-真っ暗だ-
それが私が初めて感じたものだった。何の前触れもなく、ふと私は自分というものを知覚した。
よく分からない空間の中をたゆたっているような感覚。どちらが上でどちらが下なのかとんと分からない。
-…寒い…-
明暗の感覚の次に私に生まれたのは「寒さ」
どうやらここはとても温度が低いらしい。私はとっさに体を縮め震わせて体温を保とうとした。
-………?-
どうにもよく分からない。自分の肩をだこうとしたはずだが腕がうまく動かない。
-と言うかこれは…腕が、ない…?-
瞬間、私をどうしょうもない位の悪寒が襲った。腕が無いどころではない、足の感覚も、それに繋がる腰も胴体も、自分の体の形を形成するものが何も感じられない。
-そんな馬鹿なっ-
ヒトとしての本能が嘘だ嘘だとこの事態を否定するも思考は知らぬとばかりに回り、どんどんと自らの状態を理解したくもないのに本能的に理解していく。
私はヒトの形をとっていないどこではなく、形すらも無かった。私という個は決まった形を取らず絶えず形を変えていたのだ。
-これではっ、これではまるでっ-
バケモノではないか…。
その思考を最後に私は意識と呼べていたものを手放した。
<✤>
それから一体どれほどの時間が経ったのかよく覚えていない。1時間か2時間か、或いはそれ以上かもしれないが二度目の覚醒で私は久方ぶりの腕の感覚を思い出した。
「う、うえ!ぁあいのうえ!」
腕が、何より声が”聴こえる”。声帯が作られた…?いや、耳も?まだ未発達なのかうまく発音できないが、あぁ!こんなに嬉しいと感じたのはいつ以来だろうか!
「うぅ…?」
どうやら私の意識が彼方へ飛んでいる間に私という思念はヒトのカタチをとることが出来たらしい。原理はさっぱりわからないし、相変わらず真っ暗で何も見えないが確かに手や足の指を動かす感触がある。深い安心感、まるで空いていた心の穴がすっかり埋まるような感覚に段々と気分も落ち着いてきた。
体の感覚が戻り、心に余裕が出来たからだろうか?段々と自分のこと以外にも意識が向けられるようになってきた。
-そもそもここは何処なのだ?-
私は一体いつからここにいたのだろうか…一度目の覚醒の時はだいぶみっともなく取り乱し、そのままショックのあまり気絶してしまったせいで、割と根本的なことを考えられなかった。
ここが何処なのか…そもそもの事を思い出した私は周りを見渡してみる。
「…あ?」
…は?
相変わらず真っ暗であるはずなのだが何かが見える気がする…?
自分でもうまく説明出来ないような不思議な感覚。
明るいような、暗いような…?何も見えない真っ暗闇のはずなのに私の「眼」は何かを感じている?
-????-
よく分からなくなってきた。
そもそも私は真っ当な人間であったはずで、少なくともこんな幻覚のようなをものを見るようなことはしていない。
夢か麻薬の類か、それともどこぞのライダーよろしく秘密結社から改造手術を受けて頭がおかしくなったのか。
私は自分の記憶を辿ろうと必死になったが、
-…思い出せない…-
最悪だ、こんな奇天烈な体験をした挙句私は記憶まで失ったというのか。自分がどんな人物でどこで何をしていたのか、まるで思い出せない。何処のマンガの主人公だ私は。
思わずその場でうずくまって頭を抱えてしまった。少し落ち着こう。
-よし-
相変わらず一体ここがとこなのかとか、私の身に一体何が起こってしまったのかとか全然わからないが、とにかくここから動こう。
これが夢や幻覚なら物理的に衝撃とかを外部から加えられないと醒められないかもしれないけれど、もし幻覚の類でないなら少なくともここから動いて何処か別の場所を目指して動いた方が良さそうだ。どのみちこの場所には何があるのかわからないのだし。
私はここではないどこかを目指して歩くことにした。
-む-
なんとも言えない感覚だ。歩いているはずなのだが、平衡感覚が掴めない。歩いている筈なのに歩けていないような不思議な感覚。
例えるなら夢の中で走ろうとした時のような微妙な感感だ。
そのうちにバランスが取れなくなって前に倒れ込みそうになった。
「ぅあっ!?」
なんとか崩したバランスを取り戻そうと後ろに重心を持っていくが、結局尻餅をつくハメになった。
「い、いはぃ…?」
いや、痛くない?
尻餅をついた時に確かに衝撃を感じ、反射的に声を出したがどうにもおかしい。痛くない??尻餅をついたま地面と思しきものをペタペタと触ってみる。確かに感触はある…。
では私の方に問題が?
「……いはっ!」
物は試しと自分の顔を抓ってみたがやっぱり痛い。私が不感症になった訳でもないようだ。
-痛みを感じる夢なのか?-
どうにも要領を得ない、頭を回してもこれが何故なのかわからない。
-まぁ、いいかな-
どちらにせよよく分からん空間なのだ。深く考えるだけ無駄だろうと考えるようにした。
よっこらせ、っと腰を上げるともう一度バランスを確かめながら1歩1歩歩いて行く。
ふと思った。
-そう言えば-
「
肌を刺すような寒さはいつの間にか消えていた。
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第1話 おはよう世界
遅くなりましたが本作は作者の初投稿小説であるため、至らぬ点など多々あるかもしれません。それでもどうにか完結まで持っていこうと思いますのでお付き合い頂ければと思います。
-しんどい…-
気づけばわけのわからない場所で目覚めて、体が無くてショックで気絶してたら体が生えてきてたでござるの巻。
あれからクソ雑魚ナメクジになっていた平衡感覚に悪戦苦闘しながらも、どうにかこうにかまともに歩けるようになってきた。歩きながらも発声の練習をして拙いながらもようやく分かる言葉を喋れるようになってきた。
今?今は休憩中。あれからずっと歩いて、色々とわかった事とかがあったので1度整理するために歩みを止めている。断じて歩くのが面倒くさくなったからとか、話し相手がいなくて寂しいとかそういうのではない。…無いったら無い。
歩き始めた頃は「きっと歩き続ければこの向こうに何かがあるに違いない」という希望的観測を信じていた。いや、実際ついさっきまではそれにすがっていたのだが。
とにかく何が言いたいかと言うと
「何もないよねぇ…」
何もない、何もないのである。いけどもいけども最初の訳分からんSAN値を削ってくるような景色しかないのだ。ふぁっきゅー。
行き場のない怒りを足場を蹴ることで発散する。
げしげし
足場から遺憾の意を表明された気がするが無視だ無視。
そもそもこの足場と言うか空間自体が私を不機嫌にさせているのは事実なのだから別に私のこの行為は同情されても責められる行為ではないはずだ。
…何だか足場と言うか空間自体から呆れたような視線を感じる。何見てんのさ。
さっきから何言ってんだこいつ頭沸いたのかと思うかもしれないが、これは別に私の頭がおかしくなったとか、孤独に耐えられなくてもう1人のお友達()を作り上げたとかそういう訳では無い。
どんな理屈かわからないが空間のことが分かってきたのだ。こう、まるで自分の体のように。
私自身自分の身に何が起こっているのかまるで分からない。ていうか、もはやこの現状その物がワケガワカライけれど。
でも思考と理屈は別なのだ。私が混乱している間にも段々とこの空間のことが分かっていく。
…何だか自分が本当に人間ではないモノになってしまったと感じられてしまってさっきからナーバスだ。
つーか空間から自然に?生まれるって何?かの有名な聖人すら女性から生まれたというのに私は気がついたら存在してたんですけど。ん?つまりこの空間こそが私のママだった…?
空間との距離が何だか開いた気がする。やめてよ私だってこんな事考えたくないしでもこの空間から生まれたのは確かだし私は今でも心は人間だと思っているしあぁこのオギャりたい気持ちをどうすればいいの今日からママって呼んでもいいですか
…落ち着け。そもそもこの空間が何なのか、私がなぜこの空間から生まれたのかについて整理しようと思う。
どうやらこの空間は文字通り果てがないようだ。いけどもいけども景色が変わらないのは私の足が遅かったからとかそういうのではなく、この空間には私以外は
この空間には今はまだ何も無く、そして何もかもの素がある。渾沌、と私は呼ぶことにした。無論これはテキトーなネーミングではなく、私の知識と渾沌の性質を突き合わせ考えたものだ。
実際ここから宇宙が始まるわけなのだから渾沌という名はぴったりであると思う。
そんな中何故私がこの空間に生まれたのか、という事も理解できるようになった。とどのつまり私はこの空間の、渾沌の触覚であり、創世をなす為の意識なのだ。
私自身がその事を認識したお陰で渾沌とのよく分からない繋がりのようなものを感じるようになり今に至る。
渾沌自体にも意思のような物はある様だが酷く希薄で、ほとんどロボットと変わらない。意思はなく、ただすらに存在するだけのモノ。
そんな渾沌が自らを定義するために創り出したのが、私である。この記憶にある人の知識や感情も渾沌が創世した後の世界に誕生する生命の可能性を詰め込んだ結果らしい。
ぶっちゃけ私としてはこのまま創世したいと考えている。ここには私以外何もないし、正確にはあるけど生まれてすらいない状態なのだ。それに何より
-人と喋りたい-
人の形を、記憶を持った私としてはこのまま渾沌をほおっていても特にいいことなんてない。歩くのも飽きたし、いい加減自分以外の誰かと喋りたいのだ。
「よしっと」
意識を整えるために一呼吸。(無論空気などないが)
自分の中にある渾沌を意識し、周りの空間へと自らを広げるように意識する。
「…………」
私から漏れ出た渾沌を周りの混沌と繋げ、再び私の元に戻し、また渾沌と繋げる。これを何度も繰り返し渾沌の繋がりを深く太くして行く。
混沌と自分の境界が曖昧になり、陰陽玉のように回り混ざり合う。
「…………」
結びついたことにより渾沌の中にある沢山の世界の可能性をまとめ、俯瞰し、選び、それに沿うように渾沌を創り替えていく。
「…………」
気の遠くなるような作業をずっとずっと繰り返した。
「…………」
渾沌と繋がってから意識が遠くなるような時間が過ぎて行って。
「…………」
そうして私は
宇宙を創世した。
色々ごめんなさい。
違うんや、あれもこれも全部徹夜明けで囁いてきたあの脳内悪魔のせいなんや()
なお、この小説は作者の妄想とか捏造設定とかを盛りに盛り込んで作っております。←
次回からは転生ゆかりんが新世界をあっちにいったりこっちに行ったりするほのぼのとした旅日記的なものになる予定です。
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第2話 覚醒
前回から時間が一気に飛んでおります。これ以降は暫く日常回が続く予定です。
遅筆ですが、じわじわと更新して行きますので気長に待っていただければと思います。
「…………」
どこまでも新緑の広がる世界。
全盛期からは時が経ったものの、それでも地球上では未だ恐竜が食物連鎖の頂点に立っていた時代。後世で白亜紀と呼ばれた時代の末期
「……んぅ……」
地平線の果まで緑が続く原風景の中、身じろぐ影がひとつ。
それは例えるならば一面の赤い
太陽の寵愛を一身に受けたような美しい黄金の長髪は緩やかなウェーブを描き、その体は瑞々しくも赤子のような柔らかさと同時に見るもの全てを魅了する魔性を孕み、黄金の前髪から見え隠れする顔は少女特有の端整な顔つきながら隠しきれぬ色香を放つ。
ソレは永きにわたる眠りから覚めた。────
<✤>
──眩しい──
全身を包み込むような、どこまでも大きくて暖かい陽の気。
──あぁ、
其は、地上の全てを遍く照らす生命の活動源。
「たい、よう…」
……寝起きで頭が上手く回らないけれど、どうやら上手くいったよう
寝惚け目を擦りながら
私という個と繋がり、創世の素となった渾沌はその全てを宇宙中の物質に変えていき、今もその形を変え続けている。
正直半分賭けのようなものだったから不安だらけだったのだけれど、今の所順調に、私の計画したとおり進んでいるみたい。
あの時、渾沌と繋がって創世をなした私の意思は本来なら創世が成された時点で用済みとなり消滅するはずだった。
そもそも渾沌自体が
何物でも無い筈のモノが
勿論その矛盾は創世の為の渾沌の意思による意図的なバグであるのだが、私が生まれた渾沌が創世を成せばその後に生まれるのは「有」の世界。
そこに私という「無」でありながら「有」という矛盾を孕む存在がいるのは正にバグなのだろう。
言うならば私はテレビゲーム制作のためのツールのようなものだ。
ゲームを制作する時は必要不可欠なものだが、無論そんなツールはゲームの型ができた時点で用済みだ。型ができた後ゲーム制作のためのツールが残っていれば、それは作られた型に何の影響を及ぼすか分からない。
そんな訳で、元より渾沌の意思は私の意思も自らと共に消滅させるつもりだったようだ。
創世前、創世の準備をしていた中それに気づいた私は薄まりつつある意識を懸命に保とちながら、《地球での人の誕生》という因果に強引に自分という存在を結びつけることで消滅から逃れることを決意した。
正直、分が悪い賭けだった。
私が創世に自らを巻き込んだら、気付いた渾沌の意思が創世に混じった私という
とにかく折角繋げた因果を渾沌によって壊されたくなかった私は、私の操作が必要な段階を過ぎても自分の意識が保つギリギリまで創世の準備を進め続けた。
渾沌の意思そのものは元々希薄なものだが、創世の素となる混沌の力は侮ることなどできない。よって、実行は創世の瞬間。
完全に渾沌の意思が感じられなくなった瞬間に私は創世に自らを巻き込む必要があった。
意識が朦朧としていた為か創世の瞬間どうなったか覚えてはいないけれど、今私がこうして無事に地球にいるということは最悪の事態は避けることが出来たらしい。
「さて…、まだまだ気になることはあるけれど。いい加減無視することも出来ないわね。」
ところで今の私は真っ裸である。真っ裸で草原の真ん中で寝転んでいる状態である。
太陽が暖かいなーとか、すっぱだかでいるのって女としてどうなのかしらとか意味もなく考えてるけれど、どうやっても現実は変わらない。
私の目の前には、巨大な生物がいた。
凶悪と言えるアギトから涎を垂らし、こちらをじっと見つめる爬虫類特有の縦に割れた眼には哀れな
「…………」
「Grururururu…」
「………ニコッ」
「Fshuuuuu…ニチャァ」
……笑顔の起源は、自分を害する可能性のある外敵に大して威嚇する時に使うもだったという。
確かにこれは威嚇だなぁとひどく私は納得し、
「あぁぁぁぁぁあああ!!!???」
「GruaaAAAAAAAAAA!!!!!!」
直後肉食獣の声と私の声が太古の空に木霊した。
<✤>
「助けてぇぇぇぇえええええ!!!!」
草原を全裸で走る少女の影一つ。
少女は、時代が時代であれば傾国の美女と謳われたであろうその美貌をクシャクシャに歪めて背に迫る脅威から少しでも離れようと意味もなく大声を出しながら逃げ惑う。
「GruuuuuaAAAAAAAAA!!!!!」
そんな少女の背を追うのは体長10メートルを越えようかという大きさの恐竜。後の世では有名なティラノサウルスと呼ばれる恐竜の同種。
そんな恐竜は、中々掴まらない目の前の獲物に痺れを切らせ、怒りを込めた咆哮を轟かせる。
「何で恐竜がいるのよぉぉぉぉぉおおおおお!!!!」
少女の嘆きは空に虚しく空に響くのみ。
やがて注意が散漫になった為か少女は足元の石につまづき、盛大に転ぶ。
「ぶへっ」
およそ淑女が出してはいけない声を出し、体の痛みにその端正な顔を顰めるも、自分の身に迫る脅威を思い出しすぐさま逃げ出そうとしたが、その一瞬はハンターである彼らにとっては大きすぎる隙であったらしい。
顔を上げた彼女が目にしたのは自らを頭から食いちぎらんとする大きな口。
凶悪な歯が並ぶ様を見て少女は硬直し、嫌でも自らの死を理解する。
「っ………!」
もはや少女に出来るのは目をつぶることだけ。
せめて痛みが少なくなりますようにと願いながら。
それでも彼女はとんでもなく運がいいらしい。
<✤>
──なんで、どうして…こんな…──
私は人と逢いたかった。混沌から生まれながら、その体はもはや人とは呼べぬものであっても。ただ、他者と触れ合いたかった。そう思って、この地球に自らを巻き込んだのに。
目の前にいるのはどうしようもなく強者で、私はどう足掻いても弱者で、自分がここで死ぬのを嫌でも理解してしまった。
もはや目と鼻の先にある大口。逃げたくて、でも体が動かない。
涙が知らず出てくる。
死にたくないっ、しにたくないっ。誰か、なんでもいいからっ
「助けてっ…」
目の前のアギトが私を噛み砕かんとしたその時
「GugyaaaaaaaAAAAAAA!!!!???」
恐竜の目に矢が刺さった。
「助けるのが遅れてごめんなさいね」
目の前に私を背にして立つ少女。
腰まで届く銀の長髪。10代半ば程の見た目ながら完成されている美しさを持つ少女は、背中に背負った矢筒から矢を取り出し弓に番えると
「ここから逃げるわよ、立てる?」
流れるように残った恐竜の目を寸分違わず穿ち私に言った。
場違いながら私は、そんな彼女を美しいと思ってしまったのだ。
<✤>
「ふぐっ、ひぐっ、うぅぅ」
「よしよし、怖かったわね」
あまりの恐怖に腰を抜かした私は目の前の少女に肩を貸して貰いながら命からがら逃げだした。今は少女から羽織っていた外套を貸してもらい、少女が住むという村まで向かっている。
「うぅぅ、こ"わ"か"っ"た"よ"ぉ"お"」
「はいはい、怖かったわね。もう大丈夫よ~」
人とあえたこともそうだが、あの緊張から解き放たれた私にこれまでの事が色々と堰を切ったように流れ込み、緩まってしまった涙腺を抑えることも出来ず恥も見聞もなく彼女に抱きつき泣き出してしまった。
「ひぐっ、うっ、ふぅ、ふぅ…。急に抱きついてごめんなさい」
「良いのよ。誰だって死んでしまうのは恐ろしいもの。泣き出してしまうのも仕方がないわ。」
「うぅ、本当に助けてくれてありがとう。貴女は命の恩人よ。」
「ふふっ、どういたしまして」
彼女に抱きついて十分に泣いたお陰か、安心すると共にじりじりと炙るような羞恥が湧き出てきた。
不味いわ、ちょっと恥ずかしすぎて彼女顔を見れない…。
「……落ち着いたみたい、ね?」
「えっ、ええ。あの。改めて本当に助けてくれてありがとう。」
「良いのよお礼なんて。私だって今日たまたま足りなくなった薬草を取りに都から出たんだもの。感謝するなら私と貴女を巡り合わせてくれた天照様にしてちょうだいな。」
「……あまてらすさま?」
「……やっぱり知らないのね。」
瞬間、目の前の少女の雰囲気が一変する。
「ひっ」
「あっ、ご、ごめんなさい、悪気があった訳じゃないの。ただちょっと気になることがあって…」
すっと威圧感が消えると、少女は申し訳なさそうに私に謝った。
「き、気になること?」
「ええ、そう。色々と聞きたい事があるのよ。あんな所で貴女はどうしてオオトカゲに追いかけられていたのかとか、貴女が一体何者なのかとかね」
…オオトカゲというのはさっき私が追いかけられていた恐竜ということで間違いないだろう。
──待て、……恐竜のいる時代に人?そんな馬鹿な。
冷静に考えるとおかしい。
ヒトは白亜紀末期の恐竜大絶滅の後に現れた霊長類の子孫のであって、間違ってもこんなどこぞのモンスターハンティングよろしく恐竜と戦うような修羅ではなかったはず。
自然と彼女を観察するように見てしまう。
美しい銀髪は頭の後ろで一つに纏められ、目覚めるようなその美貌はこちらを伺うように私を覗き込んでいる。
何故か顔が少し熱くなり、慌ててその双眸から目をそらし改めて彼女の服を観察する。
……狩猟用なのか身軽さをもちながら必要最低限の所を守るようになっているそれは、どう見ても西暦20世紀以降の技術で出来ているようにしか見えない。舐めした動物の革特有の鈍い輝きをもたず、暖かくも通気性に優れたその衣装は否応にも科学の力によるものであると私は理解する。
……どうゆうことなの……
なんかもう怒涛の非常識の連続で考えることが億劫になってくる。
「…とりあえず、その様子じゃ貴女身寄りが無いんでしょう?」
「え、えぇ」
「そこで提案なのだけど」
「貴女、私の家にこない?」
ご精読ありがとうございました。
前回あんなに壮大な感じだったのにこれだよ(呆れ)
いや私の中ではですね極端な二面性をもつゆかりんを表現したいなぁと思っているんですけども、全然表現できてませんねクォレハ…
颯爽とゆかりんを助けた謎の少女、一体何者なんだ()
前書きのとおり第3話からは日常回が始まり、ほのぼのタグがようやく仕事を始めます。
それではまた次回
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第3話 神おわす都
ここは夜を司る神が統治する都。
人々は神を崇め奉り、神は恵みを人々に与える。そんな普遍がまかり通る場所。
その都の一角、住人達が住む家が多く並び立つ居住区と呼ばれる場所で、二人の女子が屋敷を前に話している。
「ここが私の屋敷よ」
「はぇ^~すっごい(ぬねがお)」
「スッ(ハリセン)……………ズパァン」
「ま°!?」
「目は覚めたかしら?いい加減その阿呆ズラを直してくれると助かるのだけど?」
「ご、ゴメンナサイ…」
い、痛い…頭蓋骨が粉砕したかと思った…。
何もそんなハリセンまで取り出して叩かなくてもいいじゃないの。
私の傍に立つエイリンは呆れた顔を私に向けている。むぐぐ…。
でも待ってほしい。私がこんなぬとねの区別がつかなそうな顔になったのだって半分くらいの原因はこのエイリンにあるのだ。
地球での覚醒を果たした私は生まれたままの姿で恐竜と狩りごっこ(ガチ)を繰り広げ、秒で三途の川に送られかけた所を目の前の少女《ヤゴコロ エイリン》に助けられた。説明終わり!
エイリンは記憶喪失(追及されてとっさに思いついた嘘)で身寄りのない私に対して命を助けた代わりにカラダを要求してk「トスッ」
「」(目の前に刺さった矢)
「あら、手が滑ったわ。ごめんなさいね」ニッコリ
「も、もう〜、手をすべらせて弓を射っちゃうなんてエイリンのおっちょこちょいさん!」
「ふふっ、許して頂戴?なんだかとっても失礼な事、あなたに考られてるうな気がして」
「やっぱりわざとジャマイカ…」
「何か言ったかしら?」
「イエイエ滅相もございませんですはいだからおもむろに懐からハリセンを取り出そうとするのをやめてください」
…なんで人の考えてることわかるの?エスパータイプなの?でもこの人悪もゴーストも全然効きそうにないんだけど?あ、虫タイプは効きそう。
下らないことを考えつつも改めて目の前のお屋敷を観察する。
中世の中華風といった建築風は煌びやかで美しい…が気にする所はそこではない。
玄関の前に取り付けられているのはどう見ても電子端末。イヤ、あそこだけ時代が回りとあってないよ浮きまくりだよ。
エイリンは懐からカードキーのようなものを取り出すと先ほどの端末にかざす。すると中華風のいかにもな扉がシュッという音ともに自動で開いた。
うわぁいオーバーテクノロジー
いけない、危うくまた
さて、話を戻すとどうやら私はエイリンに身寄りのない訳アリの女と誤解されたらしく、エイリンから自らの元で調剤などの手伝いをすることを条件にエイリンの家に住むことを許可するという旨の提案をしてくれた。
私は願ってもいない機会に歓喜し、一も二もなくこの提案を快諾したのだが
「じゃあ今日から貴女は私のお手伝いさん兼同居人ね」
「ええ、よろしくお願いするわ!」
「じゃあコレ護身用に渡しておくわね。手を出して。」ズチャ
「えっ、何これは」
「サイ〇ガンよ。」
「」ベキッ←常識にヒビが入る音
その後も
「見えてきたわ…、あれが今日からあなたが住むことになる都よ」
「……あの、エイリン。ちょっといいかしら」
「なにかしら?」
「なんだかでっかい壁が見えるのだけど」
「外敵からの襲撃を防ぐための物理障壁よ。トカゲの仲間には空を飛ぶような奴もいるから結構高めに作ってあるの。それがどうかした?」
「」ガラガラガラ←常識が音を立てて崩れ去る音
オデノジョウシキハボドボドダア!
変な電波を受信してしまった気がするが、やっぱりエイリンが7、いえ9割方原因だと思う。もうちょっと私の常識をいたわるべきそうすべき(謙虚なナイト並感)
大体何なのだこの都市は。居住区と呼ばれる場所は中世中華風の建築物が立ち並んでいるというのに、都の中央には都のどこからでも見えるような超巨大なビルが立ち並んでいるし。一体いつの時代のどの文化なのこれごちゃ混ぜすぎでしょ!(食い気味)
やっぱり私は地球に似た全く別の惑星に来てしまったのでは…?そう考えてしまう程にここに来てから私の常識はメタメタにされまくっている。仮に常識にHPバーがあるなら文句無しの0である。
「まだまだ紹介しなきゃいけないことが沢山あるのだけど」
「ま、まだ行ってないところがあるの?」
「当たり前よ。この都は広いんだから。今までの説明だって帰りがけに目に付いたものを紹介しただけだもの」
「そっかー」
そっかー、つまりまだ
…もうやめてっ、私の常識のHPはとっくにゼロよ!
「でも、今一番の優先事項は貴女の服をどうにかすること。それが終わらないうちに都を外套一枚で連れ回すほど私は鬼畜ではないわ」
「…そうね。」
そうだった、今私外套を着ている以外に何も身につけてないものね…。
エイリンが気を使ってくれたお陰なのか、道中あんまり人が居なかったから忘れかけてたわ。
「生憎と服を買いに行く前は家にある私の服を着てもらうことになるけれど…、それでいいかしら?」
「ええ、本当に何から何までありがとう」
「…いいえ、良いのよお礼なんて」
「そんなの無理よ、エイリンだって生活があるのに私って言うお荷物をお世話してくれるって言ってくれたんですもの。お礼を言わなきゃ私の気が済まないわ」
「…もぅ、変なところで律儀なんだから」
エイリンがこちらを見てクスリと笑う。
なんとでも言うといい、流石にここまでしてもらってお礼を言わないほど私の顔の面は厚くないのだ。
<✤>
「へぇ…馬子にもなんとやらってことかしら?」
「む、どういう事よ」
「ふふっ、冗談よ。とても似合ってる」
「真面目に言われるとちょっと恥ずかしいわね」
「めんどくさい女か」
「ぐ…」
胸を抑えてその場で崩れ落ちる。
今のはかなりグサッときたわよエイリン…。
私がそんなことをしている間にもエイリンは箪笥の中から次から次へと服を出す。
「ん〜、その青のもいいけれどちょっと合わないわね。今度はこっちを着てみて?」
「エイリン?別に私はこれでもいいのだけど」
「だめよ。同じ女として折角そんなに素材がいいのに服が似合ってないなんて許せないわ。服のことなら気にしないで良いからどんどん試すわよ。」
「そういうものかしら…」
「そういうものよ」
結局このあと服を選ぶのに10分もかかってしまった。その間の私は完全にエイリンの着せ替え人形だったことをここに記しておく。
ファッションって大変なのね…。
「…うん。1番この色がしっくりくるわね」
「よ、ようやく終わった…」
「貴方も姿見で見てみるといいわ、ほら」
言われて姿見で自分の格好を見てみる。
私がコーディネートしてもらったのは薄紫色生地で出来た膝下までのワンピース。髪で隠れて見えにくいが背中にスリットが入っていて、スカート部分には薄く何かの花模様があしらわれている。
「へぇ〜」
くるりくるりと、その場でまわってみる。
うん、よくわからないけれど自分もこの色がしっくりくる気がする。とっても気に入った。
嬉しくて隣にいるエイリンに笑いかける。
「これ、とっても気に入ったわ。ありがとうエイリン!」
「…っええ、似合うものがあって良かったわ」
「……?」
はて、エイリンがそっぽを向いてしまった。どうしたのだろうか
「エイリン?」
「ええと、うん。そう言えば都案内がまだ終わってなかったわ!
晩御飯の材料も買いに行かないといけないし、早速出かけましょう!」
「あっ、ちょっとエイリン!」
「私も着替えてくるわ。ちょっとまっていて!」
どったんばったんと、すごい音がエイリンが駆け込んだ部屋から聞こえてくる。
…一体エイリンはどうしたのかしら。
それから暫くして戻ってきた時はエイリンは落ち着いていて、改めてさっきの変な態度は一体なんなんだったのかいう疑問をぶつけてみるも、のらりくらりと躱されてしまう。気になるけれど本人に話す気がないなら無理に聞くようなことではないわね。
それで、肝心のエイリンの服装なのだが、
「あの、エイリン?その服は…」
「貴女がワンピースなんですもの。折角だから私もワンピースにしてみたの。どう?似合ってるかしら」
「え、えぇっと…」
えぇ…。(困惑)
似合ってるけど、似合っているけども。その配色一体何なのよエイリン。
私と同じタイプのワンピースは体の正中線にそうように左右を赤と青という真反対の色で彩っている。
これを作った奴の頭の中はどんだけ先進的なのよ。人類には難易度高すぎるでしょうこれ。
正直こんなの来たら普通その色のアンバランスさで着こなせないもののはずなのにエイリンにはなぜか似合っているのよね…不思議。
「…似合ってるわよ?」
「あら、ありがとう」
うん、あんまり深く考えてはいけないがしてきた。
美女は何着ても似合うもの。それでいいじゃない、うん。私また一つ学んだわ。
「さて。じゃあお夕飯のお買い物もしつつ都を回りましょう?」
「えぇ、行きましょうか」
エイリンに先んじて玄関前の庭に出て、ふと思いを馳せる。
だいぶ時間はかかってしまったが、ようやくここから私の地球ライフが始まると思うとなんだか胸がいっぱいになる。
無論、恐竜と同じ時代に人がいるという矛盾の原因も調べなければならないだろう。この矛盾の原因はもしかしたら私にあるのかもしれないのだから。
これからやらなければならない諸々に思いを馳せ、頭を降ることで一旦考えるのを止める。
ひとつひとつやって行きましょう。時間はまだまだたっぷりあるし、これの調査以外にもこの都でやりたいこともたくさんある。
「何より…」
「どうかした?」
「ううん、何でもない」
これからの居候先の主人の彼女に笑いかける。
目の前でまた挙動不審になっている彼女のことをもっと知りたい。
いつもどんなことをしているのか、もっと知りたいと思ってしまうのだ。
「(なんなのかしらね、この気持ちは…)」
親愛か友情か、もしくは…
そこで考えるのを止めておく。きっと、もっともっと時間をかけてお互いのことを知ってからでいいでしょう。
だから、今は
「エイリン」
「えっ、ええ」
「これからよろしく」
これで、いいんだと思う。
<✤>
─◼◼◼タワー・◼◼◼階─
都の中央に立つ一際高いビルの上層階の部屋
後世の日本において書院と言われた造りをした部屋には薄明かりが灯り、男の声が響く。
「……以上が今回の調査のご報告となります。」
「大儀であった。下がれ」
「奥」には御簾が掛かり、奥側の明かりによるものか人影が御簾に映っている。
その人影から発された言葉はまるで重みを持つかのように部屋にのしかかり、空間を圧で支配する。
男はそれに畏れを感じながらも静かに立ち上がり、しずしずと部屋から出ていった。
「……ふぅ」
その溜息を区切りに先程まで部屋を覆っていた重圧は嘘のように消え去ってしまう。
「今回の調査も特に成果無し、か」
「奥」にて物憂げにそう呟く彼女の名は《月夜見》。この都の王であり、夜と月を司る神である。
美しき神はその銀髪を鬱陶しそうにかきあげると、手元の書類に改めて目を落とす。
「穢れか…」
彼女が先程報告されたものは都の民を老いさらばえさせる元と考えられている『穢れ』に対しての調査の結果。
都の技術力と知識を持ってこれを調査しているのだが、芳しい結果はまだ出ていない。
穢れについて分かったことといえば穢れが常世に存在する黄泉に存在するものだということ。
「すこしでもはやく、対応策を練らねばならんな…」
月夜見は目を閉じ考えるように天井を仰ぐ。
─何とかせねばならぬ、他ならぬ我が民の為に─
たとえ神さえも死ぬこともある。それは彼女の父の伴侶であった伊邪那美がその身をもって証明している。
自らの父の妹であり、伴侶であった伊邪那美は火之迦具土神を産み落とした際にその火によってミホトに火傷を負い、苦しみながら死んでしまった。その後、月夜見の父である伊邪那岐は伊邪那美を連れ戻しに黄泉へと向かうのだが…それは今は重要ではない。
問題は黄泉にある穢れが何らかの原因によって
人には本来ならば寿命という言葉はない。しかし、穢れの存在によってこの大地には生命の終わり『死』がうまれ、人にも寿命が出来てしまった。
今の所、穢れに対して彼女が出来るのは障壁に自らの神としての権能を施し、穢れから都を守るだけだ。
「……覚悟を、決めるべきだな」
ふと、月夜見は部屋の外に何者かの気配を感じる。
気配を探りその正体に気づくと月夜見はその顔に笑みを浮かべ、ソレに呼びかける。
「豊姫。そんな所にいないでこちらに来なさい。」
すると、その言葉を待っていたのか襖の間からひょっこりと愛らしい顔をした少女が顔を出した。
「お話終わった?」
「あぁ、終ったよ。豊姫はどうしたの?」
「うんとね、これを母上に見せたかったの」
豊姫と呼ばれた少女はとてとてと月読見に近づくと後ろ手に持っていた絵を月読見に見せる。
「えへへ。母上と私!」
「凄いなぁ。豊姫は絵を描くのが上手だねぇ」
「わぁ、くすぐったいよぉ」
キャッキャと撫でられて笑っている娘の前では月夜見もただの母親である。暫くそのまま撫で続けると、豊姫の瞼が重く垂れていく。
「んぅ…」
「さぁ豊姫はもうねる時間だよ、一緒に寝ようね。」
「はぁい」
腕の中でうとうとしている少女を見ながら月夜見は改めて決意する。
必ず、穢れをどうにかして見せる。この子のためにも。
夜はまだ始まったばかりだ。
くぅ疲。
作者はこの小説を暇な時間をぬって書いているんですが、かける時とかけない時の差が凄いです。
かける時は1話分丸々書けるんですけど、かけない時は本当に文字数が3桁いきません。
毎日投稿やってる人とかどうやってるんでしょうね。
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第4話 豊姫(義妹)との出会い
前回から1週間経ってしまいましてはい、誠に申し訳ないです。
えぇタイトルにもある通り、今回は彼女が登場します。
一応ょぅι゛ょです。口調とかも幼くなるようにしていますが、もしかしたら違和感があるかも知れません。許してヒヤシンス
追記:黒のアリス様誤字報告ありがとうございました!
薄暗い部屋の中に嘲笑が響く。
「フハハハハ!
どうした、こんなものがお前の全力か?だとしたら飛んだ期待はずれよな」
「ぐぅ…」
そう言って嗤う怨敵をきっと見返す。
「こんなっ!こんなところで終われない!」
「クッ、威勢だけはいいようだがなぁ。もはや限界なのではないかね?んん?」
「くっ…」
いいえ。まだよ!
まだこいつは私の次手に気づいていないはず。
ならっ…!
「ここよっ!」
相手が油断している隙に切り札を打ち込むっ!
「………」
「どう?打ち返せないんじゃないかしら?」
相手の勢いが止まり黙り込む
そして…
「……フフッ。クククッ。クハハハハハ!」
「…何がおかしいのかしら」
「クハハハハハ!お前は実に愚かよなぁ、
…そして、私にとって致命的なまでの一撃が決まってしまった…。
「なっ!貴女それはっ!」
それは、鈍く輝く赤い札。
文字通りの切り札が切られて、
「たすけてえーりん!」
「や、やめてぇぇぇぇえええええ!!」
私の口から絹をさくような悲鳴があがり、同時に横から伸びてきた白魚のような手が白の盤面を瞬く間に黒へと変えていった…
「どうしてっ、どうしてなのエイリン!」
「…………」
「答えてよっ!」
「いや、あんた達たかがプリン1個にどんだけガチになってんのよ」
「「たかがってどういう事(よ)!!?」」
私と
私からプリンを奪った敵ではあるものの、そこだけは同意見だ。プリンは至高。異議は認める!
呆れたようなエイリンは雰囲気作りのために暗くした照明を手元のリモコンを操作して明るくしている。
「まぁいいや、紫お姉ちゃん。プリンは頂くね」
「あっ…」
そう言うと豊姫はさっきまでの魔王ロールプレイなど感じさせないようなのほほんとした口調で私の希望をかっさらっていった。
あぁ、私の…私のプリン……ガクッ。
「プリンなんていつでも食べられるでしょうに…」
隣でえーりんが何か言っているがそういう問題ではないのだ。
豊姫と
─翠屋はこの都1の菓子屋であり、その中でも特に人気なのが1日数量限定で生産されるプリンである。(都のすすめ五十二頁参照)─
いつも頼んでも買ってきてくれない翠屋の1日20個限定のプリンを今日たまたまエイリンが買ってきてくれたというのに。
あまりのショックにその場で膝から崩れ落ちる。
終わった…終わってしまったわ、私の
「…ねぇ、紫お姉ちゃん。欲しい?」
「くっ、敵の施しなんて受けないわっ!」
そうとも私はそんなものに負けないっ!
「そっか〜、ぁーんっ。んぅ〜♪」
「…………」
わ、私はこんなものに絶対……
「美味しいなぁ〜。流石翠屋の1日20個限定の生プリン!これなら飽きずに全部食べられちゃう〜。あ、でも夕飯近いしなぁ、あんまり食べられないなぁ〜(チラッ)」
「………」
絶対、に……
「半分残ってるしなぁ。もったいないなぁ(チラッ)誰かが今日の課題手伝ってくれたら譲るんだけどなぁ(チラチラッ)」
「任せなさい」
プリンには勝てなかったよ……。
<✤>
衝撃的な都デビューを果たし、常識をボドボドにしながらも命からがら(?)家に帰ってきた私はエイリンから明日からの予定について説明を受け、そこでエイリンからある1人の女の子のことを聞いた。
その娘の名前は《豊姫》
この都で重要な位置につく人物の娘であり、聞けばエイリンは彼女の教育係であるという。
「教育係?何でエイリンがそんなことやってるの…あっ」
それを聞いた私は言ってから失礼な言い方だったと口を手で押さえたが、エイリンは気にしないでと言いつつ
「あまり詳しい事は言えないけれど…。いえ、貴女も明日からは彼女と会うことも増えるでしょうし教えておくわ。」
エイリンはこの都でも飛び抜けた頭脳の持ち主であるらしく、豊姫の
そう言えば私が助かったのだってエイリンが薬草を取りに都の外に出てく来てくれたお陰だったのだという事を思い出した。
足りなくなった薬草を詰みにくる。つまりはエイリン自身に薬学の心得があるという事。
あれ、エイリンってめっちゃ頭いいのでは…?
どうにもエイリンのことについて知らなすぎるとちょっと考えた私はその子のことや、明日からのエイリンの手伝いについて詳しく聞くことにした。
予想通りというか、エイリンは所謂薬師と呼ばれるもので、都の中でも飛び抜けた腕を持つらしい。一時期人気すぎて都の反対側から家に隣接する診療所に来る人もいたと言えばその実力の高さが分かるというものだ。
ただ、エイリンはどうにも趣味でやっている節があるらしい。診察もすることにはするが普段は専ら新薬の開発をしているという。
やだ、私の同居人スペック高すぎ……?
ひとりで勝手に戦慄していると
「まぁ明日からは貴女も彼女の学友となる訳だから仲良くしてちょうだいね」
「えぇもちろ……え?」
今なんと言ったのだろうか。私がその子と学友?仲良くするとかでなく?
「どういう事よ」
「どうしても何も、貴女は記憶喪失でしょうが。
貴女に一般教養を教えるのと彼女に教えるのを2つ同時に行うなんて私の体をふたつにしないと出来ないわ。」
それはそうでしょうけど…
「なら、貴女と彼女の教育を一緒に行えばいい。
貴女は一般教養を学べて豊姫は貴女という友を得る。そして、私は時間を取ることが出来る。」
ね、誰も損しないし一石三鳥よ。というエイリンを見ながら思考する。
確かに私には今の所親しいと言える間柄の人はエイリン1人しかいない。なら、今回の案はまさに渡りに船ではないか。人に会うためにここまで苦労して死にかけながら(マジ)来たと言うのに、知り合いが家族(?)しかいないとかなんの冗談だろうか。
そこまで考えてから相手の少女のことが気になってエイリンに尋ねてみる。
「ねぇエイリン。その豊姫っていう子はどういう子なの?」
「そうねぇ…、当たり前だけど悪い子ではないわ。根が優しくて知らない事にもその好奇心の高さで持って積極的に関わろうとする。貴族特有のプライドの高さと言うのはまだないわね。私達平民の暮らしにも関心を持っている。
まぁ教える側としては教えやすくてよく出来た子って所かしら」
ほほぉ。
エイリンからのこの好感触。いいとこのお嬢さんだから高慢ちきな人物ではないだろうかという私の不安はこの時点で無くなった。よかった、豊姫とは仲良くなれそう。
そう思っていた時期が私にもありました。(即堕ち二コマ)
翌日、内心ワクワクしながら豊姫の到着を待っていた私が数秒後に見たのはエイリンのスカートに縋り付きながらこちらを涙目で伺っている金髪ょぅι゛ょの姿。対する私も速攻で怖がられて涙目。挟まれたエイリンは迷惑そうな顔。
迂闊だった…。
エイリンからの前情報を間に受けて初っ端から飛ばしすぎたようだ。
いくら好奇心旺盛と言ってもょぅι゛ょなのである、いきなり知らない人から名前を呼ばれながら笑顔で近づかれたら泣く。私だって泣く(確信)
それでも泣き出さず涙目で澄んでいるのはひとえに彼女の隣にいるエイリンのお陰であろう。エイリン
拾ってきた猫と飼い猫が初対面でコミュニケーション失敗して挟まれた飼い主のような心境であろうエイリンは溜息をつきながらも私たちに自己紹介をするように促した。
「…さぁ、豊姫。彼女に自己紹介しましょう?今日から貴女の新しいお友達になってくれる子よ?」
「…………」
豊姫は涙を浮かべていた目を小さな
「とよひめ、です。宜しくお願いします」
「っ、ええ。よろしくね豊姫」
いけない、明らかに精神年齢が年下の彼女から先に自己紹介させてしまった。泣いてる場合じゃない、私もはやく返さなきゃ。
「私の名前は…」
そこになってようやく。自分の名前がないことに気がついた。
「なまえ…は……」
そう言えば名前を考えていなかった。私がどもっているのを不審がったのか、豊姫がエイリンの方をむく。
「……ごめんなさいね豊姫。ちょっとこの子とお話してくるわ。」
そう言うとエイリンは私に着いてきてと言って部屋から出て行く。私もそれに続いて彼女にごめんね、と言いながら部屋を出た。
「……ごめんなさい。記憶喪失の貴女に対して配慮が足りなかったわ。」
「いいえ、エイリンのせいじゃないわ。私もさっきまですっかり忘れていたし、今日までほとんど一緒にいたからきづかなかったのも無理ないわよ」
廊下に出た私に彼女は頭を下げて謝った。慌てて彼女の顔を上げさせる。エイリンには一生掛けても返せないぐらいの恩があるのだからそんな態度を取られるとこちらがこまってしまう。
実際、出会った時から私はエイリンのそばから離れることも無かったし、私がエイリンを呼ぶことはあってもエイリンが私を呼ぶことは無かった。エイリンが忘れてしまうのも仕方がない事だろう。
「でも困ったわ。今決めようにも長話をしたら彼女に申し訳ないし…」
「………」
私がそうつぶやく横で彼女は口に手を当て考えるように少し瞑目すると。
「いい案を思いついたわ」
と言い、私に任せなさいと言って豊姫の待っている部屋に戻っていった。
数秒後、思いっきり襖が開けられて豊姫が私に駆け寄り両手を握った。事態を飲み込めず目を白黒させていると豊姫が口を開き、
「大変だったんですね…、でも大丈夫。永琳先生はとってもいい人です!私もできる限り協力しますから一緒に頑張りましょう!」
と私の顔を見ながら励ますように言ってきた。
どういう事だこれは。という言を視線にのせてエイリンを見ると彼女はやりきった顔をしながら親指を上げていた。
おい、何やりきった感を出しているんだ。全然やりきってないよ一体この子に何吹き込んだの?
そう考えるうちにも目の前のょぅι゛ょは勝手に話を進めていく。
「さぁ、まずは一緒に名前を考えましょう
「ファッ!?」
お、お姉ちゃん?オネエチャン!?
な、なんて可愛さ、いや破壊力だろうか。よく見れば金色で軽くウェーブがかかっている髪とか可愛いところ(自画自賛)とか、性格がいい所(自己申告)とか私にそっくりではないか。
豊姫は私の娘だった…?
勝手にトリップしている私を部屋の中に連れ込む
いやぁ、名前を考えて貰うっていうのはいいものね。2人がああでもないこうでもないと考えているのを見ているとなんだか胸がぽかぽかする。
そうして時間も遅くなり、豊姫は私たちに手を振りながら迎えの人と帰っていった。
「じゃあね〜
「じゃあねー豊姫。また明日〜。」
手を振り返し、微笑む。
名前が呼ばれるだけで嬉しい。何せエイリンと豊姫が一緒に考えてくれた大事な名前だ。
「…さぁ。そろそろ家に入りましょうか」
「えぇ、そうね」
先に扉を開けて家の中にエイリンが思い出したように振り返る
「おかえりなさい、紫」
「…えぇ。ただいまエイリン」
これからもよろしく。
<✤>
─ある少女の日記─
今日はお友達…お姉ちゃんが出来ました。
いつものようにエイリン先生のところにお勉強に行った私が出会ったのが紫お姉ちゃんです。
初めて紫お姉ちゃんを見た時、私は初めて見る人に固まってしまって思わず永琳先生の影に隠れてしまいました。
隠れてからハッとして彼女の顔を伺うと案の定というか彼女も泣きそうでした。
永琳先生に言われて自己紹介を私からしたけど、彼女は自己紹介の途中で黙り込んでしまいました。どうしたんでしょう?
気になって先生の方を見上げると先生もむつかしい顔をしていて、お姉ちゃんと一緒にお部屋から出ていきました。
廊下で何か話しているみたいだけど聞こえなくてもどかしい思いをしていると、先生だけが帰ってきて彼女の事を説明してくれました。
先生によると、彼女は記憶喪失で今は治療のために薬師でもある先生の家に寝泊まりしていること。当然自らの名前のことも忘れてしまっていることを私に話してくれました。
そんなこと私が聞いてもいいのだろうか、と思いましたが先生は
「だから彼女は名前はおろか、家族のことすら思い出せないの。どうか彼女に家族のように接してあげてくれないかしら。」
と言ってきました。
家族のことが思い出せないなんて、なんて悲しいんでしょう。
もしも私が母上の事を思い出せなくなったらとても耐えられません。
「そういう訳で今日は彼女の名前を決めるわ。豊姫もそれでいいかしら?」
「えぇ。大丈夫です先生!」
私はそう言うと廊下に出ていきなり出てきた私にびっくりしたような顔のお姉ちゃんにこう言ったのです。
「大変だったんですね…、でも大丈夫。永琳先生はとってもいい人です!私もできる限り協力しますから一緒に頑張りましょう!」って。
それから先生とお姉ちゃんの3人でお姉ちゃんの名前を悩みながら考えました。
そうして考えた結果決まったのは紫と書いてゆかりという名前。
私たちとお姉ちゃんが出会えた縁(ゆかり)に感謝する意味と彼女にぴったりの紫という色をかけた名前です。
それを決めてお姉ちゃんにどうかと聞くと、お姉ちゃんはポロポロと涙を流し始めてしまいました。
私と先生が何か不味かったかとおろおろしていると。紫お姉ちゃんは泣き笑いながらありがとうって言ってくれました!
なんだか私も嬉しくなって紫お姉ちゃんに抱きついてしまいました。
お姉ちゃんはちょっとびっくりしていたけど優しく微笑みながら抱き締め返してくれました。その時のお姉ちゃんの頭を撫でてくれた手がすっごく気持ちよくて、思わずそのまま眠っちゃいそうになってしまいました。
今日はお姉ちゃんと会えてとってもいい日でした。
はやく明日またお姉ちゃんと会いたいです。
お疲れ様でした。
毎回思いますが適切な文字量というのが分かりません←
( 木)<だ、誰か!視聴者の中に小説を書いている方はいらっしゃいませんか!?
割と毎回悩んでます(笑)
作中の翠屋はリリカルでマジカルな世界から出張してきてもらいました()
話は変わって今後の展開ですが、前回言った通りこのまま日常回が後最低でも4話ほど続きます。また、作中の「永琳」と(エイリン)の表記ですが、紫視点では永琳の漢字がわからないのでわざと漢字ではなくカタカナ表記としております。分かりづらくて申し訳ありません。
ご理解の程よろしくお願いします。
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第5話 永琳のオテツダイの1
地平線の果てまで続くかのような深緑の中を二つの人影が森と森の間にある視界の開けた平原を歩いている。
「ぐぇ〜。つ、疲れたぁ…」
「我慢弱いわねぇ…。目的地まで後ちょっとよ、踏ん張りなさい」
淑女にあるまじき声を出しながら息も絶え絶えに歩くのは先日義妹と同居人から名前を貰った「紫」
そんな彼女をたしなめながら紫の前を歩くのは「八意 永琳」。2人は永琳の趣味である薬の研究に必要な素材を集めに都の外に出てきていた。
尚、今の2人の格好は動き易く設計された狩り装束のようなものである。額、胸部、脛と言った急所のみを鎧で守っている。
勝手知ったるといった永琳に対して紫は今回を含めても都の外に出るのは両の手で数えられる程。
紫の美しい四肢はうっすらと汗をかき、太陽に照らされたそれだけを見ればとても艶っぽいが、八の字に歪めた眉とぜぇぜぇと溢れる喘ぎ声のせいで色々と台無しであった。
「ね、ねぇエイリン。ふぅ、後、どれ位素材を集めるの?」
「そうねぇ…、今が丁度正午頃、ここから都に帰るまで一刻半という所だから…」
永琳はぶつぶつと口の中で帰路に掛かる時間を計算すると
「この素材の採集が終わったら都に帰るわ」
「ほ、ホント!?」
「嘘はつかないわ」
やったー、と紫が後ろでいきなりガッツポーズしたせいで咳き込む紫を尻目に見ながら永琳は手元の端末を見る。
「……ここら辺ね。紫、目当ての素材はここら辺の水辺に自生している筈よ。ちょっと来てちょうだい、端末でサンプル画像を見せるわ」
「はーい、えぇっとこの茶色い棒みたいなやつね」
永琳は紫の言葉に頷くと
「じゃあ一緒に行きましょう。またいつかの時みたいに肉食トカゲが出ないとも限らないわ」
「うっ…そうね」
瞬間思い出したくもない記憶がフラッシュバックする。
あんなのとは金輪際関わりあいたくないわ、と改めて強く紫は意識した。
「じゃあ着いてきてちょうだい。私もなるべく見つけられるように目をまわすけれど、もし見つかったらすぐに私におしえて」
「はーい。
今回は完全にエイリンの荷物持ちだもの。文句はないわ」
紫が永琳に助けられた時に結んだ約束は永琳の仕事、及び家事を手伝うことだ。約束に従って紫は料理や風呂掃除、洗濯などの家事を行い、それと並行して豊姫と一緒に永琳から
それは、後世であれば大学と呼ばれる学舎で研究するような高度な水準の学習だが、前から永琳の元で教育を受けていた月夜見の血縁である豊姫は勿論の事ながら、これが人として初めての学習である紫も「学問って難しいのねぇ〜」と朧気に感じるくらいで特に苦はない、要するに要領が良いのである。特に苦手意識を持つことなく紫は勉学に励む事ができた。
そんな訳で学習面から見れば大人と同等の知識と能力を身につけることになった紫だが、それが通用しないのが永琳のお手伝いである。
家事であればまだやりようはあるが、主に彼女の趣味関係のオテツダイには一般教養が役に立たない。
そもそも永琳のやっている薬作りはいつも目標とする効能が突飛で、参考資料なんて無いことがざらにある。
紫が同棲してすぐの頃、お昼ごはんを終えた永琳が遠くの空を飛んでいる翼竜らしき姿をじっと見ていたかと思えば唐突に人体から翼を生やす薬を開発しようとしたりしたこともあった。
そんなことはかんがえても行動に移そうとする者はいない。が、この八意 永琳にとってはそんなこと関係ない。やると決めたら一直線。すぐに行動に移すことが出来る人物である。無論研究資料なぞ存在しない。
そういった場合、永琳は正に1から全てを作ろうとするのだ。そこに過去に前例がないからという言い訳は通じない。
前例がないなら私がその前例になってやると言わんばかりの勢いで研究を重ねる。試験薬を作り、試行。結果を記録し、失敗ならもう1度研究、試行、結果を記録…。
そこに高々一般教養レベルの紫が介入する隙間はない。永琳が、何より紫自身がそう気づいていたので最初の頃は手伝いと言っても精々が研究で忙しい永琳の元にお茶やお茶請けを持って行くぐらいだった。
そうして数え切れないほどのトライアンドエラーを永琳は1人で繰り返し、それが終わった頃にはその目を充血させて満足気に泥のように眠る。
ひとえに天才だからこそ許される所業。永琳と同じような事を常人が同じように1人でやろうとすればすぐに体と心が壊れてしまうだろうそれは、もはや永琳にとっては日常とも呼べるものになっていた。
ただ、それを同居人である紫が許容するかは別であるが。
以前、同棲してすぐの頃に永琳を
その数時間後に起きてきた永琳に安堵して再度泣きかけ、その原因が研究の為に六徹していた為だと知ると烈火のごとく怒った。
更に。永琳は紫にバレないように目の下に出来た隈をこれまた自分の薬で誤魔化していた。紫はその事に気がつくと何だかもうどうしようもなく悲しくなり遂に永琳に抱きつくとそのまま泣きそうな声で永琳に体を労わるように静かに説教を始めた。
その両の目にいっぱいの涙を溜めた泣きかけの紫にその場で正座させられて1時間ほど説教された後、永琳は倒れるまで研究をしない事、一夜を通して研究をしたのなら必ず同居人たる紫にその旨を伝えて5時間以上の仮眠を取ることなどを誓う契約書にサインするハメになった。
紫に怒られた永琳といえば、永琳が無茶をしながらもそれに気づくことの出来なかった自分への自己嫌悪で泣きそうになりながら説教する紫になんだかとっても胸が締め付けられ、もう二度と紫を自分の不手際で泣かせるようなことはすまいと心に誓ったという。
そんな事もあった為にそれまでよりも永琳の体調を気にするようになった紫は永琳の研究の手伝いや身の回りのお世話をより一層行うようになり、結果的には永琳が一人でやる作業が減った事で以前よりも研究の進みが良くなったようだ。
尚、その時の事やその後の紫の過剰とも言える永琳に対するお世話のせいで永琳は研究以外出来ない女になりつつある。
なにせ何か永琳がしようものならすぐに紫がどこからともなく駆けつけ
「いいのよ永琳。これは私がやっておくから永琳は待ってて?」
と笑顔で全部やってしまうのだ。
着々と永琳の仕事以外ダメ人間化が進みつつあるのを紫を含め都一の天才と謳われる永琳さえも気づいていない……。
<✤>
「………あっ」
近くにある池の水によりにより軟化して泥化した地面に四苦八苦しながらも目的のものを見つけ出す。
あった!という言葉を飲み込み、一旦周りを見渡す。
私から少し離れた所でエイリンも素材をみつけたらしい、こちらに背を向け手元から採取用の道具を取り出している。
私は手元の端末を操作し、もう一度目の前の稲のような植物が目的のものか確認する。
この植物の名前は【ガマ】。水辺や沼地に群生する。
このガマがつけているフランクフルトのように見えるそれは実はこのガマの
私が永琳と同棲し始めてから早数ヶ月、都の外と内で見聞を広げるうちに分かったことが沢山ある。
そのうちの一つにこの都の人々に関することがある
この都に住む人々は皆寿命というものがないということ。ある程度成長するとそこで成長が止まり、そのまま老衰しないらしい。
なんとも不可思議で理解不能ではあるが、事実この都を治めている王はもう数千年は生きているということをエイリンから教えられ、半信半疑ながらも信じることになった。
とはいえ、そんな寿命がない彼らでも怪我をすること自体はあるらしく、そのために薬学も都の様相に伴うように発展したらしい。
そんな中、わざわざ薬の素材を取りに都の外に出向くエイリンはやっぱり異質らしい。
薬の多くは植物由来の成分を化合して作られるものである為、都に住む多くの薬師が都の中で薬草を生産し薬を調剤するのに対して、エイリンは自らの足で都の外に出てまで生薬を作ることを良しとしている。
その事についてエイリンに聞いたこともあったが「確かに人の手で管理生産しなければいけない植物もあるけれど、都の外に自生するものまで私は育てる気にならないだけよ」と返された。
対してエイリンとは逆に都の人にとっては外は危険だから都から出ないというただの損得勘定だろう。単純にエイリンが恐竜などの都の外の脅威にさほど危険を感じないからということもある。
私を肉食恐竜から救ってくれた時のエイリンの弓の腕は本当に凄かった。これに加えてサイ〇ガンなんてものもあるのだから命の危険がないのも納得できる。
考えながら目の前に群生している【ガマ】の採取をつづけていると、後ろからぬちゃぬちゃという泥を踏み進む足音と共にエイリンが近づいてきた。
「そっちはどうかしら」
「結構沢山採取できそうよ。エイリンは?」
「こっちも順調と言ったところかしら。これで向こう1ヶ月は【ガマ】の採集をしなくても良さそうね」
「じゃあこれを採取したら都に戻りましょ?今日は豊姫が夕飯を食べに来るのだし」
「そうね。帰り際に夕飯の食材を買いましょうか」
<✤>
くつくつと鍋の中の具材がに立つ音がキッチンに響く。
結局あの後都に戻ってきた私達は都の中央街にある大型ショッピングセンターで野菜と《豚肉》を買って帰ってきた。
今日の夕飯は久しぶりに3人での食事になる。いつもより量を増やした鍋の中身を横目で確認しつつ、今日の主食の付け合せを作る。
本日の我が家のメニューは【豚バラミルフィーユ】である。
材料の種類が少ないながらも美味しく、なおかつヘルシーなこの料理は作り方もシンプルである。
鍋のなかに白菜と豚バラを重ね合わせて入れ、ミルフィーユのようにしていく。その後に水、醤油、だしの素を加えていき火にかける。
個人的なポイントとしては白菜は煮込まれることで少し縮むので今回の豊姫のように育ち盛りの子供と食べる時なんかは白菜の量を少し多めに入れることだ。
「よし、エイリンー豊姫ー!あっついの行くから注意してー!」
鍋つかみをして鍋をキッチンに隣接するリビングに持っていく。
「わぁーい。待ってましたー!」
「なんだか任せっぱなしで悪いわね紫」
「いいのよエイリン、私が好きでやってるんだもの」
豊姫の元気な歓声とともにエイリンが申し訳なさそうに謝ってくる。
私はそれに気にしてないことを伝えると、足が低い丸テーブルの真ん中に置かれた鍋敷きの上にお鍋を置く。
「よぉーし、じゃあ召し上がれ!」
「「いただきます!」」
蓋を開けると同時に漂ってくる魚介系のだしのいい匂い。思わずヨダレが出そうになるのを飲み込み、豊姫に手を出す。
「ほら豊姫、取ってあげる」
「ありがとうお姉ちゃん」
豊姫から
豊姫に渡したら次はエイリンから受け取ってまた具材を入れていく。
エイリンは白菜のシャキシャキっとした食感が好きなのでなるべく白の面積の多い白菜を選んで入れていく。エイリンは具の入れ終わった自分のとんすいをみてゴクリと喉を鳴らして私から受けてとる。
私も食べよっと。
端っこの方にある白菜と豚バラを菜箸で掴む。エイリンはシャキシャキの白菜が好きで私ももちろん好きなのだが、だしのきいたしみしみの白菜も大好きだったりする。
よそった具材をじっと見つめ口の中に入れる。
瞬間広がる味に思わず頬が緩んでしまう。煮込まれた豚バラ肉は勿論の事、白菜にもだしがきいていてひと噛みするごとに口の中にだしの味が広がる。
ん〜幸せ〜
自分で作っておいてなんだがとても美味しい。我ながら料理の腕が上がってきているのを感じてなんだか嬉しくなってしまう。
ニヨニヨとしている私の左どなりに座るエイリンの目が何かを探すようにテーブルの上を行き来している。
「ええっと…」
「あぁ、ほら柚子胡椒はこっちよ」
「ありがとう紫。いつものが無いなと思ったら鍋の影に隠れて見えなかったのね」
「ふふっ、これがないとエイリン拗ねちゃうんだもの」
「なっ、もぅあんまりからかわないで…」
「やだー恥ずかしがってるエイリンかわいい〜」
「も、もう!終いには怒るわよ!?」
「キャーごめんなさーい」
こちらに向かってぷんぷんと怒るエイリンにあからさまな怖がりをする。
そんな私たちを見て豊姫が言った言葉に私もエイリンも凍りついてしまった。
「うふふっ、2人とも夫婦みたい」
ピシッと私とエイリンの動きが止まった。
「ふ、ふふふふふふうふぅっ!!??」
「わぁ落ち着いて先生。焦り過ぎて何を行ってるのか分かんないよ?」
「こ、これが落ち着いていられますか!ふ、夫婦って貴女何を」
「だってぇ、なんか2人ともお互いの事を知り尽くしてるみたいな感じだし、さっきの柚子胡椒だって先生が何も言ってないのにお姉ちゃん先生が柚子胡椒探してるって気づいてたし」
「なっ、あれはその…ゆ、紫も何か言って…よ…」
そう言って顔を赤くしたエイリンは私に話を振ろうとしてこっちの顔を見て固まっているみたいだけど正直それどころじゃない。
私とエイリンが、夫婦?
夫婦…ふうふ…ふうふ………?
夫婦…!
理解した瞬間顔がカッと熱くなるのを感じる。
そんな、そんなの、今まで全然意識したことも無かったのに…
頬が熱を帯びるのを嫌でも自覚してしまう。口から意味の無い呻き声のようなものが溢れてくる。
「ぁぅ、うぅ」
「ゆ、紫?」
「ぅへぇっ!?あっ、えっエイリンどうかした?」
「どうかしたっていうかその、顔真っ赤よ…?」
「えっあっそのっこれは違くてッ」
何が違うというのか、心配そうに近づいてきたエイリンの顔を見るだけでこんなに顔が赤くなって、今にも心臓が爆発しそうな程鼓動が早く大きくなっているというのに。
「う、うぅ…(プシュゥ)」
「ちょっ、ちょっと紫っ!?」
あぁだめだ、これはだめだ。恐らく煙を吹いてしまった私を心配そうにのぞき込む貴女を私は…
そこまで考えてからカンカンとお箸を鳴らす音で私とエイリンはハッとして先ほどの音の音源であろう箸を持って頬をちょっと染めてニヤニヤしながらこちらを見ている豊姫と目があった。
「先生も紫お姉ちゃんも熱々なのはいいけどその辺にしてくれないと私の豚バラミルフィーユが本当に甘々なミルフィーユになっちゃうんだけどナ〜」
「「ッッ!!」」
瞬間顔がくっつく程近づいていた私達はバッと互いに距離をとり、しばらくしてからチマチマとまた鍋をつまみ始めた。
この時お互いの顔をちらちら伺いながら目が合うと顔を勢いよく逸らす私たちを見ながら
「(ん〜先生が義姉になるのも近いかな~?)」
と笑う
この小説はゆかえー小説だったんだよ!(迫真)
えぇはい、言い訳はしませんとも
けんじゃしてる紫と月の煩悩とかした永琳のイチャイチャが見たかったんです
安易な恋愛ルートはNGっていう言う人もいるかもしれないけど僕はこのまま続けます(頑固)
永琳の仕事以外ダメ人間化は私の趣味でごわす
仕事はきっちり出来るのに家だと紫なしじゃ暮らせない体にされてく所紫は策士ですね、妖怪の賢者の頭角がみえるみえる。
ところでUAが先日1000突破してました。ありがてぇ…
感想をくれた方ありがとうございます!感想貰えると頑張ろうって気持ちになるから本当ありがたいです。
これからも本作を宜しくお願いします。
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思兼之一 知司る神
感想返しで永琳視点の話するよ〜って言ってたのにいざ作ったら主人公が全然出てこない話になってしまいました()
今回は永琳視点の話となっております。
天地開闢の辺りから始まり、古事記・日本書紀の内容をごちゃ混ぜ解釈しておりますのでもしかしたら違和感を覚えるかも知れませんがどうかお許しください。
あ、あとルビがくっそ多いです。
今よりはるか昔、未だ地球が青い星になってすぐの頃。
そして、那由多の星々と宙と共に誕生したものがまた一つ…いえ、三柱。
それらは気づけばそこに在りました。
意識を覚醒させたそれらが見つけたのは眼下に広がる混沌とした大きな水たまりでありました。後の世で海と呼ばれるようになったそれらに対して彼等は産まれたてで希薄な意識を一瞬向けましたが興味を失ったのか眼下からその目を外すと周りを見渡したのです。
無限に広がるかのような海の向こう側に彼等は数多くの世界を見たのです。
大地と天が意思をもち子をなすのを
灼熱と冷たき氷が交わり巨人と雌牛を生み出すのを
そしてまたある場所では…
彼等は生まれい出た場所からそれらを眺めておりました。
生まれてからつまらない水たまり以外に初めて見たその光景を彼等は興味深げに見つめ、自らもそれを真似しようと眼下に広がる広大な海に再び目を落としました。
彼らこそ後の世において造化三神と呼ばれた神々。
彼等は眼下の陸の浮かばぬ海を見て、ないなら作れば良いと大地を作ろうといたしました。しかし、
やがて彼等は今の自分たちに出来ることがないと悟ると代わりに彼らが成ったその場に広大な海に所々浮かんだ土地を真似て彼らの界を作ることにしたのです。彼等は他の世界での生命ある者とは違う存在でありましたので、命あふれる土地こそ作れませんでしたがそれに似せたものなら作ることができたのです。
そして、彼等三柱が界を作る中途で産まれたのが
造化三神の彼等が海に浮かぶ土地を真似して界を作っている時、界に造られた数々の葦が芽吹くのと共に生まれでた活力の神である彼は界作りにはげむ三神を手伝い、時に三神をいたわり自身が司る活力を彼らに分け与えました。
そうして紆余曲折を経て界が造られました。
そして、その界自体に神が宿ったのです。
名を、
彼らは界を作り終えるとその疲れを癒すために各々界の各地に散らばり、そこでしばし隠れることにいたしました。
その界は後に高天原と呼ばれ、
さて、時は過ぎて五柱が隠れてよりしばしの時が流れた頃。
地上では海に油のように大地が浮かび上がり、高天原では渾沌から新しく七柱の神が生まれ神代七代と呼ばれることになりました頃に、高天原に隠れていた
一柱の女神として成った彼女の名前は
言われた
しかし、対になる神を持たず、くわえて独神である自らから産まれてきたわが子にどう接すればいいのか分からない
…そして、
彼にとって初めての子を信じたい気持ちが大きかったのは言うまでもないでしょう。
そして
高天原の中央近く。会合の会場として決められた場所に集められた彼らは
彼女は神々が集まりきったことを確認すると彼等に向き直り、今回の会合の理由を話しました。
ずばり国造りでございます。
それを聞いた神々の反応は千差万別でありました。
かつて他の世界の神々の創造を見ていた造化三神並びに二神の
場が混沌と化していく中、誰よりも先に産まれた故に神々の中でも至高の存在とされている
「真にそれは可なりや?」
何よりも先に産まれた彼の神の一言に場は一瞬で静まり、その場にいた全ての神々の視線が至高の神と産まれたての女神の間を行き来しました。
女神はその一言と彼の神の重圧さえ伴う自らを試すような視線に内心冷や汗をかきながらもそれに是と返し、国産みを神代七代に生まれた対を成す男神と女神とで行なうことを示し、ソレをこの場に集まった彼らで決める事を提案いたしました。
知恵の神として高天原の神々の心ににその名を刻んだ瞬間でありました。
その後も神々の会合は幾度か続き、この時の事をきっかけに
…鼻高々な
それから時は流れ、遂に国産みの儀が始まりました。
神々に選ばれた神は
二神は神代七代の中でも最も若く混沌より最後に産まれた神でありましたが、神々にその能力を見初められ高天原から地上へと降りることとなったのです。
掻き混ぜた矛を海から引き上げると矛から滴り落ちた潮が固まり島となり、そこで二神は互いに愛し合い沢山の
この時の潮が
そして幾柱もの神を生み出した
しかし、黄泉へと向かった
いいつけを破られ、自らの醜い姿を
この岩の間において彼等は詞を交わし、ここで彼等は離縁してしまっいました。これが日本最古の離縁と言われております。
その後、
…そして逃げ帰ってきた
「一体断然どうしてそんな事をしたの!?」
「も、申し訳ない!」
…知恵を借りた
地上へと戻り、黄泉に入ったことにより体に付いてしまった
当然と言えば当然です。
何せ彼女は黄泉へ向かう自らの弟分の為に数多くの助言をしたのに彼自身がその言いつけを破ってしまったのですから。
黄泉の国は死者の国。
そこに住む者達は一見普通に見えます。
生前と変わらない姿でまるで生きているかのよう。
しかし、彼らの本質はもはや死した者達。
そこに住む者達を神の目で見つめてはいけません。神の目には物事の真偽をつかむ力があるのですから。
今回のように物事の真偽を暴く力を持つものが黄泉に訪れればその真の姿を目に収めてしまうことでしょう。
愛していた人にうじの湧いた体を見られた
結局その後、
「……分かったかしら?」
「ハイ、本当に申し訳ございません…」
「もぅ…あれ程忠告したのに彼女を見てしまうなんて…」
<✤>
最初は二人から先に生まれたものとして敬われ、
そんなある日、休息日としたその日に彼女の元に
彼は彼女に
「産まれた頃から共に育ったイザナミのことは嫌いじゃない。一緒に遊ぶのも凄く楽しい。
…将来結婚するのも彼女となら大丈夫だと思う。彼女の事も、大抵の事は分かってるつもりだった。
でも最近、イザナミのことがわかんなくなって、イザナミが私のことをどう思ってるのか俺はわかんなくなっちゃったんだ。前まではこんなこと無かったのに…。
先生、良かったらそれとなくイザナミから私のことをどう思ってるのか聞いてくれないか?」
どうやら
そんな彼に対して
そうです。
「(似たもの夫婦か…)」
「それで?私に言いたいのはそれだけかしら。終わったのならちょっと出ていてくれない?」
「なっ…!」
「私だって暇ではないの。貴方たちに国生みを教える為に資料をまとめないといけないのよ」
「ま、真面目に聞いているのか!?」
「聞いてたわよ。要は自分に自信がなくて彼女がどう思ってるのか分かんないから他人に彼女の気持ちを聞いて貰おうとしてるんでしょ?
そんなに気になるなら彼女から直接聞きなさいな。彼女を愛しているなら彼女にその気持ちを伝えなさいよ。…それとも彼女に対する貴方気持ちはその程度のものなの?」
「ふざけるなっ!!俺は、俺はイザナミを愛してる!この高天原に住む誰よりもずっと!
この気持ちを侮辱するなら例え先生と言えども許さん!」
「彼女の為ならあなたの全てを投げ出す覚悟はある?」
「ある!」
「彼女を苦難から守ることが出来る?
どれだけ苦痛にまみれた道でも彼女と夫婦になったことを後悔しない?」
「それが自分が選んだ道ならば!」
「…そう、最後に。
彼女を死ぬまで…いいえ、死してなお彼女を愛せる?」
「愛してみせる!どんな姿になろうと、彼女は彼女だ!」
自信満々に答えた
「そう。あなたの気持ちはよぉ〜くわかりました。
聞いていたかしらイザナミ?」
「は、はい…」
突然雰囲気を変えた
「そ、その声は…イザナミ!??」
「えぇ、イザナギ。私、です」
「えぇっとイザナミ、その、今のは…」
「………///」
「………///」
「………(なんやこの空間)」
二人の甘い雰囲気に耐えられなくなった
「いっ!?な、何を…」
「ほら、わざわざ舞台を用意して上げたの。
男ならさっき言ったこと、ちゃんとこの子に正面から言ってあげなさい。
それとも、さっきのは口から出任せ?」
「うっぐ…」
「い、イザナミ!その…聞いて欲しいことがある」
「は、はいっ!」
「えぇっと、さっき聞いていたからもう、分かっているとはおもう、んだけど…その」
「………」
「わっ、私は。おおおおお前のことがすっ、すっ」
緊張からか噛みまくっている
それにビクッとした
「イザナミ」
「…はい」
「私は未熟だ。先生の、誰かの助けを借りなければ君にこうして自分の気持ちを伝えるなんて出来なかったと思う」
「………」
「でも、どうか私の気持ちを、あなたに対する私の気持ちを聞いてほしい。」
「………」
「イザナミ。私はお前のことが好きだ。」
「っ……」
「お前の笑顔が好きだ。その笑顔を見るだけでどんなに辛い事も乗り越えて行けるような気持ちになる。
お前の声が好きだ。どんなに疲れてもその声を聞くだけで疲れなんて吹っ飛んだ。
お前の優しさが好きだ。俺が悲しい時、寂しい時。黙ってそばにいてくれるお前のことが…そなたのことが愛おしい」
「イザ…ナギ…」
「私は…まだまだ頼りないかもしれない。それでもどうか…!」
「どうか私と共にいてほしい!ずっと私の横で共に在ってくれイザナミ!」
「…もう、
「う……」
「ふふっ。本当に、しょうがない方…私がそばに居なくてはどうなってしまうか分かったものではありません」
「イザナミ…?」
「イザナギ。
私も…私も貴方様のことを愛しております。
どうか、あなたの傍にずっと…ずっと共にいさせて下さい」
「イザナミ…!
あぁ、あぁ!もちろんだとも!ずっと共にいよう!」
「イザナギ…」
「イザナミ…」
そうして顔を上げた
「ごほん!」
「「っ!!!」」
「二人でイチャイチャするのは結構。けれどここでやらないでくれる?一応、私の家なのだけど」
「「す、すいません!」」
そうですね、ここはあくまで
ラブラブチュッチュは二人きりの場所でやるべきでしょう。
「さぁ、わかったら行った行った!明日からまた授業を始めるから今日の内に二人でヤルことやっときなさい。言っとくけど、明日の授業に遅れたら容赦しないわよ?」
「「わ、分かりました!」」
「それからイザナギ」
「は、はい!」
「勢い余って新しい神を今作るんじゃないわよ?」
「「~~~~っ///」」
おやおや、二柱は顔を真っ赤にして走り去って言ってしまいました。
それを見送ってから
「全く。若いって言うのはいいわね」
やれやれといった表情の
二人の様子に胸焼けしてしまったようです。
「恋、ねぇ…」
神代七代に産まれつつも初めて神から生まれでた神だからでしょうか。
彼女は神でありながらどこか神らしくない。そんな異質さもあってそれを彼女自身も理解しているからかほかの神(一部を除いて)とはあまり関わりません。
「まぁ…私には関係ないわね」
今も昔も彼女は研究一筋。そんな彼女が恋を知るのは案外、近い未来なのかも知れませんね。
ど う し て こ う な っ た
いや、すぐ本編に入るつもりだったんですけど書き始めたら筆が進んでしまいまして落とし所を掴めず…日本最古(?)のラブコメ書くことになったでござる。
後半とか砂糖マシマシ過ぎてちょっと書いてる時ブラックコーヒーが甘く感じました。
尚、本作のラブコメは現実でラブコメ出来てない木目が執筆しておりますので出来はお察し
( 木)<リア充死すべしィ!
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第6話 月夜に願いを
ようやく面倒事が金曜日に終わりましたので投稿です。
さて、今回は再び紫視点に戻りまして話を進めます。
前回の"思兼乃"シリーズはまたちょくちょく要所要所でこれからも挟もうかと思います。
「しんぶんしんぶん~」
時刻は朝の七時過ぎ。
いつもなら紫は朝食を作り始める時間だが、今朝は連日の研究明けの朝。いつも日の出と共に起きて研究に取り掛かる永琳も今朝ばっかりはお寝坊さんである。紫とて昨日は遅くまで永琳の横で研究のお手伝いをしていたが、紫にとっては研究で疲れた永琳が起きた時に自分の力不足で研究の深い所までの手伝いが出来なかったために、これまでの分も含めて甘やかす、もといお世話するつもりでいる。
紫と永琳の二人暮らしの八意家の本日の朝餉は研究明けの永琳に配慮したお腹に優しく、食べやすい
前回の研究明けの時に紫が振舞ったおじやを食べた永琳が気に入り、是非次からもということで言われたものだ。
水は適量で白だしの量はレシピよりも少し少なめ、鍋の中のご飯がぐつぐつしてきたら溶かし卵をくわえてかき混ぜれば出来上がり。上からお好みで刻みネギをかけていれば、おじやのいい匂いにつられて寝室から寝巻き姿の永琳が顔を出した。
「おはよう
「くぁ…おはようゆかり」
「ふふっ。朝ごはん、出来てるわよ。配膳しておくから先に顔を洗ってきてね」
「うん……」
いつもはキリッとして頼りになる永琳も研究明けの寝起きは弱い。勿論それは相手が紫だからこそ見せる隙なのだが永琳も紫もお互いにソレを自覚してはいない。
寝ぼけた大切な人のそんな一面を見て微笑み、さっそく紫は出来たてのおじやを鍋ごとテーブルまで持っていき、木製の鍋敷きの上に鍋を置く。
鍋の蓋を開ければ広がるのは黄金の世界。投入と同時にかき混ぜたことで固形化しなかった卵は米に金色のドレスを着せ、卵由来の優しい香りが白だしの香りと合わさることで食欲をそそる。
おじやの香りがリビングを包みこんだところで、顔を洗って幾分かスッキリとした永琳がリビングに入ってくる。
「あら、いい匂い」
「さぁ座って?朝ごはんにしましょう」
「えぇ」
手を合わせて食材に感謝して朝餉を食べ始める二人。
研究明けで今日一日は豊姫の勉強もなく暇な二人はゆっくりと朝食の時間を過ごしていく。
「前と少し味が違うわね?」
「研究明けだもの、味が薄い方が食べやすいと思って白だしの量を少し減らしてみたのだけど…どう?口にあったかしら」
「えぇ、食べやすくてありがたいわ。わざわざありがとう」
「そう!良かったわ。美味しくないって言われたらどうしようと思ってたの」
「そんな事は言わないわよ。貴女にはお世話になりっぱなしだわ…」
「良いのよ、今日は研究明けなんだし。も〜っと私に任せてくれていいのよ?」
「…あんまり貴女に頼り切り、と言うのも考えものね。あなただって私の研究の手伝いで疲れてるでしょう?
私も何か家事を手伝うわ」
「そう?じゃあお昼ご飯は一緒に作りましょうか。久しぶりに貴女と一緒にご飯が作れるわね♪」
「久しぶり…?(あれ、私最後に料理したのいつだったかしら。あれ…?)」
「どうかした永琳?」
「え、ああ。何でもないわ」
「あ、そう言えば永琳あてに便箋が届いてたのよ」
「便箋?誰から」
「え〜っと、月代だって」
「!」
「診療所の患者さんかしら、こんな名前の人いたかなぁ…」
「紫、ちょっとその手紙見せてくれるかしら」
「はいどうぞ」
永琳は不思議そうな顔をした紫から便箋を受け取ると中から手紙を見ていき、読み終えると一度大きく嘆息し、手紙を畳んだ。
「…紫、今日の予定って空いてるかしら」
「ええ。今日は洗濯物も溜まってないし、部屋の掃除をすれば午後は暇だとおもうわ」
「すまないのだけど、お昼から一緒にお出かけしない?」
「お出かけ?」
「えぇ、ちょっと中央街の方まで」
「別にいいけれど…なんだか顔がむずかしくなってるわよ永琳」
紫にお出かけの提案をした永琳の眉間には少しシワが寄っている。
それを紫から言われた永琳は指で眉間をほぐすと深くため息をついた後に紫に切り出した。
「貴女に会わせたい
<✤>
今日はお昼ご飯を永琳と一緒に作った。
永琳自身も久しぶりの料理だったみたいだけど包丁で指を切ってしまったりとかの困った事態は起きなかった。
まぁ、私が来る前から永琳は一人暮らしをながいあいだしていたようだし…長年の癖が数ヶ月で消える訳もないか。
そんなことを考えている私は隣でちょっと困った顔の永琳の手を握っている。
朝ごはんの時に渡した手紙の相手は永琳の知り合いだったらしく、永琳はお昼にお出かけしてその相手に私を紹介したいと言ってきた。
部屋の掃除が済めば今日やる事はもう無かったのでことわる理由もないしホイホイ付いてきてしまったのだが…。
現在、私達はエレベーターという閉所の中で黒服のガタイがいい人達に左右を挟まれています。
中央街に行く時は良かった。だけど永琳は中央街の奥にどんどん進んでいき、いつもなら行かないような場所を進んでいった。
そしていくつかの関所のようなものを抜けて辿りついたのは都のどこからでも見ることの出来る超高層ビル。
わたしはチビりそうになった(正直)
こんなところに住んでいる人と今から会うのが若干どころではなく不安だったし、極めつけにビルに入った後から私たちをエスコートしている黒服の人たちだ。完全にソッチの人にしか見えない。
私は典型的な内弁慶なのだ。永琳や豊姫の前でならある程度読経ある肝っ玉母ちゃんを演じることも出来るが、精神的には一般ピーポーなのである。
「ようこそお越しくださいました」「案内をお願いできる?」「勿論です」とこの黒服の人たちと普通に話せる永琳を改めて尊敬する。
私には絶対無理だ、現に今カタカタ生まれたての子鹿のように震えながら永琳の腕にすがりついている。
「えっと、紫?あんまり強く抱きつかれると苦しいというか…」
「ごめんなさい永琳、コレばっかりは譲れないの」
「………」
…なんだか黒服の人たちが申し訳なさそうにしている、気がする。
見た目とちがって中身はシャイで優男なのかもしれない。
と言うか、仮にも案内してくれている人たちに対してこの態度は失礼ではないだろうかと思い直す。
私は勇気を持って永琳から離れた。
「ふぅ、ごめんなさい永琳」
「いえ、まぁ私はいいけれど貴女の方は大丈夫なの?」
「えぇ。この程度ではこの紫、負けはしないわ」
「……ダメみたいね」
永琳は何を言っているのだろうか。
こんなに勇気を振り絞っている私がダメだろうか、いやダメではない(反語)
ガバガバ古文を考えているうちに目的の階に近づいているようだ。
エレベーターの速度が緩やかに小さくなっていくのをガラス張りになっている面を見ることで確認する。このエレベーターは扉から入って正面がガラス張りになっていて、おそらく都一の高層ビルディングある事もあって気色がとても綺麗だ。まぁ、そんな余裕はわたしにはなかったが。
やがてエレベーターが完全に停止し、雅な模様の扉が開いた。
…美しさで言葉を失った。
降りた階層は見える所全体が薄暗く、石畳の様なものがかろうじて見える奥の襖まで続いている。
石畳の左右には玉砂利が敷きつめられ、等間隔で石燈籠が並び、たよりなくもしっかりとした明かりを灯している。
室内のはずなのに虫の音と風に揺られる植物を魂が抜けたように眺め、肩を叩いた永琳の声にようやく一色を取り戻した。
「紫?」
「…ええ、ちょっとこの景色に魅入っちゃって…薄暗いけどとっても神秘的で美しくて、ここが建物の中だなんて思えないわ」
ようやく動き出した私は一足先にエレベーターの外に出ている永琳を追いかけ、石畳に踏み出した。
すると黒服の人たちはエレベーターに戻り、私たちに頭を下げると扉を閉めてこの階層から出ていってしまった。
「あら、あの黒服の人達はここまでは付いてこないの?」
「ええ、彼らはあくまで案内役。この空間に入る事までは許されていないもの」
そう言うと永琳は私に近づき手を握ってきた。
さっきは無意識に縋り付いていたから改めて手を握られるとなんだか照れてしまう。
「暗いから手を繋ぎましょう?足元に気をつけてね」
「……うん」
暗くてよく見えないが多分永琳も恥ずかしいのだと思う。
繋がった手がとってもあつい。それを自覚して、私もそうなんじゃないかと想うとバレてないかと恥ずかしくなってしまう。
「え、えっと、じゃあ行きましょうか」
「そ、そうね!」
伝わってくる永琳の体温と私の体温が混じりあってなんだか変な気分になってきた頃、随分遠くにあると思っていた襖の前に到着した。
「ついたわね」
「そ、そうね。一応ここからは土足厳禁だから此処で靴を脱いでくれる?」
私だけじゃなく永琳も変な気分になっていたのかちょっと声がぎくしゃくしてしまう。
手を離してちょっと寂しい気分になったのを頭を振って考えないようにすると永琳にこの先にいる人について尋ねる。
「ねぇ、永琳。この先にいる人って私なんかが会ってもいい人なのかしら」
「大丈夫よ。今回は彼女が貴女に会いたいから誘われたのだから」
「永琳じゃなくて、私?こんな場所に住んでる人がどうして私の事なんか…」
「まぁ、会えばわかるわ。わかっていると思うけれどこの先にいる方はこの都で力を持つ存在。お呼ばれの身として失礼のないように振舞って。分からなければ私の真似をすればいいから」
「わ、わかったわ…」
や、やっぱりエラい人とこれから会うことになるのか…でもその人からお呼ばれされるようなんて事は私には点で覚えが無い。
私がここに来てから知り合った人なんて永琳と豊姫とたまに診療所に来る人たち位なものだ。
やんごとなき人と接点を持つ事などないはず…
そんな事を考えていたが、靴を脱いで襖の前にたてば襖が自動で横に開いてしまった。考える暇もないようだと一度深呼吸し、覚悟を決めて先に入っていった永琳の背を追いかける。
部屋は日本の江戸時代の書院のような作りになっていた。部屋の外と同じく部屋自体が薄暗く、足元の畳が薄らと光っている。
石燈籠の代わりだろうか、和紙のような紙で造られた燈籠が部屋の隅に置かれている。良く見ればそれぞれの燈籠に違う絵が描かれている。
これから会う人は暗いところが好きなのかなぁと取り留めもなく考えてみても、会って話してもない人について考えても意味は無い。
永琳と奥の御簾の前にこれみよがしに置かれた二枚の座布団の所まで二人並んで歩く。
簾の前に到着し、座布団に座ると御簾の奥にも燈籠があったのだろうか、御簾の奥が明るくなる。
御簾の奥が明るくなると永琳が頭を下げ、それに習って私も頭を下げる。
しばらくして襖の開く音がした後にひたりひたりと人が入ってくる音がした。
「双方、面をあげよ」
厳かな、確かな存在感を持った声が部屋を満たす。
その言葉に永琳が静かに顔を上げ、私も自然と顔を上げる。
御簾には人影が写っている。この人が永琳が私に合わせたい人…?
「まずは八意よ、急な呼び掛けにも関わらずここまで足を運んでくれたこと、礼をしたい」
「身に余ることでございます。この身は都に住むもの、貴女様の呼び掛けに答えるのは当然のこと」
「そうか…そして、そなた」
言葉と共に私を見つめる視線を感じる。
「は、はい」
「紫と言ったか、そなたもご苦労であった。突然の呼びだし、困惑したことだろう。許して欲しい」
「そ、そんな滅相もございません」
自然と声がでてしまう。永琳が手紙を見てから誘ってきたのをもう少し考えればよかった。この方は手紙で映倫と私を呼び出したのだろう。
「此度ここに呼び出したのは、個人的にそなたに興味を持ったからだ」
「興味、ですか」
益々分からなくなってきた。あきらかに人ではないような雰囲気を放つ目の前の人方が私に興味?一体何故そんなことに…
「あぁ、そなたにすこし聞きたいことが「あれっ!紫お姉ちゃん!?」あ…ってな…」
?
…………?
……………………!?
い、今の声はもしかして
聞き覚えのあり過ぎりるその声を聞いて思わす顔を上げる。
目の前で御簾があちらからめくられるとその向こうからこちらを見てびっくりしたような義妹の姿が目に映った。
「と、豊姫!?何でここに…」
「なんではこっちのセリフだよ〜。お客さんが来るって言うからてっきり先生が一人で来ると思ってたのに…どうして紫お姉ちゃんがお家に居るの?」
「は?」
お家?おうち?house?ここが豊姫のhouseね?(混乱)
え〜っと、私は永琳に連れられてこの都で力を持つやんごとなき人に会いに来て…そしたらそこは豊姫のお家だった。
「う〜ん」
「なにっ!?」
「ちょっ、紫!」
「わぁ、お姉ちゃん!大丈夫!?しっかりして〜」
…紫 は 深刻なエラー を検知しました 再起動します…
<✤>
「うーん」
「なにっ!?」
「ちょっ、紫!」
「わぁ、お姉ちゃん!大丈夫!?しっかりして〜」
目の前で起きた自体にその場にいた紫を除いた全員が声を上げた。
後ろに倒れかけた紫を永琳が支え、紫の後頭部が畳とキスするのを防ぐ。
唐突な紫の気絶に月読見も思わず腰を上げ御簾から愛娘と共に出てきた。
そもそも今回のお呼び出しは単純に
「え、永琳様。紫殿は大丈夫なのでしょうか?」
「えぇ、ちょっと一気に知らなかったことを知っちゃって頭がパンクしちゃっただけみたいです」
「そ、そうでしたか…」
「どこか、お部屋を貸して頂けますか?この子を寝かしておきたいので…」
「あ、あぁそれなら廊下の突き当たりにある客室が空いていたはずです。そこへ運びましょう」
「私が案内するね!」
「ありがとう豊姫」
各々が言いたいことがあったが、とにかくこの場は倒れてしまった紫を客室で休ませることが先決だった。
「参りました……」
聞くものの心を揺さぶる声は先程と打って変わって弱り、口調まで変わった声が月夜見と永琳の二人きりの部屋に響く。
永琳と向かい合って座り、用意したお茶を啜るのは月夜見。長く、美しい銀髪が座っているために無造作に畳に広がっている光景は神秘的だ。
あのあと結局豊姫は月夜見に何故この場に紫がいるのかを問いただし、自分の義姉を自分に無断で呼出した理由を母から聞いた豊姫はへそを曲げてしまい、今は客室で寝てしまった紫の側にいる。
「月夜見様は親として御息女の事を心配しただけの事。何もおかしくはありませんよ」
「そう他人行儀になさらないで下さい。ここには私たちしか居りません。私は今はただの月夜命です」
「あら、そう?都の統治者ロールはもう飽きたのかしら?」
「う、いえその、貴方様の事を疑っていたわけではなくてですね…」
「分かっているわよ、都の統治者としてだけじゃなくて親として豊姫が話す相手がどんな人物なのか気になったから呼び出したんでしょう?」
「はい…全てお見通しでしたか」
「娘のことが心配なのは分かるし、あなた自体知らない人との会話だったから
「め、面目無いです…」
「そうやって謝るところ、あなた父親そっくりよ」
「あ、あんまり嬉しくないのですが…」
口調まで変わってしまった月夜見、いやさ月夜命は自らの恩師に対して頭が上がらない。
永琳とはそれこそ生まれた時からの付き合いであり、自らも豊姫と同じく彼女に教え導いて貰った為に永琳の事を深く信頼している。
故に月夜命は永琳の前では
「いや、本当に似てるわよ。
その眉を八の字にして背を丸めて謝罪する姿…父親に生き写しだわ。黄泉から帰ってきた時のことを思い出すもの」
その言葉に月夜命はその赤い目を細めて懐かしむように話し始めた
「思えば貴女様とはあの頃からの付き合いになるのですね。
最初にあった時、貴女様は伊邪那岐を、父を正座させていて…子供心に恐怖したものです。今思えば神の本能とも言うべきものが警鐘を鳴らしていたのでしょう」
「ちょっと失礼じゃない。あなた達姉弟はどうしてそういう風に私を見るのかしら。伊邪那岐は私の弟のようなものなんだから別に正座させるくらい変じゃないじゃない」
「えぇ、まぁその…」
その月夜命の態度に永琳は目を細める。
「…あら、何か言いたげね」
「いえ、そんなことは…」
「やっぱり…、あの子あなた達にも私の悪口とか言ったりしてたのね…」
永琳はその顔を悲しそうに伏せる。
「え?あの、永琳様?何か勘違いを…」
「分かってるの、あの子が私のことをよく思ってないことは。
だって、国生みの儀を安全にこなせるようにあの子達に教えたのは他でもないこの私。
過程はどうあれあの子は半身ともいえる彼女を失ったんだもの。嫌っていて当然よ」
「そ、そんな事はありません!
私たちが生まれてこの地に降りてくるより前に、父上はいつも貴女様の事を私たち姉弟に自慢していました!
確かに、あの人は怒ると怖いとか、高天原を裏で操る第六天魔王だとか言っていましたが、父上は誓ってあなたの事を憎んでなどおりません!」
「そう、そうかしら…あなたが言うならそうなのかもしれないわね」
「し、信じて頂けましたか…」
そうして顔を上げた永琳は満面の笑みで
「やっぱりあの子、裏で私の事第六天魔王何て子供に教えてたんだ」
「あ…」
月夜命はここにてようやく自分が目の前の神物の罠に嵌ったのを理解した。
「本当に困った弟分だこと…。
ふふ、フフフッ、アハハハハハ!」
「あ、あの先生」
「なぁに?ツクちゃん」
グリンと上を向いて笑っていた永琳が月夜命に顔を向ける。その目は完全に何人か殺してる目だ。瞳孔パックリである。
「ヒエッ、そ、そのですね。父上も悪気があった訳ではなくてその」
「分かってるわよ…あの子は当時幼かったあなた達に私の事をただ紹介したかっただけ…それは理解出来るわ」
「そ、それでは!」
「でもそれとこれとは話が別」
「ヒッ」
「大丈夫、別に酷いことをする気はないわよ」
「そ、そうですか」
「でも、悪いことをした子には罰を与えないとねぇ…」
「そ、そうですよね」
相づちを打ちながら月夜命は今は高天原にいる父に心の中で詫びた
「(申し訳ありません父上。ツクはもうこれ以上かばいたてする事は出来ません。不甲斐ない娘をどうか許してくださいまし…)」
…高天原の何処かでとんでもない悪寒をかんじた男神がいたとかなんとか
「…それで結局今日あの子をここに呼んだ理由は何?
まさか、ただの興味なんてわけじゃないでしょう?」
「…永琳様、あの方は壁の外で肉食トカゲに襲われていたのですね?」
「ええ。私が悲鳴を聴いて駆けつけた時には今まさに食われようとしていた所だった」
「その時に、何か彼女に違和感を感じたりはしませんでしたか?何かわざとらしかったり、死を恐れていなかったりなどです」
「…どういう意味かしら」
「そのまま取っていただいて構いません」
その言葉に永琳は眉をピクリと動かした
「まさか彼女がわざと私に見つかるように肉食トカゲに追いかけられたなんて疑っているの…?」
「永琳様は私が父上よりこの"夜の食国"を任された事は知っていますね?」
「ええ。
あの子は黄泉に近く、死の概念が近くにあるこの国を彼女と、伊邪那美と似た力を持つ貴女に任せた」
「そう、私の力は月と夜を司り穀物に大きく関係するもの。穀物だけでなく、夜と月を越えることで変わってゆくこの地に住むものの生命の流れを
「…聞きましょう」
「あの方は、紫殿は…
この都に終わりをもたらすかもしれない」
お疲れ様でした。
なんか最後不完全燃焼な感じが否めませんが、次回に持ち越します。
正直これからの分も今回に挟むと余裕で一万文字行きそうになったので此処で区切らせていただきました。ご理解の程宜しくお願いします。
さて、少しずつ紫を中心に事態が動き始めた第七話ですがほのぼのタグを守れるか今から心配でなりません←
ほのぼのしてぇなぁ〜俺もなぁ〜
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第7話 それはまるで陰陽玉のように
本っ当にお待たせしました!
1週間に1回のペースを遂にきってしまったのを謝罪します。ごめんなさい。
今回は非常に難産でした。所々文や表現がおかしくなっているかも知れません。ごめんなさい(2回目)
さて、暑い日が続きますが皆様はいかがお過ごしでしょうか。先日は都内で40度を超えるような場所も出たと聞いています。木目は今軽く夏バテ中です。皆様も夏バテ、熱中症にはお気をつけください。
「………ぅん」
…あれ、私は何を…
眠りから覚めた時のように意識が朦朧としている。
はっきりとしない意識を何とか起こし、ぼやけた視界で自分を確認する。
はて、私はなんで横になっているのか。
状況を鑑みて、どうやら私は畳に敷かれた布団の上に横になっていたようだ。
どこだろうかここは。我が家…ではないようだし
「ふあ〜」
大きなあくびが 口からこぼれる。ううん…意識がハッキリしない……
未だにサボっていたい様子の大脳に抗いながら周りの様子を伺う。
和室、それも薄暗くてよく見えないものの確認できる範囲ではだいぶ広い部屋にいるみたいだ。
「ここは…」
数少ない光源の燈籠が離れた位置にある襖を下から照らしている。中はろうそくでも入っているのか燈籠に描かれた絵が襖に影となってうつり、ゆらりゆらりと揺れている。
顔を入り口であろう襖とは反対に向ければそちらには障子があった。
木組みの影が畳に落ちていて、障子の奥が薄明るい事を教えてくれている。
その柔らかい光に誘われる様に体を起こして障子に近づき、そして静かに障子を開けた。
障子を開けると縁側があり、日本庭園式の庭が広がっていた。
今まで聞こえていなかった虫達の鳴き声と風に揺れる草木の音が耳に染み入る。
庭には池があって、その中に写っていた月に気づいてその目線を上げれば有り得ないほどに大きい月の姿があった
地上からでは肉眼で見えない程の月の模様の細部まで、この目で見ることができる。
月が放つその頼りなくも優しい光の中で佇み、しばし吸い込まれてしまいそうなその光景に時を忘れて見とれてしまう。
そうして暫くして、私は後ろから控えめに掛けられた豊姫の声に意識を現実に引き戻した。
「紫お姉ちゃん…?」
「豊姫…?」
振り替えれば豊姫はこちらを見てギョッとしていて
「紫お姉ちゃん泣いてるの…?」
と声を掛けてきた。
「えっ…、あ、あれ」
豊姫の言葉に頬を触ってみれば確かに暖かい液体が頬をつたって目から零れ落ちていた。
「大丈夫?どこか痛いところがあるの?」
「いえ、大丈夫。この風景に感動して自然と涙が零れてしまっただけなの。別にどこか痛い訳では無いから心配しないで」
豊姫の呼びかけに我に帰って涙を拭おうとポケットに入れたハンカチを取ろうとして違和感に気づいた。
「(ポケットが無い…?というかこれ、浴衣?)」
自分の服装が見覚えのない浴衣姿になっているのに気づいて混乱する。今日のは確か上にゆったりめのカットソーのTシャツと足首上のズボンだったはず。
あれ、今日はそもそも永琳とどこかに出かけたんじゃなかったか。
「お姉ちゃん?」
そうだ、確か永琳の研究が明けていつもより遅めの朝ごはんを作って…そう、紫が合わせたい人が居るとか何とかで中央街にある大きなビルに行って。
「お姉ちゃんってば」
そう、そこであきらかに偉い人と御簾越しに話していた時にその御簾の向こう側から目の前の豊姫が、って
「そう、そうよ豊姫何であんなところにいたのよォグホァアア!?」
「あっ!?」
何故あの時あんな場所に豊姫がいたのかを目の前の本人に問いただそうとして肩を掴んで詰め寄ったのがいけなかったのだろう。幼いながらも凄まじい早さの手が私の右手を掴むと同時に私は思いっきり投げられた。背中から変な音がした気がする。
「ご、ごめんお姉ちゃん!お姉ちゃんいきなり声上げて肩つかむから怖くなっちゃって…思わず投げちゃった」
「いいのよ…今のは私も悪かったわ…」
「本当にごめんなさい!背中当たったところ痛くない?」
「ふっ、ももも問題ないわ。
それにね豊姫、この世に姉より優れた妹などいないの。つまりはそういう事よ」
「ど、どういうこと?」
「それにしても凄まじい早さの投げね、以前よりも腕を上げたんじゃない?義理とはいえさすが私の妹と言ったところかしら…」
「どうしよう、話が通じないよ!背中を打ったお姉ちゃんの頭がおかしくなっちゃった…!」
私の頭がおかしいなどと変なことを言う愛妹だ。
ここは一つ姉としての威厳を見せねばいけないようね…!
「そんな事言う豊姫は~こうよ!」
「うわちょっと!うはっ!ゆかりおねぇちゃふふっ!」
必死に私の手から逃れようとしているみたいだけど…フフフッ、その程度でゴッドハンドと呼ばれたこの紫の手から逃れることなど出来ぬわッ!無駄に無駄のない無駄に洗練されたこの手でじわじわとくすぐりたおしてくれる!
「それそれ~ここがええんか~」
「やぁ〜お姉ちゃん変態さんっぽい〜ぁは!うひひひ!」
「そんな事言っても体は正直よ~ほらほら」
「んはははは!ぅひ!ひぅんもう!お姉ちゃんいい加減にして!」
そして私の視界は宙を舞った、背中が地面とぶつかると同時に激しい痛みが私を襲い、今度こそ背中から変な音が出る。
これはもう(私の背中は)だめかもしれんね…明日からサ〇ンパスのお世話にならなきゃ…
ていうかなに、我が愛しのリトルシスターにはブドウジツの心得でもあるの?何でそんなにポンポン体格が上の相手を投げられるのかね?私と豊姫で軽く30cm位は差があると思うんだけど。
「ハッ!?またやっちゃった!お、お姉ちゃん〜」
あーダメダメまた意識が遠のいてきましたよどうすんのこれ豊姫強すぎないですかねちょっと豊姫に投げ技を教えた人と軽く一時間ほどお話する必要性が出てきましたねこれはあっダメだほんとに意識が遠のいてきた落ちる前に豊姫に訪ねたいことが
そして私は意識を暗転させた。
<✤>
「入るわよ」
「ヴェッ!?
あっ、先生?お母様とのお話終わりましたか?」
「なんて声出してんのよ…
ええ、先程終わったから一緒に来たの」
「豊姫、紫殿の様子はどう?目覚められていないようだけど」
「ええっとーさっきまで起きてたんだけど~アハハハハハ、はは…」
「( ˘ω˘ ) スヤァ...」
「安らかな顔をして眠っていますね…それほど豊姫がいたのが驚きだったのでしょうか。まさか気絶するほどとは…」
「おかしいわね、頭は打っていないからそろそろ起きててもおかしくはないんだけど」
「ぅうん」
「あら、そうこうしてたら起きたみたい」
「永琳…?それに豊姫と…だれ?」
「先程は失礼しました、私が月夜見です」
「…?ええっと……」
「どうやらまだ意識がハッキリしてないみたいね。紫、今日中央街にある高層ビルに来たのは覚えてる?」
「ええ」
「そのビルの最高階層で、石畳の奥の和室で御簾越しにある人と謁見したのは覚えてるかしら」
「…あぁそうだった!そう!そしたら豊姫が御簾の向こうから出てきてそれでとてもびっくりして…」
「そうね、そこで貴女は混乱して今の今まで気絶していたのよ」
「えっ、そうなの?じゃあここは」
「まだあの場所よ。ここは客室の一つで、気絶した貴女を此処で休ませてもらっていたの」
「嘘っ!じゃあここの人にお礼を言わないと…!」
「前約束もなくここまで呼び出してしまったのはこちらの落ち度ですし、理由も私の個人的なものです。貴女に事前説明をしなかった私のせいでもあります。むしろ、私は貴女に謝るべきでしょう」
そうして永琳と似通った色の髪を持つ美女は紫に頭を下げた。
「ちょっと待ってください。貴女が呼び出した…ということは」
「ええ、私があの時御簾越しに貴女と話していたものです」
それを聞いた途端紫は未だに頭を下げたままの月夜見に慌てて近づいた。
「ちょっ、そんな人が私に頭を下げないでください!そんな事しなくても大丈夫ですから!」
「ですが…」
「確かに私は気絶してしまいましたけど、別にそれは貴女が謝る事じゃないですし、何より偉い人に頭を下げられるのはなんというか体がムズムズしますから!」
「ふふっ。豊姫の言っていたとおり…正直で心遣いのできる方なのですね」
「でしょうお母さん!」
月夜見の言葉に紫の後ろから豊姫が嬉しそうに声を上げる。
「えっ、お母さん?」
ただ、紫にとっては聞き捨てならない言葉が入っていた。
「改めて自己紹介をさせていただきます。私は月夜見、この都の王であり…豊姫の母でございます。紫さんの事は豊姫からお話はよく聞いておりました…此度はそんなあなたに興味を持ち、この場まで御足労させてしまったこと、今一度謝罪させてください」
「」
「紫さん?」
「ほら起きなさい紫」
「はっ!?ご、ごめんなさい」
永琳が紫の体を揺らす。どうやらまた気絶しかけたようだ
「本当に申し訳ありません。ちょっと驚きの連続で整理が付いていなくて……ええっとつまり、豊姫は貴女様の御息女で、そして泣く彼女から私の事を聞いた聞いた貴女様が私を呼び出した、と」
「ええ、まさに」
……つまりは豊姫はこの都のトップの御息女で、私は不敬にもその彼女のことを妹と扱っていたと……?
大丈夫かな私、不敬罪で斬首とかされない?
「…ここまで貴女を呼び出してしまった私が言うことではありませんが…どうか豊姫とは今後とも姉妹のように接して上げて頂けませんか?」
「!それは…でも」
正直、それはいいのだろうかと思う。
彼女はこの都のトップの血縁であることは変わらない。
確かに豊姫の事は本当の妹のに可愛いがっているし、彼女も望んでくれるなら今後も豊姫とはずっと仲良くしていたいのは本当だ。
けれど、目の前の月夜見様にだって立場があるだろう。
彼女が血縁者であるなら様々な障害が起こることだって十分にありうる。例えば、その権力を狙った誘拐事件とか。
別に、私が巻き込まれるのが嫌だとかそういう訳じゃない。単純に、私が原因で豊姫に、引いては目の前の彼女に被害が及ばないか心配なのだ。
数ヶ月前にこの都に来たよそ者の私なんかが本当にこのまま豊姫のそばにいていいのか、なんて思ってしまう。
「…あなたが豊姫や、引いては私にまで迷惑をかけるのではないかと言う事を心配しているのならば、それは無用な心配です。この子にも自分の身を守る訓練はさせておりますし、それに…」
そう言って彼女は豊姫を見た
「私がこのような立場故に、この子にとってもあなたは初めて出来た友人。今ではあなたの事を姉と慕っていると聞いています。身勝手な事を言っているのは分かっています。それでもどうか、豊姫と今まで通り姉妹の様に接して上げて頂けませんか」
彼女の豊姫に対する愛情を感じる。親として豊姫の事を大切に思っているのが今までの会話を通して伝わってきた。
「…豊姫」
「うん」
「私は、まだ貴女の姉で居てもいい?」
「いてほしい…もっと、ずっと私のお姉ちゃんでいて欲しいよ…!」
「そっか………うん。私なんかでいいなら、これからも貴女の姉でいさせてくれるかしら」
「~ッ、うん、うんっ!お姉ちゃん大好き!」
そうして豊姫は紫の胸に飛び込んだ
「ごめんなさいお姉ちゃん、その、私の家の事ずっと隠してて」
「どうして謝るの?」
「だって、お姉ちゃんにだけ私の事伝えてなかったんだもの。ずっと一緒に勉強して、お姉ちゃんなんて言っておいて私はお姉ちゃんに隠し事してた…私最低だ」
「…いい?豊姫。誰にだって、隠したい事の一つや二つあるものよ?家族同然の人が相手であってもその隠したい事を必ず話さなければいけないなんてことは無いの。もちろん、貴女の事を永琳だけは知っていたっていうのはチョット嫉妬しちゃったけどね?」
「うっ、ゴメンナサイ…嫌いになった?」
その言葉に大袈裟に肩をすくめると紫はその胸に豊姫を抱き寄せた。
「ワプッ」
「
そう言って安心させるように紫は愛妹の頭を撫でた
「…うん、お姉ちゃんありがとう」
「どういたしまして」
「あの、もうちょっとだけ…」
「はいはい、撫でて欲しいのね?いいわよ、もっと撫でてあげる」
「………♪」
「なるほどねぇ…」とは、血は繋がっておらずともまるで人の姉妹のように振る舞う紫と豊姫の二人の様子にこぼした月夜見の言葉だ。
それに永琳はため息を吐いて言葉を投げた
「で?結局彼女は貴女のお眼鏡にかなったのかしら?」
「ええ、予想以上でした。豊姫はあれでも幼い頃から訓練で人一倍他人の悪意に敏感な娘です。その彼女があんなに安心した表情を見せるなら、少なくと彼女は豊姫に悪感情を抱いていない。今はそれが知れただけでも良かったです」
「それは良かったわ。私だって彼女を殺すなんてこと、出来ればしたくないもの」
「出来れば、ですか。
「……喧嘩なら買うわよ?」
「それは勘弁していただきたいですね」
「ありがとうございました。ええっと、月夜見様とお呼びすればいいでしょうか」
「あら、様付けなんて…それではあまりにも他人行儀に過ぎます。もう少し砕けて頂いた方が私としては嬉しいのですが」
「そ、そうは言っても……」
砕ける、なんて言っても相手はこの都のトップ。実質的に支配している人なんだし…でも仮にも豊姫に姉として宣誓したばかりで彼女の母親に他人行儀っていうのも…それはそれでおかしい、のかしら?よく分かんないわ。
「さん付けが妥当かしら、それ以外ってなると…あだ名?いや、いきなりそれはハードル高過ぎるでしょ。じゃあやっぱりさん付け…お義母さんとか?いやそれこそどういう事よ……うんさん付けが妥当よね…」
「紫さん、考え事が口から漏れていますよ?」
「へっ?うそっ、ホントですか」
アハハと笑ってめちゃくちゃに恥ずかしいのを誤魔化す。
独り言を他人に聞かれるってとっても恥ずかしくない?私は今死ぬほど恥ずかしい。
「月夜見さんと呼ばせてもらってもいいですか?」
「ふふっ、『お義母さん』でもいいんですよ?」
「も、もう!からかわないで下さい!」
そうして二人でどちらとなく笑い合った。
<✤>
「それでは永琳様、紫さん
お二人共本日はありがとうございました。またいずれ近いうちに会えるのを楽しみにしております。」
「こちらこそありがとうございました月夜見さん、それに豊姫も」
「うん!お姉ちゃんまた来週ね!」
今日はもう色々と疲れた。
豊姫がこの都のトップである月夜見さんの娘であったこともそうだし、永琳がその月夜見さんから敬意を払われる存在だということも知ることになって正直頭がパンクしそうだ。
特に永琳が月夜見さんと親しい関係だった部分に関しては私なんかが聞いてもいいのかなぁなんて思ったけど、永琳があまりに真剣に貴女には知っていてほしいって言うものだから結局納得することにする。
永琳の事、数ヶ月一緒に暮らしてきたけれど、まだまだ知らない事いっぱいあったのね……いやまぁ、個人のことに対して同居人の私が知れることなんて限られてくるのかもしれないけど。
なんて思いながら手を繋いで私の横で一緒に帰路についている永琳にに目を向ける。
「(でも……なんて言うか、永琳の事で他の人が知ってて私が知らない事があるのは)」
何だか嫌だなぁと…思ってしまうのは、私の独占欲が強いからなのかな。
<✤>
「……どういう根拠があってなのか説明してくれる?」
「…私の能力が、月の流れを司る事を主流としている事はあなたが一番ご存知でしたね」
「ええ、貴女の能力は万物の流れを見通し、その行先を『視る』チカラ。故にこそ終わりあるモノ、こと命に関してはそのものの流れを視る事ができる」
「……実はその他に、父から授かったモノがあります」
そう言うと月夜見は左目を閉じ、再び瞼を開いた。
「……あなた、その眼は」
「我が父が黄泉にて亡き妻の真姿を見抜いた眼、その左眼です。この眼を使えば、否応なしに対象の本質を視る事ができるという代物……月の食国の統治者となった私を案じた父がさずけてくれたものです」
そう言うと月夜見は沈痛な面持ちで話し始めた
「最初は、本当に只の好奇心でした。貴女の元に通わせていた豊姫から聞いた一人の少女、その少女のことが知りたかった。……私が今、穢れについて調査しているのは知っていますよね?」
「ええ、そこにあるだけで地上に住む人の子の寿命を縮めるモノ。あなたがある日突然都にトカゲ避け以外の結界を貼るって言い出した時は驚いたわ」
その時は飛んだご迷惑をお掛けしました、と月夜見。その顔は先程までの美しく凛々しい表情とは打って変わって弱りきった一人の女性そのものだった。
「とにかく、私はこの能力と左眼の力で自体の解決を急いだ。けれど、一向に打開策は思い浮かばず。結局、対処療法的に結界の力で穢れを遠ざけることしか出来ずにいます」
月夜見は永琳に一つ一つ、まるで自らの罪を懺悔するかのように語った。
「そんな時、彼女を視たんです。私は、混乱しました。そして、軽い気持ちで彼女を見た事を後悔した」
「…この世にあるものには必ず本質が存在します。それは、私達神とて同じこと、万物の定義と言っても過言ではありません。」
「ですが……彼女は違ったのです」
「本質が見えなかったんです。いいえ、正確には視えなかったのではなく捉えることが出来なかった」
「彼女の本質は、捉える事が出来ない。人は私たちより存在の芯が揺れやすい、その本質が一時的に揺れてしまうことや変わってしまうこともあるでしょう」
「でも彼女の本質は、常にその形を変えていた。いえ、一定の形を取らずに絶えず流れ、溜まり、形を変え、崩れ、そしてまた流れる。こんな事起こりえない、有り得ない事なんです。そんな事は、たとえ出来ても常人には耐えられない。人の精神構造ならば自己を見失ってすぐに精神崩壊してしまう」
「彼女の本質は、まるで神代七代や別天神の神々が生まれてきた渾沌です。何物でもない故に何者にもなりうる原初の渦。ありえざる、陽と陰のスキマに立ち、どちらにも染まることなく、その境界でゆらりゆらりと常に揺れている」
「私は、焦りました。いつの間にこんな事存在をこの都に入れてしまっていたのかと、何より私の娘の近くにこんな存在がいる事がゾッとしない冗談かと」
「今思えば、あの時私が抱いたのは恐怖だったのでしょう。渾沌のように常に姿を変えているはずなのに、確かに彼女は人としてそこに在った。それが私には理解不能で、恐ろしかった」
その時のことを思い出したのか小さく震える月夜見の肩に永琳が安心させるように軽く手を置く。
「…ありがとうございます。今日、貴女様と彼女をここに招いたのは彼女を見定めるため。渾沌を宿した存在が、何故この都に来たのかを知るため。直接彼女と会い、その真意を知るためです」
「……そう、ね。少なくとも私はあなたはこの都の王として正しい事をしたと思っているわ。彼女の本質がそんな事になっているなんて、私だけじゃ気づくことは出来なかったと思うし」
「てっきり責められるかと思いました。貴女様は彼女のことをとても大切に思っているようでしたので」
「…大切だからこそ、よ。あなたの判断は間違いではないし、私だって彼女が原因でこの国が消え去るなんてことになるのは嫌だもの」
「そう、ですか」
少し落ち着いてきた月夜見を見て永琳が話を切り出した。
「それで、彼女の人となりはさっきので少しは分かったかしら?」
「そうですね、まさかビックリして気絶してしまうなんて思っていませんでしたが、確信を得る為にももう少しだけ彼女と豊姫と貴女様を交えて話したいと思っています」
────………
<✤>
「(陰と陽…渾沌。それが彼女の本質、ね。)」
あの時、月夜見から言われたことを脳内で思い返し、横で歩いている彼女の横顔をそっと見る。
目の前の少女を拾ったのは、本当に気まぐれだった。
ただ、記憶をなくしていた彼女に多少の哀れみを感じて、自分の家に住まわせる事にした。
いつからだっただろう、気づけば彼女のいる生活が心地よくなっていた。彼女が、紫がそばに居ることが自分の中で当たり前になっていた。毎日彼女と一緒にご飯を食べて、研究を手伝ってもらって。気づけば隣に彼女がいないのが落ち着かなくなっていた。……彼女が診療所に来た男性と楽しげに話していたのを見て、どうしようもなく胸の内がモヤモヤして…
いつからだったのだろうか……私は貴女の事を──
「永琳?」
「……なぁに?」
「ん、今日の晩御飯はどうしようかなって。何か食べたいものある?」
「そうねぇ……」
でも、今は言えない。この気持ちは貴女には言えない。
「今日は暑いし、冷たいそうめんが食べたいわ」
「ふんふん、それがいいかもね。天ぷらを近くのスーパーで買ってから帰りましょうか」
この気持ちは、何時か私が本当の意味で貴女に向き合える時まで取っておきましょう。それまでは……
きっと貴女を守るわ。私の愛しい人
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