ハイスクールD×S~SPIRITSを受け継ぐ者~ (ユウキ003)
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第1話 「はじまり」

この作品は、ハイスクールD×Dと仮面ライダーSPIRITSの
クロスオーバーです。
SPIRITSを読んでたら熱血路線に当てられて書き始めました。
亀更新ですが、楽しんでいただければ幸いです。


その世界は、様々な力に満ちていた。

——神器——

聖書の神と呼ばれ存在が人間に与えた、神さえも倒す力を持った

大いなる力。

——悪魔・天使・堕天使——

神話の世界でのみ語られながらも現実に存在する彼ら。

永遠に近い時を生きる悪魔。

神に使え天界に住まう天使。

邪な考えによって堕天し、悪魔と冥界を二分する堕天使。

 

それだけではない。神さえも殺す龍。北欧神話、ギリシア神話、

インド神話、日本神話……。

 

様々な神話が実在し、それに付随する存在もまた、実在していた。

故に、神器を持たぬ人間とは彼らにとって最弱の生命だ。

脆く、遅く、力も無い唯の生命。そう認識されても

仕方ない程、彼らから見て人間とは弱い生き物だった。

 

だがしかし、人間が必ずしも弱いかと言われれば答えは

NOである。

 

何故ならば、その様々な神話が交差する世界の影で日々、

人類の自由と平和を守る為に戦っていた男たちが居たからだ。

 

彼らは人と悪魔のハーフでもなければ神に選ばれた人間でもない。

ただ少し、他人より力に優れ、頭脳が明晰なだけの、

唯の人間だった。

しかし彼らはある日、悪魔をも超える悪意ある者達の手によって

改造手術を施され、『改造人間』となってしまった。

そんな彼らはやがて、人々を護るために立ち上がり、そして

戦った。いや、今も彼らは戦い続けている。社会の闇に潜み、

世界を支配しようとする者達と日々戦い続けている。

 

そして、彼らを知る数少ない人々は、彼らを称え、こう呼ぶ。

 

 

 

 

『仮面ライダー』、と。

 

 

これは、そんな仮面ライダーたちの、熱き男たちの背中を見て育った

青年が悪魔たちの存在を知り、大切な人々を護るために戦い、

やがて地球そのものを揺るがすほどの激動の戦いへと身を投じた、

小さく弱い、それでも戦い続けた人間とその仲間たちの戦いと

友情、そして愛の物語である。

 

 

 

ハイスクールD×S~SPIRITSを受け継ぐ者~

 

 

とある地方都市、駒王町。その真夜中。

   『ブォォォォォォンッ!!』

市街地の路上を一台のバイク、ホンダ・レブル250が

疾走していた。しかし、更にレブルの前を走る人影があり

レブルに乗るライダーはその人影を追っていた。

 

はぐれ「クソッ!?人間風情がっ!」

悪態をつきながらも走るその人影の正体は、チーターのような

足を生やした中年男性だった。しかし、厳密にはその男は

人ではなかった。

『悪魔』。

神話の中にしか存在しない『はず』の存在。しかし現に悪魔や

天使、堕天使は冥界や天界と共に実在し、人間と遜色ない程の

社会を築いていた。そして、この駒王町はとある貴族悪魔が

統治している町であり、そんな彼女の領地に現れ、今まさに

追いかけられているのが、悪魔社会において何等かの理由で

追われるみとなった『はぐれ悪魔』だった。そして、

そのはぐれ悪魔を追うのが、黒いプロテクタースーツに髑髏が

描かれたマスクを身に纏ったライダーだった。

と、その時、後方を走っていたレブルのライダーが腰元の

ヒップホルスターから左手でオートマチック拳銃を抜き放ち、それを撃った。

   『ドンッ!』

   『ビスッ!』

はぐれ「うがっ!?く、っそぉ!」

如何に悪魔と言えど、防がなければ銃弾でもダメージを受ける。

ましてやライダーが手にしている銃は50口径の拳銃、

デザートイーグル(DE)のカスタムメイドだ。ハンドキャノンとさえ

謂われるDEの威力は伊達ではない。

   『ドンドンッ!』

   『ビスビスッ!』

はぐれ「ぐあっ!」

更に撃ち込まれた2発の弾がはぐれ悪魔の腹と右脹脛を撃ち抜き、

はぐれの足を止めた。撃ち抜かれた事でその場に転倒するはぐれ。

と、その時。

 

???「鬼ごっこは終わりかしら?」

倒れたはぐれの前に、よく通る声の少女が舞い降りた。その背に

あるのは黒い蝙蝠のような翼。それを持つと言う事は彼女が

悪魔である証拠だ。

輝く紅い髪を靡かせ、同性からも羨ましがられる程の美貌を

持った彼女こそ、この町、駒王町を統括する純血悪魔、

『リアス・グレモリー』だった。

更に、その彼女の後ろに彼女の下僕である数人の人影が

同じように悪魔の翼を使って降り立った。

はぐれ「うぐ、貴様はぁ、グレモリー家の」

何とか体を起こした悪魔は憎々し気にリアスを睨みつける。

そこへ……。

   『キキィッ』

先ほどまではぐれ悪魔を追跡していたスカルマスクのライダーが

追いつき、これではぐれ悪魔は前後を挟まれる形となった。

 

リアス「何か、言い残す事はあるかしら?」

そう言って、風になびく髪をいじるリアス。同時に、彼女が

浮かべる余裕ぶった表情がはぐれを苛立たせた。

はぐれ「この、クソッタレがぁぁぁぁっ!!!」

怒りを爆発させたはぐれは、何とか動く右手を掲げ魔力の塊を

発射しようとしたが……。

   『ドンドンッ!』

   『ビスビスッ!』

「うぐぁっ!?」

背後に居たスカルマスクのライダーの早撃ちがはぐれの右肩と

右掌を正確に撃ち抜いた。

痛みによって、集中力を中断され撃ち出すために溜めていた

魔力が霧散する。

   「あ、ぐ。に、人間、風情、がぁ」

既にいくつもの傷口から血を流しているはぐれが忌々しそうに

呟く。

 

リアス「それがあなたの最期の台詞ね、はぐれ悪魔パルサー。

    これまでの所業を思い出しながら、消し飛びなさい!」

そう言うと、リアスは赤い魔法陣を作り出し、そこから彼女の

得意な『滅びの力』、赤黒いエネルギーを発射した。

そして、それに飲み込まれたはぐれ悪魔のパルサーは、声を

上げる事も無く、跡形もなく消し飛んだのだった。

 

それを見届けると、リアスの背後に控えていた眷属の一人、

リアスにも劣らないプロポーションの持ち主である黒髪の女性、

『姫島朱乃』が彼女に近づいた。

朱乃「お疲れ様でした、部長」

リアス「えぇ、みんなもお疲れ様。それに」

一度振り返って後ろに居た眷属たちをねぎらってからリアスは

レブルの方へと歩み寄った。それに合わせ、一度レブルのエンジンを

切ってからマスクを外すライダー。

 

マスクの下から現れたのは、少し癖のある黒髪を持ち勇ましいと言う

言葉が似合いそうな端整且つ男の雰囲気が溢れる顔の、リアス達と

同い年ぐらいの青年だった。

   「あなたもお疲れ様、セイ。今日はあなたのお手柄よ」

???「ありがとうございます」

そう言って、マスクを腋に抱えつつバイクから降りる青年。

   「お役に立てたのなら、何よりです」

リアス「そうね。それじゃあみんな。今日の仕事はここまでよ。

    各自ここで解散」

眷属「「「はい、部長」」」

そう言って、朱乃と他の二人の眷属も頷く。それを確認したリアスが

再びセイと呼ばれた男の方を向く。

リアス「それじゃあセイ。また明日。学校でね」

セイ「はい。失礼します」

 

そう言って挨拶を交わすと、セイはスカルマスクをかぶり直して

レブルに跨り、リアス達に一礼してから暗い夜の道を走り去って

行ったのだった。

 

 

そして翌日。その朝。

駒王町にあるマンションの一室で、早朝にダンベルを手に筋トレを

している青年の姿があった。

短パンにTシャツ一枚と言うラフな格好のままダンベルを交互に

上下させるその青年は、昨晩リアス達と共に戦った人物、セイこと、

『滝 誠一郎』だった。

  「はっ、はっ、はっ」

シャツ越しにでも分かる鍛え抜かれた筋肉に無駄は無く、彼が如何に

鍛錬に時間を割いてきたかが分かる。

やがて、セイは日課の鍛錬を終えるとシャワーで手早く汗を流し、

彼が通う学校、駒王学園の制服に着替えてから更にエプロンを

掛け、手早く学校へ持って行く弁当と朝食を作った。

そして、時計を確認して家を出ようとしたセイだったが……。

  「っといけね。忘れる所だった」

何かを思い出して、玄関の手前で引き返した彼はリビングに戻り、

その一角に置かれた仏壇の前に正座した。

  「お父さん。お母さん。俺は今日も元気です。今日も、

   学校に行ってきます」

そう言って、仏壇にある幼き日のセイとその両親を映した写真に

向かって手を合わせてから、改めて彼は家を出るのだった。

 

 

家を出たセイが徒歩で向かったのは、駒王学園と呼ばれる学校だ。

少し前まで女学校であったが近年共学化。部活の数も多く、

海外交流も盛んな学校だ。

そんな学校にセイは通っていた。

やがて、彼が歩いていると大勢の駒王の生徒達が歩いている道へと

合流した。

男子A「おぉセイ、おはようさん」

セイ「おう。おはよう」

女子A「あ!滝先輩!おはようございます!」

セイ「おはようさん。あ、聞いたぜ。女子テニス、練習試合近い

   んだってな。頑張れよ」

女子A「は、はい!ありがとうございます!」

男子B「おっす!おはよう滝!」

セイ「おぉ先輩。おはようございます」

男子B「なぁ悪いんだが滝、またバスケ部の助っ人頼めねぇか?

    一人この前の試合で怪我しちまってよ」

セイ「あぁ俺なら良いっすよ。後で細かい話聞きにっても

   良いすっか?」

男子B「あぁ!助かるよ!後でな!」

 

と、そんな風に、大勢の生徒達と話をする当たり、如何に彼が

年齢等に関係なく周囲から慕われているかがよくわかる。

そして、彼が校舎に向かって歩いていた時だった。

???「あ~。おっぱい揉みて~~」

不意に彼が歩いていた近くにあるなだらかな坂の草原の方から

不謹慎さが丸出しな発言が聞こえて来た。

 

セイ「ハァ。全くあの問題児どもは」

と、声の主とその近くに居る面々を見たセイはため息をつきながら

そちらへと足を向けた。

 

  「おうコラ変態共。朝っぱらから何してんだよ」

そう言って、草原に寝そべる3人の男子の頭の近くに立ち彼らの

顔を覗き込むセイ。

イッセー「んぁ?何だセイかよ」

そう言って、体を起こしたのはさっきの不謹慎な発言の主、

『兵藤一誠』こと『イッセー』だ。更につられて体を起こすイッセーの

悪友で、丸刈り頭の『松田』と眼鏡男子の『元浜』の二人。

セイ「おはようさん。で、お前達は何が何だって?

   色々不味い単語が聞こえて来た気がしたんだが」

イッセー「っるせぇセイ!俺はお前程モテないんだ!

     それでも俺には、俺達には夢があるんだ!そう、

     ハーレムを作ると言う夢が!」

と、拳を握りしめ熱く語る、文字通り変態のイッセーと

それに頷く二人。

セイ「だったら、学友としてまずはその煩悩丸出しの

   態度を改める事をお勧めするよ、ったく」

そう言って、相変わらずな学友たちの態度にセイはため息を

付いた。

松田「つか、そう言うお前だって女に興味ないのかよセイ!」

セイ「俺か?生憎と、俺はそっちに現を抜かすよりやる事が

   山ほどあるんだよ」

元浜「くっ?!これがモテる男の余裕か!死ねリア充!

   爆発して死んでしまえ!」

イッ・松「「そうだそうだ!!」」

セイ「お前ら、何気にヒデェなホント。大体、俺なんてモテるのか

   自覚ねぇよ」

 

元浜「ん?何だセイ。お前自覚なかったのか?」

セイ「あん?自覚?」

と、肩をすくめるセイに疑問符を投げかける元浜。

元浜「お前、女子の間では結構有名なんだぞ。如何にも男と言った

見た目と面倒見の良い性格。成績はクラスどころか

   学年でトップに躍り出る程の秀才。体育でもサッカー、野球、

   バスケ、水泳等々をそつなくこなす天才。正しく

   文武両道。加えて後輩やクラスメイトどころか先輩からも

   頼られる兄貴肌として交友関係も広く、1年の後期のバレンタイン

   では大多数の女子からチョコを貰い、尚且つそれに手作りの

   お菓子を綺麗にラッピングしてホワイトデーのお返しとして

   送るなど!正しく絵に描いたようなモテ男ではないか!

   それを知らんとは!何たる奴!」

と、段々と声を荒らげる元浜。

松田「くっそぉ!俺達だって、俺達だってセイ程の

   スペックがあればぁ!」

イッセー「クッソ~!爆ぜろリア充!」

と、恨めしそうにセイを睨みつけるイッセー達。それを見てセイは

再びため息をついた。

セイ「あのな~。顔はともかく、運動に勉強とかは日々の心がけなんだよ。

そう言うのは努力だ努力。お前らも女子にモテたいなら

せめて言動なり何なりを変えろっての。

   取り合えずは、変態3人衆なんて言われないように頑張れよ」

そう言うと、3人から離れて歩き出すセイ。

  「後、警察の世話にだけはなるなよな~」

と、彼は去り際にそう言うのだった。

 

 

ちなみに、数十分後。セイの後から教室にやってきたイッセー達

だったのだが……。

 

イッセー「ぐ、ぐふぅ」

机に突っ伏しているイッセー。彼の顔は、所々赤く腫れていた。

それを見て察してしまうセイ。

セイ「………。ま~た女子剣道部の村山達にしばかれたのか?

   ホント、警察の世話だけにはなるなよな?」

イッセー「っるせぇ」

覗きをしようとしてボロボロにしばかれて教室にやってきた

イッセーを見て、セイはため息をつくのだった。

 

 

そして放課後。

セイは一人校舎を離れ、学園の敷地内にある場所に向かった。

そこは、敷地のはずれにある木造の建物、旧校舎だった。

元々、今セイやイッセー達学生が使っているのは新校舎で、

そっちが建てられると旧校舎は殆ど使われ無くなったのだが……。

特に躊躇った様子もなく旧校舎に足を踏み入れ、進んでいくセイ。

やがて彼は一つの扉の前に立つとそれを開いて中に入った。

 

そこは……。

セイ「失礼します」

扉を開けながら、そう言って中に入るセイ。部屋の中は、

はっきり言って不気味だった。カーテンによって閉め切った窓と

少ない光源のせいで薄暗く、床には魔法陣、壁には不気味なアイテムが

飾られていたからだ。

 

しかし臆する事も無いセイ。そして……。

リアス「あら、来たわねセイ」

部屋の中では、昨日の夜共に戦ったリアスと彼女の眷属である

朱乃たち3人が集まっていた。

セイ「すみません、少し遅れました」

そう言ってソファに座るセイ。彼の隣に居たのは……。

祐斗「セイ君が遅れるなんて珍しいね」

と、さわやかな表情で問いかけたのは金髪が特徴的な、

学園1の美青年とも言われる『木場祐斗』だった。

セイ「あぁ、実はバスケ部の先輩から今度試合の助っ人を

   頼まれてな。それの話に言ってたんだ」

そんな説明していた時。

小猫「……。相変わらず、先輩は人助けが好きですね」

と、感情が無いようにも聞こえる静かな声がセイの向かい側の

ソファの方から聞こえて来た。その人物とは、銀髪に左側にした

黒い猫の髪飾りが特徴的な、小柄な少女、『塔城小猫』だった。

 

祐斗も小猫も、そして朱乃も、訳あってリアスの眷属となった

『転生悪魔』なのだ。

そして、秘かに街を統治しているリアスの協力者として、

今のセイはここに、オカルト研究部の部室に居るのだった。

 

やがて、朱乃がセイの前に紅茶を置き、リアスの脇へと控える

用に戻ろうとリアス自身が話し始めた。

リアス「それじゃあ、いつも通りみんなに集まって貰った訳だけど、

    今日は少し穏やかじゃない議題があるの。朱乃」

朱乃「はい」

そう言って朱乃を近くに呼んだリアスは机の上にあったファイルから

一枚の写真を撮りだして彼女に渡し、セイ達の前に置かせた。

セイ「こいつは?」

そこには、トレンチコートの様な物を着た男を映しだされていた。

リアス「少なくとも一人、この街に潜入したと目される堕天使の男よ」

祐斗「ッ!?堕天使、ですか?」

小猫「……穏やかではありませんね」

と、驚いている祐斗と無表情だが同じく驚いている小猫。

 

かつて、悪魔は別の勢力と大きな戦いを繰り広げていた。

それが『堕天使』と『天使』の勢力だ。

冥界を二分する形で生活している悪魔と堕天使が冥界の覇権を

争う形で戦い、更にそれらを滅しようと天使が参戦してきたのだ。

やがて三つ巴の様相を呈し始めた三大勢力による戦いは苛烈を

極め、血で血を洗うような凄惨な戦いへと発展していった。

そんな戦いのせいか、三大勢力は相当のダメージを負う結果となった。

それによって三大勢力は戦いを控えるようになった。

今でも小競り合いこそ続いているが大きな争いにまでは発展

していなかった。

しかし、ここに来ての悪魔領への堕天使の潜入。

小猫が穏やかではないと言うのも無理は無いのだ。

 

セイ「こいつ、一体何の目的で駒王に?」

リアス「今の所それらに関する情報はないわ。潜入された以上

    黙って見過ごすわけには行かないけど、今はまだ

    様子見よ。私達の戦いが、三大勢力による戦争再開の

    火種になるようなことだけは避けなければならないのは、

    みんなも分かっているわね?」

セ・祐・小・朱「「「「はい、部長」」」」

リアス「良い返事ね。ともかく、相手の狙いが分からない以上

    みんなも普段以上に周囲を警戒するように」

 

そんなわけで、リアスからのお達しとしていくつかの注意事が

告げられた。

 

それから数日後の休日。

イッセー「ん~。遊んだ遊んだ~」

と、私服姿のイッセーが商店街にあるゲーセンから出て来た。

    「っと、こんな時間か。何か飲み物でも飲んで帰るか~」

と言うと、一人歩き出したイッセーは近くの公園へと行き、

そこで自販機で飲み物を買い、ベンチに腰掛けた。

    『そういや、これ何なんだろうな~』

と、頭の中で呟きつつ懐から一枚の紙を取り出すイッセー。

それは、不思議な魔法陣が描かれた一枚のチラシだった。

    『駅前で綺麗なお姉さんが配ってたからつい勢いで

     手に取っちまったけど、怪しいよなぁこれ』

そう思いつつ、缶に口を付けるイッセー。

    「まいっか。家帰って捨てよ」

そう言って飲み物を飲み終えたイッセーはチラシを

ポケットにしまいゴミ箱に空き缶を投げ入れた。

そして、彼は帰ろうとしたのだが……。

???「あ~君、ちょっと良いかな?」

イッセー「え?」

不意に後ろから声をかけられたので、振り返ったイッセー。そこには

コートにシルクハットを被った男性が立っていた。

???「あぁすまない。実は遠くからこの街を訪ねて来た者

    なのだが、如何せん土地勘が無くてね。すまないが、

    この地図の場所は分かるかな?」

と言って、男性は懐から畳んでいた地図を広げてイッセーに

見せた。

イッセー「えっと、公園がここだから~。あぁそれって

     あっちっすね」

と、そう言って地図にあった印の方を指さすイッセー。

その時イッセーは男性の方に『背を向けてしまった』。

???「あぁ、ありがとう。そうだ。ついでに用事を

    済ませてしまうか」

イッセー「へ?用事って……」

   『ズブッ!!』

    「え?」

 

振り返ったイッセー。しかしこの時、彼は腹部に違和感を覚え、

視線を下に向けた。

そこで彼は、自らの腹部に突き刺さる光る槍を目にした。

    「え、なっ。……ぐ、ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」

そして、現実を理解し絶叫するイッセー。それを確認すると、

男性、いや、『堕天使ドーナシーク』は手にして槍をイッセーから

引き抜いた。それによって地面に倒れるイッセー。

    「あ、ぐぅっ!?何だよ、こ、れ。あ、あんたは、

     一体……」

ドーナシーク「そうだな、冥途の土産に教えてやろう。私は

       堕天使ドーナシーク。崇高なる堕天使の御方々

       によって、神器を持つ貴様を殺しに来た者だ」

イッセー「堕、天使?神、器?訳わかんねえ、よ」

ドーナシーク「ふっ、脆弱で無知な人間ならばそうだろうさ。

       そんな人間の、唯の子供のお前ならばその傷でも

       死に絶えるだろう。精々、苦しんで死ぬが良い」

 

そう言うと、ドーナシークは手にしていた槍を消し去り、その背中

から黒い翼を広げると高笑いを浮かべながら空へと去って行った。

 

 

イッセー「嘘、だろ。俺、こんな所で死ぬの、かよ。

     冗談じゃ、ねえ、ぞ。俺は、俺は、まだ、生きるんだ」

何とか動くからだで、仰向けになるイッセー。そして、彼は

自分の血で汚れた右手を見つめる。

    『赤い。あの人と、リアス・グレモリー先輩と同じ、

     紅い、色』

もはや口も動かないが、それでも赤から連想する存在、

リアスの事を考えるイッセー。

    『そうだ。死ぬ、なら、いっそ、あの人の、よう、な、

     美少女に、抱かれ、て……』

やがて、血を失い過ぎたが故に意識が朦朧としだすイッセー。

だが、その時……。

   『パァァァァァァァッ!!』

不意にあのチラシが輝きだしたかと思うと、イッセーのすぐ

近くに紅い魔法陣が描かれた。

 

その魔法陣の中から現れたのが、リアスだった。

そして、イッセーは彼女の姿を見た所で、意識が途切れるのだった。

 

 

 

翌日。イッセーは昨日の一件を夢と勘違いしつつ、何故か怠い体で

いつものように学校へと向かうのだった。

 

彼はまだ知らない。自分の身に起こった、真実を。

今は、まだ。

 

 

一方、セイは朝からイッセーに元気がない事を気にしつつ

珍しいな、程度の認識だけで別段気にしていなかったが……。

放課後、それの事実は突如として知らされた。

 

   『ガタッ!』

セイ「なっ!?こいつは、イッセー!?」

驚き、ソファから立ち上がってしまうセイ。

 

時間は、数分前にさかのぼる。

 

  「失礼しま~す」

いつものように、部室へとやってくるセイ。

リアス「来たわねセイ。それじゃあ全員が揃った訳だけど、

    今日は少し、大事な話があるの」

と、セイを見ると笑みを浮かべて歓迎したリアスだったが、

彼がソファに座ると眷属である祐斗、小猫、そして協力者である

セイの方を真剣な表情で見つめた。

   「実は昨日、堕天使に襲われたと思われる学園の少年が居たの。

    彼は運よく私達が配っている悪魔稼業のチラシを持っていた

    事、そして悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を持っていた

    私への思いが強く、私を召喚した事で難を逃れたわ」

朱乃「では、その少年は転生悪魔に?」

リアス「えぇ」

 

と、ここで少し解説しておこう。

リアス達は日々、悪魔として人間との取引を行っている。

人間側の要求に対して様々な対価を要求。

悪魔が人間の欲望を叶え、対価を貰う、と言った感じだ。

イッセーが貰ったあのチラシは、その取引を行うために

必要な物であり、強い願いによって悪魔(この場合、リアスと

彼女の眷属の3人の内の誰か)を召喚する仕組みになっていた。

 

そしてもう一つ、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)と言う物がある。

このピースは人間で言うチェスのような者だ。

数は一個違いで15個、ポーン、ルーク、ナイト、ビショップ、

クイーンと各種それぞれ数と能力がある。そして、そのピースを

持つ存在、ここで言うリアスをチェスで言う王、キングとする。

キングの資格。つまりピースを持つ事が出来るのはある程度

血統の付いている悪魔のみである。

この駒には、主の資質に応じて様々な存在を転生悪魔にする

力がある。

転生悪魔となった者は主、キングに使える僕となる。

付け加えるのなら、祐斗がナイトの眷属、小猫がルーク、

朱乃がクイーンの眷属悪魔である。

 

さて、話を戻そう。

セイ「それで、堕天使が襲ったって言ってましたけど、

   まさか神器目当てで?」

リアス「その可能性は高いでしょうね」

と、セイの言葉に頷くリアス。

 

神器、とは?

それは別名『セイクリッド・ギア』と呼ばれるアイテムの事だ。

天使陣営の長、聖書の神が作り出したシステムで、所有者に

不思議且つ、様々な力を与えるアイテムの事だ。

中には神を倒す程の力を持った者、神滅具≪ロンギヌス≫と

さえ称される物があるほど、かなり強力且つ危険な存在だ。

 

   「セイクリッド・ギアの力は時に神をも超えるとさえ

    言われているわ。そして、その覚醒による堕天使

    陣営の被害を恐れた何者かがあの男を遣わして

    少年を襲わせた。そう考えられるわ」

 

そう、神器の力は強大ゆえに襲われている節もあるのだ。

セイ「クッ!ふざけやがって!何も知らない民間人相手に

   あの野郎っ!」

パン、と拳を打ち付け合い、怒りを滲ませるセイ。

リアス「セイの怒りは最もよ。けど安心して。襲われた少年は

    ピースの力で眷属にしたから生きているわ。今日も

    無事に登校してい姿をさっき確認してきたもの」

セイ「そうですか」

と、彼女の言葉に安堵するセイ。

朱乃「それで部長、その襲われた少年と言うのは?」

と、朱乃が問うとリアスは机の上に伏せられていた写真を

取って朱乃に渡し、更にセイ達にも見させた。

 

そして……。

セイ「なっ!?こいつは、イッセー!?」

 

その少年が、見知った仲の友人だった事に驚くセイ。

 

 

これが、悪魔となり、後に激動の時代を駆け抜けた少年と、

大勢の人々を陰から救って来た英雄に憧れ、悪魔となった

少年と共に、同じように戦い続けた少年の、始まりの日だった。

 

     第1話 END

 




主人公とライダーたちの絡みとかは今後分かって行く方向です。


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第2話 「転生」

前回のを読んで滝が死んだと思った人、
すいません!!
死んでないです!そこはおいおい説明します!


~~前回までのあらすじ~~

かつて仮面ライダーたちの姿を見て育った青年、『滝誠一郎』こと

『セイ』は、悪魔と呼ばれる存在、『リアス・グレモリー』と彼女の

眷属たちの協力者として、人間でありながら世界の裏側に関わっていた。

しかし、そんなある日、特殊なアイテム『神器(セイクリッド・ギア』

を宿したセイの友人である『兵藤一誠』こと『イッセー』が神器の

存在を危惧した堕天使によって殺されてしまう。

しかしある事がきっかけでリアスを呼び出し、彼女の持つ力で

一命をとりとめたイッセー。彼はまだその身に起こった事実を

知らず、そしてセイもまた、イッセーが襲われていた事を知るのだった。

 

 

渡されたイッセーの写真を見て驚き目を見開いているセイ。

リアス「セイ?」

セイ「あ、す、すみません」

そして、驚いて固まっていたセイだったがリアスが声をかけると

ハッとした表情ですぐに意識を戻した。

祐斗「今の君の反応からして、もしかして彼は友人なのかい?」

セイ「あぁ」

と、隣に居た祐斗の問いかけに、どこか戸惑っているような

表情で頷くセイ。

  「こいつは兵藤一誠。俺のクラスメイトで駒王に進学してからの

   知り合いだ。……けど、まさか神器の保有者だったなんて」

と、一通り説明してから、やるせないような表情を浮かべるセイ。

  『まさか、見す見す知り合いを殺されていたなんてな。

   ……クソッ!!あの堕天使がやりやがったのか!?』

険しい表情を浮かべるセイ。

   『ポンッ』

そんな時、隣に居た祐斗が彼の肩に手を置いた。

祐斗「落ち着いて。殺気がダダ漏れになっているよ」

セイ「え?あぁ、すまない」

彼に注意され、セイは俯いて荒ぶっていた感情を落ち着けた。

リアス「友人を一度は殺されたんだもの。あなたの心中は

    察するわ。けど安心して。彼は無事よ」

セイ「はい。分かってはいるんですが……」

そう言って、どこか自責にも似た表情を浮かべるセイ。

彼の表情を見てリアスが何かを言おうとした時。

   『ピクッ』

リアス「ッ、この感じは……」

何かに気付いて窓の方を見つめるリアス。続いて朱乃たちも何かに

気づいたように視線を動かした。

セイ『まさか……』

その様子を見て、すぐに感づいたセイ。

  「もしかして堕天使ですか!?」

リアス「えぇ、そのようね」

窓の方を睨みながら、険しい表情を浮かべるリアス。その時だった。

セイ「そういや、今日イッセーが放課後に松田達の家に遊びに行くって」

不意に、学校でイッセーが話していた事を思い出すセイ。

それを聞いたリアスはすぐさま立ち上がった。

リアス「みんな、急ぐわよ!」

朱・祐・小・セ「「「「はい、部長!!」」」」

 

各々すぐに準備をするメンバー達。

セイは鞄の中に魔法を掛けた布で隠していたDEをヒップホルスター

ごと取り出して腰に巻き、更に、とある恩人から与えられた

特殊ナイフ、『電磁ナイフ』を鞘ごと左足腿側面に巻き付けた

祐斗も既に左腰に帯剣し、小猫も戦闘用のフィンガーレスグローブ

を手に嵌めていた。

3人は互いの様子を見て頷く。

 

朱乃「では、参りましょう」

そう言って赤い魔法陣を展開する朱乃。これは本来リアスと

彼女の眷属しか転移出来ないのだが、今のセイは特殊な

術が刻まれたお守り、メダリオンを持っておりそれによって

転移が可能なのだ。

 

魔法陣がより一層輝き、5人を堕天使が居ると思われる場所に

飛ばした。すぐに周囲を見回すセイ。

そして、木々の隙間を越えた先、そこでは案の定、

イッセーが堕天使に襲われていた。

 

 

 

時間は少し遡り、イッセーが松田達とエロビデオを見つつも

違和感を覚え二人と別れた直後の事だった。

 

二人と別れたイッセーは、普通とはかけ離れた自分の現状に

戸惑いながらも、あの時の公園へと来ていた。

 

イッセー「……あの夢の通りなら、俺は昨日ここで……」

    『いやいや、待て待て待て!』

不意に、額に手を当てるイッセー。

    『そんな馬鹿なっ!俺が死んだ?じゃあここに

     居る俺は?!俺は生きているじゃないか!記憶だって

     しっかりしてる!じゃああれは一体……!』

    「……クソッ」

考えても答えが出ない現状に、毒づくイッセー。と、その時。

 

周囲の空の色が変わった。

    「ッ!何だこれ!?」

慌てて周囲を見回すイッセー。その時。

ドーナシーク「まさか、悪魔になって生きながらえていたとはな」

不意に後ろから声がした。バッと振り返るイッセー。そこに

居たのは、ドーナシークだった。

イッセー「なっ!?お前は、あの時の……!」

    『つ~か何だよ悪魔って!俺は人間だぞ!?

     何訳の分かんない事言ってんだよ!』

彼の頭は、既にパンク寸前だった。それは無理もない。だが、

現実はそんな事お構いなしだ。

ドーナシーク「殺し損ねていたか。だが、どうやら助けがくる

       様子も無し。弱さ故に捨てられたか?まぁ良い。

       生きているのならば、もう一度殺すまで」

そう言って、ドーナシークは右手の光の槍を作り出し……。

      「ふんっ!」

すぐさま投擲した。そして……。

   『グサッ!』

イッセー「ぐっ!?うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

その槍が、彼の腹を貫いた。『このままじゃ死ぬ』。彼が

そう思い始めた時。

 

 

セイ「イッセェェェェェェッ!!」

 

彼の知る友人の声が聞こえて来た。

 

 

セイ「間に合えっ!」

すぐに駆け出すセイ。彼はヒップホルスターからDEを抜き、

マガジンを装填してセーフティを解除。そして……。

  「イッセーッ!」

   『ドンドンッ!』

木々の間を突っ切り、射界が開けた瞬間、セイは迷わず堕天使に

向けて引き金を引いた。

ドーナシーク「ッ!?何!?」

突然の銃声に、ドーナシークは後方へ飛ぶ。

その隙にイッセーのすぐ隣に立ち、地面に倒れる彼を庇うセイ。

そこへ更に、小猫がベンチを投擲してきた。更に後ろにジャンプ

するドーナシーク。

それを見たセイはDEにセーフティを掛けるとホルスターに

戻してイッセーの隣に屈みこんだ。

セイ「おい!イッセー!しっかりしろ!俺が分かるか!?」

イッセー「お、前……セ、イ?」

セイ「あぁそうだ!」

  『くっ!?腹部を貫通されているのか?!光は悪魔に

   とって猛毒!心臓や頭が大丈夫でも、この分だと

   毒と出血で……!この腹部の貫通創じゃ止血なんて

   意味が無い!クソッ!』

  「イッセー!俺の声が聞こえるか!良いかよく聞け!

   お前はまだ助かる!だから頭と心臓を動かせ!

   すぐに治療してもらうからな!」

イッセー「ち、りょ、う?」

セイ「そうだ!だからそれまでお前の意思で命を繋ぎ留めろ!

   ハーレムを作るんだろ!?夢を諦めるな!」

 

その時のセイは、必死にイッセーへと呼びかけた。

そうこうしている内に、ドーナシークは撤退していった。

リアス「セイ」

その言葉に振り返るセイ。そこにはリアスや構えを解いた

小猫や祐斗の姿もあった。

セイ「部長、堕天使は?」

その問いに、静かに首を左右に振るリアス。

  「そうですか」

と、静かに呟くセイ。そしてリアスがイッセーの近くに歩みよると

セイは立ち上がって場所を開けた。

傷ついたイッセーを介抱するリアス。そして、セイはその後ろで

きつく拳を握りしめていたのだった。

 

 

それから数時間後。セイは自分の家、正確にはマンションの一室に

帰宅していた。あの後、イッセーはリアスが何とかすると言って

気を失った彼に応急処置をすると、イッセーと共にどこかへと転移していった。

朱乃たちもそこで解散し、各々帰宅したのだ。

   『ボスッ』

自分の部屋に入り、電気を付けず薄暗い部屋でベッドに

寝っ転がるセイ。

セイ『イッセーが悪魔に、か。……これから先、あいつは

   世界の裏側に、一般人のままじゃ決して知りえない

   場所に足を踏み入れる事になるんだよな』

天井を見つめながら、考えるセイ。

  『世界の裏側なんか、足突っ込んだって良い事なんざ

   ありゃしねえ』

「……そうですよね。『本郷さん』」

自らの命の恩人、始まりの人。そして、セイにとっての英雄の

背中を頭の中に思い描きながら、戦い続ける戦士の背中を

思い描きながらセイは帰ってくることの無い問いを呟くの

だった。

 

その後、風呂に入ったり遅めの夕食、明日の予習を済ませてから

セイはベッドに入り眠りについた。

そして翌朝。いつも通りの時間に起きて、朝食を食べたセイは

普段通り、仏壇の前に正座して手を合わせた。

しかしながら、いつもより長めに正座しているセイ。

彼の前には、彼の両親だった『橘夫妻』の写真が飾られていた。

だが、今のセイの苗字は『滝』だ。

……その事は、いずれ語るとして、今は……。

 

セイ「母さん。父さん。……俺は、今度こそ守って見せるよ。

   どんだけボロボロになろうと、『あの人たち』の背中を

   見て育った、一人の人間として」

と言うと、セイは鞄を持ち家を出るのだった。

 

 

それから数十分後。校門近くに到着するセイ。

しかし……。

  「ん?何か騒がしいな」

校門の辺りに人だかりが出来ていて、何やら悲鳴のような、

怨嗟のような声が聞こえてくることから疑問符を浮かべる

セイ。やがて彼が近づくと……。

  「おい、どうした?何かあったのか?」

見知ったクラスメイトを見かけたので、声をかけるセイ。

同級生A「あ!セイか!た、大変だ!一大事件だ!」

セイ「は?事件?」

  『って、割には血の匂いや悲鳴も……。いや

   悲鳴は聞こえるが、この感じって……』

と、疑問符を浮かべるセイ。

  「で?何があったんだ?」

同級生A「それが、それが……あのグレモリー先輩が、

     イ、イイイ、イッセーと一緒に!!

     あの変態野郎と一緒に登校してきたんだよぉっ!?」

セイ「……は?」

と、クラスメイトの言葉に疑問符を漏らすセイ。

彼にとっては……。

  『あぁ、そういや昨日はイッセーを治療するとかって

   言ってたし、それ関係か』

程度の認識だったのだが……。

同級生A「分かる!分かるぞセイ!俺が何を言っているか

     理解できんだろう!だが、それが事実なんだ!」

一方のクラスメイトは、セイが現実を理解できていないと

勘違いしてそんな事を言い出したのだ。

セイ「は?あ、いや。俺は……」

と、言い出しかけたが、悪魔云々は口に出来ないのでそこで

言葉を区切るセイ。

  「まぁ、俺には関係無いか。俺は先行くぞ」

同級生A「あ!おいセイ!」

と、叫ぶ同級生に手を振りつつ、その場を離れて、なるべく

イッセーやリアスに近づかないように遠回りで先に校舎に

入ったセイは、そのままイッセーよりも一足先に教室へと向かったの

だった。

 

そして放課後。

   『ヴ~ヴ~』

セイ「ん?」

不意に、彼のケータイが震えた。それを取り出し見るセイ。

メールの差出人はリアスだった。内容は……。

リアス『セイ。兵藤一誠を部室に連れて来て頂戴。

    彼には後で使いの者を送ると言ってあるから、

    私の名を出せば大丈夫だと思うわ』

と言う物だった。短く、『了解。これから行きます』とだけ

返信したセイはケータイをポケットにしまうと鞄を手に

席を立った。

そして、イッセーの元へと歩み寄るセイ。

セイ「イッセー、少し良いか?」

イッセー「ん?何だセイ?はっ!?まさか俺の今朝の登校の事か!?」

と言って身構えるイッセー。

セイ『そういやこいつ、昼休みの時クラスの奴らにぼっこぼこに

   されかかってたっけな。男女問わずに』

と、昼休みの一幕を思い返しながらため息をついたセイはイッセーの

肩に手を置き、顔を近づけて耳打ちをした。

  「昨日の夜、お前を襲った男。お前の身に起こった事、

   全てはあのグレモリー先輩が知ってる」

イッセー「ッ!」

と、静かに呟くとすぐに息をのむイッセー。それを確認したセイは

すぐに顔を離した。

セイ「ここじゃ詳しく話せない。場所を変えるぞ」

イッセー「あ、あぁ」

彼の言葉に、表情をこわばらせつつも頷くイッセー。

そして二人は鞄を片手に教室を出た。

ちなみに……。

 

女子「ま、まさか滝×兵藤!?」 「そんな!?滝君に限って!」

   「い、いやでも滝君って彼女とか全然居ないし、まさか……」

と、女子たちの間で変な噂が流れ始めたのを、セイとイッセーは

知らないのだった。

 

 

歩く事数分、旧校舎にやって来る二人。

イッセー「ここって、旧校舎だよな。ここにグレモリー先輩が

     いるのか?」

旧校舎を見上げつつ、セイに続いて中に入るイッセー。

セイ「あぁ。ここはもう校舎本来の目的では使われてない。

   が、今はグレモリー先輩が部長を務めている部活の

   部室みたいなものとして使われている。俺もその

   部活の部員だ」

イッセー「先輩が部長の、部活?」

と、歩きながら説明をするセイと疑問符を浮かべるイッセー。

セイ「まぁ、細かい話は部長から聞いてくれ。っと、

   着いたぞ。ここが俺達の部室だ」

そう言いつつ、彼らは一つの扉の前に辿り着いた。

イッセー「ん?オカルト、研究部?」

と、扉の前に掛けられたプレートを見て呟くイッセー。

    『な、何か先輩とイメージ合わねえなぁ』

と、内心そんな事を考えるイッセー。

   『コンコン』

セイ「部長、イッセーを連れてきました」

ドアをノックし、告げるセイ。

リアス「えぇ。入って頂戴」

すると中からリアスの声が聞こえて来た。

 

セイ「失礼します」

イッセー「あ、お邪魔しま~す」

そう言って扉を開けるセイと彼に続いて入室するイッセー。

しかし入室するなりイッセーは驚いた。何せ不気味な魔法陣やら

文字やらがそこら中にあるのだ。それも無理は無かった。

そして、イッセーが部屋の中を見回していた時、人の姿が

彼の目に映った。

    「ん?んんっ!?あ、あの子は!?」

 

イッセーが視線を向けた先では、丁度小猫が羊羹を黙々と食していた。

彼女もイッセーに気付いてそちらに視線を向ける。

セイ「そっち系に敏いお前なら知っていると思うが、一応

   紹介しておこう。1年の塔城小猫だ。一応俺らオカルト

   研究部、オカ研の部員だ」

イッセー『ば、バカな!?小猫ちゃんだって!?小猫ちゃんと

     言えばそのロリっ娘属性全開のその容姿から学園の

     マスコットとしても、ロリ属性の奴らからも

絶大な人気を誇るあの小猫ちゃん!?』

え~!?とでも言いたげな表情をしているイッセー。

そこへ。

   『シャーーッ』

    「ん?これって……」

不意に、耳に届いた流れる水音に気付いて周囲を見回すイッセー。

そして彼は、部室の奥にあるシャワーカーテンに気付いて、更に

そのカーテンに映る影、リアスの影を見て、鼻の下を伸ばすイッセー。

対して……。

小猫「……いやらしい顔。滝先輩とは大違いです」

更に……。

セイ「ハァ。……ふんっ!」

   『ゴガッ!』

イッセー「イッテェェェェェッ!!?」

ため息をついて、セイはイッセーの頭に拳骨を振り下ろしたのだった。

 

その後、出て来たリアスと、自己紹介をする朱乃。

更に……。

リアス「あら?そう言えば祐斗は?」

セイ「あ。まだ来てませんね。あいつが遅れるなんて珍しいが……」

なんて言っている横では……。

イッセー『ゆ、祐斗だと?!ま、まさかあの学園1の美形と呼ばれる

     木場祐斗か!?い、いや、そんなはずはない!そうだ!

     ただ下の名前が同じってだけだ!きっとそうに違いな――』

祐斗「すみません部長、遅くなりました」

イッセー「やっぱりお前かぁぁぁぁぁっ!!」

で、祐斗が入って来るなりイッセーは涙を流しながら叫んだのだった。

 

その後、セイがイッセーを(殴って)落ち着かせた後。改めてリアス達の

口からイッセーの身に起こった出来事が説明された。

リアス達が悪魔である事。以前、そして昨日イッセーを襲った

男が堕天使である事。更にイッセーが神器、セイクリッド・ギアを

所有していたが為に襲われてしまった事。

更にイッセーが神器を発現させたりもした。そしてセイは、それを

ただ黙ったまま見ていた。

 

そして、更にイッセーが殺されてからの経緯を説明したり自己紹介を

していた時だった。

セイ「んじゃ、次は俺か。まぁ、名前云々は知ってるから名乗る

   必要もないだろうが、改めて。滝誠一郎、

オカ研には1年の頃から参加している。後、俺は悪魔じゃない」

イッセー「え?いやいやいや、何故にそうなるんだよセイ。

     だってここに居るみんなは悪魔なんじゃ」

セイ「あぁ。但し、俺を除いて、と言う意味だ」

と、彼の言葉に疑問符を浮かべるイッセー。そこへ。

リアス「イッセー、彼の言っている事は本当よ。セイは悪魔

    ではなく人間なの。今の彼はこの街における協力者

    として私達と一緒に活動しているの」

それを聞くと、イッセーはどうして?と言いたげな表情を

浮かべた。

イッセー「なら、どうしてセイはわざわざそんな事を」

セイ「……人々を守る為だ」

イッセー「え?」

セイ「イッセー、今のお前や俺は世界の裏側に足を突っ込んでる。

   現にお前は、悪魔や堕天使の事を知らなかった。神器の

   事もな。今回の一件で、お前も痛感しただろ?堕天使に

   限った話じゃないが、奴らはそうやって、御託を並べて

   人間を殺す」

そう言っている時、腕を組んでいたセイの指先に力が籠る。

  「俺は1年前、訳あって部長たちと知り合った。そして、 

この世界の裏側の事を知った。その為に、大勢の人の命が

危険にさらされている事もな。知ってしまった以上、

知らんぷりを決め込める程、俺は器用じゃなくてな」

イッセー「じゃあ、その、人を守る為に?」

セイ「あぁ。協力者として、せめてこの街の人の命を、一つでも

   多く守る為に、な」

そう、静かに、されど決意を籠った目で答えるセイ。しかし

彼には、イッセーには理解できなかった。

イッセー「何でお前、そうまでして戦うんだよ」

そう疑問をぶつけるイッセー。彼には見ず知らずの誰かの

為に戦おうとするセイの理由が分からなかった。

リアス「そう言えば」

と、更にリアスも続く。

   「改めて思い返すと、私たちも聞いた事はないわね。

    あなたが人のために戦う理由を」

その言葉と共に、リアスや朱乃たちの視線がセイに集まる。

 

セイ「理由、理由か。そうだな」

やがて、少しだけ考えてから、彼は口を開いた。

 

  「俺が、そうやって誰かのために、ボロボロになってでも

   戦い続けた男たちの、英雄たちの背中を見て育ったから。

   そんな所だ」

その言葉と共に、彼の脳裏に、7人の英雄の姿が思い起こされる。

『仮面ライダー』と言う英雄の姿が。

そしてイッセーは、セイのその、憧憬が籠った目でどこか

遠くを見つめる彼の姿に驚きと戸惑いが混じった表情を

するのだった。

 

 

結局、その日はイッセーに対する説明などで終わった。

それから悪魔として、チラシ配りに人との契約仕事に精を出すイッセー。

(ちなみに、契約仕事で色々盛大にミスったイッセーを後目にセイは

苦笑する事しか出来ないのだった)

 

ある日の放課後。

イッセー「ハァ。クッソ~ダメダメだ~」

その日、イッセーは夕暮れ時に旧校舎を出てようとしていた。

まだ契約仕事に慣れていないため今日だけは早帰り、と言う事だ。

そして、旧校舎を出た時だった。

セイ「どうしたイッセー、浮かない顔だな」

近くの木によりかかるようにしてセイが立っていた。

  「ほれ」

イッセー「っと」

そして、セイが手にしていた缶の飲み物を放り、それを

キャッチするイッセー。

セイ「悩み事があるなら、相談くらい乗るぜ?」

と言って、彼は持っていたもう一つの缶のプルタブを開いた。

それを見たイッセーは、セイの近くの木によりかかって自分の

缶のプルタブを開いて一口、口を付けた。

イッセー「……ハァ。なぁセイ」

セイ「ん?」

イッセー「俺、悪魔稼業しっかりやれてんのかな?

     悪魔なら子供だって出来るって言う転移だって   

     出来なかったし、何つ~か、お先真っ暗って言うか

     悪魔として、ちゃんとやっていけるのかな~って

     思ってさ」

セイ「そうか。……悪魔稼業に関しちゃ、俺は関わってる訳じゃ

   無いから言える事は無いが、今後に関してのアドバイス

   くらいなら出来ると思うぞ」

そう言って、飲み物に口を付けるセイ。

イッセー「アドバイスって、どんなだ?」

セイ「そうだな。まず、お前はこの仕事を始めたばかりだ。

   今はまだ出来なかった事を悲観するには早すぎるだろうな。

   お前は今まさに仕事を『経験』している真っ最中だ。

   研修中って言っても良いかもな」

イッセー「研修中……」

セイ「それに、最初から初めて与えられた仕事をこなせる人間

   なんて早々居ない。運動でもそうだ。まずは準備運動、

   そして体を温めてからがスタートだ。イッセー、

   お前はまだ準備運動の段階なんだよ。だからまず

   何よりも経験を積め。そして覚えるんだ。仕事の事をな。

   まずはそっからだろ」

イッセー「経験かぁ。そりゃそうか」

頷きながらドリンクに口を付けるイッセー。

セイ「それに、ハーレム王を目指すんなら日々精進じゃねえのか?」

と、笑みを浮かべながら呟くセイ。

  「結構変態だが、でっかい夢じゃねえか。くくっ」

イッセー「へ、変態言うな!男の夢だろうが!」

セイ「そのためにはまず、仕事を覚えて平社員ならぬ

   平悪魔から成りあがらないとな~」

イッセー「うぐっ!?そ、それはその」

ニヤニヤと笑みを浮かべながらのセイの言葉に図星を

突かれるイッセー。

やがて……。 

    「だ~~~!」

ガシガシと頭を掻きむしるイッセー。

    「良いかセイ!絶対俺はハーレム王になって、

     お前に羨ましいって言わせてやるからな!」

セイ「面白れぇ!俺が羨ましいって言ったらまた何か

   おごってやるぞ!」

イッセー「よぉし!絶対言わせて何か奢らせて

     やるからな!出来るだけ高い物を!」

セイ「うぉい待て待て!お前俺の財布すっからかんに

   する気かよ!?」

と、そんなやり取りに発展した二人。やがて……。

イ・セ「「く、くくく、ハハハハハッ」」

二人は揃って笑い出した。

 

セイ「ま、そう言うわけだ。これからはよろしくな」

イッセー「おう!」

   『『カ~ン』』

そして、二人はそう言って缶を打ち付け合い、セイは

改めて友人をオカ研の部員として向かい入れるのだった。

 

そして、窓越しにそれを見ていたリアスは小さく笑みを漏らすの

だった。

二人が歩いて行く姿を見送ってから、執務机に座るリアス。

そして彼女が座ると、朱乃が横から紅茶の入ったカップを

置いた。

リアス「ありがとう」

礼を言ってから、紅茶に口を付けるリアス。

朱乃「あの二人、仲がいいのですね」

リアス「良い事じゃない。私としても下僕がこの環境に

    馴染んでくれるのは嬉しい限りよ。あの様子だと、

    セイが私達と彼のクッション役になってくれる

    でしょうし」

朱乃「クッション、ですか?」

リアス「彼はまだ悪魔になったばかり。この数日で彼の

    世界に対する認識はがらりと変わったのは

    言わずもがな。戸惑う事や驚く事も多いでしょうし、

    セイならきっとフォローしてくれるはずよ」

朱乃「ふふ、確かに。面倒見のよい彼ならそうですわね」

と、彼女はリアスの言葉に頷き、笑みを漏らした。

 

しかし、リアスはすぐに表情を引き締め、それに気づいた朱乃も

表情を引き締めた。 

  「何か、不安でも?」

リアス「えぇ。イッセーを二度も襲った堕天使が気になるの。

    あの男、ドーナシークはなぜイッセーを殺害した後、

    まだこの駒王町に残っていた。なぜ?あの男は

    目的を達成したのよ?ここに残る理由が無いわ」

朱乃「確かに。妙ですわね。あの堕天使の目的は神器が

   覚醒する前にイッセー君を始末する事だった。

   ……彼が生き延びているのを、知っていたのでは?」

リアス「それも有るでしょうけど、イッセーの話によると、

    あの二度目の遭遇の時、こう言ったそうよ。

    『まさか悪魔になって生きながらえていたとはな』と。

    恐らくドーナシークはあの瞬間、イッセーを前にする

    その時まで彼の生存を知らなかったのよ」

朱乃「つまり、あの男がここに居るのは、イッセー君を狙ったのとは

   また別の狙いがある、と?」

と、彼女が聞くとリアスは静かに首を横に振った。

リアス「確証は無いわ。ただ、普段以上に警戒をする必要

があるのも確かよ」

そう言うと、彼女はもう一度立ち上がって窓へと歩み寄り、

夕暮れの空を見つめた。

   「何事も無いに越した事は無いわ。……最も、

こういう時は必ず何か起こるのだけど」

と、静かにそう呟いた。

 

 

そして、彼女の読みは図らずも当たった。今、新たな出会いが

はじまろうとしていた。

 

それは、これから始まる大いなる歴史の一ページに過ぎない事を、

今はまだ、誰も知らないのであった。

 

     第2話 END

 




まだ本格的なバトルシーンが描けない……。
次回はバイサーが出てくるから描ける、はず……。


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第3話 「ファーストコンタクト」

今回はアーシアとの出会いからバイサー戦までです。



~~前回までのあらすじ~~

友人であるイッセーが悪魔になった事を知ったセイ。

そんな矢先にイッセーが再び堕天使に襲われるが、何とか

彼の救援に間に合い堕天使、ドーナシークを撤退させる

リアス達。翌日、リアスに呼ばれる形でオカルト研究部に

呼ばれたイッセーはリアス以下、朱乃、小猫、祐斗が

悪魔である事。自らが悪魔になった事などの経緯を

説明される。そんな中でイッセーはセイの戦う理由を

聞いたりするのだった。

そして、リアスは一人、今後の事に不安を覚えるのだった。

 

そんなある日の土曜の朝。

イッセーはセイと共に学校へと向かっていた。

イッセー「う~~ん。相変わらず契約は取れないけど、

     アンケートじゃいい結果貰うんだよな~俺」

セイ「お前、結構アニメとかの知識もあるもんなぁ。

   そう言うのを生かした契約ってなんか無いかなぁ」

と、二人してイッセーの契約について相談したり話を

していた時だった。

???「はぅぅっ!?」

イ・セ「「ん??」」

不意に二人の前方で一人の少女らしき人物がこけた。それはもう

顔面ごと地面に突っ伏す程に、である。

イッセー「あ、あのぉ。大丈夫っすか?」

一応近づき、手を差し出すイッセーとそれを後ろから見ているセイ。

???「あぅ。ご丁寧に、ありがとうございますぅ」

そう言って、少女はイッセーの手を取り立ち上がった。

しかしその時、不意に突風が起こり少女の頭を覆っていた

ヴェールが飛ばされてしまった。

慌ててそれを追い、ジャンプしてキャッチするセイと。

露わになった少女、金髪ロングヘアの美少女に視線を奪われるイッセー。

それを見たセイは……。

 

セイ「あの、これ」

???「あ。ありがとうございます」

ヴェールを差し出しながら、肘でイッセーを小突いた。それに

よってハッとなるイッセー。

イッセー「あ、こんにちは。え~っと。……りょ、旅行ですか?」

そして、イッセーは我に返るなり、何やら会話を続けようと

声をかける。

???「いいえ。実はこの度、この街の教会に赴任する事に

    なりました。ただ、道行く人には言葉が通じず、

    困っていたんです」

と、説明する少女。ちなみにこの時、イッセーは悪魔転生の

副作用として、言語翻訳機能で普通に会話していたが、

はた目から見ると、イッセーと金髪少女が完璧な英語で

会話しているように、セイからは見えていた。

しかし、そこは努力家のセイ。

彼女の言葉を完全に理解は出来なくとも、単語の意味を理解し、

大体の内容は理解できていた。

セイ「新しいシスターさん、か」

イッセー「あれ?セイお前英語分かるのか?」

と、聞き返すと、少しばかりため息を漏らすセイ。

セイ「あのなぁ、学年主席を舐めるなよ。これでも英語は

   得意科目だ。……しかし、この街の教会は随分ボロい。

   何だって今更」

ため息を漏らしてから、少しばかり考えるセイ。

イッセー「えっと、あの、俺教会なら知ってるかもしれないん

     ですけど……」

???「ほ、本当ですか!?ありがとうございますぅ!

    これも主のお導きなのですね!」

セイが考えている傍でそんな事を言い出したもんだから、

彼は驚いてからため息をついたのだった。

 

そして、案内をしていた時。

セイ「おいイッセー、本当に大丈夫か?」

と、小声で会話する二人。

イッセー「わ、分かってるけど、あんな可愛い子を放っては

     おけないだろ?」

セイ「そりゃまぁ、そうだが。……けど教会はお前らにとって

   敵の根城なんだ。近づくだけでも拒否反応が出る

   らしいから、限界が近づいたら無理せずに言えよ?」

イッセー「あぁ。わかってるよ」

と、静かに少女、『アーシア・アルジェント』に聞こえないように

話しながらも彼女を案内する二人。

 

その道中……。

「うわぁぁぁぁん!」

公園の前に差し掛かった時、3人の耳に子供の泣き声が

聞こえて来た。見ると、公園の中で怪我をしたのか

子供とその母親らしき女性が居た。すると……。

アーシアは迷いもせずに子供の方に向かって行ってしまった。

セイ「あ、ちょっ」

彼の制止の声も聞かずにそちらへ行くアーシア。

それを見たセイはイッセーの方に視線を向けた。イッセーも

少しばかり肩をすくめてから、二人はアーシアの元へと

歩み寄る。

そして近くで見ていた時。

アーシア「大丈夫?男の子ならこのくらいの怪我で泣いては

     ダメですよ?」

そう言って静かに男の子の怪我した部分に手をかざすアーシア。

すると……。

   『パァァァァァッ』

アーシアの手から緑色の光が現れ、男の子の怪我を見る間に

直してしまった。

それに内心驚くイッセーとセイ。

イッセー「ッ!……なぁセイ、あれって」

セイ「魔力、な訳ないとすると。神器、それも恐らく回復系か?」

と、二人はアーシアに聞こえないように静かに小声で

話しながら、男の子の怪我を治癒する彼女を見守っていた。

やがて怪我が治ると、母親は男の子を連れてそそくさと

行ってしまった。

その去り際。

男の子「ありがとう、お姉ちゃん!」

彼女の力に驚きもせずにそう言っていた。しかしアーシアには

日本語が分かる訳もなく、少しキョトンとしていた。

そこへ。

 

イッセー「ありがとう、お姉ちゃんだってさ」

悪魔の力で通訳をするイッセー。

その言葉に笑みを漏らすアーシア。しかし……。

    「……その力って」

ぼそっと呟いたイッセー。

アーシア「はい。治癒の力です。神様から頂いた

     素敵な物なんです」

と、言うアーシアだったがイッセーとセイは彼女の言葉に

陰が含まれている事に気付いた。

イッセーがチラッとセイの方を向くと、静かに首を振る

セイ。

彼としては、『この話題は止そう』と言う意味であり、

それはしっかりイッセーにも伝わった。

 

その後、何とか教会が見える場所にまでやってきた

3人。

しかしセイはチラッと隣のイッセーを見たが、彼が

冷や汗を浮かべている事に気付いて、

『ここらが潮時か』と考え、助け船を出す事にした。

セイ「あ、そういやイッセー。お前今日何か提出する

   課題があるとか言ってなかったか?」

イッセー「え?」

突然の話題に、呆けた声で返事をするイッセー。

セイ「確かこの前の小テスト、点数悪くてお前なんか

   課題出されたんじゃなかったっけか?」

そういって、目配せをするセイ。そして、数秒して

イッセーはその意図に気付いた。

イッセー「あ、あぁ!やっべそうだった!」

と、何とか慌てるふりをするイッセー。そして、それに

気づいてアーシアも振り返った。

アーシア「あ、あの。どうかされましたか?」

イッセー「あ、いや、その!ごめん!俺学校に用事が

     あったんだ!でその……」

   『チラッ』

セイ「ふぅ。後は俺が案内しとくよ」

チラッとセイの方を向いたイッセーと、その視線に気づいて

息を吐いてから笑みを浮かべつつ頷くセイ。

イッセー「あ、後はこいつが教会まで案内してくれるから!

     じゃあ俺はこれで!」

と言って、歩き出そうとした時。

アーシア「あ、待ってください!せめて、せめてお名前だけでも!」

と言われ、足を止めて振り返るイッセー。

イッセー「えっと、俺は兵藤一誠。周りからはイッセーって

呼ばれてるからイッセーで良いよ。で、こっちは俺の友人で」

セイ「はじめまして、滝誠一郎です。イッセーや友人からは

   セイと呼ばれています。セイと呼んでください」

簡単な英文で挨拶をするセイ。

アーシア「私はアーシア。アーシア・アルジェントと申します!

     私の事もアーシアとお呼びください!」

イッセー「あぁ。それじゃあシスター・アーシア。俺はこれで。

     縁があったら街で会えると良いな」

アーシア「はい!」

 

と、それだけ言うとイッセーは来た道を戻って行った。

セイ「それじゃあ、後の案内は俺が」

アーシア「はい。よろしくお願いします」

 

という事で、セイはアーシアの鞄を持ってあげながら彼女と

共に教会へと足を運んだ。

セイ「ここか」

  『明かりがついてるから人は居るんだろうが……』

   『コンコンッ』

そう思いつつ、ドアをノックするセイ。

すると……。

   『ガチャッ』

しばらくして扉が開いた。

???「はい、どなたですか?」

出て来たのは、アーシアと似たシスター服に身を包んだ、

右側に跳ねたダークグリーンのショートヘアの女性が

現れた。

セイ『日本語か、助かったぁ』

  「あ、えっと。実はさっき街でこの教会に赴任

   するというシスターさんに会った物で、

   迷っていた様子だったので案内を」

と言いつつ、後ろに振り返るセイと彼の視線の先を追う

シスター。

アーシア「この度、この街の教会に派遣されました。

     アーシア・アルジェントと申します」

挨拶をしつつペコリと頭を下げるアーシア。

そして、挨拶を聞くとシスターの女性は笑みを浮かべた。

???「あぁ、あなたがシスター・アーシアですね。

    お話は伺っています」

と、今度は笑みを浮かべる女性の方が頭を下げた。

ルオン「私の名前は『シスター・ルオン』と申します。

    ようこそお出で下さいました、シスター・アーシア。

    そちらの方も、シスター・アーシアの案内、

    本当にありがとうございました」

と、更にセイにも頭を下げるルオン。それにはセイも

驚いていた。彼にしてみれば、そこまでされる事をした

等とは思っていなかったからだ。

セイ「い、いやまぁ俺は人として当然の事をしただけですよ」

そう言って恥ずかしそうに頭を掻くセイ。

  「あ、じゃあ俺はこれで」

アーシア「え!?」

踵を返すセイを見て、驚いたアーシアは……。

 

    「ま、待ってください!せめて中でお礼でも!」

咄嗟に彼の袖を掴んで止めた。

セイ「え、えっと」

それに彼が返答に迷っていると……。

ルオン「そうですね、お茶くらいしか出せませんが、

    この出会いも何かのきっかけ。お茶でも

    いかがですか?」

と更にルオンからも誘いが来てしまった。それを受けてセイは……。

セイ「えっと、じゃあ、少しだけご馳走になります」

アーシア「はい♪」

YESの答えを貰った彼女は満面の笑みを浮かべた。

 

そして、教会内に足を踏み入れたセイとアーシアはルオンの

案内によって宿舎の方へと案内された。その一角にある

リビングのような場所に案内された二人。

ルオン「それでは、二人はここでお待ちください。

    私は神父様達にシスター・アーシア到着の報告を

    してきます。お茶は妹に頼んでおきますので

    ご心配なく。では、私はこれで」

そう言うと、ルオンは部屋を後にした。残された二人。

 

しかし、セイにとっては話題として何を振ろうか

考えていた。先ほど神器を見た時、何やら影があったのは

察していたから、下手に話題を振ると地雷を踏みかねない

と思っていたのだ。

そこへ。

アーシア「そう言えば、セイさんはこの街の生まれなんですか?」

先に彼女の方から話題を振ってきてくれたのに内心

ホッとするセイ。

セイ「いや、この街には高校進学と同時に移住したんです。

   この街に住み始めて2年です」

何とか英語で会話をするセイ。

アーシア「ご家族と暮らしているんですか?」

セイ「いや、家は神奈川、あぁえっと、ここより遠くで。

   俺は一人暮らしです」

アーシア「それでは、家事はセイさん一人で?」

セイ「えぇまぁ」

と、他愛ない雑談を繰り返していると……。

 

   『コンコン』

???「失礼します」

不意にノックが響いて、誰かが入って来た。それは

お盆を持った女性だったのだが……。

アーシア「え?ルオン、さん?」

入って来た女性を見て、そう呟いてしまうアーシア。

 

入って来たシスター服の女性は、ルオンと瓜二つな

顔立ちをしていた。数少ない違いがあるとすれば、

彼女の髪が右ではなく『左側』に跳ねている事だった。

驚くアーシアだがセイには予感が

あった。

セイ「えっと、もしかしてシスター・ルオンの妹さん、

   ですか?」

先ほどの『妹』と言う単語を思い出して聞き返すセイ。

アーシア「えぇ!?」

???「はい。その通りです」

そう言いながら彼女は二人の前のテーブルの上にお茶を

出した。

   「改めまして、私は『シスター・リオン』。

    ルオンは私の双子の姉です」

と言われ、セイとアーシアは驚いたような表情を浮かべた。

   「ふふ、そうですよね。周りからも似ていると

    よく言われます」

二人の反応を見て、リオンは口元に手を当ててから笑みを

漏らした。

 

その後は、少しだけ他愛もない話をしてからセイは教会を

後にしようとした。

セイ「それじゃあ、俺はこれで」

聖堂の入り口前で見送りに来たアーシア、リオンと向かい合う

セイ。

アーシア「はい。あの、セイさん。……その、良かったらまた

     教会にいらしてください。その、何かお話でも

     出来ればいいのですが」

リオン「その時があれば、またお茶でもしながらお話を。

    私と姉も、お待ちしています」

と、少し恥ずかしそうに顔を赤くしながら呟くアーシアと

笑みを浮かべるリオン。

それにセイは……。

セイ「はい。縁があればまた。それじゃあ、失礼します」

笑顔で頷き、頭を下げてからセイは歩き出したのだった。

 

 

そんな帰り道。

  『……あの教会、変な視線がいくつかあったな』

先ほどまでの笑顔とは打って変わり、どこか真剣な表情を

浮かべるセイ。

彼は教会に入り、そして教会を出るその時まで、いくつかの

視線を感じていた。

  『その中でひと際ヤバいのが一個あったが、あれが

   ホントに神に仕える奴の視線か?

   あれはまるで、俺が見て来た『怪人』を見て

感じた時の悪寒と似てる』

彼は、かつて対峙してきた『異形』たちを思い出す。

 

  『奴らにとって、人間なんてゴミか餌、改造人間の

   素体程度にしか思っちゃいない。さも同然のように

   命を奪う。それを躊躇ったりなどしない。

   ……神父の中にそんなヤバい奴が居るのか?

   まさか……』

  「こりゃ、帰ったらすぐさま報告だな」

そう思いながら、彼は学校へと向かうのだった。

 

 

ちなみに、その夜の学校では……。

リアス「二度と教会に近づいちゃダメよ」

イ・セ「「すみません」」

二人揃ってリアスから怒られていた。

リアス「イッセーはまだ悪魔になりたてで仕方ないとは

    言え、セイの方は分かっているでしょう?

    悪魔ではないとは言え、悪魔の関係者ではあるの

    だから教会側から目を付けられる可能性だって

    あるのよ?」

セイ「すみません。……言い訳になってしまいますが、

   どうしても迷っている彼女を放っては置けなくて」

頭を下げつつも、そう呟くセイに、リアスは少しばかり

ため息をついた。

リアス「ハァ。あなたが優しいのは知っているけど、

    お願いだからそれで無茶だけはしないでね?

    あなたも立派なオカルト研究部の部員なんだから」

セイ「はい」

 

と、そこで二人へのお説教は終わった。そこへ。

朱乃「あらあら。お説教は済みました?」

扉を開けて朱乃が入って来た。

リアス「朱乃、どうかしたの?」

朱乃「はい。討伐の依頼が大公から届きました」

と、彼女が真剣な面持ちで呟くとリアスとセイも同じく

真剣な表情を浮かべたが、事態が分かっていないイッセーは

少しばかり首を傾げるのだった。

 

セイ「朱乃さん。相手の潜伏先は?」

そんな中ですぐに朱乃に問うセイ。

朱乃「場所は市街地から離れた郊外にある廃棄された

   洋館です。地図がここに」

そう言って、ポケットから小さい地図を取り出した朱乃は

彼にそれを渡し、セイもそれに素早く目を通した。

セイ「ここ、か。部長」

場所を確認したリアスの方に向き直った。それを見て、

リアスも無言でうなずいた。

  「一度家に帰って装備を持って現場に向かいます」

リアス「わかったわ。今から30分後、洋館にジャンプ

    するわ。その時向こうで落ち合えるかしら?」

セイ「了解ですっ!」

そう叫ぶと、セイは近くのソファに置かれて鞄をひっつかんで

部室を飛び出していった。

 

それを見ていたイッセーは。

イッセー「あ、あの部長。セイの奴どこ行ったんですか?

     それに、討伐って」

リアス「そうね。時間もある事だし、先に説明しておいた

    方が良いでしょう。朱乃」

朱乃「はい」

リアス「祐斗と小猫を呼んでおいて頂戴。その間に私は

    イッセーに色々説明しておくから」

朱乃「はい。わかりました」

と頷くと、部室を後にする朱乃。

リアス「さて、それじゃあ話をしておきましょうか。

    掛けなさい」

イッセー「あ、はい」

執務机に座るリアスと、ソファの一つに座るイッセー。

 

やがて、リアスが語ったのが、『はぐれ悪魔』と言う存在だった。

イッセー「じゃあ、そのはぐれ悪魔が部長の土地、つまり

     この街に逃げ込んだから、部長がそのはぐれ悪魔を

     倒すって事ですか?」

リアス「そうよ」

一通り説明を終えたリアスは、イッセーの言葉に頷くと

時計に目をやった。もうすぐセイが部室を出てから20分以上が

経とうとしていた。

   「そろそろね」

そう言って椅子から立ち上るリアス。そこへ。

朱乃「失礼します」

祐斗たちと一緒に朱乃が入って来た。

リアス「これで揃ったわね。朱乃、ジャンプの用意を」

朱乃「はい」

 

その後、イッセーとリアス達は魔法陣で目的の廃屋近くまで

到着した。

イッセー「あれが……」

リアス「えぇ。はぐれ悪魔が潜んでいる廃屋よ」

着いて早々、そちらに目を向けるイッセー達。その時。

セイ「よぉ、待ってたぜ」

丁度、イッセー達の後ろから声がした。

イッセー「うぉっ!?何だセイ居たのかよ!びっくりさせ――」

振り返ったイッセーだが、彼の言葉はそこで途切れた。

 

セイの姿を見るなり、二度瞬くをしてから、恐る恐ると言った

感じで彼を指さすイッセー。

    「せ、セイ?何だその恰好?」

セイ「ん?あぁそっか。お前にはこの格好見せるのは

   初めてだったな」

という彼の恰好は、全身真っ黒なプロテクタースーツ。

普段携帯している電磁ナイフにDE。更には何やら

メリケンサックの様な武器をいくつもベルトの右側に

引っ掛けていた。

更に、その左手には髑髏が描かれたヘルメットを、

右手にはショットガンを抱えていた。

  「こいつは俺の自作のプロテクタースーツだ。

   ま、大したもんじゃないが気にするな」

イッセー「は!?自作!?つか今更ながらに思うがお前

     銃とかどこで手に入れたんだ!?」

セイ「あぁ、それは部長や恩人経由で」

イッセー「部長!?と言うかお前の恩人って……」

セイ「まぁその辺は追々話すよ。今は……」

そう言いつつ廃屋に目を向けると、セイの表情が

一気に引き締まり、彼は左手で髑髏のマスクを被り、

ショットガンを両手で握る。

 

  「……部長」

リアス「えぇ。行きましょう」

彼女が頷くと、祐斗たちも真剣な表情を浮かべ歩き出す。

戸惑うイッセーだったが……。

セイ「ほれ、行くぞ」

イッセー「あ、あぁ」

セイに背中を叩かれ、彼に続いて最後尾を歩き出した。

 

その後、廃屋の中に入った6人。各々が静かに周囲を警戒する。

セイもショットガンを握る手に力を籠める。その時。

小猫「……血の臭い」

先頭を歩いていた小猫が鼻を腕で覆いながら呟く。

その声に6人は足を止め、祐斗は剣にそっと手を置く。

   『ガシャンッ』

セイもポンプアクションを動かし初弾を送り込み、周囲を

見回す。

その時、イッセーは周囲に満ちた殺意と敵意で体を震わせて

居た。

イッセー「な、なぁセイ。お前、人間なのに怖くないのか?」

セイ「あぁ。育った環境のせいか、こういうのには

   慣れっこでね」

イッセー「お、お前の育った環境って一体……」

と言っていると……。

リアス「イッセー。今日あなたには悪魔の戦闘と言う物を、

    人知を超えた存在との戦いを見てもらうわ。それと、

    後は悪魔の駒の特性も教えておこうかしら」

イッセー「あ、悪魔の駒の、特性、ですか?」

リアス「そうよ。折角だから、悪魔の駒、イーヴィル・ピース

    や悪魔の歴史も教えておきましょうか」

 

そう言うと、リアスや祐斗たちは、悪魔、堕天使、天使陣営の

戦いとその結果、そして悪魔の駒が生み出された理由、

その結果生まれた『レーティングゲーム』の事を説明していた。

イッセー「あの、それで俺の特性って一体」

リアス「そうね、イッセーは」

と言いかけた所で……。

セイ「お取込み中の所すいませんが、奴さん、来たみたいだぜ」

彼が二人の会話を遮り、奥の方へとショットガンの銃口を

向けた。

その時。

???「不味そうな臭いがするぞ?でも美味そうな臭いもするぞ?

    甘いのかな?苦いのかな?」

不気味な声と共に、暗がりの中から上半身裸の女性の体が

現れた。

最初、イッセーは女性が浮いているのか?と考えたが、

そうではなかった。

更に暗がりから現れた下半身は、重機並に巨大な四足の

獣の姿をした物だった。

イッセー「あ、あれが!?」

セイ「あぁ。はぐれ悪魔だ」

祐斗「そう。あれが主を裏切った悪魔の末路。力に溺れ、

   醜悪な姿に成り果てた悪魔だよ」

驚くイッセーにセイと祐斗が答える。

そんな中で、一歩、5人より前に出るリアス。

 

リアス「はぐれ悪魔バイサー。主の元を逃げ、己の欲求を満たす

    為に暴れ回る不逞の輩。その罪万死に値するわ」

キッとバイサーを睨みつけるリアス。

   「グレモリー侯爵の名において、あなたを

    吹き飛ばしてあげる!」

バイサー「こざかしい小娘だこと。その赤い髪のように

     あなたの身を鮮血で染めてあげましょうか!」

リアス「雑魚ほど洒落の利いたセリフを吐くものね」

 

その時、突如としてバイサーが自らの胸を揉みだした。

それに興奮を覚えるイッセーだったが……。

イッセー「あれ!?魔法陣じゃね!?」

バイサーの胸に魔法陣が浮かび上がったのに気づいたイッセー。

セイはその言葉を聞くと……。

セイ「おい!ぼさっとするな!」

イッセー「おわっ!?」

隣に居たイッセーの首根っこを掴んで横に飛んだ。

リアス達も各々跳躍し、避ける。次の瞬間。

 

   『ビシュゥッ!』

そこからエネルギーが発射され、彼らの背後にあった壁を

溶かした。

    「た、確かにこりゃ化け物だな」

セイ「そう言うこった。お前は下がってろ」

リアス「祐斗!セイ!」

 

彼女が命令を飛ばすと、祐斗が、イッセーに消えたと思わせる

程の速度で駆けだした。更に……。

   『ドパドパッ!』

セイの手にしたショットガンから、ライフルスラグ弾が発射された。

   『ガキィンガキィンッ!』

それを咄嗟に手にした槍で防ぐバイサー。だが……。

祐斗「はぁっ!」

   『ズバズバッ!』

バイサー「ぎあぁぁぁぁぁぁっ!!」

注意がセイに向いている一瞬の隙を突いて、祐斗がバイサーの

両腕を根本から切り裂き、悲鳴が木霊する。

更に……。

   『ドパドパッ!』

2発、バイサーの胴体にライフルスラグの弾丸が命中する。

バイサー「ぐがっ!貴様ァァァァァァァッ!」

怒り狂ったバイサーは目標をセイに変更し、彼目掛けておっぱいから

溶解液を乱射する。

イッセー「危ないっ!」

咄嗟に叫ぶイッセー。しかしそれはセイにとって分かり切った事。

彼はすぐさまショットガンの構えを解くと走り出した。

溶解液の雨がセイの走り抜けた場所を一拍置いて溶かしていく。

だが、バイサーはその巨体故、旋回性に難があった。故に

走り回るセイを捉える事が出来なかったのだ。

パルクールのように机の下を滑り抜け、椅子を飛び越えながら

走るセイ。そして、彼は崩れかけている柱の根元に滑り込んだ。

 

バイサー「このぉぉぉぉっ!」

その柱目掛けて、溶解液を発射するバイサー。案の定、柱を溶かす。

だが、それはセイの考え通りだった。

次の瞬間。

セイ「うぉぉぉぉぉっ!」

   『バゴォォォンッ!』

彼の気合の叫びと共に、バイサーが溶かしたと反対側で

爆発が起こった。そして、元から不安定だった柱がバイサーの

方に向かって倒れた。

慌てて柱の下敷きにならないように体を横へとずらすバイサー。

   『ズズンッ!!』

盛大な音と共に、倒れた柱がバイサーの後ろの壁にもたれ掛かる。

その柱の方に一瞬だけ気を取られてしまうバイサー。

だが、その時には既に……。

   『ダダダッ!』

バイサー「はっ!?」

不意の足音に気付いて前を向くバイサー。その時、倒れて斜めに

なった柱の上をセイが走っていた。

 

彼女、バイサーは憤りを覚えていた。目の前の黒づくめは、

明らかに悪魔ではない。それは分かる。どう見ても人間だ。

そんな人間が、自分を攻撃し、剰え傷つけている事に

怒りを覚えていたのだ。

バイサー「コノ、人間風情ガァァァァッ!」

最初はまだ美しいと言えた顔を、怪物のように歪ませながら

バイサーは叫び、再び溶解液をセイに向けて放った。

溶解液が柱の上を走るセイに迫る。

 

だが……。

   『ダンッ!』

セイは柱を蹴り、跳躍。溶解液を飛び越えるようにして、

人の形をしたバイサーの上半身目掛けてキックの態勢を作った。

そして……。

セイ「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

気合ととともにバイサーの胸部に蹴りを入れた。刹那。

   『バリバリバリッ!』

バイサー「ぎあぁぁぁぁぁぁっ!」

靴底に仕込まれた電撃発生装置がキックと共に作動し、

バイサーを痺れさせた。

 

バイサーの体を蹴って離脱し、着地するセイ。

イッセー「す、すげぇ。セイ、あんなに戦えるのかよ」

彼はただ、友人の戦いぶりに驚嘆していた。

そこへ。

リアス「イッセー、あなたも自分の力と向き合って

    強くなれば今のセイみたいに戦う事なんて

    造作もないわよ」

イッセー「ま、マジっすか!?」

リアス「セイは、確かに強いわ。でもそれは彼が長い間

    鍛錬を続けたから。そして今のイッセーの身体的な

    能力はセイを越えているわ。それを使いこなす事が

    出来れば、あなたは彼以上に強くなれる」

強くなれる。その言葉を聞きながら、イッセーは先ほどまでの

セイの戦いぶりを思い出し、秘かに拳を握りしめるのだった。

 

そして、そうこうしている内に小猫、朱乃と攻撃を仕掛けた

事でバイサーはボロボロになった。のだが……。

朱乃が攻撃していた時。

   『バリバリバリッ!!!』

バイサー「ギァァァァァァァァァッ!」

先ほどのセイのキックを上回る程の雷がバイサーの体を黒焦げに

していく。しかも……。

朱乃「あらあら?まだまだ元気そうですわね。それなら、

   こんなのはどうでしょう!」

   『バリバリバリバリバリッ!』

更に強い雷がバイサーを襲う。

イッセー「な、なぁセイ。朱乃さん。笑ってるよ?笑ってるよ!?

     どういう事!?」

彼女の執拗な攻撃に若干引き気味のイッセー。

その問いかけに、セイは……。

セイ「ハァ。あのなイッセー。朱乃さんはドSなんだよ」

ため息をついてから、一言そう言った。

イッセー「な、成程。ドSか。……って、そんなんで

     納得しろってか!?」

セイ「事実だから仕方ないんだよ」

そう言って、朱乃の方へと目を向ける二人。そこでは……。

朱乃「ふふふふふふっ!」

満面の笑みを浮かべた朱乃がバイサーを蹂躙していた。

 

セイ「まぁ、朱乃さんは味方には優しいからその辺は

   心配するな。……多分」

イッセー「多分って!?多分って何だよ多分って!」

そんなやり取りを見て、笑みを漏らすリアス。

リアス「大丈夫よ。セイの言う通り朱乃は味方にはとても

    優しいから。あなたの事も気に入っているようだし、

    今度甘えてみると良いわ」

イッセー「は、はぁ」

    『甘えると言われても……』

朱乃「うふふふ♪」

イッセー『当分はあの笑顔のせいで無理そうっす部長』

と思うイッセーだった。

 

そして最後は、リアスが自らの能力、『滅びの力』を使って

バイサーを消し飛ばした。これで討伐の依頼は終了した

事になる。

その終わり際、イッセーは自らの特性をリアスに聞いたのだが……。

 

リアス「ポーンよ。イッセーは兵士なの」

 

返って来たのは、将棋で言う歩、ポーンであるという現実だった。

 

その事でがっくりと項垂れるイッセー。だったが。

セイ「ま、気を落とすなよ」

イッセー「セイ」

ヘルメットのガードを上に上げ、素顔を晒しショットガンを肩に

担ぎながらイッセーの肩を叩くセイ。

セイ「どうせお前の事だから、自分が下っ端だって思ってんだろ?」

イッセー「うぐっ!?そ、それは、その……」

図星を当てられ、言い淀むイッセー。それを見たセイは一度息を

ついてからフォローしてやろうと考えた。

 

セイ「なぁイッセー、将棋で言う歩ってのは相手陣地に突っ込むと

   と金になるのは知ってるだろう?」

イッセー「え?そりゃまぁ知ってるけど、でもいきなり  

     何だよ?」

セイ「と金になった歩は王の次に強い金の駒と同じ扱いに

   なる。知ってるか?チェスのポーン、兵士も似たような

   事が出来るんだぜ?」

イッセー「え?」

セイ「チェスのポーンも相手陣地に踏み込むと、似たような事で

   クイーン、ナイト、ビショップ、ルークのどれかに

   成る、まぁ格上げだないわば。そしてこのルールは

   悪魔のレーティングゲームにも採用されてる。つまりだ。 

   お前が敵陣に突入さえすれば、今言った4つの力を

   発動できるようになる。そうすればナイトの速さも、

   ルークのバカ力や防御力が手に入るって寸法だ」

イッセー「そ、そんなシステムがあったのか!」

セイ「そう言う事。まぁつまりだ。自分を弱いって思いこまない

   事だな。……誰だって最初は弱い。けど、だったら

   鍛えりゃ良い」

イッセー「鍛える?」

セイ「おう。俺だって、鍛えに鍛えてここまで戦えるように

   なったんだぜ?」

と言うと、イッセーの肩を叩くセイ。

  「ま、とにかくだ。お前はお前なりに強くなりゃ

   良いんだよ。言ったろ?お前はまだ『研修中』だってな」

そう言って、セイは笑みを浮かべ、イッセーも。

 

イッセー「そっか。そうだな」

そう言って頷いた彼は、頬をパンパンと叩いた。

    「っしゃぁ!やってやるぞぉぉぉぉっ!

     ハーレム王に俺はなる!」

自らの夢を叫び、意気込むイッセーを見てセイは『クックッ』と

笑みをこらえるのだった。

 

しかし、二人はまだ知らなかった。

 

 

一人の少女の命を掛けた激闘が、もう間もなく始まろうと

している事を。

 

     第3話 END

 




作中に出てきた双子のシスターはオリキャラで今後も出てきます。
お楽しみに。


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第4話 「早すぎる再会」

一応捕捉なのですが、ライダー達はフェニックス編かエクスカリバー編
まで出ない予定です。
(加えてどっちからライダーを出すか迷ってます)


~~前回までのあらすじ~~

悪魔へと転生したイッセーと、悪魔のリアス達に協力するセイ。

そんな二人はある日、一人のシスターに出会ってしまう。

自らが悪魔、悪魔の関係者である事を理解しつつも

迷っていたシスター、『アーシア・アルジェント』を教会

まで案内するイッセーとセイ。イッセーは拒絶反応から

先にセイが帰し、何とか教会まで彼女を送るセイ。

そんな中でセイは教会に違和感を覚えるのだった。

そして、イッセーははぐれ悪魔との戦いを見て、セイの

強さと自らの特性を知るのだった。

 

 

バイサーとの戦闘から数日後、夜。

セイは一人学生服姿でレブル250を駆り、街を走り回っていた。

それは、彼の勘によるものだった。

セイ『何だ。胸の奥がザワザワと騒めきやがる。

   頭ん中でアラームが鳴りっぱなしだ』

そう思いながら、町中を駆けるレブル。

セイの勘は、はっきり言ってよく当たる。それは、かつて

数多の戦いを見て来て、経験した事で生み出された

天然のレーダーのような物だ。研ぎ澄まされた本能に

よる勘が、今は警鐘を鳴らしていた。それも、最大ボリュームで。

やがてセイはそのレーダーがより強く反応する方向を

見つけ、そちらに向かった。そして……。

 

  「ッ!?あの自転車って!」

角を曲がった時、セイは一軒の家の前にイッセーが使う

自転車がある事に気付いた。更に、その家から異様な

プレッシャーを感じたセイは、すぐさまその家の前に

レブルを停車させヘルメットを取ると、後ろのケースに

入れていた鞄から更に電磁ナイフとDE、特殊な

ナックルダスターを取り出して装備した。

ホルスターを装備し、予備のマガジンを取り出し、一本を

DEに装填し、スライドを引いて初弾を送り込んだ

セイはすぐさま駆け出した。

鍵の掛かっていないドアを開け、土足のまま中に飛び込むセイ。

そして、彼は僅かに光の漏れる扉を見つけ飛び込んだ。

 

  「イッセー!!!」

ドアを蹴り開け、中に飛び込んだセイが見たのは……。

???「あぁ?」

イッセー「せ、セイ!?」

銀髪の、銃を構えた神父に、足を撃ち抜かれたイッセー。

更に、この家の家主と思われる人物の変死体。

それを見た瞬間、セイは誰が何をしてイッセーがどういう

状況なのか、この場の敵は誰なのかを一瞬で理解した。

 

セイ「貴様かっ!!」

   『ガチャッ!ドンドンッ!』

???「おぉっと!?」

すぐさまセイはDEを連射するが、神父はバックステップで

銃弾を回避した。しかしその隙にイッセーを庇うように

神父と向き合い、DEを構えるセイ。

セイ「イッセー!無事、ってわけじゃなさそうだが、

   大丈夫か!?」

イッセー「痛っつ。あ、あぁ。イテェが、何とか」

 

ひとまずイッセーが無事な事に安堵するセイ。

しかし、彼はすぐさま意識を前の神父に向けた。

???「おんやぁ~?可笑しいざんすね~?

    な~んで人払いの結界があるのに、人がぁ?」

セイを見るなり、神父が疑問符を浮かべる。

   「まぁ、おたくはどう見てもかたぎの人間じゃ

    無さそうっすけどねぇ?」

セイの握るDEと腰元のナイフを見て笑みを

浮かべる神父。

セイ『あの笑い方。反吐が出る程見て来たぜ』

  「……そこの変死体、ここの家主だろ?テメェが

   やったのか?」

???「うん?そう、そうそうそう!そうでありんす!

    この家に住む悪魔崇拝者のゴミを!この

    天才エクソシストの『フリード・セルゼン』様が

    綺麗さっぱり取り除いてあげたんですよ!

    ね!僕ちゃん偉いでしょ~!」

   『ギリッ!』

目の前の神父、フリードの言い分にセイは奥歯を噛みしめる。

しかし、彼の頭の中がすぐにクールになる。

戦場は、頭に血が上った状態で勝てる程生易しいもんじゃない。

それこそが、セイの経験から言える結論だ。

セイ「……っざけんな……!」

ゆったりとした動きで、セイの左手が電磁ナイフを逆手で

引き抜く。

フリード「あぁ?んだとテメェ」

セイの言葉に、フリードの表情が歪みセイを睨みつけるが、

その程度で怯む程セイは弱くはない。

セイ「テメェだけは許さねぇ。何より、危険だ。

   ここで排除する」

フリード「あぁぁぁぁっ!?何言ってくれちゃってんの

     かなぁぁっ!排除する?出来る訳ないだろうが!

     この天才フリード様に勝てる訳!」

 

しかし、次の瞬間セイはフリードの言葉が途切れるのを

待つことなく懐に飛び込んだ。

    「ッ!」

驚きで一瞬反応が遅れる中、セイは左手のナイフを下から

斬りあげる。

それを寸での所で回避するフリード。

    「あっぶねぇなぁ!この野郎っ!」

カウンターの蹴りを放つが、セイはそれを喰らう前に

バックステップで離れる。刹那。

   『『ジャギッ!』』

二人が手にしていた拳銃を相手の頭に突き付ける。

 

    「へっ!」

セイ「……」

そのまま、数秒にらみ合う二人。二人とも、冷や汗を

流しながら静かに引き金に掛けた指を動かし……。

 

と、その時。

 

アーシア「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

不意に悲鳴が響き、向かい合っていた二人の集中力が

一瞬途切れる。そして、先に集中を戻したのはセイの方だった。

セイ「るぁっ!」

一瞬の隙をついてフリードの銃を、ナイフを握ったままの

左手で殴り飛ばすセイ。

フリード「ちぃっ!?」

それに舌打ちしながらフリードは光の剣を取り出しつつバック

ステップで距離を取る。

対してセイもフリードを警戒しながら悲鳴がした方を

向く。

 

そこに立っていたのは、先日イッセーとセイが出会った

少女。アーシアだった。

イッセー「あ、アーシア。何で……」

理解が追い付かないイッセーが呟くと、アーシアが

ゆっくりと視線をイッセーに、そしてセイに向ける。

アーシア「い、イッセー、さん?それに、セイ、さん?」

彼女の方も理解が追い付いていないのか、体を震わせながら

驚愕の表情を浮かべていた。

 

そして更に彼女は無残な死体を再度見て、『ひっ』と短く

悲鳴を漏らす。

    「こ、これは、一体。どうして、お二人が、

     ここ、に」

恐怖から呂律が回らないアーシア。

フリード「あぁそうだしたね~シスターアーシアァ。

     あなたはこういうのを見るの初めての

     経験でしたねぇ。こ・れ・が~。

     悪魔に憑りつかれた人間の最期

     なのですよ~」

アーシア「そんなっ!?どうしてですかフリード神父!

     どうしてあんなひどい事を!?」

フリード「酷い?な~にを言ってるのかなぁシスター

     アーシア。奴らは悪魔に魂を売ったクズ。

     それをお掃除するのがエクソシストの役目じゃ

     あ~りませんかぁ?それこそが、俺達が神から

     与えられた使命なのですからぁ~」

その言葉に、再びセイはギリッと奥歯を噛みしめる。

セイ「何が掃除だ!」

フリード「あぁ?んだとテメェ」

セイ「所詮貴様のやりたい事は虐殺!何がエクソシストだ!

   テメェは唯の戦争屋、ウォーモンガーに過ぎねぇ

   だろうがっ!!!思っても居ねえ事吐いて

   んじゃねよバトルジャンキーがっ!」

イッセー「せ、セイ」

その時、イッセーは初めて、友人になってから初めて見せる

セイの激怒した姿に驚きを浮かべるのだった。

    『お前、怖くねえのかよセイ。こんな状況

     なのに。その銃弾だって、お前に当たれば

     死ぬかもしれないのに。お前は、やっぱり、

     俺なんかより……』

 

普段からイッセーは松田達と共に、怒られる事をしていた。

それをセイに咎められた事もある。けれども、これほどまでの

怒りを浮かべる事は無かった。

イッセーの方から僅かに見えるセイの瞳の奥には、怒りが

灯っていた。そして、こんな状況でも恐怖よりも先に

怒りが前に出てくるセイの背中を見て、イッセーはふと、

彼と自分の違いを、場数の違いを認識するのだった。

 

フリード「悪魔に協力する奴が、聖職者に説教なんて

     垂れてんじゃねよ!!」

セイ「はっ!テメェのどこが聖職者だよ!戦争狂いの

   リアルデーモンがよぉっ!」

フリード「あぁぁぁっ!?俺をクソ悪魔と一緒にすんじゃ

     ねぇよ!こうなったら、まずテメェから殺して

     やるよ!一瞬では殺さねぇ!腕の指、足の指、

     腕や足、体全部細切れにして、ゆっくり殺してやるよ!」

セイ「やれるもんなら、やってみなぁっ!!」

フリード「上等っ!!」

 

フリードが一歩を踏み出そうとする。セイもDEの照準を

合わせようとする。だが……。

アーシア「おやめくださいっ!」

不意にセイやイッセーを庇うようにアーシアが間に割って入り、

これにはフリードも予想外だったのか足を止め、セイも慌てて

DEの銃身を上げる。

    「おやめくださいフリード神父!」

フリード「はぁぁぁぁぁっ!?このクソシスター何やってんの!

     邪魔!すっげぇ邪魔!って言うかお前自分が

     何してんのか分かってんのかいなっ!?」

アーシア「お願いです!どうか、どうか二人を見逃して

     あげてください!」

フリード「見逃すっ!?バカかよテメェ!相手は悪魔、

     クソ悪魔とその協力者なんざんすよ!

     Understand!?ましてや俺達は堕天使の旦那の

     加護が無けりゃ生きてもいけねぇ半端もん!

     そこしっかり理解してますかぁ!?」

セイ『堕天使だと?』 

アーシア「確かに、イッセーさんは、悪魔で、セイさんは

     その協力者かもしれません。でも、でも二人は

     とっても優しくて、いい人です!だから!」

フリード「っるせぇ!」

その時、アーシアの言葉を遮るようにフリードが

光剣を掲げる。

 

セイ「アーシアッ!」

それに気づいたセイが彼女の肩を引いてアーシアの体を

後ろへと押し、自分と位置を入れ替えさせる。

フリード「死ねやぁっ!」

セイ「くっ!!」

振り下ろされる光剣。しかし、セイはそれを何とか

左手の電磁ナイフで受け止める。

 

電磁ナイフと光剣の間でバチバチとスパークが散る。

フリード「何ッ!?こいつ唯のナイフじゃ!」

セイ「その通りだよっ!こいつは、俺の恩人が作った

   最強のナイフだ!」

そう言って、フリードを蹴って距離を取るセイ。

イッセー「くっ、セイ」

その時、何とか壁に手を突きながらも立ち上がろうと

しているイッセー。

それを見たセイは……。

 

セイ「イッセー!お前にはまだ覚悟とかを求めちゃ

   居ねぇが、お前は自分を庇ってくれた女の子を

   守ろうって思うかっ!?」

その言葉を聞くと、イッセーは……。

イッセー「そんなの、あるに……。決まってんだろうがぁぁぁっ!」

ギュッと、壁についた手を握りしめながら、叫び、立ち上がる。

 

そしてさらに、イッセーの左手に赤い籠手が現れる。

    『俺だって、俺だって戦えるんだ!俺一人じゃ

     無いなら!セイが、仲間が居てくれるなら!

     それに何より……』

    「恩人の女の子置いて逃げられるかぁぁぁぁっ!」

アーシア「イッセーさん、セイさん」

自らを鼓舞するように叫び、拳を握りしめてファイティング

ポーズを取るイッセー。

そして、アーシアはそんな二人の背中を見つめている。

    『怖い。怖いけど、ここで逃げたら後悔する!

     だからっ!俺は逃げない!セイだっているんだ!

     こんな所で、逃げてたまるかっ!!』

イッセー自身も、内なる炎を燃やして立ち上がり、構える。

 

フリード「はっ!やる気?やる気ですかい?!良いですねぇ

     良いですねぇ!殺し甲斐があるってもんだぜぇ!」

そう言って、フリードが光剣を両手で握り直す。

DEを片手で構えながら、電磁ナイフを前に向けるセイ。

アーシアを右手で庇いながら、左手を握りしめるイッセー。

 

そして、フリードが踏み込もうとしたその時。

   『カッ!』

不意に床から光が漏れだした。

イッセー「な、なんだ!?」

フリード「何事!?」

二人が一瞬のことで状況が理解できない中、セイが

一人口角をつり上げ、笑みを浮かべる。そして……。

 

   『ダッ!』

    「あぶねっ!?」

光がやがて魔法陣になり、そこから飛び出して来た何かが

フリードに切りかかった。それを光剣で防ぐフリード。

その何かの正体と言うのが……。

 

祐斗「お待たせ兵藤君、セイ君。助けに来たよ」

剣を携えた祐斗だった。更に魔法陣を通って、朱乃、

小猫、リアスが現れる。

フリード「お~お~お~~!悪魔の団体様いらっしゃ~い!

     良いねいいねぇ!より取り見取りだぁ!」

下品な笑みを浮かべるフリード。それに対しリアスや

祐斗たちが密に顔をしかめる。

 

セイ「木場!」

彼の声に、祐斗が一瞬振り返る。

  「そいつは危険だ!仕留めるぞ!」

祐斗「ふっ。……言われずとも!ハァッ!」

フリード「うぉっと!」

鍔迫り合いをしていた剣を振ってフリードと距離を取る祐斗。

そこに……。

セイ「……ッ!」

   『ドンドンッ!』

彼のDEが火を噴く。

フリード「あらよっと!」

しかしそれをフリードは転がりながら家具を盾にして防ぎ、

すぐさま立ち上がって光剣を構える。

 

同じように剣を構える祐斗と、彼の隣でDEと電磁ナイフを

手にしたまま構えを取るセイ。

その光景にイッセーは半ば呆然としつつ二人の、特にセイの背中を

見つめていた。

だが……。

朱乃「ッ!」

不意に朱乃が何かに気付いて周囲を見回してから、リアスの

傍による。

  「部長、堕天使の反応が一つ。こちらに接近中です。

   加えて、周囲にはぐれ神父らしき気配が近づいて

   来ています」

その言葉に、一瞬眉を動かしてからフリードを睨みつける

リアス。

フリード「へへ~ん。こういうの、形勢逆転って言うんじゃ

     ないかな~!」

その言葉に、祐斗とセイが奥歯を噛みしめる。

リアス「……やむを得ないわね。朱乃、ジャンプの用意を。

    イッセーを回収して本拠地へ戻るわ」

イッセー「なっ!?」

    『それってつまり、逃げるのか!?だったら!』

    「部長!あの子も!アーシアも一緒に!」

彼女の事に気付き、そう叫ぶイッセー。しかし現実は

残酷だ。

リアス「ダメよ。魔法陣でジャンプできるのは私の

    眷属か特殊なお守りを持つものだけなの。

諦めて」

イッセー「そ、そんな……!」

    

    『置いてけって言うのか!自分を庇ってくれた

     女の子を、あんな奴と一緒に!』

やるせなさから、拳をギュッと握りしめるイッセー。

だが……。

 

セイ「……任せろイッセー」

イッセー「え?」

不意に、彼の耳に力強い声が届く。

セイ「今の俺はそのお守り忘れちまったみたいでな。

どの道俺は魔法陣でジャンプ出来ねぇからな。

   外にはレブルだって止めてある。アーシアの事は

   任せろ」

イッセー「セイ……」

フリード「はぁぁぁぁっ!?な~に言っちゃってんだよ

     このクソがぁっ!逃がすわけねぇだろうがぁっ!」

その時、フリードが光剣を構えセイに向かって跳躍した。

祐斗「ッ!?セイ君!」

咄嗟に叫ぶ祐斗。しかし、セイ自身は何ら恐れても、

臆しても居ない。

フリード「死ねやぁぁぁぁぁぁっ!」

 

光剣を振り下ろすフリード。だが……。

   『ガキィィィィンッ!』

セイの左手の逆手に持った電磁ナイフが光剣を防ぐ。

フリードはそのまま、上からの圧力でセイを押し倒して

マウントを取ろうと考えていた。だが……。

   『ジャギッ!』

体の後ろに隠されていた彼の右手には、あの特殊な

ナックルダスターが握られていた。

フリード「ッ!?」

今のフリードは体が宙に浮いており、回避は出来ない。

そこへ……。

 

セイ「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

叫びと共に繰り出される拳。

    『ドゴォォォッ!』

ナックルダスターに覆われた右こぶしがフリードの腹部に

突き刺さる。だが、それだけではない。次の瞬間。

    『バリバリバリッ!』

フリード「あばばばばばばばばばっ!!!!!!」

ナックルダスターに仕込まれていた電撃発生装置が

動き出し、フリードの体を感電させる。

 

そして、電撃装置が止まると、フリードは体中から

煙を出しながらその場に倒れた。

イッセー「す、すげぇ……!」

 

そして、イッセーはセイの一撃、気迫の籠った強烈な

一撃を前にして、鳥肌を立てていた。

    『俺も、俺もなれるのか。あんな風に……!』

内心、彼の強さへの憧れにも似た感情が生まれつつある

イッセー。しかし事態はその余韻に浸る事を許さなかった。

 

セイ「部長。部長たちは魔法陣で拠点に戻ってください。

   俺は、陸路で合流します」

リアス「……彼女は私達から見れば敵よ。それでも助けるの?」

セイ「分かっています。ですが、アーシアは俺とイッセーの

   『友人』です」

アーシア「ッ」

セイの言う言葉に、一瞬だけ目を見開くアーシア。

 

セイ「それに何より、男として彼女をこのままに

   しておくわけには行きません」

  『あの人たちだって、きっと同じことをしたはずだ。

   目の前の命を助ける事に、いつでも全力だった

   『あの人たち』なら』

セイの決意が籠った言葉と瞳を前にリアスは……。

 

リアス「……わかったわ。学園で待ってる。彼女を

    連れてきなさい」

イッセー「部長!」

彼女の言葉に、驚いてからうれし涙を浮かべるイッセー。

 

そして、そんな彼らの足元に魔法陣が出現する。

    「セイ!アーシアの事、頼んだぞ!」

セイ「あぁ!任せろ!すぐに俺も学園に行く!」

そう言って、セイは右手でサムズアップをし、

イッセーもそれに気づいて同じように右手で

サムズアップを返す。

そして、それを合図にするかのようにイッセー達は

魔法陣で転移していった。

 

それを見送ったセイはアーシアの方に向き直った。

セイ「そう言うわけだ。ここは危険だから、行こう」

そう言って右手を差し出すセイ。しかしアーシアはそれを

取る事を躊躇った。

アーシア「あ、あの。やっぱり、私は……ダメです。

     セイさんや、イッセーさんにいっぱい迷惑を

     かけてしまいます。だから……」

そう言って、自らの胸の前で両手を握りしめ、

俯くアーシア。

 

だが……。

セイ「関係無いよ。俺には」

そう言って否定し、アーシアの手に自分の手を重ねるセイ。

それによって、俯いていたアーシアの顔が上がる。

  「俺は悪魔側の協力者だけど、それでも目の前で

   困っている誰かを見捨てる事なんて出来ない。

   その人が泣いているのなら、尚更な」

そう言って笑みを浮かべるセイの前では、アーシアが

密に、その目に涙をためていた。

 

このまま戻れば、何があるか分からない。

その恐怖に怯えているアーシアを見たセイにとって、

彼女に手を差し出さない理由はもう無い。

 

かつて、彼が同じように、力強い腕に助けられたように。

 

  「さぁ行こう!」

アーシア「ッ、はい!」

彼の言葉に頷き、アーシアは彼に手を引かれるまま

外に出た。

すぐさまレブルに跨り、自分が被って来たヘルメットを

アーシアに渡して被らせるセイ。

    「あ、あの!セイさんヘルメットは?」

セイ「すまん。それしか持ち合わせが無いんだ。

   ノーヘルはダメだが、緊急時だからな」

そう言いつつ、アーシアの手を引いて彼女を

何とか自分の後ろに跨らせるセイ。

その時、彼の目がレブルの後方。少し離れた路地から

一台の黒いバンが現れるのをサイドミラー越しに

見つけた。そして、そのバンを見た瞬間、彼の中の

アラームが最大ボリュームで鳴り響く。

 

セイ『来たっ!?あれがそうか!』

  「アーシア!しっかり掴まってろ!飛ばすぞ!」

アーシア「え?」

   『ヴォォンッ!』

    「きゃぁっ!」

彼女が答える前にレブルを発進させるセイ。それによって

アーシアが短く悲鳴を漏らした。

 

すると、先ほどのバンが急加速してレブルを

追って来た。

セイ『ちっ!?やっぱあれにはぐれ神父共が乗ってるのか!?』

内心、毒づきながらもレブルを走らせるセイ。

  『追って来るなら来やがれ!免許を取ってから数年、

   俺がどれだけバイクテクを磨いてきたのか、教えてやる!』

   『ヴォォォォォンッ!』

しかし、それでもセイは内心笑みを浮かべてからレブルを更に

加速させる。

 

住宅地のメリット、交差点の多さを利用してジグザグに走る

レブル。しかしバンの方は外壁に車の車体が当たろうが

お構い無しに向かって来る。

  「ちっ!?」

  『何なんだよこのしつこさ!それだけアーシアが

   あいつらにとって貴重って事なのか!?』

内心、はぐれ神父のしつこさに驚きつつもレブルを駆るセイ。

 

   『ヴォォォンッ!』

そして、レブルが住宅街を抜けて少し広めの道路に出た時。

  「ッ!?」

彼の進行方向を、数台のバンが横に並んで進行を拒んでいた。

そのバンを避けるには、その少し手前にある路地を左に

行くしかないが、セイはパトロールの一環としてこの街の

大よその道を頭に叩き込んでいた。だからこそ、そこを

曲がった先にあるのは通行止めの壁。

つまり、デッドエンドである。

 

  『くっ!?あそこは曲がれない!どうする!?』

素早く目を走らせるセイ。

  『ッ!あれだ!』

そして彼はバンの壁の少し手前にある、乗用車に

目を付けた。周囲に人払いの結界をしてあるのか、

人影はない。しかしそれはセイにとって好都合だった。

  『やるしかねぇ!一か八か!』

  「アーシア!しっかり掴まってろ!

   かなり無茶するぞ!」

アーシア「え、えぇ!?何ですか!?」

この時のセイは、日本語であったが為にアーシアに

意図が伝わっていなかった。それに気づいたセイは……。

セイ「Be caught!(掴まれ!)」

もう一度英語で叫ぶ。そして、それに気づいたアーシアが

セイの腹部に腕を回し、それをギュッと掴む。

 

そして……。

  「行っけぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

   『ヴォォォォォォォォォォッ!!!』

限界までスロットルを捻ったセイ。レブルが

さらに加速し、乗用車のボンネット目掛けて突進していく。

そして……。

 

  「上がれぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

腕に力を入れ、車体を持ち上げるセイ。そして……。

   『バガンッ!!!』

盛大な音と共に、レブルの車体が宙へと飛んだ。

レブルがバンの壁を飛び越える。

  「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

   『ガッ!』

セイが叫びながら車体をコントロールし、何とか着地する。

   『ギャルルルルルッ!!!』

  「しゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

そして後輪から白煙を上らせつつ包囲網を突破した

セイのレブルはアーシアを連れて夜の市街地を疾走していく。

 

 

一方、夜の教会では………。

追撃部隊の事で連絡を受けていた男、ドーナシークが居た。

ドーナシーク「そうか。……今は良い。戻れ」

そう言って、電話を切るドーナシーク。

      「ちっ。使えん人間どもめ。……まぁ良い。

       あの女が生きているのなら、また奪えば

       良いだけの事。……見ていろ、私は必ず

       より高位の高みへと登って見せる……!」

そう言って、ドーナシークは近くの机の上に置かれていた

アーシアの写真に、まるで道具を見るような目を向けるのだった。

 

 

戻ってセイとアーシア。

セイ『……。もう追ってこないか』

バックミラーで仕切りに背後を確認しつつ、念のため

行先を悟られないように、少し遠回りで学園へと向かうセイ。

やがてセイは、学校の裏門へと近づく。すると門が自動的に

開いて、彼らを迎える。

セイは旧校舎の林の近くまでレブルで行き、そこに停車すると

エンジンを止めた。

アーシア「あ、あの。セイさん。ここは一体?」

ヘルメットを取り、彼の手を借りながらもレブルから

降りるアーシア。

セイ「ここは俺やイッセーの先輩が在籍する学校だ。

   さっきの赤髪の人、覚えてるだろう?

   これからあの人やイッセーの所に行く」

アーシア「その方って、悪魔、なんですよね?」

どうやら、敵である悪魔側の領地に居る事に不安を

覚えているのか、ギュッと両手を握りしめるアーシア。

それを見たセイが……。

セイ「心配するな。もしもの時は、俺やイッセーが守る」

そう言って、彼女の頭を撫でた。撫でられた事で

顔を赤くするアーシア。

 

その後、彼女を連れてオカ研の部室へと行くセイ。

   『コンコン』

  「部長、俺です。アーシアを連れて戻りました」

リアス「……入りなさい」

静かに、しかしいつもの優しい声色とは違う緊張と

警戒を含んだ声に、セイは内心冷や汗をかきながら

扉を開ける。

 

執務机に座っているリアスと、ソファに座るイッセーや

祐斗、小猫。朱乃はイッセーの前に屈みこんで腿の

銃創の治療をしていた。

イッセー「ッ!アーシア!ってっ!?」

そして、イッセーはアーシアが入って来たのに気付いて

立ち上がるが、すぐに痛みで倒れそうになる。そこへ。

   『トサッ』

セイ「無理すんなよ。まずは怪我を直せっての」

倒れそうになるイッセーの肩に手をやって助けるセイ。

イッセー「わ、悪いセイ」

セイ「気にすんなよ。当然の事をしてるだけさ」

そう言って、イッセーに肩を貸しながら彼をソファに

座らせるセイ。

  「傷の方はどうだ?」

朱乃「幸い致命傷にはなっていませんが、やはり悪魔に

   とっての光は毒。治癒には時間がかかりそうです」

傷の具合を聞くセイに、朱乃が答える。

 

と、その時。

アーシア「あ、あの!」

不意にアーシアが声を上げ、他の面々の注目を集めた。

    「私にイッセーさんの治療をさせてください!

     私には、人も悪魔も癒せる力があるんです!」

と言うが、リアス達は困ったような表情を浮かべた。

しかし……。

    「お願いします!それに、大丈夫です!

     私には、その、そう言う、経験が……」

セイ『経験?』

次第に小さくなるアーシアの声の中で、経験と言う単語が

引っかかるセイ。やがて彼は数秒考えてから……

  「部長。イッセーの治癒、アーシアにやらせてあげて

   貰えませんか?」

リアス「……何故そう思うの?」

セイ「アーシアには治癒の力があります。それを俺と

   イッセーが見た事があります。お願いします」

そう言って頭を下げるセイ。

リアス「……わかったわ。但し、少しでも変な動きを

    した場合は、容赦しないわ」

そう言って、静かに鋭い視線をアーシアに向けるリアス。

アーシア「は、はい!」

しかしアーシアは臆することなく、朱乃と場所を

入れ替わって、彼女の神器である、

『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』の力が

発動。彼女の手から緑色の淡い光がイッセーの傷を

治していく。

 

そして、数分もすればイッセーの腿に空いていた傷を

完全にふさいでしまった。

これには祐斗たちも、何より先ほどまで負傷していた

イッセーも驚いている様子だった。

セイ「イッセー、どうだ?痛みは?」

イッセー「あ、えっと。殆ど、って言うか全然無い」

彼の問いかけに、驚いて少し呆けてからも足を動かして

答えるイッセー。

アーシア「私の力は、どんな種族でも癒してしまう治癒の力です。

     ただ、治癒は出来ても失った体力を癒す事は出来ません。

     そこだけは気を付けてください」

イッセー「あ、あぁ。ありがとうなアーシア」

 

そして、それから数分後。リアス達は目下の課題である

アーシアの処遇への件についての話し合いを始めた。

リアス「さて、イッセー、セイ。よく聞いて。さっき

    イッセーにはセイが戻ってくるまでにはぐれ

    エクソシストの事を話したけど、彼女と

    私達では水と油。相容れない存在よ。あなた達

    には酷な話でしょうけど、彼女をここに

    置いておく事は出来ないわ」

イッセー「そんなっ!?」

驚き、叫んでからアーシアの方を見るイッセー。やがて……。

    「だったら!俺の家で何とかします!親だって

     俺が説得して……!」

リアス「説得して、どうするの?彼女があなたの家にいる

    限り、あなたのご家族にだって危険が及ぶのよ?」

イッセー「ッ!!」

その言葉を聞いた時、イッセーの脳裏に両親の顔。そして、

さっき見た変死体の姿が思い浮かんでしまった。

リアス「……残念だけど、今の私達では彼女を保護する

    術はないわ」

机に肘をつき、指先を組み合わせての彼女の言葉に、

俯くイッセー。

 

しかし……。

セイ「彼女をかくまう『あて』ならあります」

静かに呟いたセイに、他の面々の視線が集まる。

  「俺の育ての親とも言える人が神奈川に住んでます。

   アーシア一人くらいなら養えるかもしれません」

リアス「……聞いていたのセイ?彼女がそこに居るだけで

    堕天使が襲って来るかもしれないのよ?」

セイ「判ってます。ですがあそこには、並みの堕天使程度

   歯牙にもかけない位の、強者が居るんですよ」

 

そう言っているセイの脳裏に浮かぶのは、胸にSの文字を

持つ、赤い体に白いマフラー、カブトムシを思わせる

体を持った、英雄の一人の後ろ姿だった。

 

  「あの人なら、堕天使に何か絶対負けません」

確信の籠った目で、リアス達を見るセイ。

それだけの自信と信頼が、彼にはあったのだ。

  「危険だと仰るのは十分承知しています。ですが……。

   俺はアーシアの友人として、一人の男として、

   彼女を見捨てることはできません。

   リスクは承知の上です。それでも、俺は簡単に

   諦めたくありません」

決意の籠った瞳でリアスと対峙するセイ。

そして……。

 

リアス「ハァ。わかったわ」

そう言って、リアスの方が先に折れた。

   「それで、どうするの?」

セイ「今日の内に連絡を取ってみます。まずは

   そこからです」

リアス「そう。……それまで彼女はどうするの?」

セイ「本人の許可次第ですが、出来れば俺の家で

   匿うつもりです。俺は一人暮らしですから、

   そっち方面では迷惑は掛かりません。アーシア、

   どうする?」

アーシア「あ、えっと、良い、んですか?」

セイ「あぁ」

 

アーシア「そ、それじゃあ……。お世話になります」

そう言って彼女が頭を下げ、今後の目的は決まった。

 

その後、セイとアーシアはレブルでセイのマンションへと

戻る事になった。

そして部室を出る時。

リアス「セイ。これを」

一枚のお守りのような物を差し出すリアス。

セイ「これは?」

リアス「悪魔の言語翻訳の力を持ったお守りよ。彼女との

    意思疎通を考えると不便でしょう?」

セイ「ありがとうございます」

礼を言って、それを受け取りポケットにしまうセイ。

  「それじゃ、行くぞアーシア」

アーシア「は、はい!って、セイさん言葉が……」

セイ「今貰ったお守りの力だ。行くぞ」

アーシア「はいっ!」

 

そう言って二人は部室を出て行く。そして二人は

再びレブルに跨ってマンションへと戻って行った。

 

 

数十分後。念のため迂回してマンションに戻ったセイは

レブルを駐車場に止めてブルーシートを掛け、周囲を

警戒しながら自室へと戻った。

鍵を使ってドアを開けて中に入るセイ。

セイ「上がってくれ。自分の家、とまでは言わないが

   くつろいでくれ」

アーシア「は、はい!お邪魔します!」

内心、初めての部屋にキョロキョロしつつリビングへと

付いてくるアーシア。

セイはリビングに制服の上着、鞄を置くと時計に

目を向けた。

セイ「もうこんな時間か。アーシア、シャワーでも

   浴びてくるか?あんな後だし、汗かいただろう?」

アーシア「え!?で、でもそう言うのはセイさんが先の

     方が……」

セイ「良いよ。こういうのはレディーファーストだ。

   あ。後夕飯だけど、アーシアもう食べた後か?」

アーシア「あ、いえ。私お夕食はまだ――」

   『キュゥゥゥ……』

彼女の言葉を遮るように、アーシアのお腹が可愛い悲鳴を

漏らしてしまう。

    「はぅぅぅ……」

お腹を押さえながら顔を真っ赤にするアーシア。それを

聞いてクスクスと笑みを浮かべるセイ。

セイ「まだみたいだな。じゃあシャワーで汗を流して

   来ると良いぜ。俺は何か夜食を作ってるから」

アーシア「な、何から何まですみません」

セイ「良いの良いの。気にすんなって」

 

その後、アーシアはセイに案内されてお風呂でシャワーを

使い汗を流した後、彼が用意した黒地に金のラインが

入ったジャージを着てリビングに戻って来た。

アーシア「セイさん、お風呂使い終わりました」

セイ「そうか。っと、悪いな、そんなデカいジャージ

   しかなくて。生憎男の独り身だから女性に

   貸すような服が無くてな」

アーシア「いえ。大丈夫です」

そう言って、リビングにあるテーブルの前に

敷かれた座布団の上に座って待つアーシア。

 

セイ「さぁどうぞ」

やがて、しばらくするとセイがオムライスの乗った

皿を二つ、持ってきて片方をアーシアの前に置いて、

もう片方を持ちながらアーシアの反対側に置いた。

  「素人のだから味はあんまり保証できないが、

   まぁ食ってくれ」

アーシア「はい」

セイ「頂きます」

アーシア「あ、えっと、イタダキマス」

手を合わせるセイと、それを見て真似るアーシア。

 

スプーンでオムライスを掬い、口に運ぶアーシア。

   『パクッ』

    「んっ!」

そして食べるなり、少しばかり驚いた表情を浮かべる

アーシア。

    「セイさん!すっごく美味しいです!」

セイ「そうか?そいつは何よりだ」

そう言って、彼も笑みを浮かべながら食事をする。

 

その後、食べ終わった食器を片付けてから、リビングに

あったテーブルを退かして来客用の布団などを並べている

セイ。そんな様子を見ていたアーシアだが、不意に彼女の

目が隅にあった仏壇へと向いた。

アーシア『これって……』

彼女の目は、幼き日のセイらしき少年と、彼と一緒に居る

一組の、夫婦らしき男女が映っている写真に向いていた。

    「あの、セイさん。これは一体何ですか?」

セイ「ん?あぁ。それは仏壇だよ。死者を祭る祭壇みたいな

   物だ」

アーシア「え?でも、この写真って……」

 

セイ「……俺の両親だよ」

アーシア「え!?」

静かに答えるセイと、驚き目を見開くアーシア。

    「で、でも確かセイさんは独り暮らしでお父様から

     仕送りをしてもらっていると……」

セイ「……養父なんだよ。その人」

彼女の方を向かず、布団を準備しながらも淡々と語るセイ。

アーシア「義理の、お父様なんですか?」

セイ「あぁ。俺の旧姓、古い苗字は橘。滝って苗字は、

   養父の苗字なんだよ」

アーシア「ご、ごめんなさい。私、知りもしないで

     色々と」

そう言って頭を下げるアーシア。そこへ。

セイ「気にすんな」

彼はゆっくりと近づき、アーシアの頭を撫でた。

  「もう10年も前の事だ。それに、俺が自分で

   話しただけの事だ。気にするな」

アーシア「セイさん。……ありがとう、ございます」

 

セイ「あぁ。……今日はもう遅い。飯も食った事だし、

   アーシアはもう休んだ方が良い。何かあったら

   さっき教えた俺の部屋に来てくれ。それじゃあ、

   お休み」

アーシア「は、はい。おやすみなさい」

ペコリと頭を下げるアーシアを見てから、セイは自室に

戻って行った。

 

そして、スマホを取り出しある番号に掛けるセイ。

少しして……。

   『プルルルッ、ガチャッ』

???『はい、もしもし?』

セイ「夜分にすみませんおやっさん。俺です。セイです」

電話に出た相手、それはセイや彼が英雄と慕う男たちからも

『おやっさん』と言われ慕われている男性、『立花藤兵衛』だった。

藤兵衛『おぉ、その声セイか?どうしたこんな夜中に』

セイ「……実は、お願いしたい事がありまして」

藤兵衛『……何があった?』

セイの意思が籠った言葉に、何かあると感じた藤兵衛が

同じように、確かめるような声色になる。

 

その後、アーシアの事を話したセイ。

   『そうか、その子は堕天使に』

セイ「はい。……今の俺では、彼女を守り切る事は出来ません。

   しかし彼女に別の行く当てがあるとも思えません。

   そして何より、生半可な場所では堕天使に狙われても

   守り切れる確証はありません。……無茶なお願いなのは

   十分承知しています!ですが、『茂の兄貴』が居るそこ

   なら……!そう思って、連絡させてもらいました」

藤兵衛『そうか』

 

しばらくの間、二人の間に沈黙が流れる。やがて……。

   『……わかった』

セイ「ッ!おやっさん!」

藤兵衛『行く当てのない子を、世間に放りだすわけにも

    行かんだろう。茂には俺から話をしておく。

    週末にでも、家につれて来い』

セイ「はいっ!ありがとうございます!」

笑みを浮かべるセイ。

 

その後、2、3話をしてから電話を切るセイ。やがてセイは

スマホを充電器に指すと、リビングの方へとアーシアの

様子を見に行った。

 

アーシア「すぅ、すぅ」

そして、そこでは既にアーシアが可愛い寝息を立てながら

眠っていた。それを確認して笑みを浮かべたセイは自室に

戻った。

そして、机に備え付けられた椅子に座ると

鞄の中からDEを取り出し、マガジンを確認しだした。

やがて、彼は静かに天に輝く月を見つめる。

 

 

セイ『守って見せる。今度こそ』

 

静かな決意と共に、月を、空を睨みつけるセイ。

 

だが、戦いはまだ始まったばかりであったことを、

彼は知らないのだった。

 

     第4話 END

 




今更ですが、セイの戦い方はSPIRITS本編の滝ライダーを
ベースにしてます。
感想や評価、お待ちしています!


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第5話 「戦いの時」

今回は教会突入前までです。



~~前回まであらすじ~~

日課のパトロールを行っていたセイは、己が胸の内で

鳴り響く警鐘に従ってレブルを走らせた。そして彼は

イッセーの自転車を見つけ、すぐさまそれが置かれていた

家の中に飛び込んだ。そこでは、イッセーがはぐれエクソシスト、

フリード・セルゼンに襲われていた。イッセーを守る為、

そのフリードと戦うセイ。しかし、そこに今度はアーシアが

現れてしまう。イッセー達を庇うアーシアに激高し、

彼女を襲おうとするフリードと対するイッセーとセイ。

そこへリアス達が駆けつけるが、同様にフリード側にも

増援が来てしまう。リアス達は撤退をする事になるが、

眷属ではないアーシアは連れて行く事が出来なかった。

しかし、それを良しとしないセイの活躍でアーシアは

危機を脱し、駒王学園で話し合いが持たれた後、

彼女はセイの知り合いへ預けられることになり、

それまでの間と言う事でセイの家で世話になるのだった。

 

 

フリードとの戦闘の翌日。朝。

セイは朝の鍛錬を終え、まだ寝ているアーシアを

確認すると、L〇NEでイッセーに連絡を取った。

セイ≪イッセー。おはよう。起きてるか?≫

イッセー≪あぁ。おはようセイ。どうした?≫

セイ≪昨日今日だから念のためにな。傷の方は

   大丈夫そうか?≫

イッセー≪あぁ。アーシアに治癒してもらったから

     大丈夫だ。ただ、念のためって事で今日は

     休むようにって部長から言われてる。学校には

     部長が言っといてくれるらしい≫

セイ≪そうか≫

イッセー≪ところでセイ、アーシアはどうしてる?≫

セイ≪まだぐっすり眠ってるよ。こっちは心配無い≫

イッセー≪そうか。……なぁ、俺達。アーシアを守れた

     んだよな?≫

セイ≪あぁ。当たり前だろ?≫

 

その言葉を聞いて、自分の部屋でベッドに腰かけたまま

スマホを操作していたイッセーの手が、僅かに震える。

イッセー『そっか。そうだよな。俺は、守れたんだ』

アーシアを守る事が出来た。その現実に彼は笑みを

浮かべていた。

そこへ。

兵藤母「イッセー、起きてる~?」

部屋の外からイッセーの母の声が聞こえて来た。

イッセー「あ~!起きてるよ~!」

    ≪母さんが呼んでるから切るわ。じゃあな≫

セイ≪あぁ≫

聞こえるように返事をしてから、セイとの会話を

区切るイッセー。ちなみに、休む理由は昨日リアスが

直接家にやってきて、色々『説得』していたので問題無かった。

 

その後、連絡を終えたセイはシャワーで汗を流して制服に

着替えると、エプロンを着てキッチンで朝食の用意を始めた。

セイ『っと、アーシアが家にいるんじゃ、何か作り置き

   しといた方が良いか。何かあったかな?』

そう考え、冷蔵庫の中にあった食材を使って昼食用の

作り置きを考えていた時だった。

アーシア「ふぁ~~~。セイさん、おはようございます~」

と、そんな時リビングに敷いた布団で寝ていたアーシアが

起き上がった。

セイ「あぁ。おはようアーシア」

アーシア「はい~」

どうやら、まだ少し寝ぼけているのか≪ぽへ~≫っと

しているアーシア。

セイ「まだ眠いのか?洗面所で顔でも洗って来たらどうだ?」

アーシア「は~い。そうします~」

そう言って立ち上がった彼女は、トテトテと歩いて行って

洗面所へと向かった。

その間に、朝食のトーストやサラダ、目玉焼きを作るセイ。

    「ふぅ、すっきりしました」

そこへ顔を洗って目がぱっちりしたアーシアが戻って来た。

セイ「目が覚めたみたいだな。もう少し待っててくれ。

   朝飯が出来るからな」

アーシア「はい。あ、じゃあお布団とか片付けておきますね」

セイ「悪い、助かる」

と、頷いたアーシアは布団を畳んでテーブルを元に戻した。

 

そして数分後。出来た朝食をテーブルに置いて向かい合う二人。

セ・ア「「頂きます(イタダキマス)」」

そして、二人そろって挨拶をしてから食事を始めた。

少しの談笑を交えつつ朝食を取った二人。その後、セイが

食器を洗い終えた後、彼は昨日の夜の事を話そうと思った。

 

セイ「さて。アーシアの今後の事なんだが……。ここを

   離れて別の場所に行ってもらう事になる」

アーシア「別の場所、ですか?」

その単語に、どこか悲しそうな表情を浮かべるアーシア。

セイ「あぁ。そこは俺がお世話になってる知人のおじさん

   の家でな。そこには、並の堕天使何かよりも数倍は

   強い人が居る。だから大丈夫だ。……本当は、俺や

   イッセーが守ってやるべきなのかもしれないが、

   すまん」

アーシア「そ、そんな!謝らないでください!

     セイさんもイッセーさんも、強くて、優しくて!

     私なんかのために色々良くしてくださいました!」

セイ「ありがとう。その言葉だけで嬉しいぜ。……けど、

   その優しさだけでお前を守り切れる程、俺達はまだ

   強くない。……立ち向かえる事と勝てる事は、

   同義じゃねぇんだ。……とにかく、その強い人

   の居る場所なら安全だと思う。これが、俺が

   アーシアに用意してやれる限界だ。構わないか?」

アーシア「後悔なんて、ありません。むしろ、私は

     イッセーさんやセイさんのような方に出会えた

     事に、喜びと深い感謝を感じています。これこそ、

     きっと主が私に与えてくれた祝福なのかも

     しれません」

そう言って、指先を組み合わせて祈りをささげるアーシア。

セイ「そうか。……ともかく、向こうに行くにしても時間が

   掛かるから、出発は明後日、土曜日になる。それまでは

   ここに滞在してもらう事になる」

アーシア「そうですか。……あの、セイさん。一つだけお願いが

     あるんですが……」

セイ「ん?何だ?」

アーシア「イッセーさんと、お会いする事は出来ませんか?」

セイ「イッセーと?」

アーシア「はい。出来れば今日中に。……どうしても、

     イッセーさんとお話がしたいんです。

     ダメ、ですか?」

セイ「いや、まぁイッセーは今日学校を休んでいるから

   不可能じゃないだろうが……。堕天使にはぐれ神父が

   街でアーシアを捜索している可能性だってある。

   出来ればこの家から出ない方が良いと思うんだが……」

困り顔でそう呟くセイ。しかし……。

アーシア「お願いします。どうしても、この街を離れる前に

     イッセーさんにお礼をしておきたいんです」

そう言って懇願するような瞳に、セイは……。

セイ「……わかった。但し、今日だけだぞ。明日は外出禁止。

   俺も学校に行って部長たちに色々報告をしたら

   護衛のためにアーシアやイッセーに合流する。

   それで良いか?」

アーシア「っ!はいっ!ありがとうございます!」

そう言って笑みを浮かべながら頷くアーシア。

 

セイ『ごく短い時間なら、何とかなるか。万が一の時は、

   俺とイッセーでアーシアを守る。それだけだ』

そう考え、秘かに拳を握りしめるセイ。

 

 

だがこの選択を、彼は後に後悔する事になるとは、思っても

居なかった。

 

イッセー「え?アーシアが?」

セイ『あぁ。町を離れる前にお前と会っておきたいそうだ』

自分の部屋で休んでいたイッセーの元に、セイから電話が

届いた。そして、その内容と言うのが、アーシアがイッセーに

会いたいという件だった。

イッセー「そうか。けど、大丈夫なのか?」

セイ『確かに不確定要素があって危険かもしんねぇが、

   アーシアのたっての願いだ。無下にするのも気が

   引ける。どうする?お前の方は』

イッセー「俺は……」

    『アーシアと、別れる事になるのか。……なら、

     最後くらいは……』

    「わかった。俺行くよセイ」

セイ『そうか。なら、場所を伝えるぞ。午前10時、駅前に

   集合だ。アーシアには地図を渡してあるから迷う事は

   無いと思うが……。念のため、気を付けておけよ。

   まだ連中が諦めて無い可能性だってあるんだからな』

イッセー「判ってるって!けどお前も合流してくれるんだろ!

     俺とお前なら、アーシアを守れるさ!」

セイ『ったく、調子が良いなぁお前は』

呆れつつも、笑みを含んだ言葉が電話越しに聞こえてくる。

  『っと、俺はそろそろ出る時間だ。じゃあな』

イッセー「あぁ」

頷き、電話を切るイッセー。

    『そうだ。俺達なら、俺と、セイなら……。きっと』

そう思い、イッセーは密にスマホを握りしめるのだった。

 

 

その後、セイは一人学校へと向かい、更に部室へと向かった。

そこではリアスと朱乃が待って居た。執務机に座るリアスと

その横に控える朱乃に、昨日の夜のおやっさんとの話の内容を

伝えるセイ。

リアス「そう。向こう側は了承してくれたのね?」

セイ「はい。向こうまでは時間がかかるので、土曜の朝には

   町を出て向こうへ向かいます。公共機関は見張られている

   可能性があるので、レブルで」

リアス「わかったわ。……けど、大丈夫なの?血縁ではない

    とはいえ、確かあなたの育ての親も同然の方たちなの

    でしょう?そんな人たちを巻き込む結果になるんじゃ

    無いのかしら?」

セイ「確かに、部長の仰ることも最もです。ですが、あそこには

   俺なんかとは比べ物にならない位強い人が、

   『仮面ライダー』が居るんです」

リアス「仮面、ライダー?」

と、セイの言う単語に首を傾げるリアス。

セイ「はい。……俺にとっての兄や父同然であり、俺の目標です。

   あの人たちなら、絶対に大丈夫です」

リアス「……。あなたがそう言い切る根拠は?」

セイ「あの人たちの背中を見ながら育った、俺個人の判断です」

試すようなリアスの視線と言葉に、信頼が籠った目と言葉で

答えるセイ。やがて、数秒場が沈黙する。

  「……それでは、俺はイッセーとアーシアの所へ行きます。

   失礼します」

そう言うと、セイは頭を下げて部室を後にした。

 

それを見来ると、背もたれに体を預けるリアス。

朱乃「紅茶か何か、淹れましょうか?」

リアス「えぇ。お願い」

頷くリアス。しばらくすると、朱乃が彼女の前に紅茶の

入ったカップをソーサーごと置いた。カップを取り、紅茶を

一口飲むリアス。

   「ふぅ。……仮面ライダー、ね」

朱乃「気になるのですか?」

彼女の呟きに問いかける朱乃。

リアス「少しね。あのセイが堕天使や自分よりも強いと言い切る

    人間たち。あの子が信頼している以上悪い人ではないと

    思うのだけど、少しね」

朱乃「そうですか」

『そう言えば、あの日、『私たち』を助けてくれた人も、

 確かそんな名前を名乗っていたような……』

記憶の残滓を探る朱乃。しかし、その答えが出るのは、今、では

無かった。

 

 

その後、装備していたDEと電磁ナイフを再確認してから、

セイは学生服姿のままイッセーと連絡を取り、二人と合流した。

途中の自販機でドリンクを買い、待ち合わせをしていた

公園へと向かうセイ。

歩く事数分、公園で見知った、シスター服のアーシアと

イッセーのツンツンヘアを見つけ歩み寄るセイ。

 

セイ「お~い。イッセー、アーシア」

と、声をかけるセイ。だったのだが……。

アーシア「ッ」

彼に気づいて振り返ったアーシアの目には、涙が

浮かび……。

イッセー「せ、セイ」

隣に居るイッセーは戸惑うような視線を彼に向けた。

それを見て彼は……。

 

セイ「……とりあえず、落ち着け」

そう言って、二人にドリンクを、イッセーにはコーラを。

アーシアには紅茶を差し出した。

  「辛い事があるなら、泣いて良い」

そして、彼はベンチに座るアーシアの前に屈み込み、

彼女の俯いた瞳を見ながらそう優しくつぶやいた。

  「泣く事は悪い事じゃねぇ。泣きたいのなら、

   思いっきり泣け。それでいい」

アーシア「セイ、さん。私、う、うぅ」

 

そして、彼の言葉を聞いたアーシアは嗚咽を漏らしながら

涙を流し、イッセーは優しく彼女の背中を撫でてやるの

だった。

 

アーシアが落ち着いた数分後。彼女の口からこの街、

駒王町へとやってきた経緯が話された。

ふとしたきっかけで、治癒の神器であるトワイライト・

ヒーリングが覚醒した事。それに目を付けた教会関係者に

よって聖女として、祭り上げられてしまった事。

しかしあるとき、傷ついた悪魔を治癒してしまったが

為に、周囲は手のひらを返すように彼女を魔女として罵り、

教会を追放した事。そして、行き場を失った彼女を

拾ったのが、極東のはぐれエクソシストの組織で

ある事を。

それを聞き、憤怒で表情をゆがめ、缶を握り潰さんばかりに

手に力を込めるイッセー。

更に、アーシアはそれを自分の祈りが足りないからだと、

自虐的に笑みを浮かべ、そして夢を語った。

友達を作ると言う夢を。

 

それを聞き、セイとイッセーは。

セイ「何言ってんだよアーシア」

アーシア「え?」

イッセー「そうだぜアーシア!もう俺たち3人、友達じゃ

     ねぇか!」

アーシア「え?」

彼の言葉に、もう一度疑問符を浮かべるアーシア。

 

    「友、達。私が、イッセーさんや、セイさんと?」

セイ「あぁ。当たり前だろ?一緒に街歩いて飯食って、

   こうしていろいろ話をして。だったらもう友達で

   良いんじゃねえか?なぁ?」

イッセー「あぁ!セイの言うとおりだよ!俺たちはもう、

     友達だ!」

アーシア「ッ!」

二人の言葉に、もう一度瞳に涙をためるアーシア。

    「わ、私は、二人の、友達で、良い、んですか?」

嗚咽混じりの問いかけに、二人は……。

セイ「良いも悪いもあるかっての。アーシアが友達なんて、 

   良いと思うが?お前はどうだ?」

イッセー「そりゃ当然!アーシアみたいな優しくて美少女なら

     俺は大歓迎だぜ!」

セイ「って、お前は煩悩丸出しかっ!」

ペシッと頭を軽くたたいてコントを繰り広げ笑みを浮かべる

セイとイッセー。

イッセー「ハハ、まぁそういうわけだ。俺たちは今日から、

     正真正銘の友達だ」

そう言って、彼はアーシアの前に立ち上がり彼女の右手を

差し出す。それを見た彼女は……。

アーシア「ありがとう、ございます」

笑みと、涙を浮かべながら頬を赤く染め、イッセーとセイを

見上げるのだった。

 

 

 

だが……。

ドーナシーク「ふん。下らん茶番だな」

不意に、背後から声が聞こえてきた。そして、セイは

その声を聞いた瞬間、鞄の中からDEを取り出し、

セイフティを解除して、手動で初弾を薬室に送り込み、

振り返り構える。

そして、彼の視線の先にはトレンチコートの堕天使、

ドーナシークが立っていた。

そのドーナシークを睨み付けるセイ。

セイ「イッセー!アーシア連れて逃げろ!」

イッセー「え!?でも……」

セイ「忘れるなっ!奴らの狙いはアーシアだ!

   お前がアーシアを守れっ!」

イッセー「ッ!わかったっ!」

彼の言葉に驚きながらも頷き、イッセーはアーシアの

手を引いてかけ出した。

アーシア「セイさん!」

セイ「安心しろ!死ぬ気はねぇ!」

   『ドンドンッ!』

 

DEを連射するセイ。しかしドーナシークはそれを

事も無げに跳躍して避ける。

その隙に、更に鞄から電磁ナイフを取り出して左手で

逆手に持つ。

ドーナシーク「死ぬ気は無い、だと?愚かな人間よ。貴様ら人は

       あまりにも脆い。その脆弱な体で何を守る?」

 

セイ「何って、決まってんだろ?

   『命』と『自由』だよ!!」

 

それは、彼の戦う理由。彼の憧れる英雄達と同じその目標。

相手は明らかに自分より格上。だが、それでもセイは獰猛な笑みを

浮かべながらそう断言する。だが、その時。

 

ドーナシーク「ふん。やはり愚かだな、人間。そんな貴様の

       相手は、同じ人間が相応しい」

セイ「何?」

彼が疑問符を浮かべた刹那。

 

   『ゾクッ』

彼は殺気を感じ、咄嗟にその場を飛び退いた。次の瞬間。

   『シュンシュンッ!』

彼の居た場所を光の光跡が横切る。

着地し、光が来た方に銃口を向ける。だが……。

 

???「はぁぁぁぁぁぁッ!!!」

その時、ローブらしき物を纏った人物がセイに向かって

光剣を二本、両手に保持しながら向かってきた。

   「はぁッ!」

セイ「ぐっ!」

一閃、右手の剣を、バックステップで回避する。

   「せやぁッ!」

   『ガキィンッ!』

   『バチバチッ!』

更に追撃で繰り出される左手の剣を、電磁ナイフで

受け止める。光剣とナイフの間でスパークが瞬く。

 

と、その時。

ルオン「まさか、貴様が悪魔の手先だったとはな!」

セイ「ッ!?その声!」

その時、風が吹いてローブがめくれる。その下から

現れたのは、セイがアーシアを教会荷送り届けた時に

出会った相手、シスター・ルオンだった。

  「あんたは確か、シスター・ルオン!?」

セイが叫ぶと、ルオンはギリッと奥歯をかみしめた。

ルオン「私の名を、軽々しく呼ぶなぁぁぁっ!」

   『ドゴォッ!』

セイ「ぐあぁっ!」

彼女の怒りと憎悪の気迫に押され、一瞬の隙を突いて

蹴飛ばされるセイ。

 

ゴロゴロと地面を転がりながらも、何とか体勢を

立て直した時、再び彼の五感が殺気を感じ取り、

彼は横に飛んで転がった。

刹那、彼の居た場所に、祓魔弾が突き刺さる。

  「くっ!?この攻撃は……!」

そう考えたとき。

 

リオン「まさか、あなたが悪魔の手先だったなんて」

声が聞こえ、近くの森林の中からフードをとった

ルオンの妹、リオンが現れる。その手には2丁の

祓魔銃が握られていた。そして、その目は汚物を

見るかのようにセイを見下していた。

   「あなたをいい人だと思った過去の自分が

    バカみたいです」

そう言って、冷徹な口調と共にセイに銃を向ける

リオン。

 

セイ「くっ!?」

  『3対1か。こりゃ流石にキツいな』

そう考えながらも、DEとナイフを握りしめるセイ。

しかし。

ドーナシーク「貴様の相手はその二人だ。私はあの物を

       迎えに行くとしよう」

セイ「っ!?待て!」

翼を広げるドーナシーク目がけて突進するセイ。だが……。

リオン「どこを見ている!」

   『シュンシュンッ!』

セイ「くっ!?」

逃すまいとリオンの祓魔銃から弾が放たれ、それを避けようと

セイがバランスを崩して失速してしまう。

その隙に飛び立つドーナシーク。

  「待てっ!」

それに向けて発砲しようとするが……。

ルオン「貴様の相手は、私たちだ!」

そこに光剣を構えたルオンが向かってくる。

咄嗟にバックステップで距離をとるセイだが……。

   「はぁっ!」

   『ビリッ!』

剣の切っ先がセイの二の腕辺りを掠り、袖が

破けてわずかに血が飛ぶ。

セイ「くっ!?こんのぉぉぉ!!」

   『ドンドンッ!』

反撃のDEを放つセイ。しかしルオンはそれを

側転で回避。追撃しようとするセイを……。

リオン「……!」

無言で狙い撃つリオン。

セイ「ッ!?」

それに驚きつつ、バックステップで回避するセイ。

 

そしてDEと電磁ナイフを構える。彼の眼前に

ルオンとリオンが並び、それぞれが光剣と祓魔銃を

構えている。

互いに睨み合う両者。

と、その時。

 

   『ドォォォォンッ……!』

少し離れた所から爆裂音が聞こえてきた。

  「ッ!?イッセーッ!アーシアッ!」

それに気をとられ、音の方へと視線を巡らせ

叫ぶセイ。それが、隙を生んでしまった。

ルオン「もらったっ!!」

一瞬の隙を突いて、光の双剣を手に猛然と

突進してくるルオン。

セイ「ッ!?」

それに反応が遅れるセイ。

ルオン『取ったッ!』

そう思い、セイ目がけて双剣を振り下ろそうとしたその時。

   『シャッ!!』

不意に何かが空を切る音と共に向かってきた。咄嗟に

後ろに飛び退るルオン。次の瞬間。

   『ドゴォッ!!』

ルオンとセイの間に何かが落ちて爆発。盛大に砂埃が

舞った。

 

セイ『何だ今の!?分からねぇが、今のうちに!』

状況を利用しようと考えたセイは、今はこの場を離れる事を

選択し、砂煙に紛れてその場を離れた。

そして数秒後、煙が離れた所で周囲を見回す

ルオンとリオン。

リオン「姉さん!怪我は無い?」

双子の姉であるルオンの元へ駆け寄るリオン。

ルオン「えぇ。大丈夫よリオン。でも、あの男には  

    逃げられてしまったみたいね」

周囲を見回しながらも、ギュッと拳を握りしめるルオン。

それに気づいたリオンが彼女の手を、自分の手で

包み込んだ。

リオン「大丈夫よ姉さん。生きていれば、次があるわ。

    それに、シスター・アーシアを悪魔どもから

    奪還するという当初の目的は達成されたはず。

    今はそれを喜びましょう」

ルオン「えぇ、そうねリオン」

妹の言葉に、優しい笑みを浮かべるルオン。

 

そして、二人は周囲を警戒しながら撤退しようと

していたのだが……。

   『そう言えば、先ほどの攻撃。どこから?』

彼女はそのことを頭の隅で考え続けていた。

 

セイもルオン達も撤退した公園。

その一角にある森の中から、3人のローブを纏った

人影が現れた。

???3「どうやら、どっちも撤退したみたいっすね」

3人の中で、一番背の小さい人物がつぶやく。

???2「そうだな。しかし、よろしかったのですか?

     先ほどの攻撃は、我々の存在を『相手側』に

     悟られる可能性も……」

???1「そうね。その可能性はあったわ」

長身の人物の言葉に、先頭を歩いていた人物が応える。

声色からして、3人とも女性である事が分かる。

    「でもね」

そして、そう言いながらローブのフードを後ろにずらす

リーダー格の女性。現れたのは、艶やかな黒髪だった。

他の二人も、それにならい素顔を晒す。

    「あのままだったらあの子を見殺しにしていたわ。

     でも彼ならきっと助けたはず。

     そう、『アマゾン』なら」

毅然とした態度でそう告げる彼女こそ……。

???3「確かにその通りっすね。『レイナーレ』様」

先ほどまでそこに居たドーナシークの同族、すなわち

堕天使であるレイナーレと、彼女の部下である

『ミッテルト』、『カラワーナ』だった。

レイナーレ「さぁ、行きましょう。私たちの『仕事』はまだ

      終わっていないのだから」

カラワーナ「はい」

そう言うと、彼女たちは再びフードをかぶり直し、

林の中へと消えていった。

 

セイ「ハァ、ハァ、ハァ!」

息を荒らげながらも爆発音のした方へと走るセイ。

そして、彼は道ばたで四つん這いの状態で地に膝を付ける

イッセーを見つけた。

  「ッ!イッセー!」

慌てて彼に駆け寄るセイ。

  「イッセー!大丈夫かっ!?あの堕天使と

   アーシアは!?」

問いかけるセイ。すると、イッセーの顔がセイの方に

向く。その時、イッセーは……。

イッセー「セイ、俺、俺は、アーシアを、守れ、無かった」

嗚咽混じりの言葉と共に、再び俯き大粒の涙を流すイッセー。

    「俺が、俺が弱いばっかりに……。

     畜生。畜生ッ……!」

ダンッ、と拳を地面に叩き付けるイッセー。

 

 

そんな彼を見たセイは……。

セイ「イッセー。お前は、誰かのために命を賭ける覚悟は

   あるか?」

イッセー「え?」

不意に、イッセーの視線が上がる。

セイ「……仮に、俺とお前だけで教会に突入したところで

   アーシアを救出出来る確率は限りなく低い。

   それでも、俺たちにはアーシアを助けるだけの

   理由がある。違うか?」

イッセー「……ッ!……ある。あるさ!

あるに決まってんだろ!」

涙を袖で拭い立ち上がり叫ぶイッセー。それを見た

セイは右拳をイッセーに向かって突き出す。

セイ「生きて帰れる保証は無い。俺たちが死んで、

   アーシアを悲しませるだけに終わる可能性だって

   ある。それでも行くか?」

突き出された拳を見て、イッセーは自らの右手の平を

見つめる。

イッセー「……ッ!!」

そして、無言で拳を握りしめるイッセーは。

    「行くさっ!俺は、アーシアを助ける!」

   『ガッ!』

イッセーはセイの右拳に、自らの右拳を突きつける。

 

そして、二人の瞳に覚悟の炎が灯る。

セイはそれを確認すると……。

セイ「俺は一度家に戻って装備を調えてからオカ研の

   部室に向かう。そこで落ち合うぞ」

イッセー「あぁ」

 

そう言うと、二人は一旦別れて別々の方向に歩き出した。

そして、その時の二人の表情は、鬼や悪魔さえも恐れさせる

程の気迫に満ちていた。

 

 

その後、帰宅して装備、DEのマガジンやナックルダスター、

ショットガン、をバッグに突っ込んでレブルの後部に縛り付けた

セイは、プロテクタースーツに着替えレブルで駒王学園に向かった。

学園の敷地にレブルごと入るセイ。幸いすでに完全下校時間を

過ぎていたのか、生徒の姿は無い。

旧校舎の前にレブルを止めたセイは、ボストンバッグを

肩に担ぐと部室に向かった。

 

そして、入った瞬間。

   『パンッ!』

乾いた音が聞こえてきた。それは、リアスがイッセーの

頬を平手打ちした音だった。

セイ「………」

しかし、それを前にしてもセイは無言だった。

朱乃や祐斗、小猫は気づいてが、肝心のリアスとイッセーは

言い合いに発展していた。

 

とうとうイッセーがはぐれになると言い出した時だった。

セイ「問答は無駄だイッセー。行くぞ」

イッセー「………」

彼の言葉に、セイは無言で頷くと部屋を出て行こうとした。

リアス「待ちなさいっ!」

その二人を止めると為に声を張り上げるリアス。

   「あなたたち、自分が何をしようとしているか

    分かっているの!?彼女は敵側の人間。まして

    やあなたたち二人だけでは死にに行くような

    物よ!」

その言葉に、二人は足を止める。

   「悪い事は言わないわ。彼女の事は忘れなさい」

セイ「……すいませんがねリアス部長。

   俺には、そんな事は出来ねぇ」

   『ガポッ』

そう言いながら、彼はドクロが描かれたマスクを被り、

リアスの方に振り返る。

  「自重しろって言う部長の言い分は分かる。

   あいつが、アーシアが敵側の人間である事。

   この行動がどんな結果を招くのかも分からねぇ」

リアス「だったら!」

セイ「だけどっ!」

声を上げようとしたリアスを、更にセイが遮る。

  「何時だってわかりきった未来なんか

   ありゃしねぇ!物事は起こってからじゃ

   何も始まらねぇ!それに……」

彼は、ギュッと拳を握りしめる。

  「男には、命の賭け時ってのがあるんだ。

   そして今だろ。その賭け時って奴は」

リアス「……死ぬとしても?」

セイ「死ぬ気はねぇ。生きて、アーシアとイッセーを 

   連れて帰る気はある。だがなぁ。大切な友達を

助けるために、命一つ賭けられねぇやつが、

一体何を守れるって言うんだっ!!!」

 

その言葉と共に放たれた気迫が、祐斗や小猫、朱乃

まで気圧される。

それだけの気迫が、今のセイにはあったのだ。

そして、静かに彼は扉の方へと体を向け、

リアス達に背を向ける。

 

  「部長達に貰った恩を仇で返す気は無い。だが、

   それでも……。助けを求めている命があるのなら、

   俺はそれを助けるためにこの命を賭ける……!」

 

そう言い残すと、セイとイッセーは部室を出た。

二人は外に止めていたレブルに跨がり教会を目指した。

そして、道中でイッセーからドーナシークに

襲われたときの経緯を聞いていた。

自分が致命傷を負い、イッセーを見逃す代わりに

アーシアが捕まってしまった事。その際に

ドーナシークが語った『儀式』という単語の事。

セイ「そうか。つまり、俺たちにはますます行く

   だけの理由があるって訳だ」

イッセー「あぁ……!」

互いに決意を固める二人。そして……。

 

セイ「見えたぞ。教会だ」

路地を曲がった彼らの視界に教会が見えてきた。

イッセー「あそこにアーシアが」

ギュッと、拳に力を込めるイッセー。

    『待ってろアーシア!俺が、俺たちが!

     必ずアーシアを助け出すから!』

そして、彼は静かに教会を睨み付けるのだった。

 

彼らは動き出す。自分の友達を、助け出すために。

 

その先に待っている結末とは、一体?

 

     第5話 END

 




いろいろ熱血漢な台詞(だと作者は思う台詞)ぶっ込んでますが、
ちゃんと熱血路線行けてるか少し心配です。
感想や評価、お待ちしています!


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第6話 「夜の激闘」

前回の投稿から結構間隔空いてしまった…。
すんません!
今回は教会での決戦です。オリジナル展開多めです!


~~前回までのあらすじ~~

無事にアーシアを保護したセイ。彼女の今後も決まり

安堵していたのだが、アーシアは街を離れる前にイッセーと

話したいと言う事になった。危険だと最初は渋るセイ

だったが、アーシアの願いを無碍に出来ず、彼は昨日の戦いで

負傷し念のためという事で学校を休んでいたイッセーに

連絡。二人は町中を回るのだった。

その後、合流したセイとイッセーに自らの過去を語る

アーシア。イッセーとセイはそんな彼女の友達だと語る。

しかし喜びもつかの間。そこにドーナシークが現れる。

戦うセイだったが、ドーナシークに従う双子のシスターの

ルオン・リオンを前に彼はドーナシークを逃がしてしまい、

結果的にアーシアが捕らえられてしまった。

彼女の救出を決心した二人は、リアスの制止を聞かずに

二人だけで教会、敵地へと向かうのだった。

 

 

イッセーとセイが教会へと向かっている頃。

 

その肝心の教会の薄暗い一室で、椅子に座っている少女が

居た。アーシアだ。

そして、彼女の傍らにはルオンとリオンが立っていた。

ルオンは従者のように甲斐甲斐しく彼女の髪をブラシで

整え、リオンはお湯につけたタオルで彼女の体を優しく

拭いている。

やがて、それが終わると二人はどこからか白い

ワンピースを持ってくる。

ルオン「シスター・アーシア、お召し物を」

アーシア「……はい」

ルオンとリオンは、アーシアの着替えを手伝い、その

ワンピースを着せた。

それを見て……。

ルオン「とてもよくお似合いです。シスター・アーシア」

リオン「まさしく我らの旗印、聖女に相応しいお姿です」

彼女の前に片膝をついて跪き、手を組み合わせ祈るような

姿勢を作る二人。

ルオン「しかし、本当に行幸でした。あの悪魔どもより

    シスター・アーシアを救い出せた事。そして

    その一助が出来た事、感無量の至りです」

その言葉を聞き、ハッとなるアーシア。

 

アーシア「あ、あの。お二人と、その。戦った男性は、

     どうしましたか?」

セイの事が気になり問いかけるアーシア。すると……。

ルオン「申し訳ありません、シスター・アーシア。

    我々の力不足で、取り逃がしてしまいました」

悔しそうに、懺悔するように呟くルオン。

しかしアーシアにとっては複雑だった。セイが無事であり

安堵した事と、目の前の二人の、本当に悔しそうな

顔を見ていると、一概にも喜べなかったのだ。

 

やがて……。

アーシア「あの。お二人は、どうしてその……。

     こちらに?」

その言葉に、二人は顔を見合わせてから、姉である

ルオンが静かに口を開いた。

ルオン「……私達の生まれた村は、悪魔の手で、

    滅ぼされました」

アーシア「ッ!」

ルオン「私達は欧州の一国の、自然に包まれ

    都会から離れた静かで小さな村に生まれました。

    村の人々の殆どがイエス・キリストを信仰し、

    裕福ではありませんでしたが幸せな日々を

    過ごせる村でした」

そう語る彼女の瞳には、哀愁、懐かしさの色が

浮かんでいた。しかし、その色が次第に消え、

憎悪の炎が浮かび上がる。

「……ですが、ある日の夜。我々の村を悪魔の一団が

襲ったのです。……生き残ったのは、私と妹のリオン

    だけでした。私の家族、友人、仲のよかった

    近所の人々。……皆、奴らに、悪魔に

    殺されました。運良く逃げ延び保護された私達は

    教会に報復を願ったのです。でも、誰も動いては

    くれなかった」

次第に、怒りと憎悪のその瞳に宿すルオン。リオンも

同じように、拳をギュッと握りしめている。

   「だから私達ははぐれに落ちたのです。

    自分たちの意思で。私達のような悪魔に

    よって大切な人を奪われる子供達が

    これ以上増えないように。……弱腰な

    教会に見切りをつけて」

そう呟く彼女の声には、自らの決意。悪魔と、

弱腰と語る教会への憎悪が込められていた。

アーシア「……」

ルオンの言葉を、アーシアは黙ったまま聞いていた。

彼女には、分かるからだ。ルオンとリオンの戦う理由が、

何も間違っていない事を。

親しい人を奪われた『怒り』と『憎悪』。

誰も彼女たちの行動を批判する事など出来はしない。

それは、人である以上、同じ場面に遭遇したなら

抱くであろう感情なのだから。

その時。

二人がアーシアの前に膝をついた。なぜ?と

アーシアが思っていると……。

ルオン「シスター・アーシア。私達姉妹にとって、

    あなたは希望なのです」

アーシア「ッ。私、が?」

突然の言葉にアーシアは戸惑う。

リオン「はい。……私達にはシスター・アーシアの

    ように人を癒やす事など出来ません。

    この手は赤黒い血で汚れた、薄汚れた手

    です。だからこそ、私達には剣になること

    しか出来ません。不敬とは思いますが、

    シスター・アーシアの近況は聞き及んで

    おります」

アーシア「ッ」

そのことに、アーシアは息をのむ。だが……。

ルオン「我ら姉妹は悪魔を憎む者。しかし

    だからといってシスター・アーシアの

    御心を侮辱する気などありません。

    シスター・アーシアの御心は、真に

    心優しい物であると、我ら二人は

    思っております。ただひたすらに、

    人々を助け続けた姿は賞賛されるに

    値する物と、我ら姉妹は考えております」

リオン「正直に告白します。私達は、シスター・アーシア

    が悪魔を治癒した時は、怒りを覚えました。

    しかし次第に詳細を耳にし、私達は悪魔をも

    思いやる、真に高潔な心の持ち主だと

    考えるようになりました」

ルオン「そんなシスター・アーシアだからこそ、

    私達二人は仕えるに値する、と」

彼女たちの言葉は、アーシアを驚かせるのには

十分だった。

アーシア「ルオンさん、リオンさん」

    『お二人は、そんな風に私を……』

静かに椅子から立ち上がり、二人を見下ろす

アーシア。

ル・リ「「心から、お慕い申し上げます」」

二人はアーシアを前にして頭を下げた。

そして、その本人、アーシアは……。

 

アーシア『もし、もし、これが、主のお導きで

     あると言うのなら、感謝します。

     イッセーさんとセイさんという、

     かけがえのない友人に出会えた事。

     そして、ルオンさんとリオンさん達に

     出会えた事。お二人の言葉を聞けた事に』

    「ありがとう、ございます」

    『皆さんに、イッセーさん、セイさん、

     ルオンさん、リオンさん。この人達に

     出会えた事が、何よりの喜びです』

俯き、アーシアは密かに涙を流した。

そんな彼女の脳裏に、イッセーの姿が

浮かび上がる。

    「イッセー、さん」

そして、彼女はか細い声で静かに彼の名前を

呼ぶのだった。

 

 

~~教会近くの森~~

   『ササッ』

今、草木に隠れてプロテクタースーツを纏ったセイと

それに続くイッセーが、静かに教会へと接近していた。

レブルはエンジンの音で接近がバレる可能性があるため、

森の中に止めてきた。

教会まであと一歩という所に接近する二人。

   『ゴクリッ』

イッセー「……あの中に、アーシアが」

緊張からか、つばを飲み込みながらもつぶやくイッセー。

セイ「あぁ。儀式、って単語を考えるとアーシアの

   身に危険が及ぶ可能性がある。……作戦を

   確認するぞ?」

そう彼が問うと無言で頷くイッセー。

  「俺たちの目的はアーシアの救助だ。それ以外は

   何も考えるな。彼女を救出したら、すぐに教会を

   脱出して、その足で俺は神奈川へ向かう」

イッセー「神奈川?」

セイ「あぁ。そこには、俺が世話になった人が居る。

   そこには、俺の何百倍も強い人が居るから

   安心してアーシアを預けられるって訳だ」

イッセー「そ、そうか」

    『セイが自分の何百倍も強いって言う人って

     一体……』

そう考えていたときだった。

   『カサッ』

不意に、草木が揺れる音がしてセイは咄嗟に電磁ナイフを

抜き取るが……。

祐斗「落ち着いて、僕らだよ」

そう言って草木の陰から現れたのは祐斗と小猫だった。

イッセー「木場!?それに小猫ちゃんまで!?どうして……」

祐斗「部長からの命令でね。……二人を無駄死にさせないように

   って言われて来たのさ」

イッセー「ッ!?部長が……」

祐斗「それに、僕も個人的にいろいろ合ってね。神父や

   堕天使にはちょっとね」

と、いろいろと含んだ言葉を紡ぐ祐斗。

 

  「それと、部長からの伝言だよ。二人にね」

セイ「俺もか?」

祐斗「『いつも熱いのは良いけど、たまには

    クールに物事を考えなさい』、だってさ」

セイ「クールに、か。……そいつは悪いが無理な

   相談だな。あいにく、俺は思った事ややりたい事に

   突っ走るタイプなんでね」

そう言って、彼はマスクの下で笑みを浮かべた。

祐斗「やれやれ。セイ君の熱血漢ぶりは相変わらず、か。

   時にはもうちょっとセーブして欲しいけど。

   それと、後は兵藤君にもね」

イッセー「お、おう?」

祐斗「『セイクリッド・ギアは想いの力で動く。だから

    その力を使うとき、自分の中の想いを強く

    持ちなさい』って」

イッセー「想いの、力」

そうつぶやく、彼はギュッと拳を握りしめる。

 

その後、更にリアスからのアドバイスでプロモーションは

クイーン以外を選ぶようにと祐斗経由で教えられた

イッセーは、改めて3人と作戦を確認する。

 

祐斗の話では、こういう場合大抵聖堂の地下で何かを

行うとの事で、まずは4人が一斉に飛び込み、地下への

入り口を探す事になった。

 

そして、作戦が決まった時。

 

セイ「それじゃあ、行くぞ?」

彼が問うと、他の3人が静かに頷く。

  「3……」

ギュッと拳を握りしめる小猫。

  「2……」

剣の柄を握り直す祐斗。

「1……」

右手の拳を握りしめるイッセー。そして……。

「GO!!」

彼のかけ声で、4人が一斉に駆け出す。

入り口をくぐり抜け、更に聖堂へと突き進み4人。

 

そして、聖堂に入ったところで4人は周囲を警戒する。

セイが周囲に視線を巡らせ、ショットガンを構える。

イッセー「て、敵は?」

祐斗「こっちには気づいてるはずだから、

   気をつけて」

周囲を警戒していた、その時。

 

   『ジャギ……』

セイ「ッ!伏せろっ!」

暗闇の中から響いた、僅かな音に反応したセイが

側に居たイッセーを押し倒し、祐斗と小猫がその場から

飛び退る。刹那。

   『ヒュヒュンッ!』

祓魔銃から放たれる光弾が、4人の居た場所を薙いだ。

  「やろうっ!」

   『ドパッ!』

倒れた姿勢のまま、ショットガンを1発、祓魔弾が

飛んできた方へ放つセイ。

そして再び静寂が訪れる。

イッセー「や、やったのか?」

セイ「いや、手応えが無い」

そう言って、立ち上がった二人はすばやく長椅子の陰に

身を隠す。

と、その時。

ルオン「はぁぁぁぁぁっ!」

弾丸か飛んできた方とは反対側から、光剣の双剣を持った

ルオンが突進してきた。

祐斗「はぁっ!」

   『ガキィィィンッ!』

それに気づいた祐斗が、剣を抜き相対し、そのまま

つばぜり合いに持ち込む。

リオン「貰ったっ!」

そこに祐斗の側面から弾丸を見舞おうとリオンが

飛び出して祐斗の側面に回り込む。

しかし……。

セイ「させるかっ!!」

   『ドパッ!』

リオン「ッ!?」

   『バギッ!』

そこにすかさずセイがショットガンで牽制弾を放ち、咄嗟に

避け柱の陰に隠れるリオン。

散弾の雨が彼女の居た場所の床を穴だらけにする。

 

   「まだだっ!」

   『ヒュヒュンッ!』

しかし、すぐに彼女が飛び出してきて、祐斗目がけて

祓魔弾を放つ。

セイ「祐斗ッ!」

祐斗「分かってるっ!」

彼の声を聞き、すんでの所で飛び退り弾丸を避ける祐斗。

そして後ろに下がった彼の元に、セイ、イッセー、小猫が

集まり、4人とルオン・リオン姉妹が相対する。

 

ルオン「ここは貴様らのような悪魔が足を踏み入れて

    よい場所では無い」

リオン「早々に立ち去れ。さもなくば……」

ル・リ「「我らが誇りに掛けて、貴様らを撃滅する!」」

祐斗「誇り?かつて信じた物を捨てた君たちが

   どの口で言うのかな?」

ルオン「ふん。あの臆病者達と一緒にして貰っては

    困る。我ら二人、目指すは悪魔全てを

    滅ぼす事!貴様等を倒す為ならば、

    はぐれに身を落とす事など躊躇いも無い!」

リオン「これ以上先へは行かせん!」

光剣と祓魔銃を構える二人を、祐斗が憎悪の

籠もった目で睨み付け今にも斬りかかろうとした時。

 

セイ「落ち着けよ祐斗。お前も色々因縁がある

   だろうが、今はアーシアの救出が優先だ。

   それに、さっき冷静さを俺に説いたのは

   どこの誰だよ」

そう言って、飛びだそうとする祐斗の前に手を出し

制止するセイ。

それによって、祐斗も深呼吸をしてから落ち着きを

取り戻す。

祐斗「まさか君にそう言われるとはね。ちょっと

   心外だよ」

セイ「うるせぇ」

と、軽口を叩きながらも睨み合うイッセー達とルオン達。

 

  『さて、急がねぇとな。しかしアーシアはどこだ?

   シスター達を倒して聞き出すか?いや、時間も

   無いし、地下へと続く道を探さねぇと。

   ……ん?』

その時、彼は気になった事があった。

4人と向かい合うルオンとリオンが祭壇を背にして

立っている事である。

  『何で二人はあれを守ってんだ?通路は両サイドに

   あるから、これじゃ敵の侵攻を防げ、ッ!

   そうか!』

そして、彼は一つの答えにたどり着いた。

 

  「イッセー、祐斗。聞け」

答えにたどり着いたセイは、ルオン達に聞こえないように

小声で語りかける。ましてやセイはマスクをして口元を

隠しているから、唇を読まれる心配も無い。

  「二人は俺が合図したらシスター達を攻撃して、

なるべく左右に避けさせろ。あの二人が

避けたら、小猫。お前があの祭壇をぶっ壊せ」

小猫「分かりました」

祐斗「OK」

イッセー「お、おう!」

三者三様の返事を返し、構える。対峙している

ルオンとリオンも、柄やグリップを握る手に力を

込める。

 

そして……。

セイ「行けっ!」

   『ドバドパッ!』

次の瞬間、セイがショットガンを放つ。それを避けて

左右に分かれるルオンとリオン。

祐斗「はぁっ!」

   『ガキィィンッ!』

そして、セイ達から見て右に避けたルオンに祐斗が

斬りかかる。つばぜり合いに突入する二人。

イッセー「プロモーション!ルーク!うぉぉぉぉぉっ!!」

そしてイッセーもポーンの効果であるプロモーションで

ルークと成り、近くにあった木製の長椅子をリオンに

投げつけた。

リオン「くっ!?」

これには流石の彼女も驚いて近くの柱の陰に隠れる。

ルオン「リオンッ!」

それに気づいて叫ぶルオン。

祐斗「よそ見をする、余裕があるのかな……!」

ルオン「くっ!?」

しかし祐斗との鍔迫り合い故に動けなかった。

セイ「今だ!小猫!」

小猫「……了解……!」

そして、事前の作戦通り、小猫が祭壇目がけて突進する。

 

リオン「ッ!?しまっ!」

それを柱の陰から見ていたリオンが咄嗟に反撃

しようとしたが、遅かった。

   『バキィィィィンッ!』

小猫の豪腕が祭壇を一撃で吹き飛ばした。

そして……。

小猫「ッ。先輩、地下への入り口です……!」

吹き飛ばされた祭壇の下に入り口があることに

気づいた小猫。

リオン「見つかった!?」

ルオン「行かせるか!」

驚くリオンと反撃しようとするルオン。

しかし……。

   『ドパッ!』

   『バキィッ!』

祐斗に対し踏み込もうとしたルオンの足下に

散弾が命中し、彼女は咄嗟に後ろへ飛ぶ。

   『ドパッ!』

   『バキィッ!』

更にセイがリオンの隠れている柱に向かって

咄嗟に散弾を放つ。

セイ「イッセー!祐斗!小猫!お前達は地下へ

   行け!そしてアーシアを救出するんだ!」

イッセー「えぇ!?セイは!?」

セイ「バカッ!誰かが退路を確保する必要が

   あるだろ!こいつらをこのままにもしておけ

   ねぇだろ!」

イッセー「に、2対1だぞ!?大丈夫なのか!?」

セイ「はっ!心配すんな!俺はまだ死ぬ気なんて

   ありゃしねぇよ!それよか自分とアーシアの

   心配をしな!今、この街でアーシアを

   助けられるのは俺たちだけだ!」

イッセー「ッ!!」

彼の言葉に、イッセーが息をのむ。

イッセーは、静かにセイの、彼の背を見つめる。

セイの言葉がイッセーの頭の中に響く。セイの

背中が、イッセーには大きく見える。

 

セイ「行け!俺たちはそのためにここに居るんだろ!?」

イッセー「わ、わかった!けどセイ!お前だって

     気をつけろよ!」

セイ「あぁ!行けっ!」

 

セイがそう言うと、3人が入り口に飛び込んでいく。

しばし、聖堂の中を静寂が包み込む。

  「さ~てと。出てこいよ。あいつらの

   後は追わせねぇ」

ショットガンを構えるセイ。すると、先ほどの

攻撃で隠れていた二人が通路の影から現れ、

静かに左右へと別れる。

 

ルオン「我ら二人を相手に、一人で戦う気か?」

セイ「今ここで俺が退いたら、あいつらが挟まれて

   脱出する道が無くなっちまうからな」

そう言うと、セイはセイフティを掛け、ショットガンを

床に置き、滑らせると左腿から電磁ナイフを。

ヒップホルスターからDEを抜き取り、構える。

ルオン「自ら、死ぬつもりか?」

セイ「生憎、俺はまだ死ぬ気は無い。これでも、英雄達の

   背中を見て育った人間なんでね。まだまだ、俺は

   『あの人達』の背中に追いついちゃいねぇ。

   だから、死ねない。まだな」

ナイフを左手で逆手に。DEを右手で構えるセイ。

 

  「死ぬ気は無いが、この戦いにはアーシアの

   今後が掛かってる。命がけなのは、

   百も承知だ」

マスク越しに二人を睨み付けるセイ。

リオン「悪魔に組みする人間が!!

    あの方は、シスター・アーシアは

    我らの旗印、かのジャンヌ・ダルクと

    同じ、我らを導く聖女となるのだ!

    邪魔はさせん!」

セイ「聖女、だと?ふざけてるのか?

   アーシアを攫ったドーナシークっつう

   堕天使は、儀式という単語をつぶやき、

   彼女の神器に異様な執着を見せていた。

   どう考えてもアーシアを崇める感じじゃ――」

リオン「黙れっ!」

   『シュンッ!』

次の瞬間、リオンの持っていた祓魔銃が光を

放つ。

それを転がって回避し、反撃の銃弾を撃ち込むセイ。

リオンも駆け出して銃弾を回避し、互いに

移動しながらの銃撃戦になる。

   『ドンドンッ!』

   『シュンシュンッ!』

祓魔銃の光の弾丸とDEの弾丸が飛び交い、互いに

柱の影に飛び込む。

   「悪魔に組みする人間の言葉など、

    聞く気は無い!」

セイ「ちっ!?」

  『まさか、あの二人体よく利用されてんのか?

   だったらぁっ!』

  「意地でもこっちの話を聞いて貰うぜっ!

   おらぁっ!」

柱の陰から飛び出したセイが二人と対峙する。

 

 

一方、その頃。

レイナーレ「ここね」

教会の近くの森林に、ローブ姿の3人の人影が

あった。

そのうちの一人、レイナーレが呟く。

彼女たちは、静かに教会を見つめている。

カラワーナ「……中に悪魔らしき反応が多数。

      かすかにですが、銃声のような物も

 聞こえます」

レイナーレに報告するカラワーナ。

ミッテルト「戦闘が始まってるって事っすか?」

レイナーレ「そのかもしれないわね。行くわよ、二人とも」

ミッテルトの言葉にレイナーレが頷き、

歩き出そうとした時。

 

リアス「どこへ行くのかしら?」

不意に、3人の背後に赤い光と共に魔方陣が生まれ、

そこからリアスと朱乃が現れた。

鋭い視線が3人を射貫く。

   『『ババッ!』』

それを見てカラワーナ、ミッテルトが手元に

光の力で剣を作り出し、レイナーレを守る

ように立ち塞がる。それを見た朱乃の指先に

雷が流れバチバチと音を鳴らす。

 

しかし……。

レイナーレ「止めなさい二人とも。武器を下ろして」

彼女の言葉に、ミッテルトとカラワーナは

少しばかり驚いてから、剣を霧散させた。

     「ここは本来悪魔の土地。無断で侵入した

      事には謝罪するわ。ごめんなさい」

そう言って、頭を下げるレイナーレにリアスと

朱乃は驚く。

     「けどどうか聞いて欲しいの。私達の

      目的はあなた達と戦う事じゃない」

リアス「……現在進行形で私の土地に堕天使が

    侵入し、剰え人を手に掛けた、

    と言うのに?あなた達3人があの

    男性堕天使の味方では無いと言う証拠は

    何一つ無いわ」

 

レ・リ「「……………」」

しばし、二人の間に沈黙が流れた。

 

 

一方、イッセー達はと言うと……。

アーシア「いやぁぁぁぁぁぁっ!」

イッセー「アァァァシアァァァァァッ!!」

残酷な現実が待っていた。

 

地下の儀式が行われている場所へと突入した

イッセー達。しかし、ドーナシークの言う儀式は

すでに最終段階へと進んでおり、アーシアの

体が光を放ち、苦しそうに叫ぶ。イッセーが

彼女の元に向かおうとするが、はぐれ神父達が

その道を阻む。

ドーナシーク「そうだ!これで、これで私はより

       高位の存在へと昇華するのだ!

       クククッ!アッハハハハハハッ!」

高笑いを浮かべるドーナシーク。

そして、アーシアの体から光から大きな光が

飛び出した。

 

そして、それをキャッチしたドーナシークが

光を自分の胸に押し当てる。まばゆい光が

洞窟の中を満たす。そして、光が弱まった時、

ドーナシークは全身から緑色の光を発していた。

      「これだっ!これこそ私が求めていた

       力だぁっ!」

イッセー「クッソがぁぁぁぁっ!」

叫ぶドーナシーク。イッセーもまた叫びながら

アーシアの元へと走る。邪魔する神父達を祐斗

と小猫が相手取り、イッセーはアーシアの元へと

たどり着いた。

    「アーシアッ!しっかりしろアーシア!」

拘束を解き、彼女を下ろすイッセー。

アーシア「イッセー、さん」

イッセーの素人目にも、今の彼女が危険な状態

だと言う事が分かった。

 

イッセー「待ってろアーシア!今すぐ病院に!」

ドーナシーク「無駄だ」

イッセー「ッ!?」

病院へ運び、治療を受ければ助かるはず。

そんなイッセーの淡い希望を、ドーナシークの

言葉が打ち砕く。

 

ドーナシーク「神器とは、所有者の魂と強い結びつきを

       持つ。それを強引に抜かれたのだ。

       その娘の命は、後1時間も保つまい」

イッセー「そ、そんなっ!?」

絶望が、イッセーの表情から見て取れる程、

彼の表情がこわばる。

ドーナシーク「しかしこの素晴らしい力に巡り会えた

       私は実に気分が良い。苦しまずに、

       貴様等二人とも殺してやろう」

そう言うと、ドーナシークは光の槍を

出現させる。

      「折角親しくなったのだ。貴様等二人、

       仲良くあの世に、いや、地獄に

       落ちるが良い!」

   『ブォォォンッ!』

イッセー「クソッ!!」

投擲される槍を、イッセーはアーシアを

抱えたまま跳躍して回避する。

 

しかし、着地した所をはぐれ神父に囲まれて

しまう。

    「クッ!?」

だが……。

   『ズバッ!』

神父「グアァァァッ!」

その神父たちの体を祐斗の剣が切り裂く。

祐斗「兵藤くん!君は彼女を連れて上に

   戻るんだ!ここで戦うのは不利だ!」

イッセー「け、けど!?」

祐斗「道は僕と小猫ちゃんが切り開く!

   行くんだ!」

そう叫ぶ祐斗と小猫が神父達を倒し、道を

切り開く。

イッセー「クッ!?」

    『俺は、俺は何も出来ねぇのか!

     セイや、木場達みたいに!

     クソッ!』

    「畜生がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

やるせなさを胸に、叫びながらイッセーは

アーシアを抱えて駆け出した。

 

 

聖堂では……。

   『シュシュシュンッ!』

セイ「くっ!?」

祓魔銃のエネルギー弾が空を裂いて飛ぶ。

セイはそれを横に転がって回避する。

ルオン「はぁぁぁぁっ!」

避けた所を、ルオンが斬りかかる。

   『ギンッ!』  

   『バチバチッ!』

一刀目を順手持ちの電磁ナイフで防ぐセイ。

しかし……。

   「はぁっ!」

もう片手に持った光剣が繰り出される。

セイ「くっ!?」

それをバックステップで回避するセイ。

だが離れた所を狙い澄ましたかのように

リオンの射撃が襲いかかる。

   『チッ!』

それが、セイのプロテクタースーツの足の辺りを掠め、

僅かに血液が飛び散る。

 

横っ飛びで、次の攻撃を回避するセイ。

彼はそのまま柱の陰に隠れる。

セイは二人の様子を伺おうと、柱の陰から

顔を覗かせようとするが、リオンの射撃が

それを牽制する。

すぐに顔を引っ込めたセイは……。

  「ふぅ」

状況は彼にとって最悪だ。2対1でルオン達の

連携をバッチリ。

 

しかし彼には諦めると言う選択肢など、

初めから存在しない。

  『こんなピンチ。今までだったたくさん

   あった。この程度……!』

  「はぁっ!」

すぐに気分を切り替え、柱の陰から飛び出し

DEを撃つセイ。それを咄嗟に左右に散って二人。

そしてリオンがセイに狙いを付けようとした時。

   『バッ!』

セイがルオン目がけて突進した。

ルオン「なっ!?」

セイ「はぁっ!」

驚くルオン目がけ、電磁ナイフを繰り出す

セイ。ルオンはそれを右の光剣で受け止める。

そして、カウンターとして左の光剣で

セイを切り裂こうとそれを振りかぶるが……。

   『ガッ!』

いつの間にか、DEをホルスターに戻していた

セイの右手が彼女の左手首をしっかり掴んで

押さえ込んだ。

ルオン「くっ!?このっ!」

咄嗟に彼女は右手の光剣でセイを攻撃するため、

つばぜり合いから逃れようとするが……。

   『パッ!グッ!』

電磁ナイフを手放したセイの左手が更に彼女の

手首を押さえる。

   『グググッ!』

そのまま、セイは腕に力を込め、ルオンの

腕を締め上げる。

ルオン「ぐっ!?」

そして、彼女は両手から光剣を落としてしまう。

リオン「姉さん!」

後ろに控えていたリオンがセイを狙い撃とうと

するが、セイは体を動かし、リオンとセイの

射線の上にルオンを持って行く事で、それを

阻止する。

   「ッ!」

   『これじゃ姉さんに当たる!』

慌てて銃口を逸らすように上に向けるリオン。

ルオン「くっ!舐めるなっ!」

咄嗟に膝蹴りを繰り出すルオン。

   『ガッ!』

しかし、セイも片足を上げてそれを防ぐ。

次の瞬間。

セイ「ふんっ!」

    『ドゴッ!』

セイのヘルメットが頭突きを放った。

ルオン「ぐくっ!?」

鈍い音が響き、ルオンの視界がグラつく。

そのすきに、セイは右足を彼女の後ろへと

回し、右手を彼女の脇の下に通し……。

セイ「ぜやぁっ!」

そのまま彼女を投げた。

   『ドタンッ!!』

ルオン「ぐっ!?」

背中から床に体を打ち付けられるルオン。

リオン「貴様ァッ!」

姉を傷付けられ、激昂したリオンが

祓魔銃の狙いを付ける。

   『バッ!』

それに気づいたセイは長椅子の影に

飛び込む。

   『シュンシュンッ!』

   『バキバキッ!』

それを追いかけるように祓魔銃の銃弾が

長椅子を撃ち抜いていく。

   『ドンドンッ!』

しかし、次の瞬間長椅子の影から飛び出した

セイのDEの銃弾がリオンに襲いかかる。

リオン「くっ!?」

バックステップで後ろに飛びそれを

回避するリオン。

   『ガッ!』

その時、避けるリオン目がけてセイが

地面に転がっていた木片を蹴った。

   「ッ!?」

慌てて腕をクロスさせて木片を防ぐ

リオン。軽い木片が腕に当たっただけだ。

ダメージにもならなかった。しかし彼女が

腕を開いて視界を開けさせた時には、すでに

眼前にセイが迫っていた。

   「なっ!?」

驚きで一瞬反応が遅れるリオン。

   『ガッ!ガッ!』

その隙に、セイの左手がリオンの

右手の祓魔銃を掴み、頭突きが

たたき込まれた。

   「ぐっ!?」

そのために右手の祓魔銃を放して

後ろに下がり、膝をつくリオン。

   『『ジャギッ!』』

そして、セイは右手にしたDEでリオンへ。

左手の祓魔銃を、起き上がったルオンに

向けていた。

 

ルオン「くっ!?バカな!私達が、

    悪魔の手先に負けるなんて!

    殺すなら、殺せ!」

セイ「……俺には、あんた達を殺す気

   なんて無い。ただ、あんた達と

   話がしたいだけだ。

   あんた達姉妹は、何でドーナシーク、

   堕天使に味方している?」

リオン「それを知った所で、貴様はどうする!?

    貴様には何の関係も無い事だ!」

彼女の言葉に、セイは一度息をつく。

セイ「……あるさ。……俺はあんたたちのその目、

   瞳の意味を知ってる。誰かが憎くて

   しょうが無い。そいつの同類か仲間と聞くだけで

   虫唾が走り、殺意が抑えられない。

   違うか?」

ルオン「そ、それは……」

悪魔を前にした時の自分たちの感情を当てられ、

言葉を詰まらせるルオン。

   『なぜ、この男はそれを……。

    はっ!?惑わされるな!今は!』

   「だ、だが、それがどうした!」

しかし、次の瞬間には怒りを取り戻し、セイを

睨み付けるルオン。リオンも静かに体を

起こそうとしている。

二人を交互に睨み付けるセイ。

 

と、その時。

   『……ダダダダダッ!』

イッセーたちが突入した入り口から足音が

響いてきた。

そして、そこからアーシアを抱えた

イッセーが飛び出してきた。

セイ「ッ!?イッセー!アーシア!」

そしてセイは彼の腕の中でぐったり

しているアーシアに気づくと手元の

祓魔銃を投げ捨てDEをホルスターに

戻すと二人の元に駆け寄った。

 

  「イッセー!アーシア!

   お前等、何があった!?」

駆け寄り、長椅子にアーシアを横たえ、

その前に膝をつくイッセーの側に自分も

膝をつくセイ。

今、ルオンとリオンにとっては絶好の

チャンスだった。

しかし、彼女たちにとって聖女となる

はずだったアーシアの姿に二人も呆然

としていた。

 

イッセー「ドーナ、シークの野郎が……!

     あいつ、アーシアから、神器を、

     抜いたんだ……!」

セイ「何っ!?」

ル・リ「「ッ!?」」

セイだけではなく、ルオンとリオンも息をのむ。

イッセー「あいつは、言ってたんだよ!

     神器を抜かれた奴は、死ぬって!」

セイ「ッ!!」

イッセー「もう、1時間も保たないだろうって!」

俯き、涙を流しながらイッセーはやるせなさを

胸に叫ぶ。

セイ「ッ!アーシア!」

彼もまた、マスクを脱ぎ捨てアーシアの

元へ自分の顔を近づける。

 

アーシア「セイ、さん、ですか?」

セイ「そうだ!俺だ!しっかりしろアーシア!

   俺たちは、お前を!」

助けに来た。彼はそう叫ぼうとした。

しかし、鉛でも流し込まれたかのように

彼の口はそう続ける事を拒否した。

現状、その願いは叶わなかったからだ。

素人目にも、彼女が死にかけている事は

わかりきっていたからだ。

 

リオン「そん、な」

そして、近くに立っていたリオンが膝から

崩れ落ちる。

   「ドーナシーク、様は、シスター・

    アーシアを旗印に、悪魔を、滅する

    組織を作ると……。まさか、私達は、

    騙されて……」

目を見開き、呟くリオン。怒りと絶望から、

憎悪の籠もった目で二人を睨み付けるイッセー。

そして、彼が呪詛の言葉を吐き出そうとした時。

 

アーシア「ルオンさん。リオンさん。そこに、

     居るんですか?」

弱々しく、二人の名を呼ぶアーシア。

    「二人も、近くに、来て下さい」

彼女の言葉に、二人はフラフラと近づき、

アーシアのすぐそばに膝をついた。

そして、アーシアの左手がルオンとリオンに、

右手がイッセーとセイに、それぞれ弱々しく

差し出された。

    「手を、握ってくれませんか?」

セイは手にしていたグローブを取り、

4人は、静かに彼女の手を握る。

    「暖かい。これが、人のぬくもり、

     なんですね」

そう言って、笑みを浮かべるアーシア。

だが、対照的に彼女の体は冷たくなっていく。

それが、否が応でも4人に彼女の死を突き付ける。

 

セイは嗚咽を堪え、体を震わせる。そして

イッセーも、ルオンもリオンも、体を震わせ

涙を流す。

ルオン「私達は、あなたを、守ると、誓った、

    はず、なのに……」

リオン「我々は、利用されて………。

    申し訳、ありません。シスター、アーシア」

守ろうとした者が、目の前で死んでいく。

 

その現実に二人は体を震わせ、床を涙で濡らす。

アーシア「良いんです。……私は、幸せでした」

そう言って、彼女は笑みを浮かべ、4人の顔を

順番に見つめる。

    「ルオンさん、リオンさん。私は、

     あの時の言葉だけを聞けただけで、

     嬉しかったです」

ルオン「シスター、アーシア」

アーシア「セイさん。セイさんが作ってくれた

オムライス、とても、美味しかったです」

セイ「……アーシア」

アーシア「そして、イッセーさん。私を、友達だって

     言ってくれて、ありがとうございました」

イッセー「アーシア……」

 

アーシア「私は、幸せ者です。私を友達と呼んでくれる

     人に出会えて、美味しいものを食べて、

     慕ってくれる人に出会うことが出来て。

     私の人生は、十分なくらい、満ちています」

イッセー「ッ!なんだよ、それ……。そんな事言うなよ

     アーシア!これから、これからだろっ!?

     これまで、散々苦しい思いをしてきたんだろ!?

     だったら、これからもっと楽しい事を

     するべきだろ!?なのに、そんな……!」

叫ぶイッセー。セイも、ルオンも、リオンも、3人も

涙を流し、唇をかみしめる。

 

アーシア「……皆さん、私と、出会ってくれて……。

     ありがとう、ございました」

 

その言葉を最後に、アーシアは静かに目を閉じる。

目を見開くイッセー。

彼は、既に冷たくなった彼女の手を握りしめる。

 

沈黙が、聖堂の中に満ちる。

 

その時。

ドーナシーク「ふっ。とんだ茶番だな」

今、4人が最も聞きたくない男の声が聞こえた。

羽を広げ、宙に浮かぶドーナシークはその体を

緑色の光で覆っていた。

 

次の瞬間。

リオン「ドォォォナシィィィクゥゥゥゥゥッ!!!!!」

怒りで我を忘れたのか、リオンが真っ先に祓魔銃を

懐から抜き放ち、撃った。

ルオン「貴様はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

更にルオンも光剣を抜き放ち、奴に斬りかかった。

ドーナシーク「ふっ、はははははっ!愚かな人間どもめ!

       今の私に、叶うと思って居るのか!」

そして、ドーナシークも光の槍を剣のようにして

二人と戦い始めた。

 

 

剣戟の音が、銃声が、どこか遠い音のようにイッセーの

鼓膜を震わせる。

彼は呆然とアーシアを見つめている。

その時、セイの手が、彼女の腕を動かし、胸の前で

アーシアの指先を組み合わせた。

今の彼女は、さながら、祈りを捧げながら眠っている

ようだった。

 

セイは、脇に置いていたヘルメットを取り、

それを被る。

セイ「……いつだってそうだ」

イッセー「?」

彼は、呆然と自らの隣に立つセイを見上げる。

セイ「……大切な人が死んでいく度に、俺は、

   自分が如何に無力かって事を、嫌でも

   思い知らされる」

 

今、彼の脳裏によぎるのは、彼の本当の

親の最後の顔。

 

『人』で無くとも、最後は人のために

その命を賭けた『獣人』の仲間。

 

『人』で無くなっても、誰かを守る為に

戦い、死んでいった『仲間』。

 

セイは、ギュッとグローブを握りしめる。

 

  「何度後悔して、何度強くなろうと思っても、

   同じ事を繰り返しちまう。そのたびに、

   死ぬほど後悔する。……だけどよ、

   イッセー。……俺たちには、まだ

   出来る事があるぞ」

イッセー「え?」

セイ「あの野郎は、今もアーシアの力を

   使ってやがる。……許せるのか?お前は。

   あれは、奴の力じゃねえ……!

   アーシアは、いつだってそれを誰かの

   為に使ってきた。私利私欲の為じゃねぇ!

   誰かを助けるために……!」

 

それは、彼が師事する男達と同じだ。

願うのなら、人を支配する力にもなる。

全てを、気にくわない物を消し去る力にもなる。

それでも。『彼ら』はその力で人々の平和と

自由の為に戦っている。

セイは、アーシアの心もまた、彼らのように

高潔な物であると、思って居た。

だがその力は奪われ、今、目の前で私利私欲の

為にその力を使って居る悪党がいる。

 

  「あの力は、アーシアの、アーシアだけの物だ!

   ……俺は取り返すぞ。アーシアの力を、

   奴から奪い取る!それが……!」

 

次の瞬間、彼は駆け出した。

 

   『バキィィンッ!』

ルオン「ぐあぁっ!」

光剣で剣戟を繰り返していたルオン。

しかし光剣が壊れ、弾き飛ばされてしまう。

リオン「姉さんっ!」

咄嗟にリオンが援護しようとするが……。

ドーナシーク「ふんっ!」

   『ドガァァンッ!』

リオン「きゃぁぁっ!」

彼女の至近距離に光の槍が着弾し爆発。

リオンを吹き飛ばしてしまう。

ドーナシーク「さて、終わりだ……!」

そして、ドーナシークは目の前に倒れる

ルオン目がけて槍を振り上げる。

 

キッと最後までドーナシークを睨み付けようと

するルオン。と、その時。

セイ「おぉぉぉぉぉっ!!」

ドーナシークの左側面からセイが

肉薄する。

ドーナシーク「雑魚がっ!」

しかしドーナシークは左手にも槍を作り出すと、

それをセイ目がけて振り抜いた。

 

だが……。

   『スッ』

セイはそれを屈むことで回避した。更に

接近するセイ。そして……。

セイ「これが……!」

彼は腰元から、特殊なナックルダスター

を取り出し、両手に装備する。

  「俺に……!」

   『ドゴォォォォッ』

一閃。左手の電磁ナックルがドーナシークの

脇腹に突き刺さる。

   『バリバリバリッ!!!』

ドーナシーク「ぐぅぅぅぅぅぅぅっ!?」

流れ出る電流がドーナシークの体を、一瞬

だけしびれさせる。それはほんの一瞬だ。

しかし、十分だった。セイにとっては、

その一瞬で……。

セイ「出来る事だぁぁぁぁぁぁぁっ!」

彼は右手に装備した爆発式のナックルを

アッパーのように突き上げる。だが

狙うのは頭では無い。

   『ドゴォォォォンッ』

爆発が起き、煙が二人の体を覆う。

 

と、その時煙の中から何かが出てきた。

それは、ドーナシークの左腕だった。

 

ドーナシーク「ぐ、ぐぉぉぉぉぉぉっ!?」

右手で傷口を治すドーナシーク。だが……。

      「なぜだっ!?なぜ治らない!?」

傷口は塞がっても、失った腕が生えてくる事は

無かった。

セイ「どうした堕天使っ!この程度か!

   アーシアの痛みは、こんなんじゃねぞ!」

床に膝をつくドーナシークを見下ろすセイ。

  「立てよっ!まだ終わっちゃいねぇぞ!」

ドーナシーク「貴様ァァァァァッ!」

立ち上がり、残った右手に光の力を剣の

ようにして斬りかかるドーナシーク。

      「殺すっ!殺してやるっ!」

セイ「それは……!」

   『ガキィィィンッ』

  「こっちの台詞だぁぁぁぁぁぁっ!」

セイも電磁ナイフを抜き、ドーナシークと

剣戟戦を開始した。

 

イッセー「セイ……」

彼は呆然とセイの背中を見つめていた。

そして、イッセーは徐に視線を下へ、

アーシアへと向ける。

もはや彼女は目を覚まさない。

わかりきった事だ。

イッセー「ごめんな、アーシア。俺が、弱い、

     ばっかりに」

涙を流すイッセー。だが……。

 

セイ『俺たちには、まだ出来る事があるぞ』

 

彼の脳裏に、セイの言葉がリピートされる。

イッセーは、ハッとなった表情を浮かべ、

アーシアの顔を、その安らかに眠っている

表情を見つめる。

イッセー「俺に、出来る、事は……」

そうつぶやき、イッセーは発動したままの

左手の神器を見つめる。

 

    「俺は……」

    『……もし、神器に想いに答える力が

     あるのなら……。聞いてくれよ。

     俺に力をくれ……!この体が

     どうなったって良い!今は

     力が欲しい!あいつをぶっ飛ばして、

     アーシアの仇を取れるなら!』

    「俺に、俺に力をくれぇぇぇぇぇっ!」

ギュッと、彼は左手を握りしめる。

次の瞬間。

   『Dragon Booster!』

機械音声が響き渡り、手の甲の宝玉が光を放つ。

 

これには、その場に居たほぼ全員が一瞬、

集中が切れる。

だが、それが切れない者が居た。

セイ「うぉぉぉぉぉぉぉっ!」

今もなお、拳を振り上げるセイだ。

   『ドゴォッ!!』

ドーナシーク「ごはっ!?」

気を緩めたドーナシークの腹部に、セイの

右アッパーが突き刺さる。

セイは更にドーナシークの頭を掴み、そこに

膝蹴りをたたき込む。

たたらを踏んだドーナシーク。しかしセイも

また怒りを覚えていた。ゆえに、ラッシュは

止まらない。

殴り、蹴り、回し蹴りで弾き飛ばす。

 

   『Boost!』

その時、電子音声を響かせながらイッセーが

セイの隣に並ぶ。

 

イッセー「セイ、俺にも、やらせてくれ」

セイ「……」

イッセー「俺は、アーシアを、守れなかった」

ギュッと握りしめたイッセーの手が震える。

セイ「それは、俺もだ。……彼女を守ると

   約束した。……俺は、その約束を

   守れなかったクソ野郎だ。

   だが……」

   『Boost!』

再び電子音声が響く。

イッセー「あいつに、アーシアの力を使わせる事

     だけは、絶対にさせない!俺に、

     何が出来るか分かんねぇけど、

     あいつだけは……!」

セイ「そうだな。俺もだ。俺も、あいつだけは……!」

 

イ・セ「「絶対に許さねえ!!!」」

 

   『Explosion!』

その音声と共に、手を覆うだけだった手甲が

変化し、イッセーの左手と一体化する。

しかし、二人にそんな変化は些細なことだった。

イ・セ「「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」」

怒りの叫びと共に、ドーナシークめがけて

駆け出す二人。

ドーナシーク「くっ!?たかが下級悪魔と、人間

       如きにぃぃっ!」

奴は叫び、自らの力で具現化できる最大規模の

光の槍を作り出そうと右手を天に掲げる。

だが……。

    『ブシュッ!?』

      「ぐぉぉぉぉっ!?」

何かがドーナシークの肩を撃ち抜いた。

ドーナシークはその攻撃が来た方を睨み付ける。

そこには、祓魔銃を構えるリオンの姿があった。

      「き、さまぁぁぁぁぁっ!」

リオン「シスター・アーシアの仇だ……!」

そう叫んでドーナシークを睨み付けるリオン。

ドーナシークも彼女をにらみ返しているが、

その怒りが、一瞬の油断を生んだ。

 

セイ「どこを……!」

ドーナシーク「ッ!?」

セイの声に意識を戻され、前を向くドーナシーク。

しかし、すでに眼前にセイの姿があった。

      「なっ!?」

セイ「見てやがるっ!」

    『ガッ!』

セイの左アッパーが顎を突き上げる。

それによってドーナシークの意識が一瞬揺らぐ。

イッセー「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

そこへ間髪入れずにイッセーの右拳が鳩尾に

突き刺さる。

ドーナシーク「ぐぉぉぉぉ……!?」

それによって、ドーナシークの体がくの字に曲がる。

セイ「オラァァァァァァッ!」

再び追撃。セイの左足がドーナシークの顎を

蹴り上げる。奴の体が上に伸びきる。

  「イッセーッ!!!!」

イッセー「やるぞ!セイッ!」

 

互いに短い意思疎通をして、頷く二人。

 

二人のやることは決まっている。

今は、その男を。一人の少女の力を

奪った大罪人を、殴る。それだけだ。

 

セイは、右手に爆発式のナックルを備え、

それを握る手に力を込める。

 

イッセーも、左手に全ての力を込める。

 

イ・セ「「喰らいやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」」

自らの想い、後悔、怒り。それらを乗せた拳は、

ダブルパンチはドーナシークの体に突き刺さった。

 

爆発、爆音が響き渡り、ドーナシークは

聖堂の壁を突き破り、教会の外へと放り出された。

しばし、二人は壁の外に横たわるドーナシークを

睨み付けていた。

一方で、アーシアの亡骸を前にして床に膝をつく

ルオンとリオン。

 

そして、再び聖堂に静寂が訪れた。

 

その時。

祐斗「二人とも、お疲れ様」

地下へ続く通路から祐斗と小猫が現れた。

セイ「お前等、無事だったのか」

祐斗「何とかね。そっちは……」

彼は言いかけて、安らかな表情で眠る

アーシアと彼女の前で涙するルオン達を

見て状況を察する。

 

  「そうか。……所で、あの二人は?」

セイ「あの二人には手を出すな。ここでの、

   アーシアの理解者だったようだ。

   ……二人は、敵であっても悪党じゃない。

   そこは俺が証明する。だから……」

祐斗「分かってるよ。……僕だって、あんな風に

   泣いている女の子は斬れないよ」

最初は明確な敵意を抱いていた祐斗も、

アーシアを前に流す二人の涙に想う所が

あったのか、息をついて頷いた。

 

その時。

レイナーレ「……戦いは、終わっているようね」

ドーナシークを吹き飛ばして出来た穴から、

堕天使の証である黒い翼を展開した

レイナーレ達が現れ、イッセー達より少し

離れた所に着地した。

 

それに気づいて、祐斗と小猫、セイが構えを取る。

イッセーも3人を睨み付けるが、レイナーレ達は

戦闘態勢を取らない。

祐斗たちがそのことを訝しんでいると……。

 

リアス「みんな、落ち着きなさい」

レイナーレ達に続いて、穴からリアスと、

ドーナシークの首根っこを掴んで運んでいる

朱乃が現れた。

そのまま、セイ達とレイナーレ達の間に

着地するリアスと朱乃。

その時、床に投げ捨てられるドーナシーク。

 

イッセー「ぶ、部長!?どうしてここに!?

     いや、それ以前に何で堕天使なんかと!?」

突然の事に驚き、理解が追いつかないイッセー。

リアス「そうね。驚くのも無理は無いわ。けれど

    彼女たちは敵ではなく、堕天使アザゼルから

の使者よ」

そう話すリアスだが、イッセーは悪魔になりたて

であるため、理解が追いつかなかった。

イッセー「セイ、アザゼルって?」

セイ「アザゼルは堕天使陣営のリーダーだよ。

   言わば、一番偉い奴だ」

イッセー「え!?な、なんでそんな人から

     使者が!?」

イッセーが驚いていると、3人の内の一人

である、レイナーレが一歩前に出た。

レイナーレ「驚くのも無理は無いわね。私達は

      元々、そこにいるドーナシークの

      同行を探っていたの」

イッセー「こ、こいつの?」

レイナーレ「えぇ。……あなたのそれ、もしかして……」

会話の中で、レイナーレはイッセーの持つ左手の

神器に注目した。

イッセー「え?こ、これが何か?」

疑問符を浮かべるイッセーの隣で、セイは

改めて彼の神器を注目し、そしてまさかと

思った。

セイ「形が、変わってる?」

イッセー「え?あ、あれ!?ホントだ!」

言われ、初めて気づくイッセー。

 

レイナーレ「やっぱり。……あなたの持つそれ。

      それは恐らく『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』ね」

イッセー「ぶ、ブーステッド・ギア?なんすかそれ?」

訳の分からない単語に首をかしげるイッセー。

リアス「イッセー、それは『神滅具(ロンギヌス)』よ」

イッセー「ろ、ロン、ギヌス?」

リアス「そう。……神器にもそれぞれランクのような

    物があるの。その神器の中でも神を滅ぼす程の

    力があるとされる特殊な神器よ。確認されている

    だけで、13個しかないわ」

セイ「んで、今のイッセーがその内の一個の

   所有者って訳だ」

イッセー「成程。……って!?なんでそんなヤバいのが

     俺の中にあるんだよ!?」

セイ「いや俺に言われても……」

レイナーレ「んんっ。元々、堕天使の中には神器を

危険視する者も居るわ」

咳払いをしてから、話を戻すレイナーレ。

 

     「恐らく、その誰かがこの男を使って、

      君を襲わせた。……だけどこの男には

      上から命令を受ける以外に、ここで

      やろうとしている事があった」

セイ「……それが、アーシアからトワイライト・

   ヒーリングを奪う計画だった、と」

彼の言葉に、ルオンとリオンの肩が跳ねる。

レイナーレ「恐らくね。けれどここは悪魔の土地。

      そんな所で堕天使が好き勝手をしたと

      あっては、再び戦争を起こす火種に

      なりかねない。アザゼル様には再び

      戦争を起こす気も無い様子。

      そこでアザゼル様は私達に火種と

      なる可能性のあるドーナシークの

      監視とその動向の報告、可能で

      あれば捕縛を、と言う命令だったん

      だけど……」

そう言いつつ、レイナーレはアーシアの方へ

視線を向ける。

     「ここまで事態が悪化してしまった

      以上、この事態の解決は全てこの地の

      領主であるリアス・グレモリーに

      委託するわ」

リアス「良いの?」

レイナーレ「もしもの時は、そうせよとアザゼル様

      からの命令だからね。こちらでも

      可能な限りの要求は飲むわ」

リアス「そう……」

頷くと、顎に手を当て、しばし考えるリアス。

やがて……。

   

   「なら、この堕天使ドーナシークの処分を

    我々に一任する事。加えて、今回の一件で

    堕天使側に貸し一つ、と言う事にしておいて

    もらえるかしら?」

レイナーレ「……わかった。こちらに異存は無いわ」

リアス「そう。なら……」

頷くと、リアスは視線を未だに気絶している

ドーナシークに向け、滅びの力を撃ち放ち、

有無を言わさずその存在を消し去った。

 

そして、空中に淡い緑の光を放つ指輪、

アーシアのトワイライト・ヒーリングが

浮かんで居る。

それを優しく手に取るイッセー。

そして、セイは彼の肩に手を置いた。

イッセー「ごめん、アーシア。ごめん、ごめんな……」

嗚咽を堪えながら謝罪を続けるイッセー。

そこへ。

リアス「イッセー。諦めるのはまだ早いわ」

イッセー「え?」

彼女の言葉に首をかしげるイッセー。すると

リアスは懐から赤いチェスの僧侶の駒、

イーヴィル・ピースの僧侶の駒を取り出した。

 

リアス「イッセーにはまだ説明していなかった

    かしら?このイーヴィル・ピースの

    効果の一つに死者を蘇生する力があるの」

イッセー「ッ!?それじゃあ!」

リアス「えぇ、これを使えば彼女を生き返らせる

    事が出来るわ。悪魔としてね」

 

その言葉に、ルオンとリオンが再び肩をふるわせた。

そしてリアスがアーシアに歩み寄ると、二人が

アーシアを庇うように手を広げた。

イッセー「なっ!?お前等何を――」

ルオン「一つだけ、お前達に、兵藤一誠と

滝誠一郎に聞く!」

驚くイッセーを制して、叫ぶルオン。

   「お前達ならば、シスター・アーシアを

    幸せに出来るのか!?」

 

イッセー「ッ!」

その言葉に、イッセーは息をのむ。しかし。

    「分から、ない。……俺にアーシアを

     幸せにしてやれるかなんて、

     分からない。……でも、それでも

     俺は戦う!アーシアに手を出す奴、

     苦しめる奴からアーシアを守る!

     確約なんて出来ねぇけど、アーシアは

     俺が守る!」

セイ「……。俺は、ただの人間だ。出来る事は

   少ない。だが、それでもやれるだけの事は

   やり抜く。俺が言えるのはこれだけだ」

 

ルオン「……」

   『スッ』

その言葉を聞くと、二人は静かにアーシアの前から

退いた。

アーシアの前に立つリアス。

 

リアス「我、リアス・グレモリーの名において命ず」

彼女の体から魔力が発せられ、口上を述べ終えると

駒が紅く発光しながらアーシアの体の中へと沈んでいく。

ヒーリングもまた、彼女の元へと、主の元へと

戻っていく。

 

そして、リアスが息をつき魔力を霧散させると

彼女の側から離れた。入れ替わるように彼女の

側に立つイッセー。

アーシア「ん、ん。……あれ?」

しばらくして、彼女の声が聞こえ、その瞼が

開いた。

体を起こすアーシア。どうやら彼女は

現在の状況が分かっていないようだ。

そんな彼女を抱きしめるイッセー。

 

一方で、ルオンとリオンはアーシアが

復活するのを見届けると、静かに

その場を後にしようとした。

セイ「良いのかよ。アーシアに声掛けて

   やらなくて」

それを、振り返る事無く制止するセイ。

 

一瞬、場が沈黙する。

ルオン「……私達は悪魔の敵。かつては

    慕った存在だとしても、悪魔に

    なった以上は、敵だ」

ギュッと拳を握りしめるルオン。しかし……。

 

アーシア「ルオンさん、リオンさん」

彼女の声に、二人は体を震わせる。

    「私は、例え悪魔になっても二人を

     敵だなんて思えません。二人が

     あの時言ってくれた言葉、

     とても、嬉しかったです。

     だから……『ありがとうございました』」

ル・リ「「ッ」」

その言葉に、より一層二人は体を震わせた。

 

そして、戦いは終わりを迎えた。

のだが……。ずっと残っていたレイナーレ達。

レイナーレ「えっと、突然で悪いんだけど……。

      あなたは、滝君、だったかしら?」

セイ「ん?そうだけど、何か?」

レイナーレ「いや、その。実は知人と雰囲気が

      似ていたから……」

そう言うと、レイナーレは指を組み合わせ、

小指を立てた。

ミッテルトとカラワーナもそれに倣う。

     「これの意味、分かるかしら?」

 

それを見た次の瞬間。

セイ「ぷっ!ぶふっ!アハハハハハハハッ!」

唐突にセイが笑い出した。

イッセー「ど、どうしたセイ!?なぜにツボった!?」

セイ「いや、わ、悪い悪い。は~はは。そっか~。

   いや~流石はアマゾンだ。まさか堕天使の

   『トモダチ』が居るとは……。  

   ホント、アマゾンはすげ~なぁ」

イッセー「いや、その、セイ?どういうこと?

     俺等に分かるように説明してくれ」

セイ「ん?そうだな~。まぁ、一言で言うのなら、

   俺のトモダチのトモダチ、って所だ。

   少なくとも俺は、彼女たちは信頼に足る

   人物だと思うな。なんせ、あの人の

   『トモダチ』だからな」

そう言って笑みを浮かべるセイ。同じように

笑みを浮かべるレイナーレ達3人。

一方で、イッセー達は大量のハテナマークを

浮かべているのだった。

 

 

そうして、一夜に及ぶ激闘は終わりを迎えた。

 

イッセー達は新たな仲間を迎えた。

アーシア・アルジェントという、新しい仲間を。

 

    第6話 END

 




色々書いてたら2万字届いてしまった。
長いですが楽しんで頂ければ幸いです。
感想や評価、お待ちしています。


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第7話 「新たな日々」

今回で小説第1巻が終了します。


~~前回までのあらすじ~~

堕天使ドーナシークに攫われたアーシアを

救うため、教会へと乗り込むイッセーとセイ。

彼らは遅れてきた祐斗や小猫と共に教会へと

突入する。一方でアーシアを慕うルオンとリオンの

姉妹が彼らの前に立ち塞がるが、二人をセイが

相手にし、残りの3人はアーシアの居る地下へと

向かった。しかし僅かに遅かったがために、

アーシアの神器を抜き取ると言う儀式が

行われ、アーシアは一度、命を散らしてしまう。

激情に駆られたイッセーとセイは、奪った神器を

吸収し力を得たドーナシークを撃破。加えて

アーシアはリアスの持つ悪魔の駒の力で

転生悪魔として復活するのだった。

 

 

教会での戦いから数時間後。セイのマンション宅にて。

セイ「ほら、食えよ。腹減ってるんだろ?」

そう言って、キッチンに立っていたセイはできあがった

料理、焼きそばを二人の人物の前に置いた。

 

その人物、と言うのが、ルオンとリオンの姉妹だった。

 

ルオン「……。何のつもりだ?」

凄みのある目で睨むルオン。しかしセイは

自分の分の皿を持ってくると、臆す様子も

無く二人の前に腰を下ろした。

セイ「何って、食事だよ。腹減ってんだろ?」

ルオン「ふざけるなっ!貴様の施しなど、

    受ける気は……!」

と、叫ぼうとした時。

   『『クゥゥゥッ』』

二人の腹の虫が可愛い悲鳴を漏らした。

そのまま無言でプルプルと羞恥心から

体を震わせる二人。

しかし、この音をセイに聞かれるのは

最初では無い。時間は、少しばかり巻戻って

教会での戦闘終了直後。

 

ルオン「これで、また流浪の民ね、リオン」

リオン「そうね。姉さん」

 

短く言葉を交わすと、教会を後にしようとする

二人。

アーシア「ルオンさん!リオンさん!待って下さい!」

しかし、そんな二人をアーシアが止める。

    「お二人とも、どこへ行かれるの

     ですか?」

ルオン「……行く当ては、ありません。元より、

    故郷は悪魔に滅ぼされた身」

彼女の言葉に、イッセーが驚き、リアス達も

真剣な表情を浮かべる。

リオン「教会を出た後の私達は、故郷を

    持たない浮浪者。ここにはもう

    居られません。次の居場所を

    探し出す。それだけです」

彼女がそう言うと、二人はアーシアの方へと

向き直った。

 

ルオン「シスター・アーシア。私達は悪魔を

    憎む者。次、会うことがあるとすれば

    戦場。私達は、敵同士です。

    それでは」

そう言うと、歩き去ろうとする二人。

アーシアが何か声を掛けようとするが……。

セイ「待てよ」

それよりも先にセイが二人を呼び止めた。

  「アンタ等、行くとこ無ぇんだろ?」

ルオン「……それがどうした?」

セイ「俺等は元々アーシアを俺の恩人に

   預けようとしてた。けど、アーシアは

   悪魔になったし、多分今後は部長の

   下僕として部長の方で色々用意

   してくれるだろうから、預ける

   必要も無くなった」

リオン「だったら、それが私達とどう関係

    すると言うのだ?」

セイ「……アンタ等の事は今正に聞いたよ。

   だから多分、俺等のことは憎いかも

   しんねぇ。立場も違う、敵同士だ」

後頭部を掻きながら語り出すセイ。

 

  「けどよ。アンタ等二人が悪い奴じゃ

   ねぇのは分かってるつもりだ。

   アンタ等にはアンタ等の正義がある。

   正義も無しに戦ってるとしたら、

   そいつは金で雇われた傭兵か、あの

   フリードみたいなバトルジャンキーさ。

   けど、アンタ等は違う」

ルオン「貴様。……何が言いたい」

セイ「アンタ等は俺等の敵であっても、悪人

じゃ無いって事だよ。それに、

アンタ等はアーシアを敵だっつってる

が、当の本人はそう思っちゃいねぇよ。

そうだろ?アーシア」

アーシア「はい。お二人は、きっと悪魔となった

     私を許してくれないかもしれません。

     でも、出来る事なら、私は、お二人

     とまた、たくさんお話がしたいです!」

ル・リ「「……ッ」」

 

アーシアの言葉に、二人は僅かに息をのむ。

 

セイ「って事だ。ど~せなら、どっかに腰を

   落ち着けてみたって良いんじゃねぇの?

   アーシアもその方が喜びそうだし」

ルオン「ふざけるな!だから貴様の元に下れと!?」

セイ「そうじゃねぇよ。……その人は悪魔の事は

   知ってる。もちろん、堕天使や天使の事もな。

   けど俺みたいに悪魔と協力してるとか

   じゃねぇから、安心しろ」

リオン「だからといって、貴様の施しなど!」

 

と、言いかけた時。

   『『『クゥゥゥゥッ』』』

 

緊張した空気をぶち壊すような、腹の虫が

可愛い悲鳴を上げた。

 

しばし、皆が呆然となっていると……。

アーシア「す、すみません。その、あの………」

音の主の一人のアーシアが、顔を赤くしている。

リアス「あ、でも、今のって彼女一人のじゃ……」

そう呟きながら、リアスはイッセーの方へと

視線を向ける。

 

イッセー「いやいや部長!なぜにこっちを

     見るんですか!?俺じゃ無いっすよ!

     大体、男の腹はあんな感じに鳴りませんて!」

リアス「じゃあ……」

と、顎に手を当てながら朱乃や小猫、祐斗の方を

向くリアス。しかしみな、一様に首を横に振る。

セイ「………」

 

そして、セイが見つめる先では……。

ル・リ「「………」」

   『『プルプルッ』』

硬い表情の顔を、真っ赤にしながら震える

ルオンとリオンが……。

それを見たセイは……。

 

セイ「とりあえず、帰って飯にするか」

 

と、彼は笑みを浮かべながら呟いた。

 

そして、時間は冒頭へと戻る。

 

セイ「ほら、食えって。腹減ってんだろ?」

そう言いながら、セイは焼きそばを

食べ始めた。

ル・リ「「……」」

そんな彼を見ながらも、怪訝そうな表情を

浮かべる二人。

 

セイ「安心しろって。毒なんて盛っちゃ

   いねぇよ」

ルオン「……」

セイの言葉に、未だに訝しんでいたルオンだったが、

彼女自身、腹は既に限界だった。

そして彼女は箸を取ると、静かに焼きそばを

口に運んだ。

咀嚼し、飲み込むルオン。

 

リオン「ね、姉さん?大丈夫?」

ルオン「……。え、えぇ。大丈夫、みたい」

数秒の間を置きながらも答えたルオンに、

ルオンも安堵したのかホッと息をついてから

自分の分も食べ始めた。

 

それを、小さく笑みを浮かべながら見ていたセイ。

 

そして食後、ルオンとリオンが風呂に入っている

間に、セイはおやっさんの所へ電話を掛けた。

藤兵衛『それで?預かる人数が一人から二人に

    なったって?』

セイ「はい。身勝手なお願いなのは分かってる

   んすけど、お願いします」

藤兵衛『……。ハァ、しょうがねぇ。預かってやるよ。

    茂にはもう一度ワシから言っとく』

セイ「すんませんおやっさん。助かります」

それからセイは、そっちに行くおおよそ時間帯を

告げると通話を終えた。

 

その後、セイはリビングに布団を二つ並べ、

自分の部屋の場所を伝えると自分の部屋に

戻り、眠りにつくのだった。

 

そして翌朝。3人は公共機関を乗り継いで

神奈川・三浦市へと向かった。

ルオン「……。どこまで行く気?」

セイ「もうすぐだって。っと、あそこだ」

目的地が見え、セイはその店を指さした。

 

それは海沿いにある小さな店だった。

リオン「立花、レーシングクラブ?」

セイ「俺の育ての親同然の人がやってるのさ」

看板を読み上げるリオンにそう言いながら、

セイは店の中に入る。

 

入ると、中で一人の男性がバイクの修理を

していた。

  「おやっさん!」

???「ん?」

セイが声を掛けると、男性、『立花藤兵衛』が

立ち上がり振り返った。

   「おぉ、セイ。来たな」

藤兵衛は口に咥えていたパイプを取り、

笑みを浮かべる。

   「で、その後ろのシスター達が?」

セイ「はい。昨日話した二人です。しばらく、

   ここで預かって欲しいんです」

藤兵衛「分かった」

と、頷くと彼は二人の前に立った。

   「よろしくな。ワシは立花藤兵衛。

    こいつの育ての親みたいなもんだ」

ルオン「……シスタールオンです。

    はじめまして」

リオン「同じく、シスターリオンです。 

    よろしくお願いします」

と、頭を下げる二人だが、やはり悪魔の

関係者であるセイの、更に関係者とあってか

かなり訝しんでいる様子だった。

 

すると……。

セイ「心配しなくても、おやっさんは悪人

   じゃねぇよ。と言うか、俺や俺が尊敬

   する人達からもおやっさんっつって

   慕われてるくらいだからな。なんてったって、

   俺の育て親だしな」

そう言って笑うセイだった。

 

その後、時間も時間なので、昼食は藤兵衛が

作り、セイも手伝った。

藤兵衛「そういやセイ。お前学校はどうなんだ?」

セイ「ん?大丈夫だよおやっさん。これでも

   学年主席、体育だろうが勉強だろうが、

   どっちもトップっすから」

藤兵衛「マジかよ。……全く、誰に似たんだか」

セイ「いや~。周りが天才ばっかりでしたし。

   本郷さんとか結城さんに勉強見て貰った

結果すかね?」

藤兵衛「確かに。あいつらは天才だからなぁ」

と、話をしていた二人。一方で、ルオン達は

無言のまま食事を続けていた。

 

そして、昼食後。セイは駒王町に戻るため

店を後にしようとした。

セイ「それじゃあおやっさん。二人のことを

   頼みます」

藤兵衛「おう。任せな」

しかし……。

 

ルオン「……滝誠一郎。話がある」

セイ「え?俺にか?」

ルオン「そうだ」

 

その後、3人は近くの砂浜へとやってきた。

セイ「それで、話って?」

ルオン「……どうして、お前は私達を気に掛ける?

    お前はシスター・アーシアの為だと

    言っていたが?本当にそれだけか?」

セイ「……そうか、って聞かれるとNOだ。

   俺も、お前等にシンパシーを感じたのさ」

リオン「シンパシー、だと?」

彼女の問いかけを聞きながら、セイは海の方に

目をやった。

 

セイ「10年ほど前の事さ。俺も、ある組織に

   両親を殺された」

ル・リ「「ッ!」」

彼の言葉に、二人は息をのむ。

セイ「強化ガラス一枚隔てた俺の目の前で、

   両親は毒ガスに苦しみながら死んでいった。

   そして、両親の遺体は泡となって消えた。

   ……だからよ、分かるんだよ。

   お前等のその憎しみが。けど、憎んだ

   所で両親が帰ってくる訳でもなし。

   ……だからこそ、平和な日々ってのも

   悪く無いって思ったのさ」

ルオン「それで、私達に?」

セイ「余計なお節介だってのは重々承知してるぜ。

   けどよ、たまには良いんじゃねぇか?

   平和ってのもよ。……あそこが居心地

   悪けりゃ出て行っても良い。それ以降

   俺はお前等を探さないし、どうしようが

   お前達の勝手だ。……で?どうする?」

 

ルオン「……。お前が悪魔の関係者である以上、

    はっきり言ってお前に心を許す気は無い。

    しかし……。お前と、あの男性が悪人

    ではないと、私も思う。……それに、

    貴様とあの人には一宿一飯の恩がある。

    だから、少しばかり、お前の言う事を

    聞いて、その、あの人の、立花さんの

    世話になる」

と、恥ずかしいのか、後半はそっぽを

向きながら話すルオン。

 

セイ「構わねぇよ。あっ、そういや昼間は

   居なかったが、あそこにはもう一人、

   城茂って人が居る。俺の兄貴みてぇな

   もんだ。もし会ったら、俺がよろしく

   言ってたって伝えてくれ」

リオン「……分かりました」

 

その後、セイは藤兵衛に帰る旨を伝えると

一人帰って行った。

それを見送る藤兵衛とルオン、リオン。

藤兵衛「全く。セイも今日くらい泊まって

    行きゃ良いものを。

    ほれ、二人とも中へ入れ。

    夕飯の準備するぞ」

ルオン「あ。は、はいっ」

戸惑いながらも、ルオンとリオンは、藤兵衛

との生活を始めるのだった。

 

 

数日後、平日、早朝のオカ研部室。

そこにリアス、イッセー、セイの姿があった。

並んで座るリアスとイッセー。二人と向かい合うセイ。

イッセー「じゃあ、あの二人はお前の育ての親の

     人のところに居るのか?」

セイ「あぁ。まぁ、あの二人にはそこが気に入らなかった

   出て行って良い。その後の事はもう関与しない

   って言ってあるが、実際はどうなるのやら、だな」

イッセー「そっか。まぁ良かったって言えば良かった

     んだろうな。アーシアも知り合いが会える

     距離に居るんだし」

と、話をしていたイッセーだったが、やがて

イッセーは自分以外にもリアスの兵士が出来る

事について質問した。

 

しかしリアスの話では、イッセーにはポーンの

悪魔の駒全てを使ったと、格言を交えて話すリアス。

セイ「女王、クイーンがポーン9個分。大して

   イッセーは八個。つまりポーンの駒全部が

   使われてるって訳だな。今のイッセーを

   格言に照らし合わせれば、今のお前は

   女王クラスの価値があるって事だ」

イッセー「け、けど、俺なんかにそんなに?」

リアス「恐らく、あなたの左腕に宿った

    セイクリッド・ギア、ロンギヌスの

    力が大きかったからだと思うの」

セイ「それだけ、お前の潜在能力が高いって

   事だよ」

イッセー「……俺の中に、そんな力が」

と、呟きながら左の掌を見つめるイッセー。

セイ「期待してるぜ。ニューフェイス」

 

リアス「そうね。あなたのその力、期待

    しているわよ、イッセー」

   『チュッ』

そう言うと、リアスはイッセーの額に

キスをした。

内心、驚いているイッセー。その時。

 

セイ「はっはっは~。青春だね~」

イッセー「うっ!な、何見てんだよセイ!」

セイ「いや?別に~。お前の反応が

   初々しいね~と思ってただけさ」

イッセー「ッ~~!っるせぇ!」

ニヤニヤと笑みを浮かべるセイと顔を

赤くして叫ぶイッセー。

 

そしてその時、セイはイッセー達の後ろに

立つ『彼女』に気づいた。

セイ「おっと。もう一人のニューフェイスの

   登場だな。部長、やり過ぎてると

   嫉妬されますよ?」

リアス「そうね」

と頷くと……。

   「そんな所に居ないで、入ってらっしゃい?」

と背後の扉の方を向くこと無く呼びかけるリアス。

 

アーシア「し、失礼します」

イッセー「え?」

突然聞こえたアーシアの声に振り返るイッセー。

そこには、駒王学園の女子制服を着たアーシアが

立っていた。

    「あ、アーシア!?どうしてここに!?

     ってかその格好って……」

セイ「部長とアーシアの意思で、俺も進言した。

   元々、アーシアは俺等とタメだからな。

   折角だから駒王に入学させては?って

   事を言ったんだ。今のアーシアは

   悪魔の言語補助で日本語も完璧

   だからな。問題は無いだろう」

アーシア「は、はいっ!私、アーシア・

     アルジェントはこの学校でお世話に

     なる事になりました!」

リアス「ちなみに、クラスはイッセーとセイの

    同じクラスよ?仲良くしてあげなさい、

    イッセー、セイ」

イッセー「は、はいっ!もちろんっすよ!」

セイ「あぁ。何てたって、俺とイッセーは

   アーシアの友達だからな。

   そうだろ?イッセー」

イッセー「おうっ!あったりまえよ!」

と言うと、アーシアは改めて笑みをこぼした。

 

アーシア『悪魔になろうとも、イッセーさんと

     セイさんのような素晴らしい友人を

     与えて下さった事に、感謝します。

     主よ』

 

そう、彼女は思うのだった。

 

その後、木場や小猫、朱乃もやってきて、

オカ研の部室ではささやかなパーティが

開かれた。

 

悪魔となったイッセーとアーシア。

しかしそれは、今後世界を揺るがす大きな戦いの、

たった一部にしか過ぎない事を、この場に居る

誰も分かっては居なかった。

 

そして、次の戦いは、そう遠くない事も。

 




次回からフェニックス戦です。お楽しみに!


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第8話 「新たな敵、フェニックス」

遅くなってすみません&今回は長いです。

一応ライザーが出てきます。
所々がオリジナルです。


~~~前回のあらすじ~~~

教会での戦いを終えたイッセーとセイ達。

アーシアは一度その命を落とすもリアス

の持っていたイーヴィル・ピースの駒の

力で転生悪魔として息を吹き返す。一方、

ドーナシークに利用されていたルオン、

リオンの二人はセイの提案で、彼の育て

の親とも呼べる男性、立花藤兵衛の元に身

を寄せる事に。そして、アーシアは駒王

学園の生徒として転入する事になるのだった。

 

 

アーシアを助け出した教会での戦いから既に

数日。

 

セイ『アーシアも仲間になってはや数日。

   部長の話では、もう数日もすりゃ

   アーシアの転入手続が終わるって

   言ってたし。そう言えば……。

   アーシアの下宿先とかどうなるんだ?

   まぁ部長の事だから、ちゃんと

   考えてると思うだろうが……』

 

と、考えながらオカ研の部室へとやってきた

セイ。

  「失礼しま~~」

そして、緩い挨拶と共に入ったそこでは……。

 

シャワーから出てきたのか、バスタオルを

体に巻いたアーシア。

左手でイッセーを指さす小猫。

 

そして、アーシアの物と思われるブラを

手にしているイッセー。

 

その時、セイは……。

セイ「すまねぇイッセー。俺は、お前が道を

   踏み外すのを、止められなかった」

そう、懺悔するように四つん這いになった。

イッセー「お前は何を勘違いしてんだよセイ!?」

セイ「まさか、まさか、お前が下着泥棒に

   なるなんて。そこまで墜ちていた

なんて。俺なら止められたはずなのに……」

イッセー「誰が下着ドロだよっ!?」

小猫「……事実下着を持っていやらしい顔

   してました」

イッセー「小猫ちゃぁぁんっ!?」

セイ「心配するなイッセー。毎日面会に

   行ってやるからな」

イッセー「だから俺は下着ドロじゃねぇ!」

 

と、こんなやり取りがあった。

 

 

その後。

    「早朝特訓?」

悪魔のチラシ配りに行く前、イッセーに

リアスがそう切り出した。

リアス「堕天使との戦いで分かったの。貴方

    はもっと基礎体力を向上させる必要

    があるわ」

イッセー「は、はぁ」

リアス「朝5時前に迎えに行くから。

    それと……」

セイ「コーチは部長と俺だからな?」

イッセー「え?セイも?」

セイが後ろから声を掛けると、振り返り

首をかしげるイッセー。

 

リアス「セイは知っての通り人間だけど、

    それでも悪魔とやり合えるくらい

    には体を鍛えているの。適任

    だと私が判断したのよ」

セイ「つ~わけだ。よろしくなイッセー」

イッセー「お、おぉ。っと、それじゃあ俺、

     チラシ配りに行ってきます」

リアス「いってらっしゃい」

 

と言う事で、イッセーはチラシ配りに行く

ために部屋を出て行った。今部室に

残っているのは、リアス、セイ、アーシア、

小猫、祐斗の5人だけだ。

 

   「アーシア」

アーシア「あっ、はい」

リアス「あのね、下宿の件なんだけど……」

アーシア「え?」

話題を切り出したリアスは、どこか楽しそう

に笑みを浮かべていて、話題を振られた

アーシアはハテナマークを浮かべていた。

 

 

そして、ある日の朝。セイは自転車のリアスに

ランニングで並走しながら、早朝、殆ど

人通りの無い道をジャージ姿で走っていた。

その時。

リアス「……何て言うか、セイも半分人外よね」

セイ「……いきなりですね部長。それ、

   すんごい失礼な発言だと思うん

   ですけど?」

リアス「そう?でもあなた、私の家まで

    迎えに来て、そこからここまで

    殆ど汗をかかず、息も乱さずに

    自転車と並走してるじゃない。

    十分、体力は人外の域だと思うの

    だけど?」

セイ「俺が何と日々戦ってるか分かって

   言ってます?それこそ人外ですよ。

   だったら、それこそ人外になる

   くらい鍛錬しなきゃ生き残れませんて」

リアス「じゃあやっぱりセイは人外じゃない」

セイ「えぇ?……そうなるのか?」

と、そんな話をしながら二人は走っていた。

 

その後、イッセーの家の前にたどり着いた二人。

そしてジャージに着替えて出てきたイッセー

は、近くの公園まで走る事になる。

そのイッセーと並走するセイと後から自転車

で追うリアス。

 

セイ「ほれ、頑張れ頑張れ。体のポテンシャル

   は普通の俺より悪魔のお前の方が

   上なんだぞ?」

イッセー「ゼェ、ハァ!嘘、付け!セイが、

普通な、訳、ねぇ、だろ……!」

セイ「えぇ。嘘だろ。俺こいつにも人外認定

   されてるのかよ」

息を切らしながら走るイッセーと、汗一つ

かかずに走るセイ。

 

その後、公園までたどり着いたイッセー、

リアス、セイの3人。ちなみにイッセーは

地面の上に大の字になって寝っ転がっている。

セイ「さて、と。肝心のイッセーがこの調子だし、

   呼吸を整える小休止の意味でも、俺や

   部長からイッセーの将来とか今後について

   少しアドバイスをしておく」

イッセー「あ、アドバイス?」

セイ「あぁ。悪魔の世界は実力社会だ。

   まぁ聞く分には貴族共が偉そうに

   ふんぞり返ってる部分もあるらしいが。

   とにかく。イッセーの大望である

   ハーレム王になろうとするなら、まず

   やるべきは力と実績を付けてのし上がる

   事だ。そしてイッセーの場合、

   のし上がるとしたら腕力。つまり

   戦闘力でだ。加えて、イッセーの

   神器は使用者の能力を十秒ごとに

   倍加させていく。……例えば、今の

   イッセーのレベルを1としよう。

   この状態で倍加しても、2、4、8。

   と倍加していくが、お前のレベルが

   5まで上がったとする。この場合、

   倍加していくと10、20、40と

   上がっていく。つまり、お前は

   鍛えれば鍛える程、倍加によって

   更に強くなる、って言う事だ」

イッセー「お、おう」

セイ「けど、だからって格闘技のイロハも

   知らないお前にその格闘技を教えて

   も無意味だ。お前が強くなるために

   今必要なのは、その戦闘技術を身に

つけるための体力だ。と、言うわけで、

イッセーにはしばらく、体力作りの

トレーニングをしてもらう事になる。

まずは柔軟からだ」

 

そう言うと、セイとイッセーは並んで柔軟を

始めた。

そしてイッセーの方は後ろからリアスが

体重を掛けていく。

イッセー「い、イデデデッ!」

セイ「ったく、お前は体カテぇなぁ。

   こりゃ、体のしなやかさも特訓の

   メニューに加えるべきだなぁ」

 

その後、二人は腕立て伏せを始めた。

イッセーの上にリアスが座り、セイも

背中におよそ60キロの重りを入れた

リュックを背負っている。

 

イッセー「き、9。……10」

セイ「33、34、35、36」

プルプルと腕を振るわせるイッセーと、

対照的にペースを落とさないセイ。

 

セイはそのまま腕立て伏せをしていたが、

肝心のイッセーはリアスのお尻に感触に、

リアス曰く『邪念が入ってる』と言われ、

尻を叩かれた。

それを横で、『やれやれ』と言わんばかり

の表情で見ているセイ。

その時。

  「お?おいイッセー。どうやらお客さん

   だぜ?」

イッセー「お客さん?」

セイの言葉に視線を上げるイッセー。

 

アーシア「イッセーさ~ん!セイさ~ん!

     部長さ~ん!」

見ると、いつものシスター服を着たアーシア

が小さいバスケットを手に、小走りに

やってきた。

イッセー「アーシア!?」

アーシア「すみません、遅れてしまって、

     はぅっ!?」

と、その時アーシアが何かに躓いて倒れそう

になるが……。

 

セイ「っと危ねぇ!」

咄嗟に立ち上がり、セイがアーシアを受け止めた。

  「おいおいアーシア。あんまり急ぐと、

   また転ぶぞ?」

アーシア「はうぅ。すみませんセイさん」

 

 

その後、イッセーとセイはアーシアから

お茶を貰っていた。

イッセー「そう言えば、アーシアはどうして

     ここに?」

アーシア「部長さんに来るようにと」

イッセー「え?」

と、首をかしげながら、イッセーはリアスの

方に視線を向ける。

    「部長、どうしてアーシアを?」

と、声を掛けるが、何故かリアスは反応

しない。

 

セイ「リアス部長」

リアス「え?あ、あぁごめんなさい。何

    かしら?」

と、セイが声を掛けると、ようやくハッとなる

リアス。

セイ「アーシアがここにいる理由ですよ。

   どうしてアーシアがここにいるのか、

   だそうですよ」

リアス「あぁ、その事ね。それじゃあ、4人

    で行きましょうか」

イッセー「え?行くってどこに?」

リアス「ふふっ、イッセーのお家よ」

 

 

その後、兵藤宅にやってきた4人。そして……。

イッセー「こ、これは一体……」

イッセーは、玄関前に置かれた無数のダンボール

を見て呟いた。

セイ「何って、アーシアの私物だよ」

イッセー「そ、そうなのか?アーシア」

アーシア「は、はい。すみません、意外に

     荷物が多くなってしまって」

イッセー「へ、へぇ~。………じゃなくて!

     何でアーシアの私物が俺の家の

     前にあるんですか!?」

セイ「何でって、アーシアがここに引っ越す

   からに決まってるだろ?」

イッセー「引っ越すぅ!?ど、どういうこと

     ですか部長!」

リアス「下宿先の希望を聞いたら貴方の家か、

    セイの家が良いんですって」

セイ「んで、俺はその話をしてた時にその場

   に居たから断ったんだよ」

イッセー「な、何でだよ!?」

セイ「いや、何でって。俺が一人暮らしなのは

   知ってるだろ?俺はおやっさんとか

   アメリカで仕事してる親父からの仕送り

   で生活してるんだぜ?部長達と出会う

   までは、バイトしてようやく自分の

   為に使える金が入ってきたくらいの、

   貧乏生活なんだよ俺ん所は。

   そう言う意味じゃ、お前ん家の方が

   アーシアに良いかなって思った訳よ」

イッセー「そ、そうなの、か?……いやいや

     でも急に来られたらやっぱ不味い

     だろ!?俺の親の説得とか!」

セイ「まぁ、そこは部長が上手くやるだろ」

イッセー「んな無責任なぁ!」

 

と、騒いだ後、4人は兵藤宅に足を踏み入れた。

案の定、イッセーの両親は驚き目を丸くしていた。

五郎「あ、ああ、アーシアさん、だったね」

アーシア「はい、お父様」

五郎「ほ、ホームステイをするにしても

   ウチより他の家の方が良いんじゃ

   ないかねぇ?見たところ、滝君とも

   知り合いのようだし……」

 

ちなみに、セイは何度か兵藤家に足を

運んだ事があるので、イッセーの両親

とか顔見知りだった。

 

アーシア「イッセーさんとセイさんは私の恩人なんです」

五郎「恩人?」

アーシア「はい。海外から1人でやって

     きて一番お世話になった方たち

     なんです。そんなイッセーさん

     のお宅なら私も安心して

     暮らせると……」

 

そういって、あれよあれよと話は進んでいく。

肝心の、イッセーの両親である五郎と

三希は、五郎曰く、性欲の権化である

イッセーの事もあって戸惑い気味だった。

 

セイ「すみませんおじさん。俺からも

   お願いします。今のところ

   アーシアの親しいのは、俺と

   イッセーくらいな物で。

   ただ、俺の家は一人暮らしの

   アパートですし、その、

   恥ずかしい話ですがあんまり

   お金に余裕も無いような物

   なので……」

五郎「そうか。いや、しかしぃ」

と、首を捻る五郎だったが、リアスの

『花嫁修業発言』に触発されて、

五郎と三希はアーシアを受け入れるの

だった。

 

だが、その時セイは、イッセーの

発言からどこか憂いの表情を浮かべる

リアスの横顔を、見逃す事は無かった

のだった。

 

 

それから数日後、アーシアは留学生

と言う形でイッセーとセイのクラスに

編入してきた。

 

金髪に緑の瞳を持つアーシアの話題性は

もちろん高く、男子達は興奮気味だ。

最も、アーシアがイッセーの家に

ホームステイしてると言った時は

男子達が殺気立って、イッセーは松田

と元浜に問い詰められていたが。

 

一方の女子は全生徒周知の事実である

スケベの化身のイッセーと同居している

事をとても心配していた。

 

ちなみに……。

村山「ねぇねぇアルジェントさん。他に

   ホームステイ先の候補とか無いの?

   あんな危ない奴と一緒なんて、

   アルジェントさんが危険だわ」

イッセー「誰が危ない奴だよ!?」

村山の言い分にツッコむイッセーだが、

当の彼女は汚物を見るような目で

イッセーを見ている。

 

アーシア「その、他の候補が無い訳では

     無いんです。実はここに入学する

     前にほんの少しだけセイさん

     のお家にお邪魔したことが

     ありまして」

女子「「「「えぇっ!?」」」」

男子「「「「何ぃっ!?!?」」」」

 

彼女の言葉に、女子は顔を赤くしながら

俺に視線を送り。男子は殺気を滲ませ

ながら俺を睨んでいる。

 

セイ「ハァ。一応弁明させてもらうと

   だな。俺は道に迷ってた彼女を

   助けて家に泊めただけだよ。

   あの時はもう夜だったし、ホテル

   とかも満杯だったから仕方無く

   だよ。あと、やましい事は

   してないからな?」

そう言って説明するセイだが、男子

からの殺意の視線は絶えない。

 

一方で女子の何人かが、『良いなぁ』

と言っていたのをセイは、全力で

聞かなかった事にしたのだった。

 

その日の夜。イッセーとアーシアは

悪魔のチラシ配り、と言う事で2人

同じ自転車に乗って町を回っていた。

 

その頃、部室の外ではセイがおやっさん、

立花藤兵衛に電話をしていた。

藤兵衛『そうか。彼女は無事に転入出来たか』

セイ「えぇまぁ。まだ初日ですけど特

   に問題も無く。あ、そうだおやっさん。

   あの2人は元気にやってますか?」

藤兵衛『まぁな。まだまだここの生活には

    慣れてないみたいだが、頑張って

    慣れようとしてるよ。最近じゃ

    自分達から飯作るの手伝って

    くれてるよ。まぁ、たまに茂の

    奴とケンカしてるがな』

セイ「そうですか。元気そうにやってる

   なら良かった」

藤兵衛『まぁ元気過ぎるくらいだがな。

    あの子達の事は任せておけ。

    お前も、たまには帰ってこいよ?』

セイ「はい。分かりました。はい、それ

   じゃ失礼します」

そう言って電話を切るセイ。

 

その時。

イッセー「おっ、セイ」

セイ「ん?」

スマホをポケットにしまっていると、

外からイッセーとアーシアが

戻ってきた。

 

アーシア「ただいま戻りました」

セイ「おぉ2人とも。お疲れさん」

イッセー「任務完了だぜ。ところでセイ

     はどこかに電話してたのか?」

セイ「あぁ、神奈川のおやっさんの所

   にな」

アーシア「セイさん。その、おやっさん、

     と言う方って、確か……」

セイ「あぁ。元々アーシアを預けよう

   と考えてた人だ。俺や俺の

   尊敬する人たちからは

   おやっさんって言われて慕われて

   るんだ。今は神奈川でバイク修理

   の店をやってるんだよ。あぁ、

   今思い返すとおやっさんの

   コーヒー、また飲みてぇなぁ」

アーシア「コーヒー、ですか?」

セイ「あぁ。おやっさんの淹れる

   コーヒーは絶品だぜ?今度

   機会があったら連れてって

   やるよ。旨いぞ~」

と、そんな話をしながら部室へと入った

3人。

 

イッセーが報告の終了をするが、リアス

は少しぼ~っと何かを考えている様子

だった。

 

その後、アーシアの悪魔としての

デビューが決まった。知っての通り

人間であり外部協力者であるセイ以外

はそうやって人間と契約して対価を

得ている。

 

イッセーやセイには、アーシアはまだ

悪魔になり立てで早いのでは?と

少し心配気味だった。

一応、朱乃の調べによればアーシアは

彼女に次ぐ魔力量を持っており、才能は

十分にある、との事だった。

 

とはいえ、イッセーとしてはまだ心配

だった事もあり、彼が仕事を引き受けた。

 

イッセー「それじゃあ俺、仕事に行ってくる

     から。セイはアーシアの事

     頼むな」

セイ「おぅ、きっちりお前の家に送り届けて

   やるよ」

イッセーが仕事の方に向かうため、セイ

がアーシアを兵藤宅に送る事になった。

 

その後、夜の道を並んで歩くセイと

アーシア。

 

アーシア「あのぉ、セイさん。一つ聞いても

     良いですか?」

セイ「ん?どした?」

アーシア「実は、シスタールオンさん達が今

どうしているのか気になった

もので……。先ほどセイさんが

電話なさっていた方がお二人

の事を?」

セイ「あぁ、立花のおやっさんが面倒

   見てくれてるよ」

アーシア「そうですか。あ、そう言えば、

     そのおやっさん、と言う方が

     セイさんのお父様、みたいな

     方なんですよね?」

セイ「ん?まぁな。親父は親父で、海外で

   仕事してるからな。実質育ての親

   だな」

アーシア「そうなんですか。……今度、

     お会いしてみたいです」

セイ「そうか。まぁ、そのうち

   会えるさ。あそこにはあの

   双子シスターもいるしな」

アーシア「はい」

 

と、そんな話をしながら俺はアーシアを

兵藤家に送り届け、帰路についた。

 

それから数日が過ぎた。が……。

ある日の朝。

セイ『部長、最近上の空なことが多い

   ような。何かあったのか?

最近よく、イッセーと一緒に居る

のを見かけるが。話を聞くと、二人

して防具のカップルを成立させ

たとか。何だそれよそれ、って

思って写真見せて貰ったら、もっと

何だこれ!?って思ったが。

あぁ後、この前部室で抱き合ってた

ような。……まぁ、あの二人が仲

良いのは別に良い事だけど』

 

などを考えながら通学路を歩いていたセイ。

その時。

イッセー「っとと!あぁセイ!ちょうど良い

     所に!」

セイ「ん?」

後ろからイッセーとアーシアの2人が

追いついてきた。セイは普通に挨拶しようと

したのだが、何やらイッセーの目の隈と

どこか鬼気迫った表情に、どこか嫌な予感

を覚えた。

 

その後、揃って登校した3人だったが、

先にアーシアだけを教室に行かせ、2人は

旧校舎の森の中に来ていた。

そこでイッセーから聞かされた内容と

言うのが……。

 

セイ「はぁっ!?部長に夜這いされたぁ!?」

イッセー「しぃぃぃっ!声がデケぇよ!」

セイ「っと、悪い。……けど本当なのかよ?

   あの部長が?」

イッセー「あ、あぁ。昨日の夜俺の部屋に、

     いきなり魔法陣で現れてさ。

     俺も訳分かんねぇのに、いきなり

     服に脱ぎ出したりして……」

セイ「そ、そうか」

イッセーの言葉に若干顔を赤くするセイ。

 

彼にしても、リアスは部長であり協力者

だが、女として見れば理想的だ。もちろん

恋愛感情などではないが、やはりセイも

男として反応してしまう。

 

  「ち、ちなみにお前、『やった』のか?

   部長と」

顔を赤くしながら問いかけるセイ。

しかし……。

 

イッセー「それがさぁ、変なんだよ」

セイ「え?変って?」

イッセー「いや、その、あと少しって所で

     いきなり銀髪のメイドさんが

     現れてさ。感じからして部長の

     知り合いみたいだったけど」

セイ「すまん、聞いてても全然話が

   見えてこないんだが?」

イッセー「それは俺もだっつ~の。

     色々訳わかんなくて一睡も

     出来なかったんだぞこっちは」

セイ「成程。それが目の下の隈の理由か。

   けど、何だって俺にその話を?」

イッセー「いや、俺じゃ何で部長があんな事

     したのか分かんなくてさ。セイなら

     俺より部長と付き合い長いから、

     何か知らねぇかなぁって思って」

セイ「って言われてもなぁ。……なぁイッセー。

   そのメイドさんとか部長、何か

   気になる事言ってなかったか?」

イッセー「気になる事?う~ん。……あっ、

     そういや部長が既成事実が

     どうとか言ってたな。あと、

     確かグレイフィアとか言ってた

     メイドさんも破談がどうだとか」

セイ「既成事実?破談」

 

その単語を聞き、しばし悩んだセイは……。

  「まさか」

彼なりの答えに行きついた。

イッセー「何か分かったのか?セイ」

セイ「……こいつは、あくまでも俺の推察

   何だが、部長はもしかすると結婚

   するのかもしれない」

イッセー「え?……えぇぇぇぇぇぇっ!?

     ぶぶ、部長が、けけ、結婚っ!?

     何でっ!?」

セイ「イッセーお前、前にイーヴィル・

   ピースが創られた理由は聞いたよな?」

イッセー「え?あ、あぁ。大昔に天使や

     堕天使と戦争して、純潔の悪魔

     が少なくなったから、だろ?」

セイ「あぁ。出生率の低い悪魔は寿命が

   長い代わりに子供が人間などと

   比べて出来にくいらしい。それが

   戦争で少なくなった事から悪魔

   と言う種の存続の為にあの 

   ピースが創られた。んで、ここから

   は俺も昔部長達に聞いたんだが、

   悪魔のお偉方は転生悪魔よりも

   純血の悪魔を増やしたいらしい。

   となれば必要なのは純血の悪魔

   同士の夫婦な訳だ。まぁ、言わば

   政略結婚みたいなものだな」

イッセー「そっか。そうだよな。部長は

     生まれながらの悪魔だから」

セイ「そう言うこった。さて、ここで

   問題だイッセー。部長の性格から

   して、他人が勝手に決めた相手と

   結婚したがると思うか?」

 

と言うセイの問いかけにイッセーは

しばし考えてから……。

 

イッセー「お、思わねぇ。むしろ自分の

     結婚相手は自分で見つけるとか

     言い出しそうだ」

セイ「だろ?ま、つまり部長はその結婚が

   したくないから既成事実を、って

   事なんじゃないか?」

イッセー「だから俺と……」

 

そう考え、木に背中を預けるイッセー。

     「なぁセイ。俺って消去法で

      選ばれたのかな?」

セイ「ん?」

イッセー「部長が言ってたんだよ。木場

     はナイトだから断るし、

     セイは人間で協力者だから

     巻き込めないって。それって

     つまり、俺消去法で選ばれたって

     事だろ?」

セイ「まぁ、そうなるな。けど、それを

   卑下するのは違うんじゃないか?」

イッセー「え?」

セイ「理由はどうあれ、部長が本気で嫌

   だったらお前に夜這いを迫るか?

   まぁ破談の理由にしようとしたのも

   あるかもしれないが、少なくとも

   部長にはそこまでの抵抗がなかった

   ってこったろ?少なからず思われてる

   んだよ、お前は」

イッセー「そっか」

彼の言葉を聞き、しばし考えるイッセー。

 

セイ「っと、それよりそろそろ行こうぜ。

   もうすぐ朝のHRの時間になっちまう」

イッセー「いけね、そうだった!」

2人は足早にその場を後にして教室に

向かった。

 

そして放課後、途中で合流した木場と共に

イッセー、アーシア、セイの4人は部室

へと向かったのだが……。

 

セ・祐「「っ」」

扉を前にしてセイと木場の2人は一瞬

体を強ばらせた。

祐斗「セイ君。気づいたかい?」

セイ「あぁ」

鋭い表情の2人にイッセー達が

戸惑っていると……。

  「客がいる。2人とも、念のために

   気を引き締めとけ」

鋭い視線のまま語るセイに、イッセーは

固唾を呑みながら頷いた。

 

そして、中に入ると……。

リアス、朱乃、小猫。そして銀髪のメイド、

『グレイフィア・ルキフグス』がいた。

そして部屋に入るが、いつもなら優しく

迎えてくれるリアスの言葉もない。

小猫は部屋の隅にいる。この余裕の無い

部室の空気に関わりたくないと言わんばかりだ。

 

そして、メイド、グレイフィアが入ってきた

4人を見回し、そしてイッセー……。

 

ではなくセイに目を留めた。

グレイフィア「……なぜここに人間が?」

セイ「俺はリアス部長の、彼女の協力者、

   滝誠一郎だ」

グレイフィア「そうですか。話は聞いていま

       したが、あなたが」

 

しばし視線を交差させる2人。

リアス「……んんっ」

しかしそれはリアスの咳払いで中断する事と

なった。

   「皆揃ったようだし、部活を始める

    前に少し話しておきたい事があるの」

グレイフィア「お嬢様、私がお話しましょうか?」

静かに提案するグレイフィアにいらないと

手を振って伝えたリアス。

 

そして彼女が口を開いた刹那。

 

『カッ!』

 

突如として部室の床の上に魔法陣が現れた。

そして魔法陣から炎が噴き出す。すると

揺らめく炎の向こう側から、1人のスーツ

姿の男が現れた。

 

スーツを着崩し、胸元を開けた姿は、

イッセーやセイをしてホストという

存在を連想させた。

 

突如現れた金髪の男、純血悪魔の『ライザー・

フェニックス』。

しかし彼の事など全く知らないイッセーは

ライザーに食ってかかる。

 

そして、グレイフィアからライザーが

リアスの婚約者である事を知らされた

イッセーやセイ、アーシア達は驚愕

せざるをえないのだった。

 

 

イッセー達が見守る中、リアスは自らの

意思で婚約者を決める事、そのために

ライザーと結婚しないと叫ぶ。

対してライザーは今のグレモリー家には

跡継ぎがリアスしかいない事や、純血悪魔

が少ない事などを理由に、婚約を迫る。

 

そして、彼女が拒絶の態度を変えないと

分かるや、下僕を殺してでも連れて行く

と宣言。同時にプレッシャーを放つ。

 

それに気圧され萎縮するイッセー。

だが……。

 

『ジャコッ!』

彼の傍に居た、セイが鞄の中からDE

を取り出してライザーに向けた。

イッセー「ッ!?セイっ」

ライザー「何だ貴様。何のつもりだ」

驚くイッセー。対してライザーは

見下すような視線でセイを睨み付けながら

更にプレッシャーを増す。

 

だが……。

セイ「悪いが、こちらとしても黙って

   殺される気は無いって事だよ」

肝心のセイも殺気と闘志を滲ませながら

ライザーをにらみ返す。

 

更に彼は鞄から電磁ナイフを取り出す。

ライザー「さっきからちょいちょい気に

なってたんだが、貴様人間

だな?」

セイ「あぁ。人間だよ」

ライザー「貴様。……下等な人間風情が

     なぜここにいる」

セイ「なぁに、俺はそこにいる部長の

   しがない協力者さ」

ライザーの殺気に対しても臆すること無く

余裕を見せるセイ。

 

ライザーの体に足下から吹き出した炎が

まとわりついていき、セイもDEの

セーフティを外す。

更にリアスや周囲の祐斗達も臨戦態勢だ。

だが、その時。

 

グレイフィア「お嬢様、ライザー様、

       落ち着いて下さい。これ以上

       やるのでしたら、私も黙って

       見ているわけにもいかなく

       なります。私はサーゼクス

       様のためにも遠慮などしない

       つもりです」

そう語るグレイフィアにリアスとライザーは

表情を強ばらせ、力を霧散させる。

 

      「あなたも、その銃口をお下げ

       ください」

セイ「……」

彼女の言葉に、セイはDEのセーフティを

戻して銃口を下ろす。

 

ライザー「ふん、命拾いしたなガキが」

セイ「……テメェもな」

ライザー「ぐっ、ちっ」

挑発とも取れるセイの言葉にライザーは

小さく舌打ちをした。

 

 

その後、リアスとライザーの縁談話が

もつれる事はグレイフィアを初め、両家

の者達も予想しており、この問題は

悪魔が自分の眷属を率いて戦う

レーティングゲームで決着をつける

事になった。

 

しかし、ライザーはリアスの眷属の数が

イッセー達5人だけだと知ると、

見下すように笑い、自らの眷属15人を

召喚し、ハーレムを実現させたと

うらやみ号泣するイッセーに対して

見せつけるようにイチャつき始めた。

 

だが、それにキレたイッセーが神器を

発動し、全員を倒すとまで言い出した。

 

ライザー「ハァ、ミラ、やれ」

ミラ「はい、ライザー様」

するとめんどくさそうに下僕の1人、

『ミラ』と呼ばれた棍を持つ少女が

前に出た。

 

そして、構えた瞬間、イッセーには知覚

出来ない速度で棍を繰り出した。

 

   『ドガッ!』

 

だが、間一髪の所でセイが棍の柄を

横から蹴りつけた事で軌道が逸れ、

棍の先端はイッセーの服の袖を僅かに

撫でただけだった。

  「ッ!?」

イッセー「え?」

 

突然の事に驚くミラと、状況が理解

出来ないイッセー。

次の瞬間、セイがイッセーを押しのけて

彼とミラの間に割って入った。

 

セイ「バカッ!調子に乗りすぎだっ!

   相手はお前よりも実戦を経験してる

   んだよ!今のお前が戦って勝てる

   相手かっ!」

イッセーに向かって叫ぶセイ。

 

ミラ「ッ!邪魔っ!」

主の命令を邪魔されたミラは、セイごと

排除しようと棍を繰り出した。

だが……。

セイ「っ!」

 

セイはそれに冷静に対処した。

高速で繰り出される突きを手や腕、

足を使って逸らす事で全て凌いでいた。

更に……。

 

ライザー「何をしているミラ!人間相手に

     手こずっているのかっ!」

ミラ「くっ!?このっ!」

主の苛立ち交じりの言葉が、彼女の焦りを

生んでしまった。

 

それが、命取りだった。

繰り出された突き。だが、焦りから先ほどまで

より若干遅い。それが、セイのチャンスとなった。

放たれた直後、棍が戻る一瞬、セイの左手が

柄を掴んだ。

  「ッ!?」

そしてそれに対応するよりも早く……。

 

   『バキッ!』

セイの右手のチョップがミラの右手首に

命中し、ミラは反射的に右手を棍から

離してしまった。

 

セイは左手を後ろに思い切り引いてミラ

から棍を奪うと、そのまま後ろに放り捨て、

そのまま武器を奪われ驚愕の表情を

浮かべるミラの右腕を掴み……。

 

セイ「でぇぇぇぇぇぇぇいっ!!!!!!」

ミラ「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

見事な背負い投げでミラを床にたたきつけた。

ドンッ!と音を立てながら叩き付けられるミラ。

 

その動きに、イッセー達だけでなく、ライザー

達まで驚愕していた。が……。

 

ライザー「ッ!雪蘭(シュエラン)ッ!」

雪蘭「はいっ!」

ライザーの命令を受けて、露出度の高い

チャイナドレスのような格好の女性、

『雪蘭』が飛び出した。

 

どうやら徒手空拳の心得があるのか、セイ

に対してパンチやキックを仕掛ける。

だがセイはこれも弾いたり逸らす事で

これを受け流した。

 

ライザー「バカなッ!何をしている雪蘭ッ!

     高々人間のガキ如きに!」

雪蘭「も、申し訳ありませんっ!

   ライザー様っ!」

彼女自身も、冷静に弾かれ有効打を

与えられない事から、内心驚いていた。

  『ば、バカなっ!ただの人間如きに

   こんなっ!』

  「こうなったらっ!」

次の瞬間、彼女の両手が炎に包まれた。

 

リアス「ッ!止めなさい!それ以上はっ!」

流石にこのままでは危ないと感じた

リアスが止めようとするが、遅く、

雪蘭は真っ直ぐセイに突進していく。

対して構えを解かないセイ。

 

と、その時。

   『ガッ』

セイ「ッ!?」

 

先ほどまで倒れていたミラが後ろから

腰元を抱くようにして彼の動きを

阻害した。

ミラ「逃がさないっ……!」

雪蘭「でかしたミラッ!」

 

高速で繰り出される雪蘭の右ストレート。

それはセイの顔を狙っていた。

 

イッセー「セイッ!」

咄嗟に叫ぶイッセー。普通の人間のセイが

あんな物を喰らえば、最悪……。

それを考えてしまったオカ研のメンバー

達の表情が強ばる。

 

だが……。

   『バッ!』

   『スカッ!』

最低限の傾きだけで拳を回避したセイの

横顔ギリギリを雪蓮のパンチが通過する。

そして……。

 

セイ「るあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

   『ドゴォォォッ!』

雪蘭「うっ!?ぐぅぅっ!」

彼の放った左フックが雪蘭の右脇腹に

突き刺さった。苦悶の表情を浮かべる雪蘭。

 

だが、それだけではない。

   『ドゴッ!』

ミラ「あぐっ!?」

肘鉄でミラの頭を打ち、束縛から解放された

セイは助走をつけた跳び蹴りを放った。

 

セイ「はぁっ!!」

   『ドゴォッ!』

雪蘭「ぐはっ!!!」

跳び蹴りをもろに食らった雪蓮は大きく

吹き飛び、部室の入り口辺りまで飛ばされた。

 

ミラ「うっ!このぉっ!」

何とか立ち上がったミラだが……。

   『ブォンッ!』

  「くっ!?」

直後、自分自身の棍の先をセイによって

喉元に突き付けられ、身動きが取れなく

なった。

 

対して、他のライザー眷属達も、今にも

セイに襲いかかろうとしていた。

が……。

 

グレイフィア「三度はもうしませんよ?」

そこにグレイフィアの声が響いた。

      「双方、これ以上ここで

       暴れると言うのであれば、

       私が実力を持って排除

       いたします」

どこか威圧感のある声にライザーの眷属達は

萎縮し、ライザー本人も静かに手を上げて

彼女達に戦闘態勢を解かせた。

 

そして……。

セイ「おい。忘れもんだぞ」

ミラ「あっ」

セイは手にしていたミラの棍を放って

彼女に返した。

 

のだが……。

ライザー「貴様、本当に人間か?」

セイ「あぁ。人間だよ。ただの、人間さ」

ライザー「バカなっ!ありえないっ!人間

     如きが悪魔に、それも素手で

     対抗するなどっ!」

セイ「あり得ないなんて事は、ありえない。

   って言葉を知らないのか?

   まぁ、俺を普通の人間と定義して

   良いのかは知らないが」

そう言って笑って見せるセイに、ライザー

は忌々しそうに歯を食いしばる。

ライザー「貴様、俺の顔に泥を塗ったなっ!

     ただで済むと思うなよっ!」

セイ「良いぜ。だったら。なぁグレイフィア

   さん。俺もゲームに参加させてくれよ」

 

リアス「え?」

彼自身の発言に、リアスが一番驚いていた。

セイ「非公式の物なんだろ?2人のゲームって。

   それに知っての通り部長の眷属は

   あっちより少ない。1人くらい助っ人

   が居ても良いと思うが?」

彼の提案にグレイフィアはしばし思案する。

 

グレイフィア「分かりました。ただし、出場

       するとなっても、ゲームは

       本来悪魔が行う物。ゲームで

       死傷者が出ることが無いよう  

       設定されていますが、それが

       貴方様にも適用されるかどうか  

       分かりません。最悪の場合、

       ゲーム内で命を落とす危険も

       ありますが、それでも参加を

       希望されますか?」

セイ「あぁ」

 

彼は一切迷わずに即答した。

リアス「ちょっとセイッ!あなた勝手に!

    危険なの分かって言ってるの!?」

セイ「重々承知の上だよ部長。この

   ゲームは部長の自由が掛かってる。

   だったら使える手駒は多い方が

   良いだろ?」

リアス「でもあなたはっ!」

叫ぶリアスだが……。

 

セイ「人間だとかどうとか、俺には関係

   無いね。俺は自分の意思でアンタに

   協力してる」

そう言って彼がリアスの言葉を遮る。

 

  「だから俺は俺の意思で戦う。それで

   死んだら自分の責任だ。それで

   良い。それでも俺は、アンタに

   協力する。これでもダメか?」

そう言ってしばし視線を交差させる2人。

 

やがて……。

リアス「ハァ。本当にセイは頑固なんだから。

    ……良いわ。私の方はそれを

    認めましょう。……それで、

    あなたはどうなの?ライザー」

ライザー「ふっ。良いだろうリアス。俺も、

     そのいけ好かないガキをボコボコに

     した上で殺せるかもしれないんだ。

     つっぱねる理由はない」

そう言って見下したような笑みを浮かべる

ライザー。

 

こうして、リアス達は人間であるセイを

加えてライザーと戦う事になった。

ゲームは10日後となり、それを告げると

最後に……。

 

ライザー「お前、弱いな」

イッセー「っ!?」

ライザー「何が神器だ。何がロンギヌスだ。

     使い手が二流三流なら、如何に

     力を秘めていようと話にならない。

     こういうの人間の諺で何だったかな?

     あぁそうだ。豚に真珠だっ!

     違うか?最強のロンギヌス使いが、

     人間に守られてちゃ世話無いな!」

イッセー「ぐっ、うっ」

言い返そうとするイッセーだが、返す言葉

も無かった。

現にイッセーは、神器も、特別な力も

持たないセイによって助けられたのだから。

 

そして最後に……。

ライザー「あまり無様な姿を見せるなよ、

     リアスの兵士。お前の一撃は

     リアスの一撃なんだからな」

そう言うと、眷属達と共に魔法陣でどこか

へと戻っていったのだった。

 

こうして、ライザーと戦う事になった

リアス達。更に明日からトレーニング

を行う事になった。

 

 

しかしその放課後。

1人帰路に就いていたセイだったが……。

 

セイ「……。何か用か?グレイフィアさん」

彼は見知った気配に気づいて足を止め、

相手に声を掛けながら振り返った。

 

そこには、冥界に戻ったはずのグレイフィア

が立っていた。

 

グレイフィア「私の主、サーゼクス様より

       滝さまに聞いておきたいが

       あるとの事でしたので」

セイ「ん?」

グレイフィア「貴方様はなぜ戦われるの

       ですか?本来なら、悪魔と

       何の関わりも無いと言うのに。

       あなたには命さえ危険に

       晒してもゲームに参加する

       理由がおありですか?」

セイ「……あるさ。理由はある。

   俺達の戦いは、部長の自由を

   かけた戦いだ」

グレイフィア「それが、どれだけ不利な

       戦いだとしても?」

セイ「だとしてもだ」

 

頷きながらも、セイは自分の握りしめた右

拳に視線を落とした。

 

  「だとしても、今目の前で見過ごせない

   事が起きているのなら、例えそれが

   どんなに困難な事だとしても」

 

彼は彼自身の意思を声にする。

 

今も尚、世界中で誰かのために戦う、

英雄達のように。

その背中に憧れる1人として……。

 

  「俺は戦う。戦って、部長の自由を

   掴み取ってみせる。見過ごせない

   今を変えられるのなら、俺は

   戦う。それだけだ」

 

確固たる意思を宿した瞳でグレイフィア

を睨み付けるセイ。

やがて……。

 

グレイフィア「分かりました。そのお言葉、

       確かにサーゼクス様に伝えます」

それだけ言い残すと、彼女は魔法陣を展開

して去っていた。

 

それを確認したセイもまた歩き出す。

 

明日から、対ライザー戦に向けた特訓が

始まるのだった。

 

     第8話 END

 




次回は別荘でのトレーニング編です。


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