砂漠の悪魔《パチモン》 (ロールプレイヤー)
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プロローグ

科学が進歩し、誰もが気軽に宇宙旅行に行ける時代。

人々は争う事を辞めず、想像を絶する超兵器が幾つも生み出され、自身の肉体さえも科学の力によって手を加えた。

 

次々に生み出される兵器とコミックスヒーローさながらの超人的な力を振るう兵士達。

戦争は激化し、地上は汚染物質が蔓延した。

 

人類は地上を捨て、地下に潜った。

疲弊した人類は数百年の間は平和に過ごして居た。

 

しかし、人間は学習しない生き物の様で、すぐに地上での悲劇を忘れて地下で争った。

人類は着々と数を減らし、絶滅まで後一歩となった現在。

 

日本の関東地方の地下都市で生き残った上層部の人々はとある計画を実行に移した。

一か八かで生存している自分を含めた人々をコールドスリープさせ、地球環境が回復した遥か未来の地上で人類が生きていく為の計画である。

 

 

計画が着々と進む中でさらに戦争は激化する。

 

 

そして、争いにより炎上した事を機会に関東にある西の地下都市は、大きく離れた関東の地下施設で計画を実行に移す事になった。

 

 

 

地下施設では居場所を失った4千人規模の人間がコールドスリープを行う為に卵の様なカプセルに寝かされていた。

 

「では、皆さん。

二万年後にまたお会いしましょう」

 

計画の最高責任者の言葉によって、ゆっくりと起動するカプセル。

眠る期間は約二万年……成功するかも怪しい計画に誰もが不安を抱く。

中にはこのカプセルが自分の死に場所と思い聖書や、十字架を胸に抱いている人も居る。

 

恐らく、ほとんどの人はこのカプセルが自分の棺桶と思っているのだろう。

 

恐怖と不安に揺れる中、人々はカプセルの中からゆったりと鳴り始めた音楽に夢の世界へと誘われる。

 

四千人の人々が眠りに落ちた事をカプセルが確認すると、その蓋をゆっくりと閉めた。

 

 

だが………。

 

 

五十年、二百年と順調に時間が過ぎた頃に小さな悲劇は起こった。

 

 

 

なんと、一台のカプセルが誤作動を起こしたのだ。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

俺の名前は加藤(かとう) 都ニ(トニー)

自然回復した地上を開拓し、人類繁栄の為に計画に参加させられた男だ。

 

地下都市の運営に関わる役員の息子というだけの理由で棺桶にしか見えないカプセルに寝かされる事になり、上手く行けば地球の環境が回復した二万年後に俺は目を覚ますはずだった。

しかし…これはどういう事だ?

 

目覚めて数時間は経過しようとしているのに、俺以外の周りカプセルは未だに閉じっぱなしだ。

開く気配がまるでない。

 

「正常に動いているよな……」

 

隣のカプセルに取り付けられた電源ボタンを見ても起動中のランプが点滅している。

コールドスリープを行う前の講習で責任者の説明があったから正常に稼働している事は間違いない

 

対して、俺のカプセルの電源ボタンは赤いランプが点滅しており、エラーを知らせている。

 

どうやら周りが以上が発生したのではなく自分だけに異常が発生したようだ。

俺は地上に上がった後の生活をサポートする為に備え付けられたタブレットを取り出し、カプセルが誤作動した際の緊急マニュアルを表示させ指示に従った。

 

マニュアルの指示に従い、コードをカプセルに繋げる。

これによってカプセルが正常化すれば、俺は他の人々と同じように再び眠りに着くことが出来る。

 

だが……無情にもビー、ビーとエラー音がタブレットから鳴り響く。

 

その後、何度もマニュアルに従って様々な行動をしたが、カプセルは一向に正常化する事はなかった。

 

俺は絶望し、頭の中が真っ白になった。

 

 

 

…………。

 

 

 

カプセルに死んだように横たわる俺だったが、強い空腹感に襲われた。

強い空腹感に我慢できなくなった俺は体をゆっくりと起こして、開拓の為の物資や食料のある倉庫へと向かう。

 

倉庫は、カプセルのある部屋の奥にあって入り口の横にある認証システムが承認する事で扉が開く。

俺はタブレットのコードを呼び出し、認証システムにかざした。

 

ピピッと電子音がなると扉のロックが解除され、重い扉はゆっくりと開いた。

 

「…扉は正常なんだな」

 

重い溜息を吐きながら、倉庫の中へと進む。

倉庫の中には開拓用の重機や簡易トイレや風呂。

それぞれの生活をサポートさせるための沢山のロボットに敵勢力との戦闘に備えた武器。

コールドスリープしている人間の中に軍人も居るようでカスタマイズする為のパーツや設備も完備されている。

そして、人間同様に生きたまま保存されている動植物達。

 

俺達の為に保存された食料は一番奥にあった。

 

野菜に肉と言った食材から、菓子や栄養剤などのエネルギー補給用の食べ物まで食料保存機によってしっかりと保存されている。

俺はカロリーを摂取できるクッキーブロックを食料保存機のモニターにあるメニューから選択して取り出し、包装された袋を破ってかじりついた。

 

 

…………。

 

 

カロリークッキーを摂取した事で幾分か落ち着いた俺はタブレット端末を使用して何時に目覚めたのかを調べる為、日時のアプリをタップした。

表示された年月日と自分が眠った日を計算し、今が何年後かを調べたあまりの結果に愕然とした。

 

「二百年…」

 

たったの二百年。

二万年という長い時間を眠るはずであったのに自分はたったの二百年で目を覚ましたのか?

 

ふざけるなよ。

 

なんで、俺だけがこんな目に合わなくてはならないんだ!!

 

俺に孤独死をしろってか!?

 

冗談じゃない!!

 

どうせならやりたい事をやりまくって、死んでやる!!

 

その為に、まずは力が必要だ!!

 

力がなくては何もできない。

 

俺は寂しい孤独死を回避する為に生活サポート用の人型ロボットを起動させる。

起動スイッチを乱暴に押した事によって、ロボットが稼働する。

 

『生活サポート用ロボット《M26》です。

料理・炊事・洗濯から医療・建築まで幅広く貴方をサポートさせて頂きます』

 

「今すぐ俺に軍用のナノマシンを投与してくれ」

 

『了解しました。

では私に付いてきてください』

 

俺のオーダーに従い、ロボットが倉庫の横にある扉を開ける

その扉の上には《医療》と書かれたプレートが取り付けられており、文字通り医療関係の道具や薬品が一式保存されているのだ。

 

M26は最新の機体なのだろう。

奴は軽やかな動きで扉を開け、無数にある機材を選び取り付けられたタブレットやキーボードを素早く打ち込んでいき投与する際の規約が表示されたタブレットを俺に見せる。

 

『軍用のナノマシンを投与される際の規約です。

了承する際は《はい》にタップをお願いします。

承諾された瞬間、貴方は戦闘が開始された場合に指揮官の命令に従って出撃していただく義務が発生します。

出撃の際には拒否権がありませんので慎重にお考えください』

 

忠告するロボットを無視して俺は迷うことなく《はい》をタップする。

その指揮官様は後、一万と九千年以上も眠っているのだ。

出撃義務はもう、俺には関係ない。

 

つまり俺は誰の命令にも従う事もなく、軍用ナノマシンによって伸ばされる寿命と強化される超人的な身体能力を行使する事が出来るのだ。

 

『ではナノマシンによる軍用の生態強化を行う為、横になってください』

 

投与する為の機械の側方面から診察台の様な物が現れたので、ロボットの指示に従って横になる。

 

『それでは、軍用の生態強化を開始しする為に麻酔を投与します』

 

ロボットが取り出した小型の注射器によって痛みを感じる事なく麻酔を投与された俺はすぐに意識を闇に落とした。

 

 



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EP1 砂漠の悪魔

関東大砂漠

高度な文明に起こった大きな争いによって地球環境が破壊され、砂漠化した日本の関東地方。

人類は大きな争いと地球環境の破壊による変化によってその数を大きく減らし、一つの文明が滅びた。

 

 

僅かに残った子孫達は長い年月をかけて地上での生活拠点を築き上げ、好き勝手に生きていた。

 

 

そんな現代。

関東大砂漠の西オアシス、第30給水所の便利屋組合『無限屋』の主人は街の外れに住む便利屋に会う為に、束になった依頼書を片手に汗を流しながら向かっていた。

本来ならば便利屋が組合に顔を出し、依頼を受ける手続きをしなくてはならない。

それなのに何故、組合のトップである彼がわざわざ熱い外を歩きながら便利屋の元へとむかうのか?

 

勿論、その便利屋が凄腕であり、主人がいろいろと借りを作っているので頭が上がらないという事も理由ではあるが、一番の理由は主人がその便利屋を組合にスカウトする為に向こうから出された複数の条件を受け入れた事だ。

故に、主人は条件の一つである『自分に来た依頼が一定数溜まったら依頼書を持って行く』という契約を守る為に運動不足で重たくなった体を必死に動かしているのだ。

 

この関東大砂漠ではオアシス政府公認の書類や契約が物を言う。

どんな小さな事でも契約を破れば一気に信用は暴落し、この厳しい関東大砂漠で生きていく事が出来なくなるのだ。

 

 

流れ出る汗をポタポタと地面に染みこませながら目的地にたどり着いた主人は建物を見上げる。

 

「本当に、いつ見ても立派な豪邸だ……」

 

建物はこの時代では極めて珍しいレンガで出来ており、建物の玄関扉の上には『Devil May Cry』と書かれた看板が設置されている。

旧文明の人間が見たらアンティークと言われるこの建物でも、掘っ立て小屋みたいな家が基本のこの時代では立派な豪邸なのだ。

 

豪邸を眺めていた主人は汗を服の裾で拭い、目の前の大きな玄関扉をノックする。

 

『《無限屋》のおっさんか……入んな』

 

主人がノックを終えると、錆が一切見当たらない上質な鉄の扉の向こうから主人に家の中に入るように促す男の声が聞こえた。

自分が来ることを事前に伝える事はしていないのに何で分かるのだろうか?

 

毎回、思う疑問を胸に主人は扉を開ける。

 

主人が扉を開けると、そこは楽園だった。

ガンガンに効いた高性能なエアコンによる冷たい空気と何とも言えない香ばしくて美味しそうな香り。

何かの皮で出来きた高級品のソファーに、旧文明の遺産だと思われる遊び道具に楽器。

壁には剣と銃などが飾られている。

主人以外の人間から見ても、この家は宝の山だ。

 

「おい、さっさと扉を閉めな。

熱い空気が入って来るだろう」

 

「え?ああ、すみません」

 

涼しい部屋の空気とおいしそうな香りに当てられて、少しぼんやりしていた主人はこの豪邸の主に注意され、慌てて扉を閉めた。

扉を閉めて正面を向くとそこには貴重な木造のテーブルに足を掛け、おいしそうな香りを漂わせる一枚の大皿に乗った円形の食べ物を三角形に切り取って食べている豪邸の主が座っていた。

 

「お、お久しぶりです…ダンテさん」

 

ゴクリと生唾を飲み込みながら挨拶をする主人。

その視線はダンテと円形の食べ物を激しく行き来している。

ダンテと呼ばれた豪邸の主は主人の様子を興味なさそうに見ながら、珍しい銀髪の髪をエアコンの風でなびかせながら、もちゃもちゃと食事を続ける。

 

「こ、こちらが、今回《デビルメイクライ》に対する依頼書です」

 

「ほう?」

 

鼻孔と食欲を燻る、おいしそうな香りに誘われる様にヨタヨタとダンテのいる机にたどり着いた主人は小脇に抱えていた依頼書を差し出す。

視線はもうダンテに移る事はなく、香ばしい円形の何かに釘付けだ。

 

ダンテは片手に持っていたおいしそうな何かを皿に戻すとペラペラと書類をめくる。

書類を一通り目を通したダンテだったがその表情は苦虫をかんだようなものだった。

 

「っち、金にならねぇ小物ばかりじゃねぇか」

 

「そ、それはダンテさんがここら一帯の名のある盗賊団を壊滅させたからじゃあ……」

 

舌打ちしたダンテに、書類を突き返された主人は円形の何を見ながら反論する。

 

「た、頼みますよダンテさん。

特に、この『玉木組』は最近現れた少数精鋭の盗賊団なんです。

何度か便利屋が討伐に向かったんですが、全て返り討ち。

賞金額はまだ低いですが……もう、関東砂漠最強の男で『砂漠の悪魔』と謳われるダンテさんだけが頼り何ですよ」

 

「…フン」

 

皿に乗ったおいしそうな円形の食べ物に頼み込む主人を見て鼻を鳴らした後、ダンテはポケットから一枚のコインを取り出す。

 

「…表だったら倍の金額で引き受けてやる。

裏だったら半分の報酬で引き受けてやるついでに、アンタがずっと物欲しそうに見ているピザをくれてやる。

どうだ?この提案に乗るか?」

 

「ほ、本当ですか!?乗ります!!乗らせて頂きます!!」

 

「OK。じゃあ……いくぜ?」

 

ダンテは手に持ったコインを親指で弾く。

弾かれたコインは上空を回転しながら、ゆっくりとダンテの手に戻る。

 

ゴクリと喉を鳴らしながらダンテの手に視線を集中させる主人。

ダンテの手に隠されたコインの結果は……。

 

 

表だった。

 

 

「……俺の勝ちだ」

 

「そ、そんな……」

 

賭けに勝ったと言うのに不満そうなダンテに気づく事はなく絶望の表情を浮かべる主人。

 

「この……悪魔ぁぁああああ!!」

 

彼は涙を流しながら依頼書の報酬金額を修正し、捨て台詞を吐きながら汗と涙を流してダンテの自宅から逃げるようにして去って行った。

 

 

――――――――――――

 

 

「やれやれ……また、勝っちまった」

 

溜息を吐きながら本家の様に上手く行かないと嘆息を吐く。

俺は、コインをポケットに戻し、残りのピザを平らげた。

 

「あれから三年……か」

 

赤外線を防ぐ特殊防弾ガラスが取り付けられた窓側に移動し、砂漠を眺める。

こうして砂漠を眺めていると地下施設を飛び出し、加藤(かとう) 都ニ(トニー)と言う名前を捨てて、初めて地上に上った時のことを思い出す。

 

一年と言う長い期間を開拓用のステルス機能がついた探査ドローンを利用して地上の環境と驚くべきことに生き残っていた人類のありとあらゆることを調べた。

そして、生活基準から組織までありとあらゆる事を調べ上げている最中に《便利屋》という職業を知った。

《便利屋》とはいわゆる何でも屋の事であり、時には雑用を行い、時には銃器を持って盗賊と戦う。

俺はこの便利屋を知った時に強く思ったのだ。

 

銃を片手にカッコよく、ハードボイルドに生きてみたいと。

 

それからの俺はハードボイルドでカッコイイ何でも屋な男達を調べ上げた。

娯楽用のメディアデータは膨大であったが、俺は寝食を忘れて検索作業に没頭し、ついに見つけたのだ。

 

 

《Devil May Cry》を。

 

 

「ダンテ。ご注文のストロベリーサンデーを持って来たぞ」

 

「お、来たか」

 

砂漠を眺めながら過去を振り返っていると髭を生やした紳士が奥の部屋からストロベリーサンデーを持って現れた。

俺は彼が片手に持っているストロベリーサンデーを受け取ると、仕事机に戻り脚を掛けながら行儀悪く食べる。

うん…冷たくて甘い。

 

「ダンテ、いつも言っていると思うが行儀が悪いぞ」

 

「お前は俺の母親か?

モリソン。説教はいいから、さっさと探査ドローンを使ってコイツらの居場所を探ってくれ」

 

「…まったく、しょうがない奴だ。

あいよ、ドローンで見つけたら地図でプリントアウトしてやるよ」

 

 

呆れた表情で空になった大皿をさりげなく回収し、奥に引っ込むモリソン。

一見、海外ならよく見かけるであろう老紳士に見える彼だが、人間ではない。

彼の正体は、俺の生活をサポートするロボット『M26』だ。

Devil May Cryの資料を参考に、登場人物であるモリソンを忠実に再現させ、文句を言いながらも従順に命令をこなす。

 

実に有能なロボットである。

 

モリソンが居てくれて本当に良かった。

彼が居なければ俺は整形用のナノマシンでダンテの容姿を手に入れる事が出来ず、この家も人知れずに建築する事なんてできなかった。

俺の扱う武器もビーム銃やサーベルを改造ならぬ改悪させる無茶なオーダーの通りにカスタマイズして再現してくれたし、モリソン様様だ。

 

それからストロベリーサンデーを食べ終わると、タイミングよく地図を持ってきたモリソン。

地図はテーブルに広げられ、地図を覗き込むと敵の拠点と戦力に関する詳細なデータが書き込まれていた。

 

「人数は7人。

武装は全員マシンガンとショットガンに手榴弾を持っている。

悪魔(ナノマシン)の力を持つお前さんの再生能力と身体能力なら余裕だろう」

 

「分かった。

じゃあ、夜までには帰るからピザの用意をして待っててくれ。

勿論、オリーブオイルは抜きでな」

 

「了解だ。

地下の農園で育てている野菜も付けてやるから寄り道せずに帰って来いよ」

 

赤いコートを羽織り、壁に掛けてある大剣と二丁銃を装備した俺はターゲットである盗賊団の居る砂漠へと向かった。

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

関東大砂漠にある、南15の白骨都市。

かつて旧文明…『暗黒時代』の初期に見捨てられた地上の都市が遺跡となって現代にいくつもの建物が残っている都市のことである。

 

この白骨都市にダンテのターゲットである《玉木組》のアジトが存在する。

 

彼等は食料を取り扱う商人から強奪した虫団子を片手に寛いでいた。

 

「リーダー。そろそろ拠点を移した方がいいんじゃないですか?」

 

そんな中、一人の男が不安そうな顔をしながらリーダーである玉木にアジトの移動を提案する。

 

「あーん?なんだ、ビビってんのか?

俺達の賞金はまだまだ低いんだぜ。

名の売れた賞金稼ぎや、オアシス政府の役人に狙われるのはまだまだ先だぞ」

 

口の中で咀嚼していた虫団子を飲み込み、不安げな表情を見せる下っ端の男に呆れた表情で己の経験則から来る確実性の高い予想を口にする。

 

「そうだぜ、マッチャン。

政府の仕事ってのは何時の時代も遅いと相場は決まっているんだ。

そんな事を今、心配したってしょうがないだろう?」

 

そして、近くで虫団子を食べていた大柄の男も玉木に追従するように口を開く。

不安顔の男もそんな事は分かっていた。

だから長年やっていた賞金稼ぎから、比較的に楽に稼げる盗賊に転職して西オワシスで賞金稼ぎや便利屋に狙われるようになったら南オワシスに逃げようと言う計画にも乗った。

 

「だけど…ここは《デビルメイクライ》の活動範囲だって……」

 

だが、西オワシスで活動する盗賊退治を専門にした《砂漠の悪魔》の存在が、彼を不安へと誘う。

 

 

《砂漠の悪魔》こと、便利屋《デビルメイクライ》。

悪魔の如き超人的な身体能力を誇る砂漠の悪魔。

どんな場所に隠れても盗賊団を必ず見つけ出し、単独で壊滅まで追いやる関東大砂漠最強の男。

 

彼が悪魔と呼ばれているのは二丁の拳銃と大剣だけで圧倒的な戦果をたたき出す戦闘能力にもあるのだが、それ以外の部分でも理由がある。

関東大砂漠に生きる砂漠の住人なら必ず装備する砂漠スーツを着用する事無く、自由に動き回るタフネス。

 

砂漠の住人にとってはスーツの恩恵なしで砂漠を行動できる彼はまさに人外の悪魔に見えるのだろう。

 

「デビル……ああ、《砂漠の悪魔》のことか?

あんなの都市伝説だろ。

どうやったら砂漠スーツを装着せずに砂漠を一人で活動できんだよ」

 

「で、でも。あの有名な盗賊団である《江戸前組》を含むいくつかの盗賊団が事実、壊滅したんだぜ?

噂話はともかく、実力は本物って事だろ」

 

「それも怪しいもんだぜ。

噂の中に奴はかなりの金持ちとあるからな……。

たぶんだが、オワシス政府の手柄を大金積んで譲ってもらったんだろ?

規模はデカいが、女にモテたい金持ちの坊ちゃんとかが、よくやってる手だぜ」

 

「そ、そうかな……」

 

インチキと言い張る大柄な男の言葉に不安そうな表情の男は頭をひねる。

確かに賞金稼ぎをやっていた頃、そこそこ金をもっている男に小物の賞金首を高く売り飛ばした事がある。

だが、いくら金持ちだからと言ってオアシス政府に介入できるのだろうか?

そこで、リーダーの玉木が大柄の男の考えを鼻で嗤った。

 

「バーカ。

政府の人間は確かに金に汚いが、民衆に己の権威を示したい奴らは手柄を奪う事はあっても譲ったりはしねーよ。

俺の考えでは、《砂漠の悪魔》は通常では考えられないようなとんでもないド卑怯な手を平気で使用する…まさしく悪魔の様な外道だと思うぜ」

 

「な、なるほど」

 

「さすがリーダー、その方がしっくりくるぜ。

流石、元ナンバーワン賞金稼ぎだ。」

 

「よせやい。

こんなのは頭を使えば、誰でも思いつくぜ?

ほら、ダラダラ喋っていないで、さっさと外で見張りをしている清彦達と代わるぞ」

 

玉木の言葉で不安が払拭された男は悩みのない晴れやかな表情でアジトを出ると……。

 

「よぉ。最後の晩餐は終わったか?」

 

三人のすぐ目の前に砂漠スーツの代わりに赤いコートとズボンを身に纏い、身の丈ほどある大剣を背に背負った銀髪の男が玉木達と向き合う様に立っていた。

彼等が話していた便利屋、《デビルメイクライ》ことダンテだ。

 

「あ、赤いコートに大剣……ま、まさか!?」

 

「便利屋《デビルメイクライ》か!?」

 

「み、見張りは!?清彦達はどうした!?」

 

三人から一斉にマシンガンとショットガンを向けられるダンテだったが、彼は恐怖で引きつった表情を浮かべるのではなく、その整った顔でニヤリと笑う。

玉木達は背中が一斉に冷たくなるのを感じ、後悔した。

こんなことならマスクの索敵機能をオンにしておくべきであったと。

 

見張りが居るからと完全に油断した。

 

「心配する必要はない。

奴らは今頃、地獄の鬼達とR指定だ」

 

ダンテは向けられる銃器など、存在しないかのように一切の躊躇もなく、滑らかな動きで懐からデカイ白と黒の二丁改造銃を両手で取り出す。

 

「テメェ!!!!」

 

仲間が殺された事を知り、ダンテのあまりにふざけた態度にキレた大柄の男は、持っていたマシンガンの引き金を引く。

 

「粉々になりやがれぇぇえええええ!!」

 

「おい!よせ!!何かの罠かも知れないんだぞ、奴が何を企んでいるのか分からない段階で撃つな!!」

 

ダダダダダダと白骨都市に鳴り響くマシンガンの銃声と撃たれるたびにポスポスと砂の大地に落ちる無数の薬莢。

男は玉木の制止を聞くことはなく、ありったけの弾丸をダンテに浴びせた。

 

弾丸を浴びたダンテは砂の大地に崩れ落ち、辺りは砂煙が舞い上がる。

 

「へへへ…。なにが《砂漠の悪魔》だ。

ただのイカレ野郎じゃねぇか」

 

大柄な男がダンテが粉々になったと確信すると向けていた銃をようやく下ろした。

 

「この、バカ野郎!!ハッタリだったから良かったものの、罠だったらどうするつもりなんだ!!」

 

「おいおい、怒るなよリーダー。

結局は何もなかったじゃないか……」

 

「結果だけを見ればな!!お前の独断専行は目に余るぞ!!」

 

玉木が男に説教を始め、彼等の緊張していた空気が晴れた瞬間。

 

「た、玉木さん、その辺でベェ!?」

 

ダァン!!という一発の銃声と共にアジトで不安な表情を浮かべていた男の顔が吹き飛んだ。

二人は突然頭が、ザクロの様に飛び散って、ゆっくりと砂の大地に体を鎮める男を驚愕の表情で見つめる。

 

「ま、まさか!?」

 

目の前で起こったグロテスクな光景に吐き気を催しながら、ダンテが立っていた場所に視線をやる二人。

視線の先には寝転がったダンテが、左手に持っていた黒い拳銃の銃口をこちらに向けている姿だった。

 

「やれやれ、せっかちで早い男だ。

そんなんじゃ、女にモテないぜ?」

 

ユラリと両手を遣わずにゆっくりと立ち上がるダンテ。

穴が空くほどダンテを見つめる二人だったが、目の前のダンテの体に傷どころか服に穴すら開いては居なかった。

 

しいて言うならダンテの被害は砂埃にまみれた事だろう。

 

二人の男達はこの事実に恐怖で全身が震えた。

 

「あ、悪魔……」

 

カチカチと歯を鳴らしながら玉木がせめてもの抵抗だろう言葉を小さな声で振り絞ると、ダンテは震える二人に躊躇する事なく銃口を向けた。

 

「ビンゴ」

 

その言葉をダンテが放ったと同時に二人に向けていた二丁の拳銃が火を噴いた。

 

 

 

この日、新勢力として盗賊の世界で有名になろうとしていた盗賊団はひっそりと壊滅した。

 

ここは関東大砂漠。

そこは弱肉強食の世界。

弱い人間は食い物にされ、強者のみが繁栄する。

 

《砂漠の悪魔》、ダンテの戦いは続く。

 

 



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EP2 砂漠のお嬢様①

新勢力の盗賊団を壊滅させた俺は自宅の指定席で暇を持て余していた。

 

「なあ、モリソン。

何か面白い事はないか?」

 

「そうだなぁ…俺が苦労して作った戦闘服をわざと銃弾の雨に晒して、埃まみれにして帰って来た男の話はどうだ?」

 

「っち」

 

モリソンの言葉に舌打ちする俺だったが、ダンテっぽいやり取りだと内心では喜んでいた。

 

モリソンムーブをしろと命令する面倒な主だろうが、小さい事まで全力で対応する彼は本当に有能である。

 

「そんなに暇なら依頼でも受けてきたらどうだ?

暇つぶしに位にはなるだろ」

 

「っは、俺は醜悪なババアの相手や、クソを運んだりするのはごめんだね。

やるんなら刺激的な依頼がいい」

 

「なら、賞金首を狩って来たらどうだ?

選り好みしなければ、まだまだ小さな盗賊団は居るぜ」

 

「久々にリベリオンを振るう事の出来る程の奴が相手なら、小さな盗賊団でも歓迎だ」

 

「…やれやれ。俺は農園の世話があるから、用が出来たら呼んでくれ」

 

俺の言葉に呆れたモリソンはため息を吐くような仕草をして、家の奥へと引っ込んでいく。

一人になってしまった俺はテーブルの上に置いてある相棒の二丁銃をおもむろに手に取った。

 

「本当にいい仕事をしている。

細部までそっくりだ」

 

エボニー&アイボリー。

パチモンである俺が本家に合わせてモリソンに作らせた銃。

元はビーム(ガン)であったのを実弾仕様に改悪し、粒子変換装置を導入する事で無限の弾丸を再現した一品。

暗黒時代末期の人間が見たらこれ等をゴミと言うだろうが、この時代の人間からしたらオーバーテクノロジーの塊で貴重なお宝だ。

 

俺が二丁の銃を眺めていると写真立てに見せかけたデスクトップの画面が女性の画像から玄関先の動画へと切り替わる。

どうやら来客の様だ…っと言っても、俺を怖がっているここら辺の住民が来る事はない。

来たとしても無限屋ぐらいだ。

俺はゴトリと二丁の拳銃をテーブルに置き、画面を見る

 

「無限屋と…誰だ?」

 

珍しい物を見たと、目を見開いている俺の視線は無限屋の後ろを付いてきている二人に釘付けだ。

一人は、商の文字の入った日傘を頭に被ったスーツ姿の中年の男。

もう一人はその中年男の隣を歩く、ワンピースを着た黒髪の少女だ。

 

無限屋と一緒に居ると言う事は、おそらく依頼人だろう。

 

丁度暇を持て余していたし、内容によっては引き受けるのもありだろう。

 

俺は写真立て型のデスクトップの画面を何時もの美女の写真に切り替えた。

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

無限屋の主人は色々と疲れていた。

主人は便利屋《デビルメイクライ》のダンテとの賭けに負け、上乗せされた報奨金を自腹で払った。

当然、それなりに纏まったお金を支払った事で奥さんにバレてボコボコにされたのだ。

あれから一週間と経っていないが、ダンテの元へ向かっていると一連の出来事を連想してしまい、憂鬱な気分になるのだ。

 

食べ物に釣られた主人の自業自得である。

 

「さあ、ここが便利屋《デビルメイクライ》の家です」

 

「こ、ここが、あの《砂漠の悪魔》の自宅……」

 

「凄い……」

 

依頼人である二人は無限屋に案内されてたどり着いた家を見て驚愕し、思った事を口にする。

無限屋は初めてここに自分が訪れた時の反応を思い出して苦笑する。

 

自分も初めはこんな純粋な反応をしていたのだと。

 

今となっては緊張と心労で胃が痛い、仕事にわがままな悪魔の相手は主人のストレスの元凶と言っても差し支えない。

今回は依頼人がどうしてもと言うので連れて来たのだが、あの悪魔に『気分が乗らない』など『俺は眠いんだよ』と好き勝手なことを言われ、代わりの便利屋を探す事になるのは目に見えている。

 

さっさと済ませて、依頼を受けてくれそうな便利屋を探さないと……。

 

無限屋の主人が盛大に溜息を吐いた後、色々な意味で重くなってしまった足を動かして《デビルメイクライ》の扉をたたく。

 

『入んな』

 

何時もの様に扉の向こうから家に入る許可を得た無限屋の主人は依頼人の二人を連れて扉を開けた。

 

「アンタが客を連れてくるなんて珍しいじゃねぇか。

一体何の用だ?」

 

扉を開けると部屋の奥のテーブルには両肘をテーブルに着けて顎の前で手を組んでいる銀髪の男、ダンテの姿があった。

 

「いやぁ~~ダンテさん。

実は高額な指名依頼が来ましてね……」

 

「ほう?依頼人はそこの身なりがいい二人か?」

 

珍しくまともに対応するダンテに不信感を抱く無限屋の主人だったが、このチャンスを逃すまいと頭をフル回転させる。

 

「いやぁ~、そうなんですよ。

依頼人はこちらに居る数日前に亡くなった《朝霧商会》トップである会長の秘書の方と一人娘の朝霧(あさぎり)純子(じゅんこ)お嬢様。

会長の遺産を引き継ぐ、将来有望なお嬢様なんですよ」

 

主人は未だにキョロキョロと部屋の中で視線をさまよわせる二人を金なる仕事であるとアピールしながら紹介する。

 

「なるほど。

話はだいたい読めて来たぜ」

 

「おお!さすがはダンテさん。

依頼の内容は遺産が相続されるまでの三日間の間、お嬢様を護衛する事です。

三日後には西オワシスのお役所が、お嬢様が遺産と商会の経営権を相続する為の手続きが完了するのです」

 

「で、ギャラは?

知っていると思うが、俺は高いぜ」

 

ダンテがギャラの話になった時、秘書の男はキョロキョロするのをやめて報酬額を口にした。

 

「三百万。私共(わたくしども)商会はあなたに依頼料として三百万をお支払いする準備がございます」

 

「ほー、ただの護衛にしては羽振りがいいじゃねぇか。

……で?敵は誰なんだ?」

 

いくら商会のお嬢様の護衛だからと言って、一日で百万円は異常だ。

よほど馬鹿な便利屋以外は警戒するだろう。

故にダンテは相当厄介な敵が居ると思い鋭い目で秘書の男に問いかけた。

 

「て、敵は……」

 

「うちのライバルである寿商会。

私兵を使って、父さんと母さんを殺した仇よ」

 

秘書の男が言いづらそうにしていると、隣に居た純子が憎しみの籠った瞳で答えた。

寿商会とは朝霧商会と並ぶ大商会の一つであり、最新の銃器や装備品を与えられた数多くの私兵を従わせて商品を積んだ輸送車を守っている事で有名だ。

確かに純子が言ったように、敵が寿商会の私兵なら三日で三百万の報酬は打倒と言えるだろう。

 

「いいぜ。ちょうど手応えのある遊び相手が欲しかったんだ。

その依頼、引き受けてやるよ」

 

「本当ですか!?有難うございます!!」

 

「では、ダンテさん。

こちらが契約書になります」

 

感謝する秘書の男の合間をすり抜けて、契約書を差し出す無限屋から書類を受け取ったダンテは依頼内容を確認して署名をした。

こうして、ダンテの長い三日間が始まるのであった。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

「では、ダンテさん。後はよろしくお願いします」

 

「お嬢様。

私は近くの宿泊施設で待機しておりますので、何かありましたら何時でもいらしてください」

 

契約が成立した所で秘書の男と無限屋の主人はそそくさと出て行った。

家から出ていく空らを見送った俺は、どうしたものかと頭を悩ませる。

 

パティ・ローウェルを彷彿とさせる依頼と高額な報酬に釣られて、つい契約してしまった。

もちろん、現存する地上の兵器では俺を倒す事が不可能なことはモリソンの行った戦力調査によって判明している。

私兵がいくら投入されようとも大人と子供のケンカだ。

 

一番の問題は、この目の前に居る朝霧純子ちゃんを三日も預からないといけないと言う事だ。

推定年齢はおそらく十歳頃。

いわゆるお年頃で気難しい時期である事が予想される。

ボディーガードの依頼で何よりも重要なのは依頼人とのコミュニケーションだ。

俺は今回の仕事を円滑に進める為の努力を開始した。

 

「さて、何か聞きたい事はあるかな?お嬢さん」

 

「……」

 

話しかけるとじーっとこっちを見てくる純子ちゃん。

な、なんだ?

 

「その頭……どうして白いの?」

 

「…生まれつきだ」

 

スタイリッシュな本家を目指している俺は、少女にサラリと嘘をつく。

まあ、確かに今の時代の日本で銀髪をしている人間は珍しいのだろう。

顔つきも思いっきり外国人だしな。

 

「…そう。

で?私の部屋は何処?」

 

「二階に客間がある。

案内するぜ」

 

俺はこの家を建ててもらってから一度も使用された事のない二階に作られた客間へと彼女を案内する。

一度も使われた事のない客間の状態に恐怖しつつ、扉を開けると中からは清潔感溢れるフローラルな香りがした。

部屋の中も埃っぽくなく、整理整頓された状態だった。

どうやらもしもの時の為にモリソンが常日頃から掃除をしてくれていたのだろう。

 

「ここがお嬢さんの部屋だ」

 

「…すごい。

貴方って見た目に似合わず綺麗好きなのね」

 

「…うるせぇ。

飯になったら呼んでやる。

それまでここで大人しくしてな」

 

お年頃の少女との会話に疲れを覚えた俺は客間に彼女を残して早々に部屋から去った。

どうやら、幼少期から女子との交流が全くと言っていい程になかった俺には荷が重すぎたようだ。

交流は最低限にして、部屋に引きこもって貰おう。

 

うん、その対応の方がダンテっぽい。

 

「とりあえず、モリソンに嬢ちゃんの事を伝えねぇとな……」

 

 

 

 

 



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EP2 砂漠のお嬢様②

朝霧純子は今年で10歳となる砂漠で有名な商会のトップの一人娘。

そこそこ裕福で幸せな日常を送っていた彼女であったが、仕事に出かけた両親が護衛と共に謎の盗賊団に襲われて死亡。

 

彼女は両親が遺した遺産と商会の経営権を取得する為に西オワシスの第30給水所の街にやって来た。

この町は砂漠の中ではそこそこの都会であり、しっかりとした役所や警察署なども存在する。

 

そして、何よりもここには《砂漠の悪魔》と謳われる盗賊団にとっては恐怖の象徴である男が居た。

高柳が勧めた彼を味方に付けて利用する事で、護衛と仇討ちをしようと考えたのだ。

 

その為ならどんなにボロくて汚い家でも我慢しようと考えて居たのだが……。

 

動物の肉を贅沢に使ったピザと言う食べ物に冷たくて甘い夢の様なストロベリーサンデーと言うデザート。

使わせてもらっている部屋も綺麗で、ベットはフカフカ。

そして、大金持ちの贅沢として有名なお風呂もあった。

 

まさに、彼女にとってダンテの自宅は砂漠のオワシスだった。

 

商人の娘でなくても大金の匂いをプンプンさせているダンテ。

彼女は幼い好奇心に突き動かされながら、契約満了までに彼の正体を探る事を決意した。

 

 

……………。

 

 

「ああ?外に買い物に行きたいだ?」

 

二日目の朝、彼女は夢の様な朝食を一心不乱に食べ終えるとダンテに買い物に行く事を提案する。

勿論、この街の服や食べ物などに興味があった純子だったが一番の目的は当然、ダンテを外に連れ出して彼の交友関係を知る為だ。

 

彼女は将来立派な跡取りになる為に両親から人を鑑定するイロハを学んでいた。

故に交友関係を知る事によってそのダンテがこの町でどんな立場の人間かを探ろうと考えたのだ。

 

「いいじゃないかダンテ。

たまには依頼以外で外に出ないと体に悪いぞ?」

 

純子の提案に賛同するのは、モリソンと言う老紳士。

昨夜の夕食の時にダンテから情報屋と純子は聞かされていたが、その話を信じてはいない。

 

彼の物腰は情報屋という危険な仕事をしている人間にはとても見えず、どちらかと言えば上級階級の人間に仕える召使だ。

料理にを出す一つ一つの所作に気品が溢れ、最上級のおもてなしをしてくれる。

 

故に………。

 

「うるせぇよ。だいたい、このお嬢さんは狙われているんだぜ?

家にいた方が安全だろうが」

 

そんな人物に世話をしてもらっているダンテの正体がますます気になるのだが彼女が見る限りダンテはダメ人間だった。

掃除洗濯風呂の準備から食事の用意まで全てをモリソンに任せ、ソファーでゴロ寝するか椅子にだらしなく腰を掛け、机に足を乗っけて眠ってる。

便利屋《デビルメイクライ》は実はモリソンではないかと疑うレベルだ。

 

「だがなぁ……。お前さんがサインした契約書にある、この一文を読んでみな。

『契約者の意向には従う』とあるだろう?

このままだと、タダ働きに……」

 

「わーったよ。行けばいいんだろ?行けば……」

 

モリソンに契約書の一文を見せられたダンテはめんどくさそうな表情を浮かべながら出かける準備を始めた。

 

「純子お嬢様。買い物の費用は大丈夫かな?」

 

「大丈夫よ、モリソンさん。

秘書の高柳にいくらか貰っているもの」

 

「そうかい。なら楽しんで来るといい。」

 

「ありがとう、モリソンさん」

 

紳士なモリソンに笑顔で返した純子の元に装備を整え終えたダンテがやって来た。

 

「おい、さっさと行くぞ」

 

「…む」

 

やる気のない迷惑そうなダンテの態度に気分が悪くなったが、彼女はその気持ちを我慢してダンテと共に外に出た。

 

 

………………

 

 

ダンテの自宅から出て、街の商店街へとやって来た二人。

そんな二人…主にダンテに向けられる視線は様々であった。

 

「悪魔だ!!悪魔が来たぞぉ!!」

 

「キャー!!ダンテさーん!!たまには家の店に来てぇん♪」

 

「いつ見ても素敵だわぁ……」

 

「これ以上俺達から仕事を奪わないでくれぇ…!!!」

 

便利屋の傘を被った男達は恐怖と絶望に(おのの)き、女性は彼の容姿を見て黄色い声援を上げる。

男女で反応が全く違うが、目の前のこの男は何をやったのだろうか?

思わず疑わしい視線をダンテに向ける純子。

 

「おい、その視線はやめろ。

別に俺は悪い事は何もしてねぇよ。

…ただ、俺にビビったここら辺の盗賊団の活動が著しく落ちてな。

護衛の依頼や賞金首の数が減ったんだよ」

 

「ああ…なるほど」

 

ダンテが大手の盗賊団を壊滅させた話は本当かどうか未だに怪しいが、ここら辺の盗賊団が大人しいのは周知の事実であった。

故に、便利屋や賞金稼ぎを生業としている彼等からしたらダンテの存在は悪魔以外の何物でもないのだろう。

 

だが、だからといって仕事がないのをダンテのせいにして悪魔呼ばわりするのはどうかと思う。

仕事がないのは彼らが好き勝手に生きて来た結果であり自業自得だ。

 

商人の娘として努力している純子から見たら彼らは成るべくしてなった《負け犬》だ。

 

「買い物は中止!!

ほら!行くわよ、ダンテ!!」

 

《負け犬》達の視線や反応にイラついた純子はこの場を離れる為に力強く歩き出した。

 

「やれやれ、わがままなお嬢様だ」

 

ズンズンと商店街を離れていく純子に呆れながら後をついて行くダンテ。

買い物から急遽、散歩に切り替わった二人のお出かけは特に何かが起こるわけでもなく静かに時間が過ぎて行った。

 

 

………………

 

 

当てもなくフラフラと二人が人気の少ない街はずれを歩いていると……。

 

「手を上げろ!!」

 

「ゆっくりと見えるようにな!!」

 

ボロボロの建物の物陰からマスクを付けた二人の男が現れた。

二人組の男は短機関銃を片手に銃口を純子とダンテに向けている。

どうやらタタキと呼ばれる強盗のようだ。

 

「早く、手を出しやがれ!!」

 

「へへ、《砂漠の悪魔》がビビってやがるぜ」

 

「やれやれ」

 

強気の二人に呆れたダンテは驚いて動けない純子の盾になるようにして前に出る。

 

「誰が勝手に動いていいと言った!?」

 

「お嬢さん、目をつむってな。

ここから先はR指定だ」

 

後ろにいる純子をチラリと見ながら純子に忠告して両手を見えるようにゆっくりと上げ始める。

ダラダラしてめんどくさがりのダメ人間だと思っていたダンテから漂う張り詰めた空気。

さっきまでのダンテと今のダンテの違いにどちらが本当のダンテか分からなくなった純子。

そして、ダンテが両手を背負っている大剣の柄と同じほどの高さとなったまさにその瞬間……。

 

「オラ!さっさと手を……ぐぼぉ!!?」

 

「ぶっ!?」

 

「ほら、両手だけじゃなく剣も出してやったぜ?

代金はオタクらの命だ」

 

二人の男達は大剣によるダンテの高速の一振りによって両断された。

銃を向けていた相手を瞬く間に制圧したダンテ。

 

大剣に付着した血を大剣を大きく振るう事によって綺麗に吹き飛ばし、再び背中に装備する彼を見て彼女は呟いた。

 

「私、見ちゃった。

……R指定」

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

R指定な惨劇を見てしまった純子ちゃん。

正直、ゲ〇を吐いたり泣きわめくものだと思ったが意外と普通だった。

 

砂漠に住む子供のメンタルすげぇな。

 

強盗を退治した後、俺達は会話を交わす事なく自宅へと戻った。

 

「お?無事に帰って来たか。

風呂の準備が出来ているからお嬢様から入りな」

 

「!?ありがとう、モリソン!!」

 

自宅に戻ると部屋の掃除をしていたモリソンが笑顔で俺達を向かい入れ、純子ちゃんをお風呂へと誘導する。

純子ちゃんは輝くような喜びの表情を浮かべ、お風呂に向かって走り出す。

バタバタと床を走り、部屋の奥へと消えていった彼女を見送った後、モリソンが真剣な表情に変わった。

 

「ダンテ、敵さんは今夜にでも襲撃をするらしいぜ」

 

「ほう…その様子だと()に接触したか?」

 

「ああ、概ねはお前さんの予想通りだ」

 

「……俺達を襲撃した二人組は本命の前の威力偵察ってところか?」

 

「あわよくばお嬢様をそこで確保する予定だったらしいが……まあ、そういうことだな」

 

「ガキ一人の為にご苦労なこった」

 

俺が呆れ、ふかふかなソファーにゴロリと寝転がるとモリソンはニヤリと笑った。

 

「ふふふ、どうやら標的は純子お嬢様だけじゃなさそうだぜ」

 

「あん?」

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

第30給水所より離れた白骨都市にて、武装集団が遺跡に駐屯していた。

 

「隊長。威力偵察に向かった高橋と浜田がやられました」

 

「…ほう、で?どうだった?

《砂漠の悪魔》はどんなド汚い手をつかった?」

 

砂漠のナイトスーツに着替えた男が情報収集の為に送り込んだ男に問いかける。

マスクの下では仲間をやられた怒りなのか?鷹の様な鋭い瞳が、剣呑な光を放っていた。

 

「…いえ、奴は信じられない事に銃を向けていた二人を正面から大剣による一振りで殺しました。

あの速さは本物です。

もしかしたら奴は身体能力向上型の《ハルク病》なのかもしれません」

 

「なるほど、《ハルク病》をコントロールしているのなら噂の幾つかは本当なのかもしれんな」

 

《ハルク病》とは精神的に大きなショックを受けた人間が時節、己の限界を超えた身体能力と凶暴性を発揮する病の事。

本来であれば敵味方に関係なく攻撃を仕掛けて暴れまわるのであるが、訓練次第では制御する事が可能である程度のコントロールを身に着ける事が出来る。

 

彼等は冷静に《ハルク病》患者との戦闘マニュアルを思い出し、現武装による最適な制圧方法を考案して各部隊に無線で連絡する。

 

『隊長…本気ですかい?

いくらなんでも過剰戦力じゃあ……』

 

「俺は本気だ。

《砂漠の悪魔》は全武力を行使して、肉片も残さないで処理する。

奴は危険な存在だ」

 

『……了解』

 

隊員が過剰戦力と言う程の武装を持って挑もうとしている隊長に違和感を覚えながらも、長い間従ってきた隊長の命令に逆らえるわけがなく、彼は了解の意を示して無線を切った。

 

「さて、目的地で盛大な祭りを開こうじゃないか。

道案内は頼むぜ…協力者さん」

 

「……」

 

「全員、車に乗り込め!!出発するぞ!!」

 

こうして夜の砂漠をライトで照らしながら沢山の武器を積んだ装甲車が悪魔を倒す為に砂漠を渡る。

彼等がダンテの元にたどり着くまで、あと僅か……。

 

 



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EP2 砂漠のお嬢様③

 

 

武装集団が向かってくる中、俺は窓の外を眺めていた。

その強化された目には一キロ以上離れた敵の装甲車が映っている。

 

「後、もう少しで奴らが到着するみたいだが……あの純子お嬢様はどうする?」

 

「家の中で待機だ。

この家は核シェルター並みに頑丈なんだろ?

なら、ここに居てもらうさ」

 

モリソンの質問に待機という当たり前の答えを返したのだが彼は心配そうな表情を浮かべ、彼が懸念している事を口にした。

 

「まぁな…でも、親の仇が目の前に来るんだぜ?

そうとう荒れるんじゃないか?」

 

「……そん時はお前が部屋に閉じ込めるんだな」

 

モリソンの言葉に納得した俺は、戦っている間は純子ちゃんの事を彼にお願いする事にした。

 

「おいおい、俺に子守までさせるのか?」

 

「モリソンさん!その子守って私の事!?」

 

これから戦闘が始まるのだが特に緊張する事無く笑いながらしゃべる俺達。

そんな俺達の元に風呂から上がった純子ちゃんが絶妙なタイミングでプリプリ怒りながらやって来た。

どうやら色々と話を聞かれたらしい。

 

「おやおや、これは失礼しましたお嬢様。」

 

「もう…で?もうすぐ敵が来るの?」

 

頭を下げたモリソンに、満足した純子ちゃんは真剣な表情で俺に問いかける。

その目は増悪に燃えていた。

 

「ああ、もうすぐR指定のド派手なライブが始まる。

子供は二階で寝てな」

 

「嫌よ」

 

ダンテ風に二階で大人しくしてろと言ったのだが、彼女は拒絶する。

クライアントに死なれたら困るんだが……。

俺がどう言ったものかと頭を悩ませていると彼女は一歩、俺の前に進んで口を開いた。

 

「私が前を向く為に、奴らが死ぬ所をちゃんと見届けないといけないの」

 

その瞳は先ほどの増悪な物とは違い、決意に満ち溢れている様な気がして、俺は彼女の瞳から目をそらす事が出来なかった。

 

「っち。モリソン、外の映像を見せてやれ」

 

「いいのか?お前が暴れている姿を見たらトラウマになるんじゃないか?」

 

「知るか」

 

俺はモリソンの言葉を切り捨て、赤いコートを羽織って黒い手袋を嵌めた後、背中にリベリオンを装備する

 

純子(・・)大人しくモリソンとお留守番してな。

約束が守れたら……ご褒美に、奴らにうんとお仕置きをしてやる」

 

「ダンテ…」

 

俺は、これ以上彼女に語る事なく家の扉を開けた。

 

「さあ、ド派手なライブの始まりだ!!」

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

『目標付近に銀髪の男を発見!!銀髪などの身体的特徴から《砂漠の悪魔》と思われます!!』

 

「一人か?」

 

『はい、一人だけです!!』

 

先行している装甲車から報告を受けた隊長は眉をひそめた。

彼等の戦力は大砲が搭載された大型装甲車が5台と装甲車の中で待機している銃器を武装した中隊規模の兵。

相手が特殊な能力を持っていようともたった、一人の人間を容易に肉片に変える事の出来る戦力である

 

兵隊の数が外から見る事は出来なくても、大型装甲車5台が向かって来ているのを車両に搭載されたライトの明かりで確認しているはずだ。

それなのに、相手が何もアクションを起こす事なく向かってくる。

 

不気味に思った隊長は用心の為に全車両に一時停止を呼びかけ、次の命令を下す。

 

「主砲の射程圏内に入りしだい、砲撃開始せよ!!」

 

『了解!!』

 

全車両が50口径の主砲を高性能な暗視ゴーグルとサーモグラフィーによる映像を参考に狙いを定める。

 

「奴の動きはどうだ?」

 

主砲が向けられている状態で相手がどんなアクションを取るのかが、気になった隊長は近くで映像確認をしている隊員に質問をした。

 

「いえ、こちらの動きに対して全くアクションが有りません。

砂漠の住民は小汚いアホではありますが、あれはその中でも最悪のアホですね」

 

「…そうか」

 

隊員の言葉を聞いた隊長は、自分の考え過ぎだと判断し砲撃の時を待った。

そして……。

 

『射程圏内に標的を補足!

攻撃を開始します!!』

 

「こちらも、攻撃を開始します!!」

 

攻撃が開始され、ドン!と腹に響く大きな音と、主砲を発射した時に生じる反動による独特な揺れを感じながら隊長を含む全隊員が勝利を確信した。

 

『目標に着弾を確認』

 

「こちらも、着弾を確認しました」

 

隊員達の報告を聞いた隊長は映像を確認する。

砂煙で暗視装置では何も確認は取れないが、サーモグラフィーの映像には先ほどまで、オレンジ色で人の姿が映し出されていた。

 

『も、目標は健在!!こちらに向かってきます!!』

 

「撃て!!撃ち続けろ!!」

 

『了解です!!』

 

二発、三発と真夜中の砂漠に硝煙をまき散らし、瞬間的な明かりで辺りを照らしながら掃射される砲弾。

しかし、目標地点に着弾し、土煙を上げているのにも関わらず《砂漠の悪魔》ダンテは生きていた。

 

「奴め、一体どんな種を仕込んでやがる!!」

 

「隊長!!標的に動きあり!!」

 

相手の種の正体に頭を悩ませていると映像を確認していた隊員が、もう止めてくれと悲鳴にも似た声で報告が上がった。

 

「今度は何をするつもりだ!?」

 

サーモグラフィーの映像を見ると、オレンジ色の人型が何かを拾い、大きく振りかぶって投擲するモーションを行っている。

隊長がこの行動に怒鳴り声を上げて数秒。

 

大きな破砕音と共にレーダーから味方の車両が消えた。

 

「先行していた車両が大破!!」

 

「何だと!?……まさか」

 

レーダー観測班の報告を聞いた隊長は《ハルク病》患者との戦闘経験からどんな攻撃を受けているのかを理解した。

 

「野郎!!砲弾を投げ返しやがった!!!」

 

「ひぃいいいいいいい!!!」

 

装甲車に怒号と悲鳴が響き渡る中で2台、3台と順調に数が減った所でダンテは夜の砂漠を車を超える速度で走り出しす。

全ての装甲車が混乱の極みに陥る中、案内の為に隊長車両に乗っていた男が隊長の胸倉を掴んだ。

 

「おい、話が違うじゃないか!!

この戦力なら余裕じゃなかったのか!?」

 

「うるせぇ、状況が変わったんだよ!!

俺達は狩る側から、悪魔に狩られる側になったんだ!!」

 

「へぶっ!?」

 

協力者の男の顔面を殴り飛ばし、悪魔が来る前に生き残った車両に無線で連絡を開始する。

 

「撤退だ!!今すぐこの場から離れろ!!」

 

『了解!!今すぐ撤退……』

 

無線機で会話をしていた隊員の声が耳障りな金属音で掻き消える。

 

『おいおい、まだライブは始まったばかりだろ?

本番はここからだぜ』

 

『ぎゃぁあぁああああああああ!!!?』

 

隊員の悲鳴と激しい銃声の嵐が無線で伝わったのを最後に無線は途切れた。

 

「全速力だ!!全速力でここから離れッ!!!?」

 

無線機を乱暴に床に叩きつけると、声を荒げて命令する隊長。

しかし、時は遅かった……。

 

「よう。お邪魔するぜ」

 

悪魔は大剣で車両の屋根を破り、赤いコートをなびかせて車内に舞い降りた。

 

「この…悪魔め!!」

 

隊長と周囲に居た隊員達は己の持つ小銃やハンドガンを恐怖に震えながらダンテに向けた。

 

「おいおい、今まで色々な悪事に加担しては実行して来たんだろ?

俺から見たら、ガキである純子から全てを奪おうとしているアンタらの方が悪魔だぜ。

そうは思わないか……秘書の高柳(たかやなぎ)さん」

 

「ひぃ!?」

 

隊長に殴れられ、赤くなった鼻から血を流しながら車両の奥へと逃げようとしていた協力者は突然、ダンテに声を掛けられた事で悲鳴を上げる。

 

「ど、どど、どうして…私がここに居ると?」

 

恐怖に背中を冷たくし、顔を青くしながら質問する裏切り者の高柳。

彼が本来の雇い主である《寿商会》との緻密な計画は完璧であった。

今までに何度も高柳は他社のスパイとして秘書として潜り込み、破滅に追いやって《寿商会》に吸収させる事で貢献して来た。

 

今までの経験から彼は自身と会社の計画にミスはないと今でも信じている。

それなのにどうして目の前の男は、自分がこちら側に居る事を知っているかが気になったのだ。

 

「はじめからだ。

アンタら、テンプレすぎんだよ。

大昔のB級映画でも、マシな脚本を書くぜ」

 

「は、はじめから?」

 

映画(えいが)やテンプレの意味を高柳は理解できなかったが、はじめから計画が看破されていたと言う事に戦慄した。

隊長や周囲の隊員達も、まさに悪魔の知恵だと、ダンテにさらなる恐怖を覚えた。

 

「これで質問は終わりか?

じゃあ……これでフィナーレだ」

 

相棒の二丁拳銃を素早く抜き放ち、銃声が鳴り響くたびに取り囲んでいた隊長や隊員が床に崩れ落ちる。

隊長も後方に控えていた隊員達も増援でやって来るが、悪魔が相手ではなすすべもなく、虫けらのように殺されていく。

銃声が消え、血と硝煙が充満する車内で最後に残ったのは高柳のみ。

 

彼は死んでいく男達を見ながら下半身を温かい液体で湿らせ、泣きながら震えていた。

 

そんな見苦しい男をじっと見つめたダンテは白い銃の銃口を高柳に向け引き金に指を掛ける。

 

「ま、まって!!」

 

「ジャックポッド」

 

高柳の制止を聞く事なく、ダンテは高柳の頭を撃ち抜いた。

こうして、依頼の邪魔をする敵を粉砕したダンテは地平線からゆっくりと上る朝日に照らされながら自分の家へと帰って行った。

 

 

………

 

 

《寿商会》の私兵が全滅して市役所での手続きも終了した。

純子は財産を無事に引き継ぎ、ダンテの護衛契約は終了。

純子からも報酬を受け取り、彼女とダンテが別れた。

 

 

 

その一週間後……。

 

 

 

 

何時もの様に自宅でダラダラと生活をしていたダンテの元に彼女は再び、やって来た。

大きな荷物を抱えて…。

 

「で?お前は何をしに来たんだ?」

 

「そうそう、別れる時に商会で信用できる仲間と経営を頑張るんじゃなかったのか?」

 

そう、彼女は両親から引き継いだ紹介を信用できる従業員達と共に盛り立てていくとダンテとモリソンに宣言して迎えに来た従業員達と共に帰って行ったのだ。

それなのに、またこの街にやって来て、ダンテの元に訪れた純子に疑問をぶつけた。

 

「はい、これ」

 

純子から二つに折られた一枚の用紙を差し出され、近くにいたモリソンが受け取った。

 

「あー、これはまた……」

 

「新しい依頼書よ」

 

「ほう?今度はどんな依頼だ」

 

契約書の内容を見て困った顔をしたモリソンからおもむろに契約書を受け取ったダンテ。

契約書に書かれた依頼内容に目を通して彼の目が大きく見開いた。

 

「おい、この依頼書は……」

 

「そう依頼内容は私を弟子にすること!!

報酬は私のす・べ・て」

 

きゃはっと年相応で、微乳な胸を張りセクシーポーズを取る純子。

ダンテは意味が分からないと言った表情をして頭を抱えた。

純子の言っている事は冗談ではなく本気だ。

 

文字通り、彼女が両親から引き継いだばかりの経営権や遺産が報酬に盛り込まれている。

 

「馬鹿、言ってねぇでさっさと依頼を取り消して帰れ。

俺はガキのおままごとに付き合う趣味はねぇ。

十年経ってから来な。デートぐらいならしてやるよ」

 

「デートでもなんでもするから、お願いよ!!

私をこの家に住まわせて!!

もう、元の生活に戻るなんて出来ないのよ!!

男なら責任を取なさいよね!!

それに便利屋なら助手や弟子の一人でも付けるのが一般的なんでしょ!?」

 

ダンテが純子の依頼を拒否すると、純子は必死の形相でダンテに訴えかける。

どうやら贅沢の限りを尽くした護衛期間は彼女にとって麻薬となり、今までの生活基準に戻れなくなってしまったようだ。

故に、彼女は財産と商会の経営権利を示す書類を持ち出し、《無限屋》に弟子入りの依頼を出すと言う暴挙に出たのだ。

 

「パートナーは欲しいと思った事はあるが、ガキはいらねぇよ。

さっさと帰んな」

 

「雑用でもなんでもするから!!

モリソンが作ってくれる料理の味が忘れられないの!!」

 

切実に訴え続ける純子の願いを切り捨てるダンテ。

この問答が数時間に及んだ所でモリソンが純子の援護に入り、依頼は受ける事となった。

 

 

 

 



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