かませですが、なにか? (酒井悠人)
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1 プロローグ

 どうも。酒井悠人です。
 今回が初投稿になります。
 自分はハーメルン初心者の未熟者であり、読者の皆様は見るに堪えない駄文だと感じるかもしれませんが、どうか温かく見守って頂けると嬉しいです。


 ある少年がいた。

 彼はいわゆるガキ大将だった。

 腕っ節が強く、押しの強い性格で、反発する人間もいた。

 彼は自分が褒められた性格をしていないことを自覚していたが、彼の友人のフォローのおかげで自分らしく振る舞えることに感謝していた。

 しかし、彼は通っていた高校の教室で起きた時空の大爆発に巻き込まれて命を落とし、彼の日常は唐突に崩れた。

 そして、彼と彼のクラスメイトの魂は時空を超え、勇者と魔王が争う世界に生まれ変わることになる。

 

 

 

**********

 

 

 

 ある少年がいた。

 彼は読書家だった。

 多くの本を読み漁り、様々な知識をその頭脳に収めていた。

 また、彼はオタクでもあった。

 様々な本の中でも、彼は特にライトノベルを好んで読んでいた。

 しかし、彼は事故に巻き込まれて、あっさりと命を落とした。

 本来ならば、彼の魂は輪廻の輪に還るはずだった。

 しかし、そうはならなかった。

 彼の魂は時空を越え、次元を越え、世界を越えた。

 そして彼の魂は、とある下位並行世界にて、時空の大爆発に巻き込まれて命を落とし、勇者と魔王が争う世界に生まれ変わった高校生の一人の魂と融合した。

 故に、運命は捻じ曲がる。

 

 

 

**********

 

 

 

「おや、何か妙な魂が紛れ込みましたね。まあ、面白そうなので、放置でいいでしょう」

 

 

 

**********

 

 

 

 温かい、ぬるま湯に浸かったような感覚。

 普通なら安心感を覚えるようなその暖かさの中で、なぜか俺は、心細さと不快感を感じていた。

 狭い穴を通って外に出て、開放感を味わったが、理由の分からない絶望に塗りつぶされる。

 それが、今の俺の、忘れてしまいたい一番古い記憶だ。

 

《熟練度が一定に達しました。スキル『神性領域拡張LV1』を獲得しました》

 

《熟練度が一定に達しました。スキル『並列意思LV1』を獲得しました》

 

《熟練度が一定に達しました。スキル『恐怖耐性LV1』を獲得しました》

 

 

 

 ああ、最悪の気分だ。

 

 気持ち悪い。吐き気がする。

 こんなに不快な気持ちを抱いたのは初めてかもしれない。

 

 今、俺には二人分の記憶が存在している。

 一人は、クラスで男子の中心人物だった高校生、夏目健吾(なつめけんご)のもの。

 もう一人は、読書家で少しひねくれていた高校生、■■■■のもの。

 人格も二人の人格が混ざっているように感じる。いや、少し■■■■寄りだろうか?

 

 今、俺の体は赤ん坊になっている。

 手足は縮んでいるし、五感もうまく働いていない。抱き上げられて食事(・・)を行うことになって初めて俺が憑依転生したことに気づいた。

 

 しかし、夏目健吾という名前と、健吾()のクラスメイトの名前に、転生という現象。

 この現状は、■■()が前世で愛読していたライトノベル『蜘蛛ですが、なにか?』の内容に酷似している。

 

 ああ、こんなの夢だ。

 いや、きっと現実だ。

 この悪夢から早く目を覚ましたい。現実に戻りたい。

 そんなことできるわけがない。俺たちは逃げられない。

 

 ぐるぐると思考が回る。

 

 摩訶不思議で異常な状況であり、健吾()の少し脆い所のある心が認めることを拒否しているが、■■()の冷めてひねくれた心が認めざるを得ないと思った。

 

 どうやら俺は、『蜘蛛ですが、なにか?』の世界に転生してしまったらしい。



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2 どうやら俺はかませ犬らしい

 『蜘蛛ですが、なにか?』の世界に転生した、いや、転生したと思われるわけだが、これからの事を考えようと思う。

 

 まず、この世界は本当に『蜘蛛ですが、なにか?』の世界なのか。よく考えたら確証はない。

 『蜘蛛ですが、なにか?』とは全く関係のない異世界に転生したのかもしれない。

 いや、そもそも『蜘蛛ですが、なにか?』というラノベの記憶は植え付けられた偽の記憶なのかもしれない。

 検証は必要だろうが、記憶の件は証明が困難なので本物の記憶だと仮定して行動することにする。

 

 『蜘蛛ですが、なにか?』は、馬場翁さんが作者のなろう系ライトノベルで、蜘蛛の魔物に転生した主人公が生き残るために奮闘していく物語だ。

 

 そして、夏目健吾はその物語に出てくるキャラクターの一人である。

 

 ストーリーは、とある高校の一クラスの人間が謎の爆発で全員死亡し、全員が勇者と魔王が戦っているファンタジーな世界に転生するところから始まる。

 

 主に主人公がメインで描かれるのだが、元クラスメイト達もストーリーに絡んでくる。

 

 『夏目健吾』の転生先であり、今の俺である『ユーゴー・バン・レングザント』は、レングザント帝国の王太子であり、『原作』では、転生して歪んだ果てに、シュレイン(山田俊輔)に敗北し、蜘蛛子(主人公)に操られ、ラース(笹島京也)に殺されるという無残な結末を迎えたかませ犬だ。

 

 しかし、信用できる人もおらず、頼れる友人もいなく、順風満帆な人生を送るはずだったのが唐突に途絶え、転生したという現実を受け入れられずに、現実逃避して全てを夢だと思い込むようになったという事情があり、 ■■()が『健吾』の独白が描かれた閑話を読んだときには少し悲しい気持ちになった。

 

 しかし、それでもあまりいい性格をしていない悪役である事には変わりない。

 

 頭に、頭を潰された俺の死体のイメージが浮かぶ。

 

 そんな終わりは嫌だ。

 

 嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。

 

《熟練度が一定に達しました。スキル『恐怖耐性LV1』が『恐怖耐性LV2』になりました》

 

 じゃあどうする?

 答えは一つしかない。

 

 抗え。抗え。抗え。抗え。抗え。抗え。抗え。抗え。抗え。抗え。

 

《熟練度が一定に達しました。スキル『恐怖耐性LV2』が『恐怖耐性LV3』になりました》

 

 そのためならば地獄の苦痛にも耐えられる。

 

 戦え。戦え。戦え。戦え。戦え。戦え。戦え。戦え。戦え。戦え。

 

《熟練度が一定に達しました。スキル『恐怖耐性LV3』が『恐怖耐性LV4』になりました》

 

 その結末を覆せ。

 

 俺の望む結末を得るためには、なによりも力が必要だ。

 転生者は大きな力と才能を持つが、普通に鍛錬するだけでは、人間ではトップクラス程度(・・)の力しか得られない。それでは、主人公を筆頭とする人外達には全く及ばない。

 

 蜘蛛子やシュレインには及ばないだろうが、転生者である俺にはかなりの才能がある、はずだ。

 蜘蛛子というお手本があり、システムやスキルについての知識がある。これはかなりのアドバンテージだろう。

 

 強くなるためのプランはだいたい出来上がった。大きな苦痛を伴うだろうが、やるしか無い。

 

 俺は強くなりたい。

 理不尽をひっくり返せるような、そんな力が欲しい。

 

 本来なら長い時間をかけるのがまっとうなやり方だろう。

 しかし、システムが破壊されたらその恩恵にあずかれない。

 故に、シュレインたちと俺のストーリーが大きく動く15年後。

 

 それに備えよう。後悔しないように。

 

 

 

 

 

 いくつか確認したいことがある。

 

 先ほどシステムメッセージが聞こえてきたため、どうやらシステムはちゃんと稼働しているようだ。

 

 システムは、『蜘蛛ですが、なにか?』の重要な設定の一つで、管理者Dこと『最終の神』が構築した大規模な魔術式で、女神サリエルを核とすることで稼働している。

 

 大まかな内容は、戦うことによってレベル、ステータス、スキルを伸ばし、魂を無理やり成長させ、死後、そのエネルギーを回収するというものだ。

 

 システムにはゲーマーであるDの趣味が反映されていて、とてもゲームチックだ。

 

 殺した生物の魂の一部を取り込んで強くなるレベルシステム。

 

 鍛えれば鍛えるほど力を伸ばしていくステータスシステム。

 

 魂の一部を改変し、魂の力を使いやすくして、それを鍛えていくスキルシステム。

 

 特定の行動をすることによって与えられる称号システム。

 

 これらの他に、テンプレな「ピンチでのパワーアップ」が組み込まれた勇者システムや、魔法スキルに組み込まれた属性システムなど、遊び心に溢れている。

 

 俺の願いを叶えるためには、システムの力が必要だ。

 

 ちゃんと俺はスキルを獲得できるか、念のため確認を行う。

 

 鑑定スキルは?

 

《現在所持スキルポイントは120000です。

 スキル『鑑定LV1』をスキルポイント500使用して取得可能です。

 取得しますか?》

 

 ノーだ。

 

 機械的なシステムメッセージが聞こえてきた。システムがちゃんと稼働しているようだ。

 

 システムの稼働を確認したことで、ここが『蜘蛛ですが、なにか?』の世界である可能性が大きくなった。

 

 それにしても、なぜかスキルポイントがインフレしている。120000ポイントとかちょっとおかしい。

 

 理由はやはり、■■■■と夏目健吾が融合したからだろう。

 スキルポイントは魂の力だ。

 故に、夏目健吾の分のスキルポイントに■■■■の分のスキルポイントが加算されているのだろう。

 

 嬉しい誤算だ。スキルポイントは多い方がいい。

 

 そして、鑑定スキルの取得に500ポイントかかるが、俺は鑑定スキルは取得しない。

 鑑定スキルはテンプレだし便利だが、鑑定石を使えば問題ないし、ポイントを他のスキルに回したい。

 

 鑑定さんの時代は終わったんだ。

 

 

 

 

 

**********

 

 

 

 

 

 ん?

 なんか今鑑定様がバカにされた気がしたが、気のせいか?



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3 修行する幼児って想像したらシュール

 集中し、襲ってきた眠気に抵抗する。

 時刻は夜。城の人々は寝静まっている。侍女も眠っているようだ。

 

 こんな時間に何をするかというと、もちろん修行だ。

 

 昼間は人の目が多くて修行がしづらい。筋トレをする赤ん坊とかもはやホラーだし、魔力操作も、それなりの実力者なら見ればわかってしまうからだ。

 

 なので、昼間に使えるのは演算処理や感知、五感強化などの情報に関するスキルなどに限られるため、俺は昼間は合間合間に情報系のスキルを鍛え、本格的な修行は夜間に行うことにしている。

 

 では早速、今日の修行を始める。

 

 まずは体の内側に意識を向けて、そこにある魔力を認識する。

 とろみのある液体のようなそのエネルギーを動かし、血液のように体を循環させる。

 速く、滑らかに、繊細に。

 

 魔力操作は基本にして奥義だ。高度な魔法を発動するのには、高い魔力操作技術を必要とする。

 そしてシステムから外れた純正の『魔術』を使うには、システムサポートに頼らずに、システムに省略されてない全工程を自力で行わなけらばならず、それを実戦で使うには、()()()()魔力操作のスキルがカンストするレベルの魔力操作技術がいる。

 

 俺には蜘蛛子ほどの才能は無いが、毎日鍛錬を続けた結果、スキルのサポートもあって、かなりのものになった。

 

 続けて魔闘法を発動。

 魔闘法はMPを消費してステータスを上げるスキルで、それにより貧弱な子供の体が強化される。

 

 俺は魔闘法を維持したまま、ベッドから抜け出し床のカーペットに降りた。

 

 しばらく柔軟体操を行ったのちに、王子のブルジョワな広い部屋で、トレーニングを始める。

 

 できるだけ足音を立てないように、部屋の中を走る。

 加速と減速を繰り返し、短距離走と持久走を繰り返す。

 

 これによって、瞬発力と持久力を同時に鍛える。

 まあ、元が幼児の体なので「とててててて」って感じだが。

 

 それでも、強化されたステータスは幼児ではありえないレベルの運動を可能とする。

 地球人がこの光景を見たら自分の目を疑うだろう。

 

 しばらくの間走ったら、筋トレを行う。

 普通の子供ならできないような筋トレも、魔闘法で強化されている状態なら可能になる。

 腹筋、腕立て伏せ、スクワット、背筋と、全身の筋肉を満遍なく鍛える。

 

「はあっ、ふっ、やあっ!」

 

 これらの鍛錬を、死ぬよりも少し手前まで、何度も、何度も、何度も繰り返す。

 体が壊れても取得したHP自動回復のスキルによって修復される。

 

 これも元が弱すぎてあまりたくさんはできないが、それでもステータスは順調に伸びている。

 

 MPとSPが切れる寸前までトレーニングをしたら、ベッドによじ上る。

 

「がひゅっ、ごひゅっ、ひゅうっ、ひゅうっ」

 

 荒い息を整え、酸素を供給する。

 俺の幼児ボディは悲鳴をあげている。呼吸音もヤバイことになっているし、くったくただ。

 

 だが、そのおかげか、ステータスとスキルはかなり伸びている。

 ステータスは幼少期によく伸びる。原作では ソフィア(根岸障子)も、幼女の頃からの蜘蛛ん式教育によって、ステータスとスキルを凄まじく伸ばしている。

 俺には蜘蛛ん式のサポートは無いが、ソフィアやシュレインよりも早くトレーニングを始めているため、体感ではかなりステータスが伸びている。

 

 すごくきついが、心が折れそうになるたびに死の恐怖を思い出す。

 俺は死にたくない。何としてでも生き残る。その思いを燃やして鍛え続ける。

 

 幼少期の間にどれほど鍛えられるかが分かれ目になる。

 

 これからも頑張ろう。

 

 

 

 

 

 ちなみに、検証中に判明したのだが、並列思考のスキルをすっ飛ばして、上位スキルの並列意思をいつのまにか取得していた。

 

 並列意思は、魂を分割し、人格を複数に分けるスキルで、発動すると、自分が何人もいるかのような錯覚に陥る。

 

 並列意思を使えば、肉体の鍛錬を行いながら魔法を使うこともできるし、複数の魔法の同時発動や、本来なら多人数で行使する大規模な魔法も単独で発動することができる。

 

 おそらく、■■■■と夏目健吾が融合した時に獲得したんだと思う。

 原作でカティア(大島叶多)は、TSによる精神分裂が起こった時に、並列意思のスキルを獲得していた。

 この推測はそんなに間違っていないと思う。

 

 修行中には並列意思を同調し、処理能力を大幅に向上させて、スキル上げの効率を上げている。

 

 このスキルはほとんどの間常時発動しているため、スキルレベルが上昇している。

 そのため、演算処理のスキルも合わさって、俺の演算能力はなんかヤバイことになっている。

 

 だが、魔法や魔術を使うには、演算能力はいくらあっても過剰なんていうことは無いから、この調子で演算能力をインフレさせていこうと思う。



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4 鑑定の儀のようなナニカ

 俺、ユーゴー・バン・レングザントは、5歳になった。

 

 その間のことは特に面白みの無いボッチ生活だったのでカットだ。

 

 俺は様々な勉強に励んでいる。

 スキルを教師に正式に習い始めたので、今までのようにこっそり鍛錬するのを辞め、昼間に堂々と鍛錬できるようになった。

 

 魔闘法はMPが切れない限り基本常時発動し、魔力操作の鍛錬は起きている間中ずっと行う。

 

 さらに鍛錬のときは並列意思のスキルを使うことで、修行効率を何倍にも引き上げている。

 

 並列意思便利すぎる。このスキルは俺と相性が良いようで、蜘蛛子のようにフル稼働させている。スキル上げがもうすごく捗る。

 

 剣術にも手を出し、「剣の才能」スキルを得てからはガンガンスキルレベルを上げている。

 

 なんか天才と褒められるのを通り越して、ドン引きされているのは気のせいだと思いたい。

 

 

 

 

 

 さて、今日は鑑定の儀を行う日だ。

 

 鑑定の儀は、5歳になった貴族や王族の子供が多くの人の前で鑑定を行うというイベントだ。

 

 会場に入ると、奥に台座があり、さらにその奥には父親である皇帝がいる。

 周りには沢山の貴族がいて、こちらを眺めている。

 

 俺は台座の前まで歩くと、皇帝に向けて膝をついた。

 

「これより、鑑定の儀を執り行う。ユーゴー・バン・レングザント。立つが良い」

「はっ」

 

 立ち上がり、台座の前に置かれた踏み台に乗る。

 そして、台座に嵌め込まれた意外と大きい黒い石に手をつけ、鑑定の発動を念じる。

 

『人族 LV1 名前 ユーゴー・バン・レングザント

 ステータス

 HP:129/129(緑)

 MP:1271/1271(青)

 SP:129/129(黄)

   :129/129(赤)

 平均攻撃能力:69(詳細)

 平均防御能力:69(詳細)

 平均魔法能力:1235(詳細)

 平均抵抗能力:1153(詳細)

 平均速度能力:69(詳細)

 スキル

「HP自動回復LV3」「MP回復速度LV9」「MP消費緩和LV5」「魔力感知LV10」「魔力精密操作LV1」「魔闘法LV9」「魔力付与LV8」「魔力撃LV5」「SP回復速度LV4」「SP消費緩和LV2」「気闘法LV5」「気力付与LV3」「気力撃LV2」「剣の才能LV4」「体術の才能LV2」「破壊強化LV3」「打撃強化LV3」「衝撃強化LV2」「投擲LV2」「立体機動LV1」「集中LV8」「予測LV4」「演算処理LV6」「記憶LV5」「並列意思LV4」「命中LV2」「回避LV2」「隠密LV7」「気配感知LV2」「無音LV2」「帝王」「睡眠耐性LV5」「気絶耐性LV1」「恐怖大耐性LV1」「苦痛無効」「痛覚軽減LV1」「暗視LV5」「視覚強化LV8」「聴覚強化LV9」「嗅覚強化LV7」「味覚強化LV4」「触覚強化LV5」「神性領域拡張LV1」「生命LV9」「魔蔵LV3」「瞬発LV9」「持久LV9」「強力LV9」「堅固LV9」「道士LV3」「護符LV2」「疾走LV9」「n%I=W」

 スキルポイント:119500』

 

 ざわめきが起こった。

 なんか皆あり得ないものを見たかのような目でこちらを見ている。

 

 まあ、5歳の子供が並みの大人よりも高いステータスを出したらそうなるだろう。

 

「あれは!?」

「まさに天才……いや」

「なんだアレは!? 化け物か!?」

 

 うん。

 

 やっちまったぜ☆

 

「静まれ!」

 

 皇帝の一喝で、会場はようやく静かになった。

 そして皇帝は鑑定結果を写し取った紙を俺に差し出した。

 俺はそれを受け取り、一礼して下がった。

 

 こうして、俺の鑑定の儀はすごく荒れたが、なんとか終わった。

 

 ……なんか違う気がする。

 

 

 

 

 

 鑑定の儀が終わり、なんかさらに化け物度が増した気がするが、もう諦める。

 俺が目指すのは、俺TUEEEなインフレ系キャラである。

 引かぬ!媚びぬ!省みぬ!の精神でいこうと思う。

 

 さて、鑑定の儀が終わったので、鑑定の儀を終えるまで取得を避けていたスキルを取得しようと思う。

 

 それは、支配者スキルだ。

 

 支配者スキルは、七つの大罪と七つの美徳の名を冠する最上位のスキルで、どれもぶっ壊れた効果を持つ。

 

 取得する方法は主に二つで、大量のスキルポイントを使用する方法と、凄まじく強い感情によって、「怒」や「休」などの強い感情に呼応して手に入る系統のスキルをカンストさせる方法がある。

 

 俺は手っ取り早く前者で行く。

 

 さらに、支配者スキルを取得すると、それに付随して称号が手に入る。

 称号の効果は、主に支配者特権及び強力なスキルの獲得に加え、ステータスの上昇、一部の熟練度へのプラス補正などがある。

 人格の侵食などを始めとした物騒な副作用があるが、外道無効のスキルがあればほとんど無効化できる。

 

 取得にかかる膨大なスキルポイントも、俺のインフレしたスキルポイントなら問題ない。

 

 今まで俺がこれらのスキルを取得しなかった理由は、支配者スキルを取得すると、「禁忌」のスキルもついてくるからだ。

 禁忌の内容自体は問題ないが、このスキルは所持すること自体が禁忌とされていて、持っていると神言教に目を付けられる。

 鑑定の儀なんていうビッグイベントで禁忌のスキルを晒すわけにはいかなかった。

 

 しかし、鑑定の儀は終わった。これから鑑定されることになっても、支配者権限で鑑定を妨害すればいい。

 

 俺が取得しようと思っているのは、「忍耐」「強欲」「怠惰」の三つだ。

 取得経験値を増加する「傲慢」も取るかどうか迷ったが、「おしえてD先生」曰く、魂が崩壊する恐れがあるらしいので、取得するのをやめた。

 

 効果はそれぞれ、MPを消費することによる食いしばり、殺害した対象のステータス、スキル、スキルポイントの一部の強奪、自分以外のHP、MP、SPの消費を増加と、どれもこれもぶっ壊れている。

 もちろんこれらはとても強力な効果だが、俺の目的は称号に付随するスキル、それと支配者権限だ。

 

 今欲しいスキルは、「忍耐の支配者」に付く、魂に関する耐性の「外道無効」と、「怠惰の支配者」に付く、睡眠をとらなくてよくなる「睡眠無効」だ。

 このスキルがあれば、俺はさらに効率的に成長できるだろう。

 

 そして支配者権限は、システムに干渉するための権限だが、今はまだ使わないため割愛する。

 

 三個の支配者スキルを取得するとなると消費するポイントがとんでもないことになるし、魂の容量が足りるか心配だが、多分なんとかなると思う。

 

 俺の魂は二人の魂が混ざってできている。スキルポイントが膨大なのもおそらくそれが原因だし、魂の容量も単純計算で二人分ある。

 たぶん大丈夫だろう。

 

 というわけで早速忍耐を取得!

 

《現在所持スキルポイントは119000です。

 スキル『忍耐』をスキルポイント5000使用して取得可能です。

 取得しますか?》

 

 はい。

 

《『忍耐』を取得しました。残りスキルポイント114000です》

 

《熟練度が一定に達しました。スキル『禁忌LV2』を獲得しました》

《条件を満たしました。称号『忍耐の支配者』を獲得しました》

《称号『忍耐の支配者』の効果により、スキル『外道無効』『断罪』を獲得しました》

 

 よし、次だ。

 強欲を取得!

 

《現在所持スキルポイントは114000です。

 スキル『強欲』をスキルポイント10000を使用して取得可能です。

 取得しますか?》

 

 はい。

 

《『強欲』を取得しました。残りスキルポイントは104000です》

 

《熟練度が一定に達しました。スキル『禁忌LV2』が『禁忌LV4』になりました》

《条件を満たしました。称号『強欲の支配者』を獲得しました》

《称号『強欲の支配者』の効果により、スキル『鑑定LV10』『征服』を獲得しました》

 

 怠惰を取得!

 

《現在所持スキルポイントは104000です。

 スキル『怠惰』をスキルポイント30000使用して取得可能です。

 取得しますか?》

 

 はい。

 

《『怠惰』を取得しました。残りスキルポイントは74000です》

 

《熟練度が一定に達しました。スキル『禁忌LV4』が『禁忌LV6』になりました》

《条件を満たしました。称号『怠惰の支配者』を獲得しました》

《称号『怠惰の支配者』の効果により、スキル『睡眠無効』『退廃』を獲得しました》

《『睡眠耐性LV5』が『睡眠無効』に統合されました》

 

 続けて支配者権限を確立……

 

 ……

 

 ……

 

 ……確立完了。

 

 これで次のステージに進める。

 

 俺は未来を思い、天を見上げて笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 **********

 

 

 

 

 

 は?

 誰かが支配者権限を確立した?



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5 いやあ、探知は強敵でしたね

 外道無効を取得したことで、新たに取得しようと思っているスキルがある。

 

 それは「探知」だ。

 

 探知は、感知系全てを複合したスキルだ。

 そう聞くとなんか凄そうなスキルだが、高性能すぎて、高レベルの「外道耐性」のスキルが無いと、情報過多で魂がパーンする。やベぇ。

 

 しかし、外道無効を得た俺にはもはや探知など敵ではない。

 

 探知を取得!

 

《現在所持スキルポイントは74000です。

 スキル『探知LV1』をスキルポイント1000使用して取得可能です。

 取得しますか?》

 

 イエスッ!

 

《『探知LV1』を取得しました。残りスキルポイント73000です》

 

 よし、探知を取得した。早速発動しよう。

 探知オン!

 

 って痛ぁっ!

 

《熟練度が一定に達しました。スキル『探知LV1』が『探知LV2』になりました》

 

 ぐあっ、痛みがさらに酷くなった。

 

 圧倒的な情報の奔流。

 処理しきれなかった情報が、痛みになって頭に押し寄せてくる。

 

 俺のまだ幼い脳にはかなり負担がかかっているようで、けっこう頭痛が酷い。

 でもこれを使いこなせれば、さらに能力を強化できるだろう。

 

 なんとか痛みをこらえて、探知した情報に意識を向けるようにする。

 しばらくすると情報に慣れてきて、痛みが引いてきた。

 痛みが引いた事で、探知した情報を感じ取る余裕ができた。

 

 情報を感じると、すごいという陳腐な感想しか浮かんで来なかった。

 

 なんかもう、すごい。

 ありとあらゆる情報を把握できる。

 

 循環する魔力、存在する生物、空気の流れ、物質の状態、物質の熱量など、ありとあらゆるものを把握できる。

 

 雄大で広大な世界の情報の海に、圧倒され、感動した。

 

《熟練度が一定に達しました。スキル『探知LV2』が『探知LV3』になりました》

《熟練度が一定に達しました。スキル『集中LV8』が『集中LV9』になりました》

《熟練度が一定に達しました。スキル『演算処理LV6』が『演算処理LV7』になりました》

《熟練度が一定に達しました。スキル『神性領域拡張LV1』が『神性領域拡張LV2』になりました》

 

 情報量が膨大なので、レベルが上がるのも早い。

 

 レベルが上がったことで、取得できる情報がさらに増加する。

 

 俺は、さらに深化した情報の海に、しばらく浸っているのだった。

 

 

 

 

 

 探知を取得してからしばらくして、俺はさらに新たなスキルの取得を行うことにした。

 

 スキルは多いほどいい。

 スキルポイントはまだ余っているし、今のうちから必要なスキルは取得しておこうと思う。

 

 忍耐の支配者の称号には、ステータスの上昇と、耐性系スキルの熟練度のプラス補正の他にもう一つ。邪眼系スキルを解禁する効果がある。

 

 そう、邪眼だ。

 

 邪眼系スキルは、相手が視界に入っただけで効果を発揮する魔眼系スキルの上位互換で、直接接触しなくても遠距離で効果を発揮する強力なスキルだ。

 

 そしてなによりカッコイイ。超カッコイイ。

 とても厨二心が疼く素敵スキルだ。

 

 このスキルを作ったことに関してはDグッジョブと言わざるを得ない。

 

 俺の目は二つしか無いので、蜘蛛子のように邪眼八連とかは出来ないが、様々な邪眼を操れるようになればかなり強力だし、繰り返し言うが、超カッコイイ。

 

 と言う訳で、状態異常、属性攻撃を含めた全種類の邪眼系スキルを取得した。

 

 ついカッとなってやった。後悔はしていない。

 

 うん、アホと言うなら言え。

 それでも俺はロマンを諦められない。

 

 スキルポイントを30000弱も消費したが、それでもまだ40000以上も残っている。

 こんなときには、大量のスキルポイントがあってよかったと思う。

 

 

 

 

 

 次に取得するのは魔法スキルだ。

 魔法スキルは魔道具を使えばある程度は覚えられるが、基本はスキルポイントを消費して習得するものだし、空間魔法などの希少な魔法はスキルポイントを使わずに覚えるのは困難どころかまず不可能だ。

 空間魔法のスキルは、取得に5000ポイントもかかったが、欲しかったので取得した。

 

 取得に5000ポイントがかかったということは、500ポイントかかった蜘蛛子には及ばないが、10000ポイントかかったラースよりは適性があるということだろうか。

 

 空間魔法のスキルはレベルを上げないと役に立たないが、使いこなせればとても強い。

 鍛えるのにかなり苦労するだろうが、それだけの価値はあると思う。

 

 

 

 

 

 そして空間魔法の他にも、いろいろ役に立つ治癒魔法に、適性のある火炎属性系のスキルや、その他役に立ちそうなスキルを取得していった。

 

これでスキルポイントがさらに減ったが、必要経費と考える。

 

 獲得したスキルには、並列意思を回して熟練度稼ぎを行う。

 複数のスキルを常時発動するようにすれば、効率よくスキルを鍛えることができるだろう。

 かなり辛いが、強くなるためにはこれくらい乗り越えなければならない。

 

 頑張ろう。



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6 俺はドMじゃねぇ!

 魔法スキルを取得する方法だが、スキルポイントを消費する方法の他に、魔法スキルが込められた魔道具を使う方法がある。

 

 この魔道具は、魔力を込めるだけで魔法を発動できるという代物だが、かなり高価で、一部の貴族や金持ちしか持ってない。

 

 俺は帝国の王子なので当然手に入る。

 

 本来は魔法は然るべき年齢になるまでは使ってはいけないというルールがあるのだが、それまで待つことはできない。

 

 俺は周りの人間に()()()することで、なんとか魔道具を使うことができるようになった。

 

 俺はレングザント帝国の王子であり、巨大な権力を持つことに加え、そこらの人族よりもステータスが高いから、誰も俺に逆らえない。やりたい放題だ。

 

 少し寂しさをを感じたが、俺は使えるものは使うことに決めた。

 

 そうして手に入った魔道具を使って魔法を撃ちまくり、一部を除いた大体の属性の魔法スキルを取得することができた。

 

 

 

 

 

 原作で蜘蛛子(主人公)が行った修行に、自分に攻撃魔法を撃ち込むというものがある。

 一見頭おかしいように感じる、いや、実際頭おかしい修行法だが、効果はある。

 

 同属性の魔法やスキルを使うと、その属性の耐性が上がる。

 だが、その上昇率はかなり微々たるもので、一番効率のいい耐性スキルの鍛え方は、その属性の攻撃を受けることだ。

 

 なので、自分で自分に攻撃魔法を撃つことで、その属性の魔法スキルと耐性スキルを同時に鍛えることができる。

 

 うん。解説してみてもやっぱり頭がおかしい。

 

 攻撃魔法は攻撃するための魔法。それを自分に打ち込んで耐性を鍛えるのは大きな苦痛を伴う狂った方法だ。

 

 けれど、()()()()()()()()の努力なら誰でもしている。

 もっと強くなりたいならば、頭のおかしい、狂気的な鍛錬を積まなければならない。

 

 鑑定の儀で見た俺のステータスは、原作の俺よりも遥かに高いだろう。

 だが、蜘蛛子(主人公)はもちろん、ソフィアの方がおそらく強い。

 

 足りない。

 俺はまだ甘かった。

 運命を乗り越えたいのなら、強くなりたいのなら、修羅にならなければならない。

 

 覚悟完了し、火魔法を自分に撃ち込んだ。

 

「んぎぃっ……ぎいあああああっ……!!!」

 

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!

 

《熟練度が一定に達しました。スキル『火耐性LV1』を獲得しました》

 

《熟練度が一定に達しました。スキル『痛覚軽減LV1』が『痛覚軽減LV2』になりました》

 

 俺は無様に倒れ、のたうち回った。

 

「がっ……うがぁ……」

 

 肌が焼ける。

 体が悲鳴をあげる。

 生命の危険に魂が恐怖を感じる。

 

「あ、ああ……」

 

 少ししたら、HP自動回復のスキルの効果で、減ったHPが回復し、痛みが引いてきた。

 

 けれど、俺の心は折れそうだ。

 苦しかった。やっぱり蜘蛛子(主人公)は異常で、俺の心はとても弱い。

 

 強くなるのを諦めて、何もかも放り出してしまいたくなった。

 

「ああ、でも……」

 

 ここで諦めたら、きっと後悔する。

 原作と同じように無様に死ぬのはもっと怖い。

 

 死んで、融合して、生まれ変わって、怖くなって……それで憧れた。

 

 俺は誇り高く生きたい。

 

「……頑張ろう」

 

 心を奮い立たせ、再び魔法を自分に撃ち込む。

 苦しいが、俺は魔法を撃ち続ける。

 

 俺はもう、諦めない。

 

 

 

 

 

 ……あ、やべ、魔法の制御ミスった。

 

「ぎゃああああああああああ!」

 

 ……やっぱ止めようかな。



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7 ラノベに修行パートは必要なのだろうか

 一部変更しました。
 契約のスキル→召喚のスキル


 並列意思の三番が、重魔法を自分を対象に発動。

 俺にかかる重力が強化され、肉体に大きな負荷がかかる。

 

 高いステータスと重耐性のスキルの影響でそれなりに余裕があるが、それでも体が重く、いつも通りの動きはできない。

 

 一番と二番を情報管制と肉体操作に回しているため、空いている並列意思は残り四つ。

 

 主観では少しの間、現実時間では一瞬だけ考えた後、四番、五番、六番、七番が、火、雷、光、闇の四属性の、威力を下げた攻撃魔法を自らに向けて発動。

 鋭い痛みと共に肉体が傷ついていくが、HP高速回復のスキルと、直後に発動した治癒魔法によって傷が治っていく。

 これをひたすら繰り返していく。

 

 魔神法、闘神法、思考加速、予見、探知などの各種スキルはすでに発動済み。

 自分に多くの強化と負荷をかけることで、鍛錬の効率を何倍にも引き上げる。

 

 想像するのは自分よりも強い敵。

 思い浮かぶのは健吾()の記憶の中の少女……若葉姫色。

 彼女の色を白くし、目を閉じている姿をイメージする。

 

 俺が未だ見たことがない主人公(蜘蛛子)の姿を、若葉姫色の姿から類推する。

 

 俺が未だ届かず、今もなお成長し続けているであろう蜘蛛子。

 彼女の事を考えると複雑な気分になるが、俺はいつも仮想敵として彼女をイメージしている。

 

 それはきっと、俺にとっては彼女が『最強』の象徴だからだろう。

 

 俺は彼女の虚像に斬りかかるも、彼女に軽くいなされた。

 俺の攻撃は防がれ、逸らされ、迎撃される。

 思い浮かぶのだけの剣戟を叩き込むが、全てその度に対応される。

 剣だけではなく、拳や蹴りも交えるも、彼女には届かない。

 

 戦闘は加速していき、攻撃はより先鋭化していく。

 だが彼女には届かない。

 

 何度も何度も攻撃の応酬を繰り返した果てに、彼女の貫手が俺の心臓を貫き、仮想組手は俺の負けという結果で終わった。

 

「がはっ、がひゅっ、ぐっ、また負けたか」

 

 息を整える。

 仮想組手を行う度に、俺は未だ未熟な身であることを再確認する。

 

 仮想組手は、ステータスの問題で俺の組手の相手をできる人間がいなくなってしまってから考えた鍛錬法だ。

 

 実践に勝る鍛錬は無いと言うが、まだレベルを上げるつもりの無い俺は、想像上の相手と組手を行うようになった。

 それが仮想組手だ。

 

 ぼっちの進行がさらに深刻になっている気がするが、この鍛錬でステータスとスキルをさらに伸ばすことができた。

 

 それでも、俺の理想には程遠い。

 これからもまだまだ鍛錬を積み重ねる必要がある。

 

「よし、続けるか!」

 

 俺は再び鍛錬を開始した。

 

 

 

 

 

 俺はさらに激しい修行を積み、スキルとステータスは大幅に伸びた。

 さらにポイントを使って新たにいくつかのスキルを取得したことで、ステータスがだいぶ豪華になってきている。

 

 それで調子に乗った俺は色々とやった。

 

 兵士たちが訓練しているところに乱入して100人抜きしたり、剣聖とか呼ばれているハゲのおっさんを襲撃したり、なんだかんだおっさんに剣の手ほどきを受けたりした。

 

 また、原作のヒロイン(笑)であるロナント爺さんに会う機会があって、攻撃魔法を撃ったら、魔法の撃ち合いになり、激戦ののちに敗北した。

 魔法系ステータスは上回っていたが、技量と経験の差で負けた。

 かなり悔しかったが、「その若さでそれほどの腕を持つとは素晴らしい」とのことで、弟子3号として魔法を学んだ。

 

 爺が蜘蛛子(主人公)の魔法を見て学んだ魔法構築技術は有用で、俺の魔法技術はさらなる発展を遂げた。

 

 また、爺の弟子繋がりで、弟子1号である勇者ユリウスとも仲良くなった。

 

 勇者ユリウスことユリウス・ザガン・アナレイトは、アナレイト王国の第二王子で、今代の勇者だ。

 シュレインの兄でもあり、原作では人魔大戦の時に蜘蛛子の手で殺される。

 

 模擬戦を何回か行なったのだが、ステータスでは上回っていても、技量ではこちらが劣っているため、倒すのに苦労した。

 

 うん、倒した。

 なんか勝っちまった。

 ユリウスは、俺のような子供に負けたことに対して、顔を引きつらせていた。

 どうやらついに俺は勇者を超えてしまったらしい。

 

 なんやかんや帝国でも最強クラスの力を得たわけだが、「先代剣帝をも上回る逸材」「神に愛されし子」と呼ばれるのはいいが、前よりもさらに「化け物」「人外」と呼ばれるようにもなった。

 

 うん、なんかもういいや。

 

 

 

 

 

 俺は帝国内でかなりの権力を持っていたが、化け物度合いが増したことで、さらにやりたい放題できるようになった。

 というかみんな俺を見ると怯える。

 

 ……最近は孤独な現状に寂しさを感じることが増えた。

 ()()()()()()同じ境遇の理解者は決して存在せず、信頼できる人間も、友人もいない。

 

 話が逸れた。

 

 俺は使えるものは使う主義なので、俺の権力を使って、あるものを手に入れた。

 普段は修行関係くらいにしか権力を使わないわけだが、今回は割と本気で権力と暴力を使った。

 

 そうして手に入れたのが、俺の目の前で肉を食べている、闇竜の子供だ。

 

 見た目は黒いトカゲだが、竜なのでかなりのポテンシャルを内包しているし、進化すればすぐに大きくなる。

 

 俺は召喚のスキルを取得して、この子と契約し、支配下に置いた。

 

 召喚のスキルは、魔物を従え、召喚する効果、と言えば聞こえが良いが、支配下に置かれた魔物は主人の命令には逆らえない上、完全に支配下に置かれると、精神までも汚染され、主人の言うことをなんでも聞くことになる。

 

 契約したことでこの子は俺に逆らえなくなった。

 俺はこの子を鍛えるために、拷問じみたことをするつもりだ。

 

 心が痛む……けれどどうせ最後は……いや、今は先のことを考えるのはやめよう。

 

 罪悪感を振り払い、これからのことを考える。

 そうしないと心が保たない。

 

「ああ、いつまでも名無しだと格好がつかないな」

 

 俺はこの子に名前をつけていなかったことを思い出した。

 

 この世界では命名は重要な意味を持つ。

 スキルの中には、「命名」というスキルがあり、このスキルを使って人や物に名前をつけると、そのステータスが上昇する効果がある。

 このスキルの存在を知っていた俺は、その辺の物に名前をつけまくるという頭の悪い方法でこのスキルを取得し、鍛えてきたので、それなりのレベルで命名のスキルを保有している。

 

 そして、この子につける名前は前から考えてあった。

 

「ユーナ。お前はユーナだ」

 

 名付けによってステータスが僅かだが上昇した。

 ユーナ。それがこの子の名前だ。

 俺の名前であるユーゴーをもじったのだが、この名前を気に入っているかはわからない。

 

 偽善ですらない自己満足だけど、出来る限りこの子を大切にしよう。そう思った。



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8 そして物語が始まる

 ぼっちが念話持ってるのっておかしくない? ということで念話のスキルを削除しました。


 時は流れ、俺は10歳になった。

 

 俺は今までひたすら鍛錬に励んでいた。

 

 生命や、堅固などの基礎ステータス系スキルは、最上位まで進化させると、レベルアップした際に大幅な成長補正がかかる。

 カンストさせると、100の成長補正を得られる。

 これは大きい。レベルを50上げると、5000もステータスの数値にプラスされるということだからだ。

 

 なので、俺は今までレベルを上げずに、基礎ステータス系スキルを中心に、スキルとステータスを鍛えていた。

 

 某龍戦士のように自分に重魔法をかけ、剣を振り、拳を放つ。

 

 それと並行で威力を下げた攻撃魔法を自分に撃ち込み、魔法スキルと耐性スキルを同時に鍛える。

 

 日常生活の中でも、魔力操作や魔神法、闘神法などの傍目にはわからないスキルを鍛え、食事の時にも用意させた毒を飲み干し、毒耐性を鍛える。

 

 また、夜の間も睡眠無効のスキルを活用して、回復魔法で体を癒しながら鍛錬を行った。

 

 原作で行われた蜘蛛ん式トレーニングは、完全に拷問なだけあって確かな効果を発揮している。

 

 鍛錬は苦痛で、何度も心が折れそうになったが、その度に心を奮い立たせた。

 それに、鍛錬の成果がスキルとステータスに現れる度に達成感を覚えた。

 

 その結果、カンストには届かなかったが、全ての基礎ステータス系スキルを最上位まで進化させることができた。

 

 鑑定で見た俺のステータスがこれだ。

 

『人族 LV1 名前 ユーゴー・バン・レングザント

 ステータス

 HP:6595/6595(緑)+1400

 MP:9220/9220(青)+1400

 SP:6489/6489(黄)

   :6489/6489(赤)+1400

 平均攻撃能力:6398(詳細)

 平均防御能力:6167(詳細)

 平均魔法能力:9142(詳細)

 平均抵抗能力:9097(詳細)

 平均速度能力:6206(詳細)

 スキル

「HP高速回復LV4」「MP高速回復LV6」「MP消費大緩和LV4」「魔力精密操作LV5」「魔神法LV7」「魔力付与LV10」「大魔力撃LV3」「SP高速回復LV5」「SP消費大緩和LV2」「闘神法LV4」「気力付与LV10」「大気力撃LV1」「剣の天才LV9」「体術の天才LV6」「破壊強化LV9」「打撃強化LV7」「斬撃大強化LV2」「貫通強化LV7」「衝撃強化LV7」「火炎強化LV1」「暗黒強化LV1」「火炎攻撃LV2」「暗黒攻撃LV1」「腐食攻撃LV1」「外道攻撃LV1」「投擲LV10」「射出LV2」「空間機動LV3」「召喚LV2」「集中LV10」「思考加速LV9」「予見LV7」「高速演算LV8」「記録LV4」「並列意思LV6」「命中LV10」「回避LV10」「確率補正LV6」「隠密LV10」「隠蔽LV2」「無音LV4」「帝王」「鑑定LV10」「探知LV10」「断罪」「征服」「退廃」「外道魔法LV10」「火魔法LV10」「火炎魔法LV3」「水魔法LV3」「氷魔法LV2」「風魔法LV5」「土魔法LV5」「雷魔法LV8」「光魔法LV7」「影魔法LV10」「闇魔法LV10」「暗黒魔法LV2」「重魔法LV9」「治療魔法LV10」「空間魔法LV10」「次元魔法LV2」「忍耐」「飽食LV4」「強欲」「怠惰」「破壊耐性LV8」「打撃耐性LV6」「斬撃耐性LV9」「貫通耐性LV6」「衝撃耐性LV5」「火耐性LV9」「水耐性LV2」「氷耐性LV2」「風耐性LV3」「土耐性LV3」「雷耐性LV7」「光耐性LV6」「闇耐性LV9」「重大耐性LV1」「毒耐性LV7」「麻痺耐性LV5」「石化耐性LV3」「睡眠無効」「腐食耐性LV1」「気絶耐性LV6」「恐怖大耐性LV5」「外道無効」「苦痛無効」「痛覚大軽減LV5」「暗視LV10」「千里眼LV3」「呪いの邪眼LV1」「麻痺の邪眼LV4」「石化の邪眼LV3」「火の邪眼LV5」「水の邪眼LV1」「氷の邪眼LV1」「風の邪眼LV2」「地の邪眼LV2」「雷の邪眼LV4」「光の邪眼LV3」「闇の邪眼LV5」「重の邪眼LV8」「死滅の邪眼LV1」「不快の邪眼LV1」「幻痛の邪眼LV1」「狂気の邪眼LV1」「魅了の邪眼LV3」「催眠の邪眼LV1」「恐怖の邪眼LV1」「破魂の邪眼LV1」「自失の邪眼LV1」「五感大強化LV6」「知覚領域拡張LV4」「神性領域拡張LV4」「天命LV6」「天魔LV8」「天動LV6」「富天LV6」「剛毅LV6」「城塞LV6」「天道LV8」「天守LV8」「韋駄天LV6」「命名LV6」「禁忌LV6」「n%I=W」

 スキルポイント:2800

 称号

「忍耐の支配者」「怠惰の支配者」「強欲の支配者」「悪食」「無慈悲」「恐怖を齎す者」』

 

 原作の俺を完全に上回っている。

 ていうかもう帝国最強だ。

 

 まあ、蜘蛛子(主人公)には全く及ばないが。

 傲慢のスキルがあるとはいえ、1年くらいで世界最強クラスになる彼女はやっぱり異常だ。

 

 ちなみに、ユーナは騎士達にレベリングを行わせた結果、上位竜まで進化した。

 出来れば龍まで進化させたかったが、俺はレベリングに参加していないし、騎士達に任せただけじゃあそれが限界だった。

 

 しかし、ユーナにも蜘蛛ん式トレーニングを課しているので、スキルとステータスを順調に伸ばしている。

 

 だが、やってることがほぼ動物虐待だからか、なんか「無慈悲」の称号が生えてきた。

 

 加えて、反抗されないように召喚のスキルで洗脳支配しているからか、なんか妬心のスキルが生えてきたし、目も病んできているような気がする。

 

 ……考えないようにしよう。

 

 さて、俺は一定の年齢になったので、俺は学園に通うことになる。

 

 このダズトルディア大陸にある学園には、王族や貴族、一部の裕福な平民が通い、一般的な勉強に加え、戦闘を学ぶことになる。

 

 俺以外の原作キャラ(クラスメイト)の一部もここに通うことになり、ストーリーが大きく動き出す。

 

 彼らに会うのは色々と複雑な気分だが、覚悟はもう決めた。

 

 すでに学園で学ぶことはもはや存在しないが、学園に行かないのは社会的に色々アレなので通わないという選択肢は無い。

 そして学園に通うなら、健吾()の元クラスメイトとも会うことになる。

 

 ストーリーは大きく動き出し、世界は荒れてくるだろう。

 

 不安な気持ちになってくるけれど、今の俺ならなんとかできると信じている。それだけのことはやってきた。

 

 俺は震える手を握りしめ、これからのことを思った。



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9 転生者の挽歌

 俺は今、学園の入学式の会場にいる。

 

 この学園には、俺を含めた他国からも大勢の子供が入学しに来るからか、予想よりもずっと多くの人間がいた。

 

 周りを見ると、新入生たちが席に座ったまま、こちらをチラチラ見ている。

 そいつらの方を見ると、サッと視線をそらされる。

 

「あれが、帝国の怪物」

「とんでもない化け物って噂だが、見た目は普通だな」

「見た目に惑わされるな。なんでも勇者を倒したって話だぞ」

「ひぇー。近づかないようにしないとな」

 

 なんかめっちゃ怖がられてる。

 俺の噂は他国まで広まっているらしい。

 

 なんか微妙な気持ちのまま、入学式を終えた。

 

 

 

 

 

 入学式が終わった後、学生寮に戻ろうとしたら、なんかエルフの幼女、黒髪の少年、赤髪の少女、金髪の少女の4人がこちらに向かって歩いて来た。

 

「あなたがレングザント帝国の皇太子ですかぁー?」

 

 エルフの幼女が俺に日本語で(・・・・)話しかけてくる。

 

 彼らが誰かだいたい察したが、こちらが知っているのは不自然なので、挨拶の後に確認を行った。

 

「ああ。俺がレングザント帝国王太子、ユーゴー・バン・レングザントだ。そういうあんたは、岡ちゃん、か?」

「そうですぅー。おひさしびりですぅー」

 

 この間延びした癖のある話し方に、懐かしさを覚える。

 健吾()たちの担任だった岡崎(おかざき)香奈美(かなみ)先生は、エルフの族長の娘に転生している。

 「生徒名簿」という、生徒の大まかな未来を示す(最初は半分近くが数年以内に死亡という結果が出ていた)上に、「生徒の閲覧禁止」が組み込まれたスキルをDから与えられていて、それによって苦しんでいる。

 エルフの族長のポティマスの娘として転生したこともあって、すごく不憫だ。

 

「ところでぇー。あなたの前世の名前はなんですかぁー」

 

 岡ちゃんが俺の前世の名前を聞いてくる。

 岡ちゃんは、俺の()()()前世の名前が夏目健吾だと言うことを知らない。

 

 と言うのも、エルフが帝国を通して俺と接触を行おうとした事があったが、俺は徹底的にエルフとの接触を避けた。

 

 エルフが近づいて来たらその場から離れるようにして、父親を通して会おうとしてきた時も城から逃げた。

 

 岡ちゃんはともかく、族長であるポティマスには会いたくなかったからだ。

 ポティマスは控えめに言ってクズで、この星の問題はだいたいあいつのせいだ。

 

 殺そうにも表に出ているのはサイボーグなクローンで、本体はシステム内の力では破壊不可能な結界に引きこもっている。

 侵入して暗殺しようとしてもSFなロボット軍団を差し向けてくるだろう。

 

 ファンタジーな異世界? ああ、いいやつだったよ。

 

 さらに、デリカシー? なにそれおいしいの? と言わんばかりに鑑定をしてくるので、俺に会ったら、俺が支配者であることに気づくだろう。

 

 なので、俺が夏目健吾として自己紹介をするのは初めてになる。

 

「夏目健吾だ」

「夏目?」

 

 4人が俺を怪訝な目で見てくる。

 

「夏目くん、なんか変わりましたかぁー?」

「……ああ。転生して、何もかも変わって、10年も経つんだ。誰だって変わるだろ」

 

 少しドキッとしたが、表情に出さずに答えを返す。

 

 俺は変わった。二人の人間の魂が融合したことによって、性格は以前のものとは大幅に異なっている。

 今の俺は現魔王アリエルのような状態だ。

 アリエルは、蜘蛛子の分体と融合したことによって、性格が蜘蛛子のものに近づいた。

 確かに俺は夏目健吾だが、人格は■■■■の方がメインだ。

 俺は彼らの知る夏目健吾とは性格的には別人なのだ。

 

「夏目くん?」

「っ! ああ、悪ぃ。少し昔のことを思い出していた」

 

 少し考えに没頭しすぎていた。

頭を切り替えて会話に戻る。

 

「やっぱりなんか変わったな、夏目」

「お前らは誰だ?」

 

 本当は分かっているが、少年少女たちの名前を問う。

 

「俺は山田(やまだ)俊輔(しゅんすけ)だ」

大島(おおしま)叶多(かなた)

長谷部(はせべ)結花(ゆいか)よ」

 

 ぴしり、と、心にヒビが入った音がした。

 

 

 

 

 

 それから俺は元クラスメイト達とたくさんの話をした。

 健吾()への苦手意識からか、少し態度が固かったけれど、彼らとの久々の会話はとても楽しかった。

 

「ああ……」

 

 だけど、元クラスメイトとの邂逅と、久しぶりの日本語でのやり取りによって、今まで麻痺していた郷愁の念が蘇った。

 

 前世の家族のこと、学校のこと、失った将来のこと。

 そして……友人のこと。

 

「一成……」

 

 桜崎(さくらざき)一成(いっせい)健吾()の友人だったあいつは、いつも健吾()を助けてくれた。

 

 あいつがいたから健吾()は男子の中心にいれた。

 あいつがいなかったら健吾()はもっと嫌われていた。

 あいつがフォローしてくれたから健吾()健吾()らしく振る舞えた。

 

 けれど、一成はもういない。

 俺なんかよりもずっと才能があったあいつは、その才能を危険視されたポティマスに殺された。

 許せない。

 

《熟練度が一定に達しました。スキル『怒LV1』を獲得しました》

 

 もう二度と、一成に会うことはできない。

 

「あぅ、ヒック……うぁ、ヒック……あっ、あああああああああああああ!!!」



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10 孤独・努力・虚しい勝利

 学園生活だが、正直つまらない。

 

 学園で学ぶことは、ほとんどすでに学び終えた所だ。

 

 学園に通う前はよく城から抜け出して鍛錬ばかりしていたが、並列意思、思考加速、記録などのスキルを使った超高速学習によって一通り知識は修めている。

 

 なので、授業中は教師の話を聞くのに並列意思を1人だけ回して、残りはスキルのレベル上げを行なっている。

 

 学園の人間たちは、媚びてすり寄ってくる人間と、恐れて近づいてこない人間におおよそ分類できる。

 教師でさえもそんな感じで、完全にボッチだ。

 俺は大国の王太子で大きな権力を持っているし、実力に関しても、俺を上回る力を持つ人間は学園に存在しないからだ。

 

 俺に取り入ろうとしてくる人間は基本的に無視し、近づいてこない人間に関しては、俺にはどうしようもないので放置している。

 一度だけ、俺に決闘を挑もうとしてきた他国のバカ王族がいたが、少し威圧をかけたら即座に土下座し、それから俺に決闘を挑もうとするアホはいなくなったが、さらにボッチが加速した。

 

 悲しいが、鍛錬する分にはその方が都合が良い。

 

 そして今日の授業は、魔法の実践だ。

 魔法の授業なんて、最初はファンタジーな出来事に心を躍らせていたのだが、内容を知って冷めた。

 

 座学は学園で習う以上のことをロナント爺さんに教わっている。

 前回の授業では、他の生徒が魔力感知と魔力操作を教わっている中、スキルを使わずマニュアルで術式を作ったりして、魔力精密操作のスキルを鍛えていた。

 

 そして今回の授業の内容だが、水魔法LV1「水球」が込められた杖に魔力を流し込む。

 そんだけ。

 

 俺の目の前で、生徒たちが杖を構えて魔法を発動しているのだが、うまく発動しない生徒が多く、結構ひどい。

 

 俺は水魔法の適性がとても低いが、それでもあれよりもずっと高度なことができる。

 付け加えるなら、この授業は水魔法スキルの獲得する目的もあるわけだが、俺は既に水魔法スキルを持っているので意味がほとんどない。

 

 そんなわけで完全にやる気が失せた俺は、魔力精密操作や次元魔法のスキルを鍛えていたのだが、それを見かねたオリザという中年の教師が俺に話しかけてきた。

 

「ユーゴー君、授業に参加してください」

「えー……」

 

 正直面倒だが、参加しないともっと面倒な事になりそうだったし、学生なのに授業に参加しないのはちょっとどうかと思うので、しぶしぶ参加する事にした。

 

 生徒たちがこちらを見ている中、水球の魔法が込められた杖……を投げ捨て、既に持っているスキル、水魔法LV1「水球」を発動。

 

 俺の一万近い魔力系ステータスは、周りの人間よりも遥かに高い威力を叩き出し、凄まじい速度で飛んで行った巨大な水球は、的を完全に粉砕した。

 

『……は?』

 

 的の一つがあった場所にはクレーターができていて、そのあんまりな惨状に生徒も教師もドン引きしていた。

 

 その日から俺は魔法の授業ではハブられるようになった。

 

 

 

 

 

 また別のある日。

 その日は剣術の授業があった。

 

 生徒はそれぞれ訓練用の模擬剣を構えて教師たちに斬りかかるが、なんかどいつもこいつも遅いし拙い。

 

 シュンは結構いい動きをしているのだが、ステータスが低いので、俺よりもずっと遅い。

 

 今の時代の人族のステータスは低く、学生ならさらに低い。シュンでさえ500といったところだろうか。

 

「さあ来い!」

 

 そんなこんなで俺の番が来たのだが、やっちゃっていいのだろうか。

 

「どうした? 来ないのか?」

「いや……その……」

 

 俺の目の前で剣を構えている暑苦しい見た目の教師だが、明らかに俺よりも弱い。

 やっちゃっていいのだろうか。

 

「……? いつでも来て構わんぞ」

 

 もうこの時点で結果が見えていたが、手を抜くのも俺のなけなしのプライドが認めないので、やっちゃう事にする。

 

 教師に向かって斬りかかる。

 俺の五千を超える速度のステータスは、アホみたいな速度を叩き出し、教師の動体視力を完全に超えた。

 俺の速度に教師は全く反応できていない。

 俺は力を抜き、手加減して教師の持つ模擬剣を叩きつけた。

 

 結果、教師の模擬剣は吹き飛び、俺の剣が教師に突きつけられた。

 

『……』

 

 全員俺の動きは見えていなかったようで、壊れた模擬剣を見て絶句していた。

 

 その日から俺は剣術の授業もハブられるようになった。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで大抵の生徒は俺に近づかなくなった。

 

 だが一人、俺に凄まじい敵意を向けてくる人間がいる。

 

 シュンの妹のスーレシアだ。

 

「あの男のせいでお兄様が低く見られてる……許せない……けどあの男は殺せない……どうすれば……」

 

 なんて物騒な事を呟いているのをよく聞く。

 

 スーは兄様至上主義の超ブラコンで、ヤンデレ属性も持っているハイブリッドだ。

 スーはシュンの偉大さ(笑)を学園に知らしめたかったんだろうが、俺が図らずもその邪魔をした。

 

 シュンはすごく優秀な成績を出してはいるのだが、俺が授業でバケモノっぷりを見せた結果存在感が霞んでいるため、俺の方がシュンより目立っている。

 

 こんな目立ち方をしても悲しいが、スーはそれが気に入らないらしい。

 

 ただ、俺はシュンやスーよりも遥かに強いため、 実力行使に移るなんてとても出来ず、それがさらにストレスを溜める要因になっているのだろう。

 

 後日、それを見かねたシュンが話しかけてきた。

 

「その、なんだ、スーが迷惑かけて悪いな」

「いや、いいさ。あれくらい可愛いもんだ」

 

 俺がそう答えると、シュンは少し驚いた後、何かを決意したような顔をした。

 

「夏目。俺は正直、前のお前が苦手だった」

「……そうか」

「でも、その、今のお前はそんなに嫌いじゃない」

 

 シュンの真っ直ぐな言葉は、ひねくれた俺には少し眩しかった。

 

 俺には、そんなことを言われる資格は無いのに。

 

 けれど、俺の口は、気がつくと言葉を紡いでいた。

 

「……俺も、お前のことはそんなに嫌いじゃない」

 

 俺はそう言うと、シュンは俺に笑顔を向けて、「ありがとう」と言った。

 

 あぁ、心が痛い。



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11 学園編なのに学園に通わない

 ユーナのスキルに呪怨を追加しました。


 光を纏った剣がこちらに向けて振るわれる。

 

 その速度はかなりのもので、並みの人間では避けるどころか受け止めることすら困難だろう。

 

 だがそれは、一般的な人族基準での話。

 思考超加速を発動させている俺の目は、近づいて来る刃をはっきりと捉えていた。

 

 俺は剣に闇を纏わせて斬撃を受け流し、返す刃で相手……シュンを吹き飛ばした。

 

「がっ……!」

 

 シュンはアニメのように盛大に飛び、建物の壁に叩きつけられた。

 

 骨が何本か折れたようで、顔を歪ませて攻撃を受けた部分を手で押さえている。

 

「まだやるか?」

「っ……もちろん!」

 

 シュンは治癒魔法で傷を治すと、再び剣に光を纏い直し、こちらに向かって駆け出した。

 

 

 

 

 

 学園生活は順調と言えば順調だった。

 

 残念ながら、授業で得るものは特に無く、授業中はずっとスキルを鍛えていた。

 原作では、ユーゴー()が山田……シュンを襲撃して、岡ちゃんにスキルを消去されるというイベントがあった課外活動も、特に何事も無く終わってしまった。

 

 人との交流もほとんど無く、シュンと少し話したり、模擬戦をする以外には特にやることが無く、ずっと鍛え続けるだけの灰色の青春だった。

 

 大島……カティアは俺を警戒しているし、岡ちゃんに関しては俺の方が彼女を避けている。

 転生して神言教にはまり、シュンやカティアに布教活動を続けている長谷部……ユーリでさえ、俺を恐れて近づいてこない。

 

 健吾と■■(俺の前世)の学校生活はもっと青春していたと思う。

 

 だが、ずっと鍛えていたことで俺のステータスとスキルはさらに伸び、中位龍を倒せるくらいの力はあるだろう。

 

 少し誤算だったのが、俺に触発されたのか、シュンが原作よりも厳しい鍛錬を積むようになった事だ。

 俺もいろいろシュンにアドバイスをしたり、鍛錬や模擬戦に付き合ったりして、本格的に鍛えてみた。

 シュンが俺に勝ったことは終ぞなかったが、体験版蜘蛛ん式トレーニングにより、原作よりも強くなったと思う。

 

 授業でもシュンが俺と組むようになり、完全なボッチからは脱却することができた。

 

 しかし、兄と接する機会が減ったスーは俺への敵意をさらに強くしている。

 

 ……エルフの里にいる腐女子達が見たらどうなるか考えて、少し恐ろしくなった。

 

 

 

 

 

 それと、俺はレベルを上げないようにするために、魔物との戦いは避けていたのだが、ついに基礎ステータス系スキルがカンストした。

 

 これでようやくレベル上げを行うことができる。

 

「というわけで、これからレベル上げに行く。お前も来い」

「わかりました。ごしゅじんさま」

 

 そして俺は、黒い翼を持つ少女(・・・・・・・・)の姿をしたユーナを連れてレベル上げに行くことにした。

 

 暴力と権力を盛大に使った結果、ユーナは闇龍に進化した。

 ステータスとスキルも非常に伸び、そこらの魔物には負けはしないだけの力を得た。

 基礎ステータス系スキルも、カンストはしていないもののかなり高レベルで所持しているため、今回のレベリンクツアーはかなりのパワーアップを見込めるだろう。

 

 ……病み具合もヤバイことになっていて、蜘蛛ん式トレーニングでかなり痛めつけているにも関わらず、すごく俺に甘えてくる。なんかヤンデレに目覚めそうになった。

 

 ちなみにユーナのステータスがこちらだ。

 

『闇龍ユーナ LV4

 ステータス

 HP:4847/4847(緑)+1200

 MP:4542/4542(青)+1200

 SP:4694/4694(黄)

   :4694/4694(赤)+1200

 平均攻撃能力:4513(詳細)

 平均防御能力:4719(詳細)

 平均魔法能力:4279(詳細)

 平均抵抗能力:4730(詳細)

 平均速度能力:4465(詳細)

 スキル

「闇龍LV1」「逆鱗LV8」「堅甲殻LV5」「鋼体LV5」「HP高速回復LV7」「MP高速回復LV2」「MP消費緩和LV9」「魔力感知LV8」「魔力操作LV8」「魔神法LV1」「魔力撃LV6」「魔力付与LV4」「SP高速回復LV5」「SP消費大緩和LV1」「闘神法LV2」「気力撃LV7」「気力付与LV5」「龍結界LV1」「暗黒攻撃LV7」「暗黒強化LV7」「破壊大強化LV1」「斬撃強化LV7」「貫通強化LV4」「打撃強化LV7」「衝撃強化LV5」「飛翔LV7」「空間機動LV3」「集中LV8」「予測LV6」「演算処理LV3」「記憶LV3」「並列思考LV2」「命中LV10」「回避LV10」「確率大補正LV1」「危険感知LV10」「気配感知LV8」「熱感知LV7」「動体感知LV6」「呪怨LV1」「影魔法LV10」「闇魔法LV10」「暗黒魔法LV2」「飽食LV2」「妬心LV2」「破壊大耐性LV2」「斬撃大耐性LV1」「貫通大耐性LV1」「打撃大耐性LV1」「衝撃大耐性LV1」「火耐性LV8」「水耐性LV3」「氷耐性LV2」「風耐性LV3」「土耐性LV3」「雷耐性LV5」「光耐性LV4」「暗黒無効」「重耐性LV7」「状態異常耐性LV8」「酸耐性LV3」「腐蝕耐性LV3」「気絶無効」「恐怖大耐性LV2」「外道耐性LV8」「苦痛無効」「痛覚大軽減LV5」「暗視LV10」「千里眼LV2」「五感大強化LV1」「知覚領域拡張LV2」「神性領域拡張LV1」「天命LV5」「天魔LV4」「天動LV4」「富天LV4」「剛毅LV4」「城塞LV5」「天道LV3」「天守LV5」「韋駄天LV4」

 スキルポイント:0

 称号

「魔物殺し」「悪食」「魔物の殺戮者」「龍」「覇者」』

 

 やってよかった蜘蛛ん式。

 

 俺のステータスと比べると低く見えるが、今の時代の人族の平均的なステータスが千を超えないことを考えると、かなり高い方ではある。

 

 しかし、これでも下位龍の域を出ないし、レベルを上げればまだステータスは伸びる。

 

 俺もユーナも強い方ではあるけれど、俺よりも遥かに超える強さを持っている存在はまだまだいる。

 

 まだだ。まだ足りない。俺はもっと強くならなければならない。

 

 「修行の旅に出ます。探さないでください」という書き置きを残し、長距離転移を発動する。

 

 レベリングを行う目的地は、世界最大の迷宮、エルロー大迷宮だ。



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12 案内人が死んだ! この人でなし!

 エルロー大迷宮の近くに転移でやってきた俺たちは、まずは案内人を雇いに向かった。

 

 エルロー大迷宮は、ダズドルディア大陸とカサナガラ大陸を繋ぐ世界最大の迷宮であり、世界最悪の難易度を誇る人外魔境だ。

 

 主人公(蜘蛛子)の出身地もここであり、難易度ルナティックのサバイバル生活を送ることで凄まじい強さを得た。

 

 実質的な人類の探索可能な範囲である上層、マグマの溢れる灼熱地獄である中層、強力な魔物が跋扈する下層、謎に包まれた最下層の四層から構成されていて、とんでもなく広い。

 

 そんな広いエルロー大迷宮は、案内人の案内が無ければすぐに迷ってしまうだろう。

 

 今回雇うことができた案内人は、ゴイエフという名前の中年の男だ。

 

 そう、原作のS編でちょっと出てきた案内人であり、本編でも出てきた案内人バスガスの息子だ。

 

 最初は、俺たちの子供な見た目に加え、二人という少人数なので危険だという理由から依頼を断ろうとしたが、俺たちのステータスを見せると顔を引きつらせながらも了承してくれた。

 

 さて、世界最大の大迷宮にして、蜘蛛子が育った場所なわけだが、どんな所なのだろうか。

 

 

 

 

 

 エルロー大迷宮の上層は、かなり楽だった。

 

 というのも、魔物が俺たちを恐れて近づいてこない。

 

 ゴイエフさんは、こんなことは今までの仕事で初めてだと言っていた。

 

 道中でほとんど消耗していないので、ルートも最短ルートを選択し、どんどん迷宮を進んでいったが、途中でゴイエフさんが何度も休憩を要求してきた。

 

 ゴイエフさんのステータスは俺たちよりも遥か下なので、いくら迷宮慣れしていても俺たちよりも早く根を上げることになった。

 

 休憩中の見張りに関しても、睡眠無効を持つ俺には睡眠は必要無いので、時間節約のためにもほとんど俺が見張りをすることになった。

 

 睡眠無効のスキルを持っているので睡眠は要らないと言った時には、ゴイエフさんの目が死んでいた。

 

 ちなみに、一度だけ大通路で地竜に遭遇したが、ユーナのパンチ一発で死んだ。

 

 ゴイエフさんは、その頃になると「ユーゴー様達だからしょうがない」という顔をするようになっていた。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで中継地点に着いた。

 

「え、ここ降りるんですか?」

「はい」

「あの、ここは下層(・・)へと続く大穴ですよ?」

 

 俺たちの目の前には、(一般人には)底が見えない大穴(千里眼のスキルを使えば見える)が空いている。

 

 この大穴は最下層まで続いていて、蜘蛛の女王クイーンタラテクトが、産卵期には上層への移動に使用する。

 

 最下層はクイーンタラテクトや古参勢の地龍が棲息している(地龍は魔王アリエルがほとんど殺したが)超危険地帯だ。

 

 そこまで行かなくても、下層の時点でも強力な魔物が棲み、ほとんどの人間にとっては入ったらすぐ死ねる場所だ。

 なので。

 

「はい。下層まで降りましょう」

 

 レベル上げには結構便利な場所だ。

 

 ほら。だから逃げるなゴイエフさん。

 

 

 

 

 

「HAHAHA!!」

「こしゅじんさまのために、しんでください」

「ぎゃああああああ!!」

 

 今俺は、下層の魔物達を相手に無双している。

 

 下層の魔物とはいえ、インフレし始めているステータスを持つ俺の敵では無い。

 

 スキルで強化した剣は魔物を一撃で真っ二つにし、並列意思をフル稼働して放たれる魔法は魔物を消し飛ばしていく。

 

 ユーナも問題無く魔物を虐殺している。

 

 ゴイエフさん?

 格闘ゲーム界には、「死ななきゃ安い(しなやす)」という言葉がある。

 それが全てだ。

 

 多くの魔物は俺たちから逃げ出したが、復讐猿ことアノグラッチや、一部の強い魔物は俺たちに向かってきた。

 

 もちろん全て倒し、逃げ出した魔物も、遠距離攻撃魔法でほとんどを撃ち殺した。

 

 そうして多くの魔物を虐殺している内に、「魔物殺し」「魔物の殺戮者」の称号を手に入れた。

 

 強欲の、ステータス、スキル、スキルポイントの内のどれかの一部を奪う効果もあって、ステータスやスキルポイントがどんどん増加している。

 

「ふはははははははは!! 貧弱!貧弱ゥ! ははははははははは!!」

 

 大蛇の首を切断した後、後ろから飛びかかってくる複数の復讐猿を剣で全て叩き落とす。

 

 足下に転がってきたタニシ虫を踏み潰して、逃げ出した謎生物に呪怨の邪眼を向けてSPを吸い尽くした。

 

 復讐猿が数をさらに増やして来たが、広域魔法で一気に殲滅する。

 

「さあ! 次に行くぞ!」

「もう嫌だぁぁぁぁぁ!」

 

 下層の魔物が少なくなるまで、俺たちは魔物を狩り続けた。

 

 

 

 

 

「思ったより早く魔物がいなくなったな」

 

 蜘蛛子が魔物を狩りまくった影響がまだ残っているのか、魔物の数が思ったより少ない。

 

 これ以上ここで狩りをするのは効率が悪いので、この辺りで下層での狩りは終わりにすることにした。

 

「ようやく……終わっ……」

「よし。中層でも狩りをするか」

「わかりました。ごしゅじんさま」

「えっ」

 

 獲物は中層の魔物を狩ることで埋め合わせにしようと思う。

 

 ゴイエフさんがなんか言っていたが知らん。



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13 ほら、温泉回だぞ、喜べよ

 過去話の誤っていた箇所を修正しました。
 ユーナの名前の旧案(ティア)が混じってた……

 あと、書き溜めが尽きかけてきたので、更新ペースは少し落ちると思います。

 拙作ですが、これからもよろしくお願いします。


 どぱーん

 

「あ゛ーいい湯だなぁ」

「いや、ごしゅじんさま、これはちょっと……」

「……(返事がない。ただの案内人のようだ)」

 

 下層と中層の魔物を絶滅しない程度に狩った後、俺は中層にある()()()()()に入っていた。

 

 状態異常無効のスキルがあるから睡眠は不要だと言っても、精神的な疲労は溜まる。睡眠せずに24時間年中無休で活動できるのはごく一部の化け物だけだ。

 

 そして当然といえば当然だが、疲労回復に一番効率がいいのは休息することだ。

 かくいう俺も、何気に初めてである実戦で疲れていたので、こうして風呂を楽しんでいるというわけだ。

 

 俺が浸かっている風呂は少し温度が高い気がするが、強欲の効果で中層の魔物から()()()()のスキルを手に入れたので火傷はしない。

 

 やっぱり元日本人として、風呂に入るのは好きだ。

 

 ああ、いい湯だなぁ。

 

「……ユーゴー様」

「ん? 復活したのか?」

「いやそのっ、()()()()()()()()()()()()()()!?」

 

 そう、俺は溶岩浴をしている。

 

 溶岩浴と言っても、溶岩でできた石に体を横たえるサウナ風呂の一種ではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 視界に広がる溶岩の海はゴポゴポと煮えたぎり、ドロドロと溶岩が海流のように流れている。

 

 直接溶岩に触れなくても、その熱気は並みの生物を苦しめる。

 もし気温を測定したらとんでもない記録が出るだろう。

 

 そんな溶岩に人族が体を浸けるという行為は、炎熱無効が無かったら焼死体が一つ出来上がるだけだろう。

 

 なんでこんなトチ狂ったことをしているのかと言うと、原作で主人公(蜘蛛子)がやっていた溶岩浴を体験してみたかったからだ。

 

 原作で蜘蛛子は、火耐性を上げるために、溶岩に手(?)を突っ込むという凶行に及んだ。

 明らかに頭がイカれているが、それが蜘蛛子クオリティーだ。

 

 けどまあ、炎熱無効を取得した後じゃあ「ドロドロして動きづらい」くらいの感想しか浮かばない。

 かと言って、炎熱無効のスキルをオフにしたら死ぬ。

 

 まったく、ままならないもんだ。

 

「ゴイエフさんも入るか? 火耐性上がるぞ?」

「いや入りませんよ!」

 

 ゴイエフさんは入らないらしい。

 少し残念だ。

 

 ちなみにユーナは、溶岩にちょっと手を浸けて、その後すぐに手を引っ込めて、手に息を吹きかけるというのを繰り返している。

 

 ……ちょっとかわいいと思ったのは秘密だ。

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

 しばらくの間のんびりして過ごし、疲労もだいぶ取れたので、そろそろ風呂から上がろうかと思い、ユーナを呼ぼうとしたのだが、ユーナが何かを抱えていることに気づいた。

 

 俺は切っていた各種スキルを発動し、探知で抱えているものが何かを調べたのだが……火竜だった。

 

「はい?」

 

『エルローゲネラッシュ LV1

 ステータス

 HP:132/132(緑)

 MP:106/106(青)

 SP:128/128(黄)

   :125/128(赤)

 平均攻撃能力:70

 平均防御能力:70

 平均魔法能力:68

 平均抵抗能力:67

 平均速度能力:73

 スキル

「火竜LV1」「命中LV1」「遊泳LV1」「炎熱無効」』

 

 手足の生えたタツノオトシゴのような姿。

 下位の竜種であり、この中層の狩りで多く仕留めた魔物の一種だ。

 

 生まれたてなのか、レベルが1のそれをユーナは抱えて俺の方に連れてきたようだが、なぜそんなことになっているのかわからない。

 

 なぁユーナさん。それはなんだい?

 

「ちょうどたまごからうまれたのをみつけたので、つれてきました!」

 

 うん、こんなに「褒めて褒めて」オーラを出されると叱りづらいな。

 

 ここまで連れてきたということは、こいつと契約しろということだろうか。

 

 まあ、ユーナがわざわざ連れてきたこいつを殺すのも何だし、契約してもいいか。

 

「ユーク、お前の名前はユークだ」

 

 こうして俺に新しくペットが増えた。

 

 契約を結び、命名されたその火竜……ユークは、まだ状況がよくわかっていないのか、つぶらな瞳をこちらに向けていて、表情も心なしかきょとんとしているように見える。

 

 鑑定でもあまり頭が良くないと説明されていたが、何も知らない赤子を騙しているようで……いや実際その通りなのだが、ちょっと複雑な気分になった。

 

 ……けどまあ、それはユーナの時も同じだし、いまさらだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()と思っていたし、ユークの存在は俺にとっては都合がいい。

 

 俺はもう止まれないし、止まるつもりもないのだから。

 

「ごしゅじんさま?」

 

 首を傾げるユーナになんでもないと答え、風呂を上がる。

 

 もう休息は十分だ。

 レベリングを再開しよう。



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14 ドキッ! 水竜だらけの水着回!

 ざっぱーん

 

「海だー!」

「う、うみだー!」

 

 縦穴を空間機動で登り、エルロー大迷宮から脱出した俺たちは今、海が一望できる浜辺に来ていた。

 

 ゴイエフさんとはすでに別れている。

 面と向かって言っては来なかったが、「もう二度と案内したくない」と顔に書いてあった気がする。

 

 それから俺とユーナ、それとユークは、近くの街で消費した物資を購入し、空間魔法で亜空間に収納した後、山を一つ越えた場所にある海辺に訪れた。

 

 波が引いては押し寄せて、波の音が静かに響いている。

 潮風が少しべたつくが、そんな不快感も海らしくていいと思う。

 

 海に来たのは、転生してから何気に始めてなので、少し懐かしい感じがする。

 

「これがうみ、ですか……」

 

 ユーナも初めて見る海に何か思うことがあるのか、水平線を眺めている。

 

 ちなみに、海ということで、俺もユーナも水着を着用している。

 

 俺はいたって普通の黒のショートパンツ。

 

 そしてユーナは、黒のワンピースタイプの水着で、フリルがついた可愛らしいものだ。

 

 街で水着を買いに行った時に、ユーナを見て、妙にテンションが高くなった店員に勧められたもので、店員が勧めたものだけあって人化したユーナによく似合っている。

 

 濡れた水着が張り付いているユーナの白い肌からは、そこはかとない色気が滲み出していて、元々ユーナが持ち合わせていた可愛らしさと、ユーナの持つ黒い翼から感じる神秘的な雰囲気も合わさって、アンバランスな魅力を醸し出している。

 

 俺はそんなユーナに少しだけ見とれていて、正気に戻るまでに暫しの時間を要することになった。

 

 

 

 

 

 俺とユーナはしばらく浜辺で遊んでいたが、いつまでも遊んでいるわけにはいかないので、そろそろ本来の目的を果たすことにする。

 

「ユーナ、ちょっと沖まで行くぞ」

「?……わかりました」

 

 俺は空間機動、ユーナは人化を解除し、飛翔のスキルを使って浜辺から離れ、空を飛んで沖まで向かう。

 

 景色が高速で後ろに流れて行く様子は、前世で乗った飛行機を思い出す。

 だが俺は生身であり、潮風が体に叩きつけられ、太陽の光が肌に直接照りつける。

 視界は開けていて、どこまでも広がる大海原の景色は、かつて窓から見たのとは迫力が段違いだ。

 

 とてもこの星が滅びかけとは思えない。

 

 そして陸地がかなり小さくなるまで陸から離れた時、突如海面からビームが飛んで来た。

 

「うぉっ!」

「!!」

 

 俺もユーナもそれを避ける事ができたが、追い討ちをかけるように少し弱めのビームが何十発も飛んで来た。

 

 この世界では航海技術は発達していない。

 その理由がこれで、海を渡ろうとしたものはビーム……水龍や水竜のブレスで撃墜されてしまう。

 だからダズドルディア大陸とカサナガラ大陸を渡る手段は、事実上、空間転移と、エルロー大迷宮を通ることしか存在しないのだ。

 

 そんなこの世界の海は危険地帯なわけだが、だからこそレベル上げには都合がいい。

 

 海を突破するのは普通の人間には不可能だが、俺や一部の強者なら突破できないこともない。

 ユーナはかなりギリギリだが、俺はブレス攻撃をそれなりに余裕を持って避けることができている。

 

 水龍や水竜は膨大な数の個体が生息しているため、絶滅の心配をする必要はしなくていいだろう。

 

 暗黒魔法を発動、並列意思を総動員して構築された何十発もの暗黒の槍が、空中から水面に向かって飛翔し、海中にいる水龍と水竜たちの体に突き刺さった。

 

 光属性の魔法や闇属性の魔法は、水中でも威力が減衰しない。

 水中では剣も思うように振れないため、これらの魔法が水中戦では重宝される。

 

 ついに一万を超えた魔力系ステータスを持つ俺の放った魔法によって、ほとんどの水竜が今の攻撃で死んだが、致命傷にならなかったのか、水龍はしぶとく生き残った。

 

 だが、生き残りを確認した俺は再び暗黒の槍を展開、弱った水龍に向けて発射する。

 

 水龍はそれを避けられず、俺の魔法はその命を散らせたのだった。

 

《経験値が一定に達しました。個体、ユーゴー・バン・レングザントがLVーーからLVーーになりました》

《各種基礎能力値が上昇しました》

《スキル熟練度レベルアップボーナスを取得しました》

 

 ……

 

《条件を満たしました。称号『龍殺し』を獲得しました》

《称号『龍殺し』の効果により、スキル『天命LV1』『龍力LV1』を獲得しました》

《『天命LV1』が『天命LV10』に統合されました》

 

 

 

 

 

 今回の戦闘でたくさんの経験値を手に入れ、レベルが上昇したのに加えて、新たに龍殺しの称号を獲得した。

 

 龍殺しの称号の効果で手に入る龍力のスキルは、ステータスの上昇、魔法の阻害、ブレスを撃てるようになるなど、かなり強力なスキルであり、この称号とスキルを獲得するのが今回海に来た一番大きな理由だ。

 

 このスキルは普段から使って鍛えるようにするつもりだ。

 

 こうして目的を果たした俺は、水龍の死骸を回収し、次の場所を目指して転移したのだった。



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15 クッコロさんだ〜いすき

 やっと投稿できました……期末テストつらい……


「くっ……殺せ!」

 

 俺たちの前には、テンプレなセリフを吐いたエルフの美女がいる。

 

 俺たちは修行のために各地の魔境を巡っているのだが、移動はだいたい徒歩だ。

 俺やユーリほどのステータスになるともう馬車とかを使うよりも走った方が速い。

 

 そんなこんなで俺たちは街から街を走って移動し、街では必要なものを買い、魔物などの情報を収集し、強力な魔物が近くにいたら倒しつつ、目的地を目指していたのだが、ある日、道中でエルフの襲撃を受けた。

 

 俺たちはだいたいを外で狩りをして過ごしているし、移動速度もとても速いが、街には立ち寄るし、特にユーリとユークはとても目立つ。

 だから俺たちの居場所がポティマスにバレ、俺を始末するために部隊を送り込んで来たのだろう。

 

 けどまあ、俺のステータスは人族にあるまじきレベルのインフレを起こし、この修行の旅でさらにインフレが加速している。

 ユーナも龍であり、並みのエルフには遅れを取らない。

 

 そうして俺たちはエルフの部隊を殲滅し、情報を確認するために捕らえたのがこの美女だ。

 

 エルフは寿命が長く、成長が遅い種族であるため、体が未熟なうちは物理系ステータスが伸びづらく、能力が肉体の成長に依存しない魔法に偏り易い傾向がある。

 だが、彼女は鎧を身につけ、剣を腰に刷いている。

 

 そう、彼女はエルフのくっ殺女騎士なのだ!

 

「わかりました。しんでください」

「待て」

 

 俺がエルフのくっ殺女騎士の存在に興奮していたら、ユーリが彼女の言うことを真に受けて殺そうとした。

 

「ユーリ。くっ殺さんは殺しちゃダメだ」

「は? クッコロさん……?」

「……なんでですか?」

 

 俺にくっ殺さんを普通に殺すつもりはない。それがくっ殺さんに対しての普通の対応だ。

 しかし、当然といえば当然だが、ユーナはくっ殺のなんたるかについて理解していなかった。

 なので、なぜくっ殺さんは殺してはいけないのかを教えなければならない。

 

「『くっ……殺せ!』なんてことを言う美女がいたら殺さずに陵辱するのがお約束なの。芸人の言う『絶対に押すなよ!』が『押せ!』と言う意味なのと似たようなもので、そのまま殺しちゃダメなの」

「え?」

「でも、えるふはみなごろしっていったのはごしゅじんさまじゃないですか」

 

 たしかにそう言った、エルフを生かしておくメリットも、エルフを殺すことへの忌避感も正直ない。

 

 エルフは元々ポティマスのクローンとその子孫であり、ほとんどのエルフはエルフ以外の種族やハーフのことを見下している。

 

 エルフたちは表向き真の世界平和なんて胡散臭いスローガンを掲げているのだが、それは裏の顔を隠すためのカモフラージュであり、裏では星のエネルギーを搾取し、SFじみた科学技術を持っている、世界の敵とも言える存在だ。

 

 今頃は蜘蛛子と魔王がエルフを滅ぼす準備を進めているし、俺もそれに積極的に加担するつもりだ。

 

 エルフはそんなテンプレファンタジーとは掛け離れた害悪であり、ユーナには皆殺しにするように言ったのだが……くっ殺さんは別だ。

 

「いやそうだけどね、ファンタジー異世界のテンプレというか……ともかく、くっ殺さんをそのまま殺すのはダメ。このエルフを殺すのは※自主規制※や※自主規制※とかして※自主規制※にしてからにすること。わかったか?」

「…………はい」

「おい待て貴様」

 

 俺はユーナにくっ殺について教えていたのだが、それを聞いたくっ殺エルフの顔が、さっきまでの覚悟完了した様子が嘘のように困惑と恐怖に染まっていた。

 

「いや、その、私が言ったのはそういう意味じゃなくてだな……その、普通に殺してくださいお願いします」

「え? 嫌だけど」

「( ゚д゚)」

 

 エルフが逆命乞いをしてきたが断る。エルフに人権はない。

 

 ここに都合よくオークとかがいたらよかったんだけど、この世界にオークはいないし、ゴブリンは普通のラノベと違って修羅気質のいい奴らだ。

 

 だから俺がくっ殺さんにあんなことやこんなこと(意味深)をするのは仕方ないことなんだよ(ゲス顔)。

 

 ふーっふっふ、ふっはっはっはっはっ、ふぁーっはっはっはっ……

 

「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「どぅわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 心の中で三段笑いを浮かべていた俺は、横合いから突如飛んできた闇に飲み込まれた。

 

 闇には高い耐性を持っているはずなのだが、まるで()()()()()()()()()()()()()()()大ダメージを受け、気を抜いていた俺はそのまま気絶したのだった。

 

 

 

 

 

「ん?」

 

 目が覚めると、そこは更地だった。

 

 はて、俺はくっ殺さんを見つけて興奮していははずなのだが……

 

「ごしゅじんさま、おきましたか?」

「あ、ああ」

 

 目覚めた俺にユーナが挨拶をしてきたのだが……何故かユーナから不穏な雰囲気を感じる。

 

 少し怖いが、どうやら起きていたらしいユーナに話を聞くことにする。

 

「なあユーナ、俺はエルフのくっ殺女騎士を捕らえてい……」

「そんなものさいしょからいませんよ?」

 

 あれ、なんで震えが止まらないんだ?

 

「え? いや、たしかに……」

「いませんよ?」

「ん?」

「いませんよ?」

 

 ……うん! 最初からくっ殺さんなんていなかったみたいだな!

 

 まさかの夢オチとは、俺も疲れているのかな?

 

 まぁいいや、早く次の目的地に向かおう。




 スキル「妬心」
 効果:スキルを封印する。


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16 俺はようやくのぼりはじめたばかりだからな このはてしなく遠いかませ坂をよ…

 打ち切りません。


 殺した。

 

 初めて殺してからしばらくはどこか高揚していた。

 

 殺して殺した。

 

 たくさん殺してからふと我に返ったが、それでも止まるつもりは無かった。

 

 殺して殺して殺した。

 

 大迷宮の魔物を大方殺した後は、迷宮の外に出て、各地の迷宮や魔境を巡った。

 

 殺して殺して殺して殺した。

 

 世界中を巡る中、盗賊の類を殺す機会もあったが、その時にはもうほとんど殺しに躊躇いが無くなっていた。

 

 殺して殺して殺して殺して殺した。

 

 俺を危険視したエルフが刺客を送り込んできたが、俺は積極的にエルフを殺していった。

 

 殺して殺して殺して殺して殺して殺した。

 

 そして膨大な数の屍を積み上げることで、以前とは比べられないくらい強くなり、ふと思った。

 

 俺は、ここまでしてまでも強くなりたいのか?

 

 

 

 

 

「あー、夢か」

 

 レベル上げの旅を終え、学園に帰ってきたのだが、夢見があまり良くなかった。

 

 自覚はあまり無かったが、平和な学園に戻り、穏やかな空気に触れたせいで、ちょっとセンチな気分になっていたらしい。

 

 久々の本格的な休息で、体の調子は良くなったのだが、もう少し休んでいたい気分だった。

 

 俺もそろそろ十五歳になり、前世も合わせれば三十歳ほどにはなるのだが、あまり精神が成長した気はしない。

 主人公(蜘蛛子)のようなオリハルコンメンタルからは程遠い豆腐メンタルだ。

 

「にしても強くなったなぁ……」

 

 心はあまり成長していないけれど、常軌を逸した殺戮の結果、SAN値が大分削れたが、レベルとステータスは何倍にも膨れ上がった。

 

 これが今の俺のステータスだ。

 

『人族 LV92 名前 ユーゴー・バン・レングザント

 ステータス

 HP:37947/37947(緑)+2000

 MP:38635/38635(青)+2000

 SP:36308/36308(黄)

   :36308/36308(赤)+2000

 平均攻撃能力:34014(詳細)

 平均防御能力:28942(詳細)

 平均魔法能力:33606(詳細)

 平均抵抗能力:32281(詳細)

 平均速度能力:31550(詳細)

 スキル

「HP超速回復LV2」「MP高速回復LV10」「MP消費大緩和LV8」「魔力精密操作LV8」「魔神法LV10」「魔力付与LV10」「大魔力撃LV10」「SP高速回復LV10」「SP消費大緩和LV7」「闘神法LV10」「気力付与LV10」「大気力撃LV10」「神龍力LV3」「神龍結界LV1」「剣の英雄LV4」「体術の英雄LV1」「破壊大強化LV6」「打撃大強化LV2」「斬撃大強化LV5」「貫通大強化LV3」「衝撃大強化LV1」「火炎強化LV10」「水強化LV2」「氷強化LV1」「風強化LV3」「土強化LV3」「雷光強化LV2」「聖光強化LV1」「暗黒強化LV10」「状態異常強化LV3」「火炎攻撃LV10」「水攻撃LV3」「氷攻撃LV2」「風攻撃LV4」「土攻撃LV3」「雷攻撃LV8」「光攻撃LV8」「暗黒攻撃LV10」「毒攻撃LV3」「麻痺攻撃LV5」「腐食攻撃LV10」「外道攻撃LV4」「毒合成LV2」「念力LV10」「投擲LV10」「射出LV10」「高速遊泳LV3」「空間機動LV10」「連携LV3」「統率LV5」「召喚LV4」「集中LV10」「思考超加速LV5」「未来視LV4」「高速演算LV10」「記録LV10」「並列意思LV8」「命中LV10」「回避LV10」「確率大補正LV5」「隠密LV10」「隠蔽LV10」「無音LV10」「無臭LV10」「帝王」「鑑定LV10」「探知LV10」「断罪」「征服」「退廃」「自失」「外道魔法LV10」「火魔法LV10」「火炎魔法LV10」「獄炎魔法LV8」「水魔法LV4」「氷魔法LV3」「風魔法LV10」「暴風魔法LV1」「土魔法LV10」「大地魔法LV1」「雷魔法LV10」「雷光魔法LV3」「光魔法LV10」「聖光魔法LV2」「影魔法LV10」「闇魔法LV10」「暗黒魔法LV10」「重魔法LV10」「治療魔法LV10」「空間魔法LV10」「次元魔法LV7」「深淵魔法LV1」「勇者LV1」「大魔王LV1」「忍耐」「怒LV5」「飽食LV10」「強欲」「怠惰」「色欲」「物理大耐性LV2」「炎熱無効」「水流無効」「氷耐性LV3」「風耐性LV8」「土耐性LV8」「雷光耐性LV1」「聖光耐性LV1」「暗黒耐性LV7」「重大耐性LV4」「状態異常無効」「強酸耐性LV1」「腐食大耐性LV1」「気絶無効」「恐怖無効」「外道無効」「苦痛無効」「痛覚無効」「暗視LV10」「万里眼LV2」「呪怨の邪眼LV5」「静止の邪眼LV2」「石化の邪眼LV6」「火炎の邪眼LV5」「水の邪眼LV2」「氷の邪眼LV2」「風の邪眼LV3」「地の邪眼LV3」「雷の邪眼LV7」「光の邪眼LV6」「暗黒の邪眼LV1」「引斥の邪眼LV4」「死滅の邪眼LV5」「不快の邪眼LV2」「幻痛の邪眼LV2」「狂気の邪眼LV3」「魅了の邪眼LV5」「催眠の邪眼LV3」「恐怖の邪眼LV2」「破魂の邪眼LV1」「自失の邪眼LV1」「五感大強化LV10」「知覚領域拡張LV10」「神性領域拡張LV6」「天命LV10」「天魔LV10」「天動LV10」「富天LV10」「剛毅LV10」「城塞LV10」「天道LV10」「天守LV10」「韋駄天LV10」「命名LV10」「禁忌LV8」「n%I=W」

 スキルポイント:1574

称号

「忍耐の支配者」「強欲の支配者」「怠惰の支配者」「悪食」「無慈悲」「恐怖を齎す者」「魔物殺し」「竜殺し」「魔物の殺戮者」「暗殺者」「龍殺し」「魔物の天災」「人族殺し」「人族の殺戮者」「妖精殺し」「魔族殺し」「色欲の支配者」「竜の殺戮者」「竜の天災」「龍の殺戮者」「覇者」』

 

 レベルは1から92に上昇し、レベルアップ時のステータス上昇に補正がかかる基礎ステータス系スキルの効果に加え、殺した相手のステータスの一部を奪う強欲のスキルの効果も合わさって、ステータスがインフレを起こしている。

 

 自分で言うのもなんだが、ちょっと桁がおかしい。

 人族の希望である今代の勇者ユリウスのステータスでさえ数千程度であり、ステータスが数万に達している俺は紛れもなく人族最強だ。

 

 今の俺なら上位龍やクイーンタラテクトなどの神話級の魔物でさえ討伐できるだろう。

 

 それでも主人公(蜘蛛子)や魔王アリエルには届かないのだから、この世界はやっぱり修羅っている。

 

 そう、これでもまだ足りない。99999(カンスト)には未だ届かず、システムを超えた存在には太刀打ちできない。

 

 俺はもっと強くなりたい。

 だから俺はまだ止まれない。

 

「待っていろ、すぐにそこまでたどり着く!」

 

 届かないのかもしれないけれど、空の星へと手を伸ばし続ける。

 

 俺は、かませ犬にはなりたくない。

 

 

 

 

 

**********

 

 

 

 

 

 あの蜘蛛以外にも、私のところにたどり着くかもしれない存在が現れるとは。

 やはりあの混ざった魂が良かったのかもしれませんね。

 今度なにかご褒美でもあげましょうか。

 あなたは私を楽しませてくれるんでしょうか?

 このあと世界をどう変えていくんでしょうか?

 そして、あの蜘蛛とどう関わっていくんでしょうか?

 楽しみが増えました。



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17 かませ犬は挫けない

「ユーゴー!?」

「ユーゴー!」

 

 学園に戻り、久しぶりにシュン、カティアと顔を合わせたら、とても驚いていた。

 

「ああ。つい昨日帰ってきた」

「一体どこに行ってたんだよ!」

「いや、ちょっと修行にな」

「修行って……」

「おいおい……」

 

 今まで何をしていたのかを聞かれたので、素直に修行していたと答えたら、なんか微妙な顔をしていた。

 

 なんか釈然としないので、いったい何がおかしいんだと言ったら、「あれ以上強くなって一体何と戦うつもりなんだ」みたいなニュアンスの言葉が返ってきた。

 

 ……いやまあ、旅に出る前でも十分人族最強だったので、シュン達の視点から考えればちょっと意味がわからないだろう。

 

 でも、主人公(蜘蛛子)や魔王、ラース、ソフィアなどのインフレ勢に、SFな兵器を持つポティマスのことを考えると、修行前の強さじゃ足りなかっただろうし、今の強さでもまだ不安なくらいだ。

 

「……」

「ん? どうしたんだ?」

 

 そんなことを考えていたら、カティアが難しい顔をして黙り込んでいた。

 

 シュンはそれに不思議そうな顔をしていたが、俺はその理由に見当がついた。

 

「……シュン、最近魔族の動きが活発化しているのは知っているな?」

「ん? ああ。ユリウス兄様や先生とも、ここ最近会ってないな」

「もしかしたら、魔族と戦争になるかもしれない」

「戦争って……」

「杞憂かもしれないが、もしもの時のためにも、強さはあるに越したことはない」

「いや」

 

 俺は二人の会話に口を挟んだ。

 

「俺も旅をしながら情報を集めていたが……ほぼ間違いなく戦争になる」

「なっ!?」

 

 これは本当だ。

 原作知識で戦争になることは知っていたが、それが正しいか確かめるのも兼ねて情報を集めてもいた。

 

「今代の魔王は好戦的で、しかもとんでもなく強いらしい。準備を終え次第、こちらに攻め込んでくるだろうな」

「そんな……」

「ってことは……」

「ああ……人魔大戦が、始まる」

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 シュン達との会話を終えた後、俺は自室でため息をついていた。

 

 考えるのは人魔大戦のこと。

 俺はとても悩んでいた。

 

 これから始まる人魔大戦は、とても大きな()()()()()のチャンスだ。

 

 なぜなら、()()()()()()()()()()()

 同じくらいの強さの魔物を狩るよりもはるかに多い経験値が手に入る。

 

 けれど、戦争に参加しただけの人間を殺すのは、盗賊や、襲ってきた魔族、絶滅させる予定のエルフを殺すのとは訳が違う。

 

 この殺しに大義は一切ない。

 星を再生させるためのエネルギーが云々と理由をつけることはできなくもないが、殺すのは経験値が欲しいという俺の勝手な都合だ。

 

 さらに、盗賊のような小さな集団を殺すのとは規模が違う。

 万単位の数の人間を虐殺、それも直接殺害した人間は、地球の歴史を探してもいないだろう。

 そのことを考えたら、俺の心はブレーキをかけてしまう。

 

 けれど、これを逃せばおそらく俺は()()()()

 そして無様に死ぬだろう。

 

 ギチギチと心が擦れる音が聞こえる。

 

 殺せという俺と、殺したくないという俺が、心をぐちゃぐちゃにかき回す。

 

「俺は結局、どうしたいんだろうかね……」

 

 口から漏れただけのその独り言は、答えを期待している訳ではなかったが、答えが帰ってきた気がした。

 

『汝のしたいように為すがいい』

 

 原作で主人公(蜘蛛子)が管理者ギュリエディストディエスに伝えた言葉だ。

 

 ふと思い浮かんだその言葉は、俺の胸にすとんと落ちた。

 

「……そうか」

 

 一度死んで、なにもかも失った。

 

 二人が一つになって、心すらも前とは変わってしまった。

 

 自分がかませ犬だと知って絶望した。

 

 プライドは砕け散り、みっともなく死ぬのが怖かった。

 

 だからこそ、自由で、奔放で、誇り高く生きようとする主人公(蜘蛛子)に憧れた。

 

 俺が強さを求めたのは死にたくないからだ……()()()()()()()()

 

 いやまあ、それも全くないわけではないけれど、ただ死にたくないだけなら、原作にも極力関わらず、ひっそりと静かに暮らすという選択肢もあった。

 戦うのは死のリスクが付き纏うし、システムが崩壊した場合、多くスキルを持っている人間はスキルを剥がされたショックで死ぬことを考えると、スキルを鍛えるのはむしろ逆効果だ。

 

 それでも俺が強さを求めたのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

《熟練度が一定に達しました。スキル『矜持LV1』を獲得しました》

 

 誇りを失ったからこそ、誇りを求めた。

 

 誇り高く生きる在り方に憧れた。

 

 そして新たに芽生えた誇りが、俺を突き動かした。

 

《熟練度が一定に達しました。スキル『矜持LV1』が『矜持LV2』になりました》

 

 人殺しは悪? ()()()

 

 多くの命を奪ってでも、俺は目的を全うする。

 

 俺は殺す。俺自身の願いのために!

 

《熟練度が一定に達しました。スキル『矜持LV2』が『矜持LV3』になりました》

 

 ああ、その通りだ主人公(蜘蛛子)

 

 俺は俺のしたいようにする。

 

 蜘蛛子(おまえ)のように、自由に、傲慢に、誇り高く!

 

《熟練度が一定に達しました。スキル『矜持LV3』が『矜持LV4』になりました》

 

「俺は止まらない!」

 

《熟練度が一定に達しました。スキル『矜持LV4』が『矜持LV5』になりました》

 

「もう二度と、かませ犬と呼ばせはしない!」

 

《熟練度が一定に達しました。スキル『矜持LV5』が『矜持LV10』になりました。残りスキルポイント324です》

《熟練度が一定に達しました。スキル『矜持LV10』がスキル『傲慢』に進化しました》

 

《熟練度が一定に達しました。スキル『禁忌LV8』が『禁忌LV10』になりました》

 

《条件を満たしました。称号『傲慢の支配者』を獲得しました》

《称号『傲慢の支配者』の効果により、スキル『深淵魔法LV10』『奈落』を獲得しました》

《『深淵魔法LV1』が『深淵魔法LV10』に統合されました》

 

《条件を満たしました。禁忌の効果を発動します。インストール中です》

《インストールが完了しました》



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18 焼き払えよりも薙ぎ払えの方が有名だという謎

ーー贖え。

 

ーー贖え。

 

ーー贖え。

 

()()()()()()

 

 襲いかかってくる吐き気や、湧き上がってくる悪寒を精神力でねじ伏せる。

 

 それでも、不快感が消えることはない。

 邪神が禁忌に仕込んだ悪意は、俺の精神を蝕んでいる。

 

「禁忌のこと忘れてた……」

 

 傲慢のスキルを取れば、禁忌のスキルがカンストするのは予想できたはずだが、ぶっちゃけ禁忌の存在そのものを忘れていた。

 

 おかげでインストールされたショックで気絶してしまい、起きたら次の日になっていた。

 

 朝っぱらからこんな不快な思いをすることになって、ちょっと今の俺は機嫌が悪い。

 

「チッ……」

 

 舌打ちをした後、視界の隅に浮かぶ、禁忌と書かれた文字を意識すると、不快感が膨れ上がると同時に、禁忌の項目が表示された。

 

『禁忌メニュー

 システム概要

 システム各項目詳細説明

 アップデート履歴

 ポイント一覧

 転生履歴

 特殊項目n%I=W』

 

「うえっ!」

 

 あまりの気持ち悪さにリバースしそうになるが、なんとかこらえることに成功した。

 

 こんなSAN値が削られるような精神攻撃を四六時中味わっていたら、そりゃ主人公(蜘蛛子)もキレるだろう。

 というか俺もキレそうだ。

 

 禁忌。

 それは情報の開示。

 

 かつて、この星では地球よりも少し進んだくらいの文明が栄えていて、龍という生物が住んでいた。

 

 そして人類は、新たに発見した、MAエネルギーという未知のエネルギーを使い始めたが、MAエネルギーの正体は星の生命力であり、使えば星の寿命を縮めるものだった。

 

 龍は、星の寿命を縮める人類を淘汰しようとしたが、その人類を守ったのが女神サリエルだった。

 

 だが龍はこの星から去り、エネルギーを搾り取られたこの星は、崩壊の危機に瀕することになった。

 

 そして人類は、人類を守った女神サリエルを生贄にすることでこの星を再生させようとした。

 

 それに激怒した管理者ギュリエディストディエスは、サリエルとこの星を救うために、戦うことで魂のエネルギーを増やし、死んだらそのエネルギーを回収し、そして同じこの星に転生させるというシステムを稼働させた。

 

 それが禁忌に説明される歴史だ。

 

 だいたいポティマスのせいだとか、龍がMAエネルギーを持ち逃げしただとか、システムを作ったのはDだとか、ところどころ意図的に削除された情報があるし、文字には見た人間の罪悪感を煽る精神攻撃の効果もあるが、禁忌の大まかな内容は、ある男が抹消した過去の歴史と、システムについての説明に加え、今までどのように生きてきたのかを強制的に見せられる。

 

 けど正直、地球生まれの俺には他人事だ。

 

 この星に崩壊してほしいとか、この星の人類に滅んでほしいとか、女神サリエルに死んでほしいとまでは思っていないが、罪悪感なんて当然無いし、システムは俺自身のために利用するだけだ。

 

 だが、まるでそれを非難するかのような思念(こえ)が聞こえてくる。

 

ーー贖え。

 

「ん?」

 

 贖罪を求める管理者ギュリエディストディエスの思念(こえ)を聞かされていると、ふと思った。

 

「……そういえばこのギュリエディストディエスの声って、カンペ読みながら言ってたんだよな」

 

 あのヘタレ龍はこんなに禍々しくはない。

 この悪意の元凶は、システムを作り、提供したDだ。

 

 そう思うと、どこかこの声が滑稽に思えてきた。

 溢れる不快感も、どこか楽になった気がする。

 

「うん、そうだ」

 

 禁忌がカンストしようと、俺のやることは変わらない。

 知っていたことを確認できただけだ。

 

 人類を救うためでも、世界を救うためでも、女神を救うためでもなく、俺は俺のために行動する。

 

「じゃあ、戦争に乱入しようか」

 

 

 

 

 

 人魔大戦の主戦場の一つであるクソリオン砦。

 人族領と魔族領を分ける重要拠点であるこの砦の陥落は人族が魔族の攻勢を止められなかったことを意味するため、この砦に配備された兵士は人族のなかでも特に精鋭だ。

 

 それに対する、古参のアーグナー大佐将軍率いる魔族軍第一軍も精鋭であり、この砦に集結している軍勢は、一部を除いた両軍の最高戦力だと言っても過言では無い。

 

 戦況は今はまだ拮抗しているが、砦を攻める戦いでは、攻めるよりも守る方が有利なもの。

 このままでは戦況は人族側に傾くだろう。

 

 俺がユーナとユークを連れてやってきたのは、そんな戦場から少し離れた場所だ。

 

 人族軍と魔族軍のどちらの人間にも俺たちの存在に気づいた様子はない。

 

「それじゃあ、始めようか」

 

 戦場の様子を確認したら、並列意思の一つを割いて、万里眼で()()()()の監視を行いながら、術式の構築を開始した。

 

 

 

 

 

**********

 

 

 

 

 

 死滅の邪眼で勇者を殺害した私は、エルロー大迷宮最下層のその先にある、システムの核である女神の封印地に転移した。

 

 今回の戦争の目的は、エネルギーを確保し、システム崩壊時に生まれる犠牲者を減らすために人族と魔族を間引きし、勇者ユリウスを殺害、勇者システムを解体するのが大まかな理由だった。

 

 だが女神の妨害によって、集まったエネルギーが想定よりも少なくなり、勇者システムの解体に失敗した。

 

「ふざけるな」

 

 怒りに満ちた声が出た。

 

「そんなに人が死ぬのは嫌か? 今みんなが殺し合ってるのは誰のためなのかわかってるくせに?」

 

 こいつは魔王の覚悟を踏みにじった。

 ふざけんなって話だよ。

 

「よく見ておけ」

 

 女神の目の前に魔術で映像を映し出す。

 映し出されたのは、魔族軍第一軍が戦う戦場だ。

 

 私はその戦場に、クイーンタラテクトを一体召喚する。

 

 ……直前に、戦場は核の炎に包まれた。

 

 イヤイヤイヤ!?

 おかしいでしょ!?

 私まだ何もしてないよ!?

 

 なんかいきなり戦場が火の海になって、戦場にいたほとんどの人族と魔族が死んだ。

 

 心なしか女神の目が死んだ魚のようになった気がするが、今のはマジで私は関係ない。

 

 混乱していたら、しぶとく生き残っていた一部の人族と魔族がいた場所が、それぞれ炎と闇のビームで消し飛んだ。

 

 あー、全滅したかー。

 にしても今のビーム、どっかで見たことがあるなーと思ったが、あれ、龍のブレスだ。

 ということは黒の仕業か?

 けどあのヘタレがこんなことを命じるようには思えない。

 

 分体に要請し、この攻撃を放ったと思われる存在を捜索したら、分体の一体が、戦場から少し離れた場所にいた三人の人間を発見した。

 

 その内の二人は案の定人化した龍だったが、残りの一人はどうやら人族のようだった。

 

 だがこいつ、なんかやけにエネルギー量が多い。

 エネルギー量から推定した強さだが、魔王には届かないが、吸血っ子や鬼くんよりも強い。

 おそらくさっき戦場を火の海に変えた魔法を放ったのはこいつだ。

 

 ん? ってあれ夏目くんじゃね?

 え、最近動向がわからなかったけど、マジで何やってんの!?

 

 あ、転移で逃げられた。



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19 ……おや!? ユーゴーのようすが……!

 更新が遅くなりました。
 少し夏の暑さにやられて、体調を崩してしまいました。
 この頃とても暑いので、読者のみなさんも、夏バテや熱中症には気をつけましょう!


 クソリオン砦を更地にした俺たちは、旅をしていた時に作った隠れ家に転移した。

 

 人里離れた場所に作ったこの空間は、近くを高い感知能力を持つ者が通るというかなり運が悪い事態にならなければ見つからないと思う。

 

 かなりの時間をかけて構築した超広域魔法で戦場を更地にした結果だが、俺のレベルは99まで上昇した。あと一つでLV100になる。

 戦争の前は92だったのだが、このレベル帯で7も上がったと言うべきか、傲慢があっても7しか上がらなかったと言うべきか……

 

 まあ、殺したのが精鋭なのもあるのか、強欲のスキルはステータスをかなり伸ばしたので、いい結果だと言えるだろう。

 

 そして生き残りをブレスで消し飛ばしたユーナとユークも、結構レベルが上がっている。

 

 ユーナのレベルは45、ステータスは平均七千まで伸び、火龍に進化したユークのレベルは19、ステータスは平均三千になった。

 

 俺と比べたら低いように見えるが、龍であることを考えるとそれなりのレベルで、スキルも豊富だし、ユークはまだ幼いことを考えたら驚異的だ。

 

 ユーナとユークは強くなった。

 俺の望み通りに。

 

 ……

 

 ……

 

 ……迷っているのか、俺は。

 

「いいですよ」

「え……?」

 

 今更になって躊躇している俺の耳に、ユーナの澄んだ声が聞こえてきた。

 

 だが、いや待て、今ユーナはなんて言った……!?

 

「ご主人様の好きなようにしてください。それが私の幸せです」

 

 そう言う彼女には色欲の気配は無く、瞳には知性の光が宿っていた。

 

 その理性的な言動に違和感を感じ、彼女を鑑定して、愕然とした。

 

 ステータスから魅了の文字が消えている。

 

 想定外の事態に一瞬呆けてしまったが、慌てて召喚スキルのメニューも確認すると、忠誠度のパラメータも0%になっていた。

 

 これが意味するのは、彼女にかけていた洗脳が解けているということだ。

 

 ユークの方も確認したが、ユーナと同じく洗脳が解けている。

 

 俺はユーナとユークが反逆することを覚悟したが、彼女たちは動かなかった。

 

「ご主人様になら、殺されても構いません」

 

 ただ、俺の目を見て、そう言った。

 

 ……俺がユーナを育てたのは、最終的に殺して()()するためだった。

 まさに外道の所業だ。

 

 けれど、情が湧いてしまい、悩んだ。

 俺は彼女に罪悪感を感じていた。

 

 けれど彼女は、俺に殺されても構わないと言った。

 

 なんで気づいたかとか、なんで魅了が解けたかなんて今はどうでもいい。

 どうせギュリエあたりの仕業だろう。

 

「なんで……」

 

 なんで、自分を洗脳し、虐待じみた鍛錬を強要した相手に、好意を向けることができるのか。

 

「だって私は、あなたを愛していますから」

 

 ……

 

「参ったなぁ……」

 

 告白されたのは、前世を含めても始めてじゃないだろうか。

 

 こんな自分勝手で、ひねくれた俺を好きになってくれる女性がいるとは思ってもみなかった。

 

 ユーナを見た。

 俺が育て、この第二の人生の半分近くを共に過ごした龍。

 夜空の化身のような少女の姿をした彼女は、美しい黒曜石のような目で俺を見つめている。

 

 そしてユークの方を見た。

 ユーナが拾い、成り行きで育てることになった竜。

 今は龍になった彼女は、まだ幼いからか、幼女の姿をしている。

 ユーナの影響か、その人化した時の姿は、炎のように赤く短い髪と翼以外はユーナにそっくりだ。

 

 ユークはまだ喋れないため、会話に参加していなかったが、俺とユーナのやりとりを理解しているのか、透き通ったルビーのような無垢な瞳で俺を見ている。

 

 『私も同じだよ』と、言っているような気がした。

 

 彼女たちはもう、とっくに覚悟を決めていた。

 

 彼女たちは生まれてすぐの時からずっと洗脳されたまま過ごしてきたし、特にユークはとても幼い。

 俺の影響を受け過ぎていて、スキルとか関係なく洗脳したようなものなのかもしれない。

 

 それでも、この選択は彼女たち自身の意思で決めたものなのだろう。

 

 彼女たちを殺すのはとても辛いけれど、もう止まることはできないし、なにより、彼女たちの想いを無下にしたくない。

 

 俺は、彼女たちを殺す覚悟を決めた。

 

「ありがとう」

 

 俺は最後にそう言って、ユーナとユークの頭にそれぞれ手をつけた。

 

「支配者権限発動。支配者の要請により、支配者専用スキル発動。発動の合意を」

「合意します」

 

 スキルが発動し、ユーナとユークの魂が俺の魂に取り込まれ、二人は糸が切れたように倒れた。

 

 強欲の支配者専用スキル『征服』の効果は、強欲発動時に対象の魂全てを吸収すること。

 俺はその効果を少し改変し、生きたまま二人の魂を取り込んだ。

 

 抵抗は一切無かった。

 俺はするすると二人の魂を飲み込んでいった。

 

 二人の魂は甘く、そして少し苦かった。

 魂を取り込むことで二人の人格や想いが俺に混ざりかけ、しかし、混ざらずに引っ込んで行った。まるで俺に全てを委ねるかのように。

 

 俺の目から涙が零れ、そして俺は、二人の魂を飲み干した。

 

《熟練度が一定に達しました。スキル『神性領域拡張LV6』が『神性領域拡張LV8』になりました》

 

《熟練度が一定に達しました。スキル『並列意思LV8』が『並列意思LV10』になりました》

 

《条件を満たしました。称号『味方殺し』を獲得しました》

 

 ……

 

《個体、ユーゴー・バン・レングザントに個体、闇龍ユーナが統合されました》

《個体、ユーゴー・バン・レングザントに個体、火龍ユークが統合されました》

《ステータスが統合されました》

《スキルが統合されました》

《スキルポイントが統合されました》

《称号が統合されました》

《経験値が一定に達しました。個体、ユーゴー・バン・レングザントがLV99からLV100になりました》

《各種基礎能力値が上昇しました》

《スキル熟練度レベルアップボーナスを取得しました》

《スキルポイントを入手しました》

《条件を満たしました。個体、ユーゴー・バン・レングザントが進化可能です》

 

 そして、ユーナとユークの存在が俺に統合された。

 ステータスを確認すると、能力値が大幅に伸び、ユーナとユークが持っていたスキルが俺のステータスに追加されていた。

 

 さらにレベルも上がり、レベル100になったことで進化が可能になったようだ。

 

 ……だが、ユーナとユークはもういない。死んだ。俺が殺した。

 

 寂しい……なぁ……

 

 無性に、誰かに慰めて欲しい気分だ。

 

《ザ、……ザー、…ザ、ザー、ザー、……》

 

 ん? 何だ?

 

《ザー、ピン!》

 

《要請を上位管理者Dが受諾しました》

《種族龍人を構築中です》

《構築が完了しました》

 

 ……ああ、Dからのプレゼントってわけか。

 

 確かに誰かを慰めるのにプレゼントを贈るのはよくあることだが、随分とユニークでシュールなプレゼントだ。

 

 だが、無機質なシステムメッセージを聞いて、とても沈んでいた気分が少し落ち着いた。

 

《進化先の候補が変更されました。次の中からお選びください。

 龍人》

 

 ……選択肢が一つしか無い。

 人族の本来の進化先であると思われる選択肢が消えている。

 

 それでも、この新しい進化先は悪くなかった。

 龍の要素を持つこの進化先からは、ユーナとユークを感じることができた。

 元々の進化先の選択肢が残っていても、こちらの進化先を選んだだろう。

 俺はほんの少しだけ、Dに感謝した。

 

《個体、ユーゴー・バン・レングザントが龍人に進化します》

 

 状態異常無効のスキルを持ち、眠らないはずの俺は、意識を失って眠りについたのだった。



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20 龍人のキャラは幼女が多い気がする

 前回に以下の内容を追加しました。

《熟練度が一定に達しました。スキル『並列意思LV8』が『並列意思LV10』になりました》


《進化が完了しました》

《種族龍人になりました》

《各種基礎能力値が上昇しました》

《スキル熟練度進化ボーナスを取得しました》

 

 ……

 

《進化によりスキル『龍人LV1』を獲得しました》

《『火龍LV1』が『龍人LV1』に統合されました》

《『闇龍LV2』が『龍人LV1』に統合されました》

《『神龍力LV4』が『龍人LV1』に統合されました》

《熟練度が一定に達しました。スキル『龍人LV1』が『龍人LV5』になりました》

《スキルポイントを入手しました》

 

 

 

 目が覚める。

 

 どうやら進化は無事に完了したらしい。

 

 睡眠無効を持っていたら進化中でも眠らないはずだが、寝落ちしていたのはDが何かしたからだろうか。

 分からない。分からないが、いつまでも寝転がっているわけにはいかないので、体を起こして立ち上がろうとしたが、ふと、違和感を覚えた。

 

 進化でステータスは上昇しているはずなのだが、なんか体が重い。

 

 ステータスが低下しているのかと思ったが、常時発動しているステータスの魔術の様子から、なんとなく違うと感じる。

 

 だが、この体の重みは気のせいではなさそうだ。まるで、重魔法でも受けているかのような……

 

「ん? 重力?」

 

 思い浮かんだ考えを確かめるために、いろいろ調べてみたが、なんと体重が増えていた。

 太ったとかそういうレベルではなく、体格はほとんど変化していないのにも関わらず、体重が十倍近く、およそ五百キロ程度までに増加している。

 

 この明らかにおかしい体重の変化だが、探知で自分の体を調べた結果、骨や筋肉の密度が人間ではありえないほど増えていた。

 まあ進化が原因だろう。

 戦闘には有利に働くだろうし、日常生活には少し不便かもしれないが、重力をいじればいいから問題ない。

 

 進化の前に置いておいた鏡を見る。

 

 進化の影響か、髪が赤黒く変色していた。

 僅かに赤みがかった黒色は、ユーナとユークの色が混ざったのだろうが、どこか黒ずんだ血のようにも感じた。

 

 また、肌も浅黒くなっていて、全体的にカラーリングが黒っぽくなっている。

 体格や顔の造形はほとんど変わっていないが、人族だった頃と比べると随分と変わった。

 

 ステータスはどうだろうか。

 

『龍人 LV1 名前 ユーゴー・バン・レングザント

 ステータス

 HP:66190/66190(緑)+2000

 MP:20356/65837(青)+0

 SP:65044/65044(黄)

   :897/65008(赤)+0

 平均攻撃能力:63596(詳細)

 平均防御能力:60215(詳細)

 平均魔法能力:62123(詳細)

 平均抵抗能力:61407(詳細)

 平均速度能力:61189(詳細)

 スキル

「龍人LV5」「天鱗LV5」「重甲殻LV3」「神鋼体LV3」「HP超速回復LV3」「MP高速回復LV10」「MP消費大緩和LV9」「魔力精密操作LV9」「魔神法LV10」「魔力付与LV10」「大魔力撃LV10」「SP高速回復LV10」「SP消費大緩和LV8」「闘神法LV10」「気力付与LV10」「大気力撃LV10」「神龍結界LV2」「剣の英雄LV5」「槍の才能LV3」「弓の才能LV3」「盾の才能LV3」「体術の英雄LV2」「破壊大強化LV7」「打撃大強化LV3」「斬撃大強化LV6」「貫通大強化LV4」「衝撃大強化LV2」「火炎強化LV10」「水強化LV3」「氷強化LV2」「風強化LV4」「土強化LV4」「雷光強化LV3」「聖光強化LV2」「暗黒強化LV10」「酸強化LV2」「状態異常強化LV4」「外道攻撃LV5」「火炎攻撃LV10」「水攻撃LV3」「氷攻撃LV2」「風攻撃LV5」「土攻撃LV5」「雷攻撃LV9」「光攻撃LV8」「暗黒攻撃LV10」「毒攻撃LV4」「麻痺攻撃LV5」「酸攻撃LV2」「腐食攻撃LV10」「毒合成LV3」「薬合成LV2」「鉄壁LV2」「念力LV10」「投擲LV10」「射出LV10」「高速飛行LV1」「高速遊泳LV3」「空間機動LV10」「連携LV4」「統率LV5」「召喚LV5」「集中LV10」「思考超加速LV6」「未来視LV5」「高速演算LV10」「記録LV10」「並列意思LV10」「念話LV2」「命中LV10」「回避LV10」「確率大補正LV8」「隠密LV10」「隠蔽LV10」「無音LV10」「無臭LV10」「帝王」「鑑定LV10」「探知LV10」「断罪」「奈落」「征服」「退廃」「自失」「呪怨LV6」「外道魔法LV10」「火魔法LV10」「火炎魔法LV10」「獄炎魔法LV9」「水魔法LV4」「氷魔法LV4」「風魔法LV10」「暴風魔法LV1」「土魔法LV10」「大地魔法LV1」「雷魔法LV10」「雷光魔法LV4」「光魔法LV10」「聖光魔法LV3」「影魔法LV10」「闇魔法LV10」「暗黒魔法LV10」「重魔法LV10」「呪怨魔法LV2」「毒魔法LV3」「治療魔法LV10」「空間魔法LV10」「次元魔法LV8」「深淵魔法LV10」「勇者LV2」「大魔王LV2」「忍耐」「傲慢」「怒LV6」「飽食LV10」「強欲」「怠惰」「色欲」「妬心LV5」「祈りLV2」「物理大耐性LV8」「炎熱無効」「水流無効」「氷耐性LV5」「暴風耐性LV1」「大地耐性LV1」「雷光耐性LV3」「聖光耐性LV3」「暗黒無効」「重大耐性LV6」「状態異常無効」「強酸耐性LV2」「腐食大耐性LV2」「気絶無効」「恐怖無効」「外道無効」「苦痛無効」「痛覚無効」「暗視LV10」「万里眼LV3」「呪怨の邪眼LV6」「静止の邪眼LV3」「石化の邪眼LV6」「火炎の邪眼LV6」「水の邪眼LV2」「氷の邪眼LV2」「風の邪眼LV3」「地の邪眼LV3」「雷の邪眼LV7」「光の邪眼LV7」「暗黒の邪眼LV2」「引斥の邪眼LV5」「死滅の邪眼LV6」「不快の邪眼LV3」「幻痛の邪眼LV3」「狂気の邪眼LV3」「魅了の邪眼LV5」「催眠の邪眼LV3」「恐怖の邪眼LV3」「破魂の邪眼LV2」「自失の邪眼LV2」「五感大強化LV10」「知覚領域拡張LV10」「神性領域拡張LV8」「天命LV10」「天魔LV10」「天動LV10」「富天LV10」「剛毅LV10」「城塞LV10」「天道LV10」「天守LV10」「韋駄天LV10」「命名LV10」「禁忌LV10」「n%I=W」

 スキルポイント:22607

称号

「忍耐の支配者」「強欲の支配者」「怠惰の支配者」「悪食」「無慈悲」「恐怖を齎す者」「魔物殺し」「竜殺し」「魔物の殺戮者」「暗殺者」「龍殺し」「魔物の天災」「人族殺し」「人族の殺戮者」「妖精殺し」「魔族殺し」「色欲の支配者」「竜の殺戮者」「竜の天災」「龍の殺戮者」「覇者」「傲慢の支配者」「魔族の殺戮者」「人族の天災」「魔族の天災」「味方殺し」「龍」「龍人」』

 

 神話級の魔物をも上回るステータスに、高水準かつ膨大な数のスキルと、ずらっと並んだ大量の称号。

 壮観だ。

 

 弱い人族の身から、よくここまで成り上がったと自分でも思う。

 昔はとても遠くに感じていたカンストが近づいて来ているのを感じる。

 

 しかし、俺は孤独になった。

 蜘蛛子といい、アリエルといい、強くなるということは、孤独になるということなのだろうか。

 

 ちらりと側に目を向けると、俺のすぐ側にあったはずのユーナとユークの亡骸は無く、代わりにそこにあったのは、柄に龍を象った装飾があしらわれた、夜空のような漆黒の長剣と、炎のような真紅の短剣だった。

 

『闇龍剣ユーナ

 攻撃力:15000

 耐久:99999

 特殊:「自動成長」「自動修復」「闇属性」』

『火龍剣ユーク

 攻撃力:12000

 耐久:99999

 特殊:「自動成長」「自動修復」「火属性」』

 

 消えたユーナとユークの亡骸に変わって現れたこのシチュエーションに、感じる雰囲気から、この剣はおそらく、()()()()()()()()()()()()()剣なのだろう。

 

 俺が今まで使っていた魔剣の10倍以上の能力値といい、「自動成長」とかいうおかしい能力といい、スペックが明らかにおかしい。製作にはおそらくDが関わっているだろう。

 Dからの二つ目のプレゼントだが、やはり複雑な気分だ。

 

 しかし、この剣のスペックの異常さだが、単純にDによって強化されたというわけでは無いのだと思う。

 

 推測が混じるが、この二本の剣は、ユーナとユークから造られた剣であると同時に、ユーナとユークを取り込んだ俺の一部でもあるのだろう。

 なんとなくだが、ユーナとユークの魂を取り込んだ際に新たに発生したはずの二つの並列意思は、普通に発生せず、表に出てこないのだが、どうやらこの剣に宿っているようだ。

 

 強力な魔物の素材から作られる魔剣の力は、その魔物の力の残滓のようなものだ。

 

 だが、ユーナとユークの影響で発生、変質した俺の並列意思が宿ったこの剣は、いわば生きている、魂が宿った剣であり、俺のステータスの影響を受けているのではないか。

 

 あくまで推測の部分が大きいが、新たに目覚めた龍としての勘もあり、あながち間違ってない気がする。

 

 ユーナとユークが俺を助けてくれているような気がして、少し嬉しくなった。

 俺は思っていたよりも、孤独じゃないらしい。

 

 ……なぜかシュンや岡ちゃんの顔が脳裏にちらついた。

 

「よし、行こうか」

 

 気持ちをリセットし、これからのことを考える。

 

 今の俺は進化でSPを大量に消費したせいで、とても腹が減っている。

 SPが尽きると死ぬし、SPが少ない状態でいるのは少し不安だから、まずは街に行って何か食べてこよう。



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21 この次も、暗躍暗躍ぅ!

 人魔大戦が終結し、俺は帝国に帰ってきていた。

 

 久しぶりの帝国は、人魔大戦の後始末と俺の急な帰還で混乱していた。

 特にクソリオン砦の陥落の衝撃は大きかったのだろう。

 

 俺はその混乱に乗じて帝国の上層部を洗脳した。

 

 うん、そう、洗脳した。

 唐突だが、反省も後悔もしていない。

 

 俺は帝国の王子で、大きな権力を持っているが、それでも、政治にはあまり関われない。

 

 なので、これからしたいことを考えると、帝国を自由に動かせるほどの権力……ですら足りず、洗脳して完全に支配下に置く必要があったのだ。

 

 洗脳は普通なら時間がかかるが、膨大な魔力系ステータスでごり押すことで手早く洗脳し、すぐに帝国を掌握することができた。

 

 ……人族一の大国も、今の俺にかかったらこんなもんだ。

 この世界の人族は外道耐性が低い。

 外道魔法のスキルがカンストすると禁忌のスキルに派生するから、教会が外道魔法の取得を禁じているのだ。

 

 この世界の人間で、禁忌のスキルをカンストさせた人間は、一部を除いてろくな死に方をしていない。

 異世界からの転生者で、部外者な俺や蜘蛛子にシュンでさえ不快な思いをしたのだ。

 当事者であるこの世界の人間ならどうなるかはお察しだ。

 

 だから、神言教教皇は、禁忌の内容を人々から忘れさせた。

 

 それは正しくもあったが、外道攻撃からの脆さを生んだ。

 だからこうして簡単に俺に乗っ取られる。

 

 俺がやったとはいえ、俺の生まれた国の惨状に、少し虚しい気持ちになった。

 

 だが、立ち止まる時間はない。

 すぐに準備を終える必要がある。

 

 洗脳した上層部を使って、大規模な軍を編成する。その数、およそ8万。

 軍の指揮に据えるのは、()()()()()()()()、いや、邪魔なので()()()()()()貴族たちだ。

 

 下っ端の兵士たちの多くは無関係で、善良な人間も存在するが、()()死んでもらう。

 

 これより、編成した帝国軍を使って、エルフの里を攻める。

 

 だが、エルフのロボ……グローリアには兵士たちでは歯が立たないだろう。

 

 だから、兵士たちの役目は()()だ。

 

 この軍の役目は、蜘蛛子たちと魔族軍が進軍するための囮と、()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

 帝国軍とエルフたちには俺の経験値になってもらう。

 そのための帝国軍だ。

 

 毎度のこと外道極まりないが、()()()()()()()()()()

 俺の悲願は近い。

 もうすぐ全てが始まり、全てが終わる。

 

 だが、必要な準備はまだいっぱいある。

 帝国での準備がひと段落したら次に行こう。

 

 

 

 

 

 帝国での準備がある程度終わったので、シュンとカティアの母国であるアナレイト王国に来た。

 

 俺がアナレイト王国に来たのは、王国の人間を洗脳しておくためだ。

 

 ……うん、また洗脳なんだ。すまない。

 まあ、身もふたもないけれど、それが一番手っ取り早いから、そうするだけだ。

 

 そもそも、なんで王国の上層部を洗脳するのかというと、時が来たら、王国の上層部の人間を殺して、王国を転覆させるためだ。

 

 ……うん、異論は認める。

 上層部を殺して王国転覆とか、クレイジーな行動に聞こえるだろう。

 けれど、王国は一度転覆させる必要がある。

 

 なぜなら、エルフの族長であるポティマスが王国で暗躍した結果、王国の上層部の人間の魂には、ポティマスの魂の欠片が寄生していて、ポティマスの意思一つで彼らの魂を侵食して乗っ取れるようになっている。

 

 これをどうにかするにはもう殺すしかない。

 外道魔法で剥がすのはリスクが大きすぎるし、一つ魂を剥がしたら、他は全員乗っ取られてポティマス軍団が誕生するだろう。

 

 なので、王国でクーデターを起こし、上層部の人間を一気に皆殺しにする。

 ポティマスに思考を誘導された国王が、シュンを次期国王にするつもりなことに不満を抱いていた第一王子と王妃を、思考を誘導しつつそそのかしたら、クーデターに乗り気になってくれた。

 

 原作では、蜘蛛子に洗脳されたユーゴー()がクーデターを起こしたのだが、これからは、蜘蛛子ではなく俺が主導して行う。

 

 このクーデターは蜘蛛子にとっても都合がいいからおそらく黙認するだろう。

 蜘蛛子の動きに合わせて動き……そして最後でひっくり返す。

 

 さあ、終わりを始めよう。

 

 

 

 

 

 アナレイト王国王城の訓練場では、シュンが剣を振っていた。

 勇者ユリウスが戦死したことで、新勇者に選ばれたシュンは、学園にも通わず、ずっと城で訓練に明け暮れているそうだ。

 

 今シュンは何を考えているのだろうか。

 ユリウスのことを考えているのだろうか。

 これからのことを考えているのだろうか。

 わからない。

 

 俺は何かを振り払うように訓練に打ち込んでいるシュンに、話しかけずにこっそりと眺めていた。

 

 だが、あいつが一息ついた後、厳しい顔をして俺がいる方を見てきた。

 

 俺が隠れていることに気づいたらしい。

 隠れるのは苦手とはいえ、隠密系のスキルはカンストしているし、見つけられはしないと思っていたが、思ったよりシュンは感知能力が高いらしい。

 

 隠蔽を解き、シュンの前に出る。

 

「……ユーゴー!?」

 

 出てきたのが俺だと気づくと、シュンはとても驚いていた。

 

 おそらく、シュンの頭の中には、どうしてここにいるんだとか、どうやってここに忍び込んだんだとか、なんで容姿が変わってるんだとか、いろいろな考えが渦巻いているだろう。

 それが顔に出ている。

 

「……シュンとはここ最近会ってなかったな」

「ああ、そうだな」

 

 こうしてシュンと直接相対すると、わかるものもある。

 

 鑑定を使わなくても、シュンが強くなっていることがわかる。

 それは、勇者の称号を得てステータスが強化されたのもあるが、きっと、俺がいない時も厳しい鍛錬を積んできたのだろう。

 俺には決して及ばないとはいえ、能力値はおそらく五千以上、スキルも豊富かつ高レベルだろう。

 

 今のシュンは、きっと、原作よりも強い。

 

 けれど悲しいかな、いずれ出会うであろうソフィアやラースには届かない。

 今から鍛えても、この短期間では辿る結末は変えられない。

 

 だが、それでも……

 

「シュン、構えろ」

「え?」

「これからしばらくの間、徹底的に鍛え直してやる」

 

 これからシュンにとてもひどいことをする俺に、そんなことを祈る資格は決してないけれど、それでも、どうか、この友人に幸あれ。



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22 かませ犬は我が友を千尋の谷に突き落とす

 計画決行の日。

 俺は操った城の人間を使い、王が呼び出したと偽って、シュンを王の所に向かわせた。

 

 シュンが部屋の中に入る。

 

「どうした?」

「いや、呼び出したのは父上ではありませんか。ご用件は何です?」

「うん? 私は呼んでいないぞ?」

 

 それを万里眼で見ていた俺は、空間魔法を王に向けて発動。

 

 原作よりも感知能力が高いシュンはそれに気づいたが、遅い。

 俺の魔法攻撃は王の紙抵抗をあっさりと抜け、空間が歪み、王の首が捩じ切れた。

 

「え?」

 

 シュンが呆然とする。

 

「何事だ!」

 

 扉が開かれ、第一王子とその護衛が部屋になだれ込む。

 

「血迷ったかシュレイン!?」

 

 シュンが何か言おうとしているが、それは聞こえない。

 護衛騎士に扮した俺が、消音の魔法を発動したからだ。

 

「衛兵! シュレインが国王陛下を襲った! シュレインを捕らえろ!」

 

 第一王子の言葉に合わせて、俺は普通の騎士が使うような普通の剣を鞘から抜き、魔力で強化してシュンに向けて振り下ろす。

 

 シュンは混乱していたが、それでも俺の攻撃に即座に反応し、鞘から剣を抜いて、瞬時に強化、俺の剣を受け止めようとする。

 

 だが、ステータスの差は埋まらない。武器の質は向こうが上とはいえ、魔力強化の倍率と、攻撃力が違う。

 振り下ろされた俺の剣はシュンの剣を両断した。

 

 目まぐるしく変化する超展開に思考が追いつかず、シュンは混乱から抜け出せていない。

 

 俺はそんなシュンに、少し手を抜いて斬りかかるが、ここ最近、俺にボコボコにされ続けたシュンの体はそれに反応し、後ろに飛んで回避した。

 完全には避けきれてはいなかったものの、傷はかなり浅い。

 

「お前、ユーゴーか?」

「! ……正解だ」

 

 兜を被り、正体を隠していたが、雰囲気でバレたのだろうか。

 混乱しながらも、ほぼ無意識で治癒魔法を使い、傷を治しながら問いかけてきた。

 

「まあ、悪いな。俺も、お前の兄も、お前が邪魔なんでな。お前にはちょっと退場してもらわなければならなくなった」

「どういうことだ!?」

「俺が殺したあの王は、お前を次期国王にしようと画策していたみたいでな。そうすれば、戦場に出て死ぬこともないってな」

「そんなくだらんことで、お前に、この私の玉座が奪われてたまるか!」

「そんでまあ、俺も、王国の奴らが邪魔になってな。今の上層部の奴らには、全員死んでもらうことにした」

「なっ!?」

 

 シュンはようやく事態を飲み込めてきたのか、顔が青くなる。

 

「それじゃあ、さよならだ」

 

 俺は剣を構え、シュンに刃を向ける。

 

「させません!」

 

 そこに、岡ちゃんの小さな体が割り込み、俺を風の衝撃波で吹き飛ばそうとしてくる。

 割と余裕で踏ん張ることができたが、あえて逆らわず、後ろに跳んで距離を離す。

 

「逃げますよ!」

「兄様、逃げましょう!」

 

 岡ちゃんに、スーと、勇者ユリウスのパーティーメンバーだったハイリンスが、シュンを連れてここから逃げ出した。

 

 衛兵たちがシュンたちを捕らえようとするが、第三王子の部隊の妨害を受けていて、うまくいっていない。

 

 第一王子が焦った顔で指示を出す中、俺は特に何もせずに、ただシュンたちが脱出するのを眺めていた。

 

 

 

 

 

「ユーゴー、貴様わざと逃したな?」

「ああ、そうだが」

「巫山戯るな! 奴が生きていたらどんな不都合が……」

「あ゛?」

「……いや、なんでもない」

 

 

 

 

 

 シュン、岡ちゃん、ハイリンス、スー、それと合流した第三王子、カティア、シュンの侍女のアナとクレベアは、シュンの八面六臂の活躍によって王都から脱出した。

 

 だいたい予想できていたが、シュン無双だった。

 死んだ魚のような目になるまでいじめ抜いたので、これくらい余裕でできてもらわなければ困るのだが。

 

 そして俺は、隠れ家に向かっている彼らを、高速飛行と空間機動のスキルを使い、はるか上空から視認していた。

 

 五感大強化のスキルと、進化による素のスペックの向上によって、通常では認識不可能な遠距離にいる彼らをギリギリ視認することができている。

 

 万里眼越しでも監視することはできたが、それだと邪眼や魔法などの発動に支障が出るので、こうして直接視認している。

 

 そうやって見たところ、シュンに与えた傷はすでに癒えているし、魔力もそろそろ回復している頃だろう。

 精神は少し不安定だが、体は概ね万全の状態と言える。

 

 ならば、慈悲のスキルの発動に支障はないはずだ。

 

 俺は、岡ちゃんと第三王子に向けて、呪怨の邪眼を発動。

 一瞬でHPが0になり、二人はあっさりと死んだ。

 

 声は聞こえないが、シュンは二人が突然倒れたことにぽかんとしていたが、鑑定して死んでいることを確認すると、一瞬呆然とした後、慌てて二人に慈悲のスキルを発動した。

 

 支配者スキル、慈悲の効果は死者の蘇生。

 

 死亡後およそ五分以内に蘇生しなければならない、スキルの行使者が万全でなければならない、元の肉体が破壊されすぎてはならない、消費魔力が多い、禁忌のレベルが上がるなど、制限も多いが、それでも破格のスキルで、むしろ、死者蘇生なんて奇跡を考えると制限は緩いくらいだ。

 

 二人の蘇生を完了させたシュンは、誰かに狙われていることを察し、厳しい顔をして、まだ眠っている二人を担いで走り出した。

 

 まあ、俺はそんなシュンたちを万里眼で捕捉している。

 だが、とりあえず今回はもう何もしない。

 

 そもそも、なぜ岡ちゃんと第三王子を殺し、そしてわざと蘇生させたか。

 

 それは、二人の魂にもポティマスの魂が寄生していたからだ。

 

 だが、システム内で死ねば、余計なものは削ぎ落とされる。

 二人は一度死んだことで、二人の魂に寄生していたポティマスの魂は剥がれ落ちた。

 

 これは必要なことだった。

 

 だから、あんたが大好きな岡ちゃんを殺したのはお目溢ししてくれよ、蜘蛛子。



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23 焼畑しようぜ! お前肥料な!

 王国を陥落させた俺は、軍用の大陸間転移陣で、軍をカサナガラ大陸に移動させていた。

 

 軍用の転移陣と言っても、一度に運べる量には限界があるので、8万もの数の兵士と物資を運ぶのにはかなりの時間がかかる。

 俺も空間魔法で運んでいるが、なかなか終わらない。

 その時間がもどかしい。

 

 さらに俺は、転移で軍を移動させる合間に、洗脳を末端の兵士まで浸透させるべく、ちまちまと洗脳に勤しんでいた。

 8万人もの兵士を洗脳するのはとんでもなく大変で、俺はその間一睡もせず、流れ作業で兵士たちを洗脳していった。

 

 状態異常無効があってもきつかった。

 ずっと同じ作業を繰り返すのは、鍛錬とはまた違った辛さがあった。

 並列意思を交代で休憩させつつ、洗脳と集団転移を同時に、連続で繰り返していくのは精神がすり減った。

 

 だがその甲斐あってか、転移を自然に使えるほど空間操作に習熟したし、移動が終わり、進軍を開始してからも洗脳作業を続けたことで、ほとんどの兵士を支配下に置いた。

 

 そうして進軍すること十数日、俺率いる帝国軍は、エルフの里……ではなく、カサナガラ大陸にある山の奥地に到着した。

 

 なんでそんなエルフの里から少し離れた場所に寄り道するのかというと、そこにエルフの里に直通の転移陣があるからだ。

 

 エルフの里を守る結界は逝かれた強度を誇り、システム内の力ではどうあがいても破ることはできない。

 どこかの古代遺跡から兵器を持ってくるという手もあるが、結界を破壊できる威力を出そうとすれば周囲に壊滅的な被害が出るし、何かを間違えて先生とクラスメイト達まで爆殺してしまったら笑えない。

 なので、エルフの里には()()()()()で行く。

 

 転移陣の場所は、里の外にいるエルフを洗脳して見つけた。

 そしてシュン一行がエルフの里に到着してから数日後、シュン達が俺率いる帝国軍の侵攻を警戒しているであろう頃に、転移陣を使用してエルフの里に侵入、里側の転移陣を警戒していたエルフ達を、連絡を取る暇も与えずに一瞬で殲滅して、転移陣を制圧した。

 

 そうして制圧した転移陣を使って、軍を里の中に侵入させる。

 転移陣はそんなに大きくなく、軍を移動させるのにかなり時間がかかるので、その間は転移陣を守る必要がある。

 

 まあ余裕だが。

 

 時折異変を察知したエルフが転移陣の様子を見に来たが、それを先に見つけた俺は、気づかれる前に遠距離からサクッと魔法で消しとばした。

 流石におかしいと思ったのか、しばらくしたらそこそこ大規模な部隊を送り込んで来たが、今の俺からしたら塵芥でしかない。全部まとめて経験値に変えた。

 

 そしてさらに数日後、帝国軍はエルフの里への侵攻を開始した。

 

 

 

 

 

 エルフ達の攻撃が俺達に向かって放たれる。

 雨のように降り注ぐ矢と魔法は、歴戦の兵士である帝国兵でも、防御や回避が困難なようで、HPがゼロになった帝国兵がバタバタと倒れていく。

 隊列を維持するのを諦め、盾持ちの兵士と組んで、盾に隠れながら遠距離攻撃をしたり、なんとか攻撃をいなしながら木の上にいるエルフ達に接近しようとするが、森の中を縦横無尽に動き回るエルフ相手に攻めきれない。

 

 俺はそんな様子を探知で把握しながら、里の奥を目指して進む。

 

 俺に向かって飛んでくる矢や魔法も、俺には全部見えていた。

 俺はこの攻撃を防ぐことも、隙間を縫って避けることもできたが、そのどちらもしなかった。

 

 俺は攻撃を無視して直進し、矢や魔法は俺に直撃した。

 

 だが、俺のHPは1ドットたりとも減りはしなかった。

 

 多くても千を超える程度のステータスしか持たないエルフでは、俺の六万を超えるステータスを破れない。

 

 一斉攻撃を食らっても無傷の俺を見て、エルフ達が一瞬硬直したが、再び攻撃を開始する。

 だが、やはり俺にダメージは通らない。

 

 そして俺は火龍剣を鞘から抜き、魔力を込めて振り抜いた。

 

 剣から火炎が放たれ、森の木々が炎に包まれる。

 剣に込められた魔力は火属性に変換され、木も、エルフも、等しく焼き尽くした。

 

 周囲の木が消え、更地に変わる。

 俺はとても目立っているが、一連の攻防で心が折れたのか、俺に攻撃は飛んでこない。

 

「終わりか」

 

 だが、そう言った途端に、()()()()()攻撃が俺の方に飛んできた。

 

 竜巻が俺を飲み込み、そして俺の命をも飲み込もうと荒れ狂う。

 恐らく、暴風魔法レベル4、「龍風」だろう。

 その威力は、精鋭の兵士をも殺して有り余る。

 

 もちろん、俺には通用しない。

 

 竜巻から無傷で出てきた俺を見て、この魔法を放ったであろうエルフの幼女が厳しい顔をする。

 

「岡ちゃん、そんなチャチな攻撃が効くわけないだろ。なあ、俺がそんなに弱いとでも思ったか?」

 

 岡ちゃんは俺の言葉には答えず、風の弾丸を放ってくるが、俺の動きは止まらない。

 魔法は俺には効果がないと考え、弓に風魔法を付与し、矢を放ってくるが、素手で掴み取り、握りつぶした。

 

 俺との絶望的なステータスの差を感じ取ったのか、顔を青くするが、諦めるつもりは無いのか、矢を放ち続ける。

 俺は力の差を見せつけるようにして、俺の方に飛んできた矢を掴み取りながら前に進む。

 

 だが、族長の娘である岡ちゃんが戦っているのを見て立ち直ったのか、展開していたエルフ達が一斉に攻撃を仕掛けてくる。

 

「洒落臭い」

 

 それを俺は、腕の一振りで吹き飛ばした。

 

 動揺するエルフ達に反撃するべく、並列意思を複数回して魔法を構築する。

 構築するのは火炎の槍。数は100本以上。威力は龍でも即死するレベル。

 更に加えて、ロナント爺さんから教わったやり方で追尾性能を付加する。

 

「なっ!」

 

 そして放たれた魔法は、周囲にいたエルフ達を()()()()、直撃しなくても余波でHPを吹き飛ばし、最前線に陣取っていたエルフの主力部隊に壊滅的な被害を与えた。

 

「まあ、こんなもんか。んで、次はどうする?」

 

 自分以外のエルフ達が一瞬で殺されたことで、岡ちゃんの顔は真っ青を通り越して土気色になっている。

 

 だが岡ちゃんは、その間に準備を終えていたようで、先程からばら撒いていた矢を基点に()()結界を発動した。

 

 俺はそれに気づいていたが、止めるつもりも、必要も無かった。

 

 俺はエルフの里の結界の超劣化版と思われる、スキルでも魔法でもない結界に閉じ込められ、さらに、結界の中からは急速に空気が抜けていく。

 確かにこれは初見殺しだろう。

 俺は化け物じみた強さを得たが、あくまで生物なので、呼吸をしなければ生きてはいけない。

 

 だが、無駄だ。

 

 闇龍剣を鞘から抜き、すこし力を入れて結界を斬りつけた。

 闇の斬撃は結界を一撃で破壊し、減っていた空気が俺のいる方に流れ込む。

 そして呆然としている岡ちゃんに一瞬で近づいて、死なないように手加減して腹を殴りつけた。

 

「俺の勝ちだな。まあ、殺しはしない」

 

 だが、岡ちゃんに勝利宣言をしたその時、高速でこちらに接近してくる気配を感知した。

 俺は後ろに下がり、斬りかかってくるその影と距離を取る。

 俺の前に、剣を構えた少年が立ちはだかる。

 

「遅くなりました、先生」

 

 シュンが、そこにいた。



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24 あれ、主人公誰だっけ?

 更新遅れました……時間が取れない……
 これからはさらに更新ペースが落ちると思います。


 気絶した岡ちゃんに、シュンが回復魔法をかける。

 全くの無防備というわけではないが、敵を前にしてその行動はあまりいいとは言えない。

 ……それとも、俺はその隙を突くような奴じゃないと思われているのだろうか。

 実際、岡ちゃんのHPが回復していくのを、俺は何もせずに眺めていただけだった。

 

 シュンが一人で先行して来たのか、シュンの仲間たちが来たのは、シュンが来てからかなり遅れてだった。

 今のシュンの強さは周りとは隔絶していて、あいつの速度について行けていないのだ。

 

 今のシュンは、原作よりも強い。

 

「あー、岡ちゃんがいるならお前もいるよな」

「ああ。お前を倒すためにな」

「出来ると思っているのか?」

「……それでも、俺はお前を止める」

 

 無理だ、と顔に書いてある。

 本当の全力をシュンに見せたことはないが、模擬戦の時にはかなり手を抜いていたことには気づいているだろうし、俺との実力差を薄々察しているだろう。

 

 それでも、シュンは退かない。

 エルフを、ひいては人々を守るために、あいつは立ち向かうだろう。

 

 俺は火龍剣を鞘に収め、闇龍剣をシュンと同じように構える。

 

「行くぞ」

「来いよ」

 

 俺に向かってシュンが踏み込んで来る。

 シュンは一気に俺との距離を詰め、手加減抜きの全力で斬りかかってきた。

 

 聖光魔法による強化によって、手に持つ剣は光り輝き、シュンがエルフの里への道中で通った、エルロー大迷宮にいた地龍を倒して手に入れた龍力のスキルも加わり、その剣速は以前相手をした時よりもさらに速くなっている。

 

 俺はシュンの剣を正面から受け止める。

 二人の剣がぶつかったことで、甲高い音が鳴り、衝撃が澱んだ空気を吹き飛ばした。

 

 シュンの攻撃から一拍遅れて、カティアとスーから魔法での援護が飛んでくるが、俺は防御も回避もせずにそのまま受ける。

 

「嘘でしょう……!?」

「なっ……!」

 

 魔法を放った二人は、ノーダメージな俺を見て一瞬固まったが、これを予測できていたであろうシュンは、動きを止めることなく、時折拳や蹴りを織り交ぜながら斬撃を放つ。

 

 さらにシュンは、並列意思のスキルを用いて至近距離で攻撃魔法を放ってくる。

 これは原作のシュンではできなかったことだ。

 少し嬉しくなった俺は、その魔法の術式を読み取り、光属性には闇属性、水属性には火属性の魔法で相殺していく。

 

 幾百もの剣戟と魔法が交わされ、金属音と爆発音が辺りに響く。

 戦いは激しさを増し、シュンの仲間はその間に割り込めない。

 ぶつかり合う光と闇の刃や魔法からは、ある種の不思議な美しさを感じた。

 

 それはきっと、お互いに殺意がないからだろうか。

 

 戦いの中で俺に殺気がないことを感じ取ったのか、()()()()()()()()()()()()()シュンの顔には、決意はあっても悲壮さはなかった。

 

 まあ、要するにいつもの殺し合い(模擬戦)の延長だ。

 

 王国の崩壊という極限の状況に加え、戦場という極限の環境と、俺というシュンの知る中で最強の敵との戦いによって、シュンの集中力は限界以上に高まり、今、この瞬間も、シュンは成長しつつあった。

 

 剣で肉を斬り、蹴りで骨を砕き、炎で皮を焼き、闇で体を削った。

 それでもシュンは、倒れても立ち上がり、魔法で傷を癒し、体力と魔力を振り絞って、何度も何度も俺に挑んだ。

 

 そして、体も装備も傷だらけになり、エネルギーの底が見えてきた頃には、その消耗に反して、戦う前よりも明らかに強くなっていた。

 

 鑑定でシュンのステータスを見ると、戦う前よりも数値が伸びている。

 剣の天才は剣の英雄に、思考加速は思考超加速に、予見は未来視に、それぞれスキルが進化していた。

 強化系スキルや、基礎ステータス系スキルもレベルが上がり、それによってステータスも少しだが上昇している。

 

 この成長は、天の加護(ご都合主義)スキルの効果もあるだろうが、シュンの強くなりたいという意思と、それに応えられる才能の賜物だろう。

 

 シュンが強くなっていくのを見るのは、不思議と心地よかった。

 

 けれど、シュンのエネルギーは無限ではなく、また、時間にも限りがある。

 万里眼で戦場を見張っていた並列意思の一人が、グローリア(ロボ軍団)の出撃を確認した。

 少し名残惜しいが、状況を次の段階に進める事を決める。

 

 抑えていた速度を一段階上げる。

 それにシュンは対応しきれなくなり、俺の剣はあっさりとシュンの体を貫いた。

 

「シュン!」

「兄様!」

 

 急所は外したが、HPはかなり削れている。

 MPが残り少ないシュンでは、HPを完全に回復することはできないだろう。

 勝負ありだ。

 

 そう思い、シュンの体に突き刺した剣を引き抜こうとしたが、その瞬間、動作が止まった。

 

 シュンの左手が、俺の腕を掴んでいた。

 

 そして俺が硬直した隙を突いて、シュンは右手に握った剣を俺の体に振り下ろした。

 

「……驚いたな」

 

 シュンの剣は、俺の体の表面で止まった。

 

 神龍結界。

 物理と魔法の両方を防ぐ、格下殺しのスキル。

 シュンの攻撃力では、この結界を破ることはできない。

 

 俺が無理やり剣を引き抜くと、シュンは悔しそうな顔をして、倒れた。

 

「……終わったか」

 

 シュンの仲間達は固まって動かない。

 皆、俺がここにいる全員よりも強いと理解している。

 

 だが、俺が倒れたシュンを見て剣を振り上げると、シュンを助けるべく動き出した。

 

 俺は仲間たちが近づいてくるのを一瞥しつつ、()()()()()()()

 

「さよならだ、シュン」

 

 瞬間、極大の気配と殺気を感知。

 

 思考を限界まで加速。

 天鱗、重甲殻、神剛体のスキルを発動して、皮膚を硬化し、鱗を纏い、体の一部に甲殻の鎧を構築する。

 さらに()()()()()()()()()()()()、強化系スキルを発動しつつ、火龍剣を鞘から抜刀。

 振り返り、俺に向けて振るわれた()()()()()全力で受け止める。

 

 剣を受け止めたとは思えないような轟音と衝撃が発生する。

 

 互いの動きが止まり、衝撃が過ぎ去ると、斬りかかってきた相手の姿をはっきりと捉えることができるようになった。

 

 それは、鋼のような筋肉と、剣のような鋭い雰囲気を持つ、長身の男だった。

 額には二本の角が生えていて、白い着物を着ているその姿は、日本の伝説に出てくる鬼そのものだ。

 

 そして、健吾()の前世で見覚えのある顔。

 

 さらに、視線を少し離れた所に向けると、儚げだが、どことなく残念な雰囲気の美少女が佇んでいた。

 

 彼らこそ、魔族側についた転生者にして、憤怒の支配者と嫉妬の支配者。

 

「久しぶりだな。笹島、根岸」

 

 ラース(笹島京也)と、ソフィア(根岸彰子)が、そこにいた。




 ユーリ/長谷部結花(はせべゆいか)はお留守番です☆

ユーリ「あんまりだよ!」


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