魔法科高校の楽園の巫女 (にゃんくる)
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プロローグ

 私の名前は四葉霊夢。現在おそらく中学生だ。なぜおそらくなのかと言えば、私は生まれてこの方監禁生活を過ごしているからだ。監禁されている場所はかなり豪華できれいな部屋で、メイドさんが食事をもってきてくれたり掃除をしてくれるため快適に過ごすことができている。ただ、外とのつながりはないため、外がどんな世界なのかわかっていない。

 そしてもう一つ重要なことがある。それは私に前世の記憶があるということだ。私の前世はごく普通の女子高生で、そんな私は気付いたら3歳から5歳くらいの女の子に生まれ変わっていたのであった。ぼんやりとだが車の事故に巻き込まれたような記憶があるため、おそらく死んでしまったのだと思う。

 

「霊夢ちゃーん!元気にしてたー?!」

 

 そして今世の母親がこれである。名前は四葉真夜。私のことを部屋に監禁しているとんでも過保護ママだ。

 

「はああ、今日も霊夢ちゃんはかわいいわああ!」

 

 いつものことに返事もせず逃れようとするが後ろから抱きしめられ、頬を擦り寄せられる。黙っていれば美人な大人の女性なのだが過保護ママ属性のため残念美女になり下がってしまっている。

 

「お母様、本日はどのようなご用件でしょうか」

 

「すーはー、すーはー」

 

 私の話を聞かず、強く抱きしめられたまま匂いを嗅がれる。最近訪れる頻度が少なかったためか仕方なく人形となって母親が現実に戻ってくるのを大人しく待つ。

 

「実はね、高校に通ってほしいの!」

 

 気が済んだのかおなかに回していた手を解き、私と向き合いながらそう答えた。

 

「高校ですか?」

 

 いつまで続くかわからない監禁生活に飽き飽きしていたが、突然終わりがくると告げられるとまだ見ぬ外の世界に不安を感じる。

 

「国立魔法大学付属第一高等学校よ、深雪さんもそこに入学するわ」

 

「深雪もですか」

 

 深雪、司波深雪はこの監禁生活の中、この部屋にきて友達になってくれた数少ない人物だ。

 

「わかりました。がんばります」

 

 この十数年ずっとひきこもり生活を送っていたがとうとう外に羽ばたく日がくるようだ。これから、一度はなくしてしまった素晴らしい高校生活が待っているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 と私は思っていた。

 車で受験会場まで送ってもらった私は思わぬ問題に直面していた。

 

(人が多すぎる……)

 

 生まれ変わってからこれまで人と触れあう機会が全くなかったため、この人の多さには恐怖心すら感じてしまった。しかもなぜか周りの受験生たちは皆一様にこちらを見てくるのだ。自分が何か間違えていたり、変な格好をしているのではないかと不安に思い、緊張してしまう。

 

「うぅ……」

 

 周囲からの視線の恐怖とともに前世での受験の記憶を思い出す。落ちたらどうしよう。

 前世では、私は何校も受けて唯一受かった高校へ進学したのだ。それなのに今回は一校のみ。その事実がさらに霊夢の心を蝕んだ。

 筆記試験が始まってからしばらくしてようやく集中することで不安や緊張から抜け出すことができた霊夢はどうにか受験をパスすることができ、これから事件が多発する事になる第一高校へ入学する事になるのであった。




よかったらアドバイスなどいただけると嬉しいです。


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入学編
入学式前


 これまで監禁生活を送っていたが高校に通うということで数日前に新たな住居へと身柄を移送された。隣の席はいつも世話をしてくれるメイドさんであったが、数人の見知らぬ男性に囲まれながら車で来たため、緊張で何もできず、気付いたときには家具も揃った新居にメイドさんと二人残されていた。

 それから数日は監禁生活を送っていた時と何も変わらないひきこもり生活であった。私は勉強をして、メイドさんが私の面倒を見てくれる。完全にダメ人間である。高校入学したらがんばろう。お皿洗い、とか……

 

 

 そんなこんなで本日入学式当日、家から出たくない私をメイドさんに無理やり身だしなみを整えられる。ある程度の常識やら魔法科高校のことやらを教えられたとはいえ、入試の時のトラウマのせいかお外怖い。

 

「霊夢様、行きますよ」

 

 最後の抵抗、動かない。しかし対人力の低い私は少しひっぱられるだけで自分から歩いてしまう。

 

「うぅ……」

 

 少し泣きそうだが、人を困らせるなどできないので我慢してついていくことにする。ちなみにメイドさんはこれから毎日途中まで送っていってくれるらしい。流石にメイドさんに高校まで付き添ってもらうと絶対目立つのでどうにか諦めてもらった。いつまでもうじうじしてても仕方ないので覚悟を決めよう。入学式は大事だ、主にこれからの高校生活で目立たないように過ごすための第一歩として。

 

 

 

 メイドさんにひっぱられてしばらく進むと、見知った顔の人物が立っていた。

 

「おはよう霊夢、久しぶりね」

 

「深雪!」

 

 私の数少ない友人、司波深雪であった。もしかしたらお母様が一緒に登校してくれるよう言ってくれたのかもしれない。母親に感謝しながら、メイドさんに引っ張られるだけであった霊夢は初めて自分から進む。しかしそこで初めて、深雪の隣でこちらをじっとみる男性に気付き、立ち止まる。

 

「ああ、霊夢は初めてよね。こちらは私の兄の司波達也よ」

 

「司波達也だ、よろしく頼む」

 

「よ、よろしく」

 

 司波達也、彼については知っていた。深雪はここ最近は会う度にお兄様お兄様言っていたのだ。そのため、深雪視点の司波達也については既にかなり詳しかった。とはいえ初対面であることには変わらないためそのまま深雪の影に隠れる。

 

「全く霊夢はしょうがないんだから」

 

 深雪は霊夢が人見知りであることを知っていたため、責める様子もなく苦笑する。

 

「それでは深雪様、達也様、霊夢様をよろしくお願いします」

 

 そう言ってメイドさんは一度礼をするとすぐに立ち去ってしまう。私のつたない説得で付き添いを途中までで諦めてくれたのは二人がいたからなのだとわかった。

 

「霊夢、今の方はどなたなのかしら?」

 

 人の機微に疎い私でもわかる、少し緊張したような顔と震えた声で尋ねられた。

 

「メイドさん……いつも私の世話をしてくれる」

 

「そうなの」

 

「二人とも、そろそろ行こう」

 

「そうね、行きましょう霊夢」

 

「うん」

 

 メイドさんを見て深雪の様子が少しおかしくなってしまったように感じたけれども、その違和感もすぐになくなったため、気にしないことにした。それよりも私にはこれから高校に行くという事実の方が重くのしかかってくるのであった。

 

 

 

 

 高校についたのは入学式には2時間も早い時間であった。入学式の新入生代表として深雪は生徒の前でスピーチをするらしい。私はそのスピーチの場に自分を置き換えて想像してしまい、身震いする。多くの人間の前でスピーチなんて到底自分には無理な話だ。そんなわけで深雪はリハーサルに行ってしまい、現在達也と二人きり。聞き知っているとはいえ本日初対面なため、やはり緊張してしまう。そんな私に気を使ってか少し距離を開けてくれている。

 

「人通りの少なそうな休める場所を探そうか」

 

「は、はい!」

 

 一定の距離を開けて少し前を歩く達也についていく。こちらを見ることなく、気配か足音で察知しているのか、少し間があくと歩く速度もゆっくりになる。朝から緊張しっぱなしで気付かなかったが彼は朝も常にこちらに気を配っている様子があった。できる男である。将来もし職にあぶれたらメイドさんとして雇ってもいいと思うくらい。

 しばらく進んで手頃なベンチを見つけ、少し距離を取って座る。入学式までの二時間は暇つぶしをするにはかなり長い時間であるがひきこもり霊夢にとっては日常茶飯事でもあった。常日頃から時間をもてあましている霊夢は何をしていたかといえば何もせず瞑想のようなものをして過ごしていた。目を閉じ、自分の内側に入っていくような感覚、周囲から感じる圧力のようなものから解き放たれ、自由になる感覚。この状態になるといつも時間が過ぎるのが早いため、二時間などあっという間に過ぎてしまうだろう。

 ふと、何かを感じて瞑想状態から戻る。すると目の前には一人の女性が立っていてこちらを見ていることに気付き、咄嗟に目線を下に向ける。達也が既に立っていることから、二人は話していたのかもしれない。

 

「あなたは、四葉霊夢さんね?」

 

 なぜ知っているんだという疑問はもちろん口に出せず、ただ頷いて返事をする。

 

「生徒会長の七草真由美です。よろしくね?」

 

 そう言って膝を曲げ、私の視線に合わせてくる。直感的に理解する。この人はおそらく私の苦手なタイプの人間だ。率直に言えばコミュ障の天敵だ。

 

「そろそろ時間ですので、失礼します。四葉さんも行きましょう」

 

 私が何も反応できず困っているのを達也が助けてくれた。七草先輩は残念そうな顔を隠さずこちらを見ていたが、私はすぐその場で一礼して達也を追う。やはり達也は気がきくようだ。きっとメイド服も似合うだろう。

 

「霊夢でいい……」

 

 ぼそっと小さい声で呟いたがしっかり聞こえていたようで反応を示す。

 

「わかった、よろしくな霊夢」

 

 やはりメイドにしたいと思う霊夢であった。




なんか思ってたのと少し違う……
霊夢がメイド好きになってしまった。


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入学式

今年度初クーラー稼働させました。
今日めちゃくちゃ暑いです。


 入学式が行われる講堂に入ると既にちらほらと生徒が席に座っていた。とりあえず達也についていこうとするが達也は講堂に入ってすぐに立ち止まって振り返ったためぶつかってしまう。

 

「霊夢、悪いがここからは一人で行ってくれ」

 

「!?」

 

 知り合いもいないなか一人で行動しろと申すか!そう非難の目を浴びせるが、ものともしない態度にこちらがおじけづく。

 

「座席の指定はないが一科生と二科生で分かれているようだ。あえて逆らって目立つのも良くない」

 

 そう言われて初めて気付く。そういえばエンブレムがあるかないかで差別意識があるとメイドさんに教えられていた。そして、達也の左胸にはエンブレムが無く、私には有る。これだけはっきりと席が別れているのにわざわざ逆らえば、それはもう目立つだろう。

 

「わかった」

 

 つい先ほどまでは裏切られた気分であったが、明らかに自分にとっても達也の言い分の方が正しいと感じ、先ほどの自分の態度を恥じ、速足で達也を抜き去り、講堂の前半分を目指した。

 

 

 霊夢はちょうどよく見つけた一番通路側の席に座る。ここならば隣接する椅子は右一つだけなので、ストレスも半減すると思い選んだ。

 

「お隣いいですか?」

 

 式が始まるまで二十分ほどの頃、私に対して話しかけてきたのはどこから見ても無害そうな女生徒であった。私の隣の席はまだ空いており、結局は誰かが隣に座らなくてはならないのだから彼女のような人が隣に来てくれるのは大歓迎だ。そう考えて私は小さくうなずき、通りやすいよう一度席を立つ。どうやら二人組であったようで、ちょうど空いていた二席を見つけてここに来たのだろうと察した。

 彼女たちが座ったのを見てから再び私も座る。我ながら完ぺきな対応であったと感じたのだが、二人はしばらく内緒話をしていた。何か私がおかしなことをして陰口を言われているのではないかと気が気じゃなかった。

 

「あの!私、光井ほのかです!よ、よろしくお願いします!」

 

 心を無にして何も考えないよう努めていると突如隣に座った子に自己紹介をされた。訂正しよう。無害そうに見えたが彼女は有害だ。主にコミュ障に対して。初対面の相手にいきなり自己紹介するなんて難易度の高いことができるなんて、だまされた!

 

「あ、あの、名前聞いてもいいですか?」

 

 しょんぼりした顔でこちらをうかがってくる彼女、ほのか。自己紹介されたら例え初対面でも自己紹介し返さなければならないのか、いや、初対面だからこそ自己紹介するのか?なんて考えているとほのかは涙目になっていた。自己紹介?そんなもの練習も想定もしていなかった。何と言えばいいのかわからない。名前を聞かれていたのだから、名前を答えればいいのだろうか。

 

「……霊夢」

 

「霊夢さんですね!よろしくお願いします!」

 

「よろしく」

 

 名前を言うだけでぱっと花が咲いたように笑顔になるほのかを見て、緊張が解ける。今まで常に私を知っている人が近くにいたため、自分で自己紹介をする機会はなかった。これからも自分一人で知らない人と会うことがきっとあるだろうからこのような時なんと言えばいいかメイドさんと一緒に定型文を作成しなくては。

 

「私は北山雫です。ほのかが霊夢さんのすごいファンで……」

 

「へっ、やややめてよ恥ずかしい!」

 

 二人組のもう一人、ほのかの向こう側に座る少女、雫が顔を出してきたが慌ててほのかが雫の肩を抑え、戻そうとする。そして今、すごいことを言われた気がする。

 

「私は、アイドルとかじゃ、ないけど……」

 

「うん、だから良かったら友達になってくれますか?」

 

 ほのかとの競り合いに勝った雫が再び顔を出す。

 

「……よろしく」

 

 ファン、というのはよくわからないがともかく無事同級生との初コミュニケーションを取ることに成功したと言っても過言ではないだろう。

 

 

 

 

 入学式は深雪の答辞以外はだいたい聞き流した。そのため入学式後、何をしていいかわからなくなってしまった私はほのかに任せ、ついていくことにした。

 

「ここでIDカードを受け取るみたいですね」

 

 それ用の窓口で個人認証を行い、IDカードを受け取る。

 

「これで今日は全部おしまいですね、霊夢さんはクラスはどこでしたか?」

 

「A組」

 

 そう答えると二人とも反応して少し笑顔になる。その時点で二人とも同じクラスなのだろうと予想がついた。もしかしたら彼女たちには長いことお世話になるかもしれない。

 

「私も雫もA組だったよ!よかった!一年間よろしくね!」

 

「ん」

 

 一科生のクラスは四クラスあるので、三人して同じクラスというのは一桁パーセント、すごい確率であろう。二人とも優しそうだし、もし深雪が違うクラスなら二人にくっついて一年間過ごそう。そう考えていた。

 

「私もほのかももう帰るけど、霊夢さんももう帰る?」

 

 その問いに何も考えず頷いてからふと気付く。現在自分は一人で家に帰ることもできず、達也たちとも待ち合わせをしていない、いわゆる迷子予備軍なのではないかと。

 

「途中まで一緒に帰りましょう」

 

 うつむいているとほのかに手を引かれ、校門の方へと進んでいく。私としては外出歴数週間であるため仕方ないのではないかと考えられるが、この年にして迷子というのは世間一般から見て恥ずかしいだろう。何も言い出せず、どうしていいかわからない私は引かれるがまま歩いていたが、ふと視界に見覚えのあるものが映る。

 

「霊夢様、お迎えにあがりました。車をご用意してあります」

 

 つい先ほど途中で別れたメイドさんであった。確かに行きは途中までと交渉したが、迎えについては何も言っていなかった。けど今はどうしていいかわからない迷子状態であったため助かった。

 

「お迎えきたんだ!霊夢さんの家ってもしかしてすごいとこ?」

 

 一般家庭にはメイドさんはいないであろうことはわかっていたので目立つことは避けられないが正直一人で帰るのは難しいのでこれからもしばらくは迎えが必要かもしれない。

 

「初めまして、私は四葉霊夢様の専属メイドを務めさせていただいております。桜井美波と申します」

 

「よ、四葉?!」

 

 私は驚いた。そういえばこれまでずっと世話をしてもらっていたにもかかわらず、メイドさんの名前を知らなかったのだ。これからはメイドさんではなく、桜井さんと呼んだ方がいいのであろうか。

 

「ほのか、雫、またね」

 

 なぜか固まっている二人に対して、友達として無難であろう別れの言葉を告げ、メイドさんに連れられ無事帰路についた。




霊夢をメイド好きからコミュ障迷子へ軌道修正。
それにしてもテンポ遅すぎますかね?他のハーメルン小説ならきっと今頃ラスボスと病室で対峙してる頃ですよね?


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入学式 ~side達也~

 その日叔母上から連絡があった。

 内容は四葉霊夢が第一高校に入学するというものであった。

 四葉霊夢、自分は一度しか直接見たことはないが年に1,2度本家に呼び出され会っている深雪によれば可愛い妹みたいな存在だそうだが、四葉家は司波達也以上に危険視しているということを知っている。

 彼女の使う特異な魔法、いや魔法とは言えないので自分の目と同じように異能と称される分類のものであるが、それを俺の目で検証するために彼女の異能を本家で見たことがある。

 それは宙を自由自在に飛ぶ異能。

 精霊の目で確認してもサイオンも確認できず、どのような原理か一切わからずじまいであった。

 俺の目で見た結果、人間が歩くのと同じように彼女も飛行していたという結論以外に到達する事ができなかった。

 そしておそらく彼女が使える異能は飛行だけではない。

 飛行魔法だけであればそこまで危険はない。

 実際、現代魔法では飛行魔法が技術化できていないというだけで古式魔法では術者は存在する。

 そのため、飛行魔法が使えるだけで四葉家に監禁されるということはないだろうというのが俺の見解だ。

 叔母上からの連絡にはもう一つ用件があった。

 それは四葉霊夢と共に登校してほしいという内容であった。

 自分たちが四葉の関係者だということは秘密にしなければならない。そのため本来なら周囲の目がある中であまり近づくべきではないのだが、これは四葉霊夢を溺愛している母親としての命なのだろう。

 少々不自然ではあるが立ち回り次第ではなんとかなるだろう。

 

 

 

 入学式当日、指定された場所で待っていると彼女はやってきた。

 深雪と並ぶと如何に容姿が優れているかよくわかる。

 贔屓目なしに深雪は世界で一番美しいと言ってもいいと思っている。

 その深雪と並んでも全く見劣りせず対等な美しさを持っていることがそういったことに疎い自分でもよくわかる。

 彼女は深雪に懐いているようで向こうから敵対することはないだろうと判断した。

 もちろん四葉家の人間に違いないため、警戒は怠らないが。

 また、それとは別に俺と深雪は彼女を連れてきたメイドに衝撃を受け、動揺した。

 彼女は司波深夜のガーディアンであった桜井穂波と瓜二つだった。おそらく四葉霊夢のガーディアンであり、また、桜井穂波の関係者であるのだろう。

 彼女が立ち去るとしばらく呆然としていた深雪を促し、第一高校へ向かった。

 

 

 

 第一高校に着いて深雪と離れてから俺と四葉霊夢は二時間という暇を潰すためにベンチに座っていた。

 彼女と合流して以来、常に彼女を観察しており、それはこの二時間も変わることなく続いていくはずであった。

 しかし、ベンチに座って情報端末の書籍データに視線を送ってしばらく、突如、四葉霊夢は世界から消えた。

 慌てて視線を彼女がいた場所へやる。

 そこには先ほどと変わらずベンチに座っている彼女の姿があった。

 それは神秘的でその空間だけ世俗から切り離されているかのような光景であった。思わず注視する。

 達也はおそらくこれが本家で監禁されていた理由であろうと推測する。

 精霊の目で見た限りその空間には何も存在しない。

 しかし実際にはいるのが見えているし、おそらくその場にいるのであろう。

 イデアにアクセスして存在を認識することができる精霊の目で見えないということはこの世界に存在しないことと同義であり、同じくイデアを経由して使用する魔法による影響を受けないであろうことを意味する。

 そしてそれだけではない、この世界に存在しないことと同義ということはこの世界のものの影響を受けないということだ。

 魔法だけでなく銃火器でも傷つけることができない魔法師。

 このような存在が知られたならばいくら四葉家の人間とはいえ、拉致、人体実験しようとする組織が現れる危険性は極めて高く、それは四葉家にとって最も忌むべきことである。

 つまり四葉霊夢は、四葉家に危険視されて監禁されていたわけではなく、世間から守るために監禁されていたのであろう。

 

 

 

 達也は考えていた。いずれ訪れるかもしれない自分たちと四葉家との決裂と衝突の時に立ちはだかるであろう四葉霊夢に対抗する手段を。

 戦闘は成り立たない。

 今日見た限り最低でも一時間半は無敵時間が持続する。そのような存在相手と戦うのは難しいであろう。

 逃走しようにも彼女の飛行魔法の精度と持続力は知っている。

 慣性を知らないかのような超加速と急停止、バイクで逃走すればたちまち狙い撃たれるであろうことは安易に予測できた。

 決して悟られないように暗殺する。それが四葉霊夢を相手にした場合勝つことができる唯一の方法だと考えられるが、もし失敗したらその時点で自分の敗北が決まる。

 結果として達也は四葉霊夢個人とは敵対しない、敵対関係になる場合見つからないよう隠れるしかない、現時点では対処方法はそれ以外に思い浮かばなかった。




ひたすら長文でごめんなさい。


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霊夢、影に隠れる

中間試験は中間試験がきてから考えればいいかなと思い次話投稿!


 翌日も途中まで、結局呼び方は変えずじまいのメイドさんに送られ、そこからは深雪たちに送られる。直感的に達也にじろじろ見られていたような気がして深雪を盾にするようなポジションを取る。もちろん達也はそれほどこちらを見ていたわけではないので気のせいだと思うのだが……

 

「霊夢のクラスはどこだったの?」

 

「A組」

 

「そう!なら私と同じクラスね」

 

 深雪と同じクラス、それはとても喜ばしいことであった。もちろん以前からの数少ない知り合いが同じクラスにいるので安心できるという理由もあるが、深雪はとても美しく、おそらく目立つ容姿なため、同じクラスにいれば自然とそちらに注目がいくであろうというデコイのような役割を霊夢はひっそりと期待していたのであった。

 

「じゃあ、二科はあっちだから」

 

「はい、それではまた」

 

 高校に着き、クラスの違う達也と別れる。そのまま深雪の手を掴んだままついていくと周囲の人間が深雪に注目しているのがわかった。

 

(予想通り深雪は目立つ。このまま影に隠れれば完ぺき)

 

 そうして霊夢は深雪の影側に陣取る。もちろんではあるが影に隠れるではなく陰に隠れるが正しく、そしてそれは言葉通りの行動をすればいいというわけではないのではあるが、霊夢は完全に勘違いをしていた。輝くように目立つ存在が中心にいる時、そちらに注目がいくからこそ他の場所にいる目立つはずの存在が目立たなくなるのが陰に隠れるということである。この状況の場合太陽である深雪のどの方角に隠れようとしても月は光り輝いてしまうので一人の時以上に目立っていたのであった。

 クラスに着くとようやくくっついていた深雪と離れ、先日のIDカードから自分の席を探し、席に着く。私の苗字は四葉であるため、もしかしたら光井ほのかの後ろかもしれないと少し期待していたが、一つ前はどうやら見知らぬ男子であった。霊夢は八つ当たりで目の前の男子に「禿げろ」と心の中で唱えていると少しして何か感じ取ったのか、震えあがって席を立っていく。それを見て、霊夢は満足するのであった。

 

「れ、れ霊夢さん!」

 

 後ろから名前を呼ばれ、振り返ると緊張している様子のほのかがいた。私は相対した相手のコミュ障レベルを測る能力を持っている。それによると先日は初対面で自己紹介ができてしまうレベルであったにも関わらず、今日は相手の名前を呼ぶだけで噛んでしまうレベルにまで下がっていることがわかった。レベルの判定がそのままであるが気にしない。

 

「おはよう、ほのか」

 

 相手がコミュ障とわかると落ち着くことができた。もしかしたらほのかとは良いコミュ障友になれるかもしれない。そう感じた。

 

「お、おはよう」

 

「その、雫は?」

 

「雫は今司波さんとお話ししてますよ!席が前後だったので!そういえば私と霊夢さんも席があと一つずれていれば前後でしたね!」

 

 それを聞いて、本人にはなんの責任もないがやはり許せない、もう一度心の中で唱えよう。そう考えていた霊夢であった。

 

「司波さんと霊夢さんって仲いいんですか?クラスに入ってきた時手を繋いでたように見えましたけど」

 

 その問いに頷く。私にとっては今のところ一番の友人である。自分はそう確信を持って言えるが、深雪は、私のことをどう思っているのだろう。もしかしたら友達とすら思われていないかもしれない。そんなことを考え、負の思考に入りかけた私はふとほのかが不機嫌そうにしているのに気付く。

 

『ただいまより、オリエンテーションを開始します。生徒のみなさんは席についてください』

 

「じゃあ霊夢さん、またあとで」

 

 不機嫌そうだった顔はすぐに戻り、手を上げるほのかに対して私もちょっと遠慮気味に手を振り返してみる。うん、友達っぽい。




霊夢の新たなる能力、コミュ障力測定能力が判明!
原作でも自己紹介のシミュレーションをするほのかは霊夢の能力によって同族判定されてしまった!


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二科生との衝突

先日中間終わりました。一科目だったのでなんとかやりすごしました。
感想の方でご指摘いただきましたが、霊夢は赤いリボンをつけてます。描写忘れです。ごめんなさい。今後そこのところを修正するかもしれません。


 先生によるオリエンテーションの説明が終わり、先生は早々にクラスを立ち去る。オリエンテーション、つまり上級生の授業の見学だが、見学したい授業があれば自主的に行動しても構わないと先生は言っていた。私、一応まだ引っ越したばかりだし、家の見学がしたいので帰っても構わないだろうか……

 

「霊夢さん!一緒に集合場所まで行きましょ!」

 

 そうは問屋が卸さないようで即座に同志ほのかに捕まってしまった。このままオリエンテーションの集合場所まで連行されるようだ。

 

「司波さんも!集合場所に急ぎましょ!」

 

 私の手を引いたまま、男子生徒の間を押し通り、囲まれて困っていたらしい深雪のことも確保するほのか。

 

「そうですね、光井さん、四葉さん、北山さん、行きましょうか」

 

 深雪のその言葉に周囲の男子生徒は凍りついたかのように動きが止まった。その隙に四人は集団を抜け出していった。

 

「やっぱり、四葉の名の効果は絶大だね」

 

 そう雫に言われて思いだす。メイドさんに四葉の名前がどうたらこうたらでヤのつく職業のように名前を出すだけで一般魔法使いは震え上がる。みたいなことを教えられた覚えがある。

 

「ごめんなさいね、霊夢。あなたの名前を使ってしまって」

 

 深雪は本当に申し訳なさそうにしていたが特に気にしていなかったので首を振る。自分が四葉だということを早めに知らしめておきなさいとお母様からも言われていたのできっと深雪のしたことは間違っていないのだろう。四葉の名は実際に効果があったこともわかったのでこれから話しかけてくる人が減るならば願ったりかなったりだ。

 

「私は!霊夢さんが四葉だとかそういうのは何も気にしません!」

 

「当然私も」

 

 ほのかも雫もとてもいい子だ。慢性コミュ障である私だがこの二人には友達になってもらえてとてもうれしく思っている。私なら友達の家がヤのつく家業だったりしたら普通に接することができるとは思えない。まあそもそも普通に接すること自体が現状難しいのだが。

 

「ありがと……」

 

 そう呟くとほのかに強く手を握りしめられた。私はいつまで捕えられているのだろう。

 

 

 

 オリエンテーション午前の部が終わり、昼休憩の時間となった。当然四人で食べる気まんまんであったが深雪が人気者のせいかわらわらとクラスメイトが集まってくる。時折こちらの様子を窺うような視線を向けてくる人がいるのは名前が広まりつつあるからであろう。

 

「では食堂の席が埋まらないうちに急ぎましょう!」

 

 そう言って集団を仕切り始めたのは先ほど私が呪っていた仮名ハゲの人だ。私が異議を唱えられるはずもなく、深雪も押しに弱いのか困った顔ではあるが反論はないようだ。

 それに気をよくしたのかハゲの人はドヤ顔で先頭を歩いた。いつの間にかかなりの集団になってしまい、その中でもハゲの人を含む三人はしきりに話しかけてくるのでうっとうしいことこの上ない。私に対しても少しおびえた様子を見せつつも話しかけてくるが無視していれば言葉も少なくなったため助かった。

 

「深雪ーっ、こっちだよー!」

 

 食堂に入ってすぐ、深雪の友人らしき人がこちらに手を振っていた。私と言う友人がいながら、知らないところで友人を作るなんて、これは浮気か?

 食堂に着いたことでそれまで一緒だったA組の多くの人はちりじりになってくれたのだが、どうやらこのハゲの人は一緒に来る気らしく深雪が友達のところへ向かうとついてきた。

 

「じゃあ、私たちはあっちで……」

 

「おい君たち、ここの席を譲ってくれないか?」

 

 雫が気を利かせてそう提案しようとしたがハゲの人はさも当然のように上から目線でそう被せて言った。

 

「二科は一科のただの補欠だろう?実力行使をしてもいいんだが、学内ではCADの使用は禁じられているからな」

 

 威圧的な態度で深雪の友人たちに告げるハゲの人。それに対して相手も目つきが鋭く、今にも一波乱起きそうなにらみ合いになっていた。

 

「わかった、俺はもう終わったから行くよ」

 

「あ、おい達也」

 

 どうやら衝突を避けるためか、メイドさんもとい達也は身を引くらしい。食べ終わった食器を片づけ始めた。

 

「いい心がけだ、他の三人も見習ってほしいものだ……

さ、司波さん、空きましたよ……司波さん?」

 

 ハゲの人は一人相撲を取っていた。まあすでに深雪を引っ張り四人席を確保して食堂の列に並んでいる私たちには関係のないことだ。無関係を装うとしよう。

 

 

 

 

「いい加減にしてください!深雪さんはお兄さんと帰るって言ってるでしょう!!」

 

 学習能力がないのか、それともなまじ学習能力があるため昼時に彼らを追い払う事ができたことに優越感を覚え同じことを繰り返したのかは知らないが、ハゲの人はオリエンテーションが終わって帰るというときに再び問題発言をしていた。それに対して言い返していたのは見た目は大人しそうな女の子。大人しそうな子でもキレるのはしょうがない。100%ハゲの人が悪い。

 私は迎えの車が来ているので、一人先に帰ろうとするがいつの間にかまたほのかに手を捕まえられている。なんで?

 

「あの……」

 

「大丈夫だよ、霊夢さん」

 

 大丈夫じゃないです。

 この騒動は深雪と一緒に帰りたいという子供のわがままから発展した騒動なので一緒にいて仲間だと思われたくありません。恥ずかしいです。

 

「これは1-Aの問題だ!他のクラス、ましてやウィードごときが、僕たちブルームに口出しするな!」

 

「お、同じ新入生なのにっ、今の時点であなたたちがどれだけ優れているって言うんですかっ」

 

 先ほどの大人しそうな子が再び叫ぶ。私のスカウターにはコミュ力低めと出ているのに、かなりガッツがあるというか、友達想いの良い子のようだ。

 

「どれだけ優れているか、知りたいなら教えてやるぞ」

 

 瞬時にCADを抜き、決め台詞を言う。

 

「二科生風情が!!」

 

 その場に一瞬の静寂が訪れた。いくらたっても魔法は発動せず、焦るハゲの人。それを見て、警棒を取りだしていた子がぷっと笑う。

 

「一科生さんは魔法の発動もままならないのかしら」

 

 警棒の子は挑発するが警棒を構えたまま警戒は解かない。そしてどうやら私のことも警戒ではないようだが意識はされているようである。

 そして挑発を受けた一科生の生徒は今にも一発触発の雰囲気で警棒の子をにらむ。

 

「あなたたち、何しているの!」

 

 喧嘩していることを何かしらで通報した人がいたのだろうか、生徒会長が現れた。それを見て私はそっとほのかの影に隠れた。

 

「すみません、森崎一門のクイックドロウは有名ですから、後学のために見せてもらっていました」

 

 いけしゃあしゃあと述べる達也。魔法も発動しなかったことだし、この発言に問題はないはずである。

 

「問題はなかったのですね?」

 

「はい、もちろんです」

 

「なるほど、生徒同士で教え合うことは禁止されているわけではありませんが、周囲から勘違いされるような真似は控えてくださいね。

それと四葉さんこの後時間あるかしら、なければ明日の昼の時間でもいいのだけれども」

 

 突如呼ばれたことにぴくっと体が反応してしまう。仕方なくほのかの影から出て生徒会長の方を見る。やはり苦手だ。どことなくリア充オーラがあふれ、先ほどの件があるのも相まって目を合わせられない。

 

「明日で……」

 

 それ以上追及などはなく、どうやら今のところは不問にしてくれるようだ。おそらく生徒会長以外にもほのか、達也、警棒の子には見られただろう。私がハゲの人、森崎に撃ち込んだ夢想封印を。



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生徒会室会食

掲載開始1週間です。
みなさんご覧いただきありがとうございます。


 現在私、四葉霊夢は今までにない問題に直面していた。

 

「うぅ……」

 

 私は今ベッドの上で唸っていた。

 弁明しよう。まず前提として私は生まれてから十五年、ほとんど部屋の中で過ごしていた。たまに魔法を教わったり運動をすることもあった。しかしこのひ弱ボディではこの二日間の過酷な労働にはついていけなかったのだ。

 と、いうわけで今日は休もう。筋肉痛なら仕方ない。

 

「霊夢様、本日は登校時も車を手配しましたのでご安心ください」

 

 うつ伏せで横たわる私の太ももやふくらはぎをマッサージしてくれるメイドさん、今日は休もうよ。一日くらい休んだって平気だよ。ちょっと勉強すれば追いつくよ。

 あからさまに不機嫌な表情を作ってみせても全く相手にされず、いつも通りお世話され、シリアルを食べさせられ、制服に着替えさせられ、赤いリボンで髪を結ばれる。

 私が動かないという最強の抵抗を見せても、このメイドさんは極度の世話好きで喜んで世話してくるため、打つ手もない。

 

「メイドさん、今日は……」

 

「申し訳ありません。奥様より高校の欠席は私の判断で決めるよう仰せつかっております」

 

 その判断とやらで欠席許可いただけないのだろうか、いただけないのだろうね。

 私は逃げられないと判断し、大人しくメイドさんにより一高へ出荷されるのであった。

 

 

 

 

 

 

「……霊夢!霊夢!」

 

 声をかけられている感覚がしてふと意識を覚ます。

 筋肉痛があまりにもひどすぎて途中から軽く瞑想状態に入り、痛みから解放されるという手段を使っていた。

 思っていたよりも時間が経っていたらしく授業が始まる前に戻るつもりがすでに昼休憩の時間になっていたようだ。

 

「霊夢!聞いてるの?」

 

 声の主、深雪へと振り向く。

 

「生徒会室に行きましょう」

 

 そう言えば昨日あの生徒会長に呼び出しを受けていたのであった。

 正直行かなくていいかな?と思っていたのだが無理やり連れて行かれるみたいだ。

 

「今朝登校中に会長と会って、私とお兄様も生徒会室でのランチに誘われたのよ」

 

 なるほど、それで私のことも頼まれていたというわけか。今日のように筋肉痛とかじゃなければ喜んで行くんだけど、本当、筋肉痛でさえなければ。

 そのまま私は何事もなかったように机に向き直る。

 

「霊夢?なんで無視するのかしら?」

 

 怒っていらっしゃる。

 

「……行きます」

 

 人に怒られると逆らえない質なのであっさり降伏します。

 

「深雪、おんぶ」

 

 教室を出て数歩ですが、霊夢はもう歩けません。背負って運んでください。

 

「歩いてください」

 

 深雪の怒っている声はとても怖いです。

 

 

 

 

 

「ようこそ生徒会室へ、どうぞ掛けてください」

 

 途中達也と合流して生徒会室の扉を開くと生徒会長に空席へと誘われる。

 生徒会長以外にもメンバーは三人いて、上座にいる生徒会長の向かって右側に一列に座っていた。生徒会メンバーと隣り合うことがないのはありがたい。

 

「失礼します」

 

 深雪が綺麗なお辞儀をして入室する。それを見て私も礼をして入る。

 

「ご丁寧にどうも、ランチは自動配膳機(ダイニングサーバー)があるのでお好きなメニュー選んでね

お話はお昼を食べながらにしましょう」

 

 そう言われて目線をやると初めて見る自動配膳機の姿があった。

 自動配膳機は主にレトルトなどの食品があらかじめセットされており、選択したメニューに応じて料理を出してくれる自動販売機のすごい版だ。

 これまでキチンとした食事しか食べてこなかったため、どうしてもジャンクなものが食べたくてしょうがなかったのである。

 と思っていたのだが、ここには肉、魚、精進料理しか種類が無かった。ハンバーガーセットはなかった。悔しく思いながらも魚を選ぶ。

 

「まずは紹介しますね

手前から会計の市原鈴音、通称リンちゃん

真ん中が風紀委員長の渡辺摩利

それから書記の中条あずさ、通称あーちゃん」

 

 一人だけあだ名がなく、ボッチ度数が高そうだと判断した渡辺先輩を仲間を見るような目で見つめる。

 

「私のことをリンちゃんなんて呼ぶのは会長だけです」

 

「私にも立場がありますから、下級生の前であーちゃんはやめてください!」

 

 あだ名で呼ばれた二人は抗議するが、渡辺先輩は一人静かにお弁当を食べている。

 やっぱりかわいそうだ!

 

「渡辺先輩、そのお弁当はご自分でお作りになられたのですか?」

 

 そこに深雪のナイス話題トスが入る。私では『今日は天気がいいですね』レベルの低いトスしか出せないだろう、流石は一学年の前で答辞を述べた学年主席だ。

 

「そうだが、意外か?」

 

「いえ少しも

普段から料理をしているかどうかはその手を見ればわかりますから」

 

 達也が横からスパイクを決める。完全に決まったようで渡辺先輩は恥ずかしそうに自分の手をテーブルの下に隠した。

 

「そうだお兄様!

わたしたちも明日からお弁当にしましょうか!」

 

「深雪の弁当はとても魅力的だけど

二人になれる場所がね……」

 

 確かに昨日のようなトラブルが起きるならばお昼はお弁当にしてどこかで食べるのも良い手だろう。

 さっそく私も明日からメイドさんに頼んでお弁当を作ってもらい、一人で食べられる場所を探すべきか。

 

「兄妹というより恋人同士の会話ですね」

 

「まあ確かに、血の繋がりがなければ恋人にしたい

と考えたことはあります」

 

 まさかの妹ラブ宣言であった。

 私は深雪がお兄様ラブなのは本人から充分聞いていたが、まさか両想いだとは思っていなかった。

 先ほど紹介された三人も、のろけられるとは思っていなかったようで恥ずかしそうにしていた。

 

「もちろん冗談ですよ」

 

 達也……真顔すぎて冗談かそうじゃないかがわからない。

 中条先輩と深雪も冗談だという発言に強い反応を示していたので二人も冗談だとは思わず本気で受け取っていたのであろう。言葉にならない言葉が口から洩れている深雪、あなたのその反応は少しまずい気がします。

 

「では、そろそろ本題にはいりましょうか」

 

 それまで面白そうに会話を聞いていた生徒会長が切りだす。

 

「当校は生徒の自治を重視しており、生徒会は学内で大きな権限を与えられています。

生徒会は伝統的に生徒会長に権限が集められています。

生徒会長は選挙で選ばれますが生徒会役員は会長が選任します。

そこで司波深雪さん、四葉霊夢さん、私はあなたたちの生徒会入会を希望します。

引き受けていただけますか?」

 

 え?嫌だ。絶対嫌だ。三年間帰宅部で過ごしたい。

 どうにか私を救う先ほどのような完ぺきなトスを上げてもらえないかと期待を込めて深雪の方を見ると何か伝わってくれたのか頷かれた。

 

「会長は、兄の入試成績をご存じですか?」

 

「七教科平均96点のダントツトップ、すごいですよね」

 

「有能な人材を生徒会に迎え入れるというのなら、わたしよりも兄の方がふさわしいと思います!

わたしを生徒会に加えていただけるというお話は大変光栄です。喜んでお引き受けしたいと思います。

ですが……

兄もわたしや霊夢と一緒に、生徒会に入るわけにはいきませんでしょうか?!」 

 

 !?

 現在、私も達也も鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。

 兄は優秀、兄は生徒会にふさわしい、霊夢の代わりに生徒会に入れよう!

 という完ぺきな流れだと途中までは思っていたのだが、最後の最後に肩透かしをくらった。

 どうやら先ほどの頷きには完全に認識のすれ違いが起きていたようだった。

 

「残念ながらそれはできません。

生徒会役員は一科生から選ばれると制度で決まっています」

 

「現行の体制が正しいとは思っていないのだけれど、

ごめんなさい」

 

 市原先輩も生徒会長も申し訳なさそうに言う。

 

「……いえ、申し訳ありませんでいた。

分を弁えぬ差し出口をお許しください」

 

 深雪は本当に悲しそうにそう言った。

 私もその気持ちはわかる。

 私も家から出るのはつらいし早く帰ってお布団に還りたい。

 深雪も大好きな兄と離れたくないのだろう。

 そう他人事のように感慨を覚えていた。

 

「では深雪さんと霊夢さんは書記として今期生徒会に参加していただきます」

 

「はい、精一杯努めさせていただきますのでよろしくお願いします」

 

 待ってください!

 私は受け入れるなんて言っていません!

 勝手に入ることになっていたことに絶望感を覚える。

 

「ちょっといいか?」

 

 完全にお開きになりそうな雰囲気のところに渡辺先輩からの助け船が入った。

 

「風紀委員の生徒会選任枠がまだ決まっていない」

 

「そっちはまだ人選中よ」

 

「一科の縛りがあるのは生徒会メンバーだけ。

風紀委員は二科の生徒を選んでも規定違反にはならない」

 

 そこまで聞くと生徒会長は立ち上がる。

 

「ナイスよ!摩利!

風紀委員なら問題ないわ!

生徒会は司波達也くんを風紀委員に指名します!」

 

 助け舟は助け舟でも、深雪への助け船であった!

 絶望の海に溺れる霊夢であった……

 

 

 

 私は先日の夢想封印が生徒会長に確実に見られていたというのは直感で理解していた。

 魔法によって起こされた現象に触れればそれを問答無用で吹き飛ばし、人に当たれば一定時間魔法を封印することができる私しか使えないであろう特別な魔法、夢想封印。これは私の判断で使用してもいいが説明はしないこと、と厳命されている。

 そのため、とりあえずの言及から免れることができたのはラッキーだったということにしよう。うん、それで充分だ……




改行について感想でアドバイスいただきましたが、
たぶんこういうことであってます、よね?


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