やはり俺の世直しはまちがっている。 (識折 双未)
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プロローグ
1


はじめまして識折 双未(しおり ふたみ)と申します。
好きな作品がアニメ化してしまって、いてもたってもいられずもう一つの好きな作品とクロスさせてしまいました。
挨拶もそこそこに、ざっと俺ガイル側の設定変更点がありますのでその説明を。

俺ガイル本編の出来事は八幡達が一年時の出来事に変更。退院後すぐに奉仕部に入れられたと思ってください。
よって、生徒会長編はいろはではなく、めぐり先輩が会長になる際に起きたこと、となっております。それに合わせ文化祭時の会長はモブ化。
本物が欲しいと告白し、雪乃、結衣の二人もそれに協力するという本編よりも少し優しい世界線で起きたのが今回の事件となります。

では、どうぞ。


▼???

 

 

「──なんでこうなっちまったんだろうな」

 

 

少しだけ息を切らせて走りながら、俺は一人呟いた。これだけのスピードで走ってもこのくらいの疲労で済むようになったのはそう認知してるからか、それとも日々の努力の賜物なのか。努力なんて非常にらしくないけども。

 

 

『ジョーカー! 聞こえてる!?』

 

 

「聞こえてる。今お前が出した逃走ルートを絶賛走ってる最中だ。なんだ、何かあったのか」

 

 

『ううん、こっちは大丈夫。そっちもこのままいけば……うん、問題なし! そのルートを進んでいけば間違いなく逃げられる!』

 

 

「了解した。やらかすなよ」

 

 

どんな原理でできてるのか、うちの電子系担当からの通信を切って俺は走る。大広間の天井にあるシャンデリアも飛び越えて、その先の裏に潜むSPも潜り抜けて、ただただ走る。

走って走って走っ──

 

 

「いたぞ!」

 

 

野太い声が響く。それは人間のもののようで、そうでない声。運悪く鉢合わせたSPは、人型であったその姿を瞬く間に影へと塗り替えていく。

 

 

「……チッ」

 

 

自然と舌打ちが漏れた。見つからないのが怪盗だ。見つかったら、強行突破しなければならなくなるわけで。

 

 

「こっちも進退窮まってんだ。邪魔すんな……っ!」

 

 

四つ足に尻尾の生えた化け物へと変貌したそれを、俺は顔につけた仮面越しに睨みつけた。

 

 

『ジョーカー!』

 

 

「心配すんなナビ! すぐに終わらせる!」

 

 

普段は武器であるナイフを持つ右手、しかし、今はその手は空で、指を顔の仮面に触れる。

 

 

「──来いよ、アルセーヌ!」

 

 

ブチッ!という音と共に剥がれた仮面は、俺の心にいるもう一人の自分を顕現させる。

背中から羽を生やし、頭にハットを付けた悪魔。かの大怪盗を同じ名を持つそいつは俺の心の中の人格の一つ……らしい。

邪悪さと神々しさを混ぜて顕れたアルセーヌは、今俺が吐き出したいような呪詛をそのまま攻撃にでもしたかのような禍々しいスキルを放った。

エイガオン、と呼ばれる上級スキルに、四足の化け物は消え失せる。

 

 

『さっすが! よし、先へ進んで! 他のみんなも所定のポイントへ。Bルートだからな!』

 

 

シャドウ──俺たちがそう呼ぶ化け物の消滅を見届けて、足音を殺して先へ進んで行く。このまま問題なくいけば、外に出るはずだ。

 

 

「っ!」

 

 

『ん? どうした? そこが出口のはずだよ』

 

 

「……出口どころか絶賛エントランスだぞ」

 

 

指定されたルート通りに進んで出た場所は、残念ながら出口の一歩手前だったようだ。

……背後から複数の足音が聞こえる。見つかったか。

 

 

『ハァ……そういうことか……やられた』

 

 

『ねぇ、大丈夫? 行ける?』

 

 

通信先から別の声が聞こえる。……信じられないことに、長年ぼっちを続けていた俺を心配するまるで仲間のようだ。いや、実際仲間なんだけど。

 

 

 

「やらなきゃこっちがやられちまうんだから、やるしかないでしょうが」

 

 

「いたぞ!」

 

 

「殺せ!」

 

 

後ろから走ってきてこちらに銃を構えるあいつらは人間なのかシャドウなのか……いや、今はそんなのどうでもいいか。

 

 

「よっと」

 

 

「なにっ!?」

 

 

軽業師よろしく、一息で手すりに乗って走っていく。驚いて銃を構え直すももう遅く、俺は入り口側の二回、ステンドグラスの前にいた。

 

 

「じゃあな」

 

 

いち、にの、さん。両手を交差して被害を最小限にとどめてステンドグラスを突き破り外へ出た俺は、そのまま空中で体勢を立て直して落下先を見据えて着地に備える。

 

 

『……らしくないわね、カッコつけちゃって』

 

 

「仕方ないでしょう、もう少しかっこつけていないといけないんですから。これくらは、ね」

 

 

着地と同時にくるりと前回りして受け身。今の俺なら体操競技で高得点を叩き出すまである。

 

 

「っと、さて──」

 

 

どうしたもんか、と発言する間もなく俺は目を手で覆うことになった。

簡単な話だ、光を当てられた。それも一つや二つではなく、たくさんの数だ。そう、まるで──

 

 

『そんな、待ち伏せ!?』

 

 

「……みたいですね」

 

 

『えっ、どうして待ち伏せなんて!』

 

 

『クソッ! おい、どうなってるんだよ、ジョーカー!』

 

 

『ジョーカー! 状況説明を!』

 

 

仲間からがやがやと通信がひっきりなしに聞こえてくる。ああ、どいつもこいつも俺を心配してくれているらしい。

 

 

「……逃げろ、お前ら全員。いいな、絶対に逃げろ」

 

 

今現在やられてるのはこちらだ。そして目の前の正義の使者、警察の標的はただ一人……俺だ。

 

 

「確保!」

 

 

言葉と同時に横へ駆け出す。機動隊よろしくの装備でご苦労様なことだが、ただでさえこちらは身軽だ。そう簡単に捕まらない。

そして壁沿いに走っていけばそこには必ず──

 

 

「あった」

 

 

「なっ……待てぇ!」

 

 

走っている勢いをそのまま助走にして梯子へひとっ飛び。重装備なあいつらじゃとても追いつけないだろう。

 

 

「……はっ」

 

 

口元だけ笑みを浮かべる。モナが見たら怪盗が板についてきたとか言われそうだ。

ともあれ、あと少しで再び現場の裏道だ、ひとまず逃げ切れるだろう。

 

 

「これでもう少し時間を稼いで状況を整えられるは、ず……」

 

 

そういって、頭上を見上げた先に見えたのは、得体の知れない黒い塊だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「かはっ……」

 

 

自分の顔を殴打したものが、やつらの銃の底の部分のようだ。それに気づいたのは地面に落下して痛みに息を吐いた時だった。

 

 

「取り押さえろ!」

 

 

抵抗できないまま、仰向けにされ手を背中に回されていく。ふと、顔にライトが当てられた。

 

 

「まさか子供だったとはな」

 

 

声が聞こえる。おそらく、こいつらを指揮していた奴だろう。

 

 

「恨むなら仲間を恨め。お前は、売られたんだよ」

 

 

「……」

 

 

「ははっ、言葉も出ないか。おい」

 

 

「はっ! ──容疑者現認。現行犯逮捕!」

 

 

──なんでこうなっちまったんだかな。

後頭部に鈍い痛みを覚え、薄れていく意識の中で、俺は一人、そう呟いた。




導入編その1でした。ゲームを意識しすぎて置いてけぼり感すごいです。
次回からちょっとずつ本編へと入って行くので、また興味ある方はよろしくお願いします。

ありがとうございました!


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2

お待たせしました、プロローグその2です。
本当は2話で本編入りの予定だったのですが思ったより長引いてしまい、次までがプロローグとなります。
では、よろしくお願いします。


一年前、総部高校に入学した俺は、初日から事故に遭って見事に高校スタートをずっこけて切ることになった。

……まぁ、普通にスタートしたところでぼっち生活だったのは変わらないと思うが。と、そんなこんなで数週間遅れて始まった俺の高校生活は、わりとすぐに予想を裏切られた。生活指導の平塚先生に作文の内容について説教され、奉仕部なる部活に入れられたのだ。奉仕部というのは依頼を受けて、それを達成できるようにする努力を促す部であり……わかりやすくいえば、餌を与えるのではなく、餌の取り方を教え、できるようにする。そういった解決方法で依頼を受けていく部活だ。

そこで雪ノ下雪乃、由比ヶ浜結衣という二人の女子生徒と出会い(どんな偶然か俺の遭った事故の当事者達だった)、持ち込まれた依頼をいくつかこなしていった。

 

──主だったもので言えば、文化祭の実行委員になった際の依頼や、一年生旅行の際の告白の手伝い、あとは、城廻先輩の生徒会長選挙のときか。

変わることに対して否定的な自分が、確実に変わったのだろうな、と多少なり認めざるを得なかったのはこの辺りだろう。本物が欲しいなんて泣いて言って、あんなの、今までではきっと考えられない。

あれから、体感でだが雪ノ下や由比ヶ浜との距離間が変わった気がする。しただけ、かもしれないけど。そんなこんなで、俺たちは二年目の学生生活を始めるはず……だった。

 

 

 

 

 

 

 

「いいからこい、来るんだ!」

 

 

「嫌です! ちょっと、いい加減に……」

 

 

あれは予備校の帰りだったか。夜道を歩いていたときに男女の揉める声がした。こわやこわやと歩き過ぎ去るのが普通のはずだったんだが、女性の声の方がな、聞き覚えのある声だったんだ。

 

 

「雪ノ下さん……?」

 

 

雪ノ下雪乃の姉、雪ノ下陽乃。完全無欠の超人にして、仮面を自由に付け替えできる魔王様。そんな人の、耳を疑うような声にそっちを向いてしまったのだ。

そこにいたのは、確かに雪ノ下さんともう一人、男だった。暗がりで顔がよくは見えないけど、雪ノ下さんに無理やり言い寄ってる声の主なのは間違いないだろう。

 

 

「……おい」

 

 

昔小町──妹に「お兄ちゃん、基本捻くれてるけどなんだかんだ正義感強いよね」なんて言われたのはこの辺りのことなのだろうか。雪ノ下さん達の方へと歩いて行きながら声をかける。向かいがてら、警察には通報済みだ。

恐怖心はあった、あったけど、知り合いを──ましてや部活仲間の姉を見捨てるわけにはいかないわけで。

 

 

「なんだお前は」

 

 

「ひ、比企谷くん……」

 

 

「嫌がってるだろ、離せよ」

 

 

柄ではない。いつもならせいぜい警察を呼んだところで終わりだ。思えばこのらしくなさが命取りだったのかもしれない。後悔はしてるつもりはないが。

 

 

「うるさいガキだな……ここは大人の時間なんだ、子供は帰れ。

……お前も、いいのかそんな反抗的で。俺は別に構わないんだぞ、お前の家がどうなっても」

 

 

「っ!!」

 

 

雪ノ下さんの家がどうなっても……? どういうことだ。雪ノ下家の仕事関連の相手とかだろうか。

 

 

「わかればいいんだ、行くぞ」

 

 

「あっ……」

 

 

雪ノ下さんと目が合った。

──合って、しまった。

 

 

「おい、やめておけよ」

 

 

あの人の、魔王のようなあの人の諦めたような目を見て、おずおずとそのままにしておくなんてできなかった。

俺は暗がりから飛び出して雪ノ下さんの手を引く男の手を掴んだ。正義感? 違う。そんなたいそうなもんじゃない。あの人のあんな目、顔が見たくなかっただけだ。

 

 

「何をするんだ、離せガキ!」

 

 

「離すのはお前の方だろ……!」

 

 

力を込めて離すようにする。こんな力で腕なんか掴んでたら雪ノ下さんも痛いだろうが……!

 

 

「ひ、比企谷くん……」

 

 

「離せって……言ってんだろ!」

 

 

「ぬおっ!?」

 

 

「きゃっ」

 

 

両手で無理やり引き剥がして、雪ノ下さん腕は掴んだまま転ばないように支える。

男の方は離れた時の勢いで転んだのか、ゆっくりと起き上がりこっちを睨みつけている。どこかにぶつけたのか額からは血が流れている。

 

 

「ガキ……よくもやってくれたな……わかってるんだろうな」

 

 

何を言っているんだろうか。別におっさん一人がそんな睨みつけたところで何があると言うのか。

 

 

「通報があったから来たんだけど、君たちで間違いないかな」

 

 

さっき通報しておいた警察が来たみたいだ。これでひとまず終わりになるだろう。おそらく酔っ払いだからひと悶着くらいはあるだろうが──

 

 

「このガキが俺に暴力を振るってきたんだ」

 

 

「……は?」

 

 

「おいお前、俺が誰だかわかるな? 俺は"こいつに暴力を振るわれて、怪我をしたんだ"」

 

 

「えっと……何を言って……」

 

 

警察のおじさんに同意。この酔っ払いは完全に意識がどっか行っちゃってるのか、血迷いすぎだろ……

 

 

「お前、俺の顔がわからないのか?」

 

 

そういってずい、と警察に男が近づくと、警察の動きが固まった。……ん? なんだ……?

 

 

「っ!? あ、あなたは……」

 

 

「わかったならいい、はやく捕まえろ。現行犯逮捕だ」

 

 

「は、はい!」

 

 

「……え、ちょっと待てよ何言ってんだよ。こっちは正当防衛──」

 

 

反論の余地なく、俺の手は警察によって掴まれて──

 

 

「暴行の容疑で、君を逮捕する」

 

 

ガチャリと。まさか自分が聞くことになるとは思わなかった音が右手からした。そこには、冷たい鉄の感触と重み。手錠が、俺の手にかけられていた。

 

 

「"大人"を舐めるからこうなるんだ、ガキが」

 

 

呆然としている俺に、そんな言葉が投げかけられた。覚えている限り、これがあの時の最後の記憶だ。

 

 

 

 

 

 

そこからはトントン拍子だった。あれよあれよと喋る場所も機会もなく俺は暴行容疑で前科持ち。

どこかで期待してしまった雪ノ下家からの援護もなく、つまり雪ノ下さんは何もしゃべってないか、"言われたこと"を話しただけか。両親には面会に来た瞬間怒鳴られ、小町からは怖いものを見る目で見られ。

知り合いの危機のような何かに首を突っ込んだ結果、俺はあらゆるものを失った。正直、ショックだった。だからかそこから少し先まで一気に記憶が抜けている。それはそうだ、すぐに釈放されたとはいえ学校は退学確定、家にも居場所はなく、どうすることもできない。生きている理由が見つからないような状況だったのだから。

 

 

「比企谷さんに、お話があります」

 

 

そんな俺の記憶は、雪ノ下の家のお母様がやってきたところまで飛んでいた。

ある日の夜、全く話してなかった小町から呼ばれて降りてみれば、そこには雪ノ下と雪ノ下の両親がいた。

どうして、と思った俺や家族に、雪ノ下の父親が説明を始めた。

──ようするに、あの酔っ払いのおっさんは雪ノ下家でも及ばないようなお偉いさんで、うちのような小市民、ましてや高校生の子供では何もできるわけなくこういった結果になるということだ。両親はことの顛末を知り、呆然と俺を見ていたが。

 

 

「……なんで、話してくれなかったの……」

 

 

「話したら信じてくれたのかよ。無理だろ、お前らじゃ」

 

 

絞るような小町の声に、自分でも驚くほどの平坦な声で返す。お前ら、というのは親も入る。両親にお前なんていう子に育った覚えはないんだけどな……

 

 

「この結果を覆すことはできません、けれど、何もできなかったことのお詫び、そして、陽乃を助けていただいたことへの礼は全力で尽くすつもりです」

 

 

「……金っすか、つまり」

 

 

「違います。いえ、望むのであれば」

 

 

「いや、いりませんけど」

 

 

せめてものお詫びと礼ということで、退学ではなく、東京の学校へ編入。さらには保護観察という名目ではあるものの、雪ノ下の母親の知り合いという人が俺を預かってくれるそうで。下手なところへ送られるよりはよっぽど融通がきくところに下宿させてくれる、とのことだ。

 

 

「あの外道に、娘を食い物にされずに済んだ、その恩をこの程度でしか返せないことをお許しください……」

 

 

「許せって……うちの子はあんたたちのせいで──」

 

 

「かーちゃん、今更てのひら返すなって。俺からすればみんな同じだから」

 

 

「はち、まん……」

 

 

ああ、こんなことを言えてしまう。俺を涙ぐんで見る小町を見ても何も感じない辺りで、どうしようもなくわかってしまった。

──感情を理性で塗り潰す比企谷八幡という怪物は、いよいよもってその感情を殺してしまったらしい。

 

 

「……受けますよ。大学には行っておきたいし。前科持ちでも大学行っておけばまぁ繋げることくらいはできるでしょうから」

 

 

ついぞ最後まで膝の上で作った拳を握り震えたまま一言も話さずにいた雪ノ下を見ながら、俺はそう言ったのだった。




完全オリジナル回でした。無理やり感ありますが、こういった形から本編へと繋がっていきます。
ではでは、今回もありがとうございました。


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