全裸魔王と人理修復 (ハンバーグ男爵)
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1話 全裸の魔王様


勢いで書いた、後悔はしていない
作者はランスシリーズもFateシリーズも好きだけどクソにわかなので設定がガバガバだけど許してくださいなんでもしまry

生暖かい目で見てください




1話 その魔王、全裸

 

 

ピコピコピコ…カチカチッカチッ

 

「なあ」

 

「……」ピコピコカチカチッ

 

ドシャーンドシャーン

 

「おーい」

 

「……………」カチカチカチカチッ

 

ズビュンズビューン!

 

「…恐れながら魔王様、ゲームを止めてクッションから離れて下さいませ。掃除ができませぬ」

 

「……嫌だ」ピコピコピコピコ

 

「なーぜー」

 

「まだこのステージクリアしてないからだ。」

 

バババッ!ビシュンッ!ティウンティウンティウン…

 

「ぬがー!!」

 

怒りの雄叫びを上げて、コントローラーをクッションに叩きつける。ワイヤレスで良かった、線があったら千切れてたぞ。

 

「なんなんだこの消える床!」

 

「だからそこ行くまでにアイテム2号を取れとあれ程…」

 

「ふーん!魔王にアイテムなんて不要だ!

下僕、じゅーすと菓子を持ってこい!」

 

「だから掃除の邪魔だって言ってんでしょー!?」

 

エプロン姿の俺と()()()()()が取っ組みあって、二人でギャーギャー言いあうこと数十分、お互い疲れたのかひと段落付いた。

そして彼女が唐突に…

 

「疲れた。下僕、魔力を寄越せ。」

 

「いやだから俺は掃除がしたいんですがアーーッ!?!?」

 

さっきのお戯れとは違い、目にも止まらぬ動きで近寄られ、その細腕に見合わぬ怪力でもってあっという間にクッションへ組み伏せられた俺は、なす術なく裸に剥かれた。

 

「ふふふ…今はイライラしてるから、いつもの倍は搾ってやろう……覚悟しろ。」

 

「それって俺に拒否権は…」

 

「私を喚んだ瞬間からそんなものはとうに消えた。」

 

舌をぺろっとだして野獣のような眼光……

あっ、目が完全に捕食モードです、逃げられないです本当にry

 

「アッハイ」

 

言い終わらぬうちに腰から下が甘い刺激に満たされる。雰囲気もへったくれもないがだいたいいつもの事なので半ば諦めて、彼女に身を委ねることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人生ってのは山みたいなもんだ、と誰かが言っていた。上りもあれば下りもあり、時に雨に打たれ風に吹かれ、それによって木々は深く根付き、山は強くなっていくんだ。だからお前も困難には立ち向かえ、修羅場の数だけお前を強くしてくれる。と。

 

正直、マジふざけんなって思います

 

オッス!オラの名前は有栖宮 槍一(ありすのみや そういち)!山奥でひっそり暮らすしがねえ魔術師の跡取り息子だ!ウチの家系は代々降霊術のに精通してるらしくて、生贄とか黒魔術とかとにかく法的にやっべえ儀式を日常的に行っていたゾ!そんな家に生を受けたオラだったけど、ぬわんとオラには降霊師としての才能とか全くなくて、一族から迫害され続けてきたんだ!ひっでぇなあ!

そんでついに愛想を尽かされたのか儀式の生贄にされちまった!オラ死んじゃう!?

 

…はあ疲れた、もう止める。

 

そんでガキの頃、まんまと親に騙されて生贄の祭壇まで連れていかれ、俺は儀式の供物になった。

生贄なんて言うもんだから絶対死ぬと思って、必死になって死にたくないと願っていたら、どこからともなく声が聞こえた。その問いに応えた瞬間、ずるりと身体の中に変なものが入ってくる感覚がして俺は気を失った。

 

そんで俺が目を覚ました時、そこには俺を生贄にして儀式をしようとしてた魔術師や俺を捨てた両親が血祭りになっていて、血溜まりの真ん中で笑う女が1人佇んでいた。

手足はまるで焦げたような黒色で、床までつきそうな水色の綺麗な髪とそれと同じくらい明るい色の瞳。見ていると魂まで吸い込まれてしまいそうだ。そして全裸。

もう一回言うぞ、全裸だった。

思えばあの時が俺の精つ…いやこの話はよそう。

 

結果だけ言おう、かなりきもちよかった(語彙力消失)

 

唐突に俺は押し倒され、その場で魔力供給という名の契約(意味深)を結んだ。んだと思う。

なんか俺の顔、昔この人が異空間に一緒に閉じ込めて永遠に過ごしたいくらい好きだった奴と似てるんだって。

降霊は成功して、この世とは異なった存在を俺を憑代にして呼び出してしまった事を彼女から聞いた。

なんでも元いた世界からは千年に渡って人間を苦しめ続けてきた魔王なんだって。その後世界から永久追放されて、何も無い、何処でもない、時間の概念すらない異空間を延々とさまよっていたらしい。そこに偶然俺からのエマージェンシーコールが届き、また奇跡のような確率で繋がった道を使って俺のもとへ召喚されたのだとか。

 

魔王って裸じゃないといけない規約でもあんのかな?

 

「我が名は魔王ジル。

…契約者よ、貴様は最早魂の一滴に至るまで私のものだ。」

 

と、ドヤ顔で言った魔王だったが、奇跡的に繋がっていた〝道〟が途切れ、帰れなくなった。更に彼女の元いた世界とは魔力の勝手が違うらしく、今では憑代になった俺の傍に居ないと力を行使できないらしい。この魔王から魔力と強さ差っ引いたら全裸しか残らんやんけ。

 

「ふ…ふざくんなよお!?くそーこの世界の人間も皆〝人うし〟にして嬲ってやる〜!!」

 

〝人うし〟とは魔王が向こうの世界で人類を虐げていた時に使っていたかなり酷いシステムらしい。

 

全裸魔王ジル様は人類が大嫌いだ。

昔は超優秀な勝ち組大賢者だったんだけど、それを妬まれて四肢を斬り刻まれ、死にかけの所で先代の魔王に拾われ、次代の魔王になったらしい。憎いからって人を殺すと「勇者」なる天敵に察知されてしまうので、生かさず殺さず、人権無視で悪逆非道な拷問の数々で人類を殺さない程度に嬲っていたんだって。

とんでもない残虐魔王だ。そんでもってシリアスだ…かなりシビアな過去をお持ちの魔王だった。でも異空間にずーーーーーっといたおかげか、昔ほど人間に憎悪しているわけでもないらしい。それでも人間クソって言ってるけどね。

 

 

そんな過去があったのも15年ほど前、20歳になった俺は現在もこの全裸魔王ジル様と手に入れたアパートの一室でひっそりと暮らしてる。

 

 

「下僕〜コーラ買い足して来い。もう半分もないぞ。」

 

我が家の魔王は今日も人をダメにするデカクッションに全裸でもたれかかり、ぐーたら全裸生活だ。あれで体型が全く変わらないのは流石魔王と言ったところか(多分魔王関係ない)。

その身体つきは正直言ってかなりいやらしい。全裸なのもアレだが、すべすべの色白な肌に程よい大きさの整った乳房、多分こういうのが女性としての黄金比、完璧な肉体というやつなんだろう。クレオパトラとか楊貴妃もこんな感じのスケベボディだったのかね、まあ時代によって美人の価値観なんてまちまちだからアレだけど。

魔王様の肌触るとね、すっごいすべすべなの。並の男なら見るだけで一瞬で理性なんて蒸発するだろう。

「童貞なら私の肌に触れただけで○○(ピー)する。」とは彼女の言だがあながち間違いでもないだろう。

冒頭でもご覧頂けただろうが、魔王の気まぐれで俺は毎日魔力(意味深)を吸い取られる(意味深)。なのでせめて体力だけはつけようと日頃からトレーニングは欠かさないため、魔術師の息子の割には結構な筋肉が付いてきた。幸い回路も生まれつき人並みには通っているし、魔王から魔力タンクと呼ばれるくらいには魔力貯蔵量が多いため絞られてもまだ生きていられるみたいだ。

 

俺は孤独だ、そもそも一族全員目の前の全裸にKillされちゃったから家族いねーし、かろうじて使える幻術とか駆使しながら戸籍とお仕事を貰い、まさかの小卒で今の今まで生きてきた訳よ。故に魔王様が唯一の親しい存在だ。回してもらってる仕事も人とあんま関わんないからね。

人生の4分の3を魔術とはかけ離れた場所で過ごしてきたので、ぶっちゃけ魔術師の神秘の秘匿とかようわからんけど、派手な魔術を大っぴらに見せるのが駄目なんだろう。大っぴら(物理)なのはウチの魔王だけで充分だ。

 

 

「今日もべとべとだ、風呂に行くぞ下僕。身体を洗え。」

 

「へいへーい」

 

次の日の朝、夜通しさんざん魔力搾り取って肌がツヤッツヤになった魔王様は悠々と風呂へ向かった。

 

「あ、そうだ魔王様。」

 

「なんだ下僕。」

 

「俺、新しいバイトする事になったから。

遠出になるんだけど着いてくる?」

 

「行くに決まっているだろう、お前の全ては私のモノだ。」

 

さも当たり前のように応える魔王様。

ここんところ散財が酷かったから、短期でまとまった金が欲しかったのよ。

求人広告にはえーと…提供先は…『フィニス・カルデア 』だっけ?名前かっこいーなー。

時給もいいし、頑張れば期間内にたんまり稼ぐ事も夢じゃない。体力には自信あるからな!

 

\ヤッタルデー!/

 

 

 

 

 

「早く来い下僕!私の髪を洗え!」

 

「今行きますよー」

 

おっと魔王様がお怒りだ、風呂に急ごう。

 

 

 

……え?風呂シーン?ねえよんなもん。








やだ…今回Fate要素少なすぎ…?


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2話 全裸魔王、カルデアに立つ

思い返せばランスシリーズとFateって18禁ゲームって事しか共通点ねえや、どうしよ。




「えーと、じゃあこれから身体測定するから付いてきてね。」

 

試験監督に促されるまま身長体重を測って、そのままCT検査の機械みたいなのに入れられた。

なんかモニター見てたおねいさんがギョッとしてたけど、魔王様なんかした?

 

『なんもしてない』

 

そ、ならいいや

 

魔王様は現在俺の影の中に潜伏中、一心同体なのであまり遠くに離れることが出来ないからだ。因みに魔王様御用達のクッションにゲーム一式(別名ぐーたらセット)は空間魔法みたいなので持ち歩いてるらしい。

 

…魔術と魔法ってイマイチ区別つかないんだけど同じだよね?違うの?

 

ただし空間魔法使うと後ですっげえ魔力搾られるからあまり使わないでほしい。具体的に言うと5回戦くらい付き合わされる。枯れる。

 

 

暫く待機と言われ、控え室で影の中から首だけ出した魔王様と世間話を零していると、気持ち悪いくらいニッコニコしながらさっきの試験監督がやってきた。魔王様はスッと影の中へ隠れた

どうやら結果は合格らしい。

俺も晴れてカルデアという所で働けるようだ。

清掃員かな?それとも用務員?力仕事なら任せろバリバリーな俺としてはそういうあんまり頭使わない役職を望む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はい、只今カルデアに到着しました。

ヘリで移動とか豪勢だね、場所もくっそ寒い雪山だし…雪山!?ざけんな寒いわ!

先に言えよ!何が「仕事着は向こうで渡すから、ラフな格好でいいよ」だ、防寒具着てくれば良かった!

あの試験監督に呪い仕込んどいてやろうか…家柄的にそういうの得意なんだよ、陰湿だけどな!

 

『ん?処すか?処すか?なら私に任せろ、この世に産まれたことを後悔する程度には痛ぶって(あそ)んでやる。』

 

あ、魔王様がやるとガチになるのでやっぱ無しで(主にG指定的な意味で)

 

『なんだつまらん』

 

この人平気な顔して相手の四肢を切り取って焼いて食わしたりするから油断ならない。

 

そのままカルデアの中にINした俺は施設の説明を聞き、此処の所長であるオルガマリー・アニムスフィアを紹介された。

なんだか高圧的な娘っ子だ、聞けば亡くなった父の仕事を次いで若いながらも所長の任に就いたらしい。なんて健気な子!そういう子は大人が支えてあげにゃあいかんのです!

親からボロクソにされて育った俺としては、若いのに頑張ってるオルガマリー所長を尊敬してる。でもちょっとは休んだり、誰かに弱音を吐いてもええんやで?

彼女は同じカルデアの重鎮、レフ・ライノールという男を頼っているようだ。というかかなり依存してるっぽい。会ったことないけど頼りになる人がいて良かったね、オルガマリー所長!

 

「で、俺は何処から清掃していけばいいんですか?」

 

「はあ?何言ってんのよ!

貴方はマスター候補に選ばれたのよ、レイシフト適正もそれなりで、魔力も潤沢だからね。」

 

え?清掃員じゃないの?

 

「清掃員のバイトだと思ってたの?雪山にヘリで来た時点で察しなさいよ…

とにかく部屋を与えるから、私が呼ぶまではトレーニングなり魔術の勉強なり自由に過ごしなさい、決して鍛錬を怠らないようにね!」

 

ぴしゃりと言い放ち、所長室を追い出された。

その後は引率のロマニ・アーキマンというのほほんとした男の人と一緒に館内を案内されて、最後に自分の部屋へ案内され1人なったところで魔王様が影からこんにちわ。

 

「中々小綺麗な部屋ではないか、住んでいた安アパートより幾分広いな。」

 

悲しくなるから止めて?あれでも愛着のある我が家だったんだから。

 

魔王様はぴょーんとベッドに飛び込んで、ちょいちょいっと手招きをした。あっ(察し)

 

「下僕、ぐーたらセットを出すのに空間魔法を何度か使った。

これの意味が分かっているな?」

 

「はいはい、因みに何ラウンドをご希望で?」

 

今日は色んなことあって疲れたから5ラウンドくらいで勘弁…

 

「…最低8だ。」

 

慈悲はなかった

 

 

こ の 後 め ち ゃ く ち ゃ 搾 ら れ た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日、新しいマスター候補生がカルデアにやって来た。事前検査の結果、レイシフト適正はそれなり、魔力も十分、評価は平均より少し上程度の魔術師だけど、居ないよりはマシと言ったところ。何故かスキャン画面を見た職員が「心霊写真だ」といって騒いでいたけれど、些細な問題だ。

あと東京で捕まえた数合わせの1人が到着したら、早速例の計画を始めよう。

 

「それにしてもあの男、変な魔力の流れをしていたわね…」

 

有栖宮槍一、彼の事を調べた資料を少し読んだけど、大した歴史も無い魔術師の家系。彼以外の一族は皆事故で亡くなっていた。召喚術式の失敗による魔力の逆流によって身体が破裂したらしい。えぐい死に方だわ…まあ、片田舎でほんの200年ほどしか続いていない弱小魔術師には荷が重すぎる術式だったのね。

そんな一族唯一の生き残りである彼は、何故か他所の魔術師から一度も狙われることもなく、15年も平凡に生きている。これって奇跡みたいな確率なのに…

自分で言うのも何だけれど、魔術師は強欲だ。目指す目標の為なら他者など軽く利用して結果を得ようとする。例え歴史の浅い魔術師の子でも素質があるなら攫うなり養子にするなりで手に入れようとする者がいてもおかしくないのに…彼は誰にも出会わず、いえ、魔術との関わりを避けるように、たった一人一般人として生きていたって事になるわ。

はぐれ魔術師の捨て子は捕まってホルマリン漬けが当然だと思われている魔術世界でこれはかなり異質な事だ。

まあ、私の役に立ってくれればそれでいいのだけれどね。

せいぜい頑張って貰いましょう。

 

 

私も結果を出す為なら手段を選んでいられないのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はい朝チュンです、本当にありがとうございました。

 

結局昨夜12ラウンド搾られた。新しい部屋だった為魔王様もノリノリだったし、しまいにゃ風呂にトイレに場所を変えながら一晩中繋がったままだった。

 

「ヴ…腹減った…」

 

「私は腹いっぱいだ」

 

そりゃあれだけ搾りとればね…

この部屋換気は行き届いてるのかアパート暮らしの時程臭いがしないのは幸いだ。

空腹に耐えながら後片付けと掃除を終わらせて、魔王様を風呂に入れて綺麗にしたあと、俺は朝食を食べに食堂へ向かう。風呂を浴びてさっぱりした魔王様は今日は布団でゴロゴロするらしい。

 

 

食堂はほかのマスター候補生や職員達で大いに賑わっていた。仲良さげにトレイを持って並んで歩く子たちや、雑談に花を咲かせる席も多く目に付く。

そんな中、部屋の隅、テーブルの端で1人黙々とパンを齧る青年を見つけた。というか周りから浮きすぎて超目立ってた。

席がそこしか空いていなかったので、勇気を振り絞って座らせて貰えるか交渉してみることにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「向かいの席、いいかな?」

 

そう言われハッと顔を上げた。

目の前には目玉焼きと味噌汁に山盛りの白米を乗せた男が戸惑いながら僕に問いかけている。

まずい、ロックを聞いていたから気付いていなかった。こいつはいつからここに居たんだ?もし気付かずに立ちっぱなしにさせてたら申し訳ない。

 

「ああ、いいよ。勝手に座ればいい…」

 

だあああああ違うだろ!もっと気の利いたセリフを言えよ!そんなんだから他の候補生に避けられるんだよ!ペペの奴から「貴方はもう少し笑顔を作りなさいな」って言われたばかりじゃないか!

 

「ありがとう」

 

そう短く答えて、そいつは僕の向かいの先に座った。そして物凄い勢いで白米と目玉焼きと味噌汁を交互に食べている。

その光景をぽかんと眺めていると視線に気付いたのか橋を止めて僕の方を見返した。

 

「どうかした?」

 

「いや、朝からよくこんなに食べるなって…」

 

「ああ、昨日は夜遅くまで……う、運動(意味深)してたから腹が減っててね。」

 

運動…夜遅くまで鍛錬を積んでいるんだろうか、よく見れば腕の筋肉も人並み以上に付いている。こいつと素手での喧嘩は避けたいな、する事なんてないだろうけど。

 

「君も隈が凄い、ちゃんと寝てないんじゃないか?」

 

「…関係ないだろ、魔術師が夜中にする事なんて大体決まってる。」

 

そんなもの、毎晩魔術の勉強や訓練だ。特にウチみたいな歴史の浅い家系は特に、才能で足りない分を努力で補う必要がある。

成果は…ハッキリ言ってまずまずだけど。

それにしても見ない顔だな、同じ服を着てるってことはこいつもカルデアのマスター候補生なんだろうけど…まさか…

 

「お前が例の数合わせの最後の1人か?」

 

自分でも酷いと思う言い方だった、僕は馬鹿だ。もっと別な聞き方あるだろ馬鹿!バーカバーカ!

 

「ん?オルガマリー所長は俺の後にもう1人到着するって言ってたから最後の1人は俺じゃないよ。数合わせかどうかは……正直向こうにそう思われてるかもだけどな。」

 

あっけらかんと答える彼。

 

「ほら俺魔術に関しちゃ独学で、素人みたいなもんだし。」

 

はははと笑いながら味噌汁をすする。

 

「…悔しくないのかよ」

 

「悔しい?…うーん、悔しいも何も、今まで比べられる相手がいなかったから、そういう感情が生まれなかったなあ。魔術師にこうして直にあったのもこれが15年ぶりくらいだし…」

 

「15年も何やってたんだ…」

 

「何も?ツレと一緒に安アパート借りて気ままな二人暮らし、悪くなかったよ。」

 

ああ分かった、彼は一般人枠だ。魔術師の家計に生まれながら魔術と深く関わらない奴は偶にいる、こいつはその部類だった。

 

魔術師の競争から1歩引いて呑気に生きてきた臆病者

 

でもそれが少し羨ましくもあった。僕もその位置に生まれていれば、毎晩目の下に隈まで作って魔術に躍起になることなんてなかったのかもしれない。

 

「ふう…ご馳走さんっと。」

 

あっという間に食べ終え、トレイをもって立ち上がる。

 

「そういえば……君の名前は?」

 

「人に名前を聞くならまず自分から名乗ったらどうだ。」

 

思わず口から出てしまった

せっかく話しかけてくれた優しい奴だってのに、つくづく僕ってほんとバカ…

 

「魔術師って固いんだな、いいよ。

俺は有栖宮槍一、槍一って呼んでくれ。」

 

有栖宮……聞いたことない苗字だな、多分日本の田舎魔術師の家系だろう。

 

「…カドック、カドック・ゼムルプスだ。」

 

「カドック?確か選抜Aチームの1人じゃないか。」

 

「別に誇るような事でもない、僕にとっちゃここからがスタートラインなんだからな。」

 

「そうか、じゃあお互い気負わず頑張ろうなカドック。」

 

手を差し出してきた、なんだこれは

 

「………何のつもりだ」

 

「握手だよ握手。ここで出会ったのも何かの縁だし、ほら手ぇ出して。」

 

「はぁ…分かったよ。」

 

仕方なく…いやほんとはめっちゃ嬉しいです思わず小躍りしそうですカルデアで初めてマトモに人と会話しましたうわああああああああい!

あくまで平静を装って握手を交わす。やっぱり筋肉質な手だ、喧嘩は売らないようにしよう…

 

トレイを一緒に片付けて、有栖宮は用事があると言って部屋に帰って行った。

 

「気負わない様に、か…」

 

ポツリと呟いた。

ほんの少しだけだが、有栖宮と話して胸が軽くなった気がする。会話って大切なんだな…

その日はいつもより少しだけ魔術の調子が良かった気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マイルーム

 

 

「だああああ魔王様がまたキン○ボンビー擦り付けたああああああ!」

 

「貧相な下僕にはその姿がお似合いだ馬鹿めー!」

 

 

全裸魔王は桃鉄でも容赦ない




魔王ジルの設定を知らない人はググるなりしてくれればイメージは固まります、あと立ち絵が全裸ですので当然良い子は検索しちゃ駄目だぞ★
ジル変更点として性格がかなり優しめになってます、この辺がキャラ崩壊。
ランス10の立ち絵ジルで本作品はお送りしております。



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3話 全裸魔王と冬木の街

ぐだ帝都始まったから更新遅くなるかなー

なんかの間違いでFateとランスコラボしろ(願望)




「居眠りする馬鹿は出ていきなさああああいッッ!!」

 

オルガマリー所長の怒声が響いて遅れてきた子がミーティングルームを追い出された。確かあの子が最後のマスター候補、藤丸君だったっけ?大事な話の途中に居眠りとは、将来はきっと大物に育つぞ。

 

オルガマリー所長は御立腹だが会議は続く、どうやら藤丸君以外のマスター全員をコフィンに繋ぎ、特異点と呼ばれる歴史のターニングポイントへ飛ばすようだ。

数の暴力とは恐ろしい…それにカドック君のいる選抜部隊Aチームもいる。よく分からんが時計塔の天才だの所長よりも出来る奴だの言われて持て囃されたキリなんとかっていう奴が指揮を執るようだしそれに従ってりゃいいだろ。

 

『果たしてそう上手く行くかな?くくく…』

 

はいそこの魔王、不穏な事呟かない

 

「じゃあマスター候補生は皆コフィンに入って。早速レイシフトを始めるわよ!」

 

所長の合図で皆が動き出し、それぞれコフィンに入っていく。

そして俺もコフィンに足を掛けた時、上の展望室みたいな所で腕組んでる全身緑色の服着た男と目が合った。アレが確か所長が大好きなレフ教授だっけ?

レフ教授はにっこり笑い、俺もぎこちなく笑い返して視線をコフィンに戻す。

 

なんだろう、あの人魔王様と()()()気がする

 

『私をあんな毛むくじゃら緑男と一緒にするな下僕。』

 

サーセン

 

 

コフィンに入った。

扉が閉まり、所長のアナウンスが聞こえる。

 

『貴方達マスター候補生が最後の希望よ、人類の未来を守る為、特異点を力を合わせて解決なさい。』

 

コフィンに数字が表示されて、カウントダウンが始まった。

 

5

 

4

 

3

 

2

 

1

 

 

ゼロのアナウンスが聞こえる直前、視界は真っ赤に包まれて、俺は意識を手放した。

 

遠くの方で魔王様が笑ってる声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

満たせ

 

満たせ

 

縛り付け、磔にしろ

 

その内蔵を生きたまま抉りだせ

 

決して殺さず痛めつけ、その慟哭で人間共へ恐怖を撒き散らせ

 

私に嫉妬した人間を

 

私を拒絶した人類を

 

苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて、その刹那の絶叫を奴らの魂に刻み付けろ。

 

私は魔王だ

 

生ける厄災だ

 

我が命尽きるまで、悲鳴と叫喚で世界を満たそう

 

永遠に、血の詰まった肉袋で(あそ)び続けてやる

 

これが大嫌いな人間共への〝仕返し〟だ

 

 

 

でも

 

ああ、ちくしょう

 

私だって

 

 

 

 

誰かに 愛して 欲しかったんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ッ!?!?」

 

飛び起きた。ここは何処!?

 

見渡す限り火の海だ

 

「ここが地獄か。」

 

『まだ死んどらんわバカ下僕、周りをよく見ろ。』

 

「ウイッス」

 

魔王様のありがたーいお言葉で正気に戻った俺は辺りを見回す。

なんか燃え尽きた大きな城の跡地?に居るみたいだ。

 

ずるりと影の中から全裸魔王登場、どうせ傷つかないと思うけど、火の粉飛び散る焼け跡に全裸ってのはちょっと怖いな。

 

「魔王様、何があったか覚えてます?」

 

「ああ、影の中から全部観ていたぞ。

結果だけ教えるとな、お前以外の〝ますたー候補生〟とやらは皆死んだ、もしくは瀕死の重傷だろう。」

 

なんでもあのコフィンの中、爆弾仕掛けてあったんだって。レイシフトの瞬間に足元からドカンッ!といったらしい。

 

「まあ、貴様には私が憑いていたから大した事は無かったが、他の者は別だ。〝こふぃん〟の中でメタクソの挽肉だろうな。」

 

ぷくくくく…と笑いを堪えながら話す魔王様。人間嫌いだもんね、超楽しそう。

 

「そうか、じゃあカドック君も…」

 

残念だな…せっかく友達になれると思ってたのに。

 

「なんだ、下僕の癖して挽肉の心配か?」

 

「んー、まあ残念だなと。」

 

何故だろう、人が死んだというのにそれ程感情が湧いてこない。自分とは全然関係ない人の死をニュースで見てる気分だ。

 

「それはそれとして、囲まれているぞ。」

 

「マジすか?」

 

改めて周りを見回すと、剣や槍を持った人形の骨が俺達を取り囲む様に次々生まれていく。あっという間に包囲された。

 

「ふおおおおおいきなりファンタジー的なピーンチ!」

 

これ逃げられないなあ!?ていうか魔王様注意するの遅いなあ!?

 

「どうしようこれ!?俺ガンドと簡単な幻術位しか魔術使えないんですけどォ!?」

 

「なら私に命じてみるか?」

 

Why?

 

「いや何故俺が命令して魔王様を闘わせんといけんのですか。」

 

「なら私は暴れたいぞ、下僕。文句あるか?」

 

魔王様の決定なら仕方ないね!

 

「ああそれなら文句ないな、こんな状況だし存分にやぁっておしまい!」

 

「あらほらさっさ!!」

 

飛び上がった魔王様のかざした手の下の空間が歪んだかと思うと、ドンッ!という大きな音と共に衝撃が周囲に走り、周辺の地面を抉りながら骨達を吹き飛ばす。文字通り一瞬で塵に還っていくホネホネマンを見ながら俺は思った。

 

魔王強過ぎじゃね?

 

「え…思ったより脆い…遊び甲斐もない。」

 

「そういえば魔王様がマトモに戦ってる所初めて見たかも。」

 

「ふーん強いだろ、かっこいいだろ。」

 

ふふんと得意げに笑う魔王様。

機嫌がいいようなので頷いておく。

そりゃ人類を千年苦しめてきた五代目魔王って言ってたんだし強くて当たり前か。でも全裸じゃなけりゃもうちょっと格好がつくのになあ…

 

「魔王様、本当に魔王だったんスね。」

 

「どういう意味!?失礼な下僕だ!」

 

「それより此処は一体何処だろう、カルデアは雪山の筈だし…」

 

そういえばレイシフトの際、所長が2004年の冬木がどうのって言ってた気がする。じゃあ俺はレイシフトでそこへ飛ばされちまったと考えるのが妥当だろう。

 

「ああそういえば。〝こふぃん〟が吹き飛んだ後、男が1人慌てて飛び込んで来ていたぞ。

そのまま一緒に〝れいしふと〟されたのならそいつも彼の地へ飛ばされている筈だ。」

 

成程、まだマスターの生き残りがいたと。じゃあその子と合流して現状を把握しなきゃいけないな。カルデアへの戻り方が分からん。

などと考え事をしていると、飛んでいた魔王様がすうっと背中に擦り寄って抱きついてきた。胸当たってますよ…当ててんのか、そうか。

 

「今後の方向性は決まったか?」

 

急に甘い声を耳元で囁かれるとこそばゆい、それ何度もやられてる俺だからこそばゆい程度で済むけど、免疫のない奴にやったら一瞬で理性が吹き飛ぶからね?過去にそうやって俺に絡んできたチンピラをテクノ〇レイクさせた前科あるでしょ?

 

「アレは勝手に死んだ向こうが悪いだろ。私悪くない。」

 

などと供述しており。

人間で遊ぶのも大概してあげて下さい魔王様。あと尻を撫で回すの止めて。

 

「うふふふ…」

 

「取り敢えずその無事であろうマスターと合流しよう。味方は多い方がいい。

場合によっては魔王様の事、話さないといけないからね。」

 

今は緊急事態だ、秘密がどうとか言ってられない。

そもそも魔王様が特別だから隠そうとしてる訳じゃない、結果的に隠すのが最善だと思っただけだ。

だって、こんな歩く公然猥褻罪を引き連れて街を闊歩していたらどう思われるだろうか?先ずはお手元の連絡機器で110番か最寄りの国家安全保障機関へ通報するだろう。俺だってそうする。それが魔術師じゃない一般人の感性だ。

 

「ようしそれじゃあ出発しん」

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッッ!!!

 

「コーッ!?」

 

「?」

 

叫び声のような、ただの不快な擬音のようなよく分からない音が辺りに響き渡る。

 

「さ…流石魔王様はお腹の音も魔王級だなー憧れちゃうなー…」

 

「…帰ったら赤玉出るまで搾り取ってやるから覚悟しとけ。腹の音な訳ないだろが。」

 

「やっぱり…?」

 

その時、物凄い音を立てて何かが降ってきた。

その身体は全身真っ黒だが、その上からでもわかる筋骨隆々な体躯。片手には人間なんて一発で挽肉にできそうな無骨な形をした斧を担ぎ、俺の身長の3倍はある。

そして何よりビシビシ伝わってくるのが、こいつは敵意剥き出しだという事。それはもう、視線で人を殺せるくらいの殺気を香水みたいに振り撒いてる。

 

「一応聞くけど、魔王様の知り合い?」

 

「あんな焦げ肉達磨知らんわ。」

 

■■■■■■■■■■■■■■■ッッッッ!!!

 

再び吼えるよくわからん黒いヤツ、さっきより怒ってるカンジ。あれー?知らない間にまた機嫌を損ねていくー?

 

「下僕、まだ分からんぞ。もしかしたら仲間になりたそうにこっちを見てるだけかもしれん。」

 

「いや明らかに差し出した手を袈裟斬りにされそうな勢いじゃないっすか。あんな悪質な勧誘待ちいてたまるか。」

 

魔王様の小粋なジョークに反応していたら、大男の姿が消えた。あれ?

 

「あいつどこ行っ…」

 

全てがスローモーションになっているような感覚、大男がいつの間にか横にいて、その大きな斧を振りかぶり俺の首をチョンパしようとしてた。

ああ、アカン。思ったよりあの斧鋭利だ。楽には死なせて貰えなさそう…

斧は一直線に首筋を捉え、あと数センチで俺の命を刈り取る刹那。

 

斧は止まった。

 

否、止められた。

 

他ならぬ魔王の手によって

 

魔王様は片手で大男が振り下ろした戦斧を掴み勢いを殺している。恐らく大男は必死で力を入れているんだろう、斧が小刻みに震えているのが分かる。でもビクともしない。

 

「私の下僕に何をする」

 

普段とは比べ物にならないくらい底冷えするような低い声、15年一緒に居たけどあんな声は初めて聞いた。

 

瞬間、大男が斧から手を離し、大きく後方へ飛び退いた。その途端、バキバキと音を立てながら握っていた斧が砕け散る。

 

「暴れるぞ下僕、私から離れるな。『雷撃の嵐』…!」

 

そう呟いた魔王様の周りを赤黒い雷が舞ったかと思うと空に向かって弾け、直後に雨のような落雷が大男に向かって降り注いだ。

大男もあのガタイでかなり俊敏だ、咄嗟の判断で横へ飛び、走って雷から逃げ続ける。

 

「小賢しい…『雷神雷光』!」

 

鬱陶しそうに魔王様が言うと、今度は焼け跡の敷地一杯に爆音を響かせながら更に大きくて大量の雷があらんかぎり地上に向かって降り注ぐ。

正直言って滅茶苦茶だ、逃げ場なんて何処にもない。何故か俺の所には落ちてこないので魔王様が意図的に外してくれてるんだろう。

流石に避け切れなくなったのか大男は雷に飲み込まれ苦悶の悲鳴を上げたようだが、それすらも落雷の轟音にかき消される。

魔王の雷は城全体をひとしきり飲み込んで、元から半壊していた城は膨大な熱量に晒されて更地へと成り果てていた。

 

「ふむ…終わりか?」

 

「それフラグって言うんすよ魔王様。」

 

■■■■■■ッ■■■■■■■■■ッッッッ!!!

 

ドカーンと瓦礫を押しのけて大男復活。やっぱり生きてたじゃーん!?

でもさっきより動きが鈍いし身体もボロボロだ、雷が相当堪えたんだろう。

 

「ふん、そんな半端な姿になってまで何を守るというのだ。

…最早貴様に主命はあるまい、還るべき城も、使えるべき主も、此処ではとうに消え失せた。

残ったのは只の狂った忠犬、帰らぬ主を未だ待ち続ける哀れな狗畜生だ。」

 

■■■ッ…■■■ッ…■■■■■■■■■ッ!!!

 

魔王様は何を言ってるんだろう、それを聞いて明らかに大男が激昂してるのが分かる。

というかさっきから魔王様が魔王してる、全裸なのに。なんか違和感。

怒り狂った大男が猛進する、そして振り抜かれた拳を魔王様はするりと躱して、大男の後ろは回り込み悪どい笑みを浮かべ…

 

「だから貴様は狗なのだ、愚物め。」

 

その首筋へ歯を突き立てた。

 

■■■!?■■■■■■!?!?■■■■■■■■■ッッッッ!!!

 

傍から見ても分かる、魔王様は大男から吸血という形で魔力を吸っていた。

 

「……んっ…ごくっ…ごくっ……」

 

■■■■■■ッ■■■!?■■■……■…■■……

 

最初は抵抗していた大男だったが、血と一緒に魔力を吸い尽くされたんだろう。どんどん元気が無くなっていき、やがて膝をついた。

 

■…■……■……

 

遂に地面に倒れ、そのまま光の粒子になって消えていく大男。どうやら人間じゃなかったようだ。黒いモヤモヤ出してる人間なんているわけないか。

 

「……ふむ…ふむふむ…うん。」

 

血を吸った魔王様は何やら目を閉じて考え中、口から血が滴って胸の方まで垂れている。衛生的に宜しくないから拭いてあげよう。

 

「…ん、なんだ下僕。こんな時に欲情したか?場所が無いから魔力補給はその辺の森で…」

 

「血がついてて汚いから拭いてやってんですよ。大人しく拭かれなさい。」

 

「ふん、下僕の癖に生意気な。

まあ心遣いは受け取ってやろう、私は寛大な魔王だからな。」

 

「はいはいアリガタキシアワセー。

で、どうしたん急に考え込んで?」

 

「こいつ…絶対枯らす…

あの狗から魔力のついでに情報も抜き取ってみた、そしたら面白そうなことが分かってな。」

 

魔王様曰く、あの大男は元は古代ギリシャの大英雄ヘラクレスのサーヴァントだったらしい。

サーヴァントについてはセミナーでいくつか説明を受けた。人類の守り手、過去に偉大な功績を残した偉人達は死してもなお英雄として語り継がれ、『座』という場所からこちらの世界へ〝英霊〟として派遣されるらしい。それをカルデアは掘り下げて研究してきた。

本来なら聖杯戦争っつー魔術師の狂った宴を盛り上げる為の駒だったらしいけど、その辺の講義は寝てたからぼんやりとしか覚えてない。勿論幻術で誤魔化してたからバレてませんよ、藤丸君のようなヘマはしませんとも。

 

「今のまっくろくろすけが大英雄ヘラクレスだなんて、理想と現実ってやっぱ違うんすね。」

 

「いや、さっきのは元になった〝へらくれす〟とやらの紛い物らしい。

本物は12回殺さないと死なないっぽいぞ。」

 

「なんだそれめんどくさい。」

 

「なー」

 

確かヘラクレスの神話には『十二の試練』ってのがあったからそれだと思う。

 

それからヘラクレスのコピー品から情報を抜き取った魔王様曰く、ここは間違いなく2004年の冬木市だ。そして本来ならルールに基づき聖杯戦争が行われていたところ、何らかの邪魔が入って街は炎上。ここに召喚された七基のサーヴァント達は一部を除きさっきのヘラクレスみたいになっちゃったらしい。

その異常が所長の言ってた〝特異点〟ってことなのかな?

 

「此奴は紛い物に成り果てても尚、主が待つこの城で待ち続けた。とうに主は消え、そこには瓦礫の山しか残って無いと分かったうえでな。愚かな事さ。」

 

せせら笑う魔王様、でもヘラクレスはあんな姿になってもマスターに忠義を尽くしたんだ。すごい英雄だ。

 

「ロマンチックでいいじゃないっすか。

……あれ?これなんだろ…札?」

 

ふと足下を見てみると、瓦礫の下に挟まってる金色の札っぽい何かを見つけた。

 

「貰っとけ貰っとけ、どうせこの城の主はいないんだ。」

 

「なんか空き巣やってるみたいだけど、今回ばかりは仕方ないか…頂いていきますよっと。」

 

なんまんだぶなんまんだぶ、と心の中で焼けていった人達のご冥福をお祈りして、俺と魔王様は焼けた城を後にした。

 

 

 

……と思ったら、近くの林に引っ張って連れていかれアーーーッ!?!?ズボンがパージ!?

 

いけませんお客様!あーいけませんいけません!

 

「結構使ったから魔力を寄越せ。赤玉出るまで搾り取ると言っただろう…?ふへへへ…」

 

あーお客様!目が本気です!魔王様捕食モードです!ここはお外ですお客様!それにそんなことしてる場合ではありませあー!アーーーッ!?!?

 

 

 

 

青年の悲しい悲鳴がアインツベルンの森に響いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外って開放感あってこうふんした(賢者)






オリ主に誰召喚させようかな(暗黒微笑)



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4話 魔王様、はっちゃけあそばす

あっ…今回搾られる要素ない…

独自設定ガンガン入ってるんでダメな人は今のうちにブラウザバックDA!


 

もうなんなのよ!訳わかんない!

思わずまたヒステリックな叫び声を上げそうになった。

落ち着きなさい私、先ずは状況を把握するのよ。

 

1・レイシフトが暴走して2004年の冬木市に私もろともレイシフトした

 

2・何故か街は炎上しててそこらじゅうにアンデットやら竜牙兵がゾロゾロ湧いてる。しまいには影みたいなサーヴァントまで現れて殺されかけた!

 

3・しかもキリシュタリアやAチームの連中は居なくて、残ったマシュと数合わせの素人マスターの2人だけ!更に新しく仲間に加わったキャスターの話によれば特異点の原因であろう冬木の大聖杯は黒化したアーチャーとセイバーが陣取ってる!聖杯戦争の当たり枠三騎のうち二騎も敵側に揃ってるのにどうやって勝てばいいの!?

 

4・負ければグランドオーダー失敗!お父様の遺したカルデアも終わり、人類はゲームオーバー、滅亡の一途を辿る!

 

もうダメよ…おしまいだわ…

私にはマスターの適性はないから仕方なく数合わせの藤丸にキャスターを仮契約させたけど、この先一体どおすればいいのよぉぉぉ…

 

「まあそう悲観しなさんな嬢ちゃん、なるようになるさ。」

 

「煩いわね!下手な慰めは要らないわ!」

 

「き、キャスターさんの言う通りですオルガマリー所長!

幸いドクターとも通信は繋がりましたし、このままグランドオーダー遂行するしか助かる道はありません。」

 

「じ、自分も出来ることなら頑張りますんで…」

 

「貴方が1番不安なのよ!なんで数合わせの素人に世界の運命を託さないといけないのよぉ〜?」

 

「あ、あはは…そう言われるとかなり重大任務だ…」

 

うええレフ…助けてよお…

 

「そんな悲嘆に暮れてる嬢ちゃんにいい知らせがある。

使い魔を冬木中に飛ばしてたんだが、その中の1匹から反応があった。バーサーカーの野郎が退場したらしい。」

 

「…え、ホント?」

 

バーサーカーが退場…?ということは、何者かがバーサーカーと戦闘して勝ったという事だ。シャドウサーヴァント同士は戦闘をしないと前にキャスターが言っていたし、なら…もしかしたら…

 

「カルデアの生き残りがいるかも知れない!」

 

「本当ですか所長!?」

 

「ええ、ええ、感謝するわキャスター!

まだ希望が残ってるかも!」

 

「お、元気出たな。

じゃーマスターにはこれ渡しとくぜ。仲間は1人でも多い方がいいだろう?俺が持ってても仕方ねえし使ってくれ。」

 

そう言ってキャスターが藤丸に手渡したのは虹色に輝く宝石のようなものが3つ。

 

「そ、それ、サーヴァントの召喚媒体じゃない!何処で手に入れたの!?」

 

「シャドウアサシンを始末した時に見つけてな。仲間を増やすのにゃ丁度いいし、やってみな。だが…ひとまずコイツらを始末してからだなァ…アンサズ!」

 

そう叫んだキャスターの杖から火花か迸り、魔力で編まれた灼熱の火球が現れた竜牙兵を焼き尽くす。

またワラワラと現れたわね…

 

「藤丸!マシュ!召喚は後にしましょう、戦闘準備!」

 

「「はいッ!」」

 

私と藤丸を護るようにマシュが盾を構え、近くに寄る敵を排除、その横でキャスター、クー・フーリンが魔術で次々と敵を始末していく。後衛しかいない状況だけど今はこれが最善策…せめてあの媒体で三騎士の誰かが来てくれると嬉しいんだけど…あの触媒はランダムで呼び出すタイプだから贅沢言えないわね…

 

もう少しで敵も全滅…と思ったその時、キャスターが叫んだ。

 

「…ッ!?危ねぇッ!!!」

 

慌ててルーン魔術を使って見えない防壁みたいなのを張った次の瞬間

 

視界が真っ白になるほどの光が私達を包み、飲み込んだ。

 

 

「な…なんだよ…これ…」

 

震える藤丸の声で私も目を開ける。

 

さっきまで私たちの目の前にあった河川敷はごっそり抉り取られ、代わりに猛烈な熱気と高熱で溶けた地面が広がっていた。勿論竜牙兵達は影も形もない。

 

「あっぶねぇ!結界張らなかったら全員お釈迦だったぞ、テメェ何者だ!?」

 

キャスターが警戒しながらさっきの攻撃が飛んできた方を見て叫ぶ。

 

「ふん、死ななかったか。運が良かったな。」

 

帰ってきたのは聞きなれない女の声だった。

そして声はもうひとつ

 

「やっと…見つけたよ…カルデアの生き残り…!」

 

こちらは聞き覚えがある、というか私にさんざん構ってきたアイツを忘れるもんか。

 

「まさかアンタが生き残ってるとはね…有栖宮槍一!」

 

溶けた地面の向こうから、煙に紛れてまだ見えないが確信した。

やがて煙が晴れて現れたのは見知った顔した高身長の男と…

 

 

知らない全裸の女だった

 

 

「いや…所長…やっと…見つけました…よ……長かった…ハァ…」

 

「き…」

 

「き?」

 

「きゃああああああああ変態いいいいいい!!!」

 

変態!全裸の変態女が居るわ!

前何にも隠してない、いっそ清々しいまでに全裸の女を引き連れた有栖宮が何故かゼェゼェ息を切らしながら現れた!

 

「ああああああ有栖宮!アンタ、後ろの裸女は一体何よ!?なんで何も着てないの?あんたの趣味なの?ナンデ!?全裸ナンデ!?」

 

「ちょっと…落ち着いて下さい…所長ォ…あと…声大きい…頭痛い…」

 

「なあ下僕、こいつ煩いから殺していいか?」

 

「…それは止めて魔王様、人類終わっちゃう…はぁ…きっつ。ちょっと座る…」

 

「あわわわわわ…えっちです…」

 

「……ぶはっ!?」

 

「せせせ先輩!?キャスターさんオルガマリー所長!先輩が突然鼻血を噴いて倒れました!?」

 

「無理もねぇ、若いヤツにゃ刺激が強えからなあ…嬢ちゃん、マスターを寝かせてやってくれ。

ご馳走さんでしたっと。」

 

困惑するマシュ、鼻血を噴いて倒れた藤丸、何故か全裸を拝み始めるキャスター。頼みの有栖宮は何故か疲労で死にかけ。

混沌とした状態は有栖宮の体力が回復するまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっと見つけたカルデアの生き残り!

それはそれとして、クッソ疲れましたハイ。

さんざん森の中で魔王様に搾り取られた挙句、やっと見つけた所長達はホネホネマンに囲まれてて超ピンチじゃないですか。だから全力疾走してかっこよく駆けつけてやろうと思ったわけですよ。

だが現実は非情である、体力持たねえ。魔王様こんな時に本気で魔力搾るからあ?腰とかガクガクなんですけどお?マジで赤玉出るかと思いましたよォ!

着いた途端魔王様ったら調子乗って大魔法使っちゃって、なーにがゼットンじゃ。え?1兆度の火の玉?なにそれこわい。

しかもバッチリ味方巻き込んでんじゃん!?あの杖持ったお兄さん居なかったら所長達じゅわっと蒸発しちゃう所だったよ?

 

「魔王様、反省して?」

 

「だが断る。」

 

舌打ちやめれ魔王様、この全裸全く反省してないな…

 

座ってると息が整ってきたので、まだ全裸魔王を見ながらキャーキャー言ってる所長を落ち着かせる。それから藤丸君、それが男として正しい反応なのだ。恥じることは無い、寧ろ理性が飛ばないだけ君は強い子だ、将来有望だぞ。それと…マシュちゃんだっけ、藤丸君を心配しながらも決して魔王様から目を離さない。君結構むっつりスケベよね。

 

「む、むっつり…!?ごご誤解です!」

 

顔が真っ赤になった、可愛い。

 

「おい下僕…」

 

いたたたたたた!?ほっぺ抓らないで魔王様!何さ、焼きもち?

 

「……」イラッ☆

 

ぎゅむっ

 

ほでぃゆあああああああああああああ!?ヘラクレスの斧すら軽々握り潰せる握力でマイサンを思いっきり握るのはヤメテ!ごめんなさい!浮気じゃないですごめんなさい!女の子になっちゃうから許して!

 

「コントやってないで説明しなさいよ有栖宮!あとその裸女も!」

 

ね?所長がご立腹だからこの辺で話戻そ?ね?お願い魔王様!

 

「…ふん…次はないぞ。」

 

ようやく許してもらえたのか、マイサンから手を離して抱き着くように背中にのしかかってきた。顔が近い、いいにほひ…

 

「肝に銘じますよっと…

で、所長。ご無事で何よりです、マシュちゃんと藤丸君も頑張ってたな。」

 

「お心遣い感謝します、えと…有栖宮さん?」

 

「槍一でいいよ、苗字無駄に長いし。

で、杖のお兄さんもありがとう。危うく魔王様がみんな燃やしてしまうとこだったよ、割と真面目に。」

 

「いやあイイってことよ、だが…お前さんの後ろのソレ、なんだ?英霊じゃねえよな。こんな禍々しい魔力感じた事ねえが…」

 

警戒したまま訝しげに問う…多分キャスターのサーヴァントだろう。

魔術が得意な英雄なら魔王様が幾ら魔力を隠しても、彼女が異常な事に気づいてしまうのかもしれない。

 

「魔王様は英霊じゃないよ、彼女は我が家の守り神みたいなもんだ。害は……………多分ない、ウン。」

 

「なんなんだその間は、それになんでこの女は裸なんだよ。」

 

「不服か?」

 

「ご馳走様です!」

 

ドヤあ…と惜しげも無く裸体を見せびらかす魔王様に敬礼するキャスター。シュールだ。

 

「で、目の保養になるのはいいんだが…お前は何者だ?少なくともそのドス黒い魔力は誰だって警戒しちまうぜ。」

 

「私は私だ、それ以外名乗る必要は無い。

お前達の判断で好きに決めるがいい。因みに私は人間が大嫌いだ。」

 

「「「ええ…」」」

 

さらさら喋る気ないよね魔王様、なのでキャスター達にも分かりやすく説明してあげた。

15年前の儀式の結果、俺以外の一族全員の命と引き換えに現れ、それから俺の身体を憑代にして共に生きてきたと。

あと元いた世界では人類滅ぼす魔王やってたってのは内緒にしてる。あくまでもあだ名が「魔王様」だ。

 

「べっ…別の世界からですって…?そんなの…それ、〝根源〟へ近づいてないと不可能よ…

有栖宮は…あんな片田舎の一族が最も魔術師として優れていたなんて…」

 

なんかオルガマリー所長がぶつぶつ言ってる、そしてちょっぴりディスられてない?きのせい?

 

「別世界からとかの真偽は置いといて、ていうかそもそもなんで裸なの?」

 

復活した藤丸君からの素朴な疑問である。

魔王様は少し目を閉じ唸ってからこう答えた。

 

「……趣味」

 

「「「「痴女だァ!!!」」」」

 

4人が揃って叫んだ、趣味てあんた。色々勘違いするでしょうが。

仕方ない、ここはこの日の為にこつこつ練習してきた幻術でどうにかしよう。

 

「魔王様、流石に俺以外の前ですっぽんぽんは精神衛生上宜しくないんで隠すからね。」

 

そう言って魔術回路を起動させる、ほわほわほわんって魔王様が白い煙に包まれて、晴れた頃にはちょっとダボめの水玉パジャマが着せられていた。

 

「へえ、こりゃ幻術か。」

 

「そうそう、基本魔王様服着るの嫌がるし、裸が見えなくなればそれでいいから幻術でちょちょいっと隠してみた。」

 

服と違って着ている感覚もない、着ているように見えているだけ、正直言って裸よりハードな性癖に目覚めそうだがこれで文句は無いはずだ。

 

「私からはいつも通りにしか見えないが」

 

「あくまで魔王様を見た者にだけ掛かる幻術だからね、これなら癇癪起こしてTシャツを破り捨てることもないでしょ。」

 

「(破り捨てたんだ…)」

 

「(そんなに嫌だったんですね…)」

 

因みに、今は外歩き用の幻術だから全身隠れているが、省エネモードにすると謎の光が大事な3箇所を最小限守るぜ。

挿絵とかなくて本当に良かった…俺はまだ全年齢向けでいたい(切実)

 

 

「ふんっ!余計なことをする下僕だ。

なんでパジャマ姿をチョイスしたんだ?」

 

「そりゃ魔王様いっつも食っちゃ寝してるイメージだからって痛い痛い痛いいいいい乳首抓るのヤメロォ!?」

 

「うぅ〜ぶ れ い も の が〜〜!」

 

ぎゃー!?乳首がネジ切れるぅーーー!?

 

「取り敢えずお前たちに敵意が無いってことは分かった。そしてそろそろ離してやってくれ、見てるこっちが痛えよ。」

 

「ふんっ!」

 

俺のティクビから手を離してぷいっとそっぽを向いてしまった魔王様だが、相変わらず抱き着いたままだ。可愛いかよ。

 

なんとか皆に魔王様を受け入れてもらえたので、戦力強化の話に移った。これからキャスターの持ってた触媒でサーヴァントを召喚するらしい。

 

「触媒って他にどんなのがあるの?」

 

「基本的にはあんな感じの石ころだな、あと狙った英霊を喚べる『無記名霊基』っつー激レアもんがあるらしいが、俺ァ見た事ねぇ。それと、札みたいなのもあるぜ。」

 

「札…それってこれ?」

 

懐からさっきの焼け跡から拾った金ピカの札を見せる。

 

「おおそれそれ、何処で拾ったんだお前?」

 

「俺たちのいた城の焼け跡に落ちてたんだよ。これも召喚に使えるの?」

 

「ああ行けるぜ、マスターの持ってる石と違ってこの札は一枚でいい。」

 

よっしゃ、じゃーいっちょ召喚といきますか!いいよね魔王様?

 

「…好きにしろ、配下が増えるのはいい事だ。」

 

無事お墨付きも頂いたので藤丸君と並んで召喚の口上を……忘れたのでカンペ見ながら唱えた。え?俺にも見せて欲しい?よし一緒に見ようね藤丸君。

 

 

ええっと…祖に銀とてt(カット)

 

 

…………………………

 

 

俺たちの前には魔法陣が二つ。それぞれに触媒を並べ、口上を述べると召喚陣が輝き始めた。

片方は金色に、もう片方は眩いばかりの虹色に、暖かい光が俺たちを包む。

その直後凄まじい風が吹き荒れて、先に虹色の魔方陣から人影が!

 

 

 

「初めまして、マスター。

コードネームはヒロインX。昨今、社会的な問題となっているセイバー増加に対応するために召喚されたサーヴァントです。よろしくお願いします。」

 

 

………………だれ?(無邪気)

 

 

「クラスはアサシンですが、セイバー相手に強いです。というかセイバーは即殺です、ぶっ殺します。

問おう、貴方が私のマスターか?」

 

そう言って藤丸君の方へ向いた。

 

藤丸君も若干キョドり気味だが仕方ない。いきなり出てきてセイバー殺すとかくっそ物騒なこと呟いてるんだもの、物騒さだけなら魔王様以上だ。

 

「おい下僕、今凄い失礼なこと考えなかったか?考えたな?」

 

ソンナコトナイヨー

 

「よしじゃあ教えるまでお前の指1本ずつ縦に割いてやる、泣いても許さん。回復魔法掛けながらじっくりやるから安心しろ。」

 

訂正、やっぱ魔王様の方が物騒だ。人類千年苦しめた魔王は物騒の格が違った。

 

そんなこんなしてる間に、こっちの召喚陣からも大きな影が!

 

『■■■■■……■■■……』

 

………………んっん〜?

 

『……■■■■■■■■ッッ!!』

 

それは人ならざる咆哮だった、ていうか狼の遠吠えだ。

 

ええっと…英霊召喚って英雄が召喚されるんじゃなかったんでしたっけ?

狼の英雄なんていたかしらん?

 

召喚陣から現れたのは脚にトラバサミの付いた巨大な狼とそれに跨った首無男。クラスはライダーなんだけど…なんか様子がおかしい。

 

『■■■………ッッ■■■………』

 

明らかに弱ってる、ていうか金の光でだした消える消えるちょっと待って!

にわかマスターの俺でも分かる、召喚した瞬間にこの子消滅しかかってる!

 

『ふむ、どうやらハズレを引いたね。』

 

「え…誰?ていうか何このホログラフィック!?」

 

突然俺達の目の前に現れ意味深な台詞を言い出す美人のおねいさん……これほんとに女か?

 

『やあやあ、初めましてだね。

私の名はレオナルド・ダ・ヴィンチ、まあ詳しい話はこの特異点を終えてからでいいかな。』

 

レオナルド・ダ・ヴィンチといえば誰もが知る万能の天才だったかな、カルデアすげえ英霊召喚してんなオイ。

 

『どうやらそのサーヴァントは英霊としての〝器〟を持たない、酷く弱々しい霊基みたいだ。

残念だけどどれだけ魔力を与えても彼は消えてしまうよ。』

 

マジかよ初っ端召喚失敗かよ、辛い。

 

と、思っていたら、あれ?魔王様ー?どこ行くー?

 

俺の背中からふわりと浮いて、消え掛けのライダーの下へ歩み寄る。

 

消え掛けの狼の顔を見るなりにたぁっと笑って、問いかけた。

 

「……憎いか?」

 

『■■■……』

 

「そうか、私に引っ張られて…

…それほど憎いか。憎くて憎くて、たどり着いた先がそのナリか。

昔の私と同じだ、お前は。

望む未来などないと分かっているのに。

本当に…馬鹿みたいだよな……」

 

なんか狼と話してるけど良く聞こえないな…

 

「決めた。貴様の力、失くすに惜しい。

殺したいなら…生きたいなら手を伸ばせ。その願い…私が叶えよう。」

 

『■■■■……■ッッ!』

 

ガブッ!

 

ああ!?狼が思いっきり魔王様の腕に噛み付いた!どうしよどうしよ!?

 

「ふっ…ふははははははっ!!!

いいぞ、契約成立だ我が僕!」

 

そう笑った魔王様は自分で自分の左腕を手刀使って切り落とした!そのまま飛んだ腕を咀嚼する狼!

まるで意味がわからんぞ!?ていうか魔王様、腕!グロ!……ああぱっぱと再生しちゃった。

 

「ただいま。」

 

「はいお帰り…ってそうじゃない!

魔王様あのライダーに何やったの!?」

 

「見れば分かるだろ、延命措置だ。

面白い事になるぞ。」

 

いや見てもまるで意味がわからんが!?ただの猟奇事件の現場なんじゃが!?

 

『嘘…そんな馬鹿な…!?

崩れかけの霊基がどんどん補強されて…魔力値も上昇…?一体何がどうなってるんだ?』

 

モニター越しに万能の天才が大いに取り乱してるみたいだ。そりゃそうだろう。

魔王様の腕を食べ終えた狼が、項垂れていた首をもたげ、黒い風をまき散らしながら咆哮してる。超元気になってるんだから。

 

「元気な男の子です…だ♪」

 

もしかして魔王様、あの狼『魔人』にしちゃった!?

魔人ってのは魔王様の血を与えた者がなれる即席の部下みたいもんだ、昔魔王様がそんなこと言ってた。でも実際に魔人を作ってるところは初めて見たよ。ひええおっかねえ…

 

■■■■■■■■■■■ッッッッッッ!!!!!!!!!

 

さっきまでの弱々しさは何処へやら、超元気に天に向かって咆哮してる狼くん。なんだ、急にこの作品はダクソになったのか。

 

『霊基グラフが変化……これは、エクストラクラス!?そのサーヴァントは〝復讐者〟のクラスになった!信じられない…!』

 

復讐者(アヴェンジャー)、そう呼ばれた狼くんは一通り吠え散らかしたあと魔王様に向かって『おすわり』状態で頭を垂れる。乗ってた首無男も片膝を着き、俺の前にひれ伏した。

 

「これからの働きに期待しているぞ、魔人アヴェンジャー…ふふふっ。」

 

「う、うん。良きにはからえ…?」

 

 

新しい仲間、アヴェンジャーが仲間になったよ。

 

 

 

 

因みにオルガマリー所長は途中でびびって腰抜かしてた。

ああ、ちょっとお尻の下が濡れ「黙れ殺す」ごめんなさい。止めて!石を投げないで!子供の頃散々やられたから割とトラウマなのぉ!魔王様もニヤニヤしてないで助けてーーー!アーーーーっ!?




というわけで藤丸君には謎インX、オリ主には魔改造新アヴェが来ましたー。魔人化の設定は殆ど独自設定だから勘弁して欲しい。

書いててなんかこの作品のオルガマリー所長はっちゃけてんなって思ったけど、オリ主に絡まれてるからだね。仕方ないね。

次で冬木編終わるかも


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5話 特異点の魔王様


これで炎上都市冬木は終わりっ

書き溜めがなくなっちまった!

この作品はマイルドな魔王ジルさま、頑張るオルガマリー所長の提供でお送りします。




 

 

「この先に居るのはセイバーだろう!?

なあ!セイバーの首置いてけ!置いてけよお、なあ!!!

セイバー居ねえなら…死ねよお前ェ…!!!」

 

■■■■■■■■■■■■■■ッッ!!!!!!

 

「くっ…!?

動きが速すぎて読めん!なんだあのスピードは!?というかあのアサシンの首への執着心は一体…」

 

■■■■■■■■ッッ!!!

 

「なっ!?クソっ!!」

 

アサシンXと魔人アヴェンジャーの動きに翻弄され、不得手な接近戦を余儀なくされるアーチャー…と思ったんだけど、あの弓兵接近戦結構強いな。

 

「頑張れー私のまじーん。ファイオー。」

 

どっから持ってきたのかポンポンを両手に持って応援する魔王様、幻術で隠してるけど全裸チアガールとかAVでも早々ないぞ。

 

「Xさんも凄いですね、さすがはアサシンのサーヴァントです。動きが速くて目で追えません。」

 

感心しているマシュちゃんだけど、初手アーチャーからの不意打ち狙撃を直感で防いでくれたのは凄いよ。ウチの最高戦力(魔王様)は気づいてて無視したからね。全滅すればいいとか考えてるもんね。

 

「違うぞ下僕、デミの娘を試したんだよ…」

 

「小物感凄いですね魔王様。」

 

「なんだとぉう!?」

 

ポンポンでポカポカ殴られた。

 

そんなこんなしてるうちに『無銘勝利剣(ひみつかりばー)』ってXさんの宝具ボイスが響いてアーチャーを軸に空にバツの字の斬撃が刻まれた。どうやら決着が着いたらしい。

「なんでさーっ!?」って捨て台詞残して消えてったよ向こうのアーチャー、かわいそう(小並感)

 

「ふう…前哨戦は終わりました、マスター。

この先にセイバーが居ます。私の中の対セイバー用レーダーがビンビンですさあ行きましょうすぐ行きましょうそして殺す。」

 

「あ、あんまり気負わないでねXさん。マシュも協力してあげてくれ。」

 

「はい、私に出来ることなら力の限り。」

 

だんだん2人の息も揃ってきたね、良いコンビだァ。魔人アヴェンジャーもお疲れ様。

 

■■■■……

 

「ふむ、及第点だな。これなら一個師団任せても大丈夫だろう。」

 

1万人規模の軍隊従わせて何させる気だよ魔王様…

 

「くう…藤丸も有栖宮も、上手くサーヴァントを使役してるじゃない。私だって適性があれば…」

 

おんやあ?所長は自己嫌悪かな?

人間向き不向きがあるんだから、出来るやつに出来ることを精一杯させればいいんですよ。「競うな、持ち味をイカせッ!」とは某漫画のお言葉だがその通りだと思う。

 

「所長は皆の指揮を上手く執ってるんだからそれでいいじゃないですか。」

 

正直Aチームとか魔窟だよな、特にガリルとデイヴィッド。シミュレーション遠巻きに観てただけだけど、アイツら何やらかすか全く予想出来ん。よくあんな連中纏められるよ…

 

「でも結果を出さないと誰も認めてくれないわ…魔術師なんてそんなもんよ。今まで能天気に暮らしてたアンタには分からないでしょうけどね!」

 

「それ言われると立つ瀬ないっすわー。

でもいいじゃん、所長が頑張ってるのはみんな知ってるよ。」

 

「ふんっ、どうせ私はカルデアでも小言の多い女だと思われてるわよ。」

 

そんな事ないと思うけどなあ、父の遺した物を小さな手で必死で守り通そうと頑張ってるお姫様だ。尊い、護らなきゃ(決意)

 

「なんで頭を撫でるのよいつもいつも!?止めなさい!年上だからって許さないわよ!」

 

怒られた、解せぬ

 

「………ふん」

 

どした魔王様、そんなに頬を膨らませて。おたふく風邪?

 

「…なんだよ…私の方が一緒にいた時間長いのに…普段あれだけヤってるのに…1度も…」

 

なんかぶつぶつ言ってる、聞こえんぞ。

 

「魔王様なんか言った?」

 

「うっさい死ね!」

 

バシーン!!!

 

オゴワアアアッ!?

 

ケツにローリングソバットは止めてェッッ!?

 

なんて魔王様から理不尽な暴力を受けている間に洞窟を抜け、キャスターの言っていた冬木の大聖杯の下までたどり着いたみたいだ。

不自然に盛り上がった山のような大地からは光が漏れ出して、ちょっと幻想的だったけど周りの雰囲気が禍々し過ぎて台無し。なんだこのラスボス空間は!?

 

「ほう、貴様らが…」

 

静かな声が空洞内に響く、一瞬Xさんの声かと思ったけどどうやら違うようだ。

 

「皆さん、あそこに人影が…」

 

マシュちゃんの指さすほうを見る。

そこには漆黒のドレスに身を包み、キャスター兄さんの言っていた星の剣の二振り目、黒く染まった聖剣を携えた王の中の王、騎士王アーサー・ペンドラゴンが堂々と立っていた。

 

溢れ出る魔力が黒いオーラとなって漏れ出して大気が震える。その金色の瞳は全員をその場に釘付けにする程の迫力だ。(魔王様は呑気に口笛吹いてたけど)

 

「よォセイバー。もはや残ったのはテメェ一人、多勢に無勢だ、俺としちゃ大人しく降参して貰いたいんだが?」

 

「今更腰が引けたかキャスター、クランの猛犬、その別側面よ。やはり本来のクラスでないと腑抜けになるか?」

 

「オイ聞いたかマスター。セイバーの野郎、黒化してかなり煽り属性高くなってるぜ。」

 

こちらは三騎士こそ居ないとはいえサーヴァントが3基、それにこっちには魔王様がいる。けど目の前のたった一人の騎士王は臆することもなく、剣の柄を握り絞めた。

 

「問答は無用だ、来い。カルデアのマスター達よ。」

 

「やる気は充分ってか…そんじゃこっちも、始めますかねェ…ッ!!!」

 

叫んだキャスターの杖が振るわれ、幾つもの火球がマシンガンのようにセイバーに向かって降り注ぐ。セイバーはそれを1発ずつ最小限の動きで躱し、斬り捨てた。

 

■■■■■■■■■ッッ!!!

 

「セイバー殺す絶対殺す!!!」

 

続けざま、疾風のようにXさんとアヴェンジャーが飛び出して、両側から襲い掛かった。

 

アヴェンジャーから振り下ろされる鎌刀を聖剣でいなし、Xさんの斬撃を弾き返す。

一撃がどれも致命傷になる攻撃ばかりだが、まるでそよ風を受けるようにセイバーは楽々と2人を手取ってる。

超高速戦闘に目が回りそうだ。

 

前の戦闘ではこの連続攻撃でアーチャーを圧倒したけれど、流石近距離最強と謳われるセイバーのクラス、二人がかりでやっとと言ったところ。しかもまだ彼女には余裕がある。

 

「小賢しいッ!!!」

 

「くあっ…!?」

 

■■ッッ!?

 

セイバーから魔力の嵐が吹き荒れて、二人が風圧に負け吹き飛ばされる。

そのままセイバーは剣先を後に向けて…

 

風王鉄槌(ストライク…エア)…ッッ!!!」

 

風を纏い、魔力を噴射してジェット機みたいにこっちへカッ飛んで来た!?

 

「先輩!!!くううううううっ…!!!!」

 

凄まじい激突音が響いてマシュちゃんの盾とセイバーの剣が火花を散らす。

 

「貴様のその力、見覚えがあるが…何者だ?」

 

「マシュ・キリエライト。この力はお借りしたものですが…貴女を倒して、先輩達と共に特異点を修復する者ですッ!!!」

 

ガッキイイイン!!!と一際大きな音が響いてマシュちゃんがシールドバッシュでセイバーを吹き飛ばす、即座に俺達の身を案じてくれたのかアヴェンジャーとXさんが帰ってきた。

 

「デミの娘、構えろ。強めのが来るぞ。」

 

魔王様が忠告した途端、突風が吹き荒れる。

黒い魔力が剣を伝ってセイバーから溢れ出し、その余波で地面が抉れる。

 

「受けるがいい…極光は反転する、光を呑め…ッッ!!!」

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガーン)!!!

 

 

聖剣から放たれた黒の極光が俺たちを飲み込もうと容赦なく突き進む。あっこれは不味いですよ。

 

「どうした娘、貴様の力はそんなものか!」

 

「まだです!私は…先輩を…有栖宮さんを…所長を…そしてカルデアを護らなきゃ行けないんです!

あああああああッッ!!!」

 

叫んだマシュちゃんの盾が淡く輝きセイバーの攻撃を受け止めた、支えている手脚は軋み、悲鳴をあげてもなお、彼女は闇の極光を受け止め続ける。

 

「仮想宝具/擬似展開…私に皆を守る力を…お願いッ!」

 

盾の輝きが増して、エクスカリバーを押し戻し始めた!

 

人理の礎(ロード・カルデアス)ッ!!!」

 

いっそう光り輝く盾から一瞬だけなんかの壁が現れた気がして、それはセイバーの攻撃を完全に霧散させた。

マシュちゃんの宝具が星の剣に勝ったんだ。

 

「はぁっ…はぁっ……うぅ…」

 

「マシュ大丈夫!?」

 

「はい、先輩…まだやれます。

まだ…耐えきって見せます!」

 

気丈に振舞ってるマシュちゃんだけど、脚が生まれたての子鹿みたいだ。盾を支えにして辛うじてたってる感じ。

 

「ふむ、なかなかやる。ならば…おかわりをくれてやろう!」

 

セイバーがまた聖剣に魔力を集中させる、あの宝具何発でも撃てるのお!?こんなんチートや!チーターや!

 

「あのセイバー、聖杯から直接魔力を吸い上げてるわ。あれじゃ宝具打ち放題じゃない!こんなの卑怯よ! 」

 

「そりゃまずいな、キャスター兄さん作戦は?なんかないの?」

 

「ああ、確かに打ち放題だろうが宝具のチャージ中は無防備になるな、そこを狙うか…」

 

「了解。因みに魔王様、戦う気ある?」

 

「はたらきたくない。」

 

うーんこの…

 

「デスヨネー…じゃあアヴェンジャー、ちょっとこっちに…」

 

■■■…

 

こそっとアヴェンジャーに耳打ちして、魔術回路を起動。これで準備完了。

 

「藤丸君、合図したらアサシンに令呪使って強化して貰うよ。

よし、行けアヴェンジャー!」

 

■■■■■■ッッッッ!!!

 

合図とともに声高に吠えたアヴェンジャーが再び高速でチャージ中のセイバーの右側面から飛びかかる。

 

「甘いぞ…チャージ中なら身動き取れんと思ったか!」

 

そんな事はお見通しと言わんばかりにセイバーは笑って、チャージを速攻中断して応戦した。してしまった。

 

黒の聖剣がアヴェンジャーの胴体を真っ二つに分けた……ように見えるだろ?

 

「何!?これは…幻か!」

 

■■■■■■■■ッッ!!!

 

セイバーの()からアヴェンジャーが飛び込んで鎌刀を振るい、慌ててそれを防御したセイバーは剣を絡め取られ、取り落とした。

 

俺がアヴェンジャーに掛けたのは、見たものが左右対称に映し出される幻術、そしてセイバーがアヴェンジャーを目指した後遅延で発動させたのは昔なんかの潜入ゲームやった時に思いついた、『体の表面を背景と同じにする』幻術。これ結構魔力食うから長続きしないんだけど、これの掛かったアヴェンジャーを見たセイバーは、本当はは左から攻撃する背景と同化したアヴェンジャーを右側で応戦し、隙を見せた。1回きりのねこだましみたいなもんだけど、隙を衝くには十分だ!

 

「今だ藤丸君、Xさんを!」

 

「分かりました!令呪を持って命ずる…

セイバーを倒せアサシン!」

 

「了解、私以外のセイバーぶっ殺す!」

 

令呪を使用するとXさんの周りに青い魔力の渦が生まれ、2本の剣が輝きだすXさん。さっきのセイバーがやってたような魔力放出でぶっ飛んで一瞬で肉薄し、嵐のような連続攻撃を叩き込む。

 

そして…

 

「セイバーは私1人で十分だ…!消えろコンパチっ…無銘勝利剣(えくすかりばー)ァァァ!!!」

 

乱れ飛ぶ斬撃がセイバーに突き刺さり、地面に巨大なバツの字を作り上げた。

…貴女アサシンですよね?

 

空洞内に大きな衝撃が走る、勝敗は決したみたいだ。黒いセイバーはあれだけのダメージを負いながらも自力で立ち上がり、お前達の苦労はここからだと言って消滅していった。

 

 

「おお!?どうやら聖杯戦争はここまでみてえだな。」

 

そう言って光の粒子になって消えていくキャスター兄さん、そういえばこれ聖杯戦争だったね。結果的にキャスター兄さんが生き残ったから勝者が決定してシステム自体が終わりを告げてるのかな。

 

「次は本職の方で呼んでくれよ、頼むぜ。じゃあな!」

 

「はい!クー・フーリンさんもお元気で、お世話になりました!」

 

体力を取り戻したマシュちゃんがお礼を言って、俺達も手を振って別れを告げた。

 

 

ズシンと大きな振動が響き、地面が揺れ始める。途端にカルデアからの通信が!それ急に来られるとびっくりするよ、ドクター。

 

『無事セイバーは倒したみたいだね、それによってその特異点は終わろうとしてる。

カルデアスもなんとか復旧したから大至急皆をレイシフトさせるよ!』

 

カルデアスって便利なタクシーみたいだな…

 

「その言い方は酷いと思うぞ下僕。」

 

その時

 

 

 

パチ…パチ…パチ…

 

揺れが一旦収まって静まり返った空洞に短い拍手が響く。

小山のようになった大聖杯の上に誰かいた、見覚えがあるぞ……アンタは…

 

「レフ教授…?」

 

『レフ?レフ教授だって!?』

 

「レフ!?無事だったのね!」

 

喜びのあまりレフ教授に駆け寄っていくオルガマリー所長。でもなんだろ?前に見た時より雰囲気が()()()()()だ。

 

「ほおう…あの男…」

 

魔王様もニヤニヤしながらレフ教授を見てる、十中八九嫌な予感しかしない。

 

それから俺たちはレフ教授の裏切りを唐突に告げられ、仕掛けた爆弾で本当はオルガマリー所長が既に死んでいると知らされる。肉体のなくなった所長はこの特異点と一緒に消滅してしまうらしい。

真っ赤になった擬似天体カルデアス。人類は皆死に絶え、人の歴史は2016年で幕を閉じた。と。

 

「ではさらばだオルガマリー、カルデアスに飲み込まれ永遠に苦しみ続けるといい。」

 

「そんな…止めてレフ…!嫌よ…嫌よ嫌よ嫌よ嫌よ嫌よ嫌よ嫌よ嫌よ!!!

まだ私…誰からも認められてない!

まだ…アイツからしか褒めてもらってないのに…」

 

泣きながら叫ぶオルガマリー所長をマシュちゃんと藤丸君は呆然と見つめてる。

二人の魔力はセイバーとの戦闘でもう空っぽだ、助けようにも助けてやれないだろう。

 

でも、俺にはまだ戦力がいる。

 

おそらくこの世で最も最凶で、最狂で、最強な

 

魔王が、いる

 

「…()()、一生のお願い聞いてくれるか?」

 

「言うと思ったぞ、()()

だからお前はあまちゃんなのだ。停滞を望み、進歩を辞めて、ぐうたら努力しないのが性分じゃ無かったのか?」

 

「今回もそうだよ。

俺はこのまま所長がカルデアから居なくなるという変化を拒む。だからこれは、壊れかけの幽霊を1人救うだけ。」

 

「魔王の私にものを頼むという事は…分かっているな?」

 

「………魔王のお気に召すままに。」

 

「3日だ。私に全て捧げろ、それで手を打ってやる。」

 

「………あこぎだなぁ。」

 

「これでも大分まけてやった、本当なら魔人にして永遠に私の奴隷にしてやるところだ。」

 

「ワー魔王様は優しいナー…」

 

「あと……いや、これは帰ってから言おう。

楽しみにしておけ。」

 

「猛烈に嫌な予感しかしない…が、そろそろ始めよう。

アヴェンジャー、令呪を持って命ずる。

『所長をこっちに連れてこい。』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッッ!!!

 

有栖宮さんのサーヴァント、アヴェンジャーの咆哮でパンクしそうになっていた頭が一気に冴えた。

人類滅亡、人理の終了、レフ教授の裏切り、色んなことがいっぺんに起き過ぎて、俺とマシュは固まってしまっていた。

 

高らかに吠えたアヴェンジャーは高速で…というか瞬間移動してカルデアスに取り込まれかけてたオルガマリー所長の手を掴み、引き剥がした。片脚は取り込まれ無くなってしまってるが、オルガマリー所長は無事だ。良かった…

 

「所長!」

 

「オルガマリー所長、無事ですか!?」

 

「あ…有栖宮、私を助けてくれたの?」

 

「といっても所長は既に死んでるらしいですけどね。アレに取り込まれると生き地獄なんでしょ?降霊術の生まれとしては、魂の安寧を手助けするのは当然ですから。」

 

飄々と言ってのける有栖宮さん、こんな時でもいつもの調子だったけど、どこか雰囲気が違う。

多分、怒ってるんだ。

 

「チッ、後一歩だった所を…まあいい、計画に狂いは「敵前で何をのんびり喋っとるかこの肉塊は」何っ!?」

 

多分『ボンっ!』とか『キュボッ!』ていう音がしたんだと思う。

何かが破裂したような音が響いて、さっきまで有栖宮さんの隣にいた『魔王さん』が一瞬でレフ教授の前まで迫っていた。

 

「人類を滅ぼされるのは困る、奴らには不完全なまま生きていてもらわないと私が弄べないからな。」

 

「貴様…何者dッッ!?

なん…だと…!?」

 

驚愕するレフ教授、そりゃそうだ。

魔王さんの腕のたったひと振りで、レフ教授の腰から下は消し飛んだのだから。

 

「ん、本体はこれじゃないっぽいな。

この私の前に使いっ走りを寄越すとは…

ムカつく、消えろ。『黒色破壊光線』。」

 

「なっ…キャバッ!?……」

 

魔王さんの手から放たれた黒い極太レーザーが残っていたレフ教授の身体を消し飛ばした。それどころか洞窟を貫通してこの場所が崩れかかってる!?

 

『……!………!やっと繋がったよ!

全然大丈夫じゃなさそうだね、君たちの座標を固定したから今すぐ帰還させるよ!』

 

まるで照らし合わせたようにドクターロマンから通信が入る。思い返せばこの時からカルデアの残念通信が始まったのかも知れない。

 

「でもオルガマリー所長は…」

 

「……所長、少しの間お別れです。」

 

「ふんっ…まあ取り込まれそうになったのを咄嗟に助けくれたのは感謝してるわ。い、言っとくけどそれだけだから!

藤丸、マシュ、聞きなさい。」

 

「はい。」 「はい所長。」

 

「人類の歴史は終わり掛けてる、貴方達とカルデアスタッフ全員に伝えるわ。

亡き私に代わり、我がアニムスフィア家のグランドオーダーを貴方達に託します。カルデアスを修復し、人類をもとの形に戻しなさい。これは最期の所長命令よ!」

 

そこの馬鹿も存分に扱き使っていいからね!と有栖宮さんを指さして言う所長。

そういう間にも俺、マシュ、有栖宮さん、魔王さんの身体が消え掛かっている。

 

「レイシフトね…いい?最後まで絶対に、止まるんじゃないわよ!」

 

「はい!ありがとうございました、オルガマリー所長っ!」

 

「絶対に…私達で成し遂げて見せます!」

 

「所長、もうちょっと辛抱して下さいね。直ぐに会いに行きます。」

 

最期まで気丈に振る舞うオルガマリー所長に見送られながら、身体が中に浮くのを感じて俺は意識を手放した。

 

え、有栖宮さん。直ぐに会いに行きますって、どういうこと?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

壊れかけの空洞内、崩れ落ちる瓦礫を見ながら、私は岩に座ってもうすぐ死んでしまうこの世界を眺めていた。特異点がなくなれば私という意識は消滅してしまう、私は既に死んでいて、魂はここにあっても帰るべき肉体(入れ物)がないからだ。今までの出来事が、頭の中を走馬灯のように駆け巡る。

 

「消えたく…ないよ…」

 

つい言葉に出してしまった、ボロボロととめどなく涙が溢れ出る。みんなのいる前では辛うじて平静を保ってたけど、本当は泣きたかった。なんで私が死なないといけないのか、子供みたいに泣きじゃくって喚き散らしたかった。でもなんとか頑張れたわ。

だから私を褒めてよ…頑張ったのよ…ねえいつもみたいに…有栖宮ぁ…

アイツはカルデアにいる間、あのバカはことある事に私の前までやって来て、何かしら理由をつけて私を褒めてくれた。

「その若さで皆を取りまとめられるなんて凄い。」

「死んだ父親の夢を継いでるなんて凄い。」

「所長はいつも頑張ってる。偉い、凄い。」

理由はなんでもいい、とにかく褒めてくれた。鬱陶しいことこの上なかったけど、思い返せば私は所長の職に就いてから一度も誰かに褒めて貰うことなんてなかった。

魔術師として必要なマスター適正を持たない、親の七光りで所長の座に就いていると、ほかの魔術師達からいつも陰口を叩かれて、挙句Aチームのキリシュタリアの方が所長に向いていると比べられて、誰も私を見てくれようとはしなかった。

でも有栖宮に褒められて、頭を撫でられると、昔お父様と過ごしていた時間を少しだけ思い出す。初めて魔術を行使した時、お父様はしこたま喜んで私の頭を撫で回したりだっこしたり、とにかく褒めてくれた。そんな姿を見るのが嬉しくて、私はますます魔術に没頭していった。アイツといるとそんなキラキラした記憶の一欠片を思い出す。

 

そうだ…私は…

 

「ただ…褒めて欲しかっただけなのね…」

 

魔術師の目指す〝根源〟への到達も、お父様から託された一族の使命も関係ない。

 

「一言くらい…お礼言っとけば良かったわ…」

 

 

 

 

俯きそう呟いた時、魔術炉心ごと洞窟が崩れ落ちてきて、世界が潰れる音がした。






これにて序章終了、エピローグはまだ書いてないのでこれから(デデドン!(絶望))

Fateシリーズの深い深い歴史と設定を本作品で取り扱うにあたって、原作との差異やらキャラの崩壊がある事でしょうが、最初にも言った通り主はFateシリーズ、ランスシリーズが好きなだけ、にわかと称されても文句言えないクソザコナメクジなので、「この違いはFate的におかしい!」と思った人は左フリックでページをサヨナラするか、ブラウザバックでもっと原作に忠実な作者様の作品を読む事を推奨します。幸い、Fateシリーズはハーメルンでも数多のSSが揃っていますので、広い広い海の中から新たな作品を新規開拓するのもいいゾ。

頂いた評価、ご感想は高い、低い問わずありがたく受け取っております。一作品の作者として素直に嬉しいです、皆に見てもらえてるって実感できます。好き(直球)

ちな主の初アリスソフトはランスではなく、『大帝国』でした。外道とか言わないで。
エロもいいですがシュミレーションゲームとしてとても楽しめて、後にランスシリーズに手を出す切っ掛けを与えてくれた作品です。ジルさまは幼女姿も好きですが10の大人バージョン立ち絵が尊すぎて…ありがとうアリスソフト、パッチでジルさまルートはよ。

当初は単発で終わらせる予定でしたが、主が黒塗りの高級車に追突しない限り続くと思います。更新が止まったら…なあ?(暗黒微笑)


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6話 全裸徘徊都市冬木エピローグ



しっっっっっぽり……




 

 

人理継続保障機関フィニス・カルデア。名門、アニムスフィア家が管理するこの極秘機関は、裏切り者レフ・ライノールによる爆破テロにより多大な損害を受けた。

所長であるオルガマリー・アニムスフィアの死亡、動員された49人のマスターのうち、47人が生死不明の重傷を負い離脱、更に擬似天体カルデアスに突如現れた7つの特異点。

世界から孤立したカルデアは、文字通り人類最後の砦と化したのだった。

 

その傷も癒えぬまま、冬木より帰還した生き残りのマスター達は、カルデアスの前に送還され、ドクターロマンより暫しの休息を言い渡される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーと、この機材はどっちに…」

 

「ああ、それは司令室行きだね。重そうだけど大丈夫かい?」

 

「いえ、デミサーヴァントになってから力も強くなりましたので、このくらい盾より軽いです。大丈夫ですよ。」

 

「そうか、じゃあお願いしようかな。気を付けてね。」

 

「はい、お任せ下さい!」

 

カルデアの中をスタッフの方々が忙しなく動き回ります。私も邪魔にならないように機材を部屋の端まで移動させて、司令室まで運ぶことにしました。

レフ教授の裏切りがあって丸一日が経ち、カルデアはまだ復興に時間が掛かるらしく、マスター二名には待機命令が出されました。でも先輩と私はいてもたってもいられなくて、こうして復興のお手伝いをさせて頂いているのです。

 

「藤丸君ーこっちの書類を運ぶの手伝ってー!」

 

「はーい!今行きますー!」

 

先輩もあくせくとカルデア内を走り回ってお手伝いです。…これはある意味先輩との初めての共同作業なのでは?

 

「そういえばキリエライト君。もう1人のマスター、有栖宮君はどこへ?」

 

司令室に機材を運び込んで一息ついていると、作業員の1人…ムニエルさんに呼び止められました。

先輩の言によると、有栖宮さんはこちらに戻ってからというもの、部屋に篭って一度も外に出ていないそうなのです。

 

 

「魔術師ってのは籠り症だな…まあ、こっちも君達にこれから先頼りっぱなしになるんだろうし、文句言えないか。」

 

「でも一日中部屋から出ないのは心配ですね…ここが片付いたら様子を見に行って来ます。」

 

「そうかい、宜しく頼むよ。彼ら二人が人類最後のマスターなんだ、身体は大切にしてもらわなきゃ。」

 

はははと笑うムニエルさん。

そうです、人類が終わりを告げた事により、カルデア以外の人間は世界中から消え失せ、最早この地球に存命しているのは私達のみとなりました。考えれば考えるほど絶望的な状況ですが、こんな時こそ諦めてはいけないのです。それに、きっと先輩や有栖宮さんならどんな困難も乗り越えて行けるはず!

 

 

………………………

 

 

片付けも一通り終わったので、もう夕刻になりますが有栖宮さんのお部屋を訪ねて見ることにしました。

確かそこの角を曲がれば有栖宮さんのお部屋がある筈なのですが…あれ?扉の前に居るのは…アヴェンジャーさん?

冬木の地で緊急の戦力として有栖宮さんが喚び出したサーヴァント。先輩のアサシンXさんとは違い、不完全な霊基で召喚され、消え掛けの所を有栖宮さんの付き人(?)である「魔王さん」の力によって補強された未知の英霊です。

大きな狼と首なしの男性のペアで、残念ながら言葉を喋れないため真名は分かりません。正直いってヒロインXさんも真名なのか怪しいのですが…

直近だとフォウさんが狼さんとよく一緒に居るのを見かけます。

 

「あの、アヴェンジャーさん。」

 

私が呼び掛けると首なしさんがくるりと身体を向け、狼さんは睨み付けるようにこちらを寝たまま見つめてきました。ちょっと怖いです。

 

「有栖宮さんはお部屋ですか?昨日も丸一日部屋から出ていないそうなので心配で…」

 

すると、首なしさんがどこからかフリップボードを取り出して何か書き始めました。暫くすると書き終わったそれをこちらに見せてきます。なるほど、喋れないから文字で表現するのですね。

 

No entry(立ち入り禁止)

 

凄く綺麗な文字でそんな事が書かれていました。

立ち入り禁止…?

 

「何故入ってはいけないのですか?」

 

「………」キュキュキュッ

 

Contract with the Lord(マスターとの約束)

 

アヴェンジャーさんは有栖宮さんに頼まれて部屋に来る方を追い返しているようです。何故そこまでして人払いを?

…まさか。

有栖宮さんは降霊術を使役する家系の生まれだそうです。降霊術とは数ある魔魔術の中でも神秘の秘匿を最も重んじる門外不出のものと聞きます。それを密かにおこなっているのなら部屋に誰も入れないのにも納得がいきますね。

 

「有栖宮さん…」

 

私が感心していると、首なしさんが再びフリップボードに何かを書き始めました。

 

Tell later if there is a toothpick(用事があるなら後で伝える)

 

「本当ですか?でしたら…籠りきりで皆心配しているので、余裕が出来たら顔を見せて下さい。と伝えておいて頂けますか?」

 

『OK』

 

アヴェンジャーさんがそう書いたのを見てひと安心し、挨拶をしてその場を後にしました。

…有栖宮さんも、仲の良かったカドックさんや所長を失って、色々と思うところがあるのかもしれません。無理に会おうとするのは逆効果な気もしますし、気持ちの整理が着くまでそっとしておきましょう。先輩やムニエルさん達にも伝えておかないと…

 

それから有栖宮さんが部屋から出てきたのはかれこれ2日ほど経ってからでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ん……今外にデミの娘が来ていたな…

んっ…(しもべ)が追い返したみたいだが……」

 

「それより魔王様ぁ…流石にちょっと休憩…しませ…んっ…?」

 

「槍一の分際でぇ…っ…戯言を言うなぁ…あっ…まだ時間は半分も経ってないぞ。」

 

「承諾しといて何ですけど…幾ら回復魔法掛けられてもやっぱ3日耐久はきついなって。精神的に…」

 

「文句言うな、この私に頼み事しといて無事で済むと思うなよ…今度はお前が上になれ。残り49時間と27分、まだまだたっぷり絞ってやる♡

あと今は名前で呼べって言っただろ馬鹿。」

 

「ごめんなさいごめんなさいジル様許して下さいこれ以上締め上げないで俺の息子が壊れた蛇口みたいになるぅぅ〜…」

 

 

あああああとても一般向け小説では表現出来ないような卑猥な事されてるうううううう…

 

 

ねっとりしっぽり搾られることかれこれ1日と少し。冬木の地での『頼み事』の代償として、こうして魔王様と三日間耐久夜のプロレスごっこ大会に興じる羽目になってしまった。

今も絶賛搾られ中。枯れそうになる度に魔王様が回復魔法を掛けてくるので腹が減ることもなく、さながら無限地獄のような甘い拷問を享受している。

回復魔法ってだけで魔術師の間では奇跡に等しいモンらしいんだけど、魔王様は湯水の如くホイホイ使う。他に使う気はなかったんでしょうか、無いでしょうね、魔王だもんね。

でもなんか、いつもと違って今日の魔王様はただ搾り取るってよりは、何となく「愛されてる」って感じがする。繋がってる時もとにかく手を繋ぎたがるし、キスや頭ナデナデをせがんでくるし…正直いって超カワイイ。急にデレた。甘えてくる魔王様マジ天使。

一体どうしたというんだぁ…?

 

「…槍一、お前の心も身体も全て私のものだ…絶対に…。

お前だけは…裏切らないでくれ…ずっとずっと…私のそばにいろ……。」

 

耳元でそう囁く魔王様の声は少しだけ震えてる気がした。

裏切るも何も、15年前からずっと、俺の大切な人はジルだけだ。彼女がもとの世界で幾ら人を傷付け、壊していようとも、俺の見てる魔王ジルは只の態度のでかい1人の女の子。あと全裸。それ以外の何でもない。

人類が終わり、世界を焼却されたくない理由があるとすれば、それはジルとの何でもない平和な日常を死ぬまで一緒に過ごしたいからだ。一緒に過ごしたあの安アパートで一緒に暮らすだけでいい、俺がジルから離れる事は生きてる限り絶対にないだろう。寧ろジルの方から俺に見切りをつけて、ある日突然居なくなるって事態が起きるのを恐れてる。たった一人の相棒を失いたくはない。これは『愛』なのか、ただの『依存』なのかははっきりしないけどね。

 

「俺がジル以外を見るわけないでしょ、また立川の安アパートで一緒にゴロゴロするんすよ。」

 

「ふん…当たり前だ、それは譲らん。

さしあたってあのレフとかいう肉の塊には相応の死をくれてやる。

………次は風呂だ、行くぞ…!」

 

超元気になったジルに風呂へ連れ込まれ……あー不味いですこの人今度は風呂で搾る気満々です誰か助けてー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

えー、皆様おはようございます。

炎上都市から帰還後、速攻でマイルームに連れ込まれ、全裸の魔王に魔力を搾取される事3日。漸く解放された悲劇の主人公、有栖宮です。

 

この3日ほどで聴いたものは魔王様の嬌声と、ピンクな擬音しかございませんでした。ええ。カルデアの防音がしっかりしてて本当に良かったですはい(切実)。

正直脳みそ溶けるかと思った。

寝てる時も繋がったままとかやべえよ、魔王様のすべすべ肌恐ろしい、病みつきになる。理性とか数秒でメルトアウトして猿になるよ。というかなった。

 

長い長い72時間が終わり、いつものようにピロートーク交えながら魔王様を風呂で洗ってさっぱりしたところでアヴェンジャーからマシュちゃんが心配していたと報告を受けた。予め渡しておいたフリップボードのお陰で難なく意思疎通が出来たらしい、これからも使いそうだしあげるよそれ。

 

「いい加減食堂にでも顔を出さないと心配されるかな…」

 

「む…私も行くぞ。」

 

そう言って魔王様は影に入って、アヴェンジャーものそのそ後から付いてくる。

 

食堂に着くと丁度マシュちゃんと藤丸君が朝食を取っていた。そしてキッチンに立っていたのはどっかで見た事がある白髪褐色のお兄さん…

 

「あ、有栖宮さん。おはようございます!」

 

2人とも今日も元気で大変結構、素晴らしいね。これが若さか…

 

『いやお前と4つくらいしか変わらんだろ。』

 

気持ちの問題だよ、気持ちの。

こちとら小卒の魔術師崩れですよ、親の愛情?学舎で勉学に励む?なにそれ、漫画や雑誌の中の出来事じゃない?

 

「おはよう2人とも。ごめんな、3日も閉じ篭って…」

 

「いえ、有栖宮さんには有栖宮さんのお考えがありますから。私達は応援しています。」

 

「マシュから聞きました、槍一さんは3日も部屋に篭って魔術の研究をしてたって。凄いことだと思います!」

 

えっ

 

「やあやあみんな、お揃いだね。

有栖宮君も、3日も研究に没頭していた割には元気そうでなによりだ。」

 

えっえっ…

 

現れたのはなんかゴテゴテした服装に杖持った女の人、ていうか冬木でディスプレイ越しに見たおねーさん。確かダ・ヴィンチだったっけ?ていうか何?研究?

 

「貴女がこの前見たレオナルド・ダ・ヴィンチ…女だったんですね。」

 

「ん?いやいや私はれっきとした男さ。でもたとえ男でも、こっちの方が美しいだろう?好みに合わせて霊基を弄るなんて、この天才には容易い事さ。私の事は気軽にダ・ヴィンチちゃんと呼んでくれたまえ。」

 

といって胸を張るレオナルド・ダ・ヴィンチ(♂)

て、天才の考えることってよく分からないや…

 

「それにしても君が…いや、君と一緒にいる『彼女』がそこのアヴェンジャーの霊基を強化したんだね?実に興味深いよ!」

 

『…………』

 

魔王様だんまり。まあ人間嫌いだし、人類の英雄たるサーヴァントの事もよく思ってないだろう。

 

「ウチの魔王様はシャイなんでその辺にしといてやって下さい。それよりも聞きたいんですが、なんで特異点に居たアーチャーがキッチンで料理作ってんですか。」

 

「ああそれはね、彼はカルデアから召喚されてここに居るのさ。もう敵じゃないよ。

彼、料理がとても上手くてね。藤丸君に頼んで貰ってカルデアの炊事を一手に担ってくれてるのさ。」

 

いやー彼の作る料理美味しくてねーつい食べすぎちゃうよ。と笑いながら話すダ・ヴィンチちゃん。どうやら彼はもう敵じゃないようだ。

アヴェンジャー、ステイステイ。警戒しなくていいからそんな牙剥かないで。

 

■■■…………

 

『正直全員喰い殺してやりたいって言ってる。』

 

えっ、なんでそんな物騒なこと考えてんのアヴェンジャー(狼の方)。

 

『そりゃ此奴の生きる原動力が人間への憎悪だからさ。』

 

何このサーヴァント物騒、魔王様みたい。

 

『私は嬲って苦しめたい派だ、一緒にするな。

だいたい、先代魔王みたいに無差別殺人なんて単調すぎて芸がない、ナンセンスだろ。』

 

魔王って人類に危害を与えないと死んでしまう病気にでも掛かってんの?怖い。

 

『だいたいあってる』

 

怖い(強調)

 

「憎いのは分かったから今はステイな、アヴェンジャー。」

 

ぐるると唸ってそっぽを向いてしまった。ワガママ狼さんめ。

 

「ああそうだ。藤丸君には2日前に伝えたけれど、有栖宮君にはまだだった。

今私たちの置かれている現状を説明しよう、心して聞きたまえ。」

 

それからダ・ヴィンチちゃんは教えてくれた。人類史は焼却され、世界中から人間が消滅、かろうじて残ったのがこのカルデアという施設のみになったということ。先の冬木のような特異点が他に7つ、それぞれどこかの時代に存在しているということ。

そして俺と藤丸君がこの世界の存亡を掛けてその特異点を攻略しなければいけなくなったこと。

 

マジか

 

「しがない小卒労働者に世界を救えって、万能の天才は酷な事を仰る…」

 

「えっ君小卒だったんだ。」

 

義務教育過程終えてませんからね、小学校に入って数ヶ月で魔王様現れて皆殺しカーニバルだったし。帰る家とか無くなって学業どころじゃなくなった。一応独学で学んでるから一般的な漢字やら計算はできますよ?

 

「魔術社会と現代社会の闇に挟まれてるね君。」

 

ハッキリ言わないで悲しくなる。

 

「まあ俺に拒否権なんて無いでしょう。特異点を7つ修復して、人類の歴史を取り戻す大冒険に出発ですよ。ハハッ」

 

「ようし顔が笑ってないぞ!まあこれで2人とも承諾はした訳だし、カルデアスが安定し次第レイシフトしてもらう事になる。その時は宜しくね!」

 

「はい!」「はいっす。」

 

「じゃあさしあたって有栖宮君には戦力を増やして貰おうかな。藤丸君はもうやったんだけど…」

 

そういうダ・ヴィンチちゃんに連れられて俺達は食堂を後にした。

あっ、美味いと評判のアーチャー飯を食べるのすっかり忘れてた。また来よう。

 

 

 

カルデアの英霊召喚ルーム。マシュちゃんの盾を使い、座に居る英霊をランダムで召喚する画期的なシステムなんだって。

現界する魔力はカルデア負担で、マスターにまでは及ばないらしい。でも俺の場合、魔王様がくっついてるから魔力の質とか流れがおかしくて、カルデアの魔力供給を上手く受けられないと言われた。悲しみ。

対する藤丸君はカルデアと相性バッチリで、何体でも呼び出して使役できるんだってさ、すげえ。こんなところにも格差が…

 

「有栖宮さんには魔王さんが付いてるじゃないですか。」

 

「そーは言っても藤丸君、コンセントのタップだって多い方が使い勝手がいいと思うでしょ。」

 

「なるほど…」

 

さながら俺が市販のコンセントなら、藤丸君は業務用コンセントだな。三つ穴とかを10本くらいさせるやつ。

 

『浮 気 は ゆ る さ ん』

 

それにこっちは魔王様(専用の繋ぎ先)がある、愛が重い!

 

 

「言ってしまえば藤丸君が善性寄り、有栖宮君は悪性寄りだ。マスターとサーヴァントは性質が似通った者が選ばれるそうだから参考にね。」

 

悪性って…完全に魔王様に引っ張られてません?

 

「じゃあ取り敢えず回しますか…」

 

召喚の口上は例の如くカットして、召喚陣が光り出す。

 

三本の輪が金色に輝いて、グルグル回って光の中から現れたのは…

 

「汝がマスター…か。

我が名はアタランテ、此度はバーサーカーでの現界となった。

全て燃やし尽くし、何もかも喰らい尽くしてやる…!」

 

銀髪猫耳。ふむ、属性をだいぶ盛っているな。尻尾がピコピコ動いてるから尻に詰め物(意味深)してるってわけじゃないだろう、そんな英雄嫌だ。

 

『え、初めて見た感想がそれか?…頭パーになってないか?大丈夫かお前?』

 

何をおっしゃる魔王様、俺はこれで通常運転ですよHAHAHA!

『搾り過ぎたかな…』って本気で心配するのやめて、心がもたない。

 

「へえ!ギリシャでも名のある弓の名手、アタランテのお出ましとは、なかなかの英霊を引き当てたね!」

 

「宜しくなーアタランテ、マスターの有栖宮槍一だ。長いから槍一でいいよ。そんでこっちがアヴェンジャー。」

 

「エクストラクラスを喚んだのか、酔狂な事をするな…」

 

「そんで…ホラ魔王様出てきて挨拶して。」

 

『嫌だ、猫娘に用はないから勝手にやってろ。』

 

「今の声はどこから…?」

 

「んー、英霊とはまた違うんだけどね。魔王様は本人の気が向いたら紹介するよ。」

 

「魔王……?分かった。本人の気が向いたらでいい。」

 

アタランテはちょっと戸惑ってたみたいだけど、そのうち慣れるよ(優しい瞳)

 

アタランテは確か古代ギリシャの英雄で弓の名手あと足がめっちゃ速いんだっけ?そんで子供を無下に扱うのがNGだったはず。史実はそんな感じだったから英霊になっても子供には敏感に反応するんだろう。ましてやこの人アーチャーじゃなくてバーサーカーだし、怒らせたら手がつけられなさそう。

 

『そうか、その女は子供が弱点なのか…くくくく…』

 

はいそこの魔王物騒なこと考えない、パーティの雰囲気は大切にしなきゃダメでしょ。

 

 

そんなこんなで無事バーサーカーと契約を結んだ。これからよろしくね。

 

 

後で一緒にマリパしような、うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「因みに藤丸君は契約したのは台所のアーチャーだけ?」

 

「いえ、冬木でお世話になったキャスター、クー・フーリンが正規クラスのランサーで来てくれました。それから黒くない騎士王様も。あの人、アルトリアって名前なんですね。」

 

「やっぱ君は業務用だね…一般家庭用の俺とはキャパが違うんだ。ここにも悲しい格差が…」

 

「ええ!?あんまり関係無いと思いますけど…」

 

その時、すごい勢いで騎士服姿の女性が飛び込んできた。顔はすごいXさんに似てた。

 

「マスター!何とかして下さい!

さっきから私にそっくりのアサシンが背中を刺そうと追いかけてくるのですが!?あれは一体なんなのですか!新手のドッペルゲンガーですか!?」

 

「ン見つけたぞセイバー!初期鯖である私に許可もなくマスターに近づくとは何事か!早くその首寄越せオラァン!?」

 

「ひぃッ!?見つかった!」

 

「と、とにかく2人とも落ち着いて…」

 

何処と無く既視感があると思ったらこれ、青狸の出てくる漫画でこんなシーン見たわ。

「きゃあ!じぶんごろし!」って奴。

 

あー…なんだろ、藤丸君に女難の相が見える…

 

あれま、どうも台所のアーチャーさん。

え?恐らく今君と同じ事を考えている?どうしたんスかその悟ったような儚い…まるで自分の過去と向き合ってるような悲しい瞳は。

 

「ま、懐かしい顔ぶれだわな。」

 

いつの間にかランサーも現れて、同じ顔の2人が藤丸君の周りをグルグル回りながら追いかけっこしてるのを眺めてた。






オルガイツカマリー所長のフラグはもうちょい先に回収するんじゃよ


さあ次はオルレアンだ、マテリアル読み直そ


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7話 竜と聖女と全裸魔王



★有栖宮槍一
当作品の主人公、魔王のヒモ系男子。
魔王様専用肉便k(それ以外いけない)、主な役割は魔王様に魔力を搾られること。今日も唐突に魔力供給(意味深)をさせられる。
でも本人はまんざらでもない。

★魔王ジル
1000年もの間、発想が部下にドン引きされるくらい人間に酷いことした五代目魔王。歴代の魔王達は皆それらしい装束を着ているにも関わらず、何故か彼女だけ全裸。
人間大嫌い、どうやって人間をいたぶってやろうか常に考えてる。そのせいで部下で愛人だった奴からぶっ刺されて異空間に幽閉された。
今となっては魔王としての能力は全盛期の5%程しか使えないが、不死性と無敵結界は健在。異空間に居た間に塵のように細かい魔力を吸収していたので素でもトップサーヴァントとタメ張れるくらいの強さはある。それに有栖宮の魔力を加算して強化、魔法を行使する。ただし燃費が悪く、魔力供給をする為ことある事に有栖宮を襲う(性的な意味で)。
気に入った奴皆から酷いことされて裏切られてきたから人間不信になりそう、有栖宮が死んだら世界滅ぼすつもりでいる。全裸。

★魔人アヴェンジャー
元はライダーのサーヴァント、体長3mの狼とそれに跨る首無し男のペア。
英霊としては不完全な状態で召喚され、ジルの腕を食う事で魔人となり消えかけの霊基を補強されアヴェンジャーとして蘇った。
自分の妻を殺した人間は全員喰い殺したいくらい大嫌いだけど主人であるジルの命令は絶対なので我慢してるかしこいわんこ。オレ オマエ マルカジリ
上の人は影は薄めだが気の利くジェントルメン、ただし首がない。

★バーサーカー(アタランテ・オルタ)
有栖宮パーティ唯一の良心(になる予定)。通称バサランテ。
狂化を付与されながらもたいして狂ってない常識人。アタランテ・メタモローゼとも言われる、悲しきオルタ商法の被害者。
マスターのことは信頼しているものの、ジルとのただれた関係には一言申したい模様。
子供の話題は禁物、最悪噛みちぎられる。


 

 

 

見渡す限りの大草原…頬を撫でる爽やかな風…俺たちを包み込むようにさんさんと輝く太陽…そして…

 

gyaaaaaッッッ!!

 

異形の叫び声、ハイ。

 

『あれは!?ワイ「どっからどう見てもワイバーンです本当にありがとうございました。」有栖宮君!僕の台詞に被さないで欲しいなあ!?』

 

「あーあれバリバリ人間襲ってますわ、不味いですなー。藤丸君、助けに行く?」

 

「勿論!マシュ、行こう!」

 

「はいっ!」

 

主人公気質のある方々はワイバーンに襲われている人達を助ける為、駆けて行った。

そんで俺達はというと…

 

『あいつらにやらせとけやらせとけ。どうせ救ってもアヴェンジャーにびびって余計警戒されるだけだ。』

 

まあ確かに、体長3mある巨大狼が急に現れたら誰でも腰抜かすわな。それに鎌刀両手に提げた首無し男が乗ってれば尚の事。それにアヴェンジャーならワイバーンと一緒に人間まで殺しそうだ。

いやいや、そんな酷いことする訳ないよね?

 

…………プイッ

 

おいワンコこっち見ろや

 

「見たところ、どこかの村から逃げてきたのだろう。それにしても妙だな、此処は神秘など殆どない時代のフランスの筈だろう?何故ワイバーンがいる?」

 

「それがおかしいから『特異点』なんて言われてるんだろうね。こんな感じで所々おかしくなった歴史を正すのが、人類の歴史を取り戻すのに必要らしい。」

 

『ええ、その通りよ槍一。

だから……アンタも行って働けえっ!』

 

ヒステリックな怒鳴り声が懐かしいな、所長!

 

「そうは言ってもね所長、藤丸君や騎士王様がバッタバッタと英雄っぽく倒してるんですよ。放っといてもいいじゃないですか。」

 

はたらきたくないでござる。

 

その後所長にガミガミ怒られてる間に、藤丸君からワイバーンが片付いたと連絡が来たので渋々あの人たちに話を聞いてみることにした。

案の定アヴェンジャーには皆びびってたよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え?何故所長がいるのかって?

レフ教授の爆弾で木っ端微塵に吹き飛んで、崩壊する冬木と一緒に消え去った筈だろって?

 

残念だったな、トリックだよ…

 

お忘れかもしれないが、我が家は降霊術を主として行使し、死者との対話を目的とする魔術を研究してきた一族だ。

日本に昔からある『魂』や『言霊』など、スピリチュアルな部分を深く掘り下げ、最終的には『死者転生』、死人の魂を別の肉体に入れ替え、生き返らせる為の魔術を会得する。それが有栖宮の目的で、最終目標(グランドオーダー)だった。

 

死んだ人ともう1回話せたら、それはどれだけ幸せだろう。死に別れた恋人と、言い残した事があるまま死んでしまった家族と、ほんのひとときでも話せたら、それはどんな人助けよりも価値があり、尊い事だ。と、当時、名のある寺の住職だった有栖宮の初代当主は考えた。その延長線上に生まれたのが『魂の輪廻を人間の手で行う』というものだ。

初代も最初は人助けのつもりで始めたんだろうね、でも現実は非情だった。

人間の手で魂の輪廻なんて、日本の仏教会に右ストレートぶち込むような内容を大っぴらに喧伝したせいで、初代は追放された。

誰にも理解されず、山奥の村でひっそりと有栖宮は研究を続け、その過程で『降霊術』という、肉体から離れた死者の魂を一時的に別の依代に留める魔術を手に入れる。勿論魔術の基本である『等価交換』に則って、使用者には相応の代償が必要になるが。

 

降霊術はガキの頃、俺の親からさんざ教えられていたからやり方は知ってたのでそれを所長に使っただけ。才能ナシの、実に15年振りの実戦だったけどなんとか上手くいった。今や所長はカルデアのその辺に置いてあった、なんか包帯だらけの痛々しい熊のぬいぐるみに宿り、管制室からドクター達と一緒に俺たちのレイシフトを眺めている。喋るぬいぐるみだったので所長の声も聴けるよ、やったね!カルデアスに完全に取り込まれていたらこうはなって無かっただろう。

 

因みにその代償ってのが、降霊術の使用者は降ろしたい魂が肉体から離れていた時間だけ自身の寿命を削られるって事。しかも降ろしている間、使用者は常に魔力を垂れ流し、魔力が尽きれば寿命を蝕む。

降霊術とは言わば究極の奉仕、誰かの為に自分を犠牲にするある種呪いのようなもの。要するにだ、クッソ燃費が悪い。

所長が死んだのは俺が魔王様に色々搾られていた3日4日程前なので、俺の寿命はそれだけ減った事になるんだろう、多分。万能の天才様にこの魔術を説明する事により、降ろしている間の魔力はカルデアの負担にしてもらってるらしい。まあなんだ、所長が戻ってくるんなら安いもんだ。

色々と曖昧で申し訳ないが、俺も真面目に魔術に向き合ってたのは5歳までだし、もう滅んだ一族の魔術だ。色々と不明瞭な事が多い。

 

………魔王様、確か時の止まった異空間に自分でも覚えてないくらい長い間幽閉されてたって言ってたもんな。だから呼び出した時、動き出した分の寿命(時間)を憑代である俺以外の一族全員から持っていったわけだ。ひええ…くわばらくわばら…

両親には悪いが、非合法な事ばかりやってたから罰が当たったんだと思ってる。平気で村の子供攫って生贄にしようとするからな…それ助けた俺を今度は生贄にするっつって座敷牢に入れたりしたし…

 

『それで?あの避難民たちはなんと言ってたの藤丸。』

 

「なんでもワイバーンを率いてるのは火刑から蘇ったジャンヌ・ダルクらしいです。

彼女が指示を出して、村を襲わせてるんだとか。」

 

コミュ力天元突破の藤丸君が助けた人達から情報を持ってきた。流石。

ジャンヌ・ダルクといえば、この1431年から現代まで幅広く伝わる超が付くほどの有名人。村娘から救国の聖女の聖女とまで言われるようになった聖教者様だ。そんな彼女が何故ワイバーン引き連れてフランス襲ってるのか、コレガワカラナイ。

まああの人最後は民に裏切られて処刑されたし、復讐くらい考えてても不思議じゃないけどね。

 

『人の為に戦って、最後は人に裏切られて処刑された。無様な人生だな。』

 

けけけっと影の中で笑う魔王様、こんなだから悪性とか言われるー。

 

『何を言うか、悪こそ人の本質だ。

妬み、怨み、嫉み、僻み。自分を満足させる為なら容易く他者を蹴落とすんだよ、人間って奴はな。』

 

流石経験談は違うね。

 

『ふっふーん。』

 

 

 

 

 

 

 

そのあと向かった先の、襲撃に会ったのか壊れかけの廃れた砦で渦中のジャンヌ・ダルクとご対面。何故かバサランテ急に霊体化して隠れちゃった。

じゃあこの女を倒せば事件解決…と、思ったら、このジャンヌは善のジャンヌで、もう1人現れた悪のジャンヌがワイバーン達を仕切ってフランスを火の海にしようとしてるらしい。

善のジャンヌと悪のジャンヌ……それって魔人b『それ以上いけない。』

最終的には合体して究極完全体ジャンヌ・ダルクが現れ、この特異点を救ってくれるんだろう。楽しみだ。

 

「なにかものすごく変な誤解をされている様な気がしますが…藤丸さん同様、短い間ですがよろしくお願いします。有栖宮さん。」

 

あーはいはい宜しくー

 

『…私、こいつ嫌いだ。』

 

「えっ!?今の声は何処から…」

 

ずるり…と影の中から魔王登場、不穏なBGM流した方がいい?

 

「要らんわ、バカ下僕。

お前のその目、むかつく。ばーかばーか。」

 

「えぇ〜…」

 

何のひねりもないストレートな罵倒ありがとう魔王様、話拗れるから座ってようか。

ぷいっとそっぽを向いて、浮いたたまま魔王様は後から俺の肩を抱く。そこが定位置か。

善のジャンヌの言い分によれば、悪のジャンヌの手がかりを探すため、ラ・シャリテという都市に向かうそうな。そこへ行けば何か手掛かりを見つけられるかも、と思って藤丸君達と向かっていたんだけど…

 

『…!前方の都市、ラ・シャリテ近くに複数のエネミー反応よ。

ロマニ、解析早く!』

 

『ハイ所長!……て、あら?そのエネミー達、どんどんラ・シャリテから離れていく…』

 

「…ッ!?まさかッ…」

 

一人走り出す善のジャンヌ…ああもう面倒臭い、善ヌでいいわ。善ヌが何かを察知したみたいだ。まあ…だいたい想像はつくが…

その時、街の一角から赤い炎が燃え上がり、瞬く間に全体を呑み込んでいく。

焼き討ちか、どっかの三国武将が好んでやりそうな事だ。それにさっき聞いた煩い鳴き声もここまで響いてきた。

 

兵は迅速を尊びんぐだなこりゃ。

 

「アヴェンジャー、先行して街の様子見てきて。お前の速度なら1人くらいは間に合うかもだし。あと、殺すのは人間以外な。」

 

ヴヴヴ…と残念そうに唸ったアヴェンジャーが一層早く飛び出して、ものすごい速さで都市へと疾駆した。

 

「マスター、私も。」

 

「ほい宜しく、子供とか生き残ってたら保護頼む。そういうの得意でしょ?」

 

「…任せてくれ、この身は狂気に犯されていても、信念だけは曲げないつもりだ。」

 

そう言ってバサランテさんは霊体化を解き、自慢の脚で一足先に駆け抜けていく。

 

「じゃあランサー達も先に向こうへ…」

 

「待った藤丸君、君んとこのスーパー三銃士+αは出さないで。見たところこの聖女様、サーヴァントなのに魔力が非常に残念な事になってるし、護衛が居ないと戦闘厳しい。

それに……ほら来た!」

 

都市上部を旋回していたワイバーンのギラついた瞳がこっちを向いた。ギャンギャン言ってる、俺は食べても美味しくないぞ。

 

「ほらマシュちゃん出番出番、三騎士と一緒に藤丸君守って。ついでに俺も。」

 

「は、はい!戦闘開始します!」

 

「お願いマシュ、皆も頼む!」

 

「はいっ!」 「無論だ。」 「あいよっとォ。」

「セイバー…は居ませんか、残念!」

 

……………………

 

はえー三騎士すっごい、みるみるワイバーンがスライスされて30匹程襲ってきた奴らは皆テイクアウトされちゃった。

 

「骨が無ぇなあ、こんなモンかよ。」

 

「だが彼の言う通り、我々が居て良かったな。そこのルーラーは既にかなりの魔力を消耗しているようだ。」

 

「申し訳ありません…力不足で…」

 

露骨にしょぼんとする善ヌだけど今はさっさとラ・シャリテに行くのが先決、もうひとっ走りしましょうね~。ほら走った走った。

 

「ありがとうございました。槍一さんの判断に救われましたよ…」

 

いや、サーヴァント居なきゃマスターなんてクソザコナメクジだし。頼みの魔王様は基本働かないからね。『ふーん』ほらね。

苦笑いする藤丸君。もっと自信持ちなよ、君はきっと優秀なマスターになれる。マシュちゃんも慕ってくれてるし、サーヴァントとのコミュニケーションも欠かさないしね。

 

『…なによ…結構いい判断してるじゃない…有栖宮のクセに…』

 

『所長、マイク入ったままですよ?』

 

『…!?煩いロマニ!アンタ、マシュが藤丸の為に用意してた大福勝手に食べて証拠隠したのばらすわよ!?』

 

『それ既にバラしてますよね!?公開処刑ですよねぇ!?』

 

「……ドクターロマン、後でお話があります。逃げないでくださいね。」

 

君ら結構余裕だね!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これはひどい

 

ラ・シャリテに到着後、そこで俺達が見たものは地獄以外の何物でもない。

建物は殆ど破壊されていて、そこらじゅうで肉の焼け焦げた臭いが漂ってて吐きそうだし、オマケに死んだ人間がアンデッドになって徘徊してた。

うーわ敵さんから垣間見える明確な殺意ですよ。苦しめる為に襲ったのね。はい魔王様ウキウキしないの、不謹慎でしょ。

 

「そんな…ラ・シャリテが……」

 

「アヴェンジャーとバサランテは何処に行ったんでしょうね、生き残りがいるといいんですが…」

 

つってもこの現状だと生き残ったら生き残ったで辛いだろうなあ、寧ろ全滅してた方が俺たちにとっちゃ荷物が増えなくて有難いんだけど…なーんて、藤丸君の前では絶対言えない。あの子は救えるもん全部救おうとするだろうしな。一縷の望みに賭けて2基を先行させたけどどうなってるやら…

 

「マスター、ここに居たか。」

 

おっ、バサランテさんオッスオッス。

………その手ぇ繋いでる子どもは?

 

「死にかけの街で見つけた希望だ。

アヴェンジャーと私でワイバーンとアンデッドはあらかた始末した。」

 

そう、ご苦労様です。アヴェンジャーもどっかいるの?

 

「少し歩いたところに避難施設があってな、生き残っていた30人ほどの街の者が集まっていた。アヴェンジャーにはそこの安全を確保してもらっている。

…まあ、少し驚かせてしまったが…」

 

気まずい顔をするバサランテ。ああ、アヴェンジャーを見ちゃったからか。そりゃビビる。アイツの見た目なら地獄の使いとか言われても信じるわ、信心深いフランス国民なら尚更。

 

「今も怯えられていてな、悪いんだがマスターから説明してやってくれないか?」

 

おっけおっけ、説得ね。

 

「藤丸君、聖女様をお願い。

俺は生き残りが集まってる施設へ行くから。」

 

「はい、お願いします。槍一さん。」

 

藤丸君にそう告げて、バサランテに案内されながら街の奥へと向かう。

 

「あっ…貴女は…」

 

「…ふん、行くぞマスター。」

 

善ヌさんがバサランテに何か言いたそうだったけど、無視してさっさと行ってしまう。

 

『えっと、テステス。有栖宮君きこえるかな?』

 

歩いていると急に目の前にディスプレイが出てくるのは心の臓に悪いから辞めてほしいぜフィニス・カルデア!

 

『あっはっは、ごめんごめん。

二手に別れると聞いたからね、所長の命令で君のサポートはこの僕、ムニエルがやらせてもらうよ。』

 

「…お腹が空いてくる名前っすね。宜しくです。」

 

よく言われるよ、と笑顔で返すムニエルさん。ちょっとぽってりしたお顔がキュートっすね。女体化して平安時代辺りに飛ばされたらモテモテになれそうだ。

 

『多分褒められてないな!?』

 

バレた

 

「マスター、彼処だ。」

 

マイペースなバサランテの指さす先には、ギリギリ元の形を保っていると見られる三角屋根の教会があった。

その入口にはアヴェンジャーの姿が…

 

めっちゃ中の人に怯えられてた。

 

中にはアヴェンジャーに向かって十字架掲げて必死に祈ってるシスターっぽい人も居るし、なんだこれシュールか。アヴェンジャーも心なしか上の首無し君がオロオロしてる。狼は相変わらず今にも食い殺しそうなくらい不機嫌な面してるが。

 

■■■■……

 

あかん急ごう、アヴェンジャー我慢の限界みたいだ。

それから街の人に事情を説明して、裏手からひっそりと脱出して貰うことに。幸い女子供が半分程で、兵士らしき男手もいくらかいたので、街の外までエスコートしてあげた。

バサランテは子供を心配して安全な村に着くまで護衛したいと言い出したが、俺たちの目的は別なので却下。フランスの正規軍もこの異常事態に動いていると言っていたし、運良く合流してくれる事を祈ろう。せっかく消え掛けの命を繋いであげたんだ、あとは自分達で何とかしなさい。

 

ま、藤丸君に会わせると色々面倒な事になるからね…

 

「うふふふ…敵も勿体無いなあ、アレを先に見つけておけば、ほかの人間を誘き出せたかもしれんのに。」

 

避難してく人達を見送りながら、魔王様がまた物騒な事をつぶやく。

確かに俺が敵なら、そうする。数も力も上回ってるワイバーンを従えているなら生き残りをチラつかせて街の外から人間をこのラ・シャリテに呼び込んで、さらに被害を拡大させるだろう。そんで邪魔になったら生き残りを殺す。そっちの方が人間により恐怖を植え付けられる。

 

「あの翼竜共は統率が取れていない、だからただ暴れるだけだったようだが、あちらさんの大将は悪の素人だな。ぷくくく…」

 

「マスター、この女は…」

 

あ、この人魔王です。人間大嫌いです。趣味は拷問と搾精、殺した相手の髑髏の盃で乾杯とかします。

 

「せんわい、私をなんだと思ってる。」

 

え、しないの?どっかの第六天魔王はやったって言ってたよ?

 

「なんなんだその禍々しい魔力の渦は…この騒動の黒幕がお前だと言われても納得してしまうぞ。」

 

まあ実際人間相手にラスボス張ってた人だしね。余裕の貫禄だ、魔王の年季が違いますよ。

でもそんな魔王様の悪性に引かれて君も召喚されたんやで?

 

「そうだぞ猫娘、召喚された貴様はさしずめ『中途半端に加減して駆け出しの勇者に負けたついでに惚れてしまい、最後の戦いで成長した勇者に思いも告げられず斬り捨てられる哀れな魔王軍紅一点の女幹部』と言ったところか。」

 

「なんだその具体的な配役!?」

 

「ふーん、要するにだ。

お前は中途半端なんだよ猫娘。どうせ貴様、今までも似たようなことやらかして後悔しただろ。例えば…お前の大好きな子供の為にあの聖女とぶつかったとかな!」

 

「ぬぐっ!?な、何故それを…」

 

「図星か。お前、あの聖女をずっと避けてるもんな。昔なんかあっただろ。」

 

「ぐぎぎ…」

 

え、そうなんバサランテ?

 

「煩いマスター、昔の事は思い出したくない。お前ももう黙れえ!」

 

「お?やんのか猫娘。尻子玉抜いたるぞコラ!」

 

ポコスカ殴り合いを始める女幹部と魔王。

2人とも仲良くなってるね、良かった良かった。

 

「「仲良くない!」」

 

和やかな取っ組み合いの結果バサランテが魔王様に尻子玉(意味深)を抜かれて可愛らしい悲鳴を上げた頃、アラートが響きムニエルさんの顔がびゅうんって眼の前に映し出された。ビビった。

 

『有栖宮君、急報だ!今すぐ藤丸君の下へ合流してくれ!

敵性サーヴァントが現れた!それも5体だ!』

 

サーヴァントが…5体も!?

はっはっは、奴さんは戦争でもするつもりか。…いや今まさに戦争してんじゃん。






主人公の過去はだいたい独自設定なんで注意(今更)


次回は竜の魔女とごたいめーん


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8話 笑う全裸、泣く聖女

あ~魔王ジルのSSもっと増えろ~^






『藤丸!マシュ!今すぐラ・シャリテから脱出しなさい!

消えた筈のエネミー反応がこっちへ戻ってきてるわ!』

 

「…え?」

 

焦るオルガマリー所長の声に思わず動揺する私達。

 

ラ・シャリテに来てから、有栖宮さんが生き残った街の人達の下へ向かい、私と先輩はセイバーさん達と共に、他に生き残った方が1人でもいないかと捜索を続けていました。

途中アンデッドに遭遇する事もしばしばありましたが、アヴェンジャーさん達の露払いのお陰か比較的順調に街の捜索が出来ています。そんな矢先の出来事でした。

 

『強いエネミー反応が複数、高速でラ・シャリテに向かってきてる。これは…恐らく君達の魔力反応を探知して戻って来たんだ!

まずい、向こうはサーヴァントを5基も連れているぞ。しかも霊基がなんか変だ!

ムニエル君、大至急有栖宮君に藤丸君の下へ戻るよう伝えてくれ!』

 

ドクターロマンはホログラムの向こうで必死に解析しながらムニエルさんへ檄を飛ばしています。

 

「…不味いなマスター。」

 

「はい、私達でも探知できる距離まで敵は来ています。ですが…」

 

「いいねェ、おかしな魔力がビンビン伝わってくるぜ。こりゃ相当霊基を弄ってやがるな。」

 

「セイバー!?セイバーが居ますね!よし殺す!」

 

「Xさんはいつも通りだね…」

 

サーヴァントの皆さんは警戒しています。先輩もいつもの調子のXさんに苦笑いしていますが、その頬には冷や汗が伝っていました。

ブリテンの騎士王やケルトの光の御子が唸るほどの強敵…敵は一体どれだけの戦力を?

その時、彼方から甲高い叫び声が響き、空がワイバーンで埋め尽くされました。そして、黒い個体に乗った5基の英霊が私達の前に降り立ちます。

 

禍々しい雰囲気を放つ槍を持った男性

 

仮面で顔を隠し、薄ら笑う女性

 

聖職者の様な出で立ちに、大きな杖を持つ女性

 

軽装の騎士の様な風貌の男性…?

 

彼等一人一人から強い魔力を感じます。そして、向けられている敵意も、私の背筋を冷たくさせました。

 

そして最後に降り立ったのは、ジャンヌさんにそっくりな見た目をしたサーヴァント。ただし服装と持っている旗は真っ黒で、顔を歪ませてこちらをせせら笑っているようです。

 

「……ッ」

 

やがて彼女はジャンヌさんに目をつけ、より一層笑みを深くしました。

 

「…まあ。」

 

「……?」

 

「…ねえ、私は夢でも見ているのかしら?

誰か水でも掛けてちょうだい。やばいの、本気でおかしくなりそうなの。

だってそれくらいしないと、あんまりにも滑稽で笑い死んでしまいそう…!」

 

「…彼女は何を…」

 

「ねえ見てよジル!あの哀れな小娘を!

何あれ、羽虫?ネズミ?ミミズ?

どうあれ同じ事ね、ちっぽけ過ぎて同情すら浮かばない!」

 

えと…誰に向かって話してるんでしょうか彼女は…

 

「ねえジル、貴方もそう……て、そっか。

ジルは連れて来ていなかったわ。」

 

ひとしきり蔑むように笑って、ジャンヌさんのそっくりさんは大きく舌打ちをしました。

 

「貴女は…貴女は一体誰なのですか?」

 

「それはこちらの質問ですが…まあ、上に立つものとして答えてあげましょう。

我が名はジャンヌ・ダルク。

蘇った救国の聖女ですよ、もう1人の私。」

 

もう1人の…ジャンヌさん…?

 

「馬鹿げたことを…

貴女は聖女ではない、私がそうでないように。

いえ、それはもう過ぎたこと。何故この街を襲ったのですか!?」

 

「何故…かって?

そんなもの、同じ私ならよく理解しているはずでしょう?属性が反転してるとこんなにも鈍いのね。

この街襲った理由、そんなもの…」

 

単にフランスを滅ぼす為ですよ。

私、サーヴァントですもの。

 

さも当たり前のように、嗤いながら、黒いジャンヌさんは答えました。

 

「政治的とか、経済的とか、回りくどいでしょう。物理的に全部燃やしてしまった方が確実で完璧です。」

 

「馬鹿な事を…!」

 

「馬鹿な事ォ?

愚かなのは私達でしょう。

何故、こんな国を救おうと思ったのです?

何故、こんな愚者共を助けようと思ったのです?

私を裏切り、唾を吐いた連中だと知りながら!」

 

吐き捨てる黒いジャンヌさんに、ジャンヌさんも苦い顔をしてしまいます。

そも、ジャンヌ・ダルクの最期はあまりにも有名です。国を救った聖女は、最後には政治的に利用され、処刑されてしまう。数々の書物に遺る彼女の最期は、第三者である私達から見てもかなり酷いものでした。それこそ、恨み言のひとつでも言いたいくらいに。

 

「それは…」

 

「私はもう騙されない。もう裏切りも許さない。そもそも主の声など聞こえない。

主の声が聞こえない、という事は、主はこの国を見放したということです。

だから滅ぼします、主の嘆きを私は代行します。

人類種が存続する限り、私の憎悪が収まらない。このフランスを沈黙する死者の国に作り替える。

それが私。それが死を迎えて成長し、新しい私になったジャンヌ・ダルクの救済方法です。」

 

彼女の闇はそれほどまでに…このフランスを焼き尽くす程憎いものなのですね…

 

それでも認めないジャンヌさんに業を煮やしたのか、黒いジャンヌさんは呆れ、そばに居たサーヴァント、ランサーとアサシンにジャンヌさんを殺すよう命令しました。

 

でも…あれ…?

 

狂化が施され、バーサーク・ランサーとバーサーク・アサシンの霊基はこちらとは段違い、かなりの強敵である2人のサーヴァント。先輩と私は彼らと向き合わなければならないのに、どうしても…

 

…どうしても、黒いジャンヌさんの頭上に集まる水色の塊が気になって仕方ありませんでした。

 

「…ん?なんなのです、哀れにも聖女に拐かされたそこの2人。

私の顔に何か……きゃあっ!?冷たっ!!!」

 

ばっしゃーん!と、黒いジャンヌさんの頭上に浮いていた水の塊が勢いよく弾け、そのまま黒ジャンヌさんはずぶ濡れになりました。

 

「な…な…な……」

 

私も、先輩も、ジャンヌさんも、今にも襲いかかろうとしていた2人のサーヴァントまで、一同が呆気にとられ、場が静まり返ります。それはもう、しーんと。

 

「あっはっはっは!みろ下僕、あの女の悲鳴聞いたか?『きゃあっ!?』だって、うっける~〜。」

 

そんな中、場違いな程明るい声を響かせながら私たちの前に現れたのは…

 

「で?竜の魔女(笑)がなんだって?」

 

この上ないくらい愉悦の表情に顔を歪ませながら嗤うパジャマ姿の魔王さんと、後から気まずそうに着いてくる有栖宮さんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さあ諸君、竜の魔女ご登場による怒涛のシリアスタイムは如何だっただろうか?

凄いね、もう1人のジャンヌ。ここでは悪ヌと呼称しょう。

蘇った竜の魔女は復讐の為にフランスを滅ぼすんだってさ。善ヌを「搾り滓」と笑い、人間を絶滅させると豪語して、オマケに口挟もうとしたドクターロマンのコンソールが犠牲になった。睨むだけで掛かる呪いの類なんだってさ。

それらを通信越しに聞いた魔王様、大変上機嫌でございます。

もー怖いくらいニッコニコしてるね、()()()()()()()()()()()()()()()()

そして今、魔法使って悪ヌの頭上から水をぶっかけて御満悦。まあ悪ヌさん自分から水掛けてって言ってたし?是非も無いし?

 

「ほらお望み通り水掛けてやったんだ。礼くらい言ったらどうだ?ん?くっくっく…」

 

吹き出しそうなのを必死で堪える魔王様をこれでもかってくらい睨みつける悪ヌさん。あ、残念だけどどんだけ睨んだところで呪いは掛からないです。魔王に状態異常効かないからね。常識だね。あ、そんな姿を見るのが我慢出来なくなったのか魔王様爆笑し始めた。

 

「………貴女は?」

 

肩を震わせながら問いかけるも、腹を抱えて大爆笑したままの魔王様に更に顔が引き攣る悪ヌさん。

一通り笑い終えて、やっと息が整い始めたのか、漸く澄んだ水色の瞳が悪ヌさんを見つめる。

 

「はぁ…はぁ…ひぃ~

こんなに笑ったのは何年ぶりだ?

面白いなお前、哀れで、空っぽで、滑稽な女。こういう奴は久しぶりに見たよ。

生後数日のお前の安っぱちな憎悪で一体何を焼く気だ?枯葉か?芋でも焼くのか!?だったら笑えるなあ!

おい下僕、私の頬を抓ってくれ。夢かもしれん、笑い転げておかしくなりそうだ!」

 

はいぐに~、夢じゃないよー。

 

「ふひゃっ…?ほんほうにひゅるやひゅがあるふぁぶぁは~!」

 

「ッ…!お前は誰だと言っているッ!!」

 

魔王様のすべすべほっぺをむにゅむにゅやってたら悪ヌさんの怒号がこだまして、ビリビリと空気が震える。思わず竦み上がるような迫力だったけど、魔王様は全く意に返さずに、嘲るように嗤ったままだ。

 

「お前のような小悪党に名乗る名など持ち合わせていないよ、ばーか。

あのいけすかない聖女から、よくもこんな道化が産まれたもんだ。いや違うな、羽虫か?ミミズか?それともネズミか?あの聖女をそう呼ぶなら、模倣品であるお前もそういう事になるよなぁ?ひひひっ…」

 

あ、悪ヌさん明らかに不機嫌になった。自分が言ったことそのまま返されてやんの。

 

「……ッどうせ殺すから名前は聞きません、貴女も聖女の味方ですね?」

 

「私がぁ?そう見えるのか?三流な上に人を見る目もないな、お前は。

アイツの目、嫌いなんだよ。

アレは本物の聖者の目だ。人に使われ、人に騙され、死んでもなお、その瞳から希望は消えず。他人の為に自分が贄にされても、民が無事で有ればいいと、心の底から願ってる。他人を巻き込んで先導し、自分達が正義だと信じ込ませて強固な『群』を創り出す、この世で最も頑固で救い難い救世主(おろかもの)の類いだ。見てるとイライラする。殺意沸く。というか死ね。

そんな奴の仲間にされるのは心外だね。」

 

一様に笑い飛ばす魔王様に、善ヌも悪ヌも唖然としてる。善ヌさんちょっと落ち込んでたけど。

勿論、藤丸君やマシュちゃん、こっち側のサーヴァント達も同様だ。

今日の魔王様はよく喋る。

 

「それでぇ?生まれ変わった竜の魔女は人類をどうするんだったか。あんまりにもしょーもない話だったからよく覚えてないんだよ。」

 

煽るな煽るな、可哀想だろ。

 

「…だったら直に説明してあげるわよッ!!」

 

怒りの悪ヌさんから黒い炎が舞い上がり、津波のように俺と魔王様へと襲いかかる。

藤丸君そんな顔で見ないでくれ、大丈夫だよ。

 

魔王様、強いから

 

何もしていないのに、黒炎が俺たちを避けるように左右へ流れ、廃墟を焼き尽くした。

 

「なっ!?私の炎が…」

 

「なんだどうした、お前の復讐はもう終わりか?」

 

「舐めるなァッ!!アサシン、ランサー!宝具を使いなさい!」

 

「やれやれ、マスターは御立腹だ。悪く思うなよ、女。」

 

「あの聖女より美しいわね、貴女。さぞ美味しい血を持っていることでしょう。」

 

2人に魔力が集中し、宝具が放たれる。

 

極刑王(カズィクル・ベイ)ッ!!」 「幻想の鉄処女(ファントム・メイデン)…!」

 

地面から生えた杭が魔王様を串刺しにして、そのうえ影の中から現れたアイアン・メイデンが嫌な音を立てて魔王様を抱擁し、辺りが静まり返った。

悪ヌさんだけが満足そうにニヤついてた。

 

わーおやったね、宝具による連続攻撃だ。これには流石の魔王様も…

 

ベギン!

 

と、アイアンメイデンの中から変な音がした。

中からメキメキと音を立てながら鉄の処女をこじ開けて、魔王様が這い出ててくる。ちょっと貞子っぽかった。

勿論、その体に一切の傷跡はない。

ランサーとアサシンが露骨に驚いてた。悪ヌさんもっと驚いてた。

 

はい。まあ無駄なんですけどね。

 

魔王様には頭おかしいチート能力が2つ、備わってる。

ひとつは不老不死、バラバラにされても蘇る超再生能力。

もうひとつは無敵結界、神属性…神性を持たない攻撃の完全無効。

このふたつをもって、魔王ジルは元の世界で最悪の存在として君臨してきた。この守りを突破出来るのは、かの世界では2本しかない聖剣だけだったらしい。

……こっちの世界はどうなんだろう?藤丸君のセイバーさんが持ってるエクスカリバーは超有名な星の()()だし、他にも神代のサーヴァントなんかの攻撃も効くんだろう、有名な人だと英雄王ギルガメッシュとか、黒くない本物の大英雄ヘラクレスとかね。

まあそれはそれとして、神性を持たない宝具など魔王様に通じるようもなく。こうやって皆からドン引きされてる訳ですが。

 

「馬鹿な…!?」 「嘘でしょう?傷一つ無いなんて…」

 

「だらしないな、この程度かよ化物共(フリークス)。同じ化物でも、あの黒い〝へらくれす〟の方が幾分か骨があった。」

 

ギリシャの大英雄と比べられる向こうの身にもなってあげてよ魔王様。

 

 

『大量の杭にアイアン・メイデン……

あの二人の真名が分かったわ、男の方はルーマニアの英雄ヴラド3世。女の方は血の伯爵婦人カーミラよ!』

 

所長の言葉にマシュちゃんが反応した。

 

「ドラキュラの元になった伯爵と、少女の血を飲んで若返ろうと殺人を繰り返した婦人…

そのサーヴァントですか!?」

 

「史実がヤベー奴筆頭じゃないですかやだー」

 

カーミラとヴラド三世、どっちもえげつない史実の持ち主か…

でもどれだけ人を串刺しにしようが、血を啜ろうが、この世界の人間は〝魔王 〟にはなれない。そういう呼称でなく、異名でもなく、正真正銘の〝魔王〟という1個体。それが魔王ジルという存在だ。

なんて、そんなことどうでも良さそうに魔王様が一笑し、ニヤニヤ悪ヌさんの方を見つめる。

 

「クソックソッ!なんなのよ…なんなのよお前ぇッ!!」

 

段々メッキが剥がれてきたのか、魔女の体裁とかかなぐり捨てて悔しがる悪ヌさん、段々可哀想になってくる。

 

「ワイバーン!奴らを食い散らかしなさい!」

 

あーだいぶ頭に血が上ってますね、質でも駄目なら数で勝負とか…

 

「馬鹿だろお前。『ゼットン』」

 

シュポッと、魔王様の人差し指から火が灯る。

ライターの火くらいの大きさからどんどん広がって巨大な火球になり、打ち上がったそれは空中で破裂して爆音を響かせた。

少しして、炭になったワイバーンがハラハラと降ってくる。

1兆度とかいう馬鹿みたいな熱気に焼かれ上空のワイバーンはあっという間に全滅した。

 

「……………」

 

ぽかんと口を開けて絶句する悪ヌさん。

なんて言うか、放心状態だ。

それだけ魔王様と悪ヌさんの差は圧倒的だった。

 

「さしずめ私に襲いかかると見せかけて、下僕や他の連中を集中的に狙うつもりだったんだろう?見え見えなんだよ、私とお前じゃ年季が違うんだ。

産まれたばかりの雛鳥が、身の程も弁えず『食い散らかしなさい』とか…プークスクスwww」

 

「うっ…ううぅ〜ッ!!!」

 

あかん、半泣きになって地団駄踏んでる。口喧嘩に負けた小学生みたいだ。ちょっと可愛い痛い痛い痛い痛いッ!?

足!足踏んでる魔王様!ちょー痛い!

 

「(色目を使うな、ばか下僕…)

やーいばーかばーか、お前ん家触手屋敷~。」

 

そのとき、悪ヌのの中で何かが途切れたんだと思う。それはもうぷっつんと。

 

「こ…殺す!ぶっ殺す!アンタは絶対私が焼き殺してやる!うがーーーっ!!」

 

もはや竜の魔女の威厳とか暁に彼方に飛んでいった悪のジャンヌ・ダルクは半狂乱になりながらお供のライダーとセイバーに慌てて抑えられてる。君らも苦労してるね…

 

「このっ…殺してやるッ!!アンタは絶対呪い殺してやるからぁ!」

 

「残念だったな、私に呪いの類は効かん。常に呪われてるから!」

 

「き~〜ッ!」

 

「お、落ち着くんだマスター!」

 

「そうよ!冷静さを欠いたらこっちの負けよ!例え向こうの言ってる事が正論でも!」

 

ライダーさん、それトドメや

 

「こ、ここは一旦引いた方が良さそうね…」

 

「珍しい、貴様と意見が合うとはな。

マスターが不安定になったせいか、この身の狂化も薄くなりつつある…」

 

気まずそうに撤退を推奨してるカーミラにヴラド三世も同意した。さらにライダーが呼び出したなんかでっかい亀(ガメ〇に似てる)に乗って5人は飛び去った。

めっちゃ回転しながら空飛んでたけど、あの人ら酔ってないんだろうか…

 

「藤丸君、ガメ〇だったよね今の…」

 

「はい。〇メラでした…」

 

目をキラキラさせながらガ〇ラが飛んでいった方向を見つめる藤丸君。キミ、中々分かる子だね。特異点から戻ったらじっくり語り合おうじゃないか。

 

「……あの上手くいかないことがあったら途端に子供に戻って駄々こねる感じ、昔の私にそっくりでした。やはり彼女は私の…?」

 

善ヌさん、真面目な顔してナチュラルに悪ヌさんをdisるの止めてあげて?流石に魔王様にあんだけボロっカスにやられてアナタにそう言われたら、立ち直れなくなるよ、彼女。

 

『えと…あのさ…?気まずいんだけど、これ…』

 

危機を脱したって事で良いのかな?所長。

 

『え?私に振るの?』

 

「あー笑った笑った。あ、魔力使ったから補給な。適当な民家見繕ってヤるぞ。」

 

最早ムードも何も無いがいつもの事か、取り敢えず次の街に着いたらね…

 

「マスター…汝は…まあ、仕方の無い事なんだろうが…」

 

何か言いたげなバサランテ、言いたいことは分かる。

でもな、これもパートナーとしての務めだから。

…断じて男が発狂するレベルの超絶美女から毎日求められてラッキーとか思ってないから、断じて。

 

「心の声が透けて見えるぞマスター。」

 

「煩い奴だ、文句あるのか猫娘。

…また尻子玉抜かれたいの?」

 

「ひぃっ!?もう勘弁してくれ!あんな方法で魔力抜かれるのは御免だ!」

 

必死にお尻を抑えながら挙動不審になるバサランテ。そんなに痛かったのか…

 

「いやっ…どっちかと言うと気持ちよくて…いや何でもない。黙れマスター!」

 

「…えいっ」

 

「ぎにゃああああああああああっ!?!?!?」

 

音もなく後に忍び寄った魔王様が、バサランテの下腹部からナニかを引き抜いたのが一瞬見える。その直後、猫娘(バサランテ)の絹を割くような悲鳴がラ・シャリテにこだました。

 

 

 

その時、ガシャーンと俺達の前に硝子の馬が飛び込んできて、なんかキラキラした女の子と髪の毛凄いことになってる痩せた男が現れた。

 

「乙女の悲鳴を聞き付け即参上!

御機嫌よう皆々様方!

フランスの危機にこの私、マリー・アントワネット推参です!

さあ、そこまでになさい竜の魔女!…て、あらら?」

 

「マリア、僕達出遅れた感が否めないよ。」

 

「まあなんてこと!此処へ来る前に見つけた避難民らしき方々を正規軍の居る街まで見送ったのが仇になったのかしら!?」

 

お、あの人達助かったのか。良かったね。

唐突に現れた彼女達に事情を説明して仲間になってもらい、俺達はラ・シャリテを後にしましたとさ。

 

 

 

………バサランテ、大丈夫?

 

「こ…腰が抜けて…動けない…うぅ…

もう尻子玉は嫌だあ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ!!クソッ!!!あの女、絶対殺してやる!

この私を三下扱いするなんて…絶対後悔させてやるんだからあッ!!

ああもう思い出しただけで腹が立つ!今に見てなさい!あの白肌丸焼きにして、首切り落としてあいつらに食わせてやるぅぅぅぅぅ……!!!」

 

「(どうしよう、僕等のマスター煽り耐性ゼロだよ…)」

 

「(今はそっとしておきなさい、私も生前はよくヒスを起こしていたわ。こんな時は、放置して発散させるのが一番よ。)」

 

「(…貴様も苦労していたのだな…)」

 

「(煩いわね!下手な慰めは不要よ!)」

 

「(それとさ…ひとつ言ってもいいかな?)」

 

「(何だ) 「(何かしら)」

 

「ライダーが召喚したこの亀、ぐるぐる回って…いい加減酔ってきた…おえっぷ…」

 

「「確かに……」」

 

うっ……………

 

 

竜の魔女、ジャンヌ・ダルクに召喚され、狂化属性を付与されたサーヴァント達が帰還後最初に向かった先は、トイレだった。

 

「何よ、あれくらいの回転でだらしないわね。三半規管を鍛え直してきなさい。」とは狂える聖女の言である。凄女パネェ。

 

 

 

 

 





シリアスなんて作者には書けんかったんや


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9話 凄女と聖女と全裸

タラスクは泣いていい





「うわあああんジル~ッ!!

ジルは何処ぉ~ッ!?」

 

「ジル・ド・レェめは此処に!

如何なされましたか聖処女よ…本当に如何なされましたかァァァァァッッ!?!?!?」

 

首都オルレアン、蘇った竜の魔女、ジャンヌ・ダルクは先の屈辱的な敗北を与えられ居城へと帰還し、自身の部下であるフランス大元帥ジル・ド・レェを大声で呼び出した。

ジャンヌの事を敬愛し、神聖視する彼であったが、色白の顔を真っ赤にして泣き腫らした聖女の姿には流石に動揺を隠せない。

 

「う~〜ッ!!うう~~〜ッ!!

許さない…許さないわあの水色パジャマ!」

 

「み、水色パジャマ…?このジル・ド・レェ、愚かしくも貴方様の御心を測りかねるのですが…」

 

「侮辱されたのよぉ!

私は紛い物だって…あの絞りカスの模倣品で、悪の素人だって…!」

 

竜の魔女は語りだした。自身の分身を侮辱する腹積もりで乗り込んで行ったものの、突如現れた謎の女に邪魔され、あまつさえ舌戦でも実力でも及ばなかった事を。というか完膚なきまでに馬鹿にされて笑われた事を。

 

「ぬ…ぬァんですとオオオオオオオッ!?!?」

 

それを聞いた元帥は怒った、とにかく怒った。

彼にとってジャンヌ・ダルクは全てだ。史実も然り、たとえ特異点であっても聖女への信仰は絶対に揺るがない。彼女の怒りは自分の怒り、フランス大元帥ジル・ド・レェは、途中怒りでジャンヌの話の半分も理解していなかったが、とにかく彼女が貶められたという事実に憤り、声を荒らげていた。

 

「許さぬ…許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬゥゥゥゥッ!!

我が聖処女に何たる仕打ちィ!最早このジル・ド・レェ、怒りでフランス全土を3度焼いてもまだ余り有る程、とてつもなく憤っておりまするッ!!」

 

「う…ひぐっ…ひっく…」

 

「顔をお上げください、ジャンヌよ。

先程聖杯より追加でサーヴァントを召喚致しました。更に、新たな僕も生成が完了しております。私を推して竜の魔女に相応しい僕である彼奴ならば、きっと貴女の力になる筈!

その…水色パジャマの女?など瞬く間に灰にして、海魔共の餌にしてくれましょうッ!!」

 

「うう…そうね…そうよねジル。

私は竜の魔女、このフランスを地獄に還すまで止まるわけにはいかないわよね…」

 

「その意気ですジャンヌ!

城の庭にそ奴はおります。従わせ、何なりとお使い下さい。」

 

「分かったわ!私頑張る!

絶対にこの世を地獄に変えてみせるわ!」

 

ジルの激励により元気を取り戻したジャンヌはバーサーク・サーヴァント達を連れて庭へと向かった。

 

 

 

 

「……聖処女の悔しがる御姿もまた愛おしい。

きっと…きっと本物の貴女もあのように泣き、喚くのですね…ジャンヌ…」

 

ぽつりと放った彼の呟きは、幸いにも誰に聞かれることもなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒いジャンヌダルクをボロッカスに泣かせた魔王様。そのあと適当な民家で流れるように俺を襲い、満腹になった今は影の中でお昼寝中のご様子。

新たに仲間になった「パンがないならケーキを食べればいいじゃない」でお馴染みのマリー・アントワネット、そして彼女と一緒に居た天才音楽家にして音楽の神に愛された男、ウルフガング・アマデウス・モーツァルトの二名が仲間に加わった。彼女達は今回の特異点が創り出されるに当たって、通常では想定されていない聖杯戦争の為呼び出されたカウンターのようなものらしい。って、善ヌさんが言ってた。

善ヌさん、本当はウチのアヴェンジャーみたいなエクストラクラスで、裁定者(ルーラー)のサーヴァントなんだって。でも力をかなりなくしてて、それで悪ヌに絞りカスとか馬鹿にされてたんだな。

周囲の警戒は藤丸君のアーチャーとランサー、そしてウチのアヴェンジャーがやってくれてる。俺と藤丸君は今、マリー様が唐突に始めた女子会みたいなノリに翻弄される女性サーヴァント達を眺めていた。マリー・アントワネットってこんなキャピキャピした人だったんやなって。てっきり我儘で高慢ちきな漫画とかでよく出てくるタイプの貴族みたいな感じかと思った。

 

「君らの世代に彼女がどんな風に伝わっていたのかは知らないけどね、マリアはずっとこんな感じだよ。天真爛漫という言葉が誰よりも似合うお転婆娘さ。」

 

流石にあの空間には割って入れないのか、モーツァルトが俺達の横に座った。あ、さっき散々マリーさんに罵倒されて喜んでた人だ。

 

「よ、喜んではいないよ!?」

 

悲報:音楽神は罵倒されて喜ぶドMだった件

世の音楽家達が嘆き悲しみそうな歴史の真実だ、この話は俺達の心の中に留めとこうな藤丸君。世の中には知らなくてもいい事がある。

 

「はい…」

 

「君等も2人してノリがいいなあ!?その神妙な面持ちはシャレにならないから止めてくれ!」

 

ほら、天才と変態は紙一重って言うしセーフセーフ。

 

なんて話していると、藤丸君へアーチャーから念話が入った。どうやら敵襲のようだ。

ワーウルフの群れと少数のワイバーン、更に敵性サーヴァントの反応が一つ…ドクター曰くあの時悪ヌに着いてたサーヴァントの1人だそうな。あの時敵方にいたのはヴラド三世とカーミラ、あの男か女かよく分からん騎士はマリー様がシュバリエ・デオンって言ってたから、残りの亀出したライダーかな?〇メライダーだ、ガ〇ライダー。

 

アヴェンジャー、アーチャー、ランサーは取り巻きのワーウルフ達を捌いてる。そんな中、突然こちらの陣のど真ん中にいきなり巨大な亀が降ってきた。俺ら諸共押し潰す感じで。

咄嗟に藤丸君のセイバーが直感で気付いて、聖剣の風圧で僅かにだが押し返し、その隙に亀の着弾地点から避難した。

 

「チッ…奇襲(カチコミ)なんてやるもんじゃないわね。防がれるとみっともないったらありゃしないわ。」

 

ヤンキーみたいな台詞をため息混じりに吐くのは、案の定この前見たライダーだった。

 

「上空から奇襲とは卑劣な…!」

 

「しょうがないじゃない、マスターに狂化付与されて、こうして喋ってるのがやっとなんだもの…細かい事なんて考えてられないわ。

特にそこのアンタにくっ付いてたパジャマの女、そいつは念入りに殺せって竜の魔女からご用命よ。」

 

わーい魔王様根に持たれてるゥ

 

善ヌさんがこのライダーの真名を看破した。彼女は聖女マルタ、暴竜タラスクを祈りだけで鎮め従えた正真正銘のドラゴンライダーだ。

 

『聖女マルタ…狂化が付与されながらこうして会話が出来るなんて、なんて克己力(こっきりょく)なの?』

 

所長が通信越しに驚いてる。

……克己力?なんだろうそれ、俺は毎晩魔王様の相手してたから勃〇力には自信あるんだけど、絶対違うだろうし。

 

『有栖宮、アンタ今絶対余計なこと考えてたでしょ。』

 

HAHAHA!んなわけ

 

「そこまで己に打ち勝つとは…お見事です、聖女マルタ。ですがそうまでして抗うのなら、私達と共に来ませんか?」

 

「お心遣い嬉しいけどね、ジャンヌ・ダルク。

割と私もギリギリなのよ…こんな状態の私を仲間にしたら、いつ後からアンタ達を刺すか分からないわ。

この狂化を解く方法は只一つ、私を殺しなさい。そうすればこの鬱陶しい呪縛から解放されるわ。」

 

 

だからお願い聖処女様、私を殺して

 

 

どっと、マルタから殺気が溢れ出す。

魔王様は…こんな状況でもすやすや寝ておられらるわ、可愛いなぁオイ!

 

「槍一さん!」

 

「了解了解、魔王様はぐっすり寝てるから頼りにしないでね。」

 

「魔王さん余裕ですね!?頼むマシュ、セイバー、Xさん!」

 

「バサランテ、セイバー達のサポート宜しく。」

 

「ああ、承知した。」

 

多勢に無勢だが、聖女マルタは全く引く気はない。むしろやる気満々だ。というかすごい楽しそうだ。この状況楽しんでないか?

 

「聖女になった時から拳は使わないと決めた身だけど…そこらのシャバ造に遅れを取るつもりは無いわ。覚悟なさい。」

 

ゴキゴキと腕を鳴らし威嚇する聖女。

マルタさん、マルタさんや、出てくる作品を間違えていませんか?フランスじゃなくて本当は刃〇の世界の住人だったりしない?

 

そしてセイバー達が構えた瞬間、バーサーク・マルタは側に居たタラスクを掴み、ぶん投げた。

 

……なんの比喩表現でもないぞ、聖女が自分の体長の数十倍はあろうタラスクの巨体を持ちあげて、こちらへ投擲した。

 

愛を知らない哀しき竜(タラスク)ッ!!」

 

「「「「何ィーーッ!!?」」」」

 

ずっどおーんっとダンプカーくらいあるでかい亀(竜)が突っ込んできた。それはもう、凄い勢いで。マシュちゃん、必死に宝具の盾を発動させて勢いを殺す。善ヌさんもそれに被せるように宝具を放ち、軌道をズラしたタラスクは辛うじて直撃コースを外れ、木々を薙ぎ倒しながら明後日の方向へ飛んでいった。

 

「あ…危なかった…」

 

「なんなんですかあのライダーは!本当はグラップラーとかじゃないんですか!?」

 

「失礼ね、私はれっきとしたライダーよ!そして聖女よ!」

 

「お前のような聖女が居るか!!」

 

Xさんのツッコミにも余裕の返答、お前絶対狂化付与されてないだろ!素手でドラゴンぶん投げる聖女が何処にいる、きっとそいつは聖女じゃなくて凄女に違いない。

 

「そこ!変な読み間違いしない!」

 

『ギャーーーーーッ!?!?!?』

 

あっタラスクの飛んでいった方向からなんか聞き覚えのある悲鳴が聞こえた!?

 

「た、大変です槍一さん!さっき飛んでったタラスクがたまたまランサーに激突したってアーチャーから連絡が…」

 

ランサーが死んだ!?

 

「この人でなし!」

 

「待ちなさい!今のは確実に私関係無いわ!」

 

ちっくしょうよくもランサーの兄貴を…絶対許さねえからなあ!

 

「あらぬ濡れ衣を着せられた気分だけど…余裕かましてる暇があるのかしら?タラスク!」

 

左からさっき飛んでいった筈のタラスクが再び突っ込んできた!こいつ自分で飛んでるから自由に制御効くのか!?

 

『不味い…宝具級の威力を持つタラスクにこう何度も突っ込まれちゃ持たないよ!』

 

ええい泣き言いうなドクター!

 

「バサランテ、宝具で相殺いける?」

 

「さっき魔王に抜かれた分が無ければな!」

 

「よろしい、ならば令呪を持って命ずる。

『宝具使って、バーサーカー!』」

 

ぎゅーんと令呪の魔力がバサランテに吸い込まれていって、彼女は獰猛に笑いタラスクに向かって牙を剥く。

そして猛烈な勢いで飛び出し、黒い魔力の渦を作りながらどんどんスピードを上げていった。

 

「我が憎悪を受け入れよ……

闇天触射(タウロポロス・スキア・セルモクラスィア)』ッ!!」

 

憎悪っつーか半分くらい魔王様に魔力持ってかれた八つ当たりだよね「うるさいマスター!」はい黙ります。

 

ミサイルのように突撃したバサランテはタラスクと正面衝突し、ぶつかった魔力同士が大爆発を引き起こした。爆風と一緒に彼女が舞い戻って来て、同じくタラスクも少しふらつきながらマルタの元へ回転しつつ帰還した。どうやら相殺作戦は上手くいったようだ。

 

「まさかタラスクの勢いが殺されるとはね…次はもっと強く投げないと。」

 

えっ

 

待って下さい凄女様、あなたの宝具めっちゃ怯えてますよ。ドラゴンを野球ボールか何かと勘違いしておいでで?

 

「…?これくらい何ともないわよね、タラスク。」

 

めちゃ怯えながら頷いてるじゃないっすか、パートナーっつーよりジャイア〇と〇ネ夫の構図だぞこれ。あ、もちろんジャ〇アンはマルタさんね。

 

「誰が〇ャイアンよ!」

 

怒りの凄女が振るう杖から放たれる数多の魔力弾をXさんと善ヌさんが叩き切り、藤丸君の指示でセイバーは宝具の準備(チャージ)に取り掛かる。

 

「ちっ…あれを撃たれちゃおしまいだわ。

逝くわよタラスク、星のようにッ!!」

 

もしかしてそれはギャグで言ってるのか!?

 

「させるかッ!!対セイバー用に取っておきたかったのですが仕方ない…支援砲撃ッてぇーッ!!」

 

Xさんから放たれた謎の砲撃が凄女を襲い、思わずたじろぐ凄女。だけど致命傷には至っていない模様、流石凄女だなんともないぜ!

 

「凄女凄女言うの止めなさいよ!怒るわよ!?」

 

それは既に怒ってる奴のいう台詞ですよ凄女マルタさん。

 

「…決めた、あのヒョロ男からしばく!」

 

何故かロックオンされた、解せぬ。

そうこう言ってるうちにセイバーのチャージは満タンだ、剣先から真っ直ぐに光が伸びて、キラキラと魔力の光がセイバーを彩る。

 

「いきます、マスター!」

 

「セイバー頼む!」

 

「これは星の息吹…輝ける命の奔流…いくぞッ!!」

 

「舐めんじゃないわ、逝くわよ大鉄甲竜タラスクッ!!」

 

グオオオオオオッ!

 

対する凄女マルタもがしりとタラスクを掴み、全力投球の構えだ。次の一撃で決着が決まる。

…気のせいか、俺にはタラスクが泣いているように見えた。

 

約束された(エクス)…」

 

「星のように…ッ!!」

 

勝利の剣(カリバ)ァァァァッ!!」

 

一瞬だけだがマルタの方が早くタラスクを投げた。というか投球がほぼノーモーションだったぞ、なのにこの速度でタラスク投げるとか正真の化物かよ…

 

回転する鉄甲竜と、光の波がぶつかり合って、タラスクが光を掻き分けながらこちらへ押し進み始めた。僅かだがエクスカリバーが押されつつあるようだ。

 

「くうううううッ!!?」

 

さんざ馬鹿にしてきたが、これでもマルタは狂化の付与されたバーサーク・サーヴァント。その魔力と力は大幅に強化されてる。故に生半可な強さじゃない、宝具もまた然り。

セイバーの表情が苦悶に染まり、打ち破られると思ったその刹那、思わぬ横槍がタラスクとマルタを襲う。

 

死神のための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)!」

 

突然聞こえたオーケストラの響きがタラスクの勢いを抑え始めた。アマデウスの宝具の影響だ。ていうか今まで何してた!?

 

「勿論、マリアを連れて避難してたさ!

僕達は一応非戦闘員だからね!でも、宝具の使い所は弁えてるよ!」

 

音の重圧が更に強くなり、タラスクが呻く。

段々エクスカリバーが押し返し始めた。

 

「負けんじゃないわよタラスク!踏ん張りなさ「百合の王冠に栄光あれ(ギロチンブレイカー)!」何っ!?くぅあっ…」

 

「横から失礼致します!私はマリー、マリー・アントワネット。故あって、貴女のお邪魔をさせて頂くわ!」

 

「傍迷惑な貴族様がいたもんだわ…ッ!!」

 

タラスクに檄を飛ばすマルタへ硝子の馬が激突する、マルタは咄嗟に受け止めるが…ていうか受け止めてるよ!?素手で!自分の身の丈より大きい硝子の馬を!

ほんとこの凄女には驚かされるなあ…

タラスクとマルタの魔力は繋がっているのか、マリーさんの宝具が直撃したらタラスクの勢いも落ち始めた。

そしてついに、勢いを失くしたタラスクが押し返され、マルタ諸共エクスカリバーに包まれ空に光の柱が伸びる。

勝敗は決した。(ちゃっかりマリーさんは離脱してた)

 

 

消えかけのマルタ曰く、悪ヌはまだ隠し球を持っているらしい。そいつはサーヴァントでは手に負えない程の化物で、そいつを使ってカルデア(主に魔王様)に復讐しようと考えているようだ。

最早フランスなんて眼中に無いご様子の竜の魔女ェ…

 

「リヨンに行きなさい、そこに行けば化物に対抗する力がある。正気だった頃の私が残した唯一の功績よ。

まあ…彼がまだ生きていればの話だけど。」

 

どうやら次はリヨンに向かえばいいらしい、ありがとう凄女マルタ!

 

「やっぱ次会ったら腹パンするわアンタ…」

 

なんでさぁ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んぅ…ふああぁ…」

 

あ、魔王様起きた。よく寝てたね。

 

「んー…今何処へ向かってる?」

 

これからリヨンって所に向かうよ、魔王様がさんざ竜の魔女弄るから、あの人とんでもない化け物を連れてくるんだってさ。

 

「ふんっ、あの女が話す化け物なんてたかが知れて「まあ、可愛らしいお方!」…なんだお前は。」

 

「私はマリー・アントワネット!貴女がミスター有栖宮が言っていた魔王様ね、一目お会いしたかったの!

出会いの記念にハグしましょう!」

 

「なんだお前馴れ馴れし…おい止めろ!抱き着くな!下僕助けろ!」

 

「貴女の肌すべすべね、とても触り心地がいいわ…ずっと触っていたいくらい!」

 

あー、マリーさんに悪気はないから許してあげて下さい。

 

「止めろお前、そんな無邪気な瞳で私を見るな!離せ離せぇ!」

 

「いや〜ん貴女のすべすべお肌病みつきになってしまいそう〜♡」

 

「げぼく助けて!こいつ話聞かない!」

 

善ヌさんの様に献身的な善意は鼻で笑い、悪ヌのような分かりやすいタイプの悪意には更に濃い悪意を持ってこれを貶める、基本的に人間を毛嫌いする魔王様な訳だが、流石の魔王様もこういうタイプの人には叶わないご様子で。

マリーさん、対魔王様特攻持ってたのか…

 

「(魔王さんに意外な弱点が…)」

 

「(すべすべ…なんですか…私もちょっと触ってみたいです。)」

 

「あら…服が消えたわ、不思議!

貴女も裸主義(ヌーディスト)なのね!私も生前、寝室で寝るときはいつも裸だったわ。だってその方が解放感があって気持ちいいですもの!」

 

おいおいマジかよ、衝撃のカミングアウトにマシュちゃん達女性陣の顔が赤くなり、アマデウスがニヤニヤしてた。

 

アマデウス、罪有り(ギルティ)

 

「なんで僕だけ!?」

 

 

 

 

「ひぃ〜〜げぼく〜!」

 

マリーさんがくっついたまま俺の胸に抱き着いてくる魔王様。

結局、タラスクで事故ったランサー兄貴を善ヌさんが回復し終えるまで、マリーさんが魔王様のすべすべお肌を堪能した。それ以来魔王様、露骨にマリーさんを避けるようになってしまいましたとさ。







あ、マリーさんが寝る時裸ってのは独自設定です。
馬車での移動中に公衆の面前で着替えだした逸話はあるようですが。



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10話 邪龍と全裸と竜殺し

おいイベント被せてくんなよ執筆時間取れねえじゃねェかよ





 

 

 

「おおクリスティーヌ!クリスティーヌ!

君こそ私の求めた彼女に他なゲボラッ!?」

 

「やかましい、とっとと消えろ。」

 

決まったあ〜っ!

魔王様怒りの右ストレートがなんか突然現れた仮面男の顔面に突き刺さり、光の粒子になって消えていく。あいつサーヴァントだったのか…

 

「ふーん、私は虫の居所が悪いんだ。生皮剥いで食わせるぞばーか。」

 

台詞がいちいち猟奇的なのは最早常套句なので気にしないで頂きたい、挨拶みたいなもんよ(感覚麻痺)。

 

さて、狂える凄女マルタの最期の言葉に従ってやって来ましたリヨンの街。さっきのクリスティーヌクリスティーヌ煩い仮面野郎をさくっとボコして、手分けして悪ヌの連れる〝化物〟に対抗する手段を探さないと…

 

■■■■■■■■ッ!!

 

その時、アヴェンジャーが建物の一角で吠えた。どうやら生存者を見つけたようだ。

善ヌとマシュちゃんが探索に入り、中から見つけ出されたのは、大きな剣を担いだ瀕死の男が1人。かなりの重傷だった。

彼を連れてリヨンを出ようとしたその時、空を覆い尽くすような轟音が街を震わせる。

 

いや、鳴き声か。まともな生物の出せる音量じゃないが…

空を見あげれば巨大な黒い影、今まで襲ってきたワイバーンとは骨格から違う、某狩りゲーに出てきそうな真の竜種、巨大なドラゴンが俺たちの前に舞い降りた。

 

「こいつは…まさか…!?」

 

瀕死のお兄さん、血を吐きながらも目の前の竜を睨みつける。ドラゴンの方もまた、一瞬だけお兄さんに怯えていたが、直ぐに彼を睨み返した。

 

「苦労して見つけたのが死にかけのサーヴァント一匹とは、苦労するわね。私。」

 

「竜の…魔女…!!」

 

『嘘…あの魔女が連れてるのは幻想種?聖杯であんな物まで召喚したっていうの!?』

 

所長が通信越しに驚いてる。

巨大なドラゴンの背に乗るのは、案の定竜の魔女ジャンヌ・ダルクこと悪ヌさん。魔王様の顔見るなり嫌そうにした。

 

「うっ…やっぱいるわよね…クソっ!

ファヴニール、奴ら諸共焼き尽くしなさい!」

 

「やはりお前だったのか、ファヴニールッ!!」

 

お兄さんが血を吐く勢いで台詞を吐き出した。何?知り合い?

 

ガバッと邪龍の口が開かれ、そこから火炎放射器の様に炎が迸った。俗に言う龍の息吹(ドラゴンブレス)ってやつだ。

あっ、やばいかもこれ

 

「!?…ちっ!」

 

慌ててマシュちゃんと善ヌさんが宝具で守ろうとするが間に合わない、すると魔王様がその黒く染まった右手を前に出し。

 

『Xバリアー×5』

 

そう呟いたのもつかの間、俺たちの目の前に現れた大きな透明の壁が5枚重なって、ファフニールのブレスとぶち当たった。

絶え間なく襲い掛かる灼熱のブレスに魔王様のバリアーが一枚、また一枚と砕けて割れていくのが見える。やっとブレスが吐き終わった頃にはバリアーは残り二枚まで削れていた。

 

「ま、魔王さん…ありがとうございます。」

 

「勘違いするな、お前等の不手際で下僕が傷付けられるのが嫌なだけだ。

それでも英雄か、聖処女様。」

 

「くっ…不甲斐ないばかりです…」

 

あんまりいじめてあげなさんな魔王さんや。ありがとね、助けてくれて。

 

「ふーん、一生恩に着ろ。」

 

ていうか何気に全滅しかけたよね、危ねー…

 

「なっ…邪龍のブレスも防ぎ切るの!?

アイツの方がよっぽど化け物じゃない!」

 

(下僕、あの竜は嫌な感じがする。

奴は幾らか怪獣寄りの化物だ、私の無敵結界も抜かれる可能性がある。

全盛期の私ならこんな奴2秒で消し炭だが、5%しか力の使えない今となっては、このまま戦うのは少々分が悪いぞ。)

 

俺にだけ聞こえる声でそう言った魔王様の腕は少し焦げてた。元々黒いからあんまり分かんないが珍しい、魔王様が弱音を吐くとは。それだけ向こうが規格外の化物って事か。

幸い向こうの大将はブレスを防ぎ切った魔王様に動揺してるし、何とかリヨンを脱出したい所。

 

「槍一さん、ここは…」

 

藤丸君も同じ事を考えていたようだ。そういえば、あの死にかけのお兄さんはあの竜を「ファヴニール」と呼び、随分と見知っていたみたいだし、何か情報を聞けるかもしれない。

 

「奴の名は邪龍ファヴニール、嘗て俺が滅ぼした厄災の竜の名だ。」

 

『ファヴニールを倒した英雄…貴方、まさか竜殺しの大英雄ジークフリート!?』

 

所長が驚き告げるその名前は俺もよくゲームとかで見かけた事がある。超有名人だ。

 

「大英雄などではないよ、今は死にかけのただのサーヴァントだ…ごほっ!?」

 

ああもう無理して喋るから血吐いちゃったよ

 

「すまない…約立たずですまない…」

 

『藤丸、有栖宮。どうにか彼を連れてリヨンを脱出しなさい!万全の状態のジークフリートなら、ファヴニールに対抗出来る筈よ!』

 

所長曰く、サーヴァントは元になったお伽噺や史実の影響を強く受ける。ジークフリートもまた、物語の中で邪龍ファヴニールを殺した事から、その影響を強く受けるそうだ。

悪役は正義の味方に倒される運命であるように、ファヴニールという悪役(ヴィラン)は必然的に主人公(ジークフリート)によって屠られる。ただ、こっちの主人公は別口で重傷を負っていてそれどころではないのでひとまず撤退撤退!

 

「逃がすか!バーサーカー、バーサーク・セイバー、追いなさい!

死にかけの竜殺しと…あの水色パジャマは確実に消すのよ!絶対だからね!」

 

ワーオ竜の魔女様私怨激しーい大人気ないぞー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「も…もう足が…」

 

「情けないぞ藤丸君!といってもサーヴァントと生身の人間じゃいくら何でも無理があるよね…」

 

「そう言ってる槍一さんはなんでバック走のまま息一つ乱れてないんですか…ゼェゼェ…」

 

「これくらい体力ないと魔王様の相手できんからねー!」

 

「魔王さんの…相手…あわわわ…」

 

へいそこのデミサーヴァント、察して俯かない!やっぱり君むっつりスケベだな!?

 

「ちっ、違いますぅ〜!!」

 

引き際に瀕死のジークフリートが力を振り絞って放った一撃により、竜の魔女を乗せたファフニールは追ってこなくなったんだけど、代わりに敵方のサーヴァントが2騎こちらを追いかけてきている。

1人は全身黒鎧の仮面ライダーみたいな騎士、もう1人は…どうやらマリーさんの知り合いらしい。

凄い鬱陶しそうにモーツァルトが口を開いた。

 

「マジかよ最悪だ。

奴の名はシャルル。シャルル・アンリ・サンソン。

フランス革命時、マリアの処刑を執行した処刑人さ。」

 

「貴方のお顔は忘れたことが無いわ、気だるい職人さん。」

 

サーヴァントは史実に大きく影響を受ける、と所長がさっき言っていた。殺される側と殺す側がハッキリしている史実なら、尚更マリーさんがそのサンソンとかいうサーヴァントに殺されてしまう可能性が高い。

マリーさんの首が知らない間に落ちてましたとかそんなスプラッタな光景見たくないわ。

 

「お久しぶりです、白いうなじの君。

マリー・アントワネット。こうして会えるなんて夢にも思わなかった。

余計なのもくっついているようだが、まあそんな事はどうでもいい。また君に出会えるなんてね、やはり僕と貴女は特別な縁で結ばれているようだ。」

 

おふたりはそういう関係?史実に残らない裏事情ってやつ?

……モーツァルトが凄い勢いで否定した、どうやら違うみたい。というかサンソンとモーツァルトはお互い火花を散らしてる、相当いがみ合ってるようだ。

 

イケメンに狙われて大変ですねマリーさん

 

「うふふ、困っちゃう♪」

 

 

一方藤丸君前に現れたのは黒い全身鎧のサーヴァント、身体から黒い煙を放ってて、ステータスとかがよく分からない、奴の能力かな。

 

「マスター、下がってください…彼は私が。」

 

霊体化を解いて現れたのはセイバーだった。何やら神妙な面持ちでバーサーカーを見てる、そのバーサーカー、セイバーが現れた途端叫び出して問答無用で襲いかかってきた。

 

Arrrrrrrrrrrr!!

 

右手に持った重そうな剣を軽々と振り回し、音を超える速度でセイバーと剣戟を繰り広げる。その技量、とても狂化が付与されてるとは思えない。

 

「ソウイチ!こちらは私とマスターが引き受けた、貴方達はそちらのサーヴァントを頼みます!」

 

「だそうです槍一さん、こっちは任せて!」

 

おっけおっけ、じゃあ俺たちはこっちの…えーと…名前なんだったっけ…

 

「腐れ首狩りマニア(ボソッ)」

 

バーサーク・腐れ首狩りマニア?を食い止めようか。

 

「おいモーツァルト、変な渾名を僕に付けるな。そこの君も乗っかるんじゃない!」

 

「何か一つに拘るのは素晴らしい事だと思うけれど?」

 

「君は相変わらずだな…

だがその首、もう一度刎ねさせてもらうよ。」

 

バーサーク・セイバーが構える。相手は狂った処刑人、人殺しに特価したサーヴァント、更に史実補正でマリーさんがウィークポイントになるだろう、苦戦は必至だけど…

人じゃないあいつならなんとかなりそう。

 

速攻で決めよう、アヴェンジャー

 

■■■■■■■■■■■■■ッッ!!

 

「!?なんだコイツは!くっ…!?」

 

草陰から飛び出したアヴェンジャーの鎌刀がサンソンの首を狙う、かろうじて防ぐ事に成功したが大きく飛ばされ後ろへ下がった。

 

「ほぅら僕、初めての遊び相手だ。

踊って踊って狩り殺せ、疾走って疾走って食い尽くせ。その憎悪のままに、首刎ね処刑人に首を落とされる恐怖をくれてやれ。

宝具を解放しろ、我が僕。」

 

魔王様がそんなことを背中で呟いて、魔力が身体から抜けていくのを感じた。魔王様を通してアヴェンジャーへ魔力が流れていってるんだろう。

 

■■■■……■■■■■■■■■■■■■ッッッッ!!

 

一際大きくアヴェンジャーが吼えると一瞬だけ風が吹き荒れ、しん…と俺達の周りが静まり返った。

風は止み、音は消え、まるで時の止まった世界、それはまるでこれから行う()()をしやすいよう、限界まで研ぎ澄まされた空間。

 

首なしの両腕がちぎれ飛ぶ、飛んだ腕はそのまま歪に枝分かれして、まるで幾重もの鎌のように再構成されていく。巨狼は取り落とした鎌刀を一本咥え、眼前の獲物を見据えた。その瞬間、首なしの両腕が高速でサンソンへと襲い掛かる。

歪な両腕は抵抗するサンソンをあっという間に絡めとり、彼はもう腕一本動かせない状態まで陥ってしまった。

 

「こ…これは…まさかっ!?」

 

驚愕するサンソン、ああなるほど。

彼は首なしの両腕に絡め取られてもう指一本動かせない、たった一部分、首から上を除いては。

それはまるで断頭台に掛けられた罪人のようだった。

 

「これは奴等の復讐心の結晶、『確実に首を狩る』事を目的とした絶殺宝具。

あの男、処刑人なんだろ?いつも殺る側だったから、殺られる側の景色は見た事ないだろうになあ。くっくっく…」

 

ニヤニヤ魔王様が笑ってる、本当に意地悪な魔王様だ。処刑人を断頭台に立たせるなんて。

 

鎌刀を咥えたまま疾駆するアヴェンジャー。狙いは勿論、サンソンの首だ。最早一切の抵抗を許されない彼は眼前に迫る死をただ受け入れるしかなかった。

 

遥かなる者への断罪(フリーレン・シャルフリヒター)

 

アヴェンジャーの遠吠えと共に、ぽーん、とボールみたいにサンソンの首が飛び、その辺に転がった。それから、光の粒子になって身体と切り離された頭が消えていく。死体が残らない英霊だから良かったね。

魔王様、アヴェンジャーの働きに御満悦である。

 

これでこっちの追っ手はおしまいっと

 

「…さようならサンソン。唐突な出会いに唐突な別れだったけど、2度目があるなら3度目もある筈よね。

今度は味方同士でお会いしたいわ。」

 

「僕はもう二度と奴に会うのは御免こうむるけどね。少しは刎ねられる側の気持ちが分かったかってんだ。」

 

こんな時でもマリーさんは優しい、そういう人だもんな。善ヌさんと方針は違うけど向いてるベクトルは同じというか…なんというか…

文句垂れるモーツァルトだが、少し残念そうにしているのを見逃さなかったよ俺は。ツンデレ音楽家め。

 

「僕にどんどん変な属性乗っけるの止めてもらえるかな!?」

 

『有栖宮、無事!?…て、もう終わってるじゃない。

目を離した隙にジャンヌ・ダルクがワイバーンの群れにに襲われてる集団を発見したみたいよ、彼女を追いかけて援護してあげなさい!

バーサーカーは引き続き藤丸のセイバーが相手してくれてるわ。』

 

善ヌさん?これ撤退戦だって言いましたよね?お人好しもここまで来るといっそ清々しいよ?

それに襲われてる人達は竜の魔女知ってるんだろうか、見た目がそっくりなんだから…嫌な予感がするよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

案の定、善ヌさんは襲われてる人達に竜の魔女と間違えられて逆に攻撃された。そんでワイバーンに対抗すると「どっちもくたばれ」だってよ。命救われといてこの言いよう、連中口だけは達者な只の案山子ですな。

 

「私なら瞬きする間に(指パチンッ)皆殺しにできる。」

 

魔王様ならほんとに出来るだろうけどやらないでね?あと当突に耳舐めるの止めて、そういうのは夜になってからね。

 

向こうにも向こうの事情があるのだ、主観だけで判断してはいけない。だがこっちにはこっちの事情があるからね、取り敢えず善ヌさんを援護援護。

バサランテが矢を射掛け、アヴェンジャーが渋々ワイバーンを切り落としていく。

襲っていたワイバーン達の首魁は、さっき見たバーサーク・アサシン、血の吸血婦人カーミラだった。

相変わらず危ない格好して変なマスクだ。危ない女め。

 

「背中にパジャマの女担いでる貴方に言われたくはないわね。」

 

ははは、実はパジャマじゃない。全裸なのだよウチの魔王様は!そう言って一瞬だけ幻術を省エネモードまで落としてあげた。

二本の光に大事な所を隠された一般向け全裸魔王が顕になった。

 

「貴女の方が充分危ない奴じゃない!」

 

「裸で何が悪いッ!!」

 

「流石の私でも公衆の面前で裸はダメだと思うけど!?」

 

ギャーギャー言い争う全裸魔王とマスクボンテージ婦人。

だんだんオルレアンのモラルがハザードしてきたぞ、これも人理焼却の影響か…おのれレフ教授!一刻も早く特異点を修復して皆の羞恥心を取り戻さなければ…

 

「フランスを変態の巣窟みたいに言うのは止めて下さい!」

 

結局カーミラは魔王様が居るので分が悪いと判断したのか退却していった。

途中、フランス正規軍と鉢合わせそうになったけど、善ヌさんわざと避けて違う道を迂回した。理由聞いたら知り合いに会うのが気まずいんだって。

救国の聖女も人間関係には苦労してるのね。

 

その後、無事藤丸君と合流、バーサーカーは撃退したらしい。セイバーさんの知り合いだったみたいだよ。なんか凄いセイバーさん凹んでるんだけど…何かあったの?

 

「英霊だって過去を悔やむ時くらいある、今は彼女をそっとしておいてやってくれ。」

 

台所のアーチャーに諭されたのでこれ以上追求はすまい、英雄にも色々あるのだ。

因みにランサー兄貴にも?

 

「ん?俺ァ…そうだな、師匠との修行の日々とか、割とトラウマだったりする。

いやあ分単位で命の危機を感じられる場所だったぜ、影の国。」

 

なにそれケルト怖い、聞き齧ったウワサじゃチーズぶつけられて人が死ぬ世界だもんな…魔境過ぎるだろ。

平和な現代っ子に生まれて良かった…

 

藤丸君とマシュちゃんがセイバーさんのメンタルケアを終えて、なんとか彼女が持ち直したので傷付いたジークフリートの傷を診ることになった。が、どうやら只の傷ではなく、御大層な呪いが掛かっているようだ。善ヌさん曰く自分ともう1人『聖人』のサーヴァントが解呪に必要とのこと。

 

そのサーヴァントを探しにここから離れた2箇所の街へ行く必要があるので、所長の提案で二手に別れて聖人のサーヴァントを探す事になった。くじ引きの結果藤丸君はジークフリートとモーツァルトを連れて、俺は善ヌさんとマリーさんを連れて行く事になった。夜が明けたら出発だ。

 

 

 

俺のクジ運の悪さに絶望した魔王様は不貞腐れて影に潜っていった

 

 

 

 

 

 

 

 





第一再臨の水着ネロちゃまをT〇NGA水着って言った奴、後で体育館裏な。


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11話 聖人と聖女、竜の魔女



2017水着→3周年→2部2章→2018水着

は?(威圧)イベントのスパンに陰謀めいたものを感じる










 

 

 

 

 

あ さ

 

 

 

はい、というわけでね。

果てなき旅路の始まり、人理修復。本日も清々しい朝を迎えました(げっそり)

え?なんでやつれてるのかって?聞くな、いつもの唐突な魔力供給だ。

 

お外だと魔王様張り切っちゃうね、他の人達に見つかると思うと余計にね。そのギリギリ感が堪らないんだろう、俺は気が気でなかったけどね。多分台所のアーチャーには気付かれてる、彼優しいから気付かないふりしてくれてるんだと思う。優しさが心に刺さるよ。

なんだよ人類の危機にフランスの森の中でサカってるって、緊張感以前の問題だろ。しかしそんな時でも俺の息子は「まんざらでもない」とばかりにその首をもたげ臨戦態勢になってしまうのだ。本能には逆らえない、だって男の子だもん。

 

「いつもより大きかったし、量も多かったぞ…」(ボソッ)

 

違うんだ、別に興奮してるわけじゃないから。魔王様がえぐい搾り方するからだ。彼女のそれはカズノコとか、ミミズとか、そんなもんで表現できるレベルにいない。強いて言うなれば〝宇宙(コスモ)〟、この世ならざる快楽と遭遇したような錯覚にさえ陥る魔性の身体……何言ってるんだ俺は。

これ以上考えるのはSAN値が下がるから辞める。とにかく俺は悪くない、本能が天元突破しただけだ。だからいつまでも胸を背中に擦りつけるのは止めなさい。

 

「あててんのよ」

 

TPO(時と場所)を弁えろって言ってんの!

 

他のサーヴァント達は夜通し周辺の警戒とかしてくれてるのに。と、ちょっと申し訳なくなりながらみんなの待つ焚き火まで向かう。そこでは台所のアーチャーがワイバーンの肉をかっさばいで調理していた。なんでもワイバーン肉は脂ギッシュで臭みも強く、美味しく調理するのに一苦労なんだとか。

飽くなき食への探求心、俺も料理する身としては素直に尊敬してます。この人の真名何だろうね、料理できるアーチャーって…

満足できる出来になったのか、アーチャーから肉が配られそれを皆で頂いた。凄い!臭みも脂っこさも消えてる!ローストビーフみたいな感じだ。特異点終わったら調理法教えもらおう。

…俺に渡す時だけこっそり「ワイバーンの肉はスタミナも付く。まあ…君も大変だと思うが頑張ってくれ。」って言われた。理解あるアーチャーだった。おっと涙が…

 

 

 

「まあ、とっても美味しいわ!これなら毎日食べてもいいくらい!」

 

「それは流石に太ると思いますが…」

 

「うふふ、私昔から脂肪は全部胸にいくんです。だから大丈夫!」

 

「そうなんですか!?羨ましいです…」

 

「はいそこの音楽神ニヤニヤしない、通報するぞー。」

 

「朝っぱらからあらぬ誤解だよ!?」

 

のどかな朝食風景だ、魔王様も俺の分からちょいちょい摘み食いしてる。あんたさっきたらふく魔力吸い取ったばかりでしょうが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ聖人のサーヴァントを見つけたら大至急連絡でお願いします。」

 

「よしきた、藤丸君も気を付けてな。」

 

そう別れを告げて藤丸君と俺達は別れた。聖人のサーヴァントを見つけて、ジークフリートの傷を治す為だ。それが済んだらいよいよ竜の魔女との決戦になるだろう。

 

「聖人のサーヴァントなんて都合よくいるものかしら?」

 

「分かりません、ですが行動しなければ私達に明日はありませんよマリー。」

 

一晩明けた善ヌさんとマリーさん、とても仲良しになってるご様子。

お喋りを交えながら目的の街まで向かう。

 

「有栖宮さん、魔王さんは…」

 

「魔王様なら影の中です、いつもの如くお昼寝中ですよ。」

 

「……そうですか。」

 

なにやら善ヌさん落ち込んでいるご様子、どうかしました?

 

「いえ、私はどうして彼女に嫌われているのかな、と思いまして…

何故彼女はそれ程に私を敵視するのでしょう。」

 

「そう言えば私も避けられている気がするわ。ただお肌を触りたいだけなのに!」

 

マリーさんはそれが原因ですがな。

善ヌさん、心配する必要ないですよ。魔王様は確かに貴女のことをそれはもうボロッカスにいいますが、それは決して貴女を貶めようとしているんじゃありません。

 

『好き』の反対は『嫌い』ではなく『無関心』、そもそも魔王様が本当に善ヌさんの事が嫌なら、初めから面と向かって嫌いなどと言うはずがないのだよ。

あの子はきっと、昔の自分と善ヌさんを重ねているんだろう。彼女も昔は人々に愛され、天に恵まれた才能を持つ偉大な賢者だった。それ故に疎まれ、凄惨な結末を迎えてしまった。それがフランスの為担ぎ上げられ、裏切られた挙句処刑されたジャンヌ・ダルクの姿が重なって、少なからずシンパシーを感じているんだろう。

魔王様は恨む道を、ジャンヌ・ダルクは恨まない道を選んだ。

この聖女、魔王様の言う通り正真正銘の善人だ。誰かに利用されて自分が死んでも、民の為に有ればいいと、心の底から本気で考えてる。そんな人間に誰かを恨めという方が土台無理な話。

 

…じゃあ悪ヌはこんな人っ子一人恨めない完全無欠聖女から一体どうやって生まれたのかなって話になるが、まあその辺はおいおい分かってくるだろう。

 

「そう…ですか…

魔王さんって、少しひねた子なんですね。」

 

「悪い子じゃないですから。」

 

ただし人類を千年苦しめ続けた大魔王である

 

「はい、お話を聞いて少し安心しました。

私もまだ彼女に守ってもらった恩を返せていませんし、この身で良ければ、より一層貴方がたに協力させて頂きます。」

 

屈託のない笑みでにっこりと笑う善ヌさん、まさに聖女オブ聖女。対して貴族オブ貴族のマリーさんは魔王様に避けられているのに納得出来ないご様子。

そりゃ魔王様の肌をあれだけ撫でくりまわしたら避けられもする、しかも撫でてる間目がハートだったゾ。百合の花が咲き乱れそうになってたのを俺は見逃さなかった。博愛主義も程々にネ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだかんだ話している内に目的の街へ到着、此処は他の街ほどワイバーンに荒らされていなかった。余所者という事もあり(ていうか後にアヴェンジャーがいたので)おおいに警戒されたが、コミュ力が臨海突破してる我らがキラキラ貴族マリー様のお力によりなんとか市民達の信頼を得て、この街を仕切っている『セント・ジョージ』なる人に会うことになった。

 

 

 

 

「貴方達が彼らの言っていた来訪者ですか。」

 

橙色の甲冑を着込んだイケメンおじ様のご登場である、彼がこの街をワイバーンから守っていたようだ。

話した結果、納得してジークフリートの呪いを解くのに協力して下さるそうで。ただし、街の人たちをフランス正規軍の守る隣町まで避難させたいらしい。

マリーさんと善ヌさんは快く承諾、俺もそれに従って、さあ護衛するぞと張り切っていたその時、何度か聞いた耳触りな叫び声が大気を揺らした。

恐らくワイバーンだ。それだけじゃない、地面を覆い尽くすようにワサワサ這って何かがこちらに向かってきてる。それも1匹や2匹じゃない、大量にだ。

 

「な、なんですかあれは!?」

 

「沢山のタコさんが陸を走ってるわ!」

 

『有栖宮の方に向かってエネミー反応多数…うえ!?海魔じゃない!しかもその数…使用者はどれだけの魔力を持ってるの!?』

 

驚く所長から映像を生配信してもらう。

 

…おっふ

 

ちょーキモい、正直吐きそう。

大急ぎでゲオルギウスが住民達を避難誘導してる、この物量に迫られたらこんなちっぽけな街なんて一瞬で押し潰されて終わりだろう。更に間の悪いことに、契約してるアヴェンジャーもバサランテも、サーヴァント同士の一体一(タイマン)勝負なら優位に立てるが、あんな感じで数のゴリ押しされちゃどうやったって分が悪い。

 

「一応私には広範囲攻撃のできる宝具もあるが、マスターの魔力が持たないだろうな。そもそもバーサーカーで現界しているから燃費が悪いんだ。

…というか、こんな時こそ魔王を起こせばいいだろう。」

 

あー駄目、それは駄目。昼寝してる魔王様を無理矢理起こすと癇癪で手当り次第人間に拷問掛け始めて犠牲者が増えるから。意識と痛覚のあるまま石化魔法掛けられて悲鳴も上げられず指先からポキポキ折られていくフランス国民なんて見たい?俺はやだね。

魔王様は基本的に人間大嫌いだから、なんの脈絡もなく人殺しするし、拷問もする。彼女の居た世界ではそれが当たり前だったから。普段からそういうのは駄目だと言ってるから控えてはいるものの、寝起きだと極端にそのタガが緩くなる。無理矢理起こされるのなんて論外だ、すぐにでもフランスを更地に変えようとするだろう。

俺がいるから大丈夫?魔王に自制は促せても制御はできない。彼女は全裸でワガママだが、人類を簡単に死の淵に追いやれる存在だ。その辺を勘違いしちゃいけない。

マリーさんや善ヌさんもいるから特に、そういったダーティなプレイは控えないといけないのよ。

…それに、魔王様は女子供でも容赦しない。寧ろ、はばかられる事から優先して辱めていくから、バサランテにとっても宜しくない結果になる。間違いない。

 

「そうか…そうだな。なら彼女無しでこの場を打開する手段を考えねば…」

 

いっそ市街戦を止めて避難民の殿を務めながらフランス正規軍の所まで合流を…いやそれじゃあジリ貧だなあ、どうしよう。

 

その時、ドォンッ!と大きな音が響いた。それから立て続けに発射音のような音が聞こえて、一拍遅れで爆音が俺達の鼓膜を揺らす。バサランテに確認して貰ったところ、この街の住民が避難しようとしているとどこからか聞きつけたのか、フランス正規軍の先遣隊が武装してワイバーンと交戦しているようだ。

そりゃいいや、正規軍が引き付けてくれてる間に脇からあの蛸共とワイバーンを突いてやろう、蛸の戦闘力は見る限りではフランス軍の槍持った一般兵士で対抗できてるし、サーヴァントなら充分蹴散らせる筈だ。

というわけでアヴェンジャー、バサランテ宜しく、避難誘導の殿はマリーさんとゲオルギウスに任せて、善ヌさんは俺を守って欲しいな。俺って貧弱一般マスターなの。

女の子に守ってくれと頼むのも男としてどうかと思うが、そういえば15年間魔王様の尻に敷かれて守られて今まで生きて来ましたわ。今更やんけ。

 

いや思い出せ有栖宮槍一、何も尻に敷かれるばかりではなかったはずだ。毎日毎日唐突に精を搾られ退廃的な生活を送ってた訳じゃない。そうほら例えば……ええと…ううんと………………

 

………………………………うん…

 

よ、よし!人理修復頑張って、胸張って魔王様に自慢してやるぞ!(汗)

 

「有栖宮さん!?何故急に涙を流しているんですか!?どこか怪我でも…」

 

止めて善ヌさん、優しさが痛い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「所長、聖人のサーヴァントはこっちにいたんで藤丸君に連絡を…」

 

『とっくにやってるわ、藤丸達はそちらに急行中よ。道中で現地の野良サーヴァントと仮契約したみたいね。

猫の手も借りたいくらいだし、戦力が増えるのはいい事よ。』

 

「流石です所長、そこにシビれる憧れるゥ!」

 

『ばっ…馬鹿言ってないで、さっさと海魔を迎撃しなさい!この数、並のサーヴァントじゃ遠隔でなんて到底呼び出せないわ、なら魔力源となる術者が近くに居る筈よ。そいつを探し出しなさい!』

 

了解っす、バサランテに頼んでそれらしい奴を見つけてもらおう。

 

『ゲオルギウスとマリー・アントワネットがフランス軍と接触、避難民を庇いながら撤退中よ。

ムニエル、海魔を使役するサーヴァントが過去の聖杯戦争に参加していないかライブラリで調べなさい。真名が判明すれば有栖宮の助けになる筈だからね。

海魔達は上手くこちらが引き付けてる、ワイバーンは向こうの二騎が上手く抑えてくれてるしこのままいけば…

何ロマニ!?今こっちは忙しい…なんですって?』

 

矢継ぎ早に指示を飛ばし、所長してる所長。

だがやってきたドクターロマンから報告を受けて急に青ざめた、嫌な予感がするぞ。

 

『有栖宮、聞きなさい。

ここへ向かってる藤丸達が襲撃に会ったわ。

エネミーは竜の魔女、そして邪龍ファヴニールよ。』

 

なんてこったい、ラスボスが道中で出現とかタチの悪い負けイベントだぜ。

 

『現状の戦力じゃこちらから救援を出す訳にもいかない、藤丸達がなんとか凌いでこっちに辿り着くのを祈るしかないわ…

ロマニ!こちらで出来ることは全てやりなさい、全力で藤丸達をフォローするのよ!人類最後の希望をこんな所で失うわけにはいかないんだから!』

 

すげえ、本当に所長が所長してる。

 

『はっ倒すわよアンタ!?』

 

「マスター、敵のサーヴァントらしき人物を発見した。奴は海魔を生み出しながら真っ直ぐこちらへ進行中だ。」

 

こっちも敵サーヴァントを発見だ。こっからが正念場。藤丸君、頑張ってくれ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、どうやら当たりを引いたようですね。

死にかけの竜殺し、あの忌々しい水色パジャマとそのマスターも居ない。

ジルのアドバイス通りだわ、此処で全員燃え滓にしてしまいましょう。」

 

口元を歪めて嗤う竜の魔女、彼女を乗せる邪龍もこちらを見据え雄叫びを上げる。

まさか槍一さんと合流する直前にこんな事になるなんて…

 

「不味いですね。如何にサーヴァントが7騎揃っているとはいえ、あの邪龍を相手取るとなると、こちらが圧倒的に不利です。」

 

「しかもなんか前見た時よりパワーアップしてませんかあのドラゴン。なんですか、コスモリアクター飲み込んで超絶パワーでも手に入れたんですか。セイバーでもない癖に。」

 

「禍々しい…わたくしあの様に醜悪な邪気を撒き散らすモノは初めて見ました。」

 

「うえっなんなのアレ。ドラゴンはドラゴンでも、色んなモノが混ざりあったキメラみたいよ。少なくとも真っ当に呼び出されたもんじゃないわ、魔改造よ魔改造。」

 

新しく仲間になったバーサーカー、清姫と、ランサー、エリザベート・バートリは嫌な顔をしてそんな事を呟いていた。

 

「ていうか今セイバー君は僕とジークフリートをさりげなく除外したよね?まあ 役立たずなのは認めるけどさ。」

 

「すまない、役立たずですまない…」

 

「先輩、やるしかありません。此処で足止めをされていては…」

 

「ジークフリートを治せないからね…

頼む、皆。道を作ってくれ!」

 

令呪の刻まれた右手に力を込めて言い放つと、セイバー達は一斉に邪龍に向かって攻撃を仕掛けた。

 

Xさんの剣が煌めいて、邪龍の足下を切り刻む

 

ランサーの投擲した朱槍が羽根を毟りとり、アーチャーの矢が魔女の乗る背中に降り注いだ

 

セイバーとエリザベート、清姫も取り巻きのワイバーンを次々と切り伏せ、貫き、燃やしていく

 

だが、ファヴニールは健在だった。

傷付けられた羽根や脚はみるみる内に修復され、あっという間に元通りになる。

お返しとばかりにファヴニールの口元から火花が迸って、次の瞬間には灼熱のブレスが地面を覆い尽くすようにこちらへ向かって広がった。

 

「先輩。宝具、行きます!」

 

仮想宝具 疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)!!

 

マシュの強化された大盾が迫るブレスとぶち当たり、炎は左右に分かれ大地を焦がしていった。

苦悶の表情で盾を構え続けるマシュ、圧倒的な熱に焼かれ、どんどん盾が赤く変色していく。

 

「マシュ!」

 

「ぐううううううっ!!

不味い…です…勢いが強過ぎて……ッ!」

 

盾が押され、宝具が決壊しそうになったその時

 

「選手交代だ。」

 

「え?ひゃあッ!?」

 

間に入ったアーチャーにマシュが首根っこを掴まれて、俺の方へ投げ飛ばされた。

 

「……熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)ッ!!」

 

突き出したアーチャーの手を中心に花のようなバリアーが展開されて、再びブレスと衝突した。ビキビキと嫌な音を立てながらバリアが砕け散っていき、最後の一枚が割れた時、ようやく邪龍はブレスを吐き終えた。

 

「あ、ありがとうございます、アーチャーさ…ぁ…」

 

「なに、気にする事はない。人類の希望を生き残らせる為に最善の手段を選んだまでだ。」

 

マシュと俺は絶句した。アーチャーの右腕は二の腕まで焼け焦げて、なくなっていたから。

 

「アーチャー…腕が…」

 

「気にするなと言っただろう。

どうやらあの邪龍は本当にジークフリートでないと傷を負わせることは難しい…いや、彼でないと不可能になった。より史実の影響が濃くなったのだろう。

逆に言えばジークフリートなら確実に奴を殺せる、重要な鍵だ。

私が時間を稼ぐ、マスターは他のサーヴァントを連れて全速力でもう1人のマスターの元へ離脱しろ。」

 

「たった一人で!?どうやって…」

 

「足止めだけなら問題ない。」

 

ニヒルに笑うアーチャー。でもそれは、俺たちを逃すために捨て駒になるって事だ。そんなの認められない。

 

「全てを救えると思うな。抱えて溺死する前に、最善の選択肢を常に用意しろ。

『正義の味方』からの忠告だ。」

 

「でもっ…」

 

「行きましょう、マスター。

ジークフリートを生かさねばこの特異点の修復は成りません。

いいのですね、アーチャー。」

 

「無論だ。元より英霊など使い捨ての戦力、マスターの心遣いがおかしいのだよ。

それに…何故奴に私が負ける前提で話している。別に倒してしまっても構わんのだろう?」

 

「……分かった、但し無茶はしないでくれ。」

 

セイバーに後押しされ、納得のいかないまま離脱しようとするも、竜の魔女がそれを許してくれる訳もなく。

 

「逃がすもんですか…ファヴニール!」

 

「させんよ…」

 

I am the bone of my sword(身体は剣で出来ている)

 

何かを呟き始めた途端、眩い光がファヴニールとアーチャーを包み込み、掻き消えた。

 

「アーチャーさんは一体どこに…」

 

「固有結界です、彼は自身とファヴニールを世界ごと隔離しました。今のうちに離脱しましょう!」

 

「セイバーの言うことは癪ですが、正しい判断ですね。台所のアーチャーの犠牲を無駄にしてはいけません。」

 

2人に後押しされ、急いでその場を立ち去った。ジークフリートは未だに虫の息だ、アーチャーが時間を稼いでくれているうちに、一刻も早く槍一さんが見つけた聖人のサーヴァントと合流しないと…!

 

「あれ?青いタイツの彼はどこだい?さっきまでそこにいたハズなんだが。」

 

逃げながら、アマデウスが辺りを見回した。

あれ?そういえば…ランサーがいない!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何故貴様が残った、ランサー。」

 

「一人カッコつけて手柄をかっさらおうとするんじゃねえよ英雄気取り、俺も交ぜな。」

 

荒れ果てた荒野を背景に、地面に刺さる贋作の山。此処は英霊エミヤの作った固有結界の中。

『無限の剣製』、そう呼ぶこの空間は、エミヤ自身の心象風景を具現化した仮想世界だ。

 

「チッ…やってくれたじゃない。

でもたかだか2匹、雑魚サーヴァント如きでファヴニールを足止め出来ると思ってるの?」

 

忌々しそうに睨みつける竜の魔女、エミヤとランサー、クー・フーリンは各々の武器を握りしめ、獰猛に笑った。

 

「雑魚か、言ってくれるな竜の魔女。」

 

「紛いもんに雑魚呼ばわりたあ、舐められたもんだ。その心臓ブチ抜いてやらァッ!!」

 

ファヴニールが吼え、舞い上がる。

 

 

 

 

結界内での死闘、真の意味で竜殺しにしか殺せない邪龍を相手に二人は最後まで善戦し続け、一度は竜の魔女を目前に迫るも圧倒的なファヴニールの力により徐々に疲弊していく、そしてエミヤの魔力が尽きるまで『無限の剣製』は展開された。

あのままエミヤ一人では到底邪龍に対抗できなかっただろう。彼等は見事、マスターを逃すため時間を稼ぎ、散っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が偽物…?そんなわけない、私は私。

人を憎んだ竜の魔女、堕ちた聖処女ジャンヌ・ダルクなのだから…

なら何故こんなにも、贋作(にせもの)と言われて心が苦しくなるの?

 

私こそ真のジャンヌ・ダルク、その筈なのに

 

 







散財の夏、爆死の夏…




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12話 堕ちた元帥と魔王様


遥か長い時を過ごした気がする…(1ヶ月ぶり投稿)

3周年だよ!新キャラガチャだよ!
ばら撒いた石の数だけ爆死がある。此処は戦場、呼符と聖晶石に己の欲望を賭け、皆無様に散っていく。爆死報告と呼符来ました報告飛び交うTLの中でキリコの飲むウドの珈琲は、苦い(Cv銀河万丈)

福袋はオルタニキでした。持ってない鯖で良かったけど、本当はえっちゃんが欲しかったんや…



 

此処とは違う世界のお話

 

ほの暗い奈落の底から、地獄の軍隊がやって来る。

人間達を嘲り嗤う魔物の軍勢、雄叫びを上げる異形の集団は、無差別に村を焼き、街という街を蹂躙した。国と名のつく集団は全て崩壊し、人々は魔物に虐げれられ、人類という存在は『人を産み、英雄を呼ばぬ為の装置』と成り果てた。

 

魔王の破壊衝動と、いつまでも治まらぬ人間への憎悪に身を任せ、思いのまま気の向くまま、向こう千年、大嫌いな人間達への復讐は続いた。

 

人間は嫌いだ

 

人への憎悪は魔王になった事で得た破壊衝動と混ざってドロドロに溶け合い、幽閉された今も尚、この胸奥に巣食っている。私は魔王である限り、未来永劫人間を憎み続けるし恨み続けるだろう。

 

だから下僕、お前は私を裏切るな

 

ずっとずっと、そばにいろ

 

もう二回も失敗した、次はきっと二度とない

 

今度は上手く愛してやるから

 

お前だけは、私の味方でいてほしい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぅん……げぼく…」

 

おはようございます魔王様、ご機嫌いかが?

 

「ぼちぼち……いまどうなってる…」

 

アヴェンジャーとバサランテが頑張ってるよ。

全門のタコ、後門のワイバーンって奴だ。

敵さんの呼び出した海魔がワラワラこっちへ進軍中、捕まったらR指定確実の展開になりそうなので全力で抵抗してる。

 

「…………二度寝しよう…」

 

わーおマイペースだぁ!

 

どかっと背中にもたれ掛かり、眠そうに瞼を擦る魔王様。

 

所長の調べによると、海魔を召喚しているのはフランス大元帥ジル・ド・レェだそうな。過去には聖杯戦争に参加して殺人犯のマスターと一緒になって一般人に甚大な被害を出した事が記録に残ってるらしい。

いたいけな少年少女を人間オルガンとか、かなりえげつない詳細があって、読み上げる所長の声が怒りで震えてた。ヤベー奴だぜジル・ド・レェ、被害が出る前に此処で始末せねば。

 

「なんだこいつ趣味悪いな、ドン引きだわ…」

 

えっ魔王様がそれ言っちゃう?

 

「こいつはアレだ、人殺しが神に対する反逆だーとかいってやってるうちに趣味になっちゃった感じだろ。哀れ~まじ哀れ~。」

 

 

それから直ぐに海魔達を引き連れて、ジル・ド・レェは俺達の前までわざわざ姿を表した。デメキンみたいな目にキモい柄の本を持って、醜悪な笑みを浮かべながら。

 

「おやおやぁ…海魔に抵抗している者共がいると思えば、貴方でしたかジャンヌ…」

 

「貴方は…ジルなのですか……!?」

 

「そのお言葉に偽りなく、我が名はジル・ド・レェ…貴女の死後、神を恨み、冒涜し続けた男の慣れ果てにございます。

此度は貴方様の秘める御心に応え、フランスを地獄に変えるべくこうして馳せ参じた次第。」

 

仰々しく頭を垂れるジル・ド・レェ、その目はどこを向いてるかも分からない程ギョロギョロ蠢いて、完全に頭イッちゃってる人だこれ。

 

「私が…フランスへの復讐を望んでいると?」

 

「如何にもッ!!聖処女はその細腕を取り、軍を率いて見事祖国を取り戻した!あの日の歓喜を、栄光を、片時も忘れた事など御座いませんとも!

しかしフランスは貴女を裏切った!あらぬ罪を着せ、犯し尽くし、用済みとばかりに切り捨てた!!私はそれが我慢ならないィッ!」

 

「ジル……」

 

首を掻き毟りながら叫ぶ奴の慟哭からは、怨嗟の念がありありと感じられた。

その嘆きは、出会った頃の魔王様とほんの少しだけ似通ったものを感じる。

 

「いっしょにすんなー」

 

心詠まれた

 

「フランスへの復讐!きっとそれが貴女の悲願に他ならない!

ならば私は復讐しましょう、亡き聖処女がきっと望んでいたであろう光景を、邪龍を率いてこの地を冒涜者共の血で染め上げて見せましょう!

それが私の願望だ!聖処女を(いたずら)に導き、絶望の淵へと突き落とした蒙昧なる神への反逆であるゥッ!!

…おや、貴女は…」

 

急に静かになったジル・ド・レェ、どうもこっちを凝視してる。いや、見てるのは魔王様の方か。

 

「水色の髪…パジャマ…

…そうですか、貴様が聖処女を貶めた不逞の輩…!!絶対赦さんぞこの匹夫めがァァァッッッ!!!」

 

おういきなりキレたぞこいつ、流石精神汚染付きのサーヴァントは挙動不審だな!

 

「ジル!貴方は一体私の何を見て…」

 

善ヌんが何か言いかけたが、それより先にジル・ド・レェの魔本が妖しく光る。

 

「私の手で、蒙昧なる神を…愚鈍なる神を…今こそ御座より引きずり下ろす……ッ!!!そして彼女を貶めたそこな水色髪に復讐するのですッ!!」

 

最後思いっきり私怨を交えて叫ぶジル・ド・レェの周りに海魔が集まる。グチャグチャ不快な音を立てながら次々と群がって、繋ぎ合わさり、やがて巨大な一匹の海魔へと姿を変えた。

…デカ過ぎィ!?どう小さく見積もってもこの街1つ分はある大きさだ!聖杯ってこんな事も出来るの?教えて所長!

 

『これがあいつの宝具…?魔力を海魔の合体に使ったの!?』

 

ああ成程、スラ〇ムが合体してキン〇スライムになるみたいな。

 

『キン…何?そんな事より、あのサーヴァント滅茶苦茶怒ってるじゃない!アンタいつ彼を怒らせるようなことしたの!?』

 

「そうは言われましてもね、心当たりが…」

 

「大方、あのなりそこないがアイツに告げ口したんじゃないのかー?」

 

なり損ない?竜の魔女(悪ヌさん)のこと?ああ、成程それで…て、それだとあの変態が狙ってるのは魔王様では!?

 

「まあ、そうなるな。」

 

街を覆うほどの巨体にうねうね動き回る大量の触手が行く手を阻む。何処に逃げても捕まって薄い本まっしぐらだ。

 

「G指定の方な。触手にエロ要素が無いし、棘とか着いてるから撫でられるだけでもれなくハンバーグのパテみたいにされるぞ。」

 

呑気に分析しとる場合とちゃいますで魔王様!

 

「くっ…すまないマスター、遅くなった。」

 

■■■■■■■ッ!!

 

その時、雄叫びを上げながらアヴェンジャーが駆けつけてくれた。バサランテも一緒だ。

どうやら戦っていた海魔達が急に退いて行ったのでこっちへ戻って来たらしい。

だがしかし、こっちのサーヴァントは大怪獣を討伐できるような火力は備えてない。

 

『ムニエル!解析班!大至急海魔の全体データをスキャンして送りなさい!そこから魔力源の位置を割り出して、砕けば海魔の結合も解除されるはず…』

 

『全速力でスキャン掛けてます!でも海魔の装甲が分厚過ぎて内側の魔力が遮断されてるみたいです、反応がありません!』

 

『精度上げて!必ず見つかるわ、シバのレンズに視えないものなんてないんだから!』

 

「有栖宮さん、来ます!!」

 

ぶぅんっと風を切り、無数の触手が飛んでくる。

 

我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)ッッッ!!!

 

旗を掲げる善ヌさんが張った半円形の膜みたいなバリアが俺達を包み込み、物凄い音を立てながら触手を弾く。

 

「今度は何とか間に合いました…ッ!!」

 

大量の触手にバリアの上からサンドバッグにされながらも気丈に振る舞う善ヌさん、なんと健気な…

しかし目に見えて彼女が衰弱しているのが分かる、残った魔力の殆どを宝具に回してるんだろう。このバリアもいつまでも持つか分からない。

せめて藤丸君チームが来るまで時間を稼がないと…

 

「カルデアのバックアップを上手く受けられないのがキツいなあ…まあだいたい魔王様がくっ付いてるせいだろうけど。」

 

「なんだこら文句あるか。」

 

「うんにゃ全く。所長何とかなりません?このままだと善ヌさんの魔力切れで俺達ぺちゃんこですよ。」

 

『この手の海魔は核となる魔力源を砕かないと永遠に再生し続けるわ。海魔を制御しているのは…ええと…ジル・ド・レェの逸話で一番近いのは確か…螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)…!彼の持っていた魔本が海魔達の制御装置になっている筈よ、それを破壊するか傷付けさえすれば状況は打開出来るわ!』

 

それが見えないから困ってるんですがねえ。

 

「ん~~~……アレだ。あの色の違う部分からちょい右、上から二段目と三段目の触手の間、あそこから変な魔力感じる。」

 

ちょいちょい指さす魔王様。え?マジで?分かるの?

 

「当たり前だ、魔王舐めんな。」

 

まあ位置が割れてもそこまで攻撃する手段がないんですがね。さっきからアヴェンジャーが何本か触手を切り落としているけど、切った先からウネウネ新しいのが生えてくる。えらいこっちゃ。

 

『ていうか有栖宮!ジル・ド・レェはアンタのお供の魔王を狙ってるんでしょ、彼女にも戦わせなさいよ!』

 

お?所長はフランス全土がドン引きする程えげつない地獄絵図の如き蹂躙劇をお望みで?

 

『なにをどう解釈したらそんな話になるの!?』

 

魔王様が戦うって事はそういう事だ。

だいたい俺と魔王様は主従関係じゃねーですし、むしろ俺の方が魔王様に引っ張られてる感ありますし。この子に任せると人理焼却より先に人類がポアされること間違いなし。あと俺の息子が死ぬ。

 

「いいんだぞ、私に全てを委ねても…♡」

 

はいそこの魔王、甘い声で囁きながらいやらしい手つきで俺の身体撫でないの。耳吸うのも止めて。

 

『な…なんて破廉恥な魔王なのかしら…』

 

「この程度でハレンチとか未通女かよお前、こちとら〇〇〇で〇〇が〇〇〇〇〇〇〇…」

 

『きゃあああああ通常回線で何言ってるのよ!?セクハラよセクハラ!』

 

「とどのつまりは魔力供給の延長線だ、それから私の趣味だ。」

 

『今趣味って言ったわね!?』

 

セクハラトークに興じている場合ではありませんぞ魔王様。こうしてる間にも善ヌさんの宝具は壊れかかっておりまする。

 

「槍一、前にも言ったろ、私に命じてみろと。

お前の魂は私のモノ、私の魂もお前のモノ。サーヴァント共ではあるまいが、人理焼却(めんどうごと)を前にした非常事態だ。他の輩ならともかく、お前の命令ならば従って、お前の思うさまに戦ってやるのもやぶさかではない。」

 

……本当に?

 

「ああ、本当だ。」

 

……無闇に拷問とか掛けたりしない?

 

「しないしない。」

 

……後で死にかけるまで魔力搾り取られたりしない?

 

「………しない。」

 

おうなんだ今の間は。

 

「ふ、ふーん!多少のご褒美くらいあってもいーだろー!?」

 

はあ…じゃあ分かった。

くれぐれも無茶はしないでね?ジルが居なくなったら俺、後追って自殺するから。

 

「奇遇だな、私もお前が死んだら世界滅ぼして死ぬつもりでいた。」

 

つくづく物騒だな魔王様は!?

 

「後追い自殺宣言した馬鹿に言われたくないわ。

………でも悪くない。」

 

ちゅっ…と唇に柔らかいものが当たる。

 

「んふふ…前借りだ♡」

 

御満悦の魔王様も随分やる気のご様子なので、サクッとこの場を片付けよう。

と言っても、本気出せばジルならこの程度…

 

「「五秒で片付くな。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『シベリア』

 

そう魔王が唱えた瞬間、モニターが真っ白に染まる。

 

生き残ったマスターの一人、有栖宮槍一。

彼の傍らにいつもの居る全裸の女。顔が隠れる程長い水色の髪に水色の瞳を持つ彼女、名前はジルと言っていた。有栖宮の幻術によって隠されてはいるけれど、その華奢な肉体は男性はもとより女性である私すら見惚れてしまうほどの黄金比を保っている。一言で表すならば『魔性の女』。

そんな彼女は『魔王』と呼ばれ、尊大で、ワガママで、傍若無人。趣味は拷問だとかも言っていたとんでもない女だ。

 

「うそ…だろ?どんだけデタラメな魔力だよ…トップサーヴァントの宝具に匹敵するぞ!?」

 

モニターの前に座る観測係、ムニエルが呆然とそんな事を呟いた。無理もない。

画面の向こうは一瞬にして白銀に染まり、宝具を使用しているジャンヌ・ダルク作り出した防御円の外は、まるで時が止まったように凍り付いていたのだから。

無論、ジル・ド・レェが呼び出し、合体させた海魔も氷のオブジェと化していて、ピクリとも動かない。

 

「切っても焼いても再生するから、海魔ごと凍らせたっていうの…?滅茶苦茶だわ…」

 

「いやはや、これが〝魔法〟が恒常化した異世界の魔王様の力かい。想像以上だな。」

 

隣にやって来たのは仰々しい杖を携えた万能の天才、レオナルド・ダ・ヴィンチ。

 

「魔法…?魔法ですって!?」

 

「そうだね、有栖宮君から聞いたんだ。

彼女は私達のいる世界とは異なる場所から呼び出された存在だと。更にその世界は魔術ではなく魔法が一般的に行使されていたんだとね。」

 

魔術と魔法は言い方こそ似ているものの、本質は全く異なる。魔術師にとっての終着点でもある魔法の行使を一般的に…一体どれだけ混沌とした世界に住んでいたのよ、あの魔王。

 

「それよりも、レオナルド女史。

彼女について詳しい情報は得られたの?」

 

「もう、つれないなあオルガマリー。私の事は親しみを込めて『ダヴィンチちゃん』と呼んでくれって言ったろう?

…結果から言うと成果はゼロだ。魔王という呼称は人類史には数あれど、彼女を指す逸話や物語、人物は該当しない。マシュの様に擬似サーヴァントである可能性もあるけれど、彼女は既に有栖宮君の身体を借りる形で受肉を果たしてる。ともかく彼女は英霊の類ではないね、ましてや神霊でもない。あの魔王は人類史の何処にも存在し得ない異物で間違いないだろう。」

 

「…そう、やはり有栖宮の言う通り『別の世界からやって来た』と考えるのが一番妥当みたい。得体が知れないのは代わりないけどね。」

 

「にしても興味深い、完全に異なる世界からの来訪者なんて!こんなモノを呼び出した有栖宮君の家系は一体どんな魔術を研究していたのかな?」

 

「一応は降霊術だけど…日本の魔術師はかなり拗れた人物が多いと聞くから、独自の進化を遂げて、辿り着いた先が魔王を呼んだのかもね。私もその魔術によってこうしてオバケになってる訳だし。」

 

そう言いながら自分の透けた腕を見た。

冬木の地で消滅しかけた私を幽霊として現世に留めているのも有栖宮の魔術、生憎降霊術は専門のオフェリアほど詳しくないけれど、相当に手の込んだ魔術なんだろう。これができて落ちこぼれ扱いされるって有栖宮の一族はどれだけエリートだったのよ…

 

「それで、どうするんだい?監視を続ける?」

 

「…ええ、お願い。

有栖宮は恩人よ、だけどあの魔王は不確定要素が多すぎる。私達とは異なる世界からの来訪者、更に人類を憎んでいると言っていた。なら彼女が本当に味方なのか否か、私達で見定めないと…」

 

「うんうん、そう来なくっちゃ。」

 

 

 

 

それにしても、氷の魔法だからシベリアって…名前安直過ぎない?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こなああああああああああゆ〇いいいいいいいい!

 

心まで白く染められたならァ!!(ヤケクソ)

 

「私はお前の〇〇で白く染まってるけどな。主に下半身が。」

 

はいそこナチュラルに規制に引っかかりそうな発言しない、頬を赤らめながら下腹部をさすらない。えっちなのはいけないと思います!

 

魔王様の放った氷の魔法により、辺り一帯銀世界となってしまった訳です。なんということでしょう、あの醜悪な触手を持つ巨大海魔が匠の手によって透明感のあるオブジェに早変わり。これで殺風景だった玄関にも彩が…

 

「有栖宮さん!?現実に戻ってきて下さい!」

 

おっとまずいまずい、善ヌさんの聖なる呼び声によって現実に戻ってこれた。

バサランテ、魔王様がさっき言ってた場所弓で撃ち抜いて。ありったけね。

 

「承知した。せあっ!!」

 

人の技を超越した絶技を持つバサランテから放たれる何本もの黒い矢が、まっしぐらに海魔の一角へ突き刺さる。その衝撃で凍った海魔に亀裂がはいり、やがて粉々に砕け散った。

氷の瓦礫と一緒に中からギョロ目魔術師が落ちてくる。

半分凍って汚ねえシャーベットみたいになってるぞ。

 

「魔王の超強いパーンチ!」

 

「ぼほぉうッッ!?!?」

 

そんなジル・ド・レェのボディに魔王様は容赦無くその黒く染まった拳をぶち込んだ。

思わず蹲るジル・ド・レェ、降りてきた顎に今度は魔王のアッパーカットが炸裂した。

 

「からの〜…昇・〇・拳ッッ!!」

 

「アバーーッッッッ!!!?」

 

俺より強い奴に会いに行くと言わんばかりの綺麗なアッパーカットを決められた哀れなフランス大元帥は宙を舞い、べしゃっと地面に叩き付けられる。

魔王の昇竜拳なんてきっと二度と見られないだろう。

 

「おおおおのれぇ……匹夫めが…」

 

ヨロヨロと起き上がり尚もこちらをなじるジル・ド・レェだが、腹の痛みを抑えながら脚はガクついて、産まれたての子鹿のようだ。

 

「貴方達の努力は評価しましょう、今日はここまでにして差し上げます…!」

 

あー、きっとアイツ魔王様の実力が予想外過ぎてビビってんだぜ。

 

「黙らっしゃァッッ!!!

我等はまだ夢半ば、このようなところで死ぬ訳にはいかないのです…

この続きはオルレアンにて。しからばッッ!」

 

螺湮城教本が怪しく光り輝く、それを魔王様が許すはずもなく…

 

「いいやダメだね。

今死ね、すぐ死ね、骨まで砕けろ。

紫色破壊光線(なんかすごいビーム)ッッ!!」

 

魔王様が魔力で編んだ影の斧の切っ先から紫色の破壊光線が迸り、大地を消し飛ばしながら一直線に突き進む。反動で大気が震え、爆風と共に周囲へ破壊を撒き散らしながらあっという間にジル・ド・レェを飲み込んだ。やったか!?

 

「いや、寸前で転移された。逃げ足の早いヤツめ。

…形まで拘って造ったのは失敗だったかな、発動までに時間が掛かる。決してゲームに影響されて自分で魔法を考えてみようとか思ったわけじゃないぞ?本当だぞ?」

 

アッウンソウダネ

 

斧が宙に霧散して、あからさまに残念そうにする魔王様。どうやらジル・ド・レェは逃げ去ったらしい。この特異点の重要人物を排除できるチャンスだったのに、残念だ。

 

とりあえずご苦労様です魔王様。

はいだっこー、よ〜しよしよし(ム〇ゴロウさん並感)

 

「犬か私は!?」

 

文句たれながらも一通りなでくりまわされ、定位置の背中へと戻りもたれかかる。

 

「皆さん、ご無事ですか!?

先程巨大なモンスターが此処に現れたように見えたのですが…」

 

「まあなんてこと、私ったらまだ出遅れてしまったかしら!?」

 

村人達を逃がしていたゲオルギウスとマリーさんがこちらへ合流したようだ。残念ながら諸悪の根源は追っ払った後なのだよ。

 

あとから藤丸君達とも合流できた、彼等も無事にファブニールを撒いたようだ。代わりにアーチャーとランサーが足止めの為犠牲になってしまったが…彼等には二階級特進で勲章を差し上げよう。

 

「すいません、俺の力不足でアーチャーとランサーが…」

 

藤丸君のヒロイン力が高すぎる件について。

彼等は既に死んだ英雄なのだし、カルデアに帰ればまた呼び出せる。犠牲を買って出たアーチャーはそれを承知で捨て駒になったのだ。藤丸君は納得していないみたいだけど、彼の足止めが無かったら負傷したジークフリートをここまで連れて来るのは不可能だっただろう。アーチャーの英断に感謝。

何はともあれ、これでマスターは無事集合した聖人も2人、ジークフリートもいる。竜殺しが復活したらいよいよオルレアンへ進軍しなきゃならない、この特異点での最終決戦だ。気合入れて…

 

「…ゼットンで城ごと蒸発させてやろうか?」

 

「「「「『『えっ……』』」」」」

 

駄目です(念押し)






シグブリュ?スカディ?うるせえナポレオンで灰にすんぞ(2部2章はナポとワルキューレしか来ませんでしたファッキン)


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13話 邪龍○○○を討伐せよ.1

最近の出来事.+*:゚+。.☆

スカディ様来たぜヤッホゥイ!

オーロラ銅落ちねえヤッホゥイ!

水着配布はジャンヌオルタだイ''エ''ア''ア''ア''ア''ア''ア''ア''ア''ア''ア''ア''(昇天)

辛い月曜日を乗り越えた後、家ではたらく細胞見て癒される、そんな人生に幸せを感じるんだよ…ぼかぁ…

竜退治始まるよっ!(始まるとは言ってない)



『お前は有栖宮きっての出来損ないだが、小道具作りには一縷の才がある。』

 

『だから、これから私達が言う通りの物を作りなさい。』

 

『なあに大したことはない、只の遊び道具だよ。』

 

 

久しぶりに両親の笑った顔が見れた

 

初めて褒めて貰えた

 

嬉しくて嬉しくて、言われた通り沢山の〝玩具〟を作った

 

貼るだけで全身を麻痺させる札

 

痛みを無くせる香炉

 

嗅ぐだけで嫌な事全部忘れられる薬

 

工房に篭って、両親の笑顔の為に

 

たくさんたくさん、作った

 

いっぱいいっぱい、褒めてもらった

 

自分が何を作ってるのかは正直わからなかったし、相変わらず工房からは出るなと言われていたけど、褒めて貰えるならそれも気にしない

 

 

だがしかし

 

 

ある日、両親の魔術工房に続く扉の隙間から見てしまった。見えてしまった

鎖に繋がれて、虚ろな目をしながらうわごとを呟く布1枚の女の子を。そしてその胸元には、俺の作った札が貼られていた。側には俺の作った香炉が置いてあった。俺の作った薬の入った注射器が大量に転がっていた。

 

俺はこの時初めて、自分が何を作っていたのか理解した。

 

札は拘束の為に

 

香は傷みを消す為に

 

薬は依存させる為に

 

親の魔術に使う〝実験体〟を逃さないようにするため、俺は道具を作らされていた。

 

幸い親は今居ない、この時始めて芽生えた自責と後悔の念から俺は直ぐに札と鎖を外して敷地を囲う塀の隙間から彼女を村へ逃がした。家の敷地からしか見た事はないが、外へ行けば大人が助けてくれるはず。そう信じて。

 

結果がどうなったかって…聞かなくても分かるだろ?

 

実験体の居ないことに激怒した両親は俺を座敷牢に閉じ込めて次の儀式の生贄にした。そいで魔王ジルを呼び出した反動で一族郎党一人残らず水風船みたいに弾けて死んだ。有栖宮はあっけなくお家断絶だ。

 

 

 

 

なんで冒頭からこんな話をしてるのかって?

そりゃお前さん、有栖宮槍一という男の馴れ初めは大切でしょ?一応主人公なんだし。

決して現在俺の下半身からじゅぼじゅぼ音を立てるだーれかさんの事を忘れる為ではない。いいね?

 

んぶ…ぶぶぶぃぶ…ぃ〜(朝の一番搾り〜)

 

 

あっ…やば…おっふぅ…

 

 

 

 

 

 

 

〜しばらくお待ちください〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだよ下僕、魔力補給して何が悪い。」

 

黙りなさい妖怪全裸搾り。

ああもう口元に毛が!!朝っぱらからモザイク処理しなきゃいけない顔になってんじゃないの!

 

「私は気にしない。」

 

気にして?人類最後のマスター、その片割れが朝から盛ってる変態みたいに思われるから。人類史に新たな黒歴史刻まれちゃうから。

 

「次はナカに寄越せ、早くしろ。」

 

話聞いて?

 

「ぬ〜…

お兄ちゃん、じるの〇〇〇〇に〇〇〇〇〇で〇〇〇〇〇〇〇〇〇いっぱいちょうだい♡」

 

ぬがああああああまだ日も出てないのに朝から変に媚びつつ放送禁止用語を連発するんじゃないッッ!胸を擦り付けるな!下半身をあてがうな!

……5分だ!5分だけだからな!

 

「けけけっチョロwww」

 

黙らっしゃい!

もう怒ったぞ!折角藤丸君の為に作った小道具を寝起きドッキリで渡してやろうかと思ったのに、ジルが邪魔するからだ!

向こうの茂みまで来なさいこの全裸魔王!

 

二度と生意気な口叩けなくしてやる!(盛大なフラグ)

 

 

 

 

 

 

 

 

♀〜〜しばらくお待ちください〜〜♂

 

 

 

 

 

 

(1時間後)

 

 

 

 

 

やっぱり淫乱魔王には勝てなかったよ…

 

 

「ふう…(賢者)

私は寝るから、後よろしくぅ。すやぁ…」

 

この魔王搾るだけ搾って寝やがった…

 

ま、まあなんだ…魔術師は基本ド畜生だよって伝えたかったワケよ、目的の為なら手段を選ばない…そんな連中なんだよ。

まあ自分もその外道の端くれなんですけどね、餓鬼の頃にやらされた〝玩具作り〟はなんだかんだ役に立ってるのが腹立つ。

そんなこんな便利スキルを使い昨晩半徹して作った玩具をAIBOに渡したいわけなんですが…案の定寝ておられますわ。

 

んっんんッ…

 

 

 

 

 

起きなさい…(限りなく美〇明宏に似せたヴォイス)

 

「………ぅ…」

 

勇者よ…勇者藤丸立花よ…目覚めるのです…

 

「……………うぅ…

なんです槍一さん、こんな朝早くに…なんでそんなにやつれてるんですか?」

 

気にする事は無い、いつもの事だヨ。

それよりも…人類史を共に守りし人の子よ、汝に話がございますです。

 

「その演技いつまで続けるんです?」

 

え?ファンタジーによくあるじゃん、「こいつ…直接脳内に…!?」的な内なる声。

\リッスン!!/って言った方がいい?

 

「いや思いっ切り喋ってますけど…」

 

細けえこたあいいんだよ、サーヴァントを2騎も失って意気消沈してる藤丸君に自称サタンクロースであるこの俺が季節外れのプレゼントを君にシュゥーッッ!してあげよう。

 

「サタンクロースとか物騒な単語が聞こえた気がしましたけどこの際ですしありがたく貰います。

…藁人形!?」

 

そーそー藁人形。所長を現世に降ろしてるのも、ぬいぐるみの中に仕込んであるソレのおかげね。

この藁人形は擬似的に英霊の憑代になってくれるんだ。1回召喚する分の魔力は込められてるから、起動すればこの藁人形を憑代にして英霊を5分間だけ呼び出すことが出来るぞ!ただし1回きりの使い捨てだから使い時は選んでネ!

 

「す…すごいじゃないですか!?

でも英霊を召喚する魔力なんて一体どこから…」

 

召喚するのには魔力なんて大して使わないよ。短時間だし、条件さえ整えば一人分の英霊くらいなら藤丸君の魔力でも降ろせるはず。あと俺の令呪2画使って補強したんだけど、霊基の維持と宝具一発分しか魔力調整できなかったよゴメンね(てへぺろ)。

 

「え…?令呪を2画も!?大丈夫なんですか?」

 

寧ろ藤丸君の方が心配だよ、ジークフリートと仮契約したからファヴニールと戦闘になるのは必至だし、あの邪龍、強化されちゃったんでしょ?アーチャーとランサーを失った今、打てる手は打っておかないと。その為なら令呪2画くらい軽い軽い。それにこっちは魔王様憑いているからね、本当に協力してくれると思わなかったから余剰魔力はそっちに贈るよ。

 

「分かりました…ありがとうございます。

絶対に邪龍を打ち倒して見せます…!」

 

ポッケに藁人形をしまい込む藤丸君、間違ってもマシュちゃんとかに見られないようにしようね。変な誤解されそうだから。

そのまま日が昇るまで藤丸君と前回盛り上がったゴジ〇映画について語り合った。

 

 

話し合いの末、海外版のトカゲは〇ジラではないという結論に至ったよ。

うん、魚食うゴジ〇とかありえへん(謎の関西弁)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人理修復を成す俺たちの前に現れた7つの特異点、その1つ目であるオルレアンもいよいよ佳境に差し掛かる。

数多のワイバーンを従え、邪龍ファヴニールすら手中に収めた竜の魔女。それに付き従う狂化の付与されたサーヴァント達。更には聖杯を所持しているであろう男、元フランス大元帥ジル・ド・レェに召喚された海魔達。それら全てを蹴散らして奴らの持つ聖杯を回収し、フランスを元の歴史に戻さなければならない。

幸い聖人コンビの洗礼詠唱により、ジークフリートに刻まれた呪いは完治した。やたら「すまない」言ってくる頼りなさげなお兄さんだけど、彼が居ないとあの強大なファヴニールを仕留めることはできない。藤丸君と頑張ってもらおう。

 

ギャオオオオオオオッッ!!

 

ワイバーン達がけたたましく吠え散らかすこの戦場で、両陣営戦いの火蓋は切って落とされた。

 

エリザベートと清姫はバーサーク・アサシンことカーミラと

 

マリーさん、アマデウスはバーサーク・セイバーことシュバリエ・デオンと

 

Xさん、セイバーさんは敵陣営が追加で召喚したバーサーク・アーチャー、真名アタランテにそれぞれ対峙している。

バーサーカーのアタランテはこっちにいるのに、アーチャークラスで召喚され狂化付与されたからバーサーク・アタランテ?よく分かりません。まあ初見で真名分かっちゃったよね。本人が名乗るより先に真名看破してやったらめっちゃ睨まれた、アーチャー怖い。「空気読まない汝が悪いのでは?」はいそこ後で尻子玉の刑ね。「なんでさッ!?」

 

「え…?冗談だよな?待って待って魔王来るな来るなよ来ないで下さい誰か助けぎにゃあああああああああああっっ!?!?

 

 

尊い犠牲が出たところで話をもどそう。

そして我らが藤丸君とマシュちゃん、そして竜殺しの大英雄ジークフリートは、邪龍ファブニールと相見える事になった。

そんな激戦をよそに俺たちはと言うと…

 

「ぬうッ!?」

 

「ほらほらどうしたルーマニアの英雄、狂化されると護国の名将も形無しだなあ?」

 

既に敵の場内へ潜入しました。そんでもって城内を守っていたバーサーク・ランサーと戦闘中。

ジークフリートの提案により、藤丸君達が表で目立っている間に裏から城へ回り込み潜入した。首魁を叩けばファブニールもワイバーン達も烏合の衆、効率的な裏取り作戦だ。

 

 

「言い返せぬのが歯痒いが…これでもまだ冷静な方だッッ!!」

 

「お?」

 

極刑王(カズィクルベイ)ッッ!!

 

バーサーク・ランサー、ヴラド三世が宝具を開帳して無数の棘が魔王様に突き刺さる…が、駄目ッ!

無敵結界で護られる魔王様には通用しなかった。

 

「それは私には効かないと、最初にあった時分かっただろ。ばーか。

……()()()()()。逸話通りに成り果ててみれば少しは私に届くかもしれないぞ?」

 

「……断る、あれは余ではない。

余はアレを心より嫌悪し、忌避する。」

 

成る、とは恐らく彼の史実の事だろう。ヴラド三世は祖国を守る為、敵兵を串刺しにし戦意をくじいた。その残虐さ故に、後に彼は「吸血鬼(ドラキュラ)」として後世に逸話を遺される。英霊である彼はその逸話通り、吸血鬼化してパワーアップする事ができるんだろう。

答えたヴラド三世に魔王様は呆れたように溜息を吐いた。

 

「これだから英雄は嫌いなんだ…もういい、教示や誇りに拘って勝てる可能性を自ら棄てたのならお前に要はない。

いつもは(いたぶ)って遊んでやるんだが、私の半身は時間がないって急かすからな。」

 

風を切る音、続きざまに魔王様の姿が掻き消えた。英霊であるヴラド三世すら目で追えない瞬間移動の後、魔王様が現れたのは、彼の背中だった。

 

「終いだ、魔力貰うぞ。」

 

がぶり、とヴラド三世の首筋に魔王様の歯が突き立てられる。嘗て冬木の街で影のヘラクレス相手にやった、吸血による魔力奪取だ。

 

「ぐっ!?オオオオオオッッ!!

当てつけか貴様ァ!」

 

赤い霧状の魔力がどんどんヴラド三世から抜けていき魔王様へ吸い込まれていく。

必死にもがき抵抗するもやがて彼は膝を付き、そのまま光の粒子となった。

ああまた口の血を拭いてない…ほらじっとしてなさい。

 

「んん…ご苦労下僕。

この奥に出来損ないとギョロ目が居るぞ。

…あいつ私と名前被ってんだよ、速攻殺す。」

 

名前被っただけで因縁ふっかけられる大元帥、泣いていいと思う。

 

「ありがとうございます、魔王さん。

…行きましょう!」

 

意を決して奥の部屋へと進む善ヌさんの後ろを4人と1頭は追いかける。その先には情報通り、ジル・ド・レェと竜の魔女、もう1人のジャンヌ・ダルクが待ち構えていた。

 

「来ましたね、もう1人の私。…それからウザったいパジャマ女も。」

 

「…竜の魔女。戦う前に、私は貴女に聞きたいことがあります。」

 

「なんですか?冥土の土産にでもするつもり?」

 

「貴女…何者ですか?」

 

突然の質問コーナーに目が点になる竜の魔女。少しして抜けていた魂が戻ってきたのか、歪んだ笑で応えた。

 

 

「はんっ!今更知れたことを…私は「昔の事」……何?」

 

「昔の事を、まだ聖女と呼ばれる前、ただの村娘だった事を覚えていますか?」

 

「当たり前でしょう。

……………ええと…ほら…ううん…………あれ?」

 

なんで、思い出せないの?

 

自分で言いながら顔が青ざめていく竜の魔女。何言ってんだこいつ、と思うかもしれないが、今はシリアスタイムだ、黙ってよう。

狼狽える竜の魔女にさらに追い討ちをかけるように質問するジャンヌさん。

 

「一緒に過ごした兄弟達の名は?

子供の頃、いつもできたてのパンをおすそ分けしてくれたおば様の顔は?

……ジルと出会うより前の、聖女と呼ばれる前の私を、貴女は知っているの?」

 

「……あたり…まえ…です。忘れられる筈が……はず……が……」

 

ジャンヌさんが真っ直ぐ竜の魔女を見つめるのに対し、彼女は視線が宙を泳いでる。明らかに戸惑っていた。

 

「なんで……思い出せない…?居たという事は分かるのに…顔も…名前もぉ…」

 

「けけけっ…くひひひひひひっ……!」

 

背中で魔王様が嗤ってる、まるで楽しい喜劇を見ている子供のように。

 

「ジャンヌ!耳を貸してはなりません!

貴女は…「いい所なんだ、邪魔するな。」なっ…オッグェアッッ!?」

 

慌てて止めようとするジル・ド・レェの鳩尾に瞬間移動して蹴りを叩き込む。くの字に曲がった彼は部屋の隅に蹴り飛ばされ泡を吹いた。

そんな事も気にとめないほど、竜の魔女は動揺していて、正直見ていられない。

 

「何故…何故…クソッッ!!

どうして思い出せないの!?私は貴女!貴女に分かって私にわからない事なんて…」

 

「……そこから違うんですよ。」

 

「何よ!?」

 

「確信しました。貴女は私の暗黒面なんかじゃありません、同じ顔をした別の誰か。私ではない誰かにこうあって欲しいと願われ創り出された私の贋作。

それが貴女、竜の魔女ジャンヌ・ダルク…なんでしょう?ジル。」

 

責めるでもなく、哀れむわけでもなく、じっと竜の魔女を見つめていたジャンヌさんの視線が、未だにうずくまって浅い呼吸をしてるジル・ド・レェに向いた。

 

「……ふふふ、やはり貴女は聡明な方だ、ジャンヌ。オエッ…」

 

「……ジル?どういうこと…説明してよっ…!!」

 

「私がフランスを憎んでいると、信じていたのよね、ジル。こうあって欲しいと願った、貴方の願望が彼女を生み出した。」

 

返事はない、俯いたまま黙ってジル・ド・レェは頷いた。

 

フランスを救った救国の聖女ジャンヌ・ダルク。

彼女は聖女として生涯人を憎まず、恨まず、天寿を全うした。

ジャンヌ・ダルクは後悔はなく、未練もない。だが彼女を信奉する者までがそうとは限らなかった。例えばそう、彼女と共に命懸けで戦い、最も信頼された大元帥などは。

史実ではジャンヌ・ダルク死後、フランス大元帥ジル・ド・レェは錯乱し、幼い子供たちを攫っては、魔術の実験体としてその身体を辱めていたらしい。なんとも胸クソ悪い話だが、黒魔術によって死んだジャンヌ・ダルクを蘇らせる為だったとか、そんな噂も残っていた。

嘗て救国の聖女と呼ばれた女が、裏切り者の汚名を着せられ、守る筈の民から石を投げつけられながら、火刑に処される姿を間近で見た彼はきっと、「神の啓示に導かれ、惨劇の結末を迎えたジャンヌ・ダルクはフランスを憎んでいるに違いない。」と思い込んでしまったんだろう。それからジル・ド・レェは神を冒涜し、篤信に篤信を重ね死ぬまで神を愚弄し続けた。

 

信じた彼女を殺した敵に唾を吐き、憎み続けながら

 

「私は聖杯に願いました、聖処女の復活を…

ですがそれは万能の願望器をもってしても叶わぬ願い。故に私は創り出した!

フランスを憎み、人類を憎み、神を憎む、私の望んだ竜の魔女をッッ!!」

 

魔王様が言ってたのはこれだったのか。

本物のジャンヌ・ダルクの別側面ではない、第三者が真似て作ったデッドコピー。ジル・ド・レェの願望をそのまま人格にした記憶を植え付けられたが故に、ジル・ド・レェがジャンヌ・ダルクと出会うより昔の事は思い出せないかりそめの霊基。それが竜の魔女の真実だった。

 

「そんな……ジル…私は……」

 

「……最早これまで、ですか。

だが……ッッ!!」

 

意気消沈する竜の魔女を尻目に、螺湮城教本を取り出して何やら反抗しようとするジル・ド・レェ、そうはさせるかとバサランテに目で合図を送り、すぐさま彼女の矢が数本、無防備だった彼の霊核を正確無比に貫いた。でも宝具の光はまだ消えていない!?

突如部屋が揺れ始め、かと思ったら壁と天井が吹き飛んで触手の壁が俺たちを囲うように展開される。

 

「フフフ…一足遅かった……ですな。結界を張らせて貰いました……これで…貴方達は見ている事しかできない…ッ!!」

 

結界!?

 

「聖杯よ、手筈どおりに動きなさい!

その魔力と奇跡でもってかの邪龍に力を!呪いを!そしてこの世界へ破滅をもたらす光とならん事を!」

 

晴れ晴れと、高らかに、死にかけの魔術師は叫ぶ。

 

「ジャンヌ…おおジャンヌ…!

先に逝きます…例え貴女が私の創り出した一時の夢だとしても、聖杯にすら叶えられぬ程清らかなる乙女だったとしても、もう一度貴女に会う事が出来て、本当に……よか…」

 

言い終わらないうちに、ジル・ド・レェは消滅した。

 

「ジル…変わり果ててはいても、貴方ともう一度出会えて…私も…」

 

「魔王様、結界破れそう?」

 

「なめんな…よっ!」

 

ゼットン程じゃないが、魔王様の指先から飛んだ火花が触手の壁を焼き尽くす。が、触手の先にはまだ薄い膜のようなバリアが展開されていて、ここからだと藤丸君達の姿は見えるものの、結界を破壊しないと加勢にも行けない状態だ。

 

「ちっ…面倒だな、この結界はあの男の言っていた〝せーはい〟で作られたものらしい。

破れんことはないが…内側のお前がただでは済まん。それでも破壊するか?」

 

それってゼットンなんて使おうものなら結界内を行き場を失った熱が埋め尽くすってことですやん!一兆度でレンチンされるって事か!?

 

流石の俺でもそれはお断りします

 

所長!シリアスに空気読んで回線も開かずに黙っててくれた心優しい所長ー!

 

『何度も呼ぶな、聞こえてるわよ!あとアンタにだけは空気がどうこう言われたくないわ!

藤丸達が相手してるファヴニールの魔力が急上昇してるってロマンが観測したわ。聖杯はジル・ド・レェじゃなく、あの邪龍が所持していたのよ。

それと…結界の維持は聖杯がおこなってるみたいだから、聖杯を破壊するか使用権を奪って操作しないと解除は不可能みたい。

貴方に出来ることは、藤丸を信じて結界の中で待つだけよ…』

 

結局藤丸君頼みかあ!困ったなあ!

 

結界の向こうで未だに激戦を繰り広げてる藤丸君達の方を見やる。

ファヴニールの姿が肉の裂ける音と共に膨れ上がり、別の何かへと姿を変えていく。一瞬だけ見えた聖杯は肉に飲み込まれ、奴の体内奥に消えていった。

 

轟音が空気を揺らす。巨大な爪はさらに鋭く成長し、禍々しかった眼光は更に闇を帯びて、目を合わせれば魂ごと呑み込まれてしまいそうだ。頭の角がメキメキと不快な音を立て、体つきそのものを、骨格からファブニールを歪に変えていく。

聖杯による進化を終え、大地に立ったファブニールの姿に最早以前の面影は全くない。理性のない化け物の天を割るような咆哮をを聞きながら、背中の魔王様は目を真ん丸にして、俺だけに聞こえるくらいの声で小さく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………魔王…アベル?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖杯は本物を呼べない、故にソレは贋作を創り出す。

 

所有者の願いの元に

 

圧倒的な破壊を

 

徹底的な殲滅を

 

絶対的な焼却を

 

ファブニールという基盤の元に、贋作に贋作を塗り重ね、産まれい出たその魔獣は、奇しくも遠い別世界、遠い昔に、図らずも世界を敵に回してしまった()()()()()とその姿を酷似させ、フランスの大地へと降り立った。

 

 

 

 

もう一度、正しき理(せかい)を終わらせる為に






次かその次でオルレアンは終わりそう

(フラグを立てまくってどうしようって思ってる顔)

まあ相手龍だし多少はね?


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