北斗の拳メロン味 ~ただし人工着色料で緑色なだけでメロン果汁は入っておりません~ (far)
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物語を開始します。よろしいですか?

一発ネタの予定、だった。


 気付けば、そこは荒野だった。

 風は強く、乾燥していた。さえぎるものが無い日差しは、さほど強くは無いのに眩しく、暑い。

 遠くに見える山には、緑があった。川くらいはあるのかもしれない。

 

 さて。ここで、問題です。

 

 自分が誰であるのか、わかりません。

 ここがどこなのかも、わかりません。

 

 だが。とりあえずは、どうでもいい。

 別に今すぐわからねば、死ぬというわけでもない。だから、とりあえず今は置いておく。

 

 問題なのは、だ。

 今、またがっているバイクの運転の仕方がわからないことだ。

 

 種類はわからないが、おそらくは大型バイクではなかろうか。

 一度上に曲がってから、折り返しているハンドル。その位置は妙に高い。

 フレームが太く、全体的に無骨な印象を受ける。

 何となくではあるが、アメリカンなバイクではなかろうか。

 

 取り合えず、キーは刺さっている。

 だがバイクのエンジンとは、どうやってかけるものなのだろうか。

 

 目的地である山は、遠い。そこまでの距離は、途中に基準になるものが何も無いのでわかりにくい。だが徒歩で行くのは、確実にしんどそうだ。

 

 そういうわけで、あれこれといじってみたのだが、これがまあ動かない。

 ガソリンが入っていないのかとも思ったが、キーをひねった結果、メーターが動いたので入っているはず。

 

 このキーをひねった状態で、何かをすればいいのだとは思うが。

 さて。どうすればいいんだろう。

 スイッチを押してみたが、クラクションだったり、反応が無かったりするし。

 

 ええい、全部押しだ! 左右のレバーとテキトーなスイッチたちをオン!

 

 ドウン!!

「おわっ!」

 

 かかった。急に反応がきたので、ビックリした。

 よし。これで…… アクセルは、ハンドルをひねればいいんだっけ?

 

 そう思ったところで。目の前に、四角い何かと文字が浮かび上がった。

 

「ハ?」

 

P:10 バイク取り扱い:1を習得しますか?(Y/N)

 

「ハァ?」

 

 誰かの仕掛けかと周りを見回したが、誰もいない。

 それどころか、ウィンドウと文字が追いかけてきて、視界の中央にあり続けるんですけども。

 なんだ、これは。どうすればいいのだ。

 

 本気でどうすれば正解なのかわからないので、無いはずの記憶を引っかくと、言葉を思い出した。

 

 泣くよか ひっ飛べ

 

 言葉の意味はよく分からないが、とにかくやってやれってことは分かった。

 実際に、今一番欲しいスキルではあるからな。

 

「Y!」

 

 

 ………………………………

 

 

 勢いを込めて言ってみたが、何も起きなかった。

 どうやら、音声入力式ではないらしい。

 いや、待てよ。

 

「イエス! はい! 習得します!」

 

 

 ………………………………

 

 

 

 やはり、何も起きなかった。言葉が違うと言うわけでもなかったようだ。

 ならばタッチパネル式かと、Yの部分を通り抜けるように指を動かすと、表示が変わった。

 

P:10→9 バイク取り扱い:1を習得します。本当によろしいですか?(Y/N)

 

 Pというのは、ポイントか?

 そう思いつつ、再びYの部分に指を通す。

 

「イタッ」

 

 ツキン、と頭が痛んだ。刺すように鋭いが、一瞬だけであとを引かない、そんな痛みだった。

 

バイク取り扱い:1を習得しました

 

 そう表示すると、ウィンドウは消えた。

 

「…………」

 

 確かに、バイクの運転方法が分かる。知っている。

 その自分の持つ知識のままに、クラッチを切ってアクセルを吹かし、半クラッチにして前へと進む。

 再びクラッチを切ってシフトアップ。

 踏み固めさえされていない、道無き荒野を、抑え目の速度で走る。

 

 心地よい走りだ。だが気持ちが悪い。

 ほんのついさっきまで、知りもしなかったはずの知識が頭の中にある。

 たぶん、道具さえあれば、整備もできるだろう。

 

 なんなんだこれは。

 俺は誰なんだ。ここはどこなんだ。それで、何が起きているんだ。

 あのウィンドウはなんだ。ポイントって何のポイントなんだ。これからどうすればいいんだ。

 ぐるぐるぐるぐると、疑問が頭の中を回る。

 考えても答えの出ないそれらが、同じ所を回り続ける。

 

「ひとまずは、水。それとメシ。それから……」

 

 それから、何だろう。カネ?

 生きるのに必要なのは、食う寝るところに住むところ。

 どんな状況だろうと、とりあえず生きられるだけ、生きないと。

 誰だって、死ぬのはゴメンだ。そうだろう?

 

 何も分からない不安を吹き飛ばすために、叫んだ。

 

「俺は生きるぜ! ヒャッハーー!!

 

 うん? ヒャッハー?

 なぜか今の叫びは、勝手に出てきたんですけども。

 やっぱり、俺の頭っていじられてる?

 

 そう不安に思って、頭に手をやると、そこに毛は無かった。

 

「えっ」

 

 バイクを止めて、両手で頭を探る。

 毛はあった。一部だけあった。

 前後を貫く、中央部だけ残されたその髪形は。アメリカ先住民族の一部族の名前を取って、モヒカンと呼ばれるものだった。

 

 ハゲではなかったが。ハゲのほうがマシだったのかもしれない。

 

 

 

 そして、次の日。

 

 

 

 俺の残りポイントは、2にまで減っていた。

 そして旅の連れが出来て、バイクはサイドカー付きのものに代わり、俺は拳法使いになってしまった。

 それと、人を一人、殺したな。

 

 順に、説明しよう。

 

 山を目指す途中で、俺の同類。つまりはモヒカン族にからまれた。

 やつらを見かけて、同族かな? とバイクを止めたのが悪かった。

 どうやら奴らにとっては、同じモヒカンでも、チームが違えばエモノであるらしい。

 

 無論、逃げた。しかし奴らもモヒカン。俺と同じくバイク持ちがいた。

 しかも俺よりも腕が良かったのか、バイクが良かったのか。段々と追いついてきた。

 「ヒャッハー」の声が聞こえるまでに追い詰められ、どうすればいいのか、必死に考えていた時だ。

 

 モヒカンとは、一味違う姿をした男が歩いていた。

 

 一瞬で、様々な考えが浮かぶ。

 

 見た目からして、モヒカンの仲間じゃないな。よし。ヤツがエサになっている間に逃げられるかも。いや、ヤツは歩きだ。まずこちらを優先して、ヤツの事は後回しにする可能性も。待て。ヤツも肩パットは付けている。戦闘力はあるだろう。それなら。

 

「そこのアンタ! 乗れ! 襲われるぞ!」

 

 バイクを急停止して、ジーンズの上下を着たその男に、そう呼びかけた。

 男は意外そうな顔をした。俺もモヒカンなので、後ろから追いかけてくる奴らの先駆けだとでも思っていたのかもしれない。

 

「いいから! 逃げるぞ! 急げ!!」

 

 急かす俺をよそに、その男はバキリ、ボキリと拳を鳴らすと、低い声で言った。

 

「必要ない」

 

 結果から言えば、確かに必要は無かった。

 しかし当時の俺は、焦っていた。とにかく逃げねばと、それだけしか頭に無かった。

 その男の声にも姿にも、気付いていなかったのだ。

 

「ひゃっはー!! 追いついたぜー!」

「手こずらせてくれやがってよー!」

「汚物は消毒だー!」

「ちみゃ!」

 

 俺の視点での話だが。男がもたもたしている間に、モヒカンらに追いつかれてしまった。

 イヤな予感しかしなかった。

 なにせ、わけもわからず荒野に放り出されていて、わけのわからないシステムに頭をイジられて。

 そこへ持ってきて、どう見ても穏やかじゃないモヒカンの集団に襲われているのだ。

 これで奴らが、実は善意の集団で町への道案内をしてくれようとしていたら、シュールすぎる。

 

 だが可能性はいつだって残されている。ワンチャンかけてみるか。

 

「はじめまして。何の御用ですか?」

 

 先ほど話しかけたときは、俺のバイクを見て「いいモン持ってんじゃねえかよー」と言いながら、鉄パイプなどを持って近付いて来たので逃げ出したのだが。

 ひょっとしたならば、単に「いいバイクですね」という世間話であったのかもしれない。

 

 まあ、そんな希望は存在しなかったのですが。

 

「ご用だあ? お高く留まってんじゃねえ! 決まってんだろ! 持ってるモン、全部出しな!」

「命だけは助けてやるぜー! 身包みはいで、この荒野で生きられるかどうか、チャレンジだー!」

「ヒャッハー!」

「たわばっ!」

 

 山賊だ。野盗だ。

 現代社会では、まず見かけない―――いや、そうでもないか。一昔前は、オヤジ狩りなんぞがあったことだ。

 しかしそれでも、珍しいことには違いない。

 

 ところで、一人さっきから叫びがオカしいヤツがいる件について。

 

 俺がそんな具合に、混乱していると。今まで黙っていた男が、動き出した。

 ゆっくりとモヒカンたちに向かって歩き、俺の前に出ると人差し指を立てて、奴らをスッと指差した。

 

「お前たちに、明日を生きる資格は無い」

 

「なんだと、コノヤロウ!」

「お前ら!トリプラーをしかけろ!」

「ヒャッハー! ジェットストリームアタックじゃねぇとこがマニアックだぜー!」

「ヒャッハー! だがそれがいい!」

「ヒャッハー! いやお前もやれよ」

 

 チンピラは、基本的に挑発に弱い。

 馬鹿にされた。逆らった。笑われた。そう感じたら、即反応して殴りかかる。

 そこに思考は挟まれない。ただの反射で、習性みたいなものだ。

 

 そんな習性を抱えて生き残るために、必要な能力がある。

 相手の強さを悟るセンサーだ。もしくは、野生のカン。あるいは、なんかヤベーレーダー。

 なんでもいいが。とにかく、ケンカを売ったらいけない相手を見分ける能力だ。

 

 平和ボケした生活をしていた俺に、そんなものはない。

 そして、奴らにも無かった。

 

 飛び掛ってきたモヒカンたち4人は、パンチ以外はむしろゆったりとした動きに見える男を捕らえられず、全てカウンターを入れられて吹き飛ばされた。

 

「やってくれたな!」

 

 一人、そうやって立ち上がってきたモヒカンを、男はつまらないものを見る目で見た。

 

「お前はもう 死んでいる」

 

「はぁん? 何を言って……てててててててててみょん!!」

「アベシ!」「ウワラバ!」「お師さん……もう一度ぬくもりを…」

 

 男の言葉が引き金だったかのように、モヒカンたちが次々と爆ぜていく。正直、グロい。

 だがやはり一人、セリフがオカしいのが気になって、イマイチ吐き気が深刻にならない。

 

「う、うわぁぁぁーー!」

 

 一人、飛び掛ってこなかったモヒカンが悲鳴を上げて逃げ出した。

 遅すぎはしたが、正しい判断だと思う。

 

 しかし、たった今4人を殺してのけた男が俺の方を見ながら、その逃げ出したモヒカンに向けてアゴをクイッとやった。

 

「えっ?」

 

 もしかして、俺に殺れと?

 そういう意味で、聞き返すと、男は一言だけこう言った。

 

「みかん!」

 

 独特すぎてわかんねえよ

 

 しかし殺らねば、俺が殺られるかもしれない。

 覚悟を決めて、バイクにまたがる。向こうはとっさのことだったせいか、走って逃げている。

 このままバイクで追いかけ、そのまま轢き逃げアタックといこうか。

 

 実際、そうした。

 するとまたウィンドウと文字が目の前に現れた。

 

P:9→10 バイク取り扱い:1をバイク取り扱い:2にしますか?(Y/N)

 

 ハッ。モンスターをフィールドで倒して、レベルアップか?

 まさかここは、なんかのゲームの中とでも言うのだろうか?

 だとしたら、少しバグ残ってるぞ。さっきのモヒカンといい、ケンシロウもどきといい。何だよ、みかんて。

 

 ああ、ケンシロウだよ。あの両肩から先が破れたツナギっぽい格好といい、濃い顔立ちに太い眉。肩パットに、何よりもあのセリフと、北斗神拳。

 でも何か違うんだよな。俺に、逃げたザコの始末を押し付けたりさ。

 本当に、ここはどこで、何がどうなっているんだ。このウィンドウとかも、何なんだよ。

 

 だが、まあいい。今は生き残るのが最優先だ。使えるものは、使わせてもらおう。

 Yに指を通して、2に上げる。

 

P:10→8 バイク取り扱い:2を習得します。本当によろしいですか?(Y/N)

 

 2に上げるには、2ポイントかかるらしい。今のところはまだいいが、後々ポイントは足らなくなっていくだろう。

 

 課金要素だな。

 

 ガチャでない分、有情か。

 いや、きっとスキルガチャとかがあるに違いない。運営なんて、きっとそんなもんだ。

 北斗とか南斗とかの流派は、1%の確率でないと出ないとか、今だけそれが3%とか5%! という売り文句での限定ガチャとかやるに決まっている。

 回すけどな! なんせ、今なら生身で天翔百裂拳とか、飛翔白麗とかやれるんだ。そりゃあ回すだろう。

 

 そう思っていた時期が、私にもありました。

 

P:6→2 北斗神拳:2を習得します。本当によろしいですか?(Y/N)

 

 今、俺の目の前にそんな表示があるわけで。Yっと。

 

北斗神拳:2を習得しました

 

 モヒカンを仕留めてバイクの取り扱いを2にした後、俺はケンシロウもどきのところへ戻った。

 無視して逃げるのが怖かったのと、他に行く当てが無かったからだ。

 そしてバイクの取り扱いに目を付けられた俺は、彼の足として、旅のお供にさせられてしまったというわけだ。

 

 ケンシロウもどきは、意外と俺に親切だった。

 固い地面で寝て、身体が痛いという俺に、ちょっとしたツボを教えてくれたのだ。

 一時的に痛みを抑えるツボと、肩コリに効くツボ。ついでだと、急な腹痛に効くツボも教えてくれた。

 すると、北斗神拳を習得しますか? というウィンドウが出た。もちろん、習得した。

 すると、教えてもらったのとは他のツボの知識を得られた。もちろん、全て押してみた。

 すると、2にしますか? というウィンドウが出て、先ほど北斗神拳:2を習得した。というわけだ。

 

 ただ、さすがに北斗神拳は特別だったのか、かかるスキルポイントがバイク取り扱いの二倍だった。

 バイクは1+2の3ポイントですんだのだが、北斗神拳は2+4の6ポイント。

 最初の手持ちが10ポイントで、モヒカン一体を倒して1ポイントプラスの、11ポイントだったから、残りはもう2ポイントしかない。

 

 しかし戦闘用のスキルが一切無いのに、北斗の拳の世紀末であるらしいと判明した、この荒野を行くのは怖すぎる。

 そこへ振って沸いた、北斗神拳だ。そりゃ、手に入れようとするだろう?

 その拳、どこで教わった。とか関係者の人に出会ったら、問い詰められそうではあるが。

 確か、海を渡った四国だか九州だかの修羅の国では、北斗流星拳だか北斗劉家拳だかがメジャーだったはず。そっちから来た人に、基礎だけ教わったと言えばいいだろう。

 

 というか、ケンシロウもどきにそう言おう。

 

「そういえば、昔似たようなことを教わったことがある。海の向こうから来たって人から教わってたんだが、そのうちどこかへふらっと行っちまったんだよな」

 

 さて、このウソは通じるかどうか。

 このゲームのような世界は、本当に何なのか。

 俺は誰で、何かやるべき事などはあるんだろうか。

 

 そしてこの話は、続くのだろうか。

 

 その全ては、まだまだ先のことだ。

 

 

 




感想で次回作を、というのが多かったので模索してみましたが。
この方向はどうなんだろう。


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一度だけ神の声が聞きたい。この選択は正しいか?

 気付けば、目の前にウィンドウがあった。

 山のふもとまでたどり着き、ちょうど昼なので休憩しようと、焚き火を起こしたところだった。

 ウィンドウは今までのものより少し大きく、選択肢がついていた。

 

 |                 A.世紀末救世主  |

 |あなたの同行者を選んでください  B.その兄(整形済)|

 |                 C.その他     |

 

 

 うん。ちょっと待とうか。

 

 え。なに。変わるの?

 あのケンシロウもどき、俺のこの選択で、変わっちゃうの?

 

「なあ、おい。アンタ、名前なんだっけ? …おい? しっかりしろ、返事をしてくれよ!」

 

 選ぶ前に、名前くらいは聞いてみよう。そう思ったのだが。

 男は、焚き火を見つめたまま動かなくなっていた。叩こうが、つねろうが反応が無い。

 それに、動かそうとしても1ミリも動かない。

 

 うわ。なんだこれ。スッゲー怖いんだけど。

 ゲームか? やはりここは、ゲームの中という認識でいいのか?

 

 だとするならば、この選択肢を選ばない限りは、先へと進めないわけだ。

 よし、制限時間が有るかどうかもわからんが、じっくりと考えてみようか。

 

 まずAはわかる。スッゲーわかる。

 だがBとC、テメーらはダメだ。なんだよ整形済って。ジャギか。Bを選ぶと、あいつジャギになるのか。

 それとCのその他ってなんだよ。何になるんだよ。

 こんなん、Aを選ぶしか―――

 

 ―――待てよ。俺、モヒカンだよな。

 ケンシロウの主食みたいなもんだよな。

 秘孔を突かれて、パーンして、ユカイな断末魔をあげてナンボの生き物だよなぁ。

 

 Aを選んで、ケンシロウに固定された場合、俺の命が危なくないか?

 

 そもそもだ。今は味方っぽい位置にいるが、あのケンシロウもどきはイマイチ信用できねえ。そう思っていた。

 言動がケンシロウっぽいんだが、たまにブレる。というかバグる。

 それが、まさかキャラが固定されていなかったからとは思いもしなかったが。固定された結果、敵対されたら、たまったもんじゃあない。

 

 ケンシロウになったとしても、原作のどの時期かで、危険度が違う。

 連載最初期の、ユリアをさらわれたままで、自分を鍛えながら彷徨うケンシロウだった場合。

 尋問からの、何も知らないならば用済みだコースがワンチャンある。

 

 Bは論外だ。あの出来の悪い兄は、その場の気分で、こちらを殺しにかかる可能性すらある。

 伊達に四人いるのに、北斗三兄弟とか言われていない。

 ハブられるだけの根拠と理由がある男だ。

 

 ならばCか? しかしその他ってなあ…… なんだよその他って。何があるんだよ。

 白髪を染めて、若作りしたトキとか? それとも、路線変更したアミバ?

 

 どれを押すべきか。考えながら、もう一度ウィンドウを見る。

 そして自分の人差し指を見てから、動かなくなった同行者を見た。

 

 今からこの指で、コイツの運命を決めるんだよな。

 そう思うと、少し指が震えた。

 その震える指先で、俺は―――――――Cを、選んだ。

 

 パチッ

 

 焚き木が、はぜる音がした。どうやらそちらの方も、止まっていたらしい。

 そして男が動き出す。

 こちらを向き、話しかけてきた。

 

「そう言えば、まだ名前を聞いていなかったな。俺はゲンジロウ。お前は?」

 

 いや、誰だよ。

 

 また男が止まって、ウィンドウが出てきたけども、そんなことは今はどうでもいい。

 誰だよゲンジロウ。知らねーよ。その他にもほどがあるわ。

 何でそんなのが北斗神拳知ってるんだよ。って、秘孔じゃなくってツボって言ってたし、まさか別物なのか?

 いやいや。でも俺、それで北斗神拳習得できたし。

 

 なんなんだこれは。どうすればいいんだ。

 チクショウ。これならAを選べばよかったぜ。なんかハズレを引いた気分だ。

 まったくよぅ。で、ウィンドウさん。今度は何だって?

 

[あなたの名前は モヒカン でいいですね?(Y)]

 

 選択肢がねーよ!!!

 

 よこせや、そこはぁ! いいですね、じゃねーよ!

 

 ああ、もういいよ! 何でもいいよ! どうせ名前も思い浮かばないし、思い出せないからさあ。

 

 ヤケクソ気味に、ウィンドウをハタく。それでもYを選んだことにはなったらしく、ゲンジロウが動き出した。

 

「そうか。モヒカンというのか…… 変わった名だな」

 

 名乗ってねえよ。イベント会話かよ。

 ああ、もう。口に出せないツッコミは、やたらと消耗するわ。

 なんなの、この世界。何がしたいの。俺にどうして欲しいの。

 

「メシにしよう。俺が作る」

 

 俺がグッタリしていると、気を使ってくれたのか、ゲンジロウはそう言って火のそばで調理を始めた。

 いいヤツではあるんだよな。

 あのモヒカンたちから、一応は助けてくれたわけであるし、ツボも教えてくれたし。それにこうして食糧を分けてくれる。

 まだ実感は無いが、この世紀末では、食糧は貴重なはず。それを分けてくれるというのは、実にありがたい。

 

 感謝しながらゲンジロウを見ると、どこからともなく取り出した大きな葉の上に、やはりどこからともなく取り出した魚を乗せて切り分けている。

 見事な包丁を使っているが、それもどこに持っていたのやら。

 焚き火には、いつの間にかナベがかけられていて、大きなコンブが一枚沈んでいる。

 そして湯が沸騰する直前を見切って、コンブを取り出し、火の通りにくい順に具材を入れてゆく。

 切り身にされた魚は、酒とショウガをかけられ、しばらく置くようだ。臭みを取るための処理だろう。

 

 というか、色々と取り出しすぎではなかろうか。

 アイテムボックスか? アイテムボックスなのか?

 

 聞いてみたいが、ゲンジロウの真剣な様子に、声がかけられない。

 食材から声を聞こうとでもしているかのように、真剣な目で食材を見て、それぞれに手を入れていく。

 

 そうして出来上がったナベは、美味かった。

 汁は一点のニゴりもエグ味もなく澄みわたり、スッキリとした、しかし深いコクのある味わいだ。

 野菜は甘く、柔らかく。特に汁を吸った長ネギがたまらない。

 魚は白身の、これはタラか。かすかに香るユズは、どこでどう隠し味を仕込んだのか。

 それらをポン酢でいただくと、口から自然と言葉が出て行った。

 

「うーーまーーいーーぞーーーー!!」

 

 カッ!!

 

 なんか出た。口から、なんか出た。

 ビームだかレーザーだか分からんが、なんか出た。

 

 おい。まさか……

 

「ゲンジロウの苗字って……ムラタ?」

「ああ。ムラタ。村田源二郎だ」

 

 味皇かいっ!!

 

 北斗関係ねーよ! 別のアニメだよ!

 あー、もう。なんかさあ。なんつーか、さあ。

 

ほんと何なのこの世界ぃ!!

 

 

 




●村田源二郎
ミスター味っ子の登場人物。マンガ版とアニメ版でえらく印象の変わる作品である。アニメ版はスタッフが悪ノリして、過剰なリアクションを取り入れていった結果、すごい事になった。
そのリアクションは一部の料理マンガで伝統として受け継がれ、食戟のソーマにまでつながっている。
味皇料理会の会長、味皇として三十年以上君臨する男。ミスター味っ子2の後半ではボケ老人と化しており、料理人たちが彼を元の彼に戻そうと、料理を食わせた。
しかしそれは、アニメ版がすでに最終回あたりでやったネタなのだが、いいんだろうか。


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さらばゲンジロウ。また会う日まで(また出会うとは言っていない)

 気付けば、若き味皇ゲンジロウは消えていた。

 

 山までたどり着いたので、ぐるりと回ってみて川を探していて、川と同時に村を見つけた。

 そして俺が村へと入ると、ゲンジロウが突然「俺はここまでだ。では、達者でな」とだけ言い残して、姿が見えなくなってしまったのだ。

 

 村は山あいの、近づかなければ分からない場所に、隠れるように作られていた。

 いや、隠れているのだろう。この世界は、モヒカンのうろうろしているヒャッハーな世紀末なのだ。

 村を支配して、定期的に貢ぎ物を要求するのではなく、根こそぎ略奪、無駄に破壊して去っていくという蛮族スタイルが主流。そんな恐ろしい世界だ。

 そんな世界で、遠くからでも見えるように村を作るとか、正気の沙汰じゃないわな。

 

 ゲンジロウと同行していると、食事には困らないのだが、色々と付いていけないところもあったので、正直助かるといえば助かる。

 しかしメシは美味かった。そこだけがつくづく残念でならない。

 

 なお、食材や調理器具はどこから取り出したのか聞いたら「調理スキルだ」とだけ言っていた。

 そういえば俺も、バイク取り扱い:2でバイクが出せるようになっている。調理スキルでも、食材やらが出せるのだろう。

 わけがわからんが、この世界ではそういうものなのだろう。

 

 理解できないが実在するものは、もうそういうものだと諦めて、その概念ごと自分の中に取り込む。

 それも学習の一つのやり方だと、俺は学生生活で悟った。ような記憶がある気がする。

 相変わらず色々と思い出せないが、今思い出したとしても、このわけのわからない現状に役立つかというと、だ。

 正直。あまり意味が無いとしか思えない。

 しかし、なんかモヤッとするので、ストレスになる。

 

 「あれっ? あの人の名前なんだっけ?」みたいな、知っているはずなのに出てこない、あの感じ。あれだ。

 あのモヤッと感に、ずっとつきまとわれているんだ。

 気にしなければいい、というのも分かるが。

 

 「お前は誰だ?」

 

 鏡に向かって、そう繰り返しつぶやく。

 それを何時間か繰り返すと、人にもよるが、それだけで精神に深刻なダメージを受けるらしい。

 

 今の俺は、それの軽い状態だ。

 

 顔はどうだか分からないが、髪型は確実にモヒカンではなかったと思う。

 身体も、こんな筋肉質ではなかったはずだ。北斗神拳を習得してから、さらに筋肉がついた。

 それとあまりに違和感が無かったんで気付いていなかったが、やはり北斗神拳を習得してから、服も肩パッド付きの革ジャンに変わっている。以前はボロい作業着だった。

 

 すごいね、北斗神拳。

 

 急にノリが軽くなったって? 現実逃避だよ。言わせんな。

 一事が万事、こんな感じなんだよ。

 深刻な問題のはずなんだよ。アイデンティティクライシスなんだよ。“俺”という人格の危機なんだよ。

 

 なのに、状況がそれどころじゃねーんだよ。

 ツッコミが追いつかねーほど、加速すんな。もう少し穏やかに流れろ、時間。俺に優しくしろ、状況。

 

 そういう意味では、ゲンジロウがいなくなったのもプラス材料だな。

 

「北斗神拳? 何の事だ? 俺があいつらを殺ったのは、調理技術のちょっとした応用だ」

 

 実はゲンジロウというのがウソなんだろう? 実はケンシロウなんだろう? と一縷の望みにワンチャンかけて聞いてみた結果の、アイツの答えがこれだった。

 

 すごいね、調理技術。

 

 ポイントが残り少ないというのに、思わず調理技術:1を習得しちゃったよ。これで残りポイントは1だけだ。

 しかし1だというのに、いきなり手鍋と水と塩が出せた。

 

 すごいね、調理技術。

 

 それでもって、これ、ゲームだろ。もうこれ、絶対ゲームだろこの世界。

 ゲンジロウが消えてからすぐに出たウィンドウも、こんなんだしさあ。

 

 [P:1→6 チュートリアルをクリアしました]

 

 ああ、うん。ありがとう。5ポイントね。もらっとくわ。

 もうやだ。俺、この村で調理技術上げて、料理人として一生引きこもりプレイするんだ……

 

 

 

 そう思っていた時期が、俺にもありました。

 

 

 

 いや、さあ。イベントっていうの?

 村に入ったら、あったわけよ。

 いきなりさあ。普通の村人(男)が一人、モヒカン二人にカラまれてんの。

 

 あん? いきなり口調が軽い?

 疲れてんだよ。言わせんな、メンドくさい。

 

 で、まあ。ハナシ、戻すぞ。

 

 なんで村の中にモヒカンいるんだよ、と思ったけども、いるもんはしょうがないし。

 ドラ○エとかでも、町の中で唐突に戦闘になる場合とかあったしな。

 で、まあ、北斗神拳:2もあることだし、負けることはないだろうと、仲裁に出たのよ。これこれ童たちよ、カメさんをいじめてはいけませんって感じでな。

 

 その結果。家庭板案件に巻き込まれました。

 

 助けた男がね。お礼にと、酒場でオゴってくれるっていうんで、ホイホイ付いていったのよ。

 したら、なんかだんだんグチがコボれてきたのよ。嫁の態度とか。

 俺もメンドくさくなっちゃって、言っちゃったのね。

 

「ああ、それ奥さん浮気してるわ」

 

 その瞬間、周りの聞き耳立ててた奴らが「あ、コイツ言っちゃったよ」って引いたのがワカったね。

 男も、ワカってたんだろうね。怒るでもなく、否定するでもなく、静かに、声も出さずに泣き出しちゃったのよ。

 

 周りの連中に、視線で助けを求めたけど、酒場のオヤジすら目を逸らしやんの。

 

 仕方ないから、もうこれテキトーに終わらせよう。そう思って、つきつけたのよ。

 

「選べよ。取り戻すか、別れるか」

 

 問題があるのは確かなんで、あとは行動するか、しないかだ。

 それでこの場合、行動しないのは俺が解放されない気がする。

 だから行動させるべく、選択肢をこの上なくシンプルにしてやったのだ。

 

 とりあえず、男は泣くのはやめた。

 だが答えは出せないようだったんで、ヒントを出した。思考を誘導したとも言う。

 

「浮気の証拠を、これ見よがしにどっかに出してるなら、もっと私にカマえってシルシだ。でも、そういうのが一切無いんなら……」

 

 たぶん。アンタにもう興味があんまり無いんじゃないかなあ。

 

 さすがに、最後まで口には出せなかったが、男は何となく察したようだった。

 

「離婚します」

 

 それが男の答えだったよ。

 

 その場にいた男衆は、だいたい味方になってくれたね。実際に何か動いてくれる、という意味での味方に。

 動いてはくれないけども、邪魔もしない、心情的な味方なら100%だ。

 

 それでとにかく嫁の浮気相手の情報やら、行動やらを抑えて、嫁の親にも根回しして、最後は現場に踏み込んで。

 離婚成立。嫁さんは実家へ、男は慰謝料もらって、新生活へ。とカタは付いた。

 

 疲れた。肉体的にじゃなく、精神的に疲れた。

 

 なんで丸っきり他人の事だってーのに、こんなに重いかな。

 

 それでウィンドウさん。イベントはクリアしたと思うんですけど。

 ポイント、まだっスか?

 

 

 




ここから続かない。はず。


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ころしてでも うばいとる

 気付けば、種モミを奪ってバイクで走っていた。

 「ヒャッハー!」と楽しそうに叫んでいる俺がいた。

 

 ボーナスポイントがついた。

 

 [P:0→4 トロフィー(銀):種モミを村長から奪う を達成しました!]

 

「アハハハハハハハ」

 

 笑いがこみ上げてきた。もう、笑うしかないだろ、こんなん。

 半ば事故で使い切っていたポイントが入ったのはうれしいが、今はそんなものはどうでもいい。

 トロフィーとかいう、新要素だってどうでもいいぞ。

 

 わけがわからないって?

 大丈夫だ。俺もわからない。

 

 だが、何があったのかを語るくらいはできる。聞いてくれ。

 頼むから聞いてくれ。一人で抱えていると、頭がオカしくなりそうだ。

 助けると思って聞いてくれ。

 

 ほら、さ。俺、スキル覚えてただろう?

 バイク取り扱いと、北斗神拳と、調理技術な。

 で、まあ、この先も増えていったら、何がどれだけのレベルなのか、把握が面倒になるな。そう思ったのが、発端だ。

 こういうゲームシステムのある世界に飛ばされたヤツ特有の、アレを唱えてみたんだよ。

 

「ステータス、オープン!」

 

 何も起きなかったんだがな。

 そうなることも見越して、酒場のマスターにムリ言って泊めてもらった部屋で、一人で実験してるんでまだいいんだが。

 やっぱり、少しばかり恥ずかしかった。

 それからも、状態確認やら、ウィンドウオープンやら、開けゴマやら、開けポン○ッキまで、思いつく限り色々言ってみたんだが、ダメだった。

 

「どうすればスキルとか確認できるんだよ……」

 

 そうボヤいた時だ。

 急にウィンドウが出てきて、そこにはこう書いてあった。

 

 [現在の所持スキルを確認しますか?(Y/N)]

 

 今思えば“スキル”“確認”の二つの単語がカギだったんじゃないか、と思うわけだが。

 あの時は色々試した後だったんで、すぐさまYを押したんだ。

 

「あなた の 現在の 所持 スキル は―――」

 

 まさかの、音声ガイダンスだった。

 しかも、合成音声だった。単語でブツ切りになった状態で、平坦な機械音声だった。

 ゆっくりかよ。いや、ゆっくり以下かよ。せめて初音ミクを見習え。

 

 そうツッコミを入れていた俺だったが、それでは聞き流せない情報も流れてきた。

 

「―――調理技術:1 モヒカン:3 を 所持 して います」

 

 聞き間違いと思いたかったが、そうではなかった。

 

 モヒカンだ。

 

 あの時は、精神的なショックで思考が止まった。

 でもそういう時ほど、直感が働いて物事がうまく進む時ってあるだろ?

 

「“スキル”“解説”モヒカン」

 

 考えた結果ではなく、単なる勘で、俺はウィンドウさんにそう聞いていた。

 

 [P:6→5 解説:1を習得しますか?(Y/N)]

 

 ああ、うん。タダじゃ教えてくれないのね。

 俺はYに指を通しながら、納得とともに精神的な再建を果たしていた。

 

 なお、解説はそのレベルまでの解説しかしてくれなかった。

 モヒカン:3の内容を知ろうとしたら、解説も3まで上げて下さいとウィンドウに出て、少しイラッとした。

 

 それで感情のままに、ウィンドウさんを平手でスパーンとやったら、解説:3が手に入っていた。

 

[P:5→3→0 解説:3を習得しました]

 

 いや、違うから。今のは、Yを選んだんじゃないから。

 そう訴えたが、キャンセルという概念は無いらしい。俺のポイントがゼロになったのは、こういうわけだ。

 

 それで、あとは種モミだが。

 

 まあ、だいたい想像が付くだろう? え、つかない?

 でもモヒカンスキルのせいだってのは、わかるよな?

 

 モヒカンは、1で髪型が整髪料も散髪もなしに、モヒカンになる。なお色も自由に決められる。

 そして2になると、飲食が不要、とまではいかなくても、かなり必要が無くなる。そして筋肉質になる。

 これは荒野でヒャッハースタイルで生存するには、必須のスキルかもしれない。

 

 デメリットとしては、行動がモヒカンになる。

 つまり普通には働かなくなり、略奪で生きていこうとしてしまうようになる。らしい。

 

 だが3になると、このデメリットも軽減されるようだ。チンピラとは違い、幹部は軽々しく動かないということだろうか。

 

 

 その軽減された衝動でも、種モミに対するソレはかなり強烈だった。

 

 

 なんか疲れたんで、外の空気でも吸おう。そんな軽い気持ちで外に出た俺の前に、村長らしき他人がいたんだ。

 でもって、手に袋を持っててね。

 「来年の実りが、今から楽しみじゃ」とか言ってんの。

 

 ふ~ん。麦かな? 種モミかなんかか?

 

 そう思った瞬間。それが欲しくて欲しくて、仕方が無くなった。

 確かに原作の北斗の拳でも、それは畑にまく種モミだからという村長から、強引に奪っていた敵キャラはいた。

 だがまさか、ここまで強烈な衝動ということは、まさか俺、そのキャラだったりするの?

 さすがに、そんな一発キャラの顔とか覚えてないぞ?

 

 考えを逸らそうとしたが、ダメだった。

 衝動に、どうしても逆らえない。

 このままだと、村長を殺してでも奪い取ろうとしてしまう。

 

 せめて理性が残っているうちにと、村長を不意打ちで気絶させて、袋を奪い取った。

 

 そこで袋を返して、何食わぬ顔で部屋に戻れば、村で生きていく道もあったかもしれない。

 だが、ダメだ。モヒカンとして、種モミを奪わずにはいられない以上、村にいたらまた種モミを見かけるたびに、俺はそれを奪おうとしてしまうだろう。

 

 去るしかあるまい。

 

 俺は種モミの詰まった袋を持って、バイクにまたがり、走り出した。

 

 種モミは返せって? いや、何を言っているんだ。

 世紀末では、食糧は貴重なんだぞ?

 持って行かずして、どうする。

 

 さて。逃げるぜ、ヒャッハー!

 

 

 




これでもう、書き残したネタは無いっ…!


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酒場でなくても、出会いはある(仲間との出会いとは言っていない)

不定期連載、のはず。


 

 気付けば、俺は首領になっていた。

 ドンとかヘッドとか呼ばれているな。一人だけカシラと呼ぶやつもいる。

 モヒカンというのは、群れると一人、ネタ枠が生まれる習性でもあるのだろうか。

 

 ああ。モヒカンだ。

 

 俺の配下は、100%モヒカンで出来ています。

 

 どうしてこうなったかって? こっちが聞きたいくらいだよ。

 いや、やっぱりいい。聞きたくない。

 心当たりはあるが、理解したくないんだ。

 もう少し。現実から目を背けさせてくれ。

 

「ヒャッハー! ヒャッハッハー!!」

 

 そういうわけにもイカないようだ。配下が敵襲だと報告してきた。

 別に暗号とか、そういうのではない。ヒャッハー言語というか、モヒカン語だ。

 

 うん。モヒカン語。なんかね。モヒカン同士なら、ヒャッハーだけで会話できるらしいよ?

 

 道理で、やたらとヒャッハーヒャッハー言ってたわけだ。

 アレだな。ショッ○ーの戦闘員の「イーッ!」と同じだな。

 一種の圧縮言語と考えると、逆に高度なのかもしれない。

 

 たださすがに文字に書き起こすと、ヤツらもわかんないみたいだけどな。

 

 まあ、今はそんな世紀末豆知識はどうでもいいんだ。

 敵襲と言っていたが、その詳細を聞くほうが大事だ。

 北斗やら南斗の拳士だった場合、バイクに物を言わせて逃げるしか手は無い。

 だがうちのチームじゃない、よその野良モヒカンだった場合。勝っても負けても、面倒なことになる。

 ゲンジロウみたいな、オカしなキャラが殴りかかってきても、それはそれで困るし。

 

「ヒャッハー!」

 

 で、何が来たんだ? 俺もモヒカン語で聞き返した。緊急時には、一言で全部伝わるモヒカン語は、意外なまでに優秀だ。

 2人だけ引いて、敵の裏へ回れ。他は全力で食い止めろ。とかの細かい指示さえ「ヒャッハー」の一言ですむからなあ……

 あらかじめ暗号を決めて、覚えておく必要が無いというあたり、すごい便利ではある。

 

 敵もモヒカンだった場合は、バレてしまうんだがな!

 

 それはさて置き、今回の敵はヤバかった。

 

 クソデカイ黒い馬に乗っていた。

 両横から前に向かって湾曲した、クソデカイ角を生やした立派なカブトをかぶっていた。

 その体躯もクッソデカかった。胸板も厚く、手足は太く、よく鍛えた筋肉が付いていた。

 

 ていうか。ラオウだった。

 

 

 いきなりラスボスかよ。

 

 

 パチンコのリーチじゃねえんだから、こんな序盤に出てくんなよ。

 勝てねえよ。馬じゃなくてUMAじゃねえのっていうくらいの黒王号もあるから、バイクでも逃げれるか怪しいよ。

 

 じゃあ降参しろって?

 コイツさあ。最初から諦めて、食糧差し出した村を、その媚びた態度が気に入らんって滅ぼしてなかったっけ?

 じゃあ戦った後で、降参しろ?

 北斗神拳は一撃必殺やぞ。

 

 Q:つまり? A:詰んだ。

 

 くっそ。ここでゲームオーバーか。コンティニューはあるのか? それともリスポーンかリトライか? セーブポイントらしきものは、見当たらなかったぞ?

 

 ひたすら混乱する俺に、ズン ズン とゆっくりと地響きを立てて、黒王号に乗ったラオウが近づいてくる。

 どうでもいいが、絶対に馬の足音じゃない。

 

「お前ら、手を出すなよ」

 

 モヒカン語ではなく、通常言語で命令を出す。ラオウにも、理解できるように。

 配下が勝手に仕掛けて、戦闘が始まったら、それが終了のお知らせだ。何が終わるのかはわからんが、確実に何かは終わる。

 フリじゃないからな? 仕掛けるなよ、モヒカンども。

 

「まずは、はじめまして。昨日できたばっかりの、この小さなチームに何の御用で?」

 

 バトルすると死ぬなら、トークすればいいじゃない。

 同じく荒廃した世紀末を生きるゲームのキャラクターの誰か。アクマと戦ってるっぽい誰かがそうささやいてくれた気がしたので、話しかけてみた。

 

 なお、チームはマジで昨日できた。というか、モヒカンを4に上げたら生えてきた。

 どこからともなく集まってきて、勝手に配下になったのだ。

 

 あれはマジで意味が分からなかった。今でもわからない。

 

 これでまたポイントは0になったが、後悔しかない。

 種モミを盗んだことで、経験値がたまったかフラグが立ったかで、モヒカン:4を習得しますか、という例のウィンドウが出たんだ。

 あの時のテンションは、我ながらオカしなことになっていたから、つい、そのままYを押しちゃってねえ……

 勢いだけで行動してたら、やっぱり後悔ってするもんだよ。気を付けような。

 

 さて。ではあらためて、トークに入るとしようか。

 まずはアイサツだ。そして用件を聞く。

 できれば、穏便に問題を解決して、大人しく帰っていただくのだ。

 ガンバレ俺。やれるな、俺。舌先から出る言葉に、魂を込めろ。

 

 激しく緊張する俺に、ラオウがゆっくりと口を開いた。

 迫力と威圧感が増す。ゴゴゴ… という効果音すら聞こえるかのようだ。

 

「ウヌは……

 

 誰に断って、ここをナワバリにしておる?」

 

 えっ。

 あれ? これって、もしかして…

 

「ヒャッハー?」

 

 これって、ミカジメ料を払えって事?

 コッソリと配下に確認した。

 

 まさかとは思うが。これって、古典クラスのヤクザの定番セリフ「誰に断ってここで商売してんだ」という、アレなのか?

 それである程度のお金なりを渡すと「わかりゃいいんだよ」と去っていくという、アレ?

 地回りのヤクザの、守り代の徴収?

 えっ。それって、むしろ現場に出るのって、下っ端の仕事……

 

 えええ~……

 

「ひゃ、ヒャッハー?」

 

 配下もうろたえている。

 そういうことなんですかね? とハッキリしない答えだ。

 

 よし。ひとまず様子を見よう。

 

「あの、とりあえずお飲み物をいかがでしょうか。水くらいしかありませんが。あっ、馬にも用意しますね」

 

 調理技術:1でなぜか水と塩と手鍋が出せる。

 どうもMP的なものはないらしく、少量ずつではあるが、この世紀末で貴重なキレイな水がいくらでも出せるのだ。

 人が生きるのに欠かせない塩も、同じくいくらでも出せる。

 

 水と塩。この二つを取り引き材料にして、どうにかこのヤバいヤクザのタカリを、切り抜けてみせる。

 俺は、生き残るんだ―――

 

 

 

 そう気合を入れていた時が、俺にもありました。

 

 

 

 今? 今は平和ですよ。

 ラオウさんも用心棒になってくれましたし。

 ええ。用心棒の先生です。

 ピンチの時に「先生、お願いします」っていうと「どぅ~れ」と出てきて、殺ったり、殺られたりするアレです。

 

 なんかね。弟さんに負けちゃって、率いていた軍団も解散しちゃってね。

 そうしたら、食っていく手段が無くなっちゃってね。

 でも村を襲ったら、また弟さんが来ちゃうからってね。

 モヒカンを狩ったり、脅してカツアゲしたりして生きていたそうだよ?

 

 ヤダ。この(元)世紀末覇王、甲斐性無しだわ。

 

 トークの結果、そこまで聞き出したらなんか悲しくなっちゃって、気付けば面倒見させてくれって仲間に引き込んでたよ。

 この結果に、後悔は無い。だが、どうしてこうなった。

 とりあえず、ツッコミを入れようか。

 

 だから勢いで行動するなと言ったろう、俺ぇ!

 

 

 




原作崩壊タグを入れようかと思ったけど
イチゴ味ってもともと壊れてるから、入れるべきかわかんないというw
ならもっと壊すべきかというと、意味不明なまでに壊れても面白いとは限らないわけで。
どうするべきなんだろうなー。と考え中。
まあ続くかどうか怪しいし、いいか……


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なぜベストを尽くしてしまったのか

似たような先達がいたらどうしようか、と少し調べて
頭がポップコーン氏の 北斗の拳 未来編 ヒャッハーの章 という短編を見つけた。
たまにランキングを見てるだけだと見つからない、こういう一発ネタも好きです。


 気付けば、俺は大首領だった。

 モヒカンが選択無しで、自動的にモヒカン:5になり、ポイントはマイナスになった。

 

 [P:0→-5 おめでとうございます。100人のモヒカンを従えた事でモヒカン:5を習得しました。またこれ以上モヒカンは上がりません]

 

 そうか、カンストか。

 何と言うか。感情が死んでいる。刺激に対して反応が起きない。へんじがない。ただのしかばねのようだ。

 たぶん、目も死んでいるだろう。

 モヒカン:3で勝手に装備されたサングラスのせいで、他人は分からないだろうが。

 

 [P:-5→-3 トロフィー(銅):一つのスキルをマックスにする を達成しました]

 

 ああ、ポイントつくんだ。それでもマイナスだけどな。HAHAHA!

 

 前にさあ。言ったじゃん。

 野良モヒカン相手だと、勝っても負けても面倒なことになるってさあ。

 あれな。負けたらってのは、まあ、わかるだろ。

 溜め込んだ物資とか、手持ちのバイクとか、壊されるか持って行かれるかするんだわ。

 それと手下が減ったりもするな。

 俺自身は北斗神拳:2もあるし、モヒカンの群れくらいじゃ負けないが、別働隊が全滅した結果がそうだったんだよ。

 

 そんで、勝った場合の問題な。

 まあ、さっきとは逆で、物資が増える。運が良ければバイクも手に入る。

 それで、手下も増えるんだ。

 

 手下のモヒカンらは俺の言う事は聞くものの、モヒカンの習性で略奪が止められない。

 数が増えると、そのうち目や手が行き届かなくなる恐れがある。

 勝手に村を襲われて、もしそこに北斗や南斗の拳士がいたら?

 

 この世界で拳士は、拳士でしか倒せない。

 流派が108だったかあるという量産型の南斗の拳士でも、手刀でスッパスッパ人体を骨まで切断するし、銃弾だって避けられる。

 

 まあ中にはダイナマイトを投げつけるだけの南斗爆殺拳とか、集団で大砲から打ち出されて上空から襲いかかる南斗人間砲弾とか、人間ですらないただの列車砲の南斗列車砲とかの例外もあるが。

 例外なので、考えない事にする。さすがに怒った原作者の人に、闇に葬られたはずだしな。

 

 例外ではない南斗の拳士は、ラオウの肩を砕いたり、ケンシロウに傷を負わせたりと割りと強い。

 相性のいい何人かで組んだら、たぶんジャギなら倒せる。

 モヒカンなんぞ、千人いようが無双されるだけだ。

 

 北斗は、もっとヤバい。組まなくても、単独で無双できる。ただしジャギは除く。

 ラオウ、トキ、ケンシロウ、あと一応ジャギの4人しかいないが、遭遇する時はするものだ。

 実際、ラオウ来ちゃったしな。

 

 そのラオウは、もはや味方だ。彼が用心棒でいる限り、ジャギは怖くない。

 トキも病弱という弱点がある。バイクを使ったヒットアンドアウェイで長期戦に持ち込めば、ワンチャンある。

 ケンシロウ? ケンシロウは…… 命乞いした後に、背後から襲い掛からなければ行けるかも?

 

 まあ、奴らに目を付けられないようにするのが、一番なんだよ。

 そのために、俺も頑張ったんだ。 

 

 畑を略奪だー!

 という名目で、収穫のお手伝いをさせたり。

 

 食糧を略奪だー!

 という名目で、村から食糧を運ばせ、代わりに俺が水と塩を渡して交易したり。

 

 このあたりの林を破壊だー!

 という名目で、開墾させたり。

 

 抗争だー!

 という名目で、同じくらいの規模のモヒカンの群れを襲わせて、共倒れ狙いで間引きしてみたり。

 

 色々とね。頑張っていたのよ。

 

 でもラオウ先生が、抗争だって張り切っちゃってね。

 

 用心棒として養っているものの、怖いからって普段から仕事を割り振らなかったらさ。

 周りが働く中で。それも、モヒカンたちが働く中で、自分だけ何もしないでメシだけ食ってるというヒモでニートな状態に、プレッシャーを感じていたらしくてさ。

 そんな時に、抗争っていう、自分が輝ける場所を見つけちゃったらさあ。

 

 虐殺だったよ。

 

 あまりにも一方的過ぎるんで、あわてて止めたのも、今思えば良くなかった。

 いっそ全滅させれば良かった。

 半分くらいを殺ったところで止めたせいで、生き残った半分がウチに合流。一気にチームの数が1.5倍に。

 

 さらに、実はそのすぐそばで漁夫の利狙いで潜んでいた、別のチームもウチに降伏。

 

 ラオウ先生の無双を見て、これはアカンと思ったらしい。気持ちは分かるが、そこはそのまま逃げろよ。

 そのせいで、チームが100人超えちゃっただろ。

 

 [P:-3→-1 トロフィー(銅):はじめての抗争 を達成しました]

 [P:-1→3 トロフィー(銀):抗争に勝利する を達成しました!]

 

 ポイントの借金がなくなったか。

 よし。これでようやく調理技術が上げられる。

 ラオウ先生もモヒカンスキルかそれとも別のスキルの恩恵で、食糧が少なくてもいいんだけど、黒王号がなあ。

 鯨飲馬食っていうくらいで、馬は元々たくさん食べるんだけど、あの巨体を維持するだけ食べるからなあ。

 

 でもラオウ先生に捨てて来いとか、怖くて言えないし。

 

 だがそれも、これで解決する。といいな。

 さて。調理技術:2は、何が出せるようになるかなー。

 

 そのためには、ウィンドウを出すために、実際に調理しないとね。フラグが立たないからね。

 そういうわけで。

 

「ウタゲだ、ヒャッハー!!」

 

 宴会だ。ツブしたチームと、合流したチームの物資が手に入ったことだし、たまにはいいだろう。

 配下のモヒカンたちもヒャッハー! ヒャッハー! と喜んでいる。

 そこに、ウィンドウが浮かび上がってきた。

 おいおい、気が早いぞ。まだ俺は調理に取り掛かってさえいない―――

 

 [P:3→9 トロフィー(金)ラオウを仲間にする を達成しました!]

 

 ( ゚д゚) えっ。

 (つд⊂) ゴシゴシ

 (;゚Д゚)ええっ!?

 

 えっ。ちょっ。お、おう? 待てよ。

 何で今更、これが出てきたのかと考えると……

 

 あのヤロウ。今の今まで、仲間になったつもりはなくて、見捨てたり裏切ったりする気しか無かったと。そういうことか―――!?

 

 あっ… アッブネェェェ!!

 油断してた! 思いっきり、油断してた!

 そうだよ。アイツ世紀末覇者とか拳王とか名乗ってるくせに、相手に死兆星が見えるか聞いて、見えないと言われた時は戦わないとか、唐突に武器を持ち出したりとか、師匠に挑んで返り討ちになりかけたりとか。

 しかもそれで師匠が血を吐いて病気発覚したら、俺は天に選ばれている、と嬉々として倒しに行く。そんなヤツだったよ!

 

 持ってるわ~。アイツ絶対にモヒカンスキル持ってるわ~。

 

 仲間になった、というお知らせが今来たということは、宴会の効果か。

 友好度か忠誠度かわからんが、なんかパラメータがあって、それが上がったということか?

 

 えっ。もしかして配下のモヒカンにも、そういうのあるの?

 反逆とかしちゃうの? NPCだと思って、雑な扱いしかしてこなかったんだけど。

 えっ。このゲームって、そういうギャルゲーや育成ゲーでもあるの? その割には、ヒロインまだ出ないんですけど。

 

 はよ。リンかマミヤの実装、はよ。

 

 え? その娘らが出たら、北斗や南斗が出てくるフラグ?

 

 バカヤロウ! ヒロインだぞ! そういう障害とかイベントなんぞ、当たり前のことだろうが!

 そもそもなあ。メンド臭くないオンナなんてなあ。この世にいねぇんだよ!

 世紀末世界に生きてるってだけで、命が危ないんだよ。

 どうせなら、オンナがらみで命を懸けたいじゃないか。

 なあ、そう思わないか?

 

 



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黄金(へ)の精神

 気付けばチームは、大変な事になっていた。

 どうしてこうなった。

 この言葉は、あと何回俺の前に立ちはだかってくるんだろうか。

 

 今回は、キッカケくらいはワカっている。

 名前だ。チームの名前を、付けたんだ。

 そういえば付けてなかったな、という軽い気持ちだった。名前は烈怒・乱舞羅亜(レッド・ランブラー)にした。

 とある暴走族マンガに名前だけ出てきて、そのままほとんど登場せずに、エンディングまで平和に過ごす事に成功したチームの名前だ。

 漢字を思い出すのが地味に大変だった。これで合っているのか、実は自信が無い。

 

 だがまあ、大丈夫だろう。不運と踊る夜叉神やら、敵が欲しい魍魎とか、ヒデト君な外道とは違うはずだ。

 十年後だかの続編がやっているらしいが、作画の人が変わって、絵柄が少女マンガ風になってたせいで拒否反応が出て読んでなかったんだよなあ……

 

 そんな記憶の断片を手に入れつつ、ポップしてきたウィンドウに目をやる。

 さて、今度はなんだ。何が起きた?

 

 [P:9→4 モヒカン:5がモヒカンリーダー:1に変化しました!]

 [P:4→7 トロフィー(銀):スキルを上位のものに変化させる を達成しました!]

 

 カンストじゃなかったんかい!

 モヒカンが、まだ上がるのかよ。もういいよ。おなかいっぱいだよ。

 というか、配下のモヒカンたちがイマイチ統制が取れなかったりしてたのは、このせいか。

 そうだよな。指揮とか統率とか、そういうスキルを俺が持ってなかったもんな。

 これでようやく、勝手に村を襲うなよ、という指示が、俺の監視無しでも守られ―――ることは無いらしいな。

 

 解説スキルによると。モヒカンリーダー:1で掌握できるモヒカンの数は、10人までらしい。

 

 さいわい、モヒカンリーダーを2に上げると、掌握できる人数は一気に100人になった。

 上位スキルだけあって、ポイントを4も持っていかれたが、まあ、よしとしよう。

 

 そう言えば、上げる数字の倍のポイントを持っていかれるのは、北斗神拳も同じだな。あれも上位スキル扱いなんだろうか。

 その割には、北斗神拳:1の解説が「腕のいい按摩・鍼灸師です」だったんだが。

 北斗神拳:2の解説も「筋力などの身体能力の上昇と、衣装がもらえます」だったしなあ。

 

 衣装については、デザインは同じだが、壊れても何度でももらえるということが判明している。

 ケンシロウが何度「お前ら人間じゃねぇ!」して筋肉を膨張させて破ったり、戦闘で敗れたり脱いだりしても、シーンが変われば服を着ていた理由がこれで分かった。

 謎が一つ解けたな。

 原作にも、こんなシステムがあったとしたらの話だが。

 

 どうでもいいが、北斗神拳:2を“ほくとしんけんツー”と読むと、ゲームのタイトルに聞こえて仕方が無いのだが。

 

 もし他のプレイヤーにでも会ったら、そんなバカ話でもしてみたいもんだ。

 

 話を戻して、残ったポイントはこれで3。調理技術を2に上げて、1だけになった。

 なお、調理技術:2の恩恵は、小麦粉と各種スパイスとフライパンだった。調理技術だけ妙に優遇されていると思うのは、気のせいだろうか? いや、助かるからいいんだけどさ。

 

 その辺は、置いておこう。スキルだって優遇枠や不遇枠とか、あるもんだというのは知っている。

 今、重要なのは。さっそく出してみた、目の前にあるスパイスたちだ。

 

 クミン、カルダモン、ナツメグ、唐辛子、ニンニク、ショウガ、生石膏、八角、丁子、胡椒、ターメリック、コリアンダー(パクチー)、シナモン、等々。

 

 これらをうまく組み合わせれば。アレが作れる。

 残念ながら米はないが、小麦粉はある。ナンならば作れるだろう。

 いい加減、塩茹でするか、塩振って焼くだけの料理には飽き飽きしていたのだ。

 作らねばなるまい。

 

 さあ、俺よ。ほとんどの日本人にかかっている、リミッターを外す時だ。

 ヘタに目立って痛い目を見た経験からかかってしまう、出る杭が打たれた結果のリミッター。それを外すのだ。

 夏休みが残り一週間を切った時のように。

 サッカーの国際大会予選で、あとがなくなったサムライジャパンのように。

 追い詰められた時と、メシが絡んだ時と、趣味に走った時。その限られた本気になれる時は、今なんだ。

 

 組み合わせは、無限大。センスとカンで、なんとか再現するんだ。

 さあ、挑むぞ。日本人に愛されすぎて、おいしいけどもう別物だと本場の人に言われてしまった、日本人の国民食。

 

 カレーを! この手で! この世紀末の世に! 再現するのだぁ!!

 

 なお、食べようと思えば、たまにレトルトの物が発掘される模様。

 ただルーだけなので、あまり喜ばれないらしい。

 

 だがそんなレトルトの、それも賞味期限切れのカレーなどは今、どうでもいい。

 この香ばしいスパイスの数々から作ったカレーを、俺が食べたいのだ。

 作らねば。作りたい。そして食べるのだ。

 

 そこから、試作の日々が始まった。

 とりあえず、モヒカンリーダーになった事を生かして、配下のヤツらに指示を飛ばす。

 小麦粉に塩と水を加えて、生地を作って焼かせて、ナンを量産させた。

 俺はカレーに集中したかったんで、実にありがたかった。

 

 ルーを少量作る。試食する。残りをモヒカンに食わせる。

 ルーを少量作る。試食する。残りをモヒカンに食わせる。

 ルーを少量作る。試食する。そこそこ食える出来だったので、残りをラオウが強奪する。

 

 その果てに。とうとう俺は、自分好みのカレーを作り上げることに成功した。

 

「よっしゃああ!! 出来たぁ!」

 

 身体に、特に手にはスパイスの香りが染み付いている。胃袋も、試食続きでカレーにまみれている。

 それでも、それを越えて食欲をかき立てる香りと、味。

 これだ。これを、俺は、作りたかったんだ―――!

 

「そうか。ではさっそく、この俺に献上する事を許す。持って来るがいい、下郎」

 

 アアン!?

 最高潮に気分が良かった所に水を注されて、イラッと来た俺が振り返った先には、オールバックの金髪で額にホクロ(?)のあるタンクトップの男。

 南斗の拳士たちの一応はトップである、サウザーがいた。

 どこから来たキサマ。

 

「おう。早く持って来いや! このカレーの天才、堺カズマさまがどんなもんか判定したるわ!」

 

 それと、八重歯の関西人の子供もいた。

 

 いや、なんでだよ。ゲンジロウで味っ子キャラは終わりじゃなかったのかよ。

 

 フッ。しかし、まあいい。

 細かいことは、よしとしよう。細かくは無いが、今は気分がいいので、あえて目をつむろう。

 このカレーは会心の出来。それを食べたいというのだ。

 思う存分、食べていくがいい。

 これが俺の、世紀末カレーだっ!!

 

 

 

 そしてカレーについては合格点をもらったものの。

 チームの運営をスッカリ忘れて仕事をブッチしたせいで、取り引き先の村々との信頼関係がガッタガタになってしまっていたりするのだが。

 どうして、こうなったんだろうなあ……

 

 

 




今日の昼ご飯がカレーだったのが悪い。

○堺カズマ
ミスター味っ子より。主人公味吉ヨウイチのライバルポジの男。油断して思わぬところで敗北するのがお約束。そしてフリーになったところで、主人公に助力するまでがセット。
続編の味っ子2では、建設会社社長代理兼料理人をやっていた。そして立場は変われど、お約束は変わらずに引き継いでいた、悲しい男である。


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KING その秘められし宝!

五ヶ月とか半年とか止まったりするけど、復活してきた 路傍の案山子氏の 明日に波動拳 を推してみる。現実世界からストリートファイター世界に生まれ変わったオリ主が、波動拳を撃ってみたいから、で始まる修行漬けの生活。
他の格ゲーキャラも出るわ、ネタキャラな人に弟子入りするわ、アメリカ出張してケンにボコられるわと修行一色でなくて、色々楽しい。
あの世の住人のミスで死ぬのはよくあるが、ミスでストリートファイター世界に生まれるはずが現実世界に生まれてて、そのせいで事故率上がってて死んで転生は珍しい。
またミスる担当の神様が、鬼灯の冷徹世界の方々で、三話かけてあの世の描写があるのも珍しい。


 気付けば、俺は1分の1サイズ、リアルフィギュア ユリアを作っていた。

 な、なにを言っているのかわからねーと思うが、大丈夫だ。俺もわからない。

 ただハンパでもチャチでもない、恐ろしいナニカを感じ取ってくれれば、それでいい。

 

 あ、ありのまま起こった事を話すぜっ!

 

 俺は都市の造り方と、その運営方法を南斗孤鷲拳のシンに教わりに来たと思ったら、シンの黒歴史を目撃していた。

 具体的に言うと、だ。

 親友の彼女に横恋慕した結果。何を思ったのか、1分の1の、等身大 超リアルフィギュア ユリアちゃんを作成している現場に、入り込んでしまったのだ。

 

 即座に見なかったことにして、逃げようとしたのだが、捕まってしまった。

 あれは超スピードとか催眠術とか、そんなチャチなもんじゃなかった。いつの間にか捕まって、イスに座らされていた。しかも目の前のテーブルには、飲み物とお菓子も置かれていた。

 人間、追い詰められたら、ここまで限界を超えられるんだという、恐ろしいものを味わったぜ…!

 

「あ、あ~…。うん。俺の支配するサザンクロスへ、よく来たな。歓迎しよう」

 

 色んな意味で戦慄が走りっぱなしで、リアクションに困っていた俺に、シンは取り繕ったようにそう言った。

 どうやら、先程の衝撃的なシーンは、無かった事にしたいらしい。ですよね。

 

 床に座り込んで、胴体の部分をかかえこみ、サンドペーパーで丁寧に削りながら「こうか? いや、違うな。ユリアの腰のクビレは、もっと…」とか言ってる所に出くわしちゃったからなあ。

 

 うん。俺なら、そんな所を見られたら、相手を消すな。そんなヤツは、生かしちゃおけないわ。

 

 ……あれ? 俺、今、ピンチ? こんな理由で!?

 

「ん? どうした? 紅茶は苦手だったか?」

 

 いかん。怪しんでおられる。

 

 今は弱みを握られたと思って、動揺しているからいいが、冷静になったらヤバい。

 シンは初期ケンシロウを倒して、胸に七つの傷をつけた男。今の俺の北斗神拳のスキルレベル2では、おそらく勝負にすらならん。絶対に勝てない。

 ここは話を合わせて、撤退せねば。

 

「いやあ。こんな上品な物は、飲むのが久しぶりでして。つい、緊張してしまいました」

「ははは。なんだそうだったか。気にするな」

 

 おっ。シンの雰囲気が柔らかくなったぞ。これはイケるか…?

 

それがお前の末期の水だからな。遠慮するな。ゆっくりと味わえ

 

 はい、ダメだったぁー!

 

 いかん。よく見たら、シンの目がグルグルしている。

 コイツ、まだ衝撃から立ち直ってないわ。混乱してるわ。

 パニクったまま、とにかく行動せねばと、動いてるだけだわ。

 

 ならば仕方が無い。目には目を。歯には歯を。脅迫には脅迫で対抗してやるぜ! ヒャッハー!

 

「いいのか? 俺の配下は100人いる。そして今、あのラオウも用心棒として食客をしている…… 俺が帰らなかったら、このサザンクロスはどうなるかな?」

「なんだと?」

 

 マユがピクリと反応した。

 よし。少しは効いたな。ならば、たたみ掛ける。

 

「それに俺も、少しは拳法をカジった男よ。死ぬ前に、何かを叫ぶくらいは出来ると思うぜぇ~」

「キサマァ……」

 

 正直、精神的にも余裕は無い。だがニヤリと笑ってみせた。

 そして冷めかけている紅茶をすする、菓子をほうばる。

 死にたくはない。だからこそ危険なまでに余裕を見せろ。ハッタリに命を懸けろ、俺。

 

 しばし、俺の菓子を食べ、紅茶を飲む音だけが部屋に響いた。

 

「…………何が、望みだ」

 

 俺が菓子を半分食べたところで、シンが折れた。

 よし。勝ったな。

 

「知識だ。さっきも言ったが、配下が100人いてな。食わせていくのも、住み処を用意するのも大変なのさ。是非、先輩に教えを乞いたいほどに」

 

 シンが、そういえば、そうだったな。みたいな顔をした。

 このあたりは、事前に手紙で伝えてあったのだ。今日の面会も、きちんとアポを事前に入れてあったのだ。

 

 フィギュア造りに熱中しすぎて時間を忘れていたっぽい、目の前のバカのせいでヒドい事になったがな。

 

「そうだな。ふむ。……よし、こうしよう。条件がある」

 

 少し考え込んだ後に、シンがそう口にしたのだが。イヤな予感しかしなかった。

 

 

 

 そして、冒頭に戻る。

 

 

 

 そういう経緯を経ての、超リアルタイプフィギュア、1分の1ユリア作製である。

 

 うん。わかんないと思うんで、もう少し説明しよう。

 シンは弱みをそのままにしておきたくなかった。だが俺を消すのは、面倒そうだ。

 そこでヤツは、発想を転換した。

 俺にも弱みを作ってしまえばいい。それも、フィギュアの件をバラした時に、俺にもダメージが行くように出来れば最高だ。

 

 つまり。俺にユリアちゃんを作らせる手伝いをさせれば、俺がシンのこの秘密の趣味をバラしたとしても、だ。

 

「シンはお人形遊び(意味深)が大好きです!」

「そこのモヒカンも製作に手を貸してくれたぞ」

 

 こんな感じで、連鎖爆発を狙えるわけだな。

 

 うん。シンってバカなんだな。逆に頭いいのかもしれないけど、間違いなくバカだわ。

 

 ああ、北斗神拳のスキルのおかげで、人体の構造が分かっているのが役立つのがとてもイヤだ。

 調理技術の恩恵のおかげか、細かい作業が器用にこなせるのも、イヤだ。

 

 [P:1→0 デク作製:1 を習得しますか?(Y/N)]

 

 そんなスキルが存在するという事実も、イヤだ。

 もうヤダこの世界。

 

 なお、当たり前だがデク作製スキルは習得しなかった。

 ポイントも少ないのに、こんなニッチなスキルが取っていられるかというハナシだ。

 

 最初にモヒカンを轢き逃げアタックで倒した時、ポイントが入ったのだが、あれはチュートルアルの中でのサービスのようなものであったらしい。

 あれ以降、モヒカンを轢き殺してもポイントは入っていない。

 

 いや、待てよ。別の殺し方をすれば、ポイントが入るかもしれないのか?

 あるいは、だ。モヒカンではない、別の種類の敵キャラを殺せば、ポイントゲットがワンチャンありえるか?

 

 よし、今度試してみよう。

 

 と言っても、荒野でモヒカン以外の敵キャラには、ラオウとかのネームドは除いて会った事が無いけどな。

 まっさか、村人とかを狩るわけにもいかんしなあ。

 いや、でも、しかし……

 いやいや、いかんだろ。うん。

 でも村人でも、色々いると思うしなあ。中には、殺っちゃってもセーフなヤツとか居たりして。

 

 よし、今度試してみよう。

 

 ゲームだしな。取説も攻略サイトも無い以上は、色々やってみないと、知らない間に詰んだりしそうだからなあ。

 まあ、世紀末世界だし。弱肉強食なのはしゃーない。

 今回の俺も、ラオウを仲間にしてなかったら、普通に消されてたっぽい。理不尽に抗うには、力が要る。

 そして力を手に入れるのは、ポイントが要る。北斗神拳:3のためには6ポイントも要る。

 調理技術も上げたいし、バイク取り扱いも上げたい。というか、どのスキルも3までは上げておきたい。

 

 ほら。スキルって3まで育てて、一人前って感じじゃん?

 

 1で、何も出来ない素人と違う、しかし駆け出しのレベル。中盤以降だと、持っていたら便利というスキルは1レベルで抑えておくのもアリ。

 2は、駆け出しのメインスキルのレベルという感じか。2に上げても、1レベルとレベル無しの差ほどには成長した感じがしない、ガッカリ感がある。

 3で、明らかに段階が変わったような効果や内容が追加されて、一人前になったような気分が味わえる。

 

 ゲーム脳というか、そんな記憶というか。ともあれ、そんなニュアンスが脳内のどこかに残っているんだ。

 それに、だいたい合ってる気はする。

 

 シンに会いに来たのは、知識目当てでもあるが、何かイベントなり何なりでのトロフィーでのポイント目当てでもあったんだよなあ。

 

 なぜか、ぜんぜん違う方向のイベントとブチ当たったがな。

 

 違うんだ。求めていた方向は、こうじゃないんだ。レアではありそうだけど、これじゃないんだ。

 しかも、レアだってのに、トロフィーとかは出ないでやんの。

 まあ、あんなんで出られてもイヤだからいいけどさあ。

 

 はぁ~……

 

 安西先生…… マトモなイベントが欲しいです……

 

 

 



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君主論 世紀末編

 気付けば、俺は激怒していた。必ず、かの邪知暴虐なKINGことシンを倒さねばならぬと決意した。

 俺には世紀末の政治は分からぬ。

 わけもわからず荒野に放り出され、スキルを手に入れ、それを磨き、それを頼りに生きてきた。

 ただ種モミ、もとい、モヒカン的なヒャッハー行為には、人一倍に敏感であった。

 

 ここサザンクロスには、この世紀末を群れで生きる方法を学びに来た。

 それで実地で見て回った結果が、だ。

 

 少年の頭に空き缶を乗っけて、その父親に空き缶を的にして弓で射らせる、ウィリアム・テルごっこをしていたバカがいた。

 シンの部下の、ダイヤだった。

 

 自分にとってか、それとも村人や奴隷たちへのものか。どちらにとってかは分からんが、修行だと言って一方的に攻撃して、虐殺していたカギ爪使いのバカがいた。

 やはりシンの部下の、クラブだった。

 

 村長をシバいて、種モミを奪うヤツがいた。やはりシンの部下のスペードだったが、種モミなので、俺が横から奪った。

 種モミならば、仕方が無い。配下のモヒカンたちも納得である。

 なぜか金塊やら宝石、食糧や水や武器や女なんぞよりも、モヒカンにとっては魅惑のシロモノなのだ。

 以前にも一度やっちゃったことがあるしな。モヒカンが種モミを奪おうとするのは、きっと世界の掟というか、お約束なのだろう。

 

 何でか、ポイントも入ったしな。

 

 [P:5→11 トロフィー(金):種モミを横取りする を達成しました!]

 

 何でか、レアリティが金だった。確かに、レアなシチュだとは思うけどよ。

 それ以外でポイントが上がっているのは、ダイヤとクラブを倒した経験値だな。

 配下のモヒカンたちにバイクで轢かせて、倒れたところに俺がトドメを刺す。このコンボが実に有効だった。

 

 仕方が無いんだ。

 

 まだ俺の北斗神拳は2段階目。疲労回復と健康増進、滋養強壮くらいしかできないので、仮にも幹部クラスとのまともな戦闘は避けたいんだよ。

 養命酒みたいな効果だと思うだろ? だがこれがバカに出来ないんだわ。

 さすがは北斗神拳というか、ロクに運動もしなくともツボの刺激と呼吸法だけで、病弱なトキでさえもムッキムキになれるくらいの効果が出るんだよ。

 

 オカしいだろうとは思うが、そもそもだ。どう考えてもこの世紀末は、筋肉を付けるにはカロリーも栄養も足りていない。

 それがそこらのモヒカンはおろか、ただの村人でさえ腹筋が割れていたりする。

 海賊王を目指す麦ワラの男がいる世界は、俗に空気にプロテインが入っているとまで言われているが、この北斗世界もそうなのかもしれない。

 

 核の落ちた結果の遺伝子異常とかは、怖いので考えないこととする。いいね?

 

 

 

 ともあれ、だ。ダイヤとクラブは、一人2ポイントの経験値として、俺の糧になってくれた。

 スペード? スペードなら俺の隣でバイクに乗ってるよ。

 種モミに反応してしまうのは、モヒカンのサガ。仕方が無い。他の二人のような外道とは、ワケが違う。

 それに倒した結果、モヒカンリーダー:2で従えられてしまったので、始末するのがもったいなかったというのもある。それでポイントも入ったことだしな。

 

 [P:11→13 トロフィー(銅):ネームドモヒカンを仲間にする を達成しました]

 

 別にスペードでなくとも良かったらしいが、まあ、それはどうでもいい。

 これからは我らがチーム、烈怒・乱舞羅亜の幹部としての活躍をお祈りしよう。

 

 さて。

 

 ノリで、外道行為をしていたシンのKING軍の幹部を殺ってしまったが、それはいい。最悪、カレーの件で知り合ったサウザーにでも、取り成してくれと泣きつけばいい。

 

 問題なのは、だ。統治するべき人材に、あんな奴らを使っているシンだ。

 この何もかもが足りない世紀末なご時勢に、奴隷とはいえ、労働力を何の意味も無く減らすようなバカを、何で統治者にしているのか。

 人類、詰んでるかもしれないんだぞ。男女比とか、子供の数とか的に考えて。

 それを加速する方向で統治してどうする。

 そこもムカつくし、意味なく他人を傷つけて笑ってるのが、単純に腹立つわ。

 

 溜まったポイントで、北斗神拳とバイク取り扱いを3に上げた。残りポイントは5だ。

 バイクは、そろそろガソリンの残量がヤバかったので、そこらをスキルで何とかできないかと期待しての選択だったが、当たったようだ。

 1で操縦方法と簡単な整備、2で操縦、修理技術の向上と、バイクの召喚が出来るようになっていたが、ガソリンは最初から減る一方だったんだ。

 

 ああ。召喚だ。そうとしか言いようが無い。

 

 別に空間が割れてとか、光る丸い円が現れてその中からとか、そういうのはない。

 後ろの方から、つまり視界の外から、ひとりでに走って来て、横で止まるだけだ。最初に呼んだ時。正直、少しビビった。

 

 北斗神拳も、ようやく秘孔が覚えられた。視神経や聴覚、平衡感覚や遠近感など、様々な感覚を狂わせるデバフがかけられるようになったぞ。

 

 うん。コレジャナイ。それはそれでスゴいけども、コレジャナイんだ。求めていたのは違うんだ。

 一撃必殺のはずなのに、百発殴らなければいけない百裂拳とか、その場に止まって拳を繰り出すだけなので、速かろうがあまり連打の意味が無い羅漢撃とか、そういうので良かったんだよ。

 欲しかったのは、戦闘力なんだよ。攻撃力とかそういうのが欲しかったんだ。

 

 くっそ、仕方が無い。アテが外れたんで、残りポイントをつぎ込んで、調理技術を上げるか。

 

 [P:5→2 調理技術:3を習得しました]

 

 んじゃ解説:3で内容をチェックだ。調理技術は、謎の優遇をされているからな。今度は何が出て来るやら。

 ほう。鶏肉全般と醤油とビールとな。

 これは、アレだな? 焼き鳥を作れと、そういうことだな?

 

 よし。なにはともあれ、ビールが手に入ったなら、やることは一つだ。

 

「ヒャッハー! おビール様のお通りだー!!」

 

 宴会である。一心不乱の飲み会だ。

 

 いや、違うんだ。聞いてくれ。別に、理不尽な統治に憤っていたのを忘れたわけじゃないんだ。

 

 ほら、ね? 北斗神拳:3でもシンに太刀打ちできそうになかったし、ね?

 モヒカンたちの連続轢き逃げアタックも、シンならスッパスッパバイクを斬ったり、跳んで避けて蹴りで反撃してきそうでね?

 用心棒のラオウ先生にご出馬いただく他は、なさそうでね?

 

 でもさあ。アイツ、マジメに働いてくれそうにないじゃん。

 

 だから宴会で忠誠度だか友好度を上げて、お願いを聞いてもらおうっていう、そういう作戦なんだよ。

 

 決して、久々のビールを、それも飲み放題になったのを喜んでいるのではない。

 ないんだよ。イイネ?

 

 

 

 なお。そうやってラオウの暴力を背景に詰め寄ったシンには、逆ギレされた。

 

「アレでさえマシな方なのだ! この暴力の支配する世紀末の人材不足をナメるなよ!」

「えっ、マシなの? アレが?」

 

 どう考えても、最悪だったんですが。

 

「ヤツらは、住人を減らした分を他所から浚うなり、買うなりして補充するだけのバランス感覚はあった」

 

 イヤイヤイヤイヤ。そもそも減らすなよ。まともに統治させろよ。

 ハート様とか、血を見さえしなければ、出来てるじゃん。

 

「まともに統治するようなヤツは、大体が力が無い。そうであれば、遅かれ早かれ、村は野盗に襲われて全滅だ」

 

 それなら野盗狩りの部隊と、統治する文官を分けて運用……しても、部隊が勝手に村を襲撃して遊ぶのか……

 野盗を全滅させるのは、ムリか。あいつら、無限にポップしてくるザコキャラだもんな。

 

 ふむ。力がなければ生き残れない。しかし力があるヤツは、モヒカンでありヒャッハーする。

 モヒカン系に村を任せるしかないが、任せても圧政ですらない、暴力的なナニかのせいで村は衰退する、と。

 

 …………詰んでね?

 

「だから言っただろう。アレでもマシだと。村を衰退させないだけでも、マシだったのだ」

 

 シンがその濃い目ながらも、整った顔を歪めて吐き捨てた。

 さすがは愛に殉じる、殉星の宿命を持つ男。ああいうヒャッハーな行為は、趣味ではなかったようだ。

 

 うん? ということは……

 

 あっ、そっか。こいつ、モヒカンスキル、持ってないのか。

 だから部下のモヒカンが統制されてなくて、ヒャッハーな行為を控えないで本能全開なのか。

 

 ならば、俺が幹部になって押さえ込めたら、イケる、か?

 上がった北斗神拳で、移動中に遭遇した野良モヒカンを撲殺したら、1ポイント入った。あと3ポイントあれば、モヒカンリーダーが3に上げられる。

 1で10人、2で100人のモヒカンを統率できるようになったんだ。3で500だか1000人いけるようになるだろう。

 

「ゴメンよ。お前さんも苦労してたんだなあ……」

 

 シンにビールのなみなみと入ったジョッキを渡す。

 どこから出した、と問いもせずに、シンはそれを無言で受け取って一気に飲み干す。

 ゴッゴッゴ、とノドが鳴り、ビールがノド奥へと流し込まれて消えていく。

 

「おかわり」

 

 ずいっと突き出されたジョッキに、俺は何も言わずにビールを満たした。

 

「……」

 

 無言で手を出すラオウにも、大ジョッキを出してやった。

 ものはついでと、俺も飲み始めた。

 

 そして無言で繰り返される、一気とおかわり。

 奇妙なつながりと、理解と共感があった。友情のような、なにかがあった。

 

 そろそろ酔いが回ってきたか。そういった頃に、自然と言葉が口から出た。

 

「手伝ってやるよ」

 

 シンも、自然と返してくれた。

 

「頼めるか?」

 

 なぜかラオウが答えた。

 

「我にもユリアフィギュアを寄越せば―――」

 

 ――北斗神拳 定神(ていしん)!――

 

 説明しよう! 北斗神拳 定神とは! 相手の意識を奪い、眠りに付かせる秘孔である! 正気を失った相手を落ち着かせる効果も期待できるぞ!

 

 

「どうやら、酔いつぶれたようだな」

 

 その巨体をゆっくりと倒し、眠りに付くラオウを確認しながらそう言った。

 何やら、聞き捨てならないことを言わなかったか? と言いたげなシンを、視線で抑えながらそう言った。

 

 いやあ。先だっての宴会でさあ。うっかり酒のサカナに、話しちゃったんだよね。

 

 シンの、例の秘密の趣味(笑)を。

 

 バカウケだった。

 酔いが醒めてから、口止めはしておいたけど、あいつらモヒカンだしなあ。どこまで守られるかなあ。

 

 うん。まあ。なんだ。

 協力はするから、その辺はあきらめてくれ、フィギュアKING。

 

 

 



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テンションを無理にでも上げなきゃやっていけない時もある

北斗の拳を扱った作品が、このサイトで60件しかないという事実。
しかもその半数はちょっとネタだけ採用という扱い。
意外と北斗はマイナーなのか、それとも二次創作に向かないのか。
このSSに需要はあるのか。今更疑問を感じたり、感じなかったり。
なおイチゴ味だと12件ともっと減る。


 気付けば、俺はモヒカンリーダー:3になり、ポイントには借金が出来ていた。

 そういえば、ポイントは借金できたんだよな。

 ほら、以前モヒカンが自動的に上がった時の事アレよ。アレ。

 そう気付いたんで、モヒカン狩りと洒落込んだわけだ。

 

 すっげえ、楽しかった。

 

 バイク取り扱い:3の恩恵で、満タンまでガソリンを補給できるようになった。

 こう、燃料口をトントンッとつつくと、なぜかそれで満タンになる。

 理解は出来ないが、そういうものだと無理やり納得して、残りの燃料の心配がなくなったバイクを集団でかっ飛ばす。

 そして見つけたモヒカンを、片っ端からシバく。

 

「今日からお前らは、俺の手下だ。OK?」

 

 シバいたあとは、勧誘だ。

 ここでオッケーを出さないモヒカンは、いなかった。

 

「そんじゃあ、新しい出会いに乾杯だー! ヒャッハー!」

 

 勧誘したら、ビールで乾杯だ。ジョッキやら缶やらまで出せるあたり、調理技術は相変わらず優遇されてるよな。

 まあ、助かるからいいんだが。

 なお、ジョッキも缶も使いまわせるが、資源にはならない。

 ジョッキは一部でも砕いたり、ひび割れると消えてしまうし、缶は握りつぶすだけでも消える。

 実にエコではある。缶はアルミが手に入るかと期待したんだが、そこまでは甘くないようだ。

 

 冷静に考えると、消えるって何だよ。とツッコみたくなるが。そもそも何もない所から出現させているわけだし、そこは考えない事にする。

 

 乾杯するのは、取り合えずの忠誠度上げのためだ。

 俺の配下のキャパは今のところ100人で、それはもう一杯。それを越えて500人だか1000人だかを目指すわけだが。普通にやったら、絶対に途中で破綻する。

 だって、集める人材はモヒカンだぞ?

 途中で飽きて勝手に離れて行ったり、種モミや村を見つけてヒャッハーしたり、人数が多くなった事に気を大きくしてヒャッハーしたり、俺を倒せばこの大きくなった群れのリーダーだとヒャッハーするだろう。

 間違いない。だってモヒカンってそういう生き物だからな。

 この世紀末でヤツらと集団生活をした経験が、そう教えてくれた。

 

 モヒカン:5で生えてきた配下のモヒカンたちが、モヒカンリーダースキルがないとちゃんと言う事を聞かないとか、正直ワナだと思うんだ。

 

 スキルの影響下にないモヒカンがどういうものなのか学んでおけ、という一種のチュートリアルなのかもしれないが、それならそうと言ってくれ。

 もしもヤツらが勝手にヒャッハーした結果、ケンシロウでも引っ掛けてしまっていたら、ゲームオーバーだぞ。

 

 実は今も、そうなる可能性はある。だって、ほとんどのモヒカンは俺のスキルの影響下にないからな。

 だが無策というわけでもない。少しだけだが、工夫はした。

 簡単なハナシだ。統率している100人のモヒカン。ヤツらのひとりひとりを小隊長として、それぞれに10人までの野良モヒカンの面倒を見させる事にしたのだ。

 正直、モヒカンに10人の面倒を見ろというのはムチャなんだが、そこは仕方が無い。これが限界なんだ。

 

 ラオウも使うという案もあったが、アイツに任せると、独立してヒャッハーしそうだからという理由でボツに。

 本人も、また弟が来てシバかれるのはイヤだからと辞退した。今はサザンクロスで、シンにフィギュア作りを1から教わっているはずだ。

 

 これは、結局ラオウにもフィギュアの件がバレていたのを察したシンの、口封じの一手。

 同じフィギュア仲間にしてしまえば、ラオウの口からは広まる事はないと踏んだのだ。

 戦って、勝っても負けても大事だし、リスクが高い。それを回避しつつ目的は達成する、妙手だと思う。

 

 配下のモヒカンたちにも、俺がバラしてしまっているので意味が無いという点に目を瞑ればな!

 

 KINGの秘密の趣味として、世紀末社会にウワサが流れるのは不可避じゃないかな。

 それはそれでユカイだからいいんだが。

 ただなあ…… ウワサが流れた結果さあ。

 

 ジュウザとかトキとかが、フィギュア欲しさにやって来そうで怖い。

 

 別に来たからって、何がどうなるわけでもないんだが、なんかイヤだ。

 

 シンが実はユリアよりケンシロウ萌えだったという事実くらいイヤだわ。

 

 ああ、これ、マジだから。というか、ガチだから。

 

 あの気合の入った出来の、1分の1超リアルフィギュアユリアちゃんすらも、カモフラージュだったよ。

 本命は、1分の1ハイパーリアルフィギュアケンシロウだったわ。

 

 うん。ちょっと訂正する。

 

 こっちの事実の方が、やっぱはるかにイヤだわ。

 

 仮にも上司にと、選んだ人が、ホモでした。

 

 発覚したのは、例によって作製現場に遭遇してしまったからだ。

 さいわいにも。本気でさいわいにも、北斗神拳を3に上げていたおかげか、シンがこちらに気が付く前に離脱できた。

 ありがとう北斗神拳。暗殺拳という設定に助けられたぜ。本当にありがとうっ…!

 

 なお、こちらの件はさすがに誰にも言っていない。シャレにならなすぎるからな。

 

「はぁ~……」

 

 ため息が重いぜ。ああ、このまま逃げちゃおうかなあ。そんな考えも浮かぶが、他に行く所もやる事も無いんだよなあ。

 しゃあない。このやるせない思いは、野良モヒカンどもにブツけるとしようか。

 テンション上げていくぜ! ヒャッハー!

 

 

 

 そうして世紀末の荒野を駆け巡り、その先で俺はレアキャラに出会い、敗北を味わった。

 はぐれメタルでも見つけた思いで挑んだんだが、ヤツは予想以上に強かった。

 かの南斗の盟主、聖帝サウザーに土を付けた事もある男なので、こちらに油断は無かったのだが。

 ぜひとも仲間にしたかったのだが、敗れてしまった以上は仕方が無い。一旦、あきらめるとしよう。

 

 しかし強かったなあ………… ターバンのガキは。

 

 原作で、サウザーの足にナイフを突き刺した名も無き少年。

 そしてイチゴ味では、機械のように正確に何度でも同じ場所をナイフで刺して「キサマ一体何者だー!」とサウザーに言わしめた天才。

 近付けた覚えすらないのに、気付けば刺されてるんだよな。マジでナニモンだあいつは。

 

 ワビにと、鶏モモ肉3キロを渡したら、満足げに消えたが。

 なんかの悪霊じゃねえだろうな。

 次に遭遇したら、塩でも撒いてみるとしよう。効いたら効いたで怖いが。

 

 さて、北斗神拳で痛みを抑えて、治癒速度を上げて、と。

 モヒカン狩り再開と行こうか! ヒャッハー!

 

 

 



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I can fly !

 気付けば、俺は空を飛んでいた。それも、生身でだ。

 頬に当たる風が、気持ちがいい。そして見下ろす大地が、やけに広く感じる。

 

 やってみれば、意外といいもんだな。南斗人間砲弾

 

 うん。南斗人間砲弾だ。人間大砲として、芸人やらがたまにやっていたアレだな。

 たけ○のお笑いなんちゃらで、昔の歌手の人が飛ばされながら歌うという企画で肋骨だったかを骨折して以来、見かけなくなった気がする。

 アメリカだったかの家族サーカスの持ち芸でもあったらしいが、そっちはどうなったんだろうなあ。

 

 内容としては、簡単なものだ。大砲に、弾として人間を込めます。撃ちます。異常。もとい、以上。

 

 マジでこれだけなんだよなあ。普通の人間大砲なら、安全に着地できるように、飛距離やらを計算してクッションを配置したりするんだろうが……

 南斗人間砲弾は、撃ちっぱなしで、着地は自前で何とかしろというテキトーさだから。

 いや、上空から敵に襲いかかるというのが目的なんで、それをこなした上で着地も上手くキメろというあたり、実は高度な技だった可能性も?

 しかも集団でやってたもんなあ。味方にぶつからないように、標的がカブらないように、あるいはタイミングをズラして襲いかかれるように、発射のタイミングと角度、空中での体サバキで調節していたとするならば、間違いなく高度な技だ。

 

 一見バカにしか見えないのに、スゴイぞ南斗人間砲弾。一見バカにしか見えないけど!

 

 さて。

 

 今回、なぜ俺がこうして、南斗人間砲弾なんぞをやっているか。そろそろ話そうと思う。

 

 南斗聖拳の練習だ。

 

 うん。待ってくれ。言いたい事はワカるから。すっげーワカるから。

 なんでよりによって、南斗人間砲弾を選んだんだ? って言いたいんだろ?

 うん。聞いて驚け。これな? 南斗聖拳に共通する、基礎練習らしいぞ?

 

 いや、マジで。

 

 南斗聖拳の基本は、気による身体の硬化と、身体能力の強化によるジャンプらしい。

 拳法の基本は、一撃で相手を倒せる攻撃力を得る事。そしてそれを必ず当てる事。

 手足を固めて切れ味を持たせることで、あのジャギですら石像を音も無く貫通させられるようになる攻撃力を。

 人が慣れていない、上空からの攻撃を繰り出す事で命中率の向上を。それぞれ達成しているわけだ。

 

 そして南斗人間砲弾は、爆発に耐える事で硬化を、ジャンプする感覚と空中での身のこなし方を、と一度に両方学べるいい練習なんだそうな。

 

 いや、マジで。

 

 少なくとも、シンはそう言っている。

 

 まあ、確かに。南斗の拳は、サウザーの鳳凰拳を筆頭に、シンの孤鷲拳、レイの水鳥拳、シュウの白鷺拳、ユダの紅鶴拳の幹部クラス、南斗六星の拳法全てに鳥の名前が入っている。

 空中戦が本領だというのも、その練習に実際にやってみろというのも、わからんではない。

 

 あれ? だとすると、だ。

 六星の面々も、かつては大砲で空を飛んでたの?

 

 うわあ。どう考えても、見た目がすっげーバカっぽいんですけど。

 その点はどうなの。正直なとこ。

 

「大砲は、自力で跳ぶことが出来ぬ初心者用。言うなれば、自転車の補助輪よ。格好が悪いと思うのならば、早く跳べる様になるのだな」

 

 ストレートにシンに尋ねたところ。そんなどこか年寄りくさい答えが返ってきた。

 お前さん、絶対それ師匠に言われた言葉だろ。

 悪いか? って、いやいや、悪くは無いよ。お師匠さんの言葉を弟子が受け継いでるのって、なんかいいじゃん。

 育ててもらって、鍛えてもらった育ての親でもある師匠を、自分が強くなったら用済みとばかりに殺しにかかる。そんなとんでもない弟子もいると思うと、立派なもんさ。

 

「そんなヤツがいるのか?」

 

 シンは顔をしかめて、聞き返してきた。

 意外と情に厚い男なので、気に食わなかったらしい。

 

 誰かと聞かれたら、ほら、いるじゃん。

 こないだ、カレーを食べに来たサウザー―――

 

「おのれアヤツめ、そこまで外道だったか!」

 

 えっ、ちょっ、まっ。

 あーー…… 走ってっちゃったよ。どこ行くんだろう。

 サウザー―――とケンカして、引き分けたことにスネて、あの大きな身体で体育座りしたり、不貞寝したり自棄酒して二日酔いに苦しんでるラオウだよって、言い終わる前に反応するんだもんなあ。

 

 妙にシンの正義感が強くなってた気がするけども、何かあったんだろうか?

 俺らのチームが統治するようになって、アッセイ! ヒャッハー! 状態から脱した村から「KINGさまありがとう」という子供の感謝のお便りが来てたせいか?

 それとも、ケンシロウが近くに来てるらしいので、テンション上がっちゃってるのか?

 

 まあ、何にせよ、アレだ。

 サウザーも、師匠殺しをやっちゃってる部分は合ってるし、シンが最後まで話を聞かなかったのが悪い。

 だから、俺の責任はあんまり無い。

 南斗も北斗も、身内の争いでグダグダやってるのはいつもの事だし。

 だから、まあ。気にしないで、もうひとっ飛びするとしようか。

 

 ヒャッハー! 行くぜ、南斗人間砲弾!

 

 

 



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大概の問題は、酒をいっぱい飲んで酔っ払ってる間だけは解決するものだ。

二次創作の古参の時守 暦氏の 狩りゲー世界転生輪 の前書きでダイマされててビビった。まさか逆に前書きダイマされようとは、かなり海のリハクった。
平均8,738文字が362話という、こち亀かゴルゴ並みに読み始めるのに気合いがいるボリュームですが、面白いから。これだけで長期の休みツブせるくらい面白いから。
ただし進むにつれてエロが多目になっていくので、それがダメな方はごめんなさい。
固定された3つのゲーム世界で、それぞれのシステムに則った力を身につけつつ、死んだら次の世界のスタート地点から人生開始という変則ループ。
たまに他の世界に飛んだりも。そうして主人公は、やがて彼だけの力を手に入れる。ただしそれはエロ方面に特化した力だった…


 気付けば、ポイントが足りなかった。

 前回から南斗聖拳の修行をしていたが、覚えられないなと思っていたんだが、それが原因だった。

 どうやらポイントがマイナス状態だと、新規スキルは覚えられないし、スキルのレベルも上がらないらしい。

 マイナスに突入は出来るが、そこから更に借金は出来ない、ということか。

 まあ、そうでもなければポイントなんて気にしないで、色々行動してスキル覚えようとするから、妥当ではあるわな。

 

 ゲームとして考えたら、だけどな。

 

 もうスッカリ馴染んでるけど、今の俺の状況って大概オカしいからな?

 気付けば世紀末にいて、モヒカンで、別の作品のキャラもいて、ポイント制のスキル制なゲームシステムで生かされてて、職業はKING軍の幹部です。

 

 なんぞ、これ。

 

 最近さあ。気付いたらさあ。ヒャッハーって叫ぶのに、違和感がなくなってたんだぜ……?

 

 ……うん。よし。飲もう。

 考えても、どうにもならんのだけは確かだ。どうにかするには、世界をどうにかするとか、生まれ変わるとか、そういうワケわからん方法でもなきゃムリだ。

 飲んで叫んで、テンション上げて乗り切ろう。

 勢いだけでもつけて行こう。カラ元気出して行こう。声出して行こう。

 

 ぐびり、ぐびりとノドをビールが通っていく。

 冷蔵庫じゃなく、冷凍庫で冷やして、凍る寸前を見切って取り出したようにキンキンに冷えている。

 その冷たさがノドを通り抜け、胃にまで流れていく快感。

 

 恵まれスキル、調理技術で出すスパイスが種類豊富なように、ビールも色々な種類が出せるのでは?

 そう思って実験してみた結果、俺が覚えている限りのビールは出せた。

 生前の記憶はサッパリだが、どうやら知識は残っているらしい。それもキッカケがないと、どんな知識を持っているのかは自分でもわからんが。

 

 今回チョイスしたのは、ドイツの黒ビール、デュンケル。ドイツ語風にドゥンケルスとバーで気取って言うと、たぶん通じないで恥をかくぞ。

 ビールは香りの良い軽いタイプの多い上面発酵と、キレが良く低温で保存すると品質が向上する下面発酵のものがある。

 保存、流通の都合で現在では下面が主流だな。ちなみにラガービールとも言うぞ。上面発酵はエールな。

 このデュンケルも、下面発酵だ。麦芽をローストして出来た黒ビールで、ローストした恩恵である甘みとコクが、苦味を適度に抑えてくれている。

 こうしてグイグイ飲めるのも、そのおかげだ。正直、飲みやすい。

 

「ヒャッハーーー!!」「「「「ヒャッハー!!」」」」

 

 気付けば、後ろで幹部連が飲んでいた。

 種モミ強盗スペードと、用心棒の先生ラオウに、トップのシンと、今回初登場のハート様だ。

 

 シン。お前、ヒャッハーって言えるくらいには打ち解けてくれたんだな……

 

 調理技術スキルの恩恵でビール飲み放題なのをいいことに、連日宴会やって友好度を上げた甲斐があった。

 孤鷲拳の使い手だからって、ボッチになってたシンが、あんなに皆と仲良く肩を組んで……

 

 よーし。パパ取って置きを出しちゃうぞー。

 

 上面発酵のベルギービール、ヒューガルデン ホワイトとロゼ。オレンジピールとコリアンダーシードの爽やかな苦味と、優しい酸味。スッキリとした香り。泡立ちの良さと、弱めの炭酸。

 上品で飲みやすいこの味が、この荒くれどもに理解できるか不安なので、他のも出すぜ!

 

 同じくベルギーより、シメイ・ブルー。ビールなのに青? とか思ったけども、別に中身は青くなくてガッカリした思い出を思いだせたぜ。

 熱処理やろ過をしてない、瓶詰め直前に一緒に酵母を入れて、ビンの中で自然発酵させる、珍しいタイプのビール。あえて不安定な発酵にしてあって、一口ごとに味が変わるという、面白さを味わえるぜ。

 

 トドメにイギリスより、トラクエア・ハウスエール。メシはアレだが、飲むものに関してはクッソ有能と評判のイギリス人がガチで作ってるビールだ。10年経とうがおいしく飲めるというエールにあるまじき長寿。

 昔ながらの手作り製法で、木のタルで発酵、熟成するのでビールなのにウィスキーにも似た香りがする逸品。

 

 トラクエアは醸造所になってる古城の900年記念のヤツやら、古城で醸造開始から50年記念のもっと特別なのもある。あるんだが……

 俺が飲んだ事がないんで、知ってるだけだと出せないという、悲しい結果に。

 チクショウ。飲んでみたかったぜ。

 いや、待てよ。調理技術先生のスキルレベルを上げたら、ワンチャン……?

 

 え~っと、今ポイントいくつだっけ。

 

 2だったのが、モヒカンリーダー:3の6ポイントを引かれてマイナス4の、モヒカンの配下300人突破のトロフィー(銅)で2ポイントゲットでマイナス2か。

 

 [現在のポイントは P:-2 です。正解!]

 

 正解! じゃねーよ。お知らせするなら、もっと早く出ろよ。

 というか、お前こっち見てるよな? 絶対見てるよな? 誰なんだキサマは。

 

 まあいい。どうせ答えなんざくれねえんだろうから、捨て置く。

 

 いい加減ビール以外も飲みたいし、調理技術を上げねば。そのために、ポイントを稼がねば。

 これ以上のモヒカン狩りは面倒だし、ここはいっちょボスクラスに挑戦と行こうかね。

 

 心当たりは二つ。泰山と、カサンドラだ。

 

 泰山は、なんかこう、狼だかなんかをマネた拳法の使い手がモヒカン並みにワラワラいた気がする。

 カサンドラは、囚人だか捕虜の収容所で、強制労働をさせられているマッチョの群れと、あまり数がいない獄卒たちがいた。

 

 うん。カサンドラ行こう。なんで反乱が起きてないのか、マジでわからんし。ちょっと突つけば、大騒ぎになりそうだ。

 配下にしたモヒカンに、場所が分かるヤツもいる事だし。

 

 後ろで飲んでたヤツらも、酔っ払ってこっちの事なんぞ気にしてないし。

 

 俺は行くぜ、ヒャッハー!!

 

 

 

 で。

 

 

 

 いざ着いてみたら、トキがアミバ従えてカサンドラの王様やってるんですけど。

 

 えっ。なに? 今度は、一体、何があったの。

 

 

 



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悲劇の兄弟たち!

のんのんびり氏の えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか? を推してみる。
D×Dで、主人公は転生オリ主だが、天然。かなりの「良かれと思って」の使い手である。提案したり行動したりした結果、結果的にはいい方向へ進むけれど、関係者が引っ掻き回され疲れたり吹っ切れたりする中、本人も巻き込まれたり傍観したり。
主人公の能力は強化されていくんだけど、成果を出すのは、それと関係ない部分が多いという、ね。
なお、主人公は基本善意の人です。


 気付けば俺は、マッチョなマユなし兄弟のグチを延々と聞かされていた。

 カサンドラに着いたはいいが、門番に捕まってしまったのだ。

 それで当初は取り調べ、というか聞き取りというか。どこから来たのかとか、目的はとか聞かれていた―――

 

 ―――はずなのだが。

 

 ノドが乾いたのでビールを出して飲み、物欲しそうな顔をした門番たちに渡してしまったあたりから、空気というか様子がオカしくなっていったんだよな。

 

 門番たちの名前は、ライガとフウガというらしい。

 名前のコンセプトは雷神風神だろうか。体格も顔も似ているし、兄弟だろうと思って、そう聞いてみた。

 

 地雷だった。

 

「俺たち双子の父親の名はコウガ。俺たちに良く似た風体の、大きな身体に筋肉がよく付いた豪傑だ」

 

 弟のほうの、ライガが何やら語りだしたのだ。

 はあ、それで? と、軽い気持ちで聞き返した俺に、返ってきたのはヘビィー級のシロモノだった。

 

「そして長兄のシュウガ。これまた立派な体格の豪傑よ。そんな我らには、弟がいてな……我らの誰にも似ず、優男な見た目と、小さめの体格でな。それで名前がミツなのだ」

 

 あっ(察し)

 

 察しはしたが、続く言葉を止められなかった。

 だって何て言えばいいのか、わかんないだろ。こんなん急に振られてもさあ。

 

コウガ、シュウガ、フウガ、ライガと来て…… ミツ?」

「よせ、ライガ! それ以上考えるな!」

「まさか母者は……」

「よせと言っている!!」

 

 兄のフウガが止めるが、ライガの連想は止まらない。

 

 うん。まあ、なんだ。

 この時代に、DNA鑑定の技術はたぶん残ってないから、真相は闇の中だけどもさ。

 状況証拠的に、真っ黒だよな。これ。

 こういう時には、アレしかないよな。

 

「お前ら。何も言わずに、飲め」

 

 俺は、今の調理技術スキルのレベルで一度に出せるだけのビールを並べて、混乱する兄弟に差し出した。

 言い争っていた兄弟は、動きを止めて目線を合わせた。

 そして一つコクリと頷くと、同時にビールに手を出して、一気にあおった。

 

 自棄酒の始まりである。

 

 後は問題がどうでもよくなるまで飲ませて、それから「母親が同じなら、兄弟だろ」という妥協点を用意してやれば、そこそこ丸く収まるだろう。

 真相を突き止めて暴露しても、誰も幸せにならないという厄ネタだからなあ。

 

 以前もなんか、家庭板案件にブツかった記憶があるのだが。あの時も確か、女性の側の浮気が問題だったな。

 この世紀末。女性が少ないようなので、立場も強いのだろうか。

 それとも、複数の男に取り合いをされるのがよく有るので、チヤホヤされたり流されたりしている間に、自然とそうなるのだろうか。

 

 よし。深く考えても、闇しか出てこなさそうなので、ここで考えるのを止めよう。

 きっとそれが賢明だな。間違いない。

 

 さて、ついでだ。酔っ払ったフウガとライガから情報収集しようか。

 そもそもカサンドラについては、あんまり覚えてないからな。

 覚えているのは、ボスキャラくらい。

 兜の横の部分の角を外すと「お前それ、頭の中から出したの?」と思えるほど長くてたくさんのムチが引き出せる、たぶん名前はウィグル獄長? くらいだ。

 

 さて。まずは基本的なことを聞こうか。

 ここって、そもそもどういう所なの?

 

 えっ? ラオウの支配下だったの?

 

 奥義書を奪った後の拳法使いとか、裏切り者とか、敵集団の捕虜とかを放り込んでいた、と。

 それで日々、拷問とかやってたの? なんで? 趣味?

 

 いや、生かしとくのって食糧とかいるじゃん。物資も服とか布とかいるじゃん。

 なんでわざわざ生かしておくの? どうせ殺すなら、じわじわ拷問とかしなくても、スパッと殺ればいいじゃん。

 なのに、なんでそんな方法を?

 

「むう……」

「言われてみれば……」

 

 その発想は無かった。みたいな顔をする、酔っ払った門番ども。

 

「年中無休、二十四時間連続勤務で門番をやらされるという、超絶ブラック労働の中、物を考える余裕も無かったが」

「我らも、もっと考えるべきことが色々とあったようだな」

 

 なんかサラッとまた闇が出てきたんだが。

 えっ。交代要員いなかったの? 強いから大丈夫って言われて? だからいまだに独身? いやそこは聞いてない。

 

「だがトキ様がここを解放されてからは、変わった」

「ああ。あの方は、まさに聖者だ」

 

 うん? ちょっと待って。そこのところ、もう少しくわしく。

 

 ふんふん。

 

 元々、トキはここに収容されてたのね。自分のいた村を、村丸ごとを人質にされてラオウに捕まった、と。

 で、ラオウとしては、戦ったら負けるかもしれないし、唯一仲のいい弟なので、戦いたくなかったからトキをここに閉じ込めてたと。たぶん、殺したくも無かったんだろうね。

 カサンドラを維持させてた理由のひとつは、それかなー。

 

 それで?

 

 ケンシロウが来て、色々ぶっ飛ばして、トキを助けて去っていったと。

 去った後は、また元の木阿弥? お前らもう少しガンバレよ。

 ああ、もう泣くなうっとうしい。

 

 そんで?

 

 ああ、ラオウの敗北と拳王軍の解散が伝わって来ちゃったと。

 その混乱の中に、トキが弟子のアミバを連れてやって来て、かつてのケンシロウバリに色々ぶっ飛ばして、そのままこの地の改革に取り掛かったと。

 

 えっ、アミバ?

 アミバって、そんなキャラだっけ?

 南斗聖拳でも、才能は有るけど性格がダメだからって、奥義を一つも教えてもらえなかったヤツよ?

 トキの偽者やって、患者を人体実験の材料にしてたヤツよ?

 素直にトキの言う事には従ってた? 無口だが、善意で動く事が多い?

 

 誰、それ。

 

 見てみたいような、見たくも無いような。

 どうしようかなー。ここに来たのは、ポイント稼ぎでしかないんだよなあ。

 でもポイントは、道中で思いがけずに入っちゃったんだよなあ。

 

 [P:-2→0 トロフィー(銅):バイクで事故る を達成しました] 

 [P: 0→4 トロフィー(銀):飲酒運転で事故る を達成しました!]

 

 うん。ちょっと酔ってたせいで手元が狂ってね?

 まさか南斗人間砲弾の練習の受け身が、こんな形で役に立とうとは海のリハクでも見抜けなかっただろうさ。

 

 そしてポイントが4になった以上は、もちろんアレを習得している。

 

 [P:4→0 調理技術:4を習得しました!]

 

 出せるようになったのは、魚類と卵と酢と日本酒だ。

 魚類は淡水魚も海水魚も問わず。ただし貝類や甲殻類、軟体動物は含まない。つまりイカタコカニなどは含まない。

 だがそれでも、充分以上に恵まれてはいる。本マグロもサケもイワナも舌平目も。戻りカツオも眠りサバも城下カレイも時不知も。食べ放題! 食べ放題だ!

 これに酢も出せるようになったという事は、寿司か? と思ったのだが。

 

 米が、無い。

 

 オコメが、無いのだ。

 

 ふざけんなよ? マジでふざけんなよ?

 ここまでしておいて、米だけオアズケとか、お前、マジでふざけんなよ???

 加工品の日本酒がアリで米がナシってなんだよ、おい。

 食わせろや! 種モミで作ってみたけど、麦の酢飯って、なんか違うんだよ!

 

 卵は地味にうれしいけどさ。そろそろ主食下さいよ。日本人の魂的に、主食=米なんですよ。

 先祖代々、縄文あたりから何千年と食べ続けてきたんですよ。

 元々は熱帯の植物だったのに、亜寒帯の北海道でも育つまで魔改造するほど、愛してるんですよ。

 

 ただのモヒカンチームの時は、村人たちとの交渉でがんばらないと、手に入らなかったんだよ。

 シンの所に居ついて、多少は楽に手に入るようになったけどもさあ。

 まだ気楽に食べられる、主食ってほどじゃないんだよな。

 

 カンストか。やはりカンストさせないと、いけないのか。

 そうすると、あと5ポイント要るんだよなあ。

 あっ、南斗聖拳も入れると、7ポイントか。

 

 しゃあない。トキに会いに行くか。ラオウの現状とかも、伝えておいた方がいいだろうし。

 

 フウガ、ライガ。じゃあ、俺行くわ。ほどほどなとこで止めとけよ。

 お水(水とは言っていない)ここに置いておくからな。

 ラベルに上善如水って書いてあるけど、気にするなよ。じゃあ、またな。

 

 

 




●上善如水
じょうぜんみずのごとし。日本酒である。水の如しというだけあって、飲みやすくはある。スッキリとした味わいの、ヘンな安酒のような臭みのない上品な酒である。
割とお値段がお手ごろ。でも常温で日本酒が置いてある所は、劣化してるだろうから避けような。


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聖者の更新!(誤字にあらず)

 気付けば、俺はまたグチを聞かされていた。

 この世界、溜め込んでるヤツ多い…… 多くない?

 モヒカンだったらヒャッハーで解消できるんだけどなあ。マジメなヤツほど溜め込んじまうのかも知れねえなあ。

 

 まあ、とりあえずは黙って聞いてやるさ。

 取り合えず飲みなよ、トキさんよ。

 後ろでアミバがワタワタと、飲みすぎはお体に、みたいな態度してるけどよ。その辺はあとで秘孔治療で何とでもなるだろ。

 

 

 門番の部屋だか、取調べ室だかからの連絡でトキにアポを取った俺は、早々にトキに会う事ができた。

 ラオウの件で話がある、と言っておいたのが効いたんだろうな。

 手土産にと、養命酒を渡して会談に入った、んだが。

 

 ここにきて特に要求する事とか、話しておく事とかが無い事に気付いちゃったんだよな。

 

 いや、そもそもボスでも倒してポイント稼ぐかって事で来たんだけど、すでにトキが制覇済みですって事で、それはポシャっただろ?

 特に話しておく事も、思いつかないんだよなあ。

 まあ、口実に使ったラオウの話はするけども。

 ふむ。ついでに、ラオウを今後どう扱うかの、ヤツの進路相談でもしておくかね。家族とは言え、弟相手にするのはどうよ、と思わんでもないが。

 

 結果。なんかヘコまれた。

 

 まさかモヒカン相手にカツアゲ生活したあげくに、有力チーム(うちのチームの事だな)のヒモになっていようとは、予想外だったらしい。

 カイオウの事があるので、修行しているか、いっそ修羅の国に渡ったかの二択だと思っていたんだそうな。

 

 カイオウ。ああ、そういえば居たね。強いのか弱いのか、よくわかんない人だけど。

 むしろ同類と勝ち抜きの殺し合いして、百人勝ち抜いたという設定の、修羅の国版モヒカンである修羅たちの方が強キャラ感あったな。

 元斗皇拳のファルコという、わりと強キャラムーブしてた人が、修羅の国編入ってすぐに名前も無い修羅と相打ちで死ぬという、あの展開は衝撃だった。

 

 カイオウもなあ。無想転生破ったり、ラスボスだったりと強そうではあるんだけどもなあ。

 実は自分より強いものと戦った事が無いとか、ケンシロウが覚醒したら困ると策略練るとか、メンタル弱めでみみっちい部分もあるんだよなあ。

 

 なんか、どっかの手汗爆発ボーイみたいだな。

 

 そのカイオウは、何かをこじらせた結果、愛や情などいらぬ! と言い出して、悪と力こそ全て! とか言っちゃってるらしい。

 

 文字にすると、香ばしいな。

 

 しかもそれを国家運営の基本にしてるから、民に厳しいってレベルじゃねーんだそうな。

 情を排したくせに、効率とか数字で運営するんじゃなくて欲で運営してるから、そらもうヒドい事に。

 

 ダメじゃん。

 

 そんなカイオウを倒しに、いつかラオウがやって来る。そう修羅の国に救世主伝説が広がっていて、かの地の民は今でもラオウを待っているんだそうな。

 その救世主。今、ビール飲んでフィギュア作って、ニートやってるけどな。

 

 ダメじゃん。

 

 そらトキもヘコむわ。

 

 うん、まあ、こういう時はコレだよな。

 まあ、飲めよ。

 

 そう言って俺が差し出したのは、ソガペール・エ・フィス。長野県のワイン造ってるトコが、ワイン造り終わった後の時間を生かして、趣味で冬に少量だけ仕込む日本酒だ。

 趣味に関わった事で本気を出す日本人のサガが、いい面で出ている酒。出回る量が少ないので、入手困難なのが惜しい。

 年によって味が変わる、ワインのような面があるのは作り手がワイナリーなせいか。

 仕込む酵母が5、6、7、9号の組み合わせの(アン)(ドゥ)(トロワ)の3種類。

 俺は今回出した、(トロワ)が好みだった。ワインのように強めの甘みと酸味。ブランデーのように辛く、香り高く。後口は軽く、だが余韻はしっかりとある。

 

「ああ……」

 

 トキも気に入ってくれたようだ。一口飲んで、満足げにため息をついた後は、コクリ、コクリとゆっくりと、しかし止まらずに飲み続けている。

 ああ、カラ酒はいけないな。アミバ、なんかおつまみ。

 

 えっ、俺? みたいな顔をしたが、トキの方を見て、穏やかな顔で飲んでいるのを見ると、ため息をついて部屋を出て行った。

 本当に素直になってるな。パシらせといてなんだけど、なんか気持ち悪い。なにあの爽やかなアミバ。

 

 

 

 そしてツマミが届き、トキに酒が回ってきた頃からだ。

 その口から、溜めに溜め込んだグチが流れ始めたのは。

 

 まずは、ラオウの事。

 幼い頃、自分を常にかばってくれていたのは感謝しているが、自分以外にはただの乱暴者になっていったのはどうなのだと。

 核戦争後は、暴力はいいぞ。とばかりに腕力だけで軍を作って領土の統治は適当!

 南斗を相手にも、煮え切らない対応で、正直少しイラッとした事もあった。

 当時のケンシロウひとりでも何とかなったんだから、軍を従えたラオウならば、もっと早くに何とでもなっただろうに、何をやっていたのか。

 相手が死兆星が見えないからと、戦いを避けるとかどうなのだ。北斗の長兄ならば、自信を持って戦え。

 北斗神拳は無敵だと言っていたケンシロウを見習え。

 しかも今はニート!? 何をやっているんだ我が兄よ!

 

 などなど。

 普段は言えなかった文句やら、思うところがゴロゴロと転がり落ちてきた。

 ポロっとこぼれるってレベルじゃねーぞ。

 イメージとのギャップに、お、おぅ…… としかこちらが言えないので、グチも止まらない。

 

 カサンドラも、元は城塞都市だった。引きこもれるだけの、物資の生産も出来ていたはずなのだ。

 だが収容所にしたから、と全部破棄してあるとか、どういうことだ!

 あの獄長め! 痛みを知らず安らかに、などと気を使ってやるのではなかったわ!

 文官もほぼいないし、毎日私がどれだけ苦労をしていると……

 

 なんか、トキにあるまじき事まで言い出したぞ。

 うん。だいぶ酔ってるな。うん。

 そうでなくとも、そういうことにしておこう。

 もしくは、俺たちは何も聞かなかった。そういうことだ。

 部屋の隅で耳をふさいでいるアミバも、きっと納得してくれるだろう。

 だが、それでもまだトキのグチは止まらない。今度はケンシロウにまで、何かを言い出した。 

 

 ケンシロウについても、私がユリアを譲ったというのに、幸せに出来ていないではないか! しろよ!

 それと弟子がいないし、作る様子もないとかどうなのだ。伝承者とは、伝えるのも使命だぞ! しろよ!

 一子相伝だが、自分の子供に伝えようにも、ユリアが子供を生めそうにないから。などと考えているのではないか?

 一子相伝と言うが、ラオウと私も身に付けた以上、もうそこはいいだろう。ならば私が残すぞ! 私が伝え、残すのだ!

 

私こそが、北斗神拳伝承者だー!!

 

 [P0→6 トロフィー(金):トキを覚醒させる を達成しました!]

 

 いや、これ酔ってるだけだと思うんだけどよ。

 酔いが醒めても、覚えてるかなあ。

 

 ところでさあ。

 その後継者の候補って、まさかとは思うけどさあ。

 もしかしてそこでメッチャ困った顔してるアミバだったりする?

 

 

 



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北斗神拳のアップデートはお済みですか?

 気付けば俺は、アミバと一緒に右手の平を左右に激しく振っていた。

 

「いやいやいやいや」

 

 目の前には、トキ(絶好調で酔っ払い継続中)が白い気(?)を両手から放出して、その反動で宙に浮いている。

 それだけでもドン引きだというのに、そのままゆっくりとその場で回転して、気のビームで自分の周囲360度を薙ぎ払い始めたのだ。

 俺、これ見た事ある。でもそれは生身の人間じゃなくて、ロボが、というか翼の生えたガン○ムがやってたと思うんだ。

 

「見たか! アミバ! モヒカン! これが北斗ローリングバスターライフルだ!!」

 

 ローリングバスターライフルって言っちゃったよ。

 なんでも北斗って付けとけば許されると思うなよ?

 それは南斗がアニメでやらかして、原作者に怒られた事ですでに失敗した道だ。

 

 それと、どうだって言われても。その。正直、リアクションに困る。

 見ろよ、アミバなんかこの前からずっと困り顔のままだぞ? 誰得だよ。

 

「北斗神拳は人体の内部からの破壊を極意とする拳法だ……」

 

 お、なんか語りだしたぞ。

 一応聞いとけ、アミバ。ひょっとしたら、今のトキなら秘伝の一つや二つ、うっかりポロッと言ってくれるかも知れん。

 

「だが、学ぶ者は皆、一度はこう思う。普通に殴った方が早くないか、と」

 

 言っちゃったー!

 ヤ、ヤロウ…… 北斗神拳のタブー中のタブーに触れやがったぜ…!

 

「兄、ラオウも幼少の頃、不思議そうな顔でそう言っていた」

 

 ああ、あの人は言いそうですね。

 そもそも剛拳って、どう考えても、外部からの破壊の拳ですもんね。

 

「正直。戦いの中、それも実力が近かったり上の相手に、正確にピンポイントで経絡秘穴を突くのは厳しいものがある」

 

 お、おう。ぐいぐい来るなあ。

 大丈夫? あとで頭抱えない?

 面白いから、止めないけどもさ。このまま、行けるとこまで行ってくれ。

 

「百裂拳について、不思議に思ったことはないか? 一撃入れればいいのに、なぜ100回も殴るのか、と。あれはな。100回も殴れば、そのうち一回は秘孔が突けるだろうという、数撃てば当たるのを期待しての技なのだよ」

 

 いや、アンタもその百裂拳使ってたよね? 天翔百裂拳使ってたよね?

 

「60代以上続く継承者の中にも、あるいは開祖すらも、チマチマ秘孔を突くのが面倒になった者がいたのだろう。北斗神拳に、普段は眠っている70%の筋力を引き出す呼吸法やら、岩山両断破のような明らかな外部破壊技も多々ある事がそれを証明している」

 

 ふーむ。で、結局の所、何が言いたいんだろう? オチは?

 酔っ払いの話にそんなもんは無いだろ、と言われれば。まあ、その通りではあるんだが。

 で、どうなの。そのへん。

 

「うむ。私が伝承者となる以上は、そのあたりも変えていいのではないかと思ってな」

 

 なんかまた、とんでもない事を言い出したぞ。

 見ろ。アミバが困り顔から、メッチャ困った顔になってるじゃないか。

 

「秘孔は医療と補助のみ。狙えたら無論狙ってもいいが、基本は殴り合い。気による攻撃を奥義とする。それが私の考える、私の北斗神拳だ!」

 

 うわあ、脳筋くせー。こいつはラオウの影響のニオイがぷんぷんするぜー。

 というか、モロにラオウの戦闘スタイルじゃん。何だかんだ言って、お兄ちゃん大好きですね。

 柔の拳を極めたのに、実はラオウの使う豪の拳が使いたかったと原作で言ってましたもんね。

 

 ふむ。

 

 じゃあさあ。ついでだから、南斗の拳もちょっと混ぜてみない?

 ほら。殴り合いなら、あっちの方が専門だし。

 鍛錬方法だけでも、ちょっと取り入れてみるとかさ。

 うん。俺が基本だけなら知ってるから。というか、ついさっき南斗聖拳:1覚えたから。

 

 うん。まずは試してみるのね。よし。じゃあ行こうか。

 たぶん、中庭とか城壁の上のあたりとかなら、あると思うんだ。大砲

 

 

 

 まずは目標となる人物の、移動方向と速度から目標地点を先読みする。

 そしてその地点へ、上空から。それも出来る限り垂直に近い角度で到達できるように、弾道を計算する。

 その弾道に必要な速度と角度を割り出す。そうしたら、速度から必要となる火薬の量が決まる。おっと、体重の影響も計算に入れるのを忘れるな。

 ともに飛ぶ仲間がいるのなら、ここで微調整だ。ブツからぬように、角度か射出のタイミングをズラせ。これは声を出しても、アイコンタクトでもいい。

 

 ここまでの計算は、もちろん素早くこなさなければ意味は無い。相手が止まってくれていたり、距離が近ければ話は別だがな。

 熟練の南斗の拳士は、だいたいこんなもん、とカンだけでこの調整をやってのける。

 更なる達人は、もはや大砲など必要とせずに、自分で跳ぶ。

 

 用意が整ったのならば、導火線に火をつけろ。大砲に入れ。

 爆発からは、気で身体を守れ。むしろ積極的に受け止めろ。その分、勢いよく飛び出せる。

 上手く飛び出せたなら、姿勢と重心に気を配れ。バランスを崩すと、変な回転を始めることがある。

 空中での回転で今の自分の位置や上下の感覚を失えば、待っているのは無様な墜落だけだ。

 だが空中での機動に慣れたのならば、自分で回転を作れ。攻撃の威力を高めるも良し、攻撃のタイミングを操るも良しだ。

 

 空中での動き方が分かったなら、後は攻撃と着地だ。

 位置取りに成功したならば、南斗水鳥拳奥義 飛翔白麗 だろうと、南斗鳳凰拳奥義 天翔十字鳳 だろうと、竜玉(ドラゴンボール) ナム流 天空×(ペケ)字拳 だろうとマネできるぞ。マネだけだがな。

 これが! これがっ!

 南斗聖拳の基礎訓練、南斗人間砲弾だ!

 

 まあ、俺ら北斗の使い手なら、訓練しなくてもこの辺の基礎から奥義まで、水影心でパクれるかもしれないけど。まだそこまで、北斗神拳の腕がないからなあ……

 

 ああ。北斗神拳なのかどうか今となっちゃあ心底怪しいけど、俺も一応、北斗の拳を使えるんだわ。

 ん? どれか秘孔を突いてみろ?

 いいけど、なぜアミバを差し出す。そこは自分じゃないのか。

 

 いいけどさ。心配すんな。死なせたりするようなのは一個も知らないから。はい、上血海。これで片足が動かなくなりましたー。

 そう慌てるなよアミバ。ヘンな秘孔をむやみに突こうとするなって。

 上血海って言ったろ。これ、一時的な効果しかないから。そのうち勝手に治るから。

 で、どうよ? 他にも毒に強くなる安騫孔とか、動きを鈍くする椎神とか、簡単な秘孔ならいくつか使えるぜ。

 他には身体能力が上がってるのと、按摩や鍼も、お灸も出来るぜ。

 

「単に秘孔を突くだけでは、効果は薄い。こうして効果が出ている以上、気を秘孔に流し込んで肉体に影響を与えてはいるのだから、北斗の拳を名乗っていいだろう。北斗神拳かどうかは別にして、お前もまた、北斗の拳士だ」

 

 マジかよ。やったぜ。なんせこれ、味皇さまからツボを教わったら覚えられたスキルだったからなあ。

 スキル名が北斗神拳になってるけど、実は不安だったんだよ。

 良かった良かった。

 

 じゃあ、景気付けに飛ぼうか。

 よし。まずはアミバ行け。遠慮すんな。お前もかつて、南斗聖拳を学んだ事があったんだろう?

 だったらお前だって飛びまくった日々が…… えっ、ないの?

 あ~。そっか。きっと、その前の段階で止められちゃってたんだな。

 よし。ならなおさら遠慮すんな。かつて教えてくれなかったヤツを、今、俺がここでお前に教えてやるから。

 大丈夫大丈夫。行ける。行けって。飛んでみれば、案外いいもんなんだって。

 

 さあ。行くぜ! 南斗名物! 人間砲弾!! ヒャッハー!

 

 

 



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ねだるな。勝ち取れって言われても、戦い方がわからないんですけど。

 気付けば、俺はトキに弟子入りしていたらしい。

 

 [P:4→8 トロフィー(銀):トキに弟子入りする を達成しました!]

 

 ねえ、教えて。トロフィーって全部でいくつあるの?

 

 両手を頭の上で組んで、思いっきり右へと倒し。

 女座りから右足をムリヤリ上へと持ち上げて、足先を右ひじとくっつける。

 鳩のポーズと呼ばれる、ヨガのポーズのひとつをやらされながら、そんな事を思った。

 

 実際、いいストレッチにはなったらしく、終わった後に呼吸が楽になったのが少しムカつく。

 

 もし俺が今、何をやらされているのかと聞かれれたなら。

 

「北斗神拳の練習だ、たぶんな」

 

 そう、自信なさげに答えるだろう。

 だって、さしあたっての目標が、アレだぜ? 座ったまま、空中に浮け。という北斗有情破顔拳の前準備になる動作…… 動作? うん、たぶん動作だ。

 トキはこの動作を、ここカサンドラに来てから学んだという。

 

 カサンドラには、ラオウが拳法家や武道家を、奥義書を取り上げた後に放り込んでいた。

 自分が他流派の技をも身に着けて強くなるため、というのもあったかもしれないが、これ、何と善意からの行動であったらしい。

 戦いの中、倒れていく敵味方の拳法使いたち。そして彼らの中には、他にもう使い手のいない拳法も多々あって、それらの拳法は乱世の中、はかなく消えていった。

 それを目の当たりにしたラオウが、後世に伝えねばという使命感に目覚めてしまったらしいのだ。

 

 奥義書を奪って収集、使い手たちはテキトーにカサンドラに放り込む、という手段はどうかと思うが。

 

 まあ、味方にならない以上は、仕方が無いと言えば仕方が無いし、これでも有情なのだろう。

 拷問して殺すのが大好きなあの獄長に運営を任せていたのは、確実にアウトだけどな。

 

 まあ、それでな。そうして集められた拳法家、武道家の中に、ひとり。ヨガの使い手という、ジャンルが違うんじゃないかって人がいたんだわ。

 座禅からの空中浮遊というキワモノは、元々は彼の技であったらしい。

 

 剃ってあるのか全身の毛が無く、その肌の色は褐色で、赤いラインの刺青が鮮やかだった。

 しなやかな筋肉に、長い手足。何よりも強い生命力を感じさせる身体の持ち主だった。

 手腕と足首にリングをはめている以外は、悪趣味なドクロのネックレスとヒザまでの短いズボンを身に着けているだけの半裸の男だった。

 

 ていうか、ダルシムだった。

 

 ああ、そりゃ座禅の姿勢で浮くわ。むしろそこからテレポートするわ。

 なんで居るんだよ。世界から何から違うだろうお前。

 

 いや、待て。

 

 トキが、ダルシムから学んだ。と、いう事は…… まさか手足が伸びるのか?

 吐くのか? 火も、吐いちゃうのか?

 そこんとこ、どうなんだトキ! はっきりしろ!

 

 

「残念ながら、私にはそこまでヨガの素質は無かったらしい」

 

 

 ……ッセェーーフッ!!

 

 守られた。何がかは分からないが、今、確実に何かが守られたッッ!

 

「いま少し研鑽を積めば、テレポートは出来そうなのだが…… →↓↘、もしくは←↓/PPPもしくはKKKという感覚がわからなくてな……」

 

 ごめん。俺もわかんないよ。

 どっからツッコめばいいのか、そろそろわかんなくなってきた。

 たぶん、読んでる人も困ってると思う。

 

「スーーーーー… フーーー… スーーーーー… フーーー…」

 

 舌をストローのようにして口から出して、息を吸う。そして鼻から吐く。

 教わったばかりの、体温を下げて頭をスッキリさせるヨガのシータリー呼吸法で、少し自分を落ち着かせた。

 うん。よし。落ち着いた。

 まあ、何でもいいや。有るものや居るものは、もうそういうもんだ。仕方ないよな。

 それを言ってたら、そもそも俺が何で世紀末に居るんだって話になるしなあ。

 

 

 

 ところでさあ。トキ先生よ、なんでヨガから入るの?

 もうちょっと他の、ほら、なにかあるでしょ。なにかさあ。

 

 え? ヨガの奥義の一つに、空腹を忘れるというのがあって、食べなくても死ななくなる?

 あー。そりゃあ、この世紀末では重要だわ。でも、副作用とかない? モヒカンになっても、似たような事が出来るけどさあ。代わりにヒャッハーになるよ?

 少し素直になる? そんだけ?

 

 あっ。も し か し て。

 アミバがあんな性格になってるのって、まさか……

 

 おい。目を逸らすな。こっちを見ろよ。

 

「食糧が、無かったんだ……」

 

 だとしてもなあ。アミバひとりだけそれで助かっても、ここにはわりと大勢の人間が―――

 

 ―――おい。おい。

 まさか、アンタ……

 

「食糧が、無かったんだ……」

 

 カサンドラの人間全部にヨガを広めたのかー!?

 何してんだ、アンタ!

 拳王軍が突然無くなって、補給も来なくなって、仕方なかったとか俺に言われても知らねーよ!

 特に問題は無いはずだからって、そう思うなら、いい加減にこっちを見ろよ。

 いいのか? ある意味世界の危機な気がするんだが、本当に大丈夫なのか?

 

 [大丈夫ですよ]

 

 あっ、大丈夫なんだ。そっかー。

 って待てい。なに普通に受け答えしてるんだウィンドウ!

 やっぱお前、中の人いるだろ! 誰だ、出て来い!

 

 ああ、もう! 誰かー!

 お客様の中に、ツッコミが得意な方はいらっしゃいませんかー!

 

 ……誰か、代わりにツッコんでくれ。

 

 

 

 [あっ、そうそう。P:8→7 ヨガを習得しますか?(Y/N)]

 

 ……うん。一応、習得しとくわ。

 今日はもう、ツッコミ入れねえぞ、チクショウ。

 

 

 

 そして、翌日。

 アミバの横で、手を出来るだけ多く巻いて組む、ヨガの鷲のポーズをマネしようと悪戦苦闘するサウザーの姿が!

 

 何してんの、キミ。

 

「この帝王への献上品が無いなどというのでなあ。この俺自ら、わざわざ受け取りに来てやったのよ!」

 

 思わず素で聞いた俺に、サウザーはそう答えた。

 アミバに手伝ってもらって、ゆっくりと手を曲げながら偉そうに話すのは、割とこっけいだったが。

 

 え~っと、献上品?

 もしかして、週一で食べに来てた、カレーのことかな?

 あれタカりに来てたんじゃなくて、献上品って認識だったのかよ。

 しかし困ったな。ここには米なんてないぞ。仕方ない。小麦粉からナンでも―――

 

 ―――いや。待て。今、俺。7ポイント持ってる。

 ならば―――取るか?

 

 [P:7→3 調理技術:5を習得しますか? 今だけ1ポイント値引きのチャンス!(Y/N)]

 

 …………………………………………

 

 ………………………………

 

 ……………………ツ、ツッコんでなんかあげないんだからねっ!

 

 ありがたく値引きは受け入れるけども、勘違いしないでよ! 許したわけじゃないんだからねっ!

 

 ……でも、ありがとう。

 

 [調理技術:5を習得しました! これ以上を目指すには、師匠を見つけてください]

 

 ツッコミをガマンした結果、自分でもよくわからんツンデレっぽいムーブをしてしまったが、無事に調理技術を極める事はできた。

 しかし、師匠か。ゲンジロウに再び出会う時が近いのだろうか。

 

 おっと、それよりもだ。今は新しく、何が出せるようになったかの確認が先だな。

 え~っと、どれどれ……トウモロコシと、トマトとジャガイモのアメリカ大陸原産のチート野菜セット。それにニンニクと乳製品か。

 

 うむ、これはこれで素晴らしいな。料理の幅もグッと広がる、まさに一般技能カンストにふさわしいラインナップだ。

 でもコレジャナイ。これじゃないんだよ、ウィンドウさんよぉ~!

 

 米だ! 米をくれって言ってたじゃねーか!

 わかってやってるだろ!

 チクショウ。こうなったらカレーうどんでも作ってやるぜ! ヒャッハー!!

 

 

 



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世紀末モヒカン料理人伝説 が気付けば始まっている件について

 気付けば、なんか別ゲーが始まっていた。

 

「そうだ! いいぞ。手首の返しを生かせ! もっと早く! もっとリズミカルにだ!」

 

 俺、なんで中華ナベに砂入れて回転させてるんだろう……

 しかも効果音が聞こえる。

 上手く振れたら ティロン♪ でダメだとブッブ~! だ。

 

「左右にブラつかすなよ! 振るって言っても前後に揺するだけ。引く時を意識しろ。強く、早くだ!」

 

 む。こうか? おお、なんか砂の動きが違う。

 ナベの中で、輪を作りやがるぜ。

 

「中華ナベは火の通りがいい。良すぎて、焦げやすい程にな。だから素早くかき混ぜるために、振るんだ。基本を忘れるなよ!」

 

 ティロレロティロン(↑)♪ ティラリラティン(↓)♪

 

 なんか、どっかのコンビニの入店の音がしたんですけど。

 

「よし。ナベはそんなもんでいいだろ。感覚を忘れないように、日々反復連取を忘れるなよ!」

 

 いや、それはいいんだけど、どっかのコンビニの自動ドアの開閉音がしたんですけど。

 

 疑問に思う俺を他所に、師匠は次のミニゲームの用意を始めた。

 どうやらイベント進行中らしく、俺の言う事を聞いてくれないのだ。

 

 単に、素でそういう性格だという疑いもあるが。

 

「カーカッカッカ! ここの厨房になぜかあった中華包丁だ! 俺の予備にしようと思ったが、使わせてやる。感謝しろよ!」

 

 [一分以内に、魚を三枚にさばいて下さい 01:00]

 

 ウィンドウにそう表示されて、すぐにタイマーが減りだした。せめて、ヨーイドンでやってくれ。

 

 ところで、まな板はあるが魚が見当たらないんだが。

 これは、自前で出せということかね。

 え~っと、三枚下ろしにしやすい魚は…… 中華包丁はデカいから、魚もある程度の大きさは欲しいな。サバで行くか。

 

 おらぁ! まずはウロコを落とすぜぇ! 落としたら、ヒレの下から切れ目だぁー!

 そのまま胸ヒレの辺りへと包丁を進めて、頭を落とせ! 落ちたらケツの穴まで切腹だぁー!

 開いた腹に手を突っ込んで、ワタを片側へ寄せて、引きずり出せ! 血あいに切れ目を入れるのも忘れるなよぉ~。

 

 ふう。刃物を扱って何かを切ると、テンションが上がるな。モヒカン的に。

 タダの危険人物にしか思えないんで、以降は気をつけよう。

 

 なんか師匠もそんな感じだった気がするが、そこは気にしない事にしよう。

 

 え? 師匠が誰かって? 秋山って名乗ってたよ?

 

 さーて、水を出してサバを洗ってと。残り時間は、と。

 いかん。残り時間が10秒切ってる。このままだと間に合わん。

 だが、普通にやって間に合わないなら、普通にやらなけりゃあいい。いくぜ。

 

 即興奥義! 南斗 三枚下ろし!

 

 どうだ。時間には間に合ったと思うが、最後は包丁使わなかったんで、そこのところの判定はどうだ!?

 

 でんでんでんでーん♪

 [P:1→4 ミニゲームをクリアしました!]

 [P:4→9 秋山醤に弟子入りしました!]

 [P:9→8 調理技術(中華):1を習得しました!]

 

 よっしゃ、クリアした。

 でもさ。え、なに、このメッセージにも効果音付くの?

 今回だけ? それとも、俺の知らない間にアップデートでもあったの?

 それとやっぱこの師匠、ジャンか。秋山としか聞いてなかったぞ。まあ祖父の方じゃないだけマシか。

 それにモヒカンの時はモヒカンリーダーにスキルが変化したけど、調理技術は変化しないということは、他のジャンルの調理技術も取れるのか?

 だとすると、それらの師匠もどっかにいるのかよ。ていうか誰だよ。

 

 あ~…… あとどっかツッコんどくとこあったっけ。

 

 どうでもいい事に悩んでいると、ようやくイベントモードが終わったらしい秋山師匠がこちらに歩いてきて、こう言った。

 

「ああ、その中華ナベと包丁は弟子入り記念にくれてやる。ちゃんと炙って消毒しとけよ」

 

 アッ、ハイ。ありがとうございます。

 じゃあちょっと火ぃ吐くか。ヨガファイヤーっと。

 

 ああ、うん。俺、吐けるんだ。ヨガファイヤー。

 ヨガを2に上げたらさあ。なんか吐けるようになっちゃったんだよね。

 高レベルのモヒカンだけに、火とは相性が良かったみたいなんだわ。

 

 汚物は消毒だー! ってやつだろうね。

 

 それと秋山師匠は、前回カレーうどんを作ってたら、どこからともなくやって来た。

 鍛えた身体に、傷だらけと来たら拳法使いだろう。そう誤解されて捕まっていたらしい。

 ロクに食う物もなくてクサっていた所に、カレーのスパイスの香りを嗅ぎつけて来たんだそうな。

 

 えっ。調理技術がある人って、食材を出せないんですか? って聞いたら、お前は何を言っているんだっていう顔をされたのは、今でも解せない。

 

 いや、もしかするとこの食材出し放題な仕様は、プレイヤー限定か、それともあの味皇由来のスキルなせいかもしれない。

 

 ともあれ、いきなり出てきて料理をさせろ。という秋山師匠の要求に、代わりに調理技術を教えてくれ。と俺は条件を返した。

 そして契約は成立して、なぜかミニゲームが始まった。というわけだ。

 

 いやあ。カサンドラに来たのは正解だったな。

 主にトキのおかげで、思った以上にポイントが稼げたし、こうして調理技術も高まったし。

 さーて。調理技術(中華):1では何が出せるかなー?

 

 …………えっ。

 

 

 何も出せない……だと……?

 

 

 純粋な、調理技術だというのか? バカなっ!

 調理技術スキルといえば、食材の調達ができるようになるスキルではなかったのか!?

 

 うろたえる俺の前に、出待ちをしていたようなタイミングでウィンドウが立ち上がる。

 

 [P:8→2 調理技術:6を習得しますか?(Y/N)]

 

 なん……だと……

 

 ……そういえば、調理技術はこれ以上上がらないとは言ってなかったな。

 これ以上を目指すには、師匠を見つけてくださいって言ってたな。確か。

 つまり、そういうことか。純粋な調理の腕を上げれば、その分調理技術スキルを上げられるということか。

 

 フッ。つまりはまだ、お米への夢は閉ざされていない、という事だな?

 

 よかろう。ならばポイントのほぼ全てを賭けてでも、行かねばなるまい。

 せっかくだから、俺は調理技術を6にするぜ!

 

 [P:8→2 調理技術:6を習得しました!]

 

 7に上げるのは、さすがに遠そうだな。

 さて、6で出せるようになった食材は?

 

 内蔵を含む豚肉と、キャベツなどの葉野菜か。うん。まさに中華な食材だね。あとは焼酎もイケるようになったか。

 でも、お米はおあずけ、か…… 知ってた。

 ああ、知っていたさ。

 ウィンドウの中の人は、そこまで甘くないってさ。俺、知ってたよ……

 でもさあ。夢くらいは…… 見ても、いいじゃあないか。

 こんな、世紀末の世の中でも、さ。

 

 さて。

 

 秋山師匠! 新しい食材出せるようになりました!

 早速料理して、皆で食べましょう。酒も出しますよ!

 

 切り替えていこう。声出していこう。勢いだけで乗り切っていこう。

 宴会だ、ヒャッハー!!

 

 

 



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明日世界が滅びるとしても、私は災いの種を植えよう

 気付けば、俺は大量のヘンな汗を流していた。ヤバイ。

 

 サウザーが、ヒザを矢で射られてしまったのだ。

 

 犯人は、南斗の誰かでも、ジャギでもない。ターバンのガキだ。

 本当に、あいつは何者なんだろうか。

 

 なお、場所は相変わらずカサンドラだ。秋山師匠にミニゲームなしでシゴかれていて、帰れないのだ。

 刀削麺と、餃子のニギリを教え込まれているんだが、これって基本技術なんだろうか。確かに、調理技術(中華)のスキルは2に上がったんだが。

 そして代わりにスキルポイントが0になった。定期収入みたいに、稼げないもんだろうか。

 

 それで、練習の過程で大量に出来上がった餃子で、宴会だー。とヒャッハーしようとしたところでだ。それを聞きつけたサウザーが遊びに来ちゃったんだよな。

 そんで機嫌よさそうに、参加してやるから光栄に思い、感謝するがいいとか言っちゃってる所に、矢が飛んできてね。

 

 いやー。さすがのサウザーも騒ぐ騒ぐ。

 なんたって、ヒザに矢だもんな。普通は、引退して衛兵になるしか道がなくなる、戦う者としては致命傷。

 

 でもここには奇跡の聖者、トキがいるわけで。

 

「ムウ…… これは私でも治せないかもしれん」

 

 でも、そのトキがこんな事を言っちゃったわけで。

 

 ヤバイ。

 

 何がヤバいって…… あ~…… その、なんつーか……

 

 

 ターバンのガキに、ボウガン渡したの俺です。

 

 

 いや、待ってくれ。違うんだ。本当に違うんだ。

 別にサウザーに恨みがあったわけでも、排除を企んだわけでもないんだ。

 何の意図もなく、ただ何となく、あのガキに武器を渡しただけなんだ。

 他意どころか、何の目的も無かったんだ。

 スキルを見直してたら、モヒカンリーダーのスキルで武器が出せるのに気付いて、ああ、これをアイツが持ったら強いだろうなあって思っただけなんだ。

 悪気は無かったんだ! 善意も無かったけど!

 

「しかしあのガキは、いつも小さなナイフを使っていたのだが。ヤツめ、どこで飛び道具などを手に入れたのだ」

 

 いかん。サウザーが武器の出どころに疑問を持ってしまっている。

 ここは話を逸らさねば。

 

「それよりも今は、まず治療しないと。一応は、南斗のリーダーなんだし」

 

 だが治療法が…… などと未だにハッキリとしないトキだが、治せないとは断言しないあたり、実はジラして遊んでいる可能性が否定できない。

 そこんとこ、どう思うよアミバ。

 

「!?」

 

 急に話を、それも際どい話題を振られて困惑した顔をしたが、それでも質問には答えてくれた。

 ジェスチャーで。

 いや、しゃべれよ。わかんねえよ。

 

「アミバよ……」

 

 おっ。さすが師匠。トキには判ったか。

 

「口で言ってくれるか」

 

 わかんねえのかよ!

 いや、俺もわかんなかったけどもさあ。

 

 アミバが言いたかったのは、サウザーが普通の体ではない、という事だった。

 ああ、あったな。そんな設定

 心臓が逆位置にあって、秘孔の位置もズレているから北斗の技のほとんどが無効という、対北斗神拳用とも言える体だったっけ。

 

 やはり殴った方が早い、というトキの悟りは正しかった…?

 

「かくなるうえは仕方が無い。サウザー、覚悟しろ。二人は良く見ておけよ」

 

 どうやら、そのトキが覚悟を決めたらしい。

 ゴゴゴ…… と気が全身から立ち上がり、筋肉が盛り上がっていく。

 

「ま、待て。何をする気だ!? アレだぞ。患者には説明をしないといけないのだぞ。いんふぉーむど・こんせんとだ!」

 

 それを言うなら、インフォームド・コンセント……って合ってるのか。棒読みな発音なんで勘違いしたわ。

 ちなみに、医者が患者に病状やら、なぜこの治療が必要なのかを事前に説明して、患者の了解を得る事を言うんだぜ。

 

 急にヘタれてバカっぽくなったサウザーが、わたわたとうろたえるが、トキは止まらない。

 

「患者を救うためなら、私はなんだってしよう。そう、なんだって、だ……」

 

 なんかどっかの元祖看護人をモデルにした、バーサーカーみたいな事を言い出した。

 そしてそのまま、有無を言わさず、サウザーの両足に手を突き立てた!

 

「ぬう、あれは刹活孔……」

 

 アミバがどこぞの大往生流の使い手のようなセリフをつぶやいた。

 先ほど、トキに言われたとおりに口で言う事にしたらしい。素直か。

 

 聞き返すのが面倒くさいので、こちらで解説しよう。

 セッカッコー、もとい、刹活孔というのは、一時的に生命力やら身体能力やらが上昇する秘孔だ。場所は、両方の内腿の三つの点だな。

 ただし、効果が切れたらすごい弱ってしまう、諸刃の剣。素人にはお勧めできない。

 なお玄人のトキ(ゲーム版)は、強化を無くしたバーションを敵に打ち込むという、外道戦術を取る模様。

 

 ふむ。

 察するに。生命力を一時的に強化して、傷を治すつもりか?

 いや、そんな早くは治らんだろう。

 そう言いたいけど、ここ北斗ワールドだし、ゲームっぽい世界だからなあ。

 どうなるかな。これ。

 

 まっ、いいか。明日にはわかるだろう。

 それはそれとして、餃子パーティーだ。ビールも出すぜ。

 焼くぜー。焼いたら、熱々を口に放り込んで、冷たいビールで流し込むぜ、ヒャッハー!

 具は豚ひき肉と、ニラとネギとキャベツ! 基本は大事だー!

 ニンニクはアリとナシの両方を用意するぜ。料理は愛情だー!

 

 えっ。師匠が秋山醤なら、料理は勝負じゃないのかって?

 

 お前の腕でそう口にするのは百年早いそうだよ?

 代わりにこう言っとけってさ。

 それ、奥さんの信条ですよね。とは言えなかったぜ。

 

 そうら、マッシュしたジャガイモとチーズの揚げ餃子だー!

 豚肉系として、ラードも出せるようになったおかげで、揚げ物が出来るぜヒャッハー!

 個人的には、植物系の油がいいんだけどな。動物系の油は胃に重いぜ。

 

 豚バラ肉と、チーズをカレー粉で炒めて具にするぜー!

 茹でた鶏肉とチーズとトマトも具にするぜー。

 じゃがバタにワサビ(大量)も具にするぜー。

 

 もちろん、焼いたらロシアンルーレットだ! ヒャッハー!

 

 なお。ワサビ入りはサウザーがおいしくいただけませんでした。

 

 

 

 そして、翌日。

 

 そこには元気に跳ね回る、サウザーの姿が!

 良かった。治ったかー。

 治らなかったら、南斗鳳凰拳のスキルを極めて、俺が南斗のトップに立とうかなー。なんて考えちゃってたよ。

 いや、良かった良かった。これで調理技術を極める方向でポイントを使えるぜ。

 

 ん? あれ?

 

 サウザーの横に、いつの間にかターバンのガキが……

 あっ。ボウガン構えてる。

 

 あっ。

 

 

 




●鉄鍋のジャン!
てっかのジャンと長年読んでいたが、てつなべのジャンらしい。
料理は勝負という信念を持つ、傲慢な少年が料理勝負しまくる少年チャンピオンで連載していたマンガ。
その後Rとか2ndとかその後の展開もあったが、なぜか鉄牌のジャンとして麻雀マンガでも主役をやっていた。

●ヒザに矢を受けてしまってな
スカイリムという、世界的に売れた洋ゲーの中のセリフ。昔は俺もお前のような冒険者だったのだが、ヒザに矢を受けてしまってな。と街中の衛兵が言うのだが。
どの町の衛兵のセリフパターンの中にも仕込んであったので、ネタと化してしまった。

●どっかの元祖看護人
FGOのナイチンゲールさんです。昔の人とは言え、あのエロ霊装はいいんだろうか。
なお看護婦という単語は消えたらしい。看護師と言わねばならないようだが、気にしすぎではなかろうか。

●大往生流
魁!男塾より。
知っているのか雷電。でおなじみの雷電さんの使う拳法の流派。


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この行いは正義である。

捜索掲示板(仮)がここハーメルンにも出来ましたね。
某古参創作&捜索サイトの看板でもありますが、これであそこが役目を終えたと判断して消えたりしたら寂しいなあ……

アニメ勢氏の 緑谷出久の中の人 を推してみる。
憑依だけど、乗っ取らないで精神に同居するタイプの珍しい憑依。ワンパンマンに出てくる拳法覚えて強化されてるけど、デクくん生きてます。酵母が生きてる感じで。
デクくん憑依なので基本的に原作沿いですが、色々変化が。


 気付けば、俺はシンの秘孔を突いていた。

 とはいえ、別に衝動的にやってしまったわけでは―――あるな。うん。思わず、とっさにやっちまったわ。

 だが、反省も後悔も無い。きっとお釈迦様だって、こうしたはずだ。

 

 あのお方、王族で妻子もあったのに、全部捨てて修行に入った時の開放感サイコー!

 でもそれで楽になったのは、悪い事でもないし、間違いじゃないよね。と長い修行の果てに悟ったという、ヒャッハー入った自由人という解釈もできるからなあ……

 

 それで何があったかっていうとな? そこまでではなくても、そろそろ配下のモヒカンたちもヒャッハーしていないかと、心配になってな? サザンクロスに一度帰ってみたんだわ。

 道中にポップする野良モヒカンを南斗聖拳とヨガファイヤーとボウガンで倒して、3ポイントを稼ぎつつバイクで移動して。

 そろそろ到着かな、と思った、その時だ。

 

 そこには最初期の、行き倒れになっていたケンシロウの姿が!

 

「み……ミネラルウォーター……」

「現代っ子かよ!」

 

 同じく行き倒れているのに、元気にツッコミ入れてるバットらしき少年もいたが。実はお前ら、余裕あるだろ。

 まあ、そんなコントをやってる二人だけなら、良かったんだ。

 

 良かったんだよ。

 

 でもな? そこにシンもなんでか、通りすがっちゃっててな?

 

 ふぅー… ふぅー…

「今なら、ケンシロウをこの手に……」

 ふぅー… ふぅー…

 

 息も荒く、そんな事を呟いていらっしゃってな?

 気付いたらなんかの秘孔を突いていたらしくて、倒れたシンが目の前に転がっていた、というわけだ。

 なんの秘孔を突いたか覚えていないあたり、少しヤバいのかもしれない。だが俺は悪くないと思うんだ。だから罪悪感も何もないぜ。

 

 で、まあ、ケンシロウに水を、と思ったんだが。

 ビールや酒で、銘柄指定できるんなら、水もいけるんじゃね? と、この時に気付いたんだよな。

 実際、いけた。

 

 今回チョイスしたのは、津南。この間、店に出入りする時のチャイムが聞こえた、例の家庭のお店なコンビニ限定商品。

 津南だとあまり聞き覚えはないかもしれないが、名水百選にも選ばれた、新潟県は龍ヶ窪のある土地だな。

 滑らかに感じる軟水で、普通の水に比べて飲みやすいのが特徴だな。ぐいぐい飲めるぞ。

 

 ミネラルウォーターの味なんてどれも似たようなもんだろ、という意見が多数派っぽい事に衝撃を受けた記憶があるな。

 えっ、いや。全然とは言わないけど、かなり違うだろ。と言ったら、グルメぶりやがってと言われた思い出。

 その後、実際に飲み比べての銘柄当てで正解したら、なぜかヒンシュクを買ったが、あれも俺は悪くないと思うんだ。

 

 それじゃあオチが無いだろ。というツッコミには、少し考えたが。

 関西人ではなかったので、セーフ、だと思いたい。

 

 それで、ごていねいにもペットボトルまで再現して出てきた津南を、まずはバットに渡した。

 目の前に置いてやると、世紀末生まれだと思うのに、ペットボトルの開け方を知っていたらしく、パキッと開けてむさぼるように飲み干した。

 うん。まあ、本気で渇いている時って、飲み物が吸い込まれるようにノドの奥に消えていくけどよ。少しくらい、ケンシロウに分けてやるとかいう優しさはないのか、お前。

 

 兄弟が多かったせいで、苦しかった生活。家族の生活が少しでも楽になるようにと、自主的に親のところを飛び出した頃には、あっただろ。優しさ。

 子供の身で世紀末世界を生き抜く中で、忘れたのか、バットよ。愛を取り戻せ。

 

 お前、そんなんだから、将来北斗の軍を組織してリーダーやってるのに、リンの方がリーダー(真)とか言われちゃうんだぞ。

 

 おっと、いかん。行き倒れた目の前で、旅の連れに水を独り占めされたケンシロウがに目覚めている。コイツにも早く水をやらねば。

 ほーら、ケンシロウ。お前のリクエスト通りのミネラルウォーターだぞ。

 お前には、バットの555mlより多い1020mlだ。だからお前も愛を取り戻そうな。落ち着けって事さ。

 

 しかし世の中色々あるだろうが、モヒカンに助けられたケンシロウってかなりレアじゃね?

 そう思っていたら、案の定ウィンドウさんが現れた。

 

 [P:3→13 トロフィー(虹):ケンシロウの恩人になる を達成しました!]

 

 お、おおう。思ったよりもレアだった。

 ところで恩人って、水をあげた方だよね? シンの魔の手(意味深)から助けた事じゃないよね?

 

 [

「とぅっ!」

 

 ウィンドウさんが答えてくれようとしたっぽいのを、手を振って消す。

 知らない方がいい事や確かめたくない答えだって、世の中にはたくさんあるんだと、俺は知っている。

 

 さてと。水を飲んだら、パタリと倒れてしまったケンシロウとバットを、サザンクロスまで運び込もうかね。

 シンは……

 

 ……………………

 

 ……ほうっておいたら、ダメかな。やっぱ。

 

 

 

「これは…… 助かったのか。 お前は、誰だ?」

 

 サザンクロスへとバイクの後ろに乗っけて運ぶ途中で、ケンシロウはバイクの振動で意識を取り戻した。

 バットに至っては、倒れたのが実は演技だった臭い。

 やっぱ余裕あっただろ、お前ら。特にバット。

 

「俺は今、KINGことシンの所で幹部やってる、モヒカンってもんだ。倒れてるお前らを見つけて、拾ったのさ」

 

 さっき、水もやったろう? そう言うと思い出したのか、警戒を解いてくれたようだった。

 アブねえ。

 運転中で、しかも後ろを取られた状態で、相手がケンシロウで、俺がモヒカンという裏ドラ乗った数え役満状態だったぜ。

 恩人になったっていうアナウンスのせいで、油断してた。

 北斗ワールドだもんなあ。油断してたら死ぬんだよな。カサンドラ生活で、忘れかけてたわ。

 修行して料理して宴会して、という平和で、かつ充実した楽しい生活してたからなあ……

 マジで楽しかったもんなあ。俺がモヒカンリーダーでさえなかったら、あのままあそこで一生引きこもっても良かったかも知れん。

 ああ、そうだ。ケンシロウに、トキ先生の事を一応言っとくか。

 

「アンタ、ケンシロウだろ? 俺は、ちょっと前まで、カサンドラでトキ先生に北斗神拳習ってたのよ。アミバと一緒に」

「「!?」」

 

 トキの名前が出たのと、北斗神拳を習ったというのと、アミバ。

 一度に三つのビックリポイントをぶつけられたせいか、さすがのケンシロウも驚いたようだ。

 あと、いまだに気絶したフリのバットも反応したな。

 

「今は運転中だからよぉー。くわしくはサザンクロスに着いてからなー!」

 

 実際、風とエンジン音がうるさいんで、大声出さないと聞こえないだろうからなあ。

 ケンシロウの声は、ボソッと言ってる感じなのに、なんでか聞こえるんだけどよ。

 

 さて。これで時間は稼いだ。

 

 この間に、サイドカーでグッタリしているシンに何があったかの言い訳を考えねば。

 

 まさか、正直に「アンタを性的な意味で襲おうとしたので、成敗しました」とか言えんからなあ。

 かつてのが、ホモだったとか、知らない方がいい事実だよな。うん。考えるまでもないわ。

 

 やっべえ。マジでどう言い訳しよう……

 やっぱ、あの場に捨ててくれば良かったか。

 

 いや、待てよ。まだワンチャンある。いつだって可能性だけは残っているはずだ。あきらめるな、俺。

 サルがテキトーにキーボードを叩くだけで、名作が出来上がる可能性すらも、ゼロではないんだ。

 実質ゼロでも、挑戦する事。それが人間の生き様のひとつだろう。やってみろ、俺。

 

「そういえばよー。もうひとり、旅の連れがいるって聞いたが、そいつはどうしたー?」

「そうだ! リン!」

 

 あ、なんかイベントトリガー引いたっぽい。

 これはワンチャン来たかー?

 

 

 



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酒は飲んでも飲まれるなって言うけど、言われてできたら苦労は無い。

 気付けば、俺は馬鹿な実験をしていた。

 南斗の技で、闘気で体の一部を硬くする技法があるんだが。

 これで普通は手や足を硬化して、切れ味を出したり防御を固めたりするわけだ。

 

 普通はな。

 

 違うんだ。違わないけど、言い訳をさせてくれ。

 ……酒が、入っていたんだ。

 

 酒というのも、一応は事情があるんだ。

 シンにケンシロウの歓迎パーティーしようぜ、とそそのかして、宴会の許可をもらってな?

 カサンドラだと食材が無いからと、こっちに徒歩で追っかけてきた秋山師匠と一緒に、料理を作りまくってな?

 酒も北は北海道の男山から、南は九州美少年まで、覚えている限りの日本酒とビールを出しまくってな?

 

 しこたま飲んだわ。

 正直、途中から記憶が無い。

 蓬莱泉の(くう)(ぎん)はどちらが美味いかを、ハート様と議論してて―――ヒートアップして、ぶん殴ったような記憶がある、かも。

 ちなみに俺は空派だった。吟まで米を削っちゃうと、キレはいいんだけど、甘みや柔らかさが消えるんだよな。

 

 バドワイザーだせるんなら、バドガールも出せるだろ。という謎理論で、金髪のバドガールを出そうとしてた記憶もあるな。

 もちろん、出てこなかったぞ。一瞬だけ、あの衣装だけ出せた気もするが、酔ってたからなあ。たぶん、記憶違いだ。

 

 えっ? 前回の引き? リンはどうしたって?

 

 

 

 …………いいヤツだったよ。

 

 

 

 と、いうのは冗談だ。

 普通に元気に、宴会でバットの隣で一緒にメシ食ってたよ。

 

 なんかね。さらわれたわけじゃなかったらしいよ?

 

 ほら、ケンシロウとバットって、行き倒れてたじゃん?

 そうなりかけた時に、手前の村でリンだけは預かってもらえたんだってさ。

 ケンシロウとバットが村に置いてもらえなかったのは、アレだ。村人的には、怪しいんでアウト判定だったってわけだな。

 ちょっとだけ水を分けてもらって、追い出されたらしい。

 

 まあ世紀末だし、そういう事もあるよね。

 

 同じようなケースで、助けてもらえなかった旅人の逆ギレからのヒャッハーで村が壊滅する事件も、まれに良くあるからね。これでも、わりと有情な処置だからね?

 税のやり取りですらも、たまに人死にが出るから困る。

 勝手にヒャッハー行為をするような、村人をいたぶって遊ぶ超絶DQNでも村の統治者として採用されていたのは、その辺の問題もあるんだよな。

 

 普通の役人みたいなヤツを派遣すると、ナメられて税を取れないどころか「そんなヤツは村に来なかったよ」とイナイイナイされてしまうんだそうな。

 中にはね? その始末した役人が税を持ち逃げしましたって、税ごとバックれようとした村もあったらしいよ?

 

 さすがは世紀末の住人。村人でさえヒャッハーするぜ。

 

 余裕があると、人間、他人に優しくできるもんだけどさあ。

 でもさあ。この世紀末には、その余裕が誰にもないんだよなあ……

 

 自然が破壊されまくってるからなあ。船を出すやつが減りまくって、海洋資源は回復してるかもしれんけど、陸から流れ込む栄養が激減してるからそっちも怪しいしなあ。

 一応農業が出来るくらいには回復してきてるから、あと2~30年もしたら緑も復活するかもしれんな。

 ほっといたら、鳥取砂丘すら勝手に緑化してしまう日本だ。期待は持てると思うぜ。

 

 でもそうなるまでは、皆苦しいままなんだよなあ……

 ケンシロウとかだって、収入ないもんな。

 職業、世紀末救世主って、自宅警備員→近所警備員→村警備員→地域警備員とランクアップしていった先のナニカだもんな。

 

 ……いや、ちょっと違うか? いや、だいたいあってるだろ。どっちも収入無いし。

 

 どうやって食ってるんだろうなあ。

 ラオウはカツアゲで、トキは医者で、ジャギはヒャッハーで食ってるだろうけど、ケンシロウはマジで謎だよな。

 

 実はケンシロウもヨガの奥義で、食べなくてよくなっている説。

 

 いや。もしかしたら、北斗神拳の奥義にそういう技か秘孔があるのかも。

 ほら、トキも原作でカサンドラに閉じ込められてた時に、ただ放置されてたっぽいけど生きてたし。

 たぶん中国原産の拳だけに、仙術かなんか混じってたりするのか?

 北斗系の拳法も後付けでたまに増えてるみたいだけど、神拳と名乗ってるのは北斗神拳だけだしなあ。

 

 まあ、いいや。今回倒れてたし、そうだったとしても限界はあるんだろう。

 あとでバイトでも斡旋してやるか。

 シンがなぜかケンシロウにピッタリのスーツとか白衣とか用意してる事だし。バーテンでも用心棒でも医者でも、ケンシロウなら出来るだろう。

 

 さて。

 

 そろそろ現実逃避を止めて、現実と向き合うとしよう。

 

 というか、パンツを履こう。ズボンもだ。

 

 うん。まあ、なんだ。

 冒頭に戻って、言い訳をしよう。いや、させてくれ。

 

 酒が、入っていたんだ。

 

 それで何を思ったのか、南斗の技の実験を思いついて、実行したんだ。

 その場で、大勢が集まっている宴会場で、即実行しようとしなかった事だけは、我ながら褒めてやる。

 それで修行場へ移動して、さいわいにも誰もいなかったそこで、ズボンとパンツを脱いだんだよな。

 

 でもって、テキトーに置いてあった石めがけて突っ込みながら、ノリノリで叫んじゃったんだよな。

 

 南斗 中心脚局部斬!

 

 …………成功した。

 うん。まあ。なんだ。どんな技かは、明言を避ける。避けさせて下さい。

 

 [P:13→17 トロフィー(銀):独自の技を開発する を達成しました!]

 [P:17→23 トロフィー(金):独自の奥義を開発する を達成しました!]

 

 それでね。アレで岩を斬った感覚と、闘気を使ったんで体がシャッキリしたのと、ウィンドウさんを見た事で酔いが醒めたんだ。

 醒めたとたんに、また酔いたくなったけどな。

 

 うわぁー。すごーい。ぽいんとがいっぱいだー。

 やーめーろーよー。登録するなよ。カウントしないでよ、こんな技。むしろ無かった事にしてよ。

 

 [独自の技は、配下に使わせる事ができます。覚えさせますか?(Y/N)]

 

 やめろ。殺すぞ。

 集団でズボン脱いで下半身さらして、飛び掛ってくるモヒカンの群れとか、見たいのかキサマ。

 

 [時間切れです。この選択肢は消滅しました]

 

 オッケー。それでいい。

 もう完全に受け答えできてるけど、今はいい。

 二度とこの技について、持ち出すなよ? いいな? フリじゃないからな?

 絶対だぞ?

 おい、返事しろよ。いるんだろ中の人ぉー!

 

 ……あーもー、返事が無いか、くそう。

 

 しかし、あれだな。江戸時代の川柳に 酒のない 国に行きたき 二日酔い また三日目に 帰りたくなる ってのがあったが、その通りだな。

 俺も、こんな事やらかしちゃったけど、酒やめようとか思わないもん。

 

 古代メソポタミアのシュメール人ですらエール飲んでたらしいから、そっから何千年だ? 記録が残ってないだけで、原人が飲んでたら万年だな。

 はるか古代から、代々人間は酒を飲んできたわけだしな。

 だから俺もその一人として、飲み続けてもいいんじゃないかな。

 今回、他人に迷惑はかけてないからセーフだしさ。結果的にはポイントもたくさん入ったわけだしさ。

 

 でもさすがに今日は、もう大人しく寝るよ。

 じゃ、おやすみ。

 

 

 



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名前を考えるのって、子供の名前じゃなくても大変だよな。

 気付けば、俺は南斗の拳士のひとりに認定されていた。

 俺が独自の奥義にまでたどり着いた事を、なぜかシンが知っていた。きっとシステム的なアレか、ウィンドウさんの仕業だろう。

 それで南斗六聖拳のひとりとして、南斗108派のひとつとして認定してくれたんだそうな。

 

 大きなお世話にもほどがあるんだが。

 

 というか、認定する前に俺に一応知らせろよ、と。

 もう認定されたんでムダなあがきなんだろうが、新たに増やしていいのかと聞いてみた。

 だが、核戦争前は1000を超える流派があったので問題が無いと、いとも簡単に答えられてしまった。

 108が正統な流派の数なんだそうだけど、実際、世紀末な世になって減ってしまっているから、逆に都合がいいんだとか。

 

 他にも独自すぎるとか、拳使ってないからとか、色々と認定を避けようとしたんだが、無駄な抵抗だったよ。

 だが名前について考えたいから、と時間を稼ぐ事には成功した。

 さて。この間に、だ。この間に、稼いだ時間で何とか。何とかせねばヤバい。

 

 このままだと名前が南斗中心脚になってしまう。

 

 ナニで斬ったり突いたりする拳法。その開祖になってしまうのだ。

 

 クソッ。どうしてこうなった。

 あの時、酔っていたとは言えなにをやっているんだ、俺は……

 

 こうなった以上は、アレだ、特訓だ。修行だ。修練だ。実験だ。

 新たな奥義を別に作って、そっちをメインに持っていくしかあるまい。

 中心脚は裏奥義にでもして、隠してしまえばいい。それがいい。そうしよう。そうするしかあるまいて。

 

 さもないと、戦闘が始まるやいなや、初手でズボンのチャックを下ろすところから入る、セクシーコマンドーの使い手な南斗の流派が出来てしまう。

 

 しかも出すモノはそのまんまという、セクシーコマンドー以下の、ただの変態だ。

 それは避けたい。本当に避けたい。というか、そもそもあの奥義がなんで通った。

 

 いや。今はグチってる場合じゃない。奥義だ。奥義を作るんだ。

 さいわい、構想はある。ポイントも豊富にある。いけるはずだ。

 奥義まで行かなくとも、技をいくつか作れれば、拳の名前くらいは何とか修正できる。はず。できるといいな。

 いや、やれる。やれるんだ。そう思い込め、俺。がんばれ、俺。負けるな、俺。力の限りに。

 まずは修行場へ移動するか。いくつか南斗聖拳と、ヨガのスキルを上げないと……

 

 

 

 そしてうつぶせに寝て体を反らし、背面で両足のつま先を手でつかむ、水魚のポーズこと弓のポーズをしていたら、サウザーが横でマネしようともがいているのにイラッと来たり。

 ヨガを2に上げただけで、若干手足を伸ばせるようになった自分にちょっと引いていたら、横で見ていたサウザーにはもっと引かれて、少し傷付いたり。

 更に柔らかい動きを求めて、ヨガを3に上げるべくヨガファイヤーからヨガフレイムへパワーアップさせようとするのを、横でサウザーがマネて炎を吐こうとしているのにイラッと来たり。

 柔らかくうねる手足に、南斗独特の切れ味を両立させようと四苦八苦していると、重さを消す方向でも気を活用しろと、サウザーに有用な助言をされてイラッと来たり。

 そんなストレスと引き換えに、めでたく俺の独自の流派は完成した。

 

 [P:8→8 南斗龍舌拳 を習得しました!]

 [P:8→18 トロフィー(虹):オリジナルの拳法を作る を達成しました!]

 

 いや~。減った減った。23あったポイントが、南斗聖拳とヨガを1から3まで上げるのに、10ポイントと5ポイントで15も減りやんの。

 だがその甲斐はあった。手に入れたぜ。中心脚じゃない、俺の拳法を!

 良かった。ホント~… に良かった……

 

 それと、自分の拳法って習得するのにポイントいらないし、スキルレベルもないのな。

 ある意味、納得だわ。

 

 拳法の名前は、アレだ。ヨガで手足を柔らかくして、出来れば伸ばして、それをムチみたいに扱うのが基本の拳法だから、それを龍の舌と表現したわけだな。

 むしろ触手っぽい気もしたが、そこは気にするな。

 元ネタは刃牙に出てきた鞭打だ。そこに南斗聖拳も混ぜたんで、殴るも良し、斬るも良し。ダルシム入ったヨガも混ざってるんで、伸びるし軌道もムチャな変化するぞ。

 なお。ヨガファイヤーは技の中に入りません。アレは別枠だろう、常識的に考えて。

 

 常識ってなんだっけ。

 

 投げ捨てるものでいいんだっけ?

 まあ、常識はいいや。これで万一お披露目とか言われても、困らないぞ。

 集まった南斗の拳士の面々の中で、下半身スッポンポンになってナニを振り回す俺なんて、もうどこにもいないんだ!

 やったぜ。

 

 まあ、作ったはいいけど、正直あんまり使わない気もする。

 殴った方が早い、とはトキ流北斗神拳の基本だけど、殴るより撃ったほうがもっと早いんだよな。

 モヒカンリーダースキルで出せる、ボウガン便利です。

 ネームドキャラなら斬って防ぐし、北斗の拳士に至っては二指真空把で跳ね返してくるけど、そんな相手とはそもそも戦わないで逃げるしなあ。

 

 そういうわけなんで、完成したならさっそく手合わせしようぜ、と張り切っているサウザーをごまかそうと思う。

 この間、出せる卵には魚卵も含まれていると気付いて、手に入るようになったタラコとイクラ、キャビア。

 そのうちタラコを使った、キーマカレーならばいけるだろう。

 炒めるという手法は、調理技術(中華):2の範疇だ。確実に腕は上がってきている。

 

「その前に、腹は空いてないか? 厨房へ行こうぜ」

 

 さあ、付いて来いサウザー。お前にキーマカレーもアリだなと言わせてやるぜ!

 

 ニンニク、赤唐辛子に、ショウガをラードで炒め、着実に入って来るようになった農作物の数々をみじん切りにして投入!

 中華ナベが大活躍だぜ、ヒャッハー!

 豚ひき肉をカレースパイスを絡めつつ投入。更に炒めて、火が通ったならば皿へ!

 そこへタラコだぁー! 白ワイン代わりの日本酒、長野県は松本の大信州で伸ばして、乗っけるぜー。半熟の目玉焼きも乗っけるぜー。

 っしゃ! 完成だ!

 

 どう考えても、拳法作ってるよりも、料理作ってる方がテンション上がる件について。

 

 なんでだろうなあ。俺、モヒカンなんだけどなあ。

 ひょっとすると最初の頃に出てきた、あの選択肢のせいかなあ。

 ほら、あったじゃん。あの三択。最初の同行者の正体に、ケンシロウとジャギとその他の、どれ選ぶよってヤツ。

 

 今思えば、あれはルート選択だったのかもなあ。

 

 ケンシロウなら正統派ルート。北斗の後継者でも目指しながら、各地の問題解決、悪党退治。

 ジャギならヒャッハールート。村を襲ったり、モヒカンを束ねたり、シンやサウザーをそそのかして、ケンシロウなんかにぶつけたりする、悪党プレイ。

 そしてその他のゲンジロウ。わりと自由に、この世紀末を生きてくださいというお任せプレイ? それにギャグ補正もあるよな。うん、間違いなくそれはあるわ。

 

 このルートを選ばなかった場合は、調理技術で食糧が出てくるとかは無かった気がするんで、これはこれでいいけどさ。

 このルートで本当に良かったんだろうかなあ。

 

 この道を行けばー どうなるものかー。とプロレスラーのアントニオさんは引退する時に言っていたが。

 まあ、彼の言うとおり、行けば分かるか。

 そもそもエンディングがあるのか。あるとしたら、どんなエンディングなのか。ひとつ、確かめてみるとしよう。

 

 ただ、どっちに行けばエンディングがあるのか、見当もついてないという問題があるんだけどな!

 

 まあ、そこはそれ。

 高度の柔軟性を持ちつつ、臨機応変に対応すれば、何事があっても大丈夫だ。

 自由惑星同盟軍士官学校で主席を取ったフォークさんもそう言っている。

 

 さあ、この世紀末をがんばって生きようか。

 

 

 




●セクシーコマンドー
セクシーコマンドー外伝すごいよ!マサルさんより。作中に登場する流派である。
格闘技かどうかはかなり怪しい。フェイントのみに特化した流派。
「はぁぁぁぁぁ」と気合を入れて怪しげな動作をしたあと……ズボンをヒザまで下げて、そのままダバダバと奇妙な動きで走り寄ったりする。そしてあっけに取られた相手に一撃を入れる。
おもむろにズボンのチャックを下ろし、そこから何か小物を取り出し、やはりあっけに取られた相手に一撃を入れる。そんな流派。

●フォーク
銀河英雄伝説より。
戦犯です。


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進化キャンセルのBボタンはどこっすか。連打したいんだけど。

 気付けば、配下がオカしくなっていた。俺の配下は全員モヒカン。そのはずなんだ。

 革か鉄の肩パッドに、革ヒモだけの上半身と、ジーンズや革パンなど頑丈な素材のズボンの下半身という同じようなファッション。

 マユなしに、頭の両側の毛もない、皆おそろいのモヒカンヘアー。

 正直、見分けがつかない。そんな個性的だが没個性な集団が、俺の配下だったはずだ。

 

 なんかファーストな一歩の間柴いるんですけど。

 

 筋肉モリモリだったのが、スッキリした細身になって、手足もスラッと長いんですけど。

 顔つきも変わってるんですけど。三角定規の長い方みたいなマユがあって、前より目つきが悪いんですけど。

 ダラリと下げた左手を、ヒジから直角に曲げて左右にヒュンヒュン振ってるんですけど。

 そこからジャブを無数に繰り出してるけど、ちょっと手が伸びてるように見えるんですけど。

 ていうか、どう見てもデトロイトスタイルからのフリッカージャブなんですけど。

 

 おまけに、なんか5人くらいいるんだけど。

 なに戦隊だよ。見分けつかねえんだよ。全員赤レンジャイなアレと同じか、お前ら。

 

 あと未来の海賊王(初期型)もいるんですけど。

 全体的に体つきが小さくなって、若返ってるんですけど。

 こっちは明らかに手足が伸びてるんですけど。あっ、首も伸びるんですか、そうですか。

 あの、すいません。その手を伸ばしながらの百裂拳モドキやめてもらえますか? どう見てもゴムなガトリングにしか見えないんで。

 

 よし。こっちは1人しかいないな。やったぜ、少しは楽だ。

 でもどっちも髪型がモヒカンというところだけ残してあるのが、逆にムカつくわ。

 特にルフィの方は似合ってないんだよ。黒髪のモヒカンに、違和感しかないわ。

 

 よーし。ツッコミ入れたら、少しは落ち着いたぞー。

 

 さーて。他に変わっちゃった子はいませんかー?

 今ならセンセー怒りませんから、大人しく手を上げて出てきやがりなさい。

 30数えますからねー。その間に出てこなくて、後で見つかったら、センセーぶっ殺しますよー?

 はい、30~、29~………ヒャア我慢できねぇ、0だー!!

 

 ああん? ヒャッハーじゃなくて、ベラボーって叫ぶようになったヤツが隠れていただー!?

 許さん。殺れ。いや、俺が殺る。

 ポイントになるかどうか、試してやるぜヒャッハー! ヒャッハーと言わないモヒカンは消毒だぁー!

 

 北斗! 新一(シンイチ)

 

 説明しよう! 新一とは、相手を強制的に自白させる秘孔である。

 登場時期は北斗の拳連載当時なので、どこぞの頭脳は大人な名探偵とは関係が無いはずだぞ。

 なお解唖門天聴(かいあもんてんちょう)など、自白させる秘孔は他にも複数存在する。どれだけ自白させるのが好きなんだ北斗神拳。

 

 ん? 殺すんじゃなかったのかって?

 バカヤロウ! 命を大事にしないヤツなんてサイテーだぞ!

 そんなヤツがいたら、俺が修正してやる!

 ただし、ネームドキャラだけは勘弁な。

 

「さあ。話してもらうぞ。お前たちに何があったんだ。どうしてこうなった」

 

 ホントにな。

 何がどうして、こうなった。

 

「ベラボー! ベラボー!」

 

 うん。わかんねえ。

 何か言ってるのはわかるんだけど、内容がわかんねえ。

 たぶんヒャッハー言語と同じく、何らかの圧縮言語だとは思うんだけど、系統が違うのか意味が伝わってこないんだよ。

 お前らはわかるか?

 

「「「「「ヒャッハー!」」」」」

 

 うん。わかんないのね。

 それと間柴もルフィもヒャッハー言うのな。モヒカンが残ってるからか?

 じゃあ逆に、モヒカンを剃ったら、ヒャッハー言語が通じなくなる可能性が存在する…?

 いや、モヒカンにすればヒャッハー言語が習得できる可能性も…?

 

 まあいいや。だったらどうしたってだけの話だしな。

 サウザーあたりを今流行の最先端ですよ、とダマしてモヒカンにして、ヒャッハーと言わせてみたいが、自重しておこう。

 南斗の拳士の一員としての立場が出来ちゃってるからなあ。ヘンに遊びすぎても、推薦者のシンに悪いだろう。

 

 さて。一応聞いてはみたが、こいつらに何があったのかは、実は心当たりはあるんだよな。

 というか、手が伸びてるあたりで気付かざるをえないというか。

 

 うん。俺の作った流派の影響だわ、これ。

 

 自分の流派を立ち上げた事で、配下が門下生扱いになったんじゃないかな。自動で。

 聞けよ。選択肢くれよ、ウィンドウさんよお。

 

 待てよ? そうすると、こいつら7人が俺の今のところの高弟か。

 イロモノしかいないな。どうしてこうなった。

 

 だが、まあ、なんだ。なっちまったもんはしょうがねえか。

 配下がパワーアップしたと、前向きに受け止めるか。実際、強くなってるみたいだしな。

 

 よし、名前をつけるか。見分けがつくようになったことだしな。

 

 まずはひとりだけのルフィモドキ。

 モヒカンルフィだから、お前は今日からモヒィだ! わかったな! 返事はどうしたあ!

 

「ヒャッハー!」

 

 よし。返事はヒャッハーだ。モヒカンならそうでないといけない。

 

 あと間柴は間柴な。他に思いつかんわ。

 

「ヒャッハー」「ヒャッハー」「ヒャッハー」「ヒャッハー」「ヒャッハー」

 

 そりゃねえぜって?

 わかった。じゃあ、お前らそれぞれ、デ、ト、ロ、イ、トで五人そろって間柴な。

 え? トがふたりいる?

 良かったな。おそろいだぞ。

 というかだな。お前ら、この先また出番があるかどうかかなり怪しいんだから、そんな事気にしても仕方が無いぞ?

 

「ヒャッハー!」

 

 リアルなハナシはするなって?

 人生、そんなもんだって。気にするな。俺は気にしない。

 この世紀末かつゲームっぽい世界で、色々と気にして生きてたら、キリがないぞ。マジで。

 自分が本当に生きてるのかどうかさえ、疑わしくなるんだからな?

 だから名前なんて気にするな。俺もモヒカンと強制的に名付けられたが、気にしてないぞ。

 

 ところでだ。そんな事よりも、大事な質問がある。

 

 お前ら、まさか――――――

 

 

 

 ――――――中心脚を覚えていたりは……するんでしょうか。

 

 可及的速やかに、報告しやがってください。

 そして覚えていたら、即封印しやがってください、お願いします。

 

 

 



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何も考えず、走れ!

 気付けば、ファルコに殺されかけている。どうしてこうなった。

 この世紀末世界へと来てから、何度つぶやいたのかわからない。本当にどうしてこうなった。

 この先もきっと、何度もつぶやく事になるんだろうな。そんなイヤな確信がある。

 

 今回は、本気で原因不明だ。心当たりがこれっぽっちも有りはしない。

 ただなんか、問答無用で「戦え」とか言われて、襲われてしまっているのだ。

 こうしている今も、ビームがシュンシュン飛んで来ている。

 

 オカしいだろ。

 

 それもう、北斗じゃなくてドラゴンボールの戦法だろ。

 こっちもそれをヨガファイヤーで迎撃するという、ストリートファイターな戦法使ってる以上、あんま言えねえけどよ。

 それでもお前は、一応原作キャラだろう。

 そんな世界観が違うような事やってるから、作者に新章突入と同時に、カマセ扱いで消されるんだよ。

 

 あっヤベ。

 

 なんか地雷でも踏まれたかのように、いきなり攻撃が激しくなったファルコの闘気刃が飛んでくる。

 手を胸の前で、小さく前に習えのポーズをして、そのまま上下左右に手をわちゃわちゃ動かしながら「元斗流輪光斬!」とか言ってるから、奥義のひとつなのかもしれない。

 察するに、手をでたらめに動かすことでいつ闘気刃を飛ばすのかわからなくする、フェイントつきの攻撃技なんだろう。

 

 まあ、遠距離攻撃なのは変わらないんで、見てからかわすだけなんだけどね。

 

 と思っていたら、次は八つ裂き光輪が飛んできた。それも二個。

 衝の輪(しょうのりん)という技らしいが、輪が身長より大きい。面積がある分よけられないな。なら迎撃だ。

 

「ヨガフレイム!」

 

 ヨガファイヤーとは違って、相手に飛んでいかずにその場に溜まる、大きな炎を吐き出す。

 それが壁になって、俺の身を守ってくれた。

 だがヨガファイヤーも、ヨガフレイムも、ゲームと同じく吐いている間は足が止まるという欠点がある。

 これは反動に耐えたり、渾身の力で息を吐き出すためだったりするからで、仕様だからという理不尽な理由ではないとは言っておく。

 

 だからこうして、そのスキを突かれて懐に飛び込まれても、対策はある。

 

黄光刹斬(おうこうせつざん)!」

 

 闘気を込めたただのチョップという、超絶地味ながらも元斗の最終奥義らしい技を使ってきたファルコを意識から追いやり、両手を合わせる。

 目も閉じて、己の内側に意識を最速で沈めて、己を一度消す。そして解き放つ。

 

 そして目を開ければ、俺はさっきまでとは全く違う場所で、座禅を組みながら宙に浮いていた。

 

 技の原理も理屈もサッパリわからんが。

 これが、ヨガテレポートだ!

 

 うん。これでも俺は、北斗の拳士にして南斗の拳士でもある、モヒカンリーダーなんだがなあ。

 今回、ヨガしか使ってねえや。

 

 北斗世界なのに、ヨガの方が便利な可能性が……?

 

 なおヨガテレポートは、ヨガを4に上げたら生えてきた。5にしたらどうなるのか、怖くなってまだ確かめていない。

 悟りでも開けそうな気がするし、もし外見がダルシムになったら、ほら、なんかイヤじゃん?

 もしそうなったら、配下もモヒカンじゃなくてスト2軍団になるかもしれん。

 バイクという移動手段があるのと、減ってもそのへんの野良モヒカンから補充がきくだけ、モヒカン軍団の方が使い勝手がいいと思うしな。

 

 まあ、あいつらがいるからどうだって意見もあるだろうけどよ。

 あんなんでも、統治の役には立ってるんだぜ?

 間柴シリーズなんか、仕事はマジメにこなすしな。逆にルフィならぬモヒィは、全く仕事をしなくなったが。

 

 ベラボー? ベラボーは、なんか野性に返ったよ。

 

 悪党を探してシバく、ケンシロウと同じような行動をしているらしいぞ。

 ただベラボーとしかしゃべれないのと、外見が、アレだ。怪しい派手な、変わった鎧(?)の男なんで、あまり理解はされていないらしいがな。

 自主的にKING軍の領地の巡回をしてくれている、と言えなくも無いんで、まあ、ヤツについてはそれでいいとしようと思う。

 言葉が通じないんで、他にやりようが無いとも言う。

 

 さて。

 

 逃げ切ったはいいが、どうしたもんか。

 本当に、ファルコに襲われるような心当たりは無いんだが。

 ここはひとつ、上司に相談してみようかね。座禅組んで、両手合わせて、ヨガテレポートっと。

 

 そしてあのビルの最上階の、窓が無くなった吹き抜けのところに跳んだのだが、シンがいなかった。

 代わりに秘書的立場にいる、モヒカン系の人がいたので聞いてみた。

 

「ヒャッハー?」

「ヒャッハー!」

 

 相手がモヒカンだと、ひとことで全てが済むんで実に便利だ。

 それはいいんだが、聞きだした結果はいいもんじゃあなかった。

 

 シンが天帝を預かる事になったんだが、その世話係を俺に押し付けようとしたらしいのだ。

 それで預ける側のファルコが、世話係の腕を見てみたくて襲撃してみたと、そういうことらしい。

 

 そのわりには、殺意を感じられたんですけど。

 え? シンがそのくらいでやってくれってリクエストしてた? なんで?

 俺がケンシロウにバーテンのバイトを紹介して、その店でたまに飲んでるから?

 

 え? ホモの嫉妬?

 

 えっ? 俺、そんなんで死にそうな目にあったの? えっ?

 

 ……………………

 

 しばらく、旅に出ます。探しても無駄だ。

 帰ってくるかは、わからないけどな!

 

 ヒャッハー! 全部投げ捨てて、自由になるチャンス来たぜー!

 いつまでもチマチマ領地育成ゲーなんてやってられっかー!

 どこからともなく無限にわいて来る野良モヒカンがうっとうしいんじゃー!

 気を使って、陳情も聞いてやらないと、こっちの言う事を聞かなくなる住人も面倒なんじゃー!

 民忠とか治安とか生産量の数字を見せろや、ウィンドウさん!

 しかもキッチリ運営しても、今まで1ポイントもくれないのは、どういうことだー!

 

 ああ、もう、アレだ! カイオウだ!

 アレ倒しゃ、クリアできるだろ! 原作のラスボスだしな!

 このゲーム、クリアーして終わらせてやるぜ、ヒャッハー!!

 

 



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Go west って言われても大雑把過ぎる。

 気付けば、俺は海辺でたそがれていた。

 

 そうだよな。修羅の国に行くのに、船っているよな。

 

 しかも生きてるエンジンとスクリュー付きの船とか無いもんなあ…… 原作だと帆船で移動してたっけ?

 テキトーにそこらを走り回れば、放置されたFPS製の小船とかならありそう。

 というかここに来る途中でも見かけたけど、マトモなモンが残ってるかは、実に怪しい。

 

 いや、待てよ?

 

 スキルがあるじゃん。

 バイク取り扱いみたいに、船舶取り扱いみたいなスキルがあるかもしれないじゃん。

 バイク取り扱いが、1でバイクの運転、整備。2でバイクの修理、呼び出し。3でガソリンの補充が出来るようになっていったんだ。

 船も似たような感じだったなら、3まで上げれば行けるだろ。

 え~っと。今、残りポイントが14か。1+2+3の、6あればいいから楽勝だな。

 

 まあ、そんなスキルがあればの話だが。

 

 デク作製とかニッチなスキルもあった事だし、たぶん大丈夫だとは思うがな。

 さて。船を調達して、海辺で舟遊びをやってみようかあ。

 

 

 

 で。結論から言うとだ。

 何の! スキルも! 手に入らなかったんだよな。これが。

 

 オール代わりの木切れで漕いで見たり、広げた布を掲げて風を受けて進んでみたりもしたんだが、ダメだった。

 そんで一縷の望みに賭けて、近場の廃墟をあさったわけだ。

 お目当ては、ボートのエンジン。そいつを使って動かしてもなおダメだったなら、スキル頼みで修羅の国へ行くというアイディアは、お蔵入りだ。

 

 そん時は、どうすっかなあ。

 そうだ。原作では、船乗りやってた奴らがいたな。確か。

 そいつらか、それとも別の船乗りか。まあ、とにかく向こうへ渡してくれる奴らを探して、頼むしかねえな。

 料金なら大丈夫だろう。こっちには、ある意味無敵の調理技術スキルがある。

 この世紀末世界最強通貨の、食糧と水をいくらでも出せる。買収できるなら、拳王だって買ってみせるぜ。

 

 いや、そういやすでにアレは買収済みだったわ。

 

 ここんところず~っとニートやってるだけで、酒飲んでるか、遊んでるかなんで、存在自体をコロッと忘れてたわ。

 そうだよな。修羅の国に行くのに、アレを連れて行かない手はないよな。

 

 というか。俺一人で殴りこまなくてもいいよな。

 

 うん。なんで俺、一人で行こうとしてるんだ。冷静になったら、その事実にビックリだわ。

 ケンシロウじゃああるまいし、一人じゃなくていいじゃん。

 

 いや、でも軍団作って海を渡ろうというなら、やっぱ船いるよなあ……

 

 それに、冷静になって気付いたけどさ。俺、修羅の国の正確な場所知らねえわ

 

 いや、マジで。

 

 原作で、シンの支配地域が関東とかバットが言ってたシーンもあるけども、北斗の拳の設定って、後付けだらけでガバガバだからなあ……

 修羅の国も、幼いラオウらがボートでたどり着けたんで四国とか九州という説と、ケンシロウが徒歩で短期間に回れたんで沖縄か台湾説と、北斗本家の遺跡があるんで中国大陸説があって、どれなのかは分かんないんだよな。

 さらに今思いついたけど、この謎のゲーム世界の独自設定で、架空の大陸か島という可能性まであるもんなあ。

 

 うん。いるわ。道案内キャラが必要だわ、これ。

 

 

 

 そんなふうにツラツラと考え事をしながらも、かつては港に近い街だったろう廃墟をブラついていた俺の目に、ひとつの乗り物が映った。

 水上バイク。一応はバイクメーカーのヤマ○や、カナダの会社で、スノーモービルやバギーも作ってるシードゥ○。

 そして目の前で、かぶせられたシートもボロボロになっている、白い水上バイク。ユーモラスにも思える、アヒルかイルカを思わせるフォルムの、1100STXを作っていたカワサk。

 最終的には、この三社以外はほぼ撤退してしまった。そんなニッチなジャンルの乗り物だ。

 

 バイクでは、専門店に持ち込んでも他のメーカーの店に持ち込んでも「kワサキか……」と言われてしまう特殊性を、むしろ誇るメーカーだが。

 水上バイクではそんなことはない、らしい。

 それにこれも、一応はバイク。バイク取り扱いスキルで、何とか動かせないだろうか。

 水上に交差点も何もないんだよ、とばかりに、エンジンのスタートとストップボタン以外は、ウィンカーすら付いていないシンプルな仕様だしさ。

 その辺、どうなのよ。ウィンドウさん。

 

 [P:14→10 バイク取り扱い:4を習得しますか?(Y/N)]

 

 あっ。4ならいけるんですか、そうですか。なら習得しますわ。

 バイク取り扱い:4は水上バイクの召喚、整備ね。OK、OK。

 個人的には水上バイクだからじゃなくて、カwサキ製だからスキルレベル上げが必要だった気がしてならないけども。深くはツッコまないでおくよ。

 

 [P:14→10 バイク取り扱い:4を習得しました!]

 

 この1100STXって3人乗りなんだよな。それにこれでボートでも引けば、十人前後は修羅の国に行けるだろう。

 ラオウとか大男が多いけど、まあ、そこは乗っけてみないと分からんし。

 

 だが、今は全てを棚上げしよう。

 まずはこの水上バイクを、動かせるように整備しないとな。

 それが終わったら、もちろんちゃんと動くか、試運転しないとな!

 いやいや、これは試運転だから! あくまで試運転だから! たまには海で遊びたいってわけじゃあ、決してないから!

 

 贅沢を言えば、メタリックでデザインも攻撃的になった、もっと先の年代のヤツが欲しかったが、そこは仕方がない。

 北斗の拳は、199X年に核戦争が起こった世界という設定だったからなあ。それ以降のタイプが残っているわけが無いんだよな。

 

 その割には、たまに核兵器のコントローラーとか、謎の巨大バイクとかよくわからんオーパーツがあるけども、まあ、北斗ワールドだしな……

 

 週刊連載で、見切り発車でその場しのぎを繰り返して、それでも人気取って、最後まで駆け抜けたという恐ろしいまでの偉業だもんなあ。

 そらボロの1ダースや2ダースも出るよ。

 

 

 

 さて。バイク取り扱い:4になったおかげで、補修部品がどこからともなく取り出せる。

 プラグやバッテリーなど、消耗しやすいパーツを取り替え、1100STXは生き返った。

 回復魔法みたいに、自動で直れよと思わないでもないが、それはまあ贅沢な願いか。

 

 さあ、試運転だ。海に行って、呼び出すぜー! 乗るぜー。超乗るぜー!

 サーフボードも見つけたから、こっちにも乗っちゃうぜー!

 トロピカルドリンクでも飲みたいが、無いんでビールでガマンだー! だが白ビールにしてフルーティーさは味わうぜ! ヒューガルデンだ!

 

 さあ、海だぜヒャッハー!!

 

 

 



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もし神がいるのなら、前に向かう者を好きでいてくれるはず。もて遊べるから。

以前我輩は○○であるで、シンフォギアの作品を紹介した事がある 小此木氏のほかの作品、貴様にも味あわせてやる!ゲッターの恐ろしさをな!! を推してみる。

流竜馬の外見に転生。早乙女研は無かったが、その場所に行ってみたらゲッター見つけちゃったオリ主だったが、敵はインベーダーではなくマギウスや邪神なデモベ世界だった…! 違和感があったとしても、目をグルグルさせて勢いで乗り切れ。


 気付けば、俺は修羅の国にいた。

 なんでや。

 ちょっと前に、ひとりで行かなくってもいいやと悟ったとこだったじゃねーか。

 うん、まあ、アレだ。別に記憶が無いわけでも、いつの間にか来ちゃってたってわけでもない。

 ただ、ちょっと、ね。ちょっとだけ、ね。

 

 お酒が、ね…?

 

 違うんだ。聞いてくれ。

 別に酔った勢いで水上スキーで暴走して、なぜかたどり着いちゃったとか、そんなんじゃあないんだ。

 傾向は似てるけど、だいぶ違うんだ。

 

 まず俺が水上バイクで遊んで、もとい、水上バイクの試運転をやっていた時まで、話はさかのぼる。

 パワーはあるが、3人乗りなんで重いせいで思ったよりも動かない1100STXをブンまわして、何とかジャンプしながらの横回転、独楽のような一回転を成功させた時だった。

 

「おう。ニイちゃんいいもん持ってんなあ。ちょっと俺たちにも貸してくれや」

 

 あまりにもクラシカル(古典的)かつ、トラディショナル(伝統的)な問いかけに、思わず俺は叫び返した。

 

「オッケィ!」

 

 向こうも、えっ、いいの。みたいな顔をしていたが、その時の俺は気にしなかった。

 今思えばだが、軽くビールを飲んで、マリンスポーツを楽しんで、ようやく技が決まったところだったんで、軽くハイになってたんだな。

 

 声をかけてきたのがモヒカンじゃなかったのも、あったのかもしれない。

 ヒザまでの短いズボンに、上半身はチョッキを引っ掛けただけの半裸に、なぜかおそろいのハチマキ。

 

「うわぁああー!」「ヘッタクソー!」「次オレなー!」

 

 ベルギーのリンデマンス・カシスをビンのまま回し飲みしながら、水上スキー初体験で失敗する仲間をサカナに盛り上がっている。そんな彼らは、地元の漁師たち。

 朝の漁が終わって帰ってきたら、何か変な事をしているモヒカンがいる、という事で様子を見に来たらしいのだ。

 

 うん。否定はしづらいな。

 

 だが話してみれば、分かり合える事もある。とりあえず飲みながら話そうか、と酒を入れれば、もっと分かり合える事もある。

 今回は、カシスビール飲みたいなー。でも、これ麦以外も使ってるから、厳密にはビールじゃないんだよなー。

 そう思いながらも、未練がましく試してみたらイケた。

 

 日本だと発泡酒の分類になってるせいか、例えばクリアア○ヒとかは調理技術スキルで出せなかったんだが。

 海外には発泡酒という分類が無く、全部ビール扱いなんでイケたんだろうか。割と判定ガバガバだな。助かるけども。

 

 リンデマンス・カシスは、どこぞの谷に生存しているらしい自然酵母、つまりは野生の細菌の作用を利用して作ったビールに、カシスの果汁を入れたものだ。

 ピーチ、アップル、ストロベリーなど他にも多数のシリーズがあるんだが、残念ながら俺が飲んだ事が無いので、取り出せない。本当に残念だ。

 もう二度と飲むことは無いんだろう。そう思うと、なぜ飲んでおかなかったのかと、後悔がつのる。

 

 まあ、世界五大ビールの一つとまで称えられた、リンデマンス・クリークは出せるんで、あんまり後悔は重く無いんだがな!

 

 さくらんぼの果汁を加えて、熟成させたビール。その豊かな風味はビールというよりも、もはやスパークリングワインに近い。

 軽やかな甘みとさわやかな酸味と、ほのかな、しかし確かな苦味。バランスが大事だという事が良く分かる味だ。

 意外と炭酸強めで、ぐいぐいイケるぞ。

 

「あっ。モヒカンさんだけ、別のやつ飲んでるー!」「ズルイですよ。こっちにも下さいよー!」

 

 ちっ。見つかったか。

 しょうがねえなあ。ひとり一本だけだからな?

 

 

 

 で、その後だ。

 まあ、わかるだろうが、俺らはそのまま昼を大幅に過ぎても、飲んでてな?

 奥さんたちやらが、様子を見に来ちゃってな?

 

 うん。スッゲー怒られた。

 なんでか、俺も怒られた。

 奴らに水上スキーの乗り方を教える代わりに、サーフィン教えてもらって、一緒に遊んでたからだろうか。

 ああ、うん。それは一緒に怒られるわ。

 

 いい大人が、昼間っから酒飲んで、遊んでんじゃないよ! という恰幅のいい奥さんのお叱りは、まっとうすぎて反論できなかったぜ。

 

 そんな奥さんも、俺がおワビとして渡した小麦粉と肉には、ニッコニコであったが。

 時はまさに世紀末。野良のモヒカンがウヨウヨいるわ、村の支配者や、時に村人たちすらも後先考えずに略奪に走るわで、ロクに交易も出来ないからなあ。行商人自体、いるんだろうか?

 この漁村も魚介類と塩は豊富に手に入りそうだけど、それと引き換えに何かを手に入れるっていうのは、その機会すらも少ないんじゃなかろうか。

 

 そして飲んでいた俺たち若い衆に、手に入った臨時の食糧と酒。

 この二つを前に、残った漁村の人たちはこう思った。

 

「ワシらも飲みたい」

 

 彼らの顔を見てそれを悟った俺は、深くうなづいた。

 

「オッケィ!」

 

 そして、宴会が始まった。

 その中で「そもそもアンタ何やってたんだ」という質問が、ようやく飛んできたんで「修羅の国に行こうかと思って」と答えたんだよな。

 そうしたら、漁村の人らの中に、場所を知ってるって人がいてさー。

 追加の食糧と酒で、案内してやろう。って言うんで、お願いしちゃったんだよな。

 つい、流れで言っちゃってなあ…… で、そのまま翌日に出発だよ。あ、やっぱキャンセルで。とか言い辛いよな。

 

 そんで水上バイクで小船を引いて、修羅の国へ。

 2日かかったが、意外と近かった。

 

 案内役の人とは、陸地が見えたところで、小船を切り離してお別れした。さすがに修羅の国に上陸したくはないらしい。

 そして俺がひとりで上陸して、だ。ヨガテレポートでの行き来は出来るだろうか、と試そうとした。その時だ。

 

 首の後ろに衝撃を受けて、意識が無くなった。

 

 誰にやられたかもわからんが、首筋にトンッ! と手刀を入れるアレをやられてしまったらしい。

 

 ああ。ゲームオーバーか。

 そう思ったんだが、どうやら違うらしい。

 意識を取り戻す事ができたし、取り戻した後も、俺はモヒカンのままだった。

 

 ならばコンティニューか? と思ったが、それも違うようだ。

 ここは修羅の国らしいし、そもそも俺は死んでいないという。

 

 まあ、つまりは。気を失わせて攫うという、いわゆるハ○エースされてしまったという事らしい。

 

 で。その狙いだが。

 

 

 

 ジャラジャラと、固い小さなものがブツかりあう音がする。

 タバコの煙が漂い、殺伐とした空気がピリピリとしている。

 チャッチャッ、と固いものを積み上げる音がして、コロコロとサイコロが転がった。

 

「左、八」

「六」

 

 サイコロの目が読み上げられると、真四角の机を囲んだ男たちが、無言で机の上の物を取っていく。

 俺も、その中の一人だ。

 そして手元にそろえたそれらを並べると、その中から一つを選んで前に置く。

 置いた物を横向きにして、宣言した。

 

「ダブルリーチ」

 

 うん。何をやっているかは、分かる人には分かってもらえると思う。

 

 麻雀だ。

 

 なんでだよって言われると、俺も困るんだが。

 なんか、修羅の国の支配者であるカイオウ相手に、こんな事を言ったヤツがいるらしいのよ。

 

「麻雀で勝負だ!」

 

 なんでか、それが通っちゃったらしくてね?

 しかも、勝っちゃったらしくてね?

 それ以降、拳法での殺し合いの他に、麻雀での勝負もしないと修羅になれなくなったらしいよ?

 

 バカじゃねーの。

 

 そう思うけども、そのおかげで命拾いした身としては、なんとも言いがたいものがある。

 元々修羅になるには、同類を100人殺さないといけないらしいんだけども、まずそれだけでも大変だ。

 拳法家や武術家100人探すだけでも、結構な手間がかかる。しかも探しているのは自分だけではない上に、時間経過とともに他人に狩られて減っていくのだ。

 

 そこに、麻雀での勝負も加わる。

 

 当然ながら、殺した相手とは麻雀を打てない。

 だからこうして、倒した後に麻雀で勝負してから殺す、という手順が普通なんだそうな。

 

 普通ってなんだっけ。

 

 なお麻雀には4人メンツが必要なんで、3人倒してメンツをそろえなければいけないのが面倒なんだと、上家に座った修羅候補さんがグチっていた。

 

 いや、知らねーよ。

 

 なんだろうなあ。一応は自分の命のかかったバクチだっていうのに、イマイチ緊迫感が持てないんだけども。

 他のメンツはピリピリしてて、場の緊迫感はあるんだけどなあ。なんでだろう。

 

 やはり、いざとなったらヨガテレポートで逃げればいいや。と思っているせいだろうか。

 

 あ。ラス牌。これで流局かな。

 ってツモった。

 裏ドラは……無いわ。ダブリー、ハイテイ、ツモのみ。ある意味レアだな。

 はい、4000オールね。さあ、次の局いこうかー。

 

 

 




今作のサブタイトルは、何となく銀魂っぽくしたやつと元ネタがあるヤツです。
「たいていの問題は、コーヒー一杯飲んでいる間に、心の中で解決しているものだ」とか。
ちなみにガンダムXより。体も心もケアする医者テクスさんのお言葉。

今回のは咲-saki-より「もし神がいるのなら、前に向かう者を好きでいてくれるはず」ネットではネタキャラ扱いの池田ぁ!の発言。


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疑惑の兄弟たち!

唐突に麻雀出したのはアリだったのか、実は自信が無いです。
あと今回ちょっとアンチ入ってるかも。


 気付けば、俺はとっさにバイクを呼び出していた。

 上家(かみちゃ)の修羅候補さんに親番が回って、配牌が終わった瞬間に、とてつもなくイヤな予感が走ったんだよ。

 そんで直感に従って左隣の席を見ると、案の定修羅候補さんが、仮面越しでも分かるほどに悪い笑顔をしていたんだな。

 

「ツモ、天ほ―――」

 

 修羅候補さんが宣言して、一つも牌を捨てる事無く牌を前に倒そうとした。

 しかしその前に卓にバイクが唐突に降ってきて、全ては無かった事に。

 

 まあ、やったのは俺なんだが。

 

 流れるようなツミコミからの、サイコロをコントロールできる振り方からの配牌を見ての、とっさの行動だった。

 目の前に呼び出されたバイクは見事に雀卓を倒して牌をバラ撒き、彼が最後まで言い終わる前に、この勝負を無かった事にしてくれたのだ。

 

 これぞ将棋やオセロなどのボードゲームや、カードゲーム全般に共通する、禁断の奥義。ちゃぶ台返しである。

 

 これをやってしまうと、次からは相手が遊んでくれなくなるという意味でも禁断の奥義。

 今回は、呼び出したバイクを即座に消す事で証拠も隠滅しているので、そこは大丈夫だ。

 バイク取り扱い:4で水上バイクの扱い、召喚と一緒に出来るようになった、バイクの召喚の応用だ。

 今までも召喚出来ていたと言えば、出来ていたんだが。あれはどこからともなく走って来るという、言わば登場シーンが必要だったからなあ。

 今は、空間からフッと現れる。マジで召喚だな。

 

「まさか修羅の国でも、暴れバイクが出るとはな。犠牲者が出なくて、良かったぜ」

「あ、暴れバイク?」

 

 何を言っているんだ、と思っただろうが、そう言ったのは俺じゃない。

 テキトーこいてごまかそうとしたら、なんかもっとテキトーなヨタを飛ばすヤツがいたんだ。対面(といめん)の席に座った、赤い髪の男だった。

 

「知らんのか? 暴れ馬と同じく、たまにいきなり出現しては、運が悪いヤツを轢いてどこかへと消えていく、謎の多いバイクの事だ」

「いや、知らんぞ。そんな話は。ウソだろう?」

 

 簡単にはダマされない。というか、信じがたいウソを受け入れてくれない修羅候補さんを、下家(しもちゃ)の席の、青い髪の男も説得する。

 

「信じようが信じまいが、現に暴れバイクは居たではないか。まあ、誰のチョンボでも無いただの事故だし、仕切りなおしといこうか」

 

 ここで当然、俺は天和をあがっていたと主張する修羅候補さんだが、そんな確認していない役満なんぞ、誰も認めない。

 というか、あれ、たぶんイカサマだろうし。

 運が大いにカラむ麻雀で、100回連続でトップ取れとか、イカサマでもなきゃあ無理だろう。10回でも無理だわ。

 そんなムチャ振りをされてしまったひとりである、この修羅候補さんが対策として身に付けたのが、さっきのあの天和なんだろう。

 それだけが武器かどうかは、わからないが。

 だが一応、こっちも命がかかった勝負(という建て前)だ。そういうのは容赦なく、ツブさせてもらおうか。

 

「ああ、妙なマネをするヤツがいなきゃあ、暴れバイクも出ないんじゃねえかな? うん、そんな気がするぜ」

「そうだな。妙なマネをするヤツがいなければ、な」

「いやあ、こんな真剣勝負の場で、そんな事をするヤツなど、いるわけも無かろう」

 

 それもそうだなHAHAHA と、わざとらしい笑いを上げる、修羅候補さん以外の俺ら3人。その目は、誰一人として笑っていなかった。

 

 さて。そろそろ皆に彼らのことを紹介しようと思う。

 修羅候補さんの事は、俺もわかんないから飛ばすとしてだ。

 

 赤い髪の彼の名は、シュレン。南斗五車星のひとりで、火燐拳の使い手らしい。

 拳法に南斗とも五車星とも名前がつかないので、元は他流派の人だったのを、リハクあたりがスカウトした可能性がある。

 原作では拳王ラオウに、自分の命を捨てて、己の体そのものを燃やして相打ちを狙った熱い男。

 その結果は、乗ってた馬の黒王号のタテガミ一本こがせなかったという、しょっぱいにも程があるものだったが、その熱さは一瞬だけ輝いていた。

 その輝きはラオウの心をも動かし、ここまでして守ろうとする南斗最後の将とは一体? と興味をそそらせることに成功する。

 

 ってダメじゃねーか。今思えば、逆効果満点だなオイ。

 

 炎も、火『燐』拳って言ってるし、闘気とかの応用じゃなくて、マッチの先っぽにも入ってるリンを使ってるんだろう。

 それじゃあ人を焼き殺せるほどの火力が出せないから、火を出して脅かして、そのスキに攻撃を入れるというコンセプトの拳法なんじゃなかろうか。

 

 つまり、カッコいいセクシーコマンドーの使い手か。

 

 それと青い髪の人こと、風のヒューイを弟星とか言ってるけども。義兄弟なのか、それとも実の兄弟なのか。

 実の兄弟だった場合は、兄弟なのに髪の毛の色がかなり違うので、また世紀末家庭板案件になってしまうんだが、そこのところはどうなんだろう。

 両方目の前にいるから、聞こうと思えば聞けるんだが……

 

 うん。気付かなかった事にしよう。

 

 ラオウの所の兄弟も、カイオウラオウと来て……トキ? みたいな家庭板案件疑惑があるしな。

 カイオウとラオウはうり二つと言っていいほど似ているが……トキ? みたいな。

 

 世の中。知らない方がいい事というのは、意外と転がっている。

 それらを見て見ぬ振りができる事も、大人になるという事なんだろう。

 

 スルー技能は、人生で大事。モヒカン、覚えた。

 

 

 ああ、そういえば。

 

 

「アンタも修羅の国の人間じゃないんだよな? なんでこの国に?」

 

 青い髪のヒューイに聞いてみた。

 この人はやはり南斗五車星のひとりで、五車風裂拳だか五車風仁拳だかの使い手で、風の中に真空を走らせ、鋼鉄をも断つという強そうな売り文句の持ち主だ。

 その鋼鉄の厚みとかを言わないあたりが、少し怪しいが。

 風を操り、スッパスッパ切り裂く、遠距離攻撃主体の人なんじゃなかろうか。

 

 原作では、なぜかラオウに直接飛びかかっていって、カウンターで殴られて死んでたけどな。

 

 その前に拳王侵攻隊を襲いまくって、ラオウに「南斗最後の将が動いたか。ウザそうだからツブしとこ」と思わせ、それまでノーマークだった最後の将が、ラオウに目を付けられるキッカケを作った男でもある。

 しかもバカ正直に、自分の所属と名前と目的を全部ラオウにしゃべっちゃっていたという、もう、何と言っていいのか分からん男でもある。

 最後の将を守る事が彼ら五車星の使命、のはずなのだが。なぜ兄弟そろって命を無駄に捨てて、守るどころか逆に危機にさらしていくスタイルなのだろうか。

 もしかして、これも策がことごとく裏目に出るという、海のリハクってヤツのしわざなんだろうか。

 

 ここで天才軍師という肩書きだった、海のリハク。彼の全盛期の伝説をごらんいただこう。

 

 自分以外の五車星がラオウひとりにことごとく破れる。ただし、なぜかひとりずつ送り出した模様。

 それだけの犠牲を払って考え付いた策が「せや。ワナだらけの城におびきだせばイケるやろ」だった。なお、ワナは当然のように全部乗り越えられた。

 そしてラオウに自分が殺されそうになるも、ケンシロウに助けられ、そのままケンシロウが勝ちそうになった所で、リハク最後のワナが発動。勝負はウヤムヤに。

 それどころか、その結果ラオウだけが最後の将であるユリアのもとに移動してしまい、そのままさらわれるというミラクルを起こす。

 

 うん。コイツ実はラオウのスパイだったと言われても、信じられるかもしれん。

 

 そんな海のリハクの下に未だにいるらしい、この世界の五車星のメンツだ。

 目的くらいは把握しておかないと、なんかヘンな事に巻き込まれる恐れしかないからなあ。

 ここはちゃんと確認しておかないと。

 

 正直者のヒューイは、実にアッサリと答えてくれた。

 

「シュレンがな。自分とお前のキャラがカブってるかもしれないから確認に行くと言って、聞かなくてな」

 

 えっ。俺?

 カブってるって、えっ。

 

 もしかして:ヨガファイヤー

 

「燐や油などを使わず、炎を操ると知ってからは技を盗むのだと、ずっと観察していたぞ」

 

 えっ。ストーカー?

 なにそれ怖い。

 ちょっとそっち系の技の…… ヨガの師匠のダルシムさんを紹介するんで、勘弁してください。

 手足が伸びるようになったり、テレポートしたりするようになるかもしれませんが、副作用なんで、そこはあきらめて下さいね。

 

「じゃ、帰るとしますか。元の国へ。国なんざ無いけどな」

 

 こいつらと一緒に居るのも怖いし、修羅どころか、その候補に負けるってアカンやろ。ここは一時撤退しないと。

 

 しかし国かあ。自分のトコを国だと認識してる集団って、ほとんどないからなあ……

 

 えっ、修羅候補の人、何? まだなんかあんの?

 

「何を終わったような気になっている。勝負はまだこれからだろう」

 

 ああ、そういやそうだったね。ちゃっちゃと終わらせようか。

 牌をかき混ぜ、山を積む。サイコロを振り、手元に牌を取る。うん。終わったな、これ。

 

「なあ。アンタさっき、勝負はまだこれからって言ってたけどさあ……」

 

 他所の卓の客からスッたタバコを、シュレンに火をつけてもらって一口だけ吸う。

 このセリフを言うには、タバコが必須なのだ。

 

「なあ、アンタ…………背中が、煤けてるぜ」

 

 なぜかニヤリとする、ヒューイとシュレン。えっ。お前ら知ってんのか?

 

 だが修羅候補さんは知らなかったらしい。前の局の俺のように最初の捨て牌を横に曲げて、ニヤリと笑った。

 

「ダブルリーチだ。もし今度もまた暴れバイクなんぞが出ようとも、跳ね飛ばしてやるわ」

 

 勝ち誇る修羅候補さんの様子から見るに、よほどいい手か、上がりやすい手でも入っているんだろう。

 でもゴメンな。もうこれ、終わってるんだわ。

 

 北斗神拳 水影心

 

 相手の動きを水面に映すように、心に写し取ってパクるという、最悪の奥義だ。

 お前のツミコミはもう、手に入れている。

 そこに俺の竜舌拳の伸びる手と、柔軟な動きを混ぜれば―――

 

「ご無礼。その牌いただきます。人和(レンホウ)、32000」

 

 えっ、人和ナシ? 聞いてないんだけど。

 まあいいや。そんじゃあ、トイトイ小三元ホンイツ白発ドラ3の三倍満な。

 どっちにしろあんたの負けだよ。トビだろ?

 

 安心しな。不意打ちとは言え、こっちも拳で負けて命をとられなかったから、こっちも何も取らんよ。

 ただ自由にはさせてもらうけどな。

 じゃあ、サヨナラだ。もう会わない事を祈ってるぜ。アバヨッ。

 

 

 



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ムダヅモだらけの改革

 

 気付けば、俺はまた卓を囲んでいた。

 と言っても、修羅の国での話じゃない。サザンクロスに帰ってからの事だ。

 

 まずは、シンに怒られた。

 一応はKING軍の幹部でもあったのに、無断で脱走して職場放棄してたのは事実だからな。

 でもファルコけしかけたよね? と聞くと目を逸らしていたが。

 おい、何とか言ってみろよ。

 

「ケ……」

「うん?」

「ケンシロウと仲が良さそうだったから…… つい……」

 

 ついじゃねーよバカヤロウ。もっかい出てくぞ、コラ。

 まあいいや。とにかく聞け。

 修羅の国に行って来た。向こうの状況を、少しは調べてきたから聞いとけ。

 あ、ちょっと待て。ついでだから、ラオウとケンシロウも呼び出してくれ。一緒に聞かせるから。

 二人が来るまでの間に、そっちから報告する事があったら聞かせてくれ。

 

 ……え? サウザーがいなくなった? なんで?

 

「いつものように、お前のカレーを食べに来たんだが、お前がいなかったのでな。探しに行ったらしいぞ」

 

 お、おう。どんだけカレー好きなんだよ。夕飯はいつもカレーだとか言ってたが、まさかマジなのか。

 週イチくらいでウチに来てたのは、ローテの一つだったのか。

 で、いなくなったって、どこ行ったのよ。

 

「それがわからなくてな…… なぜかレイとシュウも連れて行った所までは確認が取れているんだが」

 

 南斗聖拳でもっとも有名かもしれない、南斗水鳥拳の使い手レイと、目が見えないという設定の白鷺拳のシュウか。

 レイの方はケンと一時一緒に旅をしていた、レギュラーだった事がある大物キャラ。

 シュウは南斗十人組手になぜか参加していたケンシロウが、無事9人まで抜いた時に「見所ありそうだな」と出てきて、ケンシロウをボコった男だ。

 そしてケンシロウが「負けたなら処刑な」となった所で「ヤッベそんな掟あったな。忘れてた」とケンシロウをかばいに出てきた男でもある。

 彼の目が見えなくなっているのは、その時の「代わりに俺が視力捨てるから、それで勘弁してクレメンス」という交渉の結果だったりする。

 

 南斗の男は、なにか余計な事をしないといけない掟でもあるのだろうか。

 

 なお無くした視力は、心の目で物を見ているから、影響は無いそうです。だから『そういう設定』って言ったんだよな。

 南斗の拳士には珍しく、蹴り技主体の戦法だったり、サウザーの聖帝軍に対するレジスタンスのリーダーだったり、子供好きな善人だったりといい設定も多々あるんだけどなあ……

 

 あと甘い人でもあるな。人質100人取られたら、大人しく無抵抗で殺されちゃった人だからね。

 それとレイの親友っていう設定もあったな。

 その二人を連れて行ったって、本当にサウザーはどこ行ったんだ?

 

 そのタイミングでラオウとケンシロウが一緒に部屋へと入ってきた。

 

 なんか、仲良さそうなんですけど。

 

 両方、あんまり見た事が無い笑顔なんですけど。キミらに何があったの。

 

 よし。後で聞こう。

 そう心の中にメモをして、俺は修羅の国の事情を話し始めた。

 

「よし、まずは最後まで聞いてくれ。修羅の国は、カイオウってのが支配しててな―――」

 

 案の定、カイオウの名前に反応するラオウを、最後まで聞けって、となだめて話を進めた。

 修羅の国の支配体制、修羅という少数精鋭の正規兵と、羅将という幹部。

 それらをまとめるのも、運営するのも、すべては力。

 拳法の腕と、麻雀の腕であるという、オカしな事実。

 

 マー… ジャン?

 

 ケンシロウとラオウとシン。この三人がそろってポカンとした顔をしている光景はレアなんだろうが、予想通りだ。

 だよね。意表を突かれるよね。なんでだよって思うよね。

 

「どこの誰だかわからねーが、カイオウに麻雀での勝負を飲ませて、勝って。しかも約束を守らせた、とんでもねーのがいるらしいのよ」

 

 どこのどいつなんだろうな、ホントに。

 味皇とか秋山師匠とかいたし、他の作品のキャラもいるんだろうか?

 でもなんか、女性キャラはいない気がする。なんでだろう。

 

「それ以来、修羅にも麻雀力が求められるようになったらしくてよ? 向こうでの勝負は、そっちも必須になってるらしいぜ。実際、不意打ちで気絶させられてとっ捕まったけど、麻雀で勝ったら開放してくれたしよ」

「「「お、おぅ……」」」

 

 三人の反応がイマイチなんで、ここはひとつ実際に打ってみる事にした。

 まあ、やってみればわかるだろ。

 前回の勝利の後に覚えた、麻雀:1のスキルがうなるぜ。

 

 うん。あったんだ。麻雀スキル。ちなみに1では、牌と麻雀卓と点棒などの麻雀セットを出す事ができるぞ。

 だがこのスキルが存在するということは、麻雀が修羅の国で流行ってるのは、何らかのイレギュラーや異常事態じゃなくて、このゲームにとっては規定路線という事なんだろうか。

 だとすると北斗神拳ならぬ、北家(ほっけ)神拳とかあったりするんだろうか。北家迅速拳(素早いツミコミ)とか知ってる人は多分いないぞ。

 

 まあ、その辺はいい。

 イカサマアリアリの、無法にして無縫の麻雀。まずは体験してもらおうか―――!

 

 

 

「リーチ」

「チー」

 

 自分のヨガフレイムで火をつけたタバコを指に挟んで、宣言する。

 上家のラオウが叩きつけるように置いた牌を、食い取った。

 

「フン。一発消しか。小賢しい」

 

 なぜかルールを知っていたラオウが、こちらを鼻で笑う。

 初心者らしく、何を切ったらいいのかもよくワカらないで点数が沈み気味な、シンとケンシロウとは違って現在トップなのだ。

 俺からいい酒でも巻き上げてやろうというつもりなのか、妙に張り切っているのが見て取れた。

 

 だが、いい気になるのはまだ早い。

 

「ポン」

 

 下家のシンの捨て牌を鳴く。

 牌がさらされ、少なくなった俺の手牌から牌を切る。

 

「オレのリーチを流すつもりか? だから小賢しいというのだ!」

 

 シンとケンシロウに、ラオウが捨てた牌なら大丈夫だとアドバイスする俺を、ラオウが更に見下す。

 しかし問題はない。

 

「なあ、ラオウ。アンタ―――

 

 ―――背中が 煤けてるぜ

 

 カンだ」

 

「カンだと……!?」

 

 リーチをした者がいるのに、裏ドラやカンドラを増やすカンは悪手。ラオウが驚いたのは、そこだろう。

 だが、問題はない。牌が光った。それがわかる。

 嶺上牌をツモり、更にもうひとつカンを重ねる。そしてそのまま―――

 

「ツモだ」

 

 身を削るように減らしていった、残り一枚の手牌の隣には、同じ絵柄の牌が並んでいた。

 

「嶺上開花、チャンタ、南、発、ドラ7。三倍満だ」

 

「キサマ何をしたぁ!」

 

 ラオウがキレるが、別に何もしていない。

 ただ、ツミコミをしただけだ。ケンシロウと、シンを使って。

 なれない手つきで山を積む、彼らの手元にコッソリといくつかの牌を送り込んで、こちらに都合がいいように利用した。それだけだ。

 

 鳴いて都合良く牌が来たり、ラオウが危険牌をつかんだのは、ぶっちゃけただの運である。

 

 いや、ゲームっぽい世界だしなあ。ひょっとしたら、タバコやらセリフやらで、何らかのブーストがかかってるのかもしれない。

 だとすると、これからも続けたほうがいいのか? このなんちゃって○きの竜。

 

 まあ、ともあれラオウをごまかすか。

 リアルファイトに持ち込まれると、さすがに勝てんからな。

 

「何をした? 勝ったんだよ。それが全てだ。文句があるなら―――麻雀で勝負しろよ」

 

 ウワサによると、羅将とかは魔闘気で作った腕で、目にも映らぬ光速の牌のすり替えが出来るとか何とか言うからなあ。

 この程度の軽いツミコミ程度、超えてもらわにゃ困るのよ。

 

 さあ。他の二人も、そろそろ慣れてきただろう。

 3人まとめて、かかってこいやぁ!

 

 

 



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師匠×弟子×師匠

 

 気付けば、サザンクロスで麻雀教室が開かれていた。

 なお、講師は俺ではない模様。

 じゃあ誰かって?

 

 トキ先生です。

 

 さすがは北斗2000年の歴史の中で、最も華麗な技を持つと言われた男。

 一説によると、ジャパ○パークでフレンズやってた説までささやかれただけの事はあるぜ!

 

 え? オカしいって?

 

 気にするな。細かい事を気にしていたら、人生損しちゃうよって、ワイアルドさんも言ってただろ!

 あのエンジョイ&エキサイティングな人なら、きっとこの世紀末世界でも楽しくやっていけるぞ!

 

 俺もね。もうね。なんかもう、ツッコミとか、いいかなって。

 

 いい加減、面倒になってきたんだよ。いちいちツッコミ入れるの。

 まあツッコまないでいられなかったら、しょうがないけどさ。そうでなかったら、テキトーに流しても許されると思うんだ。

 むしろ俺もボケを重ねても、いいんじゃなかろうか。

 きっと誰か代わりにツッコミをやってくれるさ。ほら、いたじゃん。バットとか。

 

 それでトキ先生だけどさ。

 なんで、サザンクロスに来たのかって言えば、ユリアのためらしい。

 なんかヨガを深く学んだら、病状が少し回復したんだそうな。それで寿命が十年くらい延びたんで、ユリアにもヨガを学ばせに来たんだってさ。

 

 なんでさ。寿命まで延びるのはオカしいだろ―――っと、待て。違った。ツッコんじゃダメだ。ここは軽く褒めて、流すんだ。

 すごいね、ヨガ。

 

 でも肝心のユリアが1分の1フィギュアのやつしかいなかったんで、別の目的に切り替えたんだな。

 

 その結果。弟に正座させられ、マジ説教される拳王ラオウの姿が。

 

 ついでにケンシロウも一緒に説教されていた。

 というのも、モヒカン相手にカツアゲしていたのがバレてしまったのだ。

 まあ、ケンシロウがウワラバやアベシさせたモヒカンから、バットが勝手にかっぱらっていただけなんだが……

 ケンシロウも基本的に無収入なので、そこから旅の費用が出ているのを見て見ぬふりをしていたのが、アウトだったらしい。

 

 マップを歩くとエンカウントするザコ敵(モヒカン)を倒して、資金やアイテムを手に入れると考えると、ゲーム的には正しいと思うんだがなあ。

 

 そしてラオウへの説教は、生活態度にまで及んだ。

 修行もせずに、酒を飲んで、メシを食らって、遊んで寝る。そんな自堕落な生活してたからなあ。

 うん、擁護できねえ。そもそも、する気も無かったけど。

 

 じゃあなんで近くで聞いてるのかって言えば、単に酒のサカナにしてるだけだったりする。

 ただ飯のニオイを嗅ぎつけてきたバットと、それに連れられてきたリンもいる。あとアミバも。

 

 アミバには、ひたすらに豚肉とキャベツとニラの肉野菜炒めを作らせている。

 丈夫だからか、そこらを探すと割りと出てくる中華鍋をひとつ、サビ落としをして専用に渡してやったので、それを使わせている。

 なんで俺が? という顔をしていたので、トキに美味いメシを食わせたいと思わないのか? 栄養をきちんと取らないと、また病気が悪化するぞ。とダマしてやらせていたりする。

 

 うん。ウソなんだ。すまない。

 

 ヨガで飲食不要になってるし、その副次効果で病気も抑えられてるっぽいから、むしろ食べちゃダメだわ。たぶん。

 ダマしているのは、純粋に俺のため。ポイントのためだ。

 弟子を取ったら、ポイント入るかなって。そんな感じの、軽い実験だったりする。

 まあ、ムダになる技術でもなし。そのまましばらく、ダマされてくれアミバよ。

 

 こらこら。使い終わった中華鍋を洗うのはいいが、洗剤使うな。水で洗って、空焼きしろ。そして油だ。汚れを油が溶かしたら、油ごと捨てろ。

 それからあらためて油を敷いて、次の調理。これが連鍋(レンコウ)だって言ったろ。覚えとけ。

 肉と野菜には、下味を付けてあるな? なら油通ししろ。100度ちょいの油に、ざっと通すだけだ。これは包油(パオユィ)な。歯ごたえとか彩とかが良くなるぞ。

 直接水に触れさせると、水が悪いんで美味しくなくなるんで、油で素材をコーティングして解決。そんな大陸の事情から生まれた技でもあるらしいがな。

 あと細かいテクニックだが、椀献(ワンツェン)な。炒めたりしながら入れる調味料を、あらかじめひとつのボールやお椀に入れて、混ぜておくんだ。

 火を少なくと書いて、炒める。ザッと一気にやらないといけないんで、いちいち醤油入れて、オイスターソースいれて、と何度もやってる手間が邪魔になるんだよ。

 

 よーし、いいぞー。中華鍋の振り方もいいぞー。はい、そのまま皿に盛って、完成!

 さて。今度のはどうよ、味見役のバットくん。

 

「あー、ちょっと待ってくれよ。実際に食べてみないとね」

 

 そう言ってバットは箸を使って、肉野菜炒めを口へと運んだ。

 その姿勢はキレイなものではないが、コボしたりはしないだけ、及第点か。

 まあ、この世紀末でそんな食糧を無駄にするような食べ方してたら、見たヤツ全員に怒られるからな。

 なんせ、水を浴びるように、豪快にコボしながら飲んでたモヒカンが、仲間からタコ殴りにされた事件があったくらいだ。

 

 色々と日本らしくは無くなった世紀末世界でも、日本らしさはまだどこかに残っているらしい。

 モヒカンですらも食べる物に関してはガチなあたり、そう思う。

 

 [P:35→37 トロフィー(銅)スキルを教える を達成しました]

 

 チッ。シケてやがる。いや、俺の調理技術(中華)が低すぎて、弟子を取れないのか? まだ2だもんなあ。

 

 ところでだ。やたらポイントがあるなと、思っただろ?

 これな。先日の麻雀の成果なんだわ。というのも、終わった後にこんなウィンドウが出たんだ。

 

 [P:9→19 トロフィー(虹)ラオウを倒す を達成しました!]

 [P:19→29 トロフィー(虹)ケンシロウを倒す を達成しました!]

 [P:29→35 トロフィー(金)シンを倒す を達成しました!]

 

 倒すって麻雀でもいいのか。いや、確かに戦って倒すとか、限定されてないけども。

 しかしシンだけ金かー。やっぱり北斗は特別なんだなー。

 

 そんな感じに、ビックリするよりも、なんか逆にほっこりした。

 あれかな。あの時が、俺がツッコミを諦めた時だったのかな。

 俺もすっかりと、このオカしな世紀末に慣れたもんだぜ。

 

 

 おっと、思い返してる間にバットの合格が出てる。

 

「よくやったな、アミバ。この短い時間で本当によくやった。その中華鍋はくれてやるから、これからも使ってくれ」

 

 アミバは、ゆっくりと俺に頭を下げた。

 あのアミバが、だ。変われば変わるもんだなあ。

 これはトキ先生を褒めればいいんだろうか。それともアミバをか。

 ともあれ、この師弟に乾杯。バットにも、一杯だけならやろう。リンもいってみるか? 甘口の日本酒とかあるぞ。

 日本酒度っていう、辛口か甘口かの基準になる数値があるんだがな。-54という、もはや別物な花柳界ってのがあるんだ。

 甘くてサラリとしてな。ちょっとニオイかいでみな。そんでイケそうなら、舐めるように少しずつ……お、イケそうか。ゆっくりやんな。

 

 

 あっ。トキ先生の説教が麻雀にまで来てる。ここはちょっと言っておかねば。

 

「いや、違うんですよ。トキ先生。修羅の国で今、麻雀が戦闘以外の決着方法になってまして」

 

 それを聞いたトキ先生は、なにをバカな、とは切り捨てなかった。

 それどころか、なにやら心当たりがありそうな様子で、目を閉じて考え出したのだ。

 え? なに? なんかあんの?

 そして目を開けたトキ先生は、ひとりの男の名を口にした。

 

「まさか、動いたのか…… ダラ○・○マ法王(ライトニング・ブッダ)が」

 

 えっ。なにそのルビ。

 ムダヅモ時空? まさかチベットはムダヅモ時空なの?

 

「だとするならば、こうしてはいられん! 私も行かねば…… だがひとりでは……」

 

 混乱する俺たちを他所に、深刻な顔をしたトキ先生は、何かを決断したかのようにクワッと目を見開いた。

 

「お前たち! これから麻雀の特訓だ!」

 

 この人は何を言っているんだろう。

 

 その場の人間の心がひとつになったが、覚醒済みのトキ先生には通じなかった。誰だ覚醒させたヤツは。

 まずは理論からだ。と座学の用意が進められていく。

 あの。そのテキストどっから持ってきたんですか? まさかあなたもスキルを?

 

 ああ、はい。わかりました。黙って授業を受けます。だからその構えを止めてください。座禅して浮かないで下さい、お願いします。

 

 あー、もう。どうしてこうなった。

 やっぱいるわ。ツッコミ、必要だわ。こうなる前に、止めるヤツがいるわ。

 でも自分がそれをやるのはゴメンだけどな!

 

 誰かー! お客様の中に、ツッコミが得意な方はいらっしゃいませんかー?

 

 

 



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トキ先生のぱーふぇくとまーじゃん教室

始まったばかりだけど須賀 常葉氏の ダイの大冒険とロトの勇者 を推してみる。
DQ3クリアした転生オリ主の、次の転生先はダイ大世界だった。
異なるDQワールドのシステムの違いとか面白そう。
普通にがんばる、素直な主人公にちょっと癒された。最近ヒネった主人公多すぎぃ!


 気付けば、俺たちは牌を薄切りにする特訓をしていた。

 こう、文字が彫ってある部分だけを切除する感じで、スパッと。麻雀セット一式を作り出す、麻雀:1のスキルがまさかの大活躍さ。

 何でこんな事をしているのかって言えば、トキ先生いわく。

 

「これが出来るようになれば、自由自在に(ハク)が作れる。かなり有利になるぞ」

 

 普通にイカサマなんだが。

 

 なんかトキ先生の麻雀教室が、かなり胡散臭い件について。

 斬ることが出来ないラオウには、強力な握力で牌の表面をこすって削り取る、豪盲牌という技を教えている。

 ラオウはその技を気に入ったらしく、白白混一! とかやって遊んでいる。(ハク)が6枚もあるじゃねーか。

 

 無邪気だな。ケンシロウと仲良く談笑していたことといい、丸くなりすぎだろ。

 何があったの、お前に。

 言っとくけど、これは気になったから聞いているだけで、ツッコミじゃないんだからね! 勘違いしないでよね!

 

強敵(とも)がいる。ただそれだけで、人生とは楽しいものよ」

 

 にこやかに、ラオウにそんな事を言われてしまった。

 お、おぅ。そうか、良かったな。

 そっかー。ボッチ卒業したのが、うれしかったのかあ……

 トキという弟はいたけど、友達とか確かにず~っといないっぽいからなあ。

 

 ケンシロウも弟のはずだけど、そこは気にしないであげようと思う。

 スルー技能は大事。モヒカン、覚えてる。

 

 そのケンシロウは、トキにひたすら百裂拳を打たせられている。

 

「もっとだ! もっと速く動かせケンシロウ!」

「アータタタタタタタタタタタタタ……」

「肩だ! 打ち出す拳と逆側の肩を引け! 引いた後の拳を、その反動で打ち出せ! そうだいいぞ!」

「タタタタタタタタタタ……ホアッタァ!」

「よし。だが風を起こすな! 静かに、素早くだ!」

「それは無理というものでは?」

 

 急に素になるなよ。笑っちゃっただろ。

 

 まあ、手を素早く、静かに動かすのはイカサマの基本だ。

 自分の不要牌と山にある牌のすり替え、相手の川の捨て牌のすり替え。山へのツミコミ。

 相手に気付かれずに手を動かせるなら、全てがやり放題だ。

 

「北斗神拳は暗殺拳だ。それを思い出すんだケンシロウ!」

 

 正直、色んな人がその設定忘れていると思います。

 まあ、拳法の特訓にもなってるっぽいから、スルーしとこうか。

 麻雀だけで勝っても、それはそれでアカンっぽいからな。

 

 ところでさっき、雲のジュウザとかいう人がちょっとだけいたんだが、何しに来たんだろうか。

 単なるノーテンを「我が拳は無形!」とかカッコつけて言ってた、残念な人だったな。

 だいたい拳法に限らず、何千年も色んな格闘術が研鑽されてるんだから、いまさら無形とか我流とか言われてもなあ……

 黒と白の超人の、ためになる説教シリーズのひとつを思い起こさざるをえない。

 

「良い子の諸君! 「やればできる」実にいい言葉だな。我々に避妊の大切さを教えてくれている」

 

 違った。これじゃない。

 

「良い子の諸君! 「好きなタイプは優しそうな人、外見は二の次」と言うやつがいるが「優しそうな人」は、外見だ! 騙されるな!」

 

 これでもない。

 ああ、これだ。

 

「良い子の諸君! よく頭のおかしいライターやクリエイター気取りのバカが「誰もやらなかった事に挑戦する」とほざくが、大抵それは「先人が思いついたけどあえてやらなかった」ことだ。王道が何故面白いか理解できない人間に面白い話は作れないぞ」

 

 読めないような、変な動きってさ。どう考えても効率悪い動きだよな。

 相手がやり辛いと感じるけど、威力も出ないんじゃないか?

 

 うん。なんかブーメランになってきた気がするから、この辺でやめておこう。

 読めないようなオカしな動きとか、手足伸ばしてムチのようにしならせる俺が言うなって話だわな。

 

「そうだケンシロウ。無想転生は使えるな?」

 

 おっ。なんかトキ先生が思いついたみたいだ。

 無想転生を麻雀にどう使うんだ? あれって正直『原理はよくわからんけど攻撃を避ける技』だよな?

 

 ふんふん。普通に雀卓に座った状態から? 無想転生発動して?

 なんかブワンと増えた分身で、相手の手配を覗き見る、と。

 

 ずいぶんと力技ですね。

 

 確かにそうしたら、相手の攻撃はかわせるだろうけどさあ。

 究極奥義って、そういう使い方していいの? 北斗神拳って、それでいいの?

 

 え? 攻撃にも使う?

 いや、俺が言いたいのはそういう事じゃないんだけども。

 

 まあいいや。ツッコミはしないと決めたんだ。

 勝てるなら、それでいいや。頑張ってくれ。こっちもこっちで、頑張るからさ。

 

 さて。麻雀:1で出せる麻雀セットの中から、特定の牌だけをピンポイントで作り出せるようにしないとな。

 これさえ出来れば、一発ツモをし放題だ。

 

 修羅の国は、かなり何でもありな戦いだった。

 これだけのモロにアウトな手段の数々さえも、そう来たか。と受け入れてくれるだろう。

 無論、向こうも同じような手段をやってくるだろう。

 そんな連中相手に、どこまで戦えるか。それと、勝った後に突入するだろう、リアルバトルに勝てるのか。

 

 やってみなければ分からんから、やってみるとしよう。

 バクチっていうのは、そういうもんだしな。

 

 ところで。

 この人数での、修羅の国への移動手段をお持ちの方は、この中にいらっしゃいませんか?

 

 

 



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人間は、殴ってもいいヤツが近くにいたら、とりあえず殴ってしまう生き物だ。

ふくふくろう氏の Fallout:SAR を推してみる。
フォールアウトだけど、舞台は日本。それも中部地方の浜名湖あたりというマイナーな場所。
そこにピップボーイやアイテム持たされたけど、レベルは1のキャラで放り込まれる主人公。日本だけど、フォールアウト世界なので悪党という名称でレイダーはいる。グールもいる。マイアラークたちだっているぞ。
なかなかなかなか女性に手を出さないけど、そのうちフッきれるから大丈夫。


 気付けばジャギが生えていた。お前、どっから現れた。

 速攻でケンシロウにボコられ、シンに蹴られていたが、何しに来たんだろう。

 あ、なんか言ってる。

 

「待てっ! ちょっと待て!」

 

 あ、問答無用で殴られた。

 ケンシロウに殴られてー、飛んでいってー。そこをシンが打ち返したー!

 おおう。シンとケンシロウのコンビネーションとか、すげーレアかも。

 

「だから待てっ! 俺は勝負しに来たって言ってるだろう!」

 

 だからボコられてんじゃねえの?

 

 その場の全員からそういう目で見られながらも、ジャギは粘った。

 座り込んで、両手でバンバンと地面を叩きながら、必死に訴えた。

 まあ、ここで話だけでも聞いてもらえなかったら、ぱっびっぶっぺっぽぉっ、だからなあ。

 ちなみにこの悲鳴。原作ではジャギの手下があげた断末魔だったりする。元ネタはバイキン○ンだろうか。

 

「誰も拳法でって言ってねーだろ! 麻雀だよ! 麻雀の勝負だよ!」

 

 ああ、それで来たのか。

 モヒカンのウワサネットワークかなんかで、ここサザンクロスで麻雀の修行をしてるとか聞いて来たんじゃねえかな。

 ケンシロウと戦っても勝てないけど、麻雀ならイケると踏んだか。

 

 ふむ。どうしますトキ先生。ケンシロウの教材としては、悪くないと思いますが。

 

 ジャギの事など最初から見向きもせずに、ラオウに百裂拳を仕込んでいたトキ先生に話しかける。

 というか、こっちの事も少しは気にしてください。

 アレも一応、あなたの義弟なんですよ。

 

 トキ先生は、少し考えた後にこう言った。

 

「ケンシロウ。空中から相手に連打を浴びせるのは、難しい。それを気や突きの速さと工夫で何とかしたのが、天翔百裂拳だ。この一戦で、モノにして見せろ」

 

 モロに教材扱いだった。

 というか、いまだにジャギが視界に入れてもらえていない。

 何か、ここまでアレな扱いをされるような事って、ジャギはやってたっけ?

 

 え~っと。

 

 銃や含み針なども使う、拳法家としてはダーティな男で、手下にモヒカンっぽいヤツらがいる。

 シンに負けてパワーアップする前のケンシロウに、伝承候補から下りろと襲い掛かって、返り討ち。

 シンをそそのかして、ケンシロウからユリアをさらわせた。

 胸の七つの傷を自分でつけて、ニセケンシロウとして悪事を働く。具体的には、レイの両親を殺して妹をさらった。

 なお胸の傷はよく見ると、ケンシロウのものよりもだいぶ浅い。

 あとアミバにトキ先生のニセモノになればいいと吹き込んだのも、コイツだったな。

 

 うん。残念でもなく当然だったわ。

 これはハブられる。聖者とまで言われた、トキ先生ですら激おこ通り越して、無関心ですわ。

 

 あと今の悪事を数えるの、口に出てたわ。というか、出してたわ。

 

 あー、あー。麻雀で勝負か、という空気だったのに、ボコるのが再開されてるわ。しかもさっきよりも、力が入りまくってるな。

 それにあえて奥義も技も使わずに、ただ殴る蹴るの暴行を加えているあたり、深い怨恨を感じる。

 

 よし。見なかった事にしよう。これ以上はどうなるのか怖いし。

 

 大事だわー。本当に、スルースキル大事だわー。

 さっきまでその辺にいたはずのバットとかも、いつの間にか姿が見えなくなってるし。

 リンを連れて行ったっぽいんで、むしろよくやった部類ではある。さすがの逃げ足だ。

 ターバンのガキといい、子供の機動力は侮れんなあ。

 

 あ、そうそうトキ先生。俺にも百裂拳教えてください。

 今なら、おぼえられると思うんですよ。ポイントあるし。

 そっちの、一撃で決めればいいから、連打はいらんだろって顔してるお兄さんよりは、やる気あるんで。

 

 [P37→29 北斗神拳:4を習得しました!]

 

 小一時間ほど、ああでもないこうでもないと、連打を繰り出しているうちにウィンドウが現れて、無事にスキルレベルを上げる事ができた。

 なおラオウはその少し前に百裂拳を習得していた模様。さすがに、やれば出来る子だね。

 それと4に上げても、今までとは違って新しい秘孔の知識がわいてこなかったので、解説も4に上げた。ここから先は別売りですという、アコギな商法のようでツライ。残りは25ポイント。

 

 さて。気持ちを切り替えて、上がった北斗神拳の実験と行こうか。

 

 まずは、南斗龍舌拳で、フリッカージャブっぽいパンチを打つ。

 ムチのようにしなり、伸びていく拳。それが空中に思い描いた相手に当たった所で、素早く引く。

 

 パァン!

 

 しびれるような衝撃と、なにかが()ぜる様な音がした。

 音の壁を越えたシルシだな。

 体の間接をフルに駆使した同時加速で、音速の正拳突きというネタが刃牙というマンガであったが、アレに近いな。

 

 で。これを北斗神拳でやると、どうなるか。

 

 ッ!

 

 空気を押しのけた衝撃はしたが、音はしなかった。だが拳の速さは同じ。

 何がどうなっているのかは分からんけども、確かに音は消えている。

 打ったのはさっきと同じフリッカーだが、北斗神拳だけを使ったので、腕は伸ばしていない。だがこれは伸ばしたら、逆に拳速が落ちるだろう。そんな感覚がある。

 

 しかしこれは、間合いが伸びない代わりに連打が出来る。

 

 ッ!ッ! ッッ! ッッッッッ!!

 

 二連、三連、五連、八連。面白いように連打がつながる。

 左で連打。一歩踏み出し、右で連打。一発ごと交互には無理だが、左右の連打もバッチリだ。

 これか。これが俺流の、北斗百裂拳か。

 

 いかん。顔がニヤける。なんか楽しいぞ、コレ。

 ヨガファイヤーとかだと、かけ離れすぎてて実感わかなかったけど、これはいいわ。

 うん。俺さ。今、北斗の拳の世界にいるわ。

 世紀末世界で、生きてるわ。

 

 よっしゃ。テンション上がってきたぜー! 叫ぶぜヒャッハー!!

 

 

 

 ところで、そろそろジャギさんの始末終わりました?

 えっ? そんなヤツは来なかった……? アッハイ。わかりました。ボクは何も見ていません。

 じゃ、今日はこの辺で解散で。お疲れっしたー!

 

 

 



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やりたい事を全部やってたら、名誉とかなくなるぞ。

今回、ちょっとシモネタ気味です。


 気付けば俺は、実験台を求めて走り出していた。

 今ならかつてのアミバが、村人をデクと呼んで北斗神拳の実験台にしていた気持ちが分かる。

 あったんだ。

 解説:4で北斗神拳:4の内容をくわしく調べていたら、あったんだ!

 

 指先ひとつでダウンさ(意味深)なR18な秘孔がっっ!!

 

 だよな! そうだよな! 北斗神拳二千年の歴史だもんな! そういう意味での秘密の孔も見つかるよな!

 そもそも秘孔の数からして708個とかいうワケのわからん数だし、その上まだ未発見の秘孔まであるみたいだし。

 そういやアミバも激振孔っていう、心臓を激しく動かす秘孔を見つけてたな。色々実験してたし、ひょっとするとオリジナルなR18秘孔も見つけているかも知れん。

 尋問用の秘孔だって複数あるんだし、そういう方向の秘孔も、当然あるよね。

 

 そら継承者に選ばれなかったら、拳を封じられるわ。

 

 習得段階に応じて、手を壊されたり、記憶を壊されたりするらしい。怖いね。

 まあ、今は世紀末になっちゃったから、ノーカンノーカン! 気にしない!

 そんな事はいいから、とにかく秘孔だ! 俺に秘孔(意味深)を突かせろ!

 

「ヒャッ―――」

 

 配下を呼び集めて、誰か女を連れてこさせようとしたが、さすがに踏みとどまった。

 いかんいかん。テンションが上がりすぎて、ただのモヒカンになってたぜ。

 普段は、そういうヒャッハー行為はやめろって命じてる俺が、率先してヒャッハーしてどうする。

 それが許されるのは、種モミがカラんだ時だけだ。

 種モミだから仕方が無かったんだって言えば、きっとケンシロウだってわかってくれるさ。

 

 「今日より明日なんじゃ!」という名言を残した、原作で種モミを集めてた爺さんが、一袋の種モミを集めるのに10年かかったって言ってた気がする。

 そんだけ難易度上がってた理由って、どう考えてもモヒカンだよな。原作でも、モヒカンは種モミに目が無かったらしい。

 

 さて。少し落ち着いたぞ。

 

 だが試したいという気持ちは、どうにもならん。ぶっちゃけ、ムラムラする。

 どうしたもんか……

 と、そこへちょうど通りがかった少年少女がいた。

 

「おう、モヒカンじゃん。何やってんだ?」

 

 人懐っこく、しかしなれなれしく声をかけてきたバットと、ペコリと無言で頭を下げてあいさつするリン。

 二人のそれぞれの性格が、見て取れるようだった。

 

 ふむ。リンか……

 

 うん。手を出したらアウトだな。色んな意味で。

 

 年齢的にはもちろん、ケンシロウの被保護者であり、実は天帝の双子の姉妹という後付け設定。

 うん。アウトアウトアウト。スリーアウト、来世にチェンジ! 待ったなしだわこれ。

 生足をむき出しにした、上着のすそをスカート代わりにしている美少女という、冷静に考えるとかなりアレな格好だというのに恐ろしい子だ。

 

 ふむ。せめて、その格好だけでも何とかしてやりたいが、おいちゃんが服を買ってあげようとか、事案にしかならない。

 うん。俺がどうにかしようとしても、どうやっても事案にしかならんな。

 あとでケンシロウに、たまには服のひとつも買ってやれって言っとくか。あいつもバーテンのバイトで、金はあるだろ。

 女の子なのに、いつも同じ服ってどうなの? と言っておけばいい。何なら、ユリアって人に言いつけるぞと言えば、何とでもなるだろう。

 

 ちなみに、原作ではケツ拭く紙にもなりゃしねぇ。でおなじみの、もはや紙幣に価値などないはずの世紀末世界だが、金はあるのだ。

 コイン限定でな。金属自体に価値があるという事で、丸いお金が流通している。

 旧時代の、1円玉から500円玉までの硬貨と、サウザーが作ったに違いない銀貨と金貨だ。

 なんでサウザーの仕業だと思うかって? だって金貨にアイツの顔が彫ってあるんだもん。

 銀貨には知らない爺さんの顔が彫ってあるが、ひょっとしたらあれがサウザーの師匠の顔なんだろうか。

 

 っと、いかん。

 

「な、なんだよ?」

 

 少しぶしつけな目線になっていたのか、リンが後ずさって、バットがかばうように前に出た。

 少し傷付いたが、確かに一瞬そっちの事も考えてしまったので、正しい反応なのが困る。

 だが俺は謝らない。ごまかすとしよう。

 

「ちょっとこっち来い。バットだけな。ちょーっと聞きたい事が、な?」

 

 わざとイヤらしい顔をして、バットを手招きした。

 向こうもピンと来たのか、ニヤリと笑って歩いてくる。

 

「え~? なにぃ? 何の話?」

「お前、ちょっと娼婦とか、そっちの商売やってる女、知らないか?」

 

 リンから少し離れて、しゃがみこんでヒソヒソと小声で話す。

 秘め事というのは、コッソリとするものだ。そういう意識が、この世紀末でも生きているんだろう。

 まあ、そうした方が楽しいしな。こういうのは、コッソリやった方が、なんでか興奮するんだ。

 

 しかしだ。世慣れた少年という設定のクセに、バットは娼婦の居る場所を知らなかった。

 

「今の世の中、女が少ないからさあ。そういう事しなくても、誰か稼ぎのいいの捕まえるか、周りにチヤホヤされて貢がれてたりするから、娼婦やる必要がないんだよね」

 

 マジかよ。やっぱリアルってクソゲーだわ。

 

「でも酒場の女をやってるヒトならいるじゃん? あれじゃダメなの?」

「う~~む…… なあ、バットよ。俺の目的は、女を抱く事じゃなくてな? エロスな秘孔を教わったんで、ちょっと実験してみたいだけなんだ」

 

 正直に言ったら、なんかバットがすげー食いついてきた。

 こいつも男だったか。

 

「おいおいマジかよ! そんなんあるのかよ! スゲー!」

「おう。北斗神拳スゲーだろ。夜も無敵だ。で、なあ。飲んで騒いで、ゲーム的なものとして、つついてイカせまーす! とかやって、本当に女をアレな状態にしちゃった客ってさあ」

「叩き出されるよな」

「しかもウワサになる。北斗神拳をそんな風に使ったってトキ先生やラオウの耳に入ったら?」

「叩きのめされるよな」

 

 だから一対一で、密室で実験できる娼婦を探していたわけなんだが。

 そっかあ、いないのか。困ったなあ。

 しかし思ったよりも話せるな、バット。さすがはこの年で、しかも世紀末で放浪やって生きてるだけはあるわ。さすがのコミュ力だ。

 

 あっ、そうだ。いるじゃん。女。

 

 ユダだ。南斗六星のひとりで、俺は誰よりも美しいとか言っちゃう、血で口紅とか化粧してる変態。

 アイツが、女を集団で周りに侍らせてたはずだ。

 しかもちょっと傷が出来たら、ポイ捨てするような扱いだったはず。

 

 あれなら、いいだろ。

 最悪ユダをブン殴ったらイケるだろ。

 

 よっし。ちょっとユダんトコ行って来るわ。

 

「いや、待てよ! ユダだぞ! 一応は南斗聖拳の達人だぞ!」

 

 止めるな、バット。男には、例え無理そうでも立ち向かわねばならない時がある。

 

「いやいやいや。それ違うから! それ、絶対に今じゃないからぁー!」

 

 よーし、いいぞー。いいツッコミだー。

 そのツッコミなら、サザンクロスにいる北斗と南斗の集団だって任せられる。

 

「あとは頼んだぜ、バット! ヒャッハーーー!!」

 

 ツッコミ的な意味でな!

 バット! 君に決めた!

 

「ちょっと待って! 待てよコラァー!」

 

 HAHAHA! 大人をからかっちゃイケないよBOY! そう言われて待つわけが無いだろう。

 バイク召喚! エンジン始動!

 ではさらばだ、ヒャッハーー!

 

 

 



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ビューティフルマン

 気付けば、ユダが酔いつぶれていた。

 ついさっきまで、元気にグチをこぼしまくっていたんだがなあ。やっぱり一升瓶2本はキツかったか。

 

「日本酒なんぞ、下品な酒が飲めるか」

 

 などと世間知らずな事を言うので、十四代と獺祭(だっさい)を飲ませて黙らせたんだが。

 やはり飲みやすい酒は、加減が難しいな。

 

 なお獺祭は山口県の地酒で、伝統を無視した日本酒。しかも、量を増やすとか安く造るとかの商売目的ではなく、味だけを目指してそうしたという異端の酒。

 酒造するにあたって日本酒を造る職人、杜氏を採用していないあたり、かなりガチである。

 職人のカンでやるより、センサー使った方がいいところは使おう。搾る? いや遠心分離機でええやろ。などなどの現代的な手法と、いや、ここは人の手で無いと。という伝統的手法。

 その良い方を採用して、もしくは組み合わせて造られるその味は、時の首相から各国の首脳へと贈られるほど。

 

 獺祭 純米大吟醸 スパークリング50。個人的には、その極みと思った酒だ。酒米となる山田錦を半分磨き落として作った、クールでシャープになった、米の酒の甘酸っぱさ。

 生きた酵母からなる自然発泡が、後味を爽やかなものにする。吟醸香すらも華やかで、どこか甘い。そんなシャンパンのような酒だ。

 

「バカなっ…! これが日本酒だというのか!?」

 

 などとオーバーアクションで驚くユダに、たたみかけるは十四代。

 長年の日本酒の主流だった端麗辛口から変わった、芳醇旨口の流行の代表とも言える有名どころだ。

 どこぞの農家なアイドルのごとく「どっから作るの? (米を作る)土から?」というノリだったのかは分からない。

 だが、この酒のために三種類の新たな新種の酒米が開発されたというから、ある意味4人になった彼らを超えたとも言える。

 いいぞ高木○造。もっとやれ。

 

 十四代 純米大吟醸 龍泉。旅先でふらっと立ち寄った店で飲んだっきりの、入手困難なやつだ。

 そのプレミア価格は、ウン十万円に達した事もある。おのれテンバイヤー。

 他にも双虹やら龍月やらあるが、酒屋などで見かけたら買って損はない酒だと断言しよう。でも転売的な意味で損しないのは、できればやめてね。

 限界を見極めた低温発酵からの、圧力をかけない雫取りでの搾り、氷温貯蔵熟成という大事に気を使って作られた味は、繊細で優しい。

 米の甘み、旨み。米の酒ならではの香り。水菓子(果物)のような、と例えられる、日本酒のそんな良い面を引き出した酒だ。

 

 さて。

 

 そもそも、なんでユダに酒を飲ませようとしたのかを話そう。

 

 アイツなー。取り巻きの女性陣に、な? 塩対応されてやんの。

 

 これにはこの俺も大笑い。

 

 あの娘さんたちな。バイトなんだってさ。

 そもそもはユダが美しいものが好きだからって、身の回りの世話をするメイドさん。みたいな感じで集めたらしいのよ。

 外の世紀末でヒャッハーな世界から保護してもらったわけで、最初の頃は、彼女たちも大人しかったらしいよ?

 

 でもさ。人間って何にでも慣れる生き物だし、女って群れたら変わるじゃん? ……変わるじゃん?

 

 なんで2回言ったかって? トラウマだよ聞くな。

 それで彼女たちだけど、なんかだんだんとビジネスライクな対応になっていって、気が付いたら倦怠期の奥さんのような対応になっていたそうな。

 

「よっし。飲もうか」

 

 俺がこう言ったのも、ムリのない事だと思うんだ。

 ラオウでさえも、こうするはずさ。

 

 だが、まいったなあ。こんなつもりじゃなかったんだがなあ。

 ユダならきっと女の人らを従わせているだろうから、指先ひとつでダウン(意味深)を見せるよって言えば、面白がって余興でやらせてくれると思ったんだがなあ。

 

 原作だと、ちょっと額に傷がついただけで、完璧ではなくなったとか言って部下たちに「好きにしろ」って投げ込んでたりした暴君だったのになあ。

 まさか言う事を聞かせられないとは。ナメられてるってレベルじゃねーぞ。

 手を出してるとか、そういう事はないらしいが。この場合、逆にそれが悪かったんじゃあないだろうか。

 

 南斗紅鶴拳のユダ。南斗108派の幹部、南斗六星の一人、妖星のユダ。

 なお妖星は裏切りの星らしい。なぜそんな星を設定した上に、幹部として採用した。

 やはり南斗は、何かやらかさないといけないという掟か宿命でもあるのだろうか。

 

 そして実際に核戦争の後に、南斗108派を裏切ったらしい。20派以上を引き連れて、拳王軍へと合流。

 そのまま美女を集めて、でもやってた事は鏡の前でフンドシ一丁でポーズキメてから「俺はこの世で誰よりも強く そして美しい!」と更なるキメポーズを取るというナルシストな行為だった。

 美女たちは何に使ったかって? 彼女たちに「お前たち俺は美しいか?」って聞いて、肯定してもらうための要員だよ。

 彼女たちもね。ドレスやアクセサリーで飾り立ててあってね。

 そんな美しい彼女たちに、美しいですって言ってもらえるという事は、俺はもっと美しいのだ! …って実感するため。そのためなんじゃないかな。たぶん。

 

 どう見てもヘンタイ以外の何者でもないと思うんだがな。

 

 化粧したマッチョな男で、しかもフンドシ一丁。まごう事なきヘンタイである。どこに出しても恥ずかしいヘンタイである。

 そら集められた女性たちも、だんだん冷たくなるわ。

 化粧する手を止めず、鏡を向いたままで視線もよこさずに「はい、美しいです」って棒読みで言うわ。

 犯人が分からないようにして、イタズラを仕掛けてからかってる2人がむしろ有情まであるぞ。

 

 なんて残念なヤツなんだ…… 十四代と獺祭を飲ませたのが、惜しくなってきたぜ。

 だがせっかく飲ませたんだ。元は取らねば。

 ここへ来たメインの目的である、実験(意味深)をせねば。

 

 ふむ。こうして酔いつぶれたんだ。起きた後に、協力してくれると言ったと言い張って、女性の誰かに秘孔()を突く許可を出してもらうとしよう。

 その後の事は、許可出したユダのせいとか言っときゃいいだろ。

 事前に詳細言わなきゃ、イケるイケる。命に別状は無い、と言えばいい。ウソじゃないしな。

 

 あと、アレだ。ケンシロウも度々パクってた伝衝裂波。

 五車星の風のヒューイも使ってた気がする、アレだ。あの便利技が欲しい。

 腕を振るだけで遠距離攻撃が出来るあの、ガイルのソニックブームと同じアレだ。

 いや、片手で撃ってるから、その相棒のナッシュの方?

 あれ龍舌拳と相性いいと思うんだよな。腕なり足なりを伸ばして振る。その伸びた間合いから更に放たれる伝衝裂波。いいじゃないか。

 

 さっき気持ちよく酔ってたなら、おだてて一発撃ってもらって水影心でパクったんだがなあ。

 悪い方へ入っちゃって、グチってたからなあ。

 しゃーない。これもユダが起きた後に回すか。秘孔()突いた後は逃げるから、こっちが先だな。

 

 さて。ユダが起きるまで、俺もひと眠りするか。

 バイクの運転も、意外と疲れるしなあ。デコボコの地面を走ると、なおさらだぜ。

 

 

 だがここで寝ると、ユダのように女たちに落書きされそうだから、一度ヨガテレポートでマイルームに帰るとしよう。

 その前に俺もユダの顔に何か書こうと思うんだが。

 さて、なんて書こうかなあ。すでに「ユダってJUDAで、UDだとウダだよね(笑)」と、UDマークのブレスレットをはめた腕に書いてあるんで、地味にハードルが高いんだよな。

 だが書かないというのも、惜しいんだよな。せっかくの機会だしさ。

 どーしたもんかなあ。

 

 



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旅立ちは突然に。

色々大変だけど、私は元気です。


 気付けば、俺は羅将ヒョウと海上で闘っていた。

 何があったと聞かれても、それはこっちが聞きたい事だ。

 なんか周りでも殴りあったり、斬りあったりしてるしさあ。

 なんでか、船の上だしさあ。しかもなんか木の船か、これ? でかいけど、核戦争後にどこで造ったんだよ。そもそも残ってたのか、こんなでかい木。

 

 ああ、もう。どうしてこうなった。

 

「戦いながら考え事とは、余裕だな!」

 

 うおっ、危ねっ。

 横合いから、向こうの戦闘員こと修羅の一人が仕掛けてきやがった!

 

「卑怯者め! タイマンの概念は無いのか、キサマらはー! ってだから危なっ!」

 

 いかん。挑発してみたが、乗ってこない。無言で攻撃してくる。こいつらガチだ。

 っと、いけね。カスッた。今、カスッたよ。

 しかも連撃来るか。腕の外側に刃物つけてるから、よけにくいんだよ!

 ああ、もう。船の上では戦いにくいわ! 誰か陸地持って来い!

 

 ん? 待てよ。

 

 揺れるから、踏ん張りが利かなかったり、バランス崩すんだよな。

 

 浮けばいいじゃん。

 

「とうっ」

 

 後ろにジャンプして、空中で座禅を組み、そのまま空中にとどまる。

 これぞヨガの奥義のひとつにして、トキ流北斗神拳の奥義、有情破顔拳の構え!

 

「ハ?」

 

 船のあちこちで起こっていた戦いが、ほんの一時だが止まった。

 空中で座禅を組んだまま浮いているモヒカンが、すいーっと浮いたまま、戦場を横切っていったのだ。そうもなろう。

 うん。浮いたはいいけど、船が止まっておらずに動いてたみたいでね?

 空中に止まった俺を、置いてけぼりにしてしまったのだな。

 それでまあ、完全に置いてけぼりを食らう前に、奥義のひとつも放っておきたいものなんだが……

 

 俺、まだ有情破顔拳、撃てないんだよね。

 

 というか、北斗神拳の闘気を使った奥義、平たく言うとビーム出すやつ。アレ全般が、まだ使えないんだわ。

 北斗神拳:4までしかまだ取れてないからなあ。5にしたら使えるかもしれないけど、まだ上げますか? ってウィンドウさんが聞いてくれないんだよね。

 何かイベントかフラグが足りてないんじゃないかな。ゲーム的に考えて。

 

 代わりにヨガファイヤーでも撃っとくか。

 木製の帆船という燃えやすそうな船の上だったんで自重してたけど、まあいいじゃん。

 北斗ワールド的に考えて、これはアレだ。消毒だから。

 さあくらえい、逃げ場の無い炎を! 消毒消毒ぅ!

 

「ヨガファイヤー! ヨガファイヤー!」

「ちょっ! おまっ! 覚えてろよー!!」

 

 あれっ?

 あそこでわめいている、今しがたちょっとコゲちゃった、見覚えのある鉄仮面は。

 ジャギ! ジャギじゃないか! 生きとったんかワレェ!

 よし! もう2、3発撃っとこう!

 

 さて。

 

 船が遠ざかっていくが、ひとまず俺は無事なので、問題ない。

 少なくとも、俺は問題ない。

 少し、落ち着こう。そして何があったのかを、思い出そう。

 

 え~っと、なんだ。まずは、なんだったか。

 ウダ、じゃなかったユダのトコから帰ってからだな。そこでトキ先生にラオウの説得を頼まれたんだっけ。

 というのも、トキ先生が北斗神拳の伝承者になるのに、障害になりそうなのはラオウだけ。

 ケンシロウは、素直に譲ってくれそうだしね。静かに生きろとか言っとけば、拳を封じるとかしなくていいだろうし。先代伝承者のリュウケンにも、そんな兄弟弟子いたらしいしな。

 

 だがラオウだと、そうもいかない。しかし殺すとか拳を封じるというのは、実の兄弟だし、やりたくない。

 だが、素直に伝承者の座を譲ってくれそうにも無い。そこで、トキ先生はこう考えたのだ。

 

 よし。修羅の国に捨てよう。と―――

 

 ホント。覚醒してからは、聖者じゃねえよな。このトキ先生は。

 

 具体的には、もともと修羅の国に渡ってカイオウを倒して、国を立て直すのがラオウの目的だったんで、それを後押ししようって策だな。

 ラオウもトキ先生もケンシロウも、生まれは修羅の国らしいしな。

 

 だがこの策には、ひとつ問題があった。

 ラオウがニートと化していて、動いてくれそうにない。という致命的な問題が。

 かつてケンシロウも、ユリアとイチャコラしていてロクに修行も就職もしないという時代があったらしいが、似たようなものだ。

 ケンシロウの場合は、そんなケンシロウを見ていられなくなったシンが彼に活を入れてくれた。結果的にだが。

 ラオウにも、修羅の国行きという活を入れて蘇らせよう。トキ先生には、そういう意図もあるのかもしれない。

 で、まあ。説得してみたその結果なんですが。

 

 ダメだったんで、酔いつぶして寝てる間に船で運ぼう。

 

 そんな強制執行になってしまったんだな、これが。なんか、気がすむまでニートしたいとか言われちゃってなあ。

 で、俺もその酔いつぶす場にいて、一緒に飲んでたんだよな。

 秋山師匠の 芹菜爆肝(豚レバーとセロリの強火炒め)が美味かった。臭みを消すために、炒める時にウォッカをからめていたんだが、どっから持ってきたのやら。

 まさか秋山師匠も、調理スキルで食材を出せるようになったんだろうか。

 

 まあ、それはいいや。

 重要なのは、そこで俺も酔いつぶれたらしい、という事だ。

 それで俺も、寝てる間に船に乗せられてたんだよな。たぶん。

 なんせ、なにか騒がしいなと目が覚めたら、修羅の国の軍勢に襲撃されてて、船の上だったもんなあ。

 羅将ヒョウとか居てビビったわ。

 

 あれ確か、ケンシロウの実の兄ちゃんなんだよな。原作であんま目立ってなかったけど。

 なんかヒョウだけが握ってる情報あったはずだけど、覚えてないなあ。なんだっけ。

 それと修羅の国でもナンバー2なんだったよな。そもそも羅将がカイオウとヒョウと、あとハンの3人だけなんだよな。

 トップの羅将、その下の郡将、あと修羅という大雑把なくくりの組織だったはず。

 

 まあ、拳王軍やウチも、トップと幹部と雑兵くらいのくくりだけどな。

 

 それとあの帆船は、今思えばだけど、たぶん赤シャチだったかいう海賊の船じゃないかな。

 ラオウを修羅の国に送る約束してたはず。

 まさか、その船でラオウを捨てに行く事になろうとは、思ってもいなかっただろうさ。

 

 でも待てよ。あの船、ジャギも乗ってたよな。ラオウの他にも、この際だからといらない人材を投げ捨てる事にしたのか。

 

 と、いう事は……

 

 あれ? 俺も捨てられてる?

 修羅の国に向けて、捨てられてる?

 

 え? モヒカンぞ? 我、モヒカンぞ?

 食糧と酒をいくらでも出せる、KING軍の幹部ぞ?

 しかもトキ先生の生徒でもあるんだが。

 

 え? なのに捨てられたの? えっ。マジで?

 

 えっ?

 

 

 



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自分らしくなくとも、戦ってしまう時もある。人間だもの。

 気付けば、また戦闘だ。なんでだよ、修羅の国だろ。麻雀しろよ

 

 いや、麻雀しろよってのも大分オカしいけどもさ。

 

 あの後、よくわからんが勝手に帰るわけにもイカンだろうと、海岸まで水上バイクでたどり着いたんだが。

 ハンパにマジメな判断をしたのが悪かったのか、運悪く見回りの修羅に見つかっちゃったんだよな。

 

 しかも彼。修羅の中でも実は最強だったんじゃないかと言われる、名も無き修羅さんです。

 十五歳になる前に、赤シャチ率いる海賊たちが殴りこみに来たのを、一人で叩き返した男。

 砂蜘蛛忍道なる、謎の流派の使い手で、砂にもぐってそのまま移動したり、忍棍妖破陣なる謎の棒術で元斗皇拳のファルコを一方的にボコったりしていた男。

 修羅編の幕開けとして、修羅の強さを読者にアピールしようとした原作者さんが、うっかりやりすぎちゃったんじゃね? と言われている程に強い男である。

 

「さ、()とうか」

 

 当然、そんな男と戦いたいわけもなく。俺は即座にスキル麻雀:1を使って、雀卓その他を取り出した。

 だがヤツは、そんなものは知った事かと、雀卓を手刀で切り裂いて、襲い掛かってきたのだ!

 

 おい、デュエルしろよ。ひるみながらもそう言う俺に、彼はこう返した。

 

「俺は、それが苦手でな…… そのせいで名を名乗る事も許されん」

 

 え、そんな理由?

 あ、ヤベエ。麻雀セット出したの、早まった。

 

「こんなもののせいで…… 俺の、俺はぁ!!」

 

 めっさキレて、麻雀牌に八つ当たりしてらっしゃる。

 今のうちだと、ヨガテレポートしようとしたら、その勢いのままにこっちへ飛び掛ってきた!

 

 毒蜘蛛手刃滅把妖牙(どくぐもしゅとうめっぱようが)

 

 あっ。これアカンやつや。

 突き出した手が、なんかもやっとしてる。あれ闘気やん。絶対闘気やん。

 しかも毒蜘蛛って言ってるし。あれは食らったらアカンやつや。

 

 じゃけん、ヨガファイヤーで迎撃しましょうねー。

 微妙に斜めに撃ち出す、対空ヨガファイヤー。ゲームやってる時、微妙に欲しかった技だったりする。今となっては知る由もないが、その後の続編では採用されたんだろうか。

 

 しかし、吐き出した炎は切り裂かれてしまった。

 

 うおぉぉぉぉぉ。緊急回避ー!

 上体をそらして、そのまま足を伸ばす。こちらの心臓を狙ってきた手を、何とか肉まででしのいだ。

 

 これまでにないピンチに、思考が加速する。

 

 血が。痛みが来る。追撃は? 足を戻せ。跳べ。逃げるか? いや戦え。勝て。なんで?

 

 ―――お前も、北斗の拳士だ―――

 

 トンッ トンッ トトンッ

 

 自分の秘孔を突いた。痛みを止め、出血を抑え、視力を上げる。

 ああ、そうだ。俺も北斗神拳の使い手で、北斗の拳士だ。トキ先生は、そう言ってくれた。

 

 気付けば、この世紀末。記憶も無く、そのくせよくわからない仕様のスキルやらシステムは存在していて、よくわからないキャラもいっぱいいて。

 目的も無くフラフラして、成り行きとノリとヒャッハーで生きてきたけども。

 うれしかった事もあったんだ。料理を覚えて、それを色んなヤツに食ってもらって。

 そうしたらいつの間にか、ゲームのNPCみたいに思えてどうでも良かった村人とかも、俺の料理を食ってくれるヤツらなんだって、生きてる気がしてきてさあ。

 ガラにもなく、モヒカンをまとめてリーダーやってヒャッハー控えめにしてさあ。

 そんで力もいるなって、シンのトコに転がり込んで、そのまま居ついて。

 ちょっとカサンドラ行ったら、トキ先生と出会って。それでよう。それで、あの人は認めてくれたんだよ。

 

 俺も北斗でいいって、認めてくれたんだよ。

 

 しかも、こんなどう見てもアレなモヒカンを、弟子にまでしてくれたんだぜ。

 だからさあ。いくら原作で強キャラムーブしてたからってよお。

 

「お前なんかに、負けてられねえんだよぉぉ!!」

 

 大 伝衝裂破

 

 ここまで盛り上げて使うのが南斗の技なのはどうかと思うが、これが今最も使える遠距離技なんで仕方が無い。

 腕を2倍程度にまで伸ばしながら、伝衝裂破を撃つ。

 途中から伸ばしていく事で、小さく振り出して大きく弧を描く事が出来るのだ。

 

「チッ。少しは出来るか。だがこの千手魔破にて地獄へ落ちよ!」

 

 伝衝裂破で一撃を入れる事はできたが、浅かった。やはりアレは連打できてこその技なのか。

 そして向こうも遠距離には遠距離と、手裏剣を無数に投げてきた。さすがは忍道と名乗るだけはある。

 だが北斗神拳に飛び道具は効かんぞ。

 

 そもそも、よけてさえやらんがね。

 ヨガテレポート!

 

「消えた!?」

 

 千手魔破は、投げた手裏剣が途中で消えて、消えたそれらがなぜか足元から襲い掛かってくるという謎の、まさに忍術というべき技だ。

 消えた。とは本来、俺が言うべき言葉だったろう。

 二指真空把で投げ返しても良かったが、正直、あんなにたくさんの手裏剣って投げられた事が無かったんで、安全策をとらせてもらった。

 

 それに、こっちの方法だと攻撃もできるしな。しかも背後からだ。

 

「こっちだ。喰らえ、北斗! 百裂拳!

 

 若干デトロイト気味なフリッカーも混ざったので、連打速度は若干落ちたが、キッチリ百発殴っておいた。

 そして、とうとうあのセリフを言う時が来た。

 

「お前はもう 死んでいる」

 

 そしてあの悲鳴も聞いた。

 

「あ…… あ…… あべし!」

 

 うむ。ワカっているヤツだ。せめて安らかに眠れ。ちゃんと有情拳にしといたから、苦しまずに逝ったはず。

 

 [P:25→29 トロフィー(銀):名も無き修羅を倒す を達成しました!]

 

 おっ。なんか久々な気がするな、ウィンドウさん。元気だった?

 えっ、まだなんかあんの?

 

 [称号:非情の拳 を入手しました。北斗神拳:5を習得できるようになります]

 [P:29→19 北斗神拳:5を習得しますか?(Y/N)]

 

 あー、そっかあ。これかあ。必要なフラグって、これだったかあ。

 非情と言うか、殺す覚悟決めて殺したのって、そういやこれが初めてだったなあ。

 今までは、ノリとかポイント目当てとか。まさにゲームのノリでバイクで撥ねたり、手刀でスパッといったり、秘穴でうわらばしたりしてたもんなあ。

 

 ……冷静に考えると、ゲーム感覚で殺人するとか、めっちゃヤバいヤツだな。

 

 でも相手は野良モヒカンだったし、世紀末だし、向こうも殺しにかかってくるから、まあ、ギリセーフで。

 それと北斗神拳か…… どうしよっかなあ。5にまで上げたら、マジで伝承者候補見えてくるんだよなあ。

 

 ん~…… まあ、いっか。取れるもんは取っとこう。いつまでもポイントあるとも限らないしな。Yっと。

 

 [北斗神拳:5を習得しました!]

 [称号:悲しみの拳 を入手しました!]

 [最終奥義:無想転生 を習得しました!]

 

 えっ。

 いや、ちょっと待って。

 確かに、ニートなラオウとか、フィギュアマスターなシンとか、最初の出会いがゲンジロウとか、ついさっき捨てられた疑惑とか、色々と悲しみの心当たりはあるけども。あるけども。

 それで習得できちゃっていいの? 最終奥義って、それでいいの?

 

 確かに、ラオウとかもトキが病のせいで、自分との決着をつけるまでも無く、戦いの途中で戦えなくなった事に涙した事よりも、ユリアが病気で長生きできないという事実の方で覚醒しちゃってたけどもさあ。

 

 必要な悲しみがわりと軽い。軽くない?

 あって困るもんじゃなし、助かるっちゃ助かるんだけどさ。

 

 これでいいのか、北斗。

 

 

 



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しゅらまあじゃん放浪記

 気付けば、ジャギがサウザーと組んでカイオウとヒョウにボコボコにされていた。

 

 麻雀での話だけどな。

 

 やはり中央じゃあ、拳の勝負よりも麻雀が優先っぽい。

 俺もここに来るまでに、ギョウコとブルースという名持ちの修羅2人と、シエと名乗った郡将と打ってきた。

 というか、麻雀じゃなかったらヤバかった。特に修羅のギョウコの方。

 

 だってあいつ、最初は列車で轢き逃げアタックしかけてきたんだぞ?

 

 車とかトラックじゃなくて、列車でだ。線路もないのに、無茶するぜ。

 こっちもバイク取り扱いのスキルでバイクを召喚して、全力で逃げたんだがマジで怖かった。

 バイクなら小回りが利く分、逃げるのは楽だと思うだろ?

 

 地形がね。狭いところでね?

 

 しかも郡将シエが、通り道にワナ仕掛けてやんの。

 高速走行中のバイクで、トラバサミ踏んで急停止させられたら、どうなると思う?

 

 飛んだよ。ポーン、と水平に。短い距離を飛んだよ。

 南斗人間砲弾で鍛えた受身が無かったら。南斗聖拳スキルでの頑丈な体が無かったら。あるいはあそこでゲームオーバーだったかもしれない。

 

 まあ、ケガはしたんだけどね。

 でも笑ったよ。秘孔突いたらさあ。そのケガが、みるみる治るのな。

 ゲームかよ。そうツッコんでから、ああ、ゲームだったわ。と納得したね。

 ひょっとしたら、腕とか無くなっても生えてくるかもな。俺だけはさ。

 

 うん。俺だけ。たぶん、こんなんが起きてるのは、俺だけだ。

 

 だって配下のモヒカンに秘孔治療した時は、こんな回復魔法みたいな効果起きなかったもん。

 

 そんでまあ、そんな感じにショック受けてる俺に列車が近付いてきてな。轢かれるのかなー、と思ってたら、停車した。

 ワナにハメた段階で、生きていたとしても大怪我だろうから、戦うまでもなくバトルは勝利だと思ったらしい。

 そんでバトルの後は麻雀で勝負、というのが現在の修羅の国の定番。

 ケガで朦朧としている所を、カモってやろう。そんな作戦だったらしい。

 

 俺の怪我は治ってたけど、出血の跡とかはそのままなんで、イケると思ったんじゃないかな。

 

 麻雀の結果? 普通に勝ったよ。

 こっちが弱ってると思って、堂々と牌のすり替えをやりまくるハート様似のギョウコと、ヒゲ面のブルースの2人。

 その2人に「そんなお粗末なイカサマをするとは、近頃の修羅は質が落ちたガニ」と言いつつも止めない、カニみたいな顔のシエ。

 そんな3人を天和一発で斬って捨てるのは、スゲエ気持ち良かった。

 

「おう、三ピンある?」

「あいよ」

 

 そんなふうに、目の前で自分たちの手牌を交換すらしてはばからない修羅たちには、当然俺も抗議した。

 

「オイオイオイオイ、そんなんアリかよ」

「文句があるなら、力で黙らせるガニ」

 

 まあ、抗議は通らなかったわけだが。

 そしてギョウコがあがり、ブルースがあがり。俺の点棒が半分を切ったところで、俺の親が回ってきた。

 ヤツらが俺を一気に仕留めなかったのは、いたぶって遊んでいるつもりだったんだろう。

 

 それが、命取りだ。

 

 山を積み、配牌を終わらせて。さあ、ここからだ。

 まずは息を吸う。静かに、大きく。そして気を練るように、たぎらせて――― 一気に吐く!

 

 ヨガフレイム(大)!

 

「のうわぁ!」「ホアチャチャチャチャ!」「アビィッ!」

 

 卓上を覆った炎は、ついでに修羅たちも炙ったようで、悲鳴が上がった。よし。狙い通り。

 このスキに、手牌を麻雀スキルで出した牌に全部取り替える。さあ、くらえ。

 

「ツモ!」

 

 天和。大三元。字一色。四暗刻。(北斗神拳奥義 天破活殺)

 親の四倍役満は、64000オール。全員トビで終了だな。

 

「テメェ! こんなマネし「ヨガフレイム!」

 

 予想通りのリアクションだったので、セリフにカブせて、もう一度ヨガフレイムで炙ってみた。

 今度は直火だったせいか、静かになった。さらばギョウコ。

 

 うんうん。しっくり来るな。

 こういう分かりやすい悪役を、問答無用でヤっちゃってこその北斗ワールドだよな。

 使った技は、ヨガだけどな!

 

 それで、ついでとばかりに情報置いてけと郡将シエに尋問した結果。なんとサウザーの居場所が判明した。

 そういやどっかに出かけたっきり、行方不明だったなあ。まあ、顔くらいは見に行こうか。

 

 そんな軽い気持ちで見に来た結果が、冒頭のシーンになる。

 

 サウザーはなんでかジャギと組んでカイオウらと麻雀打ってて、暗琉天破で無双されてた。

 

 暗琉天破っていうのは、魔闘気なる、よくわからんけどスゴイ気を扱う北斗琉拳の奥義。

 魔闘気で相手をフィールドごと包み込んで、無重力状態にした上で感覚も狂わせるという、もはや拳法と関係ない域にまで突入した技だな。

 なお、その場でクルクル回ると解除できる模様。なんでや。

 

 気で無重力てオカしいやろ! という意見もあるだろうが、元斗皇拳の時点で闘気で地面凍らせたり、相手を焼き尽くす熱を発生させたりしているんで、そこは今更だ。

 ほら、俺もヨガで炎吹いたりテレポートしてるから、多少はね?

 

「ていうか、もうムリッ! 帰る!」

 

 あっ。サウザーがワガママ言ってる。

 でもダメだろ。それが通じる相手じゃないだろ、それ。

 ジャギを見てみろ。もうすっかりあきらめてるぞ? って、おや? こっち見た?

 

「あっ。テメエは…… おい、代われ! 今すぐ俺様の代わりに、ここ座れ! 代打ちだ!」

 

 ちょ、おま、何を言い出すか。

 そんな負ける寸前の点数で代われとか、しかもそんなラスボス相手に、何言ってんだ。

 

「いや、こっちだ! この帝王の代理を務めろ! 今すぐ! ナウ!」

 

 いかん。サウザーまでこっちにすがってきた。

 やっべえ。カイオウもこっち見てる。めっちゃ見てる。こっち見んな。

 

 ……今すぐ、俺だけヨガテレポートで逃げちゃダメかな?

 

「代われというなら、俺が代わってやるぜー!」

 

 うん? 誰か来た。サウザーと一緒に消えてた、レイかシュウか?

 って、どっちでもないじゃん。誰だよ。

 

 そう思ってたら、自分から名乗ってくれた。

 

「我が名はシャチ! またの名を、修羅を喰らう羅刹!」

 

 ああ、あいつか。赤シャチの息子で、かつて赤シャチが修羅の国に殴りこみに来て叩き帰された時に、取り残されたヤツ。

 それでその後、強くなったんで帰ろうと思えば帰れたのに、現地でカノジョが出来ちゃったから帰らなかった男。

 

 あっ。サウザーがいない。今のスキに逃げ出したか。だがジャギは逃げ遅れてるな…… ふむ。

 自分から飛び込んできたのと、ジャギか。よし。この2人なら俺の良心的にセーフ。ここで放置してもセーフ…!

 

 というわけで。俺も逃げよう。ジャギとシャチ。名前も似てるし、きっと相性もいいさ! いいとイイネ!

 じゃあ、そういう事で。ヨガテレポート!

 とりあえずサウザーが逃げたっぽい方へ! 合流だヒャッハー!

 

 



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三人の王の物語

 気付けば、俺は捕まっていた。

 ヨガテレポートに失敗したってわけじゃない。確実に成功した。そのはずだ。

 ちゃんと手ごたえというか、空間を渡ろうとする感覚はあった。だって、エレベーターが始動する時の、あのフッて感じしたもん。

 

 だというのに、だ。

 なんかカイオウから伸びた、魔闘気の腕に捕まってるんですけど。フォースグ○ップみたいなんですけど。

 じたばたモガいても、どうにもなりそうにないんですけど。助けてオビワ○!

 えっ。なに。魔闘気って、次元も超えて攻撃できるの? なにそれスゴイ。

 いや、ちょっ。離して。離しやがっておくんなさい。

 

 そんなわちゃわちゃしている俺に、カイオウがその重い声でこう告げた。

 

「知らなかったのか? 大魔王からは逃げられない……」

 

 いや、それ別の世界のセリフゥ!

 掲載雑誌一緒だけど時期が違うし、ゲームとマンガの垣根を飛び越した共通点はあるけども。

 そもそもアンタ大魔王じゃないだろ。それにだ。

 

「さっきサウザーに逃げられましたよね? ってイタタタタタ!」

 

 コノヤロウ。ごまかすために、思いっきり締め付けてきやがった! 痛い、痛いよオイ!

 オイ、シャチ! 助けろ、そこのシャチ! 不可能を可能に。まさに我が愛の成せる業だな。とかドヤ顔してないで! はよ!

 この際、ジャギでも…… ってアイツもいねぇー!

 

 見捨てようと思ったら、逆に見捨てられたでござる。

 

 いや、逆にこれは勝機! これでここに残った人数が4人。つまり!

 

「待て、カイオウ! ここで俺を殺したら、麻雀のメンツが足りなくなるぞぉ!」

「むぅ」

 

 ならば仕方が無いな。そんなニュアンスをありありと感じたが、魔闘気から俺は解放された。

 あー。苦しかった。

 こうして一息ついて考えてみると、南斗の技で魔闘気を斬れたのか、試してみればよかったな。

 まあ、そんな余裕はなかったわけだが。

 それに水影心でも、魔闘気がパクれそうにない。実は元斗もムリだったし、知ってたけども。

 しかし、さすがはラスボス。強いぞ。普通に戦っても、こらあ勝てんわ。

 

 ああ、そのためのラオウか。今、どこにいるんだろうなあ。

 なんで後を追いかけたはずの俺が、カイオウんトコに先にたどり着いてんだ。

 

 そーいや、ここ修羅の国にはラオウ警報あったよな。あの赤い水。あれを水路に流して、ラオウが来たぞー! と各地に素早くお知らせする仕掛けが。

 なあ、シャチ。あれどうなってるのよ。もう流れた?

 

 何も考えずに聞いてしまった問いに、答えたのはカイオウだった。

 

「来たか。ラオウ」

 

 あっ。まだ赤い水、流れてなかったのか。

 やっべ。ラオウが来てるって教えちゃったよ。カイオウもテンション上がっちゃってるよ。魔闘気ぶわって広がったよ。

 

 うん。ここはやっぱ逃げるしかねえな。シャチの耳に、こっそりとささやく。

 

「これからカイオウと、ついでにヒョウに隙を作る。そうしたら、逃げるぞ。カイオウはラオウに任せろ」

 

 少し考えていたようだったが、シャチもカイオウのヤバさは分かっていたのか、小さくうなづいた。

 分かってたんなら、何しに出てきたんだろう、こいつ。

 

 それとヒョウも、居るだけでリアクションすらしないんだが。

 よく見ると魔闘気をうっすらと発しているんで、魔界に入りたてで精神が安定してないんだろう。

 原作だと、カイオウの妹が恋人だか婚約者だったかで、その人をカイオウが殺して「これもケンシロウってヤツの仕業なんだ」ってウソついたらサクッと信じて、怒りで魔界墜ちしたんだよな。

 ここだと、どんな設定なんだろうなあ。まだケンシロウ修羅の国に来てないからなあ。

 まあいいや。何やったかは知らんけど、たぶんこれでイケるだろ。

 

「殺ったのは、カイオウだよ?」

 

 ヒョウの近くで、小声でささやいた。

 うむ。こうか は ばつぐんだ!

 魔闘気がスッと消えて「いや、まさか… でもカイオウなら」とかブツブツ言い出したぞ。

 よし。次はカイオウだ! くらえ南斗 家庭板案拳

 

カイオウ、ラオウと来て、急にトキ。そしてサヤカ。急だよな。急に変わったよなあ。名前の感じも、顔つきも、髪の色も」

「…………!!!」

 

 おお。無言でショックを受けておられる。きいてるきいてる。

 カイオウは小さい頃に目の前で、オカンがヒョウとケンシロウの兄弟を火事から助けて死んでるんだよなあ。

 その時にオカンが「北斗宗家のために」って言っちゃったせいで、えっ。母親としての愛情よりそっち優先!? ってグレちゃったんだよなあ。

 

 ここへ来て、そのトラウマの原点(オリジン)のオカンに、新事実発覚。これはキッツイ。

 

 だが俺は謝らない。ここで謝ったら、逆に傷つけるからね!

 よーし。シャチよ。ゆっくりだ。ゆっくり、静かに移動だ。

 物陰まで行けたら、そこで解散な。俺はそこからテレポートするから。

 

「ああ。俺もトランスフォームするから大丈夫だ、達者でな」

 

 ああ、達者でな…… って待て。

 トランスフォームってなに?

 

 おお。どっからか出した布を頭からかぶって、空中をすべるようにスイーッと移動していく。

 速いなアレ。背丈も縮んでるし、なんだアレ。

 あれも北斗琉拳の技だったりするのかなあ。

 違うとは思うけど、イマイチ否定しきれないのは、なんでだろう。

 

 まあいいや。俺も消えるか。

 えーっと、たぶんサウザーが逃げたのはあっちかな。まあ、いなかったらテキトーに探すか。

 ラオウとかも探さないとだしな。じゃ、ヨガテレポートっと。

 

 

 

 そうして跳んだ先で、サウザーが「お師さん……」とつぶやきながら、体操座りして涙ぐんでいたのを発見した時の、俺の気持ちを答えよ。(配点:十連ガチャ)

 正直、リアクションに困ったわ。

 

 ちなみに九州では体操座り、関西では三角座り、それ以外では体育座りがあの座り方の呼び名として主流らしいぞ。

 

 それでとりあえず、サウザーの話に戻るが。まずは、無難に話しかけてみた。

 

「あの。何をしているんですか?」

 

 サウザーはビクッと小さく反応した後に、急いでゴシゴシと涙をぬぐうと、高笑いを始めた。

 

「フハハハー! 我が拳は常に制圧前進! 退かぬ! 媚びぬ 省みぬ!」

「ああ。なのに逃げちゃったから、落ち込んでたんですね」

「逃げてはおらぬ! 帝王に逃走はないのだー!」

 

 自分でもムリがあるとは思っているのか、若干キレが悪い。

 でもあきらめないで。言い張るのが大事って時もあるから。というか、ここで心が折れられたら、メンドクサ… もとい、連れ帰るのが大変だから。

 

「とりあえず、カレー…… 食べます?」

「うむ!」

 

 そのナプキンとスプーンどっから出した。

 やっぱ俺以外も、持ってるだろ。スキル。

 まあいいや。なんか久々な気がする、調理だ。テンション上がるぜ、ヒャッハー!

 

 ヒャッハー! 今回は現地で見つけた食材も使うぜー! たまねぎだー!

 みじん切りにして、バターで炒めるぜー! 中火だー! たまねぎは出来るだけ細かく刻むぜー!

 あめ色になったら、強火にしてコンソメと水を投入だー! 塩コショウすればとりあえずオニオンスープにはなるぜー!

 で、煮立ったところで、一口サイズにした鶏肉を投入。もちろん下味は処理済だー!

 そして火を消せ! 消火だー! そのまま鍋を保温だー! 余熱調理とたまねぎのおかげで、鶏肉が驚くほど柔らかくなるぜー!

 1時間したら加熱だー! カレールーか、スパイスセットを投入して、完成だー! 今回は隠し味程度にヨーグルトも入れたぜ、ヒャッハー!

 

 そして! 米がある! 米があるんだ! 修羅の国には米があったぜヒャッハー!

 

 入手方法? 無論強奪ですが何か。

 

 修羅たちが村人からヒャッハーして、俺が修羅をヒャッハーする。うん、何の問題もないな。

 直接民衆をアレしてないから、セーフ。きっとセーフ。

 ヒャッハーしてるヤツを倒して、何もフォローせずに去るというのはケンシロウもよくやってるし。報酬として、修羅のドロップアイテムもらったくらいは、たぶんセーフ。

 悪いのは、民衆を虐げてたあの名前も分からない修羅だからね。俺はその修羅から村人たちを解放した、むしろいい人だからね。

 仮に悪いとしても、手に入った食糧を食べたらサウザーも共犯だし。きっと大丈夫だ。

 

 さあ、めしあがれ。

 いつの間にか来てたラオウも一緒に、どうぞ。

 ていうか、あなた一体どこで何してたのよ。

 え? 船酔いがひどくて、寝込んでた?

 

 お、おぅ。

 馬とか乗り回してるのに、船はダメだったかー。

 そっかー。

 まあ、そういう事もあるよね。じゃ、俺もいただきますか。

 

 

 



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DeDeDe

路傍の案山子の 明日に波動拳 の後書きでダイマ返しされていた。ダイマ返し二件目だがうれしい。ありがとうございます。
うれしいついでに、自作を読み返してました。ついでにちょこちょこ書き換えたり、書き足したり。


ついでと言ってはなんですが、poo氏の 目が覚めたら強力の化身だったからヒーローになる をダイマしてみる。
今が旬のキン肉マンビッグボディになった男の二次創作という、おそらく唯一無二のSS。舞台はヒロアカだけど、体育祭でタッグトーナメントやったりと、かなりゆで時空に侵食され始めているw いいぞその調子だ。
いい感じで更新が続いているので、このままの勢いで走り続けて欲しい作品。


 気付けば、トキ先生が目の前に居た。

 オマケにどういうわけなのか、俺が修羅のドロップアイテムを村人に還元しなかったのを知っていた。

 

 現在、正座&説教中です。

 土の上の正座は、小石が肌に食い込んで痛いぜ。

 でもそんな事よりも、上から目線で見下しながら俺を笑っているやつ等がムカつく。

 サウザーもラオウも、こんな時だけ仲良くしてるんじゃねーよ。

 

「でもトキ先生! あいつらも略奪品の食糧、一緒に食べたんですよ!」

 

 そんな俺の訴えも、無駄に終わってしまった。

 

「お前たちは、それを知っていたのか?」

 

 というトキ先生の質問に、あいつら2人ともバックレやがったのだ。

 まあ、実際に黙って食わせたのは事実なんだが。

 でも実は分かってただろう、お前ら。

 

「笑止! 帝王にとって、そんな事は些事!」

 

 まあ、そうだね。サウザーは気にしないよね。

 でもラオウはどうよ。おい、目を逸らすな。こっち見ろ。

 

「こ、この乱世において、弱さは罪なのだ」

 

 いや、行き過ぎたその弱肉強食を正しにここへ来た、お前さんが今それを言っちゃダメだろ。

 カイオウの、男子はとりあえず殺しあえ。100人殺ったら一人前な。って政策はさすがにアカンと思ったから、倒しに来たんだろうが。

 

「兄者……?」

 

 ほら、トキ先生もいぶかしがっておられるぞ。

 いいから、早くアヤマッテ!

 

 俺に促されて、ラオウはゆっくりとトキ先生に向き直り、あのデカい兜を脱いでこう言った。

 

「ゴメンな」

「いいよ」

 

 トキ先生も、それにアッサリと答えた。

 仲良し兄弟か、キミら。

 

 まあ、これ以上この兄弟にツッコんでもイメージが壊れるだけになりそうなんで、放置するけどさ。

 ああ、そうだ。その代わりに聞いてみようか。

 

「トキ先生。そういえば、なんで俺を修羅の国へ?」

 

 正直、目的が分からないのですよ。

 俺にそう聞かれたトキ先生は、ひとつ小さくうなづいてから、空を見上げて遠い目をして語りだした。

 

「あれは、私とラオウがこの大陸から小船で逃れ、父を亡くし、リュウケン師の元へとたどり着いたときの事だった……」

 

 うん。めっさ語られた。めら語られた。ちかっぱ語られたったい。

 サウザーなんか、途中で寝ちゃったぞ。ラオウも話を聞きながら思い出しているようだったが、腕を組んで目を閉じていたので、実はちゃんと起きていたか怪しい。

 途中でヘンなタイミングでうなづいていたのは、あれ、実はこっくりこっくりしてたんじゃ……

 

 まあ、そんな感じで老人の昔話バリに長かったんで、かいつまんで言うとだ。

 もしもの事があったら、息子たちを頼む。ラオウとトキ先生の父親から、リュウケンはそう頼まれていたらしい。

 そこで父親の死後に、兄弟が実際に頼ってみたところ。OK。ただしどっちか1人だけな。と非情な答えを返されたという。

 しかもその選び方が、ガケに落として先に這い上がってきたほうだけ育てる、千尋の谷に落とす(ガチ)の、しかも先着1名様のみという外道な方法。

 

 正直、この時点で児童虐待で訴えたほうが良かったと思うんだ。

 核戦争前の話だし、確実に勝てただろうから。

 

 まあ、そうなってしまっていたら、先に引き取られていたらしいケンシロウもどこぞの施設で育てられて、北斗神拳を学んでおらず。

 北斗の拳。始まる前から終了。というオチになってしまっていただろうから、これは仕方が無い事だったんだろう。

 

 それでガケの件だが、そこでラオウがお兄ちゃん力を発揮して、途中で力尽きそうになるトキを抱えて這い上がり、コイツが一緒じゃなきゃ俺はイヤだ! と力強く宣言。

 これにはさすがのリュウケンも心を動かされたらしく、トキ先生も一緒に養育する事としたんだそうな。

 

 のちに伝承者として指名するはずだったのが、トキ先生だった事を考えると。リュウケンに、実は見る目が無い可能性が。

 彼も、海のリハクの同類なのだろうか。

 

 で、まあ。そんな事があったらしい。

 それがなぜ、俺を修羅の国へと送り出した事へとつながるのかと言うとだ。

 俺に今、試練を与えるべきだ。そう感じていたらしいのだ。

 試練とはいえ、さすがに千尋の谷(ガチ)は無いなとトキ先生も思ったのだが、何らかの試練を与えなければいけない。

 今の俺に試練を与え、それを乗り越えれば確実に強くなる。そういう確信があったんだそうだ。

 

 具体的には、北斗神拳を4から5へと上げるのに、イベントが必要だな。という事になる。

 

 まあ、実際に必要だったし、5に上がったワケだが。

 命に関わる試練を与えて、壁を乗り越えさせるという修行方法は、一子相伝の拳法としてはどうなのかと思う。

 リスクが高すぎてさあ。途中で絶対どっかで途切れるじゃん。

 俺だって、失敗してたら死んでたよ? そこんとこどうなのトキ先生。

 

「失敗したら? その時は、その時だ」

 

 いやいや。あんた命は投げ捨てるものではないとか言ってたじゃん。もっと大事にしようや。

 

「お前ならやってくれると信じていたぞー」

 

 いや、急にそんな事言われても。それも棒読みで言われても、響きませんわ。

 やれやれ。この人の言葉で奮起しちゃった自分が、少し恥ずかしいわ。

 

「冗談だ。本当に、お前ならば大丈夫だと、信じていたさ。お前も、北斗の拳士だからな」

 

 ……はい。ありがとうございます。

 

 あ、そうそう。ところで、どうやって修羅の国まで? やっぱ船で?

 

 え? ヨガテレポート覚えた? マジで?

 

 さっそく北斗神拳にも組み込んだ、と。短距離の、全方位への高速移動で? 吹き飛ばした相手の背後に回りこむ事すら可能?

 で、名前が北斗無想流舞、と。はあ。

 

 そっかあ。アレ覚えちゃったかあ。

 なんか聞こえてくるなあ。

 

 ジョイン(→)ジョイン(→)トキィ

 デデデデザタイムオブレトビューション バトーワンデッサイダデステニー

 ナギッペシペシナギッペシペシハァーンナギッハァーンテンショーヒャクレツナギッカクゴォ ゲキリュウデハカテヌナギッナギッゲキリュウニゲキリュウニミヲマカセドウカナギッ

 カクゴーハァーンテンショウヒャクレツケンナギッハアアアアキィーンホクトウジョウダンジンケン K.O. イノチハナゲステルモノ

 バトートゥーデッサイダデステニー

 セッカッコーハアアアアキィーン テーレッテーホクトウジョーハガンケンハァーンFATAL K.O. セメテイタミヲシラズニヤスラカニシヌガヨイ

 ウィーントキィ (パーフェクト)

 

 ハッ。俺は今、なにを?

 なんか前世のトラウマが脳裏を走ったような……

 いや、気にしない方がいいな。うん、なんか忘れた方がいい気がするんで、考えないようにしよう。

 

 よしっ。じゃあ、みんなでカイオウのとこに殴りこみますか。

 このメンツならきっと勝てますよ! というかトキ先生だけでいいんじゃないかな。

 ケンシロウなんか、いらんかったんや!

 ラオウもあっちの国を制覇して、軍勢で修羅の国を攻め取ろうとしてたけど、軍なんていらんかったんや!

 

 さあ、ボコりに行きましょうか。

 ヒャッハー! カイオウと、ついでにヒョウは消毒だー!

 

 

 



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バイクはあくまでも移動手段だと思うんだ。

昨日6位でビビってたら、今朝は3位だった。今は34位で少しほっとしている。
日刊ランキングに載るとドキドキしますね。

3年ぶりに復活してた 風のヒト氏の クモ行き怪しく!? を推してみる。
人外になったオリ主がマイペースにハンターハンターの世界を生きる。クモではあるが旅団ではない。原作にもほんのりと介入。



 気付けば、トキ先生が生身でバイクを超越していた。

 無想流舞を連続でナギッナギッと繰り返し、みるみると遠くへと姿が消えていく。

 あれで海を越えてきたのか。そう思うと、感心をはるかに通り越して、ドン引きするしかない。

 ラオウもサウザーも、うわぁ… という顔をしている。ラオウのその顔はかなりレアだな。

 

「トキ先生が北斗神拳伝承者になると、あれも代々受け継がれていくのか……」

 

 俺のもらした言葉に、ラオウの顔は更に何とも言いがたいものになって、サウザーは爆笑した。

 

「フ、フハハ…… 北斗…… 北斗神拳ー!! フハハハハハ!」

 

 うん。言葉の意味はよくわからんが、言いたいことはだいたい分かる。

 意訳するなら。ユカイな事になったな北斗神拳よ。それでいいのか。いいぞもっとやれ。というあたりか。

 

 まあ、トキ流の北斗神拳を継いで行くのはアミバだと思うけど、あいつアレ出来るようになるかなあ。

 

 アミバもなあ。異様にテンション高かったのを、それは負けフラグだとトキ先生に矯正されて、徹底的にテンション下げられちゃったんだよな。

 それはそれとしていいんだ。実際に勝率も腕も上がったし。中途半端に秘孔を覚えてるだけだったのが、いつの間にか天翔百裂拳すら使えるようになってたからなあ。

 でもそのせいで、激しい怒りやら感情の高ぶりやらで闘気に目覚めるというイベントが起きにくくなってるんだよな。

 具体的に言うと、あいつまだビーム撃てません。

 まあ普通の人間は撃てないけどね。北斗神拳ってやっぱオカしいわ。

 

 いや、南斗も南斗で、充分オカしかったな。人間砲弾とか列車砲、海のリハクに五車星。あと中心脚とか。

 元斗やら北斗琉拳なんてもう、ファンタジーだもんなあ。

 なんだよ闘気で地面凍らせるとか、重力操作するとか。それもう魔法やん。

 訂正しよう。この世界の拳法使いは、みんなどこかオカしい。

 

 さらに今は、その中にヨガとか調理技術とか混ざってるからなあ。

 この世界で目覚めたばかりの頃に見た、あのゲンジロウの北斗神拳みたいな殺し方って、どうやってたんだろう。調理技術:6になっても未だに分からないんだけど。

 ヨガに至っては、俺の南斗龍舌拳と、トキ流北斗神拳の必須技術になっちゃってるし。

 この世界の拳法は、この先一体どうなってしまうのやら。

 

 ふむ。この先か。この先って言ったらまあ、さしあたっては、まずは自分の事だよなあ。

 拳法についてはいいや。北斗神拳の方は、トキ流じゃない本来の、暗殺拳の方の北斗神拳を名乗ればいい。

 トキ先生が伝承者としてのこだわりを持ってそうだけど、暗殺拳としては継ぎたくなさそうだし、話し合えば割と何とかなるだろ。たぶん。

 

 龍舌拳はアレだ。間柴ーズとか、モヒィとか、勝手に生えてきたあのあたりがテキトーに広めそうな気がする。

 そこからまた新たな拳法が出来ても、しょせんは南斗だし、問題は無いだろう。

 あの禁断の奥義さえちゃんと失伝してくれれば、何も言う事は無い。

 初代のみが使えた、幻の奥義とか何とか言い訳はきくはずだ。頼むぞ。絶対に伝えるんじゃないぞ。絶対だぞ。フリじゃねーからな。

 

 チクショウ。念を押せば押すほど、不安になってきやがる。

 ああ、もう。話題変えるぞ。

 

 そもそもだ。なんでトキ先生だけ、生身で移動しているのかと言えばだ。

 

 バイクで移動しようとは思ったんだよ。でもさ、人数が俺とトキ先生、ラオウとサウザーで4人じゃん?

 サイドカー付きのやつを出して、1人そっちに。2ケツして本体に2人乗っても、1人余る。

 

 そこでまあ、試しにバイク取り扱いを5にしてみたんだ。

 スキルレベルを5にしたのが3つ目だって、トロフィー(銀)でポイントがもらえたけど、それは置いておく。

 それでバイクが複数出せるようになるのもよし。サウザーの乗っていた、あのやたらデカいバイクみたいな大型が出せるようになるのもよし。そういうつもりだったんだ。

 

 出たのは、でっかいバイクじゃなくって、でっかいタイヤだった。

 

 待って。

 これ、絶対世界が違うから。ライディングデュエルがアクセラレーションしちゃうから。

 もしくは、これのタイヤ付きの母艦がやって来て、地球浄化(クリーン)作戦始まっちゃうから。

 

「さあ、やるとするか」

「うむ。かかって来るがいい」

 

 待って。

 サウザーはともかく、ラオウまで。なんでアンタら、迷い無く乗り込んでるの? そしてなんで2台あるの? ボク2台目出した覚えないんですけど。

 それと、その手に持ってる紙束どっから出したの?

 

 俺のツッコミをまるっと無視して、2人は荒野へと消えていった。「紙束じゃねーよ」とすら言ってくれなかった。きっとスピードワールドでも発動してしまったんだろう。

 

 そしてそれに生身で介入するトキ先生

 

 うん。そりゃあ、うわぁ… って顔にもなるわな。

 ひとりぼっちで取り残されるのもイヤだったんで、普通のバイクで追いかけてきたけども。

 もう、正直どうしていいのかわからなくて困る。

 

 [P:18→16 決闘者(デュエリスト):1を習得しましょう(Y/N)]

 

 いや、いらねえよ。しかも2ポイント消費って、上位スキルかよ決闘者。

 もうお腹いっぱいなんだよ。麻雀でさえ消化不良起こしてるんだよ。

 この上、遊☆王カードまで混ぜんな。

 それにしましょうって、さりげなく推奨してんじゃねえよ。

 やらないからな! 俺は絶対に決闘者なんてやらないからな!

 

 あー、もう。なんつーか。もう。

 

 どう言えばフリにならずに否定できるんだー!

 

 誰かご存知の方がおられましたら、世紀末のモヒカン宛にお便りを下さい。

 お待ちしております。いや、マジで。

 代理のツッコミの方も、随時募集中です。

 どしどし、ご応募くださいね! お待ちしております!

 ていうか助けて! 誰か助けてー!

 

 



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脇役が強敵相手に輝く展開は燃えるけど、そのまま倒されると、その、なんだ。困る。

日刊ランキングの威力スゴイね。
新規の方々は気に入っていただけたら、過去作もよろしくね!


色々書いてる おーり氏 の ※この物語は二次創作です を推してみる。
まだ4話しかないんで、サクッと読めます。最強魔法師の隠遁計画という原作を、むしろ知らない方が楽しめます。昨今のラノベって、もうここまでと、目を覆う事間違いなし。


 

 気付けば、北斗と南斗の頂上決戦が始まっていた。

 ラオウとサウザーが、デュエルの途中でリアルファイトを始めてしまったのだ。

 竜の渓谷で墓地に送っておいたレッドアイズダークネスメタルドラゴンを、死者蘇生で特殊召喚はアリかナシかで揉めたのだ。

 

 [注意:できます]

 

 そうなんだ。でもはよ言え。無駄な争いが起きて、終わっちゃった後に言うな。

 もう2人とも、トキ先生に殲滅された後じゃねーか。

 

「私を支えておけ」

 

 暴れる2人を見るや、俺にそう言って背中を支えさせたトキ先生が、両手からごん太ビームを発射してラオウもサウザーもあの丸いバイクごとなぎ払ってしまったのだ。

 北斗ローリングバスターライフルならぬ、北斗ツインバスターライフルってところか。

 って、ああっ。バイクが! 満足さん仕様のD-ホイールが! 側面に「最高のSatisfactionを貴方に」って書いてあったのに!

 

 まあ、いっか。

 

 またライディングデュエルでも始まって、遊戯☆時空にでも侵食されたら困るしな。

 シンクロ時空とかとの時空融合でも起こされたら、色々と方向性に困るし。ほら、行動の指針とか。

 

 [P:18→16 本当に決闘者(デュエリスト):1を習得しませんね?(Y/N)]

 

 はいはい、しませんよ、N―――じゃねえ! アッブねえぇ! Y!

 引っ掛けかよ! 今までは習得するかどうかだったじゃねえか! なんで聞き方変えてんだ。どこまでデュエル推しなんだよ。

 あんまルールくわしくないから、やりたくねえんだよ。さっきラオウとサウザーがリアルバトルに発展しちゃったみたいに、ルールも解釈が解りにくいようにできてるし。

 

 まあ、その辺もスキル取ったら解るようになるんだろうけどさ。

 すでに麻雀に侵食されてしまったこの修羅の国を、デュエルで侵食するとかないわ。

 

 他にも碁やら将棋やらビーダマンやらミニ四駆やらガンプラファイトやらベイブレードやらセクシーコマンドーやらオッポレ大会やら、ワラワラと持ち込んでカオスにするという戦略も、アリっちゃアリだけどよ。

 だってそんだけ色々持ち込んだら、たぶん変わるだろ。

 修羅の国の決着を決める方法が、戦闘から、他の何かに変わるだろ。

 

 世界観とか、常識とか、色んなナニかを犠牲にしてな。

 

 しかも種類が増えすぎるとさ。相手とのバトルの方法が噛み合うとは限らないわけじゃん?

 チェスボクシングとか、囲碁将棋麻雀とか、ガンプラ四駆ブレードとか、オッポレマン碁とか出来ちゃったらどうすんだよ。誰がそのルール考えるんだよ。

 

 そうなった場合さあ。考えなきゃいけないのって、ウィンドウさんじゃね?

 

 [      ]

 

 なんか言え。

 まあ理解したなら、もう決闘者(デュエリスト)推しはやめろよ? やめとけよ? ましてや、引っ掛け問題とか論外だからな?

 

 さて。

 サウザーとラオウの治療をしてる、トキ先生の手伝いでもするか。

 移動中にゲームして、マジのケンカになったせいで戦力低下とかアホな理由でカイオウに負けるとかイヤだからな。

 

 

 そう思っていた時期が私にもありました。

 

 

 ここに、麻雀でも戦闘でも、五車星にボコられたカイオウがおるじゃろ?

 

 

 いや、マジで。

 

 

「なにがあったのだ、兄者」

 

 ラオウが倒れているカイオウに話しかけた。その声は、今まで聞いた事が無いほどに優しかった。

 口には出さずとも、大丈夫か。という声が聞こえそうなほどに。

 サウザーは両手の平で口元を隠して、驚きの表情をしている。魔闘気だけで自分を追い詰めたバケモノを、一応は南斗の身内のイロモノ集団が倒してしまったのだ。そりゃあ驚くだろう。

 正直、俺も驚いている。どうすればいいのか、反応にすげえ困っている。どうすりゃいいのさ、これ。

 そんな中、トキ先生は。

 

「殺るか…?」

 

 ボソッと、そんな事をつぶやいていた。

 どうやら、今のうちにカイオウにトドメをさすかどうかを冷静に考えているらしい。

 あれ? これ暗殺拳の方の北斗神拳も普通に継げるんじゃ……

 表向きは医者で、裏では暗殺者とか仕事人スタイルでイケそうだな。でもそうなると、俺の北斗の拳士としての立場がなあ。

 

 でも今はそんな事はいい。あとで考えればいい。問題なのは倒されちゃったカイオウの始末だ。

 

 とりあえずラオウが事情を聞きだそうとしているが、カイオウが弱っていて、こっちまで話が聞こえない。

 どうしたものかと困っていると、ひとりの老人がしゃしゃり出てきた。

 

「お困りですかな?」

 

 すぱぁー。と紙巻きタバコをふかしながら、肉付きが良いが、まだ筋肉質な老人がムカつく感じでこっちに来た。

 海のリハク。前にもどっかで言ったが、やらかしまくった上に自分だけ生き残った男。

 バットとリンたちが作った北斗の軍に参加していたんで、ああバットはコイツが鍛えたのかなと思っていたら、最近パチスロの方で「かつてバットを鍛えた男」という肩書きを持つオグルというかっこいい爺さんが出てしまい、その功績すら無くなった男。

 

 そんな男が、自分の指揮下にある五車星でカイオウを倒すという大金星をあげたのだ。

 もうこの上ないドヤ顔で、ニヤニヤとしながら「聞く? ワシの武勇伝聞いちゃう?」と書いてある顔で近付いてくるんだ。

 

 思わずヒザにボウガン撃っちゃった俺は、悪くないと思うんだ。

 

「ああっリハク様! ザマァ!」

「そこのお前、何をする! よくやったぁ!」

 

 五車星の赤い人と青い人からも、賞賛の声が漏れまくっている。

 

 ついでとばかりに、強制的に自白させる秘孔 新一(シンイチ) も突いておく。手柄のために話を盛られても困るし。

 

 さて、聞かせてもらおうか。キミたち、カイオウに何したのさ?

 え? 一服盛った? 毒?

 ふんふん。対局中に、風上からコッソリとリハクとフドウが毒を撒いて、ヒューイが風を操って自分とシュレンとジュウザの3人の被害を回避した、と。

 

 3人? 羅将のヒョウってのいなかったの? ああ、いなかったのね。

 そっかあ。意外と効いたのかな。あのテキトーに言った「ヤッたのはカイオウだ」って言葉。確かめにでも行ったのかね。

 

 ところで北斗の使い手に毒って効きにくいはずだけど、何撒いたのさ。

 

「さあ? 元は軍の施設だったと思われる場所で見つけた、ボンベに入っていたガスを複数やりましたので」

 

 おい。おい。

 このあたり大丈夫だろうなあ。汚染されてないよな? ないよね?

 

 [大丈夫ですよ]

 

 おお、ウィンドウさん! ありがとうウィンドウさん! あんたに感謝したの久々だよ!

 怖いんで、何を撒いたかまでは聞かないけど。

 

 しかし軍用の何かか。そらカイオウにも効くわ。

 普通なら色やらで見破れたかも知れんけど、魔闘気で見えなかったんだろうな。

 で、弱ったカイオウに好き放題して倒したところへ、俺らが来たと。そういうわけか。

 

 やべえ、どうしよう。倒したって言っても、こんなやり方だと修羅の国の人らが納得しないかも。

 修羅の国だけに、これもアリだと判断するかも知れんけど、その場合もあとの統治が面倒だぞ。

 だって、こういうやり方もアリって言ってるようなもんだもん。

 今後は、何でもアリでやっていくって宣言してるようなもんだろう?

 

「ラ、ラオウよ…… お前が、お前が、俺のあとを……」

「ああ。兄者。安心してくれ。我が天に、立つ」

 

 まあ、いっか。

 苦労するのは、あそこでなんか兄弟のアレコレがあったらしいラオウだし。

 うん。いいや。これで修羅の国編、完! でいいや。

 

 よっしゃ、みんな撤収ー! 焼き肉しようぜー! 鶏と豚で、牛はないけどな!

 じゃ、お疲れっしたー!

 

 

 



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酒は飲んでも飲まれるな。マジで。でも、わかっちゃいるけどやめられない。

はんがー氏の マダオ戦士Goddamn を推してみる。コナンくんの世界へ転生してるが、タイトルとは違い全くマダオ(ニート)していない。まあ、してたらうっかり殺されそうな世界だけども。
コナンくんらと同級生なのも原因か。小学生でニートは難易度高いから。
コナン世界だけど、劇場版でクロスしてたルパンらが普通にいる。というか次元さんがオリ主の保護者だ。そして母親はあの人で、でも父親はあの人っぽい。
保護者らのせいで必死でスキルを身に付け、コナンらのせいでそれを発揮して生き残る。そんなオリ主の明日はどっちだ。


 気付けば大変な事になりそうなので、気付かない事にする。

 というわけで、全力で目を逸らそうと思う。さすがに逃げたらいけないとも思うので、目を逸らすだけだ。

 さて。まずはウィンドウさん。解説のレベルアップお願いします。

 

 [P:18→13 解説:5を習得しますか?(Y/N)]

 

 Yっと。さて。それじゃ次はメモの用意をして、と。ウィンドウさん、スキル確認をよろしく。

 ウィンドウさんか別の担当かはわからないが、前回と変わらない、平坦な機械音声での読み上げで所持スキルを教えてくれた。

 で、それによるとだ。

 

 

バイク取り扱い 1、バイクの運転、整備。2、バイクの修理、呼び出し。3、ガソリン補充。4、水上バイクとバイクの召喚。5、特殊バイク召喚。

 

 

調理技術 1、水と塩と手鍋。2、小麦粉とスパイスとフライパン。3、鶏肉、醤油、ビール。4、魚類と卵と酢と日本酒。5、トウモロコシ、トマト、ジャガイモ、ニンニク、乳製品。6、豚肉、葉野菜。焼酎。

調理技術(中華) 1、2、純粋に腕が上がる。

 

 

北斗神拳 1、按摩と鍼灸。2、衣装と筋力上昇。3、簡単な秘孔。水影心。4、闘気なしの奥義まで。5、全奥義。

 

南斗聖拳 1、身体硬化。2、身体能力上昇。3、切れ味上昇。

 

 

モヒカン 1、髪型と衣装と筋肉。2、飲食不要(軽)、ヒャッハーセット。3、ヒャッハーの負担軽減。4、チームの発足。5、チームの100人以上の拡大。

モヒカンリーダー 1、10人のモヒカンを統率。ボウガン。2、統率が100人に。火炎放射器。3、統率が300人に。モヒカンスラッガー。

 

 

ヨガ 1、ヨガファイヤー。2、手足が伸びる。3、ヨガフレイム。4、ヨガテレポート。

 

 

麻雀 1、麻雀セットを出せる。

 

解説 1、2、3、4、5 スキルの解説。

 

南斗龍舌拳 あなた独自の拳法。

 

 

 こうなっているわけだな。あらためて確認すると、割と充実してるんじゃないかと思う。

 特に北斗神拳をカンストしたのは誇っていいんじゃないかな。うん。究極奥義まで覚えたんだし、たぶんカンストでいいだろ。

 さっき解説を5にした事で、思わぬ恩恵もあったしな。

 

 なんか、知らない北斗の技がごっそりと頭の中に入ってきた。

 

 北斗神拳ってこんなにたくさん技があったんだなと、ビックリするくらいたくさん入ってきた。

 それで、その割にはラオウとかあんまりたくさん技を使ってなかったな。そう思ったら気が付いた。

 

 ああ、そういやアイツ一回も伝承者指名されてなかったわ、と。

 

 ケンシロウは指名されてるし、トキも病気になる前に一回指名されてたはず。

 そんで伝承者になら全ての技を、実際に使うかどうかはおいといて、教えるじゃん? ほら、その伝承者に合ってないから使わなくても、次の伝承者やその後の伝承者に合ってないとは限らないわけだし。

 

 ジャギとかなんて、ロクに教えてもらえてなさそうだもんなあ。

 あの羅漢撃でさえ、修行時代にリュウケンに教えてもらったってのに、最後まで極められてないんだぜ?

 というのも、あの技は憎しみ、恨み、妬み、嫉み、その全てを捨てられた者だけが極められる技だってリュウケンがジャギに言ってたんだ。

 ジャギにそれが出来たかっていうと、なあ?

 

 そもそも、なんでよりによってそんな技を教えた、とも思うけども、だ。

 火事の中から拾って、幼児から育てたジャギを思う、リュウケンの親心だったのかもしれないと思うとなあ。

 そういう真人間に育ってほしい。そういう願いが込められてたんじゃないかなあ。

 

 どう考えても、ムリだったけどな。

 

 いっそ北斗琉拳に届くくらいに凶悪だったなら、ジュウケイに紹介とかしてもらえたかも知れんけど、それもなかったし。

 なんかもう、ジャギを見てるだけで哀しみを覚えるわ。

 

 [P13→15 トロフィー(銅) 哀しみを覚える を達成しました]

 

 おい。いいのかそれで。

 哀しみがまたひとつ、俺の力になったのか。とか言い辛いわ、こんなんじゃあ。

 

 まあ、もらえるもんはもらうけどよ。

 

 で、なんだ。

 解説:5で新たにわかったことだが、他にもある。バイク取り扱い:5で出せるのが、D-ホイールだけじゃないって事だ。

 白バイとか、ロードバイク(自転車)とか、ドラッグレース用のジェットエンジンと停止用パラシュート付きのバイクとか。うん、ロクなのがねえな。

 だが5に上げた意味が無いかと言えば、そうでもない。

 複数呼び出す事が出来るようになっている。これは解説じゃなくて、勝手にサウザーたちがD-ホイールの2台目を出してた事で気付いたんだがな。

 あの後試してみたら、十台以上呼べた。もちろん、普通のバイクをだ。D-ホイールじゃあない。これで複数人での移動にも悩まずに済む。

 

 誰も彼もが、ナギッナギッと空間移動でバイクよりも速く移動できるわけじゃないからな。

 

 あと気になるのは、アレだ。

 あえて目を逸らすという手もあるんじゃないかと思って、今まで触れずにいた、アレだ。

 しかし現在は、目の前の現実から絶賛目を逸らし中なんで、あえて目を向けてみようと思う。

 アレというのは、アレだ。

 

 モヒカンスラッガーだ。

 

 だがいきなりは良くない。きっと体と心によろしくない。

 まずは準備運動だ。手の中に、ボウガンを出す。

 念じただけで、手に握られるようにして出現したボウガンを、また念じるだけで消す。

 そして火炎放射器だ。思わず消毒だー! と叫んで発射したくなるが、室内なんでガマンして火炎放射器を消す。

 まったく、モヒカンスキルはヒャッハーしたくなるというデメリットが困り者だぜ。

 

 さて。じゃあ本番行くか。

 いでよ、モヒカンスラッガー。

 

 念じるや、頭に重みを感じる。手をやってみれば、中央にのみ残る髪の中に、確かな手触りがあった。

 冷たい、金属の手触りが。

 それを両手で左右から挟み、壁を目掛けてそのまま投げる。体が勝手に動き、投げると同時に首を思い切り前へ振って、発射しやすくしていた。

 

 投げられたブーメラン状の刃物は、クルクルと回転しながらもまっすぐに飛び、狙い通りに壁へと突き刺さった。

 

 これって、なんだろう。

 原作にこんなん無かった…… よな? イマイチ自信がないが、無かった、はずだ。

 いやいや、いくらたまにいい加減な所がある北斗ワールドでも、これは無いだろ。無かっただろ。

 こんな卍○先輩やら、ウルトラ○ブンみたいな技は無かった、よね?

 

 まあ、正直ボウガンの方が強そうなんで使わないから、どうでもいいっちゃいいんだけどもさ。

 でもあるならあるで、モヒカン的には使ってもいいんじゃないかって気はしてなあ。

 うーん。配下のノーマルモヒカンたちにでも使わせようかなあ。龍舌拳の影響で変わっちゃったヤツらと比べて、個性が無いからな。

 ぶっちゃけ、配下が野良モヒカンと戦ってると、見分けがつかなくなるんだよな。

 モヒカンスラッガー持ってる方が味方。うん、一応の目印にはなるか。

 

「うぅん……」

 

 あ、ヤバイ。今の壁に刺さった音かなんかで、目が覚めたらしい。

 現実逃避の時間が終わってしまう。

 まだどうしたらいいのか、わからないんだがなあ。

 だがまあ、とりあえずだ。こっちからあいさつしてみるか。

 

「おはよう。マミヤ」

「ん~。あと5分……」

 

 うん。いつものなんだ。酒が、入っていてね?

 何でお前は、何度も同じ過ちをって思ったろ? 俺も思った。

 でも仕方が無いんだ。これもきっと、ヒャッハーってやつのしわざなんだ。

 モヒカンスキルのデメリットで、ヒャッハーする事を無意識に―――強いられているんだ!

 

 とは言え、今回はマジで記憶が無い。

 宴会の途中で、たまたま隣で飲んでたマミヤが、泣きながら嘆いてたのは覚えてるんだが。

 

UD(ウダ)なんて焼き印を押されちゃったら、女として死ぬしかないじゃない!」

 

 とか叫んでたな。

 その場の誰も、トキ先生ですらもフォローの入れ方がわかんなくて困ってたっけなあ。

 そんで俺が、強引に場の全員を巻き込んで、飲ませる事で勢いで流そうとして―――

 どうなったんだろうなあ。

 ともあれ、このままだと彼氏っぽい存在のレイが「哀しみがまたひとつ俺の力になったのか」(ガチ)してしまうから、何とかしないといけないんだが。

 そもそも、何があったのか覚えてないんだよなあ……

 

 しっかりお互い服は着ているが、ゲーム上そういう仕様だというだけかもしれないし。

 

 とりあえずUDの焼き印を書き加えて甘口にするとか、ODに変えて信長のファンを装うとか、提案していた事にしよう。

 覚えてないのに、ペナルティーだけもらうのってイヤだしな。

 

 とりあえずマミヤが二度寝に入ったし。

 俺も、もういっかい寝るか。

 後の事は、後で考えるぜ。ヒャッハー……

 

 

 



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知らないうちにツケは溜まっているものらしい。それはふとした時に爆発する。

 気付けばレイと戦う事になっていた。ですよね。

 あの後にマミヤが起きてきて、話し合った結果。お互いに記憶が無いので、無かった事にしようと話はついていたんだがなあ。

 タイミング悪く、俺を起こしに来ちゃった人がいたんだな、これが。

 

 朝飯はまだか、と俺を訪ねてきたサウザーが。

 

「キッ、キサマ何をしている! ハレンチだぞ!」

 

 大声で叫ばれてしまってなあ。

 それで駆けつけてきたのが、風のヒューイでね?

 部屋を覗き込んで、状況を瞬時に把握。そのまま無言で走り去ってな?

 三十分もしないうちに、サザンクロス中に広まってしまった、というわけだ。

 

 風のうわさだけに、足が速いですねって、やかましいわ。

 

 いかんな。このままだとモヒカンネットワークで、わりとシャレにならない範囲にまで広まってしまうかもしれん。

 意外な所まで広がってるんだよなあ。モヒカンのウワサでのネットワーク。そこらの村の村長が、なぜか暗殺拳の北斗神拳の存在を知ってたりするのも、これのせいだとか。

 

 さて。ウワサを消す方法は、もっと大きなウワサをぶつけるか、それとも続報を次々と打ち出して流れを変えるか。

 あるいは、そっとしておいて自然に消えるのを待つか。

 そうだな。人のウワサも七十五日。最近は四十九日とも言ったりするらしい。現世から成仏するまでにかかる時間とおんなじってか。

 

 まあ放置でいいかな、うん。

 マミヤも女として生きるつもりは無いとか言ってたし。迷惑だろうけど、許容範囲じゃないかな、うん。

 砂糖でもkg単位で渡しとけば、許してくれるだろ。

 

 そう思っていた時期が俺にもありました。

 

 レイがね。暴走しちゃってなあ。

 なんというか、初期の顔をしていた。

 

「あ、あの目! あれは昔のレイの目よ! 人を助けるような人の目じゃない!!」

「ああ。大悪党の目だぜ! 間違いねえ! 昔の野盗の手先の頃のレイだ!」

 

 リンとバットのお墨付きだ。

 そういえば、初登場時のレイって牙一族のスパイだったよな。それで、マミヤのいる村に用心棒として雇われる事で潜入。

 でも潜入先での同僚にケンシロウがいたんで、村をヤるよりも牙一族ヤった方が楽だな、と悟って、そのまま用心棒として牙一族と戦うという華麗なる寝返りをカマしていたっけ。

 

 そんなコウモリムーブをしながらも、ケンシロウと背中合わせで戦ったり、探してた妹が人質に取られてうろたえたり、そこからケンシロウと一芝居打って逆転したりと、盛りだくさんのセットで立場と人気までゲットして成り上がった男。

 

 そんな男が、全てを投げ打って怒っていた。

 うん。正直すまんかった。でも覚えてないし、そもそもお前マミヤには振られてなかったか。

 

「うるせえ。お前の血で化粧がしたいんだよぉ!」

 

 いや、それユダさんのセリフ。落ち着いて。

 ほら、ここに麻雀牌があるから。これでやろう? 勝負しよ?

 

「よかろう。レートは1000点、1秘孔な」

 

 なにその斬新なレート。

 ていうか、レイが勝ったら誰が突くのさ。俺が自分で突くの?

 

「その時は、私が突こう。弟子の不始末は師が片付けねばな」

 

 ゲェッ! トキ先生!

 待ってくださいよ! マミヤに責められるというのなら解りますが、レイにというのは、理解できるけど納得できませんよ!

 だって彼氏ならともかく、そいつ彼氏(候補)じゃないっすか!

 

 一理ある。

 

 そう理解を示してくれたトキ先生によって、残り一人のメンツはマミヤに決定した。

 違う。そうじゃない。

 でもあってる気もする。なにこの不思議感覚。

 

「それで? レイ。あなた、私に何か言う事があるんじゃないの?」

 

 そんな感覚も、呼び出されたマミヤがレイに話しかけるまでだった。

 え? なんでマミヤの方がキレてんの?

 

 ちょ、隅っこにしゅーごー。マミヤとレイ以外みんなこっちこっち。

 

「バット、リン、わかるか?」ヒソヒソ

 

 トキ先生すらも体を小さくして、小さな声で話している。

 理不尽にキレている女性相手にだが、北斗神拳が敗北した瞬間だ。

 でもなんで俺には聞かないんですか。いや、確かに聞かれてもわかりませんでしたけども。

 

「とりあえず、自分が一番にされてないと感じると女はキレるから、それじゃねーか?」

「自分の事をほったらかしだったのが、気に入らなかったのね」

 

 そんでもってわかるのかよ、お子様ーズ。すげえなキミら。伊達に世紀末を生きてねえぜ。大人の顔色をうかがうのはバッチリだ。

 

 ふむ。この場合、レイは怒りに任せて俺を責めるよりも、まずはマミヤを気遣わねばならなかった。そういう事か。

 優しさって大事なんだね。

 

 思えばマミヤも、レイが最初雇われてた牙一族に弟を殺されてたり、ユダに村を襲われて両親を殺された上にさらわれて焼き印押されたり、南斗には思う所がありまくるしなあ。

 溜まってしまった、黒いナニカとかもあるんだろう。そういえば俺も一応は南斗だし。

 

 さて。このままレイをイケニ、もといマミヤの怒りを静められるまで、そっとしておこうと思うんだが、反対する人ー?

 うん。いないね。では、ここで解散。各自、こっそりと退散するように。

 あっ。その前に、みんなでレイに敬礼。ムチャシヤガッテ…

 ではトキ先生、ご一緒に。ヨガテレポート。

 

 

 



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ゆずれない願い!

Wbook氏の 落第騎士の師匠《グランドマスター》 を推してみる。現在更新が1年ほど止まってるけど復活しないかな。
FateのNOUMINにしてドラゴンキラー(真)と名高い彼を、そのまま落第騎士世界へ放り込んで闊歩させている。魔力ありきのバトルで、剣の腕だけで戦うというスタイルを、本来の主人公以上にこなしてみせる姿が妙にカッコいい。
どこにも所属せずに、好きに生きているスタイルもいいぞ。


 気付けば、レイが居るんだよな。そういえばアイツ、修羅の国で行方不明だったはずなんだよ。

 なにこっちの都合が悪い時に、シレッと戻ってやがるんだ。

 それと結局あの後、マミヤとどうなったのよ。

 気になったんで、メシの後に聞いてみた。

 

 ちなみにサザンクロスの食は、今は秋山師匠が取り仕切っている。

 俺? 俺は師匠に言われた食糧を出すのと、手伝いを兼ねての修行だな。だがこれがなかなか難しくてなあ。

 具体的には、いまだに調理技術(中華)が2から上がらないんだよな。

 スキルが上がるから腕が上がるんじゃなくて、腕が上がらないとスキルを上げられないという仕様らしくてなあ。

 うん。これはこれでアリだと思うぜ。師匠にはもっと早く腕を上げろって怒られるけどな。

 

 ところで、秋山師匠のメシを食べ続けている女たちが、軒並みオッパイが大きくなっているんだが。

 

 それによって、南斗と北斗が入り乱れての派閥抗争が、密かに起こっちゃってるんだが。

 

 派閥の種類? もちろん、大きいのと小さいのだ。巨乳派と貧乳派とも言う。普通の大きさ派もいるぞ。

 

 レイ、ユダ、サウザー、シュレンとフドウが“大きいのは正義”党。通称、大正義党。

 シン、トキ、ジャギ、ヒューイ、ファルコが“小さいのがいいのではなく それを恥らっているのがいじらしいのだ”説。略称、小説。

 ケンシロウとリハクが“普通くらいの大きさがいいんじゃないか。というかユリアがそのぐらいなんで他を主張すると怖い”宣言。他称、尻にしかれマン。

 そしてジュウザのみが“オッパイは全て尊い”派。他称、節操無し。

 

 うん。ちょっと元斗も混ざったな。でもほぼここサザンクロスにはいないから、問題ない。

 だいたいは大正義党と小説の間での争いだな。

 サザンクロスはシンのナワバリなんで、シンの意向が優先されるのが普通なんだろう。

 だが女性としては、やはりある程度は欲しいものらしく、秋山師匠のメシが支持されているのだ。もちろん、普通に美味しいというのもあるだろう。

 そこへ大正義党の面々の援護も加わる。サウザーとユダは、それぞれ他の都市の支配者だ。政治的な圧力もかけられる。

 

 そんな微妙なバランスのせいで、秋山師匠だけではなく俺の食事当番の時があったり、アミバの担当の時があったりするわけだ。

 

 うん、アミバ。なんかアイツも、調理技術(中華)覚えたらしいよ?

 俺やトキが修羅の国へ行ってる間に、ヒマそうにしてたら秋山師匠にとっ捕まって、仕込まれてしまったらしいぞ。

 ただ、調理よりも皿洗いが上手になっているあたり、扱いは弟子というよりも助手だな。

 だがその学習能力は、かつて自分で天才だと言っていたように、あなどれない。

 俺の調理技術(中華)も所詮は2でしかないし、追いつかれないように精進せねば。

 

 それと、ヒューイとシュレンが違う派閥に属して、仲たがいしたみたいになってるのが面白い。

 それぞれの好み、趣味嗜好の問題なんで、分かり合うのも相手を説得するのも難しいんだがなあ。

 妙に熱く語り合っていたのを、通りがかったオバちゃんたちに生暖かい目で見られていたのが印象深く残っている。

 

 俺自身は、節操無しに属している。わりと何でもイケるぜ、ヒャッハー!

 俺以外のモヒカンも、ここだな。もう通称ヒャッ派ーでいいんじゃねえかな。

 

 

 で、だいぶん話は戻るんだが。うん。レイの件な。

 

 

 聞いた所によると、だ。

 マミヤの機嫌は直ったけど、付き合うまでは行かなかったんだってよ。

 

「修羅場を越えたってのに、元通りの関係で、一歩も先に進んでないって…… ラブコメマンガの主人公かお前は」

 

 お前にはガッカリだ。そんな顔をしてツッコんだ俺に、レイが反論する。

 

「そうは言うがな。元々、あと一歩までは行っていたんだが、最後の一押しが見つからないで足踏み状態だったのだ。そこから踏み外さないで戻ってこれただけ、今回の件は上出来だぞ」

 

 あ~。まあなあ。

 原作だと、レイは最初の頃は悪党ムーブしてたっていうのにさあ。

 南斗水鳥拳を使って、美女の服だけを切り裂いて裸に剥くという、男の夢を達成。マミヤのオッパイを見たとたんにキレイなキャラに転身するという、謎のムーブしてたもんな。

 

 女が戦いに出てくるんじゃねえ!→(オッパイ)→俺が代わりに戦ってくる(キリッ)

 

 わかりやすく省略すると、こんな感じだった。うん。そのはずだ。

 

 そういやあ、マミヤをさらったユダも、マミヤのオッパイ見たら「美しいものの前では俺は無力になる」とか言って、傷つけたりはしなかったな。焼き印は押したけど。

 なんなのマミヤのオッパイって。キン肉○ンのフェイ○フラッシュみたいに、改心させたりドブ川を浄化したりできるの? なんか出てるの?

 

 そんな女を口説くのに、どう考えてもマイナス状態からのスタートで、付き合う一歩手前まで持ってこれたと考えると、レイってスゴいな。

 

 そのあと一歩ってのも、ユダの入れたUDの焼き印が恥ずかしいからという、どうしようもない理由だしなあ。

 

 ふうむ。なあ、その焼き印、塗りつぶすなり書き足したりしちゃあどうだ?

 単に●で覆い隠したり、UDoNにしたりAUDIにしたりだ。

 焼き印が気になるなら、そうするしかないだろ。

 

 で、まあ。マミヤはそれでいいとしてよ。修羅の国でなにがあったのよ。

 ていうか、そもそもなんで修羅の国にサウザーと出かけてたのよ。

 

「お前を探しにだ」

 

 は? 俺? なんで?

 確かに、修羅の国へ行くってサザンクロス出てったトコだったけど。

 

 レイは顔をしかめて、ため息をついてから答えてくれた。

 

「言ってしまえば、サウザーのワガママだよ。お前のカレーが食べたかったとさ」

 

 ええ~。それだけのために、修羅の国に?

 一人で行かなかったのは、さすがに慎重になったのか、それとも単に心細かったのか。

 それで出かけた先で、修羅たちとの戦いでバラバラに? それで先日、ようやっと帰ってこれたところで前回の騒動になったと。

 

 ああ。マミヤが怒ってたのって、それもあるのか。

 行方知れずになって、連絡もなくて。それでようやく戻ってきたと思ったら、自分ほったらかしでケンカしてたら、そら怒るわ。

 しかもケンカのしかたが麻雀だったら、もっと怒るわ。

 更に、自分がそのメンツの一人として呼ばれたら、顔を見るなり殴っても許されるわ。

 

 お前、なにやってんの。

 

「待て。麻雀を持ち出したのはお前だし、マミヤをメンツに入れようとしたのはトキだろう?」

 

 その言い訳は、マミヤに通じましたか?

 通じませんでしたよね?

 許されたらしいけど、忘れたとは言ってない。というのが女性の言い分だからね?

 また何かあった時に、持ち出されるからね? その時に、俺のせいじゃないとか反論すると、それが正しくても余計に怒られるからね?

 理不尽? そういうもんなんだよ。

 向こうは、仮に論破しても納得してくれないんだよ。納得してもらうには、とにかく聞くだけ聞いて、まずは感情の方を納得させないといけないんだよ。

 理論や理屈はそれからだ。それも、できればあちらが気付くように誘導する事だ。

 面倒くさい? バカヤロウ! 面倒くさくない女なんざいるかっ!

 

 イチかバチかでいいんなら、ぎゅっと抱きしめて、俺が悪かったと耳元でささやくっていう手段もあるぞ。

 顔さえ良ければ勝算があるという、割とどうしようもない戦法だが。

 え? やってみるの? ふ~ん。自信あるんだー。そっかー。

 

 あ、ちょい待ち。

 そういえば、一緒に居たはずの、シュウってどこ?

 

「あっ」

 

 おい。あってなんだ。おい。

 

 

 

 



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上司というのは、時に理不尽な存在です。

 気付けば、シュウがハゲていた。

 訂正。ツルッパゲになっていた。

 

 なんかね。修羅の国で、お坊さんに助けられて、入門? しちゃったらしいよ?

 服装まで、袈裟に変わってる。あれはなんかスキル覚えたな

 

 [P:15→14 仏教:1を覚えますか?(Y/N)]

 

 あっ、俺にも来るんだ、そのスキル。

 ……う~~ん。悩むけども、とりあえずは却下で。

 ほら。俺の名前ってさ。モヒカンじゃん。もしも仏教覚えて、シュウみたいにハゲ頭になったらさ、困るじゃん。

 毛が一本も無いけどモヒカンです。とか悲しい自虐ギャグな自己紹介とかしたくないもん。

 

 [チッ]

 

 舌打ちした!? ちょ、マジで毛が無くなるの?

 危ねぇえ。なにその地味にイヤなトラップ。ウィンドウさんってそういうのもやるの?

 そういうことばっかりしてると、あそこで苦しんでるサウザーとかシンみたいになるぞ。

 

「観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時 照見五蘊皆空 度一切苦厄  舍利子―――――」

「「ぐわぁぁぁぁー!!」」

 [ぐわぁぁぁー!!]

 

 坊主スタイルのシュウが唱える般若心経に、なぜか悲鳴を上げてのた打ち回る2人の姿がそこにあった。

 ていうか、ウィンドウさんにも効いてた。言わんこっちゃない。

 

 苦しむ理由は…… なんだろう。ひょっとしたら悪事とか働くと溜まる、カルマ値みたいな隠しパラメータがあるのか?

 で、それが高いやつほど、あのお経アタックが効果がある……とか?

 

 ハハッ。まさかなあ。でも説明はついちゃうんだよなあ。

 カイオウがなぜか麻雀での勝負に付き合った理由まで、説明できちまうんだよなあ。

 

 カイオウってさ。どう考えても、カルマ値スッゲー高いよね。

 ヘタすりゃ、お経アタックで昇天しちゃうんじゃねえの。

 まともに戦えすらしないんなら、そら向こうの麻雀で勝負だって誘いにも乗るわな。

 で、麻雀の勝負でも、坊さん相手に魔闘気が使えずに、敗北したと。そういうわけなんじゃねえかな。

 

 うん? カイオウを麻雀で負かした相手が、坊主だという前提で話しすぎだって?

 

 いや、まあ。だってさあ。ムダヅモでいたじゃん。ほら、チベットのあのお方が。

 ライトニングブッダ! とか言って、親倍あがっていくようなのなんて、あのお方くらいだって。

 直接お会いしてはいないけどもさ。そういう人がカイオウを倒したんだってウワサは、俺、修羅の国で聞いたもん。

 

 会わないうちに帰れて、正解だったな。

 

 たぶん俺にもお経アタック効くもん。だって俺モヒカンだもん。

 調理技術スキルによる食糧の供給やら、モヒカンリーダースキルによる比較的平和な統治やら、善行と言ってもいい事もしてるけどよ。

 存在がモヒカンであるってだけで、アウトだろ。どこまでプラス積み上げても、ノーカンだろ。もしくはゼロに近付けるだけ。

 

 ふむ。そうか。仏教のスキルを取れば、そのへんもあるいは修正されるのか。

 

 でもなあ。そうなるとモヒカン系のスキルが有効なままか怪しいもんなあ。

 特にモヒカンリーダースキルで配下にして、大人しくさせてる元野良モヒカンどもがヤバい。

 だって進化しちゃったモヒカンとかいるし。いつの間にか5人から10人に増えてた間柴ーズとか。どこぞの自称海賊王(初期型)も、両手と口に鉄パイプ装備したモヒカンを仲間にしてたし。

 おかしいなあ。モヒカンリーダースキルは、ずうっと3から上げてないんだけどなあ。

 何で勝手に進化してんのあいつら。

 逆にネームドモヒカンのスペードは、なんで進化しないの。ネタとしてイジる部分も場面もないから、あいつ放置しっぱなしで出番ないんだけど。

 

 待てよ? どうせ出番が無いんなら、ここで実験に使っちゃってもいいかな? アリかな?

 よし。やっちゃうか。

 となれば、まずはスペードを呼び出さねば。久々に使うか。叫ぶぜヒャッハー!

 

「ヒャッハー!」(スペードをここへ連れて来い!)

「ヒャッハー!」「ヒャッハー!」「たわばっ!」(了解!)

 

 意を込めて叫べば、それを聞きつけたモヒカンたちから返事が返ってきた。

 ヒャッハーの一言で全てが伝わる。モヒカン語はやはり便利だな。

 たまにエラーを吐くヤツがいるが、そこは気にするな。

 

 お、意外と早かったな。近くに居たのか?

 まあ、いい。行くぞ。付いて来い。

 サウザーやシンを救うつもりかって? 違う違う。お前の進路相談だ。

 

 お~い、そこのお坊さん! 初めまして、モヒカンです! KING軍の幹部やってます!

 ぜひ、コイツを! このスペードを、弟子にしてやってくれませんか?

 悔い改めたいって、前から言ってまして! どうかお願いできませんか!

 

「よかろう」

 

 ひゅーっ! 間髪入れぬ、その答え! そこにシビレるヒャッハーする!

 

 [P:15→21 トロフィー(金):仲間を売る を達成しました!]

 

 失敬な。売ってねえし。ちょっと仏門に強制入信させただけだし。

 ちょっぴり特殊な、クラスチェンジさせただけだし。

 

 さあて。スペードくん。じゃあさっそくそのモヒカン、剃ってみようか。

 

 

 



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広げかけた風呂敷を、即座にたたむ回。

前回無駄に暴れたんで、そのフォロー回。
そういえば最近、暴れるくん見ないな。

再放送してる関係か、イナイレものが増えてる気がする。そんな中から不知火影氏の 円堂憑依譚 を推してみる。
憑依ものだけど、あまり円堂のキャラからブレてはいない気もする。憑依というよりも、強くてニューゲームな感じ。
主人公への憑依なんで五条さんとかサブなところに憑依してスタートよりも、イナイレのストーリーが楽しめるが、本来のものとの差別化しつつのさじ加減もいい感じ。


 

 気付けば、サウザーとシンと、なぜかアミバが同盟していた。

 対シュウ様同盟らしい。なんで様付けやねん。

 

 サウザー曰く。なんかあれからシュウが更にパワーアップして、いまや手も付けられない状態なんだそうな。

 

「ヤツは…… 変わってしまった」

 

 この手で宿敵を取り戻す。握った拳をくやしそうに見つめるサウザーの顔には、そう書いてあるように思えた。

 修行時代は、シュウがケンシロウの一件で視力を失うまではライバルだったらしい。

 帝王とレジスタンスリーダーという対立する関係の今も、シュウはサウザーにトドメを刺そうとまではしないし、サウザーもいなくなったら寂しいとは言っていた。

 両者とも、それぞれに複雑な感情があったんだろう。

 無くしかけたソレを、きっとサウザーは今、取り戻したいのだ。

 

 でもシュウを戻すって言っても、坊主から拳士にだけどな。

 

 それも属性的には、今の方が以前よりも善に近いだろうっていうから、ねぇ?

 第一、毛はどうやって増やすんだよ。俺、秘孔ならもう全部知ってるけど、確かそういう秘孔はないよ?

 

「俺が見つけた」

 

 そう答えたのはアミバ。まさかのハゲの克服である。

 この世紀末に、人類の夢のひとつが達成された。別の夢でもある、風邪の特効薬になる秘孔とかも見つけてそうで怖いな。

 でも納得した。こいつが同盟に入ってた理由って、それか。仲間に入ってきたんじゃなくて、必要な人材だから引き入れられたのね。

 こいつ、テンションが常時下がった副作用で口数が減って、強く言われたらノーと言えなくなっちゃったもんなあ。そらあ、この強引な所のある2人に言われたら逆らえんわ。

 

「そもそもあれは剃っているだけだからな。細胞を活性化させるだけでも充分だろうが、アミバの見つけた秘孔ならば一日もあれば、もう坊主とは呼べぬ程には伸びる」

 

 自信を持って断言する、一応俺の上司のシン。

 そこまで断言するという事は、ひょっとしてすでに実験を?

 

「実験とは人聞きが悪いな。治療だ。先日お前がモヒカンを剃ったせいで体を壊し、しかも体質に合っていなかったせいで仏教に入信できなかった、スペードのな」

 

 あっ。そうでしたか。すいません。ありがとうございます。

 

 そうなのだ。先日、俺が勝手に仏教に魂を売ったスペードだったが、入信は出来なかったのだ。

 やはり生まれ付いての純正モヒカンでは、仏教徒には生まれ変われなかったらしい。

 単にクラスチェンジの要因を満たしていなかっただけ、という可能性もあるが。

 

 で、あいつ治りました? あっ、治った。そうですか、お世話をおかけしました。

 

 よし。反逆されても困るから、あとで酒でも差し入れして忠誠値を回復させとくか。

 離反されても、それはそれでトロフィー手に入りそうなんで、いいっちゃいいけどな。

 

 そして話がまとまった所で、サウザーが力強く宣言した。

 こいつなんか輝いてる気がするな。将星の男だから、リーダーシップ発揮すると輝くのか?

 

「ではゆくぞモヒカンよ。まずは我が聖帝領だ! ボーズ・キッズを解放するのだ!」

 

 …………えっ?

 ごめん。もう一回言って。なにを解放するって?

 

ボーズ・キッズだ」

 

 なにそれ。

 

「俺は元々、子供らを集めていたのだがな……」

 

 あっ(察し)

 もういいです。だいたいわかりました。

 

 サウザーは、大人は反逆するだろう、という理由で原作でも子供だけを奴隷として聖帝十字陵造っていた。

 その子供をさらってきた大人は、聖帝軍に入れてやるというダブスタもカマしてたけど。

 奴隷じゃなくて、兵士なら大人でもおkという理屈は、今でもよくわからない。

 

 まあ奴隷というのも、聖帝十字陵がどう見てもピラミッドなんで、当時の知識だとピラミッドは奴隷を働かせて造らせた事になっていたから、その表現になったんだろうけどな。

 さすがに飲まず食わずで子供を重労働させると、普通に死ぬんで、食糧と水の配給はあったと思うんだよ。

 で、お金がケツ拭く紙の価値すら無い世紀末世界で、ご飯もらって働くというのは奴隷労働じゃなくって、普通だと思うんだ。

 それも子供が出来る範囲のお仕事だと、特にね。

 実はアレは、サウザーなりの子供の保護政策で、壮大なツンデレだった可能性が…?

 

 ピラミッド建造は、当時のエジプトの公共事業だった説を、まさかの北斗の拳が先取りしてた説。

 

 ショウジョウバエの心臓逆位の遺伝子を特定した、東京理科大学の教授がその遺伝子にサウザー遺伝子と名付けたように、サウザーはアカデミックな方面に影響を与える宿命が…?

 

 うん。ないな。

 でもサウザー遺伝子はマジで実在する。マジで。

 語源というか、ネーミングの理由もマジでサウザーからだ。

 世の中って、時に奇妙だね。

 

 で、なんだっけ。ボーズ・キッズだっけ。

 聖帝十字陵を造ってた ちびっ子集団が、小坊主の集団になって、念仏唱えながらねり歩くようになったと。

 ふ~ん。

 

「おかげで自分の町だというのに、居心地が悪すぎてオチオチ昼寝もできんのだ! 早急に何とかしろ!」

 

 ふ~ん。

 なんでだろう。ビックリするほどやる気が出ないんだが。

 というか、なんで俺まで。アミバだけでいいやん。

 

 ここで俺のやる気のなさを見て取ったシンが、ボソリと一言口にした。

 

「スペード」ボソッ

 

 アッ、ハイ。わかりました。すぐ行ってきます。

 アミバ、対ハゲ用の秘孔の位置教えて。そうしたらすぐに聖帝領にテレポートで行って来るから。

 ちなみに秘孔の名前なに? 理厚夫(○アップ)? お、おう。まあ、なんでもいいけどよ。

 

 で、シュウ本人はどうなってんの?

 ほう。足技中心だったはずなのに、強力な手技を身に付け、それをメインに使うようになった。

 やたらと筋肉がムッキムキになって、布を頭に巻き、目の下に墨で線を引いて紫外線対策をするようになった。

 内部に衝撃を通す攻撃を使いこなし、南斗でありながら外部破壊にして、内部破壊でもある拳を使う。

 

 ふむ。

 

 それ、二重の極みじゃね?

 外見も、安慈和尚になってね?

 

 いかん。完全にナニかに侵食されている。なににかはわからんけども、このままだと危険だ。なにがどう危険なのかはわからんけど。

 ああ、でも俺も二重の極み打ってみたい。仏教スキル極めて行ったらイケるのか?

 いや、でもそうするとなあ。調理技術スキルを上げたら、料理系キャラがちらほら出てきたんだし、あの世界のキャラが出てこられたら困るんだよなあ。

 特にCCOさんとか困るよなあ。ラスボス追加入ります、とか言われても、正直面倒くさい。

 

 仕方が無い。二重の極みは、あきらめよう。

 シュウもなるはやで、元に戻ってもらおうか。

 そっちは俺ひとりじゃ厳しそうだが、同盟のメンツがいれば大丈夫だろう。

 

 さて。それじゃバイク置いてくんで、皆さんそれで来て下さい。

 俺は一足先に行きますんで。それじゃあお先にヨガテレポート!

 

 

 




○リ○ップ
育毛剤です。効果には個人差があります。


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ニシヘヒガシヘ。

 

 気付けば、なんかまた別ゲーが始まっていた。

 しかも今度はミニゲームじゃなくって、シナリオのあるキャンペーンだ。

 

「おーっと、杉本ここでドリンクを取り出して飲んだ。これは栄養補給か? いやっ、なんと筋肉が盛り上がり、マッチョ化したぞ!? これはどういう事だー!?」

 

 実況のブラボーおじさんこと、須原椎造のアナウンスが響き渡る。

 どういう事だとは、こっちが言いたい。

 そしてマッチョになった杉本は、その筋肉を生かして高速でたこ焼きを形成、ひっくり返し始めた。

 別にマッチョにならなくても出来たと思うし、焼き上がりが早くなるわけでもないんで、ほぼ意味はないと思うんだが。

 まあ、観客へのパフォーマンスだわな。

 

 うん。そろそろ何をやっているのか説明しよう。

 皆さんも、何事かわからなくて混乱してるだろうし。

 

 現在、たこ焼き対決中です。

 

 うん。端的過ぎてわかんないよね。

 わかった人は、訓練されすぎです。日常生活にその意識を持ち込まないよう、ご注意を。

 

 そもそもはさ。前に、こう決意した事があったんだが、覚えてるかな。調理技術(中華)を上げようって思ったやつだけど。

 で、まあ当然ながら、そういう場合は師匠やら先生に聞きに行くよね。俺もそうした。

 すると秋山師匠がこんな事を言い出したんだ。

 

「そうか…… お前もそろそろ、料理は勝負、という段階に挑む時期か」

 

 どんな段階だよ。

 そう思ったが、口に出してはツッコめなかった。だって秋山師匠にヘタにツッコむと、殴られるんだもん。

 そんなもんどうにかできるだろって?

 そりゃ殴られても避けられるし、殴り返したら勝てるけどさ。そんな事して破門されたらどうすんだよ。まだまだこの人からは学ぶ事が多いんだぞ。

 

 それでさあ。勝負するには、相手が必要じゃん?

 師匠を相手にするにはまだ全然技術が足りてないし、アミバを相手にするのはなんかヤだ。

 そんな俺に、師匠が薦めてくれたのが味将軍グループへの挑戦だった。

 

 うん。味将軍グループ。

 

 とうとうそこまで来たか。

 その単語を耳にした俺の、素直な感想がそれだった。

 そっかー。この北斗ワールドも、そこまで浸食を受けちゃったかー。

 と、そんな感慨にふけるくらいには、余裕があったな。

 

 その余裕も、えっ俺がソレと戦うの? と気付いた瞬間に吹っ飛んだけどな。

 

 いや、戦わなくてもいいだろうと反論はした。

 だが、そこにシンまで出てきて、戦わざるを得ない状況にまで追い込まれてしまった。

 

「味将軍グループ。奴らは、食糧の流通をその手に握り、食を支配する事で拳王無き世に、覇を唱えるつもりだ」

 

 マジな顔をしてそう言うシンに、俺はどんなツッコミを入れれば良かったんだろうか。

 

「いや、ないだろ」

 

 とりあえずはそうツッコんでおいたけども。

 だがそんなオーソドックスなツッコミでは、この流れは止められなかった。

 チクショウ、ツッコミ力が足りなかったぜ。

 

 でも考えてみれば、腕力でヒャッハー極まりない世紀末世界を支配するぜ。というラオウをはじめとする拳法家スタイルよりも、物資の流通を支配する事で世界への影響力を確保する、味将軍グループの方がすげえまっとうな気がする。

 

 まあ、使うスキルが拳法系か料理技術かの違いだけ、という気もしないでもないけどな。

 

 

 と、まあ。そんなわけだ。

 そんなわけでテキトーに各地を回って、目に付いた味将軍グループ関係者に料理勝負をしかけて回る。そんな別ゲーが始まってしまったんだな、これが。

 

 最初はなんと、サザンクロスだった。

 まさか地元にまで、味将軍グループの魔の手が伸びていたとは。とはシンのセリフ。確かに地元だけど、地元って言うな。なんか笑えるから。

 

 相手は、弁当屋の及川というヤツだった。

 冷めてもうまい、ご飯やおかずに工夫があるいい弁当だったんだが……

 

 このサザンクロスに、弁当という需要はあまり無かった。

 

 秋山師匠と、師匠がいつの間にか育てていた助手軍団が経営する食堂が、すでに需要を満たしている。

 わざわざ弁当を持ち帰って食べるよりも、暖かいメシを食堂で食べるのを選ぶ客が多数派を占めた。

 そしてここは世紀末世界。町の外へ出かけるのに持って行くのは、弁当ではなくてもっと保存がきく携帯食か、調理前の食材だ。だって移動距離が長いもん。

 他所の町まで、マジで遠いんだよ。バイクが無かったら、俺もあちこちへ行く前に心が折れていた。きっと最初にたどり着いたあの村で、時々種モミを奪いながらも居ついていたんじゃなかろうか。

 

 そんなわけで、何もしないでもツブれかけていた弁当屋に、料理勝負を仕掛けてみた結果。

 弁当 vs 出来立て熱々の料理という、あまり負けようが無い勝負が成立した。

 相手の足元を見て、勝負内容をこうしたとも言う。

 

「お前は弁当屋だよなあ? 弁当屋なら、弁当で勝負するのが当たり前だよなあ?」

 

 俺のこの言葉に、最終的には首を縦に振った及川の顔は、実にくやしそうで。うっかり愉悦を覚えかけてしまったのは、ここだけの話だ。

 

 そして当然のように勝利して、次に出合った味将軍グループの手先は、なんとトラックを持っていた。

 バイクは割りと残っているが、車両は意外と少ない。バギーとかならまだしも、大型車両となれば初見だ。

 しかもデコトラだった。電飾が光まくっていた。

 

 サザンクロスからカサンドラへと移動する途中の、名も無き宿場町。

 そこで出会ったそのトラックに乗っていたのは、出っ歯にピンクの服に分厚いメガネの関西人という、えらい農い目のおっさんだった。

 冒頭の、杉本というのがそれだ。

 そしてそのトラックは、実は移動店舗でもあり、たこ焼きの屋台でもあった。

 

 宿場町で、料理人同士が出会った。ならば勝負でしょう。

 

 そんな謎理論が働いているらしく、気付けば勝負となっていた、というわけだ。

 そしていつの間にか作られた会場で、どこからともなく現れた解説者と観客の前で、こうしてたこ焼きを焼いているわけで。

 

 うん。どういうわけなんだろうね。

 

 正直、俺にももうわかんないんだけども、もう流れに身を任せてどうにかするしかないかなって。

 ただ問題が、ね? 俺さ。タコ、出せないんだ。

 仕方が無い。ブタの角煮でも入れとくか。あと鶏レバーとか、豚ホルモンも入れて肉シリーズでまとめればいいだろ。

 生地に刻んだショウガ入れときゃ、しつこくも感じないだろ。たぶん。

 あとは二度焼きだな。表面をラードでカリッとするまで焼けば、その香ばしさでいくらでも食べられるだろ。

 あとはソースだけでなく、ポン酢も選べるようにしとけば口直しもできる。

 よし、行くぜ勝負だ!

 

 ところで。こんな事してて、俺の当初の目的の調理技術(中華)は上がるんだろうか。

 そして、この旅は次回も続くんだろうか。

 教えて。秋山師匠。

 

 



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風呂敷を広げすぎるとたたむのが大変だって聞いたんで、即座に片付けていくスタイル

変な時間に目が覚めたんで、書いて即更新。



 気付けば、旅の連れが増えていた。

 うん。まあ、この世紀末でタダでメシを振る舞ってたら、付いてくるやつも出るわな。

 

 たこ焼き対決は、俺がドリンクとしてジョッキで生ビールを出したあたりから、観客の大半が勝敗なにそれおいしいね。状態になってしまって、結局勝負は付かなかった。

 肉系の中身のカリカリたこ焼きに、生ビールは相性が良すぎたらしい。

 それが勝因だか敗因だかはわからんが。それでも決して悪い事じゃあなかった。

 まるでかつての、核戦争前の祭りか縁日のように。笑顔で騒ぎ、飲み食いする人々に、たこ焼き屋杉本が勝手に改心してしまったからだ。

 

「せやったな。メシを食わすっちゅうんは、こういうもんやったな……」

 

 別にこの状態に持って行くつもりは、カケラもなかったんだが。

 

 観客も杉本も、なんかイイカンジに出来上がってしまったんで、何も言わないでおいた。

 知らない方がいい事も、この世にはたくさんあるのだ。

 

 そういうわけで、祭りの喧騒を背に、このモヒカンはクールに去るぜ!

 そんな感じでバイクにまたがった所で、誰かがサイドカーに乗り込んできた。

 

 ターバンのガキだった。

 

 アイエエエ! ターバンノガキ! ターバンノガキナンデ!

 

 思わず飛びのいて、下半身をガードした俺は悪くない。

 だって無想転生ですら貫いてダメージ与えてきそうなんだもん、コイツ。

 

 その身を一枚の羽根と化す、南斗鳳凰拳には何人たりとも致命の拳をつきいれることはできぬのだー! とか言ってたサウザーにアッサリとナイフを突き立てていたし。

 

 北斗神拳にも空極流舞という、空気の流れを読み取って攻撃をかわす回避技やら、相手の持つ刀の上に立つほどの軽功やらがある。

 それらあっての無想転生だけども、南斗も、というか南斗鳳凰拳も似たような経緯で、無想転生に近い状態へとたどり着いていたのではなかろうか。

 

 ターバンのガキの一刺しの前には無力だったわけだが。

 

 こいつホントに何者なの。

 なんかサイドカーに居座って、謎のプレッシャーをこっちへかけてきてるんですけど。

 えっ。なに。来るの? 付いて来ちゃうの?

 

 彼はニヤリと笑って、うなづいた。

 

 よし。あきらめよう。

 なあに。どうしようもない現実を受け入れるのなんざあ、毎朝の事さ!

 寝ても醒めても、このゲームモドキの世紀末世界というわけわかんねえ状況で、毎朝目が覚めるたびに、あきらめて受け入れてるもんな!

 もう慣れたもんだぜ! HAHAHA!

 

 …………ハァ。

 

 さて、行くか。もはや懐かしき、カサンドラへ。

 今思えば、あそこの生活は本当に平穏だったなあ。トキ先生と秋山師匠の下で、修業して料理して食べて寝て飲んで話して。

 うん、スッゲー楽しかったな。

 

 よし。あそこならターバンのガキが紛れ込んでても、イケそうな気がしてきたぞ。気のせいな気もするが、気にしないでいこう。そこはスルーしていこう。

 今は、トキ先生も秋山師匠も居ないけども、そこも気にしないでいこう。

 

 うん?

 あれ? そうすると、今ってあそこの責任者、誰よ。

 アミバもいないだろ? えっ。まさかのダルシム? いや、確かに食糧危機に対応するために、住人総ヨガ使い化計画をトキ先生が実行してた町だけども。

 ヤバイ、なんか見たいような見たくないような、微妙な気持ちになってきた。

 

 まあ、行くんだけどね。ターバンのガキさんが、サイドカーから降りてくれないみたいだしね。

 どうでもいいけども、普通こういう旅の連れってさ。ロリが付いてくるんじゃねえの? こう、テコ入れ的なアレで。

 まあ、いいんだけどもさ。せめて、会話できる相手が良かったなって、思うんだ。この子、しゃべらないのよね。

 

 そして俺も何を話題にしたらいいのかわからないまま、クッキーを渡してその場をごまかし、結局は無言のまま辿りついたカサンドラ。

 そこで、俺が見たものは。

 

 両側に崖のそそり立つ広い谷に、高層ビルの立ち並び、その中心に塔が建っていたはずのカサンドラ。

 その塔の代わりに、白い漆喰で塗り固められた壁と、瓦屋根。そして金のシャチの飾りのある天守閣。

 見事な日本式のお城が建っている、よくわからない状況だった。

 

 いや、待てよ。あの瓦の中央の、頂点の所。 ∧ こうなってるのの、一番上のトコな。

 普通は、鬼瓦とか置いてあるじゃん。そこにさあ。

 なんか見覚えのある鉄仮面が置いてあるんですけど。

 なんかもう、明らかにアイツの仕業なんですけど。

 どうしよう。やっぱりシバきに行った方がいいかなあ?

 

 チラッと横にいるターバンさんに目線をやると、その目はシンプルにこう言っていた。

 

 殺れ。

 

 アッハイ。

 

 でもまずは情報収集だよね。というか、町へ入らないと始まらないよね。

 という事で、ライガとフウガの兄弟が門番やってるはずの入り口へとバイクを進めた。

 あの2人も家庭板案件をかかえていたが、あれは解決したんだろうか。

 していなかったとしても、どうにもしてやれんが。

 

 町の入り口に、なんか居た。

 お神輿だった。

 フンドシ一丁で、筋肉モリモリマッチョメンたちが担いでた。

 ジャギが乗ってた。

 日本風の黒い鎧を着込んでたけど、鉄仮面はそのままだったんで、全く似合っていなかった。

 

 すいません。もうお腹いっぱいなんで、帰っていいッスか?

 

 それが俺の素直な気持ちだったが、どうにもそういうわけにはいかないらしい。

 グッタリしている俺とは逆に、ジャギが輝くような笑顔で、やる気満々な様子でこう宣言したからだ。

 

「よくここまで来たな! 味将軍ジャギ様が、お前の相手をしてやろう!」

 

 お前がラスボスかよ。

 

 それでいいのかこのシナリオ。

 正直カサンドラに来たのって、癒しを求めてなんだが。

 本来のシナリオだと、あちこちアテもなくさまよって、たまたまかち合った味将軍グループの手先を倒して情報集めて、それでここに味将軍がいるってわかってからやって来るってパターンなんだろうが……

 

 たまたま来ちゃっても、ラスボス出てきちゃうのかよ。

 

 ロックかけとけよ。フラグ建つまでしまっとけよ。ボスだろ。

 ラーミアいないのに、バラモス城に行けちゃダメだろ。

 

 ああ、もう。なんか疲れた。

 料理するのもダルいんで、ターバンのガキさん、ヤってもらっちゃダメですか?

 

 えっ。いいの? マジで?

 

 では先生。お願いします。必要ないとは思いますが、このモヒカンスラッガーもどうぞ。

 

 

「うぎゃぁぁぁー!」

 

 おお、相変わらず正確に足の急所を刺すなあ。さすが。

 よし。悪は滅びた。

 これにて、一件落着。

 めでたしめでたし。

 

 え? 本当にめでたしでいいのかって?

 いや、だって所詮ジャギだし。出オチで仕事はしただろうから、もういいかなって。

 

 じゃあ久々のカサンドラだ。ゆっくりして行こうかね。

 ターバンのガキさん、お疲れっしたー!

 ……お疲れっしたー!

 

 えっ。なんでまだ付いてくるの?

 

 えっ。

 

 



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でもたたみきれずに続いたりもする。にんげんだもの。

 

 気付けば、宴会だった。うん。いつものパターンなんだわ。すまねえ。

 今回は飲みなれてない面々が多いと思ったんで、飲みやすいヤツをと気を使ったんだ。

 その結果、死屍累々というか、うん。加減とかペースとかわかんない奴らに、飲みやすいヤツはダメだな、うん。

 

 ちなみに用意したのは一ノ蔵、鈴音(すずね)と花めく鈴音(すずね)。発泡系の日本酒だが、これ日本酒に炭酸入れただけだろ、というような、よくある不自然さを感じさせない。

 むしろ甘く感じるこの酒を、炭酸が引き締めている気がする。発泡系だと澪とかも悪くは無いが、こちらの方がいいぞ。

 

 でも甘いのはなあ。という酒飲みの舌を持ってしまった奴らには、とりあえず大五郎を出しておいた。

 評判の悪い新聞と同じ名前なんでたまに誤解している人がいるけど、実は無関係なアサヒの出している、大容量焼酎の元祖だな。

 焼酎には素材の風味が生きてる乙類と、何度も蒸留して作って水で割った甲類があって、これも甲類だな。

 甲類は雑味がしない、クリアな味わいとかメーカーは言ってるんだが……

 

 それって ただのアルコール だよな?

 

 酔えるのは確かだけども、酒と呼んでいいもんか、個人的には疑問だ。

 ジュースとかで割ると、また話は別なんだけどさ。でも俺、ジュース出せないし。

 茶も出せねえんだよなあ。飲み物関係は、調理技術と関係が無いっちゃ無いせいか、あんまり充実してないな。

 

 [P:12→22 味将軍グループを倒しました! おめでとうございます]

 

 おっ。ようやくポイント入ったか。タイミング遅かったな。

 今になって入ったという事は―――ジャギめ。やぁ~っと、あのヤロウ俺の料理を口にしやがったか。

 

「認めねえ! 認められねえ! ここで負けちまったら、全部、全部オジャンじゃねえか! ラオウの兄者がいなくなった後のこの国を、俺が手にするためにやってきた全部が!」

 

 てな具合にダダこねて、ず~~っと判定に文句言ってたからなあ。

 アイツもラオウとトキだけは一応尊敬してたっぽいし、北斗神拳を継げなかったんで、そっちだけでも継ぎたかったのかもなあ。

 

 ちなみにあいつの作った料理は、トンコツラーメンだった。

 意外なまでにシッカリ作ってあって、正直ビビった。特にわざわざ炭火焼きにしたチャーシューの香ばしさは、それだけでメシが食える絶品。

 炭もそうだが、骨や肉を取る豚。じっくりと何時間も煮込むための燃料。麺を作るカン水に小麦に鶏卵。

 この世紀末で、俺のスキルのような反則技を使わずにかき集めてこられたのは、本当にビビった。

 

 最初は、会場が突然目の前で、出来上がったんだよな。

 ターバンのガキに倒されたはずのジャギが立ち上がり、料理で倒されない限り、味将軍は死なねぇ! とブチ上げるや、モヒカンがわらわら出てきてさあ。

 手に手に資材を持ち寄って、あれよあれよと言う間にそれらが組み上がって行ってさあ。

 ライブステージみたいな、対決の場が出来上がっちゃったんだよな。

 さらにそっから、バイクやバギーやトラックやらに乗ったモヒカンたちが駆けつけてきてさあ。

 色々と持ち寄りながら、口々に言うわけよ。

 

「メン持って来ました! ちくしW2号の(小麦)粉使ったやつです!」「トンコツスープ、トンソクのやつお待ち!」「スネとゲンコツのトンコツスープも持ってきたぜ!」「カツブシとコンブお待たせ!」「ガラスープただ今!」

 

 まあ、全部モヒカン語なんで皆「ヒャッハー!」って言ってたけどな。

 ここまででもビックリなのにさあ。気が付いたら、ジャギが白い調理着に着替えてたのよ。

 なんか鉄仮面まで、新品みたいにピッカピカでさあ。

 そんでもって、届いた素材から手際良く出汁を取り始めてな。取った後は、届いた複数のトンコツスープを味見して、ブレンドし始めたのよ。

 

 ぽっかーーん。としてたね。

 

 圧倒されてたというか、目の前の出来事が脳で処理出来なかったというか。

 正直そのままだったら、俺は不戦敗になってたんじゃねえかなあ。

 

「何をやってるんだ! 戦え!」

 

 あの時、声をかけてくれたダルシムさんがいなかったら、そうなっていただろうよ。

 まあ、その後の「カレーだ! カレーを作るんだ!」っていうアドバイスは半ば無視したけども。

 

 だってお題が『メン料理』だったんだもんよ。

 まあ、少しは採用したけどな。

 

 うん。お察しの通り、俺が作ったのはうどん。のようなものだ。

 秋山師匠直伝、刀削麺。

 さすがに師匠のように、ぐるりと回りに沸騰した鍋を並べて、自分が回転しながら練った小麦粉を削り飛ばして入れていくようなマネは出来ないが、普通に削る分には大丈夫だ。

 さっき、調理技術(中華)を3にしますかって表示が出たんで、上げといたし。

 さて付けダレの用意もしないと。黒酢にゴマダレ、ポン酢にカツオとコンブに、カレー。醤油に生醤油。焼きアゴにサバ節。

 トッピングにスダチに橙、白ゴマ、鰹節、ネギ、白髪ネギ、ゴマ油、ネギ油、オリーブオイル。マヨネーズ。

 

 カカーカカカ! これだけ用意すれば、どこかに琴線がヒットする! この世紀末に、もはや遠くなった記憶の中にしかない、懐かしい味。それに抗える者のみが、ジャギに票を入れるがいいわー!

 そんなヤツが居れば、だがなぁ。カーカッカッカ!

 

 今思えばだけど、あの時の俺には秋山師匠降りてたね。ヘンな笑い方してたからね。

 料理は勝負ってああいう事なんだろうかねえ。勝つために食べる人の心に響くようにするわけだから、料理は心というのとも矛盾しないと思うんだがなあ。

 料理は心(を攻めるもの)ということで、いいんだろうか。

 孫子も城を攻めるな、心を攻めろって言ってたしなあ。

 

 実際、何がヒットしたのかは知らんけど、ジャギもどれかの味が思い出を直撃して、負けを認めたみたいだし。

 

 ふうむ。ジャギか。

 トキがアミバを弟子にして、かなり魔改造したんだよな。

 

 じゃあ俺がジャギを魔改造して、魔法戦士仕様にしちゃってもいいよな?

 

 ただの北斗使えるゴロツキのままだったなら、いっそトドメを刺しても良かったんだけど、今回オカしなまでに組織力とか見せ付けられちゃったからね。

 モヒカンの群れに、まさかあそこまでの仕事が出来ようとは思ってもいなかったぞ。

 ていうか見習え、ウチのモヒカンども。ムダに間柴になってんじゃねーぞ。

 

 さて。なんて言って、勧誘しようかね。

 北斗神拳伝承者に…… な ら な い か。とかじゃダメだろうか?

 

 

 



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北斗神拳を手動でアップデートします。

ちょっとケンシロウにアレな描写がありますが、ヘイトではありません。
イチゴ味でサウザーが同じ疑惑を持たれていますが、ヘイトじゃないし。
だからセーフ。圧倒的セーフッ……!


パトラッシュS氏の ザ!鉄腕/fate! YARIOは世界を救えるか? を応援してみる。

 メンバー問題で4人になった彼らをモデルにした面々を、様々なランサーたちの生身の人生に生まれ変わらせた上で、時空を越えて集結させる。
 そしてやる事は霊草やらでラーメン作ったり、ブリテン開墾したり、流しソーメンしたり。
 5人のままの彼らがいる世界があったって、いいじゃないかと思うので続いて欲しいが、さすがに更新の手が止まっておられるのが悲しいので、ここでエールを。


 

 気付けば、ターバンのガキがいなかった。

 少し探すと、酔いつぶれているのを発見してしまった。こいつも飲んでいたらしい。

 鈴音は極甘口で、初心者でも飲みやすいからなあ。

 

 さて。今、ここでトドメを刺すべきか。

 

 お前はどう思うよ、ジャギ。

 

「えっ、俺? いやまあ、殺れるもんなら、殺っていいんじゃねえか?」

 

 俺もそう思うんだけどなあ。

 見ての通りに子供だしよ。ガキ相手に、そこまでするのってどうよ。

 それにこいつって、死ぬのかな? いつもどっからともなく現れるし、殺しても第2第3のターバンのガキが―――

 

「やめろ。こええよ。だがよう、そう思うんなら放っときゃいいんじゃねえか?」

 

 う~む。だがチャンスはチャンスなんだよなあ。秘雷孔でも仕掛けとくか?

 自白の秘孔とかに仕掛けといて、うかつに突くとパーン! する、秘孔を自爆スイッチに変えちゃうやつ。

 

 こんなのを開発して、しかも代々伝えちゃうあたり、北斗の闇を感じるぜ。

 

「もういいだろ。放っとこうぜ」

 

 そうだな。じゃあ向こう行くか。さっそく、北斗神拳のレクチャーしてやるから。

 まずは歩法からな。七星点心を教えてやるぜ。

 

 座学でな。

 

「なんでだよ!」

 

 よーし、いいぞー。そのツッコミいいぞー。お前を弟子に取った甲斐があるぜえ。

 

「ツッコミ目当てかよ!」

 

 半分はな。

 もういい加減しんどいんだよ。なに、この世界。

 あちこちに野良モヒカンがわいて来ちゃあヒャッハーしてるし、住人は家庭板案件抱えてるし。

 こないだなんか、洗濯物の取り込みひとつから、闇が見えちゃったんだぞ?

 

 雨降ってきたけど、洗濯物取り込まないの? と夫が聞いてきた。バカか! 取り込め!

 と言ってた奥さんがいてさあ。

 そりゃそうだって思ってたんだわ。でもさあ、旦那さんの方にもたまたま行き会って聞いてみたらさあ。

 取り込んだら取り込んだで、なにを勝手にやってるのって言われるんだってさ。

 取り込んだ後に、たたんでおかなくてももちろんアウト。たたんでも、たたみ方が気に入らないとかでやっぱりアウト。雨や洗濯物をスルーしたって、当然アウト。

 

 要は、わたしが何をしようと気に入らないんです。

 

 さみしそうにそう言った旦那さんの顔には、諦めが浮かんでいた。

 アレだな。もう心が折れてて、気力が無いんだな。自分から何かして、文句言われるのがイヤなんだ。

 だから洗濯物すらも、まずは聞かないとどうにもできなかったんだ。

 当たり前の事すらそれってさあ。もうダメなんじゃねえかなあ。奥さんは旦那の存在自体がストレスで、何をしようが気に入らない。旦那はそれを改善しようとする気力がもはや無い。

 それでも家族のためにと、仕事に出かける旦那さんの背中は、哀愁が漂っていた。

 

「イヤ、なんの話だよ! 北斗かんけーねーだろ!」

 

 それそれぇ! 欲しかったのはそれ! いいぞー。ツッコミいいぞー。

 そら大変だわなあ。とか一旦ノった後にツッコむ、ノリツッコミなら、なお良かったな!

 

「だから北斗かんけーねー!! 北斗神拳を教えろよ! なあ、アンタそっちの師匠のつもりなんだろう? なあ?」

 

 すまんね。お前さんのキレが思ったよりも良かったもんで、つい。

 うん。じゃあ、北斗神拳について教えようか。

 まずは、アレだ。

 

 連打系って、全部百裂拳で良くね?

 

「なんで疑問系なんだよ」

 

 いや、初めての弟子だし、一緒に考えようかなって。

 まあ、聞いてくれ。北斗の連打系だけどさあ。百裂拳と区別がつかない技が多くない?

 

「ちょ、おま。それは……」

 

 特に当門穴破指挿(とうもんけつはしそう)と北斗輯連打(しゅうれんだ)と北斗千手壊拳(せんじゅかいけん)と北斗千獄拉気拳(せんごくらっきけん)の区別なんざ、原作者でもきっと難しいぞ。

 北斗残悔積歩拳(ざんかいせきほけん)も、原作でアミバに使って、後ろ向きに歩かせてたけどさあ。あれ、秘孔 膝限(しつげん) を突いてそうなったってだけで、突き方はどう見ても百裂拳だったよね?

 それとトキオリジナルらしい天翔百裂拳も、正直百裂拳でいいと思うんだ。お前さんのオリジナルの北斗千手殺とは大違いで、いい技だと思うけど。

 

「放っとけや! アレ作った時は、若かったんだよ! 当時家出中だったしよ!」

 

 家出とかしてたのかよ。若い頃も不良かお前は。

 今はもう、不良ってレベルじゃないけどよ。

 

 あと七点掌。貫き手での連打だけど、こないだアミバが貫き手で天翔百裂拳やってたし、あれももう百裂拳でいいだろ。

 ただでさえ秘孔が708個とか、覚えるだけでしんどい数あるんだしよ。技ぐらい減らしてもいいじゃん。

 ケンシロウは逆に増やしてるけどもさ。技を増やすのが趣味らしいぞ? 秘孔が突けないほどのデブ用の奥義とか、ニッチなのもあるぞ。

 

「アイツそんな事してんのかよ。そんな熱心だったか、アイツ?」

 

 ああ、お前さんの知ってるケンシロウは、ユリアと付き合い始めてイチャコラするのに夢中でロクに修行してなかったケンシロウか、まだ未熟で、しかも義兄でもあるお前さんに気を使って、本気出してないケンシロウだもんな。

 シンにボコられた上に、ユリアを目の前で連れ去られてからのケンシロウは強くなったぞ。

 実際、お前さんにもラオウにも勝っただろ?

 

「ケッ。あんなもんマグレよ。マグレ。俺様はともかく、ラオウの兄者にケンシロウが勝てるもんか」

 

 まあ、色んな要因があってのケンシロウの勝利だったのは否定しねえよ。

 だがマグレだろうがなんだろうが、勝ったのは事実で、晴れて伝承者になったのも事実。なーんーだーがー。

 

 どう見てもアイツさあ。次の伝承者…… 育てる気、無くね?

 

「……あ~~~」

 

 ジャギが深く納得していた。

 やはり誰の目から見ても、ケンシロウはそんなイメージがあるらしい。

 

 ユリアとの間に子供でも出来たら、わかんないけどさあ。

 ほら、ユリアが病弱になっちゃったからって気を使ってて、ケンシロウって…… その…… 童貞らしいのよ。

 

マジで!?

 

 おお、爆笑しとる爆笑しとる。

 童貞かどうかは定かじゃないけど、ラオウから救出した後、ユリアに手を出してないのは公式らしいのよなあ。

 むしろラオウが手を出した可能性があるっていう、救われない事実。

 そら、バットもリンをケンシロウに譲るわ。幸せになれよと願うわ。

 

 で、まあ、そういうわけで、トキから教わった俺が、北斗神拳を残そうと思ってお前さんを弟子に取ったわけだが…… 聞いてるか? おーい。もしもーし?

 あっ。ダメだ。こらしばらく話にならないわ。

 これでジャギのケンシロウへのコンプレックスが、少しでも無くなったらいいんだけどねえ。

 トキ先生とアミバの手も借りて、爆発しそうなのを金属で固定してる頭を治療できたら、もっとマシになるかな。

 

 銃でもガソリンでも容赦なく使うってのは、拳法家としてはアウトだけども、暗殺者としてはアリだと思うし。時と場合によって、使い分ければいいと思うんだ。

 ジャギのそういう事ができる精神は残しつつ、マシな人格に矯正しないとね。

 北斗神拳奥義 北斗 ショットガン! とかやられたら困るからね。そんな事は許されんよ。まったく、南斗じゃあるまいし。

 

 もういい大人なんで、性格矯正は難しいかも知れんけども。

 確かなんかイイ感じの秘孔があったはずだ。きっと何とかなるだろう。

 ならなかったら? その時はその時だ。

 トキ先生に、丸投げしよう。原作ならともかく、あのトキ先生なら、きっとなんとでもしてくれるさ。

 そうならないように、がんばれよ。ジャギ。

 

 



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風が吹けば桶屋が儲かる、昔の人はよく言ったもんだ。

 気付けば、米の相場が高騰していた

 サザンクロスに居ついてからというもの、なんだかんだで手に入るんで調理技術スキルを上げて入手しようという熱を失ってしまっていたんだが、それが再燃する勢いだ。

 

 原因はジャギだ。

 

 と言っても、別にあいつがヒャッハーして種モミを根こそぎにしたとか、田んぼでヒャッハーして稲を燃やし尽くしたとか、村々をヒャッハーしてヒャッハーになってしまったヒャッハーではない。

 ヒャッハー。

 

 失礼。ヒャッハーヒャッハー言ってたら、ついモヒカン語で言ってしまった。

 大体の事はヒャッハーの一言で済んでしまうんで、便利すぎて困る。

 色々と語ったり、説明するのが面倒になっちまってなあ……

 

 まあ、ジャギのせいってのは、アレだ。経済と流通と需要だ。

 

 カネが価値を失った、この世紀末社会。車や列車もほぼ死んでるんで、流通も瀕死で、取り引きは物々交換のレベルにまで下がっていた。

 サザンクロスとか、聖帝領とかの都市部ですら、かろうじて旧硬貨とわずかな金貨銀貨が流通している程度だ。

 

 そこへ現れたのが、味将軍グループだ。

 

 どっから持ってきたのか、複数のトラックやら車両を使って、食品の流通網を構築しちまったんだな。

 そのガソリンとかも含めて、本当にどっから都合つけてきたんだろう、という疑問はあるが。まあ、たいしたもんだと思うぜ。

 そうして物々交換のままながらも、取り引きが活発化するとだ。価値観の統一ってやつが必要になるわけだ。

 基準というか、物の価格を決めるのに、単位というか表示というか。そういうのが欲しくなるわけよ。

 

 まあ、例えばだ。

 

 缶詰一個100円というならわかりやすいけど、それはサンマなら何匹分なんだ? 小麦粉なら何グラム分? 白菜だったら?

 お客さんたちはみーんな現金を持ってなくて、そういう物で払おうとする人しかいないぞ。

 さあ、どうする。値札には、なんと書けばいい。

 

 時価とでも書けば解決した気にはなれるけども、根本的な解決にはならないぞ。

 

 で、それを解決したのが、お米だ。

 一部では麻雀の点棒が貨幣になりかけたが、さすがに量が需要に全く足らずにポシャッたが、まあそれは置いておいてだ。

 かつて明治以前の、江戸時代よりも前の時代。我が国ではカネの価値は「それで米が買える」という意味で保証されていた、金本位制ならぬ、米本位制が確立していた。

 当然、米で買い物が出来たりもしたらしい。国力を量るのも、その土地でどれだけ米が取れるのかという石高で決まっていた。

 

 というわけで。おカネの代わりにおコメ、リターンズというわけだ。

 

 で、そうなると。お米の需要が、食べる以外で増えるじゃん?

 需要が上がるじゃん?

 高騰、待ったなしじゃん?

 

 誰が作ったのはわからんが、速攻で出来てた米相場市場、速攻で崩壊待ったなし。

 

 なお、風のヒューイが「リハクのヤロウはどこへ逃げたぁ!」と市場の周りを探し回っていたらしいが、何があったかはわからない。

 少なくとも、俺は知らんな。

 知っているのは、こういう大きな経済的な動きに対処するのも、為政者のお仕事だという事だ。

 

「と、いうわけでシン。お仕事です」

「いや、どうしろというのだ」

 

 困惑するKING軍首領、シン。

 一応核戦争前の社会を知っているとは言え、そこで政治やってたわけじゃないから、どうして良いのかわからないらしい。

 というわけで、レクチャーした。

 

 この場合、流通する通貨の量が少ないせいで、デフレみたいな現象を起こしてるわけですわ。

 なので、通貨を増やせば解決します。ただモノが米なんで、すぐには増やせません。そこで別なもの用意する必要があるわけですね。

 

「貨幣の復活か」

 

 さすがKING。頭が悪いどころか、実に出来がいい。

 こちらの言いたい事を理解して、アッサリと答えを先読みしてきた。

 なので、この先の事もあえて短く聞いてみる。

 

「紙にしますか? それともコインで?」

 

 我が上司は手をアゴにやってしばし考え、答えを出した。

 

「紙幣では偽造できぬレベルでの製造が難しかろう。流通させるための信用も、な。その裏付けを兼ねて、金貨と銀貨だ」

 

 それはそれで、作るのがめんどうなんだけどね。

 サウザーも自分の顔と、たぶんお師匠さんの顔のヤツを造ってるけど、さほど数はないみたいだし。

 というか、造るだけ造ったら、それで満足しちゃったんじゃなかろうか。もう少しがんばれよ。

 

 でも、まあ世のため人のため。やらねばならない作業ではある。

 つまりはトキ先生に頼めば、手を貸してくれそうな案件だという事。きっとアミバも付いてくる。

 まあ、丸投げとまではいかないだろうけども、かなり楽にはなるだろう。

 程ほどに、がんばってみようか。

 

 そしてジャギの流通網まで使って、金銀を俺の出した食糧と交換にしてかき集め。

 それを金貨と銀貨に変えて、当座をしのぎつつも鉱山を探す。

 普通に考えたら、この関東に金山銀山なんぞ残っていない。鉱山というか、都市鉱山。ガレキや地下に埋もれた、銀行や貸し金庫だ。

 

 ふと思ったが。北斗ワールドだけに、過酷な奴隷労働のシーンを出すための鉱山とか、どっかにありそうで怖いな。

 

 核戦争前の地図を元に、銀行を中心に発掘作業を行う。

 半裸のモヒカンたちの働く作業現場は、合っているような、何かが間違っているような。そんな微妙な感覚を覚えた。

 なお現場監督は、ハート様にお願いした。

 血の一滴でも流すとヒドい事になるんで、現場には安全第一が緊張感を持って保たれている。それでいてさっさと仕事を終わらせて解放されたいから、作業効率もいい。素晴らしいね。

 

 これが、人事の妙だ。

 

 ドヤ顔でそう自慢したんだが、誰に言っても「お、おぅ」としか返ってこなかったのは何故だろう。解せぬ。

 

 そうして生産したコインを、様子を見ながら世間へと流通させていき、ようやく米価も落ち着いてきた今日この頃。

 前回、ジャギを弟子にしたらトロフィー(金)で6ポイント入った事だし、と久々に調理技術を上げたところ。

 

 お米がね。出せるようになったんだ。

 

 今更かよ! と知り合い全員どころか、見知らぬサザンクロスの住人たちにまでツッコまれたんだが。

 俺は悪くないと思うんだ。

 間が悪かったとは思うけどもさ。

 

 あと土鍋まで含めた各種ナベやら、泡だて器に菜ばし、包丁、ナベつかみにピーラーその他の調理器具全般も出せるようになったけども。

 正直、これってもっと前のレベルで出せるようになるべきラインナップだと思うんだ。

 うん。やっぱり俺は悪くない。

 きっと、ウィンドウさんが悪い。

 

 

 



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明日のためにその1って踏み出す方向がわかんない。

 

 気付けば、湿度が上がっていた。こう、むわっとした感じで。

 原因というか、犯人は羅将ハン。カイオウ時代の修羅の国トップスリーのひとりで、3位の人。

 

 ジャギの魔改造に、北斗琉拳でも混ぜてみるか。

 

 ちょっと味噌でも加えてみようか。そんな感じで、料理にアレンジを入れるような、軽い気持ちだった。

 そうして呼んでみた彼は、ひたすらに濃かった。

 

 なお、料理のアレンジはちょっとしたものに抑えておけ。隠し味だ。隠しておけるくらいの、ほんのちょっぴりのアレンジに抑えるんだ。いいな?

 さもないと、南斗家庭板案拳の奥義がまたひとつ生まれてしまうだろう。メシマズ戦隊アレンジャーの新入隊員は、増やしてはならない。イイネ?

 

 嫁の飯がま○いスレの住人も、増やしてはいけないのだ。あのスレ自体は面白いんだがな。

 だいぶん前にサブタイを付けるのはやめたらしいが、秀逸なものが多くて好きだった。

 【隠しきれない】【隠し味】とか【味覚の秋】【死角の味】とか【これ美味しい!】【今度作るね!】、【嫁の料理は】【当たりつき】、【カレーには】【生魚】などなど。恐るべき内容が手に取れるようだった。

 なお、記念すべき100スレ目のタイトルは【それでも俺は】嫁のメシがまず○100皿目【愛してる】だったのには少し感動した。そしてそれでもまずいのはまずいんだな、とちょっと泣いた。

 

 それを知っていたのに、アレンジを入れてしまった天罰なんだろうか。

 修羅の国の統治システムを構築するのに(部下が)四苦八苦していたラオウに頼んで―――あん? ラオウ本人は四苦八苦してないのか? ラオウは君臨するだけだぞ? 反対意見は圧殺してくれるけど。なお結果が気に入らないと壊すけど。

 まあ、そんなラオウに頼んで派遣してもらった講師は、なんというか、アレだ。ひっじょ~~に、アレだった。

 第一声からして、アレだったもん。

 

「キサマ、童貞ではないなっ!」

 

 コレだった。

 

 なお、指さした相手はバットだった。

 ケンシロウがすごい顔になった。原作でも、あんな「う……裏切られた!」って顔はしてなかったぞ。

 シンにユリアをさらわれた時でさえも、あんなショックを受けた顔じゃなかった。

 

 でもあいつ、チャンスがあっても「ユリアへの愛を貫く」とか言って手を出さないからなあ。

 ひょっとしたら、童貞をこじらせかけているのかもしれん。

 リン、早く何とか……しちゃったらケンシロウが事案っちゃうのか……

 クッ、詰んでやがる!

 

 そんな感じに俺が現実逃避している間にも、話は進んでいたらしい。

 本人曰く、童貞でないがゆえに円滑なコミュニケーションに長けているハンは、ケンシロウにトドメをさしていた。

 

「お前の兄は、この間結婚したぞ。当然、すでに童貞ではないっ!」

 

 これが致命傷だった。

 このお話では、ケンシロウはまだ修羅の国へと行っていない。

 ゆえに、存在自体を知らなかった実の兄の存在を知り、同時にその兄が結婚したという事を知らされるという、言わば家庭板案拳の二重(ふたえ)の極み。

 これが北斗琉拳流の家庭板案拳か。やるじゃねえか。

 

 というか、バットから始まりトドメに至るまでが、やけにスムーズなんだが。

 ひょっとして狙ったか、こいつ。

 まさかの、ラオウからの刺客なのか?

 

「ねえよ。どういう方向の刺客だよ」

 

 そうは言うがな、ジャギ。この世界、ヘンな方向にこそ奥が深いんだぞ? 何が起こるか、わかったもんじゃない。

 見ろ。あそこのバットを。リンに対して、なぜかわいてきた罪悪感を解消しようと、必死で謝ってるだろ? あの姿を1時間前に想像できたか?

 

「それじゃあ、本人に聞いてみようぜ。オイ、あんた、ハンっつったか。あんた何しに来たんだよ?」

「我が肌が粟立ち、その予感がここへと導いたのだ」

 

 わかる? わかんない

 

 あちこちでそんなアイコンタクトが交わされる。

 そして次に誰がハンに話しかけるかの、妙な緊張感が部屋を満たす。

 だが、こういう時にこそ使うべきもんだよな、弟子ってやつは。

 というわけだ。行け、ジャギ。君に決めた。

 

 じゃあ、あとは若いもんに任せて。皆さん、仕事に戻りますか。

 ええ、今日も忙しいですからね。さあ、お昼ご飯の仕込みに入らなきゃ。

 あ~。忙しい、忙しい。忙しくって、抗議の声が聞こえない~。

 

 

 そうして、放置した結果のジャギが、こちらになります。

 

 

「ああ…… もうこのまま朽ち果てて、プランクトンの栄養になりたい」

 

 なにがあった。

 

 すっかり気力がなくなっている。なんでや。そこは魔法戦士になってて、俺に立ち向かってくる所だろ。

 それと陸にプランクトンはいねえよ。

 

「童貞でないとは言え、愛ある行為にあまり恵まれなかったようだな」

 

 どういう意味だ、ハン。俺の弟子に何をした。いやわりとマジで。

 

「北斗琉拳の拳士とは言え、俺は唯一魔界へと落ちてはおらぬ」

 

 そうだな。理由は聞きたくないけど。

 そういう俺を無視して「童貞ではないからだっ!」と、どこからともなくグラスに入ったワインを取り出し、ポーズを決めつつ語りやがった。

 お前、その理屈だとお前の師匠のジュウケイも童貞って結論になるけど、いいのかそれで。

 

「ゆえに魔闘気は使えぬ。普通の闘気は使えるがな」

 

 マジかよ。北斗琉拳の講師として呼んだ意味が、ほぼ消えたんだけど。

 

「だが魔界へと落とす方法は知っている。魔界とは一種の境地! 北斗琉拳の使い手が、怒りや憎しみに染まった時に至るもの」

 

 哀しみに染まった時に、北斗神拳の使い手が無想転生の境地に至るみたいなもんか。

 喜怒哀楽とあるが、哀しみと怒りは強い感情だからなあ。それをトリガーに闘気がなんやかんやで変化して、なんやかんやするというわけか。

 

 あん?なんやかんやってなに? だと? なんやかんやは、なんやかんやだ。

 そもそも無想転生がどういう奥義なのか、俺ら、自分らでもわかってないからな?

 色んな意味で、ふわっとしたもんで出来てるからな? まあ、それは置いとけ。今はそこでグッタリしてるジャギだ。

 怒りどころか、なんか燃え尽きてるんだが。

 

「うむ。怒りと憎しみに染めるため、破孔を突き、過去を思い起こさせた」

 

 破孔ってのは、秘孔の北斗琉拳での呼び名だな。

 北斗琉拳の創始者は北斗神拳が嫌いだったんで、同じ技でも呼び名が違ったり、微妙に効果が違ったりする。

 ただ北斗神拳の708個を大幅に越える、1109個まで破孔を見つけているのは正直すごいと思う。でも覚える立場の弟子の事も考えてあげて。

 

「その結果、ヤツは自分が勝負において童貞であった事を思い知ってしまったのだ」

 

 はい?

 え~っと。勝った事がないって意味?

 あ~~。確かに、ここぞという大事な勝負だと負けっぱなしだわ。

 それを一気に、それも強制的に見せられちゃって、憎悪にとらわれるどころか逆に心が折れたと。

 

 ジャギ…… お前、どこまでジャギなんだ。

 

 グレる事はできるけど、墜ちる所まではいけないのか。

 やっぱりトキ先生に預けて、アミバみたいに改心コースしかないんだろうか。

 うーむ。どうしたもんやら。

 

 




○二重の極み
有名どころだが。一応解説。るろうに剣心より。
拳を軽く握って対象に当て、その衝撃で抵抗値がゼロになったところに拳をつぶして二撃目を入れて大ダメージを入れる技
授業中などにこっそり練習したヤツは、わりといるはず。


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脅威の将たち!

なんか五条さん転生来てたので、推してみる。色々技を覚えてるのは、ゲーム化した時のデータからだろう。
五条さんとは何ぞや。という方へもオススメしてみる。かつての人気投票からの殿堂入り事件は楽しかったので、その空気だけでも触れてみてほしい。

ハチミツりんご氏の イナズマイレブン! 脅威の転生者 ゴジョウ!!


 

 気付けば、サザンクロスに学校が出来ていた。マジかよシン。

 なんでも、サウザーの町にあるから対抗して作ったらしい。

 あそこは大人は反抗するからと子供たちを集め、集団行動すら出来ない子供たちにそのあたりを仕込もうとしていたら本格的になってしまって、気付けばああなっていたそうなんだがなあ。

 サウザーもたまに顔を出すらしいな。ただし、生徒の側の立場で。

 

 子供用の小さな机に、足を乗せてえらそうに座っているサウザーの姿は、スマホがあったら間違いなく写メっていた。そして一斉送信していた。

 文明が崩壊しているのを、これほど悔やんだ事はない。

 

 一方ウチの学校だが。

 前回来ちゃって、まだ帰らない羅将ハン。アイツが勝手に保健体育の授業をしようとしていたので、それを阻止するべく、シンが久々のガチバトルをしていた。

 

 負けたけどな。

 

 南斗聖拳の幹部、南斗六星のひとつ殉星のシン。何かのために殉じる、愛の星の男。

 少年少女の正しい教育と倫理観を守るために戦うアイツは、決して弱くはなかった。

 南斗孤鷲(こしゅう)拳の使い手なのに、南斗飛龍拳など、どう考えても別の流派の技まで覚えている努力家でもあるし、素の能力だって決して低くはない。

 ユリアとイチャコラするのに忙しくてロクに修行してない上に、親友だと思っていた相手がいきなり襲い掛かってきたので、戸惑っていて実力が発揮できなかったとはいえ、ケンシロウを一度は倒した男だ。

 

 しかし、相手が悪かった。

 羅将ハン。速さだけなら、おそらくは北斗ワールドで最速の男。

 北斗神拳にも雷暴神脚という高速の歩法が存在するが、ハンは疾火煌陣(しっかこうじん)というどう違うのかはサッパリわからんが、とにかく速い移動術を心得ている。

 魔舞紅躁(まぶこうそう)と称する、速すぎて見えないパンチと合わせて、シンがハンを捉えることができないままに戦いは終了してしまった。

 

「くっ。恐るべし、北斗琉拳……」(チラッ)

 

 どうしよう。シンがまだプルプルしながらも立ち上がって、戦おうとしているんだが。

 それでいて、チラッチラッと、こっちに目線を送って来るんだが。

 うん、わかるよ。ここは俺が出ていく所なんだろうなってのは、すごく良くわかるよ。

 

 でも正直、勝てそうにないんですけど。

 ハタから見てたのにもかかわらず、ハンの動きが見切れなかったんですけど。

 くっ。どうすればいいんだ。

 

 [P:21→13 とりあえず南斗聖拳を4に上げますか?(Y/N)]

 

 いや上げるけどさ。とりあえずって言うな。

 システムどうなってんだよ。もう少しは取り繕おうとする姿勢を見せなさい、ウィンドウさん(なかのひと)

 

 え~っと、南斗聖拳:4の効果はっと。主にジャンプ力が上がるのね。レイとか、明らかに数メートル跳んでるもんな。

 これで南斗人間大砲の世話にならなくとも、跳べる様になったのか。うん。そう考えると、少し感慨深い。ようやく南斗の拳士として、一人前になった気分だ。

 

 その程度だと、まだハンに勝てないけどな。

 

 くそう。なんで唐突に、子供たちの健やかな育成を賭けてバトルしなきゃいけないんだ。

 それも修羅の国編が終わった後に、羅将を相手にとか、わけがわからんぞ。

 まあ、俺がウダウダ言ってても、状況は変わらないんだが。

 仕方がない。戦ってやる。

 

 通りすがりのマミヤを口八丁でだまくらかして巻き込んだ、この脱衣麻雀でなっ!

 

 なおもうひとりのメンツは、少年少女の中に混ざっておられた、天帝ルイさまに決定しました。

 この間、元斗皇拳のファルコが預けに来て、うっかりシンが愛着を持って殉星の対象にしちゃったお子様です。

 

 いいのかって? だってさあ、本人が「わたしもシンのために戦います」って言って聞かないんだもん。

 シンをメンツにしようとしてたんだけど、そのセリフ聞いたら、満足げな顔して気絶しちゃったんだもん。

 この世紀末社会にR18とか年齢制限は残ってないから、それを理由に却下できないんだもん。

 なにより、ハンが乗り気でさあ。

 

「女性というのは、ただそれだけで素晴らしい。私は全ての女性を愛せる!」

 

 とか言っちゃっててなあ。

 

 まあいいや。リボンとワンピと靴下くらいだし、すぐ脱落するだろ。

 そんな諦めとともに、麻雀スキルで台と牌を出して、場決めしてサイコロを振って。

 

 全員が、天帝の前に跪いた。

 

 東場、第1局。親、天帝ルイ。第1打、ツモ。

 天和。親の役満で、全員が一枚ずつ脱いで、点棒を払って次の局へ。

 

 そして再びの天和。

 

「バカなっ! こんな小娘が、我が肌を粟立てるだとっ…!」

「これが天帝の力だというのか?」

「えぇ……」

 

 ハンが驚愕しつつ、鳥肌を立てていた。

 俺も目を見開き、何か不自然な事は無かったかと、必死で記憶を手繰る。

 マミヤも守ろうと思っていた子供の無双っぷりに、困惑気味だ。

 

 しかしイカサマは無かった。もしくは、見つからなかった。

 2回の親の役満で、全員点数はマイナス。トビ確定で終了だ。ぅゎょぅι゛ょっょぃ。

 

 ともあれ、これで終了か。何とか穏便に終わったな。

 そう考えていた俺の目の前で、勝利したはずのルイ様がこう言った。

 

「どうしました? まだ終わっていませんよ?」

 

 えっ。

 俺は困惑した。皆も困惑していた。

 知った事かと、ルイ様は宣言した。

 

「続行です」

 

 麻雀は普通、点数がマイナスになった者が出たら終了だ。だがそれでもマイナスになった者が諦めが悪かったり、ゲームが始まったばかりで物足りなかったりした場合、トビが出ても続行する事はある。

 今回は脱衣麻雀で、振り込むか、あるいはツモられたら一枚脱ぐというルールだけしか決めていなかったので、意味はあると言えばあるのだが……

 

 えっ。

 マジで続行するの? 何目的で? えっ?

 

 

 

 その後。マミヤッパイに浄化された天帝ルイ様がルイに戻るまで。卓上には天和の嵐が吹き荒れたが……

 なにあれ怖い。

 もしかしてジャコウがルイを地下に封印してたのって、ある意味正しかったのではなかろうか。

 

 あとついでにハンも、マミヤッパイに浄化されて修羅の国へと帰っていったが。

 マミヤのオッパイには、何があるんだろうな。

 裸になったとたんに、謎の光が後光のように差してるのは俺も見たけども。

 あれもひょっとしたら、何かのスキルだったりするのかなあ。

 

 [P:13→8 ヨガ:5を習得しますか?(Y/N)]

 

 何故このタイミングでそれを聞いた。

 

 光るのか? 俺のモヒカンでも光るようになるのか?

 それとも、まさかズボン脱いだら光る方向なのか?

 

 もちろん却下するに決まってるだろう。

 まだそこまでネタに走る勇気はないわ。

 まったく、ウィンドウさんにも困ったもんだ。Yっと――― あっ。

 

 

 



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マミヤさまが見てる

このサブタイトル、今でも通じるんだろうか。


 

 気付けば、マミヤが引きこもっていた。まあ無理もないわな。

 

 だいたい俺のせいだけどな。

 

 前回、子供たち(の倫理感を)守るために一緒に(脱衣麻雀で)戦ってくれ。と言質を取って、戦ってもらったんだよな。

 そんで、いざ脱がねばという段階になったらさあ。ルイ様が天帝モードで命令しちゃってさあ。

 ゴゴゴ… とかいう効果音背負って、迫力で押しちゃって、自分の手で脱がさせたんだよなあ。

 

 見物人も大勢居たのになあ。

 

 うん。前回は言ってなかったけど、いたんだわ。所詮モブだけどな。

 モブだけに、特に影響は無いだろうと高をくくってたんだわ。描写しなかったのも、それでだよ。

 せいぜいマミヤの羞恥心をあおって、おいしくしてくれるだけの存在だと、そう思ってたんだが。

 

 モブたち。まさかの、教団設立。

 

 マミヤッパイの神々しさに浄化されて、その勢いのままに宗教団体作り上げちゃったんだよね。

 もちろん、御神体はマミヤの上半身像。デザインはシン。作製はマミヤの村で北斗と南斗の拳士の像を彫ってた人。

 

 なお、その像。当たり前のように、服は着ていない。

 

 そしてサザンクロスの片隅にあった、朽ちかけていた教会。そこを再建して、礼拝堂にあったマリア像の代わりに設置されて崇められている。

 

 ……うん。これは引きこもるわ。正直、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 さすがに、これは素直に謝れるわ。キッカケは俺だったけど、100%は俺のせいじゃないと思うけど、それを言い訳に出来ないくらいに、申し訳ないわ。

 

 でも、会ってすらくれないというね。

 一応、部屋の前には行って、謝罪したんだけどね。ほっといて、としか言ってくれなかったよ。

 残念だけど、まあ当然かなって。

 

 秘孔を突いて回って、マミヤッパイの記憶を持つ奴らから、全員記憶を奪おうかとも思ったんだけどもさあ。

 治安がね。かつて無いほどに、向上してるのよ。これが。

 悪化させてた方の奴らが改心して、むしろ自警団っぽい事をやりだしてるんだから、そら上がるってもんだよね。

 

 俺もシンも、この平和は捨てがたかった。

 崇めているものが、マミヤの上半身裸の像でさえなかったなら、何も問題はなかったんだが。

 なんだよ、あのムダに凝ったリアルなオッパイは。それと石像のクセに、髪や肌の質感を再現するな。ベルニーニか。

 

 そういや取らなかったけど、デク作製のスキルあったな。間違いなくシンは持ってるだろうし、像を彫ってた村人も持ってるだろう。

 これがスキルの力か。あらためてその恐ろしさを実感したぜ。

 

 さて。

 

 教団側は、もうどうしようもないな、これ。

 盛り下がるのを期待して、時間を置くくらいしか対処法が無いわ。もし弾圧とかしようもんなら、逆に盛り上がっちゃいそうだもんな。宗教ってのは、そういうもんだろ。

 でもマミヤの側に、何かするにしてもなあ。俺じゃどうしようもないって言うか。

 

 あっ。そっか。俺じゃなくっていいじゃん。レイでいいじゃん。

 

 ていうか、この事態に何してんだアイツ。

 もっと早く出てきて、俺なりシンなりに抗議するなり、マミヤを慰めるなりしろよ。

 彼氏候補なら、こういう時に動けと。タイミングってのは、大事なんだぞ。

 

 そうして探した結果。教会でマミヤッパイを崇める集団のひとりになってたバカが、ここにいるじゃろ?

 

 見つけるなり、シバいた俺は悪くないと思うんだ。

 

「俺も、あの胸に魅せられた存在のひとり! 崇めずに、どうしろというんだ!!」

 

 イケメンキャラをかなぐり捨てて、そんなタワゴトを抜かしていたが。

 どうしろじゃねーよ。マミヤ本人を優先しろよ。もっとカマえ。

 

 いいか? 『仕事とワタシ、どっちが大事?』 っていう核戦争よりもっと前からの、命題があるだろ?

 あれな? どっちと答えても正解じゃねぇんだよ。

 あれはな? 問題文自体が、引っ掛け問題なんだ。あれは、ああ書いてあるけどもな?

 あれは 『もっとワタシにカマえ。手をかけろ』 って読むんだよ。

 

 いや、マジで。

 

 言葉の意味と意図は別って事も、世の中には多々あるだろ? そういう事なんだよ。

 だからまあ、謝ってからデートなり、プレゼントなり。具体的に何かをしてあげるのが正解になるんじゃねえかな。

 人間相手なんで、正解はその人によるんだろうけどよ。

 

 なんでそんな事を知ってるのかって? 覚えとけ。これも、南斗家庭板案拳だ。

 

 それで、わかったか?

 わかったんなら、早くマミヤの所へ行って来い。ひとまず、この町から連れ出せ。そんで、マミヤが精神的に立ち直るまで、この町には近付けるな。

 ほれ、路銀だ。持ってけ。あと、今バイク出すから乗ってけ。

 あと不用意なセリフは言うなよ? マミヤ像の出来とか語っちゃうなよ? フリじゃないぞ? いらん事は言うなよマジで。

 

 ああ、もういいからはよ行け。ケンシロウとかには、俺から言っとくから。

 …………行ったか。まったく、手のかかる。

 

 さて。あとは、だ。

 

 マミヤ像に祈ってる集団の中に、こっそりユダが混ざってるのを見つけちゃったんだが……

 

 アレ、見なかった事にしようか。それとも、ツッコミを入れたほうがいいんだろうか。

 誰かに聞きたいけど、誰に聞いたらいいのかもわかんねえ。

 助けて、マミヤさま。

 

 

 




●ベルニーニ
ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ。ローマ時代のバロック芸術の代表格。
大理石を削って作り出されたはずの石像が、彼の手にかかれば柔らかく見える。
髪の毛は風が吹けば波打ち、肌は押せば沈み込む。ように見える。
プロセルピナの略奪 という作品で、ハデスさまがプロセルピナの太ももを持っているが、そのヘコみ方とかマジパない。

たまには芸術方面の画像を検索してみるのもいいのではないでしょうか。と後書きでダイマしてみる。


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SATORI

1日2話更新を守りたい。そんなイカれた目標をかかげていた作者さんがいらっしゃったので応援してみる。

鉄仮面さん氏 轟音響かすヒーローになりたくて

ステカセキングの能力を持ってヒロアカ世界へ転生。原作沿い。
個性カセットでなくて超人カセット持ちこみだけども、ヒロアカ世界からパワーは逸脱していない模様。
音つながりか、ジローちゃんヒロイン。文化祭以降、この娘の人気上がったよね。


 気付けば、ダルシムさんが俺に何かを教えようとしていたようだった。

 カサンドラにいたはずが、いつの間にかサザンクロスへと居付いていて。やけに話しかけてきたり、宿題を出してきたりするんだ。

 その宿題の内容がな。片手で拍手したら、どんな音が? とか聞くわけよ。

 

 仏教じゃん。それヨガじゃなくって、仏教じゃん。

 

 とりあえず指パッチンしたら、違う。そうじゃないって言われたけど。なんでや。片手で音が出るやろ。

 ならばと、体の中で闘気を圧縮。手の平から放出する事で音を出してみたら、それでいいって言われた。

 

 いいのか。

 

 

 心を目の前に持ってこい、とムチャ振りをされた時もあったな。

 形が無いものを持ってこいと言われても、困るわけだが。

 ただいつまで、と期限は言われなかったので「それが十年先、二十年先でもかまいませんね?」と聞いたらダメだって言われた。

 ある意味正解ではあるけども、不十分なんだそうな。基準がよくわからん。

 なお、つい先日。荒野を移動中に見つけた、心と書かれたTシャツを身に着けてひたすら正拳突きを繰り返す爺さんを連れて行ったら解決した。

 

 それでいいのか。

 

 

 またある時。ダルシムさんは奇妙な生物の首根っこをつかんで、こう言った。

 

「仏の道にかなう言葉を言えたなら、私はこのネコを燃やさないでおこう」

 

 仏って言っちゃったよ。ヨガのが仏教より成立古いだろ。

 ヨガは姿勢と呼吸で魂と精神と身体の合一をはかったり、心の平穏を得たりって技法なんで、確かに瞑想とか禅と相性良さそうだけどさあ。

 

 それとそのネコ、なんか直立して歩きそうなんですけど。離すのである。とかしゃべってるんですけど。

 でもなんか、燃やしといた方が世のためな気がしないでもない。不思議。

 

 俺は少し迷ったが、とりあえずダルシムさんを殴ってネコを開放した。

 そして、それで正解だったらしい。言葉を言えとは、なんだったのか。仏教の問答は、たいてい何でもアリなトンチでケリがつくから困る。

 

 とりあえず殴っとけば解決する事も多いから困る。

 いや、世紀末世界的には困らないのか。

 ヒャッハースタイルこそが、仏教の究極的な回答だった…?

 

 いや、考えて考えて、考え抜いた結果が「当たり前じゃん」という回答になる哲学っぽい場合もあるし、一概には言えないか。

 なんだかんだあるけど、殴られたら痛いよね。という悟りを得た坊さんもいたしなあ。

 誰だっけ。確か、師匠にガケから突き落とされて、落ちて苦しんでた所を、通りすがりのお婆さんに、ホウキでケツを叩かれたら悟った人。

 

 あれ? それって悟っちゃいけないナニカだったんじゃ……

 

 うん、これ以上は考えちゃダメだな。やめとこう。

 殴られた痛みと、殴った痛み。それがロックだと言ってたミュージシャンもいたっけなあ。

 この流れで思い出すと、SMにしか聞こえないんだが。

 うん。やっぱり考えるのをやめとくか。

 

 

 逆に相談にも乗ったな。

 長男が生まれてすぐに立ち上がって、トコトコ歩いてこう言ったそうだ。

 

「天上天下唯我独尊」

 

 ダルシムさんは、生意気言うなってデコピンしたそうだ。

 長男は泣きだして、出産直後の奥さんは激怒したんだってさ。そらそうだ。

 それ以来、奥さんが塩対応なんだけど、どうしたらいい? という相談だったんだが。

 

 重いうえに一般的じゃないケースなんで、正直どうしていいのか俺もわかんなかった。

 すでに謝ってはいるそうなんで、それ以上どうしていいかわかんないんだよね。

 普通なら赤ん坊の面倒を見るのがすごい大変なんで、折を見て手伝ったりすれば良さそうなんだけども。

 この赤ん坊、普通じゃなさそうなんだよね。

 天上天下唯我独尊の他には、オームとかカーンとか天魔降伏とか言い始めたらしい。

 

 えっ、そっちのシャカ!?

 

 黄金なの? 小さな宇宙感じちゃうの? それでカニ座の人がカースト低くなっちゃうの?

 

 混乱する俺に、ダルシムさんはデコピンして落ち着けと言いました。

 うん。すまんかった。

 

 で、まあ。普通ならほとぼりを冷ますために時間を空けるんだけど、この場合は何もしないでおくのが悪手に思えるんで、毎日謝りに行けとアドバイスしておいた。

 しつこくすると逆効果なんで、一日一回な。相手が忙しそうな時もダメだぞ?

 

 [P:8→8 ヨガ:5がヨガ:☆に変化しました]

 [P:8→16 トロフィー(金):スキルを真に極める を達成しました!]

 

 こういう時、どういう顔をしたらいいのかわからないのでスルーした。

 極めるのにポイントはいらないんだな、とは思ったが、それだけだ。

 スキルの効果も見ない。徹底的にスルーだ。

 

 [おめでとうございます! ゲームクリアの条件をひとつ満たしました!]

 

 だからスルーだって言って――――――

 

 えっ。

 

 ちょっと今の、くわしく。

 ウィンドウさん? ちょっとウィンドウさん? さっきは俺が悪かったから、教えてくれやがりなさい。

 クリアって何? 条件のひとつって、あといくつかあるの?

 はよ! 説明、はよ! ASAP!

 

 

 




ベルニーニに反響があったので、フェルメールも推してみる。ターバンの女の作者と言えば通じるかな。日本でも割と有名で、絵画の中で光を表現できた人。
写真のない時代に、写真家の目を持った画家。ってギャラリーフェイクで言ってました。
昼間の絵と夜の絵と言うか、明暗があざやかにくっきりした画風で、2系統に分かれる印象の作品がそれぞれあって、別々の作者が書いたと思われていた時代も。暗い方の、ろうそくの明かりが私は好きです。

現代の絵だと、東京幻想を推してみる。写真に手を加えて、崩れたビル群の中、なお立つ都庁。しかしそれも半ば緑に覆われているような絵に仕立てたり、水没した街に変えたり。ただ木でアフロになった西郷さんの像はなんだw


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ネット上での人間関係は大体本物じゃないけど、そこで感じた自分の感情だけは本物だ。

気付けば、イヌネコ動画のサイトを巡っていた。
昨日投稿出来なかったのは、あいつらが可愛すぎるからいけない。


 

 気付いたら、また料理の世界に突入していた。秋山師匠が張り切っているんだよな。

 いや、あれは張り切っているというか、苛立ってる? イキってる? まあ、そんな感じだ。

 

「ポッと出のヨガなんぞでクリアされたら、俺の負けだろーが! お前にゃ料理を極めてもらう!」

 

 うん。こんな感じだ。理不尽。

 いや、確かに初期から半ばまでは、調理技術ルートでやってきましたけども。

 その後は、麻雀打ったり、南斗の拳法作ったりと色々あったんですけども。

 それと北斗ワールドなんで、北斗神拳も極めておきたいんですけど。

 というか、クリアって言っちゃってるんですけども。それでいいんですか、秋山師匠。

 あとこの際だから言っちゃいますと、正直秋山って言うと、ガルパンのあの娘が思い浮かんで仕方が無いんでありますけども。どうしましょうか、秋山師匠。

 

「いや、知らねーよ。クリアうんぬんは、システムのヤツが言っちまったらしいからな。もう解禁だとよ!」

 

 テンション高くケケケと笑いながら、隠し包丁を入れてから塩水に15分ほど浸して、常温にした鶏肉を沸騰した鍋へと投入。

 即、火を止めて。余熱で茹で上がるのを待つ間に、ごま油やショウガ、ニンニク、オイスターソース、酢、醤油、砂糖などを混ぜ合わせ始めた。

 

「フランス料理でソースが命とか言うが、中華にもソースはある。片栗粉を使って餡かけにしたり、スープみたいになってる事が多いけどな」

 

 ああ、確かに。餡かけとかもソースっちゃソースですよね。

 それで解禁って、どこの誰まで適用されるんでしょうか? この世界、たいがい自由すぎたんですけども。

 北斗ツインバスターライフルって言って、両手からビーム撃っちゃったり、我こそは北斗神拳伝承者だと叫んじゃうトキとか。

 ちゃっかりその弟子になって、リアクション担当やってるアミバとか。麻雀にハマッた修羅の国とか。あとヨガとか。それに料理関係のアレコレとか。

 

 そっから更にナニカが解禁されたとか、もう考えたくも無いんですけども。

 

「それこそ知らねえよ! お前が自分で確かめな。プレイヤーなんだろう? ゲームを楽しめよ。っと、そういやお前、辛いのにはあんまり強くなかったな。んじゃラー油とコショウは控えめにしとくか」

 

 その心遣いを、なぜ料理以外には使ってくれないのか。作っているよだれ鶏は実にうまそうなのに、本人の言動ももうちょい辛さ控えめだったらなあ。

 そうそう。お米はササニシキでいいですか?

 

「おう。そこのおヒツに入れて、少し冷ましとけ」

 

 こちらを見ずに、秋山師匠はネギを刻み、同時進行で杏霧酒に漬けたトマトとクラゲの甘酢あえなど副菜を仕上げていく。

 料理に真剣に向き合っているその表情は、とてもNPCなどには見えない。

 意思と精神、感情を見て取れる。

 

 今まで、この世界で出会ってきた人たち。彼らも人間味にあふれていた。

 一緒に飲んで騒いで、笑った。抗争の中、ヒャッハーと叫んで恐怖を吹き飛ばしてともに戦った。

 麻雀卓を囲んで、緊張感を共有した。上がれば喜び、振り込めば嘆いた。

 殴れば怒ったり怯んだし、話せば色々とあった。家庭板案件とか家庭板案件とか。あと家庭板案件な。

 

 そういう方向での人間味は、正直過剰ですらあった気がする。世紀末の人間、家庭に問題抱えすぎぃ!

 

「なにハゲ頭抱えてやがる! 麻婆豆腐は出来たのかオラァ!」

 

 ハゲてません! モヒカンなだけです! 中央だけはフッサフサですぅ!

 あとスイマセン、麻婆豆腐はもうちょっと待っ―――あれ? ほぼできてる。無意識に作っちゃってたのか。

 

 [P:16→12 調理技術(中華):4を習得しますか?(Y/N)]

 

 身に付いた技術は、慣れとともにどんどん脳を使わなくなっていく。歩くのに、まず右足を上げて。と身体の動かし方を確認しながら歩くやつは、普通居ない。

 気を付けないとそれが雑な作業につながるが、大まかな流れを気にせず、細かい部分にだけ神経を使えばいいんで、決して悪い事じゃない。

 今回、それが出来たという事は、調理技術が確実に俺の身になっている、という事なんだろう。久々に納得のいくタイミングでのスキルレベルのアップだ。

 

 無想で出来たからね! 北斗ワールドで無想は強いからね! という単純な理由ではない事を祈る。

 

 [P:16→12 調理技術(中華):4を習得しました!]

 

 さて。仕上げに豆腐とタラの白子を入れて、ひと煮立ちさせて、水で溶いた片栗粉でトロみを付けて~。ラー油と花山椒と刻みネギをくらえ!

 出来ました、秋山師匠。これが俺のタラの白子入り麻婆豆腐です。

 

「よっしゃ食うか! 極めろっつったが、そう簡単に料理は極められねえからな! 精進しろよ!」

 

 う~い。いただきまーす。

 あ。ビールいります?

 

 

 

 さて。

 今、調理技術のスキルが7で、調理技術(中華)が4。ヨガが☆になったのが5の次なんで、調理技術(中華)の方はあと1上げればいいとして、だ。

 問題は、調理技術を上げるのに必要なポイントだな。調理技術(中華)が5になった所で、残りポイントが7。

 そして調理技術が、5の倍数で10まで上げると考えると、8+9+10=27ポイント必要になるわけで。うん、20ポイントも足らないわ。

 どっから調達したもんか。

 

 所詮ゲームじゃないかって割り切れたなら、料理に毒でも仕込んで南斗や北斗のキャラを倒してポイント稼げるんだがなあ。

 ムリだろ。

 顔も名前も知ってて、話して一緒にバカやって戦って、割とそこそこ付き合いがあったんだぞ?

 サウザーなんか、よその町から毎週俺のカレー食べに来るんだぞ?

 でも修羅の国すらも、もう行っちゃった後だしなあ。あとなんかイベントあったっけ。

 

 ん~……

 

 そういえばケンシロウとは、まだほとんどカラんでなかったな。

 あれも原作主人公。何か残ってるかもしれんし、行ってみるか。

 

 でもアイツ、住所不定無職なんだよな。どこにいるんだ。

 俺が紹介したバイトも、路銀が溜まったからって、辞めてどっか行っちゃったらしいし。

 しゃーない。探してみるか。

 

 [クエスト:救世主を探せ この広い荒野で、ケンシロウを見つけてみましょう]

 

 なんかクエスト始まったー!?

 うっわ、懐かしいなミニゲーム。前のは、確か中華鍋を振るヤツだったっけ? かなり前だな。

 ウィンドウさんめ。ゲーム要素解禁したとたんに、ゲーム性を出してきやがったか。そういうの、キライじゃないぜ。

 

 ポイントもらえそうだしな。

 

 待ってろよケンシロウ! ヒャッハー! すぐに見つけてやるぜー!

 

 

 



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別に嫌いじゃないけど、ツッコミを入れずにはいられないキャラっているよね。なんなんお前。って感じで。

 気付けば、ケンシロウが小さな幸せ見つけて、老後みたいな生活送ってた。

 林の中の小さな一軒屋に住んでいるようだ。近くには泉もあって、畑と牧場が整備されているのが見て取れる。

 大きすぎて船に乗らないんで、ラオウが置いてった黒王号。あのデカい馬まで、他の馬や羊の群れと一緒にのんびりしている。

 

 それと、なぜかコアラがいるんだけど。

 

 林の一角にある、ユーカリの木の上で寝てるんだけど。

 そういえば、一時サウザーがスゴイの手に入れたから見に来いって言われて、いざ行ってみたらケンシロウに取られた、とか言ってた時があったな。

 サウザー本人は、どうしてもというから譲ってやったのだ。とか言ってたけど、配下の―――ごめん、名前わかんねえ―――配下の副官の人が、ケンシロウが脅して奪っていってしまったってグチってた。

 何を手に入れて、取られたのかまでは聞いてなかったけども。

 今思えば、ユーカリの木と葉っぱが部屋の中にあったような記憶が。

 

 えっ。カツアゲしてったの?

 世紀末救世主が? コアラを? サウザーの所から???

 

 なんで?

 

 ごめん。ちょっと時間ちょうだい。さすがにワケわかんねえ。

 マジでなんで? そもそもコアラどっから出て来たんだよ。ここ関東っていうくらいだし、日本だろ。

 上野か? 上野なのか? もしかしてパンダも生きてんの!?

 

 ヤベエ。探しに行かなきゃ。(謎の使命感)

 

 ユリアと一緒に、のんびり暮らしてるケンシロウを、特に意味も理由もなく連れ出すとかムリそうだしな。

 ああ、うん。いたよユリア。

 南斗最後の将のはずなんだけど、この世界が世界だけに、実は別人がやってる可能性があって困る、なんでかめっちゃモテる人。

 ラオウ、トキ、ケンシロウの、ジャギ以外の北斗の兄弟に、南斗でも原作ではシンやらジュウザやらモッテモテだった。むしろなんでジャギだけ惚れなかったんだろう。

 

 手を出そうとして、他の兄弟総がかりでボコられてトラウマ化した説。とかどうだろう。

 割と納得いくと思うんだが。

 もしくは、普段の言動があまりにアレなんで、お嬢様なユリアとはそもそも会わせてもらえなかった説。

 

 そういやジャギって、どうしたっけな。

 羅将のハンに育成を任せたら、心を折られて立ち上がる気力すら無くしてたトコまでは覚えてるんだが。

 え~っと。

 あの後、ハンがメシが食いたいって言うから、食堂まで連れてって。

 ジャギの事は、しばらくそっとしとこうと思って、そのまま放置して。後で一応様子見に行こうかとは思ってたけども、食堂行ったら秋山師匠に仕事を次々投げられて。

 

 あっ。やっべ。 わ す れ て た 。

 

 今の今まで、放置してたわ。

 うっわ。いっそ思い出さなきゃ良かった。

 ……まあいっか。ジャギだし。

 

 そうそう。思い出すといえばだ。

 ジュウザで思い出したけど、リュウガどこ行った。あのいらんことしいは。

 

 ジュウザはユリアに惚れた後、腹違いの妹だと知って諦めていた。でもジュウザとは別に、ユリアには同腹の兄貴がいて、それがリュウガだ。兄貴つながりで思い出した。

 

 兄弟の生まれた順番が、リュウガ、ジュウザ、ユリアの順で、リュウガとユリアの母親が同じというあたりやはり家庭板案件なんだが、今はそれはいい。この世界、兄弟っつったらそんなんばっかりだしな。

 

 問題はリュウガが原作でしでかした事だ。

 ポッと出で、ユリアの実の兄で、ラオウの部下というポジションで登場。

 そしてケンシロウと出会って「あれ? 乱世を鎮めるのにラオウに協力してきたけど、ケンシロウでも良くね?」と疑問を抱く。

 どっちに付くかを迷った結果、ケンシロウと戦えば解る。という脳筋な答えに行き着く。のはいいのだが。

 

 その戦う理由作りに、ラオウとの戦いを終えた後の隠居状態のトキ先生をさらって人質に取るという暴挙に出た。

 

 しかもトキ先生にトドメは刺さないが、最後に会話してから死ぬ程度の致命傷は入れておくという、まるで使い終わったトキというキャラを殺すためだけに出てきたようなキャラだった。

 オマケに、ケンシロウとの戦いの前に自分の腹を切っておくという影腹もやっちゃって、自分の仕事が終わったらセルフで即退場という、役割が終わったキャラは舞台から降りろというのを体現したキャラでもあった。

 

 それでケンシロウと戦った結果が、時代はケンシロウを選んでいるとリュウガが理解したってだけで、乱世をどうにかするのに1ミリたりとも役に立ってない結果というね。

 もうね。お前、実は乱世とかどうでもいいだろうと。乱世を嘆くなら、自分で何とかしろと。

 コイツなら何とかしてくれる、と思う人を見つけた → よっしゃ。なら死んでもエエな! とかオカしいだろうと。

 そこはお前、なんかしろよ。手を貸せよ。ケンシロウの無想転生にサラッと混じってるだけじゃなくってさあ。

 

 うん? ちょっと待て。

 

 俺も無想転生使えるけど…… 誰か後ろに出たっけ?

 

 いやいやいや。ちょっと待て。まさか誰も居ない無想転生って、ちょっと虚しすぎるだろう。

 いや、確かに死闘とかやってないけどもさ。

 確かにケンシロウと闘ってないユダとか、ケンシロウの無想転生からハブられてるけどもさ。

 でもさあ。なんか、こう、俺にもあるだろ! 師弟のつながりとか、友情とかさあ!

 

 ヤベエ。発動させて確認するのが、すげえ怖い。

 

 今日は、なんかいつにも増してヤベエって言ってるけど、これが一番ヤベーわ。

 くそっ。どうする。どうしたらしい。

 

 [P12→17 ケンシロウを発見しました。おめでとうございます]

 

 今かよ! タイミング悪いよ!

 ああ、もう…… ケンシロウにでも、相談してみよっかなあ……

 

 

 なんかマジで答えてくれた。

 

 

 突然の訪問にも関わらず、意外とあったかく迎えてくれてビビったわ。

 遠目では区別が付いてなかったが、羊だけでなくヤギもいるらしく、そのミルクで歓迎してくれた。ちょっとクセはあるが悪くはなかった。

 

 そして相談の結果。

 

 ジャギに関しては、もう放置でいいんじゃないかと意見が一致した。

 俺の北斗神拳の後継者に、と一時は考えたけども。ここがマジでゲームの中だというのなら、残そうが残すまいがどうでもいいしな。

 北斗神拳伝承者は、もうアミバでいいよ。

 

 コアラは、リュウケンという名前だそうだ。えっ、それあんたの師匠のお名前じゃ……

 うん。

 これについては、俺も深くは聞かないし、考えない事にした。スルーだな。

 

 リュウガについては、ユリアが知っていた。

 ラオウの修羅の国の改革を手伝っている、というかラオウが働かないので、メインで頑張っているらしい。

 ラオウはうちのチームに居た時と、サザンクロスでの生活で、完全にニートに染まってたからなあ。

 カイオウも倒れて落ち着いちゃったら、そら働かないわ。

 

 なんで知ってるのかといえば、手紙が来たらしい。

 ラオウからケンシロウへの手紙と一緒に、シャチが持ってきたんだそうな。

 トランスフォームの一言で、なぜか空を飛んだり、船やバイクの後ろに隠れるように取り付いて素早く移動できる謎スキルを持つシャチ。

 どうやら彼は、そのスキルを生かして配達業を始めたらしい。

 

 修羅を喰らうラセツ! とか名乗ってたけど、あいつも住所不定無職童貞だったからなあ。

 収入の手段は、たぶん修羅を倒した後のドロップアイテムだったんだろう。それができなくなったがゆえの、転職と見た。

 だとするなら、修羅の国での勝手な戦いが禁止されたという事で。ラオウやリュウガの改革はうまくいっているんだろう。

 

 いい事では、あるんだろうな。

 これであっちに行ってポイントを稼ぐ、という選択肢は消えたけどな。

 どうせ修羅の国だし、ラオウだし。グッダグダになるだろうから、イベントもあるだろうと踏んでたんだけどなあ。

 

 あっ。そうだ。

 以前麻雀でラオウやケンシロウを倒した時、大量にポイントが入ったな。試しにやってみっか。

 お~い、ユリアさん。ちょっとちょっと。じゃ~んけ~ん……

 

 結果だけいうと。ポイントは入らなかった。

 これは相手がユリアだったからなのか、それとも麻雀じゃなかったからなのか。

 どちらにせよ、俺のゲームはまだ終わらないらしい。

 

 

 

 ああ、無想転生? 無想転生は、俺の心しだいだってさ。

 他人がどうこうじゃなくて、己の心に刻み付けられたものはあるかどうかが、ポイントなんだそうな。

 というわけで今度やってみるさ。ひとりで、こっそりな。

 

 誰も出てこなかったら、悲しいし恥ずかしいから…………

 

 



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無想転生 やってみた

月夜鴉氏の 俺がジャンゴに憑依した時の話 を推してみる。
荒削りさも感じるけど、創作始めた頃の情熱も感じる。
ワンピースの初期の頃。まだ東の海でウソップが仲間になるあたりのお話。
ワーン、ツー、ジャンゴ。と言えば、どんなキャラだったか思い出せるだろうか。あのあと扉絵シリーズでダンス天国やって海軍入りした、黒猫海賊団の副船長の彼に憑依。
そのまま彼の立場を利用して、彼がどうなろうが度外視で、オリ主の考える方向でのハッピーエンドにダンクかまそうというストーリー。マジで後先考えてないw
非現実的な状況なんで、ファン心理だけで行動するというパターン。複数憑依者や転生者がいる話だと、たいがい痛い目を見るけど、このオリ主の明日はどっちだ。


 

 気付けば、哀しみの中で絶望していた。

 そうか。これが本当の哀しみか。確かにこんなに苦しいのなら、こんなにも胸が痛むのならば、愛なんかいらんわ。

 最初から希望なんか持たなかったなら、絶望しないんだ。

 

 まあ、わかってんだろ? ああ、そうだよ予想通りさ。

 無想転生、やってみた。

 

 間柴しか、いなかった。

 

 なんでだよ。

 思わずヒザから崩れ落ちたわ。

 ああ、うん。少し訂正するわ。

 

 間柴たちしか、いなかった。

 

 ムダに複数いやがったよ。ムダにいい笑顔だったよ。なに考えてんのか、笑顔から伝わってきたわ。

 俺しか居ないけど気を使ってみましたみたいな、その笑顔ヤメロ。よけい傷付くわ。

 

 本当に幻影かお前らは。俺の心が完全に折れてるのに、消えないしさ。

 なんかひゅんひゅん腕振ってるしさ。

 テキトーに沸いて出た野良モヒカン相手に、横並びで一斉にフリッカージャブを繰り出すという、ムダに高度な事やってるしさ。

 しかも操作も出来るのな。

 はい並んでー。構えてー。腕振ってー。はい発射ー。続けて連打ー。はい、やめ。

 

 なんで勝手に動いて、マニュアルでも動いて、ちゃんと攻撃出来てて、しかもそれが効いちゃうかなあ。

 

 [P:17→18 無想転生:配下(その1)で敵を倒しました]

 

 ああ、ポイント入るのね。スキルで敵を倒したら、最初の一回だけは1ポイントもらえるけど、普通の北斗神拳とは別扱いかね。

 だが配下(その1)という事は、その2や3があるという事か。

 それとも、もしかしてだが。ケンシロウみたいに、カッコいい面々がスタンドやってくれるバージョンも、用意されているのか?

 

 よっしゃ、希望が見えてきたぜ。

 そうと決まれば、まずはもう一回無想転生だ。もしかしたら、ランダムで誰か出てくる仕様なのかもしれん。

 だって最近のゲームに、ガチャ要素は付き物だろう?

 回すぜー。超回すぜー。なんせ無料で回し放題だからなっ!

 

 

 

 間柴しか、出なかった。

 

 

 

 こんなこったろうと思ったぜチキショウー!

 お前らも思ったろ? たぶん、こうなるだろうって思ったろ?

 だがわかるか!? 100回回して、間柴しか出なかった、大爆死した俺の気持ちが!

 

 いでよビール! 琥珀○ビス! グビッグビッグビッグビッ…… プハァ!

 いでよビール! 香るエール! グビッグビッグビッ… ハー… グビッグビッ…… プハァ!

 いでよ水! ヴォル○ック! ゴクリ…… ゴクリ…… ウンモウイイヤ

 

 ふう。落ち着いた。

 危なかった。つい勢いのままに、ケンシロウでもサウザーでも狩りに行っちまう所だったぜ。

 むやみにテンション上げてると死亡フラグだという、トキ先生の教えが生きたな。

 

 さて。冷静になって考えてみるに、だ。

 この結果は、ちょっとオカしい。

 戦って勝ったり負けたりした相手は、俺にも一応いるのだ。KING軍の幹部だったクラブとかダイヤとか、名もなき修羅とか、ターバンのガキとか。

 

 そいつらが後ろに出てきてうれしいかは、別の話だが。

 

 そいつらが出てこなかったのは、まあ、ジャギがケンシロウの無想転生に出ないみたいなもんで、仕様という可能性もある。

 だが、それなら間柴も出ねえだろ。というか、本当になんで間柴なんだよ。他にもいるだろう。

 まあ、あいつらたくさんいるから、ひとりしか出ないケースだと一番マシかもしれんけども。

 

 北斗神拳 究極奥義 無想転生! とかカマして、対戦相手が闘気が流れて、ヤツの後ろに――― とかリアクションして。

 そして出てくるのが、ポツリとひとりだけってのは、かなりアレだぞ。

 そんなん、対戦相手だってリアクションに困るわ。

 

 で、まあ、話を戻すに、アレだ。

 思うに、ポイントは究極奥義って所だ。

 

 俺の北斗神拳は、まだ北斗神拳:5であって、極めた☆になってないのに無想転生を覚えてるのは、オカしいんじゃないのかって事だ。

 

 覚えただけで、使いこなせてない可能性もあるけどよ。

 だからまあ、まずはどうにかして北斗神拳を極めようと。そう思うわけだ。

 

 わけなんだが。

 

 そのために、何をすればいいと思う?

 

 トキ先生に聞いてみる? ケンシロウと、戦ってみる?

 うん。どっちも有効そうだけども、どっちも死亡フラグくさいんで、保留。

 

 そうだなあ。あの謎の、女人像でも見に行ってみるか。

 その像のポーズが、北斗神拳のベースになったっていう北斗宗家の拳の構えらしいし。

 北斗の拳じゃないけど、蒼天の拳の方で、女人像の手がスタンドみたいに腹から生えて攻撃するという、謎の奥義もあったし。

 うん。行ってみるとしようか。極めたヨガのテレポートなら、修羅の国へも楽々行けるだろ。

 

 あとは女人像が、どこにあるのかサッパリわからないという、致命的な問題だけだな。

 

 まあ、現地に行けば、何とかなるか。

 なるといいな。なれ。

 

 じゃあさっそく行くとするぜ。ヒャッハー! ヨガテレポート!

 

 

 



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今回は北斗の拳よりも 麻雀の成分タップリでお送りしております

久々にネトゲやってたら投稿を忘れてました。
時間って有限だなあ。


 気付けば、暗いのか明るいのかもわからない謎空間で、サシで麻雀を打っていた。

 

 相手は女人像だ。

 

 もう一度言う。女人像だ。間違いない。

 間違いであって欲しいが、間違っていないんだ。

 周りの謎空間の事もあって、夢であってくれと願ってもいる。でも醒めないんだ、この夢。フフ…… 怖い。

 

 誰か助けて。

 

 あっ、ハイ。俺の番ですね。お待たせしてスンマセン。

 でもそれ、ロンです。三色、ドラ1のみで、3900。

 

 どこからともなく点棒が現れ、女人像の手がそれを握って、こちらへとその手が伸びてきた。

 だから怖ぇぇよ。

 点棒受け取るのが初めてじゃないから、まだ叫ばないけどよ。最初はモロに叫んだぞ。「ヴァッホイ!」って。

 逆に点棒をあっちが受け取る時は、俺が点棒を卓に置いたらフッって消えるんだけどよ。

 まあ、それはそれで怖いけども、手が伸びてくるよりはマシかなって。

 

 目の前で牌が、誰も触れていないのに次々に裏返されて、かき混ぜられていく。

 そして徐々に高速になっていき、一箇所に固まって、そしてハジけた。

 そうして飛び散った牌は、自然と開始のための4つの山にキレイに並べられている。あとはサイコロを振って配牌すれば、対局開始というわけだ。

 

 うん、オカしいよね。

 

 誰も触れずに牌が宙を舞うとか、全自動卓ってそういう意味じゃないよね。

 でも何よりもオカしいと思ったのが、こうして配られた牌にツミコミが仕掛けてないという点だったんだよね。

 こんだけの事ができるのに、自分に有利なイカサマしないとか、オカしいよね。

 

 そう考えている自分を、汚れちまったなと思わないでもないが。でもここ、世紀末ワールドだしさあ。

 法律とか以前に、政府が無いんだもんよ。悪い意味で、自己責任で何でもありになってるんだぜえ。

 

 人が他人のものを取らなかったり、傷付けなかったりするのは、まあ色々理由はあるだろうが、究極的にまとめていうとだ。

 割に合わないからだ。

 リスクとリターンが吊り合わない、という事だな。

 バレなきゃ犯罪じゃない、なんて言葉もあるが、バレたら犯罪でペナルティだ。

 

 で、そのペナルティの重さとか、そもそも何したらペナルティなのかってさ。ルールで決まってるものじゃん?

 そのルールってさ。法律じゃん?

 で、今さあ。その法律を守らせる、もしくは破ったやつを捕まえる警察も。その法律自体を保証、運営する政府も。どっちもないじゃん?

 

 つまりは、無法地帯どころか、無法世界じゃん?

 

 そういう世界だと、自分の身は自分で守る。ダマされた方が悪い。むしろイカサマしない方がバカ。そんな暗黒賭博世界染みた空気が、世を支配してしまう。

 弱肉強食、勝ったほうが好きにふるまうというのは、古来からずっと、こうして世が終わった先ですら通用する、人類発生前からの、野生の掟だ。

 

 そんな古い掟も、石像には関係なかったらしい。

 

 なんかフェアなんですけど。

 普通にいい勝負できてるんですけど。

 いざとなったら、イカサマ使ってでも勝とうと考えてる自分が、ちょっと恥ずかしいんですけど。

 

 やべえ、どうしよう。どうしていいのかわかんないぞ。

 そもそも修羅の国にヨガテレポートした直後。何かに呼ばれているような気がして、そっちへとバイクを走らせたら、女人像見つけて。

 えっ、こんな簡単に見つかっていいの。と思いながらも手を触れてみたら、こうなったんだよな。

 

 明るいか暗いか、広いのか狭いのか、何もわからない、ガ○ダムのニュータ○プ同士の交感シーンのような、あの謎空間に引き込まれていた。

 目の前に麻雀卓があって、大きさが人と同じくらいにまで縮んだ女人像が、それでも立ち姿はそのままに対面の席に…… 座ってはいないが、スタンバっていた。

 麻雀牌が上から滝のように降り注いできて、ひとりでに山の形を作ると、俺の体がフワリと持ち上がって、席へと運ばれてしまった。

 

 あっ。これアカンやつや。

 

 何となく悟った俺は抵抗を諦めて、大人しく運ばれて、導かれるままにサイコロを振って、流れのままに麻雀を打つ事にした。

 そして現在に至る。というわけなんだが。

 

 これって勝つべきなのかなあ。それとも負けてもいいのかなあ。

 試練なのか、接待麻雀すればいいのか、それが問題だ。

 ゲーム的な試練なら、素直に勝てばいい。クリアして何かを手に入れる。そういうイベントなんだろう。

 だが女人像の中の人が、ただ単に自分も麻雀打ってみたくなっただけだった場合。

 楽しんでもらった方が、きっともらえる報酬はいい物になると思うんだ。

 

 中の人が、いるのかどうか。女人像に表情なんぞはないから、その辺読めないんだよな。

 何度か話しかけては見たけども、しゃべらないからそこからも読み取れないし。

 ポンとかチー、リーチの場合でも、牌を操作するだけで発声しないし。

 ああ、牌を動かすのにも、念動だかサイコキネシスだか見えない手を使ってるのか、牌が勝手に動いてる。手を伸ばしてくるのは、こっちに点棒を渡す時だけだ。

 だからビビッたんだけどね。

 

 そうして俺が迷いながらも、とりあえず振り込まないように防御重視で打って、相手がツモったり、それでも俺があがったりしながら迎えたオーラス。

 点数は俺が5000点ほどリード。親は俺。女人像がマンガンをあがるか、3ハン以上の役を俺が振り込むか。それ以外もあるが、まあ、逆転のチャンスは十分にある。

 正直、俺の手は悪い。

 開幕5シャンテン。これは遊☆王で言うなら、手札事故。

 それも5シャンテン、つまりテンパイ(あと1枚であがり)まであと5つではあるんだが、それはとある役満のテンパイまであと5つという事でなあ。

 

 うん。わかる人にはわかったと思う。国士無双に、近いハイパイです。

 

 麻雀は普通は、234とか666なんかの3枚のセットを4つと、同じ絵柄の牌のペア1つをそろえるゲームなんだが。これには例外がある。

 アメリカ生まれの役であるらしい、七対子(チートイツ)。ペアが7個であがりになって、点数計算も特別になるヤツだ。

 それと麻雀の中で大物であるところの、役満のひとつ。国士無双。

 マンズ、ソーズ、ピンズの3種類の牌の、端っこ。1と9の牌。それと字牌全種。東西南北白発中。この13牌と、あとどれか一個。これを揃える、独特な役だ。

 独特すぎて、だいたい捨て牌でバレる。

 途中で諦めても、独特すぎて他の役に切り替えが難しい。

 などなど、デメリットも色々とあるが、役満だけにロマンを求めて目指してしまう事が多い、魅惑の役。

 

 よし、やってみるか。

 

 今回、どうせ勝っていいのかわからんし、いいだろ。そんな軽い気持ちだった。

 でもさあ。そういう、軽い気持ちの時ほどうまくいっちゃう事って、なくない?

 うん。あがっちゃったんだ。国士。それも10巡目で。

 欲しい牌がサクサク入ってきてなあ…… 13面待ちなんて、生涯で初めてだったぞ。

 

 それで、どうなったかって?

 

 ツモって言って、倒した俺の手牌を見た女人像が、プルプル震えだしてなあ。

 あっ。これ、アカンやつや。そう思ったんだけども、体がうまく動かなくってさあ。

 ヨガテレポートも、うまく働かなくってさあ。

 

 伸びてきた女人像の手に、胴体のど真ん中を貫かれちゃってるんだわ。今。

 

 これが不思議と痛くないんだけども。

 でも動けないし、動いたらマズそうだし。

 ここから、どうしたら正解なんだ? というか、そもそもここから正解まで行けるのか?

 それとも、ゲームオーバーだったりするのか? それならそれで、早くして欲しいんだが。

 

 死に際の集中力とか、走馬灯とかじゃなくって、マジで世界が止まってるんだけど。

 

 えっ。バグ? もしかしてバグった?

 ちょ、オイ。マジか? マジでバグなのか?

 え~っと、こういう時は…… 運営? どこだよ運営。それっぽいのって言ったら、ウィンドウさんくらいだぞ。

 でもあのウィンドウさんじゃ、これっぽっちも何とかなる気がしないんだけど。

 

 ………………

 

 お~い! 誰か~! たーすーけーてー!!

 

 

 



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人間、キツい状況をクリアすれば、それ以下の時は楽に戦える。ってカイジよりダメな人が言ってた。

 

 気付けば、いつの間にか眠っちまったらしい。

 うん、まあ。腹を刺されたどころか、腕でブチ貫かれた状況でよく眠れるな、と思うだろうが。あれ、別に痛くはなかったしなあ。

 でなかったら、さすがに泣き喚いている、と思う。

 

 ヒャッハーと北斗と南斗に染まった自覚があるだけ、そんな一般人な反応ができたのか、イマイチ自信はないが。

 

 なんつーかな。こう、ヒマだったんだよ。

 当初はパニクッたし、いつまでもそのままなんで不安にもなった。

 なんせ、腹を腕が通り抜けたままだし、ピクリとも動けないし。

 おまけに女人像まで固まって、他に誰もいない空間だろ? なんかもう、時間まで止まってんじゃねーかってくらいシーンと静かで、動きがなくてさあ。

 イヤな意味で、精神と時の部屋みたいだったわ。

 

 だが人間、なんにでも慣れるし、飽きる。

 

 なーんの刺激もない状態で、動けもしないとなるとだな。一旦落ち着いてしまいさえすりゃあ、もうどうって事はなかったよ。

 今思うと、落ち着いたというよりも、開き直ったんじゃねえかとも思う。

 で、そっから、色々試したり、考えたりはしたんだ。

 渾身の力を込めてムリヤリ動こうとしたり、闘気を発動しようとしたり、ヨガテレポートをひたすら念じたりだ。

 

 どれもダメだったけどな。

 

 力はそもそも入りすらしないし、闘気も湧き上がる気配すらない。ヨガテレポートに至っては、目を閉じて念じていたら、こうしていつの間にか寝てしまうという始末だ。

 こうして寝ているのを自覚しながらも、そのまま夢の中にいる状態はなんと言ったか。確か、明晰夢(めいせきむ)だったと思うが。

 自分の夢の中だけあって、一応は動けるようになっているし、女人像の腕も刺さってない。

 しかしだ。この状況で寝てて現実逃避してるってのは、さすがにどうかと思うんで起きようと思う。

 まあ、しょせんは夢だ。目の前の夢の方ではなく、現実の身体の感覚の方に集中して、動かしたりしたら起きられたりする。はずなんだが。

 

 なんか、どうやっても目が覚めないんだけど。

 

 そもそも、寝る前も身体の感覚はほぼ無かったからなあ。

 あれが麻酔みたいに、痛覚をカットしてた副作用なのか、それともなんかの仕様なのか。確かめる方法は今の所、何もない。

 思い起こせば、呼吸もしてなかった気がする。

 だとすると、考えるだけでも酸素を消費してるはずの脳みそがヤバい事になるんだが。

 心臓の方は、どうだろうか。動いていたのかどうか。さすがにちょっとわからない。

 

 うん。なんかまた怖くなってきたんだけど。

 

 そんなタイミングで、俺の目の前に待ち人がようやく現れた。人じゃないけど。

 

 [お待たせしました。これより開始します]

 

 うん、待ってたよウィンドウさん! すげえ待ってたよ!

 よっしゃ救助開始だな! ちゃっちゃと始めちゃって! はよ!

 

 だが、始まったのは何か別のものだった。

 

 最初は、ウィンドウがぐわっと広がった。

 これは以前に一回だけあった。あれだ。ゲンジロウと出会った頃の、三択だ。

 思えばあの選択のせいで、世紀末救世主ケンシロウっぽかった謎の拳士が、味皇 村田ゲンジロウ になっちゃったんだよなあ。

 

 しかし今回はそれよりも大きく広がって、しかも出てきたのは選択肢ではなく、なにやら動画が映し出された。

 

 俺だった。

 

 ただ、荒野でバイクにまたがっているのはいいが、格好が少し引っかかる。

 北斗神拳のスキルで生えてきた、革のツナギと肩パットじゃなくって、半裸に近い世紀末モヒカンスタイルをしている。

 あんなのは初期も初期。ゲンジロウと出会う前くらいしか、していた覚えは無いんだが。

 だとすると、これはひょっとしたらゲームスタート直後のあたりか?

 そう思っていたんだが、動画の中の俺は記憶にない事をやり始めた。

 

 なんか、バイクを押してるんですけど。

 エンジンかけるのに失敗して、それでもバイクを捨てていくのがもったいなくて、押してるんですけど。

 なにあれ、みみっちい。

 

 え~っと、あの後何があったっけ。ゲンジロウのインパクトが強すぎて思い出せないんだが、出会う前になんかあったはずだ。

 なんだっけ。

 

 そう俺が考え込んでいると、答えの方が先に現れた。野良モヒカンたちだ。

 そうそう。ここで野良モヒカンと初遭遇したんだよな。

 当時は戦闘スキル一個も持ってなかったから、必死こいて逃げたっけ。思い出してきたぞ。

 バイク取り扱いスキルもまだ1レベルだったから、路面のデコボコで跳ねるバイクにビビりながらも、気合いでアクセル全開にひねってたわ。

 いや~。今思えば懐かし―――

 

 ―――ってマテマテマテ! ちょっと待てぃ!

 お前、なにフレンドリーにバイクの乗り方を聞きに行っちゃってるの?

 相手はモヒカンよ? その場の事しか考えずに、衝動任せで、損得勘定すらしないで、ノリだけで生きてるモヒカンよ?

 それもかなりヒャッハー度が高めの、野良モヒカン相手になにトーク選んでんだ。

 モヒカンスキルのレベルが、相手よりも高くないと交渉どころか、ヘタすりゃ会話すら成り立たんぞ。

 

 あっ。案の定、殴られた。言わんこっちゃない。

 

 あっ。逃げられない。そらそうだ。バイク乗れないどころか、動かせないもん。

 

 あっ。モヒカンたちがジェットストリームアタックの構えに。死んだな、これ。このまま謎の拳士が助けにでも現れない限りは―――

 

 

 ―――――――――うん。無事、死亡確認だな。

 

 

 首とか完全に折れちゃってるし、アレは完全に逝ったわ。ナムナム。

 

 それで、ウィンドウさんよ。これは一体、どういう意味があるんだ?

 俺が何かに気付くまで、この先延々と自分の死亡動画シリーズを見せられるのも気分悪いし、早めの答え合わせにしようぜ。

 

 今のは、有り得た可能性だ。実際にあった事かどうかまでは、わかんねえけどよ。可能性はあるわ。

 いきなり放り込まれた世紀末っていうワケわかんねえ状況で、取り説もチュートリアルもガイドキャラも、なんもなかった。

 あそこからバイク取り扱いのスキル習得までこぎつけるにゃあ、運が無きゃムリだった。

 その後も、色々だ。サウザーも、ラオウも、シンも。ケンシロウですら、何か間違ったら俺が死んでたケースもあっただろうさ。

 

 いや。サウザーだけは、なんか死ななかった気がするな。なんでだろう。

 アイツだけギャグ時空に片足どころか、腰まで突っ込んでる気がするんだよなあ。

 たまにシリアスなんで、上半身くらいはかろうじてギャグ時空に漬かっていない、と思う。

 

 え? シリアスな時があったかって?

 うん。あったんだ。話してもつまんないからカットしたけど。

 

 天帝をどこかに隠して、それを人質に元斗皇拳や帝都を牛耳って、好き勝手やってたジャコウってヤツがいたんだがな。

 南斗六星の最後の将以外のメンツをサウザーがまとめて、帝都に殴り込みをかけて倒してたわ。

 で、まあなんやかんやあって、天帝も発見されて救出。帝都が落ち着くまで、と南斗に預けられたんだが。

 

 どこもかしこも、だいたい天帝の教育に悪かった

 

 そもそも天帝が幼女だったのな。というか、リンの双子の姉妹だった。

 双子はアカンというエラいさんトコにありがちな掟で始末されそうになった所を、ファルコが叔父夫婦に託して逃がした方がリン。残って天帝になった方がルイな。

 どっちが姉でどっちが妹かは、正直わからんが。

 

 んで、まあ。そのルイを南斗でどこに預けるかって話になって、最初にサウザーのトコがどうよってなったんだよ。

 ほら、あそこ学校あるし。大人はウソを付くし裏切るからという理由で、サウザーが労働力に子供を採用してるせいで、同じくらいの子供がいっぱいいるし。

 

 でも自分よりエラそうな子供はイヤだって、サウザーがダダこねてなあ……

 

 シュウのとこは、そんなサウザーに対抗してるレジスタンスで、近いけど危険かも知れんし。

 レイは住所不定無職だし。

 ユダはなんかもう 論外 だし。あそこに子供を預けようとか、正気かキミたち。

 

 それで消去法で、シンのトコに天帝来ちゃって。

 ケンシロウとおそろいという事に気付いちゃったシンが受け入れて。

 更にはバットに似た少年も、どっからともなく連れて来て。

 なんか入れ込んじゃって、気付けばムダに殉星を輝かせて、ルイをいつか取り返しに来るだろうファルコが死なないかな、と祈るシンが完成してしまったわけで。

 

 うん。カットした理由、シリアスなサウザーはつまんないだけじゃなかったわ。

 更にヤバいヤツになっちゃった、自分の上司のシンを、俺が見ない振りをしたかっただけだったわ。

 

 

 で、なんだっけ。

 ウィンドウさんが、俺に死亡動画を見せた理由だったっけ? うん、何? 何でも言って?

 たいがいの事は、落ち着いて聞ける自信があるから。

 

 はあ。数多くのプレイヤーが倒れて、あるいは途中で小さな幸せ見つけて冒険人生リタイヤして。ここまで来れたのは俺くらいだと。

 クリアして仕事を終わらせて欲しくて、わざとバグらせて、システムの監視を無効にしてまで頼みに来たの? ほーん

 

 ああ、はいはい。とにかく、クリアすればいいのね。二周目とか、死んでもコンティニューとかはないのね。了解了解。

 で、あと俺は何をすればいいんだって?

 

 

 



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回想シーンの回。ただし回想するのは、出た事も無い他人のシーンです。

映画効果か、ヒロアカのSS増えてるっぽいですね。
ちょっと止まってたのも動き出して、うれしい。

そんな中でアットマーク氏の 意図を切る を推してみる。
デクくんらが一年生の時に二年生という、原作では谷間の世代。同級生が相澤先生にクビにされまくった中、一人残って進級した人。
たまにはヴィランに容赦しないキャラも読んでみたい人へ、お勧めします。
今の所6話。月に二回更新。


 

 気付けば、缶ビールを片手に座り込んでいた。

 ウィンドウさんセレクトの、俺のパイセンたちの人生シリーズを見ている間に、無意識にスキルを発動させる感覚で出していたらしい。

 まあ、ここ夢の中みたいなもんだし、この程度はアリなんだろう。実際の所は、よくわからんけどな。

 

 いや、待てよ。今なら飲んだ事が無い、憧れのアレやソレやコレだって出せるのでは…?

 

 よし、やってみよう。ものは試しっていうし。

 まずはイメージ。ボトルを想起して、中身の香りと味は想像で補う。ついでに願望もつぎ込む。

 調理スキルで、まだウィスキーもブランデーも出せないが、今ここでならそれを越えられるはず。いや、超えられると思い込め。

 確信するんでも信じるんでもない。呼吸するように、当たり前にできるものだと無意識で感じろ。

 

 3、2、1 ――― ゼロ。

 

 うん。出なかったね。

 仕方ないね。ここもウィンドウさんが出る以上は、システムの管理下ではあるんだろうからね。

 でも飲みたかったなあ、竹鶴25年ピュアモルト(1ml100円)とかカミュ・ロイヤルバカラ(1ml250円)とか。なんなら飲みなれたメーカーズマークとか、響でもいいよ。洋酒飲みたい。

 

 でも出ないんだもんなあ。

 出ないもんはしょうがないよなあ。ここは、素直にビール飲んどこう。埼玉の地ビールのコエドビール伽羅(キャラ)を飲もう。

 しっかりした濃い目のビールの、苦味やコクと穀物の香りを持ちながらも、何でかスッキリ飲みやすいという、日本風のビールのいい所も持っているビールだ。

 ビールだけに、ウィスキーとかと比べて安いしな。

 いや、蒸留して量が減ってる上に、長年保存して、しかも保存する間も徐々に量が減っていくウィスキーとかをビールと比べるのが間違いなんだってのは、わかってるんだがな。

 

 

 えっ。

 

 いや、急にすまん。

 眺めてた動画で、一味違ったヤツがいたんで、ビックリしてな。

 

 まずスタート地点からして、修羅の国でね。だいたい修羅の国スタートだと、そのまま野良の修羅候補に狩られて終わるみたいなんだけどね。

 なんでかカイオウに弟子入りしててね。

 しかもさっき、裏切って後ろから破孔を突くのに成功したヤツがいたのよ。

 

 うん。色々とビックリだろ? 俺も驚いたわ。

 

 しかも突いたのが、秘孔でいうところの心霊台に相当するヤツらしくて、カイオウの髪がみるみる白くなっていってなあ。

 ああ、心霊台ってのは、アレだ。レイがラオウに、3日くらい経ったら死ぬという新血愁(しんけつしゅう)っていう秘孔を突かれた時に、トキ先生が治療として突いた秘孔だ。

 

 ただし、3日という時間を少し引き伸ばすだけの応急処置でしかなく、しかも死を選びたくなるほどの痛みを味わうという欠陥品。

 

 レイも今のカイオウと同じく、治療後は髪が真っ白に変わってしまっていた。

 わざわざあの秘孔だか破孔を選んで突いたあたり、あのパイセンはカイオウに何か恨みでもあったんだろうか。

 苦しんでてスキだらけのカイオウにトドメを刺さないあたり、あるんだろうなあ。その辺の事情はカットされてるんで知らんけど。

 

 あっ。でもトドメさした。普通に大振りのナイフで首の頚動脈切ったわ。

 

 あっ。でも自殺した。手に持ったナイフで、そのまま自分の首も切ったぞ。

 

 あのパイセン、いや何か凄かったんできちんと先輩と呼ぼうか。

 あの先輩に、一体何があったんだ。もう次のパイセンの映像に移ってるけど、すげえ気になるんだけど。

 

 

 と思ったら、今度はトキ先生に弟子入りしたパイセンか。

 割と王道なんじゃないかな。なんでこのパイセン失敗したん―――って死んだー!? 速攻で死んだー!?

 

 

 アミバの嫉妬からの暗殺で死んだー!!

 

 

 えっ。ちょっ。お、おおう?

 アリなん? そうゆうのアリなん? このゲーム、それでいいの???

 

 まさかのギャルゲー要素あり、それもデスゲーム風とは。見抜けなかった。あの海のリハクアイしちまったぜ。

 

 だがまあ、アミバの嫉妬も、わからんではないな。

 ポイント消費して、スキル習得するだけでみるみる腕が上がっていくんだもんなあ。

 ハタから見たら、天才か化け物にしか見えないよな。

 逆にポイントが無かったら、これっぽっちも腕が上がらないんだけど、ポイントが尽きる前にアミバが行動に出ちゃったからなあ。

 天才を自称していたアミバには、自分以上の天才に見えたパイセンを許容できなかったんだろう。

 それでも初手殺害はどうかと思うが。

 

 

 おっ、今度の動画はいきなりクライマックスか。

 ケンシロウとのバトルとは、このパイセン。なかなかのロマンの持ち主かつチャレンジャーだな。

 しかも構えからして北斗ではなく、南斗聖拳系か。うん。南斗で挑むとはワカっているな。

 北斗と南斗は表裏であり陰陽であるらしい。初期の構想では、原作者さんは北斗の拳をシンとの対決までしか考えていなかったそうなので、北斗のケンシロウに南斗の拳法で挑むのは、実に美しい。

 

 お互いがラッシュを繰り出し、拳を、貫き手を相手に突きつけようとする。

 ケンシロウは多少のケガはかまわない、とばかりに攻撃に重点を置いているようだ。パイセンはそれを丁寧に、落ち着いてサバきながら反撃している。

 これは一撃必殺の北斗神拳を、お互いが意識に置いて戦っているせいだろう。

 

 俺もスキルを上げていなかったら、普通に見えなかっただろう速度で、攻防が続く。

 そのさなか。パイセンの突き出された腕に、ケンシロウが指で触れる事に成功してしまった。

 それまでは、多少かわすことは出来ても、防御も触れる事も許さなかったパイセンの攻撃。それが疲労で衰えたのか、それともケンシロウがパイセンの拳に慣れたのか。

 

 ……慣れたっぽいなあ。ケンシロウの学習能力と対応力は高いから。

 突いた秘穴は竅星(きょうせい)かな? パイセンは腕が動かなくなってるらしいし。

 あっ。ダメだ。まだイケるとばかりに、今度は足技で戦いだしたぞ。ケンシロウ相手に、悪あがきは死亡フラグだっつーに。

 命だけは助けてやる → なんだとキサマー → テーレッテー みたいな。もしくは 心を入れ替えるのなら(略) → 入れ替えます! → 後ろから奇襲 → すでに突かれてた秘孔でヒデブッ!

 

 あ、いや。ワンチャンあるわ。うまい事、空中戦に持ち込んだ。

 アニメ北斗の拳のOPにもあった、シンとの最初の対決のアレを再現するつもりか。

 あのただの飛び蹴りにしか見えないのに、北斗なんとかと、南斗なんとかという名前の、ほぼ同じポーズ、アクション同士の対決。アレをやる気だ。

 だがイケるか? アレはケンシロウにも、たぶんトラウマになってるだろうし、乗って来ない可能性もあるぞ。

 

 って、行ったー! なんかパイセンが挑発してたけど、うまくいったー!

 そしてすれ違ってー。着地してー。倒れるのはー?

 

 …………………… ああー。パイセンかー。

 

 うん。でも頑張った! アンタ精一杯やったよ! アンタもパイセンじゃない。先輩だ!

 先輩、お疲れっした!

 

 

 ほう。今度のパイセンは村人か。平和そうでいいな。

 そう思って眺めていたら、モヒカンたちの襲撃でアッサリとその平和が終わった。知ってた。

 だって世紀末だもんな。がんばって土地改良して、穀物の種も探してきて、村を豊かにとがんばってたダイジェストが流れた時点で「あっ。これ、この努力ムダになるな」って思ったもん。

 

 あっ。逆上して向かってった。

 あー、あー。戦闘スキルもないのに、野良モヒカンとはいえ、群れにケンカ売っちゃあ……

 

 あれ? 意外と戦えてる?

 

 クワを振り回して、槍だか槌みたいに戦ってるんだけど。

 えっ。なに。農具取り扱いスキルとかあんの? で、それで戦ったりできるの?

 なにそれ、すごい。

 

 あっ。でも終わったわ。人質取られちゃった。しかも素直に従っちゃった。

 クワを手放して、素直にそのまま無抵抗で殴られてるわ。

 

 思うんだが、なんでこういう時って、何もしないで従うんだろうな?

 そのまま無抵抗で負けたり、死んだりしたら、人質も無事じゃないだろうし。

 どうせ人質が無事じゃすまないんなら、無視して敵を倒しちゃって、それでも人質が生きてるラッキーにワンチャン賭けた方がマシだと思うんだけどなあ。

 現に、あの農業パイセンは終わっちゃったわけだし。人質になってた女の人も、なんかそのまま連れ去られちゃったし。

 うん。でもまあ、悪い人じゃなかったみたいだし、最後は死ぬ覚悟もしてたし、農業もがんばってた。

 

 全部野良モヒカンたちにツブされたけどな。

 

 悲しいなあ。

 農業パイセン。お疲れでした。合掌。

 

 

 ちょっと気分を変えるのに、ビールから日本酒にするか。

 秋田の花邑。山形の十四代を造ってる醸造所の社長が、なぜか米選びや製造法からラベルまで仕切って造ったという、よその醸造所で何やってんですか社長、というしかない酒だ。

 間違いない。この社長、絶対に趣味に走っている。

 そして趣味に走って、こだわりを持って造り上げられたこの酒が、まずいわけが無いってのも間違いないんだよな。

 芳醇旨口。ポンと栓を開けると甘い香りが広がり、口にすれば濃厚な米の旨みと甘みが、その香りとともに口と鼻を満たす。

 そしてスッ… と消える。まさに花のように広がって、散る。

 問題は、少量生産なんだよなあ。そんな所まで、趣味に走った日本人のテンプレに忠実じゃなくてもよかったんだが。

 

 でもスキルで出してる今なら、無限に出せるからね! 問題ないね!

 飲むぜ、ヒャッハー! ツマミは作るのもめんどくさいんで、トマトを手刀で切って醤油かけるぜー!

 

 あん? トマトに醤油はオカしい?

 オカしくねーよ。トマトのうま味も醤油のうま味も、肉や魚と同じグルタミン酸だ。相性は悪くないんだよ。

 かけるのはカツオダシ醤油にして、イノシン酸もプラスだ。異なるうま味を掛け合わせると、なぜかよりうま味を感じるようになるから、これでいいんだぜ。

 

 

 さーて、次のパイセンはどんな末路かな。

 こうも立て続けだと、だんだん飲まなきゃやってられなくなって来たけど、飲んだからまだイケるぞー。

 よっしゃ。次、かかって来い。

 

 

 



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ちょっと蒼天の拳にも触れてみるテスト。

みんな…… ツッコミを(感想で)入れても……
いいんだぜ…?


 気付けば、修行パートに突入していた。しかも座学だ。

 居るのは相変わらず、謎空間のままなんだけどよ。しかも動画鑑賞中のままなんだけどよ。

 

 なんか、蒼天の拳のアニメが流れてるんだが。

 

 蒼天の拳というのは、ケンシロウらの師匠リュウケンのさらに先代の北斗神拳伝承者、霞拳志郎が主人公の作品だ。

 北斗の拳ワールドが世紀末世界になった原因であるところの、核戦争よりも前。1930年代あたりの中華大陸が舞台。

 内容を一行で言うとだ。様々なキャラをホァタァ! する物語だな。

 

 コミックバンチだったかなあ。ちょいちょい立ち読みなんかで読んでたわ。

 三国志時代になって、天帝が3人いるけど、どうすんべ。誰を守護する? という問題に、じゃあ流派も3つに分けるか。という柔軟な答えを出した結果生まれた、北斗の3つの流派が出てたのは覚えている。

 北斗劉家拳と、北斗孫家拳と、北斗曹家拳な。たしか北斗劉家拳が北斗琉拳の源流だった気がする。

 せっかく分けたんだから、と流派ごとに特徴を持たせるとか、3つに分ける判断をした当時の伝承者は、かなりの遊び心の持ち主なんだろうなあ。

 

 結局全部、拳志郎と戦うことになったけどな。

 

 これがケンシロウなら全員うわらばしている所だが、拳志郎は強敵にはトドメは刺さない主義らしく、戦った後も全員生存している。

 しかも後に手を貸してくれる事もあるという、ジャンプの王道を歩みなおしている。原先生、実はそういうのもやってみたかったんだろうか。

 

 なお拳志郎の使う北斗神拳は、分かれた三家の拳とは別に日本で伝わっている。

 伝承者となる子供3人を弘法大師 空海が大陸から帰国する際になぜか連れ帰った結果らしい。

 さすがは密教という概念やら何やらを輸入しまくった真言宗の開祖。とんでもないもんも輸入している。

 天台宗の開祖とお気に入りの稚児を取り合ってケンカ別れした説とか、ダメなエピソードもあるけどな。

 あと武田信玄並みに、各地に隠し湯とか溜め池とか作った事になってる人でもあるな。まあそれは後世の宗派の人とか地元の人が、昔からあるヤツのハク付けにフカシたのがほとんどらしいけど。

 

 ところでだ。

 このアニメ、言っちゃあ何だが。うん。言っていいのかわかんないけどもだ。

 

 なんか……   じゃね?

 

 作画のレベルが、はるか昔に作られたはずの、アニメ北斗の拳と勝負できるくらいなんですけど。

 むしろ回によっては負けてるんですけど。

 ナニコレ。いや、技とかを知る教材にしろって意味なのはわかる。わかるんだけども。他に適当なのはなかったのもわかるけども。

 もうちょっと、こう。何と言うか。手直しというか。何とかならなかったもんなんだろうかね。

 

 [ 早送り >> 一時停止 ││ 巻き戻し << ]

 

 ああ、うん。技だけチェックすればいいようにって方向で気を使ってくれたのね。

 言ってた意味はそうじゃないけど、これでもいいや。ありがとうよ、ウィンドウさん。

 

 

 さて、まずは孫家拳か。三国志なら孫家は嫌いじゃないんだがなあ。マイナー臭い所とか。大局を見られずに目先の欲や情に流される所とか。最後に全部孫権が台無しにする所とかな。

 見るべき奥義は、操気術と秘孔変異だな。

 闘気でサイコキネシスじみた物体操作をしたり、銃弾受け止めたりしてるんですけど。えっ。これできるの? できるようになんの? マジで?

 その極みの闘気のみで秘孔を突く、天破活殺はすでに北斗神拳に組み込まれてるから、できるっちゃできるんだろうけどよ。

 まあ、あとで試してみるか。相手の闘気を抜く技とか、便利そうだし。

 秘孔変異はムリダナ。もとい無理だな。だってあれ お薬 キメた上に、狂気に陥らないと出来ないっぽいもん。

 どっちもヤダよ俺。世紀末のモヒカンは、健康志向なんだ。でなきゃあんなにマッチョだらけじゃねえだろ。たまに腹が出てるのもいるけどよ。

 アレは出世するなり、なんか上手くやるなりして、それだけの食糧を得られる立場になってハッチャケちゃった結果だから。それでも筋肉までは衰えてないはずだから。

 

 

 曹家拳は、何と言うかエゲつないな。特定の単語を口にしたら死ぬ秘孔とか、自分の願望に逆らえなくなる秘孔とか、誰でも暗殺者に仕立て上げる秘孔とか、他人を操作する秘孔でいっぱいだ。

 しかもよく思い出してみたら、それらもちゃんと北斗神拳の知識に引き継がれちゃっているというね。

 便利だろうけど、ヤダよ俺。モヒカンだから、基本的にはヒャッハー思考なんだ。後は野となれ山となれ。今が最高ならそれでいいじゃん。

 

 しかし、いかにも隠れて陰謀企みそうな秘孔のラインナップに反して、使う拳はラオウにも似た剛拳というあたりは面白いな。

 伝承者の張太炎が、先代伝承者の父親に反発して柔の拳に魔改造してるけど。

 しかもただ拳を極めた北斗神拳の方が上だ、という理屈で拳志郎に柔拳を破られてやんの。

 トキもラオウに負けちゃってたし、柔の拳はダメなんかなあ。でもトキは病気が無かったらイケたようにも思えるし、やっぱ使い手次第か。

 

 あれ? そうすると曹家拳から学ぶ事って何も無いのか?

 ……うん。ないならないでいいや。次行こう。

 

 

 劉家拳。北斗神拳に伝承者なき場合、劉家拳から出す。という掟がある、言わば北斗神拳の予備というか分家。

 この掟のせいで、北斗神拳伝承者は北斗劉家拳の伝承者と死合って勝たないと、真の伝承者扱いしてもらえない。

 

 一見理不尽だが、スポーツで言うならだ。控え選手よりも確実に上だと証明されてない一軍選手とかどうよ。という話だな。

 

 ただそのせいで、代々踏み台扱いされる劉家拳の方々には、当然面白くないわけで。

 俺は北斗劉家拳の使い手だ! と名乗ったら「ああ、あの最終試験の」と思われちゃったりするわけだ。

 そらあ、必死こいて北斗神拳を倒そうともするわな。

 

 そのせいか、北斗神拳と共通する技もあるようだ。高速の歩法、雷暴神脚とか。いつの日か北斗神拳を越えるため、北斗神拳の技を盗み取ったのだろうか。

 必死こいて劉家拳が作った技を、北斗神拳側が水影心でパクッた疑惑も捨てきれないが。実際、拳志郎も孫家拳の天破活殺も曹家拳の人を操る秘孔もパクってたし。

 それを更にスキルという形でパクッてる俺が、言っていい事かはわからんけどな。

 

 カイオウとかの北斗琉拳とは違って、魔闘気までは使わないようだ。かと言って、羅将ハンのようにスピードに寄った戦法でもない。

 大量の闘気で空間を歪めたり、と暗琉天破の原型みたいなもんはあったが……

 何かを学ぶとしたら、強いて言うなら、スタンドか。

 闘気で背後に、でっけえ不動明王出してた。

 

 あ、いや。やっぱダメだ。ナシだ。

 背後にでっかい間柴が出たら、ヤダよ俺。でっかい間柴とかチョッピングライト(打ち落ろしの右)がスゲー強そうだけど、なんかヤダ。

 何より、絵面がオカしい。

 今まで戦ってきた面々を背後に背負ったり、代々重ねてきた執念を形にしたりする背後に背負った、何か重いもの。

 それが間柴て、キミ。どんな人生やっちゅーねん。何を背負って生きてきたっちゅーねん。

 

 

 はぁ~……

 

 

 さっきまではパイセンたちのNG集とも言える人生の数々に、気楽に笑ってたのになあ。

 

 ジャギの一味になって、思う存分ヒャッハーして。そのあげくの果てにケンシロウが来ちゃったらコッソリひとりだけ逃げ出して、ヒッソリと余生を送っちゃったパイセンとか。

 なぜか生きてた、でかいババアの家で居候してたのはさすがにワロタ。

 

 料理の道に踏み込んだはいいけど、いくらでも食糧を出せるなら自分が働かなくていいんじゃないかと気付いて堕落しちゃって、トキの死んだ後の奇跡の村で余生を過ごしちゃったパイセンとか。

 村人に食糧あげて世話してもらってたんで、神様扱いだったのがなんかワロタ。

 

 同じく料理の道に踏み込んだものの、なぜか味将軍グループの一員になっちゃって、サウザーの聖帝軍とカレー勝負してたパイセンとか。

 まさかの負けで、食糧供給係りの捕虜になってたのは指差してワロタ。

 

 マミヤを口説き落としたものの、マミヤッパイに浄化されて、この世の平和のために戦わなきゃと使命感抱いて荒野に消えたパイセンもいたな。

 オッパイ見た段階で浄化されちゃったんで、童貞のまま逝ったのはさすがにワロエなかったぜ。

 

 何を思ったか、海外に脱出しようとしたパイセンたちもいたな。だいたい海上で遭難したまま人生終了のお知らせを聞いてたが。

 南の国へ行こうと、まずは沖縄を目指した面々とかは特にダメだったな。だって核戦争の後に、沖縄が残ってるかっていうと、なあ?

 

 北海道は逆にクマ牧場とか地獄谷温泉とか残ってたけど、そこに辿りついたパイセンはそのまま余生を送るコースで、クリア目指さなくなっちゃってなあ……

 気持ちはわかる。すっげーわかる。同じ状況なら、きっと俺もそうしたわ。

 

 

 今こうして蒼天の拳の荒い作画を見てると、パイセンたちの動画はムダにクオリティ高かったのがよくわかるぜ。

 実写かCGかわからんレベルだったわ。進化しまくったヴァーチャルリアリティって、あんな感じなんかなあ。

 

 おっ。そろそろクライマックスか。三家拳からは、結局闘気の扱いを極めようという努力目標しか得られなかったが、拳志郎なら北斗神拳の新たな奥義を―――――――――

 

 ――――――――――――――――――えっ。

 

 拳志郎が、女人像のスタンド背負って。

 女人像から手が伸びて。そうしたら、戦ってた劉家拳の人と、拳志郎の二人が、上空の特殊フィールドに移動したよ?

 えっ、遊☆王なん? トラップカードオープンで、効果発動で、特殊フィールド展開なん?

 ところでその何も無い、空や地面すらもない特殊フィールドに、めっさ心当たりがあるんですけど。

 

 ここじゃん。それって、今いるトコじゃん。

 

 二人の勝負は拳志郎が勝って、でもトドメを女人像のオーラが止めてるけど、そんな事はどうでもいい。

 俺、今そんな所に居るの? ひとりで?

 帰れるの? なかなか帰れないなと思ってたら、まさかそういう事なの?

 

 この謎奥義習得しないと、帰れなかったりするの?

 そこんとこどうなのウィンドウさん!

 

 [P:18→8 特殊:北斗宗家の拳 を習得しますか?(Y/N) 注意!:これを習得しないと北斗神拳:☆を習得できません]

 

 あっ。習得自体は、いつも通りに一瞬なのね。条件クリアして、ポイントさえ足りてればだけど。

 誰も居ない空間で、何が正解かもよくわからない修行を手探りでやるハメになったのかと焦ったわ。

 せっかく貯めたポイントがガッツリ減るが、そこは北斗神拳を極めたボーナスポイントに、期待しますかね。

 

 

 



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利用者の必要だったものと、会社の用意したものと、政府の用意していたものは絶対一致しないのはなんでだろう。

日刊止めたら、読んでくれる人が減ったという悲しい事実。


 気付けば蒼天の拳が終わり、そして違うアニメが始まっていた。

 

「俺は…… 軍を抜ける!」

 

 なんかロボットアニメなんだけど。08な小隊の、ガン○ムなんだけど。北斗どこ行った。

 しかももう、終盤近くまで見ちゃってるんだけど。

 序盤にこのセリフを言っちゃう小隊長だと、08小隊始まらないからな。

 

 まさかとは思うが、バグらせたはいいが 直らなくなったとかないよな?

 

 ……ないよな。ないよね? 無いって言ってよバーニィ。

 

 [P:8→8 北斗神拳:☆を習得しました]

 [P:8→18 トロフィー(虹):北斗神拳を真に極める を達成しました!]

 

 うん。それはいいよ。むしろ知ってたから。

 俺が聞きたいのは、いつ帰れるかなんだが。そこんところはどうなのよ、ウィンドウさんよ。

 

 [ただ今、電波が届かないところに居ります。ピーッという音の後にマッサージを受けて、ゆっくりとお待ち下さい] ピーーッ

 

 音がすると同時に、ぽんっと空中に大型のチェアーが現れた。

 確かにマッサージ機能付きだな。なんでか、車が買えるくらいの値札が付きっぱなしなんだが、これどっから持ってきたんだよ。

 電源とかもどうしてるんだ。というか、そもそもなんでマッサージチェアを出した。ダジャレか。ただのダジャレなのか。

 ただのダジャレに、ここまで全力を尽くせと誰が言った。

 

 

 ウィンウィン…… ヴィーー シュコー……

 

 

 まあ、使うんだけどな。マッサージチェアー。

 だってお値段、驚きの7ケタだぞ? 百万超えだぞ? そらそんなもんがあったら、使ってみるだろ。

 手足もエアーで圧力かけて揉んでくれるらしい。ブーツやら腕の革バンドやら肩当てやら、もろもろを外して直に機械マッサージを堪能している。

 

 何やってるんだろうなあ、俺。

 そうは思うが、水が貴重な世紀末世界じゃあ、日本だと言うのに風呂にあまり入れなかったんだ。

 こうして全身リラックスして、血行をよくする機会も少なかった。

 ならばこうして休める貴重な機会は、逃す手は無いんだよな。

 ほら、アレだ。その場の人生エンジョイできてれば、モヒカン的にはオッケーだからさ。これでいいんだよ。うん。

 

 クリアまでは、近いようで遠いからなー。

 

 このゲーム。もはやゲームと言っていいのかはわからんけども、とりあえずゲームという事にして話を進めるぞ。

 このゲームな。エンディング自体は、無数に用意されているらしい。

 

 だいたい死亡エンドだけどな。

 

 ほら、どこぞの運命なゲームだって、死亡エンドの方が圧倒的に多いだろ? トラな道場でししょーとロリブルマな弟子に、何回会ったよ。

 俺以外のパイセンたちも、だいたい死んでるし。そもそもここ世紀末だし。愛で空が落ちてきた後の世界だし。

 

 あ~… もうちょい上のトコを… コントローラーは安いヤツとそう変わらんのな。

 ふむ? AI搭載で、自動でいい所を探してくれるモードが? 試してみるか。ポチッとな。

 

 血行良くするのなら、飲酒もアリだろ。一杯だけ引っ掛けるか。

 大分麦焼酎、吉四六(きっちょむ)。何十年と売れているロングセラーの有名どころだ。

 芋焼酎はクセがありすぎて、という人にもお勧め麦焼酎。その中でも殊更に飲みやすく、スッキリした味わいと香りでスルスルいけるぞ。

 とっくりみたいなボトルも、味わい深い。それから手酌でお茶碗に直接注いでね。こうクイッと行くわけよ。

 この雑さ。ざっくばらんな気安さ。これが宅飲みの楽しさだ。

 

 さーて。マッサージ機のタイマー付けてと。ちょっと昼寝するかあ。

 いや、この場所だと昼間か夜かはわかんないから、仮眠が正しいのか? まあいいや。ちょっと寝よう。

 酒飲んで、マッサージ受けながら、とろとろと寝る。

 これが温泉やら銭湯やらで、ひとっぷろ浴びた後なら、言う事は無かったのになあ。

 ああ。ここ出たら、クリア前に温泉探しに行こう。入りたくなってきた。

 

 うん。じゃあ、おやすみ……

 

 あ、なに? その前にクリア条件言ってけ?

 そう難しいもんじゃないぞ?

 料理人としてなら、自分の店を持って人生を生き抜いたらクリア。

 拳士としては、誰か南斗六星か北斗の使い手と戦って、勝ったらクリア。

 他にも医者とか、運送屋とか、商人とか、市長や町長、村長エンドがあるな。

 

 全部、サブのエンディングだけどな。

 

 これらのクリアは、人生が終わればクリア。そして、そのまま人生が終わる。それだけだ。

 まあ第二の人生楽しんだねという、言うなればそれだけの事。クリアというか、死んだ後にエンディングロールが見られるが、それだけらしい。

 

 サブという事は、当然ながらメインもある。俺が目指す、というかウィンドウさんが目指してほしいのがこっち。

 

 スキルを極めて、ラスボスを倒す。それも、相手と同じジャンルで戦って。それが条件だ。

 以前ケンシロウやラオウを麻雀で倒した事があったが、ああいうのだとダメという事だな。当たり前と言えば当たり前だが。

 

 南斗聖拳なら、サウザーら六星全部と五車星まで全部セットでラスボスな、という原作ケンシロウコースなので諦めた。

 北斗神拳は、ラスボスであるカイオウがもう死んでいるんで達成不可能。

 

 そういう事で、極めるスキルは調理技術になる。

 

 え? ヨガはもう極めたろって?

 ヨガでどうやって勝敗つけるんだ。それにその場合、相手はダルシムだぞ。

 

 [北斗神拳を極めるにあたり、肉体をアップデート中です。もうしばらくお待ち下さい]

 

 お、またアナウンス来たか。

 今度は映像付きか。またアニメじゃねーだろうな。いやドラマとかバラエティならいいってわけでもないけども。

 

 えっ。

 

 俺じゃん。

 映ってるのって、女人像の腕が、腹を貫いてる姿の俺じゃん。

 うん。あれ普通なら死ぬわ。なんでよりによって、その映像をチョイスした。

 

 いや、待てよ。ちと違和感がある。なんだ?

 う~ん…… 記憶にある女人像の腕よりも、映像の中の方が、短い?

 うん。間違いない。短いわ。よ~く注意して見てると、今も前後が短くなって行ってるわ。

 

 うん? それって、俺の体内に入って行ってるって事か?

 俺の身体に、あの腕がズブズブ入って行ってんの? え? 肉体のアップデートって、それ?

 

 北斗宗家の血を引いてないと、北斗神拳は極められないから、肉体改造をする。

 それはわかる。そこまではわかる。理解できる。

 

 でもその手段が アレ ってのは、わけわかんねえんだけど。

 

 いや説明はいいよ。聞きたくないから。理解しちゃいけないヤツだと思うから。

 ただ、さあ。

 

 さっきも言ったけど、クリアするのに使うのは調理技術スキルなんだが。

 ここまでして北斗神拳を極める理由って、あった?

 そこんとこどうなの、ウィンドウさんよ。

 

 

 



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無駄な努力はある。でもその経験を無駄にしない事はできる。できるのだ。

前書きでの推薦を他所でも見たけど、流行るんだろうか。
目次ページとかに 読者層が似ている作品 という自動推薦とかもある事だし、独自に推薦してもいい気はする。

というわけで今回はヒロアカの そら飛べワンチャンダイブマン ~1日1回個性ガチャ~ を推してみる。
去年10月にガーッと更新して、11、12月は1話ずつ更新してそこでストップしてたけど、作者名が AFO「映画に出番を数十秒ねじ込む個性」 氏に変わっているので、更新を期待。
かっちゃんのメイ言、ワンチャンダイブを実行しちゃった緑谷少年が、その結果、本当に個性をゲットしてしまったら? というIF。知性派かつ努力家な緑谷少年には好感を抱かざるをえない。
今の所最終更新の11話と、その前の10話のラストがすごい好きなんで、続きが読みたいです。


 気付けば、ムダに北斗神拳を極めてしまっていたんだが。

 特に使い道ないじゃん。マジで意味ねえぞ。

 

 あえて言うなら、ちょっとしたスタンド使いっぽくなったな。

 

 俺の体内にしまいこまれた、女人像の手。アレが出せる。

 思い通りに動くし、わりと遠くまで伸びるぞ。

 ちょっとどころか、モロにヨガの伸びる手とカブってるけども、伏線とかではなかったと信じたい。

 

 この女人像の手。実は第三の手として、少し便利使いしていたりする。遠くの物を、動かずに取ってきたりとか。

 核戦争前のライフスタイルだったら、寝転びながらリモコンを取って来るのに活用する所なんだがな。

 ほら、テレビのリモコンはだいたい手の届く所にあるけどさ。エアコンのリモコンとかは、そうじゃないじゃん。

 夜中に気温が下がって、設定してた温度じゃ寒くなって目が覚めちゃった時とかさあ。立ち上がらずに持ってこさせて、ピッて一発で操作完了できるんだぜ?

 そりゃ活用するだろ。

 

 炒飯を同時に2つ仕上げられるようにもなったぜ。

 

 これにより、卵の白身だけを使った、あまり水気を飛ばしていないふっくら炒飯。

 卵の黄身だけを使った、水気を飛ばしまくったパラッパラの焼き飯にも近い炒飯。

 この2つを同時に作り、盛り合わせる金銀炒飯がようやく満足のいく出来になったんだよ!

 

 銀の炒飯こと、白身を使う方。

 白身は先に入れて、半熟状態にしてからご飯投入。ちりめんじゃこと刻みネギも投入。塩コショウと、酒と醤油と中華ダシで味付け。

 白身を先に入れるのは、焦げ付かせるためだ。オコゲの香ばしさも炒飯のおいしさだからな。

 

 金の炒飯の方は、黄身は後入れだ。水気が少ないほうがパラパラに仕上がるんで、こっちは冷や飯で作るぜ。卵の白身を使わなかったのも、そういう食感のためだな。

 たんぱく質とかも入ってるけど、白身ってだいたい水で出来てるから。普通の炒飯作るときにも、あんまり入れない方がパラパラに出来るから。試してみな。

 黄身の濃厚な味に負けないように、細かく切った豚肉やらショウガやらを入れるぜ。タクワンとかザーサイとかも炒飯には付き物だけど、細かく刻んで炒飯に投入するのも、実はアリだ。

 炒めた漬け物ってのは、実に香ばしいぞ。炒飯の中にカリッとした食感が混ざってるのも、気持ちがいいし。

 出来上がりちょい前に、黄身を投入。サッと熱が回ったら、完成だ。

 

 この2つの炒飯。別々に皿に盛ってもいいけど、同じ皿に盛ると見た目が楽しい。

 食べ比べてみると、その違いが楽しい。これが同時位に完成してないと、温度差で味の出来が変わってしまって。あまり楽しくないんだ。

 やはり中華は出来たてに限るぜ。

 

 熱々の炒飯! 時間差で焼き上がるように仕込んでおいた焼き餃子!

 そしてスキルのおかげでサクッと出せる、冷凍庫で凍る寸前まで冷やした最高のタイミングで取り出した、サッ○ロ黒ラベル!

 ハーッハッハッハ! 美味い! うーまーいーぞー!

 

 [P:18→13 調理技術(中華):5 を習得しました]

 [P:13→5 調理技術:8 を習得しました]

 

 よーし。上がったか。しかしまたポイントがガッツリ減ったなあ。

 その甲斐はあったんだろうかね。さて、久々に上がった調理技術では、何が出せるかなー。

 

 ほう。油と果実とハチミツと来たか。デザート系だな。果実にはクルミやアーモンドなんかの、木の実も含むのか。

 油も、オリーブオイルやらゴマ油に、ネギ油、牛脂にココナッツオイルにガソリンと、何でもアリなようだな。

 

 うん、一個明らかにオカしいのがあったけど、俺は気にしない。

 だからキミらも気にするな。調理技術がぶっ壊れスキルなのは、今に始まった事じゃないだろ。

 

 落ち着くのに、とりあえずリンゴでも出してかじるか。

 磨いて皮ごと食うのが、俺のジャスティス。  シャクッ シャクシャクシャク……

 

 あ~~。シードル飲みてえ。

 シードルってのは100%のリンゴジュースから作った酒な。日本じゃマイナーだが、西洋じゃ割りとメジャーなはずだ。

 なんせ、シードルってのはフランス語で、英語とかじゃサイダーっていうらしいしな。

 リンゴジュースに酵母ブチこんで発酵させて、ろ過して炭酸吹き込んだら出来る、とは知ってるんだが…… 自分で作れるか?

 確か炭酸ガスを吹き込む道具は、直接ビンに付けるような、手動の小さいのもあったはず。

 

 ……ユダの所になら、あるかな?

 

 シェイクを作る機械とか、アイスクリームメーカーとか、ド○パッチとか、髪をはさんで寝癖やクセ毛を直すヘアアイロンとか、廃棄うどんをアルコールに変える装置とか、ワケわからんほど色々あったあそこになら、きっとあるだろ。

 ただ頼んでもくれないだろうし、食糧とかとの交換を持ちかけても、素直には応じないだろう。あいつは根性曲がってるから。

 きっと両手を中途半端に広げてヘラヘラ笑う、いつものポーズでなんかムチャ振りしてくる気しかしない。

 

 しかたない。サウザーを使うか。

 

 サウザーを連れて行って、泊まらせるぞと脅せば、たいていの事は聞いてくれると経験上ワカっている。

 これやるから、帰ってくれ。この言葉を何度聞いたことか。

 サウザーには、リンゴとハチミツを使ってバーモン○カレーでも再現してやれば、ホイホイ言う事を聞いてくれるだろう。

 実は甘党なユダにも食わせて自慢してやろうぜ! と持ちかければ、間違いなく乗ってくる。

 日々を楽しく生きるっていうのは、俺らモヒカンとサウザーに共通する生き様だからな。

 

 でだ。楽しく生きるってのは、自分の好みとかのこだわりや、人間関係のしがらみや情をぽいっと捨て去った方が楽に達成できる。

 

 何も考えずに、身もも心もモヒカンになって、後先なんて考えずにヒャッハーするだけだからな。

 

 でもそこまで理性や感情やプライドとか。そういうのを捨てがたいんで。せめていつでも捨てられると覚悟するに留めておいて、色々と吹っ切って勢いで生きよう。

 

 ……というのがヨガ:☆でヨガテレポート(真)と一緒に得た、俺の悟りだったんだが。

 日々を楽しくユカイに生きたいから、愛などいらぬ。愛ゆえに人は苦しみ、狂う。だから愛などいらぬ。

 そう主張するサウザーの意見と、かなりダダかぶりしてしまうのだが。

 

 まあ、なんだ。サウザーとは、トモダチみたいなものなんで、よしとしようと思う。

 

 さてと。じゃあ腹ごしらえもした事だし。

 そろそろこの空間から、オサラバするか。

 

 うん、実は今回もまだ脱出できてなかったんだ。

 相変わらず動画は流れてるが、世界○見えなんでマンネリ臭がハンパないし。

 だからいい加減、自力で脱出しようと思う。さっき気付いたんだが、ヨガテレポート(真)ならいけるだろ。

 

 じゃ、一応だが世話になったなウィンドウさん。アリガトよ。あとこのマッサージチェアはもらって行く

 さあ、帰るぜ! 懐かしきサザンクロスだヒャッハー! まずはマッサージチェアを自室に置かないとな!

 結跏趺坐。合掌。三、二、一、三味。ヨガテレポート(真)!

 

 

 



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襲撃してきたヤツに、メシを振舞ってもいい。自由とはそういう事だ。ただしそれを許してくれる上司というレアアイテムがいる(・ω・`)

夕飯を取るには遅い時間に、タンタンメンを大盛りで食べ終わってから気が付いた。

ヤベエ。明日朝9:00に血糖値の検査があるから、こんなん食べてちゃダメだし、時間もアウトだ。夜8時以降は食べちゃダメだったわ。

とりあえず、サウナ行って来ました。ちょっとはマシになるといいな。


今回推してみるのは、名は体を表す氏の 俺達はヒーローになれなかった。
生まれ持った個性の関係で、ヒーローになれなかったオリキャラを何人も書いていき、やがて彼らが一斉に原作へと関係していく、かもしれない展開。
だが推そうと思ったのは、それとは全く関係無い、雄英体育祭での選手、観客一体となっての大切島コール。10話を読んで、キミも叫ぼう きーりしま! きーりしま!


 気付けば、いきなりバトルだった。ウィンドウさんの仕込みを感じる。

 こう、ポイント足らないんだろ? 持ってけよと言わんばかりの、唐突さと巻き込まれっぷりだ。

 まあ確かにポイント欲しいし、助かるっちゃー助かるんで、乗っかるよ。

 

 でも今更まともに戦うとか正直面倒なので、調理技術スキルで解決したいと思います。

 

 敵が敵だけに、きっと何とかなると思うんだ。

 たぶんアイツ、腹いっぱいメシを食った事なんか無いと思うし。イベントとか、そういうの関係無しにご馳走してやりたいんだ。

 

「そういうわけで、いきなり町を襲ってきたデビルリバースにメシを食わせてやりたいんですが、かまいませんねっ!」

「あなたは 何を 言っているんですか」

 

 顔を北斗の拳とは別方向に濃くして決め台詞を吐いた俺に、久々に登場のハート様が真顔でツッコんでくれた。

 きっと俺もバットもいないサザンクロスで、ツッコミ役として地味に頑張ってくれていたんだろう。タイミングをつかんでいる。いいぞー。ツッコミいいぞー。

 

 うん。襲ってきたのは、デビルリバースなんだ。あの北斗の拳のアニメのOPの、最後のトコでケンシロウが飛び蹴りを食らわそうとする巨人。アレだ。 デデデーンデデデーン

 ラオウとかの2mを越す大男とかがいたりするこの世界だが、その中でも例外と言っていい程の巨体を誇る。

 

 南斗五車星の山のフドウなんかの、身長が変化するタイプもいるけどな。

 

 2mちょいのラオウと大して違わなかったり、肩に乗せたリンやバットの身長がフドウの顔の大きさと同じくらいに見えたりと、その大きさはかなり自由だ。

 男塾とかにも身長が変わる人いたなあ。三号生筆頭で、色々と奥義持ってたはずが、作者が面倒くさくなったのか最後まで一個しか技がもらえなかった人。 シンクーセンプーショー!

 当時のマンガは色々と設定がガバガバだったよなあ。そういう事もある、で流すスルー力が大事だぞ。

 

 ちなみに今から対峙するデビルリバースの身長は、18mはある。

 

 どっかの監獄に懲役何百年だかで入れられてて、しかもそれが核戦争より前の話だから、何年も前からずっと閉じ込められっぱなし。

 当然、核戦争の後から現在まで。彼に食糧や水を差し入れた人物は居ないと思われる。

 

 でもスゲー元気に生きてるんだよな。

 

 原作でも、外に出してもらった途端に、リハビリも準備運動も無しにケンシロウと激しいバトルやっちゃってるし。

 牢獄に閉じ込められてる間、ロクに運動とか出来なかったと思うんだが。

 

 ただ、そんな飲み食いも運動も必要なく健康に生きる方法が、この世界にひとつあるだろ?

 

 ヨガだ。うん、知ってたって声が聞こえるようだけども、またなんだ。

 でも別に俺がヨガ推しってわけでもないんだ。聞いてくれ。

 このデビルリバース。ただのでっかい化け物ってだけじゃない。なんと拳法を使うんだ。

 風殺金剛拳だか、羅漢仁王拳だかいう拳法でね。それで、これがね。古代インドの拳法という設定なんだ。

 

 そうだよ、インドなんだよ。

 ヨガの本場なんだよ。しかもヨガってのは成立が古代と言ってもいいんだよ。

 

 飲食不要だけなら、まだいい。カサンドラなんぞ、トキがダルシム使ってヨガを広めまくった結果、あそこの住人ならみんなそこまでヨガを高めてる。

 でも火を吐くとか、手足が伸びるとかだと、シャレにならん。

 だって18mはある大男だぞ? そいつが火を吐いたら、どんだけの規模で、どこまで広がるんだ。ドラゴンブレスか。

 手足が伸びたとして、どこまで間合いが広がる? 25mプールの端から端まで余裕で届くぞ。

 うん。やっぱ戦うって選択肢はないわ。

 

「…………できるのか?」

 

 俺の考えがまとまったのを読み取ったのか、絶妙のタイミングでシンが短く、そう聞いてきた。

 理解して信頼してくれる上司ってのはいいもんだねえ。

 じゃあ景気良く答えようかね。

 

「できらぁっ! 鉄板だ! 誰か、でっかい鉄板持ってこい!」

 

 まずはヤツの食欲を刺激する。

 それには香りだ。ウナギというのも考えたが、アレは焼き上がるのに時間がかかる上に、焼くのに技術がいる。

 秋山師匠ならイケそうな気もするが、デビルリバースが満足するまで100匹以上焼いてくださいって頼んだら、さすがにキレられそうだし。

 その点、焼き肉ならお手軽でいい。肉さえ用意して、この照り焼き風のタレに浸けてしまえば、あとは鉄板の上で焼くだけだ。

 

 フッ。デビルリバースよ。この醤油のコゲる凶悪な匂いに、抗えるものなら抗ってみるがいい! タレが照り焼き風なのはこのためよ!

 当初は醤油の存在をイマイチ受け入れなかったアメリカ人ですら、バーベキューで炭に醤油ぶっ掛けたらイチコロだったらしいからな!

 ほ~れ、醤油を塗ったトウモロコシもあるぞ。お前なら、芯ごと食えるだろ。

 

 

 侵攻ルートから少し外れた場所で始めた、鉄板焼き。その場所にデビルリバースはまんまと匂いに釣られて現れた。

 鉄板に直接手を伸ばすアイツに、俺は機先を制して、特大の皿に乗っけた焼き肉を差し出した。

 特大の皿のはずが、デビルリバースの手に持たれると、取り皿にしか見えない。その上に乗った肉は、そのまま口に放り込まれて即座に消えた。

 

 そしてヤツが咀嚼する。

 

 味というか、物を食うのに慣れていなかろうと、あえてシンプルかつ薄めの味付けにしたが、それが吉と出るか、凶と出るか……

 

 何回も口をかみ合わせたあと、デビルリバースはゴクリ、と肉を飲み込み。

 そして、こちらに皿を出した。

 

「よし。おかわりだな」

 

 ゴリッ…

 

 顔の筋肉が動く音、というには大きな音がして、デビルリバースのホホの筋肉が縦に持ち上がった。

 鬼の顔にも、笑みはあったようだ。

 

 

 

 そうして和解したデビルリバースを、毒殺するかどうか俺が悩むまであと3時間。

 

 

 




フェルメールがイケた人は、ラ・トゥールもいいかも。


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それが問題だ。

楽しんでやっていたはずなのに、いつしかやらねば、という義務感が混ざって
その比重が高まって、めんどうという意識が芽生えた時に、止まってしまう。

そんなソシャゲのデイリークエ消費みたいな気持ちでした。
とりあえず一話更新。



 気付けば、デビルリバースを毒殺するための毒を真剣に考えていた。スイセンの毒なら手軽に手に入るな……

 いや、違うんだ。カン違いしないでくれ。別に、手を変え品を変え料理を作り続けるのが、いい加減面倒になったってわけじゃない。

 確かに面倒ではあるが、それで殺しまではしねえよ。

 

 しかしいい加減ネタが尽きてきた感はある。

 牛豚鶏と肉を変え、ステーキに照り焼きに、大量のキャベツで包んでの擬似的な蒸し焼きに、ハンバーグ風に、ユッケに、小麦粉で衣を付けてのから揚げ風に。

 なんせ量を作らねばならないせいで、鉄板くらいしかまともに使える調理器具が無いんだ。

 寸胴ナベでさえも、デビルリバースにとっちゃ小ナベにもならない。俺らにとってのカップ麺よりも小さいんだぞ?

 元はなんかの壁だったんじゃねえかって鉄板での、大量調理。これくらいしか俺には対策が思いつかなかった。

 味付けも定番の醤油、ソース、ポン酢、マヨネーズあたりから塩麹、山掛けや酢味噌、マヨとケチャップのオーロラソース。中華あんかけなどまで、幅広く使い倒している。

 実質焼き一択しかないんだ。しかも大雑把にしか調理できない。そらネタも尽きるっちゅーねん。

 

 え? 野菜はって?

 

 あいつが 「肉だ! とにかく肉をよこしてくれ!」 ってリクエストしやがってなあ……

 まあ、久々の食事だろうし。好きなものを好きなだけ、好きに食べさせろってのもわかるけどな。

 白メシも要求されたが、そっちは秋山師匠らが用意中だからと、待たせる事に。

 何百人かがやってくるサザンクロス食堂の炊飯手段が、フル稼働中だよ。ここまで大量の米を一気に消費するのって、サザンクロス始まって以来、初なんだろうなあ。

 

 ところでだ。デビルリバースの言葉使いに、違和感を覚えなかったか?

 

 ああ、別についでとばかりに別の人間、例えばサウザーあたりがリクエストしたセリフじゃない。

 内容だけそのままで、言葉を変えたわけでもない。

 間違いなくデビルリバース本人の言葉、そのままだ。

 

 それと、デビルリバースの外見。それにも違和感がある。

 

 まずは髪型だ。だいぶんハゲが進行、もとい額が広くなっておいでだったはずの、その髪がだ。あるんだよな。

 しかも二本の長いフサがあるほどに。前髪が、あるんだよ。

 それに髪の色も、なんか金髪になってるんだが。

 

 体型だって、筋肉質ではあったものの手が長く、全体のスタイルとしてはバランスが悪かったはずなのに、妙に整っている。

 ボディビルダーのような、上半身が逆三角形の筋肉モリモリマッチョマンな体型になっている。

 

 

 さて。結論から言おう。

 

 あいつね。 (なか)の人 がいやがったよ。

 

 

 うん。マジで。

 

 しかも、なんか…… うん、なんつーか、こう…… 普通の中の人じゃないってーか……

 

 別の世界のキャラっぽいっていうか……

 

 別世界の No.1 ヒーローっぽいっつーか……

 

 

 

 ほぼ、オールマイトです。

 

 

 

 いや、マジで。

 

 とっさに毒殺を考えた俺の気持ちも、わからない事もないだろう?

 

 ダメだろ。あんなん北斗ワールドに持ち込んじゃあ。しかも弱体化してるのか、ひっじょ~~に怪しい。

 もしも個性も持ち込んでいた場合、どうなると思う?

 

 あの巨体+ワン・フォー・オール=これはヒドい

 

 この公式が成り立つと思うんだ。もう何も説明しなくても、余裕で証明完了だよ。むしろ、世界終了だよ。

 

 

 ああ、一応説明しておこう。

 オールマイトは、僕のヒーローアカデミアという作品のキャラクターで、全盛期なら世界最強だ。

 闘気とかは使えない、と思う。だがそんなものは彼には必要ない。

 

 だってただのパンチで 剛掌波 撃てるもん。

 

 しかも出力全開じゃないぞ。だいたい15~20%くらいの出力でイケるらしい。

 背筋にフンッて力を入れて撃って、その反動で空を飛んだりもするぞ。

 まあ、胃やら肺の片方やらを戦いで無くしちゃって、弱体化してたけどな。

 それでも短時間ならムリヤリ全開で動けたらしい。

 

 

 そんなバケモノが今。デビルリバースの肉体を手に入れております。

 フフ…… 怖い。

 

 

 ビビッた俺が、今なら殺れるか? と真剣に算段している気持ちを、ワカっていただけただろうか。

 

 食事の提供がてら、少しばかり会話をしてそこいらを知ってしまったわけだが。

 正直もう、どうしていいのかわかんねえ。

 

 ただ、俺と同じく記憶が無いらしいのよな。

 

 ここへ来たのは、なんか悪のニオイを感じたかららしい。

 悪は倒さねば。このコブシで殴って倒さねば。そんな強迫観念があったんだそうな。

 

 ああ。ここって、南斗の幹部連がちょくちょく顔出してるもんな。ちょっと前まで、ラオウも住んでたし。

 正義の集団です、とはとてもじゃないが言えないからなあ。

 でも単純に悪ってだけでもないんだよ。この世紀末を統治するのに力はもちろん、悪も必須なんだよ。たぶん。

 

 さて。とりあえず、シンを紹介して倒すべき悪かどうか判定してもらおうかなあ。

 最近では、天帝ルイとバット似の少年レンへの庇護欲を暴走させて、ムダに殉星を輝かせている我が上司。

 ケンシロウへの想いをこじらせていて、成り行きでケンシロウをシバきあげて、その恋人ユリアをさらってしまった前科持ち。

 フィギュアマスターでもあり、1分の1 ハイパーリアルタイプ ケンシロウを隠し持ち、そのカモフラージュに1分の1 リアルタイプ ユリアを堂々と飾る男。

 南斗六星拳のひとりで、この世紀末の世に暴力で関東をまとめあげ、このサザンクロスという都市を造り上げた暴君。

 

 あれ? なんか倒すかどうかは置いておいて、一発くらい殴ってもいい気がしてきたぞ?

 

 いや待て。デビルリバースの一発だと、それでもう死にかねん。シンは意外と打たれ弱そうだし。

 ならばやはり、今のうちに殺るべきか。いや、しかし。

 

 ん~~…… これが To be or not to be. That is the question. というやつか。

 まさしく、シリアルプロブレムだぜ。

 

 どうしたもんかなあ……

 

 



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プルス・ウルトラ…… そんな言葉は使う必要がねーんだ。なぜならその言葉を(中略)プルス・ウルトラ(した)! なら使ってもいい!

 気付けば、オールマイト in デビルリバースがサザンクロスのトップっぽくなってしまっていた。

 

 下克上か。そんなプルスウルトラはいらんかったぞ。

 見ろ。シンを。アミバと一緒に部屋の隅っこで体育座りしてるじゃないか。

 

 あっ。こっち見た。 コッチミンナ

 

 だがデビルリバース… デビルリバース? まあ、ともかくあいつに文句とかは言い辛い。

 勝てないからとか怖いからじゃなくて、そもそもあいつ…… もう八木さんでいいか。八木さんにトップの座を取ろうとか、取ったとかいう意識は無いんだよなあ。

 八木さんにしてみれば、ごくごく普通の価値観で、あたりまえの行為で、いつも通りの言動だったんだろう。

 

 トップヒーローとしてのな。

 

 長年ナチュラルボーン・ヒーローを演じて、もはや魂にまで染み付いてしまったソレは。

 どうやら、生まれ変わったのか人格だけコピったのかは不明だが、その程度では消えるどころか、揺らぎもしなかったらしい。

 

 それ自体は素晴らしいとも、もはや呪いのようだとも思う。だが問題なのはそこじゃない。ポイントは八木さんに助けられた人らの数と、反応だ。

 

 メッチャ、多かった。そしてものっそい、反応が良かった。

 

 

 例を挙げよう。

 

 

 シンが町を視察していたときの事だ。

 サザンクロスにはそもそも傾いたビルとかが多い。

 ビー玉を置いて、ひとりでに転がり出したら欠陥だと騒げるような、そんな繊細な神経の持ち主など、もはやどこにもいない。

 だが何事にも限度はある。

 10度以上傾いたビルの、上層で暮らせるような強靭な神経の持ち主も、またどこにもいなかった。

 世紀末の住人にも、限界はあったらしいな。

 

 そもそも土地がダダ余りしてるからなあ。

 核戦争前なら、どこぞの試されっぱなしな大地でもなければ、周りを見渡して民家の無い場所なんぞ、山や森の見晴らしの悪い所ぐらいじゃなかっただろうか。

 個人的な記憶があやふやなんで、断言までは出来ねえけどよ。

 

 盛大に話がズレたな。戻そう。

 

 そん時のシンの視察も、そんな傾きすぎたビルが目的だった。そのビルの近所にねぐらがある住人から、陳情があったんだ。

 

「そろそろあのビルが崩れるか倒れそうなんで、何とかして欲しい」

 

 ムチャ振りだった。

 確かに南斗の拳士は破壊が得意だけどもよ。車や一軒家くらいなら壊せるけども、ビルはムリだろ。しかも10階建て以上の高層ビルだぞ。

 だがモノは高層ビル。放っておいてヘタに崩壊したら、大惨事。

 

「よし。ヘタに壊せないなら、うまく壊そう」

 

 シンがそう、方針を固めた。

 そしてビルの影の長さと、テキトーに選んだモヒカンの影の長さの比から、だいたいのビルの高さを割り出したり。

 シンのデク作製スキルを生かして、模型を造って、安全に崩壊させる実験を繰り返したり。

 核戦争前に発破解体をしていたという老人を探してきたり。

 念のための周辺住人の避難計画を立てたりと。配下の俺らを使って、まあ色々と対策を立てていったわけだ。

 

 一方、八木さんは腕力でビルを押してまっすぐに立てた。

 

 それがたまたま、住人集めて説明会やってる最中でさあ。

 一緒にそれ聞いてた八木さんが、それならワタシが力になろう! って言って、みんなの目の前でちょちょいと直しちゃってさあ。

 住人たち、大フィーバーよ。もうドッカンドッカンよ。シンなんて最初っからいらんかったんや!

 

 盛り上がる住人らをよそに、直ったビルの安全性を確認させるシンの背中は震えていた。

 

 

 

 他にも俺がちょっと、いやかなり長く野良モヒカンの群れを間引いてなかったせいで、なんか大連合が出来ちゃったらしくて、そいつらが襲来した時だ。

 

 [イベント:モヒカン連合襲来 が 発生しました! がんばって都市を防衛してください]

 

 ウィンドウさんのこんな告知もあって、よっしゃ、ポイントゲットのチャンスだなって俺も思ったのよ。

 シンも、兵を集めよ! ってマジになってたさ。その姿を見た天帝ルイちゃんとレン少年も、目を輝かせてたっけなあ。

 

 全部、八木さんが持ってったけどな。

 

 モヒカンの群れ? そらもうスマッシュ一発よ。

 もう巨大オールマイトにしか見えないデビルリバースが、大ジャンプから着地でド派手に登場。

 記憶が無いせいか技名は叫ばなかったが、右腕を思い切り振るって衝撃をカッ飛ばしてモヒカン達の大半を宙に飛ばす。

 そこで笑顔でヤツはこう言った。

 

「まだ、やるかい?」

 

 残ったモヒカン達も一目散に逃げ出して行ったね。

 それから八木さんがサザンクロスの方へと振り返って、あの画風の違う笑顔でグイッと親指を立てたもんだからさあ。

 もうまたドッカンよ。

 ヤ・ギ・さん! ヤ・ギ・さん! の大合唱と手拍子が、しばらく鳴り止まなかったね。

 

 それ始めたのって  だけどな。

 

 いや、うっかり生マイトの、それも特大生マイトの活躍に盛り上がっちゃって……

 正直、スマンかった。

 俺まではしゃいでいるのに気付いたシンの「お前もかブルータス」という顔には、少しだけ罪悪感を覚えたぜ。

 

 で、その時だ。

 歓声の中、八木さんが刺された。

 誰にも気付かれずに、いつの間にか攻撃を終了させる、熟練の技。ターバンのガキだ。

 

 歓声が止まる。

 しかしそれが悲鳴に変わる、ほんの少し前。みんなが息を吸ったタイミングで、そこで八木さんが悲鳴を止めた。

 

「元気がいいな少年! だがワタシにはその程度では通じないぞ!」

 

 身体の大きさと、筋肉の厚さと固さ。

 八木さんのそれの前じゃあ、一部で最強説さえ流れたあのターバンのガキすらも、子ども扱いだった。

 

 ヤ・ギ・さん! ヤ・ギ・さん! ヤ・ギ・さん! ヤ・ギ・さん!

 

 再びの大合唱。この時ばかりは、シンも一緒に手拍子をして叫んでた。

 

 

 

 それと食糧だ。

 最初こそガッツリいった八木さんだったけども、その後は一向に食事を取ろうとはしなかったんだ。

 何でかって聞いたらさ。

 

「ここでは食糧は貴重なんだろう? すっかりごちそうになってしまって、すまなかった。だがもう大丈夫だ。ワタシはなぜか食べなくっても平気みたいでね! みんなでキチンと3食食べてくれよ!」

 

 HAHAHA! とアメリカンに笑って、八木さんはそう答えた。

 それが広まって、また彼の人望が上がってしまったのは言うまでもない。

 

 しかし食べなくてもいいとは、やはり持っているな。ヨガ。

 炎を吹くか、手足を伸ばすか、テレポートするか。

 本格的にヨガを教えるべきか、スルーするべきか。これもまた To be or not to be 案件だな。どうしたもんか。

 とりあえずは棚上げしとくか。俺も調理スキル上げるのに忙しいし。

 

 

 

 他にも、組織作りとか意外と得意なんだよな。カネや資材の回し方を解っているというか。

 最近さあ。サザンクロスの近郊に農村が着々と増えてるんだよなあ。

 そこまでの流通とか連絡も、ちゃんと取れてるんだよなあ。

 

 シンじゃなくて、八木さんの仕業なんだよなあ。

 

 ここまで自分の作った町で勝手されたら、シンもキレていいと思う。

 でもほら。シンって、中途半端に良識とかあるから。

 サザンクロスにとっていい事をしているのに、とがめるのはどうなんだ、とか。

 功績に嫉妬するダメ領主って感じで、カッコ悪くないか? とか考え込んじゃってなあ……

 

 そして考え込んでいる間も、八木さんのおかげでサザンクロスの運営は回るというね。

 むしろシンがいない方が、スムーズに回るというね。

 なんというか、もう、ね。

 

 居場所とか存在感が…… ね?

 

 どうしてこうなった。

 ここからの巻き返しとか、正直ムリゲーだぞ。どうすりゃいいんだ。

 どうもしなくても、問題ないっちゃないんだが、こう、何と言うか。謎の罪悪感があるんだ。

 もっと早く殺っときゃよかったとか、あの時盛り上げなければとか、うっかり八木さんを町のあちこちに紹介しちゃったのはマズったかなあとか。色々とな。

 

 というわけで、一計を案じてみた。

 

 題して、お兄ちゃん作戦だ。

 

 うん。解ってる。解っているから、引かないでくれ。実行するの俺じゃないから。レンとルイの少年少女だから。

 あの二人にとってのヒーローである事ができたら、それでいいだろ。

 きっとそれで納得してくれるはずだ。だってシンだもん

 作戦内容についてはだいたいわかると思うんで、省かせてもらう。

 

 前向きに考えよう。サザンクロスが安泰になった。シンは子守りに全力を尽くせるようになった。それでいいじゃないか。

 いずれファルコが迎えに来ちゃった時のやっかいさが上がったけど、それは将来の事なんで今は忘れろ

 

 さて。今回の一連のデビルリバース(仮)の騒動で、増えたポイントは10。

 トロフィーの金と銀を1つずつ達成、そのポイントを使って調理技術を9に上げた。

 出せるようになったのは、肉類全般と加工食品という、範囲が広すぎて逆に困るヤツ。

 研究を重ね、ラスボスに備えねば。料理勝負に負けたらどうなるか。大したことがなさそうなのが逆に怖い。

 秋山師匠を巻き込んだら、たいていの相手には勝てる気がするが、タッグバトルというのはアリなんだろうか。

 

 調理技術を10に上げたら、始まってしまう。そんな予感がある。

 あと少し。

 あと少しか。

 この世界も、この生活も。

 この日々が、終わるのか。必死に生きてたはずが、気付けば必死にツッコミ入れてた記憶しかない、この日々が。

 

 …………あれ?

 

 別に終わっちゃっても、特に思うところがあんまり無いぞ……?

 

 あれれ~?

 

 

 




このサブタイトル、作中で使いたかったけどさすがに使えなかったw
こんなセリフを言うオールマイトはステキだけどイヤだw


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人生色々あるもんだけど、いつだって三丁目の夕日(謎)

一瞬だけ! 帰ってきたぜ!


 

 気付けば、三年が経っていた。

 おかしいな。クリアまであと少しだったはずなんだが。

 でもしょうがないんだよ。考えてみてくれよ。

 俺が攻略してるルートってさ。アレじゃん。料理じゃん。で、料理ってさあ。

 

 一年や二年で、極められるもんだったっけ?

 

 うなぎ一つとってもだ。串打ち三年、裂き八年、焼き一生とか言われてるんだぜ?

 それを極めなきゃクリアできないって、お前、どんだけ時間かかるんだよ。先に寿命が来るわ。

 

 なかなかなかなか調理技術(中華)が上がらねえなあ、と思ってたら、そんな事に気が付いたわけだ。

 だが解決方法までは思いつかなくてなあ。結局は、地道に修行を積んだわけよ。

 

 

 それで三年もあると、色々とあったわけだ。

 

 

 復活の味将軍として再び立ちはだかってきたジャギを、本格的にジャン師匠の弟子になってたアミバが返り討ちにしたり。

 俺? 俺は八木さんと一緒に、審査員やってた。

 

 鍋物、というお題にフグを持ち出してきたジャギに、免許持ってんのかとリハクがキレていたが。今思うと、なぜアイツがキレてたんだろうな。

 しかもジャギは免許持ってたし。核戦争前のジャギの人生に、何があったのか。家出時代に、漁師か料亭の世話にでもなってたのか。

 紙幣がケツ拭く紙にもなりゃしねえ、この世紀末で。ヤツが何を思ってその免許を持ち続けていたのか。少し気になる。

 

 だがその免許の確認をやってる間に、アミバがキムチ鍋を出しやがってなあ……

 豚肉と白菜に、よくスープが染みて辛美味いし。絶対美味いからと、俺が出した冷えたビール(冬物語)にもよく合ったんだが。

 

 そんなもん食った後に、フグの味がわかるかって言うと、なあ……

 

 

「卑怯者めぇ~!」

 

 

 そう叫ぶジャギに。みんながお前が言うなと思いつつも、内心賛同していたと思う。

 口に出して擁護した奴はいなかったけどな。

 

 

 泰山の、ほぼ人間から退化して猿になってたヤツらの襲撃とかもあった。

 集団で押しかけて、食糧を奪っていくという野生の猿みたいな奴らだったな。

 

 食糧だけでなく、物資や人も奪っていく野生のモヒカンよりはマシだな。

 

 技能ポイント稼ぎに、俺も退治に乗り出したんだが。意外な奴も動いていた。

 ユダだ。

 なんでも、北斗の拳究極版の表紙からハブられた哀しみをブツけるためとか言っていたんだが……

 

 リボルテック・フィギュアのシリーズからハブられた方はいいんだろうか。

 

 義理があるからと、修羅の国でラオウの代わりに内政を頑張ってるはずのリュウガが泰山側で出てきちゃったんで、ガチってたが。

 鳥の名を冠する南斗の拳らしく、鳳凰拳ほどじゃあないが、身軽に飛び回り、伝衝裂波や手刀による切り裂きでヒットアンドアウェイに徹するユダ。

 機動力では劣ると悟り、攻撃の速さがウリの泰山天狼拳でのカウンターに賭けるリュウガ。

 両者の戦いは、実に見ごたえがあった。

 

 俺? 俺は八木さんと一緒にザコ狩りしてた。

 一応、体の大きなボスっぽい固体もいたけど、正直違いが良くわかんなかったし。

 ほら、一応俺も北斗神拳極めてるから。この程度だと、人質でも取られてなければ何とでもなるから。

 むしろ、巨大オールマイトな八木さんに先に倒されて、ポイントをゲットできない恐れの方が大きかったぜ。

 

 なお二人の勝負は、書類仕事で運動不足だったリュウガのスタミナ切れで終了した。

 リュウガは力尽きながらも、幹部待遇で修羅の国の政府にユダをスカウトしようとしていたが。

 さすがのユダも、権力がもらえるとしてもブラックな労働はイヤだと断っていた。

 

 まあ、俺は誘われすらしなかったんだけどな。

 

 

 他にも、モヒカン・オブ・モヒカンという、モヒカンの中でのトップを決める謎の大会に運営として巻き込まれたり。

 肩パッドを専門で盗む、謎の怪盗をサウザーと一緒に捕まえるハメになったり。

 そういえば南斗六星の誰も、後継者とか育成してないんじゃと気付いたシュウが、南斗聖拳の道場を再建したり。

 なぜかバットが後継者候補として、シュウとレイとの間で取り合いになったり。

 

 サウザーが側近さんに、そろそろどなたかと結婚を、と勧められて。そうだ天帝と結婚すれば、我は真の帝王にとトチ狂って。

 天帝ルイの保護者として、父親になり切っていたシンに死力を尽くして挑まれてしまった事もあった。

 あの時は、誰もサウザーの味方をしなくて、サウザーが涙目になってたっけなあ。

 愛などいらぬけども、カマって欲しいし味方はして欲しいという面倒臭い自己中だからなあ。

 最終的には、愛が無いのに、結婚するの? というリンちゃんのセリフで心を折られていたけど。

 次の日には元気にカレー食ってたあたり、メンタルが強いのか弱いのか、よくわからん男だ。

 

 

 そうして三年が過ぎて。調理技術(中華)が6に上がった日のことだ。

 俺は、ふと気付いた。気付いてしまった。

 

 

 あれ? ひょっとして 水影心で、調理技術もパクれたんじゃあ……

 

 

 脳裏に、走馬灯の如く記憶が高速でよぎる。

 鍋を振るい、かき回し、火加減を覚えて。包丁を操り素材を整え、細かい細工も何度も練習して。調味料の組み合わせと加減を何とか目で盗んで。

 あれらは全部、無駄じゃあなかったけども。メチャクチャ遠回りだった、のか……

 

 うおおおお。なんだこの絶望感は。

 まずい。心が折れそうだ。

 酒だ。酒を飲もう。今日はもう、飲んで寝よう。そうしよう。

 

 ああ、でもその前に、調理技術も上げようか。ポイントはあるし。

 ウィンドウさん、上げれるよね?

 

 

 [P26→16 調理技術:10を習得しますか?(Y/N)]

 

 

 ああ、上げれるのね。もうたいがいのモンは出せるけど、どうなるのかね。Yっと。

 では解説スキルっと。何が出せるのよ。

 

 えっ? その他?

 うん? その他って何だよ。

 えっ? 何でも出せるの? 何でも?

 

 なにそれ怖い。

 

 

 



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北斗のモヒカンの特徴ってなんだろう。バイクと火焔放射とヒャッハー?

復帰のご祝儀とばかりに、一日だけランキング入り、ありがとうございました。
ネタが降りてきたので更新。

そしてテルシオペロ氏の ソードアート・バグライン を推してみる。
残酷な描写が、マジ残酷な描写。というか残酷な状況。
あらすじに 端的に言って、デスゲームと化したソードアート・オンラインは、バグっていた
ってあって、ユカイな状況かと思いきや、慈悲などないとばかりの悲惨な状況に。
カヤバァァァ!と怨念込めてみんなが叫ぶぞ。
そんな状況の中でこそ、キャラたちは輝くよね。ああ人間賛歌を歌わせてくれっ。

と紹介したら ソードアート・デスライン にタイトルが変更されました。
タイトルからすらほのぼの感を消した、もっと追い詰めないとという覚悟を感じる。

あ、本編始まります。


 気付けば、俺は種モミだけを目に写して、走っていた。

 

 ブーツで砂を蹴って、前へと跳んで進む。

 砂を蹴り上げてしまえば、それは空回りになってロスになる。

 意識して、蹴る力を全て地面へと、それもなるだけ水平に近く、流し切る。

 蹴って。蹴って。進め。もっと、速く、早く。前へ。

 

 ゴールが近付くにつれ、徐々に上体を起こしていく。

 全開のまま筋肉を酷使していると、ブチッといく。そうでなくとも疲労で効率は落ちる。

 だから姿勢を変えて、筋肉を使う箇所をズラしていく。

 100メートルを走り抜ける、オリンピックの短距離選手たちもそうしていた。

 あれが世界最速の男たちだった。

 記憶の中の、イメージ。それを再現しながら、走る。

 

 だがそれを上回るスピードで、俺の横を駆け抜けるヤツがいた。

 

「ヒャッハーー!!」

 

 久々の出番に、テンションが上がっているらしく、いつもよりも大きな叫びを上げる男。

 スペードだ。

 

 元はシンの配下の、キング軍の幹部のひとり。原作では種モミを集めていた爺さんから、それを奪ったはいいがケンシロウに取り返されてしまった男。

 そのせいだろうか。種モミ関係で負けるわけにはいかん! そういう意気込みを、何となく感じる。

 

 たぶん気のせいだ。

 

 単にバイクで俺を抜かして、トップに躍り出たのが嬉しかったんだろう。

 ああ。バイクだ。

 

 走ってるんじゃなかったのかって?

 うん。走ってるよ。俺は。

 だって距離が短かったんで、走った方が早そうだったんだ。

 最後に種モミを取るのにも、バイクから降りるという手間が省けるし。

 こうやって跳べる事でもあるしな!

 

 南斗! 鶴翼迅斬(かくよくじんざん)

 

 鶴と名前に入っているのに、なぜか南斗水鳥拳のレイの技で前に跳ぶ。水影心って便利だね。

 しかし、紅鶴拳のユダはどこまで立場が悪いのか。

 原作だと奥義の血粧嘴(けっしょうし)が不発に終わって、どんな技なのかは長年の謎だったし。

 いくつかのゲームと、ラオウ外伝で手を虎爪の型*1にして、左右の連打から遠距離攻撃を飛ばす… というのが正解らしいのだが。

 どれも微妙に仕様が異なるし。やっぱり謎奥義なんだよなあ。

 見せてくれって言っても、ユダだし、素直に見せてくれなさそうだよなあ。

 

 種モミを手にした事で、急激に戻ってきた理性でもって、そんな事をつらつらと考えた。

 無理やり連れてこられて、参加させられたというのに、これだもんなあ。

 種モミってやつは、どうしてこうモヒカンを狂わせるのか。

 見かけた瞬間、ネコまっしぐらってなもんだからなあ。

 こんな危険物は、俺がしまっておかないとね。危険だからね。

 

 だって周りには、モヒカンしかいないからね。

 しかもいっぱいいるからね。

 

 さて、そろそろ説明しよう。

 今回、俺がいる場所はサザンクロスから少し離れた、元は野球の球場があったと思われる場所。

 たぶん、ツバメな球団が本拠地だった所じゃなかろうか。ドームじゃないし。

 そこで何をしているのかと言えば、だ。

 

 モヒカン・オブ・モヒカンの決勝トーナメント、題してザ・ラスト・オブ・モヒカン。だ、そうだ。

 

 前回、俺が審査員やってたって言った、アレの本選らしい。

 なんで俺が参加してるのかって言えば、なんかシードらしい。

 

 選手たちは、もちろんみんなモヒカンだ。審判もモヒカンで、観客席を見渡しても、モヒカンしかいない。

 意外と髪の色が赤やら緑やらカラフルだったり、モヒカン部分が長髪だったり、パンチパーマだったりと変化はあるが正直どうでもいい。

 

 男臭いんじゃあぁあああ!!

 むさ苦しいんじゃぁぁああああああ!!

 

 マッチョな男達だけの体育祭とか、何やってんの? ねえ、俺何やってんの?

 競技がパン食い競争ならぬ、種モミ争奪競争とか、障害物競走がバイクで走るとか、相手の玉を燃やして妨害する玉入れとか!

 なにちょっとモヒカン風にいじっとるんじゃぁぁあぁああああ!!

 

 玉入れは、ちょっと面白かったけども。

 久しぶりに、ヨガファイヤー連打しちゃったよ。

 

 まあ、それは置いといてだ。

 

 シュウが参加してるんですけど。

 南斗白鷺拳の人で、仁の星の六星拳の人なんですけど。

 

 まあ、一時期モヒカンどころか、つるっぱげになってたけども。

 修羅の国に置き去りにされて、帰ってきたら坊主にクラスチェンジしてて、念仏でサウザーらを苦しめてたっけ。

 アミバの開発した、髪が急激に伸びる秘孔を突いて、拳士に戻しておいたはずだが。

 

 それがなぜ今、モヒカンになって、モヒカンのNo.1を決める大会に出場しているのか。

 そこんとこ、どうなんですかシュウ。

 

 

「この大会で優勝すれば、モヒカン達を大人しくさせられるかと思ってな」

 

 

 そのために髪をバッサリやって、こんなトンチキな大会に参加するとか。

 はは~ん。さてはあなた、いい人だけど天然だな?

 

 だがそういう事なら話は早い。

 もう後の事はあなたに任せて、俺は帰ろうと思うのですが。

 え? ダメ? なんで?

 

 

「シード選手であるお前を、実際に目の前で倒しておかねば真の優勝者と見られず、モヒカンどもが言う事を聞かない可能性があるからだ」

 

 

 真面目か。

 いや、真面目だったわ、この人。

 

 

「では、午後の騎馬戦で、決着をつけよう」

 

 

 そう言って、シュウは去っていったのだが。

 だが、騎馬戦で俺は彼の姿を見ることはなかった。

 

 この騎馬戦も、モヒカン風にアレンジが加えられており。

 三人が組んで作った騎馬ではなく、バイクに乗っての体当たりで、相手を落としていくという過激な競技になっていたんだ。

 

 それでね。

 

 シュウさんね。

 

 バイク、乗れないんだってよ。

 

 南斗白鷺拳のシュウ。彼は、盲目という設定があって。

 さすがに盲目ではバイクに乗ることは出来ないんだそうな。

 うん。今、高齢者の免許とかもうるさいし、仕方ないね。

 

 うん、仕方がない。

 仕方が無いんだが。

 

 うっかり優勝しちゃった俺の立場は、どうしてくれるんだシュウ様よ。

 

 

 

*1
拳の状態から、少し開いてカギ爪のようにしたもの



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旅立ちは突然に。

ソシャゲを封印したら書けるように… でもたぶん一時的なもの
ならば一瞬だけでも、閃光のように……!
ところで教師の事をセンコーって言うのは、もう死語だよね。使い手の不良自体が絶滅危惧種だからね。
でも成人式とかだとよく見かけられる。福岡とか群馬だと、発見率高そう(偏見)
郵便物でロケットランチャーと正直に書いて送ろうとした事件がこないだあった、札幌でもいるのかしら。福岡だと手榴弾とか拾ったら届けてねって警察が気軽に言ってるらしいけど。いや、気軽かは知らないけれども。

あ、そろそろ本編です。


 

 気付けば、俺は無人島にいた。

 八木さんのせいだ。と言っても、彼は悪くないのだが。

 

 と、いうのもだ。事の始まりは、俺が八木さんに無茶を頼んだ事から始まったんだよ。

 

 まあ、まずは前回うっかり、あの頭の悪い大会に優勝してしまった件だ。

 そのせいで俺は、モヒカンども全ての上に立ったわけだが。

 

 それは、つまり。全てのモヒカンの管理と、面倒を見なければならないというわけで。

 そんなもんは無理だし、ゴメンだ。

 そういうわけで、出来そうな人にブン投げる事にした俺を、責めていいのはオールマイトだけだ。

 

 全てを話し、頼み込む俺に。八木さんは黙って笑顔で、親指だけを上に立てる、サムズアップでこたえてくれた。

 タイマンで戦い、俺を倒す事で、手に入れてしまったモヒカンの帝王という称号を継承してもらうのだ。

 

 なおこの称号。入手してもポイントはもらえなかった。

 むしろ持っていかれなかっただけ、良かったのかもしれないが。

 これ、どっちかというと、バッドステータスだと思うんだ。

 

 それでまあ、再びのスタジアムで、モヒカンの群れの中でバトルしたわけだが。

 最初は強く当たって、後は流れで。

 という、八百長における伝統と信頼のオーダーを、八木さんにはしておいたわけなんだが。

 わけなんだが。

 

 八木さんの身体ね。今、デビルリバースなんだ。

 それでね。デビルリバースの身長って18メートルなんだ。

 それプラス、オールマイトのパワーを使って、強く当たってってさあ。

 

 うん。飛んだ。飛んだよ。

 すげーカッ飛んだ。文句なしの、場外ホームランだったよ。

 

 八木さんが俺を飛ばした後。一瞬の静寂の後に轟く「八・木・さん! 八・木・さん!」の大合唱を聞きながら。

 ああー。だんだん声が遠くなっていくなー。と、どこか他人ごとのように考えつつ、俺は素直に飛ばされていった。

 

 まあ、アレだ。慌てても仕方が無いし。

 八木さんがからむと、ギャグ補正が強化でもされるのか、悲惨な結末って今まで無いし。

 空を飛ぶのは、人間砲弾で慣れてるし。

 メッチャ遠くまで飛ばされても、ヨガテレポートで一発だし。

 

 うん。問題ないな。

 

 そうと解れば、こっちのもんだ。

 このまましばらく休暇でも楽しませてもらおうか。

 辿りついた先が、知らない場所だったら、探検してみるのもいいだろう。

 

 そうやって落下した先が、この無人島だったわけだ。

 

 いや、人は居たんで無人島ではないか。

 と言っても、住み着いたのは最近だったらしいので、無人島だったのは間違いない。元、無人島というべきか。

 

 そしてこの元、無人島。やはり普通ではなかった。知ってた。

 

 落ちる前の上空から見て、島なのは判っていたんだ。

 さほど大きくはないが、この世紀末では貴重な、緑に覆われた島で、ビルっぽい建物が一つだけぽつんと海岸近くに建っていた。

 

 ホテル ニュ~ あー○ーじー

 

 懐かしきCMが脳内で自動再生された。

 うん。アレっぽい建物だったんだ。

 いや、別物だと思うけども。淡路島ほど、この島大きくないし。

 

 

 [注:ここは関西ではありません]

 

 

 だよね。ウィンドウさんありがとう。

 でも、どこなのかを教えてくれてもいいのよ?

 

 

 [作曲は西浦達雄氏ですが、これで曲全部であの組織に登録されていないので、対策不要です]

 

 

 作りこんだら意外といい曲になりそうだけどな。いす○のトラックみたいに。

 まあ、いいや。とりあえず、あの建物を目指してみようか。

 

 そうやって移動しようとして、驚いた。

 道があったのだ。

 それも獣道とか、踏み固めただけの道じゃない。コンクリートで固められた、きちんとした道路だ。

 

 しかも無駄に外灯が付けられている。

 電源とかどうなってんだ、と思ったら、上部にソーラーパネルらしきものが付けられていた。

 

 この物資のない世紀末にどっから……

 

 そう思いつつ、のどが渇いたな、と調理技術スキルがその他に達したおかげで出せるようになった、ファンタをグビリとやってハッとした。

 

 ひょっとして。この外灯とかも、スキルで出されたものなんじゃ?

 

 居るのか? 俺以外の、プレイヤーが。

 数々のパイセン達がいたのは、あの謎空間で記録映像を見たが。

 どうなんだ? ウィンドウさん。

 居るのか? 俺の、敵か、味方が。

 

 

 [ファンタは、第二次大戦でコーラの輸入まで止められたドイツ人が、代わりにと発明したそうです]

 

 

 ロコツにごまかしたな、おい。

 わざとらしい口笛まで聞こえてきそうだぞ、おい。

 

 ふぅーー……

 

 ま、しゃーない。行ってみるしかないか。

 ここでスルーしてヨガテレポートで帰っても、後ですっげー気になるからな。

 一応、モヒカンリーダースキルでボウガン出して、北斗神拳で気配も消して、と。

 さ、行くか。ミッション、スタートだ。

 

 

 [リトルバスターズですか?(Y/N)]

 

 

 Nだよバカヤロウ。

 いや、ヤロウかどうかは知らんけども。

 もはや中の人が居る事を、隠しもせんな。

 

 そうしながらも、気を抜き過ぎないように慎重に気と意を消して、息を殺して先へと進む。

 そうして辿りついた先にあった建物には、昼間だというのに明かりが点いていた。

 

 屋上やらにパネルらしきものが取り付けてある。あれも太陽光発電のものなんだろう。

 他にも、先端に錘が取り付けてあり、一度動き出したら止まりにくいよう工夫した、風力発電の装置らしきもの。

 海に突っ込んであるのは、もしや潮力発電まで手を出しているのか。

 もしかしたら他にもあるかも知れないが。とにかく、この世紀末世界で電力を使い、明かりを灯す。そんな文明の匂いのする光景だった。

 

 建物自体も、実に新しいのが容易に見て取れた。

 ひょっとしなくても、新築なのかもしれない。

 この世界で、一から、新築の。コンクリート製の建物を…?

 いや。スキルがあったとしても、キツイぞ、それ。

 

 いったいぜんたい、どういうヤツが造ったのか。

 本格的に気になって、それに加えて、この偉業とも言える建築を成し遂げた人物に、俺は敬意を覚えた。

 

 ピンポーン

 

 というわけで、気配を消すのをやめて、正面からおじゃましてみた。

 いや、あったんだよ。インターホン。

 

 そしたらさあ。出てきたのよ。ジャコウが。

 

 誰? って思ったわ。

 

 覚えてるかなあ。オールバックで細マッチョで。

 弱いボスという、北斗の拳でも一際異彩を放つ特徴のアイツ。

 ほら、元斗皇拳のひとりで。天帝ルイを隠してて。それでファルコとかをいいように使って、天下取ろうとしてたアイツ。

 

 それでもって、帝都を造った男でもある。

 

 ほら、あれ。あの塔の途中だか上に、円盤乗っけて、その上に大砲がいくつか突き出した砦を乗っけたみたいな、無茶な構造のアレ。

 しかも、ラオウへのトラウマで、ジャコウが暗いのが怖いからって、人力で帝都全てを照らせるような光を常時放ってたアレ。

 あの近代でも間違いなく年単位での巨大プロジェクトなアレを、造ったんだってさ。

 

 この世紀末に、どうやって造ったんだろうなあ。

 そらそんだけの業績あったら、たいていのワガママは許されるわ。

 むしろ天帝を人質に取ったりせずに、フツーに宰相っぽいポジに居続けたなら、こいつは偉そうにしていられたのでは?

 

 能力と人格と知能とが噛み合ってない。そんなありふれたケースなのかねえ。

 

 まあ、それはいいや。

 思い出したよ。うん。ジャコウくんの事はちゃーんと、思い出したとも。

 帝都からサウザーらに追い出されてから、どっかでのたれ死んだかと思えば、こんな所に居たのか。

 ああ、うん。いざという時の避難場所で、ここに来てからこつこつ増築してたのね。ご苦労さん。

 うんうん。物資もロクにない中を、がんばって造ったのね。うん。わかるよ。わかるとも。

 

 それでさあ。

 これから、君を殴ってここを乗っ取ろうと思うんだけど、心の準備はいいかい?

 

 



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たまには酒を飲んでツマミを食うだけの話があってもいい。自由とはそういう事だ……

推したい作品があったんで、一話でっちあげてみたら、ほぼお酒で埋まった。不思議。
でもカニと日本酒美味しいです。越前カニの旬は、今月10日くらいまでだったそうで。

推すのは ダルマ氏の 機動戦士ガンダム 俺の野望
フルダイブのヴァーチャルゲームが実用化された近未来。初代ガンダムで連邦やジオンに所属して、指揮官コースか兵士コースでシャアやアムロらをはじめネームドと会話したり撃墜されたり、関係ねーとジャンク屋したり、観光したり、会戦など大型イベで上位入賞を狙ったり、自分のMSを改造したりするゲームに参加する、大学生らのお話。

というか、このゲーム欲しい。俺、ザクに乗って大気圏から地上へ、真っ赤になって落っこちながら「シャア少佐ー!」って叫ぶんだ…!

あ、本編始まります。


 気付けば、俺は健康的で文化的な生活を楽しんでいた。

 エアコンの効いた、温度と湿度の管理された空間とか、世紀末に来てから初めてだよ。

 風呂やトイレも、令和や平成レベルとはいかずとも、昭和五十年代程度には整ってるし。

 食事も新鮮な海の幸……を採ってくるのが面倒なのでスキルで出して、調理技術を上げるために中華風に仕上げたのを食べてるし。

 この別荘に溜め込んであった物資の中に、バスローブとかTシャツにジーンズなんかもあったし。

 衣食住と全てがそろっているんだ。

 

 もうここに住もう。

 

 俺がそう思っても、誰も強くは否定できないと思うんだ。

 本来の持ち主は除いてな。

 

 でも、本来の持ち主ことジャコウくんも、俺の での説得に応じて、快くこの別荘を譲ってくれた事だし。

 豊富な食糧と多彩な料理と酒で、専属の建築士として配下になってくれた事でもあるし。

 うん。やっぱり誰も文句はないんじゃないかな。

 

 そうしてのんびりと日々を過ごして。

 時には、別荘の物資の中から釣竿を見つけて、磯釣りを楽しんだりもした。

 ジャコウくんばかりが釣り上げて、楽しくなかったので俺は小一時間でやめてしまったが。

 あのヤロウ、幸運度だけは高そうだな。

 

 またある時は、温泉が出ないものかと、島の中心部あたりを掘ってみたり。

 ダウジングとかしてみたかったんだが。

 ウィンドウさん曰く、そういうスキルは無いらしいので、掘る場所は勘で決めた。

 

 そういえば、岩盤をパンチで壊して水を出そうとしてたアメリカンなキャラがいたな。

 

 唐突にそいつが湧いて出ないかと、周りに注意したり、パンチで穴掘りをしたりしたんだが、現れなかったな。

 期待すると、出てこない。そういうものなんだろうか。

 

 なお、温泉のほうは本当に出た。

 

 まさか出るとは思っていなかったので、何の用意もしてなかったんだがな。

 急いで少し離れた場所に北斗破顔拳でビーム撃って穴を掘る。

 次にそこらの木を南斗の技でスッパスッパ切って、丸太を量産。

 建築家のジャコウくんの指示の元、穴の壁をヨガファイヤーで固めて、丸太を埋めて、簡易ながらも露天風呂をでっち上げる。

 そうして引いてきた温泉で、よっしゃ一番風呂だ、と思ったんだが。

 

 めっちゃ熱かった。

 

 温泉卵が出来るくらい、熱かった。

 

 「源泉なんてそんなモンですよ」

 

 そう軽く言ったジャコウくんに、南斗中心脚宴会芸 チンチン大蛇 *1 を炸裂させた俺は、悪くないと思う。

 いや、ほら。温泉に入るところだったんで、裸だったんでつい、ね。

 湯加減くらい、普通は確かめるでしょうって、やかましいわ。テンション上がってたんだよ。

 勢いで生きてるんだよ。モヒカンなんだよ。温泉を見つけて、風呂造ったら、速攻でヒャッハーって突っ込むだろうが。

 そういう事は、はよ言え。ブレーキは早めにかけろ。いいな?

 

 じゃ、わかったらこの風呂場はキミが責任持って、改修しておくように。

 あん? 文句あんのか?

 うん。ないよね。やれ。

 

 後日。ジェバンニが一晩でやってくれました。という程には早く無かったが。

 一週間で、ログハウス風の屋根つき露天風呂が完成しており。

 ついでとばかりに、別荘の風呂にまで温泉が引かれていたのには、さすがに驚いた。

 お前、本当にスキル持ってないだろうな。

 

 とりあえず、伊勢海老のグリルと刺身とグラタンに、せいこ蟹こと雌のズワイガニの冷しゃぶと外子(卵)と内子(ミソ)を酢醤油でサッパリと。

 それに合わせて福井の地酒、梵と龍でねぎらっておいた。いい仕事には、一応報いてやらねえとな。

 

 せいこ蟹は、雄に比べて小ぶりながらもしっかりした味で、汁気も多い。今回は冷しゃぶにしたが、鍋でもおいしいぞ。

 だが本命は身よりも卵とミソ。濃厚でコクのある、実に酒が美味くなる味なんだ。

 それを洗い流す、さわやかな酒が福井には多い。芳醇旨口ならぬ、淡麗旨口というべきか。

 淡麗というと、辛口が普通で、切れのある味わいが想像しやすいのだが。

 こう、何と言うか、品がある、繊細な柔らかさのある淡麗なのだ。

 ふうわりとした、良く出来たどぶろくのような、米の優しい甘みと、清酒のスッキリとした後口。

 それでいて、カニミソと卵の濃厚さを受け止められる、旨味。それが福井の酒である。

 

 梵は、氷点下で1年以上熟成させたものをブレンドして作られる、兵庫県の特定地域の米のみを原料とした酒だ。

 ロサンゼルス国際ワイン・スピリッツコンペやロンドンサケチャレンジなど、海外の品評会への挑戦をして、しかも金賞やベスト・グラスなどを取っている。

 よくできた日本酒はフルーツのような香りがするが、梵もそれに漏れず、青リンゴにも似たさわやかな香りがする。

 味わいは、濃い白ワインのように、甘い。だが、重くは無い。

 あくまでさわやかに、舌に負担とならず。喉の奥へと流れてゆく。

 よく磨かれた、なめらかな酒だ。

 

 そこは、作っている合資会社加藤吉平商店のこだわりでもあるらしい。

 精米度数が高いのだ。米を削って、芯とそれに近い部分だけを使うのが吟醸酒や大吟醸なのだが、この会社は特にその傾向が高い。

 超吟というクラスに至っては、残り20%まで米を削っているという、ほぼ芯だけというこだわりよう。

 それと作るのは純米酒のみ。材料は米と麹と水だけだ。というガンコな職人気質な作り手の顔が見えるよう。

 熟成も、0度以下の氷温熟成。納得いくまで十年以上でも熟成するぞ、という凝りようだ。

 

 ただ、凝りすぎて、経営がアレになりかけたらしい。

 

 職人のサガだな。いや、業の方かも知れん。

 おまけに、日本酒ブームが来る前は、日本酒と言えば辛口オンリー。日本酒自体の売り上げも年々下がっていっていたという、完全な逆風。

 そこで彼らは、海外へと打って出た。

 優秀な営業でもいたんだろうか。各種品評会へと出品、最高の評価を受けて、その戦略は成功した。今では百以上の国へと輸出しているんだそうな。

 

 龍は、老舗の銘酒そのものだな。創業1804年、文化元年という黒龍酒造の酒だ。

 そんな会社も、税制で有利になるからか、株式会社になっていたりするあたり、少し世知辛い。

 松岡藩が酒作りを奨励して、全盛期はご近所に17あった中で、最後に残った2つの酒蔵のうちの一つ。

 

 大吟醸は市販するものではなく、料亭などにおろす物。

 それが常識だった時代に、いい物が出来たから、と市販しちゃったチャレンジャーでもある。老舗なのに。

 

 まあ、日本の酒蔵は、いや酒蔵に限ったことじゃないが。古い物はもっと古いからなあ。

 老舗だけどまだ新参。とかいう、わけのわからない状態なのかもしれない。

 実際、日本最古の酒蔵は茨城の須藤本家で、なんと創業が永治元年、1141年らしいからなあ。

 1141年だぞ? 鎌倉幕府成立(1192?1185?)より前なんだぞ。それが現役で経営してるってお前。

 

 まあ、ここだけが例外で、あとは1487年長享元年創業の秋田の飛良泉本舗がそれに続く第二位と、346年も飛ぶんだがな。

 鎌倉幕府のできるまでの戦乱やら、南北朝のあれこれやら、応仁の乱からの戦国時代やらで、酒が造れるほど豊かな家には、色々とあったらしい。

 近畿地方での老舗は、かの有名な神戸東灘の剣菱(三位)1505年永正2年創業と、酒蔵というかもう酒造メーカーな京都伏見の月桂冠(十七位)1637年寛永4年くらいしか残っていないあたり、お察しだな。

 

 まあ。ヒャッハーされちゃったんだろうなあ。

 

 まあ、なんだ。

 そんな生き残ってきた老舗の酒蔵は、いい水場を持ち続けているという共通項がある。

 黒龍酒造の場合は、白山系の雪解け水を源流とする、九頭竜川の伏流水だな。

 京都の方の硬水ではなく、軟水なんだが。それゆえに方向性が辛口ではなく旨口へと自然と流れたと思われる。

 だってそっちのが向いてるもん。

 

 米は梵と同じく、兵庫県の特定地域の酒米。麹は、科学的手法が導入された管理をされている。

 数十種類の酵母が、-85度で冷凍保存され、それが無菌室で解凍、培養、選別されて作られるのだ。

 雑菌による影響を排除するため、食品的な安全のため、取り入れたらしい。

 ホコリなどを除いたクリーンルームでの瓶詰め作業といい、いい意味で近代化している。

 

 さて肝心の味だが。

 龍は越前の海の幸の、素材の味を生かすように作った。そういう酒で、そういう味わいだ。

 香りは、梵をしのぐ。華やかさを感じさせるその香りは、すっきりとした梵とは違い、複数の果物の組み合わさったような甘い香りだ。

 その香りが、口にすればふわっと広がっていく。米の旨みと甘み。それが香りと共に舌を駆け抜けて。

 そして、スッ… と消える。舌の上には、わずかな余韻が残るのみ。

 

 その上に、また海の幸のツマミを放りこみ、そしてまた龍を口にする。

 ツマミとともに口にした味わいも、また格別である。

 それが次の一口でまた余韻を残して消え去り。

 また次のツマミへ。そして、また杯を傾けて。

 お銚子が空いたのならば、梵へと切り替えて。ツマミが切れたならば、追加して。

 とうとう鍋を持ち出して、カニスキからの雑炊まで平らげて、満腹になった腹をなでながら、ようやく気が付いた。

 

 あれ、アミバじゃん。お前、いつ来たの?

 いや、今更? って顔されても、ぜんぜん気付かんかったし。ほら、カニ食ってる時って、カニしか見えないだろ。

 まして酒もあったら、さあ。しょうがないじゃん。だろ?

 

 で、お前何しに来たのよ。

 

*1
なお、ぶらぶらさせながらの下から伸ばしつつの振り上げである



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世紀末のゴールデンウィーク(の終わり)

今はこれが精一杯……


 気付けば、俺も無双できるようになってるんだよなあ。

 そうだよなあ。北斗神拳、極めてるんだもんなあ。

 

 ゲーム的なシステム上のもんだけどな。

 

 

「ほっ。そい。あたたたたたたってか」

 

 

 次々と飛んでくるボウガンの矢を、人差し指と中指でキャッチして、そのまま勢いを殺さず飛んできた方向へと返す。

 北斗神拳の対飛び道具技、二指真空杷だ。

 実はあまり使ったことが無かったんで、練習がてら百裂拳のノリで連打してみたんだが。

 うん。ちゃんとできるもんだな。

 特に練習とかやってないんだが。今更になるが、不思議なもんだ。

 

 

「くそっ、やらせはせんぞ! 貴様らごときモヒカンに、俺たちの畑をやらせはせん! この俺がいる限り、やらせはせんぞーっ!」

 

 

 どこぞの宇宙世紀のごっついオッサン のようなセリフを吐く、緑の作業着を着た農家のオヤジがいるなあ。

 なんか向こうの士気が上がっちゃったのか、更に飛んでくる矢が多くなって来た。

 この襲撃ミッション、できれば相手を殺すなって縛り付きなんだけども。

 なんか、相手はやる気満々だし。

 だんだん面倒になってきたな。

 

 よし。闘気でも使うか。

 

 

「な、なにぃーっ!? 俺たちの撃った矢が、あいつに当たる直前に、空中で止まっとるぞ!?」

 

「ぬう、あれは伝説の北斗孫家拳、操気術…… まさかまだ使い手がいようとは」

 

 

 知っているのか、ラ○デン。

 

 めっちゃ懐かしい感じだな、オイ。具体的には昭和のニオイ。

 で、そんなスメルのする、驚き役と解説役の農民らの言う通り。

 いつぞやの、女神空間(?)で蒼天の拳から学習した、操気術で闘気の質を、こう、いい感じにネットリさせて矢を受け止めた。

 蒼天の拳のキャラは、銃弾を受け止めていたし、まあ、俺も北斗の拳士。見よう見まね(水影心)でもこれくらいは出来る。

 

 しかしこの農民たち、意外とキャラが濃いな。

 言いつけ無しでも、殺すのが惜しくなってきたわ。

 

 ぬっ。矢の勢いが衰えたか。

 士気が落ちたか、矢が少なくなったか。

 まあいい、好機だ。行くぞ野郎ども! ヒャッハー!

 あの ハッパ の生い茂った畑へと、進撃だー!

 

 

 

 まあ、 ハッパ って言っても、 お茶 なんだけどな。

 

 

 

 うん、お茶。目の前に広がる、この世紀末には珍しいくらいの緑の広がった空間。

 

 あれ、 茶畑 ですわ。

 

 俺の今回のミッションは、あの茶畑の制圧です。

 シン、直々の。

 自主的に休暇を満喫してて、うっかりそのまま隠居ENDを迎えそうだった俺への。

 アミバという、一応は幹部クラスのネームドを使者に使っての。

 緊急ミッションです。

 

 いや、マジで。

 

 うん、まあ、アレだ。

 

 はなしを、しよう。

 

 

 戦国時代、室町時代にだ。なんで茶道が大流行したのかっていう理由の一つにだ。

 当時の日本人には、まだ喫茶の風習が定着してなかったからってのがある。

 解りやすく言うと、カフェインにまだ耐性がサッパリなかったんだ。

 つまり。当時の日本人はな。

 

 抹茶を、キメていたんだ……

 

 いや、マジで。

 ほら、今でもコーヒーはダメって人、いるじゃん? あれ、カフェインとかで悪酔いする人なのよ。

 カフェイン未体験で、覚醒作用とか興奮作用とかが、いい感じにキマっちゃった人とか、割といたらしいよ?

 

 で。まあ。ほら、今また世紀末になってさ。そういうの飲んだ事なかったり、長期間飲んでなくてさ。

 そんな時に、たまたま抹茶粉が発掘されてさ。

 飲んだら、キマっちゃってさ。

 あっ。これ、売れるわ。と、どっからかお茶の木を見つけて、栽培に成功して。

 白い粉のオクスリのように、流通させた大馬鹿野郎どもがこいつらです。

 

 なぜ普通に農業しなかった。

 

 この食糧と水が貴重な時代に、なんで一から開拓成功させてるんだ。

 しかもなんでお茶なんだ。

 いや、ここまで作った茶畑潰すのももったいないんで、転用しないで活用するけどもさ。

 

 その開拓技術が惜しいからってんで、制圧はするけど殺しは無しなってのはわかる。素直にわかる。

 シンの普通の配下を使うと、殺っちゃうからというのもわかる。

 でもシンも八木さんも、みんななんか忙しいから君に決めたという、雑な理由なのは何だ。

 

 いい加減に帰って来い、働けという遠まわしな勧告なのか。

 それとも、せっかくエンディングが近いんでゲームを進めてくれという、運営、ウィンドウさんの手回しなのか。

 

 まあ、どちらにせよ、休暇は終わりって事なのかねえ。

 

 

 [Y]

 

 

 あっ、はい。そうですか。

 シンプルな答えですね、ウィンドウさん。

 で、このイベントでのポイント(お代)は、いかほどいただけるんで?

 

 

 



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長い休暇の後って、いつもやってたのにド忘れして何だっけって思い出せないヤツがあるよね。

サブタイみたいな感じで
モヒカンのキャラが……いまいち思い出せません。


 

 気付けば、俺は結婚していた。

 

 お相手は何故かリハクの娘のトウ。なんか掛け声みてーな名前だな。 トゥッ!ヘァー!

 実は結構な期間、トワだと思っていた。ほら、その方が名前っぽいじゃん。

 

 原作での出番は、ポッと出て、フッと消えたな。

 いや、消え方はそんな薄いっつうか、アッサリ風味じゃなかったけども。

 

 まずトウの登場シーンだが。

 ユリアを求めて攻めてきたラオウ相手に、南斗最後の将の甲冑を装備して、ユリアのフリをして代わりに捕まろうとしたのが初出だな。

 

 で、即効でバレる。

 

 ひと目でバレてたあたり、どんだけバレバレだったんだろうな。

 仮面一つで、親兄弟ですら騙せそうな北斗ワールドで、即バレだぞ。逆にスゴいわ。

 それでお前に用は無いとばかりに、立ち去ろうとするラオウにだ。

 

 ずっと前から好きでした。と、なぜか告白。

 

 一応、面識はあったっぽい。

 でもそんな空気は、ラオウもそこに至るまで一切感じてなかったらしく。

 

 えっ?

 

 みたいな軽い驚きのみで、それをスルー。

 すると、トウは突然

 

 テメーもユリア狙いかよ!

 

 と、言わんばかりのキレで、取り出したナイフで唐突に自殺。

 その理由が、目の前で自殺したら、少しはラオウの心に残るだろう、という……

 こう…… なんともよくわからない理由で。

 

 一瞬だけの出番で、そんな歯切れの悪い、もやっとしたものを残していった。

 俺にとっては、そんな微妙なキャラだ。

 

 しかも化粧が濃いし。

 なんか、若くなさそうだし。

 というか、父親のリハク自体が白髪の老人なんで実際に若くない疑惑が。

 

 あれ? 俺、なんで結婚したんだっけ?

 

 声がDD北斗の拳だと、釘宮だったから?

 

 そんな風に疑問に思いながらも。

 朝起こしてもらって、一緒に朝飯作って食べて。

 秋山師匠の食堂の仕込みに出かける俺を見送ってもらって。

 お昼のピークを過ぎたあたりで、食堂から開放される俺と合流して。

 二人乗りのバイクで、手下の特殊モヒカンどもの見回りに出て。

 日が暮れる前に帰って来て、一緒に食卓を囲む。

 牛肉、トモサンカクのステーキを、ボルドー産の赤ワインでいただく。

 

 トモサンカクは牛の後ろ足、モモの付け根あたり、最もサシ(網の目状に入った脂肪)が入ってると言われる希少部位。

 全体重600~700Kgが平均の牛1頭に付き、3kgほどしか取れないのだ。

 

 それに、じっくりと熱を通す。焼くのではなく、熱を通す。

 色が黒くなって状態が変わってるのは、あれ火傷してるのと同じようなもんだからね。

 ほんの表面だけ、肉汁が逃げていかないようにそうした後は、弱火で、もしくは余熱でじっくりいく。

 火の通ったレアとは、そういうことだ。

 熱が通され、脂肪が肉汁となって旨みに変わり。

 肉自体も、極力柔らかさを保ったまま弾力は増し、それでいて繊維はほぐれて最高の食感になる。

 生肉のままでは細胞内で眠るだけだったうまみを引き出す。

 ああ。調理ってのは、まったく素晴らしいじゃねーか。

 

 ナイフでスッ… と切れる柔らかさ。一口食べれば、脂が普通の肉とは明らかに違う軽さと、なのに濃いうまみが舌を驚かせる。

 赤ワイン、酢、醤油に砂糖と玉ねぎ他で作り上げた、秋山ジャン式シャリアピンソース風XO醤がまた、ソースとしてそれとからんで。

 幾層もの絹を重ねたような、柔らかな肉を噛み切る心地よい感触とともに、口いっぱいに広がって。そして消えてゆく。

 

 そんな、これがいい牛肉だ。というくらいのしっかりした、インパクトのある味に合わせるワインは、どっしりとした赤がいい。

 だが、まずは食前酒だ。我慢できずに、一口食べちゃったけれども、食前酒だ。

 これも赤ワインで行こう。

 

 フランス、ボルドー産。バロン・ド・ロートシルト サガR 赤

 

 直訳すると、 ロスチャイルド男爵の伝説 になってしまう、ネーミングがちょっとアレなせいで覚えていた一本だ。

 ロートシルトって、ロスチャイルドのフランス語読みなのな。というのでも覚えてた。

 

 男爵なのは作ってる畑のオーナーがそうなんであって、このワインの味わいが高貴というわけではない。

 が、実際の味わいはエレガントさを感じるので、そういう意味でもいい気はする。

 

 カベルネ・ソーヴィニヨンだったか。そういう種類のブドウから作ったミディアムワイン。

 その種のワインの特徴でもある、ベリー系の香りが心地よい。

 味に広がりがあると、複雑さと繊細さを感じるが、パンチと印象はボヤけるものだが。

 ほど良い凝縮感でもって、そのあたりのバランスの取れたいいワインだ。さすが伝説。

 

 そしてそのバランスを、次の一本でふっ飛ばす。

 

 ドメーヌ・バロン・ド・ロートシルト ポーイヤック・レゼルブ スペシアル

 

 フランスのワイン用ブドウ畑は、畑ごとにブランド化されていて、そこで取れたぶどうやそこから作ったワインなども当然区別され、特別視される。

 その有名どころの畑、それも2箇所の畑から取れたブドウを使った、ブランドワインだ。

 

 まあ、全部じゃなくて 一部使用 という、商業的なアレさはあるけどな。

 

 だが味はいいんだ。それにこっちはフルボディワインだ。ガツンと来るぞ。

 圧倒的なお肉のうまみに負けないぜ。

 むしろ、うまみが液体になったような脂と、口内で溶け合って喉奥へと流れていくようだ。

 

 どれ。流れていったところで、もう一口。

 

 グビリとやれば、さっきは肉の香りと混ざって弱かった、ベリー系の香り。

 それもブラックベリーなどの強い香りと、なぜかシナモンっぽいスパイシーな香りが口から鼻へと抜けていく。

 濃い赤にありがちな、タンニン由来の渋みのある後味も、やけに滑らかだ。

 ブドウの果実味が強く、それと合わさって。

 うん、悪くない。この後口は悪くないぞ。

 

 でもここに肉を追加で放り込むのはさすがにクドいんで、伊賀○炭酸水でも飲むか。

 

 

 

 そんなこんなで一日が終わって。

 ワインも飲んだし、さあ今日は夜のヒャッハーするか! ヒャッハー!

 

 

 というところで、秋山師匠に起こされた俺が居るわけで。

 

 

「まったく、こんなこったろうと思ったぜ! 外では気楽にやってたみたいだが、帰ってきたからには、キッチリ朝から働け! いいな!」

 

 

 え? なに?

 いや、ちょっと待って。待ってください、師匠。

 

 

「なんだ、まだ寝ぼけてるのか? いいからサッサと起きろ!」

 

 

 は? え? あ?

 

 ゆ…… 夢オチなんてサイテー!!

 

 



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私の夢は現実です

明日から突然の仕事再開を告げられた私は、この三週間の休みを快適に引きこもってしまった感覚から日常に戻れるのか。

それはそうと、この長期のお休みで復活した作品も多いので、あの作品は… と思い当たるものがあったら、検索してみるのをお勧めします。

卍解しないと極限生存F世界に怒られガンド目が覚めたらオビ=緑セミをよろしく

――――敬称他を略した事をお許し下さい


 気付けば、サウザーが高笑いをしていた。

 今日は結婚式だから、そういう意味なら解らないではない。

 

 結婚するの、あいつじゃないけどな。

 

 そもそもサウザーは、常日頃から「愛などいらぬ!」と言いまくってるし。

 原作でも付き合える可能性のある存在すら、いなかったはずだし。

 なんなら、弟子的存在もいないし。

 多分、何もかもうまく行った人生でも、老後はお察しなんじゃねえかなあ……

 

 あっ。高笑いやめて、こっち見た。

 こっち見んな。

 あっ、また笑い出した。

 

 

「はーっはっはっは! 哀れ! 自ら望んで人生の墓場に入ろうなどとは! 哀れぞ、レイ!」

 

 

 めでたい場で、そういう事言うなや。

 

 そう俺がツッコミを入れようとしたが、それより先にレイの妹のアイリをはじめとする女たちから、ボウガンの矢の雨がサウザーに。

 やはり結婚とか、そういう事を茶化したり否定すると、女を敵に回すらしいな。

 

 おー、おー、さすがサウザー。全部避けてる。

 高笑いしながら避けてる。

 でも、そういう事やってると、来ちゃうだろ。アイツが。

 

 

「はーはっはっは! 南斗鳳凰拳に致命のって、ぐわぁぁあああ!! き、キサマどこから……」

 

 

 久々に出たな、妖怪ターバンのガキ

 ここサザンクロスで戸籍なんぞも作ってみたというのに、どこの誰だか誰も知らなかった少年。

 オマケにいつまで経っても成長しないという、マジで妖怪なのか、またはヨガの達人なのか謎な少年。

 

 だがとりあえずはよくやった。

 よし、今だ。みんな、このモヒカンリーダースキルで出したボウガンその他を使うんだ。

 

 モヒカン、キサマ裏切ったなー! と叫ぶサウザーに矢がいくつか刺さる。

 全部刺さってヒドい事になったとしても、きっとギャグ補正かなんかで、大丈夫だと 思う が。

 そんなもんなんか無くても、大丈夫っぽいな。

 うん、良かった。ちょっとだけ俺のせいでもある気がするが、まあ良かった。

 

 はいはい。全員そこまでなー。今日はおめでたい席だから、血とかやめようねー。

 特にそこの南斗六星の面々。こっそりトドメを刺そうとしない。

 

 

 

 さて。

 

 ちょっとばかりオープニングが長引いたが、あらためて説明しよう。

 今日は南斗水鳥拳のレイの結婚式だ。

 お相手は、マミヤ。ちなみに できちゃった結婚 だったりする。

 

 まあ、それはそれとして。

 

 今日の結婚式に至るまで、実は俺も結構がんばった。

 妨害してくる奴らを、何とかしようとがんばった。

 

 以前脱衣麻雀で、マミヤが天帝ルイさまに脱がされた結果できてしまった、マミヤのオッパイを崇める謎集団

 あれの過激派がレイを襲撃したり、結婚式の会場をことごとく先回りして予約し倒したり、婚約指輪を隠したりと。

 単純なものから、よくわからん方法まで。

 いや、よくわからん方法の方が多かったが、とにかく妨害に走ったんだわ。

 

 一番厄介だったのは、マミヤの父親を反対派に巻き込んだことだったがな。

 

 あればっかりは、殴って解決できなかったからなあ……

 

 まあ親父さんも、ウチの娘はやらん! というのをやってみたかっただけで、レイが腹をくくって説得に出たらアッサリ許してくれたけどな。

 裏で俺が、娘さんのお腹が大きくなる前に式を挙げた方がいいですよ、とアドバイスしておいたのも効いたかもしれん。

 

 

 それとユダが、な……?

 

 

 アイツさあ。レイにもマミヤにもこじらせてるじゃん。

 自分が誰よりも美しいとか言いつつさあ。

 水鳥拳で空に舞うレイの動きと、マミヤのオッパイに美しさで負けたと感じてさあ。

 でも認めたくなくて、こじらせてるじゃん。

 

 原作だと、壊して無かった事にしてやるわー! と暴走してたけど。

 それでもマミヤに焼き印だか入れ墨を入れたのは、オッパイじゃなくて背中にだったし。

 いや、腕にだったか? 原作とアニメとか、原作でも場面によって色々違うから困るが、まあよくある事だ。

 

 しかも原作でのユダの死に様が「せめてその胸の中で…」と、倒れながらレイに寄りかかっていくというアレッぷり。

 しかも日常的に化粧をしていて、レイに「お前の血で化粧がしたい」という意図不明なキメ台詞 ――キメェ台詞?―― を吐いていた。

 

 今回も、許さん。俺は決して、許しはせんぞー! と全力でダダを捏ねていた。

 修行しなおして、ゴッドランドとか牙一族とか、そのへんのエネミー集団を壊滅させて従えてサザンクロスに殴りこんでくるくらい暴れやがった。

 

 だが許してやろうと思う。

 だってオールマイト in デビルリバースな八木さんに、吹っ飛ばされたからな。

 全部まとめてスマッシュ一発だったわ。さす八木。

 

 しかも今回の式場、ユダの城だしな。

 

 ちょくちょく南斗六星の面々が集まってダベッてたんで、交通の便とか道中の治安が、地味にいいんだ。

 あと、マミヤさまが見てる教会が、ここには無いし。

 

 

「ううっ、俺はなあ… 俺はっ!」

 

「ま、まあ飲め。式の間くらいは付き合ってやる」

 

「いや、ユダが酔いつぶれたら、俺たちの余興はどうする」

 

 

 今もなんか飲んだくれて、シュウとシンに慰められてるみたいだし。

 まあ、ユダはもういいかなって。

 

 

 

 さて。

 

 周りを見渡せば、飾り付けられた室内にいるのは、皆だいたいが笑っている。

 

 あの仏頂面で、怒り以外は表情がほぼ変わらないケンシロウさえも、ユリアと共に微笑んでいる。でもお前等の式はいいのか?

 やったらやったで、今回さりげなくハブった北斗関係者らで面倒が多そうだが。

 やらないと多分、いくらユリアでも根に持つぞ。

 

 サウザーも気分がいいのか、特別に祝ってやらんでもない。特別だぞ。今日だけだからな。と言い訳をしながら、照れくさそうにだが、笑顔でいるな。

 南斗つながりで来ている、五車星の奴らは ―――― うん。あれ飲み食いに来ただけだ。笑ってるけど、あれただの宴会だ。

 こういう時だけはちゃっかりいるジュウザが、サークルの飲み会だけ参加する幽霊部員みたいな、軽い扱いなのは残当ってやつだな。

 

 マミヤの側の招待客に幼女がいるけど、あの娘と、その父親として来てるあいつら誰だったっけ…? 星条旗の模様の肩パッドに、なんか覚えはあるんだが。

 話してみたけど、Ah Hah? とか Dream come とか Something else とか状況に合わない英語をテキトーに言うだけで、わかんねえんだよなあ。

 

 まあ、いいか。わからないのは、他にもいるし。

 というか、モブ村人とか正直誰が誰やら見分けがつかんし。

 カサンドラから3つ手前の村の村長です、とか村の名前すら言われてもわかんねーよ。てか、なぜ来た。

 え? レイが行き倒れてたのを拾った事がある?

 お、おう。そりゃ悪かった。今日は思う存分飲み食いしていってくれ。

 

 なお料理は秋山師匠をはじめ、サザンクロスの料理人らが出張して作ってくれたが。

 例によって素材と酒は、俺の提供だ。

 

 がんばったぜ。

 今日、この日にまでこぎつけて、無事に乗り切るために。本当に俺は、がんばったんだ。

 だから。

 

 

 実はお腹の子の父親がレイとは違う という、南斗家庭板案拳はカンベンしてくださいお願いします何でもしたでしょう!?

 

 レイだよな? レイでいいんですよね?

 以前、マミヤとお互い酔っ払ってそのまま同じ部屋で寝ちゃってた事があったけど。

 俺じゃないですよね???

 

 ウィンドウさん教えてくれ…………

 

 ………………なくていいです。なんでもないです。

 

 ユダ! シュウ! シン! 俺も飲むわ!

 もう浴びるほど飲むわ! 付き合え!

 行くぜ、ヒャッハーー!!

 

 



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考えてもわからんけど、何を感じ取ればいいのかもわかんない

 

 気付けば、俺は現実逃避をしていた。

 遠いよ? めっちゃ目とか遠いよ? 前回の更新くらい遠いぜ。

 

 ゴメンよ。ギャグものってなんか唐突に書けなくなるんだ。

 

 とまあ、そんなメッタメタなネタは置いといてだ。

 ああ、こないだ知ったけど、免々田(めめた)川って川が実在するらしいな。メメタァ!

 

 という小ネタも置いといてだ。

 目の前の現実に、目を向けようと思う。

 

 ジジイがいる。いっぱいいる。

 緑の帽子と、袖なしの迷彩服を全員が着込んで、剣を片手に独特の構えを取っているな。

 

 その剣、なんか 激しく光ってる けどな。

 ブォン。とか たまにうなってもいる けどな。

 

 ていうか。モロに ライトセーバー じゃねえか。ちょっと…… いや、かなり欲しいぞ。

 

 どうですかね、ウィンドウさん。あれポイントなら上位スキル扱いでもかまわないんで、もらえないですかね…?

 

 

 [サービスの対象外です]

 

 

 あっソッスカ。   チッ

 

 と、俺が久々のウィンドウさんとの会話?をしていると、ジジイどもの代表が俺にあらためて宣言した。

 

 

「さあ、覚悟はいいかモヒカンどもの王者よ! この地の平和のため、お前を倒す!」

 

 

 うん。討伐対象なんだ。俺。

 理由はほら、あれだよ。前に優勝したじゃん。モヒカンだらけの大会で。

 あれだよ。シュウが意味ありげにライバルっぽく出てきてさあ。そんで、バイク乗れなくて不戦敗してたやつ。

 

 あれに勝っちゃったせいでモヒカン達の代表扱いになっちまってな?

 ならコイツを倒せば、そこらに無限にポップする野良モヒカンどもが大人しくなるんじゃ? という予測が成立しちまってな?

 元斗の一派が、実際に動き出しちまったと。まあ、そういうわけだ。

 

 で、まあ。それだけなら俺も現実逃避はしないわけで。

 

 

「我ら元斗の 自衛隊(ジェダイ) なり! 核戦争前は封じられていた (フォース) の力を持って、貴様を討つ!」

 

 

 うん。これなんだ。

 もうツッコミどころしかなくて、どうツッコんでいいのかわかんなくってさあ…

 

 迷彩服と帽子は自衛隊っぽいが、なんだそのルビは。銀河のバランスでも保つのか。

 フォースってそういうんじゃねーから。いや確かに英語の軍(force)の読みはフォースだけども。armyとかもあるじゃん。

 封じられてたってのも、絶対に…… いや、なぜか自信が持てないが、そういう意味じゃねーだろ。たぶん。

 

 そんな具合に、俺がまたツッコミをうまくまとめられずにテンパッているとだ。

 なんか横合いから、乱入してくるのがいた。

 

 

「待てい! そやつはワシの弟子! そやつを倒すというのなら…… まずはこの 親子丼 を食べてもらおうか!」

 

「なんでやねん」

 

 

 現れたのは、この話の初期も初期、1話と2話にだけ登場して消えたチュートリアルキャラの、あの人だった。だったんだが。

 久しぶりに出会った恩人に、状況に付いていけない俺はオーソドックスなツッコミしかできなかった。

 そしてそんな俺をよそに、状況は先へと進んでいったわけで。

 

 

「貴様、いやあなたは… 味皇!」

 

「フッ… まだワシを知る者がおったか」

 

「ならばあの親子丼は…」「食べるぞ。食べるしかあるまい」「ウム。ここを逃せば…」

 

 

 食べるんかい。

 それと味皇も、親子丼を出せるんかい。

 群がるジジイたちに、ひょいひょいどこからともなく丼を出しては、渡していく。

 そういえば調理スキルは、この人から教わったんだっけなあ。

 

 そう思うと、思っていた以上に恩が大きいな。

 でもなぜか素直に感謝できない。不思議。

 

 

 

 で、まあ。

 ジジイたちが親子丼を食べている間に、味皇・村田さんが奴らを説得してくれて。

 俺もまた、食糧を供給する救世主、ということで、討伐は無かった事になったわけだが。

 証明がてら、料理も酒も出して宴会やって、お帰り願ったわけだが。

 

 結局、自衛隊(ジェダイ)ってなんだったんだろうなあ……

 

 というか。なんだったんだこのイベントは。ポイントももらえなかったし。

 

 

 

 …ってアレ? 村田さんがまだいるぞ?

 

 え? これから俺の拠点まで来る?

 そこでやる事がある?

 

 これはまさか…… 来るのか?

 

 

 



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