やはり俺が魔法科高校に通うのは間違っている。 (ガタオガタ)
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入学編(1)

pixivでの投稿作品をハーメルンに移してます。
初心者なのでご了承ください。?


魔法。

それが伝説や御伽噺の産物ではなく、現実の技術となったのは何時のことだったのか。確認できる最初の記録は、西暦1999年のものだ。人類滅亡の予言を実現しようとした狂信者集団による核兵器テロを、1人の警察官が、特殊能力を使い阻止したあの事件が、近代以降で最初に魔法が確認された事例とされている。当初、その異能は「超能力」と呼ばれていた。純粋に先天的な、突然変異で備わる能力であって、共有・普及可能な技術体系化は不可能とされていた。しかし、それは誤りだった。東西の有力国家が「超能力」の研究を進めていく過程で、少しずつ「魔法」を伝える者達が表舞台に姿を見せた。「超能力」は「魔法」によって再現が可能となった。無論、才能は必要だ。適性の低いものは、適性の高いものには遠く及ばない。当たり前だが。超能力は魔法によって技術体系化され、魔法は技能となった。そして、「超能力者」は「魔法技能師」となった。ここで魔法について簡単に説明しようと思う。現在の魔法は現代魔法と呼ばれている。俺…比企谷八幡も勿論現代魔法を扱うが、この現代魔法はCADという、「術式補助演算機」を使い、魔法を発動する。CADに予め術式を記憶させて置き、CADに術者がサイオンを送り込む事で、魔法を発動することができる。簡単に言うと現代魔法は、素早く、強度の高い魔法を発動できる技術である。そして、今は古式魔法と呼ばれる、昔主流だった技術も存在する。古式魔法は現代魔法に比べ、魔法の発動速度が遅く、正面からの打ち合いでは負けることが多い。しかし、古式魔法には現代魔法には無い隠密性と、機動性がある。魔法について言えることはどんなに威力の弱い魔法でも使い方一つで得られる効果が違ってくるという事だ。そして、昔は使われていたとされている超能力がもう一つ、存在した。その超能力の名を、「錬金術」という。この物語は、現代でただ1人の錬金術の使い手である「比企谷八幡」の何でもないただの学園生活を描いたものである。

 

 

 

 

 

 

 

国立魔法大学付属第一高校。

毎年、国立魔法大学へ最も多くの卒業生を送り込んでいる高等魔法教育機関として知られている。それは同時に、優秀な魔法技能師(略称「魔法師」)を最も多く輩出しているエリート校ということでもある。魔法教育に、教育機会の均等などという建前は存在しない。この国にそんな余裕はない。それ以上に、使える者と使えない者の間に存在する歴然とした差が、甘ったれた理想論の介在を許さない。徹底した才能主義。残酷なまでの実力主義。それが、魔法の世界。この学校に入学を許されたこと自体がエリートということであり、入学の時点から既に優等生と劣等生が存在する。

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃーん!朝だよ!起きて!!!」

 

そう家で叫ぶのは、今日行われる、国立魔法大学付属第一高校の入学式に参加する兄、比企谷八幡の妹である比企谷小町である。

 

「全然起きないお兄ちゃんには……こうしてやる!」

 

そう小町は叫ぶと、八幡のベットの前で飛び、八幡の腹目掛けて膝からダイブした。

 

「おぶっ…こ、小町さんや、もう少し優しく起こしてくださいな……」

 

「お兄ちゃんが起きないのが悪いんでしょ?そんなことより朝ごはん出来てるから!早く来て!」

 

兄の講義をさらっと流し、八幡を起こしに来た理由を告げると小町は、何事も無かったかのように、下へと降りていった。それに対して、八幡は腹を抑えながらも立ち上がり、登校する準備を始めていた。鏡を見ながら第一高校の制服へと腕を通す八幡。その制服には、エリートの印である花弁の刺繍が施されておらず、八幡が雑草ウィードであると言うことが、明確に施されていた。

 

「二科生……か」

 

そう呟いた八幡の表情は、本人ですら把握していない。

 

 

 

 

 

小町との朝食を終えた八幡は、軽く言葉を交わし、第一高校へと向かい、何事もなく到着した。八幡は学校へ着くと直ぐに、入学式の会場である講堂へと向かった。八幡が着いた時にはまだ空いている席は多く存在したが、前半分が一科生ブルーム、左胸に八枚花弁のエンブレムを持つ、所謂優等生。後ろ半分が二科生ウィード、左胸に一科生と違い、エンブレムのない、この学校に補欠的な扱いで入学を許された所謂劣等生である。この学校では、座席の指定はされていない。誰がどこに座ろうが自由であるにも関わらず、物の見事に前と後ろでエンブレムの有無がきれいに分かれている。誰かの強制されたわけではない、にも関わらずだ。

 

(最も差別意識が強いのは、差別を受けているものである、か……そうですか、まぁ仕方ないか)

 

敢えて前の席へと座ることも出来るが、目立ちたくない為、八幡は後ろ三分の一辺りの中央に近い空き席を適当に見繕って座った。特にする事もない八幡は、ぼうとしているだけだった。

 

「すまない、隣座ってもいいか?」

 

ぼうと何も考えずにいた八幡に突如掛けられた声、その声のする方へと顔を向けると、そこには高身長のイケメンがこちらへと目を向けていた。

 

「ああ、どうぞ?」

 

「ありがとう、後、なぜ疑問形?」

 

「あー気にしないでくれ、コミュニケーション能力が低いだけだ」

 

そう言うと、八幡に声をかけ、隣に腰掛けた少年は、若干引き気味に返事を返した。そして直ぐに少年は八幡へと自分の名前を告げた

 

「俺の名前は司波達也だ、これからよろしく」

 

(いきなり自己紹介って、こいつやばいな…暗に俺にも名前を言えと言ってるのか?よし、無視しよう)

 

なんて事を思っていたものの、顔はしっかりと達也の方へと向けていた八幡は、達也の鋭い眼光に負け、素直に名前を教えていた。

 

「比企谷八幡だ、よ、よろしく?」

 

お互いに自己紹介を済ませるだけで、それ以上の会話に発展することは無い……と、八幡は思っていたが、達也の右隣に少女が現れ、達也と幾つか言葉を交わすと、一緒にいた少女と共に席についた。少女達は全員で四人いる。八幡に取っては関係ないが、もし自分も自己紹介するハメになったらと考えると、八幡は恐怖で泣き出しそうになっていた。

 

「あの、私柴田美月って言います、よろしくお願いします」

 

「俺の名前は司波達也だ、こちらこそよろしく」

 

隣で達也と自己紹介をしていた少女を八幡は訝しげな目で見ていた。

 

(この時代に眼鏡?あーなるほど霊子放射光過敏症か)

 

八幡が疑問に思ったのも当然である。この時代に眼鏡を掛けている人は極小数しか存在しない。何故なら今の時代では、特別酷い先天性視力異常者でもない限り、人体無害の年単位での使用が可能なコンタクトレンズが普及している。その為、八幡の疑問は至極真っ当な事なのだ。そんな中八幡を除いた4人は自己紹介を進めていた。

 

「私は千葉エリカ!よろしく!達也君って呼ばせてもらうね、私の事はエリカでいいから!」

 

「分かった、これからよろしく、エリカ」

 

千葉エリカと名乗った赤髪のいかにも活発そうな少女に便乗し、残りの2人も自己紹介を、終わらせていた。

 

柴田美月、千葉エリカ、司波達也、この3人との出会いが、中学までの八幡の学校生活とは大きく違う生活を送る要因になるとは、この時の八幡は想像すらしてないのであった。

 

 



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入学編(2)

無事入学式が終了し、IDカードの交付受付へと八幡達は来ていた。予め各人別のカードが作成されている訳ではなく、個人認証を行ってその場で学内用カードにデータを書き込む仕様の為、どの窓口に行っても手続きは可能だが、ここでもやはり、自然と壁は生まれてしまう。達也達とは自己紹介を交わしただけの関係に過ぎないと思っている八幡は、さっさとIDカードの登録を終わらせ、さっさと家に帰るつもりであったが、達也達に呼び止められていた。

 

「どこへ行くんだ?比企谷」

 

そう名指しで呼ばれては振り向かない訳には行かない為、八幡は渋々振り返り、達也へと自分の向かう行き先を伝えた

 

「家に帰るんだよ、この後は何もないだろ?」

 

「そうだな。話は変わるが、比企谷は何組だ?」

 

「俺はE組だが…」

 

八幡のクラスを聞いた達也達の反応は、エリカ、美月、皆揃って笑顔であった。その反応に八幡は顔を顰めた。

 

「まぁお前らの反応で大体分かったが、みんなE組か?」

 

「ああ、俺もエリカも美月もE組だ」

 

達也の回答に、またもや顔を顰めた八幡に、エリカが

 

「何よ?八幡は私達と同じクラスなの嫌なわけ?」

 

「いや、別に嫌って訳じゃないが…」

 

先程の自己紹介の時点で、実は八幡もエリカ達と自己紹介をしていた。しかし八幡は、エリカの異常なほどのコミュニケーション能力に苦手意識を持っていたのだ。

 

「まぁいいけどね!とりあえずどうする?私達もホームルームへ行ってみる?」

 

エリカは達也の顔を見上げてそう訪ねた。美月と八幡に聞かなかったのは、八幡は1人で先に行こうとしている所を、美月に捕まっていたからだろう。

 

古くからの伝統を守り続けている学校を除き、今の高校では担任教師は存在しない。事務連絡には一々言伝ではなく、全て学内ネットに接続した端末配信で済まされる。学校用端末が1人1台体制になったのは何十年も昔のことで、個別指導も、実技の指導以外では、余程のことが無い限り情報端末が使用される。それ以上のケアが必要な場合は、専門資格を複数持つカウンセラーが学校に必ず配属されることになっている。ホームルームの必要性は、実技や実験の授業の都合だ。実技や実験を時間内に終わらせ、尚且つ余剰時間を作らないためには、一定数の人数が必要なのだ。担任制度が無くなることで、クラスメイトの結びつきは、強くなった。何はともあれ、新しい友人を作るためなら、ホームルームへ行くのが一番の近道である事は確かだ。しかし、達也はエリカの誘いに、頭を振った。

 

「悪い。妹と待ち合わせているんだ」

 

今日はもう授業も連絡事項もない為、達也は諸手続きが終わったらすぐ、妹と一緒に帰る約束をしていた。達也の発言を聞いた八幡は

 

「え?そんな理由で断れるの?じゃあ俺も妹が家で待ってるから帰るわ」

 

どう考えても今考えた理由で帰ることをエリカ達が納得するはずもなく、エリカは八幡の右腕を思い切り蹴った……しかし、その時鳴り響いた音は、本来人間の体からなるはずの無い金属音だった。

 

「痛ったー!!ちょっと八幡!腕に何か仕込んでるでしょ!」

 

「腕には何も仕込んでいないぞ。ちょっとした事情でな、俺の右腕はこんな風になってるんだ」

 

そう言い八幡は手袋を外し、右腕の袖をまくって見せた。その腕を見た美月は口元を抑え、エリカも驚愕の表情を浮かべ、達也でさえも目を少しだが見開いていた。

 

「機械鎧オートメイル!!」

 

「昔、事故で右腕を失ったんだ。まぁあまり詮索しないでくれると助かる」

 

「わ、わかった」

 

八幡の真剣な頼みに流石のエリカも了承の意を示すしか無かった。エリカの了承を得た八幡は静に制服と手袋を元に戻した。

 

「ところで司波、妹をまってるんじゃ無かったか?」

 

「ああ、そろそろ来る頃だろう。それとさっきも言ったが、俺の事は達也でいい」

 

「バッバカお前、いきなり名前呼びとか出来るわけ無いだろ、友達かよ」

 

そんな風に慌てる八幡を達也は疑問符を浮かべながら見ていたが、そのタイミングで達也の妹が登場したようだ。

 

「お兄様、お待たせ致しました」

 

そう言いながら現れたのは、入学式で新入生答辞を読み上げていた、司波深雪であった。達也の予定ではそのまま帰るだけであったのだが、思わぬ来客がいるようだった。

 

「こんにちは、司波君。また会いましたね」

 

人懐っこい笑顔と言葉使いを多少取り繕ったように言ったのは、この国立魔法大学付属第一高校の生徒会長である七草真由美であった。七草のセリフに達也は無言で頭を下げた。そんな愛想に乏しい応答にも関わらず、七草は微笑みを崩さない。そんな七草の表情を見た八幡は、ああ、この人猫被ってるとお得意の観察眼で見破っていた。皆が七草真由美か、司波達也に目を向ける中、達也の妹である司波深雪だけは達也の傍らに親しげに寄り添う少女達が気になるようだった。

 

「お兄様、その方たちは……?」

 

「ああ、こちらが千葉エリカさん。そしてこちらが柴田美月さん。そして最後に比企谷八幡。皆同じクラスなんだ」

 

「そうですか……早速、クラスメイトとデートですか?いえ、ダブルデートですか?」

 

深雪のそんな発言を聞いた八幡は確信した。司波達也の妹は、ブラコンだと。そして達也はシスコンだと達也の表情をみて確信した。

 

「そんなわけないだろ、深雪。お前を待っている間、話をしていただけだ。そういう言い方は3人に失礼だろ?」

 

達也からしたら妹のこのように拗ねた顔も可愛いのだが、紹介を受けて、名乗りもしないのは外聞があまりよろしくない。達也が目に軽い避難の色を乗せると、一瞬だけハッとした表情を浮かべた後、深雪は一層お淑やかな笑顔を取り繕った。

 

「はじめまして、千葉さん、柴田さん、比企谷さん。司波深雪です。お兄様同様よろしくお願いします」

 

「柴田美月です。こちらこそよろしくお願いします」

 

「よろしく。あたしのことはエリカでいいわ。貴方のことも深雪って呼ばせてもらっていい?」

 

「ええ、どうぞ。苗字では、お兄様との区別がつきにくいものね」

 

3人の少女が改めて挨拶を交わしている様を、八幡は静かに見ているだけだった。そして達也は八幡の背中に視線を向けながら、先程見た、八幡の機械鎧について考えていた。この世界には世界中で活躍する、機械鎧の会社が存在する。八幡の機械鎧はパッと見だが、自分の調べた世界に一つしか存在しない機械鎧に酷似していると思い、家に帰ったら調べようと思っていたのである。そんな達也の視線を八幡は敏感に感じ取りながらも携帯をポケットから取り出し、誰かにメールを送るのであった。



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入学編(3)

あの後色々とあり、何故か喫茶店へと連れてかれてたが、俺は千葉や司波(妹の方)、とりあえず女性陣の話を聞いて終わった。俺が発した言葉といえば、適当な相槌だけだ。司波(兄の方)も同じ感じだったけど。そんな風にして喫茶店に2時間ほど滞在し、解散した際には直ぐに帰った。俺から話すことは特にないしな。

 

「たでーまー」

 

帰宅した俺を最初に出迎えたのは、愛しの妹である小町では無く、俺の事を寝床としか思っていないであろうペットとして買っているカマクラだった。猫の癖に生意気にも我が家の序列第3位に位置する。因みに俺は最下位だ。親父は財布として4位に位置している。そんなカマクラは俺の顔を見るなり、溜息をつきリビングへと帰って行った。あいつの表情はいつ見てもムカつく。明らかに俺を見下した表情をしているのだ。猫の癖に。

 

「およ?お兄ちゃんおかえり。意外と遅かったね?」

 

そんなカマクラを黙って見ていた俺に声をかけたのは愛しの小町だ。

 

「ああ、不本意ながらクラスメイトに連れ回されてな」

 

「ええ!?まさかお友達が出来たの!?」

 

「そんな訳ないだろ?小中とぼっちだった俺だぞ?」

 

「まっそうだよねー。お兄ちゃんに友達なんて出来るわけないかー」

 

小町の反応は当然なんだが、そんな風に俺に友達が出来ない事を認められると、流石にくるものがあるな……

 

「もう少しでご飯できるからその間に荷物置いてきたら?出来たら呼ぶから!」

 

「そうだな……なら部屋にいるから頼む」

 

「うん!小町におまかせあれ!」

 

小町はそういうと敬礼して、颯爽とキッチンへと向かっていった。しっかりと小町の姿を目に焼き付け、見届けた俺は自室へと向かっていたが、部屋の前で、俺の携帯が鳴った。

 

「この音はメールか……誰だ?まさか司波じゃないよな?」

 

今日の喫茶店で俺は何故かみんなと連絡先を交換していた。面倒くさがりながらも内心嬉しかったのはここだけの秘密だ。しかし、俺の予想は見事に外れ、メールの送り主は、俺が学校でメールを送った相手だった。そのメールを見ながら俺は自室へと入り、カバンは放り投げベットへと飛び込む。ベットで寝転ぶのは最高だぜ!

 

「えぇーとなになに。機械鎧の事は、あまり詳しく教えるな?何でだ?」

 

メールの内容に疑問符を浮かべていたら、その送り主から電話がかかってきた。

 

「なんだよ、ざいも……」

 

「八幡!貴様機械鎧を見せびらかしたでごさるな!」

 

「そんな事するかよ!ただクラスメイトに蹴られてな、その時にちょっと見せただけだ。一応詮索されないように釘は刺してる」

 

「むふぅー。八幡には最初に話しておくべき事だったな。その機械鎧は我が作った最高傑作。世界に一つしかないのだ。会社内限定だが、公開している。だが、もし知っている人がいたらひと目でわかるものなのだ。今回は誰にも知られていないからいいものを……」

 

「ほんとなんで最初に言わねぇんだよ……しかし、世界に一つしか無いってのは確かに凄いが、そんなに慌てる程の事なのか?」

 

「当然であろう!その機械鎧に使われている金属はオリハルコン、世界最高の金属であるのだぞ!」

 

材木座言ったその事実に俺は度肝を抜かれた。今俺が使っている機械鎧は、まじでやばいものだった。今はこの語彙力の無さを許して欲しい。俺の唯一の誇りである語彙力が失われる程にその事実はとんでもないものだったのだ。オリハルコンといえば、古代ギリシャ・ローマ文献に登場するまさに幻の金属。この材木座義輝がどうやってこの金属を入手したかは謎だが、この幻の金属が使われているという事は、この機械鎧を身に付けているだけで、俺は狙われるという事だ。

 

「まじか……それは本当にやばいな……」

 

「だから誰にも彼にも見せびらかすではないでござるよ!八幡!」

 

「そんな話聞いたら誰にも見せられねぇよ。とりあえずこの話を聞いて思ったんだが」

 

「ん?何でござるか?」

 

俺は溜めに溜めてこう言った

 

「機械鎧変えて?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後すぐに小町から呼ばれた為、材木座に明日の集合時間を言った俺は返事も聞かずに通話を切り、小町の美味しいご飯を食べながら小町との楽しい楽しい時間を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

材木座に機械鎧を変えてもらえるよう頼んだ俺は、翌日の早朝から材木座の研究所へと来ていた。

 

「はぁ、相変わらず階段遠いな……っ!」

 

材木座の研究所は、地下から地上二階建てで、1階の入口から右隅に、地下への階段がある。そこへ向かうまではなにも無いし、誰もいない。そんな部屋を階段へとまっすぐ向かっていた俺の背後に、突如現れた気配。俺はそれを敏感に感じ、咄嗟に距離を取った。

 

「よう比企谷、相変わらず気づくのが遅いんじゃないか?」

 

「……先生の気配の隠し方が上手いだけですよ」

 

俺がそう言うと、突如現れた気配の持ち主は微かに笑った。その気配の持ち主とは、この研究所のオーナーであり、俺と材木座の体術の師匠である、平塚静先生だった。

 

「所で材木座に用かね?」

 

「はい、機械鎧を変えてもらおうと思いまして」

 

「ふむ、だが材木座は居ないぞ」

 

平塚先生が告げた事を、俺は信じられなかった。

 

「材木座は今研究材料の調達に行ってる。こんな朝早くから大変だな。いつもは寝ている癖にな?多分比企谷、君の機械鎧に必要なものだろう」

 

「あいつには今日この時間にいるように言ってたんですが、まぁ仕方ないですね……後でしばく」

 

小声で言った俺の言葉は、どうやら平塚先生に聞こえていたようで、苦笑いを浮かべていた。しかし、そんな平塚先生の表情は一瞬で変わり、獰猛な笑みへと変化した。大体何を思ったのか予想つくが、外れてくれる事を祈ろう(フラグ)

 

「比企谷、材木座が来るまで相手をしてやろう、幸いここは実験室兼訓練室だ、思う存分戦えるぞ」

 

俺の予想した事は見事に的中していた。この先生は暇を見つけると直ぐに戦おうとする。そこに俺や材木座、他にも1人いるがまぁ誰かを見つけると直ぐに訓練と評して自分の欲を満たそうとする。普段は優しい先生なのにな……こんなに戦闘狂だから結婚が出来ないんだろうな。

 

「比企谷、今だから結婚が出来ないとかなんとか思っただろう?君は自分の事をポーカーフェイスだと思っているようだが、君の考えは大体顔に書いてあるぞ」

 

「まじですか……先生、俺はこんな朝早くから訓練なんてしたくな……」

 

「君は否定しなかったな?私は大いに傷ついた。罰として、この訓練は今日の材木座の分まで行う!異論反論抗議質問は一切受け付けない!いいな!」

 

「……はい」

 

なんでこんな事に……全部材木座のせいだな。うん。絶対後でしばき倒してやる。しかし、この状態の先生は止める事が誰にも出来ない。こんなでもこの先生は有名に格闘家で、二つ名まで存在する。まぁとりあえずこの訓練を乗りきる事だけを考えよう。

 

「それでは、材木座の分まで含めた、比企谷八幡の訓練を開始する!安心しろ、学校には間に合うように機械鎧の交換の時間も合わせて終わらせる」

 

「もうなんでもいいです」

 

俺は溜息をつきながら、嫌々ながら、面倒くさがりながらも、先生との訓練に取り組む。果たして訓練が終わる頃に俺は生きているのだろうか……そんな先の事は平塚先生のみが知る世界であった。

 

 

一方材木座は……

 

「むっ!この刀……なんと美しい……」

 

刀マニアである材木座は機会鎧の材料を買いもせずに、刀剣屋で無駄な時間を過ごしていた。

 



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入学編(4)

「はぁはぁ……きっつ」

 

平塚先生の訓練と評した自己満足は、約1時間で終了した。たった1時間だと思うだろうが、俺にとってはかなり濃密な1時間だった。おかげで明日は筋肉痛だろう。そんな疲れきった俺とは対照的に、平塚先生は肌を艶々と輝かせ、実にいい表情をしている。ほんとムカつくぜ、材木座。

 

「よく頑張ったではないか、比企谷」

 

「はぁありがとうございます」

 

「なんだなんだ、全然覇気を感じられないな」

 

「いやほんとキツいっす。先生の訓練まじで地獄なんで」

 

俺が言ったように平塚先生の訓練は本当に地獄の様なんだよなー。筋トレを続けて20分したら10分かん連続で組手、それが2セット。言葉にすると簡単そうなんだが、これはやった事がある人にしか分からないきつさだと思う。

 

「まぁよく頑張ったではないか。先程から材木座がこちらを見ているから、機械鎧の交換でもしてきたまえ」

 

平塚先生はそういうと指をこの部屋の入口へと向けた。俺はその指を追うようにして見てみると、確かにそこには材木座がいた。一体、いつからいたのだろうか?まったく気が付かなかった。

 

「分かりました。今日の訓練は理不尽な理由で始まりましたけど、ありがとうございました」

 

俺は今できる最大限の反抗をしてみせたが、平塚先生は材木座の所へと向かう俺を笑顔で見送っていた。これが、大人と子供の差なのだろうか……恥ずかしい!!

 

「おい、材木座!なんで指定した時間に居なかったんだよ。おかげでお前の分まで訓練したぞ」

 

材木座の所に来た俺は、開口一番に文句を言ってやった。こいつにはまじでムカついてるんだ!

 

「わっ我は悪くないぞ!昨日ちゃんと材料の事話そうとしたのに、勝手に通話をきる方が悪いのではないか!八幡!」

 

材木座は慌てながらも俺の目をしっかりと見ながらそう伝えてきた。明らかに嘘は言ってないようだが……これはまさか……俺の自業自得?そんな馬鹿な……

 

「昨日は小町に呼ばれたんだよ。小町とお前どっちを優勢するかなんて考えるまでもないだろ?」

 

「それは貴様の都合ではないか!それに我はあの後ちゃんとメールで伝えてある!」

 

材木座がそう言うので俺は携帯を確認してみた。まぁ残念なことにしっかりと材木座からメールが届いていて、機械鎧の材料の調達に行く事が、無駄に事細かに書いてあった。今回の事は完全に俺の自業自得なようだ。だが、自分の無実が証明出来たからか、ドヤ顔のこいつがただ単にムカつくから後でしっかりとシバいておこう。

 

「まぁとりあえず機械鎧の交換をよろしく頼む」

 

「相分かった!我に任せよ!因みに希望とかある?」

 

「特にないな。普段通りに生活ができればそれでいい」

 

「了解したなり〜」

 

材木座はきもい事を言いながら研究所の地下へと向かっていった。あれを小町が言ったら可愛いんだろうが……まぁ小町は何をしても可愛いからな。流石俺の妹、俺の天使。そんな風に小町のことを考えながら、俺も材木座の後に続いて行った。

 

 

 

 

材木座にしっかりと機械鎧を交換してもらい、支障が無いかのチェックの為に材木座を叩きのめした俺は、自宅へと帰り、愛しの小町との食事を終わらせ、こんな時間がずっと続いたらいいなぁとか思いつつも、しっかりと学校へと向かっていた。俺の家から第一高校へはそこまで遠くない。しかし、近くも無いため電車通学だ。俺は駅に着くと、停車中の小型の車両へと乗り込んだ。「満員電車」という言葉は現在死語となっている。何十人、何百人もの人を乗せる電車は極小数になり、キャビネットと呼ばれる2人乗り、又は4人乗りのリニア式小型車両が主流になっている。まぁだいたいの制御を交通機関が担っている様で、少数車両になった為、痴漢も減り、事故による死者も大幅に減ったらしい。他にも友達との待ち合わせには不便になったらしいが、ぼっちの俺には関係の無い事だった。むしろ、1人で乗る時の快適感は実に最高だ。この車両には乗る際にチケット、パスから行き先を読み込んで、発車する為、乗り過ごす事はない。俺はそのシステムに感謝して、する事もないので眠りについた。

 

 

学校へと着いた俺は直ぐにE組への教室へと向かった。そして教室に着いたはいいが、1年E組の教室は雑然とした雰囲気に包まれていた。多分どこの教室もこんなものだろう。そう思い俺は静かに教室へと入り、入口で教室内を見渡してみると、昨日のホームルームの内に仲良くなったのか、友達との会話に花を咲かせているグループがいくつもあった。その中には勿論、昨日連絡先を交換した司波達がいた。しかも残念な事に、俺の席は、司波の席の二個右斜め後ろの席だった。割と近くて悲しい……悲しんでいても仕方が無いので、俺は司波達にバレないように最大限気配を消して、自分の席へと向かった。

 

 

「すっげぇー!」

 

突如聞こえた大きな声に俺は驚きながらも視線を向けた。そこには司波のキーボードに目を向けながら驚きの表情を浮かべた生徒がいた。あいつも司波達の友達か?ほんとにコミュニケーション能力高いなぁおい!少しは俺にも分けろよ!しかし関わるとろくな事にならなさそうだと思い、俺は直ぐに自分の端末にIDカードをセットして、インフォメーションのチェックを開始する。因みに俺はキーボードオンリーだ!昔タイピングの早い人に憧れて練習したらかなり早くなってしまったんだ。

 

 

 

「いや、すまん!珍しいからつい見入っちまった」

 

「珍しいか?」

 

「珍しいと思うぜ?今時キーボードオンリーで入力するやつなんて、見るのは初めてだ」

 

「慣れればこっちの方が早いんだがな。それに俺以外にもいるようだし」

 

達也はそう言うと、比企谷へと指を指した。勿論それに釣られて、エリカ達も視線を向ける。急に多くの視線を向かられた八幡は、視線を辿って見返すと、達也達だと言うことに気が付き顔を顰めていた。

 

「おいおい、お前もキーボードオンリーなのかよ!」

 

「なっ何だお前、急に馴れ馴れしいなっ」

 

司波の前にいた茶髪の体格のいい生徒は、司波達を引き連れて何故か俺の席の方に来ると、背中を叩きながらそう言ってきた。しかし、キーボードオンリーなのはやはり珍しいのだろうか?ようやく自分の失敗に気づいた俺ガイル。

 

「おっわりぃわりぃ。キーボードオンリーなんて、今時してる奴見かけねぇからよ。おっとそう言えば自己紹介がまだだったな。西条レオンハルトだ。親父がハーフ、お袋がクォーターなせいで、外見は純日本風だが、名前は洋風、得意な術式は収束系の硬化魔法だ。志望コースは身体を動かす系の警察の機動隊とかだな。レオでいいぜ、よろしく」

 

 

……いやなげぇよ!確かに魔法師(卵、雛鳥)は能力、いや素質が進路と結びついてるから得意な術式を言うのはいいけど、名前の所別に聞いてない!もうとにかく長いから!そんな風に心の中で西条へと文句を言っていたら

 

「司波達也だ。俺の事も達也でいい」

 

勝手に自己紹介を始めやがった。自分達の席でやってくれませんかねぇー。俺は溜息をつき、作業を開始した。しかしその作業は司波達の視線に集中砲火されてる俺には続けることが出来なかった。多分西条の為に自己紹介をしろと言うことなんだろう。

 

「あー、比企谷八幡だ。俺は別に苗字でいいぞ」

 

「OK、達也に八幡だな。それで、得意魔法は何よ?」

 

まぁ俺も司波の得意魔法は気になる。こいつは立ち振る舞いから雰囲気がただの二科生とは思えないからな。

 

「実技は苦手でな、魔工技師を目指してる」

 

「なーる……頭良さそうだもんな、お前」

 

そういうと西条は俺に視線を向けて、俺にも同じ問をかけてきた。

 

「八幡の得意魔法は何よ?」

 

「あー俺も実技は苦手なんだが、強いていうなら自己強化系だな。硬化魔法も一応得意分野だ」

 

「へぇー。意外だな。なんか八幡はこう、遠くからちまちま攻撃してそうな感じだけど」

 

……こいつ、結構ずばずば言いやがる……しかも反論出来ないから悔しい。基本的に俺は接近戦だが、西条の言ったように遠くからちまちまと、援護する感覚で攻撃する場合も多々ある。西条の言葉にはムカついたが、こいつはそれだけ人を見る目があると言うことだろう。それに俺にはまだとっておきの技があるしな。言えるわけないが。そんな俺たちの会話を横で聞いていた千葉は、何故がハイテンションで会話に入ってきた。

 

「え?達也君って魔工師志望なの?」

 

「達也、こいつ誰?」

 

西条はいきなり会話に入ってきた千葉を指差しながらこいつ呼ばわり、あいつ死んだな……千葉の強気な性格は昨日で嫌という程知ったからな。

 

「うっわ!いきなりコイツ呼ばわり?しかも指差し?信じらんない!失礼なやつ!失礼なやつ!ほんっとモテない男はこれだから」

 

「なっ!失礼なのはテメーだろうがよ!少しくらいツラが良いからって、調子こいてんじゃねぇーぞっ!」

 

「ルックスは大事なのよ?だらしなさとワイルドさを履き違えてるようなむさ苦しい男には分からないだろうけど。少しは達也君と八幡を習ったら?」

 

 

「……エリカちゃんもうやめて」

 

「レオ、もうやめておけ。それに口では勝てないと思うぞ」

 

柴田と司波の注意で言い争っていた2人は物の見事に静まった。こりゃ司波が居ればこのグループは大丈夫そうだな。それにしても、知り合ったばかりでここまで言い争えるとは、このふたり実は相性いいんじゃないの?そんな風に達也も思っているとは知らずに、八幡は考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

一方クラスメイトの反応

 

「あの司波君ってかっこよくない?なんか見ためがって言うより、雰囲気とか色々込込で!」

 

「えぇー?私はあの比企谷って人の方がカッコイイと思う!キリッとした目に、バランスのいい顔立ち、ただ少し根暗そうな雰囲気が残念だけど!」

 

どうやら八幡は、自分が思い込んでいるだけで、周りからの評価は高いようだ。ここだけの話、八幡の見た目は相当レベルが高く、見た目だけなら司波達也をも凌駕している。ただ、その根暗そうな雰囲気と猫背、メガネが残念な印象を残しているようだ。因みに中学校には、八幡が知らないだけで、少人数ながらファンクラブが存在した。男子からは右手の手袋を厨二病だと馬鹿にされているらしいが、妬みが大きな理由だろう。

 

 



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入学編(5)

あの後、オリエンテーションが行われた。今の時代、担任教師というものは存在しない。何故なら連絡事項などは全て端末にて行うからだ。それにも関わらず、オリエンテーションでは教師らしき人が入ってきた。まぁ実際はカウンセラーだったのが、名前は確か……小野遥?だった気がする。いかん、もう忘れた。まぁなんでもいいが、俺はそのカウンセラーを見て、ただのカウンセラーだとは思えなかった。それに、最後の司波に対する意味有り気な視線は何だったのだろう?まさかナンパ目的……?いやいや、それはないか。いくら司波の顔が整っているからといって、未成年に手は出さないだろう。まぁそんな幾つもの疑問を感じさせられたオリエンテーションは無事終了し、昼休みまでの時間もある為、俺は今日、明日と設けられている授業の見学へと行こうとしている。

 

「八幡も一緒に工房へ行ってみねぇか?」

 

そう俺に声を掛けてきたのは、先ほど俺の背中をバシバシと叩きやがった西条だ。

 

「いや、お前らだけで行けよ」

 

「なんだよ、八幡は闘技場にでも行くのか?」

 

「俺がそんな所に行くふうに見えるか?」

 

「まっ正直見えないな」

 

「そういうお前こそ闘技場に行かないのか?」

 

俺がそう言うと、西条は苦笑いを浮かべていた。なにか変な事言っただろうか?

 

「やっぱそう見えるか?さっき達也にも言われてよ。硬化魔法は武器との組み合わせで最大限効果を発揮するものだからな。武器の手入れくらい、自分で出来るようになっときたいんだよ」

 

「なるほどな、それなら西条が工房へ行きたがるのも納得だ」

 

西条の言った通り、硬化魔法は武器にかけることが多い。確かこいつは将来警察の機動隊とかに就きたいと言ってたな。こんな見た目だが、ちゃんと真面目に将来の事を考えられているらしい。人は見た目で判断してはダメだと言ういい例だな、こいつ。

 

「で?どうする?」

 

多分こいつはどれだけ断っても誘ってくるだろう。それなら抵抗せずについて行くのが得策だな。後ろからひっそりと行こう。うん、そうしよう。

 

「まぁ俺も行く場所は工房だったしな。大人しくついて行くさ」

 

「それなら最初から行くって言えよ」

 

西条はそう言うながら、また俺の背中を叩いてきた。しかも笑いながら。西条、馴れ馴れしいのはこの際仕方ないとしても、もう少し手加減してくれ!かなり痛い……そんな風に思いながらも口に出せない俺は視線で西条に訴えかけていだが、まったく気づく素振りを見せない。俺は諦めて、溜息を零した。

 

 

 

 

入学して2日たった。俺はこの2日とも何故か司波達と共に行動している。千葉や西城はすぐに言い合いを始めるから騒がしいが、認めたくないがこのメンバーは意外と心地が良い。流石に『あいつら』との部活ほどではないけどな。ただ、大人しい子だと思っていた柴田がこのような行動にでるとは……事の発端は今日の昼休み、午後も専門課程見学中だ。俺達二科生グループは昼休みに無事に席を確保した。そこに司波妹が来て、司波達と昼飯を食べようとしていた時に、一科生の奴らが明らかに俺達を見下した言い方で席を譲れといいやがった。俺はあの時の司波妹の顔を忘れない。笑顔なのにまったく目が笑ってないのだ。あれはまじで怖かった……心凍りそうだったよ。まぁその時は司波が席を早々に譲ったためそれ以上拗れる事は無かったんだが、専門課程見学中になんとこいつらは、一科生を押しのけて、最前列で見学しやがった。俺も引き連れて。あの時もつらかったなー。あの視線の数々、長年ぼっちだった俺には流石にくるものがあった。あんな風に悪目立ちしたのは久しぶりだ。そして現在、放課後。俺以外の奴らが会話に花を咲かせながら下校していたら校門で司波妹を待ち伏せしていた一科生の奴らに絡まれ、とうとう柴田が切れた。ここで真っ先に切れたのが柴田なのが本当に意外だ。これが千葉や西城なら凄く納得できるのに。過去を振り返っている俺にはお構い無しに(当たり前)一科生との口論はヒートアップしていく。俺は思考を中断して司波達の少し後ろから眺めていた。

 

「僕達は司波さんに相談することがあるんだ!」

 

「そうよ!司波さんには悪いけど、少し時間をかしてもらうだけなんだから!」

 

いや、悪いって思ってるなら司波妹の顔見ろよ。明らかに望んでないだろ、そんな展開。

 

「ハン!そういうのは自活中にやれよ。ちゃんと時間とってあるだろうが」

 

「相談だったら予め本人の同意を取ってからにしたら?深雪の意思。無視して相談も何ものったもんじゃないの。それがルールなの。高校生にもなって、そんな事も知らないの?」

 

そう言った千葉の顔は嫌に笑顔だった。こんな如何にもな挑発に乗るのだろうか?

 

「うるさい!他のクラス、ましてやウィードごときが僕達ブルームに口出しするな!」

 

……乗ったよ。どんだけ短気なんだよ。というか一応「ウィード」って言うの校則違反だぞ。

 

「同じ新入生じゃないですか。あなた達ブルームが、今の時点で一体どれだけ優れていると言うんですかっ!」

 

「……どれだけ優れているのか、知りたいなら教えてやるぞ」

 

「ハッ、おもしれぇ!是非とも教えてもらおうじゃねぇか」

 

今の状態、正に売り言葉に買い言葉だな……このまま傍観を決め込むつもりだっだが、さすがこれ以上は問題になる。その前に黙らせておくのがいいな。

 

「だったら教えてやる!これが才能の差だ!」

 

そう言った一科生の奴は小型拳銃型特化型CADを素早く抜き、西城に狙いを定めた。

 

「この間合いなら身体を動かした方が速いのよね」

 

「それは同感だが、テメェいま俺の手ごとぶっ叩くつもりだったろ!」

 

こんな時でも言い争う2人はやはり、仲が良い。

 

「くそっ!お前ら!やれ!」

 

千葉にCADを弾かれた男が他の一科生にそう言うと、みんなして西城と千葉に魔法の照準を合わせてきた。その中で一人だけで、攻撃魔法じゃなく閃光魔法を放とうとしている奴もいるが、あれは眩しいから嫌いだ。仕方ない。目立ちたくなかったがここはこの場を『分裂』するか。さっさと手袋を外し、

 

パンッ!

 

俺は勢いよく両の手を合わせる。周辺の生徒達はその音に反応し、俺に視線を向ける。そんなのはお構い無しにそのまま両の手のひらを地面へと下ろした。

 

「なっなにっ!」

 

「なっ、なんだこれ!」

 

「お前ら、一旦落ち着けよ」

 

俺はそう言うと、地面から手を離し、西条達に目を向ける。俺達二科生+司波妹と一科生達との間には、物理的な壁が出来ている。目に見えない壁もあるけどな。壁の向こうでは一科生の奴らの騒ぐ声が耳に入る。

 

「はぁ、とりあえず防げたな」

 

俺がそう言うと、西城と千葉がこちらに迫ってきた。

 

「おい、八幡!これお前がやったのか?」

 

西城はそう言いながら壁を小突き

 

「八幡、この壁どういう原理で作ったの?」

 

千葉はそう言いながら壁を軽く蹴る。

 

 

何君たち。似たようなこと言いながら似たようなことして。やっぱり仲いいでしょ。

 

 

 

「まぁそれは後で説明するわ。とりあえず、なんか生徒会長達が来たみたいだから壁を元に戻すぞ」

 

俺の言葉に司波兄妹を除く3人は、「えっ?」という顔をしているが当然スルーして、俺はさっきと同じように手のひらを合わせ、地面へ下ろす。俺の手が地面に接触したと同時に地面は光を発し、壁は元の形へと戻った。完全に元通りって訳じゃないけどな。

 

俺は壁の外にいた、生徒会長と風紀委員?の人にこう告げた

 

「あー、すみません。魔法使われたんで、自衛目的で自分も魔法を使いました」

 

ちなみ自衛目的と言うところは強調したいった。俺は悪くないぞ!

 

俺の言葉に、生徒会長と風紀委員の人はひどく驚いた顔をしている。

 

「風紀委員長の渡辺摩利だ。さっきの壁を君が?」

 

………風紀委員の人かと思ってたら風紀委員長でした!八幡バンザイ!(悲しみの舞)

 

「はい」

 

「魔法を使われそうだったってのは本当かね?」

 

「はい。事実です」

 

俺の短い返事により、スムーズに進んでいく。しかし、このままでみんなして反省させられるのかなー。

 

「わかった。とりあえず詳しく事情を聞きます。ついて来なさい」

 

やっぱりか。めんどくせー。そう思ってたら何やら司波が行動を起こしていた。

 

「すみません。悪ふざけが過ぎました」

 

「悪ふざけ?」

 

「はい。森崎一門のクイックドロウは有名ですから、語学の為に見せてもらうだけだったんですが、あまりに真に迫っていたもので、思わず手が出てしまいました」

 

「ほう。壁のその生徒がしたとして、そこの1-Aの生徒が攻撃性の魔法を発動しようとしてたのはどうしてだ?」

 

「驚いたんでしょう。それでも条件反射で起動プロセスを実行出来るとは、流石一科生ですね。それに、彼女の魔法は攻撃性を含んでいません。あれは、単なる閃光魔法です」

 

おいおい、こいつ。起動式を読み取れるのか?

 

「ほう……どうやら君は、展開された起動式を読み取ることが出来るそうだな」

 

「実技は苦手ですが、分析は得意です」

 

「……誤魔化すのも得意なようだ」

 

そう言った風紀委員長の目は、値踏みするような、睨まつけるような目をしていた。あの目が俺に向けられたものならば、恐らく俺は死んでいるな。

 

「摩利、もういいじゃない。達也くん、本当にただの見学だったのよね?」

 

生徒会長のその救いの言葉に司波は、静かに頷いた。

 

「生徒同士で教え合うことが禁止されているわけではありませんが、魔法の行使には、起動するだけでも細かな制限があります。このことは一学期の内に授業で教わる内容です。魔法の発動を伴う自習訓練は、それまで控えた方がいいでしょうね」

 

「……会長がこう仰られていることでもあるし、今回は不問にします。以後このようなことのないように」

 

風紀委員長のその言葉にみんなホッとした顔から一瞬で、一斉に、頭を下げた。俺も慌てて頭を下げたが遅れた為無駄に目立っただろうな。

 

風紀委員長はそのまま立ち去ろうとしたが、何を思ったのか途中で立ち止まり、背中を向けたまま問いかけた。

 

「君の名前は?」

 

風紀委員長の首だけ振り向いた切れ長の目は、司波を捉えている。よかったー。錬金術使ったから俺かと思った!

 

「一年E組、司波達也です」

 

司波の名前を聞いた風紀委員長はそのまま立ち去るのかと思いきや、今度は俺に目を向け、まったく同じ言葉を発した。

 

「君の名前は?」

 

「……一年E組、比企谷八幡です」

 

俺は渋々そう告げた。

 

「覚えておこう」

 

その言葉を最後に、風紀委員長は俺達の前から去っていった。

 

 

俺はその言葉を聞いて悲しくなった。年上の女性に名前を覚えてもらえるなんて光栄な事なのに、覚えられ方が明らかに目をつけられたからだ。はぁ俺の平穏な学校生活はどこへ……



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入学編(6)

風紀委員長である、渡辺摩利が去っていった後、西城にCADを向けた一科生、森崎駿は司波に対して何やら言っていたが、内容は知らない。ただ、その後何故かみんなで帰ることになったんだが、一科生の女子二人が一緒に帰っていいか、許可をもらいに来た。それ+自己紹介。ちなみに俺は噛まずにちゃんと自己紹介をする事が出来た。成長した兄の姿を小町に見せれないのがとても残念だ。そして今まさに、その一科生の二人を加えたメンバーで駅へと向かっている。

 

「達也くん、あたしのホウキも見てもらえない?」

 

千葉が司波に対してそう言った。なんでも司波は妹のCADを調整をしているらしい。

 

「無理。あんな特殊な形状のCADをいじる自信ないよ」

 

「あはっ、やっぱりすごいね、達也くんは」

 

司波にお願いを拒否された形になったのにも関わらず、千葉は笑顔を浮かべ、裏表のない賞賛を送っている。それに対して司波は

 

「何が?」

 

何とも簡潔に纏められた回答だ。少々冷たく感じる口調だが、それが司波達也の口調だとみんな理解しているためか、そのまま会話は進む。ちなみに俺はみんなの会話を聞いているだけで学校を出てから一言も発していない。

 

「これがホウキだって分かっちゃうんだ?」

 

そういった千葉は先程森崎駿のCADを弾いた警棒のストラップを持って、クルクルと回している。しかも警棒は柄の長さに縮まっている。ってか、え?あれがCADって普通にわかる事じゃないの?

 

千葉のその行動、言動に素直に驚いたのは、柴田だけだ。それに続いて西城も問いかける。

 

「……何処にシステムを組み込んでいるんだ?さっきの感じじゃ、全部空洞ってわけじゃないんだろ?」

 

「ブーッ。柄以外は全部空洞よ。刻印型の術式で強度を上げてるの。硬化魔法は得意分野なんでしょ?」

 

二人の会話に耳を傾けながら、俺は別の事を考えていた。本当に今更だが、司波は発動中の術式を読み取る事が出来る『眼』を持っている。それだけでも異常なのに、その読み取った術式がどんな魔法なのかが分かるということは、術式を完璧に覚えているということ。ただ記憶力のいい人間では絶対に成しえない技術。司波は特別な『眼』に、特別な『頭脳』を持っている。『眼』に関してはもしかしたら俺と似たような物かもしれないが、そうだと判断するだけの材料がない。『頭脳』に関してはあれだな。完全記憶能力。多分、いや確実に司波は、一度見た物は、忘れる事がないのだろう。

 

「……まん!……おい!八幡!」

 

「うおっ!なっなんだよ西城」

 

「なんだよって、何回も呼んでるのに返事しないからだろ?」

 

どうやら俺は、考え事をしているうちに周りの声が聞こえていなかったようだ。

 

「あ、ああ。そうか、すまん。それでなんか用か?」

 

「ああ、俺からって言うよりはみんなからだろうな。あの壁を作った魔法が気になって仕方ないんだよ」

 

あーなるほど。錬金術についての説明を求めていると。西城の話を聞いて周りに視線を回すと、皆が俺を見ていた。

 

「あーまぁあれだよあれ、気にすんな」

 

俺は適当に誤魔化して(誤魔化せてない)この話を無かったことにしようとした。どうせこいつの事だ、後で説明するって俺が言ったことも忘れてるだろう。しかし西城は俺の名推理を完璧に覆しやがった

 

「おいおい、お前後で説明するって言ったじゃねぇか」

 

はい。ちゃんと覚えてましたね。こいつがっつり体育会系の癖に馬鹿じゃないからムカつく。まぁなんにしても、覚えられていたのなら説明せざるを得ない。俺は諦めて錬金術についての説明をする事にした。

 

「あーあれは錬金術だ」

 

「錬金術?お前錬金術ってフィクション中だけのものだろ」

 

「いや、違う。ちゃんと昔から錬金術は存在している。色んな文献にもちゃんと理屈やら載ってるだろ?」

 

「確かに、錬金術の理屈や、歴史は様々な文献で記録されている。ただ、ここ百年近くは錬金術に関して研究が進んでいないはずだが?」

 

「あーまぁ進んでないな。というか最近の研究者共は深く考え過ぎなんだよ」

 

「というと?」

 

「司波、錬金術については何処まで分かってる?」

 

俺は皆への説明をする為に、まずは少しでも理解出来ているであろう司波へと話を振る。

 

「錬金術を発動するには、錬成陣を用いること、またその錬成陣にエネルギーを送る事で錬金術が発動すること。さらに細かく言えば、錬金術を発動させる対象を理解し、分解、そして再構築するという所まで理解している。合っているか?」

 

あら、司波が俺の説明する所すべて説明しちゃったよ。

 

「おっおう。ほぼ満点だ。一つ付け加えると、錬金術は等価交換の上で成り立っているという事だな」

 

俺のこの言葉に、司波兄妹以外は首を傾げていた。このまま質問がないようなら、無視しよう

 

「?つまり、どういうことだ?」

 

このメンバーには、真面目な奴しか居ないのか!しかもいつも聞いてくるのが西城とか!なんの間違いだ!そう思いながらも口は勝手に動いていた

 

「あーつまり、地面に錬金術を施して土の何かを作ったとするだろ?」

 

うんうんと頷きながら話を聞いている西城達。こんなに真剣に話を聞いてくれるのは、中々どうして、悪くない。

 

「まぁその何かがー西城の土像だったとしよう。そしたらその土像を作るのに必要とした土の分だけ、地面から土が無くなる、というか西城の土像の材料だ。だから地面にはクレーターとか目に見える変化が現れるんだ」

 

「ふむふむ、つまり錬金術も結局魔法みたいなものってこと?」

 

千葉が話を纏めたのかそう言った。

 

「ああ、錬金術は魔法に似た技術だと思うぞ」

 

この俺の言葉を最後に、西城達はしっかりと錬金術について理解が及んだのか、質問してくる事は無く、程なくして駅へ着いた為解散となった。ただ司波兄妹が何かこそこそと話をしているのが俺には気掛かりだった。

 

 



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入学編(7)

駅につき解散した俺は、特に何事もなく帰宅した。帰宅途中には素敵なイベントなど、特に起きること無かった。しかし、帰宅してから即イベントが発生していた。

 

「お兄ちゃん!今日も……しよ?」

 

そう言った小町の顔は実の兄である俺から見てもとても魅力的な笑顔をうかべていた。

 

「別にいいけど……大丈夫か?」

 

「?何が?」

 

「いや、何がって、身体だよ。もつのか?」

 

俺の心配を他所に小町はサムズアップしてきた。可愛いが何故かこう、イラッとくる仕草である。

 

「大丈夫だよお兄ちゃん!小町の身体は別にそんなにやわじゃないよ」

 

「なら別にいいけど。じゃあ早速、始めるか」

 

俺がそう言うと小町は更に笑みを深め、頷いた。

 

「うん、今日も本気で来てね?」

 

そう言った小町の表情に、ドキリとしたのは内緒だ。

 

 

 

 

 

 

さて、俺達は今、自宅にある修練場へとやって来ている。先程までの会話では捉えようによっては実の兄妹でキャッキャウフフな展開を迎えようとしてるようにも捉えられるが、実際はキャッキャウフフな展開など何処にも存在しない。小町は小柄であり、顔もとても可愛らしく、性格も誰とでも仲良くできるような素晴らしい性格をしている。しかし、意外なことにもとても好戦的な性格も隠し持っている。実は小町も魔法師で、それも俺とは違いとても優秀な魔法師だ。だが、錬金術を扱うことは出来ない。この比企谷家で錬金術を扱うことが出来るのは俺だけだ。昔は立派な錬金術の一族であったらしいが、時代が進むにつれ錬金術を扱う事が出来なくなったらしい。因みに俺は一種の先祖返りだ。

 

「今日はどんな内容にする?」

 

「小町が決めていいぞ」

 

小町は少し悩む素振りを見せたが、多分あれは悩んでいない。

 

「今日は外でやりたいな。久しぶりにお互いに本気で!」

 

「おいおい、本気で?それマジで言ってる?」

 

驚いている俺にはお構い無しに小町は外の修練場へと向かう。なんの為にここへ来たのだろうか……

 

「先に行ってるから!早く来てね!」

 

「あいよ」

 

小町はさっさと行ってしまったので俺も外の修練場へと向かう。

 

 

 

 

比企谷家は、一般的な家庭とは言えないだろう。別に特別有名と言う訳じゃないが、先に言った通り昔は立派な錬金術の一族。いくら錬金術が使えなくなったと行っても錬金術師特有の頭の良さを兼ね備えている。残念ながら小町はお馬鹿だが。その為様々な分野に手を出しており、魔法師の世界ではCADや魔法の作成、錬金術の理屈や小説家、武器商人に政治家など無駄に才能に溢れている。その為家は無駄に立派だ。それに自分を高める事が好きな一族な為、家でも仕事や研究など様々なことをしている。実に社畜的な一族なのだ。だから家に様々な修練場があるという訳だ。

 

 

 

俺か外の修練場に着くと、小町は既に居た。当たり前か。

 

「すまん、待たせたな」

 

「大丈夫!それより早く始めよ!」

 

どうやら小町はもう待てないようだ。誰に似てこんな性格になったのやら……

 

「はいはい、それじゃあはじめー」

 

俺のやる気のない合図と共に小町は俺目掛けて走り出す。小町は手にナイフ型の武装一体型CADを持っている。俺は薙刀型の武装一体型CADを持っている。小町の使っているCADは柄に4つのボタンが取り付けられており、その四つのボタンを決められたパターンに沿って押すと魔法を発動する特化型CADである。俺の目の前に現れた小町は俺の頭めがけてナイフを振り下ろす。現在小町のCADにかかっている魔法は硬化魔法で、強度はピカイチである。俺はその攻撃を薙刀を頭上で横に構え、受け止める。因みに俺の薙刀型のCADも特化型CADであり、俺の場合は送り込むサイオンを予め登録しておき、そのサイオン量に該当する魔法が発動する。俺も硬化魔法を薙刀に掛けているため、お互いの得物は傷一つ付いていない。俺の攻撃を止められた小町は後退する。俺は小町を追い、薙刀を長く持ち、振り下ろす。この時俺は魔法を発動している。斬撃による風圧を収束し、そのまま前方に放出する。簡単に言うと飛ぶ斬撃だ。魔法名は『風切り』。風切りはそのまま小町へと襲いかかる。しかし小町も風切りで応戦してきた。二つの風切りが衝突し、消滅する。その間にお互いに動き出し、単純な武術での応戦が始まった。小町は細かく動き回り、俺は小町を寄せ付けないように薙刀を広範囲で振り回す。そんなふうにお互いに似た魔法で戦っていたが、俺の薙刀の石突が小町の横腹にめり込み、勝敗は付いた。

 

「あー!!また負けたー!!」

 

小町は地団駄を踏みながら叫ぶ。

 

「かなりよくなったな、小町。今日は自己加速術式使ってないんだろ?」

 

「使ってない。これ特化型だし、ナイフの強化とかに気を回してたから」

 

「今日は本気じゃなかったのか?」

 

俺のセリフに小町は顔を顰め、

 

「本気だったに決まってんじゃん。自己加速術式使いたかったけど、お兄ちゃん相手にする時硬化魔法使わないと壊すんだもん」

 

そんな風に愚痴を零す。

 

「相手の戦力を削ぐには大事な事だぞ」

 

「わかってるけど、普通出来ないから。そんなピンポイントでCADだけ狙うなんて」

 

小町は俺をジト目で見ていた。

 

「なんでそんな目で見るんだよ、当たり前のことだろ?お前も平塚先生に教わらなかったか?」

 

「教わったけど!それは単純な武術の時でしょ!魔法が絡んだらそんなこと出来ないから!ほんとずるいよねー、その眼」

 

今度は羨ましそうな視線を俺へ向ける。次から次へと表情がかわり、百面相でも見てるかのようだ。

 

「何だったけ?その目の名前」

 

「解析眼アナリシス・アイだな。錬金術の副作用としてこんな目になった。この世の全ての存在を解析する眼だな。物質の構造、魔法式、エイドス、サイオン、とりあえず見えないものすら見えてしまう。別にいいもんじゃないぞこれ。俺は呪いだと思ってるし」

 

「えー、小町からしたら羨ましいよ。見ただけでなんでも分かるんでしょ?そんなのチートじゃん?」

 

「確かにチートだとは思うけど、なんでも分かるわけじゃない。自分の理解しているものしか知覚できないんだよ」

 

そう、この眼はただ解析するだけの眼だ。解析した結果の物質がなんなのか、それが知らないものならずっと分からないのだ。

 

「だからあんなに勉強したんだっけ?あの時のお兄ちゃんは凄かったよねー。朝から晩までずっと本とにらめっこ。どっからそんな集中力がくるんだか」

 

いやーそんな事もありましたねー。でも小町ちゃん?僕は君の集中力のなさの方が凄いと思うよ。勉強なんて開始10分で集中途切れてるし。

 

「まっその勉強のおかげで今があるんだが。ただなー、この眼、人に向けたらその人の構成物質が分かるだけなんだよ。サイオン保留量とか魔法特性とか、こう内面的な?精神的な物は一切分からないからなー。そこまで見れたら完璧だったのに」

 

「いやいや、そんなの見れたらお兄ちゃんほんとに敵無しだから。なーんでそんな眼があるのに普通の魔法は小町よりしたなんだろうね?」

 

小町は呆れながらも疑問符を浮かべていた。なんとも器用なことをするもんだ。

 

「さあ?親父譲りなんじゃないのか?身体技能は高い自信あるし」

 

俺の親父は魔法力が乏しいが、身体技能のピカイチだった。若い時には日本中の武術家に弟子入りして今では日本中のほぼ全ての武術を扱えるらしい。正直そこまでする意味がわからんけどな。

 

「まぁそうかもねー。小町はお母さん譲りだしね!」

 

俺のおふくろは魔法力が高い代わりに身体能力が著しく低い。普通の生活が送れる程度なのだ。小町は両親の才能を引き継いだハイブリッドな魔法師なのだ。

 

「ま、俺には錬金術があるから十分だ」

 

「そこだけは羨ましいよ!お兄ちゃん!」

 

「いや、そこだけって……」

 

 

小町はその言葉を最後にてててっという効果音が付きそうな走り方でその場を去って行った。基本的には俺達比企谷家では隠し事はない。だが、小町に伝えてないことはいくつかある。出来れば小町に知られることなく、生涯を終えたいと思っているが、多分そんな事にはならないだろう。いずれ小町もどこかで気付き、俺に絶望するだろう。そんな日の事を思い悲しみに浸るが、俺に悲しむ資格なんてない。俺は今日の戦いでの疲れを癒す為、風呂に入ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風呂を済ませ、後は寝るだけ。俺は今日1日を振り返っていた。一日で色々あったが、中々に平和だった。ちょっとした荒事はあったが、それを含め平和だった。こんな日がずっと続けばどれだけ幸せなことだろうか。しかしそんな平和は直ぐに崩れ去るのを経験上知っている俺は、明日からの学校生活への気合を入れ直し、静かに眠りにつくのだった。

 

 

 

 



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入学編(8)

第一高校生が利用する駅の名前はズバリ「第一高校前」。駅から学校まではほぼ一本道だ。一昔前の電車内で友達と合流することなどなくなってしまったが、駅から合流して学校へ向かう学生たちは今でも数多く存在する。それが新入生ともなれば少しでも新しくできた友達との情報交換の場として、登下校の時間は大切な時間なのだろう。まあ、必要としていない者も存在するが。八幡はいつもと同じように登校していたのだが、運悪く?司波御一行に捕まっていた。ただでさえそのせいで気分が下がっていたにもかかわらず、新たな問題が発生していた。

 

「司波、お前は一昨日だけでどこまで生徒会長様と親睦を深めたんだ?まさか元々知り合いだったのか?」

 

「いや、一昨日が初対面だが、この展開に俺も疑問しか感じない」

 

現在、会話をしていたのは八幡と達也だが、登校中の生徒はみな達也に注目していた。別に達也自身が目立つようなことをした分けではない。司波御一行の背後から今も達也の名前を大声で呼びながらこちらに走ってきている生徒会長、七草真由美が原因である。達也は流石に無視するわけにもいかないためその場で立ち止まったが、八幡はお構いなしに歩を進めていた......所をエリカに襟を引っ張られ、グエッとカエルのようなうめき声をあげその場で倒れていた。過剰なボケに対する制裁ツッコミである。実はここだけの話、エリカと八幡の相性は非常に良く、八幡のATフィールドを軽々と突破した為、仲良くなっていた。

 

「痛てぇ……もうちょいやり方あるだろう?」

 

「勝手に1人で行こうとするからでしょ?大体、なんか面白そうじゃない!この展開」

 

「いや全然」

 

エリカの考えには頑なに乗らない八幡であった。

 

八幡とエリカがそのようにやり取りをしている間に、何故か達也と深雪は昼休みに生徒会室への招待権を獲得していた。さらに八幡にとっては嬉しく無いことに、いや、多分誰でも嫌だろう風紀委員長からの招待権を獲得してしまっていたのである。八幡の知らぬ所で勝手に決まったことなので、八幡が怒る?のも当然であったが、達也からの回答は簡単なものだった。それに実に達也らしくない回答だ。

 

「ただの道連れだ」

 

これには流石の八幡も開いた口が塞がらなかったという。

 

 

 

 

それからは特に何もなく、昼休み。司波兄妹と、八幡は生徒会室の前に来ていた。八幡からは溜息が、周期的に出ているが、達也は無視して生徒会室をノックした。

 

 

 

「どうぞ」

 

生徒会室からの入室の許可が降りた為、3人は入室する。達也、八幡は一般的な礼儀作法で、深雪に関しては何処ぞの令嬢かとツッコミたくなるほど繊細で華麗な作法を披露していた。深雪の外見の美しさと完璧にマッチしたそれは、達也と八幡を除き、その空間に居るものは思わず見惚れてしまっていた。

 

「……ご丁寧にどうも」

 

いち早く再起動したのは、少し全体的にキツめの印象があるが、手足も長く、美少女というよりは美人である生徒会役員であった。それに続いて生徒会長である七草真由美も動き出し、達也たちを席へと促す。真由美の提案で、今回の用事は食事をしながらということになった。生徒会室には自販機が設けられていてメニューは精進、魚、肉である。達也と深雪は精進を選び、八幡は肉を選んだ。3人のメニューを壁際の箪笥型の自販機で操作するのは、2年生の書記である中条あずさである。

 

 

食事の準備が整うまでの間、生徒会室では改めて自己紹介が行われていた。

 

ホスト席に座る真由美から自己紹介を行い、どうやら真由美が一人一人紹介をしていくようだ。

 

「まずは私の隣にいるのが、会計の市原鈴音、通称リンちゃん」

 

真由美は満足気に市原のあだ名を紹介したが、

 

「……そう呼ぶのは会長だけです」

 

そう言った市原の表情から察するに、どうやら嬉しくないあだ名のようだ。そんな市原鈴音のことなどお構い無しに真由美は進めていく。

 

「そしてその隣が風紀委員長の渡辺摩利、それから書記の中条あずさ、通称あーちゃん」

 

「会長〜。お願いですから下級生の前であーちゃんはやめてください。私にも立場というものがあるんです〜」

 

この時紹介を聞いていた3人が、市原鈴音のリンちゃんに疑問を感じたのに対して、中条あずさのあーちゃんに疑問を抱かなかったのは仕方の無いことだろう。中条あずさの見た目は小柄な体型に、オドオドとした態度、更には童顔である。皆納得してしまったいた。

 

「それと、副会長のはんぞーくんを加えたメンバーが、今期の生徒会役員です」

 

「私は違うがな」

 

そう否定したのは風紀委員長である渡辺だ。生徒会役員の紹介を聞く限り、どうやら真由美は役員全員にあだ名を付けているようだった。

 

「そうね。摩利は別だけど。あっ準備が出来たようです」

 

ダイニングサーバーから、6つの料理がトレーに乗って出てきた。いまこの部屋にいるのは7人。ひとつ足りないと思ったがまぁいいだろう。答えは直ぐに分かったのだから。

 

「そのお弁当は渡辺先輩がご自分でお作りになられたのですか?」

 

深雪の発言は、単に会話を円滑にする為のセリフでしかなく、他意は無かった。それまで行われていた会話は先輩後半の壁に関係なく現在食べている料理の話だったので、話題を変えたに過ぎない。因みに八幡は生徒会室に入室してから一切言葉を発していない。黙々と料理を食べていた。何ともこの部屋で異質の存在である。

 

「そうだが……意外か?」

 

深雪の質問に実に意地悪な答えを返す摩利。どう返そうかと迷っていた深雪に助け舟を出したのは……

 

「いえ、まったく」

 

まぁ、当然達也である。達也の視線は摩利の手に注がれており、その視線に気付いた摩利は恥ずかしそうに手を隠した。

 

それからは達也と深雪のイチャイチャや、深雪の生徒会役員へのお誘い、達也の風紀委員所属に関する話、などなど色々あったのだが、結局八幡に話を振られる事は無く終わった。一体、八幡は何の為に摩利に呼び出されていたのか、それは結局謎のままである。

 

そして八幡は完全に忘れ去られていた事に、家で密かに枕を濡らしたとか濡らしてないとか。



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番外編(1)

さて、突然だが、比企谷八幡という人物について紹介していこうと思う。比企谷八幡16歳。比企谷家という錬金術師の名家の出身で、現代では存在が伝承となった時に、1種の先祖返りで生まれつき錬金術に関する頭脳が発達していた。また、錬金術の扱えることに付随して、解析眼という特別の眼も備えている。この眼は見た対処の構成物質を全て把握する。しかし、人体の構成物質を把握した所で相手の力量が分かるわけでもなく、ただ人体としての仕組み、構成物質を理解するに留まるのでサイオン保有量などは知る事は出来ない。更には、構成物質を解析した所で、その物資がなんであるのか理解していなければ謎の物質のままなのである。そのため八幡は血の滲むような努力の結果、この世に存在するありとあらゆる物質を理解している。

 

八幡は小学校時代、いじめを受けていた。まぁよくある話だ。八幡の保有する力を、恐れた愚かな餓鬼共が結託していじめていただけである。しかし、八幡は1人耐えていた。自分がその力を行使すればどうなるのか、幼いながらにも類まれなる頭脳で理解していた。しかし、その我慢も終わりを告げた。妹である小町がいじめの対象になったのである。それも、八幡に対するいじめよりも苛烈に。それを知った八幡は初めて人に己の力を行使した。解析眼で人体を把握。武術を習っていないにも関わらず、何処をどのようにすれば人体が破壊されるのか、理解した。してしまった。その結末は、全ての関節を外された哀れな糞餓鬼の、山である。当然それ以来、いじめは無くなった。しかし、恐れられた。八幡を見るだけで逃げ出すものも数多くいた。授業中では、八幡が怖くて授業に集中出来ない者が続出した。それを見兼ねた学校はある提案をした。学校長は魔法師に理解のある人物であり、その学校長が提案したのは、魔法師が数多く在籍しているとある小学校である。その名も『小中一貫総武校』。勿論、八幡達にこの学校にいる意味もない。答えは直ぐに出た。そしてその総武校では八幡に沢山の試練を与え、八幡を人として大いに高めてくれた。それと同時に八幡は、大切な人の為に自分の身を削る事を良しとした。高校生になった今でも八幡は大切な人達の為に己を力を行使する。八幡はヒーローになったのだ。ただ、それを認知されていないだけで。知られなくていい。理解されなくていい。自分がただ、初めて大切だと思える人達に出会えたのだから、八幡はそれを守るべきだと、己の身を契約の材料とした。今まで沢山の厄災を招き込んだこの力に、八幡は初めて感謝していた。そしてその力は今も尚、高められていく。影の薄いヒーローは今日も行く。己の正義を振りかざす為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「比企谷君、今日もお疲れ様」

 

時刻は深夜2時。明かりもない場所での会合の為、八幡に語り掛けた人物の顔は分からない。それでも、八幡は声で理解した。

 

「いえ、自分で望んだことですから。今更出すけど、ありがとうございます」

 

「なぁーに?改まってお礼なんて、君、お礼なんて言う柄だっけ?」

 

そういう謎の人物は実に楽しげな声をしていた。

 

「自分だって感謝ぐらいしますよ。ただそれを言葉にするのが苦手なだけです。でも、貴方には素直に言える。ま、キャラじゃないのは分かってますけどね」

 

八幡は、苦笑いを浮かべながらそう告げた。自分は感謝しているのだと、貴方になら素直になれる理由があるのだと。

 

「ま、こっちも素直に受け取っていてあげる。でも、私がした事は貴方に自分の仕事を押し付けただけ、私は、逃げ出しただけ」

 

「仮に、貴方が本当に逃げ出したのだとしても、自分に押し付けただけだとしても、それを受けたのも自分の判断です。それに、貴方が俺に押し付けたものは俺が欲しくて欲しくて堪らなかったもの。男なら一度は憧れるものでしょ?ヒーローになりたいって」

 

「私は男じゃないからわからないけど、そんな風に聞くね。ほんと、男の子って馬鹿ばっかりだよね?」

 

「いや、男の俺にそんな事言わないでくださいよ」

 

またしても八幡は苦笑い。折角カッコつけた事を言っても、結局この人には通じない。

 

「まぁこんな話はいいとして」

 

「いや、こんな話で終わらせないで」

 

八幡の抗議を無視して会話は進められる。

 

「この人達、どうしよっか?一応お目当ての人物は捕縛してるし、必要無いでしょ?」

 

「まぁそうですね。なんかこいつ等特にいい情報持ってませんでしたし、要らないっすね」

 

「だよねー。なら比企谷君、よろしく」

 

「了解です。雪ノ下さん」

 

そう八幡に告げた雪ノ下という人物は怖いくらいの笑顔で、それと反対に八幡の顔は恐ろしい程の無表情だった。

 

「まっ!まって……」

 

何かを言いかけていた人物に向けた黒い物体が火を吹き、その人物は絶命した。全部で5人いる要らない者達。最初の1人が絶命したことにより、残りの人物達も自分のこれからの運命を悟った。答えはさっき殺された仲間が証明しているのだから。

 

「じゃあ、今後ともよろしくね!八幡」

 

雪ノ下という女性は最高に八幡をしたの名で呼ぶ。それに対して八幡は驚愕し、挙動不審に。その反応を楽しんだ雪ノ下は八幡からの返事を聞かずに、一瞬でその場から消えていた。

 

「やってやるさ、これからもな」

 

そう最後に言った八幡も、いつの間にか消えていた。その場に残っていたのは、5つの死体と、捕縛された要る人物3名、そしてそれを回収しに来たスーツ姿の男達10名程で、スーツの左胸には全て、雪の結晶と太陽を掛け合わせたマークが掲げられていた。

 

 

 

 



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入学編(9)

お久しぶりです。
俺がいる忘れました。


 

 

生徒会室に呼ばれ、存在を忘れさられた次の日。

この日から、第一高校ではクラブの勧誘期間となる。

昨日の出来事でどうやら達也は風紀委員入りを果たし、早速今日の午後から巡回活動を開始するそうだ。

昼休みでは達也は生徒会室へと呼ばれていた為、達也を除いたメンバーで昼食を取った。先の話もその時に聞いたものだ。

入学早々大変だと思う。が、辛いのは自分の方だと八幡は思う。何故なら、慣れない学校生活が始まり直ぐに生徒会室に呼ばれ、何か話しがあるのかと思いきや忘れ去られる。これはいじめか?と思った程だ。

 

巡回活動を開始するそうだ、とは言ったものの、実は既に活動している。

達也は風紀員としての活動、レオや美月はクラブの見学、エリカはふらっと居なくなり、そして八幡は悠々と帰宅中。我ながら中学と変わらない生活に、苦笑いを零す。いや、違う。いくら様々な体験をした中学生活といえど、集団で無視された事は無い。その事実に泣きそうになる。

悠々と帰宅中と言ったが、エリカなどからは一応誘いを受けていた。しかし、八幡には今日用事がある為、断ったので帰宅中だ。

「あら、こんな所で会うなんて最悪ね」

 

もう少しで帰宅、という所で凛とした耳通りの良い声が聞こえた。その声の主の方へと顔を向ければ、いつも通りの澄ました顔をした人がいる。

 

「高校でも中学の頃のように菌を撒き散らしているのかしら?比企谷菌?」

 

「いや、そんな比企谷君?みたいに言わないでくれる?」

 

会う度罵倒を浴びせてくる女性に、八幡は軽く微笑む。その微笑みに、その女性も微笑みかえしてれる。まるで二人の間では、桃色の世界が形成されたかのように、八幡は感じた。

 

「気持ち悪い顔を向けないでくれないかしら?顔が腐るわ」

 

訂正。桃色でもなんでもない。自分はこの女性にとって、玩具なのだど今更ながらに思いだす。

それでも、この罵倒が懐かしいと思ってしまうとは、自分の毒されているのだと八幡は思う。

 

「あーはいはい。すみませんね。所で雪ノ下1人か?」

 

「ええ、由比ヶ浜さんは少し遅れるそうよ」

 

「そうか。まぁ、なんだ。とりあえず家来るか?」

 

元々、雪ノ下も由比ヶ浜も、家に来る予定だった。八幡の用事とは、中学時代に色々ありながらも、大切な友達と会うことだった。

その為、普通に話を進めただけなのに、罵倒が飛んでくる。

 

「比企谷君の分際で私を家に誘う?身の程を弁えて欲しいわね」

 

「分かった分かった。会えて嬉しいのは分かるがとりあえず行くぞ。由比ヶ浜がもううちに着いてるかもしれないだろ」

 

そう言ったら顔を真っ赤にして怒り出した。八幡は知っている。雪ノ下雪乃、この女性が赤くなる時は早口で罵倒を浴びせ、無視しようがなんだろうが続けて言ってくる。その為、対処法は、聞き流して家に向かう、だ。

 

「先行くぞー」

 

雪ノ下に止められていた帰宅への足を再度動かす。後ろだは未だに罵倒を浴びせ続けている雪ノ下。この光景も、八幡にとっては懐かしい光景だ。

 

 

 

 

雪ノ下の罵倒は帰宅するまで続き、家に着いてからもチクチクと何か言っている。完全無視だ。

帰宅して少しして、インターホンが鳴る。リビングに備え付けられたモニターを見れば、髪をピンクに染めた女性が立っている。とても笑顔だ。

家は八幡の家なのだが、お客を迎えたのは雪ノ下である。しかし、それも仕方ないだろう。雪ノ下とピンク色の女性、由比ヶ浜結衣は親友なのだから。

玄関からは雪ノ下の凛とした声とは違い、活発な明るく高い声が聞こえる。その声色から、随分とはしゃいでいるのが解り、リビングにいる八幡はどうしても笑みを浮かべてしまう。

自分が笑みを浮かべている事に気づき、慌てて口元を抑えるが時すでに遅し。雪ノ下と由比ヶ浜がニコニコといい笑顔──思わず顔が引き攣るほどにはニヤついている──をしていた。

八幡にとって、この2人と過ごす時が一番油断出来ないだろう。何故なら、八幡はこの2人にとって、大事な人であり、そして玩具なのだから。

 

 

 

 

その後は3人で世間話をしていた。

 

 

「それで?第一高校はどうなのかしら?」

 

「どうと言われてもな……差別が酷い学校?」

 

八幡の発言に、雪ノ下眉間を抑えため息を零す

 

「普通にこういう場合は、良い所を言うべきでしょう?第一高校の事を知らない人がそれを聞いたら第一印象最悪だわ」

 

正論だった。

 

「いや、そう言われてもだな……あ」

 

1つ、面白い話題を思い出した。

雪ノ下はどうかわからないが、お菓子をバクバク食べてる由比ヶ浜にとってはいい話題かもしれない。

 

「うちの新入生総代なんだが、顔も声も、雪ノ下に似てるぞ」

 

なるべく、適当に言う。あまり自信満々に伝えると、雪ノ下に馬鹿にされるのは目に見えている。

 

「はぁ……それが」

 

「それほんと!?」

 

雪ノ下のセリフに被せて、由比ヶ浜が叫ぶ。雪ノ下は思わず眉を寄せている。その反対に、由比ヶ浜は先程まで口に入っていたお菓子をどこにやったのか、とても驚いている。

 

(俺には食べたお菓子の処理速度の驚きだぞ……)

 

「ああ。本当だ。それに、似ているのは見た目だじゃない。得意とする魔法までもが一緒なんだ」

 

「そう。その人とは是非とも力比べをしたいものね」

 

「きゅ、九校戦で頑張れ?」

 

「ゆ、ゆきのん落ち着いて!お菓子凍っちゃったから!」

 

そう、現在、机の上に置いていたお菓子はひとつ残らず凍っている。いや、お菓子だけではなく、机も、大気中の水分すら凍ってきている気がする。

司波深雪も同じような現象を引き起こしていた。感情による魔法の漏れだし。その様は顔が美しいだけに実に恐ろしい。まさに氷の女王だ。

 

「あら、ごめんなさい」

 

そう謝る雪ノ下は実に穏やかだ。

何故雪ノ下が感情を爆発させたか、それは……

 

「そこまで私にそっくり。なのに私は新入生総代では無い。何がダメだったのかしらね?」

 

実に、実に美しい笑顔だ。その再発した冷気がなければ。

雪ノ下は何を隠そう、超がかなりの数つく負けず嫌いだ。そして、条件似ていれば似ているほど、その傾向は如実に現れる。八幡はもう黙った。この状態の雪ノ下を止めれるのは親友である由比ヶ浜だけだからだ。

 

「もう、ゆきのん!ここ小町ちゃんの家なんだよ!ゆきのんの部屋が濡れたら小町ちゃんの迷惑になるじゃん!」

 

(いや、由比ヶ浜さん。小町の家でもあるけど、俺の家でもあるんだよ?今この場にいるのは俺なんだよ?)

 

「そ、そうね。ごめんなさい。由比ヶ浜さん」

 

「気をつけてよね!」

 

ぷりぷり怒られた雪ノ下は反省したようだ。小動物の様にちっさくなってしまった。正直、八幡はこの状態の雪ノ下が大好きだ。

 

ピピピッ

 

電子音が鳴り、その方に顔を向ければ由比ヶ浜が腕輪型のCADを扱っていた。

 

雪ノ下の得意魔法は、司波深雪と同じ振動系魔法(冷却魔法)であり、その反対に由比ヶ浜は振動系魔法(加熱魔法)が得意である。

 

由比ヶ浜のCAD魔法を発動する。

雪ノ下の魔法により、凍っていたお菓子、机などの氷が溶け、蒸発して行く。少し経てば、元通りになっていた。

八幡は思う。この2人が親友になれたのも、全く真逆の2人だからこそだろうと。見た目も、性格も、得意魔法まで。全てが真逆。この2人は歯車であり、お互いにきっちりとハマっている。そんな2人と仲良く過ごせている事に、八幡は感謝を捧げる。

 

まだ話している2人から目を離し立ち上がり、飲み物を取りに行く。

この時、八幡は気が緩んでいた。雪ノ下の凍らせたものは机とお菓子だけでは無い。目に見えていたのがそこだっただけであり、雪ノ下の足元は凍っている。由比ヶ浜はそこに気付かない。何故ならアホの子だから。そして飲み物を取りに行く八幡は雪ノ下の前を通る。八幡は凍った床で足を滑らし、雪ノ下と由比ヶ浜は驚き、その場に留まる。

もうお分かりだろう。ラッキースケベである。この時の八幡心境は、自分は死んだと思ったそうだ。

 

「おっにぃちゃーん!!!雪ノ下さん達来てるなら言って……よ」

 

元気に入ってきた八幡の妹小町、その目からは一切の光が灯っていなかった。

小町のその目は、八幡の死んだ目にそっくりだったと、雪ノ下と由比ヶ浜は証言している。

 

 

 

 



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入学編(10)


俺ガイル読んで無さすぎて、忘れ気味です。
いいわけでせね。すみません。
というか大学めちゃくちゃきついです。
プログラミングってまじで訳わかんないんですけど!
頭良くなりたいと思うのは皆さんも同じですよね!?


 

 

 

ラッキースケベを繰り出し、雪ノ下には冷やされ、由比ヶ浜には熱せられ、小町にはボコボコにされた。散々だ。俺は何も悪くない筈なのに。

その後は平和的なものだった。リビングで行われた会話だったが、俺は半ば空気ではあったが、小町達は会話に花を咲かせ、終始笑顔だった。俺を罵倒する時だけ笑顔が増すのは流石に勘弁して欲しいがな!

 

「あら、もうこんな時間なのね」

 

時計を見れば、午後9時を回っている。女子高校生が出歩くには、十分遅い時間だ。

過去の雪ノ下では、確実に出歩け無かったであろう時間帯。それが今では可能なのは、俺たちの頑張りのおかげなのだろう。非行少女になっていい事なのかは疑問だが。

雪ノ下達はそっと立ち上がり、帰り支度を始める。

小町は残念がって、まだ残るように駄々を捏ねているが、いくら遅くの外出の許可がおりる様になったからと言って、親の心配を無視していい訳でない。それに、雪ノ下よりも、由比ヶ浜の親は過保護であり、余計に残らせる訳には行かないのだ。

「わがままを言うな小町。雪ノ下達とはいつでも会えるだろ?」

俺の言葉に、小町渋々従う。

雪ノ下も由比ヶ浜も、優しげな笑顔を浮かべていた。雪ノ下の綺麗だが、こういった状況での由比ヶ浜は、直視できないほどの魅力だと思う。

「私達は第三高校だから、小町さんと一緒に通う事は無いかもしれないけれど、勉強とか見てあげれるわ。それに、別れを惜しんでくれるなんて有難いわ」

 

そう、雪ノ下はニッコリと言う。

 

「そうだよ!小町ちゃん!あたしは勉強とか教えたりとか出来ないけど、魔法なら教えれるから!ヒッキーよりは絶対頼りになるから!」

 

そう、由比ヶ浜は俺を貶しながら言う。が、実際その通りだ。俺は錬金術が使えたり、特殊な眼を持ってはいるが、魔法科高校に必要な一般的な魔法に関しては駄目だ。というか小町自体優秀である為、由比ヶ浜から教わる事も少ないとは思うが。

「うぅー。久しぶりに会えたので寂しくって。ごめんなさい。でも!次会う時は休みの日にしましょう!久しぶりに皆で買い物とか行きたいです!」

 

小町はとても笑顔だ。

小町にとっては、雪ノ下達はお姉ちゃんの様な存在なのだろう。

ふと、中学生の頃を思い出す。

雪ノ下達へと憎悪の視線を浴びせていた小町。申し訳なさそうな、泣きそうな顔で謝る雪ノ下と由比ヶ浜。原因は俺だったが、あの時は改めて女性が怖いと思った。それに、小町があそこまで敵意を顕にするのは親父以外で初めてだったので、よく覚えている。

俺達以上に、本気でぶつかり合い、分かりあったからこそ、年の差など関係なく仲良くなれたのだろう。

ふと、雪ノ下の視線が小町から俺の右腕へと移る。多分、俺と同じ事を考えていたのだろう。先程までの楽しげな顔は、今は見る影もない。一言で表すならば、悲痛だろうか。

雪ノ下の視線に気付いたのだろう、由比ヶ浜と小町も俺の右腕を見て、同じ様な表情をする。

こんな時、俺は何か声を掛けるべきなのだろう。しかし、俺は何も言わない。何を言えば良いのか分からないのもあるが、陽乃さんとの約束だ。

「もう、大丈夫ですよ。お兄ちゃんの腕は材木座さんとのおかげで前みたいに動いてます!小町も怒ってませんから、気にする必要ないですよ!あれは兄の自業自得なんですし!」

 

小町は雪ノ下と由比ヶ浜を慰める。この状況は、会う度に必ず一度は起きる。その度に小町は雪ノ下と由比ヶ浜を慰め、雪ノ下達も小町の気使いに感謝し、終わる。今回もその流れの通りにことは進み、雪ノ下達は俺の右腕から視線を外し、儚げに笑った。

(雪ノ下、由比ヶ浜、小町もだ。悪いがこれは試練だ。陽乃さんが与えた試練。どうか乗り越えてくれ)

 

「それじゃあ、あたし達は帰るね!」

 

今までの空気を振り払うかの様に、由比ヶ浜は明るく言う。それに雪ノ下も頷いて同意した。

 

「お兄ちゃん!雪乃さん達を送っていって!」

 

「へーへー。言われなくてもするよ」

 

適当に言った俺に、小町は頬を膨らませる。実に可愛い仕草だ。嫁に貰おう。そうしよう。

 

みんなで静かに家を出ていく。玄関を出た所で、雪ノ下達は振り返り、小町へと別れの挨拶を言う。

 

「では、また会いましょう。小町さん」

 

「またね!小町ちゃん!」

 

「はい!次会うのを楽しみにしてます!」

 

その言葉を最後に、雪ノ下達は帰路へとつく。

雪ノ下と由比ヶ浜はこちらまで電車で来ている為、目的地は駅である。

 

「なんか、こうして三人で帰るのも久しぶりだね」

 

「……そうね」

 

「そうは言うが、1ヶ月程俺が離れていただけだぞ?」

 

俺はそう言うが、雪ノ下達は否定した。

 

「期間としてはそれだけかもしれないけれど、その前から貴方は忙しそうだったわ。いつものダラけた貴方では無かったのよ。切羽詰まった表情を浮かべていたのだけれど、貴方は自分では気付いていなかったでしょうね」

 

雪ノ下の言葉に、由比ヶ浜大きく頷き同意し、俺はそれにとても驚いた。

確かにあの時期は忙しかった。受験勉強などは当たり前だが、それ以外にもあったのは確かだ。しかし、それを勘づかれていたとは思いもしなかった。

改めて、雪ノ下と由比ヶ浜の観察眼には驚かさせられる。俺の解析眼(アナリシス・アイ)より見えているのかもしれない。

雪ノ下の言葉はまだ続いた。

「私達は本当に、ええ、本当に心配したわ。またあの時のように、1人で依頼を受けているのかと思ったの」

 

「いや、確かに忙しかったが、そんな事はしてない。2人に誓って言える事だ」

 

俺は自分には似合わない程、強くそう言った。

過去にあれ程の出来事があったのだ。その性で2人を傷付け、『本物』を手に入れた。その日から、俺は2人を信じている。全幅の信頼を寄せている。そんな俺が、1人で依頼を受けるなどと言うことをするだろうか。否、そんな事はしない。信じていなかったのか。そんな風には暗い感情が心の奥で蠢き出す。

そんな俺の心中を読んだかの様に、雪ノ下は、否定した。

 

「勿論、本気で思っていた訳では無いわ。言い訳みたいで嫌なのだけれど、さっき言ったように私達は心配していたのよ。貴方が仮に1人で依頼を受けていたとしても、何かしらの理由があると、あの時の私達は理解出来ていたわ。ただ、その時に、怪我をしないか心配していただけよ。貴方はいつも無理をするからね」

 

そう、雪ノ下は言った。

雪ノ下達は少しは思ったのかもしれない。また俺が1人で動いていると。しかし、前までの俺達と違ったのは、俺があの日から全幅の信頼を寄せているのと同様に、雪ノ下達もまた、俺の事を信頼し、理解してくれていたということ。その事実に、蠢いていたはずの闇は、消えていた。

 

(ああ。これが俺の欲しかった『本物』か……あの日の選択は、間違いじゃ無かった)

 

「……正直、雪ノ下が正面からそんな風に伝えてくるとは思わなかった」

 

確かに感度したし、嬉しかったが、この感想も抱いた。

 

「……そうね。自分でも不思議だわ。でも、もしかしたら、私達は今日、また一歩成長出来たのかも知れないわね」

会話の途中で足を止めた雪ノ下はそう言い、微笑んだ。

その微笑みは、反則だと思った。ただでさえ雪ノ下は美人だ。美人過ぎるといっても過言ではない。普段は冷たい雰囲気を醸し出している雪ノ下のここまでの微笑みは、初めてだった。

 

数秒見つめ合い、目が離せなくなった。このまま、俺は雪ノ下に惹かれていくのかも知れない。そう思ったが

 

「ちょっ、ちょっと!2人とも見つめ合い過ぎじゃない!ずっと黙って話聞いてたらこれっておかしいよ!」

 

少し先を歩いていた由比ヶ浜がぷんぷんと怒りながら向かってくる。

由比ヶ浜のその言葉で、俺の雪ノ下は慌てて、顔を背ける。

 

「心配してたのは私もだかんね!」

 

「いや、雪ノ下から聞いたぞ」

 

「直接言うから実感出来るんでしょ!ヒッキーも少しは見習ってよ!いつもいつも遠回しな言い方ばっかりするからこっちも勘違いするんだよ!」

 

どうやら、由比ヶ浜先の一件でだいぶご立腹らしい。が、1つ言わせてくれ、由比ヶ浜

 

「遠回しな言い方なんてしてないぞ。由比ヶ浜が理解出来てないだけだぞ?ほらみろ、いまもこうしてちゃんと直接伝えてるだろ?」

 

「それバカにしてるだけだから!悪口だから!ヒッキーのバカ!」

 

ぷんっと顔を背け、由比ヶ浜ずんずんと1人駅へと向かい、雪ノ下は足早に由比ヶ浜を追いかけていく。

由比ヶ浜の扱いが雑な気がしないでもないが、直接伝えるのは、流石に恥ずかしい部分がある。だからこうして影で言うのだ。

 

「いつもありがとうな、由比ヶ浜」

決まった。

 

「しっかりと聞いたわ。比企谷君。由比ヶ浜さんには私が伝えておくわな」

 

確かに雪ノ下は由比ヶ浜を追いかけたはずだった。なのに何故か雪ノ下が隣でニッコリと笑っている。

 

「な、なぜ……」

 

「あら、この世には魔法という便利な物が存在するのよ。由比ヶ浜さんも素晴らしい演技だったわ。将来は女優なんてどうかしら?」

 

雪ノ下はトテトテと戻ってきた由比ヶ浜を褒める。

「えへへ。そうかな?ありがとう、ゆきのん!」

 

「ちょ、由比ヶ浜さん、離れてくれるかしら」

 

「えぇ〜いいじゃーんゆきのーん!」

 

俺の驚きなど些細な事の様で、魔法で何かをしたのだということだけ分かった。いや、こんなの何も分かっていないのと変わらない。

羞恥心で心も体も燃えるほど熱くなっていた俺だが、雪ノ下達の百合百合しい行動に魅せられて、落ち着いていく。いやまて、百合百合しい行動で落ち着くっておかしいだろ。べ、べつにそういう性癖とか持ってないからな!……誰に言い訳をしている俺は。

その後は2人の後を着いていくだけのストーカーした俺だが、珍しく職質に合わなかったのは幸運だった。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……じゃあ、またな由比ヶ浜、雪ノ下」

 

駅へと着き、別れの挨拶をする。

 

「ええ、またね、比企谷君」

 

「またね!ヒッキー!」

 

2人は笑顔で手を振り、車内に乗り込んでいく。それに対して俺も手を振り返し、見送る。この行動がとてもリア充っぽく感じて内心にやけていたのは内緒だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────────────

 

駅まで送るのにかなりの時間が掛かったように感じたが、家が駅から近いのもあって、実際はそれ程かかっていなかった。が、1人で帰る帰り道はかなり早かった。あっという間だった。少し寂しく感じた事も内緒だぞ?

 

「たでーまー」

 

いつものダラけた挨拶をする。そしてここで小町が元気に出迎えに来るのが一連の流れだ。

 

…………

 

ん?おかしいな。そう思い、小町を呼んでみる。が、何も返事が無い。俺は慌てて家へと駆け上がる。

 

「小町!」

 

そこで見たのは、床へ仰向けで倒されている小町と、ボクシングのアッパーの様なポージングを決めている仮面を被った青髪の女が居た。いや、ポージングなどでは無い。あれは拳を振り切った後の体勢だ。

 

小町が倒された事に怒りを感じた。早くこの女を殺してやりたいが、小町がやられる程の相手だ。幸い殺されてはいないのだから、ここは確実に決める為、冷静を心掛ける。

 

「おい、お前はだ」

 

「ひ、比企谷!」

「は?」

 

なるべくドスの聞いた声を出し、せめて相手の素性だけでも知ろうと思ったが、何故か相手がかなり驚いている。

そして、その声にはかなり聞き覚えがあるのは気の所為だろうか。

 

「あ、あたしだよ!川崎だよ、川崎沙希!」

 

「かわさきぃー?てめぇ、なんで小町を」

 

まさか高校の同級生の川崎が家に来ているとは思わなかった。

川崎の弟君を今度成敗しなければ。それでお相子だ。

 

「いや、まって!小町起きてるから!」

 

そう言われ、小町の顔へと目を向ける。

閉じていた目がバチッ開かれ、俺と目が合い、そしてぺろっと舌を出した。

 

……可愛い。

 

「……可愛い」

「アンタ……」

 

おっと、どうやら心の声が漏れていたようだ。

が、なんとなくだかこの状況は理解出来た。多分だが、これは小町のイタズラだ。

まぁ、小町と川崎に聞けばいい話だ。

 

「これは小町のイタズラか?」

 

俺の問いに、川崎はため息を吐き、答える。

 

「そうだよ。アンタに用事があって此処に来たんだけど、今は家にいないって言われてね。雪ノ下達の見送りだっていうから遅くなるかもって思って私は帰ろうとしたんだ」

 

川崎の言葉を引き継ぎ、小町が説明をする。

 

「そこで小町が提案したわけですよ!お兄ちゃんを驚かせようって!沙希さんが家に訪ねて来るなんて珍しいし、こんな時間に、ここまで来てもらったのに何もせず帰すぐらいならぁーって思ったからね」

 

小町は締めにウィンクをしてきた。正直ムカつく。が、可愛い。そう、可愛いは正義なのだ。小町が正しいと思ってしたのならそれは正しい。これは世界の真理だ。因みに理論反論は認めません。

 

「なるほど。理解したぞ。小町は可愛いからな。それで解決だ。それとすまなかったな、川崎。いきなり怒りをぶつけそうになった」

「い、いや、こうなるの少し考えれば分かったのに乗ったあたしが悪かったよ。こっちこそごめん」

 

そうお互いに謝る。

 

「それで?いつも電話で済ませるお前がここまで来るなんて、一体なんの用なんだ?」

 

先程までほっとしていた川崎が、渋顔になる。

少し渋って、川崎は口を開いた。

 

「陽乃さんからの話……」

 

そう、ボソッと言った。

俺の中で、電流が走る。

 

「そうか。とりあえず道場の方に行こう」

 

「え?何々?今から稽古するの?それじゃあこま」

「いや、もう遅いし、小町は風呂にでも入ってろ」

 

「えぇ〜なんでー」

 

小町は愚痴を零す。

ある程度予測して、ここで聞くのは避けるべきだったか。

俺は、川崎に向けてハンドサインを送る。

 

ドサッと音を立てて、小町は床に転げる。

ごめんな。こんな短時間に2回も床に寝かせて。

川崎には先に道場の方に行くように伝え、床に倒れている小町をそっと抱き上げ、リビングのソファへ─小町の自室に連れていかないのは、勝手に入ると怒られる為─と寝かす。

小町の寝顔を30秒程眺め、俺は川崎の待っている道場へと向かった。

 

 

 

 

 

──────────────────

 






書いてて、八幡ってこんなキャラだっけ?って思いました。
それに鋼の錬金術師の設定とか沢山盛り込むつもりだったのに全然出てこない……
話は変わるんですが、機械鎧って神経を繋いで動かしていたはずですが、スパイダーマンのオクトパスかなにかもそんな感じでしたよね?
出したいなー……あれカッコイイから好きなんですよね。
付けるなら内容的に機械鎧を付けている八幡がいいんですけど、見た目的には材木座が似合いそうだと個人的におもっています。
もし出てきたら内容を噛み締めてくださいな(・∀・)


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