ジープは同様に横転させられ、乗員ともろに爆発に巻き込まれたアルバート歩兵隊が戦死判定を受けていた。それぞれから、アラームが響いている。

 やはり個々のC-4爆弾では戦車へのダメージはないか……。

 凛祢はそんなを考えながら突っ込んでいく。

「「すげー……」」

「これが工兵の戦術ってやつか……」

「「このまま前進!」」

 驚く亮や翔、辰巳を背に、みほと凛祢の声を聞いて大洗の戦車と歩兵たちはスピードを上げて撤退していく。

「逃がすな!」

 アルバート歩兵隊の狙撃兵が狙撃銃レミントンM700を構える。

 しかし、草むらから投げ込まれた煙幕手榴弾がサンダースの戦車やアルバート歩兵隊の視界を奪い、追撃を防ぐ。

 草むらから姿を現す塁も後を追うように撤退する。

 前方のシャーマンと大洗の戦車が僅か数㎝の間ですれ違っていく。

「あばよー、アメリカ野郎共!」

「八尋、やめろって」

 八尋と翼が吐き捨てるように言うと、大洗の戦車と歩兵たちは丘を越え、撤退を完了していく。

「逃がしたのか、追うぞ!」

「ブラッド隊長、落ち着いてください!」

「落ち着いていられるか!こっちはもう歩兵を20人以上やられているんだぞ!」

 ブラッドは状況を整理しながらイラ立ちを見せている。なんとか小隊内でなだめようとしているが収まりそうになかった。

「よせ、ブラッド。こんなところで言い合ってもなんの解決にもならない!それよりも隊を再編成し、次の戦術を考えることだ!」

「くっ、なら次はどうするってんだよ?」

「お前も気づいているだろ……大洗は俺たちの歩兵戦力を着実に減らしている。現にシャーマン2両分以上の人員を削られた、だが戦車はどうだ?履帯こそやられたが、1両も撃破されていない」

 落ち着かせるために話に割って入ったレオンの言葉にブラッドは一つの答えにたどり着く。

「まさか、大洗には対戦車用の武装はないってことか?」

「ああ、戦車の砲なら撃破できるだろうが。歩兵には戦車を沈めるだけの力はないと考えていいだろう」

「それなら、話が早い。おまえらさっさと隊を再編成しろ!」

 話を終えたレオンとブラッドはそれぞれ次の作戦準備を進めていく。

 そんな中、レオンは一人状況を確認する。

 最初に見せられた木々を使った戦術、次にさっきの包囲状態を打ち破った地雷戦術。

 いずれも初心者とは思えない手口に、工兵の戦術であることは明白だった。

「レオン、次の戦術はOK?」

「ああ、大丈夫だ。これはまずいかもな……本気で戦わないと」

 ケイの問いに答えたレオンも次の準備に取り掛かる。

 

 

 一方、圧倒的劣勢の状況でも撤退に成功した大洗は30分ほど走行し、停止した。

「あー疲れた。どんだけ走らせるんだよ……」

「でも、なんとかなったな」

 八尋と俊也がそんな事を言うと、歩兵たちは皆息を荒くしながら足を止める。

「決して、いい結果とは言えないが塁のほうも絶妙だった」

「いやー、たまたま敵が罠の真上で停止してくれただけですよー」

 なんとか撤退は成功したが、ヤマネコ分隊は4人の歩兵を失った。状況を見れば、小さい犠牲だったが。大成功だったとは言えない。

「おい、西住と葛城」

「なんですか?」

「どうした?」

 不意に声をかけた俊也に返事をするみほと凛祢。

「さっきはこちらが先に罠を張っていたからよかったが、おかしくなかったか?敵はなんで、俺たちの行く先に陣取っていた?」

「トシ、それは歴戦の勘ってやつだろ?ある程度予測して陣取るくらいするだろ?サバゲ―でもよくやるしな」

「確かに、歴戦の勘と言って片付けることもできる。だが、それにしては随分ピンポイントで陣取っていたものだな」

「……!」

 俊也の言葉にその場にいるあんこうチームとヤブイヌ分隊は言葉が出ない。

「……まあいい、これは俺の思い込みだ――」

「いや、そうでもないかもしれないぞ」

 その声を聞いて視線が凛祢に集まる。

 そして、隣にいた塁が携帯端末を操作し1枚の写真を見せる。

 赤と黄色の気球の様な物体が写っている。

「これって……」

「その前に通信を切れ」

 凛祢が口元に指を当てて指示を出すとあんこうチームとヤブイヌ分隊が通信を切り、再び視線を2人に向ける。

「……これは通信傍受機。塁が単独行動していた時に発見し俺に画像を送ってきた。正直、確証はなかった。だが、俺は塁に連絡をする際に、インカム通信ではなくチャットを使ったんだ」

「それで、僕はチャットで指示された通り、あの場所に罠を仕掛けて身を隠していた。実際、僕の存在は敵に知られていませんでした」

「これだけでは通信傍受されていると考えるには材料が足りなかった。でも、さっきの戦闘と俊也の不信感で確証に変わった。あれは正真正銘通信傍受機だ」

 凛祢は犯人を見つけ出した探偵の様に言い放つ。

「待て待て待て!通信を傍受するなんてルール違反だろ?」

「お前馬鹿か?ルールブックの76ページ、通信関係のことが記載されているが『通信傍受機を打ち上げてはいけない』なんて書いてねーんだよ。違反行為のページにもな」

 納得の行かない八尋に俊也が言い放つ。

「俊也、よく覚えてんな……ページ数まで」

「違反行為ギリギリですけどね」

 俊也の説明に翼や塁も苦笑いを浮かべる。

「酷い!いくらお金があるからって!翼君、撃ち落として!」

「そうだ翼、狙い撃て!」

「いや、でも……」

 怒りの顔を見せる沙織と八尋が翼に指示を出す。が翼は戸惑いを見せる。

「あー、そっちの武部も八尋もやっぱり馬鹿なのか?」

「あ?じゃあ、お前はこんな事を許しておくってのか?」

「違う、葛城はもう答えを決めてるだろ」

 やれやれと俊也は凛祢に視線を向ける。続くように八尋と翼も視線を向けた。

「あれを逆に利用する。作戦はこうだ……」

 凛祢は数分で作戦を説明すると、八尋も納得したように笑みを浮かべた。

 そして、38tとⅢ突のいる地点に向かい合流する。

「へー、敵がそんな事を考えていたとはね」

「通信を傍受するとはいいところに目を付けたな。だが、種が分かればこっちのものだ」

 38tの随伴歩兵である英治と宗司が小さく呟く。

 通信傍受という手品を見破った凛祢たちの説明を聞いて、対策をした大洗連合も次々に動き始める。

「全軍、ポイントR985の道路を南進!ジャンクションまで移動して!敵はジャンクションを北上してくるはずなので、通り過ぎたところを左右から狙います」

 みほの声が通信機、インカムを通して響く。

「了解です!」

「こっちも了解!」

 続くように梓とエルヴィンの声が響く。

 

 

「目標はジャンクション。左右に展開しているわ。囮を北上させて!本体は左右から包囲!」

 大洗の通信を聞いていたサンダース校の生徒、アリサはケイに指示を出す。

「OKOK!でもなんで、そんなことまでわかっちゃうわけ?」

「女の勘です」

「アハハハ!そりゃ頼もしい!」

 アリサの指示は確かに凄い。丸でその場を見ているかのようだったからだ、それでも仲間を信じているからこそ従う。

 情報通り、隊列を変化させる。

「おい、ピアーズ。アリサの指示おかしくないか?」

「俺も思っていました。なんか、敵の配置を把握しすぎているような気がするんですが。おそらく歴戦の勘だと思われます、彼女の指示はさっきも的確でしたから」

「そうか、わかった。なにかあったら教えてくれ」

 レオンも不信感を抱きながらも通信を終えて、進軍する。




今回で、サンダース戦は終わると思っていたのですが、前編後編という形になってしまいました。
アルバート校の三人はバイオのキャラを元になっているんですよね。
レオンといい、ピアーズといい。学校名もウェスカーの名前が元なんですよね
次は六月の十四日くらいに上げれたらいいと思ってます。


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第9話 勝利への賭け

お久しぶりです、UNIMITESです。
今回はサンダース戦の続きです。
頑張り過ぎて、文字数が多いと友人に言われたりもしました。
そこは今後自重していくので。
では本編をどうぞ。


 無線での通信を終えたⅣ号とⅢ突、M3、ヤブイヌ分隊、ワニさん分隊はジャンクション全体を把握できる丘から、サンダース&アルバート連合の動きを確認する。ヤマネコ分隊の歩兵はほぼ0だったため、2人をカニさん分隊に投入することで少しでも38tの随伴歩兵戦力上昇に回した。正直、これが正しいかはわからないが自分にとってこれが一番いいと思った。

「来ました!」

「北に3、東に4、西に2……合計9両、案外素直だな」

 無線通信を終えてから十分後、双眼鏡越しの塁と俊也が敵の姿を確認する。

「すげー、通信傍受の話は半信半疑だったんだけど……」

「確かに。しかし、こうも素直に動いてくれると、信じざる得ないだろ」

 八尋は頷きながらP90の弾倉を交換する。翼もうつ伏せでバリスタのスコープを覗き込む。

「……よし。囲まれた!全車後退!」

 みほの通信に合わせて八九式が後退を始める。八九式は取り付けられたワイヤーによって木々を引っ張りながら走行していく。

 多くの砂埃が巻き上げられる。

 そんな八九式を追うようにシャーマンたちが走力を上げる。

「見つかった、みんなバラバラになって退避。38tはポイントC2482R地点に隠れてください」

 みほの声が大洗の通信機とインカム、そしてアリサの通信機から響く。

「38t……敵のフラッグ車ね。もらった!チャーリー、ロック。ポイントC2482R地点に急行、砲兵部隊も全力でやりなさい!見つけしだい攻撃!」

「はい!」

「了解!」

 アリサの指示を聞いたシャーマン2両と砲兵中心の歩兵16人が指示されたポイントを目指して行く。

 見晴らしのいい地点である目標ポイントに到着したチャーリーたちが照準器を覗き、ゆっくりと砲を回転させていく。

「居ないな……」

 アルバート歩兵隊がそんな声を漏らす。

 茂みに照準器が向いたとき、違和感を感じたロックだったが、その存在に気づき顔を青ざめる。

 茂みからこっちに向けられた砲。それはⅢ突の砲口だった。

「ジーザス!」

「撃てー!」

 ロックの悲鳴とエルヴィンの声を合図にするように、Ⅲ突と38t、M3の砲撃が炸裂する。

 発砲のあと、狙い撃ちされたシャーマンからは走行不能を意味する白旗が上がる。

 続くようにジープの車内に手榴弾が投げ込まれる。

「グレネードだ、全員退避!」

 歩兵隊長の指示に合わせて搭乗していた歩兵たちが全員ジープを放棄して降りる。

 しかし、それを見逃すはずのない大洗歩兵隊、敵に銃を発砲しながらしながら突撃していく。

 敵歩兵の最も近くの茂みに隠れていたワニさん分隊の分隊長アーサーもカリバーンで敵歩兵の背中を斬り裂く、そして英治の長距離狙撃が逃走する敵歩兵の足を打ち抜く。

 逃走していた歩兵たちも応戦するが、この瞬間は大洗のほうが圧倒的に有利だった。

「撤退しろ!撤退ー!」

「おいおい、こんな展開聞いてないぞ!急いで撤退だ」

 予想外の展開だったシャーマン1両と数人の随伴歩兵は急いで撤退していく。

「逃げちゃうよ!」

「撃て撃て!」

「えい!……惜しい!」

 砲弾はシャーマンの数センチ右に落ちて、激しく地面を抉る。

 M3の車内でウサギさんチームがそんな声を出す。

「いいや、ここまでやれば十分だ!行くぞ、葛城、宗司!」

「了解です」

「雄二、先輩の維持の見せどころですよ!」

 茂みから現れた凛祢、宗司、雄二が共にシャーマンの随伴歩兵を目指して追撃する。

 宗司のMP18から放たれた銃弾は退避するアルバート歩兵隊に命中していく。しかし、雄二の放った銃弾は全て外れていた。

「雄二、当たってないんですけど……」

「うるせー!」

「……」

 撤退中の敵歩兵に追いついた凛祢は振り向き、防弾加工外套を目隠しに使うように敵歩兵2人に被せる。

「なに、なんだ?」

「くそ、なんなんだ!?」

「覇王流……」

 小さな呟きと共に左足で敵歩兵1人の足を蹴り上げる。蹴られた敵歩兵は態勢を崩し、その場に倒れる。

「……」

 更に一歩踏み込み、もう1人の歩兵の腹部に右正拳突きの一撃を打ち放つ。

「「うえっ!」」

 2人共うめき声を上げ、それぞれ攻撃を受けた部位を両手で抑える。

 追撃するように凛祢がホルスターから引き抜いたFiveseveNを、宗司がMP18を撃つと敵歩兵2人から戦死判定のアラームが響く。

「よし、このままあんこうチームとヤブイヌ分隊に合流します」

 拾い上げた防弾加工外套を再び羽織ると、早足でⅣ号の元に向かおうとする凛祢。

「待ってください葛城先輩。これ、使えないですか?」

 引き止めに入った亮がそれを指さして問い掛ける。

 目線の先には敵歩兵の搭乗していたジープの姿があった。

 一体なぜ?手榴弾が起爆しなかった?

 弾薬や投擲武器の不良品なんて聞いたことないぞ。

「実は、手榴弾のピンを抜き忘れちゃいまして……」

 翔が頭を掻きながら、申し訳なさそうに謝罪している。

 その言葉を聞いて理解した。

 そんな状態で敵もよく気づかなかったものだ。いや、あの状況だったからこそ気づかなかったのかもしれない。

「……いや、これは使えるかもしれない、結果オーライだ。このジープを使って移動しましょう!」

「わかった!」「了解です!」

 凛祢は携帯端末のチャットを確認した後、敵の手からM4カービンを2丁奪取し次の合流地点を目指す。

「こちら、ロックチーム走行不能!歩兵隊は全滅!」

「ええ!?」

「なに!?」

「ホワーイ!?」

「なにやってんだ!?」

「またかよ!」

 逃げ延びたチャーリーからの報告にサンダース校のアリサ、ナオミ、ケイやアルバート校のピアーズ、ブラッドは騒然となる。

「……敵は初心者集団ではなかったってことか……やるじゃないか」

 レオンもそんな言葉を口にした後、さっきの戦闘を思い出す。

 

 

 聖グロと聖ブリのいる観客席ではガノスタンがガッツポーズを取っていた。

「お、やったじゃねーか。先手を取ったのは大洗か」

「やりましたね」

「ええ」

 オレンジペコとダージリンが紅茶を飲みながら言った。

「ほう、大洗はうまく立ち回ったな」

 ケンスロットも感心しながら試合を観戦していた。 

 

 

 一方、黒森峰のいる場所でもエリカが驚きの表情を浮かべていた。

「大洗が1両撃破……」

「……そうだな」

「残存歩兵戦力を確実に削りつつ、戦車も1両撃破か。へぇ、結構やるじゃん」

「戦場は確実に大洗に味方している。サンダースとアルバートは戦力こそ持っているが爪があまい。それが、命取りになるってことだ」

 続くようにまほと悠希、聖羅が淡々と呟いた。

 

 

 一般観客席でも大洗の活躍に歓声が起きていた。

「へぇ……大洗が先に戦車を倒すなんて凄いわね。それにしても、あの構えにあの技。貴女と同じなのね、英子」

「ええ、そうね。……大丈夫、凛祢ならきっと勝てるはず」

 セレナの質問に答えた英子はそう呟いた。

 凛祢の、最初に放った蹴り技は、『紫電脚(しでんきゃく)』。敵の脚部に向けて、素早く蹴りを放つことで敵の態勢を崩すための技、足払いから派生した覇王流の技だ。命中させやすいが特製制服に及ぼすダメージ判定は少ない。

 次の技は『烈風拳(れっぷうけん)』。全身から練ったエネルギーを拳に乗せて打ち放つ覇王流の一撃。紫電脚よりも特製制服に及ぼすダメージは大きいが、技の出だしが少しだけ遅い。

「これは大洗の勝利の可能性があるんじゃない?」

「まだ、わからないわ。でも、勝つ可能性は出てきたと思う」

「葛城君にも期待しないとね」

「はいはい、そうね……」

 セレナはそう言って不敵に笑みを浮かべると、英子はやれやれと返事をした。

 

 

 そして、Ⅳ号の車内では携帯端末でやり取りをしていた沙織が得意げに笑みを浮かべていた。続くように優花里が喜びの表情を浮かべている。

 沙織の携帯端末の画面には、戦車道受講者や歩兵道受講者のメアドが映し出されている。

「通信じゃなくてメールで連絡してたんだもん!」

「やった、作戦成功です!」

 その時、沙織の携帯端末がチャットの通知を知らせるように鳴った。

「凛祢君たちが、敵歩兵をまた倒したって、それに敵の装甲車を奪ったらしいよ!」

「やるな、流石は経験者……」

「これなら、すぐに合流できますね」

 沙織の報告に、麻子と華が感心したように呟く。

「西住殿、やりましたね!」

「私たちが先に敵を倒せるなんて」

「うん」

 みほも返事をして、次の作戦を考える。

「でも、この大会は敵のフラッグ車を叩いた方が勝ちなんでしょ?」

「うん」

「次はどうする?」

 沙織や麻子がみほからの指示を待つ。

「……次は――」

 みほも少し考えた後に口を開いた。

 

 

 その頃、森林内に停車していたシャーマンの車内ではアリサが傍受した通信を分析していた。

「いい気になるなよ……」

「全車、ポイント128高地に集合してください。ファイヤフライと敵砲兵主力部隊がいる限り、こちらに勝ち目はありません。危険ではありますが128高地に陣取って上から一気に叩きます!」

 アリサは通信機から響いたみほの声を聞いて1人、笑い声を上げた。

 車内にいる砲手や操縦手も少々引き気味にアリサを見る。

「捨て身の作戦に出たわね!でも、丘に上がったらいい的になるだけよ!128高地に向かってください」

 アリサは不敵に笑い、ケイに指示を出す。

「どういうこと?」

「敵の全車両が集まる模様です!」

「ちょっと、アリサ。それ本当?どうしてわかっちゃうわけ?」

「私の情報は確実です」

 ケイが質問を投げ掛けるがアリサが自信ありげに叫ぶ。すると、ケイも笑みを浮かべて指示を出していく。

「さっきは思いっきり外していたのによく言えるな」

「レオン、そう言わないで。アリサもああ言ってるし!……みんな向かうわよ!」

 レオンはさっきの事を思い出して皮肉そうに言うが、隊長であるケイの命令にそれ以上何も言わなかった。

「全車!ゴー、ア、ヘッド!」

「全歩兵部隊、行くぞ!」

 ケイとレオンの指示に、サンダース&アルバート連合の部隊は目標地点に向かった。

 

 

 その頃、38tにⅢ突、M3、凛祢やヤマネコ分隊をを含めたカニさん分隊、ワニさん分隊はⅣ号との合流を終えて次の戦闘に備えて作戦を練っていた。

「おそらくフラッグ車はここかここ。それかこのあたりのはず」

「フラッグ車を見つけない事にはどうしようもないからな……」

 Ⅳ号から上半身を乗り出しているみほとⅣ号に登っていた凛祢は共に地図をみて意見を出し合う。

 作戦会議をしている間に、それぞれ作戦準備に取り掛かる。

「まだ、視認できません!」

 双眼鏡で偵察している優花里が車内に戻り報告する。

「あと1両居れば、囮に出せるんだけど……」

「……フラッグ車のほうはみほたちに任せる。128高地には俺が行く」

「待ってください凛祢さん、いくらなんでも無茶ですよ!」

「確かに、そうかもしれない。でも、敵がこちらの作戦に気づきフラッグ車と合流してしまったら、そこで勝機はなくなるかもしれない。こちらには歩兵の持つ対戦車武装は俺のヒートアックスのみ。1分でも長く敵を足止めするには工兵である俺が行く必要がある」

 凛祢は一度、空を見つめた。

 自分でも、わかっている。無茶だってことぐらい。

 でも、次の作戦は『時間』との勝負だ。たとえ、フラッグ車を見つけることができても敵の本隊が合流してしまったら、こちらの戦力では太刀打ちできない。事実上アウトなんだ。

 そのためにも、合流を1分1秒でも遅らせる必要がある。

「でも……!」

「凛祢殿はみほ殿の傍にいるべきです。凛祢殿は隊長でもあるんですから」

 その声に凛祢とみほが振り返る。

 声の主は塁だった。

「る、塁?お前、何言って――」

「128高地には僕が行きます」

 塁の言葉に凛祢だけでなくみほも驚いた。

「何言ってんだ。時間を稼ぐなら俺が……」

「僕に行かせてください!地形なら調べ尽くしました」

「塁、まず話を……」

「行かせてやれよ凛祢。塁だって何も考えなしに行くって言ってるわけじゃない」

 凛祢の発言を遮るように翼が話に入る。

「……」

 凛祢は塁の顔をもう一度見た。

 塁はこんな事を言う性格じゃない。きっとチームの為に自分にできる事をしようとしているのだろう。

「……わかった」

 凛祢はバックパックを中を確認する。

 ヒートアックスは残り13……。

 バックパックからヒートアックス5つを塁の胸元に押し付ける。

「凛祢殿?これは……」

「足止めにはヒートアックスが必要になるから持っていけ。ただ、これは手榴弾やC-4とは比べ物にならない破壊力を持つ。気を付けて扱ってくれ」

 素直に受け取った塁に凛祢は念を押すように言った。

 そして、数少ない大洗の歩兵部隊を一度再編成する。

 128高地に向かう部隊。塁を含めた、大洗の中でも対人戦闘に優れた突撃兵である八尋、俊也、アーサー、シャーロック、亮。そして、偵察兵のジル、景綱、翔の9人で編成した時間稼ぎの囮小隊。隊長は塁に任せることにした。

 八九式の随伴歩兵部隊、辰巳、漣、淳の3人。

 そして、フラッグ車とⅣ号、Ⅲ突、M3の随伴歩兵部隊、凛祢、翼、英治、宗司、雄二、迅の6人。

 作戦の説明を終え、囮小隊や八九式と別れた。

「葛城、本当によかったのか?」

「塁とみんなを信じます。突破されれば防衛線は俺と生徒会、狙撃兵3人だけですが」

 英治の質問に答えていた凛祢はM4カービンを手に取る。

「最終防衛線が工兵や狙撃兵のみってのも思い切ったな、凛祢」

 翼もそんな事を言ってバリスタの調節を行う。

「半端に戦力を回しても時間は稼げないからな。……俺は、時間稼ぎのため、あいつらに戦死する瞬間まで戦えと言ったも同然だ」

 凛祢は強く拳を握る。

 みんなを危険な戦場に投入し、自分は安全な場所で待つと言うのだから。

「それは違うぞ。お前は勝利のための指示を出した、それは間違いじゃないさ。俺も同じ立場なら同じ指示を出しただろう」

「1人で抱え込み過ぎだ。凛祢は誰よりも多く最前線に立ち、戦っている」

「そうだ。みんなの頑張りを無駄にしないためにも、ここで勝つんだろ葛城隊長」

 英治、翼、迅が凛祢にそう声を掛けた。

「勝つための戦術ならば仕方あるまい。これは我々の最善なのだから」

「そうですね。葛城君、たまには後方に回るのも大事ですよ。君はフラッグ車を守る最終防衛線ですから」

 雄二と宗司も続くように声を掛けた。

「私も……凛祢さんは十分、できる事をやってると思います!」

「……みんな。みほ、ありがとう」

 みほの言葉を聞いて、凛祢は感謝の言葉を述べる。

 そうだ、迷ってなんていられない。作戦準備は十分にした、後は突き進むだけだ。

 

 

 一方、128高地に先回りしていた囮小隊は塁の持つヒートアックスを仕掛け終え、それぞれ身を隠していた。

「……」

 囮小隊の隊長である塁は失敗は許されない作戦と隊長というプレッシャーに言葉がうまく出なかった。

「落ち着け、坂本」

 そんな塁を見ていた俊也は肩を軽く叩く。

「え、はい。分かっては……いるんですが」

「なーに、簡単なことだ。敵が来たら落ち着いて狙えばいい。よく映画でパニックに陥って銃を乱射している奴がいるだろ?あれは麻薬と同じだ。撃っている間だけは恐怖心を忘れられるが、弾切れになれば目が覚める。その時にはもう死んでるだろうがな……」

「ははは……なんだか俊也殿が言うと説得力がありますね」

 少しだけ緊張が解れたのか塁は苦笑いした。

「それどういう意味だ?ま、いいだろ。俺と八尋でできる限り敵を誘い込む」

「了解です」

「俊也、そろそろ行くぞ。敵が迫ってる」

「ああ、今行く」

 俊也と八尋はそう言って少し離れた場所に向かう。

 そして、五分も経たずしてサンダース校のシャーマンやファイアフライ、アルバートの主力歩兵部隊が到着する。

 ケイが双眼鏡で周りを見渡すが大洗の戦車の姿はない。

「何もないよー!」

「おい、アリサ!お前、どういうつもりだ!」

 ケイとレオンがアリサに通信を入れる。

「全軍突撃です!」

「行くぜ!」

「最後まで生き残れよな……」

 塁の指示と八尋、俊也の声が響き、大洗の歩兵が攻撃を開始した。

 通信に答えるアリサも焦りを見せて通信に答える。

「そんなはずありません!……じゃあ、大洗の車両はどこに?」

「……アリサ?お前、まさか!おいアリサ、大洗の通信を……傍受したのか?」

 アリサの表情を確認していたピアーズは問い掛ける。

 今回の試合はアリサの指示が余りにも的確だった。しかし、そのトリックが『通信傍受』だったとしたら?

 それはピアーズにとっても到底許せるものではなかった。ピアーズだけではないケイやレオン、ブラッドが聞けば確実に憤りを感じるだろう。

「えっと……それは」

「答えろ!」

 はっきりしないアリサにピアーズは思わずきつく問いかける。

「申し訳ありません!アリサ隊長は、敵の通信を傍受していました!」

「私たちも気づいていながら黙っていました!」

「ちょっと、あんたたち!何言って!」

 アリサの乗るシャーマンの車内にいた操縦手と砲手が答える。続くようにアリサが焦りを見せる。

「馬鹿野郎!なんでそんなことしたんだ!?」

「だ、だって!」

 怒りを露わにしたピアーズにアリサが恐怖を感じていると、エンジン音と共に森を進んでいた八九式が姿を現した。その車体に掴まる辰巳たちオオワシ分隊。

 お互いに目が合って数秒。その数秒間まるで時が止まったようにも感じた。

「「ふぇ?」」

「「あ……」」

 典子とアリサ、辰巳とピアーズの目が合い、そんな気の抜けた声を漏らす。

 風が草木を揺らした時だった。

 典子と辰巳が八九式のキューポラを軽く叩き叫ぶ。

「右に転換!急げーー!」

「とにかく撃て!」

 指示に反応するように八九式が右に転換していく。

 辰巳、漣、淳も百式軽機関銃を発砲する。

「蹂躙してやりなさい!」

 アリサたちのシャーマンも急いで転換し、八九式の後を追う。

「連絡しますか?」

「必要ないわ!それより撃ちなさい!」

 アリサの指示に合わせてシャーマンの砲が火を噴いた。

「仲間たちの礼だ!受け取れ!」

 続くようにアルバート歩兵隊もM4カービンのグレネードランチャーM203A1を撃ち放つ。

 徹甲弾と榴弾は八九式の左右に落下していく。

「敵フラッグ車、ポイント0765地点で発見しました!」

「でもこちらも、見つかりました!敵歩兵の戦力は情報通り20名、狙撃兵や偵察兵による軽装備な部隊!」

 典子と辰巳が通信を入れる。

「「……」」

 凛祢とみほはお互いに顔を見合わせた。

「0765地点ですね。逃げ回って敵を引き付けてください!」

「狙いの地点は……」

 地図に印をつけていき、作戦実行地点を割り出す。

「「ポイント0615地点!全車両前進!」」

 凛祢とみほが同時に指示を出した。

「武部さん、メールをお願いします!」

「わかった」

 沙織は急いで携帯端末のメールを打ち込み送信する。

 シャーマンから逃走していた八九式はジグザクに走行しなんとか砲撃を避ける。

「こんなところで逃がしてたまるか!」

 ジープに搭乗していたピアーズが対物狙撃銃バレットM82のスコープを覗く。

 そして、数秒後、発砲した。

 銃弾は吸い込まれる様に八九式に向かって行き、漣に命中した。

「ぐおっ!」

 漣はその痛みに耐えきれず、八九式から滑り落ちた。

「いってーよ!マジで!」

 地面に落下した痛みが体中に走る。すぐに、戦死判定のアラームが響いた。

「くそ!ジープの転輪を狙え!」

「分かってますよ!」

 辰巳と淳も揺れる車体の上で射撃を続ける。

「2人とも退いて!」

 典子はそう言って、赤い棒状の物体を手に持つ。

 次の瞬間、それをバレーの如く、サーブする。

 それは空中で誘爆し、煙幕となってシャーマンの視界を奪った。視界を塞がれたシャーマンの砲は八九式の左を掠めた。

「バレー部スゲー!」

「あんなもの、いつの間に用意したんだよ……。それより淳、お前もC-4爆弾を持ってるんだろ?今使え!」

「おっと、そうだった。全部ばら撒きます!」

 淳はそう言って持っていたC-4爆弾を2つずつ球体上に合成し、電管を刺してばら撒いていく。

「何をやっている!敵は八九式だぞ!」

「ですが視界が!」

「いいから、撃て!」

 声に合わせて、シャーマンの砲が火を噴く。

「キャプテン、激しいスパイクの連続です!」

 衝撃を感じて車内にいた砲手のあけびが弱気な声を出した。

「相手のスパイクを絶対受けないで!逆リベロよ!」

「「逆リベロって……意味わかんねーよ」」「あぁ……意味わかりません」

 辰巳と淳、あけびが同じ感想を漏らす。

「今だ!」

 淳の声に合わせてC-4爆弾が爆発するが、随伴歩兵を数人戦死判定にするだけに留まった。。

「くっ!アリサ、ケイとレオン隊長に連絡を!」

「駄目に決まってんでしょ!」

「お前、そんなこと言ってる場合か!」

「うるさい!私の指示に従いなさいよ!」

 アリサとピアーズは意見が食い違いお互いに言い合う。

「機銃で撃ちなさい!撃って撃って撃ちまくるのよ!」

「この、わからずや!」

 ピアーズはアリサに向けて叫ぶ。

 機銃と歩兵たちの銃弾が向かってくるがそのほとんどが命中せずに空を舞う。

 八九式は森林を抜けて、草原に出た。

「狙撃兵はジープから援護を。Ⅳ号と俺が切り込みます!」

「「「了解」」」

 指示を出した凛祢も戦場を駆ける。

「八九式来ます!突撃します!ただし、カメさんはウサギさんとカバさんで守ってください!」

 みほも指示を出して、Ⅳ号が前進する。

 ようやく煙幕が晴れるが、アリサは視界の先の光景に同様を隠せなった。

 視界の先にはⅢ突、M3、38tの姿があったからだ。

「アリサ、停止しろ!」

 ピアーズが叫ぶが間に合わない。

 Ⅳ号の砲がシャーマンに向けて放たれる。が、射線に入る様にジープが現れる。

 徹甲弾はジープに命中した。ジープは3回程、横転し乗員から戦死判定のアラームが響いた。

「フィン、レナード、ゴーズ!くそっ!」

「後退後退!」

 アリサが泣き叫びながら指示を出す。

 が、続くように現れた凛祢が両手のM4カービンの引き金を引き、2人3人と戦死させていく。

 ピアーズの搭乗するジープは無事だったが随伴歩兵は10人。

「大洗連合、残り全車両。こちらに向かってきています!」

 とうとうアリサがケイに通信を送った。

「ちょっとちょっと、話と違うじゃない!なんで?」

「それよりこっちも取り込み中だ!」

 シャーマンの車内で答えるケイ。レオンも大洗の囮小隊と戦闘していた。

「食らえ!」

「「ぐあー!」」

 ブラッドの持つM4カービンのグレネードランチャーから放たれた榴弾が亮や翔を吹っ飛ばした。2人から戦死判定のアラームが響いた。

「おい、レオン。どうなってんだ、こりゃあ」

「ブラッド、急いで人員を集めろ。やばそうだ!」

「「行かせない!」」

 ブラッドにはアーサーが、レオンには塁が挑んでいく。

「ここは陽動か……邪魔だ!」

「しま――いっ!」

 レオンは塁を引き離し、拳銃デザートイーグルを3発撃ち込む。ブラッドもアーサーを引き離し、M4カービンを発砲する。

 塁は痛みに顔を歪ませ、一度倒れる。が、すぐに立ち上がり、ヒートアックスを起爆させる。

 ヒートアックスの爆撃はシャーマン1両を巻き込み走行不能を告げる白旗が上がった。他にもアルバート歩兵隊にも多くの被害が出ていた。

「ヒートアックス……か!」

 レオンは塁の腹を蹴り飛ばし、ジープの元に向かう。

「レオン、時間がねぇ、俺たちだけで行くぞ!」

「レオン急いで!」

「わかってるよ!」

 レオンはケイとブラッドの声を聞いて、ジープに乗り込む。レオンとブラッド、砲兵2人を乗せてジープは前進する。

 すると、2両のジープとシャーマン6両も前進を開始する。

「まだ――うぐ!」

 塁が後を追おうとするが背中を踏みつけられ地面に倒れる。

「もう眠れ」

「凛祢殿、すみません……」

 数十発の発砲音と共に塁から戦死判定のアラームが響いた。他の大洗の歩兵たちも次々に戦死判定を受け、ついに全滅してしまった。

「さぁ、説明してもらおうか……」

「なんでこんなことになってるんだ?」

 レオンとブラッドが通信越しに問い掛ける。

「はい……おそらく、無線傍受を逆手に取られたのかと……」

「バッカモーン!」

「呆れたな……」

「申し訳ありません」

 ケイは思わず叫ぶ、レオンも呆れて言葉が出なかった。

「戦いはフェアプレイで、っていつも言ってるでしょ!」

「おま――」

「ブラッド。今は落ち着け、それよりもフラッグ車の救出だ」

「レオン。流石に俺は、落ち着いてなんていられない!」

 ケイと同様にブラッドも表情は険しかった。ブラッドの憤りは無線傍受をしたことにではない。アリサの指示によって戦死していった者たちが大勢いるからこそ、アリサへの憤りを感じていた。

「んー、無線傍受しといて全車両で行くのもアンフェアよね……」

「こっちも同じ数で行けばいいんじゃないか?」

 レオンがデザートイーグルに予備弾倉を差し込み呟く。

「それね!3両だけ着いてきて、出番よナオミ!」

「ブラッド、ロケランもいけるか?」

「他の奴のも合わせて7発ってとこだな。いつでもいけるぜ」

 ケイの指示にナオミが任せろと言わんばかりに笑みを浮かべる。

 

 

 聖グロと聖ブリの生徒たちのいる場所では相変わらずガノスタンが笑い声を上げていた。

「ははは!こりゃ、まるで鬼ごっこだな!なーケン?」

「こんな鬼ごっこは御免だけどな……」

 ケンスロットも苦笑いした。

「ガノ先輩、笑い過ぎです。でも、こんな展開になるとは……」

「ふふふ」

 オレンジペコの発言にダージリンも思わず笑みを浮かべた。

 

 

「はっはっはっは!新鮮でいいわ!こんな追いかけっこ初めて見たわね、ねぇ敦子!」

「大洗も随分食らいついているな」

「もう、真面目ぶっちゃって!ホントは葛城君のことで頭いっぱいなんでしょ?」

「うるさいぞ!それより試合を見ろ!」

 会場にいた亜美が敦子を茶化すような会話をしながら試合を観戦していた。

 敦子もペットボトルのお茶を一口飲んでもう1度戦場に目を向ける。

 

 

 戦場にはいくつもの発砲音が響き、小鳥たちが木々から飛び発った。

 そんな中、アリサの乗るシャーマンは戦場を全速力で前進していた。

「このタフなシャーマンがやられるわけないわ!何せ5万両も造られた大ベストセラーよ。丈夫で壊れにくいし居住性も高い!おまけに馬鹿でも乗れるくらい操縦も簡単で馬鹿でも扱えるマニュアル付きよ!」

「言ってる場合か!」

「自慢になってねーし!」

「うるさいわよ!」

 アリサは無我夢中で泣き叫ぶ。他の随伴歩兵も思わずツッコみを入れた。

 そんなアリサの乗るシャーマンを大洗連合が追いかける。

「まずいぞ……追いつかれるのも時間の問題だ!右に避けろ!次は左だ!」

 ピアーズの乗る最後のジープもなんとか敵の砲撃を避けて走行していた。

 シャーマンの砲身がゆっくりと後方に向けて回り始める。

「なんで、あんなしょぼくれた戦車に追いまわされるわけ!?そこ、右!私たちの学校は貴方たちとは格が違うのよ!撃て!」

「落ち着けアリサ!」

 シャーマンの砲が火を噴く。が飛んで行く砲弾を大洗の戦車は避けて見せる。

「なによ、その戦車。小さすぎて的にもならないじゃない!当ればいちころなのに!」

「だから、よく狙って撃つんだ!闇雲に弾を撃って当たるわけないだろ!」

「修正3度、装填急いで!まったく、なによ。なんなのあいつ等、力もない癖にこんなとこに出てきて!どうせすぐ廃校になるくせに!さっさと潰れちゃえばいいのよ!」

「あのピアーズ隊長、廃校って……」

「アリサの言葉などどうでもいい!とにかく足止めだ!」

 アリサはヒステリックになったように喚き散らしている。随伴歩兵隊も気になる言葉に反応するがピアーズは無視するように指示する。

「敵の車長が頭だしてなんか言ってるぞ?」

「全然聞こえないんだよな……」

 翼と凛祢が喚いているアリサを見て呟いた。

「ん?おっと!そうも言ってられないみたいだぞ葛城」

 後方にスコープ越しに目を向けた英治が注意を促す。

 ほぼ同時に観客席でも大洗連合の後方に追いついてきてたサンダース&アルバート連合を見てざわめき始める。

「もう来たのか……塁たちは全滅したようだしこんなものか」

「目標との距離詰まってきています!60秒後、攻撃を再開予定。順次発砲を許可します!前方に登坂、迂回しながら目標に接近してください!」

「わかってる」

 みほの指示に麻子が返事をしてギアを入れた。

「柚子、遅れるな!」

「わかってるよ、桃ちゃん!」

「がんばれー」

 38tの車内で緊張感を持つ柚子と桃、杏は相変わらず他人事の様に干し芋を頬張っていた。

「なんでタカシはあの娘が好きなの?どうして私の気持ちに気づかないのー!」

「うるせーから黙ってろ!お前の指示で仲間が何人死んだと思ってんだ!?わかったら、1両でも撃破して見せろ!」

 アリサに向かってピアーズがまたも叫ぶ。

 その時、戦場の空気を揺らす一撃が響いた。

「……来たか」

「今のは……?」

「ファイアフライ。17ポンド砲です!」

 みほの問いに優花里が答える。

 そして、凛祢や英治、みほ、優花里の視線が後方に姿を現すファイアフライに向けられる。

「距離は5000って言ったところだな。でも、4両しかいないぞ。ジープも2両しかいない」

 翼もスコープを覗いて呟く。

 4両だけ?どういうことだ?

「ファイアフライの有効射程は3000メートル。まだ大丈夫です」

 みほは再び前方に目を向ける。

「きたー!よっしゃー!」

「いえーい!」

「レオン隊長……ブラッドたちが来てくれたのか」

「よし。これならいける!」

 シャーマンの車内とジープではガッツポーズを取る生徒たち。

「100倍返しで反撃よ!」

 アリサも再び強気に指示を出す。

 次々に放たれる砲弾の雨。

 大洗の前方、後方。どちらからも放たれていた。

「どうする、みぽりん?」

「ウサギさん、アヒルさんは後方をお願いします!カバさんと我々は引き続きフラッグ車を攻撃します!」

 みほがそう叫ぶと沙織はすぐにメールを打ち込み、部隊が動いていく。

「今度は逃げないから!」

「うん!」

 梓が言うとウサギさんチームのメンバー全員も返事をする。

「この状況はアラスの戦いに似ている!」

「いや、甲州勝沼の戦いだ」

「天王寺の戦いぜよ!」

 エルヴィンに続くようにおりょう、左衛門座が言うと。全員で「それだ!」と叫ぶ。

「ここで負けるわけにはいかんのだ!」

「桃ちゃん……当たってない」

 桃の砲弾はあらぬ方向に飛んで行き、柚子も顔が引きつっている。

「うるさい!」

「壮絶な撃ち合いだね」

 杏も状況を楽しむように言った。

 

 

「大洗、ピンチですね」

「サンドイッチはね、パンより中のキュウリが一番美味しいの。挟まれた方がいい味出すのよ」

 オレンジペコの言葉にダージリンがそんなうんちくを呟いた。

「俺はサンドイッチならハムが一番おいしいと思うぜ」

「俺はレタスがいけると思う」

「あ?卵が最強に決まってんだろ!」

「なんでそんなことで張り合ってるんですか……」

 サンドイッチに反応したケンスロットやガノスタンたちもそんな呟きを漏らした。

 

 

「撃てー!」

「「「アターック!」」」

 典子の指示と同時に八九式が発砲する。がすぐに飛んできた砲弾が命中した。

 エンジン部に命中し、炎上しながらも数メートル走行した後、岩にぶつかり行動不能を告げる白旗が上がる。

「八九式ー!」

「こっちも来てます!」

 時を同じくしてアルバート歩兵隊の砲兵が放ったSMAWロケットランチャーの弾がオオワシ分隊の搭乗していたジープの付近に落ちた。

 爆風でジープは2回横転し、オオワシ分隊からは戦死判定のアラームが響いた。

「アヒルチーム、オオワシ分隊、けが人は?」

 みほはアヒルさんチームとオオワシ分隊の状況確認を行う。

「大丈夫でーす」

「あー、死ぬかと思った。3人共生きてまーす!失格判定取られましたが」

「すみません!こっちも、戦闘不能です!」

 そんな声を聞いてみほは安堵の息を漏らした。

「……」

 ファイアフライの砲手であるナオミは坂を下り、照準器を次の狙いに向ける。

 次の狙いは……M3Leeだった。

 発砲音と共に17ポンド対戦車砲弾が放たれる。

 砲弾はM3のエンジン部を的確に狙撃した。

 M3はそのまま数メートル走行したが、砲撃によって抉れた地面に落ちて行動不能の白旗が上がる。

「すみません!鼻が長いのにやられました!」

 梓がすぐに通信を送る。

「ファイアフライです」

「M3も……」

 優花里の呟きに、みほも俯いてしまう。

「やばいじゃねーか!どうすんだよ!」

「雄二、落ち着いて。葛城君どうするんですか?」

「あっちも切羽詰まっているだろうしな。ロケットランチャーを出されちゃどうしようもない」

「どうする、凛祢。あとは俺たち5人、数の優勢は完全に消えた」

 翼や英治たちも指示を求める。

「……」

 凛祢も周りに目を向けた。

 次々に放たれる砲弾。とうとう、一発の砲弾が38tの右を掠めた。

 

 

「もう時間の問題ですね」

「「「……」」」

 エリカだけがそう呟くが、3人はそのまま黙って見ていた。

 

 

「あーあ。いい感じだったのに……」

「……」

 セレナは結果が見えたのか吐き捨てるように言った。しかし、そんなセレナとは異なる英子は両手を合わせて祈るように試合を見ていた。

 

 

「ここまでか……」

「もう駄目なの?」

 翼や沙織がそんな弱音を漏らした。

 他のメンバーたちも戦意喪失したように下を向き始める。

 考えろ、考えるんだ。勝利への糸口を。

「ほーら見なさい。貴方たちなんて蟻よ、蟻!呆気なくゾウに踏み潰さるね!」

「これは時間の問題だな」

 アリサやピアーズが勝利を確信したように呟いた。

「おい!どうにかしろよ、葛城!」

 凛祢を急かすように雄二が叫ぶ。

 Ⅲ突が動き、38tの盾になる様に後方を走行する。

「弁慶の立ち往生のようだ」

「もはやこれまで。蜂の巣に、されてボコボコ、さようなら」

「辞世の句を詠むな!」

 左衛門座やおりょうの発言にカエサルがツッコミを入れた。

 また、38tの履帯を砲弾が掠めた。

「……駄目だ。もう終わりだ」

「「……」」

 凛祢とみほもただただ静かに俯く。

 また砲弾が放たれ、38tの側面を掠った。

「ひっ!うう」

 車内にいた桃が驚きの表情を見せる。

「あんなに近づいてきた!」

「追いつかれるぞ!」

「駄目だー!やられた!」

 エルヴィンやカエサル、桃の声がインカムから響く。

「なんとかしろよ!」

「こっちだって狙撃を続けてますよ!」

 ジープに搭乗する雄二や翼も言い合う。英治も狙撃を続けている。

「みんな、落ち着いて!落ち着いて攻撃を続けてください!敵も走りながら撃ってきますから!当たる確率は低いです!フラッグ車だけを叩くことに集中してください!今がチャンスなんです!当てさえすれば勝つんです!諦めたら負けなんです!」

 みほの言葉がそれぞれの車内に響く。

「諦めたら」

「負け……」

「いや、もう駄目だよ!柚子ちゃーん!」

「大丈夫、大丈夫だから」

 弱気な桃が叫んでいた。そんな桃の頭を杏が撫でる。

「そうですね。道があるのなら進むしかありませんね」

「だが、どうすんだよ?状況は劣勢だ!」

「西住さんの言う通りだ、俺たちはもう止まれないんだから」

 カニさん分隊のメンバーが呟く。

「……」

 そうは言ったものの状況が劣勢なのは変わらない。

 みほは弱気な表情を見せてしまう。

「みほ、君は間違ってない。自分がそうすべきだと思うのならそれを貫け……先に道が続いているのなら進むんだ」

「凛祢さん……」

 凛祢は短い通信を送り、運転している宗司に指示を出す。

 みほも凛祢の言葉を聞いて、明るい表情を取り戻した。

「華、撃って撃って撃ちまくって!下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるって、恋愛だってそうだもん!」

「いえ、一発でいいはずです。冷泉さん、丘の上へ」

 沙織の言葉を否定するように華が言った。

「上から狙います。それに戦車の砲撃も、狙撃と同じだと翼さんに教わりましたから。一撃で決めます」

「綾線射撃は危険だけど、有利に立てる。賭けてみましょう」

「はい!」

「行くぞ」

 みほと華が作戦を決定し、麻子がⅣ号を加速させる。

 38tとⅢ突はシャーマンの後を追って行く。

 Ⅳ号は別に坂を登り、ジープも後を追う。

「上からくるよ、アリサ!」

「っ!」

「ナオミ頼んだわよ!」

「イエス、マム!」

 ケイの通信に2人が返事をする。

「ピアーズ、あと10分耐えるんだ。10分で戦いは終わる」

「隊長……了解です」

「ブラッド、残弾は3……余裕がないぞ。次で敵のジープを潰すんだ」

「わかってる」

 レオンの指示にピアーズとブラッドがそれぞれの武器を構える。レオン自身も借りた狙撃銃を構える。

 ファイアフライとレオン、ブラッドの搭乗するジープが坂に向かい、他のシャーマン3両は38tを追撃に向かう。

「ファイアフライと砲兵か……」

 凛祢がそう言った時、発砲音が響き、ジープが前輪を破壊されるが走行を続ける。が、次の弾がもう片方の前輪を破壊し、ついに停止した。

「転輪をやられました!」

「くそ!ここまでなのかよ!」

 宗司と雄二が同時に声を上げる。

 後方には狙撃準備をしているのか停止したファイアフライとジープの姿がある。

 ほぼ同時にファイアフライと砲兵のロケットランチャーが放たれる。

「停車!」

 みほがそう叫び、Ⅳ号を停止させた。

 急停止したⅣ号の左数センチに17ポンド対戦車弾が被弾していた。

 Ⅳ号はすぐに方向転換し、前進する。

「……!」

 凛祢は『直感』で振り返る。

 駄目だ、避けられない。命中すれば全滅だ。だが、ここで動いてもみんなが。

「翼、英治会長!?」

「勝てよ……凛祢」

「守り抜けチームを……」

 翼と英治に体を投げ出された凛祢は空を舞う。同時にロケット弾がジープの左側面に命中し、数メートル吹っ飛ばした。

 爆風に揺られ、数回地面を転がった後、頭を上げると目の先には、ひっくり返ったジープの姿。耳には数人分の戦死判定のアラームが響いていた。

「っ!」

 振り返れば、ファイアフライとジープがⅣ号に接近してきている。

「凛祢さん、無事ですか?」

「歩兵は俺以外全滅。みほ、時間がない。あとは、そっちでなんとかしてくれ」

 みほの通信になんとか答える凛祢。全身に痛みが走っている。

 むしろ戦死判定を受けていない方が……そうか、防弾加工外套でギリギリ耐えたのか。今はどっかに飛んで行ったみたいだが。まだ、俺は生きている。

「わかりました。ファイアフライが次の弾を撃ってくるまでが勝負!」

「わかりました」

 みほの指示に華も照準器を覗いている。

 凛祢が右に目を向けると英治の狙撃銃Kar98kが転がっていた。

「届け、届け……!」

 必死に手を伸ばすが届かない。匍匐前進で近づきなんとか銃を掴み取る。

「一発でいい……砲兵の射程をずらすだけでいいんだ」

「撃て!ブラッド!」

「これがラストアタック……!翼ほどではないが、当ってくれ!」

 凛祢がスコープを覗き、ブラッドの姿を捉える。瞬時にKar98kの引き金を引いた。

 銃弾はブラッドの肩に命中。その瞬間に引き金を引いたことでブラッドの放ったロケット弾はⅣ号とは別方向に飛んで行く。

 その先は……凛祢のいる方向だった。

「みほ、一瞬は稼いだぞ……」

 爆発音と共に凛祢から、戦死判定のアラームが響く。

「「くそ!」」

 レオンとブラッドが同時に顔を歪ませる。

 射撃地点に到着し、Ⅳ号停止した。ゆっくりと履帯を動かし狙いを定めると優花里が砲弾を装填する

「花を活けるようにように集中して」

「装填完了!」

 照準器を覗く華の頭に翼の言葉が蘇る。『撃つべき時は、呼吸を止め、余計な雑念を捨てる。己を一発の銃弾と考え、引き金に指を掛ける。狙いを定めたら、後は引くだけだ』

「華さん、お願い」

「……発射!」

 華とナオミが同時に引き金を引き、それぞれの砲が火を噴く。

 発砲と同時に車内に空薬莢が排出される。

 Ⅳ号から放たれた徹甲弾は空を進み、シャーマンの後方エンジン部分に命中した。1秒も満たない間にファイアフライの17ポンド対戦車弾がⅣ号の後方エンジン部分に命中、お互いに爆発音と共に黒煙を上げる。

 数秒間の沈黙が戦場に走る。するとシャーマンから行動不能の白旗が上がった。Ⅳ号からも白旗が上がる。

 Ⅳ号のキューポラからみほが顔を出す。

「大洗連合の……勝利!」

 アナウンスが響き、観客席では歓声が上がった。

「ちっ!……はぁ」

 ナオミはやり切ったと言わんばかりに体を後ろに倒した。

「勝ったよ、みぽりん!」

「西住殿!」

「みほさんやりました!」

 Ⅳ号から降りた、沙織がみほに抱き着く。

「うん、ありがとう華さん」

「みほさんが励ましてくれたおかげです!」

「そんな私は……」

「いいや、よくやったよ……」

「お前もな、葛城。ナイスな狙撃だったぞ」

 華だけでなく凛祢もそう言ってみほたちに合流する。英治も凛祢に言った。

 5人共ボロボロで、翼は凛祢に肩を貸していた。

「おーい!」

「西住隊長!葛城隊長!」

「勝ったー!」

 行動不能にされた戦車のメンバーが、戦車と共に運ばれてくる。

「おーい!」

「ふー、ブイ!」

 エルヴィンたちカバさんチームと、杏たちカメさんチームもこちらに向かってくる。

「凛祢ー!」

「凛祢殿ー!」

「流石、葛城先輩!」

 続くように戦死判定を受けていた大洗の歩兵たちも走って来る。

 大洗の生徒たちも喜びの声を上げる。

「一同、礼!」

「「ありがとうございました!」」

 最初の地点に戻り、お互いに挨拶をする。

「勝ったー!」

「うっしゃー!」

「シャーマン相手に勝てるなんて」

「本当ですよね。正直もう駄目かと思いました」

 沙織に続くように、八尋と俊也が掌をぶつけ合う。優花里や塁も呟く。

 そう、この日大洗は初めて勝利した。

「あなたたちがキャプテン?」

「あ、はい」

「……そうですけど」

 ケイの問いに凛祢とみほが答える。すると、ケイは笑みを浮かべ2人に抱き着く。

「エキサイティング!こんな試合ができるなんて思わなかったわ!」

「いっ!」

「へっ!?」

「おい、凛祢。そこ代われ!」

 八尋が後ろで叫ぶ。

「あの、今体痛いんで離れてください……」

「あ、ソーリー」

 ケイはそう言って離れる。

「あの、4両しか来なかったのは?」

「君たちと同じ数だけ使ったのさ。だって、これは戦争じゃなくて戦車道と歩兵道なんだから」

 レオンが答える。

「そう、道を外れたら戦車が泣くでしょ」

「ウチの馬鹿がつまらないことして悪かったな」

「いいや、全車両で来たら確実に終わってた」

 レオンの言葉に凛祢も呟いた。

「でも、勝ったのは貴方たち」「勝ったのは君たちだ」

 ケイとレオンは手を差し出す。

「ありがとうございます!」

「ありがとう、ございました」

 みほと凛祢も手を出し、握手を交わす。

 

 

「はぁぁ……」

「これで、再戦に一歩近づいたな」

「そうだな」

 オレンジペコとガノスタン、ケンスロットが短く呟く。

 ダージリンも、紅茶を飲んだ。その顔は笑みを浮かべていた。

 

 

 黒森峰も観戦を終えて、帰還準備をしていた。

「ふん。余っちょろいこと言って」

「エリカの予想は外れたじゃん。大洗が勝ったんだし」

「うるさいわね」

 エリカの後を歩く悠希は呟いた。悠希の言葉にエリカが少々ムキになる。

「「……」」

 まほと聖羅はまだ戦場に目を向けていた。

 

 

「あらあら、大洗が本当に勝ったわね」

「当然よ……」

「さっきまで、深刻な顔してた癖に。手まで合わせて」

「ふん!もう、帰るわよ!」

「待ちなさいよ、私も行くから」

 英子が立ち上がり、外に向かうとセレナが後を追う。その英子の顔はどこか嬉しそうな表情をしていた。

 

 

 一方、ケイとレオンは大洗と別れ、アリサやピアーズの元に向かう。

「すみません、レオン隊長。俺は……」

「お前は最後までよくやった、ブラッドもな。次は勝てるさ」

 レオンはピアーズとブラッドに声を掛けた後、そのまま歩みを進める。

 そして、ケイもアリサの肩に手を乗せた。

「反省会するから……」

「はっ!うう」

 アリサはケイの低い声に恐怖を感じた。

「行くよ、ブラッド」

「ああ、わかってる」

 ナオミに呼ばれたブラッドは振り返り、帰還準備をしていく。

 夕焼け空を背に、引き上げていくサンダースとアルバート連合の姿を凛祢たち見送っていた。

「さー、こっちも引き上げるよ。お祝いに特大パフェでも食べに行く?」

「行く」

「いいですね」

 沙織の提案に麻子と華が嬉しそうな顔をした。

「僕たちはどうします?」

「サウナに行きたい」

「「「風呂に入りたい」」」

 塁が問い掛けると凛祢や八尋たちも答えた。

「じゃあ、お風呂入ったら、みんなでパフェ食べに行こっか?」

「いいんじゃね?行こうぜ!」

 沙織と八尋が提案し、みんな賛成していく。

 すると、猫の鳴き声のような音が響いた。

「あ、麻子。鳴ってるよ、携帯」

 沙織が言うと麻子は鞄から携帯端末を取り出す。

 ずいぶん珍しい着信音を使っているものだ。

「誰?」

「知らない番号だ」

 麻子はボタンを押して耳に当てる。

「はい……え?はい」

 麻子は動揺の表情を浮かべた。

「どうしたの?」

「いや、なんでもない」

 麻子は携帯端末を落とし、表情が固まる。

「おいおい、そんな顔してなんでもないはないはずないだろ」

「そうだぜ、麻子さん。話してくれ」

 俊也や八尋が問い掛ける。

「……おばぁが倒れて、病院に……」

「なに!?」

 麻子が何とか声を絞り出すと凛祢や他のみんなが驚愕の表情を浮かべる。

「すぐ病院へ!」

「無理だ、撤収までには時間がかかる!」

「じゃあ、どうするってんだ!」

「どうしようもないだろう」

「何とかしてやろうとか思わねーのかよ!お前ら!」

「無理なものは無理だ」

 無茶を言う八尋と無理と分かっている翼や俊也が言い合う。

 すると、麻子が靴を脱ぎ始める。

「麻子さん!?」

「なにやってるんですか?」

「泳いでいく!」

 みほと塁が言うと、麻子は靴下も脱ぎ始める。

 完全に暴走していた。

「冷静になれ。冷泉らしくもない」

「ダジャレを言ってる場合か、トシ!」

「ちげぇよ、馬鹿が!」

 俊也の言葉に八尋が叫ぶ。俊也もそんなつもりないと弁解する。

「待ってください、冷泉さん!」

 落ち着かせようと必死に止める。

「私たちが乗ってきたヘリを使って」

「「っ!」」

 突然の声に凛祢やみほが振り返る。

 その先には黒森峰の制服に身を包むまほとエリカ、聖羅と悠希の姿があった。

「お姉ちゃん」

「聖羅?」

 凛祢と聖羅の目が合う。

「まあ、まほが言うんだ。これくらいはいいだろ」

 聖羅も同意見のように呟く。

「隊長!黒咲隊長まで!こんな子たちにヘリを貸すなんて!悠希もなんとか言ってよ!」

「俺は聖羅に従うまでだよ」

「これも戦車道よ」

「ですが!」

「うるさいな、エリカは。西住が貸すって言ってんだからそれでいいじゃん」

 いつまでも渋っているエリカとは対極に3人はヘリを貸すつもりだった。

 悠希はポケットから取り出したドライフルーツを一つ、口に入れる。

「お姉ちゃん、黒咲さん……」

 みほは感謝しながら呟いた。

 

 

 数分後、試合会場のヘリポートには黒森峰の所有しているヘリ『フォッケ・アハゲリスFa223』が離陸準備に入っていた。

「操縦頼んだぞ悠希、エリカ」

「ああ、わかってる。行くよ、エリカ」

「う、うん」

 操縦席についていた悠希とエリカはお互いに顔を見合わせた後に機器を操作する。

「早く乗って!」

「……」

「あ、私も行く!」

 まほの声に麻子が乗り込もうとすると、沙織が後を追うように乗り込む。

「……ありがとう」

「……」

 みほが呟くがまほは返事をすることなくFa233から離れていく。

「聖羅、少し変わったんだな」

「そんな事はねぇよ、これは高い貸しだからよ」

「そうか、それでも……感謝してるよ」

 凛祢と聖羅は短い会話を交わすと、そのまま別れる。

 

 

 それから3日後、1回戦第7試合。

 黒森峰連合と知波単&重桜(じゅうおう)連合の試合が行われた。黒森峰はティーガーやパンターなどのドイツ戦車で知波単学園を圧倒した。歩兵もH&kシリーズ(ヘックラー&コッホ社と呼ばれるドイツ南部の銃器メーカー)の銃火器を中心に、その戦術で重桜高校の歩兵を圧倒していった。

 砲兵である聖羅は対戦車ロケット擲弾発射器『パンツァーシュレック』でフラッグ車の随伴歩兵を全滅させ、まほの乗るティーガーⅠも、その砲撃でフラッグ車である九七式中戦車を撃破していた。

 他にも、たった1人で重桜の歩兵部隊を5つも壊滅させた悠希の存在も観客からは驚かれていた。




今回も読んでいただきありがとうございます。
一回戦サンダース戦はこれにて完結しました。
凛祢とレオンの戦闘描写を書きたかったんですが、今回の形に収まってしまいました。
原作のサンダース戦の中で、廃校のフラグがあったのは最近見返して気づいたりもしました。
覇王流の技も烈風拳と紫電脚が出てきましたが他にも技を5つほど考えてます。全部出せたらいいのですが……。
では今回はこの辺で、次回も読んでいただけたら嬉しいです。


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第10話 過去からの記憶

どうも、UNIMITESです。
読んでいただきありがとうございます
今回はあまり話の進まない日常回です。
それでは本編をどうぞ。


 第63回戦車道&歩兵道全国高校生大会の第1回戦、大洗連合VSサンダース&アルバート連合との試合から4日の時が過ぎた。

 試合結果は自分たち大洗連合が勝利した。次の2回戦までは少しだけ猶予があり、凛祢や大洗歩兵部隊も普通の学園生活を送っていた。

 窓の外に目を向けると相変わらずの青空が広がっている。まだ信じられないと言うものだ、あれだけの戦力差がありながら勝利したなんて。

 全ての第1回戦が終わり、次の対戦校も決まっている。次の対戦校はアンツィオ高校とアルディーニ学園。

 どんな学校なのか知らないが、1回戦であれだけの軌跡を見せたみほならきっと勝利に導いてくれるだろう。

 その時、授業終了のチャイムが響いた。

「凛祢、翼、学食行くぞー!」

「お前は相変わらず元気だな……」

「八尋らしいじゃないか」

 いつもと変わらない様子の八尋が机の傍にやって来る。

 そんな八尋を見て、凛祢と翼も共に学食に向かう。

 学食もまた多くの生徒たちで賑わっていた。

 いつものように食券を日替わり定食に交換し、席に着く。同時に塁と俊也も合流するように席に着いた。

 5人はいつものように食事を始める。

「もうこれが当たり前になってるけど、俺たちって、ちょっと前まで塁や俊也とは知り合いでもなんでもなかったんだよな」

 翼がそんな呟きを漏らした。

「そう言えばそうですね。僕なんて、いつも1人でお弁当食べてましたから……」

「俺だって1人で食ってたしな」

 お弁当を食べている塁やきつねうどんをすする俊也もそんな言葉を返す。

「お前ら、そんな悲しいこと言うなよ……」

「俺も八尋と翼が居なければ1人だったけどな」

 八尋が言うが凛祢も学園に入学したての頃を思い出して呟いた。

 確かに翼の言う通り、塁や俊也は二か月ほど前に、歩兵道という共通の選択科目があったからこそ出会うことができた。

 そして、自分たちは一度だが同じ思いを持って、同じ戦場を駆けた。これが「戦場が紡ぐ絆」なのかもしれないな。

 凛祢は心の中でそう思った。

「そういえば午後は歩兵道の授業だけど、どうすんだ?みほさんたちは夕方までいねーけど」

「目を覚まして3日も経つから大丈夫だろう。心配し過ぎだ……」

「お前、そういうこと言うなよ、俊也」

 八尋の問いに答えた俊也に翼が言った。

 サンダース&アルバート連合との試合の後、麻子と沙織は黒森峰のヘリを借りて倒れた麻子の祖母の元に向かった。

 現在、みほや沙織、華、優花里は、お見舞いに行くため本土に上陸している。

「まあ、今日の事は行けばわかるだろ」

 凛祢もそう言って食事を続けた。

 

 

 食事を終え、特製制服に身を包んだ凛祢たち歩兵部隊は大洗女子学園の校庭に建っているガレージ内に集まっていた。

「おいおい、これはすげぇな」

「こんなもの、いつの間に……」

「これ、どうしたんですか?」

「「……」」

 凛祢や八尋たちだけではなく、他の生徒たちも驚いていた。

 ガレージ内には5両の戦車以外に小型四輪駆動車ジープ、キューベルワーゲン、九五式小型車の姿があったのだ。

「サンダースとアルバート連合に勝利したことで大洗に援助金が入ってな」

「すみません、雄二が購入の手続きを進めてしまいまして……」

「いいだろうが!我々は前回の試合で軍用車両の重要性を思い知った。だからこそ俺は!」

「確かに俺たちの足では限界がある。どっちにしてもこれは必要なものだったかもしれませんが、相談くらいはしてほしかったです」

 生徒会の3人の言葉に凛祢は本音を呟いた。

「本当にすみません」

 宗司が再び頭を下げて謝罪した。

「やー、男子諸君!早いねー……って、思い切った買い物したねー英治会長」

「これ、高かったんじゃないですか?」

 遅れてガレージにやってきた大洗女子学園の生徒会会長、杏と副会長の柚子が小型四輪駆動車を指さして言った。

 他にも一年生の梓たちや歴史女子のエルヴィンたちも興奮気味に見ていた。

「大洗に送られた援助金の8割をつぎ込んだようです」

 書類に目を通していた広報の桃が報告する。

「まあ、いいんじゃない?元々、予想外の収入だったわけだし」

「そうでは、あるんだけどな……」

 いつもと変わらない杏に英治が呟く。

「ただ、1ついいですか……?」

「「ん?」」

 凛祢が言うと英治と杏が振り返る。

「俺たちの中に満足に操縦できる人……いるんですか?」

「「え?」」

 生徒会の6人はキョトンとした顔を見せた。

「いや、だから。車なんですから操縦手は必要ですよ?サンダースとアルバート戦の時は宗司先輩や淳、ジルに即興で操縦してもらいましたけど……」

 凛祢の言葉に、八尋や翼も納得したように頷いた。

「確かに、操縦って結構難しいんですよね」

「いやー、あの時は大変だった。操作方法分からないからひたすらアクセル踏んで、適当にハンドル操作してたし」

「本当に難しかった……あれって無免許運転だったんじゃないかな?」

 宗司、淳、ジルも思い出しながら呟いた。

「いや、それは、その……」

「考えてなかったんですね……」

 雄二の様子に凛祢はため息をついた。

「会長、そろそろ教官が」

「そうか。みんなこれから照月教官がお見えになるからな」

 宗司の報告を聞いた英治がみんなに向けて言った。

「まじかよ…」

「あの人、嫌いなんだよな……」

 嫌そうな表情を浮かべた八尋と俊也が小声で呟いた。

 

 

 校庭に整列して数分後、いつものスーツ姿で照月敦子が現れた。

「久しぶりだな、大洗男子の生徒の諸君。こうして顔を合わせるのは一か月ぶりくらいになるな」

「はい!お久しぶりです、照月教官!」

 敦子の挨拶に歩兵部隊は大声で返事をする。

「大洗女子の生徒も……って、西住たちはどうした?」

「現在は用事で、本土の方に行っています!夕方には戻ると」

 敦子の質問に凛祢が答える。

「そうか、まあいい。それほど重要な話があるわけでもないしな」

 敦子は全員の顔を確認した後に、生徒たちの前に立った。

「まずは、1回戦突破おめでとう。優勝候補の1つであるサンダース&アルバート連合を破ったのは正直、驚いた。だが、お前たちはこれからもっと厳しい戦いを強いられる」

「……」

 歩兵部隊だけでなく、戦車部隊員たちも真剣な表情で敦子の顔を見つめる。

「次も勝つ気はあるか!?」

「はい!」

「優勝を目指す気があるか!?」

「はい!!」

 敦子の声に歩兵部隊だけでなく戦車部隊員たちも返事をした。

「よし、わかった。お前たちの為に私も全力で訓練に付き合ってやる、気合を入れて行けよ!」

「はい!!」

 敦子と大洗連合の生徒たちの声が校庭に響いた。

「優勝か……」

「俺たちはバスケでも逆境を越えてきただろ!」

「ふん、漣に同感だ」

「頑張っていきましょう!」

 気合十分であるバスケ部チームのオオワシ分隊。

「優勝したらバレー部復活だ!」

「「「おー!」」」

 隣にいたバレー部のアヒルさんチームも空に向けて拳を上げた。

「我々の栄光は戦いの先にある!」

「僕たちの快進撃は始まったばかりだ!」

 歴史好きで固まったカバさんチームのエルヴィンとワニさん分隊のアーサーが言った。

 一年生チームのウサギさんチームとヤマネコ分隊も盛り上がっている。

「みんな、やる気だな」

「勢いがあるのはいいことですよ」

「勢いで何とかなるほど甘くねーだろ」

「俊也、お前はまたそんなことを……」

「……」

 ヤブイヌ分隊のメンバーも思わず呟く。

 初の公式戦で大洗は素人とは思えない戦いを見せた。

 元々、素質のあった英治や俊也だけではない。サバイバルゲームという戦場の経験を生かした八尋と翼、剣道や格闘術で実戦に向いていたアーサーやシャーロック。その他にも塁や淳、翔の様にC-4爆弾の使用に慣れてきた者たち、更にヤマネコ分隊にも大きな成長が見られた。

 チームとして成長しつつある大洗連合を見て凛祢はそう思っていた。

 その後、教官直々に考えた訓練によって凛祢たち大洗連合は授業終了時間までしごかれ続けた。

 

 

 訓練後、学園近くの銭湯で汗を流した凛祢は八尋たちと別れ、1人帰路を歩いていた。

 久しぶりに……2年ぶりに公式戦に参加した。

 巻き起こる爆風に、耳を刺す甲高い銃声。硝煙の香りと体中を巡る痛み。

 その全て今でも鮮明に覚えている。

「凛祢!今帰り?」

 不意に呼ばれ振り返る。そこには照月英子の姿があった。

 制服姿で鞄を持っているということは彼女も今帰りなのだろう。

「ああ、そうだけど。英子もか?」

「うん、今日は歩兵道の授業があったんでしょ。修行はどうするの?」

「やるよ、俺はまだまだだ。もっと強くならないと」

 凛祢は夕暮れ空を見上げる。

 聖グロ&聖ブリ戦の時もアルバート戦の時も自分は満足に戦えていない。

「本当に、頑張るわね。ま、付き合ってあげるけど……」

「悪いな、俺のわがままに付き合わせて」

「お姉ちゃんと約束したしね。サンダースとアルバートに勝ったんだから、次も勝ちなさいよ」

「ああ、勝つよ。俺にもケンスロットたちとの約束もあるしな……」

 凛祢と英子は言葉を交わして帰路を歩いていった。

 

 

 翌日、午前の授業からの戦車道と歩兵道の授業を終え、凛祢たちは昼休みを迎えていた。

 鞄から、あらかじめコンビニで購入しておいた昼食を取り出し、ガレージ内のⅣ号や銃火器に目を向ける。

「やっぱり……キツイよな」

 凛祢はガレージ内で1人でカロリーメイトを齧っていた。

 武器が貧弱なら知恵を絞ることで歩兵道ではいくらでも勝利の糸口があった。人間相手なら同じ人間で対抗することはできたからだ。

 だが、これは戦車道と歩兵道が合わさったもの。

 人間では戦車どころか、自動車にも勝てない。そんなこと考えなくても分かること。

 武器だけでなく戦車の能力すらも下なら、どうすればいい。

 せめて、もう少し……戦車の数と歩兵の装備を増やせればいいんだが。ヒートアックスを扱えるのも工兵である自分のみ、どうすれば……。

「お、やっぱここじゃん」

「凛祢さん!」

 声の方向にはみほや八尋がおり、こちらに目を向けていた。

「……どうした?」

 凛祢は銜えていたカロリーメイトを口から離して問う。

「どうした、じゃねーだろ」

「みほさんたちと、いっしょに昼食を食うって言っただろ?」

「あれ、そうだっけ?」

 八尋や翼に言われて、記憶を探る。

 そんな話もあったような、なかったような……。

「あの、凛祢さん。お昼、それだけですか?」

「ん?ああ、そうだけど……」

「えぇ、嘘!?それだけじゃお腹空いちゃうじゃん!」

「凄いですね、凛祢さん」

 みほの問いに答えると沙織と華が驚いた顔を見せた

「そうでもないぞ。カロリーメイトは栄養分も十分だし、ダイエットにも使えるらしいって聞いたことがある」

「え?それ本当!?」

 凛祢の言葉に沙織が目を輝かせている。

 カロリーメイトは「総合栄養食」であり、ブロックタイプなんかは特にカロリー計算しやすいとか昔聞いたんだよな。鞠菜に。

 その鞠菜自身も多忙な人間だったため、よく食べて出かける姿を見たことがある。

「ダイエットって……」

「……沙織殿、体重が気になっているんですか?」

 塁と優花里が沙織を見て言った。

「流石に、1日歩兵道の授業だってのにカロリーメイト2本じゃ空腹にもなんだろ?これくらい食っとけ」

「……悪いな、東藤」

 俊也はコンビニの袋から梅干し入りのおにぎりを1つ投げ渡す。凛祢もそれを素直に受け取る。

 自動車部と整備部の使っている休憩用のブルーシートを敷いて、凛祢たちは買ってきたコンビニ商品とお弁当などを広げる。

「凛祢、俺の買ってきた串カツも1本やるよ」

「ああ、そうか。サンキュ」

 八尋も袋から取り出した串カツを手渡す。

 凛祢も感謝の一言を述べた後、串カツを口に運ぶ。

 翼はコンビニ弁当を3つも手元に置いている。その隣にいる華の手元にも大量のサンドイッチがあった。

 翼もよく食べる奴ではあるが、華も相当なものだな。

 塩分とか色々大丈夫か?という言葉が出そうになるが、口にはしなかった。

「やっぱ、この串カツうめーな」

「確かに……何本でもいけるよな」

 八尋が串カツの美味しさに浸っていると俊也が横から手を伸ばし串カツを1本食べる。

「あ、トシ!テメー勝手に!」

「いいだろ、別に。俺のからあげくんも1個やるから」

「お、サンキュー。唐揚げもうめー」

 八尋は食べ終えた串カツの串を鶏のパッケージの箱の唐揚げに刺して口に放り込んだ。

「そういえば新聞部の出してた新聞読みました?」

「新聞?あー学園のどうでもいいこと書いてるやつな」

「俺なんて読んだことすらねーよ」

 塁の質問に八尋と俊也は興味がないように返して食事を続ける。

「なんか書いてたのか、塁?」

「はい、僕たちやみほ殿たちのことが大きく記載されていたので……」

 翼が言うと、塁は少し鞄を探った後、新聞を取り出した。

「私たちのこと、ですか?」

「なになに?私たち新聞に載るくらい有名人!?」

「沙織さん、落ち着いて」

「沙織、うるさい」

 みほや沙織もどうしてと言わんばかりに問い掛ける。その隣でパンを口に運ぶ麻子が文句を言った。

「どれどれ……」

 凛祢が受け取った新聞に目を通す。

 隣にいたみほも覗くように体を寄せてくる。

 女子特有の香りと言うか、シャンプー?の香りを感じた。

 新聞には、確かに凛祢やみほたちの事が載っていた。

「「……」」

 凛祢もみほも無言で記事を読む。

「おい、凛祢。俺たちにも見せろ」

「あ、悪い……」

 八尋に言われ、凛祢は新聞が全員に見えるよう中心に広げる。

「『大洗、1回戦勝利!快進撃の始まりか!?』って、戦車道と歩兵道の事じゃねーか」

「随分、調べられてますね」

「ウチの新聞部……調べるの早いな」

 新聞に目を通した八尋や翼、優花里が呟く。

「新聞はいいんだけどさ。本当に勝ったんだな、俺たち」

「本当にギリギリだったけどな」

 八尋が確認するように言うと俊也が言葉を返した。

 確かに、俊也の言う通りだ。結果的には勝ったが、本当に危険な橋渡りだった。

「凄かったね」

「ああ……俺は、俺たちは戻ってきた。戦場に」

 みほの声に答えるように凛祢は小さく呟いた。

「勝たなきゃ、意味ないんだよね」

「そうですか?」

「え?」

 下向いて絞り出したみほの言葉を優花里が否定した。

「楽しかったじゃないですか」

「うん」

「確かに。サバイバルゲームよりも遥かに緊張感があって、被弾の痛みも段違いだった」

「実弾ですからねー。でも、すっごく楽しかったです!」

 優花里の言葉に沙織と八尋、塁が同意するように言った。

「お前ら……」

「サンダース&アルバート連合との戦いもグロリア―ナ&ブリタニア連合との戦いも、それから訓練も、戦車の整備も、訓練帰りの寄り道もみんな楽しかったです!」

 優花里は今までの事を思い出しながらみほと凛祢に向かって言った。

「別に寄り道はたのしくなか――もごっ」

「今いいところだから。お前は黙ってろ」

 俊也の発言を遮る様に翼が串カツを俊也の口に押し込む。

「最初は狭くてお尻痛くて大変だったけど、なんか戦車に乗るの楽しくなった」

「俺も歩兵道が楽しいと思えた。仲間との連携や強敵との戦いも全部含めてな」

 沙織と翼も同意見であった。

「……」

「そういえば、私も楽しいって思った。前はずっと『勝たなきゃ』って思ってばかりだったのに……だから負けた時、戦車から逃げたくなって……」

 みほは去年の第62回戦車道&歩兵道全国高校生大会、決勝戦のことを思い出す。

「私、あの試合見てました!」

 優花里は身を乗り出して言った。

 知っているのは優花里だけではない、塁や凛祢も知っている。その戦いを中継で見ていたからだ。

「あれは凄かったですよね。凛祢殿は去年の試合は知ってるんですか?」

「知ってるよ、中継で見てたからな」

 塁の質問に答えて凛祢は缶コーヒーを飲んだ。

「あれは激戦だったと思う。あんなことがなければ……」

 凛祢も去年の黒森峰連合の決勝戦の事を改めて思い出す。

「みんな……私ね、黒森峰にいた時、こんなことがあったの……」

 みほは話すべきだと思ったのか、辛い過去を思い出して話始めた。

 決勝戦の対戦カードは黒森峰連合VSプラウダ&ファークト連合。

 どちらも学園も戦車の性能は高い。歩兵の戦いも苛烈を究めるものだった。

 試合中に天候は悪化し豪雨。戦況も消耗戦にまで発展した。

 だが、黒森峰連合の戦力は僅かにプラウダ&ファークト連合を上回っている。

 次の作戦で決着をつけると考えた両校。だが、それが悲劇への入り口だった。

 決戦を決めた黒森峰連合が先に動いた。しかし、策においてはプラウダ&ファークト連合が一枚上手であったのだ。

 逆にプラウダ&ファークト連合が渓谷地帯に陣取っていた黒森峰連合のフラッグ車たちに奇襲をかけた。いつもの黒森峰連合ならば対応しきれただろうが、その時は違った。

 フラッグ車の前方にいたⅢ号戦車が回避行動を取ろうたとき、雨によって谷を滑り落ち、川へと水没したのだ。

 この時、フラッグ車から降りた1人の女子生徒は急いで谷を下り、Ⅲ号戦車の元に向かった。

 この女子生徒こそが当時のフラッグ車の車長であった西住みほだ。

 車長がいなくなったフラッグ車はその場に立ち往生し、混乱しはじめたところに集中攻撃を浴びた。結果として黒森峰連合は敗北。

 みほの行動は戦車道をする者にあるまじき行為だ。車長が戦車を下りて救助に向かうなんて、あり得ない。歩兵が助けに向かうならまだしも、豪雨によって増水していた川に飛び込むなど自殺行為だ。

 試合後、審判側の状況確認に問題があったと謝罪し、再戦が検討されたらしいが。西住流家元にしてみほとまほの母、西住しほが断ったそうだ。

 よって、黒森峰の10連覇の道を逃す結果となった。

「「「……」」」

「マジかよ……」

 他の者たちはみほの話に言葉が出なかった。思わず呟いた八尋以外は。

「私のせいで負けちゃったんだ。10連覇も逃して、黒咲さんやお姉ちゃんにも迷惑かけて」

「本当に……そう思うのか?」

 辛い過去を語ったみほは言葉を続けていると、凛祢が問い掛けた。

「……え?」

「確かにみほの行動は正しかったとは言えない。だが俺は、間違ってはいなかったと思う。それにそう思うのは俺だけじゃない」

「私も、西住殿は間違っていなかったと思います」

「僕もです。助けてもらった選手だって感謝してると思います」

 凛祢に続くように優花里と塁が言った。

「秋山さん、凛祢さん、塁さん。ありがとう」

「凄い!西住殿にありがとうって言われちゃいました!」

 みほに感謝された優花里は感激のあまり癖毛を撫でまわし、体をくねらせている。

「……」

「どうしたトシ?」

「別に……そろそろ、午後の授業が始まるだろうから行くぞ」

 八尋が言うと、俊也は腕時計に目を向けた後に立ち上がった。

 俊也は凛祢の様子を何かを感じ取った様子だった。

「もうそんな時間か……なぁ、そろそろ戻ろうぜ」

「ああ、遅刻する訳にもいかないしな」

「そうですね」

「あーあ、もうお昼休み終わりかー」

 八尋や翼、沙織たちも立ち上がり次々にガレージを出ていく。

 最後に残った凛祢は一度、振り返りⅣ号に目を向けた。

 自分だってかつて歩兵道を『楽しい』と思っていたはずだ。だが、今の自分は心から歩兵道を楽しいとは思えなかった。

 あいつは……聖羅は今、歩兵道を楽しいと思っているのだろうか。自分は……いつから歩兵道を楽しいと思えなくなってしまったのだろうか。

 それでも、みほの……彼女の戦車道と思いを守る。

 彼女は過去を乗り越えようとしているのだから。

「凛祢さん?どうかしたんですか?」

「いや、なんでもない。行こう」

 見つめるように顔を覗くみほに気づき、笑顔で答えると共に学園へと向かった。

 

 

 午後の訓練と英子との覇王流の訓練を終えた凛祢は疲労感を感じながら布団の上に倒れる。

 今日はいつも以上に疲れた気がする。

 英子の修行がいつも以上に厳しかったからかもしれないな。

 もう少しだ、もう少しで無拍子に辿り着ける。

 凛祢の目線は自然と仏壇に向いていた。視線に鞠菜の写真が写る。

「鞠菜……」

 一言、彼女の名を呼んだ。いや、無意識に呼んでいた、と言う方が正しい。

「あんたが生きていたら、俺は……」

 続くように呟くと、テーブルに置かれた携帯端末が揺れた。

「誰だ?こんな時間に……」

 立ち上がり、テーブルの携帯端末を操作する。

「英治会長?……もしもし」

 画面に写る名前に少々驚くが自然に電話を耳に当てる。

「葛城だな?悪いな、夜遅く。もう寝ていたか?」

「いえ、これから寝ようと思ってました」

 思わず友人のような感覚で会話をする。

「そうか。明日の歩兵道で戦車と歩兵用の武捜索の許可が取れたから連絡しておこうと思ってな」

「そうですか。他のみんなにも俺から伝えておきますね」

 凛祢は少し安心したように息を吐く。これで、少しは戦力アップすることができるかもしれない。

「ああ、そうしてくれ。……葛城」

 英治は小さく名を呼ぶ。

「どうかしたんですか?」

「……いや、なんでもない。俺の友人も戦車道をやりたいと言ってきたから、1両くらいは戦車を増やしたいと思ってな」

「そうですね。俺たちの武装も少しは増やせればいいんですけど……」

「そうだな……。おっと、悪い。無駄話をしてしまったな。じゃ、明日学校でな」

「はい」

 凛祢は通話を終えて、再び携帯端末をテーブルに置くと布団に戻る。

 鞠菜の写真を再度見た後、眠りについた。

 

 

 一方、通話を終えた英治は歯切れの悪そうな顔でにベッドに倒れる。

 すぐに、携帯端末が鳴った。相手を確認して、通話に出る。

「葛城君と話したの?」

「結局、本題は話せなかったよ。セレナ」

 通話の相手はセレナだった。

「そう。でも、真実を伝える事だけが正しいとは限らないわ。真実を伝えないまま優勝すればいいんだから」

「簡単に言ってくれるな……それが大変だってのに」

 セレナの無茶な発言に、英治はため息をついた。

「優勝するのに変わりはないんだから。ま、戦車が見つかったなら私も手伝ってあげるわよ」

「見つかれば……の話だがな」

 英治とセレナはそんな意味ありげな会話を続けた。

 

 

 翌日、大洗女子と大洗男子の生徒会の提案で「戦車と歩兵用武装の捜索」が行われることとなった。

 凛祢やみほたち全員による戦車と歩兵用武装の捜索の準備をしている。

 集合時間から少し遅れて生徒会メンバーがガレージ前に現れた。正確には生徒会6人の他に2人の女子生徒の姿があった。

「みんな集まっているみたいだな」

「みんなー、ちゅうーもーく」

 英治と杏がそう言って全員の注目を集める。

「あれ?凛祢、あの娘って……」

「あ?……え」

 八尋に言われて凛祢も目線を資料から生徒会に向ける。

 生徒会と共にいた女子生徒の顔を見て、目を疑った。

「新しく戦車道を履修することになった、秋月さんと照月さんです」

「秋月よ。よろしくね!」

「照月……です。よろしく」

 柚子に紹介され、2人も挨拶する。

 紫の髪の毛が特徴的な秋月という少女は知らないが、もう一人は知っている。

 そう、1人は現在自分の修行に付き合ってくれている少女……照月英子だった。

 秋月と名乗った生徒とは異なり英子は凛祢から目を逸らすように挨拶していた。

「英子!?お前、なんで!?」

「あれ?葛城君、照月ちゃんと知り合いなの?」

「杏。ちゃん付けで呼ぶのやめてってば」

 声を上げた凛祢を見て杏が問い掛ける。杏の呼び方が気に食わないのか英子は杏を睨んだ。

「知り合いというか……なんというか」

「柚子、桃。私と凛祢のことはいいから。話を進めて」

 答えに困っている凛祢を見て、英子は助け舟を出すように言い放つ。

「う、うん。わかった」

「では、葛城から聞いていると思うが。今日、我々は訓練ではなく戦車と歩兵用の武装を捜索することにした」

 柚子と桃が今日の予定を説明し始める。

「みんなには、それぞれ別れて捜索に向かってほしいんです」

「時間は限られているからな。気合入れて探せ」

 続くように宗司と雄二も口を開く。

「戦車と武器探しかー……そういえば俺たちの歩兵道は戦車と武器探しから始まったよな」

「そうだったな。でも、前回で結構探し回ったってのに次はどこを探すんだ?」

「確かにそうですよねー。手掛かりなしに探し回っても見つかるとは思えませんし」

 八尋や翼、塁が当時の事を思い出していた。

「東藤は、なにかいい意見とかあるか?」

「んあ?まだ行ってない場所にを探せばいいだろ」

 東藤は淡々と言い放った。

「行ってないところって言われてもな……」

「そうだぜ、トシ。お前は知らねーだろうが俺たちは結構探し回ったんだぜ」

 悩む八尋と翼を見かねた俊也はため息をついた。

「だったら昔の記録を確かめればいいだろ?有名な武道なら記録ぐらい残ってんだろ」

「ああ、その考えはなかった」

「俺も、資料なんて調べてなかったな……英治会長、戦車道と歩兵道の記録は残ってないんですか?」

 俊也の発言に八尋と塁は納得したように頷いた。凛祢も英治に問い掛ける。

「記録についてか……宗司、資料を」

「はい。正直、情報はゼロですが」

 英治に呼ばれ宗司は資料を持ってこちらにやって来る。

 手渡された資料にはⅣ号や38tの情報、大洗女子学園の地下武器庫の存在について書かれていた。

 他にも少しだが情報が書かれているが10年も前の資料では現在どこにあるかなど分かるはずもなかった。

「確かに、学園艦内に存在しているだろうが。どこにあるかなどは分からない。行方不明なのさ」

「これは最初と変わらないですね」

「それでも探すんだ!」

 お手上げといった感じの英治に凛祢も思わず苦笑いした。隣にいた雄二は強気に言い放つ。

「やるしかないのか……」

「まあ、そうなるよな」

「情報は結局ゼロだけどな」

「前回も見つけられたわけですし、頑張りましょう」

 続くように俊也、八尋、翼、塁も呟いた。

 その後、チーム分けをして、それぞれ捜索のために散っていく。

 

 

 大洗女子学園、旧部活棟にやってきた俊也、みほと麻子、バスケ部員とバレー部員。

「戦車なんだからすぐ見つかりますよね」

「んー、どうかな?前回も大変だったしなー」

 自信ありげな典子の声に、辰巳は難しそうな顔をしていた。

「もー、どうして辰巳君はそういうこと言うかなー」

「そうですよー、辰巳さんは性格がひねくれているんじゃないですか?」

「え、そこまで言うか?」

 典子とあけびが辰巳をジト目で見つめた。辰巳も少々、戸惑った顔を見せていた。

「手掛かりはないのか?」

「冷泉先輩、刑事みたい」

 眠そうに呟いた麻子に対して、忍が笑みを浮かべて言った。

「それが、部室の場所が変わったみていで、よくわからないんだって」

「おいおい、そんな感じで大丈夫か?そもそも部室棟が、戦車道や歩兵道に一体何の関係があるんだ?」

 みほの答えに続いて俊也が問い掛ける。

「今の俺たちや磯部さんたちみたく、昔にも部活しながら戦車道と歩兵道やってた生徒もいたみたいでさ」

「そういうことがあったなら部活棟にもあるかもしれないってことです」

 漣と淳が説明して部室の古びた扉を開けた。

 

 

 時を同じくして、大洗女子学園の校庭には塁と優花里、歴史男女チームの姿があった。

「で、どうするんですか?」

「東が吉と出たぜよ」

「いや、北だね。私の推理では北に求めるものがある」

 優花里の問い掛けにおりょうとシャーロックが答える。

 しかし、2人の答えは食い違っていた。

「東ぜよ!」

「北だね!」

 また、2人が言い合い、睨み合う。

「エルヴィンはどう思う?」

「どうと言われてもな……」

 アーサーの言葉にエルヴィンも少し考える仕草を見せる。

「あの、北と東に何かあるとしたら北東に行ってみるのはどうでしょうか?」

 そんな中で塁が提案すると、全員の視線が塁に向いて数秒間の沈黙が流れる。

「すいません……何でもありません」

「「「それだ!」」」

 急にエルヴィンたちが叫ぶ。

「え?」

「流石、坂本。冴えてるじゃないか!」

「その考えはなかった……」

「最高にクールな考えだと思うよ」

 固まる塁に続くようにアーサーや景綱、ジルが褒め称えていた。

 

 

 また、時を同じくして八尋と沙織、一年生の男女たち12人は学園艦の内部にやってきていた。

「凄ーい。ここなに?」

「うわー、船の中っぽい」

「船の中だもん」

「なにを当たり前なことを」

「こんな風になってるなんて知らなかった」

 学園艦の深部に入るうさぎさんチームとヤマネコ分隊のメンバーが興奮気味に感想を述べている。

「先輩、そもそもなんで船なんですか?」

「大きく世界に羽ばたく人材を育成するためと……」

「生徒たちの自主独立心を養うためだった気がする。でも、これだけの大型の船をよく作ったよな」

「確かにね。大人の考えることはわからないけど私たちも大人になったらわかるのかな?」

 亮の質問に沙織と八尋が答える。

「「お疲れ様でーす」」

 八尋と沙織が挨拶を交わしながら大洗とは異なる制服の生徒とすれ違う。

 学園艦を運航を担当している船舶科と呼ばれる科の生徒たちだ。

「あの、戦車知りませんか?」

「戦車かどうかわからないけど、何かそれっぽいのを何処かで見たことあるよね?どこだったけ?」

「もっと奥の方じゃない?」

 船舶科の女子生徒は、歩いてきた方を指さした。

「よし、行ってみよう!」

「ありがとう、お嬢さん方ー」

 沙織が歩き始め、八尋も船舶科の女子生徒にお礼を言った後に学園艦の深部を目指して奥へと向かった。

 

 

 更に生徒会室では翼と華、生徒会メンバー6人がその他の資料を調べていた。

 そんな中でも杏は備品のソファーに寝ころみ、寝息を立てていた。

 そんな杏を見て、英治が思わずため息をついている。

「杏会長……本当にONとOFFの激しい奴だな」

「あれで、生徒会長が務まるのですから凄いですよ」

「まったくだ」

 英治に続くように宗司や雄二も呟いた。

「戦車道と歩兵道って昔からやっているんですね」

「そうね、1920年代頃から」

 資料を読んでいた華と柚子が話し合っていると。

「まだか!」

 桃の刺すような声が生徒会室内に響いた。

「まだ見つからないのか!?」

「少しは落ち着いとけよ」

 そんな落ち着きのない桃に、翼も思わず呟く。

「それにしてもないですねー」

「流石に、処分されちまったか?」

 宗司や雄二も資料を読み漁るが有力な情報はなかった。

「でも、処分されていたらその資料も残っているはずだけど……」

「そうなんですよね」

「みんなでやれば見つかりますよ!」

 柚子の言葉を聞いて翼と華が読み終えた資料を置いた。

「ま、果報は寝て待てと言うしな。杏会長みたく寝たりはしないが……」

 英治は杏の可愛らしい寝顔を見て言った。

 

 

 一方、凛祢と英子、秋月は八尋たちとは別に学園艦深部を目指して捜索していた。

 この3人で捜索することになった理由は凛祢が英子と知り合いであったこと、それだけだ。

 そんな理由でチームを決められるとは思わなかったが、捜索範囲を広げるためには仕方がなかったのだろう。

 戦車だけならまだしも、歩兵用の武装も捜索するとなったら女子だけで捜索するのも大変だからという生徒会の考えだ。

「英子、どうして戦車道を?」

「私だってやりたくて来たんじゃないわよ。そこにいる秋月に無理やり連れてこられただけよ」

 凛祢の質問に英子は秋月のほうを睨む。

「口ではそう言ってるけど、選択科目を戦車道に変えたってことは少しは興味あったんじゃないの?」

「別にそう言うわけじゃ……興味はあったけど」

 秋月は笑みを浮かべてからかうような言い方した。英子も否定するような発言をするが、小さな声でそう呟いた。

「俺が言うのもなんだが、無理にやらなくてもいいんだぞ?」

「そうよ、今ならまだやめてもいいのよ?」

「やるってば!はいはい、私は戦車道に興味がありました!これで満足?」

 凛祢と秋月の言葉に英子は少々怒ったのか投げやりにそう言った。

「そんな怒るなよ……」

「そうよ。そんなに怒ったらかわいい顔が台無しよ」

「うるさいわよ!……それより戦車を探すって、実際どうするの?」

 英子の質問に悪ふざけを見せていた秋月の表情も真剣な顔に変わった。凛祢も同様に考える様子を見せる。

「葛城君、前はどんな感じで探したの?」

「どんなって言われてもな。ひたすら探し回っただけだよ」

「これだけ広い学園艦の深部を全部を探すなんて無理でしょ。杏の考えることは本当に無茶ね」

 英子は周りを見渡しながら不満を口にした。

 彼女の言い分も分からなくもない。これだけ大きな船の中を情報なしに探し回るのは正直無茶だ。

 それに自分たちは深部の方の構造のことをよく知らない。下手をすれば迷って帰ってこられなくなるかもしれない。

 というか英子は杏と呼び捨てにしてるあたり、知り合いなのだろうか?杏会長も英子をちゃん付で呼んでいたし。

「で、どうするの?」

「……」

 考えもなしに深部に向けて歩みを進めていた凛祢たち。

 前方の十字路を数人の生徒が走り過ぎていく。

「なんだ、今の?」

「船舶科の生徒でしょ。遅刻でもしそうなんじゃない?船舶科って私たち普通科と違って学園艦の運航で忙しいらしいし」

「ふーん」

 英子の説明を聞いて凛祢は納得したように声を漏らした。

 数人の船舶科の生徒が通り過ぎて行った十字路に、また生徒が現れる。

 同じように船舶科の制服に身を包んでいた。

 凛祢たちの姿を確認すると、こちらに向かって歩いてきた。

「あら、こっち来たわよ」

 凛祢の後ろを歩いていた秋月が呟く。

 その男子生徒は凛祢たちの前で歩みを止めた。そして、凛祢や英子、秋月の顔を順に見た後に口を開いた。

「普通科の生徒が、ここで何をしてるんだ?今は授業中だろ?」

「こっちにもいろいろあってな」

 男子生徒と凛祢たちがお互いに目を見合った。

「まあいい。ここで何をしているんだ?」

「私たちは戦車を探しているの」

「他にも武器……拳銃とか小銃をね」

 問いかけに英子と秋月が答える。

「戦車に武器?君たち、もしかして戦車道と歩兵道とかいう変な選択科目を選んだ連中か?」

「変な、って……まあ、そんなところだ」

「戦車と銃ねぇ……この先に行ってみな。先生なら何か知ってるかも」

 男は少し考えた後、思い出したように呟いた。

「そうか、ありがとう」

「まあ、頑張れよ」

 船舶科の生徒は挨拶をして去って行った。

「先生って、誰よ?」

「私が知るわけないでしょ」

「行けばわかるって言ってたし、行ってみるぞ」

 教えてもらった方向に凛祢が歩き出すと英子と秋月も追うように歩き出す。

 奥に進むにつれて、通路を照らしていた明かりも少なくなっていく。

「ちょっと、大丈夫なの?」

 少し不安になり始めたのか英子がそんな言葉を口にした。

 それでも進み続けること数分。重々しい金属製の扉が目の前に現れる。

 扉のプレートには「船舶科、楯無」と刻まれていた。

「ここなのかしら?」

「ま、入ってみよう。失礼しまーす」

 秋月の言葉に凛祢の右手が扉を開いた。

 思った通り少し重量を感じさせる扉はゆっくりと動く。

 3人の視線に写る室内は真っ暗だった。が起動しているPCだけが室内を軽く照らしている。

「なんで、電気ついてないのよ」

「知らないわよ……」

「居ないのかな?」

 室内に侵入した3人はそれぞれ室内を見渡す。

「にしても、広い室内ね。ここって職員室かなんか?」

「それはね。私の寝室でもあるからだよ」

「へぇー……って、誰!?」

 隣に現れた白衣姿の女性に英子は驚き、声を上げた。

「はっはっは。こんなところに普通科の生徒が訪問してくるとはね」

 女性は笑い声を上げながら机の前にあった椅子に座り込んだ。

「あの、あなたは?」

「私は楯無。船舶科の教員だよ、科学も担当しているがね。君たちは……うーん、そうか。普通科2年の葛城君、普通科3年の秋月さんと照月さんだね」

「なんで、私たちの名前を?」

「はっはっは。学園の生徒の名前と顔を覚えるのは教師として当然なのだよ。たとえ普通科の生徒でもね」

 楯無教諭はそう言って、PCを操作し始める。

「それで、なにか用があったんじゃないか?」

「はい。この辺で戦車を見ませんでしたか?」

「戦車……もしかして戦車道や歩兵道用のものかい?」

「はい」

 楯無教諭は知っているように問うと凛祢も返事をして頷く。

「んー、どうだったな……昔は盛んだったらしいが大洗戦車道の花も枯れてしまったからねー」

 楯無教諭は立ち上がり、棚のほうに歩いていく。

 棚から理科用のビーカを4つ取り出すと、4人分のコーヒーを淹れ始める。

「インスタントで悪いね。砂糖は居るかな?」

「「いえ……」」

「お構いなく」

 凛祢たちはコーヒーの入ったビーカーに口をつける。

 コーヒーをビーカーで飲むとは、なんとも新鮮な気分だな。

「楯無先生、コーヒーは美味しいんですけど。俺たちそろそろ」

「おっと、そうだったね。でも、何もしてやれないのも悪いしな……ちょっと待ちたまえ」

 楯無教諭は携帯端末を取り出した。

 通話を始めたかと思えば、数分で通話を終える。

「この先をまっすぐに行ってみたまえ。船舶科の生徒が待っているよ」

「え?それって」

「安心したまえ。説明はしておいた、きっと力になってくれるさ」

 凛祢たちは楯無教諭と別れて、案内された方に向かう。

「なんか、変わった先生だったわね」

「まあ、悪い人ではなかったけど……少し変わってたな」

 英子の言葉に凛祢も言葉を濁して言った。

 楯無教諭からは何か……鞠菜と似たものを感じた。

 また、しばらく歩いていくと船舶科の男子生徒の姿があった。

「君たちが、楯無先生の言ってた生徒か……俺は衛宮不知火(えみやしらぬい)。君、かわいいね!結婚してほしいんだけど」

 不知火と名乗る男子生徒は英子を見て、そんな事を口にした。

「は?」

「なっ!?」

 英子と凛祢は耳を疑った。

 彼は今、「結婚してほしい」と口にしたからだ。

「赤くなった顔も可愛いね」

 不知火はそう言って英子に手を伸ばす。

 が、その手は英子に触れる前に払われた。

「おい、ふざけてるのか?冗談はやめろ」

「凛祢……!」

 英子と不知火の間に割って入る様に立つ。

「おいおい、そんな怖い顔するなよ。船舶科にはそんなにかわいい子がいないから、ついー」

「……で、戦車や銃のある場所を知ってるのか?」

「知ってる知ってる。暇つぶしに色んな場所行ってたからな。ほらついて来いよ」

 不知火は歩き出す。

「英子、大丈夫か?」

「私、あいつ嫌い……」

「衛宮君、嫌われちゃったわね……」

 英子は凛祢の後ろに隠れるように不知火の後を追う。秋月もその隣を歩く。

 不知火に案内されたのは、船舶科の大型倉庫だった。

 だが、そこは長い間使われていないのか、埃だらけであった。

「汚っ!」

「あらあら」

 英子と秋月が同様に驚きの表情を見せていた。

「ここは?」

「今は使われてない船舶科生徒用の倉庫だよ。生徒用の部屋から遠いから数年前から誰も使わなくなったらしいけど」

 不知火の指している先を英子がライトで照らすと、それはあった。

 最近、何度も見ている迷彩色。細いがしっかりと車体から伸びる砲、古びているが重量感のある転輪。

「あれは……」

「『九七式軽装甲車』ね。てか、凄い場違い感ね」

「あら、英子。よく知ってるわね」

「別に……」

 英子と秋月はそう言って九七式の傍に歩いていく。

「なあ、お前も銃を探してるって言ったよな?」

「そうだけど?」

「そんな身構えんなって、ちょっと来てくれ」

 不知火に連れられ凛祢も倉庫内の奥に進む。

「これは俺が、見つけたものなんだけど……」

「これは……」

 倉庫内にあった十数個のロッカーを次々に開けていくと銃が姿を見せていく。

 拳銃『トンプソン・コンテンダー』と短機関銃『キャリコM950』にグレネードランチャー『MGL-140』、短機関銃『AR-57』、拳銃『スプリングフィールドXD』など意外にも高性能な銃が揃っていた。癖のある銃もあるが。

 他にも色々な銃が置いてある。

「これを1人で見つけたのか?」

「そうだよ。それで、これらを提供する代わりと言っては何だが、俺にも歩兵道とやらをやらせてくれないか?」

「本当か?」

 凛祢は不知火の言葉に思わず聞き返した。

 歩兵道も人数は多ければ多いほどいい。戦略の幅を広げられるからだ。

「その様子じゃ、俺が入っても問題ないみたいだな」

「それは、そうなんだが。本当にいいのか?楽なものじゃないぞ?」

「決まりだな。ちょうど、来週から普通科に転科するし。あっちのかわいい子ちゃんにも毎日会えるって事だろ?」

 不知火は平然とした表情でそんな事を口にした。

「……お前な。それで転科するって?」

「そうだ、俺も普通科に行く予定でな。3年で転科するんて俺くらいなもんだけどな」

「確かに……」

 不知火の言葉を聞いて凛祢は思わず乾いた笑いを漏らした。

 そもそも、転科すること自体珍しいのに、3年になってからする人がいるとは思わなかった。

「戦車道や歩兵道はよく知らないが。そういうことだから、よろしくな。えーと」

「葛城凛祢です。こちらこそ、よろしく頼むよ」

「おう凛祢君。よろしくな」

 凛祢と不知火は握手を交わした。

 こうして凛祢、英子、秋月チームの3人は九七式軽装甲車と多くの歩兵用の武装、共に歩兵道をする者、衛宮不知火を仲間にしたのだった。




今回の戦車探しの回は原作には登場しない戦車を出したりしてみました。
ちなみに九七式軽装甲車と不知火君は当初の台本にはなかったキャラです。英子も戦車道やる予定はなかったのですが。どうしてこうなった?という感じです。
次はアンツィオ高校の話になる予定です。
最後に、7月と8月はちょっと忙しくて投稿できなくなるかもしれません。すみません。
読んでくださっている方いつもありがとうございます。


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第11話 ノリと勢いのアンツィオ&アルディーニ連合

どうもUNIMITESです。
なんとか時間を確保して投稿しました。
今回からアンツィオ高校が登場します。
では本編をどうぞ


 学園艦、深部での捜索を終えて凛祢、英子、秋月の3人は大洗女子学園の校庭のガレージに戻ってきていた。

 すでにみほや俊也、他にもバレー&バスケ部、歴史男女チームの姿がある。

 他にも生徒会メンバー6人が見つけた銃火器の確認や戦車を輸送してくれた業者との手続きを行なっていた。

「もう、みんな戻ってきてるわね」

「俺たちが最下位か?」

 英子と凛祢が辺りを見渡す。

 そこで1つの事に気がついた。

 八尋と沙織、そして1年生たちの姿がない。

「お、凛祢。戻ってきたか。八尋たちを見なかったか?」

「え、見てないけど。戻ってないのか?」

「そうだ、何やってんだよあいつ。後輩たちも一緒だってのに……」

 凛祢が言うと俊也はイラ立った表情を見せた。

 いつも他人の事はどうでもいいような性格の俊也がそんな表情を見せたのは八尋や後輩たちを心配しているからなのかもしれない。

「凛祢さん!あの沙織さんと八尋君が……」

「話は聞いたよ。それで八尋たちは、どこに行ったんだ?」

「それが……船底の方に居るって連絡はもらったんですけど。会長たちも探してきてほしいって」

 凛祢の質問に心配した顔を見せるみほが答えた。

「船底か……」

 凛祢は頭を掻いた後、胸の内ポケットから取り出した携帯端末を操作する。

「凛祢さん?」

「船内に詳しい奴を1人知ってる。別れてすぐに頼ることになるとはな……」

 携帯端末を耳に当てて通話を始める。

 2回目のコールで相手が電話に出た。

「もしもーし。なんで照月さんじゃなくてお前が電話してくるんだよ」

「どんだけ英子のこと好きなんだよ……衛宮」

 通話の相手はさっき別れたばかりの衛宮不知火だった。

 英子に一目惚れして、結婚したいとまで言った船舶科の男子生徒だ。来週には普通科に転科してくるらしい。また歩兵道をやる予定の生徒でもある。

「で、どうした?」

「実は、友人が船底で迷子になったみたいでな。ちょっと手伝ってほしいんだが」

「えー、面倒くさいからパス」

 不知火は気乗りしなそうな声で返答した。

 やはり一筋縄では行かないようだ。

「……手伝ってくれたら英子が連絡先教えてくれるって」

「どの辺で迷ったんだ?すぐに見つけ出してやるよ」

 凛祢が提案すると不知火は即答した。

 冗談のつもりだったのだが、まあいいだろう。

「切り替え早いな。えっと……」

 不知火への説明の後、凛祢はみほや英治、杏から聞いた情報を元に捜索チームを編成し、学園艦の深部に向かった。

 捜索チームは凛祢と塁、俊也、みほと優花里、麻子の6人である。

 一方、ガレージ前に残った英子や秋月は捜索で発見した戦利品を確認していた。

「案外、残ってるものね。統一性はないけど」

「そうね。でも、優秀な戦車は、やっぱりないものね」

「ねぇ、あき……セレナ。そろそろ教えてくれない?なんで凛祢たちに本名を教えないの?」

 凛祢たちが居なくあった後、英子は問い掛けた。

「言ったでしょ。私にもいろいろあるの。葛城君や坂本君、秋本さんにはどうしても知られちゃ駄目なの、それに秘密のある女はモテるのよ」

「……なによそれ。まあ、いいけど」

 セレナは英子にウインクして言うと、英子も理解できぬままやれやれとため息をついた。

 

 

 その頃、凛祢たちはまるで迷宮の様な学園艦の深部を目指して船内を歩いていた。

「ったく。普通、迷うか?」

「そう言うなよ、俊也。俺たちだって少し迷ったりしたんだよ」

「あいつは馬鹿だからな。迷って当然か」

 俊也は相変わらず、八尋を馬鹿と呼んでいた。

「俊也殿、流石に言い過ぎでは?」

「沙織殿や八尋殿だって戦車を探して迷ったわけですから!」

「そ、そうだよ。学園艦って広いし迷ったりもするよ!」

 塁や優花里に続くように、みほが力強く発言する。

「あ?文句あんのか?」

「「ひっ!」」

 俊也は鋭い眼光をみほと優花里に向ける。

「俊也……男なら女に手を上げるなよ」

「っ!冷泉に言われなくてもわかってるよ……」

 俊也は舌打ちした後、前方を見る。

「で、どこを探すのですか?」

「そろそろ衛宮が……ほら居た」

 凛祢が不知火の姿を確認する。同様にみほたちも不知火を見た。

「遅いぞ……」

「悪い悪い。準備に手間取ってな」

「30秒で支度するのが常識だろ……てか、なんで照月さんは居ないんだよ」

 不知火は凛祢やみほたち全員に目を向けた後に、小声で声を掛けてくる。

「英子は忙しいんだって。それより貨物第7倉庫って知ってるか?」

「貨物第7倉庫?行ったことはないが場所なら知ってる。Gブロックの奥だな、ついて来い」

 不知火は考える仕草を見せた後、歩き始める。

 やっぱり、船舶科なら船内については詳しいようだ。

「本当に大丈夫なのか?」

「凛祢殿の知り合いなら大丈夫だと思いますが……」

「凛祢さん、あの人と知り合いなんですか?」

 少々不信感を抱く麻子や優花里に続くようにみほが凛祢を見た。

「知り合いかと言われれば知り合いかな?さっき会ったばかりだけど」

「それは知り合いとは言わねーだろ」

 凛祢が自信なさそうに答えると俊也がため息交じりに言った。

「ま、来週から歩兵道をしてくれるし。悪い奴ではないよ……多分」

「なにやってんだ!?置いて行くぞ!」

「今行くよ!あいつは戦車探しも手伝ってくれたんだ。みんな、俺に免じて信じてくれ」

「凛祢さんがそう言うなら……」

 凛祢が頭を下げるとみほや他のメンバーも納得したのか不知火の後を追う。

 数分ほど歩き続けていると道の明かりはなくなりどんどん薄暗くなっていた。

「あの、本当に大丈夫なんですか?」

「どんどん、暗くなっていますよ……?」

 ライト付きのヘルメットを被っていた塁と優花里が先頭を歩く不知火に向けて言う。

「……」

「おい、なんとか言えよ」

「俊也さん。一様、先輩なんですから。衛宮さん、本当にこっちであっているんですか?」

 俊也の言葉にみほが続く。

「うるさい奴らだな、あってるって。船内のことは何でも知ってる衛宮さんだぞ」

 不知火はそんな事を言って笑って見せる。

 その時、大きな金属音が道中に響く。

「「きゃー!」」

 同時に驚いたみほと優花里が悲鳴を上げて、凛祢と塁の背中に抱き着く。

 麻子も悲鳴こそ上げていなかったが俊也の制服の袖を右手で力いっぱい掴んで、小刻みに震えていた。

「お前らな……そういうラブコメは別でやってくれよ」

「違う!」「違います!」「ちげぇよ!」

 凛祢や塁、俊也が同時に叫ぶ。

「「す、すみません」」

 ようやく落ち着いたみほと優花里は2人から離れて謝罪する。

「気にするなって」

 凛祢も2人を落ち着かせるように言った。

「おい、お前もさっさと離せ」

「無理……」

「は?歩きづらいんだよ。離れろ!」

「オバケは早起きよりも無理なんだ!もう少しこのままで……」

「っ!面倒くせぇな、勝手にしろ……」

 俊也も麻子の涙を浮かべる顔をみて仕方なくそのままで歩く。

「なんなんだ、こいつら。俺への当て付けか?」

「違うんだって、衛宮。誤解するな」

「はいはい、さっさと片付けて帰るぞ」

 不知火はそう言って急ぎ足に進む。

 

 

 その頃、Gブロック内貨物第7倉庫内では沙織、1年生たちが座り込んでいた。

 八尋は亮や銀と共に地図を見直している。

「先導先輩、今ってこの辺ですか?」

「そうだと思うが、完全に迷ったな」

 亮と八尋が現在位置を見つけ出すことに必死だった。

『今日はここで野営ですか?屋内ですけど』

「銀、縁起でもないから」

 銀のメモを見た亮が呟く。

「お腹、空いたね」

「うん」

「今晩は、ここで過ごすのかな……」

 不安になり始めたあや、桂里奈、梓が呟く。

「先輩、どうします?」

「……大丈夫だ!俺が居るんだぜ!?大船に乗ったつもりで行くぞ!……しっかりしろ、八尋。俺は先輩であり、男だろ」

 弱音を吐かぬまいと八尋は強気で胸を張る。

「八尋君……そうだよね。みんな、私チョコ持ってるからみんなで食べよう」

 八尋の様子を見た沙織も続くようにみんなを励ます。

 

 

 ようやく貨物第7倉庫付近に到着した不知火や凛祢たち。

「この扉の先に……げっ!鍵付けられてる。下の連中か……余計な真似を」

 古めかしい鎖と錠前でしっかりと施錠された扉を見た不知火が苦虫を噛み潰したような表情で言った。

「そんな!」

「どうするんですか!?」

「ここまで来て……回り道してる時間なんて」

 みほや優花里もまさかの出来事に声を上げる。塁も続くように呟く。

 そんな時、俊也が一歩前に出た。

「……凛祢、手伝え」

「え……?」

「時間が無いから、扉を蹴破るぞ。冷泉、少しだけ離れろ」

 俊也は凛祢に耳打ちすると麻子にも声を掛ける。

「……」

 麻子は無言で首を横に振る。

「冷泉、いや麻子。大丈夫だ、オバケなんているはずがない。お前だって沙織が心配だろ?だから少しの間だけ離れてくれ」

「……わかった」

 俊也は麻子の頭を撫でてやりながら言うと、麻子も素直に手を放す。

 その様子は、まるで兄と妹……本物の兄妹の様だった。

「正気か?」

「やるしかねーだろ。同時にいくぞ」

「わかったよ、みんな扉から離れてくれ」

 凛祢も選択の余地なしと考え、不知火やみほを扉から遠ざける。

「「オラ!」」

 2人は力いっぱい蹴りを放つ。

 辺りに凄い音が響く……が、扉は開かない。

「次、行くぞ!」

「「オーラ!」」

 2撃目を放つ。また、音が響くが扉は開かない。

「凛祢さん、俊也さん無理だよ!」

「そうです、いくらなんでも無茶です!」

 みほと優花里も強く叫ぶ。

「いえ、少しですが扉が歪んできている気が……」

「いやいや、無理だろ」

 塁が呟くが不知火はあまりに非現実的過ぎる行動に諦めたようにツッコむ。

 しかし、凛祢と俊也は次の攻撃準備に入る。

「「オラ!!」」

 凛祢と俊也が再び扉を蹴ると、扉は物凄い轟音と共に奥へと飛んで行く。

 2人が蹴破ったことで扉は歪み、くの字に似た形で地面に横たわっている。。

「なんだよ、案外脆いじゃねーか」

「本当に突き破れるなんてな……」

「嘘……」

「超人ですね、本当に……」

 みほや優花里たちも驚いていたが、扉を突き破った凛祢と俊也が一番驚いていた。

「でも、足痛いな」

「確かに……いってー。ふざけんなよ、まじで」

「俊也がやるって言ったんだろ……」

 凛祢と俊也はそれぞれの痛む足に触る。

「あーあ、これは破損届だな。緊急事態ってことで楯無教諭にもみ消してもらおう」

 不知火は破損した扉を見た後、大げさに声を上げて言った。

 

 

 その頃、八尋や沙織たちは外から響いてきた轟音に驚いていた。

「さっきの音って、なんですか?」

「合計3回も響いていたけど」

「最後の音は1番すごい音だったよね」

 音を聞いていたアキラや礼、歩が言った。

「みぽりんたちかな?」

「多分……な」

「八尋君、ごめんね。私が闇雲に進んだりしなければ迷うこともなかったのに……」

 座り込んでいた沙織は下を向いて八尋にだけ聞こえるように言った。

「いいや、そんなことないよ。沙織さんがいなければ戦車を発見できなかったじゃないか」

「戦車を見つけたとか見つけなかったじゃないよ。私のせいで1年生のみんなやみぽりん、八尋君にまで迷惑かけて……」

「気にするなよ。迷惑かけたってなら俺と沙織さんは共犯者だろ?1人で抱え込むことないよ」

 沙織を元気づけようと八尋は言葉を続ける。

「それにさ、俺は沙織さんのこと結構好きだよ」

「え!?……好きって、それ!」

「あ、いや。沙織さんの頑張る姿とか裏で努力してるところが好きだってことで!ほら、料理とかもうまかったしさ」

 沙織と八尋はお互いに頬を赤くする。

『先輩方、アツアツですね』

「銀!?」「銀君!?」

 近くにいた銀のメモを見た八尋と沙織は更に赤くなった。

 すると多数の足音と共に、扉が勢いよく開く。

「八尋ー!」

「沙織さん!」

 凛祢とみほが2人の名前を呼んで室内に踏み込む。

「凛祢!」

「みぽりん!」

 八尋と沙織も名前を呼ぶ。

「先輩!」

「遅いっすよー!」

 1年生たちも塁や優花里の元に集まる。

「ったく、何やってんだよ。心配かけやがって、馬鹿が」

 俊也も八尋の元に行き、声を掛ける。麻子は、まだ俊也の制服の袖を掴んでいる。

「うるせーな。仕方ねーだろ……」

「……沙織も怪我が無くてよかった」

「ありがと麻子。でも、いつの間に俊也君と仲良くなったの?」

「「……仲がいいわけじゃない」」

 沙織の質問に2人の声が重なる。

「仲いいじゃねーかよ……」

 八尋は苦笑いして言った。

「まあ、怪我もないようだしみんな無事でよかったよ」

「そうだね、急いで戻ろう」

 凛祢とみほが言うと全員で外を目指す。

「へー、ここにも戦車があったんだな。他の貨物倉庫にもあるのかな……?」

 不知火もそう言いながら室内の分解されている戦車を見た後、凛祢たちを連れて外を目指した。

 

 

 船内から再び帰還した凛祢たちは不知火と別れ、ガレージ前に集まっていた。

 凛祢はそれぞれのチームが発見した戦車や歩兵用の武装についてまとめられた書類に目を向ける。

 今回の戦車と歩兵用武装の捜索結果。

 1.凛祢、英子、秋月チームが発見したものは日本製の戦車『九七式軽装甲車』1輌。軽装甲車のため車体の重量が八九式よりも軽い。装甲はいい所で12㎜、砲身は九八式三十粍戦車砲であり2人乗りである。戦車道で運用するには軽すぎる気もするが。別名「テケ」と呼ばれている。

 歩兵用の武装は『トンプソン・コンテンダー』と『キャリコM950』、『AR-57』がそれぞれ1丁。『MGL-104』と『スプリング・フィールドXD』がそれぞれ2丁。これらはどれもアメリカで製造された銃火器だ。コンテンダーは拳銃と言ってもライフルの弾でも撃つことのできる銃だが装弾数が一発であり、リロードも面倒であり癖がある為、扱う人間は相当マニアックだ。そんなコンテンダーの最大の特徴は砲身の取り換えが可能であること。倉庫には砲身が元々付いていた砲身を含めて3種類あった。キャリコやAR-57、MGL-104、スプリングフィールドXDは比較的扱いやすい。AR-57なんかはP90と同じ銃弾を使える上に使用弾倉も同じだ。そしてMGL-104、これは回転式の弾倉を利用したリボルバー拳銃のような形状のグレネードランチャーだ。アルバート校では採用されていなかったが、これはこれで十分に利用価値がある。これなら今までいなかった砲兵の枠を埋めることができるだろう。そして軽機関銃『RP-46』と『トカレフTT-33』がそれぞれ3丁。どちらもソ連製の銃である。

 2.俊也とみほと麻子にバスケ部&バレー部が発見したものは、どこかの部の物干し竿代わりに使われていたと言う戦車用砲身『43口径75mm砲』。Ⅳ号用の長砲身らしく、7.5㎝KwK40とも呼ばれている。Ⅳ号の改修パーツと言ったところだ。

 他には自動拳銃『FN ブローニング・ハイパワーDA』が2丁。ブローニング・ハイパワーはFiveseveNやP90と同様にFN社製の銃である。FiveseveNはP90と同じ5.7x28mm弾を使用していたが、こちらは幅広く使われている9x19mmパラベラム弾が使用弾薬である。また、これは近代化されているDA(ダブルアクション)仕様であり、ブローニングの技術の集大成ともいえる自動拳銃である。

 3.塁と優花里、歴史男女チームが発見したものはフランス製の戦車『ルノーB1bis』1輌。形式上は重戦車であり、装甲は60㎜、砲身は車体に17口径75㎜戦車砲と砲塔に32口径47㎜戦車砲が使われている。砲はM3のように2本付いている。

 歩兵用の武装はアサルトライフル『SIG SG550 Sniper』、自動拳銃『SIG SAUER P220』が1丁。どちらもスイスのSIG社が開発した銃火器である。こちらも性能に関しては問題ない。アサルトライフルであるSG550の狙撃用バージョンであるSniper、アサルトライフルとしても運用できるため1人で狙撃兵と突撃兵2役の兵科を行える。

 4.八尋と沙織、1年生チームによって発見された分解された戦車。現在、自動車部と整備部が部品を組み立てている途中だが、Ⅳ号の改修やルノーと九七式の修理と整備を優先しているため、いつ完成するかも未定だそうだ。

 以上、戦車3輌、歩兵用の銃火器合計17丁が発見された。

 凛祢は書類を桃に返すと大きく息を吐く。

 100点……とまではいかないが、これなら可能性はある。

「それで、割り振りはどうしますか?」

「そうだな……」

「ルノーはこっちで人を見つけておくからー。九七式は見つけてくれた照月ちゃんと秋月で」

 雄二の質問に、英治が銃や戦車を見ていると杏が横から声を掛ける。

「……こっちも人を集めないと」

「委員会長組に声を掛けましょうか?」

「そうだな、委員長組ならやってくれるだろう」

 英治と宗司も考えをまとめると解散の準備をする。

「みんな、ご苦労様。今日はこれで解散だ。気をつけて帰れよ」

 英治の号令でみんな帰宅の準備をしていく。

「すまないな、ヤガミ。あっちの自動車部にも迷惑かけるが整備は頼んだぞ」

「了解でーす」

 整備部所属のヤガミとヒムロ、ヤマケンの3人と、自動車部所属のナカジマ、スズキ、ホシノ、ツチヤの4人がガレージ内の戦車と銃の整備や修理を始める。

「毎回、よく見つけてくるねー」

「確かにな。まあ、やりがいもあって楽しいからいいけど」

 ナカジマとヤガミがルノーと九七式の修理、整備作業を始める。

「整備する方の身にもなってほしいぜ」

「まあまあ、ヒムロ君。そんなこと言わないで」

「ヒムロー。六角レンチ取ってー」

「はいはい」

 ヒムロが六角レンチを軽く投げるとホシノは右手でキャッチし作業する。

「でも、あのMGL-104って銃。使ってみたいなー……榴弾を撃ちだすなんて今までなかったし、面白そうだから」

「そう?私はドリフトしてる方が楽しいかなー」

 転輪周りの整備をしているヤマケンとツチヤがそんな言葉を呟く。

「俺たちも、戦車道と歩兵道に参戦しようか?俺はあのコンテンダーとかいいなー。相当マニアックな一品らしいし」

「いいかもね。あっちの分解戦車は人が居なかったら私たちが乗ってもいいかな?」

 ヤガミの言葉にナカジマも乗り気でいた。

「でも、あっちの整備は最後だからねー」

「俺たちが参戦するのはいつの日になるかもわからないけどな」

 スズキとヒムロがそう言ってボルトをスパナで締める。

 

 

 その頃、アンツィオ高校とアルディーニ学園の学園艦では両校による屋外での会議が始まっていた。

「全員、気を付け!」

 金髪ロングに小さなハットを被った少女、アンツィオ校の副隊長の1人、伊多利陽菜(いたりひな)の号令に一同が敬礼する。

 黒いリボン付きの見事なツインテールを揺らしている少女と黒髪の長身長の男が隊員たちの前に立った。

 この2人こそ、アンツィオ&アルディーニ連合の隊長。安斎千代美ことアンチョビ。三日月咲夜(みかづきさくや)ことメッザルーナ。

「きっと奴らは言っている!ノリと勢いだけはある!調子に乗ると手ごわい……」

「おー」

「強いだって!」

「当然だろ!」

「照れるなー」

「でも、姉さん。だけってどういうことすか?」

 アンチョビの言葉に、盛り上がっている中、隊員の1人が不満そうに問い掛ける。

「つまり、こういうことだ!ノリと勢い以外は何もない。調子が出なけりゃ総崩れ!……ひどく言われたもんだ」

 メッザルーナが腕を組んで仁王立ちする。

「なんだとー?」

「野郎!許せねー!」

「なめやがって!」

「言わせておいていいんすか!?」

「戦車でカチコミ行きましょう!」

 隊員たちはよほど気に入らなかったのか怒りを露わにしていく。

「みんな、落ち着いて。実際、言われたわけじゃないから」

「あくまで、ドゥーチェとフェニーチェによる冷静な分析だ」

 アンチョビの隣にいた陽菜ともう1人の副隊長、ペパロニが言い放つ。

 ドゥーチェ(イタリア語で統師などの意味)とはアンチョビの事であり、フェニーチェ(イタリア語で不死鳥という意味)はメッザルーナの事である。

「そうだ、熱くなっても意味はない」

「確かにな」

 メッザルーナの隣にいたマリーダとチェーザレも続くように言い放った。

「そう、私とメッザルーナの想像だ」

「なんだー」

「あーびっくりした―」

 アンチョビの言葉に、隊員は安心したように胸を撫でおろす。

「いいか、お前たちー。根も葉もない噂に惑わされるな。私たちはあのマジノ女学院とクルトガ学院に勝ったんだぞ!」

「そうだ、アンツィオとアルディーニの強さは伊達じゃない!」

 アンチョビとメッザルーナは自信満々に叫ぶ。すると、更に隊員の士気が上がる。

「「苦戦しましたけどね」」

「「勝ちは勝ちだ」」

 陽菜とマリーダ、ペパロニとチェーザレが続くように言い放つ。

「そう。ノリと勢いは何も悪い意味だけじゃない。このノリと勢いを2回戦に持っていくぞ!次の相手はあの西住流率いる大洗連合だ」

「確か『凛祢』って奴も、凄いって聞いたぜ!」

 強気のアンチョビと冷静なメッザルーナが言うと隊員は不安そうな表情を見せた。

 西住流と聞いて自信を無くす者。

 凛祢という名前に、過去に超人であったことを知るものも居た。

「心配するな……いや、ちょっとしろ。なんの為に3度のおやつを2度に減らしてコツコツ倹約して貯金をしたと思っている!」

「お前らはおやつが多すぎるんだよ。1日何回食ってんだ……今回だって3割以上も俺たち持ちさせただろ」

 アンチョビの言葉に、メッザルーナは思わずツッコミを入れた。

「あれ?なんで倹約したんだっけ?」

「知らねー」

「前に話しただろ!それは秘密兵器を買うためだ!」

 流石のアンチョビも少々取り乱す。

「ウチにもスゲーやつが来たってことだ!」

「おー!」

 メッザルーナの言葉に次々に歓声が上がる。

「ごほん。秘密兵器と、諸君の持っているノリと勢い……少しの考える頭があれば。我々は必ず悲願の3回戦出場を果たせるだろう!」

「みんな驚け!これぞ俺の……俺たちの、アンツィオ&アルディーニの!」

 2人は隊員たちの後方にシートを被せた『秘密兵器』を指さす。

 隊員も後方に目をやる。

「「必殺秘密兵器だ――」」

 2人の叫びは昼休みを告げるチャイムによって遮られた。

 同時に隊員たちは食堂と売店に向かって一直線に向かう。

「あらら……やれやれだな」

「おい、お前ら。それでいいのか!?」

 アンチョビが言うが、帰ってきた言葉は「売り切れが早いから」という言葉だけ。

 その場に残ったのは両校の隊長と副隊長のみだった。

 アンチョビとメッザルーナは、みんなを見てため息をついた。

「自分の気持ちに素直な子が多いのがこの学校のいい所なんだけどな」

「確かにみんな食べることが好きだからな……特にアンツィオの女子は。ウチも負けてねーけどさ」

 アンチョビもメッザルーナも隊員の事はよく理解している。

 だからこそ、強く怒ったり、厳しくする事は言わない。

 そんな優しい隊長である2人だからこそ、チーム内で信頼され、愛されているのだ。

 

 

 戦車を探し出した日から数日の時が過ぎた。大洗男子学園の会議室ではヤブイヌ分隊とあんこうチーム、かにさん分隊、カメさんチームによる作戦会議が行われていた。

「河嶋ー、次のステージどこ?」

「はっ!アンツィオ&アルディーニ連合との対戦は山岳島、荒れ地ステージに決まりました!」

 杏の問い掛けに、桃が気をつけして答える。

「はーい、質問。アンツィオとアルディーニってどんな学校?」

「えーと、確かどちらも創始者がイタリア人だったかな。今のアルディーニの隊長はその創始者の子孫であり、27代目だったはず」

 沙織の質問に英治が答えた。

「イタリアの文化を日本に伝えようとしたイタリア風の学校だ。だから戦車道と歩兵道もイタリアのものが中心。さきの対戦では快速戦車CV-33と突撃砲セモベンテM41。歩兵用の武装はピエトロベレッタ火器工業の銃ばかりですね」

「CV-33って私大好きです。小さくて可愛くてお花を活けるの花卉にぴったりです」

「花卉には大きいだろ。ヒマワリでも活けるのか?……それにしてもファブリカ・ダミル・ピエトロ・ベレッタなら拳銃やアサルトライフルが中心だな」

「ベレッタシリーズか……」

 雄二の説明を聞いた華が嬉しそうに言うと翼がツッコんだ。隣にいる八尋も携帯端末でベレッタ社のデータを見る。

「CV-33……うまく良ければヒートアックス1つで撃破できるな、C-4なら3ついや……エンジン冷却部を狙えば2つで。みほはどう思う?」

「うーん……」

 凛祢とみほはお互いに意見を出し合い、作戦を立てる。

「新型戦車と銃を取り入れたって聞きましたが……」

「ちょっとわからないです」

 宗司の言葉にみほは言葉を濁して言った。

「1回戦には出なかったもんね」

「だからこその秘密兵器か……ま、いっか」

「「それも、すぐに分かると思うけど」」

 珍しく凛祢と杏の声が重なった。

「どうして?」

「なんでだ?」

 そんな2人を見て、全員が問い掛ける。

「秋山優花里!」

「坂本塁!」

「「ただいま帰還しました!」」

 勢いよく会議室の扉が開き、塁と優花里がコンビニの制服姿で現れる。

「「ほら来た」」

 また、凛祢と杏の声が重なる。

「おかえりー」

「おお、待っていたぞ」

「お疲れ様」

 杏と桃、柚子が2人の傍に歩み寄る。

「2人とも、その格好……また?」

「ま、そういうことだ。お疲れさま塁、優花里」

 2人の格好を見て、みほも理解した。

 元々、知っていた凛祢も声を掛ける。手違いととはいえ、凛祢も1回戦の相手、サンダース&アルバート連合の情報収集に参加していたからだ。

「はい!」

「今回は2人でしたが、やってきました!」

 2人は満面の笑みを浮かべてUSBメモリを見せる。

 

 

 そして、生徒会の準備のもと、映像をスクリーンで映し出す。

 まず最初に『秋山優花里と坂本塁のアンツィオ&アルディーニ連合潜入大作戦』というロゴが表示された。

 前回も思ったが、よく短時間でこれだけ編集できるものだ。

 すぐに映像が切り替わり、アンツィオ高校とアルディーニ学園の日常生活の様子が写る。

「ワンパターンで申し訳ありませんが、潜入を開始します!」

「やけに良い匂いがしますね。チーズとかバジルでしょうか?」

 優花里と塁の声がスピーカーから響く。

 すぐにお手洗いでアンツィオとアルディーニの制服に着替えた2人は行動を始める。

「それにしても賑やかですね。屋台がたくさん出ています」

「学園祭か、なんかでしょうか?」

「あのー!」

 辺りを見渡した後、優花里がアンツィオ高校の生徒に声を掛けた。

「私たち転校してきたばかりでよくわからないんですが。今日って何かのイベントでしたっけ?」

「……?いつもの日だよ」

 優花里の質問にアンツィオの生徒が答える。

「随分と出店多いですね」

「ウチとアルディーニはいつもこんなもんだって。色々な部とか委員会が片っ端から店出してんの。どっちも貧乏だからねー」

 続くように質問した塁に、もう1人答える。

「そうそう、少しでも予算の足しにしないといけないわけよ」

 ジェラートの出店の男子店員も続いて教えてくれた。

「そうでしたか、どうもであります!」

「なんか、賑やかで楽しそうな学校ですね!」

「はい!」

 カメラ越しに塁と優花里が言った。

 すると、優花里が戦車の形を模した屋台を発見しカメラで映し出した。

「あれって戦車ですね!セモベンテに似てます!」

「行ってみましょう!」

 2人は急ぎ足に屋台に向かう。

「アンツィオ名物ー、鉄板ナポリタンだよー!美味しい美味しいパスタだよー!お、そこのカップル食べてきな」

「か、カップル?私たちは別に!」

 店主をしていたコック姿のペパロニは優花里と塁を見て声を掛ける。優花里も少し驚きながら否定する。

「隠すな隠すな。美味しいピッツァもあるぜー!」

「いや、本当に違うんですけど……とりあえずその鉄板ナポリタンとピザを1枚下さい」

 続くように奥からピッツァを両手に持って現れたコック姿のチェーザレが笑いながら言うが、塁が苦笑いして否定した。

「「了解!!」」

 ペパロニとチェーザレは元気いっぱいに返事して調理を始める。

 あっという間にパスタとピザが出来上がり2人は同時に皿を前に出した。

「はい、300万リラ!」「はい、500万リラ!」

「「えぇ、いつの為替レートですか!?」」

 ペパロニとチェーザレの言い放った金額に優花里と塁が戸惑いを見せる。

「「いや、300円と500円だけど」」

「そ、そうですよねー。あはは」

 塁は財布から千円札を手渡し、お釣りを受け取る。

「では、さっそく……おいしいです!」

「こっちのピザもすごくうまいです!」

「「だろ!?」」

 優花里と塁が夢中で食していると、ペパロニとチェーザレは満足そうに見ていた。

「ところで、戦車と言えば新型が入ったって聞いたんですけど……」

「優花里殿!?それは早いですって」

「「なに?それをどこで聞いた!?」」

 さっきまでの営業スマイルとは異なり一瞬にして塁と優花里を睨んだ。

「ひっ!すみません……」

「お前ら通だねー!ここだけの話っつーか。超秘密なんだけどー、重戦車を手に入れたんだよ!」

「そうそう、聞いて驚け!ええーと、イタリアのなんだっけ?」

 だが、すぐに笑顔に戻りペパロニとチェーザレはフライパンを手にハイテンションで話始めるが、戦車を名前を忘れたのかお互いの顔を見合った。

「わすれたんですか?」

「イタリアの重戦車と言えば『P40』ですか?」

 塁と優花里が言った。

「そう!それそれ!P40をそりゃあ、気も遠くなるくらい昔から貯金しまくって、ようやく私たちの代で買えたんだ!」

「アルディーニも少しだけ金出したけどな」

「それは、言うなよチェーザレ。お前らの鉄砲と違って私たちの戦車は値段が高いんだよ!」

 ペパロニとチェーザレは平然と戦車や武器の話をしていた。

「アンチョビ姉さんとメッザルーナの兄貴……ウチとアルディーニの隊長なんだけど。もう喜んじゃって、毎日コロッセオのところ走り回ってるよ!」

「燃料もあんまないのに、よくやるよな!ウチもたしかベレッタの新型アサルトライフルを買ったって言ってたぜ!奮発しちゃってさ!」

「「へー、そうなんですか」」

 ペパロニとチェーザレのトークをしっかりと映像データに残す優花里と塁。

「じゃあ、僕たちはこれで……」

「ありがとうございましたー」

「「アリーヴェデルチー!」」

 ペパロニとチェーザレは最後まで笑顔で手を振っていた。

 そんな2人に優花里と塁も手を振って別れ、コロッセオに向かう。

「気持ちのいい人たちでしたね」

「はい。あ、カルロベローチェであります!箱乗りしてますよ、まるで小さいカバさんチームみたいであります!」

 隣を走行していくCV-33を見て優花里は目を輝かせていた。

 言われた通りコロッセオの階段を上り、中に進むとそこには多くのアンツィオ校とアルディーニ校の生徒たちの姿があった。

 中央にはさきほど話していたイタリアの重戦車P40も停車している。

「これが、我々の秘密兵器だ!」

「見ろ!ベレッタの新型!ARX-160だ!」

 P40の上に立ち鞭を振るアンチョビとベレッタARX-160を見せるメッザルーナが居た。

「うおー、P40の本物初めて見ました!」

「ベレッタARX-160といえば、かなり新しい銃ですよ!これを2丁も持っているなんてすごいです!」

 塁と優花里も興奮を隠しきれずに夢中でP40とベレッタARX-160を撮影していく。

「「はははは!!」」

 更にアンチョビとメッザルーナは高笑いして見せる。

 すると次々に歓声が上がっていく。

「これさえあれば、大洗連合など軽く一捻りだ!」

「お前ら、ノリと勢いで行くぞ!最後まで、ついて来いよ!」

「ドューチェ!」

「フェニーチェ!」

 2人の言葉に、アンツィオとアルディーニの生徒が歓声を上げた。

「現場は大変な盛り上がりです!」

「このノリと勢いを聞いてるとこっちまで盛り上がっちゃいます」

 優花里と塁がカメラ越しに笑みを見せる。

「ドューチェ!」

「フェニーチェ!」

「ドューチェ!!」

「フェニーチェ!!」

「ドューチェ!!!」

「フェニーチェ!!!」

 全員がその名を呼んで片手を上げたり下げたりしていた。途中から塁と優花里も混ざって歓声を上げていた。

「「以上、秋山優花里と坂本塁がお送りしました」」

 その言葉のあと、出演や撮影、編集などほとんどが秋山優花里と坂本塁と書かれたエンドロールが流れた。

 

 

「ちょっと、強そうですね」

「俺はあのテンションにはついて行けないよ」

 映像を見終えた後、最初に華と翼が口を開いた。

「ちょっとじゃないだろ!」

「案外、アンツィオやアルディーニも侮れない相手だ!」

 桃や雄二は危機感を感じたのかそんな事を言った。

「私、P40初めて見ました」

「これはちょっと真面目に考えないとだめだねー」

 みほや杏も同じように感想を漏らした。

「P40が1輌とセモベンテが3輌。CV-33は今回は6輌だとするなら敵歩兵の編成は……」

 そんな中、凛祢は1人、敵戦力の分析をしていた。

 

 

 

 後日、アンツィオ&アルディーニ連合との試合に向けた訓練が行われることとなった。

 大洗女子の戦車は、エルヴィンやカエサルたち歴女のシェアハウスでP40のデータを調べたみほの資料を元に対P40の模擬戦。

 一方、歩兵隊は凛祢と塁、淳、翔を相手に疑似工兵戦をする。

 セレナという女の情報より、歩兵用の武装はベレッタシリーズの拳銃やアサルトライフル、軽機関銃が中心であることがわかった。そして、もう1つ、敵にも工兵が数人いると言うことだ。正直言って工兵は対人戦闘が苦手なため、白兵戦に持ち込めば簡単に倒せるが、爆薬による奇襲をかけられれば逆に何もできぬまま戦闘不能にされる恐れがある。そのための工兵対策だ。

「んで、むこうの装甲はどんな感じ?」

 パイプ椅子に座っていた杏がみほに問い掛ける。

「P40の全面はカバさん(Ⅲ突)なら相手の有効射程距離の外から貫通可能です」

「心得た」

 みほが説明するように言うとカエサルがマフラーを揺らして返事した。

「んじゃ。ピヨピヨ(P40)の相手はカバさんチームだね」

「ピヨピヨ?」

「P40の事ですか?」

 杏の言葉に梓と柚子が質問するように呟く。

「だから、ピヨピヨか」

「可愛い名前ですね。重戦車なのに……」

「重戦車つっても、P40ならⅣ号とそう変わんねーだろ」

 英治や宗司、雄二も苦笑いしながら言った。

「こっちも、対工兵戦闘訓練をするぞ」

「ちょっと待ってください。なんで俺にSG550を使わせるんですか?」

 ベルトのホルスターにベレッタM92Fを差し込む英治を見て、凛祢が手を上げる。

 凛祢の手には整備が完了したSIG SG550 Sniperがある。英治が整備部に急いで整備と修理をさせたものだ。

「敵が工兵だとしても銃は使ってくるだろ?凛祢の戦闘スタイルが例外なだけだ」

「あのー最初にも言ったけど、俺射撃は苦手なんだよ。拳銃以外撃つのが本当に下手なんだよ」

「それでも、アルバート戦でバンバン撃ってただろ?狙撃まで決めて」

「あれはたまたま当たっただけだよ」

 続くように辰巳やアーサーが言ってくるが凛祢は否定するように返答した。

「いいじゃないですか。あくまで模擬戦なんですから」

「まあ、そうなんだけど……ライフルか……」

 亮にまで言われ、仕方なくSIG SG550を手に準備する。

「ピヨピヨ役はどれがいい?」

「P40ならⅣ号が比較的近いかと……」

「んじゃ、ピヨピヨはⅣ号。アヒルさんがカルロベローチェ、歩兵は葛城君を含めた工兵部隊。んー、もう少し歩兵の敵役が欲しいなー」

 杏はみほに聞いた後、考える仕草を見せる。

「それなら、俺たちでいいですか?」

「そうだな、オオワシなら数的にも問題ない。じゃあ、始めよう」

 志願した辰巳を見て、英治が決定する。

 いよいよ、アンツィオ&アルディーニ連合対策の模擬戦が始まった。

 Ⅳ号の側面には「ピヨピヨ」と書かれた大きなシールを貼っている。

 八九式も側面に「かるろべろーちぇ」と書かれたシールを貼っていた。

 その後を、凛祢と塁、翔の搭乗するキューベルワーゲンとオオワシ分隊の4人の搭乗する九五式小型乗用車が走行している。

 更に、100メートルほど後方を38t、Ⅲ突、M3の戦車3輌と、キューベルワーゲン、九五式小型乗用車、ジープが走行している。

「どんな作戦でいきますか?」

「工兵はどれだけ短い時間で陣地を確保し罠を仕掛けるかが重要だ。おそらくアルディーニは過去の試合では、砲で抜けない装甲をヒートアックスでカバーしていたはず。英治会長、俺たちは森林の方に行きましょう。試合のステージは森林もあるらしいですし」

 塁に聞かれ凛祢は説明した後、英治に通信を送る。

 CV-33の数を見る限り、工兵が居なければ勝つことは難しかったはず。実際、セレナの情報でアルディーニは結構な数の工兵を用意していた。

「わかった。歩兵隊は旋回して森林へ」

「「「了解」」」

 すると、歩兵隊は戦車から離れ、森林へと侵入していく。

 それから一日中森林ではC-4による爆発音が響いていた。

 

 

 日も傾き始め、ようやく訓練が終了した。

 凛祢や塁、辰巳が訓練での戦死判定の回数をまとめる。

「死亡回数言うぞー。八尋22回、翼14回、俊也18回。アーサー19回、シャーロック17回、景綱16回、ジル19回。英治会長7回、宗司副会長16回、雄二広報30回、亮やヤマネコ分隊の4人はそれぞれ26回、25回、24回、26回、20回……いくらなんでも死に過ぎです。特に雄二広報です」

「お前ら何度も爆殺するからだろ!」

 凛祢の報告を聞いて、それぞれが反省点を出し合っている中、雄二が叫ぶ。

「緑間先輩、爆殺!」

「「「爆殺!!」」」

「やめろ!」

 笑いながら歩が言うと続くようにアキラや礼、翔が言った。そんな1年生に対して雄二がまた叫ぶ。

「爆殺するのが、工兵だし」

「ですよねー」

「工兵って楽しいですね!俺も兵科を工兵にしようかなー」

 凛祢と塁が平然と答える横で、翔がそんな言葉を口にした。

「やめとけ。工兵と砲兵は特別な座学が必要なんだ。前にも言っただろ?ヒートアックスやC-4爆弾が工兵しか初期装備にできないのはそういう理由なんだ」

「へー、そうなんですか」

 凛祢の説明に納得したように亮や銀といったヤマネコ分隊のメンバーが首を縦に振る。

「凛祢さん、こちらはそろそろ訓練を終了するんですけど……」

「了解。こっちも終わったからすぐガレージに戻るよ」

 みほからの通信に答え、凛祢たち歩兵隊もガレージへと帰還した。

 

 

 翌日、凛祢と八尋、翼は次の授業に向けて教室を移動していた。

「なー凛祢ー。どうしたら被弾率って減るんだー?」

「避ければいいんだよ。八尋の腕なら無闇に突撃しなければ十分減らせるぞ」

「あ、あの……」

 八尋の質問に凛祢は淡々と返答した。

 目の前で声かけようとしていた生徒に気づかぬまま。

「簡単に言うんじゃねーよ。避けて、被弾率を減らせたら苦労しないんだよ!」

「八尋はサバゲ―の感覚が抜けてないからだろ?」

「だよなー。どうするかなー」

 翼の言葉に八尋は考える仕草を見せる。

 八尋は、動き自体は悪くはないが、どうしても被弾率が高いという問題があった。

 サバイバルゲームの癖だと言っているがサバイバルゲームをしたことのない凛祢には分からなかった。

 強いて言えば、サバイバルゲームは被弾しても痛いだけで失格にはならない。

 しかし、歩兵道は被弾によって失格になるという違いがある。だからこそ、八尋は被弾しやすいのかもしれないな。

 翼はそんなに被弾率は高くないのだが、それも兵科や立ち回りの違いだろう。

「ま、次の授業までアドバイスを考えておくよ」

「サンキュー」

 凛祢が言うと八尋もそう言って笑みを浮かべた。

「はぁ。今日も話しかけられなかった……いや、へこたれるな、アイン!」

 アインという男子生徒は誓うように言った。

 

 

 一方、大洗男子学園の会議室には英治とそれぞれの委員会役員3人が集まっていた。

「今日集まってもらったのは他でもない。図書委員長『赤羽(あかば)』、風紀委員長『青葉(あおば)』、保健委員長『黄場(きば)』。君たちにも歩兵道をしてもらうよ。委員長組としてね」

「「「はー!?」」」

 英治の言葉に納得が行かないのか赤羽、青葉、黄場の3人は声を上げる。

「ふざけるなよ、生徒会長!」

「いくらあなたの頼みでも!」

「限度があるってもんだ!」

 続くように3人が言った。

「委員長方……やってくれるよな?」

「いっ!」

「ぐっ!」

「うっ!」

 英治が睨むと委員長組の表情は引きつっていた。

 3年間、同じ学園にいた彼らは知っている。今の英治は本当に怖いと。

「もう一度聞きます。やってくれるよな!?」

「「「……はい」」」

「ありがとう。感謝するよ」

 委員長組の答えを聞いて英治は席を立つと、感謝の言葉を述べて去って行った。

 会議室には赤羽、青葉、黄場の3人だけが残る。

「たぶん杏会長の影響だろうが、まさか英治が俺たちまで巻き込むなんて」

「杏会長は無茶ばかり言いますからねー。可愛い顔してね」

「勘弁してくれ。歩兵道なんて野蛮な競技したくないよ」

 赤羽に続くように青葉と黄場もため息をついた。

「ま、まあ歩兵道やってるといい男になって、モテるって聞きましたし!これを気に僕たちも心身ともに成長できるんじゃないですか?」

「そこじゃねーよ、青葉」

「やるしかないのか……クソ生徒会役員共が」

 青葉の言葉にあからさまに嫌そうな黄場が返すと赤羽も頭を掻いた。

 

 

 数時間後、訓練後のガレージ内では大きな轟音が響いていた。

 その正体は、整備と修理途中の分解された戦車だった。ワイヤーで持ち上げているところを機械の操作ミスでガレージ内の棚に転落させたと言ったところだ。

 幸いケガ人はなく、他の戦車や駆動車にも被害はなかった。

「馬鹿野郎!殺す気か!」

「あー、悪いヒムロー」

 あと少しズレていたら潰されるところだったヒムロが怒りを露わにして叫ぶと、戦車の車内に居たヤガミが顔を出す。

「あらら」

「なにやってるんですか……」

「「貴様ら徹夜で修理だ!」」

 柚子や宗司が呟くと、桃と雄二が叫ぶ。

「それは無理ってもんですよ!ゆっくり時間かけて直させてください!ねぇヤガミ?」

「そうですよ!俺たちもようやく戦車の整備に慣れてきたんですから!」

 ヘルメットを被って車内にいたナカジマとヤガミが仲良さそうに答える。

「なにー!?」

「まあまあ、自動車部と整備部が言うんだからしょうがないよ」

 杏がやれやれと呟いた。

「そのかわり、修理が完了したらこの戦車私たちで動かします!どうも相当マニアックな気がしますよ、これ」

「その時は、俺たちも歩兵道やりますんで!」

 ナカジマとヤガミがそう言うと整備に戻って行く。

 

 

 それから数日経ち、ようやくやってきた2回戦当日。

 早朝、薄暗い空には日が登り始めていた。

 学園艦の自宅で特製制服に着替えた凛祢は携帯端末を胸の内ポケットしまい、腕時計をつける。

 淹れたてのコーヒーを飲んで一息つく。

「鞠菜、行ってくるよ。……あんたなら楽しんで来いって言うだろうけどさ」

「凛祢ー!」

 仏壇の前で鞠菜の写真に向かって話しかけていると、英子の声が玄関から聞こえてきた。

「じゃあ、行ってきます」

 最後にそう言い残して玄関へと向かう。

 靴を履いて、鞄を持って外に出る。

 外には英子の姿があった。

「遅いわよ。寝坊でもしたの?」

「寝坊なんてするわけないだろ。それにまだ十分、余裕があるだろ」

「早めに行動しないとお姉ちゃんがうるさいの」

「そうだな、照月教官怖いから」

 英子の言葉を聞きながら大洗女子学園に向かう。

「今回は間に合わなかったけど、次の試合から私や秋月も九七式で参加できるって」

「ふーん。そうなのか」

「だから、勝ちなさいよ。参加しないで終わるなんてゴメンなんだから!」

「わかってるよ。流石に勝たなきゃ衛宮も怒るだろ」

 英子に釘を刺すような言葉に凛祢は頭を掻いた。

 負けるつもりはないが、どうするか。

 アンツィオ&アルディーニ連合はいままで戦った連合とは全く異なる戦闘になるはず。

 臨機応変に対応する聖グロ&聖ブリ連合。戦力で圧倒的な力を持ったサンダース&アルバート連合。

 比べてアンツィオ&アルディーニ連合は、こちらと同様、戦車の性能が特別いいわけではないため、歩兵の立ち回りが大きな力となる。もしかしたら、こちらと似た戦術を取ってくるかもしれない。

「不知火なんてどうでもいいのよ!あんな奴……」

「よっぽど嫌いなんだな……俺たちは負けないよ、それに覇王流は最強の流派だしな」

「ふふ、なんだか奇妙な気分ね。自分の家の流派を誰かが使っているなんて」

「そうか?俺は覇王流が最強の流派だって信じてるよ」

「ありがと。しっかりね!」

 凛祢と英子はそう言い合って大洗女子学園の校庭に建てられたガレージ前に到着するのだった。




いつも読んでいただきありがとうございます。
今回のオリキャラの隊長メッザルーナに副隊長のマリーダとチェーザレの3人です。
カルパッチョは最初、陽菜ちゃんって名前だったらしいんですが苗字はわからなかったでイタリアにかけて伊多利という安直なものになってしまいました。
感想や意見があったらどんどん下さい。次回は8月中で上げるつもりです。


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第12話 工兵VS工兵

どうも、UNIMITESです。
最近、暑い日が続いてますね。と思ったら大雨が降ったりと大変ですね。
今回からアンツィオ戦です、では本編をどうぞ。


 対戦ステージである山岳島、荒れ地ステージに到着した大洗連合は早々と試合準備を始める。

 前回と同様に観客席付近にはアンツィオとアルディーニ校の売店らしきものが見えた。今回はピザやパスタが食べられるようだ。観戦に来ていた不知火もパスタを手に観客席の方へと歩いていく。観客席には英子や秋月の姿もある。

 対戦相手であるアンツィオ&アルディーニ連合も到着し準備を始めているそうだ。

 他の歩兵隊も準備を進めている。

 凛祢もバックパックにヒートアックスを入れていた。

 ようやく準備を終えて、FiveseveNとコンバットナイフを腰のホルスターに収納して、バックパックを背負う。

「……」

 凛祢は無言で手元を見る。

 手元には前回も使った防弾加工外套があった。

 凛祢は、これが嫌いだった。

 一度しか使っていないが……何故かって?

 確かに性能は前回使ってみて理解している。だが……。

 だが、しかし。これは見た目が相当アレなのだ。

 何と言うか……少し恥ずかしい。

 ふと周りに目を向けると、一番防弾加工外套を装備すべきだと思う相手を発見する。

「アーサー!こっちきてくれ」

「なんだい?」

「これ、お前が装備しろ」

「嫌だよ、そんな黒いマントは騎士王らしくないから」

 アーサーは首を横に振る。

「は?お前な、色とかより、まず性能だ」

「いやだいやだ、僕は白と青の服しか身に着けないんだ!ほら、青セイバーだから」

「意味わからないこと言ってないで、いいからつけろ!大体、特製制服だって紺色だろうが」

 アーサーの答えを無視してアーサーに防弾加工外套を押し付けた。

「これで良し」

「ぐぁぁ……あ、アンリマユに、汚染されていく……オルタになってしまう」

「何言ってんだお前……てか、もう時間か。お前は剣使うんだからそれ付けとけよ」

「はいはい……」

 防弾加工外套を装備したアーサーは膝をついて震えている。凛祢は少し引き気味にアーサーを見た後、腕時計に目を向けた。

 思った以上に時間が経っていたことに気づき、みほや英治たちの元に向かう。

「遅いぞ葛城。って防弾加工外套は?」

「アーサーがどうしても欲しいって言うので譲りました」

「本当か、葛城?押し付けたんじゃないのか?」

「そんなわけありませんよ」

 雄二にそう言われるが凛祢も嘘を言って返した。

 アーサーは大洗唯一、金属剣を武器とする歩兵だ。防弾加工外套はあった方がいいだろう……多分。

「凛祢さん、そろそろ作戦の最終確認を」

「了解だ。えーと……」

 凛祢はみほと共にステージの地図を確認しながら作戦地点を決めていく。

「ここはこうで……」

「ここはこうだな……」

 すべての確認を終えようとした時、アンツィオとアルディーニが居る方の陣地から1輌の駆動車が向かってきた。

 装甲車には映像で見たツインテールの女と長身の男の姿がある。

「頼もうー!」

「おう、チョビ子!」

「チョビ子と呼ぶな!アンチョビ!」

 知り合いなのか、杏はいつものノリでアンツィオの隊長アンチョビをアダ名で呼んだ。

 が、違ったようだ。チョビ子というのは杏の勝手な呼び方みたいだ。

「よう、三日月。元気そうじゃないか」

「お前さんたちもやる気満々じゃねーか。あと、今はメッザルーナで通ってるからよ。そう呼んでくれや」

 英治もアルディーニの隊長、メッザルーナと挨拶を交わす。

「どうしたんだ?安斎、三日月」

「アンチョビと呼べ!」「メッザルーナって呼べって」

 桃が言うと2人はまた呼び名にツッコむ。

「試合前の挨拶に決まってるだろ!私はアンツィオのドュ―チェ・アンチョビ!」

「で、俺がアルディーニのフェニーチェ・メッザルーナだ。よろしくな」

「そっちの隊長は!?」

 アンチョビとメッザルーナが名乗りを上げると、続いて問いかけるように言った。

「西住!葛城!」

「「はい」」

 桃に呼ばれ凛祢とみほがゆっくりと前に進む。

「ほう、あんたがあの西住流か」

「西住みほです」

 アンチョビの前でみほが名乗る。

「ふーん、お前が隊長か……案外、男前な顔してんな」

「どうも……隊長の葛城凛祢です」

「え?周防凛祢じゃなくて?」

「あ、えっと周防は昔の苗字です。今は葛城で……」

「そっか……複雑なんだな。悪い悪い」

 メッザルーナはそれ以上聞くのはまずいと思ったのか、詮索してこなかった。

 時々、居るんだよな。超人だった頃の……周防鞠菜の弟子、『周防凛祢』って呼んでくる人が。

 あまり、気にしないけど。

「ふん!相手が西住流だろうが島田流だろうが超人だろうが私たちは負けない!いや勝つ!」

「そ、そうだな。俺たちは勝つ!」

 アンチョビに続くようにメッザルーナも意気込みを語る。

「「今日は正々堂々勝負だ!」」

「「はい!こちらこそよろしくお願いします」」

 隊長同士が握手を交わす。

 すると、さっきからずっと周りを見渡し歩き回っていたアンツィオの生徒がいるのを発見する。

 金髪の長い髪が特徴的な少女。顔つきも美人なほうだった。

「ん?ひなちゃん?」

「たかちゃん!久しぶりー!」

 少女を見たカバさんチームの装填手、カエサルが名前を呼ぶと少女も同様に名前を呼んだ。

「「たかちゃん!?」」

 ワニさんチームの景綱、ジルが思わず叫んだ。

「たかちゃんって誰だ?」

「カエサルの本名だよ。鈴木貴子だそうだ」

 アーサーが呟くとシャーロックがパイプ煙草を銜えながら答えた。

「良く知ってるな」

「生徒の名簿に書いてあったよ、小さくね……それにしても似合ってるじゃないか、アーサーオルタ君」

 続けてシャーロックはそう言うと携帯端末で写真を撮る。

「あ、おまえ!てか、オルタとか呼ぶな!」

 アーサーは逃げるシャーロックの後を追う。

 一方、カエサルと陽菜は感動の再開を果たしたかのようにお互いの手を握り合う。

「ひなちゃん、久しぶりー!」

「たかちゃん、本当に戦車道始めたんだね。びっくりー、ねぇどの戦車に乗ってるの?」

「秘密ー」

「えー、まぁそうだよねー。敵同士だもんね」

 カエサルとひなは周りの事を忘れ、2人の世界で話を始める。

「たかちゃんって誰ぜよ」

「カエサルの実名――だっ!」

「やっと捕まえた!」

 おりょうの質問に答えようとしたシャーロックをアーサーが後ろから押し倒した。

「なにやってるんだ、2人とも」

 ジルがやれやれと呟いた。

「でも、今日は敵でも私たちの友情は不滅だからね」

「うん、今日は正々堂々戦おうね」

「試合の前に会えてよかった。もう行くね、ばいばい」

「ばいばい!」

 カエサルと陽菜は別れの挨拶をしてそれぞれの陣地に戻る。

「たーかちゃん」

「カエサルの知られざる一面発見だな」

「ヒューヒュー」

「なにが、何がおかしい!」

 エルヴィンたちも茶化すようにカエサルに言った。カエサルも赤面して叫ぶ。

 それから数分後、試合開始を告げるアナウンスとサイレンがステージ中に響き渡った。

「戦車前進(パンツァーフォー)!」

「全軍、歩兵疾走(オーバードライブ)!」

 みほと凛祢の声を合図に大洗連合の戦車5輌とキューベルワーゲン、ジープ、九五式小型乗用車が前進を始める。

 今回は整備や修理の都合上、それぞれ1輌を投入している。大洗女子学園のガレージにはもう1輌ずつ置かれている。

 そのため比較的敏捷性に長けたヤブイヌ分隊とオオワシ分隊は前回同様徒歩だった。

「なんで俺たちは徒歩なんだよ!」

「比較的、訓練慣れしてるからだ」

「葛城隊長!速攻はいつからいいですか?」

「無闇な速攻は逆効果だが。さて、どう出てくる……?」

 凛祢も真剣な表情で戦場を駆ける。

 

 

「「アーヴァンティー!」」

 アンチョビとメッザルーナの掛け声と共にアンツィオ&アルディーニ連合も前進を始める。

「いけいけ!どこまでも進め!勝利を持ち得るものこそパスタを持ち帰る!」

「行くぞ、お前ら!勝利の炎で、ピザを焼け!」

 更にアンチョビとメッザルーナの掛け声に士気を上げていくアンツィオ&アルディーニ連合。

「最高っすよ、アンチョビ姉さん!メッザルーナの兄貴!いくぜ、お前ら!」

「イタリアの伊達男たちの力が伊達じゃねーってこと見せてやるぜ!」

 チームのムードメーカー的存在の副隊長であるペパロニとチェーザレが通信機越しに叫ぶ。

「イタリアの伊達男って別に強いとかいう意味じゃないんだけど……」

「そうですよね……」

 マリーダがやれやれと言うと陽菜も苦笑いしていた。

「テメーらモタモタすんじゃねーぞ!このペパロニに続け!」

「俺たちが一番槍だ!地獄の果てまで進めー!」

「おー!」

 2人の掛け声に合わせて、歩兵や戦車部隊員も叫びを上げる。

「よし、このままマカロニ作戦開始!」

「もうやるのか、アンチョビ姉さん!面白れぇ、工兵部隊は俺と来い!」

 アンチョビの指示に、チェーザレも数人の歩兵を連れて別れる。

「カルロベローチェ各車及び歩兵隊はマカロニ展開してください!」

「オーケー。マカロニ特盛で行くぜ!」

 陽菜の指示を聞いて、カルロベローチェに乗車していた戦車部隊員と歩兵部隊が慣れた手つきで、作戦準備を始める。

 機動力の高いカルロベローチェとバイク『ベスパ』で陣地を確保し、作戦を始めるようだ。

 

 

 一方、山道を進んでいた大洗連合も八九式と凛祢、オオワシ分隊を偵察に出していた。

「葛城隊長、どうする?」

「そうだな……ここにも敵兵はない。流石に一直線に突撃はしてこないようだ」

 オオワシ分隊の分隊長、辰巳と凛祢が単眼鏡を手に周辺を偵察しながら八九式を追いかける。

 単眼鏡は双眼鏡を真っ二つにした、狙撃銃のスコープの様な形状している道具だ。

 凛祢も最近、この道具を知ったのだが、歩兵道に置いて双眼鏡よりも持ち運びが便利な単眼鏡の方が使いやすいらしい。

「先行するアヒルさん、オオワシ状況を教えてください!」

「十字路まで、あと1キロほどです」

「今のところ敵兵はなしです」

 みほの通信に、典子と辰巳が応答する。

「わかりました。十分注意しながら開道の様子を報告してください。開けた場所に出ないよう気を付けて」

「了解。……ずっとコートの外行くよ!」

「「「了解」」」

 典子が言うと、アヒルさんチームのメンバーも返事をする。

 開道に到着した八九式のキューポラから上半身を乗り出した典子が双眼鏡で周辺を偵察する。

「はっ!セモベンテ2輌、カルロベローチェ3輌。もう十字路に配置済みです!」

「十字路の北側だね」

 典子の報告に、通信手の沙織が敵の位置を復唱する。

「カルロベローチェが3に、セモベンテが2か」

「でも、歩兵は何処にいるんですか?」

「よく見ろ、セモベンテの近くの木陰から少しだが頭が見えてる。全員茂みにでも隠れているんだろ」

 漣が問い掛けると、凛祢が単眼鏡で確認しながら呟く。

「あんな的、スリーポイントを決めるより的がデカいぜ。狙い撃つ!」

「待て、敵戦車は5輌いる。それに歩兵の数がわかっていない以上、この戦力で攻めるのは危険だ」

「それはそうだけど……」

 狙撃準備に入ろうとする迅を凛祢が止めに入った。

「みほ、どうする?」

「攻撃は待ってください!もしかしたら全集警戒の可能性があります!」

 凛祢の問いにみほが通信機越しに答える。

「アンツィオだぞ!?ありえん、ここは速攻だ!」

「突撃いいねー」

 通信を聞いた桃と杏が言った。

「突撃か、やってやるぜ!」

「雄二、訓練中そう言って28回も死亡したじゃないですか」

「うるせっ!」

 やる気の雄二に、宗司が苦笑いして呟く。

「わかりました。十字路に向かいましょう。ただし、進出ルートは今のまま行きます」

「直行しないんですか?」

 近くで通信を聞いていた優花里が問い掛ける。

「ウサギさんチームとヤマネコ分隊のみ、ショートカットで先行してもらいます。まだP40の所在も分かりませんから」

「フィールド抑えつつ行くってことか」

「はい!」

 みほの指示の元、部隊が別れていく。

「ウサギさん、十分気を付けてください」

「ヤマネコもな。無理はするな、できる事をすればいい」

「「はい、がんばります!」」

 みほと凛祢が通信を送ると、梓と亮が返事をする。

「こちらアヒルさん、変化なし。指示を下さい」

「本隊が向かいますので引き続き待機でお願いします」

 典子の報告を聞いた沙織が返答する。

「動きがないな」

「エンジン音もないし、切ってんのかな?」

「……!」

 偵察を続ける辰巳と漣が呟く。

 そこで凛祢はある事に気づく。

 おかしい。いくら陣地を確保しているとはいえエンジンまで切るか?

 そもそも、頭だけを覗かせている歩兵達だってまったく動かないのはなぜだ?

 凛祢は違和感を感じずにはいられなかった。

 その頃、ウサギさんチームのM3とヤマネコ分隊のジープは猛スピードで森林内を走行していた。

 操縦手の桂里奈と礼は真剣そうに操縦している。

「速い、速い!練習の成果だね!」

「いやー、もっと飛ばして!」

「イケイケー!」

「アクセルシンクロだ!」

 走行速度にテンションの上がるあゆみや優季、続くようにアキラと歩が叫ぶ。

「お、おいスピード落とせ!止まれ止まれ!」

「出過ぎ出過ぎ!もう、開道だよ!」

 亮と梓が叫ぶと開道に顔を出した後にM3とジープは停止する。

「後退しろ!」

 亮の指示に2輌は素早く後退し、森林内に戻る。

「開道南側敵発見!すみません、見られちゃったかも」

「申し訳ありません!」

「発砲は?」

 2人の通信に素早くみほが問い掛ける。

「「ありません」」

「くれぐれも交戦は避けてください」

 みほがアヒルさんチーム同様の指示を出す。

「了解」

「わかりました」

 返事をした、ウサギさんとヤマネコも偵察に取り掛かる。

 すると、地図に目を向けた優花里が口を開いた。

「1番の要衝を完全に抑えるなんて流石、アンツィオとアルディーニですね!」

「持久戦に持ち込もうというのでしょうか?」

 地図に目を向けた華も呟く。

「わざと中央突破させて包囲しようとする作戦かもしれません」

「ノリと勢いを封印して、手堅い作戦に出ましたね」

「ある意味予想外」

 優花里が言うとみほも少し驚いていた。

「おーい、コソコソしてないで打って出ようぜ!」

「駄目だろ。凛祢とみほ隊長の指示なんだから」

 文句を言い始める八尋に翼が言った。

「こんな事なら俺もアヒルについて行けばよかったぜ。凛祢はきっとバンバン撃ち合ってるぜ」

「それはないですよ。アヒルさんの通信には戦闘してるとは一言も……」

「でも、このままだと時間だけが過ぎていくのは確かだな」

 塁が言うと、俊也がそんな言葉を口にする。

「だろ?分かってるじゃねーかトシ。つーわけで行くぞ!」

「だからって突撃するな」

「えー」

 翼に引き留められ八尋は声を上げていた。

「ウサギさん、敵の正確な情報を教えてください」

「はい……って紗希、銀君出過ぎ!」

「こんな時にドジっ子属性出すなよ」

 茂みから敵を確認しようした銀と紗希の頭を強引に下げる。

「カルロベローチェ4輌。セモベンテ2輌が陣取っています。歩兵の姿はありません」

 梓が報告する。

「……おいおい、数が合わないじゃないか」

「どうなってんだ!?」

 翼や八尋も不信感を抱く。

「合わせて11輌もいます」

「P40も居ません、2回戦のレギュレーションでは10輌までと」

 華と優花里も同様に不信感を抱いていた。

「インチキしているのでは?」

「イカサマしてんのか」

 すると、塁と英治が呟いた。

 数の合わない戦車たち。そして、一向に姿を見せない歩兵たち。

 どうもおかしい。発砲もしてこない上にエンジンまで切っている。

 その時、凛祢の不信感が1つの仮説にたどり着いた。

 もしかしたら……

「みほ、アヒルとウサギに攻撃準備をさせろ。出来たら発砲して構わない」

「え、わかりました。ウサギさんとアヒルさんは退路を確保しつつ砲撃準備!準備出来次第発砲してください!」

「反撃されたら退却して構わない!」

 凛祢とみほの声が通信機から響く。

「葛城隊長、大丈夫なんですか?」

 辰巳は思わず凛祢に問い掛けた。

 すると、八九式とM3が発砲を始める。

「俺の仮説が正しいなら……敵は絶対に反撃してこない。するわけがないんだ」

 凛祢が呟くのと同時に砲撃が敵に命中した。

 その瞬間、砲撃を見ていた者すべてが驚きを隠せなかった。

 砲弾が命中したセモベンテやカルロベローチェは爆風で倒れたり、砲撃によって貫通、砕け散った。

 セモベンテとカルロベローチェは……ハリボテによるデコイだったのだ。

「なにっ!?」

「こんなことが!?」

 次々に驚きの表情を見せる大洗連合の生徒たち。

 誤射によって、薙ぎ払われた茂みや木々の陰からはカツラを被った案山子が倒れている。

「偽物だ!」

 ウサギさんチームとアヒルさんチームが同時に叫んだ。

「やりますね、欺瞞作戦なんて」

「それより、デコイでの欺瞞作戦なら敵はもうかなり動いてるんじゃねーか?」

「八尋の言う通りだ。全員戦闘準備はしておいてくれ!」

 凛祢の声が大洗連合全員の通信機、インカムから響いた。

「ということは、おそらく十字路に私たちを引き付けておいて、機動力で包囲か。ウサギさん、アヒルさん、ヤマネコ分隊――」

 みほがアヒルさんチームとウサギさんチーム、ヤマネコ分隊に指示を出す。

「典子、辰巳たち借りるぞ。俺たちの移動力じゃカルロベローチェには無意味だからな」

「了解です!辰巳君、根性だよ!」

「分かってる。後で落ち合おう!」

 典子と辰巳が言葉を交わすと凛祢を含めたオオワシ分隊の4人は八九式と別れる。

「具体的にどうするんだ、隊長?」

「俺たちは、敵工兵部隊を狙う。辰巳たちはいい動きしてるからな」

「「「「了解です」」」」

 漣の問いに凛祢が答える。

 

 

 その頃、ペパロニのカルロベローチェ部隊とベスパに搭乗する歩兵部隊は森林内を高速で移動していた。

「はっはっはっは!」

「今頃、あいつらビビッて十字路で立ち往生してるぜ!戦いはおつむの使い方だ」

「ペパロニ姉さん!」

 ペパロニは勝ち誇った顔で笑っている。

 すると、1人の男子生徒の声が響いた。

「大変です!ティーポ八九が……」

「なんでバレてんだ?……まあ、いいや。ビビってんじゃねぇ!カルロベローチェの機動力にはついてこれぇよ!」

 ペパロニの部隊はそのまま前進を続ける。

 そに後方を八九式が追いかけていく。

「敵戦車4輌と歩兵隊を発見しました。ポイントF24地点を東に向かっています!」

 敵を発見した典子が報告する。

 

 

 時を同じくして偵察に出ていたM3も敵戦車を発見していた。

「2時の方向に敵影!」

「セモベンテとカルロベローチェが1輌!さっきと同じだ、撃て!」

「ちょっと!」

 梓が亮たち歩兵を止めようとする。

「おりゃ!」

 が、梓を無視してあやは足元の砲撃用スイッチを押した。

 M3の放った攻撃はセモベンテの装甲によって阻まれた。

 そう、それは正真正銘本物のセモベンテとカルロベローチェだったのだ。

「げっ!」

「本物じゃん!」

「逃げろ逃げろ!」

 ウサギさんチームとヤマネコ分隊は声を上げて逃走を始める。

 後方からはセモベンテの砲弾とカルロベローチェ、ベスパに搭乗したアルディーニ歩兵隊の銃弾が飛んでくる。

「こちら亮。ポイントA23地点、セモベンテとカルロベローチェそれぞれ1輌発見。今度は本物です!」

「攻撃してしまい、交戦始まってます!」

「大丈夫、おかげで敵の作戦がわかりました。セモベンテとは付かず離れずの距離で交戦してください」

 報告を聞いたみほも指示を出す。

 

 

 そして、凛祢とオオワシ分隊も罠を仕掛けていたアルディーニの工兵部隊10人を発見した。さらにセモベンテが1輌停車している。

「よし、俊也たちに突撃は任せる。開戦後の指揮は辰巳が取ってくれ。俺は後ろからセモベンテをヒートアックスで仕留める」

「「「「了解!」」」」

 オオワシ分隊も返事をして、銃の安全装置を外す。

「こちら凛祢とオオワシ分隊。敵工兵部隊を発見した、これより交戦に入る」

「わかりました。くれぐれも無理はしないようにお願いします、出来る限り時間を稼いでください……凛祢さん、無事に合流してくださいね」

「……了解だ」

 みほとの通信を終えて、凛祢とオオワシ分隊は一度深呼吸をした後、戦闘を開始する。

「これよりあんこう、カメさん、カバさんチームとヤブイヌ、カニさん、ワニさん分隊は直進します。包囲される前にフラッグ車を叩きましょう。当然こちらのフラッグも標的になりますが逆に囮としてうまく敵が側を引き付けてください。それでは皆さん、健闘を祈ります!」

 みほの通信がそれぞれの通信機とインカムから響いた。

 茂みから飛び出した辰巳、漣、淳は敵歩兵との戦闘している。

 百式軽機関銃から放たれた銃弾がアルディーニの歩兵に命中する。

「よし、3人倒した」

「止まるな!動き続けろ!」

 敵歩兵を倒して油断した漣に辰巳が声を掛ける。

「おっと!当らなければどうってこともないな」

「辰巳、後ろだ!」

 淳の視線の先にいた辰巳が後方の歩兵から狙われていた。

 しかし、その歩兵の銃を一発の銃弾が撃ち抜く。続けて放たれた銃弾が右肩に直撃したことで逃げるようにその場を離れる。

 狙撃の正体は迅によるものだった。

「淳、セモベンテに向けて煙幕手榴弾を投げろ!」

「え?了解」

 淳は言われた通り、煙幕手榴弾を投擲した。

 煙幕が立ち込めてセモベンテの視覚を奪う。

 辰巳たちを狙おうとしていたセモベンテの砲手は堪らず驚いた。

 その隙を狙っていたように凛祢が茂みから現れ、跳躍する。

 セモベンテの上に着地すると同時にヒートアックスをバックパックから取り出し、仕掛けていく。

「なんだ?」

「おい、上に誰かいるのか!」

 セモベンテの乗員も凛祢の存在に気づき急発進し始める。

 油断していた凛祢は態勢を崩し、地面に落下して数回転がった。

 もう仕掛け終わっていた凛祢は倒れたまま、リモコンのスイッチを押した。

 瞬時にヒートアックスが起爆し、数秒後にセモベンテからは白旗が上がった。

「よし……」

 すぐに凛祢は立ち上がり、戦闘態勢に入る。

「大洗連合には工兵が1人いるって聞いてたけど。お前が工兵だったんだな」

「……」

 凛祢の視線の先にはアルディーニ学園の副隊長、チェーザレの姿がある。他に残存する敵歩兵は2人。

 倒れているアルディーニの歩兵やオオワシ分隊の漣と淳からは戦死判定のアラームが響いていた。

 辰巳と迅は木陰に隠れて、生き残ってはいるようだった。

「実は、俺も工兵でな。でも、お前みたいに捨て身の工兵は今まで見た事ねーよ。あんな方法でウチのセモベンテを倒すなんてな」

「俺は自分の戦い方ををしているだけだ」

「そうか……でも、お前にはここで退場してもらうぜ!」

 凛祢は右に走ると同時にチェーザレはベレッタM12Sを発砲する。

 銃弾は凛祢の進んだ地面を次々に抉っていく。

 凛祢もホルスターからFiveseveNを引き抜き応戦する。動き回りながらリモコンのスイッチを押した。

 セモベンテに攻撃する前に樹木に仕掛けておいたヒートアックスを起爆させる。

 樹木がチェーザレの方に倒れるがチェーザレも走ってそれを回避した。

 その瞬間、距離を詰めていた凛祢は大きく踏み込む。

「覇王流……」

 右掌打をチェーザレの胸に打ち込んだ。

 チェーザレは何が起きたのか分からなかったが、痛みが体に走るのを感じる。

「あ、がっ……」

「浅いか……」

 うめき声を上げるメッザルーナを確認しながら、凛祢は一歩後退する。

「お前……工兵なのに、なんで……」

「……!」

「凛祢、後ろだ!」

 『直感』と辰巳の声で凛祢は振り向き、敵歩兵の手首を右手で掴み取る。

 更に、左手のFiveseveNのグリップを敵歩兵の顔面に叩きつけた。

 敵歩兵も思わずうめき声を上げる、続けてグリップで腕を叩くと敵歩兵はコンバットナイフを手放した。

 追い打ちをかけるように腹部に5発、発砲すると敵歩兵からアラームが響いた。

「くっそー!」

 チェーザレはやけくそで自動拳銃ベレッタM93Rをホルスターから引き抜くが、凛祢はベレッタを左足で蹴り飛ばした。

「覇王流……」

 凛祢はもう一度、掌打をチェーザレの胸に打ち込んだ。

「うっ……あ」

 チェーザレはその場に倒れると凛祢はFiveseveNを数発撃った。

 FiveseveNが弾切れとなりスライドが後退すると同時にチェーザレからもアラームが響いた。

「葛城隊長!やっぱ凄いですね」

「流石、凛祢だな」

 辰巳と迅が褒めるように声を掛ける。

「り、凛祢?……まさかあんたが周防凛祢!?」

「間違ってないけど今は葛城凛祢だよ」

「それは強いわけだ!くっそー相手が悪かったな、これは」

 チェーザレは負けてしまったのに笑って口を開いた。

「でもさ、こんなに早く奇襲したってことは俺たちの作戦がバレたってことだよな。なんで分かったんだ?」

「理由は2つ。まず数の合わない戦車たち。お前たち、戦車のデコイを間違った数置いたんじゃないか?」

「え?間違えるわけねーだろ。用意していた奴全部置いたんだぜ?」

「それって、何枚かは予備とかだったんじゃないか?」

「あ……ああーー!」

 チェーザレは如何にもやってしまったっという顔で声を上げる。

「次に音がしなかったこと。これは前者が証明されたからこそ分かったことだ、戦車のエンジンを切るなんて、まずあり得ない。それと歩兵が姿を見せなかったこと。せめてエンジン音を録音でもして随伴歩兵の1人でも見せておけばもっとリアリティがあっただろうに」

「おお。そうか、エンジン音や歩兵が姿を見せないとやっぱり不自然なのか……」

 チェーザレは納得したように頷いていた。

「葛城隊長!呑気にアドバイスしてる場合ですか!」

「そうだよ、早く八九式やⅣ号と合流しないと!」

「おっと、悪い悪い。行くぞ!」

 凛祢はサンダースの時と同様に敵の乗り物であるベスパを奪い急ぐようにⅣ号の元へ向かう。辰巳や迅もサイドカー付きのベスパで八九式との合流地点に向かった。

 

 

 一方、アヒルチームの八九式は、カルロベローチェ4輌の部隊を追撃していた。

 砲と機銃での攻撃を続けるが、カルロベローチェはその機動力を活かしてことごとく回避している。

「くそ、しゃらくせぇ!反撃だ!」

 ペパロニの指示にカルロベローチェ1輌が八九式の後方に回り込む。

「バックアタック!」

「はい!」

 典子の指示に砲手のあけびが後方の機銃を発砲する。が、やはりカルロベローチェはすべて回避する。

 更にもう1輌のカルロベローチェも後方に回った。

「スパーラ!!」

 ペパロニの合図に前方の。カルロベローチェは走行しながら車体をターンさせると4輌は一斉に機銃を発砲する。

「「「いてててて!」」」

「痛いのは戦車ですから、とりあえず落ち着いて反撃しましょう!」

 被弾した八九式の車内の3人に妙子がツッコむ。

 そして、八九式が再び発砲を始めるとカルロベローチェは逃げるように速度を上げる。

 八九式の放った砲弾は命中こそしていないものの衝撃で軽量なカルロベローチェをひっくり返していく。

「よっしゃー!」

「バレー部の時代来てるぞ!次だ次!Bクイック!」

 ようやく勢いを取り戻したアヒルさんチームは次々に攻撃をしていた。

「こちらオオワシ分隊の辰巳。八九式のアヒルさんチーム、無事か?」

「え?辰巳君?こっちは大丈夫だよ!」

 妙子の通信機から辰巳の声が響く。

「そうか。漣と淳がやられたが、こっちも敵工兵部隊は潰したから。すぐ合流するぞ!」

「漣君と淳君が?うん、わかった!ポイントR45地点だね」

 典子が言うと通信を終えた。

 

 

 そして、ウサギさんチームのM3とヤマネコ分隊のジープは敵戦車セモベンテとカルロベローチェ、敵歩兵部隊と距離を取りつつ逃走していた。

「逃げてるだけじゃ勝てないぜ!」

「撃てぇ!」

 アキラの声に続いて歩や翔がトンプソン・サブマシンガンを発砲する。

 次々に放たれる銃弾はセモベンテに命中するがその装甲に阻まれ、まったく効いていなかった。

「「「効かねー!」」」

「俺たちの銃でセモベンテの装甲を突破できるわけないだろ!」

「だってさー、展開的に勝てそうじゃね?」

 亮の言葉に歩が言った。

「おい、礼。回り込んじまえ!」

「無茶言うなよ……逃げるので精一杯だよ!」

 アキラの言葉に操縦を担当している礼がため息交じりに言った。

「あ、そうだ。考え方次第だよ。あっちは1輌1つの砲、こっちは砲が2本。あいこじゃん!」

「あーなるほど!」

「なるほどじゃない!」

 優季の言葉にあゆみが納得していると梓が思わずツッコんだ。

 

 

 一方、アンツィオ&アルディーニ連合の本隊は森林の奥で報告が来るのを待っていた。

 なかなか報告が来ない中、痺れを切らしたアンチョビが通信機を手に取る。

「おい、マカロニ作戦はどうなっている?」

「すいません!今それどころじゃないんで、後にしてもらえますか?」

 通信機からペパロニの声が響く。

「ん?なんで?」

「ティーポ八九式と交戦中です!」

 アンチョビの問いにペパロニが答える。

「なに!?おい、チェーザレ。お前の部隊は!?」

「すまねぇ兄貴。俺たちは全滅しちまった!作戦失敗です!」

「嘘だろ!?お前ら本当に十字路にデコイ置いたのか?」

 メッザルーナは耳を疑った。こんなにも早く自軍の部隊が1つ潰されたからだ。

 デコイを置いて欺瞞作戦まで計画していたのにも関わらず、行動が早かった。

「置きましたよ。全部!」

「「は?」」

「11枚全部置いたら数合わないからってことで、即バレちゃいました。さっき敵に指摘されましたから、あの凛祢って奴賢いっすね!」

 ペパロニが自信満々に言うと、続くようにチェーザレが答える。

「あいつら本当にアホだったのか……だが、凛祢がチェーザレの方に行ったならこっちに来るまで時間がある。過ぎたことを気にしてもどうにもならないか。アンチョビ!」

「分かっている。あいつらは……もうペパロニとチェーザレのアホ!出動だ、敵はそこまで来ている!2枚は予備だってあれほど言ったのに」

 メッザルーナはため息をついた後にベスパのエンジンを掛ける。

「「はい」」

 アンツィオ&アルディーニ連合のP40、セモベンテ、カルロベローチェの3輌と25人の歩兵たちは急いで前進を開始する。

 そして、2分も経たないうちに大洗連合とアンツィオ&アルディーニ連合の本隊がすれ違う。

「ん?」

「お?」

「隊長車とフラッグ車発見!」

 お互いに姿を確認した両チームはすぐに方向転換する。

「あのパーソナルマークは……たかちゃんの」

 Ⅲ突のエンブレムを見たセモベンテの装填手、陽菜はある事に気が付く。Ⅲ突のエンブレムであるカバのイラストは友人、カエサルのチャットアプリのアカウントの画像と同じだったからだ。

「75㎜長砲身は私に任せてください!」

「任せた!」

 陽菜は自ら志願し、Ⅲ突の相手を引き受ける。

 そして、大洗連合のⅣ号と38t、随伴歩兵のカニさん分隊、アンツィオ&アルディーニ連合のP40とカルロベローチェ、随伴歩兵の7人がベスパで後を追う。

「八尋、塁、Ⅳ号のほう任せた。俺と翼はアーサーたちを援護する」

「お前が指示するな!副隊長は俺だぞ!」

「行きますよ、八尋殿!というかいつの間に副隊長になったんですか」

 俊也と翼はワニさん分隊の援護に回り、八尋と塁はⅣ号に飛び乗る。

 開道から外れ森林を突っ切る様にⅣ号、38t、八尋と塁、カニさん分隊とP40、カルロベローチェ、アルディーニ突撃部隊の砲身間射撃が始まる。

 Ⅲ突とセモベンテの突撃砲対決も同時に開始される。Ⅲ突の砲は43口径75㎜戦車砲40型であり、この砲ならばセモベンテの装甲を抜くことは容易であり、戦車砲ならばⅢ突が上だった。

 突撃砲であるセモベンテの砲は18口径75㎜榴弾砲を搭載している。Ⅲ突の側面なら貫通可能であり、正面からならば防楯を狙うことで有効である。

「あの戦車まさか陽菜ちゃん?……ワニさん分隊、悪いんだけど随伴歩兵頼んでもいい?」

「カエサル?」

「お願いだ、あのセモベンテとは1対1で戦いたいんだ!」

 カエサルは真剣な顔でエルヴィンの顔を見る。

「……初歩的なことだよ、友よ。親友とは全力でぶつかり合いたいと言うことさ」

「シャーロック。それ言いたかっただけだろ」

「そう言うことか。了解した」

 シャーロックの言葉に他の随伴歩兵やⅢ突車内の隊員も理解する。

「坂本と東藤は俺の指揮に従ってくれ。いくぞ!」

 アーサーたちもアルディーニの歩兵と戦闘を開始する。

 すぐにⅢ突とセモベンテの激しい撃ち合いが始まった。

「敵は側面は晒さないはず!正面なら防楯を狙って!」

「どこでもいいから当てろ!Ⅲ突の主砲ならどこでも抜ける!」

 装填手である陽菜とカエサルが叫ぶ。お互いに正面からぶつかり、ほぼセロ距離で撃ち合う。

 どちらかが引けば、引いた方が確実に負ける。そんな怒涛の撃ち合いだった。

「みんな行くよ!」

「さっさと目標を殲滅し、陽菜の援護に行くぞ!」

 シャーロックはパイプ煙草を銜える、マリーダも身構えると歩兵隊も戦闘を開始する。

 

 

 森林内に入ったⅣ号とカニさん分隊のキューベルワーゲンはフラッグ車である38tの盾になる様に横を走行する。カルロベローチェと随伴歩兵部隊のベスパも小さな車体でP40の盾になる様に横を走行している。

 お互いの砲が空を裂き、轟音が鳴り響く。雄二も必死に狙って銃を発砲するが激しい揺れに照準が合わず銃弾は空を舞うだけだった。

「へへ!そんなのじゃ当たらねーよ!」

 メッザルーナは肩にかけていたベレッタARX160の銃口をキューベルワーゲンに向けると発砲をする。彼にもバイクの揺れと言うディスアドバンテージがあるにも関わらずメッザルーナの銃弾は次々にキューベルワーゲンの側面に命中していく。

「あいつ、相当戦い慣れてるな……バイクに乗りながら当ててくるなんて。マズイな」

「宗司、どうにかしろよ!」

「無茶言わないでください。転輪を狙われないように操縦するので精一杯です!」

 英治はメッザルーナの腕を高く評価していた。射撃の腕も相当だが、バイクの操縦もかなり慣れているようだった。

 そして、これだけの技術を持ちながら、彼も凛祢と同様に突撃兵ではなく……工兵なのだから。

「見せてやるぜ、アルディーニ工兵の実力。アンチョビ――」

 メッザルーナはインカムで指示を出す。

 

 

 カルロベローチェ4輌と対決していた八九式だったが、カルロベローチェの不死身っぷりに翻弄されていた。

「ああーー」

「また来た!」

 撃っても撃ってもカルロベローチェは次々に目の前に、そして後方に現れる。

「もうキリがない!」

「豆戦車が不死身ですー!」

 忍やあけびが悲鳴を上げる。

「安心しろ、カルロベローチェは不死身じゃない!白旗判定の出てない車両を立て直してるだけだ!」

「うおー、オオワシ参上!」

 妙子の通信機から声が響いたかと思うと、後方からサイドカー付きのベスパに搭乗したオオワシ分隊の辰巳と迅が現れる。

「ほえー?」

「つまりだな――」

 驚いているあけびに説明しようとするが。

「車体の軽さで衝撃を緩和してるんですね」

「回転レシーブ……」

「要するに根性だ!」

「説明は最後まで聞けよ……まあ理解してるようだからいいや」

 全員理解しているのかそんな言葉を呟いていた。

「ウィークポイントを的確に狙って撃てば倒せる。それくらいスリーポイントを決めるより楽なもんだ、アヒルさんチームならやれる!」

「そうだ!俺はスリー打たねーけどな。援護するために乱れ撃つぜ!」

 ベスパの操縦をしていた迅の言葉に辰巳は後方からカルロベローチェの履帯を狙う。

「よっしゃ!佐々木、もう一度最初からだ!」

「バレー部!」「バスケ部!」

「「ファイト!」」

「「「「おー!!」」」」

 アヒルさんチームとオオワシ分隊は気合を入れるように叫ぶ。

「砲を支えれば、戦車が揺れても照準は安定する!」

「はい!」

「気合入れろ!佐々木さん!」

「ウィークポイントは……エンジン冷却部!」

 あけびが照準器を操作しカルロベローチェに照準を合わせた時だった。

「ああ!」

「ええ!?」

 前方から大洗連合のM3とジープが現れる。

 瞬時に忍やが操作し、正面衝突することなくすれ違う。

「あっぶねー!」

「まじで死んだかと思った……」

 お互いに後方を走行していた辰巳たちと亮たちも流石に驚いた。

 気を取り直してあけびは再びカルロベローチェに照準を合わせる。

「撃てぇ!」

「はい!」

 あけびがトリガーを引くと八九式から砲弾が放たれる。

 砲弾は1秒にも満たない間にカルロベローチェに命中し、空中を待った後に地面を滑る。被弾し、横転したカルロベローチェから行動不能の白旗が上がった。

「次、フロントライト!」

「はい!」

 すぐに装填を終えた八九式から砲弾が放たれた。立て続けにカルロベローチェに命中。ひっくり返ったカルロベローチェからも白旗が上がる。

「すっげー、俺たち必要なかったんじゃないか?」

「そんなことないぜ!」

 辰巳の放った銃弾が履帯に命中しようやく1輌の動きを止める。

「ダンクシュートだ!」

 続けて持っていたC-4爆弾を投げると、C-4爆弾はエンジン冷却部に張り付く。

「爆破!」

 リモコンを押すと起爆しカルロベローチェから白旗が上がる。

「ナイスシュート!」

 迅と辰巳は思わずハイタッチする。

「調子に乗りやがって!」

 唯一残っていたペパロニのカルロベローチェはなんとか逃げ回っていた。

「セモベンテ1輌、カルロベローチェ3輌走行不能!」

 アナウンスがフィールドと観客席に響き渡った。

 

 

「なんだって!?おい、包囲戦は中止!とか、言っているうちにCVがやられた!」

 アンチョビが頭を抱えていると並走していたカルロベローチェが被弾し白旗が上がった。

「やべぇ、丸裸じゃねーか!一同、フラッグの元に集え!戦力の立て直しを図る!分度器作戦を発動する!」

「もらった!」

「やらせるか!」

 英治がメッザルーナの一瞬の隙を狙うが、放った銃弾はまたもアルディーニの歩兵によって阻まれる。

 被弾した歩兵は態勢を崩し盛大に地面に倒れ、戦死判定のアラームが響く。

「くっそ、これで4度目だぞ!」

「ようやくだ!食らいやがれ!」

「させるか!」

 メッザルーナがリモコンのスイッチを押そうとした時だった。

 茂みからベスパに乗って現れた凛祢がメッザルーナのベスパ目指して突撃した。

「凛祢!?」

「凛祢殿!?」

「「葛城!?」」

「凛祢さん!」

 衝突の直前にベスパから飛び離れた2人はお互いに地面に投げ出される。

「無茶しやがる……」

「工兵を止めるならあれくらいしないとな……」

 無傷とはいかなかったが、戦死判定を受けていない2人。

 凛祢とメッザルーナは起き上がり、お互いに歩兵武器を構える。

「おもしれぇ。お前とはタイマン張りたくなった。アンチョビ、俺はバイクをやられた。あとのことは任せる」

「うぅ……わかった!その代わり負けるなよ!」

「おうよ!」

 メッザルーナは通信をして、凛祢を見た。

 凛祢も身構えてメッザルーナを見る。

 

 

「分度器作戦ってなんでしたっけ?」

「んー知らん」

 ペパロニのカルロベローチェは逃げるようにP40の元へと向かう。

「あれ?」

「逃げちまったぞ?」

「ここらが限界だな……」

 辰巳がため息をつくと、迅がベスパを停止させる。

「辰巳君、どうしたの?」

「燃料が、もうない」

 辰巳の言う通り、ベスパの燃料メーターはEを指していた。

「……」

 仕方なく2人は八九式の上に飛び乗り、掴まると八九式はカルロベローチェを追った。

 同様にM3を追っていたセモベンテとカルロベローチェも同様に追撃を辞めて、P40のいる地点を目指すのだった。

 

 

 観客席では真剣そうな英子と秋月、不知火が試合を観戦していた。

「なあ、葛城ってなんで格闘で戦ってるんだ?」

「彼は英子の家の流派、照月流格闘術を習っているからよ。それでも彼の戦闘スタイルは変わってるけどね」

 不知火の質問に、秋月が答える。

「へー。歩兵って言うくらいだからもっとバンバン撃ち合うものだと思ってたけど」

「あれでも結構撃ち合ってるわよ。葛城君は銃よりCQCに長けてるからね。照月流もあるし」

「照月流はお爺様の先々代から歩兵道を視野に入れた流派になったからね。さっきの凛祢が使った技は『流星掌打』と『彗星封じ』って技だけど『彗星封じ』なんかは元の技から歩兵道用に改良された技なのよ。そんなのを繰り返しているうちに最強流派だとか、『覇王流』なんて呼ばれるようにもなったけど……」

 英子は説明の後にため息をついた。

 覇王流・彗星封じ。またの名を火縄封じとも呼ぶ。武器を持った相手に対して用いる技であり、武装解除の技だ。ナイフや刀と言った刃物なら手首を、拳銃や小銃ならば砲身を掴み取り、攻撃を封じた後に顔や腹に攻撃をして怯んだ隙に武器を奪い取るのが主流。昔は火縄銃や銃火器に対して用いられた技だが、現在は改良されいて刃物に対しても用いられる。

 覇王流・流星掌打。烈風拳と同様に足から練ったエネルギーを乗せて打ち込む場合と急所を目掛けて素早く打ち込む場合と言う2つのパターンで使い分けられる技。汎用性が高く、他の技へと応用される技。彗星封じに織り込むことも可能。凛祢にとって最も得意とする技。

「俺も照月流を習うことできるのか?」

「やめておきなさい。格闘術はすぐに習得できるようなものじゃない。現に凛祢だって照月流の技をすべて習得できてるわけじゃないもの。それに私はあなたに教えるなんて御免だしね」

「そっか。どちらにしても習得は無理か……」

 英子が釘を刺すように言うと、不知火は空を見上げる。

「セレナ、凛祢たちは勝てると思う?」

「現状の勝機は大洗にあるけど、アルディーニの隊長さんは葛城君と同じタイプだからね……戦闘スタイルは違うけど」

「同じタイプ?」

「……今は工兵だけど、元突撃兵なのよ、彼」

 英子の問いに、秋月は笑みを浮かべて言うのだった。




今回も覇王流の技が2つ登場しました。登場予定の技は残り3つあります。
黒森峰戦の前にオリジナルキャラの紹介回なんかをしようとも思ってます。
アンツィオ戦は次で決着する予定です。
1対1の対決をすることになった凛祢はメッザルーナに勝てるのか?
原作だと大洗はアンツィオに圧勝するんですけど……。
今回も読んでいただきありがとうございました。
何でもいいので感想や意見を頂けると嬉しいです。


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第13話 爆ぜよ工兵

どうもUNIMITESです。
なんとか8月中にもう一話投稿することができました。
今回でアンツィオ戦も後半です。
では、本編どうぞ


 目標のフラッグ車であるP40はもう目の前。大洗連合のⅣ号と38t、カニさん分隊と八尋、塁はP40に攻撃を開始するのだった。

「P40が単独になりました。援軍が来る前に決着をつけます!」

「はいよ!で、どうやるの?」

 杏が問い掛けるとみほも通信を送る。

「凛祢君は大丈夫かな?」

「大丈夫です。凛祢さんならきっと……勝ちます!」

 心配そうな顔をしていた沙織にみほは改めて前を見つめた。彼女自身も凛祢の勝利に確証があるわけではない。アルディーニ学園は毎年優勝争いに出てくるほどの学校ではない。しかし、メッザルーナという歩兵は個人の歩兵能力において、高校歩兵道界でもベスト10に入るほどの実力者だったのだ。

 それでもみほは信じて託した。葛城凛祢という歩兵を信じて。

「待っててください!ドューチェ!フェニーチェ!」

「カルロベローチェ、足速いなー」

 猛スピードでP40の元へ向かうカルロベローチェ。その後を追う八九式とオオワシ分隊。

 一方、一騎打ちの凛祢とメッザルーナも戦闘が始まっていた。

 甲高い音と共にお互いのナイフがぶつかり合う。そんな時、メッザルーナが笑みを浮かべた。

「やるじゃねぇかよ……」

「そっちこそ……」

「超人と呼ばれていた男が、なんで大洗なんて歩兵道のなかった学校にいるんだよ?お前ほどの男なら黒森峰にいてもおかしくないぜ!」

「……っ!」

「ぐおっ!」

 凛祢は奥歯を噛み締めてメッザルーナの頬をFiveseveNのグリップで殴りつけた。

「今の俺は超人じゃない……」

「いってーな!」

 メッザルーナも負けじと凛祢の腹部を蹴る。

「ぐっ!」

 凛祢も鈍い痛みを感じるが、こんな痛みは照月教官の蹴りに比べればなんてこともない。瞬時に立て直し、ベレッタARX160を構えようとするメッザルーナの左手を、ナイフを持つ右手でブロックする。

「なにっ!?」

「覇王流……」

 工兵部隊と戦った時と同様に顔面にFiveseveNのグリップを叩きつける。覇王流・彗星封じだった。

「うっ!」

 膝をついたメッザルーナの右手に握られているベレッタARX160を後方へと力いっぱい蹴り飛ばした。

 だが、メッザルーナもすぐに立て直して凛祢の腕を掴み、頭突きをかましてくる。更に凛祢の左手のFiveseveNを奪い取ると弾倉を抜いて、茂みの方に投げ捨てた。その動きは、まるで彗星封じのような動きだった。

「っ!残りの武装は……」

「ふん……どうしたもう終わりか?」

「まだ、負けるつもりはない……」

 凛祢とメッザルーナはお互いに銃を失い、残る武装はコンバットナイフと手榴弾。ヒートアックスくらいだった。

 それでも、凛祢には撤退と言う選択肢はない。この男は自分よりも……強い。

 たとえ自分が負けたとしても、みほたちがアンツィオ高校のP40を倒した時点でこちらの勝利となる。

 ならば自分にできる事は、彼をここで食い止める事だった。

 凛祢は再びメッザルーナに攻撃を開始する。

 

 

 一方、セモベンテとカルロベローチェ、アルディーニ歩兵の搭乗するベスパを追いかけていたM3とヤマネコ分隊の搭乗するジープ。

「むこうが合流する前に頑張ってやっつけるよ!」

「俺たちは随伴歩兵を倒すぞ。バイクならタイヤを狙えば勝手に転ぶ!」

「アイアイサー!」

「やっと撃てる!」

 ウサギチームとヤマネコ分隊も攻撃を開始する。

 M3の砲が火を噴くが、セモベンテとカルロベローチェにはなかなか命中しなかった。

 一方、ヤマネコ分隊のアキラと銀は随伴歩兵のベスパのタイヤにしっかりと銃弾を命中させていた。

「ドューチェの位置まであと1キロ!ってまた歩兵のほうがやられたんだけど!」

「気にせず進め!」

 セモベンテとカルロベローチェは歩兵を犠牲にしながらも前進していく。

 また1人、アキラの射撃でベスパが態勢を崩し、歩兵が転倒する。

「やりぃ!」

『僕たちって狙撃の才能あるかも!?』

 アキラは歩や礼に自慢するように言うと、銀もメモを見せる。

「あーもう!」

「なんで当たんないの?って腕だよね……」

 M3の車内ではあゆみとあやが当たらない砲撃に困っていた。

「やっぱ止まって撃とう!急がば回れだよ!」

「俺たちはどうすればいい?」

「亮くんたちは気にせずに敵歩兵の数を減らして!」

 梓の指示でM3は一度停止した。ジープはそのまま走行を続ける。

「了解!アキラ、銀いけるか?」

「当たり前だ!」『ここは見せ場!』

 2人もやる気満々に親指を立てて合図する。

「でも、どうするの?」

「砲が2本あるんだから、そいつで誤差を調節すればいいんじゃないか?」

 あゆみが問い掛けるとアキラがアドバイスする。

 すると銀が亮にメモを見せる。

「銀が言うには、1発目は調節するために撃って、調節後に2発目を撃てだって」

 亮も銀のメモを口に出す。

「あや、撃って!」

「はいよ!」

 M3が発砲する。

 砲弾は坂を上るカルロベローチェの左斜め上に飛んで行き、数十メートル先の地面を抉った。

「やっぱり外れた!」

「えっと、右に1メートル、左に50㎝修正して!」

「うん!」

「撃て!」

 あゆみが照準を修正し、再び発砲すると砲弾は吸い込まれる様にカルロベローチェのエンジン部に命中した。

 カルロベローチェからは白旗が上がる。

「当たった!」

「凄ーい!」

 桂里奈と優季が驚いている。

「やればできるじゃねーか」

『ウサギさんが初撃破だよ!』

 アキラが言うと、銀もそんなメモを見せた。

「あや、あゆみ次を狙って!」

「うん!」

「逃げられた!」

 2人が照準器を合わせようとするがセモベンテは坂を上り終え、奥へと消える。

「追うよ!落ち着いて冷静に!」

「梓、西住隊長みたいー」

「確かに、少し似てきたんじゃないか?」

 優季と翔が呟いた。

 桂里奈の操縦の元、M3は前進を始める。

 

 

 その頃、陽菜の搭乗するセモベンテとカエサルたちの搭乗するⅢ突は真っ向から撃ち合う。

 だが、お互いの砲弾は命中せずに彼方へと飛んで行く。

「次で決着付けてやる!正面で撃ち合った直後に――」

「後ろに回り込む、装填の速さで決まる!」

 陽菜とカエサルの考えは同じ、親友との戦いに終止符を打とうとしていた。

「うおお!」

 アーサーの刀剣がアルディーニ歩兵のナイフとぶつかり合う。

「ふん!ナイフなんてな、僕にとってはオモチャみたいなものだよ!」

 刀剣の重さと、剣術の技量でアーサーは、また敵歩兵を倒した。

「よし!」

「負けるか!」

 アルディーニ歩兵も負けじとアサルトライフル『ベレッタAR70/90』を撃つ。

「しまった!ぐぁぁ!」

 次々とアーサーに浴びせられる銃弾。

 油断していたアーサーは悲鳴を上げて倒れる。

「なにやってんだ!」

「まったく……あいつは!」

 戦闘中のジルは急いでアーサーの元に向かう。

 シャーロックも向かおうとするが――。

「お前の相手は俺だ!」

「くっ!」

 逃がすまいとマリーダがナイフ攻撃をしてくる。その攻撃によってシャーロックの銜えていたパイプ煙草は地面に落下した。

 すると、マリーダはパイプ煙草を足で踏みつける。

「あ……」

「こんなものを銜えるなんてふざけているのか?そもそもシャーロックホームズなんて、ただのご都合主義の探偵だろ?」

「僕がふざけてる?そんなわけないだろ。そして……シャーロックホームズを馬鹿にするな!」

 シャーロックはパイプ煙草を踏まれたことと名探偵シャーロックホームズを馬鹿にされたことに腹を立てていた。

「……え?」

「おふざけは終わりだ。君とはここでで決着をつける!」

「ふ、ふん!いいだろうやってやる!」

 マリーダも少し圧倒されたがシャーロックに銃を向ける。

「あーあ。シャーロックがマジギレモードになっちゃったな……」

「食らえ!」

「邪魔だ!」

 景綱に向かってきたアルディーニの歩兵を俊也が殴りつけてFALを発砲し、とどめをさす。

「おい、シャーロックの奴どうしたんだ?」

「今はマジギレしてるから放っておいた方がいい。あいつ、シャーロックホームズの話になると人が変わるからな」

 俊也が問い掛けると景綱は苦笑いして答えた。

「アーサー!」

「……」

 ジルが呼ぶと、アーサーは瞬時に体を起こし自分を撃った歩兵にマイクロUZIを発砲する。

 数十発発砲して、被弾した歩兵から戦死判定のアラームが響く。

「持っててよかった防弾マントだな……」

「生きてるなら生きてるって言えよな」

「これがなかったらやられてたと思う」

 アーサーは改めて防弾加工外套を受け取って置いてよかったと思っていた。

「敵歩兵は……ってもう1人だけじゃないか」

「あれはシャーロックに任せろって言われたからな」

 周りには戦死判定を受けたアルディーニ歩兵が倒れている。残りはマリーダだけだった。

 援護に回っていた翼がアーサーや俊也の元に駆け寄る。

「なんで撃たないんだよ?」

「一騎打ちを横から撃つなんて騎士の誓いに反する」

 アーサーはマイクロUZIの弾倉を交換した後、ホルスターに収納する。カリバーンも鞘に納めてシャーロックを見守っていた。

 他のメンバーも手出しせずに2人の一騎打ちを見守っていた。

 

 

 逃走していたP40の車内ではアンチョビが、大洗連合の姿がないことに気づいていた。アンツィオは随伴歩兵も全員失い本当に1輌だけだった。

「ん?追ってこないぞ?……一体どこに?」

 アンチョビは森林内を警戒してよく見ると38tの姿を確認する。

「……いた!2時の方向に敵フラッグ車がいる!いけ!」

 そのまま攻めるように指示を出すとP40は逃走していく38tの後を追う。

「待ち伏せらしきⅣ号の姿はありません!」

「囮かと思ったが考えすぎか……見せてやるんだ。アンツィオは弱くない。じゃなかった、強いということを!目指せ悲願のベスト4じゃなかった、優勝だ!」

 アンチョビは意気込みを叫ぶがP40の砲撃を38tはことごとく回避する。

 負けじと38tも砲撃するがやはり命中しない。というか、撃った砲弾がP40の遥か上空を過ぎ去っていた。

「はーずれー」

「たまには当ててよ桃ちゃん」

「今は挑発行動中だからこれでいいんだ!」

 杏や柚子の言葉に桃が言い返す。どうやら砲手である桃の命中率は相当低いらしい。

「西住ちゃん、そっちはどんな感じ?」

「もうすぐ到着します!キルゾーンへの誘導、よろしくお願いします!」

 みほが最後の指示を出した。

 

 

「「お前にだけは!」」

「負けられない!」「負けない!」

 シャーロックとマリーダはお互いに頬を殴り合いよろめく。

 先に立て直したマリーダがベレッタARX160を撃つ。シャーロックは銃弾の直撃を受けて地面に倒れこむ。

「もらった!」

「うおお!」

 シャーロックも右手に力を込めて握る。次の瞬間、シャーロックは右手で掴んだ砂をマリーダに向けて投げる。

 砂は無防備だったマリーダの目を一時的に潰した。

「ぐあっ!くそ、姑息な手を!」

「はああ!」

 追撃するように腹部目掛けて拳を見舞う。

 更にベレッタARX160を奪うと撃つのではなく銃を杖の様にして肩、膝、腹部に一撃ずつ叩きつける。

 最後に胸倉と腕を掴み、背負い投げするとマリーダはそのまま気絶してしまった。シャーロックも限界だったのかその場に倒れた。

 2人からは同じアラーム音がが辺りに響いていた。

「結局、引き分け?」

「うーん、シャーロックの方が1秒遅かったから勝利じゃないか?」

「そうだな。これはシャーロックの勝利でいいだろ」

 アーサーやジル、景綱はシャーロックの姿を見てそう言った。

「理解に苦しむぜ。なんだってこいつらは1騎打ちなんてしたがるんだ?全員で叩けば確実に勝ちだろ」

「俊也の言い分も分かるよ。でも勝ちよりも優先するものがあるんだ。少なくともアーサーたちにはな」

 文句を漏らした俊也に翼が言った。

 Ⅲ突とセモベンテもお互いに一直線に道を進んで行く。2輌の距離がゼロとなる瞬間、お互いの車両は最後の砲弾を放った。

 爆風と轟音が辺りに響き渡り、2輌は黒煙に包まれるがその車体からは2本の白旗が上がっている。

 同士討ち。そう、こちらは相討ちという結果になった。

 

 

「葛城!」

「メッザルーナ!」

 また、ナイフがぶつかり合う。

 もう何度目かもわからない、お互いに相当な回数の攻防を続けている。

「覇王流……」

 凛祢が足払い技、紫電脚を放つ。が、メッザルーナはなんとかその場に踏みとどまる。

 すると、メッザルーナも低い体勢からアッパーカットを打ち放つ。

 だが、凛祢は紙一重でアッパーを回避する。

「これでも駄目か……葛城凛祢、恐ろしい男だ」

「……お前もな」

 2人とも、心身共にボロボロである。だが、戦闘慣れしているメッザルーナが僅かに有利だった。

 凛祢の戦闘能力は、たった2か月間の経験と過去の感覚だけ。

 その差を埋めるのは正直、難しい。

 そんな中、凛祢は自分自身の感覚が研ぎ澄まされていくのを感じられずにはいられなかった。

 戦闘中、追撃するメッザルーナのナイフ攻撃、パンチ、蹴り、それらを受け流していた。

 メッザルーナの動きが、どこを狙うのかわかる。

 再び凛祢がメッザルーナの攻撃を回避する。

「なんで当たらねぇんだ……」

 疲れを見せ始めるメッザルーナ。

 その隙をついて凛祢は腹部に蹴りを入れる。反射的に腹を抑えるメッザルーナの顔面に烈風拳を見舞う。

 烈風拳がよっぽど効いたのかメッザルーナは距離を取ってうずくまる。

「……」

 凛祢も息を切らしながら、そんなメッザルーナの姿を傍観する。

 ようやく、起き上がったメッザルーナは笑い声を溢した。

「ふはは、ここで全て終わらせる!この距離なら必中だ!」

 そう言ったメッザルーナの手にはさきほど蹴り飛ばしたベレッタARX160がある。

「なにっ……!」

 凛祢も一瞬驚く。そして理解する。

 後方に下がったのは距離を取るためじゃない。蹴り飛ばした銃を回収するためだったのだと。

 メッザルーナが引き金を引いたことで、弾倉に残っていた十数発の銃弾が銃口から吐き出される。

 その瞬間、凛祢は『直感』で体を捻る。

 銃弾は数発だけ凛祢の手足に命中し、何発かは体を掠めていった。

 凛祢はその場に倒れるが戦死判定のアラームは鳴っていない。しかし、体の疲労とダメージでほとんど動けない。

 そんな凛祢の左手があるものに触れる。

 視線を向けると……自身もよく使う起爆用リモコンがある。

 凛祢とメッザルーナがベスパでぶつかり合った際にメッザルーナの手から離れた物だった。

 もしも、メッザルーナがこの周辺にヒートアックスを仕掛けていたなら……。

 今このスイッチを押せば相討ちくらいには持っていけるかもしれない。

「あれは……やめろ!そいつを起爆させるな!お前も失格になるぞ!」

「……」

 凛祢はリモコンを掴んだ時、メッザルーナの声が響く。

 メッザルーナの焦る様子を見る限り、やはり周辺にはヒートアックスが仕掛けられている。しかも、自分も爆発に巻き込まれる範囲内に。

 選択の余地などなかった。

「……爆ぜろ」

「なっ!」

 メッザルーナも目を疑ったが、もう動ける状態ではなかった。

 凛祢がリモコンのスイッチを押すと、森林内に仕掛けられていたヒートアックスが次々に起爆する。

 起爆したヒートアックスは4つ。

 2つ目の爆発に巻き込まれた2人から戦死判定のアラームが鳴った。

「自爆ってのは褒められたことじゃないぜ……」

「俺はもう限界だった。引きわけるかあのまま負けるかの選択しかなかった」

 2人は数メートル飛ばされた先で大の字になって地面に倒れていた。

 身体には爆風による痛みと戦闘の疲労が圧し掛かっている。

「それじゃあ、どっちが勝ちかわからねぇじゃねぇか」

「俺よりメッザルーナの方が強いよ」

「いいや、凛祢は2年生だろ?なら1年の訓練で俺より確実に強くなる。あーあ、今年こそ千代美に優勝の頂を見せてやりたかったんだけどな」

「……安斎って人と仲いいのか?」

 凛祢は思わず問い掛けた。

「仲がいいって言うか、千代美とは目標が同じだったのさ。俺たちがアルディーニで歩兵道を始めた頃はひどかったもんだ。戦車はCV33だけで、資金はないし武器も数丁だけ。それこそ最初はお前みたく拳銃とナイフだけで戦っていたさ。でも、千代美がそんなアンツィオやアルディーニをここまで立て直してくれた」

「……そっか。でも、今のアンツィオとアルディーニがあるのは安斎さんだけじゃなくメッザルーナの頑張りもあったからじゃないか?俺はよく知らないけどさ、千代美さん1人じゃここまでは来れなかったと思う。たとえ影で支えていただけだとしてもメッザルーナという存在が居たからだと思うよ」

「……過大評価し過ぎだ、俺は俺自身のために必死こいて歩兵道してただけだ。惚れた女のために全力でやってたんだよ」

 メッザルーナは過去を思い出すように瞼を閉じた。

「安斎さんに……惚れてるのか?」

「あたりめぇだろ。あんないい女、なかなかいないぜ。世界中探してもイタリアにしかいないぜ、多分」

「イタリアにはいるのかよ……」

「そう言うお前だって誰かのために戦っていたんじゃねぇのか?たとえば、あの西住って女とかか?」

 メッザルーナの問い掛けに凛祢は少し考える。

 自分は西住みほという自分とよく似た存在と出会い、彼女の傍にいてやりたいと思った。

 これは、メッザルーナの言う「誰かのため」という理由でいいのだろうか。

 しかし、今の凛祢には分からない。

 もしかしたら自分は、西住みほと言う存在を自分と重ね合わせ……歩兵道という戦場に戻るための、戦うための「都合のいい言い訳」にしているのかもしれない。

「どうだろ……俺は歩兵道を始めたばかりだからわからないよ」

「え?お前、経験者だろ」

「歩兵道やめてて、つい最近から始めたんだよ」

「まじかよ、始めてたった数か月の葛城と引き分けたのかよ。駄目だな俺は。でも――」

 リタイアした2人は少しの間、会話を続けた。

 凛祢は改めて考え続けた、あの頃の思いを失った自分は何を理由にして戦いに向かうべきなのかを。

 

 

 

 逃走していた先は行き止まり。38tは行き止まりの前で停止した。

「よーし、追い詰めたぞ!」

 P40の車内でアンチョビが勝利を確信したように声を上げる。P40が砲撃するが38tは回避して反撃する。

 38tの砲撃を受けて、P40の車内が大きく揺れる。

 そこでアンチョビの視線がある存在を捉える。崖の上には砲身を向け、狙いを定めるⅣ号が居た。

「ドューチェ!遅れてすみませ、ぎゃー!」

 ちょうど合流したセモベンテだったが崖から落下し、横転しながらも一回転する。なんとか前進しようとするが崖の上から放たれたM3も砲撃によって白旗が上がる。

「馬鹿!無茶するな!怪我したらどうする!?」

 アンチョビが心配するように声を上げる。すると、後方から残るアンツィオ高校の車両であるカルロベローチェが現れた。

「アンチョビ姉さん!メッザルーナの兄貴!今!でぎゃー!」

 ペパロニの奮闘も虚しく、後方の八九式の砲撃がエンジン冷却部に命中。

 車体は数回転がった後セモベンテに突っ込み、白旗が上がる。

「くっそー!」

 P40の最後の砲撃をするが、砲弾は命中することなく彼方へと消えていく。

 瞬時に反撃するⅣ号の砲撃。

 P40の正面に命中し、走行不能を告げる白旗が上がった。

「フラッグ車、P40走行不能!アルディーニ学園残存歩兵0名!大洗連合の勝利!」

 アナウンスがフィールドと観客席に響き渡ると、アンツィオとアルディーニ連合は戦車やベスパから降りていく。

 勝利した大洗連合は一斉に勝利の雄たけびを上げる。

 ようやく崖下についた凛祢とメッザルーナもその場の光景に決着がついたことを確認する。

 Ⅳ号から上半身を乗り出していたみほと崖下に立ち尽くす凛祢。お互いに目が合い、勝ったことを分かち合うように笑みを浮かべた。

 そして、連盟によって走行不能になった戦車とベスパがそれぞれの陣地に運び込まれて行く。

 陣地内で時間が来るのを待っている中、凛祢やシャーロックなどは医療班の確認を受けている。

「お前、またボロボロだな……」

「ああ。今回もギリギリの戦いだった。みほや俊也たちがうまくやってくれたようだけど」

 俊也の姿を確認して、凛祢は左腕を抑えて呟いた。

 そう、今回もみほたちの戦術によって勝利できた。自分は、時間稼ぎするのがやっとだったと言うのに。

 確かに、失った感覚と経験は取り戻しつつある。それはメッザルーナとの戦闘で感じた。

 だが、今の自分は昔に比べれば確実に衰えている。

 こんな調子で本当に次の試合で勝てるのだろうか?

 思いの強さが歩兵の強さ、なんてロマンチックな言葉を信じているわけじゃないが少なくともメッザルーナという男からはそんな強さを感じた。現にメッザルーナは強かった。

「もしも許されるなら俺は――」

 凛祢はそんな事を考えて、日の沈み始める空を見た。

「凛祢さん!大丈夫ですか!?」

 確認を受けている凛祢を心配するようにみほと優花里がやって来る。

「みほか……大したことない。歩兵は特製制服で守られてるし、ヒートアックスの爆撃をもろに受けただけだから」

「それって普通大丈夫じゃなくないですか?頑丈な体なんですね……」

 凛祢が答えると隣にいた優花里が苦笑いしていた。

「次は3回戦ですか……」

「俺たちも勢いがついてきたんじゃねぇか?なあ、翼?」

「確かにそうだが、勢いだけで勝てるなら苦労しないぞ」

「んあ?んだよ少しは喜べよ……」

 ヤブイヌ分隊のメンバーや他の分隊のメンバーたちも勝利したことを改めて確かめ合っている。

 そんな中、凛祢は少し離れた木陰に入る。

「2回戦勝利おめでとう」

「そりゃどうも……」

 反対側には木に背中を預ける照月敦子の姿がある。

「だいぶ、昔のお前に戻ったんじゃないか?」

「自分ではよくわからないです」

「私はお前が自分を取り戻しつつあると思うぞ。あの人ならこう言うだろう。『凛祢、周りは気にするなお前はお前の戦いを貫け』」

 敦子が最後に口にした言葉を凛祢はよく知っている。周防鞠菜がよく口にしていた言葉だ。

「わかりました」

「最後にもう1つ。順当にいけば次の対戦は去年の優勝校だ」

 去年の優勝校。黒森峰連合に勝利した学校……。

「プラウダ高校とファークト高校か」

「凛祢。結果はどうであれ、最善を尽くせ。私の妹と共にな」

「はい、悔いは残しません」

 凛祢と敦子は静かに別れる。

 

 

 再び凛祢が陣地に戻ると、アンツィオ&アルディーニ連合の隊長、アンチョビとメッザルーナが現れる。

「いやー、今年こそ勝てると思ったのになー」

「でも、いい勝負だったぜ!」

「はい、勉強させてもらいました」

「とてもいい経験をさせてもらいました」

 隊長4人はそれぞれ握手を交わすと、アンチョビはみほにハグまでしている。

「そっちの君もほら」

「え?」

「いいからいいから」

「……」

 凛祢は少々恥ずかしさを感じつつアンチョビにハグされる。

 サンダースのケイといい、安斎千代美といい。なんでハグしてくるんだよ。

「葛城、西住、絶対決勝まで行けよな!」

「そうだぞ、我々も全力で応援するからな!」

「みんなもそうだよな!?」

 メッザルーナが叫ぶ

「おう!」

「当たり前ですよ!」

 続くようにアンツィオとアルディーニの生徒が声を上げる。

「ほら、笑って!」

「もっと手を振れよ!」

「「あ、ははは。ありがとうございまーす」」

 凛祢とみほも思わず乾いた笑いをこぼしてしまった。

 すると、アンツィオとアルディーニの生徒がトラックから荷物を運び出して、何やら準備を始める。

「何が始まるんですか?」

「ふふん、諸君!戦いだけが戦車道と歩兵道ではないぞ!」

「勝負を終えたら、試合に関わった選手とスタッフを労う!」

「「これが、アンツィオとアルディーニの流儀だ!」」

 2人が説明すると、アンツィオとアルディーニの生徒は試合の疲れを忘れたように行動を開始していく。

 運び出した机、椅子を並べ、自前のガスコンロに火をつけパスタを茹で始める。

 次々に、イタリア料理が並べられていく。

「すげぇ物量と機動力だな」

「あいつら、本当にさっきまで試合してたのか?」

「俺は飯が食えるなら何でもいいけどな」

 凛祢が感心していると、隣にいた八尋や翼も思わず呟く。

「俺たちは食事のためならどんな労力も惜しまなのさ」

「この、この子たちのやる気がもう少し、試合に活かせるといいんだけどなー」

 メッザルーナとアンチョビは一瞬落ち込んで見せる。が、すぐにいつも通りの元気な顔を見せた。

「まあ、それはおいおい考えるとして……今は食事を楽しむぞ!」

「おー!」

 そして、始まった食事会。

「私たちも来て良かったの?」

「メッザルーナが会場の知り合いも大歓迎って言ってたからさ。せっかく来たんだし食ってけよ」

 凛祢が連絡を入れたことでやってきた英子、秋月、不知火。

「よっしゃー。ただ飯にありつける!」

「衛宮君……案外意地汚いのね」

「いいだろ別に。食っていいって言われて食べることの何が悪い!」

 不知火はカルパッチョを頬張りながら言った。そんな顔を見て秋月は笑って見せた。

「英子、断るのも悪いし私たちも行きましょ」

「まあ、イタリアンは嫌いじゃないからいいけど」

 2人もそう言って食事会に混ざっていく。

 食事を楽しむ者、戦車や歩兵の話で盛り上がる者、友人の様に写真を取り合う者。

 みほはアンツィオのアンチョビと楽しそうにしていた。

 凛祢もメッザルーナやチェーザレ、工兵の者たちと食事を楽しんでいた。

 久しぶりに本気で笑った。こんなに戦友と笑いあったのは中学以降初めてだった。

 カエサルと陽菜も今の高校生活の話に花を咲かせていた。

「たかちゃんも装填手だったんだ」

「うん……」

「最後はやっぱり装填スピードの勝負だったね……ん?ふふ」

 陽菜は周りに視線を向けると不意に笑う。

「なんだよ?」

「お友達が心配しているみたい」

「え?」

 陽菜の言葉を聞いて、カエサルも視線を向ける。

 視線の先には物陰に隠れていたカバさんチームのメンバーがいた。

「あいつら……」

 カエサルはそんなみんなを見て笑みを浮かべる。

「生徒会がリーダーに召集を掛けているような気がするんだが、取り込んでるなら私が行くぞ」

「今行くよ!」

「来年もやろう、たかちゃん」

 陽菜が手を差し出すとカエサルも答えるように手を出して、握手を交わす。

「たかちゃんじゃないよ。私は……カエサルだ!」

 カエサルはそう言って首に巻いた赤いマフラーを翻し、去って行く。

 陽菜も少し驚いていたが、かつての親友鈴木貴子ではなく、戦車道の戦友カエサルと言う存在を受け入れる。

 そして、カエサルの友としての自分の名を決めた。

「そうね。じゃあ、私はカルパッチョで!」

 カルパッチョも長い金髪を揺らして、仲間のところへと帰る。

 時を同じくして、マリーダがシャーロックに声をかける。

「おい」

「なんだい?私は生徒会に招集を掛けられているのだが」

「すぐ終わる。今回はお前が勝ったことにしておく。でも次は負けない」

「やれやれ、私は荒事が嫌いなのでね。再戦は御免だよ」

 マリーダの言葉に、シャーロックは持っていた皿をテーブルに置いて呟く。

「なっ!お前!」

「だが、安心したまえ、今回は私の勝ちじゃない。今回はあくまでも引き分けが結果だ。私自身が君と再戦を望んでいる」

 シャーロックもそう言って制服のポケットから予備のパイプ煙草を取り出して、口に銜える。

「じゃあ……」

「シャーロックホームズを馬鹿にしたことは許さないが。戦闘は少し楽しかった、君とは『戦友』と言う名の友になれそうだよ。だからいつかまたやろう、マリーダ君」

「うん。必ず一度戦おう、シャーロックホームズ」

 そう言ってシャーロックとマリーダも握手を交わす。

「シャーロック行くよ」

「分かっているさ」

 カエサルと合流し、集合場所に向かう。

 そして、時間は過ぎていくのだった。

 戦車道と歩兵道の試合には勝敗以外にも得るものがある。それは新たな友情と掲げる思いなのかもしれない。

 戦場が紡いだ絆は友情となり、勝った者は負けた者たちの思いも背負って次の試合へと挑む。そうして生徒たちは成長していく。

 それこそが、戦車道と歩兵道のあるべき姿なのだろう。

 数時間後、食事を終えて片づけを終えた大洗連合とアンツィオ&アルディーニ連合はそれぞれの学園艦へと帰っていく。

「葛城、元気でな」

「うん。メッザルーナも」

 別れの時、再び握手を交わす。

「冬の大会には出ないのか?」

「どうかな?アンチョビ次第だが……まだまだチェーザレやマリーダたちに教えてねーこともあるしな」

「そうか。でも、出てくるならまた戦おう。同じ工兵として」

「フッ。俺たちの戦いは工兵らしくねーけどな。次は俺が勝つ」

 メッザルーナは腕を組んで言った。

「俺も負けない。次は引き分けじゃなくキッチリ決着をつけよう!」

 凛祢もメッザルーナを見て宣言するように言った。

「おーい、凛祢!もう船が出るぞー!」

「メッザルーナ、早く戻ってこーい!」

 それぞれの名を、呼ばれ2人は1度振り向く。

「いつか見せてくれよな、お前自身の本当の歩兵道を。じゃあな」

「うん。それじゃあ」

 凛祢とメッザルーナはお互いに背を向けて去って行く。

 三日月咲夜……メッザルーナとアルディーニ学園には勝利できた。

 次は3回戦だ……今のままじゃ駄目だ、無拍子を完成させるにはやっぱり戻るべきなのかもしれない。勝つために。

 凛祢は揺れる学園艦の甲板で夕暮れ空と離れていくアンツィオとアルディーニの学園艦を見ていた。

 

 

 それから数日後、着々と3回戦の結果が出ていく中、氷山の周辺を航行していたプラウダ高校とファークト高校の学園艦。

 その一室ではお茶会が行なわれていた。

 広い間取りの部屋には床に敷かれたカーペットと一つのテーブルがあるだけだった。

 そのテーブルに着いているのはプラウダ高校の隊長カチューシャと聖グロリア―ナ女学院の隊長ダージリンだった。

「3回戦は残念でしたね」

「去年、カチューシャたちが勝ったところに学校に負けるなんて」

 プラウダ高校の副隊長であるノンナが用意した紅茶とお菓子をテーブルに並べていると、カチューシャがダージリンを小馬鹿にしたように言った。

「勝負は時の運と言うでしょ?」

「どうぞ」

「ありがとう。ノンナ」

「いいえ」

 ノンナはまるでお金持ちの家のウエイトレスの様にダージリンたちをもてなしていく。

 ダージリンもさっそく紅茶に手を付けようとティーカップの隣に置かれた小皿のスプーンを掴む。

 小皿の中には赤いイチゴジャムが入っている。ジャムをすくい、紅茶に入れようとすると。

「違うの!」

 唐突にカチューシャが声を上げたことでダージリンも手を止める。

「ジャムは中に居れるんじゃないの!舐めながら紅茶を飲むのよ」

 カチューシャはそう言ってジャムを口に入れ紅茶を飲む。口の周りにはジャムが付着していた。

「ついてますよ」

「余計なこと言わないで!」

 ノンナが教えてあげるがカチューシャは負けず嫌いなのか、強気で反論した。

「こちらもどうぞ」

 ノンナはお茶菓子に用意したクッキーの乗った皿を進める。

 ダージリンも軽く頭を下げる仕草を見せた後、紅茶を一口飲んだ。

「次は3回戦なのに余裕ですのね。練習しなくていいんですの?」

「燃料がもったいないわ。相手は聞いたこともない弱小校だもの」

「でも、隊長は家元の娘よ。西住流の。それだけじゃないわ、あなただって『歩兵道界の超人』って名前くらい聞いたことがあるでしょ?」

「え?家元の娘と超人歩兵が!?そんな大事なことをなんで先に言わないのよ!」

 ダージリンの話を聞いて少し驚き、ノンナの方を向いて言った。

「何度も言ってます」

「聞いてないわよ!」

「ただし、西住さんは妹のほうだけれど」

「え、なんだ」

 ダージリンが続けて言うとカチューシャは安心したように椅子に背中を預ける。

「黒森峰から転校してきて無名の学校をここまで引っ張ってきたの」

「だからどうしたの?妹の実力は姉以下だって知ってるし、超人歩兵だって話によれば昔の男でしょ?今の実力じゃ問題ないわよ!」

 ダージリンが楽しそうに話を続けるが、カチューシャは危機感など感じることもなく言い放った。

「そんな話をするために来たの?ダージリン……」

「まさか。美味しい紅茶を飲みに来ただけですわ」

 ダージリンはそう言って紅茶を口に運ぶのだった。

 

 

 その頃、ファークト高校の演習場には赤を中心に彩られた特製制服と赤い軍帽を被る小柄な男と同じ特製制服に身を包み狙撃銃を構える男。そして聖ブリタニア高校の隊長ケンスロットとガノスタンの姿があった。

「久しぶりだな、アルベルト」

「ん?誰かと思えば、黒森峰に負けたブリタニアの騎士じゃないか」

 ケンスロットの声に、ファークト高校の隊長、アルベルトは射撃訓練を終えた回転式拳銃『ナガン・M1895』を引き金部分に指を通して回転させる。

 回転は数回ではなく数十回程続き、ようやく太もものホルスターに収納する。

「回し過ぎだろ……エレンも久しぶり……って相変わらず狙いは正確だな」

「ケンスロットとガノスタンですか、お久しぶりです。前の戦いは残念でしたね」

 ガノスタンが的を見るとエレンも狙撃銃『ドラグノフ』を肩にかけた。

「本当だぜ!黒森峰は情け無用で潰してくるからよ」

「おい、今日は何しに来たんだ?」

「ダージリンがお茶を飲みに行きたいって言うから付き添いで来ていたんだ。お前たちにも声くらいかけていた方がいいだろ?」

 アルベルトが問い掛けるとケンスロットが答える。

「俺たちは確かに3回戦で負けたけどさ。次の相手は大洗連合だろ?なんで戦車や歩兵が訓練をしていないんだ?」

「必要ないからだ。大洗なんて聞いたこともない学校恐れる必要もないだろ」

「お前たちがそう言う方針ならいいが、大洗には西住流の妹と超人と呼ばれた歩兵が居るんだぞ」

 ケンスロットは真剣な表情でアルベルトを見つめた。

「西住流と超人歩兵……」

 エレンは少し考える仕草を見せる。

「だからどうした?西住流の妹の指揮で動いていた黒森峰に俺たちは勝っている。それに超人と呼ばれた歩兵も今となっては普通の歩兵と何ら変わらないよ」

「まあ、普通そう考えるよなー」

 アルベルトの言葉にガノスタンも同感だと言わざる得なかった。

 だが、ケンスロットの考えは違う。1度真剣勝負をしているからだ。

 凛祢の実力をよく理解している。自分と戦った頃の凛祢ならばアルベルトには勝てない。が、2回戦の相手であったアルディーニ学院の隊長メッザルーナと引き分けたとまでなれば話は別だった。

 おそらく、CQC能力においてはアルベルトと差はないかもしれない。

「アルベルト。お前がどうしようと口出しはしないが、騎士道に準じて手を抜いたりせずに全力で戦ってほしい」

「ふふふ、変わらんな君は。俺はどんな時も全力だ。それは同志たちも同じさ。なあ同志エレン?」

 ケンスロットの言葉にアルベルトは笑って見せる。

「はい。たとえ敵が泣いても殴るのを辞めたりしません」

「そこは、やめてやれよ……」

 続くようにエレンが呟くとガノスタンは苦笑いしてツッコんだ。

 そして、4人は笑い合ったあと、カチューシャやダージリンのいる、部屋に向かうのだった。




無事に2回戦も終えることができました。
アルディーニのメッザルーナは設定上、かなり強い設定です。
だけど書いてみるとあんまり強さを表現できなかったような……強いんです本当に。
次回はプラウダとの一戦なんですが、プラウダ戦を3回戦にして準決勝としてオリジナルで一試合増やすことにしました。
まだまだ至らぬ点もありますが、これからも投稿するので読んでいただけると嬉しいです。
いつも読んでいただきありがとうございます。
感想や意見も募集してます。


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第14話 スクールイベント「合同体育祭・前編」

どうも、UNIMITESです。
今回は体育祭というオリジナルイベント回です。
原作は学園のイベントに触れる会などはなかったですが、自分なりに描いてみました。
では、本編をどうぞ。


 2回戦から3日後、全ての2回戦に決着がつき対戦校も決まった。

 対戦相手は予想通りプラウダ高校とファークト高校。去年の優勝校であり、あの黒森峰連合の10連覇を阻止した学校だ。

 そんな強敵が3回戦の相手。勝機は薄いが、0%じゃあない。

 凛祢やみほのいる大洗連合はサンダース&アルバート連合にも、アンツィオ&アルディーニ連合にも勝利したんだ。

 きっと勝てるはずだ。そう勝てるはず。

 しかし、大洗男子学園と大洗女子学園では全国大会よりも優先して行うべきことがあった。

 それは……。

「体育祭?もうそんな時期だっけ?」

「そうだぜ、凛祢。やっぱり忘れていたか」

「もう来週なのに、なにやってんだ……」

 いつものように昼休み、学食に集まっていたヤブイヌ分隊の5人。

 大洗男子学園と大洗女子学園の体育祭は合同で行う。更に、競技も一緒に行ったりすることもあるわけだが。

 男子と女子が合同チームになるのは珍しくないが。

 チーム分けは男女混合の普通Ⅰ科A組、B組、C組と普通Ⅱ科A組、B組、C組。更にこれを学年ごとに分けると合計18チームに分けられる。

 よくよく考えれば結構チーム数が多い。

 競技の種類もテニス、バレーボール、バスケットボール、サッカーに野球、ラクロスと6種類ある。

 テニスは人数の都合上、1クラスで2、3チーム出さなければならなかったはず。

 1クラスで6つの競技全て出場と言うのは、男女の人数を足しているため人数的にはあまり問題にはならなかった。

「最近ずっと忙しかったですからね」

「俺ももう決めて提出したけどな」

 いつもと変わらずきつねうどんをすする俊也。

 ほぼ毎日同じきつねうどんでよく飽きないものだ。

「え?トシは何に出るんだ?」

「……野球」

「野球?お前が?」

 八尋は俊也の口から出た答えに聞き返すように横目で見る。

「一様、野球経験者だからな。中学で野球やってた」

「マジかよ!?本当かトシ?……よーし、チーム名はヤブイヌバスターズだ!」

「どっかで聞いたことのあるような名前はやめろ。ヤブイヌって、だいたい俺と塁は別クラスだろ」

 立ち上がり声を上げた八尋に俊也が珍しくツッコミを入れた。

 俊也が野球経験者であると言うのは凛祢も初耳だったため少し驚いていた。

 担任の先生にはなるべく楽な競技でいいですとは言ってたけど、どうなったのだろうか。

 

 

 そして、放課後。担任に呼び出された凛祢は1人で職員室に向かう。

「おう、来たか。葛城、体育祭の参加競技だけど……」

「えっと、どうなりました……?」

「こっちで決めたには決めた……参加競技は、テニス。2人1組なんだが相方が大洗女子の西住みほさんだ」

「はい、わかりました……え?」

 凛祢は返事の後にもう一度担任の顔を見返した。

 一瞬何を言っているのか理解できなかった。

 食い入る様に一歩踏み出して、担任に視線を向ける。

 相方が……西住みほ?なんで女子と?

「あの、なんで女子とチームなんですか?」

「お前も知ってるだろ?イベント事は両校で協力して行う、それが学園長の方針だ。クラスのみんなはもう組み合わせが決まっているし、葛城と西住さんが組めば丁度チーム数が揃うと言うわけだ。それに他にも男女混合のチームは数チームある。嫌だったか?」

「……そう言うわけじゃないですけど。何でもいいっていたのは自分ですし」

 そんなこんなで凛祢の体育祭はみほとチームのテニスとなった。

 こんなことなら八尋たちと同じバレーを選択しておけば良かったかな。

 凛祢はほんの少しの後悔を感じながら校庭のガレージに向かう。

 

 

 開いていたガレージの扉をくぐると既に八尋たちの姿がある。

「おい、凛祢!みほさんと同じチームって本当か!?」

「あ、ああ。さっき先生から聞いたけど。そうらしい」

「なんだよ!お前ばっかり、俺もテニスしとけばよかったーー!」

 頭を抱え、本気で悔しそうな八尋を横目に凛祢がガレージ内に入る。

「お前はいつもうるせぇな」

「なんだと!?」

「いいから少しは静かにしてろって」

 俊也は呆れ顔で八尋を見る。

「あ、凛祢君聞いたよー。みぽりんとペアなんでしょ?がんばって勝ってよね!」

「あんまり自信ないけど」

「り、凛祢さん頑張りましょう!優勝目指して!」

 みほは少し恥ずかしそうにしていていたが、強気で凛祢を見た。

 凛祢も最善を尽くすつもりだった。

 だが、凛祢はスポーツはあまり得意ではない。いままで歩兵道くらいしかしてこなかったからだ。

「それで、練習はいつからしましょうか?」

「明日の放課後からでいいんじゃないか?」

「わかりました」

 みほも笑みを浮かべて返事をしていたが、内心では少し戸惑いを感じていた。

 予想外のことに凛祢も少々戸惑っていた。

 体育祭前は体育の授業が主に体育祭練習となる。休み時間も使って凛祢とみほは練習を進めていた。

 正直、勝てるかと言われれば自信はない。何せ、凛祢もみほもテニスは初心者同然。

 

 

 そして迎えた体育祭当日。

 教室内で担任の注意事項などを聞いた後、グラウンドで学園長や教員の長いお言葉を聞いて、ようやく朝会が終わろうとしていた。

「みんなー、今日は楽しんでいこうー。でも、怪我はないようにねー」

「では、これより、大洗女子学園と大洗男子学園の合同体育祭を開催します」

 生徒会長の2人が最後の挨拶を終えると生徒たちは一斉に散っていき、競技場へと向かう。

「じゃあ、後でな」

「がんばれよ」

「おう、そっちもな」

 凛祢や八尋たちも一斉に別れて、それぞれの会場へと向かう。

 練習はした。やるだっけやったから大丈夫だろう。

 学園指定のジャージ姿の凛祢に対してクラスで用意したと言うフード付きのTシャツにピンクのミニスカートのみほの姿が大洗女子学園のテニスコート内にあった。

「……」

 凛祢は無言のまま、まじまじとみほのほうを見つめるとみほは恥ずかしいのか頬を赤く染める。

「あ、あまり見ないでください。その、恥ずかしいので」

「あ、悪い……俺、ラケット取って来るわ」

「はい」

 凛祢は逃げるようにテントの元に向かい、テニスラケットを手に取る。

「お、凛祢。お前もテニスだったのか?」

「衛宮か。そうだけどそっちもか?」

「フッ、今年の優勝は俺たちだぜ。精々がんばれよ」

 不知火は手短に挨拶をすると、ラケットを手に去って行く。

 あいつもテニスだったのか。英子もテニスだって言ってたけど。

 凛祢もテニスラケットを手に戻る。

 数分後、凛祢とみほの試合が開始される。対戦相手は……

「あら、葛城君じゃない」

「凛祢……それに西住さんね」

 対戦相手は英子と秋月のチームだった。

「……」

「照月さん、秋月さんが相手なんですか?」

 最悪の対戦カードであることは言うまでもなかった。

 なぜって?英子の部活動はテニス。ただでさえ初心者の2人では勝つことは難しい。

 勝ち目はないだろうが、覚悟を決める。

 試合が始まれば凛祢もみほも必死に食らいついていった。

 数十分の奮闘の末、15-14で凛祢とみほチームの敗北。

「なかなかいい試合だったわ」

「はい、ありがとうございました……」

「次の試合も頑張れよ」

「私が負けるわけないでしょ!」

 秋月と英子はウインクをしてクラスの元へと歩いて行った。

「負けちゃいましたね」

「そうだな……」

 負けたことで肩を落とすみほを横目に凛祢もベンチに腰を下ろした。

「まあ、英子はテニス部だし」

「そ、そうですよね!でも少し悔しいです」

「そうだよな、でも楽しかったな」

「はい!」

 凛祢とみほは共に向き合い笑みを浮かべる。

 みほは気づいていないようだが、英子は手を抜いていた。

 わざと接戦を演出していたのだ、15-14という点数結果によって。

 やろうと思えばワンサイドゲーム……15-0と言う結果にもできただろうに。

「俺たちはもう試合はないし、八尋や塁たちの試合でも見に行かないか?」

「そうですね。私も沙織さんや優花里さんの試合も見たいですし」

 2人は意見が一致すると素早く、移動を開始する。

 

 

 まずは大洗女子学園・体育館。体育館ではバレーボールが行なわれていた。

 室内を2つに分け、2つの試合を同時進行している。

 現在行われている試合は凛祢とみほのクラスである男女普通Ⅰ科A組と辰巳、典子のいる男女普通Ⅰ科C組。

 コート内には八尋と翼、沙織、華。その他2名の姿がある。

「お、ちょうど八尋と翼の試合か」

「沙織さーん、華さーん頑張って!」

 凛祢とみほは壁際に腰を下ろす。隣のみほも声援を送る。

 今のところは八尋たちが優勢だった。

 すると隣にから独特の声援が響く。

「おい、見ろ!くー、やっぱりブルマはええなー。ブルマこそ健全なる男子高校生のロマン!更に言うなら華!いや!至宝の極致である!」

 あまりの騒々しさに横目で確認すると、その男は同じクラスの佐藤だった。隣には仲のいい伊藤の姿もある。

 あまり話したことはないが、顔と名前くらいは知ってる。

 てか、こいつは他に考えることはないのか?

 確かに沙織や華、典子はブルマだけど。

「おい、佐藤やめろって」

「だってほら!あの武部さんや五十鈴さんのブルマ姿を見ろよ!そんじょそこらの職人なんかじゃ真似できねぇ……圧倒的リアリティだぜ!?」

「いったい何と比べてるんだよ?」

 佐藤の訳のか分からない解説が始まると、伊藤もやれやれとため息をついた。

「いいからいいから!応援しようぜ!そーれ!頑張れ頑張れ!ブ・ル・マ!頑張れ頑張れブ・ル・マ!」

「なあ、マジでやめてくんね?お前サボってるんだからさ、応援くらいちゃんとしろよ」

「堅いこと言うなよ伊藤!俺の応援がどれほど彼女たちの尻に火をつけるか見てろ!そーれ、いけいけ!ブルマ!押せ押せ!ブルマ!」

 何と言われようと変な応援を辞めない佐藤。伊藤も流石に呆れていた。

 だ、駄目だこいつ、本格的に……。

 他人のふりしとこ……。

 凛祢が試合に再び試合に目を向ける。

 するとちょうど翼がボールを拾う。

 八尋と翼は守備中心のリベロって言ってたけどなかなか様になってるな。

 攻撃せずボールを拾うことに徹している。

「八尋と翼は攻撃してないな」

「それはリベロだからだろ?それにあいつらが全力でスパイク打ったら体格的にバレー部の磯部くらいしかとれないだろ」

 伊藤も説明するように教えると再び佐藤は質問を返した。

「リベロ?なんだそれ?」

「お前本当に知らないのか?」

「もちろん!バレーボールの時はブルマしか見てないからな!」

 佐藤は自信満々に胸を張った。

 威張ることでもないのに、よくはっきりと言えるものだ。

「あはは……変な人もいるんですね」

「あれは、頭がおかしいだけだ」

 笑いを溢すみほの隣で凛祢はため息をついた。

 すると、伊藤も面倒だなといいながら説明をしていく。

「リベロって地味だな。まあ、俺はブルマが拝めれば何でもいいけな!フレーフレーブルマ!レッツゴー!ブルマ!」

「うるせーぞ、佐藤!少し黙ってろ!」

 痺れを切らした八尋の声がコート内に響いていた。

 沙織がボールを上げると跳躍した華が綺麗にスパイクを決めた。

 その姿は戦車が砲弾を撃ち放つが如く鋭い一撃だった。

 八尋と翼は基本防御で華が攻めと言った感じか。戦車道や歩兵道の時と似てるな。

 そして試合は順調に進み十数分後、試合が終了した。

 結果は15-13でA組の敗北。最後はバレー部の典子とあけびの連携攻撃に翻弄されて負けてしまった。

 しかし、それでも周りからは多くの拍手が響いていた。

「……?あ、そういうことか」

 凛祢もようやく理解する。

 お互いベストを尽くして戦った。

 凛祢やみほも会場に響く、鳴り止まない拍手に負けないほどの惜しみない拍手を送った。

 チームのために戦った八尋や翼、沙織や華を称えるように。

「負けちゃいましたね」

「惜しかったなー、あと一歩だったのに」

 凛祢とみほはバレーの結果にまたも肩を落とした。

 結果は結果だ。仕方あるまい。

「くっそー悔しい」

「本当だよ!」

「あれ、凛祢さん?みほさんも……」

「2人とも来てたのか」

 凛祢やみほの存在に気づいた八尋や沙織も急ぎ足でやって来る。

 八尋と沙織は同時に凛祢とみほの肩に手を置いた。

「「そっち結果は!?」」

「えっと……」

「負けちゃいました……」

 凛祢が目を泳がせるとみほが答える。

 よっぽど悔しかったのか、八尋と沙織は凛祢やみほ以上に悔しそうに頭を抱える。

 なんで自分たちよりも悔しがっているのか分からないが。

「で、どうするよ?俺たちも凛祢たちも負けちまったってことは普通一科A組の総合優勝はなくなっちまった」

「楽しめたからいいだろ?」

「そうだよね、楽しむことが1番だよねー」

 八尋や沙織が笑みを浮かべる。

「優花里さんはバスケットボールでしたから、男子のほうの体育館行ってみましょうか?」

「いいかもな。塁もバスケだって言ってたし」

 華の提案に全員が賛成し、大洗男子学園体育館へと向かうこととなった。

 総合優勝はなくなってしまったが、やはりこういうイベントは楽しむべき。

 凛祢も急ぎ足に大洗男子学園の体育館へと向かう。

 

 

 数分ほどで大洗男子学園の体育館へと到着。凛祢たちが到着した頃、午前の部、最終試合が始まろうとしていた。

 バスケも大洗女子学園と同様にコートを2つに分けて試合を行っている。

 一方は普通Ⅱ科A組の3年生対普通Ⅰ科C組の1年生。もう一方は塁や漣のいる普通Ⅱ科B組対優花里や迅のいる普通Ⅱ科C組。

 開始早々、ボールはB組に渡った。B組が攻めるがC組も守りを固めている。

 お互いの攻防が続き、残り時間が半分となった頃、動いたのは迅だった。

「そろそろ、いこうか」

 迅は仲間からパスを受け取ると、ドリブルで切り込むのではなくスリーポイントを狙って放つ。

 ボールはゆっくりと空を舞った後、リバウンドする様子も見せず吸い込まれる様にゴールへと入った。

「ひょえー。スリーなんてよく決められんなー」

「迅はスリー外したことないらしいぞ」

「まじで!?嘘だろ!?」

 八尋は驚くようにコート内の迅へと視線を向ける。

 凛祢も、流石にあり得ないだろう、と思いコート内に視線を戻す。

 しかし、それから迅はボールを受け取ると必ずスリーポイントを放った。

 スリーポイントを放った回数は7回。そのすべてをしっかりと決めた。しかも、ただの1度もゴールにぶつかりリバウンドする様子を見せなかった。

 本当にボールがゴールに吸い込まれる様に入っていたのだ。

「おいおい、あいつバケモンかよ。スリーを何本決めれば気が済むんだよ?」

「言ったとおりだろ?迅はスリーを絶対に決めるんだよ」

 凛祢を含めた全員が驚いていた。

 まったくスリーを外さないって、それじゃあ大洗男子学園のバスケ部は相当強いんじゃないか?

 迅の奴、そのうち自軍コートの端から放って決めたりするんじゃ……流石にないよな、うん。

「ゆかりんのチームと塁くんのチームとの点差がどんどん縮まっていくよ!」

「おい!塁、漣頑張れよ!」

 沙織と八尋が声援を送る。

「くっそー。おい迅。もうスリー打つな!お前、バスケ部なんだから少しは手を抜けよ」

「ちゃんと手を抜いてるだろ?それに時間半分はなにもしなかった」

「はぁ?それでも残り半分ずっとスリーを打つ馬鹿が居るかよ!」

「ここにいるのだよ」

 不満そうに視線を向ける漣。しかし、迅は何食わぬ顔で試合を続けている。

 試合は圧倒的に塁たちのチームの不利になってきた。

 漣や他の生徒が点を取っても、迅のスリーのほうが入る点は大きい。

 すぐに逆転されていた。

 あーこれは塁たちの負けかな。

 試合も残り、数秒。パスを受け取った塁がシュートを決めると同時に試合終了のブザーが響いた。

「試合終了です。47対43で普通Ⅱ科C組の勝利です!」

「負けたー」

「迅、マジでお前死ねー!」

 アナウンスと一緒にスリーを打ち続けた迅に飛ぶヤジ。

 わからなくもないがB組にも漣が居て、半分以上は1人で点を取っていたわけだし、どっちもどっちって感じかな?

 まあ、今回は迅がスリーを得意としていたことが不運だったな。

「ゆかりん、おめでとー!」

「沙織殿?それに華殿や西住殿!それに凛祢殿まで」

「八尋殿ー、翼殿ー。負けてしまいましたー」

 凛祢たちが優花里や塁の元に行くと2人もこちらの存在に気づいた。

「凄かったね!」

「はい!迅殿のおかげです!あ、でも、なんかずるい感じもしますよね、部活動部員を入れるなんて」

「別に部活動部員を入れるのはいいんですが迅殿はやり過ぎですよ!スリーをあんなに決めて」

 やはり迅の存在が最も普通Ⅱ科C組の勝利に貢献していたようだ。

 まあ、学校側も了承の上でやってるわけだしルール違反ではないが。

 バレーの時も典子……一年生のチームで忍やあけびも出てたな。なんで部活動部員が自分の部活の競技に出ることを了承したんだろう?

 まあ、普通Ⅰ科A組にはバスケ部やバレー部は居ないがテニス部がいる。凛祢とみほチーム以外のチームは勝ち進んでいるから、もしかしたらテニスは優勝できるかもしれないな。

 気が付けば時計の針は12時半を指していた。

 もう昼か。見ているだけでも、あっという間に時間が経つものだな。

「さーて、そろそろ昼休みだけど……どうする?」

「そうだねー……ねぇ、今日は屋上で食べない?」

「いいですね」

「あの私たちも……」

「一緒してもいいでしょうか?」

 沙織の提案に華が賛成する。横にいた優花里、塁が気まずそうに声を出す。

「当たり前じゃん!」

「ここまで来て、一緒じゃないわけないだろ」

 沙織や八尋も笑顔で答える。

 2人の言う通り、ここまで来てのけ者にするのも後味が悪い。

 それにご飯は大勢で食べた方がおいしいってアルディーニの連中も言ってたしな。

「そういえば麻子ってどこ行ったか知らない?私、朝会の後、別れてから見てないんだよね」

「冷泉さん?そういえば俺たちも見てないな」

「私たちも見てないですね」

「……となると外の競技に出てるんじゃないか?」

 携帯端末を操作する沙織の声に八尋や優花里が答える。

 翼も少し考えた後に眼鏡をくいっと少し上げた。

「麻子が?ありえないよー」

 幼馴染の麻子の事をよく知っている沙織は信じられないのか、疑うように声を上げる。

 確かに、麻子の性格を考えれば、外の競技に出場することは考えにくい。精々、室内競技の補欠ぐらいにしかなっていないはず。

 そんな様子を見ながら凛祢も携帯端末を操作する。

 画面をスライドさせると通話開始を選択した。

 数回のコールの後通話相手の声が響いた。

「もしもし?」

「東藤か?」

「そうだ、当たり前だろ。俺の番号に電話してきて何言ってんだ?」

 通話に答える俊也はさっきまで試合に参加していたのか、荒い息づかいがかすかに聞こえた。

「これからみんなで昼飯食うけど、お前も一緒に食わないか?」

「あー、うん。わかった。で、集合場所は?」

「大洗男子学園の屋上だ」

「ふーん、そうかよ。少し遅れるかもしれないけど」

「わかった」

 凛祢が通話を終えて振り返ると、ちょうど沙織も通話を終えたのか携帯端末を耳から離した。

「東藤は少し遅れるけど来るって言ってたよ」

「麻子も少し遅れるって言ってたんだけど……」

「2人揃って珍しいな」

 2人とも遅れるというのは確かに珍しかった。

 俊也は野球だって言ってたけど、さっきまで試合に参加していたとしたら多分勝ち進んでいるのだろう。

「案外冷泉さんとトシが同じ競技に出てたりしてな。あははは」

「東藤は野球だぞ?流石にないだろ」

「うーん。案外あり得るかもしれないよ?俊也くんと麻子、仲良さそうだったし」

「なに?もしや付き合ってるのか!?あいつ、いつの間にリア充ルートに入った?」

 八尋が焦ったように頭を頭を抱える。

「とにかく行くぞ。昼休みは限られてるんだから」

「「了解です」」

「分かってるっつーの」

 翼が歩き始めると、塁や優花里、八尋も歩き出す。

「麻子大丈夫かな?」

「心配ですね。今日は暑いですし熱中症とかも心配です」

「お!」

 心配そうにしていた沙織と華、みほの隣で凛祢が携帯端末に視線を落とす。

 俊也から「麻子と一緒だから連れて行く」というチャットが返ってきた。

「やっぱり麻子さんは東藤といっしょみたいだ」

「よかったー。俊也君がいっしょなら安心だね!」

 凛祢の知らせに沙織は胸を撫でおろした。

 よっぽど心配だったのが見てわかる。

「そうですね」

「私たちも早くいきましょう!」

「うん」

 凛祢やみほたちは教室から弁当箱を持ち寄り、屋上に向かった。

 

 

 凛祢たち8人が屋上に集まり、昼食を広げる。

 今日は凛祢も大きな重箱に弁当を詰めてきた。

 別にイベントだからというわけではない。

「おー、流石凛祢!料理のできる男は違うねー!」

「悪いな凛祢。八尋が無理言って作らせちまって」

 興奮している八尋の隣で翼が静かに謝罪する。

 そう、翼の言う通り、この弁当は八尋の無理強いから仕方なく凛祢が作った弁当だった。

 その費用を出したのは八尋と翼なわけだが。

 正直、楽ではなかった。そもそも凛祢は弁当を作ったことがなかったからだ。

 朝食や夕食を作ることがあっても昼食は学食で食うのが当たり前だった。

 わざわざ、弁当の作り方を調べてまで作ってみたわけだが。

「いいよ、別に。この弁当の食材は八尋と翼たちが金出したんだし。味はまずくはないはず……」

「凛祢殿、これ一人で作ったんですか?」

「当たり前だろ。これ作ってたせいで今日は朝練ができなかったからな……。みほたちも遠慮せず食っていいからさ」

 凛祢は愚痴る様に言うが、すぐに話を戻すため、みほたちにも自作の弁当を進める。

「凄ーい」

「凛祢君って本当に料理上手だよねー」

「お味も、とてもおいしいです」

「ウチの母にも見せてあげたいです!」

 みほたちも驚きながら重箱を覗いている。

 早速、おかずに手を伸ばした華と優花里。

 沙織は携帯のカメラで撮影までしていた。

「凛祢君って女子力高いよねー。名前も女の子っぽいし本当は女の子だったりして」

「うっ……ゲホゲホ」

 沙織のそんな一言に凛祢はむせ返ってしまう。

「だ、大丈夫ですか?」

 みほが心配するように声を掛ける。

 八尋もお茶を差し出し、ゆっくりと口の中にお茶を運ぶ。

「沙織さん、凛祢の前で『名前が女っぽい』は禁句だぜ。こいつ、そう呼ばれるの嫌ってるから。確かに女の名前っぽいけどさ」

「え?そうなの?凛祢君、ごめんね!」

「でも、確かに男の名前としては珍しいですよね?」

 塁も疑問を持ってしまったのかそんな言葉を漏らした。

「いいんだよ。俺は凛祢って名前を気に入ってるんだから」

「まあ、そういうことだからさ」

 ようやく落ち着いた凛祢が卵焼きを口に運ぶと翼もおにぎりを口に運ぶ。

 すると、屋上から校内に戻るための階段に続く扉が開いた。

「悪い、遅くなった」

「遅くなった……」

 扉を開けて現れたのは東藤俊也と冷泉麻子だった。

「トシ、おせーぞ」

「麻子もだよ!」

 2人の名前を呼ぶ八尋と沙織。

 凛祢も視線を向ける。

 そして、2人は何事もなかったかのように輪の中に入り、食事を始める。

「これが凛祢の弁当か……卵焼きはもう少し塩を掛けた方がいいぞ。甘すぎる」

「え?いや、これくらいが普通だろ」

「運動してるんだぞ?塩分と水分は失われて行くんだから食事も少し塩分多めでいいんだよ」

「あ、ああ。そうなのか?わかったよ」

 俊也の説明に思わず返事をしてしまう。

 意外と説得力のある事を言ってくるんだよな、俊也って。

 本当にこんな奴が元不良だったなんて、誰が信じるだろう。

「ところでトシたちは勝ち進んでんのか?」

「ああ、次はもう準決勝だからな」

「なになに?俊也君は何に出場してるの?」

「……野球だよ」

 沙織や八尋の質問に俊也は答えながら食事を続ける。

「凛祢……」

 隣にいる麻子もいつもの様に眠そうな顔で不意に名前を呼んだ。

「どうした?」

「この弁当、うまいぞ」

「お、おう。お粗末様」

 麻子の急な誉め言葉に凛祢も少し戸惑いながら答えた。

 そして、昼休みの時間は過ぎていくのだった。




今回も読んでいただきありがとうございます。
今回は凛祢たちが戦場から少し離れた回でした。
学園の設定上、男女を混合しないと相当クラス多いと思いました。
普通Ⅰ科と普通Ⅱ科で別れてるってことで、クラス数倍になるというのは自己解釈ですが。もしかしたら間違ってるかも。
次回も体育祭の話になると思いますが読んでいただけると嬉しいです。
意見、感想も募集中です。


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第15話 スクールイベント「合同体育祭・後編」

どうもUNIMITESです。
今回は体育祭イベントの後編です。
体育祭は前回と同様、色々、試行錯誤しているためか短めになっています。
では、本編をどうぞ。


 昼休みを終えて、大洗合同体育祭もいよいよ後半。

 真夏のごとき暑さは午前よりもその勢いを増して、動いていなくても汗をかいてしまうほどだ。

 そんな日照りの下、凛祢とみほたちは大洗男子学園の校庭にやってきていた。優花里は次のバスケがあるので体育館へ、塁も応援してくるといっしょに体育館へと向かった。

 大洗男子学園校庭では野球とサッカー、二つの競技が行なわれている。

 そして凛祢たちは俊也の試合を観戦するために野球の方へと向かう。

 すでに参加生徒と審判の教員の姿もあった。

「これより、2年普通Ⅰ科C組と2年普通Ⅱ科B組の試合を始めます!」

 審判の掛け声を合図にお互いのチームが挨拶する。

 あいさつの後、俊也を含めたC組の生徒たちが守備位置についていく。

「ねえ、麻子。行かなくていいの?」

「私は試合には出ないからな。あくまで指示をだす監督だそうだ」

「マジで?麻子さん監督とかスゲーな」

 八尋が驚いたように隣に立つ麻子に視線を向けた。

 すると、麻子は凛祢たちの前に守備位置と名前の書かれた名簿を見せてくる。

 凛祢が受け取ると全員が視線を名簿に向ける。

 2年普通Ⅰ科C組、野球メンバー。

 1番センター、シャーロック・ホームズ、

 2番キャッチャー、カエサル、

 3番ショート、エルヴィン、

 4番ファースト、アーサー・ペンドラゴン、

 5番レフト、ジル・ド・レイ、

 6番サード、片倉景綱、

 7番ライト、おりょう、

 8番セカンド、左衛門座、

 そして9番ピッチャー、東藤俊也。

 補欠として冷泉麻子と他に1名の名が書かれている。

「へー俊也がピッチャーで……って他のメンバーがカバさんチームとワニさん分隊じゃねーか」

「皆さん、仲が良くていいですね」

 翼と華がそんな言葉を呟いた。

 野球のルールぐらいはぐらいは知っている。

 凛祢自身が甲子園なんかも観る方だからだ。

「東藤は左投げなのか。珍しいな」

 名簿を麻子に返すと試合に視線を向ける凛祢。

 俊也がボールを投げている手は左手。それも左投げのサイドスローだった。

 その投げる様子は初心者とは思えないほど様なっている。

 しかし、俊也は部活には入っていないと聞いていたが……野球を中学時代にでもやっていたのだろうか。

「ストライク!アウト!スリーアウトチェンジ!」

 野球では何度も聞くであろう審判の掛け声と共に攻守が交代する。

「あれ、葛城隊長?」

「西住隊長も見に来てたんですか?」

 凛祢たちの存在に気づいたアーサーとエルヴィンが声を掛けてくる。

 凛祢も手短に挨拶すると、ベンチに腰掛けた。

「俊也って凄いんですよ。今まで試合全部ノーヒットノーランなんです」

「なんで野球部に入部しないぜよ?」

「まったく、野球の才能があるのにやらないのはどうかと思うよ?」

 景綱とおりょう、シャーロックも隣に座って休む俊也に視線を向ける。

「部活なんてやらなねーよ。神崎、さっさとバッターボックス行け」

「実名では呼ばないでほしいな。私のことはシャーロックホームズと――」

「わかったからさっさと行け!」

 鋭い視線で睨む俊也の様子に仕方ないと言った感じでシャーロックはバットを手にバッターボックスに向かった。

「おい、トシ。きつい言い方すんなよ」

 八尋が俊也の隣に腰を下ろす。

「……で、トシは野球経験はあんのか?」

「まあ、中学時代は野球部で投げてた」

「本当か?それなら、野球部に入部すればよかったんじゃないか」

 続くように翼も俊也に問い掛ける。

 すると俊也は深いため息をついた。

「くどい奴らだな。俺は野球なんてやらない!」

「でも、今やってるじゃん。ピッチャーで投げてるとき楽しそうだったよ?」

 ピッチャーとしての俊也を見ていた沙織が言うと、みほも頷いている。

「……とにかく部活はやらねー。それに今は野球より歩兵道やってる方がよっぽどマシだよ」

 吐き捨てるように言うと内野ゴロでアウトになったシャーロックが戻ってきた。

「案外、頑固者なんだな。俊也君は」

「いつもクールなのに、野球の話になると凄い食いついていたしな」

「本当は野球好きなんだろ?名前的にキャッチャーやってそうだけど」

「お前ら、あとでぶん殴るからな」

「「「ひっ!」」」

 俊也の声と本気の表情にワニさん分隊の3人は本当にビビっていた。

 再び、攻守交替して俊也たちが守備についた。

 すると麻子が口を開いた。

「俊也は元々、野球部にいたそうだ」

「え?」

 聞き間違いかと凛祢が視線を向ける。

「入部二か月で先輩に怪我をさせられたそうだ。それが原因で、部活を退部。暴力沙汰も増え、いつの間にかガラも悪くなって不良になってしまったそうだ」

「マジかよ……」

 聞いていた八尋も少し動揺していた。

 まさか俊也にそんなことがあったなど誰も知らなかったからだ。

 そもそも凛祢は東藤俊也という男の事をよく知らなかった。

「麻子さんはどうしてそんな事を?」

「これは種目を決定したとき、野球部顧問から聞いた話だ。だから、あいつはあまり野球部には関わりたくないんだろ」

 麻子は説明する中で、マウンドで球を投げる俊也の姿を見つめていた。

「なんか悪いことしちまったかな?」

「いや、気にしない方がいい。むしろ知っていることがバレると怖いから」

 そう言って麻子は少し青ざめたような顔を見せる。

 凛祢もその姿を確認し察した。

「それってどう言う……もしかして東藤に直接話したのか?」

「……滅茶苦茶怖かった。というか誰かに話したら、たとえ女でも殴るって言ってた」

「東藤が……ね」

 凛祢も三者三振に打ち取った俊也を見つめる。

 俊也にも色々あるようだ。それでも体育祭で「野球」と言う競技を選んだのは俊也が野球と言うスポーツを心から好きだからなのだろう。

 凛祢自身が「歩兵道」という戦場を求めたように……。

「おーい、葛城!」

「ようやく見つけた!」

 自分の名を呼ぶ声に凛祢が振り返ると普通Ⅰ科A組の生徒……クラスメイトの姿があった。

 こんな猛暑の中、結構走り回ったのか、その頬を汗がつたっていく。

 肩で息をするように息切れもしている。

「どうした?」

「それが、テニスの、メンバーが、怪我しちゃってさ」

「テニスが、1人足りなくて、葛城出てくれない?」

 2人は息を切らして途切れ途切れながらも必死に言葉を発する。

「本当か?でも、俺なんかより伊藤とかの方がいいんじゃないか?あいつ仮病らしいし」

「なに?あいつ仮病だったのか!」

 凛祢が答えると隣にいた八尋が声を上げる。

 しかし、うるさいと思ったのか翼が口を塞いでしまう。

「伊藤にも声を掛けたけど、あいつ逃げやがったんだ」

「……ったくあいつ何考えてるんだ。仕方ない。わかった、俺が出るよ」

 凛祢はため息をついた後に立ち上がる。

「そんじゃ、俺も見に行こうっと」

「俺も行く」

 八尋と翼もそう言って立ち上がる。

「私たちも行こうよ!ね、みぽりん!」

「あ、はい!」

「私も行きます!」

 沙織につられてみほと華も立ち上がった。

「流石、葛城。ありがとうな」

 クラスメイトの男も感謝するように頭を下げた。

「じゃあ、麻子。私たち行くね!」

「ああ、気をつけろよ」

 麻子もいつもの眠そうな顔で手を振る。

「じゃあ、行くぞ!」

「「「おー」」」

 八尋の声にあわせて凛祢たち5人が返事をした。

 

 

 凛祢たち6人は再び大洗女子学園校庭のテニスコートに来ていた。

 ちなみに校庭にはラクロスをしている女子生徒の姿があった。ちょうど梓や優希などウサギさんチームの面々が試合をしている。

 テニスコートに入ると多くの生徒が集まっていることに気づいた。

「なんでこんなにギャラリーが多いんだ?」

「テニスはもう決勝だからな」

「ふーん、決勝か……って決勝!?」

 凛祢は思わず聞き返してしまう。

 すると、対戦相手のであろうペアの姿を確認した。

 2人とも見覚えのある顔である。

「お、決勝の相手は葛城のクラスだったのか」

「楽しんでますか?葛城君」

 1人は元船舶科の衛宮不知火。そしてもう1人は優しそうに微笑んでいる生徒会副会長、石田宗司だった。

「衛宮、宗司副会長が相手か……なんで先輩相手なんだよ」

「そもそも相手が先輩と言う時点で後輩にとってはプレッシャーなんだよなー」

「確かにー。なんか3年に勝っちゃうと変に恨まれそうだし」

 凛祢の心を見透かすように八尋と沙織が呟いた。

 仕方ないと周りを見渡すが、自分の相方がいない事に気づく。

「あれ?凛祢のペアの奴は?」

「ん?ん?いない!?」

 クラスメイトの男子もいない事に驚いていた。

「おいおい、どうするんだよ。これ以上試合開始を長引かせるのは教員が黙っちゃいないぞ」

 翼も教員の表情を窺いながら凛祢に耳打ちする。

「あの、私が出てもいいですか?」

 その一言に視線が集まる。

 視線の先には、西住みほがいた。

 数秒間の沈黙の後、凛祢が一言言った。

「まあ、いいだろ。時間もないし、俺と西住のペアが普通Ⅰ科A組のテニスペア代理として参加します」

「はい、了解です。じゃあこれよりAブロック決勝戦3年普通Ⅰ科A組と2年普通Ⅰ科A組の試合を開始します」

 教員の承諾の元、試合準備を始めていく。

「凛祢、西住さん絶対勝ってよね!」

「私たちもあの2人に負けちゃったのよ」

 英子と秋月が声を掛けてきた。

「英子たちに負けた俺とみほが勝てるわけないだろ」

「うう、確かにそうですね……」

「何弱気になってんのよ。諦めたら試合終了よ!」

「え、英子?お前、そんなキャラだっけ?」

「いいから勝つのよ!歩兵道や戦車道の時みたく!」

「「がんばります……」」

 そんな英子の激励を受けて、凛祢とみほはコートに足を踏み入れる。

 ラケットを手に試合に集中する。

 勝てばテニスではクラス優勝か……。

 こんなイベント、マジになっちゃってそうすんの?鞠菜に似たせいか、昔からそんな事ばかり思っていたが、今は……ただ勝ちたい。

 試合が開始されるとやはり凛祢とみほのペアは点を取られて行く。

 不知火と宗司のペアは強い。それも予想以上に。

 でも、反応できない事はない。

「はっ!」

「あっ!」

 みほが動いた方とは逆に不知火が打ち返してくる。

 だれもが点を取られたと思ったが、凛祢は読んでいたようにその打ち球を打ち返した。

 ようやく凛祢とみほペアに点数が入った。

 その様子に観戦していた生徒たちだけでなく、みほも驚いていた。

「……」

「おいおい、完全にもらったと思ったのによ」

「葛城君の動きが少し良くなりましたね。でもまぐれですよ」

「そうだといいけどな」

 笑みを浮かべて励ます宗司に不知火は吐き捨てる言うと再び構える。

「……ふう。やっと1点か。辛いな」

「す、凄かったです。凛祢さん、よくあの球を打ち返せましたね」

「別に……まぐれだよ」

 凛祢はサーブ権を得たためテニスボールを握る。

 これは自分が変なのかもしれないが、いつも実銃の弾速を見ているせいか。

 テニスボールがとてもゆっくりに見える。

 それともう1つ、さっきは不知火の打ち返してくるであろう場所が、直感的に分かった。

 まるでメッザルーナとの激戦の時の様な。

 1回戦は、そんなことなかったのにどうして?

 凛祢はテニスボールをラケットで叩くとボールは相手コートに飛んで行く。

「すっげー」

「凛祢のやつ、急に動き良くなったと思ったら圧倒的だな」

「凛祢君、本当に凄いね。なんて言うか、「ボールの位置」がわかってる?みたいな」

「そうですね。あっという間に点差が詰まっていきます」

 八尋や沙織たちも素直に驚いていた。

 それもそうだ。

 気が付けば点差は縮まり、13対13で同点にまでなっていた。

 もう何度目だろうか……コート内では激しいラリーが今も続いている。

「なんだってこんなことに……あいつテニスこんなに強かったのか?いや、でも1回戦で照月さんたちに負けたって言ってたし」

「ちょっと卑怯ですが……西住さんの方を狙えば」

 準決勝で英子と秋月のペアに勝利した不知火と宗司ペアにとっては予想外の展開だった。

 宗司は苦し紛れにみほのほうに打ち返すが。

 すでに動いていた凛祢が速いスマッシュで返して凛祢とみほペアに1点加算され、とうとう逆転した。

「おいおい、うそだろ?」

 不知火も逆転されたことに流石に参っていた。

「……」

 凛祢は激しく肩で息をしていた。

 長期戦をしているわけでもないのに体と精神は相当疲弊している。

 一体どうなっているのかわからないが、集中力も切れ始めていた。

 熱中症の前兆かな……。

「あの凛祢さん……大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫、だ。暑いから、少しバテただけだ。あと1点で勝ちだから」

 凛祢は汗を拭ってラケットを構える。

「凛祢!頑張って!」

「衛宮ー勝て!」

 周りのギャラリーがより一層応援の声量を上げていく。

「あー、くそー!」

「まあ、そう言わずに僕だって負けたくないんですから」

 不知火の呟きに宗司も笑みを浮かべて返す。

「いやだ……」

「衛宮君?」

 急に下を向いた不知火に宗司が心配そうに声を掛ける。

「負けたくなーい!行くぞ宗司!」

「え、衛宮君。君、意外と熱い人だったのですね」

 2人はお互いに目を合わせた後、再び凛祢たちに視線を向けた。

 凛祢も深く息を吐く。

「あちらさんも、本気みたいだな」

「そう、ですね」

 みほもラケットを握りなおすと再び2人を見つめる。

 そして、みほのサーブによって試合が開始された。

 ゆっくりと開始された試合はすぐにラリーの打ち合いに変わる。

 鼓動が早くなり、息苦しい。

 心臓が張り裂けそうな感覚を感じていた。

 それでも試合は……ラリーは続く。

 しかし、勝負はその一瞬でついた。

 凛祢の集中力が切れたと同時に不知火の放った打球は凛祢の向かう方とは逆方向に飛んで行く。

「……っ!間に合わない!」

「まだです!」

 誰もがそう思った瞬間、その先に彼女の姿はあった。

 そう、西住みほだった。

 みほは力いっぱいラケットを振ると打球は不知火たちの陣地に飛んで行く。

 宗司が動くがラケットは打球を捉えられず、試合終了のホイッスルが響いた。

「2年普通Ⅰ科A組の勝利!」

 審判の声に合わせて歓声が辺りに響く。

 八尋や翼、沙織に華、英子と秋月など多くの生徒が凛祢とみほの元に駆け寄る。

「よっしゃー!クラス優勝だ!」

 クラスメイトたちも喜んで万歳をしていた。

「負けた負けた。お前ら、1回戦負けしたのになんで勝てるんだよ……」

「「まぐれです……」」

 不知火の言葉に凛祢とみほは顔を見合わせた後、笑みを浮かべる。

「フッ、なんだそれ……悔しいぜ」

「本当ですよね。でも、こういう行事は勝ち負けより楽しいかが重要なんですよ」

「分かってるっつーの」

 不知火と宗司もそう言って笑いあう。

 そして、全ての競技が終了し、表彰式が行われた。

 結果はテニスの優勝はAブロックが2年普通Ⅰ科A組、Bブロックが3年普通Ⅱ科C組。

 バスケットボールの優勝はAブロックが3年普通Ⅰ科B組、Bブロックが2年普通Ⅰ科B組。

 バレーボールの優勝は1年普通Ⅰ科B組。Bブロックが3年普通Ⅱ科A組。

 サッカーの優勝は3年普通Ⅰ科A組。

 野球の優勝は2年普通Ⅰ科C組。

 ラクロスの優勝は1年普通1科B組。

 となった。

 総合優勝は3年普通Ⅰ科A組。不知火や宗司、そして英治と雄二のクラスなのだが、これがまた全競技で2位以上の成績を収めると言う圧倒的なチーム力を見せつけていた。

 学園長と会長たちの長い話を聞き終えた生徒たちはそれぞれのクラスへと帰っていくのだった。

 

 

 教室につくと凛祢はすぐに机に体を倒した。

 席に着くと疲労が一気に体にのしかかってきた。

「お疲れだな」

「実際、すげー疲れた……」

「まあ、あれだけの試合だからな。疲れも出るだろ」

 凛祢の机の傍に八尋と翼がやってくる。

 2人も少しは疲れているだろうが、午後は観戦しかしていなかったため凛祢ほどではなかった。

「ところで仮病で休んでた伊藤はどこ行ったんだ?」

「まだ戻ってきてないって。今でも逃げ回ってるんだろうよ」

「あの野郎……ま、凛祢とみほさんが居なければ俺たちのクラス優勝はなかったけどな」

 八尋は拳を握り、グッドと言わんばかりに笑みを浮かべる。

 クラスメイトも一つでも優勝できたことに喜びの声を上げていた。

「ところで放課後はどうする?今日は久々に飯でも行くか?」

「悪い……今日はこの後予定あるわ」

 八尋の誘いを凛祢は断ってしまう。

 歩兵道を始めてからと言うもの、忙しくて八尋や翼と帰ることも減ってしまった。

 といっても凛祢自身の修行があったというのが理由だが。

「んだよー、釣れねーな」

「悪いな、また今度な」

 凛祢は軽く謝罪すると疲労した体を伸ばす。

 すると、担任の先生が教室内に入室してくる。

 その姿を確認した八尋と翼も席に戻った。

「みんな体育祭お疲れ様!総合優勝はできなかったが、みんなの頑張りでウチのクラスはかなりの高成績を収めたと思う」

 先生の言葉にみんなからは落ち込みの声が上がる。

 それでもクラスが入賞したことには素直に喜んでいた。

 凛祢自身も気を落とすことないだろと思っている。

 どれか一つでも入賞できたなら、それはそれで勲章者だ。

「まあ、落ち込むことはない。また来年もある。なにより身体を動かして、いい息抜きになったなら、それが一番の成果だと先生は思っている」

 それでも落ち込んでいる者はいた。

 先生の言葉も最もだけど、試合で頑張ったみんなにしてみれば、やっぱり悔しいのだろうな。

 決勝戦で美味しい所を持っていった自分が言うのもなんだが。

 みんな案外頑張っていたからな。

 明日からは、また歩兵道の授業も始まる。そういえば楯無教諭と会うのも明日だっけな。

 凛祢も今日の体育祭にそんな感想を持っていた。

 こうして大洗女子学園と大洗男子学園の合同体育祭は幕を閉じたのだった。

 

 

 翌日、授業と歩兵道訓練を終えた凛祢は不知火と共に学園艦内の通路を進んでいた。

「ったく。なんで俺が……」

「俺はまだ学園艦内の良く知らない。その点、元船舶科の衛宮は知り尽くしてるだろ?3年間も生活いたんだから」

 気乗りしないと言った表情で隣を歩く不知火に凛祢がやれやれと声を掛ける。

「そりゃあそうだがよ。お前、楯無にあってどうするんだよ?」

「話があるだけだよ。なんなら衛宮も知っておいた方がいい」

「それどういう意味だ?」

 不知火は凛祢の言葉をよほど気になったのか食い入るように顔を覗いた。

「とにかく行こう」

 それから一時間ほど歩いて、凛祢と不知火はそこにたどり着いた。

 扉を開くとその空間に広がる空間に凛祢は驚きを隠せなかった。

 奥には数個のカウンター席、中央の通路を挟んでテーブルと椅子が置かれている。

 その空間は一言で表すなら「バー」だ。

 棒と言う意味のバーではなく、大人が酒を飲んだりする場所のバーと言う意味だ。

 カウンターの先にはバーテンダーのつもりなのだろうか、凛祢と年がそう変わらない金髪おかっぱ少女の姿ある。

「店に入ったら注文しな……」

 細いの目をこちらに向けてバーテンダーの少女は一言そう言った。

「えっと……」

「俺はいつものカクテル。こいつにも同じものを」

 不知火はそう言って空いているカウンター席に座った。

 凛祢も後を追うように不知火の右隣に座る。

 すると、凛祢の右隣に座っていた白衣を着た女性がむくりと体を起こした。

 その女性は、楯無教諭だった。

「遅かったな……」

「楯無教諭……え、酒飲んだんですか?」

 凛祢は楯無教諭から香ってきたアルコールの香りに思わず問い掛ける。

 心なしか顔も赤い気がする。

「少しだけだから……」

「生徒の前で酒を飲むのはどうかと思うぞ」

 不知火はバーテンダーが出したカクテルを一気に飲み干し、おかわりを頼む。

「おい、衛宮。これ酒なんじゃ……」

「あ?ああ、大丈夫だ。ここには本物の酒もあるが大半はノンアルコールの代物だ。お前も安心して飲んでいいぞ。カトラスは案外厳しいから本物の酒なんて出さねーよ」

 不知火の言葉に半信半疑でコップのカクテルに鼻を近づける。

 微妙にアルコールの香りがするような……本当に大丈夫か?

「あんた結構疑い深いんだね」

「……悪かったな」

 カトラスと言うバーテンダー少女に言われ凛祢はコップを机に置いた。

「それはアルコール入りの本物の酒だから飲んだらアウトだったよ」

「おい、なんてことしてるんだよ」

「少し試しただけさ。それは先生にでも渡しな、新しいの作ってやるから」

 カトラスはそう言って、再びカクテルを作るためシェイカーを振る。

「カトラス、ひでーことするなよ」

「で、今日は大事な話があるから店を貸し切りにしたんだろ?早く済ませなよ」

 カトラスと言うバーテンダー少女は、そう言ってカクテルの入ったコップを机上でスライドさせると凛祢の前で停止した。

 その様子を確認するとカトラスは凛祢たちが入店した扉から出ていく。

「ところで葛城、話と言うのは?」

「秋月……についてです」

「秋月がどうかしたのか?」

 凛祢がポケットから秋月と英子の写った写真を取り出すと不知火も反応する。

「秋月……セレナ。それが彼女の名前であってますか?」

「個人情報だから私は何も言えないぞ」

「……」

 思った通りの返答に凛祢は黙ってしまう。

「まあ、名前くらいはいいだろ。秋月セレナというのが彼女の名前だな」

「そうですか」

 凛祢は少しだけ安心したようにノンアルコールカクテルに口を着ける。

「……葛城、そんな事を聞くために私を呼んだのか?」

「すみません。でもセレナって女には聞かなきゃならないことがあるんです」

 凛祢は視線を落とした。

「せれ……ゴホン。少し私の姪の話をしてやる」

「姪……ですか?」

 凛祢が聞き返すと楯無教諭は話し始めた。

「ああ。ウチは昔から諜報活動に長けた家系だったから今でもその技法を継承し続けていてな、私の姪は諜報活動を得意としている。その姪は、今も友人とためと言って諜報活動を続けているそうだ」

「友人のため……」

「大事なもの守るために必死になったものはどんな逆境だって乗り越えられるものなのさ。葛城、周りなんて気にすることはないのさ」

「……」

 凛祢は込み上げてくる言葉を喉元で押しとどめる。

 だから、生徒会は一体何を隠しているんだよ。

 それが、わからなきゃ意味がない。

 結局のところ、生徒会の隠し事とセレナの言葉の意味は不明のまま。

 それでも、セレナの名前を知ることができただけでも意味はあったと思う。

「そうですか、わかりました。時間を取らせてしまってすみません」

「お、おい葛城!」

 凛祢はカクテルを飲み干すと席を立ち、出ていく。

 机には千円札が1枚置かれていた。

 後方から不知火が声聞こえたが振り返ることはしなかった。

「はあ。で、このままでいいんですか?セレナと生徒会が隠していること」

「衛宮、お前は知っているのだろ。だからこの嘘に付き合っているのだろ」

「そりゃあ、セレナの手伝いとして俺を普通科に転科させたのはわかるけどさ。葛城は本気で真実を知りたがってるぞ、話してやれよ」

「私からは何も言えない。決めるのは角谷や相川たち生徒会さ、それまで付き合ってやってくれ衛宮……」

 楯無教諭はカクテルの入ったコップを優しく机に置いた。

 

 

 凛祢が扉を開けて外に出るとカトラスの姿があった。

「もう終わったの?随分早いじゃないか」

「話は済んだ……」

 凛祢は一言残して一歩踏み出すが、カトラスが引き留める。

「待ちな……」

「なんだよ?」

「これ……」

 そう言ってカトラスは1枚の名刺とUSBメモリを差し出す。

「私の名刺と学園艦内の地図が入ってるUSBだ。気が向いたら、また飲みに来な……多人数はお断りだけど、客なら歓迎するから」

「……もう来ないと思うぞ」

「言っただろ?気が向いたらでいいって。USB内のデータはコピーしたら消去するのを忘れないで」

 凛祢が受け取るとカトラスは店内へと戻っていく。

 1人残され、しばらくの間名刺を見つめる。

 名刺には「生シラス丼のカトラス」と書かれている。他にも、このバーの事であろう「BARどん底」とも書かれている。

「カトラス、か。変な名前だな……これ本名じゃないだろうけど」

 大事なものを守るためっていわれても……その大事なものって何だかわからないから困ってんのに。

 凛祢は制服のポケットに名刺とUSBメモリを押し込み、再び歩き出すと自宅を目指すのだった。




どうでしたでしょうか?
なんだかんだであっさりした感じですが。
次回からは全国大会編に戻りますので、また読んで頂けると光栄です。
カトラスさんは個人的にあの5人のチーム内で一番好きです。
ご意見や感想も募集してます。
次回はほぼ出来上がっているので9月中には上げるつもりです。


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第16話 プラウダ&ファークト戦開始

どうもUNIMITESです
今回からプラウダ戦です。
では、本編をどうぞ。


 体育祭の日から数日後、大洗女子学園のガレージ内には修理、整備した戦車たちと、そして改修したⅣ号、そして戦車道と歩兵道を履修した生徒たちの姿があった。

 Ⅳ号は砲身を戦車と武器捜索で見つけ出した長砲身に換装し、外観も変えられている。

 その姿は、Ⅳ号D型からⅣ号戦車F2のように見えるようになっていた。

「葛城君、こっちも整備完了したよ。照月さんに頼まれてた品もいっしょに入れておいたから」

「ありがとうございます」

 凛祢はヤガミから渡されたアタッシュケースを受け取る。

「中身は何が入ってるんだ?」

「それはだな……」

 八尋を横目に凛祢はアタッシュケースのロックを外す。

 中には2丁の自動拳銃FN ブローニング・ハイパワーDAと両手用のオープンフィンガーグローブが収納されていた。

「拳銃のほうはいままでのFiveseveNと同様に整備しておいたから。あとはグローブだけど、照月さんの注文通り素材にはTNKワイヤーを使っていて、手甲のところには金属板を埋め込んでるよ」

 ヤガミは説明を終えると一息つく。

「おい、ヤガミ先輩、俺にもこのグローブ作ってくれよ」

「八尋。これはあくまでも格闘術で戦う際に手を傷ためないようにするために作ってもらったんだぞ」

「え?そうなの?悪い悪い」

 凛祢が説明すると八尋は頭を掻いて謝罪する。

「アーサー、君の剣も大分痛んできてるんじゃないか?」

「もう1戦くらいはいけるだろ……大丈夫だって」

 アーサーも手入れを終えた鋼鉄刀剣『カリバーン』を鞘に収納する。

 正直、3連戦替えもなし、少しの手入れと研ぐくらいで使い続ければ刀剣でも痛んでくる。

「「ありがとうございました。自動車部と整備部の皆さん」」

「いえいえー。まあ大変だったけど凄くやりがいがありました」

「確かにそうだよね。戦車や本物の銃を整備することになったし、なにより楽しかったですから!」

 ナカジマとヤガミがお互いを見た後に言い放つ。

 ツチヤやヤマケンも後ろで笑みを浮かべている。

「砲身が変わって、新しい戦車が2輌。増えた歩兵は4名」

「そこそこ、戦力と装備の補強はできたな」

 ルノーとⅣ号に目を向けた柚子と桃が呟く。

「あの、ルノーに乗るチームは?」

「俺も気になってました。ルノーの随伴歩兵も」

 みほと凛祢が疑問を口にすると、ガレージの扉を開けて7人の生徒がやってくる。

「今日から参加することになった園緑子と風紀委員です。よろしくお願いします」

 顔がそっくりな女子3人がお辞儀をする。

「どうも、大洗男子学園の風紀委員長やってる青葉誠一郎(あおばせいいちろう)です!よろしくお願いします!」

「図書委員長の赤羽哲也(あかばてつや)だ……」

「保健委員長の黄場裕也(きばゆうや)です」

 青髪の男子生徒ほうは1人は元気そうだが、残りの2人はそっぽを向いていた。

 麻子は少し驚いたような表情を浮かべる。

 そして、最後にもう1人が1歩前に出る。

「元船舶科!今は3年普通Ⅰ科A組、衛宮不知火だ!よろしく!」

 凛祢や英子は知っているが、みんなの前で自己紹介をしたのははじめてだった。

 衛宮不知火。九七式軽装甲車発見に助力してくれた生徒であり、船舶科から転科してきた男だ。

「略してそど子と愉快な仲間たちだ!いろいろ教えてやってねー」

「会長、名前を略さないでください!」

「何チームにしよっか?照月ちゃんたちもまだ決めてないし」

 呼び名に緑子が反論するが杏は無視するように話を進める。

「うーん。B1ってカモっぽくないですか?」

「んじゃ、カモに決定!」

「カモですか!?」

 みほの意見に杏は即決定する。緑子はオーバーリアクションでもしているかのように驚く。

「葛城君、分隊名を決めて」

「えーと。カモさんチームなのでなのでシラサギとかどうですか?同じ鳥類ですし」

「ハイ決定!委員長組はシラサギさん分隊ね!」

 凛祢が口にすると杏はカモさんチームと同様に即決定する。

「シラサギですよ!」

「「はいはい、そうですね」」

「2人ともノリが悪い!というか、シラサギって鳴くんでしょうか?」

 青葉はテンションが高いが他の2人は、やけに静かだった。

「杏、私たちのチーム名は?」

「うーん照月ちゃんたちはどうしようか……」

 英子が声を掛けると再び杏は考える。

「随伴歩兵は衛宮1人だし、オオカミとか」

「いいねーそれ!1匹狼だね。照月ちゃん、秋月、衛宮君は3人でオオカミさんチームってことで!」

 杏は親指を立ててグッドっと言わんばかりに凛祢に向ける。

「オオカミって……どうせなら犬でしょ」

「いいんじゃない?イヌとオオカミ、なんか似てるし」

 英子が苦笑いしていると秋月は笑みを浮かべる。

「オオカミか……わおーんってか」

 不知火もオオカミの鳴きまねをして見せる。

「戦車の操縦は冷泉さん、銃射撃は東藤君が指導してください」

「えー」

「マジかよ……俺以外にもいるだろ」

 宗司の発言に2人は露骨に嫌そうな顔を浮かべる。

「私が冷泉さんに!?」

 そど子は驚いて見せる。

「成績がいいからっていい気にならないでよね!」

「だったら自分で教本見て、練習すればいいだろ」

「なに無責任なこと言ってるの!ちゃんとわかりやすく、懇切丁寧に教えなさいよ!」

「はいはい」

 麻子は面倒な生徒を押し付けられたと思いながら返事をする。

 一方、俊也の方と言えば。

「銃の撃ち方を教えてください」

「引き金を引くだけ」

「……え?」

 青葉は俊也の返答に思わず、耳を疑う。

「えっと、もう1度言ってもらっていいですか?」

「だから、引き金を引くだけだって言ってんだろ。そこからは自分でやれ」

「いやいやいや、おかしいでしょ。引き金引いたら銃弾が出ることぐらいミリタリー好きじゃなくても分かりますよ!」

「知ってんなら教える必要ねぇだろ。あとは頑張れ」

 俊也はその言葉を最後に逃走しようとするが、青葉が腕を掴んで引き留める。

「何逃げようとしてるんですか!ちゃんと教えてくださいって」

「めんどくせぇ、先輩だな。わかったよ」

 俊也も麻子と同様にチームの義理と言う理由で仕方なく教育係りを引き受ける。

「次は3回戦だ!対戦相手は去年の優勝校、プラウダ高校とファークト高校から編成された連合だ!絶対に勝つぞ!負けたら終わりなんだからな!」

「どうしてですか?」

「負けても次があるじゃないですか?」

「相手は去年の優勝校だし」

「胸を借りるつもりで」

「そうそう気楽に気楽に……」

 桃の言葉に違和感を感じた1年生たちが言うと。

「それじゃ駄目なんだ!」

 雄二の鋭い声がガレージ内に響き渡った。

 その場にいた誰もが驚きを隠せなかった。

 そんな中、生徒会役員とたった1人秋月だけは真剣な顔をしていることに気づく。

「勝たなきゃダメなんだよね……」

「そう……俺たちに負けると言う選択肢はない」

 杏と英治は静寂の中で一言、口にした。

 その瞬間、「何故?」という疑問が凛祢の脳内に浮かぶ。

 いや、もっと前から凛祢は疑問に思っていた。

 生徒会はどうしてここまでして勝利にこだわるのだろうか?

 あの日、セレナが口にした言葉、「最後の希望」。その意味も今はわからないままだった。

 大事なもののために勝利しなければならない理由が。

「英……」

 凛祢が口を開いたとき、甲高い音と共に全員の視線がガレージの隅に向いた。

 時々ガレージに現れる野良猫が、予備の砲弾を落とした音だったことを理解するのは数秒もかからなかった。

「……西住、葛城。号令を」

「「はい、これより訓練を開始します!」」

 雄二に言われ、凛祢とみほが指示を出すと一斉に戦車に乗り込み外に出ていく女子生徒たち、男子生徒たちも銃火器を手に外に出る。

「西住ちゃん、葛城君。あとで大事な話があるから生徒会室に来て」

「え?」

「……了解です。行くぞみほ」

 みほは杏の言葉を理解できないまま訓練に向かう。一方、凛祢は疑問を抱えたまま訓練に向かうのだった。

 次のフィールドは雪原というのもあり、大洗学園艦も次のフィールドに向かっているため屋外は雪が降っていた。そのため、屋外の季節はまさに冬のように寒くなり始めている。

 

 

 数時間後、外も真っ暗になり生徒たちが下校したにも関わらず大洗女子学園の生徒会室には明かりが灯っていた。

 凛祢とみほは目の前の光景に少し驚いていた。

 目の前には大きめのコタツ。その上に用意されたガスコンロと鍋料理と小皿。生徒会役員は寒さを凌ぐために半纏を身に着けている。

 凛祢も防寒用のロングコートを身に着けているが。

 みほは制服にマフラーと言う格好をしていた。

「いやー寒くなってきたねー」

「同感だ。最近まで夏の気分だったってのに」

 杏と英治が笑みを浮かべて呟く。

「北緯50度を超えましたからね」

「次のフィールドは北なんだろ?歩兵は特製制服で戦場を駆けて大丈夫なのか?」

 桃が言うと雄二が生徒会室内のストーブを点けた。

「それについては、試合開始直前までは制服の上にコートとか着ていいみたいですよ」

「それでも寒そうですから、カイロとかも持ってた方がいいですね」

 柚子と宗司も寒そうにコタツに入る。

「まったく試合会場をルーレットで決めるのはやめてほしい」

 ストーブの前に立っていた桃が淹れたての緑茶と紅茶をお盆に乗せてやって来る。

「あの話って……」

「どうしたんですか?」

 みほと凛祢も生徒会役員に問い掛ける。

「まあまあ、あんこう鍋でも食べて!」

「会長の作るあんこう鍋は絶品なのよ」

「まずね、あん肝をよく炒めるといいんだよ、そこにみそを入れて……」

「杏会長、料理が趣味でしたもんね。俺もあんこう鍋の作り方聞きたいです」

 杏の説明に凛祢も興味を惹かれ、コタツに入ろうとする。

「り、凛祢君!?そんなこと聞いてる場合?」

「あ、悪い悪い。杏会長の料理はうまいからさ」

 みほに呼ばれて凛祢は申し訳なさそうに頭を掻いた。

 歩兵道を始めてからいろんな人と食事をしたが、料理を作る側としての腕は沙織と杏以外はまったくと言っていいほどからっきしだった。

 この前のサバイバル合宿の時はなんてひどかったものだ。1年生がバーベキューの食材をすべて炭に変えてしまって、そこを杏会長が助けてくれたんだよな。あの時の野菜炒めの味はよく覚えている。

 沙織の料理もおいしかったが、どこかありきたりな味と言うか、そんな感じがした。

 だが、杏会長はおいしいが沙織とは違うオリジナリティがあると言うか、隠し味がしっかり存在している気がした。

 それでも、どちらもおいしいのに変わりはない。

「えっと、みそを入れてね……」

「いえ、鍋の作り方はいいです」

 みほの言葉に沈黙が流れる。

「コタツ熱くない?」

「はい、大丈夫です」

 柚子の気づかいに凛祢が答える。

「小山がやりくりして買ったコタツなんだよ!去年も学園祭前にみんなで溜まった仕事を整理したっけなー」

「あれは大変だったが、いい思い出だな」

 杏と英治が去年の事を思い出すように言った。

 凛祢も去年の学園祭の事を思い出す。そういえば去年は早めに冬がやってきたっけ。

「他にも色々買ってましたしね。冷蔵庫とか電子レンジとかホットプレートとか」

「もはや、生徒会室にあっていいものじゃないだろ」

 宗司の言葉に雄二がツッコミを入れる。

「体育祭や合唱祭や学園祭の前にはここでよく寝泊まりしたからなー」

「あったなー。俺たちは理科準備室で寝泊まりして大変だったけ」

 すると今度は思い出話を始める生徒会役員。

 一体、何を言いたいのか分からない。

「去年は大カレー大会もやってたな」

「あーありましたね。2年のカレーがハヤシライスだったていう」

「いや、思い出話はいいですから……」

 みほはまたも話を遮る様に促す。

 みほの気持ちも分からなくもないが……って、こんな話、前にも聞いたような。

 いつだったけ……そうだ、英治会長たちに歩兵道をしてほしいと言われた時だ。

 凛祢はその時の事を思い出す。

「あ、私たちと英治会長たちはね、1年生の時から生徒会やっててね」

「そうだ、珍しいものがあるんだよ、これ」

 杏がそう言って持ってきたのは6人のアルバムだった。

 数ページめくったところで6人が学園の前で写っている写真があった。

 桃は眼鏡をかけておらず、雄二もどこか優しそうな顔をしている。6人全員が笑顔の写真だった。

「ほら、河嶋が笑ってる。緑間君もまだ根暗だったよね」

「そんなもの見せないでくださいよ!」

「そうですよ。てか、俺は根暗じゃないですし」

 桃と雄二は少し恥ずかしそうに写真を見る。

 色々な写真を見た。今の生徒会役員決定時の写真、学園祭や体育祭の写真、英治や杏が仮装している仮装大会の写真なんかもあった。

 他にも、夏の水かけ祭り、泥んこプロレス大会の写真。

「楽しそうですね」

「まさに形のある思い出ですね」

 みほと凛祢も少し笑みを浮かべて写真に目をやる。

「うん、楽しかった」

「だよな、今の俺たちの成り立ちみたいなものだしな」

 杏が思い出すように言うと続くように英治も口を開いた。

「本当に楽しかったですね」

「ああ、本当にな」

「ですね」

「あの頃は……」

 桃や雄二、宗司、柚子も同じような表情を浮かべていた。

 だが、どこか悲しげな顔をしている。

 なんだろう、この違和感は。

「ん?ん?」

 みほは生徒会役員の顔を見る。どうしていいかわからなそうなみほに凛祢が気づく。

「……あの、鍋煮えてるんですけど」

「……そ、そうだな。食べよ!」

 凛祢の声に生徒会役員は顔を上げて、あんこう鍋を取り分けていく。

 

 

 1時間ほどで食事を終えて凛祢とみほは下校するために廊下を歩いていた。

「結局何だったんだろう。話って……」

「本当にそうだよな……あ、やべ。財布忘れた。悪いみほ先行っててくれ」

「え、私もいっしょに行くよ?」

「いや、1人で大丈夫だ。玄関で待っててくれ」

「うん、わかった」

 凛祢は1人、生徒会室を目指した。

 嘘をついた。財布は鞄から出していないから忘れるはずがない。

 まだ生徒会には聞きたいことがある。

 それを聞かないうちは……やっぱり納得できない。

 凛祢が階段を上り終えた時、廊下の先に人影を発見した。

「あら、まだ残ってたの?もう遅いし下校した方がいいわよ?」

「秋月か……」

 凛祢の視線の先には英子の友人である秋月の姿がある。

 覚悟を決めて視線を向ける。

「秋月、俺たちが『最後の希望』。お前ならこの言葉の意味を知ってるんじゃないか?」

「……なんのことだかわからないわね。なんか変よ、葛城くん」

「とぼけるな。じゃあ、なんでこんな時間まで学校に残ってるんだ?」

 凛祢は鋭い視線を向けた。

 現時刻は7時半過ぎ、こんな時間まで残っているのは不自然だった。

「忘れ物しちゃってね。授業のノートを取りにきただけよ。そういう君だって残ってどうしたの?」

「俺は会長たちと話を……」

 秋月は静かにそう言ったが、凛祢には不信感があった。

 彼女は生徒会とこそこそあっていた。

 大洗に情報を提供していた「セレナ」という女。そして、彼女の名は「秋月セレナ」。

 2回戦の後、凛祢と不知火は2人だけで楯無教諭の元を訪れた。

 楯無教諭は学園内、全ての生徒の顔と名前を知っている。彼女の名前を知る事は難しくはなかった。

 そして、諜報活動に長けたセレナは確実に秋月だってことはわかってる。

「答えろ、生徒会が勝利にこだわるのはなんでだ?」

「わからないわよ」

「秋月、いやセレナ!教えてくれ!何か知ってるんじゃないのか!?」

「……言ったでしょ。わからないって」

 セレナの言葉は変わらない。多分、このまま聞いても絶対に答えない。

 これで答えるようなら、もう話しているからだ。

 もはや、これしかない。

「くっ!わかったよ、秋月と生徒会がそう言うつもりなら構わない。会長たちに伝えろ。次の試合に勝ったら隠してることを洗いざらい話せって。じゃなきゃ俺は……準決勝と決勝戦に出場しない!」

「何を馬鹿なことを言ってるの?」

「言葉通りだ。秋月が何か知っていようとなかろうと、俺は真実を知らなきゃ試合には参加しない」

 凛祢はセレナの顔を横目に見て階段を下りて行った。

 セレナも凛祢の姿が見えなくなった後、その場を去った。

「悪い、遅くなった」

「いえ大丈夫です。ありましたか?財布」

「ああ。杏会長が拾ってくれてたみたいだった」

 みほに答えるように凛祢も言うと靴を履いたあと雪の降り続く中、帰路に向かった。

「あの凛祢さん……」

「どうした?」

「こんな私を支えてくれて、一緒にいてくれてありがとうございました」

「別に気にするな。俺はただ寄り添っていただけだ、それが誰かの為になるならと思って……」

 あの日、自分の選択は間違っていなかったはず。

 自分が何もかも背負えばいいと思っていた。だが……今思えば逃げたのかもしれない。

 戦う理由もなくなってしまったから。

 でも、今は違う。寄り添いたいと思った人が……戦う理由をくれた人がいる。

 孤独の辛さは自分が一番よく知ってるから。

「感謝するのは俺のほうだ。みほが居てくれたから。俺は戦場に戻ってくることができた」

「凛祢さん……」

「必ず勝って、優勝しよう」

「はい!」

 凛祢とみほは降り続く雪の冷気を感じながら、帰路を進んだ。

 

 

 生徒会室では片づけが行なわれていた。

「言えなかったじゃないですか……」

「そうだな……」

「これでいいんだよ。転校してきたばかりで重荷背負わせるのもなんだし」

 桃と雄二が落ち込むように言うと、杏が天井を見上げて言った。

「ですが……」

「事実を知って委縮するより、伸び伸びやらせてやるのが俺たちの務めだろ?結局俺たちは無理強いをしたようなものなんだから」

 英治は生徒会室の窓から暗くなった外を見つめていた。

「……僕、お茶入れますね」

「はー、終わりか……」

「まだわからないだろ?最後まで全力でやって行こう」

 雄二の気の抜けた声に英治が呟くのだった。

 

 

 そして、黒森峰学園艦。西住家には聖羅とまほが訪れていた。

 畳部屋で3人は正座をして向き合う。

「あなたたちは知っていたの?」

「はい」

「ああ、抽選会の時点で知っていた」

 しほの質問にまほと聖羅が答える。

「西住の名を背負っているのに勝手な事ばかりして……」

「……」

「何もそこまで言うことねぇだろ。まほが悪いことしたわけでもねぇのに」

 まほの辛そうな表情を見た聖羅は思わず口を出してしまう。

「あなたは黙ってなさい。これ以上、生き恥をさらすことは許さないわ。『撃てば必中、守りは固く進む姿は乱れ無し』、鉄の掟、鋼の心、それが西住流」

「……」

「っ……」

 無言のまほを見ていた聖羅がもう一度口を開こうとするが、しほの鋭い視線に口を開くのをやめる。

「まほ……」

「わ、私と聖羅はお母様と同じで西住流そのものです。でも、みほは……」

「もういいわ」

 まほの答えにしほは立ち上がる。

「ちょっと待てよ。なんだってそんなにイラ立ってんだよ?」

「あなたには関係ないわ」

「関係アリだよ。生き恥だ?笑わせんな。試合の結果が全てだって言ったのはあんただろ。だったら俺たちが大洗に勝てばいい。今年の全国大会で優勝すれば文句ねーだろ」

「聖羅……やめろ。お母様の前なんだぞ!」

「まほは黙ってろ。俺は何も西住の名が欲しいわけじゃない。俺は俺が信じたものの為に戦う、黒咲の名を歴史に刻むために。だから――」

 聖羅の叫びを遮る様に、乾いた音が室内に響き渡る。

 まほの右手が聖羅の左頬を叩いた音だった。

 しほはまほの行動を静かに見ていた。

「やめろ……やめてくれ聖羅」

「まほ……お前」

「お前まで失ったら私は……」

 まほは顔を伏せていた。しかし、体は震えていた。

 聖羅もそんな様子を見て、理解する。

 みほのことで、一番傷ついていたのは……まほなんだと。

「そうかよ……悪かったよ。俺は帰る、じゃあな」

「聖羅……」

 聖羅はその一言を残して、西住家を出ていく。

 まほは手を伸ばそうとするがその手が聖羅に触れることはなかった。

 しほも去る聖羅を止めることはしなかった。

「まほ……」

「お母様、聖羅は!」

「あの男の事はひとまず保留とするわ。3回戦は私と歩兵道連盟の葛城も見に行く。あの子に勘当を言い渡すためにね」

「はい、お母様……」

 静かな室内でしほとまほの声が響くのだった。

 勘当を言い渡す。それは親が子との縁を切ること。まほもそれくらい知っている。しかし、自分にはできる事はない。

 しほはそれ以上何も言わなかった。まほもまた何も言えなかった。

 

 聖羅は帰路を歩きながらため息をついた。

「あーあ。またやっちまった……。すぐに口を開くのは悪い癖だな」

 聖羅が夜空を見上げると星と満月が輝いていた。

 昔は戦友と見た空だと言うことは今でも覚えている。

 寮に到着し、扉を開く。

「ただいま」

「お兄ちゃん、お帰りなさい!ご飯できてるよ」

「遅くなったな」

 寮に帰宅した聖羅を1人の少女が出迎える。セミロングの黒髪、中学生と変わらない身長、華奢な体、幼さの残る顔つき。

 彼女の名は黒咲聖菜(くろさきせな)。聖羅のたった1人の妹である。

「お兄ちゃん、何かあった?」

「別に、まほとちょっと喧嘩しただけだ」

 すぐに部屋に入ると聖菜が夕食の準備を始めている事に気づく。

 数分ほどで聖羅は聖菜と夕食を食べ始める。

「西住さんと?珍しいね、仲いいのに」

「そんなに仲良く見えるか?」

 聖羅は思わず聖菜の顔を見た。

 正直、聖羅自身はそこまで仲良くしていた記憶はない。時々、一緒に出掛けるくらいだった。

「仲いいじゃん。いっそ付き合えばいいのに……」

「ぶっ!馬鹿言うな、あっちは西住流だぞ」

 味噌汁を口に運んだ聖羅も思わずむせ返る。

 そんな聖羅を聖菜は笑いながら見つめる。

「ふーん、黒森峰で歩兵道始めた頃は『西住流も島田流も関係ない』とか言ってたじゃん。それにお兄ちゃん黒咲流を歴史に残すんでしょ?」

「いいんだよ、俺とまほは今のままで。黒咲流を残すか、そんなことも考えてたな……まったく現実はうまくいかないぜ」

 聖羅は再び煮物を口に放り込む。

「えー、お似合いなのに……」

「お前こそ、誰かと付き合わないのかよ?」

「え?わ、私?私は、凛祢さんと……」

 聖菜は少し恥ずかしいのか、視線を泳がせる。

「なんだ、凛祢のこと。まだ好きだったのか」

「か、関係ないでしょ!凛祢さんも黒森峰に入学していれば……あ」

「……ごめんな」

 聖羅は茶碗を置いて、視線を落とした。

 凛祢の過去を知る聖羅と聖菜。聖羅は凛祢が歩兵道を辞めてしまったことを思い出す。

 目を背け続けた過去。

 あいつが、凛祢が居たら去年のようなことにはならなかっただろうに。

「あ、ごめん。お兄ちゃん!私、また……本当にごめんなさい」

「いいんだ……凛祢にだけ責任を押し付けたから。それに西住妹も……」

 聖羅は拳を強く握った。凛祢は犠牲になっただけなのに、ここまで来てしまった。

 そして、聖羅は去年の試合で再び過ちを繰り返してしまった。西住みほと言う犠牲のもとに。

 

 

 大洗連合とプラウダ&ファークト連合の対戦である3回戦、試合前日。大洗女子学園校庭ガレージ内では大洗連合の最後の準備が行なわれていた。

「おまたせー」

「おーい、言われたもの買ってきたぞー」

 段ボールを抱える沙織と八尋が戻り、凛祢やみほたちが集まる。

 段ボールの中にはカイロ、マフラー、防寒用のコートなどが入っている。

「カイロまでいるんですか?」

「戦車の中には暖房ないから」

 華とみほが興味深そうに段ボールの中を覗きこむ。

「俺たちは直接雪原を駆けるのか……長時間狙撃地点で動かないのはしんどそうだ」

「確かにな。でも、1番つらいのは突撃兵かな?雪原を走り回るのって結構大変だから。物資はできるだけ用意した方がいいぞ。非常食とかな」

 翼と凛祢もカイロを手に持って内容を確かめる。

「タイツ二枚重ねにしようか?」

「ネックウォーマーもしたほうがいいよね」

「それより、リップ色がついたのにした方がよくない?」

「コート着ていいんだっけ?」

「長靴もいいでしょ」

「髪の毛をワックスでガッチガッチに固めようぜ」

「多分、雪で濡れて、大変な事になるぞ」

「3回戦だからギャラリーも増えてるだろうし、やってもいいじゃん」

 ウサギさんチームとヤマネコ分隊からもそんな声が聞こえてくる。

「どうだ」

「私はこれだ!シャーロックは片眼鏡が似合ってるね」

「そうかい?」

 カツラを被った左衛門座と草花の冠を乗せたカエサル、片眼鏡をつけるシャーロック。

 他にもジルがどこから持ってきたのか知らないが鎧を装着していたり、景綱も笛を演奏していた。

「あなたたち、メイクは禁止!仮装も禁止!ちょっと、青葉君!あなたも注意しなさいよ!」

「えー、もう注意しても聞かないじゃないですかー。ほっといたほうが楽ですよ、そど子さん」

 真面目そうな緑子とは真逆に笑みを浮かべる青葉。

「そど子って呼ばないで!あなた、それでも風紀委員長なの!?」

「風紀委員長の青葉です!みなさん校則は守りましょうー」

 青葉は持っていた軽機関銃RP-46の銃口を向けると棒読みで言った。

「ちょっと、危ないから銃口向けないでよ!」

「あはは、すみません!でも、いいじゃないですか、皆さん楽しそうですし」

「これは授業の一環なのよ?校則は守りなさい!それにあなたパイプ煙草吸うのもやめなさい」

「これはレプリカだよ」

 いつも笑ってのんびりしている青葉とは異なり、緑子は怒りの表情を浮かべている。まさに水と油と言ったところか。

 すると、緑子の肩にアーサーとエルヴィンが手を乗せた。

「「自分の人生は……自分で演出する」」

「何言ってんの!?」

 2人がドヤ顔していると緑子は訳が分からなくなったのか声を上げた。

「今度はみんな結構見に来ますよ!」

「戦車にバレー部員募集って書いて貼っておこうよ!」

「いいね!」

 忍と妙子が言うと、賛成するように典子が声を上げた。

「俺たちもバスケ部募集する?」

「でも俺たちのほうは人足りてるぞ」

「そうですよねー。レギュラー争い激しいですから」

 漣が言うと迅と淳が続くように呟いた。

 すると、ガレージ内に九七式軽装甲車が入って来た。緩やかな動きで八九式の隣に停車した。

 そして、搭乗していた英子とセレナが降りてくる。

「だいぶ上達したんじゃない?」

「それは冷泉さんにあれだけしごかれたもの」

 英子とセレナが会話して歩いてくる。

 九七式軽装甲車に搭乗するのは英子とセレナの2人のみ。そもそも2人乗りだからだ。

 ただし1人で二役も三役もすることになるが。

 ちなみに車長兼砲手兼通信手が英子。操縦手がセレナといった配置だ。

「英子、秋月。お疲れ様」

「うん」

「今日はもう上がっていいかしら?」

「ああ構わないよ」

 凛祢が答えるとセレナは早足にガレージを出て行った。

「凛祢」

「ん?」

「秋月となんかあった?」

「え?いや、なんもないけど……」

 英子のドストライクな質問に鼓動が早くなった。

 この前話して以降、セレナは凛祢を避けている。

 凛祢も気づいているが。今のままでもしょうがなかった。自分自身、次の試合に集中したかったから。

「なら、いいんだけど」

 英子もそう言ってみほたちの元に歩いていく。

 セレナは英子にも隠し事を話していないみたいだった。

 それほど隠し通したい事なのだろうか?

「アンツィオとアルディーニに勝ってからみんな盛り上がってますよね!」

「期待もされてるからな」

「でも、僕は少し緊張します。対戦相手はプラウダとファークトですから」

 優花里や俊也、塁も笑みを浮かべる。

「次は母と新三郎も見に来ると言っています」

「クラスのみんなも来るし、まけらんねーな」

「当たり前だ。俺の兄弟も来るらしいからな」

「翼の妹と弟か。懐かしいな、デカくなったか?」

 華と八尋、翼も強気に言い放つ。

 家族……か。

 訓練を終えて、みほと英子を連れて帰路を歩いていた凛祢は携帯端末に目を落とす。画面には不在着信が何度も来ていた。

 相手は「葛城朱音」。

 どうやら朱音も気づいたようだ。凛祢が歩兵道を始めていたことを。

 週刊雑誌にも載っていたし、バレるのは時間の問題だったのだが。

 だが、凛祢は電話に出なかった。

 携帯端末を胸ポケットにしまい、最後の作戦確認のためにみほの家を目指す。

「15輌対7輌。それにあっちはT-34/76と85にKV-2、IS-2……」

「歩兵は1分隊6人×15の90人。しかも、サンダースの時と違って計算高い隊長のアルベルトか。爆弾作戦は雪上では少し不利。キツイな」

「短時間で一気に進出してフラッグ車を叩くのも手だけど失敗したときに取り返しがつかないわけね」

 みほ、凛祢、英子がそれぞれの書類を見てため息をついた。

「プラウダは引いてからの反撃が得意だから……挑発に乗らず慎重に」

「ファークトは狙撃兵、砲兵を多めに配置し、残りは突撃兵と数名の偵察兵。まあ、工兵を使う学校なんてウチとアルディーニくらいか……でも、その分、工兵の攻撃は奇襲になりやすい。まあ乱戦になったら勝ち目ないからな」

 みほと凛祢はそう口にして作戦を考えるのだった。

 

 

 3回戦当日、両校の学園艦がフィールドに到着しそれぞれの陣地にて待機している。

 フィールドは雪原。空は日が沈んで夜。大洗にとっては初の夜戦だった。

「寒すぎだってこれ!まじで凍え死にそう」

「やべぇ、小便行きたくなってきた」

「俺もです、衛宮先輩。連れション行きましょう」

 八尋と不知火はがたがた震えながら岩陰のほうに歩いていく。

 みほたちが戦車たちの確認をしている中、凛祢も自身の装備を確認していた。

 ヒートアックス入りのバックパック。2丁のブローニングハイパワーDA、コンバットナイフ。手榴弾を数個。

「塁、これ」

「これってFiveseveN?」

 凛祢は隣にいた塁に、FiveseveNと予備弾倉を渡した。

「俺はこっちがあるから使えよ。訓練で何度も撃ってるから慣れてるだろ?」

「は、はい。いいんですか?」

「拳銃を3丁も持ってても使えないからな。塁が持っとけ」

「ありがとうございます。凛祢殿の使っていたFiveseveNですか……」

 塁もFiveseveNを見て目を輝かせる。

 凛祢はそんな様子を見て、なんで嬉しいのかと疑問を抱くが見なかったことにしようと武器を収納していく。

 腰のホルスターにナイフを、わきのホルスターにブローニング・ハイパワーを収納する。

 予備弾倉と起爆用リモコンもベルトのマガジンケースに収納して、バックパックを背負う。

 最後にオープンフィンガーグローブと防弾加工外套を装備する。

 今回、大洗のフラッグ車は八九式。よって、分隊長兼フラッグ隊長の辰巳がもう1つの防弾加工外套を羽織っている。

 Ⅲ突のキャタピラはウィンターゲッテにして、ラジエーターに不凍液も入れた。

 できる事はやった、後は勝つだけだ。

「「……」」

「あの、大丈夫ですか?」

 凛祢がみほとともにカモさんチームとシラサギ分隊の元に向かい声を掛ける。

「だ、だだ、だだだ、大丈夫でっす、よ!青葉は、頑張ります!」

「おい、緊張しすぎだろ青葉」

「テンパり過ぎだよ」

 青葉は緊張しすぎていつもと違う感じを見せていた。赤羽と黄場はあまり緊張していないようだが。

「いきなり試合で大変だと思いますけど、落ち着いて頑張ってくださいね」

「分からない事があったら無線で連絡してくれ、そど子」

 みほと麻子が風紀委員の3人に向けて言った。

「おい、東藤。お前も何か言ってやれよ」

「んあ?まあ、葛城の指示通りにやれば間違いはない。あとは教えた事をそのまま実戦に出せばいいだけだ」

 凛祢が声を掛けると俊也も言い放つ。

「はい!青葉頑張ります!」

「そんなに期待してねぇよ」

「少しくらい期待してくださいよ!」

 皮肉を言うように呟く俊也を見て青葉が声を上げる。

 凛祢やみほたちが笑っていると、雪合戦しているウサギさんチームとヤマネコ分隊、武田信玄型の雪だるまを作るカバさんチームが目に入る。他にもかまくらを作るオオワシ分隊とワニさん分隊。

「なにやってんだ、あいつら……」

「あははは……」

 凛祢がため息をつくと、みほも乾いた笑いを漏らした。

 すると、音を立てて現れたのは軍用車両『カチューシャ』。荷台部分にはロケット弾を撃つカタパルトが備え付けられている。

 すぐにプラウダのパンツァージャケット姿の小学生の様な背丈の少女と背の高い女子生徒、赤を中心に緑で彩られた特製制服と赤い軍帽を被る2人の男子生徒が現れる。

「あれは……」

「プラウダとファークトの隊長と副隊長……」

「プラウダの隊長、地吹雪のカチューシャとブリザードのノンナですね」

「男子のほうはファークトの隊長、リボルバー・アルベルトと副隊長スナイパー・エレンです」

 あらかじめプラウダ&ファークト連合を調べていた優花里と塁。

 去年の優勝校であるプラウダとファークトの隊長、副隊長のことは凛祢も知っている。

 2人とも奇襲、奇策などの戦術を得意とするため誘いに乗ればあっという間に戦力を削られる。

 そして、プラウダの戦車とファークトの歩兵用武装はソ連(ロシア)のものが中心だ。

 今回はフィールドは「雪原」。地の利も戦い慣れているあちらにある。大洗にとっては厳しい戦いになることは明白だ。

 降りた4人はゆっくりと大洗連合のほうに歩み進めてくる。

 凛祢やみほたちにも静寂の緊張が走る。

 しかし、それは思いもしない形で崩れた。

「ふふ、はははは!このカチューシャを笑わせるためにこんな戦車を用意したのね」

「なんだなんだ?このちびっこ?おい、小学生。観客席はあっちだぞ」

 岩場の裏から戻ってきた不知火が親切のつもりで観客席を指さした。

 その瞬間、凛祢やみほ、生徒会役員に冷や汗が流れる。

「衛宮、なにやってんだ!」

「だってこいつが……」

「私は……17歳よ!」

 カチューシャは衛宮を睨みつける。

 よっぽど衛宮の言葉が気に入らなかったのか威嚇するように睨んでいた。

「えー嘘だろ!杏会長より小さい高校生っているのかよ!」

「衛宮ーあとで袋叩きなー」

 杏が棒読みするように叫ぶ。

「えー、なんでー!?」

「いいから、あっち行ってろ!」

「「行きますよ衛宮先輩」」

 不知火は八尋と翼に引っ張られる様に後方に行く。

 さっきのやり取りを聞く限り、杏も身長のことは少し気にしているのかもしれないな。

 今後、口にしないように気を付けよう。

 改めて英治と杏たちの生徒会役員が前に出ていく。

「やーやー、カチューシャ。よろしく、生徒会長の角谷だ」

「ウチの生徒の無礼を許してくれ。君がアルベルトだね、同じく生徒会長の相川だ。よろしく」

 会長2人が挨拶と自己紹介をして手を差し出す。

「どうも、ファークト高校の隊長、アルベルトです。同志カチューシャの事はお気になさらず」

「ノンナ!」

 握手をしているアルベルトと英治の横では、ノンナが無表情のまま、カチューシャを肩車する。

「あなたたちは何もかもカチューシャより下なの。戦車も技術も身長もね」

「肩車してるじゃないか……」

「口うるさいチビだな」

「聞こえたわよ!よくもカチューシャを侮辱したわね、粛清してやる!行くわよノンナ!アルベルト、エレン!……あれ、あなた」

 振り向きざまに見慣れ顔を発見したカチューシャは視線を向ける。

 大洗の中でカチューシャの知る人間と言えばただ1人、元黒森峰女学院にいた西住みほだった。

「あら、西住流の……」

「……!」

 カチューシャの視線の先に、アルベルトやエレンも視線を向けた。

 みほの隣に立っていた凛祢とアルベルトの視線が合った。

「去年はありがとう。あなたのおかげで私たち優勝できたわ」

「うう……」

「今年もよろしくね、家元さん。じゃーねーピロシキ―」

「ダズビダーニャ」

 カチューシャを肩車したままノンナは振り向いて去って行く。

「久しぶり……と言うべきかな、周防」

「……」

 アルベルトは凛祢の前に来ると皮肉そうに笑みを浮かべていた。

 凛祢も数秒の沈黙の後、口を開いた。

「背、伸びたんですね」

「……それ、今言うことか?まったく、かつての好敵手(ライバル)を忘れてしまったか」

「覚えてますよ。リボルバー・アルベルト。貴方にリボルバーを勧めたのは誰だと思っているんですか」

 アルベルトの前で凛祢も笑みを見せた。

 ファークト高校の隊長アルベルトとは中学歩兵道からの顔見知りだった。中学時代は背が低かったが、今は凛祢よりも高くなっていた。170くらいはあるのではないだろうか。

「まあ中学の時は勝たせてもらったからな。今回も勝たせてもらうよ」

「……俺たちは負けません」

 凛祢は拳を強く握る。

 今負けたら戦場に戻ってきた意味がないからだ。

「まあ、せっかく戦場で会えたんだ。いい試合にしよう。超人の戦いを見せてもらうぞ……行くぞエレン」

「はいよ、ダズビダーニャー」

 アルベルトは振り向きざまに小さな声で呟くとエレンも頭を軽く下げてカチューシャに乗り込み、自分の陣地へと帰って行った。

 

 

 雪が降り続く中でも観客席に人の姿はあった。

 翼の弟、鳥海(ちょうかい)と妹の小鳥(ことり)。秋山優花里の両親や五十鈴華の母親と新三郎。

「ほら玄十郎さん。早くしないと英子の試合始まっちゃいますよ」

「フンッ。この寒さは老骨に堪えるのう」

 照月英子と敦子の祖父、玄十郎と祖母の麗子も会場に到着していた。

 体全体で雪原の寒さを感じていた玄十郎は杖を突きながらゆっくりと船から降りていく。

 すると1人の女性が待っていたように車を用意していた。

「遅かったなじじい、お待ちしていました麗子さん。こちらの車で会場まで行けますから」

「ありがとう、敦子」

 それは気づかいで照月敦子が用意したものだった。

「年寄り扱いするでない!ワシはまだまだ現役だぞ!」

「そんなこと言って……敦子が用意してくれたんだからお世話になりましょ」

「……麗子が言うなら仕方あるまい」

 2人は素直に車に乗り込み、会場へと向かう。

 敦子も見送った後に役員用のテントに向かった。

 

 

 1回戦の時と同様に、一般とは別の場所にて聖グロと聖ブリの生徒たちは試合観戦の準備をしていた。

「この寒さ、プラウダより圧倒的に劣る車両と歩兵の技術。これでどうやって勝つつもりでしょう……」

「なんだよ、ペコちゃん心配してるのか?」

「そういうわけじゃないですが。……ガノ先輩、『ペコちゃん』って呼ぶのやめてください」

 オレンジペコはガノスタンをジト目で見つめた。

「え?可愛いじゃねーか、ペコちゃん。なあ?」

「うん、ペコちゃんはかわいいよ」

「ええ、ペコちゃんはかわいいわよ」

 ガノスタンの呼び方を気に入ったのか、ケンスロットとダージリンも同じ呼び方をした。

「ケンスロット先輩やダージリン様まで。本当にやめてくださいー」

 オレンジペコは恥ずかしがるように頬を赤く染めて声を上げる。

「ごめんごめん、ペコちゃんがあんまりかわいいからさ」

「ガノ先輩は意地悪ですね……」

 オレンジペコは再びジト目で見つめていると、ガノスタンはいつものように満面の笑みを浮かべていた。

 

 

 そして、大洗連合も陣地内で最後の戦闘準備を終えていた。

「とにかく相手の車両数に飲まれないように冷静に行動してください」

「フラッグ車を守りつつ、ゆっくり前進して、まずは相手の出方を見て行こう」

 円陣を組む大洗連合の中で凛祢とみほが作戦内容を伝える。

 今回は自軍から攻めていたアンツィオとアルディーニの時とは真逆のパターンだ。

 なるべく慎重に……。

「ゆっくりもいいが……」

「ここは一気に攻めてみてはどうかな?」

 珍しくカエサルとシャーロックが作戦内容について進言した。

「え?」

 みほも思わず驚いてしまう。

 まさか、カエサルやシャーロックが異議を唱えてきたからだ。

「ふむ」

「妙案だ」

「先手必勝ぜよ」

 2人に続くようにカバさんチームのメンバーも進言する。

「そうだな、縮まっていても勝てない」

「こちらから打って出るべきだ」

「アンツィオの時みたいに勢いを持っていくべきかと」

 ワニさん分隊も同じ意見だった。

 だが、リスクが大きすぎる。それは凛祢だけでなくみほや英子も感じていたこと。

「気持ちはわかりますが、リスクが……!」

「そうよ、みんな。2回戦とは違うのよ!」

 みほや英子がなんとか思い止めようとする。

 だが、この場にいる全員が最初から攻め姿勢を取っているのだった。

「大丈夫ですよ!」

「私もそう思います!」

「勝負は速攻で!」

「攻めなければ勝てはしないのだ!スリーポイントのように効率的に」

 アヒルさんチームとオオワシ分隊も

「なんだか負ける気がしません!」

「相手は舐めてるから大丈夫っすよ!」

「ぎゃふんと言わせてやりましょう!」

「お、いいな。それ」

「「「「ぎゃふーん!!」」」」

 ウサギさんチームとヤマネコ分隊も

「よし。それでいこう」

「勢いは大切ですもんね」

「一気に勝負をかけて、短期決戦だ!」

「なんだか、アンツィオとアルディーニみたいですが。攻めの姿勢は大事ですからね」

 カメさんチームとカニさん分隊も同様だった。

「あ……」

「わかった。今回は初めから攻めて敵の戦力を削いでいこう」

「凛祢さん……わかりました。一気に攻めます!」

 凛祢が先に折れ、意見をみんなに合わせると、みほも攻めを優先することにした。

「いいんですか?」

「慎重に行くんじゃないのかよ」

「長期戦になったら俺たちが先にボロを出しちまう。この寒さや不慣れな雪上での戦いだからな、どっちにしても俺たちが全力全開で戦える時間は限られてるってことだ。寒さは俺たち歩兵の体力を奪って行くし、雪は足取りを鈍らせる……」

 心配する優花里や翼だったが俊也の説明に納得したように、それ以上は何も言わなかった。

 俊也の言う通りだからだ。

 正直、俊也がここまで戦場の状態を気にしていたとは驚きだった。

「みんなが勢いに乗ってるんだったら行きましょう!」

「創始も言ってるしな。『兵は拙速なるも聞くは、未だ巧みの久しきを賭ず』。だらだら戦うのは国家国民によくない。戦いはちゃちゃっと集中して行う方がいいんだよ!ね、西住ちゃん、葛城君」

 杏もいつものように笑みを浮かべてウインクして見せる。

「そう言うことです」

「相手は強敵ですが頑張りましょう!」

「「「おおーー!!」」」

 凛祢やみほ、そして大洗連合の声が雪原のフィールドに響くのだった。

「おいおい、こんな感じで大丈夫か?」

「みんな、こんな感じだしね。『大丈夫だ、問題ない』ってことじゃない」

「照月さんからそんな言葉が出るとはな」

「うるさいわね。殴るわよ」

「それはマジで勘弁だわ」

 英子と不知火も円陣の外側でそんな事を呟いていた。

 こうして始まりのサイレンと共に、大洗連合対プラウダ&ファークト連合との試合が開始されるのだった。




今回も読んで頂きありがとうございます。
いよいよ始まったプラウダ戦。
Ⅳ号が長砲身に換装したように、凛祢も少し武装を替えました。
プラスチック爆薬、ブローニングハイパワー、ナイフ、オープンフィンガーグローブと防弾加工外套によって、凛祢もようやくフル装備となりました。
本格的な戦闘は次回からになります。
質問と意見も募集しているので書いていただけると嬉しいです。


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第17話 極寒の夜戦(ナイトレイド)

どうもUNIMITESです。
今回から本格的なプラウダ戦がスタートです。
凛祢たちは前年の優勝校に勝てるのか?乞うご期待ですね。
では本編をどうぞ。


 いよいよ開始された3回戦。

 大洗連合の対戦相手は去年の優勝校プラウダ&ファークト連合。

「……」

 揺れる九七式軽戦車の車体に掴まりながら凛祢は短く白い息を吐く。

 凍えるような風が全身を吹き抜け反射的に身震いした。

「どうした葛城?緊張してるのか?」

「……そうかもな。プラウダ&ファークト連合という強敵との戦いだから少し緊張してるかも」

「ふーん。まあ最善を尽くそうぜ」

 隣で同じように掴まっていた不知火は笑みを浮かべる。

「そうよ凛祢。今の貴方は十分強くなっているわ」

「そうだといいがな」

 キューポラから頭を出した英子は双眼鏡で辺りを見渡す。

 凛祢も腰のマガジンケースから単眼鏡を取り出し同じように見渡した。

 

 

 一方、プラウダ&ファークト連合の戦車と15輌の小型軍用車両『UAZ-469』は雪原を迷いのない走りで全速前進していた。

 前方を走行するT-38/85、IS-2。その後を追いかけるようにKV-2が走行している。

「いーい?あいつらにやられた車両と歩兵はシベリア送り、25ルーブルよ!」

「日の当たらない教室で25日間の補習ってことですね」

 カチューシャの言葉を直訳するようにノンナが呟く。

「それは御免だな」

「そうならないためにも戦死しない事だ。周防……いや葛城凛祢には気をつけたほうがいい」

 顔を青ざめるエレンにアルベルトが通信を送る。

 過去の姿だとは言え、凛祢と言う男の実力を知るアルベルトは警戒を怠っては居なかった。

 過大評価であっても警戒しておくことに意味はある。

 それは彼自身が今まで培った「経験」からくるものだった。

「行くわよ!あえてフラッグ車だけ残して後はみんな殲滅してやる!」

「穏やかじゃないな、同志カチューシャ」

 カチューシャの叫びを聞いてアルベルトも口を開いた。

 するとカチューシャの視線がアルベルトに向いた。

「いいのよ!アルベルトも敵歩兵は無慈悲に殺しなさい!なんなら死体蹴りしてもいいわよ!力の差を見せつけてやるんだから!」

「お前は本当に無茶言うな……敵を殲滅するってのは賛成だがな」

 アルベルトはやれやれとため息をついたが、その目は集中する時の目つきに変わっていた。

「さあ行くわよ!」「さあ行くぞ!」

「「「「ウラーー!!」」」」

 カチューシャとアルベルトの声が重なりプラウダの戦車部隊とファークトの歩兵部隊から返事の声が上がる。

 すると戦車内の音楽プレイヤーから歌が流れる。

 歌は「カチューシャ」である。カチューシャやノンナも音楽に合わせて歌い始める。

「なあアルベルト。毎回毎回よく歌うよな……」

「フッ、そうだな」

 2人は寒さで白くなった息を吐いて呟いた。

 

 

 そして、大洗連合も全速力で雪原を前進していた。前方を走行するⅢ突とⅣ号を追いかけるように九七式、八九式、38t、M3、ルノーB1が走行している。そしてヤブイヌ分隊とヤマネコ分隊の搭乗するジープ2輌、オオワシ分隊とワカサギ分隊の搭乗する九五式小型乗用車2輌、カニさん分隊とシラサギ分隊の搭乗するキューベルワーゲン2輌も戦車を囲うように走行している。

「さ、さみー」

「走行して風を感じてるから予想以上に寒さが効くな」

「そうですね」

「まだ、地に足ついてねー分マシだろ」

 塁の操縦するするジープの車内でヤブイヌ分隊のメンバーが呟く。

 そしてⅣ号や他の戦車車内にも容赦なく寒さは入り込んでいた。

「……」

「ひ、冷える……」

「一気に決着をつけるのは正解かもしれませんね」

「うん……」

 みほも周りに注意を向けながら見渡す。

「ポットにココア入れてきました」

 優花里が紙コップに入れたココアをみほに渡す。

 みほもココアに口をつける。

「ありがとう……凛祢さん、大丈夫ですか?」

「大丈夫だ……今は周りにも敵影はなし」

 みほと通信を送りあい凛祢も周辺に視線を送る。

 しかし、凛祢や他の大洗歩兵の気づいていなかった。

 すでに自分たちの姿は索敵部隊によって発見されていたことに。

 

 

「敵は全車、北東方面に走行中。時速約20キロ……」

 索敵部隊の報告を聞いてカチューシャはボルシチを頬張る口をもごもごとさせる。

「一気に攻める作戦に出たか……周防らしくはないが、2年も経てば考え方も少しは変わるか」

 隣で温かいコーヒーを飲むアルベルトは少し不信感を感じていた。

「ノンナ、エレン」

「わかっています」

「了解です」

 指示を聞いたノンナとエレンは飲み終えたコーヒーの紙カップをごみ袋に放り込むと部隊を連れて早々と準備を始める。

 

 

 いままで快速に進んでいた大洗連合だったが登り坂と下り坂を何度も進んでいるうちにカモさんチームのルノーとシラサギさん分隊のキューベルワーゲンが少々遅れ始める。

「そど子、何している!」

「青葉ー、遅れているぞ!」

 様子を見ていた桃と雄二が通信を送る。

 凛祢と不知火も視線を後方に向けた。

「ごもよ。前に進むのよ!」

「進んでいるつもりなのよ、そど子!」

「黄場ー、何やってるんですか!遅れてますよ」

「う、うるせーよ。だったらお前が操縦しろよ!」

 それぞれの操縦手に声を掛ける緑子と青葉。

 しかし、車輪と履帯は雪上で空回りするだけだった

「それを言っちゃーおしまいですよー」

「カモさんチームとシラサギ分隊は一旦後退してください」

「ちょっと頼む」

「はい」

 みほの通信を聞いて麻子は操縦席を立ち、車外へと出ていく。

「僕もお手伝いに行ってきた方がいいでしょうか?」

「いやいい。俊也、お前が行ってこい」

「は?なんで俺が……」

「操縦もできるだろ。ちゃちゃっと済まして来い」

 翼に言われ俊也も舌打ちしながら跳躍して降りると地に足をつく。

 それぞれルノーとキューベルワーゲンの元にたどり着くと車内に乗り込む。

「「ちょっと変われ」」

 2人はそう言うと、操縦席に座り操作し始める。

「ありがとう」

「人の戦車に勝手に入ってきて何してるのよ!」

「気にするな」

 操縦していた麻子はそど子に笑みを見せて答えた。

「ったく。これだから初心者は嫌なんだよ」

 俊也は不機嫌そうにハンドルを握っていた。

 慣れた手つきでハンドルを操作しアクセルを踏み込む。

「なんだと?俺たちだってやりたくて歩兵道に来たんじゃねーぞ」

「なんだよ。あんたらも俺と似た境遇ってことか。俺も面倒ごとに巻き込まれてやってるからな」

 黄場の言葉を聞いてほんの少しの共感を感じる俊也。

「東藤君、少し変わりましたね。4月まで不良だったのが嘘みたいです」

「元々、不良になりたくてなったわけじゃねぇ。野球部のクソみたいな先輩に幻滅しただけだ」

 俊也は鋭い視線を前方に向ける。

「それは他言無用なんじゃないのか?」

「赤羽は何か知ってるんですか?」

「保健委員長だからな、怪我した奴の話は先生からよく聞いてる」

 青葉の問いに答えた赤羽も数メートル先の雪山に視線を向けた。

 しばらく進むと、雪に道がふさがれている地点を発見する。

「凛祢さん、お願いします」

「よし、工兵の出番だな。塁、翔、C-4を仕掛けるから手伝ってくれ」

「「了解です」」

 工兵である凛祢を中心に塁と翔がC-4爆弾を仕掛ける。

 数十秒後、仕掛け終えた凛祢がスイッチを押すとC-4爆弾が起爆。

 塞がれた雪の壁を一瞬で吹き飛ばした。

「これを見ていると気分爽快だぜ」

「そうか?俺はそうでもないけど」

 再び九七式にしがみついていた不知火と凛祢が言い合う。

 数秒後に大洗連合の車両は再び前進を始める。

 

 

 その様子を見ていた観客席では、興奮気味の鳥海がスクリーンに釘付けだった。

「おー葛城兄ちゃん、すげー!小鳥姉ちゃん見たか?すげー爆発だったな!」

「鳥海。静かにして見てよ」

「なんだよ。爆発はロマンだぜ、小鳥姉ちゃん」

「何言ってんのよ……」

 興奮する鳥海とは対称に小鳥はやれやれとスクリーンに視線を向ける。

「まったく戦車道なんて……」

「ここまで来たんですから応援してあげてください」

 華の母親、五十鈴百合は相変わらず戦車道を嫌っているようだった。

 そんな百合をなだめるように新三郎が声を掛ける。

「なんだよ、おばさん。応援しないのか?俺たちの兄貴もあの戦場にいるんだぜ!」

「お、おばさん?」

「ちょ、鳥海!何やってんの!あの、すみません!」

 小鳥は鳥海の腕を引っ張り、必死に頭を下げる。

「いえお気になさらず……君たち2人だけで見に来たのかい?」

「そうだぜ!ウチの親は仕事が忙しくて兄貴の試合見に来ないんだよ」

「鳥海は黙ってて!」

「……」

 小鳥に睨まれてしまい鳥海はそっぽを向いた。

「あの……もしかして華道で有名な五十鈴百合さんですか?」

「……そうですが」

 小鳥は百合の顔をまじまじと見つめる。

「す、凄い!私、五十鈴さんの大ファンなんです!五十鈴さんみたいな女性になりたくて、華道も始めました!」

「あら、そうなの?確かにあなた綺麗な手をしてるわね」

「そ、そうですか?ありがとうございます!」

 小鳥と百合は意気投合したのか、お互いに話があったのか、会話に華を咲かせる。

「小鳥姉ちゃん?」

「奥様?」

 2人は鳥海と新三郎に気づくことなく会話を続けていた。

 話について行けず取り残された2人は途方に暮れる。

「君たちもよかったら一緒に見ないか?温かい緑茶もあるから、飲むかい?」

「いいの?ありがとうお兄さん!」

 仕方ないと思った新三郎は鳥海を隣の席に座らせ観戦を続ける。

 

 

 大洗連合が森林地帯に侵入し始めると、小動物たちが一斉に移動を始める。

 すると、あゆみが木々の枝を移動するリスを発見した。

「リスだよ!」

「かわいい!」

「捕まえてくるか」

「やめとけやめとけ」

 相変わらず楽しむことを忘れないウサギさんチームとヤマネコ分隊。

「雪、ロシア、戦争と聞くと」

「スターリングラードを連想するな」

「縁起でもないぜよ」

「ソ連はスターリンが有名だけど。ロシアの偉人と言えば?」

「アレクサンドル・フネスキーかな」

「エカチュリーナ」

「イヴァン4世だな」

「「「それだ!」」」

 歴史上の人物に例えるカバさんチームとワニさん分隊。

 最後に3人がジルを指さす行為はいつものカバさんチームを真似ているのだろう。

 そんな中、Ⅳ号たち大洗連合は全速力で前進していく。

「「っ……」」

 辺りを警戒しながら視線を向ける凛祢とみほが何かに気づいたように単眼鏡、双眼鏡をそれぞれ手に取る。

 お互いに眼鏡を覗き込む。

 その先には雪原に紛れるようにプラウダの白い戦車が停車していることに気づく。

「11時に敵戦車!各車警戒!」

 みほの指示に大洗連合の戦車はその陣形を変化させる。

「3輌だけか……みほ、どう思う?」

「外郭防衛線かな?」

「かもな……!」

 凛祢が通信を送った時、敵戦車もこちらに気づいたように攻撃を開始する。

「気づかれた、長砲身になったのを生かすのは今かも!」

「狙撃兵は長距離から狙撃を!八尋、前に出るなよ!」

 みほが車内に頭を下げると同時に凛祢が通信で指示を出す。

「「「了解!」」」

 インカムからみんなの返事が返ってくる。

「衛宮、初陣で悪いが狙撃を任せる」

「了解だっての。当たらなくても文句言うなよ」

 不知火は九七式から手を放し跳躍して冷たい雪原に着地する。

 お互いに頷いた後に行動を開始した。

「砲撃用意してください!カバさんチーム、射撃!」

 通信機から響くみほの指示に合わせてⅢ突の砲が火を噴く。

 Ⅲ突の放った砲弾は吸い込まれる様にT-34/76の砲塔右下に命中。白旗が上がった。

「あんこうチームも砲撃します!」

 続くようにⅣ号も停止し発砲すると砲弾はもう1輌のT-34/76に命中し、白旗が上がる。

 更に翼と英治、迅と不知火も長距離からの狙撃を決めて2人の歩兵を屠った。

「「よし!」」

 狙撃を決めた翼と迅も思わずガッツポーズを見せる。

「当たったぜ、見たか?!おい、葛城!」

 不知火も初狙撃で命中させたことに感動しているのか、凛祢に歩み寄る。

「命中しました!」

「凄ーい!一気に2輌も!」

 彼らだけではなくⅣ号車内の優花里や沙織。

「やった!」

「昨年の優勝校を撃破したぞ!」

「時代は我らに味方している!」

 Ⅲ突から上半身を乗り出すエルヴィンとカエサル。

「これはいけるかもしれん!」

「この勢いでGOGOだね!」

 そして、桃と杏も勢いを味方につけたように士気を上げていた。

「ナイスショットでしたね。英治」

「……」

「どうかしましたか?」

 宗司が声を掛けても英治はKar98Kを手に難しい顔をしていた。

 英治だけではない。凛祢とみほも同じようにその顔に笑みはなかった。

「葛城、西住うまくいきすぎてる……よな」

「「はい」」

「こんなにも早く敵の戦車を撃破できるなんて、少し怖いくらいです」

 凛祢がインカム越しに呟く。

 なにより、歩兵の数も少なすぎる。

 その時、砲撃音と共に振動が大洗連合の方に響く。

 一気に、全員の顔から笑みが消えた。

 さっきの音は残った敵戦車の発砲だと言うのはすぐに理解する。

「全車両前進!追撃します!」

「衛宮!早く九七式に乗れ!おいていくぞ!」

「おいおい、初撃破したんだから少しは誉めろよな……」

 不知火や他の狙撃兵もすぐに駆動車の乗り込み、大洗連合は再び前進を始める。

 この戦場を観戦している者の中には驚いている者もいるだろう。

 何せ大洗が先にプラウダの戦車を撃破した。

 そして今は大洗連合が全車両でプラウダの戦車1輌を追撃している。

 凛祢やみほも少し怖いくらいだった。その順調な滑り出しに。

「何で逃げてるの?」

「こっちが全車両で追いかけているからじゃないですか」

「そうだよねー。何故か追いかけると逃げるよねー男って!」

「武部みたいな女に追っかけられるのは嫌だろ普通。束縛しそう」

「俊也君!それどういう意味!?」

 インカムから響く沙織たちの声に凛祢や翼がやれやれとため息をつく。

「あそこに固まってる……敵フラッグ車発見しました!」

「でも、随伴もたくさんついてますよ!」

 梓と亮から通信が入る。

「千載一遇のチャンス!よし突撃!」

「突貫だ!」

「「いけー!!」」

「アターック!!」

「英子、当てなさいよ」

「わ、分かってるわよ!砲撃って結構難しいんだから!」

 大洗連合の戦車はそれぞれの射的距離に入ると同時に一気に砲撃を開始する。

 次々に戦場を砲弾がすれ違う。

 そんな中、英治が敵歩兵に気づく。

 敵歩兵3人が並んで構えているのはロケットランチャー『RPG』だった。

「弾幕を張れ!RPGがくるぞ!」

 英治の声に一早く気づいた凛祢と八尋。

「弾幕を張るなら俺のP90が一番早い!」

 放たれたロケット弾に向けて八尋がP90を連射発砲する。

 すると空中で銃弾が命中したためロケット弾は誘爆し、威力のない衝撃破だけが凛祢たちの体を突き抜ける。

 流石と言うべきか。P90の連射はかなり強力だが、マシンガン系の武装はどうしても連射によって照準が狂う。

 それでもP90を使う八尋の照準はまったくと言っていいほどぶれない。八尋自身がP90を使い慣れているが故だろう。

 ふと視線を向けると八尋がドヤ顔していることに気づいた。

 Ⅲ突の右側面を砲弾が掠めたかと思うと、続けて発砲。

 またもT-34/75に命中し白旗が上がった。

 続けて九七式の砲弾が敵のUAZ-649に命中し横転させる。搭乗していた3人を屠った。

「やった!」

「当たった!」

「照月さん、ナイスショット!」

 左衛門座と英子がほぼ同時に歓喜の声を上げた。

 その様子をスクリーンで見ていた西住しほ、まほ、黒咲聖羅。そして葛城朱音は眉一つ動かさずにいた。

 また、ダージリンやケンスロットも戦場の様子に少しの違和感を感じていた。

「ほう。凛祢たちが一歩リードと言ったところかのう」

「玄十郎さん。英子の車両が敵を倒しましたよ」

「当たり前だ。照月家は強くあらねばな。だが、戦場とは海と同じ。弱き波があれば強き波もあるもの……」

 嬉しそうな麗子の横では玄十郎が意味ありげな言葉を口にしてあごひげを触る。

 その時またもプラウダの戦車とファークトの歩兵が逃亡を開始。

 大洗連合の車両も逃がすまいと更なる追撃に向かう。

「追え追え!!」

「いくぞー!」

 先行するⅢ突と38t、ワニさん分隊とカニさん分隊の車両。

「速攻!ダンクシュート!」

「ストレート勝ちしてやる!」

「ぶっ殺せー!」

「ぶっ潰せー!」

「お前を殺す……」

「みんな口が悪い!」

 続くように八九式とM3、オオワシ分隊とヤマネコ分隊の車両も後を追う。

「やっちまえー!」

「待ちなさいよー」

「待ってくださーい」

 それを追いかけるルノーとキューベルワーゲンも前進していく。

「ちょっと待ってください!」

「何を勝手に!」

 凛祢とみほが声を掛けても大洗連合が止まることはない。

「凛祢!西住さん!みんなを止めないと!」

 九七式のキューポラから頭を出す英子も少々焦ったような顔を見せる。

「くそ!馬鹿が!みほ、英子とりあえず行くぞ!」

 凛祢も急いでⅣ号の上に飛び乗る。

「はい!」

「わかったわよ」

 Ⅳ号と九七式とヤブイヌ分隊も急いで坂を下りていく。

 坂を下るとそこには山小屋や協会が建てられており、村の様な見た目になっていた。

 ようやくⅢ突や38tに追いつく。

 そんな中、大洗連合の車両は怒涛の砲撃を続けていた。また小屋を盾にしてファークトの歩兵も反撃してくるがまったくといっていいほど無意味だった。

 次々に放たれる砲弾の雨。

 しかし、プラウダのフラッグ車のT-34/85も小屋に隠れたり前後に動き、華麗にこちらの攻撃を回避していた。

「くっ!フラッグ車さえ倒せば……」

「勝てる!!」

 桃と左衛門座は必死に照準を定める。

 しかし放った砲弾はことごとく回避される。

 そんな時凛祢がある事に気づく。

「はっ!みほ、後ろだ!」

「え?あ!」

「おいおい、マジかよ」

 凛祢の傍にいた不知火は背中を合わせる。凛祢が必死に視線を全方位に向けるが、もう手遅れと言わざる得なかった。

「東に移動してください!急いで!」

「駄目だ!南南西に!」

「無理よ、もう囲まれてるわ!」

 みほや凛祢、英子の声が通信機を通して全員の耳に入る。

 凛祢たちの言う通り、東にはIS-2が2輌。南南西にもT-34/85が1輌。他にも次々に敵戦車が姿を見せる。

 ようやく全員が気づいたすでに包囲されていたことに。

「周り全部敵だよ!」

「やっべーぞ……」

 沙織の声に八尋が言葉を漏らした。

「罠だったのか……」

「嘘だろ……」

「「「えっ!」」」

 大洗連合は全員が驚いていた。

「やられた……。この戦術、昔にも」

 凛祢が呟くと同時にプラウダの戦車たちが反撃を開始する。

 次々に砲弾と銃弾の雨あられが大洗連合を襲う。

「げえっ!」

 一発の銃弾が不知火の右胸に命中し、うめき声を上げた。続くように宗司と雄二もどこからか放たれた狙撃に被弾する。

 他にも放たれた砲弾がM3の副砲部分に命中する。

「衛宮!くそ!どこかに逃げ道は……」

「葛城君!南西の教会になら抜けられそうよ!」

 秋月の声に凛祢が視線を向けると確かに南西になら逃げられそうな道が続いていた。

「衛宮、動けるか?」

「おいおい先輩をなめるなよ。九七式に飛び乗るくらいいけるぜ……」

「よし。みほ!」

「全車南東の大きな建物まで移動してください。あそこに立てこもります!」

 みほの指示を聞いて凛祢たち大洗連合は教会に向かって全速力で向かう。

 1番に八九式とオオワシ分隊、次にM3とヤマネコ分隊。

 続くようにルノーB1と38t、九七式が教会内に侵入する。更にワカサギさん分隊、カニさん分隊、ヤマネコ分隊がそれぞれ侵入する。

 すると凛祢はバックパックを開き、数個のヒートアックスを手に再び外に出ていく。

 すれ違うようにワニさん分隊のキューベルワーゲンが侵入し、Ⅲ突も侵入しようとするが敵砲撃によって履帯と転輪を破壊され停止する。

「履帯と転輪をやられました!」

 敵戦車がⅢ突を狙おうとするがすぐにⅣ号が入り口の前に立ち塞がり発砲する。

 凛祢も力いっぱいヒートアックスを遠くへ投擲する。

 敵の砲撃を受けたⅣ号はなんとか耐えるものの。無傷とはいかなかった。

 すぐに凛祢もヒートアックスを起爆させ、巻き上げられた雪が霧状に舞い一時的な目くらましを作る。

「砲塔故障!」

「後退!凛祢さん早く!」

「了解!」

 凛祢もⅣ号がⅢ突を押して室内に侵入するのを確認し、室内に滑り込む。

 外ではまだプラウダの戦車による攻撃が続いていた。

 その砲撃は教会内を大きく揺らす。

「……」

「はあ、はあ……」

 凛祢も息を荒くしてⅣ号に背中を預ける。

 5分ほど経って、ようやく敵の発砲音が止んだ。

「砲撃が止んだ……」

 みほも閉じていた目を開き車外に出る。

 すると、プラウダとファークトの制服を着た生徒2人が入り口まで歩いてきた。

 その手には白旗が握られている。

「カチューシャ隊長の伝令を、持ってまいりました」

「降伏しなさい。全員土下座すれば許してやる。だそうです」

「え……」

「……」

 そんな発言に言葉の出ないみほと凛祢。

 他のみんなも同じだった。

「なんだと……」

「ふざけんな……あのチビ野郎」

 桃と雄二は吐き捨てるように言った。

 その顔は怒りに燃えているのかとても怖い。

「隊長は心が広いので3時間だけ待ってやる。とおっしゃています」

 そう言葉を残して2人は去って行く。

「誰が土下座なんか!」

「土下座なんてするかよ!」

「全員自分より身長低くしたいんだろ」

「くそが、女じゃなければぶん殴ってるぜ!」

 桃と雄二は怖い顔のまま38tのほうへ歩いていく。

「徹底抗戦だ!」

「右に同じ。騎士として最後まで戦うべきだ」

「戦い抜きましょう!」

 エルヴィンやアーサー、梓も戦うことを望んでいた。

「でも、こんなに囲まれていては……一斉攻撃されたらケガ人が出るかも」

「この状況は、圧倒的に不利だ」

 しかし、みほと凛祢の意見は他とは違った。

 状況は最悪。あまりに危険だったからだ

「みほさんと凛祢さんの指示に従います」

「私も!土下座くらいしてもいいよ」

「私もです!」

「3回戦まで来ただけでも上出来だ。無理はするな」

 振り向けばあんこうチームの4人が凛祢とみほの方に視線を向けていた

「ま、女の子にだけ頭下げさせるのは男じゃねーよな」

「そうだな。下手なプライドは捨ててやる」

「ですよね!」

「ったく。こんなのは今回だけだからな」

 あんこうチームに続くようにヤブイヌ分隊のメンバーも視線を2人に向けた。

「お前ら……」

「みんな……」

 凛祢は言葉が出なかった。

 そうだ。何も無理して戦うことはないんだ。

 今は立ち止まっても……。

「「駄目だ!!」」

 またも桃と雄二の声が静寂の中に響いた。

「勝たなくちゃならないんだ!」

「負けるわけにはいかん!徹底抗戦だ!」

 再び静寂の中に響いた声。

「勝つんだ。絶対勝つんだ!勝たないとだめなんだ!」

「桃、雄二君も。そんな子供みたいに叫んでどうしたってのよ!」

 桃の様子を見た英子が問い掛ける。

 英子以外にもそんな疑問を抱くものはいた。

「そんな……どうしてそんなに。初めて出場してここまで来ただけでも凄いことだと思います」

「そうだ。これは戦争じゃない。勝ち負けより大事なものがあるんだよ!」

「勝つ以外の何が大事なんだ!俺たちにはもう!」

 みほや凛祢の言葉を聞いて、雄二は思わず凛祢の胸倉に掴みかかる。

「雄二先輩!何してるんですか!」

「こんな時にやめてください!」

「そうですよ!」

「喧嘩は駄目です!」

 八尋やアーサーが急いで間に割って入る。

 辰巳と亮が雄二の体を凛祢から引き離した。

「ううっ!」

「勝ちにこだわれば、本当に大事なものを失うんだよ!それが、なんでわからないんだ!」

「うるさいうるさい!お前に何がわかる!」

 気が付けば必死に叫んでいた。

 それは……

「もうやめてください!!」

 雄二と凛祢はお互いに睨み合いながら言い合う中、みほの声が響いた。

 大洗連合の視線がみほの方に集まる。

「私、この学校に来てみんなと出会って、初めて戦車道の楽しさを知りました。この学校も戦車道も大好きになりました。だからその気持ちを大事にしたままこの大会を終わりたいんです」

「くっ……」

「みほの言う通りだ」

 自分だって少しだけ昔みたいに歩兵道を楽しめるようになっていた。みほたちのおかげで……。

 みほに続くように凛祢も言葉を続ける。

「今はここで止まることになるかもしれない、でも前進することを辞めなければ道は続く」

「何を言っているんだよ!」

「雄二、河嶋、止せ!」

「負ければ我が校はなくなるんだぞ!」

 英治の制止を無視して桃は言葉を絞り出した。

 その言葉に一瞬理解が遅れた。

「「え?」」

「学校が……な、なくなる?」

 みほも声にならない声で復唱する。

 凛祢や英子の脳内でも同じ言葉が復唱されていた。

 大洗連合の誰もが驚きを隠せなかった。

「な、なにを言い出すかと思えば。そんなこと……」

 凛祢も冗談だろうとそう呟く。

 しかし頭はそう思っていない。

 桃や雄二の悲痛の表情を見れば、嘘をついているとは思えない。

 凛祢とみほは視線を会長2人の方に向けた。

「河嶋の言う通りだ」

「そう、この大会で優勝出来なければ我が校は廃校になる」

 杏と英治は変わらない表情で淡々と言い放った。

 宗司や柚子の表情も分かっていたかのように暗くなっている。

「……」

「嘘よ!なんでそんな事今頃になって!ねえ、杏!柚子!答えてよ!」

 英子は歩みより杏の肩を掴む。

 だが、答えは返ってこない。

「話せる訳がないでしょ……ごめんね、英子」

 秋月がそう言うと不知火と共に生徒会の隣に立つ。

「秋月?衛宮?」

「わりぃな照月さん、葛城。俺も知っていたんだ」

「衛宮。まさかお前も……?」

 凛祢は少し驚きながら拳を強く握る。

 秋月いやセレナは知っているだろうと思っていたがまさか不知火まで知っていたとは思わなかったからだ。

「俺がこっちに転科してきたのもこれが理由なんだぜ。英治たちにはこの選択しかなかった」

「皆にはすまないことをしたと思っている」

 頭を深く下げた英治は謝罪する中で今年の4月の事を思い出していた。

 

 

 時は遡り、文部科学省、学園艦教育局。

 3月が終わり、桜が咲く季節の中で英治と杏たち生徒会役員6名は文部科学省に呼ばれていた。

 その場で聞かされた話に6人は驚きを隠せなかった。

「廃校!?」

「どうして、そんなことに?」

 杏と英治が問い掛けるように言うと文部科学省の男から帰ってきたのは予想だにしなかった言葉だった。

「学園艦は維持費も運営費も掛かりますので、全体数を見直し統廃合することが決定しました。特に成果のない学校から廃止します」

「つまり私たちの学校はなくなると言うことですか?」

 柚子も身を乗り出して男の顔を覗き込む。

「納得できない!」

「そうだそうだ!」

 桃と雄二もヤジを飛ばすように呟く。

「いささかその理由で納得しろと言うのは無理があります」

「今納得できなくても、今年度中に納得してもらえればこちらとしては結構です」

 宗司の言葉を無視するように男は淡々と言葉を返した。

「じゃあ、来年度には……」

「急すぎる!」

「大洗女子学園と大洗男子学園は近年生徒数も減少しており、目立った活動もない」

 男は大洗の古い資料に目を通している。

「だから納得できないって――」

「落ち着け雄二。何か救済措置はないのでしょうか?」

 英治も納得できているわけではないが、だからと言ってどうにかなるわけではない。

 だが、このまま引き下がるつもりもない。

「昔は戦車道と歩兵道が盛んだったそうですが」

「へぇ」

「そうですか」

 杏と英治はアイコンタクトで合図し頷きあうと、口を開いた。

「じゃあ、戦車道やろうか!」

「こちらも歩兵道をやろう」

「「「「ええ?!」」」」

 杏と英治の言葉に4人は驚きの表情を浮かべる。

 それもそうだろう、戦車道と歩兵道をやっていたのは十数年も前の事だ。

 そんな状況で始めるなんて無茶だった。

「まさか戦車道と歩兵道をですか?!」

「優勝校を廃校にすることはないよな」「優勝校を廃校にすることはないよね!」

 英治と杏は一筋の希望に掛けるように男に言い放った。

 

 

 そして英治たちの説明を聞いた凛祢たちはその場に立ち尽くすだけだった。

「それで戦車道と歩兵道を復活させたんですか」

「……」

「戦車道やれば助成金も出るって聞いてたし。それに学園運営費にも回せるしね」

「これが俺たちにとっては最善だった。これに賭けるしかなかった」

 杏と英治は視線を落として言い放つ。

 凛祢はただただ無言で視線を英治に向けていた。

「じゃあ、世界大会ってのは嘘だったんですか!?」

「それは本当だ」

「こんな騙したような事をしておいて、信じてもらえませんが」

 梓の問い掛けに桃と宗司が答える。

 確かに騙したと言っても間違いではないのかもしれない。

 誰もがそう思った。

「でも、いきなり優勝なんて!」

「いやー、昔盛んだったからもっといい戦車や銃火器があると思ったんだけどねー。予算が無くていいのはほとんど売っちゃったんだよねー」

「ってことわよ。ここにあるのは……」

 杏の言葉に八尋はため息をついて歩兵たちの銃や戦車を見た。

 他にもシャーロックやジルも同じように視線を向ける。

「うん、全部売れ残ったやつ」

「それでは到底優勝なんて不可能では?」

「無謀すぎますよ、杏会長」

 信じられない試みにカエサルとシャーロックもやれやれと視線を向ける。

 カエサルたちの言う通り、こんな満足な装備もなく車両も貧弱ではあまりにも無謀だった。

 それでも……

「だが、他に考え付かなかったんだ。古いだけでなにも特徴のない学校が生き残るには……」

「ぐっ!だからって諦められるかよ!」

「無謀だったかもしれないけどさ。あと1年泣いて学校生活を過ごすより希望を持ちたかったんだよ」

 必死に拳を握っていた雄二を見て、杏も口を開いた。

 人間は弱い生き物だ。どうしても希望に縋りたくなってしまう。

「例え、茨の道でも進むしかなかった」

「みんな黙っていてごめんなさい……」

「すみませんでした」

 生徒会役員はそれぞれの思いを口にして視線を落とした。

「……」

 凛祢はまだ口を開くことなく生徒会とセレナと不知火の姿を傍観していた。

「頼むよ、みんな。英治たちを責めないでやってくれ」

「これしか私たちにできる事はなかったのよ」

 英治たちの前に立つ不知火とセレナ。

 セレナが口にした言葉の意味は『大洗を存続させるための最後の希望』……それこそが元超人の異名を持っており歩兵道経験者であった葛城凛祢と黒森峰で戦車道をしていた西住みほだったと言うことか。

「バレー部復活どころか、学校がなくなるなんて」

「こんなのってあるかよ……」

 アヒルさんチームとオオワシ分隊も悔しさを感じいた。

「無条件降伏」

 おりょうも演技でないことを口にする。

「そんな事情があったなんて」

「この学校がなくなったら。私たち、バラバラになるんでしょうか?」

「そんなのやだよ!」

「そうだぜ、せっかく出会えたのによ。こんなすぐに!」

「単位昇格は夢のまた夢か」

「言ってる場合かよ……」

 あんこうチームとヤブイヌ分隊のメンバーも小さく呟く。

「「うう……」」

「おい、泣くなよー」

「そうだよー。泣いたら駄目だって」

 桂里奈や優季を慰めるように礼や翔が声を掛ける。

 凛祢は目を閉じる。

 やっとわかった。生徒会の意図も自分自身の道も。

 『何もしないで後悔くらいなら、たとえその先が地獄でも行動を起こした方がマシだ』

 そんな言葉が凛祢の中に浮かぶ。

 結局会長たちも同じだったんだ。

 後悔しないためにと、行動した。

 ならば……自分は。

 再び目を見開く。

「……まだだ、まだ負けてない!」

「凛祢さん」

「凛祢……」

 凛祢の声にみほと英子が視線を向ける。

 自分も過去から逃げず、歩兵道をすることを選んだ。

 ここまで来たならもう引き返さない。立ち止まるつもりもない。

「俺たちの道は潰えていないんだ。歩み始めた以上引き返すと言う道は……いらない!俺は戦います。最後まで」

「葛城くん……」

「葛城……」

「そうですよね。頑張るしかないです。来年もこの学校で戦車道と歩兵道したいじゃないですか。みんなで」

 凛祢とみほの言葉が静寂の中に響いた。

 気が付けば大洗連合全員の視線が2人に向いていた。

「そうですよ」

「僕も葛城殿や西住殿と同じです!」

「うん、やるならとことんやろうよ。諦めたら終わりじゃん!戦車も恋も!」

「ああ、最後の瞬間まで足掻いてやろうぜ!」

「まだ戦えます!」

「俺たちは俺たちらしく行こう」

「うん」

「そうだな」

 あんこうチームとヤブイヌ分隊は2人につられて戦う意思を取り戻す。

「降伏はしません。最後の最後まで戦い抜きます!でもみんなが怪我しないよう冷静に判断しながら」

「ああ、必ず俺たちの明日を、学園を守ってやる。戦車は修理を続けてくれ、歩兵はなるべく体を冷やさないように、寒さは体力を奪われるから」

「Ⅲ突は足回り、M3は副砲。寒さでエンジンの掛かりが悪くなっているものはエンジンルームを温めてください。時間はありませんが、落ち着いて」

「「「「はい!」」」」

 みほと凛祢の指示にみんなが返事をするとそれぞれの戦車の元へ向かう。

「我々は作戦会議だ!」

「凛祢。その様子なら大丈夫そうね」

「え?」

「ううん。なんでもない」

 桃が言うと凛祢とみほ、英子たちは会議に向かう。

 

 

 観客席ではスクリーンに映る映像に新三郎と鳥海が顔を青ざめていた。

 映像ではプラウダ&ファークト連合を現す赤いアイコンが大洗連合を現す青いアイコンを取り囲むように配置されている。

「完全に囲まれてるんですけど。お嬢と翼お兄さんは無事でしょうか?」

「兄貴たち大丈夫かな?」

「落ち着きなさい新三郎、鳥海君」

「そ、そうだよ。お兄ちゃんたちならきっと勝てるよ!」

 そんな2人を奮い立たせるように百合と小鳥は強い言葉を口にした。

 そしてダージリンやケンスロットたちは持参したテントの下で観戦していた。

「どうしてプラウダとファークトは攻撃しないんでしょう?」

「多分、プラウダの隊長がわざとそうしてんだろ」

 オレンジペコの言葉にガノスタンが答える。

「プラウダの隊長は楽しんでいるのよこの状況を。彼女は搾取するのが大好きなのよ……プライドをね」

「悪趣味だな。騎士たるもの正々堂々真剣勝負するものだ、戦車道と歩兵道ならばなおさらな」

「本当にカチューシャの事が嫌いなのねケン」

「考えの乖離は誰にでもあることだ。だが、やはりあの女のやり方は好かないな」

 ダージリンの言葉を聞いてケンスロットも少々怖い顔を見せていた。

 

 

 西住しほとまほと黒咲聖羅、葛城朱音のいた観客席でも動きがあった。

「帰るわ。こんな試合見るのは時間の無駄よ」

「待ちな……」

 立ち上がったしほを聖羅が引き留める。

「あなたに意見されるいわれはないわ」

「っ……!いいから――」

「待ってください」

 しほの鋭い眼光に圧倒されるがそれでも絞り出した聖羅の声をまほが掻き消した。

 2人とも視線をまほに向ける。

「まほ……」

「まだ試合は終わっていません」

「西住さん、あなたも娘に言いたいことがあってきたんでしょ。ならせめて最後まで見るべきよ。私だってそう決めてここにいるんだから」

「……葛城がそう言うなら最後まで見るわ」

 まほに続いて朱音の言葉を聞いて再びしほは腰を下ろした。

 お互いの子供に伝えるべきことがあったから。

「ありがとうございます。葛城さん」

 まほは朱音の方を見て感謝する。

「ねえ、まほさん、聖羅君。なんで凛祢はまた歩兵道を始めてしまったのかしら」

「「……」」

「私はあの子にもう戦場に戻ってほしくなかった、戦場で凛祢は最も大事にしていたものを失ってしまったから。だから歩兵道のなかった大洗学園艦に行かせたのに、どうしてまたあの子は戦場に行ってしまうのかしら」

 朱音は静かにそう言うとスクリーンに視線を向けた。

 まほも聖羅も考えさせられていた。

 確かに、凛祢という男はどうして今になって戦場に舞い戻ってきたのか。それはみほにも言えることだが。

 どうしてこのタイミングだったのか。

 今の彼女たちには見当もつかなかった。

 

 

 その頃プラウダ&ファークト連合は焚火を焚いて食事をしていた。

 カチューシャは呑気にボルシチを食しながら口を開いた。

「降伏の条件にウチの学校の草むしり3か月と麦踏みとジャガイモ堀りの労働をつけたらどうかしら」

「汚れてますよ」

 ノンナはまるで母親のようにカチューシャの前にハンカチを出した。

「知ってるわよ!」

 吐き捨てるように言うと口を拭いたハンカチをその場に投げ捨てる。

「エレン、そんなところで寝ていたら風邪ひきますよ」

「……寝てない。風の音を聞いてるだけだ」

 ノンナは小屋の壁に背中を預けドラグノフ狙撃銃を右肩に立てかけて目を閉じていたエレンに視線を向けた。

 エレンはヘッドフォンをつけており周りからは眠っているようにしか見えなかった。

 しかし、そのヘットフォンからは文字通り風の音。風が吹き抜けるような音が響いている。

 これは彼にとって狙撃の質を高めるための準備の様な行為であった。

「エレン、持ってきてやったぞ」

「……」

 戻ってきたアルベルトは手に持っていたレーションをエレンに向かって投げる。

 エレンは顔を動かすこともせずにレーションをキャッチした。

 するとゆっくりと目を開けた。

 レーションはノーマルなプレーン味だった。

「レーションはチョコレート味しか食べないって言った」

「それしかなかったんだから我慢しろ。嫌ならボルシチを食うんだな」

「戦闘中はレーションや非常食しか食べないのが我流だ。それに満腹になると眠くなるし、なにより狙撃の質が落ちる。どっかの誰かさん違ってな」

 エレンは1度視線をカチューシャに向けた後にレーションの封を破る。

 しぶしぶ受け取ったレーションを食すエレンを横目にアルベルトはノンナの隣に座り、温かいコーヒーを渡した。

「ありがとうございます」

「なんだ。そっちはもうお眠か?」

「別にいいでしょ……」

「ご勝手にどうぞ」

 アルベルトは視線を煌々と燃える焚火に向けた。

 焚火の熱を感じてアルベルトの体もようやく感を取り戻す。

「なんで降伏の時間に猶予を与えたんだ?」

「カチューシャがお腹が空いて、眠かったからですね」

 エレンが問い掛けるとノンナは瞼を閉じて優しく呟いた。

「違うわ!カチューシャの心が広いからよ!シベリア平原の様にね」

「広くても、相当寒いだろ。マイナス何度の平原だ?」

「うるさいわよ!もう寝る!」

 アルベルトの言葉にカチューシャは拗ねたように顔を背けて横になる。

 その様子をエレンとノンナはやれやれと見つめていた。

 

 

 

 降り続く雪が強くなり始めた頃、教会内で大洗連合は再出陣の準備を進めていた。

「直りそう?」

「なんとか動くと思うけど……」

 心配そうに見守るあけびに修理する妙子が返答する。

「マガジンは残り4本か……やっぱ無駄撃ちが多いのかな?」

「大丈夫だって。俺なんてあと三本だぜ!」

「自慢する事じゃないだろ」

 予備弾倉の残数から残弾数を気にする淳の様子を見て漣と迅が呟いた。

「流石にこれは直せないよね……」

「かわいそう……」

「包帯でも巻いておく?」

「いや、意味ないから」

 あゆみや桂里奈の呟きを聞いた優季が良かれと思ってそんな言葉を述べる。するとあやがツコッミを入れた。

「今こそ、サバイバル合宿で鍛えた火おこしをやるぜ!」

「おーやれやれ!」

「うおー!」

 M3の隣では歩と礼は木々の枝を使い見よう見まねで必死に火を起こそうとするが一向に燃えることはなかった。

「何故だー!」

「雪で湿ってる枝じゃ火なんて付くわけないだろ」

 その様子を見ていた亮が思わずそんな言葉を口にした。

「あ、そっか。じゃあどうするんだよ?」

「俺に聞くなよ」

 頭を抱えていた歩が視線を向けるが亮もいい案はなくそう返すしかなかった。

 Ⅳ号車内でも砲塔を操作していた華とそれを一緒に確認する優花里の姿があった。

「回りますね」

「ええ」

 ゆっくりとハンドルを操作していた華と優花里は砲塔が回ることを確認し安心したように笑みを浮かべる。

「問題はどうやってこの包囲網を突破するかだな……」

「敵の攻撃の直撃を受ければ一発でやられちまうぞ」

「敵の正確な配置が分かればいいんだけど」

「確かにこのままでは袋の中のネズミですからね」

 桃と雄二は相変わらず難しそうな顔をしていた。

 柚子もこの状況に弱気そうな顔をしている。宗司は何かいい案はないかと考えているのか顎に手を当てている。

「偵察を出しましょう」

「それはいい考えかもしれないな。塁!」

 みほの提案に乗る気になった凛祢は塁の名前を呼んだ。

 偵察に向いていると考えられる者を選抜し、文字通り極寒の雪原に送り出す。

 偵察部隊A。坂本塁とアーサーと秋山優花里にエルヴィン、秋月セレナの5人。雪道や偵察に慣れている5人であったために選出したチーム。

 偵察部隊B。東藤俊也と青葉誠一郎と冷泉麻子に園緑子の衛宮不知火の5人。5人共視力が2.0以上あったために選出したチーム。

「塁、1つ話しておくことがある」

「なんですか?」

 凛祢は偵察へ出る準備の間に塁を呼んだ。

「秋月いや、セレナはサンダースとアルバートへ潜入した時、俺たちを助けてくれた女だ」

「え?本当ですか!?」

 驚く塁の顔を見て凛祢は頷く。

「元々、セレナがコソコソと生徒会と会って何かしていたことには気づいていた。まあ1回戦の後だけどな」

「そうだったんですか。でもよく気づきましたね」

「別に。生徒会の言い分には薄々違和感を感じていたからな。悪いなこんな過酷な状況で偵察なんて」

 凛祢は外に視線を向けた。

 外は吹雪ではなくなったもの雪は降り続いていた。

「お任せください!僕は僕にできる事をやってるだけですから!」

「塁、お前がチームにいてくれて本当によかったよ」

 凛祢は塁の顔を見てそう呟いた。

 そして2つのチームは偵察へと出て行くのだった。




今回の話はどうだったでしょうか。
ようやく生徒会の隠していた真実も明かされ、凛祢たちは至るべき道を見据えた上で戦場へと身を投じて行きます。その運命はどこへとたどり着くのか。
プラウダはロシア(ソ連)の戦車を使用すると言うことで歩兵武器もロシアのものを使用します。今回名前が上がってきたのはRPGやドラグノフだけでしたが。
他にも色々な武器や展開を考えてます。もしかしたらプラウダ戦は4話超えるかも?です。
気が付けば「ガールズ&パンツァー~地を駆ける歩兵たち~」もお気に入り登録が20人超えてました。
自己満足から始まったこの作品を読んで頂けてUNIMITESはとても感動してます。
意見や感想も募集中です。気軽に書いてほしいです。


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第18話 雪空の死闘

どうもUNIMITESです。
今回でプラウダ戦もpart3ぐらいですね。
戦闘はここからが本番と言った感じとも思います。
では本編をどうぞ。


 暗い空の下、揺り続く雪の中で大洗連合の偵察チームは雪原を進んでいた。

 偵察部隊Aのアーサーや優花里、エルヴィンは軍歌『雪の進軍』を歌って元気に雪原を進んでいる。

 その時、塁は後ろを歩くセレナに気づいた。やはり廃校を黙っていたことを気にしているのか、距離を置いていた。

 ふと偵察に出る前の凛祢の言葉を思いだす。

 セレナはサンダースとアルバートに潜入したときに助けてくれた人だったと言うこと。

 塁も驚いたが、確かにあの時聞いた声はセレナと同じだったような気がした。

 記憶なんて曖昧なものだが。それでも今は信じたかった。

「秋月殿。ちょっといいですか?」

「坂本君……セレナでいいわよ」

 塁はセレナの速度に合わせて歩く。

「……じゃあ、セレナ殿。会長たちの言い分はわかりました。でも、どうして黙っていたのですか?少なくとももっと早く知ることができていれば僕たちはもっと訓練を、みんな強くあろうと思っていたはずです。それをどうして」

「廃校なんてこと話さずに優勝できたならどんなによかったか……英治たちはね葛城君や西住さんには思うがままに歩兵道と歩兵道をしてほしかったのよ。少なくともこんな勝利を脅迫するような形にはなってほしくなかった」

 セレナは申し訳なさそうに視線を落とした。

 塁もそんなセレナを見て、嘘をついてはいないと理解した。

「こんな私たちを見て軽蔑したでしょ。所詮私たちは凛祢君と西住さんを……を勝つための道具に利用しただけにすぎない」

「本当に凛祢殿と西住殿を『勝つための道具』だなんて思っているんですか?」

「……」

 塁のそんな言葉にセレナは何も言わなかった。

 それでも言わなければならないと思って言葉を続けた。

「なら、どうしてサンダース大学付属高校とアルバート大学付属高校に潜入した時、セレナ殿は真っ先に僕たちを助けたんですか?凛祢殿だけを助ければよかったはずなのに、あの潜入は僕たちの勝手な行動だったから」

 塁は全国大会1回戦の数日前に行った潜入作戦の事を思い出していた。

 あの時、確かにセレナは自分たちが逃げる手助けをしてくれた。

「それは……あなたたちが捕まれば葛城君は助けようとすると思って」

「確かに葛城殿ならそうするかもしれません。でもセレナ殿は危険を冒してまで僕と優花里殿を助けてくれました」

「……」

 セレナは思わず塁の顔を見つめた。

 わからなかった。どうして塁はこんな言葉をかけてくれるのか。

「確かに廃校だってことには驚きました。でもだからって騙されたことを恨んだりしません。僕は歩兵道やっててよかったです。歩兵道が無かったらきっと凛祢殿や優花里殿、そしてセレナ殿にも出会えませんでしたから!」

「それ告白のつもり?」

 セレナは不敵に笑ってそんな言葉を返した。

 その顔は少々赤く染まっていた。

「え?あ、いや!ち、違いますよ!」

「ふふ。冗談よ、冗談」

 塁は思わず顔を真っ赤に染めて弁解する。

 その顔を見てからかうようにセレナは微笑んだ。

「ありがとう。そんな風に言ってもらえると嬉しいわ」

「そ、そうですか?……あ、みんなもうあんなに遠くに行ってますよ!僕たちも行きましょう!」

 塁はセレナの顔を見るのが恥ずかしいのか、早口で呟くと急ぐように歩いていく。

「……そうね。葛城君と西住さんならきっと大洗を救ってくれる」

 セレナも歩いていく塁を見て少々頬を染めていた。

 そして合流した塁と優花里たちは偵察を続けるのだった。

 

 

 一方、時を同じくして偵察部隊Bといえば。

 緑子と青葉が戦車を見てけだすために辺りを見渡している。

「あそこにT-34/85。で奥にモロトフ」

「そんな戦車ありませんよ、そど子さん。あそこにKV-2です」

「ちょっと間違えただけでしょ!スターリンの2。大体なんで私があなたたちと偵察に出なきゃいけないのよ!」

 緑子の発言にツッコミを入れる青葉。

「うるせーな全員視力が2,0あるからだろ。テメェは静かに偵察できーねのか?北西にIS-2だ、冷泉」

「落ち着け俊也。そど子はそう言うやつだから」

「な、なによ!あなたたちは冷泉麻子だからレマコよそっちは東藤俊也……トシヤよ!」

 文句を言っている俊也の報告を聞いて麻子も静かにメモ用紙に書き記す。

 すかさず緑子が強気に言い放つ。

「そのままじゃねーか」

「そうですね」

「うるさいわよ!」

 青葉と俊也の視線を感じながら緑子は拗ねたように言った。

「あぁ?」

「ひっ!べ、別に……怖くないんだからね!」

 俊也が鋭い眼光を緑子に向ける。

 その顔はまるで喧嘩をしていた頃の俊也の顔だった。

 俊也を見て、緑子は怯えるように青葉の後ろに身を隠した。

 やれやれと青葉は口を開いた。

「駄目ですよ東藤くん。そんな怖い顔で女の子を睨んじゃ」

「うっせーよ、青葉。代わりにお前がその女を躾けとけ」

 俊也は視線を前方に戻し、偵察を続ける。

「それは勘弁してくださいよー。……そど子さん、東藤君は怒ると怖いので怒らせないでください」

「あ、青葉くん!あなた、それでも風紀委員長なの!?そんな問題児を野放しにしておいて!」

「んだと?ぶっ飛ばすぞ!テメェ」

「まーまー落ち着けって俊也。お前もだぞ、そど子」

 見かねた不知火も俊也を止めに入る。

 緑子はその後ろに隠れて俊也に視線を向けた。

「んだよ衛宮。こいつは拳で分からせなきゃならねーんだよ」

「おいおい、せっかく喧嘩沙汰がなくなって平和な大洗男子学園になってんだからやめとけって」

「そうですよ。今度、お昼1回奢ってあげますから」

「冷泉みたく、食いもんで釣られると思ってんじゃねーよ」

 青葉の言葉に思わずいつもの表情に戻ってツッコミを入れた。

 それを聞いた麻子も口を開く。

「別に私は食べ物に釣られてないぞ」

「釣られてるだろ。この前、武部が言ってたぞ。お前にお菓子を与えれば大体言うこと聞くって」

「沙織め。余計なことを」

 麻子は恨むように沙織の名を口にした。

「そど子も言い過ぎだ。それに問題児とか軽々しく言うな、俊也だって根はいい奴だぜ」

「そど子さん。こういう時はごめんなさいするべきですよ」

 不知火と青葉も謝罪するように緑子を促す。

「……悪かったわよ」

 流石に悪いと思ったのか緑子は小さめの声でそう口にした。

「あ?聞こえねーな。なんだって?」

 煽るように俊也が緑子の顔を覗く。

 すると、ワナついていた緑子は息を吸い込む。

「あーもう。私が悪かったわよ!これで満足なの!?」

「「あ……」」

「おい、馬鹿!」

 緑子の大声の謝罪に思わず不知火も声を上げた。

 するとプラウダとファークト連合の生徒がこちらの存在に気づいたように声を上げた。

「敵だ!」

「捕まえろ!」

 声の方を一度見た後5人は一斉に反対方向へと駆け出す。

「本当に余計な事しかしねーな。クソ風紀委員」

「あなたのせいでしょ!冷泉さん、あそこにIS-2がもう1輌!」

「はいはい」

 俊也の文句を聞いて言葉を返す緑子。

 麻子は走りながらも緑子の報告をメモ用紙に書き記す。

「まったく人のせいにしちゃ駄目ですよ、そど子さん」

「うるさいわね!」

「いいからさっさと逃げるぞ」

 風紀委員長2人のやり取りをみた不知火が急かすように言った。

 そして偵察部隊Bはそのまま撤退していくのだった。

 

 

 天気も荒れ始め、静かに目を閉じていたアルベルトとエレンが同時に目を見開いた。

「風が強くなってる。大きいのが来る……」

「吹雪いてきたな……いくぞエレン。同志ノンナ。カチューシャを起こせ」

 エレンがヘッドフォンをずらして首にかけるとアルベルトやノンナがカチューシャを連れて移動を始める。

 

 

 教会内で戦闘の準備を進めていた大洗連合もようやくひと段落付き始める。

 凛祢もC-4爆弾をネジって数cm程の大きさにカットすると英子が用意していたマッチに火を着ける。

 マッチの先が温かい火へと変わる。

「それ、どうするんですか?」

「こうする」

 横から覗いていたみほの視線を感じながら凛祢はマッチをC-4の元に近づけた。

 するとC-4爆弾に火が付き煌々と燃焼し始める。

「C-4爆弾はベトナム戦争で固形燃料の代わりにしてしたらしい。こんな事態に備えて今回はヒートアックスの量を減らしてC-4爆弾と半分ずつの量を用意していてよかった」

「凛祢さん準備がいいですね……ってこれじゃあ工兵の武器が減っちゃうんじゃ――」

 説明を聞いたみほの言葉を遮る様に凛祢は手で合図する。

「別に大丈夫だ。ヒートアックスだっていつも余らせて全部使い切ることなんてそうそうないから」

「で、でも!」

「今はみんなに暖を取らせることを優先すべきだ。それに焚火を見てると落ち着くだろ?」

 凛祢は煌々と燃焼し続けるC-4を見てそんな言葉を口にした。

「……確かに。そうですね」

 みほも同じように燃焼している炎を見つめて呟いた。

「お、火は起こせたみたいだな」

「はい。残ってるC-4は全部焚火の燃料に回します」

「おい正気か?」

「大丈夫です。このままじゃ動けませんから」

 英治の質問に答えた凛祢は英子や八尋たちが集めた石を円状に並べる。

 そしてさっきと同様にカットしたC-4を置いて、マッチを使って燃焼させる。

 湿っている枝を何本か傍に置いて乾かす。

「おー焚火じゃん、あったけー。てか、これって何を燃やしてんだ?」

「会長たちが用意した固形燃料だ」

「へー、会長たち珍しいもの用意してるな」

 八尋と翼はそう言って出来立て焚火の傍で暖を取っていた。

「なんだよ。あるなら早く出してくださいよ。火おこし頑張って損した!」

「まあ、そう言うなって」

 同じように焚火に集まる歩や礼。他の生徒たちも続々と集まって来る。

「葛城。なんで……」

「いいんです。会長たちが用意したって言った方がみんなの為になります」

 凛祢はそう言ってC-4をすべて英治に預ける。

「でも……」

「その代わり、もう隠し事はしないでください。俺たち、もう仲間じゃないですか」

「葛城君……うんそうだね。もう隠し事なんてしない。みんなで勝とう。ね、英治」

「ああ、そうだな。俺たちみんなで」

 英治と杏は笑みを浮かべそう言い合う。

「戦車が冷えるので素手で触らないようにしてください」

「手の空いたものは暖を取れ!」

「スープ配りまーす」

 みほの声に続いて桃と柚子の声が響いた。

 凛祢も軽くなったバックパックを地面に降ろして壁に背中を預ける。

「ふう……」

 大きく息を吐いた。

 さて、次の作戦はどうするかな。

 どう頑張っても歩兵ではプラウダの戦車を撃破するのはほぼ不可能。そこはみほたちに頑張ってもらうとしても。

 自分たちはどうすればいい?

 敵にはアルベルトがいる。それに長距離狙撃に長けたスナイパーエレンもいる。

「凛祢。大丈夫?」

「……英子か」

「あなた考え事してると怖い顔するのね」

「そうか?」

 凛祢は英子の言葉に、気にするように顔を触る。

「へくちっ!……ごめんね。少し寒くて」

「ほら……そんな変わらないと思うが」

 不意にくしゃみをした英子の様子を見て凛祢は羽織っていた防弾加工外套を英子の前に差し出した。

「ありがとう」

 英子は素直に受け取って外套を羽織る。

「英子……俺はやっぱり戦場を望んでいたのかもしれない。戦場に立って仲間と葛藤することで俺は生きていると実感できた」

「そう。やっぱりあなたは歩兵道を嫌いになってなかったのね」

「俺は結局捨てられなかった。今の俺があるのは歩兵道があったおかげだから。そして英子やみんな……そしてみほのおかげだ」

 凛祢はそう言って顔を上げた。

「うん。私も信じてる。この試合もそして準決勝も決勝も勝つって」

「ああ。絶対だ」

 凛祢は残っていたスープを一気に飲み干し立ち上がる。

 そして、みほの元へと駆けて行った。

 英子は静かに見送ると桃や柚子のいる方へと歩いていく。

「こんなに吹雪いていたら、偵察に出たみんなは」

 みほが吹雪いている外を見てそう口にしたとき、雪の進軍を歌って戻ってきた偵察部隊Aと全力疾走したように肩で息をする偵察部隊Bが帰還してきた。

「「只今帰還しました!」」

「「こっちも偵察終わりました!」」

 塁と優花里が入り口で敬礼する。その隣では息を切らした青葉と緑子が報告する。

 偵察部隊の報告を聞いて、地図に急いで敵の配置を書き記す。

 さっきまで真っ白だった地図には緑のペンで敵戦車の配置を示す印と青ペンで随伴の数などが記されていた。

「あの雪の中でこんなに詳細に」

「流石だな塁、優花里、セレナ」

「「へへへ」」

「まあね。こういうのには慣れてるから」

 みほや凛祢の声を聞いて照れる様子を見せる2人とセレナ。

「俺たちは褒めねーのかよ」

「俊也たちもよくやってくれた。今度昼飯奢るから」

「だからなんでそうなるんだよ!」

 俊也は先ほども聞いた言葉に思わず声を上げた。

「ま、これで作戦が立てられるから。お手柄なのは間違いない」

「はい、これなら勝利の糸口もあるかもしれません!」

 みほも少し元気を取り戻したようだった。

 偵察部隊に感謝しながら作戦立案戻る。

「雪の進軍は楽しかったです!」

「うん。楽しかった」

「まさかあそこまでやるとは思ってなかったけどね」

「いいじゃないですか。結果的に成功したんですから」

 塁たちはさきほどの偵察の事を思い出して笑みを浮かべていた。

 何をやったのか知らないが。アーサーの様子を見る限り、結構危ない橋を渡ったようだ。

「敵に見つかって逃げ回ったのがかえってよかったな」

「それは結果論だろ。そど子せいで余計に体力使う羽目になっただろうが」

 スープを飲みながら焚火で暖を取る麻子と俊也が視線を横に向ける。

「何よ!見つかったのも作戦よ!」

「えーそうだったんですかー?僕はてっきりそど子さんがドジで駄目な子なのかと」

「青葉君!」

「冗談ですよーそど子さん」

 緑子の怒った顔を見て青葉は笑いながらスープに口を付けた。

「お前ら元気だな……俺は疲れたよ」

「うふふ……でも、おしろい子たちね」

 やれやれとため息をついた不知火とは別にセレナは微笑んでその様子を見ていた。

 

 

「ただいま。試合を続行するかどうか協議しております。繰り返します」

 外からのアナウンスが観客席とフィールド、教会内に響く。

「ますます大洗連合には不利ですね。敵に四方を囲まれて、この悪天候……きっと戦意も」

 心配そうにスクリーンを見ていたオレンジペコ。

 そんな彼女とは裏腹にダージリンやケンスロットは涼しい顔をしていた。

「それはどうかしら」

「案外わからないもんだぜ」

「ガノの言う通りだ。葛城は戦車にだって向かって行くような男だ。この程度では決して折れないはずだ」

 ケンスロットはそう口にして視線をスクリーンへと向けた。

 再戦は果たせなかった。が好敵手が他の誰かに敗れる姿は見たくない。だからこそ勝ってほしいとケンスロットは思っていた。

 

 

 

 どれぐらい時間が経っただろうか。用意したC-4爆弾もすべて燃焼し尽くし教会内は再び冷え始める。

「降伏時間まであと何時間だ?」

「うん、1時間」

「1時間をこの状態で待つのか……」

 桃と柚子は悪化していく状況に苦し気な表情を浮かべていた。

「いつまで続くのかな。この吹雪」

「寒いねー」

「うん」

「お腹空いた」

 毛布を6人で分け合うウサギさんチーム。

 あやと優季がそんな言葉を口にすると続くようにあゆみと桂里奈が呟いた。

「はぁ、どうするよ?」

「確か、痛みを感じると温かくなるって言うよな」

「じゃあ殴り合ってみる?」

「やめろ。先輩に怒られるぞ」

「亮だってぶるぶる震えてるじゃん」

 ヤマネコ分隊のメンバーも体を震わせながら言い合う。

「これは薄幸だ」

「やっぱり諦めが肝心なのでは?」

「天は我々を見放した……」

「私には難題すぎたかな……」

「隊長!あの木に見覚えがあります!」

「何!?どれだ?」

 カバさんチームとワニさん分隊も吹雪いている外を暗い表情で見つめていた。

「いいこと考えた……ビーチバレーじゃなくスノーバレーってどうですかね?」

「いいんじゃない?知らないけど」

「もはや逆転不可能な状況なのだよ」

「くそ!俺に『帝王の眼』があれば……」

「淳、どこのキセキの世代だ?」

 隅っこにひっそりと座るアヒルさんチーム。そして八九式の隣に立つオオワシ分隊。

「寝ちゃだめだよ、ぱぞみ」

「青葉は、凄く眠いです……すぴー」

「寝るな、青葉!寝たらマジで死ぬぞ!」

「痛いですよ……黄場」

 眠りかけていた希美を緑子が声を掛けて起こす。カモさんチームは毛布に包りまるで寝袋に包まれているようだった。

 一方、寝言を言いだす青葉を往復ビンタで起こす黄場。赤羽はその様子を黙ってみている。

「残りの食料は?」

「こういう事態は予測してなかったですからさっきのスープ以外は乾パンぐらいしか」

 雄二の問いに宗司は気を落としていた。

「くそ!こんなことなら飯をちゃんと食っておくんだった」

「食い貯めでどうにかなる状況じゃないだろ」

「だってさー。俺今月厳しくて今日の夕飯は食パン1枚だったんだぜ?」

 英治がツッコむが不知火は腹を抑えてひもじそうにしていた。

「試合前くらいは飯ちゃんと食っておけよ」

「うう……ひもじいぜ」

「何も食べるものなくなっちゃったね」

「偵察の時、プラウダはボルシチとか食べてました」

 不知火を見て沙織や優花里もそんな言葉を呟いていた。

「……」

 凛祢は再び室内に視線を向ける。

 マズイな。寒さと空腹で精神的な苦痛が大きいみたいだ。

 自分は昔から寒さや空腹感には慣れているがみんなはそんな経験もなければ、特訓もしていない。

 予想以上に戦意喪失し掛けているようだ。

「凛祢さんちょっといいですか?」

 みほはそう言って凛祢の耳元で囁いた。

「おいしそうだな」

「それにあったかそうです」

「やっぱりあれだけの戦車そろえている学校ですからね」

「学校……なくなっちゃうのかな」

 また弱気になり始めるあんこうームのメンバー。

 その様子を見てヤブイヌ分隊のメンバーも視線を落とし始める。

「そんなの嫌です。僕はみんなと、ずっとこの学校にいたい!」

「俺も同じだ。この学校で学んで、みんなで卒業したい」

 塁と翼が強めの口調で思いを口に出した。

「そんなの分かってるよ……」

「どうして廃校なんてことになっちまったんだよ!」

 沙織の様子を見て、八尋は思わず拳を壁にぶつけた。

「ここでしか咲けない花もあるのに……」

「「……」」

 華がそんな言葉を漏らすと俊也と麻子も悔しそうな表情を浮かべた。

「みんなどうしたの?元気出していきましょう!」

「「うん……」」

 みほの励ましに返ってきたのは弱々しい声だけだった。

「さっきみんなで決めたじゃないですか!降伏しないで最後まで戦うって!」

「「「はーい」」」

「分かってまーす」

 みほは言葉を続けるがはやり返ってくるのは小さな声だけだった。

「っ……」

 凛祢は奥歯を噛み締め、脇のホルスターに収納されていたブローニング・ハイパワーを引き抜いた。

 そのまま天井に銃口を向ける。

 引き金を引くと耳を刺すような乾いた音が教会内に響いた。

 続くように排出された空薬莢が1発が地面を跳ねる。

「「「!」」」

 誰もが驚きを隠せずにいた。

 凛祢がなぜそんな事をしたのか理解できなかったからだ。

 ゆっくりと手を下ろして口を開いた。

「確かに弱気になるのも分かる。だが、気持ちで負ければ本当に敗北だ」

 生半可な行動や言葉では到底士気は上がらない。上がるわけがないのだ。

「だから俺は」

「私は」

 羞恥心を……捨てる!

 凛祢とみほはお互いに頷き合い、行動を起こした。

 みほの歌に合わせて2人は大洗連合の視線が集まる中で踊り始める。

「り、凛祢?」

「西住さん……」

 英子とセレナが少々引き気味の様子を見ていた。

 2人が踊っていたのはこの場にいる誰もが1度は見た事のある踊り……「あんこう踊り」だったからだ。

「みぽりん!?」

「おいおい……凛祢?」

 沙織と八尋が理解不能な行動に最初に驚く顔を見せた。

「「どうしたんですか!?」」

「冗談きついぜ……」

 優花里と塁も思わず声を上げた。俊也も顔を青ざめつつも視線を向ける。

「あんこう鷹?」

「そう言うことですか。考えましたね」

 カバさんチームとワニさん分隊が驚く中でもアーサーはわかったように笑みを浮かべる。

 他の者も同様に2人を傍観するしかできなかった。

「「燃やして壊してゆーらゆらー」」

 曖昧な記憶を辿り歌い始めた凛祢も踊りを続けている。

「みんなも歌ってください!私と凛祢さんが踊りますから!」

「やめてよ……冗談でしょ?」

「やるしかないでしょ。行くわよ英子、衛宮くん」

「へいへい……」

 オオカミさんチームの3人はいち早くその踊りに参戦する。

「照月さんたちまで」

「逆効果だぞ!」

「うるさいわね!ここまで来たら見てないでやりなさいよ!仲間でしょ!」

 宗司と雄二が声を掛けるが涙目を浮かべる英子が強気に言い放つ。

 凛祢とみほも止めずにあんこう踊りを続ける。

「凛祢の奴……壊れたのか?」

「恥ずかしがり屋のみほさんが」

 翼と華も開いた口が塞がらなかった。

「みんなを盛り上げようと」

「プライドを捨ててまで」

 優花里と塁もようやく意図を理解していた。

「微妙に間違ってるけどな」

「斜め上に行きすぎだろ。あれはもうふざけているとしか――」

「凛祢がこんな状況でふざけるわけねーだろ。あいつはいつだって自分の信じたことをやってる奴だ!」

 麻子に続いて俊也が呆れた視線を送ると、八尋が遮る様に声を上げた。

「私も踊ります!」

「行きましょう!八尋殿!」

「おっしゃー!あの日あんこう踊りを踊った時からプライドはもうボロボロだ!」

 八尋も聖グロ&聖ブリ戦後のあんこう踊りを思い出す。

 3人はズンズンと歩みを進める。

「やりましょう!」

「しょうがねーか」

「みんな行くよ!」

「仕方あるまい。行くぞ東藤」

「……マジでやんのかよ」

 華や翼も後に続き、俊也も露骨に嫌そうな表情を浮かべていた。

 再び13人の歌が響き、次々と大洗連合のメンバーは重い腰を上げた。

 

 

 観客席のスクリーンには大洗連合が踊る姿が映し出されていた。

「……」

「嘘……!」

「お嬢が……」

「兄貴ー!どうしちまったんだ!?」

 スクリーンから大洗連合のあんこう踊りを見ていた百合や新三郎、坂上姉弟も驚いてしまう。

 五十鈴百合にとっては自分の娘の品を疑ってしまったから。そして坂上姉弟にとっても兄の威厳が失われかけたからだ。

「ほう。あんこう踊りか……」

「英子があんこう踊りを踊ってますよ!玄十郎さん!」

 玄十郎が興味深く視線を送ると麗子は英子があんこう踊りを踊っていたことに感動していた。

「「「「……」」」」

 同じくそれを見ていた西住しほ、まほ、聖羅、朱音も眉一つ動かさずにその様子を見つめていた。

 

 

「ハラショーですわね」

「だははは!なんだあれ?おもしれ―な、ケン!」

「そ、そうだな……」

 笑みを浮かべたダージリン。

 ガノスタンはよっぽどツボにはまったのか腹を抱えて大笑いしていた。

 ケンスロットは引きつった表情で視線をスクリーンに向けている。

 

 

 もうどれぐらい踊り続けているだろうか?

 数分いや、数十分?もしかしたら1時間ぐらいは経っただろうか?

 できれば早く終わってほしい。こんな踊りは正直キツイ。

 凛祢がそんなことを考え始めた頃、プラウダ高校のパンツァージャケットに身を包む生徒が声を上げた。

「あ、あの!」

「プラウダ校の……」

「もうすぐ時間ですから、降伏は?」

「降伏はしない。最後まで……全滅するその瞬間まで俺たちは戦う」

 ファークト高校の生徒の前に立った凛祢はそう口にした。

 

 

「土下座は?」

「降伏はしないそうです」

 目を覚ましたカチューシャの問いにノンナが答える。

「何よ、待ったかいがないわね。それじゃあさっさと片付けておうちに帰るわよ」

「はい。同志アルベルト、エレン準備を急いでください」

 ノンナの声を聞いて同時に紙コップを握りつぶす2人。

「エレン。アレは持ってきてきたか?」

「持ってきたけどカチューシャは武器の名が落ちるから使うなって言ってたぞ」

「最悪使っても構わない。アレなら戦車でも落とせるからな」

 アルベルトも準備を急がせてそう言った。

 

 

 みほは戦車に乗り込みながら心配そうな視線を向けた。

「本当にいいんですか?」

「ああ。生き残ることができたら合流もできるだろ。たとえ俺たちがやられてもみほならやってくれるって信じてる」

 凛祢はバックパックを背負って答えた。

 防弾加工外套もアーサーに渡している。

「任せておいて」

「そうそう。先輩にも意地ってのがあるのよ」

「葛城だけは借りてくけどな」

 続くようにオオカミ―チームの3人が準備をしながらそう言った。

「でも……」

「いくぞ、杏」

「うん。行くよ!」

「はい!」

 杏の掛け声で全員が戦車と駆動車に乗り込む。

「西住ちゃん、葛城くん。私らをここまで連れて来てくれてありがとね」

「それはこの試合に勝ってから言ってくださいよ」

 凛祢はグローブを嵌め直す。

 続くように英治も銃を背負い口を開いた。

「確かに。まだ早いぞ杏」

「うん。そうだね」

 その言葉を最後に大洗連合は包囲網からの脱出作戦を決行する。

 外には包囲網を完成させた敵。数も上なら戦車の性能も武器の性能すらも上。

 それでも勝つんだ。

 凛祢は瞑想しているように目を閉じて、息を吐いた。

「ではこれより敵の包囲網を突破する『ところてん作戦』を決行します!戦車前進(パンツァーフォー)!」

「包囲網突破後はみんな作戦通りに。歩兵疾走(オーバードライブ)!」

 2人の声が通信機とインカムから響いた。

 

 

 T-34/85のキューポラから上半身を乗り出し腕を組むカチューシャ。その顔は勝ち誇っていた。

「あえて包囲網に緩い所作ってあげたわ」

「裏目に出なければいいがな」

 アルベルトは思わずそんな言葉を呟きながらナガン・M1895の引き金部に指を通し、回転させている。

「大丈夫よ!奴らはそこを突いてくる。着いたら挟んでお終いよ」

「……うまくいけばいいのですが」

「カチューシャの作戦が失敗するわけないじゃない!今回はアルベルトの意見も取り入れたんだから!それに第2の策で万が一フラッグ車を狙いに来たとしても隠れているカーベータン(KV-2)がちゃんと始末してくれる」

 ノンナもそんな言葉を掛けるがカチューシャは抜かりないといった表情で説明をする。

「臨機応変に対応はできる。エレンもいるしな」

「それなら安心です」

「用意周到のカチューシャ戦術とアルベルトの柔軟な戦術合わせれば敵なしよ!」

 カチューシャは再び笑みを浮かべて腕を組んだ。同時にアルベルトがホルスターにナガンを差し込んだ。

 

 

 教会内の静寂には戦車と駆動車のエンジン音だけが響いていた。

 凛祢も高めた集中の中で目を開く。

「いくぞ、小山!」

「作戦開始だ、宗司!」

「「はい!」」

 杏と英治の声を合図に戦車と駆動車が移動を開始する。

「突撃!」

 ‪一斉に教会内を出ていく戦車と駆動車たち。

「予想通りね!流石私」

「いや、そうでもなさそうだぞ」

 カチューシャの注意を仰ぐようにアルベルトが通信を送る。

 大洗連合はカチューシャのいる包囲網の最も厚い場所を目指して走行している。

 戦車が単縦陣からその陣形を変化させていく。

「こっち!?馬鹿じゃないの?」

「だから言っただろう!」

「あえて、分厚い所来るなんて」

 カチューシャはいそいそとヘルメットを被る。

 すると一斉に大洗連合の戦車が発砲。砲撃戦が開始された。

「河嶋!代われ!」

「はっ!」

 杏はそう言って砲手の席に座り照準器を覗く。

「やっぱ37㎜じゃまともにやっても勝てないからねー」

「まあ、そうよね。私たちのも効かないし」

 杏と英子がそんな言葉を呟く。

「小山!セレナも危ないけどギリギリまで近づいちゃって!」

「「はい!」」

 柚子とセレナの声が響く。

「うおー。こえー!」

「揺れ過ぎで酔いそうだぜ」

 激しい振動に不知火はそんな事を言い出していた。

「小山先輩。セレナ!合図は俺が出します!」

 凛祢は、単眼鏡でT-34/76を見つめる。

 いまこそ、「直感」を信じろ。メッザルーナの時は失敗したが……

 ゆっくりと敵戦車も照準を38tと九七式に向ける。

 一瞬。敵の砲が照準を合わせたその瞬間。

「避けろ!」

 凛祢の合図に2輌は左右に避け敵の砲撃を回避した。

 瞬時に照準を合わせた杏と英子が発砲。砲弾をほぼ零距離で命中させ敵戦車を1輌撃破した。

 その隙を見逃す大洗連合は全速力で敵戦車の間を抜けていく。

「やったなー。後続何としても阻止!」

「やってくれたな。これぐらいじゃないと張り合いがないがな!」

 カチューシャは指示を出して、アルベルトたちも追撃を開始する。

「前方敵4輌!」

「歩兵30!」

 みほとアーサーの声が通信機とインカムから響いている。

「こちら最後尾。後方からも4台来ています!」

「駆動車も4輌いますね」

 最後尾で走行するカモさんチームとシラサギさん分隊も報告をする。

「囲まれる前に陣形を乱さないよう10時の方向に旋回してください!」

「「正面の敵は先輩に任せて」」

 38tと九七式はそのまま前進していく。

 英治も通信機に向けて声を掛ける。

「うまくいったら後で合流しよう!」

「凛祢さんをお願いします!」

「ああ。任せておけ」

 みほは通信を送り離れていく凛祢の背中に目を向けた。

「あいつなら大丈夫だって」

「ちゃんと生きて戻って来るだろ」

 八尋と俊也がそう声を掛けるとみほも視線を前方に戻した。

「T-34/76に85にスターリンか。堅そうで参っちゃうな」

「さらに、RPG持ちの砲兵が18いや20か。ったくアルバートといい砲兵が多すぎだろ。工兵を採用しろよ」

 照準器で見つめる杏とスコープを覗く英治が愚痴をこぼした。

「さーて。ここからは片道切符だ。帰りのタクシーはないぞ」

「うう、胃が痛いです……」

「ぜってぇ負けねぇよ」

 不知火の声に宗司は苦笑いすると雄二も自分の武器を握る手に力を込める。

「無駄話もそこまでよ。敵の懐に潜り込んでキツい1発をお見舞いするわよ」

「こんな戦車でプラウダの戦車に挑むなんて……」

 37㎜戦車砲弾を装填した英子の言葉にセレナはため息をついた。

「衛宮行くぞ!」

「了解だ」

 狙撃兵である英治と不知火がそれぞれ跳躍し雪原に足をつくとそれぞれの狙撃ポイントに向かう。

「みほ行け!会長たちを信じろ!」

「わかりました。気を付けて!」

「そっちもねー」

 凛祢の声に、みほも覚悟を決めて戦車を旋回させていく。

「英子。無理はするなよ」

「あなたも無理はしないでね」

 英子の顔を確認して凛祢も白い息を吐いた。

「たとえ38tでも……」

「テケでも……」

 杏と英子はトリガーに手を掛ける。

「「零距離なら!!」」

 機動力を活かして次々に敵を翻弄し攻撃していく。

 いつの間にか九七式に掴まっていた凛祢の姿もない。

「次!」

「はい!」

 杏の声を合図に桃が次弾を装填する。

「セレナ。9時の方向の敵行くわよ!」

「ええ!」

 セレナも指示通りに戦車を走行させる。

「何やってる!さっさと敵戦車を倒せ!」

「わかってるよ!」

 ファークト高校の砲兵部隊もRPGを構える。

 が、そうはさせまいとキューベルワーゲンに搭乗している雄二が発砲する。

 ほとんどは地面を抉るが数発の銃弾を命中させた。

「どんなもんよ!」

「くそ!先にあいつを!」

 他の歩兵がキューベルワーゲンを狙おうとするが、英治と不知火の狙撃に阻まれる。

 一瞬の隙をついて闇に紛れていた凛祢は全力で距離を詰めた。

「なっ!?」

「覇王流……」

 1歩踏み込んだ凛祢は敵砲兵の顎目掛けて流星掌打を放つ。

「ぐはっ!」

 敵砲兵はなにが起きたのかを理解できぬままうめき声を上げて倒れる。

「こいつ!」

「!」

 敵砲兵がPK機関銃を構えるが、瞬時に振り向いた凛祢は右手で銃口を掴み取る。

 そして、左手に持っていたブローニング・ハイパワーのグリップを顔面に叩きつけた。

「な……に!」

「彗星封じ……」

 倒れた敵にブローニングハイパワーを向けると数発発砲する。

 敵歩兵からアラームが響いた。

 ファークトの突撃兵2人も凛祢の存在に気づき狙いを定める。

 距離は1,2メートル程。手持ちのSKSカービンなら十分狙い撃てる距離だった。

 この距離で完全回避は不可能……のはずだった。

「くらえ!!」

 敵歩兵が引き金を引くと銃口から銃弾が吐き出される。

 しかし、敵歩兵は目の目の出来事に驚く結果となった。

 自分たちの放った銃弾は凛祢ではなく自軍の歩兵に命中していたからだ。

 銃弾を背中に受けたファークトの歩兵からは戦死判定のアラームが響いている。

 その歩兵は凛祢が先ほど流星掌打を見舞った男だった。

「なにー!?」

「マジかよ。こいつ」

 2人も思わず声を上げた。

 凛祢は倒れている歩兵の胸倉を掴み取ると無理やり引っ張り上げ盾としたからだ。

 すぐに男を2人の方へと押し返すと移動を開始する。

「くそ!逃がすか!」

「おい、早く退けよ!」

「お、おう」

 戦死判定を受けた歩兵もあまりの出来事に反応が遅れていた。

 それが命取りだった。

「あいつだけでも!」

「あれ?こいつ手榴弾持ってたっけ?」

 ようやく戦死した仲間を引き剥がし地面に寝かせ銃を構えた瞬間。

 倒れた仲間のベルトにぶら下がっていた手榴弾2つが起爆した。

 爆発に巻き込まれた2人からも戦死判定のアラームが響いている。

「よし……次だ」

 凛祢は指に引っ掛けていたピンを捨てると単独で敵歩兵に向かって行く。

 フリーだった右手にもブローニングハイパワーを握り、二丁拳銃(デュアル)での戦闘を開始する。

 これが現在、葛城凛祢には最も合っている戦闘スタイルだった。

 二丁拳銃だからと言って片手の時より攻撃力が2倍とはならない。

 むしろ二丁拳銃で銃を扱うと命中率は著しく落ちる。特に利き手ではない方。

 だが、それも訓練すれば安定させることはできる。

 次々に対人戦闘で敵歩兵を屠っていく凛祢。

 敵狙撃兵がドラグノフ狙撃銃を発砲すると銃弾が凛祢に向かって飛んで行く。

 直感的に危険を感じ取ったその体は無意識に体を捻り、銃弾を回避した。

「なに!?嘘だろ」

「覇王流……」

 狙撃兵の存在に気づいた凛祢も、目の前の歩兵の右足目掛けて速攻型の足払い技、紫電脚を放つ。

「ぐっ!」

 態勢を崩すのを見逃さず、凛祢は二丁のブローニングハイパワーを連続で発砲すると、敵歩兵から戦死判定のアラームが響いた。

 狙ってきた狙撃兵を屠るために低い体勢で移動を始める。

 同じく宗司と雄二も敵歩兵を2人、3人と屠っていた。

 凛祢が拳銃を発砲し7人目の歩兵を屠るとインカムから声が響いた。

「葛城、もういい。そろそろ撤退しろ!みんなも撤退だ!」

「了解です」

 弾切れになりスライドがホールドオープンしたブローニングハイパワーから空弾倉を排出し、それぞれ予備弾倉を差し込む。

 いち早く撤退を開始した。

 一方、38tと九七式は次々に敵戦車への攻撃を続けていた。

 有効打にならない事もあれど、桃の装填速度を生かして敵を仕留める杏。

 1人で砲手、装填手を兼任しているにも拘わらず英子も的確に履帯を狙い撃ちしていた。

 2輌で敵戦車を翻弄し、38tが零距離射撃で3輌目を撃破した。

「よし!こんくらいでいいだろ」

「そろそろ逃げるわよ!」

「りょうかーい」

「お見事です!」

 2輌も撤退しようとした時だった。

 耳を貫くような発砲音が響いたかと思うと38tが雪原で横転していた。

 砲弾を放った戦車にはノンナの姿があった。

「っ!」

「なに?」

 英子はキューポラから頭を出すと3時の方向に敵戦車の姿を確認する。

「セレナ、避け――」

 轟音と共に九七式も敵戦車数輌からの砲弾が直撃し軽い車体は数回横転し地面を滑っていた。

「動ける車両と歩兵は速やかに合流しなさい!」

「はい!」

 ノンナの指示に崩れた陣形を立て直していくプラウダ&ファークト連合。

 時を同じくして雄二と宗司の搭乗していたキューベルワーゲンも天地がひっくり返ったように逆さまになって煙を上げていた。

 車内から戦死判定のアラームは響いている。

「宗司!雄二!」

 不知火がインカムで通信を送るが応答はなかった。

「くそが!」

「不知火やめろ!」

 思いに任せて動いた不知火だったがすでに場所を把握していたファークトの砲兵から放たれたロケット弾が直撃。

「……ああ」

 不知火は力なく手を伸ばしていたがすぐに雪原に倒れこんだ。

 そして英治も銃弾の雨を浴びさせられ、まもなく戦死判定を受けていた。

 夜の暗さや単独で行動していた凛祢は幸い敵には遭遇せずにいたが爆発音を聞きつけて振り返った。

「英子、無事か!?」

「ごめんね、葛城くん。やられちゃったわ」

 凛祢の通信に答えたのは英子ではなくセレナだった。

「セレナ!?」

「英子は頭を打ったみたいで今は気を失ってる。私たちはここまでみたい後は頼んだわよ」

「……わかった。そっちも英子のことは頼んだぞ」

 セレナは車内で気絶していた英子を車外へと避難させていた。

 凛祢は急いでみほたちへと合流するため地を駆けていく。

 すると大洗連合全員の通信機とインカムから声が響いた。

「ごめん。合わせて3輌しか撃破できなかった上にやられちゃった。照月ちゃんたちや英治たちも撃墜されたみたい。あとはよろしくね」

「わかりました。ありがとうございます……凛祢さんは!?」

「大丈夫だ。俺は生きてる。今そっちに向かってるが敵の増援の合流が早いかもしれない……」

 凛祢も通信に返答しながら先ほどの小さな村を横切っていた。

「後は頼んだぞ!西住、葛城!」

「お願いね!」

「……葛城、西住、頼む!勝ってくれ!」

 桃と柚子、そしてかすれた声を絞り出す雄二の声が聞こえた。

「この窪地を脱出して、凛祢さんと合流します!全車、あんこうについてきてください!」

「はい!」

「了解!」

 みほの指示に全員が返事をして再び気を引き締めた。

 

 

 

 観客席では38t、九七式、そしてカニさん分隊と不知火の活躍ぶりに歓声を上げていた。

 応援の声はプラウダとファークトを上回りつつあった。

「みんな大洗を応援しています」

「反感ビーキと言う事かしら」

 オレンジペコとダージリンも少々驚きつつあった。

 彼女たちも大洗寄り応援しているのは確かだった。

 

 

 痺れを切らしたカチューシャが逃走する大洗を追いかけながら文句を漏らしていた。

「何やってんのよ!あんな低スペック集団相手に!全車両で包囲!」

「こちらフラッグ車!フラッグ車もすか?」

「アホか!あなたは冬眠中のヒグマ並みにおとなしくしてなさい!」

 カチューシャは帰ってきた返答にまたも怒りを露わにいていた。

「ノンナ、そっちで葛城凛祢は屠ったのか?」

「いえ、アルベルトの言っていた歩兵は単独で行動しているのか。私の部隊は対峙していません」

「葛城は本隊に合流するため、いち早く動いたのだろう」

 合流するために移動していたノンナは先ほどの事を思い出し返答した。

「まだ生きてるってことか。いつまでも隠れているようなら無理やりにでも引きずり出してやる。エレンはそのままT54地点!」

「了解」

 エレンは車内に横たわる大口径ライフルに目を向けた。

 

 

「麻子さん。2時が手薄です!一気に振り切ってこの低地を抜け出すことは可能ですか?」

「了解。多少きつめにいくぞ」

「あんこう2時、展開します。フェイント入って難易度高いです。頑張ってついてきてください」

 あんこうから通信が入る。

「了解ぜよ!」

「大丈夫?」

「大丈夫!」

「マッチポイントにはまだ早い!気引き締めていくぞ!」

「「「おー!」」」

「頑張るのよごもよ!」

「わかったよそどこ」

 それぞれの操縦手が返事をして操縦ハンドルを握る。

「なんなの?ちまちま軽戦車みたいに逃げ回って!機銃、曳光弾!砲弾はもったいないから使っちゃ駄目!」

「砲兵部隊も接近するまでRPGは撃つな。確実に命中できる距離までは機銃射撃で牽制!」

 カチューシャとアルベルトの指示に合わせてばら撒かれる数百発の銃弾。

「……!」

 みほが振り返ると銃弾が天空を舞っていた。

「見えたぞ」

「カモさん、シラサギさん敵は何輌追ってきてますか!?」

「敵戦車は6輌です!」

「駆動車も同じく6輌です!」

 後方を望遠鏡で覗く緑子と青葉。

「ぐっ!ぐわぁぁぁ!」

「青葉!」

「だ、大丈夫です……望遠鏡を壊されただけです」

「馬鹿!そんな状態で!」

 流れ弾で望遠鏡を破壊された青葉は思わず目元を両手で押さえて悲痛の声を上げた。

 赤羽が顔を覗くと目元は赤く腫れ上がっている。

「大丈夫、ですから……進んでください!」

 青葉は痛みに耐えて進むよう促した。

「カバさん、ヤブイヌはあんこうと一緒に坂を上った直後にやり過ごしてください!主力がいないうちに敵フラッグ車を叩きます!ウサギさんとヤマネコ、カモさんとシラサギさんはアヒルさんとオオワシを守りつつ前進を続けてください。この暗さに紛れるためなるべく打ち返さないで!凛祢さんと合流後は指示に従ってください」

 みほの指示通りⅣ号とⅢ突、ヤマネコは坂を越えてすぐ左右に転回ていく。

 そして、残りの大洗連合は前進を続けて行く。

 それを追うようにプラウダ&ファークト連合の車両が追撃に向かう。

 大洗連合が目指す遥か前方では先回りしていた凛祢の姿があった。。

「こちら凛祢!アヒルさんとオオワシを確認」

「了解です!葛城隊長のところまであと400メートルだよ!根性で行くぞ!」

「「「はい!」」」

 雪原にヒートアックスを仕掛け、優花里から借りた折り畳みスコップで掘った雪洞内で凛祢は身を隠していた。

 正直、地面に仕掛けたヒートアックスではプラウダの戦車をすべて倒すことは難しいだろう。

 だが、やるしかない。

「追え追えー!」

「2輌ほど見当たりませんが……」

「そんな細かいことどうでもいいから、永久凍土の果てまで追いなさい!」

「こちらエレン。あと1分でT56に到着します」

「よし」

 アルベルトは空になっていたナガンに銃弾を1発ずつ装填していた。

 

 

 本体と別れたⅣ号とⅢ突は敵フラッグ車を討つために雪原を進んでいた。

 キューポラから全身を乗り出していたみほは辺りを見渡す。

 再び車内に戻ると通信機を手に取った。

「塁さん、翼さん。偵察に出てもらえますか?」

「了解です」「了解」

 みほの通信の後、ジープから降りた塁と翼はそれぞれ偵察へと出ていく。

 俊也がハンドルを握り、ジープは再び走り出す。塁と翼を背に去って行く。

「塁どうする?」

「高い所から偵察を……あそこがいいかもしれません」

「わかった。行くぞ」

 塁の指さす方を確認すると高い塔の姿があり、2人は急ぎ足に歩いていく。

 

 

 

 大洗連合を追いかけるプラウダ&ファークト連合を追いかけるように1輌の戦車IS-2とドラグノフ装備の狙撃部隊を乗せたGAZ-47が現れる。

「遅れてすみません!こちらIS-2ただいま合流しました!」

「同じく狙撃部隊も」

「きたー!ノンナ変わりなさい!」

「はい」

 更に増援と合流して再び士気を上げるカチューシャ。

 

 

 走行不能となり陣地に運び込まれていたカメさん、カニさん、オオカミさんはスクリーンに目を向けていた。

「やってくれるでしょうか?西住と葛城は」

 桃が呟くと

「うう……」

「照月ちゃん大丈夫?」

 ようやく目を覚ました英子は体を起こして頭を抑える。

「……し、試合は?」

「まだ、決着はついてない。あいつらもなんとか食らいついてるみたいだ」

「そう……」

 英子も心配そうにスクリーンに視線を向ける。

 

 

 塔の鉄梯子を上り、頂上にたどり着くと翼はバリスタを構えてスコープを覗いた。塁も双眼鏡で辺りを見渡す。

 北、東、南……とそこで小屋に隠れた敵戦車の姿を確認する。

「みほ隊長、塔を中心として南に敵戦車発見。他に戦車は見当たらないようだからおそらくフラッグだ」

 翼は報告して随伴歩兵の数を数えていく。

 

 

 IS-2に乗り換えたノンナは車長ではなく砲手として照準器を覗いていた。

 狙いをつけるとトリガーを引く。

 放たれた砲弾はフラッグ車である八九式の傍の地面を抉った。

 衝撃が八九式の車内を揺らす。

「なんなのよあれ!校則違反よ!」

「そうですよ!校則違反ですよ!」

 緑子に続くように青葉が叫んだ。

「アーサー!亮!作戦通り行くぞ!」

「ようやくか!」

「いつでもいけます!」

 凛祢の通信に2人が返答すると同時に起爆スイッチを押した。

 仕掛けていたヒートアックスが起爆し、次々に爆発していく。

「なに!?」

「なっ!」

 ヒートアックスは真上を走行していたT-34/85、GAZ-47をそれぞれ1輌行動不能。T-34/75、1輌の転輪を破壊し走行不能にさせた。

「やった!」

「さっすが葛城隊長!」

 典子と辰巳も後方を確認しガッツポーズをした。

「ヤマネコ行くぞ!」

「はい!」

 爆発の混乱に準じてワニさんとヤマネコの駆動車は円を描くように左右に展開していく。

「「必殺!くるりん作戦!」」

 左右から挟み込むように敵の駆動車に突っ込んで行く。

 アーサーと亮の声に合わせてワニさんの3人とヤマネコの5人が放った銃弾は残存するGAZ-47の内、1輌の車内に降り注ぐ。

 車内にいた歩兵はひとたまりもなく戦死していく。

「よし、シャーロック!」

「白兵戦ならこっちが上だ!」

 跳躍したアーサーとシャーロックは着地後、戦死判定を受けていない敵歩兵へと向かって行く。

「「……」」

 車内から飛び出したアルベルトが笑みを浮かべるとエレンも無言でライフルの引き金を引いた。

 大口径ライフルから放たれた銃弾は雪空の戦場へと飛んで行く。

 次の瞬間、アーサーと凛祢は驚きを隠せなかった。

 敵の狙撃を受けたシャーロックの体は十数メートルも吹っ飛ばされたからだ。

 すぐに戦死判定のアラームが響いた。

 それは明らかにドラグノフの狙撃によるものではない。

「なんなんだ、今の?」

 アーサーも反射的に刀剣を盾にするように体の前で構える。

「……無駄です」

 弾薬ケースから取り出した次弾を1発装填し、再び引き金を引いた。

 放たれた銃弾はアーサーに向かって飛んで行く。

 金属を砕くような豪音が響いたかと思えば、アーサーの体は力なく地面を転がって行く。制服から戦死判定のアラームも鳴っていた。

 地面に落ちた銃弾に目を向ける。それは14,5㎜弾だった。

「この威力と弾薬はまさか……で、デグチャレフ!?」

 凛祢は驚きの表情を浮かべて狙撃方向に目を向けた。

 そう、エレンの構えていた銃は対戦車ライフル『デグチャレフ』だったのだ。

 その威力はⅣ号の装甲でさえも貫通する威力を持っている。

「アルベルト!まさかデグチャレフを使ったの!?」

「悪いがここからは俺たちのやり方でやらせてもらう……ようやく決着をつけられるな、葛城!中学の時は勝ち逃げされたようなものだからな」

「アルベルト……こんな時に!」

 駄目押しするようにアルベルトが数メートル先に現れる。

 凛祢は最悪の状況に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。




気が付けば今回も本編が長くなっちゃいました。
申し訳ありません。
プラウダ戦は話を切る場所が難しいですね。
今回、最後に登場したファークトの秘密兵器は対戦車ライフルデグチャレフでした。
質問や意見も募集中です。
では、また次の地を駆ける歩兵達で!


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第19話 プラウダ&ファークト戦決着

どうもUNIMITESです
いよいよプラウダ戦も終盤。
大洗連合は勝利できるのか?凜祢の先に道はあるのか?
では本編をどうぞ。



 戦場ではそれぞれの戦いが続いていた。

 大洗連合のフラッグ車である八九式とM3、ルノーを追いかけるプラウダの戦車とファークトの駆動車。

 再びノンナがトリガーを引き、IS-2から放たれた砲弾はM3の右側面を掠めた。

「私たちはいいから、アヒルさん守ろう!」

「そうだね!桂里奈ちゃん!守って!」

「あいー!」

「礼!俺たちも盾になるぞ!」

「そうだ、何もせず逃げるのはもう卒業するぞ!」

「了解!」

 あゆみや紗季の言葉にM3は八九式の後方に回ると、続くようにヤマネコの搭乗するジープも後方に回る。

 

 

 そして凛祢は数メートル先に立つアルベルトを見つめていた。

 戦場に倒れる十数人の歩兵たち。葛城凛祢の奇襲作戦とワニさん&ヤマネコによる「くるりん作戦」で戦死させられた歩兵たちだ。

 自軍の歩兵であるアーサーとシャーロックも力なく倒れている。それはスナイパーエレンのデグチャレフによるもの。

 まさか対戦車武装を対人に向けて使うなんて……。

 対戦車ライフル『デグチャレフ』。単発式の大口径ライフルである。使用弾薬である14,5mm弾ならばⅣ号の装甲ですら貫通できる威力を持っている。アーサーの刀剣を正面からの狙撃で撃ち砕いたのだから間違いない。

 無残にもへし折られた刀剣武器『カリバーン』や刀身の破片が目に入る。

「……」

 凛祢は防弾加工外套を脱ぎ捨てるとホルスターからブローニング・ハイパワーを両手に引き抜く。

 非常にまずい状況だ。長距離で狙撃されてはこちらに防ぐ手立てはない。

 あの銃の欠点があるとすれば、その重量と弾数制限くらいだ。

 デグチャレフは普通の狙撃銃と違って、重い重量と長い全長によって取り回しが悪い。それゆえに狙撃地点の移動も容易ではない。

 そして弾数制限。デグチャレフほどの銃の弾薬はRPGなどと同様にルール上弾数に大きな制限がかかる。用意できる弾薬は精々7、8発程度のはず。

 よって、自分たちにできる事は有効射程外にまで逃げるか、残った弾薬をすべて撃ち尽くさせる……。

「アーサー!なっ、嘘だろ、剣が……」

 景綱は自分の目を疑った。目の前に倒れるアーサーの握る剣の刀身が折れていることを信じられなかった。

「駄目だ景綱。2人とも気を失ってる……おそらくさっきの狙撃だ」

「くそ!アーサーとシャーロックの敵討ちだ!」

「死んではないけどね」

 2人はワルサーMPを握り、敵に目を向ける。

「エレン。こっちはもういい。敵フラッグ車の狙撃に回れ」

「了解です」

 アルベルトは通信機で指示を出すとエレンは狙いを変更する。

「アルベルト!なに勝手なことしてるのよ!返事しなさい!」

「……」

 カチューシャが必死に通信を送るが返事は帰ってこない。

「あいつ通信切ったわね!アルベルトの馬鹿!」

 カチューシャは怒り燃えた視線を前方の八九式に向ける。

「ヤマネコ及びシラサギさん!何としてもフラッグ車を守ってくれ!敵には対戦車狙撃銃を装備している歩兵がいる!」

「「了解です!」」

 凛祢は他の歩兵を防衛に回し、ジルと景綱3人で戦場に立っていた。

「まさかこの人数をたった3人で相手する気か?」

「……」

「いいだろう……全軍、かかれ!」

「ウラーー!!」

 アルベルトが残存歩兵と共に凛祢たちに向かって行く。

 残る敵歩兵は、長距離狙撃に回る歩兵であるエレンも含めて24人。

「行くぞ、なんとしてもここを死守する!」

「「おう!」」

 凛祢たちとアルベルトの部隊は戦闘を開始した。

 

 

 翼と塁の偵察によって発見した敵フラッグ車の元へⅣ号とⅢ突が向かう。

「西住隊長、次はどうすんだ!?」

「ここからは時間との勝負です!敵よりも先にフラッグ車を討ちます!」

 みほの通信が大洗連合のインカムから響く。

 

 

 ノンナが迷いなく引き金を引くとIS-2から放たれた砲弾はM3の後方エンジン部に命中。

 更に、エレンの構えるデグチャレフから放たれた銃弾はヤマネコの搭乗するジープを撃ち抜き、横転させる。

 M3からは炎が上がり、白旗が上がった。

「ウサギチーム走行不能!」

「こちら、ヤマネコ分隊も狙撃でやられました!」

 梓と亮の通信が沙織の通信機から響く。

「みなさん無事ですか!?」

「「「大丈夫でーす」」」

「こっちもなんとか生きてまーす」

「いてー!頭打った!」

「ここはどこ?私は誰?」

「眼鏡われちゃったけど大丈夫でーす」

「よし、みんな戦死してますが生きてまーす」

 ウサギさんとヤマネコの声を聞いて翔は報告する。

『圧倒的矛盾』

 銀がメモを見せると翔が苦笑いしていた。

「「カモさん!シラサギさん!アヒルさんとオオワシをお願いします!」」

「了解!行くわよごもよ、ぱぞみ!風紀委員の腕の見せ所よ!」

「何としても死守しますよ!赤羽、黄場!」

「「はい」」「「勘弁しろよ」」

 緑子と青葉が強気に言い放つとそれぞれ最後の防衛に回る。

 

 

 

 ファークトの歩兵が銃を構えようとする瞬間、凛祢が煙幕手榴弾を起爆させる。

 凛祢たちは煙に紛れ前進していく。

「構うな!撃て!」

 軽機関銃『RPK軽機関銃』を構えたアルベルトの声と共にファークトの歩兵たちが持つアサルトライフル『AK-47』から銃弾が放たれる。

 煙幕の中でジルと景綱が手榴弾のピンを抜いて投擲する。

 手榴弾は煙幕抜けてファークトの歩兵の前方で誘爆した。

 衝撃波によって一瞬、ファークトの歩兵の動きが止まる。煙幕から飛び出した凛祢は両手に持つブローニング・ハイパワーの引き金を素早く引いた。

 続くようにジルと景綱も煙幕を抜け、ワルサーMPの引き金を引く。

 次々に放たれた銃弾はファークトの歩兵たちに命中する。しかし、敵の放った銃弾もジルと景綱に命中していた。

 互いに戦死判定は出ていないもののダメージが蓄積する。

「くっ……!」

 凛祢は直感的に動いて銃弾を回避しているが、それでも数発ずつ肩や足に被弾していた。

 それでも怯むことなく攻撃を続ける。

 近距離戦闘に切り替えてきた歩兵たちに凛祢もなんとか対応しているがそう長くはもたなかった。

 とうとうブローニングハイパワーのスライドがノックバックし弾切れを告げる。

「くそ!」

 凛祢は顔を歪ませているとアルベルトの持つRPK軽機関銃の銃弾が向かってくる。

 まだ予備弾倉は残っているがこの状況では……。

「葛城隊長!」

「ジル!?」

 ジルが盾になる様に前に現れる。

 銃弾がジルの背中に命中し、うめき声を上げて倒れた。

「ぐあー!」

 景綱も声を上げて雪原に沈む。

「っ……!」

 凛祢は右手に持つ拳銃をリロードするのではなく、投擲した。

 投擲されたブローニングハイパワーはファークトの歩兵の顔面に命中する。

「覇王流……」

「うえっ……」

 距離を詰めて腹部に烈風拳を放つ。敵歩兵もうめき声を上げる。

 瞬時にAK-47を奪い取ると撃つのではなく砲身を掴んだまま敵歩兵に投擲した。

 敵歩兵は投擲されたAK-47を難なく回避する。だが、隙をついて距離を詰めていた凛祢は敵歩兵の顔面を掴み、力任せに地面に叩きつけた。

 空弾倉を排出し、予備弾倉を装填し、銃を構えるがアルベルトの放った銃弾が凛祢の手からブローニング・ハイパワーを弾き飛ばした。

 すぐに立て直すために凛祢は対人戦闘に持ち込もうとする。

 アルベルトはすかさず引き金を引いた。

「……!」

 もう負けられないだ。みんなのために!

 凛祢は左右に動いて銃弾を回避する。

「なに!?」

 驚きを隠せないアルベルトに向けて蹴りを放つ。

 アルベルトもなんとか後ろに動き回避するが手に持っていたRPK軽機関銃は不覚にも蹴り飛ばされる。だが、左右のホルスターから引き抜いたナガンの引き金を引いた。

 危険を察知した凛祢は直感的に動き、銃弾を回避する。

「覇王流……」

 凛祢はアルベルトの顎に流星掌打を見舞う。

「この程度……!」

 気絶することなく踏みとどまるアルベルト。

 しかし、凛祢攻撃はいままでとは違った。

 続けて腹部に烈風拳を2発放つ。

「ぐっ!連続、技……だと?」

「うおおぉぉ!」

 最後に顔面を掴み地面に叩きつけた。

 凛祢は息を切らして、倒れるアルベルトを見つめた。

 覇王流『天山拳舞』。流星掌打と烈風拳の派生技であり、覇王流唯一の連撃技だ。

 特に一撃技ばかりの覇王流において、この技は多人数を相手にする戦闘においても有効である。

 敵歩兵の放った銃弾が凛祢に向けて飛んでくるが凛祢は素早く動き回避する。

 

 

 聖羅は凛祢の姿を見て、笑みを浮かべた。

 隣にいた朱音も驚きを隠せない顔をしている。

「「超人、直感……?」」

 2人の言葉が重なり、しほとまほは思わず聖羅に視線を向けた。

「……」

「聖羅?」

「あいつに眠る超人としての本能は俺たちが思っている以上に目覚めが早かったようだな」

「聖羅君それって……」

 朱音の言葉に聖羅は続けて口を開いた。

「まほも超人の名前くらいは聞いたことあるだろ?」

「うん」

 聖羅は再び視線をスクリーンに向ける。

「超人直感とは凛祢の持つ直感的な危機察知能力だ。あいつは自分への危機を直感的に察知できる」

「しかし、その程度で……銃弾を回避なんてこと、できるのか?」

 聖羅の言葉にまほは再び質問を投げかける。

「それができちゃったのよ、凛祢は……直感なら他にも持ってる人間はたくさんいるわ。でも、凛祢のそれは常人とは違う。あまりにも研ぎ澄まされていた」

「そう、第六感なんて呼ぶ奴もいたが俺たちは常人離れしたその直感を『超人直感』て呼んでいた。そして今凛祢は無意識に戦場で超人としての力を揮っている」

 聖羅の言葉を聞いてまほも視線をスクリーンに戻した。

「でも、どうして。せっかく戦場から離れていたのに、これじゃ」

 朱音は悲しそうな表情を浮かべていた。

 

 

 Ⅳ号とⅢ突、ヤブイヌ分隊搭乗するジープが敵フラッグ車のT-34/75とGAZ-47を追いかけていた。

「カチューシャ隊長、こちらフラッグ車!発見されちゃいました!そっちに合流してもいいですか!?てか、合流させてください!」

「単独で広い雪原に出たらいい的になるだけよ!」

「ほんの少しだけ時間を頂ければ必ず……仕留めます」

「こっちも後2回。ギリギリ有効射程で仕留められる」

 フラッグ車からの通信にカチューシャが答えるとノンナとエレンが報告を行う。

「そう言うわけだからちょこちょこ逃げ回って時間稼ぎして!頼れる同志の前に引きずり出してもいいんだから!」

 言われた通り、フラッグ車が逃走していると前方からフラッグ車を守る様にKV-2が顔を出した。

「きた!」

「ギガント!」

「頭でっかちだろ!」

「大丈夫!」

 KV-2がその大きな砲塔を動かし照準を合わせると砲弾を発砲する。だがⅣ号は華麗に回避した。

「停止!KV-2は次の装填まで時間があるから落ち着いて」

「はい……最も装甲の弱い所を狙って」

 みほの声に照準器を覗いていた華が狙いを絞る。

「八尋、俊也。一瞬だけ時間稼げ!」

「なに?どうしろってんだ!」

「適当に弾幕張ればいいんだよ!」

 翼の声に八尋と俊也はそれぞれの銃を構えて発砲する。

 放たれた銃弾がRPGを構えた歩兵の攻撃を封じる。

「……」

 スコープから敵砲兵の姿を捉えた翼は素早く引き金を引いた。

 銃弾は敵砲兵の右胸に命中し、戦死させた。

「撃て!」

 みほの合図にⅣ号とⅢ突の砲が火を噴いた。

 2発の砲弾はKV-2の正面装甲を貫通し、白旗が上がった。また、八尋と俊也の射撃によって随伴の敵歩兵を全て屠っていた。

 

 

 再びノンナとエレンが発砲。

 放たれた砲弾と銃弾はルノーとシラサギ分隊の搭乗するキューベルワーゲンに命中。

 2輌とも一撃でリタイアさせていた。

「「あと1つ」」

 ノンナとエレンは照準をフラッグ車である八九式に向けた。

「こちら、ワカサギ!撃墜されました!」

「こちらカモチーム、やられました。アヒルチーム、健闘を祈る!」

「はい!」

 青葉と緑子の通信にアヒルさんの4人が返事をする。

 

 

 再びインカムから響いた声に凛祢は表情を歪ませた。

 防衛線は崩壊。残る八九式がやられるのも時間の問題だ。

「うあぁぁ!」

 凛祢は奪ったAK-47を零距離で発砲し、また敵歩兵を屠る。

 次の歩兵が凛祢の脚部に銃弾を放つ。

 もろに受けた痛み凛祢は思わず、膝をついた。

 次の瞬間。顔へと与えられた鈍い痛みに凛祢は一瞬何が起きたのか分からなかった。

 だが、すぐに敵歩兵に殴られたことに気づく。

「くっ!」

 地面を転がったと同時にベルトに下げていた最後の手榴弾を左手で握る。

 ピンを抜いて手榴弾を投擲すると、続けて握っていたコンバットナイフを投擲した。

 ナイフは空中で手榴弾へと突き刺さり、瞬時に手榴弾が爆発する。

「よし!」

 敵歩兵を屠り、凛祢が次の歩兵の元へと向かおうとした時だった。

 2発の発砲音と共に銃弾が背中に命中し抉るような痛みが走る。

「な、に……?」

 耐えきれずその場に倒れこむ。

 必死に首を動かし、視線を向けると膝をついて銃を構えるアルベルトの姿があった。

「いいぞ、周防!こうでなくてはな。この感覚、歩兵同士の駆け引き、勝つか負けるかのギリギリの戦い!もっとお前の力を見せろ!」

 アルベルトは丸で戦いを楽しんでいるように笑みを浮かべていた。

「……時間がねぇってのに。さっきの組合いで気絶してないなんて本当にタフな奴だな」

 凛祢は苦しそうな表情を浮かべると再び立ち上がり、身構えた。

 

 

 2人の戦いを見て、観客席にいた蝶野亜美が口を開いた。

「葛城くん凄いわね……ファークトの歩兵を相手にして一歩も引かないなんて」

「そうか?私にはあいつが本来の自分の戦いをしているように見えるが?」

「嘘?確かに爆弾を使った戦術は工兵っぽいけど、あの対人戦闘能力はどう見ても工兵としての戦いじゃないでしょ」

 亜美は思わずそんな言葉を口にした。

「確かにそうだな。だが、本来超人と呼ばれていた周防凛祢の戦いはアレだったんだぞ?」

「そうなの?」

「ああ。そして、ここからは正真正銘一騎打ちだ」

「そうね。それにしても、あなたって葛城くんのことになると、口数が増えるわよね?」

「違う、馬鹿!私は葛城凛祢という男の姿を口にしたに過ぎない」

「馬鹿とは何よ!敦子は意外と年下が好きだったりしてね。流石に10代に手を出すのは不味いわよ」

 敦子の言葉に亜美は視線を向ける。

「本当に怒るぞ……亜美」

「じょ、冗談だって……ほら葛城くん写ってるわよ」

 亜美が指さすと2人は再びスクリーンへと視線を戻した。

 

 

 通信を聞いた沙織は車内で声を上げた。

「あとはアヒルさんとオオワシさんだけだよ!」

「同じ所をぐるぐる回っているだけ?だったら」

 ようやく敵の意図に気づいたみほは通信機に手を回す。

「くそ!」

「回る砲塔が欲しい!」

 Ⅲ突の車内でもエルヴィンとカエサルが車体への文句を口にしていた。

「カバさんチーム追撃を中止してください!」

 みほが勝つために指示を出した。

 

 

 雪を進む車内でオオワシ分隊は必死に銃を放つ。

「なんでもいい!どうせ戦車には対抗する手はない!なら、敵歩兵を1人でも多く道ずれにするぞ!」

「「はい!」」

 辰巳の指示に漣と迅も射撃を続ける。

 だが、次々に放たれるプラウダの戦車砲撃は少しずつ大洗のフラッグ車を追い込んでいく。

「もう駄目かも……うう」

「泣くな!涙はバレー部復活まで取っておけ!」

「そうだ、それに俺たち歩兵が守り抜いて見せる!全身全霊をかけて!」

「はい!」

 目に涙を浮かべるあけびに典子と辰巳が叫んだ。

「こんな砲撃、強豪校の殺人スパイクに比べたら全然よね!」

「そうね、でも今はここが私たちにとっての東京体育館あるいは代々木体育館だ!」

 妙子と忍も笑みを浮かべてそう言っていた。

「本当に大丈夫なんですか?」

「おい淳、それでも男か!典子たちを見習え!守ってやりたくなるだろ?」

「漣、君は一体何を言っているのだ?」

 漣の発言に迅は呆れていた。

「とにかく俺たちにできる事をするぞ!」

 辰巳はそう言うと百式軽機関銃の弾倉と予備弾倉を交換する。

 

 

 凛祢とアルベルトは戦場を駆けていた。

 アルベルトは両手に持つナガンの引き金を引くと7.62x38mmナガン弾が次々に放たれる。

 銃弾は凛祢に掠ることもなく前方、後方へと飛んで行く。

「……」

 しかし、アルベルトは笑みを浮かべる。

 銃弾は走行不能になっていたT34/74の装甲を跳ね返り凛祢の右足に命中した。

「なに!?」

 右足に走った激痛に態勢を崩す。だが、踏みとどまる。

「跳弾か……」

 ようやく先ほどの攻撃の正体に気づいた。

 忘れていた。リボルバー・アルベルトは拳銃を使っているときに自身本領を発揮する。それが「跳弾」だ。

 銃弾を壁や金属製の装甲板などによって反射させ軌道を変える。ライフルの弾などでも起きる現象だが、アルベルトは意図的に跳弾を起こし、銃弾の軌道を変えて奇襲する。一見、地味だが、これが相手にすれば非常に厄介だ。

 自分の直感は跳ね返る前ならば反応できるが跳弾になったら避けるのは極めて難しい。

 そのとき刺すような頭痛が走る。

 くそ、頭が回らない、体力の限界か……。

「……」

 凛祢はマガジンケースから取り出した予備弾倉を強く握る。

「もう少しだけ持ってくれよ」

 視線を戻すと予備弾倉を投擲し、アルベルト目指して走り出す。

 冷静に狙いを定めたアルベルトはナガンの引き金を2回引いた。

 放たれた銃弾が予備弾倉を空中で撃ち抜き予備弾倉内の銃弾がバラバラと空を舞う。

 これで6発目、さっきの射撃と合わせて合計12発。2丁とも弾切れのはず!

 あいつに勝つには今しかない!

「武器を失えばCQC戦闘に持ち込む。お前ならば必ずそうすると思っていた!」

「!」

 アルベルトは右足で力いっぱい蹴りを放つ。

 凛祢も右手で拳を放つ。

「「ぐっ!」」

 凛祢の拳はアルベルトの蹴りとぶつかり合う。

「覇王鉄槌……震電返し!」

 反撃するようにアルベルトの腹部に力いっぱいの掌打を放つ。

「がは……」

 悲痛に思わず声を上げた。だが、アルベルトから戦死判定のアラームは鳴っていない。

 辛そうな顔をしていながらもアルベルトは立ち尽くしている。

「嘘、だろ……」

 凛祢がそう呟くと体が限界を迎え、膝をついた。

「呆気ない幕引きだったな……だが、周防。お前は確かに超人であり強敵であった」

「みほ、ごめん……」

 アルベルトはリロードを終えたナガンの引き金を数回引いた。

 力なく崩れ地面に倒れた凛祢の制服からアラームが響いていた。

「アルベルト隊長!やりましたね」

「いや、本当にギリギリだった。始めから一騎打ちで戦っていたら負けていたのは俺だ」

「そうですか?結局超人が居たとしても我々の勝利は揺るぎなかったと思いますが」

 駆け寄ってきたファークトの歩兵は凛祢を見つめて首を傾げていた。

「それに、よく見てみろ。そいつ戦死じゃなくて気絶によるリタイアだ」

「え?」

 アルベルトの言葉にファークトの歩兵は凛祢の様子を調べると確かに気絶していることに気づいた。

「まさか、気絶する瞬間まで戦い続けていたってことですか?」

「恐ろしい執念だよな。勝利のためにたった1人で俺たちに挑んできたのだから。カチューシャたちを追いかけるぞ、後が怖いからな」

「了解です」

 再び凛祢に視線を向けたアルベルトは引き金部に指を通し回転させていたナガンをホルスターに差し込むと、大洗のフラッグ車とカチューシャたちの車両が向かった方に歩き出す。

 

 

 観客席で2人の激闘を見ていた照月玄十郎と麗子は静かにその様子を見つめていた。

「よき戦いであった」

「凛祢くん凄かったですね」

「震電返しは未完成のようだが、これはワシも重い腰を上げる時が来たようだ」

 玄十郎は寒さに体を震わせ、そう呟いた。

 

 

 一方、追撃を中止したⅢ突とヤブイヌ分隊はみほの指示で敵の次に通る地点に先回りしていた。

 そしてⅣ号は敵フラッグ車の追撃を続けている。さきほど撃破したKV-2が現れる、敵フラッグ車はやはり同じ場所を走り回っていた。

「あれ?Ⅳ号しか追ってこないぞ?」

「変更したんじゃね?」

 敵フラッグ車内で車長と操縦手がそんな会話をする。 

 

 

 ついに八九式に向けてデグチャレフの銃弾が放たれる。

「きた!淳、車体を八九式の後方に回せ!」

「了解!」

 九五式小型乗用車が八九式の後方に回るとデグチャレフの銃弾が後方から撃ち抜いた。

 更にカチューシャが搭乗しているT-34/75が放った砲弾が九五式を吹っ飛ばしていた。

「辰巳君!オオワシのみんな!」

 典子は通信機に向けて叫ぶが返事はなかった。

「「「そんな……」」」

 アヒルさんチームは弱気な声を漏らす。

「オオワシのみんなの頑張りを無駄にはしないよ!」

「「「はい!」」」

 典子の声が再びアヒルさんチームを奮い立たせる。

 次々に放たれる砲弾を回避し前進を続ける。

 

 

「近づいてきます!」

「距離、あと100メートル!よし、右折した!」

 高台でスコープを覗く翼と単眼鏡を覗く塁が報告する。

 敵フラッグ車のT-34/75は予想通りの道を走行していく。

「次の角を右折すれば!」

「わかりましたありがとうございます。華さん、機銃で誘い込めますか?」

「やってみます」

 みほの指示に華は機銃を撃つ。

 すると放たれた銃弾は雪原を抉り、敵フラッグ車は右へと方向転換する。

「入りましたH43地点まで50メートル!」

「これがラストシューティングだ!」

 高台で見つめる塁と翼が叫ぶ。

「打ち方用意!」

 みほの声にⅢ突内の左衛門座が照準器を覗き敵フラッグ車に狙いを定める。

 そして、同じくフラッグ車を狙うIS-2内のノンナが狙いを定めていた。

 ほぼ同時に、発砲音が戦場に響き渡る。

 車高の低さを生かして雪の下に隠れていたⅢ突は正面からフラッグ車を撃ち抜いた。

 そしてIS-2が放った砲弾も前方の八九式を撃ち抜く。

「……」

 お互いのフラッグ車に放たれた砲撃に、会場は沈黙に包まれていた。

 雪原を走っていたアルベルトやファークトの歩兵も足を止めて、携帯端末を覗く。

 黒い煙の中からところどころボロボロになった大洗のフラッグ車、八九式がゆっくりと現れる。

 車体からは白旗は上がっていない。現在も走行不能にならず生存していることになる。

 そしてⅢ突がほぼ零距離で撃ち抜いたプラウダのフラッグ車、T-34/75からは白旗が上がった。走行不能ということになる。

 スクリーンに映っていた大洗連合の名前が大きく映し出された。すぐにWINという文字も映し出されるとアナウンスが響いた。

「試合終了!大洗連合の勝利!」

「よっしゃー!」

「なんとか勝てたか」

「「「やったー!」」」

 八尋と俊也、エルヴィンとカエサル、おりょうの5人もスコップを手に喜びの声を上げた。

「うん!」

「やってくれたな、あいつら」

「「やったー!」」

「よかったー」

「肝が冷えましたね」

 生徒会役員たちも歓喜の声を上げてガッツポーズをしていた。

「よかった……」

「ふーよかったよかった」

「勝ったんだ。これでまだ戦車道続けられるんだ」

 オオカミチームのメンバーも笑みを浮かべていた。

「ばんざーい!」

 カモさんとウサギさん、シラサギとヤマネコのメンバーたちも連盟に回収されたところで万歳して勝利を祝っていた。

 同じように回収されたワニさんのジルと景綱も喜んでいる。

「塁、俺たちも行くぞ!」

「はい!僕たち勝ったんですよね!」

「そうだ、勝ったんだ!」

 翼と塁もⅣ号の元へと足を進める。

「やりましたね!」

「すごーい!」

 車外に出ていた沙織や華も勝利したことを喜んでいる。

「凛祢さん、勝ちました!私たち勝ったんです!」

 みほも凛祢に向けて通信を送るが返事がない。

「凛祢さん?凛祢さん!?」

「どうした西住さん?」

 みほの様子に麻子が問い掛ける。

「凛祢さんの応答がないんです」

「なに?」

「それ本当!?」

「本当ですか!?」

 みほの言葉に沙織や華も驚きの顔を見せていた。

 

 

 まだ状況を呑み込めていないのかカチューシャは開いた口が塞がらなかった。

 ようやく追いついたアルベルトはその様子を見て、やれやれと首を横に振った。

「おい、同志カチューシャ」

「う、うう。ある、べると……」

「おいおい、泣くなよ」

 アルベルトは戦車に上るとカチューシャにハンカチを渡す。

「泣いてないもん!そもそもあなたが勝手なしなければ!」

「それはすまなかったと思っている。正直、試合に負けるとは思っていなかった。俺は敗戦の責任取らなくちゃならないな」

「……それで超人には勝ったの?」

 アルベルトが申し訳なさそうに空を見上げるとカチューシャがそんな言葉をかけた。

「ああ、勝ったさ。勝負に勝って試合に負けたとは正にこのことだな」

「ならいい……帰ったら歩兵の皆も含めてお仕置きくらいで許してあげる」

「それはどうも……カチューシャは優しいな」

 アルベルトがカチューシャの頭を撫でるとカチューシャは不機嫌そうだがやめるようには言わなかった。

「……負けたな」

「はい。私が正確に敵フラッグを狙っていたら」

「自分を責めるなよ、それに今回はアルベルトの独断が過ぎたからな。ま、止めなかった俺にも非はあるが」

 エレンとノンナはお互いに反省を言い合う。

 

 

 

 必死にみほと沙織が通信機に呼びかける。

「凛祢さん!」

「凛祢くん!」

 しかし、通信機から凛祢の声が響くことはない。

「なんで!どうして!」

「ん?どうしたどうした?」

 八尋たちもⅣ号に合流してみほはみんなに状況を伝える。

「おい、ちょっとまずくねーか?」

「この天気で戦場のど真ん中に放置されてたらやばいだろ」

 八尋や翼は最悪の状況を想像していた。

「……!」

 みほも顔を青ざめる。

「よう大洗連合と西住みほ」

「え?」

 声の方を振り向くとGAZ-47の車内からカチューシャとノンナ、アルベルトとエレンが現れる。アルベルトとエレンが肩を貸しながら凛祢を支えていた。

「凛祢さん!」

「「「凛祢!」」」

「凛祢殿!」

 凛祢の姿を確認しみほや英子、大洗連合は駆け寄る。

「安心しろ、気を失ってるだけだ。じきに目を覚ます」

「凛祢さん……」

「凛祢……」

 気絶している凛祢の姿を確認し、みほと英子は安心したようにその体を支えた。

「やろう!凛祢に何しやがった!」

「ことによっては乱闘も避けられないぞ」

 八尋と俊也は一歩踏み出す。

「気絶してたから回収してここまで連れてきたんだろうが」

「妙な誤解はやめてもらいたい」

 アルベルトとエレンは両手を上げて答えを伝える。

「2人の言い分は本当よ、私が保証する」

 カチューシャは手を腰に当て、胸を張って言い放つ。

「まあ戻ってきたんだし」

「そう言うことにしておきましょう」

 不知火と宗司は八尋と俊也をなだめる。

「それにしてもせっかく包囲の一部を薄くして、そこに引き付けてぶっ叩く作戦だったのに」

「包囲網の正面を突破してくるなんてすごいなお前たちは」

「私たちも驚いてます。あのまま一気に攻撃されてたら負けてたかも」

 カチューシャとアルベルトの言葉にみほは先ほどの戦いの事を思い出していた。

「それはどうかしら。あなたたちなら……とにかくあなたたちなかなかのもんよ!悔しくなんてないんだから!」

「同志カチューシャの言葉を訳すと大洗連合はなかなか強い。今回負けてとても悔しいけど次は負けない、とことです」

「ノンナ!」

 カチューシャの声にノンナはそれ以上何も言わなかった。

「ん!」

 カチューシャが手を差し出す。

「ふふ」

 みほも笑みを浮かべて握手に応じた。

 そして気絶している凛祢の手を掴み握手を交わす。

 再びみほに視線を向ける。

「決勝戦、見に行くわ。準決勝で負けたら許さないんだから!」

「確かに、俺たちに勝ったのだから優勝してもらわねば困るな、西住みほさん」

「はい!」

 2人の隊長の言葉にみほは返事をした。

 

 

 観客席には朱音の姿はすでになかった。

「勝ったのは相手が油断したからよ」

「いえ、実力はあります」

「実力?」

「まだわからねーのか?西住妹と凛祢たちは俺たちとは全く違う強さを持っている」

 まほに続くように聖羅も言葉を続ける。

「みほと葛城凛祢はマニュアルに囚われず臨機応変に対処する力があります。みほの判断と」

「凛祢の仲間を導く力と」

「「心を一つにして戦ったチームの勝利」」

「あんなものは邪道。そんなもので次も勝てるかどうか。たとえ決勝戦で当たることになっても王者の力を見せてやりなさい」

 2人の言葉を聞いてもしほの答えは変わらなかった。

「西住流の名にかけて、必ず叩き潰します」

「……やるさ。あいつとは決着付けなきゃならねーからな。俺たちが叩き潰す」

 まほも鋭い視線をスクリーンに映るみほと凛祢に向けた。

 

 

 重い瞼を開き、目を覚ますと最初に目に入ったのは白いタイルの天井だった。

「……」

 左右に目を向けると右にはすぐ窓がある。空には既に陽が昇り青空が眩しかった。左には清潔そうな白いベッドが並んでいる。

「びょう、院か?」

 室内の様子からそんな言葉を口にして体をゆっくりと起こす。その時、腹部に痛みを感じた。

「うっ!ってー。アルベルトから受けた銃弾の痛みが残っているのか?」

 腹部を抑えながらも、ふと視線を向けるとデジタル時計の文字は7時30分を現していた。

「日が昇るまで眠ってたってことか?試合はどうなったんだ?」

 朝刊を確かめようと1階の売店へと向かう。

 見慣れていない売店から朝刊を探し出し、目を通す。

「戦車道と歩兵道の記事は……お、あった」

 朝刊には『大洗連合、前年優勝校に勝利。準決勝進出!』との文字が目に入った。

 記事を読めば確かに、Ⅲ突とⅣ号による追撃によって勝利したと記事には書かれている。

「そうか。勝ったのか」

 安心して思わず深く息を吐いた。

 すると肩を叩かれ振り向く。

 そこには見覚えのある男の顔があった。

 同じ大洗男子学園の生徒、アーサー・ペンドラゴンである。

「葛城隊長もこの病院にいたんですね」

「アーサーこそ、体は大丈夫なのか?」

 凛祢はそう口にして昨日の戦いを思い出す。

 アーサーとシャーロックはデグチャレフの射撃をもろに受けていた。

「うーん。僕は、ね。でもシャーロックのほうはそうとう効いたみたいで」

 アーサーは頬を掻いて口籠ったように続ける。

「肋骨骨折したみたいなんだ」

「なにー!?」

 アーサーとシャーロックの病室に凛祢の声が響く。

 ベッドに横たわるシャーロックは相変わらずパイプ煙草のレプリカを銜えていた。

「じゃあ、次の試合は」

「準決勝はどう頑張っても無理だって」

「マジかよ……大洗はただでさえ人手不足だってのに」

 凛祢は頭を抱える。

 やはり、デグチャレフのような対戦車ライフルを対人相手に使用したのは歴代の全国大会でも今回が初めてだったようだ。

 いくら特製制服でも14,5㎜弾の直撃なんて想定していなかったのだろう。むしろ、これくらいで済んだのは奇跡なのかもしれない。

「すまない。私がもっと注意して行動していれば」

「いや、シャーロックは悪くないさ。俺の指示が悪かったんだ」

「といっても僕だって剣を折られてしまったからね。正直、次の試合に参加できたところで満足に戦えないだろう」

 アーサーとシャーロックはお互いにため息をついていた。

「そっか。じゃあ俺はそろそろ行くよ」

「葛城隊長」

 凛祢が病室を出て行こうと扉に手を駆けた時、シャーロックの声が響く。

「次の準決勝は無理ですが、決勝戦には間に合わせます。だから」

「ああ、絶対勝ってみんなで優勝しよう」

 凛祢はそう言い残し、病室を後にした。

 シャーロックの件は、驚いたが考えてみればアーサーだって剣を盾にしたとはいえ直撃を受けたのだから無理はさせられない。

 やはり、自分が頑張るしかないのか……。

 そういえば、次の対戦相手ってどこの学校なんだ?

 凛祢はようやく自分の病室に到着し、扉を開いた。

 ベッドに座り、購入したスポーツドリンクを一口飲んだ。

「あー、学校行きてー」

 横になり再び天井を見上げるとそんな言葉を口にしていた。

「あ、凛祢さん!」

 名前を呼ばれ視線を向けると制服姿のみほがいた。

 時間的にも登校前であることが分かった。

「みほ」

「よかった、目を覚ましたんですね。昨日の試合からずっと眠っていたから私心配で……」

「心配かけて悪い。でも、もう大丈夫だ。ありがとうみほ。試合のほうも」

 凛祢はみほを見て感謝の言葉を述べた。

「いえ、みんなが、凛祢さんが居てくれたから勝てたんです。私は凛祢さんに助けてもらってばかりです。今回だって」

「そうか、そう言ってもらえると俺も歩兵道やっていてよかったと思う」

「凛祢さん。私――」

 みほの言葉をそこで止まった。

「西住さん、ちょっといいかしら」

「げっ!」

「葛城、朱音さん……」

 凛祢とみほの目の前に現れたのは葛城朱音だった。

「私と凛祢の2人で話をさせてほしいの」

「……」

 凛祢は目の前にいる朱音の姿に思わず顔が引きつっていた。

「……いや、みほにはいてほしい」

「凜祢さんいいんですか?」

「いいんだ。どうせ大洗のみんなにだって伝える予定だったんだろ?」

 朱音は仕方なくみほの立ち合いの下、話を切り出した。

「どうして歩兵道を始めたの?この学園には歩兵道なんてなかったはずでしょ?」

「今年から復活したんだよ。そういうのはそっちで把握してるんじゃないのかよ」

 凛祢は目を逸らして口だけを動かす。

「凛祢、今すぐ歩兵道を辞めなさい」

「嫌だ」

 朱音の言葉に凛祢は強く言い放った。

「凛祢!」

「俺は決めたんだ!もう逃げない。自分の、この思いに嘘をつかないって!」

 凛祢は拳を握り、言葉を述べる。

「凛祢、このまま歩兵道を続ければ、必ず昔と同じ道を歩むことになるわ」

 朱音の言葉に凛祢は奥歯を噛み締めた。

 わかっているさ、そんなこと。戦場に戻ってきたときから感じていた。

 でも、今は違う。

「もう昔とは違う、本当に大事なものと自分を認めてくれる人間ができた」

 凛祢はみほを見つめた。

 かつて、鞠菜以外に自分にとって大事なものはなかった。今は確かに傍にいる、そんな存在が。

「朱音さん……この全国大会の結果で、凛祢さんと私の答えを証明します!だからそれまで待ってほしいんです!」

「西住さんまで何を!」

 みほの言葉に朱音も驚くが2人は言葉を続けた。

「頼む朱音!全国大会で朱音が歩兵道を続けるべきでないと思ったのなら俺は転校でもなんでもするから」

「私からもお願いします!」

 凛祢は必死に言葉を述べて頭を下げる。みほも同じように頭を下げた。

「……本気なの、凛祢?」

「ああ」

「こんなのは、最後のだからね。凛祢」

 朱音は鋭い視線を向けた。

「ありがとう、朱音」

「ありがとうございます!」

 2人は再び頭を下げると朱音は病室を後にした。

「みほ、ありがとう。君が居なければ俺は……」

「いいんです、私は凛祢さんが居てくれたからもう一度戦車道を始められたんです」

 みほは凜祢を見つめ優しく微笑んだ。

 思わず顔が熱くなる。女の子を見てこんな風に感じるのはなぜだろう。

 いや、分かってる。自分はみほのことが……。

 だからせめてここを去ることになっても、彼女が大好きなこの学園だけは守って見せる。

「みほ、今日は学校を休んでもらっていいか?」

「え?」

「ちょっと付き合ってほしい」

 凛祢は朱音の置いて行った着替えの紙袋に視線を向けた。

 大洗の制服に着替え、凛祢とみほは病院を後にした。

 そのまま2人が向かったのは大洗女子学園校庭に建てられたガレージだった。

「あの凜祢さん?」

「みほは気にならないのか?超人について」

「それは……凛祢さんにとっては辛い過去なんじゃないですか?」

「あれだけ超人のことが知れ渡っているのならもう隠すつもりはないよ。それにみほにはちゃんと知っておいてほしい。凜祢という男の事を」

 凛祢はⅣ号に背中を預けると視線をみほに向ける。

「はい、わかりました。凛祢さんが話してくれるなら」

「ああ、かつて超人と呼ばれた1人の男の、そこに至るまでの話をしよう」

 凛祢は思い出すように語り始めた。




激戦を繰り広げながらも勝利を飾った大洗連合。
凜祢が戦うことを嫌う朱音の存在。
明かされる凛祢の過去とは!?
次回からは3,4話ほど使ってキャラ紹介編をやります!
といってもキャラ設定などですが。
それが終わったら凛祢の過去編『リンカーネーションメモリアル編』を数話ほどつかってやります。


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キャラクター紹介 大洗男子学園編part1

どうもUNIMITESです。
今回はキャラクター紹介編です。
part1で紹介するのはヤブイヌ分隊、カニさん分隊、オオカミさんチームです。


ヤガミ「はーい、今回は『ガールズ&パンツァー~地を駆ける歩兵たち~』のオリジナルキャラクター&使用武器紹介を行ないます。紹介するのは僕、整備部部長のヤガミこと八神大河とー」

UNI「ワタシ、UNIMITESがさせていただきます」

ヤガミ「ところでこの紹介シリーズだけど、どうして僕も紹介担当なの?」

UNI「本作で主人公の次に思い入れのあるキャラであるヤガミを選んだわけです」

ヤガミ「そう言うことだったのかー。期待されてるなら頑張るけどさ。ところで作者はどうしてこの作品を書こうと思ったの?」

UNI「小説を書き始めた当初は銃を使った作品を書きたかったんですが血が出たり、人が死ぬのは処女作としては書きにくいと思った時にガルパンを見たんですよ。「これだ!」と思ってハーメルン化して「地を駆ける歩兵たち」が生まれたんですよ。さてキャラの設定紹介いきましょうか」

ヤガミ「まずは本作のオリジナル主人公、葛城凛祢君とヤブイヌ分隊のプロフィールと使用武器を見ていきましょう」

 

 あんこうチームが乗車するⅣ号の随伴歩兵分隊、ヤブイヌ分隊(元α分隊)

 葛城凛祢、先導八尋、坂上翼、坂本塁、東藤俊也の2年生5人で編成された分隊。

 大洗歩兵隊で最もバランスのいい編成をしており、ほぼ全員が初期から銃の扱いに慣れていた。

 特製制服のエンブレムは黄色いヤブイヌ。全員FN社製の銃を使用している。

 チームのイメージソングは「Fighter」

『葛城凛祢(かつらぎりんね)』

 身長165㎝、誕生日/10月24日、血液型/A型、クラス/普通Ⅰ科A組、好きな武器/H&K VP70、出身/山梨県大里郡。CV島崎信長。

 イメージソングは『誰かの心臓になれたなら』

 兵科:工兵(元突撃兵)

 パラメーター(A~Eで表記、Aが最高、Eが最低)

 筋力:B    射撃:C

 敏捷:B+   CQC能力:A

 幸運:E    才能:超人直感

 ~地を駆ける歩兵たち~における物語の主人公、名前は女みたいだが男である。肩に届かない程度のサラサラした黒髪の少年。大洗男子学園唯一の歩兵道経験者であり、ヤブイヌ分隊の分隊長であり作戦立案なども行う。射撃はどちらかと言えば苦手。

 孤児院「カーネーション」出身の元孤児であり、どんな事にも興味を示さないが、昔から「歩兵道」にだけは強い思い入れがある。

 かつては「歩兵道界最強の超人」という二つ名を得るほどの実力者であったが、2年間で歩兵技術の大半を失っている。中学時代は兵科を転科し「工兵」になっていた。よって爆弾の知識は豊富であり、C-4やヒートアックス、手榴弾に戦車砲用の榴弾に至るまでの豊富な知識がすべて頭に入っている。爆弾による奇襲戦術とCQC、近接格闘戦闘術を得意としている。

 また、初戦でのM3の撃破や全国大会ではセモベンテとT-34/76の2輌をヒートアックスで走行不能にさせるなど、数少ないパンツァーキラーの1人。

 全国大会という戦場を駆けたことで才能として第六感とも呼ばれる常人離れした直感力『超人直感』が再開花。この超人直感よってプラウダ&ファークト戦で凛祢は常人とは思えない回避能力を見せた。

 覇王流(照月流)格闘術を学び、数少ない継承者。現在の保有している技は烈風拳、紫電脚、流星掌打、彗星封じ、天山拳舞の5つ

 友のため、そして大事な人のために再び戦うことを誓い、戦場を駆けた。

 自分にとっての新しい希望の光になっていた西住みほには好意を抱いている。

 恩師である鞠菜の影響を大きく受けており、読書が趣味だったり、CQC戦闘が得意だったりする。

 イメージカラー:紺 得意なこと:家事全般とCQC戦闘 苦手なもの:年上の女

使用武装

・対戦車プラスチック爆薬『ヒートアックス』本作オリジナルの武器です

 戦車道連盟の許可の元、歩兵道連盟が開発したプラスチック爆薬です。C-4爆弾と同じ質量でも約7倍の威力を持ち、安全面上、工兵しか装備品にできないです。

 2Kgほどの質量でシャーマンの履帯を切断するほどの威力を持っていて、基本手動起爆でしか使用されない。作品中は1個=3Kgです。

 粘土状であるため、固形爆弾では難しい隙間に詰め込めたり、木々に張り付けるなど応用がききやすいです。さらに、耐久性・信頼性・化学的安全性が高く、衝撃による暴発は無く、確実に起爆させるには起爆装置や雷管を要します。

 橙色の固体であるため色合いでC-4と差別化されてます。

 歩兵が戦車を撃破できる数少ない武装の一つであり、使用するのに「仕掛てから、起爆する」という二つの動作が必要であるため使用学校は大洗とアルディーニだけです。ヒートアックスを使うなら砲兵を育成して戦った方がいいというのが強豪校の方針。

 

・プラスチック爆薬『C-4爆弾』

 中学歩兵道の訓練ではこちらが使われている。

 

・自動拳銃『FN FiveseveN』(初期からアンツィオ戦まで凛祢が使用。またヤブイヌ分隊も使用している)

 大洗女子学園地下武器庫に放置されていたものをヤブイヌ分隊が回収し、副武装として使用していました。

 

・自動拳銃『FN ブローニング・ハイパワーDA』(修理と改修が終わったのでプラウダ戦から凛祢が使用)

 部活棟で発見されたものを凛祢は二丁拳銃(デュアル)で扱うが、利き手が左なので右手の射撃は命中率が著しく悪いです。

 

・コンバットナイフ(作中ではすべて同一のものです。ナイフと記述されているものも同じ)

 武器としての使用を主眼においた実用的な黒塗りのナイフです(白塗りのものも有りますが作中では黒いものが一般的)。銃の先に取り付けて、銃剣の機能を備えた物もあります。耐久性や格闘戦闘に使う道具なのでの扱い易さなどの面で、工夫が成されています。

 すべてのチームで全員が装備を義務づけられています。

 

・防弾加工外套

 生徒会が無理言って整備部に作らせた外套式防具。素材はTNK(ツイストナノケブラー)ワイヤー。重量のない防具という性質上、銃弾の完全防御などは不可能だが歩兵道におけるダメージ感知機能への判定を甘くできる性質を持つ。現在は2つだけ作られており、凛祢、英治、アーサー、辰巳が使用したことがある。

 

・オープンフィンガーグローブ

 英子がヤガミに頼んで作らせた格闘技用グローブ。普通のグローブとあまり変わらないが素材にTNKワイヤーと手甲の部分に金属板が埋め込まれているなどの加工が施されている。防御力は皆無だが、ナイフ程度なら甲で防げたりする。

 

UNI「っと、凛祢のプロフィールはこんな感じですね」

ヤガミ「葛城君の戦闘スタイルはCQC特化型工兵なんですね」

UNI「では次はヤブイヌ分隊のプロフィールと使用武器紹介に行きましょう」

 

『先導八尋』

 身長167㎝、誕生日/8月6日、血液型/AB型、クラス/普通Ⅰ科A組、好きな武器/FN P90、出身/茨城県大洗町。CV森田成一

 兵科:突撃兵

 パラメーター

 筋力:C    射撃:B

 敏捷:B    CQC能力:C

 幸運:C    才能:特になし

 短い茶髪に、多少筋肉質な体格の少年。不真面目で大雑把な性格だがフランクな人柄のムードメーカーであり、凛祢とは高校1年生の春に知り合い、友人となった。歩兵道を通してモテ道を目指す姿は沙織と似た姿を思わせる。

 趣味の一つとしてサバイバルゲームをやっており、射撃に関しては初心者とは思えない技術を持つ。また、誰とでも親しくなり、出会って翌日に俊也を「トシ」というあだ名で呼ぶなど気さくな性格である。ライフルから拳銃といった武器は一通り扱えるが、長距離狙撃は得意ではない。

 2人以上の連携戦闘は得意であり、特に翼とのコンビは聖ブリタニアのガノスタンにも評価されていた。

 ヤマネコ分隊からは頼られることが多く、特に恋愛話が多い。

 射撃からCQC戦闘まで卒無くこなせる器用貧乏でもあり、サバイバルゲームの癖で「当っても痛いだけ」という被弾しやすい動きをするのを気にしている。

 好きな言葉は「止まるんじゃねーぞ」

 イメージカラー:橙 得意なこと:サバイバルゲームとナンパ 苦手なもの:数学

使用武装

・短機関銃『FN P90』

 

『坂上翼』

 身長170㎝、誕生日/12月24日、血液型/B型、クラス/普通Ⅰ科A組、好きな武器/ドラグノフ狙撃銃、出身/茨城県大洗町。CV諏訪部順一

 兵科:狙撃兵

 パラメーター

 筋力:D    射撃:B+

 敏捷:C    CQC能力:D

 幸運:B    才能:特になし

 学年成績4位の実力を持つ頭脳派の眼鏡君。実は中学時代に八尋に勧められてつけただけの伊達眼鏡である(眼鏡なしでも2,0の視力を持つ)。八尋と仲良くしている方が珍しいと言われるほどのクソ真面目な性格でもある。

 海外留学のために勉強に力を入れており、援助してもらえるという特別待遇と八尋の誘いで歩兵道を選択した。

 彼も、サバイバルゲームを趣味の一つとしており、狙撃を得意としている。風向きや距離から計算して長距離狙撃を行うなど頭脳を活かした戦術を使う。しかし、CQCは苦手である。意外と体が弱く、毎年インフルエンザにかかることが悩み。

 姉弟である小鳥と鳥海とは仲が良いが、寮暮らしの翼はなかなか会いに行けない事に少し責任を感じている。八尋とは中学が同じであり、その頃からサバイバルゲームを始めた。

 訓練中は狙撃の経験から華や迅に狙いの付け方を教えたりもしていた。見た目は細身で長身長なのに大食らいだったりする。

 イメージカラー:青 得意なこと:長距離狙撃と数学 苦手なもの:質の悪い不良、弱い者いじめ

使用武装

・狙撃銃『FN バリスタ』

 バレルとボルトフェイス、マガジンのみを交換することで使用する弾薬を変更する事ができる「マルチキャリバーシステム」を搭載していますが、翼君は好んで使用しないため機能せず普通の狙撃銃とあまり変わらない。

 

『坂本塁』

 身長160㎝、誕生日/3月1日、血液型/Rh−O型、クラス/普通Ⅱ科B組、好きな武器/デザートイーグル、出身/茨城県土浦市。CV梶裕貴

 兵科:偵察兵

 パラメーター

 筋力:D    射撃:C

 敏捷:C    CQC能力:C

 幸運:A    才能:隠密偵察

 実家が学園艦にあり、両親が大洗女子学園の教員をしている。父が数学教師、母が理科教師。銃火器や戦艦、戦車まで幅広くのミリタリーを愛し、筋金入りのミリタリーマニア。その中でも、銃火器は最も好きな部類であり、部屋はモデルガンで溢れている。

 元々、歩兵道をしてみたいと思っていたが、入学する学校は全てが歩兵道のない学校ばかりであったため歩兵道をするのは高校が初めて。

 特に「中学歩兵道最強の超人」とよばれた凛祢に憧れを抱いていた。凜祢の過去を知っている数少ない存在。

 優花里と同様にミリタリーの話が始まると止まらなくなるが、誰も気が付かないような事に気づく大胆さと器用さを持つ。また、裁縫とサバイバルが得意。サバイバルキットや裁縫道具、折り畳みスコップと色々な物を常に持ち歩いており、沙織たちには「何でも持ってる坂本君」と呼ばれたりもする。凛祢の指示で爆弾設置などを行う事もある。また、分隊ごとのエンブレムも彼がすべて縫い付けたもの。

 隠密行動と諜報活動はセレナほどではないが、それなりに才能を持っている。サンダース&アルバート校に潜入した際も優花里と協力して情報収集を行っていた。

 仲のいいアーサーからはソウルネームで「マーリン」と呼ばれてる。

 イメージカラー:緑 得意なこと:サバイバルと裁縫、情報収集 苦手なもの:射撃

 

 

『東藤俊也』

 身長168㎝、誕生日/7月7日、血液型/AB型、クラス/普通Ⅰ科C組、好きな武器/特にないが強いて言うならクロスボウ、出身/茨城県大洗町。CV浪川大輔

 兵科:突撃兵

 パラメーター

 筋力:B    射撃:B

 敏捷:C    CQC能力:B

 幸運:D    才能:天性の才能(オールラウンダー)

 学年学力成績1位の生徒であり、大洗男子学園の不良たちを束ねていたテッペンでもある。面倒を起こさせないように不良たちの抑止力にもなっていた。

 元は野球部だったらしいがケガにより不良へと一変し、成績優秀な不良となる。なかなかの腕っぷしを持つがすべて喧嘩に使っていた、彼にとって喧嘩をすることは日常茶飯事だった。

 度重なる遅刻と授業のボイコットで進級が危うくなるが、凛祢への恩返しで参戦した試合の結果から歩兵道を履修する。

 気取らない性格であり、面倒事は御免被るタイプの性格をしている。

 野球部時代はピッチャーを務めており、右打ち、左投げサイドスロー。体育祭ではそのピッチングで全試合ノーヒットノーランで優勝を勝ち取っている。

 同じクラスのカバさんチーム、ワニさん分隊(特にシャーロック)とは仲が良かったりする。

 歩兵道をやってから遅刻とボイコットはなくなったらしく敦子曰く「彼自身、全力で臨める事がしたかったのかもしれない」とのこと。

 見ただけで銃を扱ったり工程なしで最善の答えを導き出すなど、天性の才能を持つ。

 使用武器は塁と同じFN FALを使用。

 イメージカラー:赤 得意なこと:喧嘩、野球 苦手なもの:風紀委員長(特にそど子)、頭の固い教員、野球部の先輩

使用武装

・軍用小銃『FN FAL』

 

ヤガミ「これが、ヤブイヌ分隊のプロフィールですね」

UNI「はい、実戦経験者の凛祢に、サバイバルゲームで射撃慣れした八尋、翼、塁。才能だけで初戦から精密狙撃と射撃センスを見せた俊也。ヤブイヌ分隊は大洗男子学園で最も安定しており、バランスに優れています」

ヤガミ「突撃兵、狙撃兵、偵察兵、そして工兵と兵科のバランスがいいですね」

UNI「次は生徒会役員が所属するカニさん分隊です」

ヤガミ「プラウダ&ファークト戦では結構頑張っていましたね」

 

 カメさんチームが乗車する38tの随伴歩兵分隊、カニさん分隊(生徒会チーム)

 相川英治、石田宗司、緑間雄二の生徒会幹部3人で編成された分隊。

 3人と人数が少ない分隊だが、それぞれの個人技術が高い文字通りの少数先鋭。

 3人とも物覚えが良く、運動神経も平均的なので上達が早かった。

 大洗女子学園の生徒会と同様に突拍子もないことを言ったりするが杏たちよりは優しい。また、3人とも出身は茨城県水戸市。

 特製制服のエンブレムは万歳している赤い蟹。

 チームのイメージソングは「RED ANGEL」

『相川英治』

 身長170㎝、誕生日/1月1日、血液型/AB型、好きな武器/パンツァーファウスト。CV内山昂輝

 兵科:狙撃兵

 パラメーター

 筋力:C    射撃:A

 敏捷:C    CQC能力:C

 幸運:C    才能:観察眼

 大洗男子学園の生徒会長。大洗男子学園の頂点に立つが更に立場が上の杏に振り回される事が過去にも多々あった。同じ生徒会長として杏のブレーキを握る唯一の存在。分隊長であり、空間認識能力と人間観察能力に長けている。聖グロ&聖ブリ戦では走りながら狙撃を行うなど無茶なことをすることもある。

 大洗では、男女問わず信頼されている。いつも他人任せな杏とは真逆で自分から率先して行動を起こすことが多い。

 生徒会役員、全員に言えることだが、戦車道と歩兵道に置いて学園のため、勝利への絶対的な執着心を持っていた。

 他人を見る目があり、元船舶科のセレナや不知火を普通科に引き抜く事など、裏で動いていた。

 イメージカラー:白 得意なもの:チェス、将棋、賭け事全般 苦手なもの:角谷杏の無茶ぶり

使用武装

・狙撃銃用小銃『kar98k』

 ちなみに英治が使用していたスコープは歩兵部隊の上級射手のために開発されたものである「照準眼鏡ZF41」です。

 

・自動拳銃『ベレッタM92F改』

 プラウダ戦以降ベレッタは整備部により改修され3点バーストで発射可能になっている

 

『石田宗司』

 身長166㎝、誕生日/2月14日、血液型/O型、好きな武器/日本刀。CV石田彰

 兵科:突撃兵

 パラメーター

 筋力:C    射撃:C

 敏捷:B    CQC能力:C

 幸運:B    才能:なし

 生徒会副会長である。当初は拳銃を撃つのがやっとだったが、訓練していくうちにどんな銃もある程度扱える能力を見せた。

 いつもにこやかな顔をして優しく接しているが怒ると、とても怖い。英治と雄二よりも常識人であり、二人に振り回される側のことが多い。しっかり者で努力家の彼は結構負けず嫌いでもある。またストレスで胃が痛くなるため常に胃薬を持ち歩いている。

 アルバート戦ではジープの操縦を即興で行うなど、臨機応変に対応する能力が高い。

 また、綺麗な顔立ちをしており大洗女子の生徒からはよくモテている。誕生日の日は何故か女子がプレゼント(特にお菓子)をくれるため毎年処理に困っている。

 イメージカラー:空色 得意なこと:英会話、クイズ 苦手なもの:甘いもの

使用武装

・短機関銃『MP18』

 

・自動拳銃『モーゼルC96』

 

『緑間雄二』

 身長167㎝、誕生日/6月6日、血液型/A型、好きな武器/ウィンチェスターM1873。CV杉山紀彰

 兵科:偵察兵

 パラメーター

 筋力:C    射撃:D

 敏捷:C    CQC能力:B

 幸運:D    才能:なし

 生徒会広報であり、桃と同様に大洗の副隊長として凛祢やみほの補佐をしている。

 実は杏の事が嫌いであり、度々破天荒な命令を余儀なくされる。非常に短気かつ狭量で英治と宗司以外の者からの指摘に対して即座に反応し考えをなかなか曲げない。また、涙もろく人並外れたレベルで小心者で臆病。それを、生徒会という存在の自分で覆い隠している。

 射撃は不得意だがCQCは高い技術を持つ。体よりも頭が先に働き自身の強みをまだ活かせていない。桃と同様に指揮官には向かない器である。

 また、プログラミングとシステムハッキングが得意だったりする。

 武装は宗司と同じものを使用。

 イメージカラー:緑 得意なこと:プログラミング 苦手なもの:角谷杏

 

UNI「カニさん分隊はこんな感じですね」

ヤガミ「次は完全オリジナル枠のオオカミさんチームですね。英子さんやセレナさん、不知火くんの3人で戦ったチームです」

UNI「そうですね、では次のオオカミさんチーム!」

 

 オオカミさんチーム(照月英子&秋月セレナ)の乗車する九七式軽装甲車と単独歩兵、衛宮不知火のチーム。

 3人共、初心者であるが九七式、38tと凛祢を入れた歩兵2人にカニさん分隊でプラウダの戦車を4両撃破するという偉業をやってのけた。

 チームのイメージソングは「Inpendence」

『照月英子』

 身長167㎝、誕生日/8月5日、血液型/A型、好きな戦車/パンターG型、出身/茨城県大洗町。CV種田梨沙

 銀髪に幼そうな顔立ちであり、華奢な体つきの少女。本作におけるサブヒロイン(元はメインヒロインだった)

 凛祢の覇王流修行における師匠の1人。九七式軽装甲車の車長兼砲手兼通信手をしている。

 従姉妹である敦子と同様に照月流格闘術の後継者。両親は早くに亡くなり祖父祖母、敦子の両親に育てられてきた。そのため敦子は本当の姉の様に慕っている。

 基本的に素直で真面目かつ融通も利く性格の女の子。みほと同様にボコられ熊の「ぼこ」が好きだったり少女らしい(?)面も持っている。

 会ってすぐに結婚してほしいと言ってきた不知火の事が嫌っていたが、日々生活を送るうちに凛祢と同様に信頼を寄せていたりもする。

 凛祢と行動することが多く、凜祢には友人以上の感情を抱いている。

 杏や柚子、桃とは付き合いが長く、仲がいい。

 イメージカラー:赤 得意なこと:料理、照月流格闘術 苦手なこと:戦車の操縦

 

『秋月セレナ』

 身長168㎝、誕生日/9月21日、血液型/B型、好きな戦車/チャーチル歩兵戦車MK.Ⅶ、出身/茨城県水戸市。CV田中敦子

 セミロングの紫髪と東洋風の美しい顔立ちをしている。英子とは仲がいいが、元々大洗学園艦に住んでいたわけではない生徒。九七式軽装甲車の操縦手を担当している。実は秋月セレナというのも偽名であり実名は不明。なお、血縁関係上は楯無教諭の姪っ子であり、彼女の監視の元学園艦で生活を送っている。不知火とは知り合いであり、お互いに家系についても詳しかったりする。スパイの家系の娘であり、隠密行動と潜入捜査が得意。雄二からは「食えないスパイ女」と呼ばれている。

 桃や雄二が秘密を話すまでは凛祢たちにセレナという名前を隠して、秋月と呼ぶように仕向けていた。

 また、優花里や塁の潜入捜査も裏で手伝っていた。特に変装はお手のもの。なお、塁とは少しだけ関係が進んでいたりも。

 イメージカラー:紫 得意なこと:潜入捜査、隠密行動 苦手なこと:力仕事

 

『衛宮不知火』

 身長168㎝、誕生日/5月17日、血液型/B型、好きな武器/AK-47、出身/茨城県水戸市。CV宮野真守

 兵科:突撃兵(狙撃兵にも回れる)

 パラメータ

 筋力:C   射撃:B

 敏捷:D   CQC能力:D

 幸運:E   才能:なし

 3年生で船舶科から転科してきた生徒でありセレナの事をよく知る人間の1人。プラウダ&ファークト戦から参戦した。

 分隊にメンバーがいない単独歩兵のため単独行動することが多い。が、凛祢や英治の指示にはちゃんと従い、無闇に行動を起こしたりはしない。

 カチューシャや杏をチビ扱いするなど悪ノリな行動を起こすこともある。

 英子に一目惚れしてしており、今でも変わらず好意を抱いている。

 また、テニスが得意だったりするため体育祭では準優勝の結果を残した。

 イメージカラー:橙 得意なこと:テニス、洗濯 苦手なこと:特になし

・アサルトライフル『SIG SG550』

 狙撃用のSniper仕様であるため、狙撃兵に回ることが可能。

・自動拳銃『SIG SAUER P220』

 

UNI「オオカミさんは、こんな感じですね。ちなみに「才能」という枠は基本ない事の方が多いです」

ヤガミ「へーそうなんだ。僕はあるといいなー」




紹介編part1どうだったでしょうか?
基本的な設定とパラメータ表示、使用武器などを書いたものです。
次回のpart2ではオオワシ、ワニさん、ヤマネコの説明をする予定です。
感想や意見も募集中ですので、気軽にお願いします。
今回も読んで頂きありがとうございました。


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キャラクター紹介 大洗男子学園編part2

どうもUNIMITESです
今回もキャラクター紹介編です
part2で紹介するのはオオワシ分隊、ワニさん分隊、ヤマネコ分隊です。
なお、CVはUNIのイメージで選んでいるので特に深い意味はありません。イメージソングはMADの見過ぎによる選出です。
武器の説明はwikiのコピペになるので基本書きませんが、ヒートアックスやアーサーの剣の様なオリジナルのモノだけは説明を書くことにしました。


UNI「紹介編part2です」

ヤガミ「いよいよ僕たちの紹介かな?」

UNI「ヤガミたち整備部はまだまだ先だよ」

ヤガミ「そっかー。残念……」

UNI「今回は前回紹介できなかった初期メンバーの3チームオオワシ、ワニさん、ヤマネコの紹介です」

ヤガミ「じゃあ、行きましょうか。大洗男子学園のバスケ部ことオオワシ分隊。アヒルを守るオオワシです!」

 

 アヒルさんチーム(バレー部チーム)が乗車する八九式の随伴歩兵分隊、オオワシ分隊(バスケ部チーム)

 円藤辰巳、九条漣、一ノ瀬淳、枢木迅の4人で編成された分隊。

 分隊全員が大洗男子学園バスケットボール部であり、速攻と連携を得意とする。

 辰巳と漣、迅が2年生であり、淳は1年生。大洗連合の中でも最も敏捷性に長けた分隊。

 特製制服のエンブレムは両羽を広げた白い大鷲、頭は左を向いている。4人共フットワークが軽く、アルディーニ戦では、凛祢と共に工兵部隊を壊滅させるほどの戦いを見せた。

 アヒルと共に陽動作戦を行なう事が主な作戦。

 チームのイメージソングは「千の翼」

『円藤辰巳』

 身長168㎝、誕生日/8月3日、血液型/A型、好きな武器/スプリングフィールドXD、出身/茨城県大洗町。CV鈴村健一

 兵科:突撃兵

 パラメーター

 筋力:D   射撃:C

 敏捷:A   CQC能力:C

 幸運:D   才能:特になし

 現在バスケットボール部の副部長でありポジションはフォワード。攻撃時の決め台詞は「逆転のダンクシュート!」。

 射撃よりもナイフを使ったCQCが得意であり、バスケで培ったフットワークを使って翻弄する。初戦の凛祢との戦闘では凛祢の歩兵技術で攻撃を捌かれていたが凛祢を除外すれば大洗で最もナイフ戦闘の技術が高い。容姿は赤い髪に黒の瞳をしており、スポーツマンでありながら結構細身である。

 ダンク練習は毎日の日課であり欠かさない。好きな言葉は「根性、友情、信じる心」

 イメージカラー:赤 得意なこと:ダンクシュート 苦手なこと:スリーポイントシュート

使用武装

・軽機関銃『百式軽機関銃前期型』

 

・回転式拳銃『桑原軽便拳銃』

 

『枢木迅』

 身長174㎝、誕生日/3月19日、血液型/A型、好きな武器/アサルトライフル系全般、出身/茨城県ひたちなか市。CV小野大輔

 兵科:狙撃兵

 パラメーター

 筋力:D   射撃:B

 敏捷:B   CQC能力:E

 幸運:D   才能:特になし

 バスケットボールでのポジションはシューティングガード。スリーポイントが得意であり、フォームさえ崩されなければ必中できめる才能を持つ。なお、コートの端からシュートを決めるなどの離れ業は不可能である。長身長に眼鏡掛けており普段は両手の全指にテーピングを付けている。本人が言うには滑り止め用だったり、爪を気にしているなどの理由らしい。

 分隊内でも最も冷静で効率重視を優先して行動を起こす。頭の固い性格だが我慢強く、その素質から狙撃兵として選ばれた。

 また、運転技術もそれなりであり、アルディーニ戦では奪取したベスパを運転していた。

 決め台詞は「狙撃なんて、スリーポイントを決めるより的がでかいものだ」

 イメージカラー:青 得意なこと:スリーポイントシュート 苦手なこと:特になし

使用武装

・狙撃銃『九七式狙撃銃』

 

・自動拳銃『九四式拳銃』

 

『一ノ瀬淳』

 身長157㎝、誕生日/1月18日、血液型/A型、好きな武器/コルト9㎜SMG、出身/茨城県ひたちなか市。CV:鈴木達央

 兵科:偵察兵

 パラメーター

 筋力:D   射撃:C

 敏捷:B+  CQC能力:D

 幸運:C   才能:特になし

 バスケでのポジションはポイントガード。バスケ部唯一の一年生でありながら辰巳たちと同様にレギュラーになっているため、それなりのバスケセンスを持つ。基本的に礼儀正しく、怒ることも少ない。

 迅ほどではないが冷静な性格でありながら、負けず嫌いでもある。「頭は冷静、心は熱く」をモットーにしている。

 バスケではパスやインターセプトを得意としている。他の3人より視野が広く、小さなことに気が付く。

 歩兵道では駆動車の操縦手として活躍した。使用武装は辰巳と同じ。

 イメージカラー:黄 得意なこと:インターセプト 苦手なこと:特になし

 

『九条漣』

 身長171㎝、誕生日/6月17日、血液型/AB型、好きな武器/スタームルガー・スーパーレッドホーク、出身/茨城県北茨城市。CV小野友樹

 兵科:偵察兵

 パラメーター

 筋力:C   射撃:C+

 敏捷:B  CQC能力:D

 幸運:E   才能:特になし

 バスケでのポジションはセンター。お調子者で素直な性格であり、行動力ならば4人の中でも1番。オオワシ分隊の中で最も戦死した回数が多い。

 見た目と正確に似合わず成績がそれなりに良かったりする。また、4人の中でも、最も体格に恵まれている。

 性格故にトランプや将棋などがとても弱い。

 好きな言葉は「努力はいつか才能を凌駕するもの」

 使用武装は百式軽機関銃前期型と九四式拳銃。

 イメージカラー:空色 得意なこと:バスケにおけるブロック 苦手なこと:トランプなどの駆け引き

 

UNI「オオワシはこんな感じだね」

ヤガミ「バスケ部だからか、パラメーターが敏捷に偏ってますね」

UNI「そうですね。特に辰巳くんなんかはナイフ戦闘技術ならば凛祢に引けを取りませんから」

ヤガミ「いい才能ですね。次は歴史男子チームで編成されたワニさん分隊ですね」

UNI「カバさんチームと同様にソウルネームの英雄たちの紹介です」

 

 カバさんチーム(歴史女子チーム)が乗車するⅢ突の随伴歩兵分隊、ワニさん分隊(歴史男子チーム)

 アーサー、シャーロック、景綱、ジルの四人で編成された分隊。

 四人とも歴史に詳しく、カバさんチームと同様に「魂の名(ソウルネーム)」で名を呼び合う。

 各自好みの歴史上の人物に関連した愛称を名乗り、仮装している。

 洋風の二階建てのシェアハウスに居住(住所はカバさんチームの近所)、各々のソウルネームを書いた表札を玄関門柱につける。

 自分たちの使う銃を沼底から引っ張り出すなど全員が泳げたり、それぞれ剣術、格闘術、射撃、独自の作戦立案など分隊内の個々の能力が別れている。

 特製制服のエンブレムは右を向いて口を大きく開けた青いワニ。

 チームのイメージソングは「英雄」

『アーサー・ペンドラゴン』本名:アルフレッド・ペンドラゴン

 身長165㎝、誕生日/9月20日、血液型/A型、好きな武器/エクスカリバーやアロンダイトなど西洋風の両刃剣、出身/東京都千代田区。CV櫻井孝宏

 兵科:突撃兵

 パラメーター

 筋力:B+  射撃:D

 敏捷:C   CQC能力:A

 幸運:D   才能:騎士王剣術・改

 ワニさん分隊の分隊長。金髪に青い瞳持つ少年。

 5世紀後半から6世紀初めのブリトンを舞台としたアーサー王物語に詳しく、白のフード付きパーカーと胸には鎧を身に着けている。特製制服を着ているときはワイシャツの上にパーカーと鎧を着て、その上からブレザーを着ている。部活で剣道をやっており、歩兵道では大洗唯一金属剣を扱う。

 彼自身がアーサー王の実の子孫であり、かつての騎士王のカリスマ性もあってか指揮能力が高い。また、騎士王剣術を自分なりにアレンジした独自の剣術である「騎士王剣術・改」による白兵戦能力が高い。

 アルディーニ戦では防弾加工外套を着て戦ったが、外套の色(黒)が気に入らない模様。対ファークト戦では塁や優花里、エルヴィンと共に偵察に出た。

 聖ブリタニア高校のモルドレッドは双子の弟であり、モルドレッド以外にもケンスロット、ガノスタン、アグラウェインとは中学が同じで知り合いである。ちなみに全員、イギリス人と日本人のハーフ。

 塁とは馬が合い、ソウルネームとして「マーリン」と呼んでいる。

 イメージカラー:青 得意なこと:剣術、歴史語り(アーサー王伝説) 苦手なもの:モルドレッド、黒い服全般

 使用武装

・鋼鉄刀剣『カリバーン』

 大洗整備部のヒムロこと氷室大地が造った金属製の刀剣。名前の由来はブリテン王国の「王を選定する剣」とのこと。

 急ぎで製造したためところどころ扱いにくい部分もある。西洋風の両刃剣であり重量が結構あるため両手で扱う。

 プラウダ&ファークト戦後である現在は、刀身をへし折られて使用不可能になっている。

 

・短機関銃『マイクロUZI』

 

『シャーロック・ホームズ』本名「神崎黒江(かんざきくろえ)」

 身長170㎝、誕生日/6月20日、血液型/O型、好きな武器/狙撃銃へカートⅡ、出身/茨城県つくば市。CV水島大宙

 兵科:突撃兵

 パラメーター

 筋力:C   射撃:C

 敏捷:D   CQC能力:B+

 幸運:D   才能:バリツ

 作戦会議にも参加する作戦立案担当。シャーロックホームズシリーズに詳しい。Ⅲ突と銃を探す際も彼が昔の資料等から推理して発見した。

 髪は茶髪で探偵帽子を被り、赤色に塗られたパイプ煙草のレプリカをいつも銜えている。

 当初は他の三人が「銃よりも剣が強い」と言ったことに「剣なんて使ったらハチの巣にされる」と反論した。

 射撃技術は平均程度、シャーロックホームズが扱っていた日本系格闘術『バリツ』を習得しており、近接戦闘には優れている。

 プラウダ&ファークト戦直後の現在は負傷中。

 イメージカラー:白 得意なこと:バリツ、歴史語り(シャーロックシリーズ) 苦手なもの:自分を縛る拘束(校則)

 使用武装

・短機関銃『ワルサーMP』

 

・自動拳銃『ワルサーP38』

 

『ジルドレイ』本名「藤原次郎(ふじわらじろう)」

 身長156㎝、誕生日/12月10日、血液型/B型、好きな武器/剣全般と旗、出身/茨城県つくば市。CV鶴岡聡

 兵科:偵察兵

 パラメーター

 筋力:C   射撃:C

 敏捷:C   CQC戦闘:D

 幸運:E   才能:特になし

 兵科は偵察兵。フランスの聖女ジャンヌダルクが大好きで百年戦争やオルレアンについての知識が豊富。

 黒髪に青いマフラーを巻いているのが特徴。

 「過去の偉人は武人であろうとも殺人鬼であることに変わりはない、しかし戦いを終わらせるには戦うしかないのである。だからこそ、贖いを求め続けなければならない」という中二病のような持論を持っている。

 使用武装はシャーロックと同じ、景綱も同じ。

 イメージカラー:黒 得意なこと:中二名言作り、歴史語り(フランスの百年戦争やオルレアン) 苦手なもの:怪談話

 

『片倉景綱』本名「伊達真人(だてまさと)」

 身長167㎝、誕生日/7月14日、血液型/AB型、好きな武器/日本刀、弓矢、火縄銃と江戸時代までの武器は全て好き、出身/茨城県つくば市。CV森川智之

 兵科:偵察兵

 パラメーター

 筋力:C  射撃:C

 敏捷:C  CQC能力:D

 幸運:D  才能:特になし

 日本の戦国時代から江戸時代前半の歴史に詳しく、伊達政宗の家臣、片倉景綱(小十郎)を尊敬している。

 笛の演奏が得意であり、度々演奏する姿を見せたりする。青髪に黒の鉢巻をつけた姿をしており、左衛門座とは戦国時代の話題でよく盛り上がる。

 また、分隊内ではシャーロックと作戦立案を行なったりもする。「武のアーサーとジル」、「智のシャーロックと景綱」と役割分担を分けている。

 歩兵道を選ぶ前は弓道を選択するつもりだった。

 イメージカラー:茶 得意なこと:弓道、歴史語り(戦国時代から江戸時代前半) 苦手なこと:テンションの高い英語をしゃべる人間

 

ヤガミ「結局みんな本名じゃなかったんですね……」

UNI「そだねー、アーサーはモルドレッドに名前を呼ばれてましたが、他のメンバーは特に呼ばれる機会はなかったですからね」

ヤガミ「でも左衛門座(真田幸村)が居るのにどうして伊達政宗じゃなくて片倉景綱を選んだの?」

UNI「伊達政宗じゃ、キャラが強すぎるからあえて片倉を選びました。戦国バサラでも片倉小十郎はクールでカッコいいじゃないですか」

ヤガミ「そ、そうですね……じゃあ次は期待の新入生!一年生チームのヤマネコ分隊です!」

 

 うさぎさんチーム(一年生チーム)が乗車するM3Leeの随伴歩兵分隊、ヤマネコ分隊(一年生分隊)

 梅本亮、黒田アキラ、葉山翔、柿崎礼、沼倉歩、城島銀の一年生6名で構成される分隊。分隊の人数は多いが実力としてはまだまだの初心者集団。

 聖グロ&聖ブリ戦では亮以外の5名が敵前逃亡してしまうなど歩兵として有るまじき行為をしてしまうが、凛祢たちの戦いを見て歩兵がどうするべきか、どうあるべきかを再度理解し歩兵道に臨んでいる。また、うさぎさんチームと同様にトラブルメーカーだが、人一倍頑張りやな面を見せたりもする。

 特製制服のエンブレムは黒い眠そうなヤマネコ。

 チームのイメージソングは「正義の在り方」

『梅本亮』

 身長157㎝、誕生日/8月19日、血液型/A型、好きな武器/キャリコM950、出身/茨城県ひたちなか市。

 兵科:突撃兵

 パラメーター

 筋力:C   射撃:C

 敏捷:C   CQC能力:C

 幸運:B   才能:特になし

 分隊の分隊長を務める。面倒見がよいまとめ役であり、悪乗りしやすいチームメイトのツッコミ役。

 チームメイトが敵前逃亡しても決して逃げず戦うことを辞めない強い意志を持っている。

 射撃、近接戦闘共に平均的だが、どうすれば実力差を埋められるかを常に考え、行動する。

 イメージカラー:白 得意なこと:状況把握 苦手なこと:特になし

使用武装

・短機関銃『トンプソン・サブマシンガン』

 

・自動拳銃『コルトM1903』

 

・回転式拳銃『コルトM1851』

 

『黒田アキラ』

 身長157㎝、誕生日/6月3日、血液型/B型、好きな武器/H&K MARK23、出身/茨城県小美玉市

 兵科:偵察兵

 パラメーター

 筋力:C   射撃:B

 敏捷:C   CQC能力:D

 幸運:C   才能:特になし

 分隊内では体育成績が一番上、ボーイッシュでさばけた性格だが、ストレスをため込むタイプ。

 体を動かすことが好きであり、射撃は分隊内でも上位に入る。アルディーニ戦では走行中のベスパのタイヤを狙撃するなどの技をやってのけた。

 イメージカラー:赤 得意なこと:スポーツ全般 苦手なこと:乱戦

 

『城島銀』

 身長155㎝、誕生日/5月7日、血液型/AB型、好きな武器/M60機関銃、出身/茨城県大洗町。CV一切しゃべらないためなし

 兵科:突撃兵

 パラメーター

 筋力:C   射撃:B

 敏捷:C   CQC能力:C

 幸運:B   才能:特になし

 普段から無口であさっての方向を向いていることが多い。灰色の髪にいつも眠そうな顔をしている。

 見かけによらず射撃技術もCQC技術も高い。科学の成績が良く、元素記号をすべて暗記している。

 同じ無口の紗希とアイコンタクトで考えを知らせる仕草も見せたり、思いもよらないところから現れるため隠密行動にも優れている。

 イメージカラー:銀 得意なこと:元素記号暗記 苦手なこと:会話

 

『葉山翔』

 身長150㎝、誕生日/7月15日、血液型/O型、好きな武器/コルト・シングルアクションアーミー、出身/茨城県ひたちなか市

 兵科:偵察兵

 パラメーター

 筋力:B   射撃:C

 敏捷:C   CQC能力:C

 幸運:C   才能:特になし

 髪の毛は茶髪。思った事をすぐに行動に移す積極派。真っ先に動くことでチームの迷いを振り払ったりもする。

 元は華道を受講するつもりだったが、八尋と同様にモテたいと言う願望から歩兵道を選択した。

 凛祢に評価され、塁と同様にC-4を仕掛けたりする疑似工兵の1人。

 アルバート戦では手榴弾のピンを抜き忘れるなど、小さなミスをするのが玉に傷。

 イメージカラー:緑 得意なこと:凜祢ほどではないが爆薬による罠仕掛け 苦手なこと:特になし

 

『柿崎礼』

 身長156㎝、誕生日/10月9日、血液型/B型、好きな武器/ブッシュマスターARC、出身/茨城県笠間市

 パラメーター

 筋力:C   射撃:C

 敏捷:B   CQC能力:C

 幸運:C   才能:特になし

 兵科は偵察兵。マイペースで作戦内容を忘れやすいが辛抱強い性格。

 彼女は絶賛募集中。歩兵道を選択する前は華道を選択する予定だった。

 分隊内では操縦担当であり、ジープの操縦をしていた。

 イメージカラー:橙 得意なこと:操縦 苦手なこと:勉強や作戦の記憶

 

『沼倉歩』

 身長153㎝、誕生日/11月2日、血液型/B型、好きな武器/爆薬系武器全般、出身/茨城県笠間市

 パラメーター

 筋力:B   射撃:C

 敏捷:C   CQC能力:C

 幸運:C   才能:特になし

 漫画を描くのが趣味。眼鏡をかけており、アニメの台詞を決め台詞として言うのが好き。お気に入りは「撃っていいのは撃たれる覚悟がある奴だけだ」。

 口が悪く「ぶっ殺せ!」や「くたばれ!」などが口癖。

 底抜けに明るいムードメーカー、友人が多く情報網を大きく持つ。

 イメージカラー:青 得意なこと:漫画作成 苦手なこと:原作作り

 

UNI「ヤマネコはこんな感じです」

ヤガミ「流石に、一年生は数が多くて紹介するのが大変だね。頑張りやな一年生には僕たちの卒業後も頑張ってほしいものです」

UNI「卒業って。大河それはまだ早い。まあ、小説は設定作ってる時が一番楽しかったりするんですよねー」

ヤガミ「そうなの?次こそは僕たちの紹介しようね」

UNI「はいはい」

ヤガミ「では、今回はここまで。次回、第20話リンカーネーションメモリアル~凛祢と歩兵たちの記録~。お楽しみにー」

UNI「なんで、次回予告風?まあ、いいけど。お楽しみに―」




今回も読んで頂きありがとうございました。
紹介編part2どうだったでしょうか?
今回も設定、パラメータ表示、使用武器を書きました。
次の紹介編part3はおそらく黒森峰戦の直前にやります。
感想や意見も募集中です。気軽にお願いします。


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第20話 リンカーネーションメモリアル・前編

どうもUNIMITESです
今回から凛祢の過去編です
凜祢生誕、周防鞠菜や葛城朱音との出会い。
なぜ凛祢は歩兵道をするに至ったのか?
では本編をどうぞ


~凜祢と地を駆ける歩兵たちの記録~

 

 これは1人の少年の物語だ。1人の少年が歩み、刻んだ記録。

 少年の名は亜凛(ありん)。生まれてすぐに両親と別れることとなった少年はある孤児院に引き取られた。

 孤児院の名は『カーネーション』と呼ばれる普通と何も変わらない孤児院だ。

「亜凛くん。君は今日からここで暮らすんだ」

「……」

 孤児院の院長である男は優しく微笑むが亜凛は表情一つ変えず沈黙を貫いていた。

 それから亜凛の孤児院での生活が始まった。

 亜凛自身は問題を起こすほうではなかったが、周りがそうでなければ自然に問題が起きる。

「亜凛くん。また、なのかい?」

「……」

 院長の言葉に亜凛は何も答えない。亜凛の顔は腫れていたり手足にも喧嘩の痕跡があった。

 しかし、院長の後ろで泣いている少年たちの方がよっぽどひどい傷だった。

「喧嘩は駄目だっていつも言ってるだろ」

「……すみません」

 亜凛は一言謝罪して、1人去って行く。

 これで……もう5回目。今回も同じだ、自分は悪くない。

 手を出してきたのはあっちであり亜凜ではない。亜凛はただ自己防衛のため、抵抗したに過ぎない。

 正直、うんざりだ。喧嘩を吹っ掛けておいて、負ければ大人に泣きつく。

 そして、自分が大人から叱られる。

 ……結局、味方なんて誰もいない。

「こんな世界……」

 亜凛にとって、頼れるのは自分だけ。孤児院にやってきて、1年が経つと言うのにと言うのに亜凜はそう思い始めていた。

 周りもまた亜凛から距離を置くようになり、構ってくるのはせいぜい院長といじめっ子集団くらい。

 そんな亜凛にも心の安らぐ時間がある。院長が与えてくれる週刊雑誌を読んでいるときだ。

 週刊雑誌の記事の1つ『歩兵道』と呼ばれる武道に亜凛は深く惹かれていた。きっかけはテレビ放送していた歩兵道の特集を見た事。

「歩兵道……本物の銃などの武器を使って戦う武道か。いつかやってみたいな……」

 亜凛は週刊雑誌を読んでそう呟いた。

 寝る前に歩兵道の記事を読むことが日課にすらなっていた。

 何度も同じ記事を読んだ。それこそ、内容を一語一句暗記できるほどに。

 いつも通り、今日も記事を読み終えて眠りについた。

 

 

 オフィスの扉を開き、迷彩柄の軍服に身を包んだ女「周防鞠菜」が入室する。

 定時時刻を過ぎたオフィス内にはたった1人残っている者がいた。

「おーい、朱音、居るかー?」

「……」

 鞠菜が名前を呼ぶがスーツに身を包む「葛城朱音」は返事はなくPCのキーボードを操作する音だけが響く。

 鞠菜はゆっくりと室内を進み、朱音のデスクに手を置いた。

「おいなんだよ、居るなら返事くらいしろよ」

「今忙しいのよ、大した用じゃないなら後にして」

「なんだよ、冷たいな。せっかく私が仕事を切り上げてきたってのに」

 鞠菜は朱音のデスクに置かれたコーヒーカップを掴み、一気に飲み干すと顔を歪ませた。

「うえっ!あま!お前、こんな甘いコーヒー飲んでんのか?糖尿病になるぞ」

「どうでもいいでしょ!てか、勝手に飲まないでよ!で、何しに来たの?」

 朱音は再び画面に視線を戻し、キーボードを操作し始める。

「お前、歩兵道連盟の理事長の仕事、蹴ったって本当か?」

「ええ、そうよ。私は理事長なんて面倒な仕事は嫌なのよ」

「なんだよ、お前が理事長になれば私が歩兵道の教官をできたってのに」

 鞠菜は窓の外に視線を向けた。

「それは、あなたが楽したいだけでしょ?」

「そうだよ。軍人として頑張る私に楽させろ」

 鞠菜が呟くと朱音がキーボードのEnterキーを押すと口を開いた。

「いやに決まってるでしょ。ちゃんと仕事しなさいよ」

「やってるだろ、半月前に紛争地域から帰ってきたばかりだぞ。お前は親友をもっと大事にしろ」

 鞠菜はそう言って取り出した携帯端末を操作する。

 彼女の仕事は軍人。紛争地域に赴き、武力で鎮圧するのが仕事だった。

「軍人の仕事はあなたが選んだんでしょ。それに本当の軍人と歩兵道じゃ、まったく別物よ」

「それくらいわかってるさ……」

「よし、今日の仕事はお終い」

 朱音はPCをシャットダウンすると帰り支度を始める。

「でも、あなたがそんな話をするなんてね。久しぶりに飲みにでも行く?」

「行くに決まってるだろ」

 2人は会社から出ると商店街を歩いて行った。

 手短な居酒屋に入るとお互いに注文を済ませる。

「で、どうしたの?」

 朱音が話を切り出した。

「いや、なんで私は軍人になったのかなって思ってな」

「まさか、今になって人を殺めるのが辛いとか思ってるの?」

「……」

 朱音の言葉に何も答えずにひじをテーブルに着いた。

「まあ、いいわ。それに私が歩兵道連盟の理事長になったところであなたが歩兵道の教官になれるとは限らないわよ」

「え、そうなのか?」

「当たり前でしょ。理事長だからって教官を好きに選出できるわけないでしょ」

「んだよ、期待して損した」

 鞠菜はため息をついて、ジョッキのビールを飲み干す。

「生お代わり!」

「勝手に期待したのはそっちでしょ」

 朱音もジョッキに口をつけた。

「もういいや、この話は。ところで来月の連休だけど空いてるか?」

「え?ええ。何も予定はないけど」

「そうか。久しぶりにカーネーションに顔出しに行くか」

「そっかもうそんな時期だったわね。私たちがカーネーションを出て、もう13年も経つのね」

「私たちも年を取ったな」

 鞠菜と朱音は昔の事を思い出していた。

 そう、2人の出会いもまた孤児院カーネーションから始まった。

 

 

 孤児院にやってきて2年の時が経った頃、いつものように風呂用の薪割りを終え、近所の公園の咲いていない桜の木の下で週刊雑誌の歩兵道特集を読んでいた亜凛の前に1人の女が現れた。

 綺麗な青い髪と蒼玉のような青い瞳、女にしては異様に背が高く筋肉もそれなりについていた。そして、大人の女性というにはほど遠い、男勝りな口調をしている。

 凛祢にとっては何度か見たことがある顔だった。年に数回、この女はこの孤児院に必ず顔を出しているからだ。

「おい、ボウズ。こんなとこでなにしてるんだ?」

「……別に」

 亜凛は1度顔を見た後、再び雑誌に視線を落とす。

「んだよ、可愛くねぇな。ん?なんだボウズ、歩兵道が好きなのか?」

「あ、おい!返せ!」

 女は手に持っていた雑誌を取り上げると記事の内容を見る。

 亜凛が必死に取り戻そうとするが、背が圧倒的に高いその女からは取り戻せない。

「おい、どうした?奪ってみろよ?」

「っ!このクソ女!返せ!」

「あ?私には周防鞠菜(すおうまりな)って名前があるんだよ。クソガキ!」

 鞠菜は強気な口調で言い放つ。

「ちょっと、鞠菜!何やってんの!」

 凛とした声が周囲に響く。声の方向を見ると鞠菜とは異なる眩しいと思ってしまうほど赤い髪の女がいた。

 鞠菜も体のスタイルがいいが、こちらの女性もなかなかの美人だった。

「げっ!朱音、これはだな……ほら、スキンシップだ!」

 鞠菜はそう言って亜凜の髪の毛をぐしゃぐしゃとかき分ける

「は?どう見てもあなたが大人げなく子供をいじめてるようにしか見えないでしょ!」

 誤魔化そうとする鞠菜に朱音という女性が詰め寄る。

「……あの、早く返してください」

「ごめんね。鞠菜には私からきつく言っておくから」

「いいですよ、別に……」

 雑誌を受け取った亜凛はもう関わりたくないと思い、孤児院に帰ろうとする。

 しかし、鞠菜という女が引き留めた。

「おい、お前カーネーションの孤児か?」

「……そうですけど?」

 亜凛は短く返答する。

「そうか、朱音。絆創膏持ってるか?」

「え、うん。あるけど」

「あるだけ貸せ」

 鞠菜に言われ、朱音は手提げカバンから小さい絆創膏の箱を取り出す。

 受け取ると凛の腕を掴み、出血していた指に絆創膏を貼っていく。

 その傷は、亜凛が先ほど薪割りの際に木々で切ってしまった傷だった。

「……」

「お前な……木で切った傷なんかは洗って絆創膏ぐらいは貼っておけ。放って置いたらバイ菌も入って余計痛いだろ」

「そうでもないよ。傷なんかすぐ治るし、冬は傷ついてる方が感覚も鈍らない。それに痛みには慣れてる」

 鞠菜に言われるが亜凛は視線を逸らして言い返す。

 そう、こんな痛みはどうってことない。一か月に1度はいじめっ子と殴り合ったりすることもあるため、痛みには慣れていた。

「こんなもんだろ」

「……ありがと」

「おお、感謝できるとはクソガキにしては上出来だ」

「っ!俺はクソガキじゃない。亜凛って名前がある!」

 亜凜はさっきの鞠菜の真似をするように言い返した。

「そうか、気を付けて帰れよ」

「……うん」

 亜凛は1人、孤児院を目指した。

 しかし数分後、孤児院に向かう途中で、痺れを切らして振り向いた。

 そこには鞠菜と朱音の姿がある。

「なんでついてくるの?」

「私らはカーネーションに用があるからだ」

「え?なんで?」

「亜凛くん、私たちは院長に話があるのよ」

 朱音が割って入るとそう言って微笑んで見せた。

 そして、カーネーションに戻ると亜凛はいつものように靴を脱いで畳部室に向かう。

 亜凜が戻ったことで孤児院内がそわそわしだす。いつものことだが、やはり慣れなかった。

 子供たちは逃げるように亜凛から離れていく。

「「……?」」

 鞠菜と朱音はそんな子供たちに少し疑問を感じていた。

 亜凛は無言のまま、畳室のテレビ前に座り、テレビに目を向ける。

 数分ほどして院長と鞠菜、朱音が食堂の椅子に座った。

 亜凛は気づかないふりをしてテレビに映る歩兵道の特集に集中する。

 大人の会話は今の自分には理解できない事ばかりで聞いていてもつまらなかった。

 自分や他の子供の事も色々聞いているが正直どうでもいい。

 亜凛が歩兵道特集を見終えて、寝室に戻ろうと時だった。

「なあ、院長。あの亜凜って小僧を引き取ってもいいか?」

「え?」

「鞠菜!?」

「?」

 その場にいた全員が驚いていた。亜凜はなぜ驚いているのか分からなかったが気になってしまいその場に座っていた。

「いいんですか!?子供を引き取るなんて……子育ては楽ではないですよ?」

「分かってるさ。でも、私は毎年数回だけここに訪れているが、亜凛はここで相当煙たがられているようだ。私なら我慢ならないね……このままいけば捻くれてしまって、ロクな大人にならないぞ」

「それは……確かに亜凛くんは周りから好かれているとは言えません。鞠菜さんの言う通り、むしろ煙たがられていると言う方が正しい」

 院長も反論できずに正直に呟いた。

「でも、だからと言って鞠菜さんに押し付けるのはどうかと思うのですが?」

「そうよ、鞠菜!私たちだって仕事の都合や色々あるでしょ!」

「うるせー、私が引き取ってやるって言ってるんだよ!だったら、さっさと寄越しな!私の気が変わらないうちに!」

 鞠菜は2人の説得を無視するように大声で叫ぶ。

「勝手すぎるわよ、鞠菜!亜凛くんの気持ちだって聞かないと!」

「あぁ?めんどくせーな、おい亜凛。お前はこの孤児院にいるのと私や朱音の元にきて暮らすのとどっちがいい!?特別に選択権をやる!」

「……え?え?」

「だから、選べ!私か、あの院長かを!」

 鞠菜の唐突な選択肢に戸惑いを隠せなかった。

 何が起こっているのか分からない。

「鞠菜、やめてって!」

「お前は黙ってろ!」

 朱音の言葉を無視する鞠菜。すると院長は席を立って亜凛の元にやってきて腰を下ろした。

「亜凛くん、君が決めていいんだ。もしもここの居心地がいいって言うなら残ってくれても構わない。でも、ここにいるのが辛いと少しでも思っているなら鞠菜さんや朱音さんの元に行ってもいいんだ」

「俺は……」

 自分は、ここにいるのは辛かったが居心地が悪かったわけじゃない。この人だって自分を嫌っていたが、人並の幸せを与えようと必死になってくれた。

 だが、自分がここにいれば必ず問題が起きる。ならば自分にできる事は――。

「俺は……あなたについていく」

「そうか……」

「ふん、決まりだな。よし、夕方にはここを発つ、それまで準備をしておけ」

 鞠菜は笑みを浮かべ、出されたお茶を一気飲みして立ち上がる。

「亜凛くん、本当にいいの?」

「いいんです。多分どこも一緒ですから」

 心配する朱音に亜凛は答える。

「私たちについてきても、幸せになんてなれないかもしれないのに」

「それなら、ここにいても同じですよ。むしろあの鞠菜って人といた方がいい気がするんです」

 亜凛はそう言って荷物をまとめるために寝室に向かう。

「本気なの?」

「ああ、私が子育てなんて笑えるか?」

「そう言うことじゃないわよ。無責任に子供を引き取るなんて」

「私は無責任な奴とは違う。お前はあいつの目を見たか?私には死んでいるようにしか見えない」

 鞠菜は思い出すように言い放つ。

「……それは」

「あいつに必要なのは愛情だ。たとえ形だけであってもあいつには時には厳しく、自分を認めて褒めてくれる親の様な存在が必要なんだ」

「あなたのやっていることはあなたが最も嫌う『特別扱い』じゃないの?」

 孤児院を出て、朱音は鞠菜に言った。

「……かもな。私はあいつを見て自分と似ていると思ったのかもしれないな」

「だいたい、仕事や生活環境はどうするのよ?」

「うーん。ま、家は私の実家を使えばいいだろ。仕事かー」

 朱音は考えなしだったのか考え込むように腕を組んだ。

「やっぱり考えなしだったのね」

 朱音はやれやれと頭を抱えていた。

 この女、周防鞠菜はいつもそうだ。行き当たりばったりの行動ばかりで、出た結果に文句を言うなと周りも巻き込む。

 朱音も彼女に巻き込まれた側の人間だ。でも、彼女とこのカーネーションと言う孤児院で出会わなければ、今の私はなかったかもしれない。

 といっても余りにも腐れ縁過ぎる。

 12歳でお互いに別々の大人に拾われたと言うのに、4年後高校で再開した。

 その後もなぜか彼女との縁は続いた。

 私は幹候微募試験に合格し軍の仕事に所属したがあくまでもデスクワークの仕事だった。彼女も軍の実働隊に所属して同じ紛争地域の作戦で再び再開。

 まったく神様なんてのが本当にいるなら恨んでやりたいとも思ってしまう。

「……私が歩兵道連盟の理事長になって鞠菜を無理やりにでも歩兵道の教官にするしかないのかしら?」

「そう言うことになるな。つーわけで頼んだぞ!」

「……本当に最悪。貴方といると不幸だわ」

 朱音はため息をついていた。

 幸い現在の歩兵道連盟の理事長は朱音を拾った葛城の家系だ。だからこそ朱音に理事長の話が回ってきた。

 今からでも、頭を下げればできるはず。

 仕方なく朱音は携帯端末を操作した。

 瞬く間に時間は過ぎた。他の子供たちに気づかれないように夕食前に発つこととなった亜凜は孤児院の玄関に立っていた。

 孤児である自分に荷物などリュック1つ程度しかない。名残惜しいが週刊雑誌は全て処分することにした。孤児院の中に同じ趣味を持つものはいないためだ。

「亜凛くん、元気でやるんだよ」

「はい、お世話になりました」

 院長に向けて深々と頭を下げる。

「亜凛、お前の親になる私にはお前に名前をつける義務がある」

「え?」

「鞠菜、何言ってるの?」

 亜凛と朱音は思わずキョトンとした顔を見せた。

「凛とカーネーションを合わせるとリンカーネーション。つまりお前の名前は『凛祢』だ。私の苗字も付けて周防凛祢(すおうりんね)と名乗っていいぞ」

「うん、わかった」

「そういうことですか……凛祢くん体に気を付けるんだよ」

「はい、いままでありがとうございました!」

 凛祢は再び、感謝の言葉と共に頭を下げた。

 そして、鞠菜と朱音の乗る車で孤児院『カーネーション』を去って行く。

 この瞬間からカーネーションの孤児、亜凛という少年はいなくなった。

 そして、書類上は周防鞠菜の養子となった周防凛祢と言う少年が生まれた。

 

 

 カーネーションを出てすぐは色々な街を転々としていたが1か月ほどで2人の手続きも終わり落ち着いた。

 それから凛祢は鞠菜と共に山梨県の森林内に建てられた小屋で暮らすこととなった。

 木造の家は決して広い家ではないが、どこか優しさを感じるような空間だった。

「朱音、飯買ってこい。私は凜祢の荷物を部屋に運ぶから」

 家に着くと鞠菜はすぐにそんな言葉を口にした。

「わかったわよ。凛祢じゃなくあなたが運んでおきなさいよ」

「分かってるって。早く行ってこい、あと酒もな」

「こんな日まで酒飲む必要ないでしょ……もう、わかったわよ」

 朱音はため息をついた後、荷物を下ろし、車で再びどこかに行ってしまった。

「よし、凛祢運べ」

「え?」

「お前の荷物だお前が運べ。終わったらちゃんと整理整頓しておけよ」

 鞠菜はそう言い残して、煙草に火を点ける。

「はいはい」

 凛祢は段ボールの山を1人で運び始める。

 鞠菜に案内された部屋に荷物を運びこみ、再び外に出ては荷物を室内に運び込む。

 そんな事を繰り返している内に陽も傾き始めていた。

 すべて運び終え風呂で汗を流し終えた頃、朱音が丁度帰宅した。

「遅かったな、朱音」

「ま、鞠菜……何してるの?」

「何ってドライヤーで髪を乾かしているんだろ?」

 朱音は鞠菜の様子を見て、コンビニ袋を手から落とした。

 確かに鞠菜の言う通り、凛祢の髪をドライヤーで乾かしていた。

 だが、全裸だった。

 凛祢も、鞠菜もパンツすらも身に着けていない。

 生まれたままの姿だったのだ。凜祢の細身な体にくっきりとした鎖骨、華奢な肩。その体は乱暴に扱ったらすぐに壊れてしまう人形の様だった。

「せめて下着を着けなさいよ!それに凛祢くんにだってパンツを穿かせてよ!」

 朱音は顔を赤くして、叫んでいた。

 どこか眠たげなやる気のない凜祢の目は、初めてであった頃よりは少しだけマシになっている気がした。

「まったく、これだからあなたには任せたくないのよ」

 朱音はやれやれと頭を抱えて、コンビニ袋を台所に運ぶ。

 

 

 引き取られてからも新しい生活に慣れるまで、結構な時間をかけてしまった。

 それもそうだろう。今まで孤児院暮らしだった自分には生活環境の変化が大きすぎるというのが理由の1つだ。

 数か月ほど経ち、ようやく生活環境慣れた凛祢は普通の生活送り始めていた。鞠菜の面倒見は決していいほうではなかったが、それでも凛祢にとって周防鞠菜は全てだった。

 今まで出会ってきたどの人間とも違う。自分のすべてを知りながら、全てを受け入れてくれる。そんな気がしたのだ。

 そんな鞠菜の仕事は「歩兵道の教官」だそうだ。仕事と言ってふらっと外に出るといつも夜中に戻って来る。どうすれば歩兵道をすることができるか聞いたが鞠菜はいつも同じ答えを返してきた。

「まだお前には早い」

 凛祢は早く歩兵道をしてみたいと言う思いが強かったが、彼女がそう言うなら我慢し続けた。

 ここにきて半年が過ぎた頃のある日。いつものように凛祢が部屋の掃除を終えるとソファーでくつろいでいた鞠菜の姿が目に入った。

「鞠菜。休日だからってダラダラするなよ。それに部屋くらい自分で掃除してよ」

「うるせーな。お前にとっての神は誰だと思っている?」

「……周防鞠菜様ですが?」

「だろ?なら文句を言うな。……まあ、そろそろ訓練をするか」

「訓練?」

 凛祢は突然の事に目を見開く。

「まあ最初は筋力トレーニングとナイフの扱いくらいでいいだろ」

「ナイフ……対人戦闘ってこと?」

「そうだな……行くぞ。日が暮れる」

 鞠菜は煙草を灰皿に押し付け、消火すると外に向かう。凛祢もその後を追いかける。

 外に出て鞠菜はすぐに物置を漁っていた。

「あったあった」

 鞠菜が振り返ると手には木製のダミーナイフが2本握られていた。

「凛祢、お前はまずCQC戦闘を究めろ」

「シーキー、なに?」

「CQC……近接対人戦闘のことだ」

 鞠菜はダミーナイフを1本渡すと歩兵道の基本解説を始めた。

 彼女の説明によると歩兵道には2つの形が存在するらしい。1つはリトルと中学で一般的に採用されている歩兵だけで戦うルール。もう1つは高校と大学で採用されている戦車道と歩兵道を合わせた戦車と歩兵で戦うルール。

 まず凛祢が目指すべきはリトルと中学で採用されている歩兵だけのルールだそうだ。こちらにとって最も大事なのは歩兵自身が身を守ること。

 そのうえで最も有効なのが近接対人戦闘術「CQC」である。一般的にはナイフと拳銃、格闘による近接戦闘が多いようだ。

 凛祢がダミーナイフを強く握ると鞠菜が鋭い視線を送る。

「ナイフの持ち方が違う」

「え?」

「ナイフは包丁や刀とは違う。持ち方は逆手で握るものだ」

 鞠菜はナイフを持っている右手を凛祢の目の前に見せた。

 凛祢もすぐに持ち直すと嫌そうな視線を送る。

「……持ちにくいんだけど」

「じき慣れる。始めるぞ」

「うん……」

 その日から凛祢と鞠菜の歩兵道に向けての訓練が始まった。

 ナイフ戦闘の訓練と筋力トレーニングから始まり、持久力を鍛えるマラソン、瞬発力を鍛える反復横跳び。

 来る日も来る日も早朝のマラソンと筋力トレーニング、ナイフの戦闘の訓練は続いた。

 いつしか鞠菜がどこからか用意してきた拳銃を使った射撃訓練も行い、凛祢はそれらの技術を時間を掛けながらも吸収していく。

 そんな修行を始めて1年ほど経って転機は訪れる。

 珍しく2人で朝食を食べていた朝。鞠菜が凛祢へと言葉を投げかける。

「凛祢。お前、もう9歳だよな」

「うん」

 鞠菜の言葉に凛祢は頷いた。

 ここにきて丁度2年くらいが経つ。凛祢の誕生日は書類上は鞠菜に拾われたあの日「10月24日」である。正確な誕生日は凛祢どころか孤児院の院長ですら知らなかったのだ。

「そろそろ、歩兵道の実戦に行ってみるか?」

「え?……本当!?」

 凛祢は食い入るようにテーブルに上半身を乗り出す。

「歩兵道と言っても小等部のほうは『リトルインファンタリー』だけどな」

「リトル……インファンタリー?」

 最近ようやく漢字を知り始めた凛祢は聞いたことのない言葉に首を傾げると鞠菜は少し笑って見せた。

「リトルは幼い、インファンタリーはドイツ語で歩兵と言う意味だ。明日は私もオフだから少し演習場の訓練を見に行ってみるか?」

「行く!絶対行く!」

 凛祢は満面の笑みを浮かべた。鞠菜もその笑顔を見て微笑んだ。

 鞠菜にとって凛祢のそんな顔を見たのは初めてだった。おそらく朱音も見たことはないだろう。

「そんな顔もできるんじゃないか……よし。なら今日は利口にしてろよ?」

「わかってるよ!楽しみだなリトルインファンタリー……」

 凛祢は目を輝かせ、どんなものなのかと想像を膨らませていた。

 

 

 翌日、凛祢は鞠菜と朱音に連れられて、最も近くにある演習場を訪れた。

 周りには多くの人が集まっており、凛祢は思わず生唾を飲み込む。

 1年半も人里を離れた鞠菜の家で暮らしていた凛祢には多くの人が集まる演習場は緊張を感じる場所であった。

 前方を歩く鞠菜に凛祢がついていくと朱音も後を追いかけてくる。

「よう、ゲイリー。久しぶりだな」

「マリナサン。オヒサシブリデス!」

 鞠菜が声を掛けた黒人の男は少し違和感の感じる口調で挨拶していた。

 外人特有のなまりと言うやつだろうか。

「ン?」

 黒人の男は後ろを歩いていた凛祢に視線を向ける。目が合い凛祢は思わず目を逸らした。

「マリナサン。イツノマニコドモヲ?」

「私の養子になった凛祢だ」

「どうも……」

 鞠菜が凛祢の頭を撫でると凛祢も頭を下げた。

「オー、ソウデシタカ。ワタシハ、ゲイリー・マッケンジー、デス!」

「周防凛祢です」

 ゲイリーの差し出した手に凛祢も手を出すと握手を交わす。

「ゲイリー。私は凛祢に歩兵道をやらせようと思う。適当に紅白戦を組んでくれないか?」

「カマイマセンガ……」

「訓練なら私がある程度はつけた。武器と制服だけ用意してもらっていいか?」

「リョウカイデス」

 ゲイリーはそう言い残して大型コンテナ車の方へと歩いて行く。

「あの人、知り合い?」

「ああ、私と紛争地域で何度か一緒に戦った軍人の1人だ」

 鞠菜はそう言って少しゲイリーについて教えてくれた。

 ゲイリー・マッケンジー。出身はアメリカ。見た目も筋肉質で、腕は鞠菜よりも二回り太いと言った感じだった。彼も軍人としては2等陸尉まで上がっていたそうだが実戦中に足を患って、前線に出ることを断念し歩兵道の教官(小等部と中等部担当)になったそうだ。

 数分後、凛祢は緑や黒の迷彩柄に彩られた特製制服に身を包む。

「武器は、ドウシマスカ?」

「ナイフで」

「凛祢、そこは拳銃も。だろ」

 コンテナ内に入ってきた鞠菜は並べられた銃火器の中から適当に拳銃を選び、実弾入りの弾倉を差し込みホルスターと共に凛祢に渡した。

 ゲイリーはライフルやマシンガンを持っていたが、鞠菜が耳打ちすると素直に元の場所に置いた。

 ナイフの入った鞘と自動拳銃『ワルサーPPK』が入ったホルスター、マガジンケースをベルトに装備する。

「なかなか様になっているな凛祢。これは女にモテるぞ。小学生のうちは喧嘩と歩兵道が強い奴がモテるからな」

「本当に大丈夫なの?」

「ったくお前は心配ばっかだな。大丈夫だって!独断とはいえ私が訓練したんだから」

 心配そうに視線を向ける朱音に鞠菜は言い包めるように対応する。

 ゲイリーの勧めで始める前に軽く射撃訓練と対人戦闘訓練だけを行う。

 射撃による銃弾の命中率は54%……半分程度と言ったところだった。

 そして数十分後、凛祢の初となる紅白戦が始まろうとしていた。

 ルールは時間指定有りの分隊殲滅戦。4つの分隊に分けられたチーム戦であり、全ての敵分隊を倒し、最後まで残った分隊が勝利となる。

 リトルには兵科で分けると言う概念はないため、全員が突撃兵の様な扱いらしい。

 それでも周りがライフルやマシンガンを持つ中、装備が拳銃とナイフのみだった凛祢は少し浮いていた。

 しかし、鞠菜の言いつけがある以上凛祢は絶対に拳銃以外の銃が使えなかった。

 理由は1つ。拳銃射撃しか鞠菜が教えていなかったからだ。

「おい、新人。生き残ることを第一に考えろ。そして仲間以外の分隊は信じるな。これが歩兵道の鉄則だ」

「……はい」

 今回の分隊長である少年の作戦内容や敵の動きの予測を聞き終え、凛祢も返事をした。

 すると、1人の少年が凛祢に声を掛けた。

「楽しくやろうな。お前、名前は?」

「周防凛祢です……」

「周防凛祢か。変わった名前だな。俺は司、萩風司(はぎかぜつかさ)だ。よろしくな」

「はい」

 司はそう言って握手を求めてきた。

 凛祢も少し戸惑いながらも握手を交わした。

 高まる緊張感の中で開始の合図が戦場に響き渡った。

 歩兵たちは一斉に移動を開始する。

 凛祢も仲間の歩兵を追いかけることに必死だった。

「……」

 いち早く森林内へと侵入した凛祢の部隊は有利に戦闘を運び、次々に敵歩兵を屠って行った。

 それからあっという間に時は経った。

 まだ1時間しか経過していないというのに4チーム存在した部隊はすでに2チームしか残存していない。

 凛祢の部隊ともう1つの部隊である。

「おい、新人!次突撃に回れ!」

「了解!」

 隊長からの指示に凜祢は木陰を出て、突撃していく。

 両手で構えた自動拳銃ワルサーPPKの引き金を引いた。

 銃弾は射撃戦を繰り広げていた歩兵に命中し、戦死させた。

「よし……」

 ようやく敵を1人屠ったことに凛祢が喜びの表情を浮かべた時だった。

「凜祢あぶない!」

 共に突撃していた司が背中を押した。

 一斉に乱射された銃弾が司の体に命中すると戦死判定を告げるアラームが響いた。

「……っ!」

 銃弾が飛んできた方に視線を向けると撃った本人であろう少年がStG45を構えていた。

 しかし、先ほどの射撃戦で弾切れになったのか、それとも乱射で銃弾が詰まったんのか。銃を捨て、ナイフを手に向かってくる。

 凛祢も腰の鞘からナイフを引き抜き、ダッシュで向かって行く。

 2人の距離が詰まった時、ナイフがぶつかり合う。お互いの手に衝撃が走る。

「……!」

「見ない顔だから新人だよな、お前。ここまで生き残ったのは才能か?それともずっと隠れていただけの臆病者か?」

「くっ……!」

 凛祢は投げかけられた言葉に少しイラ立ちを感じた。

 ナイフを持つ右手に力を込めるがナイフは低い金属音を立てているだけで動かない。

 左手に持つ拳銃を向けようとするが男は読んでいたのか、凛祢の左手首を掴み攻撃を封じてくる。

「うぐぐ……」

「なんだ、やっぱりただの初心者か」

 男のそんな言葉に凛祢はまたもイラ立ちを感じた。

「うう!!」

 凛祢は怒りに燃えた顔で男の顔面に頭突きをかました。

「ぐあぁぁ!」

 男は突然の頭突きが効いたのか顔面を抑えて数歩下がる。

 その隙をついて凛祢がナイフを突き立てる。

「なめんな!」

 力いっぱいの蹴りが凛祢の足を捉え、凛祢は態勢を崩してその場に転倒する。

 続くように態勢を崩した男も尻もちをついた。

 お互いに肩で息をしながら睨み合う。

 そして数秒後、2人が立ち上がりお互いにナイフを突き立てた時だった。

「試合終了!」

 2人のナイフはお互いの胸元に触れる直前で止まっていた。

「タイムオーバーだ!全員所定の場所に戻れ!」

 審判の声が響き渡り、少年たちは一斉に準備を進めていく。

「お前やるな。名前は?」

「周防凛祢です」

「周防か、俺は黒咲聖羅だ。にしてもお前何者だ?そんだけやれて、初心者ってすげーじゃねぇか」

「そ、そうですか?でも黒咲さんだって強かったですよ?」

「黒咲じゃなくて聖羅でいいよ!とにかくすげー奴だなお前!」

「ありがとうございます、じゃあ僕も凜祢でいいですよ」

「そうか?よろしくな凛祢!」

 聖羅はそう言って笑って見せた。そして凛祢も無意識に笑みを浮かべていた。

 その様子を見て、朱音は安心したように胸を撫でおろす。鞠菜は予想通りと言わんばかりに凜祢を見つめていた。

 それが、凜祢にとって初めての友人であり、後に親友となる「黒咲聖羅」、「萩風司」という男との出会いだった。

 

 

 初めて歩兵道、いやリトルインファンタリーの試合は引き分けという結果になった。

 それでも凛祢にとってはその一日がとても充実していただろう。

 あれから1週間、凛祢は1人で山中を走っていた。日課であるマラソンである。

 小1時間ほどで自宅の前に戻り、玄関に腰を下ろした。

「……」

 乱れる呼吸を落ち着かせていると。

「凜祢おはよう」

 玄関に鞠菜の姿があった。

「おはよう。珍しいね。鞠菜が早起きなんて」

「うるせー。私だって仕事の日くらいは早起きするさ」

「なあ、鞠菜。俺……いや、なんでもない」

 凛祢は言いかけた言葉を途中で飲み込む。

 今でも十分幸せだった。これ以上求めるのは流石に……。

「隠し事はするな、言いたいことがあるなら言え。お前は昔とは違う、今は我慢なんてする必要はない」

「じゃあ……俺、学校に行ってみたい。普通の子供って学校に行くものだろう?」

 凛祢は思わずそんば言葉を口にしていた。

 今は通信教育や朱音が勉強を見てくれているし、鞠菜の与えてくれる多くの本も読んでいて面白い。

 それでも聖羅や司の話を聞いて、自分も学校に行ってみたいと思っていた。

「まあ、そうだな。お前は前々から行かせるつもりだったがな。朱音の奴がなかなか心配性な奴でな」

 鞠菜は凛祢の隣に腰を下ろすと頭を掻く。

「そうだったんだ。今すぐとは言わない。できれば中学に行く年になったら学校に行かせてほしい」

「悪いな凛祢。お前を幸せにしてやるために引き取ったのに苦労かけて」

「そんなことないよ。俺こそわがまま言ってごめん」

 凜祢がそう言うと鞠菜は優しく凛祢の頭を撫でて、微笑んだ。

 それは訓練の時とは違う。まるで優しい母親の様にも見えた。

 それから、凜祢の生活は、朝に目を覚ましたら山中を駆け回る。午前中は朱音の指導の下、座学の授業と称して本を読み、午後になれば鞠菜を相手にしたCQC戦闘やらの実技を習った。

「まるで軍人だな。俺は将来、戦場に投入されるために育てられているのか?」

「違くないな」

 愚痴を漏らすと鞠菜は不敵な笑みを浮かべて呟いた。

「大丈夫だ。お前1人で敵を数十人相手にしても戦える様に育ててやる」

「俺は歩兵道がしたいだけで。別に、軍人になる気はないぞ」

 凛祢がやれやれと呟くと鞠菜はまた笑っていた。

 

 

 次のリトルインファンタリー公式戦。

 目の前には、前髪が少し長く鋭い目元が特徴的な黒咲聖羅と優しそうな顔に細身な体つきの萩風司の姿があった。

 最近気づいたのだが聖羅は1つ年上であり、司は同じ年だった。

「――ってのが今回の作戦だ」

「「了解」」

 聖羅の説明に凛祢と司が首を縦に振る。

「ところで凛祢っていったけ?女みたいな名前だな」

 今回から同じチームになった2人の男の内1人が口を開いた。

 凛祢はその言葉に不満そうに視線を向けた。

 口を開いたのは筋肉質な体つきに太い眉が印象的な「ビスマルク・アークライド」だった。

「凜祢が男の名前で何が悪い!馬鹿にすると許さないぞ」

「そんな怒んなよ……いい名前だとは思うぞ」

「もうビスマルクくんは相変わらずだね。ほら、凛祢も落ち着いて」

 割って入る様に司が凛祢を落ち着かせる。

 それでもビスマルクに不満そうな視線を向ける。

「ビスマルク。お前、昔俺にも同じこと言ったよな。聖羅は女っぽい名前だって」

「そうだったか?」

「そうだったよ。相変わらず忘れっぽいんだから」

 聖羅も苦笑いして呟くと、ビスマルクは腕を組んで考える仕草を見せる。

 隣に立っていたもう1人の普段は冷静な性格の男、「グラーフ・シュバルド」はやれやれと首を横に振った。

「ったく。じゃあ試合も始まるからそろそろ行くぞ」

「うん」

「はい」

「おう」

「了解だ」

 聖羅の言葉に4人は返事をしてそれぞれの装備を手に戦いの準備をする。

 凜祢たち5人はそれぞれの力を駆使し、お互いの欠点を補いあうことでどんな状況にも対応できるチームとなり勝利を手にしていった。

 試合後の帰り道。

「よっしゃー!今日も勝ったぜ!」

「まったく無茶するな」

「お前がいるからだろ?凛祢」

 聖羅は凛祢を見て笑みを浮かべる。

 凛祢も苦笑いしていたが、この瞬間がとても心地いいと感じていた。。

「お兄ちゃん!凛祢さん!」

 2人を呼ぶ声に振り返ると聖羅の妹である黒咲聖菜の姿があった。幼くも愛らしい顔つきは聖羅と兄妹とは思えないほどだ。

「よう、今日も見てたか?俺の活躍!」

「お兄ちゃんは凛祢さんや司さんに助けてもらってただけでしょ」

「なに?俺はいつだって勝つための最善を取っているぜ!」

 聖菜がジト目で見つめると聖羅は少しムキになったように声を上げる。

「あ、そうだ。凛祢さん今日はウチで晩ご飯食べていきませんか?今日カレーなんです!」

「お、そうだな!凛祢寄ってけよ」

「うーん、うん。ご馳走になるよ」

 凛祢は少し考えた後に、答えを出した。

 幸い、今日は鞠菜も朱音も帰りは遅かったからだ。

「はい!」

 聖菜も笑みを浮かべて凛祢と聖羅の後を歩いてくる。

 3人で黒咲家に向かって帰路を進んだ。

 この黒咲兄妹には結構世話になっている。

 よく夕食をご馳走になったし、泊めてもらったりもした。

 夏には3人で花火なんかをしたりもしたっけ。

 自分の知る中では絵に描いたような優しい兄妹だ。

 凛祢は心からそう思っていた。

 

 

 僅か1年ちょっとで凛祢たちはリトルインファンタリーでも1位、2位を争うほどのチームへと成長していく。

 教官であるゲイリーの教育法が良かったのもあるが、やはり凛祢たち自身の意欲が大きかっただろう。

 純粋に歩兵道を楽しみ、強くなりたいと願った少年たちの……努力の賜物である。

 凛祢には周防鞠菜という元軍人であり、現在高校歩兵道で教官をしている者の教育を受けていたため、その実力は誰よりも一歩先を行っていた。

 勝利することで鞠菜は「よくやった」と誉めてくれる。それが凛祢にとっての生き甲斐であり、全てだった。

 そして時間は流れ、小学校卒業を目前にした司と中学から編入する凛祢は聖羅やビスマルク、グラーフを追いかけるように黒鉄(くろがね)中学校へと進学を決める。

 もちろん朱音は反対した黒鉄中学は歩兵道に力を入れた優秀な学校であり、古くから結果を残してきた学校だからだ。

 朱音は鞠菜と違ってあまり歩兵道をやらせたくない様なのだ。しかし、凛祢と鞠菜の強い交渉でようやく承諾を勝ち取った。

 ついに学校へと編入する日。

 凛祢は港に到着していた黒鉄学園艦を見つめた。

 黒鉄学園艦は全寮制であるため凛祢は1人で学園艦に行くことになる。

「これが……学園艦!」

 学園艦の圧倒的な存在感に思わずそんな言葉を呟く。

「凜祢。私たちは仕事の都合もあってこれからしばらくはお別れだけど体に気を付けてね」

「凜祢。ここからお前の人生は始まる。歩兵道を続けるなら忘れるな。正しく使えば『力』、間違って使えば『暴力』。正しいか間違いかを決めるのは自分自身だ」

 朱音と鞠菜は凛祢の顔を見て言い放つと、優しく微笑んだ。

「鞠菜、朱音。本当にありがとう。俺頑張るから!」

 そう言い残して凛祢は学園艦内へと続く階段を登っていく。

 1歩踏み出すたびに、鞠菜と朱音に拾われてからのことを思い出す。

 学校に行くことは凛祢は望んだことだったから。

 必ず成長して戻って来る。夢なんてものはまだないが、それでも今は黒鉄中学校で何かを得よう。

 先のことはその時考えればいい。

 凜祢は強い思いを胸に空を見上げると、学園艦はゆっくりと海上を進み始めた。




今回も読んで頂きありがとうございます
凜祢の過去編、前編はここまで。
どうだったでしょうか?
凛祢の生まれと歩兵道をするきっかけなどの話です。
感想や意見も募集中です。気軽にお願いします!


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第21話 リンカーネーションメモリアル・中編

どうもUNIMITESです。
投稿が少し遅れてしまってすみません。
最近忙しったので遅れてしまいました
今回は凛祢の記録の中編です。



~超人が生まれた日~

 

 念願の学校生活を送ることとなった凛祢は荷物を手に黒鉄中学校の校内、体育館で話を聞いていた。

 荷物と言っても必要最低限のもの以外は山梨の実家に置いてきた凛祢には、やはり鞄一つ程度しか荷物はなかった。

 他の荷物はほとんど段ボールで寮に送られているし、必要なものなら買えばいいと鞠菜は言っていたっけ。

 まだ中学生になったばかりの凛祢に自分のキャッシュカードを渡すような女だ。本当にムチャクチャな女だよ。

「……」

 校長の長い話を最後まで聞き終えると、生徒たちは一斉にそれぞれの寮へ向かうため散っていく。

 凛祢も少し遅れて校内から出ると、空を見上げた。

「本当に、学校に通うことになったんだよな……腹減ったな。寮に荷物置いて、どっかで飯でも食うか」

 時間は午後1時を回っている。

 昼のピークは過ぎているから、手短な店ならどこでも入れるだろう。

 凛祢は持っていた書類に視線を落とす。

 書類には注意事項や学校についての説明、入寮する学生寮の名前が書かれていた。

 地図を確認して早足に寮へと向かう。

 

 

 数十分ほどで学生寮に到着した凛祢は少し驚きの表情を浮かべていた。

 書類に載っていた写真とは似ても似つかぬ古めかしい建物がそこには建っている。

「まあいいか」

 気にしている時間も惜しかった凛祢は気にせず建物内に入る。

 寮母に書類を渡し、部屋の鍵を受け取ると、すぐに部屋へと向かった。

 部屋番は404号室。

 なんとも不吉な部屋番だな。そんな事を考えながら鍵を差し込み、扉を開ける。

 室内は思ったよりも広かった。

 だが、1つのことに気が付く。机も棚も、ロッカーも室内には2つ存在した。そして極めつけは2段ベッド。

「あー2人部屋か。相方は……まだ来てないのか?」

 納得したように呟く。

 凛祢も少し遅れてきたが、それよりも遅い者がいるとは思わなかった。

 部屋の鍵と一緒についていた小さい鍵でロッカーの鍵を開けるとロッカー内には毛布と枕が収納されている。

 もう1度、2段ベッドに視線を向ける。

「上でいいか……」

 枕と毛布を上のベッドに置く。鞄をロッカーに押し込み、鍵をかけた。

 段ボールに視線を向けて隅に運び財布だけを手に制服姿のまま部屋を後にした。

 

 

 学園艦は、とても広い。というか、乗る前からその大きさには驚かされていた。

 空母みたいな形状の学園艦の上には街が広がっている。

 嘘みたいだろう?だが、そんな嘘みたいな場所に自分はいた。

 街のことを知っておこうと商店街の方へと足を運ぶ。

 当てもなく商店街を歩いていると――

「君、可愛いな。新入生だよね?」

「俺らと遊ぼうぜ!」

 絵に描いたようなチャラい男2人が制服に身を包む背の低い女子生徒に絡んでいた。

 新入生と呼んでいるあたり絡まれている方は自分と同じ1年生なのだろう。

 足を止めて、視線を向ける。

 まったく中学生で制服を着崩している上に耳にピアスまでつけて。

 思わず呆れてしまう。

「ん?何見てんだ、お前!?」

 凛祢の存在に気づいた男は振り向いて歩み寄る。

 お互いに顔を見合わせた。

「なんか文句あるか!?」

「何も言ってねーだろ……」

 男の言葉に思わず返答する。

 しかし、男は不機嫌そうに凛祢の顔を覗く。

「ならどっかいけ!」

「ああ、わかったよ」

 凛祢はそう言葉を残して、その場を去ろうとするが――

「ちょっと!助けてよ!」

「は?」

 女子生徒の声に、振り返るとこちらをじっと見つめていたことに気づく。

「……はぁ。なあ、やめてやってくれない?嫌がってるだろ?」

 ため息をついて口を開くと

「んだと!?ごらぁ!」

「ぶっ飛ばすぞ!」

 2人は凛祢を睨んで強気に言い放つ。

「ぶっ飛ばすのはいいけど、抵抗するぞ」

「やっちまえ!」

 その言葉を合図に凛祢は仕方なく喧嘩をした。

 数分もしないうちに、その場にはボロボロになって倒れた男の姿があった。

「やっちまったー……」

 凛祢は倒れる2人を見て、頭を抱える。

 朱音だけじゃなく鞠菜も「安易に喧嘩をするな」と言われていたのに。

 1日目で喧嘩してしまった。

「強いねー、きみ」

「お前のせいで俺はお先真っ暗だけど。学校にバレたらやばいな……」

 凛祢は少女に視線を向ける。

 自分よりも背の低く、赤い髪を短いツインテール状にした少女。

「まあまあ、正当防衛だし。私、ミッコって言うんだ。よろしくね」

「自己紹介してる場合か。俺は逃げるぞ」

「待ってよ。私も行くって!」

 凛祢がいそいそと走り出すと、ミッコと名乗る少女は犬の様に後を追う。

 しばらく走り続けて、裏路地に入り足を止めた。

 後ろを振り向いてもミッコの姿はない。

「ようやく撒けたか。あー、走ったら余計腹減った……」

「本当だよ。私もお昼食べてないからお腹空いてるのに全力で走るんだもん!」

「……!」

 凛祢は驚きを隠せなかった。

 全力疾走したのにミッコは追いついたと言うのか?

 というか、よく制服で走り回れたものだ。

「どういうつもりだ?」

「何が?」

「なんで俺についてくるんだ」

「助けてもらったからだよ!感謝もまだしてないし!」

 ミッコは笑みを浮かべてそう言った。

「そうだ、君の名は?」

「……凛祢だよ」

 凛祢は素直に名を名乗った。

 聞き方が映画の題名みたいだな。

「凛祢くんか。可愛い名前だね!じゃあ凛祢くん、お昼まだなら一緒に食べない?」

「お前といるとロクなことなさそうだからやだ」

「まあそう言わずに!美味しい店に案内するからさ!」

 逃げるように歩き始めるが、ミッコは隣を歩いて離れてくれなかった。

 どういうつもりなんだ、この女。

 仕方なくミッコに案内された店で昼食を取ることにした凛祢。

 そこで凛祢は驚くこととなる。

 注文した定食がやって来るとミッコは乙女な顔にも関わらず勢いよく食べ始めたからだ。

「……まじか」

 更に驚きなのはミッコはご飯の追加を注文して食べ進めいた。

「あー、3日ぶりのご飯がおいしい!」

「3日ぶりって……」

 冗談のつもりなのだろうと思い、何も言わずに凛祢も定食に箸をつける。

 食事を終えたミッコが満足そうにしている。

「ご馳走様!じゃあ、私はこれで!」

「は?」

 ミッコはそう言い残して、全力で逃げた。

 お金を払うこともなく、店を出ていく。

「おい、ちょっと待て!」

 凛祢が後を追うように扉の取っ手を掴むが店員が引き留める。

「なんですか!?」

「お客さん!お勘定がまだですよ!」

「くっ!ふざけんなよ、あの女!」

 凛祢の声は店内に響き渡っていた。

 仕方なく、2人分の支払いを終えた凛祢は1人寮へと続く道を進んでいた。

「なんなんだよ、あのミッコの奴。今度会ったらただじゃ済まさねー」

 怒りに燃えた顔で404号室の扉を開いた。

「「ん?」」

 室内には初めて見る顔があった。

「えっと。もしかして相部屋にの周防、凛祢くん?」

「そうだけど。君が朝倉龍治(あさくらりょうじ)なのか?」

「うん。僕が龍治だよ。これからよろしく!」

「おう、よろしく」

 ルームメイトとなった龍治と自己紹介を得て、凛祢は室内に入室した。

 彼も、凛祢の数少ない友人であり、後に黒鉄中学の大歩兵世代を築く1人となる。

 

 

 それから一週間のオリエンテーションを終えて、凛祢や司、龍司の3人は歩兵道の初授業を迎えていた。

 1年生の中でも歩兵道選択者は50人を超えていた。

 流石は実力のある学校だ。

 リトル時代に見た顔も数人はいた。

「よし、新入生!一人ずつ番号と自己紹介しろ!」

 歩兵道中等部担当の教官、アンダーソンの声が響き、1人ずつ番号と名前を叫んで行く。

「兵籍番号37番、周防凛祢です!」

「兵籍番号38番、朝倉龍司です!」

「兵籍番号45番、萩風司です!」

 凛祢に続いて龍司、司も名を叫ぶ。

「いいか豚共!中学の歩兵道はリトルやサバイバルゲームの様な半端な競技とは違う!」

 再びアンダーソンの声が響くと新入生たちは圧倒されたように一歩後退する。

 サルミッド・アンダーソン。出身はロシア。中等部担当の歩兵道教官であり、軍人としてはゲイリーより上の1等陸尉。後に鞠菜の軍人だったころの同期だと知ることになる。

 見た目はゲイリーほどではないががっしりとした体つきではあった。だが、繊細な作業や精密狙撃を得意としている。

 歩兵道の教官は軍人ばかりだと、この頃から思っていたっけ。

「ここにいる大半は頭が空っぽなガキや、歩兵道が少しできるうぬぼれだ!俺は違うと言うものは手を上げろ!」

 アンダーソンの止むことのない声が凛祢や司たちに浴びせられる。

 だが、そんな問いに誰も手を挙げるものなどいなかった。

 アンダーソンは深く頷いた後に1人ずつ顔を見つめて行く。

 新入生全員の頬を冷や汗が伝って行く。

「兵籍番号37番、周防凛祢」

「はい!」

 アンダーソンの口から自分の番号が呼ばれ、反射的に姿勢を正して返事をしてしまった。

 隣にいた龍治も体をびくつかせる。

「んーフーフーフー」

 薄気味悪く、それでいて上機嫌であるかのように鼻で笑う。

 ここに居たかと言わんばかりにアンダーソンは凛祢に視線を向けて近づいてくる。

「フフフ、そうかお前が周防凛祢、周防鞠菜の弟子だな?」

「弟子ではなく養子であります!」

「くっくっく、嬉しいぞぉ?俺はお前の師匠と同期だ。あの女には散々世話になったからな……よし歓迎してやる!」

 アンダーソンは親の仇の様に視線を凛祢に向ける。

「よぉし、お前は特別に俺が直接可愛がってやる、感謝しろ!はっはっは!」

 すぐに笑みを浮かべて次の生徒に視線を向けて行った。

「大丈夫か?」

「まあ、死なない程度にしごかれるのは慣れているし……」

 心配そうに声を掛けた龍治に返事をすると凛祢は軽く息を吐いた。

 リトルインファンタリーで活躍していた凛祢や司の名前はそれなりに広がってはいた。

 目立つとは思っていたし、司や他の生徒になかにも目立った者はいた。

 しかし、自分とは無関係なところで、個人的に目を着けられるとは予想外だ。

 それからというもの、アンダーソンは何かにつけて、凛祢を目の敵にした。

 CQC戦闘訓練で勝利しても怒られるのは自分であり、たまに敗北しても怒られる。

 射撃訓練でも何故か怒鳴られる。

 トイレに行っても「トイレが長い」と怒鳴られる。

 そんなのが続き、数か月が過ぎた頃だった。

 いつものようにアンダーソンに怒鳴られ、耳に痛みを感じながら自室である404号室の扉を開く。

「おー、凛祢おかえりー」

「ああ」

「遅かったな、またアンダーソンに怒鳴られたのか?今日は何したんだ?」

 ルームメイトの龍治と別室にも関わらずいることが当たり前になっている司の声を聞いて凛祢はため息をつく。

 全館消灯までの自由時間は基本この2人の顔を見ていた。

「狙撃訓練で一発外した上に片付けの時、弾薬倉庫で銃弾をぶちまけた」

「あららー大変だったねー凛祢くん」

「で、なんでまたミッコがいるんだよ」

 凛祢が机に視線を向けると椅子に座り棒アイスを頬張る制服姿のミッコがいた。

 ここにいる4人はみんなクラスメイトであり、このメンバーが消灯時間まで404号室に集まるのはいつものことなのだ。

 というか、ミッコは他に女子の友人とかいないのか?いつもここに来てるけど。

「男だけだとつまらないでしょ?」

「あのな、女子生徒が男子生徒の部屋に押し掛けること自体が問題だからな?」

「わかってるってー。ちゃんとバレないようにしてるし」

 ミッコはそう言って笑みを浮かべると再び棒アイスを口に突っ込む。

「まあいいけど。ミッコ、お茶」

 凛祢もいつもの様に鞄を置くと、床に座り喫茶店で注文するように言い放つ。

「はいはーい」

 ミッコは慣れた手つきで急須から湯飲みに緑茶を注ぐ。

「どうぞー」

「……あー、お茶がうまい」

 ミッコが入れた熱い緑茶を飲んで一息つく。

 すると龍治が口を開いた。

「そういえば、合流って明日だっけ?」

「そうだな。凛祢、アンダーソン教官から何か聞いた?」

「聞いてねーよ。ようやく教育機関も終わりかー」

 凛祢が天井を見上げる。

 この数か月、凛祢たち一年生は教育期間ということで歩兵道の基本をみっちりと仕込まれた。

 新人大会ではなんとか勝利したもの、中学歩兵道はリトルインファンタリー以上に激しく厳しい戦いだであったものの凛祢たちの第7班はそれなりの成績を残していた。

 近いうちに実戦投入もあり得ると言う話も合ったくらいだ。

「まったく。ゲイリーの方が百倍はいい教育者だったよ」

「本当にな。ゲイリー優しかったから」

「ゲイリーって?」

 司と凛祢が話始めると龍治も興味深そうに問い掛ける。

「リトル時代の教官だよ。結構いい人だった」

「へー。会ってみたもんだね」

 龍治は笑ってそう言うと、湯飲みに口をつける。

「凛祢くんたちも苦労してるんだね。私も戦車道をやってるけど。これが厳しくてねー」

「お前、戦車道を履修してたのか?」

「うん。ミカって先輩と戦車乗ってる」

 ミッコは食べ終えたアイスの棒を銜えたままそう言った。

 黒鉄中学には歩兵道だけでなく戦車道も存在する。

 しかし、歩兵道に優先的に力を入れていたため、戦車道はそれほど有名ではなかったのだ。

「あれ。言ってなかったけ?」

「言ってないだろ」

「聞いてないね」

「聞いてないよ」

 ミッコの言葉に凛祢が視線を向けると2人も同じように苦笑いしていた。

 戦車道。婦女子を育成するための武道だってことぐらいは知ってる。

 歩兵道と似たようなものであるが、違うもの。

 似て非なるものであることは確かだ。

 というか、ミカって誰だ?聖羅なら知ってるかもな。

「ふぁぁ」

「凛祢眠そうだな」

「まあな、疲れもたまってるし。じゃあそろそろやるか」

 そう言うと鞄から参考書とノートを取り出す。

 凛祢たち3人は歩兵道の成績は良かったものの、他の教科では授業についていくのもやっとであった。

 そのため、こうして週に3回ほどの勉強会を行っていた。

「私は帰るねー」

「待て。お前はこの中で一番成績がいいんだから勉強を教えろ」

「えー。またー?」

 いつもの事であるにも関わらずミッコは嫌そうな表情を浮かべていた。

 だが、凛祢にも秘策はあった。

「えーじゃねー。明日の昼はハンバーグだぞ」

「まっかせてーよ。流石凛祢くん!」

 ミッコは満面の笑みで鞄から参考書とノートを引っ張り出す。

 彼女は食べ物が好きだ。だから食べもの、特に肉などは彼女を引き付けるいいエサなのだ。

「はいはい」

 凛祢も湯飲みに残った緑茶を飲み干して、ペンを手に取る。

 そんないつもの日課をこなして時計が24時を回った頃、凛祢と龍治はそれぞれ二段ベッドに横たわっていた。

「凛祢。起きてる?」

「もう寝てる」

「起きてるじゃん」

 思わず龍治はツッコミいれた。

 消灯時間を過ぎた部屋内に凛祢と龍治の小さな会話だけが響いている。

「僕は2人の足手まといになってない?」

「なってないよ。龍治にだってここまでちゃんと残っただろ」

 龍治の言葉に凛祢もこれまでのことを思い出すように返答する。

 黒鉄の歩兵道を始めた当初は50人を超えていた新入生も今は半分ほどしか残っていない。

 みんなついてこれずに辞めてしまったのだ。

「そうだけど。僕はあんまり自信ないよ」

「大丈夫だ。俺や司も支えてやるから」

「うん、そうだね。僕頑張るよ」

 龍治がそう言うと凛祢は瞼を閉じて深い眠りについていた。

 

 

 翌日。午前の授業と昼食を終えた凛祢たちは午後の授業を迎えていた。

 特製制服に着替えを終えた凛祢たちはアンダーソンの指示でマラソンのために校庭を走っている。

 自分の経験から走ることは歩兵道にとっては必須だと思う。

 彼の軍人は言ったそうだ。

「軍隊ではとにかく走らされる」

「朝起きたら走らされる」

「重い武装しては走らされる」

 そんなことが多々あったと聞いたことがあった。

 昔から暇つぶしのように走っていた自分は、走ること自体はさほど嫌いではない。

 なにより走るだけなら金も友達も必要なかったのも理由の1つだ。

 ただしこうして誰かに言われて走らされるのはあまり好きではない。

 走るのと走らされるのとでは全然違うからだ。

 ここには自分を褒める鞠菜はいない。

 こう考えると自分は金をもらって戦う傭兵みたいだと思ってしまう。我ながら単純だな。

「凛祢ー、司ー。待ってよー」

 声の方を振り向けば我がチームメイトの龍治がヘロヘロになりゆっくりの速さで走っていた。

 凛祢と司は顔を見合わせた後、ペースを落として龍治の隣を走る。

 2人よりも訓練慣れしていない龍治はやはり音を上げるのも早かった。

「もう少しだから頑張れ!」

 司がそう声を掛け続け、ようやくゴールした3人は校庭に座り込み、肩で息をしていた。

 まったく、特製制服で長距離を走るのは楽ではない。

 本当の軍人はよくもあんな戦闘服で走り回れるものだ。

 そんなことを考えていると

「よーし、新入生。これからお前たちは黒鉄中学の歩兵道履修者たちと合流する!」

「はい!」

 アンダーソンの声に返事をする。

 全員が同じ方向に視線を向けると自分たちと同じ特製制服に身を包む生徒たちの姿があった。

「隊長!さっさとあいさつしろ!」

「隊長の黒咲聖羅だ!新入生、歩兵道は遊びじゃねぇぞ!これからお前たちは立派な紳士として恥じないよう、自分を鍛えろ!」

「はい!」

 2年でありながらもう隊長の座についていた聖羅の言葉に新入生はより大きい返事をした。

「よし!じゃあ分隊ごとに別れろ。それと周防、萩風。お前たちは次の公式戦隊長分隊に投入する」

「「え?」」

「了解です」

 アンダーソンはそう言い残して他の部隊の訓練を見て回る。

「実戦投入ってマジかよ」

「聖羅。久しぶりだね」

「今はそんな話してる場合じゃねー。公式戦まで時間ないから、さっさと行くぞ」

 聖羅の後を追い、本格的な歩兵道訓練が始まった。

 マラソンに射撃訓練、CQC戦闘訓練はもちろん、中学歩兵道からは「学科」っという頭を使うものまであった。

 学科と言っても歩兵道にとっては常識的なものばかりだったが、凛祢が最も驚いたのは兵科によって訓練内容が変わると言うことだ。

 偵察兵に狙撃兵、突撃兵はそれぞれ訓練内容が分かれるがリトル時代とはそれほど変わらなかった。

 大きく異なったのは砲兵と工兵だった。この2つの兵科はかなり高火力の武装を扱うため、学科資格が必要らしい。

 だが、すでに突撃兵で通っていた凛祢や司にはそれほど関係なかった。

 ビスマルクは砲兵であり、グラーフも狙撃兵になっていたものの、聖羅は変わらず突撃兵である。

 それから凛祢たちは幾度の戦場を駆けた。どの試合でも凛祢は仲間と共に勝利を手にしていく、止まることを知らず次々に黒鉄中学の戦績を伸ばすこととなる。

 

 

 

 黒鉄中学に入学して半年とちょっとが過ぎた頃、大会に参加していた凛祢は試合中にある違和感を感じた。

 一瞬。ただの一瞬だけ、直感的に危機を察知して動けたような気がする。感じただけであって、だから何かできるわけでもなかった。

 そんな小さな「才能」という名の芽は戦いを重ねるごとに成長し、ある日の戦場で覚醒したのだ。

 戦場は森林地帯。現在は使われていない小屋とほぼ崩れているレンガ造りの壁。

 他にもドラム缶が倒れていたり、折れた鉄骨なども置かれていた。

「……!」

 戦闘中、凛祢は直感的に動いて、死角から放たれた銃弾を回避して見せた。 

「なに!?」

 敵歩兵は驚きを隠せずにいた。凛祢は左手で引き抜いた自動拳銃『ルガ―P08』を零距離で発砲する。

 数発、銃弾を撃ち込まれた敵歩兵からは戦死判定のアラームが響く。

 凛祢はルガ―をホルスターに差し込むと、すぐに走り始める。

 右手に持つ、アサルトライフル『StG45』を両手で持ち直し、次の敵歩兵に向けて構える。

 狙いを定めるとすぐに引き金を引く。銃口から吐き出された数十発の銃弾は敵歩兵に命中し、また戦死判定のアラームが響いた。

「よくやった凛祢!」

 ビスマルクがそう叫び、対戦車擲弾発射器『パンツァーファウスト』を放つ。

 放たれた擲弾は敵の部隊に向かって飛んで行き、数人を巻き込むように爆発する。

 戦死判定のアラームが重なる様に響いていた。

「くそ!」

 再び敵歩兵が凛祢を狙うが不意に飛んできた銃弾が手に持つ武器を弾き飛ばした。

 続けて放たれた銃弾が上半身を撃ち抜き戦死判定のアラームが響く。

 それがグラーフの援護であることに気づくと同時にインカムから声が響いた。

「まったく君たちは敵を屠るたびに油断するのが悪い癖だよ」

「うるせー、お前の分を残してやったんだろうが!」

「援護感謝するよ、グラーフ」

 ビスマルクは強気に言い放つが凛祢は感謝するように通信を送った。

「ほら、凛祢を見習って感謝の一言でも行ってみなよ」

「お前は狙撃兵なんだから援護するのは当たり前の事だろうが!」

「なら僕は、もう君の援護は絶対しない」

 インカム越しに喧嘩を始める2人。

「お前のヘボ援護なんているか!離れた場所から狙うしか能のない臆病者が!」

「っ!」

 舌打ちが聞こえた。

 その時、発砲音と共に銃弾がビスマルクの右肩を撃ち抜いた。

 ビスマルクは衝撃でその場に倒れこむ。

「うっ、グラーフ!テメェ!」

「黙れよ、脳筋野郎!僕はいつでも君を後ろから撃てるって事を覚えておけ!」

「野郎!上等だ!ぶっ殺してやる!」

 グラーフとビスマルクは本格的に喧嘩腰の声を上げた。

 凛祢はやれやれとため息をつく。

「ビスマルク、グラーフもやめろ!試合中だぞ!」

「うるせー!あいつは俺を撃ったんだぞ!撃ったってことは撃たれる覚悟があるってことなんだよ!」

 ビスマルクは頭に血が上っているのか声を荒げている。

 その時、再び「直感」が危機を察知した。

「!」

 凛祢は後ろからビスマルクに向かってタックルをかました。

「うげ!」

 ビスマルクが倒れこむと、銃弾が空を舞っていた。

 凛祢もすぐに銃弾が飛んできた方にむけて銃を構えて発砲する。

「敵襲!」

「ちっ!」

「……」

 凛祢の声に、ビスマルクとグラーフも再び戦闘態勢に入る。

「グラーフ!」

「わかってるよ!」

 この2人だって聖羅と同時期に隊長分隊に投入された実力者だ。

 こうして喧嘩することもあるが、やはりお互いの実力を認め合う仲なのだ。

 現れた敵歩兵は全部で8人。

 人数的な有利は敵にある。だが、2人がいれば――

 凛祢のそんな思いを裏切る様にことは起きた。

 グラーフが狙撃銃『Kar98K』を構える。その時、手榴弾が投げ込まれた。

 瞬時に気づき、走り出す。だが、それこそが敵の狙いだった。

 茂みから姿を現したと同時に銃弾の雨を浴びせられグラーフが悲鳴を上げる。

「ぐぁぁーー!」

「なにっ!?グラーフ!」

「くそ!凛祢そいつを貸せ!」

 悲鳴を聞いたビスマルクは凛祢のStG45を奪い取ると1人で出ていく。

「ビスマルク!」

 凛祢も声を上げるがビスマルクは聞く耳持たずに戦闘を開始していた。

 馬鹿が!1人で勝てるわけないだろ!

 主武装を失った凛祢はホルスターからルガ―とコンバットナイフを引き抜く。

 援護しようと壁に隠れてルガ―の引き金を引く。

 しかし、なかなか命中しない。

 ビスマルクは1人で突撃している。

「くっ!」

 思わず表情を歪ませた。

 拳銃では距離の空いた敵を狙うのは難しい。

 やはり突撃して一気に敵歩兵を叩くしかない。

 その時だった。

 ビスマルクは敵歩兵を2人屠っていたが、不意に銃弾がビスマルクの右足を撃ち抜いた。

「くっ!」

 走る痛みに思わず、膝をついた。

「ビスマルク!」

「俺は狙った得物を逃がさない」

 ビスマルクの前に現れたその男はソ連が好きなのか、目立つであろう赤い軍帽を被っていた。

 しかし、その手には武器がなかった。ベルトのホルスターには拳銃が収納されているが。

 なぜ武器を持たないのか凛祢には理解できない。

「だが!」

 凛祢がルガ―を構えると、軍帽の男はホルスターから自動拳銃『トカレフTT⁻33』を引き抜き手動で初弾を排莢すると凛祢の方に発砲した。

 その動作や手の動きに違和感を感じつつも直感的に、壁に身を隠す。

 だが、銃弾は凛祢の隠れた壁には当たらず、後方の鉄骨に命中した。

 そして――跳ね返った。

 跳弾は凛祢の右太ももに命中する。

「うっ!……な、なんだ今の?」

 声にならない声を上げた凛祢は何が起きたのか分からなかった。

 いや、たとえ誰であっても理解できないだろう。

 まさか「跳弾」で狙ったのか?

 いや、ありえない。跳弾を狙って当てるだと?

 もう一度凛祢が壁から顔を出すと、軍帽の男はこちらを確認し笑みを浮かべる。

 そして再び引き金を引いた。

「マジか!」

 凛祢は地面を転がり、跳ね返った跳弾を回避する。

 どうやら彼は跳弾を意図的に起こして狙い撃てるセンスを持っているようだ。

 まさか、そんな歩兵がいるとは……。

「お前、何もんだ?」

「名乗らせてもらおう。そこの歩兵もよく聞け。俺はアルベルト、歩兵道界最強になる男だ」

 アルベルトと名乗る男は宣言するように声を上げた。

「……」

 数秒間の沈黙が流れる。

 するとアルベルトは指を通したトカレフを回転させる。

「ふん、声もでないか?」

「ふ、はははは!おもしれーよ、お前!」

 ビスマルクは思わず笑い声を上げた。

 だが、アルベルトそんなビスマルクに向けて一発発砲した。

 すると戦死判定のアラームが響いた。

「こっち向け!」

 気が付けば凛祢はルガ―とコンバットナイフを構えて立っていた。

 ビスマルクとグラーフがやられて、自分も頭に血が上ったのかもしれない。

 まったく何やっているんだ。ここは隠れて本隊が合流するのを待つべきだっただろ。

 だが、間に合うかどうかも分からないなら結局は1人で戦わなければならない。

「なんだその構え方?」

 アルベルトは小馬鹿にするように呟いた。

 凛祢の構え方は周防鞠菜の構えと同じ癖のある構え方である。

「その銃、ダサいな」

 続けてアルベルトは笑ってそう言った。

 ルガーの事を馬鹿にしているのだろうが関係ない。

 まだ動く必要もない。

「ふん!死ね!」

 アルベルトがトカレフを構えて、引き金を引いた瞬間――

 トカレフのスライドはノックバックしたまま、停止する。

 銃弾が弾詰まりを起こしたのだ。何が起きたのか分からないと言わんばかりに焦りを見せるアルベルト。

「……」

 凛祢はその隙を見逃すはずもなく、ナイフの逆刃を首元に当てると右足に向けて発砲する。

「ぐっ!」

 痛みに声を上げるアルベルト。

 流れるように体を地面になぎ倒すと、ルガ―のグリップを叩きつけてトカレフを弾き飛ばす。

 他の敵歩兵も一瞬反応が遅れたものの銃を構えようとする。

 だが、凛祢はさせまいとアルベルトの首を両足で挟んだままルガーの引き金を引く。

「構わん!撃て!」

 1人、また1人と敵歩兵に銃弾が命中する中で、アルベルトが声を上げる。

 凛祢は銃口をアルベルトに向けて一発発砲した。

「ぐっ!」

 痛みに声を上げたアルベルトの戦死判定を確認することもなく、踏み出して敵歩兵の元に向かう。

 接近するとまずは軍用小銃『モシン・ナガンM1891』を封じるために手を狙って発砲する。

 すぐに立て直す暇を与えず、ルガ―のグリップで首元の後ろを力いっぱい叩く。

 ナイフを鞘に収納すると同時に敵歩兵のモシン・ナガンに手を回し奪取する。

 その敵歩兵を盾にするようにもう1人の敵歩兵に近づくと、隠れていた凛祢が姿を現し腹部に向けてモシン・ナガンから放たれた7,62mm弾をお見舞いする。

 敵歩兵の持つStG45から銃弾が放たれるが、凛祢はその直感で銃弾を回避して見せた。

「嘘だろ!?」

 ナガンを投げ捨て、ルガ―の引き金を数発引くとルガ―も弾切れを告げる。

 だが、凛祢は歩みを止めずに敵歩兵の首に手を回し、空いていた右手で左手の手首を掴んで固定する。

 次の瞬間、凛祢は足と腕を使って敵歩兵の体を持ち上げ、投げたかのように地面に叩きつけた。

「あれは、訓練でやってた……」

 倒れていたビスマルクはその様子を見て、驚きを隠せなかった。

 凛祢は自分より体重のあるであろう相手を投げたからだ。

 立ち上がり、弾倉を交換すると引き金を引いた。

 すぐに倒れた敵歩兵から戦死判定のアラームが響き、凛祢は深く息を吐いた。

「後は……」

 視線を辺りに向け、警戒するがすでに現れた敵歩兵はすべて戦死していた。たった1人を除いて。

「くそ!なんなんだお前は!?」

 凛祢と他に生存しているのは赤い軍帽を被った男、アルベルトである。

 その視線は凛祢をしっかりと見据えていた。

 凛祢はそんなアルベルトに勝負はついたと言わんばかりに背を向けた。

「くっ!は!」

 弾き飛ばされたトカレフを握ると凛祢に向かって走って行く。

「……」

 そんなアルベルトの攻撃を両手で受け止めると、腕を一回転させるように動かしルガーのグリップを顎に叩きつける。

「ぐぁっ!!」

「はっ!」

 更に鞠菜に習ったCQC戦闘術で柔道技の如くアルベルトを転倒させる。

「うえ!」

 倒れこんだアルベルトは悲鳴を上げる。

 手に持っていたトカレフは後方へと飛んで行き、弾詰まりを起こしていた銃弾も空を舞って地面に落ちる。

「なん、で……!」

「初弾を手動で排莢していたな。考え方はおかしくはない、だが聞きかじっただけで実戦で試すものじゃない。だから弾詰まりなんて起こすんだ。そもそもお前オートマチックは向いてないよ。リコイルの衝撃をひじを曲げて吸収する癖があるみたいだけど、どっちかと言えばリボルバー向きだよ」

 凛祢はどこぞの工作員の様な言葉を並べる。

 実際に説明通り、アルベルトの撃ち方には違和感を感じていたし、現にこんな状況で「弾詰まり」なんてミスを犯していた。

「くそ!たかが一年野郎に!」

「……」

 コンバットナイフを引き抜くが凛祢はそんなアルベルトの足に向けて発砲する。

 銃弾は狙った通り右足に2発、左足に1発命中した。

 膝から崩れるように倒れこむ。

「いってー……」

 痛みに表情を歪ませていたアルベルトに視線を落とすと凛祢は口を開いた。

「早撃ちは凄かったし、意図的に跳弾を使った戦い方は俺や他の歩兵にはできない技だ。いい才能を持っていると思う」

「いい……才能か。お前のその直感も十分凄いよ。まるで超人染みた力だった……」

 返答するようにアルベルトが呟くとそのまま大の字に倒れる。

 凛祢もようやく一段落した戦闘に一息ついた。

 武器をホルスターに収納してインカムで通信を送ろうとしたのと同時にアナウンスが響いた。

「赤山中学、残存歩兵戦力0!黒鉄中学、残存歩兵戦力4名!黒鉄中学校の勝利!」

 勝利したことを確認し凛祢やビスマルク、グラーフもハイタッチする。

 黒鉄中学歩兵道チームで生存したのは凛祢と聖羅、司に龍治の4人だった。

 今回も勝利した。そう心で復唱すると凛祢は再び喜びを表すかのように拳を握る。

 その日、「才能」は完全な形となって覚醒した。

 常人を上回る危機を感知する直感力、後に「超人直感」と呼ばれる才能を得た凛祢はこの日から超人の異名で呼ばれることとなる。

 その後も凛祢は超人呼ぶにふさわしい技術と才能を行使して黒鉄中学は全国大会2連覇を果たした。

 

 

 1年目の全国大会も終わり、凛祢や聖羅たちは本土の山梨県に帰還していた。

 長期休暇によって実家に帰るものは多い。凛祢たちも例外ではない。

 1年も離れていないと言うのに山中に建てられた小さな小屋、鞠菜の家に戻ってきたのが懐かしく感じた。

「凛祢、おかえり」

「ただいま鞠菜」

 鞠菜の顔を見て、安心したように凛祢は笑みを浮かべた。

 自分にとっての家族は鞠菜と朱音だけだ。ここにいると安心できる。

「少しデカくなったか?」

「そんな変わらないよ」

 鞠菜の言葉に静かに返答する。

 荷物を家に運び入れると、凛祢は鞠菜に黒鉄中学での歩兵道について報告した。

「そっか。黒咲や萩風ももう隊長分隊に投入されたのか。本当に成長が早いな」

「ああ。それにアンダーソンって教官にもあったよ。鞠菜のせいで苦労したんだから」

「下村か。あいつ中学の歩兵道教官やってたのか。あいつも長い付き合いだったけ」

 鞠菜は思い出すように頷き、コーヒーの入ったカップに口をつけた。

 早朝、凛祢はマラソンのために山中を走り回っていた。

 実家に帰ったからと言って日々の日課を休むことはない。

 休めば3日分は衰えると鞠菜は言った。

 肩で息をして玄関に腰掛けると――

「凛祢。久しぶりに私とガチンコで勝負してみるか?」

 鞠菜がダミーナイフを手に窓から顔を出した。

 彼女との勝負は本当に手抜きなしの駆け引きをする。

 凛祢にとっては最も自分を鍛えるのに適しているかもしれない。

 そして、鞠菜も準備運動を終え、お互いにダミーナイフを構える。

「そうだ、鞠菜。負けた方が勝った方のお願いを聞くって条件を付けよう」

「は?なんでだよ面倒くせーな」

「いいから!」

 そう言うと凛祢は鞠菜に接近しダミーナイフを振る。

 だが、鞠菜も簡単に防御して反撃した。それを凛祢も直感で回避してナイフを振る。

「なっ!」

 なんとか鞠菜も回避する。

 しかし、ダミーナイフの刀身が私服に掠ったことに気づく。

 1年前は当てる事どころか、回避することすらできなかったと言うのに今は互角に渡り合えていた。

 鞠菜も凛祢の直感的な動きに違和感を感じている。

「はっ!」

 攻撃でダミーナイフを弾き飛ばされた凛祢は一瞬驚いたが冷静になる。

 鞠菜がダミーナイフを振ると凛祢は再び回避して鞠菜に力いっぱいタックルして転倒させた。

 そのままナイフを奪い喉元にナイフを突き立てた。

「お前の勝ちだ、凛祢」

「なら!」

「なんて言うか!」

 鞠菜は頭突きして怯んだ隙を狙ってナイフを奪い返し、凛祢の腹部を蹴り飛ばす。

 倒れた凛祢にすぐさま近づきナイフを首元に当てた。

 動けなかった、本当の戦場ならこの時点で死んでいる。

 鞠菜は笑みを浮かべてナイフを離した。

「いったー。ずるいよ、今のは」

「油断したお前が悪い。だが随分強くなったな、いいよお前の願いを聞いてやるよ」

「マジで?」

 凛祢は少し驚きつつ視線を向ける。

「ほら、さっさと言え」

「鞠菜の使ってる格闘術を教えて」

 凛祢は真剣な眼差しを向けた。

 格闘術を学ぼうと思ったのは理由は1つ。鞠菜の直伝のCQC戦闘術だけは得意だったがそれ以外は何もない。

 自分は射撃も苦手であり、どうしてもCQC戦闘に持ち込んでしまう。

 だが、正直言って有効打を与えるのは難しい。

 だからこそ――

「格闘術?ああ覇王流の事か、私は教えられないぞ?これは照月って流派の技だからな」

「え?そうなの?」

「んー。照月玄十郎は頑固だからな、頼んで教えてくれるかな?確か今は大洗に住んでいるはず」

 鞠菜は少し考えるように腕を組む。

 すぐに仁王立ちすると口を開いた。

「よし、凛祢。休暇中は大洗に行くぞ!」

「え?」

 鞠菜はそう言って笑っていた。

 彼女は嬉しかったのだろう、凛祢は欲がない。そんな凛祢が何かを学びたい、こうありたいと望むなら叶えてやりたかったのだ。

 凛祢は少し驚いていたものものの、少しでも強くなるために大洗に行くこととなった。

 鞠菜の扱う覇王流格闘術とも呼ばれる……照月流格闘術を皆伝してもらう為に。




今回も読んで頂きありがとうございました。
凛祢が超人としての力、超人直感を始めて行使した記録です。
そして覇王流を学ぶため大洗を目指す凛祢。
戦いの先にある運命とは……。
感想や意見も募集中です。
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第22話 リンカーネーションメモリアル・後編

どうもUNIMITESです
リアルが忙しくて前回の投稿から一か月ほど経ってしまいました。
申し訳ありません。
凛祢の記録編も最後です。
では本編をどうぞ


~決別する超人、空白の二年間~

 

 ようやく茨城県大洗町に到着した凛祢と鞠菜は早足に目的地を目指した。

 鞠菜の後を追うように歩み、木製の古めかしくも広そうな建物の前で足を止める。

「ここだ。昔から何も変わっていないな」

 そう言って門をくぐると凛祢も続くように門をくぐる。

 そして玄関のインターフォンを押すと、数秒ほどして扉を開け優しそうなおばさんが現れる。

「あら鞠菜さん。珍しいわねウチに来るなんて」

「お久しぶりです麗子さん。玄十郎さんいらっしゃいますか?」

「ええ。入って入って」

 麗子という女性に案内され鞠菜は中に入る。

「ん?鞠菜さん、いつ子供産んだの?」

「私の子じゃないですよ。まだ結婚もしてないんですから。養子の凛祢です」

「あら、そうなの。鞠菜さんとあまり似てないと思って……凛祢くんも入って」

 凛祢も言われるまま家にお邪魔し、畳部屋に案内される。

 数分ほどで照月流の師範である照月玄十郎が現れた。

 鞠菜の説明通り見た目の威圧感が凄い。

「周防、お前がわざわざここにくるとは何用だ?」

「そんな怖い顔で睨むなって。こいつは私の養子の周防凛祢だ、覇王流格闘術を皆伝してやってほしい」

「鞠菜、我が家の流派はそう軽々と皆伝してやるほど安くはない。それに養子だと言ったが、どこの馬の骨かわからないボウズに皆伝してやる義理もないぞ」

「馬の骨ねぇ。今年の全国大会、黒鉄の新入生に歩兵道でも目立った成績を残した生徒がいるのは知っているだろ?それはこいつだ」

「……ほう」

 玄十郎は鞠菜の話を聞いて再び凛祢に視線を向ける。

 凛祢も正座したまま視線を向けた。

「別にこいつが覇王流の絶技を取得できる保証はない。でも一度だけ見てやってほしんだ。頼む」

 鞠菜は頭を畳に押し付けるように頭を下げた。

 そう、土下座をしているのだ。

 彼女の性格から他人のために頭を下げるなんて信じられなかった。

 でも彼女は自分のために頭を下げている。

「凛祢とか言ったな。おぬしは何故拳を鍛える?」

「それはなぜ格闘術で戦うのか、ということでしょうか?」

「歩兵道であれば銃や刀、武器があるであろう?なのにおぬしはなぜ拳を、格闘術という「武術」を覚えることを決めた?」

「それは……」

 凛祢は言葉が出なかった。

 何のために拳を鍛えるのか。それは強くあるため。

「格闘術を学ぶことで得られる強さがあると思うからです」

「その答えは0点だ。お前は流派がどんなに重いものかわかっていない」

 玄十郎は否定するように言い放つ。

「……じゃあ、その流派ってなんなんですか?」

「武術に限った話ではないが流派とは人とのつながりの形だ。どんな墓よりも強固に受け継がれていく。受け継がれた者がいる限りな」

「人とのつながり……」

 凛祢は復唱すると少し考えるように視線を影に落とした。

 そんな感情論の様なことを言われても正直ピンと来ない。

「おぬしは鞠菜の戦闘術を受け継いだのだろう?それもお前たちのつながりあってこそだ」

「おい、それで凛祢に格闘術を教える気はあるのか?」

「まあ、いいだろう。お前が土下座したくらいだ。どんな形になろうと最後まで面倒を見てやろう」

 鞠菜の言葉に玄十郎は返答する。

 結果的に格闘術を教えてはくれるようだ。

 少し安心したように胸を撫でおろした。

 それから長期休暇の間は大洗町に滞在することになった凛祢は休暇が終わるまでひたすら格闘術の修行に取り組んだ。

 格闘術とはただ強い拳、蹴りを放つためのものだと思っていたが全然違った。

 この覇王流格闘術もそうだ。

 拳には信念を乗せるものだって玄十郎は言っていた。

 休暇が終わるまでの短期間で使える技を数個だけ取得することはできた。

 気が付けば山梨に帰還する日になっていた。

「もう帰っちゃうのね凛祢くん」

「凛祢。定期的に大洗にこい。まだまだ修行を積む必要がある」

「はい、わかりました」

 玄十郎の言葉を聞いて凛祢は返事をすると鞠菜と共に歩き出す。

「どうだった?」

「うん。まだまだ足りないけど。少しはマシになったと思う」

 覇王流格闘術は歩兵道用に改良された技もあるらしい。

 それでも、いつか絶技の「無拍子」って技を取得するのが目標だった。

「でもあの鞠菜さんがよく頭を下げたわね玄十郎さん」

「鞠菜の体は、そう長くは持たんのだ」

「え?そうなんですか!?」

 凛祢たちの背中を見つめ、玄十郎は呟いた。その言葉に麗子も驚く。

「あいつなりにあの少年、凛祢に何かを残してやろうと必死なのだろう……持ってあと一年、早ければ半年だと聞いている」

「玄十郎さんはそれを知ったから凛祢くんに覇王流を?」

「……ただの気まぐれじゃ」

 玄十郎はそう言って振り返ると、ちょうど帰宅した少女の姿があった。

「帰ったのか英子」

「うん。お爺様あの人は?」

「凛祢という男だ。年は英子の一つ下だったな」

「ふーん……凛祢ねぇ」

 2人が家の中に入っていくが英子は凛祢の後姿を見つめていた。

 

 

 そして、長期休暇も終わり凛祢が黒鉄中学校の学園艦に再び帰還する日を迎える。

 港には凛祢や聖羅、司の他にも見送りに来ていた鞠菜と聖菜の姿がある。

「もう帰っちゃうんですか?お兄ちゃん、司さん、凛祢さん」

「永遠の別れでもあるまいし、そんな顔するなよ」

 聖羅は聖菜の名残惜しそうな様子を見て、思わず呟いた。

「だってー……」

「聖菜さんも来年には黒鉄に入学するんですからそれまでの辛抱ですよ」

「うー、わかりました……」

 司が優しく笑みを浮かべると聖菜は小さな子供の様に返事をする。

 そんな様子を横目に見つめ、凛祢は鞠菜に視線を向けた。

「鞠菜、体には気をつけてよ。もう昔とは違うんだから」

「わかってるっつーの。心配し過ぎだ」

 凛祢の言葉に鞠菜は仁王立ちしたまま笑って見せた。

 本人はそう言っているが正直心配だ。

 鞠菜の体はもうボロボロなのだ。過去の戦場での戦いで負った傷が原因だそうだが……。

 そのせいで半年前から歩兵道の教官としての仕事もやめてしまったようだから。

「凛祢。がんばれよ」

「うん。じゃあ行くよ。朱音にもよろしく言っておいてくれ」

 凛祢は短く別れの言葉を告げると、聖羅たちと共に学園艦に乗り込んだ。

 

 

 夏が終わり、いつもと変わらない歩兵道という戦場で戦う日々。

 そんな日常が続いて黒鉄の歩兵道は少しづつ変わり始めていた。

 凛祢や聖羅、司は個々の実力によってチーム内で目立ち始める。

 突撃兵であった3人も、ようやく自分の戦い方を見つけて転科することとなった。

 黒鉄が強くあるために、勝利するためにと。

 射撃と近接戦闘どちらにも対応できる聖羅と司は砲兵と狙撃兵へ。そして近距離戦闘、CQC戦闘に特化していた凛祢は工兵へ転科した。

 すぐに工兵、砲兵免許を取得して実戦に対応た。

 時は過ぎて凛祢たちも2年生に進級する。

 その頃には黒鉄の名はより歩兵道界に広まっていた。そして超人、周防凛祢の名も。

 5月。凛祢は次の全国大会に向けて本土の大洗町、照月家で格闘技の修行を受けていた。

 半年以上修行を受けてようやく形になってきた覇王流格闘術。

「はっ!」

 凛祢が流星掌打を放つと、玄十郎は攻撃を左手で弾き、カウンターの流星掌打を打ち込む。

 腹部の痛みに凛祢は膝をついてうずくまる。

「どうした?さっさと立たんか!」

「……容赦なさすぎでしょ。普通にカウンターしておいて」

「『震電返し』は見切りが重要なカウンター技だからな……」

 玄十郎は仁王立ちしてそう言った。

 覇王鉄槌・震電返し。覇王流の中でも唯一のカウンター技だ。敵の攻撃と共に拳や掌打を見舞ったりはじき返すことで防御したりもできる。これはナイフ戦闘や格闘と言った近接戦闘でしか有効ではないが。玄十郎の言う通り見切りが重要な技でもある。

 こんな男が鞠菜の師匠なんて最初は驚きだったが、今となってはそれも分かる気がする。

 この人は強い。歩兵道をしていたとは聞いていたが、予想以上に強かった。

 今こうして自分が畳に膝をついているのがいい証拠だ。

「まあ、格闘技のセンスはなかったと言えばそれで終わりだがどうする?」

「続けますよ。俺は強くなりたいから……」

「凛祢よ……どうしてそこまでして強くあろうとする?」

 玄十郎は凛祢に問い掛ける。

 その質問に凛祢も少し考えると口を開いた。

「歩兵道が好きだからだと思います……俺にできる事はこれだけですから」

「ほう……悪くない答えだがいいとも言えない答えだな」

「そうですか?ただ好きだってことに打ち込むのはいいことだと思うんですけど」

 玄十郎の言葉に凛祢は少し不満気に呟いた。

 その時は知る由もなかった。この先、あんな事になるなんて。

 

 

 迎えた全国大会。予想通り黒鉄中学は順調に勝ち進んでいた。

 決勝戦の対戦カードは去年と同じ黒鉄中学と赤山中学。

 戦力にも実力も拮抗する中、凛祢は戦場で再びアルベルトと対峙していた。

「久しいな。超人いや、周防。まさか工兵になっていたとは」

「アルベルト……そっちは自動拳銃じゃなくなったんだな」

 2人はお互いの変化を確認して、笑みを浮かべる。

 現に1年前とは違い凛祢は工兵に、アルベルトは使用武器が自動拳銃トカレフから回転式拳銃ナガンM1895に変わっていた。

「お前が言ったんだろ。俺にはリボルバーが向いていると。だからそうしたまでだ」

「敵の言葉を信じるなんて、その内、悪い女に騙されますよ」

「ふん!言ってろ!」

 凛祢とアルベルトは戦闘前の緊張感の中で言葉を交わす。

「「勝つのは……俺だ!」」

 その言葉を合図に、2人の戦闘が開始される。

 アルベルトの早撃ちと跳弾による射撃センスは凛祢を遥かに上回っている。だが、凛祢もまた近接戦闘に持ち込めばアルベルトを上回っていた。

 跳弾による攻撃を才能である直感で回避する。

 そして、12発目の銃弾を回避して凛祢は再び接近する。

 地面を撫でるように右手のコンバットナイフで切り上げる。

 アルベルトもまた攻撃を紙一重で回避した。

 瞬時に凛祢は銃口を向けようとするがナガンを持つ右手でブロックする。

「くっ!」

「ふっ!」

 2人の攻防が続き、凛祢がアルベルトの腹部を蹴り飛ばして距離が開く。

「はぁ、はぁ」

「やはり一筋縄では勝たせてくれないか」

 息を切らしている凛祢を見つめるアルベルトはナガンに6発銃弾を装填する。

 凛祢もルガー残弾を計算する。残りは3発。

「アルベルトの跳弾を完全に回避する事はできない。だが、撃たせなければ!」

 凛祢は再び接近するために走り出す。

 アルベルトがナガンを構えるとお互い引き金を引いた。

 数発の銃弾が空で激突し銃弾がはじける。

「はっ!」

 凛祢はアルベルトの足目掛けて覇王流紫電脚を放つ。

 瞬時に流星掌打を見舞う。

「ぐっ!」

 態勢を崩したアルベルトの上に馬乗りになる。

「俺の勝ちだ……」

「……」

 凛祢が静かに呟くがアルベルトは笑みを浮かべていた。

「……!」

 凛祢は直感的に危機を察知し、アルベルトから離れた。

 一瞬遅れて銃弾がアルベルトの上を統べる。

「……ちっ!」

「サンキュー、エレン」

 アルベルトは体を起こすと茂みから歩兵が現れる。

「くそ……2対1では不利か」

 凛祢がそう思った時だった。

 サイレンと共にアナウンスがフィールド全体に響き渡る。

「黒鉄中学校隊長、萩風司くん戦闘不能!よって赤山中学校の勝利!」

 凛祢とアルベルト、エレン3人は同時に顔を見合わせる。

「勝ったのか……俺たち?」

「そうなんじゃないか?」

 アルベルトはエレンと言葉を交わすとナガンをホルスターに差し込んだ。

「負けた……でも仕方ないか」

 凛祢もルガ―をホルスターに収納して、大きく息を吐いた。

「周防、結果的には俺たちが勝ったが、まだお前には勝っていない。次会うときは俺がお前という超人を屠ってやる」

「負けるつもりはないよ……アルベルト、その名前は憶えておきます」

 凛祢とアルベルトはお互いを好敵手として認め合うように拳をぶつけ合うとそれぞれの陣地に帰還していった。

 十数分ほどで陣地に戻るとチームがざわついていることに気づく。

「龍治、何かあったのか?」

「凛祢!それが……」

 龍治は凛祢の顔を確認して説明する。

 話を聞いて人込みを進み聖羅と司の姿を確認した。

「ふざけんなよ!」

「止めてくれ聖羅!」

 聖羅と司の声が響く。

「なにやってんだよ聖羅!」

「うるせー!負けたんだぞ、俺たちは!」

「それは結果だろ!」

 割って入る様に聖羅の前に立ち、声を上げる。

「今更結果をどうこう言ってどうなるって言うんだ!」

「俺は……勝ち続けなくちゃならないんだ!」

 聖羅の叫びとその目を見て……感じていた違和感がようやくわかった。

 聖羅は、勝利の脅迫関連に狩られている。聖羅だけじゃない、自分たちもそれは同じだった。

 こんなのは歩兵道じゃない……ただの戦争じゃないか。

「聖羅、お前は間違ってる。こんなのは歩兵道じゃない」

「超人なんて呼ばれたお前に何がわかる!」

「……!」

 聖羅のその言葉が凛祢の中の何かを狂わせた。

 気が付けば逃げるように走り出していた。

「聖羅!なんであんなことを!」

「俺は勝利のためならどんな苦痛も、犠牲も厭わない。たとえ親友を切り捨てることになっても!」

 それが黒咲聖羅の歩兵道だった。

 勝利するために不必要な存在は切り捨てる。その先には何もないとも知らず。

 

 

 体力の限り走り続けて1時間が過ぎた頃だろうか。

 凛祢は右も左も分からない本土の地で小さな公園を発見していた。

 ゆっくりな足取りでベンチに座り込む。

「……」

 肩で息をする体を落ち着かせる。

 超人……周防凛祢という男の力を現す呼び名。その名前が嫌いだったわけではない。だが、この名前を求めるべきではなかったのかもしれない。

 仲間にまで恨まれるなら、強くなんてなりたくなかった。

「凛祢……」

「司……」

 凛祢の視線の先には司の姿があった。凛祢と同様に今まで走り回っていたのか、肩で息をしていることに気づく。

「教えてくれ。俺は、俺たちはなんのために歩兵道をやっていたんだ?」

「……」

「なあ、答えてくれ。勝利の先には一体何があるんだ!?」

「俺にもわからない。でも、今まで勝利するためだけに戦ってきたから。そうするしか……」

 司も答えたくなかったが、なんとか言葉をつなげる。

「やったよ、やったんだよ!必死に!その結果がこれなんだよ!超人と呼ばれて期待に応えようと戦った。なのに、超人だから勝つのは当たり前だと言われる。親友にまで言われてしまった。これ以上何をどうしろって言うんだ!」

 叫びを上げていた。

 戦って戦って戦い抜いたその先には何もなかった。今の黒鉄の歩兵道は力で敵をねじ伏せるだけの歩兵道だったのだ。 

 司も思わず視線を落とした。掛ける言葉もない。

「悪い司……」

「いや、俺こそ悪かった」

「いいよ……だけど俺はもう聖羅とは戦えない。決別するよ」

 凛祢はそう呟くと学園艦に向かって歩き出した

 司もまた何も言わず後を追った。

 

 

 全国大会から2週間後、凛祢は黒鉄の学園艦から転校することとなった。

「凛祢……」

「……」

 学園艦を去る日、凛祢の元には司、ビスマルク、グラーフの姿があった。

「本当に転校しちまうのか?」

「残るべきだよ凛祢。君がいなきゃ黒鉄は」

 ビスマルクとグラーフは呟いた。

「いや、ここに居たらきっと歩兵道がらみで問題が起きる」

「だから、俺は去るべきなんだ。ごめんビスマルク、グラーフ。黒森峰への推薦を無くしちゃって」

 凛祢は頭を下げた。

 黒森峰は高校における歩兵道と戦車道の優秀な高校であり、聖羅やグラーフたちが推薦を考えていた学校なのだ。

「そんなの気にすんなよ!お前がいなければそもそも推薦の話すら来なかったっての!」

「ビスマルクの言う通りだ。きみがいたから僕たちはここまでこれたんだよ」

 2人は感謝するように凛祢に声を掛けた。

「司、龍治は?」

「聖羅のところに行っているよ……」

「そうか……じゃあな」

 凛祢はまとめ終えた荷物を持つと寮を出る。

「ああ……さらばだ戦友よ」

 司も一言残して後は何も言わなかった。

「凛祢くん……」

「ミッコ、ミカ。それに聖菜」

 港で転校する学園艦を待っているとミッコが現れる。隣にはミカと聖菜の姿もある。

「凛祢くん。本当に転校しちゃうんだ」

「凛祢さん、いっちゃやですよ」

「悪い、元気でな」

 2人を見て凛祢は笑みを浮かべる。

 するとミカがカンテレを鳴らして呟いた。

「さよならは悲しい言葉じゃない。また会おうという約束さ」

 言葉の意味があっているのかは知らないが、言う通りだった気がした。

 2人もようやく決心がついたのか凛祢を見た。

「うん、さよなら凛祢くん」

「さよなら凛祢さん」

「さよなら」

 凛祢たちも最後の言葉を交わすとミカが最後にもう一度カンテレを鳴らした。

 

 

 そして転校先の翠緑中学で凛祢は再び歩兵道をすることはなかった。

 少しだけ戦場から離れたかった。

 しかし、そんな凛祢を悲劇が襲う。

 教室で授業を聞いていたある日、勢いよく教室の扉が開かれた。

 生徒全員の視線が扉を開け放った教員に向く。

「周防。鞠菜さんが倒れたそうだ」

「え?」

 凛祢は告げられた言葉を理解できなかった。

 いや、正確には頭が理解を拒んだのだ。

 凛祢に伝えられた話は3つ。

 鞠菜が倒れたということの説明。

 自分が本土に帰国するためのヘリが向かっていること。

 そして彼女の時間がもう長くないと言うこと。

 そんなはずない。必死にそう思い続けた。

 もう長くない?どういう意味だ?

 鞠菜の体が悪くなっていたのは知っていた。隠していたが朱音との話を聞いてしまったから。

 病気の種類は静脈血栓の類だと朱音は言っていた。それがどんなものなのかは知らないが昔、銃で撃たれたことが原因で、その後遺症が数年をかけて進行していたらしい。

 でも、どうしていまなんだ。

 少なからず分かっていた、手足が震えることがあると言っていたし、片目の視力も失いつつあった。

 それが脳幹付近にできた血栓が原因だったのかもしれない。

 だが、鞠菜は言った。大丈夫だ、と。それ風邪や傷のように直るかもしれないって思ってた。

 病院にも通っていたようだし、定期的に治療も受けていた。

 だが、彼女は自分の治療よりも凛祢と居ることを、何かを残してやろうと必死にだったのだ。

 自分にとって周防凛祢という少年は血のつながりはなくとも本当の家族だったから。

 ヘリを使って本土の山梨に戻った凛祢はただただ山中の小屋を目指した。

 全力疾走して心臓が張り裂けそうだったが、止まれなかった。

 扉を開け放ち家に入る凛祢。

「凛祢……」

「朱音、鞠菜は?」

「1週間前からずっと、寝たきりよ」

「そうか」

 朱音の表情から容体は相当悪いことが理解できた。

 静かに鞠菜の部屋に入ると、そこにはただ冷たい空気が漂っている。

 ベッドには鞠菜が1人静かに目を閉じている。

 ただただ眠る女にしか見えない。

「ただいま、鞠菜。今帰ったよ」

 凛祢のそんな声に反応すると、ゆっくりと瞼を開けた。

「……り、んね」

 力なく開かれた目で、じっと凛祢を見つめる鞠菜は静かに手を伸ばす。

 何も言わずその手を取った。その手は予想よりもずっと冷たい手をしていた。

 自分の知る鞠菜の手ではないような。

「おかえり、凛祢……」

 枯れたような声を聞いて、再び心が引き裂かれる思いだった。

 かつて、軍人として名を馳せ、歩兵道でも一流と呼ばれた教官「周防鞠菜」ではない様だった。

 いつだって滅茶苦茶な事を言って周りを巻き込んでいた女。

「鞠菜……俺はまだ恩返ししてない。まだ返すものを返してないのにいなくなるのか……?」

「ああ……」

「もう、どうにもならないのか?」

「ああ、何年も前から、こうなることはわかってた」

 鞠菜はかすれたような声で答える。

 凛祢は手に力を込めた。

「俺には、何もできないのか?」

「お前にはお前のやるべきことがある。お前はもう自分で道を決められる、私はそう育ててやったんだから」

「まだ、わからないよ。俺のやるべきことなんて……」

 凛祢は再び手に力を込めた。それでも鞠菜の表情は変化しない。

 こんな痛みの感覚も、もう……。

「いいか、凛祢。人間ってのは永遠じゃない。だれでもいつか死ぬものなんだ」

「分かってる……でも、俺は」

「泣くなよ、凛祢」

「今くらいは泣いてもいいだろ……」

 一筋の涙が頬を伝う。

 それでも声をこらえる。今声をあげて泣けばきっともう止まらなくなるから。

「凛祢、私はお前に何もしてやれなかったな」

「そんな、ことない。俺にこんなにもたくさんのものをくれた!」

 凛祢も必死に言葉をつなげる。

 歩兵道の技術だって、この家も、この名前も。全部鞠菜がくれたものだから。

「私はもう……」

「弱気なことを言うな。俺の命は鞠菜が暮れたものだ、なのに……」

「私はもう十分生きたんだ。お前も私じゃなく自分のため、そして誰かのために、そうだな。好きな女とかの生きればいい」

 鞠菜はうつろな目で天井を見上げるとそんな言葉をこぼした。

「……」

 言葉が出ない。でも、そんな冗談を言えるならきっとまだ……。

「凛祢。すこし疲れたな。もう寝てもいいか……?」

「……ああ、おやすみ鞠菜」

「り、んね、私はお前を本当に愛してた……」

「……!」

 それが彼女のくれた、最初で最後の「愛している」という愛の言葉だった。

 瞼を閉じて、眠りに落ちた鞠菜は結局そのまま2度と目を覚まさなかった。

 周防鞠菜の葬式に参加したのは数人の親族と、凛祢、朱音、そして長い付き合いだったと言う照月家の人間だけ。

 鞠菜の死体が焼かれて骨になった頃でも凛祢は気力を失って、抜け殻になったまま。

 翠緑中学の学園艦に帰還することになってもそれは変わることはない。

 凛祢はまるで孤児院に居た時の様に死んだような顔で日々を過ごしていた。

 鞠菜の死後、超人周防凛祢が歩兵道の表舞台に現れることはなかった。2年後の西住みほと出会う日までは。

 歩兵道も、親友も、そして家族同然でありすべてであった鞠菜も失ってしまったのだ。

 そんな状態のまま凛祢は転校先で中学生活を終えて、朱音の昔通っていたという大洗学園艦の大男子学園に進学することとなる。

 きっと、あの選択は間違いだったのだ。あの時選択を間違えなければ、もっとマシな答えに至っていたかもしれない

 今も聖羅という男は「勝利の脅迫関連」に突き動かされている。あいつがああなったのはあいつだけの責任じゃない。

 判断を間違えたのだ。聖羅の歩兵道に背を向けるしかできなかった。

 そして時は大洗学園艦の現在へ――。

 あの日、西住みほという少女とこのガレージで出会ったんだ。




今回も読んでいただきありがとうございます。
これにて凛祢の記録編は終了です。
次回からは今まで通り、本編を投稿します。
質問、意見は募集中です。


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第23話 誰がために

あけましておめでとうございます。
どうもUNIMITESです。
今回から本編です。
準決勝(オリジナル)に入るので至らないところもあるかもしれませんがではどうぞ。


凛祢は再び顔を上げて目の前に立つ西住みほに視線を向けた。

「これが俺の、超人周防の過去だ。今思えば俺は逃げたのかもしれない。聖羅の歩兵道を見ていられなくて」

「凛祢さん……」

「間違いだったんだ。俺の選択は……あの日聖羅を正してやれなかった」

 凛祢は俯いたまま呟いた。

 朱音に勧められた歩兵道のない高校へと入学して、周防から葛城に名前も変わり凛祢は大洗学園艦にたどり着いた。

 もう分からなかったのだ。何を思って歩兵道をすればいいのか。戦う理由も信念も無くした。

 超人なんて呼ばれるべきじゃなかったんだ。

 こんなことになるなら歩兵道なんて……。

「間違ってはいなかったと思います。失敗はしたかもしれません……ですが凛祢さんは間違っていなかったと思います!」

「みほ……」

 凛祢は少し驚きながら視線を向けた。

 みほは言葉を続ける。

「初めてあったとき、凛祢さん言いましたよね。『無理に戦車に乗ること無い』って。私嬉しかったんです。あんな風に言ってもらえて。私は戦車道が好きだったから戦車に乗ることを決めました。じゃあ凛祢さんはどうして?!」

「そ、それは……」

 再び口籠りながらも言葉を絞り出す。

 どうして、今自分はここにいる?

 それは、会長たちにああ言われたから仕方なく……。

『……それは嘘だ』

 自分の中の誰かがそう言った気がした。

「凛祢さんにとって歩兵道は何だったんですか!?」

 みほは再び声を上げる。

 葛城凛祢はどうして……歩兵道をすることを選んだ?

 過去の栄光だったから?  違う

 恩師である鞠菜との唯一のつながりだったから?  違う!

 才能に恵まれ、超人と呼ばれていたから?  違う!!

 自分自身が歩兵道の戦場を欲したから。

 そうさ、答えはいつだって、ここ(心)にあった。

 あの日まだ孤児院にいた頃の、亜凜という少年の時からの思いが今でも心に残っていたから。

「俺自身が歩兵道を好きだったから……たとえ歩兵道で何もかも失った今でも、この手で歩兵道することだけはできたから」

「そうですよ!私たちは形は違えど同じように戦車道と歩兵道で気持ちを失ってしまいました。でも、今は確かに戦車道と歩兵道で得た物があります!私、凛祢さんに出会えて本当に良かったと思っているんです」

 みほは真剣な表情で凛祢を見つめる。

 そうか。こんな簡単な答えだったのか。

 自分を偽ることはできない。好きだって思いは凛祢が持ち続けた思いだったから。

 鞠菜がいたなら……いやもうこんな風に考えるのはやめよう。

 彼女はもういないのだから。

 自分自身、凛祢の、本当の願いと信念に従う。

 リトルインファンタリーの頃の楽しかった歩兵道がいつまでも続いてほしいという少年の願い。

 そして、目の前にいる誰かを孤独にはさせないという信念。

 孤独の辛さは自分が一番よく知っているから。

 答えはそれだけでいい。

「やっぱり優しいんだな、みほは。そんな君だったから……俺は好きになったのかもしれないな」

「え?え!?凛祢さん、す、好きって!」

「ああ、みほのこと……好きだ」

 凛祢はみほを見つめて思いを打ち明ける。

「そんな、私なんて!えーー!?」

 みほはそんな声にならない声を上げて赤面していた。

 凛祢もまた恥ずかしそうに頬を赤くしていた。

 しばらくお互いに言葉も交わさずにいたが、ようやく凛祢が口を開いた。

「みほ……」

「な、なんでしょうか?」

「ありがとう。答えは得たよ」

 凛祢は拳を強く握りしめた。

 超人周防はもういない。今ここにいるのは周防鞠菜と葛城朱音に育てられた葛城凛祢という男だ。

 超人には戻らない。みほと……この学園のみんなとならどんな道でも歩いて行ける気がする。

 彼女は自分を受け入れてくれたから。

「そうですか。凛祢さん一つだけ聞いていいですか?」

「ん?」

「歩兵道をするのは辛くはありませんか?」

「ああ、むしろみほたちと戦場に立てて凄い楽しいと思ってる」

 凛祢が笑みを浮かべて呟くとみほも優しく微笑んでいた。

「私も凛祢さんの事が好きです。これからも傍にいてくれますか?」

「当たり前だ。俺は絶対守り抜いて見せるよみほも……この学園も」

 2人は最後にもう一度言葉を交わした。

 

 

 翌日、朝早く病院での手続きを終え凛祢は通学路を歩いていた。

 昨日の事を思い出すと今でも顔が熱くなる。

 告白したとはいえ、みほと付き合うことになったと思っていいのかな。

 鞠菜。ようやく見つけたよ、好きな女ってのを。

 西住みほのために戦う。それだけでいいんだよな。

「凛祢さん、おはようございます!」

「みほ。おはよう」

 後方からの声に振り返るとみほの姿があった。

 凛祢も挨拶を返し、2人で通学路を歩き出す。

 歩き初めてから先に口を開いたのはみほだった。

「もう体は大丈夫なんですか?」

「まあ、丈夫だからな。昔から……そう言えば準決勝の対戦校ってどこなんだ?」

「えっと、今日にはわかるって会長たちが言ってました」

「そうなのか……」

 凛祢は考え込むように右手を顎に当てた。

 そもそも準決勝だから残っているのは残り大洗連合を含めて4校。

 1校は黒森峰連合だから。残りは2校か。

 まあ、最近まで歩兵道をしていなかったから予想なんて無意味だけど。

 大洗連合だってプラウダ&ファークト連合を下している。その結果だって連盟や文科省からすれば、すでに大番狂わせだろうからな。

「凛祢さん」

「ん?」

「もう無理はしないでくださいね。全国大会が始まってから凛祢さん全試合戦死してますよね?」

「あー、そういえば……そうだな」

 みほの言葉に凛祢はこれまでの試合を思い出す。

 確かに彼女の言う通り、この全国大会が始まってから全試合戦死判定を受けていた。アルベルトの時は気絶してしまったんだが。

 それは自分がメッザルーナやアルベルトといった強敵を相手にしてきたからだろう。

「まあ、次くらいは生存できるようにする。じゃあまた歩兵道と戦車道の授業でな」

「はい!」

 凛祢はみほと別れ、大洗男子学園に向かった。

 午前の授業を終えて、凛祢たちはいつものように学食に集まっている。

「凛祢、朝のあれはなんだ!」

「は?」

 八尋の叫びに凛祢はキョトンとした顔を浮かべていた。

「なんで西住さんと2人で登校していたんだ!あんな楽しそうに!」

「お前、見てたのか?」

「悪い凛祢。俺も見てた」

 凛祢が問い掛けると翼も箸を動かしながら呟いた。

「凛祢殿って、西住殿と付き合ってたんじゃないんですか?」

「おい、なんだそれ!初耳だぞ!」

 塁が言うと八尋は再び声を上げる。

「いや塁まで何言ってんだよ。それどこ情報だ?」

「うるせーぞ、八尋!黙って飯食えよ」

 痺れを切らした俊也はうどんを飲み込み、八尋を睨みつける。

「……だってよ!歩兵道やってんのに俺だってまだモテてないし!」

「八尋、とりあえず落ち着けって。次の授業は歩兵道だからさっさと飯を食え。午後持たないぞ」

「うー!なんでや!」

 翼の言葉に八尋は半泣きで声を上げると日替わり定食を食べ始める。

「まったく……なんでこんなことに」

 凛祢は深々とため息をついた。

 

 

 そして、午後。戦車道と歩兵道の授業を履修している生徒たちは大洗女子学園の多目的教室に集められていた。

 ワニさん分隊にアーサーの姿はあるがシャーロックの姿はない。やはりまだ病院なのだろう

「で、今日はなんだってこんなとこに集められたんだ?」

「さあな……会長たちからなんか報告あるんじゃないか?」

「うーん、報告って言われても対戦相手を知らせるならガレージでもいいわけですし……」

「どうでもいいよ。そんなこと……ふぁぁ」

 ようやく落ち着いた八尋や翼とは異なり俊也はいつもの様にけだるそうにあくびをしていた。

「凛祢殿はどう思いますか?」

「どうって言われてもな……」

 凛祢だって何も聞かされていない。

 この状況では何も分からなかった。

 その時だった。

「全員集まったな!それぞれ席に着け」

「これより次の準決勝に向けての作戦会議と今後の方針を知らせる」

 広報の雄二と桃がマイクを手にそう言うと室内の照明が暗くなり始め、正面にスクリーンが現れる。

 すると投影機が映像を映し出す。

 スクリーンに映っていたのは照月敦子だった。

「大洗のみんな。こんな形で話を伝えることになって済まない。まずは準決勝進出おめでとう。大洗連合がプラウダ&ファークト連合に勝ったことは正直予想外だった。だが、君たちが本当に優勝を目指すのならば今のままでは駄目だ」

 スクリーンに映る映像の敦子は真剣な眼差しでそう言った。

 この場にいる誰もが緊張感を感じながらその話を聞いていた。

「今のままじゃ駄目……?」

 凛祢は静かにそう呟いた。

 凛祢だけでなく他の者たちも同じ疑問を感じていただろう。

「今お前たちは何故?と思っているだろう。今の大洗連合は西住みほ、そして葛城凛祢の戦術、実力の元になんとか勝利してきたからだ。今のまま戦えば大洗連合は確実に次の準決勝で敗北することになる」

「っ!」

 敦子からの言葉に凛祢は奥歯を噛みしめた。

 確かに言う通りかもしれないが、なぜ彼女がそんな言い方をするのかわからなかった。

「だからこそ大洗連合全員が強くなる必要がある。大丈夫だお前たちは強くなれる。1人1人が強くあろうとすれば必ずな。君たちの勝利を願っている」

 その言葉を残して映像は終わる。

「みんな、おねえ……照月教官は私たちならできると言ってるの。だからわざわざこんな形でも伝えようとしたんだと私は思うの」

「まあ、いつまでも凛祢たちに頼りきりってな訳にもいかねーよな」

「そうね。私たちも強くならないと」

 英子の言葉にオオカミチームの2人も続くように発言する。

 この場にいた全員も同じ思いだった。

「次に準決勝の対戦校を発表します」

「次の対戦校は……継続&冬樹連合です」

 副会長の宗司と柚子が発表する。

 再び投影機が映像を映し出す。そこには継続高校と冬樹学園の情報が写っていた。

「継続高校に冬樹学園か……」

「なんだ知ってんのか?」

「いや、よくは知らないよ……」

 凛祢の表情を見て、八尋が問い掛けるがため息交じりに返答した。

 そもそも全国大会でもそんなに名前を聞かないし。自分が知っているのは黒森峰とファークトくらいなものだ。でも確か……。

「保有戦車はこれらが確認されています」

 スクリーンにはBT-42の他、Ⅲ号突撃砲G型、Ⅳ号戦車J型、T-34/76、T-34/85、T-26軽戦車、BT-5、BT-7、T-28中戦車、KV-1が映し出されている。

「ドイツのもあるけど、なんかロシアの戦車ばかりだね。プラウダみたい」

「プラウダよりも戦車は少ないけど隊長さんが優秀な人だから。凛祢さんもご存じなんじゃないですか?」

「え?ああ、まあ一様は知ってるかな……?」

 不意にみほから掛けられた言葉に一瞬戸惑う凛祢。

 くそ、落ち着け……。

「凛祢さん?」

「いや大丈夫だ。確かに継続の隊長……ミカは優秀な人だったな。あと操縦手のミッコはよく知ってる」

 凛祢は答えると再びスクリーンに視線を向ける。

 するとスクリーンが切り替わり、冬樹学園の情報を映し出す。

 アサルトライフル『Rk 62』、狙撃銃『SAKO TRG』、短機関銃『スオミKP-31』、対戦車銃『ラハティL-39』、自動拳銃『ラハティL-35』の他にプラウダでも使われていた銃火器が数種類ほど映し出されていた。

「確か、黒鉄中学出身の生徒がいたはずです……」

「黒鉄中学?塁、なんだよそれ?」

 いつの間に調べていた知らないが塁はいつもの様にメモ帳に視線を落としていた。

 その様子を見て気になったのか翼が声を掛ける。

「えっと……中学でもそれなりに結果を残していた学校です。凛祢殿も2年間は黒鉄に居たんです」

「ふーん。じゃあ凛祢の知り合いかもしれないってことか?」

 八尋も続けて問い掛ける。

「どうでしょうか?もう少し時間があるので調べてみますね」

「ふーん。正直どうでもいい」

 塁の説明に俊也はいつも通り興味なさそうに返事をしていた。

「次はいよいよ準決勝だ!」

「あと2試合……」

 桃に続いて雄二も緊張しているのか小さく呟いた。

「継続&冬樹連合は強敵だろうけどみんな頑張ろうねー」

「おいおい、相変わらずテキトーだな杏会長……結果的は俺たちはここまできた。あとは準決勝と決勝戦だけだ!」

「はい!」

 杏や英治も全員に視線を向けてそう言った。凛祢や他の生徒たちも大きく返事をした。

 その頃、ガレージ内では自動車部の4人と整備部の3人が作業を進めていた。

「なんじゃこりゃー!?」

 ヒムロの声がガレージ内に響きわたり他の5人の視線が集まる。

「どうしたのヒムロ?」

「どうしたじゃねー!なんだよ、これ!」

 ヒムロの手には刀身が折れ、3分の1程度にまで短くなった鋼鉄刀剣『カリバーン』があった。

 足元には試合会場で集めてきたのか、折れた刀身の残骸の姿がある。

「あー、ファークトが使ってたデグチャレフの弾を受けて折れちゃったんだって」

「はー!?これ作るの大変だったんだぞ……」

 ヤガミが答えるとヒムロは無残にも折れたカリバーンに視線を落とす。

「直せそう?」

「できるわけねーだろ。新しいの造るしかねーか……でも材料もないしどうすっかなー。準決勝まで作り直すのは絶対無理だし」

「そっかー」

 ヒムロとヤガミは思わずため息をついた。

 その時、ガレージ内の扉が開かれる。

 制服姿の男女の姿があった。しかし大洗の制服ではない。

 2人の元に歩いていくと聖グロと聖ブリの制服であることに気づいた。

「あのここ、関係者以外は――」

 ヤガミが申し訳なさそうに言うと金髪の少女アッサムが隣にいたモルドレッドに視線を向ける。

「えっと……ほらモルドレッド!」

「うるせーな、分かってるよ!アーサーの剣を作ったのは誰だ?」

 アッサムに急かされモルドレッドはヤガミに問い掛ける。

「え……」

「俺だけど」

 ヒムロも顔を出して返答する。

 すると、モルドレッドは背負っていた細長いアタッシュケースに手を回す。

「……これ」

 そう言ってアタッシュケースを前に出す。

 そのアタッシュケースには2つの鉄鉱石が収納されていた。

「これって」

「前の対戦でアーサー・ペンドラゴンの剣は折れてしまったと聞きました」

「武器は流石に貸したり提供できない。でも鉱石なら別だ」

 ヤガミが鉄鉱石を見つめているとアッサムとモルドレッドは説明する。

「この鉄鉱石は俺やケンスロットの使っている剣と同じ鉱石だ。それを使って決勝までアーサーに一番いい剣を造ってやってください」

「うん、いい素材だ。フッ、いいだろう。カリバーンを越える剣を造ってやる」

「行くよアッサム」

 ヒムロは鉄鉱石を見つめると自信ありに返答する。

 するとモルドレッドも満足そうに笑みを浮かべ歩き始める。

「あ、モルドレッド!あの、私たちが来たことはご内密に」

「うん。ありがとうございます。可愛いお嬢さん」

 アッサムは頭を下げるとモルドレッドの後を追うように去って行った。

「変わった人たちだね。それにしても材料は手に入ったね!」

「そうだな。鍛冶も決勝には間に合うだろうから。あの戦車さっさと仕上げるぞ」

「うん」

 ヤガミとヒムロは再びガレージ内へと戻って行った。

 学園艦に戻る船に向かう道を歩いていたアッサムは大洗学園艦の病院に視線を向ける。

「良かったんですか?お兄さんに合わなくて」

「いいんだよ、別に」

 アッサムの言葉にモルドレッドはそっぽを向いた。

「はぁ。可愛くないですね」

「うっせー!……でも、アッサム。連れて来てくれてありがとう」

「……どういたしまして」

 そんな様子を見てアッサムは思わず笑みを浮かべる。

 2人はそのまま聖グロと聖ブリの学園艦に戻るのだった。そしてアッサムとモルドレッドが来た事を知るのは自動車部と整備部だけであった。

 

 

 陽が沈みかけてきた頃、本日の訓練を終えて凛祢は疲れを感じながら帰路をみほと歩いていた。

「凛祢さん、次の試合の作戦はどうしますか?」

「うーん。ほとんど偵察兵と突撃兵で固めてるからな……なあ、みほ。高校は全国大会中でも転科ってできるのか?」

「はい、問題ないと思います。でも、次の試合前日までに転科の書類を連盟に提出する条件がありますが……」

 みほの返答を聞いて凛祢はいつもの様に顎に手をあてて少し考える仕草を見せる。

「凛祢さん工兵から転科するんですか?」

「いや、俺じゃない。正直、工兵が俺1人じゃ限界を感じていたんだ。ウチには砲兵だって1人もいないわけだし」

「じゃあ、どうするんですか?確か工兵と砲兵って学科資格が必要なんですよね?」

 みほはの問い掛けに凛祢は頬を緩ませた。

「次の試合まであと約2週間。工兵と砲兵の資格を2人ずつ取らせる。工兵はあらかじめ仕込みが終わってる塁と翔でいいだろ。問題は砲兵だな……幸い九七式と一緒に見つけたダネルMGLがあるから武器は問題ないんだが、みほは誰を砲兵にするべきだと思う?」

「そうですね……」

 みほは考えるような仕草を見せる。

「……砲兵向きな歩兵かぁ。難しいよな」

 凛祢は帰路を歩きながら考え続けていた。

 みほを女子寮まで送り届け、凛祢は自宅に帰宅した。

 2日ぶりでしかないのに自宅が少し懐かしく感じていた。

 自室に鞄を置いて、制服から部屋着に着替える。

 畳部屋に向かうと室内の明かりがついていることに気づいた。

「朱音か?でも、戻って来るなんて聞いてないし……」

 少々緊張しながらも扉に手を掛ける。

 畳部屋の扉開けた時だった。

「な……」

 目の前に写る光景、いやこの場にいるはずのない人物に凛祢は驚きを隠せず思わず一歩後退した。

「帰ったか、凛祢」

「照月、玄十郎……なんで、ここに?」

 凛祢は途切れ途切れに言葉を呟いた。

 何が起きているのか分からないが。今の状況を説明する。

 この家、凛祢の自宅の畳部屋に何故か照月玄十郎がいる。しかも、お茶まで飲んでいると言う。

 鍵は朱音から借りたらしいが。なんで?

 なんだこの状況。

「まあ、座れ」

「は、はあ」

 玄十郎に言われるまま対面するように座る。

「次の試合までは2週間と言ったところか」

「……はい」

 凛祢は返答するように呟いた。

「この短期間であそこまでできるようになったか……凛祢、問おう。お前は何のために拳を揮う?」

「またその質問か。俺は自分の答えが間違っていなかったと証明するために拳を揮う」

 凛祢は玄十郎を見て、迷いのない目で言い放つ。

 そう、もう迷いはなかった。

「そうか。凛祢、これからはワシがお前の修行を見よう」

「な!」

 玄十郎の言葉に、思わず驚きの表情を浮かべる。

 疑いの視線を向けたまま口を開いた。

「……ど、どういう風の吹き回しだ?」

「不満か?」

「そうじゃない。前はセンスがないとか言って断ったじゃないか。今頃になってどうして……」

「ワシも観てみたくなった。お前と大洗の者たちの頂に立つ姿を……」

 玄十郎は鋭い視線を凛祢に向けた。

「それにお前は英子に戦車道をするきっかけを与えた」

「俺が……?」

「そうだ、感謝しているぞ」

 玄十郎は昔の鞠菜の様に頭を下げていた。

 正直、自分は英子に戦車道をするきっかけなんて与えた記憶はなかった。

 あれは英子自身が選んだ道だと思っていたからだ。

 でも、玄十郎の修行を受けない理由は今の自分にはなかった。

「わかった。もう一度俺に修行をつけてください。照月、師匠……」

「フッ。では今日から始めるぞ。さっさと準備せい!」

「え?今から!?勘弁してくれよ……」

 凛祢と玄十郎は修行を始めていくのだった。

 玄十郎は、しばらく本土には帰らず凛祢の家に宿泊するそうだ。

 とりあえず準決勝までの2週間修行を見るために。

 こっちとしてはありがたいのだが、麗子さんは大丈夫なのだろうか?

 そんな疑問を抱きながら翌日、凛祢はみほと共には大洗女子学園の生徒会室を訪れていた。

 生徒会室には大洗両校の生徒会役員と衛宮不知火の姿がある。

「――で、今日はどんな用件で呼び出したんですか?」

「次の試合まで時間ないからね。ところで葛城くん。例のあれ、できてる?」

 杏は小さな身を乗り出すように机に手をつき問い掛ける。

「はい……」

 凛祢は鞄を探り十数枚のプリントと資料を広げる。

 英治や宗司、不知火は興味深そうに資料を手に取り、目を通す。

 書類には凛祢が中学時代にまとめた学科ノート。

 そしてプリントは実際に過去に行われた過去試験問題だった。

「俺の方で少しはまとめてみました」

「スゲーな、これ。一日でまとめたのか?」

「うん。昨日からロクに寝てないけどね……」

 凛祢は俊也の様にあくびをして見せる。

「でも、誰が転科するか決めたんですか?」

「それなら問題ない。もう決めてある」

 みほの問いに雄二も資料に目を通して返答する。

「工兵は坂本塁と葉山翔。砲兵は……整備部のヤマケンと雄二だ」

「雄二先輩と整備部のヤマケンですか……それなら問題ないですね」

 英治の言葉に凛祢も頷き、賛成する。

「ところで、戦車は大丈夫なのか?」

「88㎜の戦車は今自動車部と整備部がレストアしてるみたいなんですが……」

 不知火が問い掛けると柚子は状況を説明する。

 その時、携帯端末の着信音が響いた。

 電話に答えたのは、小山柚子だった。

 5分ほど話して、電話を切ると笑みを浮かべて全員の顔を見つめる。

「レストア、終了しました!」

「「よし!!」」

 雄二と桃が息ぴったりにガッツポーズを取る。

 授業を終えて、凛祢たちが校庭のガレージに向かうと整備部の部長ヤガミこと八神大河、ヒムロこと氷室大地、ヤマケンこと山本健太の姿を発見する。

「おーい。こっちこっち!」

 マイナスドライバーを右手に持ったつなぎ服姿のヤガミが手を振る。

「大河、大地、ヤマケンおひさー」

「うん。不知火くんおひさー」

「お久しぶりです!」

「おお……」

 不知火の挨拶に笑顔で返答するヤガミやヤマケンとは裏腹にヒムロはそっけないように挨拶を交わす。

「大地ー、挨拶くらい――」

「出てきたぞ」

 ヒムロが呟くとガレージから重々しいエンジン音っを立ててそれは現れた。

 今まで見てきた大洗の保有する戦車とは違いそれには重量感のある分厚い装甲がある。

 そして88㎜にも及ぶ砲が車体から伸びていた。

「うわー凄ーい!」

「強そう!」

「おおー!!」

「これ、レア戦車なんですよねー!」

「マニアには堪らない逸品です!」

 1年生に続いて、優花里や塁も満面の笑みを浮かべている。

「「ぽ、る……」」

「「ポルシェ、ティーガー……!」」

 凛祢やみほだけでなく生徒会役員ですらも目の前に現れた戦車『ポルシェティーガー』の姿に驚いていた。

 ポルシェティーガー。ティーガーと名付けられている通りドイツ製の戦車であり、Ⅵ号戦車なんて呼ばれ方もしている。

 足回りのサスペンションとエンジン部に難があるため、ドイツ製の戦車を使っている黒森峰では絶対採用はしない車両だろうな。

 こちらとしてはポルシェティーガーでも十分戦力になるのだが。

 それにシャーロックとアーサーがああである以上、次の試合の戦力は足りなかった。

 整備部と自動車部が参戦してくれれば戦力はだいぶ立て直せる。

「おおー。これ重戦車だろ?勝ったも同然じゃね?」

「衛宮。よく見ろ」

「ん?」

 期待感を持つ不知火に現実を突きつけるように凛祢はポルシェティーガーを指さす。

「まあ欠点として、地面にめり込んだり、加熱して炎上したり壊れやすいのが難点ですが」

 さきほどまで快調だったポルシェティーガーはエンジン部を発火させる。

 サスペンションも数分の空回り後に切れ、転輪が地面を抉っている。

「あー!またかよ!もう何度目だ!?」

「はぁ。ヤマケン行くよ」

「了解です!」

 ヒムロはうんざりと言わんばかりにぐしゃぐしゃと髪を掻きながら声を上げる。

 ヤガミとヤマケンも慣れた手つきで消火活動を始めた。

「あちゃー、またやっちゃったー。おーい、ホシノー。消火器、消火器!」

「はいはーい」

 搭乗していたナカジマもエンジン部の発火に気づき、いそいそと消火活動にあたる。

「……こんな戦車で大丈夫か?」

「大丈夫だ。問題ない」

「本当に大丈夫なのか!?おい!目を逸らすな」

 苦笑いした英治の返答に不知火は思わず聞き返した。

「戦車と呼びたくない戦車だよね」

「同感だ」

 杏と英治が苦笑いする。

「で、でも足回りは弱いですが88㎜砲の威力は抜群ですから!」

「もう他に戦車はないんでしょうか……」

 優花里が必死に代弁するが、柚子は諦めたように視線を落とす。

「ま、ないよりはましだし。なにより装甲も砲もどの戦車より上なんだし使うしかないでしょ」

「当たり前だ。この戦車のために俺たちがどんだけ徹夜で整備をやったと思ってんだ!?」

「ははは……」

 ヤガミに続くようにヒムロは苦労を思い出すように叫ぶ。ヤマケンも乾いた笑い声を上げる。

「これで用意できる戦力は揃ったわけだな」

「そうですね、凛祢さん!」

 凛祢が呟くとみほも笑みを浮かべる。

 やはり、みほの笑顔を見ると顔が赤くなり少し緊張してしまう。

「みほ、君は俺が守り抜いてみせるから」

「はい……私も凛祢さんやみんなのために勝ちます」

 2人は意気込みを語り合い、午後の訓練へと向かう準備を始める。

 教室内で校庭に視線を向ける黒髪ショートヘアの少女。

「ん?どしたの、スズ」

「ねぇ、あれってもしかして噂の戦車道ってやつ?」

 少女の前に座っていた茶髪の少女も振り返り、校庭に視線を向ける。

「……ああ、秋月さんと照月さんのやってる奴ね。スズもしたくなったの?」

「別に……」

 スズと呼ばれた少女は、視線を戻すと授業の準備を始める。

「そういえば、スズの家にアレあったよね!また見せてよ」

「いいよ。どうせ私や風香じゃ動かせないし」

「まあね」

 風香と呼ばれた少女も笑みを浮かべた。

 

 

 一方、継続高校と冬樹学園の学園艦。

 演習場には3人の男の姿があった。

 3人共それぞれ別の銃を扱っている。

 そんな中、冬樹学園歩兵道チームの隊長であるヴィダールは対戦車銃ラハティL-39を置いて萩風司に視線を向けた。

「萩風そろそろ上がったらどうなんだ?」

「いや、もう少しだけ続けます」

 司は狙撃銃のスコープを覗いたまま射撃訓練を続ける。

 そんな様子を見てヴィダールはやれやれとため息をついた。

「随分頑張るな。まあ次の大洗は今年、急に現れたダークホースだからねー」

「ダークホースですか……」

 続くようにアサルトライフルRk-42を肩に乗せたアンクの発言に司は短く呟き、引き金を引いた。

 SAKO TRG銃口から放たれた銃弾は的の中央に吸い込まれていくように飛んで行き、的を貫通していた。

「おー、やるー」

「流石だな、黒鉄の狙撃手と呼ばれただけはある」

 アンクとヴィダールは素直に司を褒めるように拍手して見せる。

「大洗連合は来るべくして準決勝に上がってきたと僕は思います。そして、あの2人も」

「西住みほとそれを守る超人周防、いや葛城凛祢だな」

「彼を超人と呼ぶのはやめてください。超人周防はもういませんから」

 司は引き金を引き、的に命中したのを確認するとスコープから顔を離し、立ち上がる。

「ふーん、まあ負けるつもりはないがな」

「そうですよ。せっかく準決勝まで来たんだから勝ちましょうよー」

「わかってます。僕も勝つつもりですから」

 3人はそんな話をして笑いあうと冬樹学園の武器庫に向かった。

 武器庫の銃火器を戻し、片づけを終えると3人は数分ほどで繋ぎ姿に着替える。

 継続高校のガレージに到着すると扉を開いた。

 ガレージ内には継続高校戦車道履修者たちが扱う戦車が並んでいる。

 そんな中、『BT-42突撃砲』の前には3人の少女の姿があった。

「アキさんまだ残ってたんですか?」

「司くん!それにヴィダールさん、アンク、遅いよー」

 司が声を掛けるとクリーム色の髪の毛を短いツインテール状にした制服姿のアキは振り返る。

 その雰囲気はどことなくムーミンを思わせる。

「これでも急いだのに。整備くらい自分たちでやれよ……」

「やってるけど間に合わないからこうして頼んでるんじゃん」

 アンクがため息をついているとBT-42の下から先に整備をしていたジャージ姿のミッコが現れた。

 その雰囲気はどことなくミイを思わせる。

「うお!ミッコ先輩いたんすか?」

「いたよー。司くん、ヴィダール先輩こっちの配線お願いね」

「「はいはい」」

 ミッコの指示通り司とヴィダールは工具箱を置くと作業を始める。

「ところで、準決勝は何輌出すんですか?」

「うーん。BT-42とKV-1。あとどうしようか?」

 司の質問にミッコはチューリップハットを被り、フィンランドの民間楽器カンテレを足元に置いている少女に視線を向けた。

 そのジャージ姿の少女は継続高校戦車道の隊長であるミカだった。

「たくさん出せばいいってもんじゃない」

「でも最低5輌は出すのがルールだよ?」

 ミカの言葉にアキがツッコミを入れるように言い放つ。

「ミカが言うなら、5輌でもいいんじゃないか」

「「ヴィダール先輩!」」

「冗談だって……」

 アキとアンクの言葉に思わず撤回するヴィダール。

「ウチだって決して多いわけじゃないから8輌でいいんじゃないのか?」

「「……」」

「やっぱりこういう時は司くんが決めてくれるよね」

 司が再び、顔を出すとミカやヴィダールが笑みを浮かべると、ミッコも笑いながらそう言っていた。

「はぁ。こんなチームで私たち勝てるのかなー?」

「勝利することは大切さ。でもそれ以上に大切なことが戦車道と歩兵道にはあるんだよ」

「何言ってんの?」

 ミカがアキに向けて呟くとアキはいつものようにため息をついていた。

 

 

 試合3日前。大洗学園艦では最後の準備が進められていた。

 凛祢とみほは同じ書類に目を通している。

 準決勝ではポルシェティーガーおよび整備部より3名の歩兵を増員。

 また、シャーロックは怪我によって準決勝は欠席。

 そして、塁と翔、雄二とヤマケンも工兵、砲兵免許を取得しそれぞれ転科させた。

「――って感じか」

「できる事はしました。あとは試合に臨むだけです」

「そうだな。作戦も立てたし、転科の手続きも終わったしな」

 凛祢は書類を鞄にしまうと帰り支度を始める。

「あの凛祢さん。よかったら明日一緒に遊びに行きませんか?」

「遊びに?俺と、みほが2人で?」

 みほの言葉に凛祢は思わず問い返す。

「は、はい……」

「……」

 みほは耳まで赤くして上目遣いに凛祢を見つめる。

 凛祢もようやくその意味に気づき、顔を赤くする。

 男子と女子が遊びに行く。それはつまり……D、A、T、E。デートかよ。

 デートってことなのか!?

「えっと……会長たちが息抜きにって」

 みほが再び上目遣いに呟く。

 頬を赤らめ、凛祢も言葉を発した。

「……俺は構わないんだけど、みほは俺でいいのか?」

「はい。大丈夫です!」

「まあ、1日くらいの息抜きならいいか」

 凛祢も大丈夫だろうと遊びに行くことを決める。

 夜11時を回った頃凛祢は自室の布団で横になっていた。

 天井を見つめる

「デートかぁ……そういえば黒鉄の時はずっと歩兵道しててミッコたちに誘われても断ってたっけ」

 昔を思い出して、思わず申し訳なくなってしまう。

 継続&冬樹連合。ミカやミッコ、そして司も入学したって聞いたけど、まさかこんな形で再開するなんて。

 できることはした。あとは戦場でどうにかするしかない。

 重く感じた瞼を閉じると眠りについていた。

 

 

 翌日は日曜日で休日。凛祢は制服ではなく私服に身を包んでいた。

 朝早く、鏡の前で身支度を整える。

「凛祢、私服とは珍しいな。女子とデートか?」

「別に関係ないだろ」

 赤面して焦る様子を見せた凛祢は身支度を終えて、朝食の準備を始める。

 といっても、時間がないため、トーストと目玉焼きに付け合わせと簡単なもので済ますことにした。

「夕方には戻るので、修行はその後で……」

「凛祢、今日くらいは休んでもいいぞ。全国大会が始まってから根を詰め過ぎだ」

「でも、時間はないです。明後日の試合だって勝てる保証はないですから」

 凛祢は眠気覚ましのコーヒーを淹れると、マグカップを2つテーブルに置いて玄十郎に言った。

「凛祢。どんなに優秀な兵士にも休息は必要だ。今日だってそのための休みであろう?」

「まあ、玄十郎さんがそう言うなら……やべ、そろそろ行かなきゃ」

 凛祢は腕時計を確認し、トーストを口に押し込みコーヒーを飲み干すと、急ぎ足に家を飛び出していく。

 玄十郎は畳部屋に座ったままテレビの画面を見つめていた。

 画面にはちょうど戦車道と歩兵道のニュースが流れ、『黒森峰連合決勝進出』のロゴが表示されていた。

 

 

 待ち合わせ場所の大洗ガレージ前に到着する。

 日曜日の朝、学園に来るものなどいない。

 校庭には凛祢の姿だけがあった。2人っきりで会うならここだろうというわけだ。

「みほは……まだみたいだな」

 凛祢は、空に視線を向ける。

 天気の空には雲一つない、文字通りの快晴だった。

 数分ほどでみほもガレージ前に現れた。

「り、凛祢さん!おはようございます!」

「みほ、おはよう……」

 お互いに顔を見ると挨拶を交わす。

 いつもは制服姿のみほだが、変わった私服姿を見ると思わず鼓動が早くなる。

 ギャップによる破壊力と言うやつだろうか?

「待たせちゃってすみません」

「いや、俺も今来たところだよ」

 まるで恋愛漫画の恋人同士の如く、言葉を交わす。

「ふふ、なんか恋人同士みたいですね」

「そうだな」

 お互いに笑みを浮かべると目的地に向けて2人で歩き出す。

 今日は学園艦が本土に到着する。凛祢とみほも本土に向かうわけなのだ。

「おお……」

 本土に到着した瞬間、人込みに圧倒された。

 港はいつも賑わっていると聞いてはいたが、予想以上だった。

 こんなに天気のいい休日、おまけに時刻は10時半前なのだから賑わっていない方がおかしい。

「凄いですね。学園艦が港に来たとはいえ、休日ってこんなにも人が集まるものなんですね」

「戦車道と歩兵道の試合の時はあんまり気にしてなかったけど、やっぱりこういうところは人が集まるものなんだな」

 戸惑いながらも港や街を見つめるみほを横目に凛祢はそう感じていた。

 人込みに当てられているのは自分も同じだが。

「どこに行きましょうか?」

「うーん。どこって言われてもな。俺、本土にいた頃は山で暮らしていたし、八尋たちともあんまり遊びに行かなかったからな」

「そうですね。ごめんなさい、誘ったのに私もあんまり詳しくはないて」

 みほは謝罪するように頭を下げる。

「気にするなって、俺だって詳しくないんだしお互い様だ……みほは行ってみたいところとかないのか?」

 切り替えるように問い掛ける。

「行ってみたいところ、ですか。そうですね……」

 みほは考え始める。

「……」

 数分経っても意見が出ない。

「歩き回って決めるか」

「は、はい……」

 お互いに目的が決まると街に向かって歩き出す。

 手短な喫茶店に入り、一服する。

 みほは一度メニューを覗いた後に凛祢し視線を向けた。

「あの凛祢は甘いものって食べないんですか?」

「食べるよ、人並みには……」

「でも、みんなといるときはいつもブレンドしか注文しませんよね?」

 凛祢の答えにみほは首を傾げる。

 確かに、八尋たちといるときはブレンドコーヒーしか頼んでいなかった。

「まあ、昔のトラウマで少し苦手ってのはあるな。食えないことはないけど胸焼けする時もある」

 思い出すだけで、吐きそうになる。

 まあ、極度の甘党である朱音のせいで甘味の食べ過ぎでゲロっちまったわけだが。

「そうだったんですか」

「まあせっかくみほと来たんだし今日くらいはいいか」

 メニューに目を通す。

 やはり、喫茶店はコーヒーや紅茶と合わせるため甘いメニューが多い。

 ふと、1つの品が目についた。ビターオレンジラッシュ。

 そういえば、鞠菜と朱音と喫茶店に入った時、鞠菜が一緒に頼んでいた甘味がビターオレンジラッシュという名前だった気がする。

 説明にもビターチョコを使った甘すぎないオレンジの爽やかさが後引く一品と書かれている。

 選ぶのならこれだろう。

 小1時間ほどで店を後にした凛祢とみほはそれから街を歩き回り色々な店を訪れた。

 眼鏡やイヤリングなどの装飾品を扱うアクセサリー店に、サバイバルゲーム用品を扱うグッズ店、クレーンゲームの多いゲームセンター、他にもバッティングセンターなどにも行った。

 野球の経験があるわけではないが、あれはあれでストレス発散になる気がする。

 その瞬間だけは2人は本当に楽しそうに笑っていた。

 凛祢とみほはお互いに、こんな時間が永遠に続いてほしいと思っていたのだ。

 日も傾き始めた頃、凛祢とみほは帰路を進んでいた。

「久しぶりだな、こんなに遊んだの。バッティングセンターなんて初めて入ったよ」

「私もです!」

 みほは手の中にあるピンクのボコ人形を見つめる。

「そんなものしか取れなくてごめんな」

「いえ。凛祢さんがせっかく取ってくれたものですから。大事にします!」

 そのボコ人形は凛祢がゲームセンターのクレーンゲームで獲得したものだった。

 みほがゲームセンターで見つめていたので、取ったわけだが。

 しばらくして女子寮の前に到着する。

「凛祢さん、今日はありがとうございました。楽しかったです」

「いや、俺の方こそありがとう。いい息抜きになったよ」

「私もです。凛祢さん、明後日の試合絶対勝ちましょう」

「ああ、必ず勝つ。みほや俺たちの居場所を守るために」

 凛祢とみほは意気込みを言うと別れの挨拶を交わす。

「また明日な」

「はい、また明日!」

 凛祢は歩き始める。

 いよいよ明後日は準決勝。負けるわけにはいかないんだ。

 歩みは止めない。ここが、大洗女子学園と大洗男子学園が自分たちの居場所だから。

 思いを胸に歩き続けるのだった。

 

 

 全国大会準決勝。

 フィールドは森林地帯。昨日の大雨で増水した川が確認されている。

 自軍の陣地で準備を整える大洗連合。

 戦力はⅣ号、38t、八九式、Ⅲ突、M3、九七式(テケ)、ルノー、ポルシェティーガーの合計8輌。

 凛祢たち歩兵道履修者たちもそれぞれの装備を準備する。

「よしっと」

「ポルシェティーガーも今日は安定してるみたいだな」

「試合中に不機嫌になったらどうしようもないですけどね」

 整備部ことタイガーさん分隊もそれぞれの装備を手に準備を終える。

 そして、自動車部のレオポンさんチームも準備を終えて車外に出た。

「へーヤガミ、特製制服似合ってるねー」

「ナカジマたちだってパンツァージャケット似合ってるよ」

「そう?ふふ」

 ナカジマとヤガミは笑いあいながら言葉を交わす。

「ポルシェティーガーは自動車部に任せるとして」

「コーナリングは任せて!」

 みほが呟くとホシノは自信ありげに言った。

「ドリフトドリフト!」

「戦車じゃ流石に無理ですよ」

「してみたいんだけどなー」

 ヤマケンがツッコミをいれるとツチヤは小さく呟く。

「乳が低い場所でモーメントを使えばできない事はないかな」

「マジでやる気か?またエンジンが炎上するぞ」

 ヤガミが条件を呟くとヒムロはやれやれと頭を抱える。

「まあ、雨が降ればできる可能性は上がるかな」

「大河まで乗り気になってんじゃねーよ」

「アクセルバックはどうかな?」

「ラリーのローカルテクニックだねー」

「はぁ。そんなにやりたきゃ、もう好きにしろよ……」

 ヒムロは諦めたのかため息をついていた。

「隊長車は38tなのか……」

「頑張ってー英治ー」

「杏だって隊長車の車長だろう?はぁ……」

 ため息をついて英治は防弾加工外套を被る。

「アーサー、剣は?」

「ないよ」

 景綱の質問にアーサーは眉一つ動かさず返答する。

「え?」

「武器はUZIとシャーロックが使ってたワルサーを借りてきた」

「そう言うことですか。では、彼のためにも決勝進出を決めなくてはね」

「ああ」

 ワニさん分隊の3人も準備を終えて試合開始を待ち続ける。

「いよいよか。緊張するな」

「私も緊張してきたー」

 八尋と沙織は話をしながら呟く。

 あんこうチームとヤブイヌ分隊のメンバーも辺りを見回す。

「そういえば凛祢はどこ行ったんだ?」

「確かに姿が見えませんね」

「もう試合まで時間はあまりないんですが」

「凛祢殿ならさっき昔の戦友と会って来ると言っていました。俊也殿も一緒ですから大丈夫なはずです」

 そして、凛祢は俊也と共に自陣と敵陣のちょうど中央の地点にいた。

「凛祢……」

「司……」

 お互いの姿を確認し、名前を呼んだ。

 司は後方の俊也に視線を向け、再び凛祢を見た。

「今の君の仲間か」

「ああ」

 俊也を見て、頷いた。

「君と戦場で相対する日が来るなんて」

「昔から司とはずっと味方同士だったな」

「負けないよ」

「俺もだ」

 お互いにさっきまでとは違う鋭い視線を向けた。

 拳を合わせると、後は何も言わず去って行く。

「あれがお前の戦友か?」

「うん」

 凛祢と俊也は自陣に向かって歩みを進めていた。

「手は抜くなよ。負けられねーんだから」

「分かってる。東藤、俺がリタイアしたらあとはお前たちに任せる」

「いやだね。隊長は八尋や塁にでもやらせるんだな。俺は指示に従ってやるし、乗りかかった船だからな、最後まで戦ってやるよ」

 俊也はそう言うと早足に自陣に戻った。

 凛祢も一度深呼吸をした後再び、振り返る。

「……」

 試合開始まであと数分。

 できる事はした。後は戦うだけだ。

 凛祢は拳を握り、戦闘準備に入るのだった。




読んで頂きありがとうございます。
今回は、試合前の準備段階と凛祢とみほの恋愛話でした。
いよいよ、次回から始まる準決勝、継続戦。
原作では継続との試合はなかったですが、そこはUNIが頑張って考えます。
ちなみに原作ではミッコはあまりしゃべらないキャラでしたが、この作品では結構しゃべるシーンがあります。
意見や感想も募集中です。


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第24話 準決勝、大洗連合VS継続&冬樹連合

どうもUNIMITESです。
今回も投稿が遅れてしまって申し訳ありません。
今回から準決勝。VS継続高校です。
では本編をどうぞ。


 大洗学園艦内の市街地。

 一軒家の前に建てられた小さなガレージには2人の女子の姿があった。

 家の玄関には涼月(すずつき)と書かれた表札。

「ねえ、風香。今日は本土に来ているんだから遊びに行くじゃないの?」

 家の人間である涼月華蓮(すずつきかれん)は心配そうにガレージ内の戦車を見つめる。

 その戦車は大洗女子学園で見た戦車たちと比べて砲塔が低かった。

 華蓮や風香が学園艦に来るよりも前にこの場所に戦車はある。

 引っ越してきたとき、涼月家の人間が処分することなく、そのまま残して今に至っていた。

「……確か名前は巡航戦車――」

 ようやく風香が戦車から顔を出す。

「それもいいけどさ。ウチの学校も戦車道と歩兵道で試合してるみたいだし見に行かない?」

「だから、私。戦車道なんて……」

 初月風香(はつづきふうか)が問い掛けるが華蓮は少し戸惑うように返答する。

「お願い!一緒に来てくれたらお昼くらいは奢るから!」

「……もう、午前だけだからね」

「やったー!歩兵道にはイケメンがいっぱいいるって聞くしね!」

 風香は一度万歳すると、香蓮もやれやれとガレージの外に出る。

「風香ってそんなに戦車に興味あるなら戦車道履修すればよかったのに……」

「それじゃあ、スズと別々になっちゃうじゃん!私は親友と彼氏は大切にする女だよー」

「そうですか……」

 2人はゆっくりと歩き出すと試合会場に向けて歩き出した。

 

 

 

 試合開始まであと数分。

 会場の観客席も、多くの客で賑わっている。

 照月敦子や照月玄十郎の姿も観客席にあった

 装備を整えた大洗連合は静かに時を待ち続けていた。

 今回から凛祢の背負うバックパックも前回とは異なり、小さなものに変わっていた。

 工兵や砲兵が増えたことで1人が持つヒートアックスの総重量が減ったためである。

 防弾加工外套は整備部が更にもう一つ製作して3つ。英治、凛祢、ヤガミが装備していた。

「凛祢殿、僕たちの作戦はどうしますか?」

「葛城先輩!俺も聞きたいです!」

 塁と翔もバックパックを背負い、凛祢の元に現れる。

「基本は今まで通り偵察兵として行動してもらって構わない。1人1人が持っているヒートアックスの総量は決まっているから戦車相手に無理して必殺する必要もない、狙うのは履帯でいい」

「履帯、ですか?でも、葛城先輩はドカドカ戦車倒してますよね?」

「凛祢殿のあれは特別ですからね。正直、僕たちがあれをやるのは無理です……」

 翔が問い掛けると塁が説明する。

「……まあ、俺の戦い方は粗削りだから参考にはならないよ」

 凛祢も静かに呟くと――。

 試合開始のサイレンが会場に響き渡る。

「行きます!パンツァーフォー!」

「「「「パンツァーフォー!!」」」」

 みほの合図に続いて、それぞれの車長も叫ぶ。

「行くぞ!オーバードライブ!」

「「「「オーバードライブ!」」」」

 凛祢も声を上げると続けて分隊長たちも声を上げて前進を始める。

「なー凛祢?」

「ん?」

「継続も戦車の数はウチと変わらないんだろ?なら正面から行ってもいいんじゃねーか?」

 敵の数と味方が同じであると聞いて強気になっているのか八尋がそんな事を口走る。

 確かに今までは車両数の差もあり、後手に回るがほとんどだった。

 だが、前回のプラウダ&ファークト連合との試合の様に読まれれば危険になる。

「うーん……よし、みほ――」

 凛祢は通信機越しにみほに作戦を伝える。

「え?隊を、分けるんですか?」

「あっちは工兵が俺だけだと思いこんでいるはずだから、それを最大限利用する」

「わかりました。危険ですが凛祢さんの作戦を実行します」

 みほは通信機から全軍に指示を伝達する。

「ウサギさんとカモさん、ヤマネコ分隊とワカサギさん分隊は塁さんと一緒にポイントD45地点を目指してください」

「はい!自信はありませんが頑張ります!」

「やってやります!」

 ウサギさんチームの車長、梓とヤマネコ分隊の分隊長、亮が強気に返事をする。

「風紀委員の力の見せ所なんだから!」

「黄場、気張って行きましょう!」

「そのシャレ詰まんねーから……」

「もう、冷たいですねー」

 シラサギ分隊の分隊長、青葉がいつもの様に笑って呟くが黄場は淡々と言い放つ。

「亮、青葉先輩。工兵である塁と翔を最大限使ってください。ヒートアックスの罠にかかれば隙も生まれますから」

「はい!」

「了解です!」

 凛祢の通信に亮と青葉も返事をする。

「次にアヒルさんとオオカミさん、オオワシ分隊と衛宮さんは先行して偵察に出てください」

「了解。任せてください!」

「わかったわ!」

「いつでもいけますよ!」

 続けて通信機とインカムから響くみほの指示に典子、英子、辰巳が返事をする。

「葛城くん、僕たちは?」

「ヤガミ先輩たちと他の部隊は38tの防衛を」

「「「了解」」」

 それぞれの部隊が別れ、進軍を開始する。

「珍しいな、凛祢。いつもなら真っ先に前線に出るのに」

「出たいけど、準決勝ともなれば相手はこっちの手の内を知っている。下手に前線にでれば危ないから」

「ふーん。少しは考えてるわけだな」

 凛祢の返答に八尋は納得したようにP90の様子を再度確認する。

 今回の作戦は工兵を使った基本的な戦術だ。

 これで、どこまでやれるか。

 凛祢は継続&冬樹連合のスタート地点に視線を向ける。

 

 

 そして、継続&冬樹連合もサイレンを聞きつけ動き始める。

「さぁ、行こうか……」

「俺たちの歩兵道を始めよう」

 変わらずカンテレを引くミカとヴィダールを横目に司も銃を握りなおす。

「全軍前進、オーバードライブ!」

 司の声に合わせて継続&冬樹連合も前進を始める。

「車両数はお互いに8輌だけどどうするの?」

 アキが問い掛ける。

「新しく持ってきた戦車が何かわからない以上、正面からぶつかるのは得策ではないだろうね」

「じゃあ、どうするんですか?」

 ミカの返答に再びアンクが問い掛ける。

「風の流れるままに行こう」

「ヴィダール、作戦は?」

「1輌ずつ潰していくのが得策だろうな。そのほうが有利に立ち回れる」

 司の言葉にヴィダールが静かに答える。

「いくぞ。俺たちは狙撃地点に向かい、牽制しつつ歩兵の撃破にあたる」

「司くん、頑張ろうね!」

 ミッコが笑みを浮かべるとBT-42とKV-1、司たちAチーム、他の狙撃兵数名はいち早く狙撃地点へと向かって行く。

 

 

 大洗連合が前進を始めて数分が経過したが、未だに会敵はしていなかった。

 ゆっくりと森林内を進み、凛祢も地図に視線を向ける。

「先行するアヒルさん、オオカミさん、オオワシ分隊は状況を教えてください」

「目標地点まであと数キロってところよ」

 みほの通信に英子が返答すると、凛祢は地図にペンで印をつける。

 敵も慎重なのか……姿を見せてくれれば動けるのだが。

「発見したらウサギさん、カモさん、ヤマネコ分隊、シラサギさん分隊のいるポイントH56地点まで誘導してください」

「了解です!」

「撃っちゃダメなのか?」

 再びみほの通信に典子が返答すると辰巳の声がインカムから響く。

「撃っても構わないが、無理に戦おうとしなくていい」

「へいへーい。バンバン撃たせてもらうよ」

 凛祢もインカム越しに呟くと不知火の腑抜けた声がインカムから帰って来る。

「磯部さん、私たちはあなたたち合わせるから、合図よろしくね」

「了解です、照月先輩!」

 英子の言葉に典子もいつものように声を張る。

 

 

 その頃、M3、ルノー、塁を含めたヤマネコ分隊、シラサギ分隊は目標地点である地点に到着していた。

「こちらウサギさん。目標地点に到着しました!」

「「工兵、これより罠を仕掛けます!」」

 梓の報告の後、ジープから飛び降りた塁と翔は地面にヒートアックスを設置していく。

「こんなので本当に戦車を倒せるんですか?」

「葛城くんが前回の試合でも戦車を倒していたじゃない」

 不思議そうにヒートアックスを見つめる青葉。

 その様子をみて緑子が思わず呟く。

「そうですけど……信じがたいですよねーこんな粘土みたいなもので戦車を吹っ飛ばすなんて」

「まあプラスチック爆薬なんて大体そんなものですよ。C-4だって似たようなものですしね!」

 塁は電管を刺すと地面に隠れるように埋める。

「C-4って舐めると甘いって風の噂で聞きましたよ!」

「青葉先輩、お腹壊しますよ……」

 にこやかに声を上げた青葉を見て、亮が思わず呟いた。

 すると再び青葉が気の抜けた声を上げる。

「えー、本当ですかー?」

「青葉くん!もっと緊張感を持ちなさいよ!まったく……」

「まあまあ、楽しくいきましょうよ!あははは」

 緑子の厳しい表情とは真逆に青葉は楽しそうに笑い声を上げた。

「お前はいつでも楽しみ過ぎなんだよ……」

 赤羽が呟くと黄場もやれやれとため息をついた。

 

 

 目標地点に到着し、典子と英子が同時にキューポラから上半身を乗り出す。

 お互いに双眼鏡で辺りを見渡す。続けて狙撃兵である迅と不知火も仰向けに倒れてスコープを覗き込む。

「「敵影は……」」

「「発見!Ⅳ号戦車J型とT-28中戦車!」」

 典子と英子が同時に声を上げる。

「随伴歩兵は合計9名!」

 続けてスコープを覗く迅が報告する。

「2輌だけ……ですか」

 みほは少し考えるような表情を受かべる。

 そんな顔を見て凛祢は口を開いた。

「欲張ってもいられないな。みほ、少し早いが作戦を決行しよう」

「わかりました。アヒルさん、オオカミさんは1度の攻撃後、敵を目標地点に誘導してください!」

 凛祢の意見を聞いて、みほは再び指示を出す。

「「了解」」

 典子と英子が同時に通信機に向かって返答する。

「まだ、こっちには気づいてないな……歩兵を1人か2人やっちまうか?」

「迅、1発でいけるか?」

 不知火が軽く笑みを浮かべると辰巳が迅を見つめる。

「ああ。狙い撃つぜ!」

「俺も1発で決めてやんよ!」

 迅と不知火はアイコンタクトを取ると、同時に頷きそれぞれの銃の引き金に指を掛ける。

 数秒後、ほぼ同時に放たれた銃弾は冬樹学園の歩兵に命中。

 倒れたと同時に戦死判定のアラームが響く。

「なに!?」

「狙撃か!」

 冬樹学園の歩兵も一斉に銃弾の飛んできた方向に視線を向ける。

「敵がいたぞ、追え!」

「ヴィダール隊長!ミカ隊長!こちらCチームとFチーム、敵戦車を発見!」

 継続高校のⅣ号J型とT-28も追撃を開始する。

「よし!」

 不知火はガッツポーズすると、すぐに移動を開始する。

「いくぞ!迅、衛宮先輩!」

「了解だよ」

「奇襲成功っと」

 迅が九五式小型乗用車に乗り込み、不知火も銃を肩にかけて九七式軽装甲車に飛び乗る。

「こちらアヒルとオオカミ。これより敵を目標地点まで誘導します」

「相手に作戦が悟られないように気を付けて誘導してください」

「了解」「わかってるわ!」

 操縦手の忍とセレナの声が通信機から響く。

「塁、翔。そっちの準備は出来ているか?」

「「いつでも準備できています!」」

 インカムの返答を聞いて、再び地図に視線を向ける。

 ここで1輌でも倒せれば、数的有利を取れる。

 そのための作戦だ。

 

 

 ウサギさん、カモさん、ヤマネコ分隊、シラサギ分隊はそれぞれ森林に身を潜めていた。

「ヒートアックスでの奇襲作戦はあくまでも履帯を狙っています。敵戦車が生存していた場合は砲撃で仕留めてください」

 塁が作戦を再度確認する。

「了解です。みんな頑張って敵戦車倒すよ!」

「やってやるんだから!」

「バンバンうっちゃえー!」

 梓が通信機で声をかけると照準器を覗くあゆみや通信機に触れる優季が返事をする。

「前回は撃てなかったけど、今日こそ風紀委員としての意地を見せるわよ!」

「分かっているよ、そど子」

 緑子も続くように通信機に声をかける。

「まあ、うまく撃破出来たら儲けものってことで」

 同じく工兵である翔がリモコンを握り、作戦準備に入る。

「歩兵の方はどうすればいい?」

「うーん……なるべく狙撃に回った方がいいだろう。接近して味方の流れ弾に巻き込まれでもしたら困るし」

「亮、なんか葛城先輩みたいなこと言うな」

「そりゃ、これまでずっと見てきたし。先輩から学ぶことも多かったから」

 歩が腕を組むと亮はトンプソン・サブマシンガンの安全装置に指をかけた。

「流石に2か月も一緒にいると色々学べますか?」

「はい、俺なんかまだまだですけど。少しでも大洗連合の役に立ちたいですから」

 青葉が首を傾げると亮の表情は真剣なものに変わる。

「そう言うことなら頑張ってくれよ、分隊長」

『僕らは亮分隊長に従う!』

 ジープの運転席に座る礼が呟くと隣にいた寡黙な銀もメモを見せる。

「青葉も後輩を見習えって」

「青葉だってやる時はやりますよ!」

 赤羽が視線を向けると青葉は胸を張り自慢げに言い放つ。

「こちらアヒルとオオカミ。あと2分で目標地点に到着するよ」

「塁くん、翔くん、タイミングを間違えないでね!」

 誘導を行っていたアヒルさんチームとオオカミさんチーム、オオワシ分隊からの通信が響く。

 後方からは敵戦車の砲撃が始まっていた。

「おー、こえーな」

「なるべく歩兵の戦力を削ぐぞ!」

「「あいよ!」」

 漣に続いて辰巳や淳も百式軽機関銃を構える。

 狙いをつけて発砲すると銃口から銃弾が吐き出された。

 お互いに射撃戦、砲撃戦を繰り返す中、

「来ました!」

「一気に仕留めるぞ!」

 青葉と亮が同時に声を上げる。

「「3」」

 すると塁と翔がリモコンを握り、カウントダウンを始める。

「やべぇ、近づいてきた!」

「セレナ、当たらないでね!」

「わかってるわよ!」

 不知火が後方に視線を向けると英子が車内に潜り、声を張った。セレナも車体の速度を上げる。

「「2」」

「あと数メートル!」

「届けー!」

 典子と辰巳も態勢を低く落とし前方を見つめる。

「「1、起爆!」」

 2人がリモコンのスイッチを押した。

 その瞬間、地面に仕掛けられた十数個のヒートアックスが起爆。

 T-28中戦車を走行不能にさせた。

 Ⅳ号J型も走行不能にはなっていないものの両方の履帯を切断され、行動不能になっていた。

「今だ!攻撃開始!」

 辰巳の声を合図に隠れていたM3、ルノーが砲撃を開始する。

 亮と青葉が茂みから身を現し、発砲しながら突撃していく。

 次々と冬樹学園の歩兵を屠っていく中、砲撃を受けていたⅣ号J型の砲が火を噴いた。

 放たれた砲弾は茂みから狙撃していた大洗連合の歩兵に飛んで行く。

「みんな避けろ!」

「駄目だ、間に合わねぇ!」

 亮と辰巳が視線を向けた頃には遅く、砲弾を受けた4人は地面に伏せていた。

 ヤマネコ分隊のアキラと歩、シラサギ分隊の赤羽、黄場の4人の制服から戦死判定のアラームが響き渡る。

「こちら、ヤマネコ分隊のアキラと歩やられた!」

「こっちもやられちまった」

 アキラと赤羽の声が通信機とインカムから響く。

「よくもアキラくんたちを!」

「よくもやったわね!あの戦車に風紀アタックよ!」

 あゆみと緑子が叫び、放たれた砲弾はⅣ号J型に命中。

 数秒後に走行不能の白旗が上がった。時を同じくして亮と青葉が肩で息をしながら敵歩兵を仕留める。

 

 

 Ⅳ号車内にいた沙織の通信機に報告が入る。

「こちら奇襲部隊!奇襲は成功!敵戦車2輌と歩兵9名を撃破しました」

「奇襲は成功だって!」

 英子からの通信に沙織がみほに視線を向け、報告する。

「やりましたね!これで敵はあと6輌です!」

「うん。オオカミさんこちらの損害は!?」

 みほが通信機で問い掛ける。

「ヤマネコとシラサギがそれぞれ2人ずつ歩兵を失ったみたいね」

「そうですか……」

「かなりうまくいってる。たしかに少し戦力は削がれたがこれなら問題ない」

 みほの顔を見つめ、凛祢が言い放つ。

「次の作戦はどうする?」

「敵にはKV-1がいますから装甲の厚いポルシェティーガーとタイガーさん分隊と共に行動しましょう」

「「了解」」

 次の指示にナカジマとヤガミが返事をする。

「さて、敵は6輌。うまくいくといいがな」

「英治そんな風にいったらせっかくの勢いが逃げちゃうよー」

 英治の呟きを聞いた杏が心配しているのかしてないのか分からない声を掛ける。

「奇襲部隊はそのまま4輌でH45地点まで前進してください」

「「「「了解」」」」

 みほの指示にそれぞれの車長が通信機から帰って来る。

 

 

 一方、その頃。継続&冬樹連合内にも戦況の報告が入っていた。

「申し訳ありません。こちらCチームFとチーム、やられましたー」

 通信機とインカムからそんな声が響く。

「こんなにも早く敵は奇襲を実行してきたか」

「ヒートアックスによる罠があったということは凛祢もそこにいると言うことかな?」

 ヴィダールが感心していると司は少し考えこむ。

「どうでしょうねー。でも、周防……じゃなかった葛城先輩って昔から結構前線に出てくる人ですし、いたんじゃないですか?」

 司と同様に黒鉄中学の卒業生であるアンクは昔の凛祢の事を思い出して呟く。

「どうするの、ミカ」

「……ミッコ、H45地点まで行くよ。他の部隊はJ67地点へ」

「はいよー」

 アキの声を聞いて地図を見つめたミカはカンテレを鳴らす。ミッコは銜えていた双葉を捨てると操縦桿を握る。

「接敵したら報告後に交戦してください」

「「「了解です」」

 ミカが再びカンテレを鳴らすと通信機から車長たちの声が響いた。

「凛祢くんはどこにいるのかな?私たちにも工兵として向かってきてくれないかなー」

「ミッコ、こっちはもう2輌やられてるんだから、集中してよ」

「大丈夫だって!操縦は慣れてるし!」

 ミッコがアクセルを踏み込むとBT-42は速度を上げる。後に続くようにKV-1が追いかける。

 

 

 

 フラッグ車である38tの防衛部隊は、J67地点に到着していた。

 辺りを見渡す翼と八尋が報告する。

「「敵影なし……」」

「なら、このまま――」

 凛祢がそう言った時、砲撃音が響く。砲弾がポルシェティーガーの側面を掠めた。

 瞬時に大洗連合全員が警戒態勢に入る。

「あぶないな、もう!あたったらどうするの!」

「先回りされいていたのか?いや、ここでの接敵は偶然か……」

 思わず叫び声を上げるヤガミを横目に凛祢は辺りに視線を向ける。

 敵の数は……4輌?

 Ⅲ号突撃砲G型とT-34/76、85、BT-7の姿を確認する。

 残っている車両のほぼすべてじゃないか。

 歩兵は20人以上か……だが、こちらには砲兵がいる。今までとは違う。

「葛城、西住。どうする?」

「「このまま攻めます!」」

 桃が通信機越しに叫ぶと凛祢とみほは声を合わせる。

「マジかよ……ふん、行くぞ翼、トシ!」

「ああ」

「援護は任せろ」

 八尋の声に合わせて、俊也も突撃を始める。

「じゃあ僕も行くね!2人とも援護よろしく」

「了解です」

「さっさと行け」

 ヤガミがキャリコM950を手に走り出すとヒムロとヤマケンもそれぞれの銃の安全装置を解除し射撃可能状態とする。

「僕たちも行くぞ!」

「「おうさ」」

 ワニさん分隊もアーサーを筆頭に走り出す。

「カニさん分隊は身を隠しつつみんなの援護をしてください」

「了解した」

「交戦開始!」

 凛祢の声を合図に射撃戦、砲撃戦が開始される。

 

 

 目標地点に到着して、ヴィダールと司がスコープを覗く。

「敵影を発見。おそらく報告にあったⅣ号とT-28をやった連中だ」

「じゃあ、ヴィダール先輩、司先輩。僕たち突撃兵が突撃しますね」

「敵も2輌倒して少し油断しているから、一気にひっくり返してやりましょう」

 ヴィダールたちも戦闘準備を整える。

「アキ、ミッコ。あれで行くよ」

「えー、あれ大変なんだけど……」

「まあ、履帯が着れない程度にやるよ」

 ミカの言葉にアキが心配そうに呟くとミッコは前面ハッチを下げ、楽しそうに笑みを浮かべた。

「行くぞ!」

 落ち着いたようにミカがカンテレを指で鳴らすと、ミッコはBT-42を走行させ始める。

 そして、本体同士の戦いが開始されるのだった。

 

 

 会場にようやく到着した華蓮と風香」は試合を見つめる。

「ああ、もう始まってんじゃん!」

「はぁはぁ、これでも、急いできたじゃん……」

 風香が視線を向けると、華蓮は肩で息をして膝に手をついていた。

「もう、本当に体力ないねースズ」

「しょうがないでしょ!風香と違って体育会系じゃないんだから!」

「私だってそこまで体育会系ではないよー。スズが以上に体力ないんだって」

 風香の返答に華蓮は思わず鋭い視線を送る。

「……それにしても戦況はどうなのかな?」

「あの人にでも聞いてみれば?」

 華蓮が指さす先には金髪の少女と橙色の髪の少女の姿があった。

 2人ともティーカップを持って紅茶を飲んでいる。

「あのー、隣いいですか?」

「構いませんわよ……その制服大洗女子の生徒さんかしら?」

 制服姿の華蓮と立夏を確認し、少女は問い掛ける。

「そうです、そうです!あ、私は初月風香っていいます!こっちは」

「涼月、華蓮です……」

「私はダージリンと言いますわ。こっちはオレンジペコと言います」

 2人が自己紹介するとダージリンはティーカップに口をつける。

「あの、今ってどっちが優勢なんですか?」

「大洗連合が2輌倒していますが」

「どうかしら。戦車道と歩兵道は最後の最後まで分かりません事よ。勝敗は最後の数分で決まるものですわ」

 ダージリンは再び紅茶を飲むとスクリーンに映る試合を見つめる。

「でも大洗連合はここまで来たんだよね」

「勝ってもらわなきゃ、スズん家の戦車はずっとあのままだよ?」

「分かってるって……」

 華蓮や風香も一度顔を見合わせるとスクリーンに視線を向けた。




今回も読んで頂きありがとうございます。
継続高校は車両数が少なく、その分個人の技量が高いんですよねー。
オリジナル編なのでいつもより少し短めですが今回はここまでです。
意見、感想も募集中です。送ってくれたら嬉しいです。


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第25話 戦士たちよ、その心のままに

どうもUNIMITESです。
最近、リアルが忙しく執筆の時間が取れず前回から2か月ほど空いてしまいました。
申し訳ありません。
今回は継続戦part2です。
では本編をどうぞ


 全国大会準決勝。大洗連合VS継続&冬樹連合の試合が開始され、先に仕掛けたのは大洗連合だった。

 奇襲作戦によって数的有利を手にした大洗連合は継続高校の戦車4輌と冬樹学園の歩兵20人を相手に交戦していた。

 しかし、戦場は生き物。刻一刻と変化し続けるもの。凛祢たちはそれを知ることとなる。

 交戦する中、突撃していくヤブイヌ分隊所属の突撃兵である八尋と俊也が引き金を引く。

 短機関銃『FN P90』と自動小銃『FN FAL』の銃口から次々に放たれる銃弾は、空中を舞っている。

「八尋、俊也、前に出過ぎだ!少し下がれ!」

「ちっ!やっぱ経験や技術はあっちが上か……」

「だからって、引くつもりはねぇよ!」

 敵の射程外から狙撃銃『FN バリスタ』で牽制する翼を無視するように2人はズンズンと前に出ていく。

 俊也の放った銃弾が敵歩兵に命中し、戦死させる。

「やるねー、みんな。じゃあ、僕もいこうかな!」

 岩場に身を隠し短機関銃『キャリコM950』を連射していたヤガミ。

 右手で懐のホルスターから自身の主武装である大型拳銃『トンプソン・コンテンダー』を引き抜く。

 体の前で構えると、コンテンダーの引き金を引いた。

 銃弾は敵歩兵の右胸に命中、被弾者は悶絶するようにうずくまる。追い打ちをかけるようにヒムロがAR-57の5.7mm弾を撃ち込み屠っていく。

 ヤガミが扱っているコンテンダーから放たれた弾薬は『.308ウィンチェスター弾』。通常はライフルの銃弾として使用される弾薬であり、翼の扱うバリスタもこれと同じ弾薬なのである。

「よし!次弾の装填っと……」

 ヤガミは再び岩場に身を隠し、コンテンダーのトリガー・ガードを引き込む。

 銃身が露出すると今撃ったばかりの空薬莢を排出し、ベルトに下げた弾薬ケースから同じ弾薬である.308ウィンチェスター弾を一発抜き取ると銃身に装填した。

 素早く、トリガー・ガードを戻して発砲可能にする。

「ヤガミの奴、あんなところでコンテンダーの装填しやがって!ヤマケン、グレネード撃て!」

「はいっす!」

 牽制するヒムロの隣にいたヤマケンはMGL-140のサイトを覗き込み、狙いとつけると引き金を引いた。

 銃口から空中へと放たれた榴弾は弧を描くように飛んで行き、地面に落ちると誘爆して敵歩兵の進軍を阻んだ。

 その一瞬。再び八尋とヤガミが零距離で敵歩兵を屠っていく。

「撃て!」

 みほの叫びを合図にⅣ号から放たれた砲弾はT-34/85に命中。走行不能を現す白旗が上がった。

 凛祢やアーサーも後方から敵を狙い撃っている。

「敵が突撃兵や偵察兵だけとは珍しいですね」

 アーサーがワルサーMPの弾倉を交換すると視線を向ける。

 凛祢も左手に持つブローニング・ハイパワーの弾倉を排出し予備弾倉を差し込むと、取り出した手榴弾のピンを抜き取り力一杯投擲する。

「確かに……アルディーニと同様に砲兵がいないって話は聞いてたけど。司とヴィダールたち狙撃兵はどこに?それにBT-42は……まさか、みほ――」

 気づいたように目を見開き、通信を送る。

「アーサー。ここからは更に激しい戦いになるぞ」

「了解です……」

 アーサーたちワニさん分隊もワルサーの引き金を引いてアイコンタクトを取っていた。

 

 

 そして、別地点。

 継続高校のフラッグ車、BT-42突撃砲と一個中隊は大洗連合の戦車4輌と4分隊と対峙しようとしていた。

「ミッコ、まずは八九式ね!」

「……!」

 アキが砲撃準備にはいるとミッコは笑みを浮かべて、アクセルを踏み込む。

 BT-42は速度を上げて走行していく。

 森林から飛び出し、八九式との距離を一気に詰めた。

「撃て(トュータ)!」

 滑り込むように隣に現れたBT-42は、ミカの合図で砲弾を放った。

 砲弾は八九式の右側面に命中。

 瞬時に白旗が上がり、走行不能にさせた。

「「うそ!?」」

 典子とあけびは思わず、顔を見合わせる。

 辰巳たちオオワシ分隊もまた驚きを隠せなかった。

「がっ!」

「げふっ!」

 そんな隙をついて、突撃していたアンクと数人の突撃兵は零距離で銃を発砲し、辰巳と迅を屠った。

 すでに大洗の主力の歩兵、戦車を調べ尽くしていた継続&冬樹連合は的確に結果を残していた戦車、歩兵を潰しにきていたのだ。

「ふん!こんなもんかよ!やっちまえ」

 アンクの突撃に続くように他の突撃兵も大洗の歩兵を屠っていた。

 そして司やヴィダールも後方から支援狙撃をしている。

 ヴィダールの対戦車銃『ラハティL-39』から放たれた銃弾が九七式の履帯に命中。

「こんなことって……」

「セレナ、にげて!」

「駄目よ。完全に履帯をやられた!」

 セレナが必死に操縦桿を動かすが、九七式は停車したまま動かない。

 行動不能にされたのだ。

 続けてKV-1から放たれた砲弾が正面装甲に命中する。瞬時に白旗が上がる。

「マジかよ……!おいおい、なんだよあの戦車!」

 茂みに身を隠し、狙撃していた不知火も思わず苦虫を噛み潰したような表情を受かべる。

 立て続けに襲撃を受けて、陣形が崩れた大洗連合は一気に戦力を失っていく。

「何やっているのよ!敵はたった1輌でしょ!」

「わかってますよー。でぎゃー!」

 後方で手榴弾が誘爆し、青葉の体が吹き飛ばされ地面を転がる。

 間も無くして戦死判定のアラームが響き渡った。

「なんとしても戦車を守るんだ!葛城先輩たちと合流するまでは!」

「うん!そうだよ!みんな落ち着いて!敵の数は2輌だけだから!」

 崩れ始める大洗連合を立て直そうと亮と梓は通信を送る。

 再び、周りに視線を向けるとチームに指示を出す。

「坂本先輩!本隊に連絡をお願いします!」

「翔、衛宮先輩!援護をお願いします!」

 梓の指示に塁はインカム越しに報告する。そして、亮は銀と共に前線に立つ。

 そんな2人に導かれるように、大洗連合の戦車道履修と歩兵道履修者は次々に戦闘態勢に入る。

 

 

 ナカジマやツチヤたち、レオポンチームの搭乗するポルシェティーガーが砲撃すると敵戦車T-34/75に命中。走行不能を現す白旗が上がった。

「やった!」

「よし!1輌撃破っと!」

 砲手のホシノと装填手のスズキがポルシェティーガーの車内でハイタッチする。

 そして、車長であるナカジマも通信機で通信を送る。

 銃撃戦を行う凛祢たち本隊は少しずつだが継続&冬樹連合の本隊の戦力を削っていた。

「よし、これならいける!」

「……っ!」

 優勢になり始めていた戦況に一瞬雄二が笑みを浮かべた時だった。敵歩兵の投擲した手榴弾が英治の数センチ右に転がる。

 2人が気が付くが、遅かった。

「しまっ――!」

「英治会長!」

 雄二の声を爆発音が掻き消した。

 瞬間的に動いたが英治は爆風を受け、近くの樹木に背中を叩きつけられるように激突する。

「英治会長!くっ!」

 そんな様子に気づいた凛祢も英治の元に向かおうと一歩踏み出すが、敵歩兵の放つ銃撃に阻まれる。

「葛城君!英治なら大丈夫です!だから、今は自分にできる事をしてください!」

 インカムから訴えるような声が響く。

 宗司も敵と撃ち合いながらも、通信を送っていたのだ。

「英治ー、大丈夫ー?」

「杏会長……。お前、心配してないだろ……」

 いつもの様に38tの車内で干し芋を齧っていた杏が通信を送る。

 英治もよろよろと体を起こす。

「おい!英治会長は無事なのか!?」

「生きてるから俺たちだって生存してんだろ!」

 同じように38tの車内で照準器を覗く桃と、MGL-140で榴弾を撃つ雄二が強気に叫ぶ。

「凛祢殿、こちら奇襲部隊!申し訳ありません!敵の攻撃を受けて、立て続けに戦力を失ってしまいました!」

 激戦中であることを感じさせるようにインカムからは発砲音が響き続けている。

「なに!?」

 凛祢は再び弾倉を交換して、ノックバックしていたブローニング・ハイパワーのスライドを戻す。

「坂本君、それは本当ですか!?」

 みほも思わず通信機に手を当てる。

 報告を聞いて驚きを隠せなかった。

 予想はしていた。だが、想定外だった。

 こんなにも早く敵が数的有利を崩してきたからだ。

 ミカや司たちの実力は知っていた。しかし、彼女たちの実力は凛祢の想定を遥かに超えていたのだ。

「敵のフラッグ車BT-42はKV-1と共にこちらの戦車を2輌も倒しています。生き残っているM3やルノーもいつやられてしまうか――!それに敵の狙撃隊も確認しました!」

 塁の言葉を遮るように爆発音、発砲音が響く。

 振動音が、塁や英子たちのいる地点が激戦であることを物語っていた。

「くっ!ミカ、ミッコ……やってくれるな」

 凛祢はこの状況で、笑みを浮かべていた。

 思わず、口元に手を当てる。

 自分がなぜ、この状況で笑みを浮かべたのか分からなかったからだ。しかし、すぐにその正体を理解する。

 それは……この戦場を、歩兵道を楽しんでいる凛祢がいる証拠だったのだ。

「了解しました!みなさん、これより敵フラッグ車とウサギさん、カモさんのいる地点に向かいます!」

 みほの指示に大洗連合の戦車は移動を開始する。

 Ⅳ号を前方に38t、Ⅲ突、ポルシェティーガーの並びで走行していく。

 そして、歩兵たちも駆動車に乗り込み後を追って行く。

「待て、逃がすな!」

「フラッグ車を討て!」

 継続&冬樹連合も残存戦力を結集してフラッグ車を仕留めようと砲撃する。

 敵戦車は。歩兵も残りは7人まで減っていた。

「アーサー!」

「了解した!いくぞ!」

 凛祢の声を合図にアーサーやカバさん分隊の3人が煙幕手榴弾を投擲する。

 投擲された煙幕手榴弾は誘爆すると大量の煙幕が立ち込める。

「……東藤、一番後ろに」

 速度を調節し、後方を走行していたヤブイヌ分隊のジープの車内で凛祢はバックパックから2個のヒートアックスを取り出すとネジって小さく加工する。

 それぞれに電管を刺してヒートアックスを地面に転がす。

「凛祢、あんな少ない量で倒せるのか?」

「いや、あの量じゃせいぜい履帯を切断するのがやっとだろう……」

 凛祢はリモコンを操作し調節するとすぐに起爆できるようにする。

 ふと視線を向けると八尋と翼はそれぞれの武器の弾倉を交換していた。

「え?」

 八尋は思わずキョトンとした顔を見せる。

「工兵の目的はあくまでも進路の確保と敵の足止めだ。無理して戦車を撃破する必要なんてないんだ」

「いつも戦車バンバン撃破してた、お前がそれを言うか?」

 凛祢が八尋に説明すると皮肉を言うように操縦席から俊也の声が響く。

「まあ、そう言うな俊也」

「翼、俺の銃も弾倉を交換しておいてくれ。あと数発しか弾が入ってないんだ」

「わかったよ」

 助手席に座っていた翼は慣れた手つきでFALの弾倉交換を始める。

「塁の奴はまだ生きてるといいがな」

「ああ、見えて塁は慎重な奴だから生存率は高いんだぜ。俺たちと違って――おーやるー。さっすが工兵!」

 話の途中でヒートアックスを起爆させたことで、轟音が響く。

 八尋も後方を確認すると思わず呟いた。

 ヤブイヌ分隊の搭乗するジープがⅣ号に追いつき、横を並走しているとみほが声をかける。

「凛祢さん、今後の作戦に意見はありますか?」

「そうだな……」

 凛祢は考え込むように自軍の戦力に視線を向けた。

 戦死した者はいないとはいえダメージは蓄積しているはず。

 八尋や俊也といった突撃兵、もろに手榴弾の爆風を受けた英治会長だって何時戦死してもおかしくはない。

 それに盾役になってもらっているポルシェティーガーだって装甲に多くの被弾跡が見受けられる。

 他にもⅢ突とⅣ号も38tを守りながら戦っていたからKV-1の砲撃を受ければ簡単に白旗を上げてしまうだろうな。

 合流できても全滅したらお終いだしな。

「作戦はみほの立てた作戦で構わない……でも無理はするなよ、みほ」

「はい、凛祢さんも……生き残ってくださいね」

「ああ、生き抜いてみせるさ」

 お互いに言葉を交わし、頷くと前方に視線を向ける。

 

 

 逃走を始めていたウサギさんチームのM3とカモさんチームのルノーもみほたちのいる方向へと向かっていた。

 残存歩兵はヤマネコ分隊所属の亮、翔、礼、銀、そして塁と不知火だけであった。

「で、塁ちゃんよ。どうするよ?」

「どうすると言われましても、今は逃げるしかないですよ」

 ルノーに掴まっていた塁と不知火はお互いの顔を確認した後に後方へと視線を向ける。

 後方にはこちらを追撃しようとするBT-42とKV-1、他には歩兵たちが移動に使っているジープが数輌確認できた。

「おめぇ、工兵だろ?凛祢みたいに敵戦車をやっちまえよ!」

「無茶言わないでくださいよ!工兵って言っても僕だって初心者なんですよ!」

「んだよ!役に立たねぇな」

 不知火がぼやくように塁に悪態を吐く。

 するとインカムから緑子の声が響く。

「じゃあ、衛宮くんが何とかしなさいよ!」

「俺は……狙撃兵だし。戦車相手は無理だ」

「結局、駄目じゃないですか……」

 塁も思わずツッコミを入れる。

 その時、KV-1の放つ砲弾がルノーの横に落ちた。

 大きく地面を抉っているのが確認できる。

「あー、まじで死ぬって!あれはまじでやばいって!」

「プラウダのKV-2はもっとすごかったですけどね!やはりKV-1もいいですよねー」

 塁は優花里と話しているときと同様のテンションで話始める。

 そんな様子を横目に亮は短く深呼吸した。

「……」

「亮隊長、これからどうする?」

 後方に視線を向けるヤマネコ分隊の亮が考え込むように腕を組むと、それに気づいた翔も残っていたヒートアックスを手に声をかける。

「先輩たちもこっちには向かっているはずだけど……俺たちはどうするべきなのかな?」

『どうするべきって?』

「俺は先輩たちの役に立ちたい。だから……あの突撃兵に、勝ちたい!」

 亮は先ほど対峙したアンクの事を思い出していた。

 彼も黒鉄中学出身だとは言え、1年生だったが実力差は歴然。

 先ほどは油断していたことで、大洗連合は奇襲を受けてしまい戦力の多くを失った。

『なら、やろうか』

「お前がやりたいようにしていいぜ!俺たちは亮と葛城隊長の指示に従うしな」

「そういうこと」

 3人も同意見だと言わんばかりに笑みを浮かべる。

「ありがとう、みんな。梓さん、次の作戦を」

「うん。先輩方と合流したら一気にフラッグ車を狙うから。歩兵の皆はなるべく敵の注意を引いてほしいんだ。先輩方もお願いします」

 亮も再び視線を向けると、梓も頷いて説明する。

「了解です」

「わかってるって!」

 塁と不知火も返事をする。

 

 

 大洗連合を追撃していたBT-42の車内でカンテレを引いていたミカのインカムに通信が入る。

「ミカ隊長!こちらFチーム履帯を切られてしまったので合流には時間がかかりそうです!」

「そうですか。なるべく急ぎで戦線復帰をお願いします」

「了解です」

 短く通信を終えると再び指をカンテレに当てる。

「大丈夫なの?こっちの戦力は私たちとKV-1だけ、歩兵隊だって少ししか残ってないのに……」

「多ければいいってもんじゃない。勝利するためにはそれぞれがどうするかが大切なんだよ」

「大洗はまだ2輌しか走行不能になってないのに、このままじゃ負けちゃうよ?」

 ミカの言葉にアキは思わずそんな言葉を投げかける。

 するとミッコが割り込むように口を開いた。

「大丈夫だよ!私たちが先にフラッグ車を倒しちゃえばいいんでしょ?」

「そうなんだけどさ……」

 そんな言葉を聞いてアキは不満そうな表情を浮かべる。

「ミカさん。きみはフラッグ車を撃破してください。他は僕たちとヴィダールで仕留めます」

「あまり期待するなよ。司やアンクと違って黒鉄出身じゃないからな」

 司が強気に言い放つとヴィダールは少々弱気なのかそんな発言をする。

「大丈夫ですって!ヴィダール先輩は黒咲先輩にも劣らないほどの実力を持ってますよ!」

「そう言ってもらえるとありがたいがね」

 アンクの言葉に、ヴィダールは笑みを浮かべた。

「……」

 司は再びスコープ越しに大洗連合を見つめる。

 

 

 そして数秒後、Ⅳ号のキューポラから身を乗り出すみほはM3とルノー、ジープの姿を確認して再び通信機に手を当てる。

「先輩!」

「なんとか合流できた……」

 梓と亮は安心したように胸を撫でおろす。

「みなさん、このまま旋回するのでついて来てください!森林内で敵フラッグ車と決着をつけます!」

「「了解!」」

 みほの指示通り合流した大洗連合は旋回して森林内へと侵入していく。

 大洗連合は移動しながら、再度作戦を確認する。

「まさか、最後に正面からBT-42とKV-1を相手にするなんて……」

「でも、やるしかないでしょ?これが2人の作戦なんだし」

 後方の敵に向けて狙撃を行なう英治の声を聞いて、杏は再び干し芋を銜えた。

 しかし、その目はプラウダ&ファークト連合で戦った時の様に真剣なものであった。

「凛祢、本気なのか?」

「ああ、いくら狙撃兵でも司は実力者だ。長距離狙撃が相手じゃ近接戦闘しかできない俺とは相性が悪いから」

 八尋は不満そうにため息をついた。凛祢は過去の戦闘データを思い出し、再び作戦を確認する。

 と言っても、今の戦闘スタイルでは砲兵でも相手にはしたくはないがな。

「だからって、歩兵が直接戦車を潰しに行くのが本当に最善策とは思えねーけどな」

「仕方ないだろ。こっちだって後がない」

「翼の言う通りだ」

 俊也が無茶だということはわかっていた。大洗連合の生徒が誰でも同じように思っているだろう。

 しかし、ミカたちのBT-42の戦闘を見れば無茶をしなければ勝てないと悟っていた。ミカは3回戦で対決したBC自由連合との試合で、たった1輌で戦況をひっくり返してしまったのだ。

 ミッコの操縦技術の高さもあるが、ミカの指示は的確であり、彼女からは自分と同じものを感じていた。

「凛祢殿、僕たち工兵はどうしますか?」

「塁と翔はそれぞれ自分で考えて動いてもらって構わない。数少ないヒートアックスの使い方も任せる」

 指示を出す中で凛祢も準備を進める。

「翼、もしも敵の銃を奪ったとしてお前は何発で命中させられる?」

「え?……うまく扱えたとしても最低でも3発は試し撃ちでもしなきゃ当てられないよ。そもそも狙撃はほいほい決められるほど簡単なものじゃない。それに――」

「じゃあ、3発は試し撃ちしていいから、4発目で絶対決めろよ」

「おい、俊也どうするつもりだ?」

「銃を奪えたらあとは任せるってことだ……」

 操縦席に座っていた俊也は不敵に笑みを浮かべた。

 

 

 その頃、会場観客席で試合を観戦していた風香と華蓮。

「凄いねぇ凄いねぇ!大洗ってなかなか強いんじゃん!」

「確かに、4月にできたばかりなのに準決勝に参加してたのは伊達じゃないってことかな」

 2人は試合の内容に驚きを隠せなかった。拍手していた風香は身を乗り出すように試合を見つめる。

「それはそうですわ。みほさんと凛祢さんはここまで大洗連合を引っ張ってきた方ですもの。実力だけでなく、2人からは信念を感じますわ」

「みほさん?あー西住さんね!聞いたことある!転校生の子だよね!?」

「うん、名前くらいは知ってる……葛城くんと体育祭で出てたしね」

 ダージリンの説明に風香は思い出したように声を上げた。華蓮も頷いて呟く。

 

 

 一方、別地点にて試合を観戦していた照月玄十郎。

 その元に、1人の女性が現れていた。照月敦子である。

「「……」」

 何も言葉を発することなく、敦子は玄十郎の隣の席に腰を下ろす。

 数秒ほど経ち、ようやく敦子が口を開いた。

「どうして、今頃になって凛祢に修行をつけたのですか?」

「……」

「数か月前はあれほど修行する気はないと言っていたのに」

「……」

 敦子の言葉に玄十郎は何も言わなかった。

 何故凛祢に修行をつけようと思ったのか。

 それは、玄十郎自身が見たいと思ったからかもしれない。

 自分の流派を皆伝した者である凛祢が歩兵道という武道で頂に上り詰める姿を。かつて玄十郎がたどり着けなかった頂を。

「超人、周防凛祢は伝説などではない。今も歩兵道という戦場で生き続けている姿を変えてな。ワシだってすでに相応の歳だ……弟子の1人くらいは最後まで育てたいと思っただけだ」

「ふふ、まさかジジイからそんな言葉が出るとはな!」

「……ふん」

 思わず笑い声を上げた敦子を見ると玄十郎もその厳しい顔に笑みを浮かべていた。

 

 

 継続&冬樹連合も大洗の後を追いながら戦闘準備を進めていた

「次が最後の戦闘になりますね」

「こっちも後がないからね」

「ミッコ。もう少し真面目になってよ」

 ミカがカンテレを鳴らすとミッコが上唇をペロッと舐めた。

 アキはやれやれとため息をついた。

「こちらKV-1!どうしますか?」

「敵チームにはポルシェティーガーいるのでそちらの相手をお願いします。ヴィダールもそっちの援護に回ってください」

「了解でーす!」

「了解した」

 ミカの指示で継続&冬樹連合も隊を再編成する。

 数的有利は再び大洗連合にあるが、継続&冬樹連合にはそんな状況を覆せるほどの腕がある。

 ここからはどちらが先にフラッグ車を走行不能にできるかが重要になって来る

 Ⅳ号と38t、M3にヤブイヌ分隊(4名)、カニさん分隊(3名)、ヤマネコ分隊(3名)を含めたA小隊。

 Ⅲ突とルノー、ポルシェティーガーに坂本塁、衛宮不知火、ワニさん分隊(4名)、タイガーさん分隊(3名)を含めたB小隊。

 AとBに小隊に分けるとチームは別れていく。目標地点に到着するとそれぞれ臨戦態勢になる。

「皆さん、自分にできる事をしてください!そして、みんなで勝って決勝に行きましょう!」

「「「了解!」」」

「最後の作戦『どたばた作戦』を決行します!」

 みほの指示を合図に大洗連合は継続&冬樹連合と最終戦闘を開始するのだった。




お互いに一歩も引かない戦い。そんな中、大洗連合は最後の作戦。どたばた作戦を決行する。凛祢たちは勝利できるのか?
そして、司との決着は?
今回も読んで頂きありがとうございます。
最近は忙しくてなかなか時間がありませんでした。
次回も少し時間が空いてしまったら申し訳ありません。
4月くらいになれば少しは落ち着くと思うのですが……


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第26話 戦場に咲く超人の花

どうもUNIMITESです。
前回の投稿からまた一か月ほど経ってしまいました。
4月がもう終わりますがようやく私のリアルも落ち着いてきました。
継続戦も後半です。
では、どうぞ


 大洗連合の戦車と継続&冬樹連合の戦車は互いに行進間射撃で戦闘を開始していた。

 戦闘が始まる中、凛祢はⅣ号に掴まり、後方に視線を向けていた。

 これまでの戦闘で凛祢は装備していた武器をほぼ使い果たしていた。

 凛祢にとって唯一の銃、ブローニング・ハイパワーDAの予備弾倉は残り3本。手榴弾は1つ。そして、工兵にとって最強の武器であるヒートアックスは4個。

 残りのヒートアックスで確かにフラッグ車を倒せるが、それもギリギリの数なので無駄撃ちはできない。

 だが、やるしかない。勝つにはそれしかないのだから。

「……」

 凛祢は1度深呼吸をした後、亮に通信を送る。

「亮、アンクは確かに黒鉄中学出身だが、あいつは自分より弱い敵を相手にすると慢心する癖がある。そこを突けば勝機はある……任せたぞ」

「はい!必ず勝って見せます!」

 亮は強気に軽く頷いた。

 正直、亮は……いや、ヤマネコ分隊の3人が協力してアンクに挑んだとしても勝利するのは難しいだろう。

 アンクだってそれなりの腕を持っている。望めば、黒森峰にだって入学できたほどに。

 

 

 BT-42の車内ではミカがカンテレで演奏を始めていた。

ミッコがⅣ号と38tを発見し、速度を上げていく。

「フラッグ車および随伴の戦車を発見したよ!凛祢君もいる」

「先にあのⅣ号を走行不能にしておくべきだね……アキ、装填をいつもより早く!」

「わかった」

 瞼を閉じて演奏するミカが指示を出すとアキが頷き、ミッコも唇をなめるように舌を出して見せる。

「アンク、ミッコ!相手はあの凛祢だ、油断するなよ」

「はい!」

「分かってるって!」

 凛祢をよく知る2人だからこそ、凛祢の思考と動きはよくわかっている。だが、それが油断につがらないとは限らない。

 司とアンクもアイコンタクトを取るとⅣ号と38tの後を追って行く。

「こちらⅣ号。敵のフラッグ車を引き付けました」

「……」

 みほの通信と同時に凛祢の視線が走行するBT-42と司たち歩兵が搭乗するジープの姿を確認する。

 Ⅳ号も後方に向けて砲撃するがBT-42は回避し、距離を縮めていく。

「みんな行くよ!」

「任せて!」

「あい!」

「いくぞ!」

 梓の指示で動き出すM3とヤブイヌ分隊、ヤマネコ分隊、カニさん分隊。

 BT-42とジープの後方から現れると、砲撃を開始する。

「……ミッコ!」

「フッ!」

 ミカの凛とした声を合図にBT-42はドリフトするように車体を傾ける。

 流れるように軽やかな動きで車体が後方を向く。

「アキ!」

「はい!」

 アキがレバーを引くとBT-42から砲弾が吐き出される。

「なっ!」

「まず!」

 砲弾は数秒でM3に着弾する。

 瞬時に行動不能を告げる白旗が上がった。

「くらえ!」

 雄二もMGL-140を構え、1発撃った。

 榴弾が放たれたと同時にMGL-140はその回転式弾倉を回転させる。

 弾頭は緩い弧を描きながら、ほぼまっすぐに飛んで行く。

「そんな攻撃……」

 司は落ち着いてスコープを覗き込み引き金を引いた。

 銃弾は向かってくる弾頭とぶつかり、弾頭は誘爆する。

「ぐっ!」

「うっ!」

 爆風を受けて、ヤブイヌ分隊とヤマネコ分隊の搭乗するジープ2輌が大きく揺れる。

「英治、翼くん。ジープの転輪を狙えますか?」

「なんとか」

「やってはみるが……」

 宗司が視線を向けると英治はスコープを覗く。翼も同じようにスコープ越しに見つめる。

「司、あっちの駆動車を潰せば動きを制限できるが、どうする?」

「そうだな……やろう」

 冬樹学園の歩兵の1人が問い掛けるが、司はスコープを覗いたまま短く返答する。

「ちっ!さすがはミカ……M3をあんな一瞬で走行不能にするなんて」

 凛祢はⅣ号に掴まったままBT-42を見つめると、再びこちらを向くBT-42の正面窓からミッコの顔を確認する。

 ミッコが笑みを浮かべると、凛祢も無意識に笑みを浮かべた。

「凛祢さん、どうしたんですか?」

 そんな表情を見て、キューポラから上半身を乗り出していたみほが首を傾げる。

「やはり、歩兵道はいいものだと思ってな……」

 かつて自分はこんな戦場を駆けていたんだな、仲間と共に……。

 凛祢は昔を思い出すと再び後方に視線を向ける。

 敵は、継続&冬樹連合は徐々に距離を縮めていた。

「ふう……あと2輌か」

「ミカ?大丈夫?」

 BT-42の車内でミカは瞼を閉じて涼しい顔を浮かべているが、一筋の雫が頬を伝っていた。

 そんな様子を見て、アキが心配そうに声をかける。

 するとミカはカンテレを鳴らしたまま笑みを浮かべた。

「なんでもないよ……少し疲れただけさ」

「アキー、ちょっと飛ばすよ……」

 ミッコはアクセルを踏み込むと速度を上げる。

 それと同時にお互いの駆動車の転輪が勢いよく吹っ飛んだ。

「「「ぐっ!」」」

 地面を抉る音と振動を与えながら共に駆動車たちはその車輪を止めた。

「なっ!みんな!」

 凛祢もその状況を確認し、驚きの表情を浮かべる。

「「考えることは同じってことか……」」

 司と英治が呟いた。

「結局、俺の相手はあんたたちすか」

「……ああ」

 アンクの前に亮、礼が立っている。

 そして司や他の歩兵たちも大洗連合を相手にしていた。

「散開!」

 司の声が響き射撃戦を開始する歩兵たち。

 

 

 

 

 一方、ルノー、Ⅲ突、ポルシェティーガーおよび歩兵小隊はKV-1および歩兵部隊を相手にしていた。

「戦力としてはこちらが有利だ」

「なら、さっさと走行不能にして葛城隊長たちの元に行くよ」

「油断するな……有利と言ってもこちらだって無傷で戦場に立っているわけじゃないんだ」

 戦力的有利を再び得ていた大洗の中でも、笑みを浮かべて引き金を引いたワニさん分隊の景綱とジルを横目にアーサーは周囲を警戒していた。

「塁ちゃんよ」

「なんですか?」

「そろそろ残弾が切れんだけどどうする?突撃しちまってもかまわんかね?」

「え……?」

 不知火がスコープを覗きながら呟くと、塁は耳を疑うように視線を向ける。

 その表情は凍り付いていた。

「何でもっと早く言わないんですか!」

「だ、だってよ!残弾ないんだからしょうがないだろ!」

「ないならないで、部隊を分ける時に教えてくださいよ!」

 塁も思わず大声で叫ぶ。

 それもそのはずだろう。B小隊の中でも狙撃兵なのは不知火だけだったからだ。

 タイガーさん分隊のヒムロも狙撃兵寄りの突撃兵であるとはいえ、翼はおろか不知火ほどの狙撃の腕もなかったのだ。

「どうするんですか!?」

「だから突撃するって言ってんだろ!」

「僕たちが突撃したらすぐに蜂の巣にされるのは目に見えてるじゃないですか!」

「うるせー!先輩に文句つけんなー!」

 不知火は勢いのまま塁の頬を殴りつける。

 塁は盛大に地面に倒れ込む。

「な、殴りましたね……!凛祢殿にも――」

「ああ、殴って何が悪い!じゃなくて……いいからお前の銃貸せよ」

「うう……不知火殿、酷いです」

「何とでもいいな。1度近接で戦ってみたかったんだよ」

 不知火は塁のFALと予備弾倉を奪い取る様に腰のマガジンケースにしまうと突撃準備に入る。

 塁も、FN FiveseveNを手に移動し始めた。

 その時だった。発砲音が響いた数秒後にⅢ突が急停止する。

「おりょう、止まるな!」

「違うぜよ!急に動かなくなって!」

「まさか……履帯をやられたのか?」

 エルヴィンやカエサルもⅢ突が動きを止めたことに焦りを見せる。

 続けて砲撃の轟音が響き渡り、走行不能を告げるⅢ突から白旗が上がっていた。

「「なに!?」」

「これは……九七式の時と同じ!」

 カバさん分隊の3人も思わず足を止める。

 その隙を狙うように数人の突撃兵が現れた。

「おい!ぼーっとすんな!さっさと逃げろ!」

 不知火が通信を送るが、ジルと景綱は銃弾の雨を浴び、戦死判定のアラームを鳴らしてその場に倒れる。

 アーサーも被弾こそしたもののなんとか木陰に身を隠し、生存していた。

 しかし、敵との距離が近くいつ襲われてもおかしくなかったのだ。

「……悪いが俺は司と違って安全な場所から敵を狙い撃つのが好みでな」

 対戦車銃『ラハティL-39』を構えるヴィダールは笑みを浮かべて次の目標であるルノーへと狙いを定める。

 冬樹学園の歩兵たちの中でも数少ない対戦車銃を操る歩兵であり、隊長であるヴィダールの得意分野は中距離から長距離までの狙撃であった。

 昔から狙撃兵としてその腕を磨いてきた彼もケンスロットやメッザルーナと同じく相当な実力者である。

「ねぇ、不知火くんー?」

「んあ?なんだ!」

「敵の狙撃兵君をどうにかしないとあっという間に戦車も僕たちもやられちゃうんだけどー」

「分かってるよ!でも……」

 ヤガミからの通信に不知火は頭を働かせ考える。

 敵はこちらからは発見できない位置から確実に狙い撃ちしてくる。しかし、不知火たちは翼や英治のように長距離狙撃の腕はない。

 そう、射程外から狙われれば手出しはできないのだ。

 なら、どうする?射程外から撃って来るなら、こちらの射程内に入る様に接近すればいい!

 不知火は視線をさきほどⅢ突の履帯を撃ち抜いた銃弾が放たれた方向へと視線を向ける。

「フッ……アーサー、ヤガミ、ヒムロ!突撃行くぞ!俺に続け!」

「「「え?」」」

 一気に駆ける不知火を見つめるアーサーとヤガミ、ヒムロ。

 先ほどジルと景綱を屠った歩兵をFALを発砲して屠っていく不知火は足を止めることはない。

「さっさとしろ!」

「何言ってんだ!このアホ!無理に決まって――」

「うっせー!いいから続けって言ってんだ!」

 ヒムロの制止を無視するように不知火はFALの引き金を引きながら駆けていく。

「はー。ヤマケンこっちの援護お願い!」

「ったく。あの人もなかなか無茶を言ってくれる!」

 ヤガミとアーサーはため息をつきながらも続くように駆けだす。

「だー!どうなっても知らねーぞ!」

 ヒムロはやけくそになったように後を追う。

「ちょっと!不知火くん!?何してるのよ!」

「おっと、あぶな!」

「緊張感あるねー」

 緑子が通信を送るが不知火たちは返事をすることなく森林の奥へと消えて行った。

 KV-1の砲撃を回避したポルシェティーガーの車内でナカジマとツチヤが思わず呟いた。

「ヤマケン殿、僕たちも行きましょう」

「了解でーす」

 塁とヤマケンはポルシェティーガーを追いかけるように駆けていく。

 森林を進む不知火たちは次々に現れる敵歩兵を狙い撃ちながらジグザクに奥へと進んで行く。

「おい、不知火!本当にこっちに敵の狙撃兵がいるのか!?」

「ああ、しっかり確認してから来たからな!」

「それってお前の主観じゃねーか!それに敵が狙撃兵なら俺たちだって辿り着く前に狙撃でやられちまうだろうが!」

 不知火の勝手な言葉にヒムロは思わず叫ぶと――

 甲高い音が響き渡った。

 予想通り、森林内の奥で敵が発砲したのだ。

「……あっぶねー」

 1発の銃弾が不知火の右に立っていた樹木を貫通していく。

「……そういうことですか」

「あ?」

「ん?」

 アーサーが頷くとヤガミとヒムロだけがわからないと言わんばかりに周囲に視線を向ける。

「動き回る俺たちと邪魔な樹木があれば射程内まで近づくことは難しくねーってことだ!」

 動きを予測されれば終わりなんだけどな……。

 不知火たちは確実にヴィダールとの距離を縮めていた。

 しかし、ヴィダールもその引き金を引き続けた。

 放たれた銃弾がアーサーの胸を撃ち抜き、戦死判定のアラームが響く。

「ぐっ!」

 再び放たれた銃弾が次はヒムロの右太ももを撃ち抜く。

「ぐあ!」

 ヒムロは痛みに思わず膝をついた。不知火も声を掛ける。

「馬鹿!止まるな!」

「いいからすすめ――」

 とどめをさすようにヒムロの左肩に銃弾が命中し、戦死判定のアラームが響き渡る。

「まさか、狙撃兵を相手に突撃してくるとは……でも、あと2人くらいならどうにかするしかないか。近接戦闘はそこまで慣れてないんだけどな」

 ヴィダールはラハティL-39を置いたまま立ち上がると、近距離戦闘の準備へとかかる。

 そして3分も経たないうちに不知火、ヤガミは森林を抜けた先で冬樹学園隊長であるヴィダールの前に立った。

「見つけたぜ!狙撃野郎!」

「本当にいた……」

「信じてなかったのかよ!」

 不知火が勝ち誇る様に叫ぶと、ヤガミは少し驚きつつもキャリコM950の銃口を向けた。

 ヴィダールは何も言わぬまま副武装であるH&K MP5を構える。

「英子さんたちの仇を討たせてもらうぜ!」

「……」

 不知火の叫びを合図にヴィダールは引き金を引いた。

 次々に吐き出される銃弾。

 反射的に2人は左右に分かれる。

「作戦はあるの?」

「あいつを……やっちまうのさ!」

 不知火の持つFALとヤガミの持つキャリコから放たれる銃弾は次々に空を滑り、ヴィダールの元へと向かって行く。

 しかし、ヴィダールは走り回り銃弾を回避していく。

「あたらないなぁ。なら、コンテンダーのほうで!」

「……!」

 ヤガミが懐に手を伸ばすのをヴィダールは見逃さなかった。

 数発の発砲音と共に不知火とヤガミは驚きを隠せなかった。

 懐から引き抜いたコンテンダーの銃口を向けようとした瞬間、MP5から放たれた数発の銃弾がコンテンダーを後方へと吹っ飛ばしたからだ。

「ぐぅー……」

「フッ……」

 ヤガミは右手に走る鋭い痛みに表情を歪ませる。

 再びヴィダールが笑うとMP5をヤガミに向けようとする。

「くっそー!」

 不知火は声を上げて一気に駆けだした。

 そんな不知火に気づき、ヴィダールはゆっくりとMP5を向けると数発発砲する。

 不知火は手足を被弾し、FALを地面に落とした。

 その場に倒れ込む。

「不知火くん!えい!」

「……」

 腰のホルスターから引き抜いたコンバットナイフを振るがヴィダールもコンバットナイフを手に防御する。

 ヤガミが何度も攻撃を仕掛けるがヴィダールは涼しい顔ですべて捌いていた。

「うおー!――かは!」

 声を上げた時、ヴィダールはヤガミの腹部に蹴りを入れた。

 ヤガミは痛みに耐えきれず、背中から地面に倒れ込む。

「終わりだな……」

「オラ―!」

 不知火は立ち上がり再び駆けだすと、ホルスターから抜いた自動拳銃『SIG SAUER P220』の銃口を向けると数回引き金を引いた。

 ヴィダールも不知火の存在に気づくが2発被弾する。

 瞬時にMP5を不知火に向けようとするが、その手から銃が弾き飛ばされた。

「なにっ!?」

「えへ……」

 上半身を起こしていたヤガミがキャリコを発砲し銃を弾き飛ばしたのだ。

「だらっしゃー!」

「だっ!?」

 拳銃を持ったままヴィダールの腰に手を回した不知火は勢いのままタックルする。

 体制を崩し、後方の坂を滑り落ちていく。

「不知火くん!」

 ヤガミも急いで追うように坂を下っていく。

 転がる様に坂を滑り落ちて行った2人はそのまま投げ出されるように増水していた川底へと落下して行った。

 

 

 走行不能となり回収されていた八九式と九七式。

 英子たちはスクリーンに映る戦いを見つめていた

「不知火……!」

「まさか衛宮くんがあそこまでするなんて……」

 秋月も素直に不知火の戦いに驚いていた。

「すげぇな、不知火先輩」

「あんな強い相手に一歩も引かず、向かって行くなんて」

 そして、戦死判定を受けていた辰巳や漣も驚いた表情を浮かべていた。

 

 

 その頃、アンクは亮と礼を相手に戦っていた。

「は!」

「ぐっ!」

 アンクはコンバットナイフを振る。

 亮もなんとかコンバットナイフで防御するが、何度も繰り返される攻防でその体は疲弊していた。

 そんな隙を見逃すはずもないアンクだが、礼の援護がそれを阻んだ。

「邪魔だよ!」

 片手でRK-42を持ち、引き金を引いた。

 安定しないまま放ったものの銃弾は礼に数発命中した。

 それでも礼を屠るには十分だった。

 戦死判定のアラームが響き、礼はその場に倒れ込む。

 その隙をついて、亮が弾切れのトンプソン・サブマシンガンの砲身を握り鈍器の如く振り下ろす。

「だー!」

「きかないっての!」

 ナイフで攻撃を受け流すと、カウンターするように亮の横っ腹を蹴り飛ばす。

 腹部に受けた鈍い痛みを感じて倒れ込んだ。

「うう……」

「手間取らせてくれたね」

 アンクは吐き捨てるように言うと振り返り歩き出す。

 亮は腹部に感じる痛みに耐えるように奥歯を噛み締める。

「ここで立たなきゃ……何も変わらない!」

 左手が何かに当たる。

 トンプソン・サブマシンガンが左手に振れたことに気づいた。

 腰のマガジンケースから予備弾倉を引き抜き、交換して発砲可能にする。

「……せめてあいつでも屠ってやる!」

 亮は上半身を起こし立ち上がるとリアサイトに目を近づける。

 そして、引き金を引いた。

「なっ!」

 発砲音に気づきアンクは振り返るが連続して放たれた銃弾は胸元に命中していった。

 距離が20m以上離れていたものの、弾倉が空になるまで撃ち続けたことで装弾数の半分以上は被弾した。

 それでも、アンクを屠るには十分な量だった。

「う、そ、でしょ……」

 アンクは膝から崩れるように地面に倒れた。戦死判定のアラームを鳴らして。

「ちゃんと屠ったかどうかくらい確かめな……」

 亮もやり切ったように仰向けに倒れた。

「後は先輩たちに任せます」

 肩で息をしたまま右に視線を向けると、うつ伏せに倒れていた礼も親指を立てていた。

「アンクがやられただと!?」

「馬鹿!避けろ!」

「え?――ぎゃー!」

 投擲された手榴弾の爆発で狙撃兵の1人を屠った俊也が駆け出す。

 敵歩兵の使っていたラハティL-39を掴み取り、再び駆け出した。

「ちっ!」

 次々に戦死していく仲間たちを見て焦りを見せる司は対峙していた八尋に視線を向ける。

「へっ!俺たちだって必死なんだよ!」

 八尋はP90の引き金を引くと銃弾が吐き出される。

 しかし、森林の木々に隠れていた敵を狙い撃つのは困難だった。

「くっ!俺たちが……負ける?」

「嫌だ……」

 司は短く呟いた。

「司?」

「負けられないんだ!」

「なら、戦死するその瞬間まであがいてやろうぜ!」

 司と歩兵たちは覚悟を決める。

「司、まずいぞ!敵の歩兵がBT-42の後を追ってる!」

「司、お前がいけ!」

「こっち任せた!」

 司もBT-42とⅣ号、38tの向かった方へと駆け出す。

「ほらよ!」

「おっと、投げるなよ……」

 俊也はラハティL-39を翼に向けて投げると翼も両手で受け取る。

「本当に敵の銃を奪ってくるとはな」

「いいから、さっさと行くぞ!あのBTなんとかって戦車は動きが他とはちげぇからよ」

「わかってる」

 合流した2人は再び走り出す。

「行かせるか!」

「あいつは!」

 翼が驚いたように後方に視線を向けるとその先にはこちらを追いかける司の姿がある。

「翼、いけ!」

「わかった!」

 翼が再び駆けだすと俊也は司の方へと駆け出す。

 お互いに主武装の銃は弾切れ。残るは副武装の拳銃とナイフしか残ってはいなかった。

「まったく、CQC戦闘はきついぜ」

 俊也がFiveseveNを引き抜くと司もブローニングハイパワーを引き抜いた。

 CQC戦闘では突撃兵である俊也に有利だと思われたが結果は違った。

 司は狙撃兵であってもCQC戦闘に慣れている。

 それが萩風司という男だった。数回の攻防でそれは明白。

 一方的な戦闘だったが俊也はまだ立っていた。

「いってーなー」

「まだ、立つのか……」

 司はうんざりと言わんばかりに表情を歪ませる。

 そんな中、翼がようやく狙撃地点に到着した。

「……さぁ、チャンスはたった3発。ったく俊也の奴これじゃあぶっつけ本番じゃないか……」

 ラハティL-39を地面に置いてスコープを覗く。

 スコープの数十m先でⅣ号とBT-42が交戦しているのを確認する。

「こちら、翼。いつでも狙える」

「……みほ、頼んだ」

 凛祢が短く呟く。

 するとみほはキューポラを閉じて車内に戻る。

「はい、麻子さん」

「わかった……」

 みほの合図で麻子も頷いた。

 勝負は一瞬。この一撃にかける。

「当たれ!」

 翼が引き金を引くと放たれる銃弾。

 その時ミカが瞼を開いた。

「ミッコ、ブレーキ!」

「……!」

 ミカの凛とした声にミッコが車体を操作する。

 またもドリフトするように車体が動き、180回転して銃弾を回避した。

 翼がラハティL-39で放った銃弾は地面にを抉っただけだった。

「なに!?」

「華さん!」

「後退!」

 みほの声で華がトリガーを引くと、Ⅳ号が砲撃。

 ほぼ同時に凛祢がⅣ号から跳躍した。

 しかし、同時にミカが声を上げるとBT-42はそのまま後退したことで砲弾を回避した。

 その瞬間、翼とみほだけでなくⅣ号車内にいた全員の表情が凍り付いた。

 隣に停車するBT-42の砲塔はⅣ号の側面を向いている。

 もはや必中の距離であった。

「え?」

 照準器を覗くアキは思わずそんな声を漏らした。

 Ⅳ号の砲塔にはあんこうチームを現すエンブレムが描かれている。

 しかし、アキの覗く照準器の先にはそのエンブレムを覆い隠すように何かがへばりついていた。

 橙色のそれは、アキにも見覚えはあった。

 そう、ヒートアックスだった。

「アキ、トュータ(撃て)!」

「これで……最後だ」

 ミカが声を上げるとアキはトリガーを引いた。空を舞う凛祢も手に握っていたリモコンのスイッチを押した。

 2つの轟音が響き渡り、砂埃が舞い上がる。

 ヒートアックスの爆風は跳躍して空にいた凛祢の体を容赦なく吹き飛ばした。

 爆風を受け、地面に落ちてからもその体は投げ着けられたように地面を転がった。

 すぐに凛祢の特製制服から戦死判定のアラームが響き渡る。

 

 

 俊也と対峙していた司は轟音を聞き、ゆっくりと銃を下ろした。

「はぁ、はぁ」

「決着が着いたようだ……」

 肩で息をする俊也は地面に伏せていた。

 観客席には数秒間の沈黙が走っている。

「どうなったの、かな?」

「わかんないけど……」

 風香の問いに華蓮は、そう答える事しかできなかった。

「うう……あ!」

 体中に走る痛みに耐え、視線をゆっくりとⅣ号とBT-42の方向へと向けた。

 砂埃が晴れ、ようやく2輌の状態を確認する。

 Ⅳ号、そしてBT-42からは同じ白旗が上がっていた。

「Ⅳ号、BT-42共に走行不能!フラッグ車走行不能により大洗連合の勝利!」

 そのアナウンスが響き渡ると、観客席から大きな歓声が上がる。

「勝ったの……?」

「みたいだな……」

「私たち勝ちました!」

「勝ったんですよ!」

「うん!」

 Ⅳ号車内でもそれぞれが喜びの声を上げる。

「いやー負けちゃったかー」

「あれはどうやっても避けられないよー」

「……」

 BT-42の車内でもミッコやアキが残念がっていたものの、ミカはやり切ったような表情を浮かべカンテレを短く鳴らした。

「凛祢さん!」

 キューポラを開き飛び出したみほは、凛祢の元へと駆け寄る。

「大丈夫ですか!?」

「なんとか……」

 凛祢は短く答えるとゆっくりと体を起こし、みほに視線を向ける。

 

 

 森林内を流れる川の下流で不知火は陸へと這い上がる。

 横には冬樹学園の隊長、ヴィダールの姿もあった。

 2人とも水を飲み込んでしまい、激しく咳き込んでいる。

「不知火くん!」

「げほ!……ヤガミ、か」

 目の前に現れたヤガミを確認する。

「試合は僕たちが勝ったよ!」

「そうか、ならよかった」

 不知火は仰向けに空を見上げる。

「にしても、よくこっちの人も引っ張り上げたね」

「船舶科は大体の奴が泳げるからな。逆に普通科はかなづちが多いんだよ……」

「……かなづちで悪かったな」

 不知火がやれやれと呟くと不意にそんな声が返答する。

「うお!狙撃野郎……起きてたのかよ」

「ああ、先ほどな。試合ではウチが負けたみたいだな。敗北は受け入れるさ」

「素直だね」

 ヤガミは思わず呟く。

 ヴィダールは体を起こして濡れた制服に手を当てる。

「負けたことをいつまでも拗ねるのは性に合わないからな。おっと、そろそろ陣地に戻らなければな」

「そうだった。不知火くん僕たちも行くよ!」

「おう……ヴィダール、だっけ?いつか再戦しようぜ」

「いつか、また」

 ヴィダールと不知火はそんな約束を交わすとゆっくりと別々の方向へと歩き出す。

 

 

 陣地に戻った凛祢たちは再び歓喜の声を上げていた。

「まさか、最後に西住ちゃんがあんな捨て身な技を仕掛けるとはねぇ」

「あ、それなんですけど……」

「「「えーー!あれって作戦じゃなかったんですか!?」」」

 みほの説明に思わず大洗連合の生徒たちが声を上げた。

「凛祢さんがヒートアックスを使うとは聞いていたんですけど……」

「凛祢、お前なぁ……」

「勝ったんだからいいじゃねぇか」

 雄二が鋭い視線を向けるが、俊也が呆れたように返答した。

「そのためにⅣ号諸とも爆破する奴があるか!」

「それでも勝ったじゃないですか……俺の狙撃だって回避されてしまいましたし、どちらにしても凛祢の判断は正しかった」

「まぁ、結果的には勝ったからな……」

 雄二の隣にいた桃もしぶしぶ納得したように凛祢を見つめる。

「まあまあ、良いじゃねぇか。俺たちが勝って決勝進出したんだから!」

「そうですよね」

 不知火と亮が話の間に入る。

 今回の戦いで2人はそれぞれの強敵と対峙した。

 勝敗を勝ちと呼べるのかは分からない結果だったがであった2人は成長したのだ。

「決勝か……」

「決勝戦……」

「「相手は黒森峰……」」

 みほと凛祢が同時に呟いた。

 決勝戦は凛祢にとってもみほにとっても、最も因縁のあるチームだった。

 歩兵道界の西住流である黒咲聖羅と西住流家元である西住まほの2人。

 それが最後の相手なのだから……。

 

 

 

 試合が無事に終了し凛祢たちは、大洗学園艦に帰還していた。

 学園艦内の銭湯には大洗連合の姿があった。

「ふぅー。やっぱ、勝利の後の風呂はいいもんだなー」

「本当ですよねー」

「いてぇ……」

「大丈夫か、俊也?」

 ヤブイヌ分隊の4人も湯船に浸かり、疲れを癒していた。

 そんな中、サウナにいた凛祢と不知火の前には冬樹連合の3人の姿があった。

「いやー銭湯が学生は無料だなんて太っ腹ですよねー」

「確かにな、冬樹学園にはこんな施設はないからな」

 アンクとヴィダールはサウナを満喫していた。

「なぁ、司」

「なんだ?」

「答えたくなかったら答えなくてもいいけど。なんでお前たちはわざわざ冬樹に入学したんだ?司やアンク、ヴィダールさんだって、その腕があればファークト、黒森峰にだって行けただろう?」

 凛祢は思わず質問を投げかけた。

 ずっと気になっていた。実力がありながら……どうして彼らは冬樹学園へと辿り着いたのか。

「理由なんかない。俺はただ隊長ってのをやりたくなったから冬樹学園に来ただけだ」

「ヴィダール、お前マジかよ。そんな軽いもんなのか?」

「まあ赤山中学の時は、アルベルトに散々ファークトに来いって言われたけどね」

 ヴィダールは笑みを浮かべていた。

「俺は聖羅の歩兵道を認めてはいない。あれが正しいとは思えなかった」

「俺だって黒咲先輩の歩兵道は嫌いだったから。だから司さんについて行こうと思ったんすよ」

「そうか……」

「おいおい、暗い話はやめよーぜ。俺たちはもう戦友だろ?」

 凛祢たちの話に不知火は思わず声を上げた。

 自分たちが暗い話をしていたことにようやく気づく。

「そうっすよ。司先輩、凛祢先輩!」

「悪いな……」

「そうだな。せっかく歩兵道という戦場で出会えたんだ、こんな話はやめよう」

 アンクが立ち上がりそう言うと凛祢と司もお互いに笑みを浮かべる。

「あれ、葛城隊長は?」

「サウナで冬樹の連中と話してる」

「へー珍しいですね。他校がウチの学園艦の銭湯使うなんて」

 アーサーと亮が返答した俊也の隣に座る。

「継続と冬樹の学園艦には銭湯なんてものはないらしい」

「そうなんですか?」

「戦車倉庫に屋根がないって話だしね」

「まじっすか!?」

 英治と宗司が呟くと亮は驚いた表情を浮かべていた。

「あいつらも結構大変なんだな」

 八尋は思わず呟いていた。

 銭湯で汗を流した凛祢たちは継続&冬樹連合と別れるために再び本土の港にいた。

 日は傾き始め、どちらの学園艦も出航の時間が近づいていた。

「凛祢」

「ミカ……?」

 ミカは凛祢を見つめる。

「強き力は人を孤独にする……でも、君は少し違ったようだね」

「どういう意味だ?」

「……君は聖羅とは違う。彼とは違う強さを持っているってことだよ」

 ミカはそう言い残して歩き始める。

 凛祢は疑問を抱くようにその背中を見つめていた。

 彼女が言っている力とは『超人直感』の事なのだろうか?

 しかし、彼女もまた自分と同じ直感という才能を持っていた。

 それは、あの戦いを見てすぐにわかった。

「ミカ――」

「そろそろ時間だよ」

 凛祢が引き留めようとするがミカは出航時間であることを告げる。

「もう行くのか……」

「時間だからな」

 凛祢を見て司も腕時計の時間を確認する。

 ヴィダールやアンク以外にもアキ、ミッコの姿があった。

「凛祢くん。決勝は私たちも見に行くね」

「大洗の皆さんも頑張ってくださいね」

 ミッコとアキも一歩踏み出してそう言った。

「じゃあ、また」

「ああ」

「ばいばーい」

「さよーなーらー」

 ミッコとアキは最後までこちらに手を振り続けていた。

「アキさんは凄かったですね。砲手と装填手を1人でやられているなんて」

「はい!ミッコ殿もあの操縦テクはなかなかのものでした!」

「うんうん!彼女からはドライバーとしての魂を感じたね!」

「今度、一緒にドライブとかしてみたいなー。いっぱいドリフトして」

 華や優花里以外にも自動車部の4人が試合の事を思い出して話に花を咲かせていた。

「じゃあ、俺たちも帰ろうか」

「はい」

 凛祢とみほたちもいそいそと学園艦へ戻っていく。

 学園艦に帰還した凛祢はみほを女子寮へと送り届け、自宅に帰宅した。

「疲れたな……」

 今回のギリギリの試合であったことは明白であった。

 こんな調子で本当に次の決勝戦で勝てるのだろうか?

 凛祢はため息交じりに呟くと、布団に倒れ込む。

「まあ、次の事は明日から考えるか」

 電気を消すと凛祢はすぐに眠りについたのだった。




今回も読んで頂きありがとうございます。
今回で継続戦は決着です。
時間がかかってしまって本当に申し訳ありません。
継続戦は原作にはないオリジナルだったのですが難しかったです。
準決勝に勝利し、決勝進出を決めた凛祢たちは次の対戦相手である黒森峰に勝つことができるのか?
次回は5月中には上げたいと思ってます。
意見や感想も募集中です。
次回もお楽しみに!


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第27話 決戦前夜

どうもUNIMITESです。
なんとか5月中に上げることができました。
では本編をどうぞ


 継続&冬樹学園との試合の翌日。

 登校すると校舎に「祝、決勝進出」と書かれていた張り紙が廊下の壁に貼りだされていたことに気づいた。

 ウチの学園の新聞部は仕事が早いと実感する。

「おー、俺たち学園艦中の有名人だな!これは俺へのファンレターが来るのは時間の問題だぜ」

「八尋、お前はいつも元気でいいな。俺は決勝戦が心配だってのに」

 翼も履き替えた靴を下駄箱に入れる。

「こいつは馬鹿なだけだろ……」

「んだとゴラァ?」

「まぁまぁ。喧嘩しないで」

 俊也が吐き捨てるように呟くと塁が間に割って入った。

「大丈夫さ、ここまで来たんだ。必ず勝利の道は作るよ」

「凛祢殿の言う通りですね」

 凛祢たちは再び歩き出すと教室へと向かう。

チャイムの音を合図に、午前の授業を終えて戦車道と歩兵道の授業をするべく履修者たちは校庭のガレージに集まっていた。

 バレー部にバスケ部、歴女チームと歴史男子チーム、一年生チーム、風紀委員と青赤黄の委員会役員、英子たちオオカミチーム、生徒会役員の姿はすでにガレージ内にある。

 少々遅れてガレージ前にやってきた凛祢たちヤブイヌ分隊の5人もガレージ内に入っていく。

「次はいよいよ決勝戦だ!対戦相手は黒森峰女学園と黒森峰男子学園による黒森峰連合!」

「前年の準優勝校とはいえ、それまで黒森峰連合は9連覇を達成していた学校だ!」

 桃と雄二の説明に凛祢は去年の事を思い出していた。

 去年の全国大会で黒森峰連合は、プラウダ&ファークト連合に敗北したものの実力は拮抗していた。

 いや、もしかしたら実力は黒森峰連合の方が上だったかもしれない。

 それでも、少しの油断とミスで戦局はひっくり返ることがある。

 ミカたち継続&冬樹連合の試合の様に。準決勝で自分たち大洗連合はなんとか勝てたとはいえ、ギリギリの勝利であったことは明白だ。

 たとえ、最後の一輌、一人になっても戦い続ける。そして、この学園を……守って見せるさ。

「全校の期待がかかっているから頑張ってよー!」

「決勝戦まで来て負けてしまってはプラウダやファークトの連中にも悪いしな」

 杏と英治も自分たちが期待されていることを再確認させるように言葉を送る。

「本日はみんな戦車の整備に当たってください。歩兵の皆さんはそれぞれの装備の確認を」

「「「はい!」」」

 宗司の言葉を合図に大洗連合は返事をしてそれぞれの仕事にあたる。

 そして凛祢とみほ、英子たちはオオカミチームに生徒会役員は大洗女子学園、生徒会室にて作戦会議を行っていた。

「決勝戦は20輌までいいそうですから……おそらく相手戦車の配置はティーガー、パンター、ヤークトパンター……これではあまりに戦力が」

「はぁ、戦車の名前を聞いただけで戦力的差があるのがわかっちまうぜ」

 みほが用紙に描かれた相手を現す四角に丸を付けていく。

 その様子を見ていた不知火は思わずため息をついた。

「歩兵だってファークトの様に砲兵中心である編成の上に、狙撃兵と突撃兵、数は少ないが偵察兵にも抜かりはない」

 塁たちがまとめていた黒森峰の歩兵データを確認していた凛祢も非情な現実を突きつける。

「で、でも、みほさんは黒森峰にいたんでしょ?相手の弱点とか分かるんじゃないの?」

「えっと、お姉ちゃんや聖羅さんには隙が無くて……」

 続けて凛祢の言葉を聞いていた英子は何とかならないかと言わんばかりにそんなことを問い掛ける。

 しかし、求めた答えは返ってこなかった。

 厄介なのは、戦車だけじゃない。黒森峰の歩兵だってその実力は確かなものだ。

 武器や戦車の数と質だって、一目見れば差がはっきりしすぎている。

「「「うーん……」」」

 戦う前から圧倒的劣勢な状況に、生徒会役員だけでなく英子たちまで視線を落としていた。

「どこかで戦車叩き売りしてませんかね?」

「色んなクラブが義援金出してくれたんだけど、戦車は無理かもねぇ」

「その分は、今ある戦車の補強、または改造に回しましょうか。駆動車も1輌増やせればいい所ですね」

「そうですね」

「そうするしかないですね」

 杏たちの提案に、凛祢とみほも賛成する。

「じゃあ他には――」

 英子が「どうするの」と言い出そうとした時だった。

 生徒会室の扉が勢いよく開け放たれる。

「話は聞かせてもらった―!」

「……え?」

 急な叫びに、視線はその少女に集まる。

「ちょ、ちょっと風香!」

「なーによー?」

「そんないきなり入っていったら迷惑でしょ」

「大丈夫だって!ウチの生徒会なんていつもこんな感じっしょ?」

 扉を開け放った少女を制止しようと170㎝を越えるであろう長身長の女が現れる。

「ん?涼月ちゃんに初月ちゃん?」

「やっほー杏。久しぶりー。話は聞かせてもらったよ。あたしとスズも戦車道を履修するよ!」

 風香は書類を前に突き出した。

 その書類は戦車道を履修するために選択授業を変えるという書類だった。

 杏が書類に目を通し再び、目の前に立つ2人に視線を向ける。

「ま、いいんじゃない?」

「本当!?さっすが杏!」

「そんなテキトーで本当に大丈夫なの?」

 嬉しそうに笑みを浮かべる風香とは真逆に華蓮は心配そうな視線を向けた。

「2人が戦車道を履修してくれるのは嬉しいんだけど……」

「今は2人が乗れる戦車なんてないぞ」

 柚子と桃も杏から受け取った書類に目を通すとそんなことを呟く。

 すると風香は待ってましたと言わんばかりにまったく育っていない胸を張った。

「あたしらを侮ってもらっちゃー困るってもんよ!それにその話はさっき外で扉越しに聞いた!」

「なんで、自信満々なの……?」

「だって、あるもん。戦車は!ねぇスズ!」

「確かにあるけど……どんなのかは見てもらった方が早いかな?」

「これなら!」

「もしかすると……」

 風香が笑みを浮べていると華蓮も呟いた。

 そんな様子を見て、柚子と桃は希望を抱いて顔を見合わせる。

 

 

 ガレージ内に運び込まれた戦車を凛祢や他の生徒たはと同様に妙味深く見つめる。

 その戦車は、クルセイダーなど同じ巡航戦車であり、その後継型にあたる巡航戦車Mk.Ⅶ『キャバリエ』であった。

 性能としては悪くはないが、巡航戦車でありながらⅣ号と変わらない速度しか出せず巡航戦車の中でも最も低速であったため歴史でもあまり活躍しなかったって聞いたけど。

 確か車長と砲手、操縦手以外にも装填手などが必要だったはず……。

「へぇー、キャバリエですか!」

「イギリス製の戦車がまさか大洗にあったなんて!」

「「凄いです!」」

 目を輝かせていた優花里と塁は口裏を揃えて、そんな言葉を口にしていた。

 他の生徒たちもキャバリエを見て、驚きの視線を向けている。

「いいねぇいいねぇ。このあたしらを見直したかのような視線!いいぞ、もっとやれ」

「調子に乗らないでよ……」

「つれないねぇ」

 お調子者の風香とは真逆にクールで落ち着いた様子の華蓮が呆れた視線を向ける。

「性能としては悪くないよねー」

「確かに、巡航戦車としては遅くてもⅣ号とそう変わりませんから」

「そうですね」

 杏たちも納得したように頷いていた。

「みんな、新しく加わった涼月ちゃんと初月ちゃんだよ!」

「涼月華蓮です。よろしくお願いします」

「はーい!あたし初月風香って言うんだ!よろしくねー!」

 紹介され、華蓮と風香は自己紹介をする。

「なんだ、照月さんたちの知り合いだったのか?」

「うん。3年間同じクラスだったしね」

 不知火の問いに英子も返答する。

「そうだよ!照月さんたちを見て、私たちもしたくなったんだ戦車道!スズを連れてくるのは大変だったけどねぇ」

「別に、やることにしたからいいでしょ。私も少しは興味あったし……」

 英子たちと話始めると風香はまた満面の笑みを浮かべていた。

 おそらく彼女たちも3年生であるのだろう。

 英子やセレナとは結構仲が良さそうであり、それは一目でわかった。

「ねえ、風香。でも、この戦車は……」

「それなら大丈夫だって!あたしらで動かせばいいんだから!」

 華蓮の言葉を遮る様に風香は自信満々であった。

 するとセレナが口を開いた。

「ねぇ、キャバリエって車長に砲手、装填手と操縦手。最低でも乗員4人は必要なんじゃないかしら?」

「んえ?そうなの?……どうしよ、スズ?」

「私に言われても……」

「うーん……なら、照月ちゃんたちと涼月ちゃんたちが一緒に乗ろうか?キャバリエに。そしたら4人だし、照月ちゃんは通信手とかも兼任してたから」

 2人の様子を見つめていた杏は少し考えた後、思いついたように再び視線を向ける。

「ちょ、ちょっと待ってよ!私たちは九七式(テケ)があるでしょ!」

「まあ、そうよね」

 英子が慌てて反論するとセレナも苦笑いを浮かべる。

「そこをなんとかさー。ねー照月ちゃーん」

「風香まで、ちゃん付けで呼ばないでってば!」

「いいじゃない英子。テケは戦車道で使うには少し軽かったし、なによりキャバリエなら私たち4人で乗れるんだもの」

「はぁ、もう分かったわよ!やればいいんでしょ……」

 英子はようやく納得したのか声を上げる。

 

 

 一方、風紀委員である緑子たちと青葉たちの6人は軽トラックで学園艦内を周っていた。

「大洗女子学園、大洗男子学園の皆さまの風紀を守る、皆さまに愛されている皆さまの風紀委員です!」

「風紀委員以外にも図書委員長と保健委員長もいますよー」

 緑子が拡声器を使って呼び掛けている隣で青葉や赤羽は戦車道、歩兵道の歴史が書かれた書類に目を通していた。

「戦車や銃火器を見かけたら、速やかにお知らせください!」

「街中で戦車と銃火器が見つかるとは思えないけどな」

「赤羽先輩。駄目ですよ、そんなこと言っちゃ」

「「……」」

 後方で皮肉を口にする赤羽に、モヨ子が注意するように声をかける。

 黄場と希美は無言のまま外に視線を向けていた。

「もう、あなたたちもちゃんと呼びかけしなさいよ!」

「拡声機は一つしかないんだから、しょうがないじゃないですか。そうだ、そど子さん。次は商店街のほうに行ってみましょう」

「……行先は青葉くんに任せるわ」

 運転している青葉がハンドルを操作し、車体は商店街の方へと向かって行った。

 

 

 そして、ウサギさんチームとヤマネコ分隊は駐車場内で戦車を探し回っていた。

「戦車を見かけた方はお知らせください!」

「他にも銃火器なんかもあったらお知らせください!」

 梓と亮が拡声機を使って呼びかけをしている。

「ご不要の戦車があったら回収しまーす!」

「違うじゃーん」

「言ってみたくなるじゃん」

 あやの言葉に優希がツッコむと他の者も思わず笑い声を上げた。

「あやさんたちは相変わらずだな」

「でもさ、仮に戦車見つかったところで乗る奴いなくね?」

「まあ結局のところ履修者が増えなきゃ、意味ない気もするけど……何もしないよりいいんじゃないの?」

『それでも、やれることはやっておくべき』

 歩に続いてアキラ、礼がそんな言葉を口にすると銀がまとめるようにメモ帳を見せる。

「本当、馬鹿だなぁあやは」

「酷ーい!よりによって優希ちゃんに言われた!」

 あやが叫ぶと再び笑い声が響いていた。

 

 

 決勝戦への準備の日々が進む中、ガレージ内では杏が自慢げに胸を張っていた。

「義援金と売却したテケのお金でヘッツァー改造キットとキューベル・ワーゲン買ったから38tに取り付けよう!」

「え?テケ売っちゃったの!?」

「テケはー売っちまったぜー、ワイルドだろぉ?」

「風香は黙ってて!」

 驚いていた英子の隣で風香も自慢げに呟く。

 しかし、すぐに英子が鋭い視線を向けるとびくついたように視線を逸らした。

「怒られちまったぜー」

「もう、馬鹿言ってないで行くよ風香」

 風香はそんな事を口にすると華蓮と共にキャバリエの方へと歩いて行った。

「結構無理やりよねぇ」

「後はⅣ号にシュルツェンを取り付けましょう」

「いいねぇ!」

 桃や杏も戦力を少しでも強化しようといろんな事を提案していた。

 みほもそんな様子を見て笑みを浮かべる。

「葛城、他には何かやることはあるか?」

「ヤブイヌ分隊のFiveseveNをロングマガジンに変更するのはどうでしょう?」

「悪くないかもな。ヤブイヌ分隊はマガジンの共有もできるし」

 英治たちもどんなに小さな改善でも実行していくことを決めた。

 その時、大きなあくびをしてガレージ内へと侵入しているヒムロの姿が現れた。

 凛祢たちは思わず視線を向ける。

「ふぁー……よう、来てたのか英治」

「ヒムロ。お前が登校してきたってことは、例の物はできたのか?」

「おう、俺の持てる力全部使って作り上げたぜ……」

 ヒムロは背負っていた刀剣を鞘ごと英治に渡すと、ヘッツァー改造キットとキャバリエが目に入る。

「って、おいおいいつの間に戦車を増やしたんだ?それになんでヘッツァーの頭がここにあんだ?」

「ヒムローちょうどよかった。ヘッツァー改造キットを38tに取り付けるから手伝ってー」

「はぁ?ったく、少しは休ませろっての……ヤガミ、ヤマケン。チェーンを繫げ、38tに取り付けんなら滑車で吊り下げた方が速い。にしても随分無理やりなことを考えんな」

「「りょうかーい」」

 眠そうな目で準備を始めるヒムロの指示で、ヤガミとヤマケンもヘッツァーの頭にフックを繫いだ鎖を取り付け始める。

「ヒムロくん何か手伝えることはある?」

「ヤガミたちの手伝いでもしてくれ。ふぁー」

「随分眠そうだね」

「そりゃあ、この数日間ロクに寝てねぇからな。ずっとアーサーの奴の剣を打ってたからな……ま、スズキやホシノも悪かったな。こっちの整備を任せっきりにして」

 ヒムロも鎖を引っ張り上げると機械にセットして操作を始める。

「いやー。そんなに大変じゃなかったよ?ヤガミくんとヤマケンくんもいたしね」

「そうそう。ヒムロくんだってさぼっていたわけじゃないし。お互い様でしょ」

 スズキとホシノは笑みを浮かべ口にするとヒムロは「それはよかった」と言わんばかりに安心した表情を見せた。

「スズキ、ホシノー。行くよー」

「いま、行くー」

「じゃあ、ヒムロくんも頑張ってね!」

 自動車部の4人も戦車の元へと歩いていく。

「実は私たちのみんなの中で一番頑張っているのはヒムロくん、なのかもね」

「確かに。戦車や歩兵のみんなの武器だけじゃなく、アーサーくんの剣を作ったり本当に頑張ってるよヒムロくんは……」

 再び2人が振り返るとヒムロはまたあくびをしていた。

「んじゃ、私たちも全力で手伝ってあげないとね」

「うん。急いで整備終わらせないと!」

 そう言ってホシノとスズキはポルシェティーガーの整備にあたる。

「「あの西住さん、葛城くん!」」

「あ、猫田さん」

「ん?君は……」

 不意に名前を呼ばれた凛祢とみほは振り返る。

 視線の先には呼んだ本人であろう生徒が立っていた。

 短い黒髪と細い体つきをしている男子生徒と腰まで伸びた髪の毛に丸メガネを掛けた女子生徒。

「だれだっけ?」

「ズゴー!……同じクラスのアインですよ!日向(ひゅうが)アイン!」

 凛祢の言葉にアインは思わずズッコケる。

「あー、居たなぁ。日向、で、どうした?」

 思い出したように頷くと気を取り直して凛祢は質問を投げかける。

「えっと、あの僕たちも戦車道と歩兵道したいんだけど……」

「その、僕たちも役に立ちたいって言うか……」

 ねこにゃーとアインは慣れていないのか短く呟く。

「それは朗報だな。戦力は多いほうがいい」

「ほ、本当?僕、エイム力には自信があるよ……」

「僕も操縦は慣れているから……」

「は?エイム力?」

 思いもよらない答えだったからかねこにゃーとアインは驚きながらも嬉しそうな表情を浮かべていた。

 しかし凛祢はアインの口から出た言葉に疑問を抱く。

 聞き覚えのない言葉だったからだ。

「おい、葛城。生徒会の許可もなく人員を増やされては困る」

「分かってますよ。ウチには戦車も歩兵用の武器がギリギリだってことくらい……日向、他に歩兵どうしたいってやつはいるか?」

「ううん。実は僕だけで……」

 日向は自信なさそうに呟く。

 そんな答えに凛祢は再び考え込むように腕を組む。

「会長。義援金ってあとどれくらい残ってます?」

「ほとんど使ってしまったからな、精々数万円程度だろう」

 英治から帰ってきた答えに凛祢は肩を落とした。

 数万円程度では自動拳銃を買うのが精いっぱいだろう。

 今まで拳銃しか銃を装備してこなかった自分が言うのもなんだが、正直拳銃だけでは戦力にならない。

 工兵であるなら別だが。

 初心者であるならなおさら、主武装にはライフルや短機関銃といった武器が必要だ。

 どうしたものか……。

「1人だけなら、雄二の使ってたMP18を使ってもらうのはどうですか?」

「いいんじゃねぇか?俺は砲兵になってもう使わないしな」

 雄二も異論はないと言わんばかりに頷いていた。

「じゃあ、拳銃だけ購入しておきましょうか」

「あの、戦車は?」

「それは流石に……」

 みほが問い掛けると宗司は答えにくそうに視線を逸らす。

「ですよね」

 思った通りの答えに凛祢も視線を落とす。

「猫田さん、もうどこを探しても戦車が無くて……」

「あの戦車は試合には出ないの?」

「「あの戦車?」」

 ねこにゃーのくちから出た言葉に思わず聞き返す。

 そして凛祢やみほたちが学園近くの駐車場を訪れると、そこにはあった。

 確かに戦車があった。

 いつからそこにあったのか、なぜ今まで気づかなかったのか。

 問いただしたくなるほど、近くに戦車が1台あったのだ。

「こんなところに三式中戦車が」

「なんで、いままで気づかなかったんですか?」

「俺に言われても」

 アインの質問に凛祢はそう答えるしかなかった。

「あれ?これ使えるんですか?」

「ずっと置きっぱなしになってたから使えないんだと思ってました」

 桂里奈とあやは見つけてはいたのか、そんな言葉を口にする。

「いままでだって動きそうにないのを動くようにしたんだから使えるって思うだろ、普通」

「まあ、いいじゃないの。見つかったんだし」

 翔が本音を口にすると礼がフォローする。

「あはは」

「……」

 戦車を見つめていたみほも苦笑いしていた。

 

 

 翌日、午前の訓練を終えた凛祢とみほはガレージ前に戻ってきていた。

 ガレージ前には整備中のポルシェティーガー、キャバリエ、三式中戦車の姿がある。

「キャバリエはオオカミさんチームと涼月さん、初月さんに乗ってもらうとして……」

「相変わらず、歩兵は衛宮だけか。英子、車内の担当は決めたのか?」

 凛祢はキューポラから上半身を乗り出す英子に問い掛ける。

「ええ、一様ね。車長と通信手が私。操縦手はセレナ」

「砲手は私がやらせてもらってます」

「装填手はあたしがやってるよー。装填ならお任せってね!」

「俺は狙撃兵だぜ」

 英子に続いて華蓮、風香が答える。

「そうなんですか」

「衛宮の兵科はみんな知ってるよ」

「冷てーな、おい!」

「ふふ」

 凛祢と不知火の会話にみほは思わず笑みを浮かべる。

「こっちは?」

「あ、仲間はもう呼んでるから」

「仲間?」

 みほの質問に答えるようにねこにゃーが指さすと三式中戦車に前には2人の女子生徒が立っていた。

「「うわー!かっこいい!」」

「みんなオンラインの戦車ゲームしてる仲間です。あ、僕ねこにゃーです」

「は!あなたが!ももんがーです!」

「私、ぴよたんです!」

 ねこにゃーの名前を聞いて2人も自己紹介を済ませる。

「日向」

「なんですか?」

「お前もネットでFPSとか言うゲームしてるって言ってたよな。なんか似てるよな」

「そう、ですね。僕はソロですけど……」

 凛祢の言葉にアインは少々力なく返答した。

「わ、わるい……今度、塁でも誘ってみたらどうだ?そう言うのも好きだろうし」

「はい……」

 申し訳ないと凛祢は謝罪する。

 それからも決勝戦に向けての戦車と銃火器の改造、戦力アップは続いた。

 試合まで残り5日。訓練を終えた凛祢は玄十郎との格闘術訓練に取り組んでいる。

 玄十郎が放った拳を右手で切り上げるように弾く。瞬時に左手でカウンターするように拳を放つ。

「……!」

「フッ……」

 凛祢の放った拳は玄十郎の片腕によって防御されていた。

「震電返しは問題ないようだな。まさか、この短期間でここまできる様になるとは」

「……」

 凛祢は無言のまま玄十郎の方見つめていた。

 あとは無拍子だけ。ここまできたんだ、何としても取得して見せるさ。

「無拍子は神速の技法。それは知っているだろう?」

「はい……」

「凛祢直感に頼ることなく回避してみろ」

「え……?」

 玄十郎はそう言うと動いた。

 距離を詰めた瞬間。一瞬の出来事だ。

 いままでとは違う、玄十郎は一瞬で凛祢の腹部に烈風拳を見舞っていた。

 凛祢は堪らず、地面に伏せる。

 腹部には今までにない痛みを感じていた。

 技は知っている。モーションのない高速の技。しかし、使えば体への負担で動けなくなるのが難点である、それが橘花・無拍子。

「これが覇王流絶技『橘花・無拍子』だ」

「ああ、しってるよ」

 凛祢はよろよろと立ち上がる。

 玄十郎が手を抜いていたとはいえ、無拍子は高速技であるがゆえにパワーがある。

 痛みを腹部に感じつつも先ほどの動きを思い出していた。

「さあやってみろ。お前は勝つためにはこの技が必要だったのであろう?」

「ああ。聖羅に勝つにはどうしても必要だ」

 凛祢は先ほどの玄十郎と同様に構える。

 そして、速さを意識して流星掌打を放った。

 しかし、玄十郎は向かってくる凛祢の腕を掴み取ったことで技は届かなかった。

「ぐっ!」

「この程度の速さでは簡単に防御され、カウンターされるぞ」

 凛祢は素早く腕を振りほど、き一度距離を取る様に後退する。

 腕は力強く掴まれたせいか、痛みを感じた。

「さあ、どんどん打ってこい」

「はっ!」

 それから凛祢の修行は続いた。

 数時間ほど過ぎた頃だろうか、凛祢は肩で息をしていた。

 激しく疲弊していたが、それでも視線は玄十郎に向いている。

 すると玄十郎は玄関に向かって歩き出した。

「凛祢、今日は終了しよう。これ以上続けても明日の訓練に響くだろう」

「はい……」

 凛祢も視線を落とし、歩き出す。

 正直、今の状況に焦りを感じていた。

 無拍子をあと数日で本当に取得できるのだろうか?

 しかし、今の自分では勝てない。それは、わかっていた。

「凛祢、ワシは明後日で学園艦を離れることになる」

「どうしてですか!?まだ、俺は――」

「ここまで技を取得したのなら、あとはお前が技法を使いこなせるかにある。お前1人でも修行できるだろう」

 玄十郎は振り返ることもなく、そう口にした。

 確かに、ここまで覇王流の技を取得した。あとはそれを組み合せ、実戦に使えるように仕上げるだけ。

「……」

「自信を持て、凛祢。お前にならできる。鞠菜の戦いを見続けてきたお前なら」

「はい」

 玄十郎の言葉に凛祢は短く返事をした。

 鞠菜の戦闘術は自分が良く知っている。

 その夜、布団の上で凛祢は鞠菜に教えられた戦闘術を思い出していた。

 ナイフ戦闘術や拳銃射撃、格闘を織り交ぜたCQC戦闘術が鞠菜を強い兵士にしていたとゲイリーやアンダーソンも言っていた。

 それは自分も同じであると。葛城凛祢の戦闘術は周防鞠菜そのものなのだから。

 そんな事を考えているうちに眠りについていた。

 

 

 時は過ぎて、訪れた試合前日。

 午前の授業から戦車道と歩兵道の授業を行うことになっていた履修者たちは朝から校庭のガレージ前に整列していた。

「さあ、いよいよ決勝戦だよ!目標は優勝だからね!」

「大それた目標なのは分かってる。だが、我々にはもう後がない」

「負ければ……そこで終わりだからな」

 杏や桃、雄二が真剣な表情で言葉を続ける。

「……」

 その様子に履修者たちも理解したと言わんばかりに真剣な眼差しを向けていた。

「それじゃ、西住さんと葛城からも一言、言ってもらおうか!」

「え?」

「ほら」

 英治が2人を見つめて、前に出るように合図する。

 隣でみほが戸惑っているのを確認して凛祢も小さく呟く。

「目標を簡単に言えばいい」

「は、はい」

 2人はゆっくりと履修者たちの前に立った。

 視線が集まり少々緊張する。

「明日対戦する黒森峰連合は……黒森峰女学院は私がいた学校です。でも、今はこの大洗女子学園が私の大切な母校で、だから、あの、私も一生懸命落ち着いて冷静に頑張りますのでみなさん頑張りましょう!」

「俺もみほと同じ気持ちだ。必ずみんなを勝利の頂に連れて行く。みんなで勝とう次の決勝戦!」

 みほと凛祢の一言を終えると履修者たちからも「おー!」という大きな歓声が響いた。

 

 

 その頃、黒森峰学園艦。

 黒咲聖羅は戦車の格納されたガレージ内に座り込んでいた。

「珍しいな、聖羅。こんなところにいるなんて」

「……まほか」

 西住まほに呼ばれ、聖羅も視線を向ける。

「龍司たちが探していたぞ」

「ああ、すぐ戻るよ」

 そう言うと立ち上がり、扉の方へと歩いていく。

「決勝戦は大洗連合だ」

「まさか、凛祢と西住妹のいる学園が決勝まで上がって来るなんてな」

 教室へと向かう廊下を歩いていると話を切り出したのはまほだった。

 聖羅にとってはかなり予想外の結果であった。

 今年の決勝の相手はプラウダ&ファークト連合であると思っていたからだ。

 それが、決勝に現れたのは、かつての戦友であり自分にとって右腕だった凛祢だった。

 これを予想できた方が恐ろしい。

「それでもみほたちはここまで来た。ならば私たちも全力で戦うだけだ」

「当たり前だ。俺たちが2年連続の敗北なんてするわけにはいかねぇ」

 まほと聖羅は信念を持った瞳で空を見上げた。

 

 

 日も沈みかけた頃、大洗女子学園の校庭では最後の訓練を終えた履修者たちが整列していた。

「訓練終了!やるべきことはすべてやった!あとは各自明日の決勝に備えるように!」

「はい!」

「では、解散!」

 桃の号令で履修者たちは帰宅準備を始める。

「あー、疲れた。ここんとこ毎日訓練続きできつかったぜ!」

「ですねー。でも、いよいよですね!」

「明日が終わればしばらく授業休んでもいいのか?」

「そんなわけないだろ。にしても、もう明日なのか」

 八尋に続いて塁や翼も明日の決勝のことを考えているようだった。

 彼らと同様に自分も明日の事を考えていたのだが。

「ねぇ、葛城くん」

「ん?」

「葛城くんの家でご飯会やらない?」

「あ、沙織さんのご飯食べたいです」

 沙織の言葉に続いて華が笑みを浮かべる。

「お、いいねぇ!俺も沙織さんの料理食べたい!」

「前夜祭ですね!」

「祭りじゃないだろ……」

 優花里の言葉に麻子が冷静にツッコミを入れる。

「じゃあな」

「どこ行くんだよ」

「帰るに決まってんだろ」

「お前もヤブイヌ分隊の一人だろ。前日のご飯会くらい参加しろ」

 そそくさと帰ろうとする俊也の肩を翼が掴み引き留めた。

「面倒くせーな」

「まあまあ、そう言わずに行きましょうよ俊也殿!」

 ため息をつく俊也に塁が笑顔で呟いた。

「まあ、ウチにはもう玄十郎もいないし。俺は構わないよ、みほも来るだろ?」

「はい!お邪魔させていただきます」

 凛祢の顔を見てみほも笑顔でそう答えた。

「後は試合開始を待つだけか」

「これが最後なのか」

「泣いても笑っても、明日で最後ね」

「そうですね。ここまでやれることはやってきました」

 桃や雄二だけでなく、柚子と宗司も心配そうに言葉を口にする。

 どこかで不安を感じていたのだ。ここまできたがもしかしたら明日負けてしまうのではないかと。

「ちょっと、景気付けによって行くか!」

「お、いいんじゃないか?杏」

 杏の意見に英治が賛成し生徒会役員6人はとんかつの店へと向かう。

「おじさーん、食べに来たよーってあれ?照月ちゃん?それに不知火くんたちも」

「杏たちも来たんだ」

 店に入ってきた杏たちの姿を確認した英子たちオオカミチームもいることを知らせるように顔を出す。

「よ!英治。やっぱ試合前にはかつだよなー!」

「お、おう」

「あー、それ分かるー!だよねだよね!」

「流石、風香さんノリがいいねー!」

 不知火と風香は意気投合したのか、まるで仲のいい男女のように話を続ける。

 その横ではセレナと華蓮が静かに食事をしていた。

「はい!これ奢りね!かつかつ食べてがんかつてー」

「ありがとうございます」

「がんばるよー」

 店主のおじさんも気前がよくかつを戦車型にして提供していた。

「かつっこいいねぇー」

「かつかついえばいいってもんじゃない!」

 桃は少しカリカリしているのか、声を上げる。

「桃、そんなに肩に力入れたって意味ないわよ。少しは肩の力を抜いたら?それに『かつかつしても』いいことないでしょ?」

「照月さんまで、そんなことを」

 英子から出た言葉に桃だけでなく不知火たちも少し驚く。

 英子はなかなかそんなギャグを言わない性格だからだ。

「なかなか面白いわね」

「でも、凄いよね。私たちみんな名前くらいは知ってるけど、そんなに付き合いは長くないでしょ?それなのに今はこうして同じ目標に向かってる」

「それも戦車道と歩兵道の力なのかもね」

 華蓮が笑いあって食事するみんなをみてそう言うとセレナもいつもの口調でそう言った。

 

 

 凛祢の自宅では調理を終えたとんかつやその他の料理が並んでいた。

 あんこうチームとヤブイヌ分隊のメンバーたちは手を合わせ、同時に「いただきます」と声を上げた。

「おいしい!」

「うめー!」

「カラッと揚がってますね」

「うん、いい味付けだ」

 みほに続いて八尋や華、翼もその味を評価していた。

「いつでもお嫁に行けますね!」

「報告があります。私……」

 沙織は瞼を閉じて小さく呟く。

「婚約したんですか!?」

「マジで!?」

 優花里の発言に八尋は茶碗をテーブルに乱暴に置いた。

「八尋。茶碗割れるから優しく置け」

「そんなこと言ってる場合じゃねぇ!」

「彼氏もいないのに?」

 翼が注意するが、八尋は聞く耳持たんと言わんばかりに沙織に視線を向ける。

「違うわよ!じゃん!アマチュア無線2級に合格しました!」

「まあ」

「4級どころか2級に合格なんて!?」

 沙織が見せた免許証にその場にいた全員が驚きの表情を見せた。

「あー、よかったー……」

「八尋殿、どうかしたんですか?」

「なんでもねーよ……」

 塁が首を傾げるが八尋はそっぽを向いた。

「いやー、大変だったよー麻子と東藤くんに勉強手伝ってもらってー」

「教える方が大変だった……」

「おい、トシ!そんなの初耳だぞ!」

 俊也の名前を聞いて、八尋は思わず視線を向ける。

「あ?冷泉に付き合わされただけだ……」

「……なんで教えてくれねーんだよ」

「面倒だから」

 八尋が問うが、俊也は即答した。

 そんな様子を見て、本当に八尋は沙織に惚れているのだと実感する。

 歩兵道と戦車道が始まってからよく沙織を見つめていることがある。

「凄いですね沙織殿!」

「通信手の鑑ですね!」

「明日の通信は任せて!どんな所でも電波飛ばしちゃうから!」

 塁と優花里が褒めると沙織も自慢するように胸を張った。

「まさか、重大発表がそんなことだったとは」

「うん!婚約発表はないと思ってたけど。ね、凛祢さん」

「ああ。流石にな」

「もう、葛城くんまで!みぽりんも何気にひどい!」

 急に話を振られたことで凛祢もぎこちなく答える。

 そんな様子を見てみほは少し疑問を抱く。

「みぽりんだって、彼氏の一人でも作ってみなさいよ」

「え?あ、えっと……私は」

「……」

 沙織の口から言葉にみほは視線を凛祢に向け、頬を赤く染める。

 凛祢も少し頬を染め、視線を逸らす。

 すると八尋が口を開いた。

「あれ?沙織さんたち知らねーの?凛祢とみほさん付き合ってんだよ」

「「え?」」

「そうだったんですか!?みほさん!」

 沙織だけでなく優花里や華もみほの顔を覗き込むように見つめる。

「は、はい……」

「準決勝の少し前にな……」

 みほに続いて凛祢も呟く。

 しかし、沙織たちは驚き過ぎで表情が固まっていた。

「おい、八尋。どうすんだよ、この状況」

「俺のせいかよ!?」

「どう見てもお前が変なこと言ったからだろ」

「えー?翼、塁もなんとか言ってくれ!」

 俊也が冷たい目線を向けると八尋は翼や塁に助けを求める。

 しかし、2人もジト目で見つめていた。

「ふふ、ははは。八尋くん面白いね!」

「本当ですね!」

 沙織が笑いだすと優花里たちも笑い声を上げていた。

 それからも凛祢の家では笑い声が絶えることはなかった。

 バレー部であるアヒルさんチームはバレー部復活のために、バスケ部であるオオワシ分隊は夏の大会のためにそれぞれ練習に取り組んでいた。

 歴女チームであるカバさんチームと歴史男子チームであるワニさん分隊はシェアハウスで夕食の準備をし、アーサーは庭で竹刀を振っていた。

 自動車部であるレオポンさんチームと整備部であるタイガーさん分隊は戦車と銃火器の最終整備にあたっていた。

 ネトゲメンバーであるアリクイさんチームとアインは月の見える校庭で串カツを頬張っていた。

 風紀委員であるカモさんチームと青赤黄の委員長組であるシラサギさん分隊は委員会室で書類をまとめていた。

 一年生チームであるウサギさんチームとヤマネコ分隊は少しでも知識を増やすために戦車や歩兵のDVDを見漁っていた。

 凛祢の家での食事会が終わり、みんな帰宅したことでみほだけが残った。

「いよいよ、ですね」

「ああ、ここまできたんだ」

 星の輝く空を見つめながら2人は言葉を続ける。

「みほ、君には感謝してるよ。あの日、鞠菜を失って、歩兵道を辞めた日から俺の時間は止まっていた」

「凛祢さん……」

 そう、あの日から「葛城凛祢」の時は止まっていた。

 西住みほと出会い、歩兵道を始めたことでようやく歯車は動き始めたのだ。

 ここまで歩いてくることができた。

 みほがいたから。

「君には感謝してる」

「私もです。凛祢さんがいなかったら私もここまで来ることはできませんでしたから必ず勝って私たちの学園を」

「ああ、ここが俺たちの居場所だから……」

 みほと凛祢は決意をより固めると空の月を見つめた。

 明日の勝利を願うように。

 そして、夜は明けていく。決戦の時を迎えるために……。




今回も読んで頂きありがとうございます。
今回は黒森峰と戦う直前のカツを食べるまでの話でした。
なんとオオカミチームはテケからキャバリエに乗り換えることとなりました。
いよいよ迎える決勝戦、黒森峰戦。
次回は大洗連合最後の歩兵紹介編part3(シラサギさん分隊、タイガーさん分隊、日向アインとオオカミチームの新メンバー)を作った後に決勝戦の本編を描こうかなと思っています。
意見や感想も募集中です。気軽に書いてください。


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キャラクター紹介 大洗男子学園part3

どうもUNIMITESです。
今回はキャラクター紹介編part3です。
part3で紹介するのはシラサギさん分隊とタイガーさん分隊、新メンバー3名です。
ではどうぞ


ヤガミ「いよいよ、大洗連合の紹介も最後となるpart3ですね!」

UNI「なんで嬉しそうなんだ?」

ヤガミ「それはそうだよ。いよいよ、僕たち整備部の『タイガーさん分隊』の紹介があるからね」

UNI「はいはい。じゃあまずは赤青黄の3色委員長チームであるシラサギさん分隊です」

ヤガミ「風紀委員長の青葉くん、保険委員長の赤羽くん、図書委員長の黄場くんの3人ですね」

 

 カモさんチームが乗車するルノーB1bisの随伴歩兵分隊、シラサギさん分隊。

 青葉誠一郎、赤羽哲也(偵察兵)、黄場裕也(偵察兵)の三色委員長で編成された分隊。アンツィオ戦を前に生徒会長である杏と英治によって強引に任命され結成された。

 チーム名は凛祢が鳥類のワカサギの名を出したことで決定された。特製制服のエンブレムは

 1人1人が委員会に携わっており、青葉は常に笑うことを絶やさない明るい性格をしているのに対し赤羽と黄場は口数が少なく表情をあまり表に出さない性格をしている。

 特に青葉は園緑子とは水と油の様な性格の対立があるが一番仲がよかったりする。全員出身は茨城県つくば市。

 特製制服のエンブレムは真上を見上げる白いシラサギ。

 チームのイメージソングは「Diamond Dust」

『青葉誠一郎』

 身長/167㎝、誕生日/8月24日、血液型/B型、クラス/普通1科C組、好きな武器/デグチャレフ対戦車狙撃銃、CV井上麻里奈

 兵科:突撃兵

 パラメーター

 筋力:D  射撃:D

 敏捷:C  CQC能力:C

 幸運:B  才能:特になし

 そど子と同じで風紀委員長であるものの、あまり風紀を厳しく取り締まったりすることがなく、基本優しく注意するだけで終わりというとても緩い風紀委員長。俊也とは何度か顔を合わせており、顔見知りであった。

 周りからは下の名前で呼ばれることが少なく、名字で呼ばれることが多い。元になったキャラは艦これより巡洋艦、青葉。

 

ヤガミ「シラサギ分隊はこんな感じですね」

UNI「シラサギ分隊は基本、青葉とそど子のやり取りが多いんですよねー」

ヤガミ「確かにそうだね。青葉くんは結構表情豊かなキャラですから!」

UNI「では次に行きます」

ヤガミ「いよいよだね!タイガーさん分隊いってみよーか!」

 

 レオポンチームが搭乗するポルシェティーガーの随伴歩兵分隊、タイガーさん分隊(整備部)。

 八神大河、氷室大地、山本健太の整備部3人で編成された分隊。ヤガミとヒムロは3年生であり、ヤマケンのみ1年生。普段は白のつなぎを着用している。

 分隊のエンブレムはホワイトタイガーにかけて「白いトラの横顔」、ヤブイヌ分隊やオオカミチームとよく似ている見た目をしている。

 3回戦のプラウダ戦までは戦車の整備や改造・レストアなどのサポート役で、戦車道復活の際は1日もないわずかな時間で、長年放置され全く整備されていなかった全車輌と銃を自動車部と共に完全な稼働状態まで仕上げるという技術を披露する。新たな戦車として発見されたポルシェティーガーの整備が完了したため、準決勝の継続&冬樹連合戦に新チームとして参加。

 チームでは癖のあるコンテンダーやダネルMGLを手足の如く操り、初陣でありながら高い戦闘技術を見せる。

 分隊のイメージソングは「Never Gave Up」

 

『八神大河』

 身長/167㎝、誕生日/2月18日、血液型/A型、クラス/普通1科B組、好きな武器/トンプソン・コンテンダー、出身/三重県鈴鹿市、CV洲崎綾

 兵科:突撃兵

 パラメーター

 筋力:C+  射撃:C+

 敏捷:C  CQC能力:C

 幸運:D  才能:なし

 整備部の部長であり、分隊の隊長を務めている。銀髪に赤い瞳、男でありながら華奢な体つきで女顔かつ童顔であるため女だと間違えられることがある。

 青葉と同様に周囲からはヤガミと呼ばれている。

 昨年のコスプレ大会ではナカジマと参加し、杏の無茶ぶりで女装(大洗女子の制服姿)をして優勝するほどである。英治からはバレなきゃキャバで金が稼げるかも、と言われた男の娘属性を持つ。

 見た目のイメージは艦これの最上。

 射撃はどちらかと言えば得意な方であり、CQC戦闘もある程度こなせる器用貧乏である。戦闘技術としては総合的に見て八尋より少し低い程度。

 イメージカラー:灰色 得意なこと:銃火器と戦車の整備 苦手なこと:海水浴、プール

使用武装

・大型拳銃『トンプソン・コンテンダー』

 ヤガミの愛用する主武装です。3種類の砲身を用意しており、戦闘中でもマイナスドライバーさえあれば換装可能です。

 ちなみに一番口径の大きい胴体に命中すれば一発でほぼ必殺のため拳銃における火力は大洗一である。

 

 

・短機関銃『キャリコM950』

 ヤガミの扱う副武装。コンテンダーよりも遥かに総弾数、発砲回数が多く使用機会も多いが、主武装はあくまでもコンテンダーなので副武装です。

 

『氷室大地』

 身長/170㎝、誕生日/5月5日、血液型/O型、クラス/普通1科B組、好きな武器/パンツァーファウスト、出身/三重県鈴鹿市、CV興津和幸

 兵科:突撃兵

 パラメーター

 筋力:C  射撃:C+

 敏捷:C  CQC能力:D

 幸運:D  才能:特になし

 戦車の整備や銃火器の整備、改修だけでなく刀鍛冶の家系であるために鍛冶までこなせる超整備氏。

 周囲からの呼び名は「ヒムロ」と呼ばれる。

 アーサーの扱う刀剣武器『カリバーン』(初期からプラウダ戦まで使用)や鋼鉄直剣『エクスカリバー・アルビオン』などもヒムロ自身が打ち、完成させた刀剣武器。

 整備に関しては自動車部と整備部の中でも頭一つ飛び出た技術を持ち合わせており、ヤガミとは中学からの仲がよかった。

 エンジン周りなどの整備にも長けており、ポルシェティーガーの整備にも一役買っていた。

 イメージカラー:黒 得意なこと:戦車、銃整備全般と刀鍛冶、苦手なこと:突撃(本人はできることならやりたくないとのこと)

使用武器

・『AR-57』

 

・自動拳銃『XD拳銃』

 

『山本健太』

 身長/156㎝、誕生日/4月23日、血液型/AB型、クラス/普通1科A組、好きな武器/ダネルMGL、出身/三重県鈴鹿市、CV堀江由衣

 兵科:砲兵

 パラメーター

 筋力:C  射撃:D 

 敏捷:C  CQC能力:E

 幸運:C  才能:なし

 整備部でも唯一の1年生。自動車部のツチヤと仲が良くよく一緒にいることが多い。ヤマネコ分隊の6人とはそこまで仲が良くない。

 周囲からのあだ名は「ヤマケン」で呼ばれる。

 射撃とCQC共に平均以下であるが砲兵としてダネルでバンバン撃つ援護射撃というチーム戦で真価を発揮できるタイプの戦闘スタイルをしている。

 整備部の中でも運転には自信がある。

 イメージカラー:黄色 得意なこと:戦車、銃整備全般 苦手なこと:特になし

使用武装

・榴弾投擲器『ダネルMGL-104』

 

ヤガミ「改めてみると、武器のチョイスとかヤブイヌ分隊と一緒で優遇されてますね。僕たちは」

UNI「そうですね。ヤガミに関してはどこぞの魔術師殺しと保有武器が一緒ですから」

ヤガミ「ちなみに僕があえてコンテンダーを主武装にしているのは、ロマンです!」

UNI「それを言うんじゃないよ。他に比べて武器は優遇されてますが、タイガーさん分隊は素のステータスが低いのが難点なんです」

ヤガミ「才能もないし、尖ったところはないかもねー。じゃあ最後は新キャラ3名だね!いってみよー」

 

 アリクイさんチームが搭乗する三式中戦車の随伴歩兵である日向アイン。

 凛祢のクラスメイトである日向アインが立候補で決勝戦より参戦することとなる。

 FPSのオンライン対戦では数多くの勝利を勝ち取っているためエイム力には自信がある模様。

 特製制服のエンブレムはアリクイさんチームとほぼ同じだが目元に太い眉毛が追加されている。

『日向アイン』

 身長/159㎝、誕生日/5月24日、血液型/B型、クラス/普通Ⅰ科A組、好きな武器/M14EBR、出身/茨城県大洗町

 兵科:偵察兵

 筋力:D  射撃:C 

 敏捷:C  CQC能力:E

 幸運:D  才能:なし

 エイム力に自信があったものの、実際の射撃では平均程度であった。CQC戦闘能力に関しては最低レベル。

 実銃の衝撃を殺すにも手間取っていた。

 偵察兵として、凛祢やヤブイヌ分隊と行動するようにしている。

 イメージカラー:赤 得意なこと:FPS 苦手なこと:射撃

 

 オオカミチームの新メンバー(オリジナル枠)

 決勝戦からはオオカミチームはテケではなく4人以上で搭乗できる巡航戦車キャバリエに搭乗することになった。

 なお英子が車長兼通信手、エレナが操縦手、華蓮が砲手、風香が装填手を務めている。

『涼月華蓮』

 身長/172㎝、誕生日/1月2日、血液型/B型、クラス/普通Ⅰ科A組、好きな戦車/IS-2、出身/茨城県大洗町、CV楠木ともり

 担当:砲手

 短い黒髪に水色の瞳を持つ高身長で周囲の目を引くモデル体型をした少女。

 元々は弓道を履修していたものの、幼馴染である風香の説得で仕方なく戦車道を履修した女子生徒。

 学園艦に入学してきてからは風香と共に何度か自宅に放置されていた巡航戦車『キャバリエ』の整備を独自で行っていたもののロクに操縦できずにいた。

 決勝戦の直前でようやくキャバリエの存在を明かして、参戦を決めた。

 砲手としての腕は華にも劣らないほどの実力を持つ。

 日ごろから冷静沈着な性格であり、結果が分かっていてもあまり行動に移すことが少ない。

 イメージカラー:白 得意な事:戦車による狙撃 苦手なこと:コミュニケーション

 

 

『初月風香』

 身長/155㎝、誕生日/、血液型/O型、クラス/普通Ⅰ科A組、好きな戦車/キャバリエ、出身/茨城県大洗町、CV赤崎千夏

 担当:装填手

 ストレートの茶髪と茶色い瞳を持つ小柄な少女。

 元々は華蓮と同様に弓道を履修していたものの、結果を出していく戦車道に興味を持ち履修を決めた女子生徒。彼女の行動によって華蓮も戦車道を始めた。

 お調子者の性格で華蓮を何度も振り回している。コミュニケーション能力と行動力に長けているので友人が多く、社交的であるが彼氏ができない事を嘆いている。

 装填能力に関しては優花里や桃にも劣らないスピード装填能力を持つ。女子の中でも筋力は高め。

 

 

UNI「新メンバ-の3人はこんな感じですねアリクイさんチームの生徒とオオカミチームの新メンバーです」

ヤガミ「へー。オオカミチームがまさか4人に増えるなんてねー。本当に驚いたよ!」

UNI「元々、オオカミチームはキャバリエへの乗り換えが決まっていましたから、2人の登場は決まっていたんですが、風香に関しては最後まで名前が決まらず、初登場とその後で名前が変えてしまいました申し訳ありません」

ヤガミ「ふーん。キャバリエの活躍が楽しみだね!アイン君はどうなの?」

UNI「アインも参戦前に一度だけ登場していたので、設定自体は固まっていました。決勝戦で活躍させたいと思ってます!」

ヤガミ「じゃあ、次回、28話 真西住流&鉄血のインファンタリーズ!お楽しみに―」

 




今回も読んで頂きありがとうございます。
part3の紹介で大洗連合の紹介はひとまず終わりになります。
次回からは本編に戻ります。
質問や意見も募集中です。
では、また次回の28話で。


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第28話 真西住流と鉄血のインファンタリーズ

どうもUNIMITESです。
2か月も投稿止まってしまって申し訳ありません。
PCが故障して修理に出したり、リアルが忙しかったりしてすこし遅くなってしまいました。
今回から黒森峰戦開始です。
では、本編をどうぞ。


 鳴り響く目覚まし時計の音で凛祢は瞼を開いた。

 天井には見慣れた木製の天井が広がっている。時刻は5時を回っており、起きる時間だと気づいた。

 体を起こし、いそいそと身支度を始める。

 特製制服に着替え、鏡の前でネクタイを締めた。

「今日が、最後の試合……」

 無意識に視線は鞠菜の写真へと向いていた。

 写真を手に取ると一度だけ笑みを浮かべる。

「行ってくるよ、鞠菜。俺とみほたちの思いと共に、勝って戻って来るから」

 凛祢は再び写真を置くと玄関で靴を履き、学園目指して歩き出した。

 

 

 学園で運び出した戦車と歩兵用の装備を列車の後方車両に積み込み、凛祢たち大洗連合は試合会場へと向かっていた。

 空はまだ薄暗く、列車内で眠りについていた者も見受けられる。

 ヤブイヌ分隊やあんこうチームだって例外ではないはない。麻子や俊也はもちろん華や翼も眠りについていた。

 そんな中、後方車両の外で、手すりに手をかけていた凛祢は吹き抜ける風を感じていた。

 朝の風は少し冷たく、体も身震いしている。

「ここにいたんだ凛祢」

「うお、早朝さむ!」

「英子、不知火……」

 扉が開く音を聞いて振り返ると照月英子、衛宮不知火の姿があった。

「いよいよね」

「ああ」

「俺たち、本当にここまで来ちまったんだな」

 不知火も腕を組んで、手すりに背中を預けると、空を見上げた。

 彼の言う通り、自分たち大洗連合は来るところまで来た。

 ならば、後は突き進むだけである。

 みほと話し合ったあの日から決めたのだ。

 この学園艦を、西住みほの居場所を守って見せると。

「決勝戦で黒森峰連合か……聖羅に龍司だけじゃなく、あの悠希って男も相手にしなくちゃならないのか」

 凛祢は手すりを握る手に力を込める。

「到着まであと10分くらいね」

「俺たちも戻ろうぜ」

「ああ、必ず勝って学園艦に帰るんだ」

 腕時計を確認した英子の言葉で2人も視線で合図する。

「ええ!」

「おうよ!」

 凛祢の言葉に英子と不知火も強気に返事をした。

 会場に到着したころには陽も上り、空には青空が広がっていた。

 決戦会場は、富士山の見える草原である平野フィールド。更にフィールドは今まで以上に広く、市街地も今回のフィールドに含まれている。

 塁や優花里の話によれば戦車道と歩兵道の聖地でもあるそうだ。

 やはり試合会場では多くのテントによる売店が並んでいた。

 それも、今まで以上に多くの売店が並んでいる。ここにきて、高校戦車道と歩兵道の認知度を改めて思い知ったと感じた。

 食べ物だけでなく戦車の模型やM4といった銃のモデルガンまで並んでいる。他にも戦車や自衛隊と写真撮影をする者までいた。

 そんな中、今日の主役である大洗連合も陣地で決勝前の最後の整備、作戦確認を行なっている。

 凛祢も自身の装備である2丁の自動拳銃『ブローニング・ハイパワーDA』と『コンバットナイフ』、『手榴弾』を装備していく。プラスチック爆薬『ヒートアックス』の入ったバックパックを順番に装備していく。

「ごきげんよう」

「あ、こんにちは」

 ダージリンとみほの挨拶を確認して凛祢も視線を向けた。

 そこには聖グロリア―ナと聖ブリタニアの生徒であるダージリンやケンスロットの姿があった。

「久しいな、葛城凛祢」

「よう!元気してたか」

「ケンスロット、ガノスタン、久しぶりだな。てか、再戦する前に負けたってどういうことだよ?」

 凛祢も2人と挨拶を交わすと、思わずそんな話を切り出す。

「仕方ないだろ、負けちまったんだから」

「そう、怒るなよ。何も全国大会だけしか対戦する手段がないわけじゃない」

「まあ、そうなんだけどさ……」

 ケンスロットの言葉に凛祢もやれやれと視線を戻す。

「まさか、大洗連合が決勝に進むとは思いませんでした」

「……俺もです」「……私もです」

 オレンジペコが予想外と口にすると凛祢とみほも顔を見合わせて同じ返答する。

「フフ、そうね。あなた方はここまで予想を覆す戦いをしてきた。今度はどんな戦いを見せてくれるか、楽しみにしているわ」

「がんばります」

「葛城凛祢。黒森峰は強敵だ、だが絶対に勝て」

「負けるつもりはないよ」

 ダージリンとケンスロットたちは激励の言葉を述べると観客席へと向かって行った。

「みほー、りんー!」

 名前を呼ばれ、2人が視線を向けるとサンダースとアルバートの生徒であるケイやレオンが2輌のジープに乗ってやってきた。

「またエキサイティングでクレイジーな戦い期待してるからね!ファイト!」

「パンツァーキラー葛城凛祢の撃破ショー期待してるぞ」

「ありがとうございます」

「黒森峰の戦車相手にそんなショーを期待されてもな……頑張るけどさ」

 ケイとレオンも冗談を交えて激励の言葉を残してくれた。

 みほが感謝してお辞儀をすると凛祢は皮肉を言うように呟く。

「「グットラーク!」」

 その言葉を最後にジープも観客席へと向かって走って行った。

「みほ―シャ」

「周防」

 再び名前を呼んだのは3回戦の対戦相手であるプラウダとファークトの生徒であるカチューシャとアルベルトたちだった。

 相変わらずカチューシャはノンナに肩車されており、視線を上に向けることとなった。

「カチューシャ様が見に来てあげたわよ!黒森峰なんてボコボコにしちゃってね!」

「あ、はい」

 カチューシャの暴君の如き言葉に、口籠りながら返事をするみほ。

「俺の事、まだ周防って呼ぶのはアルベルトくらいだぞ」

「そっちの方が呼び慣れてるからな。お前にとって黒鉄時代の仲間が全員敵になっていると考えた方がいい。それでもお前は対抗できる。お前と戦った俺が保証する」

「リボルバー・アルベルトにそう言ってもらえると光栄だな」

 アルベルトは昔から好敵手を認め、その上で自分を認めさせる男だと感じた。

 自分もアルベルトを好敵手と認めているしな。

「凛ーシャもがんばりなさいよ!じゃーねーぴろしきー」

「ダズビダーニャ」

「期待してるぞ、超人周防」

 アルベルトは最後に小さく「超人」の名を呟くとカチューシャたちと共に去って行った。

「もう少しで時間か……」

「凛祢くーん!」

「ん……?」

 そう言いかけた時、再び聞き覚えのある声が聞こえて凛祢が再び視線を戻すと、ドリフトしながら継続のマークが描かれた2輌のジープが現れた。

 そこに搭乗していたのは継続のミカとミッコたち、冬樹の司やアンクたちである。

「ギリギリ間に合ったようだね」

「ミッコ、君は無茶な運転しかできないのか?」

「いいじゃん!間に合ったんだし」

「……」

 車内で言い争っている中、ミカは1人カンテレを弾いていた。

「継続や冬樹の皆さん」

「お前らも来ていたのか……」

「見に行くって言ったじゃん!頑張ってよね、黒森峰に勝ってよ!」

「大洗の皆さんならきっと勝てると思います」

「……」

 ミッコとアキが激励のメッセージを送るがミカは変わらずカンテレを弾いていた。

「葛城先輩!俺たちも応援してます!」

「凛祢、君ならきっと聖羅たちに勝てると信じている」

 アンクと司も同じように言葉を送る。

「皆さんありがとうございます」

「ありがとな」

 2人が感謝するように頭を下げると、ようやくミカが口を開いた。

「……西住さん、それに凛祢。君たちは面白いね。戦った相手、すべてと友情を築き上げるなんて」

「それはみんなが素敵な人だったから……」

 みほは少し視線を逸らしながら答えた。

 ミカの言葉を聞いて凜祢も不思議とそれを感じた。

「いや、ミカの言う通りだ。君たちはケイやレオンたちだけでなく、あのカチューシャやアルベルトをも認めさせ、戦友となった。なかなかできる事じゃない」

 ヴィダールもみほをみてそう口にした。

「それは、俺の力じゃない。きっとみほの才能だな」

「そ、そんなことないですよ!凛祢さんがずっと一緒にいてくれたから!」

 凛祢の言葉に否定するようにみほが声を上げる。

「……勝利は永遠の物じゃない。西住さん、凛祢、君たちの健闘を祈ります」

 ミカのその言葉を最後に継続と冬樹の6人も観客席へと向かって行った。

 すると、試合開始5分前のアナウンスが響き渡り、凛祢とみほたち大洗連合は草原へと向かう。

 お互いのチームが整列し、試合開始の合図が告げられるのを待っていた。

「……」

 視線の先に整列している黒森峰連合は大洗連合の倍以上の戦力を保有している。

 歩兵の人数もこちらより遥かに多く、その戦力がどれほどのものか見ただけですぐに分かった。

 すると決勝戦の審判を務める者たちがようやく現れた。その中には教官として大洗を訪れた蝶野亜美や照月敦子の姿がある。

「両チーム、隊長、副隊長。前へ!」

 蝶野の声を合図にそれぞれのチームから4人の生徒が前へと踏み出す。

 凛祢とみほもゆっくりと歩を進める

 審判たちの前まで進み足を止める。

 西住まほの隣に立つ銀髪の少女、副隊長である逸見エリカは見下すような視線を向けたまま、皮肉そうに口を開いた。

「フッ、お久しぶり。弱小チームだとあなたでも隊長になれるのね……」

「……」

 その言葉を聞いた凛祢は鋭い視線をエリカへと向ける。

「エリカ、そういう安い挑発はいいから」

「なっ!べ、別にそんなつもりは!」

 聖羅の隣に立つもう1人の副隊長、星宮悠希が静かに呟くと取り乱すようにエリカは声を上げる。

「もう試合を始めるのだから静かにしろ」

「本日の審判長の蝶野亜美です」

「同じく照月敦子だ。よろしく頼む」

 審判長の挨拶でお互いのチームの隊長、副隊長は頭を下げる。

「「両校挨拶!」」

「「よろしくお願いします!」」

 亜美と敦子の声で両校のチームも頭を下げた。

「では、お互いに試合開始地点に移動」

「お互いの健闘を祈っているぞ」

 そう言い残して審判も持ち場へと向かっていく。

「いくぞ」

「はい……たまたまここまで来れたからっていい気にならない事ね。見てなさい邪道は叩き潰してやるわ」

 エリカはそう言い残してみほに背を向けてしまった。

 一方凛祢は聖羅の元へと歩み寄る。

「聖羅……」

「今語り合うことはねぇよ。話があるなら戦場で語ることだ」

「そうだな」

 聖羅とは短い会話で済ませると凛祢は再びみほの元へと戻った。

「あまり気にするな。俺たちは俺たちだ」

「はい……」

 俯きかけていたみほに声をかけ、試合開始地点へと戻ろうとした時だった。

「待ってください、みほさん!」

「はっ……!」

 振り返ったみほは驚きを隠せなかった。

 凛祢も同じようにその少女に視線を向ける。

 黒森峰のパンツァージャケットに身を包み赤黒い色に少し癖っ毛のある髪。

 確か、赤星小梅と言ったか……。

 かつて、1年前みほが戦車を降りて助けようとした少女。

「あの時はありがとう……あの後、みほさんが居なくなって、ずっと気になっていたんです。私たちが迷惑かけちゃったから……でもみほさんが戦車道やめなくてよかった」

 小梅は涙を流してそう言った。

「私はやめないよ……」

 みほも優しくそう答えた。

 その様子を見て凛祢も少し安心していた。

 1年前の事をみほが気にしていないはずがない。だが、みほの行動は間違っていなかった。

 小梅という少女が今も戦車道を続けているのが証拠だ。

「小梅先輩!あまり長話は……って凛祢さん!?」

「やあ、凛祢」

「久しぶりだね」

「案外、元気そうじゃねーか」

 次々と現れる見覚えのある顔に凛祢も思わず口を開き、

「聖菜、それに龍治、グラーフ、ビスマルクも……」

 かつての仲間の名を口にしていた。

「みんな歩兵道続けていたのか」

「うん。結局、あの頃のチームメンバーは凛祢と司、アンク以外はみんな黒森峰に進学したからね」

「あたりめーだろ。でも、今年に限ってお前が歩兵道の表舞台に出てくるとはな。手は抜かねーぞ」

 グラーフやビスマルクも昔のまま、何も変わらない。

 自分のよく知る仲間だった。

「俺だって、手を抜くつもりはないよ。龍司も元気そうだな」

「うん。君が歩兵道という戦場に戻ってきてくれてよかったと思っている」

「そうか……」

 龍司が差し出した手に凛祢も手を伸ばし握手を交わす。

「みほ先輩と凛祢さんが戦車道と歩兵道をまた始めてくれて、私も嬉しいです。今日は負けませんよ!」

「うん。お互いに頑張ろうね聖菜ちゃん」

「いい試合にしよう。行こうみほ」

「はい!」

 聖菜の言葉にみほと凛祢も笑顔で答えると試合開始地点へと歩き始めた。

 

 

 陣地に到着して、戦闘準備を終える。

 特製制服の胸元には今回のフラッグ車の隊長の証であるエンブレムが着いている。

 今回のフラッグ車はみほたちあんこうチームの搭乗するⅣ号である。そのため凛祢がこのエンブレムを付けることになった。

「相手はおそらく火力にものを言わせて攻めてきます。その前に有利な場所に移動して長期戦に持ち込みましょう」

「そうだな。幸い相手チームとの距離も離れているからすぐに接敵することはないだろう」

 みほや凛祢が今回の試合での作戦を大洗連合へと伝える。

「試合開始と共に速やかにR27地点に移動してください」

「歩兵はいつでも戦闘できるように準備しておいてくれ」

「では、乗り込んでください!」

 みほの声でそれぞれのチームが戦車と駆動車に乗り込んでいく。

「……」

「……」

 みほは感謝するように生徒会役員の6人に頭を下げた。

 杏たちもまた、何も言わず頷いた。

 彼女もまた、杏たち生徒会の頼みで戦車道を始めた。自分も感謝している。

 英治たちがいなければ、ここに……戦場に立つことは二度と叶わなかっただろう。

「約束は守りますよ。必ず大洗連合を勝たせて見せます」

「うん。俺たちも全力で戦う」

 凛祢の言葉に英治も頷くと肩を軽く叩き、ヘッツァーの元に歩き出した。

「うー。緊張してきたねー」

「う、うん。別に先にやられても怒られないよね?」

 風香が車内で砲弾を触っていると、華蓮も緊張しているのかそう呟く。

「何言ってんの?撃破されるつもりなんてないわよ」

「ふふ、ずいぶん強気ね英子」

「当たり前よ!みほさんたちだけに良い顔させないんだから!不知火もよ!」

「はいはい。ちゃんと英子さんたちを守ってやるよ」

「期待してるわよ!」

 不知火がやれやれと首を振ると強気な英子も通信を返した。

「まったく最初はあんなに仲が悪かったのに、随分仲良くなったものね」

「え?衛宮くんと照月ちゃんって仲悪かったの?」

 セレナの言葉に風香が興味を持ったのか聞き返す。

 するとセレナは笑みを浮かべていた。

「ええ。それはもう犬猿の仲くらいにね」

「今じゃあんなに信頼しあってるのに」

「本当だよねー」

 セレナの言葉に2人も思わず同じ反応を見せる。

「がんばろーね……」

「最後まで俺がが守ってやる」

 Ⅳ号に優しく振れたみほに凛祢も優しく声をかける。

「凛祢さん……」

「凛祢の言う通りだな!俺たちも全力で戦うぜ!」

「最後の瞬間まで狙い撃ってやる!」

「僕も最善を尽くします!」

「ここまで来たんだ。勝つために戦ってやる」

 凛祢の言葉を聞いていたヤブイヌ分隊のメンバーも意気込みを言い放つ。

「お前ら……みほ」

「はい」

 みほと凛祢もアイコンタクトを取る。

「みんな行こ!」「みんな行くぞ!」

「「「おーー!」」」

 2人の隊長の声を合図にあんこうチームとヤブイヌ分隊のメンバーは声を上げた。

 

 

 一方、決勝戦に出場しているもう一つの学校である黒森峰連合はすでに戦車に乗り込み、いつでも進軍できる準備を整えていた。

「これより決勝戦だ。相手は初めて対戦するチームだが、決して油断するな。グデーリアンは言った。厚い皮膚より早い足と」

「相変わらず戦車道しているときはおっかねー顔だな」

「ビスマルク、そんなこと言ってたら怒られるぞ……」

 ティーガーⅠのキューポラから上半身を乗り出し通信を送っていた西住まほを見て、ビスマルクが呟くと、グラーフも思わずツッコむ。

「流石、西住流の後継者なだけあるな。ビスマルク、グラーフ。準備できたなら行くぞ」

「「了解」」

 聖羅がキューベルワーゲンに乗り込むのを確認し、2人も乗り込む。

「聖羅、私たちには負けることは許されない。鉄血の歩兵団(インファンタリーズ)と呼ばれたその力を証明しろ」

「任せな、いくぞ!」

 まほからの通信に、聖羅も声を上げる。

 鉄血。聖羅たちが黒森峰に入学してから得た名前だ。

「戦車前進(パンツァーフォー)!」

「歩兵疾走(オーバードライブ)!」

 みほと凛祢の声で両チームの戦車が次々に全身を始めた。

「敵にはビスマルクにグラーフ、龍司。そして聖羅と星宮悠希か……実力だけで言えば1人でも相当な戦力になりうる存在が多い上に、戦車は装甲が堅い」

「本当、これで勝てるのかねー?」

「やるしかないよ、僕たちはね」

「そうですよ、いままでそうでしたね」

 凛祢が送っていた通信に辰巳、アーサー、亮がそれぞれ返答する。

「まずは作戦通り、有利な地点で戦力を削るのが俺たちのやり方だ」

「ま、狙撃兵である俺たちはそうだよな」

 英治も通信を返すと、続けて不知火も通信を送る。

「……」

 そんな中、凛祢は難しい表情を浮かべていた。

 聖羅たちを全員相手にしていては、たとえ凛祢という歩兵でも一方的に敗北することは分かっている。

 ならば、誰に誰の相手をしてもらえばいいんだ……。

「こちらはあんこうチーム。207地点まであと2キロ、今のところ黒森峰の姿はありません。ですが皆さん、油断せず気を引き締めて行きましょう。交信終わります」

「あれ、なんか話し方変わりました?」

「本当、余裕を感じます」

「凄いですね沙織殿」

 沙織が送った通信に優花里や塁が関心の言葉を送る。

「そお?プロっぽい?」

「話し方がイラっとくる」

「全然プロっぽくない」

「ちょ、麻子だけじゃなく俊也君まで!なんでそう言うこと言うの!?」

「「アマチュア無線だし……」」

 声を上げた沙織に2人は同じ答えを返していた。

「……!」

 その時、凛祢の直感が何かを感じ取った。

 同時にⅣ号に向けて放たれたであろう砲弾が地面を抉り、大きな土煙を上げる。

「なに!?」

「もう来た!」

「うそ!?」

「南西より砲撃!」

 凛祢は無意識に声を上げ、マガジンケースから取り出した単眼鏡を目に当てる。

 西に広がる樹海から砲撃しているⅣ号駆逐戦車、パンターG型の姿を確認した。

「随分早い攻撃だな、西住まほ。歩兵隊は砲兵の攻撃に備えろ!翼、敵歩兵は数人確認した。狙えるか?」

「流石にキツイな。そもそも動いてる車両から狙い撃つのはあまり慣れてないんだ」

「そうか……」

 凛祢が再び視線を樹海に向けると黒森峰の戦車が次々にその姿を現す。

 ティーガーⅡにエレファントの姿も確認した。

「森の中をショートカットしてきたのか!?」

「そんなのありかよ!?」

 桃と雄二がそう言っている間にも敵砲兵がパンツァーファウストを構えている。

「凄すぎる……」

「これが西住流」

「八尋、迎撃準備できたか?」

「あったりめーよ!」

 八尋と俊也もセーフティーを外していつでも発砲可能にしていた。

「全車両、ジグザグに走行して、前方の森に入ってください!」

 みほの指示で大洗の車両は次々にその車体を揺らして走行する。

「全車両、一斉攻撃!」

 エリカの指示で、黒森峰の戦車砲撃は更に激しさを増していく。

「前方2時方向に、敵フラッグ車を確認!」

「よし、照準を合わせろ」

 ティーガーⅡはゆっくりと照準を大洗連合のⅣ号へと向ける。

 敵砲撃によって隊列を崩していた大洗連合はバラバラになりながらも森林を目指していた。

 しかし、そんな中でも大洗連合の三式中戦車は動きを止めていた。

「ギア、かた!入んない!」

「ゲームだと簡単に入るのに……」

 ももがーが必死にギアにかけた手に力を入れるが、ギアは入らない。

「ちょっと、ちょっと!何止まってんですか!?速く動いてくださいよ!」

 三式中戦車の上に掴まっていたアインも思わず声を上げる。

「照準よし!フラッグ車に合わせました!」

「一発で終わらせてあげるわ!」

 エリカは勝利を確信したように笑みを浮かべる。

「……!アイン、飛べ!」

「え?」

 視線を向け、ティーガーⅡの動きを確信した凛祢は通信を送る。

「うーん!」

 車内では操縦手のももがーが力一杯引っ張るとギアはようやくリバースに入った。

 同時に三式中戦車は後退する。

「あれ?」

「バックしちゃったよ!?」

 思わずねこにゃーも声を上げる。

「敵フラッグ車に照準完了」

「よし、撃てー!」

 ティーガーⅡが再び砲撃する。

 放たれた砲弾は吸い込まれる様にⅣ号に向けて放たれるが、後退してきた三式中戦車が射線上に割り込みそのまま被弾した。

 まもなく三式中戦車から走行不能の白旗が上がる。 

 衝撃でアインの体も地面に投げ出され、戦死判定のアラームが響く。

「くっ!」

 その様子を確認して凛祢は思わず表情を歪ませる。

 砲撃を終えたティーガーⅡと黒森峰連合は、すぐに移動を開始した。

「……」

「……フッ」

 悠希は何も言わずに戦場に視線を向けるが、1輌撃破したエリカは不敵に笑みを浮かべていた。

 観客席前の大型スクリーンでも大洗連合が1輌撃破されたことを表示する。

 そんな様子を多くの者たちが何も言わずに見つめていた。

 西住流家元、西住しほや葛城朱音、照月玄十郎も同じであった。

「あーあ。1輌やられたな……」

「アインも戦死しちまったな」

 八尋と俊也が思わず口にする。

「ごめんね。西住さん、葛城くん。もうゲームオーバーになっちゃった……」

「怪我は!?」

 ねこにゃーからの通信にみほは思わず声を上げる。

 それだけ彼女が心配しているのが伝わってきた。

「大丈夫です。アインくんも大丈夫みたいだけど戦死しちゃったみたいで……」

「そうか……」

 凛祢も通信を聞いて、インカムに手を当てる。

 みほや沙織も安心したようにお互いの顔を見つめ合う。

 しかし、そんな安心をかき消すように砲撃音が響き渡った。

 黒森峰連合が砲撃を開始したのだ。次は戦車の砲弾だけでなく、砲兵の攻撃も開始されていた。

「狙撃兵は、迎撃を!」

「全車両モクモク作戦です!」

「「「了解!」」」

 みほの指示にそれぞれの車長が通信を送る。

「私たちも行くね!」

「せっかく九七式軽戦車(テケ)を手放して、乗り換えたんだから。プラウダ戦の時よりも多く敵を倒すわよ」

 杏と英子が強気に通信を送り、ヘッツァー、キャバリエ、英治たちカニさん分隊の搭乗するキューベルワーゲンが方向変換していく。

「いいか。1人でも多く敵歩兵を戦死させるんだ」

「了解だっての」

 英治と不知火もそれぞれの武器を手にする。

「各車、モクモク用意!」

「「「モクモク用意!」」」

 沙織の通信で一斉に返事をする。

「ワニさん分隊とタイガーさん分隊は作戦通りに!他は迎撃に集中してくれ!」

「「「了解!」」」

 凛祢も通信を送り、歩兵隊も散開していく。

「モクモク開始!」

「モクモク始め!」

 みほの声と共に各車が一斉に煙幕を噴射し始める。

 瞬時に煙が立ち込め、大洗連合後方の視界を奪う。

「青葉先輩、亮!ワイヤーを!」

「了解した」

「はい!」

 凛祢の指示でシラサギさん分隊とヤマネコ分隊が動く。

 流れるような動きでⅢ突とM3から伸ばしたワイヤーをポルシェティーガーに取り付けていく。

 更にⅣ号からもワイヤーを伸ばしⅢ突とM3に取り付ける。

「悪いねー、ポルシェティーガー重いでしょー?」

「ったく。こんな重量のある戦車が山登りなんて出来ねーだろ」

「ヒムロそう言うなって!」

 引っ張られているポルシェティーガーを見つめていたヤガミが笑みを浮かべているが、ヒムロはやれやれと首を横に振っていた。

「煙?忍者じゃあるまいし……」

「でも、敵が見えないんじゃ弾を無駄に消費するだけなんじゃない?煙幕はどこのチームも使ってるし……」

 エリカが吐き捨てるように呟くと、隣を走行するキューベルワーゲンの車内にいた悠希が言った。

「何言ってんのよ!攻撃あるのみに決まってるでしょ!全車砲撃かい――」

「撃ち方止め!」

「隊長!?」

「下手に敵の作戦に乗るな。それに悠希の言う通り無駄に攻撃しても無意味だ」

「決勝戦とはいえ弾数制限はあるからな」

 まほに続いて聖羅も悠希と同じことを言っていた。

「11時の方向に敵戦車発見!」

「あの先は坂道だ。敵にはポルシェティーガーがいる足が遅いからそう簡単には登れまい」

 エリカは先ほどⅣ号を撃破できなかったことで焦っているのか、機銃を撃ち始める。

「そんなこと凛祢も西住妹も承知の上だろ。なんかあるに決まっている」

「やはり聖羅もそう思うかい?」

「つっても足がおせーならさっさと追いついて潰せばいいだろうが」

 聖羅とグラーフが凛祢やみほの作戦を読んでいるかのように会話を始めると、何も考えていないビスマルクが口をはさむ。

「ああ、脳筋は黙ってていいから」

「とにかく砲兵である俺やビスマルクは弾数制限がある。グラーフ、狙える時は撃て。ビスマルクも撃てる時は撃っていいが……凛祢だけは俺が決着をつける」

「うん」

「わーったよ」

 グラーフとビスマルクが頷き、聖羅は再び前方の大洗連合に視線を向けた。

 

 

 大洗連合の作戦にオレンジペコは驚きを隠せなかった。

「まさか、煙幕を張るなんて……」

「そんなに珍しいか?大洗連合ならやりそうな作戦だと思うけどな」

「ガノの言う通りだ。『我が道を外れることはなく、使える手段は使う』、それが大洗連合の戦い方だと思う」

「確かにそうね、ケン。恋と戦いはあらゆることが正当化されるのよ」

 ケンスロットとダージリンは対決したチームであるからこそわかると言わんばかりに口を開いた。

「ケンのはわかりやすいが、ダージリンの説明は相変わらずよくわからないな」

「ふふ。それはあなたがまだ子供であると言うことです」

 同じように試合を見つめているモルドレットは首を傾げていた。そんな様子を見て、アッサムは思わず笑みを浮かべる。

「高校生はどいつもこいつも子供だろうが!だいたいデータ主義のアッサムは――」

「あ、煙幕が晴れてきたみたいですよ」

「おい、聞いてんのか!?」

 アッサムは再び視線をスクリーンに向けると聖グロと聖ブリの生徒たちも同じように視線を向ける。

 

 

 煙幕が晴れた先に写る光景に黒森峰連合だけでなく、観客席で観戦する者の多くが驚きを隠せなかった。

 大洗連合がすでに山道を上り始めていたからだ。

 ポルシェティーガーの速度を考えればここまで距離が離れることはないと思っていた。

 しかし、大洗連合はすでに予想のはるか先まで前進していた。

「もうあんなところに?」

「そう言うことか」「そう言うこと」

 瞬時に聖羅と悠希が納得したかのように同じ言葉を口にした。

「戦車で戦車を引っ張るとは考えたな西住妹。だが」

「やっぱ、隊長の妹だけあって侮れないよ、西住みほ(あの女)。でも」

「「そんな工夫は小さすぎる」」

 聖羅と悠希のキューベルワーゲンが加速し、続けて黒森峰連合の戦車も加速していく。

「……」

 前方を走行するジープに搭乗していた凛祢は視線を後方へと向けた。

 予想通りの位置に黒森峰の姿を確認して少し安心したように再び大洗連合のほうへと視線を戻す。

「流石に重い……」

「レオポンダイエットするぜよ」

 操縦手である麻子とおりょうが文句を言う。

「自動車部は太ってんのか?」

「そんなわけないでしょ」

「失礼だよ、ヒムロくん」

「「あはは」」

 ヒムロの言葉にスズキとホシノがツッコむとヤガミとナカジマが乾いた笑い声を上げる。

「どっしりしているのがレオポンのいい所だ」

「確かに。速さを捨てて、攻撃力と防御力を上げるのは悪いことではないと思うよ」

 左衛門座とシャーロックもフォローするように言った。

 観客席でノンナに肩車してもらいながら試合を見つめていたカチューシャは感心するように頷いていた。

「そっか。みんなで引っ張っていたのねポルシェティーガーを!」

「ほう、考えたな。今度ウチもKV-2を引っ張ってみるか」

「いいわね!……ごほん」

「なんだよ?……にしてもウチの時よりも戦力差があるのに周防たちはどうするつもりだ?」

 カチューシャに続いてアルベルトも頷きながら試合に視線を向けていた。

「パラリラ作戦です!」

「「パラリラ作戦、了解!」」

 再びみほの作戦開始の通信でルノーと八九式が左右に分かれていく。

 車体からは先ほどと同様に煙幕をまき散らしている。

「なによ、この作戦!?」

「私たち不良になったみたい」

「帰ったら手が腫れてそう……」

 ルノーの車内から緑子たちの声が響く。

「そど子さん不良になっちゃったんですか!?」

「そんなわけ無いでしょ!」

「てへっ!」

 緑子から帰ってきた通信に青葉は笑みを浮かべていた。

「うー、お尻痛い。腕がつりそう……」

「頑張って!」

 八九式の車内でも忍が操縦する中、妙子が励ましていた。

「塁、翔。いくぞ」

「「了解です」」

 凛祢たち、3人の工兵も跳躍し煙幕に紛れる。

 

 

「こんなに広範囲で煙が広がるとは……」

「どうしますか、西住隊長?」

 悔しそうに望遠鏡を覗くエリカの隣を走行していたパンターから小梅が上半身を乗り出していた。

「全車、榴弾装填!」

 まほの指示で黒森峰も次の戦闘準備に入る。

「あと、少し……」

 地図を確認しているみほが呟くと、優花里も静かに見つめていた。

 一方、凛祢たちは工兵は電管を刺したヒートアックスを次々に地面に置いて行く。

「葛城先輩。そろそろ後を追わないと追いつけなくなっちゃいますよ?」

「そうですね。行きましょう凛祢殿」

「ああ」

 バックパック内のヒートアックを仕掛け終えた工兵部隊は再び走り出す。

 煙幕の有効時間は限られている。

 この罠も悟られてしまえば、不発におある可能性もある。

 すべてが時間との勝負であった。

「撃て!」

 合図と共に黒森峰の戦車が砲撃を開始する。

 榴弾が瞬時に誘爆していく。

「やられる前に……有利な場所に逃げ込まないと」

「さあ、どうする凛祢?敵戦車に当対処するんだ?」

「あなたたちももいつの間にか、彼女たちの味方ね」

 オレンジペコとガノスタンの様子を見て、ダージリンが思わず笑みを浮かべた。

「え?」

「そりゃあ、そうだろ。確かに黒森峰連合はつえぇよ。でも、あの大洗連合が勝利するところを俺は見て―んだよ」

 ガノスタンの口からは自然と言葉が出ていた。そしてその顔には笑みが浮かんでいた。

 一方、草原フィールドの森林近くではヘッツァー&キャバリエ、カニさん分隊と不知火が身を潜めていた。

「……にっ」

 砲手として照準器を覗いていた杏は静かに笑みを浮かべる。

「……はぁ、はぁ」

 同じように照準器を覗く華蓮の手は震えていた。

 緊張と失敗したらという恐怖心が彼女の手を震えさせていたのだ。

 そんな時、英子が優しく肩に右手を置いた。

「華蓮、落ち着いて。あなたならできるわ、正確に履帯を狙ってね……」

「う、うん……」

 その言葉で不思議と震えは止まっていた。

「装填も完了したよーん」

 風香が気の抜ける声で合図する。

「発射!」

 英子の声で、2輌の戦車がほぼ同時に砲撃する。

 放たれた砲弾がヤークトパンターとパンターの履帯を撃ち抜いた。

 被弾した2輌はその場で行動不能になっていた。

 更に英治と不知火の狙撃で黒森峰の歩兵を2人戦死させる。

「う、しょっと」

「どっせい!」

 桃と風香が再び次弾を装填して、2輌が発砲した。

 次はヤークトティーガーとⅢ号J型を行動不能にさせた。

「会長、英子さん!敵戦車4輌履帯破壊です!」

「河嶋ー当たったぞー」

「わかってます……」

「あ、当たった……」

「やるわね、華蓮」

「やったじゃん!」

「でも、履帯を破壊しただけだから油断は禁物よ」

 ヘッツァーだけでなく、キャバリエの車内でも歓喜の声が響くがセレナが注意するように呟いた。

「ここが限界だな。杏引くぞ」

「撃破したいなー」

 英治の指示で2輌と歩兵隊は撤退していく。

「あの、ちび」

「深追いはするな。さっさと本隊を潰せばいい」

 エリカが砲撃された方に視線を向けるが、聖羅が無視するように促す。

 山頂を上りえた大洗連合はこちらに向かってくる黒森峰連合を見つめた。

「……」

「守り固めたよ」

「了解。全車両、照準をフラッグ車の前にいる車両に!」

 大洗連合の車両はそれぞれの砲塔を回転させ、照準を向ける。

「みんないけるか?」

「オオワシは行けます!」

「ワニも準備OKだ」

「「いつでもいけまーす」」

「タイガーも大丈夫だよー」

 凛祢がブローニング・ハイパワーを引き抜き通信を送る。

 すると黒森峰連合がようやく射程圏内に入った。

「全車停止」

 その声でお互いのチームの車両が停止する。

 その時、戦場に乾いた風が吹き抜ける感じがした。

 観客席でも戦闘が開始されるのが今か今かと待っていた。

「想定より早く陣地を形成したな」

「まほ、お前はあまり動くな。凛祢が工兵であるなら罠がある可能性がある」

 聖羅は注意を促した。

 それは彼自身が凛祢と共に戦ってきたからこそわかる。

 凛祢の考えることは直感的に分かっていた。それは『超人直感』とは違う。

 かつて、お互いの考えを理解しあっていたからこそであったのだ。

「囲め……」

 その声で、黒森峰連合の戦車が散っていく。

「砲撃はじめ!」

 大洗連合が先に攻撃を開始した。

 次々に放たれる砲弾と狙撃が黒森峰連合を襲う。

 数秒後、Ⅲ突の放った砲弾がパンターに命中。白旗を上げて、走行不能にした。

 続けて翼と迅の狙撃で歩兵隊を数人戦死にした。

「やった!」

「……ふう」

 カエサルが声を上げ、翼が短く息を吐いた。

「次、1時のラングだ!」

「ラングってどれだ?」

「ヘッツァーのお兄さんみたいなやつ!」

 エルヴィンが視線を向けて答える。

「お兄さん……みたいなのか?」

「確かに似ては居ると思うけど……」

 アーサーとシャーロックが苦笑いをしていると、

「やりましたね、五十鈴殿」

「はい」

 次のパンターを撃破したⅣ号車内で優花里が声を上げた。

「よし、いい滑り出しだ。このまま少しずつ……」

 少しずつ戦力を削っているのを確認した凛祢がそう言った時であった。

「ヤークトティーガー、正面へ!」

「グラーフと狙撃隊は邪魔な歩兵を潰せ」

 2人の言葉で黒森峰が動いた。

 長砲身の車両が前に出てきたのだ。

 赤黒い装甲色のヤークトティーガーが正面に現れると凛祢はすぐに気づいた。

「そりゃあ重戦車を出してくるよな」

 短く言葉を続けた。

「重戦車を盾に使うのね」

「あの距離じゃ装甲は貫通できないしな……」

 ダージリンとケンスロットの表情も曇っていた。

 しかし、今の状況は大洗連合にとっても絶望的状況であったのだった。

「それでもな……諦めるには、早すぎるんだよ」

 凛祢はそんな中でも強い思いを持ち続けていた。




28話どうだったでしょうか。
今回で黒森峰戦が開始されましたね。
次の話はなるべく早く上げられるようにしたいとおもっています。
今回も読んで頂きありがとうございました。


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第29話 超重戦車の脅威

どうもUNIMITESです。
投稿が遅くなってしまって申し訳ありません。
今後はなるべく早く投稿できるように頑張ります。
では、本編をどうぞ。


 山頂にて陣地を固めた大洗連合は砲撃によって敵戦車を撃破することに成功していたが、黒森峰が投入した重戦車とその戦力によって力の差を見せつけられていた。

「それでもまだ、諦めるには早すぎる」

 凛祢が見つめていると、黒森峰から放たれた砲弾が山頂付近に雨あられの様に降り注いだ。

「これが、王者の戦いよ」

 大洗連合が反撃するように砲撃するが、再び敵戦車の砲撃が地面を抉り、土煙を巻き上げた。

「せっかくここまで来たのに、このままじゃ撃ち負ける!」

「流石黒森峰」

「そんなことわかってだろ」

「そうですよ。それでも僕たちはここまできた」

「やってやるよ!」

 辰巳に続いて亮や歩が引き金を引いた。

「凄い砲撃戦……」

「じわじわ首を絞められているようだ」

「ウチがあそこを陣地にするって読んでいたみたいだね。まあ当然か……」

 杏たちも少し残念そうに言った。

「どうするの?このままじゃ……」

「ちゃんと作戦はあるんだろ?会長、照月さん」

「「うん」」

 不知火の問いに、杏と英子が再びお互いの顔を確認して頷いた。

「18対8これだけ削れれば……ここから撤退します」

「でも、退路は塞がれてます」

 みほの言葉に優花里が進言する。

「……そろそろか。全員、駆動車に乗れ!一気に行くぞ」

 みほの言葉で凛祢も拳銃を懐のホルスターに差し込む。

「西住ちゃーん、葛城くん。いっちゃおうか」

「はい。おちょくり作戦です!」

「杏会長、英治会長。お願いします!」

「あんなところに突っ込むなんて……死ぬな、これは」

「やるしかないですね」

「いくぞ!」

 英治たちも流石に冷や汗が流れるのを感じながらも、山頂に向かって走行しはじめる。

「とーつげきー!」

「華蓮、少し揺れるけど我慢してね」

「わかりました」

 ヘッツァーとキャバリエ、宗司と雄二が搭乗するキューベルワーゲンは一斉に黒森峰連合の元へと突撃していく。

 その後方では英治と不知火が狙撃準備へと入っていた。

「何している!隣にヘッツァーがいるぞ!」

「雄二!」

「おう!」

 ヘッツァーとキャバリエは砲撃することなく動き回り黒森峰連合の戦車を翻弄していく。

 更に雄二は引き金を引いた。撃ちだされた榴弾は敵歩兵周辺の地面へとぶつかり次々に誘爆する。

「なに!?」

「ちっ!」

「ヘッツァーだけでなくキャバリエもか!」

「落ち着いて!敵歩兵はたった2人――!」

 指示を出そうとした敵歩兵を不知火が狙撃し、戦死させる。

 後に続くように山頂にいたⅣ号たちも砲撃していく。

「下るぞ!」

 その声で大洗連合は一斉に動き出す。

 次々に山頂を下り始める戦車は黒森峰連合との距離を詰めていく。

「レオポンチームは前へ!」

「了解」

 ナカジマの返答の後、ポルシェティーガーを先頭に一列の隊列を組み、大洗連合の戦車は黒森峰連合の隊列の間を抜けていく。

 黒森峰連合の戦車も発砲するが、ポルシェティーガーの装甲が砲弾を弾いていた。

 零距離で敵を翻弄していたヘッツァーとキャバリエも黒森峰が仲間撃ちを恐れていたために生存したまま、逃走していく。

「何やってんだ!逃がすな!」

「よし、これで!」

 敵歩兵が次々にライフルやパンツァーファウストを構える。

「聖菜さん、後を追えますか?」

「行けます、小梅先輩!」

 その声でパンターが方向転換して、追撃の準備に入る。

「待ってください、小梅さん!1輌で向かうのは危険だ!それに――」

「何もせずに山頂に陣形を作るわけないだろ!」

 凛祢の手に握られていたリモコンを押したことで、仕掛けられていたヒートアックスが一斉に起爆した。

 その爆発は、直撃ではなかったために敵戦車を走行不能にはできなかったものの敵歩兵の狙いを妨げるには十分であった。

「ぐっ!凛祢か……!」

「……!」

 龍司や小梅たちは爆破の衝撃を受け、足を止める。

「このまま、右に抜けます!」

 大洗連合は一列の隊列を組んだまま、煙幕を張り逃走していく。

「おー、本当に逃げられた!」

「やっほー!流石西住さんの作戦だぜ!」

 弾幕を張っていたヤガミと八尋が歓喜の声を上げる。

「まったく、無茶するぜ……」

「スリル満点だな」

 俊也と麻子がやれやれと首を振る。

 その時だった。

 ポルシェティーガーのエンジン部分から白い煙が上がり始めた。

「レオポンがブスリ始めたぞ!」

「ちょっと見てくるー」

 ナカジマはそう言って、工具箱を手にキューポラから身を乗り出し外に出る。

 その様子にみほだけでなく凛祢や八尋も驚きを隠せなかった。

 彼女はそのままエンジン部分の修理を始めたのだ。

「ナカジマ―。走行しながらのメンテは危ないよー?」

「大丈夫大丈夫ー。あれ?ヤガミー、レンチ忘れたから貸してー」

「はいはい」

 ヤガミも注意したものの、言われた通り六角レンチをナカジマに投げ渡す。

「走行しながらメンテするなんて……」

「本当にやることが凄い人たちだな」

 凛祢たちも苦笑いする。

 そのまま大洗連合は草原を抜け、運河へと向かっていた。

 運河を横断することで、市街地までの道をショートカットするためだった。

「このまま距離を離して、再び奇襲を仕掛けよう」

「おうよ!」

「了解です!」

 八尋と塁が返事をすると、大洗の戦車が横一列で運河を渡り始めるた。

 その後を追いかけるように凛祢たちの車両が走行する。

 運河を渡り始め、半分ほど渡った時だった。

 ウサギさんチームのM3がその足を止めた。

「あれ?あれ?」

「なにしてんの?」

「エンジンがかかんない!」

「え!?」

 車内で一斉に声を上げる生徒たち。

「おい、さっさとエンジンを掛けなおせ!」

「何度もやっているけど、動かないんだよー!」

 歩が急かすように叫ぶが、桂里奈は半泣きしているような声を上げていた。

「先輩!私たちは大丈夫ですから、行ってください!」

「葛城先輩。俺たちも残ってウサギさんチームを手助けします!」

 梓と亮が先に行くように促す。

 このままではチームの勝敗に関わると考えたのだろう。

「おい、どうするんだ!?」

「このままじゃ追いつかれる」

「でも、見捨てるなんて……!」

「どうすんだ…西住」

 それぞれが声を上げている中で俊也がみほに質問する。

「……」

「……わ、私は」

 みほも絞り出すように声を出す。

 彼女の気持ちが分かる気がする。迷っているのだ。

 みほの頭には、去年の試合の事が浮かんでいるのだろう。

 仲間を助けようとして、かつて彼女のいた黒森峰は敗北した。

 今回もそうなってしまうのではないか。

 きっとそう考えているのだろう。

 それでも、それこそが西住みほの戦車道だから守りたいと思ったんだ。

 凛祢は通信機に手を当てる。

「みほ。君のやりたいようにすればいい。ただ……自分が後悔しないと思える道を選んでくれ」

「凛祢さん……」

「行ってあげなよ!」

 凛祢と沙織の言葉でみほは覚悟を決めたように声を上げる。

「優花里さん、ワイヤーを!」

「はい!」

 数秒後、みほはワイヤーにロープを巻き付け、もう片方を自分の体へと巻き付ける。

「行きます!」

 その言葉で彼女は跳躍する。

 その体は宙を舞い、隣の戦車に飛び移ると再び跳躍した。ウサギさんチームの搭乗するM3リーを目指して。

 そんな様子を観客たちも見守っていた。

「英治会長、不知火。少し作戦時間を遅らせることになりました」

「何かあったのか?」

「敵に奇襲されたか?」

 通信を聞いて不知火と英治が同時に問い掛ける。

「いや、トラブルが起きてしまったけど、大丈夫だ。合流が少し遅れそうかと」

「「了解」」

「葛城、お前も死なない程度に頑張ってくれよ。正直、お前と西住だけがウチの最大戦力だからな」

 その言葉でお互いに通信を終える。

 

 

 一方、ヘッツァーとキャバリエは黒森峰連合の後方に回り込んでいた。

「さてさてー。あと1輌くらいは撃破したいところだよー」

「そんなにうまくいくとは思えないんだけど……」

 相変わらずの杏に対して英子は少し弱気に呟く。

 しかし、それを読んでいたのか。まほは振り返ることなく指示を出した。

「小梅、ビスマルク。10時の方向にヘッツァーとキャバリエだ」

「はい!」

「おらよ!」

 パンターの砲撃とビスマルクの放ったロケット弾が付近の地面を抉った。

「ひー!やっぱ駄目かー!」

「撤退よ!撤退!」

「ちっ!まあいい。削れる分の戦力は削ってやったんだ!上出来だろ」

 不知火が笑みを浮かべてキャバリエに飛び乗ると、2輌は逃げるように後退していく。

「追いますか?」

「深追いする必要はない。フラッグを落とせばそこで終わりだからな」

 聖羅は指示を終えると再び駆動車を走行させる。

「大洗は凛祢と西住妹だけが脅威だと思っていたが……」

「そうだな。まあ、これだから面白いんだよ。フラッグ戦はね」

 グラーフも思い出すように呟く。

 

 

 みほが届けたワイヤーによって車体を牽引することで予定よりも早く川を抜けることに成功した。

 抜けた直後、黒森峰連合から放たれた砲弾が後方で誘爆していた。

「おーあぶないあぶない」

「少し遅かったら危なかったね」

 シャーロックやアーサーも頷きながら後方を見つめる。

「西住隊長凄かったね」

「うん。本当にヒーローみたいだった!」

 ヤマネコ分隊も思わずみほを褒め称えていた。

 数分ほど走行して市街地に到着すると、ようやくヘッツァーとキャバリエに合流する。

「なんとかみんな無事みてーだな」

「本当にギリギリでしたけど」

 凛祢はさきほどの状況を思い出し、思わず苦笑いする。

「ここから先の作戦はどうするんだ?」

「やることは一つです。ヒットアンドウェイで戦います、ただ無理のない程度に」

 凛祢が通信を送ると歩兵隊も本格的に戦闘準備に入る。

 市街戦になれば歩兵戦闘も激しさを増していく。

 そうなれば頼れるのは個人の能力と仲間との連携になってくる。

「戦力的な不利は変わらずか……」

「それでも黒森峰とここまでやれてんのは凄いことだろ」

 ため息交じりに呟くと俊也が皮肉を言うように言葉を口にする。

「そうだぜ凛祢。ここまで戦力は削られてはいないわけだしな」

「それだと聞こえはいいが、こちらだって一向に敵の戦力を削れていないのが現実だけどな」

 八尋や翼も同じように呟いていた。

 分かってはいるが、それでも無茶することはできない。

 技術的不利に戦力的な差が大きくなれば勝機を失いかねないのだ。

「おい、あれ見ろ……」

「……」

 俊也が視線の先を指さすと同時に視線を向ける。

 視線の先には市街地の建物から砲塔を覗かせるダークイエローの車体。パンターG型の姿があった。

「凛祢さん……!」

「やるか、ここで1輌でも多く削っておきたい」

「よっしゃー!塁、全速前進だー!」

「了解!」

 八尋の声を合図にⅣ号とヤブイヌ分隊を先頭に大洗連合が敵戦車を追いかけていく。

「こんなところにたった1輌で?ねえ、不知火、どう思う?」

「怪しいとは思うけど……セレナいつでも離脱できるようにしとけ」

 不知火が通信機で静かに呟く。

「いいの?罠だとしたらフラッグ車を守るべきなんじゃない?」

「ちっちっち!あの子たちなら大丈夫だって!ね!英子さん?」

「うん。そうね」

 英子は再び視線を前方に向けた。

 しかし、英子たちの予想は最悪の形で的中することとなる。

 パンターを追撃するべく後を追いかけていた大洗連合。一定の距離を保ちながら走行していた。

「このままいきます!」

「待て!カモさんチーム!」

 凛祢の声を上げるが遅かった。

 パンターを追撃していた大洗連合の前に迷彩柄の大型戦車がゆっくりと現れる。

 その姿に思わず大洗連合、観客席の者たちも驚く。

「なっ!」

「いっ!」

「「塁、全速で後退しろ!」」

 凛祢と俊也の声で我に返った塁はギアを入れ直し、アクセルを踏み込む。

 大洗連合の車両が後退を始めると同時に、大型戦車が重い一撃を放つ。

 今まで感じたことのない衝撃波が全身を吹き抜けた。

 その瞬間、被弾したのだろうカモさんチームの搭乗するルノーが横転し、白旗を上げていた。

「なんなんだよ、あいつは!?」

「超重戦車マウスだ!」

「なんで……!こんな大型が!」

 次々に大洗連合の生徒たちが声を上げる。

「よくもカモさんチームを!」

「よせ!カバさんチーム!」

 アーサーが声を上げるがⅢ突はすでに砲撃を開始していた。

 マウスの正面装甲に砲弾が命中するが、まったく効いている様子はない。

「馬鹿!」

「何やってんだ!」

「カバさんチーム!!」

 シャーロックとジルに体を押さえつけられていたアーサーが手を伸ばすがその手は届くことはなく、すぐにマウスの砲身がⅢ突に向けられ、火を噴いた。

 轟音と共にⅢ突の車体はひっくり返っていたのだ。

 走行不能であることはすぐに理解できた。

 続けて、マウスと共に現れた敵歩兵がMP5の引き金を引いた。

 銃弾がシラサギ分隊を撃ち抜いていた。

 初めて感じた。

 たった1輌の戦車による圧倒的戦力差という名の恐怖を。

 

 

「……ここでマウスか」

「かなりまずい状況だな」

「マウスが相手では大洗にとって苦しい所ですわね」

 ケンスロットやガノスタン、ダージリンも険しい表情を浮かべていた。

 

 

「きちゃった……」

「去年もあいつを潰すのにかなりの労力を使ったものだ」

「「……」」

 弱気に呟くカチューシャとやアルベルトも同じように戦いを見つめていた。

 

 メッザルーナは肩で息をしたまま観客席の椅子に座り込む。隣にはマリーダの姿もある。

「おい……はぁ、試合状況は、どうなってる……?」

「メッザルーナさん?」

「どうしてここに?」

 司とアンクが思わず問い掛ける。

「昨日の夜から会場に来てはいたのですが……遅くまで宴会していて今起きたんです」

「なにやっての……」

 アキは思わずため息をついた

「宴会ってことはお料理もいっぱいあったの?」

「はい。残り物ですががキャンプ場にあるので分けましょうか?」

「「もらう!」」

 マリーダの返答にアキとミッコは瞬時に返答する。

「んなことより、状況教えろよ」

「黒森峰が有利なのは変わらないが、大洗もなんとか食らいついている。だが、マウスが出てきてしまっては……」

「マウス?」

 ヴィダールの言葉にメッザルーナは画面に視線を向ける。

 映し出された映像には超重戦車の姿があった。

「確かにでけぇな。凛祢、どうするつもりだ?」

「分かりません。でも、今の凛祢は1人じゃない。仲間がいますから」

 司は再び画面に視線を向けるとミカは静かにカンテレを鳴らしていた。




今回も読んで頂きありがとうございます。
29話でようやくアニメの11話までの内容を消化しました。
おそらく次回でアニメ版ガールズ&パンツァーの内容は終わりにたどり着けると思います。
では次回もよろしくお願いします。


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第30話 激戦!大洗連合VS黒森峰連合

どうもUNIMITESです。
かなり間が空いてしまって申し訳ありません。
しばらく忙しくて執筆する暇がありませんでした。
これからまた投稿していきます。



敵戦車を誘い込み、市街戦に持ち込んだ大洗連合。しかし、黒森峰の用意していた超重戦車マウスによる反撃を受けることとなった。

「……っ!」

 凛祢は目に前に現れたマウスとその攻撃に言葉が出なかった。

 マウスの砲撃は一撃でⅢ突のひっくり返し、ルノーを横転させるほどだった。シラサギさんチームもすでに敵歩兵によって戦死せられてしまった。

「我らの」

「歴史に」

「今、幕が」

「降りた」

 エルヴィンに続いてカバさんチームの乗員が言葉を続ける。

「離してくれ!カバさんチームがやられてしまったのにこのまま黙っていられないよ!」

「落ち着けってアーサー!」

「そうだよ。ここで突っ走ったところで撃沈することは目に見えているだろう?」

 暴れるアーサーを必死に止める姿を横目に凛祢もその表情を歪ませる。

「何よ!何がマウスよ!あんな図体して!」

「いたたた……僕たちもやられちゃいましたー」

「残念ですー」「無念ですー」

 カモさんチームと青葉の声も通信機越しに耳に届く。

「冷泉さん、東藤くん!後は頼んだわよ!約束は守るから!」

「おー!」「当たり前だ!……そうでなきゃ進級が危ういんだからよ」

 戦況は大洗連合には苦しい状況になりつつあった。

 歩兵隊はシラサギさん分隊と日向アインの4人が戦闘不能。戦車もⅢ突とルノーが走行不能となった。

「2輌撃破しました!」

「あと7輌……」

「やはり、戦力差は歴然だな」

 聖羅は思わず呟く。

「案外、マウス1輌で勝負が決まっちまうかもな」

「まだわからない……と言ってもⅢ突を撃破できたなら攻撃力は相当低下しただろうね」

「でも、フラッグ戦なら何が起こるかわかりません」

 すでに勝ったと思い込んでいるビスマルクに龍司と聖菜が進言する。

「こちらは16輌か……悠希、龍司!いけるか!?」

「いつでもいける……」

「いけるよ!」

「よし!一気に攻めるぞ!」

 聖羅は声を上げると、黒森峰連合は一気に移動速度を上げた。

 

 

 試合が動き出した状況にオレンジペコは表情を曇らせる。

「さすがはマウス、大洗連合はここが正念場ですね」

「正念場を乗り切るのは勇猛さではないわ。冷静な計算の上に立った、捨て身の精神よ」

「それなら問題ないだろ。アルフレッドも、あの葛城とか言う男だってここまで勝ち上がってきてんだ!」

「そうですね、モルドレッドくん」

 そう言うとオレンジペコは再び試合へと視線を向ける。

 

 

 後退し、市街地内の建物に身を隠しつつ砲撃するがマウスの装甲を貫通することはできずにいた。

「くっ……!」

 マウスは砲撃を受けた後にゆっくりと砲を調整する。

「身を隠せ!」

 建物を盾にするがマウスの一撃は簡単に建物を木っ端みじんにしてしまう。

「あー!もう、あんなの反則だろ!」

「ルールは破ってないんですよ」

「葛城何とかしろー!」

 雄二が後退しながら声を上げていた。

 あの戦車は確かに強力だ。

 だが、ルールで縛られていない以上、撃破する手段はあるはずなんだ。

 それに去年のプラウダも半分の戦力を費やしたとはいえあのマウスを撃破している。

「戦術的退却!」

「おい、何か方法ないのかよ!?」

「とにかく、今はこうするしか……」

 再び市街地を移動し、身を隠す大洗連合の戦車たち。

 マウスもその後をゆっくりと追って行く。

「何してるんだ!叩き潰せ!相手は図体だけがでかい薄ノロだぞ」

「そんなこと言われても、あんなのどうやって撃破するのよ!?」

「華蓮、とにかく撃って!風香も装填急いで!」

「アイアイサー」

 砲撃を続けるが状況が変わることはない。

「砲身を狙ってください!」

 みほも必死に指示を出す。

「くっそー!歩兵の武器じゃあんなん倒せねーぞ、おい!」

「雄二先輩、ヤマケン!グレネードをマウスの後方まで飛ばせるか?」

「可能ですよー」

「撃ってくれ!」

「了解!」

「どうなっても知らんぞ!」

 ヤマケンと雄二はダネル‐MGLの銃口を斜め45度で空へ向けると引き金を連続で引いた。

 撃ちだされた榴弾は次々に弧を描き空を舞う。

「ほらほら、貴様らにマウスの装甲が抜けるか!はっはっはっはっはっはっは!」

「ふっふっふ、大洗ではこちらまで届く武器はあるまい!」

 パンター車内にいた黒森峰の生徒が声を上げる。

 その時、2人の放った榴弾がマウスの上空を越えてパンターと黒森峰の歩兵部隊に降り注ぐ。

「なにー!?」

「くそー!」

 次々に榴弾が誘爆し、歩兵隊を次々に戦死させる。

 パンターも不意打ちを受け、右に車体を逸らした。

 マウスを盾にしていたパンターの車体が射線上に入る。

 その瞬間を狙っていたかのようにⅣ号が砲撃するとパンターに命中し白旗が上がった。

 すぐに大洗連合が移動を開始する。

「よし、あとはマウスと敵歩兵が6人か……」

「市街戦で決着付けるには、やっぱりマウスと戦うしかない……ぐずぐずしてると主力が追いついちゃう」

「でも、どうするの西住さん?」

 そんな中、英子が通信機越しに問い掛ける。

 不知火もやれやれと首を振る。

「そもそもマウスとか言う前も後ろも装甲抜けない戦車を、俺たちみたいな新人集団相手に使うって時点で本気なんだろうな」

「まあ、勝つためならしょうがないでしょうね」

「宗司も不知火も納得すんな!」

 雄二がイラ立った声を上げる。

「いくら何でもデカすぎ!これじゃあ、戦車が乗っかりそうな戦車だよ!」

「「……!」」

 データノートとにらめっこしていた沙織の言葉で凛祢とみほは気が付いたように顔を上げた。

「ありがとう沙織さん!」

「少々危険だが、やるか……!」

「カメさん、アヒルさん。少し危ないですが指示通りに行動してください」

 すぐにみほが指示を出す。

「了解しました!」

「何でもするよ!」

「少々負担が大きくなるかもしれません」

「今更なんだ!早く言え!」

 凛祢も通信機に手を当て、羽織っていた防弾加工外套を八尋に渡す。

 通話を終えると、ブローニングハイパワーを引き抜く。

 数分後、マウスが十字路に到着した。

 数十メートル先には大洗連合の姿がある。

「どっちにしても敵歩兵だって減らす必要があるんだ。やるしかないだろ」

 英治と翼は道路で狙撃銃を構える。

 するとヘッツァーが全速力でマウスへと突撃していく。

「まさか、こんな作戦とは」

「やるしかないよ。桃ちゃん」

 弱気な桃に対して柚子は覚悟決め、アクセルを踏む。

 マウスが1発放つが、大洗連合は何とか砲撃を回避した。

「燃えるねぇ」

 杏はいつもと同様に笑みを浮かべ、この状況を楽しんでいるようだった。

 宗司と雄二が援護の為に、ヘッツァーの後を追う。

 お互いにスピードを緩めることなく、前進したことでヘッツァーとマウスが正面衝突した。

「な!」

「うお!」

 観客席に驚きの声が走った。

 ヘッツァーは斜面が多く、背の低い戦車であるため、マウスの履帯の下へと車体が入り込むことに成功していた。

「よっしゃ!」

 瞬時に敵歩兵がヘッツァーを潰そうとするが、英治の狙撃と近づいていた雄二の放った榴弾に阻まれていた。

 続けてポルシェティーガーとM3、キャバリエが横に回り込み砲撃する。

 しかし、まるでマウスには効いていない。

 すると砲塔をそちらに向けるマウス。

「よし、予測通り!」

 大洗連合にとってその動きは予想通りの行動だった。

 隙をついて、八九式がマウスの車体に滑り込み乗っかった。

 砲塔が回らないように車体を使って固定する。

「なんとか踏みとどまってください」

 みほが声を掛け、Ⅳ号は前進する。

「ぎゃー!」

「車内ってカーボンコーティングで守られてるんじゃないの?」

「マウスは例外なのかもね」

 カメさんチームのそんな声を聞いて

「おいおいヘッツァーは大丈夫なのか!?」

「雄二!危ないから頭下げて!」

 雄二と宗司の声が声を上げる。

「西住!早くしろヘッツァー持たないぞ!」

 英治も思わず通信機越しに急かす。

「……撃て!」

 みほの命令で、Ⅳ号が発砲する。

 轟音の後、黒煙の中から現れたマウスからは白旗が上がっていた。

 すぐに観客席で歓声が上がる。

「マウスを仕留めました!」

「私たちも今度やろうかしら!」

 オレンジペコとダージリンは驚きを隠せなかった。

 あんな倒し方を見たのは初めてだったからだ。

「あんなやり方があるなんてな」

「やっぱ面白いな、大洗連合!」

 ケンスロットとガノスタンも感心したように頷く。

「よっしゃ!」

「やりましたね!」

 雄二と宗司のキューベルワーゲンも旋回してⅣ号の元に向かおうとした時だった。

「ぐっ!このままで終われるか……」

 かろうじて生存していた敵歩兵がパンツァーファウストを構える。

「あれは!」

 いち早くその存在に気づいた凜祢は英治に通信を送る。

「ちっ!」

 英治がすぐに引き金を引いた。

 銃弾は命中し敵歩兵は戦死するが、そのロケット弾は宗司と雄二の搭乗するキューベルワーゲンに直撃し、誘爆する。

「なっ!」

「先輩!」

 不知火と凜祢が声を上げ、キューベルワーゲンに駆け寄る。

 しかし、二人はすでに戦死判定を受けていた。

「うう、やられてしまいました」

「くそが……」

 二人もなんとか声を絞り出す。

 英治も少し遅れて駆け寄る。

「すまない、俺がもっと早く気づいていれば……!」

「会長のせいじゃないですよ。葛城、後は任せる」

「お願いします。葛城君、英治、不知火」

 宗司と雄二はそう言い残した。

「凜祢、敵が近づいてきてるぞ!あと3分で到着だってよ!」

 敵はマウスを撃破されたことに気づいているだろう。

 3分と言っても、すぐに追いついてくるはずだ。

「次の行動に移ってください!」

「はい!」「ほーい」

 みほの指示で続々と動き出す大洗連合。

「凜祢さん……あの」

「分かってる。もう油断しない、最後の瞬間まで」

 凛祢は再び、戦う覚悟を決める。

「英治、行くぞ」

「わかった……」

 不知火と共に英治はキャバリエに掴まる。

 そして大洗連合が再び走行し始めると、ヘッツァーの様子がおかしかった。

 数メートル進み、停止した後黒煙を上げたのだ。

 すぐに白旗が上がる。

 どうやら無理な戦術が堪えた様だ。

「あ!」

「あっちも限界か」

 凛祢は俯いて呟いた。

「西住隊長、葛城隊長。あとは任せたぞ!」

「はい!」

「やり遂げて見せます」

 二人はそう答えると、道の先を見つめていた。

「こっちは5輌です。相手はまだ14輌。ですがフラッグ車はどちらも1輌です!」

「敵の狙いは俺とみほ達あんこうチームだ。みんなはできる限り敵の戦力を分散するんだ」

 みほと大河が通信を送る。

「みんな、敵を挑発するよ!」

「最後の瞬間まで敵を足止めするぞ!」

「はい!」

 アヒルさん、オオワシ分隊が続く。

「あんこうは敵フラッグとの一対一の機会をうかがいます。レオポンチームの協力が不可欠です!」

「心得た」

「そういうの燃えるよね!」

 ナカジマとヤガミが笑みを浮かべて返答する。

「後続はウサギさんチームの任せます!」

「はい。任せてください!」

「結局相手はヤークトティーガーとかかよ、でも強ければ強いほど燃える!」

 ウサギさんとヤマネコもやる気十分と言わんばかりの声を上げている。

「照月さん!オオカミチームは敵翻弄して、各個撃破してください。ただ無理はしないように」

「任せなさい!杏たちの分までやってやるんだから」

「英治、俺たちも頑張ろうぜ」

「うん」

 オオカミチームと英治も返答して前に出る。

「「これより最後の作戦ふらふら作戦を決行します」」

 二人の指示で再び、作戦が決行される。

 路地を抜け、Ⅳ号、ポルシェティーガー、キャバリエ、八九式の後を黒森峰連合は追いかけていた。

 黒森峰の後方からM3もその後を追う形で。

「思い切った作戦だな」

「これでいいんだよアーサー」

 シャーロックがパイプ煙草を銜えてそう言った。

 歩兵たちは戦車の護衛ではなく、市街地での遭遇戦をしていた。

 市街地を曲がりながら進む大洗の4輌。後方でうろうろする八九式に阻まれ黒森峰は発砲できずにいた。

 するとⅣ号とキャバリエが右に曲がるがポルシェティーガーと八九式がまっすぐ進んだことで、敵戦車が分散し始める。

 次々に路地を曲がりながら、敵戦車を分散させていく。

 すると路地を利用して後方に回ったいたM3がエレファントの撃破に成功する。

「やった!」

「さきちゃんすごい!」

 ウサギさんチームが声を上げる。

「こちらエレファント撃破されました!」

「何やってんのよ!」

 エリカも通信に思わず怒鳴っていた。

「悠希と第二分隊動けるか?」

「いつでもいけるよ」

「いけ、悠希!ビスマルク、」

 聖羅のその言葉で、悠希の搭乗していたキューベルワーゲンが急に隊を外れて行く。

 一方、八九式はティーガーⅡと2両のパンターを相手にしていた。

 その小回りのきく機動性でなんとか敵を翻弄する八九式、歩兵隊も市街地で遭遇戦を行っていた。

「おいおい、敵の射撃止まねーぞ」

「だが、敵砲兵はもうほとんどいないみたいだし、射撃戦なら何とかなるかもしれない」

 オオワシ分隊も住宅に身を隠しながらなんとか戦闘を行っていた。

 ヤマネコ分隊も別地点で戦闘を行っている。

「あ、弾切れた。だれか予備弾倉!」

「はいよ!」

「ぐうう、敵の射撃が止まないな――」

 亮がそう言いかけた時だった投げ込まれた手榴弾が地面を転がる。

「みんな避けろ!」

 その言葉で全員が爆発範囲外に逃れるために走り出す。

「え?がはっ!」

 その時だった。腹部に鈍い痛みが走る。亮は何が起きたのか分からなかった。

 しかし、一瞬自分の腹部に金属棒のようなものが叩きつけられていたのを確認する。

 次の瞬間には数メートル吹っ飛ばされ、気を失ってしまう。

「亮!なんだよあいつ!?」

「とにかく撃て!」

 アキラや礼が発砲するが敵歩兵は手に持っていた金属剣の様な武器を前で構えて銃弾を防ぐ。

「うそーん!」

「化け物かよ!」

「じゃま……」

 弾切れを起こした隙をつかれたアキラと礼も、その金属武器を叩きつけられ戦死判定を受けた。

 気が付けばヤマネコ分隊は全滅していた。

 その時間に、10分と掛からなかった。 

「すげーな」

「さすが超兵と呼ばれるだけあるな、星宮悠希」

 黒森峰の歩兵がその男の名を口にする。

 そう、この6人を瞬く間に戦死させたのは星宮悠希なのである。

「聖羅、一分隊潰したよ」

「よし、次は、T67地点だ」

「了解。いくよ」

 彼はその手に持つ近接用金属武器『鋼鉄剣鎚ソードメイス』を肩に担ぐ。

「はい」

 悠希を含む第二分隊は再びキューベルワーゲンで移動を開始する。

 

 

 その頃、Ⅳ号の車内には通信が入っていた。

「すみませんウサギチームやられました!」

「すみません。こちらヤマネコ分隊全滅しました」

 時を同じくしてヤークトティーガーと相討ちになったウサギさんチームも通信を送る。

「まじかよ」

「……」

 Ⅳ号の隣でジープを運転していた俊也は何も言わなかったものの八尋と凛祢は表情を曇らせる。

 通信機越しに効いていた辰巳も苦痛の表情を浮かべる。

「くそヤマネコがやられたか!銃は弾切れだし」

「よし、なんとかこの地点は確保した!でもあいにく、メインは弾切れだぞ」

 迅がそう呟く。

「こっちもですって、なんか来た!」

 ロケット弾が接近してきたことに気づく淳。

「避けろ!」

 一瞬速く動いた辰巳は何とか生存していたものの、他のオオワシ分隊からはアラームが鳴り響いていた。

 そして、辰巳の前に現れるビスマルクの姿があった。

 ビスマルクは弾切れのパンツァーシュレックを投げ捨てる。

「残りは、お前だけだな。まあ援軍は向かっているようだがな」

「マジかよ……」

 辰巳は目の前に立つビスマルクのその筋肉質な見た目に圧倒されながらも、腰のホルスターからナイフと桑原軽便拳銃を引き抜く。

 

 

 時を同じくして、オオカミチームのキャバリエもパンターを相手に奮闘していた。

 次の瞬間、住宅を抜けてすぐに陣取っていたキャバリエがパンターを撃破する。

「よし、一輌撃破!」

「やったね!」

 花蓮と風香がハイタッチをして喜ぶ。

「セレナ!」

 英子の声で再び、車体が揺れる。

「もうまたですか?何輌倒せばいいんだよ!?」

「全部倒せばいいんだよ」

「お、ナイスツッコミだね不知火君!」

 風香は相変わらずのノリであった。

「あの車両なかなかやりますね。聖菜さん追いつけますか?」

「行けますよ小梅先輩!」

「わかりました、ここでキャバリエを倒します!」

 車長である小梅は手を強く握る。

「やっぱりあっちのほうが早いわね」

「ここで対決するわよ」

「「了解」」

 キャバリエも市街地をジグザクに走行しながら発砲する。

 お互いの砲撃が炸裂する中で不知火に通信が入った。

「不知火殿、今どこですか?」

「塁ちゃんか!?海の近くだよ!」

「そのままM54地点に誘い込んでください。ヒートアックスの罠を仕掛けてあります」

「了解した、つーわけだ照月さん」

「わかったわ」

 キャバリエも塁たちのいる地点へと向かう。

 数分ほどで、キャバリエが向かってくる。

「よし、このまま」

 塁がリモコンを握りしめた時、リモコンが銃弾で撃ち抜かれた。

「え?な、なんで!?」

「どうした塁?」

 塁は何が起きたのか分からなかった。

 共に行動していた翼が問い掛ける。

「リモコンが!これじゃあ起爆できません!」

 地面に転がるリモコンの残骸は破損してボロボロになってしまっていた。

「なんだと!?どうすんだよ!?」

 翼も声を上げる。

「龍司、M53地点に歩兵が2人いる。行け」

「了解です」

 海沿いのホテルの屋上で狙撃していたグラーフはスコープを覗いて通信を送る。

「塁作戦は失敗だ。はやくこの場所を離れるぞ」

「で、でも!」

「仕方ないだろ、早くしないと――」

 翼がそう言った時、2人の前に黒森峰のキューベルワーゲンが現れる。

「くそ!」

 二人はとにかく住宅街の方へと駆けていく。

 敵は4名。さらに言えば先ほど狙撃してきた相手を考慮すれば5名だ。

 数的にも塁たちが不利だった。

「戦いましょう」

「相手は4人だぞ」

「元々僕たちの目的は敵を分断することです!」

「わかった、やるぞ塁!」

 翼と塁も戦う覚悟を決める。

「見つけました」

 龍司と第三分隊は銃を手に二人の前に立つのだった。

 そして、Ⅳ号と凛祢たちはティーガーに追いかけられながらも校舎へと向かっていた。

 




読んで頂きありがとうございます。
戦車戦、歩兵戦共に激戦が続く黒森峰戦。
凜祢たちは勝利できるのか?
次回で多分黒森峰戦の最終回になると思います(多分)。
しばらく時間が空いてしまいましたが少しずつ上げていきます。



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第31話 未来に賭した一撃(フューチャーストライク)

どうもUNIMITESです。
今回は黒森峰戦終盤です。
では、本編をどうぞ。


 マウスの撃破に成功した大洗連合。

 しかし、黒森峰連合の猛攻は続いていた。すでに大洗連合の戦力は半分以下にまで減少している。

 それでも勝利条件であるフラッグ車を撃破するためであるために凛祢たちは戦場を進んでいた。

 後方を走行する敵フラッグ車であるティーガーⅠとフラッグ隊長である黒咲聖羅の搭乗しているキューベルワーゲンが迫ってきている。

 すると通信機から声が響く。

「こちらタイガーさん分隊のヤガミです。言われた通りの準備できたよ」

「こちらワニさんチームのアーサー。準備オーケーですよ、葛城隊長」

「ありがとうございます。レオポンチームと合流次第作戦通りにお願いします」

 ヤガミとアーサーの声に返答すると凜祢は深く息を吐いた。

 泣いても笑ってもあと数十分で決着はつくだろう。

 後方の駆動車には聖羅と他の歩兵3人しかいないところを見ると、ビスマルクとグラーフは他の部隊の援護に回っているのか。

 それはそれで、好都合だ。こちらは、あの3人全員を相手にできる余裕などない、一対一でも勝率は絶望的なのだから。

 

 

 

 整備部であるタイガーさん分隊はフィールド内に建っている校舎内玄関でバリケードを作りをしていた。

「にしても、こんな机や棚で作ったバリケードが本当に役に立つのかな……」

「葛城が言うには校舎内の机や椅子は全部防弾加工されてるんだってよ。まあそうでもなきゃ、こんなところで試合なんて出来ねーだろ。ヤマケン、お前残弾幾つくらいだ?」

 ヤガミが作り終えたバリケードをトントンと叩く。すると氷室がヤマケンに視線を向ける。

「榴弾はあと10発ですね。正直時間稼ぎなんて数分が限界でしょうね」

「そうか。僕たちは言われた通りやるだけだよ」

 するとヤガミは通信機に手を付ける。

 一方、同じく校舎内裏口でバリケード作りをしていた歴史男子であるワニさん分隊も作業を終えていた。

「ふう。他のみんなはどうしているのかな」

「どうだろうね。ヤマネコの全滅は予想以上に早かったのを考えると塁くんたちもそう長くは持たないんじゃないじゃないかな」

 シャーロックは現状を分析して、状況を確認する。

「確かに、ヤマネコをやった敵の歩兵っていったいどんな人なんだろうね」

「俺も気になります」

「今考えても仕方ないだろ。それより行くぞ」

「「ほーい」」

 アーサーの指示でシャーロックたちも移動を開始する。

 

 

 時を同じくして、オオカミチームの巡航戦車キャバリエと小梅の搭乗しているパンターと交戦していた。

 お互いに砲撃を続けるもののなかなか決定打を与えることはできていなかった。

「セレナ、もっと揺れないようにしてよ!」

「戦闘中に止まったらやられるわよ」

「あーもう!あのパンチーだかパンツ―だか何だか知らないけど当たってくれよー」

 華蓮だけでなく風香も砲弾を抱えて文句を言い始める。

「パンチ―じゃなくてパンターね」

「まじかよ、塁ちゃん!?」

「不知火、どうしたの?」

 英子が不知火に問い掛ける。

「塁ちゃんの作戦が駄目になったってよ」

 不知火の言葉に風香が「そんなー」と気の抜ける声を上げる。

「そっか、流石黒森峰ね。セレナ、やっぱりやるしかないわよ」

「やるしかないのね……」

 セレナは少し、笑って見せた。

 すると今度は華蓮が「やるって何を?」と問い掛ける。

「決まってるでしょ、零距離砲撃よ。不知火と英治は塁たちの手助けに行って」

「いいのか?」

「いいから行きなさい」

「オオカミチーム感謝する」

 何も言わずに不知火は頷くと英治と共に左右に跳躍する。

 着地後、すぐに駆け出す。

「さあ、やるわよ!チャンスは一度きり」

 英子の言葉でオオカミチームも攻撃準備に入る。

 

 

 

 まもなくHS地点に入る。

「レオポンチームどこですか?」

「こちらレオポン。HS入りました」

「0017に移動してください」

「了解」

 ポルシェティーガーも裏から学校の敷地内に侵入、グラウンドを横切って校舎へと向かう。

 Ⅳ号とティーガーⅠ、ジープをキューベルワーゲンが校舎の中庭に続くゲートをくぐると、続けてポルシェティーガーがゲートを塞ぐように停車する。

 窓から校舎外に出たタイガーさんチームの3人が、その後ろに陣取る。

「さーここを死守するよ!」

「はいよ!」

 レオポンチームとヤガミがそれぞれ発砲した。

 すぐに砲撃戦が始まる。

「なにやってんの!?失敗兵器相手に!隊長待っていてください!」

「エリカ、そっちの状況は?」

 悠希がエリカに通信を送って来る。

「悠希!?貴方今どこに!?」

「俺たちは、エリカたちとは逆方向にいる。そっちではドンパチやってるみたいだけど」

 正門の方はエリカたち戦車部隊が押さえていたものの、裏は悠希と第2分隊だけであった。

「悠希、中に隊長たちがもう入ってるわ!あなたもさっさとそっちを突破しなさい!」

「言われなくてもやるけどね。じゃあ――」

 悠希が進もうとした時、銃弾が放たれ伏せる。

 裏に陣取っていたアーサーたちワニさん分隊の姿があった。

「ちっ!面倒だな……俺が切り込む。他は中に入って敵隊長を見つけて潰して」

「りょ、了解」

 悠希もソードメイスを手に駆け出す。

「あいつの武器って近接タイプか!?」

「僕が行く!」

「アーサー、任せた!」

 アーサーも鞘から引き抜いた青白い刀剣武器「エクスカリバー・アルビオン」に接近していく。

 お互いの距離が詰まり、剣を揮う。

 甲高い金属音が響き渡る。

「なに!?こいつ……」

「へぇ。聖ブリタニア以外にも金属剣を使う奴いたんだ」

 悠希がそう呟くと、剣を振る。

 アーサーもなんとか防ぐ。

 その横を通り過ぎていく3人の第二分隊が搭乗するキューベルワーゲン。

「なんとしても死守する」

 シャーロックたち3人も引き金を引いた。

 

 

 

 中庭を抜けて、Ⅳ号とティーガーⅠの停車してお互いを見つめていた。

 凜祢たちももジープを下りて、屋内に侵入する。

「黒咲隊長、どうしますか?」

「葛城を追うぞ。分かっているんだろうなあいつ。俺たちも主武装の弾がすでに切れてたってことに」

「こっちは4人だ、いくぞ」

 聖羅たちも校舎内に侵入する。

「よし、来た。ここまでは予想通り」

 凛祢たちはその姿を確認して教室棟へと向かう。

 

 

 その頃、オオワシ分隊唯一の生き残り辰巳はビスマルクと対峙していた。

「おらぁぁ!」

 ビスマルクは伸ばした警棒を振るが、辰巳は軽いフットワークで避ける。

「ちっ!避けんなゴラァ!」

「そんな大振りじゃあー、当たんないよ!」

 辰巳のコンバットナイフがビスマルクの右肩を切り裂く。

「ぐっ!こいつ……!」

 辰巳は凛祢とのCQC戦闘を思い出す。

 かつて自分も凛祢に受けた技を今ここでやる。

 再び振り下ろされた警棒をナイフで受け流し、太ももに2発発砲する。

 続けて左の脇腹をナイフで切り伏せる。

「こいつのナイフ捌き、凛祢と同じか!」

「いける、これならいける!」

 辰巳は勝機を感じていた。辰巳だけではない。

「すげぇ、辰巳ってあんなに近接戦闘に強かったっけ?」

「そりゃあ葛城隊長とずっと戦ってたわけだしな」

「一番戦ってたのは彼だから。でもあれなら勝てるかもしれないね」

 リタイアしていたオオワシ分隊も戦闘を見つめていた。

 ビスマルクも警棒を振り回すが、辰巳も拳銃を叩き落とされるが、ナイフを腹に突き立てた。

「これで!」

「がっ!……舐めんな!」

 ビスマルクも腕に力を込めると、辰巳の腹部に拳を打ち込む。

「う!はあ!」

 辰巳の身体が地面に落ちる。

 腹部に走る痛みに、堪らず手で覆う。

「「辰巳!」」

「やってくれるじゃあねーか」

 歩み寄り再び腹部を蹴り飛ばす。

 その様子に、漣が声を上げる。

「てめー!やめろ!」

「終わらせてやる」

 ビスマルクが警棒を振り上げる。

 うずくまっていた辰巳は軽く笑みを浮かべていた。

 一瞬速く動いてビスマルクの腹部に飛び込む。

「な!お前何を!」

「後は任せたよ葛城隊長!」

 握られていた手榴弾が起爆する。

 爆発の後、倒れていた2人分の戦死判定のアラートが鳴っていた。

 

 

 再び放たれる砲弾を受けてポルシェティーガーは傷ついていた。

「うう、なかなか……」

「くそ!ヤガミ、もう長く持たないぞ!」

「そう言われても死守するのが仕事だし」

 ヤガミもキャリコの残弾を撃ち終えると地面に置き、懐のコンテンダーを引き抜く。

「先輩、こんな攻撃受けてたら死んじゃいますよ本当に!」

「もう少し頑張って整備部のみんな、もう少しだけ」

 ナカジマが励ますように通信を送る。

 

 

 悠希の剣劇をなんとか受けきるアーサーだったが彼も違和感を感じていた。

「はぁ、はぁ」

「……」

 悠希の剣を受けて、息を荒くしていた。

「ささっとどいて」

 悠希は眉一つ動かさず、そんな事を呟く。

 彼には、剣劇と呼べるほどの技量はないのだ。

 しかし、反射神経は葛城凛祢の超人直感とよく似ている。

 ただただ、力のごり押しと、その人間離れした反射神経で敵を倒してきたのだろう。

 悠希のソードメイスがアーサーのエクスカリバー・アルビオンを弾き飛ばす。

「ここまでですか……」

「俺たちは、負けるわけにはいかないんだよ」

「戦いには負けました。でも試合に勝つのは僕たちです!」

 アーサーは最後にそう言い残し悠希に切り伏せられた。

 すると、ワニさん分隊も時を同じくして全滅したのかモニターに映るワニさん分隊の4人と塁、翼は英治、不知火にバツマークがついた。

 

 

 キャバリエは路地を抜けて、広場に出ると方向転換してパンターへと向かって行く。

「セレナ、一瞬だけ狙い付けさせて。風香も装填は最速で」

「わかったわ」「了解だよーん」

 セレナと風香が返事をする。

「一発撃って、狙いを点けて……」

「あなたならできるわよ。華蓮!」

「うん」

 華蓮は、トリガーを握りなおすと照準器を覗く。

「いました、敵戦車!」

「向かってきてます!」

「大丈夫。一発当てれば撃破できる!」

 小梅も指示を出す。

 お互いに砲撃するとキャバリエの砲撃がパンターの履帯に命中、機動力を奪う。

 キャバリエへの砲撃は掠めるだけに留まる。

「風香!」

「はいよ!」

 すぐに次弾を装填する。

 パンターの砲身は現在も動き、こちらへと向けられている。

 キャバリエがパンターの横に滑り込むと同時に砲撃。

 轟音と共に、黒煙が上がる。

 旗の上がる音と共にパンター、キャバリエの2輌どちらからも走行不能の白旗が上がっていた。

「ふう。あとはあなたたち次第よ。西住さん、凛祢」

 深く息を吐いて、英子は目を閉じる。

 時を同じくして集中砲火を浴びたポルシェティーガーと八九式が走行不能になったことが告げられる。

 すぐにモニターに映っていた歩兵達にも戦死判定のバツマークがついていく。

 その放送で会場へとざわめきが走る。

「あと1輌」

「歩兵も凜祢を含めた3人か」

 オレンジペコとガノスタンの表情が曇る。

「どうするんだよ、大洗連合?」

「しかし、このままではデータ的に勝機は……」

「データなんてどうでもいい!なんとかしてくれよ大洗!」

 ケンスロットとモルドレットも思わず立ち上がっていた。

 ポルシェティーガーを撃破した黒森峰連合がゲートに近づく。

 しかし、ゲートはポルシェティーガーとヤガミたちの用意したバリケードによって完全に封鎖されていた。

「ポルシェティーガーとバリケードが邪魔で通れません!」

「回収車急いで!バリケードは吹っ飛ばしなさい!」

「「ゆっくりでいいよー」」

 バリケードの奥にいたヤガミと車内にいたナカジマが呟いていた。

 

 

 一方、凛祢、八尋、俊也は教室棟に到着すると3方向に分かれる。

 凛祢は階段を掛け上げり、八尋と俊也はそれぞれ左右に駆けていく。

「待て!」

「……」

 聖羅は腰の手榴弾を一つ握ると、十字路に投げ込む。

 すぐに手榴弾が起爆する。

 爆発で陣取っていた八尋と俊也が数歩後退した。

 その隙に聖羅が階段を掛け上げる。

「しまった!」

「くそ!」

 すぐに八尋と俊也が引く金を弾くと2人に銃弾を命中させる。

 そして、聖羅が階段を上り終えた時だった。

 爆発音とともに後方の道が消える。

 天井に仕掛けられていたヒートアックスを起爆したことで瓦礫が1階、3階に続く階段を完全に封鎖したのだ。

「これで正真正銘一騎打ちってわけか」

「……決着を付けよう聖羅。俺たちのすれ違いに」

 凛祢が銃口を向けると、聖羅も自動拳銃「H&K USP」の銃口を向ける。

 彼の言う通り、この階には正真正銘2人だけ。逃げ道も無ければ助けもすぐには来ない。

 二人が引き金を引くと同時に、教室内に滑り込む。

「……」

 すぐに立ち上がり凛祢が先に仕掛ける。

 右手で腰からコンバットナイフを引き抜く。

 刃を突き立てるが、聖羅も伸縮式警棒を伸ばし応戦した。

「くっ!」

 数回の打ち込みの中で二人の戦闘は激化していた。

 お互いに一歩も引かない攻防。

 銃弾が命中すれば、すぐに片が付くことは分かっている。

 だからこそ、お互いに撃たせないように銃口を絶対に向けさせなかった。

 先に聖羅の警棒が銃身を叩きつけたことで凛祢の手から拳銃が離れる。

「なにっ!」

 しかし、凛祢も「覇王流・紫電脚」で足を蹴り上げ聖羅の態勢を崩す。

 倒れ込みながらも拳銃を向けようとする聖羅の拳銃を回し蹴りで蹴り飛ばした。

「くそが!」

「これで!」

 凜祢がナイフを突き刺そうとするが、聖羅も横に転がり回避する。

 

 

 一方敵歩兵を倒した八尋と俊也。

「ふう。終わったな」

「後は凛祢に――トシ!」

 声を上げて体を押し飛ばす。

 すると、後方から現れた悠希のソードメイスが空を切る。

「ちっ!」

「なんだこいつ!?」

 八尋がP90を構えようとするが横腹をソードメイスで叩きつけられる。

 うめき声をあげて、倒れ込む。

「この!」

 俊也がホルスターから引き抜いたFiveseveNを発砲するがソードメイスを体の前で構え、防ぐ。

「「マジかよ、こいつ!?」」

 二人が思わず同じ反応を見せる。

 再び、ソードメイスを振り上げると俊也をソードメイスで薙ぎ払う。

「がぁぁ」

「うぉぉ!」

 コンバットナイフを手に接近するが悠希は簡単に回避して、八尋と俊也を壁に叩きつけていた。

 

 

 

「「はぁ、はぁ」」

 肩で息をしてお互いを見つめる。

 そんな二人の戦闘を見守る映像記録用ドローン。

 その映像はモニターにも映し出されていた。

「葛城凛祢が黒咲聖羅と互角!?」

「CQC戦闘能力が群を抜いている!あれはもはや全盛期の超人の領域!」

 カチューシャとアルベルトが興奮気味に声を上げる。

 再び二人の武器がぶつかり合う。

「かつて俺が切り捨てた凜祢と西住みほが最後の障害となるとは……これも因果か」

「俺は必ず勝つ。勝たなくちゃならないんだ!」

 凛祢が烈風拳を撃ち込んだ。

 腹部にもろに受けた聖羅も堪らず一歩後退する。しかし、一歩で踏みとどまった。

「俺の歩兵道を否定していながら自分は勝利するだと……?ふざけるな!お前の歩兵道は俺と同じだ!」

「うっ!」

 聖羅の警棒は凛祢の頭部に叩きつけられていた。

 一瞬凛祢の意識が飛びかける。

 流血が頬を伝って行く。

「何が俺を否定するだ!お前だって勝利するために仲間を犠牲にしてきたんだろ!?それの何が違うと言うのだ!?結局、お前も俺と同じ道を歩むことになるんだよ!」

 聖羅の攻撃は次々に凛祢へと浴びせられた。

 腹部を蹴り飛ばされたことで凛祢の身体が床に転がる。

「うう……」

「もう立ち上がるな。痛い思いをするだけだ」

 体中が痛む。意識が飛びそうだ。

 このままでは……。

「葛城!」

「葛城先輩!」

「葛城くん!」

 杏たちだ生徒会だけではない。ウサギさんチームやヤマネコ分隊、カモさんチームとカバさんチームもモニターに映る凛祢を見つめていた。

「……あいつは絶対立つ!」

「そうです。凛祢ならきっと!」

 メッザルーナと司も拳を強く握りしめてモニターを見つめる。

 決めたんだ。あいつとの、聖羅との戦いでだけは逃げないって。

 まだ、この体は戦死判定アラームは鳴っていない。

「ぐぅぅ……」

「凛祢、お前……」

「負けられない。この戦いだけは……それに、俺の歩兵道はお前とは違う!」

 ふらふらになりながらも立ち上がる。

 すでに武器はなかった。

 それでも自然と怖くはない。

「いいぜ。俺が引導を渡してやる!」

 聖羅が接近するように駆けてくる。

 しかし、自然と左手は動いていた。

「覇王、鉄槌……」

 そう呟くと攻撃を回避し、カウンター技「震電返し」が聖羅の腹部に打ち込まれていた。

「あ、ああ……」

「……うう」

 覇王流の攻撃をもろに受けながら、彼は数歩後退するが戦死判定のアラームはなってはいなかった。

 凛祢はもはや立っているのもやっとの状態だった。

「ふふふ、はははは!強力な覇王流も、所詮は付け焼刃!歩兵道から逃げてきたお前が!何もかも変わってしまったお前がたった一撃で状況をひっくり返せるわけがないんだよ!」

 警棒を拾い上げ、再び向かっていく。

 彼の言う通りだ。これまでずっと逃げ続けていた。

 確かに、何もかも変わってしまったのかもしれない。

 だが、変わったからこそありのままの自分でいられた。

 すると、かつて何度も修行で見てきた構えを取る。

「……これは仲間たちと俺自身の未来への一撃!」

 次の瞬間、聖羅の胸元に流星掌打が撃ち込まれていた。

 玄十郎と敦子だけは見えていた。凛祢の神速の一撃を。

 吹き飛んだ身体が教室内の黒板に叩きつけられ、まもなく聖羅から戦死判定のアラームが響いていた。

「で、できた……橘花、無拍子」

 覇王流絶技、橘花無拍子を打った凛祢も膝から崩れ落ち、手をついた。

 左手には激痛が走っている。

 聖羅は左手を重点的に狙っていた。おそらく彼は覇王流を恐れていたのだ。

 だから、利き手である左手を封じようとしていたのだろう。

「はぁはぁ。やり、きったぞ」

 すると2回の砲撃音が響き渡り、アナウンスが響き渡る。

「黒森峰隊長歩兵戦闘不能!」「黒森峰フラッグ車走行不能!」

「「よって、大洗連合の勝利!」」

 その言葉を聞いて、観客たちは歓声を上げる。

「勝った、のか?」

「そうだよ桃ちゃん!」

「優勝だ!」

 杏も笑みを浮かべる。

「やってくれましたね」

「当然だろ。だが、あいつには感謝してもしきれない」

 宗司と雄二も笑みを浮かべる。

「勝った……」

「やったぜ英治!塁ちゃん、翼!」

「はい!」

「そうっすね」

 陣地に戻る途中だった英治たちもガッツポーズをする。

 

 

 凛祢も戻ろうと扉に視線を向けると、一人の男の姿があった。

 手にはバスターソードの様な武器を持つ男、黒森峰連合の星宮悠希だった。

「ふーん。あんた聖羅に勝ったんだ。葛城凛祢だっけ?」

「あ、ああ」

「覚えておく」

 そう言い残し聖羅の元に歩いていく。

 一度その様子を見た後、凛祢も教室を出て1階に向かう。

「八尋、俊也!」

「おう、凛祢……無事だったか」

「……」

 ボロボロな姿で座り込んでいる二人の姿があった。

 アラームが鳴っているところをみると本当にギリギリな状況だったのだろう。

「大丈夫か?」

「な、んとかな!おっと」

「丈夫なのが取り柄だからな」

 俊也が肩を貸す形で二人は立ち上がる。

「お前こそ大丈夫か?」

「こっちもギリギリだったよ」

 3人は再び歩き出し、玄関を出るとⅣ号から顔を出すあんこうチームを発見する。

「凛祢さん!」

「八尋くん!俊也くん!」

 こちらに気づいたみほたちが駆け出す。

 凛祢たちも駆け寄る。

「やったよ八尋くん!」

「俺はみんながやってくれるって信じてたぜ!」

「って凛祢殿出血してませんか!?」

 優花里が凛祢の顔を見て声を上げる。

「凛祢さん、大丈夫なんですか?」

「なんとか大丈夫かな……」

 凛祢は少し視線を逸らす。

「私たち勝ったんですよね……」

「ああ、みほのおかげで――」

 そう呟くと凛祢は再び膝から崩れ落ちる。

 安心したせいか。緊張の糸が切れたのだろう。

「凛祢さん!?やっぱり!」

「大丈夫……少し疲れただけだ」

 体が限界であることを訴えていた。

「よかった……私たちが勝てたのは凛祢さんのおかげでもありますよ!」

「ありがとう」

 そう、大洗連合は勝ったのだ。黒森峰連合に。

 なんとか意識を失うことなくⅣ号に搭乗して陣地に帰還した凛祢たちを待っていたのは勝ったことを喜ぶ大洗連合であった。

「あ、先輩!」

 あんこうチームと凛祢たちの姿を確認して大洗連合が駆け寄ってきた。

 次々に褒め称えるような言葉が浴びせられる。

「みんな、ありがとう」

「さあ、降りよう」

 凛祢が声を掛けるとⅣ号を下り、そのボロボロの車体を見つめる。

「この戦車でティーガーを」

 優花里が呟いた。

「まさか、最後の最後で無拍子を決めるなんてね」

「武器のないあの状況じゃ、ああするしかなかった。それに拳が最後の武器であることを教えてくれたのは英子だろ」

「ふふ。皆伝と優勝おめでとう」

 英子は笑みを浮かべ頬を染めていた。

「西住、葛城。この度の活躍、感謝の念に堪えない。本当にありがとう……」

 そういうと桃は涙を流して泣き叫んでしまう。

「俺からも感謝する」

 雄二も深々と頭を下げる。

 そして、杏と英治が二人の前に立つ。

「西住ちゃん、葛城くん。これでウチの学校廃校にならずに済むよ」

「俺たちの学校守れたんだ」

「「はい!」」

 凛祢とみほが返事をすると杏が抱き着いてくる。

「ありがとね。本当に……」

 みほとアイコンタクトを取る。

「俺たちのほうこそありがとうございました」「私たちのほうこそありがとうございました」

 二人も感謝の言葉を口にした。

 大洗連合が勝利によっている中、凛祢たちは医療班の元で治療を受けていた。

「いやー本当に勝利できるとはな!」

「ああ、俺の遅刻とボイコットデータも削除してもらったしな」

 八尋と俊也が隣で会話している中、凛祢は頭と左腕に包帯を巻いてもらっていた。

「随分やられたな、葛城」

「まさか、こんなにもひどいことになっていたとは」

 照月敦子もそんな言葉を口にする。

 自分が今回の試合で受けたダメージは相当のものだったようだ。

「今夜は戦車が自走できるくらいまで修理だって」

 通信をもらったヤガミが報告すると

「嘘だろ?少しは休ませろよ自動車部!」

「流石にへとへとっすよー先輩」

 ヒムロもヤマケンも虚空を見つめていた。

 ようやく手当てを終えた凛祢はテントを出て、陣地に戻る。

「あ、凛祢さん!」

「みほ」

 こちらに気づいたみほが駆け寄って来る。

「さっき歩兵道連盟の方が本部に来て欲しいって」

「本部に?いったいなんで……」

 説明を受けて、少し考えこむ。

「あの……私もついて行ってもいいでしょうか?」

「ああ、構わないよ。にしてもなんで呼ばれたんだろう」

 考えても分からないが、みほと共に本部へと向かう。

 向かう途中、みほが先に口を開いた。

「凛祢さん。私、まだお姉ちゃんや黒咲さんたちに勝ったことが信じられません」

「俺もさ。今回ばかりは負けるんじゃないかってひやひやしてた」

 彼女の言葉を聞いて同じ感想を述べていた。

 黒森峰連合はそれだけ強い強敵だったと言うことだ。

「凛祢さんが傍にいてくれて本当に良かったです。ありがとうございます」

「俺が俺のままでいられたのはみんなの、みほのおかげだ。俺の方こそこんな俺を必要としてくれてありがとう」

 お互いに頬染めて言葉を交わす。

 しばらくして、本部に到着すると見覚えのある顔があった。

 連盟の人間である朱音や西住しほ、その他にも連盟の役員が数人いる。

 しかし、それだけではなかった。

「よう、葛城。遅かったじゃねーか」

「やっぱり葛城くんは選ばれているね」

 アルディーニ学園のメッザルーナや冬樹学園のヴィダールがこちらを確認して、手を振る。

 二人だけではない。

 ファークトのアルベルトとエレン。

 聖ブリタニアのケンスロット。

 アルバートのレオン。

 そして黒森峰の聖羅と悠希、龍司。

 合計9名がこの場に集っていた。

「これは、何の集まりなんだ?」

「なんだ知らないのか?葛城」

 ケンスロットが傍に来るとそんな言葉を口にする。

「凛祢は高校歩兵道参加した初めてだし仕方ないよ」

 龍司もそう言っていた。

「俺たちはこの全国大会で評価され、高校歩兵道連盟に選ばれた強襲歩兵十傑(アサルト・ツェーン)ってことだ」

 レオンも顔を出す。

「アサルト・ツェーン……」

「凄いじゃないですか、凛祢さん!アサルト・ツェーンに選ばれるなんて!」

「あなたたち、全員揃ったようだから勲章授与するわよ!」

 朱音が声を上げると凛祢たち10人はいそいそと整列する。

 なんとカメラまでセットされ、その映像は観客席にも映し出されていた。

「これより第63回戦車道&歩兵道全国高校生大会、アサルト・ツェーン勲章授与を行います」

「アサルト・ツェーン、第一席、葛城凛祢」

「お、俺が、一席!?」

 思わず声を上げる。

 第一席とは、10人の中で一番上であると言うことだ。自分がそんな席にいていいのかと思ってしまう。

「いけ、凛祢。お前は選ばれしものなんだ」

「聖羅……」

 隣にいた聖羅の言葉で凛祢は踏み出す。

 自分は選ばれたものなんだと理解し、深く受け止める。

 そして朱音の前に立つ。

「――あなたの活躍を我々歩兵道連盟が評価し、第一席葛城凛祢にネビュラ勲章を授与します」

 そう口にすると朱音は凛祢の制服にネビュラ勲章を付けた。

 すぐに拍手が響き渡る。

「第二席、黒咲聖羅」

 その声と共に聖羅も歩いていく。

 そうしてネビュラ勲章はアサルト・ツェーンに授与されていった。

 第三席はヴィダール。第四席はアルベルト。第五席はエレン。第六席はケンスロット。

 第七席はメッザルーナ。第八席は星宮悠希。第九席はレオン。そして第十席は朝倉龍司という結果になった。

「これにて第63回戦車道&歩兵道全国高校生大会、アサルト・ツェーン勲章授与を終わります。これからのあなたたちの活躍を願っています」

 その言葉で勲章授与は終了した。

「なぁなぁ。せっかく新ツェーンが決まったんだからよ。記念撮影と行こうぜ」

「いいですね」

「悪くないな」

 メッザルーナの提案をアサルト・ツェーン全員が了承する。

「おーい、西住。お前も混ざれよ!」

「え?でも……」

 みほは少し戸惑う。

「みほ、来なよ」

「……はい!」

 凛祢が呼び、アサルト・ツェーンの記念撮影をするのだった。

 ようやく自分とみほは見つけたのだ。それぞれの歩兵道と戦車道を。

 その後、戦車道の表彰式が行なわれ大洗連合に優勝旗が授与された。

 こうして、全国大会は終わりを告げる。

 大洗連合の優勝という形で。

 夕日の中で、葛城朱音は西住しほと大洗連合を見つめていた。

「これで、よかったと思う?」

「あの子たちはちゃんと自分の足で歩いて行けるわ。私の子と、あなたと鞠菜さんの子なんだもの」

「そうね。きっとあの子たちなら大丈夫……」

 二人はそう言うと再び拍手をするのだった。

 

 

 

 翌日、凛祢とみほたち大洗連合は学園艦に帰還していた。

 大洗駅前はいつもとかわならない様子だ。

「帰ってきた……」

「戻ってこれたな」

 みほと凛祢が短く口にする。

「隊長、なんか言え!」

「そうですね」

 杏と英治がこちらに視線を向けると大洗連合全員の視線が集まる。

「パンツァーフォー!」

「オーバードライブ!」

「「「おおーー!」」」

 二人の掛け声に合わせてみんなも声を上げるのだった。

 第一部 アニメ編完結。




読んで頂きありがとうございます。
これにて、ガールズ&パンツァー~地を駆ける歩兵達~第一部 アニメ編完結です。
次回からは第二部 スクワッドジャム編(オリジナル編)を執筆していこうかなと思っています。
質問、意見も募集中です。
では、また次回のお話で。


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第32話 第四次スクワッドジャム

どうもUNIMITESです。
今回から第二章 スクワッドジャム編になります。
オリジナルなので少々大変ですが、完成させられるように頑張ります。
では、どうぞ。


第二部 スクワッドジャム編

 

 

 大海原を進む学園艦。今運用されている学園艦は、高か物だけでも数百を超えているそうだ。

 そんな学園艦の中の一つである知波単学園&重桜(じゅうおう)高校の学園艦で青年は、生活していた。

 黒髪に気だそうな顔をする青年の名は織田 信光(おだ のぶみつ)。

 現在の重桜高校の歩兵道では隊長を務めている。

 戦車や銃火器の置かれたガレージ内で座り込み、日本刀に視線を落としている。

「……」

「信光殿。ここに居られたか」

「信光さん。聞いてくれよー知波単の連中がさー」

 ガレージを開けて現れたのは二人の男子生徒だった。

 二人は信光が良く知る友人たちであり、自分と共に戦場を駆ける仲間である。

 整った服装をした長身長の生徒は柴田 勝正(しばた かつまさ)。

 もう一人は少し着崩した服装であり背丈も信光よりも低い生徒は十六夜 蘭丸(いざよい らんまる)。

「勝正、蘭丸。もうすぐスクワッドジャムが開催される。俺は出場しようと思うがお前たちはどうする?」

「信光殿が出場されるのであれば自分も出場させていただきます」

「オイラも信光さんが出るなら行くっすよ」

「そうか。全国大会は一回戦で敗退してしまったからな。スクワッドジャムでは勝利を収めるぞ」

「はい」

「はいっす!」

 信光が声を上げると二人も返事をする。

 すると、信光の元にもう一人の男子生徒が現れる。

「信光殿。ただいま戻りました」

「半蔵か……」

 男子生徒は片膝を付き、信光の横に頭を下げていた。

 制服姿でありながら、マフラーの様な布を首に巻き付けているのが特徴的である。

「半蔵さん!」

 蘭丸も声を上げる。

 男の名は百鬼 半蔵(ひゃっき はんぞう)。彼も信光の戦友である。

「どうやら2席の黒咲聖羅と3席のヴィダールはスクワッドジャムには出場されない様です」

「そうか。まあ、あの二人は元々スクワッドジャムには出てくるような性格ではないからな。まあいいだろ」

 信光は携帯端末で今年の強襲歩兵十傑の第一席であり、聞き覚えのある名前のある名前の葛城凛を調べていた。

 

 

 激闘続きだった全国大会が終わって1週間の時が過ぎた。

 高校歩兵道強襲十傑(アサルト・ツェーン)の中でも最高位である第一席に選ばれた葛城凛祢は、普通の高校生に戻っていた。

 教室内では今日も授業が行われている。

「そういえば、もう少しで鞠菜の命日か……」

 思い出したようにそう口にすると凛祢は静かに空を見つめる。

 翌日、夏休みに入ったことで学園艦とは離れた本土の地に凛祢とみほの姿はあった。

 その場所には、多くの墓石があり、その一つの前に二人が立つ。

 墓石には、周防家の名がと刻まれている。

 何も口にはしなかったが、報告するように歩兵道を再び始めた事、ネビュラ勲章を授与されたことを思い出している。

 みほも隣で線香を立てている。

「凛祢くん……?」

 その声でふと我に返った。

 振り返ると視線の先には見覚えのある者の姿がある。

 背丈は凜祢やみほとそう変わらないが、日本人と思えないその褐色肌。そして、歩兵道連盟のスーツ姿。

「サンティ、さん?」

 凜祢は思わずその名前を呟いた。

 彼女の事は知っている。サンティ・ラナ。ネパール出身であり、数年前から歩兵道連盟の関係者になった人だ。

 まだ軍人だった頃の鞠菜の知り合いである。

 葬式にも顔を出していたのでお互いに顔も知っている。

「久しぶりですね!背も私より大きくなってますね!って、西住みほさんじゃないですか!」

「は、はい。こんばんは、西住みほです」

「サンティさんも、鞠菜に?」

「はい。鞠菜さんにはお世話になっていましたから……」

 サンティはそう言うと、線香を立て目を閉じる。

 凜祢とみほもその様子を静かに見つめていた。

 お参りを終えるとサンティはゆっくりと立ち上がり、振り返った。

「ところで凛祢くん、みほさん。今日はこの後、お暇ですか?」

「一応……」

「なら、一緒にご飯でも行きませんか?」

「いいですけど……」

 凛祢は少し戸惑うが了承する。

「じゃあ、私は先に学園艦に戻りますね」

「みほさんもご一緒して大丈夫ですよ。それにせっかく優勝校の隊長二人にお会いできたので」

 凛祢がそう答えるとサンティは笑みを浮かべ、歩き始める。

 数分ほどして、街に戻り飲食店に入った。

 適当に注文を終えると、サンティは凛祢を見つめて口を開く。

「凛祢くん、みほさん優勝おめでとうございます」

「「どうも」」

 それから他愛のない会話を交わしていた。

「そうだ凛祢くん。これをどうぞ……」

 サンティはテーブルに一枚の封筒を置いた。

「なんですか、これ?」

「スクワッドジャムの招待状です」

「招待状?なんで俺に?」

「主催者からです。十傑の方たちには極力出場してもらっていますから……」

 サンティはそう言うとお茶のコップに口をつける。

 凛祢も招待状に目を通す。

「……少し考えてもいいですか?」

「構いませんよ。あくまで自由参加なので」

「スクワッドジャムってたしか歩兵だけの競技ですよね?」

 隣で聞いていたみほが問い掛けるように凛祢に視線を向ける。

「うん。確か男女関係なく分隊を組んで競い合う競技だ。俺は出場したことはないけど」

「そうなんですか……あの凛祢さん。私たちで出場しませんか?」

 彼女からの言葉で驚きを隠せなかった。

 まさかみほのほうから共に参加しようっと提案してきたからだ。

「俺と、みほで……?」

「はい。駄目ですか?」

「俺は構わないけど……わかった。サンティさん、出場しますよ」

 凛祢は再びサンティに視線を向ける。

「では、明日。連盟にこの書類を持ってきてください。私も待っていますので」

「「わかりました」」

 食事を終えて、サンティと別れた二人は帰路についていた。

「装備は明日平賀さんに頼むとして……みほは銃火器扱ったことあるのか?」

「え?その……少しだけ」

「そっか。まあ時間も少しくらいはあるし少しずつ慣れていけば良いよ」

「はい。頑張ります」

 みほとは予約していたホテルで別れるとそれぞれの部屋に行く。

 部屋に着くとベットに倒れ込み天井を見つめる。

「まさか、みほの方からスクワッドジャムに出場したいと言うなんてな……昔は俺も聖羅や司たちといろんな大会に出場してたっけな」

 そんな昔の記憶を思い出していると瞼が重く感じる。

 いそいそとシャワーを浴び、明日に備えて眠りについた。

 

 

 翌日、みほと共に歩兵道連盟の建物を訪れていた。

 事前に話が通されていたため、すぐに応対室に通される。

「お二人とも、お待ちしていました」

 室内に入室すると彼女の姿があった。

「「おはようございます」」

「こちらにどうぞ」

 席に着くと差し出した書類にサンティが目を通す。

「第四次スクワッドジャムへの出場、承認しました。来週に予選が開催されますが、凛祢くんは十傑のメンバーなので本戦へのシード参加できます」

「へー。十傑にはそんな特典まであったんだな」

 凛祢は思わずそんなことを呟くと書類を受け取る。

 書類にはルールや開催会場についての説明が書かれていた。

 スクワッドジャムは2人以上の分隊を1チームとして扱い、予選は合計50チームが競い合う。

 50チームが一つの戦場で戦うわけではなく、5つの会場にそれぞれ10チームずつ配置される。

 その中でも勝利した上位4チームが本戦に参加することができる。

 つまり予選で勝ち抜いた合計20チームが本戦に参加できるわけだ。

 そこに自分たちの様な十傑入りチームが参戦して、初めて本戦となる。

「本戦会場については追って連絡します。凛祢くん、平賀さんの元にはいつ行かれますか?」

「今日の内に行くつもりです」

「わかりました。ではすぐに連絡しておきますね。ではこれで手続きは終わりになります」

 サンティは書類をまとめて立ち上がる。

「「ありがとうございました」」

 二人も挨拶を交わすと退出する。

「本戦にそのまま参加できるなんてすごいですね」

「俺も知らなかった。ってことは他の十傑も出てくるってことか……」

 本戦に出るのは構わないのだが、正直自分がロクに戦えるのか怪しかった。

 全国大会で左手にかかった負荷で今は無拍子どころか覇王流の技を使うことですらきつい状態だったのだ。

 拳銃を撃ったり、ナイフ戦闘といったCQC戦闘はできない事はないが、全国大会以上の戦闘をできる自信はない。

「凛祢さん、これから訪れる平賀さんってどんな方なんですか?」

「平賀さんは……銃火器の専門整備士兼改造マニアかな」

「改造マニア?」

 みほは思わず首を傾げる。

 電車に乗り込み、凛祢は説明を始める。

「平賀さんは、リトルインファンタリーで戦ってた頃に武器を提供してくれていた人で、要望があれば可能な範囲で改造をしてくれたりもするんんだ」

「すごいですね。その平賀さんって人」

 凛祢は過去にあったことを思い出す。

 工兵が使っているヒートアックスも現在の形に至るまで、多くの改良を重ねており、それをやったのが平賀孫市という人なのだ。

 自分や聖羅も色々な武器の調節に付き合わされてきた。

 みほも苦笑いしていた

 数分ほどで目的の駅に到着する。

 駅を出て、ある建物でサンティから受け取っていた書類を見せるとそのまま地下の奥まで通された。

 進んだ先には眼鏡をかけた女性の姿があった。

「平賀さん、お久しぶりです」

「おー凛祢くん、お久しブリーフ!」

「……」

「えっと大丈夫か、みほ?」

 平賀孫市の挨拶にみほが固まっていた。

 凛祢も少々戸惑ったものの、話は通っているので、手短に話を進める。

「スクワッドジャムの武器の件だよね!話はラナちゃんから聞いてるよー。おっときみが西住さんだね」

「はい、西住みほです。よろしくお願いします」

「あの西住しほさんの娘だけあって可愛い娘だねー。二人で出場なんてラブラブなのかな?」

「え?えっと……!」

「平賀さん!冗談はその辺で。とりあえずすぐに試射できる銃とかあります?」

 孫市の肩を掴み、みほから引き剥がすと凛祢はそのまま奥へと進んで行く。

 奥にあった武器庫には多くの銃火器が壁に立てかけられ、並んでいる。

「そうだねー。凛祢くんこそなにか要望があればできる限り用意するけど?」

「じゃあ、女の子でも扱いやすい銃とすぐに見れる銃をお願いします」

「はいはーい」

 孫市は入り口のノートPCを操作した後、奥から銃を一丁持ってきた。

 L字型のその銃は『イングラムM11』である。

「これなんてどう?M11、使用弾薬は9㎜弾で小型軽量だから女の子でも扱いやすいんじゃないかな。それに今ならサプレッサーとロングマガジンをついちゃうよ」

「うーん。みほはどう思う?」

「え?いや、装備の方は凛祢さんにお任せします……」

 みほは銃の話を聞いても分からなかったのだろう。

 凛祢もそれを察する。

「じゃあ、みほの装備はそれで。追加で煙幕手榴弾を数個用意してもらっていいですか?」

「りょうかーい、それで凛祢くんはどうするの?」

「俺は少し見て決めます」

 そう言ってショーケースを覗き込む。

 多くの銃が並べられたケース内にはP90やMP5といった見覚えのある銃火器もある。

 歩兵道と同様にスクワッドジャムでは使用できる銃火器に制限はないものの、ヒートアックスやC4、ロケットランチャーと言った超火力の武器は使用できない。これは相手が戦車ではなく歩兵だけであるためだ。

 そして、歩兵道にはなかったルールが装備重量制限だ。

 ナイフ以外の装備はすべて重量換算され、既定の重量までしか持てない。

 歩兵道では重量制限などなかったが、スクワッドジャムにはそういった制限もあるわけだ。

「これって……」

 ふと、発見した拳銃の前で足を止める。

 見覚えのあるその拳銃は『コルト・ガバメント』。

 鞠菜が初めて自分に射撃させたときに持ってきた拳銃である。

「平賀さん。これ、試射できますか?」

「いいよいいよー。なんならそれも一緒に試射してみれば?」

 そう言うと平賀さんがショーケースの鍵を開ける。

 ショーケース内にはガバメント以外にキャリコM950が収納されていた。

「このキャリコは最近調節が終わったばかりなんだー。」

 平賀さんはキャリコのグリップを握り、ドラムマガジンを探している。

「俺、拳銃は撃てますけど。それ以外は苦手なんですけど……」

「せっかく武器が自由に使えるんだし、久々に撃ってみなよー」

「は、はぁ」

 言われるまま凛祢は銃弾入りのマガジンをガバメントに差し込む。

 すると隣でM11の射撃練習をしていたみほも声を掛けてくる。

「凛祢さんも決まったんですか?」

「一応、試射してみてかな……」

 先にガバメントの射撃を始める。

 弾金を弾くと.45ACP弾が銃口から排出されて行く。

 ブローニングハイパワーとは異なる衝撃が腕に走っていくのを感じていた。

「すごい……」

 隣で見ていたみほはそんな感想を漏らしていた。

 凛祢の放った銃弾はそのほとんどが的の中央を捉えていたのだ。

「流石だねー。じゃあ、次これ撃ってみてぇー」

「何ですか?これ」

「私が半年前に改良したガバメントだよー。何人かには試射してもらってるから大丈夫だよ」

 渡されたガバメントは確かにさきほど扱っていたものとは異なる点は一目で分かった。

 マズルガードによる近接戦闘での安定性向上、ダブルカラムマガジンによる総弾数の向上。スライドを挟み込むような特徴的なハンドガードが取り付けられているせいか普通の物よりも大きく見えるような形状をしている。

 更にはダットサイトまでついていた。

 引き金も通常とは異なる横にした溝の少ないU字形状をしている。

「よくもまあこんな改造しますね……」

「えへへ、楽しくてさ」

 凛祢は受け取ったガバメントを構える。

 先ほどよりも重量は重くなっている者のダットサイトで遠くでも狙いやすくはなっている。

 引き金を十数回引くと、ようやくスライドがノックバックした。

「思ったより使えますね」

「でしょでしょ!?つーわけで、スクワッドジャムで使ってくれ」

「えー?それはちょっと……」

「大丈夫だって一席なんだから。ほら予備マガジンとキャリコ使っていいから思う存分やってきな」

 平賀さんは逃げるように射撃場を出て行った。

「まあ、これもつかえないことはないし使ってみるか」

 続いてキャリコのマガジンをはめ込むと射撃を始める。

 やはりというか、分かっていた通りの結果が出ていた。

 銃弾のほとんどがぶれで外れている。

 いつもは近接で撃ち合いと格闘戦闘ばかりしていたためかやはり射撃はからっきしであった。

「こりゃあ、練習あるのみだな」

 そんな感想を漏らしながらも射撃練習を続けるのだった。

 

 

 凛祢たちが出場の手続きと武器の登録をした数日後、スクワッドジャムの予選が開始された。

 本戦へのシード参加である自分たちは当然ながら、会場にはいない。

 現在も凛祢は孫市の元で射撃訓練をしていた。

「凛祢くーん。予選始まったみたいだよ。ネットにも本戦のシード参加チームが公開されてるし」

「了解です」

 撃ち終えたカスタムガバメントを置いて、携帯端末を手に取る。

 孫市の言う通り、すでに本戦出場のチームが公開されていた。

 シード参戦チームは全部で3つ。

 まずは自分とみほの分隊「RM」。

 メッザルーナたちの分隊であるチーム「フェリーニ」。

 星宮悠希と朝倉龍二たちの分隊「鉄血」。

 どうやら話によれば聖羅とヴィダールは出場していないようだ。

「まあ、勝つことを目指しているわけじゃないし楽しんでいけば良いかな」

 そう呟くと凛祢は再び射撃場に歩き出した。

 

 

 各地で行われた予選が終わり、全ての本戦出場が決まった。

 本戦が行なわれる本土の地域に凛祢はいた。

 隣にはみほの姿もある。

「よう、葛城」

「メッザルーナか」

 手を振って現れたのはメッザルーナだった。

「スクワッドジャムに出場してくれたな。俺と戦うまでやられんなよ」

「どうかな……楽しんでいけたらいいかな」

「まあ、そうだな。でも、ちゃんと再戦できたらいいな」

「ああ」

 凛祢も深く頷く。

「にしても、西住さんもスクワッドジャムに出るなんてな。凛祢の事頼んだぜ」

「い、いえ。私なんて凛祢さんの足を引っ張らないようにするので精一杯です!」

「がんばれよ、2人とも」

「メッザルーナもな」

 そう言葉を交わすとメッザルーナは歩いて行った。

 その後、案内された部屋で用意された特製制服と装備品を身に着けると目隠しをされた。

 連れて行かれるままトラックに乗り込み、数分ほどして下ろされた。

 しばらくするとアナウンスが響き渡り、目隠しを外す。

 目の前に広がっているのは森林だった。

「凛祢さん。ここどこですか?」

「森林フィールドに連れてこられたみたいだな」

 端末を取り出し、マップを確認する。

「ど、どうします?」

「まあ、10分後にGPSスキャンが行なわれる。それまではあまり動き回らないようにしよう」

「はい。わかりました」

 みほは緊張しているのかそわそわしていた。

 凛祢はキャリコを手にゆっくりと歩みを進めていく。

 すぐに10分が過ぎ、端末が振れたことで取り出す。

「時間だ」

 端末のマップには、それぞれのチームの位置が表示された。

 自分たちのチームの周りには2つのチームがいることが分かった。

「思ったより近いな」

 思わずそんな感想を漏らす。

 スクワッドジャムはランダムな初期位置からスタートし、10分ごとに特製制服のGPSスキャンを行う。

 その際に、マップにはそれぞれのチームの位置がすべて表示される。

「戦うんですか?」

「うん。流石に結構近いから戦闘は免れないだろうな」

 凛祢がそう呟くと……

 発砲音が響き渡っていた。

「り、凛祢さん!」

「そうやら戦闘が始まったようだな」

 凛祢が駆けていくと森林を抜けた先ですでに戦闘が始まっていた。

 森林に身を隠しているチームと反対側のコンクリート製の建物を陣地としているチームが戦闘をしている。

「戦いますか?」

「いや、このまま片方が全滅するのを待つのが賢明だろうな」

 凛祢はそう口にしながら戦闘を見守るのだった。




読んで頂きありがとうございます。
ようやくはじまったスクワッドジャム。
凛祢たちは勝ち抜くことができるのか。
そして、重桜高校の生徒たちは何者なのか?
感想、意見も募集中です。
では、また次のお話で


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第33話 第四次スクワッドジャム2

どうもUNIMITESです。
前回の投稿からかなり時間が空いてしまいました。
申し訳ありません。
では本編をどうぞ。


 とうとう開始された第四回スクワッドジャム本戦。

 凛祢とみほの分隊であるチーム「RM」は森林と集落の間で繰り広げられている戦闘をその目で見ていた。

「随分、撃ちまくってるな」

「開始早々にあんなに撃って弾がなくなったりしないんでしょうか?」

 凛祢は単眼鏡でコンクリート製の建物からマシンガン系の武器を撃ちまくっている歩兵を見つめる。

 みほは茂みに身を隠しながら森林側の歩兵の様子を窺う。

「まあ敵チームの残弾を気にするつもりはないが、銃弾は血税で賄われているんだからもっと考えて撃つべきだとは思うかな」

 思わずそんな言葉が口から出た。

 これは昔、鞠菜から聞いた話だ。

 歩兵道の銃弾はライフルの銃弾だろうと拳銃の9㎜パラベラム弾であってもすべてが国民の血税で賄われているのだ。

 まあ、戦車道の砲弾などもそれは同じである。

 それでも鞠菜はいつも銃弾は一発一発大切に撃てと言っていた。

「さて、どうしたものか」

 森林に身を隠しているチームも適度に応戦しているもののはやり集落のチームは人数いっぱいの6名だからか、なかなか動けずにいた。

「あの、どちらかのチームと同盟結んだりはしないんですか?」

「そのほうが勝ち残れる可能性はあるだろうが、信頼できるチームでなければまず無理だな。メッザルーナたちのチームと合流できればいいんだがな」

 そう口にして先ほどのGPSスキャンを思い出す。

 チームの場所は一時的に表示されていたが、それでもメッザルーナのいるチーム「フェリーニ」の位置はずっと遠い位置に表示されていた。

「みほ。まずはあの2チームの勝敗を見た後に出て行こう」

「はい。わかりました」

 みほは特製制服や銃が慣れていないのかそわそわしている。

 凛祢もそんな姿を横目に単眼鏡を覗いていると――

 撃ち合っていた2チームは予想外の動きを見せた。

 集落でマシンガンを乱射していたチームのほうに何か小さな物体が放物線を描いて飛んでいく。

 それは凛祢たちの位置からは把握できなかったものの、なんなのかすぐに理解する。

 数秒もしないうちに集落で爆発が起きた。

「手榴弾でしょうか!?」

 みほが問い掛ける。

 堪らず集落の建物から姿を現した歩兵たちを誰かが狙撃したのか3人が倒れていく。

 ライフル弾が飛んできた方向を確認すると森林で戦っていたチームでないことがわかった。

 続けて現れた2人の歩兵が集落に入っていき残りの3人を屠った姿を確認した。

 突撃兵なのかその動きは、隊列が取れた動きをしている。

 そして、狙撃兵と突撃兵、しっかりと仕事を分けているあたり歩兵道のセオリーをよく知っているチームだと感じた。

 集落にいたチームの全滅を確認して、今度は森林にいたチームへとターゲットを変えたのか身を隠しながら森林に向けて煙幕手榴弾を投擲する。

 一瞬にして白い煙が周囲を包み込む。

「よし、みほ。このまま集落を突っ切る」

「でも、狙われちゃうんじゃ?」

「今は煙幕であっちはこちらには気づけない。今のチャンスを逃す手てはない」

「はい!」

 みほの手を引いて凛祢は駆け出す。

 森林と集落の中央に位置する道路を突っ切り、集落へと侵入する。

 コンクリート製の建物が並ぶ集落内を速度を緩めることなく駆け抜ける。

「はぁはぁ……凛祢、さん。少しゆっくり」

「悪い……」

 凛祢もみほの様子を確認してようやく速度を落とした。

 ふと、見つけた一軒家に入る。

「はぁはぁ」

「大丈夫か?」

「はい。すみません」

「いや、俺こそ無理させてゴメン」

 床にみほを座らせ、凛祢もしゃがみ込む。

 つい、みほの事を考えずいつもの様に本気で走ってしまったことを後悔する。

「みほは少し休んでいてくれ」

「私は、大丈夫です……」

 立ち上がろうとした時、みほに腕を掴まれる。

 みほの顔を見て、少しドキッとする。

 そう思ってしまうほど、みほは可愛かったのだ。

「……少し外を見てくるだけだから。それにみほを置いて行ったりしないよ」

「……はい」

 再び立ち上がると窓の近くの壁に背中をつけ、外に視線を向ける。

 この辺ではまだ戦闘が始まってないのか、銃声も遠くから響く小さな音だけが聞こえてた。

 すると、端末が揺れる。

「……!」

 どうやらさっきのスキャンから10分が経ち、次のGPSスキャンが始まったようだ。

 再びみほのもとに戻り、2人で端末の画面を覗く。

「え?」

 みほは少し驚いたように画面を見つめている。

 そんな様子をみて凛祢は少し疑問を感じていた。

 どうして驚いたのかがわからなかったからだ。

「どうした?」

「だって、凛祢さんさっきのスキャンからすでに5チームもリタイアしているんですよ?」

 みほは問い掛けるように声を上げる。

 確かに、彼女の言う通りさっきスキャンから5チームが減っていた。

「そんなものだよ……歩兵たちだけで戦う場合、約2時間もあればすべての戦いにかたが着く」

 中学の頃やリトルインファンタリーで戦っていたころは、長期戦になる方が珍しい。

 それは幼いころから歩兵道をしていた自分が良く知っている。

「そうなんですか……」

 みほがそう口にすると凛祢は再び端末に視線を落とす。

 自分たちのチームの周囲に3チームのGPS反応を確認する。

 GPSの動きを見た限り、自分たちを囲い込むように3つのチームの反応があった。

 他のチームがたまたまこの形でGPSスキャンされたのかわからない。

 しかし、この状況をみれば確実に1チームはこの場所に向かってくるだろう。

「この距離からすると、そろそろ戦闘しなくちゃならないかもな」

「そうですか。私も頑張ります」

「うん。でも、無理はしないでくれよ。みほは女の子なんだから」

「凛祢さん……ありがとうございます」

 お互いに顔を見合わせると再び窓に近づいて外を覗く。

 すぐに相手チームの姿を確認する。

「もうきたのか……」

 キャリコを握る右手に力を込める。

 その時、発砲音と共に大量の銃弾が民家へと放たれた。

「くっ!」

 凛祢はみほの態勢を低くさせ、なんとか被弾を避けている状態だった。

 一時的に射撃が止み、凛祢は再び外に視線を向ける。

 敵の数は4人。

「射撃はあんまり得意じゃないが……」

「……」

 二人とも態勢を立て直すと銃弾の雨によって砕かれた窓から射撃を開始する。

 キャリコとM11から放たれた銃弾は、次々に敵歩兵に命中し2人戦死させる。

「よしっ」

 続けて引き抜いた改造ガバメントの引き金を2回引くともう一人からも戦死判定のアラームが響く。

 その状況に危機感を感じたのか、敵歩兵は逃げるように振り返って離れていく。

「逃がすわけにはいかないな」

「り、凛祢さん!?」

 凛祢は窓を乗り越えて敵歩兵を追いかける。

 みほも驚いていたものの少し遅れて外に出た。

 少しずつ接近していくと敵歩兵も銃を構え、発砲する。

 その攻撃を凛祢は右に飛んで回避した。

 短くキャリコを発砲すると敵歩兵から戦死判定が響き渡り、全滅を確認する。

「ふう……」

 再び、周囲を警戒する。

「はぁ、はぁ。やっと追いつきました……」

「みほ。ここはあまりにも開けた場所だからすぐ移動しよう」

「はい……」

 みほを連れて移動を開始する。

 数分ほど歩いて響き渡る銃撃音に再び凛祢は表情を鋭くする。

「ここでも戦闘が始まっているのか」

 凛祢は態勢を低くして視線を向ける。

 すると、そこには見覚えのある者の姿があった。

「悠希、前に出過ぎないで!」

「仕方ないじゃん……だって当たんないんだから!」

 強襲十傑の第十席、朝倉龍司と第八席、星宮悠希がそこにはいた。

 悠希は持ち前の反射神経で敵の攻撃を回避し、距離を詰めた上で敵歩兵に銃弾を打ち込んでいく。

 一方、龍司は中距離を維持したまま正確な早撃ちを決めて敵を屠っていた。

「流石だな、あの2人」

「はい。そういえば凛祢さんと悠希さんってどことなく戦闘スタイルが似ていますよね」

「俺とあいつが?」

 みほの言葉に凛祢は思わず聞き返してしまう。

「はい。近接戦闘が得意で射撃が苦手な部分や、あんな風に敵歩兵に向かって行く姿はよく似ているなって」

「ふーん」

 凛祢は再び悠希を見つめるが、すぐに立ち上がる。

 そして、みほを連れて2人の元へと向かう。

「……止まれ!」

「撃つなよ……龍司」

「凛祢?どうしてここに?」

「西住もいるじゃん」

 二人もこちらの姿を確認すると銃口を下げる。

「凛祢たち、被弾はしてる?」

「俺が数発で。みほは無傷だ」

「そうか、僕たちもそんな感じかな」

「俺はあんまり残弾ないよ」

 お互いに状況を確認すると凛祢は2人を発見したときから思いついていた提案をする。

「なあ、よかったら手を組まないか?龍司たちが2人なら俺たちと合わせて4人で戦うのも条件として悪くないだろ?」

「僕は構わないけど……悠希はどう?」

 龍司が問い掛けると悠希はこちらを見つめる。

 数秒ほどしてようやく口を開いた。

「いいんじゃない?ただし、最後まで残ったら俺とこいつで戦ってもいい?」

 悠希はこちらを指さしてそう言った。

「構わないよ。それくらい」

「うん。そうだね」

 凛祢と龍司はうなずくと4人は行動を開始する。

「それで、どうする凛祢?」

「あと1分でGPSスキャンがスキャンが開始される。それで残存チームも分かるだろうし、それ次第かな」

 凛祢は端末をチェックして、周囲を警戒する。

 すぐに時間が過ぎ、GPSスキャンが開始された。

 チーム数は2度目のスキャンの時点で18チームであったが、現在はさらにチーム数が減少して10チームになっていた。

「思った以上にチームの脱落スピードが早いな」

「確かに。僕たちもこれまで3チームほど倒してきたけど。それでも30分でこの減りは少し早いね」

「もう半分ってところか……これはあと30分くらいで終わるんじゃない?」

「悠希の言う通りかもな。メッザルーナたちもまだ生存していればいいんだけど」

 凛祢だけでなく、龍司たちも少し驚いていた。

 

 

 一方、別地点。

 織田信光たちの分隊であるチーム「千本桜」は敵歩兵を屠っていた。

「こんなものか」

 信光はククリナイフとベレッタを腰のホルスターに収納する。その隣にいた男はMP5の弾倉を交換する。

 すると通信機から声が響き渡る。

「信光さん、今回の援護はどうでした?」

「よき狙撃だった。お前の腕を当てにしているからな」

「嬉しいこと言ってくれますね!」

 蘭丸はワルサーWA2000を手に、狙撃地点からの移動を開始する。

「こっちも敵は全滅させました」

 他の敵歩兵を屠ってきた半蔵と勝正も合流する。

「……お前もなんとか言ったらどうなんだ、光貞(みつさだ)」

「私は信光殿の影にすぎない」

「影とか言ってるけど、あんたのご先祖様は信光さんのご先祖様を……」

 蘭丸は皮肉を言おうとするが、

「やめろ、蘭丸。光貞は光貞だ、それに俺の先祖が謀反をされたのは、それほど周囲の怒りを買っていたからに過ぎない」

「す、すみません……」

「蘭丸殿がああいうのも分からなくはないですがね。ところで信光殿この後はどうされますか?」

 半蔵が話を変えるように今後の方針を求める。

「次も敵を討つ。目標は優勝のみだ」

「「はい」」

 勝正と蘭丸が声を上げる。

「……」

 そんな中でも明智光貞(あけちみつさだ)は無言で周囲を警戒していた。

 

 

 そして、スクワッドジャム運営のいる本部にはサンティ・ラナの姿があった。

「開始30分ですでに13チームが脱落ですか……凛祢くんたちも頑張っているみたいですね」

「サンティちゃーん!」

 そんなテンションの高い声を響かせて肩を組んできたのは平賀孫市である。

「平賀さん?」

「やー相変わらずかわいいねー。あたしが男なら絶対サンティちゃんのことはほっとかないよー」

「からかうのはやめてください」

「怒った顔も可愛いよー」

 平賀は更にからかうように笑みを浮べてそう言った。

 サンティは呆れたようにため息をつく。

 すると画面が信光たち千本桜を映し出す

「お、信光くんじゃん。相変わらずククリナイフ使ってるんだよねー、彼」

「無理に使うこと無いんですけどね……彼はナイフより長刀の戦闘を得意としている人ですから」

 サンティは少し苦笑いをしていた。

「信光くんはそれだけサンティちゃんをリスペクトしてることじゃん。ククリナイフって普通のコンバットナイフよりも扱いが難しいからあんまり使う人いないって聞くよ」

 孫市もよく知っているため頷きながら、画面を見つめる。

 ククリナイフ。くの字型のナイフであり、グルカ兵が良く使用していたナイフである。

 戦闘にも使用はされるが、狩りや伐採などのサバイバル系に特化したナイフなのだ。

「それにサンティちゃんは重桜では教官やってたんだから彼がサンティちゃんのCQC技術に寄った戦闘スタイルを身に着けるのは必然じゃないかな。凛祢くんがそうだったようにね」

「そうですね。凛祢君も鞠菜さんのスタイルを色濃く受け継いでいますから」

「これは鞠菜さんの教え子VSサンティちゃんの教え子ってことになるねぇ!燃えるねぇ!」

 孫市は再び熱くなるように声を上げる。

「別にそこまで熱くなることないですよ。それに私、鞠菜さんとの模擬戦の戦績は3勝7敗。圧倒的に負けてます」

「もう、謙遜しちゃってー」

 2人はそう言って、笑いあうと再び画面に視線を向けた。

 

 凛祢たち4人が移動を開始して十数分が過ぎた頃、また敵チームを一つ全滅させていた。

「ふう。流石だね。凛祢。昔と変わってない。むしろ技術的には上がったんじゃないの?」

「そんなことないよ。龍司こそ、いつの間にそんな早撃ちを身に着けたんだ?」

「まあ、ある人に少し手ほどきを受けてね。君もよく知る人だよ」

 龍司はそう言うと思い出す。

 かつて黒森峰に入学したての頃、自分だけのスタイルを探していた時に出会ったのが、ファークトのアルベルトであった。

 彼曰く、サブマシンガンでの正確な射撃を得意としていた龍二には早撃ちを身に着けることで、CQCを得意とする突撃兵にも負けないほどの力となるそうだ。

 だからこそ、早撃ちを身に着けたことで、龍二はサブマシンガンを10発早撃ちで正確に急所を撃ち抜く技「十弩」を得たのだ。

「そうだったのか……っ!」

「!」

 凛祢がそう言った時、「超人直感」が危険を察知した。

 同時に悠希と凛祢が動く。

 凛祢がみほの手を引き、悠希が龍司の胸倉を掴み左右に飛んだ。

 瞬時に銃弾が空を滑っていた。

「「狙撃!?」」

 龍司とみほが同時に声を上げる。

「敵は……」

 凛祢がそう言いかけた時だった。

 目の前に振り下ろされる刃をコンバットナイフでガードする。

「流石、超人にして強襲十傑第一席の称号は伊達ではないか……」

「……っ!」

 凛祢は再び超人直感で攻撃を見切る。

「ククリナイフ使い……か」

 凛祢も少し驚きながらそう口にした。

 ククリナイフなんて武器を使っている者は、凛祢の知る中でも1人しかいない。

 そう、サンティ・ラナである。

 そして織田信光のククリナイフの扱いはそれと同じ。

 元々傭兵であるサンティのナイフ捌きは、昔戦った鞠菜も苦戦したと聞いたことがある。

「凛祢!彼は重桜の織田信光だ!気をつけ――」

 龍司がそう言いかけると再び悠希が胸倉を掴み取り、攻撃を回避する。

「龍司、お前は援護を。俺はこいつとやる」

「悠希、もっと優しくして回避させてくれよ。まあ、援護するけど」

 悠希の数メートル先にも、光貞の姿があった。

「まさか十傑メンバーが3人もいるとはな。相手にとって不足はない」

「百鬼半蔵、参る!」

 次々に姿を現すチーム「千本桜」のメンバーたち。

「4人?いや、さっきの狙撃を考えれば、5人は確定か……」

「凛祢さん、どうしますか?」

「みほも下がって援護を。いくぞ悠希!」

 凛祢は指示を出し、引き抜いたガバメントの銃口を信光に向ける。

「……」

 悠希も無言であったが、凛祢の動き合わせて光貞、勝正との戦闘を開始するのだった。




今回も読んで頂きありがとうございます。
スクワッドジャム編も後半戦です。
凛祢と悠希が手を組み、信光たちとの対決がとうとう始まりました。
決着はどのようについてしまうのか?

次回はもう少し早く更新できるようにします。
質問や意見も募集中です。



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第34話 第四次スクワッドジャム3

どうもUNIMITESです。
投稿まで少し時間がかかってしまいました。
申し訳ありません。

今回でスクワッドジャム編も最終話となります。
では本編をどうぞ。


 スクワッドジャムも後半戦に差し掛かり、凛祢と悠希たちの協力チームは、チーム千本桜と対峙していた。

 地を撫でるように振り上げられたコンバットナイフを信光がククリナイフでガードする。

 今度は織田信光がMP5を向けるが凛祢も右手でブロックして、ガードした。

「流石は第一席、戦い慣れているではないか!」

「……!」

 再び直感で後退する。

 瞬時に凛祢の目の前を一発の狙撃弾が滑っていく。

「あれも避けんのかよ!?」

 狙撃した蘭丸が思わず声を上げた。

「どうするんだよ、凛祢」

「どうするって言われても……」

 再び背中を預けるように凛祢と悠希が立つ。

「このまま接近戦で戦っても先にこっちの体力が尽きるよ」

「そういう悠希は策とかないのか?」

「俺、考えるの苦手だから。そういうのは龍司の仕事だよ」

 悠希はそう言うと再び光貞のほうへと駆けていく。

「考えるのは苦手って……威張られてもな!」

 凛祢も再びコンバットナイフで攻撃を受け流すと、反撃するように信光の右足を覇王流、紫電脚で蹴り伏せる。

 態勢を崩すも、信光は瞬時に右に身体を動かし、銃撃を回避した。

「ちっ!」

 再びキャリコの銃口を向けようとするが、

「なっ!?」

「そうはさせない!」

 それを遮る様に、半蔵がベレッタの引き金を引いた。

 放たれた銃弾を紙一重で回避するが、続けて信光の放った銃弾で左手のキャリコが弾き飛ばされた。

「くっ!」

 瞬時に周囲に目を向けるが、すでに信光と半蔵の銃口はこちらに向けられている。

 直感でわかった。今、撃たれれば完全回避するのが不可能であると。

「凛祢さん!」

「凛祢!」

 みほと龍治が声を上げる。

 同時に響き渡る銃声。

 数秒後、戦死判定のアラームが鳴っていたのは織田信光だった。

「ぐあ……」

「はぁはぁ……」

 地面に腰から落下した凛祢のガバメントからは硝煙が出ている。

「信光殿!」

「信光さん!」

 勝正と蘭丸が驚き、声を上げた。

 状況からみれば、確実に凛祢を仕留めることができた。

 だが、生き残っているのは信光ではなく凛祢であった。

「いっつー……」

 お互いに射撃する直前、後方に跳躍し体を水平に倒すことで被弾面積をできる限り減らしたことで、被弾こそしたものの、

 なんとか戦死だけは免れた。

「よくも!」

「勝正さん駄目ですよ!」

 信光を討たれたことで勝正がターゲットを凛祢に向ける。

「まじか……」

 被弾と落下していたことで瞬時に対応できない凛祢は険しい表情を見せた。

 しかし、そんな勝正に数発の銃弾が打つ込まれ戦死判定のアラームが響き渡る。

 その正確な射撃が龍治によるものだとすぐに分かった。

「まずいな……状況が悪化してきた」

「数的有利がなくなったな」

 ククリナイフとコンバットナイフがぶつかり合い、光貞と悠希がお互いに呟いた。

「光貞殿、どうする――」

 不意に飛んできた銃弾によって半蔵から戦死判定のアラームが響いた。

「え、まじ?ちょ――」

 続けて通信機越しに蘭丸からも同じ音が鳴り響いていた。

「一体何が?」

「よそ見してる場合?」

「いっ!がっ!」

 仲間の死に気を取られた光貞の頭部を弾切れの銃器で叩きつけた悠希がようやく討ち取った。

「なんとか凌いだな」

「でも、さっきの狙撃って一体……」

「何だったんでしょう?」

「……」

 凛祢も先ほど銃弾の放たれた方に視線を向けた。

 無論、視線の先にあるのは平原とその先の森林くらいだった。

 

 

「いやー流石、司先輩。狙撃の正確さならヴィダール先輩やエレンさんにも負けてないですね」

「アンク。君の方はしっかり狙撃兵を仕留めたのかい?」

「当たり前です。もう大洗の時みたいな慢心しないですから!」

 冬樹高校の司とアンクの姿がそこにはあった。

「次は葛城先輩と朝倉先輩に挑むんですよね?」

「ああ、でも挑むのは数分後のGPSスキャンの後だよ。残りの敵チームを確認してから挑みたいからね。アンクもこっちに戻ってきて」

「了解です!」

 通信を終えると司は再びワルサーWA2000のスコープを覗く。

 

 

 信光との戦闘を終えた凛祢たちも周囲を警戒しながら端末に視線を落としていた。

 4人共、GPSスキャンが行なわれるのを今か今かと待ち続けている。

「僕たち以外に、どれくらいのチームが残っていると思う?」

「今回はかなり全滅ペース速いからあと5、6チームってところだとは思うけど」

「きたぞ……」

 凛祢の言葉で悠希と龍治が再び端末の画面に視線を落とす。

 GPSスキャンで画面には生存しているチームの現在位置が表示されていく。

「これって!」

 画面を見つめていたみほが驚く

「……」

 今回のスキャンに表示されたチームは全部で4つ、凛祢たちと悠希たち、そして森林方向に2チームの表示があった。

「じゃあ行こうか」

「そうだな、敵の場所はわかったわけだし」

 悠希と凛祢はそれぞれ残った武装である拳銃に銃弾がフル装填されたマガジンを差し込む。

「でも、凛祢さん。次被弾したらアウトなんじゃ?」

「だからって隠れててもどうにもならないからな」

 凛祢はそう答えると

「まあ僕たちはいつでもこうだったよね」

 龍治もMP5を手に一歩踏み出す。

「さあ、行こう!」

 その言葉を合図に、4人は駆けだす。

「来たみたいだね。頼んだよアンク」

「了解です」

 アンクも駆けだす。

 森林を抜けて、その姿を現す。

「アンク……ってことはあの狙撃は司か」

 凛祢が呟くとアンクが銃を発砲する。

 ジグザクに進んでいた凛祢たちもなんとか銃弾を回避した。

「アンクの相手は俺がやる。悠希たちは司を」

「「了解」」

 その指示で3人は更に先へと進む。

 アンクが銃口を龍治に向けようとするが、凛祢の放った銃弾がAK-47を撃ち抜いた。

「ぐぅぅ……まずい!」

 AK-47は撃たれたことで銃口が歪み、発砲不可能に陥ってしまう。

「近づかれたら対抗手段ないですって!」

「……」

 凛祢は距離を詰めて、コンバットナイフによる近接戦闘に持ち込む。

「遅い!」

 アンクの攻撃を受け流し、太ももに銃弾を撃ち込む。

 更に、追い打ちをかけるように腹部を蹴り飛ばす。

「うう……」

 そんなうめき声の後、アンクからアラームが響く。

「よし、みんなの元に――」

 そう振り返った時だった。

 直感的に危機を察知する。

 飛んできたライフル弾が滑り込むように凛祢の肩を掠める。

「今のは!?」

 凛祢が周囲を警戒しようとしたその時後方から放たれる銃弾の雨。

「先輩!」

「ぐぁあ……」

 瞬時に凛祢がひざを折ると、アラームが響き渡りる。

「バトルエンド!現時刻を持って、第4次スクワッドジャムは終了!」

 すぐにアナウンスが響き渡る。

「優勝チームはー……チームGフォース!」

 続けて告げられる名前に凛祢たちもようやくスクワッドジャムが終了したことを理解する。

「大丈夫ですか?先輩」

「うん。丈夫なのが取り柄だからな」

 凛祢たちも少し休み、立ち上がる。

 少し、歩きみほや悠希たちの向かって行った元へと辿り着く。

「凛祢さん!」

「君もやられたみたいだね」

 龍治はやれやれとこちら見て言った。

「ってことはこっちもGフォースってチームにやられたってことか」

 凛祢も司や悠希の状態を見て、自分と同様に攻撃を受けたことを理解する。

「Gフォース……正確にはゴールドフォースって名前らしいよ」

「ゴールドフォース……」

 凛祢も聞き覚えのない名前に少し戸惑っていると、GPSスキャンで使用していた端末が震える。

「ん?」

 端末には、優勝チームGフォースの下に2位RM、3位鉄血と書かれていた。

 それは自分たちが2位であり、悠希たちが3位であることを示している。

 といってもこれは戦死のタイミングでこうなっただけであろう。

 さきほど自分の戦死判定と共にバトルエンドの宣告が出た。

 つまり悠希たちが後に戦死していたらこれは逆になっていたことになる。

「悔しいけど、今回はこの結果を受け入れることにするよ」

「悠希、次はちゃんと真剣勝負する機会があるといいな」

「ああ……」

 凛祢がそう言うと悠希は静かに返答し本部から手配されたヘリに乗り込む。

「凛祢さん、大丈夫ですか?」

「みほ、ありがとう。俺、スクワッドジャムに出場してよかった」

「はい!それはよかったです!」

 みほも笑みを浮かべていた。

 こうして第4次スクワッドジャムは終了していった。

 

 

 

 数時間後、スクワッドジャム運営本部ではサンティと孫市が他のメンバーと共にスクワッドジャム終了の書類整理をしていた。

「惜しかったなー。凛祢くんたちいい線行ってたのにー」

「仕方ないですよ。スクワッドジャムは多くのチームが入り乱れる乱戦。連続しての戦闘が予想されるあの状況じゃたとえ1席の凛祢君でも優勝するのは難しかったはずです。それに9、10席の悠希くんと龍治くんもいい線行っていました」

 孫市は凛祢たちの優勝を疑っていなかったようだが、サンティはそうは思っていなかった。

 鞠菜と同様に、戦場にいた経験のある彼女は、よく知っている。

 たとえ優秀な歩兵でも1人では限界がある。

 一騎当千だなんてのは化け物じみた超人でなければ不可能であろう。

「凛祢君は確かに強いですが、十数人を相手にするのが限界だと思います。それでも、まだまだ伸びしろはありますが」

「まあ、あの子ならもっと強くなるだろうね」

 孫市も同感であるようにそう言った。

 30分ほど経って、2人が本部を退出すると、孫市が1人の女性を発見する。

「サンティちゃん、あれって照月さんじゃない?」

「本当ですね。照月さんー!」

 サンティも照月敦子の姿を発見し、声を上げる。

「ラナ、平賀。そうか、今日はスクワッドジャムの日だったな」

「どうしてこんな時間に?」

「……お前たちなら大丈夫だろうな。車で話するからとりあえず乗れ」

 敦子は少し考えこんだ後、自分の車に乗る様に促した。

「「……?」」

 サンティと孫市はお互いに顔を見合わせた後、車に乗り込む。

 すぐに車が走行し始める。

「あの……照月さん。一体どこに向かっているんですか?」

「歩兵道連盟だ」

「スクワッドジャムが終わってすぐだってのに、なんで?」

「……これ見てみろ」

 照月は、助手席に置いていた一枚のクリアファイルをサンティの前に手渡す。

「……え!?」

「おいおい、これってマジですか?」

 サンティと孫市は思わず声を上げる。

「私も正直信じられなかった。でも、データ上その表示が出ていたら葛城さんに問い詰めないわけにはいかないだろ!」

「このデータを知っているのは?」

「全国大会から時間が経っているからな。多分、戦車道歩兵道連盟には広まっているかもしれないな」

 照月は表情を歪ませ、アクセルを踏み込む。

「凛祢君には知らせない方がいいですよね」

「当たり前だ。場合によってはあいつは、大洗に居られなくなるかもしれないからな」

 サンティは速度を上げる車内で書類に視線を落としていた。

 その書類には葛城凛祢の血液検査の結果が刻まれている。

 そして、そこには彼のDNA情報も……。

 

 




今回も読んで頂きありがとうございます。
これにてスクワッドジャム編は完結となります。

次回からは、劇場版編対大学選抜を描いていきたいと考えています。
ラストで語られた凛祢の血統とは?
次はもう少し早く投稿できるようにします。
質問、意見も募集中です。
では次回もよろしくお願いします。


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第35話 エキシビションマッチ

どうもUNIMITESです。
少し投稿まで時間がかかってしまい申し訳ありません。
今回から第三部 劇場版編へと移ります。
といっても、この劇場版編が葛城凛祢の物語としては最終章に当たります。
では本編をどうぞ。


 第四次スクワッドジャムが終了してから1週間の時が過ぎ、夏休みも残り数日で終了となる。

 本日、大洗連合は知波単&重桜連合とチームを組み、聖グロリア―ナ&聖ブリタニア連合とプラウダ&ファークト連合チームとエキシビジョンマッチを行っていた。

「エキシビションってかっこいいね!」

「かっこいい……それは戦車道と歩兵道に必要な事かな?」

 試合を眺めていたアキにミカが問い掛けるように言葉を投げる。

「えー?じゃあ、ミカはなんで戦車道やってんの?」

「戦車道と歩兵道には人生に大切な全ての事が詰まっているんだよ……でも、ほとんどの人がそれに気づかないんだ」

「わけわかんないし……それにしても司くんたちも来ればよかったのにね」

「仕方ないんじゃない?ヴィダールさんは大学受験準備で忙しいみたいだし、司くんはアンクの夏休みの宿題に付き合ってるから」

 アキが空を見上げて呟くと、運転席に座って本を読んでいたミッコが返答する。

 

 

 一方、フィールド内でも遮蔽物の少ないゴルフ場に聖グロのチャーチル歩兵戦車1輌とマチルダⅡ3輌を追い込んでいた。

「茶柱が立ったわ……イギリスのこんな言い伝えを知ってる?茶柱が立つと素敵な訪問者が現れる」

「お言葉ですが、もう現れています。素敵かどうかはさておき……」

 いつものように格言を口にするダージリンの隣でオレンジペコがツッコミを入れる。

 戦車外では大洗と知波単の砲撃音が響き渡り、砲弾が地面を抉っていた。

 チャーチルとマチルダの間で身を隠している聖ブリの歩兵隊。

「いやー親善試合だからってちょっと遊び過ぎたなケン!?」

「ガノスタンはいつも遊んでいるだろう?まったく……」

 ガノスタンもいつもと同様に笑いこけている。

 アサルトツェーン第五席、ケンスロットも迎撃するように引き金を引いた。

「んで、どうやってここを突破するんだ?」

「生憎、突撃兵と狙撃兵しかいないからダージリンたち次第だな」

「うー。やっぱそうなるのかよー」

 モルドレットも思わずそんな言葉を漏らした。

 

 

 追い詰めていた大洗と知波単の戦車はじりじりと距離を詰めつつ砲撃を続けていた。

 その後方には歩兵隊である大洗男子、重桜高校の姿もある。

「ふーん。織田さんたち結構戦えるのに、全国大会では対戦カードの引きが良くなかったんだな」

「知波単がもう少し突撃を自重してくれればいいのだが……」

 全国大会での試合内容を聞いた八尋が頷く隣で信光がため息を漏らした。

「そういう織田さんだって、結構大胆に攻めて来てたじゃないですか。スクワッドジャムだってほぼノーガードで戦闘していたし」

「俺たちは攻めきれると確証を持っていたからだ。知波単のような伝統だけの考えなしじゃないんだ」

 アサルトツェーン第一席、葛城凛祢が思い出したように視線を向けると、織田信光は眉一つ動かすことなくそう言った。

 確かに、彼の言う通りスクワッドジャムで攻められたときは自分たちの分が悪かった。

 そこに司とアンクという予想外の要因が現れたわけなのだが。

「そうは言ってもな……」

「凛祢さんそろそろチャーチルたちに接近して攻撃を仕掛けます」

「重桜の皆さんも、いつまでもおしゃべりしていないで攻めますよ」

 通信機から響くみほと西の声で凛祢と信光がそれぞれ武器を引き抜く。

 凛祢はいつもの装備であるブ2丁の自動拳銃ブローニング・ハイパワーを、信光は89式小銃を握る。

「攻めると言われても、あんな戦車がドンパチやっている中に特攻したら流れ弾で一発リタイアしちまうぞ」

「行くのは俺と織田さんだから。翼と俊也は援護よろしく、塁と八尋は状況確認を頼むよ」

「「まかせろ」」」「了解です」「おう」

 凛祢の指示でヤブイヌ分隊の4人が返事をする。

「蘭丸も、援護頼むぞ」

「了解です!期待してくださいよー!こう見えても重桜一の狙撃手なんですからー」

 信光の言葉で蘭丸もやる気満々と言わんばかりに銃を手に取る。

「パンツァーフォー!」

「戦車前進!」

 そして、大洗と知波単の戦車が前進を開始した。

 その合図で凛祢と信光も駆けだす。

 数分も経たない内に距離は詰まり、砲撃が命中すれば確実な撃破を狙える距離で戦車が停車する。

 そのタイミングで大洗連合の戦車であるアヒル(八九式)、うさぎ(M3)、アリクイ(三式中戦車)、カバ(Ⅲ突)、カメ(ヘッツァー)から砲撃準備完了の通信が入った。

「こちら凛祢と織田。俺たちも指定位置についた」

「……」

 凛祢と信光は匍匐前進で発見されないよう、攻撃位置に着く。

「大洗知波単連合の攻撃部隊、攻撃準備が整いました。守備隊の状況を教えてください」

 続けて通信手である沙織の声が響く。

「じわじわ来てるよー」

「……あと5分ってところかな」

「あと5分だってー、まあどっちにしても長くは持たないからねー」

 レオポンチームの車長、ナカジマが返答する。

「そもそもプラウダと聖グロの戦車を相手に防衛しろってほうが無茶だと思うんだけどねー私」

「風香、そういうこと言わないの。華蓮、今は防衛メインだからあまり砲撃に集中しなくて大丈夫だからね」

「うん。適度に休んでるから大丈夫」

 オオカミチームの風香が車内で悪態をつくが、車長の英子が注意する。

 通信を聞いてみほが再び叫ぶ。

「砲撃開始!」

 その合図で戦車砲が一斉に火を噴く。

 響き渡る轟音で草原にいた凛祢たちにまで振動が伝わる。

 砲撃が始まってすぐにあんこうちーむのⅣ号と知波単の九七式中戦車がマチルダⅡをそれぞれ撃破。

 凛祢もブローニングハイパワーで狙いを点け、発砲。SaSジープの転輪を撃ち抜く。

 拳銃しか遠距離武器を持たない凛祢は移動用の車両の転輪をパンクさせることで機動力を奪って行くのだ。

 続けて信光が敵歩兵を狙撃し、戦死させる。

「近接戦闘もなかなかですけど狙撃もできるんですね」

「当たり前だ。そうでなきゃ突撃兵にはなってない。それに、部下に信頼されるにはそれなりに力が必要だからな」

「確かに、そうですね」

 信光の言った通り、歩兵道において仲間たちから信頼されるのに必要なものとして「戦う力」はあると思う。

 黒森峰の黒咲聖羅やファークトのアルベルトもまた高い戦闘能力を有していた。

 といってもそれだけか言われれば、答えはNOだが。

 十六夜蘭丸や柴田勝正たちの様子を見れば、信光が力だけでなく戦友として信頼されていることはわかる。

「だいぶ数は減らしましたね」

「ああ。だが、まだ有力な歩兵を仕留められてはいないからな……」

 4人目を仕留めると信光も一息つくように、引き金から指を離す。

「すごいな。聖グロから白旗を手に入れられるなんて!」

「西殿、あとは突撃あるのみです!」

「そうです。突撃は我が校の伝統です!」

「突撃以外何がありましょうぞ!」

「いや、どうだろうな……」

 知波単学園の意見に、西が表情を曇らせる。

「ああ、また知波単(うち)の悪い癖が出てきやがった……」

 信光が思わずため息をついた。

「信光さん今のって?」

「ああ、そうだ。あいつらはこうなると止まんねーんだよ。

西も伝統は大事にするタイプだから強くは言えないんだろうな」

「信光さんも苦労してるんですね」

 信光のイラ立ちと呆れた表情の混ざった複雑な表情で、理解できた。

 知波単が突撃戦術を使うことは知っている。むしろ戦車道と歩兵道では有名な話だ。

 すると予想通り知波単の戦車が次々に突撃を敢行し始める。

「突撃ー!」

「突撃して潔く散りましょうぞ!」

「散ったらだめだろう!?」

 西も予想外の言葉に思わず声を上げた。

「知波単魂を世に知らしめましょうぞ!」

「あー、まあいいか。突貫!」

 西も周りに看破されたように前進を始める。

「西さん!?」

 みほが知波単の動きに声を上げた。

「ちょっとちょっと、知波単の方々またですかー!?」

「おい、どうなってんだ?知波単のやつら急に動きが変わったぞ」

 頭を抱える蘭丸の横で翼が問い掛ける。

 スコープ越しに戦場を見ていた2人が声を上げると、俊也と塁も双眼鏡を手にする。

「説明しましょう。知波単学園はその昔、その突撃戦術で勝利を掴み取ったことがあるのです」

 音もなく現れたのは重桜の偵察兵である、百鬼半蔵であった。

「その時代の突撃戦術が今も伝統として残っているのです。それでも信光殿は、突撃戦術をやめるようにずっと言っていましたけどね」

「知波単ってただの馬鹿だったんだな」

「トシー、思っても口にすんなよ……」

 俊也はいつものように悪態をつくと、八尋がやれやれと注意する。

「スコーンが勝手に割れたわね」

「後は美味しくいただくだけです」

「ガノ、我々も攻めるぞ」

「へいへい」

 聖グロと聖ブリがこの好機を見逃すわけもなく、防戦から攻撃へと転じていく。

 次々に砲塔を回転させるチャーチルとマチルダ。

「それに、もうすぐサンドイッチも出来上がるわ、砲撃!」

 ダージリンの声でチャーチルの砲が火を噴いた。

 瞬く間に知波単所属の戦車が5輌走行不能となる。

「うーん。あと一息なのに……」

 知波単の数少ない生き残りである西の車両はジグザクに走行し、なんとか砲撃を回避していた。

「まずいな……」

「っ!」

 状況の変化に凛祢と信光も表情を歪ませる。

「我々は本当にこれでいいのだろうか……いや、よくない!いや、いい!」

「いいわけねーだろうが、突撃馬鹿が!」

 西の言葉でとうとう信光の堪忍袋の緒が切れた。

 通信越しであるとは言え、怒りの声を上げる。

「あらあら」

「まずい!凛祢さん!」

「わかってる……」

 みほから通信に返答すると同時に電管付きのヒートアックスを地面に落とす。

 

 

 一方、防衛線を敷いていた部隊にも知波単の突撃の通信が届いていた。

「我が知波単第一中隊が突撃を敢行したらしいぞ!」

「よし我々も遅れを取るな!」

「突撃!」

 知波単の1輌が前進する。

「あ、ちょっと待った!」

 ナカジマの声を聞くこともなく、瞬く間に走行不能にされてしまう。

「先輩殿!我々も続くであります!戦車前進!」

 玉田も続くように前進を始めるが、

「だから駄目だって、知波単のみんな無謀過ぎだよ」

「頼むからこれ以上無駄に戦力を減らさないでくれ」

 タイガーさん分隊のヤガミこと八神大河とヒムロこと氷室大地が制止するように通信を送る。

 カモさんチームのルノーがその車体で玉田の車両の道を遮った。

「行かせてください。このままではみんなに合わせる顔がありません!」

「先輩に合わせる顔も何も玉田さん、ここでやられたら俺たち随伴の歩兵に合わせる顔ないでしょ。まあ今俺はこっちいるからなんとも言えないけど」

 玉田車の随伴歩兵である蘭丸は思わずそんな言葉を漏らした。

「アグレッシブに攻めるのもいいけどリタイアしちゃったら元も子もないんだって」

「そうそう。ナカジマの言う通りだよ」

 キューポラから頭だけを出すナカジマの注意に賛成するヤガミ。

「我が知波単学園は――」

「西住隊長にここを防衛するように言われたでしょ。命令ってのは規則と同じなの」

「命令と規則は違くないですか?」

「青葉君は黙ってて」

「はい……青葉、一応シラサギの分隊長なのに肩身が狭いです」

 緑子の睨みに青葉は思わず呟いた。

「規則は守るためにあるのよ」

「こちらまもなく突破されます!撤退、合流します!」

 ナカジマの通信でレオポン(ポルシェティーガー)、カモ(ルノー)、オオカミ(キャバリエ)、玉田車の4輌とそれぞれの随伴歩兵隊が撤退を始める。

「はい。防衛線突破されちゃいましたー」

「風香ー……」

「ごめんごめんって」

 キャバリエの車内でも風香がいつもの悪ふざけを華蓮が咎める。

 後退を始めるとすぐに敵部隊、プラウダとファークトの部隊が防衛線を越えて現れる。

 戦車は全国大会の時の白色ではなく迷彩色に変更されていた。

 戦場が雪原ではなく森林、草原であるために変更されたのであろう。

「待たせたわね!」

「待たせたな」

 プラウダの隊長であるカチューシャとファークトの隊長でありアサルトツェーン第四席であるリボルバー・アルベルトが通信機を手に叫ぶ。

「待ちすぎて紅茶が冷めてしまいましたわ」

「お待ちしてましたよ」

 ダージリンとケンスロットも返答する。

「しょうがないでしょ!もっと簡単に突破できると思ってたんだから!」

「迂回すればいいだけだったけどな」

 ダージリンの言葉に少々熱くなるカチューシャを横目にアルベルトが呟く。

 ノンナとその随伴歩兵である第五席スナイパー・エレンも同感と言わんばかりにカチューシャを見つめる。

「それより早く挟撃態勢に入っていただける?」

「任せなさい!カチューシャが来たからにはもうおしまいよ!攻撃開始!」

「アルベルト、君の事だから何も言わなくてもやってくれますね」

「伊達に四席の数字を持っているわけじゃないのでな」

 お互いの隊長が通信を送り、再び聖グロとプラウダの戦車が攻撃を開始する。

「車両1.4倍、火力に至っては1.95倍こちらが有利です」

「私たちの援軍ももうすぐ到着するわ」

「ベディビエールたちか!」

 アッサムに続いてモルドレットも声を上げた。

「行くわよカチューシャ!」

「先に言わないで!命令するのはわたしなんだから!」

 カチューシャが声を上げると、プラウダの戦車が砲撃を続けた。

 ゴルフ場に追い込まれていた聖グロと聖ブリも移動を開始する。

「逃げたぞ!」

「合流させるな!」

 ヘッツァーとⅢ突、狙撃兵の英治も攻撃を開始する。

 しかし、攻撃を妨げるようにヘッツァーの前方の地面を砲弾が抉っていく。

「なんだあれは?」

「蟹みたいだね」

「僕たちの事ですか?」

「違うだろ、宗司。にしても随分足が速いな」

 迫りくるイギリス製戦車に驚きを隠せずにいるカメさんチームとカニさん分隊。

「巡航戦車クルセイダー!足が速いから要注意だ」

「ジョジョ第3部みたいな名前してるな。僕は第5部が好きだけどね」

「「「それだ!」」」

「やってる場合かワニさん分隊。ただでさえ足が速いんだからさっさと行くぞ」

 カバさんチームとワニさん分隊も逃げるようにその場を後にする。

 前方には追い込んでいたはずの聖グロ&聖ブリ連合本隊。

 後方からはプラウダ&ファークト連合全軍。

 そして、機動力重視のクルセイダー小隊。

「考えうる最悪のパターンを引いてしまったな」

「そうですね……」

 信光と凛祢もようやくみほたちと合流する。

「みほ、どうする?」

「ここで戦うのは不利です。撤退します!」

「そうなるよな」

 Ⅳ号に続くように凛祢たち大洗連合、そして生き残った知波単と重桜連合も撤退していく。

「山を下ります。下り終えたら敵の分散に努めてください」

「市街戦になれば、対人戦も増えてくる。それぞれ各個撃破を目指して行ってください」

 二人の指示で再び反撃の準備へと移る。

 

 

 観客席で試合を見ていたミッコはため息をついていた。

「もーせっかくのチャンスを不意にして、なにやってんの!」

「人は失敗する生き物だからね。大切なのはそこからなにかを学ぶってことさ」

 そう言うとミカは再び、カンテレを鳴らした。

 

 

 撤退する中で大洗連合と知波単&重桜連合は市街地へと向かっていた。

 それぞれが市街地で戦闘を行っている。

 市街戦での戦闘が激化して数十分が過ぎた頃、凛祢は八尋、翼と共に海沿いの水族館に向かって戦場を駆けていた。

「んで、凛祢。この調子で進んで大丈夫なのか!?」

「みほたちももうすぐそばまで来ている。時間がないんだよ」

 凛祢がそう言った時、ふと「超人直感」が危機を察知する。

 その瞬間、足を止めた。

「りん――!?」

 凛祢の目の前のコンクリートを一発の銃弾が抉る。

 銃弾の飛んできた方向に視線を向けた。

 森林の広がる先には確かにこちらを狙撃した者がいる。

「走れ凛祢!」

 すると翼が狙撃銃を構える。

「翼……わかった」

 凛祢は再び走り出す。

 同時に翼が引き金を引いた。

 飛んで行った銃弾は森林先にいた狙撃兵、聖グロのガノスタンの銃を掠めた。

「おいおい、今の一発で俺の居場所がわかったてのか!?」

「少しズレた……やっぱ一発で敵の位置の計算しきるのは難しいか……」

「そんな芸当出来る奴お前くらいなもんだ」

 八尋は思わずそんなことを呟いた。

 翼はさきほどの狙撃から銃弾の飛んできた角度、風の影響などを計算してガノスタンの場所をあぶりだしたのだ。

「次の一発で決めろよ!翼!」

「おう」

 八尋が特攻し、翼は再びスコープを覗く。

 凛祢がようやくⅣ号、チャーチル、T-34/75の姿を発見する。

「よし、まだ間に合う!」

 そう言った時だった。

「見つけましたよ!葛城!」

「ここで倒させていただきます!」

 チャーチルの随伴歩兵であるケンスロット、クルセイダーの随伴歩兵であるベディビエールが突撃してくる。

「くっ!」

 左手のブローニングハイパワーを発砲した。

 しかし、ケンスロットは銃弾を刀剣で切り裂き、接近する。

「やはり、あの時銃弾を斬ったのはまぐれじゃないのか」

 初戦闘で翼の狙撃を防いだ時の事を思い出していた。

 反射的にコンバットナイフを引き抜き刀剣を防御する。

「この瞬間を待ち望んでいました。再戦するこの時を!」

「……」

 ケンスロットに続き、ベディビエールもその刀剣を揮い凛祢を追い込んでいく。

 超人直感で攻撃をさばいているもののⅣ号との距離は離れていく一方であった。

 数回の打ち合いで凛祢のコンバットナイフの刀身が砕ける。

「なっ!?」

 驚きを隠せない凛祢。

 防御に徹していたとはいえ、無意識に武器を酷使していたのだ。

「もらいました!」

「これで!」

 凛祢に向けて振り下ろされる刃。

 しかし、その刃は黒鉄の刃によって阻まれた。

「なに!?」

「お前らは!」

 思わず二人も声を上げる。

 凛祢を守ったのは重桜の歩兵である織田信光と明智光貞であった。

「……」

「間に合ったか」

「信光さん、それに光貞さん!」

 二人の手には太刀の様な形状をした武器が握られている。

「ここは俺がやらせてもらう」

「ありがとうございます」

 凛祢は再び走り出す。

「君が立ち塞がるのですね、イレブン」

「イレブン?あーこの人が」

「その名で呼ぶな」

 ケンスロットの言葉に信光は冷静に返答する。

「まちがってはいないでしょう?11席なのですから」

「俺をその名で呼ぶな!」

 信光は黒刀を手にケンスロットと打ち合う。

「そんなに熱くならないでくださいよ」

「イレブンイレブンと。そんな数字に意味はない。10席は強さの格付けではないのだからな」

 信光に与えられたイレブンという名。

 それは彼が十席に入れなかった11番目の順位であるということであるのだ。

「それに……ここで勝利するのは俺だ!」

 力強く叫ぶと再び黒刀を振るう。

「カチューシャ急ぎなさい!凛祢さんが接近してきていますわ」

「超人なんて砲で撃破しちゃいなさいよ!」

「悔しいけど、今はみほさんへの応戦で精一杯ですの」

「ぐぬぬ!」

 チャーチルとT-34/75はⅣ号への応戦で、精一杯であった。

「少し無茶だが零距離で……」

 ヒートアックスに電管を刺す。

 あと数メートルとなった時だった。

「待たせたな、カチューシャ」

「アルベルト!?」

 Ⅳ号たち戦車が向かっている方向にファークトの歩兵アルベルトの姿がある。

 しかし、大洗の歩兵を相手にしてきたその特製制服はダメージが蓄積していることが一目で分かった。

「頼んだわよ」

「ああ」

 アルベルトはリボルバー拳銃を引き抜き駆け出す。

「あいつまだ生存してたのか……」

 思わず苦虫を噛み潰したように表情を歪める。

 この状況でアルベルトが現れたからだ。

 アルベルトが放つ銃弾を凛祢はその「超人直感」で回避していく。

 現在、遮蔽物のないこのフィールドでは跳弾は使えないため凛祢も回避することができていたのだ。

「覇王流絶技……」

 凛祢は握り込んでいた左手を開く。

「橘花無拍子!」

 次の瞬間、神速の一撃をアルベルトの腹部に見舞っていた。

「があっは!」

 うめき声をあげ、気絶したアルベルト横目に一歩踏み出す。

 同時に砲撃音が響き渡った。

 見上げた先には白旗を上げたⅣ号とチャーチル、そして生存しているT-34/75の姿がある。

「「大洗連合と知波単&重桜連合チーム、フラッグ車走行不能!よって聖グロリア―ナ&聖ブリタニアとプラウダ&ファークト連合の勝利!」」

 蝶野と照月敦子のアナウンスで勝敗が決定したことをようやく理解する。

「また……敗北か。でも、やっぱいいな歩兵道は」

 凛祢は自然と笑みを浮かべていた。

 

 

 相変わらずカンテレを鳴らすミカの隣でミッコは不服そうな表情を浮かべていた。

「あー負けちゃった」

「そうだね」

「やっぱり私たちも出ればよかったのにー。なんで参加しなかったの?」

「出ればいいってものでもないんじゃないかな」

「えー、参加することに意味があるんじゃないの!?」

「人生には大切な時が、何度か訪れる。でも、今はその時じゃない」

 ミカは笑みを浮かべてそう言っていた。

 今のアキにはその言葉の意味がいまいちわかっていなかった。




今回も、読んで頂きありがとうございます。
主にガールズ&パンツァー劇場版の序盤シーンですね。
ちなみに本編でも出ていますが織田信光は唯一、十傑入りのできず連盟評価が11番目だからイレブンと呼ばれ方をしています。
次回もなるべく早く投稿できるようにします。
意見、感想も募集中です。
では、また次回のお話で。


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第36話 さらば英雄よ

どうもUNIMITESです。
第3部 劇場版編はまだまだ前半になります。
劇場版なので長くなってしまいますからね。
では本編をどうぞ。


 エキシビジョンマッチを終えた大洗連合、知波単&重桜連合、聖グロリア―ナ&聖ブリタニア連合、プラウダ&ファークト連合の生徒たちは本土大洗町の銭湯施設を訪れていた。

 戦車道と歩兵道履修者たちだけとはいえ、4校の生徒が利用しているともなればかなりの数の人数である。

 銭湯内は満員と言わんばかりに人で溢れかえっている。

「本日はみなお疲れだった。勝利した聖グロリア―ナ&聖ブリタニア連合およびプラウダ&ファークト連合を称えたい。そして参加を快諾してくれた知波単&重桜連合にも感謝の念を禁じ得ない。更に審判員を派遣してくれた日本戦車道連盟と歩兵道連盟……」

「河嶋ー、長い」

「……では、みんなゆっくりしていってくれ」

 スピーチを遮る杏の言葉で、桃は話を切り上げる。

 湯船内で紅茶を飲む聖グロや子供の様なカチューシャを見つめるプラウダ。

 自身の行動を反省する知波単の姿がそこにはあった。

「あと一週間で新学期ですね」

「あ、宿題まだ終わってないー」

「はぁ。また毎朝起きなければならないのか……学校などなくなってしまえばいいのに」

「廃校を免れたばかりなんですから」

 あんこうチームの各々も湯船に浸かり他愛のない会話に花を咲かせていた。

「惜しかったなーもう少しで勝てそうだったのに」

「仕方ないよ、私たちも途中でやられちゃったし」

 試合結果を引きずる風香と華蓮。

「別に今回が最後ってわけじゃないでしょ。まだまだ戦車道をする機会はあるんだし」

「戦車道もいいけど私たち3年は大学受験も控えてるわよ」

「「「そうじゃん……」」」」

 セレナの言葉でオオカミチームの3人は思わず表情を青ざめた。

 

 

 多くの生徒たちが銭湯で汗を流している中、サウナ内に凛祢の姿あった。

 サウナ内にはアサルトツェーンの3人と織田信光、他にも数人の生徒がいる。

「結果的は俺たちが勝ったな」

「まあ、俺も信光には劣勢でしたから」

「当たり前だ。俺がお前に敗れるなんてありえない」

 信光は自身満々にそう言った。

「言ってくれますねイレブン」

「んだと?その名で呼ぶなっつってんだろうが!」

「喧嘩はやめてください」

 凛祢も2人をなだめる。

「アルベルトとエレンも見てないで止めてくださいよ」

「興味ありませんから」

「同感だな。俺は強い奴と戦えれば他はどうでもいい」

「なんで十傑メンバーはこう協調性がない人ばかりなんだよ……」

 凛祢は頭を抱える。

 アサルトツェーンの10人はあまりにも個性が強すぎるのだ。

 信光も自軍の仲間となら協調性が取れているが、熱くなるとこちらの意見は聞かなくなってしまう。

 唯一、協調性があるとすれば第十席、朝倉龍司くらいなものだ。

「はぁ……」

 思わずため息をつく。

 すると放送を始める合図の音楽が流れる。

 続けて放送が始まる。

「大洗女子学園生徒会長、角谷杏様。大洗男子学園生徒会長、相川英治様。葛城凛祢様、大至急学園にお戻りください。繰り返します……」

 その放送が響き渡り大洗連合の各々が思わず杏、英治に視線を向ける。

 そして、サウナ内にいたアルベルトたちの視線は凛祢に向けられていた。

「なんだ……急に呼び出し?なんで俺まで……」

「休暇中に何かやったのか?」

「んなわけないじゃないですか、まあ俺も戻るので。信光さん、ケンスロット喧嘩しないでくださいよ」

 そう言い残しサウナを後にする。

 銭湯の外で杏、英治と合流した凛祢は3人で学園艦へと向かう。

 学園に到着した3人を待っていたのは、ある人物であった。

 

 

 陽が傾き始め、外はすっかり夕日で赤く染まっている。

 聖グロリア―ナ&聖ブリタニア連合、プラウダ&ファークト連合の生徒たちと別れた大洗連合は戦車をガレージに戻すため、学園に向かっていた。

「みなさん、荷物をまとめてらっしゃるんでしょうか?」

「断捨離ブームでもきたのかな?」

「確かに、妙だな」

「引っ越しでもすんのかな?」

「こんな一斉にですか?」

 あんこうチーム、ヤブイヌ分隊は視線の先に並ぶトラックたちを見つめ、そんな感想を漏らす。

 ようやく学園に到着するが、校門は閉じられていた。

 校門には「KEEP OUT」の文字が刻まれたテープが張り付けられている。

 まるで立ち入り禁止を告げているようだった。

「誰よ!勝手にこんなことするなんて!」

「あららー、完全に封鎖されちゃってますねー」

 動揺を隠せない緑子の隣で青葉が思わず告げる。

「まさか、落書きとかしてないよね?」

「あれ、キープアウトってどういう意味だっけ?」

「体重をキープする」

「してないじゃん!アウトー!」

「ふざけてる場合かよ」

『まったくです。あゆみさん体重キープできてないんですか?』

「銀くんまでひどーい!」

「そう言うこと言ってる場合じゃないよ!」

 ウサギさんチームと亮、銀の会話に梓が声を上げる。

「君たち、勝手に入っては困るよ」

 その言葉で、大洗連合全員が振り返る。

 眼鏡にスーツを着た男がそこにはいた。

 柚子や桃、宗司と雄二はその男を知っている。

 文科省の……。

「あの、私たちはここの生徒です!」

「そうですよ!」

「君たちは、もうここの生徒ではない」

 男は淡々と言い放つ。

「どういうことですか?」

「どういうことだってばよ?です」

「君たちから説明しておきたまえ」

 そう言い残し、その場を後にする。

 そして、杏と英治が姿を見せた。

「「会長!」」

「どうしたんですか!?会長!」

 桃たちの問いに杏は口を開いた。

「大洗女子学園と大洗男子学園は8月31日を持って、廃校が決定した」

「「え!?」」「「は!?」」

 その場にいた全員が驚きの表情を浮かべていた。

「廃校に基づき、学園艦は解体される」

 続けて英治が淡々と言い放った。

「戦車道大会で優勝したら廃校は免れるって」

「あれは確約ではなかったそうだ」

「なに!?」

「存続を検討してもいいという意味で、正式に取り決めたのではないそうだ」

 杏の言葉で桃と雄二は膝から崩れ落ちる。

「それにしても急すぎます!」

「そうです!廃校にしろ元々3月末の予定じゃ……!」

「健闘した結果3月末では遅いと言う結果になったそうだ」

 英治も拳を強く握り込み応える。

「なぜ、繰り上がる!?」

 不知火が続けて声を上げた。

「じゃあ、私たちの戦いは何だったんですか!?学校がなくならないために頑張ったのに……」

「納得できーん!我々は抵抗する!学校に立てこもるー!」

「そうだ!こんなの納得できるかよ!」

 桃と雄二は校門のテープに手をかける。

 大洗連合は次々に不服な状況に声を上げた。

「残念だが本当に廃校なんだ!」

 いつもとは異なる杏の真剣な表情に誰もが現実であることを理解していた。

 それでも納得できないと肩を落とす。

「あの……会長。凛祢さんは……凛祢さんはどこですか?」

 みほが絞り出すような声を出した。

 その言葉で、全員が彼の姿がないことにようやく気がついた。

「葛城くんは……」

「葛城は本日付で、転校したよ」

「え?」

 英治の言葉に、みほは動揺を隠せなかった。

 彼の口から思い掛けない答えが返ってきたからだ。

「ちょっと待ってください!転校なんて聞いてないです!」

「そうですよ!こんな時に冗談きついっすよ!」

 翼と八尋が一歩踏み出し声を上げる。

「本当なんだ。葛城の……本当のご両親が見つかったからそっちの家に引き取られることになった」

「そんな……」

「だから、葛城ももういないんだ」

 英治の言葉に更に肩を落とす大洗連合。

 再び各々が声を上げるが

「みんな静かに!……おとなしく指示に従ってくれ」

「会長たちは、それでいいんですか?」

「「……」」

 2人は何も返答はしなかった。

 その手は強く握られていたことに柚子と宗司だけが気づいていた。

「みんな、聞こえたよね。申し訳ないけど、寮の人は寮に戻って」

「自宅の方はご両親と引越しの準備を進めてください」

「あの、戦車と歩兵のみんなの武器はどうなるんですか?」

 みほが問い掛ける。

「すべて文科省預かりとなる」

「そんな……学園艦と凛祢殿を失って、そのうえ戦車や歩兵の道具まで取り上げられちゃうんですか!?」

「「すまない」」

 2人は深々と謝罪した。

 

 

 一方、凛祢は敦子の運転する自動車の車内にいた。

「……」

 静寂の流れる車内で凛祢は、数時間前の事を思い出していた。

 時は遡り、数時間前。

 銭湯から戻った3人を待っていたのは文科省の男、そして照月敦子であった。

「なんで俺たちを?」

「待っていたよ葛城君……これを」

 男はそう言って一枚の書類を凛祢の目の前に出した。

 視線を落とし、その書類に刻まれた文字に目を通す。

「なっ!」

 それは、凛祢のDNA鑑定の結果であることがわかった。

 そして、鑑定の結果、親に当たる人物の欄には「島田千代」の名がある。

「島田、千代?」

 その名を読み上げる。

 聞き覚えはあるが……。

「ご存じではないかな?大学戦車道連盟の家元、島田千代。それがきみの本当の母親だ」

「嘘だ。なんだよ急に……」

 思わずそんな言葉が出てしまう。

 今まで、DNA鑑定なんて何度も受けてきたが、こんな結果が出たことはない。

「そもそも今まで受けてきた鑑定だって――」

「今までの鑑定結果とは違うと言いたいのかな?それはそうだろう。葛城朱音は今まで君の鑑定結果を捏造し続けてきたのだから」

「え?」

「正直、私も驚いたよ。君が今年の全国大会に参加したことで、この鑑定結果が出てきたのだから」

 告げられる言葉に凛祢は言葉が出ない。

 そこで、ふと思い出す。

 リトルインファンタリーで戦っていた時から鞠菜と朱音はすでに日本戦車道連盟の人間だった。

 それに昔の鑑定結果はいつだって鞠菜と朱音から告げられていた。

 その時、すでに結果が捏造されたものであったら?

 いや、そもそもなんでそんなことをする必要があるんだ?

 どう考えても分からない。

 そもそもこの結果にも納得はできない。

「朱音に問いただします」

「その必要はない」

「なんでですか!?」

 凛祢は思わず声を上げた。

「葛城朱音は、今回の件を認めている」

「これは犯罪同然だ。彼女にお前と会う資格はない」

 敦子も真剣な眼差しを凛祢に向ける。

「それに朱音さんはお前が、島田家に引き取られることを望んでいる」

「……わかり、ました」

 今の凛祢にはそういうしかなかった。

 納得できているわけじゃない。

 でも、ここで言い争ってもどうにもならないことはわかる。

「では、この話はここまでだ。照月君、葛城君を連れて行きたまえ」

「ちょっと待って下ださい!葛城は!」

「これは彼とご家族の問題だ。君たちに口を出す権利はない」

 英治の言葉を遮る様に男はそう言った。

「いくぞ、葛城」

「……」

 敦子と共に凛祢はその場を後にした。

「さて、君たちにも話がある。聞いてもらうか」

「……」

 杏は何も言わず男の前に立っていた。

 時は現在へ。

「照月さん。あいつは、この鑑定結果が全国大会に参加したことで出てきたと言った。どういう意味だったんですか」

「大会に参加する際に様々な検査等が行われるのは知っているだろ。その際の結果を朱音さんは操作していた。だが、お前は朱音さんに黙って全国大会に参加した。その結果、検査が朱音さんの目を掻い潜ってしまった。その結果、この結果が出てしまったわけだ」

 説明を聞いて、ようやく理解する。

「だけど、なんで朱音はこんなことを……」

「私にもわからない。このことに関してはサンティたちも知らなかったようだからな」

 敦子は質問に答えるとハンドルを操作する。

 なら朱音は一人でこんなことをやっていたのだろうか。

「もうすぐ島田家に到着するぞ」

「はい」

 結局、どうして朱音がこんなことをしていたのかわからなかった。

 島田邸に到着した凛祢はその屋敷に戸惑いを隠せなかった。

 朱音が大洗学園艦に持っていた家と似ているものの、こちらのほうが圧倒的に大きい。

「きたのね亜凛」

 その名を呼ばれ、凛祢は体をびくつかせる。

 名を呼んだのは灰色に近い色合いの髪に前進赤いスーツに身を包む女性。

「島田さん。ご無沙汰しております」

「照月さん。ここまで遠かったでしょ」

「いえ、そんなことは」

 この女性こそ島田流家元の島田千代である。

 そして、自分自身の産みの親。

「亜凛。待っていたわ、私は――」

「……っ!」

「葛城、何を!」

 凛祢は千代から伸びた手を無意識に振り払っていた。

「そんな名前で呼ばないでください、俺の名は凛祢です。そして俺の親は昔からずっと周防鞠菜と葛城朱音だけです……」

 そう言い残し、逃げるように走り出してしまった。

「おい、葛城!」

「あらあら、嫌われてしまったかしら」

「連れ戻してきます」

「お気になさらず、島田家のことですからこちらで対処いたします」

「……わかりました」

 千代の顔を確認し、問題ないと感じたのか敦子はおとなしく引き下がる。

 30分ほど走り回り、凛祢は噴水のある広場で足を止めた。

 体は走り回ったことでかなり熱を持っており、息も上がっている。

 空いているベンチに腰を下ろし、自動販売機で購入したミネラルウォーターを口に運ぶ。

「……」

 数分ほど経ち、ようやく落ちついたことでポケットから携帯端末を取り出す。

 端末を操作し、電話を掛ける。

 しかし、相手が通話に応じることはなかった。

 それからも何度か試してみるものの、答えは同じであった。

「くそっ!なんで出ないんだよ!」

 イラ立った表情を浮かべる。

 朱音が着信に答えることはなかった。

 メールも送ってみるものの返信はない。

「なんで……」

 視線を落とし、表情を歪ませる。

 朱音の真意はわからない。

 急に島田家が本当の両親と言われても、受け入れられるわけがなかった。

「鞠菜……俺は、どうすればいいんだ」

 弱々しい声がこぼれてしまう。

 日が傾き始め、夕日で世界が赤く染まってきた頃、

「……あの」

「……」

 その声でゆっくりと顔を上げる。

 視線の先には、白と黒を基調としたドレスに身を包む少女が立っていた。

 その見た目から、年端も行かない少女であることはすぐに分かった。

「なにか、用か?」

「いえ、お兄さんが辛そうな顔をしてたので……」

 少女は少し戸惑いながらも言葉を繫げる。

「……関係ないだろ」

「……」

 少女は何も言わず隣に座り込む。

「どういうつもりだ?」

「お兄さん、高校歩兵道で有名な人ですよね。テレビでみたことあります」

 少女は淡々と呟いた。

 こんな年端も行かない少女が歩兵道のことを知っていることに少し驚いてしまう。

「まあ有名になったことで、訳の分からない状況に落とされているんだけどな」

「何かあったんですか?」

 少女の問いに凛祢は正直に答えてしまっていた。

「俺の親は本当の親じゃなくてな。俺のDNA鑑定を操作していたらしいんだ……」

 それからしばらく状況を少女に説明した。

 話を終えると少し気分が楽になった気がした。

「そんなことがあったんですね」

「君には少し難しかったかもね」

「いえ、そんなことはありません」

 するとどこかから着信音が響き渡る。

 凛祢の携帯端末でない。

 少女はポケットから携帯端末を取り出すと、通話に出た。

 数分ほどで通話を終える。

「私、もう帰ります」

「そうか。送っていくよ」

 凛祢は少女と共に広場を後にした。

 しかし、少女の家に到着した凛祢は再び表情が固まっていた。

 そこは先ほど敦子によって連れてこられた島田邸であったのだ。

「君は……まさか島田の」

「はい」

 凛祢の言葉に島田愛里寿は答えた。

 それが島田の血を引く2人の、凛祢と愛里寿との出会いだったのだ。

 顔をなるべく合わせないため外で夕食を終え、島田邸に用意されていた部屋に凛祢はいた。

 布団の上に横になり、天井を見つめている。

「まさか、彼女が島田流家元の娘だったとは……」

 にわかには信じられなかったが千代の溺愛っぷりをみれば、いやでもわかった。

 何より2人は髪の色、瞳の色がまったく同じであった。

 それに、千代の部屋にあった写真には自分の父にあたる人物の写真がある。

 その人物と自分は似た顔立ちと同じ黒髪であった。

 どうやら島田の血を引いていることは嘘ではなかったようだ。

 それでも自分の存在が認知された最大の原因は「超人直感」である。

 島田家と分家にあたる天城家だけが子孫に遺伝してきた強力な直感力。

 その直感は本来、娘にしか発現しないものだったらしい。

 現にいままでの歴史の中で、島田家の男は直感を発現していない。

 しかし、そんな中でもイレギュラーが起きた。

 それが自分の存在だ。歴史上一度たりとも直感を発現しなかったはずの島田家の男が初めて直感を発現した。

 しかも、その直感は歴代でも最大の直感力であったのだ。

「この力は……島田家によってもたらされたものだったとはな」

 自身の直感力は常人のそれとは違うと言うことはわかっていたが、それが遺伝によるものなど考えたこともなかった。

 血統に遺伝した特別な力……。

 凛祢はそう考えていると眠りについていた。

 

 

 大洗女子学園では廃校に向けた撤去作業が進められていた。

「こんな形でこの学校と別れるなんて思わなかったね。もう決議案や予算案の書類、いらないのかな」

「できるだけ、持っていくぞ。これは我々の歴史だからな」

 弱々しく呟く柚子とは異なり桃は必死に書類を整理していた。

「柚子、弱気になっちゃ駄目よ」

「この椅子も持っていくからなー」

 英子が励ますように声を掛けると、杏はいつものような表情に戻っていた。

 ウサギさんチームとヤマネコ分隊は飼育されていたウサギの移動準備。

 アヒルさんチームとオオワシ分隊はそれぞれの部活道具の運び出し。

 カモさんチームとシラサギ分隊は校門前の名札の撤去作業。

 レオポンチームは学園管内の道路を好きなように走り回り、タイガーさん分隊はガレージ内の銃火器の整備にあたっていた。

 カバさんチームとワニさんチームはシェアハウスからの荷物の運び出し。

 アリクイさんチームと日向アインは自宅PCにてネトゲにいそしんでいた。

 自宅がある優花里や塁は家族と引越し作業を進めている。

 華と翼は共に家族に電話をかけている。日常的に花道の教えを聞くため五十鈴家を訪れていた翼の姉弟小鳥と鳥海も慎三郎の声に視線を向けていた。

 沙織は幼馴染である麻子の部屋の片づけを手伝っていた。八尋も付き添っている。

 俊也はかつての不良グループの元に戻っていた。

 そして、みほも引越しの梱包作業を終える。

「これで全部、明日の朝には荷物を残して退艦……凛祢さんどうして何も言わずに行っちゃったんだろう」

 1人だけの部屋でそう呟いていた。

 それでも、彼女の足は学園へと向かっていた。

 ガレージ前に到着したみほを待っていたのは、大洗女子学園の戦車道履修者と大洗男子学園の歩兵道履修者たちである。

「やっぱり隊長も」

「みんな来てますよ」

 ガレージ前に並んだⅣ号、ヘッツァー、キャバリエ、八九式、Ⅲ突、M3、ルノー、ポルシェティーガー、三式中戦車。

 どれも整備が行き届き、いつでも走行できる状態となっている。

 そして歩兵の装備もまた同様である。

「みぽりんいたー」

「お部屋まで行ったんですが、こちらに向かわれた後だったんですね」

 あんこうチームのメンバーも少し遅れて現れた。

「凛祢の家にも行ってみたが、もぬけの殻だった」

「本当にあいつは行っちまったんだな」

「俊也殿もどこいったんでしょうか……」

 続いてヤブイヌ分隊の3人も到着する。そこには凛祢、俊也の姿はなかった。

「みなさんお揃いみたいですね」

「麻子さん、ここで寝るつもりなの?」

「もうお別れかもしれないからな……」

 その言葉で、みな表情を暗くしてしまう。

 そんな静かな校庭に響き渡るのはジェット機のエンジン音だった。

 一斉に周囲を見渡す大洗連合のメンバー。

 校庭に降り立ったのはサンダース大学付属のC5Mスーパーギャラクシーである。

 優花里と塁が思わず声を上げた。

「サンダースとアルバートでうちの戦車と歩兵の装備を預かってくれるそうだ」

「え?」

「大丈夫なんですか!?」

「紛失したという書類は作ったわ」

「これで、みんな処分されずに済むね」

 大洗女子学園の生徒会メンバーの言葉に驚きを隠せないあんこうチームとヤブイヌ分隊。

「おまたせー」

「まったく世話を掛けさせるわね」

「そう言うなって」

 機内からサンダースの隊長であるケイ、アルバートの隊長であるレオン、そして副隊長のアリサとピアーズが降りてくる。

「さあ、みんなハイアップ!」

 大洗連合の戦車と歩兵装はすぐに積み込み作業へと移る。

「そうか。葛城は本当に転校しちまったのか」

「はい……」

 説明を聞きレオンとケイは納得したように頷いている。

「みほたちは、どうするつもり?」

「まだ、わかりません……」

「まあ、出来る範囲で助けてはやる」

 レオンはそう言い残し作業の手伝いに向かう。

 積み込み作業が終わり、再びスーパーギャラクシーのエンジンがかかる。

「確かに預かったわ。移動先がわかったらすぐに連絡を頂戴」

「はい。ありがとうございます!」

「届けてあげるわ」

 大洗連合のメンバーは感謝してもしきれないと言わんばかりに感謝の言葉を述べる。

 戦車9輌に大縣コンテナを積んで、相当の重量であることは明白であった。

 それでも、スーパーギャラクシーは飛び発って行った。大洗連合のすべてを乗せて。

「よかったー。学園は守れなかったけど戦車と歩兵の装備は守れました」

「うん」

 みほも最後まで飛び去るスーパーギャラクシーを見つめていた。

 翌朝、学園艦と別れた大洗の生徒たちはバスに揺られ、次なる目的地を目指していた。

 バスは学科ごとに分かれていくものの戦車道履修者と歩兵道履修者は同じ宿泊施設になるため、纏まっている。

 それでもバス内は静寂が流れていた。

 しばらくして古めかしい建物の前でバスが止まる。

 大洗連合のメンバーはそれぞれバスを降りていく。

「転校の振り分けが完了するまで、ひとまずここで待機となります」

「クラス別に教室が割り当ててある。速やかに移動しろー」

 生徒会メンバーの活動で大洗の生徒たちもそれぞれの宿泊施設に向かって行く。

「きっと会長たちがどうにかしてくれる」

「そうだな。やる時はやってくれる人たちだ」

 桃や雄二も会長である2人を信じていた。

「結局、俊也の奴はどこにもいなかったな」

「トシの奴、本当にどこ行きやがった」

「今は大変な時だって言うのに……」

 一日中、探し回っていたヤブイヌ分隊の3人も日が傾き始めたので宿泊施設に帰還していた。

 そんな時、聞き覚えのあるエンジン音に、大洗連合全員が空を見上げた。

 空には先日送り出したサンダース大学付属のC5Mスーパーギャラクシーが飛んでいる。

 一斉に校庭に繰り出していく生徒たち。

 みな空のスーパーギャラクシーを見つめていた。

 スーパーギャラクシーは積んでいた9輌の戦車と大型コンテナを空中から降ろしていく。

 こうして戦車と歩兵の装備は再びみほたちの元へと返還された。

「とりあえず当面はここで生活できそうだな」

「いいんですかこのままで……」

「こんな場所だが、朝は出席を取って、全員無事なのを確認するように」

 杏が指示する。

「葛城がいない時点で全員無事ってことはないだろ……」

「英治?」

 英治は小さく呟くと一人生徒会室を後にする。

「青葉、ウチの風紀委員はどうした?」

「あっちですっかり腐ってます」

 席で新聞を読んでいた青葉は放送室を指さす。

「おい!風紀委員の癖にだらしないぞ!」

「学園ももうないんだし、私たちの意味なんてないじゃないですかー」

「腐ってしまっているでしょ。風紀委員が青葉しかいなくて大変ですよ」

 抜け殻の様な緑子の様子にいつも悪ふざけをしている青葉もため息をついていた。

「転校手続きが済むまではちゃんとしろ!」

 桃も怒りを露わにしていた。

「ぜんいんしゅうごうー」

「学校なくなったんだから朝起きなくてもいいんじゃないのか?」

「出席は毎日取るんだって」

「トシは居ないんだけどな」

「顔くらい洗え!そど子!」

「まあまあ、そう怒らずに」

 青葉がなだめるように笑みを見せる。

「出席取りまーす。全員いるわねー。はいしゅうりゅーう」

「なんてアバウトなんでしょう」

「青葉君、申し訳ないけど女子のほうの出席取りもおねがーい」

「えー?男子だけでも相当面倒なのに……」

 青葉は仕方ないと名簿を受け取り、出席取りを行う。

 それからも大洗連合は各々で自分たちのやれること、好きなことををして過ごしていた。

 そんな中、深夜のコンビニに東藤俊也の姿はあった。

 後ろには見るからにガラの悪そうな男が数名いる。

 そしてコンビニ前にはルノーが停車していた。

「風紀委員?お前ら何やってんだ?」

「あー、東藤君。ひさしぶりー」

「随分、腐ってんな」

 思わず俊也はそんな言葉を呟いた。

 廃校が決定した瞬間から、大洗に顔を出さず不良たちと絡んでいた自分が言えたことではないが今の緑子たちはそう見えた。

「あなたこそ、そんなガラの悪い人たちとつるんでるの?」

「凛祢がいない上に廃校が決まった大洗に何かできるとは思えないからな。もはや牙も爪もないトラ同然だ。だから俺はやりたいようにやらせてもらってる」

「ふーん。ねえ私たちも混ざっていい?」

「んあ?」

 思い掛けない言葉に俊也は再び視線を緑子に向ける。

「もうどうでもいいのよね。何もかも」

「……好きにしろ。俺たちはこの先の工場跡にいるからな」

 俊也はそう言い残し、その場を後にした。

 

 

 島田邸に来てから数日の時が過ぎた。

 毎日のように凛祢は歩兵道で戦っていた。

 敵歩兵を戦死させ、戦闘終了が告げられる。

「……」

 息が上がってはいたものの勝利したのは凛祢であった。

「流石、島田流の息子!」

「やはり、島田流の血統は伊達ではないな」

 観戦しているのは高校スカウトマンだ。

 どうやら凛祢の名は現在、島田亜凛として世界中に広まっているようだ。

 どこの学校も島田の血統である自分を是が非でも引き抜きたいらしい。

 正直、うんざりしていた。

 こんな風にちやほやされたくて、歩兵道をしていたわけではないのに。

 本日の紅白戦も終了し、凛祢はシャワーで汗を流す。

「……」

 部屋に戻ると2台の携帯端末の内の一台が鳴った。

 鳴っているのは島田家に用意された携帯端末だ。

「はい」

「亜凛。紅白戦で疲れているところ、お悪いのだけど愛里寿を迎えに行ってもらえるかしら?」

 通話に出ると相手は母である千代であった。

「愛里寿を?どこかに出かけているんですか?」

「ボコミュージアムって場所よ。一人だと心配なの」

「わかりました」

 凛祢は通話を切ると部屋に掛けてあった大洗の制服に視線を向ける。

「洗濯中で他の服ないんだよな。まあいいか、これで」

 大洗の制服に身を包み、凛祢は2台の携帯端末を手に玄関に向かうのだった。




今回も読んでいた頂きありがとうございます。
ついに明かされた凛祢の直感の秘密、そしてその血縁関係。
現在凛祢は大洗メンバーとは別行動となっているので、場面がよく変わります。
意見や感想は募集中です。
では次回もよろしくお願いします。


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第37話 それぞれの絆

どうもUNIMITESです。
最近は、執筆の時間が結構とれているので、なるべく早く投稿するように頑張ってます。
第三部 劇場版編も中盤です。
では、本編をどうぞ。


 島田邸を出た凛祢は携帯端末のマップ機能を頼りに「ボコミュージアム」の場所を把握する。

「……行くか」

 ここ数日、愛里寿とはそれなりに打ち解けていた。

 千代も戦車道連盟の仕事で忙しい以上、なるべく愛里寿の近くには自分がいるようにしている。

 愛里寿も自分を気にかけている。

 凛祢も兄妹というのも悪くないと感じ始めていた。

 

 

 その頃、みほたちあんこうチームとヤブイヌ分隊の3人は偶然発見したボコミュージアムに到着していた。

 その見た目は所々ひび割れ、壁が剥げている部分も見受けられる。

「知らなかった!こんなところがあるなんて!」

「今までで一番テンション上がってるよ……」

 みほを追うように沙織たちも歩みを進める。

「八尋、俊也はまだ見つかってないのか?」

「ああ、まったくどこ行ったんだよ。トシのやつ最近はそっちの風紀委員も姿を見ないって青葉先輩言ってたぜ」

「そど子たちも?何か問題に巻き込まれていなければいいが……」

 麻子は心配しているのか、そんなことを呟いていた。

 中に入ったみほたちを出迎えたのは「ボコ」のオブジェクトである。

「生ぼこだ!かわいい!」

「かわいいか?」

「いや、全然……」

「みほ殿も少し変わってますね」

「粋がる割に弱い」

「それがボコだから」

 今まで以上にテンションの上がっているみほを横目にヤブイヌ分隊の3人も苦笑いする。

 その後、8人はボコミュージアム内のアトラクションを楽しんでいた。

 イッツァーボコワールド、ボコーデットマンション、スペースボコンテに乗り、ついにはボコショーまで見てしまった。

「なあこれ面白いのか?」

「いや、全然……」

「みほ殿、やっぱり少し変わってますね」

 3人もため息交じりに後ろの席でショーを見ていた。

「みんなー、おいらに力をくれー」

「ボコがんばれ……」

「もっと力を」

「頑張れ――」

「頑張れボコー!」

 みほの声を遮る様に声を上げたのは年端も行かないドレス姿の少女。

 負けじとみほも声を上げた。それに続きあんこうチームの4人も声援を送る。

 後ろの席で見つめていた3人は無言のままそれを見つめていた。

「きたきたきたー!」

 するとボコも急に立ち上がり、パワーが満ち溢れると言わんばかりの姿を見せた。

 しかし、ボコられた。

「それがボコだから」

「「あいつは一体何がしたいんだ?」」

 八尋と翼が思わずツッコミを入れていた。

 

 

 凛祢もようやくボコミュージアムに到着していた。

 そのボロボロの建物を見て、思わずため息が出る。

「ボコミュージアム。みほが好きなボコのテーマパークだったのか……」

 急いできたことで、想定より早く到着した。

 そこで、駐車場に止まったⅣ号戦車とキューベルワーゲンが目に入った。

「おいおい、嘘だろ。もしかしてあいつらもいるのか?」

 Ⅳ号に描かれた見覚えのあるあんこうのエンブレム。まさにあんこうチームのエンブレムだった。

 でも、どうして?

 すでに大洗学園艦は出航しているはず。

 こんな場所にいるはずが……。

 その時、いそいそとボコミュージアムを出てくる亜里寿を発見する。

「愛里寿?おい、愛里寿!」

「……っ!お兄ちゃん!」

 愛里寿も凛祢の存在に気づき、こちらにやってくる。

「どうしてここに?」

「愛里寿がここにいるから迎えに行けって千代に言われて」

「お母様が……ありがとう」

 愛里寿の顔を確認し、凛祢は再びⅣ号に視線を向ける。

 迷っていたのだ。

 彼女に会うべきか、会わないべきか。

 出航が遅れているとはいえ、あの日からもう1週間は立っている。

 今も、本土にいるのが気になっていた。

「これ、気になるの?」

「ああ。愛里寿、少しだけ時間をくれるか?」

「……うん。いいよ」

 そう言うと凛祢はボコミュージアム内へと向かう。

 中に入るが、想定より広い施設に探し回ってすれ違いになっても困ると考えていた。

「どこから探すべきか……」

「あ、みぽりん!」

「え?凛祢……さん?」

 聞き覚えのある声に振り返った。

 そこには見覚えのある顔ぶれが揃っていた。

「みほ?それにみんなも……」

「凛祢さん!どうしてここに!?転校したはずじゃ!?」

「みほたちこそ、どうして?学園艦は出航してるはずだろ!?」

 2人が言葉を交わしたことで麻子が違和感を感じていた。

「話がかみ合わないな……」

「え?」

「凛祢くん。大洗女子学園と大洗男子学園は廃校になっちゃったんだよ」

「は?なんで!?全国大会で優勝すれば存続するって!」

 沙織からの言葉に、凛祢は同様を隠せなかった。

「確約じゃなかったらしくて、結局8月末で廃校になったんです……」

「知らなかった……そんなことになってたなんて」

 凛祢は一歩後退し、左手で頭を抱える。

 アサルトツェーン第一席である自分がいる学校を連盟や文科省も簡単には廃校にできないだろう。そう思っていた。

 だが、第一席がいなければ廃校にすることは不可能じゃない。

 すでに全国中に広まった自分と島田の血縁情報。

 そして不自然なまでのエキシビションマッチ(8月24日)時点での自分の転校。

 これらをすべて偶然で片付けるには話がかみ合い過ぎている。

 自分を大洗に戻れないようにした上で、廃校にする。

 朱音が自分のDNA鑑定を捏造していたのも、いつかこうなる事を予想していたからなのか?

 どうであれ、今の状況は……。

「凛祢。戻ってきてくれないか?」

「そうだぜ、お前がいれば何とかなるかもしれない!」

「凛祢殿!」

 八尋たちの眼差しを見れば、分かる。

 今がどういう状況なのか。

「凛祢さん!大洗に――」

「駄目だよ」

 声を上げたのは後ろにいた愛里寿だった。

 そのまま凛祢とみほたちの前に割って入る。

「あなたは、さっきの……」

「お兄ちゃんはもうあなたたちとは関係ない」

「愛里寿……悪いな。今は戻れない、俺はもう葛城凛祢じゃなくなってしまったから」

 そう言うと制服についていたネビュラ勲章を外し、みほへと渡す。

「凛祢さん……そんな」

「行こう、愛里寿」

「うん……」

「おい、凛祢!」

「よせ、八尋」

「みほ……ごめんよ」

 凛祢はそのままその場を後にした。

 こんな別れは辛すぎる。だが、今の自分には彼女を救うことはできない。

 みほたちはその場に立ち尽くすしかなかった。

 

 

 一方、杏と英治は文科省、学園艦教育学局を訪れていた。

「廃校の件は決定したはずですが」

「ですが、優勝すれば廃校は免れると言う約束をしたはずです」

「口約束は約束ではないでしょう?」

 杏の言葉を男は否定した。

「判例では、口約束も約束と認められています。民法91条、97条等に記されています」

「可能な限り善処した結果なのです。ご理解ください」

「「……わかりました」」

 2人はそう答えるしかない。

 例え、善処していようとなかろうと杏たちには確かめる手段はないのだから。

 どんなに言葉を並べても、彼の言葉がそうであるなら、そう言うことなのだ。

 

 

 そして、大洗の生徒たちの宿泊施設では再び生徒会役員の4人が仕事に追われていた。

 虫刺されの薬と給食用のお米ストック切れ、廊下の電球が切れるなど様々な問題が出ている。

「あー、本当足りないものばかりですね」

「風紀委員が地元の生徒と喧嘩してます!青葉さんが止めに入ったんですけど駄目みたいです!」

「ちょっと喧嘩の仲裁に行ってくる!」

 桃は増える面倒ごとにイラ立ちを見せる。

「桃ちゃん頑張ってるなーって。もっと泣き叫ぶかなーと思ったのに雄二君みたいに……」

「もう駄目だ……おしまいだ……」

 視線の先には膝から崩れ落ちている雄二の姿があった。

「そんな暇はない!今頑張らねば、いつ頑張るのだ!雄二、貴様もいつまでも泣くな!喧嘩の仲裁に行くぞ」

「ほーい……」

 桃と雄二はそう言い残し、その場を後にする。

「会長たちはどこ行っちゃったんだろうね」

「きっと会長たちには考えがあるんですよ」

 宗司も書類を整理してそう言った。

 

 

 日本戦車道&歩兵道連盟会館に杏と英治の姿はあった。

「文科省の決定したことは我々にも簡単には覆せないんですよ」

「向こうの面子が立たないと言うことですか」

「そう言うことになるかな」

 日本戦車道連盟&歩兵道連盟理事長は言いづらそうにそう返答した。

「面子が立たないということでしたら、優勝できるほどの力のある学校をみすみす廃校にしてはそれこそ戦車道連盟および歩兵道連盟の面子が立ちません」

「蝶野君と照月君も連盟の教会員の一人だろ?」

「確かにな、だがな理事長!戦車道と歩兵道に力を入れるという国の方針とも矛盾するのではないか?すでにイメージ落ち始めてるぞ。第一席の転校の件だって相当ブーイング受けてんだからな」

 蝶野の言葉に賛成するように意見を述べる敦子。

「う、うーん……」

 再び頭を抱える連盟理事長。

「私たちは優勝すれば廃校が撤回されると信じて戦ったんです」

「信じていたその道が、最初からなかったと言われて引き下がるわけにはいかない。俺たちのために戦い、学園を去ることになったあいつのためにも」

 杏に続き英治も立ち上がり、自身の意見を述べる。

 彼の口した学園を去った者、それが葛城凛祢の事であったことは全員が分かった。

「しかし、今文科省は2年後に開催される世界大会の事で頭がいっぱいだからな。留置するためにプロリーグを発足させようとしているくらいだから……取りつく暇がないよ」

「プロリーグそれですね」

「また無茶する気か?まあ、付き合ってやるけどな」

 杏はその言葉に不敵な笑みを浮かべる。

 顔を見た英治も何故か笑みを浮かべていた。

「ここは超信地旋回で行きましょ!照月もいいわよね」

「ったく。悪いこと考えるなお前ら」

 蝶野と敦子もお互いにアイコンタクトを取る。

 一人取り残された理事長はそんな彼女たちの様子を傍観していた。

 

 

 愛里寿を島田邸まで送った凛祢は本土の大洗町にある照月家を訪れていた。

 畳部屋に通され、玄十郎と対面する。

「今日は何用だ?」

「単刀直入に聞きます。朱音はどうして俺の血筋を隠していたんですか?」

「なぜワシに問う?」

「照月教官もサンティさんたちも、血筋の事は知らなかったと言っていました。

 俺の考えうる限り、知っている可能性がある人物はあなただけです」

 凛祢は曇りのない表情を見せていた。

「……」

「知らないなら、それで構いません。でも、もしも知っているのだとしたら――」

「知っているとも」

「っ!」

 凛祢はその言葉に一瞬身体をびくつかせる。

「だが、その答えは、今のお前自身が薄々感じているものではないのか?」

 玄十郎はそう口にした。

 そして、その答えを教えてくれた。

 照月家を後にして再び電車に乗り継ぎ、ある場所を目指す。

 外の景色は次々と過ぎ去っていく。

「よし」

 電車を降りて、慣れた足取りで山道を進む。

 夏も終わり秋の季節だからか、虫もあまりいない。

 辿り着いたのは山中にある木造の一軒家。

 その家は決して大きいわけではなく、すでに古くなっていた。

 ここは、かつて自分と鞠菜が住み、そして時々朱音が宿泊していた家だった。

 扉を開き室内に入る。

 そこには予想通り彼女の姿があった。

「……り、凛祢」

 燃える炎の様な赤い髪と長身長の女性。

 しかし、その表情に力はなく、今にも死んでしまいそうだった。

「散々探し回ったぞ。勝手に歩兵道連盟から消えやがって」

 朱音に近づく。

「こないでよ!私は、もう駄目なのよ!私は……!」

「もう分かってる。朱音のやっていたことも」

 肩に手を乗せる。

「鞠菜が最も嫌うこと『特別扱い』だったよな」

「っ!」

 鞠菜が嫌うこと「特別扱い」。それこそがすべての元凶だったんだ。

 玄十郎はすべてを話してくれた。

 どうやら自分を引き取ってから1年ほどで、鞠菜たちは島田の血を引いていることはわかっていたようだ。

 それ自体は大きな問題ではなかった。

 だが、歩兵道をすることとなれば話は別だ。

 強くなればその力は凛祢自身ではなく、遺伝によるものである……そんな血縁によっての特別扱いが始まるかもしれない。

 そう考えた鞠菜は、DNA鑑定の結果を操作させた。

 朱音もそれをずっと実行し続けてきた。これが鑑定結果捏造の意図だ。

「まったくとんだ馬鹿親だよ朱音も鞠菜も。でも、俺はずっとそんな朱音たちに守られていたんだな」

 凛祢は再び朱音の顔を見つめる。

「恨んでなんてない。むしろ感謝してる。俺をここまで育ててくれたから。本当の親は朱音と鞠菜だから」

「ありがとう凛祢。そう言ってくれて。鞠菜がいなくなって、いつか自分のしていることが公になるのが怖かった……」

 朱音は涙を流していた。

 初めてだった。朱音の涙を見たのは。

 その後も朱音は感謝の言葉を述べ、泣き続けた。

 1時間ほどでようやく落ち着いたのか、朱音はベッドに座り込む。

「落ち着いたか」

「ええ。でも、どうしてここがわかったの?」

「これでも結構探し回ったぞ。歩兵道連盟に行ってサンティさんに聞いても行方不明って言われたし……」

「だって……」

 朱音は視線を逸らす。

 正直、ここくらいしか朱音の来れる場所はないだろうと思っていた。

 それも、みほたちに学園艦が解体されてしまった話を聞いていたためだが、

「まあ、見つかったからいいよ。それより大洗廃校の件知っているだろ?朱音は歩兵道連盟に戻ってくれ」

「でも、私はもう歩兵道連盟の理事長じゃ……」

「少なくとも、今はまだ歩兵道連盟の理事長は朱音だ」

 サンティの話によれば、次の理事長が見つかるまでは前任者の朱音が理事長の席に着くことになる。

 次の人間はまだ現れていない。

「今の俺には、なにもできない。でも、朱音や連盟の大人たちならなんとかできるかもしれない……そうだろ?」

「うん。わかった。やってみる」

 朱音もそう言うと、準備を始める。

「後は任せるよ」

 凛祢は再び島田邸を目指して走り出した。

 そして朱音もまた行動を開始する。

 

 

 翌日、みほは本土の西住家を訪れていた。

 転校手続きのために親の判子をもらいに来ていたのだ。

「みほ」

「……お姉ちゃん!」

 ちょうど犬の散歩から帰還した西住まほが優しく名前を呼んだ。

 その表情は戦車道をしているときの様な真剣な表情とは異なり、柔らかな表情をしている。

「おかえり」

 みほはまほと共に西住邸へと入る。

「いいの?」

「ここはお前の家だ。戻って来るのに何の遠慮がある?」

 まほは淡々と言い放った。

「まほ?」

「はい」

「お客様?」

「学校の友人です」

「……っ!」

 まほは、まるでみほを守る様に嘘を言い放った。

 みほもそんな姉に感謝していた。

 半年ぶりに自室へと戻ったみほは何も変わっていない部屋に少し安心感を抱いていた。

「どうした?」

「変わってない……」

 そうここは何も変わっていなかった。

 昔のままなのだ。

「書類は?」

「これ」

 まほの言葉でみほは転校手続きの書類を見せる。

「……ちょっと待ってろ」

 まほはそう言い残し部屋を後にした。

 一人残ったみほは再び部屋の中を見渡す。

 部屋にかけてある黒森峰の制服、棚に置かれた戦車の模型、ベッドにはボコのぬいぐるみ他にもリボン付きのパンツァーファウストなどがある。

 机に置かれた姉との2人の写真を笑みを浮かべた。

 そして、ポケットからネビュラ勲章を取り出す。

「凛祢さんに……会いたいな……」

 悲しそうにそう口していた。

「みほ」

 その声で勲章をポケットに押し込む。

 振り返るとまほの姿があった。

 そして、帰ってきた書類には姉の字である「西住しほ」の名前、西住の判子が押されていた。

「お姉ちゃん、そのサインと判子は?」

「しー……」

 しほに黙って書類を記載したことはみほにもすぐわかった。

 そんな姉の優しさに自然と笑顔を見せていた。

「本当に駅まででいいのか?」

「うん。ありがとう」

 まほの運転で送ってもらっていたみほは遠慮するようにそう言った。

「お姉ちゃん。凛祢さんにも兄妹がいたの。妹さんが」

「葛城凛祢に?いや、今は島田の……」

 みほはボコミュージアムでのことを思い出していた。

 あの少女は凛祢の事を「お兄ちゃん」と呼んだ。

 彼らが兄妹であることは自然と分かってしまったのだ。

「平気か?」

「うん。凛祢さんはもういないけど。私は大丈夫だから!」

 みほは空を見上げていたが、まほはその表情がどこか寂しそうであったことに気づいていた。

 みほが去った西住家には、一台のヘリが降り立っていた。

「家元。蝶野さんと葛城さん、照月さんがおみえです」

「わかっている」

 西住流家元、西住しほは眉一つ動かさず客間に向かう。

 蝶野、敦子、そして朱音の話にしほも頷く。

「来年の大会に大洗連合が出てこなければ、黒森峰が叩き潰すことができなくなるわね」

「怖いこと言うわね、しほさんは」

 しほの言葉に朱音は皮肉そうに言っていた。

 そして、彼女たちも動き出す。

 訪れたのは文科省、学園艦教育学局であった。

「若手の育成無くして、プロ選手の育成は成しえません。これだけ考えに隔たりがあってはプロリーグ設置委員会の委員長を私と葛城朱音さんが務めるのは難しいわね」

「葛城さんはともかく、今年度中にプロリーグを設立しないと戦車道と歩兵道大会の誘致ができなくなってしまうのは先生もご存じでしょ?」

「いちいち気に障る言い方するわね!あなた」

 朱音が思わず声を上げる。

 確かに現在は凛祢の件で表では強く出れない朱音だが、しほや蝶野たちが一緒なら話は別だった。

 文科省の男も目の前にいる人選に圧倒されていた。

 それもそうだろう。

 目の前には戦車道連盟理事長の西住しほ、歩兵道連盟理事長の葛城朱音。

 教会員の蝶野亜美と照月敦子。日本戦車道連盟&歩兵道連盟理事長。

 大洗女子学園生徒会長角谷杏と大洗男子学園生徒会長相川英治。

 合計7人が居るのだから。

「優勝した学校を廃校にするのが、文科省のスポーツ理念に反するのでは?」

「それに、大洗男子からは今年の十傑が選抜もされています」

 しほと朱音が更に追い打ちをかけるように声を上げる。

「しかし、まぐれで優勝した学校……それも島田様のご子息がいたとなれば」

「「戦車道と歩兵道にまぐれなし!あるのは実力のみ!」」

 しほと朱音が初めて一致した答えを出した。

「それに、葛城凛祢は島田の子であることは、つい先日まで公にはなっていなかった。これまで彼は他の生徒とは変わらない普通の教育を受け、血の滲むような努力をしてアサルトツェーン第一席になったのです!あなたは彼の努力を、否定するおつもりですか?」

 しほは湯飲みを力強くテーブルに置いた。

 その答えに朱音だけでなく敦子も少し動揺していた。

 彼女の口から凛祢を擁護する言葉が出てきたからだ。

「どうしたら認めていただけるかしら?」

「まあ、大学強化チームに勝ちでもしたら……」

「わかりました!勝ったら廃校を撤回していただけますね!」

 杏は身を乗り出すように声を上げる。

「へぇ?」

「今ここで覚え書きをしてください!噂では口約束は約束ではないと聞いたのでー」

 続いて皮肉たっぷりな声で英治が紙とペンをテーブルに起き、一歩踏み出す。

 その後ろではしほたち4人は満足そうな表情をしていた。

 

 

 そして、次にしほと朱音が向かったのは……島田邸であった。

 千代から客人がくることを聞いていた凛祢はお茶の準備を進めている。

「家元襲名、おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「……」

 室内には島田千代、西住しほ、葛城朱音の姿がある。

「失礼します」

 すぐに凛祢が入室し、3人の前に紅茶を置く。

「凛祢君にも話があるから、残ってくれるかしら」

「は、はい……」

 しほの言葉で凛祢も席に着く。

 正直、彼女の意図はわからない。

 それにどうして今日ここにやってきたのかもわからなかった。

「ここは、ぜひ大学強化チームの責任者である島田流家元にもご了承をいただきたいと思いまして」

「わかりました。こちらもやるからには手加減いたしません」

 話を聞く限り大洗連合が大学強化チームと試合をすると言う話のようだが。

 その意図は勝利できれば大洗女子学園、大洗男子学園が復活することにあった。

 これで安心だ。これなら……なんとか。

「そして、もう一つ。凛祢君にも、この試合に参加していただきます」

 その言葉で凛祢は思わず立ち上がった。

 大洗連合と大学選抜の試合に参加する……それは

「ちょっと待ってくれよ!それはつまり、俺に大洗連合のみんなと戦えってのか!?無理だ!俺はみほと大洗連合の皆のためにしか戦わない!そう決めたんだ、だからもう」

「話は最後まで聞きない。凛祢くん。あなたにはこの試合、大洗連合の生徒として戦ってもらいます」

「え?」

「それはどういうことかしら?」

 朱音の言葉に千代が質問する。

「この試合をするにあたり、必須条件の一つに大洗連合が本来の力を発揮できることが含まれます。そのためには、彼が大洗連合側で戦う必要がります」

「いいでしょう。こちらも不完全な相手と戦っても目覚めが悪いですから。その条件でも結果は変わらないとは思いますが」

 これも千代は了承した。

「じゃあ、俺は……」

「凛祢、大洗のみんなと合流しなさい」

 朱音はそう言い残し、しほと共にその場を後にする。

「ありがとう朱音、ありがとうございます西住しほさん」

 やはり朱音は凄い奴だ。こんな条件を取り付けるなんて。

 凛祢も急いで部屋を後にする。

 

 

 時を同じくして大学強化チームは紅白戦を行っていた。

 白チームの戦車はその真っ白な砲で敵戦車を走行不能にする。

 まもなく赤チームの戦車全てが走行不能となったことで白チームの勝利となる。

「調教終了……史郎さん、そっちは?」

 愛里寿がそう呟く。

「こちらも終わりましたよ」

 白い髪と黒の瞳、その手には二丁の銃が握られている。銃身と銃床が短く2連装の銃口を持つ「ソードオフショットガン」である。

 そして彼の周囲には10人を超える歩兵が戦死判定を受け倒れていた。

 彼の名は天城史郎。現大学強化チームの歩兵隊長である。

「さすが、変幻自在の戦術と黄金世代の歩兵」

「忍者戦法と呼ばれるだけあるわー。それにG(ゴールド)フォースの隊長であることは伊達じゃない」

「日本戦車道と歩兵道をここにありと知らしめた島田流戦車道の後継者とそれを守護する天城家の長男」

 バミューダの3人も口を揃えて二人を見つめる。

「史郎なら一人でも大丈夫だからな」

「俺ももっと張り合いのある戦いをしたいものだ」

「スクワッドジャムも今年はあまり楽しめませんでしたからね」

 バミューダの随伴歩兵である3人も思わず口を滑らせる。

 彼らこそ第四次スクワッドジャム優勝チーム「Gフォース」のメンバーである。

 愛里寿もキューポラから身を乗り出し、懐中時計を見つめる。

「もう始まってる……よかった録画しておいて」

「愛里寿、どうかしましたか?」

「気にする必要はありません……」

「先ほど家元から連絡があったようです」

「母上から?」

 史郎の言葉に愛里寿も急ぎ、帰還するのだった。

 すでに凛祢は島田家を後にしていることは今の彼女には知る由もなかった。




読んで頂きありがとうございます。
いよいよ、劇場版編も大詰めを迎えていきそうですね。
ついに凛祢とみほたち大洗連合の道が交差する。
凛祢の道の終着点とは?
次回もなるべく早く投稿できるようにします。
意見、質問も募集中です。
では、また次回のお話で。


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第38話 復活の大洗連合!

どうもUNIMITESです。
今回で、凛祢と大洗連合の道が交差します。
では、本編をどうぞ。


 島田千代から連絡を受けていた愛里寿は受話器を手に取っていた。

「徹底的に叩きのめしなさい。西住流の名が地に落ちるように」

「試合の件は了解しました。こちらにもお願いしたいことが」

「お願い?」

 愛里寿の言葉に思わず千代も質問を返す。

「私が勝ったらボコミュージアムのスポンサーになってほしいの……このままではたぶん廃館になっちゃうの」

「しょうがないわね」

「お母様ありがとう」

 亜里寿は母の言葉に安堵したような表情を浮かべ、受話器を置いた。

「私が助けてあげるからね」

 ボコに優しくそう言うと愛里寿は部屋を後にした。

 外には史郎の姿があった。

「家元はなんと?」

「数日後に試合がある……歩兵の方にも準備を進めるよう指示をお願いします」

「そうですか……」

 史郎は一言だけ口にすると愛里寿と別れる。

 

 

 日が傾き始め、みほたち大洗連合の宿泊していた施設も夕日で赤く照らされていた。

 二宮金次郎によく似た像は頭から伸びるあんこうのような明かりに光を灯す。

 河嶋桃は雄二と共に物品の整理にあたっていた。

「うぐぐ……」

 桃は荷馬車を引いて、一歩一歩と歩みを進める。

「本当に頑張るな……桃さん」

 後ろから荷馬車を押している雄二も思わず口走る。

 あと数メートルで粗大ごみの回収場所に到着すると言うところで、荷馬車がつまずき備品が一斉に桃に降りかかる。

「おいおい、大丈夫かよ……」

「ああ、このくらいで……」

 なんとか立ち上がり、いつもの強気な性格を見せる。

 しかし、桃は視線の先に写るものに釘付けとなった。

 雄二も続くように視線を向けた。

「「会長……?」」

「ただいま」「今戻った」

 杏と英治の一言で桃は目を潤ませ、一気に泣き叫ぶ。

「会長ー!うう、うう」

 そんな桃の頭を杏は優しくなでてやる。

「遅くなって悪かったな」

「いえ、戻られたと言うことは得た物はあったと?」

「ああ。相当、無理してきたけどな。忙しくなるぞ」

 英治も雄二の肩を軽く叩き、生徒会室へ向かう。

 そして、施設内と施設周辺に放送を始める合図が響く。

 その音に大洗の生徒たちは一斉に行動を止めた。

「非常呼集、非常呼集!会長たちが帰還されました。戦車道受講者および歩兵道受講者は直ちに講堂に集合!繰り返します」

 そのアナウンスで大洗連合の各々は一斉に動き出す。

 戦車のメンテをしていたレオポンチームとタイガーさん分隊。

 Ⅲ突の周辺にテントを張っていたカバさんチームとワニさん分隊。

 筋トレにいそしんでいたアリクイさんチームと日向アイン。

 バレーとバスケの練習を終えたアヒルさんチームとオオワシ分隊。

 そして、実家に帰省し、今戻ってきたであろうあんこうチーム、オオカミチーム、ヤブイヌ分隊の3人。

 そんな中でも動いていないものはいた。

「トシさん。呼ばれてるけど行かなくていいんすか?」

「いいんだよ、別に」

 元ヤブイヌ分隊所属の東藤俊也である。

 彼は廃校が決定してから一度も大洗連合のメンバー、クラスメイトと顔を合わせていなかった。

 ここ数日何をしていたかと言えば……

「そうは言いますけど、トシさん。流石に草野球してて授業も出てないのはまずいんじゃ」

「何言ってんだ。歩兵道で3倍単位もらってんだから出席率が2分の1でもお釣りがくることぐらい小学生でもわかるだろ」

 俊也はキャッチャーをしていた男にボールを投げる。

 ここ数日彼は不良時代の仲間と純粋に野球を楽しんでいたのだ。

「俺たちは確かに野球の楽しさをトシさんに教わりました。でもトシさんは歩兵道ってやつの楽しさを知ったんじゃないんですか?」

「っ……生意気言ってんじゃねーよ」

「す、すいません」

「ったく。面倒くせーな」

 そう言うとトシはグローブを仲間に押し付け、一人講堂へと向かう。

「トシさん変わったよな」

「無闇に手をあげなくなったな」

「これも歩兵道のおかげなのかもね」

 ガラの悪そうな不良たちも思わずそう呟いた。

 そして、釣りによって魚を集め、焚火で調理する。

 完全にサバイバル生活を満喫していたウサギさんチームとヤマネコ分隊。

「なんか変な声聞こえない」

「うるさいよねー」

「こわーい」

 桂里奈や礼、あやがそう口にしていた。

 十数分で講堂には大洗連合が揃っていた一部を除いて。

「トシー!テメー一体どの面下げてここに来やがった!?」

「やめろって八尋」

 姿を全く見せていなかった俊也に八尋が掴みかかろうとするが、翼が止めに入る。

「別にどうでもいいだろ」

「俊也、あえて今まで何してたのかは聞かない。でも、今ここにいるってことはお前も歩兵道受講者であるんだな」

「戻ってくると信じていましたよ!俊也殿!」

「いちいちうるせーよ」

 俊也は呆れたように頭を掻く。

「全員揃ったな!?」

「カモさんチームが来てませーん」

「なにー?!」

「あいつら何やってんだよ……こんな時に」

 メンバーがそろっていない事に桃、雄二は声を上げる。

「数日前から行方不明なんですよねー。風紀委員は青葉だけになってます」

 青葉も気の抜けた声で返答する。

「はぁ、面倒くせーな……」

 戦車道、歩兵道受講者の中でも唯一、風紀委員である緑子たちの居場所に心当たりのある俊也は再びため息をついた。

 数日前に、俊也が教えた場所に彼女たちがいる可能性は高いだろう。

 一人、背を向け歩き出す。

「どこに行くつもりだ?」

「風紀委員を連れ戻しに行くんだよ」

 麻子が問い掛ける。

「心当たりあるんですか?」

「まあ、一か所だけ……」

「では青葉も行きます!同行させてください!」

「私もあいつらの、風紀委員の遅刻を取り締まりに行く」

「好きにしろ……」

 青葉と麻子もそう言うと後を追いかける。

 10分ほど歩き、見た目が古くなった工場跡に到着した。

「こんな場所にいるのか?」

「ここにいねーなら、後は知らん」

 俊也は吐き捨てるように言うと、重々しい扉を開く。

 工場内には見るからにガラの悪い生徒たちの姿がある。

 しかし、俊也の姿を確認するとすぐに視線を戻し会話を始める。

「うわー、怖そうな人たちばっかりですねー」

「全員、喧嘩で下してるから安心しろ」

「俊也、本当に喧嘩強いんだな」

 そんな会話をして、工場内を歩き回ると彼女たちの姿はあった。

 大洗女子学園の制服におかっぱの髪型、そして顔をのよく似た3人組。

 風紀委員の緑子たちである。

「本当にいやがった」

「まったく遅刻遅刻と言っていたくせに――」

「そど子さーん!」

 誰よりも早く動いていたのは青葉だった。

 緑子の肩を掴み、顔を近づける。

「何か用?」

「……!」

 その表情を見て、少し動揺する。

 多少は変化していると思っていたが、数日前から腐っていた様子に変化はない。

「そど子さん!いい加減目を覚ましてくださいよ!いつまでそうやって腐っているつもりですか!?」

 青葉は真剣な表情で声を上げる

「……」

 しかし、そど子の様子に変化はない。

「青葉……」

「……」

 麻子と俊也も静かにその様子を見つめていた。

「こんなのあなたらしくないですよ!青葉は、いつも風紀を取り締まっていたそど子さんが好きだったんだですよ!」

「な……何言ってんのよ青葉くん!す、好きってそんないきなり!」

 青葉の叫びに、緑子は顔を赤くして動揺した表情を見せた。

「それに、それに……」

「なに……?」

「青葉がボケた時、そど子さんがツッコんでくれなきゃ寂しいじゃないですかぁー」

 いつもの気の抜けた声に俊也と麻子も思わず「は?」という声が出る。

「なんでそうなるのよ!」

「あだー!」

 緑子はどこからともなく出したスリッパで青葉の頭を叩く。

「まったく青葉くんはー……って、冷泉さんに東藤くん?こんなところで何してるの?」

「どうやらいつもの様子に戻ったようだな」

「今ので戻るのかよ」

 緑子はきょとんとした表情で二人を見る。

 俊也も呆れたようにため息をついた。

「と、とにかく今までのことは忘れなさい!戻るわよごもよ、ぱぞみ!」

「「待ってよそど子」」

 緑子を追うようにぱぞみとごもよも工場を後にする。

 その場で伸びている青葉を俊也が見つめた。

「ったく。夫婦漫才かよ」

「同感だな……」

 俊也が伸びていた青葉を背負うと二人も招集を掛けられた講堂へと戻るのだった。

 講堂に戻り、あんこうチーム、ヤブイヌ分隊、カメさんチーム、カニさん分隊、アヒルさんチーム、オオワシ分隊、カバさんチーム、ワニさん分隊、ウサギさんチーム、ヤマネコ分隊、カモさんチーム、シラサギ分隊、オオカミチーム、レオポンチーム、タイガーさん分隊、アリクイさんチームのメンバーが揃ったことを確認すると改めて杏が話を始める。

「みんな!試合が決まった!」

「「試合!?」」

 その言葉に全員の視線が英治と杏に集まる。

「相手は大学強化チームだ」

「え?!」「なんだと!?」

 大洗連合の全員が声を上げた。

 みほも視線を落とし、凛祢のネビュラ勲章を見つめる。

「大学強化チームとの戦いに勝利できれば、今度こそ廃校は撤回される!」

「文科省局長から稔昌も取ってきた。戦車道連盟、大学戦車道連盟、大学歩兵道連盟、高校戦車道連盟と高校歩兵道連盟の認証ももらって来た」

 杏の言葉に合わせて、英治が書類を全員に見せる。

「「さすが、会長方!」」

「やっぱりちゃんと動いてくれていたんですね!」

「英治……貴方という人は」

 生徒会メンバーの4人も歓喜するように声を上げる

「会長!もう隠していることはないですよね?」

「ない!」

「勝ったら本当に廃校撤回なんですね!」

「そうだ!無理な戦いだってことはわかっている……」

 杏と英治はステージを下りる。

「「だが、必ず勝って!みんなで大洗に、学園艦に帰ろう!」」

「「おおー!」」

 2人の言葉でより、大洗連合はより声を上げた。

「がんばりましょう!」

「やるしかないしな」

「「おおー!」」

「あんたもおーとかいいなさいよ!」

「はいはい」

 あんこうチームのメンバーも声を上げる

「おー!」

「青葉、お前いつの間に」

 いつ目を覚ましたのか青葉も俊也の背中で声を上げていた。

「西住殿……」

「うん……」

 優花里とみほは少し不安そうな表情を浮かべていた。

 そして、凛祢のネビュラ勲章を強く握りしめていた。

 

 

 翌日、大洗連合の車長と分隊長は生徒会室で作戦会議をしていた。

 優花里と塁の持ってきた情報を確認したことでざわめきが走っている。

「社会人を破ったチーム!?」

「いくらなんでも無理ですよ!」

「無理は承知だよー」

 そんな意見が飛び交っていた。

「西住はどう思う?」

「選抜チームの隊長どこかで見た気が……」

 雄二の質問に返答するみほだが

「俺の妹だ。島田愛里寿」

「ああ、凛祢さんの……え?」

「な!」「へ!?」

「葛城!?」「お前、なんで!」

 生徒会室の扉をくぐり現れた凛祢の姿を確認し、その場の全員が驚いていた。

「凛祢さん……」

「みほ……」

 彼女の、みほの顔を確認して少し安心した。

「ちょっと待て!葛城どうして!」

「そんな幽霊でも見たような顔するのやめてください。短期転校の手続きをして、ここに来ました」

「短期転校……?」

 書類を杏に見せる。

 それから、ここに、大洗のみんなのところに戻ってきた経緯を説明した。

 自分が次の試合に大洗連合として参加すること。

 そのために短期転校することになったこと。

「という訳で、俺は晴れて大洗連合の元に戻ってきたんだ」

「そういうわけか」

「それでもこの誤算は嬉しい誤算だよ。葛城くん、君が加われば私たちの勝機もグンと上がる!」

 納得した英治の隣で杏も喜びの表情を浮かべる。

「まさか、愛里寿が相手だとは思わなかったけどな……」

 凛祢も情報を確認する。

 書類には大学強化チームの情報……愛里寿と天城史郎のこととチーム全体のことがかかれている。

「天才少女って呼ばれているらしいな。飛び級したらしい」

「年は僕たちより下なのに大学生ですか」

 カエサルとアーサーが興味深く書類を見つめる。

「島田流家元の娘なんだよね」

「でも、こちらには西住流家元の娘である西住さんと凛祢がいるわ!」

 ねこにゃーの意見に対抗するように英子が声を上げる。

「つまり、これは島田流対西住流の対決でもあるんだよなー」

 その場で誰も凛祢を島田とは呼ばなかった。

 彼女たちの優しさであるのだろう。

 なにより、大洗連合にとって葛城凛祢こそが仲間なのだから。

「で、相手は何輌出してくるんですか?」

「30輌……」

「歩兵も限界の180名出してくるだろう」

 みほと凛祢の返答に全員動揺する。

「「え!!」」

「もう駄目だ……おしまいだ……」

「西住からも勝つのは無理だと伝えてくれ!」

 膝から崩れ落ちる雄二と桃。

 それもそうだろう。

 現在の大洗連合は戦車が9輌しかない。

 歩兵だってオオカミチームやアリクイチームの様に1人しかいないチームもある。

 これでは、圧倒的に戦力差があった。

 それに、個人の実力だって相当なものだろう。

 大洗連合が勝利する可能性は100分の1いや、1000分の1の確率かもしれない。

「確かに、今の状況では勝てません。でもこの条件を取り付けるのだって大変だったはずです。それに、ここには大洗のみんなと凛祢さんがいます!」

「みほ……」

 凛祢は、みほを見つめる。

 彼女もこちらを見て笑みを浮かべた。

「戦車に通れない道はありません。戦車は火砕流の中だって進むんです!勝てる方法を探しましょう」

「そうね。考えてみれば全国大会だって逆境ばかりだったじゃない!」

「だな。歩みを止めない限り道は続くんだ!歩みは止めない、みんなで明日を迎えるために」

 英子と凛祢も奮い立たせる言葉を告げる。

 その言葉で、大洗連合は、より士気を上げるのだった。

 その後、大洗連合は試合会場に向かう貨物船に乗り込む。

 しかし、試合に向かっていた大洗連合に予想外の情報が転がり込んできた。

 その情報に、大洗連合の全員が動揺の表情を見せる。

「殲滅戦……だと?」

「あの、30輌に対して9輌で、その上突然殲滅戦というのは!」

 そう。試合ルールが殲滅戦であると言うことだ。

 全国大会ではフラッグ戦。つまりフラッグ車を守り、敵フラッグ車を撃破出来れば勝利できた。

 しかし、殲滅戦は違う。

 敵戦車をすべて走行不能にさせることで勝利となるのだ。つまり敵戦車を全滅させること。

「予定されるプロリーグでは殲滅戦が基本ルールとなりますので、それに合わせていただきたい」

「大会ルールは殲滅戦で進めているんだって……」

「辞退するなら早めに申し出て下さい」

「っ!なんだよそれ!」

 文科省の男が去った後、不知火は壁に拳をぶつける。

 

 

 試合前日の夜、みほと凛祢は2人で試合フィールドを確認していた。

「苦労かけるね」

「すまないな2人共」

 その声に振り返ると杏と英治の姿があった。

「いえ……」

「どうする、明日の試合。辞退すると言う選択肢も――」

「それはありません。退いたら道はなくなります」

「可能性は低いかもしれない。だけど0じゃない。会長たちだってそう思ったから、試合条件を取り付けたんでしょう?」

 その言葉に安心したのか杏と英治は笑みを見せた。

「厳しい戦いになるな」

「私たちの戦いはいつだってそうでした」

 4人は空を見つめていた

「じゃあ、俺たちも戻る2人も早めに帰るんだぞ」

「はい」

 杏たちがいなくなり、2人だけとなる。

「凛祢さん……これ」

「……ネビュラ勲章」

 みほが差し出したのは、凛祢が全国大会で獲得し、数日前に彼女の託した十傑の証ネビュラ勲章だった。

 もう戻ることはできないだろうと、そんな別れの意思表示で託したものだ。

「持っていてくれたのか」

「はい。これは私たちのつながりだったから」

 ネビュラ勲章を受け取る。

 これで、正真正銘アサルトツェーン第一席、葛城凛祢に戻ることになる。

「みほ。今度こそ、みほの居場所を俺は守るよ」

「私だけじゃありません。学園の皆の、凛祢さんの居場所でもあります」

「……そうだな」

 その言葉がうれしかった。

 自分の居場所はここだったのかもしれない。

「みほ、好きだ」

「私も、凛祢さんのこと大好きです」

 2人はその言葉と共に、唇を重ねていた。

 数秒の間お互いの存在を感じた後、唇を離す。

「……キス、しちゃいましたね」

「嫌だったか?」

「いえ、私たち恋人同士じゃないですか」

「そうだったな。勝とう、俺たちみんなで」

「はい!」

 頬赤く染め、再び空を見上げていた。

 こうして、決戦前夜の夜は過ぎていくのだった。

「ふー、なんとか間に合いましたね……」

「サンティちゃん、無理させてくれるねー。十傑全員の学園艦に訪れるなんてさ」

 ヘリの中で疲労した顔を見せる平賀孫市。その隣にはサンティ・ラナの姿ある。

「ごめんなさい。無理させちゃって」

「いやいやー。私はサンティちゃんのためなら下着姿で戦車にも挑んじゃうよ」

「流石にそれは引きますね」

「そんなー」

「ふふ……凛祢くん、私にできる事はここまでです。忘れないでください、君の戦いが無駄ではなかったこと。戦場の友は必ず君の助けとなる」

 サンティは暗い空に輝く月を見つめていた。

 そして、各地から大洗連合と大学強化チームの戦うフィールドを目指す車両、ヘリ、列車の姿もあった。

「お茶会楽しそうだよ」

「刹那私議には賛同できないね」

「それでも行くんだろう?」

「凛祢の為にな」

 ミカたち継続高校と、司たち冬樹学園の6人も同様にフィールドを目指していた。

 

 

 翌朝、試合開始時間となりみほと凛祢はあいさつのために草原を歩いていた。

「敵を三角地帯におびき寄せて各個撃破して……」

「みほ、落ち着け。大丈夫、俺が守るから」

「はい!」

 そう言ったが自分も緊張していた。

 この試合はそれほど重要な一戦であると言うことなのだ。

 緊張と不安を隠せない2人がようやく指定位置に到着する。

 目の前には、すでに妹である島田愛里寿と分家の長男である天城史郎の姿があった。

「では、これより。大洗連合対大学選抜チームの試合を始めます」

「それでは、両チーム礼!」

「「よろしく――」」

「ちょっと待ったー!」

 聞き覚えのある声が試合開始合図の礼をかき消した。

 視線を向ける。

 その先にはダークイエローの戦車が4輌とキューベルワーゲンが4輌確認できた。

 ティーガーⅠにティーガーⅡ、パンターG型が2輌の合計4輌の戦車。

「お姉ちゃん!?」

「聖羅なのか?」

 近くで停車すると車内から黒森峰連合の西住まほ、逸見エリカ、黒咲聖羅、星宮悠希が降りてくる。

 いずれも大洗女子学園と大洗男子学園の制服に身を包んでいた。

「大洗女子学園、西住まほ」

「同じく逸見エリカ」

「大洗男子学園所属、アサルトツェーン第二席、黒咲聖羅だ」

「同じく、第八席、星宮悠希……です」

「以下18名と歩兵15名。試合に参戦する!短期転校の手続きも済ませてきた。連盟の許可も取り付けてある」

 まほや聖羅の言葉に驚きを隠せなかった。

 短期転校の書類だって自分が提出したものと同様の物であったためだ。

「お姉ちゃん、黒咲さん。ありがとう……」

「聖羅、お前……」

 みほだけでなく、そして凛祢も感謝するように彼女たちを見つめた。

 これによって大洗連合に戦車4輌と歩兵15名が加算される。

「戦車や歩兵の装備まで持ってくるのは反則だ!」

「みんな私物なんじゃないですか?私物が駄目ってルールありましたっけ?」

「卑怯だぞ!大体葛城凛祢の参戦だって――」

「まあまあ、そう言わず!」

「そうですよー」

 文科省の男の発言を遮る様にサンティと孫市が現れる。

 続けて現れたのはグリーンの戦車が3輌とジープが3輌(歩兵18名)。

 シャーマンやファイアフライである。

「私たちも転校してきたわよ!」

「今からチームメイトだ!」

「覚悟なさい!」

「アサルトツェーン第九席、レオン・ハード。大洗男子に転校した!」

「ジルバレンタイン、クリスレッドフィールド助けに来たぞ!」

「まだ言っているんですか。ブラッド」

 サンダース&アルバート連合の6人も転校したことを告げる。

「サンダースとアルバートが来た!」

「黒森峰連合にサンダース&アルバート連合が加わってくれるなんて!」

「鬼に金棒」

「虎に翼……」

「凛祢にヒートアックスだな」

 塁や沙織、麻子に続き俊也が言った。

 続けて現れたのは、迷彩色に彩られた戦車4輌と4輌のGAZ-47(歩兵16名)。

 T-34/85が2輌に、IS-2とKV-2が各1輌である。

 ロシア製であると言うことはプラウダ&ファークト連合。

「もう一番乗り逃しちゃったじゃない!」

「誰かさんがいつまでも寝てて動けなかったためだろーが」

「右に同じ」

 ヘッドフォンを点けているのに呟くエレン。

「まあ来たくて来たわけじゃないんだけどね!」

「でも、一番乗りして、かっこいい所見せたかったんでしょう?」

「いちいちうるさいわね!」

「大洗男子所属、第四席、リボルバー・アルベルトおよび第五席、スナイパー・エレン、同志ガングート、これより盟友ために参戦する!」

 アルベルトが声を上げる。

 次は、イギリス製戦車3輌とSaSジープ3輌(歩兵15名)であった。

 チャーチルにマチルダ、クルセイダーが各1輌である。

「やっぱり試合には、いつものタンクジャケットで挑みますか」

「じゃあ、どうして大洗の制服そろえたんですか?」

「みんな着てみたかったんだって」

「まあ、いいじゃないか。これはこれで悪くない」

「確かにな」

「俺はアルフレッドと同じ制服なんて……」

「今の彼はアーサーですよ。モルドレット」

 聖グロリア―ナ&聖ブリタニア連合もいつもの様子で会話をする。

「大洗男子所属、第六席、ケンスロットこれより大洗の剣となる!」

 ケンスロットも宣言するように声を上げた。

「グロリア―ナやプラウダまで!」

「アルベルトにケンスロットか!」

 みほと凛祢は再び声を上げる。

 次は……その小さな車体は戦車と呼ぶには小さいだが、それも戦車なのだ。

 カルロベローチェとSPA TM40(歩兵3名)各1輌。アンツィオ&アルディーニ連合である。

「大洗諸君!ノリと勢いとパスタの国からドューチェ参上だ!恐れ入れ!」

「葛城ー!アサルトツェーン第七席にしてイタリアの伊達男!三日月咲夜もといメッザルーナ参戦させてもらうぜ!」

「「今度は間に合ってよかったすね」」

「カバさんチームのたかちゃーん来たわよー」

「ひなちゃん!……カエサルだ!」

 カエサルは顔を赤くして返答する。

 続けて現れたのは、銀色の装甲を持つ戦車「継」の文字が印象的なBT-42とジープ(歩兵3名)が各1輌。

「みなさんこんにちはー。継続高校から転校してきましたー」

「なんだかんだミカは凛祢たちを助けるんだよね」

「俺たちのかつての仲間だからな」

「そうっすよ!」

「違う、風と一緒に流れてきたのさ」

「風とはエレンと気の合いそうなこと言うな……第三席、ヴィダール!我々もこの試合に参戦いたします!」

 ミカやミッコ、アキの3人にヴィダール、司、アンクたちも参戦する。

 そして、最後に現れるのは――

 その数は以上に多い。知波単学園の戦車である九七式中戦車とクロガネ四駆がそれぞれ21輌。

「お待たせいたしました!昨日の友は今日の盟友!勇敢なる鉄自身、21輌参戦であります!」

「増員は私たち全員で21輌と言ったでしょう?あなたのところは5輌!」

「やっぱり間違ってたのか……これだから知波単は。我が名は織田信光!イレブンではあるが、盟友として参戦する!」

 西と信光もより大きな声を上げて参戦を報告する。

 戦車5輌と駆動車5輌(歩兵20名)となった。

「みんな……」

「俺たちが戦いで培ってきた絆は無駄じゃなかったんだな」

 2人は感謝の思いでいっぱいだった。

 好敵手、戦友、盟友、それぞれ形は違えど凛祢やみほ、大洗連合と戦い、今この場に駆けつけてくれたのだ。

「試合直前で、選手増員はルール違反じゃないのか!?」

 文科省の男も状況の変化に焦っているのか蝶野に連絡を取る。

「意義を唱えられるのは相手チームだけです」

「「我々は構いません。受けて立ちます!試合を開始して下さい」」

 愛里寿、史郎は自信があるのか、大洗連合の大幅な増員にもまったく動じていなかった。

 こうして、大洗連合は様々な高校チームを取り入れた大型連合チーム「八校連合」となったのだ。

 車両数は戦車30輌、歩兵も全120名まで増員されていた。

「いこう、みほ。俺たちみんなで!」

「はい、わたしたちの戦車道と歩兵道で!」

 あいさつを終えた2人も作戦会議のため、いそぎ陣地へと戻るのだった。

 大洗に集った戦士たちと共に。




今回も読んで頂きありがとうございます。
ついに、開始される八校連合VS大学選抜チームとの試合。
十傑の全員が集い、戦力差を、ほぼ五分まで持ち込みました。
大洗連合は勝利することができるのか?
次回から数話は参戦することとなった黒森峰やファークトの歩兵たちの紹介を、やっていきます。
では、また次回のお話で。


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キャラクター紹介 黒森峰男子学園

どうもUNIMITESです。
今回は黒森峰男子学園の紹介となります。



UNI「久しぶりの歩兵紹介編です」

ヤガミ「いやー、まさか他の学校が助けに来てくれるなんてねー。凛祢くんの人望かなー」

UNI「聖羅やアルベルトだけでなく、いままで戦ったみんなが駆け付けてますから」

ヤガミ「ではでは、まずは決勝で対戦したこと黒森峰男子学園の紹介です」

UNI「アサルトツェーンの第ニ、八、十席と最も多くの十傑が選出されています」

 

 

NO1.黒森峰男子学園

 黒森峰女学園と同じ学園艦に建てられた男子校。

 主にドイツ製の兵装を使用し、突撃兵を始め偵察兵、狙撃兵、砲兵といった兵科バランスの取れた編成を取っている。

 砲兵の武器が十分に確保されているため、工兵の採用だけはない。

 個々の実力もさながら、隊列の取れた連携を得意としているものの臨機応変に対応できる人員はあまり多くない。

 それでも、聖羅や悠希、龍司たち十傑メンバーやビスマルクたちの実力で十分に補えている。

 今回は戦車4輌参戦のため、α分隊(3名)、β分隊(5名)、γ分隊(5名)、Δ分隊(5名)の全18名が参戦した。

 機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズのキャラが主にモチーフとなっています。

 

『黒咲聖羅』

 身長175㎝、誕生日/5月5日、血液型/A型、所属/黒森峰α分隊 好きな武器/H&K HK416、出身/山梨県大里郡。CV細谷佳正

 兵科:砲兵

 パラメーター

 筋力:C+   射撃:B

 敏捷:B    CQC能力:B+

 幸運:C    才能:なし

 黒髪に、多少筋肉質な体格の少年。モチーフキャラ オルガ・イツカ

 本作品のオリジナルキャラの一人。黒森峰男子学園歩兵隊の、隊長であり、α分隊の分隊長。そして、アサルトツェーン第二席である。

 好戦的な性格に、元突撃兵であるため射撃、CQC戦闘能力と戦闘能力は凛祢に負けず劣らず高い。かつては「勝利の脅迫関連」に狩られ、勝つことを優先した戦い方をしていたものの全国大会で凛祢に敗れたことで現在は、無慈悲な戦い方はせず、過去のように歩兵道を楽しもうとしている。

 また、高いカリスマ性とリーダーシップを備える事から多くの仲間から慕われている。特に凛祢とは昔からの付き合いであり、彼とは実の兄弟よりも強い絆で結ばれている。彼自身は気づいていないが、聖羅には味方の能力を無意識に最大限発揮させる力がある。

 黒鉄中学時代、凛祢との連携で様々な中学を破り勝利しており、仲間との連携にも優れている。

 凛祢と同様、元突撃兵だが、戦術の幅を広げるために中学時代から砲兵へと転科した。

 随伴する戦車はティーガーⅠ

 

 使用武装

・対戦車ロケット擲発射器『パンツァーシュレック』

 歩兵道ルールの弾数制限により全4発をストックしている。使用弾薬 ロケット弾。

 

・自動拳銃『H&K MARK 23』

 攻撃力重視で聖羅が選んだ副武装の一つ。サプレッサーを標準装備している。

 使用弾薬 .45口径弾。

 また、α分隊ではあらゆる状況に対応するため、マガジンを共有できるよう全員がこれを装備している。

 

・伸縮式警棒

 歩兵道連盟の平賀孫市が作成した武装の一つ。伸縮式であるため、非使用時は短くしてベルトにマウントすることが可能。

 また、伸ばすことで50cmとなる円筒上の警棒となる。

 コンバットナイフよりもリーチの長さや叩きつけると言う使用上、使い慣れればコンバットナイフを上回る性能を誇る。

 コンバットナイフの刀身も破壊可能ではあるが、扱いが難しく採用しているのは現在黒森峰男子学園の聖羅、ビスマルクと砲兵部隊数名である。

 

・コンバットナイフ

 凛祢が使用しているものと同様

 

 イメージカラー:黒 得意なこと:射撃、作戦立案

 

『星宮悠希』

 身長165㎝、誕生日/8月19日、血液型/B型、所属/黒森峰β分隊 好きな武器/鈍器、出身/熊本県熊本市。CV河西健吾

 兵科:突撃兵

 パラメーター

 筋力:B    射撃:D

 敏捷:A    CQC能力:A

 幸運:C    才能:超反射

 黒髪に、小柄だが筋力特化の少年。モチーフキャラ 三日月・オーガス

 黒森峰男子学園歩兵隊の、副隊長であり、β分隊の分隊長である。そして、アサルトツェーン第八席である。

 突撃兵でありながら凛祢以上に射撃が不得意。しかし、それでも彼にはCQC戦闘能力だけで、敵を倒せるだけの力を持つ。

 ソードメイスによる近接戦闘を得意としており、剣術ではなく純粋なパワーと反射神経で敵を圧倒する戦闘スタイルを取る。

 高校から歩兵道を始めたが、その戦闘能力は凛祢にも負けておらず、直感とよく似た超反射を有している。

 直感とは異なり超反射は視覚、張力を頼りにしているため、アルベルトの跳弾も回避できるが、長距離狙撃による攻撃には対応できないといった欠点もある。

 ドライフルーツが好物であり、よく食べている。

 全国大会では、その戦闘能力でアグラウェインとモルドレット、アーサー、他にも多くの歩兵を下した。

 随伴する戦車はティーガーⅡ

 

 使用武装

・鋼鉄剣鎚『ソードメイス』

 黒森峰で悠希専用に制作されたバスターソード。大型の武装であるが、悠希の俊敏性を損なわないギリギリの重量調整がされている。

 悠希は、この武装で切り伏せるよりも叩き潰す使い方をしている。その大きさから防御としても使用可能。

 

 

・自動拳銃『H&K USP』

 副武装として採用しているものの戦闘スタイルが近接戦闘であるため、使用回数は数度。その際も牽制であるため命中回数は0。

 2丁装備しているが、基本右手でしか使用しない。

 使用弾薬 9mmパラベラム弾

 

 イメージカラー:白 得意なこと:ソードメイスによる対人戦

 

『朝倉龍司』

 身長165㎝、誕生日/10月10日、血液型/AB型、所属/黒森峰γ分隊 好きな武器/H&K MP7、出身/熊本県熊本市。CV河西健吾

 兵科:偵察兵

 パラメーター

 筋力:D    射撃:B

 敏捷:B+   CQC能力:C

 幸運:B    才能:特になし

 赤髪に、細身の少年。モチーフキャラ なし

 赤星小梅の立ち位置にあたる。凛祢とは同い年であり黒森峰男子学園に所属する歩兵、γ分隊の分隊長である。そして、アサルトツェーン第十席である。

 偵察兵でも、‌随一の射撃センスを持っている。

 全国大会ではその射撃センスと早撃ちでかなりの数の歩兵を屠り、十傑入りできた。

 アルベルトに早撃ち技術を学び、MP7による十発の銃弾を早撃ちする技「十弩」を身に着けいる。

 CQC能力もそれなりにこなせるため、突撃兵になってもおかしくないのだが、彼自身は軽装備の偵察兵を貫いている。

 全国大会では、その戦闘能力では翼と塁を一人で倒している。

 随伴する戦車は小梅車パンターG型

 

 使用武装

・短機関銃『MP7』

 アルベルトとの訓練でより小型の武装を推薦されたため、選んだ銃。

 龍司は2丁装備しているが、早撃ちと十弩は利き手の右手でしか使用できない。

 

 

・自動拳銃『H&K MARK23』

 

・コンバットナイフ

 

 イメージカラー:赤 得意なこと:射撃、早撃ち(十弩)

 

 

『ビスマルク・アークライド』

 身長175㎝、誕生日/2月14日、血液型/A型、所属/黒森峰α分隊 好きな武器/パンツァーシュレック、出身/熊本県熊本市。CV内匠 靖明

 兵科:砲兵

 パラメーター

 筋力:A    射撃:C+

 敏捷:C    CQC能力:C

 幸運:C    才能:特になし

 鍛え抜かれた筋肉を持つガタイのいい少年。モチーフキャラ 昭弘・アルトランド

 考えて動くよりも、その場の勘で動くことが多く、脳筋な戦い方をするのが特徴。

 凛祢と黒鉄中学時代に何度かツーマンセルを組んだことがある。

 射撃、CQC能力共に平均的だが、その筋力で殴る、蹴る、警棒で叩くなど絶大なダメージを与えられる。

 しかし、隙のできやすい大振りな攻撃が多いため、全国大会決勝戦ではフットワークの軽い辰巳に翻弄され、最終的に相討ちとなった。

 以外にも学科の成績が良く、聖羅と同様に砲兵資格試験に一発合格している。

 それでも作戦立案などは苦手。

 随伴する戦車はティーガーⅠ

 

 使用武装

・対戦車ロケット擲発射器『パンツァーシュレック』

 

・自動拳銃『H&K MARK 23』

 

・伸縮式警棒

 

・コンバットナイフ

 

 イメージカラー:黄 得意なこと:なし

 

 

『グラーフ・シュバルド』

 身長175㎝、誕生日/3月11日、血液型/A型、所属/黒森峰α分隊 好きな武器/ワルサーWA2000、出身/熊本県熊本市。CV鳥海浩輔

 兵科:狙撃兵

 パラメーター

 筋力:D    射撃:A+

 敏捷:C    CQC能力:C

 幸運:C    才能:特になし

 表情の変化が少ない少年。モチーフキャラ なし

 ビスマルクとは正反対で、考え過ぎるほど慎重な性格であり、狙撃体制に入ってから数時間はその体制を維持する我慢強さを合わせ持つ。

 狙撃兵という兵科のため、主に援護を得意としており、聖羅やビスマルクを後方から支援する無くてはならない存在。

 射撃能力は狙撃に限らず、アサルトライフルや拳銃の射撃も高水準である。

 黒森峰は砲兵が多いため、対戦車狙撃銃を使用する必要がなく主に対人狙撃を行っていた。

 随伴する戦車はティーガーⅠ

 

 使用武装

・狙撃銃『ワルサーWA2000』

 H&K社の武器ばかりを揃えている黒森峰で唯一異なるワルサー社の銃。

 グラーフが黒鉄時代に使用し、使い慣れていたため黒森峰でわざわざ購入してもらった銃。

 

 

・自動拳銃『H&K MARK 23』

 

・伸縮式警棒

 

・コンバットナイフ

 

 イメージカラー:青 得意なこと:狙撃

 

 

『黒咲聖菜』

 身長141㎝、誕生日/6月4日、血液型/A型、所属/小梅車パンターG型操縦手 好きな戦車/三号戦車J型、出身/熊本県熊本市。CV加隈亜衣

 オリジナルキャラの一人。黒森峰女学園の生徒。

 聖羅の妹であり、凛祢や龍司たちの一つ下の学年(高校一年)。

 謙虚な性格で、聖羅の妹であったため、黒森峰女学園では小梅を始めとした、様々な先輩に可愛がられていた。

 黒鉄時代から戦車道を受講しており、ミッコの影響で操縦手となった。

 ミッコと同様にかなりの操縦テクニックを持っており、バランス型のパンターで小梅と共に数多くの戦車を走行不能にしている。

 全国大会ではオオカミチームのキャバリエと相討ちとなった。

 

 イメージカラー:白 得意なこと:運転、戦車操縦

 

 

UNI「以上が、オリジナルキャラになりますね」

ヤガミ「ビスマルクやグラーフ、聖菜に関してはガルパンにキャラのいない完全オリジナル枠になっているんですね」

UNI「そうですね。まあ、彼らは聖羅や龍司と同様に過去編にも登場していたキャラなので、凛祢とも付き合いが長いですね」




今回も読んで頂きありがとうございます。
黒森峰男子学園の主要キャラは以上になります。
次回は、アルバート編になります。
では、また次回のお話で。


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キャラクター紹介 アルバート大学付属高校

どうもUNIMITESです。
今回は、アルバートの紹介になります。
では、どうぞ。


ヤガミ「では、つぎはサンダースと共に駆けつけてくれたアルバート大学付属高校ですね!」

UNI「はい。アメリカ製の武装を主に使用していましたね。それと第九席のいる学校です」

 

 

NO2.アルバート大学付属高校

 サンダース大学付属高校と同じ学園艦に建てられた男子校。

 主にアメリカ製の兵装を使用し、圧倒的な人員と砲兵による火力重視の歩兵が多い反面、偵察兵と狙撃兵が少なく、人員の多さで個々の実力が成熟しきっていない者もいる。

 その中でもレオン、ブラッド、ピアーズは相当な鍛錬を積み、隊長と副隊長になった。

 レオンとブラッドが3年生であり、ピアーズは2年生。

 今回は戦車3輌参戦のため、スターズ分隊(6名)、ブラヴォー分隊(6名)、二―ヴァス分隊(6名)の全18名が参戦した。

 バイオハザードのキャラが主にモチーフとなっています。

 

『レオン・ハード』

 身長170㎝、誕生日/8月18日、血液型/A型、所属/アルバート スターズ分隊 好きな武器/M16、CV森川 智之

 兵科:突撃兵

 パラメーター

 筋力:C    射撃:B

 敏捷:B    CQC能力:C+

 幸運:C    才能:なし

 モチーフキャラ レオン・S・ケネディ

 本作のオリジナルキャラ。アルバート大学付属高校歩兵隊の、隊長であり、スターズ分隊の分隊長。そして、アサルトツェーン第九席である。

 常にクールで正義感が強く、どんな武器も扱える器用さを持っている。ただし、砲兵武器工兵武器だけは資格を取得していないため装備できない。

 射撃が得意であり、主に大型拳銃など射撃による中距離戦闘を行う。

 女慣れしているが、サンダースのケイに振り回されることが多く、女難の層がある。

 今回は、より攻撃に特化したM870とデザートイーグル装備で参戦している。

 アルバートで様々な銃を触り、そのすべての構造を把握し分解、組み立てが可能。

 随伴する戦車はケイ車シャーマン

 

 使用武装

・散弾銃『レミントンM870』

 ロングバレル化による装填弾数の増加、木製ストックによる安定性の向上といった改造が施された散弾銃。

 使用弾薬 12ゲージ弾

 

 

・大型拳銃『デザートイーグル』

 主武装であるM870に負けないほどの火力を誇るマグナム拳銃。歩兵の胴に命中させれば、一撃でも確実に戦死判定の取れる威力がある。

 そのため、弾数制限がある。

 使用弾薬 .44マグナム弾

 

・コンバットナイフ

 凛祢が使用しているものと同様

 

 イメージカラー:青 得意なこと:射撃、銃の分解

 

 

『ブラッド』

 身長172㎝、誕生日/9月26日、血液型/B型、所属/アルバート ブラヴォー分隊 好きな武器/M72 LAW、CV東地宏樹

 兵科:砲兵

 パラメーター

 筋力:B    射撃:C

 敏捷:C    CQC能力:C+

 幸運:C    才能:なし

 モチーフキャラ クリスレッドフィールド

 アルバート大学付属高校歩兵隊の副隊長であり、ブラヴォー分隊の分隊長。

 レオンとは真逆に、熱くなりやすい性格で、すぐに周りが見えなくなってしまう。

 それでも、戦闘能力はレオンやピアーズと同様に高く、対戦車砲撃と射撃を主な攻撃手段としている。

 また、格闘戦もそれなりにでき、レオンとは何度か手合わせしたことがあり、お互いに認め合う間柄。

 特に投げ技が得意。

 随伴する戦車はナオミ車ファイアフライ

 

 使用武装

・対戦車兵器『M72 LAW』

 使用弾薬 対戦車ロケット弾

 弾数制限により全4発をストックしている。 

 

・軍用小銃『M4』

 主武装の弾数が少なく、撃ち尽くしてからの戦闘能力を低下させないために選んだアサルトライフル。

 なるべく多く弾薬を確保するためマガジンは30発のマガジンを使用している。

 

・コンバットナイフ

 

 イメージカラー:黒 得意なこと:柔道

 

 

 

『ピアーズ』

 身長172㎝、誕生日/9月26日、血液型/B型、所属/アルバート 二―ヴァス分隊 好きな武器/、CV阪口周平

 兵科:狙撃兵

 パラメーター

 筋力:D    射撃:A

 敏捷:C    CQC能力:C+

 幸運:C    才能:なし

 モチーフキャラ ピアーズ・ニヴァンス

 アルバート大学付属高校歩兵隊のもう一人の副隊長であり、二―ヴァス分隊の分隊長。

 冷静な性格ではあるが、感情的な面も併せ持つ少年。狙撃を得意としており、後方射撃を得意としている。

 熱くなりやすいブラッドをなだめ、レオンの指示にも忠実に従う優秀な部下としてアルバートを支えている。

 随伴する戦車はアリサ車シャーマン

 

 使用武装

・対物狙撃銃『バレットM82』

 戦車の装甲を抜くことはできないが、凛祢たちの使用する防弾加工外套を装備しても一撃リタイア可能な威力を誇る。

 また、駆動車の撃破にも使用可能。

 使用弾薬  12.7x99mm NATO弾

 

・自動拳銃『コルト・ガバメント』

 スクワッドジャムで凛祢が使用したものとは、異なり改造などは施されていない通常のモデル。

 .45ACP弾のため、拳銃でも威力は高い。

 使用弾薬 .45ACP弾

 

・コンバットナイフ

 

 イメージカラー:黒 得意なこと:狙撃

 

UNI「以上3名が、アルバートの主要メンバーになります」

ヤガミ「ここも、突撃兵、狙撃兵、砲兵と悪くないバランスですね」

 




今回も読んで頂きありがとうございます。
アルバートの紹介どうだったでしょうか。
次回はプラウダと共に駆けつけ、凛祢の好敵手であるアルベルトのいる
ファークト高校になります。
では、また次回。


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キャラクター紹介 ファークト高校

どうもUNIMITESです。
今回はキャラクター紹介3回目のファークト高校になります。


UNI「次はファークト高校になります」

ヤガミ「確かロシアの人たちだよね。同志同志言ってる」

UNI「そうですね。あと、ここにも十傑第四席と五席が選ばれてます」

ヤガミ「では、3回戦で大洗連合が対戦したファークト高校の紹介です」

 

NO3.ファークト高校

 プラウダ高校と同じ学園艦に建てられた男子校。

 主にロシア製の兵装を使用し、黒森峰と同様に突撃兵を始め、狙撃兵、砲兵といった兵科バランスの取れた編成を取っている。

 砲兵の武器が十分に確保されているため、工兵の採用だけはない。また偵察兵も少ない。

 アルバートは違い、個々の実力も高く、去年の全国大会では黒森峰に勝利している。

 また、プラウダの生徒と信頼しあっているため連携面でも大洗連合にも負けていない。

 今回は戦車4輌参戦のため、アル分隊(4名)、エレン分隊(4名)、ガン分隊(4名)、KV2分隊(4名)の全16名が参戦した。

 

『アルベルト』

 身長170㎝、誕生日/6月9日、血液型/A型、所属/アル分隊 好きな武器/リボルバー銃全般

 CV戸谷 公次

 兵科:突撃兵

 パラメーター

 筋力:C+   射撃:A

 敏捷:C+   CQC能力:B+

 幸運:C    才能:跳弾使い

 「リボルバー・アルベルト」は自称であったが、その戦闘スタイルからいつの間にか、周囲からもその名で呼ばれるようになっていた少年。

 モチーフキャラ リボルバー・オセロット

 本作品のオリジナルキャラの一人。ファークト高校歩兵隊の隊長であり、アル分隊の分隊長。そして、アサルトツェーン第四席である。

 好戦的な性格をしており、常に強者との戦いを求める。

 射撃と早撃ち、蹴り技を得意としている。

 彼も高いカリスマ性を持っており、エレンやガングートにも慕われている。

 本編の全国大会にて、一騎打ちではなかったとはいえ唯一、葛城凛祢に勝利している歩兵。

 赤山中学時代から才能として跳弾を操る能力を有しており、その力で様々な歩兵を翻弄、屠ってきた。

 彼曰く、銃弾の気持ちがわかるらしい。

 実のところヴィダールが三席になったことで、今年の十傑のベスト3に突撃兵が入賞していない前代未聞の結果には少し不満を感じてもいる。

 凛祢とはお互いによき好敵手(ライバル)として、認め合っている。

 カチューシャにもよく信頼されており、惚れられてもいる。

 随伴する戦車はカチューシャ車T-34/85

 

 使用武装

・自動小銃『AK-47』

 

 

・回転式拳銃『ナガンM1895』

 総弾数7発であり、アルベルトはこの銃で跳弾と早撃ちを駆使して様々な敵を屠ってきた。

 稀にだが、リロード中に「俺のリロード革命」という言葉を口しているらしい。

 使用弾薬 7.62x38mmナガン弾

 

・コンバットナイフ『NRSナイフ型消音拳銃』

 見た目も凛祢たちの使用するものとは多少異なっており、グリップに拳銃弾を発射する機構が仕込まれたナイフ。

 初めて対峙する際の奇襲でしか命中させるのが難しく、アルベルトも使用する機会は極めて低い。

 また、一発打ち切りでリロード用の銃弾も用意していない。

 

 イメージカラー:赤 得意なこと:射撃、早撃ち、速攻リロード

 

『エレン』

 身長160㎝、誕生日/9月6日、血液型/B型、所属/エレン分隊 好きな武器/デグチャレフ

 CV茅原実里

 兵科:狙撃兵

 パラメーター

 筋力:D    射撃:A

 敏捷:C    CQC能力:C

 幸運:C    才能:超反射

 水色の髪に、華奢な体つきの少年。モチーフキャラ レキ(緋弾のアリアより)

 ファークト高校歩兵隊の、副隊長であり、エレン分隊の分隊長である。そして、アサルトツェーン第五席である。

 ドラグノフ狙撃銃による対人狙撃を行うだけでなくデグチャレフによる対戦車狙撃までこなす狙撃手。

 今回はドラグノフを主武装としており、デグチャレフは他の狙撃兵が使用するものを借りて使用するスタイルを取っている。

 普段からあまり表情を表に出さず口数も少ない。

 赤山中学時代はアルベルトとツーマンセルを組んで戦い、凛祢とも数回戦っている。

 全国大会では、デグチャレフの狙撃によってオオワシ分隊やアーサー、シャーロックを戦闘不能にしている。

 随伴する戦車はIS-2

 

 使用武装

・狙撃銃『ドラグノフ』

 ナイフを銃身に装着して、槍の様な使用も可能な狙撃銃。

 

・自動拳銃『MP-446』

 副武装として採用しているものの狙撃兵であるため、肉薄しての戦闘が少なく全国大会でも使用することはなかった。しかし、エレンも拳銃射撃はそれなりにできるため使用する上での問題はない。

 使用弾薬 9mmパラベラム弾

 

・コンバットナイフ

 

 イメージカラー:青 得意なこと:狙撃

 

『ガングート』

 身長170㎝、誕生日/7月18日、血液型/B型、所属/ガン分隊 好きな武器/AK-47

 兵科:突撃兵

 パラメーター

 筋力:C    射撃:B

 敏捷:C    CQC能力:B

 幸運:B    才能:特になし

 白髪に、細身の少年。モチーフキャラ なし

 クラーラの立ち位置にあたる。アルベルトやエレンと同い年でありクラーラとは幼馴染。ガン分隊の分隊長である。

 射撃からCQC戦闘まで、そつなくこなせる反面、アルベルトの跳弾や凛祢の直感といった才能を持たない。

 それでも、1対1で対決すると勝利するのは難しいと周囲から言われている。

 去年の全国大会決勝では、一人で悠希と戦い時間を稼いだことで勝利に貢献した。

 随伴する戦車はクラーラ車T-34/85

 

 使用武装

・自動小銃『AK-47』

 

・自動拳銃『MP-446』

 

・コンバットナイフ

 

 イメージカラー:黒 得意なこと:特になし

 

 

UNI「以上が、ファークトキャラになりますね」

ヤガミ「アルベルトとエレンは結構登場していましたよね。リボルバーさんにスナイパーさん」

UNI「次回は聖ブリタニアの生徒たちの紹介になります」




今回も読んで頂きありがとうございます。
次回は聖ブリタニアの紹介となります。


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キャラクター紹介 聖ブリタニア高校

どうもUNIMITESです。
少し時間が空いて申し訳ありません。
では聖ブリタニア高校の紹介となります。
どうぞ


UNI「次は聖ブリタニア高校になります」

ヤガミ「今回はイギリスですね。オオカミチームのキャバリエなどの巡航戦車を随伴してる」

UNI「そうですね。あと、ここは凛祢が歩兵道を再び始めた際に初めて対決した相手ですね」

ヤガミ「確か隊長のケンスロットさんは六席ですよね。では、初戦で大洗連合が対戦した聖ブリタニア高校の紹介です」

 

NO4.聖ブリタニア高校

 聖グロリア―ナ女学院と同じ学園艦に建てられた男子校。

 主にイギリス製の兵装と金属剣を使用している。黒森峰やファークトに比べれば砲兵がおらず、突撃兵、狙撃兵、偵察兵、工兵といった兵科バランスは取れている。金属剣を使用する者が多く、アーサーや悠希の様な射撃戦よりも剣術による近接戦闘が得意。

 しかし、大洗と同様に戦車に対しての攻撃手段は工兵と戦車だけとなっている。

 それでもケンスロットやモルドレットをはじめとした突撃兵たちは実力者揃いであり、狙撃兵のガノスタンも1人で八尋と翼に勝てる実力を持つ。ケンスロット、ガノスタン、アグラウェインは3年生であり、ベディビエールは2年生、モルドレットは1年生。

 今回は戦車3輌参戦のため、ラウンズ分隊(3名)、ロイヤル分隊(6名)、シルバー分隊(6名)の全15名が参戦した。

 

『ケンスロット』

 身長167㎝、誕生日/2月2日、血液型/A型、所属/ラウンズ分隊 好きな武器/金属剣

 CV置鮎龍太郎

 兵科:突撃兵

 パラメーター

 筋力:C+   射撃:C

 敏捷:C+   CQC能力:A

 幸運:C    才能:騎士王剣術

 アーサー王伝説のランスロット卿の血を引く子孫である。

 モチーフキャラ なし

 本作品のオリジナルキャラの一人。聖ブリタニア高校歩兵隊の隊長であり、ラウンズ分隊の分隊長。そして、アサルトツェーン第六席である。

 冷静な性格をしており、状況分析と金属剣による剣術を得意としている。

 使用する鋼鉄刀剣はランスロット卿が使用していたと言う剣の名と同じアロンダイト。

 アーサーと同様高い剣術センスを持っており、主に防御からの反撃が戦闘スタイルになっている。

 本編では油断していたために凛祢に敗北する寸前まで追い込まれていた。

 随伴する戦車はチャーチル

 

 使用武装

・鋼鉄直剣『アロンダイト』

 聖ブリタニア高校にて作成された金属剣。

 重量や刀身の長さ、形状はケンスロット専用に製造された武装である。

 重量は軽め、刀身が細長い。

 刀身はアーサーの使用する金属剣「エクスカリバー・アルビオン」と同じ素材が使用されている。

 

・アサルトライフル『L85A1』

 

・回転式拳銃『エンフィールドリボルバー』

 

 イメージカラー:白 得意なこと:剣術、受け流し

 

『ガノスタン』

 身長173㎝、誕生日/9月6日、血液型/B型、所属/ラウンズ分隊 好きな武器/L96A1

 CV保志総一朗

 兵科:狙撃兵

 パラメーター

 筋力:D    射撃:A

 敏捷:C    CQC能力:B

 幸運:C    才能:なし

 金髪に、空色の瞳の少年。モチーフキャラ ジノ(コードギアスより)

 聖ブリタニア高校歩兵隊の、副隊長であり、ラウンズ分隊の所属。

 アーサー王伝説のトリスタンの血を引く実の子孫である。

 対人狙撃を主な攻撃手段とする狙撃手。明るい性格をしており、面白いことにはすぐ関わりたがる。

 その性格からオレンジペコにはよく不真面目な先輩と思われがちがだ、やるときはやる男、

 特に狙撃によるセンスはエレンにも負けていない。

 また、二本の鋼鉄短剣「イゾルデの剣」による近接戦闘も八尋と翼を打ち負かす程の実力を持つ。

 随伴する戦車はチャーチル

 

 使用武装

・狙撃銃『L96A1』

 ガノスタン用に改修の施された狙撃銃、ガノスタン自身はフェノルノートとも呼んでいる。

 ストックを木製のものに変更され、ドラグノフと同様に銃身にイゾルデの剣を取り付けて槍の様にして使用することができる。

 使用弾薬 7.62x51mm弾

 

・鋼鉄短剣『イゾルデの剣(つるぎ)』

 コンバットナイフよりも刀身が長く、ダガーに近い形状をしている。

 刀身の素材はアロンダイト、エクスカリバーと同様の素材。

 ガノスタンは腰に二本収納している。

 

 イメージカラー:空色 得意なこと:狙撃

 

『モルドレット・ペンドラゴン』

 身長150㎝、誕生日/9月20日、血液型/B型、所属/ラウンズ分隊 好きな武器/金属剣

 兵科:突撃兵

 パラメーター

 筋力:C    射撃:D

 敏捷:B    CQC能力:A

 幸運:D    才能:騎士王剣術

 金髪に、赤い瞳を持つ少年。モチーフキャラ モードレッド(fate)

 大洗のアーサーとは実の兄弟であり、アーサー王の血を引く実の子孫。

 ケンスロット、ガノスタンと比べ、熱くなりやく、すぐに頭に血が上ってしまう。

 それでも自身の剣術に圧倒的な自信を持っている。

 アッサムに惚れてはいるものの、なかなか素直になれていない。

 随伴する戦車はチャーチル

 

 使用武装

・金属刀剣『モルガンカリバー』

 アーサーの扱っていたカリバーンと形状がよく似た金属剣。

 元々聖ブリタニアで使用されていた剣であり、モルドレット専用に制作されたものではない。

 それでも、モルドレットはこの剣を使用して、剣術においてはアーサーに一度勝利している。

 

・回転式拳銃『エンフィールドリボルバー』

 

 イメージカラー:赤 得意なこと:剣術

 

 

『アグラウェイン』

 身長167㎝、誕生日/12月20日、血液型/A型、所属/ロイヤル分隊 好きな武器/金属剣

 兵科:突撃兵

 パラメーター

 筋力:C    射撃:C

 敏捷:B    CQC能力:A

 幸運:D    才能:騎士王剣術

 金髪に、黒い瞳を持つ少年。モチーフキャラ ガウェイン(fate)

 アーサー王伝説のガウェインの血を引く実の子孫。

 ロイヤル分隊の分隊長である。

 冷静であり、熱くなっているモルドレットをよくなだめている。

 剣術はケンスロット、モルドレットに負けていないが、モルドレットとはことなり謙遜している。

 随伴する戦車はマチルダ

 

 使用武装

・金属刀剣『ガラティン』

 アーサーの扱っていたカリバーンと形状がよく似た金属剣であり、ケンスロットのアロンダイト同様にアグラウェイン専用に制作された金属剣

 銃弾をガードしても砕けない硬度を誇っている。

 

・アサルトライフル『L85A1』

 

・回転式拳銃『エンフィールドリボルバー』

 

 イメージカラー:橙 得意なこと:剣術

 

『ベディビエール』

 身長167㎝、誕生日/1月26日、血液型/A型、所属/シルバー分隊 好きな武器/金属剣

 兵科:突撃兵

 パラメーター

 筋力:C    射撃:B

 敏捷:B    CQC能力:B

 幸運:B    才能:騎士王剣術

 銀髪に、銀の瞳を持つ少年。モチーフキャラ ベディビエール(fate)

 シルバー分隊の分隊長である。

 剣術と射撃もそれなりにこなす器用貧乏。それ故に、聖ブリタニア高校でもあまり目立っていない。

 随伴しているクルセイダーの車長ローズヒップとは幼馴染であり二人とも庶民の出でもある。

 またローズヒップが勢いに任せた戦術を取るのに対して、ベディビエールは合理的な戦術を取るため、

 お互いに長所を活かし、短所を手助けしている。

 随伴する戦車はクルセイダー

 

 使用武装

・金属刀剣『キャリバー』

 アーサーの扱っていたカリバーンと形状がよく似た金属剣。

 銃弾をガードしても砕けない硬度を誇っている。

 

・アサルトライフル『L85A1』

 

・回転式拳銃『エンフィールドリボルバー』

 

 イメージカラー:銀 得意なこと:特になし

 

 

UNI「以上が、聖ブリタニアのキャラになりますね」

ヤガミ「聖ブリタニアは凛祢君たちが初めて対決した学校でしたからね。あの頃に比べたらみんな成長しましたね」

UNI「次回はノリと勢いアルディーニ学園の生徒たちの紹介になります」




今回も読んで頂きありがとうございます。
次回はアルディーニ学園の紹介となります。
ではまた次回


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キャラクター紹介 アルディーニ学園

どうもUNIMITESです。
今回は、ノリと勢いのアルディーニ学園になります。
では本編をどうぞ。


UNI「次はアルディーニになります」

ヤガミ「今回はイタリアですね。ノリと勢いの」

UNI「そうですね」

ヤガミ「確か隊長のメッザルーナさんは七席ですよね。では、2回戦で大洗連合が対戦したアルディーニ学園の紹介です」

 

NO5.アルディーニ学園

 アンツィオ高校と同じ学園艦に建てられた男子校。

 主にイタリア製の兵装を使用している。聖ブリタニアと同様に砲兵がおらず、突撃兵、狙撃兵、偵察兵、工兵といった兵科でチームが編成されている。

 戦車の性能差を工兵によって埋めた大洗と同様に、工兵の有用性を全国大会で広めた数少ない学校の一つ。

 今回は戦車CV-33の1輌参戦のため、全3名が参戦した。

 

『メッザルーナ』本名:三日月咲夜

 身長175㎝、誕生日/6月10日、血液型/A型、所属/アルディーニ分隊 好きな武器/ベレッタARX160

 CV中村悠一

 兵科:工兵

 パラメーター

 筋力:B   射撃:A

 敏捷:B   CQC能力:B

 幸運:C    才能:特になし

 モチーフキャラ なし

 本作品のオリジナルキャラの一人。アルディーニ学園歩兵隊の隊長であり、アルディーニ分隊の分隊長。そして、アサルトツェーン第七席である。

 ノリが良く、コミュニケーション能力が極めて高い。それでも歩兵道となれば、十傑入りするだけの実力者であり周囲からの信頼も熱い。

 元突撃兵であり、大会で戦う中で自身の兵科では勝つことが難しくなったために工兵になった。

 凛祢や聖羅と同様に元突撃兵であったため、その戦闘能力は高く、全国大会では凛祢と相討ちになり好敵手となった。

 アンツィオ高校でもファンクラブができるほどモテているが、彼はアンチョビ以外の女子にはまったく興味を示していない。

 アンツィオ高校のアンチョビとは1年の時からの仲であり、全国大会後に正式に付き合うことになった。

 随伴する戦車はCV-33

 

 使用武装

・対戦車プラスチック爆薬『ヒートアックス』

 

・アサルトライフル『ベレッタARX160』

 

・自動拳銃『ベレッタM93R』

 3点バーストとセミオートを手動で切り替え可能な機構を平賀孫市に頼み込んで搭載してもらったベレッタM93。

 

・コンバットナイフ

 

 イメージカラー:緑 得意なこと:CQC戦闘

 

『チェーザレ』

 身長153㎝、誕生日/7月9日、血液型/B型、所属/アルディーニ分隊 好きな武器/ベレッタシリーズ全般

 兵科:工兵

 パラメーター

 筋力:D    射撃:C

 敏捷:C    CQC能力:C

 幸運:C    才能:なし

 アルディーニ学園歩兵隊の、副隊長であり、アルディーニ分隊の所属。

 ペパロニの立ち位置にあたる。

 性格はペパロニと同様に考えるのが苦手であり、戦闘でも勢いで攻めることが多い。

 最初から工兵になることを目標としていたため、爆弾戦術以外は一般的な偵察兵と同様の実力である。

 全国大会では凛祢と交戦して敗北した。

 随伴する戦車はCV-33

 

 使用武装

・対戦車プラスチック爆薬『ヒートアックス』

 

・アサルトライフル『ベレッタARX160』

 

・自動拳銃『ベレッタM93R』

 メッザルーナの物とは異なり、3点バーストのみのベレッタM93。

 

・コンバットナイフ

 

 イメージカラー:黄緑 得意なこと:爆弾戦術

 

『マリーダ』

 身長160㎝、誕生日/9月15日、血液型/A型、所属/アルディーニ分隊 好きな武器/ベレッタAR70/90

 兵科:突撃兵

 パラメーター

 筋力:C    射撃:B

 敏捷:B    CQC能力:B

 幸運:D    才能:特になし

 カルパッチョの立ち位置にあたる。

 性格は冷静であり、口数も少ない。それでも戦闘能力はアルディーニでは高い。

 作戦立案と射撃を主に得意としており、メッザルーナとの突撃などが戦闘スタイルとなる。

 全国大会ではシャーロックと交戦して敗北した。

 随伴する戦車CV-33

 

 使用武装

・アサルトライフル『ベレッタAR70/90』

 

・自動拳銃『ベレッタM93R』

 メッザルーナの物とは異なり、セミオートのみのベレッタM93。

 

・コンバットナイフ

 

 イメージカラー:赤 得意なこと:作戦立案、射撃

 

 

UNI「以上が、アルディーニのキャラになりますね」

ヤガミ「アルディーニは凛祢君が超人直感を再発したときの対戦校でしたね」

UNI「次回は第三席のいる冬樹学園の生徒たちの紹介になります」




今回も読んで頂きありがとうございます。
紹介シリーズも残りは冬樹と重桜となります。
紹介シリーズが終了後は、本編がまた再開しますので、
これからもよろしくお願いします。


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キャラクター紹介 冬樹高校

どうもUNIMITESです。
今回で紹介する高校も6校目になります。
では本編どうぞ


UNI「次は冬樹になります」

ヤガミ「今回はフィンランドですね。ミカさんたちはかなり強い人たちですよね。1輌で戦う姿はまるで島田流みたいでした」

UNI「そうですね」

ヤガミ「確か隊長のヴィダールさんは三席ですよね。準決勝で大洗連合が対戦した冬樹高校の紹介です」

 

NO6.冬樹学園

 継続高校と同じ学園艦に建てられた男子校。

 主にフィンランド製の兵装を使用しているものの、大洗と同様に様々な種類の武装を扱っている。

 突撃兵、狙撃兵、偵察兵、工兵といった兵科でチームが編成されている。

 資金不足のため、戦車と歩兵の兵装の整備、改造をすべてアキ、ミッコ、司、アンクの4人で行っており、かなりの技術力を持つ。

 今回は戦車BT-42突撃砲の1輌参戦のため、全3名が参戦した。

 

『ヴィダール』

 身長168㎝、誕生日/10月25日、血液型/B型、所属/冬樹分隊 好きな武器/ラハティL-39

 CV松風雅也

 兵科:狙撃兵

 パラメーター

 筋力:B   射撃:A

 敏捷:B   CQC能力:C

 幸運:C    才能:特になし

 モチーフキャラ なし

 本作品のオリジナルキャラの一人。冬樹学園歩兵隊の隊長であり、冬樹分隊の分隊長。そして、アサルトツェーン第三席である。

 アルベルトやエレンと同様に、赤山中学出身。凛祢と交戦することこそなかったものの、狙撃の腕はエレンにも負けていない。

 またナイフによるCQC戦闘能力もアルベルトと同等程度の実力者である。

 一人が好きなため、連携しての戦闘は少なく、主に身を隠しての長距離狙撃で全国大会を勝ち抜いていた。

 司やアンクたちが入学してからは整備技術を教え、整備に参加することは減ったものの整備技術は高い。

 随伴する戦車はBT-42突撃砲

 

 使用武装

・対戦車狙撃銃『ラハティL-39』

 

・短機関銃『MP5』

 

・コンバットナイフ

 

 イメージカラー:青 得意なこと:長距離狙撃

 

『萩風司』

 身長165㎝、誕生日/11月10日、血液型/B型、所属/冬樹分隊 好きな武器/SAKO TRG

 兵科:狙撃兵

 パラメーター

 筋力:C    射撃:B

 敏捷:B    CQC能力:B

 幸運:C    才能:なし

 冬樹学園歩兵隊の、副隊長であり、冬樹分隊の所属。

 本編のオリジナルキャラの一人。リトルインファンタリー時代からの凛祢の戦友であり、友人の一人。

 黒鉄中学時代は凛祢、龍司、ミッコと同学年4人は仲が良く、行動を共にしていた。

 分隊こそ、聖羅たちと組み龍司と組んだのは3年生の1年間しかなかったものの、それでも黒鉄中学を優勝させるほどの結果を残した。

 彼も中学で転科するまでは突撃兵であったため射撃、CQC戦闘共に高い実力を持つ。

 ヴィダールとは異なり、中距離での歩兵狙撃が主な戦闘スタイル。

 随伴する戦車はBT-42突撃砲

 

 使用武装

・狙撃銃『SAKO TRG』

 

・自動拳銃『ブローニングハイパワーDA』

 

・コンバットナイフ

 

 イメージカラー:青 得意なこと:狙撃、CQC戦闘

 

『アンク』

 身長150㎝、誕生日/7月20日、血液型/AB型、所属/冬樹分隊 好きな武器/

 兵科:突撃兵

 パラメーター

 筋力:C    射撃:B

 敏捷:B    CQC能力:B

 幸運:D    才能:特になし

 本編のオリジナルキャラの一人。

 性格はペパロニたちようなノリの良い性格をしているが、自分より弱い相手との戦闘になると慢心してしまう悪い癖を持つ。

 その癖から、全国大会では亮にとどめを刺さなかったために、後ろから撃たれリタイアしてしまった。

 戦闘能力は司や龍司とほぼ同等であるものの、2人の様に狙撃、早撃ちといった長所を持たない器用貧乏。

 黒咲聖菜とは同い年である。

 随伴する戦車はBT-42突撃砲

 

 使用武装

・アサルトライフル『Rk-62』

 銃身にナイフを取り付け、銃剣として使用できるアサルトライフル。

 

・自動拳銃『ブローニングハイパワーDA』

 

・コンバットナイフ

 

 イメージカラー:赤 得意なこと:射撃、CQC戦闘

 

 

UNI「以上が、冬樹のキャラになりますね」

ヤガミ「3人共戦闘技術が高く、まさに少数精鋭ですよね」

UNI「次回は紹介最後となる重桜高校の生徒たちの紹介になります」



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キャラクター紹介 重桜高校

どうもUNIMITESです。
今回は紹介最後となる重桜です。
ではどうぞ。


UNI「次は重桜高校になります」

ヤガミ「紹介編最後は日本ですね。信光さんは惜しくも十席入りはできませんでしたがそれでも物凄く強い方です」

UNI「確かに、彼はあの織田信長の子孫ですからね」

ヤガミ「では紹介シリーズ最後となる重桜高校の紹介です」

 

NO7.重桜高校

 知波単学園と同じ学園艦に建てられた男子校。

 主に日本製の兵装を使用している。

 突撃兵、狙撃兵、偵察兵、工兵といった兵科でチームが編成されている。

 伝統で突撃を主な戦術とする知波単学園とは異なり、状況に合わせて臨機応変対応することが多い。

 工兵もいるものの今回は参戦していない

 今回は戦車九七式中戦車5輌での参戦のため、全20名が参戦した。

 

『織田信光』

 身長168㎝、誕生日/10月27日、血液型/A型、所属/織田分隊 好きな武器/日本刀

 兵科:突撃兵

 パラメーター

 筋力:B   射撃:B

 敏捷:B   CQC能力:B

 幸運:E    才能:特になし

 モチーフキャラ なし

 本作品のオリジナルキャラの一人。重桜高校歩兵隊の隊長であり、織田分隊の分隊長。そして、順位は11番目のイレブンである。

 織田信長の血族であり、その子孫にあたる。普段は表情の変化があまりないが、頭に血が上ると暴言が以上に増える。

 戦闘能力はアルベルトやメッザルーナと同等であり、全国大会では悠希と交戦している間にフラッグが走行不能になったため敗北した。

 長刀による剣術、ライフル武装による射撃、ククリナイフと拳銃によるCQC戦闘どれを取っても高水準である。

 スクワッドジャムでも分隊メンバーと共に様々な歩兵を屠った。

 知波単が作戦立案をあまり重視しないため、信光と光貞が主に作戦立案を行い、臨機応変に対応できるよう隊列を維持することも多々ある。

 光貞とは先祖の因縁があるもののあまり気にしておらず、彼を自身の右腕として同じ分隊で行動している。

 随伴する戦車は西車九七式中戦車

 

 使用武装

・鋼鉄刀剣『太刀』

 日本刀のような片刃の刀剣であり、切れ味を重視している。

 アーサーたちの使用する西洋風の刀剣とぶつかると刀身が折れる危険性があるため、主に受け流して隙をつくような高い技術を有する。

 銃の銃身をも両断できる切れ味のため、特製制服の上から切り伏せると一撃でリタイアさせることも可能。

 

・自動小銃『89式小銃』

 

・回転式拳銃『ニューナンブM60』

 3インチバレル仕様

 

・ククリナイフ

 サンティ・ラナが好んで使用するナイフであり、形状がくの字型の変わったナイフ。

 高度はコンバットナイフよりも高く、特殊な形状から相手も防御しづらいといった利点がある。

 その形状から扱いたがる生徒は数が少なく、信光と光貞のみがこれを使用している。

 しかし、公式戦では太刀があるため使用する機会は少ない。

 

 イメージカラー:黒 得意なこと:近接戦闘、中距離射撃

 

『明智光貞』

 身長168㎝、誕生日/10月27日、血液型/B型、所属/織田分隊 好きな武器/ククリナイフ

 兵科:突撃兵

 パラメーター

 筋力:C    射撃:B

 敏捷:B    CQC能力:B

 幸運:D    才能:なし

 重桜高校歩兵隊の、副隊長であり、織田分隊の所属。

 本編のオリジナルキャラの一人。明智光秀の血族であり、その子孫にあたる。

 信光以上に表情の変化が少なく、普段から発言することも少ない。

 かつて自身の先祖が信光の先祖に謀反を起こしてしまったことを、気にしているためが信光に対しては忠実である。

 その物静かな性格から、影が薄いともいわれている。

 太刀による剣術も得意だが、それ以上にククリナイフと拳銃によるCQC戦闘が得意。

 また信光、半蔵との連携を取ることが多い。

 随伴する戦車は西車九七式中戦車

 

 使用武装

・鋼鉄刀剣『太刀』

 

・自動小銃『89式小銃』

 

・回転式拳銃『ニューナンブM60』

 2インチバレル仕様

 

・ククリナイフ

 光貞はこれを2本装備しており、半蔵との強襲を行う事が多い。

 

 イメージカラー:青 得意なこと:CQC戦闘

 

『百鬼半蔵』

 身長160㎝、誕生日/8月8日、血液型/AB型、所属/織田分隊 好きな武器/コンバットナイフ、拳銃

 兵科:偵察兵

 パラメーター

 筋力:C    射撃:C

 敏捷:A    CQC能力:B

 幸運:D    才能:特になし

 本編のオリジナルキャラの一人。

 特製制服にマフラーをしており、忍の家系に生まれたため隠密行動と強襲戦闘を得意としている。

 煙幕、手榴弾、コンバットナイフ、拳銃、投げナイフと様々な武装を扱うことができ、それらを組み合わせて様々な状況でも生存できる生存能力を持つ。

 煙幕を使用して光貞と強襲する戦術を多く使用する。

 随伴する戦車は西車九七式中戦車

 

 使用武装

・回転式拳銃『ニューナンブM60』

 3インチバレル仕様で、2丁装備している

 

・コンバットナイフ

 

 

・投げナイフ

 コンバットナイフよりもさらに小さな投擲用ナイフ。主に投擲して手榴弾の起爆と無音での中距離奇襲の際に使用する。

 

・手榴弾、煙幕手榴弾

 

 イメージカラー:紫 得意なこと:隠密行動、強襲攻撃

 

 

『柴田勝正』

 身長170㎝、誕生日/6月28日、血液型/AB型、所属/柴田分隊 好きな武器/太刀

 兵科:突撃兵

 パラメーター

 筋力:A    射撃:B

 敏捷:D    CQC能力:B

 幸運:D    才能:特になし

 本編のオリジナルキャラの一人。

 ビスマルクと同様に筋肉質なガタイのいい体つきをしており、重桜でも屈指のパワーを持つ。

 柴田勝家の血統であり、その子孫にあたる。

 戦略を考えるのが信光であるなら、前線で戦うのが勝正というのが主な戦い方となっている。

 考えることは苦手であり、突撃隊長として戦っている。

 随伴する戦車は玉田車九七式中戦車

 

 使用武装

・鋼鉄刀剣『太刀』

 

 

・自動小銃『89式小銃』

 銃身にナイフを取り付けて銃剣にして使用できるよう改良が施されている。

 

・回転式拳銃『ニューナンブM60』

 2インチバレル仕様

 

・コンバットナイフ

 

 イメージカラー:緑 得意なこと:近接戦闘

 

 

『十六夜蘭丸』

 身長150㎝、誕生日/3月15日、血液型/AB型、所属/柴田分隊 好きな武器/九九式狙撃銃

 兵科:狙撃兵

 パラメーター

 筋力:D    射撃:A

 敏捷:C    CQC能力:D

 幸運:B    才能:特になし

 本編のオリジナルキャラの一人。

 重桜高校でも一番小柄な体格であり、後方狙撃を得意としている。

 1年生でありながら中学時代から歩兵道をしていたため、狙撃においては重桜一の技術を持っている。

 その技術から信光にも信頼を持たれている。

 狙撃は得意だが、CQC戦闘は苦手なため肉薄された際は対応が難しくすぐに戦死してしまう。

 随伴する戦車は玉田車九七式中戦車

 

 使用武装

・狙撃銃『九九式狙撃銃』

 

・回転式拳銃『ニューナンブM60』

 2インチバレル仕様

 

・コンバットナイフ

 

 イメージカラー:赤 得意なこと:狙撃

 

 

UNI「以上が、重桜のキャラになりますね」

ヤガミ「蘭丸君以外はみんな日本歴史の織田軍の血統なんですね」

UNI「蘭丸は唯一中学で歩兵道をしていた数少ない生徒ですからね。次回からは本編が再開となります」




今回も読んで頂きありがとうございます。
以上でキャラクター紹介は終了です。
次回からは本編が始まりますので、
次回もよろしくお願いします。


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第39話 本土決戦 八校連合VS大学選抜チーム

どうもUNIMITESです。
今回から試合開始となります。
では、本編をどうぞ。


第39話 本土決戦 八校連合VS大学選抜チーム

 

 試合が開始されるまで残り時間は1時間。

 凛祢とみほたち大洗連合にそれぞれ7校の高校のチームが加わった『八校連合』は、試合前最後の作戦会議を行っていた。

 迷彩柄のテント内にはそれぞれの高校から集まった隊長と十傑メンバーの姿がある。

 黒板には白のチョークで3個中隊の編成が描かれていた。

「ではこの通り、3個中隊の編成で行きたいと思います」

「歩兵隊は基本自分の随伴する戦車を防衛することになるが、戦況によってはこれに限らない。臨機応変に対応していってほしい」

 説明を終えたみほと凛祢は再び集まった仲間たちに視線を向ける。

「OK」

「了解した」

「中隊長は?」

 いつものように紅茶を手に聖グロのダージリンが問いかけた。

「お姉ちゃ……西住まほ選手、ケイさん、それから私で」

「西側ばかりじゃない」

 不満なのかプラウダ高校のカチューシャが声を上げる。

「ご不満?」

「隊長やりたいんですか?」

「私がやらなくてどうするのよ!」

「……」

 黒森峰のまほから浴びせられる鋭い視線に思わずカチューシャが視線を逸らす。

「まあ、今度でいいけど……」

「……自己中な奴」

「そう言うなよ、同志エレン」

 ヘッドフォンを首にかけ、窓際で立ち尽くすエレンが小声で呟くとアルベルトも思わず呟いた。

「こっちはどうする?」

 続けて龍司が凛祢に問い掛けた。

「うーん。聖羅にアルベルト、ケンスロットでいいんじゃないか?」

「なんでお前がやらねーんだよ!」

 凛祢の返答に聖羅が即答するように声を上げた。

「お前たち、俺の指示聞かないじゃないか!昔から聖羅だって指示は無視する癖に自分の命令は聞かせてたし!」

「それは……そうだったが」

「確かに……」

 黒鉄時代を思い出しているのか凛祢、聖羅、龍司がそんな会話を始める。

 みほはそんな様子を見て、思わず笑みを浮かべた。

「おいおい、時間がないんだから。そういうのは後にしろ」

「じゃあ、みほたちに合わせて黒咲聖羅選手とレオン選手、後は俺がやります」

 メッザルーナの言葉で、しぶしぶ凛祢も中隊長を買って出る。

「カチューシャさんは副隊長をお願いします」

「仕方ないわね。やってあげるわ!」

「ダージリンさんと西さん、アルベルトさんとケンスロットさん、織田さんも副隊長をお願いします」

「よろしいわ」

「誠心誠意、努力します」

「「「了解した」」」

 それぞれの副隊長が返事をする。

「大隊長はみほと凛祢だな」

「あなたについていくわよ!」

「大隊長(そっち)もやるのか……」

「大隊長。部隊名の下知をお願いします」

 西の言葉でみほは少し考えこむ。

 そして、

「西住まほチームはヒマワリ、ケイさんのところがアサガオ、ウチがタンポポでどうでしょう?」

「よろしいわね」

「俺たちは?」

 続けてドライフルーツを齧っている悠希が問い掛ける。

「それもなきゃ駄目か?」

「あった方がいいだろうな」

「じゃあ、聖羅のところがプラチナ、レオンたちがダイヤモンド、俺たちがゴールドとか?」

「良いんじゃねーか。で、作戦はどうする?」

 メッザルーナが再び、質問を投げる。

「行進間射撃しかないんじゃなくて?常に動き続けて撃ち続けるのよ」

 とダージリンが声を上げた。

「楔を撃ち込み、新党突破で行くべきよ!」

 とエリカと声を上げた。

「流星火力独島でいいんじゃない?1輌に対して10輌で砲撃ね」

 とケイが声を上げた。

「2重包囲がいいわ!そして冬まで待って冬将軍を味方につけましょ!殲滅戦って制限時間ないんだし!」

 とカチューシャが声を上げた。

「わたくし、様々な可能性を鑑みましたが、ここは突撃するしかないかと!」

 と西が声を上げた。

「とりあえず、パスタを茹でてから考えていいか?」

 とアンチョビが声を上げた。

「いや、なんでだよ!」

 続けてメッザルーナがツッコミを入れる。

「みんな、みほと凛祢に従うと言っただろう。みほ、凛祢」

「確かに、ケイさんの1輌に対して10輌で潰しにかかると言うのは合理的だ。それにカチューシャさんの冬まで待って、

冬将軍を味方につけると言うのも制限時間のない殲滅戦の裏をかいた悪くない作戦かもしれない……」

「おい、凛祢。前者はともかく、後者はどう考えても無茶苦茶な作戦だろうが」

 その様子を見て、聖羅も呆れたように声を掛ける。

「えっと、ヒマワリとプラチナチームを主力として、アサガオとダイヤモンド、タンポポとゴールドが側面を固めてください。

連携の取れる距離を保ちつつ、離れすぎないようにしてください」

「砲兵と工兵、対戦車兵装を扱う歩兵は、この戦いにおいては出し惜しみする必要はない。俺や聖羅も含めて短期決戦のつもりで使っていってほしい」

「はい!」「おう!」

 みほと凛祢の最後の言葉で再び、全員が声を上げた。

「それで、ここからが重要なんだけど……作戦名はどうする?」

「3方向から攻めるんだから、3種のチーズピザ作戦!」

「ビーフストロガノフ作戦がいいわ!玉ねぎと牛肉とサワークリームの取り合わせは最高よ!」

「フィッシュアンドチップスアンドビネガー作戦と名付けましょう」

「グリューワインとアイスワイン作戦!」

「フライドチキンステーキウィズグレイビーソース作戦!」

「あんこう干し芋フォアグラ作戦」

「会長も乗らないでください!」

「間を取ってすき焼き作戦はどうですか?」

「なんで食い物ばっかなんですか!?間取ってすき焼きもおかしいですし」

 各々の答えに凛祢が思わず声を上げた。

「好きな食べ物と作戦は関係ないだろ」

 まほも呆れたのか声を上げる。

「じゃあ何がいいのよ?」

「ニュルンベルグのマイスター作戦なんかはどうだ?これは3幕からなる――」

「長い!」

「大隊長……決めてくれ」

 まほも諦めたのかこちらに任せる。

「作戦名なんてちゃんと考えたこと無いからな……」

「では、こっつん作戦なんてどうですか?相手を突き出して、えい!ってやる作戦なので」

「なにそれ迫力ないわね」

「よし、決まりだな」

「よし、それで行こう」

「よし、試合開始だな」

「え……?」

 決定した作戦名を聞いて凛祢、まほ、聖羅が席を立つ。

 エリカはただただ聖羅とまほを交互に見つめていた。

「こっつん作戦開始します。パンツァーフォー」

「オーバードライブ!」

 みほと凛祢はいつもの掛け声を上げた。

 テントを出てあんこうチームとヤブイヌ分隊の元に向かおうとした時だった。

「凛祢くーん!」

「うおっ!……み、ミッコ?」

 後方から勢いよく抱き着いてきたのは継続高校のミッコであった。

「司、アンクも……」

 他にも同級生の司、黒鉄時代の後輩であるアンクの姿がある。

 なんとかミッコを引き離すと再び会話を始めた。

「いやー嬉しいよ。まさか凛祢君と同じチームで戦える日が来るなんて!」

「そうか。ミッコやミカとは同じ中学だったけど、こうして同じチームで戦場に出たことなかったな」

「確かに、僕や司、アンクはずっと一緒に戦場を駆けてたけど。僕もミッコさんと一緒なのは初めてです」

 隣にいた龍司も黒鉄時代を思い出す。

「あの404号室で一緒にいた私たち4人がこうして揃うと、なんだか同窓会みたいだよ」

「あれから3年しか経ってないじゃないですか。僕や司は全国大会で毎年あってるし」

「ミッコさん女子生徒なのに男子寮に来てたんすか?」

「そうだよー、ほぼ毎日行ってた」

「凄いっすね……」

 アンクは少し驚きながらもそんな言葉を漏らす。

「ミッコって凛祢さんたちと仲がいいんですね」

「そりゃあ、同じ中学だったからな」

「うん。いい友人さ」

「いいなー。私は同じ中学の人いないですから。ミッコが少しうらやましいです」

 アキは会話に花を咲かせるミッコたちを見つめ、思わず呟く。

 ヴィダールもそんな様子を見つめ、ミカもカンテレを弾いていた。

 

 

 一方、島田愛里寿と天城史郎たち大学選抜チームも試合前最後の作戦会議を行っていた

「どうします?隊長」

「高校生とはいえ相手はかなりの戦力を有しています」

 大学選抜チームの中隊長メグミとアズミが通信を送る。

「まずはプラウダと黒森峰の重戦車を倒す」

「それが妥当でしょう」

 装備を整えた史郎も愛里寿と合流する。

 愛里寿の搭乗する戦車は重巡航戦車「A41センチュリオン」。

 イギリス製戦車であり、攻撃力、防御力、機動力どれをとっても高水準な戦車である。

 砲は17ポンド砲と7.92mmベサ機関銃。

「アズミとルミの中隊、歩兵隊は私と史郎さんの隊と共に広く長い一列中隊を形成してゆっくり前進。

 側面からの強襲に注意しろ。偵察者は相手を発見しても攻撃するな」

「了解!」

「各車前進!」

「ルミ了解!」

「アズミ了解しました。全身開始」

「メグミ中隊を並進させます」

 愛里寿の指示で隊は動き出す。

「さあ、行くとしますか」

 史郎もそう口にすると、一歩踏み出す。

「「「了解」」」

 ゴールドフォースの3人である悠我、ジャック、ラウも自分の分隊と共にそれぞれの戦車の元へと向かう。

「接触は早くて20分後……」

 愛里寿は静かにそう口にした。

 

 

 八校連合も一列中隊で前進をしていた。

 それぞれの戦車のエンジン音、履帯が地面を抉る音が耳を刺すように響く。

「こちら大隊長車。まだ敵の動きは確認できていません。慎重に行動してください」

「敵はこちらより経験や技術も上だろうから、単独での行動は控えてください」

 みほと凛祢がそれぞれ通信を送る。

 一方、CV-33の車内ではカルパッチョとペパロニが表情を曇らせていた。

「……ドューチェ。ツインテールが邪魔です」

「本来なら2人乗りなのに……これじゃ前見えないっすよ」

「だったらペパロニ降りろ!」

 アンチョビも声を上げた。

 続けるようにペパロニが口を開く。

「そりゃないっすよー」

「だったら耐えろ!」

「外せばいいじゃないっすか!そのウィッグ!」

「地毛っだ!」

「そうだったんすかー」

「いだっ!」

 車内が大きく揺れ、天井に頭を打ったアンチョビが更に声を上げる。

「随分と賑やかな方々ですな」

「それがウチのいいところだからな」

 CV-33と共にSPA TM40で偵察に出ていたメッザルーナたちと百鬼半蔵。

「いたっ!敵集団発見!ゆっくり横一列で前進してきているぞ!」

「敵歩兵は6分隊。すべて突撃兵であるようだ」

「了解した。大隊長、ヒマワリとプラチナは高地麓に到達した」

「現在、先遣隊を出しているってところだ」

 アンチョビ、メッザルーナの報告に返答するようにまほと聖羅が通信を送る。

 先遣隊として高地を目指していたヘッツァーは上り終える。

 同時に敵影がないことを角谷杏が報告した。

「さっさと取るべきよ!」

「どうだろうな……」

「確かに撃ち合うなら高地の方が有利ではありますが、技量が上の相手では……」

「エレンの言う通りかもな。凛祢、どうする?」

 アルベルトとエレンの言葉に聖羅も少し考えた後、通信を送る。

「罠かもしれないが、俺は進むべきだと思う。みほはどう思う?」

「私も同意見です。十分に警戒してください。退路を確保しつつ、前進。敵に遭遇した場合は無理をしないようにお願いします」

 お互いの顔を見合わせると凛祢とみほも返答した。

「有利だが、包囲分断される危険性がある。他のチームとの連携が取れなくなる可能性がある」

「そこまで気にすることか?」

「M26なんて上るの遅いし、ここは行くしかないわよ!」

「取れば戦術的に優位に立てます」

 まほとは異なり聖羅やカチューシャは積極的に高地を取る考えを示す。

「確かに優位だが、わざと山頂を開けているのかもしれない」

「大丈夫よ!あなた、なんだかんだで妹と一席のこと信じてないのね!」

「……」

「そう言うわけじゃないと思うけどな」

 カチューシャの言葉に沈黙を貫くまほを見て、聖羅が視線を逸らす。

「ノンナなんてどれだけ私を信じているか!私が雪を黒いと言えばノンナも黒というわよ!ね!?」

「はい……」

「おーい。信じるのと崇拝してるのは話がちげーぞ」

「そもそもノンナさんを例に上げるのが、おかしいと思います」

 自信満々の言葉にアルベルトとエレンが反発する発言をする。

「あなたたちどっちの味方なのよ!」

「「別に」」

 視線を逸らし返答する2人。

「確かに、試合が長引くと経験の多い相手が有利だ。序盤で成果を上げておきたい、行くか!」

「はい!」

「行くぞ、悠希!龍司!」

「了解」「はいよ!」

 その声でヒマワリ、プラチナは前進を始める。

「さあ行くわよ!203高地よ!」

「203高地ですか!」

「203高地って……」

「プラウダはどんな戦いか知っているのか?」

「負ける気か?」

 歴史に詳しいカバさんチームとワニさん分隊は203高地についても知っているため複雑な表情を見せる。

「アサガオとダイヤモンドはヒマワリ左翼をそのまま前進してください」

「OK」「了解だ」

「私たちは?」

「タンポポは右翼の高地脇を前進。ヒマワリの援護をお願いします」

「性向は大胆不敵の子供、最初から勝負に出るのね」

 ダージリンは紅茶を手にいつもの笑みを浮かべていた。

「さて、愛里寿。君はどんな戦術を取って来るんだ?」

 兄妹であるとはいえ、凛祢と愛里寿では育った環境、教育者がまったく異なる。

 自分では愛里寿の考えを読むことは難しい。

 そもそも愛里寿の戦っているところだって最近になって1度見ただけであった。

 1輌で多数を相手にする姿は継続のミカたちの戦闘を彷彿とさせる。

 もしかして、ミカも……いや、まさかな。

 凛祢は考えるのを辞めるように首を振ると再び戦場に視線を向けた。

 戦いの火蓋は切って落とされのだ。

 数分ほどでティーガーやT-34/85が高知へと到着する。

 

 

 

 一方、シートに草木を括りつけ草原に紛れていたM24チャーフィー軽戦車の搭乗者たちはその様子をいち早く確認していた。

「敵中隊、高地北上中。高地頂上到達まで想定5分。攻撃しますか?」

「取らせておけ……アズミ中隊とジャック中隊。高地西の森林を全速で前進。敵部隊と遭遇した場合はこれを突破し、中央集団を脅かせ」

 タブレット端末を操作し、指示を出す愛里寿。

「了解。中隊各車、全速前進。ジャック、ちゃんとついてきてね」

「俺が毎回、単独行動してるみたいじゃねーか」

「間違ってないでしょ?」

「そうだけどよ……」

 ジャックもそう呟くとジープでアズミのパーシングを追いかける。

「ルミ中隊とラウ中隊は麓東方を湿原まで前進。接敵した場合は、突破せず相手を釘付けにしろ」

「中隊!隊形を横帯から斜向陣へ!ラウくん後方はよろしく」

「はいはい」

 ルミの指示で流れるように陣形が変化していく。

 

 

 そして、森林を進んでいたアサガオとダイヤモンド。

「前方に異常なし」

「了解、ケイ車より西車へ。そっちはどお?」

「こちら知波単部隊。我が部隊は順調に進撃中。右翼には――」

 西の通信を遮る様に、砲弾が車体を掠める。

「敵襲ー!3時方向だ!」

 素早く反応したのは織田信光だった。

 知波単の九七式中戦車も車体を傾ける。

「CQ!CQ!こちらアサガオ!敵と遭遇!」

「ピアーズ!ブラッド!攻撃開始だ!」

 肩にかけていたレミントンM870を握る。

 続けてピアーズもバレットM82のスコープを覗く。

「……っ!」

「もう仕掛けてきたのか……っ!こっちもか」

 凛祢は懐のホルスターからブローニングハイパワーを引き抜く。

 すでに視線の先には敵戦車、敵歩兵の姿があった。

「敵戦車発見。方位10時、240ヤード」

「11時の方向!パーシング!」

 続けてダージリンと典子から詳細が告げられる。

 敵戦車は容赦なく砲撃を開始してくる。

 次々に砲弾が放たれる中、タンポポとゴールドも応戦を開始した。

「みほさん、指示を」

「大隊長車よりアサガオ、タンポポ各車へ。前後に移動を行って、相手の車線に入らないようにしてください。

高地の頂上に、到達するまで耐えましょう。西さん、無理な突撃は極力避けて下さい」

「え?はい。了解しました」

「釘刺されたな……」

「歩兵隊は身を隠しつつ、対戦車攻撃に備えて攻撃準備。狙撃兵は可能であれば敵歩兵の撃破を」

 みほに続き凛祢も全中隊に通信を送る。

 すでに始まっている砲撃戦で次々に轟音が響き渡り、砲弾が飛び交っていた

「こちらヒマワリ、高地頂上に到達した」

「203奪取よ!」

「「「ウラー!」」」

「近辺に敵影なし。そっちはどうだ?」

「こっちもありません」

 頂上に無事到達した各車を横目にアルベルトとエレンが周囲を確認する。

「みぽりん!」

「やりましたね!」

「ヒマワリとプラチナは二手に分かれて、上から援護をお願いします」

「了解、北に敵部隊発見。警戒しつつ支援にあたる」

 通信後、ヒマワリとプラチナも攻撃準備に入った。

「攻撃開始!」

 ケイの声を合図に次々に攻撃を開始する。

 轟音が響き渡る中、歩兵たちも射撃戦を開始した。

 放たれる砲弾と銃弾はお互いの車体を掠めていく。

「うお!こっち来た!」

「一歩たりとも通すな!」

「やはり装甲面で抜きやすいこちらを狙ってくるか……レオン!」

「分かってる!」

 信光の声にレオンも返答すると砲兵部隊が前線へと出る。

「アリサ、ナオミ、ラビット、ウルフ!前へ出て、私たちも守るわよ!」

「了解。自分が!」

 ケイたちサンダースも続くように移動するが、

 遮る様に轟音と砲弾が降り注ぐ。

「っ!蘭丸と狙撃隊は敵歩兵を!できる限り戦車を守れ!」

「おのれ、こうなったら突撃!」

「負けるか!」

「ちょっと!知波単さん!?」

 知波単の戦車が2輌全身を始める。

 敵戦車とすれ違い様に前進した知波単の戦車2輌は走行不能となり白旗を上げた。

 蘭丸やピアーズたち狙撃隊が歩兵を多少は減らしたものの戦車は1輌も撃破できていないのが現実である。

「アサガオ、ダイヤモンドよりヒマワリ、プラチナへ。敵に突破されたわ、現在追跡中。アリサ、追撃の指揮は任せたわよ!」

「イエス、マム!動ける者は私に着いてきて――!」

 再び敵の砲撃が始まり、砲弾が飛び交う。

「どうするのですか?」

「工兵のいない我々に森林を活かしての戦闘は無理だ。今はできることから行動するだけである」

「泣かぬなら泣かせて見せよう時鳥ですな」

「それ言ったの、信光さんのご先祖様じゃなくないですか?」

「言っている場合ではないと思うのですが……」

 重桜高校の信光たちが思わず、そんな言葉を呟く。

 集中砲撃を浴びたアリサ車は左右の履帯を破損し、砲塔も故障していた。

「こりゃあ、動けるまで時間かかるな」

「そうすんなりはいかないですね。とりあえず体制を立て直しましょう!レオンさん、織田さん、葛城先輩に被弾状況と残存戦力の報告をお願いします」

 不知火と亮も砲撃を受けた戦車を見つめる。

 

 

 通信機から響く声で状況を把握するヒマワリ、プラチナ。

「左翼的集団、アサガオを突破して我々の後方に進行中」

「アサガオを援護するわよ、蹴り落してやる!」

「お前ら準備良いか?」

 聖羅が通信機に言い放つ。

「狙撃隊はもいつでも狙えます」

「準備完了です、黒咲さん」

「射線に着きました」

「いつでもOKだよ、お兄ちゃん」

「まほ」

「攻撃を許可する」

「よし、うてぇ――えー?」

 砲撃を開始しようとしたその瞬間、高地頂上で爆発が起きたかのような音と衝撃がヒマワリ、プラチナを襲う。

「弾着!」

「なんだ?」

「爆発!?砲兵による攻撃!?」

「いや、近くには敵歩兵の姿はなかった。それに爆発がデカすぎる。これは確実に戦車砲による攻撃だ」

 龍司の問いに悠希が返答する。

「あー、こちらヒマワリ。なんか上から飛んできたっぽいぞ」

「呑気なこと言っている場合じゃないだろ……葛城、戦車砲による攻撃だろうが、爆発が異常にデカかったぞ」

 杏と英治の通信にみほや凛祢も高地に視線を向ける。

 あの爆発範囲……。

「聖羅、状況は?」

「大丈夫だ。今は誰も被弾していない。だが、この威力だ。分析できそうか?」

「流石に目視でだけでの、分析は確実性に欠けるぞ。強いて言えばシュツルムティーガーあたりか?」

 爆発の大きさから予想を口にする。

 同じようにⅣ号内でも優花里が同じ答えを出していた。

 すると続けて、発砲音が響き渡る。

 その音から遠くで発砲されたことは凛祢だけでなく他の者たちも予測できた。

 十数秒後、再び高地頂上に砲弾が落下し、爆発音が響き渡る。

「ぐわぁー!」

「ううぅー!」

 その爆発は黒森峰のパンターを簡単に横転させ、白旗が上がった。

 小梅車はいち早く移動していたことでなんとか走行不能は免れた。

 しかし小梅車の随伴歩兵は龍司1人となってしまう。

「聖菜さん!大丈夫ですか?」

「な、なんとか……」

「3発目が来る前に前進しろ!」

 ヒマワリとプラチナも急ぎ、移動を開始する。

 しかし、そうはいかないと言わんばかりに敵戦車が進行方向より砲撃を行う。

「っ!まずいな」

「どうする?俺たちの攻撃で突破するか?」

「無理ですよ。敵歩兵もしっかり陣形組んでいるこの状況では」

 聖羅たちも武器を握る。

「あれ、これって」

「包囲されてる?」

 杏たちもようやく状況を飲み込んだのか、声を上げる。

「龍治、とりあえずこっちにこい!徒歩で逃がしてくれる相手じゃねーぞ!」

「うん、了解」

「後方からの半包囲、上から謎の攻撃……しかも前からは敵本隊か」

 まほも地図に状況を書き起こし、状況を整理する。

「ここにいては全滅します!」

「中隊長どうにかしろ!やられたー!」

「やられてないって!」

「まほさん。あんまり長居してるとまじで全滅するよ」

「星宮君の言う通りですね。中隊長指示をお願いします」

 通信機から各々の声が響き渡る。

「前方斜面をこのまま降りる!中隊全速前進!タンポポと合流するぞ!」

「全速前進だ!」

 まほと聖羅の声で一斉に中隊は動き出す。

 高地を下っている間も互いの砲撃船は続く。

「見てごらんなさい!私には当たらないわよ!」

 カチューシャが声を上げる。

「一人撃破!」

「こちらも一人……」

 そんな中、アルベルトとエレンはそれぞれ跳弾と狙撃で敵歩兵を撃破する。

「流石ですね。アルベルトさん、エレンさん」

「当然だ」

「パーシング接近!」

「っ!俺は対戦車武器は持ってないんでな。戦車相手は勘弁だ」

 攻撃を続けていた2人も逃走に専念する。

 そんな中、カチューシャ車のT-34/85が敵戦車の砲撃が集中していた。

 このままでは撃破されるのは時間の問題。

 状況を理解したクラーラとノンナは通信を送る。

「やるのか……ノンナ、クラーラ」

「「はい」」

「仕方ありませんね……停車してください。それとデグチャレフを」

 短い会話の後、プラウダの戦車とファークトのGAZ-47の動きが変わる。

 彼らはわかっているのだ全員で逃げ切ることは不可能であると。

「あなたたち!日本語でしゃべりなさいって何度言えばわかるの!?」

「カチューシャ様、お先にどうぞ。それではごきげんよう」

「なに!?その流暢な日本語?」

「クラーラは日本語が堪能なのだよ」

 ガングートたち歩兵も進行方向を変え、敵部隊へと突撃していく。

「先に言いなさいよ!……何する気?クラーラ!ガングート!」

「アルベルト、聖羅さん。この後の事はお任せしますので」

 デグチャレフを手にエレンもそう口にすると引き金を引いた。

 発砲音と共に14,5mm弾が敵戦車の履帯を撃ち抜き、機動力を奪う。

 そして、クラーラの搭乗するT-34/85が敵戦車を狙い撃つ。

「カチューシャ様、アルベルトさん一緒に戦うことができて光栄でした」

「うぉぉぉ!」

 ガングートの部隊も敵部隊を巻き添えにするように爆発の中に消える。

「クラーラ!ガングート!」

「……」

 声を上げるカチューシャとは異なりアルベルトはただその光景を見つめていた。

「砲兵部隊!武器がなくなったならば突撃あるのみです!ガングートに続け!」

「ウラー!」

 RPGのロケット弾を撃ち尽くした砲兵も拳銃、ライフルを手に突撃していく。

 カチューシャとアルベルトの重畳する車両とすれ違うKV-2とその随伴歩兵達。

 彼女たちももまた覚悟が決まっていた。

 続くように敵部隊へと向かって行く。

「カーベータン!?」

 KV-2も砲撃を開始する。

 再びエレンの狙撃が敵戦車の履帯を撃ち抜き、機動力を奪う。

「まずい!カチューシャ逃げてください!」

「逃げるなんて隊長じゃないわ!」

「お願いです!」

「来ちゃ駄目よ!ノンナまで失うわけには――」

「カチューシャ!今は撤退だ!」

 アルベルトも撤退を促す。

「カチューシャ、アルベルト。あなた方はこの戦いに必要な方だ!」

「そうです。僕やガングート、ノンナさんたちでもない!あなた方が――」

 エレンの言葉を遮る様に爆発音、戦死判定のアラームが響く。

「エレンも散ったか……」

「カチューシャ、あなたは私がいなくても……勝利します」

 その言葉と共にIS-2は敵戦車を走行不能にし、自身も砲撃を受け走行不能となった。

 少しの間、放心状態だったカチューシャも目を見開く。

「カチューシャ、今どうするべきかわかるだろ?」

「撤退……するわよ!」

 その言葉と共にT-34/85とGAZ-47は撤退していくのだった。

 そして、残されたKV-2もまたまもなく走行不能となるのだった。

 

 

 行動不能車両 八校連合    九七式中戦車(新砲塔)、九七式中戦車、パンターG型、

T-34/85、IS-2、KV-2

        大学選抜チーム M26パーシング×2

 

 残存車両数  八校連合    24輌 歩兵隊24分隊

        大学選抜チーム 28輌 歩兵隊28分隊

 

 




今回も読んで頂きありがとうございます。
ついに開始された大学選抜チームとの戦いですね。
プラウダとファークトの戦力を大きく失うこととなった大洗連合は
一体どうなってしまうのか
では、また次回のお話で。


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第40話 反撃開始

どうもUNIMITESです。
今回で40話を迎えました。
では劇場版編の本編をどうぞ。


 試合が開始して1時間が過ぎようとしていた。

 現在、大洗連合はパンターやIS-2といった戦車4輌と歩兵4分隊を失っていた。

 それでもノンナやクラーラ、エレンとガングートたちの働きで敵戦車も2輌走行不能とすることはできていた。

 天気も荒れ始め、フィールドは雨に包まれている。

「こちら半蔵。アサガオとダイヤモンドを突破した部隊はヒマワリとプラチナへの追撃を中止して中央集団と合流中の模様……」

「思った以上に厳しい戦闘になりそうだな」

 偵察隊がそれぞれ双眼鏡を手に通信を送る。

「了解。引き続き偵察よろしく。それにしてもあの頭上からの砲撃は……」

「恐らく、あれです」

 アリサも真剣な表情で返答する。

「おい、亮。あれってなんだ?」

「僕が知るわけないじゃないですか」

「ねーねー、サンダースさん。その、あれってなんなん?」

 オオカミチームの各々が通信を送る。

「なんでわかるの?」

「また盗聴?」

「アリサさんって彼氏のことも盗聴しそうだよね」

「束縛しすぎ?」

「それでタカシにフラれたんだー」

 ウサギさんチームのメンバーも思ったことを口にする。

「告白もしてないのにフラれるわけないじゃない!てか、なんで知ってるのよ」

「そう言う問題じゃないと思うけどな」

「アリサさん、元気出してくださいね!」

「1人は楽しいですよ!」

「ファイト!」

「ドンマイ!」

「戦車が恋人でいいじゃないですかー」

「うるさいわね!あなたちに慰められたくないわよ!」

「そこまでだぞ!」

 レオンの一声がウサギさんチームとアリサを戦場という現実に引き戻す。

「あの車両は認可されたの?」

「ウチが問い合わせた時は協議中でしたよ!もっとも相手さんは導入している可能性は高いでしょうけど」

 ピアーズの返答でケイとレオンはお互いの顔を見合わせる。

 

 

 一方、みほと凛祢たちタンポポとゴールドも戦闘の中にあった。

「アサガオみんな脱出したけどあと6輌だって!」

「第五席であり狙撃兵であるエレン殿を失ったのもファークトとしては痛い戦力ダウンですね」

「戦闘を中止してアサガオと合流しますか?」

「でも、先に頭上からの砲撃をどうにかしないと……」

「みほの言う通りだな。このまま、あれを野放しにしているのは非常に脅威だ」

 見えない場所からの攻撃はそれだけで脅威になる。

 通常なら発射方向から場所の特定をするのは難しくはないが、大きく弧を描き落下してくる砲撃は場所の特定も難しくなってくる。

 およその場所も現在計算中ではあるが……。

 ブローニングハイパワーの引き金を引き、発射した銃弾が敵歩兵に命中し戦死させる。

 発砲と着弾時の音から砲弾はおそらく1トン級の艦砲クラス。

 ロケット推進音はないため先ほど予測したシュツルムティーガーではない。

「そもそも艦砲クラスの砲を付けた戦車なんていんのか?」

「確かラーテとかいう戦車は陸上戦艦とか呼ばれていたんじゃなかったかな?2連装の砲を搭載してるって、本で見たことある」

「そうですね。でもラーテではあれほどの榴弾は撃てないはずです。なにより、ラーテであるなら前線で砲を連射したほうが合理的だと思いますし」

「「……」」

 凛祢と塁、八尋は再び考え込むように沈黙する。

「もしかして!」

「会長、磯部さん、アンチョビさん、ミカさんお願いしたいことがあります」

 みほが通信を送る。

 そして、作戦の内容伝える。

「こっちも英治会長に辰巳、メッザルーナとヴィダールの分隊。あとは――」

「俺が行こう!」

「アルベルト!?」

 通信機から響いた声に凛祢が少し動揺する。

「少々暴れたい気分なんでな」

「しかし……」

「僕も行きます」

「龍司までなにを!」

「いいだろう。朝倉、ついて来い」

 アルベルトも龍司と行くことに問題はないと通信を送る。

 これから偵察に出るどんぐり小隊は工兵、狙撃兵が中心。

 歩兵戦になれば、いくらメッザルーナたちが居ても攻め切るのは難しいかもしれない。

「えっと勝手に決められては……」

「わかった。アルベルト、龍司。2人もどんぐり小隊と共に行ってくれ」

「了解した」「了解だよ」

「凛祢さん!?」

「正気か?」

「メッザルーナやヴィダールの実力は知っているし信頼できる人だが敵は社会人を破った大学生。出し惜しみして作戦が失敗すればそれこそアウトだ」

「わかりました。ではみなさん、お願いします」

「「「了解!」」」

 凛祢とみほの指示で編成された偵察隊「どんぐり小隊」は行動を開始する。

「どんぐり小隊!全力前進!」

「お待たせー。ちょびー」

「ちょびーって呼ぶな!」

「4輌前進してきます。おそらく隊長車狙いかと。こちらの指揮系統を混乱させるつもりか。やぶれかぶれなのか」

「各車発砲」

 メグミの声でパーシング、チャーフィーは一斉に砲撃を開始する。

 砲弾によって巻き上げられた砂煙が晴れるとそこにどんぐり小隊の姿はなかった。

「消えた?」

「陽動だ。させておけ」

 愛里寿はクールな口調でそう言った。

 一方、砲撃を回避したどんぐり小隊はその機動力で草原を抜け、森林フィールドを進んでいた。

「な、なんだあれは!?」

「よりによってカールかよ……」

「ヴィダール。お前のラハティで撃ち抜けるか?」

「カールなんて予想外すぎる。そもそもあれ自走砲だろ?装甲どれくらいか知らねーぞ」

「動いてて問題ないってことはルールは破ってないってことですよね」

 カールを発見したどんぐり小隊は驚きを隠せていない。

「おい!カールって何なんだ!?」

「戦車道やってるお前らのほうが普通詳しくあるべきだろーが……カール自走臼砲、600mm砲だ」

「600!?カルロベローチェが8㎜機銃だから」

「カルロベローチェの7.5倍っす!」

「いや750倍でしょ!」

「「75倍です……」」

「750倍って600㎜超えてるだろう―が」

 間違った答えを正すようにカルパッチョとマリーダが呟く。

 すると、ちょうど砲弾の再装填を終えたカール自走臼砲が再び空に砲弾を撃ちだす。

 撃ち出された砲弾は八校連合の中隊の近辺に落下し、誘爆する。

 

 

 

「これを直前になって認可させたのは、このためだったんですな」

「卑怯ですよ!あれ自走臼砲なんだから戦車じゃないっしょ!?」

 孫市もたまらず声を上げる。

「言いがかりは止していただきたい」

「オープントップを戦車として認めていいいんですか?」

「考え方次第ですよ」

「考え方次第……ですか。確かにそうですね」

「サンティちゃーん、納得してどうすんのさー?」

 気の抜けた声を上げる。

「心配ありません。それでも彼らは戦うでしょう。今の大洗連合には十傑が揃っているんですから」

 サンティは再びスクリーンを見つめる。

 

 

 森林フィールドでカールを見つめるどんぐり小隊。

「パーシングが3輌、歩兵は24名でカールを守ってるよ」

「ヒートアックスをぶつけるにしてもパーシングと歩兵が邪魔だ」

「会長、撤退しましょう!」

「4輌とみんなで突っ込むか」

「無茶です!」

 桃たちが声を上げる。

「それはパスタを生で食べるくらい無茶だぞ」

「撤退しかありません」

「騒々しい奴らだな。こいつらっていつもこうなのか?」

「同じ学校じゃない僕に聞かないで下さいよ」

 呆れた表情を浮かべるアルベルトを横目に龍司も苦笑いを浮かべる。

「まさかまた戦車に乗るのか?」

「違います」

「カールに上がれる方法ないですから」

「私たちが考えたのは」

「殺人レシーブ作戦です!作戦内容は――」

「「「「名前が穏やかじゃ無さすぎるだろ」」」」

 思わず辰巳たちが声を上げる。

 典子たちの説明を聞いた杏が笑みを浮かべた。

「継続ちゃーん、冬樹くんたちも聞いてた?ちょっと手伝ってほしいんだけど」

「この作戦に意味があるとは思えない……」

「じゃあ従わないの?」

「俺は従いますよ」

「僕もです」

「しかし、彼女たちを信じおう」

「了解だ」

 ミカの言葉で継続高校、冬樹学園のチームは立ち上がる。

「先陣は俺たちで行く」

「援護よろしく」

「行くよー」

 BT-42にアルベルト、龍司、アンクが掴まるとミッコが前窓を開けた。

 続けてミカがカンテレを弾き、その演奏が響き渡る。

「行くぞ……」

 白い煙を上げて、発進したBT-42が森林を抜けた。

 カールたちが陣取っている場所となる島までの距離を、その勢いで宙を舞い着地する。

 同時に跳躍した歩兵たちが銃を発砲する。

 放たれた銃弾が次々に敵歩兵へと命中した。

 BT-42も発砲しパーシングの砲塔を撃ち抜き、1輌走行不能とする。

 逃げるように水の抜けた川へと降りると追いかけるようにパーシング2輌も降りる。

「朝倉、アンク!右は任せるぞ!」

「アルベルトさんも気を付けてください!敵は強敵です!」

 多くの敵歩兵を撃破するため別れる。

「暴れされてもらうぞ!」

 アルベルトはAK-47の引き金を引き、次々に敵歩兵を撃破する。

「これは人生にとって必要な戦いなの!?」

「多分ね」

 継続のBT-42がパーシングを引き付けている間に八九式たち3輌が橋を渡り、カールの元へと向かう。

「しまった!」

「大丈夫!木っ端みじんにしてあげるわ!」

「うおー!こっちみてるぞー!」

 カールはその車体を動かし、アンチョビたちの方へと砲身を向ける。

 放たれた600mm弾を八九式、ヘッツァーが回避する。

「随分無茶するな」

 橋の近くに陣取っていたメッザルーナも冷や汗を流す。

 600mm弾はそのまま橋を撃ち抜き瓦礫が宙を舞う。

 そんな瓦礫の雨の中をミッコは操縦テクニックで軽やかに抜けていく。

 車体の細いBT-42とは異なり、パーシングは道に引っ掛かる。

「メッザルーナくん!今のうちに!」

「了解!」

 橋を下りてパーシングに取り付いたメッザルーナはヒートアックスを3つエンジン部に仕掛けるとその場を離れ、リモコンのスイッチを押す。

 すぐにヒートアックスが起爆し、パーシングを走行不能にする。

「残り1輌!」

「ミッコ左!」

「いいっ!」

 ミカの言葉でミッコが視線を向けるとパーシングが突撃するようにこちらに向かっていた。

 車体を激突させられたBT-42は数回横転し、砂埃を上げる。

「ミカ!」

「ミッコさん!」

「アキ先輩!」

 冬樹の歩兵たちが声を上げる。

「アンク避けて!」

「へ?ぐあっ!」

 その隙を突かれアンクは射撃され戦死判定を受ける。

「ふっ!ひひ!」

「あれって!」

「嘘!?履帯なしなのに!?」

 ミッコが外付けのハンドルを填めると再びBT-42は走行を始める。

 その転輪には履帯はなく、転輪だけで走行していた。

「天下のクリスティー式!なめんなよー!」

「いっけー!」

「「「必殺、殺人レシーブ!」」」

「賢いね!私たち!」

 八九式が急ブレーキをかけることで、乗っていたCV33が宙を舞う。

「今だ!マズルを狙えー!」

 宙を舞いながら8mm機銃を放つ。

 しかし、CV33の車体はカール自走臼砲の居る島にたどり着く前に橋に落ちる。

「あれ?」

「何やってんだ!?」

 アルベルトが再びナガンM1895を発砲するとカール自走臼砲の装甲を反射し敵歩兵を戦死させる。

 続けてアルベルト、龍司の後方にいた敵歩兵をヴィダールと司が狙撃した。

「アルベルト、出過ぎだ!」

「龍司ももう少し慎重に!」

「お前たちを信頼しているからこそだ」

「そうですよ。司の援護狙撃を期待しているからです」

 2人の声に答えるようにアルベルトはナガンM18952丁による早撃ち、龍司もMP7による精密早撃ち「十弩」で残りの敵歩兵4人を

 一気に屠った。

「用意!」

 一方残り1輌のパーシングと交戦していたBT-42もその機動力でパーシングを翻弄していた。

「せっかく踏み台になったのに……」

「作戦失敗だ撤退しろー!」

「チョビ子、履帯を回転させろ」

「命令するな!私を誰だと!」

「干し芋パスタ作ってやるからさ」

「パスタ!?」

「マジっすか!?」

 杏の言葉でペパロニとアンチョビが目を輝かせる。

「チェーザレ、歩兵はアルベルトたちが全部潰した!一瞬だけ時間稼げ!」

「了解っす」

 ヘッツァーの後方からSPA TM40が速度を上げて近づいてくる。

 速度を上げたSPA TM40は橋を飛ぶ。

 空を舞う中でチェーザレがヒートアックスの入ったポーチを投擲する。

 地面に落下すると同時にリモコンのスイッチを押すとヒートアックスが起爆。

 カール自走臼砲が大きく揺れた。

「とべぇ!」

「残りはカール守るものはもうない!杏会長、ここで仕留めてください!」

「決めろヘッツァー!」

「いけぇ杏!」

 思わず英治も呼び捨てにして名を叫ぶ。

 CV33をカタパルトのようにして空を舞うヘッツァーはカールの砲身を撃ち抜く。

 砲身を撃たれ、砲内の砲弾ごと誘爆しカール自走臼砲から白旗が上がる。

「やったー!」

「無茶するな」

「まだだ、後はあのパーシングを」

 アルベルトが視線を向ける。

 視線の先ではパーシングを追いかけ、そのまま追い抜くBT-42。

 しかしパーシングの放った砲弾がBT-42の左の転輪を撃ち抜く。

「コケるー!」

 ミッコは思わず声を上げるがBT-42は車体を斜めに傾け片方の転輪のみでパーシングに接近していく。

「撃て(テュータ)!」

 ミカの言葉でアキがレバーを引く。

 BT-42の砲身が火を噴く。

 砲撃によって3輌目のパーシングを走行不能とするが、その衝撃で右の転輪もはずれ地面を抉りながら

 前進したBT-42も煙を上げ、まもなく走行不能となった。

「皆さんの健闘を祈ります」

「凛祢くん!頑張ってね!」

 ミカ、ミッコも最後に激励の言葉を送る。

「俺たちはここまでみたいだ」

「龍司、凛祢たちの事頼んだよ」

「うん。継続と冬樹のみんなが繫いでくれたこのバトンは最後まで繫いで見せる」

 お互いにハイタッチをする。

「エレンが居なければ俺の隣に立っていたのはお前だったかもしれないな」

「何言いだすんだよ。ガラでもねーくせに」

「そうだな」

「まあ、葛城のこと最後まで助けてやれよ」

「ああ」

 ヴィダールとアルベルトも司たちと同じようにハイタッチを交わす。

 

 

 

 そして凛祢たち八校連合本隊も次の戦闘の準備を進めていた。

「さっきの戦闘でBT-42が走行不能となったので残り戦車は23輌と歩兵は23分隊」

「でもでもこっちはパーシング3輌とカールを撃破して24輌まで削ったよ」

「これで24対23ですね」

 みほたちあんこうチームが現在の残存戦力を整理する。

「だいぶ減ったね」

「戦車の数だけ聞けば五分に近い状態だが、実力差を考えれば実際はちげーんだよな」

「それでもよく持ち堪えている」

 凛祢も顔を上げる。

 俊也の言う通り戦車の数は五分に近い。

 だが、ここまで敵は突撃兵と偵察兵しか見せていない。

 対戦車要員である砲兵と工兵、そして歩兵を遠くから狙う狙撃兵もいるはず。

 ここまでは様子見で出していなかったのだろう。

 すると、作戦に出ていたどんぐり小隊も本隊に合流する。

「でも継続さんたち頑張ってくれましたよね!」

「ウチもな!」

「ウチはカチューシャだけになっちゃった」

「大丈夫よ。まだあなたが残ってるわカチューシャ。それに」

 励ましの言葉を掛けるダージリン。

「戻ったぞカチューシャ」

「ただいま戻りました」

 カチューシャ車を随伴する歩兵であるアルベルトの分隊も合流する。

「彼もいるわ」

「わかってるわよ!それよりアルベルト!あなた私を放っておいていくなんてひどいじゃない!」

「放っておくって。別にそう言うわけじゃ……」

「アルベルトはカチューシャさんを守るために少しでも敵を減らしたかったんですよ」

「おい。お前は黙ってろ」

「アルベルト……もう馬鹿」

 カチューシャは頬を染めて小声でそう口にした。

「すみません。互角に持ち込めると思ったんですけど」

「定石通りやり過ぎたな。らしくもない」

「まあ相手が相手だからな。みほ、君は君の戦いをすればいい。俺も自分の戦いをするから」

 ブローニングハイパワーのマガジンを交換していた凛祢もみほに笑いかける。

「ここからの作戦は大隊長」

「局地戦に持ち込みます。個々の長所を活かしてチームワークで戦いましょう」

「急造チームでチームワーク?」

「急造でも今の俺たちはチームだよエリカ」

「そ、そうだけど」

 悠希が割って入る様に通信を送る。

「チームを再編成して、あそこを目指します」

「守ってばかりじゃ勝利は掴めないか……ミカたちを見習うべきなのかもな」

「どうするんですか?」

「俺たちも攻める必要があるってことか?」

「ああ。歩兵の隊を再編成するぞ!決戦はあそこだろうからな」

 凛祢、みほの視線の先には遊園地跡が写っていた。

 あそこでなら遭遇戦による戦闘が行いやすい。八校連合でも、敵を撃破できる確率は上がる。

 急造である自分たちは、互いの弱点を補いあって戦うしかないのだから、そう言った戦場の地形を活かすしかない。

「背水の陣になるがいいのか?」

「得意だよー。ウチはそういうの」

「アンツィオも得意だぞ!」

「そうっすか?」

「まあ凛祢と西住さんが大丈夫だってなら、大丈夫か」

 メッザルーナも納得したように頷く。

「では、パンツァーフォー」

「オーバードライブ」

 みほ、凛祢もそう口にした。

 そして八校連合も同じ目的地を目指し前進していくのだった。




今回は継続の活躍回でした。
内容的には戦闘も中盤に入ってきました。
では次回の話でまた。


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第41話 包囲を崩す一撃

どうもUNIMITESです。
では本編をどうぞ。


 カール自走臼砲を撃破し、戦力的には五分まで持ち込んだ八校連合。

 次なる戦いに備え、遊園地跡へと到着する。

 遊園地跡は高い壁に囲まれ、東西南北にある4つの出入り口からしか侵入は不可能であった。

 園内は所々ボロボロであり、割れた窓に錆びついたアトラクションの鉄骨が目につく。

「面白い戦いになりそうね」

「お言葉ですが、データの上では厳しい戦いになりそうです」

「アッサムのデータってあんまり当てにならないよな」

「まあ、あくまで過去のデータから割り出したものでしかないからな。人間は日々成長する生き物だから昨日までのデータでは予想外の事が起きても不思議じゃない」

 モルドレッドと同様にケンスロットもあまりデータ主義は信用していなかった。

 言葉を聞く限り、あまり活かされていないようだ。

「覚悟の上じゃないですか。ね?ガノ先輩」

「そうだな。データ信じるより戦いで相手を知るのが一番だからな」

「運命は浮気者。必ず不利な方が負けるとは限らないわ。ね、隊長方」

 ダージリンの言葉に凛祢とみほも「はい」と返答する。

「私たちは私たちにできる戦いをしましょう」

 みほの言葉で各々は考え込むように真剣な表情を浮かべる。

「聖羅、アルベルト。隊の編成だが……」

「お前次第でいいんじゃねーか?大隊長はお前だ」

「俺もお前の考えに任せる」

 2人の言葉で凛祢も頷く。

 攻める編成にする場合、やはり兵科ごとに小隊分けして編成するのが早い。

 しかし、これはある意味では各分隊の編成を分けるためノーガード戦法に近い。

 つまり守りをほぼ捨てることになる。

 それでも攻撃こそ最大の防御だと言う言葉もある。

「編成は決まった。小隊は全部で3つ。

突撃兵で編成した強襲隊。

砲兵工兵と少数の突撃兵で編成した対戦車奇襲部隊。

偵察兵と狙撃兵で編成した機動力重視の偵察部隊」

 凛祢の指示で歩兵隊はそれぞれ別れ、自身の隊の方へと向かう。

 

 

 一方、大学選抜チームの中隊長の1人、ルミは双眼鏡で八校連合の向かった方向を見つめていた。

「全軍、遊園地跡へ移動。ラウくん、行くよ」

「はいよ」

 歩兵隊中隊長の1人であるラウもルミの後を追うようにジープへと搭乗する。

 そして、大学選抜チームの戦車と歩兵隊も遊園地跡を目指して前進を開始した。

 

 

 八校連合の隊再編成が終了し、各小隊も配置に着く。

 南正門には黒森峰のティーガーⅠ、ティーガーⅡ。

 西裏門には知波単の九七式中戦車3輌とオオカミチームのキャバリエ。

 東通用門には聖グロリア―ナのチャーチル、マチルダ、クルセイダー。

 中央広場には整備中の戦車たちが待機している。

 CV33はその小さな車体で園内のアトラクションの1つ、ジェットコースターのレールへと登っていた。

 高所からならば偵察もより行いやすいためだ。

「敵は纏まって南正門に進撃中」

「重心突破ですかね」

「第一陣は南正門に移動してください。警戒を怠らないようにしてください」

「俺たちも行くぞ。メッザルーナ、チェーザレ、ビスマルク」

「ああ」

「任せてください!」

「おう!」

 砲兵工兵部隊の一つである凛祢の隊も移動を開始する。

「にしても、相手さん随分かっ飛ばしてますね」

「あえて土煙を立てるように見せて威圧感を出そうとしているんだろう」

「ハッタリかましているんすね。ウチのマカロニ作戦みたいだ」

「違うと思います」

 アンツィオのメンバーがそんなことを呟いていると戦車と歩兵が配置に着いた。

「「戦闘準備」」

 1人の言葉で戦場にはピリついた雰囲気が流れる。

 敵の砲撃は始まると同時にまほの一声が響き、攻撃を開始する。

「うーん。全然見えないぞ」

「いいなー。ウチもド派手に戦いたいなー」

「でも変ですね。雨が上がって間もないのにあんなに土煙……」

 カルパッチョは少し異変を感じたのかそんな事を口走る。

 戦場では砲撃戦が続いている。

 晴れていない土煙の奥からは単発で砲弾が放たれていた。

「「……」」

「なあ、なんか変じゃあねぇか?」

「何がっすか?」

「確かに。よく考えたらあんな長時間土煙あがり続けるか?」

「まさか……」

 身を隠して砲撃戦を見守っていた凛祢たちもその異変にようやく気づき始めた。

「隊長!あれは土煙じゃないぞ、陽動作戦だ!あれは煙幕だ!」

「兵法三十六計、声東撃西ですね」

「兵法?」

 上から偵察していたアンチョビたちの報告でみほと凛祢が通信機に手を当てる。

「西裏門の西さん、オオカミチーム。敵部隊が回り込もうとしています。サンダースの皆さんが応援に向かいます」

「不知火、翼、塁。俺たちも急いでそっちに向かうからできる限り耐えてくれ。英子も無理はするなよ」

「ったく。面倒だな。翼、塁ちゃん。敵はこっち来るみてーだから準備しとけ」

「「了解」」

「やるしかないわね」

 不知火もキャバリエから降りるとうつ伏せで銃を構える。

 同時に知波単の生徒たちが突撃だなんだと声を上げた。

 その様子にその場にいたオオカミチームの英子と華蓮がため息をつく。

「恐れながら申し上げます。いたずらに突撃して全滅しては、それこそ知波単の面目に関わるかと!」

 知波単の生徒の1人、福田が声を上げた。

 しかし、それを否定するように声を上げる知波単の生徒たち。

「まあ、待て。福田、何か策があるんだな」

「福田さん。僕は嬉しいですよ。ようやくわかってくれたんですね」

「我々の行動は無駄ではなかったのですな」

 蘭丸と半蔵も感動しているのかしみじみと福田の言葉を聞いていた。

 

 

 一方、東通用門では門を破壊する轟音と共に大学選抜チームが侵入していた。

「チャーフィーいざ尋常に勝負!」

「……!戻りなさい、ローズヒップ!」

 ダージリンの通信でクルセーダーはUターンして方向転換する。

 的確な指示の結果なんとか敵砲撃を回避した。

 そして、土煙の中から戦車が現れる。その車体は高さがなく横に大きな容姿をしていた。

「あれは……」

「また、面倒なのが出てきましたね」

 信光、光貞もその車体を見て、表情が固まる。

「T-28重戦車ですか」

「あまり相手をしたくないな」

「それでもやるしかないよ。敵はこっちを潰しに来てんだから」

 アーサーやケンスロット、悠希もため息交じりに呟き、剣を握る。

「私たちもトータスを持ってくればよかったわ」

「持ってませんけど」

「こちらドューチェ。これは完全にこっちが主力だぞ」

 ドューチェの通信で一斉に高校転換する八校連合。

「あーもう、重戦車ってヒートアックスでもなかなか止めらんないんで嫌いなんすよ!」

「言っても仕方ねーだろ」

「それより、どうする?カール相手の時は即興作戦でどうにかしたがよ」

「今、考えてるよ……」

 同じように東通用門へ向かう凛祢たち。

 またも初めて対峙する戦車だ。

 どうする……。

 敵はT-28重戦車を盾にするように狭い通路を一列で進む。

 八校連合も一斉攻撃するもののその装甲を突破することが難しい状況だった。

 数分ほどで大学選抜チームは、園内へと侵入に成功する。

「こちらメグミ中隊。東通用門突破。予定通りZ地点に向かいます」

「了解」

 メグミの通信に淡々と返答する愛里寿。

 

 

 南正門で戦闘を続けていたティーガーⅠとティーガーⅡ、T-34/85。

「4輌しかいないわね。私たちを引き付けておくだけみたい。どうする?」

「わかった、行こう。エリカ、頼む」

「はい!」

 まほの通信で表情を明るくするエリカ。

「行くぞ。アルベルト」

「ああ、そっちのお前らも……死ぬなよ」

「おうよ!よっしゃ俺たちもいい所見せるぜトシ!背中預けるからよ!」

「預かってもいいが、背中撃っても文句言うなよ」

「やったらぶっ飛ばす。いくぜー!」

 続くように聖羅の隊も動き出す。

 聖羅がパンツァーシュレックを構えると、衝撃波と共にロケット弾が放たれる。

 ロケット弾は正確に敵歩兵の搭乗する駆動車へと向かって行く。

「敵からの攻撃!」

「迎撃!」

 敵歩兵も一斉にロケット弾に向けてライフルを構え、放つ。

 その一瞬、敵の注意を引く中で八尋、俊也、アルベルトが攻め込む。

 次々に敵歩兵を屠っていった。

「よし、2人目!」

「八尋、少しは被弾しないように気を付けて動け。援護するのが大変になる」

「翼みてーなこと言ってんじゃねーよ。3人目屠ったぜ!」

 勢いに乗ったからか八尋たちも次々に歩兵を減らしていく。

 続いてティーガーⅡが動く。

 敵戦車の砲撃を受けるもその曲線を活かした走行で砲弾を受け流した。

 反撃するにように砲撃し、敵戦車パーシングを撃破する。

 ティーガーⅠも一気に距離を詰め零距離砲撃で敵戦車パーシングを1輌撃破した。

 敵戦車パーシングも砲をティーガーⅠに向ける。

 しかし、T-34/85が発砲する前に敵戦車パーシングに砲撃し走行不能にした。

 数的有利を失い、1輌となったチャーフィーは方向転換して逃走していった。

「よっしゃー!」

「さすが十傑2席と4席が一緒だと、安心感があるもんだな」

「当然だ。俺は葛城凛祢に勝利した男だからな」

 ガッツポーズで笑みを浮かべる八尋。

「お前の場合、漁夫の利って感じだっただろうが。まほ、この後はどうする?」

「ここはもういいだろう。チャーフィーを追うぞ」

「「了解」」

 その言葉で4人はキューベルワーゲンに乗り込み、移動を開始する。

 

 

 時を同じくして西裏門も突破されていた。

 そこには知波単の九七式中戦車、オオカミチームのキャバリエの姿はなく、戦車の無限軌道の音だけが響いている。

「敵影なし……対岸にも敵影なし」

 4輌のパーシング、ジープはそのまま前進を続ける。

 その時、一発の砲弾がパーシングを掠めた。

 続けて歩兵2人が狙撃されジープから対岸へと落下する。

 一斉に砲塔が砲撃のあった方向へと向かう。

「やば、逃げるぞ!」

「了解」

 不知火と翼もすぐに立ち上がり逃走する。

 その一瞬、注意を引いたことで対岸に身を隠していた九七式中戦車が動く。

 先頭を走行するパーシングと後方を進むパーシングの履帯をそれぞれ撃ち抜いた。

「よし、今だ!」

 西のその声で玉田の九七式中戦車とオオカミチームのキャバリエが砲撃する。

 それぞれ1輌の戦車を撃ち抜き走行不能にさせた。

「よし!」

「やった!」

「敵戦車は撃破しました。後退です!」

「ですが!まだ!」

「後退です!次に同じことを言わせないで!」

「りょ、了解……」

 英子の声で一斉に後退する。

「照月さん、こわい……」

「怒らせない方がいいわよ。本当に……」

「私、照月ちゃんと絶対喧嘩しない……」

 キャバリエ車内でも華蓮たちがそんなことを呟いていた。

「相手の狙いは火力で私たちを撹乱して各個撃破することです」

「バラバラになんてさせないわよ!」

「これだけ砲撃戦が激しいとヒートアックスを仕掛ける暇もないか……」

 壁に身を隠し、銃撃戦を行っていた凛祢も状況を整理していた。

 

 

 現在も園内に侵入せず、停車していたセンチュリオンに通信が届く。

「こちら南正門軍、北に向かって敗走中」

「西裏門軍、履帯修復完了!」

「敵は予想外にも重心防御による遊撃戦を仕掛けています!」

「ほう……遊撃戦ですか」

「作戦を変更する。分散がいやなら望みどおりにしてやろう」

「「了解」」

 愛里寿の指示に返事をする。

 

 

 砲撃戦が続く中、壁を破壊する轟音が響き渡る。

 T-28重戦車が壁を突破してきたのだ。

「マジかよ……後退するぞ」

「葛城さん早く乗ってください!」

「わかってる」

 SPA TM40に乗り込むと撤退するように全速前進する。

「ちょっとそっちじゃない!」

「気を付けて挟まれるわよ!」

「西の路地に逃げ込んで!正面ドームを逆時計回りに!」

「西ってどっち!?」

「わかんないー」

 各々の声が響き渡る。

「チェーザレ。一旦、みんなから離れろ」

「何言ってんすか!?」

「攻め方が少し変わった……何かある」

「チェーザレ。葛城の言う通りに動け」

「了解」

 その指示で凛祢たちは別の方向に進み、隊を離れる。

「こちら正門チームチャーフィーの動きに仕組まれた何かを感じる。通用門チームは注意せよ」

「こちら西裏門チーム。相手の車両がこちらを認識しているはずなのに全然攻撃がありません。まるで無視しているような」

「……どういうつもりだ?」

 まほや英子の通信で聖羅、凛祢も少しずつ異変を感じ始めていた。

「こちら最後尾。敵の攻撃は散発的……妙ね」

「ねぇ、これってさ、誘導されてない?」

「誘導?そんなわけ……」

 悠希の言葉でケンスロットも周囲を見渡す。

 続けてポルシェティーガーが敵パーシングを1輌撃破する。

 

 

 一方、その様子をスクリーンで見つめる八校連合のリタイアした者たち。

「すごーい。またパーシングを撃破したよ!」

「皆さん頑張ってるっすね!」

「頑張ればいいってもんじゃない」

 アキ、アンクの言葉を否定するかのようにミカが呟く。

「そうひねくれたような言い方するなよ、ミカ」

「見てください。状況はよろしくないみたいです」

「これって……」

 司の言葉でアキやミッコむ状況に気づいた。

 

 そして、Ⅳ号車内、パンター車内とアンチョビたちも現在の状況をようやく理解した。

「西住さん、葛城さん。通用門組がYO地点にて包囲されようとしています」

「わかりました。すぐに向かいます!南正門組、西裏門組、YO地点に向かってください。こちらも駆けつけます。小梅さんもついてきてください」

「了解です」

「わかった」

「包囲網が完成したらお終いだ。なんとしても阻止する!」

「そう言うことだったの?狙われなくてラッキーとか思ってたのに……」

「セレナ、急いで向かうわよ」

「ええ。ここで終わるわけにはいかないもの!」

「塁ちゃん。全速前進だぜ」

「了解です!」

 皆網正門組と西裏門組の戦車と歩兵も一斉にYO地点を目指す。

 一方、隊から離れたウサギさんチームのM3は迷いながらも移動を続けていた。

「葛城の予想当たっちまったな」

「当たってほしくなかった」

「でも、俺たちだけでも包囲に掴まらなかったのは不幸中の幸いだろ。俺たちで切り込めば救出も可能だろう?」

「そう、うまく事が運ぶとは思えないんだ」

 凛祢は表情を暗くする。

 今の自分たちだけでは、包囲を突破するのは難しいだろう。

 みほや聖羅、まほさんたちがいたとしても状況は好転しないかもしれない。

 それでもSPA TM40を走らせ、YO地点を目指す。

 

 

 ついにYO地点のステージ会場を囲むような包囲ができていた。

「ちょっと突撃するつもり!?」

「いけ!楔を打ち込め!」

「あーもう!セレナ、一旦停車!」

 その言葉でキャバリエは停車したものの、知波単の九七式中戦車は止まることなく敵に突撃する。

 そしてあっさり包囲の中に入り込み包囲される側の仲間入りした。

 ほぼ同時にまほたちとみほのⅣ号、小梅のパンターが合流する。続いてキャバリエも移動し合流する。

「包囲完了!」

「一方的過ぎて心苦しいわ」

「後は私たちに任せてください」

「終わったな」

「でも、包囲してる戦車は全部じゃない。まだその辺にいるぞ」

「それもすぐに走行不能なるだろ」

 アズミたちは勝ち誇ったように通信を送る。

 現状を見れば八校連の半数以上が完全に包囲された状態にある。

「なんかよくわかんないけど、先輩たちや亮くんたち囲まれちゃってない?」

「突撃して敵をやっつけよう!」

「梓!ウサギさんチーム!」

 その声でウサギさんチームは一斉に振り返る。

 一度隊を離れていた凛祢たち工兵砲兵分隊の姿があった。

「葛城先輩!」

「ウサギさんは包囲されてなかったのか?」

「は、はい。一応は……」

 流石に迷った結果、包囲されずに済んだとは言いづらいのか梓は目を泳がせる。

「まあ、いい。だが、状況はよくないな……」

 凛祢も視線を包囲されたYO地点に向ける。

「葛城先輩、どうにかできないですか!?」

「1輌と歩兵4人じゃ無理だよ」

「でも、助けないと……葛城先輩!」

「……何か、何かないか方法は……」

 ウサギさんチームの期待を背に受け、考え込む。

 ただ突撃しても砲撃、射撃で狙い撃ちされてお終いだ。

 あの包囲を突破するには――

 その時、凛祢の制服の袖が何者かに引っ張られた。

「なんだ?今考えてって……紗季?」

「ちょ、ちょっと紗季!蝶は後にしてって、葛城先輩が今考えて――」

「……観覧車」

 紗季は振り返り遊園地跡の観覧車を指した。

 観覧車……?

 ……っ!

 あれか。

「観覧車?何言ってんだ?」

 ビスマルクは唐突な観覧車という言葉に思わず首を傾げる。

「そうか……紗季、冴えてるぞ」

「そっか!観覧車と言えば!」

 凛祢が紗季の頭を撫でる。

 続いて、ウサギさんチームのようやく紗季の意図に気づき準備する。

 こんな作戦を実行するなんて自分らしくもないが、今はこの作戦にかけるしかない。

「ウサギさん、俺もこれを実行するのは初めてだ。十分に気を付けてな」

「はい。絶対にみなさんを助けましょう!」

 M3とSPA TM40が並び、観覧車に砲を向ける。

「三船作戦!行きます!」

 梓の言葉でM3の砲が火を噴いた。

 砲弾は観覧車の固定器具を撃ち抜き破壊する。

 同時に固定器具を失った観覧車は落下し窓ガラスの割れる音と共に坂を下り始めた。

「やった」

「紗季ちゃん天才!」

「本当に映画みたくなるんだな」

 正直、半信半疑だったが観覧車は予想通りの動きをした。

「あれ?」

「おいおいおい!何やってんだ、早く逃げろって!」

「退却ー!」

「インディージョーンズかよ!」

 思わずそんな声を上げ、凛祢たちとウサギさんチームも逃走する。

 観覧車はその重量で坂を滑り落ちていることで、徐々に速度を上げていく。

「馬鹿やろう!まっすぐに逃げてどうすんだ!右か左、どっちでもいいからハンドル切れ!」

「どっちすか!?」

「こっちだ!」

「桂里奈もハンドル切れ!潰されるぞ!」

 お互いにハンドルを切り、左右に分かれると観覧車はそのままYO地点を目指して落下していく。

 滑り落ちる振動と轟音で包囲していた大学選抜チームと包囲されていた八校連合も観覧車を視認する。

 危険だと判断し移動を始めた。

「なんだ?」

「なぜ、観覧車!?」

「ワオ!もしかしてラビットたち?やるじゃない」

「ちょっとまて、このままだと俺たち諸共潰されないか?」

「全員回避!」

 そんな声を上げ、全員が観覧車を避けるために動く。

「ここまで思い通りに動いてくれるとはな!次に遊園地来たら俺たちもやろうぜ」

「言ってる場合すか?死ぬかと思いました……」

 メッザルーナたちがそんな事を言っているとみほたちと合流する。

「凛祢さん?!あの観覧車って」

「ウサギさんチームの策さ。流石に俺もここまでうまくいくとは思ってなかったけどな」

 返答してYO地点を見つめる。

 クルセーダーが観覧車目掛けて砲撃したことで、観覧車は軌道を変える。

「あら、変ですわ!」

「変ですわじゃない!」

「余計なことするな!」

「逃げろー」

 杏たちも声を上げる。

「あれに潰されるのはマジにシャレにならんぞ!」

「ははは。いやーおもしれー!こうでなくっちゃな」

「笑っている場合じゃないでしょ。ガノスタン!」

 ケンロットやベディビエールも声を上げた。

 Uターンするようにもう一度YO地点を横切る。

 そしてナオミの搭乗するファイアフライの一撃で観覧車は押し出される様にYO地点を抜けた。

 その一瞬の隙を突いて、八校連合も包囲を突破する。

「この後はどうします?」

「敵がほぼ園内に侵入したのでプランFで戦います」

「敵戦車を減らしたことで、数的有利も取れた。砲兵と工兵も対戦車武装の残弾は少なってきたから……よし、ここからは俺たちも対歩兵戦闘に集中する」

「GPS役なら任せろ!」

「相手以上にこちらが分散するので見えない相手の把握を心がけてください!」

「「はい」」

 みほと凛祢の指示に全員が返事をする。

「お、観覧車のやつ力尽きそうだぞ」

「観覧車先輩お疲れ様です!」

「ばいばい観ちゃん」

「達者でな」

「ばいばーい」

 各々の激励を浴びて、観覧車は見えなくなった。

「……もう弾切れ間近か」

 凛祢は自身のブローニングハイパワーの残弾を確認して表情を曇らせる。

 激しい射撃戦を繰り返していたとはいえ、思った以上に弾の消費が激しかった。

 ブローニングハイパワーの残弾は今再装填したマガジン内の弾だけ。

「まずいな……」

 凛祢はそう呟きつつもみほたちの後を追う。

「結局さ、私たちにできることってなんだろ……」

「重戦車キラー!」

「違うと思う」

「もっと身の丈に合った戦い方をしようよ」

「たとえば?」

「はっ!あれって」

 梓はチャーフィーを発見する。

「敵が近いぞ!」

「例の奴発動だ!」

「お色直しでござる」

 Ⅲ突の中で準備を始めるカバさんチーム。

「ケン、お願いするわ」

「ベディも頼みましたわよ!」

「突撃第Ⅰ部隊、行くよ」

「了解です」

「はい!」

 悠希たちの突撃第Ⅰ部隊も戦闘準備を始めるのだった。

 

 

 

 行動不能車両 八校連合    九七式中戦車(新砲塔)、九七式中戦車、パンターG型、

                T-34/85、IS-2、KV-2

                BT-42

 

        大学選抜チーム M26パーシング×2 

                M26パーシング×3、カール自走臼砲

                M26パーシング×6

                

 

 

 

 残存車両数  八校連合    23輌 歩兵隊23分隊

 

        大学選抜チーム 18輌 歩兵隊18分隊




今回も読んで頂きありがとうございます。
今回は観覧車の回でした。
実際に見返してみるとこの時点で大洗は大幅に数的に勝っていたんですね。
では、また次回のお話で。


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第42話 剣舞(ブレイドダンス)

どうもUNIMITESです。
では本編をどうぞ。


 包囲を突破した八校連合は次なる作戦に向けて、準備を進めている。

 そんな中、カチューシャの搭乗するT-34/85は砲撃を続けていた。

「おーい、今は逃げる時だよ。カチューシャ」

「呼び捨てにしないでよ!」

 ナカジマの言葉に、声を上げるカチューシャ。

「じゃあカッちゃん」

「何略してん!?」

「いいから逃げるぞよカッちゃん」

「逃げるなら貴方たちだけで逃げなさい!私はここで戦う!」

 レオポンチームやアリクイさんチームの言葉を無視するように、カチューシャは言葉を続ける。

「そう言うわけにいかないよー。カッちゃんたちがやられたらアルベルトくんたちも一緒にリタイアしちゃうんだから」

「確かにな。殲滅戦である以上、一方的とはいえ俺たち歩兵は戦車と一心同体も同然だからな」

 ヤガミとヒムロもナカジマたちに続いて通信する。

 この戦いは殲滅戦、戦車が走行不能となれば、その戦車を随伴していた歩兵全員がリタイアすることとなるのだ。

「それは……」

 カチューシャの脳裏にアルベルトたち歩兵の顔が浮かぶ。

「力むなよカッちゃん」

「戦うのはみんなで!だよ」

「ノンナさんたちやエレンさんたちは居なくなってしまったもも」

「私たちがいるぴよ」

「今は同じチームだにゃ!」

「チームメイトですよ。チームメイト!カチューシャさん」

 アリクイさんチームやアインも励ますように言葉を送る。

「「そうそう」」

 ナカジマとヤガミに続いてレオポンチームとタイガーさん分隊も頷く。

「大洗の後輩、この一戦にあり。各員、奮励努力せよ」

「そう思うなら少しは、突撃を自重してほしいものね」

「ははは……」

 英子の言葉に華蓮も苦笑いする。

 八九式が合流すると入れ替わる様にキャバリエも隊を離れる。

 

 

 そして、飲食店エリアではクルセイダーやルノーはパーシングを背に逃走していた。

 ローズヒップの通信で作戦を実行する。

「きましたわよ!」

「作戦通り頼むよ。狙撃隊は援護を」

 悠希も呟く。

「任せとけって」

「伊達に狙撃兵をやってはいないからな」

 ガノスタンと迅も返答する。

「オールコレクト、マスターアーム!オン!ファイア!」

 エルヴィンの号令で壁から砲弾が放たれた。

 その砲弾は目の前のパーシングの砲塔を撃ち抜き、走行不能にする。

「っ!」

 一瞬の出来事に敵戦車も動揺する。

「やるー……」

「アンツィオ直伝!マカロニ作戦ツヴァイ!大成功!」

 壁からⅢ突が現れたことで砲撃の正体を理解する。

 続けて敵ジープの転輪を狙撃銃の銃弾が撃ち抜いた。

「なに!?」

「狙撃か!?」

「今だ!」

 続けて建物の屋根からシャーロックとジル、景綱たち歩兵が敵歩兵目掛けて銃を発砲する。

 次々に放たれた銃弾は敵歩兵を屠っていった。

「長居は無用だよ」

「3人は屠ったし移動するぞ!」

「残った奴らは任せた!」

 3人も屋根を伝いに逃走する。

「いざ、参る」

「おうよ!」

 続けて飲食店の扉を開き、突撃隊が攻め込む。

 剣を振り下ろし悠希たちが敵歩兵を切り伏せる。

「流石ですねモルドレッド。兄にも負けていないんじゃないですか」

「当たり前だ。俺はアーサーより強いんだからよ!」

「二人ともまだ敵は残っていますよ!」

 そう言うと再び剣を揮うのだった。

 そして、砂漠フィールドを進んでいたカチューシャ、レオポンチーム、アリクイさんチームも砲撃を受けていた。

「ヒムロー。もう少し揺れないように気を配ってよ……」

「これでも最小限の動きをしているつもりだ。それが嫌ならお前が運転代われ」

「僕も運転は好きだけど、歩兵道みたいな無理なのはできないって」

 コンテンダーで狙撃していたヤガミが不満そうに呟く。

「僕も撃ちないなー」

 続くようにヤマケンもダネルを見つめていた。

「マスターアームオン!ファイア!」

 その掛け声で再びⅢ突の砲が火を噴いた。

 砲弾はパーシングを撃ち抜き敵戦車を走行不能にする。

「よし、次行ってみよう!」

 Ⅲ突も次の攻撃地点に移動する。

「囲まれますぜ。ジェロニモ!」

「どうします?ジェロニモ!」

「誰がジェロニモよ!建物の中突っ切っちゃって!セットみたいなものだから大丈夫!そっちに砲兵もいるんだから煙弾で敵の攻撃を封じなさいよ!」

「了解、ジェロニモ!」

「え、あ、はい!」

 カチューシャの指示で動きを変える。

 敵戦車のパーシングはアインとタイガーさんチームの前に現れる。

 ポルシェティーガーが建物に突撃する。

 その厚い装甲はセットの建物を簡単に粉砕して反対側に出た。

 同時にヤマケンがダネルの引き金を引いた。

 放たれた2発の煙弾は数メートル進んで白い煙を吐き出す。

「煙幕か!」

 その隙に反対側から円形を描くように走行していたポルシェティーガーの砲身が火を噴いた。

 パーシングを撃破する。

「くそ!」

「ヒムロ!」

「おう!」

 ヒムロがアクセルを踏み込むと、ジープは一気に加速する。

 煙幕を抜けヤガミとアインが銃の引き金を引いた。

 次々に放たれる銃弾は敵歩兵に命中している。

「よし」

「やった!ようやく2キル!」

 もう1両のパーシングも反撃するように砲撃するが、T-34/85が間に割り込むことで防御する。

 カチューシャの指示で瞬時に砲撃し、2輌目のパーシングを撃破した。

 三式中戦車も残り1輌の戦車に砲弾を叩き込み、撃破していた。

 

 

 子供エリアに進んでいた知波単と八九式。

 その機動力を活かして、敵戦車を翻弄していた。

「Sクイック行くよ!」

「敏捷作戦第6号ですね!準備完了であります!」

「よっしゃ決めてくださいよ!西さん!」

「期待していますぞ!」

 九七式中戦車と八九式が避けるように左右に分かれると壁の棚に隠れていた九七式中戦車が砲撃する。

 しかし、威力が足りず砲弾は装甲を貫通できず、そのまま弾かれた。

「しまった!」

 攻撃を防がれ、九七式中戦車は急ぎ移動を開始する。

「は!」

「ふん!」

 歩兵相手に戦闘していた信光、光貞たち重桜高校の生徒たち。

 2人はその黒い太刀で敵歩兵の切り伏せた。

「はぁはぁ……」

「どうした光貞。もうバテたか?」

「まだいけます……次が来たみたいですね」

 ようやく敵歩兵を屠ったかと思えば次の分隊が現れる。

「信光殿、光貞!ご無事ですか!?」

「勝正か。次の敵が来ている。行くぞ!」

「「はい!」」

「援護は任せてください!」

「この半蔵も援護します!」

「重桜だけに良い顔させない!オオワシ分隊も続くよ」

「「「おうよ!」」」

 オオワシ分隊も銃口を敵歩兵に向け、その引き金を引いた。

 パーシングは西の搭乗する九七式中戦車を追撃するが、割り込むようにアヒルの風船を被った九七式が現れる。

「構うな!前を狙え!」

 堪らず声を上げる。

 しかし、発砲音が響くとパーシング車内に衝撃が響き渡る。

 つぎの瞬間、パーシングから走行不能の白旗が上がっていた。

 風船によって砲塔全てが隠れていたために砲身が後方を向いていたことに気づけなかったのだ。

「すっげー!今の!今度大洗でもやってみようぜ」

「おい。漣!集中しろ」

「アヒル殿!次はどうしたら?」

「天井からのナックルサーブで!ダブルブロックからの近距離スパイク!」

「了解しました」

 螺旋階段を上り、二階から外に出た八九式と2輌の九七式。

 続くようにパーシングも外に出た。

 坂を下ると砲身の長い戦車は砲が下がる。

 そのため、戦車は砲塔を回転させ、砲身を横に向けることでそのダメージを軽減しようする。

 敵のパーシングもその通りに動く。

「今だ!ダブルブロック!」

 待っていましたと言わんばかりに八九式と九七式中戦車が挟み込むように横から突撃する。

 砲身を固められ、砲も撃てないパーシング。

 砲塔を回転させようとするが、八九式と九七式中戦車がそれを許さない。

 一方子供エリア内部。

「ぐあぁぁ!」

 信光は89式小銃で敵歩兵を屠り、ようやく一息ついた。

「逃がしませぬ!」

「う!」

 半蔵の投擲した小型ナイフが敵歩兵の背中に突き刺さると戦死判定のアラームが響いた。

「ふう。終わりましたね」

「と言っても、我々重桜も残存歩兵は我々だけとなってしまいました」

 太刀を杖の様にして片膝をついていた光貞の隣で勝正が周囲を見つめる、

 重桜の歩兵は信光、光貞、勝正、半蔵、そして蘭丸の5人だけであった。

「それでも僕たちはまだ生きてます!」

「そうそう、俺と漣も生きてます!」

「「後は任せるよ2人に任せるよ」」

 流石にダメージが蓄積したためオオワシ分隊の迅と淳は戦死判定を受けてしまった。

「生きているのならいい。死ぬまで生きて戦うのだ。それが我々歩兵なのだから!」

 信光は外へと続く螺旋階段を目指す。

 外では「根性!」と叫び、パーシングの砲身をブロックする八九式と九七式中戦車の姿があった。

 とどめを刺すように別の九七式が近づき、零距離で砲撃した。

 砲撃の結果、パーシングは黒い煙を上げ白旗も上がる。

「ナイスファイト!」

「あー駆動車は完全にタイヤをやられちゃったから、ここからは徒歩か……」

「徒歩でとほほって感じっすね」

「笑えませんよ蘭丸君」

 蘭丸のダジャレに軽くツッコむ光貞。

 重桜とオオワシ分隊は弾倉交換を終えるとその足で戦車を追いかける。

 

 

 Ⅳ号とヘッツァー、凛祢たち工兵砲兵分隊、カメさん分隊は迷宮エリアに進み、敵を翻弄していた。

 迷宮エリアは狭く、戦車1輌進むのがやっとの道幅だった。

 無論、砲塔の回転もすることは難しい。

 後からしっかりとくっついていれば狙われることはないだろう。

「え!?」

 パーシングは角を曲がった際に砲塔を回転させていたⅣ号に撃たれ、走行不能になった。

 走行不能となったことでルミに通信を送る。

「1輌走行不能にしたみたいだな」

「流石、西住妹だな」

 凛祢とビスマルクは黒煙の上がった方向に視線を向けていた。

 うまく曲がり道で砲塔を回転させ、敵戦車を撃ったようだ。

 戦況の劣勢を感じたからかGPS役のアンチョビたちから、新たにパーシングとチャーフィーが各1輌迷宮エリアに入ったと報告が入る。

「ねー兄貴ー、葛城さんー。俺たちもバンバン撃ち合いましょうよー」

「さっき撃っただろう」

「まだ足りないっすよ!俺工兵だから普段からあんまし撃てなくてストレス溜まってんすよ!」

「静かにしろって。ヘッツァーがここにいることバレるだろ」

 ヘッツァーの隣で警戒態勢を取っていた英治。

「まるでこちらを見通しているようだ……天性の勘なのか。ならば袋小路におびき寄せるか」

 違和感を感じ始めていたルミも策を講じる。

 それから十数分後、誘導されていたⅣ号が行き止まりに進む。

「よし、おい――」

 後を追うパーシングもその好機に気が緩んだのか、警戒を怠った。

 側面を撃たれ、その車体から白旗が上がる。

「やったー」

「流石だな杏会長」

「ここまでうまくいくと、テンション上がるな!」

 砲撃したヘッツァーに合わせて、凛祢たちとカメさんチームも移動を開始する。

「勘がいいってレベルじゃないぞ。これが島田亜凛の直感というやつなのか?……!あいつらが!」

 キューポラから顔を出して周囲を見渡すルミはジェットコースターのレールに停車していたCV33とアンツィオの3人を発見した。

 

 

 そして遊園地跡の外にいたセンチュリオンと天城史郎。

 愛里寿の手には先日みほに譲ってもらい購入したぼこの人形があった。

「お兄ちゃんたちは丸であんたね。どれだけボコボコにされても立ち向かってくる。決して強くはないのに立ち向かってくる」

「……」

 ボコに話しかけるその様子は、小さな子供そのものだった。

「まさか、高校生がここまでやるとは……」

「こざかしったらありゃしない!」

「どうする?」

「ここで隊長に泣きつくなんて!」

「自分たちの面子ばかり言っていたら!」

 アズミ、メグミ、ルミは言い争うように声を上げる。

「喧嘩するな」

「そう言う君は何人屠ったのかな?」

「なんだと?」

「止せよ、こんな時に」

 ジャックとラウもトゲのある言葉を投げかける。

 続くように悠我も通信を送る。

 そんな時だった。

 通信機から響く歌声。

 それが愛里寿のものであることは大学選抜チームの者であればすぐにわかった。

 その歌と共にセンチュリオン、随伴歩兵の天城史郎も歩き出す。

「ジャック、ラウ、悠我。遊びは終わりです。ここから先は本気で潰しに掛かりますよ」

「史郎のやつが自分で動くってことは、もう俺たちを頼るつもりはないってことか」

「まあ、ここまで期待を裏切った以上仕方ないですね」

「俺はやりたいようにするだけだ」

 史郎の一声でGフォースの3人もその目が変わる。

「隊長方が動きました。中隊前進!」

 アズミ達も愛里寿たちが動いたことで士気が上がったように前進する。

 

 

 T-28重戦車と交戦していたダージリンたちも狭い地形を使って動きを封じていた。

「この門はあの車体には狭すぎるでしょ」

 そんな中、火薬の発火音と共にT-28重戦車の外側履帯を切り離した。

「なに!?」

「脱いだ!?」

 T-28重戦車の車体は左右の履帯分細くなったことで狭いもんの通路を前進することに成功する。

 

 

 敵歩兵部隊を屠った悠希、ケンスロット、アーサーたちは次の作戦地点を目指していた。

「次の作戦地点まであとそれくらい?」

「あそこの角を曲がって数メートルだ」

「よし、これで――」

「っ!避けろ!」

 悠希の声で回避態勢を取る。

 後方から敵歩兵の放った銃弾が空を統べる。

 続けてこちらに接近してくる歩兵。

 その手には槍……いやランスの様に先が大型化された武器が握られている。

 武器は形状から見て、メイスだったのだ。

「……邪魔だ」

 その言葉と共にケンスロットを叩きつけた。

「ぐっ!」

 剣で防御態勢を取ったがその体は売店コーナーまで吹き飛び、戦死判定のアラームが響いた。

 売店の入り口にケンスロットの剣であるアロンダイトだけが落ちていた。

「ケンスロット!」

「……ここできたか、悠我!」

「その顔、やっぱ悠希か」

 悠我と悠希は互いの顔を確認し、異なる表情を浮かべた。

 笑みを浮かべる悠我、鋭い眼光で睨む悠希。

「悠希、アーサー何やっている!?はやく逃げろ!」

 屋根を移動していたワニさんチームの3人が敵歩兵に発砲する。

「こいつは、ここで仕留める!」

「こい!」

 悠希と悠我がそれぞれのソードメイスとメイスを振り下ろす。

 金属音のぶつかり合う音と共に2人の戦闘が始まる。

「シャーロック、援護だ。今は悠希を援護する!」

「わかったよ!」

 シャーロックも仕方ないと割り切ったのか後方の敵歩兵に向けて再び発砲する。

 悠希のソードメイスによる攻撃を悠我は見慣れているように捌き切っていた。

「くっ!」

 悠我が蹴りを入れるが、悠希も持ち前の反射神経で反応し防御する。

 再び悠希がソードメイスを叩きつけるが、その攻撃は再び防御された。

「戦闘の技量はあちらが上……今の速度では有効打を与えるのは難しいか」

「反射神経だけなら俺を上回るか」

「はぁぁ!」

 敵歩兵の射撃を潜り抜けアーサーがエクスカリバー・アルビオンを振るが、その切っ先はメイスによって防御される。

「邪魔だ!」

 エクスカリバー・アルビオンを押し上げるようにメイスを振り上げる。

 次の瞬間にはそのメイスはアーサーの横腹を捉えていた。

「がは!」

 体もろとも吹っ飛ばされ、エクスカリバー・アルビオンは地面に突き刺さった。

 まだ戦死判定のアラームこそ鳴ってはいないが限界が近いことは悠希、アーサーも分かった。

「アーサー!」

「くそ!戦闘技術は相手が上!」

「これは撤退するしか……」

 ワニさんチームが声を上げると敵歩兵の撃った銃弾が体を掠める。

 悠希が再び攻める。

「遅い!」

「くっ!」

 悠我の攻撃を後方に跳躍することによって紙一重で回避する悠希。

 着地と同時に視線を向けると悠我の手にブッシュマスターACRがあった。

 今から回避行動を取るのは難しい。

「それなら!」

 ソードメイスを投擲する。

 そして悠希自身の右方向に駆け出す。

 ブッシュマスターから次々に放たれる銃弾は悠希の駆けた地面を抉っていく。

 飛んできたソードメイスを回避してブッシュマスターを構える。

 悠希もH&K USPを引き抜く。

 続けて発砲するとブッシュマスターのスコープを撃ち抜いた。

「っ!」

 悠我も表情を歪めるが瞬時にブッシュマスターを投擲した。

 投擲したブッシュマスターを回避すると同時に地面に刺さるエクスカリバー・アルビオンの柄に手を付ける。

「悠我!?何を!」

「借りるよ」

 引き抜いたエクスカリバーアルビオンを手に、駆け出す。

 その速度は先ほどよりも早かった。

「なに!?」

「はぁぁ!」

 紙一重でメイスで防御するも悠希は追撃するように剣を振る。

 その刀身が悠我の背中を切り伏せた。

「……まだだ!」

 悠我も歯を食いしばり、メイスを揮った。

 エクスカリバー・アルビオンを前で構えることで防御する。

 しかし、その体は地面を滑り後方へと下がった。

「はぁはぁ……」

 お互いに肩で息をしていた。

 そんな中、悠希はしゃがみ込み、ケンスロットの剣であるアロンダイトを拾い上げた。

「やっぱ少し軽いな……」

 その言葉と共に再び攻撃を仕掛ける。

 悠希は今までの戦い方とは異なり、アーサーたちの様に剣術による戦い方になっていた。

「お前、いつの間にそんな戦い方を!」

「悠希の奴、俺たちの剣術をトレースしているのか?」

 戦闘を見つめるアーサーが思わず口走る。

 攻撃を受け流し、反撃するように敵の身体を切り伏せていたのだ。

 まだまだ剣術は未熟とはいえ、それでも有効であることはわかる。

「うん。二刀流(これ)なら殺し切れる」

「なぜだ!この俺が!」

 切っ先は確実に悠我の身体を捉え、ダメージを蓄積させてていく。

 ついに悠希の振り下ろした剣がメイスの柄を切り伏せた。

「は!」

「ぐっ!ううぉぉぉ!」

 悠我が反撃するように折れたメイスの柄を悠希の腹に突き刺した。

 しかし、痛みに耐え悠希がエクスカリバー・アルビオンとアロンダイトを振り下ろした。

 肩から上半身、そして下半身にかけて刀身が悠我を切り伏せる。

「あ、が……」

 悠我は膝から崩れ落ち倒れ込む。

 そして戦死判定のアラームがその場に響き渡る。

「やった……やったぞ悠希!」

「あ、疲れたな……」

 手から剣が滑り落ちると続くように悠希も倒れ込み、戦死判定のアラームが響いた。

「にしても、こっちも随分やられた」

 すでに悠希とケンスロット、シャーロックたち3人も敵歩兵との射撃戦で戦死判定を受けてしまっている。

「こちらアーサー。突撃第1部隊は僕以外全滅。といっても僕ももう動けない。悠希が頑張ってくれた。あとは任せるよ隊長」

「そうか。あとは任せろ」

「アーサーたちが全滅とはなかなか痛いな」

 英治の言葉に凛祢も頷いた。

 第1突撃部隊は全滅。

 それでも第2突撃部隊のモルドレッドたちがまだ残っている。

「落ち込んでいる暇はない。アーサーたちの繫いだチャンスは必ず生かして見せる」

 戦況的には戦車の数、分隊数からすでにこちらが有利な状況なのは確かだ。

 このまま有利を守って戦えば必ず勝てるはず。

 今の凛祢はこれから起きる敵の反撃を知る由もなかった。

 

 

 Ⅲ突は再びマカロニ作戦ツヴァイを決行していた。

 獲物である敵戦車が来るのを今か今かと待ちわびている。

「マスターアーム、オン!ファイ――」

「それはない……」

 アズミの言葉と共にパーシングが砲撃。

 砲弾ははりぼてもろともⅢ突を撃ち抜いた。

「なぜだ!?」

「完璧だったのに!」

 走行不能になったⅢ突車内でカバさんチームが声を上げていた。

「西裏門よりセンチュリオン、および敵歩兵3名が侵入!」

「了解しました」

「愛里寿と史郎たちか……」

 するとアンチョビたちの元にチャーフィーが接近していた。

 彼女たちの存在に気づき、ジェットコースターのレールを進んできたのだ。

「しまったバレたぞ!」

「気合入ってんな!」

「お、落ち着いて行け。ここから先は細いからついてこれない!おい、メッザルーナ早く助けにこい!」

「無茶言うな。すぐにそっちに行けるわけねーだろ」

 メッザルーナもため息交じりに返答する。

 CV33は逃走するためにレールを進む。

 続くようにチャーフィーもレール上を前進して追撃する。

「なんか知らんけど全力で逃げろ!」

「凄い気合入ってますね!」

「それから向き変えて応戦!」

「無理です……」

 CV33の車内でもアンチョビたちが声を上げていた。

 前方にしか攻撃手段である8㎜機銃が装備されていないCV33は固定砲塔と同じ。

 今の様な一本道での追いかけっこでは攻撃に移ることは実質不可能である。

 

 

 通信を聞いた知波単とアヒルさんチーム、重桜とオオワシ分隊はセンチュリオンの元に向かう。

「きたぞ戦車前進!」

「天城史郎!相手にとって不足なし!いくぞ!」

「「「了解!」」」

 戦車4輌に歩兵7名で突撃していく。

「応戦……」

 史郎の言葉で2人の歩兵は一斉にブッシュマスターの引き金を引いた。

 放たれる銃弾。

 しかしこの場は遮蔽物のない開けた草原。

 勝正、蘭丸、半蔵、漣は銃弾を受け戦死判定を受ける。

「撃てー!」

 西の一声で戦車の砲が火を噴く。

 しかし、センチュリオンはそれらを回避し上に車体を傾け、すでに攻撃態勢に入っていた。

 そして発砲。九七式中戦車を撃破。

「止まるな!肉薄すればまだ勝機は――」

「そんなものはありません」

 背中に背負うソードオフショットガンを引き抜く。

 そして発砲。

 放たれた散弾は距離を詰めていた辰巳と光貞に命中。即時に戦死判定を受ける。

「辰巳君!」

「光貞!くそ!」

 信光も太刀を振り下ろすが、史郎は最小限の動きで攻撃を回避する。

「手加減はしないです」

「っ!」

 右手のソードオフショットガンを発砲。

 信光も紙一重で散弾を回避したが、すでに左のソードオフショットガンの銃口はこちらに向けられていた。

 躊躇なく引き金を引くと散弾が信光を撃ち抜き、共に戦死判定のアラームが響く。

 再び突撃する西の九七式もセンチュリオンが砲塔を回転が速く、正確な射撃から撃破された。

「あいたー!」

「今だ!」

「はい!」

 八九式と九七式中戦車が左右を固める。

 しかし、全速後退され簡単に抜け出したセンチュリオン。続けて最後の九七式中戦車を撃ち抜き走行不能とする。

「な、なんなんだ。この人たちの強さ……」

「正確な射撃と動き、完成された連携ですな」

「こんな相手に本当に勝てるのかな……?」

 戦死した光貞たちが思わず呟く。

「超根性!」

「……」

 突撃する八九式の砲撃を回避したセンチュリオンはその正確な射撃で砲塔を撃ち抜いた。

 4輌すべてを撃破したセンチュリオン、7人を屠った歩兵3人は再び移動を開始する。

「この負けっぷりいつもの我々ですな!」

「敵ながらあっぱれ!」

「呑気に言わないで下さい!」

「こちら信光。知波単および八九式、その随伴歩兵は全滅した。あのセンチュリオンと天城史郎、相当強いぞ」

「了解。みんなはゆっくり休んでください」

 通信を終えた信光は倒れたまま空を見つめていた。

 

 

 T-28重戦車と交戦していたチームも次の作戦に移っていた。

「データによりますと、ウィークポイントはここです」

「優雅な勝ち方にはほど遠いですね」

「今回はみほさんを助けに来たのよ。私たちの勝利じゃない」

 揺れる車内でダージリンは紅茶を飲む。

 車体を傾けて橋の下に陣取っている。

「17ポンド砲さん準備はどう?」

「とっくにできてる。いくぞ」

「どうぞ」

 瞬時にファイアフライが砲撃。

 橋を破壊したことでT-28重戦車の腹が橋下のチャーチルに露呈する。

 チャーチルも発砲。

 砲撃を受けたT-28重戦車も数秒経ち異音と共にエンジン部が爆散。

 走行不能の白旗が上がる。

「成功ね。アッサムのデータ主義もたまにはいいものね」

「しかい、この後の生還率が……」

「みほさん、そして凛祢さん頑張って。戦いは最後の5分間にあるのよ」

 その言葉を残すとチャーチルはチャーフィーとパーシングに狙い撃ちされ走行不能になった。

「ちまちましているのは性に合わないわ。集まりましょうか」

「いつも通りの」

「バミューダアタック!」

「悠我を殺して、勢いに乗っているようだが侮ってもらっては困る。奴は我らGフォースの中でも最弱!」

「確かに成績的には悠我が下なんだけど……最弱ってことはないだろ」

「うるさい!ラウ。せっかく全力で戦う機会もらったんだ出し惜しみするな」

「わかってるよ。ここからは俺たちのターンだ」

 ジャックとラウもやる気満々に声を上げる。

 その言葉で再び動き出す3輌のパーシングと歩兵達たち。

 その車体には赤の四角、黄色のひし形、青の三角がそれぞれプリントされていた。

 

 

 行動不能車両 八校連合    九七式中戦車(新砲塔)、九七式中戦車、パンターG型、

                T-34/85、IS-2、KV-2

                BT-42

                Ⅲ号突撃砲、九七式中戦車(新砲塔)×2、

                九七式中戦車、八九式中戦車、

                チャーチル歩兵戦車

 

 

 

        大学選抜チーム M26パーシング×2 

                M26パーシング×3、カール自走臼砲

                M26パーシング×6

                M26パーシング×9、T-28重戦車

 

 

 

 

 残存車両数  八校連合    17輌 歩兵隊16分隊

 

 

 

        大学選抜チーム 8輌 歩兵隊8分隊




今回も読んで頂きありがとうございました。
本編もだいぶ終盤となり残り数話かと思います。
補足ですが悠我、悠希は兄弟です。
スクワッドジャム時点で悠希がGフォースの読み方を
ゴールドフォースと知っていたのもそれが理由です。
ではまた、次回のお話で。


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第43話 苛烈なる共闘

どうもUNIMITESです。
では本編をどうぞ。


 戦況の変化に凛祢と聖羅たち歩兵も次なる動きを見せてた。

 2人の分隊が合流していたのだ。

「アルベルト、メッザルーナ、チェーザレにはカニさんとタイガーさん分隊、シラサギ分隊の増援に向かってほしい」

「「了解した」」「了解っす」

「聖羅と八尋、俊也は今後俺と行動を共にしてもらう。ビスマルクも引き続きな」

「問題ない」

「おうよ!」

 作戦会議を終えると再び隊が別れる。

「おい凛祢、八尋待て」

「どうした?」

「なんだよ、トシ?」

 俊也が2人を制止する。

 するとそのまま腰のホルスターからFN FiveseveNを引き抜いた。

「八尋もFiveseveN出せ。凛祢、もうブローニングは弾切れだろ」

「気づいてたのか」

「ただでさえ軽装備なお前だ。これだけ試合が長引けば予測はつく」

「お前すげーな」

 八尋もFiveseveNを取り出し手渡す。

 凛祢は受けとったFiveseveNを懐のホルスターに差し込む。

「マガジンも全部くれてやるから使え」

「サンキューな」

 銃を再び手に入れ、凛祢も戦闘準備を整える。

「行くぞ、もたもたしてるとあっという間に戦況を見失う」

「ああ、行こう」

 凛祢たちも再び移動を開始する。

 

 ジェットコースターのレールを進むCV33とチャーフィー。

 レールの曲線によってなんとか砲撃を回避していた。

「ドューチェ!前!挟まれったっす!」

 前方にはもう1輌チャーフィーが現れる。

 挟み撃ちにすることで確実に撃破しに来たのだ。

「どうする!?どうする!?喧嘩売って!」

「はい!」

 CV33が8㎜機銃を放つが機銃では装甲を貫通できるはずもなく、敵の距離が少しずつ詰まっていく。

 しかし、チャーフィーは何者かの砲撃によって白旗が上がった。

「「よっしゃ!」」

「すげー!ウサギさんやるようになりましたね」

『歴戦の経験!』

 今の砲撃を行ったウサギさんチームに続いて、合流したヤマネコ分隊も思わず声を上げた。

「次行くよ、次!」

「やっちゃえ!やっちゃえ!」

「撃て!」

 梓の声でM3が発砲。

 立て続けにチャーフィーを撃破した。

「流石、軽戦車キラー」

「やったぜ!」

 再び声を上げる。

 その時であった。

 ヤマネコ分隊の元に2発の榴弾が放たれ誘爆した。

 爆発に巻き込まれ6人全員が戦死判定を受ける。

 続けてM3も狙い撃たれ、横転した。そのまま白旗が上がる。

 センチュリオンと史郎たちは静かに横を通り過ぎていく。

「え?なになに?なにがあったの!?」

「わかんないー」

「地雷ー?」

「違うよ!敵にやられたの……センチュリオンが向かっています!」

「あれが敵の隊長か!葛城先輩、後はお願いします!」

 梓と亮がボロボロになっていながらも通信を送る。

 

 

 建物を盾にして射撃戦をしていたレオンとピアーズ、ブラッド。

「くそ!埒が明かない!すでにセンチュリオンが園内に侵入してるってのに!」

「ですが、無闇に出て行っても蜂の巣にされてしまいます!」

「なら、どうするんだよ!?」

「まあまあ落ち着いて」

 同伴していたグラーフもなだめるように割って入る。

「しかしだな!」

「上だ!」

 屋根の上にいた敵歩兵の存在に気づいたレオンが声を上げた。

 皆が同時に動くものの榴弾の爆発に巻き込まれ、ピアーズ、グラーフが戦死する。

「くそー!」

 ブラッドは地面に倒れながらもM4の引き金を引いた。

 放たれた銃弾が敵兵に命中し屠った。続けてレオンもデザートイーグルを発砲。

 敵歩兵の胴を撃ち抜いき戦死させる。

「よし、これで」

 再び立ち上がろうとした時だった。

 銃弾の雨を浴びせられレオンが戦死判定を受ける。

「レオン!」

 ブラッド立ち上がりレオンの元に向かおうとするが、

「遅い!」

 続けてブラッドも背中を撃たれ戦死する。

「次いくぞ!」

 第九席であるレオン、ブラッドを屠ったジャックは次の地点へと移動する。

 一方、メグミ、アズミ、ルミのパーシング3輌はサンダースのシャーマンと対峙していた

「一気に蹴散らして、隊長と合流するわよ!」

 サンダースの戦車が先に攻撃を仕掛ける。

 すれ違い様に砲撃するもパーシングはその攻撃を回避する。

 ドリフトするようにその車体が方向転換した。

 3輌同時にその動きを行っていながらお互いの車両がお互いの動きを阻害することが一切ない。

 彼女たちの息があっていることは明白であった。

「おのれー!」

 そんな機動力に翻弄され先にアリサのシャーマンが砲撃を受けて撃破される。

 続けてナオミのファイアフライもパーシングの機動力に翻弄されていた。

「え!?」

 砲撃する前に狙い撃ちされ白旗が上がる。

 残ったケイの車両も砲撃するがパーシングはそれも回避した。

 そのまま3輌に囲まれる

「ウップス!」

 同時攻撃を受けサンダースの車両全てが走行不能になった。

 

 

 敵歩兵と交戦していたヤガミは表情を曇らせる。

「うーん。結構、激しいな……」

 コンテンダーから放たれた銃弾は敵歩兵に命中し屠っていた。

「くっそ。何人出てくんだ!?」

「撃っても撃っても減りませんよねー」

 銃弾が飛び交う中でヒムロやアインも思わず声を上げる。

「僕たち勝てるんでしょうか……」

 青葉も思わず弱音を漏らす。

「よし、まだ生き残ってましたね」

「待たせたな」

「カニさん来てくれたんだ!」

「状況はあまりよろしくねーぞ」

 合流したカニさん分隊、タイガーさん分隊、アインは再び攻撃を続ける。

「後ろから回り込め、数はそんな多くない」

 ラウの指示で敵歩兵が突撃を開始する。

 投擲された手榴弾は地面を転がり爆発した。

 爆風が八校連合の生徒たちを襲う。

「近づけさせるな!ここで食い止めるんだ!」

 ヒムロが声を上げる。

 しかし、すでに敵の接近を許していたためアイン、ヤマケン、宗司が攻撃を受けた。

「く!後退を!」

「な!いつの間に!?」

 後方に視線を向けるがすでに敵歩兵が囲い込むようにその姿を現す。

 再び攻撃を受け、八校連合にはヤガミと英治のみが残る。

「どうする。英治?」

「なんとしてもしのぎ切る!」

「やっぱ、それしかないよね!」

 お互いに背中を預け声を上げる。

 敵砲兵の銃口がヤガミと英治に向けられた。

 その時、発砲音と共に前方と後方それぞれの敵歩兵を銃弾が撃ち抜く。

 滑り込むようにアルベルト、メッザルーナ、チェーザレが姿を現す。

「カールの連中が言ってたファークトやアルディーニの生き残りか」

 いち早く建物越しに身を隠したラウはこちらを見つめる。

「どうしますか?」

「全員屠る、ジャックにだけ粋がらせるのも尺だからな」

「了解」

 再び攻撃を開始する。

「7番、そっちは任せる」

「はいよ!ただその7番って呼び方はやめろよ4番」

「お前だって同じ呼び方してるじゃねーか」

 お互いに前方、後方へと視線を向ける。

「ヤガミ、アルベルトさんとそっちは任せるぞ」

「はい!」

 敵の攻撃に、一瞬動揺するもののアルベルトたちの交戦がはじまる。

 時を同じくしてヘッツァー、三式中戦車はセンチュリオンと交戦していた。

 センチュリオンの放った砲弾がヘッツァーのエンジン部を撃ち抜いた。

「やられたー!」

 杏のそんな声と共にヘッツァーがひっくり返る。

 三式中戦車の車内でもももがーがレバーを力一杯引く。

 しかし力任せにレバーを引く荒い使用方法が祟ったのか、衝撃に耐えられずレバーが付け根から破損した。

 結果、コントロールを失った三式中戦車を愛里寿の搭乗するセンチュリオンが見逃すわけもなく、難なく走行不能にされた。

 

 

 一方、天城史郎と他の歩兵2人は次なるターゲット聖ブリタニアのアグラウェイン、ベディビエールと他数名の歩兵と交戦に入る。

「……!」

 背中に背負う日本刀を抜刀すると史郎は近接戦で確実に敵歩兵を屠っていく。

 屠った歩兵を盾にするように構え接近すると再び日本刀で歩兵を切り伏せる。

 そんな中、ベディビエールも刀剣を振り下ろす。

 しかし、史郎は日本刀で攻撃を受け流すように捌き、ソードオフショットガンを引き抜く。

 零距離でベディビエールを撃ち抜いた。

 散弾を零距離で受け、生存していられるわけもなく戦死判定のアラームが響く。

「ベディ!」

 アグラウェインも史郎へと突撃していく。

 そして剣を振り上げた。

 史郎はソードオフショットガンをグリップから銃身に持ち変える。

 振り下ろされた剣を回避すると銃のグリップをアグラウェインの頭部に叩きつける。

「ぐっ!」

 痛みに倒れ込むアグラウェインの背中にリロードを終えたソードオフショットガンの散弾を放ち屠った。

 すでに2人によって他の歩兵が全滅したことを確認する。

「愛里寿たちは中央広場に向かうはず……我々も向かいます」

「「了解」」

 史郎たちも移動を再開する。

 ほぼ同時に愛里寿より目標地点が中央広場である事が告げられた。

 

 

 交戦を続けていたみほも通信機に手を当てる

「おねぇちゃん、私たちもコンビネーションでいこう」

「わかった」

「残りの敵歩兵は20人を切っているようだな。聖羅、一気に歩兵を倒してみほとまほさんの援護に行こう」

「ああ、最初からそのつもりだ」

「みほ、必ず君たちを守ってみせる」

「はい。絶対に勝ちましょう」

 通信を送りあうと再び敵歩兵を発見し交戦に入る。

 

 

 翼、塁、不知火、龍司も交戦が開始される。

「くっ!敵さんはやる気っぽいな」

「翼、お前は援護だ塁ちゃんと龍ちゃんは俺と一緒に戦ってもらう」

「龍、ちゃん?それって僕のことですか!?」

「不知火殿は気に入った相手はちゃん付けで呼ぶんですよね」

「随分フレンドリーですね」

 龍司も思わず頬が緩む。

「敵はたった4人仕留めるぞ」

「ジャック中隊長。こちらも残存歩兵は6人を切っています。あまり無理は……」

「戦車も減っている以上そんなものだろう。こいつらは俺たちだけで殺し切る!」

 ジャックも銃を構える。

 すぐに射撃戦が開始された。

 龍司は早撃ちで敵歩兵を翻弄し、不知火たち3人が確実に敵歩兵を減らしていく中、

「ちまちまと削って来るか!こうなれば力で押し切るしかあるまい!」

 ジャックはそう声を上げると煙幕手榴弾を投擲して突撃する。

 立ち込める煙幕でお互いに攻撃の手をを緩めるが、ジャックはすでに接近していた。

「翼、援護!」

「狙い通りだ!」

 ジャックもブッシュマスターの銃口下部に取り付けられたグレネードランチャーをすでに翼の居る方へ向けていた。

 榴弾を発射する

 翼、そして近くにいた塁も回避するために逃走するが、反応が遅れた2人は爆発に巻き込まれ戦死判定のアラームが響き渡った。

「翼!塁ちゃん!」

「くそ!」

 龍司も左手のMP7を捨て、ナイフを手に接近する。

 CQC攻撃を仕掛けるが、戦闘慣れしていた大学選抜の一人であるであるジャックは銃でそれらの攻撃を防御した。

 そして銃身、ストックを使って次々に龍司に攻撃を仕掛けてく。

 不知火も銃を構えた。

 しかし、味方である龍司と敵であるジャックの距離が近すぎるため、その引き金を引けなかった。

「ちくしょ!龍ちゃんから離れろや!」

 攻撃手段を変更しナイフを手に攻撃する。

「弱い!弱すぎるぞ!」

「やっぱ、つえーよ」

「諦めるんですか!?」

「んなわけねーだろ!イチかバチか、これにかけるしかねーか」

 不知火は地面についている右手に視線を降ろす。

 龍司のMP7、ジャックのブッシュマスターの引き金が同時に引かれた。

 放たれた銃弾はお互いに被弾する。

 龍司から戦死判定のアラームが響くがジャックからは戦死判定のアラームはなっていない。

 その隙に距離を詰め、接近した不知火がナイフを突き立てる。

「無駄だと言ってるだろうが!」

 再びブッシュマスターの銃身で攻撃を防御する。

 そしてそのままジャックが攻撃に移行した。

「今しかねぇ……!」

 振り下ろされるブッシュマスターを左肩に受けながらも、右足でジャックの足を蹴り上げた。

「なに!?」

 不意を突かれたため地面に倒れ込む。

「あれは!」

「凛祢と同じ、格闘術!?」

「衛宮先輩が格闘技使うなんて!」

 戦闘中継を見つめていたオオワシ分隊やワニさん分隊が思わず声を上げる。

 不知火が放った技は凛祢の扱う覇王流の技、紫電脚だった。

「くっ!だが、この程度で!」

「そうだろうな!覇王流……」

 不知火が一歩踏み込み右手の拳を握る。

「俺はGフォースが1人!高校生如きに!」

「烈風拳!」

 立ち上がったジャックの腹部に烈風拳が放たれた。

 同時にブッシュマスター内のマガジンに残っていた銃弾数発が不知火の腹部に放たれる。

「が、は」

「……」

 響き渡る戦死判定のアラーム。

 その音が鳴っていたのは……

 ジャックであった。

「よし……!凛祢、あとは頼むぜ……」

 膝から崩れ落ちる不知火もそのまま立ち上がれずその場に伏せる。

 戦死判定こそ、受けていないが身体が限界なのか動けなかった。

 

 

 一方、ジェットコースターのレールを下りたCV33はアヒルさんチームの搭乗するルノーと共に移動する。

 メグミ、アズミ、ルミの搭乗するパーシングを追いかけるカチューシャたち。

「体当たりしてでもセンチュリオンとの合流を阻止するわよ!」

 それぞれがすれ違い様に砲撃するが、各車は被弾することなく回避する。

 そんな中、八校連合のマチルダが砲撃を受け走行不能となった。 

 同時刻、敵戦車チャーフィーと交戦していたクルセイダーはその速度を上げて行く。

「リミッター外しちゃいますわよ!」

 ローズヒップが声を上げると砲撃を回避したタイミングでお互いの狭間にあった川を戦車速度の勢いのみで飛び越えた。

 チャーフィーの砲塔を下部を撃ち抜き走行不能にするものの、クルセイダー自身も壁に激突したことで走行不能の白旗が上がる。

 行動を共にしていたオオカミチームのキャバリエ、小梅と聖菜の搭乗するパンターは敵隊長車であるセンチュリオンを発見していた。

「見つけました、敵隊長車です!みほさんたちに援軍を要請しますか?」

「いえ、その必要はないわ小梅さん。私たちであれを倒しましょう」

「でも!」

「勝機が薄いのは分かってる。でもこれ以上あのセンチュリオンを暴れさせるわけにはいかないわ」

「わかりました。いきましょう!」

 オオカミチーム、そして小梅たちも覚悟を決めたように視線を再びセンチュリオンに向ける。

「1時の方向、キャバリエとパンター……」

 愛里寿も英子たちの存在を察知し通信機で車内に情報を伝える。

「「砲撃!」」

 英子と小梅の合図で砲が火を噴いた。

 放たれた砲弾はセンチュリオンに向かっていく。

 しかし、センチュリオンは流れるような動きで砲弾を回避する。

「何あの動き!?」

「あんな動き、ウチの生徒でもできませんよ!」

 華蓮と聖菜が思わず声を上げる。

 そのままセンチュリオンは砲撃した。

 攻撃をギリギリで回避するパンター。しかし砲弾は装甲を掠っていたために装甲が黒く染まる。

「華蓮、風香!次の攻撃!」

「あいよ!」

「うん!」

 再びキャバリエが砲撃する。

 装甲を跳ね返る音が響き渡った。

「攻撃が……」

「当たった!?」

「……!」

 走行不能にはなっていないもののセンチュリオンに砲弾が当たったのだ。

 現在までただの1度も被弾しなかったセンチュリオンに。

「ううん。あの程度じゃ倒せない」

「先にキャバリエを」

 愛里寿の指示でキャバリエに砲を向けた。

 その隙をつくようにパンターが接近する

「セレナ!」

「……!」

 直感的に危険を察知したのか愛里寿が瞬時に車内にハンドシグナルを送る。

 砲塔の回転が止まり、パンターを捉えた。

「しま――!」

 砲撃音と共にパンターから白旗が上がる。

「小梅さん!」

 続けてキャバリエが砲撃するもののその砲弾は回避された。

 反撃する様に砲が火を噴く。

 被弾したキャバリエからも白旗が上がった。

「2輌撃破完了」

 センチュリオンは再び移動を開始する。

 

 

 ブッシュマスターから放たれた銃弾がアルベルトの手から銃を弾き飛ばした。

「ちっ!」

「まったく恐ろしい人たちだよ。君らは!」

 倒れた仲間たちを見て、自分の小隊の歩兵が自分自身だけであることに気づく。

「アルベルト!」

 身を隠していたメッザルーナが突撃する。

「邪魔だ!」

「ぐ!」

 腰のホルスターから引き抜いたコルト・ガバメントが火を噴く。

 銃弾はメッザルーナに命中する。

 戦死判定は受けていないものの身体に走る痛みに膝をつく。

 同時にアルベルトも2丁の引き抜いたナガンM1895の引き金を引いた。

 放った6発の銃弾は3発だけがラウに命中した。

 しかし、それでも彼を屠ることはできていない。

 反撃するようにアルベルトの肩を撃ち抜く。

「惜しかったね!これで!」

「……お前がな」

 ラウは勝ち誇ったように銃口をアルベルトに向ける。

 そんな中、アルベルトは笑っていた。

「あいつ、まさかさっきの射撃!」

 その意図にメッザルーナも気づいた。

 後方から1発の銃弾が現れ、ラウの背中に命中したのだ。

「な、なぜ……」

 そんな発言と共に戦死判定のアラームが響き渡る。

 命中した銃弾はさきほどアルベルトの放ったナガンM1895の銃弾であった。

「まさか……跳弾?そんな芸当をやったと言うのか!?」

「……さあな」

 アルベルトも痛む肩を抑え倒れ込む。

 さきほどの銃弾は完全に予想外の跳弾だった。

 正真正銘、意図しない形で跳弾が起きたのだ。

 そのまま気を失い、戦死判定のアラームが響く。

 

 

 続いてCV33とアヒルさんチームにルノーが敵戦車パーシングを発見していた。

「野良パーシング発見!」

「残党狩り係でしょうか?」

「小癪な!挟み撃ちにするぞ!」

「了解!」

 アンチョビと緑子はパーシングに砲を向ける。

「勝手なことしちゃっていいの?これじゃ丸で規則違反しているみたい」

「規則は破るためにあるのよ!」

「青葉さんが聞いたら喜びそう……録音しておけばよかった」

 ぱぞみが小声で呟く。

 するとCV33がパーシングの前方に出た。

 8㎜機銃を放つ。

「この!……って、あれ?」

 砲を向けようとするが、接近されている上にその小さな車体では砲を低く向けることができなかった。

「へへ!深く取れないでやんの!」

「豆戦車を踏み潰せ!」

 砲撃から車体での突撃に切り替えたパーシングがその速度を上げて行く。

 その動きに合わせてCV33も付かず離れずの距離を保つ。

「よーし!T型上下作戦だ!」

「一回も成功したことないっすよ!」

 ペパロニが声を上げるが、CV33は加速してプールの上を見ず切石のように跳ねて行く。

 それは車体の軽いCV33だからこそ奇跡的にできた芸当であった。

 操縦手がレバーを引き、パーシングはギリギリ陸に踏みとどまる。

 後方を走行していたルノーがその隙を狙わないわけもなく砲撃してパーシングをプールの水中に落下させた。

 そのまま白旗が上がる。

「安心して、浅瀬だから」

「やった!成功だ!タンケッテ最強!」

 プールを越えたCV33車内ではアンチョビが思わず声を上げた。

 しかし、すぐにその砲撃を受ける。

 車体がひっくり返り白旗が上がった。

 砲撃を行ったのは、さきほどキャバリエとパンターを走行不能にしたセンチュリオンである。

「次、3時の方向」

 愛里寿の一言で砲塔が回転し、一撃でルノーを狙い撃ちし走行不能にした。

 ここまで彼女のセンチュリオンは目の前に現れた戦車すべてを走行不能にしていることをスクリーンから見つめていた観客も気づいていた。

 しかもその砲撃はほぼ一撃で確実に敵戦車を撃破している。

 

 

 

 メグミ、アズミ、ルミのパーシングを追撃していたポルシェティーガー、ティーガーⅡ、T-34/85。

 その機動力に翻弄されていた。

 ポルシェティーガーの厚い装甲が何とか攻撃を防いでいたものの、八校連合側も決定打を当てられてはいなかった。

「このままじゃ追いつけないから、パワー出すよ!スリップで付いてきてね!よろしく!」

「スリップするのか?」

「スリップストリームね!」

 ツチヤが視線を落とし、自分たちの搭載した秘密兵器を見て笑みを浮かべた。

「そんなんじゃいつまで経っても追いつけないよ。ノロマさんたち」

 ルミも車内で勝ち誇った笑みを浮かべる。

「エンジン規定はあるけど、モーターはないもんね!」

 ツチヤがEPSと書かれたボタンを押した。

 その瞬間ポルシェティーガーの様子が変化する。

 モーターからはまるで牛の鳴き声の様な低い音が響く。

 EPSはenergy panzer systemの略であり、Energy-Recovery Systemを元にしたシステム、直訳すればエネルギー回収システム。

 減速で発生した運動エネルギーやエンジンの排気熱を回収して動力に上乗せするシステムの事である。

 ポルシェティーガーはそのまま加速していき、後方にピッタリくっつくティーガーⅡとT-34/85。

「いけ!超音速の貴公子!」

「……あれ?あ、モーターイカれた」

「こりゃあ、またヒムロくんが暴れそうだな」

 その超加速にモーター、エンジンが耐えきれなかったのかポルシェティーガーのエンジン部が黒煙と共に炎上する。

 そんな中でもスリップストリームで加速したティーガーⅡとT-34/85はパーシングに肉薄し砲撃。

 ティーガーⅡがルミ車のパーシングを、メグミ車のパーシングがティーガーⅡを、そしてアズミ車のパーシングがT-34/85をそれぞれ撃破し白旗が上がる。

 スクリーンには残存戦車、歩兵が映し出される。

 残存戦車はⅣ号とティーガーⅠの2輌。

 残存歩兵はⅣ号の随伴分隊であるヤブイヌ分隊の凛祢、八尋、俊也。

 ティーガーⅠ随伴歩兵である聖羅とビスマルクの合計5人となる。

 

 

 

 凛祢たち歩兵隊も敵歩兵と対峙していた。

 接近して距離を詰めた凛祢はFiveseveNをの引き金を引く。

 敵歩兵を屠ると同時にその歩兵を盾にする。

「こいつ!」

 そのまま屠った歩兵のブッシュマスターを乱射して敵を怯ませる。

 隙を突いて聖羅とビスマルクが敵歩兵を2人屠った。

「よし!」

 敵歩兵を屠り移動を開始しようとした時だった。

 八尋と俊也が狙撃され戦死判定を受ける。

「八尋、俊也!っ!来たか……」

「ここまで来ましたか」

「……」

 その言葉に凛祢はFiveseveNを握る手に力を込める。

 視線の先にいたのは敵歩兵隊の大隊長である天城史郎。そして残存歩兵が2名。

「こちら残存歩兵は3名。さきほど2名を屠ったのであちらも残りは3名です」

「恐れるべきは亜凛だけです、行くぞ」

「「はい」」

 史郎はソードオフショットガンを構える。

 お互いの間にピリついた雰囲気が流れた。

 

 

 スクリーンを見つめるオオカミチーム。

「残りの歩兵は凛祢たちだけね」

「勝てるのかな?」

「勝つよ、きっと。ねえ、照月さん」

「ええ。今は信じて待つ」

 英子もスクリーンを見つめ拳に力を込める。

 

 バックパックを外した凛祢たちが突撃する。

 史郎が銃口を凛祢とビスマルクに向ける。

 そして引き金を引いた。

 同時に凛祢が防弾加工外套を大きく広げる。

 自身の身体が隠れるように。

「な!?」

 敵歩兵も少し驚くものの冷静に銃の引き金を引いた。

 ビスマルクも回避行動を取るものの、左半身に大きく散弾を受け戦死判定を受ける。

 凛祢のほうは散弾を防弾加工外套で受けることで紙一重で回避した。

 さらに低く態勢を取ったことで地面に倒れる八尋のP90に手が届く。

「いけ!俺のP90!」

 P90の引き金を引いたことで5.7x28mm弾が毎分900発の速度で放たれる。

 放たれた銃弾が敵歩兵を1人撃ち抜き戦死させた。

 同じように接近していた聖羅が伸縮式警棒を振り下ろす。

 史郎もソードオフショットガンで防御するが、衝撃でソードオフショットガンの銃身が歪む。

 そんな状況でも眉一つ動かさなかった。

 続けて撃ち尽くしたP90を捨て2丁目のFiveseveNを引き抜いた。

 しかし、ソードオフショットガンの銃口も聖羅に向こうとしていた。

「覇王流……」

 凛祢は力いっぱい史郎の腕を横から蹴り上げた。

 ソードオフショットガンの銃口は空を向いたことで銃弾も空へと飛んで行く。

 紫電脚を応用して大きく蹴り上げたのだ。

「なに!?」

「あっぶねー」

 回避行動を取っていた聖羅もH&K MARK 23をホルスターから引き抜く。

 そのままもう1人の敵歩兵を攻撃し屠った。

 後方に下がり、懐からコルトガバメントを引き抜いたも史郎も聖羅の左肩とH&K MARK 23を撃ち抜いた。

 銃は後方に飛んで行き、聖羅の武装は警棒のみとなる。

 背中に装備している最後の武器である日本刀を抜刀して、再び凛祢を見つめる。

「流石、Gフォースの3人を屠ったチームですね」

「彼らを倒したのは俺ではなく、仲間たちだ」

 凛祢も黒塗りのコンバットナイフを右手に握る。

「まあいいでしょう。あなた方2名を屠れば私の仕事も終わりですから」

「……!」

 史郎は日本刀を手に一気に接近する。

 凛祢もナイフで応戦する。

 射撃しようとした左腕を後方に回し凛祢の左腕を固めた。

 そのまま足を蹴り地に伏せさせる。

 同時にFiveseveNを蹴り飛ばした。

「ぐっ!」

「凛祢!」

 聖羅も伸縮式警棒を振り下ろすが日本刀で攻撃を受け流す。

「2対1だからといって甘く見るな!これほどの逆境、幾度も潜り抜けてきた!」

 聖羅が日本刀を紙一重で回避したことで空を斬る。

「は!」

 ナイフを力一杯振るが史郎はその攻撃をも回避して数歩後退する。

 さすが天城家の人間であり、大学選抜チームの隊長。

 戦闘能力も桁違いであった。

「それでも!」

 再び攻撃を仕掛ける。

 数回の打ち合いの折、史郎の腹部を蹴る。

 距離が開いたと同時に後方から聖羅が警棒を振り下ろす。

 甲高い音と共に日本刀の刀身が……折れたのだ。

 しかし史郎は冷静に折れた日本刀を聖羅に突き立てる。

 聖羅もその腕を掴みギリギリで受け止めた。

「ふっ!」

 そのまま頭突きをする。

 もろに攻撃を受けた聖羅が一歩後退した隙を突く。

 史郎は右手に持つコルトガバメントで聖羅を数発撃ち抜いた。

「あ……」

「聖羅!」

 思わず声を上げた。

 そんな声をかき消すように彼から戦死判定のアラームだけが響く。

「これで残り1人です」

 彼のいう通りだ。

 とうとう自分だけになってしまった。

 やはり無理だったのか……大学選抜チームに勝つのは。

 いや、まだだ。まだ自分がいる。

「いい顔になりましたね!」

 折れた日本刀を捨て左手で腰からコンバットナイフを引き抜くと、コルトガバメントの引き金を引いた。

 向かってくる銃弾を右に走り抜けることで回避する。

 そのまま地面からFN FALを拾い上げた。

 流れるように引き金を引く。

 凛祢よりも射撃長けている史郎の放った銃弾がFN FALの銃身を撃ち抜く。

「くそ!」

 FN FALを投擲すると同時に接近すると胸に流星掌打を放った。

 痛みにうめき声を上げるがコルトガバメントの銃口をこちらに向ける。

 しかし直感的にその攻撃を察知した凛祢が右手をブロックした。

 一発の発砲音が響き渡る。

 瞬時にコルトガバメントを奪い小指で引き金を引いた。

 銃弾は史郎の腹部に命中する。

「な、に。そんな……」

 史郎も先ほどの打ち合いが予想外だったのか後退する。

 奪ったコルトガバメントが弾切れになったことを確認し、捨てる。

「どうした、もう終わりか?」

「まだだ!」

 お互いに残りの武装はコンバットナイフ一本となったことで激しい攻防が始まる。

 ナイフの攻防だけでなく、拳と蹴りを織り交ぜたCQC戦闘に観戦していた八校連合も言葉が出なかった。

 刃が特製制服の生地を切り裂く。

 そんな中、凛祢の目には青い空が写っていた。

 空だ……鞠菜やみんなと見た空だ。

 戦場で戦っていると言うのに自分はそんな事を考えていた。

 鞠菜も、この空を見ていたのだろうか……。

 そんな時だった。頭痛と共に倦怠感が体を襲う。

「う……」

 膝を付いてしまう。

 アルベルトと戦った時と同じだ。

 超人直感を短時間で酷使しすぎたせいか、頭痛が走る。

 前方からは史郎が接近してくる。

 そんな中、凛祢の頭には鞠菜の顔が浮かんでいた。

 彼女と最後に過ごしたあの家での顔を。

 走馬灯だとでもいうのだろうか。

 彼女の言葉を思い出す。

「自分のために生きる」

 その言葉だった。

「鞠菜、あんたの事を一度だって忘れたことはない。鞠菜がそうしろと言ったから、俺はそうするよ。

 自分のために戦うよ!」

 気が付けば自分も駆け出していた。

 丸で誰かに背中を押されたように。

 史郎の振り上げたナイフは凛祢の頬を掠り空を斬る。

 凛祢のナイフは史郎の左胸から腰に掛けて体を切り伏せていた。

 数秒の沈黙の後、戦死判定のアラームが響き渡り、天城史郎がリタイアしたことを全員が理解する。

「やればできるじゃねーか凛祢」

 聖羅も満足そうに笑みを浮かべていた。

「……まだだ。まだ終わって、ない」

 バックパックを拾い上げ、一つだけ残していたヒートアックスを取り出す。

 電管を刺して、リモコンで起爆可能状態にしたことで凛祢はふらつきながらも中央広場を目指した。

「まさか、凛祢のやつ戦車を倒しにいくつもりか?」

「だろうな。あんな状態で馬鹿な奴だよな」

 倒れていた八尋と俊也もその行動に驚いていた。

 ふらつきながらも歩みを進めながら携帯端末を取り出す。

 現状の生存車両と生存歩兵を確認する。

「すでに歩兵は全員リタイアしたようだな。戦車は2対3か。時間がないか」

 頭痛と倦怠感は今だに残っている。

 それでも必死に足を動かしていた。

 中央広場に到着したⅣ号とティーガーⅠもメグミ、アズミのパーシング、愛里寿のセンチュリオンとの戦闘に挑もうとしているのだった。

 

 

 行動不能車両 八校連合    九七式中戦車(新砲塔)、九七式中戦車、

                パンターG型、T-34/85、IS-2、KV-2

                BT-42

                Ⅲ号突撃砲、九七式中戦車(新砲塔)×2、九七式中戦車、

                八九式中戦車、チャーチル歩兵戦車

                M3、シャーマン×2、ファイアフライ、

                ヘッツァー、三式中戦車、マチルダⅡ、

                クルセイダー、キャバリエ、パンターG型

                CV33、ルノー、ポルシェティーガー、

                ティーガーⅡ、T-34/85

 

 

 

        大学選抜チーム M26パーシング×2 

                M26パーシング×3、カール自走臼砲

                M26パーシング×6

                M26パーシング×9、T-28重戦車

                M24チャーフィー×3、M26パーシング×2

 

 残存車両数  八校連合    2輌(Ⅳ号、ティーガーⅠ) 歩兵1名(葛城凛祢)

 

 

 

        大学選抜チーム 3輌(センチュリオン、パーシング×2) 歩兵0名

 

 

 

 




今回も読んでいただきありがとうございます。
長かった大学選抜チームとの戦いも終盤です。
天城史郎を倒した凛祢、しかし戦車をすべて撃破できなけば勝利を手にすることはできない。
八校連合は勝利することができるのか?
では、また次回のお話で。


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最終話 地を駆ける歩兵達

どうもUNIMITESです。
今作もようやく最終話となりました。
では本編をどうぞ。


 大学選抜チームの歩兵全てがリタイアし、八校連合も凛祢以外の歩兵全てがリタイアした。

 みほたちのⅣ号、ティーガーⅠは今も大学選抜チームの戦車たちと交戦を続けている。

 ただ一人残った歩兵である凛祢は彼女たちが戦う戦場、中央広場を目指す。

「う……」

 再び刺すような頭痛が走り、膝を付く。

 唇を噛み締め、痛みに耐える。

 なんとか立ち上がり、再び歩き始めた。

「間に合ってくれ……」

 頬を流れる血液を拭い、地面を踏みしめる。

 

 

 中央広場に辿りついたⅣ号、ティーガーⅠ、そして中央に陣取ったセンチュリオンがそれぞれ発砲。

 砲弾が空を舞い、広場の壁を打ち砕く。

 行進間射撃を続けたⅣ号、ティーガーⅠがトンネルをくぐる。

 センチュリオンが車体を回転させ、砲塔をトンネルの出口に向ける。そして発砲。

「……」

 直前にブレーキを掛けたことで紙一重で砲弾を回避する。

 続けてティーガーⅠが発砲するが、装甲に阻まれ走行不能とはならなかった。

 アズミ、メグミの搭乗するパーシングがセットを破壊してⅣ号たちに接近していく。

 キューポラから身を乗り出していたみほ、まほはお互いにアイコンタクトで合図する。

 広場を一周し、ティーガーⅠがトンネルをくぐる。

 Ⅳ号はトンネルの外、斜面を少々強引に進む。

 接近するセンチュリオンにあえて肉薄することで砲撃を回避する。

 そのままトンネル出口に車体を移動させた。

 ティーガーⅠが出口で急ブレーキをかけることでパーシング1輌をも出口で引き留める。

 車体が傾き始めたⅣ号の照準器はパーシングを中央に捉えた。

 みほが華の肩に触れる。

「発砲」

「……!」

 アズミもこちらの意図に気づくもすでにⅣ号の砲は火を噴いていた。

 彼女の搭乗するパーシングは白旗を上げ、走行不能となる。

 続けてセンチュリオンが発砲するがシュルツェンを引き剥がすだけにとどまった。

 ティーガーⅠの後方を残ったメグミのパーシングが追いかける。

「あれを狙え」

 まほの指示で砲が振り子式に揺れる船をアトラクションを砲撃する。

 船は彼女の想定通り、大きく前方に揺れた。

 その隙にティーガーⅠが走り抜ける。

 瞬時に振り子の様に船が後方に向かう。

 向かってきたパーシングと激突し、その車体が後方へと吹き飛び壁に激突。

「砲撃!」

 その隙を突いたティーガーⅠに砲撃され、メグミの搭乗するパーシングも白旗が上がり走行不能となった。

 ほぼ同タイミングで凛祢も中砲広場入り口にたどり着く。

「よかった、まだみほとまほさんは撃破されていないようだな……」

 肩で息をして、周囲を見つめる。

 すでに2輌のパーシングが走行不能となったことで残りの戦車は愛里寿の搭乗するセンチュリオンのみである事が目視確認できた。

 観客席、戦死判定を受けた歩兵、走行不能となった戦車搭乗者たちは皆同じ映像を見つめている。

「「……」」

 トンネルの頂上に陣取るセンチュリオン、トンネルの斜面を左右から挟むようにⅣ号、ティーガーⅠが停車する。

 凛祢は入り口付近で身を隠し、様子を窺う。

 今出て行っても何もできない事はわかっている。

 今は無駄に動き回れるほど自分の体にも余裕がない。

 ただただ左手のヒートアックスを握る。

 センチュリオンがトンネルを大回りして降りて行く。

「「発砲」」

 ティーガーⅠとセンチュリオンの火を噴く。

 砲弾は遥か彼方へと飛んで行く。

 続けてⅣ号も発砲するが、愛里寿が直感的に指示を出しているセンチュリオンは砲撃を回避する。

 再び砲撃戦が始まり、再び轟音が響き渡った。

 シュルツェンが次々に抉られ装甲が薄くなるⅣ号。

 重戦車であるティーガーⅠは砲撃に耐えているもののそれも長くは持たないだろう。

「……」

 愛里寿がハンドシグナルを送り、砲弾がアトラクションをも破壊する。

 ロケット型のアトラクションを砲撃し、さらに次なるアトラクションを破壊した。

 破片がこちらにも飛んでくる。

「いっ!」

 身を低くして紙一重、破片を回避した。

 後方の壁には破片が突き刺さっている。被弾すれば確実に戦死していただろう。

「愛里寿、思ったより見境ないんだな……ん?」

 視線の先では破片によって動き始めた熊のアトラクションを発見する。

 頭痛も少し収まりはじめ、凛祢も動く。

 何も言わずセンチュリオンを見つめる。

 ヒートアックスは一つ、チャンスは一度きり。

 Ⅳ号、ティーガーⅠは再び行進間射撃を始めた。シュルツェンが破壊され、通常装甲のみが残る。

 大周り進んだこちらを読んでいた愛里寿が突撃する。

 車体がぶつかり合い衝撃が車内に響く。

「ここまで接近できれば……」

 動いていた熊のアトラクションに身を隠し匍匐前進していた凛祢も駆け出した。

 それでも砲撃戦を続ける3輌。

 メリーゴーランドを無理やりくぐったセンチュリオン。

 車体が激突し、みほの後方を取った愛里寿。

 みほ、まほも声が出なかった。

 その時だった。

 熊のアトラクションがセンチュリオンの前を横断し、全員の動きが止まる。

「は!」

「……!」

 その一瞬を狙う歩兵、凛祢。

「お兄、ちゃん?!」

「凛祢さん?!どうして!」

「……」

 駆け出した凛祢は全力でセンチュリオンに肉薄した。

 右手に握るヒートアックスを車体後方に接着させる。

「前進!」

「後退!」

 みほと愛里寿の声でそれぞれの車体が動く。

「ぐっ!」

 センチュリオンが全速後退したことで凛祢の右手は車体にぶつかり衝撃が襲う。

 奥歯を噛み締め踏みとどまる。

 センチュリオンの砲はこちらを捉える。

 左手に握るリモコンのスイッチに指を乗せた。

 発砲音と起爆音が同時に響き渡る。

 砲弾は凛祢の足元の地面を抉り、後方へと吹っ飛ぶ。

 背中から地面に倒れ込む。

 センチュリオンも爆発音と共に黒煙を上げる。

 響き渡る戦死判定のアラーム、続くように車体から白旗が上がる。

 センチュリオンが走行不能になったことを告げた。

「センチュリオン走行不能!葛城凛祢の戦死判定を確認!」

「残存車両、残存歩兵確認中!」

 戦車道連盟、歩兵道連盟のヘリが次々に状況確認を進めて行く。

「目視確認、終了。大学選抜チーム残存車両、残存歩兵0!大洗連合残存車両2、残存歩兵0!」

「大洗連合の勝利!」

 敦子、蝶野の結果報告で観客席では大きな歓声が上げる。

 次々に喜びの声を上げる。

 八校連合所属の生徒たちも例外でなはく、喜び笑みを浮かべた。

「わーははは!」

「やった、やったよ!サンティちゃん!」

「はい!流石凛祢くんたちです!」

 連盟会長と孫市、サンティも思わず立ち上がって喜んでいた。

「「はぁ」」

「よかったわね……凛祢」

 家元の西住しほ、島田千代は安心したのか深くため息をつく。

 朱音も安心して胸を撫でおろす。

「これで廃校はなくなった!」

「だな……おっと」

 英治は膝から崩れ落ちる。

「英治?!大丈夫?」

「悪い、力が抜けちまった」

「気を付けてよ!」

 杏に支えられなんとか立ち上がる。

「凛祢さん!」

「葛城くん!大丈夫!?」

 Ⅳ号を下りたみほたちが駆け寄る。

 倒れていた凛祢の上半身を起こす。

「う……いっつー」

 体中に激痛が走っていた。

 砲撃を受け、とっさに受け身も取ったがやはり全身に痛みは走っていた。

「どうして!どうしてあんな無茶を!」

 みほはこちらを見つめ、声を上げる。

「約束したから」

「……え!?」

「みほを守るって約束したから……」

 凛祢も改めて彼女を見つめる。

「もう、凛祢さんは無茶しすぎです!でも守ってくれてありがとうございます」

「すまないな」

 すると後方からティーガーⅠから降りてきたまほが現れる。

「葛城凛祢」

「西住、まほさん……」

「妹を、みほを守り続けてくれてありがとう」

「当然のことですよ。俺は歩兵道をやってるんですから彼女たちを守るのは当然です」

「そう、だな。それでも君の頑張りには感謝している。改めて、ありがとう」

 まほは深々と頭を下げると再びティーガーⅠに戻って行った。

 数分ほどしてⅣ号、ティーガーⅠ、凛祢や聖羅を乗せたジープが八校連合の陣地に帰還する。

 陣地にはすでに大洗連合や黒森峰、その他の学園の生徒たちの姿があった。

「ふう、凛祢……久々にあれやるか」

 ジープを下りると聖羅は右手を挙げる。

「……これやるの3年ぶりだな」

「「俺たちの勝利に!」」

 お互いにハイタッチを交わし、笑みを浮かべた。

 昔試合に勝つたび何気なくやっていた行為だが、今はただ嬉しく感じたのだ。

 大洗連合の元に戻ると一番に駆けつけたのは杏、そしてカメさんカニさんのメンバーだった。

「西住ちゃん、葛城くん!」

 杏が2人に抱き着く。

 2人も支えるように背中に手を回す。

「勝った、勝ったぞ!」

「夢じゃないんだよな!なあ!?」

 続くように声を上げる。

「隊長お疲れ様でした」

「西住隊長お疲れさまでした!」

 まほを迎えるようにエリカ、小梅が敬礼する。

「お兄ちゃんやったじゃん!」

「ああ、悠希、龍司。お前らもよくやった」

「うん」「別に」

 聖羅も仲間に出迎えられていた。

「みほさん、葛城さんおめでとう」

「おめでとう」

「いい試合だった」

 駆けつけてくれた他校の仲間たちの言葉に凛祢やみほも感謝の言葉で返答する。

 この試合に参加してくれた仲間たちには感謝してもしきれなかった

 すると1人の少女が熊のアトラクションに乗って現れる。

 見覚えのある顔に凛祢は思わず、その名を口にした。

「愛里寿……」

「……私からの勲章よ」

 愛里寿がポケットを探り、手渡したのはボコの人形であった。

「ありがとう、大切にするね」

 受け取ったみほも優しく微笑んでいた。

「次からはわだかまりのない試合をさせていただきたいですね」

「まったく」

「同意見です」

 千代の言葉にまほ、朱音が深々と頷いている。

「戦車道と歩兵道には本当に、人生に大切な事が詰まっているね!」

「だろう……」

 ミカも微笑みカンテレを弾いていた。

 

 

 八校連合VS大学選抜チームの戦いは八校連合……いや大洗連合の勝利という形で幕を閉じた。

 短期転校によってこの戦いに参加してくれた仲間たちは、その任務を全うし自分たちの学園艦へと帰還していく。

 サンダースとアルバートのみんな。

 聖グロと聖ブリのみんな。

 プラウダとファークトのみんな。

 知波単と重桜のみんな。

 アンツィオとアルディーニのみんな。

 継続と冬樹のみんな。

 黒森峰連合のみんな。

 そして……

「凛祢さん。私たちも戻りましょう」

 まほたちとの別れの挨拶を終え、みほは手を差し伸べる。

「……」

「凛祢さん?」

「……ごめん。みほ、俺は一緒にはいけない」

「ど、どうして!」

 凛祢は言葉と共に背を向ける。

「俺ももう戻らなくちゃならない。島田家に」

 最初から分かっていたことだった。

 あくまで自分が大洗の仲間たちといられたのは、試合のため。

 試合が終われば、もうここにはいられなかった。

 そう駆けつけた仲間たちと同じように。

「葛城くん!」

「葛城!」 

 視線を向けると大洗連合のみんなの姿があった。

「葛城くんも居なくちゃ駄目なんだよ!約束したんだよ!みんなで学園艦に帰るって!」

「そうだ、お前も俺たちの仲間だろ!」

「杏会長、英治会長……」

 2人の言葉は嬉しかった。

 自分だってできるのであれば、みんなと、みほと学園艦に帰りたい。

 だが、それは叶わない願いであると最初から分かっていたこと。

「葛城先輩!」

「葛城!」

「「「凛祢!」」」

「凛祢殿!」

「さよならは悲しい言葉じゃないです。また、会えますよ。きっとまた」

 凛祢は作り笑顔を見せる。

「凛祢さん!本当にまた会えますか?」

 みほは凛祢の手を握る。

「うん。きっと……」

 最後の言葉のを口にしてみほと唇を重ねる。

 短い間であったがお互いを感じるには十分だった。

「じゃあ、俺は行きます。みんなと共に戦場を駆けることができて、本当によかった。

俺をもう一度戦わせてくれてありがとう。さよなら」

 そう言い残し凛祢はその場を後にする。

 これで、よかったんだ。

 大洗連合の、みほの居場所は守れた。

 そう葛城凛祢の戦いはこれで終わるのだ。

 そして朱音、千代の元に戻っていった。 

「凛祢……」

「みんなとの別れは済ませた」

「そう……じゃあ、行きましょ」

 凛祢はもう一度だけ振り向く。

 すでに大洗連合のみんなは見えない。

 それでも体が自然とそちらを向いていた。

「さよなら、大洗連合。そして西住みほ」

 その時一筋の雫が頬を伝っていた。

 それが自分自身の涙である事はすぐに理解できた。

 鞠菜が亡くなった時、以来だ。

 涙を流したのは。

 涙が止まらなかった。

 丸で押し殺していた感情が溢れているようだ。

「凛祢……」

「……大丈夫だ。目にゴミが入っただけだから」

 凛祢は袖で覆い隠すようにしていたが、溢れる涙は止まることはなかった。

 それから月日は流れ……

 2か月後。

 大学選抜チームとの戦いに勝利したことで、大洗学園艦は完全復活した。

 復活に伴い、校舎は男女一体となったことで大きなものに変わったものの、他に変わった点はない。

 今まで通りの大洗学園艦であった。

「……はぁ」

 西住みほは教室の席でため息をついていた。

「なあ、みほさん。またため息ついてるぞ」

「そりゃあ、凛祢との別れは相当辛かったんだろう」

「ああ、学園始まって1週間登校してなかったしな。あの時も一頻り泣いてたしな」

 同じクラスであった八尋、翼も席からそんな様子を見つめていた。

「俺たち、あいつのことなんも知らなかったんだな」

「凛祢自身があまり自分の事を話すほうじゃなかったからな。でも、これで友達だったのかと思うと少し、な」

 2人も真剣な表情を浮かべる。

 2年という短い付き合いだったとはいえ、友の事を知らな過ぎたことに複雑な心境だった。

「みぽりん大丈夫?」

「……え?う、うん。大丈夫だよ」

「でも、またため息をついてましたよ」

 心配そうに沙織と華が声を掛ける。

「やっぱり凛祢くんとの別れがつらかった?」

「えっと……はい。せっかく仲良くなれたのに」

「「……」」

 2人も思わず視線を合わせる。

 こればっかりは、2人もどうにもできない事であったためだ。

 どうしたものかと考え込む。

 

 

 通学路を進む1人の青年。

「1度解体されかけた割には全然変わってないんだな。コンビニの位置まで一緒だし」

 周囲を見渡し、建物の位置を再確認する。

 ふと視線を腕時計に落とす。

「やべ、時間に余裕ないんだった。遅刻は厳禁だしな」

 少し急ぎ大洗学園前に到着する。

「大洗学園……男子と女子がついてないってことは本当に統合されたんだな」

 そう言うと学園内に侵入する。

 

 

 生徒会室では杏や英治たち生徒会メンバーの姿があった。

「会長、本日我が校に転校する者がいると言うのは本当ですか?」

「うん、そうだよ。言ってなかったけ?英治ー」

「また、報告してなかったのか。転校生の書類だ」

「どれどれ」

「私にも見せてください」

「私も!」

 宗司が書類を受け取り、桃や柚子も隣から目を通す。

「会長、これ本当ですか!?」

「にわかには信じがたいですよ!だって彼は!」

「このタイミングで嘘をついてどうすんだよ……本当だ」

 その言葉に再び、桃と雄二が視線を書類に落とす。

「じゃあ、これで」

「本当に……」

「みんな……みんなが学園艦に揃ったね」

「だな……」

 杏は会長席で窓の外を見つめた。

 英治も同じように空を見つめる。

 

 

 本土の地では島田邸にてお茶会が開かれていた。

「島田千代さん。今回の試合の件、そして凛祢の件感謝しています」

「お気になさらないでください。それに私にとってもあの子は、朱音さん元にいるべきだと思ったんです。

私があの子を孤児院に入れたのは島田の子としてではなく普通の子供として生きてほしかったからなんです」

 ティーカップを置いて千代は優しく微笑む。

「彼を、葛城凛祢として養子に出すとは、私たちも驚きました」

「本当だよー。あたしはてっきりこのまま凛祢くんが島田亜凛として生きて行くことになるんじゃないかと思ってたし」

 紅茶をお代わりを注いだサンティ、孫市もそんな言葉を漏らす。

「戦車道と歩兵道のイメージダウンもだいぶ回復できたみたいです」

「養子縁組と大洗学園への転校には連盟でも誰も反論しなかったようだからな」

 蝶野亜美、照月敦子も頷く。

 凛祢は養子として、葛城朱音に引き取られる形となった。そして本日から大洗学園に転校することとなる。

 それが自分たち大人たちが彼にできる最大限のことだった。

「それにしても凛祢としほさんの娘さんの将来が楽しみですね」

「ぶっ!けほ、けほ。な、なにを急に!」

 千代の言葉にしほはむせ返る。

「凛祢とみほさんはお付き合いされているそうじゃないですか。将来結婚したらお2人は家族になるんですよ」

「みほが凛祢くんとお付き合いしてる?!初耳です!朱音さん!」

「いや、私も初耳です!それ、どこからの情報ですか?!」

 しほと同様に朱音も声を上げる。

「彼女から」

 千代が視線を向けた先には継続高校の制服に身を包むミカの姿があった。

 天城史郎やサンティたちと共にレジャーシートの上で紅茶を飲んでいる。

「彼女が……」

「あのミカさんとのご関係は?」

 彼女がいることに疑問がなかったわけではない。

 朱音だけでなくしほや敦子も耳を傾ける。

「史郎の妹なんですよ。彼女は」

「「え?」」

「凛祢や愛里寿にとっても親戚みたいなものです」

「うそ……」

 再びミカに視線を向ける。

 確かに言われてみれば愛里寿とミカの姿がどことなく似ているところがある。

 しかし、まさか親戚関係だとは知らなかった。

「世間て、案外狭いのね」

「そうね」

 しほと朱音も思わずため息をついた。

 

 

 

 ホームルームのチャイムが鳴り響き普通Ⅰ科A組の生徒たちは次々に席に着く。

 同時に担任の女教師が教室に侵入する。

「みなさん、おはようございます。突然ですが今日からこのクラスに転校生が来ます!」

 その言葉で教室内がざわつく。

「転校生?この時期に?」

「珍しいよな」

「どんな人だろう、もしかしてすっごいイケメンだったりして!」

「いったいどんな方なんでしょう?」

 八尋や翼、沙織たちも思わず声を上げる。

「……」

 そんな中でもみほは沈黙を貫いていた。

「じゃあ入って下さーい!」

 その言葉で扉を開け放つ。

 教室内に侵入して見慣れた顔を発見した。

「な!お前!」

「……!」

「あらあら」

「みぽりん!あれ!」

「……え?」

 5人は見覚えのある顔に思わず立ち上がる。

「凛祢……さん」

「転校生の葛城、凛祢です。よろしく」

「じゃあ、葛城くんの席は――」

 担任の言葉を遮る様に声を上げたのは八尋だった。

「凛祢!」

 同時にみほたちも、こちらに駆け寄って来る。

「お前、戻るなら連絡くらいしろよ!」

「本当だよ!」

「心配していたんですよ」

「凛祢さん……」

「……約束しただろ。また会えるって」

「はい!」

 みほも涙を流していたが微笑んでいた。

「君たちー、ホームルームを進めてもいいかなー?」

「い!」

「す、すいません!」

 担任の女教師は笑っていたものの、怒っていることは容易に分かった。

 5人は焦ったように席に戻る。

「葛城くんの席は西住さんの隣だから」

「はい……」

 凛祢も席に着く。

 そしてお互いの顔を確認して笑みを浮かべていた。

 ホームルームを終えると、放送開始のアナウンスが響く。

「非常呼集、非常呼集。戦車道と歩兵道を履修している生徒はガレージ前に集合してください。続けて転校生の葛城凛祢くん!同様にガレージ前に来て下さい!」

「今のって生徒会?」

「いこっかみぽりん、葛城くん」

「はい」

「うん」

 そして凛祢たちはガレージに向かう。

 ガレージにはすでにアヒルさんチーム、オオワシ分隊、カバさんチーム、ワニさん分隊、ウサギさんチーム、ヤマネコ分隊、

カメさんチーム、カニさん分隊、オオカミチーム、カモさんチーム、シラサギ分隊、レオポンチーム、タイガーさん分隊、アリクイさんチームが揃っていた。

「「凛祢殿!」」

「「……遅かったな」」

「塁たちも元気そうだな」

 塁に優花里、俊也と麻子を確認するとあんこうチームとヤブイヌ分隊も揃う。

「ついに……みんなが、誰一人欠けずこの学園艦に揃うことができました!」

 柚子も嬉しそうに声を上げる。

「正式に転校したので、心配はいりませんよ」

「凛祢さん。これからはずっと一緒ですよね……?」

「もう、どこにも行かない。それにここは俺とみほの居場所だから!」

「葛城くん、おかえり」

「はい」

 杏も笑みを浮かべた。

「よーし、大洗連合は全員揃ったことだし午後の試合がんばるよー!」

「試合?」

「午後から聖グロと聖ブリのみなさんと試合があるんです」

「そうか。ケンスロットたちと」

 みほから説明を受け戦友を思い出す。

 決着もまだついていなかった相手だ。

「葛城くんはすでに選択科目を歩兵道履修する形で進めているけど大丈夫ですか」

「問題ないです。最初から歩兵道一択ですから」

「じゃあ西住ちゃん、葛城くん。いつもの掛け声よろしく!」

「パンツァーフォー!」

「オーバードライブ!」

 その声で全員が掛け声を上げた。

 凛祢もみほもみんなが笑っていた。

 鞠菜、俺は自分のために戦い、自分の居場所を見つけたよ。

 そして守りたいと思える女を見つけた。

 それが彼女だ。見守っていてくれるよな鞠菜……。

 ただただ心の中でそう呟いていた。

 空には今日も青空が広がっている。

 

 

 本土決戦の戦いは今でもよく思い出す。

 一つの目標に向かって、仲間たちと立ち上がったあの日、あの試合。

 嵐のように戦場を駆け抜けた瞬間が、今はただ懐かしく感じる。

 そして、今でも俺たちは戦場を走り続けている。

 仲間と……彼女と共に笑いながら……。

 

 

 第3部 劇場版編 END




どうもUNIMITESです。
 ガールズ&パンツァー~地を駆ける歩兵達~を最後まで読んで頂きありがとうございます。
 投稿を始めて約3年が経ち、ようやく完結することができました。
 お気に入り登録者が50人を超えていたのも嬉しかったです。(登録者の方々本当にありがとうございます)
 私の練ったプロット上ではここまでで地を駆ける歩兵達の物語は完結です。
 現在映画にて続いているガールズ&パンツァー最終章の内容は想定上ないです。(もしかしたらこれから作るかも)
 処女作というのもあり、まだまだ足りない部分もあったかもしれませんが、ここまで読んで頂いた方々、本当にありがとうございます。
 本作はオリジナルキャラも数多く登場しましたが、みなさんはどう思ったでしょうか。
 作者としては本作のオリジナルであるオオカミチームの5人、主人公凛祢の師匠周防鞠菜は特にお気に入りです。
 実はキャバリエ搭乗者は苗字が秋月型駆逐艦の名前になっています。(照月英子、秋月セレナ、涼月華蓮、初月風香)
 衛宮不知火の名前も駆逐艦不知火から取ってます。
 そして本作の覇王流(照月流)格闘術の技は航空機の名が元ネタになってます。(烈風や流星、震電等々)
 周防鞠菜は葛城凛祢という男を作った人物として描きました。
 私自身この作品を完結できたことを嬉しく思っています。
 次もハーメルンかカクヨムで新作を書こうと思っています。
 プロットは2つほどあるので。
 次回作からはTwitterで活動報告なんかもやってみようと思っているのでよかったらフォローしてみてください。
 TwitterもUNIMITES-ユニミテス-でやってます。
 感想、意見などがあれば書いていただけると嬉しいです。
 では、また次回作で。


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